機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~THE GUN OF DIS~ (バイル77)
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PROLOGUE 「ANOTHER TIMEDIVER」

空間が歪み収縮と膨張を繰り返す色彩を失った空間――

次元と次元の狭間に1つの人影――いや【機影】が突如出現した。

 

機影はまるで神話や創作物の中の死神のイメージをそのまま機動兵器に表現したかの形相だ。

両翼から迸る緑の粒子と共に翼を翻し、その眼には赤い光が宿っている。

 

 

「…転移したか、アストラナガン」

 

 

その機体のコックピットでパイロットスーツを身に着けた1人の青年が口を開く。

まるで銀を糸の様に紡ぎ出したかのような美しい銀髪に絵画の様に整った顔――青年の名は【クォヴレー・ゴードン】。

 

全ての平行世界を守るための【平行世界の番人】と呼ばれる存在である。

 

 

新西暦と呼ばれた世界――

 

銀河大戦と呼称される銀河間での戦乱があった。

多種多様な異星人が星間連合と呼ばれる連合を組み、地球に襲来、それを皮切りに勃発した星間戦争である。

 

最終的に宇宙怪獣と呼ばれる全生命体にとっての天敵の活動が活発化、それに伴い全生命体は存続の危機に陥った――

だがとある【独立遊撃隊】の活躍により、宇宙怪獣の撲滅と【負の無限力】の集合体であり、まつろわぬ霊の王【ケイサル・エフェス】の打倒と共に、全生命体は集合無意識【アカシックレコード】に認められると言う大団円で幕を下ろした。

 

その偉業を成し遂げた独立遊撃隊の名は【αナンバーズ】――クォヴレーもこのαナンバーズに所属していたのだ。

 

 

「…因子はすでに集まっている、あの閉ざされた世界への介入より先に優先する事があるのか?」

 

 

愛機である【ディス・アストラナガン】に語りかけると、まるで答えるかのようにとある機能が起動する。

かつての仲間の平行存在達が、かつての自分達の様に銀河大戦に挑もうとしている世界に介入する予定であったはずなのだ。

 

 

「転移か…」

 

 

アストラナガンの機体が光に包まれ、狭間の空間から消える――この時、彼は予想していなかった。

転移した先の世界でかつての仲間と再会すること、そしてかつての仲間と同じ存在が大きく変わってしまっている世界であることに。

 

 

――――――――――――――――

 

 

宇宙空間――音も酸素もない空間に突如、魔方陣が出現する。

 

そしてまるでニュブリと音を立てるかのように魔方陣から機械の手が生え――そして機体が現れる。

 

現れた機体は銃神【ディス・アストラナガン】――そのコックピットでクォヴレーは機体のセンサー等から周囲の状況を把握していた。

 

 

「転移は成功…この世界は…っ!?」

 

 

アストラナガンのセンサーにとある建造物の反応があった――宇宙空間に浮かぶ、まるで砂時計の様な建造物――彼はこの建造物をよく知っている。

 

 

「プラントだとっ!?」

 

 

そう、かつて自身の世界でこの砂時計型コロニー、プラントには大きく関わっていたからだ。

 

 

「まさか新西暦の世界に…っ!?」

 

 

驚愕と共に僅かにだが歓喜の感情が声に混じる――【かつての自分】、人形と呼ばれていた頃の彼ならばこのような反応は取らなかっただろう。

だが今の彼は違う、人形ではなく1人の人間【クォヴレー・ゴードン】として自己を確立しているのだ。

彼は並行世界の番人となってから数年、平行世界に存在している【破滅の因子】を消すことに終身していた――無限に続く戦いの旅にいつの頃からか、かつての仲間に会いたいと心の何処かで小さく思い続けていたのだ。

 

だがそんな彼の歓喜の感情はすぐに消える――新西暦の世界ならばプラント型コロニーのほかにいわゆる【シリンダー型】のスペースコロニーが存在しているはず。

 

加えて、地球にはかつての戦争で落ちたコロニーの落下跡が見られない。

 

 

「…平行世界と言うことか」

 

 

声に落胆の感情が混ざる――それに気づいた彼は少し自嘲したような笑みを浮かべた。

 

ディス・アストラナガンのセンサーが再びとある存在を捕らえる――とらえた存在についてもクォヴレーは知っていた。

そしてモニター映った建造物が【脅威】に変わっていることにも気づく。

 

 

「【ユニウスセブン】が地球への落下コースを取っているだと…っ!?」

 

 

かつての世界で守れなかったコロニーが地球への落下コースを取っている――あの時と同じであるならばユニウスセブンは恒久的な安定軌道に乗っており地球への落下など【人為的な行為】がなければ実現しないはず。

そこまで考えた彼は愛機のスラスターに火を入れる。

 

一般的な機動兵器とは文字通り次元の違う驚異的な速度でアストラナガンは宇宙を駆ける。

 

 

「地球を守るのがαナンバーズの戦士の務めだ…行くぞ、アストラナガン」

 

 

モニターに移るユニウスセブンに虚空の銃神が向かう――図らずも彼の望んでいた再会はユニウスセブンで叶えられる。

だがそれは新たな戦乱の幕開けでもあったことをクォヴレーはまだ知らない。

 

 




久保レーもとい、クォヴレーがようやっと因子を満たしたので彼主人公の小説を書いてみました。

最初から平行世界の番人モード+ディス・アストラナガンです、チートです、知らない人はググって見ましょう、この機体と彼がいかにぶっ壊れ性能であるかを…。


もう1つの小説である【IS-Destiny-運命の翼を持つ少年】とは並行して進めて行きます。


次回予告
かつての戦争の象徴――すでに落下阻止限界点を越えてしまいそれは質量弾となってしまった。

【銃神】は青き星を守るために己が力を解き放つ。
そして再会と出会いが訪れる――かつての仲間達と新たな仲間に。

「再会、αナンバーズ」

再び独立遊撃隊は青き星の為に戦場を駆ける。


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第一話 「再会、αナンバーズ」

すでにユニウスセブンは落下阻止限界点を超えてしまっている――ザフトはMSを使ったメテオブレイカーでの粉砕作戦を実行していたが手遅れの状態となってしまった。

実行部隊である【ジュール隊】はすでに大気圏に突入しつつあるユニウスセブンから退避している。

 

 

「くそ、このままでは地球が…!」

 

 

損傷した1機のMS――ザフトでは【ザク】と呼称されるMSが大気圏に突入しつつある死地に残り、メテオブレイカーを起動させている。

ザクのパイロットは【アレックス・ディノ】――この名は偽名であり、正体は前大戦の英雄でありザラの子――【アスラン・ザラ】

本人は英雄などと思ってはいないことは余談だが。

 

 

『アンタ、何してるんだよっ! 損傷してるし、ミネルバに帰還命令が出てるはずだろっ!』

 

 

トリコロールカラーのMS――GタイプのMSがザクに接触回線で呼びかける。

GタイプのMS――【インパルス】に搭乗しているパイロットの名は【シン・アスカ】――新兵ではあるが優秀なMSパイロットである。

 

 

『少しでもメテオブレイカーを起動させる! 後は俺がやるから君は戻れっ!』

 

『あの人達だって離れてるのに…アナタはなんで残ってるんだよっ!』

 

『これは俺がやらなきゃいけないんだ、だからっ!』

 

『…なら、俺もやりますよ、2機の方がさっさと起動できるっ!』

 

 

インパルスが少し離れた地点に放置されていたメテオブレイカーを起動に入る――その様子をザクのコックピットからアスランは眺め、驚愕しつつも笑みを浮かべた。

 

 

『死ぬかもしれないんだぞ?』

 

『死ぬつもりはないですね、俺は…アナタの方は起動終わったんですか?』

 

『ああ、終わった、残りを起動させるぞっ!』

 

『分かってますってっ!』

 

 

2機が迅速にメテオブレイカーを起動させる――ユニウスセブンの大地に打ち込まれたメテオブレイカーのおかげで大地は砕かれていく。

しかし起動させたメテオブレイカーの4割が大気圏への突入による振動と摩擦熱で起動を停止――本来ならば大気圏で燃え尽きるレベルまで砕けるはずであったが、燃え尽きない大きさの破片がいくつも残っている。

 

 

「くそっ、まだ大きい破片がいくつも有るってのにっ!」

 

『シンッ、ミネルバに帰還しなさい、大気圏に突入しつつタンホイザーで破片を狙撃します!』

 

 

インパルスのモニターに母艦の艦長【タリア・グラディス】の顔が映る。

 

 

『りょっ、了解っ!』

 

 

インパルスが現在装備している【フォースシルエット】ならば地球の重力を振り切ってミネルバに辿り着くことも可能だ。

しかし――

 

 

「あの人はっ!?」

 

 

インパルスのセンサーでザクを探す――ユニウスセブンから離れた場所にザクの姿を見つける。

だがザクは損傷した機体で大気圏突入の体勢を取っていた。

 

 

「…くっ、見捨てることなんてっ!」

 

 

スラスターを全開に噴かせ、インパルスがザクの元に翔ける。

 

 

――――――――――――――――

同時刻――

 

 

「…間に合ったか」

 

 

死神の様な機体――【ディス・アストラナガン】が大気圏に突入しつつ、ユニウスセブンを自機の武装の射程内に捕らえる。

アストラナガンの装甲は【ズフィルード・クリスタル】と言う自律・自覚型金属細胞――レアメタルで構成されている。

この装甲材には【自己進化】・【自己増殖】・【自己再生】の機能があり、なおかつ並の熱や衝撃にも通さない破格の装甲にもなっている。

その為、ディス・アストラナガンにとって大気圏突入など負担にすらならないのだ。

 

 

「【ディス・レヴ】の出力が通常より上がっている…ユニウスセブンに残っている死霊の為か…」

 

 

ディス・アストラナガンには【ディス・レヴ】という悪霊や怨霊、死霊などの集合体【負の無限力】を吸収し、その力を糧とする動力機関が搭載されている。

その為、ユニウスセブンに暮らしていた人々の霊を吸収し、出力が大きく上がっているのだ。

正確には吸収した死霊や怨霊は、ディス・レヴに吸収された後に本来の輪廻転生の流れに戻され、その際に発生する無限の力を引き出しているのだが。

 

 

「これならば…ん、戦艦か」

 

 

クォヴレーがモニターに映る【ミネルバ】を捕らえる――おそらくミネルバ側でもこちらを捉えている筈だ。

どうやら艦首に存在する砲塔でユニウスセブンを狙撃するつもりらしい――だが威力が足りないだろう。

 

すぐさま【国際救難チャンネル】を開く――かつての世界と同じならばこれでつながる筈。

 

 

『こちら、ザフト軍所属ミネルバオペレーター、メイリン・ホークです、現在本艦は地球へ落下しているユニウスセブン破砕の任務を帯びています、そちらの通信には答えられません』

 

 

繋がった事を確認し、すぐさま口を開く。

 

 

『そちらの戦艦の主砲では威力が足りないはずだ、ここは俺に任せてくれ』

 

『えっ、ちょっ、どういう…!?』

 

 

予想外のクォヴレーの返答にオペレーターであるメイリンがうろたえるがそれは無視する。

 

 

「いくぞ、アストラナガン」

 

 

アストラナガンの両肩から砲塔が出現し、目標を捉える。

展開された砲塔に光の粒子と宇宙に漂うダークマターの構成物【アキシオン】が収束――奔流となって発射される。

 

 

「メス・アッシャー、マキシマム・シュートッ!」

 

 

【meth】とは死を意味するヘブライ語であり、まさに死神であるディス・アストラナガンに相応しい名であろう。

 

 

発射された奔流が質量弾となったユニウスセブンの破片に直撃――破片を薙ぎ払い、照射が終わる頃には塵一つ残ってはいなかった。

本来ならばここまでの威力は【メス・アッシャー】には存在していない、【ディス・レヴ】の出力が上がっているからこそできた芸当だ。

クォヴレーからしてもアストラナガンに搭載されている【最強兵器】を使う必要がないことには安堵していた――その兵器は危険すぎる代物であるからだ。

 

 

『嘘、ユニウスセブンの破片が…』

 

 

繋がったままであった通信からメイリンの声が漏れる。

ミネルバの陽電子砲【タンホイザー】でも完全破壊は不可能だと計算されていたのに、MSとそう変わらない大きさの人型機動兵器の一撃で完全に消滅してしまった有様を見ればこの反応も頷けるだろう。

 

直後、アストラナガンのセンサーは大気圏に突入しているMS2機の反応を捉えた。

 

 

『損傷しているMSか…こちらでMSを救助しよう』

 

『えっ、あっ、はい…よろしくお願いします』

 

 

茫然自失に近い状態となっていたメイリンは咄嗟にそう答えてしまった。

それに少し笑みを浮かべて、クォヴレーは通信を切る。

 

そして大気圏突入を行っているMSにアストラナガンを向かわせる。

 

 

――――――――――――――――

 

大気圏突入の体勢を取っていたザクは何とか大気圏突入を終えることができた。

カタログスペック上は可能であるが、これを実践したパイロットの技量は突出したものであろう。

 

だが次の悲劇が待っていた――ザクは大気圏内での飛行は行えないのだ。

加えて大気圏突入により機体の各所は損傷している、このままでは大地に激突することは間違いない。

 

インパルスも同じく大気圏を突破――こちらは機体に採用されている【VPS装甲】により、目立った損傷はなく大気圏突入を完遂していた。

そして、すぐさまザクに機体を近寄らせ、機体を支える体勢を取る。

 

 

『くっ、君まで落下するぞ!』

 

『アンタは死なせない、それに俺もこんな所で死んでたまるもんかぁっ!』

 

 

フォースシルエットのスラスターから得られる莫大な推力でインパルス単機でならば充分飛行が可能であるが、現在はザクの重量と突入による加速がプラスされている状況だ。

減速には成功しているが、推力が足りずこのままでは2機とも大地に叩きつけられてしまう。

 

 

だがそこに突如として国際救難チャンネルで通信が繋がる。

 

 

『そこのガンダム、聞こえるか』

 

 

インパルスのコックピット内で通信元をモニターで捉える――まるで死神の様なMS(少なくともシンの常識ではMS)だ。

 

 

『あっ、アンタは…!?』

 

『俺のことはどうでもいい、そちらのMSとあわせて母艦まで連れて行こう』

 

 

インパルスとザクにアストラナガンのマニピュレータが伸び、支えられる形となる。

そして先程までの加速して落下していた状態が嘘の様に、機体の落下が停止した。

 

 

(なっ、なんて出力だよ、こいつっ!?)

 

『君は…?』

 

 

不思議とアスランは通信元のパイロットを知っているかの様な気分になっていた。

聞いたこともない声はずなのに――

 

 

『…母艦を捕捉した』

 

 

アストラナガンのコックピットでクォヴレーはかつての仲間である【アスラン・ザラ】と、平行同位体であるこの世界のアスランの声を聞き、複雑な感情に囚われていた。

だが今は自身の感情よりは2機の安全を確保するほうが先決である――感情を押し殺し、捕捉したミネルバに向かいスラスターを噴かせる。

 

 

――――――――――――――――

戦艦ミネルバ 甲板

 

 

「…さてどうしたものか」

 

 

アストラナガンのコックピットでクォヴレーが一人愚痴る。

インパルスとザクを無事、海上に着水したミネルバまで送り届けた彼であったが当然発艦許可など下りるわけがなかった。

 

アストラナガンのモニターを見る――機体の足元には整備士や衛兵が大勢集まっている。

自身の事情を話そうも、狂人の言葉として受け入れられないだろう。

加えて、アストラナガンについてデータを取られる可能性もある――この世界のMSと比べてアストラナガンの性能は文字通り次元が異なる領域のものだ。

再現は不可能だろうが、取られたデータから歪な技術進歩が起こる可能性もある。

 

その為、クォヴレーが退避勧告を発しようとした瞬間だった――かつて使っていた【αナンバーズ専用の部隊間周波数】に通信が繋がったのだ。

 

 

『その機体はクォヴレーよねっ!? クォヴレーなのよねっ!?』

 

 

凛としつつもまだあどけなさが残る少女の声――自身を人間にしてくれた少女の声がクォヴレーの耳に届いた。

その少女の名は――

 

 

『まさか…ゼオラ…なのか?』

 

 

かつての戦友でありもっとも大切な友――【ゼオラ・シュバイツァー】であった。

 

 




死霊を吸収したメス・アッシャーならコロニーくらい余裕かなと…一応砕けてますし。

ゼオラ登場、彼女ともう1人がいなければクォヴレーはずっとアイン・バルシェムだったはず。


次回予告

地球に降下したミネルバでかつての仲間と再会を果たしたクォヴレー。
何故彼女がこの世界にいるのか――そして彼はガンダム伝説の体現者あり最強のMSパイロットとも再会する。

「仲間と共に」

彼等が何故この世界にいるのか――それを知る必要がある。


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第二話 「仲間と共に」

「クォヴレーっ!」

 

 

【スクール】の制服に水色の髪、そして年齢に見合わぬ程豊満な2つの果実を揺らしながら、少女【ゼオラ・シュヴァイツァー】はディス・アストラナガンのコクピットから格納庫へ降りたクォヴレーに飛び込んだ。

 

 

「どこ行ってたのよっ! 私達全員が心配していたのにっ!」

 

 

もはやタックルに近い勢いであったが、クォヴレーは彼女をしっかりと受け止める。

 

無数の平行世界を旅したクォヴレーは、彼女の同一存在を何度も目にしたことがある。

【閉ざされた世界】ではもう1人の大切な戦友である、【アラド・バランガ】と共に【鋼龍戦隊】と言う特殊部隊に所属していた。

だがどの世界の彼女にもクォヴレーは直接的に干渉したりはしていない。

 

そして自身の事を【クォヴレー】と呼んでくれる彼女を、彼は1人しか知らない。

クォヴレー本来の世界、αナンバーズに所属し、霊帝を打倒した【新西暦世界】の彼女しかいない。

 

 

「ゼオラ、何故お前がここに?」

 

「それが……」

 

 

ゼオラの口から何故彼女達がこの世界にいるかが語られた。

霊帝を打倒し、イデの導きにより地球圏に帰還したのと同日の事だ。

 

機能停止した【イデオン】が突如再起動し、周りが光に包まれ気が付いたらこの世界のアステロイドベルトにαナンバーズの全艦隊、全搭載機体が転移していたとの事だ。

 

直接的な原因と思われるイデオンについては現在旗艦であるヱルトリウムで機能停止状態となっているらしい。

 

 

「成程……そんなことがあったのか」

 

 

疑問も浮かぶが、かつての仲間に会えた。

何故彼女らがいるかの原因については後で調べればいい、今はその事実だけでクォヴレーの目には歓喜の涙が浮かんでいた。

しかし感動の再会は長くは続かなかった。

 

 

「失礼しますが、よろしいでしょうか」

 

 

少々アレンジが施されたザフトの赤服、赤毛に1本のアホ毛が特徴的な少女がクォヴレーとゼオラに声をかけてきたのだ。

彼女の後ろには武装した2名の衛兵も立っている。

ゼオラがクォヴレーから離れる。

 

 

「ザフト軍所属の【ルナマリア・ホーク】です、αナンバーズ所属の【クォヴレー・ゴードン】少尉でお間違いないですか?」

 

「ああ」

 

 

ルナマリアの言葉に返事をする。

 

 

「当艦ミネルバ艦長【タリア・グラディス】より貴方と面会がしたいとのことです」

 

「……了解した、そちらに従おう」

 

「ありがとうございます、それではついてきてください……あ、貴方の【機体】の方は大丈夫です、触ったりはしない様言われてますから」

 

 

突然フランクな口調になったルナマリアに首を振って返事をする。

格納庫を見渡すと、先程救助したガンダムタイプのMSやザクタイプのMSはザフトのメカニック達が整備を行っている。

 

そして見覚えのある2機――MSに近いPT(パーソナル・トルーパー)【ビルトファルケン】と【ビルトビルガー】も格納されていた。

その2機には見覚えのある人物たち、αナンバーズのメカニック達が整備を行っていた。

皆クォヴレーが見ているのに気づき、手を振っていたりしてくれていた。

 

 

「行きましょう、クォヴレー」

 

「分かった……アラドもいるのか?」

 

「ええ、ほら、噂をすれば」

 

 

ゼオラが通路を指さす。

そこにはゼオラと同じくスクールの制服を身に纏った紫髪の少年がいた。

 

 

「クォヴレー!」

 

 

その少年、【アラド・バランガ】がクォヴレーに駆け寄る。

 

 

「どこ行ってたんだよ、クォヴレー! 心配したんだぜ?」

 

「……まあ、役割があってな……アラドは相変わらずの様で安心した」

 

 

苦笑しつつも友との再会に涙腺が緩む。

 

 

「おう、俺は元気だぜ! なんたって最近はご飯山盛りだからな!」

 

「もう、はしたないわよ、アラド!」

 

 

クォヴレーにしてみれば数年ぶりとなるアラドとゼオラのやり取り。

それにフッと笑みを浮かべ、3人はルナマリアの先導に従い艦長室に向かう。

 

―――――――――――――――――――――――――――

艦長室

 

 

「ザフト軍、ミネルバ艦長の【タリア・グラディス】です」

 

 

ザフトの白服を着た女性――【タリア・グラディス】がクォヴレーに敬礼をする。

中年と呼べる年齢に見えるが、それでも十分な女性的な雰囲気を感じさせている。

 

そして艦長室のソファーに座っていた長身に黒い長髪の男性が腰を上げる。

物柔らかそうな物腰と雰囲気を漂わせているが、その瞳は鋭い。

それだけでクォヴレーに警戒心を持たせるには十分であった。

 

 

「初めまして、現プラント最高評議会議長の【ギルバート・デュランダル】だ、クォヴレー君、君の事は聞いているよ」

 

 

一瞬、その声がかつて霊帝を打倒の際、応援に駆け付けた【赤い彗星 シャア・アズナブル】と同等に聞こえたため、思わずゼオラに視線を移す。

 

ゼオラから「彼は別人よ」と視線での返答があったため、デュランダルにクォヴレーは視線を戻す。

 

 

「……αナンバーズ所属、クォヴレー・ゴードンです」

 

 

クォヴレーも返礼する。

 

 

「ユニウスセブンの完全粉砕について協力感謝しているよ。ミネルバの主砲だけでは完全粉砕は難しかったと思うからね」

 

「自分はαナンバーズの兵士、地球を守るのは当然です」

 

「……それが【平行世界】の地球であってもかね?」

 

 

彼の口から平行世界と言う言葉が出た瞬間、クォヴレーが顔をしかめる。

デュランダルから簡単だが事情の説明が行われた。

 

現在αナンバーズはザフト及びオーブと協力体制を取っている事。

またαナンバーズの旗艦【ヱルトリウム】はアステロイドベルトで待機し、特機等を含めた機体の修復に努めている事。

一部先遣隊、主に修復が特機に比べて容易なMSやPTがラー・カイラムで地球に降りている事。

 

そして、何故この世界の軍隊であるザフトとαナンバーズが協力しているのか説明も行われた。

モニターに映るのは、多脚型の甲虫のような生物。

 

モニターの映像でその生物は、生身の状態で宇宙を数百匹単位の群れで移動を行っていた。

ザクやジンのMS達の射撃武装をその強靭な甲殻で弾き飛ばしつつ、体当たりを行い大破、撃墜していく。

 

この生物をクォヴレーは知っている。

全生命体の天敵、その名は――

 

 

「【宇宙怪獣】……っ!」

 

「先月、アステロイドベルトで数百匹の宇宙怪獣が確認された……幸い現れたαナンバーズのMS部隊と【黒い大型特機】の曲がるレーザーによって駆逐された

 

がね」

 

 

宇宙怪獣(STMC)

全生命体の天敵であり恒星に卵を産み爆発的に増殖し、銀河の星々を殲滅する悪魔。

1匹1匹の戦闘能力は大したことはない。

モニターに映る兵隊型など、歴戦の戦士であるαナンバーズに取ってみれば雑魚に等しい。

しかし、その恐ろしさは億や兆では聞かない数の多さにある。

 

αナンバーズ所属の観測員は視野の七割が敵影に覆われて宇宙の色さえも変わって見えた事を報告している。

 

宇宙を覆い尽くすほどの宇宙怪獣の物量。

当然αナンバーズもこの物量には大苦戦させられた。

 

αナンバーズがこの世界のザフトと協力体制を取っている理由は当然だろう。

一騎当千の戦隊であっても補給や、連携等を行わなければ宇宙怪獣と戦うのは無謀であるからだ。

いくら旗艦であるエルトリウムが補給物資を生み出すことが可能とはいえ、あくまで戦艦1隻で賄える物資の量には限度がある。

またパイロット達も人間だ、中には数人例外もいるが戦い続ければその分疲労がたまり、動きも悪くなる。それを補うためには部隊間の連携が必須になる。

 

事実、宇宙怪獣の活性化により多数の星系を支配していたバルマー帝国艦隊は、バルマー戦役時点と銀河大戦時点とを比較して、大きく弱体化していたからだ。

 

 

「……了解しました、俺もαナンバーズの一員、ザフトに協力しましょう」

 

 

クォヴレーの返答を聞いて、デュランダルが笑みを浮かべていた。

デュランダルがタリアに視線で指示を送る。

そしてタリアが艦長室内のコンソールを操作すると、モニターが現れ、現在の航路が表示される。

 

 

「現在本艦は太平洋上を航行しております、後数時間でオーブに到着予定です」

 

「オーブ……か」

 

 

クォヴレーが呟く。

脳裏に浮かぶのは弱気な態度を取りつつも芯の部分は折れずに前に進んだ友人であるMSパイロットやコロニーのガンダムパイロット達から政治家として大丈夫

 

かとも言われていたじゃじゃ馬な女の子。

 

 

「君達の世界にもオーブ、そしてザフトがあったと聞いているが?」

 

 

それをデュランダルが聞いていたのか、尋ねる。

 

 

「ええ」

 

「首長は姫……失礼、カガリ・ユラ・アスハ代表かね?」

 

「……ええ、こちらのオーブも同じなのですか?」

 

「うむ……そして現在この船にも乗っているのだよ、護衛のアスラン・ザラと共に」

 

 

デュランダルの苦笑が混じった回答に、やはりかと内心納得していたクォヴレーでもあったのだが。

先程助けたザクのパイロットがアスランであり、その彼の近くにカガリがいても何ら不思議ではない。男女間の感情については疎いクォヴレーであるが、この世界でもそうなのだろうと納得していたのだ。

そしてそれとは別件で思考の海に沈んでいく。

 

 

(……宇宙怪獣は確かに人類の天敵だ、それは疑うべくもない事実、だがなぜアストラナガンはこの世界に転移した?)

 

 

そう、クォヴレー当初はこの世界ではなく、【閉ざされた世界】、鋼龍戦隊と呼ばれる特殊部隊が活躍する世界に転移しようとしていたのだ。

 

だがアストラナガンが転移した先はこのC.Eと呼ばれる世界。

平行世界の番人は【破滅の因子】を砕き、全ての平行世界を守る為に存在している。

アストラナガンが破滅の因子の除去と言う本来の役割よりも、この世界への転移を優先した理由が不明なのだ。

 

加えて何故αナンバーズがこの世界にいるのかもわからない。

ゼオラ曰く、イデオンの光に包まれ気が付いたらこの世界のアステロイドベルトにいたとの事だが。

 

 

(……この世界に何か、あるというのか? 破滅の因子を超える……【何か】が?)

 

 

その後、艦長であるタリアからオーブ到着までは客室を使ってほしいという要望があり、おとなしく従う事となったが、オーブに到着するまでクォヴレーはずっと思考の海に沈んでいた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

数時間後、オーブ首長国連邦 軍港

 

 

ザフトの最新鋭艦であるミネルバがオーブの海上艦隊に連れられて軍港へ入港していく。

軍港にはオーブ軍のMSであるM1アストレイが配備されており、また最新鋭機の【ムラサメ】が上空を旋回していた。

 

 

「……まるでZガンダムだな」

 

 

上陸許可が降り、タラップからオーブの地に足をつけたクォヴレーは、

上空を旋回して人型に変形したMSを見て呟く。

ちなみにゼオラとアラドは搭乗機体についてメカニック達から呼び出しを受けているため、上陸はもう少々遅れるとの事だ。

 

Zガンダム

αナンバーズの中でもトップクラスの実力を持つカミーユ・ビダンが設計に関わったMS。

彼の操縦技術もさることながら、強力なNT達が多く所属しているαナンバーズの中でも頭1つ抜きんでた彼のNT能力が機体に干渉し度々オカルト的な力を発揮していたことを覚えている。

しかし無限力を持つαナンバーズの機体が増えるにしたがい、恐ろしいに馴れてしまったのかいつの間にか気にしなくはなっていたが。

 

 

「カガリ~!」

 

 

軽薄な雰囲気を漂わせる声が響く。

声の方向を確認すると、長身に淡い紫髪の青年が【この世界】のカガリ・ユラ・アスハを抱きしめていた。

どうやら国家元首を迎えに来ているようだが、公の場で行っていい行為ではないだろうと考えたがすぐに認識が変わった。

その理由は、カガリを話して車に乗せる際、一瞬だけ青年の表情が冷たく変わったのだ。

先程までの雰囲気は演技であることが政治に疎いクォヴレーにもよく分かる。

 

 

(……この世界のオーブも一枚岩ではない……か)

 

 

新西暦世界にも同じ様にオーブ首長国連邦は存在している。

C.Eと同様にコーディネーターの技術力で発展していた国であり、国家元首であるウズミ・ナラ・アスハは中立の理念を提唱していた。

彼の当時の搭乗艦であったアークエンジェルがオーブで世話になっていたため、その理念について考えさせられる事が多かった。

 

当時の地球圏は、地球連邦にブルーコスモスが台頭してきたため非常に不安定になっていた。

その不安定な情勢な中で中立を維持できていたウズミの手腕はまさに名君と評価されるべきだ。

 

しかし、中立という立場は臨機応変に変えるべき状況もあるとも彼は考えている。

事実、その理念が災いしαナンバーズも協力したが、結局の所オーブは陥落している。

ウズミ一派は協力したαナンバーズの機体を逃がすためにマスドライバー毎自爆、オーブは陥落した。

彼の行動自体を間違っているとは思わない、その行動で救われた人間もいるのだから。

しかし責任を取らず、国の重要施設を自ら破壊してしまったという点については問題もあると思う。

 

国とは国民であり、理念ではないのだ。

彼の自爆と言う行動は少なからず銀河大戦後のオーブの立場を悪くしているはずだ。

国民の避難が完全に完了していたのは不幸中の幸いと言うべきところだが。

 

 

「……らしくもないな、まったく」

 

 

そこまで考えて苦笑しつつ彼は頭を振る。

あくまで自身は兵士、政を考える様な立場ではない。

もちろん、この国が問題なく発展していくことを願ってはいるが。

 

クォヴレーがそうしていると、彼に声をかける者がいた。

 

 

「やっぱりあの時の感覚はクォヴレーだったんだ、カミーユさん」

 

「ああ、そうみたいだな、ジュドー」

 

「カミーユ、ジュドー……そうか地球に降りていたとは聞いていたが、先遣隊はお前達だったんだな」

 

 

振り返るとそこにはαナンバーズの中でもトップレベルのMSパイロットであり、強力なNTでもある【ジュドー・アーシタ】と【カミーユ・ビダン】がいた。

 

 

「だが何故、俺がいると?」

 

「ああ、コロニーが、空が落ちてくる感覚の中に見知った気配があるのを感じたんだ」

 

「感じた感覚がクォヴレーのものだったって、俺も分かったんだ。 落ちてきたコロニーもクォヴレーが壊してくれたんだろ?」

 

「ああ」

 

 

カミーユとジュドーからオーブには現在、ラー・カイラムが停泊している事を伝えられた。

搭載機体はMSばかりであるため、どうしても単独で宇宙に上がることができなかったとの事だ。

 

 

「オーブでもコロニーの落下は察知していたが、どうしても宇宙に上がるには時間がかかったから指を加えて見てるしかなかったが……ザフトも動いてくれていたのか」

 

「今回はマジで危なかったよなぁ、αナンバーズの特機は基本修理中、ゲッターチームとかもまだヱルトリウムにいるんだもんなぁ……」

 

「仕方ない、宇宙怪獣がまた現れるかもしれないんだ、動ける特機であるゲッターやマジンガーもヱルトリウムの防衛に必要だろう。ガンバスターもこの前の戦闘でついにオーバーホールが必要になってしまったんだからな」

 

 

カミーユとジュドーに軍港内を案内されながら、現在のαナンバーズの戦力情報を知ることとなった。

代表的な特機であるマジンカイザーやライディーン、コン・バトラーVやダイターン3は現在エルトリウムで修復作業中。

人造人間でもあるエヴァシリーズも修復に時間がかかっているとの事だ。

三重連太陽系緑の星の英知の結晶、ジェネシックガオガイガーも現在は修復作業中だ。

 

現状、特機で動けるのは真・ゲッターから乗り換えたゲッタードラゴンや、同じく乗り換えたマジンガーZ。

朗報としてかつての戦いで大破したファイティングメカノイド、ガオファイガーがようやく修理が完了するとの事だ。

 

 

「……やはり特機は修復に時間がかかるか」

 

 

軍港内を歩きつつ、αナンバーズ専用となっている区画に足を踏み入れる。

そこには白き歴戦の戦艦、ラー・カイラムが停泊していた。

余談であるが、αナンバーズ専用区画を設定したのは先ほど、この世界のカガリを相手にしていた男、【ユウナ・ロマ・セイラン】であるとの事だ。

 

 

「ラー・カイラム……」

 

 

かつて、アイン・バルシェムとして送り込まれるはずであった戦艦。

その記憶を失い、クォヴレー・ゴードンとして再出発することとなった最初の戦艦。

自分はまた仲間達に会えた、彼はそう感じ笑みを浮かべていた。

 

 

「やはりクォヴレーじゃないか」

 

 

彼を呼ぶ声、振り向くと地球連邦の士官服を着た赤毛の青年、いや男性がこちらに声をかけていた。

この世界ではあまり知名度はないであろうが、新西暦世界の軍属のものならば知らぬ人間はいない【ガンダム伝説】の体現者。

【アムロ・レイ】が笑みを浮かべて立っていたのだ。

 

 

「アムロ大尉……お久しぶりです」

 

「ああ、クォヴレーも息災そうでなによりだ」

 

「ええ」

 

「これでようやく、αナンバーズは全員そろったということだな」

 

 

ポンとクォヴレーの肩にアムロが手を置く。

 

 

「はい、ご心配をおかけしました」

 

 

クォヴレーの言葉にん、と笑みを浮かべてアムロは手を離す。

だがすぐに浮かべていた笑みを消し、戦士の表情に変わる。

 

 

「さて、あまり再会を喜んでいる時間はないようだ」

 

「アムロさん、まさか……?」

 

「アムロ大尉、それはまさか……!」

 

 

傍にいたジュドーとカミーユは半ばアムロの言葉で察したのだ。

それはクォヴレーも同じであった。

 

 

「ああ、まもなく地球連合からザフトへの宣戦布告が行われるだろう……ユウナ達からの情報だ」

 

 

そう、それは戦争の始まり。

人はまた過ちを繰り返し、地球は戦火に包まれる。

 

 

 




IS小説のほうが一段落しましたので、こちらを更新しました。

αナンバーズの特機連中はまだ修復作業中です。

ここのユウナはまともな予定です。
原作の様にMSに潰されるなんて最後には絶対にしません。


次回予告

君達に最新情報を公開しよう――

突然のプラントへの宣戦布告。
そして打ち込まれる核ミサイル。

かつての悲劇は繰り返されてしまうのか。
いやそんな事は起こさせない、何故ならば勇者がいるからだ!
悲劇を止める為に、勇者よ立ち上がれ!

NEXT『勇者王、復活』
次回もこの小説で、ファイナルフュージョン承認!



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