緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜 (乃亞)
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序章〜出逢い〜
第1話
初めての文章なので拙いところ、多々ありますがご容赦ください。
それでは、楽しんでいただけると幸いです
今日も空はアホみたいに綺麗だなぁ
などと俺、明智零司(あけち れいじ)は思いながら試験会場へと足を運んでいた。
そう、今日は東京武偵高校の試験日なのである。
武偵高校とは、近年凶悪化する犯罪に対抗して新設された教育機関で、警察に準ずる活動ができる国際資格≪武偵≫を育成する学校である。
武偵とは警察と違い金で動くいわゆる便利屋で、帯刀や帯銃も許可されていたりする。
そしてここでは武偵の活動に関わる専門科目を履修できる。
俺が受験するのはインケスタ、つまり探偵科である。
他にも強襲科、狙撃科、衛生科、尋問科など様々な専門科目があるがその中で俺が探偵科を受験する理由は、まぁ気分だ。
などと誰にしているのかわからない説明を頭で浮かべつつ試験会場に到着すると早速、見知った奴と出会う。
「よぉキンジ、お前も東京に来たのか!」
そう声をかけると少しネクラそうな見た目をした男、遠山キンジその人は
「おう明智か、お前こそ東京に受けに来たのか!」
少しの驚きを声に含みつつ返してきた。
この男とは神奈川武偵中(カナチュー)で出会ったが、そこではなかなかひどい目にあっていたので環境を変える意味でこっち来たのか。
とそのことを聞くとキンジはバレたか、みたいな顔で頷いた。
「正解。さすが明智だな、お前なら余計なこと言わなさそうだし安心できるわ」
「それでも武偵になることをやめずに武偵高受けに来るってところが、さすが正義の味方の一族だな」
そう暗い顔のキンジを茶化す。これがいつものスタンスだ。
「うっせ、白雪みたいなこと言うな」
「白雪か、懐かしい名前だ。まぁ、とりあえず次にここで会うのが入学式であることを祈るぜ」
「お前こそ足元すくわれ……るわけないな」
キンジは俺にと返しつつ俺の出した拳にくいっと拳をぶつけ返してくるのであった。
こいつは神奈川武偵中学では強襲科の優等生だったし、まぁ間違いなく受かるだろう。
さて、どんな問題が出てくるかな?
などとキンジと別れたあとぼんやり考えていた俺の目に飛び込んできたのは
薄緑の髪で
鳶色の目をして
ドラグノフ狙撃銃を肩にかけた
140後半くらいの背の小柄な美少女だった。
その瞬間俺は余りの美しさに、時が止まったかのような感覚を味わっていた。
あんまりマジマジと見ていたのだろう、少女の方が俺の視線に気づき問いかける。
「何か?」
「いや、なんでもないぜ。あんまりジロジロ見てすまんかったな」俺は柄にもなく慌てつつ謝った。
「いえ」
美少女は大して気にした風もなく言い、去っていった。
それが俺、いずれ安楽椅子探偵の再来だの水君だのと呼ばれることになる明智零司と、
狙撃科の麒麟児で美少女、レキとの
普通でなんの面白みのない
出逢いだった。
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第2話
今回は実戦試験まで行きたかった……(行けなかった顔)
原作キャラを一人出します。
それでは楽しんでいただけると幸いです!
武偵高は武偵を育てるための機関である以前に一応高校であるので入学試験には一応筆記試験も課される。まぁといってもそこは偏差値の低い武偵高、そこまで高度な問題は出されず教科書をきちんと理解しておけば満点を取れる問題である。
俺は全教科試験時間を30分以上残しながら、これからの実戦試験や先ほどの美少女のことを考えていた。
(実戦試験はおそらくここに来る時に見たビルを使って相手を捕縛したりするものだろう、それならアレを使って相手の位置を特定して順に捕縛していけば問題ないはずだ……にしてもさっきの子、無表情なのに可愛かったな……ん?無表情?ジロジロ見ていたのを気づいていたのに不審そうな顔やイラッとした表情一つ見せない?うーん、ドラグノフを持ってきていたことから彼女は狙撃科だろう、レミントンなどといった一般的にドラよりも優秀だとされるものでなくあえてドラを持ってきていたことより彼女は幼い頃から狙撃をする環境があった、あるいは何か仕掛けがあってそれないしドラグノフに絶対の自信があるかだが……うーむ、情報が足りないからこれ以上は考えても憶測の域を出ないな)
先ほどの美少女の名前を聞いておいた方が良かったなと思っていると試験終了のチャイムが鳴った。まぁ間違いなく全教科満点だろう。
昼食休憩を挟んだあと、実戦試験が行われる
実技ではなく実戦だ、遊び半分の浮いた気持ちでやっていると本番、つまり事件の時に痛い目にあうので真剣に行うことや武偵法を遵守を求められる。
(まぁ、手は抜かないけど全力は出さないほうがいいな。キンジは俺の本気を知ってるがあいつは強襲科だからまぁ違う組だろう。となると誰がどこで見てるかわからないし自分の手札を見せびらかすことは避けた方がいいな)
と様々なシュミレーションをしつつ、食堂で自前のサンドイッチを頬張っていると声をかけられた。
「隣、いいかな?どこもかしこも空いてなくて」
その声の方を振り向くといかにも優男、というようなにこやかな笑みを浮かべているイケメンがいた。
「あぁ、構わん。ちょっと待ってな、荷物どかすから」
「ありがとう、助かるよ」
急いで自分の荷物をどかしながら答えると優男はホッとした顔をして自分の食事のプレートを置いた。
あっ、俺の弁当箱にちょっと当たったのを元の位置に直したな
どうやら見た目だけでなく性格も良いようだ。
「俺は明智零司。探偵科志望だ、お前は?」
「僕は不知火亮、強襲科志望だよ。」
おや、優男から意外な答えが返ってきた。
見ると確かに手首からして相当鍛えているのがわかり、中々の実力者であろうことが見受けられる。
などと不知火を観察していると、彼が不思議そうに聞いてきた。
「明智君、でいいかな?なんで探偵科志望なんだい?」
「まぁ、気分だな。受かれば転科も自由履修もできるしな」
「うーん、でも明智君ってことは神奈川武偵中学の天才、AT(アット)の明智君だよね?ATは強襲科の2人組だって聞いていたからてっきり強襲科だと思っていたよ」
その受け答えでは満足できなかったらしい、そう続けてきた。
確かに神奈川時代はキンジと俺で苗字の最初の一文字をとってATというグループしていたが、なぜそれを知っているんだ……。
「中学生武偵で知らない人はほぼいないんじゃないのかな?」
表情に出ていたのだろう、不知火は微笑みながら言ってきた。
まぁうん、色々やったからなあの時は。
それでも全力は出していないから俺の全力は見切られないかなと思いつつ情報をやるとにこやかに返してきた。
「キンジもここを受けに来てるぞ、あいつは強襲科だ。」
「へぇ、そうなんだ。気をつけるよ」
この優男、もしかしたら思ってたよりやるかもしれない。そう思わせるだけの余裕が彼にはあった。
はい、ということでぬいぬいに登場してもらいました
緋弾のアリアなのにいつアリアが出てくるのかわかんない……
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第3話
今回は少しだけ零司の超能力が発揮されます!どんな能力なのかはまだ明確にはしませんがあれこれ考えていただければなと思ってます!
さぁ、零司はどうやって実戦試験を突破するのでしょう?
それでは本編です
食堂で知り合った不知火と互いの健闘を祈りつつ別れた俺は間も無く開始される実戦試験のアナウンスに耳を傾けていた。
まぁ、おそらくキンジも不知火も、あとはあの美少女も合格することは間違いないだろう。知り合って間もない、というか美少女とは一言喋っただけで知り合いというレベルにも達してないが、これは確信に近いものだ
まぁ、そんなこと考えてる俺が落ちたら笑い者なんだけどな。
とも思ったが、一般の中学生程度に手こずっていたら神奈川武偵中のATが聞いて呆れる。どのように素早く課題をクリアできるかが問題なのだ。
そんなことを考えていたら間も無く俺の番のようだ
俺は愛銃である青に塗られたベレッタPx4ストームと.44オートマグにちらりと目をやり次に3本の小太刀の重さを確認した。
うん、いつも通りだな
実戦試験は10人ずつに分けられ、その中で他の受験生を捕縛していく形式のもので、使用できる弾はゴムスタンである
でもこれ当たるとすげー痛いし内臓に当たったら破裂の危険もあるんだよなぁ
そして思った通りというかなんというか、試験会場は朝来る時にマークし、昼食時にも予想していた通りの廃ビルであった。
廃ビルの中に受験者が全員入って約1分後に始まるのでそこまでに大まかに作戦を考えたりあるいは他の受験生に共闘を持ち込んだりすることが可能のようだ、まぁ共闘するということは裏切られること前提であるような気がしなくもないが……
廃ビルは5階建てで思ったよりも埃っぽい。そして想像よりも1フロアが広いのであった
あー、これはちょっと能力を使った方が早いなぁ
そう思った俺は即座に能力を発動しどこに人がいるかを判断するが……んん?これはおかしいな……どうして
もちろん俺自身を含んでいるわけでも俺の能力がおかしいわけでもない。
さっきので大体どこにいるのかは特定できたし、捕縛した後に喋らせますか
開始5分、俺は思ったよりも苦戦していた。
7人しか捕縛できてねぇ、もう一度能力を使うかと思った瞬間、背後から刺すような殺気を感じた。
まずい、こいつは結構
「うっそーん、これだけで気づいちゃうかぁ……」
俺は即座にPx4ストームと小太刀を構えるとそう言いながら現れたのは……金髪ツインテの小柄な女子だった。
引っ込むとこは引っ込んでて、膨らんでるとこは膨らんでる感じの俗にいうロリ巨乳という部類の人だ。
「背後を取られたのは久しぶりかもなぁ、俺は明智零司だ。お前は?」
「おっす!りこりんは峰理子なのです!はっ!」
声をかけるとロリ巨乳は敬礼しつつ返してきた。
つーかテンション高いなこいつ……
こんな奴に一瞬とはいえ背後を取られたのか…まぁいい。
「峰か…覚えておこう。背後を取ったアドバンテージだ、好きな戦闘方法を選べ」
「んん〜じゃね!格闘術!」
「格闘術ね。良いだろう、行くぞ!!」
意外だな、体格からしててっきり拳銃か何かでくると思っていたが……
気持ちを切り替え気合を入れつつ格闘の間合いに入ると意外にも中国拳法の構えを取ってきた。なんでやねん。
そのまま発せられた突きを俺は絡め取りそのまま極めに行こうとするとそれを嫌がったのか峰は素早く下がり回し蹴りを放ってきた!
これは……避けられないな、なら防ぐか
俺はその回し蹴りを左手で防ぎその前上へ払い隙のできた峰に対し軽く押して倒した。
「ギブ?」
「うーん、ギブで」
そのままマウントポジションを取り、 そう聞くと峰は自分の負けを悟ったのかあはは……と笑いながら降参をしてくれたのだった。
「すまんな…(にしても、なんで4人増えてんだろうな)」
峰の手首、足首をロープでくくり終え峰に謝りつつ、考えるのは先ほどの違和感であった。
幸い、残った人がいるであろう場所はこの階に1人、一つ下の階に2人、1階に2人である。ワイヤーリペリングの音などもなかったので階下の人が上にいる線はほぼ無いので降りつつ全員捕縛していったのだが…おかしい、階下に固まっている人たちは
強い弱いは個人の資質や努力によって変わるものだが場慣れはそういったものでなく雰囲気でわかるものなのである。
そんなことを考えつつ開始から9分後、廃ビルを出ると試験監督の先生が化け物を見るような目でこちらを見て、驚いていた。
あまりに不思議だったのでこちらから先ほどからの疑問と共に聞かせてもらうことにした。
「あの、すいません。少し質問よろしいでしょうか?」
「はい、なんですか?」
「この試験って10人1組の試験ですよね?なのにどうして俺を含めて14人もいたんですか?」
わからない事は分からないので単刀直入に聞くと試験監督は驚きを秘めた声でこう告げてきた。
「これは余り生徒には言わないことなのですが……有事の場合にそなえ、うちの職員を廃ビルに忍ばせていたんです」
…こりゃ驚いた、俺はどうやら隠れていた試験官をも撃破してしまったようだ。
「げっ、これって少しマズイ展開ですかね?」
「いえ…この試験では相手がどこに隠れているか、相手の力量を測れるかというものを見ています。貴方のような生徒は是非この学校に来て欲しいです」
おずおずと言った感じで聞いてみると眼鏡のほんわかした雰囲気の試験監督は答えた。
「わかりました、捕縛した試験監督の方と受験者の方は階ごとにまとめてありますので、後はお任せしてよろしいでしょうか?」
「はい、これで試験は終了です。お疲れ様でした。……………今年の受験生で教官を捕縛したのはこれで2人目よ……どうなってるのかしら、今年の子は………」
確認の意味を込めてそう聞くとほんわかした試験監督は俺を労いつつ何か考えにふけっているようであった。
とりあえず合格は確実だろう、これから3年間どんな生活になるんだろうな
と期待しつつ少し目にかかる蒼い髪を払いながら帰途につくのであった。
はい、お疲れ様でした
りこりんをやっと出せたけど、なんか出オチ感半端ない…
あと眼鏡のほんわかした試験監督というのは気づいてる方もいるかもしれませんが高天原ゆとりんです
そろそろ主人公の身長とかまとめとかないとな……
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第4話
今回はここまでの軽い振り返りとちょっとした関係の補足がメインになるかな?
それではどうぞ!
試験が終わり、帰宅した俺は日課の一つである黙想を行いながら今日出会った人のことを考えていた。
黙想は自分の超能力、つまり水を操る能力を扱う上で理想の状態を常に引き出せるようにと始めたことがきっかけで夕食を作る前にほぼいつも行っている。ちなみに今日の実戦試験の前に能力を発動させたのは空気の中に含まれている水分や水蒸気の量と生物の呼気に含まれている水分の量が違うことを基として、他よりも水分の量が多いところを特定しどこに相手がいるのかを
それにしてもキンジの奴…思ったよりも元気そうだったな。
俺がキンジとATを組んで活動していたのは主に中学2年の時だった。中学3年になるとほぼ同時に俺は神奈川武偵中学からの依頼でロンドン、ローマなどと言った欧米諸国を軸に世界中を回っていたため、自然消滅に近い形でATは解散になった……などと思っていたが、周りはATを思ったよりも認識していたようだ。
キンジとはその間メールなどで定期的にやりとりしていたが、女子に良いようにこき使われているという内容が度々あった。おそらく
確かにあいつがあの力を使えば中学生程度の問題なら軽く片付けられるし女子たちもほぼ苦労することなく問題が解決するだろう。
しかしそこにキンジの意思はない。あいつは根が良いから強く反発することもないし反発しようとしても女子たちは
東京武偵高に入学してそのことが少しでも好転すればいいのだが……
同じ強襲科を受験していた不知火あたりならそういった目を抜きに評価してくれるのではないだろうか。あの優男なら間違いなくそんな気がする。
あと気になったヤツは探偵科の実戦試験にいた峰理子か……。
あいつは間違いなく今回の試験、受かることを予想して手を抜いていた。
そうでなければ明らかに状況的不利だと分かる俺に対し、わざわざ名乗りをあげる理由がない。わかりやすい殺気も隠そうと思えば隠せたはず。一体何を見据えてやがる…?
あと気になるのは峰という苗字……どこかで聞いた気がするのだが、果たしてどこだ?ほっておくといずれ大変なことになりそうな気がするな……
だがこれ以上は今は考えられようがないな、仕方ない。とりあえずほっておこう
などと考えていたが一番気になったのはドラグノフ狙撃銃を肩にかけていたあのミントグリーンの女の子であった。
なんだろうあの子は…狙撃科には変人が集うというがその中でも指折りの変人だろうあれは。ドラグノフを担いで来るくらいだ、
だけど何故だろうか、どこか自分の感情というものを扱えない、あるいは感じずナニカに囚われ、また彼女もそのことに逆らわずにいるのではないかという自分にしては根拠のない考えが浮かんできた。
なんにせよ不思議なやつだな…。
とそこまでぼんやりと考えていた俺は黙想をやめ、夕食の準備に取り掛かり始めた
10日後、俺の元には東京武偵高からの合格通知並びに武偵ランクを記された紙が届けられた。
『明智零司 探偵科 ランクS
本校への入学を認めます 東京武偵高校』
それを見た俺は安堵すると同時にこれから面白くなりそうだ、という確信に近い感覚を得ていたのであった。
はい、ということで零司君の超能力は水を扱う系統の能力でした。
文章で表すのは難しいのですがかなり応用も効きます!
そして探偵科のランクSという評価になりました、教員倒しているので当然っちゃ当然ですよね
ぶっちゃけ今の状態の主人公でもブラドさんくらいなら倒せそうかも…?
そして次回から武偵高1年として零司君が入学します
どんな生活が待っているんでしょうか?
楽しんでいただけると幸いです。それでは今回はこの辺で
-GO For The NEXT!!-
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閑話〜主人公のプロフィール〜
前回で序章は終わりになりましたので、今回は零司君のプロフィールを軽くまとめていきたいと思います!
それでは、どうぞ〜
氏名
出生地 京都府 誕生日 12月5日
身長174cm 体重 70kg
髪色及び瞳の色 青みの強い蒼色
備考 生まれは京都だが、家庭の都合で9歳まで欧米諸国を回っていた。そのため日本語の他にも英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語など8カ国語を習得している。
容姿端麗で社交性も割と良く冗談にもよく付き合うのだが、本人曰く「静かなところが好き」らしい。有名な探偵の子孫で、物事を私情を挟まずに俯瞰して見ることができる。そのため推理力が非常に高く、事件をスムーズに解決することが多い。夏休みの宿題は毎日コツコツやって夏休み1週間前に終わらせるタイプ。
水を操る超能力を持っておりその力の応用で待機中の水蒸気濃度などを調べてどこに人がいるかを調べ、犯人を見つけ出したり災害に巻き込まれた人を見つけることが可能。また水を腕のように扱って両手とともに3本の小太刀を扱うことから、主に欧州の犯罪者からは「
神奈川武偵中学では遠山キンジとパートナーを組み、
様々な武器を扱え、狙撃銃を持たせれば
海外渡航経験から食事や掃除、洗濯といった家事は一通りできるが、たまにサボる。
嫌いなものは蛇やトカゲといった爬虫類、Gなど。
本人曰く「奴らは人類の敵、近づきたくない!」らしい。
他人に努力している姿を見せたくない、俗に言う「ええかっこしい」なので朝食を作る前や夕食前、深夜などに訓練や鍛錬をしているようだ。
先述の語学力を始めとした学力は高く、偏差値は平均68を叩き出すが、海外にいた期間が長かったせいか自分の先祖が活躍していた部分以外の日本史は若干苦手としているようだ。数学などは試験期間前に教わりにくる同学年がいたほどで教え方も筋が通っていてわかりやすいらしい。
本人の座右の銘は「出来ることはやる、出来ないことは他人に頼る」らしい。曰く自分で出来ることで不必要に他人を頼る必要はないし、逆に自分に出来ないことを無理する必要はなくできるやつに頼むのが筋道なのだそうだ。こう聞くと単に他人任せのように聞こえるが仲間への信頼の裏返しなのであろう。
書いてて思った
「うわぁ、チートやん」
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第1章〜4人のSランク〜
第5話
今回から零司君たちは武偵高に新高1として入学します。
お楽しみいただければ幸いです!
ついにこの日が来た。
今日は武偵高の入学式だ。
俺は朝の日課のトレーニングを済ませ、ルンルン気分で朝食の焼き鮭と味噌汁、ご飯を食べていた。
寮は本来なら4人用のはずなのだが、どういうわけか自分1人で使えるようになっていたのもポイントが高い。ビバ静かな1人の空間、だ。
「さぁーってと、初日から遅刻するのも締まらないしさっさと行きますか!」
朝食を食べ終えた俺は食器を片付け、小太刀を2本、青いベレッタPx4ストームを帯銃し学校に行く準備を整え始めた。初日から超能力を使って小太刀3本を扱うような事態には陥らないだろうし、.44オートマグは装弾数も少ないし昨日整備し忘れたので置いていこう。オートジャムの名前は伊達ではないのだ。それでもこの銃を使い続ける理由は…
(親父の形見だからな…1人である程度の犯罪者とは渡り合えるようになったしそろそろ「親離れ」すべきなのかな…)
新しい銃の購入を少し検討しつつ、俺は
学校に着き、思ったことは…うん、なんでこんなに俺注目されてるの??
そう本人は無自覚であるが、キンジとATとして組んでいた神奈川時代や中3時に欧米諸国の犯罪者を検挙していたという実績、そして何より入学試験で教官を含めた組の全員を捕縛したという実力は驚嘆に値するもので、蒼い髪というよくわかる特徴と共にほぼ全校に知れ渡っていたのである。
「やぁ、すごく注目を浴びてるね明智君は」
注目度合に戸惑っている俺に近づいてきたのは相変わらずの笑顔を浮かべた不知火であった。
「おっ、不知火お前も受かってたか!…なぁ、なんで俺こんなに注目されてんのさ?」
「明智君、ヨーロッパで活躍したり入学試験で教官を捕まえたんでしょ?そんな人を注目しない人はここにはいないよ」
とりあえず目下の疑問を解決しようと不知火に聞くとにっこりと微笑みつつ返してきた。なるほどな、納得した。
「あぁそゆことね、あれはたまたまだよ。そんなことより不知火がいて良かった、キンジもいるんだろうけどどこいるかわっかんねぇしとりあえずとっとと席確保しようぜ」
「そうだね、遠山君の分もとっておこうか」
「そうしようか」
そう言い、2人して席を探しはじめる。
どうやら、すでにキンジとも面識があるようだ。不知火は人の輪にその優男スマイルで入るのがうまそうだしキンジにも気が楽な相手だろうな。
後から来たキンジと共になんとも特徴のない緑松
あーこいつ、ヒスって試験受けたな?後で聞いてやろう。
にしてもあと2人は誰だろうな…?
根拠もなく浮かんできたのは例の美少女であった。
狙撃科の変人ぶりを差し引いてもあの人は多分すごく優秀だろうからな。
特徴ないって怖いなと思いつつ校長の話を聞く俺たちであった。
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第6話
本作の総合UAがなんと、この短期間で1500を突破しました!この場を借りて報告させていただきます、ありがとうございます!
それでは本編です!
なんとも特徴が記憶に残らない緑松校長の話が終わり、ある程度粛々と入学式が進んでいた。『見える透明人間』の名は伊達じゃないな、もうどんな人だったかわっかんねぇ…。
「そういえばお前ら何組だよ?」
式中に思い出したかのようにヒソヒソ声でキンジが聞いてきたがお前ヒソヒソ声する配慮あるなら入学式のあとでいいだろ…?
「Bだな、お前らはどうなんだよ?」興味はあったので乗ってやると不知火もキンジもA組らしい。ついてないな、俺…
入学式が終わり各クラスでのHRの始まるのを待っていると、どうやら仲良しグループで固まっているらしく、自由席のようになっていた。
まぁ、神奈中の知り合いもいないし、ぼっちなんだよね。
などと独りごちて一番後ろを取っていると、黒髪ロングのザ・大和撫子っていった感じの子が入ってきた、てかあれ白雪じゃん。俺と白雪はキンジ経由でまぁ知り合いなんだが、なんというか白雪のキンジラブがすごい。気づいたら俺は白雪の(対キンジ)恋愛相談相手になっていたのだ。ちくせう、こんな良妻賢母の卵がいるとはキンジ許すまじ
「おーい白雪さんや、お前もB組?」
「あ、明智君。明智君もB組なんだ、よろしくね」
声を掛けてやると白雪はホッとした顔を見せつつも丁寧な対応。日本人の鏡みたいな対応だなキンジめ羨ましい…
「てか白雪は実家がよく
白雪の実家である星伽は封建的というか昔ながらというかの巫女の家で簡単には外出することが許されていないんだよな。
「うん、ちょっと揉めたけど許してくれたんだ。ところでキンちゃ「A組だって、残念だったな。相談には乗るからさ?」あ、そっか…私はSSRに所属しているよ、よろしくね」
なるほど、白雪はSSRなのか。というか四六時中キンジのことを思ってるのに気づかないのは罪だぜ、キンジよ?
〜〜
「クシュッ」
「あれ、遠山君入学早々風邪かい?」
「いや、ないな。多分誰かが俺の噂をしたんじゃないか」
〜〜
相変わらず白雪以外に知り合いが居ないからのんびりしてたんだが…さっきからなんでか知らんがチラチラ見られてるんだよな、そんなに入学試験のあの情報出回ってるのか、これだがら
とかなんとか思っていると入ってきたのはなんと、例の美少女だった。美少女は辺りをきょろきょろその無機質な鳶色の目で辺りを見回すと、たまたま空いていた俺の隣の席に座ってボーっとし始めた。
「よっす、入学試験の時あったよな。俺は明智零司で探偵科だ。よろしくな」
「レキです。狙撃科です。よろしくお願いします。」
レキは簡潔に返してまたボーっとし始めた。
なんというかもしかしてレキって電波系なの?声かけた時以外ヘッドフォン掛けっぱだし。てかチラ見してる奴がレキの着席と同時に増えたし。それにしてもこの子が隣に座ったのか…訂正しよう、ついてるかも、俺。
この視線の量の増加から元々考えていたレキが3人目のSランクなのかという疑惑がさらに高まったので、そのことを聞くと平然と返してきた。
「はい。入学試験の時にそう評価されました。」
なるほどな、学年に4人もSランクがいるだけでもびっくりなのにそのうちの2人がこのクラスってことで皆驚いてるわけだ。
案の定おどおどとした感じで女子が聞いてきたよ。
「あの…探偵科ランクSの明智さんですか…?それでその隣は狙撃科のランクSのレキさんですよね?」
「あぁ、一応そんな感じだな。1年間よろしくな」
珍しい見世物でもないだろうにと思いつつ返すと影で女子が「ヤバい…かっこいい」とか言ってる…後の方なんて言ったのか分からんけど警戒のような雰囲気はないな…よかった。
そんなこんなで俺の高校最初の日は始まった。
諸事情により不知火とりこりん、キンジ(あと武藤)は別クラスにしました。
まぁどうせ
まだ零司君の中では、レキはかわいいけど変な子程度の認識です。多分。
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第7話
この間累計UAが1000突破したばっかりなのにもう2000を突破していて、嬉しい反面焦ってます(笑)
今後とも今作をよろしくお願いします!
入学式のあとの最初のHRの定番と言ったらもちろん自己紹介である。あるんだが…正直俺は自己紹介をするのは好きではない。なぜなら武偵ランクとか色々自分の実力に関わる話を若干混ぜないといけないから、将来商売敵になるかもしれない武偵高の生徒に迂闊なことを喋りたくないからだ。
というわけで俺、明智零司はテキトーな自己紹介で流そうかと思案していると隣、つまりレキの番になっていた。こいつはどんな自己紹介をするのかね?
「レキです。狙撃科です。よろしくお願いします。」
それだけ言うとレキは椅子に座ってまたボーっとし始めた。……ってえっ?それだけ??
「あの子、Sランクだよね」
「無口な子だね、かわいいし」
って周りも騒ついてるしてか俺の番??ちょっと予想外すぎるぞ!
「ソコノ青イ髪ノ子、アナタノ番ヨ」
慌てている所に担任なのにどこにいるかわからないオネエ言葉で
「俺は明智零司、探偵科だ。依頼があるなら期待に沿えるよう頑張ろう。1年間よろしくな」
俺は急いで立ち上がり、言うべきことを軽くまとめて座る。これなら大丈夫だろ。
って思ったのも束の間だった。
「神奈中のATの1人だよね?」
「欧州で
「キンちゃん様……」
「てかイケメンとか天が二物も三物も与えやがって、死ね」
とか周りがまた騒ぎ始めやがった。
三頭剣は非公式だし誰が地獄の番犬じゃ。嫌いなんだよその名前。どこがイケメンだし。ってか白雪さ〜ん、思考ダダ漏れですよー!
これは周りから拘束されそうだし、昼逃げる必要がありそうだ。なんで休み時間なのに逃げなきゃいかんのか。ってそろそろ
と思っていたら底冷えするような殺気がクラス中を支配した、ほらね?どこいるかわからんのがタチ悪いな。
「静カニナッタワネ。自己紹介続ケテチョウダイ」
チャン・ウー先生、さすが武偵高の先生だな。クラスが一瞬で凍りついた。相変わらずレキはボーっとしていて、白雪はキンジトリップ(そのままの意味だ)してるけど。タイミング良いしここで一応言っとくか。
「あーっ、悪い。先生、一つ付け加えていいですか?」
「明智君ダッタワネ、ドウシタノ?」
「三頭剣ってのは非公式だし、俺は嫌ってるんで。そこんとこ、頼むよ?」そう言って俺は先生ほどではないが、殺気を出して付け加えたのであった。
「自己紹介オワッタワネ、ジャア今日ノHRハ終ワリヨ」
そんな宣言が出た瞬間、クラス内のほぼ全員がこっちをグルリッ!と向いた。とんでもなく面倒くさそうな雰囲気を感じ取った俺は即座に教室を出て逃走を始めたのであった。
「「逃げたぞ、追え!」」という声が聞こえてくるが、俺は犯罪者か。何をしたってんだ…
そう思いつつ、さっきからなんとなく考えていた屋上に誰にも気づかれずに逃げることに成功した俺は意外とキレイなそこでお昼を食べようとした。のだが…
さっきまで入試で使った水分感知で気づいたのだが、裏に誰か人がいる。誰だ…?
のそのそっと様子を見に行くと、相変わらずのボーっとした調子でレキが突っ立っていた。いやいや、意味わからん。
「なぁ、何してんの?」ととりあえず疑問を口にするとレキは答えた。
「風を…」
「風?」
「はい、風の声を聞いていました。」
相変わらずの平坦な口調でさらっとわけわからんことを言ってのけた。
「風って?」
「風は風です。」
えぇ…取り付く島もない…
「レキ、ここで飯食っていい?」
まぁ、とりあえず昼ご飯を食べたいので聞くと「はい」と答えたのでご飯を取り出して食べ始めるとレキは無言でカロリーメイトを取り出し、はむっ。食べ始めた。
「……」
なんかハムスターみたいだな。てかご飯
「どう、美味しい?」
「はい」
作った側としては聞きたい質問をするとレキはペースを乱さず食べながら答えるのであった。
それからずっと言葉はなかったが、静かなところが好きな俺はこの
完全に余談だが、男向けに峰理子と白雪、レキのファンクラブ、女向けに不知火と俺のファンクラブが結成されたらしいがそのことを知るのはまた別の話。
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第8話
筆のノリが良いカンジなんで1日2話投稿できました!
なら1話にまとめろよってね(笑)
あんまり長いのもどうかなって思ってるんで個人的なキリの良さで話の長さを決めてます。
それではどうぞ!
昼ご飯後の午後の時間は基本的に専門によって分かれて訓練を行うのだが、1年の入学式ということで幸か不幸かSランクに判定されたものは武偵高屈指の危険地帯の
「明智、やっぱお前もSランクになってたんだな。んでその隣の子は誰だ?」
「あぁ、まあな。こいつはレキって名前だ。狙撃科らしいぞ。」
紹介するとレキはちょこんとお辞儀をした。
「んで、そこの真面目そうなのは初めましてだな。俺は明智零司、探偵科だ。」こちらから名乗り、自己紹介を促すと男子は答えた。
「A組の一石マサトだ。強襲科と狙撃科、あと
握手を求めてきたのでそれに応じると見ての通りいい鍛え方をした筋肉であることがわかった。
「よく鍛えているな」
「そちらこそ」
見たままの賛辞をおくるとこちらもあげてくれた。うん、お世辞でも嬉しいもんは嬉しいね。
ってそれよりも…確かめたいことがある。
「キンジ君やキンジ君。こっちゃ来い」と2人に聞こえないよう口元を隠してキンジに近づく。
「HSS使ったんだな?」
「事故でなって実戦試験まで解けなかったんだよ、あんまり言うなよ?」
気になっていたことを聞くとキンジは不満そうに返してきた。
こいつは節操なしじゃないし、中学のこともあったから本当に事故なんだろうな。大方白雪とぶつかってなっちまったんだろう。
「分かってる。お前はその力、好きじゃないもんな」
そこまで考え、了承の意を伝えると本当に助かった、という顔で一言。
「ありがとう」と返すのであった。
教務科に4人で入り、マサトが代表して「1年のSランク4人です。」と名乗るとラリったような目の吸っちゃいけないようなものを吸ってる女教師…多分尋問で有名な綴梅子だろう…その人が反応した。
「あぁ〜、今年は4人かぁ。ほんじゃこっち来いよぉ〜」
そう言い言い指し示したのは校長室のあるエレベーターだった。
「綴です。今年のSランク4人を連れてきました」
綴先生の誘導で校長室前に着くと流石に緊張した面持ちで彼女が言うとどこにでもいそうな男の声で返ってきた。
「鍵は開いています。入ってきなさい」
口々に失礼します、と言いつつ入るといたのは本当にどこにでもいそうな男の人だった。
これが緑松校長か…『見える透明人間』の異名は伊達じゃないな…などとおもっていると校長はこれまたどこにでもいる声で語り始めた。
「はい、はい。今日君たち来てもらったのはSランクとしての心構えを教えるこいうことと少しの事務連絡をするためです。まずは入学おめでとう。Sランクというのは誰もがおいそれと取れるランクではありません。定員数も決まっているいわばその道のスペシャリストです。君たちは学生ではありますが、プロと肩を並べることもあるでしょう。その時にSランクの名に恥じない、立派な仕事をしてくれるよう祈っています。頑張りなさい。」
「「「「はい」」」」
「そこで、です。君たちには時折学校からの依頼という形で
「「「「はい」」」」
「うん、いい返事です。それでは私からの話は以上です。綴先生、彼らを出入り口まで送ってあげなさい」
「わかりました。お前らこっちだ。」
綴先生の先導で校長室を出て、俺が思ったことは、(つ、つかれた…)だった。緑松校長に敵対したら瞬殺されるのがはっきりわかってしまう、いやわからされたのだった。
しかし、学校からの任務か…さすがに世界規模まではいかないだろうがそれ相応のことをやらされる雰囲気だったな、怖いね。
教務科入り口で他の3人と別れた後、トボトボと自室に向けて車を走らせながらそう思うのであった。
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第9話
今回からカルテットに入ります!零司君はどんな4人と組むのか?どんな戦いを繰り広げるのか?この辺に注目していただけると嬉しいです。
それではどうぞ!
「
「そう、四対四戦。覚えてない?」
なんだそりゃ。4月中旬の昼下がり、俺は一緒に飯を食っていた不知火に唐突な話を投げかけられていた。ちなみにキンジもいる。
「あぁ、思い出した。4人1組で他の4人1組と戦うやつだったか。それがどうかしたか?」
ちなみにこれは戦闘に出ることの少ない
「そう、そのことなんだけどさ、明智君はもうメンバー決まったかい?もし決まってないんなら僕と遠山君のパーティに入らないかい?」
…ふむ、なるほどな。もうカルテットに向けてメンバー集めをしてるのか、堅実で真面目な不知火らしいな。中学時代組んでたキンジにオールラウンダーの不知火。これなら確かにこの2人なら戦いを合わせやすそうではある。しかし…1つ問題があるだろ、そりゃ。
「仮に組んだとしてもあと1人必要だぞ。どうするんだ?」
そう、まだそれだと3人だからチームの条件を満たしていないのだ。すると不知火はにっこり一言。
「レキさんとか明智君のクラスだし誘いやすそうじゃない?どう、誘える?」
ほぼ俺に投げてきた。意外と適当なのか?
「あいつか。始業式の時見たけど独特だよな。狙撃科らしいっちゃらしいタイプだな。
俺はキンジの方を向くと、相変わらずの女嫌い発言。
まぁ、俺としても反対しない理由がない。敵に回ると絶対半径2051mという広大な範囲は太刀打ちできない。超能力を使えばまだ可能性はあるがそれにしても不利には違いないし、味方ならばこれほど心強いヤツもそういないだろう。
「あーうん、とりあえず後で誘ってみるか。お前らも当然だけど来いよ?顔合わせも兼ねるぞ」
というわけで2人を強い口調で誘い、了承を得たのであった。
「多分ここにいる気がする…」
来たのは始業式の日に俺がレキにご飯を分けた屋上である。なんとなくここにいる気がしたのだ。
「なんで屋上にいるんだよ。普通に飯食い終わったら狙撃科棟にいるんじゃないのか」
「いる可能性があるところで近いところがここだったからここから来たんだ。もし狙撃科棟にいなくてこっちにいたら二度手間だろ?」
「まぁ、お前がそう言うならそうなのかもな」
不思議そうな顔をしていたキンジに説明すると納得した雰囲気。ちなみにこの間不知火は優男スマイルを絶やしていない、すごいな。
「レキ〜いる「なんですか?明智さん」かっておっふ!!!びっくりしたぞ」
いやはや驚いた。いつの間にかこちらに来ていた。
「あぁ、でさ。今度さカルテットあるだろ?もうメンバー決まってる?」と聞くとレキはふりふり。
「いえ、まだきまっていません。」と首を横に振りつつ答えてくれた。
「ならさ、俺たちと一緒に組まないか?」どうだ…?
「はい、私でよろしければ」
レキは鳶色の瞳をこちらに向け答えた。よし、4人確保だ。ホッとした束の間、ピリッ…。少し殺気を感じ振り向くと何もいない。なんだったんだ…?
兎にも角にも4人揃った。あとは不知火に教務科に申請しに行かせればいいだろう。
「つーわけでレキ。今回のメンバーを軽く紹介させてもらうな。キンジ……はもう知ってるな?んじゃ不知火、自己紹介しときな」
不知火にそう促すとこくり。
「そうだね、僕は不知火亮。強襲科だよ、よろしくね」
「レキです。狙撃科です。」
不知火はといつも通りの柔らかな笑み。対するレキは無表情。
なんかすげえシュールだな、この感じ。そうキンジに目配せするとキンジも苦笑しつつ同意するのであった。
不知火にメンバーの決定の申告を任せつつ探偵科棟に行くと、見覚えのあるちっこいのがやってきた。
「あっちだ!今日は来るの遅かったね!!どったの?」
とてて、と近づいてきたのは入学試験の時の相手であった峰理子だ。こいつは峰、と呼ぶことを好まないので仕方なしに理子と呼んでいる。ちなみに「あっち」とは恐らく苗字から取ったのであろう、俺のことである。こいつはどういうわけか人を珍妙なあだ名で呼ぶことが多いらしい。例えばキンジは「キーくん」、不知火は「ぬいぬい」、みたいにな。
「あぁ、カルテットのメンバー集めてたからな。それより理子はなんでこの時間に探偵科の入り口なんかいるんだ?まだ終わる時間じゃないだろ?」
聞くと理子は両手を腰に当ててえっへんポーズ。どういうことさ。
「理子はこれから任務に行くのです!さー、いえっさー!」
「あっそういうことねなら早めに行ってこい。夜遅くに帰ったら明日に響くぞ」
こいつの軽い態度に付き合ってたらそれこそ日が暮れてしまう。なのでサッとあしらおうとしたら理子は不満だったのか頭の横に指を立てて俺を突いてきた。
「ぶーっ!あっちつまんない!もうちょっとなんかないの!?ぷんぷんがおー、だぞ!」ハァ、仕方ない。
「理子。武偵憲章5条、行動に疾くあれ。先手必勝を旨とすべし、だ。行動が遅いとそれが評価に繋がるぞ?」
「それもそだねー。んじゃ行ってきます!急ぐぞぶーん!」
と、理子は謎の飛行機のような格好で飛ぶような格好をした。これなら大丈夫だろう。なら俺のすることは1つ。
「はいよ、行ってらっしゃい。気をつけるんだぞ」
理子を送り出してやること。普段はあんなんでも武偵ランクはAだ。やるときはやるやつなのだあいつは。そんな理子を見ながら俺は今日の訓練の準備を始めるのであった。
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第10話
あんまりここで書くとネタバレになるんじゃないかと思う今日この頃。
ゆっくりしていってね!
ーーーーガーンッ!ズガガーン!
雷雨降りしきる中俺、明智零司は走っていた。絶対に助ける。その思いだけを強く胸に秘め。やがて辿り着いたのはとあるビルの屋上。そこにいたのは1人の妖艶な雰囲気を醸し出す1人の
「やっと見つけたぞ薔薇百合ィ!早く
「日本語名で呼ぶんじゃないわよ。そのまますぎてうっかり切り裂きそう。君は
俺は叫んだが、怪人は変わらぬ調子で、ふざけたことを言い、いつ来たのかわからないヘリコプターに乗って飛んでいく。
このままだと千花が!させるかッ!
「ゼェァッ!!!」
そう叫び俺は水でできた剣でヘリコプターを突き刺し、そのままビルに戻した。
「仕方ないね。ちょっとだけ遊びましょう。壊れちゃ嫌よ?」
本当に仕方ない、といった調子で怪人が再び現れる。幸い今日は雨で
と思った瞬間、
「ふうむ、こんなものか。じゃあ今度こそ行かせてもらうよ」
怪人は堂々と背を向け俺から遠ざかっていく。
「待て…っ、千花ッ!!」
ーーーーズガーンッ!ンバッ!!
残ったのは雷の音と降りしきる雨、そして全身を血だらけになりながら横たわる俺だけであった。
「ーーーーハッ!」
久しぶりに朝から嫌な夢を見たな。俺は未だ震える体を無理やり起こし、シャワーを浴びに行くのであった。
明智千花。俺の一つ違いの妹。風を主に操る超能力を持った少女。彼女は俺が8つの時、怪人ローズリリィと呼ばれる犯罪者に攫われた。ローズリリィというのはヨーロッパを主な活動場所とし、霞のように現れ、子供を攫って霧のように消える奴で攫う対象が男なら薔薇を、女なら百合を残していくことからそう名付けられたらしい。
中3の時に海外に任務に出た理由の一つにこいつの逮捕があったのだが…未だ攫われた子供達の居場所も、ローズリリィ自身の居場所もわかっていない。攫った子供の生き血を啜って生きているだの、犯罪者に育て上げているのだのという根も葉もない噂が飛び交うくらい欧州では不気味がられていた。
俺はこいつを……!!!
昼ご飯の時間になっても未だにその夢のことを考えていた。
「…智君?明智君!どうしたの??」
気付いたら不知火が俺の前で手をパタパタしていた。
「悪ぃ、どうした?」
「いや四対四戦の種目が『
謝りつつそう聞くと不知火は困り顔でそう答えた。なるほどな、見ると心配そうな顔をしたキンジ、ボーッとしつつもこちらに視線を向けているレキの姿もあった。
「あーうん、毒の一撃ね。守りのフラッグに攻撃フラッグを当てたら勝ちの奴でしょ?ならレキが守備で全体の指揮と状況把握の役割を俺、強襲組が攻撃をする。これで基本的には勝てるんじゃない?」
と言いつつマバタキ信号で『トウチョウ フタリ オレノ ジシツデ サクセンカイギ ツヅキ』と送ると3人は頷きつつ「それでいいか」みたいなことをつぶやいてその場を退散するのであった。
そのまま俺の自室で作戦会議の続きを始めるのであった。
「基本的なところはさっきのままだが、守りのフラッグは不知火。お前が持て。ブラフを使うぞ」
「遠山君の方が良くない?Sランクだよ?」
説明を挟まず言うと不知火はもっともなことを聞いてきた。「ちょっと待て不知火。俺には荷が重いぞ」
当然キンジは突っ込んできたけど今は無視無視。でも不知火の言うことはもっともなんだよな。
キンジはHSSを使えば余裕でSランクに届くが、普段の能力だと贔屓目に見てもB行くか否かくらいなのだ。だがそれを伝える訳にもいかないのでこう説明することにした。
「不知火。失礼な話になるかもしれんが俺とレキとキンジはSランク、お前はAランクと評価されている。穴があるとすればお前だ、と敵は考えるだろう。逆に言えば守りのフラッグをお前に持たせるわけがないとそう考えるだろう。だけどお前は一芸特化型のAじゃなく、そつなくこなすバランス型のAランクだ。下手なSランクなら対等に戦えると俺は思ってる。だからこそ、お前に任せるべきだと判断したんだ。やってくれると嬉しいんだが、どうだ?」
一応聞くスタンスで言ったが、これなら人の良い不知火だ、断ることは無いだろう。
案の定不知火は「あはは、そんなこと言われちゃうと荷が重いな…」などと言っているが受け入れる雰囲気。よかった、キンジのことを伝えずにうまく収まった。そんな目をしながらキンジを見るとなぜかこの策士め、といった調子の目を返された。なぜだ?
それから作戦会議は夜遅くまで続き、晩御飯は4人で食べることになり食事を4人分作らされる破目になった。
はい、ということで今回は零司君の宿敵(予定)の怪人ローズリリィさん、妹の千花ちゃんをチラ見せさせていただきました。
一体千花ちゃんは何・ウーにいるのか(棒)
それではここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
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第11話
今回は主人公の微(?)強化&装備の微調整で四対四戦の最終準備みたいな感じです
それではどうぞ!
その
「キ、キンちゃん!もしよかったら…私のお弁当、食べてくださいっ!」
おお、こりゃまた大胆に来たな。しっかし白雪も可哀想だよな〜、思いっきりアピールしてんのにヒスりたくないキンジは人の好意、それも愛情が絡む問題には鈍感すぎて気づいてないってところがなぁ…。白雪の相談には乗ってやるけどあくまでこれは個人間の問題だし、俺が口出すのはナンセンスってやつだ。
「お、おい人前でキンちゃんはやめろって言っただろ。ありがたく食うから早く行った行った!」
ほーらいつも通り、キンジさんよ〜そんなんばっかしてると恨みを買うぜ?白雪はそういうタイプじゃないから良いけどな。ちょっと排他的、簡単に言うとヤンデレの気があるような気がするけれど。
「あ、うん。よかったら感想聞かせてね〜!!」
ザ・大和撫子白雪。やっぱり自分を前に出さないなぁ。そんなんだとキンジは10年経っても気づかない気がするぞ。
などと思ってたら俺たちの前、てかキンジの前に大男が立った。おっ、早速恨み買ってるぞキンジよ。
「おい、遠山ってのはお前だよな?」
大男は威圧的な風でキンジに迫る。おお、ちゃんと体格を生かしてるな、どこの所属か知らんけどそれなりの心得はあるっぽい。
「お前は誰だ?それで何の用だよ?」
キンジは困惑半分、迷惑半分といった感じで聞いている。ま、当然だよな。
「俺は車輌科の武藤剛気だ!てか同じクラスなのに知らないのはおかしいだろ!…それは置いといて、白雪さんに話しかけられてるのになんだよその態度は!?おかしいだろ!」
ほーらやっぱり白雪絡み。てかこいつツッコミ気質あるな。んで性格はガサツだな。顔はそこそこ良いのにモテない典型みたいなタイプじゃないかな。
俺はとりあえず困ったよう顔をして微笑んでる
「不知火、見るからにガサツそうなあいつはどいう感じなんだ?」
「うーん、車輌科のAランクで結構期待されてる人の1人かな。性格は明智君の言った通りガサツなんだけど運転に限ればすごく丁寧だよ。持ってる銃はコルト・パイソンだね。」
そう聞くとキンジと違って不知火は人の自己紹介をマジメに聞いていたらしく、すらすらと特徴をあげてくる。てかコルト・パイソン…??ああ、なるほど。整備が楽だからか。そしておそらくイイキャラ枠。
「なるほどね、ありがとさん」
とりあえずの謝辞をのべておき、不知火と事の成り行きを眺めることにする。
「決闘だ!ボコボコにしてやる!」
するとどういう因果か武藤がめっちゃ息巻いていた。キンジは意味分からんって顔してるけど。てか今の時期に
「ちょいっと待ちな。今は決闘はさせないよ。四対四戦前に俺の仲間が怪我で戦えないとなると少々面倒だからな」
「なんだよ、お前も遠山の仲間をするのか?」
口を挟むと気に入らなかったのか武藤がこっちも睨んでくる。なぁ〜んでこんなに武偵高の奴って血の気が多いのかね…仕方ないな。
「いや、こいつの味方というより……うーん、確かにこいつとは中学からの付き合いだからどうしてもお前よりはキンジの方に贔屓目をするのは仕方ないよな?それはともかく俺は
そう言いつつ横のキンジに中学の時使ってた
「仕方ないな、わかったよ。それで、どの方式だ?」
「ランバージャックだこの野郎!」
うっわー、武藤君決闘の中でも特に粗野なの叫びやがった。
ランバージャックとは、決闘する2人を人の壁で囲み、倒れるか
俺は粗暴すぎるのであまり好きじゃない。
「はぁ…」
ガックリうなだれるキンジの肩をポンポン、と叩く俺であった。ご愁傷様、キンジ。
ところ変わってここは狙撃科。俺は狙撃科の南郷先生に教えを請いに来ていた。ビシッ、ビシッ。とりあえず二発撃って先生にどこか直したほうが良いところを聞く。
「狙いをつけてから撃つまでが早すぎる。もっと感覚を開けて、余裕を持って撃て。」
要点ピシャリと抑えた答えだな、そりゃ。ちなみに隣でレキが撃っているのだがすごいな、目測で2キロはあるぞ。それをビシビシ当てている。
「ーー私は一発の銃弾、銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない。ただ、目的に向かって飛ぶだけ」
撃つ前に必ず言葉を呟いて撃っているのだが、あれが俗にいうルーティンというやつか。そこまで考えていると南郷先生に頭を叩かれた。いってぇ…
「他に意識を向けられるほどお前はうまくない」
「すいません。レキさんの狙撃を見て盗めるところがないか、探してました。」
言い訳する理由もないので素直にいうと南郷先生は珍しく若干思案した顔になって一言。
「あいつは天才の類だ。お前も天賦の才能は持っているが方向性が違う。普通に撃つ事だけを考えろ」
俺は天才ではないんだがなぁ…
でもルーティンということなら考えは、ある。それを試してみるか。
「南郷先生、少し試したいことがあるので的を1800mまで伸ばしていただけますか?」
そう聞くと驚いた顔をしながらもしてくれた。
…あれが1800mか。思ったより遠いが裸眼で見えないほどじゃない。ならいけるか。
そう判断した俺が想像するのは、自分の超能力である水を的まで伸ばしてレールのようにしたもの。そのレール通りに弾が進むのなら外れない。
「
俺が引き金を引くと……
ビシッ。予定通り弾は的の中心を捉えた。これなら出来るな。
そう思い2発、3発と撃つとビシッ。ビシッ。両方とも中心を捉えた。これ楽しいな!
俺が狙撃を終えると南郷先生は寡黙で表情のそこまで変わらない顔をわずかながら驚愕に歪ませていた。…おっとそろそろ時間だな。
「南郷先生、忙しい中わざわざお付き合いいただき、ありがとうございました。おかげでキッカケが掴めました。」
「あぁ……また来ても良いぞ」
そう礼を述べると南郷先生は俺にとってはこれ以上ない賛辞を送ってくれたのであった。
「ふう…時間ギリギリ間に合った!」
狙撃科棟を後にした俺が次に来たのは
「おーい、平賀さんいるかーー??」
俺が呼ぶと、ガサゴソ、ガサゴソ。そう音を立てながら装備科の期待のホープ平賀さんが「あやややや!」などと言いながら現れた。平賀さんはなんでも平賀源内の子孫らしい。んで発明の天才だ。法外な値段ふっかけられるのと違法改造も受けちゃうからAランクだが、実力はSランクのそれだ。
「あやや!明智君なのだ!注文の品は出来てるのだ!確かこっちにあるはず…あややや、ご注文の品なのだ!」
そう言って取り出したのは青く塗られた.44オートマグ。親父の形見だ。引退させようか考えていた時に平賀さんの話を聞いて、ものは試しで頼んでみたのだ。
「まず装弾数をダブルカラムにすることで解消してみたのだ!14発入るのだ!それでオートマグの排出機構をちょっと触って
そう言いつつ平賀さんは整備の仕方を説明する紙をつけて渡してくれた。
ダブルカラムになったのでちょっと太くなったがしっかりといつものように手に馴染んでくれた。すごいな、平賀さん!
「おお、良いね!ありがとう平賀さん、これでまだこいつを活躍させられるよ!んで代金だが、もう口座に振り込んであるから確認しておいてくれよな」
「わかったのだ!今後も依頼があったら受けるのだ、大口顧客さんなのだー!」
平賀さんはにぱー、という笑顔で答えてくれたのだった。
中学時代から色々な依頼を受けているし、実家もそこそこ
四対四戦は明日だ。
結構字数多くなったな…
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番外編〜主人公から見た仲間たち 仲間から見た主人公〜
今回は番外編です!
んで番外編ということでここだけ(多分)台本形式にしまーす。
ゆるーく見ていただければ!
乃「やぁ零司君!武偵高生活はどうだい?」
零「どうも何も…まだ始まったばっかりでしょうに…まぁ、単位に気を使わなくていいから好きなようにやらせてもらってるよ」
乃「え?どういうことだい?」
零「…白々しいなぁ、欧州での活躍を認められて高校卒業分の単位はもう揃ってるって設定したのアンタだろ?」
乃「あっ、その設定言うの忘れてたね!テヘペロあと設定とか言うのメタいからやめて!」
零「作者が出張ってるのにメタいも何もないでしょ〜」
乃「…ゔぇっへん!!んじゃ本題に移るよ?」
零「話逸らしたな」
乃「はいはい、そこまで。今回は零司君はキンジたちをどういう目で見てるか教えて欲しいんだよ!んじゃそのキンジから!」
零「キンジかぁ…中学からの付き合いだけどいいやつだな、困ってるやつを見捨てられないから悪く言うならお人好し?あとは…そうだな中3の時は助けてやれなくてすまなかったと思ってるよ」
乃「なるほどなるほど…んじゃ不知火とレキ、白雪とあと理子あたりまで一気にどうぞ!」
零「不知火はキンジとは違ったタイプのお人好しかな、優男スマイル崩さないのはすごいぜ。んでレキは…評価に困るな、自分の主張を前に出さないっていうより自分の主張がほぼないって感じがするな。あと絶対半径2051mっての聞いた時にはビビったな。跳弾狙撃も可能とかバケモンだろ…。んで白雪はレキとは違って自分の主張、特にキンジ関係で持ってるのにほぼ出さないからもっと出していいんじゃないかな?ホントにキンジの奴が羨ましいぜ。理子は…バカっぽいけど見るところを見てる感じがする。あと…根拠はないんだがなんか隠してる気がするな。」
乃「なるほどなるほど…つまり脈あり…と」
零「なんの話だ?」
乃「こちらの話だよ。あと他に言っときたいこととかこの人すげー!とかある?」
零「雑だな…まぁその話なら一番は平賀さんかな?.44オートマグを滅茶苦茶使いやすく改造してくれたんだよな。すごい感謝してるぜ。あとは…特にないかな…イヤあるな、ローズリリィの奴は俺が必ずこr」
乃「9条破りは流石に駄目だぞ?」
零「お、おう…でも奴は許さん、これは確定事項だ。」
乃「これは怖いな。はい、ということでキンジと不知火、レキと白雪と理子、あとは欧州の誰かさん2人からお前の評価について聞いてみたら返ってきたからそれ読むぞー」
零「え、なにそれ聞いてないんだけど?」
乃「言ってないしバラさないように頼んだからな。んじゃキンジから。『高校も一緒で正直安心してる。1人で背負い込むクセ、直しとけよ?』…へぇー頼られてんじゃん零司君やる〜!!」
零「…チッ」
乃「怖いよ!?では続いて不知火だな。『四対四戦、頼りにしてるよ。これからもよろしく』おお、こりゃカリスマの一種かな?続いてレキ行こうか!『この間の狙撃、見てましたがいきなり絶対半径が300m以上伸びたのは驚きました。晩ご飯、ありがとうございました』へぇ〜〜??やるじゃん?」
零「あり合わせだったんだが、美味しかったならよかったぜ。あと絶対半径はお前にだけは言われたくない」
乃「まぁ、言いたいことはわかるけどな。んじゃ白雪。『また、キンちゃんの相談に乗ってください!』…相談係としてしか見られてないのな、どんまいwはいじゃあ理子な。『あっちはね…りこりんのノリにあんまりノッてくれないんだけど、暇な時はノッてくれるところが良いところかな〜!顔も良いしモテそうなのに浮いた話がないのはなんでかな?かなかな? りこりんより!』だってさ、モテそうってところで縁がなさそうな気がすんの俺だけ?」
零「白雪はまあ、キンジ一筋だし仕方ない。んで理子はゴシップネタ好きだよな〜彼女なんかできるわけないだろうに」
乃「(ファンクラブ出来てんの知らんな、こいつ…)んじゃ、欧州組な。2人とも匿名希望だそうだ。1人目。『零司はすごく器用で頭が良いからパートナー候補の1人だったんだけど、勘がこの人じゃないって言ったのよね〜。なんでかしら?あと勝手に人のエモノを獲るんじゃないわよ?今度やったら風穴開けるから!』お前何やったんだよ向こうで?続いて2人目。『アケチはちょっと評価の難しい人だね…鋭すぎるかと思ったら自分に無理をすることも多いバカなところもある。それにしても装備を全て当てられた時は驚いたよ。またいつ会えるかは分からないけれど味方である事を祈るよ』えぇ…何この含みのありまくりの言い方」
零「うん、誰だか大体わかった。なんにせよ風穴は御免被りたいな」
乃「自分から開けられたい奴ってそれはそれでヤバいと思うよ…おっとそろそろ出ないとこの世界に閉じ込められちまうな、帰るぜ」
零「時間制限あったのかよ、まぁ達者でな?」
乃「んじゃ最後に」
零・乃「今後ともこの『蕾姫と水君』をよろしくお願いします!!」
???「……ふふっ、明智の子孫はあと8ヶ月位で熟れる頃かしら?楽しみだわ…」
はい、ということで現時点での周りの人からの評価とかのまとめ?的なサムシングになりました。
欧州の2人は一体誰なのか(棒)
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第12話
早いもので7月がもう終わっちゃいますね…
原作前からやってるこの小説、いつになったらキーくんはチャリジャックに遭うのか…!
???「オイ待て!」
やっべ、ということで本編どうぞ!
「んじゃぁーこれから明智班と
などと気の抜けた声で説明を行っているのは相変わらず非合法そうなものを口に咥えている綴先生である。
「んじゃ、なんか知らんけどチームリーダーになってた明智だ。よろしく頼む」
「フンっSランクかなんだか知らんが調子にのるなよ!首洗って待っておけや!」
握手をしようとすると相手チームリーダー、弱市はすごい剣幕でまくしたててきた。
かっちーん。なんかすごく頭にきた。とりあえず勝利を確実にもぎ取るか。
相手チームの弱市班の構成は強襲科1人、諜報科1人、探偵科2人でランクはそれぞれBが1人、Cが3人だ。弱市が唯一のBランクだからそれで選ばれた形だな、おそらく。だが弱市が強襲科のBランクならキンジは強襲科の(HSS込みで)Sランク、不知火がAランク。さほど問題ではないはずだ。それよりも警戒すべきなのは諜報科Cランクの
キンジと不知火で相手のフラッグを潰しにかかる、これがメインプランだがこれができなかった時は俺も前にでて制圧にかかる。シンプルだが、戦力に差がある時はこれほど簡単で精度が高い戦術はない。それに絶対半径2051mのレキ、それほどではないものの1800mの俺が学園島を半分ずつ担って鷹の目及び狙撃をする。
レキは近接がほぼできないそうだがもしそんな状況なら不知火は捕縛され、守るべきフラッグは攻撃されているに違いないし俺は近接の方が得意だ。あとは作戦を作る期間が短かったため、作戦を作るよりは現場の判断に任せたほうが信頼性は高いと判断した。
さぁ、相手はどう出るかな?
「キンジ、不知火聞こえるか?そろそろ市街地だろ、人の目線をよく見ておけ。お前らの顔をジッと見てる奴がいたら警戒して進め。後方支援は俺とレキに任せとけ。俺はともかくレキは外さんだろ?」
「……」
レキに聞いたがいつものようにぼーっと空を見てる。大丈夫なのかな、この人。
『あはは…まぁ明智くんまで後方支援に回らなくてよかったんじゃないかなとは思うけど明智くん達なら僕も安心して背中を任せられるよ』
『今の1年ならお前らが最強だろ、頼むぜ相棒』
不知火、いいタイミングでいいこと言ってくれるじゃねぇか!キンジもそれに続いて珍しく機嫌がよさげだ。
「そう言ってくれると助かるな。…さて、気づいてるかもしれんが、お前らの反対車線にいる奴は多分敵だ。遠慮なくやれ」
そう言うや否や、車をブラインドにしてその男が襲ってきた。
それに対しキンジと不知火は焦ることなく武器のナイフを抑え、捕縛用のワイヤーで手と足を縛り上げた。
「な、なんでわかった!?」
敵が情けない声を出しているが無視無視。
「どうだ?怪しいところはあるか?」
「…そうですね、探偵科の1人がこちらに向かってきています。」
「了解、そっちはレキに任せるぜ?」
俺の反対側を監視しているレキに尋ねるとレキは首を縦に振り何かを気にしている様子。ドラグノフの準備をしながら返してきた。丸投げするとレキはこくり、頷いて狙撃態勢に入った。
「私は一発の銃弾」
「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない。」
「ただ、目的に向かって飛ぶだけ」
その言葉と共に射出された弾は導かれるように相手にあたり、1発で戦闘不能に持ち込んだ。やっぱすげーな、こいつ。てか俺もそろそろ仕事しますか。青く塗られたドイツ製のG43を構えつつ、不知火達の完全に死角に入り込んでいた隠葉を狙う。
こいつ、やっぱり実力隠してたな。不知火達が気づかないって相当だぞ?ここで俺が戦闘不能に持ち込まないと負けまで見えるぞ。
「やっぱり諜報科の奴は癖があるなぁ、不知火よ。ここは安心しておけ…よっと!」
俺のG43から放たれた弾は隠葉の脛にあたり、戦闘不能に持ち込めた。
『えっ、明智達今狙撃したよな?誰を狙ったんだ?』
「お前らの後ろ32mくらいで足をかかえてうずくまってる奴、敵で専攻は諜報科だぜ。抑える時も注意してな。俺はレキが戦闘不能にした奴を縛ってくる。あとはどこいるかわからんが残ったのはリーダー弱市だけだ。レキ、撃った奴が万一どっかに移動しそうになったらサポートよろしくな」
本気で驚いてるキンジ達に指示を加え、自分もロープを準備しつつレキに頼むとレキはその端正な顔でこくり。頷いたのであった。
結局、リーダー弱市はレキのサポート付きの不知火とキンジに発見され、あっけなく捕縛されたらしい。
そして『毒の一撃』俺が敵を縛りに行って帰る途中で終わってしまった。
「とりあえず乾杯しますか!」
「「「乾杯!」」」
「……」
レキも無言ながら合わせてくれて祝勝会は始まった。ちなみに会場はファミレス『ロキシィ』である。
そこで俺たち(レキはぼーっとしてるが)は好きなものを食べて勝てた喜びとレポートを書かずに済んだことを安堵するのであった。
「んでさ、キンジは今度のランバージャック
思い出した俺は聞くとキンジは?という顔してからあぁ、とげんなりした顔をした。忘れてたな、こいつ…
「あの後顔合わせる機会あったから話したけど幇助者は互いになしでやることにした。あいつ曰く一対一でケリをつけてやる!らしい」
なるほどな、俺が手を出すのを恐れたか。それとも正々堂々ってことか?
「まぁ、リング役はある程度よんどくから頑張れや。ご愁傷様」
「助かる、迷惑かけてすまんな」
自分で蒔いた種とはいえ、さすがに不憫なので労うとキンジは本当に面倒くさそうな顔をしながら返すのであった。
祝勝会は8時まで続いて俺たちのこれからを互いに祈願し合ってそれぞれ帰途についた。
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第13話
今回で第一章は幕引きです!…幕引きの回が主人公空気ってどうなんだろうか
それではどうぞ!
四対四戦を無事終わった2日後、俺はいつものように早朝トレーニングを終えて食事をしていた。今日の朝食はパンとマーガリン、生ハムという洋風スタイルである。その時携帯から松方弘樹の『華のうちに』が流れた。これはキンジのご先祖様の時代劇の音楽からとったものでこれが流れるということは相手はキンジで間違いない。にしても珍しいな、こんな朝から。
「はいよ、どうしたキンジよ?こんな朝から」
『あぁ、明智はやっぱり朝早いよな。今日決闘の日だよな?どこでやるとか聞いてないか?』
……あぁ、そんなことあったな。つーか本人同士で話せし俺が知ってるわけないだろ。
そう伝えるとキンジは、
『…だよな、後で直接聞くよ。んで頼みなんだが、壁役を何人か連れてきてくれないか?俺はあんまり人望ないし』
なるほど、そっちがメインか。なら少し揺さぶりをかけるか。
「俺がいつから決闘を見に行くと勘違いしていた?」
『なん…だと…』
おっ、なんか知らんが乗ってきたな。
「まぁ行くんだけどな」
『オイ』うん、キンジはやはり面白いなぁ!
「まぁまぁ、んで何人か連れてくりゃいいんでしょ?それくらいならやるよ」
『あぁ、頼む。恩にきるぜ、明智』
「おう、プリンおごれよ」
『…報酬とんのかよ、わかったよ』
報酬を提示すると、キンジは仕方なさそうに返すのであった。
「ふぁ〜〜、授業簡単すぎるだろ。さすがに眠くもなるぞ」
四限目の教師が教える気のない世界史を終え、俺は弁当を取り出しながらそうごちると斜め前の席の強襲科の小林が振り返った。
「俺全然わかんなかったんだが、やっぱり明智ってすげぇんだな!」
えっ…いやさすがに十字軍とかそこら辺のくだりは知ってるだろ…
あっ、そんなこと言ってる場合じゃなかったな。
「時に小林よ、放課後暇か?どうやらキンジと
よし、強襲科で一目置かれてるキンジと車輌科の期待のホープ(らしい)武藤が戦うとなれば噂好きの武偵高だ、あっという間に伝わるだろうな。
「マジか!これはみんなに伝えなくては!!」
案の定小林はそう言って飛び出したし。これで30人くらいは集まるんじゃないかな?
時間は一気に進んで放課後、あまりの光景にさすがに絶句した。と言うのも面白がって来た生徒の人数、延べ50人。中には上級生も混じってやがる…!!そしてここにいなくても狙撃科の生徒だろうか、スコープ越しに見てる気配がある。
やりすぎたかな?当事者のキンジと武藤もすごい困惑してるな…
「おーい、キンジ!やりすぎちゃった!テヘッ」
「テヘッじゃねぇよ、上級生もいるじゃねぇか!」
そうわざとらしく謝るとキンジはツッコミを返してきた。うん、至極まっとうな評価だね。
「ま、思う存分やってくれ。一応ほぼ全員普通に返してくれるはずだから」
そう言うとキンジは深ぁーいため息をつくのであった。
そのあと2時間くらいの間ずっと2人は戦っていたが、ただの取っ組み合いになり始めた頃から周りは白けはじめ、結局残っていたのは不知火とか理子とかと言ったメンツだけだったらしい。俺?飯の準備しにさっさと帰ってベランダで見てたぜ。後でことの顛末をキンジに聞くと武藤とマブダチになった、という旨の返答。いや、なんでそうなるんだよ!てかマブダチって結構古い言葉だよな…
そんなこんなで4月はあっという間に過ぎて5月、アドシアードが近づいてきた。まさか、あんなことになるなんて俺は思いもしなかったんだけどな。
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第2章〜依頼と依頼〜
第14話
今回からアドシアード編です!まぁそんなに話数を割く予定はないですが…
なんにせよ、楽しんでいただければ幸いです!それではどうぞ!
5月にはアドシアードがある。アドシアードとは世界中の武偵高の一流の生徒が集まり、拳銃の腕や狙撃技術を競ういわば高校生武偵のオリンピックのようなものである。競技でメダルを取ろうものならその後の武偵生活は安泰とまで言われるが、そもそも出場できるのはほんの一握りでしかも精鋭揃い。メダルを取るラインに立つだけでも大変なのだ。
「にしても1年は雑用だろ?嫌になるぜ全く」
この前の決闘から一緒に飯を食うようになった武藤が愚痴る。対していつもの優男スマイルを絶やさない不知火はなぜか俺の方を見る。なんだ?
「なんだよ不知火、言いたいことあるなら言ってくれよ?」
「まぁね、明智君だったら選ばれるかもしれないって思ってただけだよ」
とりあえず聞くと不知火はそんなありえないであろうことを言ってくる。
「バカ言うな、そんなわk『教務科から生徒の呼び出しです。探偵科一年、明智零司君。狙撃科一年レキさん。繰り返します。探偵科一年明智零司君。狙撃科一年レキさん。至急
冗談じゃねぇ!これは何かの間違いだ!そういう目でキンジ、不知火、武藤を見やると全員気分が悪くなる位のきもちの良いスマイルで一言。
「「「行ってらっしゃい、明智(君)」」」
「お前ら後で覚えとけよッ!!」
10分後俺と途中で合流したレキは入学式の時と同じ教務科前に立っていた。
「んじゃまぁ、仕方ない。行きますか」
「……」
レキは相変わらずのぽけーっとした顔。ブレないな、お前。
「失礼します、探偵科一年明智と「狙撃科一年レキです」校内放送で呼ばれたので来ました。」
そう言うとくるり。探偵科の主任で俺の入学試験の時の試験官、高天原ゆとり先生が振り向き一言。
「あっ、いらっしゃい」
この人は基本的に温和で武偵高の良心などと言われているがその実、傭兵出身という噂のある人物である。
「えっとね、明智君とレキさんに来てもらったのは今度のアドシアードの代表をして欲しいからなの。明智君はガンシューティングでレキさんはスナイピングなんだけど、受けてくれないかな?もちろん、勝っても負けても単位は弾みます…でも明智君は単位は卒業分まで揃ってましたね。あとは出場というだけで賞金も出るし、優勝したらさらに貰えますね。で…どうかしら?受けてくれないかな?」
…なるほどね。ガンシューティングもスナイピングも整備不良を除けば自分の身の危険はないし雑用も免れるのか…?
「えっと先生、2点ほど質問がありますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
ある程度聞かれることは考えていたのだろう、高天原先生はその温和そうな笑顔でそう答えた。
「まず一点。もし俺たちがこれを受けた場合は他の仕事、つまりぶっちゃけ言うと雑用ですね。それはどうなりますか?」
まずはこれだ。高天原先生はニコリ。
「それは大丈夫、1人や2人いなくてもそんなに変わらないし」
そう答えた。つまり雑用は免除、あるいはそれに準じた対応になるのだろう。というかそんなザルで良いのか東京武偵高よ。
「承知しました。それでは2つ目です。なぜ俺たちなのですか?スナイピングの方は分かりませんが、少なくとも俺が出場を打診されているガンシューティングはキン…遠山君のお兄さん、金一さんに出場してもらった方が良いのでは?」
そう、キンジには年の2つ離れた兄貴がいる。名前は金一さん。目の覚めるようなイケメンでジ○ニー○事務所にいても全く違和感のない程の人でヒスったキンジをもってしても「勝てない、俺の憧れだ。」と言わしめる男だ。
その事を聞くと高天原先生は一瞬眉を潜め、次に残念そうな顔をして答えた。
「…明智君は遠山君のお兄さんを知っていたんですね。今金一さんは海外に依頼に出ていてアドシアードまでには帰ってこれないそうなのです。明智君には言い方は悪いけどその代わりの出場ということになります。」
…まぁ、あの人ほどになると海外を飛び回るくらい忙しくなるのは容易に想像がつく。仕方ないか。
「わかりました。俺はその依頼、正直荷が重いですがお受けします。レキはどうなんだ?」
「承知しました。受けます。」
それだけいうとまたレキはぽけーっとひている。よく教務科でそんな余裕な態度取れるな…
2人の答えに高天原先生はホッとしたようだった。
「ありがとうございます。それでは本番までしっかり体調を整え練習をしておいて下さい。期待してますよ」
「はい。それでは失礼します。」
そしてそのまま俺はレキを引き連れ武偵高3大危険地帯、教務科を抜けたのであった。
ホント、どーすんだよこれ。
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第15話
そんな中総合UAが5000を超えちゃいました!嬉しいと同時に自分の力不足も否めない今日この頃…
さて、どうしたものかなぁ…
それではどうぞ!
噂というのは怖いもので、高天原先生に代表入りを(半強制的に)告げられた次の日にはほぼ全校に1年で2人選出されたということが伝えられた。上級生を圧倒した、とか10分で壊滅させた、とかどっから出てきたのかわからない尾ひれ付きで。全く、話を盛ったやつは誰だってんだ?鬱陶しいったらありゃしない。
その噂を処理したり、本当に代表になる実力があるのかと疑ってきた上級生を適当にいなしたりしているとアッと言う間に昼休み。つまりまとまった休み時間である。
「「「明智ィッ(様ぁ)!!」」」
はい、案の定追われてます。昼ご飯も食べてないのに元気なこって。てか一部の様付きで呼んでるやつ、誰だよマジで意味わかんねーよ!!あーもうなんなんだよ!
当然だがほとんどの武偵高の生徒はいつ犯罪者とあって戦闘になっても良いように体を鍛え、武装をしている。要ははすぐにへばる人々ではないのだ。
あーもう、ほんっとになんなんだろうな、こいつら。一応この危機(?)を切り抜ける策は、ある。まだ構想段階で止まってるから使いたくは無かったがこれがうまくいけば確実にこいつらを撒ける。つーか入学式の時も思ったがなんでなんの犯罪も犯してない俺が逃げ回らなきゃいけないんだよ!!
そう思いつつ仕方なくイメージするのは自分の容姿。1発勝負だから細心の注意を払わなければ…!これだ!準備が完了した俺は廊下の角で追っ手の視線を一度振り切り、水の超能力を使い自分にほぼそっくりな人形を作り出す。そしてそのまま人形とは別の方向に走り去る。人形は3回角を曲がると蒸発するよう仕掛けた。これで俺を見失うという寸法だが…さぁどうだ?
「あっちだ!追え!」
「「うおおお!!!」」
そう言いつつ暴徒どもは無事に水人形の方へ。よかった…なんとか撒けた。さて、これからどこで昼を食べようか?食堂とか教室に行くのは自殺行為だし…となると入学式の時に食った屋上がやっぱり安心かな?
はいついに来ました屋上。入学式から何度か来てるけど昼寝するのに最高だし、誰も来ないから静かだしビバ静寂って感じだ。
「さぁーってと、やっと飯が食えるぜ」
そう言って弁当箱を開けると、奥の方からなぜかレキがチラッとこちらを見てまたいつものぽけーっとした顔に戻った。てかいたのか。まぁこいつは何も基本的に言ってこないから楽だが。
「おいレキさんや、飯食ったか?食ってないなら一緒に食うか?」
こいつもアドシアードの選手に選出されてるしな。
「はい」
そう言ってレキはのそのそとこちらに来てカロリーメイトを食べ始めた。この前もそんなん食ってたな、お前。レーションに近くて栄養採れるからか?
でもまぁなんかかわいそうな気がするし、また少し分けるか。
「なぁ、少しなら分けるぞ?カロリーメイトばっかだと飽きるっしょ?」
「いつもこれなので」
レキはそう答えるとカロリーメイトをぱくり。なんの感傷もなく口に入れた。
「そうかい、じゃあいらん「ですが」k…おうなんだい?」
いらないのかなと思って確認しようとしていたらレキの否定の声。珍しい。
「零司さんの作るご飯は好きなのでくれるのであればください」
あぁ、四対四戦の時にも飯食わせてたな。それで気に入ってくれたなら何よりだ。
「…素直に言ってくれりゃあサッとあげるのに。ほれ、どうぞ。アレルギーとかなかったよな?」
今日のお昼ご飯はエビピラフだ。一応エビ類のアレルギーとか持たれていると困るので確認を取るとレキは首を縦にふった。
「はい、アレルギーは持っていません。」
そう言って予備用のスプーンを取って食べ始めた。
にしても…やっぱり綺麗だよな、この子。精巧なお人形さんみたいだ。ご飯食ってる時とか小動物のそれだし。
なんて考えてたら「零司さん」呼びかけられた。
てかいつから零司さん呼びになったんだろうな?
「おう、どした?」
俺がそう答えると、珍しく一瞬逡巡した後にこう告げた。
「なぜ、ガンシューティング代表を受けたんですか?あなたには受けないという選択肢もあった。受けなければ今みたいに学校中で追われることもなかった。それなのになぜ受けたんですか?」
本当に珍しいことがあるもんだ。他人に関心がないかと思ってたらこんなことを言うなんて。まぁ、俺も一応理由は、ある。
「俺さ、もう7年くらい前なのかな。妹を犯罪者に攫われてさ。知ってるか、怪人ローズリリィ。あいつにさ。その時何にも出来なかったんだ。妹を守りきれず、それどころか自分も死の淵に立たされたんだよね。妹の生死も不明だしローズリリィの奴もどこにいるかわからないと来たもんだ。ならさ、俺が、残された俺が出来ることっていうのは多分俺自身の力不足を少しでも解消し怪人ローズリリィを捕まえる。妹が生きているなら場所を聞き出して救い出す。そのための階段なら何段登っても良いんだ。自分の命に代えても奴を終わらせて妹、千花を助けられるように頑張る。ガンシューティングなんて言い方をするけど要は自分の拳銃をどのくらい扱えるかって事に焦点はある。ならその階段を乗り越えないとローズリリィには遠く及ばないんじゃないかなって思って…何言ってんのかわかんなくなってきたけど、要は自分に必要だと判断したからやる。これに尽きるな。」
いつの間にか手を固く結び声を震わせていた。ローズリリィだけは絶対に許さない。滅ぼす。これが俺の生きる理由で、言い方を変えるなら宿業といっても差し支えないものなのだ。
「ごめんな、レキ。変な話しちまって。忘れてくれ、飯の時にする話じゃなかった」
「忘れませんよ。風もあなたの言ってる事に嘘はないと言っています。」
相変わらずの風発言に忘れません宣言か…
だがなんでだろうな?こういう時の沈黙の空気って重いもんだろ?でもさ、その言葉とその後の沈黙は俺は嫌いじゃなかった。
〜〜レキSide〜〜
明智零司さん。この人は不思議だ。ロボットレキ、と呼ばれる私にいつも普通に話しかけてきたり食事を分けてくれたりする。食事ならカロリーメイトで栄養は採れているし何の不満もない。だけどこの人と話してる時は何か温かい気がするしこの人と食べる食事は何かが違う。
何が違うのかはわからないけど何かが違う。
一体どういうことなのだろう。
風。私の中にいつもいる風。だけどその風はこのことについて何も答えない。どういうことなのだろう。
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第16話
突然ですが、エアコンの使いすぎには注意しましょう!(喉やった人約1名)
原作開始までどんだけかかるんでしょうね?書いてる本人も分かんないです…
そして今回めちゃくちゃ長くなってしまった…
それではどうぞ!
【追記】8/3 ミスを修正しました。
お昼ごはんを食べ終え、レキと別れた俺はガンシューティングの練習兼新しくなった.44オートマグの練習の為に仕方なく強襲科棟に来ていた。
仕方なくというのも…
「おう自由履修か明智!早く殺されろ!」だの、
「拳銃の腕をかわれたんだってな、死ね!」だの、
「今日は明智も来たのか!じゃあ死ね!」だの入ってきた途端、これである。
武偵高随一の血の気の多さで有名な『明日なき学科』の異名は伊達じゃないな。てか
何やら不穏な言葉に身を震わせつつ、俺は奥の方の射撃レーンに立つ。
そして.44オートマグとベレッタPx4ストームを同時に構え、5発ずつ撃つ!!
ダンッ!ダンッ!ビシッ、ビシッ!狙い通り初弾2つは的の手の拳銃を持つ位置、右肩甲骨付近に命中し、残りの4弾ずつは当たった穴を掠るように上下右左と命中し、結果として花の形に近い形状を作る。
うーん、こんなもんかな。周りの驚嘆の声に耳を貸さずに俺は考えていた。ダブルカラムで重くなった.44オートマグの扱いも悪くない。そう思っていたら後ろから声をかけられた。
「お、明智君じゃないか。久しぶりだな」
振り返ると長髪で黒を基調とした服を着たどこかキンジと似た面影があるイケメンが立っていた。彼の名は遠山金一、つまり俺がガンシューティング代表に選ばれることになってしまった原因の人である。でもやっぱイケメンだよな、この人。
この人とあったのは中1の時だったか、キンジの家に遊びに行ったらこの人がいたんだよな。次にあったのは中3の時、フランスでたまたま依頼が一緒のもので協力した。キンジ曰く難しい依頼をおにぎり一つを報酬で単身で解決する正義の味方の体現者。俺もこの人の銃技を見てその正確さに息を呑んだのを覚えている。
…ん?だが、今のこの人の雰囲気は
とりあえず聞きたいことはいくつかある。
「あれ、金一さん!海外を飛び回っていて忙しいと聞いていましたがどうしてここにいるんですか?お陰で俺がアドシアードのガンシューティング代表になっちまったんですよ!?」
当然の疑問を軽くなじるように問いかけると金一さんは一瞬眉を寄せたかと思うと少し、ほんのすこーし申し訳ないという目をしてこう言った。
「今日は本当にたまたま、こっちによる用事があったから来たんだ。アドシアードの件は悪かったな。でもお前なら他の学校のトップたちとでも引けを取らんだろう?」
「うーん、さすがにそれは厳しいですよ。……あと中3の時、キンジの助けになってやれず申し訳ありませんでした。キンジの奴にはもう会いましたか?」
お世辞だとしても人というのは褒められると嬉しいものである。
それはそうと俺は金一さんに借りがある。俺は中3の時困っているキンジを助けられなかった。これは間違いない事実だ。そう思い、素直に謝る。
「いや、遠山の血筋ならあれくらいのことはある。それにあれは女心を考えないキンジにも非がある。明智君が気にすることは無いよ」
金一さんはどうやら気にも留めて無い様子。この兄さん弟に厳しくないか??前にキンジのことを俺にこっそり『あいつは遠山の血筋でも特に秀でたものを持っているからな』とか言ってたけど期待の裏返し、強すぎるよな。
などと与太話をしていたら周りがめっちゃ騒いでる。そりゃ強襲科の伝説のような人物と今おそらく最もホットな奴が喋っていて、それも面識ある感じだと騒ぐかもな。俺も騒ぐ。キンジは…どうだろうな?
しかしここで俺に不幸が襲いかかる。強襲科担当の蘭豹先生が聞きつけてこっちに来たのだ。
蘭豹先生は香港のマフィアの愛娘で愛銃は
「おうおう、なんや騒いでるから来てみたら明智と遠山兄やんけ!お前ら強襲科の手本として戦えや!ほらさっさとせんかい!」
ほーらこんな感じにめちゃくちゃな事を…ってえっ?俺探偵科だよ先生??てか金一さんと同い年だよね貴女?
「面白い、明智君の実力を見たいと思っていた所でした。俺は受けましょう」
あー金一さん、ダメです!その答えはいけませんよ!!俺瞬殺ですって!!ほらもう周りの
「あ、あのー蘭豹先生?俺探偵「なんや?文句あるんか?」t…すいませんでしたっ!!」
こっわ!!なにあれマジもんの豹みたいな威圧、戦力差とか関係ねぇ、殺されるわあんなん!金一さんに殺されるか蘭豹先生に殺されるかの違いしかねぇ!!…どうしよう…今日が命日かもなぁ、俺。
という事で俺は(仕方なく、ほんっとうに仕方なく)金一さんと強襲科棟にある
でもまぁ、死ぬ前にできる事はある。どのくらい戦えるのか、試してみよう。てかその位の意気でやらなきゃどうしようもない。ヤケクソという奴だ。
俺は金一さんにバレないよう、水の超能力を使って闘技場の湿度を調べる。…約52%か。そんくらいあればなんとか使えるかな。
「臨時戦闘訓練、明智対遠山兄!始めィ!」
思っていると蘭豹先生がそう嬉しそうに言って象殺しを号砲代わりにぶっ放した。怖えなぁ、やっぱりあの人は。
しかし蘭豹先生は
ビシッ!!
呑気に考えていた俺を隙があると見たのか金一さんが俺を撃った。しかし
そして俺の右肩のあたりからパァン!という音が弾けたが少しよろける程度でダメージはほぼない。当然だ。俺は超能力を使って水の膜を作り上げ、衝撃を和らげたのだから。金一さんには俺が超能力持ちだと教えてないからこそできる芸当といえばそこまでだが…
「…どうやったんだ?」
「…うーん?どうやったんですかね?」
金一さんは当然不思議そうに聞いてくる。俺は当然しらばっくれる、本当にわからないという演技付きで。タネを教える手品なんてないだろ?
「すいませんね、こっから俺も本気出すんで…ッ!」
なんてブラフを張りつつあちこちに銃弾をばら撒き、跳弾で金一さんを狙いつつ何発か直接狙う。
1発は貰ってくれないかなぁという甘い期待を込めた弾はキキキキィンッ!という音を立て全て外れた。いや外れたのではない。全て金一さんの銃撃で弾かれたのだ。その気になればその跳弾で俺を狙えただろうに、狙わなかったのは何か他に狙いがあるんかね?
まぁ仕方ない、銃じゃ勝てんだろうし小太刀で行くしかないか。そう切り替え、俺は銃を仕舞いつつ金一さんに小太刀を抜きながら駆け出した。その時に金一さんの視覚を奪う狙いで砂を巻き上げ背後を取るッ!これでどうだッ!?
しかし金一さんは慌てなかった。
「へぇ、狙いは素晴らしいな。流石明智家の子孫、状況判断は素晴らしいものがある」
そう言って長髪を揺らして俺に当てた。ガツッ!!
えっ、と思う間もなくそれだけで俺はかなり吹っ飛び壁に激突した。水の膜も間に合わなかった。そうだ、そういえば金一さんは長髪の中に金属の暗器を隠してたんだな。中3の時にコッソリ観たから覚えてる、覚えてたのに反射的に動いてしまった…。
クソッ…。そこまで考えた俺は意識を手放した。
俺が次に目覚めた時、目にしたのは見覚えのない白天井とキンジと不知火、そして金一さんだった。
「ウッ…ここはどこだ…?」
そう周りを見つつ尋ねた俺に金一さんが代表して答えた。
「ここは
…そうか。失神して運ばれたのか。そういえば金一さんは国際医療免許的なものを持ってたんだっけ。
「明智君があそこまでボコボコにやられたのは初めて見たな。同じ人間だったんだね」
「同じも何も人間だよ俺は!なんだよそういう目で見てたのか!?」
不知火は俺が目覚めたのを見てそういうが、ちょっと待てや!ツッコむと不知火は苦笑い。いやホントなんでだよ。
「キンジもまさかそう思って…?」
「頭良すぎるところとか色々凄いけどギリギリ人間だろ」
キンジの方を向くとキンジはこちらを向かずにポツリ。なっ、失礼な!
「お前ら後で覚えとけよ…」
「「冗談だ(よ)」」
そう恨みを込めた目で見ると2人は息ぴったりに一言返すのであった。お前ら喧しいわ、ホンマ!
…切り替えよう。それにしても…2.3点確認しなきゃいけないことがあるな。そしてこの話は不知火とキンジは決して聞かせてはならない。なぜかって?これから聞くことをキンジが知ったら何しでかすか分からないし、
「まぁ、良いや。時にキンジと不知火よ、俺は今週のジ○ンプが楽しみだったんだがこんなことになって買いに行けなくなっちまったわ!つーわけでジ○ンプとなんかお菓子買ってきてくれないか?金は俺が出す、余った分は2人で分けていいからさ」
そういうとキンジと不知火は不肖不肖といった感じで買いに行ってくれた。金一さんは…俺の雰囲気に気付いたみたいだな。さぁ、こっからが聞きたいことだ。
「すいませんね金一さん。ちょっと不知火とキンジに捌けて貰ったのは2.3点聞きたいことがあるからなんです」
「なんだ?答えられる範囲ならいくらでもいいぞ?」
そう切り込むと金一さんはやっぱり気づいていて、そう聞いてきた。まずは軽いジャブから。
「まず最初、金一さんの銃撃はコルトSAA、ピースメーカーを使った
そう聞くと金一さんは目を見開いて感心したように答えてくれた。
「よくわかったな。
「いえ、髪の方は中3の時にコッソリと…見させていただきました。カナさんの時に」
…にしてもこんなの曲芸の域だろ、流石遠山一族。やること為すこととんでもない。さて、ここからが本番。
「んじゃ次です。金一さん、貴方は本当に海外に任務で赴くのでしょうがこっちに来た本当の理由は最後…あるいは最期かな?ともかくキンジに会うため。つまり貴方は自分が死ぬ、もしくは陽の目を見て歩けなくなることを予見し、最後に弟に顔を合わせに来たのではありませんか?巨悪を相討ち覚悟で討つ、その前に」
そう尋ねると今度は金一さんの顔が驚愕に染まった。完全無欠そうに見えても驚く時はあるんだな。
申し訳ないが、ぐいぐい行かせてもらうぞ。
「いつから気づいていた?そんな気配は微塵も出してなかったはずなのに…?」
「いや簡単ですよ。まずはそのオーラ。気配を出していないというのはありえませんよ。以前金一さんが教えてくれたじゃないですか、人は歩く姿や佇まいから情報を発信しているって。ともかく、前の貴方なら犠牲をゼロに、犯人すらも救うという意識で戦っていましたよね?今の貴方は違う。多少の犠牲を払ってでも巨悪を討つ。そういったオーラです。次に、ただキンジに会うために来たのならなぜ
そこまで一気に言うと金一さんは唖然とした様子で答えた。
「凄いな…ここまで当てられるとは思わなかった。流石探偵科のSランクだ。確かに俺はこれからとある巨悪の組織を追って、潰しに行く。簡単に死ぬつもりは無いが、敵が敵なだけにもしもの可能性も十二分にある。次に会えるのがいつになるかわからないからキンジに伝えたいことを伝えに来たのだが…まさかここまで見抜かれるとは思わなかったよ。あとこのことは決して外には漏らさないでくれ。もし漏らしたら明智君の戸籍から何から全て消される可能性があるからな、気をつけてくれ。あとここからはキンジの兄としてのお願いだ。もしも俺が死んだら、あいつはおそらく塞ぎ込んで鬱になるだろう。その時は明智君が支えてやってくれ。君ならキンジを立ち直らせることができるはずだ。だからその時は…頼むよ?」
俺をここまでコテンパンにした金一さんがそういうのだ、相手は世界規模の巨悪だろう。もしかすると、ローズリリィに繋がる……いけない。それ以上は考えてしまうと金一さんの願いとは別に動いてしまう。それは、してはならない。俺を認めて頼んでくれているのに、その期待を裏切ってはならない。
もし金一さんが死んだら、彼に崇拝に近い憧れを持つキンジの事だ。それこそ部屋から出なくなるのは普通にあり得る。そこまで考えて俺はこう答えた。
「そうならないことを祈ってますが、もしそうなったらキンジの助けにはなります。俺はキンジの性格的に判断するとそんなことになるとおそらく武偵をやめると言いだすと思ってますが、それは止めません。なぜならそれは俺が決めることではなく、彼が決めることだから。それでよければ、力になれます。」
そう言うと金一さんは安心したのか、
「すまない、頼むよ」と答えたのであった。
そしてそのあとは帰ってきたキンジと不知火と共にお菓子を食べ、1日泊まる俺はキンジたちが帰るのを見送ったのであった。
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第17話
前回は零司君の探偵科Sランクとしての技能を全面に出してみたんですが…伝わったかなぁ…
零司君は与えられた情報が間違ってなければそこから推理論断で正しい結論を導けます。仮に間違っていても感情の機微をその行動から相手の嘘を見抜くこともできます。ウワーなにこのチート?
それではどうぞ!
不知火とキンジが帰った後、俺は色々考えに耽っていた。
金一さんに歯が立たなかったこと。以前見た金一さんとの変化。金一さんが言っていた巨悪。そして「キンジを頼む」の重み。
……色々あるけど一つだけ言わせて欲しい。
「なんで金一さんまだ帰ってないの?」
そう、当然のように病室に金一さんが残っており、なにやら作業をしているのだ。
「なんでって、一応治療したの俺だし。そんで病院の個室って静かだから作業の邪魔が入りづらいしな」
こともなげに返すけど金一さん、2つ目がメインだろあんた。
「そ、れ、に、明智君一つ勘違いしてるから意味があるかは置いて、その勘違いを解消しとかないといけないからな」
ん?俺が勘違いだと?
「は、はぁなんですか?その勘違いって」当然気になるから聞くけどさ。
「
……はっ?金一さんって18って聞いてた…あっ
「言い換えるか、
「……」
あんまりな事実に俺は思考を停止せざるを得ない。
あろうことか俺は金一さんを学年的に言うと
いや、でもそれじゃ疑問が残るぞ?
「高天原先生は金一さんが帰ってこないから代理って…」
そう呟いた俺に金一さんは厳然たる事実を述べる。
「そうでもしないとお前が参加を辞退しそうだったから、と高天原さんからは聞いてるよ。んでもしも会うことがあったら話を合わせるように、との追加注文つきでな」
……!クッソ、高天原先生にハメられた!!
「そういうわけだから俺はアドシアードの参加資格はないし明智君は代理なんかじゃない。もっと自分の力に自信を持ってくれ」
……そうは言われてもなぁ…探偵科が推理をミス、しかも自分の勘違いが原因なんて恥ずかしくてなんも言えねえ。良いとこねぇなぁ、俺…
というか武偵高の生徒なら制服着るだろ!そこで気づけ!!
「あー、はい。完全に俺の勘違いですね…探偵科がこれじゃあなぁ…」
なんか今日良いとこ無しだなぁ、俺。
そんなしょぼくれてる俺を金一さんは完全に大人の目で見守っているのであった。
「…そんで、明日にはもう
「伝えたいことは話したからもう平気だ」
ショックが未だ抜けきれない俺は少し赤い金一さんにそう聞くと、金一さんは珍しく照れたような顔をして答えた。今の金一さんは、揺らいでいる。これならもう一押しでキンジのとこ行くな。俺なんかの所より、兄弟で話すことがなくても一緒に居られる時はいるべきだ。
「弟と時間の限り一緒にいるのは兄の役目ですよ!…そう。兄の、ね?」
ここまで言えば俺の事情を知ってる金一さんだ、折れるに違いない。
…正直、怪人ローズリリィに千花が攫われたも俺がその時たまたまとはいえあいつのそばにいてやれなかったからだ。その事は俺の一番の後悔だし、忘れた事はない。だから俺はできる限り自分の友人や知人を大切にし、人の機微を観察することを覚えた。何か異変があったらすぐ対応できるようにと。もう1つ理由はあるが、それは今関係ない話。
「わかったよ、俺の負けだ。今日はキンジと色々喋ってくる。思い残しのないようにな。」
案の定金一さんは以前赤い顔のまま言って病院の個室を出て行った。
うん、それが兄弟としてのあるべき姿だ。全く、年上に言うことじゃないけど兄弟揃って手が焼ける。
金一さんが病室から出て行った後、俺は改めて体のチェックをしていた。
すごい勢いでぶっ飛ばされのにほぼ痛みが抜けているのが逆に怖い。これなら明日の昼にでも病室からおさらば可能だろう。というか元々過剰な気もするけどな。
つーわけで今日はもう寝ますか!そう決めた俺は携帯を充電器に刺そうとすると…?ん?メールが来てるな、しかも3通。
1通目は…何々、理子からか。
『あっちキーくんのお兄さんに負けたってホント!?Σ(・□・;;しかも入院とかどんだけ強いのその人!!( ̄◇ ̄;)明日お見舞い行くから待ってて♫ りこりん』
武偵高では噂が広まるのが早いとはいえここまでとは…!やっぱり
とりあえず『明日はもう退院だからお見舞いはいらんぞ!心配ありがとな!』と返しときゃ問題ないだろ。
2通目は…武藤か。無視でいいや。その方が弄りがいがありそう。
3通目は…ゲッ、高天原先生だ…さっき判明した事実とか諸々あるから今は顔合わせたくないなぁ…とりあえず開けよう
『明智君が金一さんと顔を合わせたと聞きました。恐らく金一さんからも話をしてもらっているでしょうが、明智君はアドシアードのガンシューティングは代理ではなく代表として選出されました。騙したような形になってごめんなさい。
…あと情報はより正確に捉えましょう。そのようなミスを依頼でされてしまうとこちらも貴方も困ったことになりますよ?
それではアドシアード、期待しています。 高天原』
ひ…ヒェエッ、怖えよ。『…』そこ入れんなよマジで!!
とりあえず差し障りのないように返さなければ…
『返信、遅い時間になり申し訳ありません。探偵科Sランクの評価に恥ない仕事を改めて心がけさせていただきます。ありがとうございます。 明智』
よし、こんなもんかな。肝が冷えたぜ。今度こそ寝るか。
そうして俺は
次の日の12時に救護科棟を出た俺はとりあえず飯確保に動くことにした。武偵病院のメシはマズくてとてもじゃないが食えん。
コンビニに入ると見覚えのある金髪の改造制服が見えた。あれ、理子だよな?
「おい、理子。メールありがとな」とゴスロリ制服の背中に声をかけると理子は案の定驚いた。
「おぉ〜あっち!ホントに退院してたんだ〜。にしてもりこりんの背後を取るなんてさすがあっち!やるぅ〜!」
いつも思うけどお前っていつもハイテンションだよな。時々無理してんじゃねぇのかってくらいこいつのシリアス顔を見たことがない。
「つーかお前何買って…いちごミルク買い占めかよ…」
かごの中身みてドン引きしたわ。びっしりいちごミルク詰まってやがるぜ?
「いちごミルクはりこりんのエンジンなのです!ぶーん!同じようにカロリーメイトはレキュのエンジンなんだって〜、ほらあそこ!カロリーメイトごっそり無いでしょ!多分レキュが買い占めたんだ!」
ピシッ!と指差した先にはなるほど確かにカロリーメイトの空き箱だけが残ってる。武偵高は偏食家の倉庫かなんかか?つーかなんでレキのことそんな調べてんだこいつ。
「…まぁ、いざという時に行動に支障が出なければいいんじゃないか?俺個人としてはバランスよく食べた方が良いと思うがな」
そういう面で見ると理子のいちごミルクは論外だ。レキのカロリーメイトも論外、とバッサリ切るのも可能だがあれってレーションとかにも代用できるんだよな。そこまで考えての事なら長期戦になりやすい狙撃手の考えとしてはアリだと思う。納得はしてないけどな。
「りこりんはそこら辺意外としっかりしてるから大丈夫なのです!隊長!」ふーん、見えないところで体調管理はしてんのね。
「隊長ってなんだよ。てか理子昼ご飯まだか?なんなら一緒に食うか?」ここで会ったのも何かの縁だし、そう持ちかけると理子はなんか知らんが大はしゃぎ。
「あっちと一緒にご飯♫ご飯♫!」
「はいはい、さっさと飯確保するぞ」
うわ、めんどくさっ!そう思いつつ、ざるそばを手に取りレジに並ぶとなんかハイテンションな理子はその後ろに並んだ。
そして空き教室で俺と理子は雑談混じりに昼飯を食べたのであった。
尚、理子のいちごミルクを一面に並べたカゴを見た店員が顔面蒼白になったことと、俺がざるそばを食ってる横で理子はいちごミルクを5箱空にしその飲みっぷりを見た俺が若干の吐き気を催したことを追記しておこう。
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第18話
いつの間にやらお気に入りしていただいた方が50を越え、それどころか75も越えてました…!!
ホントにびっくり&嬉しいです!
これからも蕾姫と水君をよろしくお願いします!
…で、いつこの2人はくっつくんでしょうね?(オイ
それではどうぞー!
お昼ごはんを食べ終わり、探偵科棟に向かう理子とはここでお別れ。本当ならば俺も行くべきなんだが、アドシアードの練習ということで高天原先生にも許可を取っている。単位の心配もないしな。
「んじゃ、また明日な理子」そう言うと理子はくふっ、と謎な笑みをこぼし「うん、また後でね!」と返してきた。
ん〜??また後で?練習見に来るのかよ、騒がしくなるなぁ…
ま、言っても聞かないのは目に見えてるので強襲科の体育館を目指すとしよう。
……その前に一つ聞いてみるか。
「何やってんのさ、武藤?俺に用事か?」10m後ろの方で気配を隠してる(つもりの)武藤に声をかける。すると武藤はバレたか、みたいな感じで俺の前に現れた。
「なんだよ、いつから気づいてた?」とか聞いてくるけど、正直すまん。来た時から気づいてた。ま、こいつだしそのまんま答えた方が弄りがいがあるな。
「いつからって…そうだな、俺と理子が昼ご飯食い終わって空き教室から出た時にはいたでしょ?」そう聞くと武藤はガックシ。肩を落としてしまった。やっぱ感情が行動に出るやつはやりやすいな。
「んで結局なんだよ?まさか尾行するのが目的とか言わんだろうな」そう茶化すと武藤は切り替えたのか、こう聞いてきた。
「目的ってお前昨日メール送っただろ?その返答がいつまでたってもこないからわざわざ来たんだろ、轢くぞ?」
…?メール?あぁ…未読無視したやつか。
「あれね、メール見ないで捨てたぜ!」ハイテンションでそう宣言すると武藤は今日2度目のガックシ。ホンット面白いなこいつ!弄りがいがあるやつって世界を平和にするね!
「……まぁいいぜ、ならここで直接聞いてやる。お前は誰が本命なんだ!?」……はい??予想の斜め上の質問が来たな、これは。どういうことだ?
「本命?なんの話だ、意味がわからんぞ」そう答えると武藤はハァ、とため息。なんか無性に腹がたつな、こいつにそんなことされると。
「今一年の男子で女子の人気投票してるんだよ!ほら、先輩とかもカワイイ人多いだろ?誰が人気なのか秘密裏に調査してるんだよ!!」…なんちゅうくだらんことをしとるんだ
「ちなみに人気なのは1年だったら理子とか白雪、それにレキなんかも結構な票を獲得してるな。コアな層には平賀さんとかもウケてるらしい。ちなみにまだ返答をもらってないのはお前とキンジ、あとマサトあたりだな」平賀さんが好みって割とヤバめな嗜好じゃねぇか?てか残った男子は全員Sランク格付けされたやつらだな。大方キンジはヒス的に答えたくない、マサトは興味がない、俺は武藤のメール無視&病院にいたからといった所か。ぶっちゃけ俺も興味ないなぁ…。ここは適当に隣の席だしレキあたり投票しとくか。
「んじゃレキで。」そう武藤に告げると、武藤は「理由もどうぞ!」などとインタビュアー気取りで答えてくる。
「そうだな、絶対半径2051mというのに驚いたって点が一つ。ぶっちゃけ興味ないからさっさと済ませるというのが一つ。隣の席ってのが一つ。これでいいか?今日もとりあえずアドシアードのガンシューティング練習したいんだが」そう答えると武藤に呆れた顔をされた。俺なんか変なこと言ったか?
「明智よぉ…折角高校生なんだし恋愛とか考えてみろよな〜。まぁ、それで投票しといてやるからさ!てかお前の練習見たいんだが、構わねえか?」俺の練習見てどうすんだよ…。なんの価値もないぞ?
それにしても恋愛、か。正直興味は、ない。それよりも怪盗ローズリリィを滅ぼすために俺はまだ力が足りない。それを補うために
「ま、俺の練習見てもなんの足しにもならんだろうがそれでいいなら構わんぞ」そう呟くと武藤はなんかワクワクしたような顔をしたのであった。
いやホント期待されても困るんだけどな…
武藤を引き連れた俺は昨日とは違うレーン、的までの距離が1.5倍あるところまでやってきた。
「とりあえず今日俺がやることは銃撃つだけだ。それでいいんだな?」武藤に再確認すると「おう、ヨーロッパで活躍したSランク、ATの片翼を見せてくれよな!」などと言ってきた。
ま、別に良いんだけどATは神奈中限定だ。俺もキンジもパートナーとして組むことは高校ではほぼない、と考えていいだろう。
なんとなく、本当になんとなくだが、キンジにはいずれかけがえのないパートナーが出来る気がする。そしてそれは俺ではない、悲しいことにな。
「ま、いっか。とりあえずテキトーに撃つから期待せずに見とき」そう言って俺は.44オートマグとベレッタPx4ストームを構える。まずは昨日もやった花柄撃ちでもするか。
ダンッ!ダンッ!ビシッ、ビシッ!昨日とは違う距離、しかし昨日と寸分違わない射撃を俺はやってのけた。といってもこれは遊びの粋なんだけどな。
そう思いチラッと後ろを見ると武藤は唖然、として表情でこちらを見ていた。んじゃこれもやってみるか。射撃距離を1.5倍にしたのはこれも理由の一つだし。そう言って俺は
「な、なんだよ?」なんか勘違いしてる武藤を無視しつつ俺は後ろ手で銃を構える。そしてそのままダンッ!ダンッ!両方の銃を撃つと弾は狙い通りビシッ、ビシッ!そう音を立て両肩の的の中央を射抜いた。
そんな光景を見た武藤はとんでもないものを見たような顔をしている。
「なんだよ、
「いやそんなことおいそれとできる奴の方が少ねぇよ!!なぁ、ホントにこないだまで中学生だったんだよな??」とさりげなーくひどいことを言ってくる。
「何を失礼な。俺はれっきとした15歳、今年で16の高校1年だぞ?」と答えると武藤は、「あり得ねぇ…」と返すのであった。
そのまま射撃練習を続けてたら何やら騒がしい。なんだろうかと銃の
そう思ってると「あっちぃ〜!さっきぶり〜!!面白そうだから練習見学しに来たよ!」などと言って妖怪いちごミルク…いや、理子がこっちに手を振ってきた。
「いや、この人だかり何さ?」そう聞くと、理子は待ってました!とばかりにこう宣言してきた。
「あっちの射撃技術に興味がアリアリな人を連れてきちゃいました!テヘッ♫」うっそん、こんなにいるの?てか揃いも揃って暇かこいつら…期待されるのも困るんだけどなぁ。
まぁ、次で今日は最後にする予定だしなしくずし的だが仕方ない。今日は見逃すか。
「はぁ、今日は別に見てても良いけどさ、明日からは来るなよ?お前らも武偵なりたいなら自分のブラッシュアップに努めろよ…」そう呟くとどっかからか「「「(キャー!零司様かっこいい!!)」」などとなんか呟いてるのか叫んでるのかはっきりしない声がしたが内容は聞き取れなかった。というかこういう事を世界のアドシアード代表選手はやってきたのか。鬱陶しいと思うか人に見られて奮起するか、それは人によりけりだろうが。
そう思いつつ俺は愛銃2挺を構えた。そしてそのまま1発目、ベレッタPx4から9mmをあらぬ方向へ
.44AMPは9mmよりも威力が高い。だから9mmとぶつかっても然程軌道は変わらず狙った左肩に刺さるルートを通っている。掠めた9mmの方は少し軌道を変えて
そう思って帰り支度を始めると後ろで見ていた武藤や理子を始めとした見学者一同がポカーンとした顔をしてた。写メにしたら面白そうだな。
「ええっとあっち、今のってもしかして…?」そう代表して理子が聞こうとしてきた。まぁ、隠すほどのことがないから答えるか。
「いや単に9mmを.44AMPで弾いてその9mmの跳弾で右肩、.44AMPで左肩狙っただけだけど?」そう答えると理子はビコーン!髪が飛び跳ねて驚きを露にした。どうやってんだよそれ?
「いやいやいやいや、こともなげに言ってるけどやってることわかってる!?」武藤に至っては声が震えてるんだけど、そんなに恐ろしいことしたかね?少し集中すりゃできると思うんだが…
「ま、そんなことはどうでもいいんだよ。今日の練習はここまでにするから、見学者も終わり終わり!!ほら帰った帰った!!」そう言ってなんでこんなにいるのって感じな見学者を帰らせる。ふう、疲れたな。
見学者一団と武藤、理子が帰った後俺は後片付けをして2日ぶりになる愛車、スカイラインで自室に戻った。やることは俺の超能力を支える精神力を鍛える(と思う)黙想。俺の超能力は空気中から水分を取り出したり、ホースから出る水を自由に操る分にはそこまで支障はない。塩水とかでも問題なく扱える。水銀とかはまだ試したことがないからわからないけどな。問題なのは何も無いところから水分を創り出すとき。これが思ったより精神力を使うから多用できない。金一さんとの対決の時、湿度を調べたのはそういう理由もある。この黙想で想像をするのはぶっちゃけアニメとかCGの超能力の戦闘シーンが一つ。もう一つは滝とか川とか自然にある水が流れる光景。これをするのとしないのとでは精度が意外と変わってくるのだ。
…。
……。
………。
黙想終了。
「ふぅ、今日は疲れたな。あそこまで見られると落ちつかねぇよいくらなんでも。アドシアードはもっと疲れるんだろうなぁ」
そう呟き、俺は晩ご飯を作ることにした。
来るべき本番までそう時間はない。その中でどの位体調管理ができるか。そこにかかっていると思う。
〜〜Side理子〜〜
今日、あっちの射撃を見に行ったけどあれは流石にマネできないな〜。レベル99って精度なのにまだあそこから成長するようなものがあったな〜。
まだ決めてないけど、アレをオルメスに近づけるのは危険だな〜。優秀すぎてパートナー失格とかなんか凄すぎって感じ〜!この調子ならオルメスにくっ付けるのは、遠山キンジだな。キーくん、理子に実力見・せ・て・ね・?
そして理子は理子になるんだ…!!
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第19話
今回からアドシアードが始まります!零司君とレキの成績やいかに…?
それではどうぞ!
射撃練習したり、なんか追い回されたり、キンジ達とくだらん世間話をしたり、追い回されたり、練習してたら人だかりができてたりしたが今日はついにアドシアード。練習してきたことを発揮する本番である。
本番なのだが…
「うわわわわ…やべぇよなんで人だかりこんなに出来てるんだよマジ助けてキーくんや」はい、つまるところめちゃくちゃ緊張してます。それも仕方ない話だと思う。普段の
「誰がキーくんだ。理子はもう諦めたがお前はダメだぞ。てかレキ見てみろ、平然としてるぞ」ブスっとした顔(いつもよりも不機嫌そうだ)でレキの方を指差すキンジに従ってレキの方を見やるとそこには平然とした顔でドラグノフを肩にかけてるお姿が。すごいな、お前。
「レキさんやレキさんや、なんでそんなに平然としていられるんですかね??俺は緊張で死にそうだぞ?」こちらから近づき、レキにそう問いかける。キンジはこっちに来ず、いいタイミングで入ってきた武藤達と何やら話し込んでるな。なんの話かね?
「?…緊張というものをした事がないのでわかりません。すいません」レキさんはレキさんで緊張したことない宣言。聞く相手が悪かったかなこりゃ。
そう思ってるとレキはしばらく間を空け、少し考えた後にこう続けてきた。
「…緊張したことはありませんが、一つだけ言えることがあります。例え緊張をしたからといって、やることは変わりません。ですから私は的を射るだけです。」そう答えるとレキは口を閉ざし、珍しくこちらを見つめてきた。言葉にこそしていないが、零司さんもそれは変わらないでしょう?と問いかけているように感じられた。
……意外だな、レキにこんなことを諭されるとは。言ってることは至極まっとうなことだ。だが、それを体現できるのはほんの一部だけだろうな。だけどそれをレキは、零司さんなら出来るでしょう?そう言外に告げたのだ。俺が出来ること、それはガンシューティングで的を撃ち抜くこと。緊張しててもしてなかろうともそれは確かに変わらないな。それを普段通りに行う、それだけでいいのだ。
ならやることは定まった。あとはやるだけだ。
「…おう、ありがとうレキ。お前のおかげで普段通りの力を出せそうだ」そう告げるとレキはまたいつも通りのぼーっとした感じに戻って「いえ」と返すのであった。
〜〜Sideレキ〜〜
「レキさんやレキさんや、なんでそんなに平然としていられるんですかね??俺は緊張で死にそうだぞ?」近づきながらそうこちらに問いかけてきたのは明智零司さん、1年のもう1人のアドシアード代表で私の隣の席の探偵科Sランクの人だ。見るといつもでは到底見られないくらい体が震えている。
「?…緊張というものをした事がないのでわかりません。すいません」私はそう答えた。私の中にある風は、人の心を好まない。だから私は感情というものがよくわからないし、必要としていない。
ーー私は1発の銃弾。それ以上でも以下でもないのだ。
でも…同時に私はこう思う。このままではこの人はいつものような射撃ができないでしょう。それはダメだ、と。
だから私はこう付け加えた。それが零司さんのためになるかはわからないけれど、言うべき。そう思ったから。
「…緊張したことはありませんが、一つだけ言えることがあります。例え緊張をしたからといって、やることは変わりません。ですから私は的を射るだけです。」そう付け加えると零司さんの顔から焦りは少しずつなくなり体の震えも止まっているようでした。そして零司さんはいつものような人を穏やかにするような笑みを浮かべてこう言いました。
「…おう、ありがとうレキ。お前のおかげで普段通りの力を出せそうだ」
この調子でしたら不安はないでしょう。私は「いえ」と返し、再びスナイピングの時間になるのを待ち始めました。
…私は人のためになることをできたのでしょうか?胸にいつもはない暖かみを感じた気がしました。
〜〜Side零司〜〜
レキの意外な一言で不安や緊張がなくなった俺はそろそろ始まるガンシューティング、その予選会場に足を運んでいた。
ガンシューティングのルールは簡単だ。一定時間の間に空を飛んだり地面を徘徊している的を射撃して得点を競う。それだけだ。
タイムアップ、もしくは全ての的が撃ち落とされた時点で終了で、的に当たった箇所で得点を計算し競う。
使用できる弾は通常弾のみ。ほとんどいないとは思うが
「いつも通り、ね」全く、レキは平気な顔してとんでもねえこと言ってくれる。やれるだけやってやるけどな。そして青いベレッタPx4ストーム、.44オートマグを確認。
そして前日渡されたゼッケンを付け、運営本部で銃と顔の確認(変装の可能性があるため顔をつねられる、痛い)を受け、選手控え室に入ると…
俺に割り当てられた場所に座ってキンジからもらったポカリを飲んでると、何人かこちらをちら、ちらと見ているな。イヤだな〜、こういう雰囲気。
そんな祈りが通じたのか、10分後にすぐ予選の俺の組になったようで名前を呼ばれた。
んじゃ、頑張りますかね!
〜〜Sideキンジ〜〜
今俺と不知火は明智が出る、ガンシューティングの予選会場の観客席に来ていた。武藤は残念ながら雑用と『
「いやぁ、それにしても朝の明智君は珍しく緊張してたね。大丈夫かな?」そうイケメン顔を困ったようにしつつ、不知火はこちらに尋ねてきた。
「正直、心配だった」そう含みのある言い方で俺は返すと不知火はそこに食いつき、「だった?今は?」と聞き返してくる。
「心配だったんだけどさ、何言われたか知らねぇけどレキと二言、三言話したらいい感じに緊張も解けてリラックスしてる感じがしたからな。予選ならあいつは簡単に通ると思う」ポカリを渡した時はもういつもの調子に戻ってたしな。
「へぇ、じゃあ金メダルも夢じゃないかもね」そう不知火は安心したように答える。
明智の銃の腕は中学の時から有名だった。兄さんに『あいつの銃の腕はおそらく俺よりも上だ』と言わしめるほどに。
兄さんが自分より年下の奴にそういった評価をすることが珍しかったから俺もよく覚えている。
中3の時にあいつはヨーロッパで目覚ましい活躍をしていて、帰ってきた時には更に銃の技術は上がっていた。おそらく今のあいつに勝てるやつは同年代にはそうそういないだろう、と思う。
などと少し懐かしい記憶を辿っていると明智が予選会場に現れた。あいつの番か。
『番号34番、明智 零司。東京武偵高1年』そう読み上げられると会場はドッ、と湧いた。ホームグラウンドだから期待が半分、明智のことを知らない奴は1年が出るということに色めきたっていてそれが半分、といったところか。
『始めッ!!』号砲と共に始まった。明智はPx4と改造オートマグの2挺拳銃で次々と的の中央を撃ち抜いていく。…?なぜか分からないが他のやつの得点が伸び悩んでいるように見える。相手もアドシアード代表だ、ミスショットなんてそこまで期待できないだろうが、どういうことだ?
そう思っているとバシュッ!最後の的を明智の.44AMP弾が貫き得点計算が行われている。
隣の不知火を見ると他の人の得点の伸び悩みの原因がわかったのか、唖然とした表情をしている。
「なぁ、不知火。なんで明智以外の奴の得点が伸び悩んだんだ?」そう聞くと不知火は信じられない、といった調子でこう告げた。
「明智君、他の選手の撃った弾を弾いてあらぬ方向に飛ばしてたね。それで自分の弾は相手の弾を弾いた後、的の中央に当たってた。本当に同じ1年なのかな?」
……ありえんだろ。どんなことを練習したらそんなことが出来るんだよ。
そう思っていると得点結果が出たようでアナウンスがこう告げた。
『本戦進出は34番 明智 零司選手!!』
ドォッ!と湧いた会場に手を振る明智の姿がそこにはあった。
あいつ、やっぱりすげーんだな。俺はそう思い、会場に来れないから結果を教えてくれと頼まれた理子や武藤達に結果を連絡するのであった。
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第20話
早くも夏バテ気味…暑いとこ好きじゃないんですよね…
かといって寒いとこも好きじゃない…ビバ涼しい屋内!
アドシアードは後2話!どうぞ!
『本戦進出は34番 明智 零司選手!!』そのアナウンスを聞いた時、俺は息を深ぁーく吐いた。そして観客の歓声に応えるように手を振り、さっさと裏にはけた。
第一関門突破したな。相手の銃弾を弾いて、その弾で的の中央を狙う。言葉にすればそれだけだが、言うは易く行うは難し。これをやるために跳弾射撃などという普段あまりやらないことを練習したのだ。相手の得点を減らし、自分の得点を増やす。これができればまぁ勝てるだろうからな。
しかしその間ずっと集中していたせいか、少しクラッと来たな…おそらく頭の使いすぎって奴だ。これが続くようなら弾く弾の数を減らす必要がある、そうすると当然勝率は下がってしまう。俺もアドシアードに出場することには乗り気では無かったが、出るからには勝ちたい。そう思うのは普通だよな?
「明智君、予選突破おめでとう。とんでもないことをやってたね」
「相変わらずの技術だな。次は本戦だな」そういって近づいてきたのは不知火とキンジだ。なんだこいつら来てたのか。
「おう、ありがとな。お前ら悪いけど少し人けの少ないところまで連れて行ってくれ、ちょっと集中力使いすぎで頭がクラッとする…」
そう頼むと2人は顔を合わせてうんうん、なんか知らんがうなづきあって俺を連れて行くようだ。
「多分探偵科棟なら今は人が少ないんじゃないかな?」
「んじゃ、不知火後は頼んだ。俺は雑用の時間だ」そう言ったキンジに不知火は頷き、俺をこっちこっち、と案内する。
はぁ、少し疲れたな。これを後2戦やるのはさすがに辛い…
「ほら、やっぱりね。今ならほとんど人がいないと思ったよ」不知火に連れられ来た探偵科棟はなるほどほとんど人がいない。…というかいなさすぎじゃね?
「なんでこんなに人がいないんだ?」そう聞くと不知火は少し悩むそぶりをしつつ、こう答えた。
「今レキさんがスナイピングの予選でてるから、そっちを見に行って反対側の探偵科棟にはほぼ用がある人がいないと思ったから、かな?」
なるほど、今はレキが出てるのか。てか不知火よ、こっちに聞くなよ。多分その話が本当ならそういうことだろうし。
「ふーん、レキが出てるのか。中継観れるか?」
不知火は相変わらずの優男スマイルをこっちに向け、にこやかに言った。
「明智君はレキさんが気になるのかな?僕の携帯で見れるから見るかい?」
「なんだその言い方。単純に結果が気になるだけだ。ほら見せろって」
普通同学年が出てたら結果くらい気になるだろ?それこそレキがどう思ってるかは知らんがな。不知火の言い方だと俺がレキを恋愛対象として見てることになるが、たかだか同じ学校になって一月で惚れるなんてことはないだろ…まぁあいつは顔立ちはいいし、武偵高の生徒にしては珍しくうるさくない奴だから嫌いってわけじゃねぇけどさ。
不知火が取り出した携帯でアドシアードの情報を探っていると、げっ。もう俺が予選突破したって話出回ってるのか。なんか知らんけど『零司様素敵!』とかいう書き込みもあるけど無視だ無視。言ってることの意味がわからん。んでスナイピングスナイピング……お、あった。中継を繋ぐと丁度予選が終わったところらしい。結果待ちのところか。
『予選突破者は21番 レキ選手!!』
ま、そうだろうな。あいつが
結果は確認できたので、俺は相変わらずニコニコしている不知火に礼を言って返す。
「そういえば明智君、次の準決って何時からだい?」そう不知火は聞いてきた。ちなみに今は11時30分だ。
「次は13時丁度から、さっきのとこでやるんだけどな。ちょっと俺は英気を養うためにここで昼寝をするぜ。12時半になったら起こしてくれよ〜」そう頼むと不知火は少し困り顔。
「ごめん明智君。僕は12時から雑用係が入っちゃってるんだ。武藤君にこっちに来てもらうよう頼むかい?」
うーん、この完璧優男。後の配慮もしっかりだ。
「おう、それでもいいけど武藤に今連絡つくのか?」電源を落としてる可能性もあるだろうに。
「多分武藤君、そういうとこガサツだから電源ついてると思う…あっ、武藤君?シフトが終わったら探偵科棟来れない?今明智君といるんだけど…」
なるほど、不知火の予想どおり武藤は電源付けっ放しだったらしくトントン拍子で決まっていくな。
「…ということだ。明智君、武藤君がこっち来てくれるってよ」そう不知火はニコニコしながら言うので俺はひょいひょい、携帯をこっちに寄越すように頼む。
「おう武藤か。13時から俺本戦の準決だから。起こさなかったらマジでヤバいから頼むぜ」
『任せとけ!あと予選突破おめでとさん!待ってろよな!』相変わらずこの馬鹿は元気そうだ。
俺は不知火に携帯を返すと寝る体勢を整え、目を瞑った。
「……智!明智!起きろ〜、時間だぞ!」その声で目を覚ますと武藤となぜか理子がいた。いやなんで?
「寝ているあっちも中々イケメンでしたな〜、ぐふふ!理子トキめいちゃった」
「なんで寝てない奴が寝ぼけたこと言ってんだよ。武藤とまぁ一応理子、ありがとさん。無事英気を養ったから本戦も頑張ってくるわ」
「おう、ガチで寝てるなんて意外すぎたけどそれ位はおやすい御用だ、本戦も頑張れよ」
「うっうー、理子は準決を見に行くのであります!頑張りたまえ若人よ!」
武藤と理子はそれぞれらしい返答をし、応援してくれる。それに感謝をしつつ、俺は運営本部に戻った。
〜〜少年射撃中〜〜
結果から先に言おう、俺は準決勝を突破し明日の決勝に駒を進めた。一回戦は運良く、予選の時の待ち合わせ室で強いと感じた奴が全員別の組だったからなんとかなったが…逆に言えば、そいつらはほぼ全員決勝に駒を進めているのだ。
決勝は跳弾射撃なんてことをやる余裕はないと思う。あれはかなり集中力と空間把握能力を使うからな。本物の連中とやるとなるとガス欠を起こすのは俺が先になってしまう。
などと運営本部を出ながら考えていると見覚えのある薄緑の髪がいた。レキだ。
「おーいレキ!お前さんは準決どうだった?」
「いえ、まだです。このあと15時から準決勝です。あと決勝進出おめでとうございます」
相変わらずの無表情でレキは答えた。てか俺のガンシューティング見に来てたのか?意外だな…どっかの屋上でボーッとしてるものだとてっきり。
「おう、あんがとさん!まだならレキの準決見に行くか、頑張れよ」
「はい」
そう答えるとレキは全くの無表情……ん?少し口が緩んだ?気のせいか。スナイピングの会場に向かっていった。
とりあえず出店で焼きそばかなんか買ってから見に行きますか。腹減った。
出店で焼きそばとラムネを買ってスナイピングの会場を見に行くと既に大勢の人が集まり、今か今かと待っている。あれ、あそこにいるのは…平賀さん?なんというか、意外だな。
「やぁ平賀さん、レキ目当てか?」
「おー明智君なのだ、決勝進出おめでとうなのだ!レキさんも明智君も大口顧客なのだ、だから応援はするのだ!」なんというか…装備品のこと以外なら本当に中学生か!と思うほど単純だよな、この子。見てくれもそうだし。
そう思ってると周囲がザワめきだす。なんだ?と入場口を見るとレキの姿がそこにはあった。
レキは射撃レーンに入り、ドラグノフの最終確認を行って狙撃体勢に入った。
『それでは準決勝一組目、始め!』そうアナウンスが流れると同時に号砲が鳴る。それと同時にレキはタァーン!と放つと目測1600m先の的の中央を貫いた。そしてどんどん距離を伸ばしていく。それでも一切表情を変えず淡々と貫いていく…!!
「おー、レキさんは相変わらずすごいのだ!あんな遠くの的をよく撃てるのだ!」
「だなぁ、あそこまでの距離になるとノータイム狙撃なんで出来ねぇよ。すげぇもんだ」
あれが狙撃科の麒麟児か…狙撃科で何回か見てるといえば見てるが、やっぱりその度にすごい、と感じる。
『そこまでー!!』とアナウンスが入るまで、俺は無意識にレキを見ていた。
そして案の定レキは決勝に進出となり、本来なら軽ーく済むはずの帰りのHRが俺とレキを賞賛する奴らの影響でかなり長引いてしまった。
うーん、黙想する時間ないなぁ。疲れたし晩ご飯は仕方ない、コンビニのお弁当で済ませよう。
そう思い、コンビニに立ち寄ったが…弁当どころかパン一つ残ってねぇ…アドシアード期間にコンビニを頼る人が増えるとは思っていたがここまでとは…!!
俺は仕方なく家にあるもので料理を作って食べ、シャワーを浴びた後に疲れに身を任せて眠りについたのであった。
準決勝で零司君は予選とほぼ同じことをして勝ち上がったのでカットカット!!
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第21話
山の日って、何なんだ??って感じな1日を過ごしてます!(どんな1日だw)
アドシアード編、今回で完結だと言ったな、あれは嘘だ。いやね、ちょっとイベントを入れてたら思った以上に入っちゃって…( ̄◇ ̄;)
うん、たまにはそういうこともあるんじゃないかな?ということでどうぞ!
チュン、チュンチュン…バァン、バァン!!
ん、もう朝か…。鳥のさえずりと(何故か)拳銃の射撃音で目覚めた俺はいつものように朝練に行こうとして…やめた。
というのも盛大に起きる時間を間違え、もう7時になろうとしていたからだ。
武偵高では外来の客が多くなるアドシアードと文化祭の期間だけは車通学は禁止となっていて、バスあるいは自転車などで通学する人が増加する。つまり通学バスが普段よりもとても混むのだ。なので家を出るのはなるべく早くの方が良い。
ガンシューティングの決勝戦は14時からであるから練習だけならその間でもできるし、と切り替えさっさと朝ごはんを作っていく。今日はハムサンドイッチとコーヒー…俺はお湯を注いだカップにエスプレッソを注ぐロングブラックが好みだが…を淹れわずかな至福なひとときを味わう。やっぱりアメリカーノよりロングブラックだよな。
朝ごはんを手早く終え、7時半にバス停に並ぶと既に長蛇の列。マジか、こんなに並んでるならもう少し早く来ればよかったよ。
バスを待っていると後ろから見知った奴、というかキンジが眠そうにやってきた。
「おっすキンジ!寝付けなかったのか?すごい眠そうだ」
「おはよう明智、いや大したことはないんだけどな。白雪がすごい量のメール送ってきてさ、しかも一つ一つめちゃくちゃ長いの。それに付き合ってたら盛大に寝る時間が遅くなったんだよ。というかお前、車通学じゃねぇのかよ、何でこんなのに並んでんだ」
「アドシアードと文化祭の期間は車通学は禁止なんだよ。知らなかったか?」
その後もキンジと何気ない普通の話をしているとバスが来た。てか白雪さんや、長文メールはあんまり好まれないって前言わなかったっけか?
バスの中は案の定アホみたいに混んでいて、やっぱり好きになれないな。特に夏みたいに汗を掻く季節なんて絶対乗りたくない。水を扱う
んで、だ。キンジは何かまでは分からんが俺に何か隠してないか??少しカマかけてみるか。
「にしてもキンジさぁ、なんか不自然に俺に何か隠してないか?」そう尋ねるとキンジはピクッ!ほとんどの人は気付かんだろうが右の眉毛が動いたな。これはクロか。
「……そんなことはないぞ?大体お前に隠し事とか出来ねぇだろ」
「そうかぁ〜??ま、好奇心ネコを殺す、って奴だな。詮索はしないでおこう」
「……恩にきる。ありがとな、明智」はい最後の言葉で隠し事確定でーす!キンジって素直だからなぁ、人の感情、特に女性関係に疎いから取り返しのつかないことやらかしそうだ。
学校にはまぁ余裕で間に合い、隣のレキに挨拶をして隣のレキは普段通りに返す。朝のHRを普段通りに行い、アホ共が俺たちの決勝進出でまた騒ぐ。てかお前ら昨日もやったろ、それ。全く飽きない連中だ。
でも、こういうのも良いよな。なまじ中3の1年間ほっとんど任務に明け暮れてたおかげでこんな騒ぎができることがありがたく感じる。最も、こいつらはそんなことは考えてないんだろうけどな。仲間が喜ぶ姿っていうのは良いものだ。こいつらの喜ぶ姿を見るためにも、頑張らなきゃな。
雑用やる奴とかがはけていった後、俺は教室に残ってるレキに尋ねた。
「そういえばレキ、スナイピングの決勝って何時からだ?」
「14時30分、零司さんのガンシューティングの後です」
「そっか、お互い頑張ろうぜ?テレビなんて出たくて出れるもんじゃねぇし出れる時に出とかなきゃな」アドシアードの競技は高校生武偵の最高峰が出るということもあって、テレビ中継もされるのでそのことを思い出しながら言うとレキはかくん、と首を横に向けた。
「テレビは見ないのでよくわかりません」
「そっか。でもやれることはやろうぜ?」
「はい」にしてもテレビを見ないときたか…今時珍しいよな。てかこいつ決勝までどうしてるんだろうな?
「レキは試合までどうしてるんだ?」
「風の…」
「??」
「風の声を聞いていることにします。今は比較的穏やかな風です」
度々出てくるレキの『風』。レキ以外誰も理解できない、レキが『ロボットレキ』などと呼ばれる原因の一つ。電波なのかな?と思ったけれどもそれとは何か違うような…でも何だ?と聞かれると答えられない、そんな感じのもの。
そんなことを考えていた俺は無意識に、ホントに無意識にこう尋ねていた。
「そんなんなら俺と適当に出店回るか?」えっ?俺も驚いた。何で俺はこんなこと聞いたんだろうな、レキも断るに決まって…
「はい、わかりました」えええっ!?何じゃそりゃこりゃ…何がどうなってるんだってばよ?
「では行きましょう」そう言うとレキは立って俺が動くのを待ってる。どうしてこうなった?いやほんとに。
たこ焼き、焼きそば、皿うどんなどなど色々な出店が立ち並ぶ中、俺とレキはあてもなくふらふらしていた。まだ昼ご飯、って時間でもないしな。
「そういえばレキはあんまり声高に言える話じゃないけどお金とか持ってきてんの?」
「はい、ある程度はあるので自由には使えます」
「まぁないとは思うがスリとかには気をつけろよな。こんなに人が多いとドラとか出しづらいだろうし」
「はい」…にしてもほんっとに無口だよなこいつ。冷静沈着というか何というか、常在戦場を地で行ってる感じ。ヨーロッパでもここまでのはそういなかったぞ。
そんなレキはジッ…と人形焼きの出店を見つめてるな。欲しいのか?なら買うか。
「人形焼き、2袋くださいな」そう声をかけ、出店の店員を見ると意外なことに、不知火がやっていた。
「やぁ、明智君。君が来るとは思ってなかったよ、人形焼き2袋ね?800円だよ」そこまで言って、隣のレキをチラリと見る。そして何を納得したのか知らないがニッコリ。いつもの優男スマイルを発揮しこう一言。
「800円なんだけど…特別にオマケだ。600円にしてあげるよ」絶対にこいつ、なんか勘違いしてる。ま、安くなる分には良いんだけどな。
「600円な、ほら。……何を思ってるのか知らんが断言しとく。お前の考えてることは十中八九勘違いだ」
「そうかな?僕はそうは思わないけどな…はい、これ人形焼き2袋ね。2人とも決勝は見に行くよ、頑張ってね」
「はいよ、あんがとさん。んじゃまたな」
そう言って不知火と別れた俺は人形焼きの1袋をレキに差し出す。
「ほらよ、俺からのプレゼントだ」
「で、ですが零司さん…」
「い い か ら!な、俺が人形焼き2袋食べるとでも思ったか?人は視線だけでも情報を発する。欲しそうだったから買ってみた。それだけだぜ、いらんならもらうぞ」
「……では、ありがたく」そう言うとレキは差し出した人形焼きの袋を受け取り、はむはむと小動物みたいな食べ方で食べだした。俺の昼ご飯分けた時にも思ったけどこいつ食べ方独特な気がする。気のせいかな。
でも、まぁなんとなくだかこいつもご満悦のようで、雰囲気がいつもよりもほんわかしてる気がする。俺も食べるか、人形焼きってたまに熱い奴があるから注意しないとな。
そう思いふーふーしてる俺にレキが一言。
「ありがとうございます、零司さん」
「気にすんなよ、これくらいで感謝されても困るんだぜ」とは言ったものの、内心びっくりだ。予想外なことも起こるもんだな。
そう思いながらアッと言う間に時間は流れ、いつの間にか13時半、俺のガンシューティング決勝の選手が呼ばれる時間になってしまった。
「おっと、そろそろ時間だ。楽しかったぜ、レキ」
「はい、ありがとうございました零司さん。決勝、頑張ってください」
「そりゃこっちのセリフってもんよ。互いにな」
そう言って俺はレキと別れ、集中を高め始めつつ、選手控え室のある運営本部へと足を向けるのであった。
〜〜武偵高裏サイト〜〜
32:風吹けば武偵
1年B組のSランクの2人、明智零司とレキがアドシアードの出店を回っていたらしいぞ!!
33:風吹けば武偵
>>32マ?証拠はよ!てかロボットレキだろ?ナイナイw
34:風吹けば武偵
これは祭りの予感!wktk!
35:風吹けば武偵
>>33明智とレキが一緒に人形焼きとか買って回ってたらしいぜ
36:風吹けば武偵
なんやと!?明智56す!
37:風吹けば武偵
あ、それ俺も見た!あのアドシアード代表コンビ、付き合ってんの?学校の席も隣らしいし
などと武偵高裏サイトで零司とレキの噂が飛び交っていることを2人は知る由もないのであった。
2人ともファンクラブを(本人は知らないが)持っている
2人とも実力者として認知度が高い
お祭りの予感…!
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第22話
お気に入り数が100を突破しました!!感謝感激…!!
今回こそ、アドシアードはホントに終わりです!果たして零司君とレキはメダルを獲得できるのでしょうか…!
それではどうぞ
レキと別れ、運営本部に辿り着いた俺はいつものように本人確認をして(つねるのが昨日よりも優しくなってた、助かった)選手控え室に入ると…
そう思ってたら
「予選、準決勝と曲芸みたいなことしてたみたいだけど、決勝でもそれが通用すると思ってたら大間違いよ!このマリー・トレゾールが優勝するのだから!」なんと優勝宣言をフランス語でおっぱじめやがった。俺の前で。
案の定、フランス語がわかるやつはこちらを睨んでくるしほんとに怖いんですけど。
「あのさ、決勝であんなのが通用するなんて俺が考えてると思うの?決勝戦はあんなことする余裕ないって。あとフランス語わかる奴がお前に敵意向けてるのが流れ弾で俺にも来てるから向こう行ってくれ」俺がフランス語でそう返すと、女子ーマリー、だったか?ーは少し目を見開いて驚いている。普通なら英語もろくに喋れない日本人がフランス語を喋れるとなればまぁ驚かれるよな。
「…驚いたわ。フランス語わかるのね、貴方。わからないだろうとたかをくくってた私が間違いだったわ。というか貴方、雑誌かなんかでモデルやってなかった?見覚えのある顔なんだけど」
「雑誌?…あぁ、フランスで取材ついでにモデルやらされたっけか。俺は明智零司だ。よろしくな」社交辞令だからよろしくなんて言ってけどよろしくしないで、頼むから睨んでる奴に気づいて…!
「アケチ…うん、そんな感じの名前だったかしらね。改めて、負けないわよ」マリーさんはそれだけ言い残して元いた場所に戻った。いや、ホントに何がしたかったの、貴女?
時間は13時50分、決勝戦の舞台に次々と呼ばれていく。てか会場めちゃくちゃ盛り上がってんな。昨日の比じゃねぇ騒ぎ具合だ。
『続いて〜エントリーNo.34番!東京武偵高に突如現れた寵児ィィ!!!1年、明智ぃぃぃぃぃぃぃ零司だぁぁぁぁぁぁ!!!』
……うっわぁ、予選の時34番ってだけだったじゃん。どうしてそんなに盛り上げちゃうのさ、出たくねぇよ。
言っても仕方ないので愛想笑いを顔に貼り付け、見た目だけでも良く振る舞うと……?
「「「キャーーッ!零司様ぁぁぁ!」」」
「「頑張ってぇーーっ!!!」」
「あっちぃ〜〜!!!」…うん、何これ?零司様とはたまに言われるから良いけど…いや良くないな?そして最後の理子だろ、ここまで声届くってどんだけだよ。とりあえず営業スマイル全開にしとくか。ついでに手をちょろっと振って、これでいいかな。てかそろそろ騒ぎが悲鳴みたいに聞こえてきたな、怖え。
そうして射撃のレーンにつくと、なんとマリーが隣のレーンらしいな、奴の射撃には注意をしておこう。
『それでは行きましょう、ガンシューティング決勝戦!!ヨーイ、スタートッ!!』
号砲と同時に.44オートマグとベレッタPx4を素早く抜き放ち、居合の要領で
開始から5分経ったが依然としてこの膠着状態を覆す一手が思いつかない。かといって意識をこれ以上思考に向けると射撃の精度に支障がでる。相手がミスしてくれればいいのだがあの2人はミスから自滅する感じの相手でもない。うーん、困った。2.3回跳弾での妨害は試したけど効果ないしなぁ。
うん?
マリーがリロードしている、ここかッ!!そう思った俺は即座に地面を撃ち、コンクリートを破壊し即時的な
「キャッ!」
突然のことに注意を払わざるをえなくなったマリーはリロード後、速射をすることが出来ず数瞬だけのラグが生まれる。よし、これで彼女は脱落だ。後はナポリ武偵高の奴だ…あれ?あいつ何やってんの?撃ってないけどなんか問題あったのか?首を振ってるけど…?
『そこまでーー!!』そう思ってると終了の号砲。なるほど、俺のコンクリートを抉って的に当てた奴が最後の的だったのか。…あっれぇ?妨害意味なくね?うーん、どうだろう??
『集計結果出ました!優勝は……』お、結果出たか。次の言葉に会場全体が静まり返る…緊張するな、こういう場面は。手が震えてまくってるぜ…
『エントリーNo.34番!!明智零司選手だぁぁぁっ!』
えっ、嘘?勝ったの?マジで?よっしゃぁぁぁぁぁっ!!!
『続いて2位、エントリーNo.26番!マリー・トレゾール選手!!一位の明智選手とは8点差!!』ん?8点差…?的の中央が10点だから…ブラインドショットのお陰、なのか?うん、そういうことにしておこう!あれは無意味なんかじゃなかったんだ!
「やられたわ、お見事よアケチ。私の負け。でも最後のは関係ないから!」
「あー、うん。だよね、現実逃避しても仕方ないよね。ナイスゲームだった。ありがとうマリー。」マリーさんに現実叩きつけられたとさ。
『優勝した明智選手にこれからインタビューを行います!明智選手、是非こちらへ!!』うっわぁみんな見てる中に出ていくのか、辛いっす。静かなとこがいいなぁ。まぁ、泣き言言っても仕方ないので行くんですけどね。
俺がインタビュアーの所に行くと会場は大盛り上がりで「明智!明智!」なんてコールまで鳴り響く始末。こんなのご先祖様が見たらなんて言うんだろうなぁ。
『まず、優勝おめでとうございます!』
「ありがとうございます」インタビュー中は営業スマイル貼り付けときますか。
『芸術のような銃技を見せた予選と準決勝、うって変わったようにシンプルに的を捉えた決勝というイメージですがいかがですか?』
うっ、いきなりぼんやりした質問。答えづらいな。
「そう、ですねぇ…予選と準決勝は相手の弾を弾いて行った方が効率が良かったんですが、決勝はそうもいかなくて。あはは、決勝は本当に精神力が試されましたね」
『次、つまり来年は連覇がかかりますが出場はお考えですか?』
「いやー、できれば他の奴にやってもらいたいです…僕なんかよりも優秀な武偵はたくさんいます。その中で僕がこのガンシューティングで優勝できたのは色々な偶然が重なった結果です。来年はもしかすると予選敗退、なんてこともありえますから、できれば他の方にやってもらいたいです」
『なるほどぉ…色々考えていらっしゃるのですね。それでは最後にこの会場に集まった人たちやテレビで見ている視聴者の皆さんに一言お願いします!』
「そう、ですね…ひとまず、ここまで応援してくださった皆さん、ホントにありがとうございます!それで、この次はスナイピング決勝ですが、私と同じ学年の奴が出ていますのでそいつにも期待していただけると嬉しいですので、できればチャンネルはそのままでお願いします。(笑)最後に、私がこの舞台に立つまで支えてくれた皆様に多大なる感謝を示させていただきます、ありがとうございました!」ここまで言い切ってテレビ画面に向けて微笑んで手を振る。これで滞りないだろう。
『ガンシューティング優勝の明智零司さんでした!おめでとうございます!さて、次は14時30分からスナイピングの決勝です!』
アナウンサー兼インタビュアーに礼をして運営本部に逃げ込む。マジで疲れた…人の注目浴びるのって結構疲れるな。
さて、関係者口からこっそりスナイピング決勝見よっと!
時計を見ると14時40分、着替えたりしてたら遅れちまったな。そう思いつつ俺は関係者口を通ってこっそりスナイピング決勝を覗き見ると…おお、やってるやってる。途中から見るとちょっとわかりづらいけどレキが少しリードしてるのかな?
10分くらいそれが続いていると号砲。どうやらレキも優勝したようだ。おめでとう、レキ!
んで時間はいきなり進み18時半。帰りのHRで改めてお祭り騒ぎになったが、チャン・ウー先生も空気を読んでくれたのか止めなかった。隣クラスから理子とか来てめちゃくちゃになってたな。まぁ、そうだろう。このクラスからアドシアードの金メダル獲得者が2人も出てくるなんてことは異常事態以外の何物でもないからな。
んで帰ろうとしたらキンジ達に呼び止められてなんでかアイマスクと耳栓、ついでに鼻栓まで付けられてどっかに連れてかれることになった。いやなんで!?ちょっマジで助けてー!!
と叫ぼうとしたらキンジが俺の手に
お台場のファミレスにキンジと武藤、不知火に理子さらには白雪とレキと平賀さんまで集結していた。レキもアイマスクされてたっぽいけどな。
目を白黒させてた俺にキンジがこう告げた。
「いやさ、お前らがアドシアード代表になった時点でおめでとう&お疲れパーティ開くことは決めてたんだけどさ、2人とも優勝しちまうなんてな。2人ともおめでとう!」白雪がそれに続く。
「私も星伽には反対されたんだけど、こういうお祝いの日だから無理してでも祝おうと思ってお願いしたらなんとか許してくれたの。明智君にはいつも相談に乗ってもらってるから、そのお礼だと思ってね。お金は私たちが払うから、レキさんと明智君は好きなもの食べて」
…お、お前ら…!
「もしかしてキンジが朝隠してたのって…」
「そうだよ」キンジはぶっきらぼうに、だけど嬉しそうに答えた。照れ隠しって奴か。
「あっちにもレキュにも普段から助けられてるからさ、これくらいは気にしないで、ね?」普段ふざけてる理子まで…!
やばい、これは少し隠しきれないかもな…
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ…追うなよ?」そう言ってこっそり泣いてきた。涙を他人に見せたくはないからな。
その時の温かい雰囲気が、俺はかけがえのないものだとおもった。
はい、ということで無事優勝しました!
ご都合主義?あー聞こえない聞こえない!
次回から新展開です。
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第23話
アドシアード編がひと段落して今回からは零司君達が任務を受けるようです!それではどうぞ!
アドシアードが終わって一週間、その間俺たちは珍しく平和な日々を過ごしていた。でもまぁそこは武偵業界、平和な日々ってのは長続きしない。案の定
呼ばれた時のB組連中(特に女子、男子はなぜかざまぁみろと言わんばかりの眼差しを向ける奴もいた)の可哀想な奴を見る目は忘れない。
「今度は何やらかしたかねぇ、特に記憶はないんだけど」悲しいかな、今年3度目ともなると流石に教務科の前も慣れた。特に何も思い当たる節がないので普通に入ることにした。
「失礼します。1年B組、明智零司です」
「おーぅ、明智かぁ。よく来たなぁ、こっちだ」
そう名乗るとあいも変わらず危険そーうな葉巻を咥えた綴先生がクイックイッと手を向けてきた。怖いなぁ…
綴先生に引き連れられて来たのは面談室とは名ばかりの尋問室。入ってみると探偵科担当教諭ということからか高天原先生もいた。危険度が少し下がったな。
「うん、あーっとあれだ明智。アドシアード優勝おめでとおー。」
「あ、はい。ありがとうございます」
「んでさ、話は2つあるんだよぉ。んでまず1つ聞きたいことがあるんだよねぇ。えーっとあれだよ、あれ。お前
あー…その話か。あんまり言いふらすほどのことでもないし言ってなかったんだけどな。
「はぁ、必要以上に言う必要もないかと思って言ってませんでした。というかヨーロッパの奴らが偶に言ってくる
そうなのだ。水を持ち手のように扱い、3本の小太刀を操る。そこに三頭剣の本懐はある。名前は気に入らんけどな!!
「はぁ…一応どんな系統の能力か一応調べとく義務ってのがうちらにあってなぁ?その如何によっては自由履修でSSRの受講出来るようにはなるんだよ。つーわけでゲロッてくんない?後ちょっと使ってみて」
使ってみて…か。湿度はこの間梅雨入りしたから少し高めだしまぁ使えるんだけどさ。
「わかりました。俺の超能力ってのは…っと、こんな感じに水を操る能力です。基本的には空気中の水蒸気から取ったり、雨とかからも操れます。一応何もないところからも水を創り出すことも出来ますが、前述の使い方よりは精神力を使うって所が難点でしょう。操れる範囲は純水、水溶液までは操れますが、水銀とか臭素といった水を一切含まないものは未検証です。推定Gは18〜20かと」そう言いつつ俺は空気中の水分を手の平の上にひとまとめにして武偵高のエンブレムの形にしてくるくる回す。それを見た綴先生と高天原先生は少し驚きをあらわにしているが、流石は先生。表情にほとんど出さない。
「なるほどなぁ、お前のその能力はSSR専攻にしても十分お釣りが来るものだぞぉ。一応私とゆとりでSSRの自由履修も組めるようにしとくから受けたいときは言ってくれぇ」
「はい、ありがとうございます」
とそこまで言うと今度は高天原先生がこちらに向き合った。
「それでね、2つ目のお話は、入学式の日に校長先生からもお話はあったと思うんだけど学校からの指名任務のお話です。」
「あぁ、はい。ありましたね確かに」今までなかったから忘れてたけどな。
「今回の依頼は、最近横浜近辺の中国系暴力団の華龍組っていう所が
不審な動き、つまりクスリか銃検を通していない銃の違法取り引きって所か。でもそれって…
「あの、失礼ながら質問させていただきますが、それってどちらかというとキン…遠山とか一石といった強襲系統の武偵がやるべき仕事ではないでしょうか?最近色々自由履修を取っているからとはいえ一応探偵科の俺にはいささか荷が重いかと思うのですが」
「うん、そうなんだけど遠山君は別件での依頼が入ってて招集できないんだ。一石君とレキさんはもう参加は決定してるから、明智君の探偵科としての情報収集力、調査力が欲しいって所なの」
なるほどな。高天原先生の言っていることはおそらく本心だろう。そしてその上で俺がどの位の戦力になるかといったところを見たいのだろう。
「…あの、ちなみにLDスコアはいか程で…?」
「そうね…相手の武装がはっきりしないからなんとも言えないけれど8500は下らないかな」…!武偵の任務の難しさを測る1つの基準、Level of Difficulty。通称LDスコアと呼ばれるそれは6000を上回れば立派な一流武偵が受けるくらいの難度だ。それが8500以上となると、ほんの一握りの優秀な武偵しか受けられない程の難度だ…!きっつい戦いになりそうだ…
俺の雰囲気の変化を読み取った綴先生は愉しげに笑い、高天原先生は信頼の眼差しを向けている。
「……わかりました。といっても拒否権はないんでしたね。受けます」そういうと高天原先生は安心したような声で、
「それじゃあ、よろしくね」などと言うのであったが、ただでは受けないぞ。前々から考えてた
「ですが、1つだけ条件を。放課後の20分間だけ、武偵高のプールを貸し切りにしていただけませんか?」
「…ふむ、何に使うのか知らないけどいいよぉ〜。20分でいいかぁ?」
綴先生の気だるげな声に俺は頷いた。
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第24話
色々してたら何日か日付を飛び越えていた罠()
ご先祖様は大事にしましょ!
それではどうぞ!
放課後、俺と(その辺にいたから
「なぁ、明智。いきなり手伝えって言われて
「うん、それは僕も聞きたかったな。何を手伝うのかはっきりしないとできないしね」
面倒くさそうな声を出しつつのキンジに困惑している不知火に俺はこれからすることの説明をする。
「キンジには中学の時に俺が
「信じてないけどな」
「今回はそれの応用で出来そうなことを実験的にやろうと思ってる。お前らにはなんか物をプールの中に入れて隠して欲しいんだ」
そう、俺がやりたいのは水中での感知。空気中での感知はすでに何度かやってるし、これもアイディアとしてはあった。ぶっつけ本番でやるものじゃないし試す機会がなかったからやってなかったけどな。んでもってこの機会。やらずに逃すのは惜しいってもんだ。キンジはまぁ、仕方ない。あいつは超能力とか魔女とか信じてないからな。
「とりあえずわかったよ。んで僕たちは何を隠せばいいのかな?」不知火は物分かりがいいのか人付き合いのいいのか評価が分かれるところだがありがたいな。
「そうだな、それも感知する対象にするから耐水性のあるもんならなんでもいいさ。ケータイとか落として弁償とか言うなよ?いやマジで」
冗談半分でそういうと2人ともくすっと笑ってくれた。よかった。
「こっちはちゃんと目隠しつけたぞ、キンジの確認も済んだ。一旦プールを離れるからその間にプールの水の中に隠してくれい」そう言い残しプールの室外へと出る。さてうまくいくかな?
2.3分経つと誰かがプールの部屋の扉を開いた。だれかなー?
「おい、明智。こっちは出来たぞ、ついてこい」そう言ったのはキンジで間違いないな、不知火が変声術を使って面白がるのはあんまり考えられないしな。
キンジに連れられプールの縁に着く。そして俺はプールに片手を突っ込み、能力を使ってみる。
……!!なるほど、ソナーみたいに水の部分と水じゃない部分が個別に判断できるような感じか。
「キンジ、まず今俺が触ってるのは1レーン側だよな?」
「あぁ、それがどうした?」
「いやね、ちょっとした確認さ。じゃあ5レーンの中央にバタフライナイフか…?が1つ。2レーンのここから見て最奥に…うーんこれは消しゴムかな、が1つ。6レーンの18メートル付近に抜き身のナイフ2本。それで7レーンの水上にお菓子かなんかの袋が1つ。それで…痛っ!ちょっと休憩だ、能力の負荷がすごいな…これは」そこまで一気に言うとそばにいたであろうキンジを避けつつ寝そべる。結構鮮明な何があるか把握できるな、今来ている頭痛は少しずつこれを使って使い方に慣れつつ効果時間を増やしていけばいい。
そんなことを思っていると上からキンジがポツリ。
「すげぇ、今言ったところは全部あってるぞ。お菓子というかパンの袋だけどな。あと何個か言うか?」
「いや、いらん。あともうそんなに数は多くないし残りが銃弾なのもわかってる。大きさまではまだ特定しきれてないけどな」そう言ってると遠くから不知火から声がかかった。
「いやぁ超能力ってあんまり見ないけどすごいね。どうやって判断してるんだい?」
結構難しい質問だな。ソナーみたいといえばそうなんだがもっとわかりやすい例えを見つけたぞ。
「そうだな、不知火は味噌汁とかにアサリが入ってるの飲むか?」
「え?うんまぁ飲むけどそれがなんの関係があるんだい?」
「まぁ焦んなさんな、簡単な話だ。そのアサリに砂が入ってると独特の感覚があるだろ?ジャリって感じの。それに感覚的には近いかな、んでその違和感がしたものの形をソナーみたいにして捉える。こんな感じで今はやってるぜ。まぁ、初めての使い方だから疲れがどっとキてるけどな」
そういうと不知火はへぇ、と感心した雰囲気を出してる。さて、最後の特定をしますか。
結局残った全ての銃弾の大きさを特定し、片付けてプール室を出ると丁度20分。時間厳守は良いことだ。
「キンジと不知火、付き合わせちまったな。ありがとさん、おかげで新しい可能性を見つけられたぜ」
「お前には中学から助けてもらってるしな、気にすんな」
「あはは、でも僕も良いものが見れてよかったよ」ま、2人がそういうなら良いのかな?
「そうかい。…おっと、マサトとレキを待たせてるんだ、んじゃまたな!今度学食のパン1つくらいなら奢ってやるよ」
「一石君とレキさん?そりゃまた豪華なメンツだね、任務かい?」
「学校からの奴だ、あんまり言うなよ?キンジたちも任務があるんだってな、無事でやってこいよ!」
「おう、お前こそな」
そこまで言って俺は予約しておいた第5自習室に向け、キンジと不知火に軽く手を振りながら走り出した。
結局
「ごめんマサト、レキ!やらなきゃいけないことがあって遅れちまった!」
そう謝るとマサトとレキはそれぞれ
「武偵は時間厳守だぞ!って蘭豹先生なら怒ったかもな、俺は全然怒ってないから心配すんなよ。命に関わるって問題じゃないしな」
「大丈夫です」と許してくれた。マサトは肝心な所で足引っ張るなよ、って言外に含んでるかもしれないけどな。
「よし、じゃあ始めるか。
「どこまで…っていうと?」
「取り引きした奴らのみの逮捕。あるいは華龍組の壊滅。さらには相手の…おそらく中国のマフィアだろうが、殲滅。どこまでを
「中国のマフィアを殲滅までは流石に俺たちでは手が回らないと思う。だけど華龍組の壊滅は
マサトの言い分はまぁ、わからなくはない。中国まで手を伸ばしてしまうと本当に世界規模なデッカい、俺たちが対処しきれない奴らが出てくる可能性がある。そこまでは要求していないし、させないだろう。といったことか。というか1つ、今の発言で気がかりな所があるな。
「『
「そうだな、まだハッキリとしていない情報だから曖昧な表現をしたが、取り引きしてない可能性もある、程度に捉えてくれればいい」
うーん、俺としては教務科からの任務だし取り引きはしているって前提で話したかったんだがなぁ。マサトがそこから疑ってるならそこから調べてみるか。
「そうだな、じゃあそこから事実確認をしてみるか。幸い、華龍組の本拠地は割れてる。横浜中華街の近くだ。俺とマサトでそこ周辺を調査しようか。そんでレキは鷹の目だな、自分で監視に適した場所を見つけて華龍組の動向を出来うる限りでいいから伝えてくれ」
「そうだな、それがいいだろう。明智、レキ、よろしく頼むぜ」
「わかりました。零司さんにマサトさん、よろしくお願いします」
「おう、こちらこそ頼むぜマサト、レキ!…ちなみにだがお前ら、特にレキだ、視力はおいくつで?」
「俺は両目3.0だな、十分だろ」
「私は左右共に6.0です」
「いやおめーらすげえな!……俺も両目4.2なのに普通に感じるぞ」
なんか自慢の1つがそんな大したことじゃないって辛いな。
そんなこんなで俺とレキとマサト、キンジが加われば学年最強の4人の内3人の作戦は開始を告げたのであった。
零司君強化回。
またか!と思う人もいるかもしれませんが、必要なことだったり。
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第25話
朝9時に俺とマサト、それにレキは桜木町駅に集合した。
「おはよう、今日から何日か
華龍組は以前から中国系マフィアとの繋がりがあったらしいが最近活発化の傾向にあるようだ。ドンパチやられたりなんかしたらこのみなとみらいの景観とか色々が損なわれてしまうし、横浜のイメージダウンにも繋がるだろうな。俺としてはクスリよりも違法銃器とかの密輸入を警戒している。ランドマークプラザの営業時間前というところから観光客というよりは会社員の方が多いのでとりあえずはどこかで着替えて防弾用の私服に着替えておきたいんだが、制服は目立つからな。
とりあえず駐車場に戻ってカジュアルな防弾仕様の私服に着替えよう。あいつらは当然着替え持ってきてるんだよな?一応聞くか。
「こちら明智、一応の確認だ。2人とも潜入だし、私服を持ってきてるよな?」
するとすぐ2人の答えが返ってきた。
『一石だ。用意はしてある、大丈夫だ』
『レキです。私服は持っていません』…オイオイ、大丈夫なのかこの任務。2人の対照的な答えに頭を悩ます。いやマサトはいい、あれが正しいからなんら問題はない。問題はレキだ。なんで持ってきてないんだよ、足跡ついたらどうすんのさ。
「明智だ。レキ、私服を取りに戻るか?車なら出せるぞ」
『……?いえ、持ってきていないのではなく持っていません。ですのでこのまま来ました』一拍おいて返ってきたレキの答えに俺は思わず惚けた顔になる。私服を持ってない?なんじゃそりゃ、ロボットレキってそりゃ言われるわな。確かに休日でも制服着てる感じはあったが…
俺は即座にマサトだけにメッセージを送る。
『おいおい、マサトどうする?このままだと出るはずの尻尾も出ないぞ』そう送ると即座に返答が返ってきた。
『そうだな、確かにそれは困る…明智、なんとかできないか?』
『いやいやいや…持ってないって言われるとは思ってなかったからどうするか考えてるんだが…買うしかない、か?』
『そうだな、それが一番早い。ランドマークプラザかクイーンズイーストあたりで防弾製のものを見繕ってやれよ』などとマサトは俺に押し付けてくるので仕方なく俺はポチ、ポチ、ポチ。
『仕方ないな、その分働いてくれよな』と返信を送りつけた。
そして通信でレキに
「明智だ。レキは桜木町駅に戻ってこい、私服買うぞ』と言いつけ、レキの返答を待たず制服のまま桜木町駅へと戻り始めた。
俺が戻ってくると既にレキは戻ってきていた。
「おい、レキ。行くぞ」そう声をかけるとレキはこくり。頷いてついてきた。最近、こんなことばっかりじゃないか?
「武偵高の制服じゃ何かを監視していますって言ってるようなもんだろ?あぁいうのはそういった機微を見逃さない。チャンスを潰しに行ってるようなもんだぞ」
「すいません、ですが…」
「ん?」
「今は、穏やかな風です。今日は何も動きはないかと」…出たよ、レキの風。ぶっちゃけ俺にゃなんのことだかさっぱりだ。
「そうかい。でも動かれてからじゃ遅いから買いに行くぞ」
「…はい」
11時になり、俺とレキはクイーンズイーストでレキの服を見繕うために服屋を彷徨っていた。
「おい、レキ。お前の好みの服ってなんだ?」
「特に好みはありません。零司さんはどう思いますか?」うーん、困った。女子の服なんてよくわからんからな。こういう時はショップの店員に任せるに限る。
防弾仕様の服専門店があったのでそこに立ち寄り店員に頼むことにした。
「すいません、店員さん。こいつに似合いそうな服を上下見繕ってやってくれませんか?」店員さんは何を勘違いしたのか、俺とレキを見やり、ニコッと笑いながらこう告げた。
「はい、彼氏さんが彼女さんについメロメロになるような服でいいですね!少々お待ち下さい」そこまで言うとレキを引き連れ店内の奥の方に連れて行ってしまった。はぁ、どうすればいいもんかね?生憎監視されてる気配も感じないしマサトに話題でも降るか。
「おい、マサト。こちら明智だ。状況は?」
間髪入れずに返答がきた。
『こちら一石。今のところは動きとか一切ないな。そっちはどうだ?』
「うーん、そうだな。レキが服屋の店員さんに服を見繕って貰ってる。こちらを監視してる気配はないから大丈夫だ。そっちも監視対象に監視されないようにな」
『了解、引き続き探ってくるぞ』
「ん、任せた」そこまで言うとマサトとの通信は切れた。あとどんくらい待てばいいのかね?
「はーい彼氏さーん!バッチリ彼女さん決まりましたよ!こっちです!」
「あの、そんなんじゃないんで…」待たされた。30分くらい待たされました。正直下手な尾行とかより疲れたな。
「こんな感じでいかがでしょうか!正直自信作です!」
「さて、どうなりましたか……ね!!?」
驚くのも無理はない。制服姿しか見たことのないやつの私服を初めて見たインパクトってこんなに大きなもんなんだな。
レキは白いレース状のワンピースの上に髪の色に寄せたのか、抹茶色(店員さん曰くカーキ)の半袖ミリタリーシャツだったかに袖を通している。靴もいつもは履いているのを見たことがない群青色っぽいバッシュに白のソックス(これはいつも通りなのか?)にしている。控えめに言って、かわいい。表情はいつも通りだけどな。
「どうですか、零司さん?これなら任務に支障をきたさないかと」
「……お、おう。良いと思うぜ」そんなことしか言えない俺を許してください神様。いやでもこれはすごい。ファッション雑誌に乗れるレベルだろ、元が良いからなぁ。
「しゃあない、それは俺のプレゼントだ。店員さん、これおいくら?」
そういって会計をしに行く俺をレキは後からついてきた。元からお金には困ってない上にこの間のアドシアードでたんまりと報酬を貰ったからな、これくらいなら問題ないだろう。
会計を済ませた俺はレキと共にクイーンズイーストを出てランドマークタワーの前でこれからの確認を済ませ、別れたのであった。
最初こそトラブルのあったものの偵察は割と順調に進み、華龍組の動向を探りつつ、俺は普段あまり来ない横浜をそこそこ楽しんでいた。
すると携帯が鳴り始めた。この番号は……!?
「はい、零司です。どのようなお話でしょうか、
『今、零司さんは横浜の華龍組の調査をしているのですね?ならば耳寄りな情報を差し上げます。華龍組のトップは3年前に代替わりし、未だ何の成果も得ていません。そろそろそのトップが何らかの成果を得るために銃器の密輸入を企てているらしいですよ。おそらく1週間以内には行動をおこすかと』
「そうですか、ありがとうございます。その情報は活用させていただきます」
『あとそうですね、夏休み辺りに帰ってこれるのであれば帰ってきなさい。それだけです、では』そう言って電話が切れる。……実家に帰ってこい、か。
明智の本家はいつからかはわからないが外国との交易を盛んにしてきた家らしい。そこと俺は千花の件で少し疎遠になっている所がある。両親では無いが、明智家の一部の人は千花が攫われたのは兄である俺の監督不行き届き、だと言っている。確かに俺もそうだと思っていて、事実上の勘当と捉えてた。
実家から遠い神奈川武偵高校付属中に行ったのもそのためだし、さっきの通話のよそよそしさもそれだ。養育費とかも貰っていない。今年の夏行くかも…怪しいな。俺が行きたくないって気持ちが強い。あの時のことを思い出してしまうだろうから。
複雑な思いを背に俺は先ほどとは打って変わり、沈んだ気持ちで調査を続けた。
前書きに書くことないから後書きに書く風潮、あると思います。
レキの服を考えるのに一番時間がかかったり。
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第26話
予定通り14時に俺たちは桜木町駅に集合し、ランドマークプラザのマクドナルドで少し遅めの昼食をとりつつ情報交換を始めた。とはいえ、レキの件があったから俺はそこまで情報収集できていない。レキの鷹の目とマサトの情報収集能力を頼りにさせてもらおう。
「んでさ、どうだ?マサトは何か掴めたか?」
「そうだね、とりあえず聞き込みを中心に情報を集めてみたが、そうだな。現地の人いわく、最近色々騒ぎが増えてるらしい。おそらく華龍組の末端の奴らだろうが、騒ぎが増えてるってことは近く何か大きな事が起こる可能性も高いと俺は見てる。倉庫を見つけられれば手っ取り早いがそれは俺よりも適任がいるだろ?」そこまで言い、マサトはレキの方をちらりと見る。
レキもこくりと頷き、それに続けるように話し始めた。
「まだ開始してから半日も経っていませんが、華龍組の付近の監視はおそらく他の組と比べても異常なくらいに堅牢でした。視認できる限り、門番のような人が2人、これは90分交代です。その次に監視カメラが少なくとも10台、それにセンサーのようなものもありました。」
…うーん、やっぱりな。ああいった奴らはバレると面倒なことをする時は異常に慎重にやるからな。んでバレそうになったらトカゲの尻尾切りの要領で末端から切っていく。一網打尽にするにはどうしたらいいんだろうな?
「それで、一石さんが言っていた倉庫についてですが、今の所はまだ動きはありません。動きがあり次第お伝えします」
そこまでレキは言うとパクリ、チキンフィレオを食べ始めた。言うべきところは言った、そういったあたりか。
「ということは俺の番よな。横浜まで足を伸ばして見たけど今の所は何もなしだ。ただし、
そう伝えるとわずかにマサトとレキがピシッと意識を張り詰めたのが分かった。流石はSランク、意識の切り替えが早いな。
「んで目下すべきことは倉庫の位置、そして取引の日時の絞り込みだな。夜は交代で監視を続ける。異論は?」そこまで聞くと2人は首を横に振ってないことを示した。
となると、ホテルの予約が必要か。俺は車内泊でも構わんがレキは(普段からそんな素振りは全く見せないが)女子だ。そんな奴を車内泊させるわけにはいかん。
「おいレキ。お前はホテルの予約は取っとけよ?マサトはどうするんかわからんが、お前は女子だし取っとけ」
「もう既に取ってあります。零司さんはどうなさるのですか?」
「ん?俺か、俺は車で来てるし車内泊するつもりだが」
「………」
うゅ?なーんかレキの目が冷たい気がする。マサトの方は…ってあれ、あいつトイレ行ってるんですけど…うーん、なんか知らんがピンチ?いやなぜに?
「あ、あのーレキさん?」
「はい」
「怒ってらっしゃる?」
「怒ってません、万全な状態を保つためには緊急性が今は無いためホテルに泊まって準備した方が良いと思ってはいますが」いや、めっちゃ怒ってるでしょ貴女?なんでかわからんけど。
「怒ってませんか?」
「……怒ってませんよ」答えるまでにタイムラグあったし。なんだろうな、ホント。
「…わぁーったよ、どっか泊まって準備すりゃいいんだろ?外国ならともかくまだ治安のいい日本で車上荒らしなんてそう無いだろうに」
結局無言の圧力に耐えかね、俺は折れた。圧力っていうかロボットにガン見されてるみたいな感じ。ちょっと怖かった。
フランスとかドイツにいた時は見てくれからヤバイやつ多かったから友人の組織の息のかかったホテルを使わせてもらった。途中から報酬金でフランスのちょっとした別荘を買ったけどね。
とりあえずやることは情報収集。そんで泊まるホテルを見つけること。特に後者はやらなかったら狙撃されるんじゃないか?味方にね。
情報交換と言える程のことはしてないが昼食をとって2人と別れた後、俺はさっさとホテルを取り関内方面へと車を向けた。すると…確かに何人かそっちの人がいるな。ほら、あの黒いスーツ着てる奴とか特にそんな雰囲気出てる。普通は見逃すかもしれないが耳栓みたいなのつけてるし、あれが通信機の役割をしてる可能性があるな。
俺は車をパーキングに停め、バレないように尾行を開始する。こういう時、俺の視力の良さは役に立つ。近づく必要がないからな。するとあっちは山下公園の方だろうか、そっちへと歩みを進めているな。あそこは人通りが平日でもそこそこ多いから集中しないとな、あともし尾行がバレていた時のために周囲の警戒も怠らないようにせねば。
スーツの男は山下公園のベンチに座り、カモメとかハトを眺めている。ありゃ、見込み違いか?そう思った次の瞬間、男は何か喋り始めた。ここからでは生憎聞き取れないので読唇術で読み取る。なになに…?
『ちゅうごくとのぱいぷがつながればおれたちかりゅうぐみもかんとうにはばをきかせられるからな みするなよ』わぁーお、ビンゴ!偶然だが情報ゲット、奴は華龍組の一員らしい。
その後も俺はバレないように海を見に来た観光客を装いつつそいつを監視しているとこんなことが分かった。
・中国との取引は明後日21時
・取引品はクスリと拳銃
・ボスは取引には出てこない、幹部が1人だけ来てあとは下っ端
ふむ、これだけわかりゃなんとかなるか。さて、そろそろお暇したいところなんだが俺はまだ動かない。いや、動けないと言った方が正しいか。俺が読唇術をしている間にそっちの方々が増えてきてしまって迂闊に動けない状態になってしまった。この動かし方は流石と言うところだな。
さて、どうしたものか。
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第27話
ピンチの零司君、どうやって抜け出すんでしょうか?それではどうぞ!
いやはや困ったな…、まだ俺にそこまで注意を向けてないからと言えどこの手の奴らは俺たち武偵とか警察たちの雰囲気を嗅ぎつけるのがすごく上手い。今下手な動き方をすればマークされちまうんだよな。派手な動きはなおさらダメだ、その場でドンパチが始まることもあり得る。
この前アドシアードの時みたいに水の人形を作って追わせるってのも考えたが…ダメだな。前は一瞬だが相手に俺が見えない瞬間があったが今はない。それに武偵高の生徒には俺の顔が割れてるが華龍組は俺が武偵であるってことを知らないはずだ。俺がここで下手なことをしてしまえば他の人にはそうそういない、それこそコスプレかなんかじゃないといないような髪の色も相まってすぐに組内で広まってしまうってのも問題だ。いや俺の青い髪は地毛なんだよ?マジで。
そこまで考えて出した結論、それはこの状況を崩さない。つまり静観。黙ってこの均衡状態を崩さず、俺が新しいアイデアを出すかあるいは向こうから俺に話しかけてくるまで待つ。これがいいかもしれない。とりあえずじっくり事を構えよう。
謎の緊迫空間が始まってから30分俺は海を見たりカモメや鳩を見たり(エサあげちゃダメだぜ?零司とのお約束な)しつつ、打開策を考え続けている。
そろそろ一般校の学生たちの下校時刻だなぁ、などと俺はなんとなくこの付近にある神奈川武偵中時代を思い出す。キンジと俺がATとか呼ばれてた時代、教師からめちゃくちゃな任務を受けたなぁ。何回(通常キンジが)死にかけたか。
そこまで考えて俺はこの場を普通に切り抜ける方法を思いつく。…なんだ簡単なことじゃん!
俺は即座に携帯を取り出しメールを送る。宛先は神奈川武偵中学の
俺はその堀田先生宛にこう綴った。
『どうもお久しぶりです、明智零司です。急な話で申し訳ないですが、今日の16時30分までに中3の探偵科または諜報科の生徒(Cランク以上を1人)、山下公園まで任務という形で呼んでいただけませんか?任務内容は「会ってから話す」で通していただけると嬉しいです。多分俺の事を知ってる生徒しかいないんでしょうが、初対面の体裁を出せる生徒にしていただけると尚嬉しいです。
またお暇な時、ランチにでも行きましょう。 明智』
よしこれで相手に傑物がいない限り俺は武偵に何かの依頼をした一般人を装えるはず。16時30分までは1時間弱あるしここまで来れないってことはないだろう。
ちなみにCランク以上を理由にしたのはこういった人たちを見分けられるやつとそうでない奴の基準が大体そこにあるってところだ。これでなんとか抜け出せる。
16時20分に見覚えのある、というか半年前まで着ていた武偵中の制服が見えた。ふーん、Bランクの佐々木が来たか。てっきりキンジの
「えっと…武偵さん、ですよね?目立つ服装なのでなんとなくわかりました」
「はい、依頼者の方でよろしいですか?」
「そうです、えっとお名前を頂戴してもよろしいですか?」
「あ、はい神奈川武偵中3年、佐々木と申します。よろしくお願いします」
「佐々木さんですね、よろしくお願いします。ではここで話すのもなんですし、この辺にあるファミレスあたりで食事でも摂りつつお話しさせていただけますか」
そう言いつつ、俺と佐々木は山下公園を抜けファミレスに向かう。華龍組たちの目は…よし誰も俺を疑ってない。なんとか抜けれた、な。
「いや〜すまんかったな佐々木。お詫びと言っちゃなんだが飯はおごるぜ?」華龍組の目から抜け出した俺と山下公園付近にあるジョナサンに本当に入りつつ、佐々木に詫びをいれる。
「いえ、明智先輩に頼られるとは思ってませんでしたし、お力になれたのなら幸いです。ご飯はいただきますけどね」
店内は空いており、すぐにテーブル席に案内された俺たちはメニューを広げつつなんとなく話し始める。
「佐々木、演技上手くなったな。奴らの目を狂わせるには十分だったぜ」
「ありがとうございます、明智先輩には劣りますが私も努力してますので褒められるのはすごくありがたいです。アドシアードの金メダルも見ましたよ、おめでとうございます」
「あぁ、あれね…二度とやりたくないよあんなの。……んでさ、どうだ?友達、作れたか?」
そう、成績や武偵としてのスペックは優秀で、父親が武装弁護士だったか?資産もあるんだが美人。いろいろ良いところはあるんだが、こいつはボッチ属性という武偵業界ではマイナスに見られがちなものを持った奴なのだ。コネクションは多いに越したことはないこの業界ではボッチ属性はデメリットなんだよ。その原因は優秀すぎて周りから疎まれるって所なんだろうが、それは違う。本当に優秀な奴ってのは周りのことを考えられて、周りのレベルに自分を合わせることができるから疎まれることは少ない。むしろ頼られるような奴なんだ。それこそ金一さんみたいにな。
佐々木は俺の質問に少し顔を曇らせた。そうか、まだできないか…
「そうか、イヤな事聞いたな。そんじゃ1つだけ覚えとけ。お前にも必ず心から信頼できるようになる奴はできる。掛け替えのない友達って奴がな。そいつから心から信頼されるような人になるんだぞ?武偵憲章にもあるだろ、『仲間を信じ、仲間を助けよ』ってな。だからお前はその時までしっかり己の技術を磨き上げるんだ、いいな?」そこまで言い切ると佐々木はしっかりと頷いたのだった。
結局1時間くらいジョナサンに居座り、色々技術とかを教えた後佐々木に別れを告げ(別れ際にお駄賃握らせてやった、任務の報酬って事でな)、俺は車に再び乗り込み、横浜の方へ車を走らす。今日の所はもう関内は使えないだろうな。というかそろそろ通話のお時間か。そう思い時計に目を見やると18時。通話の時間は19時なのでまだ1時間ある。駅周辺で適当に聞き込みするか。
「あのーすみません。武偵なんですけどこの付近で何か変な事とかありませんでしたか?」
「いやー聞いてないですね」
「そうですか、ありがとうございます」
そんなやり取りを続けて約30分、ちょっと早いがケータイが鳴った。
「はい、明智です」
『おっ繋がった、俺だ一石だ。どうだ調子は?俺はこれ以上は進まないかなと思ってちょっと早く連絡したわけだが』
「マサトか、確かにちょっと早いな。晩ご飯摂りながらミーティングにすべきだと思うがどこ集合にするかね」
『朝みたく桜木町駅でいいだろ?どこで飯食うかは任せるが』
「任された。ちょっと色々あって軽く飯食ってるから俺は軽めでいいんだけどな」
『そうなのか、じゃあ19時に桜木町集合でいいか』
「いいんじゃない、レキは車持ってないし。んじゃ後でな」
『おう、レキには俺が伝えとく』
そこまで言って通話は切れた。ちょっと早いけど俺も切り上げて桜木町駅戻りますか。
聞き込み調査をやめ、俺は車の方に戻り始めた。
この発言が原因で志乃さんはあかりにゾッコンに…?
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第28話
桜木町駅付近のパーキングが何故か軒並み混んでいるというハプニングがあり、なんとか18時58分に着いた俺はレキとマサトを探していると…いた。いやぁ、時間前とはいえ待たせたかな?
「遅くなった、悪いな」
「いえ、時間には間に合っています」
「そうだな、大方駐車場が混んでたとかそんなんだろ?それでも間に合ったって所を評価するけどな」
「それならありがたいってやつだ。んでどこで食べる?俺はぶっちゃけどこでもいいんだが」
時間ギリギリに来た俺を寛大にも許してくれた2人には感謝、だな。
結局昼も食ったマクドで手を打つことにした俺たちは昼の時とは変わっていた店員にそれぞれ注文し、適当につまみながら話すことにした。
「んじゃ俺から行くか。俺が得た情報は、予定日とモノ、そしてそこに来る人員だ。予定日は明後日21時、おクスリと拳銃が大部分らしい。んでボスは来なくて、幹部クラスが1人だけだと。なんつーかなぁ、全体を潰すには情報不足は否めないね」
俺がそう切り出すとマサトがそれに続ける。
「なるほどね、それならいい話というべきか悪い話というべきかはわからないけど情報があるな。なんでも華龍組は薬局もやってるようだからそこを突けば壊滅に追い込めるだろ?明智の話に出てきたクスリの取り引きってのにも繋がるしな」
…へぇ、思った以上に大きな魚だな。釣りがいがありそうだ。でもそれだと問題があるんだが、レキの報告を聞くか。
「倉庫の件ですが17時23分頃に動きがあり、華龍組本拠地から出た車が倉庫の1つに止まり何やら作業をしていたようです。おそらくそこが倉庫の1つかと。……ここがその場所です」
そう言いレキが取り出したのはドラグノフにつけていたのであろうスコープと、横浜付近が大きく切り抜かれた地図。まずスコープを借りて見てみると、海岸沿いに1つそれらしいものがあった。何やら作業をしている男数名付きの写真で。次に地図を見るとやはり、海岸沿いにはっきりわかるバツ印。ここがその倉庫、ということだろうな。
「と、なると1つ問題があるな。取り引き現場をしょっぴく組と組本拠地を叩く組の2つが必要だ。取り引き現場をしょっぴくだけでは組本体はしらばっくれるだろうし逆もまた然り。スピードが大事になるな」
俺がそう言うとマサトはニヤリ。彼にしては珍しい表情だ。
「俺が組本拠地を1人で叩く。明智とレキは取り引き現場を抑えて欲しい」
「おいおい、ちょっと待て。それはいくらお前でも厳しくないか?」
「いえ、零司さん。おそらく一石さんの方法が一番効率的です。一石さんに零司さんでは純粋な戦闘力では、勝てない。それは貴方が隠している
お、おお…レキが珍しく饒舌に喋ったかと思ったらマサト>俺とのこと。いやそれは別に構わないんだがなんで超能力を隠してるのを知ってるんだよこいつ。マサトは初めて知ったみたいな顔してるのに。
「そうか。2人がそう言うなら本拠地はマサトに任せるよ。但し、少しでもヤバいと感じたら通信を入れてヘルプを求めることな、これが条件だ。…てか超能力持ちってバラすなよな、こちとらバレないように隠匿してるのに」
そう言いつつ俺はコーラに付いた水分を超能力でまとめて手の上に集め、小さな水晶球みたいなものを作る。それを見たマサトは若干の驚きを見せ、レキは無表情…に見えてその実少し眉が動いている。
「マジか明智、それは知らなかったぞ。…作戦は了解した。お前らもヘルプ必要なら早めにな」
「おう、こっちは任せろ。高校世界一の
「はは、それもそうか」
互いに冗談を交わしつつ、情報交換と食事は和やかに終わった。
何やら用事のあるらしいマサトと別れ、俺とレキは歩いていた。
「そうだ、お前に聞きたいことがあったんだよ」
「なんでしょう?」
「お前さ、どこで俺の超能力を知った?」
そこまで告げると俺は少しだけ雰囲気を変える。嘘を言うことを許さない、という意味を込めて。
そんな俺のことなど何処吹く風なのか、レキは淡々と答えた。
「風が貴方のことを超能力持ちと判断しましたし、貴方が海外で任務を受けていた時の映像も少し見ました。それで超能力を使うことを知りました」
「そうかい。…今回は良いけどさ、あんまり人の手の内をバラすようなことはしない方が良いぞ。些細なことで人は敵対するもんだ、お前も無闇に敵は作りたくないだろ?」
俺はそこまで言うとレキの鳶色の目を見る。レキはこくり、無表情ながらも頷いて了解の意を示してくれた。
それにしてもまた風、か。なんなんだろうな、ホント。
そう思っていたらレキの主張は終わっていなかったらしく、一言ポツリ。
「ですが」
「?」
「隠す余裕のないほど強い相手がいる、そのことは念頭に置いた方がいいかと」
隠す余裕のないほどの相手、か。真っ先に思いつくのはやっぱり怪盗ローズリリィ。てかあいつには憎たらしいことに過去の自分がすでに超能力使っちゃってるからバレてるんだけどね。仕方ないこととは言え、そこは惜しいことをしたのかな?
あるいはフランスで噂程度に聞いた超偵攫い、
そんなことをすべて考え、俺はレキにこう告げる。
「もちろん。超能力に限らず、俺が武偵として磨いたちからは隠すためのものじゃない。己が信じた義を通す為の力、だからな」
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第29話
作戦開始日から3日目、つまり情報が正しければ21時から華龍組が取り引きを始めるその日、俺はあろうことか寝不足に悩まされていた。
というのも…
『明智君、キンちゃんが任務から帰ってきたら何をすれば良いと思う?』から始まり、
『キンちゃんの家の掃除とか、しておいた方が良いよね?帰ってきた時に埃っぽいのは嫌だよね?』
『キンちゃんの役にどうしたら立てると思う?私最近恐山に修行行ってたからキンちゃんのお世話できてないからその分役に立ちたいの。』
などと言った白雪のメール、しかも1つ1つ原稿用紙1.5枚はくだらない長さで10通くらい来たのを1つ1つ対応していたら寝不足になってしまうのも仕方ないよな。というか白雪さん、キンジへの愛重くない?『任務中だから後で』って切ってキンジを変な災難に合わせるのもなんか申し訳ないし。
「あーちくしょう、キンジ早く気付いてやれよ全く!」
だから朝からこんな発言が出てしまうのも仕方ないことなのだ。
昼はレキとの作戦の打ち合わせ兼レキの狙撃ポイント確認をする予定なので、取り引き予定地付近の中華街へ足を運ぶ。なんでレキの狙撃ポイントを決めるために俺がついていくのか、って疑問を持つ人もいるかもしれない。しかしこれはいがーいと重要なことだ。
って言うのも、俺が「狙撃手と組んで拳銃を扱ったこと」と「拳銃手と組んで狙撃銃を扱ったこと」があるから言えることなのかもしれないが、どこから味方の狙撃が来るのかを知るだけでも拳銃使いが動きやすい。それでもって狙撃手も味方の不用意な動きを気にすることなく万全の状態で狙撃ができる。分かりやすく言うと連携が取れるんだよな。
連携って面で言うと拳銃手が狙撃手のために相手を狙撃しやすいところに誘導したり、狙撃手が拳銃手を狙う不意打ちを阻止できるってのも大きいな。
その次に挙げるとすれば万一の事態のための逃走経路の確保とかなんだろうけど純粋にこいつが訓練ではないところでどういった場所でどんな狙撃をするのか。興味が湧いたのだ。
そうそうレキレベルの
待ち合わせ場所に着くとやはりというかなんというか、レキはもう既に来ており俺を待っていた。遅刻じゃないんだぜ、こいつとマサトが早すぎるんだ。
「待たせたな、というかいつも早いなお前ら」
「いえ、問題ありません」
そんなもう恒例になりつつあるやり取りをするとレキはピタリ。進もうとした足を止めこちらに向き合った。なにさ?
「零司さん、もしかして寝不足ではありませんか?」
うげっ、これだけでバレるんかい。流石プロレベルの狙撃手、見るところ見てるな。
「あらら、バレちったか。足音か?それとも歩幅?」
「どちらもです。寝不足はいざという時に影響を及ぼすのでこれが終わったら仮眠した方がよろしいのでは?」
「それも…そうかもな。迷惑かけるな、ごめん」
どうやら足音と歩幅両方見ていたようだ。ホントこいつもマサトも目敏いな。体調も万全っぽい。俺もしっかりしないと綴先生辺りにヤキ入れられそうだし、しっかりしないとな。
「そんでレキよ。どこらへんをポイントにする予定なんだよ?どうせ目星はついてるんでしょ?」
「はい、こちらです」
そう言い、レキはビル街の方へ足を向ける。特に反対する理由も無いので俺もついていくが、ビル街か。合理的といえばそうだが、言うほど狙撃しやすいポイントでも無いんだがな。
ビルの上の方は当然見渡しも良いし遮蔽物も少なめ。そこは良いんだが、問題はビル風。ビルとビルの間を吹く風ってのは結構読み辛いんだ。海辺ってこともあり、風ってだけなら海風もあるから余計複雑だ。俺も絶対半径はこの間の自由履修でこそ1800mを記録したが、ビル風を読んで撃つとなると2.3mmはずれるかもしれない。
そんな立地にも関わらず平然と
「ここにしようと思ってます、どうですか?」
「ほどほどの距離だし、良いと思うぜ。ここから向こうまで…1900mってところか。良い感じなアシスト頼む」
「はい、零司さんもしっかり体調を整えてくださいね?」
「おう、間に合わせるのはまぁまぁできるから任せときな」
レキに連れられて来たのは取り引き現場になるであろう場所と華龍組本拠地のどちらも見えるビルの屋上。距離的にマサトの援護は出来なさそうだが確認できるだけでもありがたいってもんだ。
俺は心配(多分)してくれるレキにニカッと笑い、取り引き現場での立ち回りをシュミレートすることにした。
ここからなら取り引き現場をある程度見渡せるだろうし、バックアップは完璧に近い状態で受け取れる。ならば一番に気にすることは現場への
ここで生きてくるのが小太刀と銃を左右に構えた
「よっし、シュミレートオッケー。改めて、レキ。今回はよろしく頼むぜ?」
「はい、よろしくお願いします」
意思の疎通も出来たし、少し車で寝ますか。
〜〜Sideレキ〜〜
「よっし、シュミレートオッケー。改めて、レキ。今回はよろしく頼むぜ?」
先ほどまで目を瞑って何かを考えてた彼、零司さんはそう言い陽だまりのような笑みを浮かべる。……?陽だまり、ですか。
なんとなく出た言葉に内心首を傾げる。でも、
「はい、よろしくお願いします」
彼の期待には、答えたい。なぜだかはわかりませんが、そんなことを感じました。………?感じた?私は1発の銃弾、心など持っていないはずなのに?
最近、自分がよくわかりません。体調が悪いわけでも無いのに、一体どういうことでしょう?
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第30話
なんだかんだで30話、でも進行ペースはすごいゆっくり(笑)
いつになったらくっつくんですかね?(オイ
それではどうぞ!
下見を終えた俺は車に戻り、本当に昼寝をすることにした。疲れを残すのはよくないよ、うん。状況判断鈍るし。
………。
うー…ん?ここはどこだ?夢の中…なのか?
確かに
こういうタイプの夢を見た後は脳が全然休まってないから疲れを取るって目的にはそぐわないんだよな。
とりあえず俺は辺り周辺を見回してみる。うーん、どこまで見ても草原しかねぇな。見渡すばかりの草原、絶対に日本ではなさそうだ。木が少ないところからもなんとなく分かる。
俺はとりあえず世界のどこにいるかの大体の判断としてケッペンの気候区分で分類してみる。地理とかで習う、あれだ。日本はCfaだったかの。
…温度が分からないからはっきりとは言えないが土の色味や草原が広がっていることから考えてみると
にしてもステップ気候か…とすると俺が来たことがほぼない場所となる。ほらヨーロッパって違うじゃん?Cなんちゃらとか北行ったらDなんちゃらとかそんな感じだから、あの辺。
例えばアメリカ中部。
あるいはモンゴル。ウランバートルくらいしか名前知らん。相撲強いよね、あの国。
はたまたセネガルとかといった中央アフリカ?そうなったらお手上げだ。全く意味が分からない、なんで夢でそんなものが出てくる?
下手に落ち着いた分析をしたせいで余計わからなくなってきたぞ…??焦りは判断を鈍らせる。こういう時こそ
少しでも情報を得るため、俺は適当に歩みを進める。どうせ夢の中だ、誰も見つからないだろうし見られることもないだろう。そんな考えの俺に転機が訪れる。第一村人の民族衣装を着た女性発見だ。案の定こちらを見向きもしない。そしてその目鼻顔立ちを見て先ほどの候補が一気に絞られていく。
第一村人はモンゴロイド、つまり俺たち日本人と近い黄色人種だ。となると先ほどの候補の中で出てくる答えは1つ。モンゴル、これが答えだ。
…答えなのはいいけど何故モンゴルの夢を見る?因果関係が分からない。
第一村人のいた場所から500mほど先に集落のような建物が見える。定住する形でなく、移民系なのか簡素な作りだ。近づいてみよう。
集落まで100mも無いくらいまで近づいた時、俺は2つの違和感に気付く。というのも
そしてもう1つはその場にはそぐわない恰好、つまりトレンチコートを着た男とその付き添いなのか普通の洋服を着た女子がいて、何やら部族の族長みたいなお婆さん(また女性だ、ホントに男性がいないのか?)ともう1人、こちらは顔が男の影に見えないが、その人となにやら話をしている。
何が問題かというと男の方ーー白人痩せ型で、座っているからはっきりとは言えないがスラッとしたというよりはひょろ長いという感じの背、鷲鼻で少し顎が角ばっている。そして何より好奇心旺盛ですよ、といった感じの眼差し。おそらくイギリス系統の人だろうーーあの人からは何か得体の知れない強さを感じる。
夢でよかったと思いつつ、こっそりと聞き耳を立ててみる。
「……申し訳ないですがお引き取りください。私たち△▽▼はあなたたちを信用することができません。この★○♤はそういった人には渡せません」
「ふむ、まぁそうなるだろうね。致し方ない話ではある。こちらこそ無理を言ってしまったことをお詫びしたい。いやね、性分というものは中々変わるものじゃなくてね。貴方たちが★○♤を持っていると聞いてつい欲しくなってしまったんだ。いや、気にしないでくれ。老いぼれの戯言さ」
所々分からない言葉が混ざってくるが基本的にはロシア語と日本語の混ざったような不思議な言語だ。
何かの交渉に男が来て、頓挫したって所だろうか?なにやら大切なものらしいがはっきりしたことは分からないな。
そうしていると帰り支度を終えたのか男と女は立ち上がり出口のあるこちらに歩み寄り始めた。
「それでは、また機会があれば会いましょう。ーーーの族長と次代の姫」
男はそこまで言うと一旦言葉を切り、視線をこちらに向けた。……ってはっ?
「それに、君もね」
そう告げると男は今度こそやることを終えたと言わんばかりに歩き出した。周りの反応からするに男以外は俺を認識していないハズ。逆に夢で見ているに過ぎない俺になぜ気づいた……??
俺はそこまで考え、族長と呼ばれた人と次代の姫と呼ばれた人のいる方を向く。……!?どういうことだ?髪の色は今とは少し違うが鳶色の目は……あぁックソッ、夢が終わる。目が、覚めるぞ……!!
ハッとなって目が覚めた。なんだったんだ、あの夢は。女しかいない部族、俺の存在に気づいたかのように話す鷲鼻のひょろ長い男、それに……次代の姫と呼ばれていた…
(あれ、レキだよな…??)
我ながら意味のわからない夢を見た。やっぱり変な予知夢は見ないに限るな。
結局健やかな眠りを取れなかった俺はとりあえず監視体制に入る19時半まで(なんとあと2時間半、びっくり)食事をとったり、それとなく辺りに気を配りつつ過ごした。夢の内容は気になるけど今はお仕事。分けなきゃさすがにマサトとレキに呆れられる。
そして19時半、俺は取り引き現場のすぐ近くに潜伏し華龍組が動き出すのを待ち始めた。
「こちら明智、配置に着いたぞ」
『レキです。今確認しました、こちらも配置についています』
『一石だ。明智、レキ2人とも無線聞こえてるな?俺はまだ配置についてはいないが監視体制には入っているぞ』
無線もしっかり繋がってるし問題はない。こちらから見えない部分をレキに補ってもらいその情報を元に俺は最適な行動を起こす。うむ、シンプルだ。実にシンプル。
ここはとりあえずご先祖様が言った(とされる)言葉をリスペクトして呟いとくか。
「敵は波止場にあり、なんてな」
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第31話
お気に入り数、150人突破しました!!いつものことながら、ありがとうございます!
対華龍組も大詰め、寝不足の零司君はしっかりと逮捕することができるのか!?!?それではどうぞ!
潜伏を始めて早60分、夜の8時半頃。華龍組の動きはまだ、ない。その間ずっと緊張感を張り詰めて待っている。狙撃をするときとかにもこういう待機状態や緊張状態ってのはあって俺は悲しいかな、慣れてはいる。慣れてはいるけど気分の良いものじゃないよなぁ。釣りで魚が釣れるのをひたすら待つってのにも似てるけど釣りほど気楽にできるものでもない。そういった独特の状況で待つ。ひたすら、待つ。
待っているとブォーッ!!っと船の汽笛が不意に聞こえ何事かと思うが体は動かさない。動いたら隠れてる意味が薄れるからな。
そういえば今日は横浜ベイスターズのホームゲームだったか。あの球場、ホームチームの誰かがホームランを打つと汽笛鳴らすことがあるからな。多分それだろう。
そう思っていた俺にインカムから無線が入る。
『零司さんですか?レキです。華龍組本拠地から車が2台でました。おそらく今零司さんがいる取り引き現場に行くためかと思われます。より一層気を引き締めて下さい』
『一石だ。こちらからも確認が取れた。おそらく内部は加工されているのだろうが形だけはトヨタのヴェルファイア2台だな。で、どうする?もうそろそろ頃合いだと思うんだが』
……ついに動き始めたか。ヴェルファイアは7人とか8人とか乗れる車だ。最悪20対1を想定して動くべきだな。
多対一の一側の基本的な動きはまず敵の
そこまで考え俺は2人に指示を出す。
「明智だ。まずマサト、お前は申し訳ないけどまだ待機だ。今はまだその時じゃない。決定的なところでマサトには動いてもらう。次にレキ。レキは俺が戦闘に入ってすぐはまだ攻撃をするな。俺が右手の親指と人差し指だけを伸ばした状態で上に手をやったら狙撃開始だ。そんで狙撃なんだが……お前って
『はい、
「お、おう…いつもお前には驚かされるな。んじゃそれを使って狙撃地点がどこからなのかある程度でいいから判断できなくさせてくれ。頼むぜ」
『わかりました』
『こっちも了解した。タイミング逃すなよ?』
「もちろん」
指示系統が乱れない軍隊の弱点と言い切れるかどうか微妙だけど一応弱点は出処の分からない攻撃。そういう面では狙撃ってのがこれほど適しているものもない。その狙撃手がうまいなら尚更だ。
『標的、そろそろ取り引き予定地に着きます』
10分するかしないかでレキの声がインカムに響く。抑揚があるわけじゃないけど声、綺麗だよなコイツ。聞き取りやすい。
「了解。あとは手はず通りに」
『はい』
それだけ伝え俺は細心の注意を払い、車が到着するのを待つ。ほどなくして先ほどの報告通りのヴェルファイアが波止場に到着し、中からぞろぞろと出てくる出てくる。
あとは取引先の中国系マフィアさんにご登場いただいてまとめて逮捕と行きたい所だ。
『零司さん、海の中から潜水艦のようなものが来ました。数は2隻。おそらく取引先のものかと』
あれから10分ほど待ち続けているとレキからの報告が来て、同時に俺は苦虫を噛み潰した顔をする。どうやって来るかとおもったら
「お、来ましたね。あなた方が取引先の
「
そういってランパンと名乗った中国訛りっぽい発音の少女は側に控えていた奴を使って取り引きする物を持ってこさせるようだ。ならそこで強襲開始だ。
俺はインカムで指示を通す。
「明智だ、マサト準備はどうだ?」
『一石だ。いつでもいけるぜ、後は明智の
「いいねぇ。んじゃこっちはそろそろ取り引きが始まるからカチコミかけるぜ。インカムを切らずにそのままにしておくから、マサトはこっちの強襲開始を確認したら強襲開始で行こう」
『了解だ、キッチリ決めさせてもらうとしよう』
よし後は捉えるだけ。しっかりと手ぬかりなくやっていこう。
「これが注文の品アル。チャカにドスによみどりみどり!キヒヒ、しっかりクスリもあるネ」
「注文通りだな、よし代金を支払うとしよう」
ヤクザは予め持ってきていたらしいお金を少女に渡し、少女もそれを受け取った。うん、ここしかないよな?そう判断した俺はマサトに小さく「スタートだ」と呟き、反応を待たずに小太刀を一本抜いて走り出す。標的はもちろん、奥で4.5人に守られてえっらそーにしてる幹部らしき人。そして銃はまだ、出さない。音が出る都合上今のタイミングには不向きだからな。
素早く幹部を守るヤクザの側頭部に蹴りを打ち込み、そのまま幹部の方へ蹴り飛ばす。
「ひっ!?」
「はいはいすんませんねっ…と」
突然の出来事でビビりまくりの幹部さんの腹めがけ峰打ちでフルスイングする。そんな使い方で良いのかってツッコミくるかもしれないけど気にしない。哀れな幹部はそのまま吹っ飛び護衛の幹部の1人を巻き込んでぶっ倒れた。
「はいはい、という訳で武偵です。密輸とかその他諸々で逮捕しまーす。大人しく投降するのがオススメですよ」
残された護衛のヤクザを適当に小太刀でいなし、ベレッタPx4ストームを取り出し、取り引き現場を見やる。取り引きをしていたヤクザは茫然自失といった感じで…ふーん、ランパンとかいう少女の方はビックリはしてるもののどこか楽しげ。なーにがそんなに楽しいのか。
「キヒヒッ、
そういって
「チッ、煙幕なんざ出しやがって」
そう言い、俺は即座に超能力を発動し水を放ち煙を落とす。視界は再び
『追いますか?』
「やめとけ。水中はさすがにお前でも狙撃範囲外だろ。……で、残された華龍組の皆々様々!全員、逮捕な?」
レキじゃさすがに水中は無理だろ?無理、だよな?まぁ、それは良い。とりあえず残された華龍組残り10人くらいを睨めつけると戦闘の意思は残っているようで、全員迎撃態勢に入ってきた。ふーん、統制は出来てる方なのね。んじゃ、遠慮なく!
「そうですかい。全員敵対、か。ま、当然っちゃ当然な話か」
そう言い俺は一番近くにいたヤクザに向け走りつつ、左手のベレッタPx4ストームで一番遠くにいるヤクザの右肩、左膝を撃つ。警戒がわずかに薄れていたところに銃弾を浴び、ヤクザはその場に倒れこむ。
一々確認している暇はない。そのまま近くのヤクザに斬りかかり、ヤクザがそれを避けて右肩が来るであろう位置に半ば置くように銃を撃つ。ヤクザは俺の想像通りに動き、肩に銃撃を受けよろめいた。そこにトドメの峰打ちで気を失わせる。
ここまですると残りのヤクザは単体で挑むことの無意味さを知り複数で挑みかかるような陣形になった。うん、ここかな。
俺は即座に右手の小太刀を鞘に収め親指と人指し指を延ばした状態で上に向ける。
いきなりの意味不明の行動にヤクザは揃いも揃って上を向いてしまう。仕方のないことかもしれないが、
キッキキンという金属音と共に陣形の中央にいたヤクザが地に倒れる。狙撃を受けたことを理解してるのかな?
と思うと何人か理解していたようで顔面蒼白になってるな。とりあえずレキに狙撃ストップを指示し相手の出方を伺う。
「オ、おい今の狙撃だろ?無理だ、勝てるわけねぇよこんなの」
「なっ、お前らそんなこと言ってもムショ放り込まれるんだぞ?今なんとかしねぇと俺たちに未来はないんだぞ?」
なんつーか敵なはずの俺の前で呑気な話をしてるなぁ。
「そ、そうだ!本部に連絡すれば良いじゃないか!その手があったか!」
「残念だったな、本部は俺の仲間がもう手をつけてるところだぜ?残念なことに助けに来てもらうって手も打ち止めだ。さて、もっかい投降を促すけどどうする?」
まるで明日の朝食をどうするか聞いたかのような気軽さで聞く。こうすることで相手よりも心理的に上だぞ、という誇示をする。
その誇示はどうやら効いたようで、残りのヤクザは全員武器を捨て両手を頭の上にあげ、ホールドアップの姿勢をとった。
「賢い選択、ありがとうございます」
俺はそう言いヤクザ全員に手錠をかけたり、ロープで縛ったりする。同時にレキに神奈川県警への連絡をしてもらい素早い対応をしてもらうことする。神奈川県警は中学の時よく協力したりしていたからそれを覚えてる人も多いだろうし、なんとかなるでしょ。
「ふう、これで最後の1人っと。誰も逃げてないし非常によろしい」
最後の1人を縛り上げ、俺が次にすることは海に駆け寄ること。何をするかというと、この間の実験で採用する価値はあると判断した水中感知だ。これでランパンの連中の行方を探る。
……っふぅ、まだこの感覚はなれないな。んで潜水艇っぽいのは……っあった。もう横須賀あたりまで行ってるとは、思ったより早いな。俺もなるべく早くやったつもりだがあそこまで行かれると流石に手を出せない…。
仕方ない。ランパンよ、今回はお前らの勝ち逃げで許してやろう、だが次は無いぞ?
俺は海面から手を引き、超能力で手に付いた海水を払いながらインカムで経過を確かめることにした。
「明智だー。レキ、神奈川県警は連絡ついたか?」
『はい、零司さんの名前を出したら懐かしそうな声と共に現場に急行してくださるとのことでした』
「それならよかった。マサト、今平気か?」
『はいよ〜今移動中だ。経過だろ?7割は終わった、残り20分くらいで片付けるからこっちにも輸送車の手配を頼む』
この短時間でもう7割制圧したのか、バケモノか?あいつは。そうなると俺も本当にやることないな。
「わかった、その辺は任せとけ。レキは俺と合流な、そこからだと本部を狙撃するのは無理なんだろ?マサトも終わったら合流だ、今日はもう遅いし終わったら学園島まで輸送してやる」
『わかりました、今から向かいます』
『恩にきる』
そこまで連絡をしてちょうど来た県警の人に懐かしそうに声をかけてもらい、ヤクザと密輸品を輸送車に送ってもらう。どうせそこまで良い品じゃないだろうしくすねたりはしない。
その後とことこと歩いてきたレキと本当に20分くらいで片付けてしまったマサトを車で拾い、学園島に戻る。もう時間も遅いので
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第32話
もう9月ですって、早いですね…
今回で2章は終わりです!そしてそろそろ…ははは()
それではどうぞ
…チュンチュン、チュンチュン
……ん、もう朝か。今日はものすごくよく寝たな、目覚めが良すぎて二度寝しそうになる。
朝ごはんを作ろうと冷蔵庫を見た俺は次の瞬間、しまったっ!と頭を抱える。
というのもどのくらいの期間任務に就いているか分からなかったので任務の前日までに傷みそうな食材を使い切ってしまい、残念なことに冷蔵庫の中はほっとんどすっからかん。これはいけませんねぇ。
仕方なく俺は寮の近くにあるコンビニへと足を向ける。すると男子寮に行こうとする1人の巫女服が。というか白雪だな。
「おーい、白雪!こんな朝早くからどうしたんだ?」
「あ、明智君。任務終わったんだね、おかえりなさい」
白雪はこちらを振り向きニコッと大和撫子スマイル。良妻賢母のタマゴだよな、こいつは。振り向いて分かったけど重箱持ってるし、大方キンジに朝飯渡しに行くとこだろうな。
「おう、ただいま。……じゃなくて、キンジか?」
「えっ、あっその…うん。明智君はなんでもお見通しだね」
いや誰が見てもバレバレ…って言うのを喉元で飲み込み、俺はキンジがもう帰ってきていることを知る。
「なんだ、キンジももう帰ってきてたんだな。心配して損したぜ」
で、と一旦話を切り俺は話を続ける。
「どうだ?キンジは振り向いてくれそうか?」
そういうと白雪はピクッと背筋を震わせる。あーこりゃダメなやつだ。
「あ、いやそのえっと「まだダメか…」…うぅ、はい」
「なんでだと思う?正直俺はなんで気付かんのか分からん、あの朴念仁にはお手上げなんだが…」
「私に魅力が無いからだと思うの…ほらなんというか私って地味、でしょ?キンちゃんは悪くないの、私のアピールが足りないと思うの」
いやぁそりゃねぇよ、顔良し気立てよしで性格もよし。身体的特徴…ほらアレよアレ、も高校生のそれじゃないしこうやって朝飯を作ってくれるんだぞ?キンジに問題があるって考えるのが妥当だろ、どう考えても。
とはいえ、それを素直に言うのも憚られる。キンジは
「そうだなぁ、ぶっちゃけ白雪はどう思う?これをこのまま続けてお前の恋は実ると思うか?」
「わ、私はキンちゃんが楽しいのならそれでいいの。もちろん好きだけどキンちゃんと私のこの世界が続くならこのままでいいの」
どんな世界だよそれ。キンジは認知してんのかね、その世界。
「ま、とりあえずほどほどにしとけよ。キンジはあんまり甲斐甲斐しく世話されると鬱陶しいって感じるタイプだからな。相談あるならいつでも乗るから。んじゃな」
「ありがとう明智君。明智君は、優しいね」
そう言い白雪は微笑みを見せながらもどこか暗い顔をしているのであった。
コンビニに着いた俺は何食べようか考える。妥当なところはパンかおにぎりか。
そう言いパンコーナーを見るとメロンパンの限定品があるのを見つけた。なになに、りんごクリームを入れ、生地にもりんごを混ぜたメロンパン……??哲学か何かだろうか?
気になったのでこれと普通のあんぱん、ついでにブラックコーヒーを購入して食べてみる。
ついでに報告書も仕上げるか。俺は部屋に戻り、パソコンと学生カバンを持って車に乗り込み行儀は悪いがパソコンを打ちながら朝食を摂ることにした。
メロンパンの味はこれでもかというほどりんごりんごしていて、りんごパンと言った方が正しいんじゃないかと思った。
報告書をさっさと纏め、久しぶりの教室に着くと周りは一瞬静まりかえり次の瞬間、
「明智が帰ってきたぞー!!」
「Sランクの良心が戻ってきた!!」
「「零司様ぁ〜〜!!!」」
ドワッと騒ぎ始めた。最後のは聞こえてない。聞こえてないったら聞こえてないからな!!
ちなみにSランクの良心とは俺のことだ。なんでかって?そう以前聞いたら他のやつを見てくれよ、
「おう、帰ってきたぜ。まだ疲れが取れてないからちょっと静かにな」
それだけ言うと俺はしーっと指を当て頼み込む。すると一部の女子が倒れた。意味わからん。
そのまま周りの奴らと軽く雑談をしているといつの間にやらHRが始まる時間に。気づいたらレキも来てるし。
「オハヨウ、ワタシノカワイイ生徒タチ。明智クントレキサンハ今日任務カラ帰ッテキタノネ、オカエリナサイ。明智クンハ放課後、ワタシノトコロニキナサイネ」
「あ、ハイ。わかりました」
げえっ、また武偵高三大危険地帯、
「……快進撃を続けていた織田信長ですが1582年6月21日に悲劇が襲いかかります。そう、本能寺の変ですね。……」
今は3限の日本史の時間、丁度俺のご先祖様の1人のお話をしているが正直聞き飽きたってのが感想。本家で耳に穴ができるほど本能寺の変の表も
そう思ってると周りの連中がチラチラこっちを見るので頷き、ご先祖様であることを認める。あー、教務科また行くのか…鬱だ。
はい、一般科目終わり!日本史の後根掘り葉掘り聞かれたから(差し障りのない範囲で)答えてやった。あいつら教師に聞けよマジで。
というわけで今年もう何度目かわからない教務科棟に俺は来ていた。
「1年B組明智零司です。チャン・ウー先生に呼ばれたので来ました」
「ハイ、明智クンイラッシャイ。コッチヨコッチ」
声のある方向を見やると高天原先生と(声しかないが恐らくいる)チャン・ウー先生が待っていた。
とりあえず俺はそこに用意された席に座り話を待つ。
「明智君、任務お疲れ様でした。
「ありがとうございます」
代表して高天原先生から話を始めたのでそちらに向き合う。何の用だ…?話が見えてこない。
「今日はすごーく大切なお話があって明智君を呼びました。明智君になんと、
うっわー、、、そういうことか。中3の時からフランスとかイタリアで打診はあったんだ。そのときは
「はぁ…分かりました、んでその候補は?」
「そうね、三頭剣とかとか青龍剣とか…色々あるんだけど…」
そう言い渡したのは一枚の紙切れ。見ると古今東西あらゆる言語で出てくる出てくる。こんなかから選べってか。
……うーん、仕方ない。これが無難なのだろうか。
「この水君っていうのは?」
「あーそれはフランスからの推薦で
オーロワ。大方フランス語で水を意味する
「じゃあそれでお願いします」
「分かりました、国際武偵連盟にはそう伝えておきますね。それにしても15歳で二つ名持ちとかすごいすごい」
「ソウネ、ワタシノカワイイ生徒カラ二ツ名ガ出ルノハスゴク嬉シイワ。明智クン、オメデトウ」
表情が嬉しそうな高天原先生と声が嬉しそうなチャン・ウー先生に対し俺はどんより雨模様。本当になんということをしてしまったんだ、俺は…。
帰って引きこもりたいぜ。
「あーはい。それで今日はこれで終わりでしょうか?」
「うん、そうね。今日はわざわざごめんね」
「いえ、では失礼しました」
そう言い、俺は教務科を出る。何人も俺のこと隠れて見てるが気にしない。一つ言わせて欲しい、今日は厄日か?
ということでタイトル回収。水君でオーロワと読ませます。
それではまた次回!
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第3章〜全ての始まりは新月の夜に〜
第33話
今回から新章、ついに物語が動き出す…?かも
それではどうぞ!
華龍組征伐を終え早くもひと月と何日かが経った。その間、変わったことも変わってないことも沢山あった。
まず変わったことから。まずは公式に
それに本業の
あとは…そうだな、キンジとか理子、あるいは武藤あたりから冗談で
「
そうおちょくられることも増えたな。慣れってのは怖いもので自分でも
ここまでは変わったことを言ってきたから、次は変わらなかったこと。まずは周りのみんな。周りから引かれたりするのかなと思っていたんだが、全然そんなことなく今までと同じように接してくれる。出る杭は打たれる形式にならずにすんだのは本当にありがたい。
その次は平賀さん。二つ名割引とかしてくれるかな…?って聞いてみたけど平賀さんはにっこり一言。
「有名になったらお金沢山もらえるのだ!明智君は大口顧客様なのだー!」
なんかほっこりした。割引もあるとなお良かったけどな。
俺が二つ名がつくことで(密かに)恐れていた日常生活の崩壊というものはほぼなく、有り体にいうとやっぱり
「やっぱり俺って日常が好きなんだなぁ」
「いきなりどうした明智?心のそこからの微笑みを浮かべながら」
「なんか物思いにふけってたのかな?明智君らしくないや」
「あー、いやごめん」
武偵高自体の異常性はともかく、俺はこうやってキンジや不知火たちと駄弁ったりするのが好きなんだと再確認できた。
「はい、今日は指紋の検出の仕方を学びますよー!」
今日は探偵科の授業を受ける。指紋の検出について学ぶようだ。
「ではーはい、明智君。指紋検出に用いられる主だった方法を4つ答えてください」
「はい。液体法、気体法、粉末法、光法です」
「正解です、ではその用途の違いを答えられますか?」
「液体法は紙から指紋を検出したい時、気体はプラスチックなどから検出したい時、粉末はガラス製品、光法はビニル製品ですよね」
「素晴らしい!明智君の言う通りです、皆さんも不安がないようしっかり覚えてくださいね」
あー怖え、ミスったらめちゃ笑われるでしょこんなの。今はしっかり答えたから良かったけどさ。
その後実際にペットボトルとか拳銃、時計などから指紋を検出して今日の授業は終わりとなった。
授業も終わり、部屋に帰ろうとしているとたたたっ!とこちらに理子が駆け寄ってきた。
「あっち〜!一緒に帰ろっ!」
「ん、理子か。別にいいけど俺は車だぞ」
「むふ〜!つまりりこりん、車で攫われちゃう?きゃー!!」
「その言い方は危ないしなぜ嬉しそうに身をよじる。女子寮まで送ってやるからさっさと乗るなら乗れ」
「なんだかんだ乗っけてくれるあっちかっこいいー!きゃはっ☆」
なーにがきゃはっ☆だ。はなっから
流す曲は…クイーンでいっか、CD入ったまんまだし。そのままボヘミアン・ラプソディが流れ始める。Is this the real life? Is this just fantasy? Caught in a landslide No escape from reality Open your eyes Look up to the skies and see……
俺はこの曲結構気に入ってる。入りのピアノのテンポとか聞いてて安らぐ。
「あっちってこんなのも聞いてたんだね、ちょっと意外かも」
理子が本当に意外そうに言ったので俺もそれに乗っかる。
「洋楽も好きだよ俺は。というか理子の中で俺の聞いてる曲のイメージって何さ?」
「そうだねー……嵐とか?AKBとかは興味なさそうかなぁ。後はゲームとかしてるんじゃない?」
「おっ、いいセンいってるぞ。嵐は部屋に一応全部のアルバムと少しのシングルがあるぜ。ゲームも正解だ、とはいえお前みたいなギャルゲーは範囲外だけどな」
「えーなんでよ!面白いじゃんギャルゲー!」
「興味ないなぁ。FFとかドラクエ、あってFate系だ」
「おっ!あっちFate/EXTRA持ってる?」
「おう、一応あるがなんでだ」
「やりたいから貸して!」
「別に構わんが……CCCもつけるか?」
「おうおう!やりたいでござる!」
なんだその返事は。ござる口調とかキンジの戦妹の風魔以来だな。
「しゃーないな…明日な」
「りょーかい!りこりんうれしー!!」
そんなにゲームを借りれるのが嬉しかったのか、ハイテンションになった理子を女子寮前で降ろして俺は自室に向け車を走らせるのであった。
食事や風呂、日課の黙想を終え、理子に貸すゲームもしっかりカバンに詰めた俺はそろそろ寝ようとしていると、ぴろぴろりんっとメールがなった。
送り主は…レキか。珍しいな、あいつがメールなんて。見るか。
『今夜23時に第2女子寮屋上まで来てください』
……はい?なんでまたそんなとこに用があるんだってばよ?まー仕方ない、バレたらマズイけど行きますか。
来いと言われた10分前に第2女子寮屋上に着くとなぜかドラグノフを持ってきているレキは既に来ており、俺が来るとこちらに目を向けた。
「おいレキ。こんな時間に呼び出すなんて、どうしたんだよ」
「単刀直入に言います」
そう切り出したレキは鳶色の瞳をいつも通りに開きとんでもないことを宣言してきた。
「私と結婚してください」
………はい?
理解が追いつかない俺に、帰りに聞いてきたボヘミアン・ラプソディが聞こえてきた気がした。
Oh baby - can't do this to me baby
……ああ 君がそんな仕打ちをするなんて
Just gotta get out - just gotta get right outta here
……すぐに逃げ出さなくては、今すぐ ここから逃げ出さなくては!
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第34話
ついにレキさんが動きましたね!(ドラグノフ付き)
そして今回は結構長いです!それではどうぞ!
こんな夜遅くに呼び出しておいて言うことが脈絡のない結婚をしてください、だと……?
もしかしてめちゃくちゃヤバい奴?俺の命的に。
こういうのはまず情報を抜き出すのが先決だろう。
「い、いや待ってくれよレキ。な、何言ってんだよ…?」
「ですから、結婚してください。そう言ったのです」
全く話が通らない、これはマズいだろ…!!
「いやそうじゃなくてさ。なんでそんなことをいきなり言い始めたんだよ?言っちゃ悪いかもしれんが心当たりがないぞ俺は」
「分かりませんか?」
「全く持って完璧に分からん」
「私と零司さんが結ばれれば零司さんもウルスになれますから」
ん……?ウルスってなんだ?いやどっかで聞いたことがあるような…
…!!あの夢の中で俺のことを見抜いた白人がそんな感じの言葉を言ってなかったか?
『それでは、また機会があれば会いましょう。ーーーの族長と次代の姫』
ここの聞き取れなかったところに入るのが確かにウルスという発音だった気がする。
恐らくその……結婚すればウルスになるってのはそのウルズ族の一員に俺が入るってこと。
でも……
「ごめん、レキ。いきなりすぎて話についていけないけど一つだけはっきり言えることはある。お前と結婚することは今のところ、出来ない。俺がお前のことをしっかり知らないってのも一つだし、逆もそうだろ?そんな相手と俺は結婚することは、出来ない」
「それは違います。互いのことを知るのは結婚してからでもいいはずです。これは指令なので退くことはできません」
俺はその言葉にさぁーっと水が引くように冷静になった。レキは今
「なるほど、指令か。その指令元は、風。違いないだろ?」
「はい」
その一言で俺の固まりかけていた意識ははっきりと方向性を示した。
「悪い、レキ。それは受けられない。お前がどういう意図で俺にそう言ったのかは知る由もないが俺はその期待には答えられない。んじゃ、明日な」
そこまで言って俺は帰ろうとする。するとビシッ、という音を立て扉のノブが壊された。
原因は言うまでもない、レキの
レキは一切表情を変えず、俺に無慈悲な宣言をした。
「逃がしませんよ」
依然として第2女子寮の屋上で俺はレキと向き合い、レキの雰囲気からして戦闘になりそうな予感を察知する。なので俺はレキとの距離を測りながら一応装備の確認をする。
…小太刀2本に.44オートマグ。ベレッタPx4ストームは整備しようと思って置いてきてしまった。これなら
「……零司さん」
「どうした?その雰囲気しまってくれるとありがたいんだが」
そんなバリバリな戦意出して言うことがロクな事なはずがない。
「私も少し強引にしすぎました」
「そりゃそうだ。言わんでもわかるだろ」
「ですので貴方に時間を与えようかと」
時間ねぇ…5年くらいあると嬉しいな。
「最大7分間でどうでしょう。私はこれから7回零司さんを襲います。貴方が一度でも1分以上逃げ切れたら求婚は撤回します」
は…い?7分間だと?時間って5年くらいはないと思ってたけどひと月くらいくれないのかよ?
てかこの子、襲うとか言っちゃったし!!もうなんなんだよ本当に!!あれか、昼に平和っていいなぁって言ったから平和の終焉フラグたったのか!!
最悪だ。なんだよこれ。入学試験の時のトキメキ返せよこんちくせう。
「もちろんどこに逃げようと、あるいは逃げなくても構いません。ただし、零司さんもご存知の通り、私の『
んな事知ってる。アドシアードのチャンピオン相手に逃げ切れるわけねーだろこれ。俺も狙撃銃は扱えるが、俺の狙撃銃のG43を持ってきてない事とその絶対半径の違いのおかげで狙撃戦に持ち込めない。仕方ないだろ?こんな事になるなんて推理をしていなかったんだから。
流石に頭を悩ます俺の目の前にはレキが何時でも狙撃できますよとでも言わんばかりに体勢を整えている。
今日は月が出てこない新月。街灯のほのかな明かりを背に、レキは俺に立ち塞がる。まるでここから先は行かせないと言わんばかりに。
こうなりゃ意地だ。僅かながらの抵抗をさせてもらう。
「待てレキ。ここまでお前の要求ばかり俺に押し付けてきたよな。俺も要求しても構わんよな?」
「………いいでしょう。なんでしょうか」
「時間を要求する。お前が俺を襲う前に8分間寄越せ。その間は俺はここから動かないし、他人に助けを求めたりしない。考える時間を寄越せ」
レキの様子から得られるギリギリの時間を要求させてもらう。正直、無策で戦うには荷が重すぎる相手だ。キンジとかならわーって逃げ出すんだろうけどな。そんで逃げ切るの無理と判断してこっちに戻ってきそうだ。本人は否定するだろうが
「……いいでしょう、8分間零司さんに差し上げます。ただし今いる位置から半径50センチ以上離れた場合は猶予を放棄したと捉え、襲撃を開始します。」
「あぁ。それでいいよ、話がわかって助かるぜまったく」
「??」
俺は皮肉のつもりでそう言ったんだが、レキの様子だとわかってないっぽい。
さてそんな事よりせっかく猶予を貰ったんだ、有効活用させていただこう。
まずレキの7回、という意味。何をするにしてもこの謎の数字の意味を理解しなければ話にならない。
7回という事は最終7回目でレキにとっての結果が生まれるということ。その結果は狙撃銃を使うところから恐らく……
(お命頂戴、ってことよな…)
それくらいはやりかねないような雰囲気を今のレキは纏ってる。つまり最初の6回までは他の何かを狙う。6回…左右3回ずつか?いや両手両足を狙った後2回分残る、没だ。ならなにか二つ一組になってるもの3対ということか…?
そんなもの……あった。ボタンだ。確認はしていないが今レキのドラグノフに積んであるのは
あっれー、レキさんってもしかしてヤンデレ?いや、恐らく仕事の一つ程度にしか捉えてない。そういう目だ、華龍組の件の時の目とそこまで変わらなかった。つまり、そういうこと。?
ここまでレキからもらった8分のうちまだ1分も経っていない。あと7分で対策、こちらの準備を整える。
まず対策だが…うーんなかなか厳しい。こちらの準備はそこまでいいわけではないのに対し恐らくレキの準備は万端。さっき装甲貫通弾と推理したがそれで安易に水の
以前レキは
ドラグノフは銃剣を取り付けることも出来る銃だが流石に狙撃より上手いということはないハズ。なぜなら俺は彼女の徒手格闘を見たことがない。
レキの技術なら近距離にすることなく相手を撃つからやる必要がない、あるいはやってもできないから身につけていないのだろう。筋肉のつき方もキンジや不知火、あるいはマサトなどといった強襲科のそれではないしな。
そしてレキは一つ重大な思い違いをしている。それは『超能力者は長い時間動けない』
これだ。確かに
俺の超能力の分野を
そして俺が使う物質は………
つまり使用するものと使う超能力が同じなんだ俺は、幸運なことに。
これでも中3の時まで、つまりヨーロッパに行くまでは使う量が超能力で起こせる量よりも多くて、他の超能力者と同様に短時間しかその力を使えなかったんだが、イタリアの武偵高で消費を抑える使い方ってのを教わって訓練したら消費よりも生産の方が上回らせることに成功したんだよな。
恐らく公式で二つ名を付けるってなった際に提示されたもので『水』や『青』と言った文字が多く使われていたのはこれに起因するんだろうな。
ただし、精神力はガリガリ削られていくので最大でも2時間半ってのが限度なんだけどな。
レキは恐らくこのことを知らない。ならばそこに勝利の糸口がある。
そこまで考えていると、レキの棒読み口調が時間を告げる。
「時間です、零司さん。7回目までに降参することをお勧めしますよ」
「言ってな、俺は負けないぜ」
そう言って俺は今俺の出来る最大出力の8割の力で空気中の水を制御下に入れ、足りない分は自分で造り出してそれも制御下に入れる。
その際、常に摂取できるように調整も怠らない。
7月の少しジメッとした気候、そして海に近いという学園島の性質のおかげで俺の制御下にある水は10万リットルを超すくらい、つまりプールの水量の4分の1位の大質量になり、俺の後ろを竜巻のように取り巻いている。
これが俺の余りやらない本気の戦闘スタイル。やったあと疲れるからな。
そんな大質量にも怯まずレキは銃を構え、そのまま発射する。俺はそれに合わせ水を動かして盾にする。
しかし…
ビシッ!という音を立て俺の左のカフスのボタンが吹き飛んだ。やはり対超能力者用の弾を使っているか!ならば…ッ!
俺は即座に水の操作をやめるために纏っていた水を体が消費した120%分だけ残し、残りを海に射出して制御を終える。
そして2本の小太刀を構え、3歩下がる。来るなら来い、そう言わんばかりに。
レキはそのまま第二射に移り、タァーンッ!と撃ってきた。
俺は消費分の水を口に流し込みつつ動体視力に任せて小太刀を振るう…!
キィンという音を立て弾を切ることには成功する。
しかし…
バシュッ!先ほどの再現のように左のもう一つのカフスのボタンが無情にも飛んだ…ッ!!何故だ…?俺は確かに弾を切ったハズなのに結果は俺の敗北。流石に意味が分からない。
いや、意味は分かるんだ。本当は認めたくないだけ。レキは
俺の
俺は小太刀をしまって右手に.44オートマグ、左手は親指、人差し指、中指を立て銃のように見立てる。そして先ほど程ではないが再び超能力を起動し左手に
対超能力弾によって、超能力で作られた水は完全無力化される。しかし空気中から得た水は超能力の管轄を失っても
さっきのは超能力で造った量が多すぎて壁にしきれなかったけどな。
タァン、タァーン!
眉をピクリとも動かさずレキは俺を狙撃する。これで負けたら終わりだ…!そう思った俺は普段以上に集中力を注ぎ込み、弾の起動を読む。一つ目の起動は俺の右のカフスを狙っている。2つ目は右足の外側、当たらない、ならば無視が正しい判断だ。
レキの撃つドラグノフの7.62×54mm
だけどオートマグの.44AMP弾と即席ではあるが
俺はいつも以上に精密な射撃をする。右手のオートマグ、左手の水。どちらも寸分違わぬところに撃ち込む。すると、なんとかスピードが落ちてきてカフスのボタンの射線からはズレようとしている。ここが正念場だ…ッ!!
もう少しで反らせるというその瞬間、俺はあり得ないものを目にする。目に、してしまう…!
ズレてきた弾の斜線にレキの次弾が迫り、初弾を掠める形で動いたのだ。次弾は俺の右足の外側を飛ぶと判断した俺のミスだ…!!
後発の弾に押されて軌道を再び変えた初弾をズラすことができず、そのまま初弾は俺の右カフスのボタンを
「………ッ!!」
あんまりな光景に俺は動かない。いや動けない。あの瞬間、俺は出来うる限りのことをやりつくした。しかし結果はこのザマだ。どんなことをしてもこの少女には勝てない、そんな気までしてしまう。全てはレキの手の内、なんだろうか。
ちらりとレキを見やるとわずかに驚きをたたえた眼差しでこちらを見ている。なんのつもりだ、敗者に向ける眼差しじゃないだろそれ。
ハッとしたかのように呆然と立ち尽くす俺の制服の第二ボタンをそのまま撃ち落とす。当然金属バットで打たれたような衝撃が俺を襲うが俺は未だに動けずにいる。本当の戦場ならば直ぐに撃たれるような棒立ちしか、俺には出来ない。
「れ、レキ。こ、降参だ。負けを認める」
「はい」
倒れそうになるのを必死に堪え、震える唇でそう告げるとレキはドラグノフの狙撃体勢を取りやめ、元の、いつものレキに戻った。
…どうしよう、これ。
ただ、一つだけ分かるのはこれで俺は平穏な日々とサヨナラを告げるんだろう。
こうして俺は月の無い夜、高校に入って初めて、同学年に敗北を喫したのだった。
〜〜レキSide〜〜
「………ッ!!」
目の前の男性…零司さんが声にならない声をあげる。それと同時に私の放った初弾右カフスのボタンを2個まとめて弾き飛ばす。
正直に言うと想定外、でした。私が狙ったのは右カフスのボタンのうち前のボタンだけです。後ろのボタンは次に狙う予定であり、まとめて弾き飛ばすつもりなど毛頭ありませんでした。
それをこの人は射線を私の想定よりもずらしたのです。結果としてボタンを2個破壊することにはなりましたが、全くもって私の意図する所ではなかった。
つまり、次は逸らされるかもしれない。
そう思うといつもとは違うような感覚に陥ってしまいそうでした。
ハッと気づくと前の狙撃から1分経ったので制服の第二ボタンを撃つ。しかし、零司さんは無抵抗でそのまま狙撃を受けました。
(…?)
ふと零司さんを見ると、こちらを怖い、と感じているのがわかるくらい小刻みに震えていました。
「れ、レキ。こ、降参だ。負けを認める」
「はい」
零司さんからの降参を受け、私は狙撃体勢をやめる。
ーー本当にこれでよかったのでしょうか?
私にはよくわかりません。
はい、零司君初の完封負けです。(金一戦は訓練の一部なので除外)
しかし、零司君は知る由も無いですがこれはレキにとっても初の『負け』だったり。
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第35話
……
……。
………。負けちまったかぁ……畜生、まだ届かないのか…?
レキに降参した俺はへなへなとその場に座り込む。一体どうすればいいんだよ、この状況。
そう思っているとレキがなにやらこちらに近づき、なんか知らんが跪いた。いや、なにしてはるの?
「では零司さん。今から私は貴方のものです。これから契りの詔を復唱させていただきます。別の言葉から現代日本語に翻訳したのでぎこちないかもしれませんが、そこは目を瞑ってください」
そう言ってレキはなにやら文言を言い始めた。
軽くまとめると、
・レキは俺のもの、所有物。武力や身体をご自由に使ってよし。
・レキは俺の言うことすべてに従う。もし俺に何かあればその元凶を滅ぼす。
・ウルスの47人で俺の力になる。永遠に。いつまでも。
そこまで言うといつものぽけーっとしたレキに戻って動かなくなった。ごめん、流石に理解できないし承服しがたいな、これは。
レキは確かに美少女だ。これは多分武偵高の生徒100人に聞きましたをやっても99人は認める。残りの1人は天邪鬼だろ、そんなん。
でも俺はこいつのことをなーんにも知らないし、恋愛をしたくて武偵高に来たわけじゃない。俺の頭はそんなピンク色をしていない。
ここには怪盗ローズリリィに復讐するために来た。俺の武偵としての研鑽の大元はそこからだし、俺が武偵を続けてる理由でもある。
それが見てみろ。同じクラスの隣の席のSランクの奴に求婚されて敗北するこのザマを。こんなんじゃローズリリィには遠く及ばないだろう。
「………それで終わりか?そんじゃ俺は帰るぞ、明日な」
危険は去ったと見て俺はレキに背を向けノブが壊れてしまったドアを超能力でウォーターカッターを創り出し、切り落とす。そして強引に開けた扉から帰ろうとする。
するとあろうことかレキはとこ、とこと俺の後ろについてきた。試しに俺は立ち止まってみる。レキも立ち止まる。再び歩き出す。レキも歩き出す。
……コレアレか?部屋までついてくるやつか?
「…なぁ、レキ。このまま俺の部屋に来るつもりか?」
「もちろんそのつもりです」
うわぁ、これは言っても聞かなさそうなやつだ。バレるととんでもないことになるが仕方ない。これも我慢だ。
「はぁ、学校行くのに必要なもんだけ取って来い。ついて行ってやるから」
当たり前だが、俺はレキの部屋どころか女子寮の部屋になんか入ったことはない。って言いたかったんだけどな…
(以前理子の部屋でゲームしたから来たことはあるんだよな…)
ちなみに理子の部屋はなんでか知らんけどコスプレグッズが所狭しと並んでいて結構な規模の服屋みたいな感じになっていた。何か着せようとしてくる理子をあしらうの結構疲れたんだよな。
「ここです」
そう言ってレキは非接触のICキーを取り出し、部屋に入る。これ、俺も入れってことよな。
「お、邪魔しま…す?!」
思わず動揺してしまった。というのもレキの部屋には物らしい物がほっとんどなく、カロリーメイトの空箱が何個かとテーブル、その上にある銃の整備用の道具しか見当たらない。
なんというか…うすら寒いな、これ。きょうび監獄とかの方が物があるんじゃないか?テレビもないしここ。ていうか床!コンクリなんだけどこの子、今までどんな生活送ってきてたんだよ。
流石にこれは、ない。もっと女子らしくしたら人気も出るのにな、こいつ。
レキはテーブルの上の整備道具をひとまとめにし、カバンとなにやら箱を沢山持ってこちらに戻ってきた。
「これで十分です」
「あ、そう?そんじゃ行きますか」
沢山持ってる箱の一部を持ってやり、俺は自室に戻ろうとする。するとレキはポケットをごそごそして、なんか取り出して俺に渡してきた。
「一応、ここのカードキーです。生活の拠点をこちらにすることは少ないでしょうが、渡しておきます」
「あ、はいどうも。…ってなんでやねん」
なんでかカードキー貰ってしまった。一応持っとくけどこれ、どうするかね?
その後俺とレキは俺の自室の前までやってきていた。結局ホントにこいつはついてきた。心労が増えそうで今更ながら泣きそうだ。
「…はぁ、この部屋だ。しょうがないから
「はい、ありがとうございます」
俺はレキにカードキーを渡し、部屋に入る。レキもそれに続いて入ってくる。
幸か不幸か、俺の部屋は元々4人用のを1人で貸切にしてる状態だからレキの部屋くらいなら用意できる。
「レキはどの部屋にするんだ?」
「では、この部屋で」
「はいよ、そこは空いてるから好きに使え。あと寝室はこっちな」
「ありがとうございます。あと、零司さん」
「??…なんだ?」
「リビングのテーブルを少し貸していただけませんか?」
「?いいけど」
そう言うとレキはテーブルに部屋から持ってきた工具を広げ、ドラグノフの整備を始めた。俺はとりあえずそれを見守ることにする。っていうかもうそろそろ日付が変わっちまうな、早く寝ないと明日に関わる。
レキは迷いのない手でかちゃかちゃと整備を進めていく。普段からやってるやつの手つきだ。丁寧だな。そんで整備が終わったのか、壁に向けて仕上がりを確かめている。
「どんくらいの頻度でやってるのさ、整備?」
「使った日は毎日行っています」
マメだな。こんだけやってりゃミスなんてないんだろうな。
レキは、続いて俺も運ぶのを手伝った箱から中身を取り出す。出てきたのはドラグノフ用の弾、7.62×54mmR弾薬だ。
「零司さん。すみませんがいまからしばらくの間、あまり息をしないでください。呼気に含まれる水分が銃弾に付着して狙撃に支障が出る可能性がありますので」
「こだわるやつだな…はぁ」
俺はそこまで言うと指を鳴らして超能力を発動させる。そして不思議そうな表情をしているレキに説明してやる。
「今俺が超能力使って、その天秤から半径50cm以内の湿度を0.03%まで落とした。なにやるのか知らんけどさっさと終わらせてくれ」
「はい」
レキはそれだけ言うと机の上に銃弾を20個、パッと見等間隔に並べる。そして一つだけ取って残りを足元に置いてあったらしいカゴに流し込む。
さっきマメだと言ったが、これは少しばかりやり過ぎじゃなかろうか。先ほどの荷物の中に天秤もあったことから銃弾は自作、そこからさらに最優のものを一つだけ選び残りは棄てる。こんなことやってるやつはそうそういないと思う。
キンジなんかやっすい米軍横流しの銃弾をさらにセールの時に買うっていう別の意味でやり過ぎな事やってるからこれ見たら驚くだろうな。
「時にレキよ、そこまでやるのは大いに結構だが不発の経験、ある?」
「ありません。銃は私を裏切りません」
「だろうな。ま、一応気をつけとけよ」
ま、そうだろうな。俺も一応銃弾は自作しないとオートマグなんか使えないから自作するが、こんなに精密にはしないぞ。というか水分の時点で俺はやらん。
レキの整備が終わったので俺は超能力を解き、軽くシャワーを浴びるために浴室に行く。寝る寸前に汗かいたからな。軽くヨゴレを落として寝るか。レキにはちゃんとリビングか自室にいるよう指示している。俺のあとに入らせてくださいみたいなこと言ってたな、そういや。
「なんかこれからが修羅場になりそうな気がする…」
そう言った俺の呟きは誰にも聞こえず、消えていくのであった。
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第36話
シャワーを浴び終え、リビングに戻った俺はなぜかは知らんが体育座りでぽけーっとするレキを目にする。人の家来て何やってるんだろうね、この子。
「レキ。夜も遅いんだしシャワー浴びるならさっさとな。明日に響くぞ」
「はい」
そういうとレキはその場で立ち上がった。何するのか見てると、しゅる、しゅる…
……!!!!何やってんだこいつ!
「おいレキ!なんでここで制服を脱ぐ!?馬鹿かお前は!!?」
「なぜと言われましても、服を脱がなければシャワー浴びられませんので」
「いやいやいや!!頼むから洗面室の中で着替えてくれ!!恥じらいを知ってくれ頼むから」
「……?恥じらいというものははわかりませんが、わかりました」
そう言い、レキは脱ぎかけた制服を着なおし洗面室に行く。恥じらいを知らんって本当に女子高生か、あいつ。ありえんだろ…
………木綿か。っていかんいかん、この脳内画像を削除しますか?イェス!オフコース!
シャワーから出て、寝ようかという時にレキはまた問題行動を重ねた。というのも……
「あのー…レキさん?リビングで片膝立てて、何をしていらっしゃるのでしょう?」
「寝る準備です」
そう、この人なんと座って寝てるそうです。いつも。常日頃から。
……いやありえんだろ、普通。武士か、武士なのか?ご先祖様はどうやらやっていたかもみたいなことをお爺様から聞いたことがあるけど現代でやるのは時代錯誤も甚だしいでしょ…
「俺の安眠のために頼むから寝室で寝てくれ、マジで」
「敵襲に対する備えなのでそれは受けられません」
て、敵襲って…あーもう!めんどくさい!
「俺が寝てる間自動で発動する水分感知仕掛けときゃいいな!いいから!寝室で!寝てくれ!頼む!」
「……わかりました。では寝室を使わせていただきます」
「そうしてくれ」
俺のマジ顔に何か鬼気迫るものがあったのか、それともいつも通りなのか。何はともあれついにレキは折れてくれた。そして同時に俺の1人部屋、言い忘れてたけどサヨナラバイバイ。2人部屋、しかも女子と相部屋とかホントにどうしてこうなった。
ふと時計に目を見やる。0時半。これは明日の朝練はナシだな、睡眠はしっかり取らないとコンディションが上がらん。
俺は2つある2段ベットの右側の下段に入る。レキに後で何か言われるのも面倒なので本当に対人用の水分感知を仕掛けておく。ICカード以外のなんらかの方法で扉が開けられた時にその相手の左肩を遠慮なく吹き飛ばす高めの威力調整。多分脱臼は免れないだろうな。
ちなみにレキは左の下段に入っている。寝つきは早いのか、もう寝てるような感じだが…
そうだな、起きてる奴特有の気配がある。少し話をしたいことがある。
「レキ」
「はい」
「お前の言うところの風は……どうして俺なんかを選んだんだろうな?」
レキは珍しく一呼吸ほど置いて考えて、答えた。
「わかりません」
「そうだろうな。俺なんk「ですが」……?」
「ですが少なくとも風は零司さんのことを選びました。そこにどう意味があるのか、それは私の考えることではありません。私は1発の銃弾なので」
おいおい、1発の銃弾って本気でそう思ってるのかよ。
俺はそれを言おうか迷って…言うのをやめた。その代わりにこう聞く。
「レキ自身は俺のことをどう思ってるんだ?」
「……」
レキは再び思案顔になる。こっちから聞いておいてアレだが、恥ずかしいな。さっさと切って寝よう。俺は恥ずかしさの余り、赤い頬で照れながらこう言う。
「なんてな!今のは忘れてくれ。いいか、忘れろよ?んじゃ俺は寝るから。お前もさっさと寝とけよ、おやすみ」
そう言い、俺はもう何も聞きませんアピールをして寝る。できれば、この一連の出来事が夢であることを願って。
まぁ、予想通りというかなんというか。夢オチなんてものはなく、俺が起きるとレキはまだ左のベッドで寝ていた。
仕方ないので俺は起き、朝食を2人分作る。今日は味噌汁にご飯、焼き鮭の一般的な日本食だ。
時計の針が6時半を指すとほぼ同時にレキが起きてきた。
「おはようさん、レキ。飯できてるから食うぞ」
「はい」
テレビをつけ、天気予報を見る。うん、今日もバカみたいに晴れるようで。洗濯物もよく干せるな。
「……」
ちらりとレキを見やるといつもとは少し違う様子でテレビを見ていた。その表情が…なんというか、幼稚園の頃の千花に似ていたんだよな。
「レキ。飯食うぞ」
「あ…はい、いただきます」
ぼーっとしてたのに気付いたのか、レキは俺の向かいの席に座ってご飯を食べ始める。ひょいぱく、ひょいぱく。早いな、食べるの。
「んで、どうやって学校行くつもりだ?」
「普通に徒歩で行く予定ですが」
「女子生徒が男子寮から出ることに問題を感じないのか、お前は」
「……?つまりどういうことですか?」
あー、本気でわかってない顔してるよこの子。
「遅刻ギリギリに俺の車で出るぞ。それならバレる可能性を抑えられる。早起きして誰も来ないうちに行くというのも考えたけどそれをするには起きる時間が遅すぎたからな」
「わかりました」
わかってるのかね、ホントに?
俺の寮の前を止まるバスで、朝のHRにギリギリ間に合うのは7時58分発。だから俺は8時ちょうどに出れば少なくともバス組にはバレない。うん、そうだろうそれしかないよな。
そうして朝食を終えた俺たちは8時ちょうどに車に乗り込み、HRギリギリにクラスに乗り込んだ。ちなみにレキには俺の部屋で暮らしてることは言わないようにキツく言っておいてある。本人には理由がわかってないっぽいけどな。
俺とレキが入った瞬間、一瞬教室が凍りつく。え、何?思ってたのと違う反応なんだけど。
やがて1人の男子生徒が俺にガッ!と顔を近づけ、聞いてきた。
「おい明智!レキさんと一緒に寝たってマジか!?」
「はい?」
え、なんでもう広まってるの?てかどうするのコレ?冷や汗が俺の背中を流れてるような気がする。
「深夜にお前とレキさんが並んで部屋に入るのを見たやつがいたらしいから聞いてるんだよ!で、明智。答えは!!?」
教室の視線が俺と男子生徒に集まってるのを感じる。イヤホント、どうしたもんか。
……。
………。
…………。仕方ないかぁ…チクショウ、なんで俺がこんな目に…!
頬をかきつつ、しどろもどろになりながら答えることにした。
「一緒に寝たっていうと誤解が生じるんだが…その、なんというか。確かに昨日レキは俺の部屋に来たのは事実だ」
ドォッ!と沸くクラス内。中には「ついにカップル成立だ!」とか「イケメンと美少女のカップルとか…」とか「レキさんはやっぱり明智君だったかぁ」とか「私も零司様の部屋に連れてってほしい…」とか「チッ、イケメンだったらなんでも許されるのかよ」とか色々な奴の怨嗟の声(一部ノイズで聞こえなかった。聞こえなかったぞ!)が聞こえてくる。
盛り上がるクラス内と反比例して俺のテンションは下がっていく。あぁもう、厄日は昨日で終わらなかったのね。
レキは……うん。状況飲み込めてないのか図太いのかは知らんけどいつも通りに席について準備してるね。
…ったく。俺もレキのそういうとこ見習いたいかもな。
噂って怖いですよね
それにしても圧倒的水分感知の安心感…!
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第37話
〜〜Sideカナ〜〜
私は今原子力潜水艦ボストーク号ーー犯罪組織イ・ウーの本拠地ーーに来ている。
なんで来たのかって?……そうね、
私は教授がいる部屋にノックをしようとする、が…。
「扉は開いているよ。いらっしゃい、カナ君」
「……相変わらずね、教授は」
「何、簡単な推理さ。僕の見立てだと、そろそろ君は僕のところに確認がてら話をしに来るはずだったからね」
…相変わらず教授はなんでもわかっているような物言いをするのね。いえ、実際になんでもわかっているのでしょうね。
「失礼するわ。確認したいことっていうのは教授もわかっているでしょう?」
「そうだね。僕の命が来年のこの時期までしか保たない、ってことが本当なのかを確認しに来た。違うかい?」
「……そうね。それだけに私は不思議なの。貴方は色金の力で延命している。その効果があと一年とは到底思えなくて」
「ふむ…確かにカナ君の主張は根拠が薄いとはいえ、言いたいことは分かる。色金は超常現象を引き起こす未知の物質。だけどその色金にも限界はある。僕の場合それが1年後、という話なだけだよ」
……言いたいことは分かる。だけどどういう思考回路でそこに至るのかがわからない。
「……私にはまだ遠いのかしらね。教授はなんでもお見通しなのかしら」
「ふむ…なんでも、ではないかな。かつてジェームズ・モリアーティという男がいた。彼には一度負けたし、勝った時もかなりの苦戦を強いられたね。それは何故だかわかるかい?カナ君」
そう教授に聞かれ、私はその理由を考える。というか考えるまでもないわね。
ジェームズ・モリアーティ。元々教授と呼ばれていたのは彼で、シャーロック・ホームズと対等に渡り合った狡猾さを持つ男。
「それはモリアーティが教授と同じくらい賢しかったからでは?」
「正解だよ。僕と同じくらい賢く、ずる賢かった。つまり僕の条理予知と同じような推理を彼もできたから、僕の条理予知がうまくいかなかった。いやはや、彼には参ったよ。何せ事件の中心にいるとわかっていても痕跡を残さない。それどころか僕以外は彼を疑いもしなかった」
教授はそこでパイプを咥え直す。まるで自分の高校時代のイタズラを思い出すかのような瞳を湛えながら。
「それで僕が最後にたどり着いたのが、ライヘンバッハだったね。あとはカナ君もわかるだろう?あの時は死ぬことを覚悟していたんだがね」
そこまで言い切り、教授は笑う。近所の悪ガキのように、笑う。
確かに、モリアーティほどの頭の回転の速さがあればこの男の想定の外へ出られるだろう。…しかし、だ。
「しかし、彼ほどの頭の回転の速さを持つ者はそうそう現れないのでは?」
私の言うことも尤もな話だと思う。あれほどの頭の回転の速さはHSSでもそう再現できないでしょう?
それを聞いた教授は、それでもしかし微笑む。まるで私が思い違いをしていて、それを言おうか言わまいか。そんな微笑みだ。
「そうだね…これも何かの縁だ。カナ君には特別に教えてあげよう。何せここイ・ウーは学び合うことのできるところだからね。モリアーティと同じくらい、いやモリアーティなんかよりも、もしかすると僕をも上回るほど頭の回転の早い逸材は現れているよ。しかも君も知っている人だ。さて、その人は誰だと思う?」
そんな、馬鹿な。教授よりも頭が良い。それはつまり教授以上の条理予知を再現できる可能性を秘めているということ。そんな人を私は……。1人だけ可能性は、あるかもしれないわね。しかし…そんなことがあり得るのかしら?
「まさか…明智家の嫡男…?」
「ほぉ、正解だよカナ君。そのまさかだ。明智家の嫡男、つまり明智零司君にはその可能性がある。本人はまだ未自覚だろうがね。カナ君は本能寺の変、その真相を聞いたことはあるかな?」
本能寺の変の真相?それはまだ解明されていないのでは…?
表情に出ていたのだろう、教授は話を続ける。
「明智光秀公、零司君や千花君のご先祖だが、彼は実は『仮想の未来視』の超能力を持っていたようだ。ある日彼は仕える織田信長公がこのまま天下統一を成したら世の中はどうなるのかを『視た』らしい。それで視たのは飢饉にあえぐ余り、年貢すらも納められない農民。荒廃しきった日本。折角争いの無い平和な世界を作ったと思ったのにこれではなんのために戦ってきたのかわからない。そう焦りを覚えた光秀公は世の中がなるべく永く、平和に続く未来を『視る』為に能力を使い続けた。彼が精神的に追い詰められながらもたどり着いた、一番可能性が高かった未来は徳川家が天下を取ること。その為には自分が信長公を討ち取り、木下藤吉郎つまり豊臣秀吉に討ち取られることだった。彼は超能力の使いすぎで廃人寸前になりながらも信長公を本能寺で討ち取り、山崎の戦いで秀吉公に討たれた。これが本能寺の変の真相だよ」
次々と提示される史実に私は驚きを隠せない。でもそれと零司君に何のつながりが……!まさか!
「先祖帰り…ですか?」
「素晴らしい答えだ。その通り、半年前の僕の推理では零司君は先祖帰りで『未来視』の超能力を持っているはずだ。自頭もさることながら、その超能力を合わせ持つことで彼は僕をも超える可能性を秘めているんだよ。だからこそ『緋色の研究』に関わらせることはできない。彼が関与した瞬間、どうなるのか。それは僕にも推理できない。もしかしたら良い方向に行くのかもしれないし、最悪の場合世界が崩壊を迎えるかもしれない。流石に世界の崩壊の危険性をはらんでまで『緋色の研究』を進めようとは思わないよ」
そこまで評価される明智零司のことを私は思い出してみる。確かに鋭いナイフのような洞察力、直感。そしてそれを論理的に説明できる頭の良さ。その両方を確かに彼は持ち合わせているが教授が危惧するほどのものだとは思えなかった。
曖昧な表情を見て取ったのか、困ったように教授は続ける。
「実はだね…数ヶ月前ほどからもう彼のことを推理しようとしても僕では正確な未来を出せないんだ。誘導を丁寧につけないと僕の思う通りには進んでくれないようだ。平和な島国で育ったとは思えない成長曲線に僕も驚いている。僕の推理では狙撃の
教授はそこで言葉を区切る。話しすぎたと思っているようね、この感じは。
「正解だ。少々僕は喋りすぎたようだね、カナ君もこのことは誰にも明かさないように。たとえ千花君でもね」
「え、ええ。楽しい時間だったわ」
そう言い、私は教授の部屋を離れる。彼なら、キンジを任せられる。そう判断したのは間違いではなかったようね。
〜〜Side零司〜〜
最悪だ。午前の授業中ずっとクラスメイトがこちらをチラチラ見てくれたおかげで軽〜くストレスが溜まっていた俺はキンジ、不知火、武藤といったいつものメンツで食堂に集まっていた。レキ?ついてこようとしてきて言うこと聞かないからここにいるぞ。
武藤がニヤニヤスマイル全開でこちら、つーか俺とレキをみる。うぜぇ。
「いやー明智にも春が来たな!羨ましいぜまったく!」
「もう一回言ってみろ、次言ったら五臓六腑をバラバラにしてから血抜きしてお前の親に送りつけるぞ」
「やけにリアルだな!?」
そう言い軽口を叩いた武藤を睨みつける。まーまーといういつもの優男スマイルを浮かべた不知火が仲裁に入ってくれる。お前は変わらんでいてくれてよかったよ。
「それにしても、ちょっと意外だったな。明智君、そういうの奥手そうだったのに」
「お前が乗るとは思わんかったぞ不知火」
「あはは、ごめんごめん」
訂正。不知火君も武偵高生らしい反応をありがとさん。むしゃくしゃするから今日は
今の俺とレキの関係を一言で表すなら、狙撃拘禁の被害者と加害者だろうな。やめてもらうよう情に訴えかけたいんだが、対象に感情がないときた。
となればレキに感情を生まれさせる感情があるんだろうが、今の所皆目見当がつかん。というかあいつ、なんとなく感情がないというより知らないだけな感じがするんだよなぁ。根拠というかなんというか、あいつには常識がない。なさすぎると言ってもいい程だ。
それを日常の中で感情を生まれさせない為という理由をつけてみればどうだろうか?我ながら強引だが一応筋は通ってる気がする。
ただし問題が一つ。今から日常を普通に送るだけではレキに感情が生まれるのがいつになるか分からないことだ。できれば短期解決が望ましいこの状況にとってそれはよろしくないんだよな。
……あーっもうイライラする、なんで俺がこんなことを考えなきゃならないんだ。息抜き強襲科でひと暴れしよう、そうしよう。
心の中でなく俺に誰も気づかず、昼休みはいつも通り過ぎていくのであった。
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第38話
お気に入り200人突破しました、ありがとうございます!
ここまで頑張れたのもひとえに読者の皆様がいたおかげです。そうじゃなかったら多分2.3話書いて終わりだったカモ…?
これからも本作をよろしくお願い申し上げます!
それではどうぞ!
自由履修の強襲科を終え、俺は帰宅の途についていた。
自由履修で思う存分暴れられたのは良いけど蘭豹先生、1対30、しかも1の方はさすがに疲れるので今後は是非とも遠慮させていただきたい。
でも…飛んでくる銃弾を小太刀で弾いたり、相手の太刀筋を読んでかわしてカウンターを叩き込んだりってのを必死にしてたら一時的にでも悩んでることを忘れてスッキリさせてもらったことは感謝だ。
レキは
「とは言え、情報が少ないのもまた事実。対策といってもレキと色々規則を決めたりするしかないんだよなぁ」
物憂げに俺はつぶやく。明日は
自室に戻ると既に灯りがついており、それは俺にレキが既に帰っていることを如実に示していた。
1日じゃ帰ってくれませんよね〜、家財道具まで持ってきてたもんな、あいつ。
そこまで考えた俺は、ある一つの可能性に思い当たる。というのも……
「もしかして、レキが今日晩御飯を作ってくれてる……?」
もしかしたらこれはすごいことかもしれない。(見た目は)完璧な美少女レキの手料理を食べられるなら、これほど良いことはないのでは無かろうか?
俺はわずかにテンションをあげて、自室に戻ることにした。
「………まぁ、そんなことはないですよね。知ってました」
「…?」
部屋の扉を開けて待っていたのは体育座りのレキ。ここまでは良い。いや良くないけどそこからつっこんだら話が進まないから良いことにする。問題はここから。
(レキが料理なんてするわけないよな…知ってたよ、知ってたさ!チクショウ!)
そう、レキは体育座りでぽけーっとしていたのだ。テレビもつけず。俺の部屋で。
それを見た瞬間、俺の中で地味ーーーに期待していた、レキの制服エプロン姿、それも俺が帰ってきたら「お帰りなさい零司さん。ご飯、出来てますよ」と迎えに来るついでのサービスSE付きという像が粉々に砕け散った。
「そうだぞ〜何考えてんだ俺。相手を考えてみろ、それが普通だろ?……レキ、これから飯作るからちょいっと待ってな。あと、緊急時以外は晩御飯にカロリーメイト禁止な」
「……?はい」
レキは俺の顔をわずかに訝しみながら答えた。
…まぁ、料理するくらいなら自室があんなにさっぱりしてるわけねぇしロボットレキなんて言われないよな。俺はレキの異名を思い出しながら、夕飯作りに取り掛かった。
はい、完成。今日は白雪曰く、「実家から送られてきたけど量が多いから食べきれないの。明智くん料理するって聞いたしいつもの相談料代わりと思ってもらって」ともらったタケノコとか人参とかを使って作った筑前煮とこれまた白雪からもらったもんをふんだんに使ったけんちん汁。そんで鰆の西京焼き。あとご飯。
こちらとしては物目当てでやってるわけじゃないし、金にも困ってないから別に相談料とかいらなかったわけなんだが、相手の好意を無駄にするのもよろしくない。というわけでありがたく食料をいただいてるというわけだ。それにあいつの持ってくる食材どれもこれも超一流で美味しいし。
「おーいレキ。ご飯できたからテーブル片付いてないなら片付けて。片付いてるならテーブルにご飯持ってくの手伝って」
「はい」
とことことキッチンに入ってきたレキにお皿を渡す。というかコレ、男子と女子逆じゃね?普通さ。
「「いただきます」」
食器をテーブルに置き食事を始める。と、その前にレキの反応チェックだ。ご飯を作った身としては反応を見たくなるものだ。
「どう?」
「美味しいです」
「そりゃよかった。んじゃ飯食い終わったらちと話あるから覚えといて」
「はい」
嘘をつけないレキのことだから本心で言ってくれてると思うと作った甲斐があるってものだ。俺はまず筑前煮に手をつけてみる。ふむ、短時間の調理の割には味が染みてるな。モノが良いからだな、コレ。
俺はここにいない白雪に感謝しつつ食事を進めていった。
「「ごちそうさまでした」」
食事を終え、食器を軽く水洗いだけ済ませておく。さっき話をするといったからには手早くな。
水洗いを済ませテーブルに座りなおす。ちなみにレキは食後ずっとぽけーっとしていた。
「それでお話とは何でしょうか?」
「あぁ、それな。まずレキに聞きたいこと一つ。なんで俺なんかを選んだのさ?能力だけならキンジとかマサトでも良いだろうに」
マサトはともかくキンジは発狂しそうだけどな、女子と2人きりで生活なんて。
レキはぱちくり。瞬きを一つして答えた。
「零司さんだ、と風に命じられましたので」
「まーた風かい…んじゃもう一つ。そこにお前さんの意思はあるの?」
「………ありません」
その答えを聞いて俺は課題の膨大さに1人溜息をつく。レキの意思でやってるならその意思を変えさせれば良い。ところがレキにはその意思がないときた。言うならば機械の作業の一つ感覚。これはレキの意思云々じゃどうしようもないしそもそも意思というものを持ってるのか怪しいところだ。
……正直な話さ、レキが
そこまで確認した俺は最後にもう一つだけ聞くことにした。
「じゃあさ。レキは夢って持ってるの?極端だけど世界一の武偵になりたいとかさ、そういうなりたい未来の自分って持ってるか?」
「………私はウルスの1人で1発の銃弾。目的に向かって飛ぶだけです」
……。その生き方は周りを見る必要もないもんだろうけどさ。辛くないのか、そんな生き方。
そう内心で苦虫を噛み潰しているとレキは逆に聞いてきた。
「零司さんはその…夢をもっているんですか?」
いやはや、逆に聞かれるとは思ってなかった。けど夢……というか目標は、ある。
「いつか話したかな、怪盗ローズリリィのこと。俺が武偵やってる理由はそこにある、くらいまで言ったか。俺の夢はな、いつか攫われた俺の妹、千花を連れ帰って明智の家に一緒に帰ること、かな。あいつが攫われた後、1人で明智の家の門をくぐるのが寂しかったし悲しかったし、何より周りの人の目が怖かった。やっぱりさ、家族は一緒にいるべきだよ。1人失った時に改めて分かったことだから、遅すぎたのかもな」
「いえ、何かを気づくことに遅すぎるなんてことはないと思います。千花さんもおそらく零司さんのことを待ってると思いますよ」
自嘲気味に笑う俺をレキは見て即座に言った。待ってくれてる、か。そうだったらどんなに良いことか。もしかしたら俺のことなんか忘れてるかもしれないし、覚えててもいつまでも助けに来ないから嫌われてるかもしれないのに。
そして実家から逃げるように消えて1年とか過ぎたあたりか。父親が他界した。親戚から疎まれていた俺は父親の死に目に会えなかった。あー、思い出したらちょっとダメだこれ。
悔しさとか悲しさとか一気に溢れてきそうなのを堪えつつ、俺はレキにこう告げた。
「つーわけで夢をもってる俺からレキに2つアドバイスだ。まず1つめ。なんでも良いから一生でも追いかけたくなる夢を持ちな。なーに、その気になりゃお前のことだ。掴めない夢も見れない夢もねぇよ。そんで2つめ。必要のない人なんていないんだぜ?自分を銃弾だと思うのは勝手だしどういう意図でそんなこと言ってるのか知らんが、自分を軽く見る考え方は禁止だ。これだけは約束な」
「……善処はします」
善処はする、か。
「うーん、まぁ及第点か。俺は少し自室にこもる。繊細な作業だから部屋入ったり聞き耳立てるの禁止だ。風呂は好きに入ってくれ」
「わかりました」
そこまで聞き届けた俺は自室に入り一枚の写真を取り出す。写っているのは2人の大人に囲まれた3人の子供。…というか俺の家族写真なんだけどな。1人は他界し、1人はいなくなり、そして俺自身はあの場所から逃げた。
「……ごめん、な千花、親父…」
そこが限界だった。俺は自室で泣いた。そりゃもうわんわん泣いた。
泣いて泣いて、泣き止んだ時、改めて俺はローズリリィを赦さないと誓った。
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第39話
唐突な話だが、武偵高の夏休みは始まるのが早くて期間が長い。
7月の頭には一学期の単位不足者の貼り紙がでて、そんなのに引っかかる困った奴らのために
他にも俺の出身の京都にある武偵高とかは祇園祭に合わせて夏休みを始めたりしてるらしい。そういえば神奈川武偵中の時、平塚の七夕祭りとか江ノ島の花火大会とかの私服警備に駆り出されたっけ。懐かしいなぁ。
ここまでグダグダ言ってきたが、つまり何が言いたいかというと……
「この長い夏休み期間、1日中レキに付きまとわれる日が増えるのかよ……」
聞いたところレキは夏休みに実家に帰ったりなにか依頼を請けてるわけでもないらしい。つまり完全にレキの監視下。どうしてこうなった。
ゲンナリしてる俺に同情する顔1つ、ニヤニヤしてる顔1つ、優男スマイル1つ。順にキンジ、武藤、不知火だ。
「明智には悪いけど俺じゃレキに対して何も手を打てそうにない。相談なら乗ってやる」
「お前が女嫌いじゃなければ護衛頼んでるよバカヤロウ!なんで女嫌いなんだよっ!」
「まーまーまーまー、良いじゃん良いじゃん!夏は男女の仲が急接近する季節だぜ〜??この際レキをオトシちゃえよ〜!」
「あ”?そんなデリカシーの無さがオマエをモテなくさせてると気づけ無能。これ以上言うなら体の水分全て飛ばして天日干しで干物にしてから塩酸かけて跡形も残さず消すぞオマエ」
キンジは近距離と遠距離という単純にレキに対して不利なのと女嫌い、ついでになんだかんだ女に甘々なところを見るに戦力にならんし、武藤は俺を茶化すばかりでどうしようもない。声を低くして『オマエ』のイントネーションを敢えて変えることで震え上がらせるに留める。
となると残りの頼むの綱は不知火なんだが……
「あはは、他の人ならともかく、レキさんとなるとちょっと僕にも荷が重いかなぁ。一応確認するとこの中での最大戦力は明智君で、その明智君が手も足も出なかったんだよね?なら僕が太刀打ちできるわけがないよ」
「冷静なコメントをなんか嬉しそうな顔でありがとさん。もうこのやりとり何回目だろうな」
「それに…」
「それに?」
そこで一旦区切った不知火はうんうんと頷きながら一言。
「明智君とレキさんって僕にはお似合いに見えるなぁ」
「期待した俺が馬鹿だったのかしら」
そういえばこの子も結構ゴシップ好きだったな。
昨日の宣言通り、
「よぉ理子。どしたそんなに怒って?」
「あっちぃ〜…昨日貸してくれるはずだったゲームは??貸してもらおうと探偵科棟で待ってたのに来ないし!りこりんはぷんぷんがおー、だぞ!」
「……あっ」
んあー。。。忘れてたな、すっかり。カバンの中入ってるはず…あったあった。
「ほれ、これだろ。わかってるだろうけど傷、付けるなよ?」
「モチのロンであります!はっ!」
そう言い理子はカバンに入れ込み敬礼。イヤ、なんでや。
「にしてもあっちって意外に積極的だったんだねぇ」
「はい?話が見えん、なんのこった?」
「レキュだよレキュ! りこりんの見立てだと一回エンディング見てから強くてニューゲームしないと攻略できない激マゾキャラだったのに!どうやったのかな?かなかな?」
「恋愛ゲームなのに強くてニューゲームって概念はいかがなものかと思うが……つーか俺はなんもしてないぞ。強いて言えば狙撃拘禁されてる状況だ。俺とレキが戦って恥ずかしいことに俺、負けたからな。そんであいつは俺の言うことをなんでも聞くと言いやがった。つーわけで俺はこの不可思議な状況を打破するために情報科でレキの情報収集をするまでにここにきたってこった」
肝心の婚約って所こそ隠したが、それ以外の部分は割と簡単に
「なんかあっちも大変なんだねぇ〜くふふ。それならりこりんがお手伝いしましょうか?くふっ」
「おっ、助かる…って言いたい所だが、何を手伝うんだ?そして報酬は?」
「んとね、りこりんもレキュのことは気になってたからりこりんも情報集め、手伝ったげる。いーっぱい手伝わせて?んで報酬は……そか、コレでいいよ!特別だぞ〜??」
そう言い理子はカバンをふりふり。中に入ってるゲームで手を打つと言ってくれる。
そういえばこいつ、情報収集かなり上手いんだったっけ。それこそ俺に比肩するくらい。そんな奴がゲームで手を打つって言ってくれるんだ、かなり安い出費じゃね、これ?
正直お願いするデメがほぼ見当たらない。
「んじゃ頼むわ。よろしくな、理子」
「うっう〜!任されたよ!ところであっち、1つ確認してもいいかな?」
「いいぜ、なんだ」
ここで理子は一呼吸おいて俺にこう聞いてきた。
「ああ、情報を集めるのはいいがーー別に、
「ーーおう、遠慮はいらないぞ。ガツンと遠慮なくやれ、理子……と言いたい所だが俺以外には秘匿で頼むわ。状況が状況だからな、バラしてお前が変に狙われるのも俺は望まぬ展開だ」
「やっぱりあっちは関西人だねぇ〜、ノリツッコミしてくるなんて思ってなかったよ!」
「いやまぁ、大事な所だからな。この際、なんで俺が関西出身なのを知ってんのかはツッコまんでおくわ」
「くふふふ。調べたのです!ですです!」
「ツッコまんって言ったばかりだろ」
適当なやり取りをしつつ情報科棟に向かう。レキの情報、暴かせてもらうぞ。
数時間後、俺と理子はアホみたいな格好で体を投げ出していた。
いや、意味がわからんぞ…
「おい、理子」
「な〜に〜〜?」
理子もこの有様。ロクな情報拾えてないな。ダメ元で聞いてみるか。
「どうだ?」
「どうだも何も情報隠しすぎじゃない〜〜?今わかったのは請けてる依頼の種類と確認しきれない過去の情報だけだよ〜」
「依頼の種類は確認できてる。教師からの依頼かLDスコア900オーバーだろ、そんでもって成功率100%。めちゃくちゃ異常な数字だ」
「だよね〜。そんで確認しきれてない過去の情報ってのがこれ〜〜」
そう言いどうやら自前のPCを渡された俺はそれを見て再び驚く。
「おい、なんだよこれ…これじゃまるで」
「『記録に残らないお仕事』をしてた、かな?」
「お、おう…しかも武偵ライセンスの国際化批准前の中国とロシアだろ?怪しさ爆発だろコレ…」
俺はそう言い頭を抱える。『記録に残らないお仕事』とは色々あるが代表的なものはーー『
理子のPCには無機質な字体でこう綴られていた。
14歳頃から中国、ロシアで武偵ライセンスを取得。
達成依頼
・
・
・
・
いや、ホントにやべーんじゃねぇの、コレ?
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第40話
最近忙しくて更新滞りがちです…ごめんなさい
それでは40話、どうぞ!
どうやら俺はとんでもない雰囲気の奴に求婚されたらしい。いやまぁ、異常な奴が集まりやすい武偵高の中で浮いてるんだから普通じゃねぇのは百も承知だったんだが…
はっきり言おう、これは想定外だ。
「なぁ、理子」
「な、何かなあっち?」
「お前、死にたくなかったらガチでバラさない方が良いぞ…いいたい事は、分かるな?」
「う、うん。これはホントにバラしちゃいけない奴だね…」
俺と理子は2人して冷や汗をかきながらこくこくと頷きあう。これは間違いなく龍の逆鱗のそれだ。触らぬ神に祟りなしって奴だ。触るどころかグーパンしたような気がしなくもないけど。
理子に口止め料兼巻き込んで申し訳なかったというお詫びを込めて追加報酬を払ってから別れを告げる。こんだけしとけばあいつも有能な武偵の端くれ、ヘタな事はしないだろう。
そして俺はまだ調べる気があった理子を帰して依然として情報科棟に残っているわけだが、その理由は大きく2つ。1つ目は先程の通り、これ以上理子にヘタに関わらせるわけにはいかないから。2つ目は……
「そう、俺は峰理子のことも調べておく必要があるんだよなぁ」
以前少し調べたのだが、理子は経歴の上では
というわけでレキのことを調べるのをいい機会と捉えた俺はついでに理子のことも調べることにしていたのだ。その理子にバッタリ出くわすのははっきり言って予想外だったが、レキのことを調べる時間が短くなったのは良いことだと割り切ることにした。
俺は入り口に簡易の監視器具を置いて覗かれていないことを確かめ、同時に盗聴器対策として一度身体全体を水で覆って汚れを弾く。コレで身体に盗聴器が仕込まれていないことを確かめられた。
「さて、さてさてさてさて。どんな情報が出ることやら」
ヘタに武偵高のPCにログを残すのもイヤだし、PCに何か細工されててもいやなので自前のものを2つ広げて作業に取り掛かる。ちなみにレキのことを調べる時には一個しか使ってなかった、理子がやってたしな。
何が釣れるものか?
「……うーん?不自然なところがなさすぎて不自然な感じがする…」
45分くらいたっただろうか、俺は理子の経歴を漁りながら呟く。俺の直感はあの
俺は趣向を変え、『峰』という家系の方からアタックを試みることにした。
「おっ、釣れてきたかな?」
検索ヒットに出てきたのは有名だった盗賊一味の1人の女。そういえばこんな盗賊団いたなって感じの。
おって調べて行くとどうやら盗賊団は既に解散、というか中心人物と女が既に他界してるらしい。もう10年以上は前の盗賊団だ、そんなことになるのも自明といえば自明か。そこで俺は新たな発見をする。して、しまう。
「……おろろ?」
変な声が出たが仕方がない。それだけ驚いたというわけだ。盗賊団の中心人物と女の間に1人娘が出来ていたらしい、年齢は…何事もなく育っていたら俺と同学年。
いよいよ風向きが怪しくなってきたぞ…?
と、そこで消息が途切れている。中心人物が死んだことで記録を取る必要を感じなかったのか、記録は中心人物と女が死んだところで記載が終わっている。
だがこんだけ状況証拠が揃ってるならほぼ間違いないだろう。理子自体が何を目的に
「……リュパン家ね〜、厄介な話になりそうな気がするな」
家に帰るとやはりというかなんというかレキはリビングに鎮座している。置き物か。幸福になる置き物なら良かったんだけどな、そんな気配微塵もないぜチクショウ。
とりあえずぽけーっとされっぱなしなのもなんか癪に触る。なら、こうしようか。
「ただいま、レキ」
「おかえりなさい、零司さん」
「突然だがレキ、今日からお前には料理を作るのを手伝ってもらう」
「……?なぜでしょうか?」
当然のように形の良い眉をわずかにひそめるレキ。そんなレキに対して俺は胸を張って宣言する。
「一応この状況だけみたらお前は居候だ。そこまではいいな」
「はい」
「俺は居候が俺の部屋にぽけーっと居座ることは許しません。家事の1つでも手伝ってください」
「は、はぁ…」
うん、意図の見えない俺の発言にレキは困惑してる困惑してる。珍しい表情を見れて余は満足ぢゃ。
「ということで目下一番やってくれると嬉しいなっていう仕事は料理だ。俺が帰るのが遅くなった時、そこから料理を作ると9時とかに食事開始になっちまう。すると必然的に寝る時間が遅くなるから明日に響く」
「その時はカロリーメイトを食べれば」
「禁止といったのを忘れたのかなぁレキさんは?カロリーメイトを食べるのは緊急時のみにしなさい。好きなんだったら無理にとは言わないけど主食カロリーメイトは禁止だ。と、話が逸れたな。どうせお前のことだ、料理とかしたことないんだろ?俺が手伝ってやるから少しずつ料理をすることを覚えなさい。いいな?」
「は、はい…」
「そんじゃやるぞ〜、とりあえず石鹸で手を洗ってこい」
よし、一応うまく丸め込んだ。俺の最初の対レキ作戦の1つ、料理を覚えさせることだ。こいつは一般人の日常を知らなさすぎる。そりゃもうびっくりするくらい。というわけで一般人らしくふるまわせて次第に感情を芽生えさせる作戦だ!決してレキの手料理を食べてみたいとかそんなんじゃねぇぞ!
……??あれ?なんかこの言い方、俺がレキに惚れてるみたいじゃね?イヤイヤ、そんなわけなかろう。そんな感情は一切、ないだろ?
手を洗って戻ってきたレキをキッチンに引っ張り、料理の手伝いをさせる。今日は…そうだな、簡単だしカレーにしようか。
「良いか?包丁は刺すように使うんじゃないぞ。やらない人も多いけど料理初心者のお前はまず、まな板を固定させてから使おう。まな板の下に絞ったタオルを敷いてみろ。そんでまな板が動かないか確認だ」
言われた通りにレキはやる。どうやら人の話はしっかりと聞いてくれるようだ。
それから包丁の向きがどうだの、握り方だの構え方だの…そりゃもう1から100まで基本的な動作を教えていった。
ホントに1から教えた結果、結局食事開始が8時半になってしまったことを忘れてはならない。
「「いただきます」」
一口食べる。うん、普通のカレーだ。隠し味とか漢方とかそんなん一切なしの普通のカレーだ。美味しいけど。
「明日も料理、続けるぞ。継続は力なり、だ」
「はい」
ともあれ、なんとかやってくれるようでありがたやありがたや。
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第41話
そんなこんなで俺とレキの妙ちきりんな共同生活は早くも2週間を迎えようとしていた。進捗、ダメです。元々自分で銃弾を作ってたからか手先が器用で料理のいろはは教えた先から覚えていって教師冥利につきるといえば聞こえは良いんだけどな。
あと洗濯。洗濯は元からやってたらしく自分で出来るようだ。
そんでもって最初の目的であるはずの感情?喜怒哀楽?なにそれ美味しいのって感じのいっそ清々しいまでの無感情。清々しい無感情ってなんだろうな。
先の洗濯だって普通なら俺とレキの分をしっかりと分けるのが年代の子というもののはずなのにレキはそれをしない。逆に俺が気にしてしまう始末だ。
俺の精神が次第に荒れてきてるのを察してるのか、キンジはもとより、最初は冷やかしたりしてきた武藤や不知火にもガチトーンで心配される始末。まだ射撃とかに影響が出てないだけマシだろうか。はたまた影響は出ていて、それを認知出来ないくらい荒んできているのか。超能力?使う機会ほぼなかったから分からん。最近は日課のハズの黙想すら出来てません。
だが、これだけは言えるので率直に言おう。
「俺が何をしたってんだよチクショウ…」
思春期男子にとって同年代の女子と一緒に暮らすってのは例え相手が感情が欠落していても、いや逆に貞操観念とか羞恥とかそんな感情がなく俺の前で臆面もなくシャワーを浴びるからと言って下着姿になるような奴だからこそ俺はここまで心労を患っているのだろうか。ともかく1人でのんびりさせて下さい。このままだと俺まで無口無感情無表情になりかねん。
これも全て俺が肉食系男子だったら何も感じないのだろうか。いや俺が草食系男子だからいけないのか。
と、かーなーりナーバスな感じで机に突っ伏す俺の思考に追い打ちをかける存在がある。
そう、今日は終業式。明日からは夏休みだ。レキとの時間が増えるよ!やったね零司君!
高校生で夏休みが来ることを拒む奴って俺くらいなもんじゃないか??
多分周りから見ればすぐ分かるくらい俺の周りの雰囲気はどんよりと沈んでいる。
「おい明智どうしたんだ〜夏バテかぁー?さすがに早いぞ!」
「この状況をどう見たら夏バテに見えるのか分からんぞアホの小林」
「そうだぞ小林、明智とレキさんは昨日も励んでたからこんなに疲れてるに決まってんだろ」
「うんそんなわけないから首を切られるか首を切るかどっちか選んで死んでくれ
そうかい。このどんよりした空気すらも感じられない鈍感がいたとは信じられないが受け入れるとしよう。ふざけやがって。
「ガチで寝不足だからHRまで寝かせろ小林、先生来たら起こしてくれ」
「へいへい、アホの小林が承りましたよ」
「悪かったってアホの小林」
「誠意が感じられねぇ!」
小林を適当にいなしつつ本当に仮眠を取ろうと机に体をうっちゃる。3分もしないうちに体が眠りを欲してきていい感じに微睡んできた。
少しくらい、休んでもいいだろ?
「ーー智!明智〜起きろ明智〜」
「はいはい、あんがとさん小林」
小林に礼を言い、姿勢を正す。するとほぼ同時に相変わらずどこいるのか分からんチャン・ウー先生が存在感だけで入ってきたことを告げる。
…イヤ本当に今更だけど姿を見せない担任ってどうなのさ?
「ハイオハヨウカワイイ生徒タチ。今日ハ一学期終業式ダケド、サボリタイ人ハサボッテイイワヨ!アタシモ生徒ダッタ時ハサボッテタカラネ!」
一言目からこんな発言が出てしまうあたりに武偵高のレベルを感じてもらえると嬉しいな。
そしてそれを受け取る生徒も生徒だ。パッと見4割くらいはサボりで帰る雰囲気だぞ…
「一応成績表ハ教壇ノ上ニ出席番号順ニ置イテアルカラソレヲ取ッタラ帰ッテモイイワヨ。ソレジャ一学期オ疲レ様!」
言われた通り教壇を見るといつからあったのか知らんが確かに成績表がガサツに置いてある。ガバガバすぎない?というか地味に水分感知でも捉えられないのはなんでなの、チャン・ウー先生?
「ア、アト明智クンダケハ終業式ノアトニ蘭豹先生カラ話ガアルラシイカラ残ッテネ」
その言葉を聞いた瞬間クラスの視線がこちらに向き、『またお前か…』みたいなかわいそうなものを見る目で見てくる。
そしてはいまた来た名指し。そして相手はあろうことか蘭豹先生。今度は何やらされるのさ。
華龍組の件で有用と判断されたのか、あれ以来ちょくちょく教師からの直接の依頼が来る。大概が
今は自分の都合だけで手一杯なのに、ホントに何やらされるんだ……?
相変わらず特徴のない緑松校長の話とか色々あって終業式が終わり、俺はもう何回目になるのかわからない
「失礼します、探偵科の明智です。蘭豹先生に呼ばれたので来ました」
「おお〜来たか、こっちやこっち」
探偵科って所を微妙に強調しつつ、俺はしっかり名乗る。
相変わらずガサツそうな蘭豹先生は発言の軽さとは裏腹に妙に渋い顔をしてこちらに手招きする。
「ほな単刀直入に……って言いたいところなんやけど簡単に言える話やないから相談室行くで、着いてきいや」
「は、はぁ…」
相談室って綴先生が尋問に使う部屋じゃんか。本格的に雲行きが怪しいぞ…?
蘭豹先生に連れられて来た相談室は、その言葉の穏やかさとは裏腹に内実、警察で言うところの取調室だ。部屋の中には机が1つ、椅子が4つ。カツ丼でも出てきそうな雰囲気だけど僕は武偵法は遵守してます。
「ま、とりあえず座り」
「はい、ありがとうございます」
言われた通りに俺が椅子に座ると蘭豹先生は対面にドカッと腰掛けた。綴先生じゃなくて蘭豹先生ということで多分取調べの類ではないはず。となると答えはほぼ1つ……。
「なんか外に漏れちゃマズいお話ですか?」
「お、流石やな。正解や。この情報の取り扱いは政府もメチャクチャ丁寧に取り扱ってるんや。それを明智に教えてやる理由は…」
「怪人ローズリリィ、ですね?薄々俺が呼ばれた時点で考えてはいましたが、政府が出てきた時点で確信に変わりました」
「なんや、ホンマに聡いのう。完璧な解答や。最近、ローズリリィの動きが活発化しよる。最近やと美術品を何作か抜かれたらしい。手紙の声明付きでな。ホンマに警備員何しよるんって話やけど相手が悪いわな。そんでそろそろ日本人が誰か攫われるんとちゃうかって話や。被害者家族の1人で去年一年間、ヨーロッパでヤツを追っていた明智には言っとかな思てな」
「そういえば人攫い専門じゃなかったですねあいつ。生き血をすするだのなんだのって噂があるから物盗りのイメージ薄いですけど」
「ヨーロッパやとそんな風にも言われてるらしいな。そんでこっからが本題や。今回のこの話、
その言葉を告げられた瞬間、俺の胸をよぎったのはローズリリィを追わせてくれない教務科への疑問でも怒りでもなくて。
まだヤツに力が及んでいないと判断され、そして及んでいないと自分で分かっていた自分への失望と悲しさだった。だが、タダでは下がらない。他のヤツならともかく、ローズリリィと聞いて下がれるわけがない。
「分かりました。但し1つだけ条件が」
「……なんや、言ってみい」
「俺の周りが攫われるような事態になったら俺は動きます。もうこれ以上、周りの人が奴らに攫われるなんてことは我慢できません。それだけ呑んでいただければ僕は今回動きません」
俺のそのほぼ懇願とも取れる条件に蘭豹先生はかなり渋い顔。こりゃダメだなと思って返答を待っていると、取調室になんというか、男としか言えない人が入ってきた。同時に蘭豹先生の雰囲気がガラッと変わる。
その変化でかろうじて部屋に入ってきた人物が緑松校長先生、先ほど終業式で印象に全く残らないお話をしていたらしい人物だということが分かった。
部屋の雰囲気がピリッとした所で緑松校長は話し始める。
「はい、はい。いきなり取調室にきてすいませんね。校長の緑松です。怪人ローズリリィの話ですね?」
「あ、はい」
「蘭豹先生、明智君の条件を呑んであげてください」
「あ、え…?なぜなのか聞いてもよろしいでしょうか?」
緑松校長の言葉に蘭豹先生はともかく、聞き入れてくれるとは思ってなかった俺も驚く。
「そうですね、明智君はいずれ武偵業界を背負って立つ者の1人になると私は考えています。実力もさることながらこの年齢にして、Sという限られた者しか許されないランク付け。及び一流の武偵にも勝るとも劣らない実績、特に戦闘力と推理力には目を見張るものがあります。ただしまだその実力は発展途上。ここで失うにはあまりにも惜しい。というわけで『明智君の身近な人が攫われる』という事態になった時のみ、明智君の事件への介入を認めましょう」
聞いているとなんかすごく恥ずかしくなるような評価をされた後に条件の承諾を許可された。
本当は俺にはキンジや金一さんみたいなカリスマ性、
「ありがとうございます。あとはプロの方にお任せします」
「はい、はい。そうしてくれると助かります」
そこまで言って緑松校長は俺の元に近づいてきた。なんだろう…?
「まだ、
「……!!?」
少し素が出た緑松校長の言い方とその内容に寒気がした。この人は一体どこまで……!?
「またいけない癖が出てしまいましたね。それでは明智君、お話は終了です。これからの夏休み、有意義に過ごしてください。では」
「……失礼しました」
礼をして外に出る。と同時に緑松校長の記憶がどんどん薄れていくが、そのことに気付かないのであった。
「面白い原石があると割りたくなる。その中身からダイヤモンドがでてくるかはたまた砕け散ってしまうか。それを見ることが悪い癖なのはわかっていますがやめられませんねぇ」
緑松は歩いている零司を窓から見て、ニヤリとらしくない笑みを浮かべるのであった。
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第42話
すごーく久しぶりになってしまった感…申し訳ないです
それではどうぞ
「まだあの力を使いこなせていない、か」
聞いているとなんかもうどんな声音で言われたのかすらも覚えていないけど内容だけが頭に残るという稀有な経験をしつつ俺はこの言葉の真意を読み取ろうとしている。
確かに俺は水の超能力を存分に引き出せてない感覚はある。完成系がどういった方向性なのかはわからないけど伸びしろは感じるのだ。中学の時みたいな剣を持たせる方向性、射出系の方向性、はたまた防護系の方向性……色々考えているが恐らく緑松校長が言ったのはそっちじゃない。
ーー恐らく緑松校長は、俺が光秀公の先祖返りと言われていたことを見抜いている。
文献と先祖代々からの言い伝えでしか聞いたことないけど、光秀公はどうやら未来予知に類する超能力を持っていたらしい。名前は……確か、『仮想の未来視』だったか?ともかく、そんな感じの能力を持っていて本能寺の変を起こした理由もそれに起因するんだとかしないんだとか。
そんでもって俺のもう1人の有名な祖先の明智小五郎様にもそれは一部受け継がれていたらしく、本人は口にしていなかったが彼の軒並みならぬ推理力という形で表出していたようだ。
華龍組の時だったかみたく、俺が寝てる時にやけにリアルな夢(そして夢の内容は恐らく実際にあったか、これから起こること)を見るのはこの能力の副次的な効果らしい。初めて夢を見た時にそれを親に話したら大騒ぎになったことを今でも覚えている。
「つってもなぁ…使いこなせてないって言われても発動条件が把握できてないから特訓のしようがねえんだよなぁ」
意識的に使えたことが今まで全くないからどういう使い方をするのか、という時点で手詰まりになってしまっているのが現状だ。
俺はとりあえず近くにあった自販機でなんか買って、ゆっくり考えることにした。
「うーん、妥当にコーラかはたまたお茶か?第三勢力オレンジジュースも捨てがたいな…」
ぶつくさ言いながら人差し指が右往左往する。本当に何も考えていない時にスパッとドリンクが選べないのは悪癖だと理解しているが直す気は毛頭ない。
そんな俺の後ろから誰か来る気配を感じて振り返ってみると、不知火が何やらためらいがちに手を上げていた。いや何してんの君?
「よぉ不知火、なんか俺に用か?ジュースくらいなら奢るぞ」
「おう、それはありがたくもらおうかな」
そう言って不知火は右往左往していた俺の指を無視してさっさとコーラを押して取った。ここまで遠慮がない不知火の姿ってのはそうそう見られない貴重なもんだ。
不知火に倣い、俺も結局コーラを選んで近くのベンチに2人で腰掛ける。
「なんつーか…久しぶりだな、こうして不知火と2人で話すのは」
「そうだね…だいたい武藤君とか遠山君とかいたから2人ってのはないかもね」
そうだな…思えば2人で長々と駄弁るのなんかもしかすると試験の時くらい以来かもしれない。だいたい他にも人がいたり、俺が任務に行ったりしてるから意外と久しぶりな気がするな。
「んで…どうした?俺にできることなら他でもない不知火だ、割引してやるぞ」
「金取るのかい?というかそういうことじゃないよ」
「え?単位が足りなくて留年しそう?バカじゃねーのお前?」
「あはは…」
とりあえず適当に茶化すといつもの不知火だ。いやほんと何の話だろうな?
じゃあ何だよ、って視線を不知火に向けるとその変化を感じたのか、不知火はいつもの優男スマイルから割と真面目そうな顔に直して話す雰囲気になった。
「そうだね…レキさんのことだよ」
「あ?レキ?お前まさかレキに惚れたのか?」
ここでレキの話…か。正直先が見えない。何を言うつもりだ?茶化しても不知火の真面目な顔は崩れない。これは本気で真面目な時の不知火だな。基本的にこいつ、真面目だけどな。
「話を戻そうか。明智君とレキさんの関係が今、面倒なことになってるのは知ってる。明智君も言ってたからな。僕はあんまりこういうことに詳しくないから単刀直入に聞くよ?」
不知火はそこで一旦区切り、俺にこう問いかけてきた。
「明智君自身は、レキさんのことをどう思ってるんだよ?」
……。
………。
…………はい?
完全に思考が空白に飲まれた後、俺はかろうじて不知火の言葉を反芻する。
「……レキのことをどう思ってるか、だと?」
「そうだよ、最近の明智君があんまりにも見てられないからこんなガラじゃないことしてるんだけど、どうなの?」
そこに不知火の俺に対する配慮というか何というかが垣間見えたので俺もそれには真面目に応えようと決意。
「そう……だな」
「……」
「レキは…狙撃手としての才能はすごいよな。狙ったところを外すのを見たことがない。跳弾狙撃もなんのそので
「うん、それで?」
「でもあいつコミュニケーション能力が絶無だし感情の振れ幅もないし何考えてんのかわかんねえところあるよな。それが今の謎の狙撃拘禁に繋がるし」
不知火は黙って俺の話を聞いている。あくまで最後まで話を聞くぞっていう姿勢なんだろうな。
「そう、狙撃拘禁だよ。なんで俺が選ばれたのかわかんねぇしあいつに聞いても風がどうとか言ってよくわかんねぇし。技術で俺を圧倒したかと思ったら何を考えたか俺の部屋に入ってきて居候になるし。挙げ句の果てにはいきなり婚約とかいってくるしマジでどういうことなんだよ。100歩譲って俺の部屋で生活することは許しても羞恥の欠片もなくシャワー行くからって俺の前で服脱いだりするし」
「……」
「そんであいつからはなんの説明もない。ぶっちゃけ心労で頭がどうにかなりそうだよ。クラスの奴らを筆頭にゴシップ好きなアホ共は俺たちの関係を深読みしてくるし。それで今日終業式で明日から夏休みだろ?どうすればいいのかわかんねぇよ、ほんとに……」
「……」
こういう時に空気を読んでくれるやつの存在は武偵高の中じゃなかなかに貴重な存在だ。そんな不知火が友人でいてくれてよかったよ、ほんとに。
俺は思いの丈を不知火に惨めに、着飾らずに、素直にぶつける。
「それであいつのことを調べてみても要領を得ないことばかり。対策なんかとれやしない。ほんとに、どうすればいいんだろうな」
怪人ローズリリィの話は先ほど蘭豹先生にも釘を刺されたのでしないがそれ抜きでも俺の憔悴具合ってのはバレバレなんだろうな。
俺の話がここで区切りがついたと判断したのか、不知火は少し顎に手を当ててさらに問いを重ねてきた。
「明智君の言いたいことが全部理解できたかと言われたらそれはできてないんだと思う。だけど1つだけいいかな?」
「……何だ?」
「
……!!確かに俺は、レキのことをどう思ってるのか。それは今の話で言葉にしていないし、俺もほぼ考えたことがなかった。
「俺は…レキのことが…」
どうなんだろうか。思い出すのはアドシアードの時、人形焼を嬉しそうに食べていた姿。マサトも含めて捜査をした時、私服がないと言ったレキをクイーンズイーストに引き連れ、私服を買ってやった時に見せた、あからさまでこそなかったがその嬉しそうな姿。
俺は、レキのことが……
「好き、なんだろうか?」
少なくとも嫌いじゃない。では好きなんだろうか?今のこの状況でレキに出てけって言わない程度には好いているのか?
……わからんなぁ…。
でも1つだけはっきりとわかる。俺は滅多に見せないし変化も極微小なものだが、レキの笑顔は好きなんだとおもう。守りたいと思う程度には。
「俺も今ははっきりはわかんねぇけど、こんだけは多分言える。レキが危険な目に会うようなことがあれば守りたい。多分そうは思うんだ」
俺がはっきりとそれを口にすると不知火はいつもの優男スマイルを向けてくる。
「それって、多分明智君がレキさんのことを好きだからじゃないかな?」
「そうなの…かね??」
「僕も生憎経験がなくってね。はっきりとは言えないけど、明智君はレキさんに恋してるんじゃないかな?そうじゃなきゃ明智君の実力なら物騒だけどレキさんを病院送りにしたりできるんじゃないの?それをしないってことはそういうことなんじゃないのかな?」
「そんなことするわけねぇだろ!……あ」
思わず声を荒げた俺に不知火のほらね?という視線。それに思わず声が出てしまった。なるほどな。不知火め、カマかけたな。
それと同時になんとなくだけど心の負担が軽くなった気がしなくもなかった。少なくとも夏休みを普通には過ごせるくらいには。
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第43話
今回は一気に物語が動きます……!(予定)
久しぶりに冴え冴えな零司君です、それではどうぞ!
無様にも不知火に悩みを吐露した結果、新たに1つ問題が発生した。
「そんで、何が目的だい?不知火亮」
「あはは、バレちゃったか」
「自分でガラじゃねぇって言ってるんだからバレるもクソもあるかよ…それにこんな話するだけなら無駄に友情に厚い武藤とかなんだかんだお人好しのキンジと一緒にいる時に切り込めばもっとすんなりいくもんだろ。それをしないって時点でウラで何か頼みたいことがあるとかそんな感じだろ?相談料としてな」
相変わらずの優男スマイルを浮かべる不知火をちらっと見つつ俺は推理をぶつける。配慮したってことを考えるにしてもあまりにもタイミングが自然すぎたし、唐突に聞くような話じゃない自覚はあるだろう。
そこまで考えた結果、こいつにも何か目的があると判断した。元々こいつも一般中出身にしては体が出来上がりすぎてる。銃にも慣れてる感じがあるしな。
「さすが明智君だ、鋭いね。でも半分くらいは本当に心配してこうしたってことを忘れないで欲しいな」
「それは…なんとなく察してたよ。マジで助かったし、また助けてもらうかもしれない。それで?もう半分は?」
コーラを傾けつつ俺は明智の方を向き、真剣に聞きますよという姿勢を整えた。
不知火も本題に入るために一旦区切りをつけ、話し始めた。
「明智君は僕が普通じゃない、そう思ってたよね?」
「藪からスティックだな。それがどうした?元々そんな感じの集まりだろ、武偵高って」
「それは確かに否定できないね…。それはともかく僕は主に遠山君の監視役としてこの学校に来たんだ」
「キンジ?なんかやらかしたのか、アイツ」
なーんか話がキナ臭い方向に進みだしたぞ…?キンジは何やらかしたんだ…?
「監視を命令したトコはどこだ?」
「残念だけどそれは教えられない。武偵の暗黙の了解ってのもあるからさ」
教えないじゃなくて教えられない…ね。まぁ目星はついたな…。
公安0課。もしくは武装検事。多分キンジの性格からすると武装検事よりも公安0課の方が確率が高いだろうがそこは問題じゃない。問題なのは、両方とも
「んで?それと俺がどうつながる?」
生憎、俺はフランス政府とかイタリア政府とかに愛されちゃってるから殺したら国際問題になりかねない。…うわっ、自分で言っててゾッとした。
ここで初めて、不知火は優男スマイルを消して俺に耳打ちをしてきた。
「明智君を敵に回すことはしたくないんだよ。僕も
「要領を得ないな、お前らしくもない。何が言いたい?」
「簡単な話だよ。僕とこれまで通り接して欲しい。先に明かしてしまうことで君が殺されるのを避けようとしたと捉えてくれても良いかな」
……へぇ、なるほどね。つまり不知火は俺が下手に嗅ぎ回って消される前に手札を自分から明かすことで俺を密かに守った。そう言いたいわけだ。まぁいっか。偶には口車に乗ってやる。
「なるほどな。わかったよ、ってかぽんぽん喋んなよそんなこと。面倒なことになる」
そういうと不知火はホッとした顔でいつもの表情に戻った。
「それじゃ、これからもよろしくね明智君。レキさんのこと、うまくやるんだよ?」
「おうよ、ありがとな不知火。ドラクエ2にもよろしくな」
そういうと不知火はあからさまに驚いた顔をした。カマにかかりやがって。伝があるのはこっちも一緒だよ。否、一緒だったの方が正しいのだろうか?
不知火と別れて早30分、俺はとりあえず自分の気分を落ち着けるために
武偵は実力が第一という風潮があるからか、俺が知ってるのは探偵科と
わかりやすい例を挙げるなら平賀さん。彼女は装備科の問題児だけど実力は折り紙付きってことで作業部屋をもらってる。
ありがたいことに俺もそうやって武偵高の好意に甘えてるわけだ。
「そして俺の推理が正しければあと1分以内に俺の携帯に非通知で電話が来る」
相手は…そうだな、理子が所属してるであろう組織。あんだけ理子のことを嗅ぎ回ったんだ、そろそろ肩を叩きに来てもおかしくない。
不知火からとんでもない話を聞いたおかげで更に理子が武偵高以外の組織に属してる可能性が高まったってハナシ。あいつも慣れてたからな。
ピロロロロロ……
そうして待っていると案の定というか、着信がなった。やっぱり、すごく大きい組織、それも犯罪のニオイだな。
俺は一息ついて、そして電話を取る。
『もしもし。そろそろ受話器を取るところだと推理していたよ』
「そりゃどうも。俺もそろそろ電話が来るところだとは思ってましたよ」
声の主は男だ。変声機も使ってない。そしてこの人の声、どっかで聞いたことがあるような……?とりあえず情報を引き出そう。
ここは慎重に、一人称を変えてしっかり意識から変えるべきだ。
「とりあえず、です。貴方は当然僕のことを知ってて電話をよこしましたよね?僕としても貴方、とかお前みたいに通話相手を呼びたくないです。とりあえず仮名だけでも教えてくれませんかね?」
『ほぉ、君ならもしかしたら僕のことを推理できたかもしれないと思ってたのだがね、
「流石にそれは買いかぶりすぎですよ……。とりあえずなんでもいいですよ、僕が話しづらいだけなんで」
『そうだね……じゃあ
声の主はどうやらしっかりと俺のことをご存知のようだ。最初に2つ名、次に本名を呼んだところからもしっかり伝わった。
それにしても…教授、か。イヤーな名前が出てきたもんだ。
「教授、ねぇ…。正直仮名としては評価に値しないくらいこの業界ではイヤな名前ですねぇ…」
『元々呼ばれていた人のことが分かってる言い方だね、それは。そろそろ、かな?』
そろそろと教授が言ったあたりでこの声の心当たりにたどり着いた。そういえばいつだったかの夢の時に聞いた声とほぼ同じ、というか同じだろう。
そして気づいたことはもう1つ。電話越しにモーターか何かの駆動音がほんのかすかに聞こえる。
「お待たせしましたかね?」
『いやいや、退屈はしてないさ。君とこの場面で話をすることが必要だと判断したから僕からかけたわけだしね』
教授はなんだか声の年齢とは裏腹の好奇心をのぞかせている声で話す。まるで俺のことを品定めするかのように。
「それで?鷲鼻で顎が角張り気味のひょろっとした白人の教授さんはどんなご用件で?まっさかこんな与太話をしに連絡をよこした訳じゃないのでしょう?」
とりあえずその時の夢に出てきた身体的特徴をあげつらうと教授は驚いた体でほう、と声を上げたが恐らくそれは彼の予想の範疇。
『とりあえず君の第一の評価は素晴らしい、文句のつけどころがないとしておこう。それで話の本題だ。峰理子君のことを調べてたね?悪いことは言わないから手をつけない方がいい、その理由は--
「消される、からですね?」
『……ほぉ』
「そしてそれは表の理由で裏には何かが隠されてる、
ここで俺は一旦区切る。言葉を慎重に選ばないと間違いなく面倒なことになるからな。
「そうですね……裏の理由、か。不完全ですが一応の目星はつきました。聞きます?」
『これだけの情報で絞り込めるのか、素晴らしい!是非聞かせてもらおう』
教授はそれこそ欲しかったゲームを買ってもらった10歳児のような情熱を声に秘めて聞いてきた。
「まず、多分だけど峰理子に人を殺す意志も意思も、ついでに遺志もない。でもあいつは隠してるけどかなりの強さ。そんな理子が凶行……ここではそう仮定して、それをする理由……リュパン家の再興?いや、違う。それならはなっからリュパンの姓を隠す理由が薄い。どちらかといえば戦闘狂のケはあるけどそれよりも日常を楽しむ素振りが感じられるから快楽犯という線も薄い。ならば…自分の実力を誰かに証明したいから……?」
『ふむふむ…それで?』
考えろ……思考を止めるな、そこからの論理展開は…こうか?
「では、自分の実力を証明するにはどうするのが効果的か?僕の先祖の小五郎公に怪人20面相という好敵手がいたように、ライバルを下すってのは1つの示し方だ。では理子のライバルとは……?いやこれも少し違うな、
『面白い線だね、もう少し聞こうか』
「今のホームズ家は武偵やってる子と探偵やってる子の2人がいる。偶々俺は2人ともと面識があるが、このうち武偵をやってるのは姉の方で何の因果か俺たちとタメだ。ならそっちの線で進むべき。妹の方は足が悪いし、そんな奴に武力で勝っても何の証明にもならないと理子は判断するだろうしな。姉の方は……なるほど。理子もアイツも日本人の血が混じってるな。それがどう、というわけでは直接はないが闘争心を煽る一助にはなるか」
ここで俺は一旦止まる。突っ掛かりが生まれたからな。それだけなら今アイツはロンドンにいるし、理子もロンドン武偵高に進むべきだったのでは…?
日本の、それも東京武偵高じゃないといけない理由があるのではないだろうか?
ここでよぎったのは先ほどの不知火との会話。推定公安0課が監視してる程の潜在能力の持ち主の奴がこの学校にいるじゃねぇか…!
「なるほど…。遠山キンジか…!キンジをアイツのパートナーに仕立てて、『パートナー付きのホームズ家』と『遠山家の潜在能力』を同時に引き出すつもりか…!!」
『そこはHSSと言っても良かったのだけどね』
「なんだ、知ってるのか。まぁ知らんわけがないか。とりあえず、だ。遠回りをしたけど答えは出たぜ?」
『よろしい。答えてみたまえ』
俺は挑みかかるような教授の声にしっかりと声を通して答えた。
「さっきの2人で『
答えの採点に一拍間が空いた。そして……聞こえてきたのは拍手の音。
『すばらしい、すばらしいよ零司君!僕の予想以上だ!よくキーワード抜きでここまでたどり着いたよ!賞賛に値する、なんという快男児か!』
「……ついでに教授の正体、いっときます?」
『良いだろう、答えてごらん?』
正直、自信はあんまりない。だがこれ以上の情報は入りそうにないし、間違ったところでデメリットがあるわけでもない。答えてみるだけ答えてみよう。
「教授っていうのは昔の貴方の好敵手が呼ばれていた名前ですよね?なんで生きてるのか、そんなことはさっぱりわかりませんが。ねぇ、シャーロック・ホームズ卿?」
『……いやはや、これは驚いた。正解だよ、僕はシャーロック・ホームズだ。貴族の称号は辞退したはずだったんだがどうやらうまくいかなかったらしい』
根拠もクソもほぼなかったけど当たっちまった……てか本当になんで生きてるんだよ??もう一世紀以上生きてる計算にならねぇか?たしか1854年生まれだったはずだろ?
『そうだね、たしかに僕はもう一世紀くらいは生きてるね。どうして生きてるんだとか聞かないのかい?』
「聞いたら答えてくれるのか?どうせロクでもない技術ないし超能力なんでしょう?」
『当たらずとも遠からず……かな。僕が教えなくても周りを見ればわかるかもしれないね』
つまり教える気はない、そういうことだろう。
「ということで本題だ。なんで僕に
『ふむ…こう見えて無益な殺生は抑えたいと思う今日この頃でね。君を殺してしまうと不都合な人がいるしね。僕が君にこうして電話を掛けた理由はそのものズバリ、僕たちの城イ・ウーに迎えようと思ったからさ。どうだい?歓迎はするよ』
あっけらかんと教授、いやシャーロックが口にした言葉に耳を疑う。犯罪者組織に入れだ?何を言ってるんだコイツは。
理解できん、その一言に尽きる。そう思い、拒もうとした俺の耳にシャーロックは言葉を重ねる。
『千花君も元気にやっているよ、兄である君が来るとなれば喜ぶかもしれないね』
「なっ!!?」
どうしてここで千花の名前が犯罪者組織イ・ウーだったか?から出てくるんだ。
ここでイ・ウーに入れば千花を助けられる……??ここまで考えて俺は頭を振って余計な考えを追い払う。それは救いの道に見えるかもしれないが俺も千花も救われないな。確かめることは他にある。
「……取り乱してしまって申し訳ない。それで?千花は元気にやってるのか?犯罪に手を染めてないのか?」
『安心したまえ、君の妹は元気にやってるし犯罪にも手を染めていない。単純に自分のスキルアップに専念しているよ』
「…一応信じといてやる。それで、答えだ」
『決断が早くて助かるよ。聞こうか』
俺は始まってから早くも30分くらい経つこの会話に1つの区切りを付けるように大きく息を吸って、吐いた。答えは、これしかない。
「イ・ウーに俺は入らない。千花は必ず取り返す。そしてもう1つは提案だ」
『……残念だよ、提案を聞こうか』
「いやなに、そんな難しい話じゃないです。1つ確認を。その『戦力の急騰』でキンジとアイツ及びそいつが死ぬ可能性は?」
『君の干渉がなければほぼ間違いなく2人は死なない。これは確約しよう』
「なんで僕が干渉したらあいつらが死ぬという結論に至ったんだかわからないですが、わかりました。ならば僕と貴方、というかイ・ウーで不可侵条約を結ぶというのはいかがでしょう?」
『不可侵条約、か。面白い発想をするものだね』
そこでシャーロックは一呼吸おいて、嬉しそうに告げた。
『いいだろう、君の素晴らしい推理に免じて不可侵条約を結ぼうか』
「条件は僕がキンジたちとイ・ウーの対決に直接の干渉をしない代わりにイ・ウーは僕と……そうだな、レキに一切の干渉をしないっていうのでどうだ?」
『ふむ、それなら研究に支障もないか。その条件で良いだろう。ところで1つ疑問に思ったから聞かせてもらおう』
「さんざん聞いたしな、答えられる範囲ならとだけ」
『なんでレキ君なんだい?それがわからない』
「なんでって…そりゃ惚れたやつ守るのは男の役目だろ?」
こちとらさっき既に吹っ切れたからな。言うことに躊躇いはないぜ?
俺の答えに初めてシャーロックは心から驚いたアクションをした。
『……なるほど。僕の推理では男女の色恋までは推理できないのだが、君の僕の予測を上回る成長にはそれが根底にあるのかもしれないね』
「なに言ってるかイマイチ理解できてないけど、褒め言葉として受け取っておきますよ」
『それでいい。……ここまで老いぼれの話に付き合ってくれて感謝するよ。約束は守らせてもらう、では』
「ああ、どうせまた電話してくるんだろ?海賊船の船長さん」
『かもしれないね』
そういうとシャーロックは電話を切ったらしく、ツー、ツーという無機質な音が鳴り始めた。
俺もケータイをしまいつつ、情報の整理を行うことにした。
まず先ほどの電話の主、シャーロック・ホームズとそいつが入っているというか恐らくトップをやっている組織、イ・ウーについてだ。
シャーロックは多分本物、なのだろう。なんで生きてるのかとか色々不可解な点はあるが本物らしいカリスマ性というべきものを電話越しにも感じた。
それで、彼がリーダーを務めていると判断した理由は呼ばれ方。教授なんて呼び方をされてるからにはそれ相応の立場があるからだろう。そして目的が不明な以上、俺に電話をするという勝手なことが許される立場のシャーロックはリーダーないしはそれに次ぐものだろうだというところからも推測がつく。
それでイ・ウーという組織。シャーロックは電話越しの一定のモーター音から何かの乗り物の上に乗っているということが推測された。それだけなら車とかバスとか色々他にも選択肢があるが、大切なところは
先述の車やバスならタイヤが地面を走ってる音があるはずだし、飛行機ならアメリカとかイギリスあたりが動きそうなものだ。ならば残ったのは海。カモメとかの海鳥の鳴き声や波の音とかも聞こえなかったから不可解だったが、イ・ウーという名称を聞いてから謎が解けた。
イってのは昔の日本の潜水艦の『伊』から。ウーってのはドイツかなんかのこれまた潜水艦の『
それでも犯罪者組織なんだから壊滅に動こうとする国も沢山いるはず。……なのにここまでのうのうと潰れることなく活動してるってことはとんでもない戦力を保有してるんじゃないだろうか。それこそイギリス全土を焼け野原にしてのける程度には。
それだけ大きい組織だ。他の有象無象の犯罪者組織に与える影響も甚大だろう。恐らくイ・ウーってのは裏社会では中立を守っている、そんなところが予想される。
理由は戦乱を避けるため、といったところか。無益な殺生は好まないとはさっきのシャーロックの言だが、あながち間違いじゃないんだろうな。
ここまで考えて俺は冷静に一言。ついでに両手を合わせとく。
「キンジ、アーメン」
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第44話
イ・ウーの
「んっ〜〜!!疲れたな…」
推理を終えてひと段落ついたときの感覚はなんというか、寝起きの感覚に近いんだよな。思考に没頭するあまりある種のトランス状態にでも陥ってるのだろうか。
だからこうしてひとしきり推理を終わらせたらノビをする。俺の習慣というか癖みたいなものだ。
……にしてもこの部屋って異様に大きいよな。俺はあてがわれた部屋をくるっと見回しながらふとそんなことを思った。使っていいと許可をもらったのは1週間くらい前だったはずだがその間俺はレキのこともあり自分のことで手一杯で一回も使ってないからな。今回は誰にも聞かれるべきじゃないと判断してこの部屋の初使用に踏み切ったわけだがいい機会だ。少し見てまわろう。
大きさは8畳くらいあるだろうか。かなり広いスペースには前の使用者の趣味なのか黒い防弾ソファーがL字に並べられてある。さっきまで座ってたがふわっふわの柔らかいやつだ。ソファーのそばにはこれまた恐らく防弾であろう特殊なガラスを用いたテーブルがある。
ソファーの奥にはベッドとテレビが1つずつある。ベッドの左には中身が空っぽな冷蔵庫が置いてあり1日2日なら生活できそうではある。洗濯機ないから完全には無理だろうが…
一言で言うならなんだろうか……そうだな、無駄に広い居住可能な応接間。これがぴったりだろうか?
そう思い、しばらく探索しているとベッドになにやらカラクリが仕掛けられているのを発見した。ぱっと見なにもないように見せかけてスペースを作ってその中に色々収納する感じのやつだ。
なになに…どうすれば開くものか…?普通に引いてもビクともしない。恐らく腕利きの
「んー、これじゃどうしようもないな。一回、全体を見てみようか」
一旦後ろに下がり、俺はベッドの側面をジッと眺めてみる。するとベッドの右端に隙間があるのを見つけた。
「なるほどね」
俺はベッドの下部分を手にし、右にずらす。するとベッドの板が下に降りる動きをしたのでもう一度引っ張るとカラクリが解け、隠されていたものが白日のもとにお披露目となった。室内だけどな。
隠されていたものは……!!
「エロ本かよ……」
そりゃもう、何冊もエロ本がうじゃうじゃ出てきた。そりゃベッドに隠すものだろうけどその無駄な技術力を発揮するのをやめろよ、ホント。期待して損したぜ、全く。
俺はキンジほどじゃないけど女性の
総評としては、ここを秘密の隠れ家にするのはいいかもしれない。そのくらいには評価が高い。
隠れ家(仮名)から自室に戻る前に、バレるわけにはいかないエロ本を安全に運べる車っていいなぁと再確認しつつ寮前の駐車場で武藤に連絡をかけ、自室に歩き始めた。
2コール目に出てくれるあたり根っこはいいやつだよな、ホント。
「もしもし、明智だ」
『おう、明智か。どうした?お前から連絡なんて珍しい』
「まぁな。時に武藤よ、明日少し時間があるか?」
俺の唐突な質問に武藤は少し間を空けて不思議そうな声音で返してくる。
『いや、空いてるけどなにか頼み事か?今なら安いぜ』
「なにが安いぜだ、全く。この前、俺が
『ああ、羨ましいぜ全く』
「んで今日行って中を掃除がてら見回したらさ、その…エロ本がだな」
『ほぉ……?』
エロ本の声を聞いた瞬間、武藤の声が無駄にイケボになる。紳士アピールか何か?
「それでだな、俺には無用の長物ってやつだからお前に引き取らせたいわけなんだが……」
『明智よ…』
「ア、ハイ明智です」
いやいつまでその無駄イケボ続けんだよ。気味わるいぞ…
とは思ったものの、武藤の次の言を待つ。ほぼ確実にないことだが、真面目なことかもしれん。
『引き取り金額はいくらだ……?』
「………はい?」
『引き取り金額だ……!男の宝をタダで譲り受けるなんてこたぁ俺にはできない!ましてや先人の貴重な宝だ、ともすれば国宝級の価値があるかもしれないぞ……!』
ありません。あっても困るわ、そんなん。ともあれ、向こうから勝手に貸しを作ってくれるようなのでそれに乗っかるとしますか。
「じゃあ今度一回俺の頼みを聞いてくれ。それでいいな?」
『よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
うるさいうるさい、耳にツーンときた。そんなに欲しいものなのか、
『……にしてもよかったぜ。なにがあったかまではわかんねぇけど明智、元気になったみたいで』
「あ?」
『いや別にたいしたこたぁ言ってねぇぞ?最近のお前、割とマジで辛そうだったしさ。元気そうな声が聞けてよかったってそんだけだ』
……ちっ、全く以ってどこまで行ってもいい奴だな、こいつ。
「まーな、気持ちに折り合いはつけたからな。んじゃ明日、11時でいいか夏休みだし。寮の下で待ってるぞ」
『おう!』
俺は携帯をしまい、自室のカードキーを使って部屋の鍵を開けて入ると、いつものようにレキがリビングでぽけーっとしていた。
「ただいま」
「お帰りなさい、零司さん」
「おう、とりあえず風呂場の掃除してるからなんかあったら呼んでくれ」
最近はレキもしっかり返事してくれるし、成長してるのかもな。
今はまだムリだけど、今日不知火に言われて気づいた俺の気持ちをいつか伝えてレキの本心の答えを聞きたい気持ちはあるもんだな。
そんなことをおもいながらいつもの癖でリビングにバックを放り投げて風呂場の掃除などといった家事に取り組むことにした。
……思えばここで選択をミスったのかもな。あんなことになるなんて流石に思ってなかったぜ。
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第45話
「ふーんふっふふーん」
俺は今鼻歌交じりに風呂場の掃除をしている。毎日使うところだから掃除は欠かさずやらなきゃな。まだレキにもやり方教えてないから任せるわけにもいかないし。
前の部屋の時はシャワーで済ませていたらしいレキだが、俺の部屋に来てからは浴槽に毎日浸かっているようで割と長く風呂に入っている。まぁ、あいつ曰く毎日15分とは言ってたが、女子の風呂の長さを測るのは野暮ってもんだし気にしてないけどな。
「よし、こんなもんかな?」
洗剤をシャワーで流して一息つく。風呂場でもリビングでも掃除直後ってのはいいもんだよな、ゴミ1つない生活空間。掃除をやりきったって感覚と一緒にすごく満足感を得られる。それでそのあとにコーヒーを飲む。うむ、愉悦だな。
俺は濡れた手足を拭きつつ、リビングに戻る。
「風呂場の掃除終わったよ〜ってあれ?」
なにしてんの?てかレキさんなに読んでるの?心なしか怒ってるような…
「零司さん」
「なに?」
「零司さんってこのような本の女性が趣味なのですか?」
ばさっ、ばさばさっ。レキが見せたのは……なんか四つん這いになって左手を猫みたいにしてる女性のあられもない姿。
……。
………。
…………!!!しまった、隠れ家のエロ本か!隠すの忘れてた!すごーく誤解されるよこの流れ!!いや俺が悪いっちゃ悪いんだけどな
「ち、違うんだレキ!話をーー
「それで、好きなんですか?零司さん?」
うわ…レキさんマジギレの絶対零度の冷え冷えトーンだよ…これめっちゃ怖いよ?普段表情薄い奴はキレるとめちゃくちゃ怖いってのは本当なんだな…
「とりあえず、話を聞いてくれないか?判定はその後ってことでさ、頼むよ…」
俺は(なぜか)土下座しつつ、レキのご機嫌取りを始めることにした。
「………いいでしょう、聞きますよ」
沈黙すること数十秒、俺が折れるほんの少し前にレキが折れてくれた。首の皮一枚つながったぜ。どうしてだろうな、俺なんも悪いことしてないはずなんだけど……
レキに事情を話し始めて10分、誤解や取り違えのないようにしっかりと説明するとレキも納得してくれたようだ。
「……わかりました。その零司さんの探偵科棟の自室にその本があって、零司さん自体は興味がないから武藤さんに渡すために一時的に持って帰った。それでいいですね?」
「はい、マジでそうなんです。悪いことは多分してないはずなんです…」
「……はい、私が少し早とちりしてしまったようですね。すみません零司さん」
ふぅ…とりあえず平和的解決に持ち込めた。問答無用で撃ってくる奴もいる武偵高、こうして対話のテーブルに乗ってくれるだけでもありがたいって奴だ。
などと思っているとレキは人差し指をピン、と上に向けてこう続けた。
「ですので、1つテストをさせていただきます」
「て、テスト?」
「はい」
藪から棒な発言に目を白黒させるのはしょうがないと思うんだ。どっかのピンクいの程じゃないけどこいつも大概聞かん坊よな。
レキはテストと言ってから少しもじもじすると意を決したのか制服姿で四つん這いになった。……四つん這いになった!!!??はぃい!!??
そのままレキさん、わずかに頬を赤く染めて左手を猫のようにあげた。
「ニヤアン」
……さっきのあられもない女性の真似なのだろうが、すごい棒読みとレキがこんなことをするなんて、という衝撃とさらには衝撃的な可愛さに俺は思わず立ち尽くしてしまう。いや、反応に困るでしょ、これは!!!?啞然、っていうのとも少し違う気がする。心を奪われた?……そういうことか……惚れた弱みって奴だな。
「そ、そのだなレキ。すごくかわいいのはわかったからやめてくれ。色々困る…」
「は、はい」
俺はレキから目を背けて言ってやる。多分顔もすごく赤くなってると思う。かといってレキも流石に恥ずかしかったのだろうか、少し返答に詰まったな。
「な?俺無実ってことでいいよな?」
「そうですね、零司さんを信じることにします」
「よかった…信じてくれてありがとな」
「いえ、私は零司さんのものですから」
……ん?今、いつもとモノのイントネーションちょっと違った気が。まぁ気のせいかな。
ともあれ、だ。これ以上これを晒す理由にならないししっかり片付けよう。
次の日俺は男子寮の前で武藤を待っていた。そろそろ待ち合わせ時間の11時なんだがな…
「明智ー!!わりぃ、遅くなった!」
「うるせー、バイクから早く降りろ」
ってこれ前武藤が改造したって自慢げに言ってた奴じゃん、確か200キロだかなんか出るって怪物バイクって触れ込みだったな。
「ほいほいっと。で、例のブツは?」
「なぜ例のブツだけ声を低くするんだ…。ま、それは置いといてこれだ。中身は自室に戻ってからのお楽しみってことで。俺が渡したってことは口外しないように」
早速開こうとしたアホの武藤を手で制しつつ俺は条件を滔々と並べていく。
「こんな量のお宝もらっちまっていいのか……?」
「声を震わせながら言うんじゃないよ……全く。とりあえず俺には無用の長物って奴だ、未練も後悔もねえよ。俺から見たらメモ帳にすらならねえゴミだ。レキにも見せられないしな」
あ、やべ。余計なこと言ったせいで昨日のことがフラッシュバックしたわ…頬赤いかも。
武藤はそんな俺の顔を見てすごくいやーな笑みを浮かべてやがる。なんだよ?
「その様子ならレキに対しての気持ちははっきりしたみたいだな!よかったよかった!」
「うっせぇ!早く帰れこのアホ!さもなくばバイクを部品だった欠片も残さず爆発させるぞコラ」
「はいはい、武藤剛気はクールに去りますよっと」
そういうと武藤はバイクにまたがりさっさと出発してしまった。……てか速えなマジで。道交法の欠片もねぇ。そんなんで大丈夫なのか
ふぅ、とりあえず爆弾は持ってってくれたし俺も部屋に戻りますか。やりたいゲームも少しあるし。
俺はこれまでにないほどスッキリした気持ちで寮の部屋に戻るのであった。
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第46話
武偵高では夏休み中に一回、ランク定期外考査というものが存在する。
他の時期にも何回かあるのだが、簡単に言えば自分のランクを少しでもあげよう、と希望した生徒が筆記考査とナイフ術と射撃技術の実技試験、実戦考査で自分の実力を示しランクをあげようとするといったところか。
そんなモノが開催される会場に俺は今来ている。というのも、見学に来た訳でも試験監督代理できた訳でもない。正真正銘、受験生として来たのだ。
ランクSだから普通なら関係ないのでは?という疑問ももっともで、案の定俺が受験生と知った他の受験生や暇つぶしに来ていた生徒はすごく驚いている。確かにこれ、普通の奴は受けないからな。受けるのは転入生か落ちこぼれくらいってのは聞いたことがある話だ。
そんな俺の肩をポンポンと叩く人がいた。厚み的に男だな。
「おい、明智か?」
「ん、その声は……マサト!久しぶりだな!」
俺の肩を叩いた男、もといマサトは俺の姿を見つけるとニカッと笑顔になった。あーこれ、俺と同じ理由でコレを受けに来たパターンだな。
「おいマサト、お前コレ受けに来たのか?」
「まぁな。お前も目的は同じだろ?」
「だな。せーので言ってみるか?」
「いいぜ、多分同じだろ?」
そこで俺たちは一呼吸おく。
「「せーの、掛け持ち科目の試験」」
普通のトーンで言ったが俺たち以外はかなり驚いてるな、反応的に。
対照的に俺たちはやっぱりって雰囲気が漂ってる。
「やっぱりな、ちなみにマサトはどれ受けに来たんだ?」
「俺は
「俺は狙撃科と
ちなみに俺の場合、アドシアード優勝という実績のおかげで射撃技術の検査は免除。筆記とナイフ術、実戦だけというお手軽具合。
「俺も大概だけどマサトはホントに努力するなぁ、尊敬するよ」
「そういう明智もな。一年で掛け持ち志望なんて俺とお前しかいないらしいぞ」
そう言いマサトは手をグーにして出してくる。なるほど、合わせろってか。
俺もマサトに応じグーを突き返す。パンっ、という音がして俺とマサトは互いの健闘を誓い合った。
筆記試験の会場にマサトとともに入ると席は自由席との張り紙があった。いつも思うがそんなにガバガバで大丈夫なのか武偵高。
俺は苦笑を浮かべつつ、席に着くとすぐに試験監督の蘭豹先生が入ってきた。確かにあの雑な走り書きは蘭豹先生らしいよな。
「オウお前ら、ウチの大切な休日使って試験監督やってんねんぞ。変なことしたら殺すで!問題はこれや、もらったら開始や!」
……雑だなぁ。
俺は回ってきた問題用紙を手に取り、筆記を始める。というか全部簡単なお話なのですぐ終わる。
(……弾道理論とか射撃照準とか、そんな基本のところから聞いてくるのね。体に染み付いてるものでしょうに)
10分足らずで書ききったので寝ますか。
筆記試験が終わり、成績表が張り出されたが俺は当然の満点。マサトもだけどな。
というかBランクくらいのやつが対象のテストっぽいな、コレ。それより下のやつには経験がないようなケースの問題が何個か散見されたし。逆にAランクのやつが受けたらかなり簡単に感じられるような問題だ。キンジでも、いや知識だけはあるからキンジは逆に答えられるか、あいつもSだからな。ヒステリアモードによるブースト込みだが。
現に普通なら平均点になりそうな所に得点の空白部分が存在してる。これじゃ育つものも育たねえそ…。逆に言えば自分で考えて学べって言うことの代表的なケースなんだろうが。
次は射撃の検査か。暇だしマサトのやつ見てよっと。
マサトのいるレーンに行くとやはり強襲科のSランクということもあってか人、人、人。観衆がめちゃくちゃいるな。アドシアードの時に俺も経験したけどこういうの慣れないよなぁ。
そんなたくさんの観衆に見られてるマサトは眉ひとつ動かさず、正確な射撃を披露している。その型は基本に忠実。教科書より教科書してるお手本のような射撃で、当然的のポイント高い所にビシビシ当ててる。
「おぉ〜!あっちも見に来たのかな?かなかな?」
「理子か、俺も受験してるんだけどな。アドシアードの実績って奴で射撃試験は免除だ」
「サラッとえげつないこと言ってるのわかってるのかなあっち…」
この独特な俺の呼び方をするのは理子しかいない。案の定小さい体をくねくねさせて俺の前に来た理子はしっぶい顔をしてる。そんな顔されてもな…。
理子にはイ・ウー関連で色々聞きたいことがあるんだがシャーロックとの協定上下手なことができない。口約束とはいえ、一応は守るべきだろう。
「にしてもマサトはホントに基本に忠実を体現してるよな、俺とは大違いだ」
「んん〜?確かにあっちの射撃ってパッと見派手派手してるけど、根幹のところはすごい基本に忠実な気がするけどなぁ〜」
「派手派手してるってなんだ派手派手してるって。俺みたいなのはちゃらんぽらんしてるくらいがちょうどいいんだよ」
「くふふ、あっちってホントにぶれないよねぇ。それで両利きでバシバシ当ててるんだから驚きだよ」
「まぁな、でもさ」
ここで俺は一旦トーンを低くする。普段それを使ってない時点であんまり知られたくないんだろうからな。
「お前も両利きで左手でも銃打てるだろ?」
「!!……流石だね、あっち。どこで気づいたの?」
「そんなん普段のお前の射撃見てりゃわかる。両利きの癖、出てるぞ。気づいてるのは俺とか教師陣くらいだろうけどな」
右で銃を撃つ時の重心が右利きの奴とはほんの少しズレてて、両利きっぽかったってのが理由だけどな。そこまで言わなくてもわかるだろう。
「えぇ…流石に鋭すぎない?結構似せてるつもりだったんだけどなぁ」
「別にいいんじゃない?将来のことを考えるなら武器は隠せるだけ隠すべきだろ」
「バレてる時点でそれはなんのヘルプにもなってないよ、あっち…」
「あはは…」
その後も理子と一緒にマサトを見守ってたが案の定満点。非の打ち所がないって奴だったな。いやホント。
ナイフ術の試験は俺もとりあえず基本に忠実って奴を体現して満点。試験は午後の専攻科目のみとなった。
俺はまず受ける狙撃科の試験に備え、愛銃の蒼く塗られたG43を点検していた。
昨日レキにも確認を取ったが念のためにもう一度、って奴だ。まぁ、せいぜい500mが有効射程とされる
……よし、見たところオールオッケー。万全だ。あとは結果がどう出るかな?
「次、明智零司は射撃レーンに入って射撃を開始しろ」
相変わらず感情の起伏の薄い南郷先生の指示に従い俺はレーンに入り、G43を構える。
1発目は500m先。風……向かい風1.0mくらいか。俺は慎重に、かつ迅速に的の中心へと水のレーンを想起する。これならブレない、当たる…!
「
ダンっ!発射された弾は俺の想定した水のレーン上を真っ直ぐに、上下のブレもなく飛んでいき、中央を射抜いた。よし、この調子ならいい感じなところまで行けそうだな。
俺の水のレーンを想起して撃つ狙撃は1発目の命中がその日の状況によってほんの少しだけ落ちることがある。2発目からはその日の感触をもとにほぼ完璧に絶対半径内を射抜けるんだがな。ここは要練習部分だということを自覚している。
狙撃はそのまま順調に距離を200mずつ伸ばし、現在7射目の1700m。ここまでならAランクの中にも撃てる奴はそうそういない。だがこんなものじゃない。こんなところでは終われない。
風向き、変更なし。そのまま的の中心に水のレーンを想起し、撃つ。
撃たれた弾はこれまで同様、正確に水のレーンを通り真ん中を射抜いた。
「ふう」
一息吐き、距離設定を今度は100m更新する。1800m。絶対半径のギリギリのラインだが、まだ当てられる。
風向き、先ほどと変わって射撃方向に向かって右1.2m。その誤差を修正し、撃つ!
「明智零司、記録1895m。Sランク相当だ、おめでとう」
「ありがとうございます、でも…」
「レキには届いていない、か?」
「そうですね、自分はまだまだです…」
狙撃科でもSランクをほぼ内定させた俺は南郷先生と話しつつ、少し反省をする。1900mの挑戦時、最後のところでわずかにブレてしまった。そのことを若干悔しそうに言うと、南郷先生は普段あまり見せない笑みを浮かべていた。なんですか、その反応?
「だが、あいつにはお前みたいな近距離戦闘はほぼできない。それにお前ほどの推理力を持ってるわけでもない。結局はどこを自分の良いところとして磨くか、だ。お前はまだ伸びるだろう」
「そう言っていただけると幸いです。ところで、なんですが…」
「なんだ、歯切れが悪いな。言ってみろ」
「Sランクって人数制限あるじゃないですか、俺がこれでSランク認定を受けたらどうなるんですか?」
「その点はお前がもともとSランクだから人数制限には引っかからない。一石も同じだ、当たり前といえば当たり前だけどな」
「なるほど、んじゃ遠慮なく強襲科のSランクも取りに行きますか。ありがとうございました南郷先生」
「あぁ」
南郷先生、レキは近接ほぼできないんじゃなくて銃剣を用いた槍術以外できないんですよ。という声を内に留め俺は強襲科の試験会場に急いだ。
「おーぅ来たかぁ
「すいません綴先生」
「まぁお前の場合南郷のところ行ってからここ来たワケだし別に良いんじゃないかぁ?今回は『建造中のビル内での戦闘、徒手のみ』という
強襲科の会場に急いで来ると試験監督で不機嫌だったらしい綴先生の小言をもらいつつ同時に想定された戦闘場所での戦い方を考える。
場所はボクシングのリングではあるが、今回の状況はビル内での戦闘。リングの外に相手を投げ飛ばすことはすなわちビルの外に犯人を投げることと同義であり、日本の武偵法9条『武偵はいかなる場合も犯人の殺害を禁ずる』に抵触してしまい、武偵廃業で済めば良い方。普通なら武偵三倍刑によって死刑まであり得る。つまり、リングの中で素早く相手を制圧する必要がある。
そこまで考え、相手を見てみると相手はこちらを憎々しげに見ていた。というかやっこさん、いつかの
「久しぶりだな、弱市。元気にしてたか?」
「元気にしてたか、だとぉ!?てめぇ調子乗るのも良い加減にしろよ!」
「ええ…」
どうやら完全に敵視されてる。いくらなんでもそれはひどくない?特別に本気を出してやろう。相手もこれで俺に勝てばSランクほぼ間違いなしだろうし恨みっこなしってことで。
「んじゃ明智、弱市の両者はリング上へ」
軽くノビをして少し跳ねる。うん、体は鈍ってない。俺は万全だ。そう思い相手を見やると相手も戦る気十分みたいだな、こちらをギロッ!と見てる。睨んでるつもりなんだろうけど悲しいかな、その目は
「んじゃ明智零司対弱市
なんとも気の抜ける開始の合図と同時に弱市が俺に踏み込んで来る。遅くない。けどキンジほどじゃねえな。
対する俺は危機迫る感じで右の人差し指を上にあげた。そして声をあげる。
「あっ!」
「……!!」
弱市は
俺はそのままあげた右手を裏拳気味に放り、弱市の顎をヒットする。そしてそのまま左足をこれまた顔に振り抜き完全にダウンさせる。そしてそのまま弱市の左腕を左側頭部に当てた状態で、俺の左手で反対側の首を通した状態で掴む。そして右腕を弱市の固められた腕の内側を通してそのまま締め上げる。
袖車絞。その袖を使わないバージョン。弱市は抜けられないと判断したのか、右手でギブアップをした。
「はい、そこまでぇ」
綴先生の終了の合図とともに袖車絞を解き、さっさとリングを降りる。やっぱりヒステリアモードのキンジって強いんだな。あそこからでも返された時あったもんな。
リングを降りるとやっぱりというか、理子がいた。こいつ以外と戦闘狂なのだろうか?
「うわぁ、あっち圧勝だぁ…」
「見てたのか、理子」
「うっうー!りこりんはいつでもあっちを見てるのです!」
「そういうのはキンジだけにしとけよ」
「キーくんこういうのノリ悪いから、理子キライ。というかあっち、1つ聞いていい?」
「ん?なんだ?」
「最初の。なんであれが決まったの?」
あぁ、あれか。タイマンだと意外と有効なやつが多い。ま、普通の犯罪者はっていう条件付きだが。
「あれな。簡単な
「ふむふむ、それで?」
「それでだな、言うなら相手の視覚の情報は俺の一挙手一投足にのみ注がれてるわけだから、強制的に少しだけ相手の意識を他に向けさせるんだ。その時に指ってのは方向を示す情報として一番分かりやすいものだから一瞬だけ上を向かせることができる。あとは見た通りの結果。もし失敗しても敵の動きはあそこからの動きなら見切れるからあのレベルならカウンターして終わり」
「失敗した時までちゃんと考えてるんだ、さっすがぁ!」
「いや普通だから…お前は情報収集する時に1つの方法しか取らないのか?」
「そんなことはないけどさぁ〜。でもでも、多対一の時は使えないよねそれ」
「当たり前だろ、でも今回は一対一だ。そのルールに則ってリングの外放らなきゃ基本的にはなんでもありだ。強襲科の技術かと言われると微妙だけどな」
そう、どちらかというとこれって
「おぉい明智ィ、終わりだぁ。さっさと着替えてこい。あとSランクな」
「はい、わかりまし……ええ!?」
なんというか、ノリが軽い。軽すぎるだろコレ。何度でも問いかける、ホントに大丈夫なのか武偵高。
「えぇってなんだ、嫌なのか?」
「い、いえそんなことは!」
「んじゃSランクだぁ、おめでとー」
なんというか……かなり実感のあった狙撃科と比べて、うっすい感想しか出てこねぇ。嬉しいとすら言えねえ。いや嬉しいけどこんなんでSランクになってしまうのか感がすごい。
「というか、レキ見に来なかったな…」
……寂しいとかそんなんじゃねぇから!ねぇから!
改めて試験結果が張り出された。俺は強襲科と狙撃科、Sランクということになった。マサトもどうやら狙撃科と車両科のSランクを取れたらしい。よかったよかった。
ちなみに弱市君はCランクに降格、ざまぁみろ。
「思ったより遅くなっちまったな…」
早くもなんと19時、いつもなら晩ご飯を作り始めてる時間である。このままだとウチの居候ことレキさんが(無表情ながら)怒ってしまうので帰り道を急ぐ。
当然もう夜なので寮の電気はついてる。俺は割とこの光が好きだ。家庭って感じがなんとなくするからな。
「……?」
見ていると何部屋か電気がついてない部屋がある。それだけならまだいい。
問題は
そして何か嫌な予感がする。漫然とした直感だが、直感を侮ってはいけない。
俺は急いで自室の扉を開けて靴の確認をしてみる。……ない。いつもならある女性用の革靴がない。
焦りを覚えた俺はすぐさまリビングに入り、何か情報がないか見回してみる。
異変はすぐ見つかった。リビングの机の上に意味深な感じでレキの部屋のものと思われるカードキーが置いてあった。書き置きの一つもなしに。
……レキに何か大変なことが起こった。間違いないだろう。
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第47話
今回は短いけど、結構重要な部分なのかも……?
それではどうぞ!
……まず落ち着け。焦っていては見えてる情報も見落としかねない。
まず状況の整理。部屋にレキがいない。そして書き置き等、所在を示す情報がない。
「なら荷物はどうだ……?」
失礼だとは思いつつ、レキが使っていた部屋を開ける。
……ない。ドラグノフも整備道具も。学生カバンすら残っていない。残っていたのは…いつだったか、レキに俺が買ってやった私服のみ。
俺にはそれがなんとなく、過去のレキ自身との別れのように感じられた。
待てよ、やっとこの間自分の気持ちを整理できたのに。勝手にどっかに行くなんてことはさせない。
俺は急いで自分の装備を整えて、レキの部屋のカードキーを持って自室を出る。今回はG43も持っていくほぼ完全なフル装備だ。理由?……直感だ。
走っている途中、俺は時間が遅いことを自覚しつつも
幸運なことに2コール目で電話が繋がった。
『はい、教務科です』
「その声は高天原先生ですね。……いきなりすいません、探偵科1年明智です。」
『あら明智くん、こんな時間にどうしたの?』
このトーンということは教務科もまだ察知していないな。俺は少し言いたいことをまとめ、伝えるべきことを絞って告げた。
「
一旦止めて本当にそうなのかを考える。この手法はほぼ間違いないハズだ。
「怪人ローズリリィかと」
高天原先生の雰囲気が変わったのを電話越しに感じ取り、俺は続ける。
「今はまだ可能性という話なので女子寮のレキの部屋にとりあえず行ってます。緑松校長に俺ーーいえ、私の捜査参加の許可を取り付けていただけませんか?」
そこまで言うと不意に電話の向こうで人が変わる気配。緑松校長がスタンバイしてたようだ。
「はい、はい。緑松です。これも因果なんでしょうかね、明智君の捜査参加を認めましょう。この事件、まだ可能性止まりなので追加で事件性がはっきりと認められるまで
「はい、ありがとうございます。とりあえずレキの部屋に捜査に入ります。通信は切らずに置いていただけると事件性の有無を判断する一助になるかと」
俺が謝辞を述べ、続けると緑松校長はくっくっ。喉を鳴らしてさも楽しげに笑っている。さすがに今はそんな状況じゃねえってのに。
「見せたまえ、
……うわっ、今すごく背筋がゾワッとした。やっぱりこの人怖えよ。
カードキーを使って中に入る。当然靴はない。でもあいつのことだ、何も意味もなくカードキーを意味深な配置にはしないだろう。
そのまま奥へ侵入していく。一応水分感知を利用しているがこの部屋には俺以外はおそらくいない。
……にしてもよくこんな監獄みたいな部屋で過ごしてたもんだ。ホントにモノがない。
「ま、ないからこうしてモノがあると目立つんだよな」
そう言い、机の上にある包みをひっくり返す。出てきたのは、
ーー曰く、怪人ローズリリィは攫う対象が男なら薔薇を、女なら百合を残していくらしい。
これは、もう確定的なんじゃないだろうか。
俺は写真をとり、
元々武偵高のあるこの場所は2つある
そこから考えると逃げるルートならもう片方の人工浮島、通称空き地島に船や潜水艦を待機させるのが筋道って奴だ。
それに…今なら使えそうな気がする。なんとなく理解できた。なんで今まで使えなかったのか、そして今は使えるのか。
ーー
思えば、先祖の光秀公は『平和な世界』を作るためにこの力を使ったんだったな、これも大切な人を悲しませないためといった所か。その結果が200年を超える戦乱の殆どない時代っていうならすごく誇らしい気がする。
俺は過去の自分との決別という意味も込め、誰もいない部屋で叫んだ。
「俺は……俺はッ!
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第48話
「俺は……俺はッ!
俺がそう叫んだ直後、不意に意識が反転しフラッと倒れる感覚があった。そしてそのまま俺は暗闇の中に立っていた。いや上下左右が分からないから正しくは立っていないのかもしれない。無理解の感覚ってやつか?
正直長居はしたくない感覚だ。立ってるのか座ってるのか、はたまた寝転がっているのか分からなくなってくる。とりあえず状況を確かめてみるか。
「あー、あっあー。声は出る、と」
次に胸に手をやり、そのまま手を伸ばす。その感覚はあるな。これで少なくとも前後ろはあることが判明した。
その時、俺は後ろから何かの気配を感じた。積極的に動こうとはしていないようだが、背後を取られているのは心象的に良くない。
「とりあえず、どちら様?あとこの感覚はどうなってるのさ?」
「へぇ、初めての使用でここまで焦らないのは久しぶりなんじゃないかな。その調子ならもう大丈夫かな」
声質からして男なそいつが何事かを呟くと、暗闇が一気に晴れて無理解の感覚から解放される。あたりを見回してみるとまるで海のような青、いやここでは蒼としておこうか。海と違う点を挙げるとするなら魚とかの生き物の気配が全くない。ともかくそんな空間にテーブルが1つ、椅子が俺の前と先ほどの声の主らしき男、どこか俺に似てる……?とりあえずそいつの前に1つずつ。正面に座れるように配置してあった。
「ともかく、座って話をしよう。君はこの領域に来るのは初めてだろうしね、状況説明ってのが必要だ。違うかい?」
「……俺の今の状況を理解しての発言とみると、この場で過ごした時間は現実世界に影響を及ぼさないってところか。あんたの口車に乗ってやる」
「正確に言うと、この場所で過ごす1時間が現実世界での2秒程度なんだけどね。ま、その認識で良いんじゃないかな」
男が席に腰かけろと手で示すので俺はそれに応じると、男も座った。
するといつ出てきたのか分からないが、紅茶と和菓子がテーブルの上に出てきた。いやバランス悪いなオイ。
「さて。初めまして、になるね明智零司君。何が聞きたい?」
「そうだな……。まずお前の名前は?そこからかな」
「変なところから聞くんだね、てっきりこの場所のことを聞くものだとばかり思っていたよ」
「これから話をするのにお前呼ばわりってのはどうなのさ?ってわけ」
「なるほどね、良いだろう。教えてあげるよ」
そこで男は一区切りして紅茶を口にする。そしてニコッと微笑みながら言った。
「僕は明智光秀。正確に言えば明智光秀の残滓だね。君の祖先で信長様を滅ぼした、その人さ」
………はい?
「光秀公なんですか?」
「そういったんだけど?」
「昔の言葉使いじゃないんですね」
「別にそれでもいいんだろうけど、言葉の伝わり方に齟齬があるかもよ?」
そういうと男……光秀は小首を傾げた。
何このフランクな光秀公?
いやいやいやいや。流石に意味わかんねぇよ。
「……さっき残滓って言ったな。どういう意味だ?」
「そうだね、そこは説明しないといけないかもね。文献で今でも伝わっているのかもしれないけど僕は『仮想の未来視』を使用していた。ここは『未来視』をするところ……『未来視の間』と言える場所なんだけど、初めてここに来た人はどうすれば良いのか分からないでしょ?だから歴代の『未来視』の使用者が新人に使い方とかを教えるために残らなきゃいけないんだ。今回は僕の血縁ってことで僕が召ばれたんだろうね。残滓ってのはこれで理解できたかな?僕がここを使った証、みたいなものだよ」
なるほどな。簡単に言えば取扱説明書ってことだな。分かりやすくて助かるぜ全く。
「まぁ、僕以外に使えたのは小五郎君しかいないから実質二択だったんだけどね」
「そこもうちょい早く言おうな。……じゃなくて本題だ。この場所の使い方と得られる成果、副作用を教えてくれ」
「そうだね。あんまり長居をする場所でもないからささっと教えちゃおうか。ここの使い方は簡単、『掴みたい未来を得るために次のアクションをどうすべきなのか』を求める、それだけだ。一度使えばその求めた未来をつかむことはほぼ確実なものとなるね」
光秀公の言うことに嘘は無いんだろうが、イマイチ信じきれない。
「なぁ、そこだけ聞くとおいしく聞こえるんだが」
「利点はすごく良いからね、この能力。ただし!過信は禁物だよ。遠い未来を得ようとすればするほど正確性は落ちる。僕は本当は『この先500年間、戦乱の無い世界』ってのを望んだんだけどねぇ。結果は200年とちょいでタヌキの徳川の政権は終わったし、徳川の政権下でも細かいいざこざはあった。この先1年っていう比較的短い未来なら命中は100%だからこの点は今の所は心配ないよ」
「へぇ、じゃ次の欠点は?」
「使用者の疲労が一気に蓄積されるところかな。大体一回の使用で5日間水以外の摂取なしで戦い続けるくらいの疲労が溜まっちゃうから連発とかいうバカみたいなことは考えないほうが良いよ。実際僕、それで『未来視』を使った後すぐに秀ちゃんの軍勢に殺されちゃったし」
「はぁ!!?」
何それ聞いてない。これから救いに行かなきゃダメだってのにくたばってちゃ話にならない。
「だからそれ含めて『未来視』しちゃえば、君の『大切な人を救う』って目的は達成されるんじゃない?」
「おい、人の思考を読むなよ!」
「あれ、気づいてない?これ一応君の頭の中だから隠すも何もないんだよ?」
「ごめん、それ初耳だ」
楽しげに笑う光秀公を横目に見つつ、言われたことをしっかり心に刻む。使うときは本当にどうしようもない時のみ。
「そう、それで良いんだよ。『大切な人を救う』なんて、実にこの能力とはおあつらえ向きじゃない?応援するよ」
そういうとぽぉーーっと、光秀公は少し透けて、奥が見えるようになった。いや何それ?
「あらら、限界かな?今回の表出はこれまでみたいだ。頑張るんだよ、僕の子孫」
そういうと光秀公はスッと消えていき、俺の分の紅茶と和菓子が残された。
「……ありがとうございます、光秀公」
俺は和菓子を紅茶でササっと食べてから立ち上がった。するとテーブルと椅子は消えてなくなり、俺だけが残った空間となった。
「さて、と。レキを助けるためにはどうしたらいい?」
そう口にした瞬間、目の前を映像が流れ始めた。なかなかリアルな出来だなコレ。
おおよそ20分くらいだっただろうか。映像が終わり、フェードアウトしていくと同時に覚醒の気配なのか意識が鮮明になる感覚がした。
さぁ待っててくれ!今助けにいくからな、レキ!
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第49話
〜〜Side Off〜〜
レキはウルズ族の姫であった。ウルス族はかつてその弓や矢で中国全土を席巻した元民族の王、チンギス=ハンの末裔の一族で、その戦闘技術を色濃く受け継いだ人々であった。チンギス=ハンはその昔、九郎判官として平家に恐れられた源義経の中国訛りで、ゲンジスゲンから転じたのはこの際置いておこう。
そしてウルス族を語る上で外せない要素はもう1つ。
巫女としてレキに璃璃色金が『風』として命じたことは1つ。--感情を封じること。
その影響で今の感情を表に出さないレキというものは形作られた。
だが、高校に入ると同時にレキには1つの転機が訪れる。
明智零司という存在だ。彼と一緒にいる時間がレキは嫌いではなかった。アドシアードの空き時間に人形焼を一緒に食べたり、横浜ランドマークのクイーンズイーストで初めて私服というものを買ったり、とにかくレキにはそれまで経験のなかったことを一緒にした。そのうちにレキは無意識に感情を芽生えさせていったのだ。
(できることなら、零司さんと一緒にいたい)
そういった本当ならば芽生えるはずのない感情を。
そんなレキの起こるはずのない感情を知ってか知らずか、『風』は強い者の物になれという指令を出した。
強い者といってレキが最初に思いついたのは3人。遠山キンジ、一石マサト、そして明智零司。
自覚はしていないが先ほどの感情があるレキは当然零司に求婚し、半ば強引にそれを認めさせ、同棲生活が始まった。
その中でやっとレキは零司の知らぬところである1つの結論にたどり着いた。
(多分、私は零司さんのことが好きなのでしょう)
零司さんといると楽しい。何が理由かわからないが慌てる零司さんを見ると面白い。そんな気持ちが芽生えたことにレキは喜び半分、戸惑い半分であった。
異変が起こったのは零司がレキにエロ本を持って帰ったことを咎められた日。風呂の掃除をしてくると言い、リビングを出た後レキが1人で残っているとレキの電話に着信が入った。
番号は非通知。とりあえずレキが電話に出ると零司の声がしたのだ。
『レキ、バックの中に洗剤入ってるから持ってきてくれないか?俺今水で濡れてるから持ってきてくれると助かる』
「はい」
それだけで電話は切れた。レキは何の疑問も抱かず零司のカバンを漁るとエロ本が飛び出してきて、そこに掃除を終えて戻ってきた零司が出くわした、というわけだったのだ。
その時は誤解で済んだが、レキは何かがおかしいと思っていた。
その数日後、ランク定期外考査で零司が部屋を空けている時にレキにこれまた非通知でメールが来た。
『拝啓レキ殿
この度は貴女を連れていくことに決定いたしましたことをご報告いたします。今日20時に空き地島と呼ばれている浮島に来てください。先ほど貴女の暮らしている部屋の前に白百合を置かせていただきましたのでご確認していただけると幸いです。
周囲に助けを求めてはいけません。助けを求めたその瞬間、貴女の想い人やそのご学友の命がなくなることと認識していただいて結構です。
賢明なご判断を強く望みます。
ローズリリィ』
怪人ローズリリィの噂を予てから知っていたレキは1人で悩んだ。もちろん零司が追っている犯罪者であることも含めて、だ。
ウルス族の純血姫の巫女としての立場。武偵高の生徒としての立場。様々なことを秤にかけ、想定し、思い悩んだ。
その中で決定的となったのはただ1つ。
(私を1人の人として大切にしてくれた零司さんを傷付けるわけにはいかない)
そう考え、レキは1人でローズリリィの要求に応じることを選んだ。いざ出ようと思った時、ふとキッチンを見た。零司とともに料理に取り組んだ、思い出となるキッチンを。
その時、こうも思ったのだ。
(もし…。もし、零司さんが私のことを思って追いかけてくれるのであったら、それは嬉しいかもしれません)
そう思ったレキはリビングのテーブルの上に以前使っていた部屋のカードキーを起き、その部屋にローズリリィから送られてきた白百合を置いてから空き地島に行ったのだ。
空き地島に着くとその人はすぐに見つかった。
「やぁ、貴女がウルスの姫ね。要求に応じてくれて嬉しいよ」
「そうですか。それで、要求は守っていただけるのですね?」
「ええ。私は犯罪者かもしれないけれど、無粋者ではないのでね」
そう言い、ローズリリィはこちらに手を伸ばした。
「歓迎しよう。ようこそ、イ・ウーへ。と、言いたいところだけど」
「??」
区切りを入れたローズリリィにレキは小首を傾げる。ローズリリィはレキの方ではなく、上空を見やっていた。すると、
タァン、ビシッ!
ローズリリィの左足を銃弾が掠めた。しかし防弾だったらしく、そこまでダメージはないようだ。レキが弾を見ると、それは7.92mm×57弾。レキの記憶が確かなら、それはある人の使っている狙撃銃の使用弾だったはずだ。昨日整備のチェックも頼まれたのだ、忘れもしない。
「やっぱりきたか。明智家の嫡男」
その言葉に気を取られ、思わずローズリリィの見ている方向を見る。
そこには、どういう原理なのか空から零司が降ってきていた。
「久しぶりだなクソ野郎ォ!!」
そういいながら零司は空き地島に降り立った。
--レキをローズリリィの魔の手から救うように。ローズリリィとレキの間に。
〜〜Side零司〜〜
『仮想の未来視』を使い終え、再び意識が戻った時に俺は強い眩暈と吐き気を覚えた。どうやら光秀公が言っていたことは本当らしい。
「とりあえず時間が足りない。このまま道路を使っていては間に合わねえな」
意識を無理やりしっかりさせるために武偵手帳を弄り、中から小型の注射器を2本取り出し1本目をそのまま心臓にさした。
1本目は『
2本目は『
相手はローズリリィだ、大盤振る舞いといこうじゃないか。
イギリスの有名な探偵の助手兼医者の子孫と偶々知り合いでこれを譲ってもらった時にはびっくりしたなぁ。
副作用は効果が切れた後に疲労という形で出るらしい。
『コレを使った後は病院で最低10日は安静にしなきゃいけない代物だ。アケチがこんなものを使う機会なんてそうそうないだろうけどご利用は計画的に、だね』なんて言われたっけ。
残ったゴミを後で取りに戻るという意味を込めて、レキの部屋の机の上に置く。そしてそのまま女子寮の
「……あそこか」
屋上に辿り着き、うっすらと見える空き地島を見るとよく映える薄緑の髪が見えた。
そしてそのまま俺は屋上から跳ぶ。もちろん飛び降り自殺をするわけじゃない。超能力を使って水の足場を一時的に作り、空き地島まで一気に走りきるというわけだ。
そして空き地島まで残り500mくらいかという距離で勢いはそのままに、俺は背中のG43をレキの薄緑の髪の隣にいる奴の方に向けて《スコープを見ずに》放った。スコープを見ていないため狙いは不正確だが、左足を掠めたらしい。威嚇としては十分か。
「久しぶりだなクソ野郎ォ!!」
そしてそのまま俺はレキとヤツの間に降り立つ。レキを守る。それを姿勢で表すかのように。
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第50話
「おい、レキ」
「はい」
俺は眼前にいる怪人ローズリリィを睨みつつ、レキに話しかける。正直なところ、『仮想の未来視』の使用による疲労を薬の効果でムリヤリ誤魔化してる上に『
「お前には説教しなきゃいけないことがたくさんあるからな。終わったらきっちり話をさせてもらう」
「はい」
「あとは……そうだな。伝えたいこともたくさんある。だから今はこれだけ。二度と俺の前からいなくなるな」
「……!!」
後ろのレキの表情は見えない。今は見る必要はない。伝えたいことを言いきってからでいいんだ。
そのまま意識を怪人ローズリリィに向けようとすると、意外にもレキから返事が来た。
「……私も、後で零司さんに伝えたい言葉があります。だから今はこれだけ。武偵として、『
「………あぁ」
レキにはお見通し、か。本当だったらこの力を使ってコイツを殺すつもりだったんだけどな。武偵として、ってのは殺すなってことなんだろ、レキ?あとは……武偵として、ね…。そういうことね。
俺は今度こそ臨戦態勢に入り水感知を発動させる。
「さて、と。一応礼を言っとく。待ってくれたんだろ?」
「ええ。でもいいものを見せてもらったよ。男女の愛ほど美しく、そして醜くなるモノはないからね」
「ほざけ、クソが」
その言葉を最後に俺はローズリリィに小太刀を抜きつつ、水の超能力で3本目の小太刀を握り、これまた水で推進力を加えて突っ込む。中学の時、ヨーロッパでよくこのスタイルを使っていて
「ロォォォォズリリィィィィィィィッ!」
「あら、熱烈」
そう言いながらローズリリィは俺の両腕から太刀の動きの予測をしつつありえないスピードで避ける。俺はそのまま両腕での剣戟を続けつつ、水でできた3本目の腕を振るう。水の腕は関節も何もないので太刀筋を見切るのはかなり難しい。急激なルート変更も可能だしな。
「ラァッ!」
これは当たる!と思うのもつかの間、ローズリリィの姿が
「あらら、怖いねぇ」
怖がってねぇだろお前。というか今のは……?水感知も切ってなかったのにブレた……?まさか、そういうことか。だがそれだけでは説明がつかない。俺の推理が正しければあの時、千花の時が説明がつかない。いや、そうか。これなら確かに説明はつく。
「お前、超能力者だったんだな」
「あら、どうしてそう思うの?」
「今の動きで確信した。お前、転移系の超能力持ってるんだろ?じゃなきゃ今のブレも千花……俺の妹の時の1発KOも説明がつかない。今お前は転移で避けたし、千花の時は恐らく暗器か何かを一瞬で何度も転移させて俺に傷を負わせた。そういうことだろ?」
「へぇ、頭はしっかり切れてるのね。正解だよ」
煽るかのように言うローズリリィ。それだけじゃないだろ?
「ただし、お前のその能力は制限があるんだろ?あの時もまずお前はヘリで逃げようとしたんだ。能力使って千花ごと転移すればいいのに。今回もそうだ。転移を使えばこんなところにレキを呼ぶ必要もないしな。距離の制限か、連発制限。この2つのどっちかだと思ったが、今の攻防で簡単に使うってところからも連発制限じゃない。距離の制限だな。大方転移できる総合距離に制限があって時間で回復とかそんなところだな。ま、ここまで漂わせてオールブラフで距離制限がないって可能性もあるけどな」
「ふーん、それで?それがわかったところで君はどうするつもりだい?」
「そりゃもちろん、こうするのさ」
そういうと俺は軽く地面を足踏みする。すると
俺はそのまま海水の一部を手前に持ってきて触る。そして水中感知を発動させる。探し物は……あった!
「これ、お前の足だよな。潰させてもらうぜ」
そう言いつつ海水の中から新たに腕を作り、空き地島に停めてあったロケットみたいな形の潜水艇らしきものを掴み、そのまま海水で圧し潰す。潜水艇らしきものは跡形もなくひしゃげ、その機能は果たせないものになってしまった。
「へぇ、成長してるんだね。感心感心」
こんな時でもローズリリィは余裕そうな表情を崩さない。男か女かわからないような口調と声、今すぐにその余裕面を引き剥がしてやる。
「そらよッ!」
俺は手に持ってる小太刀を両方とも真上に放り投げ、海水から作った腕でキャッチする。そしてそのままベレッタPx4ストームと.44オートマグをホルスターから出しつつ発砲する。さすがにこの2つは水の腕で扱うと壊す危険があるので自分で使う。
二刀から二銃に切り替え接近戦を仕掛ける俺にさすがにまずいと思ったのか、ローズリリィは懐からククリナイフだのマニアゴナイフだのを取り出し応戦する。
水の腕の小太刀をククリナイフで斬り結び、銃撃をマニアゴナイフで弾き、どうしようもない攻撃だけは転移を使って回避する。相当慣れた戦い方だな。
「チッ!」
「あらら、中々頑張るじゃないか。それじゃこれならどうだい?」
ローズリリィは何事か呟くとひょいっと背後に飛んだ。するといきなりどこからともなくナイフや槍、斧が現れ俺に向かって飛んできた。
「しゃらくせぇッ!」
俺は即座に超能力によって当たりそうなものだけを水で弾きとばしたり掴みとったりして応対する。そしてそのままローズリリィを狙い銃を放ちつつ、ヤツめがけて突っ込む。
「ゼァッ!」
「はいはい」
ローズリリィは相変わらず面倒くさそうに応対する。うーん、正面突破はかなりキツイな……。
正面突破が出来なかったらどうする?もちろんデバフを織り交ぜての攻撃に切り替えるに決まっている。RPGでも鉄板だろうこれは。攻撃の痛いヤツの攻撃力を下げたり、固い敵の防御力を落としたり、毒状態にしたり、あるいは自身の回避率を上げたりなんてものもあるな。
俺が使うのもそんなデバフの1つだ。
「はっ!」
俺は直ちに細かい水分を超能力でばら撒き、霧を発生させる。俺は水分感知で先ほどよりは精度が劣るものの、居場所はわかる。対するローズリリィは赤外線のセンサーとかも持ち合わせていなかった。つまりこの霧の影響をモロに受ける。
俺は素早く
口には出さないが焦ってるな、あの顔。そろそろ制限が近いか?
……とは言っても俺もそろそろ限界が近い。戦えて残り3分あるかどうか。奥の手を使うか。これ、高いから本当は嫌なんだけどな。
俺は即座に水の人形を3体作り出し、ローズリリィにそのまま特攻させる。結果を確認することなく、俺はこの状況を打開させる切り札、
正面突破できず、デバフを織り交ぜても倒せない奴はどうするか?これも簡単だ。1人で倒せないなら2人で倒しに行けばいい。
俺はローズリリィに気づかれないようにレキに耳打ちをする。
「レキ」
「はい」
「今から
「わかりました」
さっきレキが『武偵として』と言ったのは恐らく武偵憲章第一条、『仲間を信じ、仲間を助けよ』ってことも意味していたのだろう。いつでも助けますよというレキなりのメッセージだったんだな。
俺はレキを信じて戦う。レキも多分俺を信じてくれてる。だから俺はその期待に答えるべきだ。
「らぁッ!」
「!!!」
再びローズリリィの背後に回って銃を撃ち注意の対象を俺に強く引き寄せる。
「よぉ、初めて焦った顔したな」
「ちっ!」
「そんなお前に朗報、だっ!」
そう言い、俺は服の中から特別な色をした.44AMP弾、
ただその分ローズリリィにも効果は抜群だったようでしっかり耳を潰させてもらった。
俺はそのまま新たに水の腕を作ってローズリリィをぶん殴りにかかる。小太刀よりも速いからな。
「!!」
思いっきり振るった水の腕は初めてローズリリィにクリティカルヒットし、ヤツが何事か言ってるが生憎聞こえない。読唇術も面倒だから使ってない。
そして少し俺とローズリリィとの距離が開いたその瞬間、ローズリリィはビクリ!と痙攣して倒れた。霧を解除しつつ、ローズリリィを拘束しに走りながらちらりとレキの方を見るとどうやら狙撃に成功したらしい。
「どうせ聞こえてないだろうけどな。怪人ローズリリィ、未成年略取未遂で逮捕だ。多分余罪で窃盗も入るんじゃないか?」
そう言いつつ、俺は純銀製の
「レキ!」
「***」
「まだ音響弾の効果が切れてないから会話出来ねぇな……。とりあえず
そう言いながら、俺は超能力を発動、ローズリリィを拘束するように枷を、精製、する。
「俺は、少し無理しすぎた。少し、眠ら、せても、らうぜ」
あぁ、もう限、界だ。『仮想、の未来視』の疲労と暴走、薬の副作用、が全身、に、回って、きた。俺は、最後にレキに笑いか、けつつ、受身も、取れずに倒れ、、た。
れきがあせったようにこっちにきてたきもしなくはないけどわからない。かんぜんにいしきがおちてしまった。
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第51話
やっとここまでこぎ着けた……、、、
お気に入り300件越えました!いつものことながら、ありがとうございます!
それではどうぞ!
……長い夢を見ている気がする。それも楽しくない系列の。その夢にはキンジや理子、それにピンクいアイツまで出てきてる。バーみたいなところが舞台で理子とアイツがアル=カタで戦ってる。
アル=カタかぁ。イタリア語の
いやそれはいまどうでもいいか。さて、ピンクいアイツはどう思ってるのかわからないが、理子は最悪アイツを殺しかねないような
これじゃ最悪なことも起こりかねない。そう思い手を伸ばそうとしたが、第三者の手によって遮られてしまった。
「
チラッと見やるといつかの夢の時見た白人がそこにいた。こいつ……!
「あぁ?
「そのことは素直に申し訳なく思っているが、この戦いに水を差させるのとは話が変わってくる。その不満なら直接僕に向けたまえ。大丈夫、この戦いが始まる前に必ず一度直接会えるはずだ。というかそもそもこの戦いに今の君と僕らは干渉できないのだがね」
干渉できない……?あぁこれが夢だからか。
「君の考えてる通りだよ。僕の推理が正しければ理子君はキンジ君や僕の曽孫を殺すことはないよ。いつか話したと思うけどこれは、彼ら2人の
……?今の言い方はおかしいだろ。多分ってなんだ多分って。おそらく一緒にいた年月だけなら俺なんかよりも長いハズなのに多分って。
このことはまた時期を見て検証するとしよう。
そう思っていると目の前の映像が少しずつぶれ始めた。何が起こってるんだ?
「そうか、そろそろこの夢は終焉を迎えるのか。口だけで申し訳ないけど今度こそ相互不可侵は守らせてもらうよ」
「次守らなかったらお前らの船ごと水圧でチリ一つ残さず潰すからな。覚悟しておけ、あと一度だけお前に直接対決を仕掛けてやる」
「それでいい。それなら一つだけ、『アンベリール』という言葉を覚えておくといい。これでも僕は君のことをすごく評価しているんだ。母国に誓おう」
「そうかよ、んじゃ今はもう語ることはないぜ。じゃあな」
そこまで言い切るといよいよブレは許容範囲を超え、目の前さえおぼつかなくなってきた。目の悪いやつってこんな感じなのかな?
そして俺はゆっくりと目を覚ました。
「わーお、知らない天井なんてテンプレな言葉が出てくるとは」
というかここ、個室じゃん。窓から差し込む光的に朝みたいだし、ちょっと状況を整理しようか。俺はローズリリィとの戦闘後、『仮想の未来視』と
………あれ?これって有り体にいえば自滅?恥ずかしくね?とりあえず起きるか。
というわけでベッドから起きようとしたが、それが叶うことはなかった。理由は2つ。1つ目。俺の体力がベッドから起きれるまで回復してないから。2つ目。俺の手を誰かが握っていてそれを解かなきゃ起きられないから。
……手?横を見てみるとライトグリーンの髪。鳶色の目はあいにく眠ってるせいで開いていないが姿勢良く寝ていらっしゃる。そこから伸びた両手が俺の手を優しく包み込んで離さない。
そうか、レキか。意識が落ちる寸前に見た景色を思い出す。倒れる俺に焦ったように駆け寄るレキ。
ずっと介抱してくれてたんだろうか?俺の手を握る両手は小さいけどすらっとしていてとても綺麗で。こんな子に惚れてしまったのも仕方ないかなって思える気がした。
初めて会った時は無表情だけどすごく可愛くて。入学して話してみると凄く電波みたいなやつで。それで狙撃の
やっぱり俺はコイツが好きで。やっぱりコイツの側にいたいな、なんて思うのは惚れた弱みなんだろうか?
自分でもチョロいやつだと思う。女の涙に注意しろとはよく言われることだが涙さえもなしに落ちた訳だし。
「……ん」
俺が体を動かして自分の体が動いた影響だろうか、レキが眠そうに目をこすって起きたようだ。
「おはよう、レキ。それともまだ眠いか?それならまだ寝てても……」
「零司さん!」
!?俺の姿を認識した途端、レキが俺に飛びついてきた。なんだなんだ!?
表情見ようとしても顔押し付けてくるし…ホントになにがあったんだよ?
「零司さん……零司さん!」
「おう、俺は明智零司だよ。どうした?」
「3日も目を覚まさないで……ずっとこのままかと思って凄く怖かったんですからね?」
「え”?……3日?」
なにそれ初めて聞いた。え?3日も寝てたの?
「矢常呂先生からは『出来るだけのことをしたけど……正直こんな栄養失調と衰弱の複合状態はアフリカでも見たことないわ。いつ起きるのかは彼次第ね。最悪な場合は……わかるわね?』なんて言われたんですよ?」
「お、おう悪かったよ……」
凄い怒られてる。怒られてるけど……
「零司さん言ってたじゃないですか。『説教したいことがたくさんある』って。『伝えたいこともある』って!『終わったらきっちり話させてもらう』って!それに……」
そこで一旦レキは言葉を止める。そして意を決したように顔を上げる。ずっと俺に付きっきりでいてくれたんだろう、疲れの滲んだ顔に少しの涙の跡を残してレキは落ち着いたのか、静かに続きを言い始めた。
「零司さんはこうも言いました。『二度と俺の前からいなくなるな』ってそう言ったんです。それなのに零司さんが無茶して私の前からいなくなったら、意味がないじゃないですか」
「………」
そうだよな。レキは多分俺のことを心配してくれてたんだよな。で、あればこそ。この言葉はしっかりと聞かなければならない。それが俺の責任だ。それを履き違えてはいけない。
「本当に、怖かったです。どうしてくれるんですか?」
レキ、お前今自分の表情見えてるか?
そう聞きたくなるほどレキは微かに、少し不慣れだけど、笑ってくれていた。
「どうしてくれる、か」
レキはなにも答えない。言いたいことはまだまだたくさんあるだろうに、なにも口を挟んでこない。
「そう、だな。んじゃ特別だ。説教を垂れてやる。なんでローズリリィなんかのいいなりになろうとしたんだバカ。俺とローズリリィとの因縁知らんとは言わせねえぞ。それで挙げ句の果てに
「いえ、そんなことは」
「まだだよ、お前は世間の常識ってもんを知らなすぎる。俺の部屋来た時なんざリビングでシャワーの準備しようとしたろ?男の俺の前で。デリカシーってもんつけやがれ。リビングでぽけーっとしてる暇あるならテレビでも見て一般常識つけようぜ。次。俺とお前の洗濯物を一緒に洗うな。これは俺が気にしすぎなのかもしれんが洗濯する時は分けろ。これが俺の部屋で暮らす時のルールだ。そして最後。さっきお前には自分の武偵としての価値を理解してないって言ったな。お前は自分の女としての価値も分かってねえ!お前みたいな美人がいなくなったらそのまま世界の損失だこんちくしょう!」
病み上がりだからこれだけ言うのにも疲れる。全く、世話のかかるお姫様だこと。
まだまだ言いたいことはあるがこの辺で打ち止めに……いやあと一つ言うことあるな。
「それでお前は女としての価値がわかってなけりゃ俺の彼女ってことも理解してねぇ。彼女がいなくなったら彼氏は血眼で探すものなの。そこんとこ、わかってる?」
そこまで言ってレキをしっかりと正面から見る。
一世一代の大告白ってやつだ。漢は度胸、なんてな。
「……さてと、俺からははっきり言ってなかったな。レキ、俺と一緒にいてくれ。俺の彼女になってくれ。そんでさ、お前さえよければ……大学を卒業したら結婚してくれないか?」
そこまで言って俺はレキを真っ直ぐ見る。相変わらずほとんど表情はないけどなんとなくわかる。レキは今、照れてる。
「あの……零司さん」
「うん」
「私からもお願いです。こんな私でよければ私と一緒にいてください。私と付き合ってください。それで…いずれは婚約して下さい」
……うわっ、これは照れる。目の前には好きな美少女、その美少女から結婚申し込み。おまけに真っ直ぐ見られてる。鏡見てないからどうとも言えないけれど今俺の顔真っ赤だろうな。
「……一緒に答えてみるか?」
「はい」
「「
………もう恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもない。
「……ちなみにいつからそう思ってた?」
「…多分貴方に最初に婚約をお願いしに行った時からです。零司さんは?」
「……そうだな、気づいたら惚れてた」
「…ずるいです」
そう言って笑いあった。いいなぁ、こういうのんびりした時間。長らく忘れてた気がする。
そのままのんびりしていると何やらレキが真面目な顔をして何か言いたげなんだが…?
「零司さん」
「はいはい、零司だよ」
「この際です。一つだけ零司さんにお詫びしなければならないことがあります」
「お詫び……?」
なんだろう、全く思い当たる節がない。何かされたっけ……?
「もう今からひと月くらい経つんでしょうか、私が零司さんに最初に婚約をお願いした日に戦ったじゃないですか」
「あぁうん、ひと月経つのか。それで?」
「あの時、本当は私の負けでした」
「はい?」
いや待て待て、流石に話についていけん。もう少し話を聞こうか。
「あの時、右カフスのボタンがどうなったか覚えてますか?」
「あぁ、2つまとめて吹っ飛んだやつね。それで?」
「本当はあそこは1つずつ飛ばさなければいけないところなのに2つまとめて飛ばしてしまった。あれは
あぁそういうこと。あの時は俺の思考的には神業だと思ったのだが、本業狙撃科のレキにとっては負けも同然のものだったのか。
「いいんじゃない?あれがあったおかげで今があると思ってさ。もしあれが
「……ありがとうございます。最後に1つよろしいですか?」
「今日のレキは本当におしゃべりさんだな。そんなレキもだんまりなレキも可愛いけどな」
「またそんなことを言って……零司さんの方が素敵です。それで最後に何ですが、夢。見つかりました」
あぁ、いつか調子乗って言ったっけか。なりたい自分を常に描けーだとかそんなこと。今思うと恥ずかしいな、これ。
「へぇ、俺でよければ手伝うぜ」
「はい。それで私の夢は」
そこでじっと俺の顔を見る。もう慣れたぞ、もう照れ……あ、ダメだこりゃ。また照れるわこんなん。
レキはそのまま真っ直ぐに、それこそレキ自身が言った銃弾のように真っ直ぐにその言葉を発する。
「私の夢は零司さんと共に歩むこと。これです」
「………」
うわ、なんだこれ。恥ずかしくって恥ずかしくって死にそう。いや昨日までゆるーく生死彷徨ってたっぽいけど。
「変なこと言いましたか?」
「……ああああ変じゃない変じゃない!ビックリしただけだ、全く…」
こんなことを本人に伝えられるのは良くも悪くもこいつくらいだろ。
敵わんなぁ、こいつには。
「わかった。その夢、俺も一緒に見させてくれ」
そう言って俺はレキに右手を差し出す。レキは少しもじもじした後、そのほっそりとした指を俺に出してきた。
「と、いうわけで。レキ、気づいてる?」
「えぇ、大分前から」
「おっけー」
そう言って、俺はリハビリがてら
「りゃりゃっ!?」「うおっ!?」「あっ!」「ちょっとお前ら馬鹿ッ!!?」「あややや!?」「あはは…」
1から順に理子、キンジ、白雪、武藤、平賀さん、ここまではなんかなだれ込んできた。最後に苦笑しながら出てきたのはいつもの優男スマイル不知火。
「おはようお前ら。こんな朝から俺に会いに来てくれたのか?勤勉だなぁ」
「おはようございますみなさん。零司さんにお見舞いに来てくれてすごく嬉しいです」
「「それで」」
「誰が提案したんだ?あんまり嬉しくってそいつの体内の水分奪っちゃいそう」
「それで積極的に乗ってきた人はどなたですか?零司さんにお見舞いに来てくれるなんて嬉しくってついうっかり
俺とレキの笑顔にほぼ全員凍りつく。不知火が唯一涼しい顔をしてるけどその実、冷や汗をかいてるのを俺は見逃さない。
そんな中始めに声を出したのは理子。主犯格だろお前。
「で、でもあっちかっこよかったよ?『レキ、俺と一緒にいてくれ。俺の彼女になってくれ。そんでさ、お前さえよければ……大学を卒業したら、結婚してくれないか?』なんてそうそう言えないよ〜」
器用に声真似なんざしやがって。てかそう考えるとこいつら結構前からいたな。武藤もそれに続く。
「いやさ、来たらそんなことになってたからさ。邪魔かなぁ〜なんちって」
やはりというかなんというか。反省してないようです。いるかどうか知らんが神様、こいつらに罰を……俺たちが下せばいい話じゃん?
「おう確かに邪魔だな。でもそっから今さっきまで立ち聞きしていい理由にはならねえよなぁ!?アァッ!?」
「やばい!明智が本当の本気でキレてやがる!逃げるぞお前ら!」
「させると思うか??ドアの前よく見てみろよ?」
キンジはこういう時に謎のリーダシップ出すのやめた方がいいと思う。そんなんだからか知らんけど
ドアの前にはしっかりと水の防壁を張ってある。普通には抜けられないし抜けた後も容赦なく水の槍が相手を攻撃する二段構えだ。
「あややや!戦闘はあややのいないところでやるですのだー!!」
そう言って俺のベッドの下に潜り込む平賀さん。ま、こいつは後でレキにお尻ペンペンさせればいいから置いとくか。
「キーくん窓だよ、窓!」
「窓から出ても良いですよ。ただしその場合私の弾が貴女を貫きますがよろしいでしょうか、理子さん?」
「ひぃぃぃぃ!!」
レキの脅しに髪を逆立てる理子。いやお前どうやってんだよそれ。
騒ぎは武偵病院全体に広まり、矢常呂先生がすっ飛んできて全員に説教をすることでお開きとなった。
俺とレキのやり取りを録音していた理子のレコーダーは俺が没収したことを明記しておこう。
騒ぎの後、俺はレキに手伝ってもらって武偵病院の屋上まで来た。
3日も寝てると体のバランスがおかしくなってるようでレキの助けは本当にありがたかった。
「やっと、ローズリリィを捕まえたんだな」
「はい、どうですか?宿敵を捕まえた感想というのは」
「どうなんだろ。まだ実感が湧いてないってのが1つ。まだ終わってないってのが1つ、かな?」
「終わってない、ですか」
「そう。終わってない。確かにローズリリィは捕まったかもしれないけどあの無意味に小狡いやつだ、どっかのタイミングで脱獄か司法取引して出てくるだろ?それに攫われた俺の妹はまだ帰ってきてないしな」
「千花さん、ですよね?」
「あれ、教えたっけ?ま、いいや。そうだよ、千花はまだ帰ってきてない。どこで何やってんのか知らないけど家に帰ってこないってことはなんか事情があんだろ?それもこれも俺がなんとかして千花を家に帰す。それで母親にビンタさせてやるよ」
「それは違いますよ」
「ん?」
「零司さんが、じゃなくて私たちで、です。私も手伝うに決まってるじゃないですか。零司さんを独り占めできなくなるかもしれないのは少し寂しいですが」
そう言ってレキは鳶色の瞳で真っ直ぐに俺を見る。思えばこの真っ直ぐさにも惹かれたのかもなぁ。
「そっか、そうだよな」
「そうです」
「そんじゃレキ。改めて、よろしくな」
「こちらこそ、零司さん」
そう言ってどちらからともなく顔を近づけて、その距離がゼロになった。
そよそよと吹く朝特有のスッキリとした風が俺とレキの新たな門出を祝ってるかのようで、少し気持ちよかった。
そうして俺…いや俺とレキの物語はここからまたスタートするのであった。
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間章〜再装填〜
第52話
今回からは
………できるよな??
それではどうぞ!
ローズリリィとの激戦を終えた俺、明智零司はその代償として武偵病院への入院を余儀なくされていた。
「矢常呂先生、いつになったら退院できますかね?」
「そうねぇ〜。軽く見て10日、大事をとるなら20日くらいじゃない?退院しても少なくとも夏休み終わるまでは全力戦闘禁止ね?どうせ入学式で『水投げ』があるんでしょうけどそれでの戦闘もなるべく避けてね?……と、言いたいところなんだけどどうせ明智君のことだから君への挑戦者が相次ぐんでしょうね」
「水投げ、ですか……」
水投げとは元々は緑松校長の母校で『始業式の日には誰が誰に水をかけてもいい』みたいな謎の悪習が武偵高の血気盛んな阿呆どもが何をトチ狂ったか『徒手なら誰が誰にケンカをふっかけてもいい』なんてルールに改悪した悪習オブ悪習みたいなもんである。
下級生は上級生に上勝ちを狙い、上級生は上級生で下級生に負けたら示しがつかないという理由でとっても盛んに行われているようで。去年まで神奈中とか海外とかいたから東京の武偵高文化ってのには詳しくないのだが、1つだけ言わせてくれ。バカ共め。
俺は興味ないのでこちらからは吹っかけないが、こないだの定期外考査でSランクとっちまったから吹っかけられることは容易に想像できる。全くもって鬱だ。
「水投げの怪我人って毎年結構多いから対応めんどくさいのよね、はぁ」
「そんなこと
「救護科だからよ。それで話を戻すけど、体を軽く動かす、銃を撃つくらいならやってもいいから絶対に無理しないこと。本当にひどい衰弱状態だったんだからね?」
「何回言うんですか、それ……」
まぁ常日頃から病人だの怪我人だのを見てる矢常呂先生が言うんだし、相当ひどかったんだろうけどそんなに強調しなくても。
「とりあえず診察はこれで終わりでいいわよ。自分の病室戻っていいですよ」
「ありがとうございます」
そう言って診察室を出る。すると、いつからいたのかは分からんがレキがいた。
「おう、レキ。よくここがわかったな。」
「部屋に誰もいなかったので診察室と予想しました」
「なるほど、まぁそうなるか。というかさ、毎日来てくれるのは嬉しいけど飽きないか?何もねぇだろ、ここ」
「それは違いますよ」
「そうかぁ?」
病院なんかいてもなんも楽しくねぇけどなぁ。そう考えてるとレキは決してこっちを見ようとせずにポツリ。
「零司さんがいるじゃないですか。………部屋戻りましょう」
「!!??……お、おう。戻るか」
いきなりなんてことを言い出すんだコイツは。びっくりした。いやメチャクチャ嬉しいけどさ。
俺はレキの手を取り、病室に戻る。今日も平和だな。
「………おい、なんで勝手に部屋でくつろいでるんだアホ理子」
「あ!あっちとレキュだ〜、お邪魔してるよ〜!」
部屋に戻るとなぜか理子がいた。いやなんでおるん。
理子は俺とレキの繋がれた手を見てニンマリ。人が出るよな、こういう時。
「お熱いですなぁ〜!武偵高裏サイトでも早速話題になってるよ2人とも!『前から噂になってたけどホントだったんだ〜』とか『なんだあのリア充カップル』とか散々言われてるしファンクラブなんかもう暴動寸前みたいだよ〜」
「お前が広めたんだろ……ってちょっと待て。ファンクラブ?」
なんだそりゃ。レキか、俺が言うのもおかしい話かもしれんがものすごく可愛いもんな。
「あれ?知らない?というかその顔だと知らないんだろうねぇ」
「知らん。レキはどうだ?」
「私も知りません」
「だよな。レキのファンクラブだろ?どうせ」
そういうと理子はきょとん、としてからすぐイヤーな笑顔を見せはじめた。なんかキモいぞ、お前。
「レキュのファンクラブも確かにあるけど、あっちのファンクラブもあるんだよぉ〜〜??自覚ないかもだけどあっちって一年男子の中だとぬいぬいと人気を取り合ってるんだよ?」
そう思ってると理子はランドセルみたいなカバンの中をガサゴソしてパソコンを取り出したかと思うとこちらに画面を見せてきた。何だこれ。
「ほら、これ武偵高の裏サイトの1つなんだけどここではあっちの寝てる写真が1つ10万で取引されてるよ〜。そんで…、こっちがレキュ。体育の写真がこれは1つ15万だねぇ〜」
「は、はぁ!?」
「……」
確かに見ると俺の寝てる写真、銃売ってる写真。それにどっから出てきた、飯食ってる写真まで上がってる。レキの方も似たり寄ったり。
ほぼ裏サイトとか使わないからなぁ、俺。ガセ情報とホンモノの情報がごちゃごちゃで結局自分で調べる方が早いってなるからな。レキは……言わなくても分かるだろ?こいつが裏サイトとか見始めたら末期だ、末期。
だが今回に限ってはそれが裏目に出たらしい。初出の情報だ。……ん?ちょっと待て。
「それで、何しに来たんだアホ」
「えへへぇ〜あっちのお見舞いに来ちゃった!流石だねぇあっちは。VIPルームでしょ、ここ?」
「お見舞いありがとさん、ほんじゃ帰れ」
「酷い!?」
あんまりこのアホの対応続けてるとこないだみたいになりかねん。さっさと撤収させるべきだろう。
「りこりんに帰れっていうのにレキュには言わない!これは!こ!い!だ!」
「そうだけど何か?てかお前もモテそうだし恋人の1人や2人作れるんじゃないのか?」
「サラッと惚気るとか意外とあっちやるねぇ〜。そんでさっき言ったファンクラブの暴動の話なんだけど……」
ホントに話聞かないなコイツ。
「レキュのファンクラブ『ああっ、レキ様!』とあっちのファンクラブ『この素晴らしい零司様に祝福を!』が衝突寸前なんだって!」
何だそのどっかで聞いたことあるようなファンクラブ名。
「へぇ、レキは知ってた?」
「何か起こりそうだとは風が言ってましたが、それ以上は」
「意外とレキュって敏感だよね、そういうの。それでその2つのファンクラブのうち、『ああっ、レキ様!』の方が『明智許すまじ』って激おこ状態。『この素晴らしい零司様に祝福を!』の方が『2人を見守ろう』って方針らしいよ。んで『ああっ、レキ様!』の過激派がそろそろ動き出しそうなんだって。多分水投げの日に徒党をくんであっちに戦いを挑むんじゃない?」
ホントに悪習だな水投げ!ホントにめんどくせぇ……
そろそろ付き合いきれなくなった俺は病室の机の中にしまってたDVDを取り出し、備え付けのテレビにフリスビーのように投げる。これ前キンジにやったら器用だなって言われたっけ。
「おおー!あっちやるぅ〜!」
「俺は今からテレビを見るから面会謝絶だ。ファンクラブのことは教えてくれてありがとさん。つーわけで帰れ理子」
「りこりんに言ってレキュに言わないってことは……エロビデオ!?エロビデオなんでしょ〜、隅に置けないなぁあっちぃ〜!!」
「んな訳ねぇのはお前の情報収集能力なら理解できるはずだが」
あぁもうコイツ帰らねぇな。いいやそのまま見よう。
いつの間にか隣にちょこんと座ってたレキの髪を撫でながらローディングが終わったらしいDVDを見始める。
映ったのは巨大な怪獣と戦う巨人の特撮。3分間のアレだ。
「……えっと。あっちって意外とそういう趣味だったのね」
「日本の特撮技術がすごいってのと戦闘の時の格闘術が意外と応用できるから見てるだけだよ。さっきDVDしまってた机の中見れば分かるだろうけどドラマとか映画も入ってるよ」
へぇーとかいいつつ、理子は机の中を漁る。いや漁るなよ。ちなみに残念ながら理子が期待してるであろうエロビデオはない。
「ホントに色々入ってる……」
「だから言ったのに。ほら、途中カットしたから戦闘部分だぞ」
今見てるのは怪獣と人間の共存をテーマにした奴なので最初はむやみやたらに傷つけない。だから怪獣が切り掛かったり殴りかかったりするのを受け流したりするのだが、この技術は応用できそうだということで動き方を見ている。どうせ動き回ったらキレられそうだしな。
「おぉー、倒せ!ビームだ!」
「やかましい、黙っとれ」
最後は巨人が怪獣を沈静化して円満解決。やり方は違うだろうけどこれが武偵の目指すべきなんだろうな、とは思う。綺麗事ばっかりじゃ済まないから武偵なんていう職業ができたんだろうけど。
「意外と面白かったよ〜、んじゃ帰るね!ばいばいあっちとレキュ!」
「はいはい、お疲れ様」
「では」
やっと帰る気になったようだ。理子がスキップで病室を出たのを確認しつつレキに話しかける。
「なぁ、レキ」
「はい」
「今度、どっかに服買いに行くか」
「……はい」
その時のレキの表情は多分、嬉しそうだった。
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第53話
今日は待ちに待った退院当日。ホントならすぐに出ても良かったんだが、事件とかで怪我を負うことが今までローズリリィ関連以外でなかったし病気とかで入院ってこともなかった。つまり初めての入院ってヤツだったのでとりあえず静養に努めていたのだ。ベッドでゴロゴロする生活は確かに楽で楽しかったけどご飯がダメだね、ありゃ。
手荷物を手早くまとめ、矢常呂先生に挨拶をして、晴れて退院。
「では行きましょうか、零司さん」
「おうそうだな、レキ。……え?」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたかって……いつからいたのさ」
「ふふ…いつでしょう?」
びっくりした…。いつの間にかレキが隣にいた。その身のこなし、
レキは俺の想像をはるかに超えるスピードで感情というものを知ってるようだが、それでもまだまだ無表情と言えるレベルだな。まだ親しい間柄だけがわかる感じだ。
「ま、いいや。戻りますか、俺たちの部屋へ」
「はい。掃除は一応してあります」
「気が効くねぇ」
キャリーバッグをカラコロしながら俺はレキと自室に戻る。今日も夏真っ盛り、かなり暑くなりそうだ。
「ただいまぁ……っとおお……」
「おかえりなさい、零司さん」
久しぶりに自室に戻ってみるとなるほど確かに綺麗に掃除されている。風呂場も見てみるとここもキッチリ。台所は……へぇ、料理してたんだ。めちゃくちゃ成長してるな。
でもここまで教えた覚えは……ないなぁ。
「なんか家事スキル上がってない?」
「白雪さんにお手伝いと家事について教えてもらいました」
ふんすっ、といった感じでレキは嬉しそう。というか白雪か。あいつなら俺以上にわかりやすく、丁寧に教えてくれそうだな。大方キンジの部屋にご飯持ってく時にバッタリ会って教えてもらったとかそんなとこだろうな。
今度お礼しとくか。
「んじゃ、病院から持って帰った服を洗濯するか。それ終わったらどうする?どっか行く?」
「そうですね…」
レキが悩んでいるとぴりりり……ありゃ、俺の携帯に着信だ。この音は……
俺はレキに目配せして互いの声が意識しなければ聞こえない程度に離れ、着信に応じる。
「はい、明智です」
『あ、明智君?高天ヶ原です、退院おめでとうございます』
「ありがとうございます、それでどういったご用件でしょう?」
デートしようとしてたのを邪魔されたし、少し口調が刺々しいのは仕方ない話だと思う。
『退院してすぐで申し訳ないんだけど、今日2学期からこっちにくる生徒がここに見学に来るの。明智君と多分南郷先生が話してるからレキさんかな?にはその引率をしてくれると嬉しいんだけど……』
「は、はぁ……ちなみにその選出の理由はどういったものでしょう?」
『それはね、うちの生徒の中で知名度が高くて武偵ランクも高い人って人が引率に合ってるんだけど、それを考えたらアドシアード優勝の2人に白羽の矢が立ったの。明智君は
あぁ、そういうことか。最近それ多くない、武偵高さん?要は広告塔ってことだろ?好かんなぁ。
ま、仕方ないか。レキと同棲してんの黙認してもらってるんだろうし、そのくらいやりますか。
「わかりました。集合場所は教務科前でいいですね?」
『ごめんね、無理させちゃって。教務科前で大丈夫だからあとはよろしくね』
レキの方を見るとすでに話が終わったのであろう、こちらを見ていた。ま、あいつの場合は「やれ」「はい」で終わるからな。
ただ、最近感情や言葉が増えてきたとはいえまだまだレキは無口無表情無言の三拍子。基本的に俺が説明する羽目になるかもなぁ。
教務科前に行ってみると2人の女子が待ってる様子。おそらく見学者とは彼女らのことだろう。1人は顔がこちらに向いてないからわからないが制服が懐かしい、
もう1人はちっこい。あのピンクいのよりもちっこい。明るめな茶髪を2つにサイドでまとめてる感じ。そして夏の暑さにも負けない、天高く聳えるアホ毛。彼女の雰囲気と相まってアホの子の印象を抱かせる。
とりあえず俺たちはその2人に近づき、声をかける。
「2人が見学者ってことでいいのかな?久しぶりだな、佐々木」
「あっ、はい!私、間宮あかりっていいます!今日はよろしくお願いします!」
「お久しぶりです明智先輩。そちらの方は初めまして。神奈川武偵高付属中学の探偵科、佐々木志乃です。よろしくお願いします」
ぺこり。上下関係に厳しい武偵高の系列校で学んでる佐々木はともかく間宮もしっかりお辞儀できるんだな。俺は別に気にしないけど気にする奴はうるさいしねぇ、できるに越したことはない。
「引率役の明智零司だ。今日はよろしく」
「同じくレキです」
「さて、多分間宮さんは2学期からこの学校通うんだよね。佐々木は?」
「えっと、私は高校からこっちに進学しようかと思いまして」
「それで今日見に来た、と。オッケー、わかった。さて、まず佐々木にはつまんない内容になると思うが間宮さんはこういうところ初めてだろうし武偵高ってのがどういうところなのか軽く説明させてもらうね」
「あ、はいお願いします!」
「武偵高ってのはな……
間宮に武偵高の説明をしてるとなんか知らんけどキラッキラ目が輝いてるな。やる気に満ち溢れたって感じだ。いいんじゃない、俺はそういうタイプ好きだぞ?
「………って言った感じかな。そんで間宮さんはどこに入りたいとか、あるの?」
「そうですね……
おお、意外だ。てっきり救護科とかバックアップ系統だと思ってた。
俺は改めて間宮さんを見る。うーん、体の割には確かに動くことに慣れてそうで日本系列の武道の心得はありそう。でも柔道じゃないな…剣道でもなさそうだし、イマイチそれは掴めないな。
「……ま、いっか。佐々木は退屈だったろ、ごめんな?んでそのまま探偵科だよな?」
「はい、そのつもりです」
「うーん、じゃあこうしようか。2人の志望する探偵科と強襲科は後で回ろう。となると…ここから一番近いのはCVRかぁ……。レキ、いきなりで悪いけどCVRは任せていいか?男子禁制だしあそこ」
「わかりました」
「うん、まとまったな。じゃ、付いてきて」
「「はい!」」
そのあとレキにCVRを案内させ(出来たのかはわからんが、2人とも目がキラキラしてたとだけ言っておこう)、SSRは見学不可なので建物だけ見せ、他の科目もザッと解説しつつ見学していった。
武偵というものを理解してる佐々木は施設の訓練の仕方に視点の重きを置いていて、本当に一般人な間宮さんはうわぁーとかほぇーとか巨大ショッピングモールに来た小学生そのものの歓声をあげていたという違いこそあれど2人とも楽しんでくれたようだ。
狙撃科ではレキの超人技を見せ、探偵科では簡単な指紋検出の実験をして最後。武偵の華と呼ばれ、間宮さんが入りたいと言っている強襲科の体育館前に俺たちはやってきた。
ここ、結構危ないから見学者に見せるべきじゃないと思うんだよなぁ…。
そしてもう1つ。
「ほいほい、ここが間宮さんの入るところ、強襲科だぞ。館内は多分掃除なんてされてないだろうから空薬莢とかに注意して、中にあるものには触らないでくれると助かる。事故なんか起こしたくないからな」
「「はい!」」
注意はしっかりしたので建物に入る。うわぁ…外以上に暑いな、この中。ついにエアコンがダメになったか、はたまた強襲科の死にたがり共に壊されたか。ま、俺も掛け持ちとは言え専科してるからなんとも言えないんだけどな。
「ここで格闘術の訓練とかをするんだ。それでこっちが射撃のレーン。レキの狙撃程じゃないけど俺も拳銃射撃の精度は悪くないからちょっと実演してみるか」
そう言って俺は射撃のレーンに立ち、蒼く塗られた愛銃2つ、ベレッタPx4ストームと.44オートマグを取り出す。
「武偵っていうのは武装を許可されてる。だけどなるべく傷付けずに逮捕することこそが大事だと俺は思ってる。間宮さん、あの的の拳銃の部分を見てて」
「は、はい!」
そう言って俺は何の気もない調子で双銃をぶっ放す。
「うわ、すごい……」
間宮さんの言う通り、放った弾丸は全て相手の拳銃部分、それも相手の口径部分を貫いた。意外と目は見えてるのかもな。
「力を持つ人には、力を持たない人を守る責任がある。力のことを知る必要がある。そして力に飲まれないように精神を鍛える必要がある。そう言ったのは誰だったっけかな。とりあえず佐々木も間宮さんもこの言葉だけは覚えといて」
「「はい!」」
「じゃあ最初集まったところに戻ったら、今日はおしまい。レキもありがとな」
「いえ、零司さんこそお疲れ様でした。それとあの……」
「ん?」
俺がレキに顔を向けるとレキはパチッ、パチパチ。
俺は1つ頷き、了承の意を伝える。そして2人に再び向き合い、1つ問いかける。
「それで、今日はどうだった?」
「神奈川の方と比べてもこちらの方が良いところが何箇所もありました。有意義な時間、ありがとうございました」
「すごく楽しかったです!ありがとうございました!」
……どっちがどっちだか、わかるよな?ともあれ、楽しんでいただけたなら休日返上した甲斐があるってもの。間宮さんに1つ情報でもあげようかな。
「それと、間宮さん」
「はい?」
「暇な時にでも『神崎・H・アリア』ってヤツのことを調べてみるといい。あいつはお前とそう体型は変わらないけど格闘術、拳銃射撃、剣術の才能は天才の領域だよ。それ見て少しでも体の動かし方ってのを見るのもありだよ」
「神崎・H・アリアさんですか……今度調べます、何から何までありがとうございました!」
「うん、妹は大事にしておくんだよ」
「はい!……ってあれ?私、ののかのこと言ったっけ……?」
「あはは」
間宮さんは不思議そうな顔をしてるけどそう不思議なことじゃない。ケータイで写真を撮ってる時にチラッと見えたホーム画面に間宮さんともう1人、しっかりしてそうな女の子が映ってたからな。目の感じで何となく妹かなと思ってカマをかけたら当たった。それだけの遊びだ。
佐々木と間宮さんを教務科の前まで送り届けて依頼終了。2人ともぺこりとしてくれたので印象は悪くないんだろう。
「じゃ、いきますか」
「はい」
そうして俺とレキはどちらからともなく手をつなぎ外食をしに歩き出したのだった。
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第54話
長い間投稿空けちゃって申し訳ありませんでした。
今回、ブラックコーヒー手元に置いておくと安心……かもしれないです。
それではどうぞ!
『打ったー!!××高校2点勝ち越し!ここにきて大きな得点が入りました!』
夏休みも中盤になり、日本にいる時は大体見ている高校野球も優勝候補がぼちぼち脱落していっておりますます見所が多くなってきた。
そういえば、武偵高って野球部あるのかね?部活とか依頼が多すぎて入れなかったから入学時の部活パンフレットすら目を通してないから分かんねえな。武偵高生なら守備はともかく打撃はボールなんかより随分と早い銃弾を常日頃から見てる影響で一流になれそうだけどな。
あの学校紹介以降は夏休み中は依頼を受けないと武偵高(というか高天原先生と蘭豹先生)に通告しておいたので俺もレキもぐだぁーっとしている。大体武偵高の先生たちは1学期から俺たちをこき使いすぎではないだろうか。
ま、高天原先生の良心によってこのワガママが通っていると言われればそこまでの話だが。
そんな感じでぐだぁーっと俺とレキは冷房の当たるソファーに腰掛けながら高校野球を見ている、というわけだ。
なんかレキはパソコン開いてるけど。お前使えたんだな、パソコン。
「なぁ〜、レキ」
「はい」
ぐだぁーっとしてる俺は心なしか声が伸びてるな。銃声がないのは素晴らしいことだよ、ホントに。こんなにのんびりできるのはいつ以来だろうか。もしかしたら中2の春休み以来かもしれない。中2の夏休みは海外行く手続きとってたし、中2の冬休みにはもう渡欧してたし。中3時はホントにこき使われてたし、許さんぞヨーロッパ武偵局!恩はあるけどそれとこれとは別……ってそうじゃない、本題に入ろうか。
「何見てんの〜?」
「……!いえ、何も」
……珍しい。日々感情豊かになっているレキだが、キョドったのは初めて見たかもしれん。なんかかわいいし、ちょっといじるか。
「気になるなぁ〜。見せてよ」
「い、いえ。見せません」
「あっ、レキの後ろに守護霊が!」
「えっ」
「スキあり!」
「あっ」
ぱさっ。やっと取れた。てか守護霊て。レキってぽけーっとしてるようで鋭いから蚊とか虻とかって言っても意味ないのはそうなんだけど俺って嘘下手か!というかレキもそんなことで釣られるなよ……。
パソコンの画面を見てみるか。どれどれ……
映し出されていたのは、浴衣姿のお姉さん。『浴衣』でグルグル検索してあたり、レキらしい。
レキを見るとぷすぅーっ!といった感じで拗ねてらっしゃる。ハハーン。レキ、浴衣着たかったんだな。
「レキ、浴衣着たいの?」
「……」
「着たいの?」
「…………はい」
「そうか、じゃ今日着ようか。着てどっかに出かけよう。お祭りとかいいな」
「はい!」
そこまでいうと拗ねてたレキさん、途端に嬉しそうな雰囲気を出し始めた。返答も早く、強くなってて可愛すぎか。
「と、なると今から動かないとお祭りには間に合わないな。レキの浴衣見繕わなきゃならんしな」
「あれ、零司さんの分はどうするんですか?」
「あぁ、俺の?ほら一応俺って武家の出身な訳でして…俺の分の浴衣一式持ってるから、それでいいかなって」
そう言うとレキはもじもじ。何か言いたげにしてらっしゃる。こういうレキさんすごく貴重だよな。
何も言わずにじっとレキを見る。やがてレキは根負けしたのか、消え入るような声で一言。
「その……お揃いの、とかどうですか?」
「おっ、おっおっおっおっ!!?」
今この子なんと!!?お揃いって言ったのか……?顔が火照るのを感じて思わずレキから顔を背ける。
……正直ヤバい。どうしてこんなに俺の彼女は可愛いのだろう。ちらっと見るとうなじまで真っ赤になってるし。ど、どんな顔をして話せばいいんだっけ??
「……レキ」
「はい」
「買いに行くか。浴衣。お揃いの」
「……!はい!」
……ま、レキが嬉しいならそれでいいか。お金は余ってるし。
「というわけで新宿伊勢丹に来たわけだが、レキが好きなの選びな。俺はそれに合わせるからさ」
「では、お言葉に甘えて」
やっぱり女子ってのは買い物が好きなんだなぁ。特に身につけるものとか。ついこないだまで「私服を持ってません」だったレキがあんな楽しそうな雰囲気を出すなんてね。おっとこうしてる暇はないな。今日どこで花火大会やってるのか調べたりして小物買わなきゃな。
かちゃ、かちゃ、かちゃり。この辺だと少し遠くはなるけど箱根辺りが今日やってるっぽいな。帰りのことも考えて電車で来てよかった。
それで……これとかいいかもな、小物。
「零司さん」
「おっ決まっ……ゎーお…」
「どうですか?その……似合ってますか?」
レキはどうやら選んですでに着付けてもらったらしい。レキの髪色にあったグリーンを基調に黄色の花をあしらった浴衣に俺の髪色に合わせてくれたのか少し濃いめのブルーの帯。下駄もしっかり履いてる。おまけに少し化粧してもらったらしく、女子力5割増しでお届けしていらっしゃる。持ってるカバンの中身はどうやら武偵高の制服と靴のようだ。
なんて言おう。満点っていうのもおこがましいくらいの神の造形とでも表現しようか。
隣でニコニコしてる店員さん、グッジョブ!
「その……だな。すごく似合ってる。似合ってるって言葉が正しいのか分からんくらいには似合ってる」
「ありがとうございます」
「じ、じゃあ俺も買おうかな。んでこれおいくら?」
「浴衣、帯、下駄を合わせてお値段8万円でございます」
「はっ!?」
「こちら、すべて防弾繊維でお作りしていますので普通のものよりも割高となっております」
予想外のお値段にビビる。手持ちは……20万。俺のと合わせても多分足りるだろう。この間のローズリリィ逮捕でアホみたいにお金もらったし。
「わかりました、俺の分と合わせてお願いします」
「承知いたしました。彼氏様はどのようにいたしますか?」
「そうですね、こいつと対になる感じってありますか?」
「おおう…俺の諭吉さん、新天地でも頑張るんだぞ…」
俺の諭吉さんが13枚旅立って行かれた。さすがに驚いたわ。防弾の浴衣買ったらこんなにするのかよ。
そんな俺の浴衣は注文通り、ブルー基調にしたもの。レキのグリーンに合わせた帯を使って下駄は自前のもの。
「零司さん、さすがに申し訳ないので自分の分は自分で払いますよ…?」
「レキ、それ以上はノーだ。これはお前へのプレゼント。少々値が張ろうと依頼を受ければいいしへこたれ……へこたれないぞ!」
「最後まできっちり言ってくれれば信用できたんですけどね」
「うるせぇ、そんなに高いとは思ってなかったんだよ!!とにかく、これは俺のプレゼント。レキは嬉しそうな顔して貰ってくれればそれでいいの!」
「あ、はい。零司さん」
「なんだよ?」
「ありがとうございます」
……!!全くレキという奴は……。
「……ほら、行くぞ。箱根だ」
「はい」
そんなに嬉しそうにしてくれるなら彼氏冥利に尽きるって奴だよ、全く。
新宿から小田急の特急ロマンスカーに乗り、箱根湯本まで行く。急行とかで行くと本厚木から新松田まで各駅に停まるから好きじゃないんだよな。箱根湯本から強羅まで箱根登山鉄道。この電車は神奈川の電車にしては珍しくスイッチバックをするんだよな。箱根の山ってやっぱり険しいんだと再確認できる今日この頃。
強羅に着くともう人がわんさかといる。まぁ、有名人もくるもんなこの祭り。
「レキ、離すなよ」
そういってレキの手を掴む。最初戸惑ったようなレキの手は状況を理解するとしっかりと握り返してくる。その感覚をなくさないように慎重に歩いていると出店の前に着いた。
「なんか食べたいものは?」
「なんでもいいですよ」
口ではそう言ってるものの、目線は一点からビクともしてない。食べたいなら素直に言ってくれればいいのに。
……なになに、『クイーンたこ焼き』?クイーンってなんだよクイーンって。
ため息を吐きつつ、俺はたこ焼きの列に並ぶ。一応関西の粉もん文化出身といえばそうなので、たこ焼きとかお好み焼きはよく食べてた。そこのレベルまでは要求しないが美味しいものを食べたいなぁ。
「いらっしゃい、注文は……ってあれ?明智じゃん」
「うげ、武藤……」
「なになに、お兄ちゃんこのイケメンさんと美人さんの2人と知り合い?」
順番が回ってきたので注文をしようとするとそこにはなぜか武藤の姿とそれには似つかわしくないほどシャープな顔つきの美人さんが2人で切り盛りしていた。というかお兄、ちゃんだと……?
「武藤、一緒に屋台やってるやつにお兄ちゃん呼びさせるほど女に飢えてたのか……」
「ちっげーよ!こいつは
「明智先輩にレキ先輩か!お兄ちゃんの世代の有名どころ筆頭さんが2人で来てくれるなんて嬉しいです!ホントに妹なんですよ?」
そう言ってキキさんはバチコンとでも音がなりそうな器用なウィンクをする。こんな綺麗な妹さんがいてどうして
「そんなことより明智さん、ご注文は?本場のたこ焼きですよ!」
「へぇ…こいつはともかく俺は一応京都出身だからたこ焼きは食べ慣れてるぞ…?レキ、ネギとマヨネーズ平気か?」
「どちらも平気です」
ちらりと見るとレキさんの目がきらりっ!と光ってらっしゃる。こういう時のレキは食べる。かなり大量に。
「おっけー、じゃあネギマヨ4人前で。武藤、裏空いてるな?そこでレキと一緒に食うから開けろ」
「へいへい、見せつけやがって。轢いてやる!」
「2人とも太っ腹!まいどありー!」
代金を払ってたこ焼きをもらうと営業の邪魔にならないよう屋台の裏に入り込む。
屋台の裏は当然人も少なく花火も見られる位置なので一応武藤に感謝しつつ(武藤の車に積んであった)パイプ椅子に2人で座って食べ始める。
「はい、食べ方わかる?」
「大丈夫です」
一応レキに確認を取ると知ってたようで器用に竹串で刺して食べ始めた。俺も食べますか。
「いただきます」
どうやら生地に味付けしてるタイプみたいだな、どれどれ……
おぉ、うまいな!
火を通しすぎず、かといって生なわけではない。いい感じの火加減だ。タコも割と大きいのを使っているようでしっかり弾力で自己主張してくる。
「どうだ?俺の自慢の妹のたこ焼きは」
「まだいたのかよ武藤…」
「お前は一体俺をなんだと思ってるんだよ!!」
「悪ぃ悪ぃ。味付けも文句なし。美味しいと伝えてやってくれ。ところでさ、なんで『クイーンたこ焼き』ってネーミングなんだ?」
素直に評価を伝えるとどっやぁ……って顔を俺に向けてきてホントにウザかったが喉まで出かかった言葉をしまいつつ、名前の由来を聞く。
「あぁあいつ、鈴鹿サーキットとかでレースクイーンもやってるんだよ。だから『クイーンたこ焼き』。あの人気もレースクイーン補正がないといえば嘘になるな」
「へぇ、話を聞けば聞くほどお前の妹らしくねぇな」
「お前いつか轢いてやるからなぁ!!」
「車ごときで轢けるものなら轢いてみろよ」
そこまで言うとシッ、シッと手を振って武藤を追い出す。涙目の武藤、哀れなり。というかもし車でこいつがホントに轢きに来ても大質量の水で流せばいいだけだしな、洪水みたく。
……しっかしまぁ、レキの浴衣姿が似合う似合う。これを見られるってだけで役得という話だ。今はたこ焼きを食べ終わって持参した水で口をすすいで……ってたこ焼き完食早すぎるだろおい。2人前だぞ?
「……零司さん?」
「ん、悪い。気になったか?」
「いえ。それより…ありがとうございます」
唐突な感謝。レキには間々あることだけどどういうことだってばよ。
「実はこういうお祭りに来るの、初めてなんです。それを零司さん…好きな方と一緒に来れたことが嬉しくて」
……どうしてこの天才狙撃手はこういうことをズバズバ言えるのか。ホントに。
「……レキは狙撃は天才的だけど常識知らずだからな。色んなことを教えてやらなきゃ見てるこっちが心配になる。今日の浴衣だって俺が金額言われた時の反応見てりゃ分かるだろうけどめちゃくちゃ高いんだぞ?」
「はい、わかりました」
「だからだな……その、さ。俺と色んなことを見て勉強しろよな、常識ってヤツを。俺もそれくらいなら教えられるハズだからさ」
「はい。これからもよろしくお願いしますね?零司さん」
そこまでいうとしばらく見つめ合う。互いの距離が0に……はならないけどな。
レキはたこ焼き食べ終わって口をすすいでたけど俺まだ全然食べ終わってないからな。たこ焼き味のキスとか風情もへったくれもない。
だから……今はハグだけする。毎度思うがこんなに華奢なのによく狙撃できるよな。
こんなこと往来だったら恥ずかしくて出来そうにない。なんとなく不服だが、屋台やってた武藤に感謝しとくか。たこ焼きうまいし。
どちらからともなく体を離して見つめあっているとなんだか面白くって笑ってしまった。レキもなんとなく嬉しそうにしてる。
タァーン!タァーン!!
突然の音に咄嗟に体が反応し、レキを守る位置に立つが見えたのは空一面に広がる花火。そんな音に過剰に反応するくらいに周りを気にしてたらしい。あーもう、なんだか馬鹿らしくなってきたな。
「いいこと教えてやるよ。花火が打ち上がる時に日本では『たまーやー』って言うんだぜ」
「たまーやー、ですか?」
「そう。たーまやー、だ。かーぎやーなんて言う時もあるな」
「そうなんですか。たーまやー」
「そんな感じ。たまーやー」
「たまーやー……ふふっ」
楽しそうに笑うレキの顔を見て、やっぱりこいつが彼女でよかったななんて思う。
空により大きな花火が咲く。それをレキは嬉しそうに、それはもう嬉しそうに見ていて、それを見てる俺も自然と笑顔になるのであった。
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第55話
「はぁ…来てしまった」
ため息とともに辿り着いたのはSSR棟。SSRってのはSupernatural Searching Research の略称で日本語にすると超能力操作研究科って言うところか。まぁ長ったらしいから教師含めみんなSSRって呼んでるな。
さて、このSSRでは名前の通り超自然的なもの、つまり超能力が絡む犯罪の調査とかをやっている。超能力を使う武偵は超偵なんて呼ばれ方をされている。
超能力を使うということで、水を操ったり『仮想の未来視』で未来予知の真似事をしてる俺は完璧に超偵のくくりなんだが、あくまで武偵と名乗っている。超偵って言葉に誇りを持ってる人には失礼な話なのだが、なーんか超能力しか能のないようなネーミングで気に入らない。俺はあくまで武偵であるということに拘りを持ってる。
それで超能力者は大きく4つに分類されてⅠ〜Ⅳ種超能力者なんて呼ばれ方をする。俺が分類されてるのはⅠ種。これは体内の物質を使って超能力を使う人達のことを指す。このタイプの超能力者は基本的には戦闘後に何か経口摂取をしなければ栄養失調で死ぬ。また長期戦には向かないんだよな。まぁ、いつか話したとは思うが俺は幸運なことに使用する物質と超能力が一致してる、つまり水だから超能力を発動させつつ経口摂取を出来るっていうⅠ種の中でもちょっとした例外みたいな感じなんだがな。
Ⅱ種は体外の物を操る超能力者たちを指す。Ⅰ種とは違って体内の物を消費しないから戦闘後に経口摂取の必要はないのが特徴だ。また超能力者の中では継戦能力が高めだという話を聞いたことがある。アフリカとかの祈祷師なんかはこれか次の第Ⅲ種のどちらかだろうな。
Ⅲ種は俗にいう魔法使いとか魔女の類。精神力だけで超能力を行使する人達の事を指す。何も媒介を必要とせずに超能力が行使できる反面、長期戦にはⅠ種以上に向かないらしい。
そして第Ⅳ種超能力者。これが一番きな臭い。まず分類がわけわからん。『前述3種に属さない超能力者』。これだけ。これに属している人に出会ったこともないし完全な憶測で言うのであればⅠ〜Ⅲの
……とと、話が逸れたな。今日このSSR棟に来た目的は1つ。『仮想の未来視』の超能力分類を確かめに来た。俺の見立てではこれもⅠ種だ。使って栄養失調で倒れたわけだし。
ということで来たわけだが…少し待ち合わせの時間より早く着いてしまった。着いてしまったんだが、どうしてもういるんだよ、白雪さん?
「よう白雪、相変わらず早いな。暑いからギリギリまで涼しい所入ればよかったのに」
「あっ、明智くん。明智くんこそ早く来なくてよかったのに」
はい、ということで専科がSSRの白雪に少し手伝ってもらうことにした。俺も以前高天ヶ原先生たちにSSR棟使用の許可をしてもらっていたがほぼ使った事がないからこの人外魔境を案内してくれる人が欲しかったんだよな。
………浮気じゃねぇよ?レキにはキッチリ話を通してあるからな?
キンジのこと以外では完璧な白雪なら信頼も置けるしな。…というかSSRの奴らは独特すぎて話が通じない奴もいるから消去法でも白雪が選ばれるだろうな。
「んでどこで調べられるのさ?」
「うん、ちょっとついてきてね」
そう言いつつ白雪はSSR棟に躊躇いなく入っていく。俺も見失ってはまずいのでさっさとついていくことにしよう。
……何されるのか心配だなぁ。
SSR棟内は色々なわけのわからないものがごった混ぜになって置かれていてある。まず入り口。狛犬の隣にスフィンクスが置いてある。これだけではなくトーテムポールやらお地蔵様、モアイなんかも置いてあるんだからもうわけがわからない。まるでつい最近オカルトにハマっていろんなものを集めてきた好事家みたい……にしては量が多すぎるか。
それで内部。扉を開けたとたんちょっとしたホールになっていてお祈りとかが出来るようになっている。それで錦絵とか西洋画とかごっちゃごっちゃに飾られている。……というかパイプオルガンの上に木魚置いてあるんだけど……。
内装もおかしければそこにいる生徒もおかしい。
「カメルーンに昔から伝わってる探知魔術ってのはね……」
「黒より黒く、闇より暗き漆黒にわが真紅の混交に望み給う……」
「おれは人間をやめるぞ!ジ○ジ○ーッ!」
……おかしいなぁ、誰か1人爆○魔法を撃とうとしてるし、人間をやめようとしてる人もいる。マンガの読みすぎだろと一笑に付す事ができないのがタチ悪い。あ、今爆発した。
ホントになんで白雪はSSRに所属してるんだろうな?少し聞いてみるか。
「なぁ白雪」
「どうしたの明智くん?」
「お前なんでSSRに所属してるのさ?お前だったら衛生科とかでもやっていけそうなものなのに」
「あ、えっとね。星伽からのお達しっていうのでね…」
「あぁ…」
こいつが星伽っていうときは実家の星伽神社のことを指す。なんでも星伽神社は代々護り巫女っていうものらしくて神社を守るために武装してるらしい。それでその実家はとても厳格らしく、白雪は本来ならほとんど外に出ちゃいけないらしいし、また逆に部外者が中に入ることも許されないらしい。
んで、なーんで俺がそんなことを知ってるかっていうと明智家と星伽家は関わりがあるから。
本能寺の変で織田信長を倒した光秀公は山崎の戦いで豊臣秀吉に滅ぼされた。本当ならは明智一族はその時に全滅を迎えていたはずだった。その時に残った明智一族の家族を匿ってもらい、秀吉に便宜を図らせたのが星伽家ってわけ。京都にある分社なんだけどな。
残った明智家の一族に星伽家は京都の自分の領地を与え、そこで生活出来るよう支援をしてくれた。織田信長を倒すことでその役目を終えた明智家は歴史の第一線から退いた……とそんなところらしい。
光秀公が『仮想の未来視』をする際に星伽家の巫女に協力を仰いだ……なーんて話もあるけどこれは本当なのかどうかわからない。
「白雪の実家は厳しいよなぁ、確か遊びに行くのも禁止だろ?」
「うん。……でも感謝してるんだよ?本当なら私が武偵高に来ることも反対してたんだ。それでも許可してくれた。星伽の巫女は、
今時こんなのも古風の極みみたいなものだろう。それに俺は白雪……というよりは星伽の実家がその守ってるものを奪われることを恐れているように感じるな。ボディーガードとかSPみたいなのと少し近い感じというか。
……そこまでして守ろうとするものはなんなんだろうな?
そこまで考えて俺は思考を切り替える。
「少し重い話になっちまったな。忘れてくれ」
「ううん、いいの。明智くんにはキンちゃんのことでお世話になってるし」
「そうかい。……いつも言ってるけどキンジは年上っぽい雰囲気の奴に弱いぞ。でもあんまり押しすぎてやるなよ?」
「うん、わかってるよ」
そう言って少しニコッとする白雪はホントにキンジのこと好きなんだろうな。その大人みたいな対応力をキンジに発揮してやればいいのに。いっつもテンパって失敗するんだよな。ごく稀に成功した時にキンジは顔真っ赤になってるのを俺は知ってるけどな。ちなみにそんなときは白雪本人の意識も飛んでるからなんも進展しない。
キンジにしてもこいつにしても不器用すぎるのだ。見ててもどかしいったらありゃしない。
白雪に連れられて着いたのは入り口とはまた違う感じのホール。白雪曰く、ここで超能力の系統を調べるらしい。
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
「えっと、まず3つ質問に答えてもらってもいいかな?」
「モノによるけどいいぞ」
質問をすると言いながらなにやら準備している白雪。こういう巫術とか呪術みたいなのはよくわからないなぁ。
「まず1つ目。その超能力はどういう系統?」
「うーん……未来予知に近いけど、自分で未来を見つけ出す感じといえばいいのかな?そんな感じ。占いとかとは違うな。ご先祖様も似たものを使ったことがあるらしい」
「なるほど……それじゃあ、使った後に何か変わったこととかあった?」
「体調がすこぶる悪くなって栄養失調で入院した」
「そういえば明智くん入院してたね。それかな?」
「そうだな、それで合ってる」
「じゃあ最後の質問。使った後に何か無性に欲しくなったものってある?」
「うーん……ないかなぁ。そのあとすぐ戦闘してぶっ倒れたわけなんだが、その時に何か欲しいとは思わなかったなぁ」
そこまで聞くと白雪はサラサラサラとメモになにやら書き込み、なにやら考えている様子。邪魔するのも悪いので待つことにするのだが、やっぱり居心地が悪い…。
なんて考えていると白雪はなんか腑に落ちないような表情をしつつも切り出してきた。
「うーん、はっきりとはわからないけど明智くんのそれは第Ⅲ種なんじゃないかなぁ」
「え?Ⅲ種?てっきりⅠ種だとばっかり思ってたんだが…。理由を聞かせてもらっても?」
「まずⅠ種じゃない理由から説明するね。Ⅰ種なら超能力を使ったあとに何か欲しくなるはずなんだ。例えば砂糖とかお塩とか。それがないっていうことはⅠ種じゃないってことになるの」
「そういうものか?」
……よく考えたら中学のときは水の超能力を使った後に水ガブ飲みしてたな、周りが引くレベルで。なるほど、それがないってことはⅠ種じゃないって言えるのか。
でもそれだと栄養失調でぶっ倒れたのが説明がつかないな…。
そこを聞くと、そこなんだよね…と白雪は頷いた。白雪もそこでつまづいてたのか。
「第Ⅱ種じゃない理由はいいよね。話を聞く限り、明智くんが何かを媒介に使ったってわけじゃないみたいだし」
「あぁ、そうだな。俺もⅡ種はないと思ってた」
「うん。じゃあ第Ⅲ種なんじゃないかな、と断定した理由を説明するね。多分明智くんが言ったご先祖様っていうのは明智光秀さんのことだよね?こうやって先祖に似た力を持った人がいる場合は先祖返りって認定されてその血筋を魔法使いの家系ってするのが一般的なの。だから第Ⅲ種なんじゃないかなって思ったんだけど、普通の第Ⅲ種だったら能力を使っただけで栄養失調とはならないと思うの。せいぜい息切れして体が動かなくなる程度かな。栄養失調ってことは確実に体内の物質を使ってるってことになるはずだからそこで第Ⅰ種と悩んだんだけど……」
「白雪でもそこの判定は難しいか…。ま、仕方ないか。乱用禁止さえ守っとけば当面問題ないだろうし…」
とはいえ困ったな…。第Ⅰ種と割り切ることが出来たなら体内で消費する物質を補えるような食べ物を携帯しておけばよかったんだが…。
そう思っているとなにやら白雪は先ほど準備していた術みたいなものをちょこっと動かし始めた。
「あの……何をするおつもりで……?」
「第Ⅲ種とは一応言ったけど、明智くんの体内で物質を消費しているのは間違いないと思うの。この術式は第Ⅰ種超能力者が体内で消費する物質を検査するものなんだ。ちょっと髪の毛をもらっていいかな?」
は、はぁ…。占いの一種みたいなものか。キンジ曰く『白雪の占いはよく当たる』らしいから信じてみるか。
俺は髪の毛を一本抜き取って白雪に渡す。なんか恥ずかしいな…これ。
「じゃあ今から術式を起動するね。起動中はちょっと体の中に違和感が出るけど我慢してね」
「はい!!?」
俺の抗議の声をスルーして白雪は術式を起動させたようだ。見た目に派手な変化がないからイマイチ実感はないけど。
そう思った瞬間、体の中からなんとも言えないゾワリとした感覚が駆け抜けた。体の中を蛇が動いているようなどうしようもない不快な感じだ。これ元々相手を呪い殺す術式とかそんな物騒なもんじゃねぇよな!?
「はい、終わりだよ。ごめんね明智くん」
「……マジで気持ちわるい……」
術式が終わった瞬間さっきの不快感が消えるからなおのこと気持ちわるいったらありゃしない。
「で、結果なんだけど…。まず水を消費するみたい」
「あぁ、そりゃ別もんだ。続けてくれ」
「……?うん、じゃあ次ね。チラミンとテオブロミン、あとは鉄分も消費するみたい」
「チラミンと鉄分、あとなんだって?」
「テオブロミンだよ。全部チョコレートに入ってるね」
あ、ああチョコの苦味成分のアレか。鳥とかが食べたら中毒起こすやつだ。
「じゃあチョコレートを持って歩けば良いわけか?」
「うーん、そういうわけにもいかないみたい。消費量がかなり大量だから板チョコ一個じゃ全然足りないみたい…」
「具体的にはどんくらいとか分かるか?」
「うーん、多分2箱分ちょっと足りないくらいかな…?」
めちゃくちゃな量だなオイ。ま、量が分かるだけマシか。
「その辺はまた考えておくよ。ありがとさん」
「ううん、いつもキンちゃんのことで助かってるからこのくらいはおやすい御用だよ」
そう言ってくれるのはありがたいんだけどな。よし、ついでにもう1つ質問でもしてみるか。
「白雪はどんな超能力もってるの?まさか占いだけじゃないんでしょ?」
「あっ、それはね……」
うん……?単に気になって聞いてみたんだが、白雪はもじもじ。聞いちゃまずそうな雰囲気出てるな。
「……聞いちゃまずかった?」
「……できればね。でも明智くんの言ってることはあってるよ。占いだけで私はSSRに来てるわけじゃないんだ」
「そうかい。なら深くは聞かないよ。無粋だった、ごめんな」
「ううん、平気だよ」
そう言って白雪はテーブルの上の術式を解体し始めた。何を消費してるのかわかっただけでも良い情報だ。
……あの体内の感覚は二度と味わいたくないけどな。
「今日はマジで助かった。ありがとさん」
「明智くんの力になれたならよかったよ」
SSR棟を出て俺たちは話しながら帰ってるわけだが、白雪はどうやら生徒会のお仕事があるらしい。本当に超のつく優等生だよ。……自分の感情を出さずってところは評価が分かれる可能性があるかもしれないが。
……おっと、これ渡すの忘れてたな。
「白雪、これやるよ」
「えっ?」
そう言いつつ取り出したのは封筒。中身は開けてのお楽しみ、ってね。
「開けて良いぜ。お前への報酬は金よりもこっちの方が良いかなって思ったからさ。あとそれ、俺が入院してる時にレキに料理の手ほどきしてもらったお礼も兼ねてるからさ。お返しとかいらないよ。じゃあな」
「えっ、あっうん。またね、明智くん」
そう言いつつ俺は背後の白雪の反応を楽しむ。はっ、という声をあげて白雪が顔真っ赤になるのが雰囲気で見て取れた。
うん?何を渡したかって?
……白雪に渡すものといえばキンジの写真だろ?今回は
超能力の分類はあくまでこの小説の中だけの分類になってます。ですので原作とちょっと違う可能性もあります。
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第4章〜雪と船と犯罪と〜
第56話
そんな感じな昨日を過ごした乃亞です、どうも。5位ですって……びっくり。今回ランキングに乗ってたから見に来たよって方にも、以前から読んでくださっている方にも感謝しかありません。本当にありがとうございます。
本作を少しでも楽しんでいただけるよう、未熟者ながら頑張るのでこれからも温かく見守っていただけると嬉しいです。
本編は新章の導入部分だからかなり短めですけどね。(笑)
それではどうぞ!
「うぅ〜っ、寒い寒い。レキお前よく
「狙撃の精度には関わりありませんし、慣れていますので。故郷はこんなものではありませんでした」
「慣れてるにしても女の子が体冷やすもんじゃねぇよ」
「……お気遣いいただきありがとうございます、零司さん」
「何を今更、気にすんな」
アホみたいに追っかけ回された始業式、奴隷のようにコキ使われた文化祭、ある意味武偵高の先生たちの怖さを思い知った体育祭を乗り越え現在は11月末。夏の残暑が無くなって秋の心地よい気温になったと思ったらすぐに秋雨前線が登場。
超能力の相性的にはいいけど気分の良いもんじゃない雨が続いたかと思ったら雪こそまだなわけだが冬の寒さがこんにちは。誰であろうと寒いものは寒いのだ。冬になったら夏が恋しくなっていざ夏が来たら冬が恋しくなる。人間みんなこんなもんだよ。
ちなみに俺とレキの関係はほぼ全校生徒が認知している。何しろ同級生の馬鹿どもの策略によって文化祭のベストカップルコンテストなるものに無理やり出されたからな。ちなみに俺が女装をやらされ、レキはボーイッシュな格好にさせられた。文化祭が終わって外部客が完全に帰った後に計画の企画班と行動班全員を調べ上げて(最初に音頭を取ったのは武藤と理子のアホ二人組だった)俺とレキで殲滅したのは武偵高生の記憶に新しいものだろう。基本的にレキ1人で事足りるので俺は逃げ隠れしているやつを1人づつ
ちなみにどうやら先輩たちはチーム単位で武偵鍋と呼ばれる闇鍋を囲んでいて、それで気分を悪くした生徒たちと俺とレキがお迎えした生徒たちで武偵病院は今年1の忙しさだったらしい。
車を運転しながらその時のことを思い出してしまい、思わずため息が出てしまう。
「はぁ…」
「ため息をつくと幸せが逃げちゃうらしいですよ」
「幸せは自分で掴むもんだろ。それで俺は今レキの隣いるから幸せ。お分かり?」
「あんまり軽くそんなこと言ってると、いざという時大事な言葉を聞き逃しちゃうかもしれないですよ」
「聞き逃さないように努力してくれい。俺も絶対に聞き逃さないように頑張るからさ」
「……この人はこれだから……」
「なんか言ったか?」
「いえ、大丈夫です」
なんか言ったことは否定しないのな。
「それより……」
「ん?」
「武偵殺しの件ですが…」
「あぁ巷で噂の爆弾魔ね。それがどうした?」
「この間のバイクジャックは武偵殺しの犯行だと思いますか?現場鑑識に出たと聞いていますが」
……。
…………。
……どうしたものかねぇ。
正直なところ、俺の直感的な答えはYES。結果だけ見れば狙われた武偵は助かってるけどバイクは爆破されてる。バイクが跡形も無く破壊されていたことも鑑みるに多分大型トラックとかでも吹っ飛ぶ量の炸薬量だったとみられる。
だがそこまで分かっていて、犯人の人柄とか犯罪動機がわからない。バイクに乗っていた被害者武偵の説明曰くバイクを走らせていたところ、ボーカロイドの音声が出るスピーカーと良い
武偵に相当な恨みを持ってる人物か、はたまた面白ちょっかいのつもりか。ちょっかいにしてはやりすぎだがな。
それに……この前
そこまで考えたがなにせ情報が少ない。これだけじゃ決めきれないなぁ。
とりあえず確実に答えられる範囲で答えておくか。
「武偵殺しかどうかはわからないけど、相手はとてもずる賢いし
「なぜですか?」
「いや単純な話さ。バイクジャックなんて大きなコトやってるのに犯人に繋がる証拠が出てきてないからな。武偵のやり方を知ってればどういう捜査の仕方をするのかが分かる。犯人はその方法で見つけられないように事実を隠蔽して、事実成功してるわけだ。さっきの評価に繋がるだろ?」
「なるほど、では内部犯の可能性もありますね」
「ってことになるなぁ…。この件を捜査してるのが警視庁と東京武偵局。そんでうちら東京武偵高だからもしかしたら……な」
身内を疑うなんてことしたくないぜ、全く。逮捕しても胸糞の悪さしか残らない。
「はぁ……着いたぜ」
「いつもありがとうございます」
「気にすんなって」
嫌なこと考えるよりも楽しいこと考えてた方がストレスもないってもんだ。とりあえずは今レキと一緒にいられるってことを楽しもう。
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第57話
この間ランキング入りしてからお気に入りしてくださる方がぐぐくっと伸びてついに500人を突破しました!本当にありがとうございます!嬉しいなぁ〜
これから3月くらいまで更新が滞ることもあるかと思いますが、更新した際には「あっ、こいつまた書いてるよ〜」みたいな軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。
それではどうぞ!
「お、明智とレキじゃん。おはようさん」
「相変わらずお熱いご様子でなによりだよ」
「レキさんレキさん、部屋の中での明智くんの様子を今日こそ教えてくれると嬉しいな!」
「おう、みんなおはようさん。あと鷹根、どさくさに紛れて俺のオフのことを取材しようとすんじゃねぇ」
「おはようございます、みなさん」
教室に着くといつものようにクラスメイトたちが親しげに挨拶をしてくれた。鷹根、早川、安根崎の3人はそろそろ自重を覚えてほしい
あとはレキはこの2学期くらいからちょくちょく人とたわいのない話を出来るようになったようだ。
……うん。それはいいんだけどさ……。
「うーっ、寒いなこの教室。車の方があったけぇんじゃねぇの?」
そうなのだ、日本の11月末の教室というのは基本的に暖房やストーブなんかで教室が生ぬる〜く程よく暖かくなって休み時間に寝るにはちょうどいい環境のハズなのだ。ましてやここは武偵高。教室だろうと廊下だろうと元気に駆け回るアホ共の影響で空気がかき混ぜられ、暖かい空気と寒い空気の差がほとんど生まれなくて足が寒いなんてことにもならないある種昼寝の天国ともいえる場所であるハズなのだ。というかそうじゃなくちゃ気持ちよく昼寝ができない。
な・の・に〜〜!!
「なんでこんなにさぶいねんアホンダラっ!ほんまにいわしたろかコラッ!」
「あぁ、そういや強襲科共が暴れて発砲してたからその時に空調が逝ったっぽいぞ」
「なんやとこのアホの小林ィ!直せダァホ!」
「いやそんなの無理でしょ……」
……ハァ。正直に言うと寒いのは嫌いだ。確かに出身地の京都の方が東京より寒いし、中3の時に行ったヨーロッパの方が寒い時は寒い。とはいえ、寒いのは嫌いなのだ。体が冷えるとどうしても少しはパフォーマンスが落ちる。特にひどいのは水の
休み休み使う分にはまだマシだがそれでも辛いものは辛いのだ。
水やアルコールなどの液体、あとはギリギリ水蒸気とかも操れるが、その温度までは管轄外ってわけだ。思わず訛ってしまうくらいにはな?
相変わらず使えないアホの小林を尻目に俺はため息を吐く。そんな俺の首にぴとっ。なにやらあったかいものが触れた。というか手だろこれ。
「これでどうですか?零司さん」
「お、おうレキか。びっくりしたぞ全く。…でもあったけぇな」
「なんだよこいつら。末長くお幸せに爆死すればいいのに」
小林がなんかいってる気がするけど気にしたら負けだと思ってる。お世辞言い切れてないぞ。
そんな中、急にクラスほぼ全員の携帯の音が鳴り響いた。こういう時は大体事件のメールだったりする。
「うんにゃ、なんだよこんな時に……!!」
「これは…」
クラスの奴らが息を呑むのも仕方がない。携帯の緊急メールにはこう記されていた。
『東京都港区レインボーブリッジ付近にてカージャックが発生。車のどこかに爆弾がつけられている模様。至急強襲科及び狙撃科、
おいおい…この間バイクジャックがあったのに今度はカージャックだぁ?武偵殺しとやら、そんなに武偵が憎いのか。港区ってここら辺だし。まぁいいや。サクッと行ってくるか。俺は
「レキ!」
「準備はできています。急ぎましょう」
「頼もしい限りだ。みんなはヘルプに回ったり、警視庁と通信とったりできることをしてくれ!俺とレキで打って出る!」
「任せたぞ、いちゃいちゃSランクコンビ!」
「気をつけてね!」
いちゃいちゃSランクコンビってなんだ、いちゃいちゃSランクコンビって。そう思いつつ俺は現在わかっているだけの戦力を把握にかかる。マサトは……ダメだな。あいつは任務でどうやら今ここにいないハズだ。同様の理由で他の学校に潜入捜査中のキンジと不知火もダメ。白雪は京都の分社に用事があって今は不在。理子あたりは……わからん。普段ゲーム以外なにしてるのか知らねえ、あいつは。一応連絡だけかけるか。あとは……武藤あたりが妥当か。あいつなら飛行機の1つや2つ飛ばせるだろう。
俺はA組のドアを開けながら叫んだ。
「武藤、メール見たな?行くぞ!」
「お、おう!何動かしゃ良いんだ?」
「ヘリを1つ頼む。パーティは俺とレキだ」
「ハイハイカップルだなこんちくしょう!飛ばせば良いんだな!」
「頼むぜ」
俺は武藤とレキを引き連れてヘリポート代わりの車輌科屋上を目指す。欲を言えば状況を正確に説明できる奴がいるとよかったんだが、声を掛けられる人にいなかったから仕方ない。お世辞にも饒舌とは言えないがレキに頼むか。
武藤の操縦で現場付近に近づいているとあらかじめ持ってきたインカムから通信が入った。
『明智零司さん、レキさん聞こえますか?』
「はいよー、くっきり聞こえるぞ」
「はい」
『こちらは通信科一年、
「了解した。早速だが中空知、件のジャックされた車はどこだ?」
『現在、レインボーブリッジに誘導しています。被害車輌の後ろに無人のオープンカーが5台あり、自動銃座がつけられています。銃の型はUZIかと』
「オーバーキルだな、そりゃ。じゃあ任務達成条件は車のどこかにある爆弾を解除してオープンカーを沈黙させればいいんだな?」
『そうなりますね』
単純だがそれゆえに難しいな。爆弾をえっちらおっちら解除しようとしたらUZIから蜂の巣にされるし、逆にオープンカーの方を先にやると爆弾が爆発する可能性がある。事件発覚から20分も経っていないが車の運転手は緊張状態が続いているから精神的にいっぱいいっぱいな可能性もある。
ならばまず爆弾を解除してから素早くオープンカーを黙らせるべきだろうな。
おそらく犯人は爆弾がどこにあるかを悟らせないために車の外に設置しているはず。
「明智、レキ!見えて来たぞ!」
そう武藤が叫ぶので外を見ると、なるほど確かに1台の車を5台が追ってらっしゃる。
「おー、確かにUZIだなあれは。レキ、追われて車の外側に爆弾みたいなものくっついてないか?」
「追われている車の後ろについている白いものとかはどうでしょう?」
「どれどれ……ありゃりゃ、正解だな。あれC4っぽいなぁ。車どころか漁船程度なら吹っとばせるんじゃないか?」
「おいお前ら……視力よすぎないか?少なくとも俺にはサッパリだぞ」
「左右共に6.0です」
「こいつほどじゃないけどな。左右両方4.2だ」
「もうツッコまねぇぞ!」
呆れたように武藤に言われたけどお前の乗り物なら大体乗れるってのも相当だぞ?
さ、て、と。どうしようか、コレ。というか何分で片付けられるかな、これ。
「中空知、これ以上お相手方の増援はないか?」
『おそらくありません、少なくとも見える範囲で不審な動きをしているものはありません』
「りょーかい、ありがとさん。じゃあ作戦を説明する。俺がジャックされた車の上にここからワイヤー使って飛び乗るからレキは俺が車の上に到達する前に着いてる爆弾を狙撃で取り外して海に落としてもらう。んであと残った車は俺が処理するからそれで解決だ。さっさと終わらせるぞ」
「わかりました」
「おーい明智よ、俺はどうすればいい?」
「武藤はレキが狙撃しやすいようにヘリの姿勢を安定させてくれ」
「任された!」
「作戦開始は俺が降下準備を済ませてから30秒後。しっかりやろう」
簡単に説明をしたがぶっちゃけコレ、レキの狙撃技術に頼りきってるんだよな。まぁアドシアードの優勝者の俺の彼女だ。これを信頼せずに何を信頼するのか。
あとは車の運転手だが……あと5分。5分だけ保ってくれ。
「降下準備完了した。作戦開始30秒前!」
毎度のことながら強襲前は気が引き締まる。下手したら死ぬからな。
『5秒前…3.2.1...作戦開始!』
「行くぞ!」
そう言い俺はワイヤーを駆使しつつ降下する。一応保険代わりに超能力も発動させ万全を期す。
車にあと10mもなくなってから俺は叫ぶ。
「レキ!」
『私は光。主を支える一筋の光』
いつものように何事か呟いてレキが放った弾は綺麗に爆弾を掠め、爆弾は海に落ちて行く。それに俺が素早く合わせるように海水を操り、爆弾をキャッチして即座に海の中に沈める。
直後、水飛沫が上り爆弾が爆発したことを示した。ちぇっ、本当は爆発させることなく海の底に沈める予定だったのに。
直後、車の運転席の窓が開いた。無神経な動きに本当なら怒るところだが、オープンカーは並走してないので目をつぶろう。
「運転手ー、大丈夫ですか?明智零司、武偵でーす!」
「明智武偵、助けに来てくれてありがたい!車を停める時は合図をくれ!」
「精神が死んでなくてよかったです!そのまま窓を開けておいてください!……さぁーってと。操る海水も冷たいんだ。さっさと終わらせてもらうぞ」
そう言うと俺への捕捉が終わったのか一斉にUZIが俺の方を向き躊躇いなくぶっ放してきた。狙いは……頭か。よくできたAIだ。
俺は即座に水の壁を作り出し同時にかなり長めの水の腕を作り上げ、小太刀を水の腕に放り投げる。
「台を同じ長さにしたのがアダになったな、武偵殺しさんよ」
直後、水の腕がオープンカーに伸び、手に持った小太刀で銃座を破壊していく。一閃。一振りした後、すべての銃座が破壊されUZIの一斉掃射は終わりとなった。後は暴走車を止めるだけ。
「レキ、オープンカーに爆弾はあるか?」
『いえ、少なくとも外にはありません』
「オーケー!」
これに似た状況を見たことあるんだよね。こっちに迫ってくる敵を足止めする感じというか。あれの真似するのも面白そうだしやってみるか。
「エル○ドゥ!」
そう叫ぶと海から無数の鎖状の海水が飛び上がり、5台のオープンカーを縛りつけた。オープンカーはなおも動こうとするが全く前に進まない。おお、思った以上の効果だ。
とりあえずは、解決かな。
「運転手さん停めて大丈夫ですよ〜」
車は上に乗ってる俺を気遣ってかゆるゆるとスピードを緩め、そして停まった。
「明智武偵、助けていただき感謝する」
「こちらこそ助けられてよかった。おそらくこれから事情聴取とかあると思うんでしばらくお時間いただくことになります」
「それくらいは想定済みさ」
「ならよかったです。俺は暴走オープンカーのエンジン切ってくるんでそこで待っていただけると嬉しいです」
「あぁ。さすがに疲れたからしばらく休ませてもらうよ」
運転手も意外とまだ余裕あったな。というか腰のベレッタ950、俗にジエットファイアと呼ばれる銃を提げてることから武偵なんだろうな、あの人も。
俺は暴走オープンカーのエンジンが全て止まって再び動くようなことがない事を確認してからエ○キドゥを解いた。そして報告を心待ちにしているであろうレキや武藤、中空知たちに一息ついてからこう告げた。
「任務達成。お疲れ様」
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第58話
ふぅ…疲れた。にしてもエ○キドゥ、実戦でも普通に有効だなコレ。超能力で拘束するっていうアイデアはあったが、使い続けないといけないってのと有効範囲から動けないっていう欠点があったから使うのを躊躇っていたんだがな。今回みたいな使い方や、相手の動きを鈍らせたりする程度ならそんなに精神力も削られないし有効だ。
……まぁ流石に本家みたいな神性に対する特攻効果はないけどな。
『お疲れ様です零司さん、今からそちらに向かいますね』
「ん、おおレキか。お疲れ様。相変わらずとんでもない狙撃技術ありがとさん」
『レキもだけどお前も大概だぞ、明智…。現場ついてから10分経ってねぇぞ、スピード解決なんてレベルじゃねぇ』
「そうか?それよりもヘリコプター落としたら許さんぞ武藤。後は…中空知、聞こえてる?」
『はい、何かご用でしょうか?』
「
『わかりました』
正直、以前話を聞いた爆弾魔『武偵殺し』の手法っぽいから証拠が見つかることはあんまり期待できないけどな。やるに越したことはない。あと被害者の方にも話を聞きたいし。
俺はこちらに飛んできたヘリコプターに手を振りながらこれからどう動くかを考えて、っておい近いとこに留めようとするなよアホ武藤!!
というわけで今俺はレキと一緒にカージャックの被害者、澤村
おっと、ちゃんと仕事しなきゃ。
「澤村さん、改めてお聞きしますがジャックされたと気付いたのは運転を始めてどれくらいでしょうか?」
「うーん、10分は経ってないかな。信号待ちで止まろうとしたら携帯が鳴ってね、それに出ると無機質な声で『貴方の車はジャックされました。助けを求めてはいけません。助けを求めると爆発しやがります。アハ、アハハハハハ』って言いはじめてね。いやー焦ったよあの時は」
そう言い、ポリポリと頭を掻く澤村さん。大した精神力の持ち主だ。普通ならもう少し声が震えてたりしていても良いものだがそれが見られない。
「そこでなんですけど、どうやって救助依頼を出せたのですか?助けを求めると爆発って言っていたのに」
「そこに関しては、わからない。ただ、近くに東京武偵高の
「なるほどなるほど、ではレインボーブリッジに来たのも…?」
「そうだね、SOSを出すことに成功したと確信したから万一爆発しても被害が少なくなるようにレインボーブリッジに車を進めたってことになるね」
とても落ち着いている人だ。俺は日本の有名な武偵ってもんをそれほど知らないけど、変な欠点…例えば銃にトラウマがある、とかさえなければ間違いなく有能な武偵なのだろう。日本より凶悪犯罪が多いヨーロッパでも十分に活躍できそうな武偵だ。
「わかりました。とりあえずこのくらいで聴取を終えさせていただきますが、後日再聴取ということで武偵高にお越しいただく可能性がありますのでご連絡先をいただけますか?」
「はいはい、……武偵高か、懐かしいな。梅子は元気か?」
「梅子……と言いますと綴先生ですね。年がら年中吸っちゃいけないようなもの吸ってる以外は元気です。お知り合いで?」
「まぁ、ね。同期みたいなものさ。よろしく言っといてくれ」
「承知いたしました」
綴先生のことを話してる時の澤村さん、すごく懐かしそうにしてたな。下の名前で呼んでたし仲も良かったんだろうな。
そう思いつつメモ帳に聴取から得た情報をまとめていると、やっと武偵高から鑑識科を乗せた車がやってきた。めんどくさいから
「明智様、お疲れ様であります!」
「あ、あぁ。ありがとう島」
車を停め、とててと現れたのは武藤と共に車輌科期待の星と目される島苺。身長たったの135cm。そんで乗り物オタク。1つ聞きたい、小学生かお前?小学生みたいに新幹線見て喜ぶらしいし。服装も制服をフリフリのロリータファッション(白ロリだの甘ロリだの理子にギャーギャー言われたが分からん、南無)だし。
だがこれは好都合だ、帰りは島にヘリコプターを輸送してもらおう。
「あっちー!!レキュー!!乙だぞぶんぶん!!事件に間に合わない系ヒロイン、りこりんの登場だよ〜!!」
「いやそこは間に合ってくれよ」
「同じく」
「きゃっ、冷たい!えへへ〜、洋服のデザインしてたら寝落ちしちゃった!」
続いて降りてきた理子にツッコミを入れる。……というか
あんまりジッ、と見てたのか理子がくねくねし始めた。なにそれ。
「なになに〜、あっち彼女のレキュの前でりこりんに惚れちゃった?レキュには無いものもあるしねぇ〜」
「はい?」
「…………………」
「いや待って待ってレキもこいつの言うこと間に受けないで俺はいつでもレキ一筋だからマジで!!理子の言うことと俺の言うことどっちが信用に足るか考えてみてくれ………いただけると嬉しいのですが検討してくれませんかね?」
変に理子が茶化すからレキに絶対零度の冷たい目で睨まれた。なんという理不尽。というか理子にあってレキに無いものって……って怖い怖いレキさん怖いよ!!
そんなこっちの心情はつゆ知らず、理子はとててて〜と現場のオープンカーの鑑識に参加し始めた。ホントなんなの?
あっちをゴソゴソ、そっちをコソコソとして理子は感心したような表情をしていらっしゃる。
「おぉ〜、派手にぶった切ったんだねぇ〜!そんでこれはUZIじゃん!UZIには傷1つついてないとかやるねぇあっち!」
「………もういいや、レキ後はこいつらに任すぞ。俺は学校戻る、付き合ってられん。島ぁー、学校の車1つ持って帰るけどいいかぁー?」
「使うんだったら車輌科の倉庫に戻しておいてくれると嬉しいのであります!」
「はいはい、ヘリとそこにひしゃげてる武藤は頼んだ」
「了解したであります!」
「よしっと……ほらレキ、そこで膨れてないで帰るぞ。今帰ると何か美味しいものが付いてくるかもな」
「……仕方ないですね、わかりました。今回はそれで手を打ちましょう」
「いやあのホントに誤解なんだって……」
そうして俺は島たちに仕事の引き継ぎを終えて未だに膨れているレキを連れて学校に戻ることにした。
ーー残っていればまた違った結末があったかもしれないのにな。
「……くふっ♪」
教務科にとりあえず報告を終え教室に戻るや否や、俺とレキは好奇心旺盛なアホ共、特に血の気の多い強襲科の生徒たちに囲まれて取材を受けていた。
「2人ともお疲れ様!」
「爆弾を狙撃で外したって本当?やっぱりすごいなレキさん!」
「暴走車5台を1人で投げ飛ばしたってやっぱり明智は人間じゃねぇだろ!」
「そんで変形した暴走車を1人でフルボッコだってな!」
「やーかましい疲れてるんだよアホ共!そんで最後2つ!それは間違った情報だたわけ!特に最後!!どこのトランスフ○ーマーだそれ乗ってみてぇなおい!」
「「「「「いやそのツッコミはねぇわ」」」」」
「わぁ息ぴったりで俺ビックリ」
「「「「「アハハハハハハ!」」」」」
なんでそんなに情報がねじ曲がって伝わってしまうのか。……大丈夫かこの学校の
……武偵殺し、ねぇ。何が目的なのかサッパリわかんねぇところが不気味だよな。ここまで手の込んだことしておいて愉快犯ってこともありえねぇし。『仮想の未来視』なら或いは……なんて考えてみたけどボツ。リスクとリターンが見合ってないし、そもそもその人が犯人であるという証拠が無いから使って未来を見ても検挙には至らないだろうな。
あとは……そうそうアンベリールアンベリール。調べよう調べようって思って後回しにするのは良く無い癖だよな。……嫌な予感もするし。
やっと静かになった教室で面倒くさそうに授業する先生を見ながら俺は一抹の不安を拭えずにいた。
零司君は エル○ドゥを 覚えた!
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第59話
午前の授業も(波乱こそあれど)無事終わり、俺は午後の
生憎今朝の事件関連で高天原先生にお呼びがかかった。どうやら理子の奴、あの事件の捜査主任を俺に押し付けやがったらしい。おかげさまで呼び出しくらった3限から内職で理子たちの捜査レポートをまとめる羽目になった、高ランクほど主任に選ばれやすいのが完璧に仇となったな。というか仮にも理子だってAランクで優秀なんだから主任やってくれよ。と言いたいところだが副主任のところにちゃっかり名前をお書きになられていらっしゃる。この分だと適当に丸め込まれるな。
というわけで昼食よりも先に俺は今年もう何度めになるかわからないが、武偵高3大危険地帯の
「1年、明智です。高天原先生に用事があってきました」
「あ、明智君。こっちこっち」
「ん〜??誰かと思ったら色ボケSランクの片割れか」
「あ、はいどうも」
そう言いつつ、クイックイッと手を振る高天原先生の近くには綴先生。不幸指数があがってきたぞ…!というか色ボケって…。しっかり任務こなしてるのになぁ…。あの言い方だともう片方はレキだろうけど、レキにはジョークの類が通じないからもし俺の与り知らぬ所でレキに言ったらイヤーな雰囲気漂いそうで怖いなぁ。
俺はいつものように指示された椅子に座り、話を聞く姿勢をとる。
「単刀直入に聞くんだけど…現場を見た明智君の目から見て、どう思う?」
「思う、とはどういう意味でしょう。犯人の思惑とかですか?」
「それもそうだけどもっと根本的なお話。あれをやった犯人は武偵殺しだと思いますか?」
「……ふむぅ」
朝のレポートにそれとなく書いたんだけど確かめるという意味合いも込めてだろうか。……って熱っ!綴先生、根性焼きとか昭和かッ!
「早く答えなよォ。こっちだって暇してるんじゃないんだよ〜?」
「すみません。……ぶっちゃけ、先日のバイクジャックと今日のカージャックの犯人は同一人物と捉えて良いかと。その犯人を武偵殺しと言うのならば、そういうことかと」
「な〜んか含みのある言い方、だなァ?」
「いや、まぁ。そうですね……武偵殺し、という名前がよろしくないかと。現実問題、2件の事件の被害者のうち前回のバイクジャックの被害者は軽傷、今回のカージャックの被害者の澤村鷹展氏に至っては怪我なし。まだ誰も人を殺していない状況で武偵殺し、という仮称を付けてしまうとそういうネタが大好きなマスコミの報道陣に無闇矢鱈に取り上げられ、国民の不安を煽ることになりかねないのでは…と危惧しています」
そこまで説明すると高天ヶ原先生はなるほどという顔、綴先生はニタァとなんだか薄ら寒い笑みを浮かべてらっしゃる。こえぇなおい。
「おい明智〜、今澤村鷹展って言ったかぁ?」
「え?……あぁはい」
「そっかそっかぁ、まぁたタカは事件に巻き込まれたのかぁ。アイツやっぱり面白いナァ」
そしてそのままニタニタ。スッゲェ怖い。というかそういえば澤村氏も綴先生のことを梅子って呼んでたな。仲が良いんだろうけどよくもまぁこんな人と合わせられるって熱っ!!
「今失礼なこと考えてただろぉ〜?そんな悪い子はお仕置きだぞ〜?」
「す、すいません!!で、その澤村氏から綴先生によろしくとのことです」
「ふーんタカが私にねぇ……。ま、いっか」
まぁいっかって顔じゃないですよね、それ。明らかに
「……話を元に戻します。その武偵殺しと呼ばれる犯罪者ですが、性別や身長、あるいは国籍などの情報が一切出てきていません。この点だけを鑑みると、似たような犯罪者は沢山いますね。超偵を攫う
「……それで?明智は何が言いたい?」
「いやー、ね?そんな感じの犯罪者を夏に俺が捕まえたなぁ〜、なんて思いまして」
ここで俺は一旦区切る。俺の中で最善はコレだと思うんだよな。
「怪人ローズリリィに司法取引を持ちかける、アリだとは思いませんか?もしかしたら犯罪者同士、知ってるかもしれませんよ?」
その言葉を告げると高天原先生はすごく申し訳なさそうな顔をしだした。え?なんか変なこと言ったかね、俺。
「明智君には言ってなかったね。実は怪人ローズリリィなんだけど……」
話を聞いた後俺はここがどこだかさえも忘れて叫んだ。
「はぁ!!!?ローズリリィが逃げたァ!!?」
「じゃかしぃわ明智ィ!殺したろかおん!!?」
「あっ、イテテ!すいませんでした!!」
半ば追い出される形で教務科を後にした俺は予定通り探偵科棟の自室、通称零司の部屋に向かって歩いているわけだが……蘭豹先生容赦なさ過ぎない?斬馬刀の鞘でぶっ叩かれて軽くたんこぶできてるんだが……。
ともあれ、ローズリリィの野郎が脱獄したのは想定外だ。奴から聴きだすって方法はディスカードするしかないだろう。
ならば次だ。正規の方法が無理なら非正規な方法で答えだけ先に埋めて尻尾を出した瞬間に捕らえればいい。というわけで零司の部屋だ。
ん?零司の部屋って何って?いやー、なんかお悩み相談とかあの部屋で色々受けてたらいつの間にかそんな呼ばれ方をされていたね。
なんせ引っ掻き回すのが好きそうなアイツのことだ。十中八九ちょっかいをかけてくるに違いない。
零司の部屋に着いた俺はまず『作業中、入室禁止』という立て札をかけてから寮の部屋から持ってきたティーセットを取り出す。立て札掛けてねえと誰が入ってくるかわかったもんじゃない。白雪を筆頭になぜかどうでもいいような与太話をしにくる武藤と不知火、後キンジ。人の備え付けのゲームを取り出して始める理子。後は怪しげな新商品を持ってきて押し売り販売にくる平賀さん。逆にレキが来ないのが不思議なくらいのメンツだ。
ティーセットで紅茶を沸かし、作業机で一息つこうとしていたら案の定備え付けの電話のベルが鳴った。やはりそうか。
「はい明智です。どちら様でしょうかシャーロックさん?」
『ははは、やっぱり気づいていたね。人のティータイムを邪魔するのは無粋な訳だがそこは流してくれたまえ』
「流すも何もこっちから聞きてえことが山ほどあるんだ、それくらい問題じゃない」
『そう言ってくれるとありがたいよ。で、聞きたいことっていうのは何かね?』
「『武偵殺し。』……やっぱりわかってんじゃねぇか」
『なに、簡単な推理さ。それで、巷で話題になっている武偵殺しの何が知りたいのかね?』
「……ハァ。武偵殺しは
『……ほぉ。何故そう思う?』
「それこそ簡単な推理だ。ポッと出の犯罪者にしては証拠や自らの素性を隠すのがうまい。オマケにコレはメインじゃないだろ、奴にとって。本気なら俺たちが救助に出た時点でボカン、ってするはずだろ?あんまり自分のことをこう評価はしたくねぇが、アドシアード優勝の
『ふむ、合格点を与えようか。確かに武偵殺しの犯罪をしてる人はウチの誰かだよ。君も知っている人だ』
俺も知ってる……?一瞬ローズリリィが思い浮かんだが、それは無いと即座に否定した。あいつは盗人専門だ。
となるとやはり内部犯、なんだろうな。はぁ嫌だ嫌だ。
「そうかい。…んじゃあもう1つ、ローズリリィに伝言頼むわ」
『その様だと逃げたのは知ってるようだね。何かな?なんなら今代わってもいい訳だがどうするかな?』
「いらん。また捕まえに行ってやる、とだけ頼むわ」
やっぱりイ・ウーに戻ってたか。いずれまた会うことになるのはほぼ確信している。そうなったらまた捕まえるだけだ。
それにしても……そろそろ退くべきか。これ以上話し込んで教唆術にはまっても面倒だし。
『そうそう、明智零司君』
「あ?んだよ、イ・ウーに入れって話ならノーだぞ」
『それはわかっているよ。遠山キンジ君は元気にしているかな?』
はい?キンジ??どうしてここでアイツの名前が出てくるのかはわからんがこれだけはわかる。キンジは
「キンジかぁ、元気かもしれないし元気じゃないかもしれないな」
『ふむ、そうかい。それだけわかれば十分だよ。じゃあ、また』
……聞きたいことだけ聞いて切りやがった。なんともまぁこいつといいピンクいのといい、その妹といいどうしてこうも
残った紅茶を啜りつつ、俺は1人ため息を吐いたのであった。
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第60話
ほぼない時間から無理やり絞り出しました。
さて、あんまりに久しぶりなんで前話を簡潔にまとめると
・ローズリリィさん逃げてた
・シャーロックさんキンジと零司に興味持ち過ぎ案件
……こんな感じですかね?
それではどうぞ!
〜〜イ・ウー艦内〜〜
明智零司君との楽しいお喋りを終え、僕ことシャーロック・ホームズは情報を軽くまとめることにした。
まず、僕の推理通り遠山キンジ君はカナ君……いや、遠山金一君を目標にして武偵高で頑張っているようだ。
……まずは一旦その心を変えさせようか。いや、僕が直接関わるわけではないのだけどね。継承者のパートナーとして相応しいかを試すのはそれからでいい。
さて、それでは部屋の外で聞き耳を立てている愉快なゲストを呼ぼうか。
「鍵は開いてるから入ってきたまえ、
「ほらぁ〜、やっぱり気づいてるじゃん
「……そうね」
そう言いながら入ってきたのは明智零司君の妹の千花君、遠山キンジ君の兄……今は姉と言った方がいいのだろうか、カナ君。
2人とも僕がお喋りをしている途中から気配は感じていたんだけどね、いやはや今最も注目すべき2人の兄妹が揃って何の用かな?浮かべている表情はどうやらほぼ真逆のようだけどね。
〜〜カナside〜〜
「……はぁ」
バレてる……か。それもそうよね、わかっててスルーしているような気はしてたし。
相変わらず何もかも見通してるかのような教授に表面上では年頃の女の子みたいなのに、兄譲りの恐ろしいほどまでの頭の回転の速さで何を考えているのか掴みづらい千花ちゃん。イ・ウーの中でも特にわかりづらい2人に挟まれてしまったわ。
……まぁ千花ちゃんに関しては私が引き留めたんだけどね。
「れーじ
「零司君はどうやら元気なようだよ。彼女まで作っているようだし、高校生としては健全な生活を送っているようだよ」
「えぇぇ〜〜!!れーじ兄ちゃんに彼女出来たの!?昔からモテてはいたけど異性に見向きもしなかった兄ちゃんが!?もし結婚したらお姉ちゃんだ!」
そう言ってからからと笑う千花ちゃん。これだけ見ればただの可愛い女の子なんだけどなぁ。
ひとしきり笑った千花ちゃんの目がスッと細くなる。これは
「じゃあ今度会うときにわたしが
言葉の明るさとは裏腹なテストという不穏な響き。その言葉に私は思わず苦い顔をしてしまった。
あれはいつだったかしら、エジプトの
「ぬぅん、妾は世界征服がしたいのぢゃ!」
唐突に始まったパトラの宣言にイ・ウーの一同はまたか、という顔をする。それくらい彼女は常日頃から言い続けていて、それに賛同する人(人外も一部いるのだけれど)を
幸いなことに今のリーダーである教授には世界征服なんて意思はないから第三次世界大戦が起こらずに済んでいるのよね。
普通ならパトラが好きなだけ言い散らかしてそれで終了なはずだったのだが今日は少し違った。
「世界征服!?パトちゃんそんなこと考えてたの〜??」
「なッ…、アケチチカぢゃと……?」
明るい声を発した主、明智千花の唐突な登場にパトラや私、あるいはローズリリィを含むイ・ウー一同は凍りつく。
前からパトラはこの人、明智千花がいる前でだけは決して『世界征服』という言葉を口にしていなかった。あの教授でさえも『千花君のいる前では世界征服という言葉を口にしない方がいい。何が起こるかは分かるだろう?』と言って
すなわち明智千花には、喧嘩を売ってはならない。
普段は天真爛漫で年頃の美少女という言葉が真に似合う彼女だが、何をキーにしてかは分からないがスイッチが一度入るとその恐ろしいまでの実力を発揮してくる。
この空気はマズいわね……。
そんな空気を作った張本人である千花ちゃんは、まるで欲しいものをねだる小学生みたいな明るい調子で続けた。
「世界征服するってことはぁ〜〜、
「……ッ!」
その言葉に畏れをなしたのか、パトラの対応もマズイものだった。
あろうことか
普通なら反応するのも辛い速度で千花ちゃんに向かって飛んだ鳥を千花ちゃんは避けない。避けられないのではなく
本来なら人を粉々にできる程度の威力のそれを咄嗟に打てるパトラの技量もすごいもののはずだけど、その驚きは次に起こった出来事で消されてしまう。
本来なら千花ちゃんをズタズタにするはずの砂の鳥は千花ちゃんの目の前で
私の背中を冷たいものが通った気がした。決して千花ちゃんに畏れをなしたからではない。千花ちゃんが何か超能力を使ったことはわかる。しかし、
結果だけを見ればパトラの攻撃を無効化した、という言葉で済む。けれど、ただ無効化しただけならパトラが射出した砂が残るはず。だけど現実は千花ちゃんが無効化したあと、砂は1つも残っていない。
「この程度なのパトちゃん?これで世界征服できるの!?ねぇねぇ!!」
不可解を生み出した張本人は全く変わらない明るい調子なのが余計に不安を煽る。本人が意識的にやってるのか無意識なのかは分からないけどね。
この後本格的に怒って暴れ始めたパトラの攻撃を千花ちゃんは全て無効化して、パトラは素行不良で退学扱いにされたんだったかしら。千花ちゃんは自分から一切手を出してないから不問。
誤解してはいけないのは、パトラはこのイ・ウー内でも屈指の実力者であるというところよね。それを一切の攻撃を許さずに抑えた千花ちゃんが規格外すぎるのだ。
そしてその千花ちゃんをも御する教授はどのくらいの実力者なのか、私には全く分からない。
「……ちゃーん。カナ姉ちゃーん!どうしたの?」
「ん?なんでもないわ、ごめんね千花ちゃん」
「そろそろ寝る時期なの?だったら寝てる間はわたしが守ってあげる!」
「ふふっ、心強いわね。それはそうと教授、私の弟に何か用があるの?」
物思いにふけっていたらしいわたしを引き戻した千花ちゃんは……いつもの感じに戻ってるわね。そんな私達の様子をパイプをふかしながら見守っていた教授に私は気になっていたことを聞いてみる。
「ふむ、質問を質問で返すのが悪いことだとはわかっているが、君の弟のために死ぬ勇気がカナ君にはあるかい?」
「え?」
疑問の声をあげたのは私ではない、千花ちゃんだ。私は……。
「カナ姉ちゃん弟いたんだ!なんで言ってくれなかったの?」
「お話しする機会がなかったからね、ごめんね千花ちゃん。それで教授それはどういう?」
「いや、正確に言うと実際に死ぬわけじゃない。僕がライヘンバッハとかでやったみたいに死んだ
なるほど、それで
元々いつか死ぬと覚悟しているし、答えを決めるのにそう時間はかからなかった。
「もちろん。色々と手のかかる子だけど、強い子だから。あの子は」
その答えだけ聞くとシャーロックは実に楽しげな笑みを浮かべた。
「あーっ!教授もしかしてカナ姉ちゃんの弟さんにれーじ兄ちゃんにしたことと同じことやろうとしてるの??」
「ほぉ、素晴らしい推理だよ千花君。お兄さんにも負けないくらいの推理力だよ」
千花ちゃんの推測を聞いてなるほどと思う。おそらくキンジを教授の継承者、つまり神崎・H・アリアとくっつけるつもりであることも想像できた。
「千花君の素晴らしい推理へのご褒美だ、1つお話をしてあげよう。カナ君には以前にもお話したかな?明智零司君は僕の
「れーじ兄ちゃん、そんなにすごくなったんだ!続けて続けて!」
教授はこうなるとなかなか止まらないのだが、以前話した時には私に『千花君にも話すな』って言ってなかったかしら?
そう思い教授を見ると目があった。どうやらそのことをしっかり覚えていた上で話しているらしい。
「その理由は『仮想の未来視』とそれを扱いきれる頭の良さ。あのモリアーティにも匹敵するよ」
「えぇ、それは前にも話していたわね。教授でももう彼のことを推理するのが難しいとも」
「その通り。じゃあここで問題だ、一体『仮想の未来視』とはどういった超能力だい?」
「それは……未来にある無限の可能性から1つのルートを選び出す能力?」
「間違ってはいないね。だけど僕はこう考える。『未来の強制選択』と。おそらくだが、『仮想の未来視』はその日の天気や風向きなども予測できる。いや、予測というのも少し違うかもしれない。設定と言った方が正しいのだろうか。彼がそのことに気づいているかどうかはもう分からない。気づいているかもしれないし、気づいていないかもしれない」
教授は自らの考察を面白い漫画を読んだ感想を言うかのような調子で話している。いや、実際に楽しいのだろう。この人が条理予知できないのは私の知る限り色金関連の話題と彼の話題なのだから。知らないことを解き明かすことを至上の喜びだと思っている節がある彼には最大のご馳走と言っても過言じゃないのかもしれないわね。
……にしても、未来の強制選択かぁ。それはつまり……
「教授。もし彼の『未来視』の本質がそうならば……」
「その通り。とても人間1人が持っていい超能力じゃあない。ローズリリィ君や理子君の報告では一度使っただけで戦闘に支障がでて、2週間も入院生活を送ったそうだ。最も入院に関しては彼があえてゆっくりしていたようだけどね」
「え、れーじ兄ちゃん入院したんだ!?兄ちゃんが入院してるところなんかあんまり想像できないなぁ〜」
能天気なことを言ってる千花ちゃんはとりあえずほっておきましょうか。ただ一度の使用でそれだけの代償を強いられるとは……もしこれを続けてしまうと……。
「僕の
「……!!」
世界の修正力。つまり
世界ではシバの女王という存在がそれに近いかしら。旧約聖書でのソロモンとの智慧比べという逸話くらいしか存在が確認されず、シバという国がどこにあったのかや女王の名前すらもマケダなのかビルキスなのかハッキリしないという曖昧な存在。考古学的な証拠もないため、幻の存在ではないかと一般的に言われるその人はしかし一方で、魔術や超能力者の歴史という側面から見てみるとこの世界の修正力に囚われたのではないかという学説がまことしやかに囁かれているそう。
では逆になんで旧約聖書に残っているかと言われるとこれも難しいのだけど智慧比べの相手、つまりソロモン王が原因なのでは?と言われている。
神に智慧を願い、古代イスラエルの最盛期を担った王。それがソロモン。彼が神から授かった指輪の中に世界の修正力に対抗できる代物があったのでは?というのが定説なのよね。
……指輪、ね。
とにかくそのような規格外の存在と交わってもこのくらいしか残されない、ということかな。
「だからこれは千花君、君に僕からのお願いだ。君はもう9ヶ月やそこらもすれば零司君と出会うことになるだろう。その時には彼と彼の周りの皆のことを試して欲しい。やり方は君に任せるけれど、零司君は犯罪になるようなことを望まないだろうとだけは言っておくよ」
「うん、わかった!だけどなんでそれをわたしに伝えるの?カナ姉ちゃんの方が人を守るのは得意じゃないの?」
それは私も気になった。果たして一体どんな答えが出てくるのかしらね。
「……そうだね、こんな身だから僕は戦友や人の死を見慣れている。1番の助手だってあっけなく逝ってしまったんだ。そのことはなんの問題もない」
シャーロックはパイプを置き、滔々と語り出した。そこには別れを惜しむような響きがある。
「だけどね、電話越しとはいえティータイムを共に過ごした好敵手を存在ごと忘れてしまうのは流石の僕も経験がないし、何より悲しい。どこがと言われると、そうだね。彼が消えて悲しいと思えなくなる可能性があるのが悲しいといえばわかってもらえるだろうか。大丈夫、きっと彼の周りのみんなと千花君が力を合わせることができれば消滅することはないはずだから思う存分その時が来たら頑張ってくれたまえ」
「うん!わかった!」
千花ちゃんは相変わらずニコニコと楽しげな笑顔を浮かべている。実の兄が消えるかもしれないのにそのメンタルは中々すごいと言えるのか、はたまた彼が千花ちゃんに与えた影響が少ないのか。私には分からないけれどでも守りたいと思われる程度には大切に思われているのでしょうね。
「カナ君は今度アンベリール号で『死んで』もらうから、そのことを悟られないように」
「ええ。……ってえぇっ!?」
「さっきの質問はそういう意味だったんだがね。気づかなかったかい?そろそろツァオ・ツァオ君がくる頃だ。欲しいものをリサ君に言っておくべきだと思うよ」
……なんだろう、重い話をすごく軽いトーンで言われてしまうとなんだか調子が狂わされてしまうわね。
千花ちゃんもさっきの一言でスキップしながら行ってしまったし、私もそろそろ戻りましょうか。
先に言ってしまったし、今更撤回できないから仕方ないかぁ…。
「分かりました。ではまた、教授」
「うん、それじゃあまたいつでも気になることがあればおいで」
教授の部屋から出て私はなにか貰いたいものがあったかしら、と手持ちのものを確認するために自室に戻ったのであった。
久しぶりの投稿で出番のない&死亡フラグ立つ主人公って新しくないですか…?
そしてついでみたいなカナさん悲しい…
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第61話
久しぶり過ぎて書き方おかしかったり口調変だったりしたら申し訳ないです。
「はぁ…やれやれ。『武偵殺し』か、まーた嫌な話だよまったく」
俺は残った紅茶を啜りつつ、そう1人で愚痴る。注いだ時は温かかった紅茶は時間が経ってぬるくなっていた。
シャーロックの話を信じるのであれば『武偵殺し』は俺の知っている人物らしい。
中学の時に協力した武偵局の武偵や神奈川県警の誰か、あるいは警視庁の誰かという可能性もあるがなんとなく犯人はここ、東京武偵高にいるような気がする。
根拠は……そうだな。シャーロックの最後のセリフ、『遠山キンジ君は元気にしているかな?』ってところか。
シャーロックは知らないのか、はたまた推理して知った上で言ったのかは知らないがさっきの茶飲み話でなんの脈絡も無くキンジを出す理由があそこの会話の途中『まで』にはほぼない。ならば逆だ。『これから』キンジがシャーロックにとってパズルのピースを埋める上で必要になるからあの様な一見無意味な質問を繰り出して来たと考えるのが妥当。
そろそろアイツも潜入捜査から帰って来る頃だったか。
そして俺とキンジの共通事項なのだが、先ほどと同様に『これから』という視点を置くのならば中学時代コンビを組んでいたことはほぼ関係ない。あとはアイツの交流の狭さだな。自分から他者に歩み寄るタイプじゃないキンジは俺ほど交流が広いわけじゃない。どちらかというとアイツは他人に歩み寄られて(特にヒスキンに
普段ネクラだのなんだの言われてるところを改善すれば大袈裟でもなんでもなくいいチームリーダーになれそうなんだが、本人にその気がないんだから仕方ない。
……話が逸れたか。とにかく交流の狭くて中学時代事件の後の処理をほぼ俺に任せていたキンジにも関わりがあるとすれば最小限でも関わりを持たざるを得ない場所、つまり学校の教師および生徒になるってワケだ。
……そして俺はもう1手突き詰めることができるのだが、今はまだ確定された情報じゃない。これについての議論は後回しにしようか。
さて、紅茶も無くなったことだし立て札を元に戻して置こう。そう思い、部屋の外に出ようとすると何やら外でガタッという音がした。
俺は小走りで扉を開け、そして見てしまった。
「……あのさ、そういうの俺の部屋の前でやらないでくれない?」
「いや誤解だ!誤解だからそんな顔で扉を閉めないでくれ!」
「おぉ〜、あっちナイスタイミングだ!というか流石にこれはりこりんも恥ずかしいかもなのです!くふふっ」
何故か仰向けに倒れているキンジとそれにまたがっている何故かミニスカポリス姿の理子を。
追記するとキンジは目を覆うのに失敗して理子の身長と反比例なお胸を掴んでらっしゃる。
ToL○VEるか。
「それで、なんであんなことしてたんだよ?事と次第によってはキンジに武偵三倍刑が適用されてしまうワケなんだが」
「おい」
「分かってるって。大方捜査の報告書を出した帰りに理子と会って俺の部屋に行かないかと誘われて来ただけだろ?」
「……分かってるならあの反応はナシだろ」
「いやぁ、キンジの反応はいつでも面白いからついな」
ま、キンジは人がよすぎるから知人から頼みごとをされればグチグチ言いつつも結局断りきれないんだよな。そういう積み重ねで周りから密かに一目置かれるようになってカリスマに繋がるってわけだ、流石正義の味方の一族。本人が無自覚なのもここまでくれば美点だろうか。それなら俺も口を閉ざしておくべきか。
「んでそこのミニスカポリス。どうせ事件の追加の資料渡すついでにゲームしに来たんだろ?キンジはその数合わせ。俺はその資料の他にもやることあるからゲームするなら静かにな」
「おっおおー!流石あっち、りこりんが何も言わずともここに来た目的全部分かってるぅ〜!あっちとりこりん、カラダの相性もバツグンかも?」
「お前が来るときは大体ゲームしかしてないだろ。ほら、さっさと寄越す」
相変わらずアホなこと言う奴め。これでも必要な情報は粗方持ってこれるんだからまぁ文句は言わんが。あとキンジ、顔真っ赤だなおい。理子は気づいてないっぽいがそんなに過剰な反応してるといつかバレるぞ?俺がいなかった中3の時みたいに。
そんな理子は俺に資料を渡したかと思うと俊敏に俺のゲーム庫の中からWiiを取り出してごそごそ。Wiiスポーツを取り出してキンジとやる準備を始めている。よく見れば脇にスマブラまで置いてやがる。いつまでいる気なんだあいつは。ご丁寧にゲームキューブのコントローラまで準備しやがって。
とりあえず資料を確認するか。基本的には昼前に受け取った資料と変わりがないなぁ…。被害者の沢村氏の聴取で『武偵殺し』がジャックした車に対して具体的な場所へ行けという指示を出さなかったことも判明してる。暴走オープンカーを操作していたであろう電波の発信源……へぇ、割れたのか。東京メトロ丸ノ内線の赤坂見附駅付近……?永田町の付近で堂々とよくやるもんだ。これだと巧妙に隠されてて監視カメラで映っていてもそれが爆弾のスイッチとはわからんだろうな。
それで、暴走オープンカーに鎮座してあったUZIは全部銃検を通してないもの……これはまぁ想定の範囲内かな。
ここまで見て俺はふとキンジ達の方を見る。どうやらボーリングをしているらしい。キンジは7レーン目までで133、理子は……!?5フレームまでで150!?それで6.7フレームにストライクを示すマークが並んでるとかマジかよ…
「キーくん弱いのう弱いのう!くふふっ!」
「お前が異常なんだよ!投げてるの全部ストライクじゃねーか!」
「りこりんはプロWiiボウラーなのであります!ぴしっ!はいストライク〜!!」
プロWiiボウラーってなんだろうな?宣言通りストライクをとった理子を尻目に見つつ俺は自分のパソコンを起動させる。
調べるものは……アンベリール。いつだったかシャーロックが覚えておけと言った言葉。
アンベリールアンベリールっと…出てきた。
なになに、豪華そうな客船が出てきたわけだが……?embellirってロゴが付いているところからもアンベリールってのは客船のことなのか。航行スケジュールとかあるんかな……おお、あるやん。12月24日にイベント会社主催のクリスマス航行があるらしいな。
……。
…………。
はっきり言おう。これは明らかにシャーロックが俺に
それにその潜水艦で来るってことはシャーロック単身で来るわけではないということと同義。たのしいたのしいシャーロックとゆかいななかまたちがわんさか出てくると見てまず間違いない。シャーロック自身がそいつらを止めたとしても万が一、いや億が一俺がシャーロックを打倒した時にはそいつらとの交戦の可能性を考慮に入れる必要がある。
そのシャーロックを打倒する手段も問題だ。『仮想の未来視』を使って勝ったとしてもそのあとどうやって海から退却するかが問題になってくる。俺は水を操れても水の温度を操ることは出来ない。未来視の弊害で起こるであろうダウン時に無意識下で水流を操作して岸にたどり着こうとしても12月の海だ。岸に着く前に低体温症で死ぬ可能性が高いだろう。
だけど。
俺はローズリリィの一件の時に夢で出てきたヤツに喧嘩を売ったんだ。ヤツはフィールドを用意して盤上で待ってやがる。なら俺のやることは1つ。
さぁて、どうしたものかね。俺はそれとなく
あっ、理子のヤツ最後の最後で
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第62話
まだピシッとした感じで書けない…
いつものこと?またまたー、ご冗談がお上手で
推理パート、もう少しだけ続くんじゃよ
「ぎゃー!300点の夢がぁ!!」
「お前は何でもかんでも大げさに表現しなきゃ死ぬのか、アホ理子!」
アホ理子に突っ込みをいれるキンジを見ながらあいつも変わったなぁ、とは思う。
……まぁ髪の毛をギャグ漫画みたいに逆立てながら言ってたらそう突っ込みたくなるのはわかるが。
だがキンジは気づいてるのか?中学の時は極力女子に関わりたくないって理由で休み時間中基本的に居眠りしていて昼行灯なんてあだ名を付けられたお前が、今や女子と一緒に楽しげにゲームしてるってことを。それはお前の進歩だ。
……気づいてないんだろうなぁ、こりゃ白雪も大変だ。まぁ相手が趣味とか距離感の詰め方が割と男みたいな理子だから気づきづらいってのもあるんだろうけどさ。証拠に理子が”女”を見せた時はめちゃくちゃ慌ててるしな。
……理子、か。フルネームなら峰・理子・リュパン四世。いつだったかシャーロックと話した時に言われたこと……というか推理して正解と言われたことさえなければフラットな目で見られるんだがな。キンジのHSSと『パートナー付きのホームズ家』を同時に引き出すためにいるとかいう話だったか。そのためにキンジに近づいてると考えたら少し寂しい話ではあるがあの笑顔は割と本気で楽しんでる顔だろうな。
ここで理子をあの
とここまで考えたわけだが、ここでやはり足踏みに陥ってしまうわけで。パズルを埋めるためのピースが足りない。1つ目は先ほどの理子=武偵殺しという証拠。2つ目はシャーロック自身。というかやつに関わることだろうか。
そもそもがおかしいのだ。シャーロックが活躍した時代は一世紀くらいは前の話。それなのに未だ健在でなおかつ何かやろうとしている。ゾンビやキョンシーみたいな
となると不老になるためのカラクリが必要になる。そのカラクリってのはなんだ……?
シャーロック曰く『超能力とは似て非なるもの』らしいのでその発言を信じるとすれば超能力ではない。何が言いたいかというと奴の不老のカラクリは先天的なものでも後天的に発現したものでもなく、『何か』を触媒にしているということ。
簡単な例なら『発火能力』と『マッチを擦って火をつけること』の違いの認識だろうか。前者は自身の精神力が尽きることで発火できなくなるのに対し、後者はマッチを取り上げると火をつけられなくなる。
問題は延命、ないしは不老に必要なマッチに相当するものなんだが……、全く見当がつかないな。第一にそんなものが見つかったなら世紀の発見どころの騒ぎじゃなくなる。世界の 法則が 乱れる!って奴だ。
そんなものを考えても俺の頭は世界の法則に縛られているのでどんなことが起こるのか分からない。……?なんか聞いたことのあるフレーズだな。ま、いっか。
ともかくシャーロックの不老のメカニズムが解明できないなら他のこと、具体的にはなんでイ・ウーだったかのトップをやっているのかを考えてみるべきか。そこからあいつに対する切り口が生まれるかもしれない。
理由その1、シャーロックさん年食い過ぎた上にコカイン吸ってたからボケた。
……は、なさそうだな。話をする限り会話に齟齬が生まれたりはしてないしそもそもボケを隠すだけの頭があるならボケとは言わないしな。
理由その2、何かを成すため。簡潔だがこっちだろう。まずあいつ、シャーロック・ホームズの本質を考えてみようか。昔資料として読んだことがあるが彼の基本姿勢は『不可能なことを取り除いて最後に残ったものがどんな奇妙なものであれ真実だ』という消去法とアリストテレスのアパゴーゲー、論理的推論の両立だ。
であれば逆から考えて『最後に何かを残すためにどんな奇妙なことでもやってのけている』と考えるのが一番わかりやすいことだろうか。いかにもあいつが好きそうなことだ。
あいつにとってイ・ウーのトップになることは必要なことである、ということになる。
それではイ・ウーとは何か……
「……っちー?あっちー!おーい!聞いてる〜?」
「んえっ!?なんだよ理子」
「だから〜スマブラ!やるんだけどあっちも入る?」
「あ、あぁ。そんじゃあ参加するかね。久しぶりにマルス使おうかな」
「りょーかいなのであります!」
ビシッと謎敬礼をして準備に取り掛かる理子を見ながら俺は1つの結論に辿り着く。
そして
俺はとりあえず手帳に2.3個メモ書きしてから理子たちのスマブラに加わることにした。
「あっ理子お前!カービィで自爆突貫とか小癪なことしやがって!!」
「くふふ、マルスは横復帰が出来ないのはりこりん知ってるのですよ〜!いっちょあがり!あっちもちょろいのであります!!」
「その前にお前ら共闘で俺をボコしたこと忘れてないからな!」
「くぅ〜、疲れました!これにて帰宅であります!」
「部屋片付けて鍵閉めるの俺だからボケてないで早く帰ってくれよ理子さんや」
「あっちは相変わらずだねぇ〜。んじゃキーくん、か〜えろ?」
「誰がお前と帰るか。っておいやめろ引っ付くなッ!……あぁ明智、いきなり来て悪かったな」
「いいってことよ、最近キンジも忙しそうであんまり話できてなかったしさ。休養はしっかり摂るんだぞー」
「俺より忙しい明智が言っても説得力ないけどな」
「俺は休み取れる時は取ってるっての!ほら、帰った帰った」
結局2人で帰るらしいキンジと理子を見て間違いが起こらないか少しだけ心配になるが、まぁキンジのことだ。逃げるのはそこそこ早いし、万一ギリッギリの
……でも心配だなぁ。
そう思いながら俺は何をしてるのかと言うと部屋の掃除である。ほぼ毎日いるとはいえいつ依頼人が来るのか分からないのが武偵の仕事。信用を得るという面でも部屋を片付けておくということはそれなりに重要なのである。ま、依頼が来なけりゃ来ないで楽だし平和な証拠なんで来ないに越したことはないけどな。警察じゃ手に負えないって理由で回されるような荒事多いし。
……ってあれっ?なんだこの監視カメラ?俺のよく使う型じゃないし誰か覗き見でもしてたな…?生憎この角度なら鏡の反射とかも込みでPCの画面は見えないはずだから機密とかは盗られてないな。他にないかチェックしとくか。
……結局これともう1つしかカメラは見つからなかったがこれからは更に警戒度を上げていこうか。何しろ相手はお国の方々も手を焼いてるアホ共のしかもトップだ。細かな落ち度も許されない。気を引き締めなきゃな。
さて、時計も七時を差しかけてるし帰ってタ○ガース…はオフシーズンか。晩御飯の用意しなきゃな、じゃないと意外と大食漢のお姫様がジトーっと見てくるし。
女性に大食『漢』って使って良いのだろうか?ま、いいや帰ろっと。
この後レキにすっごくジト目で見られつつ晩御飯を作りました、はい。レキごめんね?
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第63話
引っ越しとか色々で遅くなりました、すいません。
評価とかお気に入り登録とかしていただいた方には毎度のことながら感謝を。
これからもよろしくお願いします!
次の日、俺は少し欲しいものがあって
「もしもし平賀さーん、いるかー?」
「んー?その声は明智君なのだー!大口顧客さまいらっしゃいなのだー!ちょっと待つのだ!」
無邪気そうな声と共に工房からひょっこり顔を出した平賀さんに手を挙げて応じる。にしてもちっちゃいなこいつ。寝る時間足りてないんじゃないのか?
っていうか出てきたと思ったら平賀さんは工房に引っ込み何かを取りに行った。何にも今は預けてないはずなんだけど。
すぐ戻ってきた平賀さんは小皿を一枚持ってきていて、その上には…シュークリームが乗っている。
「御茶請けなのだ。どうぞなのだ」
「さんきゅ」
今まで御茶請けなんて出てきたっけ?っていうかお茶ねぇし。
とりあえず食うか。いただきま……!?
「かっっっっら!つーか痛ぇ、何これ!?」
「シュークリームのクリームの中にブートジョロキアを混ぜてみたのだ!人間の嗅覚ならまずバレないのだ!」
「いやマジで洒落にならないよこれ……痛え」
「むふふ、激辛シュークリーム作戦大成功なのだ!」
「お・ま・え・な・ぁ!!」
とりあえず平賀さんはグリグリしておこう。
「……本題に入るぞ、いいな?」
「ぅうう〜明智君にグリグリされたのだ…」
(多少不安な部分はあるが)作るモノは一級品な彼女に俺は二つ折りにしたメモ帳を渡した。
「んー?これはなんなのだ?」
「次の任務で必要になりそうなもので俺が平賀さんに用意して欲しいモノのリスト。特にこれとこれは必須だ。そんで後者は多分平賀さんの創造意欲を掻き立てるんじゃないか?」
そう言うと平賀さんはついでに取ってきたらしいイチゴミルクをストローで吸いながら考え始めた。
軽く2.3分ほど何かを呟きながら考えていた平賀さんはうんうん唸りながら話し始めた。
「ふむふむ……かなり大変な作業になりそうなのだ。明智君もわかってるかもだけどこれは結構デリケートな物質なのだ。いつまでに納品すれば良いのだ?」
「そうだな…12月22日までに完成品を納品してくれ。24から仕事だからな。……と言うか平賀さんこれ取り扱う免許持ってるよね…?」
「そこは心配ないのだ!ちゃんと持ってるのだ!理子ちゃんの依頼もあるけど22日までなら全然間に合うのだ!」
そう言ってえっへんする平賀さん。知らない人が見れば大人ぶってる小学生に見えてもおかしくないよね、これ。
というか理子もなんか頼んでるのか。定期的にワルサーに
「それで報酬だけど…紙の裏側に書いてある金額プラス出来高。出来高は俺の任務での使用感に応じて、ことと場合によっては減額査定もあるぞ」
「十分ですのだー!毎度ありなのだー!」
「よっしゃ、しっかり頼むよ?命が掛かってるからな?」
一応そうは言ってはおくものの、たまーにデキの悪い奴作ってくるんだよな。そんな時はバシバシ減額していけば良いんだけどな。キンジなんかはそこら辺の駆け引き下手くそだったな。
平賀さんとの取引を終え、とりあえず一息つく。
このあとどうすっかな、これから授業出るのも億劫だしなぁ…。というか授業になってないしなアレは…。睡眠率90%、起きてるのは俺と白雪くらいなもんだ。平賀さんみたいにサボりで出てない奴までいるし。
…まぁ今日は俺もそうなわけだが、ほぼ確実に平賀さんが空いてる時間となると
まず、
……ってあぁ。今更だけどクリスマスとダダ被りしちゃうな。本音を言うならレキと一緒に過ごしたかったな。
いつだったかあのピンクいのが『良い?零司もわかってるとは思うけど事件は武偵を待ってはくれないのよ』って言ってたのを実感してしまうな、懐かしい。
何もしないのは流石に問題があるからせめてプレゼントくらいは渡そう。じゃあそのプレゼントを見繕いもしなきゃいけない。
んでもって相手はあの当時最高峰の探偵、シャーロック・ホームズだから対策はしてもしきれないと来た。
そう考えるとやること多いな。
まぁ、とりあえず今一番最初に、即刻すべきことは1つ。
「コーヒーミルク、買おう」
ずっと気にしないようにしてたけど限界です。ブートジョロキア入りシュークリーム、恐ろしい。
「あっした〜」
やる気の感じられない店員の挨拶に見送られつつ、俺は買ったコーヒーミルクにストローを差し込んで飲み始めた。
事実、行儀は悪いが口をゆすぐように飲むと若干辛いのが緩和された感じがする。
唇はまだヒリヒリするから完全に戻ったわけじゃないが
平賀さんの装備開発能力は本物だ……し?ん?
ボケーッと思考していた俺の視界の端でどこか見覚えのある
さて、これは一体どういう風の吹き回しだろうね?
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第64話
やっぱり更新頻度が上げられないと悩んでいる今日この頃。
ちょっと長めですがお付き合い下さい。
いや、うーん。困った。
どう考えてもあの三つ編みって
金一さんとはアドシアード前にボコボコにされたけどな。
金一さんはHSSのトリガーとして女装を使うようで、女装で
キンジ曰く『HSSは大脳に大きな負担がかかる』らしいので、金一さんのそれは至極当然な結果といえる。
後は…金一さん→カナさんの記憶の引き継ぎが出来てないのか、カナさんに金一さんと呼びかけても反応を返さない。ところが、カナさん→金一さんの記憶の引き継ぎは為されているらしく寝起きの金一さんに『カナさん』と呼んだ時は顔を真っ赤にして殴られた。よっぽど恥ずかしいらしいな。
…話が逸れたな。何が言いたいかというと、『金一さんがカナさんの格好でいるということはすなわちHSSを使っている』ということ。
そしてこの状況を鑑みるに
距離を詰めてこないことから人目のあるところでは行動を起こしてこないだろうことも想像がつく。
はぁ…。仕方ないから俺に有利な場所まで誘導するしかないな。
選ばれたのはレインボーブリッジでした。俺は橋の中心部まで歩み、後ろに呼びかけながら振り返った。
「……ここら辺ならいいか。カナさん、俺に何の用ですか?そんなガッチガチの強襲用装備で来たんですし、穏やかなことじゃないですよね?」
「やっぱり気づいていたのね。お久しぶり、零司くん」
「あはは……」
敵対してるのにそんなニコニコされると調子狂うなぁ。敵に回したくないタイプだよ、ホント。
「それでなんだけど……零司くん、貴方が今首を突っ込んでいる件から手を引きなさい。貴方じゃまだイ・ウーに対抗するには早いわ。もし手を引かないって言うのなら…」
「カナさん自ら俺を退場させる。そういうことですよね?」
俺の問いかけにカナさんは微笑みながら首肯。まぁそんな所だろうとは思ったよ。
関わった現場では敵味方の死傷者を共に0人にし、戦略上捨て石になった武偵さえも助け、生還させる奇跡的な人物。それでいて報酬をそれほど取らないという弱者の味方の体現者。キンジが神みたいに崇めるのも不思議じゃない。
だけど…な。答えはハナっから決まっている。
「お断りします。俺には俺の理由があって関わっていますんで」
「そう…」
当たり前だろう?俺とイ・ウー間の約束の関係も相まってシャーロックに挑むほぼ最初で最後のチャンスだ。千花のこともあるしな。
それともう1つ。これは俺の身勝手だが、今の
「カナさん、やっぱり貴女変わりましたよ」
「そうかしら?」
「えぇ。だってカナさん昔は『大義のための犠牲』って嫌ってたじゃないですか。それを回避するために医師免許を取ったりしていたのにね」
確かこんな感じのことを金一さんの時にも言ったな。あの時、俺はそのことに対しての善悪は何も言わなかったはずだ。一人前の特命武偵が考えて得た結論の1つだ。まだ未熟な学生武偵が口出す権利も理由もないって考えたからな。
俺の問いかけにカナさんは長く……とても長く瞳を閉じ、そして開いて答えた。
「そうね。……でもそれじゃあ
「義のため……ですか?」
「ええ。それが私の果たすべき天命、義よ」
…義ときたか。どうしてこの人たちはこんなに不器用なのかね?
「ごめんなさいカナさん。ますます貴女を止めなくちゃならない理由ができました」
「……何かしら?そこまでする理由なんて零司くんには無いはずだけれど。それとも千花ちゃんのことがそんなに気になるのかしら?大丈夫よ、全て終われば……」
「違うだろ!なんで人様の妹のことを気にかける頭はあるのに自分の弟を気にかけないんだよ!あんたのことを尊敬してるキンジが今のあんたを見たらどう思うか、分からないのか?」
「あの子ももう高校生だし、理想と現実の違いには気付くはずよ」
全く……キンジにも言えることだが、どうして身近にいる人の感情の機微
に疎いんだ?いい加減ブチギレても文句は言われまい。
「いいですか?カナさんが分かってないなら俺が教えてやる。キンジの目標はカナさん、あんただよ!それも敵味方問わず犠牲者を出さない聖人のような貴女だ。馬鹿馬鹿しいですか?現実が見えていないと思いますか?えぇ、俺もそう思いますとも。周りの環境の変化は見えて気づいているのにそれがどうして起こったのか考えようとしない。HSSだっておそらくちゃんと制御して使えばそれこそカナさんみたいに強大な武器になるはずなのに仕方ない部分こそあれ封印している。そんな奴が敵味方救う?馬鹿かっ!人事尽くして天命を待つって言葉を知らんのかあいつは!」
だけどさ。それだけじゃねぇんだよ。ここで俺は一旦言葉を区切る。ここからが大切なんだってことをカナさんに知らせるために。
「あいつは確かに貴女に憧れたんですよ。『あの人は他人を守れる俺の理想の人なんだ』なんて嬉しそうに言って。理想なんてのは諸刃の剣なんですよ?うまく使えば
俺はカナさんにただ向きなおる。手には小太刀のみ。必要なのはカナさんに俺が何を企図しているのか見抜かれないこと。一応小太刀に水のエンチャントを付加して射程を伸ばしてはいるけどな。
「さぁかかって来いよ、今のあんたには負けねぇし負けられねぇ。俺が勝って守ってみせるよ、キンジの理想もカナさん自身の理想も!!」
「……いいわ、見せてみなさい。あの子の可能性を貴方が見たというなら。それを守り、芽吹かせるだけの力を証明しなさい!」
「……良いの?見た所小太刀一本だけのようだけど」
「見せたらどうせ貴女のことです。武器の長所短所見抜くでしょ?なら単純なもので勝負ですよ」
「それもそう、ね」
パァン!
言うが早いか、カナさんの周りでマズルフラッシュが煌めく。だが…俺には当たらない。俺の超能力による自動の水壁に阻まれ、俺自身には届かない。
「……?」
カナさんは俺が攻めてこないことにかこつけ、首を傾げて今の出来事を不思議がっている。って前も近いの見せなかったっけこれ。今日は超能力の調子がすこぶる良い上に戦う場所をレインボーブリッジ、つまり水源のすぐ近くにしたから以前のように和らげるのではなくシャットアウトしているんだが。ってあぁそうか、金一さん→カナさんへの記憶の伝達がうまくいってないからあの時のことを覚えていないのか。HSSってのも難儀なもんだな。
しかし例え伝わってなくても流石はカナさん。合点がいったのか、ポン、と手を打ちニコニコ顔。
「零司くんの超能力は本当に強力なのね。ならどこまで対応できるか見せてごらんなさい?」
「いやいやいや……キツいですよこんなん!」
タネがわかるとカナさんはすぐに6連射。まだ持っていたらしいもう片方でさらに6連射。合計12発の弾が寸分たがわず俺の体を的に襲いかかる。まだ攻勢にかかれない俺は水の盾の厚さを少し増して防御に徹する。
セッティング……あと1分かからない。あとは
ただしその環境の変化にカナさんが気づかないわけもなく、銃撃を一度止めこちらの様子を伺ってくる。
もうここまでいってしまえば分かるだろう。現役の武偵庁の特命武偵に銃の技術で上回ることは難しく、髪の暗器を隠し持っている可能性があることを分かっている今、近接戦闘に頼るのも良い選択肢とは言えない。ここまで近づいている以上狙撃銃なんて選択肢もない。と言うことで俺は今回の戦闘は超能力を最大限まで活用することを選んだ。とはいえ、補助として使うならまだしもメインとして使うとなると流石に精神疲労が激しい上に、カナさんの実力的にも長期戦はただただ不利になるだけ。
結論。最大火力ないしそれに類する一撃で沈めるのが吉。逆に言うとこの一撃で沈められないとその時点で俺の敗北の決定だ。
「カナさん、俺の小太刀から目を離すと……死ぬかも」
「!!」
セット……完了。
俺は瞬時にカナさんの背後から超能力で海水製の散弾を射出すると同時に水の人形を作り出し突貫させる。そしてあえて小太刀を抜きつつ自分も水の人形とは逆に走りこむ。
ほぼ不意打ちなのにも関わらず海水を完璧に弾き、水の人形を振り向いただけで霧散させたカナさんは流石の一言だがそれだけの時間があれば十分。
カナさんの左に回り込んだ俺はそのまま右腕で小太刀を振りかぶり、斬りつけ……と見せかけてそのまま投棄。
「……!?」
「こう見えて、多芸なんでねッ!」
カナさんの視線が小太刀から切れるより早く俺は左腕……正確にいうと左手の親指をカナさんの右耳の
念のために超能力で水の鎖を作り雁字搦めに拘束しておくことも忘れない。
「な、何をしたの……?」
「単純な話ですよ。カナさんの三半規管内部のリンパ液に超能力で干渉して回転性めまいを誘発させたんです。俺は
口ではこう言うがそんな簡単には出来ないものなんだよなぁこれ。威力が高すぎると相手の脳を損傷させ、最悪
とまぁ欠点をあげつらえばわんさか出てくるわけなんだが、いかんせんメリットがデカすぎるから切り札中の切り札として使っているわけで。食らった相手は問答無用で一定時間
その無力化作用をかの有名な魔術師マーリンを塔に幽閉し無力化した妖精になぞらえた名前付けをしている。強引?知らんな。
「ま、これもいい機会ですよ。あのアホは俺が来たるべき時まで護ってやりますから。こういう言い方はあんまり良いものじゃないですけど、表舞台から消えるなら今ですよ。あなたが今来たことでイ・ウーとキンジが対決するのは俺の中で確定になりましたから。
「……本当にキンジと同じ高校生か分からないくらいの視野の広さね。零司くんが
「……そうですか。くれぐれも守るものと倒すものを間違えないで下さいね?」
それだけを告げると俺はカナさんの拘束が解けるまでたわいの無い与太話をしたのであった。
にしても拘束が解けるの待たなきゃいけないとか
切り札中の切り札ってなんだろうね?
絶○零度ス○クンは使ってて楽しかったです
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第65話
よもや2年以上更新が止まるとは私自身も思ってなかった…本当に申し訳ないです。
空きすぎて文体とかが少し変わってるかもしれませんがそこらへんは大目に見てもらいたいです!
カナさんは
…まぁあの人にも色々やることがあるのだろうし深入りはしないが。
俺もぽけーっと突っ立っていてもどうしようもないので武偵高の方へ戻りつつ、軽く頭の中でプランを立てていた。
船のチケット代も経費で(こっそり)落としたし問題ない。
…ぶっちゃけ捜査のことは殆ど心配していない。
金一さんが死んだとなればまず間違いなくキンジに影響が出る。だがその影響の出方がどう出るのかが予測しきれない。
金一さんを守りきれなかった俺を責めるのか、はたまたそんなこともせずに失意に落ちるのか。逆に金一さんの無念を晴らすべく奮起するのか。
仮にも元パートナーで普段は何考えてるか大体わかるんだが、ここ一番でどう動くのか今ひとつ掴みきれないんだよな、あいつ。俺自身も死ぬ気は無いが万一のことがあればそういう可能性はあるし、そうなった時あいつの心の拠り所が不安だ。白雪あたりがなんとかしてくれるだろうか。
「測り難きは人心、ってか」
来年度は行動心理学みたいなものも学ぶべきだろうか。来年度、な。
武偵高に戻りさっさと
ちなみにレキは狙撃科にいたのをそのまま引っ張ってきた。
「何をするんですか?」
「あれ、言ってなかったか?レキへのクリスマスプレゼントを買いに行くんだよ。そんでプレゼント買ったらそのままご飯でも食べに行こう。クリスマスは仕事が入っちまってな。一緒にいられないからそれの埋め合わせってほどにはならんが少しでもいい時間を過ごしたくて」
「……そうですか。仕事というのは先ほど教務科に提出していた特秘ですか?」
…今少し間が空いたな。こりゃバレてるかもなぁ、特秘の中でも危険な部類なの。
となると隠しても仕方ないので都合のいいところだけ話しておくか。
「まぁな、言ってなかったのは悪かった。けど一応守秘させてもらうぜ?余計なことは知るべきじゃあないよ」
「そうですか。また無茶をするんですね」
「えっ?あー、あははは……」
「…………」
うん。わかっちゃいたけど完璧に拗ねてらっしゃる。表情はほとんど変わってないけどそういうオーラが出てるよね。こういう時はヘタにはぐらかすと余計にこじれるもんだ。仕方ない、風情もへったくれもないがアレを出すか。
「レキ」
「………?」
「必ず帰ってくる。約束だ。ほれ、手出せ」
ぽん、とレキの手のひらの上に置いたのは真っ白な小さい箱。
「開けてみ」
「はい」
もそもそと開けて出てきたのは蒼いヘアピン4つ。でもただのヘアピンじゃあない。
「それな、俺の魔力を少し込めてるんだ。具体的に言うと一定範囲内に飛んでくる弾や刃、その他諸々"害あるもの"を自動認識して水の防壁を作って被弾を防いでくれるんだ。ただし、俺みたいな魔力の自動生成はできないから何発も防げるわけじゃない。せいぜいヘアピン1つで銃弾3発が限度だろ」
「……」
「ま、こんなもんしか渡せないがお守り程度には役に立つぜ」
「……」
…あー、これは強情なやつだわ。前から思ってたけどレキって強情な子だよなぁ。もちろんそこ込みで好きなんだけどさ。
こういう言い回しはしたくなかったんだけどしなきゃレキが納得しないってんなら仕方ないか。
「レキ、俺は必ず帰ってくるから。心配してくれるのは嬉しいけどな」
「本当ですか?」
「おう」
「……。 本当の、本当に零司さんは武偵高に帰ってきますか?」
「帰ってくるってば。俺ってそんなに信頼ないかなぁ…」
「……約束ですよ?」
「わかってる。俺は必ずおまえの隣に帰ってくる。誓うよ」
「……はい」
そっと俺の胸に顔を押し付けるレキを撫でながら、俺は自責の念に駆られるのであった。
2008年12月24日。雪がちらつく横浜港に俺は来ていた。目の前には大きな豪華客船、アンベリール号が乗客とともにその出発を今か今かと待っている。
待ってるのはいいんだけどさ……。寒っ!こんなに日本の冬って寒かったっけ?こんなに寒いと超能力の連続稼働時間が短くなるな。
…さて、ぼーっと立ってるだけじゃ何も始まらないし乗り込みますか。豪華客船と言う名の密室に。
船内は豪華客船らしくレストランやバー、プールにスパ、カジノルームにビリヤードルームなどなどありとあらゆるものが揃っていて歩き回るだけでも十分に楽しめる作りになってるな。
すれ違う人の服装もまぁ一級の身なりの人のそれでボディガードをつけてる人も少なくない。
「っと…ここか。って広っ!!マジかアンベリール号!!」
そりゃ予約した部屋が想定の3倍も広かったらこういう反応になると思うんだ。盗聴器とかその他諸々を仕掛けられていないか調べがてら部屋を見て回ってるんだが、調度品の1つひとつに至るまで埃も付いてないし、将棋やチェスみたいなボードゲームも置いてある。冷蔵庫の中を確認するとあらいけません。ソフトドリンクもお酒も入ってるじゃないですか。本当にすごいな、アンベリール号。
そう思っていると後ろからコンコン、ドアを叩く音がした。シャーロック以外には誰にもこの船に来ることは言っていないし、俺がここに来ることを推理できるのもカナさんくらいだ。ちなみに乗船リストには「神田岩太郎」という偽名を使っているので乗船リストから俺が乗っていることを導くことも不可能だ。
どのみちとんでもない実力の持ち主しかこのドアを叩くことはしないだろうから細心の注意を払うべきだ。
「はい、何か?」
「給仕です。神田様のディナーの準備が整いましたのでお呼びに参りました」
……これはいよいよもって怪しいな。俺はディナーの準備をしろなんて言った覚えはないし、そもそもディナーの準備をお願いできるというサービスがあるなんて聞いていない。
いつでも発砲できるように構えながら開けるか。
後ろ手でそっとドアを開けて出てきたのは…
「はーいこんばんはー!りっこりーんでーす!良い夜だねあっちー!」
……なるほど、可能性の1つとして頭にはあったけどそりゃ武偵殺しの証拠が出ないわけだ。自分に関わる証拠を現場で堂々と消せるもんな。
なぁ峰理子さんよ。
理子は理子で普段通りに見せているようだが、隠しきれないオーラというか雰囲気が漏れ出している。これは…入学試験の時に感じたオーラに近いな。もしかするとこっちが理子の本質なのかもしれないな。
「くふっ、その表情だとやっぱり予想してたんだねぇ。…さすが
「…何しに来たんだ?立ち話もなんだし部屋入るか?大丈夫だ、なーんも
「…その挑発、買うぞ?」
おー怖い怖い、とんでもない威圧感だな。それでもローズリリィほどじゃないけどな。
「それにしても流石豪華客船だよな、冷蔵庫の中に沢山ソフトドリンクも酒も入ってんだからな。理子はなんか飲むか?」
「んー、じゃあイチゴミルク!」
「はぁ?そんなもん…あんのかよ!なんでもありだなこの船…」
俺からイチゴミルクを受け取って飲み始めた理子を見やる。ホント、こうして見てるぶんには犯罪者に見えないよなぁ。俺は…このワインにするか。滅多にお目にかかれない代物だ。
潜入捜査で飲むこともあるのだが、俺は酒に滅法強い。というのも、超能力で水を精製してお酒の毒素を流せるっていうだけだけどな。
ワイングラスに注ぎながら、俺は理子に話を振り始める。
「それで?なんでわざわざ俺の前に姿を見せた?」
「あっちはどう思う?」
「……交渉、だろ。お前のさっきの言葉からしてお前は自分が『武偵殺し』であることを俺にバレてることを気づいている。そしておそらくシャーロックから俺がここに来ることとその目的も聞いてるんだろ?対するお前は今からどうせ『武偵殺し』としてシージャックでもするんだろうからその時に障害になりうる俺をなんとか抑え込みたいって所か。要は俺とお前は共に邪魔されたくないから不可侵条約を結びたい、と言ったところか?」
「流石に鋭いねぇあっちは。ピンポンピンポーン!だいせーいかーい!それでそれで?もちろんあっちは受けてくれるよね?」
「もちろん断る」
「だよねだよね!…ってえっ?」
「断るだろ、そりゃ。まだお前はそれを俺が受けるメリットを出してない。お前と対立する必要がなくなる?それが通用するのは俺がお前を障害になると考えている時だけだ。なんなら今からお前を潰してからシャーロックを潰しにいけばいいんだぜ?ここは海の上だしな」
このタイミングで理子が来る理由なんてたかが知れてるわけで、それを指摘しながら軽く挑発をこめてみる。俺の予想だと意外に負けず嫌いな理子はまず間違い無く俺に突っかかってくる…と思ったんだが、なんとか堪えたみたいだな。体は怒りで震えて小声で「大丈夫理子。理子は強い子。だからここは堪えよっ!」とか言ってたけどな。 そこまで我慢するということは何か切り札があるのだろうからそれを出させるか。
「俺にお前をスルーするメリット、あるなら言ってみな」
「…明智千花について私が知ってる情報を教える。これでどうだ?」
「……へぇ。思ったよりも強い切り札を切ってきたな。千花の情報とはな。それがどういう意味を持ってるかわかって言っているか?」
「あっちはシスコンだもんねぇー。だいじょーぶ、理子は仕事では嘘つかないから!」
…まぁシャーロックからもイ・ウーにいるって話を聞いてるし、理子が千花と会ってても不思議じゃないよな。それを考えると理子が俺を止めるために千花の情報をよこすってのもわからない話じゃあない。まぁ聞いてみよう。
「うーん、とはいえ基本的なことはどうせ教授から聞いてるんだよねあっちは…。じゃあ、ちかぽんがイ・ウーで発現した能力について教えちゃおう!ちかぽんはねー、『なんか銃弾とかを消す』能力を使えるようになったんだー。詳しいことは原理とかはわからないんだけど他の超能力とかも消せるからかなり強い能力だよねー」
「消す、能力…?どういう感じに消すんだ?」
「うーん…、ちかぽんの付近に銃弾とかがいったら溶けて消えるみたいな感じ?いきなり無くなるんだよねぇ」
銃弾が溶けて消える…?んなバカな、とはいえないのがいかに超能力がなんでもありかを示してるよな。それはさておき、情報の点数としては不合格だけどまぁいいか。
「あーあ、酔いが回ってきたなぁ」
「えっ?」
「んー、そこにいるのは理子か?いやそんなわけないよな。
ここまで行ったら理子はアホだけどバカじゃないし、察してどっか行くだろ。グラスに入れたワインを全部くいっと飲み干して俺は本当にシャワーを浴びに行くのであった。
……ちなみに本当は酔ってないぞ?酔ってないからな???
久しぶりに書くと設定忘れてたりするから矛盾点とかあったらどうしよう…
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第66話
2020.7.3 加筆修正、改行等の調整を致しました。
シャワーから帰ってみると理子はすでに影も形もなく、代わりにメモが残されてい他のでそれを確認。その内容は『遊戯室』とのこと。普通に考えておそらく『
まぁとりあえずメモの言うとおりに従いますか。
さてさてやって参りましたよ遊戯室っと。さーてどこに目的の人物がいるかねぇ……って探す手間も省けた。どうやら先に人払いしていたらしく、中に1人しかいないからな。
「──ーもう逢える頃と、
「……だろうな、俺もそう
その第一声に電話で話した時以上の重みのようなものを感じつつ、とりあえず話す雰囲気を醸し出しているので、相手のことを観察することを兼ねてそれに応じる。
俺より大柄なその男は、その髪を着ている一昔前のスーツと合わせてオールバックにしている。いつかの夢に出てきたように、鼻は高く顔も整ってる。これくらい整ってればパイプが似合うわけだ。ベクトルは違うけどこの顔の整い方は少しあの
そして何より無視できないのは……こいつ、『持ってるな』。系統がごちゃごちゃに混ざってるような印象が拭えないから、おそらく複数の超能力を使えるな。手に入れた経緯は知らんがな。
そもそもおいそれと超能力を増やせるものなのか。……と思ったが俺も水を操る能力と仮定の未来視があるんだったわ。理子曰く千花も空間系の能力を使えるようになったって話だし元々持っていた風の能力と合わせれば2つだ。意外と身近にいるもんだな。
「さて、明智零司君。君とは何度か君の夢で会ったけれど、初めて直接会うことだし改めて自己紹介させてもらおう。──ー初めまして。僕はシャーロック・ホームズだ」
「こりゃ丁寧にどうも。明智零司だ」
残された資料にも一通りは目を通す……というか授業で習った程度の知識だが、紳士的というのはまぁその通りなんだな。
「まずは、僕の示したヒントを正しく使ってここまで辿り着いたことを褒めさせてもらおう。おめでとう、だがここからが本題だ。君は僕に一矢報いることができるかな?」
「そのために来たんだ、できるできないじゃなくてやらなきゃレキに顔向けできねぇよ」
「
「俺はそんなに大した奴じゃねぇよ。コカイン吸いすぎて頭ボケたんじゃねぇか?」
「いやいや、謙遜はよしたまえ。君のその未来視……君は『仮想の未来視』と呼んでいるんだったか。とにかくその
パイプをふかしながらシャーロックはそれが楽しいことかのように語る。そしてそばに置いていたステッキを持つと俺に向き合った。……ん、あのステッキ多分中に仕込んであるな。持った時のステッキの動き方が木だけで出来てるそれじゃなくて、中に金属が入ってる物の動きだった。
「君のその能力は
パイプを美味そうに吸いながら講義でもしているかのようにシャーロックは語る。それで自己陶酔でもしてくれてたらいいのに俺の動きにもしっかり対応してるとでも言わんばかりに反応を返すので迂闊に動けない。まぁ俺に関係ある話だししっかり聞いてあげますかね、イ・ウーの教授さん。
「そしてこれが一番の理由だが、君は気づいていないだろうが使用した後に目が少し蒼く発光しているのだ。これもローズリリィ君の報告にあった通りだったが今確認できた。
「……バレねぇかなと思ったんだけど目が光ってんなら仕方ねぇか、ご名答だ。理子が俺の部屋から帰ったタイミングで未来視を使った。つまり俺にはこの戦いの結末が視えているわけだ。それでも俺とやるのか、教授さん?」
「ふむ、たかだか16年ほどしか生きていない平和な国に生まれた未熟な子供に150年以上凶悪かつ強靭な怪人たちを数多仕留めてきた僕が倒せるとでも?」
「まぁそりゃあ21世紀にもなって治安の落ち着かない
へぇ、安い挑発に口だけでも乗るあたり、シャーロックって意外と負けず嫌いなんだな。挑発を返すときに眉が少しひくつく辺り、先祖と子孫の関係なんだなやっぱり。……さて、こちらも良い感じに準備完了だ。あんまり長引かせると未来視の反動で倒す前にこっちがぶっ倒れそうだしな。
「さぁ遠慮はいらない、おいで零司君。僕の
「ちょっと違うな。これは探偵と武偵のどちらが上かの戦いだッ!」
ドッ! ドドドッ! ガーン!
……どこか遠くで爆発音が聞こえるのは理子か? そういえば爆弾魔だったな、武偵殺しって。
その音を合図代わりに俺は左足で軽く地面を小突く。それをキッカケにシャーロックの真下からいきなり間欠泉のように海水を射出させる。
「おっと」
軽く後ろに下がったシャーロックに対し、射出した海水をブラインドにして素早く後ろに回ろうとして……!! あっぶねッ、このまま突っ込んでたらステッキが思いっきり首のあたりにぶち当たる所だった、こわっ!!
というかわざわざ超能力でブラインドを作ったのに反応早すぎないか? まるでブラインドが効いていないみたいだ。少し距離を置いて……ってッ! これは……
「……!! 今のは水の超能力だな?」
「それを使えるのは君だけではない、ということだよ。そして僕が使えるのはこれだけじゃない。これから少し面白いことをしてあげよう」
「そんなもん最初からお断り、だっ!」
いやはや困ったな。やっぱり近接でも距離を取っても俺がイニシアチブをとれないタイプか。なら今度は数で攻めるだけだッ!
まず水を操ってシャーロックの視線を切りその間に水で分身を作り上げる。数は……部屋の広さ的に3つ以上は邪魔になるな、じゃあ分身は2つでいい。それでその分身に小太刀を放っておく。これでシャーロックには小太刀を持った俺が3人いるように見えるはず。
ブラインドを解除して突貫する俺は三方向から攻撃するが……バチィィッッ!! すかさず何かを射出するシャーロックに3人まとめて吹っ飛ばされた。なんだ今の、当たった所が痺れるということは電気……というより雷球みたいなものか? というか吹き飛ばされてても痛覚までは付けてないから水分身は動けるはずだ……ってなんだそりゃ。水分身が綺麗な氷像になってるんですけど。シャーロックの方を見るとなんかキラキラダイヤモンドダストみたいなものを出していかにも超能力を発揮した後みたいな雰囲気だしてるし。水、雷、氷って超能力のバーゲンセールかよ、見てて飽きないなぁオイ!
そして更なる問題が1つ。この戦いの内容がすでに俺の予知からかなり逸れている上に代償だけいいように持ってかれている。おそらく、あいつの
「なるほど、水の分身を出して数的有利を作ろうとしたんだね。うん、流石に良い判断をするのが早いね。ただし、推理不足だ。使える超能力は水だけではないとヒントを出したのにそれを生かせていない。それではすぐに負けてしまうよ? 僕だけにではなくこれから君が出会う敵に。何せこれは君への予習なのだから」
そういったシャーロックのスーツがビリビリに破れて、胸……いや、肺か? ともかく胸部が人間ではあり得ないくらいに膨らんでいく……? これはマズイ気がする! どうすれば……そうか、仮想の未来視か!
ふらっと今日2回目の前後不覚、無理解の感覚。でも今回は30秒もいない。なんせ今シャーロックがやろうとしてることの
「……その目、未来視を使って僕の『ワラキアの魔笛』を不発にしたね?」
「ウッ……そ、それがどうしたって? というか
なるほど、
ブラド……ルーマニア……? 吸血鬼伝説……そうか! 今の発言で全て読めたぞ、お前の超能力のカラクリ。お前輸血かもしくは遺伝子移植かあるいはそれに類することをやって超能力者の遺伝子をもらったな? それを体内に取り込むなり移植するなりして複数の能力が使えるようになったわけだ」
「ふむ、今の一言でそこまで推理できるのか。すごい推理力だ、いい探偵になれる。僕が保証しよう」
「そうかい。じゃあついでにもう一つお前の情報について答えあわせでもするか? お前、目に頼ってないだろ。視界の情報をシャットアウトしてるか失ったか、そのどちらなのかは知らないがお前は水によるブラインドを無効にし、水分身と俺本体を区別して分身だけ器用に凍らせた。これはお前が目に頼っていない証拠だ。違うか?」
「……これは驚いた。実は僕は60年ほど前に毒殺されかけてね、それ以来盲目なのだよ。これを暴いた人は君が初めてだ。なぜなら僕は目が見えるように振舞っていたし、周りで何が起こってるかそれこそ水を常に貼り巡らせて知覚している君並みに理解している。もちろん君が分身を出しても心拍数のあるなしで本物と偽物の判別をするなんて造作もないことさ」
自分のカラクリを暴露されてもなおニコニコしてるシャーロック、あれは自分の勝利を確信してるな。その余裕、俺が文字通り吹き飛ばしてやる。
「じゃあお前みたいな前時代の探偵さんは引退してもらわないとこっちの食い扶持も足りなくなるから、なっ!」
そういって俺は軟式野球ボールより少し小さいくらいの水球を
次の瞬間、ドゥヮッッッッッ!! という馬鹿みたいな爆発が起きて部屋をぶち抜いた。おいおいこんなに火力出るのかよ、原液のニトロって……。
俺が平賀さんに頼んだものの一つ、ニトログリセリンのほぼ原液。簡単な衝撃で爆発するから水とかで混ぜて感度を下げてないといけない紛れのない法規制ものの危険物って奴だ。武偵弾でも別に良かったんだけどあれ一発でとんでもない額吹っ飛ぶからな。今回は平賀さんからもらった俺が超能力で24時間完全管理して暴発しないようにしながらこの戦いに持ち込んだんだが、こんなもん持ち込んでどう武偵局を誤魔化そうかということが懸念事項だったんだよな。
ま、どーせあの
……ボロボロになってもう欠けらも遊戯室だった跡が残ってないんだけどシャーロックさんは……生きてるな。生体感知……呼気の水分比の反応アリ、だ。というかさっきより威圧感増し増しなんだけどどうしようか……。
「これは『復習』になるかな、零司君」
「……おいおい、HSSかよ。いよいよもってお手上げだぞこりゃあ」
そういえば
シャーロックは手持ちのステッキをそのままフェンシングの持ち方に変えて完全に本気モード。殺す気マンマンだな、こりゃ。
「全くもってさっきの爆薬は推理できなかったよ。多分君の未来視の影響だろうが君のことを条理予知しようとするとやはり推理に差異が生じる。実にあの教授以来2人目だよ」
「そんなに貴重な俺に免じて退却してくれると嬉しいんだがどうだ?」
「そんなことをするとでも思うかい?」
「デスヨネー」
そういうとシャーロックはキンジのHSSの時のそれより速い踏み込みで俺にステッキを突き立ててきた。なんとか間に合った自動防御で直撃は避けたが、もし当たったら心臓コース……って危ねぇ! 俺がHSSのやつの動きに慣れてなかったら即死コースじゃねぇか!
距離を取ろうとする俺にぴったり付いてくるシャーロックはそのままステッキで俺を殴りかかってくるのでそれを根本で受け止めつつ俺は空中で水で剣を二本作り上げそれをステッキと切り結ぶ。
そしてここで仮想の未来視を使って『ステッキが水の剣に絡め取られて捨てられる未来』を視る。
そしてその未来の通りステッキを捨てて俺は改めてシャーロックと向き合う。武器を捨てたところで、どうせかの有名なバリツが飛んでくるんだろ? 推理するまでもねぇな。
対するこちらは正直、短時間の未来視とはいえたくさん使いすぎていい加減グロッキーなんだよ。まぁここで決めきれないとレキに怒られるから一気に決めにいかないとな。
やっぱり徒手空拳の構えをしたシャーロックのやつにしっかり向き合い、ここで初めて俺の愛銃……ベレッタPx4ストームと.44オートマグを構える。俺といえばこれだよな、やっぱ。それに応えるかのように二丁が光り輝いてるのは気のせいじゃないはず。
……さぁ。色々ギリギリだし初手で相手を詰みにするウルトラCを出すか。未来視の能力があるとわかった時点で考えてはいたんだ。使う相手がいないから頭の宇宙の彼方に飛ばしちゃってたけど。
「……仕方ない。出し惜しみは無しだシャーロック」
「最初から言っているだろう? 『遠慮はいらない』と。あいにくこの船が戦闘に耐えれられるのはもう5分もないだろうから2分で方をつけようか」
「それはそれはとても優しい教授だことで。……いくぞッ!」
こういう時、キンジみたいに『この桜吹雪、散らせるものなら散らしてみやがれッ!』って啖呵を切れたらかっこいいんだろうなぁ。そういう発言残してくれても良かったんだぜ、ご先祖様?
「シャーロック。今から見せるのは文字通り……魔弾。崩せるものなら崩してみろッ!!」
そう言うが早いか俺は一斉射撃で二丁全ての弾を一気にばらまく。ダブルカラムのオートマグから14発、Px4ストームから20発の計34発はまるで遊戯室のビリヤードのように様々に反射しながらシャーロックを狙う。大丈夫、これは
対するシャーロックも条理予知でそのことがわかったのか、余計な動きをしない。
シャーロックがやったのは一つだけ。
「惜しかったね、零司君。未来視と銃の上手い組み合わせだ。ただ、相手が悪かった。僕じゃなければ決まっていた所だ」
「あぁ、確かにお前とやるには銃だけじゃ役不足だろうよ。ただ、あんたの発言は間違いが一つ存在している。ヒントは……そうだな、周りを思い出してみろよ。そんでここがどこだか思い出してみろ」
シャーロックはそこまで聞くと初めて驚いた表情を見せた。流石は武偵の始祖と言われるだけはある、圧倒的な推理力だな。
そう、ここはアンベリール号、豪華客船ってやつさ。ただし俺たちや
さてここで問題。アンベリール号はどこに沈むでしょうか?
「まさか君の魔弾というのは……!」
「そのまさか、って奴さ。
そう言い終わるや否や、この遊戯室の耐久値が限界を迎えたらしく方々の傷跡からシャーロック一点をめがけて海水が殺到した。そしてそのまま遥か上空へとシャーロックを思いっきり飛ばした。……一応9条破らないようにクッションは用意しておこうか。
にしても……シャーロック・ホームズ、か。いつだったかもう忘れたけど電話での会話はしたことあるし、その子孫のピンクいのとは会ったこと……というか連絡先知ってるけども、まぁ本物というかオリジナルというのはオーラが違うな。傑物感ハンパない。正直この戦いでも思いっきり手を抜かれてたしな。
まるで『ほんのちょっとだけ先の未来を視て相手に攻撃を当てる』ことを思いつかせるような戦い方を強制されて色々ガタが来てる。……あぁ、いい加減眠くなってきた……ッ!! この雰囲気は……! マジかよ、今のでも倒せねぇのかよ化け物め……!
「うん、流石に今のは推理できなかったね。君の未来視がまた僕の条理予知を歪めたのか。あぁ、クッションはいらないよ。君も知っている通り、僕は沢山の超能力を使えるからね。高台から傷一つなしで降りるくらい初歩的な芸当さ」
「そうかよ、クソッタレ……」
「それにしても千花君といい君達明智の一族は興味深いね。どうして平和な島国からこんな才能が生まれてくるのか、この世界は面白い。その類いまれなる才能と勇気で、どうか助けてやってほしい」
「……はぁ……助ける……だぁ? ……次から……次へと……面倒事を……押し付けやがって……んで……誰だよその……助ける奴ってのは……」
「僕の曽孫と、いずれ出会うそのパートナーだ。生憎まだ僕が彼らに会うべき時じゃない。だから少なくとも僕があの子達に会うまでは……守ってやってくれ。それが結果として
……レキを……ローズリリィに……攫わせることで……俺を挑発して……直接会って戦って……その果てに頼むことが……
「……世界を救うたぁ随分景気がいい話だなオイ……まぁ良い。俺は武偵だしな、依頼ってことで受けてやる。ただ、ことキンジのことに関しては……お前の推理は外れるぜ。断言してもいい」
「ははっ、未来視を持つ君のことだ。心に留めておくよ。……それじゃあまた会おう、明智零司君」
チッ、余裕かましてるシャーロックの奴に弾の1つでもブチ込みてえのにもう指の1つも動かねえや。そう思った俺は素直に意識を飛ばすことにした。あーあ、完全勝利したかったなぁ……。
「最初は致命的な敗北の回避。その次には数秒先の超近未来を未来視する事で攻撃を回避、また僕に攻撃を命中させる未来を選択、というところか。全く、大した成長速度だよ」
……なんて言ってんだ……もうよく聞こえねえや……。
そのまま俺はゆっくりと意識を手放した。……マジで疲れた……。
割と詰め込んで作中内のキリがついた気がします。…やっと原作の領域に入れるかな?
誤字、感想等お待ちしてます。
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第67話
さて前回投稿っていつだっk…?去年8月???hahaha…
……
………
…………
大ッ変お待たせいたしました…どのくらいの方がまだ覚えてくれているかわからないですが重ねてお詫び申し上げます。
久しぶりすぎて文体も変わってるかも知らないし最新機能とかあるならそれも把握できてません。申し訳ないです。
……ザザーン、ザザーン。
「……んぁ……?」
未来視の過度な仕様で気絶していた俺が目を覚ましたら、どこだかよくわからない波打ち際に倒れていました。
……えっと???
いや起きたのはいいけどあたりは暗いし空には満天の星空って……
そうじゃなくて!
「……はぁ? いやいやいや、シャーロックとかイ・ウーとかあとは……そう、アンベリール号とかはどうなったんだ……!?」
身の回りのものを確認すると……うん、何も抜かれていない。というか俺の銃は二丁とも
そして、俺の覚えのない小瓶が1本。中には紙が入っているようだがボトルメールみたいなもんか? これまた前時代的なブツだな。
ペンライトとかその辺の小道具も無事だし一応用心して開けてみるか。にしてもなんだってこんな古典的な情報伝達手段なんだ……
『明智零司君へ
僕の推理だと昼に目覚めるはずなのだが、君のことに関して推理すると外れることが多いから夜に目覚めているんだろう。
まず『ここはどこか?』という君がまず浮かべるであろう問いだが、それは自分で考えたまえ。それができない君ではないだろう? そして君が導いた結論はおそらく正解だ。
さて、アンベリール号の事件の顛末だが君が日本に帰るころには『鯨との衝突による海難事故』ということで処理され、遠山金一君の死と引き換えに犠牲者0ということになるだろう。
君は日本に帰ってからやるべきことをやるだけで良い。例えば金一君がいなくなった結果……いやこれは君にはヒントを与えすぎたかな。
ともかく、君がなすべきことをしたその先に平和があるから君は君の道を進みたまえ。その先でまた会おう。 S.Holmes』
……まぁ、そのなんというか。言いたいことは色々あるんだが、一言にまとめるとこうだ。
「……何やってんだか、俺……」
とりあえずここがどこだか知りたい俺はケータイを取り出し、今の時間の確認をしようとしたのだが、どうやら充電が切れているらしく電源が入らない。おかしいな……。
元々満タンでそこまで使ってなかったはずなのだが、どうせ
まず手持ちの電波時計が狂っておらず、懐中時計と同じ時刻を指していることから日本から1000キロは離れていないことを確認。
んで今は夜だから方位を調べるには星を見るのが一番なんだが……あったあった。
日本でも見える冬の星座の代表格、オリオン座。東京からの見える角度との差からして、ここはおそらく上海に近いところ。
……おそらくあのシャーロックのことなので正式な渡航手続きなんかせずにここに放置してるだろうし、もしかしなくても不法滞在だなこりゃ。
となるとこっそり日本に帰らないといけない。バレなきゃ犯罪じゃないので武偵3倍刑の原則は適用されないしな。
上海から東京は直線距離でおよそ1760km、だいたい東京博多の倍くらい。となると博多に戻ってそこから新幹線か飛行機で帰ろうか。俺の水の超能力がいくら使いやすいとはいえ、超能力の無駄遣いは抑えたい。
……さて、ここまで方針立てたしそろそろ声掛けても良いだろ。
「……なぁ、俺に何か用か? そこの糸目」
「やはり気づかれていましたか。流石は
「安い挑発だな、そこまで調べてるなら俺がその名前好きじゃないのも知ってんだろ? ……ったく、とりあえず話なら付き合うから名前くらい名乗ったらどうだ?」
「ええ、ここで貴方のような個人での巨大戦力と無駄に不和になる必要もないですしね。私は諸葛静幻、藍幇という組織に属しています」
そう自己紹介しながら糸目でニコニコしながらコテコテな中国人が出てきた。てかこのコテコテ中国人……もとい諸葛は今藍幇って言ったか? それって……。
「……へぇ、藍幇ねぇ。なぁ諸葛さんよ、俺の記憶違いじゃなきゃその藍幇って組織は日本にこっそり潜水艦で来てチンケな
「こっそりだなんてとんでもない。先方にはしっかりアポイントとってから行きましたからね」
「来たことは否定しない、と」
確か半年前くらいに横浜で華龍組とアウトローな取引をしてたのを俺とかレキでとっちめようとして逃げられたんだよな。
あの時の逃げ足からして普段から
中国に本拠地を構えているなら日本は格好の密輸入先なわけだ。何せ治安が悪くなって、結果銃規制やらが緩くなって日が浅いわけだし。
そこを指摘してもニコニコ顔を崩さない諸葛はおそらくこちらが言ってきそうなことは大体想定してる感じだ。要するに頭がキレる。
なんというかシャーロックみたいな先の見通しの良いタイプだな。
こちらの手持ちの情報もほぼないし話だけでも聞くか。
「それで、要件は?」
「簡単な話です。私達藍幇と貴方で商談を、と思いまして」
「……なんか最近似た話題でこちらが損したばかりなんだがな。まぁ聞いてやる」
「それほど貴方という一個人を警戒してる組織が多いということですよ。さて、交渉なんですが今貴方は日本に帰るための足が欲しい。違いますか?」
……自分らの都合を推察されるのを避けるのと同時にこっちの都合を把握してるぞって暗に告げてきたわけだ。頭がキレて地位もある奴ってのは基本自分が勝てる時しか来ないから相手に回したくないってのに、こいつといいシャーロックといいどうして俺に突っかかってくるんだか。
「それがどうした。戻るだけなら超能力ですぐ帰れるが」
「こちらの条件を呑み込めば、イ・ウーの技術も付いてきますよ? お得だと思いますけどねぇ」
「技術? どういうことだ? というかあんたら藍幇とイ・ウーは関わりが……あぁなるほど、技術の共有か提供をしているわけだな」
「まぁそのような物だと思っていただいて結構です。では商談を。私どもが提供するのはこちらのオルクスという潜航艇です。最大船速は約170ノットだから東京までは3時間強で着く計算となります。元々は海水気化魚雷だったものを改造して自動操縦できるようにしてありますが、いかがですか?」
といって諸葛が見せた図面に俺はパッと目を通す。……ふうん、本当に見た目は魚雷っぽいな。流石に俺だけではその細部まで理解できないが、武藤か平賀あたりに見せたらヨダレ垂らして喜びそうだな。それくらいの価値は読み取れた。
「なるほどねぇ、こんなトンデモ技術の結晶を俺にいくらで? 流石にパッと見ではどのくらいのレベル技術なのかわからんが、そう安くないだろ」
「まぁそれなりには。設備や改造費諸々で10万人民元は下らないモノです」
じ……10万人民元!? 日本円で大体150万かよ……。安い車なら買えるぞ……。
流石に高い、と目で伝えると諸葛はそれもわかっていたかのように首を縦に振ってきた。まぁ予想通りだろうよ、いきなり150万をぽんと出せる人間は富豪じゃなくて不用心なカモだ。
「ですので今回は、『今後ビジネスの邪魔をしない』という条件で1万人民元でお売りいたしましょう」
「…おいおい諸葛さんよ、急に10分の1になったがどういうつもりだ? あとその条件はまさに俺が苦汁をのんだ条件だから却下だ。受けるとすれば『積極介入をしない』までだ」
俺の言葉と同時に諸葛の目が少しつり上がったのがわかった。なるほど、うまくハメてきたな。諸葛静幻、食えない男だ。
「その言葉を引き出せたら重畳です。それでいいでしょう」
「……チッ」
諸葛の出してきた書類(何故か中国語と日本語両方で書かれていた)に目を通し、渋々サインをする。シャーロックも諸葛も、頭が働く人は敵の有能な人を封じることがうまい。さながら首輪のように縛りが増えていくのは本当にケルベロスのようで嫌になるぜ、全く。
〜〜〜〜〜
このトンデモ技術の結晶での潜行は思ったより快適で、俺自身が少しの水流操作をしただけで予定の3時間強よりも早く、具体的には2時間半で東京湾に2つある人工浮島の何もない方、通称空き地島に無事に着いてしまった。数人乗る想定で作られていたのか広々とした空間で体が固まったりもしてない。
「……っと、ちゃんと着いたか。ってオイ!」
俺が空き地島に上陸した瞬間に背後でガラガラガッシャンという嫌な音が立ったので、振り返ると見るも無残。さっきまで乗ってたトンデモ技術の結晶がバラバラに。
……。
…………。
………………。
クッソやられた!!!! 諸葛の奴め、自壊装置仕込んでやがったな!?!? どんな構造なのか詳しく調べられると困るからか!! やりやがった、それなら9割引でも得だよなぁ!? 15万貰えてさらに厄介者追い払えるなんてよぉ……。
カチンと来たわ、幸い脳内にちょっと見せてもらった図面を全て記憶してるからそのままアウトプットして再現してやる……!
「……っとその前にとりあえず壊れちまったもんは仕方ねぇし証拠隠滅も兼ねて水で圧してバラバラにしとくか……」
さらばトンデモ技術の結晶。そしてご機嫌麗しゅう、もう日の目を見ない金属ゴミ達よ。
教務科の高天原先生にとりあえずでっち上げの依頼完了のメールを送り、潜入の為の作業を探偵科の部屋で行なっていた関係もあって実に久しぶりの自室に戻ろうとすると、男子寮にこの時間にしては異様な人だかりが出来ている。しかもその中で帯銃してる人はいなさそうという謎な状態。なにこれ?
……ってこれマスコミだな、ちょっとだけ見知った顔もいる。今は疲れてるから顔隠しながら裏口からさっさと入りますか。
「……遠山金一武偵の弟さんですよね?」
「お兄さんが未然に事故を防がなかったせいでアンベリール号は海難事故にあったんですよ!?」
「何か一言言う義務がありますよね?」
「何か一言いただけませんか?」
……どこのマスコミかわからないが随分な言い草じゃねぇか。これはおそらくあの会社が訴訟でさらに損害受ける前に裏で騒いで非難の方向性を金一さんに向けたってところか。にしても海難事故を未然に防ぐ? 面白い考え方するもんだな、武偵庁の武偵とはいえ一介の乗客に全てを守れってか? すげぇ便利屋扱いなこって、普段は煙たがってる癖にな。
……そもそもアレは海難事故ではねぇし、海難事故だとしてもそれを未然に防ぐなんて未来視を持ってなきゃ……いや、未来視を持っていても出来ないことだ。未来視はそこまでノーリスクで使えるほど万能じゃない。少なくとも俺は出来ない。
……それに取材班は
……はぁ、おそらくシャーロックの奴が言ってた「やるべきこと」ってのはおそらくあの
俺はとりあえず水の超能力で擬似的な雨雲を作り出し、寮の周り1km一帯を土砂降りにした。こうすれば高級機材をお持ちの皆様は壊したくないから一時撤退するって寸法だ。流石に0から水を作り上げてるから大分精神力を使うけどな。
案の定マスコミが蜘蛛の子を散らすように逃げ帰り始めたのを見てちょっとだけスッキリした俺は悠々と正面から寮に戻る。仕事熱心なマスコミの方々は機材を大事にすると。
まぁおそらく今日の東京は降水確率0%だろうから防水設備とかも持ってきてないんだろう、ざまあみろ。
とりあえず作戦は明日からスタートだ、疲労がドッと全身に来てる。このままではいい出来にならない。明日になったらまずは…キンジのケアからか。
珍しく後書きを。
ここまで投稿が滞ってるのは強いて言うなら個人的な都合で生活の拠点が一時的に国外になっていた関係で資料(原作)が確認できなかったとかまぁそんなのはあるんですけど流石にここまで投稿できないとは思いませんでした。重ねてお詫びを申し上げます。
エタらないように目指してはいたんですけど原作に入るのがここまで遅れるとは思わなかったですね…。今回も割と内容をキツキツに詰めたので字数が多くなっていました。原作前パートはあと1話か2話を予定してます。アリアんをお待ちの読者様、今しばらくお待ちを。
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第68話
やはり投稿ペースは上げられなかった…。申し訳ございません。
それでは68話、よろしくお願いします。
次の日。
朝食を取るついでにつけたテレビの朝のニュース番組で、アンベリール号の事件が取り上げられていた。どうやらシャーロックの言っていた通り『浦賀沖海難事故』として世間では報道されているらしく、ごくごく一部のコメンテーター以外は金一さんのことを『事件を未然に防げなかった無能な武偵』という烙印を押してバッシングしているようだ。
「……正義の味方って概念は今時流行らないんだろうなぁ」
そうひとりごちてしまうのも許してほしい。正義の味方とは市民の平和を守るための壁であり、平和が保たれている間には彼らは認識すらしない。壁が壊れて実害が自らに降りかかりそうになった時にやっと認識し、そして壊れて実害を及ぼしかねない壁の破片や今も残っている壁を貶す。そういった構造だ。なにしろ今の社会は平和を前提として構成されているわけだし。まったくもって嫌な世の中になったものだ。
とりあえず朝食をさっさと済ませ、キンジの所に行くとするか。
〜〜〜〜〜
とりあえずメールで「少し話そう。お前の部屋で」と伝えたら「わかった」と帰ってくるあたり、どうやらメディアには携帯電話の番号は割れていないらしい。割れていたらひっきりなしの電話に嫌気がさして電源を落としているはずだ。
実は位置でいうと真下にあるキンジの部屋にちょっとした強襲の要領でベランダから入る。ちょうど朝御飯の片付けでもしてたのかキッチンにいるキンジになるべくいつもと同じように挨拶する。
「よっ、久しぶり」
「……お前はそういうことやらないと思ってたけどな」
「玄関なんかから入れるわけないだろ。絶対張られてるから遺族という体で理不尽な取材とバッシングにあうぞ。もちろん、それがいいというなら今すぐ戻ってやり直すけどな」
「そうかよ」
すごく久しぶりに会った気がするキンジは思ったよりもずっと落ち着いていた。レキほどではないにせよ、昼行灯と呼ばれるくらいには感情の起伏が大きくないキンジだが、これは意外な反応だな。少し部屋の観察をするか。
……あぁ、そういうことか。
「コンセントを抜かれたテレビ。やけに紙ゴミが多いゴミ箱。おまけにお前にしては雑なカーペット配置とその上に散乱する沢山の週刊誌。極め付けは洗い終わって間もない皿とコップがそれぞれ1つだけ。泣きに泣いてそのまま疲れて寝たな?んで今は出涸らしの状態」
「やっぱり鋭いな零司は。正解だよ」
「まぁな、伊達に相棒やってたわけじゃない。……それで?気分はどうだ?」
もちろんいい訳がない。ただでさえ尊敬してた兄がなくなったって事実だけでもとてつもない喪失感があるはずなのに、あろうことかその兄を何も知らない奴が理不尽に叩いてるんだから。
それでもあえて聞いたのには理由がある。1つはキンジが安心して感情を吐露できる環境を作るため。もう1つはキンジの考えを俺が知るため。
キッチンからリビングに戻ってテーブルについたキンジにならい、俺も対面の席に座る。
「……俺は。兄さんは絶対に負けないし死なない、それこそ正義の味方の象徴みたいな人だと思ってたんだ」
「……」
「いつだって弱者の味方で見返りなんか求めない、それで最後には全て解決して戻ってくる、そんなスーパーマンみたいな人だと思ってた」
「……そうか」
「だけど実際には違ったんだ、少なくとも世間の人にとっては。世間の人にとっては兄さんは『事前に事故を予測できなかった無能』とか『客を逃している間に1人で死んだ武偵』とかとにかくその程度の存在にしか見られてなかった。それまでどれだけ兄さんが事件を解決してても、最後に死んだ時にはバッシングされる。要は都合のいい叩き台だったんだよ!」
段々と語気が強くなるキンジ。それだけ金一さんのことを尊敬…いやこれは崇拝みたいなものなのだろうか。いずれにせよ大きな存在だったのだろう。
「何回事件を解決しても、何十人助けても、何百人救っても最後には叩かれるなんてそんなのおかしいじゃねえか!正義の味方…武偵になんてなってもこんな損な役回りを押し付けられるなんてッ!」
「……かもな。でも少し落ち着け、声が漏れてメディアのマイクに入るかもしれないだろ?そしたら奴らの思う壺だ」
「…そうだな、悪い」
いつからか立ち上がって激情をぶつけてきていたキンジを座らせる。今のキンジの思いは十分すぎるほど伝わった。
少しの静寂の後、キンジはぽつりと語り始めた。
「なぁ零司。俺さ…武偵高やめようかと思ってるんだ。今年度中は銃検とかの関係で無理だけど、来年の夏休み明けからは普通の一般高に転校しようかと思ってる」
「……本気か?」
「本気だよ。元相棒のお前には先に言っておきたかったんだ」
「…それはやっぱり金一さんのようになりたくはないからか?それとも死ぬことが怖いからか?」
「一番は兄さんを見てて思った。こんなに人を救った兄さんですら最後にはこんなに叩かれるんだから、正義の味方なんかになりたくないって」
…武偵をやめると来たか。それは俺のプランに支障が出るかもしれないからなんとかしなければ。
「…ふうん、そうか。時にキンジよ、武偵憲章7条って覚えてるか?」
「悲観論で備え、楽観論で行動せよ」
「正解。ではもう1つ。今のお前はまだ武偵だな?」
「…そうだが」
俺の意図が掴めず困惑顔のキンジを真っ直ぐに見て俺は続ける。プランのことももちろんそうだが、それ以上に俺はこいつのことを親友だと思ってるし糸だけは垂らしてやる。登るかどうかはキンジ次第だけど。
「今のお前は悲観論で備え、悲観論で行動している。まぁ仕方ないっちゃ仕方ないけどな」
「何が言いたいんだ?」
「要は後ろしか見てないんだよ。ある意味金一さんに縛られてるといっても過言じゃない」
「だって兄さんは死「そもそも」」
まだ意図が見えずにイライラし始めたキンジを制して俺は続ける。そうだな、ギリッギリまで攻めてみるか。キンジがHSSになった時に俺が一枚噛んでることがバレないラインを。
「金一さんは
「…えっ?」
「俺も依頼から帰ってきたばっかりで詳しい情報は持ってないし、むしろお前の方が情報持ってるだろうから聞くが、キンジは金一さんの遺体を確認したのか?」
「いや、でも…」
「そこで返答に詰まるということは確認はできてないな?だったらなんで金一さんが死んだって言い切れるんだ?」
「…そんなの決まってるだろ!兄さんが乗ってたアンベリール号は爆発して浦賀沖に沈没したんだ!助かってるわけがない!」
「そこから命からがら抜けて泳いでどこかにたどり着いた可能性はなぜ考えない?別にありえないことではないだろう?なにしろお前と同じ、いやお前以上にHSSを使いこなしてるんだろ。いいか、『悲観論で備え、楽観論で行動せよ』っていうのは何も最悪の想定だけすれば良いってわけじゃない。結論に至るまでの過程を運のいいものから運が悪いものまで全て考えて、その上で最悪の想定に対応できるように、また少しでも良い未来になるために行動しろってことだ。それに武偵の始祖、シャーロック・ホームズも『不可能なことがらを消去していくと、いかにあり得そうになくても、残ったものこそが真実である、と仮定するところから推理は出発する』と言っていただろう。俺は金一さんがその船から出るということが不可能なこととは思えないけどな」
……
「まぁ、最後に自分の身をどう振るか決めるのはお前自身だ。お前が決めたことならどんな道でも応援はするよ、元相棒」
「……なぁ、零司」
「おう」
「……零司はなんで武偵なんかやってるんだ?こんな命の危険と隣り合わせで、それでいて誰からも賞賛されないような損な仕事を」
……なんで武偵なんかやってるんだ、か。そうだなぁ、難しい質問だ。どう答えたものか。
「キンジには話したよな。俺の先祖の話」
「明智小次郎と明智光秀のことだよな」
「そう。自分でいうのも嫌味な気がするが、2人とも日本では有名な歴史上の人物だろ?1人は天下人を屠ったことで、もう1人は類い稀な推理力で難事件をたくさん解決したことで。そんな先祖の子孫だからか、俺もそれなりに力は持ってたし、その力を人を助けるために使うのは当たり前だと思ってたんだよな」
これは実は半分本当で半分ウソなんだけどな。所謂オモテ向きの理由って奴だ。
「そんな俺の転機になったのはやっぱり妹の失踪かな」
「千歌、だっけ」
「よく覚えてるな、そうだよ。千歌のことを守れなかったのは当時の俺の鼻っぱしを折るには十分な出来事だったよ。そこからは千歌を助けるために全てを費やしてきた」
「ていうことは、今のお前は」
「って思うだろ?でも今はそれだけじゃないんだよ」
「え?」
「この高校に来てからだな、2つ目の転機は。俺のことを好きだと言ってくれた奴がいたんだよ」
「…あぁ、レキか」
「そう。あいつは俺のことを真っ直ぐに見てくれたんだよ。そんな可愛い奴がいたら守りたくなるもんだろ?」
まぁ異性が苦手なコイツに言っても半分も理解しないだろうがな。いつか分かる日が来るだろ、この朴念仁にも。
「……そんなもんなのか、俺にはよくわからん」
やっぱり。
「そういうもんなんだよ。つまりは守りたかった奴と守りたい奴のため、っていうのが俺が武偵やってる理由になるんだろうな」
「やっぱり零司は色々考えてるんだな」
「そりゃキンジよりはいろんなことを経験してるからな。……恥ずかしいから他の人には口外禁止な」
「お前を敵に回したら何されるかわからないからな。しないよ」
「まぁ、さっきも言ったがお前は俺じゃないからな。お前はお前の進みたい道に進めばいいんだよ。自由に選択ができる程度にはこの国は穏やかだからな」
…まぁ、その選択ができるかどうかは別として、な。
〜〜〜〜〜
じとーーー。
「………」
「…………あのー、レキさん?」
……。
…………。
………………。
じとーーー。
「………」
「……えぇーっと、聞こえてます?」
「………」
なんだこれ、空気が痛いんですけど。重いとか悪いとか色々空気を表す言葉はあると思うんだけどこんなに痛いって言葉が似合う空気は金輪際ないと思うんですけど。
とりあえずどういう状況なのか簡単に説明するとキンジの部屋からベランダ経由で自室に戻ってきたら、レキが俺の部屋で正座してた。…いやいつの間に!?
「零司さん」
「はいッ!!なんでしょう!!」
「何か言うことは?」
「はいっ!明智零司、昨日から帰ってきていました!連絡が遅れて大変申し訳ございま…ッ!?」
言葉が途切れた理由は単純。レキが俺の胸の中に飛び込んできてぽこぽこぱんちを繰り出してきたから。可愛い彼女にこんなことをやられたら仕方ない。甘んじて受け入れさせてもらおう。
しばらくやったら気が済んだのか、レキはその鳶色の目で俺を見上げてくる。
「心配、したんですよ?」
「…ごめん」
「本当に死ぬんじゃないかって、送り出したのは間違いだったんじゃないかって、不安だったんですよ?」
「そう…だよな」
「もう一回、聞きますね。零司さん、何か言うことは?」
「……ただいま、レキ」
「はい、おかえりなさい零司さん」
……多分。俺は一生この一見無表情の、そのくせころころ表情の変わる世界で一番可愛くて正確無比に心を狙ってくる狙撃手に射抜かれ続けるんだろうな。なんか今のではっきりわかった気がする。俺は
この後、キンジの転科や大小細々とした事件を経て俺たちは東京武偵高校での学校生活1年目を終えたのであった。
よもやキンジにしてはかなり平穏な学校生活が、あのピンクいのによって粉微塵に壊されるとはキンジ自身は思ってなかっただろうな。だって面識がある俺でさえあそこまでとは思わなかったからな。
今回で1年生編は終わりです!目安としては50話くらいでまとめる予定だったのに…ドウシテコウナッタ
誤字等はそっと報告していただけると助かります。というか助かってます。
次回からは2年生になる…はず。
つまりは…ももまんの権化、顕現
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第69話
やっっっと原作1巻の内容に入ります。ピンクいのことアリアのファンの皆様おまたせいたしました。
それでは第69話、よろしくお願いします。
「…司さん、零司さん。そろそろ起きてください、6時です」
「…んぅ…。おはようレキ、今日も早いな」
「おはようございます、零司さん。春休みが終わって今日から1学期なので準備は早めにした方がいいですよ」
「もう出来てるよ」
時間が過ぎるのは早いと良く言うが、その過ぎ行く時の中でも変化は色々ある。例えばレキが俺の家で半同棲みたいな状態になってたり、逆にレキの部屋は俺たちの銃の整備とか作業の部屋とかになりつつあったりするのは些事と言っても過言じゃないだろう。
……まぁ
そういえば変化といえばキンジも色々変わってたな。まず
朝食を作りながらそんなくだらないことを考えてたのだが…そうか今日から2年生か。今年はチーム編成とかも考えていく年になるのか。
「なぁレキ」
「なんですか?」
「お前は今年決めることになるチーム編成とか考えてるか?」
隣で漬物を切っているレキは包丁を動かす手を止めて少し考えている。あ、そういえば最近のレキは朝昼晩の食事にカロリーメイトを摂る頻度が下がった。俺がご飯を作るからっていうのもあるが、一番はレキ自身が料理を白雪あたりに教わってるのもあるだろう。元々手先はその
そんなレキはどうやら結論がまとまったらしい。
「零司さんについていきますよ」
「…多分ついていくのは俺の方だろうがな」
いやぁ、最近は平和で良き哉良き哉。願わくばこんな穏やかな時が続けば良いものだが。
……続かないんだろうなぁ。
〜〜〜〜〜
クラス分けされた2年A組のメンツを見てみるとまぁまぁ見知ったメンツがたくさん。レキはもちろんのこと、理子や不知火、武藤までいる。あとは…始業式になぜか現れなかった俺の元相棒兼親友のキンジもいる。ぐったり机に突っ伏してるけど。
「1学期の始業式からサボるとか、お前はいつから不良になったんだ?」
「違う。これは断じて俺の意思じゃない」
「本当か〜?着衣の乱れといい、汗をかいた跡といい、寝坊したから急いでチャリで来ましたって言ってるようなもんだが」
そう言って俺は自分のベルトをポンポンと示す。ぐったりしててもズボンにベルトが通ってないのくらいは見えるぞ。
「…朝から事件に巻き込まれたんだよ」
「…なるほどな。ご愁傷様」
…さっき周知メールで来てた自転車爆破事件の被害者がキンジなのか。やっぱり運の悪さには定評があるなコイツ。
なんて話をしていたらがらりら。HRをするために今年の担任である高天原ゆとり先生が入ってきた。
我が校の教師にしてはかなり穏やかで気が弱い、我が探偵科の担当教師こと高天原先生。…その実、傭兵あがりだから全く油断ならない。そもそも蘭豹先生と綴先生という武偵高屈指の危険人物とルームシェアしているのに無傷なんだから警戒しないわけがない。
「はいはーい、みなさん席についてくださーい。HRを始めますよー」
穏やかながら、勘がいい奴が気づくか気づかないかギリギリの威圧感のある声を出しながら入ってきた高天原先生に従って全員が席に着いた。ちなみに自由席なので名前順もへったくれもない。多分明日は明日で席順変わってるんだろうな。
「うふふ。じゃあまずは去年の3学期に転入してきたカーワイイ子から自己紹介してもらっちゃいますよー」
ん?3学期に転入?まさか…。
ニコニコの高天原先生に促されて教壇に上がったピンクブロンドを見て思わず天を仰ぐ。なるほどな、ここに繋がってくるのか。
教壇に上がったピンクブロンドこと神崎・H・アリアは、あのバカことシャーロック・ホームズの直系の曾孫。ロンドン武偵局の若きエースとしてヨーロッパで仕事している押しも押されもせぬSランク強襲武偵様だ。俺が知ってる限りは99回連続1発の強襲で犯罪者を逮捕しているとかいうとんでもない奴。ヨーロッパに留学してた時に何回か共同で仕事したことがあるが、まぁ人の話を聞かない、猪突猛進の脳筋気味な癖に天性の勘でピンチは全て乗り切るとかいう、俺が言うのも変な話だが頭おかしいことを成し遂げてる奴なんだが…
「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」
…ボーッとしてたらなにやらアリアは後ろの方を指差してご指名。というかそっちは確か…?チラッと後ろを見やると『勘弁してくれ…って顔で椅子から転げ落ちたキンジがいた。南無三。
そこから一気に盛り上がるアホ共や余計な気をきかせる武藤、恋愛脳ここに極まれりのトンチンカン推理を披露する理子によって教室は一気に馬鹿騒ぎに。てかそこでニコニコしてる高天原先生、こういうのを諌めるのが担任の役目だろ。
俺は理子と武藤を軸に盛り上がるアホ共を尻目に再びアリアの方を見る。俺の記憶が正しければ確かこいつって…あっこれやばいな。即座にレキに暗号を送って机の下に入るように指示する。噴火3秒前、2、1…
ずぎゅぎゅん!
ほらやっぱり。アリアは恋愛話が大のニガテ。確かデ○ズニーの映画で顔が真っ赤っかになってたくらいには苦手なはず。そんな奴を炊きつけたらまぁこうなるよな。
「れ、恋愛なんて……くっだらない!」
まぁ今日は
「全員覚えておきなさい!そういうバカなこと言うヤツには……」
あぁ、まだ言ってるのねその台詞。
「風穴開けるわよ!」
〜〜〜〜〜
あんなインパクト満点な自己紹介のネタにされたキンジにはやはりと言うかなんと言うか、昼休みにアホ共から質問責めにあっていた。すごい逃げたそうな顔をしていたキンジが思わずかわいそうになってしまったので、こっそりまばたき信号で『ジュウゴビョウ カセグ』と伝えて簡易的なフラッシュバンを放ってやった。……借り1な。
これでうるさい連中もまとめて全員(逃げたキンジを追って)外に出て行ったのでゆっくりとレキとお昼を取れると思っていたのだが。
「……」
「……」
「……」
「………なんか言えよ、アリア」
俺とレキは見事にアリアにとおせんぼうされている。正直逃げるのは簡単なんだが後のことを考えたら得策ではない。…少し付き合うか。
「キンジについて教えなさい、零司」
「キンジねぇ。俺は何も知らんぞ」
「嘘ね。中学の時に話してた相棒、あれキンジでしょ?」
よくそんな昔の与太話なんざ覚えてるものだ。いや俺も覚えてるけども。日本で何をしてたの?みたいなことを聞かれた時に少し喋ったか。
「……はぁ、まぁいいか。レキ、こいつとも一緒にお昼食べるぞ。アリア、こいつはレキ。狙撃科のSランクだ」
「レキです。よろしくお願いしますアリアさん」
「こっちもアリアで良いわよ、よろしくね」
「それで?何が聞きたいんだ」
「さっきも言ったけどキンジについて。どんな武偵でどんな実績があるのか。戦闘のタイプはどういったものなのか洗いざらい教えなさい」
「それはお前が昔言ってたパートナーの候補としてキンジがあがったってことか。……まぁ洗いざらいは教えないけど現状教えても良い範囲だけはヒントをやる。それでいいな?」
「……まぁいいわ、それで?キンジってどんな人なの」
あんまん…確かももまんだったか?を頬張りながらアリアは先を促す。相変わらず人使いは荒いようで。
「今は探偵科のEランクだけど、それは去年度末の考査に出てないから。入学時は強襲科のSランク。まぁ、抜き打ちで隠れてた試験教官まで全員捕縛したって言ったらどのくらいの実力なのかわかるだろ」
まぁここまではデータを探せばすぐ出てくる程度のものだ。俺が言わなくても調べはつくだろ。
「んで戦闘のタイプか。堅実に相手の特徴を抑えつつ制圧するタイプかなぁ、強いて言えば。相手が格上の時に意外性のある一手で戦況をひっくり返せる度胸も…まぁある」
「やっぱりすごい奴なんじゃない!零司の相棒なだけはあるわね」
「元、な」
間違いじゃなかったんだわあの時のアレは!などとふんふん頷いてるアリア。まぁここまではいいデータを先に開示したわけだしいい食いつきになるわな。
「……ただし」
「ただし?」
「キンジはいい時の出力と悪い時の出力の差が大きいんだよ。俗な言い方をすればムラがあるって奴だ。そのムラの理由は…いやこれは俺が話すことじゃないな」
「何よ、言いなさいよ」
「人様の個人情報をその人の知らない所でむやみやたらと流す奴がいたとして、お前はそいつを信用できるか?」
「…あまり信頼は置けないわね」
「だろ?そこから先の情報は
まぁキンジは絶対言わないだろうがそれをいうのは無粋という奴だ。…さて、ここからは俺のターンだ。
「にしてもキンジがねぇ…。なんでアイツなんだ?朝の周知メールの件か?」
「……アンタには教えない。というか教えられない」
あーはいはい、その返答までのラグと赤面で全て理解しましたよっと。
まず周知メールの被害者、つまり自転車を爆破されたのはキンジで確定。そしてそんな哀れなキンジを
自転車を爆破されるってのがどういう状況なのかよくわからんが目視で視認・解除できない上に普段確認しない箇所、俺ならタイヤのホイールの中とかサドルの裏とかって場所が思いつくが、ともかくその辺に爆発物をくっつけられたんだろう。
そして救出したときにアリアとキンジで
「ふーーーん、まぁそんなアリアに1つだけ教えてやる。キンジは押しに比較的弱いが押しすぎると意固地になる。まぁ要は加減が大事って奴だ」
「な、なんの話よ!」
「さぁ、なんの話だろうな?」
まぁあんまりイジると
「……まぁいいわ。また何かあったらアンタら2人にも協力要請するからそのつもりでいなさい」
「他の依頼が空いたらな」
「わかりました」
相変わらず素直にモノを言えない奴だな。この調子じゃキンジを懐柔するのも時間がかかるだろう。
俺はクラスのアホどもに追いかけ回されてどこにいるかもわからないキンジに向けて心のなかで合掌しておくことにした。南無三。
感想や誤字報告等、そっとしていただけると助かります。
というか助かってます。(このフレーズ使いやすいかも?)
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