総統が鎮守府に着任しました! (ジョニー一等陸佐)
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1話 鎮守府で目覚める~ヒトラー復活~

 いったい、これはどういうことなのだろうか?何故こんなことになっているのだろうか? 

 ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは現在の状況に困惑していた。気づいたら、自分は総統地下壕ではなく、見知らぬ砂浜の上でぶっ倒れていたからだ。夢ではないかと、自分の頬を何度か叩いてみたが、痛みを感じたし、第一意識もはっきりしている。ヒトラーは自分が総統地下壕ではなく、見知らぬ砂浜にいることが現実であることを認識した。

 訳が分からず、ヒトラーは自分の部下を呼びつけた。

 「デーニッツ!デーニッツはどこだ!ボルマンは?ゲッベルス!!」

 だがいくら呼んでも人影どころか返事すらない。

 とりあえず彼は自らの状況を整理することに決めた。

 思い出してみよう。

 自分はつい先ほどまでベルリンの総統地下壕にいたはずだ。そこで戦争の指揮を執っていた。時期もはっきり思い出せる。1945年の4月30日のことだ。

 あの日はしばし国務を忘れ、妻のエヴァとともに談笑をしていた。そして、古い拳銃を取り出したところまでは覚えているのだがー

 

 自分の記憶はそこでぴったりと切れてしまっている。そして気づいたらこの見知らぬ砂浜の上で寝っ転がっていたのだ。どこをどう考えても、こんな状況になる要素は考えられない。もしかして、戦局の悪化に伴い部下が自分に知らずに亡命をさせたのだろうか?いや、だったらこんなことにはならない。あるいは、総統地下壕が攻撃を受けて気づいたらここに放り出されたのか?それもないだろう。いずれにせよ、辺りは静かで、戦闘とかそういうものは何も起きていないようだ。

 こうなれば、自分でこの状況をどうにかするしかない。

 

 立ち上がってあたりを見回してみた。遠くの海では何隻か船が見える。

 陸地のほうを見ると、遠目に、レンガ造りの建物が見えた。

 あそこに行けば何かわかるだろう。

 ヒトラーは建物に向かっていった。

 

 

 とある鎮守府(の門の前)

 「遅いわね・・・。いつになったら来るのかしら」

 吹雪型駆逐艦5番艦の叢雲はそばにある時計を見て、苛立った声を出した。

 今日はこの鎮守府に新しく、提督が着任する予定のはずだ。それなのにもうとっくに、予定の時間を過ぎている。大本営に何度か連絡したが、「交通渋滞に巻き込まれたか、そこらでトイレにでも行っているんだろう」とまともに取り合ってくれない。

 「はぁ・・・こんなに遅れるようじゃ、あんまり期待はできないわね・・・」

 叢雲はため息をついた。

 「本当ですね・・・いったい何があったんでしょう?」

 軽巡洋艦の大淀も首をかしげた。

 叢雲は背伸びをしながら「まぁ、遅れって言っても急ぎではないし・・・って、まさかあいつじゃないわよね?」と言い、おもむろに向こう側に指を指した。

 「え?」と大淀。

 眼鏡をかけなおし、見てみると、確かに海岸から誰かが歩いてきた。

 大淀はさらに目を凝らして確認した。

 服装は、緑色のコートに帽子、顔にはちょび髭が見て取れた。

 慌てて手にあった資料にある顔写真と、こちらに歩いてくる人物の顔を見比べる。

 「あ・・・確かにあっていますね。たぶん提督です」

 「ようやく来たのね、まったく・・・」

 二人は新たに着任してくる提督を迎えるために、その人物の下に走っていった。

 

 レンガ造りの建物に歩いていたヒトラーはそこから二人の少女がこちらに向かって来るのを確かめ、さらにその足を速めた。

 二人の少女は髪型は共通しており、腰まで届く髪に前髪を一直線に切っている(ヒトラーはのちにこれを「ぱっつん」というのだということを学んだ)。髪の色は一人は銀髪、もう一人は 黒い髪に眼鏡。二人とも、セーラー服のようなものを着ている。

 思えばここに来るまでおかしなことばかりだった。たまにすれ違う人々はアーリア人ではなくアジア人ばかりだったし、誰もが自分を見ても「ハイルヒトラー!」と言わずにくすくす笑うか、そのまま通り過ぎるだけだった。店の看板の文字はドイツ語ではなく日本語だった。

 何もかもがおかしいことになっており、早くこの事態をどうにかせねば・・・と思っていたら気づけばレンガ造りの建物の前に来ていた。二人の少女も目の前にいる。

 近づいてみると、二人とも美少女だったが・・・やはりアジア系の顔立ちだった。

 ヒトラーは意を決して二人に話しかけようとして、先に二人のほうが話しかけてきた。

 「あの・・・提督、ですか?」

 「は?」

 いきなりのわけのわからない質問にヒトラーは困惑した。

 「いや、あんた何言ってんの?あんたが此処の新しい司令官じゃないの?ま、せいぜい頑張ることね」

 「いや・・・ご婦人たちよ、勘違いをなされているようだが私は司令官ではなく総統なのだが・・・」

 「総統って・・・何をおっしゃられているんですか?

 どうも話がかみ合わない。

 誰も自分を、ドイツ第三帝国の総統として認識していない。

 ますます困惑したヒトラーは、ふとそばにあるポストに新聞があることに気付いた。

 人と話してもますます混乱するばかりだ。新聞のほうが信頼できるのではないかー。

 ヒトラーポストから新聞を取り出した。上中央に青い字で『経産新聞』とある。これも日本語だ。だがヒトラーが注目したのは日にちのほうだった。そこにはこうあった。

                                                    2016年4月7日

 

 馬鹿な。今は1945年のはずだ。

 もう一度新聞を見てみる。

 

 2016年。2016年。2016年。

 

 もはやヒトラーの頭脳をもってしても事態は収拾のつかないことになった。

 突然、ヒトラーの腹から、ぐぅ、という音がして直後目の前がぐらぐらとしてきた。目に見える景色や人がぐにゃぐにゃして見える。睡魔にも似た感覚が襲った。

 はたから見れば、ヒトラーが突然酔っ払たように見えただろう。

 「あ、あの提督?どうなさってー」

 大淀が再度話しかけようとした途端、ヒトラーは二人の目の前にバタッとまたぶっ倒れてしまった。

 「あの、提督!?」「ちょっと、あんた大丈夫なの!?」

 二人の言葉が耳に入りきらないうちに彼の意識はまた途絶えてしまった。

 

 

 



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2話 何故ここに来たのか?~ヒトラー提督着任~

 ヒトラーが再び、目を覚ました時最初に目に入ってきたのは、心配そうにこちらの顔を見る少女の顔だった。眼鏡にセーラー服、腰まで伸ばした髪。先ほどあった少女だ。

 「気づかれましたか?」

 「ここは・・・」

 「医務室です、提督。突然倒れて、心配しましたよ」

 ヒトラーが無事に目を覚ましたからだろう、少女は安堵の表情を見せた。

 だが、彼には確認しなければならないことがあった。

 「ここはどの国で・・・今は何年かね?」

 「よっぽど疲れていらしてたんですね・・・日本、2016年ですよ」

 ヒトラーは言葉に詰まった。

 新聞には2016年とあったし、目の前の少女もそういっている。しかもここは日本だという。

 思えば、砂浜で覚醒してからこの建物に着くまでおかしいことばかりだった。周りを歩く人物は皆アーリア系ではなくアジア系の人間だったし、建物の看板などはドイツ語ではなく日本語だった。かくいう自分もどういうわけか日本語を理解できる。そして誰も自分を、総統として認識していない。

 いったいこれはどういうことだろうか?

 忌々しい共産軍どもが自分をひっとらえ、何か情報を得るためにわざわざ巨額の資金や技術を投入してこんなことをしているのだろうか?

 いや、連合軍の勝利が確実の今、そんなことをする必要はないだろう。

 他にも同盟国の日本に亡命したなどが考えられたが、それも可能性としては低い。

 信じがたいことだが、一番考えられるのは自分が約70年後に飛ばされた、ということだ。

 人間という生き物は突然の、信じがたいことには慌てて我を見失うが、いったん落ち着けば案外冷静に行動するものだ。

 「ご婦人、助けていただいて感謝する。あなたの名前をお聞きしたいのだが・・・」

 「ああ、自己紹介が遅れましたね。失礼しました」

 少女は立ち上がった。

 「私は軽巡洋艦の大淀と申します。いろいろあると思いますが提督、よろしくお願いします」

 ヒトラーは少女の自己紹介に一瞬目をぱちぱちとさせた。この子はいま何と言った?自分のことを軽巡だといわなかったか?

 「あの、君、軽巡とはいったい・・・」

 「え?何かおかしいこと言いましたか?」大淀と名乗った少女はきょとんとした顔を見せた。

 「いや、何でもない」これ以上深入りしたらますます混乱することになりそうだ。ヒトラーはもう一つ、疑問に思っていたことを聞いた。

 「ところで、君は私のことを提督と呼んでいるが何故なのだ?私は総統なのだが」

 「え?あなたはここに提督として着任なさったのではないのですか?ここで私たち艦隊の指揮を執るはずですが・・・」

 この言葉を解釈すると、自分はどこかの部隊を指揮するためにここに来たらしい。

 「分かった」

 ヒトラーは頷くと、「ところで大淀君、すこしいいかね?」

 「はい?」

 こう、ますます事態が混乱している以上、無理やり人に頼らずに成り行きに任せるべきだ。そして自分で行動せねば。ヒトラーはそう判断した。そしてまず取るべき行動は・・・

 

 「図書館と・・・食事はどこだね?」「あ・・・」

 大淀はさっきからヒトラーが腹をぐうぐう鳴らしてそれを手で押さえていたことにようやく気が付いた。

 

 大淀とともに間宮と呼ばれる女性が作った料理(大淀はカレー、ヒトラーは野菜炒めを食べた)に舌鼓を打った後、ヒトラーは建物内にある資料室に一人こもり本をむさぼり読んでいた。

 この空白の約70年間何をしていたのか。何があったのか。新たな事実がヒトラーの脳に入るたび、驚愕した。事実をまとめていくと、次のようになった。

 

・アドルフ・ヒトラー、つまり自分は1945年4月30日に死亡したことになっている。死因は自殺。確かに、信頼できる部下とその可能性について話した記憶がある。そしてあの時拳銃を取り出したのは自殺するためだったのか?だがいずれにせよ、自分はいまこうして生きている。

 

・ドイツ第三帝国は敗戦。関係者は自殺、もしくは敵の裁判(ニュルンベルク裁判)で死刑になりドイツはアメリカとソ連により東西に分割された。領土も縮小された。ゲルマン民族の生存権を取り上げられた挙句、祖国を分割させられるとは何たる悲劇だろうか!しかも忌々しい共産主義者どもの属国にされるとは!

 

・中東にユダヤ人によってイスラエルなる国家が建国され、ユダヤ人はそこに定住するようになった。ドイツでもユダヤ人の数は激減し、ユダヤ人問題はある程度肩の荷が下りたわけだ。しかし現在ドイツは移民と、彼らによるテロ問題に悩んでいるらしい。

 

・ソ連は崩壊(万歳)し、いくつかの国に分裂、ドイツはようやく統一された。そのドイツを率いているのは不格好な女首相(名前は出さない)だ。     

 

・2005年ごろから世界各地の海域で船舶が突然撃沈されるなどの事件が相次いだ。

 

・2007年ごろにはその攻撃が都市も対象になるなど大規模なものになり、その攻撃者が人類ではなく異形の生物であることが分かる。それは後に深海棲艦と名付けられた。

 

・2008年、人類と深海棲艦が本格的な全面戦争に。人類側は陸地への侵攻は食い止めたものの、9500~10500万人が死亡・行方不明に。戦力の50%を喪失。海も約7割が奴らに奪われた。同時に人類側もWWⅡで活躍した艦艇の魂を少女化した「艦娘」を開発し、対抗をし始めた。

 

・その後、人類は全体で5割の海を奪還、2016年現在まで一進一退の状況が続いている。

 

 

 これで何がどうなっているのか分かった。自分は1945年に死ぬはずだった。だがこうして現代にタイムスリップした。そして自分はここ日本で、彼女たちに司令官、提督として迎え入れられた。彼女たちはその艦娘なのだ。だから自己紹介の時自分を軽巡と言っていたのだ。そして自分は今、提督としてここにいる。

 

 しかし、なぜ自分がこうなったのだろうか?なぜ自分が選ばれたのだろうか?

 新たな疑問が渦巻いた。それは新たな世界に突然、導かれたものなら当然持つ疑問だ。

 そしてすぐに答えは出た。これは運命なのだと。自分にしかできないのだからと。

 思い出せ。

 かつて一人の男がいた。その男は一介の伍長に過ぎなかったが、地獄の戦場を奇跡的に生き延びた。敗戦の屈辱を味わいながらも少数政党に入党し、小さな酒場で演説の才能を咲かせ、一大政党に成長させた。そして国民を導き、荒廃した祖国を立て直し、ついには全ヨーロッパを征服した。

 その男とはいったい誰だ?

 自分、アドルフ・ヒトラーではないか!

 何が男にそうさせたのだ?神の垂らした運命の糸を見つけ、辿って行ったからだ。

 そしてこれも、またそれだとわかる。

 この世界で自分は何をすべきなのだろうか?それも簡単だ。総統としてもう一度人々を率いてこの世界を動かすことだ。ことはゲルマン民族だけではなく、人類全体にかかわることだなのだから。

 自分にできるのか?できる!これは運命なのだから!かつて自分は世界を動かしたのだから!

 これはチャンスだ!もう一度戦うのだ!民族の、人類のために!

 「私はやり遂げてみせるぞ!必ずこの闘争に勝利してみせる!!」

 ヒトラーは資料室で一人、大声で叫んだ。

 「うるさいわね!!何時だと思ってんのよ!!」

 隣から駆逐艦の叢雲の怒鳴り声が響いき、すでに夜になっていたことにようやく気付いたヒトラーだった。

 

 何はともあれ、ヒトラーはこうして新たに鎮守府に提督として着任し、戦うことを決意したのだった。

 

 

 




 なんか中二病の文章になってしまった・・・。これから登場させてほしい艦娘&総統一味の名前をコメントしてくれたらうれしいです。
 早く総統閣下シリーズのあの名シーンやりたいな・・・ 


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3話 ガソリン臭い制服と名前~アドレス設定狂想曲~

 資料室で少し仮眠をとった後、ヒトラーは執務室に向かった。すでに夜は開けており、窓から日の光が差し込んでいる。

 執務室に入ると、すでに大淀が待機していた。

 「おはようございます、提督」

 「おはよう」

 ヒトラーは革張りの椅子にゆっくりと座った。キィと音がした。

 「提督、朝食は済ませましたか?」

 「いや、まだだ。後で食べるよ。それよりも、今日の予定を聞きたいのだが・・・」

 「提督、いけませんよ。ちゃんと食べないと。指揮官が倒れたら困りますし、倒れた時もおなかを鳴らしていましたよね?」

 心配する母親のような様子に、ヒトラーの表情が緩んだ。

 「そうだね、では予定を聞いたら食べに行こう。コックには私が菜食主義者だということを伝えてくれないか?」

 「分かりました。でもその前に提督・・・」

 ヒトラーは大淀が鼻をひくひくさせて顔をしかめているのに気が付いた。

 いったいどうしたのだろう、と首をかしげていると「あの・・・言いにくいんですが・・・臭いです」

 「なに?」

 「服。ガソリン臭いです」

 ヒトラーは制服のにおいをかいでみた。確かにガソリン臭い。ヒトラーは文献に自分の遺体が自殺後、ガソリンで焼却されたと書いてあったことを思い出した。

 仕事の前にやることがあるようだ。

 

 朝食を済ませた二人は工廠に向かった。

 目的はガソリン臭いヒトラーの制服をクリーニングに出すことだ。

 普通のクリーニング店に出すよりも明石なら素早く仕上げるだろうとのことだった。

 「提督の服のクリーニング、お願いします」

 「え?建造とか開発とかじゃなくてですか?クリーニング?まぁ、出来なくはないけど・・・」

 「私の服がガソリン臭いのだ。総統たるものが身だしなみをしっかりせねば兵を率いることは適うまい」

 明石はヒトラーに近づきながら、「確かにこれはきついですよね・・・クリーニングには少し時間かかりそうです。とりあえず、クリーニングの間の着替えはありますよね?」

 「着替え?」

 ここにきてヒトラーは自分の所持品がこの服だけで、ほかに着替えはおろかお金も、武器も何もないことに気付いた。

 ヒトラーの疑問に答えたのは大淀だった。

 「提督、大丈夫ですよ。これがあります」

 そういって大淀は白い服を出した。それは旧日本海軍の将校の制服だった。

 「クリーニングの間、というよりこれからはこれを着てもらいます。」

 「これからは?」

 ヒトラーは少し驚いた。

 「大淀君、言っておくがこの服が私の制服なのだ」

 「まぁ、提督にとってはそうかもしれませんけど、ここじゃそれが制服なんです」

 「それはたぶん、私には似合わないだろう」

 「でも・・・」

 と押し問答があったのち、ヒトラーは衣服を明石に渡した後(ちなみに制服だけでなく下着もガソリン臭かったので着ているもんは全部渡した。)、大淀の渡した服に着替えた。結果は・・・

 

 ダサかった。

 サイズはあっているのだ。似合っているのだ。似合っているのだがダサい。そういうと何言ってんだコイツ、となるが要はなんかこう、違和感があるのだ。これじゃない感があるのだ。言葉ではうまく説明できないがそんな感じがした。

 その場にいた三人全員がそんな風に感じた。

 「だから言ったんだ。」

 「・・・でもそれがここの制服ですし。」

 「申し訳ないがこれは着ない。似合ってもいないものを着ても士気が上がるわけがない。」

 明石もうなずいた。

 「確かに、さっきの制服のほうが十二分に似合ってますよ。」

 「・・・」

 大淀も黙った。確かに、制服のほうが似合っている。提督らしい。どういうわけか。

 

 結局、ひと悶着あって、クリーニングもすぐに終わり元の制服を着ることにした。

 

 執務室に戻りながら、大淀はヒトラーに問いかけた。

 「あの・・・失礼なことお聞きしますが・・・お名前、改めて教えてくれませんでしょうか?実は書類には提督の顔写真しかのっていなくて名前書いてなかったんですが」

 「アドルフ」

 「はい?」

 「ヒトラー。アドルフ・ヒトラーだ」

 「冗談でしょう?」

 「この顔が冗談を言っているように見えるかね?」 

 ヒトラーは廊下で立ち止まった。大淀もそれに合わせて立ち止まる。

 「誰が何と言おうと、私という存在はアドルフ・ヒトラーという存在だ。そしてそのことは私自身がよく認識している。私がアドルフ・ヒトラーであるということに変わりも間違いもないのだ。だから君はその事実を受け入れればよい。もう一度言うが私の名はアドルフ・ヒトラーだ。分かったね?」

 「・・・はい」

 大淀はなぜか断ることができなかった。なぜか目の前の本人の言っていることが正しいように見えたし(実際正しいし容姿もそっくりだ)断れないようなオーラを感じたからだ。

 彼は前の世界ではかつてはヨーロッパを征服した独裁者だ。

 それはここでも変わらない事実だ。

 「それともう一つ。君はさっきから私のことを提督と呼んでいるが今度から私のことは、総統、あるいは総統閣下と呼んでほしい。いいかね、大淀君?」

 「え?」

 「かつてはそう呼ばれていたのだ」

 ヒトラーはそう言って窓の向こうを見つめていた。

 「・・・分かりました、総統」

 大淀はそう、うなずくだけだった。

 

 執務室に着くと、ヒトラーは今日の予定を聞いた。今日は着任の手続きなどの事務仕事をしたのち、鎮守府を見て回り、艦娘たち着任の挨拶をしたのち演習、ということだった。

 

 その事務手続きの中で、こんなことがあった。

 

 「あの、総統閣下メールアドレスはどうしましょうか?パソコンの」

 「めーるあどれす?ぱそこん?」

 ヒトラーは当然、そんなもの知らないので一から説明を聞くことになった(大淀は説明するたびに「あの、私こういう風に一から説明しないといけないんですか?冷凍保存されて未来に目覚めた人みたいに?」と言っていた。実際事実だった)。

 結局、ヒトラーはパソコンをタイプライター、メルアドを通信用の鍵、及び住所のようなものとしてとらえた。

 「タイプなら、私は使わない。口述筆記してもらえればそれでいい」

 ヒトラーはそういうことはボルマンやユンゲにまかせきりにしていた。

 「でも、いつも私がそうできるとは限りません。自分で使わないといけないときもありますよ。それに仕事上結構頻繁に必要になりますし」

 「そうか・・・」

 「それで総統閣下、メールアドレスはどうしますか?」

 大淀はパソコンを前にして隣に立つヒトラーに聞いた。

 「アドルフ・ヒトラーで」

 「・・・それ、もう別のいかれた人が確保しちゃってると思いますけど・・・」

 「構わんやりたまえ」

 大淀はアドレス設定のページにアドルフ・ヒトラーと打ち込んだ。

 

 結果は、「その名前は既に使われています」だった。

 

 「なぜだ!アドルフ・ヒトラーは私だけのはずだ!なぜ私の名前を私が使えないのだ!」

 「仕方ありませんよ!もう使われちゃいましたから!」

 ヒトラーはなぜだかこう叫びたくなった。

 

 「畜生めー!」と。

 

 結局メールアドレスはひと悶着あって「新総統官邸」に決まった。

 これは余談だが、この後ヒトラーはパソコンで「インターネッツ」「ウィキペディア」に感動しかなりドはまりすることになる。




 次回は初めての出撃&建造です。近いうちに出します。
 ゲッベかアンポンタンもそろそろ出そうかな・・・


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4話 出撃と建造~お嬢さん、泣かないでくれ~

 いろいろ一悶着あってヒトラーと大淀が事務仕事を終えた矢先、突如鎮守府内にサイレンが鳴った。

 突然の出来事にしかしヒトラーは冷静だった。

 「・・・敵襲かね?」

 「はい!総統、すぐに迎撃の命令を!」

 ヒトラーは頷き、「ちょうどいい、私は艦娘の戦闘や深海凄艦がどういうものか見たことがない。こういうのは初めてだ。この目でしっかりと見させてもらおう」

 「分かってます、提督・・・じゃなかった、総統のサポートが私の仕事ですから」

 そういって大淀は執務室のドアを開けて出て行った。「ついてきてください」

 戦闘指揮所に行くのだろうと判断したヒトラーはすぐに立ち上がり大淀の後をついていった。

 戦闘指揮所は執務室のすぐ近くにある地下室にあった。

 中はコンクリート造りで、殺風景でしかし堅固そうな作りだった。

 通信機器やその他戦闘に関係のありそうな機具が所狭しと並んでいる。

 大淀はしばらく何かの機械をいじっていたがすぐにヒトラーに向き直った。

 「総統、敵は深海凄艦の駆逐艦1隻だけです。恐らく艦隊からはぐれてここに来たのでしょう」

 「現在出撃可能なのは?」

 「駆逐艦の叢雲だけですが・・・十分やれます。彼女、ベテランですし」

 「よし、すぐに出撃させろ!」

 

 このときサイレンが鳴った時点で叢雲は装備を装着してドッグで待機、あとは出撃命令を待つだけだった。

 すぐにその時はやってきた。

 出撃を意味する赤いランプが鳴りドッグの扉が開いていく。通信機具には敵の位置情報が届いていた。

 叢雲はすぅ、と息を吸った。

 「--出撃するわっ!」

 機関が動き出し、彼女は敵の待つ海域へ向かった。

 

 「大淀君、戦闘の様子を見ることはできないかね?」

 「偵察機を飛ばしました。そこから映像を送ります」

 目の前にあるモニターに光がともった。

 ヒトラーの目に映ったのはまず、青い、波が立つ海。そして真ん中には黒い魚のようなものが写っていた。頭部がやけに巨大で、表面はまるで装甲におおわれているかのように金属光沢がある。何より、むき出しの歯が印象的だった。

 「・・・これが・・・深海凄艦」

 「そうです。これは駆逐イ級と呼ばれるもので、そして、人類の敵です」

 ヒトラーの目には少なくともルックスだけでも邪悪なものに見えた。

 「総統、来ました。」

 映像に新たな被写体が写った。

 それは艤装を身に着け、海上を走る叢雲だった。

 その顔に恐怖は感じられない。余裕であることが一目でわかった。凛々しい少女の姿に思わずヒトラーは

 「美しい・・・」

 とつぶやいた。(誤解を防ぐために言っておくがヒトラーは決してロリコンではない。彼の興味、嗜好が胸部装甲にあることは後の話で明らかになろう)

 

 イ級が口の中にある主砲を叢雲に向かって砲撃した。

 しかし、砲弾は発射されてから目標に到着するまで時間がかかる。

 叢雲はすぐに進路を変更しわずかな時間の後、近くに激しい音を立てながら水柱が立った。

 その間にも叢雲は敵にかなり接近していた。

 手にした12.7cm連装砲をイ級に向かって撃ち込んだ。同時に四連装魚雷も発射。

 叢雲の放った砲弾はイ級に直撃。よろめいたところへ追い打ちをかけるように魚雷が直撃し次の瞬間イ級が爆発を起こした。

 巨大な水柱が立ちしぶきがかかった。

 水柱が消えた時にはそこにあったのは何かの残骸のみだった。

 

 「総統、敵は轟沈!完全勝利です・・・総統?」

 「これさえあれば・・・ベルリンの共産軍のみならず・・・スターリンに一泡吹かせてやれたのに・・・ブツブツ・・・」

 大淀が振り向くと、ヒトラーは勝ったのに悔しそうな表情で何かつぶやいている。

 ヒトラーから見れば、叢雲のような存在は喉から手が出るほど欲しい存在だ。これがあればソ連軍に対抗することができたかもしれないからだ。

 「なにこれすごい。これくれ、ちょっとソ連滅ぼしてくる」

 「どっかで聞いたことあるような気がしますけど・・・言っておきますけど艦娘の装備は普通の人間には扱えませんよ」

 それを聞いてヒトラーは残念そうな顔をした。「そうか・・・」

 「とにかく!完全勝利ですよ!早く迎えに行きましょう」

 「それはもっともだ。英雄は祝福されるべきなのだから」

 ヒトラーたちは港へと向かった。

 

 叢雲が鎮守府に帰還した時、すでにそこには大淀とヒトラーが待っていた。

 「よくやってくれた。素晴らしい戦いぶりだったよ。」

 叢雲は胸を張った。

 「あれくらい余裕よ。なに、不満なのっ!?」

 突然彼女は声を張り上げて驚いた。

 ヒトラーが突然彼女の手を握り握手し、ついでに頭を撫でたからである。

 結構強めに、しっかりと。

 「いや、不満など何一つない。だが君はまだ少女だ。無理をしないように。若者、特に子供は未来なのだから」

 ヒトラーは微笑むと、そのまま執務室に向かって歩き出した。

 叢雲少し顔を赤くしていた。突然握手と頭を撫でられて驚いたのと、少しうれしかったのと、ベテランなのに子ども扱いされて悔しかったこと(これが一番大きかった)諸々の理由で。

 ・・・しつこいようだが総統はロリコンではない。

 

 昼食を済ませたのち、ヒトラーと大淀は工廠に向かった。開発と建造の説明をするためだ。

 「総統、艦娘とその装備は燃料、ボーキサイト、鋼材、弾薬の4つに開発資材と呼ばれるものを組み合わせて行います。・・・錬金術みたいなものです」

 大淀は開発資材を見せた。歯車の形をしており、クッキーのような大きさと質感だった。

 目の前には巨大なコンテナのような箱が二つ並んでいる。

 「どのように資材を入れて加工するのだ?」

 「側面に穴がありますよね?そこに材料とこの資材を入れてください。そしたらあとは勝手にやってくれますから。」

 便利なものだと思いながらヒトラーは資材を投入した。次の瞬間ゴトゴトと騒がしい音がしてコンテナが揺れた後、コンテナから手のひらほどの小人の少女が何人か表れてもう一つのコンテナと忙しそうに行き来を始めた。

 思わず、言葉に詰まる。

 小人というこの世に存在しないはずのものがいたからだ。

 「彼女たちは妖精さんと呼ばれる存在です。建造、開発、修復・・・彼女たちなしでは戦うことはできません」

 「・・・妖精?私は夢を見ているのか?」

 「みんな最初はそう言いますね」

 フフッと大淀は笑った。

 

 約20分後

 

 「建造が終了したようです」

 大淀の言葉と同時にコンテナの扉が開いた。

 もわっと煙が大量に噴き出してきた。そのなかにうっすらと人間のシルエットが確認できた。

 

 煙が晴れた時、現れたのはセーラー服を着た黒い髪を肩まで伸ばした、寝癖のようにぴょんと飛び出ている髪の毛が印象的なこれまた美少女だった。(ヒトラーはこれをアホ毛というのだということを後に知ることになる)

 「特型駆逐艦・・・綾波型の『潮』です。もう下がってよろしいでしょうか・・・」

 潮と名乗った少女は少しおびえているようだった。

 当然、普通の大人なら、心配はかけまいとするものだ。

 「この鎮守府の司令を務めているアドルフ・ヒトラーだ。、潮君。そう、怖がる必要はない」

 彼はそう言って、彼女の頭を撫でようとしてーー

 「ひゃあっあまり・・・触らないで・・・ください」

 安心するどころか怖がられた。少し目が潤んでいる。

 「あの、総統・・・怖がってますけど・・・」

 「畜生めぇーー!!!」

 総統は会った初対面で怖がられたのがよほど悔しかったのであろう、思わず叫んだ。

 結果としてこれはさらに潮を泣かせることになった。

 

 総統と潮の最初の仕事は関係修復から始まった。

 

 

 そのころ、叢雲は砂浜を散歩していた。

 そしてあるものを見つけた。

 

 それはぶっ倒れている人間だった。

 男性のようで外国人の顔立ちをしている。顔は少し痩せこけている。

 オールバックに黄土色の軍服のようなものを着ている。

 

 蘇ったのはヒトラーだけではないようだ。




 駆逐艦の中では潮が一番です。
 そして最後の砂浜に倒れていた男性はいったい誰でしょうねぇ・・・


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5話 忠実な側近~またまた復活~

 ドイツ第三帝国宣伝相、ヨーゼフ・ゲッベルスが目を覚ました時、最初に見えたのは木でできた天井だった。

 「ここは・・・」

 自分はベッドにいるようだった。

 ゲッベルスは辺りを見回して、驚愕した。この世にもういるはずのない人間がいたからだ。

 「ゲッベルス君・・・」

 その人間は妻のエヴァとともに自殺したはずのアドルフ・ヒトラーその人だった。

 そして、ゲッベルスは今までの記憶を思い出した。

 そうだ。 

 忘れもしない1945年の4月30日、総統閣下はエヴァとともに自殺し火葬された。

 そして、それから数日後家族とともに後を追うようにして自分も自殺したはずだが・・・。

 ゲッベルスはヒトラーのとなりに見知らぬ少女が二人いることに気付いた。

 どちらもセーラー服を身に着けており、一人は腰まで伸びた黒い髪に眼鏡、もう一人は腰まで伸ばした銀髪に前髪をまっすぐ切りそろえた少女だった。

 「私があんたをわざわざここまで運んできたのよ。感謝しなさい」

 銀髪の少女が言った。

 「あの、総統この方は・・・」

 「彼はヨーゼフ・ゲッベルス。私が信頼を置ける人物だ。ゲッベルス君、紹介しようこの二人は大淀に叢雲だ。大淀君、少し頼みがある。しばらく二人きりにさせてくれんかね。話がしたい」

 「はい」

 二人の少女は部屋を出て行った。

 ゲッベルスはヒトラーの顔を見て、「総統閣下、これはどういうことですか!?あなたはエヴァ様とともに自殺し、私も自決したはずですが・・・」

 ヒトラーは頷いた。

 「君の疑問はもっともだ。1945年4月30日、私はエヴァとともに自殺した。そのはずだったのが、神は私が死ぬのを許さなかったようでね・・・自殺の記憶もないから本当に死んだのかわからない」

 ゲッベルスはヒトラーの顔をまじまじと見つめた。

 「本当に閣下なのですか?」

 「ならばいくつか質問してみたまえ。君と私しか知りえない質問を」

 ゲッベルスはヒトラーに彼自身しか知りえないこと(総統地下壕での出来事など)を質問したが、どれも間違いはなかった。

 やはり彼は本物のヒトラーだ。そして自分も生きている・・・

 「何があったのか、これはどういうことなのか一から説明したほうがよかろう」

 そういってヒトラーは彼に今までのこと、すべてを話し始めた。

 ドイツが敗北し東西に分断されたこと。

 ここが2016年であること、つまり自分はタイムスリップしたこと。

 深海凄艦との闘い、艦娘の存在--

 どれもがゲッベルスを驚愕させるには充分であった。

 「ゲッベルス君、これは運命だ」

 ヒトラーは部屋の窓から外の景色を見た。青い空に砂浜。平和な光景だ。

 「本来なら起こりえないことが起こった。神の運命とした思えん。私は、我々はもう一度戦わねばならんのだ。闘争は存在するものすべてに与えられた義務だからだ」

 そういい彼はゲッベルスの顔を見た。

 「私一人だけだと思っていたところへ君が来た。これもまた運命」

 ゲッベルスもまたじっと彼の言葉を聞いていた。

 「もう一度ともに戦ってくれないだろうか?」

 こんなことはふつう起こりえないことだ。

 しかし事実起こった。これを運命といわずして何と言おう。

 そして自分が忠誠を誓った人物は誰だろうか。どこまでもついてゆくと誓ったのはどこの誰だ?

 自分、ヨーゼフ・ゲッベルスではないか!

 ならば言うべき答えは一つ。

 

 「Sicher Mein Führer(もちろんです、我が総統)」

 

 ヒトラーはゲッベルスの手をぐっと握った。

 ここでゲッベルスはあることを思い出した。

 「総統、私がここに来たということは家族も流れ着いてきたのではないですか?」

 「・・・残念ながら浜に流れ着いていたのは君だけだった」

 ゲッベルスは押し黙った。ヒトラーはわずかに目をそむけた。

 彼は自殺の際、子供たちも道連れにした。それはドイツ第三帝国が敗北した世界で生きられるわけがないと思っていたし、赤軍の恐ろしさも考えられると、自決が賢明だと思っていた。しかし、今こうしてみると救えなかったものだろうか、と思えてきた。

 「ゲッベルス君、君の忠誠心はうれしかったが、同時に総統として君の家族を救えなかったこと・・・特に子供のことに関しては申し訳なく思っている。だが、希望を捨ててはならない。君がここに来たのだから、家族もまたここにいずれ来るだろう」

 ゲッベルスは頷いた。

 いずれにせよ、この鎮守府に新たに仲間ができたのだった。

 

 数日後、ヒトラーは工廠の艦娘の建造装置の前にいた。

 資材を資源を投入して妖精たちがせわしなく動く。

 そして煙が、もわっとたちこめてそこから一人の少女が現れた。

 

 「よ!アタシ、摩耶ってんだ。よろしくな」

 首のあたりで切った髪にセーラー服の美少女。

 ヒトラーには男勝りの性格が見て取れた。

 「総統!我が鎮守府初の重巡です!」

 大淀は笑顔でそう言った。

 だがヒトラーはそんな言葉聞いていなかった。

 ミニスカートに美脚、そしてなによりセーラー服の襟からちらちら見える豊かな胸部装甲と谷間。

 「すばらしい・・・」

 「?」

 「まさか早速出会うことができるとは!目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 「それか!?最初に言うことがそれか!?」

 「しまった!思わず口走ってしまった・・・って、ちょま、待っててば!!」

 ヒトラーは摩耶との初対面で早速殴られた。あんなこと言ったら当然である。

 

 それから数日後。四月もそろそろ終わるころ。

 大淀は事務室で仕事をしていた。

 そこへゲッベルスが入ってきた。

 「あ、ゲッ「ペ」ルスさん、何か御用ですか?」

 「それだ。それに関して話に来たのだ」

 「?」

 大淀の頭の上にはてなマークが生まれた。

 「君、私の名前は?」

 「ヨーゼフ・ゲッ「ぺ」ルス」

 「・・・ヨーゼフ・ゲッ「ベ」ルスだ。・・・ここに来てからずっとそうだ。ペ、ではなくベなのに皆ゲッペルスと呼ぶ・・・第三帝国時代もそうだった。宣伝相なのに皆ゲッペルスとよび、ちゃんとゲッベルスと呼んでくれたのは親と総統だけだった・・・ひどいのになるとゴエッベルスと呼ぶやつも・・・」

 そういう彼の目は涙ぐんでいた。

 彼女はなんか聞いてはいけない黒歴史を聞いたような気がした。

 「私が総統についていくと決めたのも、親以外で初めて正しい名前で呼んでくれたのが総統だったからだ・・・」

 「・・・」

 「ぐすっ」

 どうでもいいことのはずなのになんか重い雰囲気になっていた。

 

 その時、鎮守府の玄関先には一人の少女がいた。

 セーラー服にキュロット、髪を後ろで結んだポニーテル。

 手帳やマイクの入った鞄を肩にかけながら少女はにっと笑った。

 彼女はこの鎮守府にはある変わり者の提督がいると噂で聞いていた。

 本名を名乗らずアドルフ・ヒトラーを名乗っているのだと。自らを総統と呼ばせていると。(実際はそれが本名で本物なのだが)

 「さて、どんな人なんでしょうねぇ・・・楽しみです 」 

 鎮守府に新たな波乱が起きそうだ。 

 




 最後の話、ゲッベルスが総統に忠誠を誓った理由等の話はもちろん冗談です。実際は彼はちゃんとゲッ「ベ」ルスと呼ばれていた・・・と思います。
 間違ってもゴエッベルスでもなく、ゲッ「ペ」ルスでもなくゲッ「ベ」ルスです。テストに出るかもしれません。
 最後に二つ。
 鎮守府の名前を募集しております。私の考えとしては鎮守府の名前にはドイツ語で狼の砦、狼の巣を意味するヴォルフスシャンツェがいいのではと持っておりますが、皆さんの意見もお聞きしたいと持っております。
 もう一つは大方のストーリーは決まっていますが、こんなネタを扱ってほしい、こんなアイデアがあるという方は遠慮なくコメントしてください。
 読んでくれてありがとうございます。


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6話 あなたは本物なの?~駆逐艦は素晴らしい~

 人間には朝型人間と夜型人間の2種類の人間がいる。

 そしてヒトラーは午後2時以前に起きることがめったになかったといわれている夜型人間だ。すなわち、夜は働いて昼は休む。

 そのため、重巡の青葉が午後3時ごろにこの鎮守府に来た時にはすでにヒトラーは就寝していた。

 「総統は夜型人間なんです」

 秘書艦の大淀は青葉に申し訳なさそうに言った。

 「新しく、遠いところをはるばる来てもらったのにすみません」

 「いいんですよ、むしろ提督に何を取材するか考える暇ができました」

 青葉は笑いながら答えた。すると、新たに、男性の声が聞こえてきた。

 「提督、ではなく総統とお呼びするように」

 声の主はゲッベルスだった。

 「君が新しくやってきた?」

 「青葉です!どうも、恐縮です!一言お願いします!」

 ゲッベルスは頷きながら「君は取材だかなんだが言っていたが、総統に用があるのなら私か彼女に言ってくれ。それと総統はいま眠っていらっしゃるから今は話しかけてはいけない」

 こうして青葉はヒトラーが午後9時に起きるまで待つことになった。

 ちなみにこのヒトラーの復活前と変わらない夜型の生活は深夜に会議をやる、夜だけでなく昼にも業務をやらねばならないなど、人手が多くなるまでしばらく側近を悩ませることになる。

 

 ヒトラーを目覚めた時、目に入ってきたのはポニーテルにセーラー服、キュロットを履いた少女だった。

 「ども、恐縮です、青葉です!一言お願いします!」

 「・・・君はいったい」

 青葉は持っていたマイクをヒトラーに向けた。

 「新しくここに来たんです。聞いていませんでしたか?」

 ヒトラーは大淀から今日、重巡の艦娘が一人別の鎮守府からやってくるといっていたのを思い出した。

 「その様子からすると、私に聞きたいことがあるようだね。お嬢さんの話を聞いてもいいが、その前にみんなに紹介をさせてほしい。みんなをここに集めてくれ」

 数分後、執務室に鎮守府の人間全員が集まった。メンツはこんな感じ。

 ヒトラー、ゲッベルス、大淀、青葉、摩耶、潮、叢雲。

 これが今の鎮守府の戦力だ。

 「彼女が新しく着任した重巡青葉だ。仲良くやってくれ」

 「よろしく」

 「よろしくお願いします」

 「あたしの先輩になるんだって?頼んだぜ!」

 「あの・・・よろしくお願いします」

 「何かあったら何でも聞きなさい」

 「ども、恐縮です!よろしくお願いします!」

 青葉は一人ひとりの顔を見て最後にあいさつした。

 「ところで」

 青葉はくるりと体を机に座っているヒトラーと隣で立っているゲッベルスに向けて「総統のお名前って、なんですか?」と聞いた。

 「アドルフ・ヒトラーだが。なにか?」

 「だから。本名ですよ。隣のゲッベルスさんも含めて、どっちも過去の人ですよね?ちゃんと別に本名があるんじゃないんすか?」

 「そうそう、アタシもそう思ってたんだよ。」

 ここに来た艦娘達にとってヒトラーとゲッベルスは(本物なのだが)過去の人物の名前を名乗って本名を隠している、と思っていた。もっと言えば服装や言動まで真似ている人物と思っていた。

 「なんで、そんなことしているんですか?」

 「なんか知られたらまずいことでもあんのか?」

 彼らは本物なのだが、未来の人間からすれば至極まっとうな意見だ。

 「何度も言うが」ヒトラーは口を開いた。

 「私の名前はアドルフ・ヒトラーだ。彼の名前はヨーゼフ・ゲッベルス。これは誰が何と言おうと変わらぬ事実だ。他ならぬ、私自身が私自身をアドルフ・ヒトラーという人間として認識しているし、彼もまた同じだ。だから、君たちも私のことをそう認識すればよいだけの話だ。アドルフ・ヒトラーはここに存在するし私がそう認識しているからだ。私のことは君たちよりも私がよく知っている。分かったかね?」

 「で、本名は?」

 「それが本名だからそういったのだ!」

 艦娘達はしばらく黙っていた。ていることがどういうわけか真実のように思えた。

 ヒトラーはヒトラーだった。

 「そういうことにしておきますよ」

 青葉は笑いながら「それで総統はこの鎮守府をどういう風にするつもりなんですか?具体的には?」

 「ここの鎮守府の現在の課題は艦娘が・・・つまり戦力が足りないことだ。艦娘は現在大淀を含め5人しかいないこの少ない戦力をどう増やしていくかが課題だ。私としては大火力の戦艦や重巡がほしいが・・・」

 「ちょっといいかしら」

 叢雲がヒトラーに言った。

 「大火力の艦娘がいいってアンタは言ってるけれど駆逐艦だって重要よ。遠征に夜戦、なんにだって使えるし錬度や装備次第では重巡や空母だって倒せられる。なめてもらっちゃ困るわね」

 彼女はもともとプライドの高い少女だ。駆逐艦としてのプライドが黙らなかったのであろう。

 ゲッベルスも賛同の言葉を口にした。

 「そうです、総統閣下。駆逐艦は防御力や火力の問題などもありますが汎用性が高く消費も小さい、小回りが利く。潜水艦相手にも戦える。使いこなせれば非常に強力で便利です」

 ヒトラーは頷いた。「確かに君の言うとうりだ。駆逐艦も重視すべきだ」

 ゲッベルスは続けていった。「ですが・・・駆逐艦の素晴らしさはそれだけではない」

 「?」

 突然ゲッベルスは声を張り上げた。

 

 「敵と戦う時の、幼いながらも凛々しい姿!ちらちら除く生足に白い肌!そして何よりも中破した時の服がはだけ体があらわになるのと胸元がかわいくてスケベェ」

 

 全員ずっこけた。

 ヒトラーは忠実な側近の暴走に当然突っ込みを入れた。

 「ゲッベルス君、君は一体何を言っているんだ!?」

 「変態!!」

 「///」

ドン引きされるゲッベルス。しかし彼は続ける。

 「しかし総統、これは事実です!駆逐艦はかわいいでしょう!!」

 「まぁ、確かにそうだがここまでくると、犯罪じゃないか!そういうの世間じゃロリコンというんだぞ!!分かってるのか!?」

 「あれは10日くらい前のことです・・・」

 

 ~ゲッベルスの回想~

 ゲッベルスは着任早々工廠を見て回っていた。

 どれも見たことのない興味深いものばかりで彼の興味を引いた。

 すると、目の前にドアがあり『入渠室』『関係者以外立ち入り禁止』と札があるのを見つけた。ゲッベルスはその言葉に従いその部屋を通り過ぎることにした。が、その部屋の壁に穴があるのを見つけた。

 それを見て当然こう思った。

 ここから覗いてみれば何があるのか分かるのではないか?誰にもばれずに?と。当然、普通の人なら考えることだ。

 で、覗いてみた。

 叢雲と潮が風呂に入っていた。

 あんまり細かく描写すると作者がロリコンと勘違いされてしまうので避けておくが、結論から言うと色っぽかった。

 「・・・美しい」

 

 またまた別の日

 出撃から帰って中破して服が破れた駆逐艦娘を見た。

 「・・・美しい」

 

 またまた別の日

 戦う叢雲と潮の様子を戦闘指揮所でモニター越しに見る。

 幼くも凛々しい姿に「美しい・・・」

 

 またまた別の日

 艦娘図鑑をてにして駆逐艦の写真を見ながら

 「萌え~~」

 

 「というわけです。駆逐艦に私は魅せられてしまった」

 「お前、覗きやったんか!?羨ま・・・じゃなくて、それ犯罪だぞ!?犯罪する奴はいくら信頼する部下でも大っ嫌いだ、バーカ!!」

 それは艦娘たちも同じだった。潮なんかは顔を真っ赤にして叢雲はここに12.7cm連装砲がないことを悔やんだ。

 しかしまともじゃないのは総統も同じだった。

 「第一な、おまえは駆逐艦の欠点を知らんのだ!それは貧しい胸部装甲だ!火力もそうだが、何よりも戦艦や空母の素晴らしさはな!目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 また全員がずっこけた。

 「艦娘図鑑で陸奥と長門見た時は本当に感動したよ!!おっぱいこそ正義なんだ!!摩耶が来てくれた時はうれしかったよ!!毎日拝めるんだからな!!おっぱいを!!」

 摩耶は絶望に染まった顔で言った。

 「それだけか?アタシの存在価値はそれだけか!?火力とか雷撃とか汎用性とかじゃないのか!?」すでに摩耶は涙目になりほかの艦娘も顔を真っ赤にしている。

 「総統閣下、潮は胸部装甲結構ありました!!」ゲッベルスが覗きの報告をした。

 「よし、ゲッベルス、お前の覗きやっぱ許す!!」

 「いや、許すんじゃねぇ!!二人とも死刑だぁ!!」

 叢雲が怒り狂って二人に殴りかかった。

 夜だというのに騒がしくなる鎮守府執務室。

 大淀と青葉はこの鎮守府、大丈夫だろうか?と心配になった。

 こうしてゲッベルスのロリコンはこの鎮守府の悩みの種のひとつになった。

 

 そのころ、砂浜にはまた二人の男がぶっ倒れていた。

 二人とも第二次大戦時のドイツ軍の将校の服を着ている。

 騒がしい鎮守府がさらに騒がしくなりそうだ。 




 総統閣下シリーズでなにかと変態設定が多いゲッベルス氏。今回もロリコンに目覚めてしまいました。
 ちなみに私はロリコンではありません。絶対に。
 鎮守府の名前ですが、R.H.N氏の提案であるゲルマニア鎮守府がしっくりきたのでそれでいきたいと思います。R.H.Nさん、ありがとうございました。
 コメントを見ると、やはりドイツ艦の活躍を期待する声がありました。彼女たちにももちろん物語で活躍してもらう予定です。
 次回か次々回であの名シーンをやります。
 毎回、読んでくれてありがとうございます。


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7話 自分は軍人~狂乱の艦娘討論~

 ヒトラーは執務室で大淀からの報告を受けていた。

 「・・・また砂浜に人ら倒れていたのかね?」

 「はい。二人男性が。潮と叢雲が見つけて今は保健室で眠っています」

 ヒトラーはゲッベルスに続き今度は誰が来たのだろうと保健室に向かった。

 秘書のマルティン・ボルマンだろうか?ゲーリング?

 それとも自殺前に勝手に連合国側に降伏の申し入れをした裏切り者のヒムラーか?

 保健室に入るとすでに二人とも起きているようで、こちらの姿を見て驚いた。

 ヒトラーは二人のことをよく知っていた。

 新たに流れ着いたのはドイツ陸軍大将のハンス・クレープスとヴィルヘルム・ブルクドルフだった。

 

 クレープスとブルクドルフは両名とも困惑していた。自分たちはドイツ敗北を受け、自殺した。が、こうして死んでおらず生きている。そして先に自殺したはずのヒトラーが生きている。

 そのうえ、ここは未来の日本らしく艦娘なる存在とともに深海棲艦なる敵と戦っているという。

 そしてヒトラーは二人にともに戦うことを要求していた。

 「別に私一人でもいい。が、やはり戦力は多いに越したことはない。それに行くところもなかろう?」

 「総統閣下。しばらく二人きりにさせてほしいのですが・・・」

 ヒトラーは頷いてそのまま保健室を出て行った。外ではゲッベルスが待っていた。

 「また来ました」

 「これからも来るだろう。エヴァや君の家族もそのうち来るといいが」

 「・・・二人はどうすると」

 「今、決めている」

 

 クレープスとブルクドルフはそれぞれのベッドで横になりながら話をしていた。

 「どうするべきなんだろうな。かつては忠誠を誓った人間だが今は総統じゃない。ましてドイツは敗北した」

 クレープスは呟いた。

 「だが我々は軍人だぞ。総統に忠誠を誓った。それはここでも変わらんのではないか?第一断ったとしてどうすればいい?ほかにあてはあるのか?」

 「・・・」 

 自分たちは無一文だ。生活をどうするかという問題がある。

 それに相手はかつて忠誠を誓った総統だ。自分たちは誇り高きドイツ軍人。それはここでも変わらない。

 どうするべきか?

 二人の間に沈黙が流れた。

 ドアが開きゲッベルスが入ってきた。

 

 数分後、ゲッベルスが保健室から出てきた。

 「総統に従うとのことです」

 ヒトラーは頷いた。

 こうして鎮守府にクレープスとブルクドルフが着任した。

 

 翌日の昼頃、ヒトラーは出撃した摩耶達の艦隊が新たに三人の艦娘をつれてきて帰還したという報告を受けた。

 「一気に三人もドロップ!やったな!!」

 顔に戦闘のためだろう、少し煤がついていたが摩耶は笑顔で言った。

 ヒトラーの目の前にはその三人の少女が立っていた。

 「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ~!」

 「ちわ!涼風だよ。私が艦隊に加われば百人力さ!」

 「電です。どうか、よろしくお願いいたします」

 という具合で順番にあいさつをした。

 「総統、これで新たに戦力が大きくなりましたね」

 大淀はヒトラーに言った。

 ヒトラーは頷き三人に握手をしながら「よく来てくれた。今日はゆっくり休みなさい」と言った。

 だが、電と涼風はどういうわけか身の危険を感じた。ヒトラーの後ろ、頬が痩せこけた男(ゲッベルス)がしっかりと二人のことを凝視していた。どう見ても犯罪的な感じて見ている感じがした。

 「ゲッベルス君」

 ヒトラーは言った。

 「はい」

 「子供好きはいいが、犯罪には走るなよ」

 ヒトラーはゲッベルスにそう言って警告した。

 こうして新たに三人の艦娘が着任した。

 

 ある日の深夜、ヒトラーはゲッベルスとクレープスとブルクドルフと会議をしていた。

 「とまぁ、明日の作戦内容はこんなところです。簡単に行けると思います」

 クレープスが地図を指さしながらヒトラーに言った。

 「分かった。今日はこれぐらいにしよう。ところで諸君に聞きたいことがあるのだが・・・」

 「なんでしょう?」

 「・・・君はどの艦娘が気に入ったかね?」

 部下たちは顔を見合わせた。

 「どういうことでしょう?」

 ヒトラーは部下たちの顔を見ながら言った。

 「なに、ここにはたくさんの美少女がいるが、君たちはどう思っているか少し気になったのだ。」

 「・・・そうですね。皆きれいだが、摩耶ちゃんですかね。火力が大きいから・・・」

 とブルクドルフが言いかけた途端、ゲッベルスが突然声を張り上げた。

 「諸君、そういうことであれば宣伝相である私に言わせてもらおう!」

 ゲッベルスは腕を振りながら「確かにどの艦娘もかわいい!だが一番の天使は駆逐艦である!幼いながらも凛々しい姿!!大人にはない可愛さ!なにかもが100点だ!」

 突然の側近の暴走にヒトラーは不安になり「おい、駆逐艦たちに何か変なことしていないだろうな?」

 ゲッベルスは笑顔で「ええ、健全なスキンシップをしています」

 

 ~ゲッベルスの回想~

 ある日のこと

 ゲッベルスは出撃から帰ってきた駆逐艦娘を総統の代わりに出迎えてた。

 当然、その中には中破して服が破けている者もいる。ゲッベルスはそれを角に隠れながら

 「う~む。たまらん」

 パシャパシャとカメラで撮影した

 

 また別の日のこと

 艦娘が寝静まっている夜。

 「やはり寝顔が一番だな~~」

 ゲッベルスは寝ている駆逐艦娘の頭を撫でながら寝顔をカメラ(暗闇でも撮影できできるもの)で撮影した。

 

 またまた別の日のこと

 「これも仕事のうちだ・・・うん。艦娘の状態をチェックするための」

 ブツブツ言いながら工廠の入渠室の壁にある小さい穴から中の駆逐艦娘の様子をのぞき見していた。

 

 ヒトラーはバン!と机をたたいた。

 「めちゃくちゃ不健全じゃねぇか!」

 「宣伝相が何犯罪やってんだ!ダサいし!」

 「怨怨!」

 ゲッベルスに対してほかの部下からブーイングが巻き起こる。

 「しかし総統閣下、これは宣伝相としての仕事です!艦娘の健康と貞操を守り、駆逐艦の可愛さを宣伝して天下に知らしめるという崇高な使命を全うするための・・・」

 「そんな仕事宣伝相にはないわ!何盗撮しているんだ!おまえ家族いるだろ!!家族いるのにそんなことするなんて大っ嫌いだ!」

 ヒトラーは激怒するがゲッベルスも反論する。

 「駆逐艦は可愛くないというのですか!第一、総統も中破した摩耶の胸見て笑ってたじゃないですか!!」

 「ちょま、あれとこれとは別だバーカ!!第一、入渠の覗きってあの穴まだ直してなかったんか!?私が命じたぞ!!」

 「私が妖精たちをチョコレートで買収して止めました。写真もあります」

 「おい、貴様!自分だけお楽しみ・・・じゃない、貴様ドイツ人としての誇りは失ったのか!?チョー許さん!!」

 「総統、摩耶の入浴写真も・・・画質も結構いいですよ」

 そういってゲッベルスはヒトラーに何枚か写真を見せて「あげますよ」

 ヒトラーは態度を変え、「よし、許そう」

 当然ブルクドルフは突っ込んだ。

 「いや、総統、何許しているんですか!?」

 「お前はおっぱいの素晴らしさをわからんのだ!おっぱいは世界を救うんだよ!!」

 「アンタそれでも国家元首か!?」

 クレープスとブルクドルフは思った。こいつについていこうと思ったのはとんでもない間違いだったんじゃないかと。

 そう思いながらもこの二人も徐々に艦娘の魅力に取りつかれていくことになるのだった。

 そこへ、大淀が突然部屋に入ってきた。

 「総統!大本営から命令が!」

 すぐに空気が張り詰めた。

 「内容は?」

 「海域の制圧命令です。」

 ヒトラーが提督に着任してから一か月、初めての大規模作戦が始まろうとしていた。

  

 

 




 とりあえずいつもの連中(カルピス、アンポンタン、ハゲ、空気ジジイ、空気デブ、ロリコン)はそろえようと思う。次回こそあの名シーンを・・・


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8話 クラウゼヴィッツ作戦発動~総統がお怒りなのです~

 翌日の朝、総統執務室(ヒトラーがそう名付けた)にはヒトラーをはじめとするゲルマニア鎮守府(この名前もヒトラーが勝手に決めた)の幹部全員と艦娘全員が集まっていた。

 「大本営から任務が言い渡された」

 最初に口を開いたのはヒトラーだった。

 「任務の内容は鎮守府近海を制圧し、その制海権及び制空権を維持し続けることだ。我がゲルマニア鎮守府始まって以来最初の大規模作戦となる。諸君には勝利のために今まで以上に戦ってもらう。大淀君、クレープス、詳しい説明を」

 「総統閣下、この地図で説明させていただきます」

 クレープスは鎮守府近海の地図をテーブルに広げて言った。

 「現在、我がゲルマニア鎮守府一帯には都市のみならず大規模な港に工業地帯などが存在し様々な面から非常に重要な地域となっています。皆さんもご存じのように現在、この地域の近海では深海棲艦による大規模な攻撃が行われており、都市や工場にたいして直接の被害は出ていないものの、影響は深刻で鎮守府近海の奪還は重要な課題となっています。ここに鎮守府が新たにに作られたのもそのためです」

 クレープスはそう言いながら地図の上で指を鎮守府から小笠原諸島と書かれた島に移した。

 今度は大淀が説明する。

 「敵の主力はこの小笠原諸島のあたりに存在しており、そこから攻撃を行っているものと思われます。つまりその主力さえ叩けばこちらの勝利です。鎮守府近海の安全を確保すればそこから我が国の領海、経済水域の奪還の足踏みとなり非常に重要な作戦です」

 任務の内容、目的を聞いたところで次に口を開いたのはブルクドルフだった。

 「総統閣下、お言葉ですがどのように作戦を進めるつもりですか?現在の鎮守府の戦力では敵を撃破するには足りませんが・・・」

 「心配することはない。大本営から通常より多くの資源や新しい艦娘を送ってくるといっている。他の鎮守府からも支援があるようだ。現段階ではまず、敵の正確な位置、そして戦力を探りつつ建造やドロップで戦力を整えていく。本格的な侵攻はその後だ」

 ヒトラーはそう言ってブルクドルフをなだめると艦娘達を見回して「諸君、こういうことだ。本作戦はクラウゼヴィッツ作戦と名付け、鎮守府近海の安全を確保することに終始していく。名誉にかけて、諸君の戦いに期待している。詳しい作戦内容は追って説明する。以上」

 艦娘達一同は頷いた。

 ゲルマニア鎮守府最初の大仕事が始まった。

 

 そして普通ならこれから艦娘達は訓練に励み彼らはクラウゼヴィッツ作戦を練り始めるはずなのだが・・・

 

 クレープスが恐る恐るといったようにヒトラーに言った。

 「総統閣下、少し報告せねばならないことが・・・」

 ヒトラーは彼を見た。周り一同も何だろうと彼を見る。

 クレープスはゆっくりと口開く。

 「昨日閣下は我々に戦艦及び空母の建造を命じられましたね?総統は眠っていましたので我々が代わりに資材を入れて建造したのですが・・・」

 その一言に何か思い出したのかブルクドルフはぴくっと反応し大淀は目をそらした。

 「思い通りのが出なかったのかね?そんなことなら別に問題はない、仕方のないことだ。その新造艦に会わせてくれ」

 ブルクドルフがチラリと彼を見る。

 「総統閣下・・・その新造艦ですが・・・」

 「装備開発の時に出た失敗ペンギンとミスクラウドが誤って混ざりこうなりました」

 おろおろするクレープスに続いて大淀が追って説明し総統執務室の窓に向かって手招きした。

 そして一匹の生物が入ってきた。

 それは執務室の机ほどの大きさの生物だった。

 カタツムリのような姿かたちに砲身をいくつか背負い、つぶらな目鼻と短めの少し癖のある茶髪のボブカットに艦橋の信号桁を模したカチューシャをしていた。ヒトラーはその髪型に見覚えがあった。

 以前艦娘図鑑でみた戦艦陸奥の髪型だった。

 「戦艦陸奥が出るはずが、こうなりました」

 ヒトラーはしばらくその謎の生物と部下たちを見つめていたがやがて手をプルプルと震わせながら資料を見るためにかけていた眼鏡をはずしていった。

 「・・・昨日の建造に関わったものは残れ。アンポンタン」

 命令を聞いて艦娘達が総統執務室から出ていく。

 残ったのはヒトラー、ゲッベルス、クレープスとブルクドルフの4人。

 ブルクドルフはふと、誰かが足りないような気がしたが、すぐにその考えは打ち消された。

 

 「・・・どうしてこうなったんだよ!!」

 

 ヒトラーが大声で怒鳴った。

 「私が命じたのは艦娘の建造だぞ!!誰がこんな得体のしれないもん建造しろといった、ええ!?誰が責任とるんだ!!」

 ヒトラーはあまりの出来事に、資源の無駄遣い(?)に怒っていた。

 「なぜ建造時に変なものを混ぜるなんてことしたんだ、そんな奴大っ嫌いだ!!」

 ブルクドルフが必死で弁明をする。

 「クレープスがペンギンと雲を資材と勘違いしてしまって・・・」

 「いや、ふつう間違えねえだろ!!何やってんだ大っ嫌いだバーカ!!」

 「総統閣下、我々は新入りです!!」

 ヒトラーは立ち上がりペンをつかんだ。

 「こんな化物どうやって扱えばいいんだよ!?なんてことしてくれんだ!?」

 そしてペンを思いっきり机に投げつける。

 

 「畜生めぇぇぇぇ!!」

 

 彼の怒りは続く。

 「いいか、建造ってのは、開発は何でもかんでも混ぜればうまくいくと思ったら大間違いなんだ!きちんとしたバランスや運、きちんとした材料!でないとこんなウォ!?ということになる!私の部下への教育が足らんかった~!

 これが私じゃなかったらお前ら即、粛清されていたぞ!!私がスターリンだったら!!」

 そういってはぁはぁと息を切らせながらヒトラーは椅子に座る。

 「私だってそれはミスをする。しかしこんなミスはいくら何でもない。第一私は戦艦を、空母を望んでいた。私が望んだのはこんな巨大カタツムリ、俗にいうゆるキャラじゃない!」

 彼の怒りは、絶望はなおも続く。

 「大火力に耐久力、そしてあの美貌!白い肌に目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 部下たちがうわぁ・・・という顔をする。

 「もしもさ、それが出てきたら敵なんか一撃で木っ端みじんにしてそしてイチャイチャするのが夢だったんだ!さぞかし幸せだろうな、あのおっぱいに囲まれて・・・だがその夢ははかなくも貴重な資材とともに消えてしまった・・・柴田さん、どうすればいいのか教えてくれ!!」

 クレープスとブルクドルフは顔を見合わせた。

 小声で「柴田さんって、知ってる?」「いや、知らない」

 外の艦娘達で潮は総統の怒りように思わずえぐえぐと泣いていた。

 大淀がなだめる。

 「ねぇお願い泣かないで・・・あとであのちょび髭ぶっ飛ばしましょうね・・・」

 ヒトラーの顔に落胆が生まれ椅子に座りながらうつむいた。

 「とにかく・・・一応、砲はついていることから戦闘には使えるだろう・・・もしかすると元に戻る可能性もあるかもしれん・・・」

 ヒトラーは部下たちの顔を見た。

 「お前たちに言っておく。今後、こんなことやったら晩飯抜きだからな・・・それにしてもあれの名前どうしよう・・・」

 その後、ヒトラーたちは重苦しい雰囲気の中作戦会議を行った後、ヒトラーはしばらくの間眠りについた。

 こうして鎮守府に新たに仲間?が入ってきた。

 

 そのころ、砂浜に3人男が倒れていた。

 一人は老人、一人は太っており、一人は禿げ頭。3人ともドイツ軍の服を着ている。

 鎮守府の騒がしさはとどまることを知らない。

 クラウゼヴィッツ作戦はこうして幕を開けた。

 

 追記 ちなみにその謎の生物は「り陸奥たか」と名付けられた。




 ネットでり陸奥たかを見つけてこの話を思いついた。
 毎回読んでくれてありがとうございます。しっかり更新も内容も頑張っていきたいと思います。
 そのうちフェーゲラインやヒムラーも出していきたいと思っています。犬のブロンディも出そうかな。妖精さん達による親衛隊とか。

 追記
 新しいssを思いついた。
 「帰ってきたヒトラー」のラブライブverか俺ガイルverをやりたいと思う。
 意見がありましたらどんどんコメントしてください。
 


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9話 総統は語る~美は正義~

 数日後、ヒトラーたちは執務室で作戦指揮などを行っていたがそこにはゲッベルスたちに加え新しい面子がいた。

 ドイツ陸軍上級大将のアルフレード・ヨードル(ハゲ)、ヴィルヘルム・カイテル(ジジイ)にヒトラーの秘書だったマルティン・ボルマン(デブ)。

 そう、また新たにかつての部下たちが流れ着いてきたのだ。

 ヒトラーは彼らが砂浜で倒れているところを介抱した後、説得してこのゲルマニア鎮守府で働かせている。

 ヨードルたちもヒトラーがかつての上司ということもあるし、何より行くところもないので了承したのだ。

 そして現在、彼らは敵情偵察に向かった艦娘達からの報告を聞いていた。

 「総統閣下、偵察隊からの報告です」

 大淀が数枚の写真と報告書を見せた。

 そこには摩耶と青葉に搭載された偵察機によって撮影された敵の姿と詳しい情報が書いてあった。

 クレープスが追って説明する。

 「総統閣下、現在確認されている敵の主力は戦艦ル級が4隻、軽空母ヌ級が2、空母ヲ級が3を確認。うち一隻はflagshipと思われます。この他軽巡、重巡、潜水艦も多数確認されています」

 「・・・よくここまで分かったな」

 「・・・総統閣下、お耳には入れにくいことですが、ここまで判明するのに我が鎮守府の艦娘達はかなりの被害をこうむりました。幸い撃沈した者はおりませんが、現在稼働可能なのは・・・そこにいる大淀さんのみ。しばらく作戦は不可能でしょう。」

 ヒトラーは頭を抱えた。

 現在、ゲルマニア鎮守府は艦娘の建造や装備開発をできうる限り行っているが、ここまでの敵の戦力だと、現在の鎮守府では対抗は難しい。

 今いる艦娘は重巡の青葉に摩耶、那智、軽巡の大淀に那珂、天龍に龍田、駆逐艦は潮に電、叢雲に涼風と子日に不知火。

 むしろこれだけでよくここまでの結果を出したものだと思う。

 ・・・もちろんあの謎の生物、り陸奥たかもいるのだが正直言ってなんかこわいので出していない。

 かつてヒトラーは最後には無謀な戦いをけしかけていたが、しかしながらそれでも今の戦力では足りないことは十分に承知している。

 「・・・やはり戦艦と空母が必要だな。今いる子たちは錬度も装備も十分だがそれでも今一つだ」

 今度はボルマンが口を開いた。

 「総統閣下、それに関していいニュースがあります。閣下に命じられて大本営に航空戦力の増強を要請したところ、最新鋭機及び正規空母一隻・・・もとい一人をこちらに派遣するといってきました。さらに現在に二隻艦娘を建造中ですが時間を見たところ空母と戦艦が出てきそうです」

 ヒトラーはクレープスとブルクドルフをちらりと見た。

 「・・・前みたいなことにはならんだろうな?」

 「・・・今度はちゃんとやりました。変なもん混ぜていません」

 「良し」

 ヒトラーは頷くと、「・・・現在敵の状況は?」

 ヨードルが答えた。

 「総統、現在も敵は強く抵抗しています。今のところこちらの戦力が整っておらず、一進一退の状況です」

 「・・・しばらくは戦力の補強、増強、錬度の向上及び情報収集に徹する。準備が整い次第反抗を開始するのだ。それまではしっかりと作戦を練っていく」

 ヒトラーの決定に部下たちが頷いた。

 こうして今日の会議は終わる

 

 はずだった。

 

 ヒトラーが深海棲艦の写真を手に取り口を開いた。

 「・・・ところでこのヲ級とかル級とやらは他のとは違って美しいな。本当に敵かと思わされる」

 それ自体はまぁ、最初に目撃した人なら持つ感想で別に問題はない(と思う)。

 問題は次の発言だった。

 「鹵獲できないだろうか・・・」

 これが発端となった。

 「総統閣下、そりゃいくらなんでも無茶ですよ」

 クレープスがそういい返す。

 「分かっている。だが、このヲ級とやらはなかなかいいな。胸部装甲にボディラインに碧眼・・・あとは金髪であればアーリア的で魅力的なのだが」

 「総統、あんた本当にやる気あんのか?相手は敵なんだぞ・・・」

 ヨードルがあきれたように言う。

 「しかし実際美人だよな。ル級の黒髪もいいしヲ級のナイスバディも・・・」

 クレープスがそういい返すと、ゲッベルスがドン!と机をたたいた。

 「諸君、さっきから胸だの色っぽさなんだの言っているが忘れていないか?ちっちゃい子の魅力を!私は資料で駆逐古鬼や駆逐古姫など幼い子の深海棲艦を見たが素晴らしかった!!和服にちらりと除く肌、凛々しい、冷徹な瞳・・・すべてが魅力的でマジで可愛くてマジスケベェ!!」

 全員ずっこけた。

 「お前ロリコンもたいがいにしろよ!!ダサいし!!」

 ブルクドルフが突っ込む。

 ヒトラーもだ。

 「そうだぞ!!そんなのよりヲ級の魅力がわからんのか!!白い肌に碧眼、クールな美人、そして何よりも目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 また全員ずっこけた。

 「何敵に欲情してんだよ!!ハゲ!!」

 ヨードルが突っ込む。

 「鏡見てから言えよ!!それにこんな分かりやすハニートラップにかかるとか!!ダサいし!!」

 ブルクドルフも突っ込む。

 しかし彼らはまともではなかった。

 クレープスがが強く言い返した。

 「怨怨!!いや、でもヲ級のおっぱいとかめっちゃいいじゃん!!」

 「おい、お前がそんなキャラだった覚えないぞ!?」

 「あれは数日前のことだ・・・」

 

 ~クレープスの回想~

 ヒトラーがクレープスにある写真を見せた。

 「これを見てどう思う?」

 「すっごく・・・大きいです素晴らしい・・・」

 それは大破した艦娘や入居している艦娘、胸の大きい深海棲艦の写真だった。

 「「おっぱいぷるーんぷるん!!」」

 

 「おっぱいは素晴らしい・・・人と人をつなぐ平和への道しるべだ・・・」

 クレープスがうわの空で呟いた。

 「おいちょび髭、何てこと吹き込んでんだ!!クレープスが変態になっちまったじゃねぇか!」

 ヨードルが突っ込んだ。

 「うるせぇ!!おっぱい万歳!!大鑑巨乳主義万歳!!」

 「いいか!!幼女の美しさは!!一瞬の、刹那のはかなさにあり、貴重なものなのだ!!愚民ども、それをよく覚えとけ!!」

 「おっぱい・・・」

 「もうだめだこの鎮守府!!ダサいし!!」

 大淀は頭を抱えた。

 この後、彼女は医務室に直行した。

 

 ゲルマニア鎮守府が騒がしい中、一人の少女が鎮守府に向かって歩いていた。

 白い着物に青いスカート、黒い胸当て。黒い髪をポニーテールにして結んでいる。

 彼女が歩いていると、門に箱があるのを見つけた。

 その段ボール箱には拾ってくださいと書いてあり、見ると中には犬、それも黒いシェパード犬が入っていた。

 犬が警戒の目でこちらを見る。

 「・・・変ね。こんなところに」

 そういって彼女は犬を見つめた。

  

 この鎮守府はどこまで騒がしくなるのだろう?




 空母ヲ級、鹵獲したらどれくらいの戦力になるだろう?
 更新、頑張っていきます。
 いつもありがとう。

 追記
 8話のあとがきにある「帰ってきたヒトラー」のラブライブverと俺ガイルverのssですが都合上、どっちか片っぽしか出せません。
 しっかりと構想を練って出したいと思います。


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10話 初めての空母~侵攻開始~

 今回はまじめな話です。ネタはありません。


 色々と騒がしい、どうでもいい論争が終わった直後、ヒトラー達の下に新たな来客が来た。

 頭痛薬を飲み終えたばかりの大淀が言った。

 「総統、新しい艦娘が着任してきました」

 ボルマンが腕時計を見た。

 「もう時間です。例の正規空母が来たのでしょう」

 ヒトラーは部下に新しい来客を迎えるよう命じた。

 

 正規空母、加賀がゲルマニア鎮守府の中に入ると、そこには小太りの男と、セーラー服を着たメガネの少女がいた。

 「・・・あなたが提督なの?」

 男は首を振りながら、「いや、私達は総統閣下の秘書だ。私の名前はマルティン・ボルマン、こちらが軽巡の大淀。君のほうこそ、新しくここに着任した?」

 加賀は頷いた。

 「では、総統はあそこの総統執務室にいらっしゃるから、そこへ案内しよう」

 そういってボルマンは執務室に向かって歩き出した。

 加賀と大淀も続く。

 「ちょっといいかしら」

 加賀は呼びかけた。

 「さっきから、提督ではなく総統と呼んでいるけれど何か訳が?」

 ボルマンの代わりに大淀が答えた。

 「総統がそう呼べと言っているんです」

 「・・・どうして?」

 「・・・見ればわかります」

 そう話しているうちに総統執務室と札のある部屋の前に着いた。

 ボルマンが言った。

 「まず、私が総統をお呼びする。許可をもらいそれから、総統に会ったらまず右手を挙げて『ハイル総統』とあいさつしなさい」

 そういって彼はドアをコンコンと叩いて開けた。

 「総統閣下、新しく着任した艦娘です」

 ボルマンが二人を見た。

 加賀は中へ入り、そして驚いた。

 そこには男が一人、たぶん提督だろうがその姿は七三分けの髪型に何より印象的なのはちょび髭の姿の男、アドルフ・ヒトラーそっくりの男がいた。

 しばらく言葉を失ったが、言われたことを思い出し右手を上げ「ハイル総統」と口にした。

 男がこちらを見つめる。

 立ち上がりこちらに歩み寄ってきた。

 「よく来てくれた、お嬢さん。君の名前をお聞きしたい」

 「正規空母の加賀です。・・・あなたが私の提督なの?」

 男は笑った。

 「そうだ。アドルフ・ヒトラー。言っておくがこれが本名だ」

 「・・・冗談でしょう?」

 アドルフ・ヒトラー。かつてヨーロッパを地獄に陥れた独裁者。そしてすでに故人のはず。

 それが今自分の目の前にいる。しかし常識的に考えて、彼が本物ということはありえないはずだ。となると可能性として挙げられるのは何らかの理由があって、別人がそう名乗ってなりきっていると考えたほうが妥当だろう。

 だが・・・目の前の男はそっくりであるばかりか、どういうわけか何かオーラを感じた。まるで人を引き込むような、得体の知れないエネルギーを感じた。

 どういうわけか、背中がぞっとした。

 彼女が気づいていないだけで、彼は本物なのだ。正真正銘、本物のアドルフ・ヒトラーなのだ。

 「緊張しなくて言い。君の考えることはわかる」

 ヒトラーは笑いながら言った。

 「私は死んだことになっているからね。私が『アドルフ・ヒトラー』の真似をしていると思われても仕方がない。だがこれは事実だ。そしてここでは私はこのゲルマニア鎮守府の司令官で、君は私の部下だ。これもまた事実。だからは君は私の命令に従えばよい」

 確かにそうだ。ここでは自分はあくまで部下だ。

 そこに踏み込んでいく理由もない。

 とはいえ、加賀には彼に対する不信感が芽生えてきた。

 しかし自分は一応軍人だ。余計なところに踏み込むべきではない。

 そして彼女はまず彼に第一に報告すべきことがあった。

 「提と・・・総統、報告が」

 「?」

 「ここに入るとき、門に捨て犬がいたのだけれど。どうすれば?」

 「・・・どんな犬だった?」

 「シェパードのメス・・・捨て犬にしては妙ね」

 ヒトラーはシェパードという言葉に思いあたりがあった

 もしや・・・

 

 ヒトラーが外に出ると、そこにはダンボールに入った大きい犬がいた。

 黒い体毛の立派な体躯をしたシェパード。

 ヒトラーは見覚えがあった。

 「ブロンディ・・・」

 かつて、ヒトラーが総統地下壕で飼っていた犬。そして最後は青酸カリの効用を試すため、毒殺した。

 ブロンディがこちらを見るとすぐにヒトラーの下に駆け寄って彼の周りを歩いたり手をなめたりとなついてきた。

 「すまんかった・・・」

 そういってヒトラーはブロンディの頭をなでた。

 そして大淀に「君、この鎮守府で飼うことにしよう」

 そのころ、工廠では建造のコンテナの前でクレープスとブルクドルフが固唾を呑んで様子を見守っていた。

 「頼むぜ・・・変なのでないでくれよ・・・」

 前のり陸奥たか事件を思い出しながらクレープスは時計を見た。

 そして・・・

 「商船改装空母、隼鷹でーすっ!ひゃっはぁー!」

 巫女さんみたいな白い制服に赤いスカート、紫色の長髪でかなりノリのよさそうな、ポジティブそうな少女と

 「扶桑型戦艦姉妹、妹のほう、山城です。・・・あの、扶桑姉さま見かけませんでした?」と、黒髪のボブカットに巫女さん風の着物、赤いミニスカートのなんか暗そうな対照的な少女が現れた。

 「・・・大きいな・・・」

 「総統が見たら絶対言うな・・・」

 とクレープスとブルクドルフはひそひそ話した。

 とにかく、戦力は確実に増強され整いつつあった。

 こうして、空母二人と初めての戦艦が一人、そして犬一匹が新たな仲間に加わった。

 

 数日後、加賀、隼鷹、山城、青葉に摩耶、那智、那珂と涼風と潮と叢雲、電の十人はゲルマニア鎮守府から出撃して、小笠原沖に向かって航行していた。

 「敵の前衛部隊を撃破せよ」

 それがヒトラーの出した命令だった。

 これまでの偵察を繰り返した結果、敵の構成、配置がある程度判明してきた。

 まず主力である戦艦と空母、その護衛艦隊がが小笠原諸島にいる。

 そこから、その周りに軽空母や戦艦を配置して小笠原への進路を阻んでいる。

 さらにその道のりまでには潜水艦や駆逐艦、重巡が多数存在し夜戦の際にはかなり厄介になっている。

 実際、輸送船やその他の船舶は航空攻撃に加え、これらの夜間の襲撃によってかなりの被害をこうむっていた。さらには陸地への航空機などによる攻撃も小数ながら確認されてきている。もはや無視はできない。

 ヒトラーたちゲルマニア鎮守府の面々はついに本格的な侵攻に打って出ることを決断した。

 

 クラウゼヴィッツ作戦の幕がようやく開かれた。

 主役であるヒトラーと艦娘達が壇上に立つときがやってきた。

 役者は壇上に立つと幕が降りるそのときまで実力を出し続け観客を引き寄せ続けなければならない。たとえ何があろうともだ。

 彼ら彼女たちにそれだけの力があるだろうか?




 艦これを始めたきっかけが加賀さんだった。
 たぶん加賀さんがいなければ艦これやることも、このss書くこともなかったと思う。
 毎回読んでくれてありがとうございます。
 感想、ご意見お待ちしています。

 追記
 前々から予告していた「帰ってきたヒトラー」のラブライブverのss始めました。
 題名は「ラブライブ!~ER IST WIEDER DA~」です。そちらのほうもよろしくお願いします。
 


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11話 敵艦隊を撃滅せよ~ここは譲れません~

 加賀達が敵艦隊の下へ進撃している中、ゲルマニア鎮守府ではヒトラーは作戦指揮所で開口一番にこんなことを叫んだ。

 「加賀さんの中破姿が見たい!」

 「あんた初っ端から何言ってんだ!?」

 ヨードルが真っ先にツッコんだ。

 「いや、分からんのか?あの加賀さんの体形、服を着ていてもまるわかりなほどのダイナマイトボディだったぞ!つまり中破すれば加賀さんの目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!が見られるんだ!もしかするとお尻もいい形をしているに違いない!そうだろうクレープス!」

 隣に立っているクレープスが強くうなずいた。

 「ええ!今まで私は巨乳の魅力がわかりませんでしたがこれからは大艦巨乳主義の時代ですよ!そうだろうゲッベルス!」

 「何を言うか!駆逐艦こそ天使!異論は認めぬ!!あの幼くも凛とした姿、ちらちら除く若々しい白い肌、貧乳、澄んだ瞳と幼さが残りしかし美しい顔に中破した時の恥じらいの顔!これこそこの世のすべての美でありマジスケベェ!!」

 (ロリコン)ゲッベルスが大艦巨乳主義者二人にそう強く反論する。

 このやり取りを見て、ブルクドルフはたまらずツッコんだ。

 「おい、ここには変態しかいねぇのかよ!!いったいいつからこうなったんだ!!軍人が変態とか!!ダサいし!!」

 クレープスが強く反論した。

 「この前艦娘達の中破姿ニヤニヤして見てたのはどこのどいつだ⁉ええ⁉」

 「ち、ちげーし!男なら誰だって興奮するだろ!!あんなの見せられたら!お前らのほうがもっと酷いじゃないか!」

 「皆さんいい加減にしてください!アンタら軍人として誇りはないのか!?」

 無線機の前に座っていた大淀が大声で叫んでようやくこの場が収まった。

 

 さて、なんだかんだで始まったクラウゼヴィッツ作戦だが主な作戦内容としてはこうだ。

 この作戦においてまず厄介となるのは潜水艦と巡洋艦、駆逐艦による奇襲及び野戦である。輸送船団などはこれによる被害が非常に大きく場合によっては戦艦や空母よりも脅威だったりする。

 これを制しつつ敵の前衛や主力を破壊するには対戦能力のある駆逐艦及び軽巡の存在が重要になってくる。

 そこで編成として敵主力を確実にたたくために空母と戦艦を中心に対潜、及び夜戦に備えて主として艦隊の前方をを巡洋艦と駆逐艦で徹底的に固める。これで目の前に現れる潜水艦の攻撃を避け夜戦に備えつつ少しずつ、海域から潜水艦等を一掃していき同時に空母や戦艦の攻撃で敵の防衛能力も削いでいく。

 そして最後に敵が疲弊し丸裸になったところで一斉攻撃を仕掛け一気に小笠原諸島を奪回、鎮守府近海を確保する、というものだ。

 そして現在その加賀を中心とした艦隊が戦闘を開始しようとしていた。

 

 まず最初に異変に気が付いたのは潮だった。

 九三式水中聴音器を装備しイヤホンを耳に着け対潜哨戒を行っていた。

 と、その時、何か変な音がした。

 最初は聞き間違いかと思ったが、その音はまだ続いている。どうやら、仲間の艦娘達のスクリュー音とは違う。なにか、砂利をかき分けて進で言っているようなそんな音だった。

 そして思い出した。これは、そうだ潜水艦の深海棲艦の音だ。

 「て、敵艦を発見しちゃいました!1時から2時の方向・・・潜水艦です!!」

 潮の報告に艦隊全体が素早く動き出した。青葉たち重巡がもしもの際に備え、加賀達空母と戦艦の盾になるように動いた。

 隼鷹がすぐに飛行機の形に切り取った紙を取り出して発艦の準備をする。

 那珂と叢雲がすぐに潜水艦がいると思しき場所に向かった。

 その時潮はまた新たな音を聞いた。

 ゴボリ。

 風呂桶を逆さにして水中から取り出した時に似ている音がした。

 魚雷発射艦に注水した、つまり魚雷を発射する直前の音。

 そしてその音は先ほどとは別の5時の方向から聞こえた。

 「こ、今度は5時の方向から!魚雷発射管の音・・・あ、今発射されました!近いです!」

 「さっきのは囮というわけね・・・」

 加賀は冷静だった。

 「両舷全速、面舵いっぱい!」

 すぐに回避行動をとり始める。その時、隼鷹が九七式艦上攻撃機を発艦した。

 攻撃機には対潜用の爆弾が括り付けられている。恐らく戦果確認のためにまた浮上するだろう。涼風もすぐに魚雷を発射した方角に向かう。

 同時に魚雷がこちらに迫ってくる。40ノットとこちらよりもはるかに高いスピードだ。

 やれることはやった。後はこちらの運次第・・・

 そしてそして加賀と山城たちの後ろに白い航跡がものすごい速さで走って去っていった。

 しばらくすると、1時と5時の方向に水柱を確認。

 十数分後、海域には重油と破片が確認され、敵潜水艦を撃破したことを確認した。

 

 「なかなかの戦果ですな総統」

 戦闘指揮室でボルマンが言った。

 ヒトラーが頷く。

 「素晴らしいものだ。小型でありながら、本物と変わらぬ威力。これさえあればベルリンの共産軍どもを撃破できたかもしれん。私は惜しい気分だ」

 ゲッベルスも「ほら、やはり駆逐艦は至上ですよ」と言った。

 「お前はロリコンなだけだろう」

 とヨードルが言う。

 「さて」

 ヒトラーは目の前のモニターに向き直った。

 「後は戦艦と空母だな。どれほどのものか・・・」

 彼の品定めをする目でモニターの中の加賀と山城を見た。

 と、その時無線機を手にした大淀がヒトラー達に報告をした。

 「総統、山城の零式水上偵察機から無線が入りました!敵艦隊発見とのこと、編成は軽空母ヌ級1隻に戦艦ル級1隻重巡が4隻、距離は艦隊から100キロほどです」

 「よろしい」

 ヒトラーは頷いた。

 「戦闘機部隊を発艦させ敵艦隊を攻撃、その後戦艦でとどめをさせ!」

 ヒトラーはモニターに向き直った。

 加賀に問いかける。

 「お手並み拝見といこう。君には期待している。一航戦の誇りというものを見せてもらおうではないか」

 

 「・・・なめられたものね」

 無線を聞きながら、加賀は弓と矢を手に取った。

 「何があろうとも・・・」

 弓を手に取り矢をかけ狙いをしっかりと定める。

 「ここは譲れません」

 矢を放った。

 放たれた矢はしばらく海上をまっすぐに進んだ後、光を放ち三つの戦闘機に変形してわかれた。

 加賀は次々と矢を放ち艦載機を発進させる。その姿は実に凛としていて、恐れを何一つ感じさせず美しかった。

 加賀が発艦した戦闘機隊はしばらく敵艦隊に向かって飛んでいたが、そろそろ手前というところで敵航空機の編隊を確認した。

 恐らく電探か何かで察知したのだろう。

 だが、軽空母1隻が出せる艦載機の量はそれほど多くない。

 対して、加賀は90機もの艦載機を搭載できる。

 量だけで言えばこちらのほうが優勢だ。それに錬度もこちらが上。

 魚雷を積んだ艦攻と爆弾を積んだ艦爆の二つに編隊が分かれた。

 敵艦隊が見えてきた。

 複数の艦爆が空母ヌ級をとらえ、急降下を開始する。

 速度が落ちたその瞬間をとらえようと深海棲艦側の戦闘機が上空から迫ってきて、次の瞬間さらに上空から攻めてきたゼロ戦の編隊の一斉攻撃により深海棲艦の戦闘機が次々と爆散してゆく。

 九九式艦上爆撃機が250キロ爆弾を次々と切り離していく。

 それらはまっすぐと吸い込まれるようにヌ級に迫っていき、次の瞬間、ヌ級の体は紅蓮の炎に包まれ大爆発を起こした。煙が去った時にはすでにそこにヌ級の姿はなかった。

 

 対して、九七式艦攻を中心とした攻撃隊は戦艦ル級に狙いを定めていた。

 ル級の必死の対空砲火に戦闘や攻撃機が次々と撃墜され海面に落ちていくがしかしそれでもかなりの数がル級に迫ってくる。

 雷撃進路を確保した九七式艦上攻撃機は次々と九一式魚雷を切り離した。

 戦艦の装甲は非常に分厚く通常の攻撃ではなかなかそれを突破し、撃破することは難しい。しかし一つだけ弱点がある。

 喫水線下に対する攻撃には重装甲を施していないため弱いのだ。

 何本もの白い航跡がル級に迫ってきた。

 回避行動を行うが、1本、2本と命中していき4発目が命中した時、燃料か弾薬に引火したのだろう、大爆発を起こし、沈没していった。

 残ったのは重巡4隻のみ。

 こちらの、戦闘機隊の被害は軽微。勝利だ。

 

 その時、山城たちゲルマニア鎮守府の艦隊はその重巡4隻を射程圏内に収めていた。偵察機の観測付きの艦砲射撃を開始しようとしていた。

 「敵艦発見!てぇ!!」

 山城が叫び35.6センチ連装砲が火を噴いた。周りの駆逐艦娘達のが吹き飛ばされそうになる。

 重巡がまた一つ、また一つと水柱に包まれ消えていった。

 気づけば敵艦隊は一つ残らず消えていた。

 こちらの被害は軽微。

 クラウゼヴィッツ作戦において最初の大勝利だった。

 

 日が暮れて敵の夜間の強襲を警戒しつつゲルマニア鎮守府に帰還した加賀達はヒトラー達の歓迎を受けた。

 「よくやってくれた!素晴らしい大戦果だ!!」

 そういってヒトラーは加賀の手をぐっと握り笑顔で彼女をねぎらった。

 「当然の結果よ。良い作戦指揮でした」

 加賀は特に表情を変えずに言った。

 ヒトラーは頷きながら、「そうか・・・しかし疲れただろう、今夜はしっかりと休みなさい、お嬢さん」

 そういうとヒトラーは軽く加賀の手を取り甲に口づけした。

 「出会った最初からこれほどの働きをしてくれるとは・・・すまないね。我々もしっかりと見習わねば。お嬢さん、あなたはせっかくのきれいな顔をしているのだ。無理はせぬように。君は軍人だが、同時に女性でもあるのだから。」

 突然、握手に口づけ、さらにきれいと褒められて加賀は「え?」と少し困惑した後、顔をわずかに赤くした。

 しかしその時にはすでにヒトラーやほかの側近たちはほかの艦娘をねぎらっていたり、入渠や補給に向かわせたりしていた。

 立ち尽くす加賀の下に犬のブロンディが走ってきて彼女の周りを歩いた。

 「変な人・・・」

 そう呟きながら彼女はブロンディの頭を撫でた。

 「でも・・・少しは信用はできそうね」

 夜空には星が瞬きはじめ、流れ星がいくつか確認できた。

 

 そのころ、砂浜には二人の武装親衛隊の服を着た男が倒れていた。

 新たな仲間は今度は何をもたらすのだろう?

 

 




 好きな艦娘は武蔵、潮、大淀、青葉と色々おりますが一番は加賀さんです。
 加賀さんをようやくゲットした時はどれだけ狂喜乱舞したことか・・・
 あと誰かこの変態ちょび髭達をどうにかしてくれ。
 毎回このssを呼んでくれてありがとうございます。
 しっかりと面白いものを作れるよう頑張っていきたいと思います。
 「ラブライブ!~ER IST WIEDER DA~」のほうもよろしく。
 次回またあの名シーンをやりたいと思います。
 あと、親衛隊姿の妖精さんだれか描いてくれないかな・・・自分は絵は下手ですし、総統も美大落ちだから期待できないし・・・ん?こんな時間に誰だろう?
 
 


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12話 ボーキサイトの不足~総統、空母を語る~

 「総統、これはいったい?」とゲッベルスはヒトラーに尋ねた。

 母校に帰還した艦娘達を迎え入れ、ヒトラー達が総統執務室に戻った時そこには犬のブロンディとヒトラーの机の上に乗っかっている何人もの妖精がいた。

 よく見るとその妖精たちは皆武装親衛隊の格好をして小銃やサブマシンガンを抱えている。

 「見ての通りだよ、ゲッベルス君。私が妖精達で新たに親衛隊を作ったのだ」

 「なぜ、その必要が?」

 「私の身辺警護、鎮守府や艦娘達そのものの警護、陸上戦になったとき・・・そういう事態を考えたら、新たに多数の人員が必要になるがそれをそろえる余裕はないのでね。妖精たちは沢山いるわけだから、代わりに務めさせようと思ったのだ」

 ヒトラーは笑いながら言った。

 「それに、親衛隊がいたほうが我々らしいと思わんかね?」

 ボルマンが頷く。「言われてみればそうですな。後はスコルツェニーやヒムラーがいれば完璧ですな」

 「ヒムラーはいかん。あやつは最後に私を裏切りおった」

 そう言いながらヒトラーは椅子に座り、ブロンディや妖精たちと頭を撫でながら、戯れ始めた。その様子は今日の勝負が大勝利だったからであろう、非常に上機嫌だった。

 無論、部下たちも大勝利で上機嫌だ。

 この調子でいけば、小笠原攻略もそう難しくはあるまい・・・と皆が同じようなことを考えていると、執務室のドアが開き大淀が入ってきた。

 何事かとヒトラー達が大淀の顔を見る。

 「総統、また砂浜に人が倒れていました。男性が二名です」

 「今はどうしているんだ?」

 「二人とも保健室に・・・」

 ヒトラー達は、夜中であったがすぐに保健室に向かった。

 

 保健室のベッドに横たわっていたのは親衛隊少将ヴィルヘルム・モーンケと親衛隊中将だった。

 ゆっくりと二人の目が開けられ、体を起こす。

 二人は周りを見渡し、驚愕した。

 ヒトラー、ゲッベルス、ボルマン・・・この世にはいないはずの人間が目の前にいたからだ。

 「これは・・・」

 戸惑うフェーゲラインにヒトラーがとった行動はこれだった。

 

 「KO☆RO☆SU」

 

 次の瞬間、ヒトラーの隣を待っていた親衛隊の妖精たちがMP40をフェーゲラインに向けて連射した。

 「はい死んだ!!」

 フェーゲラインは右手を挙げながら、銃弾を撃ち込まれまたベッドに倒れこんだ。

 「おいいいいいいい!?そうとおおおおおおおお!!??何殺してんだああああああ!!??」

 思わず大淀が叫んだ。

 ヒトラーは顔色を何一つ変えず、「いやだってあいつヒムラーと一緒に裏切ったし。裏切り者には死を、だよ」

 「いや、ここ第三帝国じゃないんですよ!どうすんだよ、あんたら殺人犯になっちゃうよ!」

 ブルクドルフもツッコむ。

 「安心したまえ、撃ち込んだのは訓練用の弾丸だ、死にはしない・・・たぶん」

 「いや、たぶんじゃますます不安なんだが・・・」

 「復活したZE☆」

 周りのパニックをよそに死んだはずのフェーゲラインがまたベッドから起き上がった。

 「ウオッ!?」

 復活した二人との再会はこうして騒がしいものだった。

 とにかく、その後ヒトラー達の説得により、親衛隊少将ヴィルヘルム・モーンケと親衛隊中将フェーゲラインが新たに鎮守府に着任することになった。

 

 それからしばらくの間、加賀達の活躍により、小笠原諸島の的艦隊は徐々に損耗、弱体化していき残すは主力のみとなった。

 しかし、損耗があったのは、ゲルマニア鎮守府も同じだった。

 敵の潜水艦や戦艦、軽空母などが偵察時の予想よりも多く、また空母ヲ級を含む敵主力艦隊の猛攻によりゲルマニア鎮守府は弾薬や燃料等の資源を大量に消費することになり、その不足に悩むことになった。何より一番不足したのは、ボーキサイトだった。

 「資源の不足が著しいです」

 多くの部下、艦娘達が集まる総統執務室でクレープスはヒトラーに言った。

 「度重なる出撃により特にボーキサイトの不足が激しくなっています。ボルマンと大淀が大本営と掛け合っていますが、すぐには芳しい結果は出ないでしょう」

 ヒトラーが言った。「確かにボーキサイトは大量消費しているがこんなに激しいものか?」

 ブルクドルフはクレープスをちらりと見た。

 クレープスが恐る恐る言う。

 「総統、ボーキサイトは・・・」

 クレープスがすべて言い終える前に代わりにヨードルが説明した。

 「ボーキサイトは総統の度重なる航空機開発と正規空母加賀の大量消費で消えました。ちょび髭、お前がよく分かっていることだろ」

 ヒトラーはしばらくじっとしていたが、やがて手をプルプルと震わせながら、かけていた眼鏡をはずしていった。

 「・・・空母の魅力がわからんやつ残れ、アンポンタン」

 その言葉に艦娘達が執務室がから次々と出ていく。残ったのは、クレープスとブルクドルフ、ボルマン、ゲッベルス、ヨードルにカイテル。

 しばらくの沈黙のうち、ヒトラーは叫んだ。

 「・・・んなこた分かってんだよ!!」

 その怒鳴り声は執務室の外にいる艦娘達にも響いた。

 「たしかにボーキが消えることは分かっていたが!それ分かってても使うぐらい空母と戦艦は強いんだよ!!それがわからんやつは大嫌いだ!!」

 ヒトラーが立ち上がる。

 「ボーキサイトを丸ごと消しても割に合うどころかおつりがたっぷり来るほど強いんだ空母は、それがわからんのか?」

 ブルクドルフはそれに反論した。

 「いや、それだけじゃないだろ加賀さんの中破姿見たいと言ってただろ!」

 「ちょまっ!?大っ嫌いだ!!そんなわけないだろバーカ!!」

 「無事に帰還したら、舌打ちして中破したら万歳してたしな!」

 「私はそんな変態ではない!開発がうまくいかないんだよ!!」

 そういってヒトラーは持っていた鉛筆を机にたたきつけた。

 

 「畜生めぇ!!」

 

 ヒトラーの弁解は続く。

 「空母と戦艦はな、まず火力がものすごいのだ!航空機の大爆撃や雷撃、砲撃で一撃で艦隊を壊滅に追い込める!け、けっして胸や顔にウオッ!?となるわけじゃない!!それにいい装備を開発しようとしても出てくる装備はメッサーシュミットやスツーカ、烈風ではなくゼロ戦ばかり、とにかくボーキサイトが足らんかった~~あいつなら今頃、妖精たちを粛清している、そうスターリンなら!」

 ヒトラーははぁはぁと息切れしながら座り、しかししゃべり続ける。

 「空母や航空機開発にばかり資材を回すと・・・ボーキサイトが不足してまともに戦うことができないのは分かっていた・・・しかしどうしてもやめられんのだ!あの性能、あの大火力・・・活用しないわけにはいかない!そして何よりも魅力は!!目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 部下たちがようやく本音をさらけ出したな、という顔をする。

 「加賀さんはほんと美人で何でもできて巨乳で、本当にすばらしい!どっかのロリコン宣伝相は貧乳はステータスと言っているがな、ああいう巨乳娘だって希少価値高いんだよ、そうだろ柴田さん!!」

 その言葉にクレープスは「だから柴田さんて誰なのよ」ブルクドルフは「俺が知りたい」とひそひそ話す。

 執務室の外でヒトラーの話を聞いていた大淀は隣で呆然としている加賀と泣いている潮に「加賀さん、潮さん、ここから逃げてもいいんですよ・・・ねぇ、泣かないで・・・」と言った。

 ヒトラーはうなだれながら言った・・・

 「まぁ、とにかくまとめると・・・空母と戦艦と航空機は強すぎるもんだから使いすぎて資源が枯渇しているということだ・・・一応私にも責任はある」

 そしてヒトラーは部下たちを見た。

 「まとめるとこの資源不足のままでは敵主力をたたけず作戦は失敗に終わる、と言いたいのだろう?とりあえず燃料と弾薬はまだ残っている。しばらく空母の出撃は控えて戦艦中心でいこう。みんなもいい案があったら考えてくれ」

 そしてヒトラーはまたうつむいた。

 しばらくの沈黙が執務室に流れたのち、ヨードルが言った。

 「り陸奥たか使えないの?」

 ヒトラーは顔を向けた。

 「あの化け物使えってか?」

 またも執務室内はおろか艦娘達にも沈黙が流れた。

 「あの謎すぎる生物・・・使って大丈夫なのか?」

 

 こうして(不毛な)議論が進んでいる間にも、時間は進み、決戦の時が近づこうとしていた。




 資源のやりくり、特にボーキサイトの量にはいつも悩まされる。
 いつも読んでくれてありがとうございます。
 コメント欄を見ると、ルーデルやドイツ艦娘の登場を期待する声がありますが、それについては現在検討中です。出すとしたら後半・・・結構先になると思う。何しろルーデルなんかは存在自体がギャグなほどチートだからな・・・。
 そのうち、スコルツェニーやヒムラーも出していきたいと思います。
 しっかりと頑張っていきますのでこれからもよろしくお願いします。
 


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13話 小笠原の決戦~り陸奥たかよ永遠に~

 数日後、小笠原諸島へ向かって海を進んでいる艦隊があった。

 その艦隊は一見空母や戦艦を含めた普通の艦隊に見えるだろう。が、一つだけおかしいところがあった。

 

 カタツムリのような体につぶらな瞳と戦艦陸奥の髪型をした謎の生物。

 通称、り陸奥たかが多数の艦娘達の中に混じって敵主力の待つ小笠原諸島に向かって進んでいた。

 

 ゲルマニア鎮守府の作戦指揮所は沈黙に包まれていた。

 ヒトラーと大淀をはじめ、鎮守府の主要なメンバーが指揮所に集まっている。

 今回の作戦は敵の主力を攻撃して全滅させ、鎮守府近海を確保するというクラウゼヴィッツ作戦最後の作戦にして最も重要な作戦だ。

 「り陸奥たか出したのは正解だったんですかね?」

 不安そうにクレープスがヒトラーに言った。

 「・・・ボーキ不足で加賀をはじめとする航空戦力に制限があるのだ。り陸奥たかで戦力を補うしかあるまい。一応戦艦ではあるのだからな」

 ヒトラーは言った。

 フェーゲラインも頷きながら「どっかのちょび髭が開発と出撃にボーキ使いすぎてボーキサイト不足なったんだろ?しかもできた装備はみんなショボかったそうじゃないか。総統運なさすぎワロタww」

 「KO☆RO☆SU」

 「はい死んだ!」

 突如、ヒトラー達の背後でサブマシンガンの銃声とフェーゲラインの悲鳴が響いた。

 ピロリーンと、どこからか音がする。

 「あれ?今、デイリー任務達成の音が聞こえたような気がしたんですが・・・」

 「気のせいだろ。フェーゲラインは処刑するものなんだよ」

 「アンタら酷いな!」

 大淀が無線機を手にしながらヒトラー達にツッコむ。

 カイテルが皆に言った。

 「まぁ、とにかくなんとしてもこの作戦を成功させて、そして摩耶の中破姿を、見ます!」

 「おぉーー!!」

 「お前ら少しは自重しろ!」

 ヒトラーがカイテル達にツッコむ。

 しかしヨードルも反論する。

 「お前に言われたかねぇ、ハゲ!」

 「鏡見てから言えよ!!」

 ちなみにヒトラーの家系は遺伝的には年を追うごとに薄毛になっていくタイプだ。

 ヒトラーの隣でフェーゲラインの声がした。

 「そうそう、一番自重してないやつに言われてもなww」

 「うおっ!?」

 ヒトラー達が驚く。そりゃそうだ。さっき処刑したばかりで死んでいないとはいえ回復には一日ぐらいかかるはずだが、ものの数分で復活したからだ。

 「お前いつ復活したんだよ!ダサいし!」

 ブルクドルフがツッコんだ。

 フェーゲラインが余裕の表情で言った。

 「いやぁ、青葉が高速修復材くれたんだよ」

 見ればフェーゲラインの隣には重巡の青葉が立っている。彼女は鎮守府の防衛用に残ったのだ。

 「いやぁ、青葉見ちゃいま「二人ともコロス☆」

 青葉が言い終わらないうちにヒトラーがそう言うと、妖精親衛隊の隊員たちがMP40を青葉とフェーゲラインに照準し連射した。

 「はい死んだ!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 悲鳴を上げて二人は倒れた。

 「なんでや!青葉関係ないやろ!」

 ヨードルがツッコんだ。

 「青葉め、勝手に資材を使いやがったからだよ。それにフェーゲ処刑はお約束なんだ。とにかく私は!この戦いに勝利して!そしておっぱいぷるーんぷるん!!するんだ!見てろ深海棲艦め!」

 ヒトラーの様子を見て、大淀はあんな司令官でよくここまで来たものだと思いながら、胃が痛くなるのを感じた。

 

 数時間後、加賀を旗艦とした艦隊は小笠原諸島の敵主力艦隊に近づきづつあった。

 ここまで進む間に、艦隊は空母ヲ級の戦闘機部隊の猛攻をくらった。

 艦隊の航空戦力はボーキサイト不足のために、限られている。そこでヒトラーと彼女たちは次のような戦法をとることにした。

 主力をたたくのは戦艦を中心として、空母は防空に徹することにしたのだ。

 そして敵主力が艦砲の射程に入ったときに戦艦の射撃で敵をせん滅することにした。

 

 そして彼女たちは敵主力艦隊をあと少しで目前としていた。

 偵察機からの情報が艦隊に届けられる。

 「空母ヲ級が3隻、うち一隻はエリート、戦艦ル級が3隻・・・」

 山城の報告に加賀は考え込んだ。

 「敵の航空戦力はまだある程度残っているはず。対して私と隼鷹と瑞鳳の航空戦力はもうそれほど残っていない・・・でもさっき敵の航空機攻撃が来たからまた敵空母が攻撃を仕掛けてくるまで余裕が残っているはず」

 加賀は顔を上げた。

 「今ある航空機をすべて発艦させて空母を優先に敵艦隊を攻撃しましょう。今がチャンスのはず」

 もちろんすべてを発艦させれば艦隊の防空能力は著しく下がることになる。だからこれは一種の賭けともいえるだろう。だが、戦争には思い切りの良さも必要だ。

 次々とゼロ戦や九七式艦攻、九九式艦爆が発艦していく。

 しばらくした後、加賀達艦隊ははるか遠くの洋上で空中に黒い弾幕やソラニンぼる煙を確認した。敵艦が攻撃を受けたり、激しい対空砲火を行っているのだ。

 「やりました」

 目を閉じ戦闘機部隊の指揮、操縦を行っていた加賀が言った。

 「空母ヲ級一隻を大破、一隻を中破・・・敵艦隊の航空戦力は大きく減少した」

 空母は中破以上に追い込めば基本、航空機を使えない。それに夜戦になると、まったく攻撃が行えなくなる。脅威ではなくなり、的になるのだ。

 やがて、艦隊と敵艦隊のお互いの戦艦の主砲がそれぞれ射程圏内にはいった。

 動けなくなった空母は格好の的だ。

 観測機からの情報もあり山城たち戦艦の正確な射撃で山積の空母ヲ級の周りに無数の水柱が立ち水柱が消えたころにはヲ級の姿も消えていた。

 が、同時に風切り音がしたかと思うと、加賀と隼鷹の周りに水柱が立つ。戦艦ル級の砲撃が着弾したのだ。

 服がはだけ、たちまち中破に追い込まれる。

 「ああ~、こんな格好いやだぁ~」

 「・・・頭にきました」

 山城たちも負けじと砲撃するが、煙で遮られなかなか当たらず、さらに敵の砲撃が加賀に集中する。

 「このままじゃ・・・」

 そのとき、何かが加賀の前を遮った。

 り陸奥たかであった。り陸奥たかにル級の砲弾が着弾する。

 「盾に・・・!」 

 加賀が目を見開くと、り陸奥たかはそのまま砲撃を行いながら三隻のル級に向かって突進していく。

 敵もり陸奥たかに攻撃を集中し始める。

 次々と被弾し傷つくり陸奥たか。

 「待って、このままじゃ・・・」

 しかし懸念をよそにり陸奥たかは敵艦隊に突っ込んでいく。敵もなかなか沈まないり陸奥たかに業を煮やしているようだ。

 

 そして敵艦隊を目前をした次の瞬間、り陸奥たかは背中の第三砲塔を中心に大爆発を起こした。

 

 その爆発は大きいもので、爆炎と爆風は周りのル級全員を襲い、爆風は加賀達のところまで届いた。

 煙が晴れてくると、そこにル級の姿とり陸奥たかの姿はなかった。

 「え・・・」

 しばらく彼女たちは理解をするのに時間を要した。

 まとめるとこういうことだった。

 

 り陸奥たか、敵艦隊に突っ込む。

 り陸奥たか、敵艦隊を目前にする。

 り陸奥たか、敵艦隊を巻き込んで大爆発を起こす。

 り陸奥たか、敵艦隊を全滅させる。特攻で。

 

 しばらくの沈黙ののち、艦娘達及びゲルマニア鎮守府のメンバーは叫んだ。

 「り陸奥たかあああああああああ!!」

 

 そして煙が晴れた時、その中に人影を確認した。

 鎮守府の作戦指揮所でヒトラーは呟く。

 「もしや・・・」

 予想は当たった。

 現れたのはミニスカートに露出の高い服、艤装を模したカチューシャを付けた茶髪のボブカットの美少女だった。

 クレープスがヒトラーに言った。

 「総統、これはもしや」

 ヒトラーは頷いた。

 「やったぞ、り陸奥たかが戦艦陸奥に、元の姿に戻ったああああああああ!」

 海上に浮かびながら彼女は艦娘達に自己紹介した。

 「長門型戦艦二番艦の陸奥よ。よろしくね。あまり火遊びはしないでね。お願いよ?」

 

 とにもかくも、クラウゼヴィッツ作戦は成功し、こうして幕を閉じた。

 

 

 そのころ、南方の、とある島では一人の男が砂浜に打ち上げれらていた。

 「こ・・・ここはいったい・・・私はなぜこんなことに・・・?」

 ドイツ帝国海軍元帥、カール・デーニッツ。彼は気づけばドイツ帝国海軍の制服を着て砂浜に打ち上げられていた。

 「おーい!誰かいないか!誰か!」

 デーニッツは立ち上がって周りを見渡しながら叫んだが、何の反応も帰ってこなかった。

 自分のほかに打ち上げられた者はいないようだ。彼は島を散策することにした。

 そして、散策している間に島の岩礁に何か巨大なものがあるのを確認した。

 その巨大な物体に近づいて、彼は絶句した。

 「なぜだ・・・なぜこんなものがここに!?」

 

 岩礁に打ち上げられていたものの正体は巨大な空母だった。ところどころペンキや装甲、飛行甲板がはがれているが確かに巨大な空母がそこにあった。一目でわかるほどに。何より特徴的だったのは・・・

 「日本海軍か?」

 艦首には日本海軍の軍艦であることをしめす、金色の菊花紋章がついていた。  

 「いったい・・・何がどうなっているんだ・・・?」

 ドイツ帝国海軍元帥カール・デーニッツはしばらくの間そこに立ち尽くすしかなかった。




フェーゲラインは処刑するもの。以上。
感想、ご意見、お待ちしています。


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14話 勝利の宴~総統に乾杯!~

 クラウゼヴィッツ作戦が成功に終わり数日後、ゲルマニア鎮守府はいつもより騒がしくなっていた。

 鎮守府の中庭や屋上では巨大なテーブルと、それに乗せられた何種類ものごちそうが置かれ、周りには酒盛りをしている艦娘達や軍人が群がっている。

 鎮守府の外装には少々派手な飾りが確認でき、門には『祝クラウゼヴィッツ作戦成功』と看板があった。

 今日は作戦が成功したことの祝おうとパーティーが開かれたのだ。

 

 鎮守府の中庭でご機嫌な声が響いた。

 「く~~!!うまい!!やっぱり勝った後の祝い酒はうまいよね~!」

 隼鷹が一升瓶を片手にカップになみなみと入った日本酒を飲みほした。

 「いや、日本酒も結構いけるな~」

 隼鷹の隣でクレープスとブルクドルフが顔を赤くしながらともに酒を飲んでいる。

 「ほら、このキルシュワッサ(ドイツのサクランボのお酒)も飲んでみろ、美味いぜ」

 ブルクドルフがそう言って隼鷹に酒瓶を渡した。

 「お、気が利くね~」

 隼鷹はにやりと笑い、ブルクドルフも笑った。

 「その酒・・・うまそうだな、私にも一杯いいか?」

 三人の下にこれまた酒で顔を赤くした那智がやってきた。今度はクレープスが対応する。

 「いいともいいとも、今日は祝いの日だ飲めるうちに飲んでかないと損だぞ」

 「そうだな、今日は盛大に飲ませてもらうぞ」

 ドイツ軍人と艦娘がお酒の付き合いでいい感じになっているところへさらに二人ほど男が寄ってきた。ヒトラーとゲッベルスだ。

 「クレープス、ブルクドルフ、それにお嬢さん方あまり飲みすぎるな。いくら祝いの席だからと言って体に悪い」

 普段から健康に気を使っているヒトラーらしい言葉だった。

 隼鷹は笑いながら、「いいじゃないの、美味いんだからさ~総統も飲みなよ、お酒が飲めないと人生半分損だよ~」

 「確かに私は飲酒はあまりしないが、しかし私の半生は酒がなくとも満たされることは何度もあった」と言いつつもヒトラーは渡されたグラスを手に取り入っていたシャンパンを少し飲んだ。やはり、最前線に出る兵士となれば酒なしにはやっていられないのだろう、と考えながら隣にいたゲッベルスに声をかける。

 「どうだね、ゲッベルス君・・・久しぶりの勝利の味は」

 「やはり気持ちがいいものですな。艦娘達もみな満足そうな笑顔だ。」

 ヒトラーは頷いた。

 「そうだ。この勝利は必然で、これからも我々の勝利は我々にとって必然なのだ」

 ヒトラーは目の前の艦娘達を見ながら言った。

 「そして本来なら、総統はここで油断せず次の勝利にむけて計画を練るべきだと思うのだが」

 ゲッベルスは笑った。

 「総統閣下、あなたは本当に素晴らしいお方だ・・・ですが久しぶりの勝利です。じっくりと味わったほうが得というものでしょう」

 「そうだな・・・こういう席も悪くはない。せっかくだ、駆逐艦娘と加賀さんのところへ行って・・・」

 ヒトラーがそう言いかけた時、ゲッベルスの目が光った。

 「駆逐艦・・・そうです、駆逐艦娘!!」

 突然大声を張り上げたゲッベルスにパーティー会場にいた全員が彼を見る。

 「よく聞け諸君!今回の勝利は駆逐艦娘によるところが大きい!!敵にとどめを刺したのは空母と戦艦とあることは事実!しかし彼女たちがそこにたどり着けたのはなぜか、それは最大の障害であり脅威である潜水艦や巡洋艦を打ちのめした駆逐艦娘の存在があったからだ!!」

 ゲッベルスがドンとテーブルをたたいて演説を始める。

 「強さ、美しさ、可愛さ、萌え要素、ロリ要素、スケベェ要素、すべてを兼ね備えた駆逐艦こそ艦娘の頂点にして至高!異論は許さない!!私は今ここに駆逐艦娘ロリコン万歳教を立ち上げることを宣言する!愚民ども今日から駆逐艦娘を崇めよ!!駆逐艦あの一瞬の美しさ、スケベェさがわからぬものは一生後悔することになるであろう!!」

 その場にいた軍人、ヒトラー、艦娘達、犬のブロンディと妖精たち全員がずっこけた。

 ブーイングの嵐が吹き荒れた。

 「ロリコンもたいがいにしろ、自重という言葉を知らんのか!!」

 「怨怨!戦艦を崇拝せよ!山城のムチムチボディは素晴らしい!!」

 「クレープスお前もか!!」

 「空母のダイナマイトボディを見てもまだそんなことが言えるか、ええ?」

 「何言ってんだコノヤロー重巡がいいに決まってるだろバカヤロー」

 「潮ちゃんはロリ要素も、巨乳要素は備えた万能感だぞ」

 「きっもー」

 「駆逐艦?ウザい」

 「ここは譲れません」

 ヒトラーが大声を張り上げる。

 「おめえらなに変態趣味的なこと言ってんだよ!!艦娘達はエロや変態の対象じゃない!!一番大切なことはな、目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 フェーゲラインがあきれたように言った。

 「総統も十分変態じゃねぇか・・・」

 青葉が素早くメモをする。

 「総統一味、艦娘達の目の前で変態発言と・・・」

 「二人ともKO☆RO☆SU」

 「はい死んだ!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 ヒトラーの掛け声により妖精親衛隊が構えていたMP40サブマシンガンをフェーゲラインと青葉に向けて連射した。

 二人の悲鳴が響いて、二人が倒れると同時にピロリーンという音がどこからかした。

 「すげえ!一気におっぱいぷるーんぷるん!!とフェーゲ処刑のデイリー任務達成しやがった!」

 カイテルが感心する。

 ヨードルがツッコんだ。

 「いやなに感心してんだよ!!」

 

 と、その時何者かがゲッベルスの背中をたたいた。振り返るとそこには電がいた。

 が、酒を飲んで少し酔っているのであろう、頬が赤く足取りがおぼつかない。

 しかし様子がおかしい。

 「どうしたゲッベルス君?」

 「いえ、総統閣下、電が・・・」

 ヒトラーが彼女を顔を覗き込んで一瞬恐怖を感じた。

 いつものかわいらしい瞳が真っ黒に染まり口はにやりと両端が吊り上がっている。全体的に邪悪なオーラを放っていた。

 次の瞬間、電はゲッベルスの手をつかんでものすごい速さで背負い投げをした。

 「ぎゃん!!」

 「おい、どうした!?気でも狂ったか!?」

 「・・・なのDEATH」

 周りがざわめく。

 「お、おいなんか語尾おかしくね?」

 「酒飲んでおかしくなっちまったんじゃ」

 ゆっくりと電が顔を上げる。

 その顔には影がかかっており、とても邪悪なオーラを放っていた。

 「ねぇ、ゲッベルスさん」

 「は、はい?」

 「アンタのロリコン病でどんだけ私たちが苦しんでいると思っているのDEATHか?」

 ゲッベルスが後ずさりしながら言った。

 「い、いや・・・」

 クレープスがつぶやく。

 「あ・・・ありゃ電じゃない、ぷらずまだ・・・」

 電、いやぷらずまと化した彼女がゲッベルスの胸ぐらをつかんだ。

 「お風呂の覗きに、中破姿をじっくりと見られて・・・挙句の果てにあの演説、もう我慢できないのDEATH」

 「す、すんませんでしたーー!!」

 「じゃあ、謝罪の代わりにちゃんとした演説をするのDEATH」

 ゲッベルスがヒトラーをちらりと見る。

 ヒトラーがゲッベルスを見ながら「そういえば勝利の祝う演説がまだだったな」とつぶやいた。

 ゲッベルスは咳ばらいをしてヒトラー達の前に立ち演説を始めた。

 「我々は一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ! 地球連邦に比べ、我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か? 諸君!我がジオン公国の戦争目的が正義だか「いや、それギレンの演説まんまじゃねぇか!」

 ヒトラーがツッコんだ。

 「なに某機動戦士のアニメパクってんだ!宣伝相なのにパクリとか!ダサいし!!」

 「怨怨!」

 またしてもブーイングの嵐。

 ヨードルが言った。

 「ぷらずまちゃん、ゲッベルスと一緒に遊んで来たら?」

 次の瞬間ぷらずまはゲッベルスにもう一度背負い投げをくらわせると首根っこをひっつかんでどこかへと引きずっていった。

 「さあ、くるのDEATH」

 「いやだああああああ!明日まで、明日までお待ちください!!明日になればまともな演説ができるはずです!!」

 加賀がヒトラーに言った。

 「総統、あなたが演説で締めてください。あなたが最高司令官ですし真面目に終わりたいので」 

 ヒトラーは頷いた。やはり演説はヒトラーの独壇場だ。

 ヒトラーは艦娘達の前に立った。

 全員がこちらを見る。

 「諸君!我らはいまここにこうして勝利を得た!これはなぜか?諸君ら艦娘達は敵の排撃、撃滅に、全滅にわが身をいとわず全身全霊を尽くし奮闘した。妖精たちは整備、物資の補給に奮闘し、将軍たちは私とともに知恵を集め戦略を練り勝利に貢献した。これはすなわち、諸君の英雄的な行動によるものである!!私は諸君の指導者だ。そして私は諸君なしには成り立たず諸君らも責任と変革をとるものなしには成り立たない!」

 「ニャ、ニャメロン!!」

 「しょせん屑は屑なのDEATH!!」

 「おおう!?」

 とおくでゲッベルスがぷらずまになぜかあった岩盤に押し付けられる様子が見えたが気にしない。

 「諸君と私は一心同体、私が導き、責任を取り、勝利を勝ち取るのは諸君である!!私は宣言する!これは始まりである!完全なる勝利と栄光を手に入れるための戦いであると!」

 「ゲッベルスさん・・・今楽にしてやるのDEATH」

 「駆逐艦娘に殺されるとは・・・これもゲッベルスの定めか・・・」

 遠くでゲッベルスが何故かあった丸いポッドに放り込まれぷらずまに遠くに投げられる様子が見えたが気にしない。

 「諸君が戦場を進むとき知ることになる!これは総統が決断したことなのだと!そして我々が最後に勝利するのだということを約束されているのだということを!!私は諸君に約束する、私が諸君を確実に導き諸君に勝利をもたらすと!諸君に英雄的な心がある限り、我らの勝利は確実である!今回の作戦の勝利はその第一歩である!!ジーク(勝利)!!」

 ヒトラーがそう言って右手を上げると側近や艦娘達も右手を上げ「ハイル(万歳)!!」と言った。

 まるでかつての第三帝国の日々のようにーー

 「ジーク!!」

 「ハイル!!」

 「ジーク!!」

 「ハイル!!」

 ヒトラーの横にはぷらずまと尻に魚雷を突っ込まれたゲッベルスが倒れていたが気にしなかった。

 

 

 そのころ、太平洋のどこかの深海

 その海底で二人の美しくしかし邪悪にも見える深海棲艦が目の前の一人の男に報告をしていた。

 「ほう・・・小笠原がとられたか」

 「テキノセンジュツトセンリョクガワレワレヨリウエダッタ・・・」

 「何そうあわてることはない。もともと小笠原はとられてもおかしくない状況だったからな」

 そういって男は薄く笑った。

 その様子を見あがらもうひとりの深海棲艦が男に問う。

 「ナゼダ?ナゼオマエハニンゲンナノニワレワレノミカタヲスル?」

 「なに、特に理由はない」

 そういって男は傍らにあったグラスにウォッカを注いだ。

 「強いて言うなら・・・人間は信用できんしそれにそちらのほうがおもしろいと思ったからだろうな。地獄から世界を見るほうが」

 そういってその男ーーヨシフ・スターリンは笑った。

 「世界は面白く、騒がしく、狂っていたほうがいい・・・そう思わんかねアドルフ?」

 もう一人独裁者が復活したことを世界はまだ知らずにいた。



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15話 大型建造~男のロマン~

 「大型建造?」

 「はい。通常建造では現れないよりレアな艦娘を手に入れることができます」

 執務室のソファーに座りながらヒトラーはとなりで作業をしている加賀と話をしていた。

 「もちろんその分大量の資源と開発資材を消費しますし、確率は低いですが・・・」

 「レアな艦娘か・・・」

 ヒトラーは加賀の話を聞きながら天井を見つめた。

 「やってみる価値はありそうだな。ところで君」

 加賀は作業の手を止めてヒトラーのほうを向いた。

 「何でしょう」

 「ずいぶんと若いね。年は・・・いくつかい?」

 「なぜそんなことを?」

 ヒトラーは笑った。

 「なに、君には感謝しているんだ。君のおかげで戦闘も事務作業も楽に進めることができる。ただ・・・君はまだ若いのに無理をさせてしまっているような気がしてね」

 加賀は静かに、無表情に答えた。

 「私は艦娘です。私はあくまで国のために働く、いわば兵器ですから」

 そこまで言ったところでヒトラーは加賀の手をそっと触った。

 わずかに微笑みながら加賀の顔を見つめる。

 「そんなことはない。君は私たちとともに笑って食べて一緒に寝ている。れっきとした人間であり仲間だ。まして君はまだお嬢さんだ。そんなに無理をしなくてもいい。少しぐらい休んでも誰も咎めはせん。君には本当に感謝している。」

 ヒトラーは加賀の肩をぽんとたたいた。

 「いつもすまないね。何かあったらいつでもいってくれ」

 「・・・ありがとうございます」

 加賀は小さな声でわずかに微笑みながら答えた。

 「リア充爆発しろ!!」

 突然執務室のドアが開いてヨードルたちが怒鳴りながら入ってきた。 

 さっきまでのいい雰囲気があっという間に消える。

 「なに言ってんだお前ら!?」

 「さっきから聞いてりゃ加賀さんとイチャイチャしやがって!禿の痛みも少しはわかってくれよ!!」

 ヒトラーは反論した。

 「い、いや、別にそういう関係じゃねーし!禿の恋愛事情なんか知らねえよ!!」

 後ろにいたクレープスがため息をついた。

 「で、その話はどうでもいいとして、今総統閣下は大型建造について話されていましたね」

 ヒトラーは頷いた。

 「ああ、やってみる価値はあると思うのだが・・・」

 すると突然いつの間にか部屋に入っていたゲッベルスが声を張り上げた。

 「私は大型建造に反対です、総統閣下!」

 ゲッベルスは部屋にいるものすべてに話し始めた。

 「諸君、大型建造はレア艦が出るだけにやりたくなるのは分かる、しかし建造は一種のくじのようなもので、そう簡単に当たるものではない!!資源の無駄だ!それよりも駆逐艦娘の増産、量産に努めよ!駆逐艦こそ最強にして至高、異論は認めん!!あの幼さゆえの美しさ、スケベェ要素は素晴らしい!!そしていつの日か私は島風と雪風を当てて、俺仕様改装して見せるんだ!!」

 ゲッベルスは口角泡を飛ばしながら激論を展開した。

 直後、ブーイングの嵐が巻き起こる。

 「なぜ空母を認めない!!」

 「怨怨!戦艦を崇拝せよ!!山城のムチムチボディは見ものだぞ!!」

 「ふ、不幸だわ・・・」

 「空母のダイナマイトボディを見てもまだそんなことが言えるかな?」

 「ここは譲れません」

 「摩耶ちゃん(*´Д`)ハァハァ」

 「愛宕さん(*´Д`)ハァハァ」

 「ゲシュタポさん、こいつらです」

 「やっけくそー やっけくそー 」

 「タピオカパン!!」

 「何故にキーボードクラッシャー!?」

 あまりの喧騒にヒトラーがドンと机をたたいた。

 「お前ら少しは自重しろよ!!」

 フェーゲラインが笑いながら言った。

 「一番自重しないやつに言われてもww」

 「KO☆RO☆SU」

 「はい死んだ!」

 直後、妖精たちの持っていたサブマシンガンがフェーゲラインに向かって連射され、フェーゲラインは悲鳴を上げながら倒れた。

 どこからかピロリーンという音が響いた。

 青葉がほっとした様子でため息をつく。

 「ふぅ、今回は青葉巻き込まれなかったようで」

 「何言ってるの?あなたも一緒に処刑されるのよ」

 加賀が青葉に言った。

 「え?」

 加賀は笑いながら言った。

 「KO☆RO☆SU」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 妖精たちのサブマシンガンの銃声と青葉の悲鳴が鎮守府に響き渡った。

 「なんでや!青葉関係ないやろ!!」

 ヨードルがツッコむ。

 「いや、フェーゲと青葉は処刑するもんなんだよ。我がゲルマニア鎮守府の名物だ」

 「勝手に名物にすんじゃねぇ!!」

 すでに執務室の中や外には騒ぎを聞きつけたゲルマニア鎮守府の艦娘達やドイツ軍人が集まっていた。

 

 数時間後

 「と、いうわけで私は大型建造をやる。何しろレア艦が当たるからな。戦力の補充や今後のためにはそうしたほうがよかろう」

 総統執務室ではヒトラー達を中心に会議が行われていた。

 クレープスが資料を見せながら説明する。

 「ですが総統、現在我がゲルマニア鎮守府は資源がそれほど潤沢ではなくむしろ通常建造に抑えるべきではないかと思いますが。それに鎮守府内でも慎重論のほうが多いですし下手したら資源枯渇しますよ」

 「なに、すぐには深海棲艦が襲ってくることはないだろうし駆逐艦娘や軽巡が多くいるのだ、うまく遠征や節約すれば問題ない、大丈夫だ」

 ブルクドルフがクレープスをちらりと見る。

 クレープスがあきれ顔で言った。

 「ちょび・・・総統閣下、アンタ・・・」

 ヨードルが続きを言った。

 「お前そんなに大型建造にこだわって口では戦力増強、レア艦だの言ってるけどどうせほんとは武蔵とか大和とかおっぱい目当てなんだろ?」

 執務室が沈黙に包まれた。

 沈黙ののちヒトラーがプルプルと震える手でかけていた眼鏡をはずし言った。

 「大型建造のロマンが解らない者はここに残れアンポンタン」

 その言葉に従い艦娘達や軍人が執務室を出ていく。

 残ったのはカイテル、ヨードル、クレープス、ブルクドルフ、ボルマン、ゲッベルスの6人。

 しばしの沈黙ののちそれ破ったのはヒトラーの声だった。

 「分かってないなお前ら!大型建造はいわばロマンなんだよ!男のな!」

ヒトラーが激論を始める。

 「そもそも建造とは一種のくじのようなもの大型建造となればもうジャンボ宝くじのようなものだ!望みのものが当たる確率はあまりにも小さい!だがらこそそこにはロマンが存在し戦力の増強の意味でもやる価値は十分にある!それを理解してない奴なんか大っ嫌いだ!!」

 ブルクドルフがすかさず反論した。

 「総統閣下、大型建造は資源を大量消費します下手したら俺たちホームレスになっちまう!」

 「うるせぇ!大っ嫌いだ!ロマンがわからん奴は、バーカ!!」

 「総統、ロマンでは食えません!!」

 「何故わからんのだ!!この魅力が!!」

 ヒトラーは持っていた鉛筆を机にたたきつけた。

 

 「畜生めぇ!!!」

 

 ヒトラーの激論は続く。

 「確かに大型建造は下手したら資源がウオッ!?ということになって無一文になりまともに戦えなくなる危険がある。いわばギャンブルのようなものだ!下手したらしまった判断力足らんかった~~ということになる!!そう、私がスターリンと戦った時のように!!」

 ヒトラーはそのまま椅子に座りこんだ。

 ぜぇぜぇと息が切れかかっているがまだ話を続ける。

 「だがそれでもな・・・やる価値はある。装甲空母に一撃でどんな敵も一瞬で沈める超弩級戦艦、潜水空母・・・だが空母に関しては加賀さんが一番だ。加賀さんこそ最強の艦娘にして才色兼備のスーパーウーマン・・・大鳳みてぇな貧乳はいらない!」

 ヒトラーは幹部たちを見た。

 「分かった白状しよう!!私が大型建造にこだわる理由はな!目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!武蔵を何としても手に入れるんだ!強いうえにあの超わがままなダイナマイトボディにエロい目と体・・・男として黙っていられずにはいられないっ!!そうだろ柴田さん!」

 外ではえぐえぐと泣いている潮を大淀がなだめていた。

 「だから柴田さんて誰なのよ・・・」

 隣で加賀が顔をわずかに赤らめながら立っていた。

 「そんな・・・私が一番だなんて、私なんかよりも赤城さんのほうが・・・」

 「アンタも何照れているんだ」

 執務室ではヒトラーがうつむいていた。

 「とにかくだ・・・大型建造は私はなんとしてもやる。」

 ヒトラーは幹部たちを見た。

 「総統命令だ。武蔵を手に入れろ。あのダイナマイトボディお前らも見たいだろ。・・・解散してよし」

 総統執務室に痛い沈黙が流れた。




あとがき

ルーズヴェルト「ルーズヴェルトだぜっ」
トルーマン「トルーマンだよ~」
ルーズヴェルト&トルーマン「二人合わせてホワイトブラザーズ!!」
ルーズヴェルト「思ったんだけどさ、艦これアメリカ艦、というより連合国の船異常に少ないよな」
トルーマン「まぁ、確かに日本海軍メインのゲームとはいえ枢軸国ドイツ、イタリアはビスマルクとかプリンツとかそれなりに数あるのに我々連合国はアメリカとイギリスでそれぞれ一隻もとい一人だけですからねアイオワと・・・何だたっけ?」
チャーチル「ウォースパイトだよ・・・同盟国なのにひでぇなオイ」
ルーズヴェルト「すまん、後でいっぱい奢るから」
トルーマン「でも深海棲艦の装備見ると我々連合軍モチーフにしているところがあるからなぁ・・・もしかすると我々連合国の艦船はもしかするとほとんど深海凄艦化しているのかもしれませんぞ」
チャーチル「結構恨み持たれてるのかもな」
ルーズヴェルト「みんな深海棲艦・・・悪夢だな。ここは運営に直接直訴して・・・いや、こうなったら連合国版艦これを作ってしまおう!アメリカに不可能はない!」
ニミッツ「著作権で訴えられると思いますが」
毛沢東「我々中国人お得意のパクりの仕方伝授しようか?」
ケネディ(PT109着任してほしいな・・・)
中曾根康弘(青葉ちゃん今頃どうしてるかな・・・)
                             !すでのな!いましお


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16話 大型建造~ヒトラーの賭け~

 「出撃終わったぜーあーだりぃ」

 ゲルマニア鎮守府の工廠で遠征から帰ってきた摩耶が汗を拭きながら歩いていた。

 所々に擦り傷や、服の破れが見える。

 「遠征ご苦労」

 摩耶のそばに親衛隊少将モーンケがタオルとバケツを持ってきながら歩いてきた。

 「サンキュー、ええと・・・」

「モーンケでいい。ゲッベルスに今日の戦闘について報告しなければならないからついてきなさい」

 モーンケと摩耶はゲッベルスの待つ無線所に向かっていった。

 

 「ああ、そうだ・・・打ち止めちゃんのフィギュアと同人誌をいくつか頼む・・・分かってるよ、イカ娘のフィギュアと同人誌と交換なんだろう?」

 無線所ではゲッベルスが電話で誰かと話をしていた。歩いてくるモーンケと摩耶に気付く。

 「ああ、じゃあ例の公園で会おう・・・また」

 ガチャンと黒電話を置くとゲッベルスは笑顔でモーンケたちに向き合った。ご機嫌なようだ

 「やあ、出撃ご苦労。今日はいいことがあってね、結構前に阿良々木君という高校生と知り合ったのだがね、実に趣味が合い意気投合したのだ。来週の日曜日に秋葉で幼女巡りの旅をしようと約束してね、しかもフィギュアと同人誌まで譲ってくれるときた。今日はいい日だよ、実に楽しみだ」

 モーンケはそんなゲッベルスの話に対して興味を示さず真面目に報告した。

 「摩耶以下、天龍、叢雲、秋雲、暁、響で構成された第三艦隊が小笠原沖での哨戒から帰還しました。摩耶が負傷しましたが他には全員無事です」

 「そうか、ご苦労。ところで聞きたいことがあるのだが」

 とゲッベルスが神妙な顔つきになってモーンケに問うた。

 「最近、総統閣下が大型建造をやると意気込んでいるが、どう思うかね?」

 そう、このゲルマニア鎮守府の提督でありドイツ第三帝国の(元)総統でもあるヒトラーは大量の資源をつぎ込んで大型建造をやろうとしていた。

 大型建造はうまくいけばレア艦が当たり、鎮守府の戦力増強に非常に大きな貢献をする。しかしそれは一種のギャンブルであり、非常に大量の資源を必要とするため下手をすれば鎮守府は貧乏になり長期間夜店でタンメンかタピオカパンのみの生活を強いられかねない。

 そしてクラウゼヴィッツ作戦ののちのゲルマニア鎮守府にはとてもそんなことをやってられる暇ないのだが、ヒトラーはそのハイリスクを承知の上でハイリターンのほうに明けようとしているのだ。

 「総統が決めたことだ。どの艦が来ようが私は祝福するよ」

 モーンケは言った。

 「あたしも同意見。もう決まったことだしさ」

 ゲッベルスはうなずいた。

 「確かに君らの言うことはもっともだ・・・」

 そしてゲッベルスの目が光った。

 「だが私は総統の決定であろうがこればかりは反対だ!すべての資源を駆逐艦量産につぎ込むべきだ!駆逐艦は艦娘の頂点にして天使でマジスケベェ」

 そこにいた全員がずっこけた。

 「変態とののしられるだろうが、私は心に決めたのだ!いつか第三帝国を復活させた暁にはその時には第三帝国を大幼女の帝国として発展させると!」

 摩耶が青ざめた顔で何歩か後ずさりした。

 「へ、変態だ・・・総統は巨乳に惑わされこいつはロリコン・・・この鎮守府大丈夫かよ・・・」

 モーンケは力なく首を振った。

 「もう彼らはどうにもならないのだ・・・耐えてくれ・・・」

 鎮守府にはロリコン宣伝相の高笑いが響いた。

 

 翌日。

 ヒトラーたちは工廠の建造装置の前にいた。

 ついに大型建造を行うのだ。

 「総統閣下、覚悟は決まっていますね?」

 クレープスがヒトラーに聞いた。

 「もちろんだ。何のために私がタピオカパンを我慢したと思っている」

 フェーゲラインはそんなヒトラーを笑いながら言った。

 「どうせみんな陸奥になる~~どうせみんな陸奥になる~~」

 「青葉もなんとなくそんな気が・・・」

 「KO☆RO☆SU」

 次の瞬間妖精親衛隊のMP40がフェーゲ達を狙い火を噴いた。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおお!?」

 ダダダダダと銃声が響いた後、フェーゲラインと青葉は崩れるように倒れ、ピロリーンという音がどこからか響いた。

 「じゃあ、入れるぞ・・・」

 ブルクドルフがゆっくりとボーキサイトや鋼材や燃料や弾薬を入れる。

 艦娘の中には手を合わせる者もいた。

 「では・・・建造開始!」

 すべての準備が終わり、ヒトラーは建造スイッチを押した。

 

 数時間後

 ヒトラーたちは食堂で食事をとっていた。

 建造には長い時間を要したため、その間アニメを見たりゲームしたりで暇をつぶして遊んでいた。

 「やっぱりな、私はミューズの中では東條希がいいと思うんだがな・・・あの包容力に意志の強さ・・・あと抜群のスタイル。エヴァにそっくりだ」

 ヒトラーの話を一部の者はうなずきながら、一部の者はうんざりしながら聞いていた。

 そのとき、クレープスが何かの紙を持ってきてヒトラーのもとにやってきた。

 「MGSシリーズではやはり3が最高傑作だと思う。あのストーリーを裏切り者だらけの親衛隊の連中に見せてやりたいよ・・・なんだ?」

 紙を受け取りヒトラーはそれをしばらく見ていたが次の瞬間叫んだ。

 「大型建造の結果・・・大和型戦艦の武蔵があたりました・・・武蔵・・・まじかよ武蔵が!?おっぱいぷるーんぷるん!!ばんざーい!!ざまミロコラーめ!!!」

 

 ヒトラーは賭けに勝ち、こうしてゲルマニア鎮守府には新たな戦力が備わった。

 

 そのあと数日の間、ゲルマニア鎮守の食事は一人一日夜店のタンメン一杯とタピオカパンひとかけらの状態が続いたそうな。

 

 

 



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17話 硫黄島パイロット~私の彼はバカヤロウ~

 硫黄島。

 活火山の火山島であり、その名のとおり硫黄の臭いが立ち込めるその島の海域は硝煙と砲声、爆発などに包まれていた。

 必死に対空射撃を行っていた白雪が叫ぶ。

 「吹雪!3時の方向から魚雷が接近!」

 「っ!敵機が多すぎる!!」

 艦娘達は必死に回避運動や砲撃を行うが敵の攻撃は執拗で激しい。

 硫黄島海域に出撃した艦娘達はあまりにも多くの敵に苦戦していた。

 

 話は三日前に遡る。

 

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 そこではヒトラーや大淀、将校たちが集まり会議を行っていた。

 ヒトラーが地図を指差す。

 「さて・・・一ヶ月ほど前にクラウゼヴィッツ作戦を成功させたわけだが、当然ここで立ち止まるわけにはいかない。我々には当然次なる目標がある。ここだ」

 ヒトラーが指差した小さい島は硫黄島と書かれていた。

 「蛙の飛び石のごとく、重要な島や海域のみを奪取していき、我々の勢力範囲を広げる。当然次にとるべきはここだ。ここをとれば太平洋方面の守りを万全にすることもできるし、南方への進出も容易になるだろう」

 クレープスが頷いた。

 「なるほど、遠方に我々の新たな拠点を作るのですな」

 ヒトラーも頷いた。

 「そのとおり。そして硫黄島の新たな基地を作った暁にはビーチも整備して艦娘達の水着姿を拝むのだ!特に加賀さんと武蔵のは絶対に見なきゃ損だ!なんたってあの目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!もう想像しただけたまらんわ、カメラちゃんと買っておかないと!」

 執務室にいた全員はずっこけた。

 「何を言いますか総統閣下!」

 ヒトラーの発言にゲッベルスが言った。

 しかし誰もヒトラーの発言に対する注意ではないだろうと直感した。

 「駆逐艦の水着姿こそ至高なのです!駆逐艦は天使!!これは未来永劫永遠に変わることのない絶対的法則である!あの小さい体に愛らしい顔、守ってなりたくなる気持ちが湧いてくる、そして何より水着姿、幼女のときにしか現れない幼女特有の色気、貧乳!この世で一番はなんと言っても駆逐艦だお前らわかったか!!」

 執務室にいた全員がやっぱり、と思った。

 「ロリコンもいい加減にしろよ!」

 「怨怨!!山城の水着姿が見たい!!」

 「水着が合うのは巨乳だけだ、貧乳はいらん!」

 「あ、でも駆逐艦もいいかもな・・・」

 「やべぇ、ムラムラしてきた」

 「もしもしゲシュタポですか?」

 「クマーー!!」

 「ニャー!!」

 あっという間に将校たちの間に猥談が広がる。

 ヒトラーが机をたたいた。

 「お前らいい加減にしろよ!!軍人としての誇りはないのか!?」

 フェーゲラインが笑いながらいった。

 「一番自重しないやつにいわれてもなWW」

 「青葉、総統のセクハラ発言聞いちゃいました!!」

 「KO☆RO☆SU」

 次の瞬間妖精親衛隊員たちが持っていたサブマシンガンが青葉とフェーゲラインに向かって連射された。

 「はい死んだ!!」

 「何で青葉もおおおおおお!?」

 銃弾を撃ち込まれピロリーんと言う音とともに青葉とフェーゲラインは崩れ落ちた。

 ヒトラーが咳払いする。

 「とにかくだ、我々は硫黄島を攻略する。三日後、偵察部隊を編成し出撃させることにする。いいな?」

 こうして天龍たちをはじめとする偵察艦隊が編成され、三日後に出撃した。

 

 そして、敵の戦力はあまりにも多かった。

 島影が見える前から、敵機の猛攻を喰らい、砲撃を受けた。

 おそらく空母、戦艦ともに恐ろしいほどの数がいるであろう。

 撤退しようにもなかなか逃げ口が見つからなかった。

 

 天龍が主砲を打ちながら、どうすればいい、とふと目を見回したときだった。

 「天龍ちゃん!!」

 龍田の叫び声が聞こえた。

 上を見上げると急降下爆撃機がこちらに向かっていた。

 恐ろしいうなり声を上げこちらに向かってくる。

 気づいたときにはもう遅かった。

 回避行動をしようにも相手がかなり接近しており間に合わない。

 必死に撃ちまくったが、航空機に早々当たるものではない。

 これまでか・・・と思った瞬間、急降下爆撃機が大爆発を起こした。

 爆風に転がりそうになりながら何とか踏ん張り天龍が上空を見上げたその先にはーー

 

 ぼろぼろの紫電改があった。

 

 大日本帝国海軍パイロット、菅野直は自らの愛機に乗りながら毒づいた。

 「なんだバカヤロウ!!糞っ糞っ!!なぁにが起きやがったあ!!」

 さっきまで米軍の戦闘機を戦っていたのに気づけばどこから知らない海域にいた。

 「ここはどこだバカヤロウ!!何でたこ焼きが飛んでんだコノヤロウ!!」

 見れば海上には少女が浮かんで戦っているし、上空にはたこ焼きのようなものやなんともいえない得体の知れないものが飛び交っていた。

 「手前やんのかコノヤロウバカヤロウ!!」

 菅野は辺りを見回した。

 

 そして、急降下爆撃機に襲われている天龍を見た。

 彼女の顔にはどこかあきらめの色が浮かんでいた。

 「手前コノヤロウ・・・コノヤロウ手前!!」

 何をすべきかはすぐに分かった。

 機体を敵機に向けて機銃を撃ちまくった。

 

 案の定、すぐに急降下爆撃機は爆発した。

 だがそこで終わらない。

 菅野の血が騒いだ。

 菅野は次の目標を探して機体を動かした。

 

 「すげぇ・・・」

 天龍はつぶやいた。

 突然紫電改が現れたことなど忘れ、その空中戦に見入っていた。

 あれだけの敵機を相手にしながらたった一機で敵を翻弄し撃墜していく。

 しかし敵もさるもの。

 菅野をゆっくりと追い詰める。

 そして、一機の敵機が菅野の機体の真後ろに食いついた。

 もうよけられない。

 「振り切れ!!」

 天龍は叫んだ。

 だが、もうどうすることもできない。

 あのままでは撃墜されるのに。

 誰なのかはわからないが助けてもらったのに。

 

 そして、敵機の機銃が菅野と機体に向かって発射されようとしてーー

 

 敵機が爆発した。

 

 

「・・・え」 

 いったい、何が起こった?

 戦場にサイレンのような音がけたたましく響き渡る。

 

 艦娘たちが空を見渡し菅野が後ろを振り向いたときーー

 

 

 そこには一機の急降下爆撃機ーJu 87 『スツーカ』ーの姿があった。

 

 

 

 

 



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18話 デストロイヤー~イタリアは敵?味方?~

 前回のあらすじ
シンディ「こんなの艦これじゃないわ!ただのドリフターズよ!」
メイトリクス「だったら首置いてけばいいだろ!!」
シンディ「そんなぁ・・・」

 



 ドイツ空軍大佐ハンス・ウルリッヒ・ルーデルは現在の状況に困惑していた。

 確か最後の記憶は西ドイツの病院でだんだん意識が薄れていったはずなのだが(ルーデルは1982年に西ドイツの病院にて死去した)、気付いたら自分はドイツ空軍の飛行服を着て急降下爆撃機スツーカに乗っていた。

 いったいどうなっている?

 もしやここは死後の世界か、地獄か天国か?

 いずれにせよ確かなことはこれが夢ではないということだ。

 「大佐、大佐。もしかしてルーデル大佐ではありませんか?」

 後ろの後部機銃席から聞き覚えのある声がした。この声はもしや・・・

 「ガーデルマンか?」

 「はい、その声はやはり大佐のようですね」

 間違いない、あのいつでも頼りになる相棒のガーデルマンだ。

 「それにしてもガーデルマン、これはいったいどういうことなんだ?」

 「よくわかりませんよ。私も気づいたらこうなっていて・・・ま、そんな風に元気に話せるんだったら特に問題はなさそういですが」

 ルーデルはスツーカの操縦桿を握りながらしばらくの間思案していたが、ある一つの結論に達した。

 「ガーデルマン、もしかすると我々はあの時代に甦ったのかもしれん・・・あの時代の空に」

 「私も同じことを考えていました、大佐。でなければこんなことが起きるはずがありません」

 ルーデルの言うあの時代とは、もちろん第二次世界大戦のことだ。

 確証はないが、それ以外に合理的な理由は見つからない。もしそうだとすればやることは決まっている。

 「ガーデルマン、こんなところでぐずぐずしている暇はない・・・出撃するぞ!」

 ルーデルは操縦桿を改めて握り直しスツーカを操縦した。

 とりあえずあたりを見回してみると、そこに広がっていたのは憎きイワンどもの住む草原・・・ではなく大海原が広がっていた。

 「うーむ、ソ連ではないようだな・・・」

 ルーデルがそう呟きながら捜索しているうちになにか身に覚えのある匂いが鼻を突いた。

 間違いない。硝煙、火薬のにおい。爆音。戦争のにおいだ。

 ルーデルはそう直感し、その方向へと機を向けた。

 しばらく進めていると、だんだん何が起こっているのかはっきりと見えるようになった。

 小さな島の周りで対空砲の煙が無数に浮いている。

 得体のしれない球形の物体や何とも形容しがたい物体も無数に飛び回っている。

 よく見ると信じられないことに海上に少女たちが浮いており何かを呆然と見つめていた。

 ルーデルがさらに観察してみると、翼に赤い丸のマークの付いた戦闘機、恐らく日本軍機がその得体のしれない飛行物体相手にドッグファイトを繰り広げていた。

 相当な技量と見えるようで、次々と物体を撃破していく。

 その様子を見ているうちにルーデルは体が熱くなっていくのを覚えた。

 ソ連と戦闘を繰り広げていた日々を思い出す。

 あのときの気持ちは、本当に最高だった。何とも形容しがたいスリルと快感があった。

 もう一度。

 もう一度、戦いをしたい。あの空に戻りたい。西ドイツの病院で意識が薄れる直前にそう願ったことを思い出した。

 ルーデルは操縦桿を傾けた。

 彼が最初に今まさにその戦闘機に食らいつこうとしている物体に狙いを定めて突撃し、37mm機関砲の引き金を引いた。

 

 

 

 艦隊娘たちはしばらくの間、紫電改とスツーカの戦いに見とれていた。

 敵戦闘機群をあざ笑うかのように次々と撃墜していく。

 巧みな宙返り、急降下で敵の攻撃や追跡をよけ逆に相手の動きを利用して、相手の動きがすでに分かっているかのように敵戦闘機を追い詰め、撃墜していく。

 その戦いに見とれながら旗艦の天龍ははっとした。

 今は敵は紫電改とスツーカに気を取られている。

 今が海域を脱出するチャンスだ。

 できれば助けたいが、満身創痍のこの状態では無理だろう。

 天龍は仲間の艦娘達に撤収の指示を出した。

 

 菅野はしばらくの間スツーカとともに敵機を次々と撃墜していったが、限界も感じ始めていた。

 機銃弾がとうとう切れたのだ。

 体当たりを敵にかましてやるのも悪くないだろうが、まぁ、目標が小さいし下手したら死ぬかもしれないのでそんなことはやめてどこかへ撤収することにした。

 菅野はスツーカに愛機を近づけるとスツーカのパイロット無向かって手信号を送って俺について来いと指示をした。

 相手も了承したようで、すぐにスツーカは空域から離れるしぐさを見せた。

 こうして突然現れたスツーカと紫電改は思う存分暴れ回った後、どこかへ去っていた。

 

 

 太平洋に存在するとある南の島、二個二個童画島は実に奇妙な形をしている島だ。

 上空から見ると四角い土地に二本の触角が生えているように見える。

 島の中心部にある森には多くの野生動物がおり、夜になると「タピオカパン!」「ランランルー!」「目が、目がぁぁぁ」「びゃあうまい!」「ダニィ!?」等の奇妙な鳴き声がうるさく響き渡る。

 この島は昔日本軍が前線基地として使い戦後も自衛隊が使っていたが、深海棲艦が現れて以降誰も住んでいない・・・はずだった。

 「・・・ん?なんだありゃ?」

 イタリア王国の首相にしてファシスト党の統領ベニート・ムッソリーニは砂浜で日向ぼっこしているところに空から何かが飛んでくるのを見つけた。

 「なんでしょうね・・・あれ」

 傍らにいた眼鏡にセーラー服、コルセットを付けた少女、かつてイタリア海軍の戦艦だった艦娘ローマも空を凝視した。

 すぐに飛行物体の正体はわかった。

 日本軍の紫電改とドイツ軍のスツーカだ。

 二機の飛行機はゆっくりと速度を落としながら、ムッソリーニたちのいた砂浜の近くにある飛行場にゆっくりと着陸した。

 二人は顔を見合わせるとすぐにその飛行場に向かっていった。

 

 菅野直は紫電改から飛び降りるとすぐに二人の見知らぬ人間がこちらにやってくるのを確認した。

 制服を着た禿のデブ男にセーラー服の眼鏡をかけた少女。

 やってきた二人に対して菅野が発した言葉はこれだった。

 「なんだお前ら、俺の愛機に触んじゃねぇバカヤロウ、手前やんのかコノヤロウ」

 

 ムッソリーニとローマは突然目の前の日本兵(らしき男)に罵倒されて反応に困った。

 味方か敵なのかわからない。

 ムッソリーニはじっと彼の顔を見た。

 間違いなく日本人、しかも機体の日の丸マークとか服装を見ても日本軍だ。

 そしてイタリアと日本は一応同盟関係にあった。

 だからムッソリーニはとりあえずローマ式敬礼をしながら彼にこう言った。

 「え、え~と・・・ローマ!!」

 

 次の瞬間、菅野の頭の中にこんな式が出来上がった。

 イタリア、ドイツ、日本=三国同盟

 イタリア=同盟国=仲間=仲良し

 菅野はグッ!と彼の手を握った。

 ムッソリーニはあぁ、やっぱりすべての道はローマに通ずるんだな・・・と感動して泣きそうになった。

 が、次の瞬間菅野の頭の中にもう一つの士気ができた。

 イタリア、途中で裏切る

 イタリア=敵・・・?

 次の瞬間、菅野はムッソリーニを思いっきりグーで殴った。

 「やっぱ敵じゃねぇかバカヤロウ!!」

 「ぎゃああああああああああ!?」

 「ドュ、ドゥーチェェェェェェェェ!?」

 菅野がムッソリーニをぼこぼこにしローマがおろおろして止めようとする中傍らから声がかかった。

 「そこまでにしなさい、君・・・彼は敵ではない」

 三人が目を向けた先には

 

 大日本帝国海軍少将、山口多聞の姿があった。

 

 

 

 

 

 



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19話 ここはどこだ~おじさんだれ?~

 二個二個童画島。

 島の東側に位置する今は使われていない寂れた基地の建物に彼らは集まっていた。

 「さて・・・みんな集まったか」

 大日本帝国海軍少将、山口多聞はそう言って部屋に集まっていた人々に行った。

 「今回みんなに集まってもらったのは言うまでもない、『新入り』がやってきたからだ。まず自己紹介から」

 山口に促されて、ルーデル、ガーデルマン、菅野の三人が順番に挨拶をする。

 「ドイツ空軍大佐、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルです」

 「同じくドイツ空軍少佐のエルンスト・ガーデルマン」

 「俺は菅野直だ、よろしくなコノヤロウ」

 三人の後に山口たちも続く。

 「知っている者もいるだろうが、私は大日本帝国海軍所属の山口多聞だ。階級は少将。で、こちらの御嬢さんが・・・」

 「正規空母の飛龍です、よろしくお願いします」

 そういって、オレンジ色の弓道着にショートカットの少女がぺこりと頭を下げた。

 続いて菅野にぼこぼこにされて文字通り包帯ぐるぐる巻きのミイラと化しているベニート・ムッソリーニが続く。

 「・・・イタリア王国首相のベニート・ムッソリーニだ」

 「・・・ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦4番艦、ローマよ」

 そう言うとローマはルーデルをキッと睨み付けた。彼女はかつてドイツ軍に無線誘導爆弾フリッツXによって撃沈された。彼女がドイツに対して少なくともよい感情を抱かないのは当然のことだろうが、何も知らないルーデルは俺なんかしたっけ?という気持ちで放っていた。

 隣に立っていたドイツ海軍の制服を着た男と青い目に白いロングの髪をした少女が言った

 「ドイツ帝国海軍元帥、カール・デーニッツ。そしてこちらが」

 「ドイツ海軍のUボート、潜水艦U-511・・・です。よろしくお願いします・・・あと辻さん、あきつ丸さん何やってるんですか?」

 U-511と名乗った少女は頭を下げながらちらりと傍らでそれぞれ三八式歩兵銃と八九式5.56㎜小銃を構えて窓を覗き込んでいる禿げ頭に丸メガネの日本陸軍の将校の制服を着た男と黒い学生服の少女に話しかけた。

 「いやあ、見ての通りのことを」

 「上空を警戒していざとなったらこの八九式で敵機を撃墜するのであります」

 「彼らは?」

 ルーデルは山口に聞いた。彼が答える前に当の本人がその質問に答えた。

 「大日本帝国陸軍大佐、辻政信」

 「自分は、陸軍の特種船丙型のあきつ丸であります」

 「私はムスカ大佐だ!」

 「これで全員の自己紹介は終わったな」

 一瞬、変な声が聞こえたような気がしたが気にせずに山口は部屋を見渡した。

 「ちょっとよろしいですか」

 ルーデルが山口に言った。

 「聞いたところ、あなた方は日本軍やドイツ軍を名乗っているがそれは信用していいことなのですか?第一、ここはどこで今はいつなのかさっぱりわからない・・・」

 山口は笑いながら言う。

 「まぁ、そう慌てずに。君の疑問は分かる、もっともなことだ。まず、我々の身分が本物なのか、ここはいったいどこでいつなのか。まず、君が我々が偽物ではないかと疑うのは自由だ。私が本物の日本軍人で山口多聞であるということを証明するものはないからね。しかし私からすれば君が本物なのかわからないということと君が見ているもの、私が見ているものは現実であるということは覚えておいてほしい」

 「そういや、さっきの女の子自分が空母の飛龍だのあきつ丸だの言っていたがありゃどういうことなんだ?自分を戦闘艦だなんて名乗るなんてわけが分からねぇよコノヤロウ」

 菅野が飛龍を見ながら言った。

 山口が肩をすくめる。

 「それは私にもよく分からない。彼女がそう名乗るだけでなぜなのかはわからない。が・・・」

 「どうやら彼女たちには不思議な能力があるようでね。模型ほどの大きさのしかし本物と同じ性能の戦闘機を発着艦させたり魚雷を発射したり・・・ね」

 ルーデルたちは彼が何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 「まぁ、そこら辺の説明はかなり長くなるから後に回すとして・・・ここがいつのどこなのかという疑問だが・・・ルーデルさん、一つ質問するがあなたは今が何年だとお思いですか?」

 ルーデルは少し考えた。

 「1945年・・・ではないな。気づけばスツーカに乗っていて・・・」

 山口はゆっくりと、部屋の机の上に置いてある新聞紙の束を指差した。

 「読んでみなさい」

 ルーデルたちは「産経新聞」と青い字で書かれた新聞紙を手に取った。紙面はちょうど、衆院選挙で「自民党」という党が圧勝政権奪還を果たし「安倍首相」が就任したということを伝えていた。

 どういうことだ?菅野は思った。今は鈴木貫太郎が首相のはずだし安倍なんて言うやつは聞いたことがない。それに自民党だって?今は大政翼賛会しか政党がないはず・・・

 そう思い彼は新聞の日付を見て驚愕した。

 

 2012年。

 

 目をこすり、もう一度見てみる。

 

 2012年。2012年。

 

 ルーデルは山口たちを見た。

 「ここは・・・未来?」

 山口はうなずいた。

 「新聞にはそう書いてあるし、ここに残されていたラジオもまるでそんな感じだ。ほかにもそうとしか考えられん物はたくさんあるのだが・・・いずれに背今考えられることはこうだ」

 山口は部屋にいるルーデルや辻らを見ていった。

 「・・・もしかすると我々はいわゆるタイムスリップというやつをして未来の世界にやってきて、この島にたどり着いたのかもしれん」

 ルーデルたちはしばらくの間固まっているしかなかった。

 

 

  日本のどこかの街

 白露型駆逐艦の時雨と夕立は雨の中を必死に走っていた。

 いや、正確には逃げていたといったほうが正しいだろう。

 なぜ逃げているのか、理由は簡単だ。

 彼女たちのいた鎮守府はいわゆる『ブラック鎮守府』というやつだった。

 食事も補給も入渠もろくにさせてもらえず場合によっては提督に暴力を受け監禁される日々。あるときには自分の貞操や命の危険を感じるときさえあった。

 提督の監視やあまりの恐怖に多くの艦娘や時雨たちは逃げ出すことも知らせることもできずにいたが、あるとき提督が酒に酔っ払い深く眠り込んでいるすきをついて時雨と夕立は勇気を振り絞り逃げ出してきたのだ。

 しかし・・・

 息を切らせながら時雨は思った。

 これからどうすればいい?どこに行けばいいのだ?

 人間でもあり同時に貴重な兵器でもある艦娘が逃げ出したとすれば自衛隊の上層部は躍起になって探し出すだろう。どこに行ってもまともには受け入れてもらえずすぐに見つかるだろう。そしてまたあの提督の元に戻って、そして・・・

 恐怖に身震いし立ち止まった。どうしようもなさに涙が出た。

 「時雨・・・」

 夕立が心配そうに声をかける。

 「夕立・・・僕・・・もう・・・」

 そう言って時雨が視線を挙げてみるとーー

 

 眉の太い外国人のおっさんが捨て犬と戯れていた。

 

 「よし、次はお手だ・・・おお!なんて物わかりのいい!!なんてかわいいんだ!!なぜ私は気付かなかったのだろう・・・犬の素晴らしさに!!よし、今度からお前の名前はグレートナチズム号だ!!」

 雨に濡れながら笑顔で犬と全力で戯れる姿に時雨と夕立はぽかんとなった。

 ふと、男と目線が合う。

 時雨は一瞬逃げ出そうとしたが彼が向けたのはやさしい目線だった。

 「君、ずぶぬれじゃないか。こっちに来なさい」

 「いや、おじさんも十分にずぶぬれだけど・・・」

 「うーん、二人ともなんだかよく見ると犬似ている気がするなぁ・・・なんだか頬ずりしたくなった・・・寒いだろう、こっち来なさい」

 と言って男は突然、二人をぎゅっと抱きしめた。

 ぬくもりが伝わり、冷えていた二人を温めた。

 「あの、お、おじさん・・・」

 「おじさんって誰っぽい?」

 「うん?私はね」

 彼は特徴的な太い眉を動かし笑いながら言った。

 「おじさんは、ルドルフ・ヘスというんだ。」

 

 それが逃げ出した艦娘時雨と夕立と、ドイツ第三帝国の政治家にして国家社会主義ドイツ労働者党の副総統ルドルフ・ヘスの出会いであり旅の始まりだった。 

 

 

 




 小銃でP40撃墜したMAD参謀と眉毛が本体の副総統登場。
  
 質問箱を置きました。総統閣下への疑問やリクエストがある方は作者の活動報告「総統閣下の質問箱」にどしどしコメントしてください。
 よろしくお願いいたします。m(_ _)m


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20話 改造すればいいじゃない~そんなの無茶だ~

シンディ「このssは一体なんなのよ!菅野がドリフる!スツーカコンビ!深海棲艦相手に大暴れ!バカヤロウコノヤロウ、イワンは皆殺しだの突然メチャクチャは言い出す!かと思ったら島に着いたとたんドゥーチェと人殺し多聞丸が登場!挙句は海のロンメル!これは本当に艦これのssなの!?お次は小銃でP40を撃墜したMAD参謀ときたわ!ブラック鎮守府からしぐしぐとぽいぽいちゃんが逃げ出して助けたいと思ったわ!そうしたら眉毛が本体の副総統まで現れる始末よ!一体どういうつもりなのか教えて頂戴!」
メイトリクス「駄目だ」
シンディ「駄目ぇ?そんなぁ!もうやだ!!」


 ゲルマニア鎮守府。

 天龍たちからの硫黄島偵察の報告を受けて総統執務室は重い雰囲気に包まれていた。

 敵の圧倒的な戦力。

 突然現れた紫電改。

 なぞのスツーカ。

 ヒトラーを含めてドイツ軍人はすぐにこう思った。

 やべぇ、ルーデル参上しやがった、と。

 とりあえず、大淀らにスツーカと紫電改の行方を追うように命令を下した後、ヒトラーは島の攻略について考え出した。

 クレープスが資料を見ながら言う。

 「敵空母も、戦艦も、これまで異常に多い。皆エリートです。ですが一番の脅威は・・・」

 「分かっている。泊地棲鬼と装甲空母鬼だろう?あれを突破できれば勝てるかも知れんが・・・」

 深海棲艦にはさまざまなクラスのものがあるが中でも鬼級や姫級となると攻略は難しくなる。従来の深海棲艦より攻撃力、防御力がはるかに桁違いで、これまで幾度となく海域の奪還を妨げ大きな損害を出してきた。

 そしてこの泊地棲鬼と装甲空母棲鬼は現在ゲルマニア鎮守府が有する航空戦力の数倍の航空戦力を保有し、その上空母と名がついているのに大口径の砲や魚雷を装備しており、平気な顔して夜戦を仕掛けてくる。昼は圧倒的な航空戦力で、夜は魚雷と大口径の砲弾で完膚無きにまで粉砕される。

 少なくとも、現状ではこの二つの深海棲艦の打破は不可能に近い。

 ブルクドルフが重い空気を変えようと何か言おうと重い口を開こうとしてーー

 「あ」

 ヒトラーが何かを思いついたようだった。

 「総統閣下、いかがなさいましたか?」

 「ゲッベルス君、何も、今あるものだけで敵を倒していけないというわけではないんだ・・・」

 「と言いますと・・・?」

 ヒトラーはにやりと笑った。

 「鬼級の打破の方法だよ」

 ヒトラーは叫んだ。

 

 「我々も鬼級のような艦娘を建造するか、改造すればいいのだ!!」

 

 総統執務室に沈黙が流れた。

 クレープスが言った。

 「総統閣下・・・あの、ご自分が何を言っておられるか分かっているんですか」

 「だから、鬼級みたいなのを造れと」

 ブルクドルフがクレープスをちらりと見た。

 「ちょびひ・・・総統閣下、アンタ・・・」

 クレープスにヨードルが続けた。

 「そんなことできるわけねぇだろ、ハゲ。この鎮守府を滅ぼす気か?」

 しばらくの間、執務室の間に沈黙が流れた。

 ヒトラーが、地図を見るためにつけていた眼鏡をゆっくりとはずす。震える手で。

 静かに言った。

 「・・・私の言うことが理解できないもの、馬鹿だと思うものここに残れアンポンタン」

 何人もの部下や艦娘が部屋から出てくる。

 しかし、それは彼女たちがヒトラーの言うことが理解できるからではない。これから何が起こるか、お約束が起こることを理解しているからだ。

 部屋に残ったのはゲッベルス、ボルマン、カイテル、ヨードル、クレープス、ブルクドルフの6人。

 しばしの沈黙の後、執務室にヒトラーの怒号が響き渡った。

 「・・・どう考えても名案だろ!!何で分からないんだ!?我々の手で超無敵のムチムチボディのセクシー艦娘建造しようと思わんのか!?」

 ヒトラーの怒号は執務室の外にも響き渡った。

 「人のアイデア聞いてからさ、それは無理だの馬鹿げているだの否定するから前進できないんだよ!と言うより軍はいつもそうやって完璧な私の作戦を邪魔してきた!!人の夢と作戦を邪魔するやつなんて大嫌いだ!!」

 ブルクドルフがすかさず反論した。

 「総統閣下、自分の言ってることが無謀だとお分かりなんですか!?」

 「うるせぇ、大嫌いだ!!無敵の超巨大戦艦や巨大空母は男のロマンだろバーカ!!」

 「もしやお前、単に俺仕様のエロい艦娘造りたいだけなんじゃないか!?」

 「くそっ、どうしてどいつもこいつも分からないんだ、このロマンが!!」

 ヒトラーは持っていた鉛筆を机にたたきつけて思いっきり叫んだ。

 

 「畜生めぇ!!!」

 

 ヒトラーの激論はまだまだ続く。

 「いつもいつも出撃をさせて思ったことなんだが、いちいち何人も送り出すのは面倒くさい、なんか『ぼくのかんがえた』的な無敵の艦娘がたった一人で大勢の敵を一度におっぱいを揺らして服をぬらして下着を透かしながら粉砕できないかと、いつも思っていた!!艦娘たちの演習を見ながらいつも思ったよ、迫力とセクシーさと胸とボーキサイトが足らんかった~~と!!もし私と同じ立場だったら、同じこと考えたかもしれん、そうスターリンだ!!」

 ヒトラーは、はぁはぁ、と叫んで息切れしたのどを鳴らせながらいすに座った。

 「そりゃ、お前の言うことは理解できる。そんな無敵な艦造れるのか?と。そりゃぁ、物事がそううまくいくとは思わん。だが挑戦する価値はあるだろう!!始めて大型建造で手に入れた武蔵を見て思ったよ!!こいつを、この世界に唯一無二のスーパーレディにすると誓ったんだ!!あの目に刺さるような!!おっぱいぷるーんぷるんに!!!」

 その場にいた全員がうわぁ・・・と言う顔をした。

 「いいか、誰が言おうと決心は変わらん、今すぐ柴田さんに頼んで計画を始める!!」

 

 廊下にいた大淀がえぐえぐと泣いている潮を慰めた。

 「柴田さん、断ってもいいのよ」

 「私柴田じゃないです・・・」

 加賀はただ呆然とした顔で聞いていた。

 

 ヒトラーはうなだれたまま、続けた。

 「まぁ、わしも一応常識的な人間だから分かるよ・・・これが下手したら資源全部なくすと言うことを・・・だが、わしのモットーは有言実行だ」

 ヒトラーは部下たちの顔を見つめた。

 「軍需大臣のアルベルト・シュペーアと工作艦の明石に伝えてくれ。武蔵を大改造して、姫級、鬼級の強さにしろと命令したと。手始めにドーラ(ドイツ軍が使用した口径80cmの世界最大の列車砲)を46cm三連装砲の代わりに搭載するとかはどうだ?」

 こうして、ヒトラーのごり押しによって、『武蔵姫級大改造計画』が決定された。

 



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21話 軍需大臣の悩み~資源が足りない~

 ゲルマニア鎮守府に併設されている軽空母鳳翔が経営する居酒屋『鳳翔』。

 元ドイツ第三帝国軍需大臣アルベルト・シュペーアは頭を抱えてうなだれていた。

 彼もまた、数週間前にこの世界に復活し説得を受けこのゲルマニア鎮守府に勤務していたが、彼は現在総統の無茶ぶりに悩んでいた。

 「姫級改造計画・・・なんでこんなことを・・・」

 そう、われらが総統であるヒトラーが硫黄島の泊地鬼と装甲空母鬼の撃破のために戦艦武蔵を大改造して姫級、鬼級ぐらいのスッペクを持たせろとシュペーアと工作艦明石に命令したのだ。

 当然、だれもやったことのないことだからこうしてシュペーアはどうすれば良いのか、と頭を抱えて悩んでいた。

 「シュペーアさん、何そんなに悩んでいるんですか?」と、隣でビールのジョッキを持った明石が言った。彼女はその名の通り、機械関係に強くこのゲルマニア鎮守府の技術部門の中核を担う人物の一人でもある。その表情はシュペーアと対照的に明るい。

 「いやぁ、俺の専門、兵器とかじゃなくて建築なんだけど・・・資源の量をどうにかしろとか兵器の量産とかなら軍需大臣の経験があるからまだいいけどさ・・・やってく自信ないよ・・・」

 「大丈夫ですよ、私がついていますし。それにこれはいろんな新技術を試すチャンス・・・」

 ふふふ、と明石が意味深な笑みを浮かべる。

 「その通り。なんでも提督は私を無敵にしようと色々とアイデアを練っているというじゃないか。あの時思う存分暴れられなかったからな、私はむしろ楽しみだぞ」

 隣に座っている改造計画の当の本人の戦艦武蔵もヒトラーが自分をどんなふうに強くしてくれるのかと期待しているようでどこか楽しみしているような表情だ。

 それでもシュペーアの不安はぬぐえ切れない。

 「いや、第一これ資源と金の無駄遣いじゃないかな・・・姫級に大改造とか・・・」

 「まったく、総統閣下も馬鹿なこと考えたな」

 カウンター席に座っていたシュペーアと明石の後ろで声がした。

 後ろを振り向くと、テーブルに座り酒盛りをしているヨードル、那珂、ブルクドルフ、クレープス、那智、隼鷹にフェーゲラインと青葉がいた。最近どうも彼らの仲がいい感じになってきているのは気のせいか?とシュペーアは思った。

 ヨードルが続けた。 

 「武蔵を姫級に改造しようだなんて、いくらなんでもばかげている。下手したら資材ををすっからかんにして前みたいにタピオカパンひとかけらの生活になるかもしれんぞ。そんなことするより航空機の製造に力を入れるべきだ」

 「ならそう言えばいいんじゃないか?」

 フェーゲラインが言った。クレープスが反論する。

 「馬鹿言え、どうせ相手にされないかお前みたいに処刑されるかだ」 

 「まぁ一応提督の決定だから行くとこまで行けばいいんじゃね?」

 「いいじゃないか、無敵の超戦艦なんて。色々と無茶に見えるが意外とうまくいくかもしれないぞ」

 隼鷹と那智が日本酒の入ったコップをぐいぐい飲みながら言った。

 ブルクドルフがため息をつきながら言った。

 「あんたらは気楽でいいよ。戦うことだけ考えればいいんだからさ・・・でもこっちは資材とか作戦も考えにゃならんのよ・・・総統の無茶ぶりを止める方法なないかな」

 「蒼き鋼のアルペジオのキリシマとラブライブの東條希と総統のR18同人誌作ってあげれば止めるんじゃね?」

 フェーゲラインが笑いながら適当に言った。

 ブルクドルフがそれだという顔で言った。

 「名案だ、フェーゲライン、それ全部お前が一人で作れ。後で雑誌に載せてエロ漫画家としてデビューさせてやる」

 「ヤメテ」

 「もう不安しかねぇよ・・・」

 フェーゲラインがパンと手を叩いた。

 「ああ、もうこんなこと考えても無駄だ!!今日はとりあえず飲みで食いまくろうぜ!!飲み会の〆はもちろん夜店のタンメン!!加賀さんの金で・・・」

 「KO☆RO☆SU」

 店内で赤城と晩飯を食べていた加賀がそう言った途端、店内にいた妖精がMP40をフェーゲラインと青葉に向けて発射した。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおお!?」

 銃声が店内に鳴り響き、ピロリーン♪という音とともにフェーゲラインと青葉はその場に崩れ落ちた。

 明石が悲鳴を上げて那珂が歌いだす。

 「フェ、フェーゲさああああああああん!?」 

 「い~つになったら~~フェ~ゲは学習するの~~♪」

 こうして、様々な不安と期待に包まれながらその日の夜は終わり、翌日改造計画が実行に移された。

 

 数日後、総統執務室。

 軍需大臣アルベルト・シュペーアと明石はアドルフ・ヒトラーに改造計画の経過について報告を行っていた。

 「現在、妖精たちや明石ら専門チームが総力を挙げて計画に着手するも技術的な困難や資源資金の不足は如何ともし難く・・・恐れながら総統閣下、この計画は中止すべきかと」

 「技術的困難・・・例えばどんなものがあるのかね?」

 「例を挙げれば主砲です。総統閣下は、46㎝三連装砲の代わりに80㎝列車砲ドーラを搭載しろとおっしゃられましたが、反動や重量が重すぎて搭載は困難、51㎝連装砲ならまだ可能性がありますが・・・」

 「80㎝は諦め51㎝にしろと?それは認めん。80㎝砲は敵の一撃粉砕及び武蔵の無敵化のために絶対に譲れん」

 シュペーアははぁ、とため息をついた。こんなんだからドイツは負けたんじゃないんだろうか?そう考えていると隣に立っていた。明石が言った。

 「あの・・・総統」

 「なんだ?」

 「レールガン・・・ならいけるかもしれませんが・・・」

 「なんだそれは?」

 「電磁石の力で砲弾を飛ばすやつです。反動、重量も軽減できるし炸薬も使わないからその分砲弾を多く積むこともできますが、未知の技術ですから上層部が許してくれないくて・・・ほかにも試したい新技術があるんですけど、だめですかぁ?」

 そんなの資源や金に限度があるしさすがにそんな得体のしれないもん許可するわけがないだろう。シュペーアはそう思い、明石に諦めるよう言おうとしてーー

 「許可する」

 「えっ!?」

 「いいんですか!?」

 明石がぱあっと顔を輝かせた。

 「武蔵を無敵にする為なら金と資源に糸目はつけん!!どんどん新技術を試せ!!君には期待しているんだからな!!頼んだぞ!!」

 「ありがとうございます、総統!!」

 「いやいやいやいや!!」

 こうして、シュペーアやドイツ軍人たちの不安をよそに明石と妖精やほかの艦娘が改造計画にノリノリになっていき、鎮守府の負担はますます重くなった。

 同時にヒトラーの要求もエスカレートしていった。

 

 ある日にはーー

 「総統!!重量が重すぎてこのままでは沈んでしまいます!!」

 「重すぎて沈む?だったら潜水機能、防水機能、キャタピラをつけて潜水と海底走行が可能なようにしてしまえ!!」 

 

 またある日にはーー

 「総統!!動かすのに動力が足りません!!」

 「よし、原子力機関を搭載してカバーするのだ!!」

 「そ、そんなこと「やれます!!」

 「あ、明石いいいいい!?」

 

 資材不足の影響は酷くなっていった。

 ある日のことーー

 「提督~~?おさわりは禁止されて、あれ?私の槍は?」

 「ああ龍田、それなら資材にするってっ解体されたよ」

 「・・・え?」

 

 またまたある日のこと

 「叢雲、待ちに待った酸素魚雷だぞ!!」

 「これでもっと強くなるのね・・・あれ?ないわよ?」

 「え?そんなはずは・・・」

 「ああ、それならそれも資材にするって解体されたって話だぞ」

 「・・・え?」

 

 それまたある日のこと

 「かえせ~~!!俺のパソコン返せ~~!!」

 「離すのです!!キーボードクラッシャー!!これは大切な資源なのです!!」

 「いや、ゲームさせてくれよ~~!!」

 「そんなこと言ってどうせ最後は壊すのだからよこすのです!!ちゃんと有効活用してやるから感謝するのです!!」

 「ちくしょ~~!!!タピオカパン!!!」

 

 こうして、幾多もの困難を乗り越えて武蔵姫級改造計画は進行していった。



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22話 資源調達~なんでお前が上官なんだ~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 ヒトラーが発した第一声はこれだった。

 「・・・みんな、生きているか?」

 執務室ではゲッベルスをはじめとする鎮守府の幹部たちが集まっていたがその顔は痩せこけており、目にひどいクマができている。中には机に突っ伏している者も。いずれにせよ共通していることは、この場にいるもののほとんどが覇気がなく生気があまり感じられないということだ。

 最初に答えたのはヨードルだった。

 「・・・あのなぁ、誰のせいでこんなことになっていると思ってんだ?」

 ドン!と机をたたく。

 「おめぇが武蔵姫級大改造計画なんてやるからこんなことなってんだよ、禿!!」

 そう、今このゲルマニア鎮守府では武蔵に姫級、鬼級と同じくらいの戦力を持たせるための大改造計画を行っているのだが当然、莫大な資源と資金を消費し、艦娘達やドイツ軍人たちの食糧を減らしたり、装備を売却・解体したり、龍田の槍と頭の輪っかを解体したり、キーボードクラッシャーのパソコンを解体したり、ゲッベルスのロリコンコレクションを売却するなど彼らの生活を圧迫することになっていた。

 「いや、まず鏡見てからいえよ!!それからな、お前らはこの改装計画を無意味だと思っているようだがな、そんなことはない!!この鎮守府を無敵にするためには必要なことだし、新技術の開発、それに武蔵が、当の本人が喜んでいるんだからいいんじゃないか!!」

 そういってヒトラーは隣に立っている武蔵と明石を見た。

 武蔵が頷く。

 「ああ!さっきもいろんな新装備を見てきたが凄いじゃないか!!艦搭載型三連装80㎝列車砲に、フッリツX に・・・これで思いっきり暴れられるぜ!!もっと何かないか?」

 傍らに立っている明石が答えた。その瞳はギラギラ光っておりもはやマッドサイエンティストの顔だ。

 「ええ、まだほかにもありますよ、冷凍光線とか殺人光線とか・・・」

 「もうやめください!」

 ヒトラーの秘書艦である正規空母、加賀がヒトラーに詰め寄った。

 「鎮守府の資源量、戦力はもう限界です。これ以上やったら鎮守府が崩壊してしまいます!赤城さんも・・・」

 加賀の視線の先には首輪と鎖で檻に閉じ込められさるぐつわをつけられ「がるるるる!!」とうなり声をあげている最早獣と化した赤城の姿があった。

 食料の不足は大飯ぐらいである彼女を人から猛獣へと変化させるほど深刻なものであった。

 ヒトラーが言った。

 「とにかく、君たちが言いたいのは計画を止めるか資源の不足をどうにかしろということだろう?それなら安心したまえ。今リッベントロップに上層部と掛け合わせている。資源をもっとよこすようにと」

 

 ゲルマニア鎮守府無線室

 元ドイツ第三帝国外務大臣ヨアヒム・フォン・リッベントロップはヒトラーに命じられ黒電話片手に上層部と資源調達の要請を行っていた。

 彼もまた数週間前にこの世界に復活し、行くとこもないし説得されゲルマニア鎮守府の職員として働いているのだが・・・

 「リッベントロップ、交渉の様子はどうだ?」

 クレープスや、大淀とともに無線室にやってきたヒトラーに交渉の経過について問われた。

 「いや、一応上と連絡はついたのですが、なんか・・・」

 「なんか?」

 「ちょっと変なことが起きていて・・・」

 「はぁ?そりゃどういうことだ?私に変われ」

 そういってヒトラーはリッベントロップから黒電話を受け取り話し始めた。

 「おい、コラ。資源をこっちによこしてくよ、資源が足りなくて改造とか戦闘とかできないし赤城がなんか猛獣になっちゃてるんだ、どうにかしてくれよコラァ」

 「何?何言ってんのかよく聞こえないわよコラァ」

 返ってきた返事の声の主は聞き覚えのあるものだった。

 ドイツ空軍大将、カール・コラー。電話の相手は彼だった。

 「ちょっ!?お前もしかしてコラーか!?なんでお前が自衛隊の上層部にいるんだ!?ていうかなんでお前が総統である私の上官なんだ!?」

 しかしコラーは全く落ち着いた様子で、ヒトラーの質問に答えてくれなかった。

 「え?だから何言っているのか分からないわよ。これ壊れているんじゃないかしら?あ、あといま私この後足柄と合コン行ったり、ヘアサロン行ったりと忙しいからまた後にしてね。ていうかあんた誰よ?」

 もともと短気な彼である。中々まともに取り合ってくれないコラーにヒトラーは切れた。

 「てめぇ、ちゃんと人の質問に答えろよ!!私は総統だぞ!!ヒトラーだぞ!!お前の上司なんだぞ!!お前が私の上官だなんて絶対認めないからな!!FU○K、あほかいね!!」

 ガチャン!!と今にも受話器を叩き潰さんばかりの勢いでヒトラーは電話を切った。

 立ち上がってクレープス達に言う。

 「コラーのやつ、勝手に復活してどんな魔法使ったかは分からんが自衛隊の上層部に居座りやがった。だが私は絶対認めんぞ、あいつが上司だなんてな」

 クレープスは立ち去ろうとするヒトラーに言った。

 「総統、やっぱりこの改造計画あきらめたほうがいいじゃないんすか?あとお怒りのようでしたら後で皆でストライクウィッチーズ見ましょうや」

 「あほくさい。あとアニメ視聴には賛成だ」

 この後、リッベントロップやボルマン、大淀らの努力によってゲルマニア鎮守府にはわずかではあるが、資源の配給の量が多くなった。

 

 ゲルマニア鎮守府、軽空母隼鷹の部屋

 クレープス、隼鷹、ブルクドルフ、那智は隼鷹が隠し持っていた大量の酒とつまみで飲み会をやっていた。

 「全く、驚いたよ。資源も食料もほとんど枯渇している状況でまさかこんなにたくさん酒を隠し持っていたなんてなぁ・・・」

 クレープスが呆れたように首を振ると一升瓶に入った酒をコップに次ぎながらにひひ、と隼鷹が笑った。

 「こんなこともあろうかとさ、こつこつためてたんだよ」

 「お主も悪よのう。ほら那智、お前も飲め総統命令だぞ」

 ブルクドルフが酒で顔を赤くしながら笑った。

 「ありがとう」

 那智がブルクドルフから酒を受け取る。

 真面目な彼女は当初隼鷹たちが大量の酒とつまみを隠匿していた事実を知ると、すぐさまこれをヒトラーに報告しようとしたが彼女はかなりの酒好きだった。しかも彼女を含めて、全員がかなり腹を空かせているこの状況である。

 クレープスが目の前でうまそうに酒をぐい飲みし、ブルクドルフがつまみの芋けんぴをポリポリしている姿を見て「貴様・・・皆が腹を空かせているこの状況で呑気に飲み会とは・・・私も一杯ぐらいならーーっ!!」という感じで彼女も堕ちてこうして4人で仲良く飲み会をしていた。

 「まったく、総統にも困ったものだな。まだ計画を続けると言っているらしいぞ。デカけりゃ無敵、デカけりゃ強いと思い込んでやがる。中二病だよ」

 ブルクドルフがヒトラーの愚痴を言った。

 クレープスが頷く。

 「本当なら今頃、硫黄島に攻撃を仕掛けているんだろうけどさ・・・なんでも総統はついでに加賀さんにも改造を加えるらしいぞ」

 「ちょっと待て、彼女は改造計画に反対していたんじゃないか?」

 「総統の赤城の身の安全保障と甲板を装甲化することと新鋭戦闘機とミサイルをあげることを条件にしたら折れたらしい」

 隼鷹が笑いながら言った。

 「おお、加賀さんも凄いことになりそうだね~~あたしも改造してほしいなぁ~~彗星とか流星とかほしいよね~~」

 「馬鹿言え、余計に大変なことになるぞ」

 「たべものにおいがする・・・」

 突然、何かを突き破る音と不気味な声が彼らの後ろから聞こえた。

 「え?」

 そこには隼鷹の自室のドアを突き破って目をぎらつかせながらこちらによって来る赤城の姿があった。その様子はもはや人間ではなく腹を空かせた猛獣だ。 鎖につながれたいたはずなのにどうやってここにやってきたのだろう?

 「たべもの・・・たくさん・・・よこせ・・・」

 今にも彼らにとびかかって食い殺さんという勢いだ。

 彼らの本能が告げた。やばい。殺される、と。

 「ま、待て!!まずは落ち着こう、な!?」

 「誇りの一航戦が食い物のために暴れるとか!!ダサいし!!」

 「パン食う!?パン食う!?」

 「ま、待て、落ち着け・・・ぎゃああああああああ!?!?!!?」

 ゲルマニア鎮守府に四人の男女の悲鳴と一人の女のわめき声が響いた。

 

 数日後、改造計画はようやく完了した。 



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23話 硫黄島の戦い~書記長、動く~

 硫黄島。

 その主である泊地棲鬼はうっすらとした笑みを浮かべていた。

 「キタカ・・・」

 偵察機からの通信でこの島を奪取しようと艦娘達が迫ってきたことが分かった。

 だが無駄だ。

 この島には多くの空母に戦艦が存在し、島を固めている。

 そして装甲空母鬼自身も圧倒的な攻撃力と防御力を持っている。

 簡単には通させまい。

 なぶり殺しにしてやる。

 「シズメ・・・」

 にやりと笑いながら、泊地棲鬼は艦載機を飛ばした。

 その数500機。

 これだけならば、敵に痛手を負わせるのには十分だろうと判断し、彼らを見送った。

 彼女たちはどんな表情を見せるだろうーー

 そんなことを考えながら笑っていた泊地空母鬼の耳に、突然、ヒュルルルル・・・という音が聞こえてきた。

 なんだ?

 彼女がそう思った次の瞬間、硫黄島の陸地に巨大な爆発が起こり、地響きが起きた。

 爆炎と砂埃が舞う。

 「ナ・・・」

 砲撃をされた、ということを理解するとともに、ありえないと思った。

 いくらなんでも距離がありすぎる。

 敵艦隊とは少なくとも100キロ前後は離れているはず。とても艦砲が届く距離ではない。

 しかし、航空機にしては爆発の規模が大きすぎるし、第一敵の航空機隊はまだ接近していない。

 いったい何が。

 泊地棲鬼と装甲空母鬼がそう思っていると、さらにヒュルルル、と空気を切る音が聞こえ、次の瞬間彼女たちの体を衝撃と炎がつつんだ。

 

 硫黄島近海

 「ふう・・・なんて反動だ」

 大和型戦艦二番艦武蔵は艦搭載型に改造した三連装80㎝列車砲の射撃時の反動の大きさにまいっていた。

 「これは・・・耳がガンガンします」

 加賀が顔をしかめ頭をたたいた。

 事前に明石から、反動と発射時の音の大きさと閃光には気をつけろと注意され自身も気を引き締めていたがまさかここまでとは。肩や腰の骨が折れそうだ。

 痛みにわずかに顔をしかめていたところに、観測機からの通信が入る。

 「沿岸に停泊していた空母ヲ級を何隻か轟沈・・・か」

 笑みが浮かんだ。

 広範囲にわたり敵を一撃で粉砕する4.8トン榴弾。

 明石の改良によって通常の2倍、100キロ近くまで伸びた有効射程。

 (素晴らしい性能だ・・・総統・・・明石・・・感謝するぞ) 

 ヒトラーと明石の顔を思い浮かべながら武蔵は次弾を装填すると、観測機から送られてきたデータをもとに硫黄島にいるであろう敵に向かってさらに容赦ない4.8トン榴弾の雨を降らせた。

 

 ゲルマニア鎮守府、戦闘指揮所

 「旗艦より無電、作戦は順調硫黄島の沿岸の艦隊を次々と撃破しているようです!!」

 ヘッドホンを片手に大淀が後ろで硫黄島攻略の指揮をしていたヒトラーたちに報告する。

 テレビ画面には硫黄島が武蔵の艦砲射撃によって煙に包まれていくのがしっかりと確認できた。

 「うむ、武蔵の大改造は正解だったわけだ。素晴らしい・・・」

 ヒトラーは満足そうに頷く。

 「ううむ・・・4.8トン榴弾改の威力がここまでとは・・・」

 「はは、見ろ!敵がごみのようだ!!」

 某大佐のようなことを言いながらドイツ軍人たちがはしゃぐ。

 あまりの一方的な戦いにそれを指揮する自身も興奮を抑えられないようだ。

 「総統、加賀より入電、敵の航空機隊が迫ってきているようです!!数500!」

 ゲッベルスが顔をしかめる

 「攻撃が一足遅れたか・・・」

 「撤退しますか?」

 ボルマンも不安そうだ。

 だがヒトラーの顔に不安はなかった。

 「はは、取り越し苦労だ。この日に向けて、私は加賀や赤城達に猛演習をさせたのだ。あの加賀君のことだ、心配はあるまい。それに今回は防空のために空母を多めに編成させたし、烈風や80㎝列車砲用の三式弾も開発した。不安要素は何一つない」

 「お言葉を返すようですが」

 クレープスが言った。

 「慢心、ダメ、ゼッタイです。」

 「わかっている。だが彼女たちなら・・・」

 そう言ってヒトラーたちは再度、テレビ画面を見た。

 こうして、硫黄島攻略作戦は進んでいった。

 

 太平洋のどこかにある深海の海底

 元ソビエト社会主義共和国連邦書記長、ヨシフ・スターリンは深海棲艦達と会議を行っていた。

 「ヒトラーめ、とうとう硫黄島をもらいにきたか・・・戦況はどうなっている」

 「はっきり言って、こちらが不利な状況です。超遠距離からの艦砲射撃で沿岸の艦隊や鬼級が次々と大きなダメージを受けており・・・」

 「取り返されるのも時間の問題、というわけか?」

 「・・・はい」

 正直、報告を行っていた深海棲艦は内心びくびくしていた。

 何しろ彼女たちはまだ知らないがスターリンはかつて数十万、数百万の役人や軍人、反対派を躊躇なく粛清した男だ。

 何か失敗をすればこの男に殺されるのではないか、いや、もうすでに事態は悪いほうに向かっている。何をされるのかわからない。

 そう思っていた。

 が、スターリンは何も言うことなくただ笑っているだけだった。

 「・・・諸君。何もあわてることはないし、怯えることはない。君たちは何もミスをしていないのだからね」

 スターリンは立ち上がり、傍らにあったウォッカの瓶を開けて、グラスに次ぐ。

 「・・・今はこのままあの男の思うままにするのだ。ドイツは、彼は強かった。だがあの男は先の大戦であまりにも多くの敵を一度に敵に回しすぎた。進撃に次ぐ進撃は戦線の拡大、補給路の延長に味方の被害の増大を招き、敵の逆転を招き、そして奴は死んだ。今は待とうではないか。奴の自滅のチャンスをな。」

 それに、とスターリンはテーブルの上に置いてあるレポートをちらりと見た。

 そこには「極秘」とタイトルがあるだけで、内容はわからない。

 「・・・こちらにも策はある。プロシアのちょび髭を追い詰めるためのな」

そう言って、スターリンはウォッカをグイと飲んだ。

 「君たちも飲まないか?」

 スターリンは彼女たちに進めた。

 (さてアドルフ・ヒトラー・・・お前は復活して、与えられたチャンスをどう活かすか見せてもらうぞ)

 スターリンはにやりと笑い、さらにグラスにウォッカを継いだ。



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24話 資源がない~無駄遣いはダメよ~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 その室内は安堵の空気で覆われていた。

 一週間ほど続いた硫黄島攻略作戦がようやく終わりを迎えつつあったのだ。

 「硫黄島の攻略指令が出てから約2か月・・・ようやく終わったな」

 ヒトラーがそう言うと大淀が頷いた。

 「武蔵や一航戦の皆さんのおかげです。厄介な鬼級も倒せて、ひと段落ですね」

 「硫黄島への上陸はどうなっている?」

 硫黄島への上陸、および奪回後の駐留はほかの鎮守府が担当となっており、ゲルマニア鎮守府の任務はあくまで硫黄島に巣食う敵の殲滅であった。

 テレビ画面には艦娘達の姿や島に上陸する陸上部隊の姿が映っている。

 「現在のところ、無事に進んでいます。このままいけば作戦は今晩中か遅くとも明朝には終わるかと」

 ヒトラーは満足げに頷いた。

 「つまり我々の勝利は確実というわけだ。・・・よくやった、加賀、武蔵、第一艦隊の諸君」

 ヒトラーはそう言って報告のため室内にいた加賀たちを見た。

 「諸君らの英雄的行動でまた一歩、勝利に近づいた。君たちは英雄だ」

 「・・・良い作戦指揮でした。こんな艦隊なら、また 一緒に出撃したいものです」

 「思う存分戦えたよ。感謝しているぞ、提・・・総統」

 作戦の成功に部屋にいる面々の多くは笑顔だ。

 だが、世の中良いことづくめではない。

 何日か前に空腹で野獣と化した赤城に暴行を受け文字通り、包帯ぐるぐる巻きになっているクレープスが深刻そうな言った。

 「・・・総統閣下、上機嫌なところをお邪魔するようで申し訳ありませんが・・・喜んでばかりもいられません」

 「なんだと?」

 ヒトラーが怪訝な顔をするとヨードルが続いて報告した。

 「ハゲ、ちゃんと心当たりあるだろ」

 「いや、鏡見てから言えよ!!」

 「やーい、はげちょびーん!!」

 「だからなぜお前は私にハゲキャラを押し付けようとする!?どう見てもお前の役じゃないか!!」

 そのやり取りを見ていたフェーゲラインが笑いながら言った。

 「でも総統、この前育毛剤買ってたんだよな?だろ、青葉」

 「はい!この前秋葉のデパートで総統が東條希のフィギュアと一緒にちゃんとリア○プ×5プラスを買っていたのを目撃しました!写真も撮ってます!そう言えば総統、この前深夜のテレビで育毛剤のCMとリ○ブ21のCMを熱心にご覧に」

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそういった瞬間、武装妖精親衛隊員達の持つMP40の照準がサッと青葉とフェーゲラインに向けられ銃声が執務室に響いた。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおおお!?」

 悲鳴を上げながら二人が崩れ落ちると同時にピロリーン♪という音がどこからか聞こえた。

 「さて、髪の毛の話題はここまでにして本題に移ろう。結局お前らの言いたいことはなんなんだ?」

 答えたのはクレープスと同様に包帯にぐるぐる巻きになっているブルクドルフだった。

 「資源です、総統閣下。今回の作戦において総統は武蔵の大改造をやりましたね?しかも今回の戦いは大規模な上陸戦です。当然、大量の資源を消費しました」

 「つまり・・・資源がないということか?」

 「そういうことです。本部からの供給があるとはいえ、しばらくの間演習や出撃は控えねばならないでしょう。回復にもかなりの時間がかかるでしょう」

 「・・・資源の量についての考えが足らんかった・・・しばらくの間、わがゲルマニア鎮守府は冬眠ということか」

 大淀が頷く。

 「そういうことになりますね・・・ていうか、総統がまともな資源の使い方しなかったからだと思いますが・・・」

 「なんだと!?私のどこがいけなかったというんだ!?私の作戦はどこからどう見ても完ぺきだったろ!!」

 ヒトラーは大淀を見て、反論した。大改造をやらかしておいて、資源枯渇の責任を認めようとしない。というより、もともとヒトラーは他人の意見はあんまり聞かないやつだから当然だろう。

 ヨードルが大淀に加勢する。

 「そうだよ!!あんなに改造やめろ、資源の使い道を考えろ言ったのに!!」

 「だがその改造のおかげで我々は勝ったんじゃないか!」

 ブルクドルフも反論した。

 「ふざけんじゃねえ!確かにそうだけど、まともなプレイでも勝てるだろ!!あんなくだらないことに資源無駄遣いするとか、ダサいし!!」

 「その通りだ諸君!!」

 ゲッベルスが声を張り上げた。

 「そもそも今回の作戦は戦艦と空母中心ということ自体が間違っていたのだ!!なぜ駆逐艦を重視しない!!確かに火力や沿岸の制圧能力では戦艦や空母よりも劣っていることを認めよう。しかし駆逐艦こそ戦場の華!!小さいコストに小回りの良さ、高い汎用性、夜戦時の強大な威力、そして何よりもあの幼女特有の色気!!彼女たちこそ戦場におけるエロチシズムの権化であり戦場の女神であり天使である!!こんどから駆逐艦を崇拝するのだ!!」

 あっという間に執務室に猥談が広がる。

 「だからロリコンもうやめろよ!!」

 「怨怨!!戦艦こそ至高!!山城のムチムチボディは最高だ!!」

 「何を言う、軽巡だって負けないぞ!!」

 「潜水艦ついて語ろうじゃないか」

 「潮ちゃん、浜風ちゃん、浦風ちゃんのロリ巨乳はもうたまらん」

 「不幸だわ・・・」

 「結局な、一番エロい艦娘が強いんだよ」

 「巨乳万歳」

 「摩耶たん、摩耶たん」

 「もしもしゲシュタポですか?」

 ヒトラーは頭を抱えた。

 「畜生めぇ!!!わが鎮守府はどうして変態しかいないのだ!!」

 その様子を見ながら大淀たちはため息をついた。

 「あなたに言われたくないですよ・・・」

 加賀や武蔵も言う。

 「・・・これでこんな性癖がなければ優秀なのだけれど」

 「まったく、提督にも困ったものだな」

 こうして、今日も鎮守府は騒がしいのであった。

 

 

 




 後書き
ヒトラー「全国の提督諸君、あけましておめでとう。みんな順調に提督業に励んでいるかね?」
ゲッベルス「あれっス。今回は去年の末頃開いた作者の新着活動『総統閣下の質問箱』に質問が来たのでそれにお答えしたいと思います」
クレープス「届いた質問はこちら」

質問者:DDH181
「閣下! 今回のイベントどうでしたか!」

ブルクドルフ「この質問が届いたのが2016年12月10日(土) 00:37・・・そして答えているのはそれから約一か月たった2017年の1月6日・・・」
ヨードル「年越してから答えるとかどういうつもりなんすか」
ヒトラー「それは悪いと思ってるよ、私だっていろいろ事情があったんだからさ・・・質問者にはすまないと思っている。それでは早速回答に移ろう。質問の時期からしてこれは2016年の秋イベのことかな?正直を言うと私はな・・・今回のその秋イベには参加していない」
モーンケ「え?参加していないのですか?提督なのに」
クレープス「そんなんありか」
ブルクドルフ「ダサいし」
ヒトラー「いやだって、全国の提督には申し訳ないけどさ、面倒くさいだもん!!資源はあっという間にすっからかんになる、すべての艦娘がドッグ入り、そしてとうとうクリアできずイベント終了・・・私にとってイベントは悔しい思い出しかない」
モーンケ「総統、あなた提督でしょう。あきらめたらそこで試合終了です」
ヨードル「そうだぞ、ハゲ!」
ヒトラー「だからお前が言うなし!!なぜおまえは私にハゲキャラを押し付けたがる!?あとな、イベントに参加しない理由がもう一つあるんだ。それはだな・・・」
ゲッベルス「なんです?」
ヒトラー「艦娘の轟沈が怖いのだ。白状するとな、私はかつて二回艦娘を轟沈させてしまったことがある」
ブルクドルフ「マジですか」
ゲッベルス「誰が轟沈したんです?駆逐艦だったら殺しますよ」
ヒトラー「那珂ちゃんと叢雲ちゃん」
ゲッベルス「てめぇ許さねぇ、よくもあの銀髪ぱっつん少女を!!」
ヒトラー「落ち着け!・・・あれは私が提督業を始めて間もないころだった・・・ようやく1-4がクリアできそうだというところで最後のボス戦になった。戦いは激戦になり、夜戦までもつれ込んだよ。夜戦突入か撤退かの選択でな、私は迷わず夜戦ボタンをクリックした。那珂ちゃんが大破しているにもかかわらずな。慢心していたんだ。今まで一緒に戦ってきてレベルもそれなりに上がってきたし今まで沈むこともなかったからまさか沈むことはあるまいとな。そして夜戦にもつれ込み1-4をクリアした。そしてその代償として・・・」
モーンケ「那珂ちゃん轟沈」
ヒトラー「そうだ。私は信じられなかった。いつもあの持ち前の明るさとダンス淘汰で私を励ましてくれた那珂ちゃんが・・・私の慢心のせいで・・・しばらく自責の念に駆られたよ。それからしばらく後で建造でまた那珂ちゃんを手に入れたがそれはあの時の那珂ちゃんじゃない。あの時の、最初に手に入れたあの那珂ちゃんはもう戻ってこないんだ・・・『アイドルは沈まないんじゃ・・・』という言葉が今でも・・・」
モーンケ「2回目は?」
ヒトラー「・・・二回目の叢雲の時も同様、私の慢心のせいで沈んだ。1-6を攻略しようとしたとき、私は叢雲が大破しているにもかかわらず進撃させた。そして轟沈した。この時も私が那珂ちゃんを沈めてしまった時と同じように油断していたんだ、まさか沈むことはあるまいと。しかもあろうことか彼女は、私の初期艦だった。私は自分の家族を殺してしまったようなものだ。いまでも思い出す」
全員「・・・」
ヒトラー「・・・長い後書きになったな。とにかく私が諸君に言いたいことは慢心ダメ、ゼッタイということと、大破進撃ダメ、ゼッタイということだ。それでは今回はここまで。諸君、何か質問やリクエストがあったら、作者の活動報告の『総統閣下の質問箱』に投稿してくれ。それではまた次回」

 
 大切な艦娘を沈めてしまったことは今でも公開と反省をしています。
 皆様方はどうか、慢心せずに大切にしてやってください。
 それでは次回も楽しみにしてください。
 いつも読んで下さりありがとうございます。




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25話 MAD参謀~辻の作戦~

 二個二個童画島。

 かつて旧日本軍が前線基地として駐屯していたその島に現在は菅野やルーデルを始めとするWWⅡ時の将兵たちが集まり、暮らしていることは前の話で読者もご存じだろう。

 そして今彼らはある問題に直面していた。

 

 「燃料がない・・・」

 ドイツ空軍大佐、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルは愛機であるスツーカを目の前にして言った。

 傍らに立っていた大日本帝国海軍少将の山口多聞が頷いた。

 「うむ。私がこの島に来たときには前線基地として使われていただけにまだそれなりに残っていると思っていたがこの島にあるものすべてをかき集めてももうあと数回ほどの出撃の分しかない」

 ガーデルマンが腕を組んだ。

 「参りましたね。資源がなければ出撃も偵察もできないし、助けを呼ぶこともできない。ましてあんな怪物が海にウヨウヨいるようではなおさらです」

 そう、現在彼らは資源不足に悩まされていた。

 手分けして、島内を隈なく探しまわったが残されている燃料、弾薬等は三日分、どれだけ節約しても一週間が限界という僅かな量ででこれでは満足に戦うことも助けを呼ぶことも出来ない。

 「通信設備はないのか?」

 ルーデルが山口に聞いた。菅野が答える。

 「いや、さっきパスタ野郎と通信設備を調べたがみんなぶっ壊れていたしイカれやがってた。俺が触ったとたんにドカン。通信設備は全滅だろうな」

 傍らにいたムッソリーニがちょっと待て、と菅野に反論した。

 「正確には菅野が壊した。私があれほど触るなといったのに変にいじくって『バカヤロウ、コノヤロウ』と機械を殴るから・・・」

 「あん?」

 「あっ、はい、サーセン」

 菅野に睨まれ黙るムッソリーニ。初対面からぼこぼこに殴られたためか、立場が逆転している。

 いずれにせよ、通信設備が全滅し資源がろくにない現在彼らはこの島にとどまるしかないということだ。

 「一応、島内は森林で溢れているし川やスコールといった水源も豊富。食料も木の実が豊富だしやろうと思えば魚を取ることもできる。少なくともこの島で『生きる』ことは可能だ」

 山口はそう言いながら飛行場から離れたところにある砂浜で昼食をとっているデーニッツや辻達を見た。

 「ああ、畜生。あんな化け物さえいなけりゃすぐにでも筏作って出発できるのによ」

 菅野が毒づく。

 ルーデルも頷いた。

 「確かにこのままでは救助も、脱出も、出撃もできない。資源をどうにか調達できれば良いのだが・・・・」

 「お困りのようだね」

 「うおっ!?」

 突然背後から声がして驚き振り返るとそこには大日本帝国陸軍大佐の辻政信の姿があった。

 「資源のことで困っているようなら私に任せない」

 「中佐、いつからここに?というよりあんなに遠くにいたのになぜ資源のことで話していると分かったんです?」

 ガーデルマンの問いに辻ははっはっと笑いながら

 「いや、まあそういうことはいいじゃないか。山口少将資源のことですが」

 と言って山口に向き直った。 

 「少将はニチヤンネル島という島をご存じでありますか?」

 山口は首を振った。

 「なんだ、その島は?」

 「・・・やはり海軍の方はご存じなかったか。大東亜戦争の緒戦における進撃で我々がフィリピンやマレー、サイパンといった諸島を占領、防衛するための前線基地として陸軍が使用していた島です。ただその存在を秘匿するために徹底した情報統制が敷かれましたが・・・まあ、この際構わんでしょう。その島には航空機をはじめ燃料、弾薬、高射砲やトーチカといった設備や備蓄が豊富でした」

 「それで?」

 ルーデルが話を促す。

 「敗戦により我々が撤退するとき機密書類やだいたいの兵器は焼却・破棄したが・・・資源に関してはそのまま、地下壕に保存されたままにしてあったと思います」

 「・・・つまりニチヤンネル島に行けば資源が確保できると言いたいのか?」

 山口が言った。辻はうなずいた。

 「そのとおりです」

 「しかしどうやって行くのだ?我々はその島がどこにあるのか・・・」

 分からないのだぞ、と言いかけて山口は気づいた。秘密の島の存在をこの男が知っているということは・・・

 辻がかすかに笑った。

 「場所なら分かっています。私もその島での作戦に関わりましたからな。場所はこの島から西に約200キロ。この島にある紫電改やスツーカに燃料があれば十分にたどり着ける場所です」

 辻は改めて山口を見た。

 「少将、ここにある航空機、燃料を使ってニチヤンネル島に進出し資源確保を行うことを進言します。少将、恐らく地図があるまずですからそれで場所を詳しく説明します」

 こうして、辻の提案で近くにあるニチヤンネル島での補給作戦が決定した。数日後に菅野とムッソリーニに戦艦ローマが出撃することが決まった。

 

 それから数日後、太平洋上空。

 「てめえ、ふざけてんのかコノヤロウ、勝手にぶっ壊れるんじゃねぇバカヤロウ!!」

 大日本帝国海軍大尉菅野直はいざ、ニチヤンネル島に向けて飛んでいた愛機の紫電改が目的の島まであと十数キロというところでぶっ壊れ毒づいていた。

 燃料は島につく分までは十分にあるはずなのだがどうやらエンジンのほうに問題があったらしく、時折プロペラが止まったり、バスンバスンと異常な音を立てており、それに合わせるかのように紫電改の高度が徐々に下がっていく。

 「誰が止まれつった、動きゃがれい、バカヤロウコノヤロウ!!」

 菅野はそう言ってコンソールをガツン!ドガッ!バキッ!!と思いきり殴った。

 だが、昭和のテレビならともかく当然のそんなことでエンジンの不調が治るわけもなく逆にどんどんエンジンはおかしくなっていき、ついにぷしゅうううううう、と音を立てて止まってしまった。

 「てめぇ、コノヤロウ、設計者め、覚えてやがれあとでしばいてやるぞコノヤロウバカヤロウ!!」

 菅野は設計者に恨みを抱いたが、しかしもちろんこれは菅野の乱暴な操縦のせいであって設計者に責任はない。

 菅野は眼下に移る島までの距離を目測した。

 「あと6,7キロってとこか・・・どうにかもたせてやる」

 菅野は操縦桿を握りなおすとゆっくりと、巧みな操縦で機体を島の滑走路(正確には滑走路跡地といったほうが正しく、草木が乱雑に生えておりまず素人には着陸は不可能である)に向ける。

 「あと4キロ・・・って、くそ!!」

 滑走路まであと少し、というところで今度は右尾翼がバキッという音を立ててそのままはがれてどっかへと飛んで行った。

 機体ががくんと揺れる。

 機体を精一杯持ち直しながら菅野は叫んだ。

 「てんめぇ、ふざけんなコノヤロウバカヤロウーーーーーーーッ!!」

 でかい叫び語をまき散らしながら菅野の機体は滑走路跡地へと向かっていった。

 

 同じころ太平洋上

 「いやぁぁぁぁぁ!?なんなのこれぇぇぇぇぇ!?もういやだぁぁぁぁぁぁぁ!ローマ帰りたああい!お風呂入りたああい!!」

 ムッソリーニの悲鳴が響いていた。

 あと少しで目的の島というところでローマに引っ張られる形で進んでいたムッソリーニたちは深海棲艦の群れに襲われていた。

 まわりに深海棲艦による攻撃で水柱が立ちまくる。

 「ドゥーチェは殺させない!!必ず守って見せます!!」

 「い、いや、ローマ!!君は女なんだから私なんかほっといて・・・って、玉金に攻撃しようとすんなぁぁぁ!!!!」

 という調子でローマたちも命からがら島へと向かうのであった。




ドリフターズ&廃棄物候補
 
 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ
 ・はは、見ろ、人がごみのようだ!!
 ・バルス!!
 ・目が、目がぁぁぁ
 ・諸君、こうなる前に眼下に行きたまえ!!
 
 モンティナ・マックス少佐
 ・諸君、私は戦争が好きだ。
 ・一食抜くと餓死する。
 ・世界一かっこいいデブ

 T-1000(ターミネーター)
 ・特技触手プレイ
 ・ゲイ専門
 ・ゲイ専?
 ・ぜったいホモだ、こいつ
 ・て、うわぁ、なにをするやめr
 ・アーーッ///

以上、ドリフ&エンズ候補でした。


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26話 凶報~立ち込める暗雲~

 梅雨の季節がいつの間にか過ぎ、本格的に夏に突入した7月。

 レンガ造りのゲルマニア鎮守府の屋根を雲一つない空の上で真っ白に光る太陽が照らしていた。

 そして、そのゲルマニア鎮守府の主でありドイツ第三帝国総統でもあるアドルフ・ヒトラーはゲッベルスをはじめとする側近らとともに総統執務室でクーラーをガンガンにつけて遊び呆けていた。

 「いえーい!!希ちゃん!のんたーん!!愛してるばんざーい!!」

 ヒトラーは赤いはっぴに鉢巻をつけてライブライブ!のアニメを視聴しながら(二次元の)嫁に愛を叫んでいる。

 「いえーい!にこちゃーん!僕のハートににこにこにー!!」

 ゲッベルスもヒトラーと同じ格好で(二次元の)嫁に愛を叫んでいる。

 その様子を見て、ヨードルがため息をついた。

 「総統閣下、国家元首ともあろうお方がそんなことをされては見苦しすぎます」

 「うるさい、お前にだけは言われたくはないわ、ハゲ!!」

 よく見ればヨードルの手には3DSが握られている。彼もまた、執務室であの有名な恋愛ゲーム『ラブプラス』をプレイしていたのだ。

 「なんだと、お前俺の嫁を馬鹿にするのか!!ゆるさねぇ!!」

 ヒトラーはふん、とそっぽを向いて

 「いいか、誰が何と言おうとな、二次元の世界で最高の女の子は東條希だ!!あのおっとりとした母性あふれる性格にスピリチュアルな雰囲気、顔、そして何より、おっぱいぷるーんぷるん!!デブネキとか言った奴はゲシュタポに通報するからな!!」

 それを聞いてゲッベルスが反論する。

 「総統、何を言いますか!ロリこそ正義!そしていつも私のハートを打ち抜く可憐なにこちゃんこそ理想だ!!」

 「お前らいい加減にしろよ!国家元首や大臣が二次元を嫁にするオタクとか、ダサいし!!」

 彼らのやり取りを聞いていたブルクドルフはPS4のコントローラー片手にMGSVをプレイしながらヒトラーに突っ込んだ。

 スツーカのプラモデルを組み立てながらフェーゲラインも笑いながら言う。

 「こんなんだからドイツは負けたんだよ。第三帝国ワロスww」 

 「青葉、総統のオタクっぷり見ちゃいまし」

 「KO☆RO☆SU」

 次の瞬間、執務室の机の上で待機していた武装妖精親衛隊員達の持つMP40やStG44の照準がフェーゲラインと青葉に向けられ室内に銃声が鳴り響いた。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 フェーゲラインと青葉が崩れ落ちるとともにピロリーン♪と音が響いた。

 とまあ、こんな感じでヒトラーたちが外の暑さを忘れて室内でどんちゃん騒ぎをして楽しんでいたその時、突然執務室のドアが勢いよく開いた。

 「いってれぼっ」

 ドアノブが扉の近くに立って『ポケモンGO』をプレイしていたカイテルのちょうど股間のところに直撃してカイテルは壁に吹っ飛ばされ倒れこんだ。しばらくはしかばねのように反応がないだろう。

 ドアを開けたのはヒトラーの秘書艦の一人である軽巡大淀だった。その顔には焦燥が浮かんでおり汗を流しながら息切れをしていた。

 「総統、緊急事態です・・・って何やってるんですか?」

 大淀はヒトラーに報告しようとして倒れこんでいるカイテルやフェーゲライン、青葉にボルマンと乱闘をしているブルクドルフにアニメを見ながら叫んでいるヒトラーとゲッベルスという執務室の状態に困惑した。

 「いや、そのこれは・・・って、そんなことはどうでもいい!!一体何かあったのだ?そんなに慌てて」

 「はい、数日前総統は第一航空戦隊に遠洋航海演習の指令を出しましたね?」

 「そうだがそれが何か?」

 「先ほど艦隊に随伴していた摩耶から緊急無電があり、赤城と加賀が突然深海棲艦による攻撃を受け大破し戦闘及び航行が不能な状態になったと」

 「何だと!」

 主力艦隊が攻撃を受けたと聞いてヒトラーは声を張り上げた。

 部屋にいた全員が目を見開いて大淀をじっと見つめた。

 「艦隊全体も大きな被害を受け帰港は不可能と判断し近くの島に退避したとのことです」

 大淀の言葉は艦隊の主力が相当なダメージを被り鎮守府の戦力が低下したことを意味していた。

 「どれくらいの被害を被ったんだ?どんな攻撃を?逃げ込んだ島の場所は?」

 クレープスが大淀に食ってかかる。

 「わ、分かりません。まだ暗号解読中でして・・・」

 ヒトラー達はしばらくの間呆然としていたがすぐに指示を出した。

 「すぐに緊急対策会議を開く。全ての将兵を作戦立案室に集めるのだーー今すぐに!!」

 「了解!」

 「Jawohl!(了解)」

 執務室に声が響き渡り、ヒトラー達は対策を練るべくすぐに動き出した。

 

 

 時間は約一時間ほどさかのぼる。

 南太平洋上、沖ノ鳥島島よりもさらに南の海域

 

 加賀達第一航空戦隊率いる第一艦隊が静かな海を航行していた。

 「ったく、総統も人使いが荒いよなぁ。こんな南の島まで遠洋航海訓練しろだなんて」

 高雄型重巡洋艦四番艦摩耶はヒトラーの人使いの荒い命令に文句を言っていた。

 後方を航行している加賀が言った。

 「総統はそれなりに指揮の才がありますが確かにたまに無茶なことを言いますね」

 「まったく、たまに何考えてんだかわからないときあるよな。しかもおっぱい大好きだし」

 「悪い人ではないけれど。けど私たちは艦娘。命令には従うだけよ。それに資源が少ないのに私たちを優先して訓練させてくれるということはそれだけ期待されているとも言えるんじゃない?」

 「加賀さん、そろそろ折り返し地点です」

 加賀の前方で対潜・対空警戒に当たっていた白雪が言った。

 「・・・それにしても妙じゃないですか?」

 「どうかしたの?」

 「航行を始めてから少しも敵に遭遇したり攻撃を受けてませんよ?敵機や敵艦を目撃したり電探に反応はありましたけど本格的な攻撃は・・・」

 そう、まだ情勢が不安定な南海に向けてずっと航行を受けているのに「はぐれ」と呼ばれる敵には遭遇したがしかし本格的な攻撃は一度も受けていない。

 「・・・確かにそうね。赤城さんはどう思う?」

 加賀は隣の赤城に聞いた。

 「たぶん大丈夫だと思いますが・・・でも用心はしておいたほうがいいでしょうね」

 「そうね。・・・あの時と同じことを繰り返さないためにも」

 そう話をしていた時だった。

 白雪が血相を変えた。

 「・・・!1時の方向からスクリュー音!」

 「話をしていたら早速来たわね・・・白雪、対潜戦闘はあなたに任せるわ」

 「はい!深雪は1時の方向に向かって。初雪は9時の方向へ」

 「了解!」

 「・・・了解」

 白雪の指示を受けて深雪と初雪がそれぞれの方向に敵潜水艦を迎撃するために向かう。

 しばらくすると、遠目に海面から水柱が上がるのが見えた。

 艦隊に安堵の空気が漂う。

 「・・・なんとかなったわね」

 「次があるかもしれません。気を付けないと」

 そう言いながら加賀達が航行を続けようとした時だった。

 次の瞬間、体に強い衝撃と激しい光に音を感じると同時に激しい爆発音とともに加賀のすぐ近くで爆発が起きた。水柱が加賀の体を包む。

 「ーーっ!?加賀さん!?」

 水しぶきを受けながら赤城が叫んだ。

 水しぶきが消えるとともに服が破け負傷した加賀の姿が現れた。

 「くっ・・・私は大丈夫よ。でもいったい何が」

 次の瞬間、同じことが赤城に起きた。

 会場に響く爆音。

 「赤城さん!?」

 「一体何が!?」

 艦娘たちがたじろいでいると白雪が血相を変え叫んだ。

 「3時と5時の方向からスクリュー・・・いえ、魚雷音が!もう近くに来ています!!急いで回避して!」

 この時白雪は九三式水中聴音機を装備していたが、先ほどの爆発でしばらくの間海中が爆音で乱れてしまい、スクリュー音を即座に察知することができなかったのだ。

 加賀と赤城は回避行動をとろうとしたが体が思うように動かない。

 そうこうしている内に、敵の魚雷が加賀と赤城に着弾した。二人の体が水柱に包まれる。

 水柱が消えるとそこにはぐったりとして海面に倒れこんでいる。加賀と赤城の姿があった。

 「赤城さん、加賀さん!」

 白雪はすぐに駆け寄り二人を揺さぶった。

 しかし二人とも意識はなくよく見ると機関が停止して沈みかけている。魚雷が強力だったのかもしくは当たり所が悪かったらしい。

 白雪はしばらくどうすればよいかわからなかったが、耳に敵潜水艦のスクリュー音が聞こえハッとすると深雪と初雪に迎撃を命じた。

 その間に白雪は二人を抱きかかえようとする。

 だが所詮は駆逐艦と正規空母。重くてなかなか上がらない。

 「大丈夫か!?」

 声が方向を見ると摩耶の姿があった。彼女も何者かに攻撃を受けたらしく服が破れ傷を負っている。

 「手伝うぜ」

 摩耶はそう言ってロープを引っ張り出すと加賀の体に取り付けた。曳航するつもりだ。

 白雪もロープを取出し赤城の体に取り付ける。早くしなければ二人は沈んでしまう。

 作業を終えて二人を曳航しようとした時、深雪と初雪から敵潜水艦を撃沈したという報告が入った。艦隊に戻るよう指示すると白雪は摩耶に聞いた。

 「これからどうすれば?」

 「分からねぇ。とりあえず敵の攻撃はやんだみたいだがあたしもこの通りぼろぼろだし赤城と加賀がこの様子じゃそう簡単には戻れないだろうな・・・」

 と摩耶は考え込んでいたが、しばらくするとハッと何かに気付いたようだった。

 「・・・そうだ。確かこの地点から南東20キロあたりに島があったはずだ。えーと、海図海図・・・あった!名前は書いてないけど確かにある!いったんそこに逃げ込んで様子を見よう」

 摩耶の提案に白雪たちは頷いた。非常事態だ、この際仕方あるまい。

 こうして、傷ついた艦隊はいったんの安全を求めて近くの島へと向かっていった。

 

 

 それから数時間後

 たどり着いた島で摩耶は暗号装置エニグマ改でのゲルマニア鎮守府への緊急無電を終えて通信装置を折りたたむと加賀と赤城の手当てをしている白雪たちのもとへ向かった。

 砂浜にはヤシの木の木陰のもとで意識のないまま横たわっている赤城と加賀の姿があった。

 「・・・二人の調子は?」

 「だめです。機関も止まっているし意識もなくて目覚める気配も一向になくて・・・」

 白雪が首を横に振った。

 摩耶は腕を組んだ。

 艦隊のリーダーである赤城と加賀は意識を失い目覚める気配が一向にない。

 艦隊全体も相当なダメージを負ってまともに行動はできないだろう。

 しかしこのまま島でじっとしているわけにもいかない。何か行動を起こさねば。

 「あたしはちょっとこの島を見てくる。白雪、しばらく頼んだぜ」

 そういって摩耶は島内の探索をすることにした。

 「・・・どうすりゃいいかな」

 道なき道をかき分け島のジャングルを進む摩耶。

 だが特にこれと言って変わったところはなさそうで、ただの無人島のようだ。

 引き返そうと思いふとそばを見ると何かが光った。

 「?」

 光を感じた方向へと摩耶は足を進めた。

 葉をかき分けた先にあったものは、なぜこんなところにこんなものが、と疑問を誘うものであった。

 「これは・・・紫電改?」

 摩耶は呆然とした。

 目の前にはすでにこの世には存在しないはずの旧日本軍の戦闘機、紫電改の姿があった。

 ところどころ草木がはえているが識別マークもしっかりと装着してあり独特のシルエットに偽物には見えない。

 「・・・なんでこんなもんが?」

 摩耶が近寄ろうとした矢先、背後で大声が響いた。

 「何だ、バカヤロウ!」

 驚いて主砲を構えながら振り向くとそこには一人の茶色の飛行服を着た男が立っていた。

 「誰だ、オメー!俺の愛機に触るんじゃねえ、バカヤロウコノヤロウ!!」

 そういってその奇妙ななりをした男は少々日本人離れしている摩耶の顔をじっと見てさらに叫んだ。

 「む!外人!さては鬼畜米英だなコノヤロウバカヤロウ!!」

 それが菅野デストロイヤー直と艦娘の初接触であった。



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27話 番外編1~総統閣下が総統閣下シリーズをご覧になるようです~

 番外編です。


 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 その部屋の主であるドイツ国総統、アドルフ・ヒトラーはクレープすら部下に報告を受けていた。

 「総統閣下、閣下はこの前の休みオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の映画『ヒトラー~最後の12日間~』をご覧になられましたね?」

 「ああ。なかなかよく再現できた映画だと思ったね。私役のブルーノ・ガンツなんか、あれ私のクローンなんじゃないか?と思うぐらいの出来だったな。記録映画としては素晴らしい出来栄えだ。それで?わざわざ報告するということは何か問題があったのか?」

 ヒトラーはクレープスを見た。

 「はい、総統閣下・・・この映画の前半で総統が我々4人組に激昂するシーンがありますね?」

 「ああ、あの国防軍やSSを裏切り者と言って、それから私が自殺表明をするシーンだろ?事実だけどな」

 ブルクドルフがクレープスをちらりと見た。

 「総統閣下・・・そのシーンのことなのですが・・・」

 クレープスは口をつぐんだ。どうやらあまり自分の口から言いたくないらしい。

 ヨードルが追って説明する。

 「シュタイナーがネットサーフィンしてたらそのシーンが嘘字幕貼られて面白おかしくされている映像を見つけました。それがこちらです」

 ヒトラーは部下からパソコンを受け取ると、ニ○ニコ動画のサイトが映っている画面を見た。

 『総統閣下はスマホにお怒りのようです』

 『総統閣下がアンパンマンについて語るようです』

 『総統閣下はテレビ局にお怒りのようです』

 と題されている動画が多数掲載されている。ヒトラーはマウスを手に取るとそのうちの一つ一つを視聴し始めた。

 

 

 ~総統、『総統閣下シリーズ』を視聴中~

 

 

 どれくらいの時が経っただろうか。

 数十分経過したと思い気づいたら執務室の中を沈黙が支配していた。

 誰も言葉を発しない。ただパソコンの作動音が室内に響いているだけであり妙に大きく感じられた。

 しばらくした後、ヒトラーはパソコンをぱたんとたたむと動画を見るためにかけていた眼鏡をプルプルと震える手で外した後、静かに言った。

 「・・・大体見当はついているが、この動画が面白いと思ったものは残れアンポンタン」

 執務室にいた艦娘や部下たちが部屋から退散していき、部屋にはカイテル、ヨードルクレープス、ブルクドルフ、ゲッベルス、ボルマンだけが残った。

 しばらくの沈黙が続いたが、それはヒトラーの怒号によって破られた。

 

 「・・・なんなんだよこの動画は!深刻な雰囲気ぶち壊してんじゃねぇよ!ていうか、このカメラの位置に人物の配置、どう見ても今の俺たちと同じじゃねぇか!!」

 ヒトラーの怒りの声は執務室の外で待機している艦娘達や部下達の耳にも届いた。

 「言っておくがな、このシーンかなり深刻な内容なんだぞ!ドイツが滅びる直前の悲壮感が変な空耳や字幕でぶち壊されて名作映画が台無しだよ、そんなことする奴は大っ嫌いだ!!」

 ブルクドルフがすかさず反論した。ヒトラーをなだめようとする。

 「総統閣下、悪意があるわけじゃないから許してあげたら」

 「うるせぇ!!大っ嫌いだ!冗談じゃねぇぞバーカ!!」

 「総統、あんたはユーモアのセンスがないのか!?」

 しかしヒトラーの名作映画の雰囲気がぶち壊されたことに対する怒りは収まらない。

 「第一、この動画総統である私が全然ろくな扱いを受けていないじゃないか!!」

 ヒトラーは鉛筆を机にたたきつけた。

 

 「畜生めぇ!!!」

 

 ヒトラーの怒りの声が鎮守府中に響いた。

 彼の怒りはなおも続く。

 「私が変態のおたくされたり、部下に馬鹿にされたり、馬鹿騒ぎやったり、今の俺たちと全く同じ状況でウオッ!?て驚いたよ!この映画は将来の俺たちを暗示していたんだな、なんで初めて見たとき気づかなかったんだろう!これと同じことをあの人物でやってみろ、お前ら速攻で粛☆清だぞ、その人物とはもちろんそう、スターリン!!」

 ヒトラーははぁ、はぁ、と息を切らせながら椅子に座った。

 「もっと不満なのはな、このMAD作品に花がないことだ。単に面白けりゃいいってもんじゃない。いいか、時代は萌えなんだ!私が今本当にほしいものはな、目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 執務室の空気がどんどん白けていく。

 「動画内でもうちょっとかわいい女の子と戯れるシーンがあれば文句はないんだけどな!!ポロリとかパンチラとか萌え要素があればあの映画もっと売れたと思うぜ」

 

 執務室の外では潮がえぐえぐと泣き、加賀が呆然とした様子で執務室のドアを見つめていた。

 大淀が泣いている潮をなぐさめる。

 「あの変態ちょび髭、とうとう壊れたわね・・・」

 

 執務室内ではヒトラーがうなだれたまま、話を続けていた。

 「私が結局言いたいのはな・・・この動画は面白いよ、うん。すっげぇ、面白い。ただ動画内での私たちの現状があんまりにも私たちに似すぎているのが怖くなったのと、総統である私がろくな扱いを受けていないことに怒りを覚えてついかっとなってしまったんだ。動画製作者よ、申し訳ない」

 ブルクドルフは部下たちをちらりと見渡した。

 みなどうすればよいか分からずにいる

 ヒトラーは最後の締めくくりとして部下たちを見て質問をした。

 「・・・ところでこの動画見つけたのはシュタイナーらしいがいつシュタイナー帰ってきたんだ?」



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28話 島の様子~新たな漂流者~

 ゲルマニア鎮守府総統執務室。

 その室内の空気はいつもよりも張りつめていた。

 何しろこのゲルマニア鎮守府の航空戦力の大部分を担っている正規空母二隻もとい二人が行方不明になったからだ。

 大淀がヒトラーに状況説明をする。

 「総統、現時点で分かっている情報です。本日午後1時半ごろ、訓練のため航海に出ていた加賀を旗艦とする第一艦隊が南西諸島沖で敵艦隊と交戦、何らかの攻撃等を受け加賀と赤城が大破。艦隊全体も大きなダメージを負い同日午後2時ごろ近くの島へ退避。その後、暗号機エニグマ改を通して現在の状況を打電。以降通信は途絶えています」

 ヒトラーは報告書を覗き込んだ。

 「・・・近くの島に逃げ込んだというがどこの島だ?何故通信が途絶えている?第一、攻撃『等』を食らったとはどういうことだ?」

 ヒトラーは大淀に矢継早に質問する。

 「島の場所は現在のところ不明ですが電波の発信地域等からある程度の割り出しが可能です。今情報部が割り出しを行っています。通信に関しては再度攻撃を食らったのか、電源が切れたのか故障したのか不明です。それから、攻撃等という表現をしたのは通信によると加賀と赤城の体が敵艦隊と交戦中突然大爆発を起こしたということなので完全に攻撃とは言い切れないと判断したからです」

 「雷撃か機雷攻撃を受けたか、そうでなければエンジンが爆発したんじゃないのか?情報部はそうにらんでいると聞いたが・・・」

 ヒトラーの隣に立っていたゲッベルスがフェーゲラインに聞いた。

 フェーゲラインが頷く。

 「ああ。何の前兆なしに爆発だなんて機雷攻撃や雷撃、出なければ燃料や弾薬に運悪く引火し誘爆したか・・・いずれにせよ無事では済まないだろうな。暗号文によると二人は意識不明の状態らしい」

 ヒトラーは、赤城と加賀が意識不明という言葉に目を見開いた。

 「意識不明だと?」

 ボルマンがすかさず報告した。

 「総統閣下、ご安心ください。死んでいるというわけは」

 「いや、安心などできるか。二人はわがゲルマニア鎮守府の、そして日本の貴重な航空戦力なのだぞ。それに二人はまだ若い女性だというのに・・・」

 「総統の責任ではありません」

 「いや、私の責任だ。全ては私が判断し私が決めたことなのだから」

 ヒトラーはしばらく頭を抱えていた。が、すぐに頭を上げると大淀をはじめとする部下達に向き直った。

 「いずれにせよ、やるべきことは決まっている。フェーゲラインとゲッベルスはすぐに情報部に戻って更なる情報収集に励んでくれ。それから大淀とボルマンといつものメンバーはここに残れ。すぐに救出作戦を計画する」

 「「「ハイル!」」」

 ゲルマニア鎮守府全体が第一艦隊救出のために動き出した。

 

 

 そのころ、その当の第一艦隊が避難してきたニチヤンネル島。

 砂浜の木陰で死んだようにぐったりして意識なく倒れている赤城と加賀の二人を摩耶たちが看病していた。遠くの砂浜では島のジャングルの中で出会った超乱暴なパイロットの菅野が禿げ頭のデブ(ムッソリーニ)とコルセットをした少女(ローマ)をこき使いながら薪を集めていた。

 ジャングルで彼と出会ったときは、どうして紫電改や日本具の戦闘機パイロットがいるのか混乱したしお互い敵だと思い込んで半ば乱闘になりかけたが、とりあえずの事の次第を説明し途中でムッソリーニとローマを拾って何とか今に至った。

 摩耶はいまだに痛む肩を揉みながら改めて二人を見た。

 「全く意識がねぇな・・・死んでないよな?」

 摩耶が二人を団扇で仰ぎながらつぶやいた。

 意識不明になってから全く反応がない。心臓は動いているし呼吸もしているが、油断はできない。あの爆発だ、相当なダメージを食らっていることだろう。このまま死んでしまったりはしないかーー摩耶は不安になった。

 「大丈夫よ。あきらめちゃダメ」

 そう答えたのは摩耶とともに二人を看病していた人物だった。

 ブロンドの髪が特徴の三十代ほどの女性。

 「私たちがしっかりしなきゃ誰が看病するの?それにまだ死んだって決まったわけじゃないわ」

 そう言いながら彼女は雑巾代わりのぼろ布を絞ると加賀の額に置いた。

 「・・・そうだよな。ここであたしたちがオロオロする訳にもいかねぇし・・・ありがとな、えーと」

 「ヒトラー夫人と呼んで頂戴。もう結婚してるんだから」

 そう言って彼女、エヴァ・ブラウンーー自殺直前にヒトラーと結婚したのでエヴァ・ヒトラーのほうが正しいかもしれないがーーは笑った。

 摩耶は改めて彼女を見た。

 彼女に初めて会ったのはほんの数時間前のことだ。

 菅野らとともにジャングルを出て艦隊のいる砂浜に戻ってきたとき、そこに駆逐艦娘と共に赤城と加賀を看病する彼女がいたのだ。

 当然、見知らぬ人物なので摩耶は何者なのか敵ではないかと一瞬警戒したしムッソリーニとローマはともかく菅野に至ってはなんか外国人に恨みでもあるのか「あ、外人だコノヤロウ、鬼畜米英だバカヤロウ」と今にも殴りかからんばかりに気性が荒れだした。

 結局、駆逐艦娘に彼女が敵ではなくむしろ二人の看護を手伝ってくれたということと、彼女が「ドイッチュラント!」と言った途端菅野たちが落ち着きその場は収まったのだが、出会ってから数時間ほどにして摩耶たちと彼女はある程度打ち解けていた。

 「ヒトラー夫人ね・・・なんか固いからエヴァでいい?」

 「別にいいわよ」

 「それにいしてもなんでアンタ、こんなところにいるんだ?あたしらと同じように遭難しちゃったのか?」

 エヴァは首を振った。

 「いいえ。なんだか気づいたら砂浜に倒れていて・・・地下室で夫と話をして小瓶を取り出したところまでは覚えてるけど。いったい何が何だかわからなかったわ。」

 摩耶とエヴァは赤城と加賀の看護を一通り終えると並んで座った。

 「仕方ないから砂浜を歩いていたらこの可愛い女の子が二人も倒れているじゃない。しかも傷ついた小っちゃい子が四人も。で、看護していたらあなたたちと出会ったてわけよ」

 摩耶は目の前に広がる海を見た。あたりは暗くなり始め夕日が美しく輝いている。

 ふと、彼女は不安に駆られた。助けは来るのだろうか?自分たちは助かるのだろうか?それとも敵の餌食になるかこのまま永遠にこの島に遭難することになるのかーー

 そこまで考えて摩耶は首を振った。そんなことを考えても仕方がない。いまは信じるだけだ。総統を、将軍たちを、そしてゲルマニア鎮守府の仲間たちを。

 「摩耶さん」

 後ろから声がし振り向くと白雪の姿があった。

 「とりあえず、夕食にしましょう。島を捜索していたら乾パンとか食料を色々を見つけたのでそれで」

 「そうね、そうしましょう。お腹が減って倒れちゃあ元の子もないわよね、ね?」

 エヴァは摩耶を見た。

 摩耶はうなずいて遠くいる仲間を呼んだ。

 

 

 

 どこかの深海に存在する基地。

 その執務室でスターリンは満足げに微笑んでいた。

 先ほど、部下の深海棲艦からある報告を受け上機嫌になったのだ。

 ゲルマニア鎮守府の航空戦力の中核を担う正規空母二隻もとい二人が大破し、近くの無人島に漂着した。

 その報告を受けスターリンは上機嫌になっていたのだ。

 もともと、彼はゲルマニア鎮守府を打倒すための準備を進めていた。

 「モスクワ作戦」。それがその第一段階のための作戦名だった。

 作戦内容は非常にシンプル。

 とりあえずまずは敵を進ませるだけ進ませて補給線を拡大させある程度疲弊するまで待ちその後、敵を叩くというものだ。

 その一環としてまずは潜水艦を大量に生産し、機雷を予想される進撃ルートや重要ポイントに大量に敷設することを始めていたのだが、作戦というものは当然のことながらその通りに動くものではない。アクシデントもある。

 そして今回おこったアクシデントはスターリンにとって幸運なものだった。

 敵の航空戦力の中枢を担う正規空母二隻が敷設した機雷に触雷しさらに慌てている隙に潜水艦部隊が強襲しさらなる雷撃を加え大ダメージを与えて無人島に漂着させた。

 敵の航空戦力を叩くまたとないチャンス。

 漂着した島はまだ完全には人類側の支配地域にはなっていない海域に存在する。今のうちに部隊を送り確実に殲滅すれば敵の航空戦力は大幅に縮小するだろう。

 しかも情報によると(これはどこの鎮守府でも共通するが)ゲルマニア鎮守府は資源不足に悩まされているという。つまりうまくいけば大ダメージを与えられること間違いなしだ。

 「まったく・・・戦争はどんなことがあるか分かったもんじゃないなアドルフ?」

 そう呟きスターリンはただ一人自室で薄く笑った。

 

 

 その頃ニチヤンネル島

 そこでは摩耶たち漂流者が負傷者と共に静かに寝ている・・・はずだった。

 「タピオカパン!タピオカパン!」「びゃあうまい!」「粉バナナ!」「ランランルー!」

 「うおおおお!?なんだよこの鳴き声はああああああ!?」

 「うるせええじゃねぇかコノヤロウバカヤロウ!」

 「静かに眠れんぞ!!どうなっとるんだこの島は?!」

 「鳴き声がいくらなんでも、おかしすぎるわ!!」

 島のジャングルの野生動物の鳴き声に安眠を邪魔されていた。

 

  



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29話 救出作戦~ドルンレースヒェン作戦発動~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 時刻はすでに午前0時と深夜になっているが駆逐艦娘などを除いて眠っているものはいなかった。

 ヒトラーは部下とともに救出作戦を練っていた。

 「武蔵は出撃できんのか?ドーラを搭載して出撃させれば・・・」

 「いや、今回はあくまで救出作戦だ。迅速さが求められる。鈍重な大和型は不向きだし、資源を節約しなければならない。なにより、今現在肝心の武蔵がドック入りしているしドーラも試作品だったから硫黄島攻略作戦の後にすぐぶっ壊れてしまった」

 「なんと・・・」

 「編成は、軽空母の隼鷹と戦艦を出撃させよう。正規空母を曳航するのだからな」

 「しかし総統、それでは目立ちますし現在の鎮守府にそんな余裕は・・・」

 ヒトラーが部下たちと議論を交わしていたところにバタンと執務室のドアが開き大淀が入ってきた。

 「総統、第一艦隊が避難した島の場所がわかりました!」

 「本当か!」

 大淀はうなずくとテーブルの上に地図を広げた。

 「場所は硫黄島よりさらに南。無人島です」

 地図の上に小さく描かれている島を指さす。

 「島名はニチヤンネル島。かつて旧日本軍の基地として使われていた島で島の存在すら秘匿されていたために判明に時間がかかりました」

 「ニチヤンネル島か・・・なんか変な生物が出てきそうだな」

 「喋る猫とかやる夫とか出てこないよね?」

 「いえ、そこは知りませんが・・・ともかく島の場所が分かった以上迅速に救出作戦を実行に移すべきかと」

 ヒトラーは頷いた。

 「うむ。すでにある程度の艦隊の編成、航路などの内容は決まっている。少なくとも数時間後には私は救出部隊を見送ることになるだろう。全艦娘に出撃準備に備えるよう伝達したまえ」

 「了解しました!」

 

 数時間後、総統執務室

 ヒトラーの目の前に六人の艦娘がいた。隼鷹、山城、明石、叢雲、潮、不知火。それが急きょ編成された救出部隊の面子であった。

 「君たちがなぜ集められたのか説明は必要あるまい」

 ヒトラーは言った。

 「ほかでもない、遭難した第一艦隊救出のためだ。モーンケ、作戦の説明をしてくれ」

 モーンケがうなずくと、机の上に広げられている地図を指差した。

 「情報部の調査の結果、第一艦隊は現在硫黄島のさらに南東に位置するこの無人島ニチヤンネル島にいる可能性が高いということが判明しました。友軍の偵察等の情報から深海棲艦側が新たにこれを殲滅するための部隊を編成、出撃させている可能性が高くく、作戦には迅速さが求められます」

 「あの・・・じゃあ、なんで足の遅い私を選んだんですか?迅速さだったら、高速戦艦の金剛型がいいんじゃ・・・」

 山城が疑問を口にすると、ヒトラーが代わりに答えた。

 「山城、君はこの前改装によって航空戦艦になっただろう?今回の作戦では昼夜を問わず手段を問わず敵の追撃が予想される。航空機、戦艦、魚雷・・・通常の海戦や防空戦、対潜戦闘あらゆる戦闘に対応できる君が適任だと判断したのだ。それに今、わが鎮守府の資材量や入渠などの事情から稼働できる空母が隼鷹のみ。これでは艦隊の防空には足りない。航空戦艦である君の力も必要なのだ」

 「分かりました。でも速度が・・・」

 「安心したまえ。我がドイツの 科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!出来んことはないィィィィィィィイイイイ!!この前わが鎮守府の技術部の明石、夕張、シュトロハイム大佐とドクの尽力によって新たに改良型タービンが開発された。これに夕張と明石が更なる改造を加えたのだがそれを搭載したまえ。見違えるように速力が上がるはずだ。金剛ほどではなくとも護衛には十分の速度が出るだろう」

 モーンケが説明を続ける。

 「協議の結果、最短ルートを通ることになりました。別のルートよりも安全性は少し下がりますが現れる脅威は護衛中でも十分に対応でき、また別のルートを通った場合敵の追撃隊に追いつかれてしまう可能性が大と判断したからです。敵の無線が傍受されるのを防ぐため作戦中は無線封鎖を徹底させていただきます。いかなる状況でも相当なよほどのことがない限り無線通信は行わないでください。目的の島について第一艦隊を発見したらまずは大破している赤城、加賀の応急処置を明石が行います。その後、ある程度の補給を済ませたのちすぐに出発、帰還します」

 モーンケが説明を終えた。

 ヒトラーが隼鷹たちを見る。

 「・・・行くときには物資や修理用の部品等を持って、帰還時には場合によっては正規空母二人を連れてかつ隠密行動する必要がある。かなり難易度の高い作戦になるができるかね?」

 「いや、できるできないっていうよりやらなきゃいけないでしょ。仲間が死にそうになっているんだから」

 答えたのは隼鷹だった。普段は飲んだくれの彼女だ今の彼女の顔は真剣そのものだった。

 ほかの艦娘達も答える。

 「・・・やって見せます!欠陥戦艦とは言わせません!」

 「やるに決まってるでしょう」

 「あたしを誰だと思ってるの?任務を達成するに決まってるわ!」

 「あの・・・頑張ります!私、絶対!」

 「司令のご命令ですから」

 彼女たちの士気は十二分に高まっていた。何しろ死にかかっているであろう仲間を救出しに行くのだ。士気において圧倒しなくてはまず論外であろう。

 ヒトラーは満足げにうなずいた。

 「うむ。それでこそ我がゲルマニア鎮守府の艦娘だ。この任務、絶対に成功させたまえ。なお、本作戦の秘匿名はドルンレースヒェン・・・「眠れる森の美女」作戦とする。君らが姫を救出しに行く王子様役というわけだ」

 「性別が逆なような気がしますが」

 「でもロマンチックでいいような・・・」

 ヒトラーは続けた。

 「諸君。私はただ作戦を練り命令して待つことしかできないが・・・必ず成功させ生きて帰れ。これは総統命令だ。逆らうことは許されん」

 「「「ハイル!」」」

 士気の高まった空気の執務室内に艦娘達の声が響いた。

 

 艦娘達が立ち去り総統執務室内にはヒトラーとげっべるすをはじめとする数名の部下だけが残った。

 「成功するでしょうか」

 ボルマンが言った。

 ヒトラーはフッと笑った。

 「ボルマン君、心配は無用だ。彼女たちの様子なら必ず成功するであろう。裏切り者の親衛隊員や臆病者の将軍達とは違う。なぁに、『あの大戦』の轍は踏まんよ」

 「総統閣下、彼女達だけで大丈夫でしょうか?あらゆる状況を想定して柔軟に対応できるようグライダーや小型潜水艇などで武装親衛隊員を送り込む必要はないでしょうか?」

 モーンケがヒトラーに提案した。

 「私もそれは考えたが、妖精だけで十分だろう。それに今回は深海棲艦が相手だ。グラン・サッソ襲撃(第二次大戦時の1943年9月12日独軍や武装ssによって実施されたムッソリーニ救出作戦)とは違う。スコルツェニー中佐やマックス少佐がいれば話は別だろうがあいつらはまだこの鎮守府には来ていないみたいだからな・・・とにかく打てる手は打った。賽は投げられたのだ。あとは祈るしかあるまい」

 ヒトラーは椅子に座りなおした。そしてうっすらと笑う。

 「もっとも、勝利は確実だがな」

 窓を見れば水平線の向こう側がまだ太陽そのものは出ていないもののうっすらと明るくなりつつあった。

 

 

 「あ」

 突然ヒトラーが思い出したように声を上げた。

 「どうしました総統閣下?」

 ゲッベルスが疑問の声をかける。

 「いや・・・そういえばいつものあれをやることを忘れていたのを思い出してな」

 「・・・いつものあれ?」

 将校たちが頭上にクエスチョンマークを浮かべる中、大淀やブルクドルフはうすうす気づいたよな顔をしていた。

 ブルクドルフが大淀をちらっと見る。その眼は「分かってるよな?」と訴えかけていた。

 大淀が頷く。

 ヒトラーが大淀に命令した。

 「大淀、武装親衛隊に命じてフェーゲラインと青葉を起こしてこい」

 

 

 そのころ、フェーゲラインと青葉は将校用の私室の中で共に布団の中で一緒にぐっすりと眠っていた。(二人の名誉と読者のためにあらかじめ説明しますが決してエロい意味はございません。添い寝しているだけです)

 と、突然部屋のドアが勢いよく開けられ二人を夢の世界から強制的に引き離した。

 「なんだこの部屋はァ、馬鹿に暗いなァ」

 二人がドアに目をやるとそこには数名の部下を引き連れた制服姿のヒトラーと武装ssの大佐と数名のMP40サブマシンガンを構えた親衛隊員がいた。

 大佐が寝間着姿のフェーゲラインと青葉を見る。

 「ブァカ者がァァァァァア!!ドイツ軍人はァァァァァァ清廉潔白を美徳とするのダァァァァァアア!!10代の少女と添い寝をするなど言語道断もってのほかァァァァアア!!本当に羨ま・・・じゃなくてけしからん!さあ、この二人に裁きの銃弾を撃ち込むのだァァァァァアアア!!」

 一瞬のうちに二人はこれから何が起こるかを理解した。

 「ちょ、おま、勘弁して、デイリーならたまにはゲッベルスとかで」

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそういった瞬間、親衛隊員達がMP40を二人に連射、無数の訓練弾が撃ち込まれ二人は倒れた。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 ピロリーン♪という音がどこからか響き渡る。

 倒れ伏す二人を見てヒトラーは怒りの声を出した。

 「こ・・・こいつら、男女二人で添い寝していたとは、このリア充め・・・まじで羨まし、じゃなくてけしからん!!畜生めぇ!!!」

 鉛筆を床にたたきつける。

 また、ピロリーン♪とどこからか音が響いた。

 ヒトラーは周りから驚きの目と尊敬の目と白い目で見られる中、叫んだ。

 「よし、決めたぞ!作戦が成功した暁には山城と摩耶ちゃんと加賀さんの胸部装甲を、あの目に刺さるような巨乳を!必ず、おっぱいぷるーんぷるんしてやる!!」

 ピロリンピロリンピロピロリーン!!とどこからかまた音が響いた。

 ヒトラーの声が空しく響いた。

 周りの幹部たちはただ茫然と見ているしかなった。

 ヨードルが呆然とつぶやく。

 「いつものアレってこれだったのかよ・・・」

 「大体予想はついていたが・・・長いことやってないから、忘れていたからってこれは・・・」

 「せっかく久しぶりに良い雰囲気になったのによりにもよってこんな言葉で〆るとか!ダサいし!!」

 ヒトラーはヒトラーであった。




  後書き
クレープス「読者の皆様、今回もこのssを見てくれてありがとう。ダンケ」
モーンケ「突然ですが皆様方にお知らせがございます」
ヒトラー「突然のことですまないが今回、作者が人気投票を行うと決めたのだ。投票権は読者一人につき二人まで。29話までに登場したキャラクターの中で好きなキャラに一人につき一票入れてくれ。同一のキャラクターに二票入れるのは無効とするから悪しからず」
ゲッベルス「なお、投票するときは出来うる限り作者の活動報告『総統閣下の質問箱』に投票してください。コメント欄に投票すると運営に消されてしまうから・・・投票日は2017年3月10日までとします」
フェーゲライン「まぁ、私が一位になるのは見え見えなんですけどねww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダピロリーン♪




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30話 迫りくる敵~脅威~

 お知らせ
 29話の後書きでも公表しましたが、今度人気投票を行うことにしました。29話までに登場したキャラクターの中で好きにキャラ一人につき一票投票してください。二人まで投票できます。
 投票する際は可能な限り、作者の活動報告「総統閣下の質問箱」に投票してください。お願いします。


 午前0時。月明かりのない真っ暗な太平洋上を山城達救出部隊は休むことなく静かにしかし高速で航行していた。

 出撃してから数日。敵の目を何とかかいくぐりあと少しで目的の島のたどりつくというところだった。

 「今夜は月明かりがなくて助かりましたね」

 不知火が言った。

 明石がうなずく。

 「今日は新月ですからね。作戦期間中は月明かりに照らされて見つかることはないでしょう」

 「このまま島にたどり着ければいいけど・・・」

 山城は不安そうに前を見た。

 もともと自分は運のない不幸な艦娘だ。

 この重要な作戦が失敗に終わらないか・・・と内心思うところもあった。

 よりによってなんで自分が。まさか間に合わずに全滅しているのでは・・・敵に見つかって殲滅されるのでは・・・と考えかけて、すぐにやめた。

 そんなことだから、いけないのだ。できると見込んだから総統が自分に声をかけたんだろう。そうだ、ポジティブに、ポジティブに考えよう・・・何より、扶桑姉さまが鎮守府に帰りを待っているのだ。失敗して沈むわけにはいかない。

 山城は出撃直前の工廠での出来事を思い出した。

 新型のタービン機関を取り付けてもらう際、自分にできるだろうか、と不安を漏らした自分に対し、技術部の部長である武装SSの大佐が機械の腕をウィンウィン鳴らしながら言っていた。

 「我がナチスの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!できんことなどないィィィイイイイ!!そうだろう、ドク!」

 「ええ!今回のタービン機関は私が特に力を入れ開発したものです。ああ、少佐殿がいればどれだけ感動したことだろうか・・・」

 そうだ、ナチスの科学は世界一なのだ、できないことなどない、失敗するわけがない・・・

 そう自分に言い聞かせ気を改めて入れなおして山城は暗い闇の中を航行していくのであった。

 

 そのころ、ニチヤンネル島

 深夜ということもあり本来なら、そこで漂流している加賀や摩耶たちは皆ぐっすりと就寝しているはずであった・・・のだが、実際には平気な顔してぐっすりと就寝している者と明らかに青い顔して寝不足なのが明らかなのに寝れない者に分かれていた。

 原因は実に簡単である。

 後者の人間であるファシスト党頭領ムッソリーニは同じく後者の人間であるローマに話しかけていた。

 「・・・なあ」

 「なん・・・でしょう・・・ドゥーチェ・・・」

 「この島・・・おかしいと思わないか?」

 「ドゥーチェも・・・そう、思いますか?」

 「ああ・・・だって・・・」

 ムッソリーニはジャングルのほうを見た。

 次の瞬間、ジャングルからけたたましい音が島中に響き始めた。

 「タピオカパン!タピオカパン!」「ビャアウマイ!ビャアウマイ!」「ヤラナイカ!ヤラナイカ!」「コナバナナ!コナバナナ!」「ヤロウオブクラッシャー!」

 「・・・こんな野生動物の鳴き声があるか!?普通!?」

 そう、このニチヤンネル島では夜になるとこのように島に生息する野生動物が喧しく鳴り響くのであった。

 そしてこれがムッソリーニたちの快適な安眠を妨げていた。

 「クッソー、早く救助はこねぇのかよ・・・」

 摩耶がピクピク瞼を震わせながら言った。

 「夜寝れねえから昼寝ようとしても暑くてジメジメしてとても寝られたもんじゃねぇ・・・こんちくしょう・・・」

 「こいつらこんなに五月蠅いのによく寝られるよなぁ・・・」

 ムッソリーニは呆れたように隣で眠る菅野やエヴァや初雪達を見た。彼らの寝顔は安らかなもので、野生動物の喧騒をまるで気にしていないようであった。

 ムッソリーニは改めて、摩耶を見た。

 「・・・御嬢さん、通信機器は本当に使えないのかね?」

 「だからさっき言ったろ?使おうにもバッテリー切れに加えて海水につかってさらには菅野の乱暴な扱いでぶっ壊れちまったって・・・」

 「・・・そうか」

 ろくに寝れず、通信機も壊れて救助もそれほど望めそうにない。

 「どうすっかな・・・」

 ムッソリーニは砂浜に転がり、とりあえず何とか寝てみようと試みることにした・・・とその時。

 「・・・ん?なんだありゃ?」

 「どうしました、ドゥーチェ?」

 ムッソリーニは何か違和感を覚え、夜空をじっと見つめた。

 月のない、星だけが輝いている真っ暗闇の夜。その静かな闇夜の中で何か不思議な音が聞こえた。とても小さいが確かに聞こえる。自然には聞こえない、機械的な音・・・

 ブブブブブ・・・

 プロペラ音だ。

 摩耶やローマも勘付いたようでムッソリーニと顔を合わせた。

 摩耶は嫌な予感がした。もしや・・・

 彼女はすぐに寝ている艦娘達や菅野らを起こしにかかった。

 「なんだバカヤロウ・・・人が寝てんだぞコノヤロウバカヤロウ・・・」

 「どうしたの、摩耶ちゃん・・・」

 「いいから、早く起きてジャングルの中へ。ヤバいことなってかもしれねぇんだ、ほら聞こえるだろ」

 菅野はしばらくはぁ?という顔をしたが、すぐに例のプロペラ音に気付いたのだろう、ほかに寝ている艦娘を抱きかかえるとジャングルの中へ隠れていき、他の人も続々と入っていった。

 いまだ意識不明なままの加賀と赤城を抱え、摩耶もジャングルに隠れる。どうにかジャングルまで入ると、摩耶は空を見上げた。

 プロペラ音は一層、大きくなりっており、島中に響いていた。野生動物の鳴き声もいつの間にか止み、プロペラ音だけが大きく鳴り響いていた。

 次の瞬間、ぱっと真っ暗な夜空が光った。一瞬で昼になったのかと見まごうような光。だが白煙を引きながらゆっくりと降下していく火球を見てすぐに照明弾の光だとわかる。

 摩耶は眼を見開いた。

 そこには照明弾のオレンジ色の光に照らされながら、飛行する深海棲艦の航空機の姿があった。

 「・・・偵察機か」

 菅野がつぶやいた。

 摩耶の脳裏に嫌な予感が奔った。

 もしや・・・敵に捕捉されている?

 摩耶はごくりと唾をのんだ。

 

 ちょうどその頃、ニチヤンネル島から数十キロほど離れた海上では、深海棲艦の艦隊が加賀達空母部隊にとどめを刺そうとじっと身をひそめていた。

 その中でヲ級はただじっと、夜空を見つめていた。

 スターリンにとどめを刺すよう命じられ、調査の結果潜んでいる可能性が最も高いと考えられたニチヤンネル島に向かい、彼女は偵察機を飛ばしてじっと、その時を待っていた。

 まだ何も報告はない。

 だが、いると彼女は確信していた。

 別に確証があるわけではない。が、彼女の感がそう告げていた。

 ニヤリと嗤う。

 これから起こることに彼女は嗤わずにはいられなかった。

 殺せるのだ。手負いの空母を、嬲り殺しにできるのだ。

 艦娘達が現れてから彼女たちによって散々負け戦を強いられてきたが今ようやくその復讐ができる。

 そのことが彼女は楽しみだった。

 彼女は嗤いながらただ夜空を見る。

 これから何が起こるか、彼女たちはまだ知らない。



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31話 攻撃~救出はまだか~

 深夜、二個二個童画島。

 島の岩礁に乗り上げている大破した帝国海軍空母『飛龍』の甲板上で山口多聞は水平線を見ながら立ち尽くしていた。

 月明かりがなく星のみがかろうじて夜空を照らしている。

 山口は咥えていた煙草からフッと煙を吐き出した。

 「・・・これが最後の一本か・・・」

 当然ながら寂れた島内に煙草は一本もない。せいぜいシケモクが何本か転がってる程度だ。

 これからしばらくはシケモクを我慢して吸う羽目になりそうだな、と思っていると傍らで女の声がした。

 「・・・提督、眠れないんですか?」

 「・・・飛龍か」

 正規空母の艦娘、飛龍は山口の隣に立ち一緒に水平線を見た。

 「・・・思えば、あの日から3か月ぐらい経ちましたね」

 「死んだと思ったら未来に来ていた。しかも女の子になった空母やら潜水艦やらドイツ人までいる。まったく、人生何があるか分かったもんじゃねぇな」

 山口は一瞬フッと笑ったが、すぐに表情を硬くした。

 「・・・何か心配事がありそうですね」

 「そりゃそうだ。あいつらが・・・菅野達が出撃してから何日もたったがまるっきり連絡がない。そう、遠くない距離だしまさかあの化け物共に撃沈されたとは思えんが・・・」

 数日前、資源や救援の手掛かりを求めて、この島の最短に存在する別の島、ニチヤンネル島に菅野ら偵察隊を派遣したのだが、一向に連絡が来ない。近くの島だからすぐに辿り着くし、通信機も渡したし武装も可能な限り万全なものにした。

 何かアクシデントが起きたか、あるいは考えたくはないが・・・

 山口は煙を吐いた。

 「お困りのようですな」

 突然、山口のすぐ隣で男の声がした。

 見ると眼鏡に禿頭、陸軍の制服を着た男が立っていた。

 「神出鬼没だね、辻大佐」

 「褒め言葉と受け取っておきます。ところで、山口少将は菅野達のことで気がかりなのでしょう?」

 「何かいい考えがあるのかい?」

 「・・・正直言って私も頭を悩ませております。最悪の状況も考えておいたほうがいいでしょう。私の考えとしては・・・」

 辻は飛行甲板からほど近い飛行場に止められているスツーカを見た。

 「・・・あとしばらくして何もなかったら我々も直接乗り込むべきかと」

 「・・・そうだな」

 山口は短くなった煙草を咥え直し夜空をまた見上げた。

 

 それから数時間後、ニチヤンネル島

 「・・・まったく、この島にこんなもんがあったなんて・・・」

 島に漂流した艦娘の一人である摩耶はため息をついた。

 彼女達は現在、島に残されている旧日本軍によって設けられた地下壕の中にいた。

 敵の偵察機の目を避けるため党内を散策していたらトーチカのようなものを発見し中に入ったら、地下空間が広がっていたのだ。

 菅野も続けて言う。

 「・・・まじか、あのオッサンのいうことホントだったんだな・・・お、缶詰発見」

 「なぁ、その二個二個童画島って島にも艦娘がいるのか?」

 「ああ、何度も言ったろ。ホントすごいぜ、飛龍にあきつ丸に・・・そういやドイツ人もいたなぁ・・・あ、缶詰空じゃねぇかバカヤロウ」

 「・・・何とかして連絡が取れればいいだけどな」

 もちろん、連絡がついたからと言ってどうなるか考えてはいない。が、それでも何とかなりそうだ、という気はした。

 「それにしても地下壕があって助かったな・・・何か役に立つものがあるかもしれん」

 ムッソリーニが言った。

 二個二個童画島や地下壕の存在。八方塞がりの状況での新たな発見は彼女たちに何かしらの希望を与えていた。

 「そうですね。敵の攻撃もある程度はしのげるだろうし、食料や弾薬、通信機もあるかもしれません」

 「とりえずこれからどうするかだな・・・」

 彼女たちが今後の方針について話し合っていた時だった。

 突然、火山が噴火したような爆発音が響いたと思ったら、地下壕内が激しく揺れた。

 あまりの出来事に一瞬慌てる。

 「うおっ!?」

 「なんだ!?」

 「敵の攻撃だ!」

 「・・・見てきます!」

 真っ先に落ち着きを取り戻した白雪が地下壕の外に向かう。

 摩耶たちも出口に向かう。

 その間にも爆発音と振動は地下壕内に伝わった。

 「白雪!」 

 「これは・・・」

 地下壕とつながっている狭いトーチカの覗き穴から白雪は外の様子を覗っていた。

 何が起きたのか、謎はすぐに解けた。

 空をいくつかの黒い物体が飛び交っている。

 目を凝らせば、正体はすぐに分かった。

 深海棲艦の戦闘機と爆撃機だ。

 飛んでいた爆撃機の一つが黒い物体を落とすと同時に、爆発音と巨大な火柱が目の前で巻き起こった。振動が伝わる。

 「ぐ・・・っ」

 「野郎、もう着やがったか・・・!!」

 おそらく、偵察機が飛んでいた時点で自分たちは敵に追われ気づかれていたのだ。

 その証拠に、摩耶は洋上にいくつか黒い点が浮かんでいるのを見た。

 「・・・くそっ包囲されたか」

 「・・・爆撃で我々を炙り出すつもりか、あるいは・・・」

 「どうするの?」

 エヴァが摩耶に聞いた。

 「知らない島で目が覚めたと思ったら、さっそく爆撃だわ。とんでもないサプライズね。なんとかしないと・・・」

 「そんなことは分かってるよとにかくいったん体勢を立て直そう!おい、だれか加賀と赤城を運ぶの手伝ってくれ!!」

 

 「間に合わなかった・・・?」

 ニチヤンネル島が包囲され摩耶たちが攻撃され始めたちょうどそのころ、山城達救出艦隊はすでに島まであと少しというところまで来ており、隼鷹が飛ばした偵察機で島の様子はリアルタイムで分かっていた。

 「いや、攻撃はまだ始まったばかりだし、島には地下壕があるって話だ。すぐには死なないだろうけど・・・急がなきゃあね」

 「・・・島を包囲している敵の編成は?」

 「今わかっている限りで島の近くにいるのは駆逐艦クラスが2、重巡クラスと戦艦クラスがそれぞれ1・・・航空機もあるから近くには空母がいるかも」

 「参ったわね・・・不幸だわ」

 山城は頭を抱えた。だが、今の状況を呪っても仕方がない。ここで立ち止まっても事態は好転しない。やれるのは自分たちだけだ。

 「隼鷹、航空機を発艦して!島を包囲している敵艦を少しでも減らすのよ!全艦私に続いて!」

 「あいよ!」

 「了解!」 

 仲間を守るため彼女たちは何があろうとも進んでいく。そこに幾多の苦難があろうとも。

 

 そのころ二個二個童画島

 「・・・」

 ドイツ空軍大佐ハンス・ウルリッヒ・ルーデルは基地の跡内でぐっすりと眠っていたが、突然起床した。

 そして彼は隣で寝ていた相棒のガーデルマンを起こした。

 「起きろ、ガーデルマン・・・休んでいる暇はないぞ」

 「石仮面が一万二千枚・・・石仮面が一万二千一枚・・・はい?何ですか大佐・・・」

 「いいから起きろ、出撃するぞ」

 「え?え?何でですか?敵襲でもないのに・・・」

 ルーデルは首を振った。

 「いいや、なんかよく分からんが近くで何か大変なことが起きている様な気がするんだ・・・それにここ数日、イワン共とまともに殺りあえていない!せっかくこの世界に甦ったのに!!俺は戦闘がしたいんだ!!ガーデルマン、出撃するぞ!」

 「え?ええ~~~」

 ルーデルは有無を言わさずガーデルマンを引きずると飛行場のスツーカに向かっていた。

 破壊の調べが始まろうとしていた。

 

  




 後書き
モーンケ「皆様、本作品を毎度読んでくれてありがとうございます。突然のお知らせですがここで前々回から告知していた人気投票の結果を公表したいと思います」
ヒトラー「うむ。まぁ、結果は分かっとるよ。どうせ総統のこの私がぶっちぎりの一位に決まっている。早く結果を公表しろ」
ブルクドルフ「」チラッ
クレープス「・・・総統閣下、そのことなんですが・・・総統閣下は・・・三位でした」
ヒトラー「・・・え?ちょっと待て、総統の私が何で・・・」
ヨードル「二位はゲッベルス、そして一位は・・・青葉とフェーゲラインのコンビです」
ヒトラー「ふざけんな!なんであんな奴らが私より上なんだ!?青葉はまだわかるよ!かわいいからさ!でもなんで自重しないロリコンと嫌みな奴が上位なんだ!!畜生めぇ!!!」
ゲッベルス「一番自重しない総統に言われたくないですよ!!」
フェーゲライン「ただの変態のオッサンに投票する奴なんかいねぇよww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおおおおおお!?」ズダダダダダダダピロリーン♪

 鎮守府は今日も平和です


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32話 ルーデル出撃~ドイツの急降下爆撃は世界一~

 ニチヤンネル島近海。

 そこでは救出部隊と島を包囲する敵艦隊との戦いが繰り広げられていた。

 普通の戦闘ならともかく速度が遅く、装備も十分とは言えない工作艦の明石を護衛しながらの交戦なので敵の包囲ラインを突破するのに山城たちは手間取っていた。が、彼女達には瀕死の仲間を救うという重大な任務がある。ただで負けるわけにもいかず、彼女達は少しずつ敵の包囲ラインと突破しつつあった。

 「よっしゃ!敵駆逐艦を一隻撃沈・・・ってうわ!!」

 「隼鷹!?大丈夫!?」

 「あー大丈夫大丈夫、飛行甲板にあたるとこだった・・・」

 山城は被弾した隼鷹の被害が軽微なのを確認すると、前方を見た。

 まだ敵は戦艦1隻と重巡2隻が残っている。

 さっきから直撃弾を何度も食らっているのになかなか沈ます頑丈な奴だ。

 敵の増援もいつ来るか分からず、包囲を突破し且つ仲間を救出し作戦を成功させるには目の前のこのしぶとい敵を何としても撃破する必要があった。

 「・・・撃てぇ!!」

 35.6cm連装砲を発射しながら山城は明石の周りを囲むようにして護衛している駆逐艦娘達を見た。

 彼女達は彼女達で、回避運動を取りながら敵の艦載機相手に対空砲火をカーテンのごとく張り巡らせていた。

 艦載機がいるということは――空母がどこかにいるということ、つまりこの島に向かっている敵は自分たちが今戦っている包囲艦隊だけではないということだ。

 救出艦隊が向かっていることはすでにばれているであろう。

 となれば、敵はさらに増援を送ってくるはず、いや確実に送ってくる。

 今現在でも十分手一杯なのにいま敵の増援が来てはたまらない。早く敵を撃破しなければ――

 焦りが募ってくるのに気づき、山城は首を振った。いや、駄目だ。焦っては敵の思う壺だ。落ち着いて、しかし素早く確実に――

 山城は主砲に弾薬を再装填すると、目の前の敵戦艦と対峙した。

 

 

 二個二個動画島近海。

 その上空を一機の急降下爆撃機Ju87が静かに飛行していた。

 「ガーデルマン、異常はないか?」

 「何も異常はありません、大佐」

 ソ連人民最大の敵ことハンス・ウルリッヒ・ルーデルは愛機の操縦桿を握りながら敵はどこだどこだと血眼になって洋上を、空を見渡していた。

 ここ最近、戦闘がなくイライラしていたルーデルであったが今朝寝ているときに突然ピンとくるものがありガーデルマンをたたき起こしてスツーカのもとに向かったら、ちょうど良いところに来たと言わんばかりに山口らに出撃を命じられたのだ。なんでも数日前にニチヤンネル島に出撃した部隊から連絡が来ないのでどうなっているのか見てこい、とのことだった。

 当然、血に飢えていた魔王ルーデルは喜んでガーデルマンを後部機銃座席に押し込めながらスツーカに搭乗し出撃、現在に至るというわけである。

 「ニチヤンネル島はそう遠くない島だからな・・・すぐに到着するだろう。ガーデルマン、見張りを怠るな・・・ん?」

 ルーデルはそう言いかけたとき、前方、洋上に浮かぶ黒い点々と立ち上る黒煙、対空砲火らしき煙を見つけた。

 「あれは・・・?」

 ルーデルはもちろん知る由もなかったが、これこそ、山城たち救出部隊と島を包囲する敵艦隊の戦闘の真っ最中だったのである。

 「もしやあれは・・・例の化け物か?」

 ルーデルは正体を確かめようと操縦桿を引いた。

 正体はすぐに分かった。

 洋上では確認できる限り6人の少女と、形容しがたい、黒い得体のしれない物体が交戦状態にあった。おそらく前に山口から聞いた『艦娘』と『深海棲艦』とよばれるものであろう。

 どうやらこちらの存在に気付いたようでさっきまで鳴り響いていた砲声や爆音は少しおさまったように思える。

 「・・・ガーデルマン」

 「分かってますよ。どうせあの得体のしれない連中と戦うから背後に気をつけろとかそういうのでしょう?」

 「そういうことだ」

 この状況、やることは決まっている。

 ルーデルはまず白い巫女装束のような服装の少女と対峙している深海棲艦を標的にすることにした。

 操縦桿を引き、上昇する。同時に自機の周りで爆音と同時に黒い煙の花が次々と咲く。今になって自分に対空砲火を撃ち始めたらしい。

 だが、ルーデルはそんなことには構わず、機体を上下左右に動かしながらあわてることなく一定高度まで上昇させた。

 操縦桿を押す。同時に、愛機が降下を始める。

 レティクルには自分の標的がしっかりと捉えられていた。

 確実に当てるためにルーデルはギリギリまで接近することにした。

 もちろん、ブレーキは掛けない。速度が増すと同時に機体がガタガタ揺れだした。

 対空砲火も激しくなる。

 猛烈な対空砲火がスツーカに次々と撃ちこまれるが速度が速いのと、たまにルーデルが機体を微妙にそらし、動かすのでなかなか当たらない。そもそも、魔王ルーデルが戦艦一隻や二隻の対空砲火で倒れると考えること自体が大間違いなのだ。

 「1500メートル・・・1200・・・900・・・」

 全身に、Gが掛かる。機体が悲鳴を上げるもう限界だろう。下手をすれば機体がバラバラになるか海面に激突する。それでもルーデルは降下し続ける。レティクルにはいまだ、標的が捉えられ続けている。

 「400・・・今だ!」

 ルーデルは500キロ爆弾の投下レバーを引くと同時に37㎜機関砲を発射した。

 結果を確認する間もなくすぐに操縦桿を引き機体を上昇させる。

 ブレーキをろくにかけずに急降下したことによって猛スピードが出ていたため、すぐにはなかなか上昇を開始せず、ゆっくり、と機体が傾く。

 海面すれすれ、激突寸前のところでスツーカは上昇を開始した。

 「敵が炎上しています!!爆発しています!!」

 後部座席からガーデルマンの声が響いた。

 山城や隼鷹の度重なる攻撃にダーメジがたまっていたようで、しぶとい戦艦はルーデルの投下した500キロ爆弾と37㎜機関砲弾でようやくとどめを刺された。本当なら、爆弾の余波が来るのでもう少し高い高度(1000メートルぐらい)から爆撃するべきなのだが、ルーデルは約300メートルという超至近距離から爆撃した。それで爆発の巻き添えを食らわずしかも海面に激突することも敵の対空砲火にあたることもなく、やはりルーデルは怪物であった。

 「はっはっはっ!ドイツの急降下爆撃機はァァァァアアア世界一ィィィィイイイ!!」

 ルーデルは高笑いすると次の標的を探し始めた。

 

 その頃ゲルマニア鎮守府工廠

 「エホッエホッ!!」

 「どうしました?シュトロハイム大佐」

 「いや・・・誰かが俺の決め台詞の真似をしたような・・・」

 

 ニチヤンネル島

 「おお、あのドイツ人やるじゃねぇか!!」

 地下壕から外の様子をを見ていた菅野はルーデルの戦いぶりに興奮を隠せずにいた。

 彼らは今敵の攻撃を逃れるため地下壕に退避していたが、手をこまねているわけにもいかずどうするか悩んでいた。

 そこへ、救出艦隊とルーデルが登場したのである。

 「・・・こうしちゃいられねぇな」

 「・・・?どうした、菅野?」

 「おい、後は頼んだぜ!俺は愛機のところに行ってくる!!」

 「え?お、おい!!」

 菅野は摩耶の静止を振り切って駆け出した。

 敵はどうやら救出艦隊とルーデルのほうに集中しているようで島への攻撃事態は前よりは緩やかになっている。菅野は敵に攻撃されることも発見されることもなく走ることができた。

 「・・・たしかここだな・・・あった!!」

 立ち止まった菅野の目の前にはぼろぼろの彼の愛機――紫電改があった。

 エンジンをガン!!と叩くと菅野は操縦席に飛び乗った。

 「ちゃんと飛べよ・・・コノヤロウ」

 深海棲艦の災難はまだ始まったばかりである。 

 

 

 

 

 




 後書き
ヒトラー「・・・毎度このssを読んでくれている読者諸君、いつもありがとう。今回は読者からの質問に答えたいと思う。ゲッベルス」
ゲッベルス「はっ。今回の質問はペンネーム『響く棗具』からです。内容は・・・ 『この小説の総統閣下のモデルの動画ってなんですか?』」
ヒトラー「ふむ・・・モデル、か。まぁ、モデルと一言で言っても大勢いるんだが一番参考にしたのは鳳仙という人の作品だな。艦これのプレイ動画の配信を主にやっていてニコニコとユーチューブの両方で活躍している。今回の小説はこの人の作品を特に参考にさせてもらった。鳳仙さん、どうもありがとうございます」
モーンケ「でも総統閣下、最初はこの小説はシリアス路線で行く予定だったんですよね?」
ヒトラー「まぁな。最初は『ヒトラー最後の12日間』『帰ってきたヒトラー』みたいな感じにするつもりでネタのほうはおまけ程度にするつもりだったんだが・・・気づいたら閣下これくしょんになっていた。まったく、本当に困ってるよ、ゲッベルスはロリコンになるわ、部下が毎日いじめてくるし仕事しないしろくなことがない」
フェーゲライン「自重しない変態ちょび髭に言われてもww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおおおお!?」ズダダダダダダダダだピロリーン♪
ヒトラー「まぁ・・・とにかくいろいろ困ってるんだよ、ドイツ艦もこないしさ・・・今回はとりあえずここまで。読者諸君、何か質問やリクエストがあったら作者の活動報告『総統閣下の質問箱』にどんどんコメントしてくれ。それではここらへんで・・・畜生めぇ!!」

 おしまい
   
 

 


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33話 合流~救出艦隊到着~

 山城達救出艦隊に加え、ルーデルと菅野が出撃してから数時間後。

 ニチヤンネル島上空、近海から敵はきれいさっぱり消えていた。

 「なんだったんだろう、あの爆撃機は・・・」

 山城はぽつりとつぶやいた。

 「我々を攻撃するどころか敵の殲滅に力を貸してくれたということは少なくとも敵ではないと考えてもいいかと」

 と不知火が言った。

 「にしたっていまどき生の紫電改とスツーカが飛んでるなんてな・・・」

 「・・・そんなことよりも早く加賀さんたちを迎えにいかないと」

 山城達は加賀達を一刻でも早く収容するために島の湾内へと突入していった。

 

 そのころ、摩耶たちは敵の攻撃が終わるのを確認するともにトーチカから這い出ていった。

 目の前には燃料切れで不時着した例のスツーカと紫電改が不時着していた。スツーカはともかく、紫電改のほうは操縦席の窓ガラスがほとんど我、翼の一部が吹っ飛んで機体に万遍なく弾痕や穴が開いていた。これではどうやってももう二度と飛べまい。

 だが操縦士のほうは五体万足のようで三人の男が笑い合って握手やハグをしていた。

 「おお、ドイツ人おめぇ生きてたか!来るのが遅かったじゃねぇかコノヤロウ」

 「はは、すまないすまないしかし間に合ったようで良かったよ。それにしてもイワンどもが吹っ飛んで慌てふためくさまは実に滑稽だったなぁ!!」

 「俺もだ、ほんとスカッとしたぜバカヤロウ!!」

 「「うわはははははははは!!」」

 笑いあう男たちに摩耶は話しかけるタイミングを失っていた。

 「え、え~と・・・」

 「ん?この少女は誰なんだカンノ?」

 「ああ、重巡洋艦の摩耶だってさ。山口提督が言っていた『艦娘』だよ。ったく、本と信じられないぜコノヤロウバカヤロウ」

 「ほう、彼女も・・・初めまして御嬢さん、私はドイツ空軍大佐、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。隣にいるのが部下のガーデルマンだ」

 「よろしく」

 「お、おう」

 戸惑いながらも礼を返す摩耶。

 ルーデルは摩耶の後ろにムッソリーニなどほかにも人がいるのを見ると言った。

 「・・・御嬢さん、どうやらいろいろと事情は複雑のようだな・・・とりあえず情報交換をしないか?」

 こうしてルーデルたちと摩耶たちは二個二個童画島やニチヤンネル島、遭難のこと、救出部隊のことなどお互いの事情を話した。

 

 「・・・ふむ。敵の攻撃を受けていったんこの島に避難、救出部隊を待っていたというか・・・では私がさっき見たのは救出艦隊の連中か・・・?」

 「たぶんそうだ。敵艦隊もいなくなったし、そのうち湾内に突入してくるだろうな・・・これもあんたのおかげだよ。ありがとな」

 「いや、大したことはしていないさ。イワンどもをぶっ潰せれば私はそれでいい。それよりも摩耶、脱出する際には護衛は彼女たちだけなのか?」

 「まぁ、そうかもしれないな・・・あたしらも満身創痍だしできることはするけど」

 「ふむ・・・では二個二個童画島に残っている仲間も呼ぼう。戦力は多いに越したことはないし、我々も救助を待っていた身だからな」

 「どうやって呼ぶんだ?無線は使えないぞ?」

 そういう摩耶に対してルーデルは大丈夫、という顔をして答えた。

 後ろのスツーカを指さす。

 「スツーカに無線を搭載してある。向こうの島までは届くはずだ」

 「おお、そりゃ良かった、んじゃあ早速・・・」

 摩耶が無線を使おうと言いかけたその時、後ろでムッソリーニの声がした。

 「おい!!救出艦隊が来たようだぞ!!」

 ムッソリーニの指差す先には湾内を航行する六つの人影が見えた。

 摩耶がじっと目を凝らして水ともすぐに分かった。鎮守府の仲間たちだ。

 彼女たちも仲間が無事だったのを確認したようで顔には笑顔と安堵が浮かんでいた。

 「おーい!ここだここだ!早く来てくれ!!」

 「やったぜ!!ジークハイル!!いやっほう!!」

 摩耶達が歓声を上げた。

 

 こうして摩耶達と救出艦隊は予定通りニチヤンネル島で合流することに成功した。

 だが『眠りの森の美女』作戦はまだ終わったわけではない。作戦の第一段階が終わったに過ぎない。これから苦難の脱出作戦が始まることも彼女たちは忘れていなかった。

 




 後書き
ヒトラー「・・・ふう。どうやら作戦はひと段落ついたようだな。あとはこのまま無事に帰ってくれればいいのだが・・・」
ゲッベルス「ですが総統、作者によるとどうやら救出作戦編はまだまだ続く模様です」
ヨードル「早いとこ終わらせないと読者も飽きてくるんじゃないか?それに仲間の心配をするのはもう嫌だぞ俺は・・・」
ヒトラー「作者の事情だ、どうしようもなかろう。我々はただ見守り彼女たちに愛の参観をするしかできることがないのだからな。いずれにせよ早く無事に帰ってくることを祈るのみだ・・・私も早く加賀さんの胸部装甲をおっぱいぷるんぷるんしたいからな」
フェーゲライン「そんな変態に心配されてもうれしくないと思うぜWW」
青葉「青葉、提督のセクハラ発言聞いちゃいました!!」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおおおおお!?」ズダダダダダダダピロリーン♪
モーンケ「それはそうと、総統閣下、また読者から質問とリクエストが来ております」
ヒトラー「ほお、なんだそれは?」
モーンケ「読者からです『武装親衛隊第422ATT』から。内容は以下の通りです」

『質問~♪(^ω^)鳳仙さんみたいな愉快な人物(歴史的)は出しますか?後、愉快なドイツ幹部達を静(沈)めるユンゲさんは出しますか?(^ω^)』 

ヒトラー「ふむ・・・現時点で新たに出そうと思っている人物は次の通りだ」

 ラインハルト・ハイドリヒ
 ハインリヒ・ヒムラー
 エルンスト・レーム
 山本五十六
 東条英機
 昭和天皇

ゲッベルス「どれも大物人物ですね・・・ハイドリヒあたりがヤバそうな気が・・・」
ヨードル「あだ名が金髪の野獣だからな。女癖も悪いから鎮守府に来ても大丈夫か心配だな・・・」
リッベントロップ「いや、総統!一番ヤバいのはレームでしょう!!奴をここに読んではいけません総統!!鎮守府がただのハッテン場になってしまいます!!」
阿部高和「やらない」ズダダダダダダピロリーン♪
クレープス「昭和天皇もどうかと思いますよ、表現次第では不経済に問われて処刑されてしまうかもしれません・・・」
ヒトラー「そこは作者の腕次第だな二つ目の質問だが、もちろん、ユンゲやその他の有名人も出すつもりだ。期待してくれそれでは今日はこの辺で・・・畜生めぇ!!」


 質問、リクエストがある場合は作者の活動報告『総統閣下の質問箱』に投稿してください。お待ちしています。
 


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34話 一航戦復活~さあ出撃だ~

 救出部隊が摩耶たちと合流してから数時間後。

 「それにしてもこんなに大勢連れて帰ることになるなんてね・・・」

 ニチヤンネル島の砂浜で第一艦隊やルーデル、二個二個童画島からやってきた山口達を見て山城はため息をついた。

 「無事に脱出できるかしら・・・」

 山城がそう言うと摩耶は言った。

 「だけどその分戦力が増えたからやりやすくなったんじゃないか?」

 「確かにそうかもしれないけど連れて帰るのは艦娘だけじゃなくて生身の人間もよ?私たちみたいな耐久力はないから下手したら死なせちゃうかも・・・うまくやらないと・・・はぁ、不幸だわ・・・」

 その傍らでは明石が持ってきた修復機材を使っていまだに意識不明の赤城と加賀の修復を行っていた。

 飛龍が心配そうに問いかける。

 「明石さん、二人はどうですか?」

 「うーん、心肺機能は動いてるし死んでるわけじゃないけどなかなか起きないわね・・・装備も機関も最低限の修復は施したから動けるはずなんだけど・・・私にはどうにもならないわ。医学は専門外だから・・・ヨーゼフ・メンゲレ博士かドクさんがいればいいだけど」

 「じゃあ、このまま曳航しながら脱出ということになるんですか?」

 「少なくとも今のままでは」

 曳航しながらの脱出ということはその分移動速度は遅くなる。敵に襲われた時の危険性が増すということだ。

 傍らで二人のやり取りを聞いていた山口は腕を組んだ。

 さて、どうやってこの島から脱出するか。

 そう考えているとその時どこからか甘い香りが漂ってきた。肉を焼いたようなにおいもしてくる。

 山口が見ると山口達から離れたところでエヴァと駆逐艦娘達が火を起こして何か食事を作っているようだった。

 デーニッツが聞いた。

 「何を作っているんです?」

 エヴァは笑いながら言った。

 「見ればわかるでしょ?ケーキとチキンステーキ作ってるのよ。島の地下室を探したら小麦粉と砂糖にいろいろあって。敵の攻撃が止んで救出部隊が来たことだしせっかくだから何か作ろうと思ったのよ」

 エヴァはそう言いながら溶かしたチョコレートや飴の入った鍋を生地の上にゆっくりとかけた。隣では不知火と潮がおそらく党内で捕獲した野鳥らしき肉を串刺しにして焼いており甘い香りと香ばしい匂いにデーニッツは自分が空腹であることを思い出した。気づけば匂いにつられて山口やルーデル、山城たちも集まっていた。

 「しばらく何も食べてないしそろそろ食事にしたほうがいいと思うわ。でしょ?」

 エヴァがそういうと駆逐艦娘も笑いながら言った。

 「賛成賛成!ちょうど腹が減ってたしな」

 「うむ。腹が減っては戦はできぬというしな」

 「一旦食事にしてそれから行動しましょう」

 皆が食事の前に群がり、砂浜中に料理の匂いが広がる。

 そしてその匂いは当然摩耶達の背後で横になっている加賀と赤城のもとにも届く。

 香りが赤城の鼻腔に入った瞬間、彼女の指がピクリと動いた。

 向こうでは摩耶達が料理の分け方で少し揉めていた。

 「参ったな、肉と乾パンはぎりぎり人数分あるがケーキはどうやっても分けられん」

 「悪いがケーキは私のものだ。年寄り優先だよ」

 「いやふざけんな!」

 「何言ってんだあたしの」

 「知らないのか?デブは、ケーキを一食抜くと餓死するんだ、私が言うんだから間違いないぞ」

 「待・・・て・・・・」

 一瞬、正規空母娘の声が聞こえたような気がしたが言い争いの声に交じって誰にも聞こえなかった。

 「そのケーキはあたしのもん!!」

 「仲良く等分すればいいだけの話では?」

 「もう一品作ることができたらな・・・」

 「よろしい、ならば戦争(クリーク)だ」

 「私・・・にも・・・頂戴・・・」

 また正規空母娘の声が確かに聞こえたが、しかしまたも誰の耳にも届かず。

 ケーキの分け方で議論が熱くなる中、ついに大声が響いた。

 「いつになったら気づくんですか!!私にも分けてください!!」

 突然の大声に摩耶やルーデルは声のしたほうを振り向いた。

 そこには上半身を上げて物欲しそうにこちらを見つめる赤城の姿があった。どう見たって元気なのは明らかである。

 そしてわずかに遅れて隣で倒れていた加賀も「ううん・・・」と起き上った。しばらく目をぱちくりさせて加賀は摩耶達を見て軽く睨みながら言った。

 「少しうるさいわ・・・まだ騒ぐ時間ではなくて?」

 「「「・・・」」」

 彼女もどう見たって元気です。ありがとうございました。

 二人の覚醒に摩耶達はしばらく沈黙していたが、次の瞬間、歓声を上げて一気に二人のもとへ駆け寄った。

 

 数十分後

 「別に匂いがしたから起きたわけではありません」

 「わっ、私も違いますよ、別にケーキが欲しかったからとかそういうのじゃ・・・」

 「はいはい」

 腹ごしらえを終えた彼女たちは燃料・弾薬の補給など脱出の準備を行っていた。

 明石が加賀と赤城の機関を整備しながら言った。

 「一応、応急処置は施したけどあまり無理はしないで。結構壊れやすくなってるから・・・」

 「慢心、ダメ、ゼッタイ。というわけですね」

 「それとはちょっと違うかな・・・」

 「この紫電改はもう動かんな、引っ張っていくかここに置いて爆破するしかないな」

 「おいちょっとまて、こいつはおれの愛機だぞ、爆破するとかふざけてんのかテメェコノヤロウバカヤロウ」

 いつ敵の追撃が来るかわからない。今この瞬間にも迫ってきているかもしれない。

 全員が余念なくしかし急いで脱出の準備を行っていた。

 エヴァが弾薬と燃料を運びながら摩耶に言った。

 「それにしてもあなたの上官が私の夫だなんて聞いた時は驚いたわ・・・」

 「アタシだってあのちょび髭が結婚してたなんて信じられねぇよ・・・」

 「まぁ、彼ったら昔からそれなりにモテてたし変態だったしね・・・」

 「『おっぱいぷるーんぷるん!!』とかセクハラまがいのこと結構してるもんな・・・エヴァさんよく結婚しようと思ったな」

 「まぁ、色々あったのよ、色々・・・」

 少しエヴァの顔が深刻になったような気がした。

 「それにしても生きてまた彼に会えるなんて嬉しいわ・・・神様に感謝しないとね。摩耶ちゃん、頼んだわ」

 「おうっ!任せとけって!!」

 摩耶がそう言ってトンと胸を叩いた。

 「お前ら、準備は済ませたか?」

 煙草を咥えながら山口がやってきた。

 後ろで山城たちが次々と海面に飛び込んでいるのを見ると、もう皆準備はできたらしい。

 「ああ、もうバッチリだ。後はロープでエヴァさんを括り付けて抜錨するだけだぜ」

 摩耶はビシッと親指を立てた。

 「よし。それなら早く抜錨しろ。どうやら敵さんは待ってくれないらしくてな」

 「?まさか・・・」

 「さっき偵察機から連絡が入った。敵部隊がこっちに来ている。とどめを刺しにきたようだな」

 摩耶と山口はじっと遠い空を見つめた。

 

 空を見ていたのは抜錨し機関を動かし始めていた加賀と赤城も同じだった。

 「・・・さっそく戦闘ですか」

 「装備も十分ではありませんし苦しいですね」

 明石に修復を受けてもらったとはいえあくまで応急処置であり本来の力は出し切れない。これから苦しい戦いになることは目に見えていたが、しかしこの程度でへこたれるような一航戦ではもちろんない。

 加賀は弓を構えながら赤城を見た。

 「赤城さん、慢心してはいけません」

 「分かってますよ。慢心しようにもできません。私たちには帰るべき場所があるんですから」

 加賀は静かに笑った。

 「・・・そうね。あの人が待っているわ」

 加賀は鎮守府にいるヒトラーや仲間達の顔を思い浮かべた。あの騒がしくもかけがえのない暖かい場所を。守るべきもの、帰るべき場所がある限り、ここで沈むわけにはいかない。

 加賀はしばらく瞑目しそして瞼を静かにあけて言った。

 「一航戦、出撃します」

 最後の戦いが始まった。 




 一航戦遭難編、次回にて終了。

ヘス&時雨&夕立「ところで俺(僕)達の出番は何時なんだ(ぽい)?」
メイトリクス「島がドンパチ賑やかになったらだ(訳:遭難編が終わった直後にやるよ)」

 リクエスト・質問等を作者の活動報告『総統閣下の質問箱』で受け付けています。どしどし投稿してください。
 いつも読んでくれてありがとうございます。


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35話 ゲルマニア~何度でも蘇るさ~

 ゲルマニア鎮守府、休憩室。

 いったいいつになったら飽きるのだろう。

 軍需大臣アルベルト・シュペーアは部屋でじっとたたずみあるもの見続けているヒトラーをみて思った。

 もとは来賓を招くための部屋でありかなり広めの部屋だったのだが、ヒトラーが提督として着任してから彼専用の休憩室として使用さていた。(といっても出入りは自由で実際には平時には普通に幹部や艦娘がくつろいでいるが)

 その部屋の真ん中、ヒトラーの目線の先にはには白く巨大な街の模型があった。

 真ん中に巨大な道路が直線に走り、左右には官庁街が無数に立ち並ぶ。巨大凱旋門を抜けた先にはさらに巨大なドーム型の神殿のような建物があった。

 世界首都ゲルマニア。

 かつてヒトラーがベルリンを「世界の首都」にと夢想しドイツの敗戦とともに消えた幻想の都。

 その模型をヒトラーはじっと見つめていた。

 もうかれこれ数十分は立っている。いくら模型好きの人間でも同じものを見続ける奴はそういない。

 それだけ彼がこの計画に情熱を持っていたということだ。

 「・・・あの、総統」

 ヒトラーの隣に立っていた大淀が言った。

 「今日は救出艦隊が帰還する予定日ですが・・・」

 「分かっている」

 ヒトラーは大淀の声を遮って言った。

 「それで大淀君、君は私に何をしろいうのかね?」

 「いえ、その・・・」

 「私はこれまでの人生で幾度となく運命と格闘を強いられた。あのウィーンでの画家としての日々。第一次大戦、ミュンヘン一揆、アカとユダヤ人との戦い、独ソ戦、ベルリンでの最後の日々・・・」

 ヒトラーはゲルマニアの模型の周りを歩きながら語り始めた。

 「幾度となく運命に阻まれたがそのいずれも私の進撃を止めるには至らなかった。それが私の使命だったからだ。途中しくじって一度は敗北を悟ったがしかし神に助けられ今はここにいる。新たな仲間とともにだ」

 ヒトラーはそっとドーム状のフォルクスハレの屋根に触れた。

 「この街で、この世界で新たな時代を築き上げる・・・それが私の夢であり使命だった・・・私は負けるわけにはいかんのだ。ただの人間として、司令官として終わるつもりはない」

 ヒトラーは振り返り、大淀らを見た。その眼には強い意志が宿っていた。ミュンヘンで、ベルリンで、鎮守府で、初めて会った時から変わらぬ眼であった。

 「大淀君、君は何か心配をしているようだが、それは違う。使命を果たす総統である私の命令を実行に移せぬ者がいるか?否。よほどの裏切者でもない限りそれはいない。彼女なら・・・加賀なら必ずやるはずだ」

 そう言ってヒトラーはシュペーアを見た。

 「・・・シュペーア。君もどう思う?私は・・・我々はまだやり直せれるかね?」

 ヒトラーにじっと見つめられながらシュペーアは答えた。

 「・・・幕が下りるまで・・・主役は常に舞台の上に」

 「その舞台はまだ続いているかね?」

 「少なくとも生きている限りは」

 ヒトラーは頷いた。

 「そうだ・・・その通りだシュペーア。たとえ何度打ちのめされようと、たとえそれが決して変えられぬ宿命だったとして私は何度でも立ち向かってやるさ・・・立ち向かわねばならん・・・それが総統たるわたしの宿命だ・・・」

 まったく変わらないな総統は。

 ヒトラーの様子にシュペーアは思った。

 ビアホールでの演説からベルリンでの最後の日々に至るまでヒトラーは信念を曲げぬある種、狂気と魅力に溢れたフューラー(総統)であり建築家として色々と面倒を見てもらったひとりの人間、友人だった。

 おそらく周りがいくら変わろうと彼は一人わが道を進み続けるのだろう・・・永遠に。

 「そう、そうだ。このゲルマニアを建設した暁にはついでにオタク首都アキバニアも建設して!二次元の美少女とメイドさんと胸部装甲の大きい艦娘に囲まれた生活を送るんだ!!地上の楽園を作るのだ!!いつか必ず加賀さんと武蔵と山城を!おっぱいぷるーんぷるんするんだ!!」

 フェーゲラインが笑いながら言った。

 「そんなことだから第三帝国滅びるんだよ、変態ちょび髭WW」

 「KO☆RO☆SU」

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 次の瞬間、部屋にミレニアム大隊の武装ss隊員が侵入しMP40をフェーゲラインと青葉に連射、ピロリーン♪という音とともに二人はばたりと倒れた。

 シュペーアはその様子をじっと見続けていた。

 本当に変わらないな・・・

 シュペーアは胃薬の必要なかった昔の生活を懐かしんだ。大淀も同じことを考えていたことは言うまでもない。

 

 「失礼します総統閣下」

 ふと、部屋に一人の男が入ってきた。白いコートに身を包んだ金髪のメガネの肥満体の男。名前は確かモンティナ・マックスとかいう親衛隊の少佐だったか。隣には褐色の軍用コートを着込んだ終始無言の男とレンズの数が多い奇妙な形のメガネを身に着けた血まみれの白衣の男がいる。

 「なんだ」

 「通信部より報告。例の救出艦隊からです。我レ作戦ニ成功セリ、到着スルとのことです」

 ヒトラー達は目を見開いた。

 「何!?」

 「それは本当か!?」

 「成功したんだ・・・成功したんだ!!」

 「万歳!ジークハイル!!」

 ヒトラーは大声で言った。

 「大淀、すぐに全軍に伝達だ、作戦は成功したと。港で迎え入れる準備だ!!」

 「はい!!」

 「あ、あと総統」

 ニヤニヤ笑いながら少佐が続けて報告した。

 「吸血鬼・・・例の研究のことですが試作品第一号が完成したためご覧いただきたく存じます」

 「分かった」

 「あ、あとリップヴァーン中尉と隼鷹の入浴の様子を盗撮したんで一緒に見ましょう」

 「分かった。すぐに行く。ていうか先にそれ済まそう」

 「アホか!!」

 次の瞬間ヒトラーはユンゲと大淀から一斉にパンチを食らった。

 ヒトラーの体が吹っ飛んでゲルマニアの模型に着地、模型は粉々に崩れた。

 その腹の上にドカッと秘書のユンゲは靴を乗せ、冷たい目で睨んだ。

 「少しは自重しろちょび髭」

 「「「「「ハイッ!!!」」」」」

 「あ、総統、窓の外を見ください・・・救出艦隊です!!山城たちです!!加賀も赤城もみんないます!!あと知らないやつも!!」

 ヒトラーは雪風から双眼鏡を借りると窓から海を眺め見た。

 そこには見慣れた部下たちの顔が――仲間たちの顔がいた。一人も欠けていない。それどころか知らない顔もいる。

 「おい、あれデーニッツじゃないか?」

 「ムッソリーニに似たやつはいるぞ!!」

 「スツーカがいるんだがあれはもしや・・・」

 「エヴァ!?エヴァなのか!?こうしてはおれんぞ、すぐに港に向かうぞ!!」

 ヒトラーは部下を伴って港に向かって駆け出し始めた。

 勝利の時は確実に迫っていた。

 



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36話 帰還~ホルスト・ヴェッセルの歌~

 ゲルマニア鎮守府。

 その港では作戦に成功し無事生還した艦娘達とヒトラー達の再会の喜びで満ち溢れていた。

 「よくやった!!よくやった!!」

 ヒトラーはこれでもかというほどの笑顔で加賀や山城の手を固く握り、一人一人にハグをしていった。

 「あの、総統そう強く抱きしめられると痛いのだけど・・・」

 「ああ、すまない、だがよく帰ってきてくれた!!体のほうは大丈夫かね?」

 「大丈夫です、入渠すればすぐに治ります」

 ヒトラーは頷いた。

 「そうか、それにしてもすまなかったな。こんな目に合わせてしまって・・・山城達にも色々迷惑をかけてしまった。後でしっかりと休ませてやらんとな。鉄十字章ものだ、これは」

 それを聞いて加賀は少し微笑んだ。

 「大丈夫です。赤城さんともこうして無事に帰ってこれてまた鎮守府に・・・総統たちに会えたんですから。それよりも総統、報告があります」

 「なんだ?」

 「本来なら私達第一艦隊と救出艦隊が帰還する予定でしたが・・・島で同じく遭難していた人間と艦娘がいたので一緒に連れてきました」

 ヒトラーは鎮守府の窓から見えたスツーカや妻であるエヴァの顔を思い出した。

 「ああ、そうだったな・・・確かその中に私の妻がいたようだが・・・」

 「・・・え?」

 ヒトラーのある意味爆弾発言とも取れる言葉に加賀がピクリとしたとき、ゲッベルスやクレープス達に囲まれて同じく労をねぎらわれていた艦娘達の群衆から一人の女性の声がした。

 「あなた!あなたじゃないの!!」

 人ごみの中ををかき分けて現れたのは30代ほどと思しきブロンドが特徴の女性だった。

 どうやらヒトラーにとって非常に親しい人物であったのだろう、ヒトラーは喜びの声を上げ彼女に駆け寄り彼女を抱きしめた。

 「エヴァ!やっぱりエヴァだったか!!いままでどこにいたんだ?」

 エヴァは笑いながら言った。

 「私のほうこそそれを聞きたいわ。さっきまで地下壕にいたはずなのに気づいたら変な島で寝転んでいて・・・一緒にいた摩耶ちゃんや加賀さんがここまで連れてきてくれたのよ」

 ヒトラーはモーンケと再会を喜び合っていた摩耶を見た。

 「君が連れてきてくれたのかね?」

 「おうよ。なんか最初は怪しい奴だと思ったけどさ、加賀さんを看病してくれたりとかしてさ、色々助けてくれたんだぜ」

 「・・・そうか。私と同じようにここに来たのか・・・もう会えないと思ったよ。エヴァ、今までさみしかったろう。だがもう大丈夫だ、心配することはない一人にはさせん。こうしてまた会えたのはきっと神がこの世界へ連れてきてくれたのだ。また、この世界で新しい人生を始めようじゃないか」

 「そうね。こうしてまた会えたのも・・・運命だわ」

 ヒトラーはそっと、エヴァの唇に口づけした。

 その様子を見た電が少し顔を赤くしながら隣のゲッベルスに聞いた。

 「総統閣下とエヴァ様・・・いや、今はヒトラー夫人というべきか・・・結婚されているのだ。だいぶ昔にね。もう会えぬものと思っていたが、まさかこうして再開するとは・・・」

 その言葉に艦娘達は驚きの声を上げた。

 「えええええ!?あのクソ総統、結婚してたの!?信じらんない!」

 「え、マジで!?」

 「・・・頭にきました」

 「Oh・・・そんなの聞いてないデース・・・」

 「いや、まだお妾さんとか愛人ならチャンスがあるはず」

 「おい、お前なにとんでもないこと言ってんだよ」

 その様子を見ながらフェーゲラインは笑いながら言った。

 「ほんと、あの変態ちょび髭が結婚できるなんて信じられないよな。世も末だなww」

 曙や青葉も反応する。

 「ほんと、あの変態が結婚するなんて冗談でもいやだわ!!」

 「え?じゃあ総統は妻のいる身でありながら不倫やセクハラを」

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそう言った次の瞬間、ミレニアム大隊所属の武装ss隊員がMP40をフェーゲラインと曙、青葉に照準し一気に連射した。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおおお!?」

 「ちょ、何すんのよこのクソ総統、デイリーはあの二人の任務で、ってぎゃあああああ!?」

 短機関銃弾の連射をまともに食らった三人はそのまま後方に吹っ飛んでピロリーン♪という音とともに地面に崩れ落ちた。

 その様子を見て呆れながらヨードルが言った。

 「総統・・・デイリー任務に曙を・・・子供を巻き込むつもりですか?」

 「態度の悪い奴にお仕置きするのは当然であろう。それよりも」

 ヒトラーはエヴァの手を握りながら周囲の艦娘や幹部達に言った。

 「加賀達が、妻が無事に帰ってきてくれたのだ。皆で祝おうではないか」

 モーンケが頷いた。

 「確かにそうですね、総統。パーティーでも開いて祝いましょう」

 「そうか、じゃあ久しぶりに鳳翔さんと間宮さんの手料理がたらふく食えるな」

 「お前は食うことしか考えてないのか」

 「そうだ!!祝いのイベントとして駆逐艦娘討論会を開こうではないか!!これを機に駆逐艦の魅力を伝え駆逐艦娘の崇拝を訴えるのだ!!」

 「ゲッベルス、お前は自重というものを知らんのか」

 「じゃあティーパーティーの用意もするデース!!」

 「じゃあ比叡はカレーを・・・」

 「「「やめろ!!!」」」

 艦娘達や幹部らの喧騒が始まりかけたその時、歌声がどこからか響き始めた。

 どうやら武装ss隊員の一人が上機嫌になって盛り上げようと歌い始めたらしい。

 

 

 Die Fahne hoch! Die Reihen fest geschlossen!

(旗を高く掲げよ!隊列は固く結ばれた!)

 SA marschiert Mit ruhig festem Schritt

(SAは不動の心で、確かな歩調で行進する)

 Kam'raden, die Rotfront und Reaktion erschossen,

(赤色戦線と反動とが撃ち殺した戦友たち、)

Marschier'n im Geist In unser'n Reihen mit

(その心は我々の隊列と共に行進する)

 Kam'raden, die Rotfront und Reaktion erschossen,

(赤色戦線と反動とが撃ち殺した戦友たち、)

Marschier'n im Geist In unser'n Reihen mit

(その心は我々の隊列と共に行進する)

 

 ホルストヴェッセルリート。

 国家社会主義ドイツ労働者党の党歌。

 ある一人の突撃隊員の死をきっかけにして広まったヒトラーたちにとっては懐かしい歌であった。

 また一人、また一人と歌い始めたちまち港は歌で響き渡った。

 

 

  

 Die Fahne hoch! Die Reihen fest geschlossen!

(旗を高く掲げよ!隊列は固く結ばれた!)

 SA marschiert Mit ruhig festem Schritt

(SAは不動の心で、確かな歩調で行進する)

 Kam'raden, die Rotfront und Reaktion erschossen,

(赤色戦線と反動とが撃ち殺した戦友たち、)

Marschier'n im Geist In unser'n Reihen mit

(その心は我々の隊列と共に行進する)

 Kam'raden, die Rotfront und Reaktion erschossen,

(赤色戦線と反動とが撃ち殺した戦友たち、)

Marschier'n im Geist In unser'n Reihen mit

(その心は我々の隊列と共に行進する)

 

 彼らの歌を邪魔するものは、できるものは誰一人としていなかった。

 ヒトラー達は今ここに新たな勝利の一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 



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37話 眉毛のおっさん~ヘスと夕立と時雨のぶらり三人旅~

  前回のあらすじ

曙(デイリー処刑を食らって)「なっ!何をするだァーッ!許さんッ!このクソ総統!」
ヒトラー「曙ーーッ!君がッ泣くまでデイリーするのをやめないッ!」
シュトロハイム「ナチスのホルストヴェッセルリートは世界一ィィィイイイ!!」


 日本の、どこかにある田舎町。

 国家社会主義ドイツ労働者党の副総統ルドルフ・ヘスと鎮守府から逃亡してきた時雨と夕立(とヘスらに拾われた捨て犬)はその町をぶらぶらと歩きまわっていた。

 「ねーねーおじさん、これからどうするっぽい?」

 夕立がヘスに尋ねた。

 時雨と夕立、そしてヘスは現在の状況を一言でいえばホームレスであった。

 あの地獄のような鎮守府から逃亡してとりあえず見た目は優しそうなヘスについて行ったが、誰も、これからどうしようか考えていなかった。

 一応逃亡する際ある程度の現金や荷物は持ってきたが、それだけでは長く持つわけがないし、もしかすると追手が来る可能性だってある。大本営・・・防衛省に行くにしても快く受け入れてもらえるかどうか・・・

 ヘスは頭をポリポリ書きながら言った。

 「そうだな・・・とりあえず飯でも食べて力をつけよう。これからどうするかはそこで考えよう」

 ヘス達は近くにあったマ○ドナ○ドの店内に入っていった。

 

 

 「そういえばおじさんは外国から来たみたいだけど、どうしてここにいたの?」

 店内でチーズバーガーを食べながら時雨はジャンボバーガーとLサイズのポテトをガツガツムシャムシャと食べるヘスに聞いた。ヘスの隣では夕立もバーガーをガツガツとすごい勢いで食べていた。

 「うーむ・・・いや、実というと私もよく覚えていなくてね・・・ソ連の連中にに収容されていたことは覚えているんだが気づいたらここにいて・・・」

 「ソ連?収容?」

 「ああ、そうか・・・今はロシアだったな・・・何、収容といっても悪いことをしたわけじゃない。ただ不当な容疑をかけられてね・・・もう出れないと思っていたんだが・・・君こそなんであんなところにいたんだい?逃げているみたいだったが」

 ヘスに問われ時雨はうつむいた。

 あのブラック鎮守府での出来事は思い出したくもない。

 吹き荒れる提督の暴力、ろくに与えられない食事や資源、満足に修復も装備もさせてもらえず、何度貞操の危機を感じたことか。

 「いろいろあったんだ。いろいろ」

 時雨の暗い顔を見てヘスは頷いた。

 「・・・そうか。言いたくないならいいさ。でもいつかは相談してくれ。こうして腹が減って野垂れ死にしそうになったところを助けてくれたんだからな。何か少しでも礼はしたい」

 「・・・そうかい?おじさんを助けられたのならそれは嬉しいことだね」

 「私もね・・・昔はいろいろあったのさ」

 ヘスは昔を懐かしむような顔をした。

 「ミュンヘンやベルリンでの輝かしい日々・・・総統との栄光あるドイツでの日々・・・ニュルンベルク・・・良い時も悪い時も・・・悪い時のほうが多かったかもしれないがね・・・でも後悔はしていない。またやり直せるのなら、たとえ変えられなくても喜んで行くさ」

 「・・・僕もね」

 ヘスの顔を見て時雨はポツリとつぶやいた。

 「僕も・・・昔はいろいろあったんだ。レイテとか、スリガオとか・・・山城と扶桑のこととか。いつも僕だけが生き残った」

 ヘスも夕立もじっと何もしゃべらず時雨の話を聞いていた。

 「今はこうして、この姿になってまた戦えるようになったけど・・・あそこでも同じだったよ。どこへいっても僕の周りには・・・苦しいことしかない」

 時雨はヘスと夕立をじっと見つめた。

 その眼はとても悲しそうだった。自分はどうすればいいというのか?分からないという、悲しみの目だった。

 「僕はまだ、ここにいても、大丈夫なのか・・・」

 「時雨ちゃん・・・」

 「どうしてここにいちゃいけないんだい?またやり直せばいいじゃないか」

 ヘスの言葉に時雨は顔を上げた。

 ヘスの目には力強い意志が宿っていた。

 「私には難しいことはよくわからないが・・・君の話を聞く限り君の周りは苦難の連続だったようだね。しかしだからと言ってあきらめていい理由はない。戦わねばならないのだ。生きている限り。かつて私がつかえていた総統がそうだった。ミュンヘン一揆で逮捕された時も・・・ベルリンでのアカやユダヤ人との戦い、長いナイフの夜・・・総統の進む道をあらゆる運命が阻もうとした。だが総統閣下は鋼の意思で、運命と格闘し勝利し続けた。最後にはどこかでしくじったのか敗北してしまったが・・・だが我々は最後の最後まで運命と戦い続けた。たとえそれが変えることができない運命だったとしても。人間とはそういうものじゃないか?立ち向かわなければ状況は良くはならない。人生とは戦いの連続だ」

 時雨は言った。

 「・・・でも。僕はまだいけるかな。力も、なにもない。たまに分からなくなるんだ。どうしてここにいるのか」

 時雨にとって、まだ駆逐艦だった時も、艦娘に生まれ変わった時も決して幸福とは言えない人生であった。

 自分だけが生き残り苦しいことしか残らない。守るべきものが、守ろうとしたものがなくなっている。

 どうしてここにいるのか?何のためにいるのか?時雨にとってそれは永久に分からない問題だった。

 ヘスは微笑んで時雨の手を取った。

 「どうしてここにいるか、じゃない。ここにいるから、だ。総統の出現も、私たちの戦いも・・・すべては必然だった。一度はもうだめかと思ったが、私は今こうしてここにいる。君たちもこうしてここにいる。生きる理由はいくらでもあるはずだ。望みを、意思を失ってはいけない。それはもう人間じゃない。ただの奴隷だ」

 ヘスの言葉を時雨はじっと聞いていた。

 時雨は彼の目を見つめた。

 優しい目だ。この人も自分と同じように悩み、戦ってきたのだろうか。

 確かにこの人の言う通りなのかもしれない。生きる理由はいくらでもある。ここにいてもいいのかもしれない。・・・希望はあるのかもしれない。守るべきものも。

 「・・・そうだね。雨は、いつか止むさ」

 時雨は笑った。

 この人にならついて行ってもいいかもしれない。

 二人の様子を見て夕立も微笑んでいた。

 「あ、時雨ちゃん、おじさん、見て!雨が止んだっぽい!」

 ヘスと時雨は店内の窓から外を見た。店内にいる間、外では雨が降っていたのだが、いつの間にやんだのだろうか。

 道路には水たまりがいくつもできており、空では雲がだんだんと晴れていき太陽がその姿を現していた。

 水たまりが日光を反射して光っていた。

 止まない雨はない。

 

 その頃ゲルマニア鎮守府では。

 「畜生めぇ!!なんでMe262が・・・メッサーシュミットが、スツーカが開発できないんだよ!!出てくるの、キャベツ栽培装置だのパンジャンドラムだの、紫外線照射装置だのへんなのばっかりじゃねぇか!!」

 「普段の行いが悪いからじゃね?変態総統ww」

 「そうよ!少しはオッパイプルンプルンとかやめなさいよ、この変態クソ総統!!」

 「KO☆RO☆SU」

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおお!?」

 「ちょ、なにすんのよこのクソ総統、デイリーは二人の任務だって、ってぎゃあああああ!?」

 フェーゲラインと青葉、曙がヒトラーによるいつものデイリー処刑を食らっている真っ最中だった。

 今日も鎮守府は平和である。



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38話 変わらぬナチス~我らこそ最後の大隊~

 7月半ば、いよいよもって暑くなり夏休みに突入した学校も出始めたころ。

 ゲルマニア鎮守府ではそんなことは構わず、日夜国土防衛のために艦娘達や親衛隊員が奮闘していた。

 「ふぅ~艦隊が返ってきたぜ~あー暑かった」

 重巡洋艦摩耶は少しボロボロになり汗でぬれた艤装や服、肌をタオルで拭きながら工廠の中を歩いていた。

 「よく帰ってきたな。ほかの子達はどうした?」

 汗だくの摩耶を高速修復材の入ったバケツを持ったモーンケが出迎えた。

 「お、サンキュー・・・駆逐艦と軽巡はもう入渠しに行ったぜ。アタシは早く総統かあのロリコン大臣のところに報告に行かないと・・・」

 ロリコン大臣とは無論、ゲッベルスのことである。しばしば駆逐艦娘を盗撮したりそれ関係の同人やコレクションを集めて駆逐艦娘の魅力を毎日のように啓蒙する彼はここ最近では階級を問わず、だれもがゲッベルスのことを陰でロリコン大臣、ロリコン宣伝相と呼ぶようになった。無論、責任は彼にある。青葉の情報によるとゲッベルスは秋葉原でオタクを集め、『国家社会主義ドイツロリコン党』なる組織を結成したなどという噂も流れているらしい。

 モーンケは頷きながら言った。

 「まったく、宣伝相にはもっと自覚を持ってもらいたいものだ。自分が大臣だという自覚を・・・」

 「おっさんは唯一真面目だからほんと助かるよ」

 「それは褒めているのか?」

 「もちろん!」

 二人がそんなことを話しがら工廠を出ようとした時、武装ss隊員と白衣姿の研究員らしき男がやってきて工廠の一番隅にある扉の向こうに入っていくのを見た。

 「・・・ん?」

 「どうした摩耶?」

 「いや・・・あんなところに扉あったかな、って・・・」

 隊員と研究員が入っていった扉は鎮守府が完成した時には存在しておらずここ最近になって造られたものであった。扉は他のと違って分厚い鉄鋼で出来ており常時、重武装した親衛隊員がここを見張っていた。

 「・・・ああ。地下室の入り口だよ。もともとこのゲルマニア鎮守府が完成した時には地上施設のほかに地下2階建ての地下室もあったんだが、かなり前総統閣下の命令で拡張工事がされたのだ。仮に敵の攻撃を食らっても鎮守府としての機能を保ち地下壕として機能するようにね。あの扉はその時できたものだろう」

 「ああ、そういやこの前大規模な工事やってたな・・・あんときゃ五月蠅かった」 

 「だがそのおかげでより堅固な施設になったじゃないか」

 「拡張した施設か・・・どんなのがあるか知りたいな。入れんのか?」

 摩耶がそう言うと、突然、モーンケは表情を硬くした。

 「摩耶、地下施設には関係者以外総統の許可なくして入ってはならないという命令を忘れたのか?」

 「え?いや・・・」

 突然雰囲気の変わったモーンケに戸惑う摩耶。

 モーンケは頷いた。

 「・・・そうか。ならいい」

 多くを語ることなくモーンケと摩耶は工廠を後にした。

 

 

 その地下施設の内部。

 そこは一言でいえば血まみれであった。

 無数の深海棲艦だったものがバラバラに切り刻まれて手術台やホルマリン容器の中に置かれていた。

 その手術台の一つの横に立ちクラシックを口ずさみながら顕微鏡を覗く男がいた。

 「・・・この程度のモルモットではだめだ。もっと数が必要だな・・・」

 男の名はヨーゼフ・メンゲレ。親衛隊大尉として悪名高きアウシュビッツ収容所で残虐な人体実験を繰り広げかの有名な人工の結合双生児を作ろうとした『死の天使』。

 ゲルマニア鎮守府では医師としてヒトラーや艦娘達の体調管理を行い幼い駆逐艦娘達からは『おじさん』と親しまれていた。が、これはあくまで一つの顔に過ぎない。彼のもう一つの顔は深海棲艦の研究に勤しむナチスお抱えのマッドサイエンティストであった。

 砂浜や海面で漂流していた深海棲艦や戦闘の末気絶した深海棲艦、ミレニアム大隊が秘密裏に捕獲した深海棲艦の個体を使いメンゲレをはじめとするナチスお抱えの科学者たちは生体解剖や薬物実験、吸血鬼化などのとても子供には、それどころか大人にさえ見せられない非人道的な残虐な人体実験を行っていた。

 そのメンゲレのもとに、これまた明らかにまともではない血まみれの白衣に無数のレンズがついた眼鏡に長髪の男と白い服をまとった眼鏡の太った男、無表情な軍用コート姿の男がやってきた。

 メンゲレは三人に気づき太った男にドイツ式敬礼をした。

 「Heil Hitler!少佐殿」

 少佐と呼ばれた男もニヤリと笑って敬礼を返す。

 「Heil Hitler.メンゲレ博士、研究のほうは進んでいるかね?」

 「・・・そうですな、今細胞の解析を行っているのですがまだ50%ほどしか完了していません。何しろ種類が多いうえに数が足りないものでして。もうしばらく時間と個体が必要かと」

 「ふむ・・・もう少し早くならんかね?総統は、ベルリンの伍長殿は朗報を首を長くしてお待ちになっているぞ」

 「申し訳ありません・・・ですが今現在の調子でいけばどんなに遅くとも今年中には進むかと。ドク、お前は、吸血鬼の研究のほうはどうなっているんだ?」

 ドク、と呼ばれた血まみれの白衣姿の男は肩をすくめながら言った。

 「こっちもお世辞には順調とは言えんな。運よく手に入れた空母ヲ級の体を使って実験体第一号を完成させたはいいが数時間したら体組織が暴走、崩壊を起こして使い物にならなくなってしまった。出来損ないの吸血鬼、戦闘にすら向かないグールだ。少佐殿と総統閣下に示しがつかん」

 少佐は一か月前の、総統執務室でのやり取りを思い出した。

 

 

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 革張りの高級な椅子に座るドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーと、総統秘書ボルマン、宣伝相ゲッベルスらと少佐は対峙していた。

 「モンティナ・マックス少佐、ようこそ我がゲルマニア鎮守府へ」

 「光栄です、まさかこうした形で再開できるとは・・・」

 いつもの気味の悪いニヤニヤとした笑みを浮かべながら少佐は言った。

 その顔に突き刺さるブルクドルフやクレープス達ドイツ国防軍関係者の目線は冷たい。もとより彼は親衛隊内や国防軍内では彼をあまりよく思わないものが多かった。彼のやっていることを知れば当然のことだろう。彼は化け物を率い、化け物と戦うという禁忌を犯した人物であり戦争に取りつかれた狂気の男なのだから。

 だがそんなことは少佐もヒトラーも気にしなかった。

 ヒトラーは少佐に言った。

 「マックス少佐、先の『第二次ゼーレーヴェ(あしか)作戦』におけるロンドン壊滅という君たちの活躍は目覚ましいものであった。まずその労苦をねぎらい、戦果と数十年にも亘る忠誠心を称賛したい」

 「なに、マインフューラーの命令でありますし何よりあの戦争自体を我らが望んでいたのです。当然のことであります」

 そう、この男はドイツが敗北したのちも1000人の一個大隊と共に南米のジャブローに逃れ、吸血鬼の軍団を作り上げロンドンを襲撃、無差別爆撃、虐殺、ヴァティカンやイギリス国教騎士団との三つ巴の死闘の末ロンドンを死の都に変貌させたのだった。

 「これで、愚かなトミーや大酒飲みのチャーチルに一泡吹かせることができたな」

 ゲッベルスが頷いた。

 「まったく。私も記録映像を見ましたがいい気味でした」

 「死んだライミー(英国人)だけが良いライミーだ」

 ヒトラーは少佐に向き直った。

 「さて・・・本来なら君の功績を鑑みて昇進と休暇を与えたいのだが・・・その前にもう一つやってもらいたいことがある」

 「?」

 「少佐、総統命令だ。モンティナ・マックス親衛隊少佐に『総統特秘命令666号』の継続を命じる」

 「!!」

 ヒトラーはにやりと笑った。

 「安心したまえ、艦娘にも、誰にもばれないように手配はしてある。施設も心配はいらん。地下室の拡張工事で秘密の研究室や訓練室を設置した。深海棲艦や吸血鬼の個体も大破し気絶したものや漂流したもの、捕虜にしたもの、石仮面を使えばよい。すでにシュトロハイム大佐をメキシコに派遣した。実験材料に困ることはまずないだろう」

 「では・・・」

 ヒトラーはニヤリと笑った。

 「少佐。思い切って『戦争』をやってこい。三千世界のカラスを殺す鉄風雷火の如き闘争を」

 

 

 執務室での一件を回想して少佐は目を開けた。

 ドクとメンゲレの非人道的な内容のやり取りを見ながら少佐は言った。

 「いやそんなことはないぞ、ドク、メンゲレ大尉。素晴らしいじゃないか」

 「と言いますと?」

 「細胞の解析もこのように進んでいるし吸血鬼と深海棲艦や艦娘の細胞との融合化ある程度可能なことが分かっただけでも素晴らしいことだ。普通の人間同士の戦闘に投入すればあっという間に敵の戦線は崩壊し数時間で敵は亡者の群れと化すだろうな」

 メンゲレは頷いた。

 「ごもっともで。あとはどう安定化させるなどの重要な課題が残っていますが」

 「なに、まだ時間は十分にある。施設も材料も十分にある。今はまだ準備をする時間だ。ぬかりなく戦争をするため準備。戦争の歓喜を無限に味わうために、次の戦争のために次の次の戦争のために」

 少佐はニヤリと、狂気を感じさせる笑みを浮かべた。まるで楽しい夢を見ているかのような子供のような顔で。

 「楽しそうですな、少佐殿」

 「それはそうさ、ドク。闘争だよ、闘争。考えてもみたまえドク、もう見ることのできないと思っていた夢がもう一度、もしかすると永遠に見られるのかもしれないのだ。私たちの大好物の戦争が。これが運命なのか偶然なのかはどうでもいい、運命ならぶち壊そう、偶然なら思いっきり踊り狂おうじゃないか。泣こうが喚こうがもう我々は踏み出してしまったのだ、狂喜が常識であり正常である世界に」

 少佐は笑いながら言った。その目線の先にはボロボロになった国家社会主義ドイツ労働者党の象徴であり呪われた紋章である血染めの鉤十字(ハーケンクロイツ)の旗があった。

 「化物を兵装し、化物を構築し、化物を教導し、化物を編成し、化物を兵站し、化物を運用し、化物を指揮する。我らこそ遂に化物すら指揮する。我らこそ最後の大隊、ラストバタリオン」

 少佐は血まみれの研究員達をぐるっと見渡して言った。

 「さあ、諸君研究を続けよう」

 地下室にはたっぷりの血と絶望と狂気のにおいが漂い、捕らえられた深海棲艦や捕虜たちのうめき声、断末魔が響いていた。

 ここには、希望などない。

 

 

 

 

 




フェーゲライン「今日はデイリーはなしか・・・」
青葉「ほっ、助かった・・・」
曙「ほんと、あのクソ総統にしごかれるなんてゴメンよ!!」
加賀「何を言ってるの、後書きも例外ではないわ。任務は任務、総統の命令は絶対よ」
フェーゲ&青葉&ぼの「え?」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおおお!?」ズダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、何すんのよこのクソ総統ってぎゃあああああ!?」ズダダダダダピロリーン♪
 
今日も鎮守府は平和です。


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39話 勝手な改装~ドイツの皆さんごめんなさい~

 これから登場させていく予定の人物

 エルンスト・レーム(突撃隊幕僚長)
 ラインハルト・トリスタン・ハイドリヒ(親衛隊大将)
 ハインリヒ・ヒムラー(親衛隊全国指導者)
 パウル・ハウサー(武装親衛隊上級大将)
 エーリッヒ・フォン・マンシュタイン(ドイツ陸軍元帥)
 ゲオルギー・ジューコフ(ソ連邦元帥)
 アンデルセン神父は・・・保留にしておこう。

 他に登場させてほしい人がいたら作者の活動報告『総統閣下の質問箱』にどんどんコメントしてください。


 東京都、防衛省。

 日本の防衛をつかさどる省庁にして自衛隊の司令塔であるが深海棲艦が跋扈し自衛隊が彼女らとの死闘を始めて以来、国民からは『大本営』とも呼ばれていた。

 その巨大な本棟の幹部用の部屋で部下からの報告を聞く一人の男がいた。

 「・・・現在敵の活動は沈静化しているものと考えられており、これを機にわが軍の戦力増強および反撃作戦の計画を立てることを決定しました。現在、硫黄島の要塞化も進められており遅くとも秋ごろには・・・」

 椅子に座る男に報告する部下らしき人物は禿げ頭に丸メガネと役人か官僚のような風貌であった。しかし服装はかつての旧日本軍のものでありその階級章から彼が陸軍大将・参謀長というかなりの権力を持った人物であることが窺えた。

 「また、キスカ島からの師団撤退作戦、及びゲルマニア鎮守府の艦娘救出作戦も成功し戦況は総じて落ち着いております」

 「東條」

 報告する人物を東條、と呼んだ男はこれまた丸メガネに七三分けの髪型に旧日本軍の制服を着ており、なんというか軍人というより学者のようであった。

 が、その雰囲気はどこか気高さと神々しさを漂わせていた。

 「何でございましょう、陛下」

 「君の話を聞く限り、現在の戦況が落ち着いているこということは分かった。だが一つ気になることがある」

 陛下と呼ばれた男は東條に対して言った。

 「朕はまず何よりも、国民の状態を知りたい。国民は飢えることなく普通に暮らしているだろうか?」

 「陛下、心配なさることはありませぬ。大陸からの輸出入路に加え、現在東南アジア方面のシーレーンの確保、食糧自給率の上昇により現在に状況でまず飢え死にするということはあり得ませぬ。ひどく飢えている国民はそうそういないでしょう」

 「・・・そうか。それはよかった」

 陛下と呼ばれた男――かつての激動の昭和の日本を象徴する人物である昭和天皇はわずかに顔をほころばせながら頷いた。が、すぐに表情を硬くする。

 「・・・深海棲艦が現れてから十数年になるな」

 「・・・陛下」

 昭和天皇に報告をしていた男――元陸軍大臣・内閣総理大臣東條英機は昭和天皇の顔をじっと見た。

 「奴らが現れて以来我が国は苦しい状況に置かれている。この状況はいずれ打開せねばならぬ。日本のためにも、国民のためにも」

 「・・・」

 「かつての朕には・・・あの戦争を、あの状況を御する力はなかった・・・だが、今また、こうしてこの世にいる。現在の地位にいる」

 昭和天皇は東條の顔をじっと見た。

 「東條、反撃の作戦の計画を立てると言ったな。君達に我が国の未来がかかっている。頼んだぞ」

 「はっ」

 昭和天皇は東條の様子に頷きながら机の引き出しから紙の束を取り出した。

 その表紙に書かれた文章に東條は目を丸くする。

 「陛下、それはもしや・・・」

 「朕もある程度の作戦を考えた・・・せめて参考程度になればと。東條、朕にも出来ることがあれば何でも言ってくれ・・・国民の未来がかかっているのだ」

 「・・・ははっ」

 東條は昭和天皇に恭しく礼をし、退出していった。

 今度こそは、陛下のご期待に応える、この国を導いて見せると決意して。

 

 

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 「KO☆RO☆SU」

 いきなりヒトラーの物騒な声が響くとともにミレニアム大隊所属の武装ss隊員がMP40をフェーゲライン達に照準し連射した。

 「はい死んだ!」

 「何で青葉もおおおおおおおお!?」

 「ちょ、このクソ総統何すんのよ、ってぎゃあああああああああ!?」

 短機関銃弾をまともに食らったフェーゲライン、青葉、曙の三人がピロリーン♪という謎の音と共に床に崩れ落ちた。

 その様子を見てドイツ陸軍大将アルフレート・ヨードルは呆れた顔で言った。

 「総統・・・早速デイリーとはいったい何をやらかしたんですか?」

 「うん?なに、単に総統である私に悪い態度をとったお仕置きを与えただけだが?」

 「・・・はぁ」

 ヨードルは溜息をついた。

 そんな変な空気を破ったのはクレープスの声だった。

 「総統閣下、取り込み中失礼しますが本題に移らせていただきます」

 「おお、そうだったな・・・今回諸君らに集まってもらったのにはこのゲルマニア鎮守府にやってきた山口らを今後どのように扱うかということだな」

 先の救出作戦において、加賀をはじめとする第一艦隊のみならず山口多聞や魔王ルーデル、デーニッツも救出できたことはヒトラー達にとって望外の戦果であった。

 今後彼らの処遇をどうするか、ということはゲルマニア鎮守府のみならず大本営にとっても重要な問題であったが、ひとまずゲルマニア鎮守府の方針だけでも決めておこうということになった。

 ブルクドルフは頷いた。

 「まずルーデルとデーニッツはわが鎮守府がいただきましょう。彼らさえいればこの戦争、勝ったも同然です」

 「そうだな、ルーデルは何としてもわが鎮守府に引き留めておきたい」

 ボルマンがヒトラーに報告する。

 「総統、それに関してよいお知らせがあります。ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、及びカール・デーニッツともに我がゲルマニア鎮守府で総統閣下のもとで戦いたいと」

 ヒトラーは笑顔で頷いた。

 「それは良いことだ。山口やムッソリーニはどうする?」

 「アドミラル・ヤマグチに関してはそうですな・・・」

 ヒトラーと将軍たちが議論を始めた時、ゲッベルスが思い出したように言った。

 「そういえば将軍たちとともに新しい艦娘も手にれたな」

 ヒトラーも顔を上げた。

 「おお、イタリア海軍のローマとわがドイツ海軍のU-511のことか。特にU-511が来てくれたことは嬉しかったな。まったく、私としたことが同胞のことを忘れるとは・・・彼女は今どうしている?」

 ヒトラーのその言葉にブルクドルフはクレープスをチラっと見た。クレープスは口をつぐみ始めた。

 「えっと・・・その総統閣下。デーニッツが連れてきたU-511のことなんですが・・・」

 クレープスの言いにくそうな様子にヨードルが助け舟を出す。

 「U-511はドクを始めとする技術部による改装を受けて呂500、つまり日本海軍の潜水艦になりました。それがこちらです」

 ヨードルはそっと資料の紙をヒトラーに差し出した。

 そこには二つの写真があった。

 ビフォーと書かれた写真には銀髪のゲルマン風美少女・・・U-511が。アフターと書かれた写真には銀髪にスクール水着、日焼けして小麦色になった肌とゲッベルスが見たら発狂状態になること間違いなしの少女・・・呂500が写っていた。

 「こんなにすっかり変わってしまいました。改装なのでもう元に戻せません。デーニッツはショックのあまり寝込みました」

 しばらくの間執務室に沈黙が流れた。

 が、ヒトラーは震える手でかけていたメガネをはずし、沈黙を破った。

 「・・・この改装にかかわった馬鹿者は残りなさい。アンポンタン」

 次々と執務室から人が出ていく。

 残った人物は言うまでもなくブルクドルフ、クレープス、カイテル、ヨードル、ゲッベルス、ボルマンの6人だった。

 しばらく痛い沈黙が流れていたが、その沈黙を破ったのもヒトラーだった。

 「・・・なんてことしてくれたんだ!我が鎮守府初の海外艦なのに!!」

 ヒトラーの怒号が鎮守府中に響いた。

 「いいか!そもそもあのU-511の魅力は何と言っても蒼い目に銀髪、あのゲルマン風の容姿だ!!我々第三帝国に相応しい艦娘!!そして何よりようやく手に入れた海外艦だってのに何早速明らかに不健全な褐色幼女に改装しちまってんだ、お前らなんか大っ嫌いだ!!」

 ヒトラーの激しい怒りにブルクドルフも負けじと応戦する。

 「総統閣下、我々も嬉しくてつい手が滑って・・・」

 「黙れ、大っ嫌いだ!!そんなん言い訳になるかバーカ!!」

 「総統閣下、これもこれで良いのになんでそんなに怒るんですか!?」

 ヒトラーは呆れと怒りの混じった顔でブルクドルフ達に怒りをぶちまけ続けた。

 「何度も言うが我が第三帝国に相応しいゲルマン少女であり、我がドイツが誇る最高の潜水艦だったんだぞ!?それをお前らは台無しにしやがった!!」

 ヒトラーは持っていた鉛筆を一気にテーブルに叩き付けた。

 衝撃で鉛筆が割れるのと同時にヒトラーは思いっきり叫んだ。

 

 「畜生めぇ!!!」

 

 ヒトラーの怒りは続く。

 「いいか、問題はそれだけじゃない・・・この明らかに不健全なエロい褐色幼女をゲッベルスが見たらどうなると思う?もうすでに発狂し始めてるじゃないか!?ドイツの技術の取得に初のゲルマン民族の艦娘、そしてゲッベルスの反応・・・そこらへんの判断力がお前らには足らんかった・・・これがスターリンだったらお前ら即SYU☆KU☆SE☆Iだったぞ!!」

 ブルクドルフがゲッベルスを見てみると、そこには改装後のU-511・・・もとい呂500の写真を見て「か、褐色少女・・・なんて美しいんだ・・・ハァハァ・・・」と呼吸を乱して興奮している男がいた。そこにはプロパガンダの天才としての面影は微塵も無くただの変態のオッサンのオーラしかなかった。

 なんだかヤバいと判断したボルマンがゲッベルスの服の襟をつかんで引き摺りながら一緒に執務室から退出していった。

 ブルクドルフはゲッベルスを部屋から追い出したボルマンに感謝した。ボルマン、GJ。

 ヒトラーの怒りはなおも続いた。

 「・・・もっと言えばだ・・・せめて改装するんなら、幼女にではなくもっと大人びたものにしてほしかった・・・私の求めていたものはこんな貧乳の褐色幼女じゃない!私が求めていたのは武蔵のような、褐色の目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるんだ!!だがもうその可能性は潰えてしまった!!断固私は柴田さんに責任を取ることを要求する!!」

 ブルクドルフはクレープスを見た。「柴田って誰よ?」「いや俺に聞かれても」

 ヒトラーの猥談は執務室の外にも響いていた。

 ヒトラーの妻、エヴァはただ呆然として立ち尽くし、潮に至ってはえぐえぐと泣いていた。

 ユンゲは泣きじゃくる潮を慰めた。

 「総統もロリコン大臣のこと言えないわよね・・・十分変態だわ」

 執務室の中ではヒトラーは怒ることにも疲れたのか、椅子に座り項垂れていた。

 「とにかくだ・・・よくよく考えたら褐色幼女も悪くはないかもしれん・・・でも初の海外艦だったんだぞ・・・初のゲルマン民族の艦娘だったんだぞ・・・」

 ヒトラーの目にはわずかに涙が浮かんでいた。

 ヒトラーは部下たちに向き直り言った。

 「私は決めたぞ、こうなったらこのゲルマニア鎮守府を滅ぼしてでもドイツ艦娘を手に入れてやる・・・お前たち、すぐに準備にかかれ」

 こうして、ゲルマニア鎮守府設置以来2回目となる大型建造を行うことが決定された。

 

 

 そのころ、医務室では、U-511のあまりの変貌ぶりに、そして自慢のUボートを失ったショックと悲しみからデーニッツは医務室のベッドで寝込み、半ば発狂しかけていた。

 「・・・Uボートが1隻・・・Uボートが2隻・・・Uボートが3隻・・・あ、西から太陽がのぼってらぁ・・・あははは・・・」

 「で、デーニッツ提督、お気を確かに・・・」

 呂500が必死にデーニッツを看病していたが、しばらく治りそうになかった。

 ・・・鎮守府は今日も平和であった。多分・・・




 ルークとヤンの超テキトーあとがき

ヤン「ヤン坊ー」
ルーク「ルークのー」
ヤン&ルーク「あとがきー」
ルーク「このssもう39話だってさー」ウンコブリブリー
ヤン「ふーん、すごいねーあんちゃーん」ヨダレダラダラ
ルーク「だからなんだって話だよなーほんとー」ウンコモグモグ
ヤン「さすがあんちゃん言うこと違うー」ハナミズダラダラ
ヤン&ルーク「なーんでー♪こんな面倒なことせにゃならぬー♪
       おっぱいみんなで揉みましょー♪
       好きなものは各個撃破と紅茶ですー♪
       でも知らない人に足撃たれるのは超嫌よー♪あとうんこ」
ヤン「ところで私は燃やされました」
ルーク「喰われました。ワンちゃんに」
ヤン「大変だねー。兄ちゃん、頭についてるのなにー」
ルーク「きゃー」ワンチャンアタマガブー

 おしまい

 ふざけてすんません



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40話 大型建造~ドイツ艦が欲しいんだい~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 ヒトラーが第二回の大型建造を行うことを決定し、執務室内ではそれに関する会議が行われていた。

 「総統の命令といえど、こればかりは断固反対である!」

 最初に声を張り上げたのはゲッベルスであった。

 「大型建造は一種のギャンブルであり大量の資源を一度に無駄にするだけである!それよりも我々は駆逐艦の量産に力を注ぐべきだ!改装後のろーちゃんを見たか?あの健康的でエロティックな褐色の肌、貧乳、天使のような可愛さと健気さ、まさにマジSU☆KE☆BEであり、全ての艦娘の頂点!!駆逐艦こそ艦娘の頂点でありまさに天使、ドイツの救世主である!!諸君、今すぐに駆逐艦の美しさに括目し、駆逐艦を崇拝せよ!!駆逐艦万歳!!ロリコン万歳!!ハイルヒトラー!!!」

 ゲッベルスのロリコン演説に対しあっという間に、続々と反論が起こった。

 「ロリコンもいい加減にしろ!!逮捕されたいのか!?」

 「怨怨!!戦艦を崇拝すべきである!!」

 「何を言うか、ゲッベルスの言うとおりだ!!」

 「だが伊勢と日向の黒インナーは物凄くエロかったぞ・・・」

 「空母のダイナマイトボディを見てもまだ駆逐艦が好きだといえるか?」

 「巡洋艦も忘れるな!!愛宕の無知むちむちボディは必見だぞ」

 「俺、こないだ隼鷹のエロ同人書いたんだ。だれか見るか?」

 「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 「きっもー」

 「ドイツの潜水艦は世界一ィィィイイイ!!!」

 「水上機母艦を知らんだと?よろしい、ならば戦争(クリーク)だ」

 部下達の猥談が広がる中、ヒトラーはドン!とテーブルを叩いて怒鳴った。

 「お前らいい加減自重しろよ!!ドイツ軍人としての誇りはどこに行ったんだ!?」

 ヒトラーのこの言葉をフェーゲライン、青葉、曙は鼻で笑った。

 「一番自重しない変態総統に言われてもww」

 「青葉、総統も人のこと言えないと思いますが・・・」

 「あんたが一番変態でしょ、このクソ総統!!」

 もちろん、総統であるヒトラーにこんなこと言って無事で済むわけがない。

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそう言った瞬間、ミレニアム大隊所属の武装ss隊員がMP40をフェーゲライン達に照準、連射した。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 「ちょ、何すんのよこのクソ総統、悪いのはアンタだって、ってぎゃああああ!?」

 訓練弾をまともに喰らったフェーゲライン、青葉、曙三人はそろって後ろに吹き飛ばされピロリーン♪という不思議な効果音とともに床に崩れ落ちた。

 その光景に満足そうにしたヒトラーは部下達に向き直り改めるように言った。

 「言っておくが、今回の大型建造はこのゲルマニア鎮守府に新たに狭量な戦力を迎え入れ、同時にゲルマン民族の艦娘を手に入れることにある。決して、おっぱいぷるんぷるんの艦娘が欲しいとかそういう変態的な目的は無い」

 誰がどう見ても明らかな嘘に心の中で突っ込みを入れながらもクレープスは頷いた。

 「確かに、我が鎮守府もこれまでの功績による報酬や遠征の甲斐あって前よりは懐は暖かいですからね。今のうちに戦力増強に努め、今後の本格的な攻勢に備えておくのは当然かと追われます」

 クレープスの言葉にブルクドルフは疑問を持った。

 「だが、大型建造は成功するとは限らん。下手したら資源をドブに捨てることになる。装備の開発に力を入れるほうが確実ではないか?」

 ブルクドルフのもっともな意見にヒトラーは反論した。

 「ブルクドルフ君、君の言うことはもっともだが既に我がゲルマニア鎮守府は装備も艦娘もある程度整っている。むしろ新型艦を迎え入れることに意味があるのだ。それに私の勘がいけると告げている」

 「・・・分かりました」

 総統であるヒトラーの命令は絶対だ。

 ブルクドルフらはこれ以上の反論は無駄だと判断し黙るしかなかった。

 こうして、鎮守府始まって以来二回目の大型建造が行われることになった。

 

 

 ヒトラー達が工廠で資源を投入して数時間後。

 総統執務室でヒトラー達は大型建造の結果を待ち続けていた。

 「総統閣下、今回の建造はうまくいくでしょうか?」

 「前回は一発で武蔵を手に入れたんだ、今回もうまくいかないわけがない」

 「そうとは限らんでしょう。ハズレの事態も覚悟しておいたほうが・・・」

 ヒトラー達は期待と不安を口にしていた。

 賭けに勝ってレア艦を手にれるか。ハズレを引いて一度に多くの資源をドブに捨てることになるか。

 誰もが緊張していたその時、モーンケとクレープスが執務室のドアをを開けて入ってきた。

 その顔に浮かぶ表情は明るいものであった。

 「総統閣下、お耳に入れたい朗報があります」

 モーンケがヒトラーに言った。

 「・・・朗報?大型建造のことかね?」

 「はい。総統閣下、大型建造の結果ですが・・・」

 ヒトラーを含め、執務室の人間全員が息をのんだ。

 「総統閣下は大型建造を3つのドッグで同時に行いましたね?まず一つ目のドッグではまるゆを手に入れました」

 「・・・2つめは?」

 ヒトラーが聞き返した。

 「2つ目目ドッグでは・・・大和が出ました」

 「おいマジか?」

 「すばらしい・・・」

 超弩級戦艦を手に入れたという思わぬ幸運に執務室内でどよめきが起こる。

 「3つ目は?」

 「3つ目は・・・装甲空母です。大鳳が出現しました。・・・我々は非常に幸運でした。もう一生分の運使い果たしたんじゃないんですかね?」

 三つ連続でレア艦を手に入れた。

 その驚くべき幸運に執務室中が沸いた。

 「素晴らしい、素晴らしい!」

 「装甲空母に超弩級戦艦だぞ!?祝杯ものだ!!」

 「ジークハイル!!」

 幹部らの歓声の中、ヒトラーはなぜか無表情のままだった。

 あまり嬉しくなさそうであった。

 場違いな、予想外の様子にクレープスは戸惑った。

 「・・・あの、総統閣下?どうかなさいましたか?十分満足すべき結果だと思いますが・・・」

 「ドイツ艦は」

 ヒトラーがゆっくりと口を開いた。

 「・・・ドイツ艦は出なかったのか」

 ブルクドルフはふと、嫌な予感がしてクレープスをちらりと見た。

 クレープスもヒトラーの重々しいオーラを感じしどろもどろに答える。

 「え、総統閣下、それは・・・」

 オロオロしているクレープスをヨードルが手助けした。

 「・・・総統閣下、手に入れたのはまるゆ、大和、大鳳です。ドイツ艦は出ませんでした。・・・何が不満なんですか?」

 レア艦を一気に三つも手に入れたにもかかわらず不満そうなヒトラーにもっともな疑問を出すヨードル。

 しばらくの間、執務室を沈黙が支配した。

 その沈黙を破ったのもヒトラーだった。

 暫くの間黙りこくって机を見ていたヒトラーだったが、やがて震える手で眼鏡を取りゆっくりと幹部達に言った。

 「・・・ドイツ艦が出なかったことに対して不満がない人は残れ、アンポンタン」

 この言葉に執務室にいた者全員が次に何が起こるのかを悟った。

 あ、これいつものあれが始まる時間だ、と。

 ヒトラーの指示に従い次々と執務室から出ていく幹部や艦娘達。

 執務室に残ったのはやはりというかブルクドルフ、クレープス、カイテル、ヨードル、ボルマン、ゲッベルスの6人であった。

 しばらくの間執務室を再度の沈黙が支配していたが、次の瞬間ヒトラーの怒号によって沈黙は死んだ。

 「・・・お前ら悔しくないのか!?ドイツ艦が出なかったんだぞ!?」

 ヒトラーの怒号が、怒りと悔しさが鎮守府中に木霊した。

 「いいか!今回の大型建造はドイツ艦を手にれることを目標にしていたんだ!建造の前にも目的はそれといったよな!?少しでも確率上げるために3つもドッグを使ったんだぞ!資源も大量に使ったんだ、なのにお前らちょっとレアな艦を手に入れただけで、本来の目的忘れて、浮かれるなんて、悔しがらないんなんて、お前らなんか大っ嫌いだ!!」

 ヒトラーのやり場のない悔しさと怒りにブルクドルフがもっともな正論をぶつけて反論する。

 「総統閣下、これは単に運がなかっただけで新型艦を三つも手に入れただけでも十分幸運といえるのですが」

 だがヒトラーはそれをぶった切った。

 「うるせえ!!大っ嫌いだ!!ドイツ艦じゃないとダメなんだよバーカ!!」

 「総統、オメェいくらなんでも我が儘すぎだろ!!」

 ヒトラーの怒りは続く。

 「資源もドッグも技術もできることはすべて投入したのに!!ドイツ艦は出なかった!!」

 ヒトラーは持っていた鉛筆を机に投げつけ叫んだ。

 

 「畜生めぇ!!!」

 

 ヒトラーの怒りはなおも続く。

 「いいか、ドイツ艦というのはゲルマン民族であることアーリア的な容姿に世界一のドイツの技術によるハイスッペク!!すべてが完璧な艦娘なんだぞ!!それを悔しがらないんなんて、お前らは思考力が足らんかった・・・今頃我々の不運をあの世で笑ってるぞ、そうスターリンが!!」

 ヒトラーはぜぇぜぇと肩を鳴らしながら椅子に座った。

 だが怒りはまだ収まらないようだ。

 「そうさ・・・私だって思い通りにならないことは分かってる・・・だが少しは悔しくないのか!?それに対して怒っているのだ!!私が欲しかったのは大鳳のような貧乳の少女じゃない!!そう私が欲しかったのはビスマルクやグラーフのような!!目に刺さるような、おっぱいぷるーんぷるんだ!!正直大和が出てきてくれたのには感謝してるんだ、巨乳をありがとう柴田さん!!」

 ブルクドルフはクレープスを見た。

 「柴田さんって誰よ?」「いや知らんて」

 ヒトラーの猥談は執務室の外にも響き渡り聞く人々を呆然とさせていた。

 大和は呆然と立ち尽くし、その隣で大鳳はえぐえぐと泣いていた。

 「私はいらない子だったんですね・・・」

 「大鳳ちゃん泣かないで・・・あとであの変態ちょび髭ぶっ飛ばしましょうね・・・」

 泣く大鳳を慰める秘書ユンゲ。

 部屋の中では怒る気力が切れたのかヒトラーがうなだれて椅子に座っていた。

 その目には涙が浮かんでいた。

 「・・・もう過ぎてしまったことだ・・・資源はもうない・・・ドイツ艦はもう手に入れられないのか・・・ビスマルク、グラーフ・・・会いたかったのに・・・」

 暫くの間執務室をいいようのない沈黙が支配していたが、何とかこの場を収めようとボルマンは仕事中に聞いた情報のことを話すことにした。

 「・・・そう言えば、とある別の鎮守府でビスマルクだったか、グラーフだったかドイツ艦を手に入れたという情報が入ったんですが・・・譲ってもらうよう交渉したらどうです?いっそのこと拉致するとか・・・ハハ・・・」

 交渉。拉致。

 それはヒトラーを慰めこの場を収めるための冗談だった。

 だがヒトラーはその言葉にピクリとした。

 「・・・今なんて言った?」

 「え?別の鎮守府でドイツ艦を手に入れたと」

 「その後」

 「交渉するとか拉致するとか」

 「・・・それだ」

 「へ?」

 ヒトラーは悪いことを思いついたかのような顔をして部下達に言った。

 「拉致るんだよ。ドイツ艦を。兵士なら、戦力なら十分にある。出来ないことはないはずだ」

 「あの、総統閣下、ご冗談を」

 「ブルクドルフ、クレープス、ボルマン」

 ヒトラーは戸惑う部下達を見た。

 「頭がおかしいと思うか?だが私はいたって正気だ。本気だ。私は決めたぞ、鎮守府を、世界を滅ぼしてでもドイツ艦を手に入れてやる。すぐに部隊を編成して作戦を立てるんだ」

 ヒトラーは幹部らを見た。

 「その鎮守府からドイツ艦を拉致してこい」

 こうしてヒトラーによってドイツ艦拉致作戦が決定されたのであった。

 

 

 

 





        / ̄\
        |    |
        \_/
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    /   ⌒   ⌒   \      よくぞ40話までを呼んでくれた
    |    (__人__)    |   褒美としてアンケートに答える権利をやる   
    \     ` ⌒´   /   ☆
    /ヽ、--ー、__,-‐´ \─/
   / >   ヽ▼●▼<\  ||ー、.
  / ヽ、   \ i |。| |/  ヽ (ニ、`ヽ.
 .l   ヽ     l |。| | r-、y `ニ  ノ \
 l     |    |ー─ |  ̄ l   `~ヽ_ノ____
    / ̄ ̄ ̄ ̄ヽ-'ヽ--'  / アンケート  /|
   .| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/|    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| ______
/ ̄アンケート/|  ̄|__」/_アンケート  /| ̄|__,」___    /|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/アンケート ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄|/ アンケート /|  / .|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/l ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| /
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|


ヒトラー「・・・さて、このssついに40話まできたわけだが、そこで私から読者にお願いがある」
モーンケ「皆様にアンケートに答えていただきます」
ゲッベルス「40話までに登場したキャラクターで人気投票を行います。投票できる      キャラは読者一人につき三人まで。キャラ一人につき一票です。投票先       作者の活動報告『総統閣下の質問箱』まで。期限は6月25日までです。お     好きなキャラ、及び駆逐艦と総統閣下にどうか清き一票を」
クレープス「アンケートの答えのついでにリクエストや総統閣下への質問も一緒に投       稿してくれると嬉しいな・・・」
フェーゲライン「まあ、どうせ私がまた一位になるのは見え見えですけどねww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダピロリーン♪

 読者の皆様、ここまで読んでくれてありがとうございました。アンケートへのご協力よろしくお願いいたします。


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41話 求人広告~親衛隊長官~

 ヒトラーがドイツ艦娘の拉致を決める少し前。

 国家社会主語ドイツ労働者党副総統ルドルフ・ヘスと夕立は公園のベンチでボーっと座り込んでいた。

 夏なので日の光がかんかんに照り、二人の顔には汗が浮かんでいた。下手をしたら、熱中症になりかねないがそんなことは気にしていない様子である。

 夕立がヘスに語りかける。

 「・・・ねぇおじさん」

 「・・・何だい」

 「なんだか暇っぽい」

 「そうだね」

 「これからどうするの」

 「分からん。仕事さえ見つかればいいんだが」

 そう。現在の彼らの一番の課題は仕事を見つけること。つまり彼らは今現在絶賛ニート生活謳歌中というわけなのである。

 突然この未来によみがえったヘスと鎮守府から逃亡してきた時雨と夕立にとって早く生活の糧を見つけることは早急な課題であった。

 一応少なくない現金を持ち出したがそれも底を尽きかけている。

 が、仕事を得ようにも履歴書などないヘスや逃亡してきた時雨たちを雇う所があるとは思えない。

 さて、どうしたものか・・・と二人がボーっとしていたところへ自販機へジュースを買いに行っていた時雨が二人のもとへ戻ってきた。

 「はい、これおじさんと夕立の分」

 「おお、ありがとう時雨ちゃん」

 「ありがとうっぽい」

 ヘスの隣に座りながら、時雨が話しかける。

 「そういえば自販機に行く途中求人広告の看板を見たけど」

 「?」

 ヘスは時雨を見た。

 「気になる広告を見たんだ。履歴書とか必要なし、やる気さえあれば雇いますだって・・・ホントかな?」

 履歴書等が必要ないという求人。なんだか怪しい・・・が、職がなくて困っていた彼らにとっては興味深いものだった。

 「・・・まあ、ちょっと見てみるか」

 職にありつけるかもしれない僅かな可能性の話を聞いてヘスはとりあえずその広告を見てみることにした。

 

 時雨の言っていた求人広告はすぐ近くにあった。

 公園の門近くの掲示板の隅にその求人広告は貼られていた。

 「・・・なになに?求む清掃員・・・」

 その求人広告の内容とは要約するとこんな感じのものだった。

 

 「求む清掃員。

  資格、年齢、その他の制限一切なし。能力とやる気さえあれば誰でも歓迎いたします。(特に金髪碧眼のアーリア人は大歓迎です。ただしユダヤ人、てめーは駄目だ)履歴書とかそういうのはいりません。簡単な面接だけです。住み込みも可能です。

 

  亜宇酒美津鎮守府」

 

 求人広告を見つめていたヘスたちはしばらくの間沈黙していた。

 そりゃそうだ、あうしゅびつ、なんて名前の鎮守府は聞いたことないしアーリア人歓迎、ユダヤ人はお断り、何より履歴書必要なしなんてどう見たって怪しい内容の求人広告だ。

 「・・・大丈夫かなこの仕事。あうしゅびつ鎮守府なんて聞いたことないし・・・」

 「ユダヤ人お断りっぽい」

 「・・・どうするおじさん」

 「・・・行こう。面接行こう!善は急げだ!」

 「え!?決めるの早くない!?」

 明らかに怪しい内容の求人広告にノリノリのヘスに戸惑う二人だったが、すでにヘスは走り出しており、時雨たちは彼についていくしかなかった。

 

 

 「・・・それでとりあえず来てみたが」

 三人の目の前には煉瓦造りの建物に巨大な工廠、そして港と海が広がっていた。

 ここが鎮守府であることに間違いはないらしい(門に『夜戦と労働だけが自由への道』と書かれた標識があるのはこの際無視した)。

 「・・・どうする?」

 「もうここまで来たからには引き下がるわけにはいかんだろう」

 「もうお金も底を着いてるっぽい」

 「・・・そうだね」

 もう所持金が底を着きかけ職に困っているこの有様だ。明らかにあの広告の内容は怪しかったがそれでも流浪人の自分たちを雇ってくれそうなのはここしかあるまい。

 三人は腹を決めた。

 「すみませーん、求人広告を見てやってきたんですが・・・」

 扉をたたく時雨。

 返事はすぐに帰ってきた。

 「はーい、少々お待ちください・・・」

 男性の声だ。ここの提督か、あるいは職員か。

 しばらくの沈黙の後、扉が開いた。

 目の前には黒服を着た地味な容姿のメガネの男が立っていた。

 「どうも、初めまして御嬢さんがた私はこの鎮守府の提督の・・・うん?」

 「どうもこんにちわ、この求人広告を見てやってきたんですが・・・うん?」

 男とヘスが互いに挨拶を仕掛けて疑問の声を上げた。

 どうやら二人とも互いの声が聞き覚えのあるものだったらしい。 

 すぐに互いの顔をじっと見つめた。

 そして。

 「・・・なんでお前がここにいるんだあああああああああああ!?」

 「それはこっちのセリフじゃあああああああああああ!?」

 絶叫が響いた。

 「お、おじさん・・・!?」

 「ちょっとびっくりしたっぽい」

 「て、提督、何があったんですか!?」

 突然の絶叫に驚く時雨たちと扉から顔をのぞかせたなぜか寝間着姿の艦娘を尻目に二人は互いの肩をつかみ取っ組み合った。

 そして叫ぶ。

 「どうしてお前が生きているんだ、ヘス!?」

 「どうしてお前が提督やってんだヒムラー!?」

 そう。ヘスたちの前に姿を現したこの黒服の男こそ、かの悪名高い親衛隊長官にして、そして何故か現代に蘇ってちゃっかり提督のポストについているハインリヒ・ヒムラーであった。

 



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42話 国家元帥の末路~ダメ、ゼッタイ。~

 亜宇酒美津鎮守府、執務室。

 そこでかつての親衛隊長官にしてこの鎮守府の提督であるハインリヒ・ヒムラーと国家社会主義ドイツ労働者党副総統ルドルフ・ヘスらは面接を行っていた。

 二人の顔を見れば所々アザや絆創膏がある。

 理由は簡単で、彼らは鎮守府の門の前で出会った瞬間早速殴り合いを始めたのだ。

 なぜケンカをしたのかは事情を察するものならばすぐに分かるだろう。

 一人は敗戦直前にヒトラー総統の許可を得ずに勝手に連合国と降伏の交渉を行った裏切り者。

 方やもう一人は第二次大戦がはじまるとすぐに勝手にイギリスへと亡命しようとした変人。

 そしてどちらもかつては一応総統に忠誠を誓っていた二人である。

 これで喧嘩が起きないはずがない。

 「何総統閣下裏切ったお前が提督なんじゃ、ふざけんなゴルァ!!」

 「お前こそ何勝手にイギリスの亡命してんだこのキ○ガイ、シゴウしたるぞおおお!!」

 こんな感じですぐに二人は殴り合いになり、その後時雨や夕立、ヒムラーの秘書艦を名乗る艦娘霧島に何とか抑えられ、とりあえず面接しましょうということになって現在に至るのである。

 

 「・・・それで、鎮守府を脱走したいいが生活費に困り職を探していたらうちの求人広告を見つけてここに来たということかね?」

 ヒムラーはいまだに痛む頬の傷をさすりながら、時雨たちに聞き返した。

 ヒムラーとヘスが互いのこの世界に来た経緯を語ったのち、時雨たちも自分たちの身の上話を洗いざらい話したのだ。

 「うん、なんか面接だけでOKっていうから・・・」

 「うむ、その広告に書いてある通りだよ。少なくとも、ユダヤ人でさえなければ問題なく雇おう。なにしろ、我が鎮守府は今現在人手不足に悩まされていてな。猫の手も借りたいぐらいなのだ」

 その言葉を聞いて夕立は目を見開いた。

 「じゃあ、私達全員ここで雇ってもらえるっぽい?」

 「ああ、ユダヤ人じゃないからOKだ。早速ここで働いてもらおう。あ、でもヘスお前はちょっと牢屋にでも・・・」

 「なんだとテメェ、ちょっと表出ろ」

 「上等だコラ」

 ヘスとヒムラーがまた殴り合いを始めそうな雰囲気になり、あわててヘスを時雨が、ヒムラーを隣にいた秘書艦霧島が止めた。

 「ちょっと、おじさん落ち着いて・・・何があったのかは分からないけど」

 「あの、提督折角ここまで来てくれたんですし人手も不足していますからちゃんと全員雇ってあげたほうが・・・」

 二人に抑えられてばつが悪そうにするヒムラーとヘス。

 そこへ夕立がヒムラーに質問した。

 「ところで人手が足りないって言ってたけど提督と霧島さん以外にはだれがいるっぽい?」

 ヒムラーは頷いた。

 「うむ、私と霧島のほかに、夕張と千歳に千代田、それから・・・」

 「それから?」

 「ゲーリングもいる」

 「・・・ゲーリング元帥が?」

 ヘスは目を見開いた。なんということだ、あの太った鋼鉄までもがこの世界によみがえっていたとは。自分と同じような境遇の人間がもう一人いたとは、すぐにコンタクトをとる必要がある。

 「ちょっとまて、国家元帥もいるというのか?ならばすぐに合わせてほしいのだが・・・」

 ヘスの当然ともいえる要求に対して霧島は目をそらした。

 「あーそれはチョットやめたほうが・・・」

 「何故?見られたら都合が悪いものがあるとでも?」

 「えっとそれは・・・」

 霧島のもったいぶるそぶりを見て首を振りながらヒムラーが言った。

 「霧島、三人をゲーリング元帥のところまで案内させたまえ。そのほうがいいだろう」

 そしてこう付け加えた。

 「薬物中毒者の末路がどういうものか教える必要がある」

 

 霧島が案内した部屋、艦娘用の寮の部屋の前。そこにゲーリングがいるとヘスたちは説明を受けた。

 「本当にここが元帥の?」

 「はい、元帥閣下はこの部屋で執務に励んでおられます」

 ヘスは部屋の扉を見て言った。

 「だが、見たところ扉には『千歳・千代田』と書かれているが・・・」

 ヘスの疑問にヒムラーが答えた。

 「ああ、ゲーリングは千歳や千代田と共に執務を行っているのだ。ただね・・・」

 「ただ?」

 「いや、言葉で説明するより見るほうがわかりやすいだろう。霧島、ドアを」

 「いいんですか?」

 霧島がヒムラーの命令にわずかに逡巡を見せる。

 どうやらあまり見せたいものではないらしい。

 「そのほうがいい、もう何時間も閉め切った部屋の中にいるんだ、換気したほうがいい」

 「はい、では・・・」

 そして、霧島はノックをするとドアを開けた。

 そして次の瞬間。

 ヘスや時雨、ヒムラーたちは鼻をつまんだ。

 突然、ドアから異臭が放たれたのだ。

 甘ったるく、脳に突き刺さりそうで、なんというか中毒性のありそうな匂い。

 知っているものならこういうだろう。有機溶剤、シンナーの匂いだと。

 「・・・っな!?なんだこの匂いは!?」

 ヘスが目を見開きながら部屋を除くとそこには。

 散乱するプラモデルのパーツらしきものとニッパーなどの道具。

 そして、黒い服を着た二人の少女と一人の白い服を着た太った男が飛行機模型片手に床にぶっ倒れていた。

 「・・・おい。なんだこれ。何があったんだ?」

 事の異常さに驚くことを忘れたヘスの問いに対して、ヒムラーはまるで慣れたかのように首を振りながら部屋に中に入っていった。

 「やれやれ、戦闘機の製造をするときは接着剤を使うからあれほど換気しろと言ったのに・・・」

 ヒムラーはヘスや時雨達が唖然とする中、倒れている三人の肩を一人ずつポンポンと叩いて起こしていった。

 「おい、ダメだろう、こんな閉め切った部屋の中で作業しちゃあ・・・そのうちシンナー中毒になっちまうぞ・・・いや、もうなりかけているか・・・」

 三人が死んだ魚のような眼をしながらうめいた。

 「千歳お姉、ゲーリング元帥、この接着剤良いにおいがするよ~~」

 「ダメよ千代田・・・くんくん、この匂い、くんくん、嗅いだら・・・くんくん」

 「あは~~やめられねぇ~~プラモ作りながらこの匂い嗅ぐのやめられねぇ~~」

 ヘスは三人の様子を見て唖然としたままつぶやいた。

 「ゲーリング元帥・・・?」

 ヘスのその言葉に太った白服の男がヘスの顔見る。

 「あ、お前ヘスじゃないか、久しぶりだなぁ、ちょうどいいお前もこのメッサーシュミットの装備を見てくれ、いい出来だろぉ~~あとこの接着剤の匂い、いいもんだぜ~~」

 「・・・ゲーリングうううううううううう!?」

 ヘスは思わず叫んだ。

 プラモの接着剤や塗料の有機溶剤・・・シンナー中毒になりかけの男。(と二人の艦娘)

 それがかつての国家元帥ヘルマン・ゲーリングの現在の姿であった。 

   



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43話 番外編2~総統閣下が警察のお世話になったようです~

 「・・・今、なんて言いましたか?」

 秘書艦である正規空母加賀はその凜とした目にさらに眼光を鋭くさせて聞き返した。

 対して彼女に対峙するヒトラーの秘書、ボルマンも神妙な、しかし深刻そうな顔で言った。

 「だから。総統閣下が不審者として警察に連れて行かれたと」

 「・・・マジで?」

 ブルクドルフが聞き返した。

 「マジ。だって直接見たし」

 「・・・いつかこうなると思ってたわ」

 執務室内の人間を呆れの空気が包んだ。

 そう。我らが総統閣下アドルフ・ヒトラーがついに警察に不審者として連れて行かれたのである。今からその経緯を語るとしよう。

 

 

 太陽光が激しく照りつけ、セミが騒音を奏でる七月上旬、ゲルマニア鎮守府から少し離れたとある海水浴場。

 ここ最近激務が続き猛暑ということもあり、ヒトラーは幾人かの部下と艦娘を引き連れて鎮守府一番近くにある海水浴場に涼を求めてやってきたのであった。

 出発する前にヒトラーは女性用の水着とカメラをそれぞれ手に持ち「今日は加賀さんの水着姿を何としても撮影するんだ!ポロリもあり!!楽しみだな、加賀さんの水着姿、特に目に刺さるような!!おっぱいぷるーんぷるん!!」と叫び自作の駆逐艦娘のフィギュアとスクール水着を手にしたゲッベルスが「諸君!駆逐艦娘のスク水姿も忘れてはならない!!薄い胸、さわやかさ、柔らかい肌、あどけなさ!!ロリ娘の水着姿はまじすけべぇで、そそられる!!諸君、カメラは用意したか!?今すぐに駆逐艦娘を崇拝するのだ!!」と案の定変態共が騒ぎ加賀やユンゲ、大淀にコテンパンにぶん殴られるなど、色々と騒ぎが起こったが、何とかヒトラー達は海水浴場にたどり着いた。

 最初の内こそ、ヒトラーは愛犬のブロンディと戯れながらパラソルの下で(ヒトラーとブロンディ共に艦娘達の水着姿をじっと見つめながら)寝っ転がったり日光浴したり泳いだりと涼を楽しんでいたのだが、いつも何かと騒動を起こすヒトラー達である。事件はすぐに起こった。

 

 ヒトラーは海の景色を眺めんがらデッサンをしていたが、少し体を動かしたくもなってきた。せっかく海に来たのだから、(艦娘の水着姿を見ながら)砂浜を歩き回って海風に当たってくるか。

 そう思い、ヒトラーが砂浜を散歩し始めたその時であった。

 「あ、大淀ちゃん後ろ!!」

 「へ?って、きゃああ!?」

 突然、強風でも吹いたのか高波が起こり、巨大な水の壁が水着姿の大淀にクリーンヒットした。

 そしてよくある展開だが、結合部分が弱かったのか大淀の水着が水の勢いとともに外れ、砂浜にはらりと落ちた。

 一瞬、場を沈黙が包んだ。

 大淀はすんでのところで胸を両腕で押さえてポロリは避けたが、大変な事態であることに変わりない。大淀の顔は見る間に赤くなった。叫ぶのこらえるのが精いっぱいのようだ。

 周りも当然慌てる。

 「ちょ、落ち着け!!てか何みんな見てるんだ!!」

 「とりあえずこのタオルか浮き輪で隠せ!!」

 「早く付け直せ!!」

 と、周りが対応に追われているときであった。

 そこにヒトラーの愛犬であるブロンディがさささっ、とやって来た。

 そして。

 ぱくりと。

 砂浜に落ちていた大淀の水着を咥えた。

 そして、そのままその場から走り去っていった。

 「・・・おおおおおおいいいい!?!?」

 「ブロンディーーッ!?それおもちゃじゃない!!早く返せ!!」

 「きゃーーーー!?」

 

 水着を食えながら走るブロンディはそのまま砂浜を先に歩く主様、ヒトラーの元へ駆け寄り、そのままその大淀の水着の金具がヒトラーのズボンの後ろに偶然引っかかる。

 ヒトラーが振り返った時には、そこには口に何も咥えていない愛犬はいるだけだった。しかも水着が引っ掛かっているのはズボンの後ろだ。気づくはずもない。

 はたから見れば、ヒトラーのケツからブラジャーの尻尾が生えているように見えるだろう。

 「おお、ブロンディ、お前もついてきたのか・・・Gut Gut(よしよし)」

 そのままヒトラーは売店へと向かった。

 売店の店主にアイスクリームを注文しながら、それにしても熱いなと思いハンカチがないかズボンをまさぐった。

 すると、ちょうどズボンの後ろに布製の何か・・・大淀の水着が引っかかっているのに気づき対して確かめもせずに額の汗をぬぐった。

 それにしてもこのハンカチは何かおかしいな。

 吸水性に優れているようだが重くなく、ふんわりと軽く、柔らかく、女性のようないい匂いがする。使っている材質がいいのだろうか・・・と思いながら店主を見ると、店主は目をぱちぱちとさせてヒトラーを見ていた。

 「・・・あんた何で顔拭いているんだ?」

 「・・・え?」

 店主に指摘されてようやく自分の持っている物がなんなのか気づくヒトラー。

 当然驚いた。

 「おい、なんじゃこりゃあああああ!?女性用下着、ブラジャー、もとい、水着じゃねえかあああああああ!?!?」

 「へ、変態だ・・・女性の水着で汗拭くやつがいる・・・不審者だ・・・下着泥棒がいる・・・」

 「ち、違う!?こ、これは私は何も知らん!!自、事故だこれは」

 「ちょっと、あなたなにやってるんですか?」

 隣を見ると、警備員らしき人物がいる。

 明らかに容疑者・不審者を見る目でヒトラーを見ていた。

 「さっき水着を紛失したという届け出があったんですがね・・・まさかあんたが盗んだのかい?」

 「違う!!私は何も知らない!!」

 「じゃ、なんで女性用水着で顔なんか拭くんです?しかも地味に笑顔でしたし」

 「ち、違う!!わ・・・私は何も知らんのだ!!って、なに手錠出してんだ!?待って!!マジで待っててば!?超、待っててば!?だああああああああああ!?」

 こうして、ヒトラーは容疑者・不審者として警察に連れて行かれた・・・

 

 

 ボルマンが事の顛末を話した後、総統執務室内は沈黙に包まれた。

 ブルクドルフが重い口を開いた。

 「・・・それ本当に事故だったのか?総統がわざとやったんじゃないんだよな?」

 何人かは総統がわざとやったのではないかと疑っている。それも当然だろう。実際ヒトラーは「おっぱいぷるんぷるん!!」とか言う変態だから。

 ボルマンは首を横に振った。

 「いや、現にエヴァ様など目撃者が多数いる。明らかに事故だった」

 フェーゲラインが鼻で笑った。

 「いや、変態総統のことだからわざとだろそれww」

 「青葉もそんな気がします・・・」

 「そうよ、あのクソ総統のことよ、絶対ワザとに」

 「KO☆RO☆SU」

 加賀がそう言った瞬間、ミレニアム大隊所属の武装SS隊員がMP40をフェーゲライン、青葉、曙の三人に素早く照準し連射した。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおお!?」

 「ちょ、これクソ総統の仕事で、ってぎゃああああああ!?」

 無数の訓練弾を食らった三人はピロリーン♪という音と共に崩れ落ちた。

 (暫くの間)動かぬ肉の塊と化した三人を見下ろしながら加賀は言った。

 「私が総統のデイリー任務代行係だということ忘れたの?」

 と、その時ジリリリリリと机の黒電話が鳴った。

 ボルマンが受話器を手に取り何度か頷くと部下たちを見た。

 「警察署からだが、総統を迎えに来てくれとのことだ。容疑は晴れて、注意だけで済んだらしい」

 部屋に安堵と、わずかなながら失望の空気が流れた。

 

 

 十分後、エヴァ・ヒトラーと加賀は黒塗りの総統専用車に乗り、警察署に向かっていた。総統を迎えるためだ。

 暫くの間、車内は沈黙に包まれていたが、ふと加賀が口を開いた。

 「・・・提督が結婚しているなんて驚いたわ」

 エヴァが加賀を見た。

 「どうして?誰でも結婚ぐらいするでしょう?」

 「いえ・・・ただ、雰囲気的にそういうのとは無縁の人に思えて。あなたはどうして提督と結婚しようと?」

 ヒトラーは変態だが、女子供には何かと優しいし、しかし同時に距離を置いているようにも加賀には感じられた。そして時には非情な時も、ゾッとするときもある。

 加賀にとってヒトラーは謎めいた人物だった。

 不思議そうな目で加賀はエヴァを見た。

 対してエヴァは何でもないように答えた。

 「愛していたからよ。今もね」

 エヴァの目は遠くを見ているようだった。悲しそうでも幸せそうでもあった。

 「ずっとあの人を追いかけていた・・・でもなかなか振り向いてくれなくて。結婚してくれと言われた時は本当に幸せだった」

 エヴァは加賀を見た。

 「私もわからなくなる時があるわ。彼のことが。総統の内面は謎ね。やさしい時も、非情な時も・・・永遠に謎だわ。でも私はそれでいいし、それがいいと思うわ」

 「・・・」

 また車内を沈黙が包んだ。

 車はすぐに署についた。

 

 警察署の扉からゆっくりとヒトラーが歩いてくる。

 少し疲れているようだった。

 エヴァと加賀を見ると少し笑った。

 エヴァを抱き、キスをしたあと、加賀の手を取る。

 「すまない」

 ヒトラーが言った。

 「心配をかけてしまったな」

 エヴァを首を振った。

 「大丈夫よ、あなたがそんなことするわけないと信じてたから」

 「私もです、総統。あなたは私達の司令官ですから」

 「さ、帰りましょ」

 ヒトラーはエヴァと加賀を交互に見詰めた。

 「・・・ありがとう。すまないね」

 ヒトラー達はそのまま車に乗り込み、鎮守府へと戻っていった。

 日はすっかり暮れ、夜空に星が瞬いていた。




これから番外編で書こうと思ってる話
・フィンランドの白い死神が深海棲艦をヘッドショットしまくる話
・金髪の野獣が艦娘の衣服のエロさにめざめて服フェチになる話
・国家元帥が、ただひたすらプラモ作る話
・ブルクドルフとクレープスがエロ本を巡り戦う話
他にも色々考えていますが何かやってほしい話があったら作者の活動報告にどしどし投稿してください。
 ありがとうございます。


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44話 国家元帥~ゲーリングと修復材~

 まえがき

ヤン「秋だ!ヤンです!」
ルーク「秋だねー。もう秋ですねー。最後に投稿したのいつかなー(汗)」
ルーク「どうしたの?こんなに遅れて・・・一週間に一話は出すって約束したじゃない。お兄さんと。罪だから罰としてち○こをもぐ。」
ヤン「死ねよ」ドガッ(殴る音)
ルーク「グヘッ!」バキッ「殴られる音」
ヤン「事情ってのがあるんだよ、犬の糞!!」ドガッバキッガッガッ(さらに殴る音)
ルーク「ギャッグエッひでぶ!?」グシャッグチャッボキッ(さらに殴られる音)
ヤン「俺らだって今まで散々ふざけてたじゃねぇか。お前が罰とか言うなよ」
ルーク「すみませんでした。殺さないでください」
ヤン「分かりました。殺しません。で、何で遅れたの?」
ルーク「何となく?って?カンジ?じゃね?」
ヤン「やっぱ死ね」バキューン(撃つ音)
ルーク「」ビシッ(撃たれる音)
ルーク「というわけでまぁ、なんだかんだありましたが、とにかく約三ヶ月も投稿が遅れて皆さん申し訳ありませんでした。それでは44話、お楽しみください」 




 亜宇酒美津鎮守府、作戦会議室。

 国家社会主義ドイツ労働者党副総統ルドルフ・ヘスと親衛隊長官ハインリヒ・ヒムラー、そして国家元帥ヘルマン・ゲーリングらの姿があった。

 ヒムラーはもちろん、ヘスもまともな服を着てしっかりとした様子であったが、問題はゲーリングであった。

 白い豪奢な制服に力士のような巨体。そして死んだ魚のようなうつろな目。

 とてもじゃないが、国家元帥としての威厳はどこにも感じられなかった。

 「シンナー・・・モルヒネ・・・スツーカ・・・うぇひひひ・・・」

 そう呻くゲーリングの姿はどう見てもまともじゃない。

 ヘスは不安になった。

 「・・・なあ、こいつ本当に大丈夫なのか?」

 ヒムラーは悲しそうに首を振った。

 「残念ながら、大丈夫とは言えないな。もうこの通りシンナーに毒されている。モルヒネ中毒を克服したからもう大丈夫だと思っていたのだが・・・だが、安心したまえ、科学というのは実に便利なものでな、今、夕張に高速修復剤を持ってこさせている。これさえ摂取すればまた元の中毒になる前の状態に戻る」

 ヒムラーがそう言っていると失礼します、と銀髪にポニーテール、黒いへそを出した制服を着た少女が入ってきた。手にはバケツを三つ抱えている。

 「おお、もうとってきたのか夕張君、早いとこ三人に配ってくれ。このとおり、中毒がひどくなってそれ以外に頼るものがないのだ」

 「いいですけど・・・これがあるからいつでも治ると思ってるからますますシンナーにのめり込むんじゃないんですか、提督?」

 「私もそうは思ってるんだが、何しろ何度禁止にしてもうまいこと有機溶剤とシンナーの隠し場所を見つけ出すからね・・・もうあきらめてるよ」

 そんなことを話しながら夕張と呼ばれた少女はバケツを一つずつゲーリングたちの前に置いていく。ゲーリングに渡されたバケツには『ゲーリング専用』と書かれていた。

 「ほら、さっさと飲んでシンナーなんかやめてくださいよ・・・もうロクなことにならないんですし、修復材の費用だってバカにならないんですから」

 「分かってるよ~でも止められねぇんだなこれが~ぐびっぐびっ」

 そう言いながらゲーリング、千歳、千代田の三人はバケツに入った緑色の高速修材を飲み干していった。

 げっぷをした後、ゲーリングの目は生き生きとしだし、さっきまでの退廃的なオーラはどこかに消えていた。

 「・・・あれ?俺はいったい・・・」

 「まったく、覚えてないのか?さっきまでお前ら、シンナー中毒になってたんだぞ?」

 ヒムラーがやれやれというように首を振る。

 「まったく、高速修復材で完全に治せるからと言ってシンナーやっていいわけじゃないんだ。修復材の値段だってバカにならないんだから・・・ほら、我が鎮守府の新入りのヘス、時雨、夕立の三人だ。挨拶ぐらいしろ」

 しばらくぽかんとした様子のゲーリングであったが、すぐに目の前に座っているヘスに気付くと、「おお、ヘス、お前じゃないか!お前も来ていたのか!」と頭を下げた。

 その様子はさっきまでの堕落しきった中毒者の雰囲気とは違い活き活きとした軍人らしさを感じさせた。本来、高速修復材は艦娘専用のものだが、どうやら人間にも効果はあるようだ。

 どうやらまともに話ができそうだ。

 そう思い、ヘスはゲーリングに聞いた。

 「元帥はいつからそこに?」

 「つい三か月前だ。ニュルンベルクの裁判の後、青酸カリを飲んで俺は死んだはずだったんだが、気付いたらヒムラーと一緒にこの鎮守府に辿り着いていたんだ。任官の命令書と一緒にな。それで、俺はここの工廠で戦闘機とか新兵器の開発をやっていたんだがな、それで千歳と千代田と意気投合してな・・・一緒に開発しているうちに組み立てや塗装にに使用する接着剤や有機溶剤のにおいにハマってしまってな・・・それで今に至るというわけだ。まったく、とんでもない醜態を見せてしまったよ・・・自分でもなんとかしないといけないと思っているんだが・・・」

 「・・・そうか。私も似たようなところさ。気付いたらこの世界にいて、色々あってこの子たちと一緒にこの鎮守府で働くことになったんだ。今日からな」

 「そうか、そうなのか・・・まぁ、とにかく一緒に頑張ろうじゃあないか孤独なのは皆一緒なんだからな。良かったら、ここの鎮守府の見学でもしないか?まだ挨拶していない艦娘がいるだろう?」

 ヘスはヒムラーに聞いた。

 「まだ『艦娘』がいるのか?」

 ヒムラーは頷いた。

 「ああ、まだあと二人いる、この鎮守府に」

 そしてにやりと笑ってからこう付け加えた。

 「しかも、驚くなかれなんと我が祖国ドイツ出身の艦娘なのだよ。我が鎮守府念願の。まったく、ドイツにまで遠征して大枚をはたいた甲斐があったというものだ」  

 ドイツ出身の艦娘。

自分の祖国の軍艦の艦娘の存在にヘスは内心興奮を覚えた。

 

 

 

 その頃、鎮守府から少し離れた丘の上。

 そこで、頬に傷のある戦闘服を着た一人の男が双眼鏡片手に、イヤホンを身に着けていた。

 イヤホンは鎮守府の会議室に仕掛けられた盗聴器につながっている。

 「・・・ドイツ艦がいるという情報は本当だったが・・・まさかヒムラーにゲーリングまでいるとはな・・・確認しだい襲撃せよということだったが、さて、総統閣下にどう報告するか・・・」

 オットー・スコルツェニー。

 「ヨーロッパでもっとも危険な男」と呼ばれた親衛隊中佐は双眼鏡で鎮守府の様子をのぞき続けるのであった。

 




 番外編でグデーリアンとロンメルが戦車道で暴れまくる話書いていきたいと思う。


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45話 襲撃~ガスにご注意~

 ドイツ第三帝国海軍の空母グラーフ・ツェッペリンは亜宇酒美津鎮守府のバルコニーに立ちながら海を眺めていた。

 思い出すのは第三帝国時代の記憶ばかりだ。

 祖国の工廠での建造と中断、再開、ヒトラーによる建造中止命令。

 竣工することなく終戦間際の混乱の中自沈し、その後ソ連軍によって引き上げられたものの、結局標的艦としてすぐに処分された。

 何のために生まれたのか考える暇もないまま、沈みもう二度と日の目を見ることはあるまいと思っていた。

 しかし、世の中何があるか分からない。気づけば自分はこうしてこの世に生き返っている。人間の少女として。

 気づけばドイツの寂れた港町の工廠で人間として覚醒し、何が起きたかも分からず行く所もなく彷徨っていたところを、親衛隊長官ハインリヒ・ヒムラーの名を名乗る人物に出会い、そのまま日本に連れて行かれた。

 鎮守府の執務室で手続きをしながら、ヒムラーは言った。

 『君と私は一緒だ。行く所もない、目的もない。だがやるべきことはある。私と共に戦わないかね?』

 あれから一か月ほど経った。

 いったい自分はここで何をしろというのか?

 竣工することなく自沈するという非常に短い生涯を送った自分にとってそれが疑問だった。まだ答えは見つかっていない。

 いつか答えは見つかるのだろうか・・・

 その思っていたところに、誰かがグラーフの肩を叩いた。

 「グラーフ、長官がお呼びだわ。私たちに会わせたい人がいるみたい」

 「・・・ん、ああ、ビスマルクか。すまない、考え事をしていたんだ」

 目の前にいる金髪のロングストレートに碧眼の少女は同じく第三帝国海軍の戦艦であったビスマルクだった。彼女も蘇って彷徨っていたところをゲーリングと出会いここに来たのであった。

 「会わせたい人というのは?」

 「会議室に」

 「分かった」

 二人はそのまま会議室へ向かっていった。

 

 

 会議室ではヒムラーとヘスが話をしていた。

 「・・・ドイツの艦娘を2人も。いったいどうやって手に入れたんだ?」

 「なに、少し状況把握と観光のためにドイツに戻っていたらな、現地にドイツ出身の艦娘がいるといううわさを聞きつけてな。少し興味が湧いてゲーリングと一緒に探していたら寂れた港町で彷徨っていたところ見つけて保護した。それで、日本まで連れてきたというわけだ」

 「・・・どうやって連れてきたんだ?パスポートはあったのか?お前と彼女達の分の」

 「私の分に関して言えば、あったよ。そういうわけかこの世界に覚醒した時点で私の分の身分証明書一式が揃っていた。だが彼女たちの分は当然なかったからね、少々憚られたが不正な手段を使わせてもらった」

 「・・・そうか・・・」

 「・・・まあ、今は彼女たちの分の身分証明書一式がきちんと揃っているがね・・・おっと、どうやら御嬢さんがた来たようだ」

 会議室のドアのコンコンというノック音にヒムラーは反応し、ドアへ向かっていった。

 「やあ、グラーフ、ビスマルク、今日は君らに紹介したい人がいるのだ」

 ドアが開いた瞬間、現れたのは二人の美少女だった。

 一人は薄い金髪にグレーの瞳、真っ白い肌、もう一人は金髪碧眼、街で会えば、十人中十人の男が振り返るだろう。

 どうやら、艦娘というのは揃いも揃って皆美少女らしい。

 少々緊張しながらもヘスは二人に握手した。

 「どうも、国家社会主義ドイツ労働者党副総統を務めていましたルドルフ・ヘスです。ここで働くことになった。今後ともよろしく」

 二人の目が一瞬ヘスをじっと見つめた。どうやらまた一人NSDAPの関係者が来たことに驚いたらしい。

 しかしすぐに相手も挨拶を返す。

 「・・・Guten Morgen.私が航空母艦グラーフ・ツェッペリンだ。貴方もここに着任することになったのか?そうか・・・それではこちら今後ともよろしく」

 「Guten Tag.私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。 よおく覚えておくのよ」

 「さて、これで我が鎮守府のメンバーは全員そろったわけだ」

 ヒムラーが会議室にいるメンバーを見渡しながら言った。

 「全員がそろったところで早速、我々の今後の方針を決めたいと思うのだが――」

 ヒムラーがそう言いかけた時、異変が起きた。

 突然、けたたましい音を立てて会議室の窓ガラスが割れ、ほぼ同時に手のひらほどの筒状の物体が数個、投げ込まれた。

 「なん――」

 何だ、誰かが言いかける前に、その物体はシュー!!と勢いよく白い煙を噴出し会議室にあっという間に充満していった。

 「ガスだ、逃げろ!!」

 ヘスは叫び、会議室のドアへ走り戸を開けようとしたが、開かなかった。まるで、外からものすごい力で塞がれているようだった。そうしている間にもガスは充満し視界を遮っていく。

 「・・・くそ・・・何が・・・」

 だんだん、意識が朦朧とし体から力が抜けていく。ヘスはそのまま床に倒れ伏した。

 割られた窓のほうから、悲鳴や怒号、「何だお前たちは、何を・・・」というヒムラーの声が聞こえた気がしたが確認する気力もなく、そのままヘスの意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 「まったく、これはすごいな。一瞬で効いたぞこのガス弾。おかげで思ったより簡単に作戦が終わった」

 数分後、窓の外では迷彩服を着た武装親衛隊員達が投げ込んだガス手榴弾の威力に感嘆していた。彼らの目の前にはヒムラーやグラーフをはじめ、突然の襲撃に眠らされた亜宇酒美津鎮守府の面々が横たわっていた。皆、ぐうぐうと眠っている。

 「ええ、一瞬で全員眠ってくれました。まったく、大博士(グランドプロフェッツォル)も便利なものを作ってくれたものだ」

 彼らはゲルマニア鎮守府の提督であり、総統であるヒトラーの命を受け、グラーフらドイツ艦娘を拉致するためこの鎮守府を襲撃したのだった。そして、作戦は大成功である。

 「大尉、これで全員です、あとはスコルツェニー中佐と合流するだけです」

 大尉、と呼ばれた男――規格帽に軍用コートを着込み、赤い目と腰につけた異常なまでに長銃身のモーゼルが特徴的な男――は頷き、手で早く彼らをトラックに積み込め、と仕草した。

 「よし、起こすなよ、ゆっくり丁寧に確実に・・・」

 武装親衛隊吸血鬼化擲装甲弾兵戦闘団『最後の大隊』の隊員たちはグラーフたちをトラックに積み込み、自らも急いで私服に着替えトラックに乗ると、そのままどこかへと去って行った。

 あとには、無人の鎮守府だけが残された。




ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダピロリーン♪
青葉「何で青葉もおおおおおおお!?」ズダダダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃああ!?」ズダダダダダダダピロリーン♪
ヨードル「・・・三人は今度は何をやらかしたんです、総統?」
ヒトラー「いや・・・前回デイリー任務を迂闊にも忘れてしまったからな。今回はあとがきで確実にやっておこうと思ったのだ。ところでだ、諸君、そろそろグデーリアンやロンメルやマンシュタインの活躍を見たくはないかね?」
クレープス「そういや、ドイツ軍のssなのにまだ有名な将軍が活躍していませんね」
ヒトラー「なんでも作者が番外編で彼らを活躍させる予定らしい。しかも・・・」
クレープス「しかも?」
ヒトラー「作者はガルパンとコラボさせるつもりらしい」
ヨードル「何ですって?」
グデーリアン「こうしちゃいられねぇ、はやく登場させてくれ!!戦車道で電撃戦やって女の子とキャッキャウフフフしたい!!」
ロンメル「私からも頼む、きゃーロンメル様ってされたい」
マンシュタイン「いや、私はできれば提督として・・・」
ヒトラー「それじゃあ、みんな楽しみにしてくれ。畜生めぇ!!」


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46話 拉致の結果~グラーフとの接触~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 鎮守府の頭脳ともいえるこの場所で宣伝大臣ゲッベルスが目の前の将軍たちに対して持論を展開していた。

 「さあ、今回も始めるぞゲッベルス主催艦娘討論会!!みんな艦娘についてどんどん意見してくれ!!と言っても、結論は決まっているがな!!それは即ち、駆逐艦こそ至高ということだ!!夜戦での強さ、汎用性はもちろん特筆すべきはその可愛らしさだ!幼女特有のあどけなさが放つエロティックな雰囲気はまさに一瞬で散る桜の美しさのようであり我々に対して、守ってあげたいという心を否応もなしに思い起こさせる!!この美しさはまさに他の艦娘には出せないものであり、この駆逐艦娘特有のエロさ美しさこそ、人類の美の歴史の頂点に立つべきものである!!ドイツ艦の拉致なんざやめてすぐに駆逐艦の増産に努めるべし!!駆逐艦こそ我らの女神なのだ!!異論は認めぬ!!駆逐艦万歳!!ロリコン万歳!!ハイル・ツェアシュテラー!!(ドイツ語で駆逐艦の意味)」

 ゲッベルスのロリコン賛美演説に当然のことながら、将軍たちから非難が巻き起こる。

 「ロリコンもいい加減にしろゲッベ、貴様それでも大臣か!!」

 「怨怨!!戦艦を崇拝せよ!!ビス子は俺は嫁だ!!」

 「巡洋艦も忘れちゃいないか?」

 「空母のダイナマイトボディを見てみろ、戦艦なんか目じゃない!!」

 「一度でいいから駆逐艦とヤりてぇ・・・」

 「もしもしゲシュタポですか?」

 「ドイツの潜水艦は世界一ィィィイイイ!!」

 「俺は那珂ちゃんのファンはやめないぞー!!」

 「いや、ゲッベルスの言うことにも一理ある気が・・・」

 「ふざけんじゃないわよ、酸素魚雷くらわすわよ!!」

 「きっもー」

 「駆逐艦?ウザい」

 将軍たちの間に広がる猥談にヒトラーが喝を入れる。

 「お前ら自重しろよ!!お前らそれでも軍人か!?」

 言ってることはもっともだがお前が言うなである。

 フェーゲラインが笑いながら言った。

 「一番自重しない変態に言われてもww」

 青葉と曙も続く。

 「まあ、この前警察署に連れて行かれるところ見ちゃいましたからね・・・」

 「警察に連れて行かれるような変態が何言ってんのよ、このクソ総統!!」

 だがこんなこと言って無事で済むはずがない。

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそう言った瞬間、武装SS隊員がどこからともなくあらわれMP40をフェーゲライン達に向け連射した。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 「ちょ、デイリーは二人の任務で、ってぎゃあああああああああ!?」

 響く銃声、三人が床に倒れ伏すとともにピロリーン♪という効果音が響いた。

 ヒトラーは言った。

 「お前ら、さっきから戦艦がいいとか駆逐艦ムラムラするとか言ってるけどな、艦の種類で語るべきものではない!!艦娘の良し悪し、魅力、強さを決めるのは、なんといっても胸部装甲だ!!おっぱいこそ正義なんだ!!私はこの際宣言するぞ、私は大好きです、目に刺さるような!!おっぱいぷるーp」

 ヒトラーが完全に言い切る前に、執務室に砲弾が飛び込み、炸裂、執務室の窓ガラスが割れ、部屋に轟音と煙が充満した。

 見れば執務室の外で龍田が恐ろしい笑みを浮かべながら主砲を構えていた。

 「総統~~?皆さん、いい加減真面目にしないと実弾を撃ちますよ~~?バラバラになりたいんですか~~?真面目にやってくださいね~~?」

 「「「「ハイ!!」」」」

 艦娘からの恐るべき忠告に従うほかなかったヒトラー達であった。

 

 

 数分後。

 クレープスが咳払いをしながら資料を広げた。

 「さて・・・それでは気を取り直して真面目にいきましょう。約1週間前、総統閣下はドイツ艦娘の拉致を命じましたね?命令を受けて、我々はドイツ艦娘がいると思われる鎮守府を特定、部隊を編成し鎮守府を襲撃、艦娘および人員の拉致に成功しました」

 ヒトラーは頷いた。

 「ああ、亜宇酒美津鎮守府だろ?それにしても実に懐かしい響きだ、絶対アウシュビッツから命名したなこれは」

 「拉致した艦娘は戦艦ビスマルクと空母グラーフ・ツェッペリンの二隻。襲撃の際に使用した睡眠ガスがかなり効いたのか、現在も地下室で眠っている状態です」

 「そうか・・・とにかく後で私が見舞いに行かなければな。鎮守府のためとはいえ、お嬢さん方に手荒な真似を使ってしまった」

 クレープスが言いにくそうに続ける。

 「それと一緒に拉致した人員のことですが・・・」

 ヒトラーの目がわずかに光った。

 「うん?ああ、ヒムラー達のことか」

 襲撃の際、拉致部隊は艦娘のみならず、ヒトラーにとっては因縁の裏切り者であるヒムラー、ゲーリング、ヘスもともに連れて帰ったのだ。

 ヒトラー達の悩みは彼らに対する処置であった。

 ゲッベルスがすかさず発言する。

 「どうすべきかは決まっている、即刻銃殺刑だ。裏切り者には死を与えねば」

 「いや待てゲッベルス、確かにすぐに処刑するのもありだが・・・その前に彼らに聞かねばならぬこともある。どうやってドイツ艦を手に入れたのか、どうやってこの世界に来たのか・・・それに、ヒムラーはともかくゲーリングやヘスはまだ可愛いほうだ。すぐに処罰する必要はあるまい。とりあえず地下室に拘束したままにしろ」

 ヒトラーがヒムラー達に対する処遇を話していると、親衛隊少将モーンケが発言した。

 「総統閣下、一つ質問があるのですが・・・」

 「なんだね、モーンケ?」

 「鎮守府を何の理由もなく襲撃したのです、上層部も不振がり調査するでしょう。下手をすればこの鎮守府全体が取り潰される結果を招きません。そこの根回しはどうなっているのでしょう?それに、拉致した艦娘は我々の味方になってくれるでしょうか?拉致したからそう簡単に心を開きそうにありませんが・・・」

 もっともな疑問にヒトラーは答えた。

 「ああ、心配する必要はないモーンケ。襲撃に際して、我々の関与の証拠は一切残していないし、去り際に鎮守府を適度に破壊しておいた。爆撃や砲撃に見せかけてな。おかげで今回の襲撃は深海棲艦の特殊部隊によるものだと上層部は思い込んでいる」

 ヒトラーは腕を組んだ。

 「そして二人の艦娘の説得だが・・・これは私がやろう。最高司令官である私の責任だ」

 「うまくいきますかな」

 ボルマンが言った。

 「うまく言いくるめるさ。私は何事も、『説得』で成し遂げてきたからな」

 

 

 混濁した意識に視界が徐々に晴れていく。そして雲は散りやがて意識が完全に覚醒した。

 空母グラーフ・ツェッペリンはゲルマニア鎮守府の地下室の一室でゆっくりと目覚めた。目の前には灰色の天井が広がる。

 「・・・ここは」

 「目覚めたかね?」

 グラーフが記憶を辿ろうとした時、傍らで男の声がした。

 とっさに声のしたほうに目を向けるとそこにはグラーフにとって見慣れた男がいた。

 「あなたは・・・」

 七三分けの黒い髪にちょび髭。見るものに何とも言えない感情を与える澄んだ目。

 グラーフ達にとっては最高司令官でありもっとも因縁のある男、ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの姿があった。

 グラーフの記憶が急速に蘇る。

 「そうだ、私は突然何者かに襲われて・・・」

 グラーフはヒトラーを見た。

 「そうだ、他の者たちはどうなったのです?ビスマルクは?長官は?そもそもここは一体――」

 「グラーフ・ツェッペリン」

 ヒトラーの声がグラーフの疑問を遮った。

 「君の質問に答えてもいいがまずその前に言うべきことがあるのではないかね?」

 ヒトラーはゆっくりとした口調でグラーフを見つめた。

 ヒトラーに見詰められグラーフは黙った。

 その瞳は異様なまでに澄んでおり、比喩表現を用いるならばまるで魔術師や催眠術師の目のようであった。グラーフは何も言えない。何とも言えない感情に襲われる。まるで一度とらえられたら二度と逃れられない罠にかかったように、恐るべき暗示力をヒトラーは放っていた。

 「・・・Heil Hitler.」

 「よろしい」

 ヒトラーは頷いた。

 「グラーフ、他の人たちはみな無事だここにいる。なぜなら私が連れて来るよう命じたからだ」

 「え?」

 「私が君たちをここに連れてきたのだ。身もふたもない言い方をしたら拉致してきたのだ」

 「それは一体・・・」

 ヒトラーはグラーフの目を見据えて言った。

 「グラーフ・ツェッペリン嬢。まさかあの言葉を言った以上ドイツに対する、総統に対する忠誠心が消えたわけではあるまい」

 そしてヒトラーは言った。

 「私のもとで戦わないかね?私のために、君のために」

 

 



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47話 同人書くぞ~ヒトラーとグラーフ~

 親衛隊長官ハインリヒ・ヒムラーはゲルマニア鎮守府の地下室の独房で頭を抱えていた。

 「まさか、総統までこの世界に来ていたとは・・・」

 もといた亜宇酒美津鎮守府で何者かに襲撃され拉致された後、気づけばこの薄暗い独房の中に彼はいた。いや、正確には彼らと言うべきだろう。

 「うーん、こんな時にモルヒネがあれば少しは楽になるのだが」

 「おいおい、何を呑気なことを言っているんだ。第一モルヒネは駄目だと言ってるだろう」

 独房内には同じく拉致されたゲーリングにヘスもいた。

 彼らは此処が何処なのか、誰に拉致されたのかを看守からの説明で理解していた。

 ヘスもはぁ、と溜め息をつく。

 「まさか総統までいるとはね・・・これからどうなるのやら」

 ゲーリングがはん、と鼻を鳴らしながらベッドに腰掛けた。ぎぃ、とスプリングが音を立てる。

 「おそらくタダではすむまい。総統から見れば我々は『裏切り者』だからな。特にヒムラーあたりはヤバいんじゃないか?」

 そう言ってゲーリングはヒムラーを見た。

 ヒムラーはヒトラーが『忠臣ハインリヒ』と呼ぶほどヒトラーに忠実であったが、第三帝国の末期には独断で連合国との降伏の交渉を行いヒトラーに激怒されすべての職を解任されたのだ。

 「・・・そうだな、一番危ないのは私だろう、もっとも信頼していた人間が裏切ったのだからな・・・あの状況では独断で動くしかありませんでしたと説明してもまず聞き入れはしまい・・・どうしたらいいか・・・」

 自分たちは裏切り者だ。どのような扱いや処分を受けることになるのか・・・

 ヒムラーが悩む中、ヘスはふぅ、といきをついて廊下を見た。

 廊下には看守役の親衛隊員が立っている。少し話しかけてみることにした。ヒトラーのさらなる人となりを知るためである。

 「・・・なあ、君・・・ちょっといいか?」

 「・・・」

 親衛隊員は黙りこくったままだった。まあ、当然の反応だろう。囚人と話す看守などいるまい。だがヘスは諦めずに話し続けた。

 「・・・ここじゃ総統閣下はどんな人なんだ?まあ、普通に執務をしているんだろうが、まさかアニメとか漫画とかにうつつを抜かすヲタクじゃないだろうね。もしかしておっぱいぷるーんぷるんとか言ったりして・・・」

 ヘスはこの世界に来てパソコンという機械で見た動画を思い出しながら軽く冗談を言ってみた。すると、看守はこの言葉に反応した。

 「・・・何で知っているんです?」

 少し驚いたように看守が言う。どうやらヘスの冗談は事実らしい。

 「いや、冗談だ言ったつもりなのだが・・・まさか本当にヲタク?」

 看守は首を振り肩をすくめて言った。

 「いや、総統閣下だけじゃなくてゲッベルス閣下や将軍たちも皆ヲタクですよ。もう皆おっぱいだのロリコンだの二次元と結婚したいだの言って正直引いてますよ。職場の仲間もこの世界に来る時のショックで変態になっちまったんじゃないかって噂してます。私もそう思いますよ。もっとも、ストパンにハマってる私も人のこと言えた立場じゃありませんが・・・」

 ヘスは看守にさらに聞いてみた。

 「・・・じゃあ、総統閣下がそういう感じの・・・ヲタク系の同人誌とか巨乳のフィギュアとかあるいは新兵器のプラモとか見たら喜ぶかな」

 「そりゃ、うまい出来のものは喜ぶでしょうが・・・もしかして今この場で同人誌書いて総統のご機嫌でもとって許してもらおうとか考えてるんですか?さすがにそれは無理と思いますが・・・」

 「でも相当なヲタクなんだろ?」

 「ええ、まあ・・・」

 「それは本当かね?」

 「マジか・・・」

 いつの間にかヒムラーとゲーリングも話に加わっていた。

 ヘスは看守に言った。

 「今の我々にできることは少ない。やってみるだけの価値はある。君、名前は?」

 看守は自分の名前を答えた。

 「ローフス。ローフス・ミシュです。親衛隊曹長であります」

 「では、ミシュ君ペンと紙を持ってきてくれ。同人誌を書くぞ。みんなも手伝ってくれ」

 ヒムラーがやれやれというように首を振った。

 「まったく、この世界に来て漫画や小説を書く羽目になるとは・・・まあいいだろう、やろう」

 ゲーリングも言った。

 「じゃあ、俺はプラモとフィギュアを作ろう。手先は器用だからな」

 こうして、ヒムラー、ゲーリング、ヘス、そしてただの親衛隊員のローフス・ミシュは同人誌づくりを行うことになった。金を稼ぐためではなく、生き残るために・・・

 

 

 そのころ、ゲルマニア鎮守府の別の部屋では空母グーラフ・ツェッペリンと第三帝国総統アドルフ・ヒトラーが話をしていた。

 「・・・仲間になれと・・・」

 グラーフは目の前のかつての最高司令官を見る。

 「拒否する理由があるのかね?」

 「・・・同じドイツの人間とはいえ、人を拉致する人間を信用するのは難しい。仲間になって欲しかったら普通に会いに来ればいいのに」

 ヒトラーは目線を少しずらした。

 「確かに君の言うとおりだな。少々手荒な真似を婦女子にしてしまった・・・そこは申し訳ないと思っている。しかし・・・仮に拉致ではなくそのまま会いに来たとして、君は私の仲間になることを承諾したかね?」

 「・・・」

 「君は私を快く思ってはいないだろう。戦いの機会を与えず、義務を果たすチャンスも与えぬまま君の建造中止命令を出したからな。君は何のためにこの世に生まれたのか、何のために戦うのか考える暇もなかったことだろう」

 ヒトラーはグラーフの目を見据えた。

 「・・・グラーフ、君は知りたいのではないかね?自分が此処にいる意味を。そして隠しているのではないか?ドイツの人間として戦いたいという心を」

 目の前の人間はいったい何を考えているのだろう。いったい私に何をしてほしいのだろう?グラーフは気になった。

 「・・・貴方の言うとおりだ、総統。私はこの世界に来てから分からないのだ。何故自分がここにいるのか、何をするべきなのか。普通に考えるのならば、私は総統についていくべきなのだろう。第三帝国海軍の艦娘として。でも・・・それが正しいのか分からない・・・貴方についていくことが正しいのか・・・」

 そう言ってグラーフは目の前の男を見つめる。かつてヨーロッパに破壊と混乱をもたらした独裁者を。

 目的も戦いも与えられることなく消えた自分が果たしてこの男についていくことが正しいのか。グラーフは怖い。

 「御嬢さん、私は今から譲歩をしよう」

 「譲歩?」

 「君は恐れているようだ。進むべき道が分からず、今歩こうとしている道が正しいのかどうかわからず少なからず恐怖している。いいだろう、無理に進まずにそこにとどまり惰眠を貪るのも一つの戦い方ではある。君がそうしたというならそうしよう、今のままで宙をさまよっていたいというのなら。しかし決して何も生まれはしまい。戦おうとしない者進もうとせぬ者に光は訪れぬ・・・君には進むべき道があるのに、艦娘としてドイツのため、人類のため深海棲艦と戦うという崇高な目的があるはずなのに君は進めずにいる。それこそ的の思う壺だ。我々を萎えさせる敵の思う壺だ。君はそれを良しとするのか?抵抗する思想も与えられぬことを?」

 グラーフは首を振った。

 「・・・いや。確かに私には深海棲艦と戦うという確固たる目的があるのだろう。そのためなら喜んで戦う。しかし貴方についていく意味は?」

 ヒトラーはグラーフの手を掴んだ。

 「君を導くためだ。私は支配者ではない。指導者だ。すべてを決断し道を与えるのが私の仕事だ。だから、私は君に道を与えよう、進むべき道を。君は私に貸してくれ。人を拉致しておいて何を言う、と思うだろうな。だが、私はそこまでして君が欲しかったのだ。総統として、一人のドイツ人として。もう一度・・・いや、今度こそ祖国のために共に戦わないか?私のためではなく、君自身のために」

 目の前の男は自分をどこへ導こうというのか。目の前の男は私に道を与えてくれるというのか。それが花畑の道か茨の道なのか。だが彼と自分以外に誰を信じるべきなのか。目の前の指導者は私と共に戦いたいと言う。自分自身のために。

 ヒトラーはグラーフを見た。

 「私が導こう」

 グラーフもヒトラーを見つめ返した。

 改めて、ヒトラーの澄んだ瞳に強い力を感じた。見るものに強い暗示をかける目、あるいは安心させる目、心酔させる目・・・グラーフはヒトラーに並々ならぬ力を感じた。まるで魔術師のような。僅かな恐怖とそしてある種の尊敬に近い感情が湧いた。

 グラーフは息を吐いた。

 「・・・分かった、総統がそこまで言うのなら貴方についてみよう・・・一人のドイツ人として、第三帝国の艦娘として」

 グラーフはベッドから立ち上がった。

 「よろしく頼んだぞ・・・Mein Führer(我が総統)」

 こうしてグラーフ・ツェッペリンはゲルマニア鎮守府の一員として戦うことを決意した。 

 

 




ルーク「ルークとー」
ヤン「ヤンのー」
ルーク&ヤン「人情紙芝居あとがきー」
ヒトラー「私もいるぞ」
ルーク「うわマジか」
ヤン「ちなみに今回はデイリー任務なかったねー兄ちゃん」
ルーク「まあ、こういう日もあるでしょう。毎日やるなんて酷ですし・・・」
青葉「ほっ、青葉も今回は一息つけそうで・・・」
ルーク「とでも思っていたのか?(ブロリー風)」
曙「へあっ!?」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「諦めろ、これも定めだ・・・はい死んだ!」ズダダダダピロリーン♪
青葉「何で青葉もおおおおお!?」ズダダダダだピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああ!?」ズダダダダピロリーン♪
ヤン「いつも思うんだけどさ、デイリー任務って必要なの?」
ヒトラー「確かにそうだな・・・一応やらねばならない神聖な儀式なんだが・・・なあ、これって報酬あったけ?」
モーンケ「総統閣下、真に申しあげにくいことですが報酬はありません」
ヒトラー「でしょうねぇ!!」
ルーク「というわけでここら辺で次回予告!」
ヤン「次回は多分番外編、シモ・ヘイヘが登場するよ!(本当)あと、ロンドンに血の雨が降ったりカツオが性転換手術したり、波兵が幽体離脱したりマスオ君が不倫したり、磯野家がテポドンで破壊されたり色々カオスなことになるでしょー(嘘)」
モーンケ「総統閣下、グデーリアンとガルパンのコラボも楽しみに待っていてください」
サザエ「それでは次回も見てくださいね!ジャン、ケン、ポン!鵜腐腐腐腐腐腐」
ヤン「誰だお前」

 ふざけてすんません



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48話 番外編3~白い死神は今日も練習~

 とても白い世界があった。

 見渡す限りの白い雪原。空も雲に覆われ、見渡す限り白一色に世界が支配されている。ただ数えるほどの針葉樹林や枯れた草がそれに抵抗しているに過ぎない。

 そしてその雪の上に一人の男が寝そべっていた。

 身長150センチほどの小柄な男は130センチほどもあるライフルを構え遠くを見つめていた。

 ライフルのアイアンサイトの先にはおよそ人とは程遠い姿の何かがいくつかいた。

 黒い硬質の殻に覆われたもの、半漁人のような姿をしたもの・・・これを見てこれが人と答える者はいないだろう。それどころか、これが男の、そして人類にとっての敵――深海棲艦――であることは誰の目にも明らかだった。

 「・・・」

 声は出さない。

 ただじっと、息を潜めチャンスをうかがう。適切な距離に来るまで構え続ける。

 深海棲艦をとらえ続ける。

 そして。

 一瞬、おそらく旗艦であろう深海棲艦が顔をこちらに向けたその瞬間、男はライフルの引き金を引いた。

 瞬間轟く銃声、一瞬の間をおいて男の目は深海棲艦が頭から血と脳漿をぶちまけて雪原に倒れ伏すのを確認した。

 それとほぼ同時にボルトを素早く操作、弾薬を装填し次の標的に照準、発砲を繰り返す。次々と深海棲艦が雪原を赤く染めていく。

 30秒もしないうちに上陸した深海棲艦の集団は全滅していた。

 敵の全滅を確認すると男は愛用のライフル、モシン・ナガンを構え直し傍らに置いてあったスキーに乗ると雪原を走り出し、どこかへ消えていった。

 男の名は、シモ・ヘイヘ。

 かつて冬戦争でソ連兵からおそれられ「白い死神」と呼ばれた彼もまた、現代によみがえり、深海棲艦との戦いに身を投じていた。

 

 

 

 深海棲艦は国を選ばず、世界の各地でその猛威を振るっていた。

 北欧とて例外ではない。バルト海を中心に、フィンランドをはじめ、スウェーデンやデンマークなど北欧諸国も深海棲艦と死闘を繰り広げていた。

 海上戦力が豊富とは言えない北欧ではフィンランドをはじめ、各国が深海棲艦の上陸を許しており、戦況が好転した現在でも深海棲艦の上陸阻止作戦や掃討作戦が繰り広げられていた。

 シモ・ヘイヘはまさにそのような状況の中よみがえった。

 まだ寒さが凍てつき雪が輝く冬の季節、あたり一面が雪で覆われる今日もシモ・ヘイヘはモシン・ナガン片手に深海棲艦の掃討を行っていた。

 「・・・」

 一言も発さずにヘイヘは雪の中を進んでいく。

 周りは見渡す限りの雪だ。なにもない。

 ふと、ヘイヘは立ち止まり、双眼鏡を構えた。

 ヘイヘのはるか前方には深海棲艦の戦艦がいた。周りにはおそらく支援の駆逐艦もいくつかいる。おそらく、わが軍の警戒をかいくぐり上陸した深海棲艦が国土を制圧するために攻撃準備を整えているのだろう。

 双眼鏡を下したヘイヘはモシン・ナガンに弾薬を装填した。

 彼の使うモシン・ナガンは特注品だ。

 当然のことながらライフル弾で艦船の装甲をぶち抜くのは不可能、子供でも分かることだ。

 もちろん、艦娘が使う弾薬を使えばそれも可能だが、しかし、すると今度は新たな問題が発生する。

 反動だ。砲弾の反動を生身の人間は絶えることはできない。

 かつて、深海棲艦との戦いで人類は艦娘用の弾薬を小型であることを利用して、歩兵用の兵器に転用しようとしたが失敗した。その理由はまさにその反動の抑制にあった。

 多額の研究費用を投じて、ついに歩兵でも扱える艦娘用の弾薬を打ち出すライフルの開発に成功したが、しかしコストがあまりにも高く、普通に艦娘を生産して戦わせるほうが効率的、ということになり結局すぐに廃れた。

 ヘイヘが使う特注のモシン・ナガンはまさにその唯一の試作品だ。

 おそらく、そのモシン・ナガンはヘイヘのために作られたのかもしれない。

 「・・・」

 ヘイヘは深海棲艦に接近すると地に伏せて、ライフルを構えた。

 レンズの逆光で気かれるのを嫌い、スコープは用いない。

 アイアンサイトだけで敵を捕らえる。

 狙うのは戦艦の弱点だ。

 装甲の薄い副砲を打ち、誘爆を狙う。

 照星で、深海棲艦の副砲をとらえ、照門で正確に照準する。

 敵は気づいていない。

 気を伺い、ただひたすら待つ。

 そして。

 ヘイヘは引き金を引いた。

 白い、静かな雪原に火薬の爆発音が響く。

 一瞬の間をおいて、深海棲艦の副砲に火花が散った。

 違和感を感じたのだろう、深海棲艦が副砲に目をやった次の瞬間、弾薬や燃料に誘爆、深海棲艦の体が大爆発を起こした。

 それと同時にヘイヘは周りにいたほかの深海棲艦を次々と狙撃した。

 ヘッドショット、またヘッドショット。

 雪原に血と脳漿の絵画を描いていく。

 30秒もしないうちに敵の深海棲艦群は全滅した。

 「・・・」

 勝利に対し、ヘイヘは何も言わない。彼にとってはやるべきことをやっただけに過ぎない。祖国のために戦ったに過ぎない。練習に過ぎない。深海棲艦は的に過ぎない。

 ヘイヘは戦果を確認するとスキーに乗り、またどこかへ雪原を進んでいった。

 今日もまた、ヘイヘはフィンランドの白い雪原で深海棲艦を狙撃する。

 

 

  

 



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49話 地下室の研究~知らないほうが幸せなこと~

 まえがき
クレープス「そういえば思ったんですが」
ヒトラー「何だ?」
クレープス「巷では、エラー娘、エラー猫のコンビが諸提督のPCを荒らしまわり、作戦を妨害していますが、我がゲルマニア鎮守府では姿を見ませんね」
ブルクドルフ「たしかに。一体何故なんでしょう」
ヒトラー「理由はこれだ」
ブロンディ「ワン」(エラー猫を口にくわえている)
大尉「わんわんお」(エラー娘を吊し上げている)
エラー猫&エラー娘「」
クレープス&ブルクドルフ「」
ヒトラー「犬のブロンディと大尉のおかげでわが鎮守府は作戦を妨害されず、順調に進められているのだ。わかったかな?」


 ゲルマニア鎮守府の地下室。

 地下牢で囚われの身になっていたヒムラー、ヘス、ゲーリングの3人は親衛隊員のローフス・ミシュと共に同人漫画やフィギュアの制作に取り掛かっていた。ヒトラーのご機嫌をとって何とかこれからの待遇を良いものしようというわけである。

 「えっと・・・下書きはこんなもんでいいのかな?」

 「もう少し色を塗る必要があるな・・・ゲーリング?」

 「はぁ~この接着剤のにおいたまらねぇ~」

 「あの・・・なんかシンナー中毒になりかけていますが」

 「だめだこいつ・・・早く何とかしないと」

 4人が何だかんだで制作を進めていると、地下牢の前をガラガラという音を立てながらストレッチャーが白衣の男たちと親衛隊員らによって運ばれていった。

 ストレッチャーの上には人間の大きさほどのものが布にくるまれて載せられていた。

 何やらシミのようなものがついており、一瞬強い血臭がした。

 ヒムラーが顔をしかめた。

 「・・・今のはなんだ?血の臭いがしたが・・・まさか戦死者か?」

 答えたのはミシュだった。

 「いえ、戦死者じゃありません。ただ・・・地下室じゃよく見られる光景です」

 「じゃああれは何だ?」

 「さあ・・・私も詳しくは知らないんです。地下室で何か研究をやっている、ということぐらいしか・・・まあ、詮索はしないほうがいいと思いますよ。よく言うじゃないですか、知りたがり屋は嫌われる、長生きしないって」

 「「「・・・」」」

 三人はしばらくの間沈黙していたがまた作業を再開した。

 

 

 

 ゲルマニア鎮守府は表向きは普通の鎮守府だ。

 強いて他の鎮守府との違いを挙げるなら、戦力が非常に大きいこと、施設がより充実していることであろう。

 その豊富な施設をさらに拡張してゲルマニア鎮守府は裏で秘密の研究を行っていた。

 ゲルマニア鎮守府、秘密地下室。

 そこには様々な音が響いていた。

 機械や兵器を製造する音。

 研究員や将校達が議論を交わす音。

 装置の調整音。

 そして、深海棲艦や捕虜が実験に耐え切れず死の断末魔を上げる音。

 そんな哀れな彼らを親衛隊員たちが「処分」する音。

 表で働く艦娘たちが知らないおぞましい世界が地下室にはあった。

 そんなおぞましい施設の何人かの男たちが歩き回っていた。

 「・・・して、例の研究はどれほど進んでいるのかね、マックス少佐?」

 ゲルマニア鎮守府の司令官にして第三帝国の総統であるアドルフ・ヒトラーは様々な標本や実験装置を見ながら、傍らの小太りの男に聞いた。

 「実に順調、まったく順調であります総統閣下。最初はまあ、実験用の深海棲艦や捕虜を捕えるのにずいぶん苦労しましたが、最近はモルモットに困ることがなくなりました。おかげで研究もずいぶん進んでいます」

 眼鏡に小太りの男、親衛隊少佐モンティナ・マックスは笑いながら答えた。その顔はとても楽しげであった。

 ヒトラーは頷きながら言った。

 「うむ、最近は親衛隊が・・・君の『最後の大隊』が実験体の捕獲に慣れてきたからな。モルモットには困ることはないだろう。・・・ところで少佐、これは小耳にはさんだ話だが、近々大本営は深海棲艦に対し大攻勢をかけるつもりらしい」

 攻勢、という言葉に少佐はさらに楽しげな顔をした。まるでプレゼントを前にした少年のような顔であった。

 「ほう、攻勢!してそれはいつぐらいになりそうですか、総統?」

 「詳しい詳細はまだ分からないが・・・おそらく年内には。少佐、例の吸血鬼はいつぐらいに完成するかね?」

 ヒトラーの質問に代わりに答えたのは少佐の隣に立つ、血まみれの白衣を身に着けた男――ドクであった。

 「そうですな・・・このまま順調にいけば年内には前線で試験を行うぐらいにはなれるかと」

 「試験か・・・できるだけ急ぎたまえ。吸血鬼化の技術が完成すればわが鎮守府はさらなる戦力を手に入れられる」

 ドクは頷きながら言った。

 「善処いたしますが・・・やはりなかなか困難な研究でしてな。例の『石仮面』があればもっと楽になるのですが・・・」

 ヒトラーは人ひとりほどの大きさのガラス管を前で立ち止まった。

 「・・・少佐。楽しいかね」

 中が水で満たされたガラス管を見ながらヒトラーは少佐に問うた。

 少佐は笑いながら言った。

 「楽しいに決まっていますとも。もう一度戦争ができますからな。我々の大好物である戦争が」

 少佐もヒトラーと共にガラス管を見つめる。

 「・・・総統と初めてお会いするずいぶん前から、いや恐らく生まれる前から私は戦争が大好きだった。寝ても覚めても、どうやって戦い、そうすれば勝てるかそんなことばかり考えていた。我々は戦争しか能がないどうしようもない人でなしだった。ですが私は信じでいるのです。この世界にはそんなどうしようもない我々を養うに足るだけの戦場が存在し脅威と驚異に満ち溢れ、私たちを楽しませてくれると。総統は私にそのことを教えてくださり、与えてくれた。こうしてまた蘇った以上、とことん『戦争』をするつもりです」

 ヒトラーは少佐を見た。

 「・・・君には昔から随分期待してきた。そして今も。君ぐらいの狂気、、狂信さが我々の武器であり、強さなのだ。これからもよろしく頼む」

 「もちろんですとも」

 少佐は笑った。

 彼らはまた歩き出した。そのほかの研究についてまた議論を始める。

 「吸血鬼研究に関しては常に報告を受けているので現状は把握しているが・・・他方面の研究はどうなっているのかね?」

 「そのほかの研究も順調です。最新兵器の開発のほかに、エイルシュタットの『白き魔女』のクローン製造も着々と進んでおり・・・」

 本来、この鎮守府の裏の顔を知る者は艦娘ではまずいなかった。

 しかしこの時、ヒトラーたちの様子を隠れて見ていた艦娘が1人、いたのである。

 

 

 「・・・何、これ・・・」

 深海棲艦や捕虜を使った生体解剖、毒ガス実験、残虐な人体実験。

 軽巡洋艦夕張は目の前で繰り広げられているおぞましい光景にただ呆然とするしかなかった。

 本来、この地下施設は秘密の施設であり夕張のような艦娘たちはこのような施設や惨状の存在は知るところではないはずであった。

 しかし今回彼女は運が悪かった。

 夕張は装備の開発についてある急用で親衛隊中尉ヨーゼフ・メンゲレを探していたがどこにもおらず、工廠に存在する秘密の地下施設専用のドアが珍しく歩哨もおらず開いているのを見て、もしかするとあそこにいるのかも・・・と入っていったのだ。もちろん、地下施設に許可なく入ってはならないという規則を彼女は知っていたが急ぎの用事であったし、少しぐらいなら・・・と思いドアに向こうに足を踏み入れたのだ。結果として彼女の目の前にはお目当てのメンゲレではなく残虐な光景が広がっており、自らの行動を後悔する結果となった。

 目の前に広がる惨状にすぐ逃げようとしたが、しかし恐怖で足がすくみ、なかなか逃げ出せずにいたのだ。

 結局物陰に隠れ目の前の広がる惨状やヒトラーたちの会話を聞きながら様子を見ていた。

 「何なのよ、これ・・・敵だからって・・・許されることだと思っているの・・・?総統は何でこんなことを・・・」

 モルモットのように捌かれ、死の断末魔をあげ、ゴミのように焼却処分されたり、ガス室で殺されていく深海棲艦や捕虜に、夕張は敵とはいえ同情の念を持たざるを得なかった。

 充満する血臭や悲鳴に耐え切れなくなった夕張は何ともしてもここから逃げなくては、と思い、足を踏み出そうとした・・・しかし足がすくんで思うように動かない。

 思わず、間違って後ずさりしてしまった・・・と、その時、背中に何かが当たった。

 感触で人だとすぐに分かった。

 「え?」

 「Was(何だ)?」

 夕張が振り返ると、目の前にはおそらくここの警備であろう親衛隊員が夕張の目と鼻の先にいた。

 規格帽に戦闘服を身に着け手にはMP40短機関銃、手榴弾も身に着けている。どう見たって、侵入者――夕張のような人間に対処するための装備だった。

 「あ・・・あ・・・」

 「・・・」

 見つかった。見つかってしまった。

 そう夕張が認識した瞬間、親衛隊員は壁のスイッチを押しながら叫んだ。

 「Der Eindringling(侵入者だ)!」

 瞬間、地下室のランプが赤く染まり、サイレンが鳴る。

 次の瞬間、夕張は目の前で火花が散ったような気がした。そして気づけば先ほどの親衛隊員に床に組み伏せられていた。しっかりと関節を固められ、夕張は動けずにいた。

 そうしている間にもガチャガチャガチャ!と足音と装備の音を響かせながら武装した親衛隊員たちが夕張の周りを囲んでいった。

 「侵入者だ」 

 再度親衛隊員が言った。

 「艦娘だ。ここをうろついていた。ロープを」

 為す術なく、あっという間に拘束される夕張。

 いったいどうすれば・・・と夕張が考えていると「いったい何事だ?」と、聞き覚えのある声がした。

 声のしたほうを見ると、そこにはあのヒトラーに少佐やドク、大尉がいた。

 ヒトラーは拘束されている夕張を見て目を見開いた。

 「君は・・・なぜ此処に」

 「総統こそ・・・これは一体・・・どういうことなんですか?」

 「見ての通りさ御嬢さん」

 少佐が笑いながら答えた。

 「我々が戦争をするための準備をしている。ただそれだけに過ぎない」

 屈強な親衛隊員に拘束されながらも夕張は勇気を振り絞り言った。

 「こんな・・・敵だからってこんなことをして・・・許されるともっているんですか?深海棲艦だけじゃない、人間もいましたよ!?どういうつもりなんですか?」

 ヒトラーが首を振りながら言った。

 「夕張、これは確かに美しくないかもしれないが必要な行為なのだ。我々が勝利と栄光をつかみ取るために必要な行為なのだ」

 「こんな残虐な人体実験をすることが必要な行為?ふざけないで・・・っ」

 「正当な目的のためならば手段も正当化される。そうだろう?」

 ヒトラーの言葉に少佐も反応した。

 「総統の言うとおりだよ、御嬢さん。もっとも、私たちの場合は戦争という手段のためにやっている。手段のために目的や手段を選んでいるがね」

 「少佐殿、総統閣下、いかがいたしますか」

 ドクが言った。

 「ここの存在を知られた以上、解体するか処刑するか・・・この女は我々の探究心を、大隊指揮官殿と総統の邪魔をしようとしていますぞ」

 ドクの言葉にヒトラーは答えた。

 「いや・・・確かにそれが正しい選択かもしれんが・・・夕張は非常に優秀な艦娘だ。これまで武器装備の開発で数々の功績を出した。このまま解体するのには惜しい・・・」

 ヒトラーは夕張をじっと見つめた。

 「すぐに決定する必要もあるまい。しばらく牢に入れるように」 

 「Ja(はい)」

 ヒトラーは夕張を見つめて言った。

 「夕張、いずれ分かる時が来る・・・これが必要なことであると」

 「・・・」

 夕張はヒトラーを見つめ返した。

 はたしてこれから夕張にどのような運命が待ち受けているのか・・・それは彼女の運次第である

 

 

 

 




ルーク「ルークとー」
ヤン「ヤンのー」
ルーク&ヤン「人情紙芝居あとがき―」
ルーク「いやーついにばれちゃいましたよ、少佐のやってること」
ヤン「ほんと、世の中には知らないほうがいいこともあるんだねーところで兄ちゃん、なんか忘れてない?」
ルーク「何を?」
ヤン「あれだよあれーいつも毎回やるやつー」
ルーク「あーあれかー。そんならすぐやるぞー。おーい総統閣下ー」
ヒトラー「なんだ、いきなり人を呼び出して」
ヤン「総統、いつものあれやってくださいよ。俺たちいつもあれを楽しみしてるんすよ」
ヒトラー「いつものあれ?・・・ああ、あれのことか。いかんいかん、忘れるところだった。おい、フェーゲライン!」
フェーゲライン「?なんでしょうk」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダダピロリーン♪
青葉「何で青葉もおおおおおおお!?」ズダダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃああ!?」ズダダダダダダピロリーン♪
霞「なによこのクz・・・ってぎゃああああ!?」ズダダダダダダピロリーン♪
ヒトラー「ふう・・・今日もデイリー終了っと」
ヨードル「・・・なんかいつもと違う気がするんですが」
ゲッベルス「ああ、私が総統に頼んでデイリー任務の担当に霞を加えたんだ」
ヒトラー「ああ、霞は日ごろの態度悪いからな。だって、総統の私に『このクズ!』て言うんだぞ?すこし教育的指導が必要だと思ってな」
霞「はぁ!?それで逆ギレ!!?だらしないったら!!」
フェーゲライン「あきらめろ、もうこの任務からは逃れられないんだ。運命なんだよ・・・」
ヒトラー「まだ懲りないようだな。ではもう一度」
霞「ふざけるんじゃないわよ!たかがその程度で処刑するなんt」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダダピロリーン♪
青葉「何で青葉もおおおおおおお!?」ズダダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃああ!?」ズダダダダダダピロリーン♪
霞「なによこのクz・・・ってぎゃああああ!?」ズダダダダダダピロリーン♪
ルーク「初の連続デイリー!!」
ヤン「新しいデイリー任務要員に霞が加わっていいことだらけだね!!」
ヒトラー「それでは結構長くなったのでここで〆の言葉!!」
ヒトラー「一度でいいから揉みたいな!加賀さんの目に刺さるような!!おっぱいぷるーんぷるん!!」

ふざけてすんません

  


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50話 デイリー任務~作戦会議~

 日の出前のまだ少し暗い朝、ゲルマニア鎮守府の士官用寝室で親衛隊中将フェーゲラインと重巡青葉の二人が同じベッドの中で添い寝していた。二人の両隣りには曙と霞まで一緒になって眠っていた。

 この二人(と曙と霞)はこの鎮守府において最早彼氏彼女、リア充と言って差し支えない関係になっていたのであった。

 「ううん、そこだ・・・いいぞ・・・」

 フェーゲラインがそんな寝言を言っていると突然、激しい音とともに寝室のドアが開けられた。

 びっくりしてフェーゲラインや青葉が目をこすりながら体を起こすと同時に、ドアから続々と武装親衛隊員が入ってきた。

 上官らしき男がフェーゲラインに対し言った。

 「フェーゲライン、デイリー任務の時間だ」

 「・・・え?」

 「みんなの目覚ましになってもらう」

 「嫌だよ、もう少し寝かせてくれ・・・」

 フェーゲラインは彼の言葉を無視して青葉と一緒にまたベッドに潜り込んだ。

 上官が顎で部下たちに指図する。

 部下たちは頷くとベッドに近づき、フェーゲライン達を力ずくで拘束しようとした。

 「うわあ、何をする!!もう少し寝たいのに!!青葉ちゃんをぎゅってしたいのに!新年初の投稿がデイリー任務かよ!!やめてくれ、あれ痛いんだからさ!!たまにはゲッベルスとかでやれよ!!」

 「黙れリア充!お前ら見るだけで虫唾が走るんだよ!!」

 彼女いない歴=年齢の悲しき孤独な親衛隊員達がフェーゲラインを罵倒する。

 「なんで青葉も捕まるんですかぁ!?」

 「ちょっと何をするのよ!」

 「離せこのクズ!死ね!」

 青葉や曙、霞も為す術なく拘束され、フェーゲラインたちは鎮守府の中庭へと連れて行かれた。

 

 中庭にはすでに大勢の兵士たちや将校、そしてヒトラーが待機していた。

 「総統閣下、連れてきましたあとは閣下の指示を待つのみです」

 部下の言葉にヒトラーが頷く。

 「うむ。デイリー任務は重要だし、何よりリア充には制裁を与えねばな」

 フェーゲライン達を取り囲むようにしていた兵士や将校(非リア充、オタク、変態)達が次々と罵倒の声を上げる。

 「このリア充め、添い寝とはどういうことだ!!」

 「幼女にも手を出すなんて、バッキャロー!!」

 「俺たち非リア充の身にもなって考えろ!一人で三股するとか!!ダサいし!!」

 「男の敵め!男の敵め!お前を処刑できると思うと!スカッとするぜーッ!」

 「よろしいならば戦争だ」

 罵詈雑言の中、フェーゲラインはついに諦めるように首を振った。

 仕方ない、これも運命だ。これがデイリー任務の宿命・・・

 ヒトラーの命令が響いた。

 「KO☆RO☆SU」

 次の瞬間、武装親衛隊員たちの構えたMP40がフェーゲライン達に向かって連射された。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおおお!?」

 「ちょ、デイリーは二人の任務で、ってぎゃああああああああ!?」

 「ちょ、このクズ何すんのよ、ってぎゃあああああああああ!?」

 訓練弾をもろに食らいフェーゲライン、青葉、曙、霞は地面にどさりと倒れた。同時に、ピロリーン♪という謎の音が中庭に響いた。

 「女三人と添い寝するようなリア充には死を」

 ヒトラーはそう呟いて解散を命じた。

 

 

 

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 いつものようにヒトラーとその取り巻き達が次の作戦について話し合っていた。

 「・・・南方の深海棲艦の活動は現在沈静化しており・・・」

 「いま最も警戒すべきは・・・北方海域・・・」

 「もっと資源が必要・・・弾薬と燃料の確保が急務、ボーキサイトは幾分か余裕が・・・」

 側近達の話を一通り聞いた後で、ヒトラー椅子に座りなおすと彼らを見た。

 「諸君、君たちも話は聞いているかもしれないが近々大本営は、南方の海域の奪取と支配のため、一台攻勢計画を練っているという。現在我が鎮守府は最も戦力が多く、作戦の中核を担わされる可能性は高いだろう」

 現在、東京の防衛省・・・大本営では上層部によって南方海域への一大攻勢計画が立てられていた。当然、その情報はヒトラー達のもとにも届いていた。

 ヒトラーの言葉にクレープスが頷いた。

 「確かに閣下の言う通りです。西方海域を制圧し、日本のシーレーン、生命線といえる輸送航路を確保したとはいえ、まだそれだけでは十分ではありません。南方海域では深海棲艦の主力が跋扈し、文字通り人一人っ子近づけん状況です。そもそも主力の数もほかの海域と比べ桁違い。現在は沈静化しているとはいえ、何時こちらに大攻勢を仕掛けてくるか・・・新たな資源確保のため、そして何よりも今後の憂いをを絶ち深海棲艦に対する優位を確固たるものにするためにも南方への攻勢は重要でしょう」

 確かに、南方海域はそれまでとは桁違いの数の深海棲艦が跋扈しており、掃討もままならない状態だった。これまでとは違う桁違いの物量、質ということもあり、今深海棲艦に対しどちらかといえば優位といえる状態の人類側にとってはその脅威は相当な頭痛の種であり、不安材料だった。

 逆に言えば、この深海棲艦の巣窟ともいえる南方海域を解放し支配すれば、人類側の勝利への道は決定的なものになるといっても過言ではない。

 防衛省やヒトラー達が南方への進撃を考えるのは当然であった。

 しかしもう一つ不安材料がある。

 ヘルムート・ヴァイトリング大将が地図を指さしながら総統に言った。

 「しかし総統閣下、北方海域では深海棲艦の活動が活発化しつつあり、姫級が活動しているのではないかとの情報も非常に不確実ながら報告されています。南方に戦力を集中しては逆に北方や東方の海域から叩かれる恐れが・・・」

 要するに彼は南方を警戒するあまり、北方ががら空きになったり、二正面作戦になることを恐れているのだ。

 ブルクドルフが反論する。

 「確かに北方海域や東方からの攻撃には警戒すべきだ。しかし現在の、一番の懸案は南方の深海棲艦だろう?今までと違う物量、質を誇る一番の脅威だ。今叩くべきはここだろう」

 周りの将軍たちもそれぞれの意見を述べたり議論を始めたりした。

 ヒトラーの周囲がざわつく。

 ヒトラーはしばらくして将軍たちの議論を手で制すと結論を述べた。

 「今ヴァイトリングが言ったように」

 ヒトラーは将軍たちを見る。

 「北方海域も見過ごせない。しかし今一番の脅威にして敵の中核は南方に存在する。多方面に警戒しつつ、南方海域の敵を撃滅し、これを我が物にするべし。これが今我々がすべきことであろう。大本営から指令が来るのもそう遠くはあるまい。南方制圧に向けた作戦計画を練り上げること。そして、来るべき作戦に備え、艦娘の練度をさらに上げ装備、資源を充実させること。すぐに取り掛かれ、計画を練り上げるぞ、作戦から艦娘の訓練に至るまで」

 ヒトラーの命令に将軍たちは答えた。

 「Heil Hitler」

 

 

 

 会議の後、地下の資料室で地図や資料を広げなら、長身の男が思考を繰り広げていた。男はドイツ陸軍の将校の制服に身を固めじっと地図を見つめていた。襟の階級章には元帥であることを表す柏葉の紋章が金色に輝いている。

 ドイツ陸軍元帥、エーリッヒ・フォン・マンシュタインはヒトラーの命に従い、南方の制圧に向けた作戦計画を一人練っていた。

 「南方海域の奪取、か・・・この敵の桁違いの戦力・・・独ソ戦を思い出すな・・・」

 電灯に照らされた顔が僅かに動いた。

 何しろ今までとは桁違いの物量の敵を相手にするのだ。ドイツ軍最高の頭脳をもってしてもすぐに有効な作戦を練るのは難しい。

 マンシュタインにとって、圧倒的物量を誇るソ連との戦いを思い起こさせた。

 「・・・あの時の失敗を繰り返さぬようにしなければな・・・」

 マンシュタインはまた思考を再開した。来るべき勝利を確実なものにするために。

 傍らのヒトラーから渡された作戦計画書には「バルバロッサ作戦」と書かれていた。



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51話 比叡カレー~総統閣下は昼食にするようです~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室内で総統アドルフ・ヒトラーは側近たちと共にいつものように会議をしていた。

 クレープスが机の上の資料を指さしながらヒトラーに説明する。

 「・・・総統の指示に従い、工廠で新兵器の開発を行いましたが、すべて失敗に終わりました。出てきたものはキャベツ育成装置にジャスタウェイ、クーゲルパンツァーにタピオカパン、TENGA、ジャパリまんと、悲惨な結果に終わりました。なんか変なものばかり出ていますが、そこはいいとしてもうお昼になりました、そろそろ昼食になさいませんか、総統閣下?」

 クレープスの問いにヒトラーは答えた。

 「そうだな、なんか色々おかしいが後回しにして昼食にするとしよう。確か、鳳翔が特製野菜炒めとケーキを作ってくれていたな、それを食べよう」

 ヒトラーは楽しそうな声で側近たちに言った。鳳翔や間宮はヒトラーの料理係を特別に任されていたが、その味は他のものに比べ格別でヒトラーのささやかな毎日の楽しみとなっていたのだ。

 が、その言葉を聞いた瞬間、側近たちの表情は気まずくなった。

 ブルクドルフがクレープスの顔をちらりと見た。

 クレープスがわずかにうろたえた。

 「・・・総統閣下・・・本日の昼食メニューですが・・・」

 うろたえるクレープスを見てすかさずヨードルがフォローした。

 「今日の総統の昼食は私と赤城が間違って食べてしまいました。ごっつぁんです。係の鳳翔と間宮は今日病気で寝込んでいて休みです。なので急遽、戦艦比叡にカレーを作らせました」

 間もなくして、ヒトラーの前に件の比叡が作ったというカレーが運ばれてきた。

 そう、カレーが運ばれてきたはずだったのだ。

 しかしそこにあったのは。

 「・・・」

 なんというか、全体的に紫がかった、非常に毒々しい色をしたどろどろの「何か」だった。これがカレーですと言われてそうですか、と言うものは赤ん坊でもまずいまい。

 なんか終始ぼこぼこ泡が出ているし、匂いもゲロ以下の匂いがする。

 ヒトラーの脳が危険信号を発した。これは食べてはだめだ、と。

 しかし同時にいや、食べてみたら意外とうまいかもしれんぞ、それに女の子が一生懸命作ってくれたんだ、一口も食べないのは失礼じゃないかという思いも脳内に現れた。

 ヒトラーはクレープスに聞いた。

 「・・・なあ、これ本当にカレーか?私にはただの物体Xにしか見えが・・・」

 「総統閣下。それは確かにカレーです。比叡の特製カレーです。ただ普通とはちょっと違う製法で作っただけです」

 「ちょっと違う製法でこうなるか普通?ねえ、他になんか食い物ないの?パンとかないの?お前いつもパン食う?って聞いてくるじゃん」

 「ありません。ていうか早く食えよ。折角女の子が作ってくれた食い物を無駄にする気か?ドロップキックするぞ?ちょび髭と違って俺達はいつも艦娘の手料理食えなくてスーパーの食材で我慢してんのに」

 周囲の部下に殺意のこもった目で見つめられるヒトラー。

 「・・・」

 しばらくカレーだといわれた物体Xをじっと見つめた後、ヒトラーは意を決してスプーンを握り、一口すくって口へと運んだ。

 そして――

 

 

 しばらくした後、机からカレーは片づけられていた。

 椅子にはヒトラーが項垂れるように座っている。

 その様子は非常に疲れ切って衰弱しており、息切れをわずかに起こしていた。

 しばらくヒトラーは机を向いて黙っていたが、やがて震える手でメガネをはずして、静かに周りの側近たちに言った。

 「さっきの物体がまともなカレーだと思うやつ、作るのを許可した奴、残れ。そして比叡を連れてこい、アンポンタン」

 

 

 ゲルマニア鎮守府、食堂。

 金剛型戦艦2番艦の比叡は台所を片付けながら鼻歌を歌っていた。

 「うう~ん、やっぱり料理は疲れるなぁ・・・総統、私のカレー気に入ってくれたでしょうか」

 今日は特に訓練も出撃もなく姉の金剛とお茶でもしてゆっくり過ごそうかと考えていた矢先、クレープス達がやってきた。そして、今日の総統の昼食係が病気で休みなので代わりに君がカレーを作ってほしい、と言われたのだ。

 金剛に手伝ってもらいながらなんとか完成させることができた。途中で異臭がしたり、完成したとき金剛に「その料理を本当に総統に出すつもりですカ!?今すぐやり直すネー!!」と言われたりしたが、クレープスやブルクドルフに「いいな、これ!仕返しにはもってこいのカレーだ!」「これなら総統も悶絶して気に入ってくれるだろう!」と絶賛、OKが出た。

 正直料理はあまりしないが少しはうまくできたつもりだ。今頃、総統は私のカレーに舌鼓を打っていることだろう。

 鼻歌を歌いながら台所を片付けていると、ヒトラーの秘書ボルマンがやってきた。

 「なんですか、ボルマンさん?」

 「・・・総統がお呼びだ。すぐに来なさい」

 その表情は厳しいものだった。

 さっきのカレーが気に入らなかったのだろうか?

 比叡とボルマンは総統執務室へと向かった。

 

 

 比叡が総統執務室に入るなり、ヒトラーの怒りが爆発した。

 「・・・何なんだ、さっきのカレーは!?お前ら私を殺すつもりか!?そもそも、あれはカレーなどではなかった、あれは毒薬や発癌剤を煮込んだようなもんだったぞ!どうやったらあんなカレーになる!?味も臭いもゲロ以下の臭いがしたし、第一、見た目がもう完璧にヤバかったぞ!?あれを人間に食わしてはいけないことは赤ん坊でもわかるわ!!お前ら明らかに嫌がらせで私に出しただろ、そんな奴らなんか大っ嫌いだ!!」

 ヒトラーの怒りの声にブルクドルフが反論する。

 「じゃあ総統閣下、そのあからさまに食べてはいけない物体Xを食べたんですか!?」

 「うるせえ、大っ嫌いだ!腹減ってる上にお前らが殺気こもった目で見てくるからだろバーカ!!」

 「ああ、そうだよ、嫌がらせで出したんだよ!!比叡のカレーはまずいからな!!」

 ブルクドルフは嫌がらせであったことをあっさりと認めた。

 ヒトラーの怒りはさらに増す。

 「やっぱり私のへの嫌がらせだったか!!」

 そのままヒトラーは持っていた鉛筆とスプーンを机にたたきつけた。鉛筆とスプーンが割れる。

 

 「畜生めぇ!!!」

 

 ヒトラーの怒りはまだ続く。

 「そもそも、カレーというの母親の愛情が詰まったお袋の味!そして女の子の手料理もまた愛情が詰まった最高のものだ。比叡はいい子だから、きっと善意から作ってくれたんだろう。ただ単にヘタクソだっただけなんだろう。それを嫌がらせに使うなんて・・・もうちょっと、作るときにフォローしたり、助言したりとかするべきだったのに・・・お前らは、そこら辺の判断力が足らんかった~~同じことをあいつにやってみろ、即粛☆清だぞ、そうスターリン!!」

 怒りのあまり、息が切れたのかはぁ、はぁ、と息を切らしてヒトラーは椅子に座った。しかし彼の話はまだ続く。

 「ところで話は変わるけどな・・・いつも間宮さんの作る料理を食べさせてもらってるけど間宮さんは本当にエロいよな。何がエロいかって、それはもちろん目に刺さるような!!おっぱいぷるーんぷるん!!」

 ヒトラーの言葉に周囲の部下は「うわぁ・・・」となる。

 「一度でいいから彼女のおっぱいを揉みたい!!水着姿を拝みたい!!そして、食堂で彼女と二人で手料理食べてるうちに恋が芽生えてくるのだ!!柴田さんもそれを望んでいるはず!!」

 クレープスはブルクドルフを見た。

 「柴田って誰?」「いやだから俺に聞くなし」

 執務室の外ではヒトラーの妻エヴァが呆然と扉を見つめ、秘書のユンゲがすすり泣く潮を慰めていた。

 「・・・エロゲーとアニメの見すぎね・・・」

 

 一連の話が終わり、執務室内は重苦しい空気に包まれた。

 比叡がすすり泣く声が響く。

 「総統・・・私のカレー・・・そんなにひどかったですかぁ・・・なにがいけなかったんですかぁ・・・」

 重苦しい雰囲気の中ヒトラーは言った。

 「結論を言えば・・・ちゃんとした料理を出してほしいということだ。比叡ちゃん、けなしたり、怒ってすまなかった。君が単純に善意から、愛情からカレーを作ってくれたことは私がよく分かっている。だが・・・もう少し勉強してから作ってほしかった」

 ヒトラーは部下たちに向き直った。

 「あと、お前ら、今回の件の罰としてお前らにもあのカレー食ってもらうからな。覚悟しろよ」

 こうして、ヒトラーの怒りは終わった。

 

 

 

 夜、、ゲルマニア鎮守府、ヒトラーの私室にて。

 ヒトラーは妻のエヴァ、空母艦娘のグラーフと加賀とともに静かに過ごしていた。

 「・・・それで、部下たちの日頃の仕返し、嫌がらせとして今回のカレーがフューラーに供されたと?」 

 グラーフがヒトラーから聞いたことの顛末をまとめる。

 ヒトラーがエヴァの作ったケーキを食べながら答えた。

 「ああ。どこで聞いたか分からんが、あいつら比叡のカレーが恐ろしくまずいって言う噂をどこからか聞いていたらしい。実をいうと私もそのうわさは聞いていたんだが・・・まさかあれほどまでとは」

 「・・・部下からそんなことされるってあなたにも原因があるのでは?」

 加賀がポツリとつぶやくように言った。

 「まさか。私は総統だ、きちんと仕事はしている」

 「日頃の態度を見ているとそんな感じはしないわね。どう見たって変態よ」

 「ひどいこと言うな・・・うん、やっぱりエヴァの作る料理が一番だ。特にケーキがな。」

 ヒトラーがエヴァを見て微笑んだ。

 エヴァも笑って答える。

 「当然よアドルフ。私はあなたの妻よ?これくらい出来なくてどうするの?」

 「はっはっ、いつもお前には悪いな。やはり君は素晴らしい女性だ。愛しているよ」

 「私も」

 ヒトラーとエヴァの様子を見てグラーフは加賀に言った。

 「・・・本当に結婚していたんだなフューラーは・・・」

 「ええ。あんな変態なのに嫌われないのが不思議ね。もっとも、なかなか放っておけない憎めない男なのだけれど・・・」

 「本当だな」

 ヒトラーが女性三人と楽しく過ごしている頃、どこからか、比叡カレーを食べている男たちの悲鳴が上がっていたのはまた別の話である。



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52話 番外編4 大英帝国の宰相

イギリス、ロンドン。

 かつて七つの海を支配した帝国の首都である。

 1999年にナチス親衛隊の残党である吸血鬼軍団「ミレニアム」、ヴァチカン、そして英国国教騎士団が繰り広げた三つ巴の争いにより、街は戦火に包まれ、人々はグールとなり、数百万人規模の犠牲者が出た。表向きにはバイオテロ事件として起こったその「戦争」はあまりの惨状に最早ロンドンの復興は不可能とみられていたが、しかしジョン・ブル魂を持った英国人たちにとってはそんなことすらも些細なことに過ぎなかったようだ。

 英国人の不断の努力により十数年の時を経て、今ではかつての景観、勢いを取り戻しつつある。

 そんな歴史と伝統、不屈さ溢れる街の一角、ダウニング街10番地、首相官邸である建物の一室で一人の男がじっと机に座っていた。

 薄くなりかけている頭髪、太った体躯、鋭く強い意志を感じさせる眼光、ブルドックのような顔。

 元英国首相ウィンストン・レナード・スペンサー=チャーチルの姿がそこにあった。

 不屈のリーダーシップを持った男もまた、現代に蘇り、英国の中枢で動いていたのだった。

 「・・・まさかあいつまで蘇るとはな・・・考えられたことではあったが・・・」

 チャーチルはとある資料を読みながら呟いた。

 その資料・・・日本に派遣されていた英国の諜報員が作成した資料には一人の男の写真があった。

 七三分けの特徴的な髪形に、何よりそれよりも特徴的なちょび髭。

 ドイツ第三帝国総統にして、ゲルマニア鎮守府提督アドルフ・ヒトラーの姿があった。

 「・・・ボヘミアの伍長め、勝手に蘇りおって。今度は何をやらかすつもりだ・・・?」

 大のヒトラー嫌いであったチャーチルは吐き捨てるようにそう言い、さらに資料を読んでいく。

 「・・・ヒトラーのみならず、ゲッベルスやデーニッツも蘇ったようだな。さらに問題なことには、あの男まで・・・」

 チャーチルが睨み付けた写真には金髪に小太りの眼鏡をかけた男が写っていた。男の隣にはコートと帽子を着込んだ男と変わったレンズの配置の眼鏡に血まみれの白衣を着た男の姿もある。

 ロンドンを壊滅に追いやった元凶、モンティナ・マックス、通称「少佐」。

 ただでさえ、ヒトラーだけでも大変だというのに、さらに危険な、憎むべき人間が蘇った。

 そしてそれが、極東の島国で深海棲艦と戦う艦娘の指揮を執っている。 

 これほど由々しき事態はないだろう。

 これがムッソリーニとか他の人間ならともかく、よりにもよってヒトラー一味だ。艦娘の、鎮守府の提督という地位だけで満足はするまい。いずれは真の目標・・・第三帝国の、枢軸国の再興をやろうとするかもしれない。もちろん今ある戦力だけでは不可能だろうが、艦娘をうまく取り込んで戦力にするかもしれない。吸血鬼を製造して戦力を増強するかもしれない。最悪の場合、深海棲艦を味方に取り込んでこちら側に牙をむくかもしれない。

 チャーチルをはじめ、事実を知っているイギリスの首脳陣にとってこれは誠に由々しき事態であった。

 「・・・危険だ。それだけはなんとしても避けねば・・・」

 可能であれば、戦闘員などをそこに送り込んでヒトラーたちを誘拐なり殺害するべきなのだろう。が、今ヒトラーが率いている鎮守府は極東では最大の規模で、太平洋における対深海棲艦戦闘における重要な地位を占めている。

 うかつに手を出すわけにもいかない。

 また、日本側もこの事実を知らないのか、知っていてヒトラーに指揮を取らせているのか、それもまた分かっていない。

 いずれにせよ、何とかしなければならないことに変わりはない。

 すでに英国国教騎士団も秘密裏に行動を始めているようだ。

 いずれ、自分も本格的に動くべきときがくるだろう。

 チャーチルが資料を睨み付けていると、執務室のドアが開き一人の女性が入ってきた。

 「Admiral、調子はどうかしら?」

 色白の肌に碧眼の瞳。方まで伸びた髪に、白い服。高貴さを漂わせるその女性はクイーン・エリザベス級戦艦、ウォースパイトであった。

 「・・・君か。こんなところで油を売ってていいのか?深海棲艦の活動が沈静化しているとはいえ、海軍基地は色々と忙しいはずだぞ」

 「大丈夫、今日は非番よ。久しぶりの休日だったし、Admiralのことが少し気になったから。そっちも色々と大変そうね」

 「ああ、通常の執務だけでも大変だというのに次から次へと懸案が現れる。ホント、ウンザリしちゃうよ」

 チャーチルは笑いながら持っていたヒトラーに関する資料を机にしまいこんだ。

 「ところで、陛下は・・・ジョージ6世はどうなさっている?うまく艦娘たちとやっているだろうか」

 「吃音のことなら問題ないわ。ライオネルもいるし、何とかやっているみたい。ただ・・・殿下は・・・」

 「エドワード8世がどうなさった?」

 「・・・相変わらず『王冠よりも愛だ!!』って言って執務放り出して遊んでいるわ」

 「・・・はぁ」

 吃音の国王や王冠よりも愛を選んだ国王のことや、他愛ないことを談笑しあい、雰囲気は和やかなものになっていく。

 しかし、チャーチルの頭の中は和やかではなかった。

 「そうだ、せっかくだからお茶にするか。いい茶葉がある」

 「いいわ、そうしましょう」

 (・・・さて・・・あのボヘミアの伍長と少佐・・・どうするか・・・)

 ウォースパイトとティータイムの準備をしながら、チャーチルはヒトラー一味のことをどうするか、次の一手を考えていた。

 ロンドンの一日は今日も静かに過ぎていく。

 



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53話 禁断の実験~石仮面と深海棲艦~

ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおお!?」ズダダダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務で、ってぎゃああああ!?」ズダダダダピロリーン♪

デイリー達成☆


 硫黄島。

 かつて深海棲艦によって陥落させられ、数か月前ヒトラー率いる艦娘達によって奪還された島。そこには現在、対深海棲艦戦闘の拠点とすべくゲルマニア鎮守府の出張基地が展開されていた。

 表向きはゲルマニア鎮守府やその他の艦娘・部隊の出張部隊が展開する基地である。

 しかし、ヒトラーをはじめとするゲルマニア鎮守府の面々は密かに硫黄島に大改修を加え、地下に秘密研究施設を作っていた・・・

 

 

 「はぁ・・・あ~~暑苦しいなぁ・・・いくらドイツと総統閣下のためとはいえ、こんなジメジメして薄暗いところに長いこといるのは応えるな・・・」

 地下施設の廊下を一人の大柄な男が歩いていた。

 親衛隊の制服を着用し、襟元の階級章からは彼が大佐であることが分かる。

 しかし何よりも特徴的なのは右目に装着された奇妙な片メガネのような物体に手袋と制服の袖の間からちらちらと見える金属製の腕であろう。

 男が廊下を歩いていると、向こうから部下が歩いてきて、男にナチス式敬礼をした。

 「ハイル・ヒトラー!シュトロハイム大佐、体の調子はどうですか?」

 「ハイル・ヒトラー!調子なら今日もすこぶる快調だ!!わがナチの科学力は世界一だからな!」

 部下の問いに男は笑いながら金属製の腕を振り回した。

 男の名はルドル・フォン・シュトロハイム。ナチス親衛隊の大佐にしてナチスがその科学力を結集して作り上げた最強のサイボーグ。

 スターリングラードの戦いで壮絶な戦死を迎えたはずの彼だったが、やはりというべきかこの男もまた現世に蘇りゲルマニア鎮守府の一員として戦っていた。

 「それよりも大佐、ご報告したいことが・・・」

 「なんだ?」

 「総統がメキシコに派遣していた調査隊がアステカ文明の遺跡で石仮面を発見したそうです」

 「何!?」

 石仮面が発見された、という報告に驚くシュトロハイム。

 石仮面――それは装着したものを吸血鬼化させる恐るべき仮面。

 かつて究極生物になることを夢見た一人の男が作り上げた呪われた道具。

 その男との激闘の末、石仮面は全て処分されたかに思われたが、どうやらまだいくつか残されたいたらしい。

 「ふむ・・・メキシコあたりを探せばまだ残っているだろうとは思っていたが・・・思ったよりも早く見つかったな・・・して今どこに?」

 「すでにこの研究施設に持ち込まれています。現在、捕虜にした空母ヲ級に対する使用実験を準備。大佐のゴーサインさえ出ればいつでも実行できます」

 「そうか・・・では、早速本日中に実験を開始するのだ!」

 「はっ!!」

 

 

 数時間後、厳重にロックされている実験室には物々しい雰囲気が漂っていた。

 白衣を着た研究員が機材やコンピュータの間を行き来し、緊急時に備え重武装を施した武装親衛隊員達が緊張の面持ちで待機している。

 実験室の中央には防弾ガラスで覆われ、重装甲が施された巨大な穴があった。

 さらによく観察すれば穴の底にはしっかりと拘束された空母ヲ級の姿がある。大破し海上に漂っていたところを親衛隊が密かに捕え捕虜にした貴重なサンプルだ。

 その様子を震えながら眺める一人の艦娘がいた。

 「・・・」

 軽巡洋艦娘、夕張。鎮守府の地下施設の実態を不幸にも知ってしまい彼女は一時拘束されていた。秘密を守るため、解体するなり、轟沈させるなりして消しても良かったのだが下手にやると上層部にばれてしまうし、貴重な艦娘である。彼女は密かに監視付きでこの硫黄島に送られていた。

 夕張はこれから行われるであろうおぞましい実験に恐怖と僅かな怒りを覚えていた。

 敵とはいえ、戦争にもルールはあるであろう。相手は人類の敵だ。しかしだからといって相手に残虐な行いを加えて自分も外道に堕ちる理由はない。

 しかしあの鎮守府で見た凄惨な光景は筆舌に尽くしがたいものだった。

 これからいったいどのような惨劇が繰り広げられるのか・・・

 そんな夕張に、いつの間にかいたのかシュトロハイムが話しかける。

 「夕張ちゃあ~~ん・・・何をそんなにおびえている?少し怯え方が異常じゃぁないかぁ~?」

 「大佐・・・大佐は自分が何をやっているか分かっているんですか?いくらなんでもこんなの・・・」

 「夕張よ、お前の気持ちは確かによく分かる・・・いま我々が行おうとしていることは決して美しい行為ではない。だが勝利のため、未来のためやむを得ないことなのだ。これは総統閣下の命令だ。そして総統が誤ったことは一度としてない・・・」

 「ふざけないでっ!!あなたに軍人としての、人間としての誇りはないの!?」

 シュトロハイムは夕張の方に鋼鉄製の義手を乗せ、もう片手でガラスと装甲で覆われた実験用の巨大な穴を指差した。

 「なぁ、聞け・・・いま我々は石仮面を使って深海棲艦を吸血鬼化させる実験を行おうとしているが、何も心配することはない。防弾ガラスはティーゲルのアハトアハト(88ミリ砲)の弾丸すら余裕で耐えるし、装甲にいたっては厚さ60センチ、大和型の46センチ砲の砲弾ですら耐えられる。さらに!壁の側面には吸血鬼の弱点である紫外線照射装置が無数に取り付けられ、緊急時には吸血鬼化した個体を徹底して焼き殺すことができる!!壁には機関砲、火炎放射器が取り付けられ、酸素に関してもボンベを通して供給してあるから、外部とはほとんど完全にシャットアウトさせられている・・・サンタナの時の二の舞にはならん・・・」

 シュトロハイムはそこまで言ってにやりと笑った

 「動物園の檻の中の灰色熊(グリズリー)を怖がる子供がおるか?いなァァァ~~いッ!たとえやつが狂暴化してもあんな化け物、イチコロで倒せる!我がドイツの科学力は世界一ィィィ!できんことはないイイィーッ!」

 シュトロハイムは夕張の方から手を放すと目の前の実験用のサンプルに向き直った。

 「もうそろそろ時間か・・・事前に確認しておこう。紫外線照射装置は?」

 シュトロハイムの問いに研究員たちが答える。

 「電力、装置ともに異常なし。正常に作動します」

 「緊急時の防衛用設備は?」

 「これも異常なし。正常に作動します」

 「酸素供給管と外部は完全にシャットアウトされているか?」

 「現在酸素ボンベによって実験管内部に空気を供給中。外部とは完全にシャットアウトされており、100パーセントの安全を確認します」

 「よし、それでは・・・実験を許可するっ!!」

 石仮面による深海棲艦の吸血鬼化という狂気の実験が行われようとしていた。

 



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54話 脱走~吸血鬼の深海棲艦~

ヒトラー「正直、シュトロハイムの活躍見るためだけにジョジョの奇妙な冒険戦闘潮流編揃えったって人、手を挙げて」
フェーゲライン「どうせお前だけだろww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおお!?」ズダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃああああ!?」ズダダダダピロリーン♪




 硫黄島、地下秘密実験施設。

 そこでは、石仮面による深海棲艦の吸血鬼化という狂気の実験が行われようとしていた。

 実験室の中央の防弾ガラスで覆われた巨大な穴の底には空母ヲ級が拘束された状態で横たわっている。

 壁の側面からアームが伸ばされた。アームの先には石仮面がある。

 そのまま石仮面はヲ級の顔に装着される。

 次に先端にスプレーのついた別のアームが伸ばされる。

 スプレーの中にはヲ級の血液が入っており、石仮面の上に吹き付けられた。

 吹き付けた瞬間、石仮面に変化が起きた。

 「シュトロハイム大佐、あれを!!」

 石仮面の側面から無数の牙のようなものが生えたかと思うと、そのままヲ級の後頭部に突き刺さった。

 次の瞬間、言葉にならない絶叫が実験室中に響き渡る。

 吸血鬼と人間の境目で深海棲艦が悶え苦しむ声に無表情なままの研究員に対し、夕張はガラス板から目を背けた。

 絶叫はすぐに消えた。

 沈黙が再び実験室を支配する。

 「大佐・・・成功したでしょうか?」

 「・・・石仮面と拘束具を外せ・・・そのまま反応を見てみるのだ・・・さあヲ級よ・・・お前の力を見せてみろっ!!」

 アームによって石仮面が外され拘束具が外されしばらくした後、ヲ級の目が見開かれた。

 吸血鬼特有の赤い瞳が異様に光っている。

 何人かの研究員がおぉ、と思わず声を漏らす。

 ヲ級はしばらくの間、何が何だか分からないとでも言うようにぼぉーっとした表情をしていたが、そのままゆっくりと立ち上がる。

 「・・・」

 ヲ級はあたりをきょろきょろ見渡したり、クンクンと周囲の臭いをかいだりしている。

 そのまま前に向かって歩き出そうとしたが、滑って盛大にこけた。

 そのまま横になったまま手を開いたり閉じたりを繰り返したり、頭をポリポリ

掻いたりしていた。

 その様子に思わずシュトロハイムは大笑いした。

 「ブワァーッ!ワァーハッハハハッハハッハァーッ!!バァッハッハーッ!アヒーッ!アヒーッ!ヒーッヒーッヒーッ!!なんだ!?なかなか楽しい奴じゃあないか!あのヲ級は!flagshipだと!?なんとアヒーッ『吸血鬼』!見ろよ夕張!クンクン臭いをかぐところなどまるで原始人だな!知能は低いんじゃあないのか!?」

 「あ・・・甘く見ないで!!原始人どころか、並の人間より優れてるって説もあるぐらいよ!!」

 シュトロハイムの勢いに反論する夕張。

 しかしシュトロハイムは夕張の言葉に耳を貸すことなく実験の継続を指示する。

 「実験室のハッチを開け!吸血鬼化させた別の捕虜と戦わせるのだ」

 実験室のハッチが開きヲ級同様、石仮面で吸血鬼化させられた捕虜(どこでとらえたかは不明だが、死刑囚らしい)がヲ級と対峙する。ここ最近、血液を与えていないので血に飢え戦意は最高だ。

 捕虜はそのままヲ級に飛び掛かった。

 ヲ級の首筋に犬歯を突き立てる。

 「ふむ、そのまま噛みつかれたか・・・戦闘力は普通の吸血鬼と同等かそれ以下かな・・・うん!?」

 「大佐、あれを!!」

 「あれは・・・いったい!?」

 研究員や兵士たちの間に動揺が広がる。

 噛みつかれたヲ級はしばらくの間ぼぉーっとしていたが、次の瞬間、捕虜を抱きしめたかと思うと、そのまま、文字通り捕虜を「取り込んで」いった。

 そう、まるで・・・サンタナが人間の体を取り込むように・・・

 捕虜の体がみるみるヲ級の体に吸い込まれていく。

 シュトロハイムは目を見開いて驚くばかりであった。

 「た・・・体内に取り込んでいるだとーっ!?馬鹿な!!サンタナじゃあるまいし、石仮面をつけただけでここまで進化するか!?」

 「大佐・・・よく見たらヲ級の体も大きくなっています・・・ヒィィィーッ!」

 「う・・・うろたえるんじゃあないッ!ドイツ軍人はうろたえないッ!体重分増えただけだ!!どうせすぐに元に戻る!!」

 捕虜を体内に取り込んだヲ級はしばらくの間あたりを見渡していたがやがて首を上に傾けシュトロハイムのほうを見た。そしてニヤリと笑った。ヲ級の唇が動く。

 「シュ・・・トロ・・・ハイ・・・ム」

 「ンナーッ!?今!!コイツ、俺の名前を!?」 

 原始人なんてとんでもない。なんて知能の高さだ。

 実験室中に戦慄が走った。

 

 

 十数分後・・・ただでさえ緊張感が漂っていた実験室はさらに緊張感が高まっていた。

 理由は明白だった。

 さっきまで、完全密室であるはずの実験用の穴に閉じ込めていたヲ級がいつの間にか姿を消したからだ。

 完全密室のはずの実験管の中からどうやって消えたというのか?

 万一外に出ていたとしたら・・・

 実験室の中は戦々恐々としていた。

 白衣にメガネの研究員が震える声でシュトロハイムに話す。

 「シュトロハイム少佐、・・・わ・・・わたしはち・・・ちょいと、目を離したんです・・・あなたも、そばにいました、みんなそばにいました、でも・・・誰も見ていないのです・・・」 

 そのまま研究員はシュトロハイムのコーヒーカップを手に取り、口に運ぼうとする。手はカタカタと震えていた。

 「飲んどる場合かーッ!」

 シュトロハイムは研究員の手からコーヒーカップを叩き落とした。

 「いったいどこに消えたというのだ!?あの完全密室の実験装置の中から!?」

 「大佐、本当に・・・本当にほんのちょっとの間だったんです!ほんの数秒ほど・・・みんながみんな実験装置の中から目を離していた間に・・・奴は消えていました・・・動きもわかりませんでした・・・私の視力は53万です」

 警備兵がシュトロハイムに駆け寄ってきた。

 「大佐!実験装置内のカメラ映像の編集が終わりました!何があったのかこれでわかります」

 「よし!すぐにプロジェクターに映せ!!」

 研究員や兵士が全員実験用の穴から目をそらした数秒間が収められた映像がプロジェクターに映し出される。

 そこにあったのはとても信じられないような内容だった。

 

 穴の底でヲ級はじっと立っていたがやがて、短距離走の選手のようにクラウチングスタートのポーズをとる。そして壁に向かって走り出した。

 「・・・助走か?ということはまさか・・・」

 そのままヲ級は壁に向かってジャンプ。吸血鬼化によって強化された脚力は、普通ならあり得ない高さまで体を飛ばす。その先にあるのは・・・

 「あ、あ、あ、あれはぁーーーっ!?」

 その先にあったのは直径30センチほどの酸素供給用の穴。その先は酸素とボンベとつながっている。その穴に向けて跳躍しながらヲ級は自身の体を「折り畳んだ」。

 関節を外すというレベルではない。自分の骨を、内部構造を粉砕し、それを折り畳んで自分の体を細くし狭い酸素供給管の中へするすると入っていった。

 それはまるで、かつてのサンタナの脱走時の再現であった。

 「さ・・・酸素供給管にーっ!?直径30センチの大人の女性ならまずくぐることすら不可能な大きさの穴に、自分の肉体を折り畳んで入っていったぁーーっ!!関節を外すレベルじゃない、文字通り自分の肉体を粉砕して折り畳んでしまったっ!!あ、ありえないーーっ!!石仮面で吸血鬼化させたとはいえ人間でもここまで進化しない!!なのになのに!!深海棲艦に対して石仮面を使うとあそこまで進化するというのかぁーーっ!?ヒィィーーッ!!」

 思わずうろたえるシュトロハイムだったが、そこであることに気付く。

 「・・・待て。あの酸素供給管の先には何がある?」

 「・・・酸素ボンベとつながっていますが・・・あ!」

 「ああそうだ、酸素供給管は外とは直接つながっていない、ボンベを通して供給が行われている!!つまり!!ヲ級がそのまま供給管の中を潜り抜けたとしてもその先にあるのは暗いボンベの中!!完全に閉じ込められている!!いやーびっくりしたじゃあないか、早急にボンベを点検するなり、放置して窒息するのを待てばいいだけのことだ!」

 安心するシュトロハイムや研究員、兵士達に対して冷たい目線を向けながら夕張は突っ込んだ。

 「・・・そのボンベを突き破って外に出る可能性は?・・・吸血鬼は分厚い鉄板を破壊できるぐらいパワーがあるんでしょう?」

 もっともな突っ込み。

 あっという間に沈黙が実験室を支配する。

 「い、いやだなぁー夕張ちゃん・・・そんなことあるわけないじゃない・・・おい、実験装置とつながっている酸素ボンベはどこだ?」

 シュトロハイムの問いに研究員が答える。

 「ええと・・・あれです」

 研究員の指差す先には、実験室の壁に取り付けられた直径3メートルほどの巨大なタンクがあった。

 「・・・すぐにその酸素タンクを点検しろ!!警備兵を全員呼べ!!あのタンクを取り囲むんだ!!おい、そこのお前、なにしてる、タンクから離れろ!!」

 シュトロハイムの注意にタンクのそばに立っていた武装親衛隊員が慌ててその場を離れると同時に、タンクにゴン!という音が響いた。

 そして次の瞬間、タンクが大爆発を起こした。

 「ぐあああああ!?」

 爆風の強さに何人かの兵士や研究員が吹き飛ばされ気絶する。さらに、破片によって何人かが負傷した。

 「あ・・・ああ・・・まさか・・・アイツが・・・」

 シュトロハイムが爆発したタンクがあった場所を見た。

 煙の奥に何かが、誰かがいる。あれはまさか――

 煙がゆっくりと晴れていくと同時に、爆発を引き起こした張本人が現れた。

 「シュ・・・トロハイ・・・ム」

 吸血鬼特有の赤い瞳を光らせながらヲ級がにやりと笑う。

 その目線の先にはシュトロハイムが。

 「あああーーっ!!ついにやってしまったぁーーっ!!」

 獲物を見つけた空腹の獣のような笑みを浮かべるヲ級に対し、どうしようもない叫び声を上げるシュトロハイム。

 ああ、ついに奴は脱走を果たしてしまった。

 果たしてこれは偶然か、試練か、天罰か。

 審判はすぐに下されるだろう。 




ルーク「ルークとー」
ヤン「ヤンのー」
ルーク&ヤン「人情紙芝居あとがきー」
ルーク「おい」
ヤン「なにー」
ルーク「遂に54話だってさー」
ヤン「へーやったねー」
ルーク「吸血鬼も出ちゃってさー」
ヤン「すごいねー」
ルーク「もうちょいやる気だせよ。兄弟だろ」
ヤン「WRYYYYYYYYY」
ルーク「うるせえよ」
ヤン「覚えてろ・・・泥水すすってでも次回も書いてやるぞ・・・竹書房WRYYYYYY!!」
ルーク「というわけでみんな!!バイバイっ☆」


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55話 死闘~戦闘潮流~

 シュトロハイムは焦っていた。

 脱走したヲ級が目の前にいるからだ。

 しかもただのヲ級ならともかく、とんでもない能力を持った(下手したらサンタナと同じパワーを持つ)吸血鬼化したヲ級だ。生半可な戦い方をしたら確実に負ける。

 (チクショーッ!!石仮面をつけただけでここまで強くなるとはっ!しかも脱走するなんてまさに予想外!実験してあわよくば戦力化しようと目論んでいたが、これでは逆にこちらが危険だっ・・・こんなものが脱走して本土に上陸でもしたら・・・考えただけでも恐ろしい・・・総統閣下に怒られるのは確実だが・・・何としてもこいつを処分せねばっ・・・しかしどうやって・・・万一に備え、艤装は外していたが・・・)

 「う、うわあああああ!!」

 シュトロハイムが素早く思考をめぐらす中、一人の親衛隊員が恐慌を起こしながらMP40をヲ級に向かって乱射した。

 銀製の9ミリパラベラム弾がヲ級の肉体に向かって音速の速さで飛びヲ級の肉体を切り裂く――はずだった。

 カンカンカンッ!と空しく弾き飛ばされる。

 弾がヲ級の周りにぱらぱらと落ちた。

 ヲ級はにやりと笑い、そのうちの一発を拾い上げて弾き飛ばした。

 弾き飛ばされた弾は親衛隊員の持っていたMP40の銃口に向かって飛翔し、MP40を暴発させる。

 「ぐああああああ!」

 持っていた短機関銃が暴発をおこし、親衛隊員は苦痛のあまりのた打ち回った。

 「う・・・撃つな!!下手に攻撃したら逆にこちらがやられるぞ!!」

 シュトロハイムは部下たちに手出しをしないよう指示を出した。

 「兵士は全員後ろへ下がれ!おい夕張、ここにいたら死ぬぞ!!お前も避難したほうがいい!!」

 「いらない!あなたたちの助けなんて受けないわ!艦娘である私がけりをつける!!」

 シュトロハイムに反発する夕張。

 (普通に考えたら大佐たちの自己責任だろうけど・・・万一こんなものが本土にまで上陸して暴れだしたら・・・それだけは避けなきゃ!一般兵や大佐じゃあてにならない、ここは私がなんとかしなきゃ・・・)

 「そこのヲ級!私が相手よ!私の大火力をなめてもらっちゃ困るわ!」

 ヲ級の顔が夕張を向いた。

 にやりと笑い、夕張に向かって走る。どうやら夕張を最初の相手にすることを決めたらしい。

 夕張は14センチ連装砲を発射した。

 室内だから下手に連射するわけにはいかないが、今撃ち込んでいるのは徹甲弾だからそんなに爆発を起こさずにダメージを与えられるだろう。

 もともとそれなりに威力のある砲だし、至近距離だ、結構なダメージを与えられるだろう――そう思っていたが、吸血鬼化したヲ級の身体能力は彼女の予想をはるかに超えていた。

 「!?」

 ヲ級の明るい瞳が光り、信じられない速度で回避行動をとる。

 当たるはずだった徹甲弾はあっという間によけられ、実験管を覆う防弾ガラスを貫通し、爆発した。

 ヲ級の顔が夕張のすぐ目の前に現れたと思ったら、次の瞬間、夕張の腹部に強い衝撃と痛みが走る。

 強力なパンチを受け、何メートルも吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 「かっはぁっ!!」

 たまらず血反吐を吐く。

 目の前にはヲ級がこぶしの関節を鳴らしながらにやにや笑っていた。

 恐らくなぶり殺しにつもりだろう。

 こいつにはどうやっても敵わない――

 夕張は覚悟を決めた。

 ヲ級のこぶしが再び振り下ろされ、そして――

 「おい待てよ、お前の相手はこのシュトロハイムが最後だぞ?」

 夕張にとどめが刺されることはなかった。

 見れば、そこにはシュトロハイムがヲ級の腕をつかみ押さえている姿があった。

 黒金属製の義手が鈍く光っている。

 「・・・大佐?」

 「シュ・・・トロ・・・ハイム」

 ふん、とシュトロハイムが笑う。

 「全く無茶しやがって・・・どこかの誰かさんに・・・JOJOの奴に似ているな・・・最初から気づくかなかった俺もバカだったよ・・・よくよく考えたら、俺は吸血鬼とまともに渡り合えるだけの装備を持っていたんだからな・・・お前はそこで俺の戦いぶりを見ていな。・・・あとはせめてこのシュトロハイムに任せてもらおう」

 「フン!ニンゲンゴトキニナニガデキル!!」

 ヲ級があざけるように笑い、シュトロハイムを攻撃しようとした。

 「そうかい」

 シュトロハイムも不敵に笑うと、次の瞬間、ヲ級の腕をつかんでいた右腕はそのままに、左腕の関節が異様な角度で動き始め、ヲ級の手をつかんだ。

 「ナッ!?」

 「そしてぇぇぇぇぇぇ!!」

 シュトロハイムの鋼鉄製の左手がヲ級の掌の肉をむしり取った。

 ついでに、右手で、ヲ級の手首を引きちぎる。

 「ヌウウウウウウウウウッ!!」

 ヲ級は素早く後ろに飛び去った。引きちぎられた手首は再生しつつあったが、それでも驚きを隠せないようであった。(このときのシュトロハイムの指の力は5000㎏/cm²――サンタナのパワーの約5倍!)

 シュトロハイムは高笑いしながらナチス式敬礼をした。

 「ブァカ者がァアアアア!ナチスの科学は世界一チイイイイ!!サンタナのパワーを基準にイイイイイイイ・・・このシュトロハイムの腕の力は作られておるのだアアアア!!」

 そう。シュトロハイムはかつてサンタナもろとも木端微塵に自爆し一度死んだかに思われた。しかし、ナチスの高度な医療技術によってサイボーグとして復活し、人間をはるかに超える戦闘力を手に入れたのだった。当然、吸血鬼の強靭な肉体をむしり取ることは赤子の手をひねるより簡単。それどころかシュトロハイムは改造を受け、さらにパワーアップしていた。

 「そんな・・・信じられない・・・」

 ヲ級の手を引きちぎるほどのシュトロハイムの腕力に目を見開く夕張。

 シュトロハイムがサイボーグであること自体は知っていたが、まさかここまでの力があるとは予想外であった。

 シュトロハイムは床に落ちていた機関砲の空薬莢を拾うとそのまま握りつぶした。

 金属片があたりに飛び散る。

 「きさまの体を鳥の羽をむしるように1センチ四方の肉片にしてくれるわっ!」

 そのままつぶれた空薬莢を夕張に投げる。

 「あいてっ!?」

 「夕張、こんな体になった俺を気の毒だなんて思うなよ。俺の体はァァアアアアアアッ!!我がゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りであるゥゥゥ!つまりすべての人間を超えたのだァアアアアアアアアアアアア!!」

 次の瞬間、シュトロハイムの肉体にさらなる変化が生じた。

 シュトロハイムの腹筋から重機関銃のような物体が飛び出る。

 側面には弾帯でまとめられた無数の銀色に輝く銃弾が伸びていた。

 「くらえヲ級!1分間に1200発の対化物用徹甲弾を発射可能!艦娘用の砲弾を発射できるように改造した重機関砲だ!!一発一発の弾丸が貴様の体を削り取るのだ!!」

 「胴体も機械なのっ!?」

 驚く夕張。

 シュトロハイムの高笑いとともに轟音が鳴り響く。

 腹の重機関銃から次々と発射される無数の対化物用徹甲弾がヲ級に向かって飛翔する。

 連射をされてはヲ級とてすべてを避けきることはできない。

 決して少なくない数の弾丸がヲ級に命中する。ヲ級の肉体を切り裂いていく。しかし・・・

 「WRYYYYYYYYYY!!」

 ヲ級は何十発と飛来する銃弾を

 硬化させた拳で弾き飛ばす。跳弾が実験室あたり一面に飛び散り、周囲にいた研究員や兵士が次々と負傷していく。

 「ぬうう・・・銃弾を弾き飛ばすか・・・だが・・・」

 シュトロハイムはヲ級の様子を見た。

 ヲ級はそれほど大きなダメージは負っていないものの連射の勢いによって少しずつ後ずさりしていた。

 (よし、このまま後ろにいけば・・・そこにあるのは)

 シュトロハイムの脳裏に勝算が浮かぶ。

 その時、銃声が止まった。ついに弾切れを起こしたのだ。

 ヲ級がにやりと笑い、反撃の態勢をとろうとしたが、シュトロハイムは余裕のままだった。

 「これで勝ったつもりか?我がナチスの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ!!」

 「シュトロハイムの馬鹿!弾切れ起こしたのになに高慢な態度を・・・っ!?」

 シュトロハイムの余裕な様子に思わず苛立った夕張だったが、すぐにそれは驚きに変わった。

 「サンタナに関するデータはすべてぇぇぇぇぇ!!武器としてこのシュトロハイムの体に収まっておると言っただろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

 シュトロハイムの右目から突然、奇妙な機械が飛び出したのだ。

 例えるなら、まるでレーザー発射装置のような・・・

 「くらえ!!紫外線照射装置作動っ!!」

 次の瞬間、協力な紫外線のレーザーがヲ級に向かって発射された。

 吸血鬼にとっての弱点は太陽光線(特に紫外線)である。

 吸血鬼化したヲ級とて例外ではないようで、紫外線の光線はそのままヲ級の体を貫いた。

 「グヌウウウウウウウ!!」

 苦痛のあまり一瞬怯むヲ級。

 シュトロハイムはその隙を見逃さなかった。素早く駆け出す。

 「貴様の後ろ・・・がら空きだぜ!!夕張、主砲を防弾ガラスに向かって発射しろ!!早く!!」

 「は・・・はい!!」

 夕張は14センチ連装砲を実験用の穴を覆っていた防弾ガラスに向かって撃ち込んだ。88ミリ高射砲の砲弾に耐える防弾ガラスもさすがに14センチには耐えられなかったようで大きなひびが入る。

 同時に、シュトロハイムはヲ級の体に強烈なパンチをお見舞いしていた。

 「死ねえええええ!!」

 殴ると同時に自身の義手を射出。パンチに勢いをつける。

 衝撃のあまりヲ級の体は義手ごと吹き飛ばされ防弾ガラスに叩き付けられる。

 ひびのはいっていたガラスが割れヲ級の体は実験用の穴の底に向かって落下していく。

 シュトロハイムが叫んだ。

 「今だ!!壁の紫外線照射装置を作動させろ!!」

 研究員があわてて制御盤の赤いスイッチを叩くように押す。

 同時に、実験管の壁に無数に取り付けられていた紫外線照射装置が作動。

 強力な紫外線光線がヲ級の肉体に集中して照射させられる。

 「WWWWWRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 実験室中にヲ級の断末魔が響く。

 紫外線に焼かれたヲ級の肉体が灰になっていく。

 そして断末魔が突如として途切れた。

 実験装置の中には灰のような粉が残っているだけだった。

 ヲ級の姿はどこにもなかった。それは勝利を意味していた。

 「はぁ・・・はぁ・・・勝った・・・勝ったぞ・・・勝ったぞおおおおお!!」

 シュトロハイムがヲ級を倒したことを確信し勝利の雄叫びを上げると、周囲も安堵したように歓声を上げたり床に座り込む。夕張もため息をつきながら床に座りこんだ。

 「・・・それにしても大佐がサイボーグだっていうのは知ってたけれど・・・あれはやりすぎじゃあ・・・おかげで助かったけど・・・」

 夕張はシュトロハイムのスペックとサイボーグぶりに呆れたように呟いた。しかしそのおかげで助かったのも事実である。

 とにもかくも彼らは助かったのだ。

 

 

 

 

 

 そのころゲルマニア鎮守府、総統執務室

 ヒトラーは総統秘書ボルマンから渡された資料を食い入るように見つめていた。

 「・・・ここに書かれていることは・・・この写真に写っているのは本当のことなのか?」

 「・・・は。確かに信用できるものであります」

 資料の内容は、ヒトラーがメキシコに派遣した石仮面の発掘調査隊からの報告書である。

 そこには石仮面に関する記述のほかに遺跡に残されていたあるものを写した写真があった。

 「信じられん・・・なぜ・・・なぜここに」

 その写真に写っていたものは。

 「なぜここに、ボリシェヴィキの証が、ソ連の国旗がある?」

 写真に写っていたのは遺跡に残されていたまだ真新しい血のように赤いソ連の国旗。

 そして石壁に掘られたレーニン万歳という文章。

 ヒトラーの最大の敵であるソ連の証がそこに写っていた。

 石仮面に興味を示していたのはヒトラーだけではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの深海の海底・・・そこで複数人の男たちと深海棲艦が会議をしていた。

 「それで・・・石仮面を手に入れることには成功したのだな?」

 リーダー格の男がソ連軍の将校の服を着た男に問う。

 「・・・は。石仮面そのものの奪取には成功しました。しかし・・・全てを採掘することはかないませんでした。その前に別の調査隊らしき集団が・・・おそらくファシスト共でしょうが、遺跡に接近するのを確認したため全ての石仮面の採掘を断念撤退したとのことです」

 「ファシスト共がか・・・まあ、予想されたことではあるな。奴らも吸血鬼のパワーに魅せられていたのだから」

 リーダー格の男――ソ連共産党書記長ヨシフ・スターリンは報告書を読み終わると机の上に置いた。

 「とにかく、計画を急ぎたまえ。近く敵の大反攻作戦があるとの話もあるからな。それに・・・」

 「・・・それに?」

 ソ連軍の軍服に身を包んだ屈強な体つきの男が疑問の表情をする。勲章や襟元の階級章から彼がソ連邦元帥であることがうかがえる。

 「・・・石仮面だけでは不十分だ。確実に勝利を得るためにはあれが・・・エイジャの赤石が必要だ」

 エイジャの赤石。

 それはかつて、究極生物になることを望んだとある男がその野望を叶えるために必要とした美しくも呪われた宝石。

 しかしそれは・・・

 「お言葉ですが同志、赤石がなくとも石仮面だけでも十分な戦力を生産できます。なにより、必要な大きさの、エイジャの赤石はすでに破壊されてしまったと聞いていますが・・・」

 「・・・いや、まだどこかにあるはずだ・・・究極に到達するためのエイジャの赤石が・・・スーパーエイジャが・・・」

 「・・・」

 「確かにお前の言うようにもうこの世には存在しないかもしれん。しかし勝利を確実にするためにも赤石が必要なのだ。何としても、赤石を探し出すのだ。この際手段は問わん。・・・期待しているぞ、ジューコフよ」

 「ダー。同志書記長」

 ソ連邦元帥ゲオルギー・ジューコフはスターリンに頷いた。

 スターリンは会議室の窓から外を眺めた。

 どこまでも暗い海中が広がっている。

 「・・・さて。プロシアのちょび髭がどう出てくるか・・・見ものだな」

 スターリンは楽しい夢を見ているかのような子供のように、かすかに笑った。



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56話 エイジャの赤石~呪われた宝石~

 ゲルマニア鎮守府、休憩室。

 「・・・エイジャの赤石?」

 親衛隊中尉ヨーゼフ・メンゲレはコーヒーを片手に友人の言葉に耳を傾けていた。

 「ああ。少佐殿が言うには何でも石仮面が本来持つパワーを最大限に発揮させる非常に希少な鉱石らしい。過去、スイスやイタリアでそれを巡ってシュトロハイム大佐が死闘を繰り広げたというが・・・」

 吸血鬼軍団『最後の大隊』に所属する科学者、ドクはそう言ってコーヒーをすすった。血まみれの白衣は相変わらずのままで、妙にレンズの多い眼鏡が目立つ。

 「ああ、それなら私も聞いたことがある。それを使うと究極生物を作り上げることができるとな。正直私には信じられないのだが・・・」

 「まあ、現物が失われてしまったからな・・・そんなものがあれば我々の研究もはかどるのだがな・・・一科学者として一度は拝んでみたいものだ」

 メンゲレは熱いコーヒーに息を吹きかけながら友人と語る。

 「それはそうとして、話は別になるが総統閣下がメキシコに送った調査隊が石仮面を手に入れたんだろう?あれさえあればいくらでも、確実に吸血鬼を生産することができる。我々の研究もはかどるというものだ」

 「ああ!私も早く現物に触ってみたいものだ・・・我々の探究心がさらに満たされさらに深まることになる。これほどわくわくすることはない。少佐殿もさぞ満足しておられるだろう」

 「エイジャの赤石、究極生物・・・か。私としても研究してみたいものだな・・・」

 メンゲレはようやくちょうどいい温度になったコーヒーを一気に飲み干すと地下施設に戻っていった。

 

 

 そのころ、総統執務室では総統アドルフ・ヒトラーが親衛隊少佐モンティナ・マックスからの報告を聞いていたところであった。

 部屋にいるのはヒトラー、ゲッベルス、ボルマン、少佐の4人だけである。

 「・・・以上がメキシコの調査隊による石仮面捜索作戦の報告になります」

 ヒトラーは報告書を読みながら少佐に言った。

 「肝心の石仮面の入手に成功したは良いとして、まさかボリシェヴィキもこの石仮面を探しに来ていたとはな・・・」

 報告書の写真には遺跡に残された石仮面に、石壁に掘られたレーニン万歳という文章、そして赤いソ連国旗が写っていた。

 「ええ、私としてもこれは予想外でありました。スターリンや露助の連中が我々と同じように蘇ったのかもしれません。そうだとすればこれは非常に深刻な事態かと。深海棲艦と手を組んでいる可能性もありますし、こうして石仮面に興味を示している以上は奴らも吸血鬼を戦力化しようとしているかも・・・」

 少佐は首を振りながら考えられる脅威についてヒトラーに言った。

 しかしその表情はにやにやとしたままで、どこか楽しい夢を見ている子供のようにも感じられた。

 「・・・楽しそうだな、少佐。敵が増え登場人物が増えこれから起こる惨劇、闘争が楽しみでならないのかね?」

 ヒトラーの問いに少佐は笑って答える。

 「ええ、もちろんですとも総統閣下。これから見る夢がもっと激しい、もっと楽しいものになるかもしれないのですから。登場人物や物語の鍵は多いほうが良い。総統閣下は誰よりも私のどうしようもない人間性をご存じのはず。そしてその人間性ゆえに私を選んだはずです」

 少佐は目を細めた。その瞳にはまるで魔界の軍団長のような一介の少佐とは思えない深く暗い輝きがあった。

 対するヒトラーも彼の瞳をじっと見つめていたがやがて目を細め、頷いた。顔にわずかに笑みが浮かぶ。

 「・・・まったくそうだったな。君はそういう奴だった。まったく、君の眼を見ていると何も言えなくなる・・・ルーデルと同じだな」

 「しかし総統閣下、いずれにせよこれは重大な案件です。早急に何かしらの対策を立てるべきかと」

 少佐を見つめるヒトラーに宣伝相ゲッベルスが進言した。

 「そうだな。いずれにせよ対策が急務だ・・・しかし対策を立てるにも情報が少なすぎる。スコルツェニーやハイドリヒあたりに更なる情報収集を命じることにしよう。少佐、『最後の大隊』についてはどうなっている?」

 ヒトラーの問いに少佐が頷く。

 「大隊に関しては士気、練度ともに最高です。総統や私の命令があればどこへでも出撃するでしょうな」

 「うむ。抜かりなく準備をさせておくのだ。それともう一つ・・・少佐に命令したいことがある。・・・エイジャの赤石のことは知っているだろうな?」

 エイジャの赤石。

 その言葉に少佐だけでなくボルマン、ゲッベルスも反応する。

 最初に口を開いたのはボルマンだった。

 「エイジャの赤石・・・石仮面を完全なものにするために必要な宝石ですな。それがどうしたというのです?」

 「少佐にはこのエイジャの赤石・・・スーパーエイジャを探し出してもらいたいのだ」

 ヒトラーの言葉にボルマンがわずかに困惑した表情を見せる。

 「しかし・・・総統閣下、エイジャの赤石はカーズとの戦いで紛失しもはや現存するかどうかも不明なはずでは?赤石そのものは探せばありますが石仮面を完全なものにするには不十分なクズ石ばかり・・・」

 ボルマンの指摘ももっともである。もはやこの世にあるかどうかも分からぬものを探し出すことは不可能に近く、場合によっては無意味なものである。

 ゲッベルスもヒトラーに言った。

 「総統閣下、わざわざスーパーエイジャを探さなくても石仮面だけで十分強力な兵力を生産することは可能と思われす。赤石の捜索に無駄な労力を費やす必要はないかと思われますが・・・」

 「ゲッベルス君。君たちの言うことはもっともである。しかし考えてみたまえ。もしかすると敵も・・・ボリシェビキの連中も石仮面に興味を持っている以上、このスーパーエイジャを欲しがっているだろう。もちろん、ソ連の連中が蘇ったとか深海棲艦と手を結んでいたり、深海棲艦が我々と同じことを考えているとは限らない。まだそう決まったわけではない・・・しかし可能性がある以上先手を打つ必要がある。なにより」

 ヒトラーは椅子から立ち上がり窓に近づいた。

 すでに夕方になっており、空は赤色に輝いている。まるで赤石のような光だ。

 「エイジャの赤石を手に入れることは我々の勝利を確実にするために必要なことだ。何としても手に入れねばならぬ」

 「・・・」

 ヒトラーがそう言って夕方の空を見つめていると、執務室のドアをノックする音が響いた。

 「総統、至急の用事なのですが・・・入ってもよろしいでしょうか?」

 声の主は大淀だ。

 ちょうど極秘の話も終わったところである。

 ヒトラーは入室を許可した。

 部屋に入ってきた大淀の顔は緊張に包まれていた。

 手には極秘とかかれた命令書のようなものを携えている。

 「・・・総統、大本営からです。ついに例の作戦が・・・」

 そこには『南方海域に対する反攻作戦に関する作戦案』と書かれていた。

 大戦争が始まろうとしていた。

 

 

 

 




 番外編でこんな話をしてほしい、この人物を登場させてほしいというリクエストを承っております。
 リクエストがある方は作者の活動報告「総統閣下の質問箱」にどしどし投稿してください。
 それでは今回はこのあたりで。


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57話 南方へ~秘密の作戦会議~

 この前久々に(約一か月ぶりに)ユーチューブで鳳仙(球磨嫁閣下)さんの閣下これくしょんの動画見ようとして初めて、2月の上旬にお亡くなりになられたことを知った。とても面白くてこの小説の参考にもさせてもらっていたのに・・・今更ながらご冥福をお祈りします。




 東京、市ヶ谷にある防衛省。

 そのどこかにある秘密の会議室で、日本の運命を決める会議が行われていた。

 「・・・いよいよやるのか」

 巨大な円形のテーブルに備え付けられた椅子の一つに座る小柄な男が書類を見ながらつぶやいた。

 男の見つめる書類の表紙には「南方海域及び諸島の奪還作戦について」と書いてある。

 現在日本に関して言えば日本やアジア諸国は南シナ海やシンガポール海峡を奪還、シーレーンを確保し資源を輸入に頼る日本は何とか生き延びてきた。

 しかしフィリピン南部、インドネシア、パプアニューギニアは未だ深海棲艦側が掌握しており、日本が確保したシーレーンや資源がいつ奪われるか分からない。

 またこれらの地域には姫級、鬼級の深海棲艦が無数に跋扈し太平洋における深海棲艦の活動の拠点と考えられてきた。

 南方の海域を叩くことは日本の安全を確実なものにかつ主力を叩き太平洋の自由を確保することでもある。

 そのための大規模反攻作戦に関する概要がそこに書かれていた。

 「勝算はあるのですか?」

 「おいおい、初めから負けるつもりで戦うやつはいないぜ。あの戦争だって例外じゃない。みんな勝つつもりでいた。計画はろくなもんじゃなかったが・・・」

 隣に座る部下の問いに小柄な男は笑いながら答えた。

 彼の名前は山本五十六。

 大東亜戦争を知る者にとって知らぬ者はいない存在であり、海軍大将、名将である。

 「そして我々は大敗し祖国と国民に深い傷を負わせた・・・一度大敗したからには同じ轍を踏むわけにはいかん」

 作戦計画書を見つめる山本に、向かい側の席に座る丸メガネの男、東条英機が言った。

 「こうして償う機会を与えられた以上、我々は死力を尽くして戦わねばならん。そうだろう?」

 「・・・そうだな」

 東条の言葉に頷く山本。

 本来ならあのブーゲンビルの上空で生涯を終えたはずの自分がこうして蘇ったのも何かの縁だろう。ならばその使命に応えるのみ。

 東条が同じく会議に出席していた丸メガネの男に言った。

 「そもそもこの作戦案を発案したのは山本大将と、辻大佐だったな。辻大佐、本作戦の明確な目的と概要を説明してくれ」

 東条に作戦の開設を求められた男、辻政信は頷きながら立ち上がった。

 「それでは本作戦について説明させていただきます。そもそも本作戦の目的は南方海域及び諸島の奪還、敵主力の殲滅、そしてそれによるシーレーン、資源の確保と太平洋の安定確保にあります」

 会議室の壁にプロジェクターによって太平洋地域の地図が映される。

 「作戦は三段階に分けられます。まず第一段階としてフィリピンミンダナオ島を強襲、奪還します。同時にインドネシアスマトラ島から東方に向けて進撃を開始します」

 辻の持つレーザーポインターがそれぞれの島を指す。

 「第二段階はジャワ海、パンダ海を奪還。シーレーンと石油資源を確保。そして最も重要なのが第三段階です。深海棲艦主力はニューギニア島やその近くの海域・諸島にその拠点を置いているものと考えられます。そこを全力をもって叩き、海域と諸島を完全に奪還します。なお、今回の作戦ではオーストラリア方面からオーストラリア軍および米軍が進撃を支援します」

 東条はうなずいた。

 「敵に二正面作戦を強いるわけだな。問題は補給だな・・・我が軍の弾薬や燃料、食料の備蓄、および補給はどうなっている?」

 「そうですな・・・今のところ、決して少なくない、作戦には十分と思われる物資を備蓄していますし、一応シンガポール海峡のシーレーンも確保しています。進撃先は資源の宝庫ですし補給や現地調達する分には困らぬと思いますが・・・」

 「補給なら俺に任せろ!!」

 「誰だ!?」

 突然会議室に響いたこの場にいないはずの人間の声に東条が大声を出した。

 完全密室、閉ざされているはずの秘密の会議室にいったい誰が入ってきたのかと室内は呆然となる。

 山本は声のした入り口を見た。

 会議室の入り口に立っていた声の主は日本陸軍最大の汚点、インパール作戦で(おもに補給などで)盛大にやらかした男、牟田口廉也の姿がった。

 「物資の補給なら、俺のジンギスカン作戦で――」

 「憲兵隊!この男をすぐに連れ出せ!!生死は問わん!!」

 「はっ!!」

 東条がそばにいた憲兵隊に牟田口を拘束するよう怒鳴る。

 憲兵隊が一斉に牟田口の身柄を取り押さえその場から連れ出す。

 「なっ! 何をするだァーッ ゆるさんッ!」

 牟田口はなんとか拘束を逃れようと暴れたが多勢に無勢、すぐに会議室から連れ出された。

 「・・・ふう。邪魔者はこれでいなくなったな」

 東条がため息をつく。

 山本もうなずく。

 「まったく。彼に任せては勝てる戦も勝てなくなります」

 (・・・あいつどうやって会議室に入ったんだ?)

 辻がそうもっともな疑問を思う中、東条は会議を続けることを宣言した。

 「・・・補給や物資の問題に関しては特に憂えることはなさそうだな。しかし油断は禁物だ。あの戦争で我々は後方を軽視して盛大にやらかしたからな・・・しっかりと不測の事態に備えるよう指示しよう。して・・・作戦を実行する鎮守府は?」

 東条の問いに辻が答える。

 「・・・私が一つ作戦の遂行にふさわしい鎮守府を知っています」

 辻は笑いながら言った。

 「戦力人材ともに豊富・・・やらせるなら・・・あそこがいいでしょう」

 山本がわずかに表情を曇らせる。

 「・・・あの鎮守府か。しかし・・・あの男は信用できるのか?」

 「大丈夫です・・・今は立場は我々が上ですし・・・信用できるでしょうな」

 辻はそう言ってにやりと笑った。

 「ヒトラー総統なら間違いなくやるでしょう」

 こうして、一大反攻作戦「バルバロッサ」の決行が決定された。



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58話 番外編5~親衛隊は敵地を進む~

 東京都、小笠原諸島、硫黄島。

 現在、ゲルマニア鎮守府の管理下に置かれ基地、秘密研究施設として使われている島だ。

 島の最高峰の山である擂鉢山の頂点に立てられた観測・防空監視所のテラスに大ドイツ帝国総統アドルフ・ヒトラーの姿があった。傍らには宣伝相ゲッベルスやシュトロハイム、モンティナ・マックスが立っている。秘書艦の加賀とグラーフの姿もあった。

 アドルフ・ヒトラーは現在、部下たちを引き連れて硫黄島の施設の視察を行っていた。

 「お忙しい中、わざわざ本島まで視察に来てくださるとは・・・恐れ多いとはまさにこのことであります総統閣下」

 シュトロハイムがいつものハイテンションな調子と打って変わって丁寧な口調でヒトラーに話しかける。

 「総統としての当然の義務だ。私は日夜ドイツ国民のため身を粉にして働いているつもりだ。最前線の様子を知るのも重要だからな。してシュトロハイム大佐、施設の設備や兵装はどうだ、満足しているかね?」

 「は、それはもう十二分といっても差し支えありません総統閣下。おかげで日夜訓練にはげみ、例の計画を順調に推し進められています。ただ、既に報告を受けているとは思いますが数日前、実験中に事故が発生し決して少なくない損害を負いました・・・我々の、私の失態です・・・」

 ヒトラーの問いにシュトロハイムが申し訳なさそうに答えた。事故とは数日前シュトロハイムらが石仮面を用いた深海棲艦の吸血鬼化実験中に、吸血鬼化した深海棲艦が脱走した事件のことだ。深海棲艦の処分には成功したものの、研究施設が少なくないダメージを負った。一ドイツ軍人としてシュトロハイムはそのことに少なからずの責任を感じていた。

 「だが、被害は決して回復できないほどのものではなかったし、肝心の石仮面や施設の中枢は無事だったのだろう?そう気落ちすることはない。次挽回すれば良い。期待しておるぞ大佐」

 「はっ、必ず総統閣下の期待に応えます」

 ヒトラーの激励の言葉にシュトロハイムは答えた。

 「総統、そろそろ休憩にしましょうか?」

 ゲッベルスが額の汗をぬぐいながら言った。季節はまだ立派に夏だ。人によっては十分暑く感じる。

 ヒトラーが頷いた。

 「そうだな。テーブルに座って風に当たることにしよう」

 ヒトラー達はテラスに備え付けられたテーブルに座った。ゲッベルスや部下にケーキや冷たい紅茶、コーヒーを持ってくる。

 「総統は紅茶なのか」

 アイスティーを片手にチョコレートケーキを食べるヒトラーにグラーフが言った。手には湯気を立てる熱いコーヒーが入ったマグカップがある。

 「私はコーヒーは好まない。紅茶派なのだ。おかげでよく金剛にティータイムに誘われる。イギリス生まれの女性に誘われたり、付き合ったりするとは夢にも思っていなかったのだが・・・」

 「そうか、残念だな・・・うまいコーヒーなのに」

 グラーフがそういって一口コーヒーをすするとどこからか歌声が響いてきた。

 ドイツ語の歌詞がグラーフの耳に入る。メロディも歌詞もグラーフにとってなじみのあるものだった。

 

 

 

 SS marschiert in Feindesland(親衛隊は敵地を進み)

 Und singt ein Teufelstlied(そして悪魔の唄を歌う)

 Ein schütze steht am Oderstland(狙撃兵はオーデルの河畔に立ち)

 Und leise summt er mit(微かに口遊むのだ)

 Wir pfeifen auf Unten und oben(我らはどこでも口笛を吹く)

 Und uns kann die ganze Welt(全世界が我らを呪い)

 Verfluchen oder auch loben(また称えようと)

 Grad wie es ihr wohl gefällt(一抹の慰みに過ぎないのだから)

 

 Wo wir sind da ist immer vorwärts(我らはどこでも常に前進する)

 Und der Teufel der lacht nur dazu(そして悪魔が嘲笑う)

 Ha ha ha ha ha ha!(ハハハハハハ!)

 Wir kämpfen für DeutschlandWir kämpfen für Hitler

 (我らはドイツと ヒトラーの為に戦う)

 Der Gegner kommt niemals zur Ruh'(敵は休まずやってくる)

 

 

 たしか、「親衛隊は敵地を進む」という歌だったはずだ。

 歌声の様子からして大人数が歌っているようだが・・・

 歌のするほうを見てみると、山のふもとでStG44やMG42、パンツァーファウストなどで武装し武装SSの迷彩服を着た集団が歌を歌いながら行軍していた。

 ヒトラーが言った。

 「少佐、あれが例の・・・」

 「ええ。ミレニアム・・・『最後の大隊』」

 少佐が答えた。

 吸血鬼化装甲擲弾兵戦闘団、『最後の大隊』。

 ロンドンを一夜にして死者の街にした不死者たちの軍団。

 吸血鬼であるが故に今までは昼間の作戦行動はできなかったが、シュトロハイムらの研究によってある程度、太陽光線を克服できるようになり、いま昼間の訓練を行っていたのだ。

 少佐が笑う。

 「懐かしい歌だ・・・何度戦地で歌ったことか。我々のような化物の軍団、髑髏の軍団、親衛隊には相応しい歌だ」

 グラーフは彼らの顔をみた。

 長時間の訓練と太陽光線で彼らの顔は疲れ切っているが、しかしその表情はどこか楽しそうでもあった。

 戦場でしか生きられず、戦場でしか生きたくない、ろくでなし達。祖国と一人の指導者のために死を恐れず戦う狂信者ども。

 その眼はギラギラ輝きどこか狂信者のようだった。

 ヒトラーが言った。

 「親衛隊か・・・彼らは頼もしい集団だ。腑抜けの将軍が多かった国防軍に比べ親衛隊は常に頼りになった。彼らは常に家族でもなんでもない、ただの人間の私のために戦い私のために命を落とした・・・それこそ狂信者のように、家畜のように」

 ヒトラーはそういってゲッベルスたちを見渡した。

 「なあ諸君、私はたまに思うんだ。人間はどうしてこうも扱いやすい生き物なのかと。大衆は私の演説に酔い、親衛隊は私に絶対の忠誠を誓い、私は歴史を簡単に動かしてきた・・・なぜ私が大衆を掌握できたと思う?」

 ゲッベルスが口をぬぐいながら答えた。

 「簡単なことです。総統閣下は大衆の望んだ存在であったからです」

 ヒトラーは笑った。

 「その通りだ。私は大衆の望むことを実現した。それだけのことだ。例えばグラーフさん、加賀さん、目の前にいるこの男、私はいったい誰だね?」

 ヒトラーの目は異様に光っていた。催眠術師のようだった。

 不気味さを感じグラーフと加賀は黙った。

 「そう緊張しなくていい。私が君たちを否定することなんてないんだ・・・」

 「・・・鎮守府の提督」

 「大ドイツ帝国の総統。我が総統」

 加賀とグラーフがそれぞれ答える。

 「半分正解であり半分不正解だ。・・・私はね、君たちの幻想だ。君たちの夢、願望意識が実体化した存在なんだよ。1933年に私がドイツ国民に選ばれたのも、国民が、私という存在を総統を望んだからだ。私は常に君たちの中にいる」

 グラーフと加賀は背筋が寒くなるとともにどこか陶酔感も覚えていた。

 この人とならついていけるかもしれない・・・この人なら私をわかってくれるかもしれない・・・言いようのない恐怖とともにどこか安心感があった。

 ヒトラーは親衛隊員を見ながら笑った。

 「そして私が人々の心中にある限り・・・全ては私の手の中だ」

 島にはまだ歌声が響いたままだった。

 

 



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59話 番外編6~フェーゲラインの不祥事~

 ゲルマニア鎮守府の士官用の寝室。

 今日も親衛隊中将ヘルマン・フェーゲラインはいつも通りの変わりない朝を迎えるはずだった。

 「う・・・うぅぅん・・・もう、朝か・・・早いな・・・」

 目覚ましの音とともにフェーゲラインは目をこすりながらベッドから起き上がろうとした。

 「ったく、夏になるとほんと夜が短くてたまったもんじゃ」

 眠い頭を覚醒させながら周囲を見渡して、フェーゲラインの独り言が止まる。

 フェーゲラインの視線の先には眠い頭を一気に覚醒させるには十分なものがあった。

 「・・・なんだ、これ・・・?」

 フェーゲラインの隣には青葉が横たわっていた。

 それだけならなんてことはない。

 ここ最近、青葉に添い寝してもらうこと自体はよくあったからだ。

 だが今回は違った。

 青葉は寝間着をつけていなかった。素っ裸だった。

 フェーゲラインは自分の体を見た。素っ裸だった。

 男女二人が素っ裸になってベッドに横たわっている。これの意味することはある程度知識のある人間ならすぐに分かるはずだ。

 「・・・え?」

 すぐに状況の呑み込めないフェーゲラインは青葉の顔を見る。

 彼女も起きたてだったようで目線が合う。

 しばらく見つめあっていたが、やがて青葉は叫び声一つ上げることなく顔を赤らめて目を背けるだけだった。ちなみにちょっと涙目になっていた。

 「え・・・?マジで・・・?俺まさか青葉と寝たの・・・?襲っちゃったの・・・?え・・・?え・・・?えええええええええ!?」

 フェーゲラインは現在の状況をようやく理解し叫び声をあげた。

 やばい。この状況はマジでやばい、マジで。

 フェーゲラインは自分の日々の行いを振り返る。

 そりゃあ、自分はお世辞にも身持ちがいいとは言えなかった。

 女癖は悪かったし、結婚した後も愛人作っていたし、死ぬ直前も愛人と一緒にいたところ発見された。

 だが。自分はこれでも親衛隊員、軍人である。

 少なくとも、変態ではない。どっかの某赤い国の秘密警察の長官と比べれば確実に。

 当然、艦娘に対する付き合いもそれなりに節度もあるものになる。

 軍人とはいえ、艦娘は立派な少女。心も体も10代の少女とほとんど変わりない、繊細なものだ。しかも、艦娘は貴重な国家の大事戦力である。

 それを、相手に断わりもなく襲った?仮にも親衛隊中将の自分が?

 「終わった・・・俺マジで終わった・・・」

 フェーゲラインは自分がとんでもないことをやらかしたことを理解した。

 同時に、この状況をどう打開するか頭をフル回転させる。

 どうすればいい?この状況をどうすれば――

 フェーゲラインが頭をフル回転させていると寝室のドアが勢いよく開き、MP40を装備した親衛隊員達が続々と入ってきた。朝の目覚まし代わりのデイリー処刑にやってきた連中だ。

 「フェーゲライン、デイリーの時間・・・」

 親衛隊員の一人がそう言いかけ、フェーゲラインや青葉と目が合う。

 「・・・あ」

 「・・・え?」

 「・・・何やってんだ・・・あんた?」

 部屋をどうしようもない沈黙がつつんだ。

 ばれた。不祥事が、よりにもよってこんな時ばれた。

 フェーゲラインがそのことを理解すると同時に部屋は怒号と悲鳴に包まれた。

 

 

 

 数十分後。

 総統執務室は殺気立っていた。

 幾人もの側近に囲まれ机に座るドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの目の前には椅子に後ろ手で縛られ拘束されたフェーゲラインの姿があった。

 艦娘青葉を襲った不祥事の疑いで総統直々のフェーゲラインに対する尋問が行われていた。

 「・・・で?フェーゲライン、死ぬ前に何か言い残すことは?」

 「・・・結局死ぬこと前提なの?俺・・・」

 「当たり前だ。どうだ、言い訳することはないのか?」

 ヒトラーの言葉にフェーゲラインが答える。

 「・・・総統閣下、まずは・・・どうしてこんなことになったか思い出させてもらえませんか?」

 「いいだろう。説明してみろ」

 「あれは、昨晩の居酒屋での飲み会のことだった・・・」

 フェーゲラインの回想が始まった。

 

 

 

 ~フェーゲラインの回想~

 ゲルマニア鎮守府の敷地内にある居酒屋鳳翔。そこではいつものように将校や艦娘たちによる飲み会が行われていた。

 ブルクドルフが隼鷹のカップに酒を注ぎながら愚痴を言った。

 「・・・やっぱりさぁ~~総統はどうかしてるよ、毎日毎日おっぱいのことばかり気にかけてさ、まともなこと言ったと思ったら今度は出来もしないことを言う。総統が装備の開発をすると変なものばかり出てくる。今日の開発で何が出たと思う?キャベツ育成機とTENGAだ。いったい誰が入れたんだよあんなもん・・・」

 「あはは~~あんたも苦労してきたんだねぇ~~まぁあたしも空母だったころは色々やりきれないこともあったし、今も苦労してるけどさ、でも慣れりゃもうこっちのもんよ。ほら~どんどん飲みなよ~」

 「おお、悪いな・・・」

 隼鷹から酒を注いでもらうブルクドルフ。飲み込んだ瞬間、ぶっと吹き出した。

 「うえっ!?何だこの酒馬鹿にきついぞ、アルコール度数いくらだ?」

 「?えーと・・・80度・・・」

 「うわっお前俺を殺す気か?そんなもん飲み続けてたら死んじまうよ」

 ブルクドルフがそう文句を言っていると、そこへクレープスが那智をつれて割り込んできた。おぼつかない足取りからするとずいぶん飲んだようだ。

 「いよーい、お二人さん元気してるかー?ほら、どんどん飲めよ・・・」

 「クレープスか・・・酒臭いな、大丈夫か?なんかふらふらしてるぞ」

 「はい、しっかりしています!大丈夫であります」

 クレープスの呂律が少しおかしいのに、ブルクドルフが心配になる。こいつ、どれだけ飲んだんだ?

 那智がすまなさそうに笑う。

 「悪いな提督、クレープスの奴、私が止める間もなくどんどん飲んでいくもんだから、おかげでこうなってしまった・・・私も少し飲みすぎたようだ気分が悪い・・・明日は任務もある、ここらあたりでお開きにしないか?」

 ブルクドルフが頷いた。

 「そうだな・・・じゃあ俺はぼちぼち宿舎に戻ることにするか。お前も早めに帰ったほうがいいぞ、那智」

 「分かってる、クレープスのことは私に任せてくれ」

 「ええ~もうお開き?これからじゃない?」

 飲み会の解散を考えるブルクドルフと那智に文句を言う隼鷹。

 ブルクドルフが仕方ないな、という顔で隼鷹を見る。

 「分かった分かった、じゃあ後で二次会やるから・・・他のみんなはどうするんだ?」

 ブルクドルフはあたりを見渡した。

 「俺もそろそろ帰って、那珂ちゃんとアイドルDVD見ることにする」と、ヨードル。

 「私もそろそろ帰って、ポプテピピックを見ます!」とカイテル。

 ほかの将校や艦娘も似たり寄ったりで二次会をやる気があるのは少数だった。

 「みんな二次会をやる気はないのか・・・まあ明日任務があるから当然か。フェーゲラインは?」

 いつも通り青葉と酌を交わしていたフェーゲラインはブルクドルフを見た。

 二人ともずいぶん酔っぱらってるようで、特にフェーゲラインは体をふらふらさせていた。

 「これからどうするかって?二次会に決まってる、夜店のタンメン屋で!もちろんお代は総統のツケだ」

 「後で処刑されても知らんぞ」

 こんな調子で居酒屋での飲み会はだんだん終わりを迎えていった。そして・・・

 

 

 

 

 「・・・あの後・・・確か俺は青葉と一緒にタンメン屋に行って二次会をしたんだ・・・総統の悪口言ったり、デイリー任務の苦労を語り合いながら・・・」

 フェーゲラインは酒で靄がかかった記憶の海の中を探りながら昨晩の回想をする。

 「・・・その時のタンメン屋でのお代は?」

 ヒトラーの問いにフェーゲラインは笑いながら答えた。

 「そりゃ総統のツケに決まってんだろww」

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそう言った瞬間、MP40を構えた新鋭隊員が執務室にやってきて、フェーゲラインと青葉、曙に向かって連射した。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああああ!?」

 幾多もの訓練弾の雨にさらされ、三人は倒れた。瞬間、ピロリーン♪という音が響く。

 その様子を見ながらヒトラーが言った。

 「それで?私のツケで二次会やった後どうしたんだ?」

 フェーゲラインが頭を抱えながら回想する。

 「あとはもう・・・記憶がはっきりしていないんだが・・・なんとなく・・・そのまま酔った勢いで青葉を寝室に連れ込んだ気が・・・それで気づいたら朝、あんなことに・・・」

 ブルクドルフがフェーゲラインの回想に突っ込みを入れる。

 「つまりお前は酒に酔った勢いでそのまま青葉を襲い、お寝んねしたってわけか?酒に酔った勢いで不祥事起こすとか、ダサいし!!」

 「お前らだって十分酔っぱらって艦娘達といい感じになってたじゃねか!ヨードルに至っては那珂ちゃんと一緒に帰ったぞ!!」

 「おい、なに俺も巻き込もうとしているんだ!!」

 ヨードルが叫ぶ。

 そのままフェーゲラインは弁解の叫びをあげる。

 「第一俺が青葉を誘った証拠はあるのか?俺は酒のせいで記憶が曖昧だし、向こうから誘ってきた可能性も・・・」

 ヒトラーがパチンと指を鳴らす。

 ゲッベルスがタブレット端末を出した。

 「フェーゲラインの寝室につながる廊下の監視カメラの映像だ」

 フェーゲラインは写真を見た。

 暗くて不鮮明だがはっきりとドイツ軍の将校の制服を着た男と青葉と思しき女性二人が写っている。

 よく見ると男は青葉を俗に言うお姫様抱っこしてるようだ。

 そのままフェーゲラインと思しき男性は女性を連れて部屋に入っていった。

 「・・・」

 「・・・明らかにお前が部屋に連れ込んでるよな?連れ方からしても襲う目的で」

 「い・・・いや!確かに俺が連れこんだとして、そのままコトに及んだとは限らない!少なくとも掘削工事やボーリング調査まではやっていない!最悪地質調査までで終わったはず!な、そうだろ青葉?」

 そう言ってフェーゲラインは青葉を見た。 

 フェーゲラインの記憶では青葉はそこまで酔っていなかった。少なくとも何があったかは覚えているはずだ。

 青葉の記憶に望みをかけるフェーゲラインだったが・・・

 「・・・///」

 顔を赤らめて視線をそらしただけだった。

 「なんか言えよおおおおおおおお!!」

 フェーゲラインは青葉の肩をつかんで叫んだ。

 「青葉が顔赤くするということは・・・」

 「やっぱりクロか・・・酔った勢いで艦娘に手を出すとは」

 「まったく、どうしてここには変態しかいないんだ」

 「総統閣下、あんたも人のこと言えないでしょ」

 疑惑の視線が無数に突き刺さる。

 終わった。軍人としての俺、終わった。

 フェーゲラインが絶望しかけたその瞬間、青葉がぽつっとつぶやいた。

 「・・・調査・・・だけ・・・」

 「?」

 「工事も調査も・・・やってません・・・ただ・・・青葉とヘルマンさんは酔ってたのと暑かったので・・・つい勢いで服を脱いだまんまベッドに入ってしまって・・・」

 青葉がぽつりぽつりと告白する。

 「・・・本当か?」

 フェーゲラインはシロであるという証言にヒトラーが青葉に確認する。

 青葉は黙ってそのまま頷いた。

 

 

 

 

 その後いろいろあったが結局フェーゲラインは証拠不十分で無実ということになり結局罰せられることなく二人は解放された。

 私室に向かいながらフェーゲラインが青葉に言った。

 「助かったよ。お前が証言してくれて。なんてお礼を言ったらいいか・・・一か月ぐらい俺がおごるから」

 「いやーもー、青葉もすっごい恥ずかしかったですよ・・・人前で色々聞かれて・・・でもヘルマンさんも悪いんですよ?変に酔っぱらって暑いからって素っ裸でベッドに入るわ、お姫様抱っこはするわ・・・」

 「いや、本当に俺が悪かった。今度から気を付けるさ。ほんと、酒は怖いよ・・・」

 「それに本当は地質調査も少しされたんですがね・・・」

 青葉がボソッとつぶやいた。

 「え?なんだって?」

 「いえ、何も」

 「そうか・・・でもどうして助けてくれたんだ?」

 青葉が少し顔を赤くした。

 「え?それは、まあ・・・お互いデイリー任務で苦労しますし・・・それにヘルマンさん、かっこいいですから。ルックスとか総統に面と向かって悪口言って処刑されても何度でも立ち向かうところとか」

 「それ褒めてんのか?」

 「それにまあ・・・反骨なところとか仕事に一生懸命なところとか。色々助けてもらっていますし・・・」

 もじもじする青葉に苦笑するフェーゲライン。

 「周りからは出世しか考えてないって言われてるけどな。まぁ、その・・・助かったよ。今後ともよろしくな」

 「はい!!」

 「それじゃあ居酒屋にでも行くか。一段落したし」

 「いいですねー!」

 鎮守府は今日も平和に一日が過ぎていく。

 

 

 

 ・・・翌朝・・・

 「うぅん・・・ん?」

 目覚ましの音ともに目覚めたフェーゲラインは異変に気付いた。

 「・・・なんだこれ?」

 まずフェーゲラインは素っ裸だった。隣には同じく素っ裸の青葉が。

 「ひっく・・・ひっく・・・」

 両手で顔抑えて泣いている。

 「・・・え?え?」

 フェーゲラインは隣を見た。

 曙の小さい体があった。同じく素っ裸だった。

 「・・・責任・・・取りなさいよ・・・クソ提督・・・」

 同じく貌を抑えて泣いていた。

 「あ・・・?あ・・・?」

 同じベッドに裸の男が一人と裸の女が二人。これの意味するところを考え、フェーゲラインは戦慄した。

 「あああああああああああ!?」

 フェーゲラインの絶叫が鎮守府中に響いた。 

 フェーゲラインの受難は今日も続く。

 

 



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60話 番外編7~作者の箸休め~

 注意!!~60話を読む前に~
 
 1.60話は総統閣下達の台本形式による会話で進みます
 2.本編とは直接の関係はありません。作者の箸休めです。
 3.60話では総統閣下達が今後の展望等について語り合います。

 以上をご了承の方のみ、お楽しみください






ヒトラー「・・・ついに60話に到達したぞ、バンザーイ!!」

 

 

 

クレープス「うわっ、総統閣下いきなりなんですか?大声なんかあげたりして」

 

 

 

ブルクドルフ「そうですよ総統、いきなり大声出すなんて・・・第一、なんで俺達台本形式で会話しているんだ?」

 

 

 

ヨードル「そうですよ総統、台本形式なんて作者の手抜きと思われて、下手したら読者が離れていきかねません」

 

 

 

ヒトラー「いきなりのことで皆驚いていることだろうな。だがこれには立派な理由がある。モーンケ、説明を」

 

 

 

モーンケ「はっ、総統閣下。前書きにも説明があったと思いますが、今回の話は作者の箸休めであると同時に、この『総統が鎮守府に着任しました!』がついに60話まで到達したことを祝う目的で書かれています」

 

 

 

ブルクドルフ「60話か・・・もうそこまで来てたんだな」

 

 

 

ヒトラー「2016年の夏に執筆を開始してもう2年近くたつ・・・長いというべきか短いというべきか・・・」

 

 

 

モーンケ「そして皆様にはこの小説の今後の展望や艦これについて語り合ってもらいたいと思います。今回は会話が主体であるため台本形式をとらせてただきました」

 

 

 

ゲッベルス「なるほど、会話をするだけなら台本形式でも十分、場合によってはそっちのほうが都合がいいからな」

 

 

 

ヒトラー「さて、説明も終わったし早速今後の小説の展望でも語るとしようか。まず率直に聞くが、いままでこの60話を振り返ってどう思う?」

 

 

 

ゲッベルス「そうですね・・・個人的には色々課題があると感じましたね。ネタに走りやすくなっている、戦闘シーンがあまり出ないか薄い、艦娘と閣下の交流があまりでてこない・・・シリアスとギャグの使い分けが一番の課題でしょうか」

 

 

 

クレープス「総統閣下シリーズが元ネタにもかかわらず、総統閣下がお怒りになるシーンもあまり登場しませんでしたしね。どうも話の内容や構成が中途半端なところがあった気がする」

 

 

 

ヒトラー「皆もそう思うか・・・私もそう思っていたところだ。今後の展望としては私と諸君だけでなく艦娘達も積極的に交えた交流を描きたいと思っている。ネタに関してもあまり広げすぎず、ちょうどいいところで・・・戦闘シーンに関しては・・・まぁここでは保留ということにしてくれ。シリアスとギャグの使い分けも重要だ。シリアスならシリアス、ギャグならギャグとはっきりさせていきたい。そしてどちらの路線でこの物語を進めていくのかもはっきりさせる必要がある」

 

 

 

クレープス「そもそも総統閣下は当初どのような路線で話を進めるつもりだったのですか?」

 

 

 

ヒトラー「あくまでシリアスが主体でその時々にギャグ、という感じで行こうと考えていたな。だが少しギャグやネタに走りすぎた。今後は当初の方針だったシリアス主体というのを考えていきたいと思う」

 

 

 

ゲッベルス「しかし総統閣下、総統閣下シリーズネタや閣下これくしょんネタを楽しみにして読んでいる読者も実際いるはずです。やはりギャグ路線も必要では?」

 

 

 

ヒトラー「そこが問題なんだな。ギャグ路線も必要だがシリアス路線も重要だからな・・・見た目はギャグで中身はシリアス、というのもあるしシリアスとギャグがごっちゃ混ぜというのもあるし・・・シリアスメイン時々ギャグというのがちょうどいいのではないかと今は考えている」

 

 

 

ブルクドルフ「結局はバランスよく使い分けましょうというわけか・・・」

 

 

 

クレープス「ネタに関してもタグに総統閣下シリーズと言っておきながら、あまりそれを活かせていない感じがしますね。総統閣下が怒る例のシーンはそれほど多く登場しませんし、元ネタの空耳があまり登場していない気が・・・」

 

 

 

ブルクドルフ「俺の十八番のダサいし!!に至ってはそんなに言っていない気がする」

 

 

 

フェーゲライン「その代りデイリー任務・・・私の処刑は欠かさず行っているようですが・・・」

 

 

 

ヒトラー「当たり前だ、デイリー任務だからやらんわけにはいかん。というわけでフェーゲライン早速、KO☆RO☆SU」

 

 

 

フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダダダダピロリーン♪

 

 

 

ヒトラー「そしてからの!!一度は揉みたいな!雲龍の目に刺さるような!!おっぱいおぷるーんぷるん!!」

 

 

 

カイテル「すげえ、ノルマを一気に達成した!!」

 

 

 

ブルクドルフ「それ感心することか?しばらくフェーゲは出番なしだな・・・」

 

 

 

フェーゲライン「誰が俺が死んだって?」

 

 

 

ブルクドルフ「復活早っ!?」

 

 

 

フェーゲライン「総統、いい加減デイリーも手加減してください・・・訓練だとはいえあれ結構痛いですし、第一青葉や曙を巻き添えにする理由はないでしょう」

 

 

 

ヒトラー「悪いがフェーゲライン、任務である以上手を抜くわけにはいかない。デイリーはこれからも欠かさず行う。なんなら一話につき2回でもいいんだぞ?前書きと後書きでそれぞれ一回ずつ」

 

 

 

ブルクドルフ「安心しろフェーゲライン、なんならひたすら処刑され続けるだけの話も書いてやるぞ」

 

 

 

フェーゲライン「ヤメテ」(切実)

 

 

 

カイテル「ところで総統閣下、作者によればこれから物語は山場を迎えるとのことですが本当ですか?いったいどういう展開に?」

 

 

 

ヒトラー「ああ、小説をちゃんと読んでいる奴ならわかると思うが、本編ではこれから深海棲艦への一大反攻作戦が始まる予定だ。一筋縄で終わらせるつもりはない。今のところ3段階に分けて話を進めていこうと思っている」

 

 

 

クレープス「山場を迎えるんなら、今まで以上に多くのキャラに出番がありそうですね。例えばデーニッツ提督あたりとか」

 

 

 

ヒトラー「ああ、グデーリアンやロンメルも活躍させる予定だし、深海棲艦側にもソ連軍の将校や政治家をどんどん登場させるつもりだ。ベリヤとかな」

 

 

 

ブルクドルフ「総統、さすがにベリヤ登場させるのはまずくないですか?あいつ史実じゃ鬼畜レベルの変態だったんだけど・・・」

 

 

 

ヒトラー「・・・まあ作者が何とか都合よく改竄してくれるだろう。とにかく史実の人物をどんどん登場・活躍させる予定だ。楽しみにしてくれ。ここだけの話だが、ジョジョ好きの読者諸君、これからの話ではみんな大好きシュトロハイムが大活躍する予定だからな」

 

 

 

フェーゲライン「すんげえ五月蠅くなりそう」

 

 

 

ゲッベルス「それはそうと総統閣下、艦これのサービスが2013年に始まってから約5年が経ったわけですが、これから艦これはどんなゲームになっていくでしょうね」

 

 

 

クレープス「サービス開始以来、登録者数は右肩上がりで短期間で数百万単位にもなりましたが、最近は艦これの話題で熱くなったというのは余り聞きませんね。今ゲームで話題と言えばFGOで、口を開けば艦これではなく今月FGOにいくら課金したかという話です」

 

 

 

ヒトラー「まあ5年もたったからな・・・サービス開始当初の熱狂的な人気がいつまでも続くわけがない。ある意味では当然の成り行きかもしれんな」

 

 

 

ゲッベルス「日本海軍の艦艇はもうほとんど登場しきってますしね・・・敵の深海棲艦もパワーインフレをおこしていますし・・・2018年の冬イベを一つの区切りとして、これからは二期として艦これが新たに始まるわけですが・・・試練の時が来たようだ、厳しい戦いを強いられるかも」

 

 

 

カイテル「以前はグーグルで検索するときkと打ち込んだだけで真っ先に艦これが候補に挙がっていたのに,今じゃすぐに候補に挙がらなくなったからな・・・」

 

 

 

モーンケ「総統閣下、巷ではFGOだけでなくアズールレーンなるゲームも流行っているようです。当初は単なる艦これのパクリと思われましたが、轟沈によるLOSTなし、高い無課金性、といったよくできたシステムによくできたストーリーと艦これの対抗馬となるにはふさわしい、高品質のゲームです。登場する艦娘には猫耳のキャラも多く、私も不覚にも愛宕に惚れてしまいました」

 

 

 

クレープス「・・・どうする?このまま艦これの覇権が他のゲームに乗っ取られて世間から忘れ去られたら、この小説もそのうち読む奴いなくなるぞ?」

 

 

 

ヒトラー「!そ、そうだ!仮に艦これの人気がこのまま下がり覇権を乗っ取られたら、当然この小説の注目度や人気もなくなっていく!誰もこの小説読まなくなるぞ!!どうするんだ!!」

 

 

 

フェーゲライン「そもそも変態ちょび髭の小説読む奴なんかいねぇよww」

 

 

 

ヒトラー「KO☆RO☆SU」

 

 

 

フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダダダピロリーン♪

 

 

 

クレープス「いずれにせよ、ここからが正念場です、小説も、ゲームの方も。どちらも変化を求めらている」

 

 

 

ヒトラー「確かにな・・・これからの艦これはどうあるべきなのだろうな」

 

 

 

ゲッベルス「簡単なことです。空母や戦艦を排して、駆逐艦のみで構成すればよろしい。そうすれば、艦これの人気は再び高まるでしょう」

 

 

 

ブルクドルフ「ロリコンも大概にしろ」

 

 

 

モーンケ「公式にストーリーを付け加える、というのはどうでしょうか?人は物語に引き寄せられやすい」

 

 

 

クレープス「だが公式ツイッターにもあったように「艦これ」は提督の数だけある。提督の数だけ「艦これ」の物語があるのだ。それを壊すというのは・・・」

 

 

 

ヒトラー「いずれにせよ艦これは高い無課金性や運要素、細部まで作りこまれたキャラクターとハイクオリティーのゲームであることに変わりはない。艦これと出会えたことはこれまでの人生の喜びの中の一つだ。サービス終了まではプレイし続けたいと思う・・・」

 

 

 

カイテル「総統、そろそろ例の言葉で〆てください」

 

 

 

ヒトラー「というわけで諸君、台本形式の60話、どうだっただろうか?これからもこの小説を読んでくれ!最終回までは何としても書くつもりだから!小説もゲームもこれからもよろしくな!というわけで今日はここまで!畜生めぇ!!」




モーンケ「最後に読者の皆様にアンケートのお願いがあります。60話を記念して人気投票を行います。これまで登場したキャラクターの中からお気に入りの人物を選び投票してください。お一人様3名まで投票できます。投票先は作者の活動報告『総統閣下の質問箱』まで。そのさい、作品に関する質問やリクエストも一緒に投稿していただければ幸いです。ご協力よろしくお願いします」


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61話 バルバロッサ作戦~懲罰部隊編成~

 9月、暑さがまだ続き夏の終わりがなかなか見えない頃ゲルマニア鎮守府の総統執務室では総統アドルフ・ヒトラーとその他の参謀達が南方方面への大規模侵攻作戦に関する会議を行っていた。

 クレープスが地図や資料を指さしながらヒトラーに説明する。

 「総統閣下、既に秘書艦からの報告でご存知かと思われますが大本営は今秋10月ごろに南方方面、深海棲艦の拠点への大規模侵攻作戦を決定しました。大本営は海上戦力が豊富な我が鎮守府に対しその先陣を切るよう命令しました」

 大規模侵攻作戦。

 かねてより太平洋における深海棲艦の巣窟である南方海域への反攻作戦は計画されてきたが、ついにそれが実行される時が来るのだ。

 クレープスの説明は続く。

 「作戦は三段階に分かれています。第一段階はフィリピン、ミンダナオ島を強襲、制圧。同時にインドネシア、スマトラ島より東方海域へ侵攻を開始します。第二段階はジャワ海、パンダ海を制圧、シーレーンと石油等の資源を確保。同時にオーストラリア方面からも進撃し敵に二正面作戦を強います。そして第三段階でニューギニア島を制圧、南方海域を完全に掌握します」

 クレープスの説明が一段落した。

 ヒトラーが口を開いた。

 「この作戦が成功すれば人類の深海棲艦に対する勝利は更に確実なものになるだろう。だが失敗すれば我々は戦力を大きく失い窮地に立たされることになる。何しろ大規模な侵攻作戦だ、大規模な兵力を動員するからな。準備はもちろん万端だろうな?」

 カイテルが頷いた。

 「総統閣下、艦娘に対する訓練は万端ですし資源に関してもここ最近節約と積極的な遠征が功を奏して大変な量が貯まりました。伊58が有給をくれと発狂寸前になりながら言っておりましたよ。武装親衛隊や最後の大隊といった陸上戦力も整備されつつあります。あとは総統のご命令さえあればいつでも」

 ヒトラーが頷いた。

 「そうか・・・ゴーヤにはあとでみっちり休みを与えるとして、今回の作戦は大規模な侵攻作戦であるだけでスピードが肝心だ。敵に反撃の隙を与えてはならぬ。今回の作戦、特に初期段階においては君達の采配が重要になるぞ、グデーリアン、マンシュタイン」

 ヒトラーが目線を向けた先には短躯で口ひげをはやした男と、対照的に長身でモノクルを付けた男が立っていた。

 電撃戦の生みの親のハインツ・グデーリアンとドイツ軍最高の頭脳と呼ばれたエーリヒ・フォン・マンシュタインである。

 「君達には戦車部隊と機動部隊の指揮を任せてある。貴重な戦力だ、決して無駄にしてはならぬ」

 「総統閣下、戦車の運用と電撃戦ならおまかせください。ドイツ軍人の誇りにかけて必ずや任務を完遂いたします」

 「右に同じ」

 グデーリアンとマンシュタインは頷いた。

 ヒトラーが向き直る。

 「・・・さて。侵攻作戦の決行とその詳細が決定されたわけだが・・・前にも言ったと思うが事前に小規模な部隊を送って斥候や支援及びその他の任務を行わせる。ブルクドルフ、例の任務部隊は編制済みであろうな?」

 ブルクドルフが頷いた。

 「はっ。すでに例の懲罰部隊は編制済みです」

 「では作戦の決行に先立って9月中に部隊をミンダナオ島に派遣することとする。作戦目的は斥候、及び上陸部隊の支援だ。部隊を集めて訓示を行うように」

 こうして大規模侵攻作戦「バルバロッサ」とそれに先立つ懲罰部隊の編成・派遣が決定された。

 

 

 

 

 「・・・なあ。いきなり外に連れ出されたが、いったい何が始まるんだ?」

 「・・・さあ。俺に聞かれても・・・おいゲーリングしっかりしろ」

 「ああ~シンナーのにおい最高~」

 つい先ほどまで牢屋に入れられていたゲーリング、ヒムラー、ヘスの三人は牢屋内で必死で同人誌を作っていた最中突然外に連れ出され今グラウンドに連れて行かれている途中だった。

 「・・・まさか・・・処刑?」

 「やめてくれ縁起でもない・・・あり得ない話ではないが」

 ヒムラーの言葉にヘスが顔をしかめる。

 看守に連れられ外に出るとそこにはかなり大勢の兵士や少数の艦娘がいた。一個中隊あるいは一個大隊ほどいるだろうか?

 「・・・あれ?あいつもしかして・・・」

 ヒムラーは群衆の中に見慣れた人間を見つけた。

 「・・・おい!そこの君!君はもしやヘルマン・フェーゲラインではないか?」

 フェーゲラインと呼ばれた男はヒムラーに呼ばれたこちらを振り向いた。

 「長官!ヒムラー長官ではありませんか!」

 フェーゲラインと呼ばれた男は二人の艦娘を連れてヒムラーたちのもとへやってきた。

 「ヒムラー長官、牢屋につながれていたはずでは?なぜここに?」

 「・・・いや・・・突然呼び出されてな・・・ずいぶんな数の人間が集められているようだがこれは一体?」

 「さあ・・・私達も突然呼び出されたもので」

 突然グラウンド内に銃声が響いた。

 ヒムラーたちが驚いて銃声のしたほうを見るとそこには武装親衛隊の戦車搭乗員の制服を着、右目に眼帯を付けた男が立っていた。

 「貴様ら、おしゃべりはそこまでだ!おい、そこの看守、俺の兵士に触るんじゃない、さっさと立ち去れ!!銃殺するぞ!」

 眼帯の男は台の上に立ちながら兵士たちに列に並ぶよう指示し、看守には立ち去るよう指示する。

 「諸君、私は国防軍大尉エルンスト・フォン・バウアーというものだ。本日編成されることになった懲罰部隊『黒騎士』の指揮を執ることになった。そして諸君らはこの懲罰部隊に編入されある大規模作戦に先立ち南方に送られることになった!私とともに祖国と人類のため、父母兄弟のために死ね!!犬死はさせん!!以上、訓示終わり!!詳しいことは追って伝える!!」

 ヒムラーとフェーゲラインは絶句した。

 「懲罰部隊・・・だと?」

 「あれだ・・・絶対青葉と裸で寝たのが原因だ・・・」

 こうしてヒムラーたちは懲罰部隊に編成され南方の島に送られることになった。 



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62話 南方へ~我ら懲罰部隊『黒騎士』~

 東シナ海、一隻の輸送船が数隻の護衛艦や艦娘に護衛されながらフィリピンに向けて航海していた。

 輸送船の積荷は約300人の一個中隊の兵士・艦娘である。

 これから行われる反攻作戦に先立って彼らは先遣部隊、そして懲罰部隊として南方に送られるのだ。

 輸送船内では懲罰部隊に編入されることになったフェーゲラインたちが食堂で食事をとっていた。

 「ううう・・・よりにもよって懲罰部隊だなんて、取材も出来なくなるうえにあんまりですよ・・・」

 スープ皿をつつきながら嘆く青葉。隣に座る曙も毒づく。

 「ホント、あのクソ総統ったら支援も無しに一個中隊だけ送るなんてどうかしているわ!!私達を殺すつもりなの!?」

 「諦めろ二人とも・・・懲罰部隊に送られたのはある意味仕方のないことかもしれんぞ・・・」

 フェーゲラインが首を振った。

 「あの件で相当な罰を覚悟していたが、銃殺されないだけ温情ものだと思うよ俺は・・・」

 フェーゲラインの脳裏には先日の不祥事騒ぎが浮かんでいた(詳しくは59話を見よ)。朝気づけばベッドの中で青葉と曙と一緒に裸で寝ていたあの件である。あの一件以来青葉、曙と一線を越えた関係を持ったとの疑いをかけられ(本人は酔っていただけで越えていないと主張しているが艦娘の態度からするに怪しい)、フェーゲライン達は軍紀を乱すものとしてヒトラーから不評を買っていた。

 そして下された処分が一定期間の懲罰部隊への編入であった。

 もっとも、日ごろの彼らの態度からするに最初から懲罰部隊に編入されていてもおかしくなかったが。

 「いや、疑いをかけられた以上編入は仕方ないだろうけどさ・・・でも本当に一線は越えていないよ・・・少女襲うほど俺は愚か者じゃないけど」

 「・・・あの状況までなってまだ言いますか、それ?」

 「総統もクソだけどあんたもクソね。私も何も覚えてないけど」

 「クソ、ほんとに何も覚えていないんだが・・・」

 頭を抱えるフェーゲライン。対して二人は頬を赤らめてそっぽを向いた。

 関係の修復には時間がかかりそうだ。もっとも普段から添い寝をしたりしていた仲だからそれほどかかるまいが・・・

 フェーゲラインはちらりと別のテーブルを見た。

 別のテーブルには自分たちと同じく懲罰部隊に送られることになったヒムラーやヘスたちが座って食事をしていた。

 恐らく自分たちと同じようなやり取りをしているのだろう。

 フェーゲラインは残りのスープを一気にすすった。

 

 

 「・・・懲罰部隊か。だが銃殺されないだけでも御の字かもしれんな・・・」

 ヒムラーが黒パンをちぎりながら呟いた。

 隣に座るヘスが頷く。

 「ああ、戦場に送られる以上過酷であることに変わりはないだろうが・・・しかし生き残るチャンス、名誉挽回のチャンスは与えられたわけだ。しかし・・・」

 ヘスはそう言って自身の目の前に座る二人の艦娘を見た。

 「・・・なぜ君たちもついてきたんだ?ついてくる必要はないのに」

 ヘスの目の前には駆逐艦娘の時雨と夕立がいた。彼女たちはヘスたちとは別に自ら志願して懲罰部隊に入ったのだ。

 「だって・・・あの日おじさんに拾われて以来いろいろ助けられたからね。放っておけないよ・・・おじさん、悪い人には見えないし」

 「あたしもおじさんと時雨ちゃんが心配で志願したっぽい」

 ヘスは笑った。

 「そうか・・・心配してくれてありがとう。その気持ちだけで十分だよ。ここから先は戦場だ。何も君達が行く必要は・・・」

 時雨も笑う。

 「大丈夫、僕は艦娘だよ。ちょっとらそこらのことで死んだりはしないさ。今度は僕が助ける番だ」

 「そうだったね、じゃあ頼りにしてるよ・・・もっとも頼りになりそうにない奴もいるが・・・」

 そう言ってヘスは隣を見た。隣にはシンナーを吸って目が虚ろになりトリップ状態になっているゲーリングと艦娘の千代田、千歳がいた。

 「ああ~食事中に一発決めるって最高だぜ~」

 「お姉~瑞雲が飛んでいるよ~あ、消えちゃった~」

 「ああ・・・あたしの彩雲・・・彩雲・・・彩雲・・・」

 ヘスはため息をついた。三人とも後で高速修復剤を飲めば元に戻れるからとすっかりシンナー中毒になってしまっている。最近ではモルヒネも始めたらしい。

 この様子ではもうどうやっても止められはしまい。戦場で足手まといにならなけければいいのだが・・・

 スープを完全に飲み干したヒムラーが言った。

 「しかしいろんな奴が編入されてきているな、この懲罰部隊には。まさか君まで来るとは思わんかった」

 ヒムラーの目線の先には以前ヒムラーたちの看守を務め、同人誌づくりのサポートをしていた親衛隊曹長ローフス・ミシュの姿があった。

 「いやあ、長官たちと必要以上に関わりあっていたのがまずかったようで、編入されることに・・・」

 「そうか・・・それは悪いことをしたな。この借りは必ず返すことにするよ。それにしてもいろんな人間がいるねこの懲罰部隊には」

 ミシュは頷いた。

 「はい。一般兵から艦娘に至るまでいろんな奴がいますよ。例えばあそこのSS少尉どのは毎晩食糧庫に忍び込んで食糧を盗んでいました。それからあそこのポニーテールの駆逐艦娘、秋雲というんですがあの子同人誌を書くのが趣味でしてね。この前総統とゲッベルス大臣のBLもののR18の同人誌書いてそれで総統と大臣の不評を買って送られてきたそうです。それからあそこの灰色の髪の毛をしたサイドテールの駆逐艦娘、霞というんですがすごいですよ。日夜総統や参謀達をクズだとクソだのウンコだの、挙句の果てには死ねだのと罵倒していてね。しかも本人の目の前でですよ。それでこれまた不評を買って態度の矯正にと送られてきたそうです」

 どうやらこの懲罰部隊に送られてきた艦娘や兵士たちは一癖も二癖もありそうである。もっとも、そうでなければ懲罰部隊に送られることななかっただろうが・・・

 ヒムラーは今後のことを心配しても仕方がない、今のうちに力をつけておこうと思いスープをおかわりすることにした。

 

 

 輸送船内に設けられた士官用の船室の一つで懲罰部隊の指揮官、エルンスト・フォン・バウアー大尉は部隊員のリストを見ていた。

 バウアーはこの世界に蘇る前はドイツ軍の精鋭の戦車部隊『黒騎士中隊』を率いて戦っていた。終戦直後のソ連軍との戦いで仲間の盾となって散ったのち、再びこの世界に蘇ったのだが、生前と同じように軍紀違反、命令違反を繰り返しついに懲罰部隊の指揮官の任に任ぜられることになったのである。

 「どいつもこいつも一癖二癖もありそうだなおい?」

 バウアーはリストの人物を見ながら言った。

 隣に立つ副官のオットー・シュルツ准尉やクルツ・ウェーバーが頷く。

 「まったく、不純異性行為を働いたSS中将様にSS長官、薬物中毒のデブッチョに同じくシンナー中毒の艦娘姉妹、毒舌屋の艦娘、同人作家の艦娘・・・そうそうたるメンバーばかりです。おもてなししようにもしきれませんよ」

 「まったくだ、上もとんでもない奴らばかり連れてきたもんだ。死なないように使えるように教育してやるのが俺達の役目だが・・・まったく、先が思いやられる」

 バウアーは一癖も二癖もある懲罰部隊の兵士たちをどう率いるか悩んでいた。

 「支援も無しにわずか一個中隊だけで、か・・・まったく、いますぐ鎮守府に乗り込んで上層部の連中に俺のケツでもなめさせたいよ」

 だが文句を言っても何も始まらない。

 軍人である以上任務は果たさねばならない。

 バウアーは今後について副官とさらに話し合った。

 懲罰部隊『深海棲艦猟兵黒騎士中隊』を乗せた輸送船はそれぞれの思いを乗せながら静かに目的地に向かっていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懲罰部隊『深海棲艦猟兵黒騎士中隊』の主な隊員

 

 エルンスト・フォン・バウアー(懲罰部隊指揮官。大尉。度重なる軍紀違反、命令違反による)

 ハインリヒ・ヒムラー(元SS長官。終戦間際の裏切り行為による)

 ルドルフ・ヘス(元副総統。戦時中のイギリス亡命事件による)

 ヘルマン・ゲーリング(元国家元帥。終戦間際の裏切り行為および薬物中毒による)

 ローフス・ミシュ(親衛隊曹長)

 夕立(艦娘。志願)

 時雨(艦娘。志願)

 ヘルマン・フェーゲライン(SS中将。艦娘との不祥事による)

 青葉(艦娘。フェーゲラインとの不祥事による)

 曙(艦娘。理由は上に同じ)

 千歳(艦娘。薬物中毒による)

 千代田(艦娘。理由は上に同じ)

 霞(艦娘。ヒトラーを目の前で罵倒するなど日ごろの態度による)

 秋雲(艦娘。ヒトラーとゲッベルスのBLもののR18同人誌を作成したことによる)

 

 その他312名の艦娘、一般兵が懲罰部隊に編入。

 




 


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63話 偵察~パーティーの始まり~

とある提督(プレイヤー)「俺は病気(金欠)なんだ、ここ(課金地獄)から出してくれ!」
運営「黙れ、俺もお前も艦これという名の病気だ。お前の病名は提督、そしてお前がいないと俺たちは艦これをできないんだぞ」
 
艦これも二期になりました。皆さんはこうならないように気を付けましょう。


 一週間ほどの航海の後、300人ほどの兵士・艦娘を率いた黒騎士中隊はフィリピン、サマール島北部に到着した。サマール島が選ばれたのは反攻作戦において最初に部隊を上陸させる予定の場所だからであり、黒騎士中隊は事前の敵に対する破壊工作や斥候といった特殊任務を遂行させるために派遣させられたのだ。サマール島以南は既に深海棲艦の縄張りである。

 部隊長エルンスト・フォン・バウアーによる訓示の後、兵員には次々とStG44やMG34、パンツァーファウストといった装備が配られていった。

 「いよいよ実戦か・・・しかしこんな豆鉄砲が深海棲艦に通用するだろうか」

 フェーゲラインが支給されたStG44とパンツァーファウストを点検しながら呟いた。

 20.3cm連装砲を磨きながら青葉が言った。

 「・・・正直生身の人間が深海棲艦に真正面から立ち向かうのは無謀です。隠れながらパンツァーファウストで装甲の薄いところとか弾薬や燃料を狙ったり、艦娘用の砲弾を装填した戦車砲を使用すれば倒せれる可能性はゼロではないと思いますけど・・・艦娘は陸上にいたり艤装を外しているときは防御力が落ちたり生身の人間と変わりませんから、深海棲艦もそこを狙ってみればいいと思います。実際、陸地に上陸して艤装を外して休息していた空母ヲ級や戦艦ル級にある兵士が白兵戦を挑んで短機関銃と銃剣でミンチにしたっていう話がありますよ?たしか・・・船坂とかいう兵士でしたっけ?」

 「そりゃその船坂という兵士だけが頭おかしいんだ」

 フェーゲラインは溜息をついた。

 「結局、相手の裏をかくしかないのか・・・生き残れるかな・・・」

 「何弱気になっているんですか、この際暴れまくってやりましょうよ!斥候とかするそうですから、もしかしたら深海棲艦に取材ができるチャンスかもしれませんよ!!」

 「いいよなお前は明るくて・・・」

 フェーゲラインは青葉の無邪気な様子に苦笑いしながら周囲を見た。

 周囲の兵士や艦娘は支給された装備の整備に余念がない。

 しかし支給されている兵器はアサルトライフルや小銃、軽機関銃や短機関銃、パンツァーファウストや小口径砲と深海棲艦と戦うには頼りない物ばかりだ。上層部はこの部隊をまともに運用させるつもりがあるのだろうか?もちろん歩兵が持てる装備には限界があるし、青葉の言うとおり生身の歩兵が深海棲艦にまったく勝てない戦えないということはないが、やはり不安だ。

 同じことを考えているのはフェーゲラインだけではないらしい。

 向こうでドイツ兵と艦娘が言い争っている。確か霞とかいう艦娘だったか。傍らには前線の兵士から『火葬装置付き棺桶』と不評だったヘッツァー駆逐戦車がある。どうやら整備中だったところで言い争いになったようだ。

 「ちょっと、こんな装備だけで戦えっていうの!?こんなのただの豆鉄砲よ!!頼みの綱の戦車は狭い火葬装置付きの棺桶だし!!こんなのでまともに戦えるわけないじゃない、こんなので戦わせようなんてバカなの!?」

 12.7cm連装砲やヘッツァーを指さしながら装備の貧弱さを愚痴る霞にドイツ兵が怒鳴る。

 「黙れ!優れた戦車兵や艦娘は優れた兵器に勝るんだ!無駄口叩いてる暇があったら整備を手伝え馬鹿野郎!!それか俺のケツでもなめろ!!」

 「逆ギレするんじゃないわよ、事実じゃない!!ったく・・・どんな考えしてこんな貧弱な装備しか送ってこないのよ・・・本っ当に迷惑だわ!!」

 そう言いながら霞はレンチをドイツ兵に渡し整備を手伝うのだった。

 フェーゲラインは溜息をついた。

 あの霞とかいう艦娘の言うとおりだ。こんな貧弱な装備で戦おうなんてこの先が不安だ。しかしやるしかない。フェーゲラインは再び武器の整備を始めた。

 別の場所ではヘスや時雨達が同じく装備の整備に精を出していた。

 ヘスがパンツァーファウストを組み立てながら言った。

 「すまないなこんなことにつき合わせてしまって・・・」

 時雨が笑いながら言う。

 「いいさ、おじさんにはいろいろ世話になったし、自分で志願したんだ、後悔も恨みもしないよ」

 時雨の隣に座っていた別のドイツ兵が時雨の志願という言葉に反応した。

 「なんだお前、自分でこの懲罰部隊に志願したのか?」

 「うん、色々あってね・・・」

 ドイツ兵が苦笑しながら言う。

 「志願ならやめておけ、『英雄的に』戦死するか、耐え切れなくなって脱走しようとして敗北主義者として木に吊るされるか、さっさと名誉の負傷をして本国に送還されるのがオチだ。俺なら三つ目をお勧めするね。今のうちにちょうどいい具合に負傷した方がいいぞ、志願だから本国に送還してもらえるかもしれないからな」

 実際、この懲罰部隊には時雨のような志願者も少なからずおり、彼女ら志願者の場合は負傷すれば安全な本国へ後送される可能性があった。

 これから体験するであろう戦場の地獄を小さな駆逐艦娘が体験することを心配して忠告するドイツ兵。だが、彼は時雨もまた相当な修羅場、トラウマを乗り越えてきたことを知らない。

 「いや、四つ目の選択肢もあるよ」

 時雨が主砲を磨きながら言う。

 「敵を全滅させて仲間と一緒に生還する、さ。大丈夫、すぐにやられるほどヤワじゃないさ。むしろ僕を舐めない方がいい・・・」

 時雨はじっと、異様に澄んだ目をしながらドイツ兵を見た。子供離れしたその様子にわずかにたじろぐ。

 「・・・そうか。まぁ、志願だからな文句は言うなよ。俺の言葉は忘れない方がいい」

 「うん、古参兵の意見は尊重するよ」

 兵士や艦娘たちは来たるべき戦いに備え装備を整備するのであった。

 

 

 

 

 「バウアー大尉、見てください」

 仮設の部隊指揮所の近くでは戦車兵クルツ・ウェーバーが今回の派遣で送られてきた装備に驚いていた。

 ウェーバーが指をさす先には巨大な、重厚感あふれる重戦車ティーガーⅡの姿があった。第二次大戦中の最強の戦車の一つである。その隣にはパンター中戦車の姿もある。

 かつてのバウアーの最強のそして良き相棒達が何両も指揮所に近くに並んでいた。

 ヒトラーや上層部は貧弱な装備しか送らなかったわけではない。ちゃんとした装備も(中隊としては過剰と言える量を)送っていたのだ。

 バウアーが目を丸くする。

 「こいつはティーガーⅡじゃないか!!パンターまであるぞ。上層部の連中、貧弱な武装しか送ってこないと思っていたがちゃんと考えているじゃないか」

 「PAK(対戦車砲)やロケット砲も用意されてるみたいです。しかしこいつで深海棲艦と戦えますかね?」

 「安心しろこいつが搭載している戦車砲はただの戦車じゃない、砲弾に艦娘用の砲弾を転用したり改造したものを使っている。深海棲艦やイワンどもとまともにやりあえる。これで安心して戦争ができるな」

 「大尉、失礼します」

 部下がバウアーに声をかけた。

 「さっそく鎮守府より直々に指令が届きました。『状況が許す限り速やかに、現在位置より南20キロに存在する敵中継基地に対し偵察行動を実行せよ。可能であれば敵の補給等の活動を妨害せよ』とのことです。詳細はこちらの命令書に」

 部下がバウアーに書類を手渡す。

 「そうか、ついにパーティーを始める気になったか。こいつらとイワンどもにドイツ戦車兵魂を教育してやるいい機会だ。すぐに部隊の選抜にかかるぞ!!」

 「Ja!」

 こうして早速懲罰部隊『黒騎士中隊』は初の実戦に出撃するのであった。



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64話 発見~見つかった~

 草木が鬱蒼と茂るジャングル、野生動物の鳴き声とともに大地を軋ませるキャタピラの音が響く。

 『黒騎士1より黒騎士2へ、異常はないか』

 『こちら黒騎士2、現在のところ異常なし』

 『了解、警戒を怠るな、何か見つけたらすぐに報告しろ』

 ティーガーⅡ1両とパンター戦車2両そして20人ほどの歩兵で編成された偵察部隊がジャングルの道なき道を進んでいた。

 フィリピンへ派遣された懲罰部隊『黒騎士』は到着するなり早速、敵補給基地の偵察を任じられたのだ。

 目立たないよう慎重に進んでいくうちに敵の補給基地まであと数キロというところまでたどり着いた。周囲にはジャングルや荒れ果てた道路、沼地や草原が広がっている。

 ティーガーⅡに乗車している部隊指揮官のバウアーは地図を開いた。

 「敵の補給基地まであと3、4キロだ。敵とは目の鼻の先だ、遭遇及び戦闘は避けたい。それにここから先は沼地や泥道が多い、戦車での進撃は難しいだろう」

 バウアーは戦車の周囲で警戒をしている歩兵たちを見た。

 ここから先は歩兵の斥候を送り出すのがいいだろう。

 目立たないし、どんな場所も踏破できる。

 もちろん相手は深海棲艦だ。万一戦闘になった場合、歩兵の装備では心許無いが、しかし任務はあくまで偵察であって戦闘ではない。その時は彼らを支援しながら離脱すれば良い。

 バウアーは斥候部隊の編成と戦車の偽装を指示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うう・・・暑い」

 「しっ、文句言うな気づかれるぞ」 

 ジャングルの中を、斥候を命じられたフェーゲラインと青葉が進んでいた。

 彼らはいつもの将校用の制服やセーラー服ではなく迷彩を施した野戦服に身を包んでいた。フェーゲラインは背中にStG44とパンツァーファウストを、青葉は背中に20.3㎝連装砲を背負いながらジャングルの中を進んでいた。

 フェーゲラインが生い茂る蔦や葉を鉈をふるって切り落としていく。

 怪我をしないためと、装備や服と擦れあって音をたてないようにするためだ。

 「・・・それにしても本当にこの道で合ってるんですかね?」

 「一応地図とコンパスに従って進んではいるが・・・こう草木だらけだとなぁ」

 周囲には草木が鬱蒼と茂っており目印になりそうなものはあまりない。

 道なき道を進むのに頼れるものはコンパスと支給された地図だけだ。

 「フェーゲさん、早いところ任務を終わらせて帰りましょうよ・・・」

 「どうしたいつもの記者魂はどこ行った?お前らしくないぞ・・・ん?」

 ある程度進んだところでフェーゲラインが何かに気付いた。青葉も何か察したらしい。

 「あれは・・・」

 草木の中に隠れながら見てみると目の前にはジャングルには似つかわしくない人工物が広がっていた。

 アスファルトで舗装された道路に大量のドラム缶や木箱。

 その近くでは深海棲艦達がせわしなく動いていた。

 「ここが例の中継基地か・・・」

 見たところいくつかの簡易の建物と補給物資等が並んでいるだけで規模は大きくない。

 現在作戦行動に展開している懲罰部隊だけで十分対処できるだろう。

 問題はそれ以外だった。

 それ以外のものがフェーゲラインの関心を集めていた。

 「・・・なぜここにソ連軍の兵士と装備が・・・?」

 せわしなく動く深海棲艦に交じって鎌とハンマーのマーク付きの赤い星のついた略帽の兵士が木箱を運んでいる。その向こうにはモシン・ナガンやPPSh-41等で武装した兵士達が立って監視している。明らかにソ連兵と見受けられる格好だった。

 木箱やドラム缶の隣には傾斜装甲が特徴的なソ連軍のT34やトラックがいくつか並んでいる。

 明らかにソ連軍と思しき連中が深海棲艦に交じって活動していた。

 「・・・見たか?あの戦車?」

 「・・・ええ。どう見てもソ連軍ですね」

 なぜここにソ連軍がいるのだろう。

 もしやソ連軍も自分たちと同じように蘇ったのか。しかしならば彼らは深海棲艦とともに活動しているのか?それとも深海棲艦がソ連兵をいいように扱っているのかはたまたその逆か。

 フェーゲラインは頭を振った。

 ここでそんなことを考えても仕方ない。答えは出ないのだから。

 まずは戻ってバウアー大尉に報告することが先だ。

 「青葉、写真は?」

 「言われなくてもばっちりです。もう撮っておきました」

 「仕事が速いな。お前らしい・・・早く戻って報告しよう」

 フェーゲラインはそう言って振り返ると。

 「кто(誰だ)?」

 今まさに用を足そうと木陰に向けてズボンを下ろそうとしていた歩哨らしきソ連兵がサブマシンガンを構えてフェーゲラインと青葉二人を見ていた。

 「・・・」 

 「・・・」

 「・・・」

 「「「ああああああああああああ!?」」」

 見つかった。

 敵に見つかってしまった。

 二人がそう理解すると同時に。

 ズダダダダダダダ!とジャングル中に響き渡った。

 

 

 

 

 中継基地から数キロ離れた場所でティーガーⅡに乗車しながらバウアーは中継基地から煙が上がり砲声や爆発音が響くのを確認していた。

 「クソ、見つかったか」

 バウアーはそう舌打ちすると部下のクルツにここからどれくらいかかるか問う。

 「クルツ、ここからあの中継基地までどれくらいかかる?」

 「全速力でいけば10分以下で」

 バウアーは現在いる戦力を確認した。

 ティーガーⅡが1両にパンターが2両。歩兵が30人ほど。

 斥候2人を救出するのには足りなくはない。

 そして部下を見捨てないのがバウアーの信念だった。

 「よし、待ってろよ・・・お前たちを必ず祖国に連れ戻してやる。パンツァー、フォー!!」

 南のジャングルに、ティーガーのエンジン音とキャタピラの音が力強く響いた。

 




クレープス「・・・そういえば思ったのですが」
ヒトラー「なんだ?」
クレープス「最近我々の出番が少ないように思われます」
ブルクドルフ「確かに。第一総統閣下シリーズのはずなのにアホルフの奴全然怒ってないしな。ダサいし」
カイテル「読者の皆様も総統、何で怒らねえんだよ、とイラついてるはずです。総統閣下シリーズと銘打ってる以上ここらで何か一つ、ソウトウカッカしていただかねば・・・」
ヒトラー「でも何で怒ればいいんだ?」
フェーゲライン「総統が美大に落ちた話でww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダダダピロリーン♪   
ヒトラー「・・・というわけだ、そろそろ私もいい加減怒ろうと思う。何かいいネタが合ったらコメントしてくれ。では、おっぱいぷるーんぷるん!!」   


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65話 番外編8~総統閣下がお悩み相談をするようです~

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室。

 「艦娘のお悩み相談をしようと思う」

 開口一番、ヒトラーはそんなことを言った。

 「総統閣下・・・いきなりなんですか?」

 クレープスがヒトラーに怪訝そうに聞く。

 「なに、そのままの意味だ。我々は常日頃から艦娘とともに戦っている。しかし、よくよく考えたら艦娘のことをよく分かっていない気がするし、艦娘と親睦を深め今後の士気の向上につなげようっと思ってな。提督として、何より総統として部下のことをよく知っておくのは当然のことだ。これこそまさに愛の参観、理解OK?」

 「お前がお悩み相談しても悩みが深くなるだけだと思うけどね」

 フェーゲラインが笑いながら言った。

 「KO☆RO☆SU」

 ヒトラーがそう言うと突然執務室にMP40を装備した親衛隊員がやってきた。銃口をフェーゲライン、青葉、曙に向け連射する。

 「はい死んだ!!」

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああああ!?」

 訓練弾をまともに食らった三人はそのまま倒れピロリーン♪という謎の効果音が響いた。

 クレープスは頷いた。

 「なるほど、艦娘との親睦を深める、ですか・・・確かに部下のことをよく知っておくのは指揮官と重要ですからね」

 「それによく私はお前らや艦娘から『クソ総統』だの、『変態総統』だの、『アホルフ』だの馬鹿にされているからな。総統としての威厳、慈愛を見せこの不名誉なイメージを覆したい」

 ヒトラーの嘆き、切実な思いにヨードルが突っ込む。

 「いやアホルフ、実際事実だろそれ!いつもおっぱいぷるんぷるんとか言って艦娘にセクハラしているくせに!!」

 「黙れハゲ!!いつも那珂ちゃんとイチャイチャしているお前に言われたかねぇ!!だからそれだよ!!お前らには私に対する尊敬とか礼儀とかないのか!?」

 「ないよ!!」

 「でしょうねぇ!!」

 ヒトラーは持っていたペンを机に叩き付けた。

 「とにかく、私は艦娘とお悩み相談をすることに決めたんだ!すぐに準備しろ」

 こうしてヒトラーによる艦娘お悩み相談会が開かれることになった。

 数時間後、総統執務室前には大勢の艦娘や将校たちが並んでいた。

 執務室のテーブルに座りながらヒトラーが言った。

 「よし・・・それではお悩み相談をすることにしよう。クレープス」

 「は・・・まず最初の一人は電です。どうぞ」

 執務室のドアからおずおずと電が入ってくる。

 「あの・・・総統、いいですか?」

 「ああ、悩みがあるなら何でも相談してくれ。総統として艦娘の問題を解決するのは当然のことだからな」

 「総統、実をいうとこれは私だけじゃなくて駆逐艦娘全員が持っている悩みなのです。いつも、とくにここ最近誰かに見られている気がするのです」

 「おい、ちょっと待て、それ絶対ゲッベルスのことだろ」

 ロリコン宣伝相ゲッベルス。

 重度のロリコンである彼は最早悪い意味でこの鎮守府内で有名人であった。

 実際、彼はしばしば入渠中の駆逐艦娘を除きに行ったり盗撮したりと、その犯罪的行動には十指に余るものであった。最近では秋葉原で『国家社会主義ドイツロリコン党』なる組織を作り出したらしい。

 「はい・・・ゲッベルス大臣がいつも変な目で私たちを見つめたり中破した私たちの姿をカメラで撮ったり、お風呂を覗こうとしたり・・・大臣の奥様やお子様たちも悩んでいるようなのです」

 電の隣ではいつの間にいたのか、ゲッベルスの妻であるマグダがハンカチで目元をぬぐいながらヒトラーに訴えた。

 「総統、夫のロリコンをどうか直してください。これ以上夫の変態行動を見たくありません。子供の情操教育に悪いし、国家社会主義にふさわしくありません・・・」

 「・・・おい、モーンケ。今すぐゲッベルスを呼んで来い。この場にいないようだがこの鎮守府のどこかにいるはずだ。今すぐ連れてこい」

 ヒトラーの命令にモーンケが素早く答えた。

 「・・・総統閣下、それがここにはもういません。私がとめる暇もなく出かけて行ったからです」

 「何?」

 「あれは十数分前のことでした・・・」

 

 

 

 

 

 

 モーンケの回想

 モーンケは重巡摩耶と共にゲッベルスを呼びに行っていた。

 通信室に向かうとそこではゲッベルスがライトノベル『ブラック・ブレット』を呼んで泣いていた。

 「う、うう・・・なんて可哀そうなんだ・・・ここに登場する『呪われた子供たち』の扱いが酷過ぎる・・・あんまりだ・・・夏世ちゃん、なんで死んでしまったんだ・・・」

 「おいゲッベルス、そろそろお悩み相談会が開かれるぞ。早く来るんだ。総統閣下がお待ちだ」

 「ほら、早く準備しろよ。目赤いぞ」

 モーンケと摩耶の言葉にゲッベルスが答えた。

 「ああ、悪いが出席は取りやめだ。外出する」

 「何?」

 「今から『ブラック・ブレット』の世界に行ってくる。そして『呪われた子供たち』を残酷な死の運命から救うのだ」

 突然頭のおかしいことを言い出したゲッベルスに二人は戸惑った。

 「・・・ライトノベルのことだな。本気で言ってるのか?二次元の世界に行こうなんて?それから『ブラック・ブレット』の8巻は諦めろ、あれは作者が逃亡したに違いないんだ」

 「・・・頭大丈夫か?二次元と三次元の区別ついてるか?」

 しかしゲッベルスは毅然とした態度で答えた。

 「私は至って本気だ。・・・私は本気だ!!目の前で幼女が過酷な運命にさらされているというのにこれを助けないなどドイツ人としての、ロリコンとしての恥だ!!悪いが今回は欠席させてもらう。それから私は8巻は諦めていないぞ。もし出なかったら私が執筆する。外出させてもらうよ」

 そういうとゲッベルスは携帯を取り出してどこかへ去って行った。

 「ああ、阿良々木か?今すぐ秋葉原に来い!!八九寺も一緒にな!!党大会を開く、党員を招集するんだ!!私たちの手で幼女を救うんだ!!」

 「・・・」

 「・・・」

 モーンケは冷徹な目でヒトラーに報告した。

 「そう言って奴はどこかへ去っていきました。運が良ければ今頃警察に捕まっているかと」

 「あいつ・・・一度刑務所、いや収容所にぶち込もうかな・・・」

 その後も続々と艦娘がやってきてお悩み相談をしたが碌なものが一つもなかった。

 「秋雲だよ!!同人誌描いているんだけどさ、最近スランプ気味だから同性愛モノに挑戦してみようと思うけど総統×ゲッベルス(R18)で行こうと思うんだけれど」

 「馬鹿かお前は!?FUCK、あほかいね!!ゲシュタポを呼べ!!」

 「赤城です!総統、もっとボーキサイトの配給量を増やしてください!!っていうか資源全部よこしてください!!」

 「あほか!!お前は鎮守府を潰す気か!?」

 「足柄よ・・・いいお相手がなかなか見つかないんです、だれかいい男紹介してくれませんか?」

 「自分で探せババア」

 「龍驤や!!総統、お願いやウチのこの胸を、まな板を何とかして!!一航戦に対抗できるくらいに・・・」

 「無理だなあきらめろ」

 「日向だ。瑞雲が欲しい。瑞雲の神に会いたい。瑞雲を手に入れ、瑞雲の神を償還する方法を教えてくれ」

 「いや知らんわ!!」

 「北上様だよ。駆逐艦ってウザくない?」

 「最早相談ですらねぇ」

 訳の分からないお悩み相談が進むごとにヒトラーの精神は疲弊していった。

 「もう・・・いやだ・・・碌な相談がない・・・畜生め・・・」

 こうして、ヒトラーの提案した艦娘のお悩み相談会は碌な結果を出さずに終わった。

 「まったく・・・碌な相談が一つも来なかった・・・」

 ヒトラーはぶつぶつ文句を言いながら執務室を出ようとするとそこへゲッベルスの妻であるマグダが駆け寄ってきた。

 その眼には涙が浮かんでいる。

 「総統!!夫を助けてください!!」

 「なんだ、君か。ゲッベルスのロリコンを直したいんだろう?悪いがもうお悩み相談は嫌なんだ・・・もう疲れた・・・」

 「それが・・・夫がさっき警察に連れていかれたんです・・・秋葉原でロリコンをたたえる変態演説をやって不審者扱いされてそのまま職務質問されて警察に連行されて・・・夫を助けてください!!」

 「・・・畜生めぇ!!!」

 ヒトラーの叫びが鎮守府中に響いた。

    

  



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66話 戦闘~フォイア!鉄の棺桶になろうとも~

 炎と爆発に包まれる深海棲艦の中継基地の中を青葉とフェーゲラインは必死で走り回っていた。

 基地の偵察に来たはいいものの、運悪く野外で用を足そうとしたソ連兵に見つかってしまった。

 その直後、深海棲艦やソ連兵や戦車が殺到し一気に攻撃を仕掛けてきた。

 ジャングルの中や基地の遮蔽物の影を走り回りながら、青葉が20.3cm連装砲で深海棲艦や戦車を撃破し、フェーゲラインが手榴弾や突撃銃で突撃するソ連兵を倒しながら二人は何とか脱出しようとしたが、何しろ敵の数が多く、その上深海棲艦とソ連兵が巧みに連携しながら攻撃を仕掛けてくる。砲撃や歩兵による突撃をうまく使い分けながら退路を断っていくのだ。敵対しているはずの人類と深海棲艦がなぜ共同戦線を張っているのか考える暇もなく二人はすぐに追い詰められてしまった。

 敵が基地の司令部にしていた、今は使われていない教会まで命からがら逃げ込んだ二人は教会のドアから隠れて応戦しながら悪態をついていた。

 「うわーん!まだ青葉死にたくありません!!なんでこんなことになっちゃたんだよー!?早く鎮守府に帰りたいよー!!」

 「畜生畜生畜生!よりにもよってなんで俺がこんな目に!さっさと手柄を立てて懲罰部隊から立ち去るつもりだったのに、中将の俺が何で・・・」

 「フェーゲさんが青葉と曙を襲ってあんなことやこんなことをするからです!!」

 「まだ根に持っていたのか!?あれは一応未遂のはずだぞ!?とにかく撃ちまくるんだ、俺達で必ず生き残ってやる!!こんな懲罰部隊で死ねるか!!お前だって鎮守府に帰ってまた新聞書きたいんだろう!?」

 「そりゃ青葉だって死にたくないです!帰りたいです!総統のデイリー任務のほうがマシです!!でも敵の数が多すぎますよお!!」

 言い合っているうちにフェーゲラインのStG44がついに弾切れを起こした。パンツァーファウストもM24棒付き手榴弾も無くなった。もうフェーゲラインの持っている武器はナイフだけだ。

 「青葉、俺の武器はもうナイフだけだ。お前は?」

 青葉も首を振った。

 「私ももう弾薬がありません。偵察だから身軽にと砲弾を多く持って行かなかったのが裏目に・・・」

 もはや戦う手段はほちょんど無くなった。

 そうこうしている間にもT34中戦車がソ連兵たちに囲まれながら教会に近づいてきた。

 もう駄目だろう。諦めるしかないのか。

 「フェーゲさん・・・私達もう駄目みたいです・・・もう鎮守府の皆と会えないのかな・・・」

 「クソっ、これじゃ犬死だ、どうすりゃいいんだ・・・」

 青葉が諦めかけフェーゲラインが必死で足掻こうとし、T34の主砲の砲身がゆっくりとこちらを向いた瞬間、突如としてT34が爆発を起こし砲塔が吹き飛んだ。周囲にいたソ連兵や深海棲艦が吹き飛ばされる。

 それを合図に教会の周囲に陣取っていた敵が次々と砲撃で吹き飛ばされていく。

 「!?なんだ!?一体何が・・・」

 突然の事態にフェーゲラインが教会の入り口から周囲を見渡すと、中継基地の道の中をゆっくりと進む一両のティーガーⅡと二両のパンターの姿があった。その周囲にはドイツ兵や艦娘たちがいる。懲罰部隊の仲間が基地での戦闘の音を聞きつけて駆けつけてきたのだ。

 「青葉!戦友だ!戦友達が来たぞ!俺たちは助かったんだ!!」

 「ええ!?」

 青葉とフェーゲラインは教会の入り口からさっと駆け出すと戦車と仲間たちのもとへ駆け寄った。

 二人は間一髪のところで助かったのだ。

 そして戦いはこれからである。

 

 

 

 

 

 

 バウアーはティーガーⅡに乗車しながら部隊の指揮を執っていた。

 もともと敵部隊の規模はそれほど大きくない。T34が6、7両ほどにソ連兵と深海棲艦は一個中隊ほどか。多勢に無勢とはいえ青葉とフェーゲラインがかなり大暴れしてくれたおかげで敵も少なからず消耗しているようだった。

 しかも二人を攻撃するために敵は戦車や深海棲艦といった戦力を教会前に集中していたため、自由に身動きがとりにくくなっている。そのうえこちらの存在に今気づいたばかりで少なからず混乱しているようだ。

 完全にこちらの奇襲が成功した形だ。

 攻撃をするなら今だ。

 「まさかイワンと深海棲艦が手を組んでいたとはな。きついお仕置きが必要だ。戦車前進!T34と深海棲艦を片付けるぞ」

 バウアーは戦車を前進させる。

 敵も負けじと応戦する。

 T34の主砲がティーガーⅡに発砲する。しかしティーガーⅡの正面装甲はあまりに分厚い。キュワン!と音を立ててT34の放った砲弾が弾かれる。同時にティーガーが発射。一撃でT34を爆発させた。

 側面からもパンターが1両、艦娘たちとドイツ兵を引き連れて敵に向かって突撃してきた。二正面から奇襲され包囲され混乱しつつある敵。形勢は逆転しつつある。敵は統制の取れた行動を失いつつあった。 

 艦娘の装備する12.7㎝連装砲や20.3㎝連装砲が深海棲艦を撃破し、ティーガーやパンターの正確な砲撃がT34を次々と撃破し、ドイツ兵の機銃掃射がソ連兵の命を刈り取っていく。

 だが敵も黙ってはいない。いつの間にか発艦させていたのか、2、3機ほどの深海棲艦の戦闘機がバウアーの乗車するティーガーⅡ目掛けて急降下してきた。

 「大尉殿、上を!!」

 ティーガーに乗車していたクルツが叫ぶ。

 「!!」

 とっさに車内に隠れるバウアー。

 付近で60キロ爆弾が炸裂し同時に機銃掃射によって装甲がカンカンと音を立てる。 近くにいたドイツ兵と艦娘が負傷して倒れた。

 別の艦娘が対空機銃を撃ちまくり敵戦闘機を次々と仕留める。

 「大尉殿、お怪我は・・・」

 「大丈夫だ、しかし今ので照準器と発射装置がいかれやがった・・・だが敵はあと2両だすぐに仕留めるぞ!」

 バウアーは喉の通信機を使い仲間に呼びかける。

 「黒騎士1より全車へ、黒騎士2と3は左のT34を狙え、俺は右のほうを狙う!」

 照準器が壊れ使い物にならなくなったためクルツは主砲の閉鎖器を開け穴を覗き込んだ。直接照準するのだ。

 「チョイ右!右だ!」

 閉鎖器から覗き込んだ穴がT34を捉えた。素早く砲弾を装填。敵のT34の主砲もこちらを捉えた。

 「情け無用、フォイア!」

 バウアーが叫んだ。

 クルツが非常スイッチを足で素早く踏む。主砲が発射される。同時にT34は砲塔を吹き飛ばしながら爆発した。

 十数分後、敵戦車部隊は全滅し、ほかのソ連兵や深海棲艦も何人か脱走したのを除いて全滅した。

 中継基地を制圧した懲罰部隊は早速基地内を捜索していた。

 「はぁ・・・間一髪のところで助かりましたね」

 「本当だ、助かったんだ俺たちは・・・」

 青葉とフェーゲラインは間一髪のところで助かったという実感をかみしめながら瓦礫を掻き分けていた。

 「それにしてもなんで深海棲艦はソ連兵と一緒にいたんでしょう・・・」

 「分からん、そこらへんは捕虜でも捕まえていりゃ分かるだろうかみんな死んだか逃げてしまったからな・・・うん?なんだこの木箱は・・・」

 フェーゲラインは厳重に鎖で縛られ鍵が掛けられた木箱を見つけた。そしてその木箱はあるマークが施されていた。

 「おいおい、このマークは・・・」

 それは丸を中心に三つの三角形が放射状に描かれたマーク・・・放射性物質や放射能があることを示す・・・俗にいう放射能マークだった。

 

 

 



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66話 侵攻前夜~凍える海の底で~

 ゲルマニア鎮守府の総統執務室でアドルフ・ヒトラーは部下たちを集めて秘密の会議を行っていた。

 議題は近く行われる南方の深海棲艦の大規模拠点への一大攻勢作戦の準備についてだ。艦娘のみならず武装親衛隊や陸上自衛隊などの地上部隊など今回の作戦で動員される兵力の多くがゲルマニア鎮守府に集められ出撃の時を待っていた。

 ボルマンが資料を広げながら説明する。

 「・・・大本営により攻勢作戦は10月1日の夜明けとともに開始されることが決定しました。すでに我が鎮守府は作戦に必要な資源、兵力はほぼ全てそろえ、何時でも作戦を実行できる体制にあります。部隊および艦隊の編成表に関してはまた別に説明致します」

 ヒトラーがボルマンに聞いた。

 「今回の作戦は地上への侵攻も大規模なものになる。艦娘に関しては準備はぬかりなく行っていることをデーニッツから聞いているが、陸上部隊に関してはどうか?戦車や歩兵はそろっているのか?」

 「陸上部隊に関してもグデーリアン上級大将の指揮のもと戦力の充実化が図られています。幸い、我々同様この世に転生したドイツ兵や親衛隊員が実に大量に蘇っており、かき集めて何とか一個師団分の兵力を揃えられました。その他にも陸上自衛隊や米陸軍が集結しており陸上部隊の準備も全くぬかりありません」

 「うむ、そうだったな。こちらには転生者という実に心強い味方がいるのだったな。しかもここ最近実に大量に現れる。だいぶ前に硫黄島や南西諸島を攻略した時も実に多くの転生したドイツ兵が潜んでいたし、ここ最近、我が鎮守府の砂浜に毎日のように多くのドイツ兵が打ち上げられているからな。おかげで我々もドイツ陸軍や武装SSの再建が容易に進むというものだ」

 ヒトラーの言うとおりだった。

 ヒトラーやゲッベルス達は鎮守府の砂浜に打ち上げられた状態でこの世に蘇ったが、ここ最近の攻勢作戦の準備時期になって鎮守府の砂浜に実に多くのドイツ将兵が打ち上げられるようになった。時として数百人単位で打ち上げられた時もあった。おかげでヒトラーは陸軍や親衛隊の再建を容易に行うことができた。もちろん、いくらなんでも都合がよすぎると疑う者もいた。当然だろう。今の時期になってそんなに大量に打ち上げられるなんて、まるで誰かが今が攻勢作戦の直前であることを誰かが知っているかのようではないか・・・

 ボルマンが説明を続ける。

 「本作戦の立案に携わったのはエーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥。作戦全体の指揮を執るのも彼です。グデーリアンやモーデル閣下も指揮に加わります。尚、本作戦は『バルバロッサ』の暗号名で呼ばれることになりました」

 ヒトラーは頷いた。

 「うむ、戦力も充実しつつあるうえにグデーリアンやモーデルや指揮を執るなら充分大丈夫だな。だがもう一つ気になることがある。『総統特秘666号』に関してはどうなっている?」

 総統特秘666号。

 『少佐』の吸血鬼部隊や石仮面などに関わるこの極秘命令の進行具合がヒトラーは気になっていた。

 「・・・例の特秘命令ですが、正直作戦の開始時には間に合わないと。施設や資源が不足しているそうで・・・マックス少佐の吸血鬼戦闘団やシュトロハイム大佐の石仮面と柱の男の研究、エイルシュタットの魔女に関する研究・・・どれも遅れております。」

 「まあ、仕方あるまい。今は帝国は存在していないのだ。むしろこの鎮守府や硫黄島の施設だけでよくやってくれていると言うべきだろう。しかし作戦がすぐそこまで迫ってきている。急がせるよう言ってくれ」

 「分かりました。それと総統閣下、少し気になる情報が・・・」

 「なんだ?」

 ボルマンが先ほどより神妙そうな顔でヒトラーに言った。

 「作戦に先んじてフィリピンに派遣した懲罰部隊『黒騎士中隊』からの報告ですが・・・敵中継基地を奇襲、壊滅させた際気になるものを発見したそうです?」

 「なんだそれは?」

 「・・・木箱です。放射能マークが印された。中にはウランが入っていました」

 「ほう・・・」

 敵がウランを持っている、つまり核兵器開発をしている可能性がある情報にヒトラーが興味深そうな反応をする。

 もとより原爆はアインシュタインを始めとするユダヤ人の技術だ。反ユダヤ主義を標榜するヒトラーは核兵器に対し好印象を持っていなかったが、同時にそれがもたらす絶大な破壊力は大変魅力的であったのだ。

 将校たちの反応は違った。

 クレープスが眉を顰めてボルマンに言った。

 「・・・敵が核兵器を所持もしくは開発している可能性があると?」

 「・・・現在調査中です。発見されたウランは原爆をつくるのには足りない量でありましたが・・・とりあえずこちらに輸送させているところです」

 「ボルマン」

 ヒトラーが口を開いた。

 「・・・この情報に関しては早急に調査が必要と考える。さらに情報収集に努めるように。それと・・・総統特秘666号に命令を追加する」

 ヒトラーはにやりと笑った。

 「核兵器の開発に関して可能かどうか調査せよ。可能であれば・・・早急に取り掛かるべし、とな」

 「はっ」

 こうして会議は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北方の海域、キスカ島。

 その付近の深い深い海底に深海棲艦の拠点があった。

 拠点の執務室で一人の禿げ頭に丸メガネの男が深海棲艦から報告を受けていた。

 「・・・現在、我ガ部隊ハ戦力ノ充実化ヲ図ッテイルガ、11月マタハ12月ニハホボ完了スル見通シダ・・・」

 「・・・陸上部隊と姫級の到着は?」

 「同様ニ11月マタハ12月・・・遅クテモ来年1月ニハ」

 「ハラショ。これでこの基地は強力な軍備を揃えたことになる」

 男の名はラヴレンチー・ベリヤ。かつてソ連の秘密警察NKVDの長官を務め数多くの虐殺、粛清に携わったソ連のヒムラーとでもいうべき男。その男が、北方海域の深海棲艦の拠点の長として居座っていた。

 「近く敵の南方への反攻作戦があると予想されている。その時ここは我々の反撃の拠点となる。我々の役割は非常に重要だ。引き続き戦力の強化に努めるように」

 「了解」

 「あと後でほっぽちゃんと遊びたいからここに連れてきてくr」

 「断ル」

 そう言って深海棲艦は変な玩具のようなものやカメラを持ってニヤニヤするベリヤの執務室を出て行った。

 深海棲艦が外に出ると影の薄そうな男が立っていた。

 「アア、マ・・・マ・・・」

 「マレンコフだ。いい加減覚えてくれ・・・」

 名前を言えない深海棲艦に影の薄い男、かつてソ連の最高権力者を務めたゲオルギー・マレンコフがため息をついた。

 「マレンコフ、今日モベリヤガウチノホッポト遊ビタイト言ッテイタ。手ニハカメラト変ナ玩具ヲ持チナガラナ・・・コノ前モアイツホッポノ入浴写真ヲ盗撮シテイタ・・・アイツノロリコンハナントカナラナイノカ?」

 マレ・・・マなんとかはため息をつきながら言った。

 「アイツのロリコンぶりはどうにもならんよ・・・むしろあれでもだいぶましになった方さ・・・こっちに来る前は幼女を集めてフラワーゲームと称してあんなことやこんなことをしたんだからな、ありゃ鬼畜の所業だよ・・・あれでもだいぶ善人になった方だぜ・・・」

 「マジカ・・・」

 「とにかく、戦力の増強を続けてくれ・・・いずれこちらも動く日が来る」

 「分カッタ・・・」

 深海の底で起きていることはだれにも分からない・・・

 



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68話 お守り~フェーゲの叫び~

ヒトラー「読者の皆様、今回の話は下ネタ回です。見ていて不快な気分になると思うんで、見たくないと思った人は今すぐブラウザバックをしてください」
クレープス「まぁ、ぶっちゃけて言えば今回の話は総統閣下がお守りとして女性の陰毛を求めてソウトウカッカする話です。どうぞ楽しんでください」
ヒトラー「いや、だからそれを言うなよ!読者がどんどん減っていくじゃねぇか!!どうすんだ!!」 
フェーゲライン「そもそもこんなクソ二次創作読む奴いねぇだろww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおお!?」ズダダダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああ!?」ズダダダダダダダピロリーン♪
カイテル「すげえ、久しぶりのデイリー任務だ・・・」
ヒトラー「ふう・・・久しぶりにデイリー消化だ。まぁ、というわけで今回は下ネタ回なんで見たくないという人はブラウザバックしてください。あとついでにもう少しデイリーしとくか」
フェーゲライン「え」
青葉「え」
曙「え」
この後滅茶苦茶デイリーした。


 9月中旬に差し掛かったゲルマニア鎮守府は南方への一大攻勢作戦『バルバロッサ』を目前にしていることもあって全ての艦娘や兵士、将校が準備に追われていた。

 それはこの鎮守府の司令を務めるドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーも同じことだった。

 この日、総統執務室においてヒトラーは作戦準備についてクレープスから説明を受けていた。

 「資源、装備、人員全て必要数揃い後は現地へ移送するのみとなりました。すでに部隊及び艦隊は編成が完了、輸送船も手配が完了し二日後にはフィリピンへと派遣される予定です。フィリピン北部、パルガンイイゾー泊地に建設されている総統大本営『ヴォルフスシャンツェ』も既に工事が完了し後は点検を行うのみ、作戦準備に関しては今週中以内に全て完了するでしょう」

 クレープスが報告書を見せながらヒトラーに説明する。

 「総統閣下には艦隊とともに現地へ赴いていただきそこで作戦の指揮を執ってもらいたいと思います」

 ヒトラーが頷く。

 「分かっている。総統たるもの、指導者というものは常に最前線にいるものだ。ナポレオンのようにな。それにしても最前線に向かうのは久しぶりだな・・・」

 この世界に蘇って以来、ヒトラーは鎮守府に籠りきりだった。

 最後に前線へ視察しに行ったのはいつだろうか。そして第一次大戦に従軍して何年の月日がたっているのだろうか・・・

 「・・・いかん、久しぶりに最前線に行くとなると、少し不安になってきたな。お守りが欲しいな・・・」

 「はぁ・・・お守り・・・ですか」

 少し戸惑うクレープスにゲッベルスが言った。

 「まぁ、兵士というものは意外とジンクスとか演技を気にするものですからな。勇猛果敢な兵士も人間であることに変わりはないのです。最高司令官である総統も多少は気にするでしょう・・・して総統、お守りと言っても何をどうするんです?」

 そうだな・・・と考え込むヒトラーにクレープスが提案する。

 「別にお守りくらいそこらで売ってるのでいいでしょう。なんなら千人針でも持たせてもらいますか?艦娘たちや兵士に協力してもらいましょう」

 「・・・いや、それよりいいものがある」

 「なんです?」

 「陰毛だ」

 突然出てきたとんでもない言葉にクレープスは一瞬言葉に詰まった。

 「・・・今、なんと?」

 「陰毛をお守りにしたいと言ったんだ。ほらお前ら聞いたことないのか?昔から女の陰毛は弾除けのお守りとして兵士が珍重してきたんだ。そこらの安いお守りよりはるかに効果があるはずだ。というわけでお前ら、早速艦娘達に頼んで陰毛調達してもらえないか?兵士たちにも配ることにしよう」

 「・・・」

 さらさらととんでもないことを、変態的な発言をするヒトラーに一同は何も言えなかった。

 気まずい空気が執務室に流れる。

 今この場に秘書艦である大淀含め艦娘が一人もいなくて正解だったと誰もが思った。

 ブルクドルフがちらりとクレープスを見た。

 クレープスが口を開いた。

 「・・・おい、アホルフ・・・あんた・・・」

 何も言えないクレープスの言葉をヨードルが引き継いだ。

 「真顔で何さらっととんでもない事言ってんだ変態総統。陰毛くらい自分の引っこ抜けよ。ていうかお前キン○マ一つしかないって噂だけど陰毛ちゃんと生えてんのかww」

 「・・・」

 執務室に再び沈黙が流れる・・・

 沈黙・・・沈黙・・・

 やがてヒトラーはプルプルと震える左手でメガネをはずし口を開いた。

 「・・・陰毛をお守りにしたことないやつと、私が片玉と本気で信じてるやつ、ここに残れアンポンタン」

 ヒトラーの言葉と動作にこれから起こることを察した部下たちはドアを開け執務室から続々と出て行った。

 部屋に残ったのはカイテル、ヨードル、クレープス、ブルクドルフ、ゲッベルス、ボルマンといういつもの連中だった。

 ドアがバタンと閉まると同時にヒトラーの怒りがさく裂した。

 「・・・陰毛が欲しいんだよ私は!ていうか片玉の話は関係ないだろ!」

 ヒトラーの怒声が執務室の外に響く。

 「第一にだ!ただのそこらで売ってる安いお守りより愛する女の陰毛の方が心がこもってるわ!それに興奮するしいいじゃないか!!あと私が片玉だってのはただの都市伝説だ!!女の陰毛の魅力がわからん奴と人を片玉だといじる奴なんか大っ嫌いだ!!」

 ブルクドルフが反論する。

 「え、お前片玉じゃなかったの?マジじゃなかったの?」

 ヒトラーの怒りがさらに爆発する。

 「馬鹿野郎、大っ嫌いだ!!そんなもん都市伝説に決まってんだろバーカ!!」

 「でもカルテかなんかにしっかり記録されていたんじゃ」

 「とにかくお前らはお守りとしての陰毛を全く理解していない!!」

 そう言ってヒトラーは鉛筆を机にたたきつけた。

 「畜生めぇ!!!」

 ヒトラーの怒りはまだまだ続く。

 「別にエロい意味や変態的な意味はないんだ。愛する人の体の一部を持って前線に向かう兵士の気持ちを想像してみろ・・・まるで愛する人がそこにいるかのようで、分身がいるかのようで心強いじゃないか・・・お前らはそこら辺の判断力が足らんかった~~きっとスターリンも昔は女の陰毛持って活動していたに違いないんだ!!」

 さすがに疲れてきたのか息切れしながらゆっくりと椅子に座るヒトラー。しかし彼の話は終わらない。

 「女の陰毛がお守りになるっていうのはちゃんとしたジンクスなんだ。しかも髪の毛ではなくあえて陰毛・・・興奮して魅力的じゃないか・・・愛する人との人時を思い出しあんな事やこんな事を想像しどれだけ前線の兵士たちの慰めになったことだろう・・・私も陰毛を見たら思い出すんだろうな・・・加賀や武蔵やグラ子の!目に刺さるような!おっぱいぷるーんぷるん!!ああ、もう駄目だ私にはもうおっぱいしか救いがない・・・この会議が終わったら私は柴田さんに頼んで特注のおっぱいマウスパッドを注文するぞ!!」

 「柴田って誰よ?」「いやだから知らんて」

 クレープスとブルクドルフが顔を見合わせる。

 執務室の外ではゲルダがうっうっと泣いていた。

 すぐに秘書のユンゲが慰める。

 「もう駄目ねこの鎮守府・・・変態しかいないわ・・・」

 執務室ではヒトラーはすっかり項垂れていた。

 「とにかくだ・・・無理は言わないよ・・・艦娘達が嫌だというなら私は無理強いはしない、普通のお守りか千人針でいい・・・でも私はお守りとしての陰毛の魅力をただ知ってもらいたかっただけなんだ。あと何度も言いますが私のキン○マが片玉だというのは都市伝説です。本気にしないでください。・・・以上だ・・・」

 こうしてヒトラーの怒りは収まり会議は終了した。

 

 

 

 

 

 執務室前の廊下ではブルクドルフ達が仲間と酒を飲んでいた。

 ヨードルが文句を言う。

 「まったく・・・陰毛を艦娘に提供してもらう、だと?そんなことできるかというんだ・・・そういうジンクスは私も知っているがそんな変態親父のやるようなことできるわけないだろう。第一総統閣下にはエヴァ様が居られるというのに・・・」

 ヨードルはソファーを見た。

 いつもはここら辺で何か答えるフェーゲラインの姿は無かった。

 彼は懲罰部隊に編成させられいまフィリピンで激戦を戦っているはずなのだ。

 「フェーゲライン・・・あいつ今どうしているかな・・・」

 グラスの酒を飲み干しながらブルクドルフが言った。

 「さすがにくたばってはいないと思うが・・・心配だな。いっその事俺の陰毛でも送ってやるか。束にしてな」

 「やめとけ、逆に戦死するのがオチだ」

 「そういや噂で聞いたんだがゲッベルスは夜な夜な入渠場に忍び込んでは駆逐艦娘の陰毛拾い集めてるって聞いたぞ。本当か?」

 「マジか、本当ならそろそろゲッベルスもゲシュタポに捕まって懲罰部隊に送られるかもな。この鎮守府もいよいよ終わりだ・・・」

 「どうしてここには変態しかいないんだか・・・」

 ヨードルはため息をついた。

 

 

 

 

 その頃フィリピン北部のとあるジャングルでは・・・

 「ぶえっくし!!」

 「フェーゲさん、どうしたんですか?風邪でも引いたんですか?」

 ジャングルを行軍する途中いきなり大きなくしゃみをするフェーゲラインに重巡艦娘の青葉が驚いた。

 「いや・・・なんか誰かが俺の噂をしているような気がして・・・しかもとんでもないこと言ってたような気が」

 「ベタですね~」

 「ははは、ベタだな・・・ぐえっ!?」

 青葉と話しながら行軍するフェーゲラインであったが突然何者かに足を思いっきり蹴られた。

 「何ブツブツ喋ってんのよ、さっさと歩きなさいこのカス!!」

 フェーゲラインを蹴ったのは駆逐艦娘霞だった。

 駆逐艦とはいえ艦娘の蹴りなのでかなり痛い。

 思わず足を抱えるフェーゲライン。

 「いてえ!!何すんだ!!」

 痛みに悶えるフェーゲラインに霞は容赦なく言葉の暴力を浴びせる。

 「何?まさかこの程度で足が折れたなんて言うんじゃないでしょうね、この軟弱者!だらしがないったら!あんた最後尾なのよ、さっさと歩けこのカス!クズ!」

 「畜生、俺はSS中将なんだぞ・・・なんでこんな目に・・・」

 「へぇ、艦娘2人を酔っぱらわせて襲う人間が中将だなんて世も末ね、さっさと歩けフェーゲェ!!」

 さらに容赦なくパンチと蹴りを食らわせる霞。

 「ちくしょ~う!!いつか殺してやる!!」

 ジャングルにフェーゲラインの叫びがむなしく響いた・・・

 今日もゲルマニア鎮守府と黒騎士中隊は平和であった。 




ルーク「ルークと~」
ヤン「ヤンの~」
ルーク&ヤン「人情紙芝居あとがき~」
ヤン「いや~俺たち登場するの久しぶりだね兄ちゃ~ん」
ルーク「いやあ、ほんとお久しぶりのブリブリでございますよお久しぶりのウンコ」
ヤン「俺たちのこと覚えている奴いんのか~?自己紹介した方がいいんじゃね?」
ルーク「というわけで改めて自己紹介!こんにちは!お久しぶりです!私はルークです!ところで私は食べられました。ワンちゃんに」
ヤン「ヤンです!ところで私は燃やされました」
ルーク「ところで今回の話ですが陰毛がお守りになるっていうのは本当だったみたいですよ。冗談じゃなくて」
ヤン「マジか~後それから作者からお知らせ。新キャラをそろそろ登場させるってさ」
ルーク「近々東亜総統特務隊から佐藤と中村を登場させるんだってさ。え?何?知らない?小林源文知らない?じゃあ今すぐアマゾンで買って読め」
ヤン「やべぇよ・・・絶対あいつら最期深海棲艦に向かって原爆投下するって」
中村「と、いうわけで我々佐藤中村コンビが近々登場する予定です!!二次創作に登場させてもうことが出来るなんて・・・この世に産んでくれた父母に感謝であります!!我々の活躍にどうぞご期待を!!」
佐藤「ヘェ~そんなこと言えるようになるなんて、中村クン、偉くなったんですネェ~? ・・・このボケ!カス!中村ァ!オメェは学も教養もねぇくせに、何言ってやがんだ偉そうに!このボケ!カス!」
BLAM!BLAM!
中村「ちくしょう!!いつか殺してやる!!」
 つづく


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69話 番外編9~平凡な男と親衛隊の面汚し~

 ゲルマニア鎮守府や硫黄島の泊地には秘密の研究施設がある。

 大本営や艦娘にさえも知られていない、ヒトラーやその関係者しか知らないその施設では毎日のように捕えられた深海棲艦や捕虜がおぞましい人体実験の材料として消費されていた。

 そして当然のことながらその人体実験の材料を確保するための部隊と部署もまた極秘裏に存在している。

 

 

 

 「中佐、例の資源と兵員の移送に関する書類のことですが・・・」

 「ああ、もう出来ている」

 ゲルマニア鎮守府の事務室の一角で一人の平凡そうなメガネの中年男と軽巡洋艦娘の大淀が何時ものように事務処理について話をしていた。

 書類の催促をされた男がどさりと大淀の前に分厚い紙の束を置く。

 男はこの分厚い書類の仕事を一晩で片付けたのだ。

 「・・・もう終わっていたんですか。2、3日はかかると思っていましたが」

 「なに、こういう仕事は慣れているんでね」

 「そろそろお休みなってはいかがですか?アイヒマン中佐」

 アドルフ・アイヒマン。それが男の名前だった。

 かつて親衛隊中佐としてユダヤ人のアウシュビッツ収容所への移送の指揮的役割を担った男。ユダヤ人に関する「最終的解決」の中心人物の一人。そして虐殺に関わりながらなんら後悔を感じず仕事として上官の命令を実行し続けた恐るべき平凡。

 そんな男が今はゲルマニア鎮守府の事務方の元締めの地位を拝命していた。

 大淀はアイヒマンを見る。優秀で、忠実で、緻密で、そして平凡だ。実に平凡だ。

 それ故に彼女は彼が少し苦手だった。

 余りにも平凡すぎて逆に彼が怖いのだ。

 彼は優秀な男だ。どんな命令も着実に忠実にこなしていく。何の疑いもなくそれこそ組織の完璧な歯車として。

 どんな命令も、そう例えば虐殺の命令を出されてもそれが上官の命令であり仕事なら平気な顔をして実行に移しそうで、それで彼女は彼が怖いのだった。

 彼女はアイヒマンの顔を見て沈黙した。

 「・・・どうかしたかね、大淀」

 「いえ、何でもありません・・・ところで先ほどから時計を気にされているようですが・・・」

 「ああ、そろそろ例の『荷物』が届く時間だからね。とても重要で繊細な荷物でな、どうしても気になってしまうのだ・・・」

 アイヒマンが腕時計をちらりと見たとき、事務室のドアが開き事務員が入ってきた。

 「アイヒマン中佐、例の『荷物』が届きました。受け取りの事務処理に来てほしいとのことです」

 「分かった、すぐ行く」 

 アイヒマンは席を立ち部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 ゲルマニア鎮守府から少し遠く離れた港。

 そこに停泊している鎮守府所属の輸送船『ダッハウ号』の甲板にその『荷物』が並べられていた。

 ボロボロに大破した深海棲艦、ソ連兵といった捕虜たち・・・彼ら彼女らにはこれから極秘研究施設の人体実験の材料としての、科学者たちのオモチャとして運命が待っているのだ。

 並べられた捕虜たちを前に一人の親衛隊員が立っていた。

 「数時間前・・・このダッハウ号から脱走を試みた捕虜がいる」

 男はワルサーPPKをいじくりながら言った。

 「残念だ。実に残念だ。・・・いったい何が不満だというのかね?君たちにはこれから第三帝国の復活の材料という非常に名誉な運命が待っているというのに・・・」

 男の名はオスカール・ディルレヴァンガー。

 犯罪者を集めて編成した第36SS武装擲弾兵師団を率いた上級大佐である。

 そして第36SS武装擲弾兵師団はその戦火よりも戦争犯罪で有名である。

 非戦闘員の殺害、戦闘そっちのけの暴行、略奪といった犯罪行為・・・

 その数々の蛮行から国防軍のみならず親衛隊内でも「武装親衛隊の面汚し」と忌み嫌われた部隊であり、その部隊を率いたのがこの男、ディルレヴァンガー親衛隊大佐である。

 彼もまた彼が率いてきた部隊と共に現代に蘇った

 そして現在、彼と彼が率いる部隊『ディルレヴァンガー戦闘団』はゲルマニア鎮守府の直属部隊として、深海棲艦や捕虜の確保の任務にあたっていた。

 彼はいま、数時間前に起こった捕虜の脱走未遂を受けて捕虜たちを集めて集会を開いていた。

 「しかもその上、全員が黙秘ときた。一人が名乗り出れば、その一人だけが責任を負うだけで済むというのにな。実に愚かだ。よって諸君には連帯責任を取ってもらう」

 ディルレヴァンガーは捕虜を5人ずつムカデのように繋げるよう指示した。

 次々と捕虜がつながれていく。

 「組織というものは連帯責任というものが普通でな。一人ミスしただけで全員が責任を取らねばならない。実に理不尽だ。皆に本当にすまないと思うだろう?」

 ディルレヴァンガーが一つの捕虜の列の後ろに立つ。

 「今から、背後からお前たちを撃つ。運が良ければ死ぬのは一人だけで済むじゃろう。だが、運が悪ければ弾は貫通して全員を殺すじゃろう。皆に申し訳ないと思うのなら全力で盾になれ。気合で止めろ」

 ディルレヴァンガーがPPKを構える。

 「ディルレ・・・」

 銃口を深海棲艦の首の後ろに当てる。

 「ヴァルヴォーッ!!」

 引き金を引いた。パンパンパン!!と、乾いた銃声が響いた。

 

 

 数分後。

 「ふむ・・・やっぱ3人が限界か」

 甲板にはムカデのように結ばれた捕虜たちの列が血だまりの中に沈んでいる。

 運悪く弾が体を貫き絶命したものは傷口からその血潮をどくどくと噴出し、後ろの捕虜が盾になり難を逃れた捕虜はヒュッヒュッと緊張状態から解放されたためか過呼吸の状態に陥っていた。

 「次はライフルで試してみるか・・・うん?」

 ディルレヴァンガーが誰かの気配を感じ後ろを振り向くとそこには親衛隊大尉ヨーゼフ・メンゲレとモンティナ・マックス少佐の姿があった。

 「これはこれは・・・死の天使と戦争狂のお二人のお出ましときたか。例の『荷物』この通りきちんと持ってきたぞ。皆現地で取れたての活きのいい奴らばかりじゃ。これでお宅らの研究も幾分かはかどるじゃろ。反抗的な奴がいたんでちとお仕置きをしてやったがな」

 「ディルレヴァルヴォー、というのはどういう意味かね大佐?」

 少佐が問う。

 「儂の名前ディルレヴァンガーにブラヴォーをかけてみたんじゃ。犯罪者を集めて編成した儂らディルレヴァンガー戦闘団にはぴったりの掛け声じゃろ。敬礼はこうだ」

 そういってディルレヴァンガーは両手を45度の角度に挙げた。

 「右手は総統に。左手は儂らに。ぴったりの敬礼じゃろ?」

 「相変わらず下品だな大佐」

 「褒め言葉と受け取っておこう・・・おっと、受取人のアイヒマン中佐も来たようじゃな、急いで作業に取り掛かろう」

 ディルレヴァンガーが部下の兵士たちに遺体の処理と捕虜の受け渡し準備を進めるように指示し、アイヒマンたちが甲板で受け取り作業や事務作業をおこなっていく。

 こうして今日も研究者たちのもとにモルモットが送られるのだ。

 平凡な男と親衛隊の面汚しの仕事はしばらく終わりそうにない・・・



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70話 攻勢前夜~南の泊地で~

 「鎮守府からはるばるフィリピンまで・・・長かったですね、加賀さん」

 「そうかしら?意外と早かったと私は思うけれど」

 輸送船『リリーマルレーン』のタラップを降りながら一航戦の赤城と加賀はフィリピンの港に降り立った。

 その後ろからさらに続々と艦娘やドイツ軍将兵や自衛隊員が降りてくる。

 「あ~やっと着いた!早く夜戦したいなぁ~」

 「あ~やっと着いたぜ、ここがフィリピンか。ニューギニアにはよく行ったけどフィリピンは初めてだったかなぁ~。早く出撃してぇな龍田」

 「その前にしっかり休んでおかないとね、天龍ちゃん」

 彼女達が降り立ったのはフィリピン、ルソン島北部に建設された泊地ヴォルフスシャンツェ(狼の砦)。非常に大規模な基地であり、これから行われる南方海域への大攻勢の拠点となる場所だ。

 とはいえ、彼女たちはまだ正式には一大攻勢作戦のことをまったく知らされていない。もちろん、これだけの大規模な兵力の移動や拠点の構築が行われているため、これから南方への進出作戦があるらしいといった噂はされてきたが、本当にあるのかどうかはまだ彼女達や将兵達は知らないのだ。

 「はるばるフィリピンまで・・・これまで何度も南の海域には行ってきましたが、今日からここが私たちの新しい拠点になるんですね」

 「てっきりトラック諸島ではないかと思っていましたが」

 赤城と加賀はフィリピンの大地に立ちながら感慨深い気持ちになり、これからここで始まる生活や戦いに思いを馳せた。

 「フィリピンと言えばマンゴーにパパイヤにそれからそれからバナナにシシグにハロハロに・・・」

 「赤城さん、よだれ垂れているわ。これから戦いが始まるかもしれないから気を引き締めて」 

 フィリピンのグルメに思いを馳せよだれを垂らす平常運転の赤城に注意する加賀。もっとも、そういう加賀もよだれをダラダラ流して手にはフィリピン料理のパンフレットが握られていたが。

 気を取り直した加賀は基地に置かれた施設の数々を見る。港に工廠、入渠施設、レーダーサイト、燃料や弾薬庫、ずらりと並ぶ戦車や航空機、兵員でごった返す大地・・・その規模はゲルマニア鎮守府のそれに勝るとも劣らないものであった。

 そしてそれは声から激しい戦いが起こることを暗示するのには十分なものだった。

 「・・・わざわざこんなところに一大拠点を造りこれだけ大規模な兵力を送るということは、やはりこれから一大攻勢作戦があるのでしょうね」

 「そうなったら、一航戦の誇りにかけて全力で戦うまでです。あの戦争での惨禍を繰り返さないために・・・私達のために、未来のために」

 赤城と加賀は空を見上げる。どこまで青空が広がっている。この平和な空はいつまで続くのだろう。

 「そうね。五航戦の子達にも負けていられないわ・・・それに慢心もダメ、ゼッタイ・・・ね」

 「加賀さん、それ私の台詞ですよ」

 これから起こるかもしれない激しい戦いに覚悟を新たにする二人。

 その時、一人の将校がメガホンで上陸した艦娘や兵士達に叫んだ。

 「整列!全ての将兵は直ちに整列せよ!これより基地司令官による訓示が行われる!」

 しばらくして、基地の滑走路には全ての将兵や艦娘達が整列していた。

 多くの将兵達がじっと立ちつくすなか、やがて一人の男が朝礼台の上に立った。

 男は武装親衛隊の制服に身を包み正装していた。肩や襟の階級章から男が親衛隊上級大将であることがうかがえた。何より特徴的なのは右目に黒い眼帯をしていることで、歴戦の猛者、猛将という印象を人々に与えた。

 「全ての将兵諸君、私は泊地ヴォルフスシャンツェ司令官に任じられたパウル・ハウサーである。ゲルマニア鎮守府から遠く離れたこの異国の地で慣れないこともあろうがどうか、ドイツ軍人、日本軍人としての誇りを持って義務に務めてもらいたい。・・・さて、この泊地は非常に大規模な施設だ。そしてゲルマニア鎮守府に所属する艦娘の大半や2個装甲師団や自衛隊部隊やその他多くの戦力が配備されている。故に諸君たちの中にはこのように噂しているものも多いことだろう。・・・これから、一大攻勢作戦が、激しい死闘が始まるのではないかと」

 ハウサーは一旦言葉を止め、将兵を見る。

 皆一様に黙っていた。

 「・・・今ここで明言しよう。諸君たちの推察は正しい。近く、一大作戦がここヴォルフスシャンツェを拠点に開始される」

 噂が正しかったことが司令官によって直接明言されたため将兵や艦娘の間にどよめきが走る。

 「・・・これより総統閣下からの命令の訓示を行う。心して聞くように」

 ハウサーはつい先ほど鎮守府から電信されてきたばかりの命令書を開く。

 「・・・南部戦線に配属された全ての将兵及び艦娘、軍役に従事する者へ。私、総統アドルフ・ヒトラーはこれより行われる作戦の責任者として全ての兵士達に以下の命令を与える。」

 南部戦線?これから行われる作戦?ではついに、ついに始まるのだな!

 兵士たちのどよめきは確信に変わっていった。

 「・・・ヴォルフスシャンツェ及びその他の拠点に配属された兵力を南部軍集団と名付ける。そして10月1日の夜明けを持って南部軍集団はフィリピン南部のマニラ及びミンダナオに向けて進撃、11月末までにフィリピンを完全制圧せよ。南部軍集団の別動隊はインドネシアスマトラ島から進撃し本隊の進撃を支援すべし。その後、ジャワ海、パンダ海を制圧し、ニューギニア島及び付近の海域と諸島を制圧、深海棲艦の拠点を叩き南方海域における制海権制空権を完全なものとせよ・・・詳細な説明は追って伝える。なお、本作戦は『バルバロッサ』と命名する。マニラ及びミンダナオでの勝利は全世界への狼煙たるべし・・・以上である」

 ハウサーはここで一旦言葉を止め将兵達を見た。

 先ほどまでのどよめきは一切消えそこにいたのは覚悟を決めた兵士たちの姿があった。

 「本作戦の意義は非常に大きなものだ。南方海域を制圧することで深海棲艦から我々の海を奪還するのだ。そして人類の未来を奪還するのだ。このような作戦に参加できることは我々武人にとって非常な名誉である。まして我々ドイツ軍人がその先陣を切れることは至高の喜びである!深海棲艦に、そして世界に我々の力を見せてみようではないか!!我々ドイツ軍人の誇りにかけて!!ジークハイル(勝利万歳)!!」

 「「「「ジークハイル!!!」」」」

 基地中に叫び声が響いた。

 士気が上がる。

 最後にハウサーが演説を結ぶ。

 「・・・なお私も常に諸君らの先頭に立って戦うことを誓う。余は常に諸子の先頭にあり。共に勝利をつかもう」

 こうして兵士たちに正式に命令が下され、反攻作戦が行われることは明らかとなった。

 ついに一大攻勢作戦『バルバロッサ』が始まるのだ。

 そしてこの戦いが艦娘達に、将兵達にヒトラー達に何をもたらすのかまだ誰も知らなかった・・・



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71話 夜明けと共に~バルバロッサ作戦開始~

 10月1日深夜、泊地『ヴォルフスシャンツェ』。

 その硬い岩盤をくり抜いて作られた地下大本営にゲルマニア鎮守府の提督にしてドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの姿があった。

 あと数時間で夜明けとともに始まる南方への大反攻作戦『バルバロッサ』の指揮を執るためにヒトラーは前線であるこの大本営に来ていた。

 薄暗い指揮所でテーブルに広げられた巨大な地図を前にするヒトラーに部下が報告する。

 「総統閣下、全ての部隊の展開が完了しました。地上部隊、艦娘部隊ともに順調に進軍中です」

 「偵察部隊より報告、現在敵側に大きな動きはないとのこと」

 「あと3時間で作戦が開始される模様です」

 「よろしい」

 次々と上がってくる報告に頷くヒトラー。少なくとも今のところは順調に事は進んでいる。

 作戦の第一目標はルソン島全域の奪還だ。南方海域を奪還するためにもまずルソンを取り戻し足がかりを築く必要がある。現在フィリピンはルソン島のプログ山を境に深海棲艦側に占領されている。まずはそのルソン島を奪い返す。

 現在、ヴァルター・モーデル元帥率いる装甲軍団がプログ山そしてサンフェルナンドに向かって進撃中だ。赤城率いる第一航空戦隊及び第二航空戦隊もサンフェルナンドに向かっている。さらに翔鶴と瑞鶴の第五航空戦隊もマニラを空爆するために向かっている。サンフェルナンドとプログ山には敵の大規模な拠点がある。

 まず、そのサンフェルナンドとプログ山を落とす。

 その後、ピナツボ火山、そしてマニラに向かって進撃、ルソン島を奪還する。

 それがヒトラー達のプランだった。

 この最初の作戦はうまくいくだろうとは思われていた。

 しかし懸案がないわけではない。

 「総統閣下、例のことですが・・・」

 「分かっておる、敵深海棲艦にソ連軍の存在が確認されていることだろう」

 クレープスの言葉にヒトラーは頷いた。

 1か月前に現地に派遣した懲罰部隊の活動で敵深海棲艦とともに行動するソ連兵やソ連の兵器の存在が幾度も報告された。実際、ソ連兵と艦娘の交戦記録もある。捕虜もいる。

 そしてサンフェルナンドの敵基地の航空写真には大量のT-34戦車や対戦車壕、その他の大量のソ連製兵器の配備が確認された。

 深海棲艦がソ連軍と手を組んでいることは明らかだった。もっとも、其の理由や真相は全くの不明だったが・・・

 「だからこそ、モーデルの装甲軍団に最新鋭の戦車を大量に配備し強化したのだろう。それに我がドイツは陸軍に関しては世界最強、それ以前にソ連軍と戦った経験がある。指揮をするのはあのモーデルだ。今更心配をする必要はないししたところでどうにもなるまい」

 「・・・確かに、そうですな」

 ソ連軍に関する情報はすでに空母機動部隊とモーデルの部隊に伝えてある。

 ソ連軍の配備状況はほぼ完全に掴んでいる。

 部隊も強化してあるしそこまで心配することはなかろうというのがヒトラーの考えだった。

 「・・・さて諸君、作戦開始まであと2時間半はある。少しアニメでも見て休憩しよう」

 リラックスし余裕の表情でヒトラーは部下たちを見た。

 

 

 

 

 

 サンフェルナンド近くのジャングル。

 鬱蒼と茂る木々の中にモーデル率いる装甲軍団が潜んでいた。

 多くのティーガー重戦車やⅣ号戦車、パンター戦車が偽装を施されエンジンを止めて停止し、迷彩服を着た無数のドイツ兵や武装親衛隊員が緊張とともに攻撃の時を待ち、潜んでいる。

 「元帥、あと十数分で夜明けが・・・攻撃が開始されます」

 「うん。確認するまでもないがぬかりはないだろうな?」

 指揮用の装甲ハーフトラックに乗車する装甲軍団の指揮官、ヴァルター・モーデル元帥は部下に確認した。

 「はい。予定では夜明けと共に我が軍は進撃を開始し、サンフェルナンドを制圧に向かいます。同時に第一航空戦隊、第二航空戦隊の爆撃隊がサンフェルナンドの深海棲艦や敵地上部隊を攻撃する手はずですが・・・まだ来る気配はありません」

 「まぁ、とにかくその艦娘とやらを信じるほかあるまい。問題は・・・敵の地上部隊だな」

 モーデルは双眼鏡でサンフェルナンドの街並みを見た。

 廃墟となった家々の間に並ぶ大量のT-34戦車や野砲、たむろするソ連兵。

 夜明けと共に彼らドイツ兵はソ連軍と戦うのだ。

 「・・・まさかこの私がもう一度現世に蘇ってもう一度ソ連軍と戦う羽目になるとは思わなんだ。その上今回の作戦の暗号名はバルバロッサというではないか。総統閣下はリベンジのつもりだろうが、私にはどうも不吉な予兆にしか聞こえん・・・」

 だが、自分は軍人だ。やれと言われた以上はやらねばならぬ。

 モーデルが思索に耽っているとき、ふと、はるか上空から爆音が聞こえてきた。

 この音はもしや・・・

 「指令!近海の第一航空戦隊より入電です、『鷲は舞い降りた』繰り返す『鷲は舞い降りた』!!」

 「ついに来たか!!」

 爆撃部隊の突入、そしてバルバロッサ作戦の開始を意味する暗号電文にモーデルは心が湧いた。とうとう来たのだ、赤城と加賀が出撃させた爆撃部隊が。これから始まるであろう激闘にモーデルは血沸き肉躍る思いだった。

 こちらもうかうかしていられない。

 すでに夜明けを迎え朝日がうっすらと差し始めている。

 深海棲艦やソ連兵は突然の奇襲に驚いていることだろう。

 やるなら今だ。

 モーデルは作戦を開始した。

 「全軍進撃開始!!パンツァーフォー!!」

 モーデルの叫びが軍団中に響き、ドイツ兵たちから鬨の声が上がり、ジャングルを震わす。戦車のエンジンが力強く唸り木々をキャタピラがなぎ倒し、歩兵達が倒木を飛び越えて敵陣地に向かって駆け抜けていく。

 艦娘の九七式艦攻や流星が深海棲艦やソ連兵をなぎ倒し、ティーガーのアハトアハトが敵陣地を吹き飛ばし、屈強なドイツ兵の放つ機銃掃射がソ連兵をなぎ倒していく。

 夜明けと共に行われた奇襲で敵は完全に混乱し主導権はこちらにあった。

 しかし敵も黙ってはいない。

 「「「ウラー!!ウラー」」」

 陣地からソ連兵が次々と飛び出し自軍に突っ込んでくる。

 MG42の機銃掃射が彼らをなぎ倒し、戦車砲の一斉射撃が彼らを空中高く吹き飛ばすがそれでも彼らは雄たけびを上げ、戦友の死体を飛び越えながら突っ込んでくる。

 さらには野砲が火を噴きT-34もこちらに向かって進撃し攻撃を開始した。

 ドイツ兵にも次々と被害が広がっていく。

 だが両者とも譲らない。

 両者は南の島で激突し死闘を繰り広げる。

 バルバロッサ作戦はまだ始まったばかりだった。




 次回、小林源文作品には欠かせない例のデブ佐藤と中村ァ!!コンビが登場。
 処刑されまくるフェーゲと殴られまくる中村をどうぞお楽しみください。


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72話 新部隊創設~二人の男~

 フィリピン、ルソン島北部の泊地ヴォルフスシャンツェの地下に設けられた総統大本営にてヒトラーは部下から報告を受けていた。それはプログ山およびサンフェルナンド攻略作戦に関する報告であった。

 「総統閣下、先程モーデル元帥より報告がありました。プログ山およびサンフェルナンドの敵部隊の撃滅および占領に成功した模様です。詳細はまだ明らかではありませんんが朗報をお待ちくださいとのことでした」

 「第一航空戦隊及び第二航空戦隊から報告、作戦終了に伴いこれより帰投する、作戦は成功、被害は軽微とのこと。マニラの爆撃に向かった第五航空戦隊からも同様の通信が届いております」

 「うむ、ひとまず最初の作戦は成功に終わったとみていいだろう」

 勝利の報告にヒトラーは満足そうに頷いた。

 「して総統閣下はその勝利をどのように利用するおつもりで?」

 そんなヒトラーに対し南部軍集団総司令官であるエーリッヒ・フォン・マンシュタインが今後の展望を問うた。

 「もちろん決まっている。このまま南部に怒涛の進撃を続けピナツボ火山、マニラそしてフィリピン全土を完全掌握するのだ。今回の勝利を全世界への狼煙にしなければならない」

 「ルソン島北東部の敵残存勢力はどうするのです」

 「そうだな、敵の規模からして龍驤と隼鷹の第四航空戦隊を派遣すれば事足りるであろう。或いは少々癪だが米軍やオーストラリア軍に任せるのもよいかもしれん」

 ヒトラーは自信満々だった。

 第一次世界大戦に独ソ戦。自分は二度も敗北を経験しているのだ。それも一回目はともかく二回目は自分が司令官だったのだ。それも大きな敗北だ。それが身に沁みついている以上今度はうまくやる自信が、失敗しないという自信が或いは失敗するわけにはいかないという意思が彼にはあった。

 今回は勝つ、必ず勝つという自信が彼にはあったがしかし同時に気にかかることもあった。

 「・・・話は変わるがマンシュタインよ、サンフェルナンドの攻撃時、彼の地には大量のソ連軍部隊が配備されていたそうだな」

 「はっ、その通りです閣下。実際、モーデル軍団の負った損害は深海棲艦よりもソ連軍によるもののほうが遥かに大きいものでした」

 「深海棲艦がアカと手を組んでいるのはもはや明白であるが、この分だとスターリンも蘇って連中の指揮をとっているのかもしれん。・・・ハイドリヒ、敵に関する調査をさらに進めてくれ。」

 「了解しました」

 ヒトラーの命令に国家保安本部初代長官、親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒは頷いた。ユダヤ人問題の最終的解決――ホロコーストに深く関わり『金髪の野獣』と恐れられた彼はゲルマニア鎮守府において諜報活動や謀略等を担当していた。

 「で、そのソ連軍のことだが・・・それに関して先日ハイドリヒが非常に有益な情報をもたらしてくれた」

 ヒトラーは資料をテーブルに置いた。

 「ルソン島南部を含むフィリピン南部を無数の軍事用鉄道路線や海上補給線が走っている。それらは皆最終的にマニラに集まっている。それがマニラの攻略を困難にしているが、では逆にそれらの補給線がどこから始まっているかというと・・・皆一様にミンダナオ島から始まりレイテ島やサマールなどの島を経由しマニラに集まっている。つまりそれらの洋上補給線や島内の補給点を潰し敵の兵站を潰さぬ限り勝利は難しい。またもう一つ気になる情報がある」

 ヒトラーはさらに資料を出した。

 「派遣した懲罰部隊『黒騎士中隊』からの報告だが敵の基地を制圧しているといくつかの基地からはウランやそれに関連する施設や機器が見つかったということだ。敵は原爆を保有もしくは保有しようとしていることは明らかだ。これも潰さねばならない。敵に使われる前にな」

 「ではどうするのです。今すぐ部隊を南方に推し進めように時間がかかりますし、敵が核を持っているのかどうかまだ確証はないのでしょう?」

 マンシュタインの質問にヒトラーは答えた。

 「そのことだがな・・・私はそのための特殊部隊を新設しようと思っている。敵の後方地帯に秘密裏に進出し破壊工作を行う部隊をな」

 「特殊部隊」

 ヒトラーは頷いた。

 「そうだ。すぐには部隊を南進できない以上、特殊部隊による奇襲・秘密作戦に賭けるべきだ。すでにスコルツェニー中佐に創設のための指示を出してある。スコルツェニー」

 「はい、こちらに」

 ヒトラーの言葉に『ヨーロッパで最も危険な男』オットー・スコルツェニー中佐が答えた。

 「スコルツェニー、新部隊の創設に関して首尾はどうか?」

 「そのことですが総統閣下・・・人材に関して心当たりがあります」

 「というと?」

 「素晴らしい人材を二人発掘しました」

 そう言ってスコルツェニーはにやりと笑った。

 

 

 

 

 

 日本、防衛省。その執務室で東条英機は緊急の電話を受けていた。

 「こちら統幕長の東条英機だ・・・なに本当か!?あいつが、あいつが戻ってくるのか!?」

 電話の内容に驚愕し思わず叫ぶ東条。

 同じころ、防衛省の門をくぐる一人の自衛官と日本兵の姿があった。

 自衛官のほうは二等陸佐の階級章をつけた太った悪人面の男で門をくぐる際に守衛に敬礼をしたがその敬礼はどこか横柄だった。日本兵のほうが全身ボロボロ傷だらけで眼光だけが異様に鋭かった。

 「・・・あいつは南洋諸島で死んだはずでは・・・生きていたのか・・・まずいぞ・・・船坂のほうはともかく佐藤二等陸佐のほうはまずい、まずすぎる。クーデタを起こしかねん。下手をしたら第三次世界大戦だって・・・」

 東条が汗をかきながら受話器を握る一方でコツコツと二人の足音が執務室に近づく。

 「くそ・・・何とかせねばならん・・・だが単に激戦地に送るだけでは・・・いや、あったな貰い手が一つだけ。もういい、あとはこっちで対処する」

 そういって東条が受話器を置くのと同時に執務室のドアがノックされた。

 「入れ」

 緊張した面持ちで東条は入室を許可した。

 ドアが開き二人の男が入ってくる。

 自衛官と日本兵の二人は見事な陸軍式敬礼を決めながら答礼した。

 「陸上自衛隊二等陸佐佐藤大輔、召喚命令により出頭いたしました」

 「大日本帝国陸軍軍曹船坂弘、同じく召喚命令により出頭いたしました」

 二人の男の鋭い視線をまともにくらい東条は変な冷や汗が噴出した。

 佐藤大輔。陸上自衛隊の二等陸佐であり調査部の人間として無数の戦果を挙げてきたが、人には言えない作戦を行ってきたことや、その好戦的で底知れない狂った人格故にクーデターを起こしかねない危険人物として上層部から総じて危険視された男。

 船坂弘。陸軍軍曹として南方で深海棲艦と死闘を繰り広げたが、擲弾筒片手に百人単位で深海棲艦を虐殺し日本刀と手榴弾だけで深海棲艦部隊を全滅させ、更には左大腿部に裂傷を負い瀕死の重傷を負っても戦闘を続け敵基地に大損害を与え、その鬼神のごとき強さ故に逆に佐藤と同じく危険視された男。

 二人とも上層部に危険視され南方の激戦地区に『左遷』させられたのだが運命の女神あるいは悪魔は何を思ったのか彼らを生還させたのだった。

 階級は二人のほうが下のはずなのに東条はだらだらと汗を流し妙な緊張感に襲われていた。まるで蛇ににらまれた蛙のように・・・執務室の外では拳銃を構えた憲兵が不測の事態に備え待機していた。

 「お、恩賜の煙草でもどうかね佐藤二等陸佐、船坂軍曹」

 「フン!」

 震える手で恩賜の煙草を差し出す東条とその煙草に刻まれた菊の御紋を見て鼻で笑う佐藤。いったい何を笑ったのか。

 「・・・特務の作戦がある。君たちでないと」

 「口頭命令よりは文章でお願いします・・・閣下」

 十数分後、佐藤と船坂の二人は執務室から出て行った。

 東条は受話器を手に取っている。

 「あいつをどうしたかって?特務を押し付けたのだ。南方のナチス・ドイツ軍が特殊部隊の人材をほしがっていてな・・・そこに送ることにした。総統危険な任務だ、あいつらには適任だろう。君は軍刑務所から兵士を調達しろ。あそこにはクズがたくさんいるからな」

 

 

 

 横須賀、軍刑務所――

 憲兵中佐が独房の中にいる正座する一人の男の前に立った。

 その男は坊主頭に丸メガネをかけた男だった。男が憲兵中佐に反応する。

 「中村正徳三等陸曹!」

 「あ、憲兵中佐殿!」

 「横領に痴漢に北方棲鬼からの菱餅とクリスマスプレゼントの強奪・・・貴様はクズだ!・・・もう一度甘い汁を吸いたくないか?」

 「え・・・警務隊に、憲兵隊に戻れるのでありますか?やります、なんでもします!」

 思わぬ娑婆への復帰の誘いにはしゃぐ中村。

 それを見て憲兵中佐はほくそ笑んだ。

 佐藤に船坂に中村・・・ヒトラーの特殊部隊・・・のちに『東亜総統特務隊』と呼ばれる部隊の創設が秘密裏に行われようとしていた。




中村「ついに俺の出番がやってきた・・・小林源文先生の東亜総統特務隊が活躍する時がやってきたであります!どうぞ、我々中村&佐藤コンビの活躍にご期待ください!!」
佐藤「中村ァ!!お前は学も教養もないくせに何一人で偉そうに読者に能書きたれてんだこのボケ!カス!!」
BLAM!
BLAM!
BLAM!
中村「畜生!いつか殺してやる!!」

 つづく 


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73話 東亜総統特務隊誕生~佐藤の面接~

 フィリピン、泊地ヴォルフスシャンツェ。

 

 無数の戦車や戦闘機に艦娘達が滑走路で出撃準備や点検に掛かっている中、一機の輸送機がその滑走路に着陸した。

 

 輸送機のタラップが開き、一人の男がカツカツと滑走路に降り立った。

 

 太めの体格に、赤ん坊が見たら確実に泣き出すこと間違いなしの悪人面、左頬の縫い傷。

 

 陸上自衛隊の制服に身を包み、二等陸佐の階級章を付けた男。

 

 彼の名は佐藤大輔。

 

 上層部に恐れられた危険な自衛官である彼はヒトラーが創設を決定した特殊部隊の指揮官となるべくこの最前線の基地へと派遣されたのであった。

 

 佐藤が基地の施設を見渡していると、一人のドイツ軍将校が佐藤のもとに歩み寄ってきた。

 

 ドイツ軍将校が敬礼。佐藤も敬礼を返す。

 

 「Freut mich!君が佐藤大輔中佐かな?」

 

 「Freut mich auch!ええ、私が陸上自衛隊二等陸佐佐藤大輔です。あなたは?」

 

 「私は武装親衛隊中佐オットー・スコルツェニーという。お会いできて光栄だ佐藤中佐。」

 

 オットー・スコルツェニー。数々の特殊作戦を指揮してきた武装親衛隊中佐にして『ヨーロッパで最も危険な男』。

 

 ふたりの危険な男が滑走路で対峙する。

 

 「出来ればきちんともてなしたいところだが、総統閣下が大本営でお待ちになっている。ついてきてほしい」

 

 スコルツェニーは佐藤をキューベルワーゲンに乗せ地下総統大本営へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総統大本営の作戦会議室に連れていかれた佐藤はボディチェック等を終えるとすぐにヒトラーに面会した。

 

 「ふむ、君が佐藤大輔中佐か。数々の危険な任務を完遂してきた全ての兵士の鑑であると聞いている」

 

 「光栄です、マインフューラー」

 

 「うむ、では早速だが本題に入ろう」

 

 ヒトラーは佐藤に資料を見せながら、フィリピンや南洋諸島の制圧奪還には敵の補給路——線路や海上補給線、中継基地等を叩き潰す必要があること、敵が原爆を保有している可能性があること、そしてそれらに対処するために特殊部隊が必要なこと、ヒトラーが特殊部隊を創設し佐藤がその体調に任命されたことを話した。

 

 「・・・というわけだ」

 

 「分かりましたマインフューラー・・・おい」

 

 ヒトラーの話を一通り聞いた佐藤は葉巻を手に取りヒトラーの副官を見た。

 

 葉巻を持った手を副官に差し出す。

 

 「はっなんでしょう」

 

 「気の利かん奴だ、俺がこうしたら火だろう、それでも総統の副官か」

 

 「ギュンシェ、早くしたまえ」 

 

 ヒトラーに命じられ素早く佐藤の葉巻に火をつける副官。

 

 佐藤が葉巻を思い切り吸い、吐き、紫煙が部屋中に広がる。

 

 煙草を嫌うヒトラーは思わずせき込んだ。

 

 「ゲホッ!・・・我々の反抗作戦の成否は君たちの活躍いかんにかかっている。すでに人員は用意した。・・・やってくれるかね?」

 

 ヒトラーの問いかけに、佐藤は自信をみなぎらせニヤリと笑い言った。

 

 「任せてください総統閣下。我々東亜総統特務隊の辞書に不可能の文字はありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後・・・

 

 泊地基地のとある一室に佐藤と選抜された隊員が集まっていた。

 

 選抜された隊員のほとんどがもとは軍刑務所にいた者か、あるいはヒトラーが以前に編成した懲罰部隊『黒騎士中隊』からの異動が決定した者たちであった。

 

 これから佐藤によって選抜された兵員の面接試験が始まるのだ。

 

 選抜兵を連行した憲兵が佐藤に敬礼し報告する。

 

 「横須賀軍刑務所及び懲罰部隊『黒騎士中隊』より50名、内地より転属者3名、護送いたしました!」

 

 「まてよ!こら」

 

 「ハッ」

 

 「鍵だよ鍵!手錠外さねぇと意味ねぇじゃねぇかねぇか、なめてんのかお前コラ」

 

 「手錠の鍵は中村軍曹もとい一等陸曹が持っております、それでは失礼します」

 

 「中村正徳軍曹であります!」

 

 退室した憲兵の代わりに佐藤の前に出たのは中村正徳軍曹もとい一等陸曹であった。

 

 元々は警務隊——憲兵隊の人間であった中村であったが、これまで痴漢や横領、暴行、挙句の果てには北方棲姫から菱餅とクリスマスプレゼントの強奪といった様々な犯罪を犯し横須賀の軍刑務所に収監されていた。

 

 だが、ヒトラーが特殊部隊の創設を決定、人材を集める中で中村は元憲兵であることから、憲兵隊への復帰をエサにして、危険人物である佐藤の監視役・副官役として部隊に派遣されることになったのだ。 

 

 「お前か・・・カスだな。命令書を見せろ」

 

 中村が佐藤に命令書を見せる。

 

 「へー、お前俺の補佐か中村軍曹。東条の命令かよボケッ!」

 

 「い、いえ、志願しました」

 

 「本当なんだろうな」

 

 威圧する佐藤、蛇に睨まれた蛙状態になる中村。

 

 「本当であります中佐殿、自分は・・・」

 

 「東条のスパイじゃねぇのかよ、中村憲兵軍曹さんよカス!」

 

 中村が憲兵であるということに周囲の兵士たちが反応する。中にはバキボキと拳を鳴らすものもいた。

 

 一般の兵士にとって傲岸不遜な憲兵は目の敵なのである。

 

 「聞いたか、憲兵だってよ」

 

 「面白れぇな、楽しくなるぜ」

 

 佐藤の威圧は、圧迫面接はまだまだ続く。

 

 「出身地は玉造か」

 

 「ハァ、ニューイヴァラキ共和国ですが」

 

 「お前本当に日本人か」

 

 「そうです!」

 

 「絶対なんだな!よし手錠を外してやれ」

 

 「畜生いつか殺してやる」

 

 佐藤に散々いびられ涙を流しながら連行された兵士たちの手錠を外す中村。

 

 佐藤の面接が続く。

 

 次に佐藤の前に出たのは佐藤の知っている人物であった。

 

 「うん、お前は」

 

 「申告します、陸軍より派遣されました陸軍軍曹船坂弘」

 

 佐藤の前に出たのは大日本帝国陸軍が生み出したターミネーター、不死身の兵士船坂弘であった。

 

 佐藤と船坂はかつて南方に派遣されたとき共に戦った中であり互いのことはよく知っていた。

 

 「ああ、南方じゃいつも俺と一緒にいたな。面接の必要はないと思うが・・・一応聞いておくか。お前、何ができる?戦績は?」

 

 「ハッ、ご存知かと思いますが擲弾筒でアメ公を200名ほどぶち殺し、格闘戦で敵から奪った短機関銃を振り回して3名ほど殺し、それからアメ公に捕まった時に脱走して弾薬庫を爆破してやりました。また、銃剣で姫級の深海棲艦をぶち殺したこともあります」

 

 「よし、お前は使えるな。合格!次!」

 

 次に来たのは背中に日本刀を背負った男であった。

 

 「申告します、陸軍中野学校より派遣されました陸軍少尉早川昇」

 

 「謀略専門だな。破壊工作に通信技術・・・外国語は?」

 

 「英語、独逸語、中国語、露語、スワヒリ語、アジフライ語 etc.」

 

 「出身は伊賀上野とあるが」

 

 「ハッ祖父が伊賀忍衆お庭番でした」

 

 「忍者か、使えるな。カス共の訓練教官だ。次!名前は」

 

 次に前に出たのはドイツ軍将校——ヘルマン・フェーゲラインであった。

 

 「ヘルマン・フェーゲラインです」

 

 「親衛隊中将か。それがこんな部隊に・・・落ちぶれたもんだな、ええ?何をやらかした?」

 

 「艦娘との不純異性交遊です。でも未遂です、本当です!」

 

 「ハハハ、アイツは遊び人だ」

 

 フェーゲラインの弁明を中村が笑った。

 

 次の瞬間、佐藤が叫んだ。

 

 「たわけっ!」

 

 佐藤は軍刀を抜いて中村に向けて構えた。

 

 「俺は幸せそうに笑うやつは許せねぇんだ!たたっ殺すぞ!!」

 

 「ひぃ!」

 

 怯む中村。

 

 軍刀をおさめフェーゲラインに向き直る佐藤。

 

 「だが当の本人の青葉と曙は責任を取れとお前に言ってるそうだが?それにお前さんたいそうな遊び人だそうじゃないか。この前も鳥海に手を出そうとしたって聞いたぞ」

 

 「いやそれは・・・」

 

 「まぁいいや、あとそれからフェーゲ、お前に関してあることを総統から頼まれている」

 

 「なんでしょう」

 

 嫌な予感しかしないフェーゲ。そしてそれは当たった。

 

 佐藤が部屋にMP40を装備した武装親衛隊員たちを入室させたのだ。

 

 佐藤の手には赤いボタンが握られている。

 

 「総統から俺への命令だ!『フェーゲライン及び青葉と曙は一日一回、処刑をするように、何なら気のすむまで何回でも処刑していいぞ』以上!!」

 

 佐藤が赤いボタンを押した。赤いボタンからヒトラーの声が響いた。

 

 『KO☆RO☆SU』

 

 次の瞬間、武装親衛隊員たちがMP40をフェーゲラインと青葉と曙に照準、連射した。

 

 無数の訓練弾が彼らを襲う。

 

 「はい死んだ!!」

 

 「なんで青葉もおおおおおおおお!?」

 

 「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああ!?」

 

 訓練弾をまともに食らった三人はそのまま倒れ伏した。

 

 どこからかピロリ―ン♪という音が響いた。

 

 「おお、こりゃ結構面白れぇじゃねぇか。後でもう一回やるか。とりあえずこいつらは合格だ!次・・・!」 

 

 こうして佐藤の面接は続いていった。

 

 無政府主義者の爆弾魔、人妻と心中未遂をした飛行兵、飯泥棒の兵士、エロ同人を書きまくり遂に総統×宣伝相のエロ同人を描こうとした艦娘秋雲・・・

 

 まともな奴は一人としていなかったが佐藤は「まぁいい、みんな病気だ」といって特に気にしなかった。

 

 その中にはモルヒネ中毒を克服しシンナー中毒になった国家元帥ゲーリングや裏切り者ヒムラー、眉毛ルドルフ・ヘスと時雨・夕立トリオなどがいた。彼らもまた懲罰部隊から特殊部隊行きが決定したのだ。ヒトラーはまだ裏切り者を許すつもりはないらしい。

 

 結局、面接には全員が合格。佐藤を含めて総員54名、この日ヒトラーの特殊部隊『東亜総統特務隊』がここに創設されたのだった。

 

 余談だがその日、泊地には銃声と佐藤の笑い声と、フェーゲラインの「はい死んだ!!」という声、青葉と曙悲鳴が何度も響き渡ったという・・・

 

 

 

 




ルーク「ルークとー」
ヤン「ヤンのー」
ルーク&ヤン「人情紙芝居後書きー」
ヤン「兄ちゃーん、俺たちが後書きに登場したの久しぶりだねー」
ルーク「ホント、久しぶりだよな。いくらなんでもリストラ期間が長すぎるわ。後で作者のち〇こもいだろ。ていうか俺達のこと覚えてる奴いるのかなー」
ヤン「というわけで自己紹介!私はヤン!ヤン・バレンタインです!ヒラコー先生の漫画『HELLSING』の登場人物、作中ではヘルシング機関を襲って虐殺とかしたりしました。あと最後は燃やされました」
ルーク「お元気ですか!?私はルークです!ルーク・バレンタイン、ヤンの兄です!!私は作中でアーカードを殺そうとしました。そして食われました。ワンちゃんに」
ヤン「それでも知らないっていうそこの読者クン、さてはアンチだなオメー、あとでお前んち行ってち〇こもぐからな」
ルーク「ところでヤンや、今回新キャラが登場したよ」
ヤン「日本陸軍が生んだターミネーター船坂弘、そして佐藤中村コンビだね。佐藤中村コンビの元ネタはなんなのさ?」
ルーク「戦争劇画の巨匠、小林源文先生の『東亜総統特務隊』に登場するコンビ。ていうゲンブンセンセーの作品にはほぼ必ずこのコンビが登場します」
ヤン「してその役回りは?」
ルーク「ただひたすら佐藤が中村を殴る」
ヤン「ひでぇ」
ルーク「と、いうわけで最後はあれで〆ましょー」
ヤン「おーあれかーじゃあやるかー」
ルーク「ヤーーーーーン
    あんちゃんだよーーーー
    お前のあんちゃんだよーーーー
    今帰ったよーーーー
    開けておくれーーーーッ」
ヤン「本当かーーッ
   本当に本物のアンちゃんかーー
   本当のあんちゃんならこれができるハズです。」
ヤン「マリーアントワネットのものまねー。」
ルーク「パンがないのなら
    糞便を食べればいいじゃない。」
ヤン「うわーーーー
  超ゴーマーン。
  やっぱりあんちゃんだ~~~~~~ッ」
ルーク「はっはっはっはー」

 おしまい ふざけてすんません


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74話 最初の任務~チャンコロは差別用語~

 BAOM!BAOM!

 PAPAPAM!

 ZIPZIP!CHUNK!

 フィリピン北部、泊地ヴォルフスシャンツェ近郊の訓練場には爆発音と銃声が絶え間なく響き渡っていた。

 鉛の銃弾が飛び交い、爆発で土埃が舞う中を兵士や艦娘達が駆け抜けていく。

 ヒトラー直属の特殊部隊『東亜総統特務隊』は来るべき実戦に向け実弾演習の真っ只中にいた。

 演習といっても飛び交っているのは実弾なので少しでも気を抜けば血や脳漿や臓物をまき散らして死ぬことになる。

 兵士や艦娘達の間で悲鳴や文句を上げるものが出てくるのはそう少なくなかった。

 「ひぃぃ!!フェーゲさぁぁぁん!!見捨てないで下さああああい!」

 「ちょっと青葉、何止まってるのよ進みなさい!クソ提督アンタもよ!」

 「クソ!実弾だなんて聞いてないぞ!」

 悲鳴を上げて兵士や艦娘達が走り回る中、東亜総統特務隊の隊長である佐藤大輔二等陸佐はMP40を兵士達の足元に撃ち込みながら彼らを追い立てていた。

 「走れ!走れ!ホラ!そこ見えてるぞ!」

 「いいぞ走れ腰抜けめ!」

 佐藤の隣では彼直属の副官となった中村正徳一等陸曹が兵士たちを囃し立てていた。

 本来なら兵士たちとともに逃げ回っている彼が自分の隣にいることに佐藤は眉をひそめた。

 「あれ!お前何してんだよ走れよ」

 「ハァ?」

 「ボケッ!」

 PAPAPAM!PAPAPAM!ZIP!

 とぼけた中村の足元にMP40を撃ち込み追い立てる。

 「ヒィッ!」

 悲鳴を上げ走り出す中村。

 そんな彼らの下に一人の親衛隊員がやってきた。

 武装親衛隊中佐オットー・スコルツェニーである。

 「やっているな、実弾訓練かね」

 「あ、スコルツェニー中佐」

 敬礼をする佐藤とスコルツェニー。

 「実弾訓練が一番だ、我々武装親衛隊もやっている。どうだ、隊員は使えそうかね」

 「連中、体がなまっていましたがだいぶ使えるようになってきました。後は爆破訓練とかが残っていますな。・・・ところで中佐いったい何用でここに?」

 「うむ。早速だが総統閣下から君たちに命令が下された。実戦だ」

 「ほお」

 実戦という言葉に顔をにやけさせる佐藤。もとより彼は好戦的で退屈を嫌いスリルを追い求める男だ。

 それ故にこれまで数々の困難な作戦を遂行し、それ故に上層部から警戒されてきた。

 「その前に君に会ってほしい人物がいる。今回の作戦の協力者だ。敵の情報を提供してくれる」

 「分かりました、では装備と制服の支給をお願いします」

 佐藤とスコルツェニーは情報提供者の待つ建物へと向かっていった。

 

 

 

 

 「あ、お前は・・・」

 「ニーハオ!」

 待っていた情報提供者を見るなり佐藤は声を上げた。

 その情報提供者は佐藤の、というより歴史をちゃんと学んでいる者ならだれでも知っている人物だったからだ。

 禿頭に白い口髭、一見すると人の好さそうな中年男性。中国国民党総裁にして中華民国(台湾)の初代総統、蒋介石の姿があった。

 「紹介しよう。中華民国総統、蒋介石氏だ。現在は東南アジアや大陸でゲリラ戦や諜報活動、武器売買等の活動を行っている。この地域の事情に最も詳しいため招聘した」

 蒋介石は自己紹介を始めた。

 「我名字蒋介石 我店『猫糞一号』 信用第一良心的 後々保証付 世界的有名」

 「この男信用できますか」

 佐藤はスコルツェニーに言った。

 蒋介石はかつて国民党を率いて中国大陸で日本軍と敵対した。いわば、かつての敵である。

 そもそもなぜこの男がこんなところにいるのか。

 日本人であり自衛官である佐藤が警戒するのは当然だった。

 スコルツェニーは答えた。

 「さあ?防衛省統合幕僚監部の紹介らしいが・・・まぁ、上層部がわざわざ紹介してきたのだ、信用できるんじゃないか?」

 自己紹介は続く。

 「我独軍大協力 打倒露助深海棲艦 軍事情報沢山提供 家内安全交通安全 世界平和万々歳」

 「このチャンコロ怪しいです」

 いつの間にか佐藤の隣に中村が立って耳打ちしていた。

 連れてきた覚えはないのにいつの間にか来ていた中村に佐藤はわずかに驚いた。

 「お・・・おまえどこから」

 だが、中村の声は大きく、チャンコロという言葉は、中国人の蔑称は蒋介石達の耳にしっかり届いていた。

 蒋介石の隣に立っていた副官らしき大男がモーゼル拳銃を抜き出し中村に突き付けた。

 「ダンナ、殺シテイイダカ」

 蒋介石が副官の言葉に頷き、モーゼル拳銃を抜き出す。

 「チャンコロ、それ差別用語。支那人馬鹿にする、それ日本人悪いこと分かる」

 二丁の拳銃が中村の眼前に突き付けられる。

 「死ぬよろしい」

 「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」

 突然の状況に中村は泣きながら謝罪した。

 しばらく展開を見ていた佐藤であったが、やがてニヤリと笑うと蒋介石に向かって言った。

 「あんた台湾と自衛隊の特務だろ」

 その言葉に銃をしまい頭を掻きながら蒋介石が言った。

 「分かってたあるか。自分は中華民国(台湾)の特務よ。訳あって自衛隊の特務をしているある」

 「前に資料で読んだの思い出したよ・・・臭えな、あっち行けお前」

 突然どこからか漂ってきたアンモニア臭に顔をしかめる佐藤。見ると先ほど銃を向けられたことにビビったのか、中村のズボンの股間部分が生温かいもので濡れ、湯気が立ちアンモニア臭が漂っていた。

 「お前、上もだが下もゆるんでんじゃねえのか!」

 「くそ、いつか殺してやる」

 馬鹿にされ泣きながら退去する中村。

 それから佐藤はスコルツェニーを見て言った。

 「中佐、そろそろ任務の説明を」

 「そうだな、よろしい佐藤中佐、説明するとしよう」

 スコルツェニーは任務の説明をした。

 「さて、敵の本拠地を叩きフィリピン、ひいては南方海域を開放するには敵の補給基地及び補給経路の破壊が必要不可欠であることは前にも話したと思う。現在の戦況だが、我が軍はサン・フェルナンド及びプログ山を攻略そのまま南へ進撃しピナツボ火山も攻略、オロンガボ、アンヘレス、オーロラメモリアル国立公園まで進撃し、目標地点のマニラまであと百数十キロ~数十キロというところまで迫った。だが敵は底無しの物量を持つ深海棲艦とソ連軍だ。大量の物資が後方の補給を通じて敵が占領するマニラに届けられている。敵の物量は無限、こちらの物量は有限。このままでは我が軍の勝利は望めない。そこで君たちの使命だが、マニラの更に数百キロ後方にあるタネイトに向かってほしい。敵の大規模な軍事鉄道路線及び補給基地がタネイトの敵基地に存在している。君たちの部隊にはそれらを破壊してもらいたいのだ。それともう一つ任務があるのだが・・・」

 「原爆ですか」

 佐藤の予想にスコルツェニーは頷いた。

 「そうだ。前にも言った通り敵は原爆を保有している可能性がある。何か手掛かりになりそうなものをそこで探してもらいたい。もちろんなければなかったで良いが」 

 一通りの説明を終えた後スコルツェニーは佐藤に向き直った。

 「佐藤中佐、この任務は大変危険だ。一応潜入方法や帰還方法は考えられているが、任務中の支援はあまり・・・ほとんど望めないものだ。君達だけで後方数百キロに存在する敵基地に潜入しそれらを破壊するという、正直考えた時点で頭がどうかしている作戦だ。だが勝利を確実なものにするためにもぜひ引き受けてもらいたい。そして君達ならばやれると思っている・・・どうかね」

 そう言ってスコルツェニーは佐藤を見た。

 佐藤はニヤリと笑った。

 まるで待ち望んでいたかのように。

 「お任せくださいスコルツェニー中佐。我々東亜総統特務隊の手に掛かれば不可能なことなどありませんよ。大和魂・・・いえ、ゲルマン魂を深海棲艦と露助の連中に見せてやりましょう。総統閣下の期待に必ずやお応えして見せます」

 こうして東亜総統特務隊に最初の任務が与えられたのであった。

 

 




 スコルツェニーとの会談の後暫くして

佐藤「このボタン面白れぇな。何度押しても飽きねぇぞ」ボタンポチッ
ボタン「KO☆RO☆SU」(ヒトラーの声で)
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおお!?」ズダダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああ!?」ズダダダダダピロリーン♪
中村「佐藤二佐、自分もやりたいであります。僕にもボタンを押させてください、デイリーやらせてください」
BLAM!
BLAM!
BLAM!
佐藤「お前には早えんだよボケッ!これは俺の任務だ!」
中村「ちくしょう!!いつか殺してやる!!」


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75話 番外編10 総統と山城と倒福のまじない

 


  


 「総統閣下こちらの書類にサインを・・・」

 「分かっている、その前にこの書類を読ませてくれ、正確な判断が必要だ」

 「総統閣下、装甲部隊に対する燃料弾薬の補給についてですが・・・」

 ゲルマニア鎮守府、総統執務室で総統アドルフ・ヒトラーは執務に邁進していた。

 ここ最近は特に忙しい。現在南方海域奪還のための一大反抗作戦『バルバロッサ』の真っ最中であり、将兵や艦娘達が激戦に身を投じる中、その指揮にあたるヒトラーも司令官として多忙を極めるのは当然の帰結であった。

 一連の書類仕事を終え、将校達が執務室を去り、部屋にはヒトラー一人だけとなる。

 ヒトラーは本棚近くの上質なソファに座り一息ついた。

 仕事はまだまだ大量に残っているが、だからこそ休息は大事だ。僅かな、そして貴重な休息の時をぼぉっとして過ごす。

 「ふぅ・・・覚悟はしていたがいきなりたくさんの量の仕事が来るとさすがに疲れるな・・・」

 一人呟いていると執務室のドアが開く音がした。

 ドアを見ると軽空母艦娘、鳳翔の姿があった。

 「失礼します総統・・・お茶とお菓子をお持ちしました」

 「ん・・・ありがとう」

 鳳翔はテーブルにお茶と羊羹を置く。

 ヒトラーは熱い茶をすすり羊羹を口にした。

 羊羹の甘みが口に広がり疲れた脳に糖分が染みる感覚がする。熱くて渋い茶が体の疲れを取り心をリラックスさせる。

 「美味いな・・・私は普段紅茶を飲むが日本の茶と菓子もいいものだな」

 「喜んでいただけたようで何よりです。私はあまり戦闘向けではないので食事とか補給とか遠征とかそういう面でのサポートが主になるのですがお役に立てているのであれば何よりです」

 「いやいや、君には感謝してもしきれん。君の作る料理は大変栄養満点で兵士や艦娘達の士気や健康の維持に大いに貢献している。そしてそれらは戦闘力の上がり下がりに大きくかかわることだ。様々な職種の艦娘や兵士がおり様々な任務を負っているが一つ一つが重要なものだ。人にはその人の戦い方がある。これからも頑張ってくれ」

 鳳翔をねぎらうヒトラー。

 軽空母で搭載機数が少なく、またほかの艦娘に比べ旧式である彼女は遠征や補給そして食事の管理といった後方支援が主な任務となり縁の下の力持ちとして作戦を支えていた。彼女の作る料理は栄養満点であるばかりでなくいわゆる「おかんの味」で日々激闘に身を投じる兵士や艦娘たちの心身を癒すもので彼ら彼女らの密かな心の支え、楽しみとなっていた。(付け加えると給糧艦間宮の作る羊羹をはじめとするスイーツも同様であった)

 「ありがとうございます、総統・・・それで、実はその士気の事についてご相談があるのですが・・・」

 「なんだね?言ってみなさい」

 「一人気になる艦娘がいて・・・少々落ち込んでいるようなのでなんとか元気をつける方法はないかと」

 「気になる艦娘?誰のことだ?」

 「はい、そのことでちょっと一人連れの方を連れてきたのですが・・・中に入れてよろしいですか?関係者から話してもらったほうが分かりやすいかと」

 「いいとも」

 鳳翔の申し入れを承諾するヒトラー。

 鳳翔が入っていいですよ、と促すと再びドアが開きまた一人艦娘が入室してきた。

 「ん、君は・・・」

 「扶桑です、入ります・・・」

 腰までありそうな長い髪に巫女のような服を着た少女。

 鳳翔が連れてきた人物とは戦艦扶桑だった。

 「鳳翔、彼女が君のいう落ち込んでいる例の艦娘だと?」

 「いえ、ご相談に乗ってほしいのは私ではありません・・・」

 ヒトラーの問いに答えたのは扶桑だった。

 「実は妹の山城のことで相談が・・・お時間をいただいてもよろしいですか?」

 「少しなら、大丈夫だ」

 「ああ、ありがとうございます、実は・・・」

 扶桑は山城の最近の様子について話した。

 

 

 

 

 ある日のこと・・・

 作戦が終わり帰還した艦隊が次々と補給や入渠をすべく工廠に入っていく。

 その中に山城の姿があった。

 かなり被弾したようで他の艦娘に比べて傷が多く衣服や装備の損傷も激しかった。

 が、何よりも気になるのは山城の不幸そうな表情だ。

 薄幸に見えるのはいつものことだが、虚ろな目に暗い顔、うつむく頭、とぼとぼと小さく歩く様子と今日はいつにも増して不幸そうだ。泊地の人間には彼女が此処最近さらに暗くなっているような気がした。

 「大丈夫、山城?」

 そんな山城に姉である扶桑は声をかけた。心配そうな扶桑の声かけに山城は生返事をしてため息をついた。

 「あぁ・・・姉さま」

 「此処最近、調子悪くない?いつもより暗そうに見えるわよ」

 「すみません、姉様・・・心配かけてしまって。でも、此処最近いつにも増して本当に不幸なのよ・・・」

 はぁ、とため息をつく山城。工廠に向かう足取りは重く、歩くたびに体や装備が壁やどこかにぶつかる。

 「作戦はどんどん厳しくなるし、どういうわけか私だけどんどん被弾するし・・・補給もろくに出来ない事が多いのよ。この前の作戦なんか重い弾薬ばっかり持たされて、燃料もろくにないのに遠出させられたのよ。しかもいつの間にか私が被害担当艦になっていて轟沈寸前までいくし・・・この前なんか偵察任務でひとりになっていたら、野戦憲兵のやつらが私を逃亡兵だとか敗北主義者だとか何とか言ってZbvに配属しようとしたのよ!あのろくでなしの懲罰部隊に!他の子や上官がとりなしてくれたから助かったけど・・・此処最近もう散々よ・・・」

 そう言って山城はいったい何度目になるのかも分からないため息を再びついた。

 そんな山城を見て扶桑は何とか励まそうと肩に手を置く。

 「・・・あんまり気にしすぎているとそのうち本当にもたなくなるわよ。たまには休暇を申請したり、甘味処にでも行ったりしてリラックスしたら?それに一番大事なのはくよくよせずに自信を持つことよ、この前総統から聞いたわ、山城あなたそろそろ改修工事の予定があるそうね、改二に・・・この泊地でも有数の実力を持っている証よ、もっと自信を持っても・・・」

 「改二になったらなったらでまたさらに激務に巻き込まれるのだわ・・・そしてまた不幸な目に・・・ほんとに不幸だわ・・・」

 「山城・・・」

 ため息をつきながら入渠施設へ向かう山城。

 扶桑はその重い足取りをただじっと見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 「・・・と、いうわけなんです。ここ最近山城の様子が暗くて・・・ここ最近、ますます被弾の回数が多くなっていて、このままじゃ戦闘にさらに悪影響が・・・」

 「なるほど、艦娘の士気が落ちているということだな?確かにそれは無視できん問題だ。一人の兵士の士気が落ちれば周りにも波及して全体に影響しかねん。何より今は攻勢作戦の途中だ」

 「何とかできないでしょうか・・・?」

 扶桑が懇願の思いを込めた目でヒトラーを見た。

 頷くヒトラー。兵士の士気の低下は指揮官であるヒトラーも決して無視できないものだった。

 「分かった、何とか彼女を励ましてみよう、何とか仕事の合間を見つけて・・・」

 「ありがとうございます、総統・・・」

 礼をして、そのまま扶桑と鳳翔は総統執務室から出て行った。

 「さて・・・どうしたものかな」

 ソファに深く腰掛けながらヒトラーは山城の士気をどう回復させるか考えた。

 

 

 

 

 

 数日後・・・

 山城は泊地の工廠内を歩いていた。

 「とうとう私も改二かぁ・・・」

 彼女は数時間前に改修工事を施され改二になっていた。

 優秀な戦績を積み重ね一定のレベルに到達したと認められた歴戦の艦娘のみに認められるそれは艦娘の装備や能力を飛躍的に高めるものであり、特に二回目の改修、改二は艦娘たちにとっては特別な意味合いを持つものだった。

 手を握り、開き、新しい装備品を触る。それらは力強く、新しい力がみなぎってくるようだった。

 だが、体とは対照的に山城の心はあまり晴れていない。

 「また、激戦地帯に投入されるのね。そしてまた被弾して・・・何もかわりゃしないわ・・・」

 今までの重なる不運を思い、先が思いやられた。どうせこれからもろくな目に合わないのだろう、自分は不幸なのだから・・・

 ため息をつく山城のもとに一人の男が近づいた。その正体に気付くと山城はすぐに姿勢を正した。

 「あ、あの・・・」

 「そう緊張せんでいい、楽にして」

 総統アドルフ・ヒトラーが微笑をたたえながら山城のもとにやってきた。

 ヒトラーは改二になり、力強い41cm連装砲を装備し、新しくカスタマイズされた巫女のような服装を見ながら満足そうに頷いた。

 「うむ、無事に改二が施されたか・・・Gut Gut(よろしいよろしい)・・・改二おめでとう、これからも健闘を祈る山城」

 「ありがとうございます・・・」

 「だがその割にはあまり嬉しそうではないな?どうせこの先も不運に見舞われると思っているのではないかね?」

 「え?」

 ヒトラーの言葉に思わず顔を上げる山城。ヒトラーのその瞳は澄んでおり、人の心を、山城の心を何もかも見透かし、捉えるようだった。

 「ついてきなさい」

 ヒトラーは言った。

 「休みがてらに散歩でもしようか。見せたいものがある・・・」

 歩き出すヒトラーに、山城はついて行った。

 ついていくと、二人は鎮守府の休憩室の中に入った。普段はヒトラーや将校、客人の休憩室、接待の場として使われている場所だ。

 広い室内の中央には10メートルはあろうかという都市の模型があった。

 「これは・・・」

 「ゲルマニアだ」

 ヒトラーは言った。

 ゲルマニア。かつてヒトラーがベルリンを世界の首都に、と計画し、敗戦とともに消え去った幻の、想像の都市。ヒトラーが夢見た第三帝国の面影がそこにあった。

 ひときわ大きなフォルクス・ハレの丸い屋根に触れながらヒトラーが懐かしそうに語る。

 「私の夢だった。いつか必ずすべてに勝利し、新しいドイツを、新しい世界を、新しい歴史をここで始める・・・それが私の夢だった。私が総統になり最初の内はこの夢が叶いそうだった。だが戦況が悪くなってからはだんだんこの夢が遠ざかっていった。ドイツが敗北し、今では誰もが私の夢は終わったと思っている。だが私は夢を捨てたわけではない」

 「・・・」

 「ひとつ、昔話をしよう。むかしドイツにある一人の男がいた。その男は画家を志していたが周囲の悪意によってその夢を断たれた。やがてドイツは戦争に巻き込まれ、男は祖国のために奮闘した。だが一人の人間にできることなどたかが知れている、祖国は敗北した。天文学的な額の多額の賠償金をかけられ、領土を奪われ、誇りを踏みにじられた。民は困窮し絶望の只中にいた。だが男だけは違った。祖国の、ドイツの復興を訴え続けた。国民の先頭に立ち国家を民族を再興させることを誓い、戦おうとした。誰もが彼を夢想家だといった。あるものはその男を攻撃しようとした。だがそれでも、男はあきらめなかった。新たに祖国を再興するという夢を持ったその夢想家の男はその夢を信じ続けた。そしてついにその男は国家元首にまで上り詰め総統となった。祖国は、ドイツは領土を取り戻し再び大国となった。国民は豊かになり民族の誇りは復活した。夢想家と呼ばれた男だったがその夢想家がいなければどうなっていたか。そしてその夢想家とは・・・私のことだ」

 ヒトラーは振り返り山城を見た。山城はただじっとヒトラーの話を聞いている。

 「私が何を言いたいかわかるかね?信じよ、ということだ。その夢想家は、私はドイツの再興という夢を信じていたが、信じに信じ続け、国民にも信じさせついには現実のものにさせた。信じ続ければ現実になるのだ。施行は必ず現実のものになるのだ。信じて、国家が変えられるのだ、己を信じて己が変わらぬわけがない」

 ヒトラーは山城の肩に手を置いた。

 「私が君に言いたいのは、自分を信じろ、ということ。それだけだ。信じ続ければいつか本当になる。ほかならぬ私がそうなのだから。今でも私は夢を持ち信じ続けている。ドイツの再興という夢を信じている。信じればいつか実現するからだ」

 「自分を、信じる・・・」

 山城が呟いた。ヒトラーの雄弁な様子にも影響されて彼女からは暗そうな弱気な様子が消えかかって見えた。

 「そうだ信じれば必ず事実になる。嘘も信じればいつか事実となる。それも大きければ大きい嘘であるほど、繰り返して言えば事実となる・・・」

 「え?」

 「・・・いや、今のは忘れてくれ。とにかくだ。大切なのは自分を信じることだ。自信を持つことだ。そうすれば、君は変われるだろう。それはいつか必ず現実のものになるのだから」

 「・・・はい!」

 返事をする山城は少し元気そうだった。

 さっきまでの暗そうな様子はほとんど全く見られない。

 どうやらもう大丈夫そうだ。

 「分かったのならよろしい。そんな君に少しおまじないをかけてあげよう」

 安心したヒトラーはおもむろにポケットから紙を取り出した。

 その紙には大きく『福』と書かれている。

 ヒトラーはそれを逆さにするとそのまま山城の41cm連装砲に張り付けた。

 「あの・・・それは?」

 「『倒福』、だ。幸運のおまじないだよ。見ての通り逆さにした『福』の漢字を張り付ける。だから『倒福』だ。中国語で『到福』と『倒福』の発音が同じことから縁起がいいとされ幸運のおまじないに使われているのだ。この前戦車部隊を閲兵していたら、このマークを施したティーガー戦車を見つけてな。確かハンス・ゾーレッツと川島正徳とかいったかな・・・彼らに教えてもらったのだ」

 ぽんぽんとたたきながらヒトラーは言った。

 「これはただのおまじないだ。もちろん気休めに過ぎない。だが信じれば自信がつくぞ」

 「・・・はい」

 そう言ってヒトラーは笑った。山城も笑った。

 その顔にもう暗さはない。

 「それで改めて・・・改二おめでとう、山城。これからの更なる活躍と健闘を祈る」

 「ありがとうございます、総統・・・それから・・・姉様の改二のほうも・・・お願いします、ね?」

 お礼とお願いを言いながらおまじないを触る山城。

 41cm連装砲の倒福のマークが山城には少し頼もしく思えた。  

 

 




 倒福とは・・・中国式の福を招くおまじない。漢字の『福』の字を逆さに倒して張り付ける。『到福』と『倒福』の発音が同じことから、福に到るように、という意味で倒して張られる。
 そしてこの倒福だが・・・この中国式のまじないがなんと遠く離れたドイツの地でティーガーⅠ戦車の車体に施されている写真があるのだ(ハッピータイガーとググれば出てくるはず)。中国に何かしらの縁があった乗員によるパーソナルマーキングだとされているが・・・
 そしてこの写真といくつかの実話・噂をもとに描かれた漫画が、戦争劇画の巨匠小林源文先生の「ハッピータイガー」である。今回出てきた『倒福』のそもそもの元ネタはこの作品です。
 はたしてこの『倒福』のまじないは山城に幸運をもたらしてくれるのか?
 もちろん気休めに過ぎない。だが信じれば自信がつくぞ!!
 まじないとはそういうものだ。






 今後の予定
 最近源文作品にはまってしまったので源文ネタをどんどん出す予定。もちろんジョジョネタやHELLSINGネタも忘れないよ!総統が怒るのも、フェーゲの処刑もね!!
 Zbvに配属されたでち公とかやってみたい。

 卯月「ち、違うぴょん、うーちゃんはちょっとそーとーと遊んでただけぴょん、それで遅れただけぴょん、逃亡じゃないぴょん、本当だぴょん!」
 憲兵「よくある話ですな。Zbv行きだ」

 でち公「提督・・・もうオリョクルは嫌でち、ゴーヤ達には休養が必要でち・・・」
 シュタイナー「死んでから休めばいい、君は自分の魚雷を取ってこい、遠征に行け」

 レーム「おまえか 可愛い男 俺 好き」
 中村「ヒィ!!」(掘られた)
 集積地棲姫「オマエカ カワイイカンムス ワタシ スキ」
 巻雲「ヒィ!!」(掘られた)

 瑞鶴「七面鳥ですって!?冗談じゃないわ!!魔女の婆さんに喰われちまえ!!」

 戦艦棲姫「オオオ!!」
 佐藤「いやあ、普通の女より鬼娘のほうがいいぞ」
 中村「佐藤二佐、自分も慰安をしたいであります」
 佐藤「ボケ!!」
 BLAM!
 佐藤「情報収集だ、任務だぞ!学が無いやつはこれだよ!!」
 中村「ちくしょう!!いつか殺してやる!!」
 
 ベリヤ「北方棲姫最高!!駆逐棲姫最高!!ロリの艦娘と深海棲艦最高!!ペロペロしたい、prprしたい!!」
 ジューコフ「などと言っております同志スターリン」
 スターリン「なるほど、シベリア送りだ」

 
 
 お楽しみに


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76話 番外編11~魔王は今日も空を征く~

ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!!」ズダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおおお!?」ズダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああ!?」ズダダダダピロリーン♪
ブルクドルフ「いきなりデイリー任務とか、ダサいし!!」
ヒトラー「うるせぇ!!これは俺の仕事だ!!神聖な使命だ!!おっぱいぷるーんぷるん!!」

今回のデイリー任務達成


 「う、うわああああ!!逃げろおおお!!」

 「逃げるな戦え!!ドイツ軍人の意地をここで見せあぐっ!?」

 「ハンス!?ハンス!?目を開けてくれよ!?」

 「駄目だ、そいつはもう死んでいる!」

 「もう嫌だ、ここから出してくれ、俺は病気なんだ!!」

 響く怒声と悲鳴。

 爆音とともに砲弾が地面を穿ち、爆炎と衝撃波が地を舐めまわす。

 バラバラになった死体が、血が、脳漿が、肉片がまき散らされる。

 憎しみと絶望ですべてが満たされる。

 南部戦線、フィリピン、ルソン島のとある高地。

 その地を攻略し、フィリピン全域解放への新たな一歩を築こうとしたドイツ軍であったが、その地を占領する深海棲艦とソ連軍が築き上げた防御陣地は堅牢でなかなか攻め落とせずにいた。

 それどころか敵は戦艦ル級やタ級をはじめとする戦艦群、無数のT-34戦車で逆襲に掛かり、攻撃側であるドイツ軍に多大な損害を与えていた。

 大火力の16インチ砲のシャワーが降り注ぎ、傾斜装甲を備えたT-34の鉄壁のカーテンが迫る。

 片やこちらは貧弱な火力のⅢ号戦車や、3.7cm対戦車砲や火炎瓶、手榴弾しかない。

 こちらをはるかに上回る大火力の前に為す術もなく次々と倒れる戦友達。

 最早状況は絶望的。

 深海棲艦側は敵を嬲り殺しにしてくれようとほくそ笑み。

 ドイツ軍は最早これまでと恐怖と絶望が蔓延していた。

 だが。

 いつの時代も、絶望を打ち破る英雄というものは存在する。

 そしてそれは空からサイレンと共に現れた――

 

 

 

 

 深海棲艦側の陣地

 「フフフ・・・ニンゲンドモメ、ソノママ嬲リ殺シニシテクレル」

 「いいぞ!!もっと撃ち込め!!ファシストを皆殺しにするのだ!!」

 「絶望ヲ味ワイナガラ死ネエエエエエ」

 タ級やル級、ソ連軍将校がいやらしい笑みを浮かべながら指揮を執っている。

 彼らは敵であるドイツ軍を一方的に殺戮できることに喜びを感じていた。

 砲弾を撃ち込むたびに敵がバラバラになりながら吹き飛び、戦車が死体を踏みつぶしながら戦場を蹂躙する。浮かぶドイツ兵の絶望の顔。彼らにはそのすべてがたまらなかった。

 そして同時に、自分たちの勝利を信じて疑わなかった。

 砲弾を撃ち込みながら、ソ連軍将校と会話する深海棲艦。その表情には余裕の笑みが浮かんでいる。

 「敵ノ抵抗ガ弱マッテキタ。一気ニ行クベキダ」

 「よし、このまま包囲して殲滅するのだ!!ファシストに死を!!」

 「「「ypaaaa!!」」」

 指揮官が前進を指示し、ソ連兵や深海棲艦が鬨の声を上げたその時。

 ウウウーーーーーー!!!と。

 ふと、プロペラ音が、そしてけたたましい不快なサイレンの音が上空から聞こえてきた。

 「!?な、なんだ!?」

 突然のことに驚いた指揮官が上空を見上げた次の瞬間。

 ボンっ!!と。

 突如ル級の頭が爆発、消滅し首から間欠泉のごとく血が噴き出した。

 突然血のシャワーを浴びせられた周囲のル級やタ級は混乱状態に陥る。

 「ナ、ナンダ!?」

 「ナニガオキ・・・ガッ!?」

 狼狽する次の瞬間、タ級の胴体が真っ二つに切断され、16インチ砲の天蓋に穴が穿たれる。

 穴を穿たれた主砲は弾薬庫に引火したのか間髪を容れずに轟音と共に広範囲にわたり大爆発を起こした。

 「うぎゃああああああ!?」

 「アヅイイイイイイイイ!?」

 「腕があああああ!?俺の腕があああああ!?」

 「チクショウ!!魔女の婆さんの呪いか!?」

 強烈な爆炎と衝撃波がタ級を、ル級を、ソ連兵を吹き飛ばしあらゆるものに死を与える。ある者は体ごとこの世から消滅し、ある者は炎に体を焼かれ、ある者は破片等で体を切り刻まれ、ある者は四肢を欠損し・・・

 今までドイツ軍が味わってきた絶望や恐怖を今度は深海棲艦とソ連軍が味わった。

 「な・・・なんだ・・・いったい何が」

 血まみれになった指揮官が上空を見上げると・・・

 そこには一機の急降下爆撃機の姿があった。

 Ju-87、スツーカ。

 ドイツ軍が生んだ傑作急降下爆撃機。

 逆ガル翼の複座機が不快な、恐ろしいサイレンと共に地上の深海棲艦を狩っていた。

 「あ・・・あ・・・」

 しかもよく見ると。

 翼下には37mm機関砲が取り付けられている。

 その機体に、その機体を操縦する者に彼らは見覚えがあった。

 「ル、ルーデルだ・・・スツーカの悪魔だああああ!!」

 「逃げろおおおおおお!!」

 そのスツーカを見た瞬間、ソ連兵達は一気に恐慌状態に陥り四方八方に蜘蛛の子を散らすように逃げる。

 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。

 それがそのスツーカを操る者の名であり、ソ連軍にとっては恐怖の存在、世界一の戦車撃破王、魔王でもあった。

 スツーカの悪魔、魔王ルーデルは味方に希望を、敵に絶望を与えるべく今日も戦場に参上したのだった。

 

 

 

 

 

 「見ろガーデルマン、イワンと深海棲艦の奴ら、怯えて蜘蛛の子散らすみたいに逃げてるぞ」

 スツーカの操縦桿を握りながらルーデルは愉快そうに笑った。

 彼にとって共産主義者イワンとそれに従う深海棲艦は憎むべきもの、殲滅すべきものであり、彼らがうろたえるさまは彼にとっては愉快なものだった。

 後部機銃座席に座る相棒、ガーデルマンは冷静な口調でルーデルに問う。

 「それで、どうするのです?残りもやるんですか?」

 その問いにルーデルは子供のようにはしゃぎながら答えた。

 「もちろんだガーデルマン!!こんなにイワン共が、たっぷりの獲物がいるのに狩らないのはもったいない!!残りも片付ける!!後ろは頼んだぞガーデルマン!!」

 「了解」

 ルーデルは操縦桿を押し、逃げるル級に向かって急降下した。

 急降下と共にスツーカから不快なサイレン音が響き、敵に恐怖と絶望を与える。

 スツーカとル級の距離が縮まっていく。地面すれすれまで近づきそして・・・

 「今だ!!」

 機関砲のスロットルを引く。

 艦娘用の砲弾を発射できるように改造された機関砲から大和型戦艦用の46cm九一式徹甲弾が発射されル級に吸い込まれていく。

 それはル級の体を真っ二つに切断し、主砲の天蓋をぶち抜き弾薬庫に着弾する。

 次の瞬間弾薬庫が大爆発を起こしル級もろともあたりを吹き飛ばす。

 爆炎があたりを舐めまわし、焼き尽くす。

 周囲のソ連兵が焼かれていき、T-34戦車が大爆発の爆風に煽られ転倒し、または爆発する。

 深海棲艦とソ連軍の間で一気に被害が拡大していく。

 その様を見てルーデルが興奮したように叫ぶ。

 「いいぞいいぞ、イワン共、もっと俺を愉しませろ!!そして死ねえええええええ!!ヒャッハー!!!」

 「・・・こいつ大丈夫かな」

 興奮してなんか頭がアレになりかけてルーデルを呆れたようにため息をつくガーデルマン。

 急降下を繰り返しては深海棲艦やソ連軍を撃破していき、大地に死が広がっていく。

 スツーカを落とそうと深海棲艦の戦闘機が背後から迫るが、後部座席に陣取ったガーデルマンの正確無比な射撃によって次々と撃墜されていく。

 為す術もなく深海棲艦とソ連軍は撃破されていった。

 そして・・・大地から動く者はいなくなった。

 

 

 この日、ルーデルはスツーカ単独で高地を占領するソ連軍一個連隊と深海棲艦の戦艦タ級とル級をそれぞれ6隻撃破。

 敵部隊は壊滅し撤退、高地には反撃に出たドイツ軍の鍵十字の旗が翻ったのであった。

 もしどこかでドイツ軍が苦境に陥っていればそこには必ずスツーカに乗った英雄が現れるであろう。

 もしどこかで深海棲艦とソ連軍が調子に乗っていたらそこには必ずスツーカの悪魔が現れるであろう。

 敵を撃破するために、祖国と総統のために、何よりも戦争を愉しむために、今日もルーデルは相棒ガーデルマンと共にスツーカを駆って空を征く。

 ・・・そしてそのルーデルの無茶ぶり、キチガイな活躍っぷりと、ルーデルの度を越した常人離れした度重なる出撃によって早く減っていく資源に司令部ではチョビ髭がストレスのあまり唸り叫ぶのであった。

 「畜生めぇ!!!」と。

 

 

 

 

 




次回は本編、佐藤・中村コンビ率いる東亜総統特務隊が出撃します。
中村「遂に俺の時代がやってきた・・・不肖この中村、祖国のために命を捨てる覚悟であります!!」
佐藤「中村ァ!!誰がお前の独壇場だと言った、エエ!?お前みたいな学も教養もネー奴にはモブキャラザコキャラがお似合いだ、このボケッ!!」
BLAM!
BLAM!
BLAM!
中村「チクショウ!!いつか殺してやる!!」 


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77話 東亜総統特務隊出撃~いざタネイトへ~

 「きをつけ!頭ぁ、右!休め!」

 フィリピン北部、ヴォルフスシャンツェ泊地の演習場に号令が響いた。そこには臨時編成されたヒトラー直属の特殊部隊「東亜総統特務隊」の面々が整然と整列していた。

 懲罰部隊から引き抜かれたもの、過去に何かしらの失敗や犯罪をやらかしたもの・・・そのメンバーの出自は様々であったが孰れにせよ碌な者はいない。 

 親衛隊中将フェーゲラインもそのうちの一人だ。艦娘二人と不祥事を犯し(本人は全くの誤解と主張)階級と役職を一時剥奪の上で懲罰部隊に編入された後、今度はこの特殊部隊に編入された。

 フェーゲラインは隣に立つ重巡艦娘の青葉に囁いた。

 「・・・俺たちこれからどうなっちまうんだ?なんか突然整列させられたが・・・」

 「・・・多分、また前線送りですよお。それも碌でもない任務なんかで・・・青葉、そんなことより取材がしたいのに・・・」

 「兎に角、早いとこ手柄を挙げて抜け出したいもんだな・・・」

 そんな風にフェーゲラインと青葉が愚痴を言い合っていたが、この東亜総統特務部隊の指揮官である佐藤大輔二等陸佐と、武装親衛隊中佐オットー・スコルツェニーが歩いてくるのを見て直ぐに会話を止め姿勢を正す。

 敬礼し、しばらく居並ぶ隊員達を見渡していた佐藤だったがやがて口を開いた。

 「貴様らは本日をもって戦死だ!」

 「・・・へ?」「はい?」

 思わずフェーゲラインと青葉は阿呆みたいな呆けた返事をしてしまった。

 指揮官の口から出た突然の死亡宣告。なぜそんなことを言われねばならぬのか、戸惑わぬほうがおかしいだろう。

 他の隊員達からもどよめきが上がる。

 「エッ!どういうこと?」

 「聞いてないよな、戦死だって」

 突然の死亡宣告の真意を測りかねる隊員達に佐藤は続けた。

 「なに、まだ戦死公報は出していない。あくまで便宜上のもの、一時的なものだ。本日をもって貴様らは本来の軍籍を一時的に外され特務に就く。作戦が成功し、戦争が終われば貴様らはすぐに復職できる」

 その言葉を聞いてフェーゲラインをはじめとする一部の隊員は天を仰ぎたい気分に駆られた。

 本来の軍籍を外されるだって?それはすなわち、今までの地位や役職を失うということだ。所属していた組織による庇護も失うことになる。もちろん、作戦が成功すればまた復職とできるとは言った。だが、わざわざ一時的に軍籍を外すのだ。それだけ特殊で、過酷な任務ということなのだろう。例えば敵に決して悟られてはならないような・・・これ来るであろう過酷な任務に耐えられるのだろうか?

 そんな隊員達を余所に、佐藤は続ける。

 「早速だが出撃だ。我々はマニラに存在する敵主力の補給路・兵站を断つため、敵の一大中継基地であるタネイトに潜入、その補給基地と補給路を攪乱、破壊する。既に装備や必要な移動手段は揃えてある。後は貴様ら次第だ」

 そう言って佐藤はスコルツェニーに向き直った。

 「中佐、東亜総統特務隊、出動準備完了しました」

 「Gut.早速、出動してくれ。軍事顧問をつけよう」

 そう言ってスコルツェニーは一人の迷彩服姿の武装SS隊員を連れてきた。装着しているヘルメットは一般のドイツ軍のヘルメットより縁が削られているのが特徴の降下猟兵のそれだ。精悍な外見から、しっかりと鍛え上げられた精鋭であることが伺え、何より特徴的だったのは彼の瞳は常人のそれに比べて血のように赤かった。

 その瞳を見て佐藤はピンときた。

 「スコルツェニー中佐、もしやその男は例の・・・」

 「うむ、吸血鬼だ。例の『少佐』が率いる『最後の大隊』のな。私の副官、マイヤー軍曹だ。SS第500パラシュート大隊から例の少佐率いる吸血鬼戦闘団に志願し、吸血鬼となった。ドクの研究により太陽光をある程度克服できるようになっている。ノルウェー上陸作戦やクレタ島作戦をはじめ多くの激戦に参加したベテランだ。きっと・・・いや、間違いなく役に立ってくれるだろう。なお私は別の任務があり参加できない。申し訳ない・・・その代わりできる支援はさせてもらうつもりだ」 

 「承知しました。蒋介石のほうは?」

 「いつでも出発できる。後は、君達しだいだ」

 佐藤はにやりと笑った。獰猛な笑みだ。

 「では、さっそく出撃すると致しましょう」

 こうして東亜総統特務隊は敵の補給線や物資が集中する一大拠点タネイトに向けて進撃を開始した。

 彼らの進撃する道の先に何が待ち構えているかは、まだ誰にも分らない・・・

 

 



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78話 闇討ち~弾は前からだけじゃない~

 11月上旬、南シナ海の東部。

 その暗い海中を静かに進む一隻の潜水艦があった。

 そうりゅう型潜水艦四番艦「けんりゅう」はフィリピン、ルソン島のタネイトにその艦首を向けて秘密裏に進んでいた。

 現在はフィリピンをめぐって人類側と深海棲艦側の必死の攻防戦が繰り広げられている。当然ながら、いま「けんりゅう」がいる場所は深海棲艦側の海域であり、もし深海棲艦に見つかれば即撃沈、死を意味する。

 何故、危険を冒してまで「けんりゅう」はこの海域を進んでいるのだろうか?

 その答えは彼らの「積荷」にある。

 

 

 

 「艦長、タネイトまであとどれくらいだ」

 「けんりゅう」発令所で東亜総統特務隊の指揮官、佐藤大輔二等陸佐は「けんりゅう」艦長の二等海佐に尋ねた。艦長がもじゃもじゃの髭を撫でながら答える。

 「そうだな、このまま何もなければ後一日、明日の〇八一〇時には目標海域に浮上し上陸できる。まぁ、安心なさい、とにかく私たちの腕を信じることだ。敵に見つかりなんかせんよ」

 ゲルマニア鎮守府司令にしてドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラー直属の特殊部隊「東亜総統特務隊」――それが「けんりゅう」の「積荷」だった。

 少し前、東亜総統特務隊はある特殊作戦の命令を下された。敵の一大補給・中継地点であるタネイトに潜入し、後方攪乱及び敵の核開発に関する情報を入手せよ――既に部隊の隊員は佐藤とスコルツェニーが懲罰部隊などから調達し編成、武器弾薬等必要なものは全て揃えた。

 問題はどうやって敵地に潜入するか、だった。

 少数の部隊であるため、陸路で密かに進軍するか?しかし敵地の奥深くまでジャングルや山脈を超えて進むのはリスクが高く、部隊の消耗も激しい。空から空挺降下か?しかしタネイトは敵の完全な制空権下にある。敵にとって重要な場所だから防空体制も万全だろう。そんなところに密かに輸送機を送る、というのもリスクが高い。陸と空、どちらもリスクが高い。となると残された手段は――海だ。それも洋上ではなく海中を。

 潜水艦に隊員達を乗せ密かに水路で敵の後方まで忍び寄り上陸させる。

 勿論この方法もリスクは高い。が、それでもほかの方法に比べれば隠密性は高い。水上航路に比べれば、潜水艦が航行していることはバレにくい。空には劣るが陸路よりははるかに早い。元々派遣する部隊員も少ないから別に潜水艦でも十分。 結局、ある程度の危険は承知の上で潜水艦による部隊派遣が決まった。

 そして東亜総統特務隊を乗せ彼らを無事敵地にまで上陸させる任務を負うことになったのがこの「けんりゅう」だった。

 前述したようにこのまま何事もなくいけば明日の明朝〇八一〇時に浮上し上陸する手はずになっている。

 ちなみに同様の任務を負って同型潜水艦の「じんりゅう」も南シナ海を進んでいる。「じんりゅう」に乗っている部隊も上陸した後現地で合流する予定だ。

 

 

 

 

 潜水艦の中は狭い。乗員全員の寝床を確保できるほど広くはない。椅子の中に食料を保存するスペースを確保するぐらいだ。当然のことながら一時の居候であるである東亜総統特務隊の隊員達に提供される寝床は魚雷発射管や魚雷の保管場所の空いたスペースというものであり、そこに毛布を敷いて雑魚寝をするという始末だった。

 上陸の前夜、魚雷発射管室のスペースに集まって隊員達が食事をとっている。その隊員達の中に中村正徳という男がいた。階級は一等陸曹、元々は憲兵隊にいたが横領、恐喝、窃盗、北方棲姫からのクリスマスプレゼントと菱餅の強奪、エジプト王家の墓荒らし、破防法、深海棲艦に対する暴行・強盗、艦娘の覗き・盗撮といった悪の限りを尽くした結果、収監された。が、そのご東亜総統特務隊の編成にあたって恩赦と憲兵隊への復帰と引き換えに指揮官佐藤の副官としてこの部隊に参加することになった。

 当然ながらこんな奴だから素行はあまり良いといえない。現に彼は他の隊員達に対し悪態をついている。

 「あちちっ!貴様、なめとんのか!!」

 「すんません!許してください!」

 フェーゲラインが淹れたてのお茶を配っているとき誤って中村の上にこぼしてしまい、中村はフェーゲラインを小突いていた。

 謝るフェーゲラインを無理やり土下座させ必要以上に蹴ったり殴ったりする。

 「てめぇ、熱い茶をこぼすとか人様をやけどさせる気かこの野郎!大やけど負ったらどうするんだこの馬鹿野郎!」

 BLAM!

 BLAM!

 CRASH!

 中村の蹴りやパンチがフェーゲラインに炸裂しする。

 「すんません許し下さい!何でもしますから!」

 「この野郎!」

 「ちょ、そんぐらいに・・・へぶっ!」

 止めに入った周囲のヘスやヒムラー、青葉や時雨をはじめとする隊員・艦娘もぶん殴られる。

 階級等の立場上、彼らは思うように中村には逆らえない。下手をすれば銃殺だ。その上中村は一応比較的権力のある憲兵隊出身である。

 結果として中村は部隊内でかなり横柄な態度を隊員達に対し取り続け、フェーゲラインや青葉たちは閉口していた。

 「中村!やめろ!」

 不意に部隊指揮官である佐藤の声が響き、中村は動きを止めた。さすがに上官の命令には逆らえない。

 少々の蔑みと呆れのこもった様子で佐藤は中村に言った。

 「そのぐらいにしておけ、中村。第一お前夜が怖くないのか、エエ?」

 「ハァ?」

 佐藤の言葉に首を傾げる中村。

 だがこの場合佐藤の言葉が正しかったことを中村はそう遠くないうちに知る。

 兵はともかく、指揮する立場にある軍人、人の上に立つ立場にある軍人にとって、弾は前だけからくるのではないということを・・・

 

 

 

 上陸前夜ということもあり、その日は全員が早めに就寝した。

 その夜、皆が寝静まった頃。

 「zzz・・・」

 呑気に寝息を立ててぐっすり眠る中村。その様子は全くの無防備で誰かに襲われるなんて夢にも思っていない。

 その背後でいくつもの影が蠢いている。影達の手には棍棒やら、鞭代わりのベルトやら明らかに物騒な人を傷付けるためのものが握られており、殺気立っている。

 「さっきはよくもやってくれたな、こん畜生・・・」

 「憲兵出身だからってふざけるなよ・・・」

 「ヘスおじさんをよくも・・・」

 「青葉のフィルムを壊したツケはおおきいですよ・・・」

 蠢く影の正体は、今まで中村に横柄な態度に日ごろの恨みつらみが溜まっていたフェーゲラインや青葉をはじめとする隊員達だった。

 彼らは今まさに日ごろの恨みを晴らすべく中村に闇討ちを仕掛けようとしていた。

 武器を手に気付かれぬように忍び足で中村を包囲し、そして・・・

 BLAM!

 BUNT!

 BLAM!

 フェーゲライン達は手にした凶器を一挙に振り下ろした。

 「ぐえーーーーーぇっっ!!!」

 「こんにゃろ!こんにゃろ!」

 「お仕置きよ!」

 響く中村の悲鳴。

 フェーゲライン達の罵倒。

 巻き起こるリンチの嵐。

 「・・・」

 そしてそれを水密扉から佐藤はじっと見つめているだけであった・・・

 そして・・・

 

 

 

 〇八一〇時

 「けんりゅう」は気付かれることなく予定地点に到着、浮上し上陸用のボートの用意をしていた。艦内では隊員達が準備に余念がない。

 「いいか、お前達、予定地点に上陸したらまず・・・って中村!お前まだ寝てんのか」

 「うっうっうっ」

 居並ぶ隊員達に訓令をしていた佐藤は向こうで身ぐるみをはがされ縛られ全身傷だらけ痣だらけで放置されている中村を見つけた。

 手足を縛る縄をほどかされるや否や中村はすぐさま訴えた。

 「あいつら自分の寝こみを・・・」

 「まぬけ!最前線なんだ。弾は前からだけじゃない」

 昨夜中村に何があったのか、なぜこんな仕打ちを受ける羽目になったのか全て知っている佐藤は逆に中村を叱責した。

 中村は一瞬フェーゲライン達を睨んだが、フェーゲライン達は「さぁ?何のことだ?」と何も知らないように澄ました様子で目を逸らした。

 兎に角、部下から恨みを買ってはいけないということだ。でないととんでもないしっぺ返しがやってくる。

 佐藤は中村をじろりとにらみながら言った。

 「ここでは俺が掟だ。勝手な真似は許さん。分かったか中村」

 「はいスミマセン」

 有無を言わさぬ佐藤の様子に頭を下げる中村。いずれにせよ指揮官の佐藤には従わねばならない。

 佐藤は腕時計を見ながら指示をした。

 「よし、そろそろ時間だ上陸するぞ、ボートに乗りこめ!」

 梯子を上り、ハッチを出て甲板に出て隊員や艦娘達は次々とゴムボートに乗り込んだ。

 遂にいよいよ敵地に上陸するのだ。

 水平線の向こうにも、青い空にも、敵の姿は見受けられない。カモメが飛び、風が吹き、潮の匂いと波の音がし、いつも通りの平和な海だ。

 が、それでも緊張で心臓が高鳴りのどが鳴る。

 艦長に敬礼し最後に佐藤と中村がボートに乗り込むと同時に「けんりゅう」は再び潜航を開始した。

 ボートはタネイトに向けて進み始めた。

 東亜総統特務隊の戦いが遂に始まった。

 



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79話 ジャングルの脅威~野生動物の鳴き声~

ヒトラー「最近私の出番がないような・・・」
フェーゲライン「てかちょび髭の需要ってあんのかよww」
ヒトラー「KO☆RO☆SU」
フェーゲライン「はい死んだ!」ズダダダダピロリーン♪
青葉「なんで青葉もおおおおおお!?」ズダダダダピロリーン♪
曙「ちょ、デイリーは二人の任務でってぎゃあああああ!?」ズダダダダピロリーン♪


 上陸した佐藤率いる東亜総統特務隊は敵の拠点の一つであるタネイトに向かって、鬱蒼と木々が生い茂るジャングルの中、道なき道を進んでいた。

 「フェ、フェーゲラインさん・・・青葉、今さっき何か踏んでしまったような・・・」

 「あ、青葉お前また地雷を踏んだのか・・・そのまま動くなよ」

 「あわわ、佐藤二佐殿、自分も地雷を踏んでしまったでありまヘブッ!?」

 「ドアホッ!これはただの缶詰だこのボケカス!くだらねぇことで部隊の足止めをするんじゃないぞ中村ァ!これだから学も教養もない奴は・・・」

 「畜生、いつか殺してやる」

 当然のことながらその道のりは平坦ではない。危険はいたるところに潜んでいる。

 時折深海棲艦やソ連軍の偵察機が上空を飛んだり、敵の仕掛けた地雷やブービートラップに引っかかりそうになったり、逆にかつて深海棲艦が出現し猛威を振るったとき、フィリピンから撤退する部隊が足止め用にばら撒いた地雷や罠に引っかかりそうになったり・・・

 ・・・だが、脅威は人為的なものだけではない。自然にも驚異は存在する。

 獰猛な肉食獣、猛毒を持つ蛇や昆虫、マラリアをはじめとする伝染病を媒介する蚊・・・

 ・・・そして、夜になると野生動物のけたたましい、奇妙で汚い鳴き声が眠りにつこうとする兵士たちの安眠を妨害し心を蝕んだ。

 「アリガトナス!アリガトナス!」「ヌワアアアアンツカレタモオオオオン!」「ヤメタクナリマスヨ!ヤメタクナリマスヨ!」「イイヨ!コイヨ!ムネニカケテムネニ!イイヨ!コイヨ!ムネニカケテムネニ!」「アクシロヨ!アクシロヨ!」「ンアッー! (≧Д≦)ンアッー!(≧Д≦)」

 夜な夜な響く、その五月蠅い、クッソ汚い野生生物の鳴き声は安眠し明日に備えようとし、しかし妨害された隊員達の怒りを爆発させた。

 「だああああああっ!うるせえぞクルルァ!眠れないじゃないか!やってられるか、クソ!」

 「本気で怒らせちゃいましたねぇ!青葉の事ねぇ!青葉の事本気で怒らせちゃいましたねぇ!」

 「動くと当たらないでしょ?動くと当たらないでしょぉ!?」(曙が機銃を連射しながら)

 あまりの五月蠅さにフェーゲが逃げ出そうとしたり。心が荒んだ青葉が主砲であたりを焼き払おうとしたり、曙がジャングルに潜むであろう野生生物めがけてなりふり構わず機銃掃射したりした。もちろん、そうなる前に佐藤の手によっていつものデイリー任務が執行され三人はほぼ毎日のようにデイリー処刑された。そして周囲の兵士たちも似たり寄ったりの状況であり、ジャングルの過酷な環境は彼らを確実に消耗させていった。しかし、逃げることは許されない。彼らは今の任務を遂行するよりほかにない。早く楽になりたければこのジャングルの道なき道を進むしかないのだ・・・

 

 

 

 

 「ようやく着いたな。あれがタネイト基地だ」

 しばらくの苦行の行軍の末、東亜総統特務隊の一行は遂に目的地をその目前にした。ジャングルや岩陰に隠れながら眼前に広がる敵の中継基地を偵察する佐藤達。

 「さて、どう攻めるべきかな・・・」

 敵主力への補給基地、中継基地だけあってその規模は非常に大きく、警備も厳重だ。

 対戦車地雷と対人地雷が無数に埋められているであろう基地周辺の草原、基地の周辺をぐるりと囲む鉄条網と対戦車壕。基地内には対空機関砲に対戦車砲が無数に設置されている。T-34戦車も同様だ。

 歩哨のソ連兵が軍用犬を連れてあたりを散策し、要所要所には大火力を発揮する戦艦級や重巡級の深海棲艦の姿がいる。

 このまま少人数で突っ込んでもミンチに、良くてハチの巣にされるだけなのは確実だ。

 任務はこの基地の破壊、後方攪乱だが、普通に突っ込んでは返り討ちに遭い任務の達成は不可能だ。

 となると狙うべきは、一撃で、マッチの火を放り込むだけで大規模な被害を与えられる場所だ。そう、例えば・・・弾薬庫とか、燃料タンクだ。

 「・・・あれか」

 双眼鏡で基地を偵察するうちに佐藤は基地中央に存在する丸く、巨大な燃料タンクを見つけた。別の場所にはコンクリートの壁で覆われた弾薬庫らしき場所もある。あそこに爆弾を仕掛けるなり、艦娘の砲撃を加えるなりして一撃を与えれば大爆発を起こして敵に大変な被害を与えることができるだろう。うまくいけば大火災、大混乱を起こして、中継基地、補給基地として機能を大きく損なわせられるはずだ。

 攻撃目標は決まった。燃料タンクと弾薬庫だ。

 佐藤は早速脳内で作戦を組み立て始めた。



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