ゼロの悪夢 (BroBro)
しおりを挟む

〜0章〜 悪夢再び
暗黒召喚


久しぶりに『ディアルガVSパルキアVSダークライ』を見たら書きたくなった。正直勢いで書いたため続くか定かでは無いですが、頑張る所存です。文字数はもし次があったら増えます。


ゼロの悪夢

 

 

 

 

彼は休んでいた。この美しくも活気のある池の淵に。

 

彼は微笑んでいた。何者にも荒らされることの無くなった、この庭で。

 

池の周りには水ポケモン達が遊び回り、木々の上では草ポケモン達と鳥達が歌を歌う。

 

既に彼の体は動かず、既に彼の身は老いている。約100年、この庭を守り続けた者の魂は、彼が愛したこの庭で、天に登ろうとしていた。

 

死が近づいている。それは確かで、避けようのない事。にも関わらず、彼の心は穏やかさで満ち満ちていた。

 

 

もう、この庭に私は必要ない。この庭は、私無くとも生き生きと過ごせる。

 

何度も守り続けた。災害から、心無い人間から、新参者のポケモンから。この庭をこの身が枯れるまで。

 

ようやく安息の時が来た。

 

 

大きな大木に背を預ける黒い彼に口は見えない。だが、彼の青い瞳からは微笑みが見える。

 

彼の体は、蒸発する様に小さくなって行く。大木の影に沈んで行っているのだ。

 

最後までこの"皆の庭"を守り続けた彼は、この瞬間、息絶える。彼が愛した『オラシオン』の草笛の音を幻聴しながら。彼は、ゆっくりと、全身を影に沈めて行った。

 

 

 

しかし

 

 

 

 

ゴオオオオォォォォォ!!

 

 

 

 

急に、彼の上から光が降り注いだかと思いきや、影に沈む彼をダイ〇ンの掃除機も顔負けの吸引力で何かが吸い上げる。

 

 

何が!?

 

 

そう思った時には遅かった。

 

死を表すかの様に影に沈んでいた彼を無理やり引きずり出し、彼を上空へと持ち上げる。

 

光に弱い彼は、眩いばかりの光に目を細める。

 

そこで見た、自分を吸い込む物を。

 

 

(鏡……?)

 

 

彼を吸収していたのは、光によって真っ白に覆われた、巨大な鏡のような物体だった。

 

瞬間、抵抗する力も残されていない彼は鏡の中へと吸い込まれる。

 

 

 

 

暗黒の姿の者が吸い込まれる。暗黒ポケモン、『ダークライ』が初めて視界を暗転させた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』は混乱していた。

 

散々失敗したサモン・サーヴァント。最後の一回と決め込んで渾身の一撃と言わんばかりにに魔法陣に魔法を叩き込んだ。失敗したら大爆発。成功したら何かが起きて魔法陣の中心に使い魔がいる。私は勿論、後者を願って杖を振るった。

 

結果は爆発無し。周りから『ゼロのルイズ』とまで呼ばれた私が、遂に魔法を成功させ、使い魔を召喚した事を確信させる現象だった。

 

やったー!今までの苦労がようやく報われる!もう誰もゼロのルイズ何て呼ばせないわよ!!

 

そう思い歓喜したのが、何時間も前に感じられた。

 

 

「……おい、何もいないぞ?」

 

「なんだ?遂に爆発もしなくなったのか?ゼロのルイズの本領発揮した訳か!」

 

 

周りの生徒達から爆笑が巻き起こる。

 

奴らの言っている通り、私の目の前には何もいなかった。

 

爆発が無くても使い魔も無い。精も根も尽き果ててもう一回魔法を振る気力もない。

 

ペタン、と私はその場にへたり込んでしまった。完全に腰の力が抜けたわ……。

 

 

「ミス・ヴァリエール!」

 

 

そんな私を心配したのか、ミスタ・コルベールが駆け寄ってきた。ああ、ミスタ、心配は無用ですよ。声が出ないほど疲れ果てただけですから。

 

まあ、ミスタ・コルベールは今は放っておく事にしよう。それよりも考えるべきは私の将来。サモン・サーヴァントが出来なかったらこのトリステイン魔法学校から中退しなくてはならない。そうなれば、私の家族はどう思うだろう?貴族の誇りを持って送り出した私の家族に、「サモン・サーヴァントに失敗しました!テヘペロ♪」何て言った時には恐らく私は死ぬ。いや、物理的にではなく、精神的に。

 

正直考えるのも嫌になる。ああ、このまま溶けてしまいたい。出来ることなら穴に入って埋まりたい。家族の所に行くのだけは嫌だ。

 

あの私のサモン・サーヴァントの様子を見ていた野次馬達からも更なる罵声が届く事だろう。いや、もう他の生徒の事なんて……ん?なんか静かになってない?

 

 

「おい、あそこにあるのなんだ?あの黒い影みたいなやつ」

 

「あぁ?どうせゼロのルイズが爆発させて空いた穴だろ?」

 

「いや、俺もそう思ったんだけどさ、揺れてるんだよ、あの影……」

 

「へ?」

 

 

間の抜けた私の声が、草原に静かに響いた。恐らく絶望を全面に表しているであろう顔を、サモン・サーヴァントの魔法陣に向ける。

 

するとそこの中心には、人型のような影がゆらゆらと揺れていた。

 

 

「成功……している?」

 

 

更なる私の声が草原に響いた。今度はしっかりと生気を持った声で。

 

瞬間、私の声に答えた様に、影の正体が姿を現した。

 

 

「おい!影から何か出てきたぞ!」

 

「なんだあれ……人間?」

 

 

ゆっくりと寝転がる形で姿を現したもの。それは全体的に黒く、不思議な者だった。

 

肩から伸びた触手の様な黒いもの。腕らしき物とは別方向に伸びたそれは、風も吹いていないのにゆらゆらと揺れている。頭の様な部分には白い髪みたいな物があり、これも揺れていた。足のないスカートの様な黒い下半身に、更に黒い上半身。一目見ただけでも異質な者と分かるその姿。しかし、これは間違い無く私のサモン・サーヴァントによって召喚された使い魔。

 

 

「や、やったぁぁぁぁ!!」

 

 

心の内に溜めていた物を吐き出さんばかりに叫ぶ!やった!遂にやったのよ私はッ!

 

 

「口?口は何処!?」

 

 

仰向けに寝っ転がっているであろう体勢のこれに高速で私は近付く。「野獣……」とか言う言葉が何処からか聴こえたが、そんな事どうでもいい!いやもうほんと、周りの声なんてどうでもいい!!

 

目らしき所は確認したが、肝心の口が見つからない。髪の様な物は口元まで覆っているようで、少しどかしても口らしき箇所は見えなかった。でも息はしているようで、胸は微かだが上下に動いている。と言うことは、何処かに口があると言う事だろう。

 

ならば構うものか!このまま、この髪の上からサモン・サーヴァントの契約をしてしまえ!

 

瞬時に詠唱を唱え、私は適当にこの下に口があると決めつけた。そして、その髪の上に口づけをした。

 

 

『ウグァァァァ!?』

 

 

突然くぐもった声が聴こえたと思ったら私の使い魔(確定)が呻き出す。体が仰け反り、右手を空に向ける。サモン・サーヴァントには焼ける様な痛みが伴うと言う。恐らく、その苦しみに悶えているのだろう。

 

少し心苦しい気持ちになるが仕方ない。通らなければならない道だ。耐えてもらうしかない。

 

 

『グゥ……』

 

 

落ち着いたのか、私の使い魔は静かになり、また横になる。どうやらまた眠ってしまった様だ。

 

 

「やった……成功した……やったわよ!」

 

 

野次馬に紛れて見ている旧友、『キュルケ』にビシッと指を指した。私の勝利宣言、受け取るがいい!サラマンダーだか何だか知らないけど、私の方が強そうでしょう!なんか悪役っぽい感じだけどッ!

 

肝心のキュルケは苦笑いで私に応えた。どういう意味かしら?

 

彼女の隣にいる青い髪の小柄な少女、確か、タバサだっけ?そのタバサは何故か私の使い魔を見て震えているけど、気にしない事にした。

 

これから始まる私と私の使い魔の王道にとっては、些細な事だ。




後書きポケモン図鑑

『ダークライ』 あんこくポケモン。
タイプ : あく
分類 : あんこく
とくせい:ナイトメア
高さ:1.5m
重さ:50.5kg

『図鑑説明』
人々を深い眠りに誘い、夢を見せる能力を持つ。新月の夜に活動する。しかし、ゴウディの庭で過ごしていたダークライは朝も昼も夜も案外活発に動く。街の人々に攻撃され、身を守る為と彼らを守る為にダークホールで眠らせていたが、それが更に誤解を生み、更に攻撃される。最終的に誤解は解かれたが、それでも世間一般には災害を呼ぶポケモンとして恨まれている様だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〜1章〜ゼロに仕える悪夢
状況説明


続いちゃったんDA☆
いやぁ、ストーリー構成とか全く考えて無かった事と私の文章力の無さのせいで酷いもんです。てことで、続きでございます。


 

暗い闇の中、地が悲鳴を上げる様に小さく震える。空気が怒号に呼応する様に大きく共振を伝える。

 

目の前には何千もの軍勢。人間の魔術師や足軽共の波が、こちらに向かって進軍してくる。

 

自分の背後以外、見えるものは敵のみ。退路は確保してある。しかし、その道を進む気は無い。今の私に、撤退の文字は無い。

 

 

(数千、悪くはない数だ)

 

 

向かってくる人間達をこの先に進ませない為に、私は両の手を大きく上げ、中心に闇の力を集める。

 

距離にして約500メイル。人間達が持つ光は徐々に大きく、数を増やしていく。

 

 

「いくら相棒でも死ぬかもしれない。いくら虚無の力を駆使しても殺られちまうかもしれない。それでも、相棒があの中に飛び込むのなら、俺も最後まで付き合うぜ!」

 

 

私の力で宙に浮かせて劔がカタカタと鳴く。コレにもなかなか世話になった。最後まで付き合ってくれると言うのなら、甘えさせてもらう事にしよう。

 

生み出すはダークホール。それは勝利の闇。我が主と我が友の為に、ここで私の力の全てを使おう。

 

 

 

 

 

闇に堕ちろ。悪夢に嘆け。私と、我が主の名を、その小さな頭に刻むがいい。

 

 

 

 

「ゼロのルイズの使い魔、名はダークライ。座して……参らせてもらおう」

 

 

 

 

"マスターが嫌う全ての光は、私が全て飲み込もう"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリステインの保健室と呼ばれた一室のベッドにて、一際異質な存在が目を覚ました。真っ黒な体にかけられた真っ白なシーツを自身の体から離し、周りを確認するようにキョロキョロと見回す。なにか嫌な夢を見た気がするが、彼にとっては日常茶飯事の為気にしない。

 

そんな彼、ダークライが目を覚ましたのはサモンサーヴァントが終わってから約4時間後である。既に夕刻を回っており、窓の外の景色がオレンジ色に染まっていた。普通に生活している人間ならば、そろそろ食事の為に動いている時刻である。

 

 

(……ココハ何処ダ……?)

 

 

場所の特定。周りの景色を見たダークライが最初にすべき事として頭に浮かんだのがこれだった。

 

どこからどう見ても、ダークライが元いた街ではない。窓の外には数100m程草原が広がっており、その先には木々が生い茂っているのが確認できる。ダークライがいた街は周りが崖によって切り離されており、草原なんてある訳がない。

 

全く別の場所だと断定したダークライは次の疑問に思考を巡らそうとする。

 

 

「あ!起きてた!?」

 

 

ガラガラと開け放たれた扉の外に立っていた桃色の髪の少女が大声を上げ、ダークライの思考を乱した。

 

人間がいる安堵感と五月蝿さによる小さな苛立ちに、ダークライは桃色の少女に抗議の目を向ける。

 

しかし少女はそんな事お構い無しと言わんばかりにダークライの元へと駆けていき、勢いそのまま語り始めた。

 

 

「全く、召喚された使い魔が気絶するなんて無様じゃないの!治療代だって馬鹿にならないのよ?コントラクトサーヴァントは何故かできないし……踏んだり蹴ったりよ!」

 

 

怒っている様だが、何故かその口元からは喜びが感じられる。畳み込まれた新たな情報の数々にダークライはさらに混乱するも、なんとか少女、ルイズに聞き返した。

 

 

「誰ダ?」

 

 

幾つもある疑問の中から一番わかり易く、一番最初に浮かんだ言葉をぶつけて見る。するとルイズはツチノコを発見したかの如く、とても驚いた表情を作った。

 

 

「あなた、喋れるの?」

 

「……質問ニ答エテクレナイカ?」

 

 

そこかい、とツッコミを入れたくなるのをダークライは何とか我慢した。

 

そんなダークライの言葉を聞いて更に驚いた顔になったルイズだが、律儀なものでちゃんダークライの質問に答えた。

 

 

「私はあなたを呼び出した者よ。つまり、御主人様ってわけ」

 

「シュジン?私ガオ前ニ仕エル身ニナッタト?」

 

「そうよ。言っておくけど、拒否権は無いからね。既にあなたの手には私の使い魔である証が刻まれているんだから」

 

 

チクッと、右手の甲に痛みが走った。見るとそこには焼印でつけられた様な模様が刻まれており、淡い光を放っている。今まで気付かなかった事に驚いたが、不思議と違和感を感じなかった。

 

そしてそれの存在を知るとともに、彼の心に一つの言葉が飛び込んできた。

 

 

『主を守れ』

 

 

それは指令であった。彼の心に直接伝える様に放たれた言葉は誰からのものでもなく、彼自身の頭が体に発した言葉だ。自然に出てきたその指令は、彼の中で疑心暗鬼になっていた『少女の使い魔』と言う現実を受け入れさせた。いや、させざるを得なかったと言うべきか。

 

何故、死の門を潜ろうとしていた自分が使い魔となり、何故未だ尚生き永らえているのかも分からない。しかし、既に決まってしまった事には抗いようもなく、受け入れるしかない。

 

ふうっと、ダークライは大きく溜め息を吐いた。

 

 

「あなた、名前は?」

 

「………?」

 

 

これからの事を考えようとしていたダークライに突如、少女からの質問が飛んだ。

 

 

「……私ニ人間ノ様ナ固有ノ名ハ無イ。アルノハ人間ガ付ケタ種族ヲ示ス名ノミ。ソレデイイノナラ、名乗ロウ」

 

「いいわよ。あなたが不愉快に思わない名なら、何でもね」

 

「……私ノ名ハダークライ。影ノ世界ノポケモンダ」

 

「ダークライ……ね、覚えたわ。それじゃあ、私も名乗りましょう。私の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたの主よ」

 

「……長い名ダ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、コレカラ世話ニナル」

 

「長いなら言いやすい呼び方でいいわよ」

 

「……心遣イ感謝スル。マスター」

 

「マスター……なんかこそばゆいけど、あなたが呼びやすいならそれでいいわ。宜しくね、ダークライ」

 

「……コレカラヨロシク頼ム、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ルイズと共にルイズの自室に入ったダークライは、詳しい事情を全て聞くことに成功した。

 

まず何故ダークライが召喚されたのか。

それはルイズ自身は使い魔を選ぶ事が出来なく、召喚されるまで何が出てくるか分からないらしい。それでもルイズはダークライが出てきた事に満足しているらしく、ダークライの事を嬉嬉として受け入れている様だ。

 

 

次にこの場所。

どうやらここには『ポケモン』と言う単語が存在しないらしく、代わりに魔物だのドラゴンだのが存在する。どうやら世界が違うようだ。どうやら魔物と言うのは外見はポケモンの様なものらしいので、自分は別世界の住人らしいと言う事をダークライは語らなかった。ルイズも、ダークライとの関係性を壊したくない為深くは追求しなかった。

 

そして次にダークライの存在意義の明確化。

これは大体雑用の様なものであり、主人が要求する物を探したり、主人の危険を退く、又は消し去ったりするのが使い魔の主な仕事である。これでも、ダークライは自分の力にはそれなりに自信がある。時を司るポケモンと空間を司るポケモンの攻撃に耐える事もしたし、2匹同時に吹き飛ばしたりした。それ程の実力の持ち主である。

 

伝説のポケモンを吹き飛ばす者を召喚したと言う事実は、多くを語らないダークライの手によって闇に隠された。

 

 

「----というわけ。分かった?」

 

「……主ガ求メル物ヲ運ブト言ウノハ少々難シイ。私ハココノ地形モ知ラ無ケレバ、散策ニ適シタ能力ヲ持ッテイル訳デモ無イ。余リ期待ハシナイデ貰イタイ」

 

「うぅん……なら何か得意な事は無いの?」

 

「主ヲ守ル事ハ出来ル。ソレナリニ自信ハアルツモリダ」

 

「戦闘経験はそれなりにあるのね。なによ、頼もしいじゃない!」

 

 

ルイズがベッドの上でガッツポーズをとり、ギシッとスプリングがきしんだ。

 

現状、戦闘しか出来ないと言っているダークライに対してルイズはとても満足している。見た目もなかなかカッコイイし、声もなかなかイケている。影に入り込むことも出来る。ほかの事は出来ない様だが、これから教えて行けば良いだろう。

 

ゼロと呼ばれた少女の脳に、これから起こるであろう復活劇が次々と映し出された。

 

 

(自分ノ世界ニ入ッタカ?)

 

 

急に喋らなくなり、後方に花のエフェクトが似合いそうな顔をしている主をジト目で見つめるダークライ。遠目から見れば、とても不思議な光景である。美女と野獣ならぬ、美女と夜獣か。

 

肩をつついてみる。すると我に返った少女は、何かを思い出したかのようにダークライに目を向けた。

 

 

「ああ、あなたの言葉が何か違和感があるから、明日図書館に行きなさい。それと、明日の朝は洗濯物洗いに行ってね」

 

「ソノ洗濯物ハ何処ニアル?」

 

「これから着替えるから、それを洗いに行って。外の広場に洗濯場があるから、そこにいるメイドに詳しい話は聞いてね」

 

「了解シタ。図書館ト言ウ場所ハ?」

 

「明日の朝案内するわ。朝食を食べた後に行くから、ついてきなさい」

 

「分カッタ」

 

「よし、いい子ね」

 

 

ニコっと笑顔を作る。何処か、その笑顔がダークライの記憶に深く根付いている少女の顔に似ている様な気がした。

 

 

(……ドウヤラ、コノ少女ヲ主ト認メタ理由ハ、戻ル事ヲ諦メタト言ウ理由ダケデハ無イ様ダナ……)

 

 

目の前の少女を放って置けない、と言う気持ちが知らない内に彼の中に生まれていた。

 

闇を支配するポケモンは、少女の瞳に小さいながらも闇を見た。それが妙に脳裏に残り、彼をこの世界に引き止めている。それを彼自身が実感するのは、随分とあとの事になる。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、私は着替えて寝るわ」

 

 

バッと急に立ち上がるルイズ。その行動と言動に、ダークライの思考は中断される。

 

 

「分カッタ」

 

 

一先ず簡単に答えて、ダークライは服を脱ぎ始めたルイズの行動を見守った。

 

 

「フム……妙ダナ……私ノ認識ガオカシイカ……」

 

 

シャツも無くなったルイズの体を見て、ダークライがボソッと呟いた。その声が聞こえたルイズは、その言葉の意味も問う。

 

帰ってきた答えが、自らを苦しめる答えになるとも知らずに。

 

 

「人間ノ女性ノ胸部ハ男ヨリモ肥大化シテイルト聞イテイタノダガ、ドウヤラ私ノ認識ガ間違ッテイタ様ダ」

 

 

つまり、『普通の女の胸は膨らんでいるが、お前は小さいんだな』と言っているのである。

 

 

刹那、薬缶の様に顔を赤くしたルイズの劈く様な悲鳴が響き、ダークライに向けて部屋に散らばる本の数々を投げた。

 

 

 

 

こうして、ゼロと呼ばれたルイズと、ダークライの初めての一日が騒がしくも終りを告げた。

 

 

 

 

因みに、この状態のルイズを危険と判断したダークライはダークホールを使いルイズを強制的に眠らせ、悪気は無かったダークライ自身は、自分の失態を再確認した。

 

 

 




後書きポケモン図鑑

『ディアルガ』 じかんポケモン
タイプ:はがね/ドラゴン
高さ:5.4m
重さ:683.0kg
とくせい:プレッシャー/テレパシー(夢特性)

『図鑑説明』
時間を操る力を持つ。負傷したパルキアを追ってダークライがいる街へとやって来た伝説のポケモン。人間程度なら何人でも過去や未来に飛ばす事が可能(フルパワー時のみ)。ダークライの住む街を崩壊させた殆どの要因はディアルガの龍星群であるにも関わらず、パルキアがサトシに罵声を浴びせられた。ある意味、逃げ上手なポケモンである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

忠士なる悪夢

グダグダっぷりが半端ないです、ハイ


 

 

 

 

 

 

「この力は……間違いない、闇の力……」

 

 

とある街のとある城。その上空から透き通る様に美しい声が響いた。声の正体の姿は無く、ただ美しい黄色い三日月が登っているのみ。

 

---いや、そこにいた。月をバックに添えたその生き物に手足は無く、背に付いた、オーロラを纏っているかの如き羽衣の様な羽が美しく揺れている。

 

その姿は正に、三日月であるかの様に輝いていた。

 

 

「ダークライ……何処に行こうと、種族の因縁は付き纏うのね……」

 

 

そう言って、クレセリアは浅く溜息を吐いた。

 

 

「これも私の宿命……はぁ、あの庭のダークライ、今何しているんだろうなぁ……」

 

 

粒子を尾に引きながら、トリステインに向かって飛翔する。

 

悪夢を遮るダークライの宿敵が一歩、南へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

朝。

 

トリステイン魔法学校から少し離れた所にある倉庫でダークライは動き出した。

 

ダークライは周囲の生き物に悪夢を見させると言う特性を持っている。しかもその特性は自分で制御出来るものではなく、止めようと思っても止めることが出来ない。

 

そのため、ダークライは他人の安眠を妨げない為に、学校から離れた倉庫で眠るようにしていた。

 

学校とは少し彼の仕事に支障が生じる程の距離ではあるが、ダークライは影に入る能力を持っている。普通に移動するより速く進める移動手段である影入りは、わざわざ正面玄関から入る必要も無く、ルイズの部屋には窓から侵入できた。

 

 

(洗濯物……)

 

 

中に入って直ぐに目標物を探す。主が寝ているベッドの脇にあったソレを持ち出し、ダークライは広場へと向かった。

 

道中も、彼にとっては新鮮な物ばかりであった。同じように洗濯物を運ぶよく分からない個体の数々。浮遊する目玉だったりとか妙に長い真っ赤なワームだとか。

 

 

ポケモンとはどこか違うそれらを見ながら、ダークライは洗濯物を洗う場所へとやってきた。

 

 

(……何処デ洗エバイイノダ?)

 

 

周囲をキョロキョロと見回すも、それらしき洗濯場はない。そもそもダークライは洗濯という行為をした事が無いため、どれが何なのかも分からない状況なのだ。

 

実際は目の前にある水道が洗い場である。

 

探し物が足元にあるとは分からず、周囲をキョロキョロと見回す。すると、1人のメイド姿の少女が歩いているのが見えた。

 

 

(……聞イテミルカ)

 

 

洗濯物が入った桶を脇に抱えたダークライが少女に近づく。

 

 

「ひッ……!」

 

 

ダークライの接近に気が付いた少女は、ゆっくりと近づいてくる見たことも無い黒い生物に腰を抜かした。

 

距離が数メートルに縮まった時には足がカタカタと小刻みに震える始末。まあ、容姿が容姿なだけに無理もないと言えるが、余りにも典型的な反応なのでダークライも少し戸惑った。

 

 

「……洗濯場ハドコダ?」

 

 

しかしここはダークライ、口足らずのせいで余計少女を怯えさせてしまう。言葉の後に『教えないと祟り殺す』と加えても違和感のないその容姿と低い声に、ますますメイドは涙目になっていった。

 

脅迫ではないにしろ、怖いものは怖い。寧ろ目が青く光って全体的に黒く浮遊した生物が聞いたこともない位の声音で質問してくるだけで、もう脅迫は成立する。答えないと殺す。この姿は人間にとってそう言っている様なものなのだ。

 

だが一応彼の名誉の為に言っておこう。彼に悪気は一切ない。こう言う時の対処法を知らないだけなのだ。

 

 

「あ、え……せ、洗濯場は……その水道です……」

 

「……ソウカ、助カッタ」

 

 

しかし、流石は貴族に仕えるメイドと言ったところか。脅迫にしか聞こえない彼の質問を震えながら答え、撃退する事に成功した。

 

ふわふわと去っていき、水道の蛇口を捻る黒い生き物。ふわりと底面を地につけて洗い物に手を伸ばし、何だこれはと言わんばかりに白いシャツを見回す。洗い方も分からずに洗い場に来た神経は流石闇の支配者だ。

 

しかしその姿がメイド少女の恐怖心を和らげたのは彼にとっては嬉しい誤算だった。

 

 

「あの……手伝いましょうか?」

 

「……イイノカ?」

 

「あ……はい。貴族の方々のお手伝いをする事が私達の仕事ですから」

 

「私ハ貴族デハ無イノダガ……」

 

 

突然の申し出にダークライは更に混乱する。彼は少ししか出会って数分の人間に助けられた事がない。ルイズにも助けられたが、アレは召喚方法の都合上、仕方の無い事だと言える。

 

その為、彼にとって少女の申し出は少し答える事が難しいものであった。

 

だが、伊達に100年以上生きてきたポケモンではない。彼の友人であったアリシアと言う人間と、とあるポケモンにこう言う時の返答の仕方は教わっていた。

 

 

「……ヨロシク頼ム」

 

「あ、はい!任せて下さい!」

 

 

誰かに頼られると言う事は誰しもが喜ぶ事である。例えそれがさっきまで恐怖の対象だった者だったとしても……いや、普通はありえないか。おそらく、この少女の度量によるものだろう。

 

ダークライが少女に洗濯物の主導権を渡すと、少女はシャカシャカと手際よく洗濯物を片付ける。

 

数分で半分近くの洗濯物が洗い終えた時、少女は恐る恐ると言った様子でダークライに振り返る。

 

 

「あの……」

 

「……ドウシタ?」

 

 

少女の動きをマジマジと見ていたダークライは視線を少女の手から話す事なく返事した。

 

 

「もしかしてミスヴァリエールの使い魔の方ですか?」

 

「……ソウダ」

 

「やっぱりそうだったんですか!あの、最初は失礼な反応をしてしまい申し訳ありませんでした!」

 

「……気ニスルナ。アノ反応ガ普通ダ」

 

 

洗濯物を全て洗い終えた少女は、ダークライに向き直って深く頭を下げる。

 

謝られた事も少ないダークライである。こう言う時の自分の反応も分からなく、兎に角思った事を言ってみたが、今回に限っては模範解答であった。

 

ダークライの返答に一息付いた少女は、ダークライに洗い終わった洗濯物が入った桶を渡した。

 

 

「私はシエスタと言います。これから、宜しくお願いします!」

 

「シエスタカ。私ハ ダークライ ダ。マタ手ヲ借リル事ニナルダロウガ、ソノ時ハ頼ム」

 

「はい!私に出来る事があれば、お手伝いさせて頂きます!」

 

 

シエスタと名乗った黒髪の少女は、ぺこりと頭を下げて廊下の向こうへと走っていった。

 

 

「フム……礼ヲ忘レテイタナ……人間トノ生活……手強イナ」

 

 

一言自虐的に呟き、ダークライは主がまだ眠っているであろう部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、多くの本が乱雑に地面に置かれているこの部屋はルイズの私室である。そこのベッドでは部屋のぬしであるルイズが眠っていた。何かいい事でもあったのか、とても嬉しそうな顔で寝息を立てている。

 

しかし、次の瞬間にその顔は苦痛に変わり、悲痛なうめき声を上げた。

 

追い討ちをかけるように忍び寄る怪しい影が一つ。影は怪しく浮かび上がり、怪しく輝く蒼い瞳が余計に怪しい。もう何もかも怪しい。

 

影の正体は勿論、洗ったばかりの洗濯物を干し終えたダークライである。

 

眠っている主を起こす為に近寄ったのだが、ダークライ種の性質上、眠っている生き物に近づいたら無意識に悪夢を見せてしまう。ルイズが魘されているのはそのせいだ。

 

 

「マスター、朝ダ」

 

「うぅ……うん?」

 

 

ダークライに揺さぶられ、呻き声を上げながらもゆっくりとルイズは意識を現実へと戻す。

 

誰に起こされたのか分からず、起き上がってキョロキョロと辺りを見回す。ベッド脇を向いた時、真っ黒な化け物と目が合った。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

瞬間、小さな部屋に爆音が響き渡った。

 

それに紛れて小さな溜め息が零れた。

 

 

「マスター、私ダ」

 

「なッ……あ、そうだった。昨日私が召喚したんだっけ?」

 

「……シッカリシテクレ」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 

赤面で怒鳴りながら時計を見る。朝6半。恐らく他の生徒も朝の行動を開始するであろう時間帯である。丁度いい時に起こしてくれたと、素直にルイズは感心した。

 

洗顔、着替えを淡々とこなしていく。途中で服を着せろと言う要望があったのでサイコキネシスで服を浮かせて着やすくしてやった。

 

何かアクションを起こす度にルイズは驚く。ダークライの表情は常に読み取れないが、そんなルイズに呆れている事は間違いない。しかし、ソレを読み取れるほどルイズは賢くなかった。

 

 

「よし、行くわよ」

 

 

朝食を取るためにルイズはダークライを連れて部屋を出る。

 

同時に、隣の部屋の扉が開いた。ルイズの顔が嫌悪に染まったのも、それと同時だった。

 

 

「おはようルイズ」

 

「おはよう、キュルケ」

 

 

ルイズの部屋の隣人、キュルケ。褐色肌に燃えるように紅い髪。終始余裕そうな笑みを見せているその少女は、数回ダークライとルイズを交互に見る。

 

 

「それにしても、貴女には勿体無いぐらいの使い魔よねぇ。影の中に入る能力を持っているようだし、見た目怨念じみてるし」

 

「ふふん、そうでしょう?サラマンダーだか何だか知らないけど、私の使い魔の足元にも及ばないわ」

 

「確かに影に入る力は無いけど、貴方には無い可愛さはあるわよ?それに、恐らく私の使い魔の方が強いわ。そうよね、フレイム?」

 

 

キュルケが使い魔の名を呼ぶと、彼女の背後からどでかいトカゲが現れた。しかも、もうもうと熱気を放っている。

 

 

「見て、この立派な尻尾。ここまで鮮やかな炎の尾は間違いなく飛竜山脈のサラマンダーよ!」

 

 

デデンッ!と胸を張って自身のサラマンダーの自慢話をする。その言葉に我慢ならなかったのか、ルイズが声を上げようとした。

 

だが、ふとルイズがフレイムを見ると、疑問混じりの声を上げた。

 

 

「ねえ、あなたの使い魔震えてるわよ?」

 

「え?」

 

 

ルイズの言葉で気が付いたキュルケがフレイムを見ると、一方に視点を合わせて小刻みに震えていた。

 

その視線の先に居るのは、フレイムを見下ろす様に見ているダークライだった。

 

 

「ちょっと、どうしたのよフレイム!」

 

 

主の呼びかけに答えず、未だブルブルと震えているサラマンダー。

 

サラマンダーと言う種はこの世界に置いては上位種と呼ばれる程強力な存在とされる。それが恐怖に震える事などまず有り得ない。二人が混乱している理由はそれである。

 

 

(……オモシロイナ)

 

 

これが、サラマンダーを見たダークライの感想であった。

 

ダークライは以前、このようなポケモンを見たことがあった。尾の炎が揺らめいて、尚且つトカゲのような容姿。サラマンダーは、そのヒトカゲと呼ばれるポケモンを彷彿とさせる見た目だった。

 

だが、ヒトカゲはここまで震えてなかった。だからこそ、ダークライはこの生き物に少なからず興味を持った。

 

 

「……オモシロイ」

 

「……ッッ!?」

 

 

キュルケに聞こえるか聞こえないかの声でダークライが呟く。刹那、身の毛が逆だったサラマンダーが物凄いスピードで廊下の彼方へと走っていった。

 

 

「え?ちょ、ちょっとフレイム!」

 

「ダークライ、あなた何したのよ?」

 

「……何モシテイナイノダガ、客観的ニ見テ、私ハ何カシテイル様ダッタカ?」

 

「いえ、だから聞いているのだけど……まぁいいわ。面白いものも見れたしね」

 

「……?」

 

 

フレイムを追って走り去っていくキュルケの後ろ姿を見送り、一人と一体は食堂へと向かった。




後書きポケモン図鑑

『クレセリア』 みかづきポケモン
タイプ:エスパー
特性:ふゆう
高さ:1.5m
重さ:86.5kg

『図鑑説明』
飛行する時はベールの様な羽から光る粒子を出す。三日月のような姿から、三日月の化身とも呼ばれている。性別はメスのみで、ダークライと対極の存在として度々ダークライと戦闘を行う。(なおタイプ的に不利である)
クレセリアにはダークライのナイトメアは通用しない。クレセリアの羽にもその効果が宿っており、主に安眠のお守りとしてクレセリアの羽が用いられる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学ぶ悪夢

サブタイトルの意味はほんの一部です。サブタイトルが思いつかなかったよ……展開大丈夫かな……
あとお気に入り100人突破ありがとうございます!やっぱりダークライって凄い……なんとか期待に応えられるよう、頑張ります!


では、続きです






 

 

朝食をとるためにルイズが向かった場所、アルヴィーズ食堂。そこはいかにも貴族の好む煌びやかな作りになっており、数百人の生徒達がいち早く朝食を食べていた。

 

中にはとても長い机が3つ並んでいる。左から1年、2年、3年生と机が決まっている様だ。2年生であるルイズは、真ん中の長机にある自分の席に着席した。

 

その行動の中、ダークライはキョロキョロと辺りを見回していた。理由としては、見たことの無い装飾に興味が出た事と、人間以外の者がいない事だ。後者の理由は彼でも直ぐに分かった。

 

ここは貴族の食卓である。いくら使い魔であっても所詮は下僕、貴族と同等に扱われる訳では無い。恐らく、使い魔達は貴族と共に食事できる訳ではなく、どこか別の所で食べているのだろう。

 

 

「私ハココニイテ良イノカ?」

 

 

その為、ダークライからこの質問が出るのは当然の事である。

 

これに対して、食事に手をつけ始めたルイズが少し顔を顰めながら答えた。

 

 

「あなたは常識があるし喋れる様だから食堂で食べさせてあげたかったんだけどね、入る事は許されたけど同じ食卓に並ぶ事は許されなかったわ」

 

「心遣イハ有難イ。ダガ、私ハ何処デモ構ワナイ。寧ロ、私ニトッテ居心地ガ少シ悪イシナ」

 

 

恐らく教師に掛け合ってくれたのだろう、とルイズの申し訳なさそうな顔で簡単に推測できた。

 

一日しか共に過ごしてないが、主である者の顔は笑顔の方がいい。だからダークライは簡単に気遣いと言う行為ができた。

 

それが功を奏し、ルイズの表情が少しほぐれる。

 

 

「そう言ってくれると助かるわ。だから、居心地が悪いって言葉は聞かなかった事にしてあげる」

 

「ソレハドウモ……ソレデ、私ハ何処ニ行ケバイイ?」

 

「使い魔の食事は外よ」

 

「ワカッタ」

 

 

理不尽なお許しを貰いながら、ダークライは食堂から出た。

 

実際、ダークライ種に食欲は無い。暗黒ポケモンのダークライは新月の夜になれば自然と1ヶ月分の栄養が摂取される。具体的な口と呼ばれる部位もなく、食道や、胃と呼ばれる部位もない。正直ダークライに食事は必要無い。

 

しかし、あの状況でルイズに『自分は食べる行為を必要としない』とは言えなかった。一応、空気だけは読める。

 

まあ、そのおかげで自由に行動できる時間が手に入ったのだが。

 

 

(マズハ学園内ノ探索。次ニコノ世界ノ情報収集ダ)

 

 

ダークライは日影に移動すると、ゆっくりとその影の中に入っていった。

 

学園内を全て見て回る為の最善策、影入り。移動スピードが増し、壁だろうが何だろうが移動する事ができるこの手段を用い、ダークライは学園内の散策を開始した。

 

 

約3分後、内部構造を全て把握したダークライは中庭で姿を現した。

 

 

(メボシイ所、図書館ト教員室、巨大ナ倉庫……カ。フム、今私ニ必要ナノハ図書館カ)

 

 

情報収集にもってこいだ、と小さく呟く。今度は静かに廊下を浮遊し、図書館へと向かった。

 

 

(教員ラシキ者ノ気配ハシタガ、見ツカラナケレバイイ。モシモノ時ハ少シ眠ッテ貰オウ)

 

 

青い瞳をギラリと輝かせ、図書館への廊下を進む。

 

図書館にいる教師には、今の所お気の毒としか言えないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書館についたダークライが最初に目にしたのは大きな本棚の数々だった。

 

図書館と呼ぶには多すぎる本の数。差し詰め本のジャングルか。数々の幅の広い本棚はダークライの視界を遮り、中心に行けば行くほど本棚しか見えなくなる。方向感覚を失わせる戦略かと思うほど、その数は凄まじかった。

 

さ迷うこと数分、ダークライは気になるものを見つけた。

 

 

(……ヤドンデモ分カル、ハルケギニア語録?)

 

 

何故か、ダークライの世界の言葉で書かれたその本は、ハルケギニアの言葉や共通文字等が丁寧に書かれていた。ヤドンに失礼な表紙ではあるが、気にしてはいけない。

 

正直、言葉に乏しいダークライにとっては有り難い事である。この世界の文字を知らなければ、この図書館の本を読めなかった。

 

しかし、一体誰がこんな物を置いたのだろうと疑問が残った。同じ世界から来た者が居ると言うことなのだろうか?

 

 

(……今ハ、考エル時デハ無イ。イイ機会ダ、学バセテモラオウ)

 

 

ルイズの食事が終わるまで残りの数十分。その間に、少しでも知識を詰めておこうと、ダークライは本を読み始めた。

 

 

 

 

 

一方、ダークライの後ろの本棚では、コルベールが資料を読み漁っていた。

 

綺麗になってしまった頭頂部を天井のライトの反射で光らせている(本人の意図ではない)コルベールの読んでいる資料、それは使い魔のルーンを記した資料だった。

 

探しているルーン。それはダークライの左手に刻まれたルーンである。何人もの使い魔を見てきたコルベールも見たことの無いダークライのルーン。貴重な時間を割いてまで調べる価値は、十分にあると彼の本能が言っていた。

 

本体の存在の方が気になるが、今は自分の専門であるルーンを先に調べよう、と言う事のようだ。

 

 

(常に輝くミスヴァリエールの使い魔のルーン……そしてルーンの魔力が減りつつあるのも気になる……一体なんなんだ?)

 

 

資料でルーンの形を調べながらも頭の中で様々なことを思案する。頭のいい彼がそこまでして考え込むのにも、それ相応の理由があった。

 

 

小さいながらも、ルーンには力が宿っている。使い魔と同化しながらもルーン単体に少量の魔力がついているものだ。

 

そう、少量である。しかし、ダークライのルーンは少量どころか大量の魔力を宿していた。それだけなら、『突然変異』『新発見』として喜んで片付けられた。

 

だが問題は、その魔力が今も尚減り続けている事だ。

 

 

(膨大な魔力、その力が徐々に薄れている……理由は?どう言う意味があって?)

 

 

自問自答を繰り返すが、ルーンの正体を突き止めなければ話にならない。ルーンの魔力が"ゼロ"になったらどうなるか、まだ前例がない。

 

可能性としては、使い魔の契約が失われる事。使い魔の魔法が消える事。それは、使い魔の"死"を意味する。

 

そしてもう一つは弱体化。魔力の低下によって弱体化する可能性は十分にある。

 

もう一つは変化なし。今の所ダークライ自身魔力が減っていても普通に過ごしている。彼の反応を見る限り、これが一番可能性が高いだろう。

 

 

「……何にしても、調べる必要がある……か」

 

 

一人呟き、コルベールはまた資料をめくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声を、書物に集中していたダークライは気付かない。1度なにかに集中すると周りの情報が入ってこないのは、ダークライの悪い所の一つである。

 

 

「私ハ…は……ダークライ…だ? ヨロシク…ア……よろしくたのム?ウム……」

 

 

『挨拶の仕方』と言うページを読み、一人ブツブツと呟く黒い生き物。本ばかりの閉鎖空間と言うこともあり、一層不気味さが増していた。

 

 

「あるじ、しゅじん、マスター……にぼし……?」

 

 

……しばらく自分の世界に入っていそうなので、今後のために少しダークライの希少性について知っていただこう。

 

純粋な悪タイプであるポケモンは、ダークライ含め6種のみである。新月の夜に活動が活発化するダークライはなかなか発見する事ができず、ダークライ種がどこから産まれてくるのかも分かっていない。実際、ダークライ本人にも分かっていないのだ。

 

代々、ダークライ種は悪夢のせいで人間や他生物に嫌われ、何もいない所に住むようになったと言う。山の奥深くや洞窟の中、中には新月島と呼ばれる孤島で住むダークライも居るようで、人間の前にはなかなか姿を表さない。

 

これだけでも希少性は高いが、このダークライはゴウディの庭で普通に姿を現し、普通にポケモンや人間と過ごしている。つまりこのダークライは、ダークライ種の中でも更に希少であると言う事だ。

 

どれもこれも、アリスと言う少女がダークライを受け入れたおかげである。もしかしたら他のダークライも、受け入れられると知れば、人間のすぐ近くで本を読むと言う不思議な光景を生み出せるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

ここで、ダークライがふと時計を見た。

 

 

「……ソロソロカ」

 

 

気が付かない内に約二十分の時間を消費してしまった。やろうと思えば数分で食堂に帰れるのでそれ程慌てる事ではないが、早く行くに越した事は無い。

 

 

「行クカ」

 

 

少々言葉を覚えてきたダークライが満足気味に影へと入り、食堂へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ行ってたのよ!」

 

 

食堂へと戻ったダークライへの第一声がこれである。勿論、声の正体はルイズだ。どうやらダークライを探していたらしい。

 

 

「図書館ニ行ッテイタ」

 

「図書館?確かに昨日図書館に行けとは言ったけど、朝食も取らないで行ったの?」

 

「ソウダ、言語力ヲ上ゲルタメニナ。少シハマシニナッタカ?」

 

「……あぁ、確かに少し流暢になってるわね。普通に聞けば全然わからない位には」

 

「ソウカ……マダマダノ様ダナ」

 

「そうね、もう少し頑張りなさい。そんな言葉じゃ、周りから笑い者にされるわよ?」

 

「……ナカナカ厳シイ現状ダ」

 

「フフ。それで、朝食も食べずにお勉強?」

 

「……フム、説明スルベキカ」

 

 

と言う事で、ダークライは自分の体の構造を説明した。説明内容を簡単に言えば、胃ねぇよ。である。

 

この説明を全て聞き終えた時、ルイズの頭の中に言葉は一つしか無かった。

 

 

「そういう重要な事はもう少し早く言いなさい!」

 

「スマナカッタ」

 

 

ぷぅと少し頬を膨らませるルイズ。反応に困るダークライ。見合う2人。

 

シュールな光景であった。

 

 

「まあいいわ。それより、早く授業行くわよ!」

 

「授業?」

 

 

小さく返事をしたルイズは怒りながらも、疑問符を浮かばせるダークライを連れて駆け足で教室に向かった。

 

 

教室につき、扉を開ける。中には数十人の貴族と、同じ数の使い魔がいた。窓から除くちょっと大き目の使い魔とか天井に張り付いた使い魔とか。どれもこれも、ダークライの興味をそそらせる生物だった。

 

ダークライとルイズが、一歩教室へ入った。

 

 

 

 

……!?

 

 

 

 

瞬間、今まで騒いでいた使い魔達が水を打った様に静かになった。震える者もいれば、逃げ出す者もいる。窓の外にいたデカイのは既に姿が見えない。

 

それらの視線はダークライだけに注がれており、教室に殺気じみた凶悪な雰囲気が漂った。

 

 

「……ドウヤラ、私ハ随分嫌ワレテイル様ダナ」

 

 

誰にも聞こえない位の小さな声でダークライが呟く。嫌な気分では無かった。慣れとは恐ろしいものである。

 

そんな自分の使い魔の様子に戸惑っている生徒。それをダークライの威圧感のせいだと知っているルイズは静かに笑い、自分の席についた。再度言おう、慣れとは恐ろしい。それを直ぐにものにする人間も、同様に。

 

一人だけ人間がダークライを見て小さく震えているが、そんな事気にせずダークライはルイズの隣に佇んだ。

 

 

「面白いほど怯えるわね。いい気味だわ」

 

「私ハ怯エサセルツモリハ無イ」

 

「分かってるわよ。あなたに悪気が無いことぐらいね」

 

 

自慢げに鼻を鳴らすルイズ。その直後教室の扉が開き、中年の女性が教壇に立った。ざわめいていた教室が一瞬で静かになり、使い魔達も少しづつ落ち着きを取り戻していく。

 

一瞬でこの女性が教師だと、ダークライは理解した。

 

 

「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。この赤土のシュヴルーズ、

こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 

 

温厚そうな声が静かになった教室に広がった。そしてシュヴルーズと名乗った教師は教室の中にいる生徒と使い魔を見回し、ダークライに視線が移った所で動きを止めた。

 

 

「あらあら、数々の使い魔を見てきましたが、ミスヴァリエールの使い魔は見た事がありませんね。変わった使い魔を召喚しましたね、ミスヴァリエール」

 

 

それはそうだろう、とダークライは思った。なんせ、彼はこの世界の生き物では無いし、幻と呼ばれたポケモンなのだから。

 

勿論、そんな事をこの場で話すほど、ダークライは愚かではない。ルイズの隣で、静かに時が過ぎるのを待った。

 

ザワザワとざわめき出す教室。理由は恐らく、教師がダークライを見た事無いと言った事だろう。

 

 

「そんな暗黒の化身見たいな奴召喚するなよ!ゼロのルイズ!」

 

 

その中で唯一、ルイズ個人に罵声じみた声を上げる少年がいた。怨みが込められたその言葉をルイズは軽くいなし、胸を張って椅子に座っている。

 

負け犬の遠吠え、弱い犬程よく吠える。ダークライと言う絶対強者を召喚したルイズには少年、マリコルヌの声はその程度にしか思えていない。

 

暗黒の化身とはなかなかいい線を行っている、としかダークライも思っていない。

 

 

「ミスタマリコルヌ、友達を馬鹿にするものではありません」

 

 

ルイズとダークライの無視とシュヴルーズの追い討ちに、マリコルヌは歯噛みした。

 

彼自身も心の中ではただの逆恨みだと知っている。だからこそ、ルイズではない、他者からの言葉は彼の心によく刺さり、感情が溢れてくる。

 

 

(絶対に……あの使い魔の秘密を暴いてやる……!)

 

 

マリコルヌの中に、更なる憎悪が生まれる。

 

そんな事は知りもしない教室の生徒とシュヴルーズは、淡々と授業を始めた。

 

この世界の四系統の魔法、『火』『水』『風』『土』。世界に根付く基本的な魔法である。

 

この世界は魔法を中心に回っており、生活の基盤として魔法を用いている様だ。扉の施錠、光の生成、etc..

 

電気も無いこの世界は、科学技術が発展したポケモンの世界と比べると異質なものである。だが、万能性は科学よりも魔法の方が高い。恐らくこの世界では、科学の出る幕は無いだろう。

 

 

土属性の魔法の一つ、錬金の授業を行うシュヴルーズは石ころを別の性質を持つ鉱石へと変える。これが2年生最初の授業でやる様な魔法かとツッコミを入れたくなるが、魔法の世界ではこれは必須科目のようだ。

 

一つ一つの動作が新鮮で、その後に繰り出される物事の数々に興味がそそられる。黒板に書いてある字はまだダークライには分からないが、何れ解いてやろうと心の中で決めた。

 

そんなダークライの隣で、ルイズは真剣に授業を受けていた。教師としては、その姿はとても嬉しいものだろう。

 

 

「それでは、今見たことを誰かに実習して貰いましょう。……ミスヴァリエール、出来ますか?」

 

 

それが故に、シュヴルーズはルイズに実習をやって欲しかった。真剣に取り組んでいる者にしっかりとした知識をつけて貰いたいと思うのは、教師として当然の事であろう。

 

しかし、教室の生徒から出た言葉は批判の言葉のみであった。

 

 

「先生、止めといた方がいいと思いますけど……」

 

 

代表して、キュルケがシュヴルーズに声を上げた。勿論その言葉の意味をシュヴルーズは問う。

 

 

「危険です」

 

 

ストレートな一言。しかし、そんな何も飾っていない言葉には強い意志が込められていた。

 

更に分からなくなったキュルケの『危険』と言う言葉に、更なる問を投げかけようとした。

 

 

「やります!」

 

 

しかし、その言葉はルイズの一声によってかき消された。気合の入ったその声に教室の生徒は絶望的な表情になる。

 

 

「お願いルイズ!止めて!」

 

 

それ程危険なのか、キュルケが必死になってルイズを止める。しかし、その程度で止まるルイズではない。

 

教壇の前に立ち、杖を振り上げる。思い描くは美しい宝石。教壇の上に置いてある石が、瞬く間に別の物質へと変わる事。

 

深く、息を吐いた。その行動で本気で錬金魔法をやろうとしている事が分かった生徒達は大急ぎで机の下に入る。

 

そんな中、ダークライは微動だにせずルイズを見守っていた。

 

 

(よし……錬金ッ!!)

 

 

魔法を溜め、全力を持って杖を振り下ろす。

 

瞬間、石が粉々に砕け、爆発が辺りを吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

かに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「フゥアッ!」

 

 

石に変化が現れた瞬間、常人では捉えられないスピードでダークライが動き、左手を上へと掲げた。

 

同時に、机の下から闇で作られた丸い檻の様な物が出現し、爆発する寸前だった石と机を飲み込む。

 

檻の内部で爆発した石はくぐもった爆発音を教室内に漏らした。その数秒後、ダークライは左手を下ろし、闇の檻を静かに消失させた。

 

そこに残されていたのは、黒い焦げがつき、バラバラに砕け散った机だった。どうやら石は跡形もなく吹き飛んだ様だ。

 

 

「な、なにが…?」

 

 

一部始終を見ていたシュヴルーズが声を漏らす。超スピードの事態の展開に付いていけないのは当たり前だろう。

 

想定していた衝撃が訪れず、生徒達は机の下から顔を出す。それを尻目に、ダークライは教壇だった物の前で呆然としているルイズに声をかけた。

 

 

「マスター、無事カ?」

 

「い、今の……ダークライがやったの?」

 

「ソウダ。マスターガ危険ダト判断シタ緊急処置ダッタガ、間ニ合ッテ良カッタ」

 

 

更に呆けるルイズ。ダークライはその姿に少し安心した。

 

 

「ミスヴァリエールの使い魔が今のを……?でも、今の魔法って……」

 

 

ダークライが培った経験で作り出したダークホールの応用技。敵を完全に寝るまで閉じ込める技は何かを封じるのも可能である。固定物であれば、簡単に爆発力を抑えることが可能だ。

 

しかし、問題はそこではない。この世界ではポケモンの技は魔法として考えられる。ダークライの黒い技。四系統の魔法では有り得ない、対象物を封じ込める暗黒の幻影(イリュージョン)の様な魔法に、シュヴルーズは心当たりがあった。

 

 

 

それは、伝説に伝わる第0の魔法。

 

四系統の魔法と離れた幻の、強大過ぎる力。

 

爆発、幻影、記憶の消去など、不可解な力を持つその魔法の名は

 

 

 

 

『虚無』

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒の覇者とその主は今、伝説への道を歩み始めた。

 

 




後書きポケモン図鑑

『パルキア』くうかんポケモン
タイプ:みず/ドラゴン
高さ:4.2m
重さ:336.0km
とくせい:プレッシャー/テレパシー

『図鑑説明』
並行空間に住む、空間を歪める力を持つ伝説のポケモン。ディアルガと対なる存在だと言われているが、それ程仲が悪い訳でもない。専用技『あくうせつだん』は非常に強力で、文字通り空間を切断して敵を攻撃する。攻撃を喰らうのは敵どころでは無いのは、恐らく誰でもわかるだろう。
ディアルガと戦闘になったパルキアは街を亜空間に浮かべたが、ダークライとサトシ達の努力もあって仲直りに成功する。ディアルガはすたこらと自分の時間の世界に戻ったが、遅れたパルキアはサトシに馬鹿呼ばわりされ、なくなく空間を元に戻した。一番損な役回りをしたポケモンでもある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪夢の声

シエスタにあの役をやってもらわなければ話が進まなかったんだ……


 

 

 

授業が終わった教室。私、ルイズとダークライはこの教室の片付けを任せられた。

 

片付けさえしたら教壇の修理費は払わなくてすむ。そんな事言われたら片付けるしか道はないわよね。何時もだったら教室全体が吹き飛ぶはずなのに、教壇だけ片付けているのが不思議よ。

 

それもこれも、向こうで教壇の残骸を運んでいるダークライのおかげ。有り得ない形の魔法を使って爆発を閉じ込めた私の使い魔は、何も無かったかの様に淡々と私の手伝いをしている。まるで何も聞くなと言わんばかりに。

 

……でも、あの魔法。聞いてみたいわよね。

 

 

「ねえ、ダークライ。さっきのあの魔法は何なの?」

 

 

残骸を片付けたダークライに聞いてみた。あの子の表情、本当に読み取れないのよね。いま、何を考えているのかしら?

 

 

「……アレハ魔法デハナイ」

 

 

……なに?魔法じゃない?いきなり何を言うのよ。確かに見たこと無かったけど、あんなの魔法じゃなきゃ出来ないでしょ?

 

 

「今ノ私ニハ魔力ガアル。ダガ、私ハソレヲ使ッテハイナイ。私ヲ見テイレバ分カル筈ダ」

 

「確かに……」

 

 

素人目でも、ダークライから感じている魔力は全然減っていないのは分かった。

 

それじゃあ、一体何を使ってあんな不可思議なものを?

 

 

「私ハ闇ヲ操ッテイル」

 

「……は?」

 

 

さっきから訳の分からない事ばかり言う。闇ってなに?闇を操るなんて、悪魔位しか聞いたことがないわ。

 

え?もしかして……

 

 

「ダークライ……あなた、悪魔?」

 

「違ウ」

 

 

あ、即答ね。良かったわ。

 

でも余計に分からない。それじゃあダークライは一体なに?どんな存在なの?

 

 

「……ルイズノ使い魔、ダークライト言ウ存在ダ」

 

「そんなの分かってるわよ」

 

「フム……ドチラニシロ、今ノ私ハルイズニ仕エル魔物。今ハソレデイインジャナイカ?」

 

「う〜ん……まあ、そうね。面倒な事考えるのはやめましょうか」

 

「ソウシテクレルト助カル」

 

 

何かはぐらかされた気もするけど、そうよね。今、ダークライは私の使い魔で、私と共にいる。例えどんな種族で、どんな存在であっても、その事に変わりはない。なら、今は究明するのはやめましょう。ダークライに嫌われたくないしね。

 

 

「先ホドノ技ニツイテハ後デ話ソウ。構造位ハ説明出来ル」

 

「分かったわ。なら、早くこれ片付けるわよ!なにぼさっとしてるの!そっちの焦げが多い部分持って!」

 

「全ク……切リ替エノ早イオ嬢様ダナ」

 

「グチグチ言ってないで早くやる!」

 

「了解ダ、マスター」

 

 

片付ける物が教壇だけだったと言う事もあり、十数分で片付けは全て終わった。

 

こんな簡単な仕事だったのに何故かお腹減っちゃったわ……あ、昼食の時はダークライに洗濯物畳んで貰おう。どうせ何も食べないんだし、いいわよね?ダークライ。

 

 

「……畳ム?畳ムトハドウ言ウ行為ダ?」

 

 

……さっさと図書館で一般常識を身につけて欲しいわ。

 

 

「残りの時間で考えてみなさい」

 

「……畳ム……」

 

 

バサッと話を切り離す。自分で考えなくちゃ物事は覚えられないって何処かの偉い人も言ってた気もするし。

 

昼食の時間まではまだ全然時間がある。

 

この数時間、私にとっては地獄の数時間になるわね……。授業中にお腹がなったら言い訳も出来ないわよ……。

 

頼めばダークライが誤魔化してくれそうだけど、何時までも使い魔ばっかりに頼ってちゃ主失格だし、小さな事から色々と頑張って行きましょ。

 

 

これだけ疲れて片付けを終わらせた私達は、一日の数時間を過ごしたに過ぎない。長い一日になりそうだわ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、図書館で資料を読み漁っていたコルベールが、探していた1ページを見つけた。

 

 

「これは……!」

 

 

該当したルーン。それを見た瞬間、コルベールの顔から血の気が引いていった。その現実離れしたルーンの意味を理解するには、そう時間はかからなかった。

 

一言も発さず、資料を抱えたまま足速に図書館から出ていくと、学園長室と札を張られた部屋へとやってきた。

 

 

「オールド・オスマン!大変ですぞ!」

 

 

学園長に向かって呼び掛けるが、返事はない。現状を見れば、仕方ない事だと言える。

 

今現在、オールド・オスマンと呼ばれた老人は秘書のミスロングビルにセクハラをし、メガインパクトをもろに食らって戦闘不能状態に陥っているのだから。

 

ハァ、と深く溜め息を吐くコルベール。彼の反応を見る限り、今回が始めてと言う訳では無いようだ。

 

 

「おお……御光が見える……煌びやかな御光が……って、なんじゃコルベールの反射光か……」

 

「ふざけてる場合では有りませぬぞ!大変なのです!」

 

「大変?詳しく話すのじゃ」

 

 

バサッと、コルベールが持ってきた『始祖ブリミルの使い魔たち』と言う名の資料を開き、分かりやすくダークライのルーンについて説明しようとする。

 

しかし

 

 

「オールド・オスマン!大変です!」

 

「今度はなんじゃ?」

 

 

大きな音を立ててドアが開き、そこからシュヴルーズが勢いよく入ってきた。

 

 

「オールド・オスマン!ミスヴァリエールの使い魔が喋りました!」

 

「使い魔が喋った?」

 

 

シュヴルーズの言葉にオールドオスマンとコルベールが有り得ないとばかりに反応した。

 

無理もない。召喚される使い魔が人の言葉を話すと言う話は今まで確認されてない。大概の使い魔は人と声帯が違い、高く声を発する為に進化した種もいれば、継続的に鳴き声を上げるために特化した種もいる。人間の様に、会話を目的として声帯を進化させた人外は前例がない。

 

そのため、彼等は興奮していた。特にコルベールは図書館での興奮の上に更に興奮が上乗せされた。ダークライは喉から声を出しているのでは無く、テレパシーでヒト語を発しているのだが、オスマン達が知る訳もなく、後にダークライ自身から聞くことになる。

 

一つ、コルベールよりも先に要件を言ってしまったシュヴルーズは資料と共に口を開けているコルベールに気が付いた。

 

 

「ミスタコルベールは何故ここに?」

 

 

オールドオスマンの部屋に何故コルベールがいるのか疑問に思うのは当たり前だろう。

 

この問いによって自分がここに居る理由を思い出したコルベールは、上乗せされた興奮を隠すことなく口を開いた。

 

 

「そうです、オールド・オスマン!大変なんです!このルーンを見てください!」

 

 

先程から開きっぱなしだった資料を改めてオスマンに向けた。

 

そこには、ダークライと同じ形状のルーンが描かれていた。そのルーンの名は、『ガンダールヴ』。

 

この世界の、伝説の使い魔と呼ばれた者のルーン。

 

それの意味を、瞬時に理解したオスマンは表情を鋭く変え、その老いながらも生気の光る眼をギラリと輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除を終えたダークライとルイズは食堂へと足を運んでいた。理由は勿論、昼食を取る為である。

 

貴族達に食事を運ぶメイド達。その中にシエスタの姿もあり、貴族のいる食堂と厨房を出入りしていた。

 

そんなメイド達の事は気にせずに朝と同じ席にルイズが座り、ダークライがルイズの指示を待つ。

 

 

「じゃあ、朝言った通りダークライは洗濯物を畳んでね。その後は何をしてもいいわ。30分後に食堂に来ていれば私は何も言わない。いい?」

 

「了解シタ、マスター」

 

 

食堂を出たダークライは即座に洗濯物を干してある所へと移動し、手早く洗濯物を籠に入れる。天気が快晴だったと言う事もあり、既に全ての服は乾いていた。

 

ルイズの私室内へと移動し、洗濯物を畳むために衣類を広げる。しかし、ここで重要な事に気が付いた。

 

 

(……畳ムトハナンダ?)

 

 

肝心な、行為という存在そのものをまるっきり分かっていないダークライの動きが止まり、目の前に広げてある洗濯物を凝視した。

 

服等と言う物を着ないダークライ、もといポケモンは、服に関わる単語を知らない。ダークライが分かるのは人の言葉と常識程度。ルイズが服を折ると言えばまだ伝わったかも知れないが、これ程ヒト語を喋る生き物が一般常識な単語を知らないなんて思う訳がない。

 

 

恐らく服に関わる事だろうと言うのはダークライにも分かる。問題は服をどうするか。どう言う行為に部類するのか。しまう?衝撃を与える?燃やす?消し去る?

 

危険な思考を繰り返すダークライは、服を凝視したままとある結論にたどり着いた。

 

 

「……ヤハリアノ『シエスタ』ト言ウ少女ニ聞イテミルカ」

 

 

洗濯物を洗ってくれたあのメイドなら恐らく畳むと言う行為の意味も分かる筈だ、と考えた故の結論だ。実際、シエスタは貴族メイドの中では優秀な方で、様々な衣類の畳み方はしっかりとマスターしている。ダークライの見立ては正しかった。

 

それにシエスタは『出来ることがあればお手伝いさせて頂きます』と言っていた。本人が言っているのだから別に構わないだろう。と言う考えもダークライにはある。

 

まず遠慮と言う言葉を覚えて使い方も覚えろとピンクの髪の少女に言われそうだが、残念ながら今ここに少女はいない。つまり、忙しいシエスタにダークライが私情で訪問する事を止める者は何処にもいない。

 

 

「……確カ食堂ノ中ニイタナ」

 

 

食堂内部の動きをしっかりと見ていたダークライはシエスタの行動も記憶していた。幸い、ダークライは食堂の出入りだけは許しを得ている。障害は何も無い。

 

目的地が決まれば行動あるのみ。籠から出した洗濯物を無造作に籠へと放り込み、食堂へと戻った。観音開き式の扉を開けようと、食堂の扉に手をかける。

 

しかし、先程とは違う違和感を感じた。

 

 

(騒ガシイナ)

 

 

それがダークライの感想であった。

 

ダークライの思う通り、ドア越しからでも聞こえる食堂内の怒鳴り声。聞いたことの無い男の声と、それより少し小さく聞こえる聞いた事のある少女の声。そして野次馬と思われる数多の人間の声。その中に、ルイズと思われる声も混じっていた。

 

少女の声は間違いなくシエスタであった。そのか細い声は何者かに謝罪している様にも聞こえる。恐らく、怒鳴り声の大きい男に対しての言葉だろう。

 

 

「面倒ナ……」

 

 

正直、彼にとっては喧嘩なんてどうでもいい。畳み方なんて別の人間に聞けばいい話だし、いくらでもやり用はある。

 

だが、彼はシエスタに恩がある。今回も、その恩にあやかろうとしている。だから今彼の中に、喧嘩への介入以外何も無い。

 

 

(シエスタヲ連レテクレバイイ話ダ)

 

 

まるで自分の部屋に入るかの様に、緊張感の無い動きで食堂の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂の中がざわめく。その中で一際大きな声が響き、涙ぐんだ声がその後に続いた。

 

 

「申し訳ありません!申し訳ありません!」

 

 

シエスタ。日本人の様な黒髪黒目の少女が瞳に涙を浮かべながら必死に頭を下げていた。

 

頭を垂れている相手はシエスタの目の前にいる金髪の男、ギーシュ。色男と呼ばれる種類であろうその顔には何かをかけられたかの様に水滴が数滴垂れており、頬も叩かれたかのように赤く腫れていた。

 

 

少女シエスタがギーシュに頭を下げている理由。それはギーシュの逆恨みが原因である。色々と過程があったのだが簡単に言わせてもらうと、『浮気の証拠品が大衆の面前で晒された』と言う事である。

 

証拠品をシエスタが拾った事が原因のようだ。自分が悪いだろと言うツッコミをどうぞして頂きたい。実際、ギーシュは逆恨みでシエスタに謝罪を強要しているのである。

 

 

「止めなさいギーシュ!」

 

 

そんな理不尽を黙って見てるほど、ルイズは腐っていない。ギーシュとシエスタの間に割って入り、仲裁しようと怒鳴る。

 

 

「黙ってくれ、ゼロのルイズ。君には関係ないだろ?」

 

「大ありよ!メイドが泣きながら謝っている中で悠々と食事が出来るものですか!大体、大元の原因は二股かけているあなたでしょ!」

 

 

ルイズの怒鳴り声が食堂の中に響く。その声が消える前に野次馬が「そうだそうだ!」「ギーシュ、お前が悪い!」等とルイズの言葉に呼応した。

 

周囲がルイズの流れへと一瞬で持っていかれる中、敵であるギーシュは少し歯噛みするも、いつも通りの余裕の顔を作って反論した。

 

 

「この使用人が僕の香水を取らなければいい話だったんだ。見て見ぬ振りをする位の気も利かないのでは、今後の使用人人生に響くだろう?だから、今僕が教育してあげているんだよ」

 

 

恐らくただの優越感を得るためか、自分の落ち度だと認めたく無いのか。どちらにしても、ギーシュが自分の都合のいい方向に理由を変えているのは確かだろう。

 

ルイズはその言葉に呆れた。呆れを通り越して頭が真っ白になった。コイツは、一体何を都合のいい事を言っているんだと。自分の行為を正当化し、無実の他人に罪を作り出したこの男に、既に言葉は出なかった。

 

恐らく、周りも同様だろう。下らない自尊心に囚われた者に話し合いは通用しない。この食堂内部の者全てが、ギーシュに対して声も出せなかった。

 

 

一匹以外は。

 

 

「ソノ少女ヲ貸シテ貰オウカ」

 

 

急に聞こえた低い声に、ギーシュ含め食堂内の全ての者が首を向けた。

 

 

「ダークライさん……?」

 

 

静まった中でシエスタの声が小さく響いた。

 

 

「私ハソノ少女ニ用ガアル。取リ込ミ中悪イガ、借リテイクゾ」

 

 

その声の正体が目の前にいる黒い化け物であると知り一同は硬直する。そんな事お構い無しに、ダークライはシエスタの手を引いた。

 

 

「あ、あの……」

 

「洗濯物ヲ畳ンデ欲シイ。今ノ私ハ、君ニシカ頼メナイ」

 

 

状況を知りもしないダークライは自分の要件だけを説明する。当たり前のように、シエスタは困惑した。

 

その様子に「来レバ分カル」と一言呟き、ダークライはシエスタを連れて食堂を出ようとした。

 

 

「き、君!その使用人は今僕が教育しているんだ!邪魔しないでくれたまえ!」

 

 

誰よりも早く意識を戻したギーシュがシエスタを連れて食堂外へ出ようとしているダークライを止めた。

 

 

「急ギダ。後ニデキナイノカ?」

 

「僕が先約だと言ったはずだ!洗濯物を畳む?そんなバカでも出来ることを態々その使用人に聞く必要は無いだろう」

 

「私ハ主ノ命令デ急ギノ要件ダ。コノ少女ニハ個人的ナ接触モアッタ。シエスタノ方ガ聞キヤスイ。貴族ナラ、優先順位如キ理解シテイルト思ッタノダガナ」

 

「きっ……君は……!」

 

 

挑発じみた発言は、ギーシュに青筋を立たせるのに充分な効力を発揮した。

 

これからギーシュの怒りが爆発するかと誰もが思った。しかし、ギーシュの顔から怒りがスッと引いていき、先程の余裕の笑みを作り出した。

 

 

「……君は、確かゼロのルイズの使い魔だったね」

 

「ソウダ。ゼロノ意味ハ知ランガ、ルイズノ使イ魔デ間違イナイ」

 

「フッ……君には貴族に対する礼儀がなっていない様だ。ルイズの使い魔、君に貴族への礼儀を教えて上げよう……」

 

 

一泊置いたギーシュは、胸ポケットから真っ赤な薔薇を取り出し、ダークライに突きつけた。

 

 

「ギーシュ・ド・グラモンの名にかけて、君に決闘を申し込む!」

 

「決闘……バトルカ。ソレデオ前ガ手ヲ引クナラ、良イダロウ」

 

「場所はヴェストリの広場だ。逃げる事は許されないぞ!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 

自然な会話の流れで決闘に持ち込まれたこの状況に、今まで場の把握に一生懸命だったルイズが声を上げた。

 

 

「ギーシュ!この学園で決闘は禁じられてる筈よ!」

 

「僕は君に決闘を申し込んでいるんじゃない。僕はこの使い魔に言っているんだ」

 

「な……そんなの屁理屈じゃない!」

 

「恨むのなら、君の教育の悪さを恨むのだね。君の行いのせいで、君の使い魔が赤く彩られるのだから」

 

 

終始崩さぬ余裕な笑みは、食堂から出ていく最後までそのままだった。

 

ルイズの怒りの矛先は、ダークライへと向けられた。

 

 

「ダークライ!あなた何勝手に受けているのよ!」

 

「私ハ手早ク衣類ヲ畳ム手ヲ選ンダニ過ギナイ」

 

 

ダークライは一つの事に一生懸命働く。しかも今回は早く終わらせる事で自由時間を確保できる。早く終わらせる為に、手段は問わない。

 

その事を理解したルイズは、静かに溜め息を吐いた。

 

 

「はぁ……仕方ないわね。勝てる自信はあるの?」

 

「君ガ呼ンダ使イ魔ダ。負ケルト思ウカ?」

 

「……ふっ、思う訳無いでしょ?まあ、決闘が手っ取り早い手段だなんて言っている使い魔には、愚問だったかしら?」

 

「間違イナク、愚問ダ」

 

 

最初から不安なんてない。自分が呼んだ使い魔を信じない主なんて、そんな者主とは呼ばないだろう。

 

ルイズが何より懸念した事。それは

 

 

「……ギーシュ、生きていられるわよね?」

 

 

相手の生死であった。

 

これに対してダークライは、ギーシュの待つ広場への進行を止め、ルイズに向き直った。

 

 

「悪イ夢ハ見テモラウガナ」

 

 

どこか楽しそうに答え、ダークライは再びギーシュの待つ広場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「あの……ダークライさんは……」

 

 

不安そうなシエスタの声がルイズの隣から聞こえた。その問いは愚問とばかりに、ルイズは笑みを作った。

 

 

「アイツなら大丈夫よ。私の使い魔だもの」

 

「でも、貴族が相手の決闘なんて殺されちゃうんじゃ……」

 

「アイツが簡単に殺されるもんですか。見た目でも分かるでしょ?あんなのが殺される場面を想像できる?」

 

「う〜ん……確かに、出来ないですね……」

 

「でしょ?だから大丈夫よ。決闘が終わったら、ダークライに洗濯物の畳み方を教えてあげてね」

 

「は、はい!」

 

 

綺麗に礼をするシエスタの姿を見て、ルイズは小さく微笑んだ。

 

 

ダークライが決闘に勝つ確証はない。だが、妙な確信と安心がルイズにはある。それと同時に、彼女の中に湧き上がる何かがあった。

 

 

 

 

「大丈夫よね、ダークライ……」

 

 

 

 

ダークライの黒い背中を追う様に、ルイズは決闘の場へと向かった。

 




後書きポケモン図鑑

と行きたい所ですが新しいポケモンがいないです。何でもいいから図鑑に出せるポケモンが欲しい……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヴェストリの広場で死神を見た

サブタイに聞き覚えのある人は恐らく私の同志でしょう。
エントリィィィィィ!!(本文に)

※ 今回の話の一部表現に残酷性がある事から、残酷な模写タグを追加しました


ミスロングビルを学院長室から退室させたオスマンは、もう一人の情報提供者であるシュヴルーズと共にコルベールの話を聞いていた。

 

ルイズの使い魔、ダークライに刻まれた使い魔のルーン。それは過去に『神の左手』と呼ばれた使い魔のルーンに酷似していた。

 

資料のルーンは、コルベールがとったスケッチと重ね合わせても相違なかった。

 

 

「あの使い魔に刻まれたルーンは『ガンダールヴ』に刻まれたルーンと全く同じです!」

 

 

結果を出したコルベールが興奮気味に二人に告げた。

 

 

「つまり、あの使い魔が『ガンダールヴ』であると、そう言いたいのかね?」

 

「まだ可能性の域を出ていませんが、私は『ガンダールヴ』であると確信しています!」

 

「ふむ……確かに、見たことの無い生物ではあるし、謎が多いと感じてはいたが……ミスシュヴルーズは使い魔の声を聞いたそうじゃの?」

 

「はい、とても低い声で少し聞こえにくかったのですが、間違いなく聞きました」

 

「何を言っておった?」

 

「ええと……ミスヴァリエールを気遣う様な言葉を発していたのは分かりましたが……」

 

「ふむ……」

 

 

彼等が話を進めるには、余りにも情報が少なかった。「声を聞いた」「伝説のルーンと似ている」だけでは、話を展開する事が出来ない。

 

しかし、一つだけ気になる点があった。

 

 

「ミスタコルベール。確か、使い魔のルーンが常時光を発していると言っておったな?」

 

「はい。気のせいかも知れませんが、魔力も減っている様な……」

 

「……この老いた脳が正しければ、あのルーンは常時発動していると思うんじゃよ」

 

「常時発動するルーンですか、なにかヒントになると良いんですが……」

 

「……何故、継続して発動しているか、気になりはせんかね?」

 

「そう言う性質なのでは?」

 

「それでも、なにか理由がある筈じゃ。『ガンダールヴ』のルーンだと言うのなら、尚更な」

 

 

通常のルーンならば、使い魔を助ける場面で発動するものである。それも、一時のみだ。

 

それだけに、常時発動しているルーンに疑問がのこる。なにか理由がある筈なのだ。

 

常に動いていると言う事は、常に使い魔を助けていると言う事である。魔力の安定だったりとか、身体機能を常に安定させているだとかに、ルーンの効果が継続的に発動する。

 

しかしダークライにそんな身体的に不自由な様子はない。魔力は最初は持っていなかった。最初こそ意識を失っていたものの、それ以外の異常は見られなかった。

 

それ"以外"は。

 

 

「……まさか……」

 

 

そう、どう言う訳かダークライは気絶していた。召喚された時から意識を失っていたと言う事は、召喚される前から意識を失っていたと言う事になる。

 

つまり、召喚される前に気絶する様な何かがあったか、もしくは……

 

 

「ミスタコルベール、最初ミスヴァリエールの使い魔はどれくらいで意識を取り戻した?」

 

「え? 確か1.2時間程かと。予想よりも早く回復していたので驚いた記憶があります」

 

「手当をした時、傷はあったか?」

 

「いえ、気絶する様な傷もありませんでしたし、打撲痕もありませんでした」

 

「やはり……そう言う事か……」

 

 

オスマンの推測が、確信に変わった。

 

普通のルーンだったら有り得ない推測。だが、それが『ガンダールヴ』のルーンだというのなら話は別。

 

 

「ミスシュヴルーズ、直ぐにミスヴァリエールの使い魔を---」

 

 

言いかけた時、学院長室の扉からノックの音が響いた。その音に続くように、ミスロングビルの声がオスマンを呼んだ。

 

 

「なんじゃ?」

 

「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。大騒ぎになっています。止めに入った教師がいましたが、生徒たちに邪魔されて、止められないみたいです。教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」

 

「全く……暇を持て余した貴族ほど性質の悪い生き物はおらんわい。それで、誰が暴れておるのかね?」

 

「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」

 

「あのグラモンとこのバカ息子か。血は争えんのう、息子も親父に似て女好きじゃ、どうせ女関係絡みじゃろう、それで?相手は誰じゃ?」

 

「それが……、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」

 

 

瞬間、室内にいた3人は慌てた様子で『遠見の鏡」と呼ばれる鏡の前に集った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェストリの広場。

 

そこに食堂にいた生徒達が集まり、これから起こるであろう貴族による圧倒的な制裁に期待していた。

 

 

「諸君!決闘だ!」

 

 

広場の中心で叫ぶギーシュ。薔薇を掲げた後に巻き起こる歓声が広場を震わした。

 

手を振ってその歓声に答えている。そんな中で、広場の隅にいるダークライは静かに腕を上下に動かしていた。

 

 

(久方ブリノ戦闘、体ガ鈍ッテイルカ心配ダナ)

 

 

腕を小さく動かして、自分の運動機能の正常さを確認する。左手を動かしていた時、手の甲で光るルーンが目に入った。

 

 

(……邪魔ダナ)

 

 

主と使い魔を繋ぐルーン。それだけに大切な物だとわかっていても、やはりこうビカビカと光っていては邪魔だ。戦闘中に気が散る。何よりこれは光なのだ。ダークライ種の天敵の様な存在が自分の左手に住み着いているなんて、いい気はしない。何故か悪い気もしないのだが。

 

 

「とりあえず、逃げずに来たことだけは褒めてあげよう」

 

 

ダークライが全く自分に意識を向けていないのも知らず、ギーシュはダークライに賞賛の言葉を送る。

 

ダークライはゆっくりと自分の左手からギーシュに視線を動かし、静かに声を発した。

 

 

「前置キハイラナイ、始メテイイカ?」

 

「気が短いようだね。ルール説明も必要としないか」

 

「オ前ヲ仕留メレバソレデ終ワリダ。ソウダロウ?」

 

「勝つ前提か。君が勝つ条件はそれでいいだろう。なら、僕は君に降参と言わせたら勝ちでいいかな?」

 

「……参ッタト言ッタラ大丈夫ナノカ?」

 

「……降参に関与する言葉を言わせたら、と訂正しよう」

 

「イイダロウ、始メロ」

 

「……ふん、その余裕は何時まで続くかな?」

 

 

ヒラリと、ギーシュの薔薇の花弁が落ちた。

 

瞬間、甲冑を着た女戦士の銅像が生み出された。

 

 

「僕の二つ名は青銅。まずは青銅のゴーレム、ワルキューレ達が相手をしよう!」

 

 

高らかに宣言し、ダークライにゴーレムを向かわせる。

 

 

(……面白イ)

 

 

フッと静かに笑ったダークライは片手に射撃型のダークホールを作り出した。

 

 

(アノ人形モ倒サネバナラナイノカ、ドチラニシロ、歓迎ハ必要ダナ)

 

 

小さく振りかぶり、ダークホールを繰り出す。

 

通常ならば目標に当たった瞬間にダークホールが対象者の全身を包み、生物ならば強制的に寝かす。しかし、ワルキューレに当たったダークホールは吸い込まれる様にワルキューレの中に消えていっただけだった。

 

 

(効果ナシカ。余計ニ興味ガ出タ)

 

 

技を切り替え、自分に闇を纏わせる。範囲型のダークホールはダークライから離れ、半径10mの地面に小さな堀を作った。

 

その行動にギーシュはワルキューレの足を止る。

 

 

「ココニ来ルナ」

 

 

低い声が庭に響いた。

 

ここに足を踏み入ればどうなるか分からんぞ。この意味が含まれた言葉は、ダークライが初撃を外した光景を見ていたギーシュからは別の意味に聞こえていた。

 

ギーシュが受け取った意味、それは命乞いである。

 

 

「今頃怖気付いたか!だが、もう遅い!」

 

 

ギーシュの声に答える様に、更なる速度でワルキューレは進撃する。

 

大きく右手を振りかぶり、振り下ろしてダークライを殴れる距離まで走る。

 

ワルキューレが溝を越えた。

 

 

刹那

 

 

ダークライの手から黒と紫の光線が放たれた。

 

 

「なッ……!?」

 

 

一瞬でワルキューレが弾け飛ぶ。青銅で作られ、圧倒的な防御力を誇っていたと思われていたゴーレムはギーシュの目の前で砕かれた。

 

その姿はギーシュにとって有り得ない出来事だった。寧ろ、現実的で無いと言ってもいい。目の前の出来事を容認するには、少々時間がかかった。

 

 

(脆イ……些カ拍子抜ケダナ)

 

 

期待していた抵抗を受けず、ただ吹き飛んだだけのワルキューレに対し、ダークライはただ呆れるだけだった。

 

 

「な、何が……」

 

「おい、今あいつ何をした?」

 

「魔法か?あんな魔法見たことないぞ……」

 

 

そんなダークライを、見物客らは信じられないと言う目で見る。

 

ダークライが繰り出した技、『あくのはどう』はダークライの主力の特殊系攻撃である。神と呼ばれたポケモン2体を同時に吹き飛ばしたこの技を喰らえば、幾ら青銅であろうと粉々になる事を回避できない。

 

太さ約2mのそれは人々を魅了するに充分な攻撃であった。敵対しているギーシュや、ダークライの後方で見守っていたルイズ達も同様である。

 

 

「ど……どんな魔法か知らないが、僕のワルキューレはまだ終わってない!」

 

 

自らを鼓舞する様に叫び、ギーシュが薔薇を振った。散った花弁は七枚。それが地に落ち、更なるゴーレムを生み出した。

 

7体のワルキューレが生成される。先程とは違い、手には槍や剣が装備されている。

 

 

(……クダラン。同ジ事ノ繰リ返シカ)

 

 

7体揃って突撃してくるその様を見て、早々に決着を付けようとダークライは戦闘態勢をとった。

 

開いた両手に闇を集め、それを体の前で合わせると、紫と黒の波動が大きく膨れ上がる。高威力あくのはどうの出来上がりだ。

 

範囲なんて気にしてない。距離なんて気にしない。この広場の端に居てもダークライの攻撃は届く。

 

どこに行こうが、敵対する者に逃げ場はない。

 

 

「ハアァッ!!」

 

 

ギンッ、とルーンが光った。

 

同時に、溜められた闇の力が解き放たれる。押し出されたあくのはどうの道を遮る物は全て吹き飛び、ワルキューレは一瞬で7体とも跡形も無く消え去った。

 

驚く事も無い、ポケモンの世界から見れば青銅が消し飛ぶなんて当たり前だ。だからダークライは高揚もしなければ声も出さない。

 

だが、それはあの常識はずれな世界の話。この世界では青銅のゴーレムを7つ同時に、しかも一撃で消し飛ばす事なんて考えられない。例えトライアングルと呼ばれる上位種のメイジでも、簡単にはいかない。それをダークライは大衆の面前でやってのけた。

 

 

「うわああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

現実味の無い光景によって生まれた静寂の世界をギーシュの叫び声が破壊した。

 

その叫びは他の生徒達のざわめきを呼び起こし、辺りを混乱に突き落とす。

 

 

「どうなったんだ!?」 「何の魔法なんだよアレ!」 「7体全て吹き飛ばしたぞ!?」 「何か手品でも使ったんじゃないのか!」

 

 

巻き起こる疑問の嵐は広場を包み、更に混乱の声を大きくさせた。

 

破壊されたワルキューレの破片が雨のようにダークライの周辺に落ちた事によって、ダークライの姿は舞い上がった土埃で見えない。しかし、間違いなくダークライはあの中にいると、ギーシュは確信していた。

 

 

(何故だ……!?何故この僕が…!?)

 

 

鼓膜から入った生徒達の情報は、ギーシュの思考の渦によってシャットダウンされている。

 

土煙は今も舞っている。通常の思考だったのなら、あの土煙の中に魔法の一つでも飛ばしてやるところだ。

 

だが今のギーシュは、そんな考えは片隅にも置いてなかった。ワルキューレと言う最高の攻撃手段が呆気なく絶たれたからだ。

 

 

(こ……殺される……!)

 

 

自分よりも硬く、強いワルキューレ達を屠ったあの一撃。アレを喰らえば自分はどうなる?

 

バラバラに吹き飛ぶ自分の体。手足は無惨にも引きちぎれ、絶望を表した表情のまま頭が宙を舞い、最後には塵と化す。そう、ワルキューレの様に。

 

そんな自分の姿が容易に想像出来てしまい、体が強ばった。腰が抜け、地に上半身を任せた。

 

 

逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ!

 

 

頭の中で警告の鐘が鳴る。だが体が動かない。足から下が言う事を聞かない。降参の声が出ない。抜かした腰が、ギーシュの貴族としてのプライドが、負けを認める事を許さなかった。

 

目を瞑り、あのまま土煙の中にいて欲しいと、あのまま動かないで欲しいと、何度も願った。

 

だが、無情にも一陣の風が吹く。それは舞い上がっていた土煙の大半を攫い、ギーシュへと向かって吹き抜ける。

生暖かい筈の風が妙に冷たく感じ、風が吹いて来た方向を見た。見てしまった。

 

 

「あ……あぁ……」

 

 

黒い悪夢の、青く揺れる瞳を。

 

 

その瞳は、今も尚しっかりとギーシュを捉えている。心臓を掴まれていると言う錯覚さえ覚えてしまうほど真っ直ぐに。

 

最早、逃げられる希望など無かった。

 

それは影の中に入り、一瞬でギーシュの眼前へと姿を現す。

 

 

「わあぁぁ!?」

 

 

目の前の存在を振り払おうと、ギーシュは花弁の無くなり裸になった薔薇を我武者羅に振り回す。

 

冷静さを欠いた咄嗟の行動がダークライに通じる筈もなく、振り回していた右手をダークライの黒い手が掴んだ。

 

ひんやりと、冷たい体温がギーシュに伝わる。それが更に恐ろしくて、涙を流しながらも必死に抵抗を続けた。

 

 

「……ダークホール」

 

 

無情にも下された審判の声は、幸か不幸かギーシュの耳に届く事無く、ギーシュの思考は悪夢に飲まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った……?」

 

 

ダークライの後ろで観戦していたルイズがボソリと確かめる様に呟いた。

 

ダークライの背中で見えないが、ダークライが近寄ってからギーシュに動きが無かった。

 

歓声一つ上がらず、ただ観戦者はダークライとギーシュの方向を見ている。

 

 

「なんなの……あなたの使い魔、強いじゃない」

 

 

隣からキュルケが興奮気味に声を上げた。

 

 

「当然じゃない、と言いたいけれど、まさかここまで強いとは思わなかったわ……」

 

「何なのよあの魔法、あなたアレのメイジなら分かるんじゃないの?」

 

「知らないわよ。あんまり自分の事を話してくれないし……あんな魔法、見たことないわよ」

 

「使い魔なのに把握してないの?じゃあ、タバサはあの魔法の事知ってる?」

 

 

キュルケは視線をルイズから隣の少女に向ける。

 

青い髪と瞳のタバサと呼ばれた少女は、ダークライから視線を外さずに答えた。

 

 

「……分からない」

 

「あなたでも分からないの?」

 

「……寧ろ、あの存在自体分からない」

 

 

静かにそう答えた少女の目は、変わらずダークライを見続けていた。

 

そのダークライはルイズに向かって進んでいる。

 

 

「……本当に、分からないのよね」

 

 

そう呟くと、ルイズは使い魔が帰って来るまで見守もろうとする。

 

そんな時だった。

 

 

「ミスヴァリエール、話があります」

 

 

急に背後からルイズに声がかかった。女性の声の正体は、ミスシュヴルーズだ。

 

説教に来たか、と覚悟した。元から分かっていたが、いざ相手が来るとなるとやっぱり緊張するものだ。

 

なんとか平然を装い、シュヴルーズに答えた。

 

 

「説教ですか?ミスシュヴルーズ」

 

「それは後で考えます。今は、もっと大切な話をしましょう」

 

「大切な話?」

 

 

帰ってきた答えはルイズの予想と全く違うものだった。

 

大切な話について深く聞こうとした時、ルイズの隣にダークライが現れる。

 

そのダークライとルイズに視線を動かしたシュヴルーズは、二人に聞こえる様に答えを言った。

 

 

「その使い魔について、重要な話です」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

シュヴルーズを広場に向かわせ、コルベールとオスマンの2人だけになった学院長室。

 

そこで、立ったまま鏡を見ていたシュヴルーズは、静かに床に腰をつけた。

 

 

「全く、とんでもない奴じゃ……」

 

 

決闘の全てを見ていたオスマンも、溜め息混じりにソファに体重を預ける。

 

見たことの無い魔法、見たことの無い移動方法、見たことの無い催眠術。余りにも未知の情報が多すぎて、些か疲れている様だ。

 

 

「オールドオスマン、やはりアレは『ガンダールヴ』です!王宮に報告をして指示を---」

 

「ならぬ」

 

 

それ以上の言葉に意味は無いと、ピシャリとコルベールの話を遮る。

 

 

「もし王宮に伝説の、未知なる強力な力を持った使い魔が居ると伝えれば戦いに利用されかねん」

 

「た、確かに……」

 

 

古来より、人間と言う種は他者より優れている物を基礎に戦いをしていた。もし国にダークライの身が知れれば、戦いに使われる事は予想をしなくても分かる。

 

 

「にしてもあの戦い方……ルーンが影響している様に見えなかったんじゃが」

 

「私もそう思います。一瞬だけ一層光った様にも思いましたが、それもさして影響はないようでしたし……」

 

「だとしたら、あの戦闘っぷりは素の力と言う事になるの」

 

 

最初から最後まで同じ動きで戦っていたダークライの戦闘は、勿論ルーンの補助無しであった。知識をつけている者でないと分からないかも知れないが、明らかに何かの補助を受けている動きではなく、とても慣れているかの様な動きだった。

 

それが分かったオスマンとコルベールは、感嘆の溜め息を大きく吐いた。

 

 




今回は登場したアイテムについて説明します。図鑑は次回ですね。さて、何が乗るでしょうねぇ。

『遠見の鏡』

遠くの物を見る事が出来る鏡です。今回は決闘の様子を観察する為に使ってました。追尾機能を完備しており、ロックオンした目標をストーカーして回る効果を持っています。広場上方から全面を見る事が出来るので、サッカーの試合を見る感覚で決闘の様子を見る事も出来ます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カウント

遅くなりました&グダりました。
申し訳ないです・・・
どうやら自分は説明が苦手なようで、今度はもう少し上手くやれる様に頑張ります。
それと、支援絵を頂きました!まだ出す場面では無いかなぁと思っているのでまだ掲載はしませんが、ダークライのとてもカッコイイ絵です、名前はご要望により伏せさせて頂きますが、ありがとうございました!烏滸がましいかも知れませんが、支援絵は有り難く頂戴致します!
では、続きです。


 

 

ルイズ達がシュヴルーズに連れてこられた場所は案の定学院長室であった。

 

中にいたオスマンがようやく来たかと言った様子で2人に微笑む。何処か違和感のある行動に、ルイズは困惑した。

 

ルイズが説明を求めようとするが、以外にもダークライが先手を切った。

 

 

「私ニ何ノ様ダ?」

 

 

低い声音でそう尋ねる。普通の人間には分からないが、その声は怒りを帯びている様だ。何時もよりワントーン低いのがルイズには分かる。実際はただ任務の邪魔をされた事に怒っているだけなのだが、ルイズは分からない。

 

なぜ機嫌が悪いのかルイズは聞きたかったが、それよりもオスマンからの返答を聴くのが優先とみて、静かに答えを待った。

 

 

「ミスヴァリエールの使い魔、名を何と言ったかの?」

 

「ダークライです」

 

「ダークライか。何とも見た目通りの響きと言うか……」

 

 

自分が名付けた訳では無いと付け加えたかったが、話が進まなそうなのでぐっと堪える。

 

 

「そのダークライのルーンじゃが、少し分かったことがあるんじゃ。だがまだ謎の多い部分がある。だから呼んだのじゃよ」

 

「ツマリ検証シタイノカ」

 

「そうじゃ。自覚しているかは分からんが、お主のルーンは少し特別でな」

 

 

特別なルーンと言う言葉は、少なくともルイズに衝撃を与えた。見たことの無いルーンだとか言ってコルベールがスケッチを取っていたのは知っているが、まさか学院長が直々に話をする程のものだとは思わなかった。

 

だが、どう言う意味で特別なのかで喜ぶべき物なのか嘆くべき物なのかが変わる。特別と言う言葉は悪意を込める事も出来る。それも、例えルイズが喜んでもダークライは嘆くものだと言う事もある。

 

その場合、ルイズはどうしていいのか分からない。もし自分がとっての吉報でも、ダークライにとって違ったら喜んでいいのだろうか。勿論、相手の心情を思って行動しなければならないだろう。

 

どちらにしろ、話を聞かなければ始まらない。幸いにもダークライはオスマンの話に関心を持っているようなので、ルイズは話を近くで聞いているだけで充分だろう。

 

案の定、特別の意味をダークライは聞いた。

 

 

「お主のルーン、形状が『ガンダールヴ』のルーンに似ているんじゃよ」

 

 

……言葉が出なかった。

 

神の左手ガンダールヴ。恐らくハルケギニアに居る人間は全員知っているであろう名前だ。史実にはあらゆる武器や兵器を自由に操る事の出来る始祖『ブリミル』の使い魔と言われている。

 

そんな伝説的存在が自分の使い魔?話が大き過ぎてよく分からない。考えようとしても余りの驚きに思考が停止してしまっていて考えられない。

 

人語を話せるダークライならば、その存在は知っているかと思われた。しかしダークライは首を傾げる。

 

 

「ガンダールヴ?何ナンダソレハ?」

 

「ふむ……ならば、始祖ブリミルは知っておるか?」

 

「知ラナイ、ソノ人間ガナンダト言ウノダ?」

 

 

ダークライはガンダールヴどころか、始祖ブリミル自体知らない。召喚される使い魔の多くはハルケギニアに生息する生物であるため、知識を持ったダークライが知らないはずが無い。そう思っていたルイズは訳が分からないと言った表情で固まっていた。

 

しかし、オスマンは何かを確信した様に頷いた。

 

 

「ダークライ、お主の素性を教えてはくれんか?」

 

「断ル」

 

 

突然出された問いをキッパリと切り捨てる。

 

 

「何故じゃ?」

 

「私ノ過去ハ私ノ物ダ」

 

 

つまり素性を教えると言う事は自分の過去をさらけ出すと言う事だ、とダークライは考えているのだ。

 

何か隠すだけの過去があったのかは分からないが、ルイズの中に謎は深まるばかりである。考えてみれば、今ダークライについて分かる事は名前と攻撃方法だけ。その攻撃も原理が分からない物だった。魔法かどうかも怪しい。

 

何かを聞こうとするとはぐらかす所も、余計に不信感を煽っている。

 

 

「所在も教えてくれんか?」

 

「駄目ダ」

 

 

ダークライは本当にハルケギニアの生物なのだろうか?召喚魔法が成功して嬉しくて考えていなかったが、ダークライの見た目は聞いたことも見たこともないものだ。ハルケギニアに関わらず、別の大陸に存在する生物かどうかも怪しい。

 

 

「固いのぉ。なら召喚される前は何をしていたか位は教えてくれんか?」

 

「……」

 

「本題に入る為の大事な材料じゃ。過去に関する話はそれ以上しないと約束しよう。駄目かな?」

 

「……ソレダケナライイダロウ」

 

 

ダークライに対しての不信感が増して、ルイズはダークライの事を怖がっている事に気付いた。素性も晒さぬ喋る未確認生物。驚異的な攻撃力を持ち、人間を眠らせる力を使う。

 

 

「ふむ、そういう事じゃミスヴァリエール」

 

「……マスター、ドウシタ」

 

 

もしかしたら、人間に危害を加えていた生物だった?

 

 

(……馬鹿ね、私は)

 

 

フッと浮かんできた疑問を振り払う様に小さく頭をふる。目の前に居るのはルイズの使い魔であり、少ない時間ながらも自分に仕えてくれたダークライなのだ。昔は何かしていたのかも知れないが、今はルイズの家族である。例えそれがガンダールヴであろうと、なかろうと。

 

くだらない思考をした自分を嘲笑う様に小さく笑った。

 

 

「マスター」

 

「え、なに?」

 

 

ようやく聞こえたダークライの声によってルイズの思考は一時中断される。

 

その仕草で話を聞いていなかったと察したオスマンは小さく溜息を吐き、再度ルイズに説明した。

 

説明を聞いたルイズに断る理由は無い。実際、少しでもダークライの事を知りたいのだ。カンに障らない限りの話は出来るだけ聞きたい所である。

 

 

「……マスターガ言ウノナラバ仕方無シカ」

 

 

ダークライも少し不機嫌そうな目をしながらも、渋々受け入れてくれた。恐らくそれ程知って欲しくない訳では無いのだろう。

 

 

「ココニ呼バレル前、私ハ寿命ニヨッテ死ヲ迎エテイタ」

 

 

唐突に始まった説明は、ルイズを驚愕させるに足る物だった。

 

 

ダークライは、ディアルガとパルキアに対峙したアリシアが産まれる前からゴーディの庭に住んでいる。それも、アリシアの祖母であるアリスが少女の時から。

 

ルイズはディアルガとパルキアが去ってから約90年後にダークライを召喚したのだ。この時既にダークライの年齢は200を優に超えており、寿命は既にギリギリだった。その為、ダークライはゴーディの庭の思い入れのある木の下で死を迎えようとしていたのだ。

 

寿命が尽きる寸前、ルイズはダークライを召喚した。ダークライは意識を失っている状態で召喚されたのは、脳が極限まで弱っていたせいである。

 

普通ならば、ダークライは召喚されて数分もたたずに永遠の眠りにつく筈だった。それなのに数時間後に目が覚めて、今も尚技を出せるまでに動き回れるのは、ダークライ自身も不思議に思っていた。だがなんせよく分からない世界である為、寿命が伸びる事もあるのかと自分の中で結論付けていた。

 

勿論幾ら魔法が発展した世界でも寿命を引き伸ばす魔法なんて有りはしない。ダークライが気にしなくなっていた事でも、ルイズ達にとっては不思議な事象だ。

 

 

「やはり、儂の予想は正しかった様じゃ」

 

 

ダークライの説明を聞き終わり、驚きで言葉が出ないルイズとは違い、オスマンの中でピースが一つ埋まった。

 

長く伸びた白い顎髭をさすりながら、オスマンはルイズとダークライに改めて姿勢を正した。

 

 

「ダークライ君、君が自分の寿命について疑問を抱かなかった事については置いておくとして、君は今自分の寿命がどれくらいあると思っておる?」

 

「……分カラナイ」

 

「君が生き長らえているのは、ミスヴァリエールのお陰なのじゃよ」

 

「……え?」

 

「君がルーンを与えた事でダークライ君が生き長らえていると言う事じゃ」

 

 

先程から進み過ぎる話に、情報処理が追いつけないルイズに更に情報が乗せられる。

 

どういう事です?とルイズが尋ね、ダークライが疑問の目をオスマンに向けた。

 

 

「ダークライ君、君は何を武器にして戦う?」

 

「……私自身ガ武器ダ」

 

「だろうな、そこが大事なんじゃ。『ガンダールヴ』は様々な武器兵器を用いて主を守ったと聞く。武器を扱う者は武器と共に生きる者じゃ。恐らく、武器の取り扱いだけでなく武器兵器の整備も『ガンダールヴ』は出来ていたのじゃろうな」

 

「……どう言う事ですか?」

 

「簡単に言えば、今ダークライ君は『ガンダールヴ』に生かされておるのじゃよ。『ガンダールヴ』のルーンによってな」

 

 

……意味が分からない。とダークライは思った。まず『ガンダールヴ』自体知らないのだから当然といえば当然である。

 

しかしルイズは違う。ガンダールヴを知り、ダークライを知っているルイズはオスマンの言っている意味が理解出来た。

 

 

どこの世界でもプロと言う者は自分の商売道具を大切にする。日本の侍が自身の刀を命と称す様に、自分の道具には命をかける者がプロ又は上級者と言うものだ。それは、あらゆる兵器という名の道具を扱っていた『ガンダールヴ』も同様である。伝説とまで言われているのならば、尚更だろう。

 

『ガンダールヴ』は武器を扱う。そして、今ガンダールヴのルーンが焼き付いているダークライは道具は扱わない。代わりに自分の体一つで戦うのだ。つまり、彼にとっての武器はダークライ自身と言う事になる。

 

『ガンダールヴ』のルーンが、彼の無意識を操り『武器』を整備する事は全く不思議ではない。

 

だが、勿論疑問も出てくる。

 

 

「ですが、どうやってダークライの寿命を延ばしているんですか?」

 

 

誰もが思っただろう疑問をルイズはオスマンにぶつけた。

 

 

「それの答えは、恐らくコントラクトサーヴァントにあるじゃろ」

 

 

コントラクトサーヴァント、召喚した者を使い魔にする為に行うその魔法によって使い魔にルーンが刻まれる。ルーンは使い魔に自然に刻まれる訳ではない。主となる者が魔法を使い魔に流してルーンを刻むのだ。その際に流された魔力の余りは使い魔に残される。

 

『武器』を扱う為には武器であるダークライを整備する必要があった。ダークライの最大の欠陥であった寿命を延ばす為には、ダークライに残った魔力を用いて無理矢理心臓を動かしていたのだ。その証拠と言わんばかりに、ダークライのルーンは常に動いていた。24時間ダークライの心臓を動かす為だろう。

 

勿論これはオスマンの予想に過ぎない。しかし、今までのダークライの証言と常に稼働しているルーンの現状を照らし合わせれば、そうとしか言えなくなる。

 

 

「もし儂の予想が正しければ、ダークライ君の寿命かいつ尽きるか分からん。コントラクトサーヴァントに用いる魔法にそれ程力は使わない筈だから、もしかしたら明日にも寿命が尽きる可能性もあるのじゃ」

 

 

重く放たれたオスマンの言葉に、この部屋の者は誰も答えなかった。

 

元は死ぬ筈だった者が生きているのは喜ばしい。だが、いつ死ぬか分からない恐怖は、主のルイズにはとても大きかった。

 

出会って一日。それでもダークライには思い入れがある。大切に思っている。馬鹿にされていたルイズの元に来てくれた家族なのだ。

 

それなのに何時死ぬかも分からないなんて、信じたくなかった。認めたくない感情と、嘘だと言って欲しいと言う感情が混ざり合い、オスマンに返答は出来なかった。

 

 

「ナルホド、理解シタ。ソレデ他ニハ無イノカ?」

 

 

しかし、自分の事であるにも関わらずダークライは平然と受け入れ、次の話題へと移ろうとした。

 

 

「ダークライ、大丈夫なの?」

 

「何ガダ?」

 

「だって……自分が何時死ぬかも分からないんでしょ?」

 

 

当然の疑問である。恐らくオスマンも同じ疑問を浮かべたであろう。

 

これに対して、何を言っているんだと言わんばかりに首をかしげた。

 

 

「私ハ既ニ死ヲ受ケ入レタ身ダ、今更騒グ事デモ無イ。ソシテ私ガ近イ内ニ闇ニ帰ル事ガ確定情報ナラバ、一々悩ンデイル暇ハナイト思ワナイノカ?」

 

 

まるで普通と言わんばかりに自身の死を受け入れている。死の瀬戸際を体験している者だからこそ、生ある時間を有意義に過ごしたいと思うのだろう。元からダークライは他人に感情を表現しないポケモンであり、感情を必要としていないポケモンでもある。主がダークライを思っていようとも、言葉だけでは理解出来ないのがダークライだ。

 

だから気の聞いた言葉も出さなければ、ルイズの心境も分かる訳がない。そんな効率の良さを優先したダークライの言葉は、ルイズの心を落ち着かせた。

 

 

(……うん、やっぱりそうよね)

 

 

ダークライが絶望の声を上げるシーンなんてルイズは想像出来なかった。いつも通りの余裕の声はルイズの調子を元通りにした。

 

 

「時間を大切にしたいならもう少し主人に打ち解けてくれてもいいんじゃないの?」

 

「私ハ毛嫌イシテイルツモリハ無イ」

 

「なら証として少しは貴方の過去を話してくれてもいいでしょ?」

 

「……何時カナ」

 

「曖昧なのは駄目よ。今日、今日には話して頂戴!私は貴方の全てを受け入れたいのよ」

 

「……覚悟ハシテ置イテ貰ウゾ」

 

「どんな内容だろうと、貴方の主を止める気は無いから安心しなさい」

 

 

嫌われる事は百も承知である。しかし、誰かと親睦を深めるには嫌われる事も必要だとルイズは考えた。

 

嫌われても構いはしない。ダークライに心を開いて貰う為には、何をしてもいいと言う覚悟があった。

 

しっかりとした意思を持って、ダークライを見る。「お前に私の過去を受け止め切れるか」と、ダークライもルイズを品定めする様に見返していた。その目を真っ向から見て余裕の意味を込めて小さく笑ってやった。

 

 

「あ〜、ちょっとこっちに意識戻して貰えるかの?」

 

 

目で語り合う2人に置いてけぼりにされたオスマンは悲しそうな表情をしていた。

 

その声を聞いた2人は意識をオスマンに戻す。この2人、特にダークライは別にオスマンに言われなくてもオスマンから話を聞く気だったのだが。

 

 

「おほんッ、ダークライ君に質問じゃが、自分の残りの時間は分かるか?」

 

「分カラナイ。ダガ残リ少ナイノハ確カナヨウダ」

 

「何で?もしかして体に異変でもあるの?」

 

「イヤ、ナイ。タダ先ノ戦闘時ニコノ刻印ガ一層輝イタ。恐ラク私ニ割イテイタ力ヲ少々用イテ攻撃ノ威力ヲ上ゲタノダロウ。想定以上ニ威力ガ高カッタ」

 

「なるほど、何か意図的に発動できる条件があるのか……どちらにしても、君の中にある力を使うと言う事は自分の寿命を削る事に繋がる可能性があるの」

 

「なるべく戦闘は避けるべきですか?」

 

「そうじゃな。やむを得ない時は仕方ないが、無駄な争いは避けるのが懸命じゃろう。今回の様な決闘は特にな」

 

「後悔ハシテイナイ」

 

「そういう事を聞いている訳じゃ無いのじゃが……」

 

 

そこまで話して、ダークライはとある重大なことを思い出した。

 

 

「……ソウダ、アノ戦闘ハ洗濯物ヲ畳ム為ノ近道ノ筈ダッタノダ」

 

「ああ、元はと言えば決闘を承諾した理由は洗濯物を早く片付ける為だったわね」

 

「せ、洗濯物を畳むために決闘したのか?」

 

「早ク任務ヲ終ワラセル為ニ決闘ヲ受ケタニ過ギナイ」

 

 

今回はダークライが魔法の戦いに興味があった事もあり、積極的に決闘を受け入れた。もし洗濯物を畳むと言う急ぎの命令が無ければ、ダークライは別の手を使って場を収めてただろう。

 

自分の任務の存在に気付いたダークライは少しルイズの顔を見て、扉に視線を移した。

 

 

「……洗濯物、畳マナクテハ」

 

 

ダークライの中の優先順位が変わった。ボソリと呟いたダークライは部屋から出ようとフワフワと移動する。

 

ルイズが引き止めようとした時、ダークライが先手をとった。

 

 

「マスター、洗濯物ヲ畳ンダラ図書館ヘ行ッテモイイノカ?」

 

「いいけど、もう話は聞かなくていいの?」

 

「何時デモ聞ケル。私ハシエスタヲ待タセテイタ」

 

 

それだけ言い残し、ダークライは影となって扉の向こうへと消えて行った。

 

 

「ミスヴァリエール、君の使い魔は何時もあんなに切り替えが早いのか?」

 

「ええ、少ししか一緒に過ごしてませんが、ダークライは一つの事に一生懸命になると周りが見えなくなる様です」

 

「なるほどのぉ。働き者と言う訳か」

 

「実際、良く動いてくれます」

 

「……いい使い魔を持ったな」

 

「ええ……本当に嬉しいです」

 

 

ダークライの後ろ姿を見ながら、2人は小さく笑っていた。あの後ろ姿を見れるのはあと何回か分からないが、少しでもダークライと共に過ごそうと、心の中でルイズは誓った瞬間であった。

 

話はまた今度にしようとオスマンがルイズに言った事によって、ルイズは安堵の息を吐いた。

 

一先ず、ルイズが原因の決闘では無いためお咎めはなし。ダークライに罪があるのだが、何かしようものなら眠らされそうなのでダークライもお咎めなし。ギーシュも大衆の面前で醜態を晒されたと言う事もあり何もなかった。

 

今夜、どんな話をダークライから聞くのだろうと思考を巡らしている時、オスマンが何気なくルイズに言った。

 

 

「それで、追わなくて良いのか?」

 

 

扉から出ていったダークライをルイズが急いで追いかけて行ったのは、その数十秒後の事である。




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『パッチール』ぶちパンダポケモン
タイプ:ノーマル
高さ:1.1m
重さ:5.0kg
とくせい:マイペース

『図鑑説明』
一匹ずつブチ模様が違うと言われているポケモン。その数は単純計算でも4294967296通りいるとされる。クルクルと渦巻き状の目とフラフラした動きは敵を惑わせる効果があると言われている。しかし、パッチールはマイペースの特性を持っているため自らの動きで混乱する事は無い。全能力が全体的に低いため、余程の事が無い限りバトルで使うトレーナーはいない。その為、ポケモンの歴史とトレーナーの記憶から少しづつ姿を消している。
しかし、ポケモンドリームワールド(PDW)では稀に馬鹿力を覚えている事がある。夢特性が『あまのじゃく』の為、攻撃する度に攻撃力と防御力が上がっていく。そのためただ要らないと切り捨てるには勿体無い部分もあるポケモンである。(しかし基礎能力が低い為馬鹿力中に殺られる事もしばしば・・・(筆者検証済み))
可愛い見た目である為愛好家も居る様子。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二つの告白 そして笑いへ

I'm back
と言う事で"少し"遅れました。この際弁明はしません、全然内容が浮かびませんでした。約1ヶ月で何とか仕上げました。出来はお察し。
それでは、続きです。

追記:今更序盤のカットしようとしていた部分が丸々入っている事に気付き、顔面蒼白になりながらも急いで全部ぶった切りました。2匹のポケモン?うーん、知らないですね(真顔)




 

 

 

学院長室から出たダークライは真っ直ぐ食堂へと向かった。

 

 

「ダークライさん!」

 

 

食堂の入口についた時、洗濯籠を抱えたシエスタが心配そうな顔で駆けてきた。

 

 

「スマナイ。予想外ノ自体ガ発生シタ」

 

「謝るのは私の方です。私のせいでダークライさんとミスヴァリエールが学院長室に呼ばれてしまって・・・」

 

「私ガ勝手ニヤッタ事ダ。オ前ガ気ニスル事ジャナイ」

 

「でも・・・」

 

 

罪悪感が残っているシエスタは更に言葉を紡ごうとしたが、ダークライが片手で制した。これ以上の話し合いは無意味と感じたからである。別に怒っている訳では無い。

 

 

「洗濯物ハアルカ?」

 

「あ、はい。畳んでおきました!」

 

 

抱えていた洗濯籠をダークライに渡す。中の洗濯物は全て綺麗に畳まれていた。

 

畳むという行為を知らなかったダークライは中の洗濯物を見て畳むと言う事を大まかながら理解した。

 

 

「折ルノカ」

 

「折ると言えば確かに折ってますね。畳むと折るの違いはその目的にあります。洗濯物を畳むと収納スペースが多く確保出来ますし、シワも最小限で済みます。手間はかかりますけどそれだけの価値はあると思います」

 

「ナルホド、ソレガ畳ムト言ウ事カ」

 

「でもただ闇雲に畳むだけじゃ余計なシワを作ってしまいます。衣類には畳む際の目印があり、畳む順番もあります。それらをしっかりと把握して居なければ貴族の方々に怒られてしまいます」

 

 

予想以上に面倒な事になった、とダークライは思った。折ると言うだけならばなんて事は無いが、手順が存在すると言うのなら簡単ではない。ダークライは覚えると言う事は得意だが、記憶のメモリ容量は出来るだけ取っておきたい。出来ることなら畳む手順なんて覚えたくは無い。

 

しかし、洗濯物を求めている者はルイズである。ズルでもすれば恐らくバレるだろう。バレたら何を言われるか分からない。ダークライにとって、ルイズに説教を喰らう方が面倒臭かった。

 

と言う訳で、仕方なくシエスタに畳み方を教えてもらう事にした。

 

 

「はい!僭越ながら、元よりダークライさんに洗濯物の畳み方を教えるつもりでした!」

 

「……ソウカ」

 

 

どういう訳か、シエスタのテンションが上がっている事に気付いたダークライに嫌な予感が駆け抜けた。

 

食堂は今は入れないため、ルイズの個室で洗濯物の畳み方を聞く事にした。

 

食堂からルイズの部屋に行くまで結構な距離がある。人間の歩幅ではそれ相応の時間がかかるため、それなりの無言の時間が流れると思われた。

 

 

「シエスタ」

 

 

しかし、歩いて数歩した所でダークライがシエスタを呼び止めた。

 

なんですか、とシエスタが足を止めてダークライへと向き直る。表情は読み取れないが、ダークライが何かを聞こうとしている事が感覚的に分かった。

 

 

「シエスタカラ見テ、私ハドンナ生物ダ?」

 

 

案の定、質問であった。だが予想だにしない質問にシエスタは少し戸惑う。

 

 

「ダークライさんは……優しい方です。確かに最初は怖かったですけど、使用人の私にも皆様と変わらず接してくれて、こんな私を頼ってくれる、優しい方ですよ」

 

 

心の底から浮かべた笑み。それはダークライの心を少なからず動かした。

 

 

「……私ハ、無意識ニ、無差別ニ他生物ニ悪夢ヲ見セル能力ヲ持ッテイル。ソレデモ、私ノ事ヲ優シイト言エルノカ?」

 

 

ただ、居場所が無くなるのが怖いダークライは、この能力を隠したかった。この能力のせいで、散々な目に合わされて来たのだから。

 

もしかしたらこの能力の事を話した時、ルイズに要らないと言われるかもしれない。そう思った。だから、誰にもこの能力の事を話したくはなかった。

 

それでも、目の前にいるシエスタの笑顔に触れて、ダークライは絞り出す様に静かに問を重ねた。この少女が走り去る事を覚悟して。

 

 

「悪夢は怖いですけど、夢はいずれ目覚めるものです。それだけでダークライさんを嫌うなんて、絶対にありませんよ」

 

 

変わらぬ笑顔で、シエスタはダークライに告げた。

 

正直、ダークライは唖然とした。何百年と背負ってきた能力を、この少女は考えることも無く受け入れたのだ。

 

ここは異世界。人の常識や価値観も違うとは分かっていたが、こうも簡単に悩みの種を消去されるとは思っても見なかった。

 

 

「……本当ニ、何トモ思ワナイノカ?」

 

 

現実味がなくて、もう一回聞き直した。

 

 

「何度聞いても変わりませんよ。私はどんなことがあっても、私を助けてくれたダークライさんを嫌う事なんて無いです」

 

 

真っ直ぐに、ダークライを見つめてシエスタが言った。

 

その笑顔が、昔見た少女と重なった。

 

 

「……ソウカ。私ハ……ココニイテモ良イノカ……」

 

「はい、ここは人間も動物も一緒にいる、皆の場所ですから」

 

『--ここは皆の庭だから--』

 

 

シエスタの言葉、それと共に反響するダークライを変えた懐かしの声。瞬間、ダークライの中に突っかえていた何かが消えた。

 

ダークライ一族は基本、決して群れる事の無い孤独な生き物である。しかしこのダークライは別の"何か"を護ると言う事を知ったダークライだ。既に別れを告げているポケモンの世界とは違う、新しい世界。ポケモンすら居ないこの場所でダークライは一人。この世界のダークライの居場所はここだけなのだ。失いたくないと思うのは当たり前だろう。

 

孤独から開放されていたダークライは、また孤独になりたくは無い。だからこそ、忌み嫌われる能力をルイズに知って欲しく無かった。

 

しかし人間の価値観の違いを知ったダークライに、既に恐れるものは無い。

 

 

(マスターナラバ、大丈夫カ)

 

 

と、妙な確信があった。今までの行動のせいだろうか。理由はダークライにも分からない。

 

でも、どうせなら、全て話してやろうと決めた。そして、ルイズにも隠していること全て話してもらおうと考えた。

 

同時に、隣で共に歩いている少女を見る。授業で誰もいなくなった廊下に響く小さな鼻歌。意気揚々と、楽しそうに口ずさみながらルイズの部屋に向かって歩いている。

 

ダークライがここまで人間に接近を許した事は少ない。有るとしたら、崖から落下している少女を助けた時と、ディアルガの攻撃を受けて意識を失いかけている時に勝手に介抱した者達くらいか。少なくとも、意識がハッキリとしている人間に自分から近付いた事は極端に少ない。

 

考えてみれば、初めての世界で自ら接近した少女もシエスタだった。シエスタに近付く時に何の躊躇いも感じない自分自身が、少し不思議だった。

 

ルイズに自分の真実を明かそうとする決意をしたのも、この少女のお陰である。そして、少なからずダークライの居場所を教えてくれたのも、この少女だ。

 

 

(マスタート秤ニカケラレンナ)

 

 

この1日で、ダークライの中の好感度の順位が変動した。

 

 

 

1位 シエスタ

 

2位 ルイズ

 

3位 サラマンダー

 

最下位 洗濯物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が始まって誰もいなくなった廊下を私は考え事をしながら歩く。

 

私の使い魔、ダークライが伝説のガンダールヴのルーンを宿している。その話を聞いた時はそりゃ驚いたけど、それ程不思議でも無いと後々になって思えてきた。

 

だってあんな喋る生き物聴いたことも無いし、悪魔だって言われたら信じてしまうほどの見た目をしているのよ。伝説の使い魔の証を持っているって言われても納得しちゃうわよ。

 

ダークライがガンダールヴだって言うのは複雑だけど嬉しい。でも、私はダークライの主として相応しいのだろうか?

 

伝説の使い魔の主、ガンダールヴの主と言えば始祖ブリミルで、その力は強大だったと言う。そんな偉大な人の使い魔が今の私の使い魔で、簡単に認めてしまう程の力を持っている。

 

でも、私は?今の私は魔法が使えなくて、ただ戸惑っているだけの何も出来ない貴族だ。いや、これじゃ貴族と胸を張って言えもしない。

 

ただ爆発させるだけの私なんかじゃ、ダークライの主失格よね……。

 

 

「……今の私は、出来ることをやるだけね」

 

 

出来ることが少ないなら、少ない中でもダークライに出来る限りの事を教えよう。そして、私も出来る限りの事をやって行こう。

 

ガンダールヴが使い魔だというのなら、もしかしたら私のこの爆発の力は与えられた物なのかもしれない。妄想とか言うな!そう思っても良いじゃない!

 

だから、私はこの力を鍛える事にするの。ダークライが眠らせる力を持っているなら、私はダークライを超える様な印象を植え付ける超爆発の力を手に入れる!主として、使い魔に劣るなんてやっぱり嫌よね。

 

少しでもダークライを超えたい。一部でもいいから、周りにダークライの主だと誇れる様になりたい。

 

だから、今は認められなくても、何時かみんなを見返すくらい強くなる。

 

 

「ダークライは、認めてくれるかな……?」

 

 

今日ダークライの過去を聞く。恐らく、あの使い魔の事だから私の事も聞いてくるだろう。

 

その時は、ダークライはどんな反応をするだろう。やっぱり皆見たいに私を拒絶するのだろうか……。

 

 

「……もしそうだとしても、言わなきゃ駄目よね」

 

 

隠していてもろくなことが無い。やっぱりあとが怖い。特にダークライに隠し事をしたらどんな目にあうかわかったものじゃないもの。やっぱり隠していて後からバレるより今言った方が怖さは軽減する気がする。

 

あ、ついでにダークライに学園生活と言う物も教えよう。それと、日常生活の基本も。うちの使い魔は何処か色々とおかしな所があるし。

 

 

「……自然に授業サボっちゃった」

 

 

今更とんでもない事を思い出して、少し心の中にモヤモヤが残った。

 

 

 

後に分かった事だけど、オールドオスマンが私にその時間の休みを作ってくれていた。感謝してもしきれない。

 

お陰で、ダークライとの話の内容を集中して考えられる時間が作れたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎて既に夜半。上空には二つの月が輝き、生徒達が自室へと帰っている。そんな中で、ルイズとダークライは学園の前に広がっている草原にいた。ここはダークライが最初に呼ばれた所であり、ダークライの寿命が伸びた所でもある。

 

風に当たりながら話を聞きたいと言うルイズの要望をダークライが承諾し、こうして夜風に吹かれている。

 

寒いような、暖かい様な風を背に受けながら、ダークライはルイズに全てを話した。

 

 

自分が別の世界から来たという事。

悪夢を見せる自分の能力。

 

 

それを黙ってルイズは聞いていた。異世界と言う話は余りにも非現実的で、滑稽な話だ。しかし、目の前にいるポケモンと呼ばれる生き物はハルゲニアでは見たことも無いし、聴いたこともない生き物である。それに加え、『モンスターボール』や『わざマシン』、『ポケモンセンター』等の知らない単語すら話す。有り得なくても、信じるに足る内容の話が多い。

 

そして何よりも、大切な使い魔の話である。例えどれ程の内容であろうとも、ルイズは最初から信じる気でいた。

 

ダークライの出身を全て信じたルイズは、次の話待った。ダークライの能力の話である。

 

 

「私ハ……」

 

 

今までとは違う、神妙な声でダークライは話を区切った。それだけで、ルイズはこの話こそダークライが打ち明けたくなかった話なのだと確信する。

 

数回息を吸う。ドキドキと煩く鳴る胸の鼓動を抑えながら、ダークライを待った。

 

そして、ダークライがゆっくりと言葉を発した。

 

 

「……私ハ、生物ニ無意識ニ悪夢ヲ見セル能力ヲ持ッテイル」

 

 

真剣な顔で放たれた言葉。ルイズは一瞬目を見開き

 

 

大爆笑した。

 

 

「あはははははははははッ!」

 

 

大草原不可避。爆笑必須。よりにもよって誰もいない草原でルイズは腹から大きく声を出し、ダークライの絞り出した真実の声を笑った。

 

 

「ナ、何ガ可笑シイ?」

 

 

珍しくダークライが戸惑う。勿論ダークライは本気で喋った。それこそ仇の名前を言うかの如く、腹を決めて。

 

なのに帰ってきたのは驚きでもなんでもなく唐突の大爆笑。驚かない方がおかしい。

 

 

「ハハハッ、いや、ごめんなさい。悪気は無いの。でも、貴方がそんなに神妙に話すから、つい……ふふ」

 

「私ハ本気ナンダ」

 

「分かってるわよ、でもね、たかが夢でそんなに本気になるかしら?」

 

 

昼間のシエスタと同じ種の言葉。しかしこうも爆笑されては何処か腹立たしい。

 

 

「私が悪夢だけで貴方を見捨てると思った?その世界の人間は随分神経質の様だけど、夢は何時か覚めるものよ。無理やり眠らせて無理やり悪夢を見せるなら最悪だけど、貴方に悪気は無いし、貴方を責めるのはお門違いと言うものでしょう?」

 

 

だから物置に住んでいるのね、可愛い所あるじゃない。と、一人納得した様に呟いているルイズを見て、ダークライは少し呆れた。

 

なんせ真剣に言ったのだ。それが爆笑で返されて、しかも真剣に話していたと言うことをルイズは分かっていた。タチが悪い。せめてもう少し笑いを堪えてくれればシリアスになっただろうに。これでもダークライ種は傷つきやすい。

 

だがそれと同時に、とてつもない安心感に包まれた。自分はここに居てもいいと。自分を認めてくれる数少ない者に、見捨てられずに済んだと。まあその安心感よりも傷ついた心の傷の方が大きい気がするが、結果オーライだろう。

 

 

(ココノ世界ノ人間ハ、面白イナ)

 

 

そんな事を思いながら、ダークライは今も尚笑いを堪えているルイズに目を向けた。

 

桃色の髪に整った顔。メスであるにも関わらず胸と言う物が極端に小さいこの主を、自分の悪の部分すらも受け入れたこの少女を、この先守り続けるであろう自分のマスターを改めて目に焼き付けた。

 

 

「いやぁ、緊張していた私が馬鹿みたい」

 

 

こっちの言葉だ、とダークライは心の底から思った。

 

 

「私ハ話タ、次ハマスターダ」

 

 

そう言って鋭い目でルイズを睨んだ。ドキッとルイズの心臓が動く。やはりwin-winの関係をダークライは求めていた。

 

 

「やっぱり、私の事も聞きたいの?」

 

「当タリ前ダ」

 

「……いいわ、でも私の話は笑えないわよ」

 

「ソウカ、ナラバ心シテ聞コウ」

 

 

そう言ってダークライはルイズの話を黙って聞いた。

 

魔法に関しての実績は無に近く、成功した実習は無し。どんな魔法をやろうとしても起きるのは大爆発。魔法の成功率はゼロ、魔法に用いた物質もゼロに返すことから、周りから呼ばれたあだ名はゼロのルイズだった。

 

どれ程努力しようとも、どれ程勉強しようとも成果が成さない。ライバル視する者は居ようとも仲間は居ない。だから、この事実を聞いたらダークライにも拒絶されるのでは無いかと思って話さなかった。錬金の魔法の時にはヒヤッとしたという。

 

 

「フッ……」

 

 

そんなルイズの話をダークライは鼻で笑った。

 

 

「なッ、何が可笑しいのよ!?」

 

「イヤ、仲間ガ欲シイノカ。ソウカソウカ」

 

「なによ!ほ、欲しいに決まってんじゃない!誰が好んで一人で居るもんですか!」

 

「気ヲ悪クシタナラ謝ル。ダガ、オ前ハソンナ自分ガ恥ズカシイノカ?」

 

 

その問を答えるのに、ルイズは少し間を置いた。

 

 

「……最初はそう思ってたわ。でも、貴方がガンダールヴなのかもしれないって知った時、もしかしたらこの爆発の力は特別な力なのかもしれないって思ったの。他の人に嫌われる、私だけの力。最初は嫌だったけど、あなたもこんな気持ちを味わっていたのよね」

 

 

ただ、黙ってダークライはルイズの話を聞いた。ダークライも悩んでいたが、そんなダークライの主であるルイズは、それ以上に悩みを抱えていた。

 

 

「だから開き直ったのよ、私は。魔法が出来ないなら、一層のこと爆発の力に全力を注ぐ。何時か誰かの役に立つと信じてね。そしてその時がきたらこの学校の皆を驚かせてやるの。ゼロのルイズはこんなに凄い貴族だったのかってね!」

 

 

徐々に笑顔を取り戻していくルイズ。そんな彼女を見て、またダークライは呆れたような目で見ていた。

 

 

「だから、私はもうこの力を拒んだりしない。寧ろ、誇りを持って生きようと思うわ」

 

「ナラ、モウ魔法ハ習ワナイノカ?」

 

「習うわよ。爆発もさせて魔法も出来るようにするわ」

 

「欲張リダナ」

 

「欲張りな位が丁度いいでしょ?」

 

 

そう言ってニッと笑う。その姿が妙に面白くて、ダークライは肩を竦めた。

 

 

「フッ、自ラ修羅ノ道ヲ行クノカ。ソレモ悪クナイ。ナラバ、私ハ使イ魔トシテマスターヲ支エヨウ」

 

「ふふ……ありがとう。頼りにしてるわ」

 

「アア、マスターガ嫌ウ光ハ、私ガ全テ飲ミ込モウ」

 

 

行く宛もなく、ただ仕方なく使い魔をしていたダークライはこの時、真に使い魔となった。

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『マスキッパ』虫とりポケモン

タイプ:くさ
高さ:1.4m
重さ:27.0kg
とくせい:ふゆう

『図鑑説明』
甘い匂いの唾液で獲物をおびき寄せ、大きな顎で食べるポケモン。ハエトリソウの様な見た目だが、残念ながらタイプのジレンマには逆らえず虫タイプが苦手。アニメでの出演が多く、マイナーと称していいか分からなかったが、ゲームでは全くと言っていいほど使っている者が居ないのでこうして書かせて頂く。これによって出来るだけ多くの人が使ってくれる事を願う。
攻撃と特攻が高いが素早さがえらく低い。そのため攻撃力を生かせない場面も屡々見られる。草タイプでは珍しく浮遊を持っている為、使い所はあるが、スピードがメインの草タイプでは鈍足と言うのはとても致命的である為、じめんタイプでなくとも殺られる事は多い。正直、モジャンボの方が強い。しかしパワータイプの草タイプと言う事もあり、パワーウィップは強力である。使い分ければ、強力なダメージを与える事も期待できる。それまでのお膳立ては大事であるが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〜2章〜 土と悪夢と世界の爪痕
街へ行ってみたい


初めての一万文字の調子はどうだ大佐ぁ?

最近実家に帰って屋根裏部屋を漁ったらダークライのフィギュアが出てきました。ええ、勿論持って帰りました。はい、私情です。
今回から新章と言う訳ですが、ここら辺から原作と少し流れが変わってきます。
では、続きです


 

ダークライがルイズの使い魔となってから約一週間が経過した。その間、ダークライは様々な事を経験して解決方法を模索し、ルイズは爆発の魔法をより明確な物にしようと実験したり、ダークライに仕事を教えていた。

 

2人の間で変わったことといえば、ダークライがルイズを呼ぶ時名前で呼ぶようになった事と、2人の間で隠し事が禁止になった事だ。

 

 

日課とされている仕事を二日目から完璧に覚えたダークライは、毎日マイペースに過ごしている。

 

主にダークライが毎日行っていることと言えば、朝ルイズの着替えを手伝って服を洗い、本を読んでルイズと共に授業に参加する。主と共に使い魔は授業を受けなければならないと言う理由もあるが、ルイズが誤って物を爆発させた時に瞬時に対応する為でもある。

 

昼食になったら本を読み、たまにシエスタと話したり洗濯物を畳んだりする。午後の授業を退屈しながら過ごし、夕食時には少し体を動かして、ルイズの世話をして倉庫(ダークライの家)に戻る。本からの知識の過剰摂取のおかげで、ダークライの言葉は結構流暢になっていた。

 

そしてダークライはこの一週間の間で、この世界について少し分かった事がある。それはこの世界にはダークライの世界にいた者も何体か来ていると言う事。そしてこの世界には新月が無いと言う事である。これが一番厄介だ。

 

ダークライは新月に闇を吸収する事で一ヶ月間の活動エネルギーを貯める。幸いにも召喚された日の前日が新月でまだ食事に余裕があるが、何とかしなければ長くは持たない。毎日コツコツと少ないながらも闇を吸収すると言う手もあるのだが、それではダークライのエネルギー消費速度に追いつかない。それだけ新月の夜はダークライにとって重要な日なのである。

 

この話をルイズにしたところ、「な、え!?じゃあどうするのよ!空腹で死ぬなんて許さないわよ!!」と涙目で言われてしまったので、ダークライにとっては空腹問題の解決が最優先となっている。

 

夜はダークライにとっては活動時間であり、何かを考える時に最も頭が冴える時間でもある。睡眠時間は僅か2、3時間。それでも充分な力を発揮するのは、ひとえに新月の力の貯蔵が有ればこそだ。しかし、この世界には新月が無いので、どうにかして代わりのエネルギー源を見つけ出さなくてはならない。

 

ルイズの世話をしてルイズを守り、様々な事を学びながらダークライはこれからの事を考えなければならない。普通の人間ならば過労死するレベルだろう。労働と言っても過言ではない。ダークライだからこそ出来る事である。

 

 

さて、そんなダークライは今とある欲求にかられている。それはこの世界の物質、この世界の植物や食物をよく知りたいと言う欲求だ。

 

植物で薬等を調合すればもしかしたら今の問題を解決出来る物が出来るかも知れないし、その様な薬が売ってるかも知れない。

 

と言う訳で

 

 

「街に行ってみたい」

 

「何よ急に・・・?」

 

 

ベッドの上で暇を持て余しているルイズにダークライが言った。突然の事で少し疑心暗鬼になるルイズ。それを気にせず、ダークライは要件だけを言う。

 

 

「私の食料問題を解決出来る糸口が見つかる可能性もある。使い魔だけが、それも私が単独で行く訳にも行かないだろう」

 

 

ご最もである。見た目がおどろおどろしいダークライが街中に単独で現れたら、一体どんな混乱が起きるか分かったもんじゃない。余りに危険過ぎる。主に街の人々が。

 

そんな危険性を一番よく分かっているルイズは二つ返事で了承した。使い魔とのスキンシップを大事にしたいと思っているルイズにとっては楽しいイベントである。断る理由は元から無い。

 

そんなこんなで、ルイズはダークライと共に少し離れた街へ行く準備を意気揚々と始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダークライは既に学校の者から怖がられている。それは、無謀にもダークライの真実(という名のよく分からない何か)を探そうとして、ダークライの家に入り込んだ者が始まりだった。

 

マリコルヌと言う生徒はダークライを陥れようとダークライの秘密を探し、夜中に彼の家へと突入。しかし入ってみたらダークライに不審者と勘違いされてダークホールを放たれ、悪夢を見せられた。ルイズがそれを知った時には既にダークライがマリコルヌを倒した噂が広まっており、ダークライへの不信感は全校生徒へと広がって行った。

 

因みに、今現在マリコルヌは精神不安定で保健室に寝たきりである。毎日苦しい表情で魘されているので、誰もダークライに近づこうとはしなくなった。そんな彼に付いたあだ名は【暗黒の悪夢】である。ネーミングセンスはこの学園に存在しない。

 

そんなダークライが廊下を歩けば人集りは一瞬で消え、廊下から人がいなくなる。おかげで、ルイズはダークライと共にいる時間が長くなった。マリコルヌには悪いが、この環境はルイズにとって都合が良かった。

 

 

「さて、それじゃあ行くわよ」

 

 

そう言いながらルイズは馬に股がった。ダークライは飛行、もしくは影で移動する事にした。馬に乗るより楽という事もあるが、馬がダークライを全力で拒否するから乗ろうにも乗れない。

 

これから問題の使い魔と主が出かけようと言うのに、周りの生徒は誰も出てこない。これも、ダークライへの恐怖のお陰である。余計な詮索をされなくて済む。

 

こうしてなんの苦もなく旅支度を整えたルイズとダークライは街へと向かった。

 

 

 

 

その姿を、自分の部屋から覗いている者が二人いた。

 

 

「タバサ、あの2人出掛ける見たいよ?」

 

「・・・そう」

 

「気にならないの?」

 

「別に何処に行こうと2人の勝手」

 

「まあそうなんだけど・・・」

 

 

真っ赤な燃えるような髪の少女、キュルケと青色の髪の少女、タバサである。2人はルイズをよく知っており、ダークライの事も根はいい子だと分かっている。だからこそ、2人はルイズ達の行動を監視する事が出来る。

 

 

「・・・でも、確かに、あの使い魔について知りたい事はある」

 

「そうでしょう?私も私の使い魔が怯える理由を知りたいの。今までなかなかチャンスが無かったから、これは絶好の機会よ!」

 

「でも今日は虚無の曜日。休日を返上してまで追いかける需要は無いと思う」

 

「楽しそうじゃない!」

 

「・・・ええ、まぁ、うん・・・」

 

「じゃあ決まりね!」

 

 

楽しそうに自分の部屋から出ていくキュルケ、それを面倒くさそうに追うタバサ。2人は学園から出て、草原真ん中に立つ。そしてタバサが合図をすると、上空から一匹のドラゴンが舞い降りた。

 

タバサの使い魔、シルフィードである。白色にも似た色の体色のそのドラゴンは「きゅいきゅい!」と奇妙な鳴き声を発し、タバサとキュルケを軽々と自分の背に乗せた。

 

数回の羽ばたきは辺りに風を起こし、草原の草を揺らす。そしてシルフィードはふわりと浮き上がり、ダークライの後を上空から追うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

その光景を物陰から見ていたギーシュはため息を吐きた。

 

 

「あの使い魔について知りたい気持ちは分かるけど、あんなの見せられたら近づこうにも近づけないよね・・・」

 

 

ダークライとの決闘のあと、身体の回復後直ぐにダークライとルイズに謝りに行った。ルイズは同じ過ちを繰り返すなと釘を刺し、ダークライは何も言わなかった。

 

しかし、彼はダークライに見せられた悪夢の中で、ダークライの存在を確かに確認した。

 

異空間と呼ぶに相応しい空の色、鉛色の空には光が散り散りと発光し、その元には空中に浮かぶ大きな街がある。その中で、2体の大型の魔物と1体の黒い魔物が対峙していた。

 

1体はギーシュと決闘したダークライ。それは分かった。だが、ほかの青色と桃色の魔物は見た事が無い。その2体に攻撃し、攻撃を躱しながらダークライが空中で起動戦を繰り返している。

 

街の中で、誰かが言った。"2体の神、ディアルガとパルキア"と。間違いなく、その2体はあのダークライと戦っている魔物だろうと、ギーシュにも分かった。

 

何度倒れても、何度ダメージを受けようとも立ち上がり、戦うダークライの姿にギーシュは恐怖を覚えた。だがそれと同時に、ギーシュの心が震えた。

 

倒れても、倒れても立ち上がり、何度でも圧倒的と思われる神々に戦いを挑む。そんなダークライは、正にギーシュが目指す騎士を彷彿とさせた。

 

それが、ギーシュの見た悪夢。最終的にダークライの戦闘を見入っていたギーシュは、瓦礫に潰されて目が覚めた。

 

 

改めて、あんな化け物と戦闘を挑んだ自分が愚かだったと思う。思い出す度に昔の自分を殴ってやりたい衝動に駆られる。

 

 

そんな経験をした彼は、あれが夢だとは信じられなかった。まるで現実の様な感覚、五感が研ぎ澄まされ、家が消える音や土の感触も覚えている。

 

恐らく、あれは現実だったんだろう。どう言う意図かは知らないが、ダークライはギーシュにダークライの生き様を見せたのだ。

 

 

(僕が軍人の家系で育った事を見抜いていたのだろうか?)

 

 

ダークライの戦いは正に、軍人としてあるべき姿であった。弱き者のために身を粉にして戦う姿は、ギーシュに大きな影響を与えた。

 

 

「彼と接触したら、僕も彼の様になれるだろうか?」

 

 

そう思いながらも、彼はあと一歩が踏み込めずにいた。

 

 

因みに、ダークライはギーシュに意図してあの戦いを見せた訳ではなく、面倒臭かったから適当に選んだ場面である。それを彼が知るのは、少し先になる。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ルイズ達は既に学園の敷地内から抜け、街の一部が見える所まで来ていた。少し意地悪で、ルイズが馬を全速力で走らせたのだが、思いの他呆気なく影に入ったダークライが着いてくるので、ルイズは意地で馬を加速させ、ダークライはただただそれに着いていく、と言うのをループしていたら数十分で街の前まで着いてしまった。ルイズは馬が息切れしている所を初めて見て、少し驚いた。何よりも馬が可哀想である。

 

 

「あれが・・・」

 

 

そんなルイズと馬の気持ちを知ってか知らずか、影から出てきたダークライが馬上のルイズに聞く。ずっと影の中から着いてきていた為、久しぶりに声が聞けて少し嬉しくなったルイズは、嬉嬉としてダークライの質問に答えた。

 

 

「そう、あれがこれから行く街よ。大きな街だから、何か発見があるかも知れないわ。今日は多めにお金を持ってきたから、大抵のものなら買ってあげられるわよ!」

 

 

ふんッと胸を張る。それに対して、ダークライは抑揚の無い声で応えた。

 

 

「楽しみだ」

 

「あんた、本当に楽しみと思ってる?」

 

「思っている」

 

「ああ、そう・・・」

 

 

コイツの本心はいつまでたっても分からないなと、改めて思ったルイズだった。

 

数分後、ダークライとルイズは街に到着した。出来るだけ混乱を招きたく無い為、ダークライは影の中に入ってルイズの後を行く。隣にいる訳ではなく、常にルイズの後ろにいた。それには訳がある。

 

 

「ルイズ」

 

「ん、どうしたの?」

 

 

裏路地に差し掛かった時、影から頭部だけ出したダークライがルイズに話しかけた。

 

 

「先程から我々を追ってきている者がいる」

 

「私達を?何時から?」

 

「学園からだ。上空から我々を監視している」

 

「学園から?」

 

 

ダークライが示した方向を見るが、それらしき者はいない。一部建築物に隠れて見えないが、上空にはとても綺麗な青空が広がっていた。

 

 

「何もいないわよ?」

 

「数百メイル先だ。目視は出来ないだろう」

 

「なんであんたは分かるのよ?」

 

「視線を感じた。加え、小さかったが私に感しての話し声が先程から聞こえている。少女と思わしき2つの声。聴いたことのある声だ」

 

 

ダークライは優れた聴覚を持っているとルイズは再確認した。視線はどう感じたのだろうと思ったが、神2体を追い払った者は恐らく第六感と言う物が冴えているのだろうと勝手に解釈した。

 

パルキアを誰よりも先に見つけた時と同じ要領で、ダークライは後方から近づくタバサ達の存在を知ったのだ。轟音に紛れて僅かに聞こえたパルキアの鳴き声を聞き分け、何時もとは違う街の気配をダークライは捉え、パルキアを見つけ出した。

 

空間を操る者を見つけ出したのだ。そんな神業とも取れる芸当を感覚のみでやってのけたダークライならば、遠くの者を見つけ出すことくらい簡単だ。

 

さて、この時ルイズは聞いたことのある声と言う単語に疑問を持った。確かに学園で生活していれば数多くの生徒の声を聴くだろう。だが、ダークライにって周りの人間の声なんてなんの意味もなく、易易と受け流せるものだ。それなのにダークライが覚えているほど印象に残る声2人とは、ルイズと関係のある女性の声に間違いない。

 

 

(・・・キュルケとタバサ?)

 

 

あの時、ダークライが決闘していた時に話していた2人のならば、ダークライは記憶に残っているだろう。この1週間の内でも2人とはよく接触していたし、ダークライが何かしらの理由で覚えていても不思議ではない。

 

ダークライは害は無いとみなしている。ダークライがいうのだからそうなのだろうとルイズは思い、買い物を再開した。

 

 

 

 

 

「・・・バレた」

 

 

街の上空でポツリとタバサが言う。

 

その声の意味が分からず、キュルケはもう一度言ってとタバサに催促した。

 

 

「彼に見つかった」

 

「嘘でしょ?何百メイルあると思ってるのよ?」

 

「間違いない。先程から馬の後ろについて主を私達から守っている様に見える」

 

「この距離でバレるってどれだけ化け物なのよ・・・」

 

「今分かった事じゃない」

 

 

一抹の恐怖感を覚えたキュルケ、そして更にダークライについて知りたくなったタバサであった。

 

 

 

 

 

地上に戻ってルイズ達。色々な薬品の店を回り、ビエモンの秘薬屋と言う店にも行ったのだが、ダークライの求める様な闇をどうこうできる薬は無かった。勿論、そんなものがある訳ない。それこそ裏路地の闇商店でも行かなければ無いだろう。分かってはいる。

 

だがそんな所に行く勇気はルイズにはない。確かにダークライと共に行けば怖いところは無いが、闇商店に貴族が出入りしたなんて噂が広まった日にはヴァリエール家末代までの恥となる。

 

どうしたものかと悩んでいると、ダークライが急に止まり、影から出てきた。

 

 

「武器屋か・・・」

 

「武器屋?」

 

 

ビエモンの秘薬屋の近所に、剣の形をした店があった。武器も使わないダークライがなんでそんな所に行きたいのかと聞いてみると、意外な答えが帰ってきた。

 

 

「この世界で杖以外の武器は余り見たことが無い。興味がある」

 

 

ポケモンの世界には近接武器と言う物が極端に少ない。小銃やガンシップはたまに見るが、ダークライはこの様の旧世代の武器には多少なりとも興味があった。ただ知らない事は出来るだけ少なくしたいと言う思いでルイズに提案しただけなのだが、ルイズはどう言う訳か深読みした。

 

 

「・・・ダークライ、アナタもしかして早く死にたいとか思ってる?」

 

「何故だ?」

 

「だって武器なんて買ったらその武器に魔法が使わちゃうかも知れないじゃない!そんな事したら寿命が減るわよ!」

 

「私は使うなんて言っていない。ただ興味があると言ったんだ。それにそんな物で寿命を減らす様な馬鹿ではない」

 

「・・・本当?」

 

「本当だ。あの時の誓いに偽りは無い」

 

 

因みにあの時とはルイズとダークライの秘密を共有した時の事である。(前話参照)

 

ダークライは誓いは守る。やると決めた事は最後まで突き通す男と言う事はルイズもよく知っている。だから、そんなダークライの言葉を信じてルイズはダークライを連れて武器屋へと入った。

 

 

武器屋の中は昼間とは思えないほど暗く、ダークライの住む倉庫の中並みに明かりがない。あるは小さく照らすランプの灯のみ。店の奥にいる50後半のオヤジがパイプを蒸しながら、入ってきたルイズを訝し目に見る。そして後ろから続いてくる邪悪な者を見てギョッとした。

 

 

「だ、旦那、貴族の旦那。うちは真っ当な商売しまさぁ。お上み目をつけられる様な事なんかこれっぽっちもありませんや!」

 

 

怯えた様子で言う店の主人に、客だから安心しなさいとルイズがなだめる。それでも興奮は収まらず、主人はダークライを見ながら言った。

 

 

「ですが、貴族が剣を使う何て聞いたことがありやせんで、少々戸惑いが・・・」

 

「使うのは私じゃないわ。ここにいる真っ黒な奴は私の使い魔なんだけど、コイツが武器を見たいって言うもんだからこの店に来たのよ。気に入った物があったら買うつもりだから、何かオススメはないかしら?」

 

 

これはいいカモが来たと、主人は目の色を変えた。それならばと店の奥に消えていく主人を見送って、ルイズは深くため息を吐く。

 

 

「・・・なんて言っちゃったけど、ダークライ、本当に買うの?」

 

「ああ、研究材料と思ってくれればいい」

 

「使わないのよね?」

 

「・・・使うかも知れないが、魔法を使う事はない」

 

「約束よ?」

 

「分かっている」

 

 

2人が会話をしていると、店の置くから主人が多数の剣を持って帰ってきた。そして「店一番の業物!」だとか「貴族の間では剣を持たすのが流行っている」だとか言って多くの剣を見せる。だがダークライにとってはただの着飾った物でしかなく、やろうと思えばポケモンの世界でも作れそうな物ばかりだった。

 

そんな時、ダークライはゴミのように積み上げられた剣の中から声がしたのを確かに聞いた。

 

 

「ヤベェ、やべぇよ・・・」

 

 

そんな低い男の声だった。なんだと思い、ダークライは主人の言葉を遮って剣の山を漁る。サイコキネシスで剣の山の中からピンポイントでその声の正体を持ち上げた。

 

その声の正体は、寂れた剣だった。

 

 

「うおおぉぉッ!?」

 

 

急に体が宙に浮いたことで戸惑いを隠しきれないその剣は、大声で叫びながらダークライのサイコキネシスに体をクルクルと動かされる。

 

 

「コイツが喋っているのか?」

 

 

そんな剣よりも低い声音でダークライは主人に聞いた。今まで口を開かなかったダークライが急に声を発した事で一瞬戸惑ったが、主人はその剣について説明した。

 

 

「ソイツは意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。どんな物好きがやったか知らねぇが、こんなお喋りな剣を作っていきやがって、こちとら迷惑してんですよ。おかげで客も逃げちまう」

 

「インテリジェンスソード・・・」

 

 

聞いたことの無い剣の名に、ダークライは興味を持った。そして宙に浮いているインテリジェンスソードを見ると、剣がダークライに語りかけてきた。

 

 

「お、お前さん悪魔だろ?いや答えはいらねぇ!そうに決まってらぁ!」

 

「ほう、私の事を少なからず分かるのか?」

 

「あたりめぇだろ!こんな邪悪な力に浮かされてりゃあ嫌でも分かる!それにあんた、使い手だろ?」

 

「使い手?なんの事だ?」

 

「なんなのかは俺も分からん。でもこの力から何か懐かしい物を感じてんだよ」

 

「懐かしい?」

 

「何分400年も生きてるもんで忘れちまった。だが、いつかは思い出すかもしれねぇよ」

 

「・・・ふむ、余計に面白い」

 

「お前さん、俺を買うのかい?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「へぇ・・・悪魔の使い手に使われるのも悪かねぇか。久しぶりに面白くなりそうだ。宜しくな、相棒!」

 

「相棒か・・・使うかは分からんが、これから頼む」

 

「おう、このデルフリンガー、悪魔の剣になってやるぜ!」

 

 

そんな会話を終えたダークライはルイズに剣を渡した。

 

 

「こんなのでいいの?もっと綺麗なのにすればいいのに」

 

「喋る劔は私の世界には無かった。興味がある」

 

 

基本、興味がある物は何でも欲しいダークライである。ダークライが言うのならと目を瞑り、ルイズはそそくさと会計を済ませた。

 

喋り過ぎで迷惑していたのだろう、とても安かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何事も無く学生寮に戻った2人は毎日の日課を済ませた。そしてルイズはキュルケとタバサに話を聴きに出かけ、ダークライは倉庫で喋る剣、デルフリンガーとちょっとした会話をする事にした。

 

デルフリンガーを買った理由、喋って面白く珍しい剣だったからと言う事もあるが、一番の理由はダークライのルーンについて知っている口振りだったからだ。この剣に、寿命の延命や食料問題解決の糸口が見つかる可能性もある。400年生きていると言っていたのだ、少しはいい情報が有るだろう。

 

 

「さてデルフリンガー。お前に二、三質問がある」

 

「お、なんだ相棒?」

 

「コイツの魔力を増幅させられないか?」

 

 

そう言って、ダークライはデルフリンガーに手のルーンを見せた。

 

 

「魔力の増幅は無理だな」

 

 

即答だった。

 

 

「そんな使い方は考慮されてねぇのよ、使い魔のルーンってのは。まず、ルーンの残りカスで寿命を伸ばすなんてのも前代未聞だ、もしかしたら知っているのかも分からんが、忘れちまったよ」

 

「そうか・・・」

 

 

声のトーンは変えないが、明らかに落ち込んでいた。それは一番近くにいるデルフリンガーもよく分かる。

 

 

「なら次だ、私は闇を食料として生きているが、今の私にはそれが無い。何処かにこの問題を解決出来る何かはないか?」

 

「闇を食ってる?そりゃおでれぇた。本当に悪魔だな、相棒は」

 

 

そう言ってカタカタと笑うデルフリンガー。ダークライは真剣なので、呑気なこと言ってないで早く教えろと催促する。

 

 

「闇を扱っている奴なんて聞いたことは無いが、似たような感じのものを扱っている連中なら知ってるぜ。それでもいいか?」

 

「少しでも足がかりとなる物は欲しい」

 

「分かった。その連中ってのはエルフと言う森に住む原住民だ。闇とは対照的だが、光の様な物を操っていると聞いた事がある。もしかしたら、闇の力について何か知ってるかもしれないぜ?」

 

「エルフ・・・」

 

 

書物で読んだ事があった。尖っている耳が特徴で、形態は主に人型であると言われている。なかなか出会えない連中と言う事は知っているため、ダークライは小さくため息を吐いた。

 

 

「見つけるしか無いか・・・」

 

 

場所すら分からない物を見つけると言うのは困難を極める。樹海の中から特定の石を見つけるレベルの難しさだ。しかも、その石は自身を隠すことに長けていると言う。どれだけ時間がかかるか分からない。

 

そんなに時間をかけて探すほど、ダークライに余裕はない。こうなってしまえば、この現状を打開するのは絶望的だろう。

 

空腹で死ぬのが早いか、それとも寿命が尽きるのが早いか。ダークライの体の中で二つの死が競走を始めていた。

 

 

「まあそんなに悲観するなよ、相棒。もしかしたら、これからエルフの場所を知っている連中が出てくるかも知れないぜ?」

 

「だといいが・・・」

 

 

まだ不安が残るルイズを出来るだけ長く支えていたいダークライである。烏滸がましいと分かっていても、やはり長くルイズの隣に居なくてはならない。だがどれだけ強いダークライでも、自らの寿命には耐えられない。

 

無理矢理体を植物状態にして、消費エネルギーを抑えると言う事は一応可能だが、そうなるとルイズに迷惑がかかる。

 

こうなれば、デルフリンガーの言う通りいつ来るかも分からない情報提供者を待つか、死が体を蝕む前にやれるだけやって死ぬかどちらかを選択しなくてはならない。

 

 

「・・・なあ、相棒。難しい事は後で考えた方がいいんじゃ無いか?あの娘に相談するのも悪かねぇと思うぞ」

 

「余計な心配をさせるだけだ」

 

「ハァ、いいか相棒。ああ言うタイプの女ってのは自分と気持ちを共有して欲しいって思うもんなんだよ。相棒ばっかりに重荷をおわせたくないって思ってるだろうさ」

 

「そうなのか?」

 

「俺は今まで色んな女を見てきた。間違いねぇよ」

 

「相談か・・・」

 

 

そんな事を覚えてるのになんで肝心な事は覚えてないんだと思うが、デルフリンガーの言葉には妙な説得力があった。

 

 

「そうだな、話してみるか」

 

 

そう呟いて、ダークライはデルフリンガーを浮かせた。寂れて動かなくなったドアを開けずに、下の隙間から影となってダークライだけ出る。後からデルフリンガーをサイコキネシスで隙間から持ってきて、ルイズの元に向かおうと動き出した。

 

 

(なんて言ったらいいのだろうか・・・?)

 

 

そんなことを考えながら、ダークライはルイズが居るであろうキュルケの部屋に移動する。

 

 

 

 

 

 

しかしその思考は、遠くから聞こえてくる轟音と、聴いたことのある爆発音によって中断された。




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『バクオング』
タイプ:ノーマル
高さ:1.5m
重さ:84.0kg
とくせい:ぼうおん

『図鑑説明』
大声の振動で地震を起こす。体に空いた穴から空気を吸い込む音が聞こえたら、大声を出す前触れだとされている。ポケモン版ジャイアンのような存在。ポケモン世界に多数存在する【簡単に地震起こせちゃう系ポケモン】の中でヒッソリと存在している。紫色の見た目に大きな口、厳つい目と、とてもユニーク溢れるポケモンであるが、大口型のポケモンは多数いるので、余り目立っていない。
強さは中の上くらい。特出すべき点はなく、レベルが上がると平均的にパラメーターが上がる。そのあまりの平均さに、使う人は少ない。何よりも見た目が凶悪で、子供が何人も涙を流したと噂もある。
この様な理由で、長らくマイナーとされていたバクオングだが、実は技の数が非常に多く、充実している。そのため、敵にバクオングを出されると何をしてくるか分からない不安感に駆られる。
XYで上方修正され始め、今後が期待されるポケモンである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対巨像戦

お久しぶりでございます、そして遅れて申し訳ありませんでした。
なかなかの難産でした。まあ、難産だからって出来がいいとかそういう訳では無いのですけれども……
一先ず何とか苦し紛れに出来た続きです。出来はお察し……

追記
後書きポケモン図鑑書きました


『土くれのフーケ』と言う通り名を持つ盗賊が居る。錬金の魔法を用いて扉や壁を粘土や砂に変え、あらゆる物を盗み出す。その目撃情報は少なく、フードを被っていると言う事ぐらいしか分かっていない。固定化の魔法を用いても破ってくる為、貴族の中では悪い意味で有名人である。

 

しかし、全てが全て静かに盗み出す訳ではなく、時には某機動戦士もビックリの30m近くの土のゴーレムを作り出し、宝物庫や貴族の家を破壊しまくる。そして貴族らが反撃出来なくなった所で大胆に盗み出す。

 

並の貴族ならゴーレム程度ならば対処できる。しかし30mともなれば話は別だ。ただの魔法程度なら意にも返さずに進撃を続ける。どう足掻いても動き続ける圧倒的な存在は、貴族達を恐怖に陥れていた。

 

99%の確率で盗みを成功している土くれのフーケが次に選んだ場所、それがトリステイン魔法学校である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なゴーレムが現れたのは、ダークライとデルフリンガーとの話が佳境に入った時だった。

 

 

ズウゥゥゥン… ズウゥゥゥン…

 

 

数秒置きに響き渡る轟音、音と共に地が大きく揺れ、倉庫の中の瓶やら木箱やらをガタガタと鳴らす。度々何かを踏み壊しているのか、爆発音が鳴り響いた。

 

 

「あれはなんだ?」

 

 

倉庫から出てきて上空へとやって来たダークライが、共に宙に浮くデルフリンガーに聞く。

 

眼下に見える巨大な人型のソレは、とても生物とは言えない無機物の様な肌をしている。そしてその人型の肩に乗るフードを被った人間が一人。常人ならば暗闇で顔を認識することは出来ないだろうが、元々夜行性であるダークライは隠された顔を見ることが出来た。

 

度々学院内で見かける女の教員で間違いない。ダークライは名前を知らないが、ミスロングビルと言う女教員である。

 

 

「あの肩にいる奴は知らんが、うるさいのは知ってる。あれはゴーレムだ。それも随分とデカイ。出来もいい見てぇだ」

 

「私もゴーレムとは対峙した。あの様なサイズでは無かったが……ゴーレムはあの神共よりも巨大になるのか」

 

「……あ〜、悪い相棒。お前さん神と対峙した事あるのか?」

 

「空間と時間の神らしい。倒し切れなかったが、退きはした。人間の助けもあったがな」

 

「おでれぇた……まさか神様と戦って生きてるなんてな……つくづくお前さんが末恐ろしくなってきたぜ」

 

 

そんな話をしている内に、ゴーレムは一つの倉庫の前で止まり、その扉を殴り始めた。

 

 

「アレは何してるんだ?」

 

「恐らく倉庫をぶっ壊そうとしてんだろ。倒しに行かなくていいのかい?」

 

「被害者が出ないのなら、倉庫の一つや二つどうなったとて私は知らない。ルイズが関わっているなら別だがな」

 

「は〜、生粋の主馬鹿って奴だね。と言うかそろそろ俺っちを持ってくれない?この力で浮かされると寒気が止まらないんだけど……肌も無いのに鳥肌になりそうなんだけど」

 

「こっちの方が楽でいい」

 

「あぁ、そう……」

 

 

順調に扉を破壊していくゴーレムを上空から見ながら、デルフリンガーは大きく溜め息を吐いた。御愁傷様である。

 

他愛の無い話を続けながらゴーレムを観察する事数分、ゴーレムに異変が起きた。

 

ゴーレムの右手膨ら脛当たりから小規模な爆発が発生する。明らかに魔法による爆発である。それに、ダークライはその爆発に見覚えがあった。

 

 

「ルイズ」

 

 

ゴーレム足元に現れた特徴的な桃色の髪が見えた時、ダークライは無意識に呟いた。

 

ルイズと共に他の2人、タバサとキュルケもゴーレムに攻撃を与えていた。正直、後ろの2人なんてどうでもいい。ルイズがゴーレムと交戦している。それだけでダークライの行動は決まる。

 

 

「行くぞ」

 

「切り替えはやっ!?」

 

 

即座にルイズの前へと降下する。タバサとキュルケは驚いて攻撃の手を止めるが、ルイズだけは魔法の詠唱を止めなかった。

 

そして一つの魔法の詠唱が終わり、ゴーレムの一部が爆発した時、ルイズはダークライに振り向き、睨みつけた。怒っている様だ。

 

 

「遅いわよ、どこいってたの?」

 

「上で観察していた。ルイズが動いたので私も動いた」

 

 

淡々と語るダークライ。主に関係無ければ動くことは無い事を簡単に言い表したその言葉を聞いたルイズは大きく溜息を吐く。

 

 

「いい?私に関係無くてもこの学園に何かあれば駆け付けること。分かった?」

 

「了解した。ルイズ」

 

 

相変わらず表情一つ変えずに答える。本当に分かってるのかと不安になるが、これでもしっかりと分かってると言う事を知っているので、また小さく溜息を吐いてルイズはゴーレムに向き直った。

 

未だに倉庫の扉を殴り続ける見上げるほど巨大なゴーレムはルイズ達の攻撃を意にも解してない。蚊に刺されたとも思っていない様だ。

 

馬鹿にされているような気がして、ルイズは唇を噛む。

 

 

「どうやら有効打は与えられてない様だな」

 

「やかましい」

 

 

さらにダークライが追い打ちをかける。悪気はない。ただ思った事を言ってしまうだけなのだ。

 

ダークライの言葉をバッサリ切り捨てたルイズだが、ダークライの言うことは間違ってない。残念ながら、手持ちの攻撃は使い果たした。それはタバサとキュルケも同じである。

 

 

「ダークライ、何かいい手段は無い?あんた観察してたんでしょ?」

 

「ふむ、そうだな……」

 

 

足に向けて軽く"あくのはどう"を放つ。軽くと言っても人一人分の太さなのだが、それを受けてもゴーレムは扉への攻撃を止めなかった。どうやら威力が足りない様で、威力を高めれば崩せない物でも無いのだが、少しでも強く力を使えば魔力とやらが勝手にダークライの補助に回り、結果的にルイズに怒られる事になる。

 

寿命が減るよりも面倒臭いのはルイズの長時間説教である。一、二時間ぶっ通しで説教し続けるのだけは流石のダークライも嫌なので、ダークライはゴリ押しによる破壊を諦めた。

 

次にダークライはゴーレムの肩辺りまで浮上し、ゴーレムの肩に向けてダークホールを放つ。すると今まで扉を殴っていたゴーレムが手を止め、ダークホールを手で受け止めた。その後幾度と無くダークホールを放つが、今までの鈍重な動きが嘘のように素早く幾つものダークホールを受け止めていく。

 

 

「何故あの部位の攻撃は防ぐのかしら?」

 

 

キュルケが不思議そうにダークライを見上げながらタバサに聞いた。

 

 

「ここからでは見えないけど、あの肩の部分に何か弱点があるのかも」

 

「弱点?どんな?」

 

「分からない。ゴーレムが大きくて見えないけど、もしかしたら"土くれのフーケ"がいるかもしれない」

 

「フーケが?」

 

 

闇夜に溶け込む色の弾丸を撃ち続けるダークライ。それを観察する様に見るタバサの言葉は、何故か抑揚があった。

 

そして約一分間攻撃し続けたダークライは少し不機嫌そうに目を歪ませながら降下して来て、ルイズの隣に戻る。そしてソレを確認したゴーレムは、また破壊行動を再開した。

 

 

「……恐らく、あの肩にいる人間が本体だ」

 

「人間?」

 

「アレを操っている者で間違いはない」

 

 

タバサの質問に答えたダークライはルイズに向き直り、ルイズに作戦を提示した。

 

 

「私が本体を攻撃する。ルイズ達は両腕を抑止してほしい」

 

 

簡潔に述べられた作戦はとても簡単なものだった。既にひびが入っている扉の状態をみて、既に時間が無い事はルイズ達にも分かっている。今ルイズ達に決定打が無いし、ダークライの方が三次元の戦闘が出来る。キュルケとタバサも魔法で空を浮遊する事は出来るが、ダークライより移動速度が遅い。この中で誰よりもダークライの方が空中戦に向いていた。だからタバサとキュルケから反論は出ない。

 

しかし、ルイズだけは違う。

 

 

「駄目よ!」

 

 

掴みかかる剣幕でダークライに言い寄る。彼女が反対する理由は一つ。ダークライの寿命を心配しているのだ。

 

攻撃をしたら寿命が減ることは分かっている。ダークライを魔法が生かしているのであれば、必然的にダークライの攻撃に魔法と言う概念が干渉してくる。それは即ち、ダークライの寿命を減らす事を意味する。先ほどの攻撃は小さいものだったが、どれ程減ったか分からない。

 

ルイズには、「寿命を減らさせてほしい」と言っているに等しい提案には賛成できなかった。

 

 

「ダークライの死が早まる位なら倉庫が破壊された方がマシよ!」

 

「ちょっとルイズ…!」

 

 

遂にはそんな言葉さえも言い出し、キュルケがルイズに一言言おうと一歩出る。

 

しかしルイズの「だからっ!」と言う言葉がキュルケの動きを封じた。

 

 

「だから、私を『土くれのフーケ』の所まで連れて行って。私が動きも封じるし、トドメも決める!」

 

 

ルイズから出された提案は、タバサとキュルケを少なからず驚かせた。

 

 

「無理よ!爆発しか出来ないじゃない!」

 

「気持ちは分かるけど、無理はしない方がいい」

 

 

2人からも静止の声が入る。しかし、ルイズはダークライの蒼い目をジッと見据え、離さなかった。

 

 

「私は無力なのはわかってる。まだ爆発の力も上手く扱えてないし、こんな土くれ一つの動きも止められない。貴方からしたら、とても頼りない主かもしれない」

 

「でも、だからこそ!ここで貴方に私の可能性を見せる!ダークライに相応しい主になれると、私自身に、貴方に分からせるの!」

 

 

ダークライの目をしっかりと捉え、ルイズはそう言い放った。その瞳には大きな覚悟の光が宿り、一つの迷いも見受けられない。

 

そしてそのルイズの言葉を沈黙を保ち、真っ向から聞き続けていたダークライは、ルイズの手にゆっくりと自分の黒い手を伸ばした。

 

 

「元より、断るつもりは無い」

 

 

ダークライはルイズにサイコキネシスをかけ、浮遊させた。いきなり足が地面から離れたため、ルイズは小さく悲鳴を上げる。数十秒くらい小さな悲鳴が断続的に続いたが、慣れたのか一息深呼吸してタバサとキュルケの方を向いた。

 

 

「2人も攻撃お願い!」

 

「ふふ、お願いされなくても元よりそのつもりよ」

 

「言っている時間があるなら攻撃に移ってほしい」

 

「んなっ!?人が恥を偲んで頼んだってのにあんたらは!」

 

「……ルイズ、行くぞ」

 

 

先ほどのシリアス感など無かったかの様な会話に少し気が抜けながらも、ダークライはルイズと共に上空へと昇る。

 

そしてゴーレムの頭と同じ高さまで来ると、ダークライは右肩の上を指さした。

 

 

「アレが本体だ」

 

 

肩の上にはフードを被った人間が立っていたりフードの影に隠れて顔の半分から上は見えないが、その人間はダークライ達を見ていた。

 

唯一見える艶のある唇は無表情に口を閉じ、次の瞬間ニヤリと笑う。

 

ちなみにダークライの目からはロングビルの顔がしっかりと見えているので、何を今更謎の悪役感を出しているのだろうと不思議に思った。

 

そんなダークライの思考を知る由もないロングビル、基フーケのゴーレムが大きく左腕を振り上げた。

 

 

「まずい、トドメを刺す気よ!」

 

 

ダークライと共に空中で静止するキュルケが叫ぶ。その声を聞いたルイズが倉庫の扉を見ると、先程まで小さかった亀裂は知らぬ間に大きくなっていた。

 

あと一撃、大きな衝撃があれば完全に破壊されるだろう。その一撃が今下されようとしていた。

 

上がった左手が勢いよく下がる。それが扉に接触しようとした時、大きな衝撃音と共にゴーレムの左手が軌道から逸れ、空気を切った。

 

 

「今の内に右手を抑えて」

 

 

衝撃波を生み出す魔法をゴーレムの左手に放ったタバサが淡々とダークライ達に言った。

 

ルイズとキュルケにはタバサの無表情な顔が、この時だけはドヤ顔に見えたと言う。

 

 

「タバサにだけ良いところは渡さないわよ!」

 

「負けてらんないわ!」

 

 

いきり立ったキュルケが魔法の詠唱を初め、杖から大きな火球を生み出し、ルイズは適当に詠唱してゴーレムの肩に目掛けて爆発の魔法を放った。

 

ルイズの爆発の魔法はゴーレムの右腕に防がれ、指先を大きく抉って終わる。

 

 

「まだまだ!」

 

 

そこにキュルケが先程作った火炎弾を撃ち込んだ。

 

二つの衝撃に耐えられなかったのか、ゴーレム右肘から先が弾け、本体が一瞬だけ顕になった。その一瞬さえあれば充分。

 

フードの影から驚いたように口を開けたフーケが見える。それを見てルイズはニヤリと笑った。

 

 

「爆発!!」

 

 

大きな掛け声と共に、全身の筋肉を使って振り下ろされるルイズの杖。頭頂から下腹部までの上下ほぼ180度振り下ろされた杖は、ゴーレムの肩を壮大に爆破した。爆煙と土煙の中からフーケらしき人影が落下しているのが見え、「ぐえっ」と小さな悲鳴を上げて地面に落下した。

 

肩を爆破されたゴーレムには体全身に亀裂が走り、ガラガラと体が崩れて行く。そして最初から何も無かったかの様に、ゴーレムの全てが崩れ去った。

 

 

「やった!?私やった!?」

 

 

未だ自分がフーケを倒した事に信じられないのか、ルイズがダークライの肩を揺さぶりながら何度も聞く。

 

 

「倒したから落ち着け。威厳はどうした」

 

 

揺らされながらもそれをジト目で制すダークライ。ルイズはよく喜んでいるが、ダークライからはフーケはいとも呆気ない相手としか映らなかったようだ。

 

そんなダークライの声を聞いて息が荒かったルイズは少しづつ落ち着いて行き、一つ大きく息を吐く。

 

 

「フーケは?」

 

 

キョロキョロと首を動かしながら空中で体もクルクルも動かすルイズ。もう完璧に空中で滞空する状態に慣れている様だ。

 

そんなルイズに下にいるタバサから「確保済み」と声がかかった。その声にいち早く反応したルイズはダークライの手を引いて勢いよく地面へと降りる。地上へ着地する寸前にダークライはルイズの体を少し引き、着地の衝撃を和らげた。

 

そんなダークライの配慮も知らず、ルイズはダッシュでタバサの元へ向かい、上半身が布で見えなくなって転がっているフーケの元へと向かった。

 

フーケはピクリとも動かない。死んでいるのかと思ったが、無音で上空から降りてきたダークライが「息はある」とルイズに告げた。どうやら気絶している様だ。

 

 

「これがフーケなの?」

 

「ゴーレムの上にいた者が本当にフーケなら、間違いなく土塊のフーケ」

 

 

ルイズの問にタバサか答える。

 

 

「どうする?」

 

「決まってるわ、学園に突き出すのよ」

 

「でもこの時間よ?」

 

 

現在深夜に近い時刻である。フーケもこの時間を狙ったらしく、あれだけの騒ぎがあっても大きく動き出す者はいない。恐らく学園の者達が寝た時刻に倉庫の中身を奪取するつもりだったのだろうが、相手が悪かった。

 

どちらにしてもフーケをこのままにしては置けない。しかしオスマンに差し出そうにも時間が時間でなんか忍びない。

 

 

「私達がこの事態を素早く終結させた。寝ている学園の管理者に気を使う必要は無い」

 

 

と、悩んでいるルイズにタバサが後押しする。言葉に小さく怒気が含まれている様に感じるトゲのある言い方だが、彼女の言っている事も間違ってはいない。感謝されども文句は言われ無いだろう。

 

 

「……そうね、じゃあ早くフーケを牢にぶち込んじゃいましょう」

 

「言い方が物騒」

 

 

一先ずオスマンの元まで運ぶと言う方針で決まり、黙って待機していたダークライがフーケを持ち上げた。

 

ダークライの行動がいつも以上に速いとその場の全員が思った。

 

この行動の速さによって、フーケの素顔を見た者はいなく、眠気によって、それを知ろうとする者もいなかった。

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『ポワルン』てんきポケモン
タイプ: 晴れ【ノーマル】 雨【みず】 日本晴れ【ほのお】 霧【こおり】
高さ:0.3m
重さ:0.8kg
とくせい:てんきや(専用特性)

『図鑑説明』
天気によって姿形、タイプが変わる珍しいポケモン。ミノムッチは場所によって外見が変わるが、ポワルンはタイプも変わる。これはポワルンのみの特性である。
見た目が可愛く、女性からの人気も高いが、ステータスが中途半端で扱いにくいポケモンとなっている。
ポワルンが【ほのお技】を覚えて、姿を日本晴れの【ほのおタイプ】の姿に変えると、ほのおタイプの威力は上がる。【てんきや】の特性の利であるが、基本パラメータは上がらないため結局中途半端になってしまう。加え、タイプが天気に依存する事もあって、目的のタイプを扱う事が難しい。
しかしどのタイプの姿も見た目が可愛く、特異な特性を持っているため、戦闘以外を目的に集めている人も多い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

草笛に誘う

やりたかった事をやって見たら、全く話が進みませんでした。すみません。
今回は途中でBGM推奨みたいな、明らかに曲名が書いてある部分があります。別にかけなくてもいいです、はい。

最近後書きが本編みたいな感じになってきた気がする……


 

土くれのフーケ討伐の事実は、オールドオスマンの手によって学園中に広がることとなった。その内容を聞いた者は大方驚愕し、或いは疑った。

 

なんせ、自分たちが気づかない内に噂の盗賊が捕まったと言うのだ。しかも捕まえたのは今まで散々馬鹿にしてきた"ゼロのルイズ"である。勿論ダークライ達の力も大きいが、何よりもルイズがトドメを刺したと言う事に驚いている生徒が多い。

 

ダークライとルイズ達の妨害もフーケは想定していたらしく、ダークライ達からの攻撃を出来るだけ受け流し、早く倉庫を破壊し、ゴーレムを崩して土煙を作り、さっさと逃げる予定だった様だ。それだけの強度を誇っていたゴーレムを倒したと言う事実も、噂を大きくさせた。

 

土くれのフーケの正体がミス・ロングビルと言う事もある。それらの情報が混ざり合い、噂は大々的に広がり、次第に尾が付き始めた。

 

ルイズの使い魔が呪いを使った

 

ルイズがいいとこ取りをした

 

本当は使い魔がトドメを刺した

 

etc..

 

噂の上に、数々の根も葉もない噂が被さり、更に生徒間で混乱を呼ぶことになり、結局正体不明と言う結果にルイズへの不信感が高まった。

 

事件に関わったタバサやキュルケに数々の質問が飛んだり、生徒にあとを付け回されたりして、二人にはいい迷惑である。

 

しかし二人に接触する生徒がいても、噂の中心であるルイズには声がかからなかった。

 

理由としては

 

 

「ルイズ、ちゃんと寝てる?」

 

「……え?」

 

 

ルイズは、目の下にクマを作り、ドスの効いた目で睨んでくるからである。

 

ルイズは睨んでいるつもりは無い。キュルケからの問に答えた一言だけ反応したルイズの顔は、とても普通とは言えないほど生き生きとしてないが、苛立ってる訳でもない。だからって病気とかでも無く、ただただ眠いだけなのだ。

 

 

「凄いわよ、そのクマ」

 

「分かってるわよ」

 

 

そう言って面倒くさそうに自分の席でお茶を啜る少女。いつもの様な五月蝿い位に元気なルイズの姿はそこにはなく、抜け殻の様にお茶を飲み続ける少女がいた。

 

普段はルイズを小馬鹿にしているキュルケも、流石にこの姿には心配してしまう。キュルケにはルイズがこんなことになっている元凶も知っている。だからルイズに今日何度目かの忠告をする。

 

 

「アンタの使い魔が原因何でしょ?また前みたいに倉庫にいてもらったら?このままだったら死んじゃうわよ」

 

「大丈夫よ私は。私はね、ダークライを拒絶しないって決めたの。ダークライの全てを受け入れるって決めたのよ。別に寝不足位なんて事無いわ」

 

 

毎回この様な言葉で返される。

 

どうやら昨日の夜はダークライと共に強制的に寝たらしく、ダークライの隣で寝ることになった。当然悪夢を見て全く寝れず、少し寝ては飛び起きてを繰り返し、結局朝になってしまったらしい。

 

寝れないと言うストレスと、頭の中で反復する様々な悪夢の内容で1日中元気が出ず、今のこの状態に至る。

 

ボーッとただ何も書いてない黒板を見て、お茶を飲み続けるその様は、まるで家畜の様にも見えて、キュルケは何故か少し涙が出た。

 

 

「……私は止めとけと言ったのだ」

 

 

突然、ルイズの影からダークライが現れる。周囲の生徒がドン引きする中、キュルケだけは冷静にダークライを見た。

 

 

「まあルイズの自業自得よ。あなたは気にする必要は無いわ」

 

「こうなる事は分かっていたのだが……」

 

「多分、この娘も分かっていた筈よ。それでも敢えて同じ部屋に入れたの。あなたの全てを理解したいとか言ってね」

 

「私にはルイズが分からない……」

 

 

はぁ、とダークライは頭を押さえた。こんな姿を見せるんだと少し驚いたが、それと同時に主の事を思っているのだなと感心した。

 

しかし寝不足と言う物は侮れないもので、人の思考を鈍くさせる。酷い場合には数秒前の言動を忘れてたり、自分の言動の意味に気付かなかったり、夢と現実の区別がつかなくなったりしてしまう。

 

 

「そう言えば昨日のキュルケのフーケはとんでもなかったわね。タバサ型ポケモンとか出てきたし、かえんほうしゃで丸焼きだったわよ。ハイドロポンプだっけ?あれも十分に美味だったわ」

 

「また始まったわよ……」

 

「本当に悪いと思ってる」

 

 

今日3度目の主の狂気的発言に、遂にダークライは両手で顔を覆ってしまった。度々ルイズは幾度も見た夢の中の出来事と現実が混ざり合い、訳の分からない状態になっている。例えば夢の中で友達が乗馬した夢を見て、翌朝友達に「馬の乗り心地はどうだった?」と聴くような感じだ。

 

つまり、何の脈絡も無く中身の無い言葉のせいで周りから変な目で見られる。

 

しかも脳が疲れているせいで頭の中だけでは物事が整理できなくなり、独り言が多くなる。おかげで余計に生徒から変な目で見られ、"ゼロのルイズ"から"狂気のルイズ"へとあだ名が変わりそうになっていた。

 

 

「見るに耐えないからゆっくり眠らせであげて」

 

「了解した」

 

 

普段ならルイズの命令しか聞かないダークライだが、今回は流石にキュルケの言葉を呑んだ。黒紫色の球がルイズの顔面に着弾し、一瞬で意識を手放す。

 

仰向けで倒れそうになるルイズをダークライが受け止め、お姫様抱っこで抱き上げた。

 

 

「部屋まで運んで来る」

 

 

そう一言だけ言い残し、ダークライはそそくさとその場を後にした。

 

 

「奴の羽がここまで欲しくなった事は無いな」

 

 

ダークライがそう独りで呟いたのは、ルイズをベッドに運んだ直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は大事な日である。

 

再度言おう、今日は大事な日である。

 

それは学院の為でも、ダークライの為でもなく、ルイズにとっての大事な日だとダークライは思っている。

 

何を隠そう今日は舞踏会の日。その主役はルイズとキュルケ、タバサの3人である。フリッグの舞踏会と言われるそれにルイズが主役として登場する理由は、察しの通りフーケを捕らえた者達であると言うだけだ。

 

勿論、世間体ではフーケを捕らえたのは少女三人であるが、そこにダークライも深く関わっている。寧ろ、ダークライが居なければあの場で迅速に捕らえる事は出来なかっただろう。三人もそう講義したが、残念ながらダークライの名が公に晒されることは無く、三人は少しの罪悪感があった。

 

だが主が戦っていたと言う理由だけでフーケの討伐を手伝ったダークライは、別に主役になりたい訳でもなく、三人の気持ちを他所に「何もいらない」と言い切った。その場に静寂が訪れた事は言うまでもないだろう。

 

結局ダークライには何もなくその場は収まったが、ルイズ達が舞踏会の主役だと言うことに変わりはない。

 

問題は、その主役の一人であるルイズがあの有様だと言うこと。

 

出来ることなら主の印象を少しでも上げたいと思っているダークライには、出来るだけ状態を回復して欲しかった。だから出来るだけ寝ていて欲しかった。

 

 

「あのまま公の場に出てしまえば、恐らくルイズは死ぬ」

 

 

世間体的に死ぬのだ。それだけは避けたい。

 

だからダークライはルイズを見守るのを止め、ナイトメアの効果を受けない場所へと足を運んだ。

 

 

「ここなら大丈夫か」

 

 

そこはルイズが初めてダークライを召喚した草原であった。ルイズの部屋から結構離れていると言う理由もあるが、ダークライにはやりたい事があった。

 

近くにある木に近づき、一つ木の葉を取り、人間の口にあたる部分に葉を当てる。ダークライには口がないが呼吸はする。息を吸い、吐く場所は人間と同じ場所であった。

 

小さく息を吸い、少し力を入れて葉に向かって吐いた。

 

しかし期待していた反応は起こらず、その葉を捨てて次の木へと向かう。

 

それを繰り返すこと6回目、少し変わった形の葉を見つけ、もぎ取り、息を吐いてみた。

 

すると笛のような美しい音がなった。これこそダークライの求めていたもので、握り拳を作り、グッと小さくガッツポーズをした。

 

この世界にも草笛になる物はあるらしく、音もダークライのいた世界とさほど変わりなかった。葉も虫食いがなく、コンディションもいい。申し分無い草笛だった。

 

 

(どうだったか……)

 

 

久方ぶりの草笛。少しやり方を忘れたが、体の感覚だけで3本の指を器用に動かし、再度草笛を吹いた。

 

 

 

 

オラシオン。大いなる怒りを鎮める為の曲。

 

 

 

その美しい音色が、涼しい風の吹く草原に優しく響いた。

 

草笛ながら、聴く者を魅了する様な曲調、ダークライの吹き加減による丁度いい音量による音色は、風に乗り、学園にまで響き渡る。

 

木陰で目を瞑り、まるで昔を思い出す様に草笛を吹くダークライ。その周りにはいつの間にかリスや鳥が集い、ダークライを恐れる素振りもなくその曲に聞き入っていた。

 

共鳴する様に鳥が囀り、ダークライの肩に乗る。野生の動物さえも引き付けてしまうその曲は、本物だった。

 

 

「なに、この曲?」

 

 

それは人間も同じ事。その音が耳を通り抜けた瞬間、キュルケは足を止めた。

 

 

「きれい……」

 

 

隣で共に歩いていたタバサが小さく呟く。

 

ルイズの噂で頭に熱が回っていた他の生徒もその音色を聞き入れ、熱くなっていた議論を止めた。

 

学園が一瞬で人の声がしなくなる。まるで学園自体が、オラシオンに魅了されたかの様だった。

 

全ての生徒から熱が消える。ただ、その音色を聴くために耳を傾け、誰も声を上げなかった。

 

正に、大いなる怒りを鎮める為の曲。ただ昔を懐かしむ為の行為が、結果的にルイズへの不信感を薄くさせた。

 

ダークライの気が済むまでの3分と少し。その間だけ、学園の時間が止まった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かスッキリしたわ」

 

 

寝起き一番にルイズから飛び出した言葉はこれである。とても何時間も悪夢に魘されていた者の感想ではない。

 

それは良かったとダークライが反応する。どうやらいい夢を見たらしく、とても嬉しそうにダークライに夢の内容を話した。

 

 

「とても綺麗な場所に居たの。美しい木々、白い石柱に囲まれた綺麗な池、そこに鳴り響く綺麗な音色。草笛にしてはとても透き通った音だったわ。その音色を奏でているのは小さい金髪の女の子でね。近くに白い髭の生えた老人もいたわ。私のことを見て可愛く微笑んで、「難しい子だけど、これからもよろしくね」って言うのよ。それを聞いた瞬間ね、何だかとても落ち着いて来ちゃって。私こそよろしくって言おうと思ったんだけど、そこで終わっちゃって……何で私もよろしくって言おうと思ったのか分からないんだけど、言わなきゃいけない感じがしたのよね」

 

 

驚いた。

 

楽しそうに笑いながら喋るルイズの夢の物語の内容は、ダークライの記憶にある場所と酷似していたからだ。そしてその草笛を吹いていた少女と言うのも、髭の生えた老人というのも、ダークライの記憶に深く刻まれている人間だ。

 

アリシアとゴーディ。ダークライを受け入れてくれた最初の少女。

 

ルイズとは会ってもいない筈だ。それなのにアリシアが出てきた。普通なら有り得ない事だ。

 

ナイトメアの効果が届いていたとも考えたが、ナイトメアの効果だったらこんな爽やかに笑いはしないだろう。

 

 

(見ていてくれたのか……?)

 

 

200年も昔に亡くなった少女が出てくるなんて有り得ない。だが、死してなおもダークライを見守ってくれていたと、そう思ってしまった。

 

 

(ならせめて私に一言言ってルイズの元に行って欲しかった)

 

 

いかなる事にも柔軟に対応するダークライは、そう心で何処かにいるアリシアに呟いた。きっとアリシアは可笑しそうに笑っているのだろう。

 

昔の馴染みが見ていてくれていると思うと、安心感に包まれた。

 

そして満足そうに語り終えたルイズに言った。

 

 

「……今度その少女の夢を見たら、少女に感謝の言葉でも送ってくれ」

 

「……いいけど、夢の中の子供よ?」

 

「いいんだ。言ってくれるだけで、私は満足する」

 

「そう、ならヴァリエールの名にかけて、約束するわ」

 

 

そう言って誇らしげにルイズは笑った。

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『オニドリル』くちばしポケモン
タイプ:ノーマル/飛行
高さ:1.2m
重さ:38.0kg
とくせい:するどいめ/スナイパー

『図鑑説明』
大きな翼で大空を飛び続ける事ができる。1日降りなくても大丈夫……との図鑑説明だが、HPが低いと言う矛盾を孕むポケモン。
攻撃力と素早さは割とあるものの、ムクホークやドードリオの方が 断 然 使いやすい。HPの低さが足を引っ張り、急所に当たりにでもしたら何もせずに一瞬で終わる。だからと言って火力でゴリ押しするポケモンてもない。オニドリルは高火力技のラインナップが少なく、結局火力が足りないという謎の自体が発生している。しかもブレイブバードも覚えられないため、火力を上げようと思っても上げられない。パワプロポケットにて、公式に『ドリルくちばしの為の遺伝用のポケモン』と言われてしまった。もはやオニドリル自体には利用価値が無いような言われようである。

オニドリル<ドリルくちばし

みたいな感じなのだろうか。しかしその見た目の汎用性からアニメにもよく登場している。当たり障りのない見た目の鳥ポケモンとして使い道が多く、野生のポケモンが出る時はオニスズメが出るかオニドリルが出てきていた。親子共に脇役会の重鎮であるため、敬意は払わなくてはならない。

と思う。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

A:メイドの危機《前編》

舞踏会の話が予想以上に難航してしまい、全く手がつけられなくなり、苦し紛れに書いたアニメの話です。一応、番外編みたいな感じで見ていただければと。
しかも前後編と別れてしまう事実……書いている間に本編もどうにかかんがえます。


 

 

虚無の曜日から数日が経った。ダークライはいつもの様に洗濯物を抱え、洗い場へと向かっていた。

 

殆どの貴族が寝ているこの時間は、使い魔やメイド達が朝の仕事をこなす時間である。洗い場でも廊下でも、すれ違う使い魔の数は多く、慌ただしく飛んだり走ったりしている。

 

その中でもダークライはゆっくりと浮遊し、洗い場に到着した。何時もならば、毎日ダークライに洗濯の仕方を教える為にシエスタが待機している。

 

しかし、今日は洗い場にメイドの姿は一つも無かった。

 

忙しいのだろうとダークライは思った。舞踏会の日が近いと聞く。舞踏会では数多くの料理が振る舞われるし、大きな舞踏会である為に準備期間も必要だろう。そこにシエスタも駆り出されてると考えれば、今この場に居ないのも納得がいく。

 

ダークライの手伝いをしているのは、飽くまでシエスタの私情である。学園側の仕事が入れば、そちらを優先するのは当たり前だ。シエスタが来れないのは、仕方ないと言える。

 

そこまで考えて、ダークライは呆然とした。

 

 

(参ったな……)

 

 

殆どシエスタ頼りっきりだったため、ダークライはまだ洗濯に関する基礎的な知識も身につけていない。どうやらダークライは細かい作業が出来ない様で、なかなか洗濯の仕事が身につかなかった。シエスタは「少しづつ覚えていけば大丈夫」と言っていたが、覚えられる気がしなかった。

 

別にシエスタの教え方が悪いと言っている訳では無い。寧ろとてもわかりやすく説明してくれる。しかし、人にもポケモンにも適材適所と言うものがある。局地戦が苦手なポケモンも居るように、洗濯が苦手なポケモンもいるという事だ。3本の指が人より太いと言う事も原因になっているのだろう。

 

どうしたってこの状況では洗濯なんて出来やしない。少し前、試しに洗ってみたら何故か「着た人間を悪夢に誘う服」と言う魔具が出来上がり、ルイズにこっ酷く怒られた事がある。その事件がダークライの洗濯に関する向上心を妨げていた。

 

 

(……無理だ)

 

 

そう結論を出したダークライは、静かにルイズの部屋へと戻り、ルイズを起こして事の顛末を説明した。話を聞いたルイズは心底驚いた様に目を点にさせた。

 

 

「あんた未だに洗濯出来なかったの!?」

 

 

そのルイズの第一声がこれである。まあ当然の反応だろう。洗濯物が毎日妙に綺麗に洗ってあって、最近関心していたのにダークライ本人が洗っていなかったのだから。

 

別にダークライは隠そうとしていた訳では無く、説明する必要はないと考えていただけだ。

 

 

「昨日の服は我慢してくれ、明日にはどうにかする。何故シエスタがいなかったのか分からないか?」

 

 

そう言いながら、ダークライはクローゼットから二つ目の制服を取り出した。質問は受け付けないとでも言いたそうな態度でルイズは少し腹が立ったが、時間的に今更どうしようもないので、ダークライの質問に答える事にした。

 

 

「……フリッグの舞踏会まであと数日。確かに舞踏会は大掛かりだけど、ここの人数を考えるとこんなに早期に準備はしない筈よ。だからと言って、この忙しい時期に解雇は無いわ。どちらにしても、シエスタの主な仕事は給仕だから、食堂に行けば会える筈よ」

 

「そうか」

 

 

浮いた服を着終え、ルイズとダークライは足早に食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂へと付いたダークライは、何時もとは違う違和感を覚えた。

 

いつもより落ち着きがない。なかなか気付かないが、座っている生徒に対して使用人の数が足りない気がするのだ。

 

数分間、ルイズの席の隣で食堂を見続けると、その違和感の正体が分かった。それは普通だったら食堂で料理を運んでいる筈の人物。

 

 

「ルイズ、シエスタがいない」

 

「……おかしいわね」

 

 

シエスタは、朝食時の食堂には必ずいる。そして必ず一番にルイズの元にやってくる。それが、今日に限って別のメイドが運んで来ていた。人数が足りない分を埋めるためか、ルイズへの料理を運んだ後はそそくさと礼をし、別の生徒へと料理を運んで行った。

 

シエスタは、昨日の夕食の時はルイズに食事を運んでいる。少なくとも、シエスタが食堂に来れなくなった何らかの理由が、この数時間の内に起きた事になる。シエスタの分の補充員が居ないのは、突然の事で対応出来なかったと推測できた。

 

今日と昨日の間になにかあったのか。昨日の夜か、今日の朝か。どちらにしても、調べない訳にはいかない。

 

ダークライにとって、シエスタが居ないと言うのは死活問題だからだ。残念ながらこれ以上、他の誰かに生活の基礎を聞く気は無い。ダークライに対した良からぬ噂が広がったら、ルイズの印象に関わるからだ。

 

 

「調べてくる」

 

 

そう言って、ダークライはルイズの元から離れようとする。向かう先はメイド達が出入りする扉の向こう、キッチンルームだ。そこの人間ならば、シエスタの行方を知っている可能性があると見たからだ。

 

しかしダークライの腕をルイズが掴み、ダークライは歩みを止めた。

 

 

「今行っても無駄よ。どうせ時間が無いとかで追い返されるのがオチだわ。行くなら、朝食の最中に行きなさい。それなら話くらいは聞いてくれると思うわ」

 

 

(逃げ出さなければだけど)とダークライに聞こえない様に静かに呟く。ダークライは少し悩むような仕草をした後、黙って首を縦に振った。

 

それから数分後に朝食の時間になり、厨房に行く時間が生まれた。

 

ルイズには「行ってくる」とだけ告げて、その場から離れる。ルイズは一旦ナイフとフォークを置き、小さく手だけ振って答え、直ぐに食事を再開した。

 

食堂は無駄に広い。教師と生徒が全員入るくらい空間がありながら、まだまだ10人程入りそうなスペースが残っている。それだけの広さがあるため、ルイズの席から厨房までそれなりに距離があった。

 

机に向かい合って座る生徒達の間をふわふわと進む。何人から驚いた様に振り返り、何人かは見て見ぬ振りをする。今のダークライの立ち位置を分かりやすく示していた。

 

そんな生徒達を全く気にせずに厨房へとたどり着き、扉を開けた。

 

 

 

厨房内は、予想以上に静かだった。空気自体が重く沈んでいるようにも感じる。どうやら、ダークライが入って来たせいで空気が重くなった訳では無い様だ。

 

使用人の中にはダークライを見て驚く者もいるが、殆どの者がダークライの存在に気づいていないようだ。

 

勿論、その中にシエスタの姿は見受けられない。

 

こう言う状況にダークライは慣れていない。暫くダークライは次の行動について悩んでいると、料理人らしき服装の男が、ダークライの存在に気が付いた。

 

 

「おお、アンタは確か……ダークライだったかな?」

 

「お前は……」

 

「ああ、名乗るのが遅れちまったな。俺はマルトー。ここのコック長だ」

 

「マルトー。私を知っているのか?」

 

「ああ、知っているとも。貴族を圧倒した使い魔としても、シエスタの友人としてもな。アンタのこと、よく嬉しそうに話していたよ」

 

 

シエスタが自分の事を話していた事に少し驚いたが、ダークライはただ話をしに来た訳では無い。

 

 

「シエスタはどうした?」

 

「シエスタか……実は、もういないんだ……」

 

「この厨房にか?」

 

「いや、この学園にって事さ」

 

「……」

 

 

恐れていた事態が起きてしまった。学園にいない、となると手の付けようが無いかもしれない。最悪、明日からは独学で洗濯をする事になる。そうなれば悪夢の魔法具シリーズの量産は決定したも同然だ。

 

できることならそれは避けたい。ルイズに怒られるのは殆ど時間の無駄と言っても過言では無いからだ。また「聞いているのか分からない様な曖昧な返事だ」と言って同じ言葉を繰り返す事になる。生まれつきだから仕方ないと言っても聞かないからタチが悪い。

 

可能であれば、シエスタを連れ戻したい。せめて、洗濯の基本的な技術が身に付くまで。

 

 

「シエスタはどこに行ったんだ?」

 

「少し前、王宮から勅使で来ていたモット伯って貴族に見初めれて仕える事になってな。今朝早く迎の馬車で行っちまったんだ」

 

 

そう苦々しく話すマルトー。その仕草にダークライは疑問が湧いた。この世界に来て付けた知識だと、貴族に仕えると言う事は平民にとっては悪くない事の様だ。シエスタは貴族から呼ばれた。と言う事は、それなりに名誉の事なのだろう。それなのに、何故この厨房の連中は皆一様に沈んでいるのだろうか?

 

疑問は解消しなければやってられないポケモンである。浮かんだ疑問は、素直に聞く。

 

 

「何故喜ばない?」

 

「喜べるか。元々あのモット伯って貴族は、いい噂を聞かないんだ。そうやって気に入った若い娘を次々と召抱えているらしい」

 

「シエスタは喜んだのか?」

 

「……嫌々ながら、と言った感じだったよ。もっとお前さんに教えなきゃいけない事があるって言ってな。だが、所詮平民は貴族の言いなり。逆らえないのさ……」

 

 

そう言って、マルトーはポケットを探り、一つの手帳の断片の様な物をダークライに渡した。

 

そこには、洗濯物の洗い方や正しい干し方。部屋の掃除の仕方等が事細かに書かれていた。

 

 

「シエスタがあんたに渡してくれだと。中身は読んでないから安心してくれ。それが、シエスタがあんたに残した最後のものだ」

 

 

小さい紙に何行も説明が書いてある。中には小さいながらも絵が描いてあり、とても分かりやすかった。

 

それをダークライはじっと見つめる。そして、小さく呟いた。

 

 

「こんな物で、理解できる訳がない」

 

 

同時に、朝食の終わりを告げるチャイムが鳴った。厨房にある時計を一瞥し、ダークライは「世話になった」と一言だけ残して厨房を去った。

 

 

(モット……挨拶でもしに行くか)

 

 

騒がしくなり始めた食堂の一角で、ダークライの青い瞳が怪しく煌めきを増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えて食堂を出たルイズとダークライは、授業を受けるために教室へと向かっていた。その道中で、ダークライは事の全てを説明する。

 

その説明の最中ずっと、ルイズは不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。

 

全ての説明を終えた時、気が付けば2人は教室への歩みを止めていた。

 

 

「ダークライ、妙な事を考えるのは止めなさい」

 

 

見透かした様にルイズは言った。

 

 

「妙な事とは?」

 

「アンタが考えている事よ。確かに、そのモット伯の事は納得行かないわ。同じ貴族としても、シエスタの友人としてもね。でも、ここでは平民は貴族に逆らえない。私達が何を言おうと、意味の無い事よ」

 

「何故私が何かを言いに行かねばならない?」

 

 

その言葉にルイズは一瞬キョトンとするが、直ぐに意味が分かった。

 

 

「……ア、アンタ、本気で言ってる?」

 

 

クイッと意味が分からないとでも言いたげに首を捻るダークライ。どうやら、ダークライの中でやる事は既に決まっている様だ。

 

 

「アンタ本気なの!?貴族を殺しでもしたらタダじゃ済まないわよ!」

 

「証拠は残さない。それ位はできる。それに殺さない。現実と夢の区別がつかなくなるくらい長い間眠ってもらうだけだ」

 

「死んでるのと何の違いがあるのよ!」

 

「息はする。ただ永い眠りにつくだけだ。いつかは起きる。その時は、夢か現実かは分かっていないだろうがな」

 

「でも……」

 

「寝るだけだと言った」

 

 

何かを言おうと口をパクパクさせるルイズだが、諦めた様に深い溜め息を吐いた。こうなってしまえば、ダークライは止められない。

 

それに、ルイズもモット伯に関しては快く思っていなかった。ルイズが求め、成りたいと願っている貴族とは、明らかに違う。平民をただの奴隷や道具として扱う者を、貴族とは呼びたくない。だからと言ってダークライの愚行を許すと言う訳にもいかない。

 

ルイズはダークライの行動を止める気でいる。それが、ダークライの為でもあると思っているからだ。相手は貴族。行けば少なくとも無傷では帰って来れないだろう。

 

だから、ルイズはダークライの行動を許しはしない。

 

 

「例え眠らすだけでも、絶対にダメよ。貴族に手を出した時点で、私達の負けなの。そう言う存在なのよ、貴族は……」

 

 

ダークライに向かって言った言葉だが、途中から自分に言い聞かせる様に言っていた。

 

自分もモットと同じ貴族。そう思うと、ダークライも自分をモットと同じ様に見ているのかと考えてしまう。貴族とは何かを常に考えているルイズだが、未だその明確な答えが見出せていない。平民を大切に思う者が本当の遺族だと思っていても、周りの貴族はそうではない。

 

ルイズは貴族と言う大きなくくりの中の1人に過ぎない。周りから見たら、ルイズはそういう意味での貴族だ。

 

例え、モットの行いが『悪魔』と侮辱されても、今のルイズでは反論は出来ない。もし、ダークライにそんな事を言われたらと思うと恐ろしくてたまらない。

 

 

「ねぇ、ダークライ」

 

 

でも、ルイズはダークライに聞きたかった。

 

 

「ダークライは貴族の事、どう思っているの?」

 

 

聞かれたダークライは黙り込む。それほど難しい質問だったのかと余計なことを思ってしまう。鼓動が早くなるのを感じた。

 

 

「すまないが、私にはよく分からない」

 

 

帰ってきたのは、何とも呆気ない答えだった。

 

 

「モットが貴族なのは知っている。しかし私にはシエスタが必要で、シエスタはここに残ろうと思っていた。なら私は貴族だろうが神だろうが相手にする。そしてここに連れて帰ってくる。そして、洗濯だ」

 

 

そう言ってどこに持っていたのか、ルイズの昨日着ていたリボンを取り出した。ダークライの一番嫌いな洗い物である。細いから洗えないらしい。

 

 

「シエスタの説明は、とても分かりやすい」

 

 

理由は、それだけだ。

 

呑気な使い魔だと可笑しくなるが、同時に羨ましくなった。

 

己の信念を貫いて、誰が相手だろうが臆せずに立ち向かう。それが出来る人間は、一体どれほどの数なのだろうか。ただ自分のエゴを押し通しているだけど思えば簡単だろうが、貴族相手にそれを出来る人間も少ないだろう。

 

この使い魔には、学ぶことが多いと改めて感じた。

 

 

「……そう、分かったわ。どちらにしても、モット伯に手を出すのは良くないわ」

 

「………」

 

「分かったら、行くわよ。授業に遅れるわ」

 

 

そう言ってルイズは歩き出す。ずっと黙っていたダークライも、ルイズの3歩ほど後ろから進み出した。

 

しかし、何かを思い出したかのように歩みを止め、ダークライの方を振り返らずに喋り出した。

 

 

「……そう言えば、今日の午後の授業は使い魔の参加はしなくていいらしいわ。午前だけで充分だって」

 

「そうか」

 

「だから、ダークライ。貴方は午後の授業中は自由行動よ。どこに行こうと、私はアンタの向かう場所は分からないし、知らないわ」

 

「……」

 

「でも、貴族の家へは入っちゃダメよ。最近はフーケの噂に乗っかって、盗賊も多くなっているらしいわ。催眠魔法とか色々な魔法を使う盗賊も居るようだから、気を付けるのよ!」

 

「……」

 

 

上ずった声で、そして妙に声量のボリュームを高くして言う。

 

 

「と、とにかく!伝える事は伝えたわ!とっとと授業に行くわよ!」

 

「ルイ--」

 

 

言うや否や、ダークライの言葉を遮ってルイズはズンズンと歩き出した。

 

 

(……我ながら、素直になれないわね)

 

 

そう歩きながら思うルイズ。そして、「これって貴族がやっていい事じゃなくない?」と言う考えが頭にチラつくが、友のためだと、自分を誤魔化した。

 

そして、足早に進んでいくルイズを見ながら、ダークライは思った。

 

 

(真意が分からん)

 

 

全く伝わっていなかった。

 

 

 

後の授業中にタバサに聞いてみて、ようやく意味が分かったダークライだった。

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『エネコロロ』おすましポケモン
タイプ:ノーマル
高さ:1.1m
重さ:32.6kg
とくせい:メロメロボディ/ノーマルスキン

『図鑑説明』
数多くいる猫型ポケモンの中の1匹。紫を基調とした体毛が愛らしく、可愛いと評判。
しかし、戦闘面では恐ろしい。
まず恐ろしい点一つ目。種族値がワースト1と言う事。リザードやワカシャモはおろか、序盤で手に入るレディアンやアゲハントをも下回る380と言う驚異的なポイント。尖った部分もなく、素早いイメージが強い猫型のポケモンであるのに素早さが70しかない。進化の石を使って進化するポケモンが、ここまでの不遇な扱いを受けることなかなか無い。
しかし覚える技は素晴らしい。ハイパーボイスも覚えれば、捨て身タックルも覚える。しかしお陰で、ノーマルスキンの特性を生かせない。他の技を敢えてノーマルに変換したとしても、ゴースト、岩、鋼タイプへの有効打が無くなると言う本末転倒な自体に陥る。不意打ちならば高威力先制攻撃として使えるが、神速持ちを使わないメリットって何?となってしまう。
メロメロボディを使おうにも耐久値が低く、異性に限定される。ダメージを受けた瞬間に蒸発なんて事は多い。恐ろしい点二つ目は、こうした特性をどうやったって生かせない点である。
特性に有効な使い方が殆ど無く、更に種族値が低いと言うどこをどうしたら良いのか分からなくなるポケモン。それがエネコロロである。最近では上方修正されたが、特攻の種族値にも変化が無く、結局尖らなかったため、結局オンライン対戦ではある意味「幻のポケモン」となってしまっている。
しかし可愛い。漫画などではテクニカルな攻撃をするなど、見どころもある、はず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

A:メイドの危機《後編》

今回、全く中身が無い気がします


 

昼食を取り終え、次の授業へと向かうルイズは、とても緊張していた。

 

ルイズはダークライを信用している。だからダークライがシエスタを連れて戻ってくると確信している。今までの経験上、ダークライの言動に嘘偽りは殆ど無い。だから、ダークライがモットを"眠らせる"と言ったのならば、本当に実行するだろう。

 

ダークライは証拠を残さないと言った。だが、もし残ってしまったらどうなるのだろうか。貴族としても、学園からも追放され、追われる身になるのだろつか。実行したのはダークライの独断だと言えば自分にお咎めは無いかもしれないが、それはルイズ自身が許さない。

 

それに、ルイズは見て見ぬ振りをする事になる。自分は行かずに、全てを押し付ける様な形で、自分の使い魔だけが戦いに行く。失敗した時の責任も、全てダークライが負うかもしれない。

 

無責任な自分に腹が立った。本当なら、ダークライと共について行き、手助けをしたい。しかし、今のルイズには"世間の目"と言う厄介な物が付きまとっている。共に貴族に殴り込みに行くのは難しい。何も出来ない自分が、とてつもなく歯がゆい。

 

 

『ルイズは自分の事を気にしていればいい。私にしか出来ない行動がある』

 

 

お昼時にそうダークライは言っていた。

 

ダークライの能力は、まだ全貌が明らかにされていない。更に、この世界でも見たことのない力を使う。それに学園外にはダークライの詳細は公開されていない。それらを上手く利用すれば、ルイズの使い魔と悟られること無く、眠りの力で制圧する事が出来るだろう。

 

『私にしか出来ない行動』とは、そう言う事だ。主人には主人の役割があるように、使い魔には使い魔の役割がある。この場合、色々と違う気もするが、言っている意味は間違っていないだろう。

 

だから、自分のやるべき事をしっかりやろう。今はそれが、シエスタを助ける手助けになる。

 

そう心に決め、ルイズは次の授業へと乗り込んだ。

 

 

「ミス・ヴァリエール、貴女の使い魔はどうしたんですか?今日の授業は使い魔がいなければ意味がありませんよ」

 

「……ダークライは体調が悪く、私の部屋で休んでいます」

 

「体調が悪いなら保健室に連れて行ってはいかがです?」

 

「私の使い魔を、他の者の傍に寄せていいと言うのならばそうしますが」

 

「それは……」

 

「それにダークライは私の部屋を気に入っています。私の大切な使い魔が離れたくないと言っているなら、無理に引き剥がすのは無粋ではないですか?」

 

「……分かりました。ですがミス・ヴァリエール。今日の午後の授業分は減点とします。よろしいですね?」

 

「……はい、元より覚悟の上です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂から出て直ぐにルイズと別れ、ダークライはタバサに教えてもらった道を進んでいた。既に数十分程影に入りながら進んでいる。聞いた話では、もうすぐ着くはずだ。

 

 

(気付かれない様に侵入し、モットを眠らせる。後はシエスタを連れて出口まで行く。見える敵は全て眠らせる。そして帰る)

 

 

作戦とも言えない単純な作戦を頭の中で繰り返す。行きは影入りで侵入出来る。行きで眠らせて行けば良いじゃないかと思うが、帰りだけだと倒れている仲間を見つけた敵が、増援を呼ぶ可能性を少なく出来る。帰り際に増援を呼ばれて囲まれたなんてなったら、シャレにもならない。

 

ダークライは全然対処出来るが、シエスタに何かしらの害が及ぶ可能性がある。能力制限もされている以上、無駄な戦闘は避けるべきだ。

 

そうこうしている間に、道の形が変化していた。

 

少し舗装された道の先には、いかにも高そうな巨大な豪邸が一軒立っていた。予想以上に広そうだ。

 

 

(シエスタを探すのに一苦労しそうだな)

 

 

そんな感想が出てくる。それほど大きな屋敷なのだ。

 

柵の下に空いている数mmの隙間から侵入したダークライは、影に入った状態で屋敷に近づいた。

 

出入口と思われる所には、警備兵と思われる槍で武装した人間が2人いる。裏にも回ってみたが、勝手口らしきものは存在しない。行きは窓の隙間から侵入出来るとして、帰りはこの大きな出入口から出るしか無いだろう。

 

そのためには、あの2人の警備兵を片付けなければならない。今なら簡単だが、交代の人間が来たら厄介な事になる。

 

帰りにどうにかしようと適当に考えて、ダークライは侵入のために窓に近づく。

 

しかしここで、警備兵の一人が短い大声を上げた。

 

 

「か、影が!!」

 

「賊か!?」

 

 

完全にバレた。一瞬でダークライの目論見が崩れ去った瞬間である。

 

なぜバレた?と考える。ダークライは気づいていないが、影が薄い所で影に入って移動すると、ダークライの影が濃くなって分かりやすくなってしまう。

 

先の戦闘で、影に入って動いている最中でもピカチュウに的確に攻撃されたのは、そう言う理由があるからだ。本人はまぐれ当たりだと思っていたらしく、気にしていなかった。

 

それが今回、仇となった。あの時気づいていれば、対処作を作れたかもしれないのに……。

 

 

(仕方ない)

 

 

ゆっくりと影から出てくる黒い物体。それを見た警備兵は恐怖し、威勢のいい声を上げるのを止め、後退りした。

 

 

「な、なんだ……?」

 

「化け物か!?」

 

(化け物、か……)

 

 

ここでそう呼ばれるのも、何度目になるだろうか。皆一様に化け物呼ばわりしてくる。化け物である事に変わりはないが、それでも言われていい気持ちはしない。

 

という訳で、一先ず言ってた人間から喰らわせてやることにした。

 

小さなダークホールを一握り作り、放つ。すーっと直線で進んでいったダークホールは警備兵の男に命中し、一言も発する事なく倒れた。

 

 

「うわあぁぁぁ!?」

 

 

いきなり攻撃され、相方が一撃で倒された様を見て、もう一人が悲鳴を上げる。持っていた槍を落とし、腰を抜かした。

 

丁度いいと、ダークライはその男に近付く。引けた腰は戻ること無く、尻を地面に付けたままジリジリとダークライから逃げる様に下がる。

 

しかし、そんな亀の様なスピードにダークライが追い付けないはずもなく、呆気なくダークライは男の顔面に掌をかざした。

 

また男は小さく悲鳴を上げた。

 

 

「シエスタ……いや、モットは何処にいる?」

 

「た、頼む!命だけは助けてくれ!」

 

「……モットは、何処にいる?」

 

「助けてくれぇぇえ--」

 

 

プツンと糸が切れた様に、男は動かなくなった。

 

 

「役に立たん」

 

 

吐き捨てるようにそう呟いて、ダークライは騒がしくなり始めた邸内へと影に入りながら侵入した。

 

大きな二枚扉の下から中に入り、顔だけ出して辺りを見回すと、異常を感知した警備兵らしき男達がロビーに集まっていた。屋内には殆ど日が入っていなく、様々な家具や装飾がある為にシャンデリアで作られた影が多い。その影の間を通っていけば、バレずにシエスタの元まで行ける筈だ。

 

しかし見つかってしまった以上、悠長にスニーキングをしている暇はない。モットが逃げる可能性は充分ある。それも、シエスタを連れて逃げるのは間違いない。迅速に、早急にモットの元に向かい、シエスタを連れ出す必要がある。

 

考えてみれば、隠れて必要最低限の実力で特定の人物を救出するなんて得意な戦いじゃない。ルイズは出来るだけ安全に救出してこいと言っていた。だが戦う以上それは無理な話だ。

 

わらわらと集まってくる警備兵は、既に10人を超えた。しかしまだ誰もダークライの居場所にまだ気付いていない。"やる"には丁度いいだろう。早い決断も必要だ。

 

 

(一人)

 

 

影に入りながら一人の警備兵の男の背後に周り、影から飛び出してダークホールを放つ。男はダークライの存在に気付くことなく崩れ落ちた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

警備兵が一斉に仲間の方を見る。そこにいた仲間は倒れ伏し、ダークライの眼だけが輝いていた。

 

 

「て、敵だ!攻撃しろ!」

 

 

一人だけ防具の色が違う男が叫んだ。間違いなく、あの男が警備兵の長なのだろう。奴を先に片付ける必要があるが、その前に数体は沈める。

 

長槍を構えて突撃してくる警備兵が4人。それをダークライは上空に浮かぶ事で回避し、上空からダークホールを4発放つ。それら全ては外れること無く警備兵に吸い込まれていき、遺体と言っても差し支えないものが4つ出来上がった。

 

槍が武器である彼らは、ダークライの高度まで槍を伸ばすことが出来ない。ここにいる兵は平民であり、魔法を使う者もいない。フライも出来なければ、遠距離魔法も使えない。

 

加えて豪邸独特の天井が高い玄関の為、天井付近まで近づけば誰の攻撃も届くことは無い。

 

つまり、ダークライの独壇場である。

 

全ての困惑している警備兵をロックオンするように一瞥し、ダークライは再びダークホールを放った。

 

このダークホールも全て命中し、地上で立っている者はいなくなった。

 

 

(呆気ない)

 

 

余りにも簡単に制圧出来てしまい、少しつまらなかった。ダークライにとってはただのウォーミングアップでしか無かったが、久し振りにしっかりと攻撃出来ただけマシと考えるべきか。

 

 

(さて……)

 

 

ゆっくりと地上へと降りていき、ダークライは数ある扉の内の扉が開け放たれている所へと向かう。その先の廊下からは、微かだが走る様な足音が聞こえた。

 

倒れている警備兵の数は、最初に集まっていた数よりも一人足りない。その1人は先程の防具の違う男である。4人を先に眠らせ、天井付近まで上がった時には居なくなっていた。危機管理能力が高いと言うべきか、弱虫とでも言うべきか。

 

どちらにしても、ダークライにとっては都合が良かった。

 

 

(道案内でも頼もうか)

 

 

男の足音を追って、ダークライは扉を潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、モット伯は自室の高級なソファに腰掛けて優雅にワインを味わっていた。

 

モットからしたらシエスタは久方振りの上物。体つきも良く、顔も整っている。

 

 

(さて、どう楽しもうか……)

 

 

そう考え、一気にワインを煽った。中味の無くなったグラスにまた新しくワインを注ごうと、机にあるボトルに手をかける。

 

その時、モット伯の部屋に軽いノック音が響いた。続いて若い娘の声が響く。

 

 

「シエスタでございます」

 

「入れ」

 

 

シエスタの声に間髪入れずにそう命ずる。ゆっくりとモット伯の自室の扉が開くと、かなり際どい格好を着たシエスタが入室して来た。

 

メイド服の様だが、普通より妙に露出度が高い。業務に支障がきたすレベルだ。

 

シエスタの体が小刻みに震えていた。顔も青くなっている。少なくとも服のせいで寒いと言う訳では無い様だ。

 

 

「おお来たか。待っておったぞ、こっちだ」

 

 

シエスタの体調とはお構い無しに、モット伯は嬉しそうに手招きした。シエスタも覚悟を決めてモット伯に近付く。

 

すると、また部屋にノック音が響いた。今度は静かな軽い音ではなく、激しいノック音だ。

 

 

「なんだ!」

 

 

楽しみを邪魔されたモット伯が、不愉快さを隠そうともせずにドアを見る。

 

モット伯の声を聞いた者が慌てた様に部屋に入って来た。ここの警備を任せている衛兵隊長だった。

 

 

「大変です!化け物が…!あ、悪魔が邸内に侵入しました!」

 

「悪魔だと?状況を説明しろ!」

 

 

男の報告では、黒い化け物が衛兵や使用人達を攻撃して回っていると言う。多くの衛兵を向かわせたが、見たことも無い魔法で尽く殺られ、こちらに進行しているとの事だった。

 

 

「ダークライさん……?」

 

 

その中の、「黒い化け物」と言う単語を聞いて、シエスタが呟いた。

 

黒い化け物なんて言葉が当てはまる者は今の所一人しか知らない。そして見たことも無い魔法と言う点も、ダークライと一致していた。

 

しかし、ただの使用人である自分になぜ……。

 

そうシエスタが俯いて考えていると、モット伯の狼狽した声が隣で聞こえた。

 

 

「早く何とかしろ!化け物を食い止めるんだ!」

 

「しかし衛兵隊は壊滅状態です!アレを止める術はもう……」

 

「それをどうにかするのが貴様らの仕事だ!」

 

 

そう言い放ち、モット伯は立て掛けてあった杖を取った。モット伯自身も戦闘態勢を整える。

 

そして、衛兵に更なる命中を下そうと男を見た時、男の影が揺らいだ。

 

瞬間、男が崩れ落ち、動かなくなった。しかし、男の影が男を追う様に小さくなることは無く、その場に残り続けた。

 

それは形を崩し、異形の様を呈し、青い光を宿す。ゆっくりと浮かび上がった影は形と色をハッキリとさせ、倒れた男を見下した。

 

 

「ご苦労だったな」

 

 

そう思ってもいない事を呟く異形。その名を知っているのは本人以外、この場でただ一人だった。

 

 

「ダークライさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化け物と言うのは貴様か!何者だ!何をしに来た!?」

 

 

目の前にいるダークライに向けてモット伯は叫んだ。シエスタの声は聞こえていなかったようで、ただダークライだけを見ている。その目には怯えが宿っていた。

 

 

「私の名は、既にシエスタが言った筈なのだがな」

 

 

阿呆なのだろうかと思ったが、気にせずに本題に入る事にした。

 

 

「お前には永らく眠って貰う事になる。すまないな」

 

「な、なんだと!?貴様、貴族である私に手を上げようと言うのか!」

 

「そう言っている」

 

「戯言を!そう簡単に殺される様な私では無いぞ!私の二つ名は『波濤』!『波濤』のモット!トライアングルのメイジだ!」

 

 

「永らく眠る」の言葉を「殺す」の隠語(あながち間違ってはいない)と捉えたモットは、杖の周囲から水を生み出した。

 

その行動を見て、ダークライは身動き一つせず、ただじっと浮いているだけ。

 

モット伯から見たら好都合だ。多数の水が龍の如く舞い上がり、ダークライへと殺到した。

 

 

「これで終わりではないぞ!」

 

 

更にモット伯は追撃する。水を氷の矢ほと変貌させ、ダークライに向けて発射した。

 

幾重にも重なる氷の矢。それらは全てダークライへと向かっていく。何発か外れているのか、ダークライの背後にある壁へと突き刺さり、大きな音を立てて崩壊していく。

 

土煙が舞い、ダークライの姿は確認出来ないが、それでもモット伯は撃ち続けた。

 

 

「ダ、ダークライさん……」

 

 

トライアングルのメイジと言うのは、メイジの中でも上級に位置する。それをまともに受けては無事ではいられない。

 

シエスタは未だ撃ち続けられるそれを見て、あまりの衝撃に気絶した。

 

 

「ハァハァ……幾ら化け物であろうと、これ程の攻撃を受けて無事ではいられまい!見たか、これが私の力だ!」

 

 

息を整えながら、モット伯は言い放った。

 

未だ土煙は消えないが、直ぐに消えて無残な化け物の姿が見えるだろう。モット伯はそう思っていた。

 

しかし、土煙の中から出てきたのは死体ではなく。

 

 

「やはりこの程度か」

 

 

傷一つもない、ダークライの姿だった。

 

 

「ば、バカな!あれほどの攻撃を受けてなぜ平気でいられる!」

 

「水タイプや氷タイプは苦手ではないからな」

 

 

そう言ってダークライはモット伯に近付く。そしてダークライが右手にダークホールを生み出し、右手を突き出した。

 

 

「く、来るな!」

 

 

あまりの恐怖に目を瞑る。そして、我武者羅にダークライに対して魔法を放った。魔法はダークライの頭部を貫通し、瓦礫へと突き刺さる。ダークライは静かに霧散した。

 

やった!と歓喜した。しかし同時におかしいとも思った。倒したにしてはあまりにも手応えがない。まるで霧に向けて撃ったかのような……。

 

そう考えていると、自分の影に違和感を覚えた。

 

妙に大きい。それに、とてつもなく不気味に揺らめいている。何処かで見た事のある光景だと記憶を探っていると、その影が段々と大きくなっていき、モット伯の足元に大きな穴を生み出した。

 

底が見えない。下は暗黒の世界だ。

 

穴の淵に捕まろうと手を伸ばす。なんとか捕まる事が出来たが、両足に何かが捕まってきた。

 

それは体の無い、頭と手のみの紫色の化け物だった。よく目を凝らして見てみると、穴の中では無数の化け物が蠢いている。

 

落ちたら死ぬと直感した。何としてでも落ちない様に手に力を入れるが、淵がどんどんと変形して行き、紫色の粒子となって消えていった。

 

捕まる所を失ったモット伯は、誘われるがままに穴の中へと落下していく。中で蠢いている者は化け物だけではなく、今まで自分が手玉にしてきた人間も混じっていた。

 

終わることの無い闇の中へと、モット伯は消えていく。

 

これはまだ、悪夢の始まりでしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィッ…と、モット邸の門が開く。中から出てきたのは、シエスタを背負ったダークライだ。

 

邸内の全ての人間の全滅を確認したダークライは、シエスタを連れて元来た道を戻る。既に日は落ちかかっており、夕焼けが辺りを紅く染めていた。

 

帰り道で人に出会わない様に、注意を払ってダークライは学園に戻る。

 

ダークライのナイトメアの特性は、気絶しているシエスタにも効果があり、シエスタはダークライの背中で魘されている。

 

なんとかしてやりたいとも思ったが、ダークライが連れて帰る以上どうする事も出来ない。学園までの短い時間だが、我慢してもらうしか無かった。

 

小道や獣道を用い、ダークライ達はゆっくりと学園に戻っていく。

 

 

「うぅん……」

 

 

数分経ったくらいだろうか、ダークライの背中から声が聞こえてきた。少女の声、シエスタの声だ。

 

 

「ここは……」

 

 

状況が分からないのか、辺りをキョロキョロと見回している。ダークライは背中からシエスタを下ろすことなく声を掛けた。

 

 

「起きたか」

 

「え……あ。だ、ダークライさん!?」

 

 

ようやく状況を把握したシエスタは、ダークライの背中で困惑しながらバタバタと手足を動かす。何発かダークライに蹴りやパンチが入ったが、効果は今ひとつの様で、ダークライは気にしなかった。

 

大体の人間がダークライの悪夢を見て起きた時、現実と夢の温度差で困惑する。恐らくシエスタは温度差があまりにも大きかったため、相当な困惑をしているのだろう。

 

しょうがないと一息ついた。

 

 

「一先ず落ち着け」

 

「は、はい……」

 

 

ダークライの言葉で冷静になったシエスタは、少し戸惑いながらも体をダークライの背中に預ける。

 

 

「ダークライさん、私はどうなったのでしょうか?」

 

「モットは長期休暇をとった。シエスタは学園に戻っていい」

 

「長期休暇、ですか?」

 

「あぁ」

 

 

あながち間違ってはいない。

 

 

「あの……助けに来てくれて、ありがとうございました」

 

「気にするな。私はただやりたいことをやっただけに過ぎない」

 

「ですが……嬉しかったです。私なんかを助けに来てくれて……感謝してもし切れません」

 

「……私には、嬉しいと言うものはよく分からない」

 

 

そう小さく呟く。自分の心とあまり向き合わないダークライは、嬉しいと言う感情がよく分かっていない。実は感じた事はあっても、それが嬉しいと言う感情だと気付いていないだけなのだが。

 

話は続いた。

 

 

「感謝するなら、私の主にするといい。ルイズが時間を与えてくれた」

 

「はい、分かっています。ですが、ダークライさんにもちゃんと恩返しがしたいです」

 

「恩返しなら、このまま洗濯の指導を継続してくれると助かる」

 

「……はい!」

 

 

何とか洗濯は継続できると、ダークライは安堵した。このまま帰ってルイズに報告して、明日からはまたいつもの日常が戻って来る。明日の朝からは、また忙しくなる。

 

 

「……ダークライさん。本当に、ありがとうございます」

 

 

そう、シエスタはダークライに聞こえない様に呟き、ダークライの背に顔をうずめた。

 

陽が沈んでいるにも関わらず、シエスタは自分の体に熱を感じた。何の熱だろうかと、分かっている事を考えて、今度は顔が熱くなった。

 

 

夕焼けを進む2人の長い影。重なり合う美女と夜獣の影に禍々しさは無く、親しい親子のようであった。

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『アンノーン』シンボルポケモン
タイプ:エスパー
高さ:0.5m
重さ:5.0kg
とくせい:ふゆう

『図鑑説明』
バトルに一切出せないポケモンNo.1。
覚えられる技が「めざめるパワー」のみであり、わざマシンでも技を覚えさせる事が出来ない。遺伝でも覚えられない。どういう訳かXYで弱体化すると言う死体撃ち。どう足掻いても「めざめるパワー」ゴリ押ししか出来ないと言う単純かつ明快、バトル向きのポケモンではないため、コレクションポケモンと言っても過言ではない。
アンノーンは全28種類おり、エスパータイプの水増しに貢献している。名前の通り色々な場面で「unknown」であり、ゲーム内で度々アンノーン型の文字が見られる。(余談だが、DPで筆者の母がアンノーンを全集集め、壁面の文字を解読した事がある)アンノーンは全てアルファベットに似た形をしており、壁面にもしっかりとした意味がある。
劇場版ではよく現れる。ダークライの映画でも、ディアルガとパルキアの交戦場所の時空間でアンノーンが飛び交っていた。他にも、エンテイの分身を生み出している。HGSSではアルセウスの周りに集まってきていた。
この事から、アンノーンは古代より存在し、神話や伝説のポケモンと深く関わっている事が分かる。そう考えると、「めざめるパワー」と言う技は意味がある様にも思える。アンノーンが様々な伝説でどのような役割を担っているのか、アンノーンとはどのような存在なのか、等を深く考えて見るのも、面白いかもしれない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

厄日

流石に1ヶ月に一話ペースはマズイので、次はもう少し早く出します。



遅れてすみませんでした


 

トリステイン。その城下町にあるチェルノボール監獄。そこはトリステインの中でも一番警備が厳重な監獄である。囚人と外を隔てる鉄格子には強力な魔法の障壁が張り巡らされており、監獄の中もベッドと机しか備わっていない。

 

ここまで警備を厳重にする理由は勿論、凶悪な犯罪者を収容する為だ。どれほど強力な魔法使いであろうと、誰も抜け出せないようにする為の監獄。

 

例えあらゆる物を錬金し、土へと変える『土くれのフーケ』も、この監獄には手も足も出なかった。寧ろ、出そうともしていなかった。

 

 

「全く、か弱い女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」

 

 

ベッドに寝転がったまま呟く。帰ってくるのはフーケの声の反響だけだ。隣にも部屋があるが、何の反応もない。反応されたら逆に困ったりするのだが。

 

今まで散々貴族の顔に泥を塗ってきたフーケだが、牢生活は長くはない。早くて2週間もすればこの何も無い牢から出られるだろう。この世からも別れを告げることになるのだが。

 

まず間違いなく死刑。無くても島流しだ。少なくともこの土地を2度と踏むことは出来なくなる。どちらに転んでもフーケにとっていい事は一つもない。しかし考えた所で脱獄は叶わないし、媚を売るつもりもない。今のフーケには、ただ暇な時間をベッドの上で転がりながら待つしか無かった。

 

 

「ダークライ……力が上手く出せないって聞いてたけど、デマだったのかね?」

 

 

フッと湧いてきた疑問。誰もこの疑問に答えてくれないと分かっていても、ついつい口に出してしまうあの使い魔。何度目かも分からない疑問は、未だにフーケの中に残っている。

 

オールド・オスマンの話を盗み聞きして得た情報では、ダークライは全力を出すことが出来ない様だった。決闘の全貌をこっそり見ていたフーケにとって、仕事をダークライに邪魔されるのが一番危惧しなければならない問題だと感じた。だからこそ、わざわざ危険を犯してまで会話を盗み聞きしたのだ。

 

それによって得た情報を用いて作戦を立てた。ゴーレムで自分を庇いながら扉を破壊し、用が済んだらゴーレムを崩して視界を悪くして逃げる。その為にゴーレムの腕を硬くした。

 

にも関わらず、ゴーレムの腕は破壊された。最終的に破壊したのはルイズだったが、フーケには腕が破壊された理由が分かっていた。

 

ルイズが攻撃を開始する前、ダークライがフーケに向かって多数のダークホールを放った時、既にゴーレムの腕には大きな亀裂が入っていた。あのままダークライが攻撃を続けていたら、早々に敗北していただろう。

 

何故攻撃の手を止め、ルイズにトドメの一撃を任せたのかがフーケには分からない。あれ程の技量があるならば、ゴーレムの耐久値も見抜いてただろう。少しでも体力を温存したかったのか、それとも主の為に止めたのか。だとしたら、その理由は何なのか。なかなか答えが導き出せない。

 

 

「ま、今考えても仕方ないか」

 

 

今この現状ではどれだけ考えても仕方がない。考えた所で何も出来ない。それが分かっているからこそ、フーケは静かに目を閉じた。

 

のだが、檻の外から誰かの歩く音が聞こえ、また目を開けた。明らかに看守の足音ではない。もっと上品な、貴族の様な足音だ。その音は真っ直ぐフーケのいる牢へと向かって来ている。

 

そして案の定、足音の正体はフーケの牢の前で止まった。その者は黒いマントを身にまとい、顔は白い仮面で確認することが出来ない。マントの隙間からこれみよがしに杖を突き出している。メイジと見て間違いないだろう。

 

 

「おや、こんな夜更けにお客さん何て珍しいわね。おあいにく、ここは客人をもてなすような気の利いたものはございませんの。でもまあ、茶飲み話をしに来たって顔じゃありませんわね」

 

 

顔なんて分かりはしないが、適当に言っておく。この者は自分を殺しに来たものだとフーケは思っているため、少しでも余裕でいたいと思ったからだろう。

 

それに、フーケだって無抵抗で殺られる気は無い。檻が邪魔で魔法は使えないが、なんとか油断させて檻の中に引き込もうとしていた。

 

しかし、身構えるフーケとは裏腹に、マントの者は落ち着いた声で言った。

 

 

「『土くれ』だな?」

 

 

男の声。それも若い声だ。そして男は「話をしに来た」と繋げ、手を広げる。敵意が無いことを示している様だ。

 

 

「弁解でもしてくれるってのかい?」

 

「何なら弁解してやっても構わんが。マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

 

瞬間、フーケの顔が蒼白になった。マチルダと言う名は、フーケにとって切り捨てた筈の名であり、誰も知っている者がいない筈の名だからだ。

 

 

「アンタ、何者?」

 

 

平静を装ってはいるが、声の震えは隠しきれなかった。それだけ、マチルダという名はフーケの中に深く根付いている名前だった。

 

男はフーケの問には答えず、静かに笑い、言った。

 

 

「再びアルビオンに仕える気はないかね?マチルダ」

 

 

その夜、土くれのフーケはチャルノボール監獄から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も起きなかった舞踏会から数週間。いつもと変わらない朝が始まった。

 

ダークライはいつもの様に倉庫から出て、いつもの様に洗濯物を干し、いつもの様にルイズを起こす。

 

ほんの数週間前から始まったこの生活だが、ダークライは既にこの生活に慣れていた。

 

朝食を食べるルイズを待ち、ルイズと共に授業に出る。魔法を扱う事は出来ないが、暇潰しに聞くには丁度よかった。数十分間の授業で、ダークライはルイズの隣で一言も発さずに授業を聞く。ダークライは知らないが、教師は無言で見つめてくるダークライの威圧感に耐えかねている様で、度々体調を悪くする教師が出ていた。

 

何時もの授業。ダークライは毎度その様子を見て、適当に時間を潰す。毎日の様に繰り返されていて、今回もただ終わると思っていた。

 

だが、今日は違った。

 

ガラッと勢い良く開かれる扉。居眠りしていた者も、真面目に授業を聞いていた者も、教師も、一斉に扉に注目した。

 

扉の向こうから現れたのは、コルベールであった。頭に巨大なロールした金髪のカツラを乗せ、ローブの胸にはあらゆる飾りが施されている。その容姿を見た瞬間、教室内の人間の反応は二つに別れた。吹き出すのを必死に堪える者と、あまりの頭部の変わり様に唖然とする者だ。

 

そんな教室の反応なんて気にもせず、コルベールは緊張した顔で呼びかけた。

 

 

「授業中失礼しますぞ!今日の授業は全て中止であります!」

 

 

瞬間、教室中から歓声が上がった。

 

 

(何か面倒事が来た予感がする)

 

 

その歓声の中で、ただダークライだけが面倒くさそうに溜息を吐いた。

 

 

 

授業中止の知らせから暫くして、ダークライはルイズの自室から図書館に向かっていた。

 

ルイズは同行していない。理由は、授業中止の理由と密接に関係している。

 

何でもこのトリステインがあるハルケギニアの姫であるアンリエッタと言う少女が、この魔法学院に行幸すると言うのだ。その為に歓迎式典の準備を行い、生徒は皆正装に着替え、門へと整列。それらの準備の為に今日の授業は全面中止となった。

 

ただ今ルイズは着替え中である。ダークライも正装を見るのは初めてであり、余計な手を出すよりルイズ一人に任せた方がいいと判断していた。その為、現在ダークライは暇を持て余している。生徒や先生の声によりダークライは門に立つ必要も無くなった為、余計に暇な時間が多い。

 

暇つぶしに図書館に来てみても、ダークライの気を引く本は見付からない。そして本格的にやることが無いと思い始めた時、図書館の一角で見知った顔を見つけた。

 

薄青色の髪の少女、タバサだ。分厚い本を読んでいる彼女は、ダークライの存在に気づき、チョイチョイと手招きした。

 

別に行かない理由も無いので、ダークライはタバサの元へと近づいた。ダークライが机の向こうで止まった所でタバサは本を閉じ机に置き、何の脈絡も無くダークライに言った。

 

 

「今の内にハッキリさせておきたい。あなたは幽霊?」

 

「……なに?」

 

 

いきなりよく分からない質問をされて、ダークライは戸惑った。

 

そんなダークライにタバサはもう1度ハッキリと言った。

 

 

「あなたは幽霊かと聞いている。実体が無いものを幽霊だと私は認識しているけれど、あなたの容姿は幽霊を彷彿とさせるし、なにより浮き方が幽霊っぽい」

 

「…私はダークライだが」

 

 

いつも言葉足らずなタバサが、どういう訳が口数が多い。いつもと違うルイズの友の姿にペースを奪われるが、ダークライは幽霊と言う言葉をまず知らないため、自分が認識している自分を言った。

 

 

「幽霊ではないということ?」

 

「私は私だと言った。実体もある」

 

「…それなら安心」

 

 

そう言って胸を撫で下ろした。この少女が目に見えて自分の感情を表す所を見るのは、アンノーンの特定の形を10連続で見つけるよりも難しい。それだけ、タバサは幽霊が苦手なのだ。

 

何に安心する所があったのか分からないダークライは、幽霊とは何かを質問しようとした。

 

しかしそれよりも早く、タバサが声を上げた。

 

 

「幽霊じゃないなら、余計に分からない」

 

「…何がだ?」

 

「あなたの正体。どれだけ調べても出てこない」

 

 

そう言って手に持っている本をダークライに見せる。どうやら今まで発見されたモンスターや動物の図鑑の様だった。

 

よく見ると、タバサの机の端には本が小さく積み上がっている。それらをタバサは一瞥し、改めてダークライに向き直った。

 

 

「あなたについて、よく教えて欲しい」

 

 

真っ直ぐにダークライの目を見る。昔の馴染みとルイズ以外、今までの人間はダークライと目を合わせようともしなかったため、ダークライにとっては妙に懐かしかった。

 

他者の事をさほど気に止めないタバサだが、正体不明のものに対しては興味が湧く。ダークライは、今まで全く目撃例が無く、喋ることのできる生き物だ。今のタバサを支配しているのは、王妃の姿を見ることではなく、真実への渇望だけだ。

 

だから、ダークライの言葉を素直に待った。急かすこともなく、ただ逃がさない様にダークライの蒼い瞳だけを見つめる。

 

互いを見つめ合う事数10秒。ダークライが動いた。

 

 

「…いいだろう。だが、後悔する事になるかもしれんぞ」

 

 

その言葉にタバサは無表情なれど、心の中で喜んだ。

 

 

「百も承知。寧ろあなたの前に立つ度に私は今まで覚悟を決めてきた」

 

「ならいい」

 

 

ダークライがタバサと机を挟んで向かい合う形で滞空する。そして話し始めようとタバサの目を見る。

 

 

「なぁにやってるのよあんたわぁぁぁ!!」

 

 

その瞬間、図書館内で響いてはならない怒号が響いた。その怒号の正体は息を切らせて現れる。

 

 

「ルイズ、どうした?」

 

「どうしたじゃないわよ!なに私を差し置いてタバサと楽しく話してるのよ!タバサも!私の使い魔を取らないでくれる!?」

 

「私はあなたの使い魔の正体を知りたかっただけで楽しくはない。あなたのせいで緊張感が台無し」

 

「緊張感ってなんだ?」

 

「緊張感とは、気持ちが張り詰めている事を言う」

 

「ふむ、理解した」

 

「あーもう!やっぱり楽しそうじゃないの!」

 

 

どこからか「うるせぇー!」と言う声が幾つも聞こえて来るが、今の彼女等には関係なかった。加え、ルイズはここが図書館だと言うことを忘れている様で、終始大声で叫んでいた。

 

勿論、3人がつまみ出されるのにそう時間はかからなかった。

 

 

「私はうるさくなかった」

 

「私もだ」

 

 

ある意味とばっちりを受けた2人が、喚き散らしながら廊下を進んでいくルイズの後ろで静かに呟いた。

 

 

「私の話しは明日だ。門に行くがいい。そろそろ時間だ」

 

「…分かった」

 

 

タバサにそう告げて、ダークライは2人と別れる。結局暇だ…と1人で呟き、ダークライは学園の中を宛もなく徘徊し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか時間を潰し、夜中まで持ち込めたダークライは、少しぐったりしながら主と共にルイズの部屋にいた。何もしないと言う事が、こんなにも辛い事だとは思わなかったからだ。

 

庭に住んでいた頃は勝負を仕掛けてきた仲間のポケモンとバトルしたり、池で溺れたり高い所から落ちた子供を助けたりしていて、結構動いていた。暇つぶしに他の使い魔とバトルしようとしても逃げてしまうし、学園の中から人が誰もいなくなってしまって、本当に何もする事が無かった。

 

 

「身体が鈍る……」

 

 

タダでさえルイズの使い魔になってから数える程しか動いていないのに、こんなに体を動かさない事があっていいのだろうか。日頃体を動かさねば、もしもの時に支障をきたす。そう分かっているが、外に出れば人間に騒がれるし、少しルイズの元を離れると怒られる。体を動かす手段が無かった。

 

 

「襲撃でもされれば動けるのだがな」

 

 

とてつもなく縁起の悪い事を言うが、ルイズは何の反応も示さない。ベッドに寝転がったと思ったら立ったり、今度はベッドに座ったりと、忙しなく動いていた。

 

 

「どうした?」

 

 

ダークライが問いかけるが、返事は帰って来ない。ただただぼうっとあらぬ方向を見ている。

 

そろそろ寝床である離れの倉庫に帰ろうと思っていたが、これでは帰るに帰れない。ルイズに何かあるのだとしたら、離れるわけにもいかない。

 

ダークライが具合でも悪いのかと聞こうとした時、ルイズの部屋にノックの音が響いた。瞬間、ルイズは今までの動きが嘘のようなスピードで立ち上がり、大急ぎでドアへと向かった。

 

 

(客か)

 

 

こんな時間に珍しいものだと思いつつ、パニックを避けるためにダークライは影に入り、ルイズの影と同化した。

 

それと同時に、ルイズが扉を開ける。ノックをしたと思われる者は、頭部に黒い頭巾を被っており、体にも同様にマントを羽織っていた。しかし身長と体格、そしてルイズの部屋に入ってくる動きで少女である事が分かった。

 

部屋に入って来た少女はマントの隙間から杖を取り出す。というそして小さく詠唱し杖を振るうと、光の粉が宙を舞った。

 

 

「ディティクトマジック?」

 

「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」

 

 

2人が話している間、ダークライはただ黙って2人の様子を見守っていた。

 

ディティクトマジックは他者からの監視を探知できる魔法だ。壁に空いた小さな覗き穴や、盗み聞きに特化した魔法などがこの部屋に隠されているかを知る事が出来る。光の粉はルイズの影にも落ちたが、マントの少女はダークライに気付くことは無かった。別に魔法に欠陥という訳ではなく、ダークライは完全にルイズの影と一体化しているから分からないだけだ。

 

ひとしきり調べ終え、何処にも監視の痕跡が無いことが分かると、少女は頭巾を取った。

 

 

「姫殿下!」

 

 

その顔を見た瞬間ルイズが驚きの声をあげ、急いで膝をついた。

 

 

「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

 

(……誰だ?)

 

 

影から見ていたダークライは全く知らないが、その少女こそダークライを今日一日暇にさせた張本人の、アンリエッタ姫であった。

 

影の中で一人、ダークライはアンリエッタの顔を思い出そうと思案する。その間に、アンリエッタはルイズに抱きついていた。

 

 

「ああ、ルイズ!わたくしのおともだち、ルイズ・フランソワーズ!なんて懐かしいのかしら!!」

 

「いけません、姫殿下。このような場所にお1人でいらっしゃるなんて…」

 

 

終始頭を下げ、畏まった言葉を使うルイズにアンリエッタは頭を振る。

 

 

「止めてちょうだい!枢機卿も母上も、あのお友達面で寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族もいないのですよ!あなたにまでそんなよそよそしい態度を取られてしまっては、わたくし死んでしまうわ」

 

「姫殿下…」

 

 

顔を上げる。それを見て、アンリエッタは満足そうに笑い、思い出話を話し始めた。

 

2人が昔話に花を咲かせている頃、ダークライはアンリエッタについて思い出していた。

 

 

(姫殿下…確か、アンリエッタ姫と言ったか。本で見たな)

 

 

暇な時が出来たら図書館に行くことが多いダークライは、流し読みしていた本でアンリエッタの絵を見たのを思い出す。こうやって本人を見ると、あの絵はかなり似ている。お陰で思い出すことが出来た。

 

ダークライにとって、自身に指示できる者はルイズである。ルイズの上の人間なんて知らなければ、興味がある訳でもない。ダークライにとってはただの人間であり、学園の生徒とさほど変わらない。

 

アンリエッタの正体を思い出したダークライは、つまらなそうに目を瞑る。アンリエッタがいた所で、自分になんの影響もない。ルイズの様子を見るに、ルイズの仲間の様だから心配する必要も無いだろう。

 

一先ず疲れた体を癒そうと、ダークライはルイズの影から抜け出し倉庫に向かおうとする。

 

しかし影から出ようとした時、ルイズから声がかかった。

 

 

「ダークライ、姫殿下に挨拶なさい」

 

(……)

 

 

心底うんざりした様にダークライは動きを止め、ゆっくりとルイズの影から現れる。

 

 

「……」

 

 

無言。結構疲れているので、ダークライは余計な動きをしたくなかった。適当にルイズが紹介してくれると思っていたから、喋る必要も無いと思っていた。

 

しかし、影から現れたダークライを見てアンリエッタは心底驚いた様に目を白黒させる。ルイズは黙ったまま、ダークライに目で何か合図を送っていた。

 

 

(自分でやれと言うのか…)

 

 

小さく溜息を吐く。仕方ないと呟き、ダークライは改めてアンリエッタと向き合った。

 

 

「…私がルイズの使い魔、ダークライだ」

 

「ちょ、ちょっとダークライ!言葉遣いに気を付けなさいよ!」

 

「私はやれと言われたからやっただけだ。それに私は言葉遣いの変更は出来ない。これ以外知らない」

 

「それっぽくぐらい出来るでしょ!アレだけ図書館に言ってるんだから覚えなさいよ」

 

「必要ないと判断した」

 

「必要あるわ!」

 

 

ギャーギャーと捲し立てるルイズに、終始無表情で冷静なダークライ。その2人を見て、固まっていたアンリエッタの頬が緩んだ。

 

 

「すごい、本当に喋れるのね。それに思っていたよりもずっと黒いわ!こんな生き物見た事がないわよ!」

 

 

まさかの反応に2人は驚く。特にルイズなんて失礼な言葉遣いに怒られるかと思っていたので、余計に驚いた。

 

興奮した様子でダークライに近づくアンリエッタ。まるでマッドサイエンティストの様な顔で近付いてくるアンリエッタにダークライは妙な悪寒を感じ、後退りする。

 

しかし、ルイズが背後に回り込み、ダークライの後退を阻止した。主を弾き飛ばして逃げるわけにもいかず、怒られたくないからアンリエッタを吹っ飛ばして逃げる訳にもいかないダークライは、今日最大の溜め息を吐いた。

 

 

(厄日だ……)

 

 

諦めた様にダークライは肩を落とす。それをいい事にアンリエッタはダークライをぐるりと見回し、肩や胸、東部の白い部分などをぺたぺたと触る。感じたことの無い感覚でもあったのか、度々驚いた様な声が聞こえた。

 

それに便乗してルイズも加わる。1週間ほどダークライと共にいたが、ダークライに無意味に触る事なんて無かったため、チャンスと見てアンリエッタと共にダークライを触り始めた。

 

 

「ルイズ!ここ触ってみなさい、スベスベしてるわ!」

 

「これ、髪の毛だと思ってたけど何か違うわね…一体何なのかしら?」

 

「ここなんてふわふわしてるわよ!この肌触りの境界はどこかしら?」

 

「姫さま、ここのスカートの様な部分もなかなか気持ちいいです!」

 

 

ただ黙ってうんざりした様に目を瞑る。ルイズは色々な場所を触りながらダークライについて自慢げに語りだし、アンリエッタも触りながらダークライの技や力を真剣に聞く。

 

 

(勘弁してくれ…)

 

 

心の底からそう思う。暇な時間を漸く消して、無駄に疲れているのにこんなにベタベタ触られてと、ダークライにとって今日はいい事が一つもない。

 

本当に勘弁してくれと思うが、既に喋る事すらも面倒になった彼はその言葉をルイズ達に言うことは無かった。

 

数分後、一通り触って喋って満足したのか、アンリエッタはダークライを解放し、笑顔でダークライの隣に立っているルイズを見た。

 

 

「本当に珍しい使い魔ね。あなたが羨ましいわ」

 

 

それに対してルイズは照れ臭そうにもじもじと体をくねらせる。

 

それをうんざりした目で見ていたダークライは、バレない様に静かに影に入った。

 

 

「付き合いきれん…」

 

 

そう静かに呟いて、ダークライはルイズの部屋から出る。窓の隙間から無音で退室したダークライは、ふらふらと自分の倉庫に帰っていった。

 

 

しかし翌日、ダークライはもう少し部屋に留まっておけば良かったと後悔する事になった。

 

 

 

 

 

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『ラブカス』ランデブーポケモン
タイプ:みず
高さ:0.6m
重さ:8.7kg
とくせい:すいすい

『図鑑説明』
見た目でもう既に可愛く、女性から人気があるポケモン。しかしこのポケモンの種族値は素早さ以外あのアンノーンより低い。火力もなく、持ち前のそれなりにあるスピードを使ってサポート役に回る事が多いが、サポート技が皆無と言っても過言ではない。サポート役にするならば、天使のキッスを乱射するしかサポート出来ない様なもの。
その技のレパートリー、そして全くと言っていいほど使い物にならない火力から、種族値合計200のヒンバスにすら見劣りする(ヒンバスは睡眠系や怪しい光、光の壁など優秀な補助技を覚えてくれる)。
現在ではボロの釣り竿でも釣れる様になってしまい、ハートのウロコの乱獲が捗る様になっている。しかしサン・ムーンではラブカスを捕まえなくてもハートのウロコが楽に手に入る様になってしまい、ウロコ要因にもならなくなってしまった。
今後の進化に期待せざるを得ないポケモンである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白の中へ

遅れて申し訳ありませんでした!
仕事の都合上ハーメルンを開く暇も中々無かったり個人的な事情とかも色々あったりして相当間が空いてしまいました。
時間的に見直しする暇もなかったのでグダグダでございます。はい。



 

アンリエッタの乱入から翌朝、ダークライはルイズに連れられて学園の外へと向かっていた。当然、ダークライは何故学園を出るのかと聞き、ルイズの口から出た理由に溜息を吐いた。

 

どうやらルイズとダークライはアルビオンという所に向かうらしい。その為にはまず港町へと行くのだが、馬を強制労働させて約2日間かかるというのだ。しかもそのアルビオンは現在戦場になっており、無事に帰って来れる保証は無いという。

 

流石のダークライもうんざりという表情を隠さなかった。しかしルイズが行くと決めてしまった以上、どれだけ危険でもダークライも着いていくしかない。

 

馬を連れて門を出る。朝霧の中を進んで行くと、うっすらと人影がルイズとダークライの行く手を遮る様にして立っていた。

 

少しづつ鮮明としてくる人影。そして、その人物との距離が数メートルに迫ると、見覚えのある人間が立っていた。

 

 

「やあ、待っていたよ」

 

 

胸ポケットに薔薇を一輪刺した男、ギーシュだった。一戦交えた事があるため、ダークライは直ぐにギーシュに気付き、この男もルイズと共に行くのだと簡単に予想した。

 

挨拶はしない。ただルイズの隣でゆっくりと滞空するだけだ。ダークライにとってギーシュなんて全く興味はなく、そこら辺にいる人間と差ほど変わりない。ルイズに手を出さなければそれでいい。

 

それに今は、一つやる事がある。

 

 

「ルイズ、私は少し学園に戻る」

 

「どうしたの?」

 

「野暮用だ」

 

 

ダークライの言葉にルイズは少し悩む素振りを見せたが、早く戻って来ると約束させると、ルイズはギーシュへと向き直った。

 

早めに帰ってこいと言われたからには実行しなければならない。朝霧によって視界が物凄く悪いが、ダークライの倉庫の位置は正確に把握している。

 

影に入って倉庫へと向かい、使っていない場所に置いてある、蓋のない樽に向かって進む。ダークライ以外使うことの無いこの倉庫に、ガタガタと樽が動く音と、人の声が聞こえる。勿論人がいる訳では無い。ダークライの住まいとなっているこの倉庫に近づこうと思う者は皆無と言っても過言では無い。

 

では何がこの音を発しているのか。今現在、ダークライの倉庫に住んでいる者はダークライ一匹では無くもう一人、と言うか、もう一体いる。日々静かなダークライとは対照的に、日々何か喋っていないと生きていけない様なヤツ。ココ最近暇な時の話し相手程度でしか無かった道具。

 

ソイツはダークライが近付くのが分かると、樽の中でカタカタと鳴いた。

 

 

「相棒ぉぉぉぉ!忘れられたかと思ったじゃんよぉ!」

 

 

樽に入った錆びた剣、デルフリンガーは大声を出した。

 

 

「静かにしていれば連れていく。どうだ?」

 

「ああもうなんでもいい!何でもいいから俺も連れてってくれ!どうせ祭りごとなんだろ?」

 

「そうだ。そうだから静かにしていろ。喋るのは構わないが音量を下げろ。音波攻撃は慣れていない」

 

 

そう言うとデルフは一瞬で喋らなくなる。単純な奴だと心の中で呟き、ダークライはデルフの音波攻撃で痛くなった頭を押さえながら、デルフを持ち上げた。

 

普段ならば剣なんて使わなくても、ダークライの身一つで大抵どうにかなる。しかし今回の敵は軍であり、下手な動きをした瞬間にルイズが狙われる危険性が出てくる。それだけに、出来るだけ体力を使わず、継続して攻撃できる手段が欲しかった。

 

普段のダークライならば恐らく使うことは無いであろう、殺傷系の攻撃。それもダークライは恐らく体を動かす必要も無い、全くのノーモーションでの確実性の高い技。その方法が、ダークライの頭の中にはある。デルフでなくても可能だが、あるものは使った方がいい。

 

最悪の事態を想定して今回は出発する。出来ることなら、この喋りたがりの身を抜くこと無く終わらせたい所だが、そう簡単にはいかないだろう。

 

何故こんなことになった、と改めて思うが、なってしまったからには仕方がない。覚悟を決めて行くしかないのだ。

 

 

「戻るか」

 

「おう!どんな奴が相手でも俺様が痛っ!?」

 

 

悪化した頭痛に耐え、見事なフォームを作りデルフを壁に向けて投げる。再度サイコキネシスで浮かせ、ダークライはデルフを上下に左右にグルングルンと振り回しながらルイズの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ深い霧の中でも、ダークライは正確にルイズの場所へと向かう。数十秒ほど経ち、ルイズ達と思われる影がうっすらと現れた。そして段々と鮮明になってきた時、影に異変がある事が分かった。

 

ルイズとギーシュの影が一つ、これだけなら何もおかしくはない。しかしもう一つ、人と思わしき影と、大きな生物と思わしき影があった。恐らくどこかの使い魔と主人だろう。また別の生徒が来たかとも思ったが、それにしては様子がおかしい。敵だとも思ったが、どうやら違うようだ。

 

デルフを所持しているので影に入って隠れながら近づく事は出来ない。しかし濃霧のお陰で声が聞こえる範囲までは近づくことが出来た。

 

 

「ーー相変わらず軽いな君は!まるで羽のようだ!」

 

「ーーお恥ずかしいですわ」

 

 

若い男の声とルイズの声が聞こえてきた。抱き抱えられているのか、よく見えないがルイズと何者かが楽しそうにはしゃいでいるのは分かった。

 

男の声は全く聞き覚えが無い。恐らくこの学園の人間では無いだろう。だとしたら陛下とやらが寄越した増援か何かだろうか。どちらにしてもルイズは気を許している様なので、そこまで警戒する必要はないようだ。

 

一先ずルイズと謎の男から離れ、一人残されている人影の元へと向かい、状況の説明を求めてみた。

 

 

「どう言う状況だ?」

 

「ふおぉわ!?」

 

 

突如として霧の中から現れたダークライに驚きの声を上げるギーシュ。そりゃそうなるかと心の中で呟くも口にしないダークライは、さっさと質問に答えてもらうために再度全く同じ言葉を、声にドスを聞かせて言った。

 

その言葉に、ダークライが腹を立てていると勘違いしたギーシュは、慌ててことの天幕を話す。

 

 

「君が居なくなった後、僕の可愛いヴェルダンデを一迅の風が吹き飛ばし、魔法衛士隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ワルドと名乗る人物が現れたんだよ。どうやら姫殿下からの密命で、僕達と共に旅に出る様だ」

 

 

魔法衛士隊と言う物は良くわからないが、増援と言う事でいいのだろう。姫が寄越した隊長と言う位なのだからかなりの実力者なのだろうか。だとしたらルイズの護衛が幾らか楽になる。ルイズは何も言わずに一人で行動する事が多いため、ダークライも最近ルイズの安全を確保出来るか自信が無くなっていた所だった。防御が強化されるなら、こちらとしては都合がいい。

 

拒む理由はダークライにはないし、拒む必要も無いだろう。

 

ひとしきり思案した時、隣のギーシュから声がかかった。

 

 

「そう言えば、君は何で喋れるんだい?」

 

 

唐突の質問だったが、隠す必要も無い事なので、素直に答えを言った。

 

 

「私は言葉は発していない。テレパシーを使っているだけだ」

 

「…やはり君には分からない事が多いね。まあ解明しようとも思わないけど」

 

「なぜそんな事を聞く?」

 

「ただの僕の興味という事もあるけど、一つ忠告しておきたくてね。あまり無闇矢鱈に人前で喋るのは良くないよ。珍しい生物とバレれば、君は世界から狙われる。僕達が危険に晒されることになるし、君の主人にも危険が及ぶ事になるよ?」

 

「……ふむ」

 

 

真面目な顔をしたこの少年を初めて見たダークライは少しだけ驚いたが、その内容にダークライは考えさせられることとなった。

 

この世界ではポケモンという生物自体存在しない。ダークライはポケモンと言うこの世界で言う新種で、さらに人語を介すと世界に知れ渡れば、ダークライを狙おうとする人間は現れるだろう。ダークライを狙う過程で、ルイズに危害を加える可能性だって充分有り得る。

 

ルイズはダークライにとってゴーディの庭並に大切な存在であり、同時に弱点でもある。どれだけ敵が強くても押し返せる自信はあるが、まだまだ魔法と言う能力は未知数だ。慢心は出来ない。

 

ルイズと自分の安全を確保する為には、周りから注目されない事が重要になるだろう。戦わなければ危険は寄ってこない。

 

普段ルイズの言うことしか効かないダークライだが、今回ばかりはギーシュの警告をしっかりと聞くことにした。

 

 

「特に今回向かう所は人が多く集まる場所を経由して行く。あまり堂々と喋らない様にね」

 

「留意しておこう」

 

 

そう返して、ダークライはルイズとワルドと言う男を見る。こちらの視線に気が付いたのか、ルイズとワルドはダークライとギーシュに向き直った。

 

 

「ルイズ、彼等を紹介してくれたまえ」

 

帽子を深く被ってワルドが言う。

 

ダークライが帰ってきていた事に気付かなかったルイズは、ダークライがギーシュの隣にいた事に若干驚いたが、ダークライが気付かない内に接近している事なんて毎日の事なので大したリアクションはせず、ギーシュとダークライを順に紹介した。

 

 

「同級生のギーシュ・ド・グラモンと、私の使い魔のダークライです」

 

 

ギーシュは慌てて深々と頭を下げ、ダークライは静かに目を瞑った。

 

 

「ほう、噂通り見たことの無い使い魔だね」

 

 

そう言ってワルドはダークライに近づき、観察する様に一週する。

 

またこのパターンかとうんざりするダークライだが、今回はベタベタと触ってこない分楽だ。

 

 

「噂では、暗黒の使い魔は闇と悪夢を操ったと聴く。銅をも一息で穿ち、生有るものに静寂を与える者だと。噂と言うものは人の手に渡るにつれ進化し、新たな外枠を作られていく物だ。僕の聞いた話が全て本当だとは思っていないが、君の事は頼りにしている。ルイズをよろしく頼むよ」

 

 

そう言って、ワルドはダークライに右手を差し出した。貴族が何故ただ珍しいだけの使い魔に握手を求めるのか、理由が分からなかったが、断る必要も無いのでダークライは無言で左手を差し出し、ワルドの手を取った。

 

軽く握手を交わす。何でもないただの握手であるが、握手と言う物は相手を探る第一歩でもある。

 

ダークライはワルドを探る様に見つめ、ワルドは握手している手を見つめる。そして何かに納得したかのように小さく唸り、ワルドは一歩下がった。

 

 

「…さて、本来なら君達に直接任されるはずだった密命が僕にも任された。詳細は道中で話すことにしようか」

 

 

ワルドは自らの使い魔であるグリフォンに跨ると、ルイズを手招きした。

 

 

「おいで、ルイズ。共に行こう」

 

「え?」

 

 

ワルドの言葉にルイズは驚きの声を上げ、躊躇う様にもじもじとする。そしてたまにちらちらとダークライの方を見ていた。

 

ダークライとしては正直行かせたくない。霧の中では影が掴みにくいし、グリフォンのスピードも未知数。見失う可能性は十分にある。まだワルドの事を信用し切っていないダークライは、ルイズを少しでも危険が多い選択肢からは外させたかった。

 

しかし、ダークライのエゴでルイズの自由を奪う訳にも行かない。使い魔であるダークライにとって、ルイズの安全は確かに第一だが、ルイズを安全という名の足枷に縛り付け、自由の選択をルイズから消したくは無かった。例え危険でも、死ぬ前にルイズが望む事を少しでも叶えてやりたいと思っている。それに使い魔と共に行くよりは、友と共に行った方がいいだろう。

 

だからダークライはルイズに言った。

 

 

「好きにしたらいい」

 

 

ダークライの言葉を聞いたルイズは、少し考えた素振りを見せ、コクリと小さく頷き、伸ばされていたワルドの手を取った。

 

 

「では諸君、出撃だ!」

 

 

ワルドの声が霧の中で響き、グリフォンが天に舞う。それを合図にギーシュは馬に跨り、馬を駆ける。ダークライはグリフォンが白く消えていった空を暫く見つめ、ギーシュを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルイズらが学園を発つ直前、学園の寮の一室で、タバサが寝巻きから制服への着替えを終えていた。

 

普段ならこのような早朝から支度はしない。何故こんな朝早くに起きて着替えをするか、その理由は一つしかない。

 

窓の外から聞こえた馬の嘶き、それと共に聞こえた巨大な何かが羽ばたく音。その音に疑問を覚え、窓の外を見た。窓から見える正門で、一瞬だけ黒い影が見え、溶けるように消えていく何かの姿をタバサは捉えた。

 

影の正体はまず間違いなくルイズの使い魔だろうと、瞬間的にタバサは確信した。同時に、タバサは己の使い魔であるシルフィードを呼ぶべく指笛を吹こうとする。

 

しかし、タバサの部屋の扉をノックする音によって遮られた。

 

 

「タバサ、起きてるんでしょ?」

 

 

扉の外から聞こえた親友の声。聞き慣れた声にタバサは窓から離れ、扉を開ける。

 

 

「珍しいわね、あなたがこんなに早く起きるなんて」

 

「それはこちらのセリフ」

 

 

不敵に笑うキュルケに、タバサは淡々と応える。キュルケも既に制服に着替えており、タバサより早く起きていた様だった。

 

そんなキュルケは、笑みを崩さずに話を続ける。

 

 

「こんな朝早く起きてどうしたの?」

 

「あなたと同じ」

 

「なら丁度いいわ」

 

 

まるでタバサの返答を分かっていた様な速度でキュルケが反応した。理由がわかっているタバサは、やれやれと言った具合に目を閉じた。

 

 

「彼の事が気になるのよ。あなたもそうでしょ?正体不明の存在、ルイズしか心を許していなく、しかも会話が出来る。そんな生物が今までいたかしら?」

 

「…少なくとも、聞いたことは無い」

 

「そうでしょ?あなただって気になっている筈よ。彼が一体何者なのか、あの力は何なのか、とかね」

 

 

キュルケの指摘は的を得ていた。特にダークライに関する力は、タバサにとって興味があるという言葉では片付けられないくらいである。

 

力には技量が伴う。殆どの貴族は力に技量が付いてきていなく、大きな肩書きの割には弱いなんて事も多い。力に合わせた状況判断力、空間認識力などが伴い、本当の強さを得る。

 

ダークライはその全てを兼ね備えている気がした。とてつもなく強大な力。それを操るのならどれほどの技量が必要だろうか。学園の生徒は、ダークライが人外だから強いと片付けるだろうが、幾ら人外でも経験は必要だろう。

 

力を欲するタバサは、ダークライとギーシュの戦いを見て、ダークライの事を多く知ろうと考え始めていた。

 

彼の戦いを見れば、何かが分かるかもしれない。何か足りない物が補えるかもしれない。例え人外であっても、ダークライの戦いは魔法に近い物がある。ソレを知って、自分の糧にしたい。その思いが今のタバサを支配していた。

 

 

「私は行く。彼等を見失うと困る」

 

 

そう言って、間髪入れずにタバサはシルフィードを呼んだ。羽ばたく音と共に現れた使い魔にタバサは跨り、心底嫌そうな顔をしているシルフィードに行き先を告げる。

 

ルイズの使い魔を追って。その指令を聞いたシルフィードは、大きく首をガクッと崩し、嫌々ながらもダークライが向かっていった方向へと頭を向ける。

 

そしてまだ部屋の中に取り残されているキュルケを一瞥し、一言言った。

 

 

「来たければ来るといい」

 

「行くわよ!当たり前じゃない!」

 

 

勢いよくシルフィードの背にキュルケが飛び乗り、シルフィードがむぎゅっと声を上げる。突然重量が増えた事により少しバランスを崩すも即立ち直り、ふらふらした動きでダークライを追って飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと時間が無いので、ポケモン図鑑は別日とさせて頂きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

道中

落ち着いてきたので書きました
何とか今年中には次回を出したいです(願望)


 

 

 

アンリエッタ姫は、ルイズ達が学園を発つところを学院長室の窓から眺めていた。

 

 

「彼女達に加護をお与えください。始祖ブリミルよ…」

 

 

目を閉じ、静かに手を組んで祈るアンリエッタ。その隣では、オールド・オスマンが鼻毛を抜いていた。一大事だと言うのに緊張感の無い仕草に、アンリエッタは問うた。

 

 

「見送らないでいいのですか?オールド・オスマン」

 

「見てのとおり、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますのでな」

 

 

はぁ、ため息を小さく吐き、アンリエッタは首を横に振る。

 

その時、学院長室の扉が乱暴に叩かれた。慌てた様子で飛び込んできたのはミスタ・コルベールだ。

 

 

「いいい一大事ですぞ!チェルノボーグの牢獄からフーケが脱獄した様です!」

 

「ふむ…」

 

 

話によると、貴族を名乗るフードの男が風の魔法で門番が気絶させられたらしく、その隙に男と共にフーケが脱獄したと言う。アンリエッタの護衛で魔法衛士隊が出張らっている隙を付いたのだろう。門番の戦力が低くなっていた所を狙われた様だ。

 

魔法を操れる者は一般的には貴族のみ。つまり、裏切り者がいることになる。

 

 

「これが一大事でなくて何だと言うのですか!」

 

 

コルベールの説明を聞いたアンリエッタの顔から血の気が引いていく。

 

しかしそれと比例して、オスマンは茶を飲みながら手を振り、コルベールの退室を促した。

 

 

「分かった分かった。その件については後で聞こうではないか」

 

 

不満そうにコルベールが退室し、またオスマンとアンリエッタの二人だけが学院長室に残った。

 

 

「城下に裏切り者が!間違いありません、アルビオン貴族の手の者ですわ!」

 

「そうかも知れませんな」

 

 

アンリエッタの言葉を淡々と返して、オスマンは鼻毛抜きを再開した。

 

アンリエッタはそのオスマンの態度に不満を顕にする。

 

 

「トリステインの未来がかかっているのですよ。なぜそんな余裕な態度を…」

 

「既に匙は投げられたのですぞ。我々には待つだけ。違いますかな?」

 

「そうですが……」

 

「なに、彼ならばどんな困難があろうとも、やってくれますでな」

 

「彼、とはあのギーシュですか?それとも、ワルド子爵?」

 

アンリエッタの問に、オスマンはいえいえと首を横に振った。

 

 

「彼、ミス・ヴァリエールの使い魔です」

 

「彼が?確かに強そうではありますが…彼だけでどうにかなる問題では無いでしょう?」

 

「確かに、並の使い魔ではどうしようもない問題でしょう。しかし、彼ならば例え軍隊であろうとも粉微塵に吹き飛ばしてしまうでしょうな」

 

「そんな…いくら何でも買い被りすぎでは?確かに珍しい、言葉を解す生き物ではありますが、そこまでの力があるとは思えません」

 

 

アンリエッタの言葉に、オスマンは悩ましそうに首を捻る。

 

 

「ふむ…姫は、始祖ブリミルの伝説をご存知ですかな?」

 

「通り一遍の事なら知っていますが…」

 

「通り一遍…という事は、あの伝説はご存知ないでしょう」

 

「あの伝説…?」

 

 

オスマンは悪戯が成功した子供のように笑う。

 

 

「始祖ブリミルが聖地に辿り着いた時の事。聖地に足を踏み入れようとした時、空から眩いばかりの光が始祖ブリミル一行を照らし、地では闇が辺りを支配した。闇から現れた異形の者は全てを静寂へと誘う力を持ち、光から現れた美しい者は、光で全てを癒す。それらを相手した始祖ブリミルは2匹を退くも痛手を負い、引き分けという結果に終わった。まあ、簡単に言うとこのような感じですな。ご存知でしたかな?」

 

 

知らない、とアンリエッタは首を横に振る。

 

 

「知らないのも無理もないでしょう。伝説は美化され、薄汚い部分は歴史の闇に葬られるもの。全てが美談で終えられる人間なぞ、いませんからな。出回っている伝説は、大衆に尊重される様に美化されたものばかり。この話は言わば、伝説の"影"となってしまった話ですかな」

 

「……ですがその話が本当だとすると、あの使い魔といったい何の関係があるのですか?」

 

「似てると思いませぬか?あの使い魔と、影の異形とが」

 

 

そう言われ、アンリエッタはその話で現れる異形との共通点がいくつかある事に気が付いた。

 

闇に溶け込む黒い体、自ら影に入る能力を持ち、さらに周囲を眠らせる能力を持つ。闇から現れた異形のモノ、静寂へと誘う力。これ以上無いほど一致していた。

 

 

「ワシも信じて居ない話でしたが、こうも一致する生物が現れると、信じるしかなくなりましてなあ」

 

「…もしや、彼がその?」

 

「恐らく。ですが始祖ブリミルと対峙したとされる者とは別の個体でしょうな。しかし強さは折り紙付き。恐らく、伝説以上の強さを持っていると見ていいでしょう」

 

「そんなモノを、あの子が…」

 

「だからワシは終始余裕なのですじゃ。どんな壁が立ち塞がろうと、彼は立派に役目を果たして帰ってくると信じておりますでな」

 

 

信じられないと、アンリエッタは目を丸くした。オスマンの話を100%信じた訳では無い。始祖ブリミルとは恐ろしく強く、その使い魔達も神の如き力を持つとされている。そんな伝説の存在が、たった2匹の生き物に負けたなんて考えられない。

 

しかし、嘘を言っている様には見えなかった。こんな時に嘘をつく人間でない事も知っている。だからこそ、信じられなかった。自分の旧友が、そんな生物を召喚した事が。

 

それと共に、昨日の夜の出来事が頭に浮かんだ。無作法にベタベタと触り、ジト目でコチラを見てきた使い魔の姿。もしかしたら、とんでもない生き物にとんでもない事をしたのではないのだろうか?

 

 

「……謝罪の言葉を考えなければなりませんね」

 

 

そう言って、アンリエッタはルイズ達が向かった方角に向けて、深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまったな」

 

 

山道を飛行するダークライがボソリと呟いた。

 

ギーシュと共にラ・ロシェールへと向かうダークライの目からは既にグリフォンの姿は見えない。グリフォンはダークライの予想以上の速度で移動する様だ。おかげでルイズを見失ってしまった。

 

ギーシュの馬と同速で飛んでいるためスピードが遅く、とてもでは無いがグリフォンに追いつく事は出来ないだろう。しかしダークライはラ・ロシェールの場所を知らなければ、どこで待ち合わせるのかも分からない。今のところ、ギーシュについて行くしか無い。

 

 

「もう少し早くならないのか?」

 

「無茶言わないでくれ。これでも精一杯だよ」

 

 

少し苛立ってきて、ギーシュに催促して見るが、どうやら馬も限界が近い様だ。足場の悪い道を二時間近く走り続ければ流石に体力も尽きてくるだろう。

 

 

「これはどこかで休憩を挟まないとね…」

 

 

馬の様子を見てギーシュが言う。確かにこのまま走らせても足は遅いし呼吸は荒いしでジリ貧ではある。

 

少しでもルイズに追いつきたいが、仕方ない。どこか開けた場所にでも休憩するしか無い様だった。

 

数分走らせると、道が少し広くなっている場所があった。腰を下ろすには丁度いいサイズの岩もあり、ギーシュの休息も充分可能だろう。

 

 

「そこで止まるぞ」

 

 

ダークライが指を指し、ギーシュが頷いて馬の速度を落とす。休憩場に指定した場所に馬が止まり、ギーシュが腰をさすりならがゆっくりと降りてきた。山道の荒い道のせいで腰に負担がかかったのだろう。

 

ギーシュは人間の膝ほどの大きさの岩にゆっくりと腰を下ろす。その間にダークライは周りの様子を確認した。

 

切り立った岩が道の両サイドを囲み、遠くまではよく見ることが出来ない。とうやら渓谷に作られた道らしく、背の高い岩山がダークライを見下ろしていた。

 

 

(襲撃をするにはいい場所だな)

 

 

岩山には大小様々な物がある。矢でも魔法でも、上から撃ち下ろす事は可能だろう。念の為上空まで上昇し、岩山を見下ろして見るが、敵らしき姿は何も無かった。しかし至る所に大人一人が入れそうな穴が点在し、隠れている可能性もあった。

 

一つ一つを調べている余裕は無い。仕方なくダークライはギーシュと馬がいる小さな広場へと降りた。

 

下からでは敵の位置が見えない以上警戒する必要がある。警戒を緩めず、ダークライは静かにギーシュの近くへと降下した。

 

 

「そう言えば君は疲れてないのかい?」

 

 

突然ギーシュから声がかかった。返答する必要は無いが、休憩時間が暇なので適当に答えることにした。

 

 

「この程度で疲れはしない」

 

「は〜、いやはや凄いね君は。あの距離を馬なしで、しかも飛行して全く疲れないなんて。馬でさえこれ程疲れてしまうのに」

 

 

そう言いながらギーシュは息を整える。体の構造が違うというのもあるが、長年生きてきたダークライは体力には自信がある。パルキアとディアルガまでとはいかないが、ゴーディの庭は度々襲撃されていた。幻のポケモンであるダークライがゴーディの庭に潜んでいると世間に知られ、ロケット団と言われる集団が何度もダークライを捕らえようとしてきていた。

 

それを迎え撃つためにダークライは日々レベルを上げていき、長期戦の為に体力も上げていた。波状攻撃を繰り出してくるズバットやゴルバットの大軍と戦闘した時と比べれば、この程度の移動なんて苦にもならない。

 

ペタンと底辺を地につけたダークライは、岩に背を預けて楽な姿勢を取る。

 

一方息を整え終えたギーシュは、腰から提げた水筒の水を馬に飲ませる。ものすごい勢いで馬はギーシュの水筒から水を奪っていき、瞬く間に水筒の水が無くなって言った。

 

うわぁ…と引き気味で馬を眺め、軽くなった水筒の口を下に向ける。中から垂れてくる水は一滴も無い。ガックリと肩を落とし、ギーシュは力なく座っていた岩に腰を落とした。

 

はぁっと大きく息を吐き、空になった水筒をまた腰のベルトに吊るす。そして思い出したようにハッと顔を上げ、ダークライの方を見た。

 

 

「…君に一つ、聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」

 

 

何やら神妙な顔で訪ねてくるギーシュにダークライは少し不信感を持ったが、気にせずに要件を聴くことにした。内容によって適当に答るか断るかすればいい。

 

 

「君はルイズに呼ばれる前、何をしていたんだい?」

 

「ここに来る前か」

 

 

何故急に過去を知りたがるのかと疑問に思った。例え教えた所であの世界の事を理解できないだろうし、自分の人生を教える義理もない。何より面倒くさい。ダークライの人生は複雑なのだ。

 

ここは適当に流して先に進もうと思った。馬ももう十分休んだようで、とても生き生きとパカラッている。ギーシュも喋れるなら体に異常は無いのだろうし、わざわざ無意味に喋る時間をとる必要もない黙ろう。

 

ダークライはふわりと宙に浮き、何時でも移動できる姿勢を取る。そして、適当に言葉を並べようと思い、

 

直ぐに止めた。

 

 

「…どうしたんだい?」

 

 

急にピクリとも動かなくなるダークライを見てギーシュが不審そう聞く。ダークライはギーシュの言葉に反応せず、ずっと崖の上を見つめ続けていた。

 

 

「賊だ」

 

 

一言だけ呟き、ダークライは両手を体の前に突き出す。小さな空気の振動の後、ダークライの手の中に闇の球体が生み出される。

 

それを見たギーシュは、広場での戦闘のワンシーンを思い出した。群れて襲いかかったワルキューレをたった一発で吹き飛ばしたあの極太魔法攻撃。

 

ハッと記憶の中から抜け出したギーシュは、急いで地に伏せる。

 

 

「ハァッ!」

 

 

低い声とともに爆音が響く。放たれた「あくのはどう」は岩山の上へと登っていき、岩山の一部を破壊した。

 

ガラガラと崩れてくる岩。それと共に弓を持った数名の男が悲鳴を上げながら落下してきて、崩れた岩と共に地面へと落ちる。土煙によって落下した者達の姿は見えないが、まず命はないだろう。

 

 

「い、いまのは…」

 

 

起き上がったギーシュが顔面蒼白でダークライに聞いた。

 

 

「言っただろう、賊だと」

 

 

そう言って、ダークライは破壊した岩山の上へと上って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇襲作戦は完璧だった。

 

平均的な馬の体力。騎乗している人間の疲労。到達時刻。すべてを計算した待ち伏せポイントに、まんまと貴族が体を休め始めた。

 

見たことのない使い魔もいたが、奇襲さえしてしまえばこっちのものと、岩陰で待機していた盗賊達は思っていた。

 

使い魔が降下した所を見計らい、完全に気が緩んでいると思われるタイミングを探り、彼等は待機していた岩陰を離れ、攻撃位置に付いた。弓に矢をつがえた者達が岩山の淵で狙いを定め、後方に突撃用の剣持ち達が待機する。

 

弓矢による強襲で貴族を倒せればいい。しかし倒せなかった時の場合、混乱しているであろう貴族達をロープを用いて飛び降り、突撃隊が近接戦闘で倒す。今までの貴族はそうやって倒してきた。

 

しかし、今回は違った。

 

弓兵隊が岩陰から攻撃位置につき、貴族に狙いを定めた瞬間、岩が爆音を上げて爆破され、弓兵隊が崖下へと崩れ落ちて行った。10人以上の弓兵隊が全滅するのに、10秒とかかっていない。

 

 

「ば、馬鹿な…!」

 

 

生き残った突撃隊の誰かが信じられない様に呟いた。

 

貴族達に位置は知られていない筈だった。にも関わらず正確に、しかも確実な方法で弓兵隊を全滅に追いやった。突撃隊はあまりの突然な出来事で混乱し、総崩れになっている。指揮系統もへったくれも無い状態だ。

 

その中で、この場から逃げようと駆け出した者が急に倒れた。冷静さを欠いている盗賊達にその理由が分かるものはおらず、倒れた事さえ気づかなかった者もいたほどだ。上空を見れば、犯人はすぐ分かると言うのに。

 

混乱の中で四方八方に逃げる盗賊達を黒い球が追い、命中すると共に男達が崩れる様にして倒れる。中には走っている勢いをそのままに倒れたため、ヘッドスライディングしながら痛そうに倒れる者もいた。

 

淡々と目標を狙い、作業の様に球体が盗賊に向けて放たれる。逃れられた者は一人もいなく、混乱が収まった頃には周囲は静寂に包まれていた。

 

その全てを、腰を抜かして動けなくなっていた一人の盗賊の男が奥歯をガタガタと鳴らしながら見ていた。

 

丁度いいと言わんばかりに、盗賊の真正面にダークライが降り立った。

 

 

「ひいぃぃぃい!?」

 

 

仲間を全滅させた正体不明の生物に、盗賊は情けない声を上げる。

 

ダークライは容赦なく右手をその男に突き出した。

 

 

「貴様らは何者だ?何故我々を狙う?」

 

「キ、キャァァァ!シャベッタァァァァ!?」

 

 

喋ると思っていなかっただろう、男は驚いた様に絶叫する。しかしこのリアクションに飽きていたダークライは、予想以上の大音声に頭痛を起こしながらも、急かすように右手に球体を生み出す。

 

 

「さっさと答えろ。喋れなくしてやろうか?」

 

「わ分かった!応えるから殺さないでくれ!俺たちは盗賊で、近くの山道を通る貴族を襲ってたんだよ!ここ最近人通りが少なかったからアンタらしか狙う人間が居なかったんだ!」

 

「…それだけか?」

 

「そうだ!こんな事は二度としない!だから頼む!見逃してく---」

 

 

右手で構えていたダークホールを容赦なく撃ち放ち、男は倒れた。

 

ナイトメアで苦しみ出す男を尻目に、ダークライは盗賊達を物色する。先程の男の言葉に偽りがあると思っていたからだ。

 

 

(……ただの盗賊にしては良質な装備だな)

 

 

どの盗賊を見ても、つい最近買った様な新品の装備ばかりを身につけている。中には高そうな装飾品何かも身に付けている者もいた。

 

人通りが少なくなっているのなら、ここまでいい物を揃えられないだろう。何かの報酬なのか、それとも何かの前払い金で手に入れたのか。例えば、ここを通る貴族を狙えと命令されていたとか。

 

 

「だとしたら、我々がここを通る事を知っている者がいるのか」

 

 

そう考えたら、ダークライを警戒して装備を整えさせたと思えば辻褄が会う。しかし、そうなると一体誰がこの盗賊たちを誑かしたのか。状況が状況なため、ダークライ達の行き先を知っている者は限られている筈だ。

 

そして思考が行き着いた先は、あのワルドとか言う男だった。

 

 

「やはり、警戒しておくべきだったか」

 

 

今更ながら、ルイズをワルドに付いていかせた事を悔やむ。しかしまだ確証はない。もしかしたらあの姫がどこかで情報を漏らしたのかもしれない。しかしどれだけ考えても確証が無く、ただのダークライの想像でしかない。

 

ここで色々考えても意味は無いと思い、ダークライは近くで眠っていた男に近づいた。少し近づいただけで男の呻きは大きくなり、ダークライが瞳を輝かせた瞬間、何やら苦しそうに独り言を呟き始めた。

 

 

「かめん……仮面の男が……ッ!誰だお前は……何故……」

 

「ふむ、仮面の男か」

 

 

悪夢を操作された男は、ダークライの思い通りの言葉を喋ってくれた。最近接触した男が仮面の男なのだろうが、仮面だと言うのなら正体が分からない。

 

その後も悪夢を操作して色々と情報を聞き出してみたが、これと言って有力な情報は得られなかった。分かった事と言えば、今回の襲撃の手引きをした人間がその仮面の男と言う事ぐらいか。これは予想していた事なので、欲しかった情報ではない。

 

裏にいる人物の特定。それが最優先だが、全ての盗賊に仮面を着用して接触しているらしく、正体は掴めなかった。

 

 

「予想以上に役に立たん」

 

 

そう愚痴を零し、盗賊達を捨て置いてギーシュの元に戻った。

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『サニーゴ』さんごポケモン
タイプ:みず
高さ:0.6m
重さ:5.0kg
とくせい:はりきり、しぜんかいふく
ゆめとくせい:さいせいりょく

『図鑑説明』
どんどん育っては生え変わる頭の先は綺麗なので、宝物として人気が高い。
戦闘では攻撃技、補助技が豊富で、夢も含めれば特性が三つある。技ならカブトプスやアバゴーラなどの水タイプに引けを取らない。そう、技だけならば。問題はそのレパートリーにスペックが付いてきていない所。
HPに種族値を振れば硬くはなるが他のポケモンのスペックが大体上回るため弱点が多く、足も遅いため何も出来ずに即落ちすることもある。その鈍足ゆえ、トリックルームに依存してしまい、技に余裕がなくなってしまう。火力を高めるにしても「はりきり」の効果で外れることが多い。火力は高いため、一発必中にかける戦術になる。
その他戦闘では不遇な部分も多いが、習得できる技は水泳部の中でも豊富な為、遺伝役として育てるトレーナーが多い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

疑惑

あけましておめでとうございます。
はい年内間に合いませんでした。申し訳ないです。
しかも今回少し短いです。申し訳ないです。


ダークライ達がラ・ロシェールの宿、『女神の杵亭』へと到着したのはその日の夕刻の事だった。

 

陸路で二日かかると言われた旅路だが、ギーシュが道中で「君の速度で一緒に飛んでゆけば早く着くかもしれないね」と言う一言で、ダークライはしまったと頭を抑えながらサイコキネシスでギーシュを浮かしナビゲートしてもらいながら、最高速度で青空の下を駆けた。

 

結果、ワルドよりは遅かったものの、グリフォンよりも速いのではないかとも思われるスピードで目的地に到達した。しかしそれでもルイズがラ・ロシェールに到達したのは何時間も前である。今まで寝る時位しかまともにダークライと離れたことの無いルイズがこれ程の時間をダークライと離れた時はどうなるか。

 

 

「ダークライ!何してたのよ!ご主人様を待たせるなんて!もっと速く来れたでしょッ!」

 

 

涙声でダークライに駆け寄って来る元気なルイズを見て、ダークライは安心と呆れを覚えた。

 

たった数時間離れただけだと言うのにこの始末である。目を真っ赤にしている所を見るに今までどうしていたかは想像するにかたくない。申し訳ないと思いつつも、元々二日かかる距離なのだから相当な時間が掛かることは想像がつくはずだと呆れる。しかしここはダークライ、そんな正論を言っても主人には通用しないと分かっているため、素直に謝った。

 

 

「すまない。私が飛べば速いという事に気付かなかったミスだ」

 

 

そう言って小さく頭を下げた。

 

そこに、荷物の処理をしていたギーシュがやって来て、ルイズを宥める様に言った。

 

 

「ダークライ君を責めるのは御門違いと言うものだよ。彼は盗賊団を退け、さらに僕と僕よりも何倍も重い荷物を浮かせてここまで来たんだ。本当だったら二日はかかる距離を、たった数時間で辿り着いただけでも、賞賛されるべき事だと思うけどね」

 

「確かに…」

 

 

ギーシュの言葉は全くの正論である。徐々に落ち着きを取り戻してきたルイズは、キョロキョロと辺りを興味深そうに見回しているダークライに向き直った。

 

 

「ごめんなさいダークライ…勝手を言い過ぎたわ」

 

「ルイズが謝る事は無い。私に落ち度があった事は事実だ」

 

「ダークライ…」

 

 

抑揚のないいつもの声。どんな時でも機械の様に返してくるその声は、ルイズを少なからず不安にさせた。何しろ、内心でどう思っているか感じ取れない。人間ならば、少しは声に感情が入る。ギーシュがいい例だ。しかしダークライは感情どころか空気の振動すらも感じない。もしかしたら、心の中で怒りの火炎放射器が渦巻いているかもしれない。

 

まあ勿論、ダークライにそんな感情は一切なく、本当に自分の落ち度だと反省している。怒りの火炎放射器どころか、絶対零度に近い。ダークライは内心では、ルイズから聞こえたしおらしい声にどう対応しようかとオロオロしている。

 

そんな二人に思わぬ方向から救いの手が届いた。

 

 

「私はルイズの珍しい顔が見られたから満足だわ。だから彼が謝る必要ないわよね?」

 

「確かに、中々見ない表情だった」

 

 

宿の入口側から届いた二人の聞き覚えのある少女の声。その声にいち早く反応したルイズは、心底驚いた表情でバッと振り向いた。

 

そこに居たのは、嬉しそうな笑みを作ったキュルケと相変わらず無表情のタバサだった。

 

まるで当たり前のようにそこに佇む居るわけのない二人。その二人を見てしびれ状態の様にフリーズするルイズ。そして宿を物珍しそうに見渡すダークライ。

 

意味の分からない無音の時間が少し続き。

 

 

「…あ、あんた達なんでこんなところに居るのよ!?」

 

 

啖呵をきったのはルイズの怒号だった。宿泊客達が一斉にルイズに振り返り、周囲からの注目が集まる。そんな事などお構い無しに、ルイズはキュルケに詰め寄った。

 

 

「もう少し早く来ていればあなたの泣き顔が見れたと思うと残念でならないわ」

 

「な、泣いてなんかいないわよ!」

 

「分かりやすいわねぇ」

 

 

ギャーギャーと騒ぐルイズを終始軽く受け答えするキュルケ。その隣でダークライはタバサに近付いた。

 

 

「何しに来た?」

 

「 昨日約束した。今日、あなたの事を教えてもらうと」

 

「…確かに言ったが、それだけの為にここまで来たのか?」

 

「他にも色々とあるけれど、主な理由がこれ」

 

「…約束した私の責任か」

 

 

コクンと無言で頷く少女に、小さく溜め息を吐いた。急な旅だったとは言え、約束を破りかけた事は事実である。正直、上手く逃げたと思っていたのだが、この少女は予想以上に面倒臭いタイプのようだ。どこかのべロベルト男爵にも通ずる所がある気がする。

 

アレと同じとなると、何処までも追いかけてくるだろう。それでいて他の有象無象よりもそれなりに実力があるからタチが悪い。

 

仕方ないと割り切って、別の話をした。

 

 

「いつから来ていた?」

 

「あなた達が出発した直後。途中で追いついてたけど、あなたの飛行速度が速くて追いつけなくなった」

 

 

同じ所から来ているなら気配は感じるはずだと思った故の質問だったが、考えてみればルイズの心配ばかりをしていて全く周りの事を考えてなかった。もう少し危機感を持とうと心に決め、ダークライは別の質問に移る。

 

 

「私が何者かを答えれば、お前達は帰るのか?」

 

「まだ帰らない。あなた達と共にアルビオンに向かう」

 

「何故だ?我々の向かう場所は戦場。態々危険な場所まで行く必要がお前達にあるのか?」

 

「私にはある」

 

「…アルビオンにあるものか?」

 

「アルビオンにあるものかと言われれば否定はしない。私が求めるものはアルビオンにあるし、いつでもそこにあるもの」

 

「…うん?」

 

 

意味が分からないとばかりにダークライは首を傾げた。なぞなぞと言う奴か?と色々と思考を巡らせるが、答えは出ない。

 

何故そここまで遠回りに言うのかと疑問をもつ言い回しだ。何か隠しているのではと疑い始めて来た。

 

タバサに対しての警戒を密かに強めた。出来るだけタバサの目的を詳細に聞き出そうとさらに質問を投げかけようとするが、その声は別の男の声で遮られた。

 

 

「やぁ使い魔くん。随分と早かったね」

 

 

入口から聞こえた声はつい最近聞いた声であり、今ダークライが一番神経を尖らせるべき相手の声だった。

 

 

「…ワルドか」

 

「半日ぶりだね。半日で再会できるとは思わなかったけど」

 

「不都合な事でもあるのか?」

 

「まさか。ただ君の速度に驚いているだけだよ。まさか、途中まで馬の君達がこれ程の時間で来るとなると…僕のグリフォンよりも速度は上と言うことかな?」

 

「…そうかもしれないな」

 

 

終始笑みを崩さないワルドはダークライから視線を外し、いつの間にか軽い殴り合いに発展していたルイズとキュルケを止めに入りに行った。宥める様な声と共に、食事にしようと言う提案の言葉も聴こえてくる。

 

ワルドの一連の動作を見続けたが、特に怪しい動きはなかった。

 

 

「疑ってる?」

 

 

すぐ隣からタバサの声がかかる。

 

 

「…あぁ。奴は何者なんだ?」

 

 

普通ならば何故今頃そんな事を聞くのかと思うだろうが、タバサは全くの無感情でワルドの情報を話した。

 

 

「彼は女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長のワルド子爵。魔法衛士隊とは全ての貴族の憧れの的。それも隊長ともなれば、貴族の中で知らない人はいない程の人物。あなたの主の婚約相手でもある」

 

「…強いのか?」

 

「風系統のスクウェアメイジであるワルド子爵は、『閃光』の二つ名を持つ。相当な実力を持っている」

 

「ふむ…」

 

 

ダークライは『すばやさ』では自信がある。戦闘では相手よりも先にダークホールを繰り出す事が第一に求められるため、ダークライ種族は総じて『すばやさ』が高い。そのためダークライの最高スピードを超えるポケモンは数える程しかいない。

 

先手を打つ自信はある。しかし、今回の相手はルイズの婚約相手であり、女王陛下お墨付きの私兵の様な相手だ。いくら怪しくても、手を出せばダークライだけの問題ではすまなくなる。

 

歯痒い事だが、ワルドがボロを出すまで根気強く待つしかない。

 

 

「…苦手なのだがな」

 

 

考えるより行動を優先するダークライにとって、この時間は好きじゃない。ルイズに牙を向くかもしれない敵が、ルイズのすぐ隣にいると言うのに手を出せないのだから、余計にだ。

 

しかし、散々本能のままに行動してきたダークライは思考の大切さを知っている。後先考えない行動は、後に惨事を招く。長年の経験で、ダークライは考えると言う事を重要視していた。出来ることならば、すぐにでもダークホールを食らわせてやりたい所だが、後のことを考えてグッと我慢した。

 

ふぅと、胸中のもやを取るように息を吐いた。そして一つ気になっていた事を思い出し、隣でダークライをずっと見ていたタバサに質問した。

 

 

「お前達はルイズの目的を知っているのか?」

 

「知っている。先程彼が教えてくれた」

 

 

そう言って、ワルドと共にルイズとキュルケの喧嘩を止めに入っているギーシュを指さした。

 

 

「奴か」

 

「彼はあなたに眠らされた時から少し変わった。彼に何かした?」

 

「ただ悪夢を見せてやっただけだ。どんな悪夢かは私にも分からない。ただ、私の記憶の中から上位に入る悪夢を見せた」

 

「…あなたが悪夢と思うものがあるとは知らなかった」

 

「言ってないからな」

 

 

そう言って、ダークライとタバサは未だに続いているキュルケとルイズの喧嘩を見物した。止めに入れば何故か悪化する喧嘩。ワルドも参ったと言わんばかりに帽子の上から頭をかく。そしてギーシュはルイズにアッパーを食らい、高く舞い上がった。

 

 

「あなたは止めに行かなくてもいいの?」

 

「…あぁ」

 

「…何かあった?」

 

 

ずっと一部を凝視し続けるダークライに、タバサが声を掛ける。しかしダークライは反応せず、ただ一点を見つめていた。

 

ワルドの黒い帽子、その装飾品の羽。光を浴びる度に七色に輝く三日月形のその羽に、ダークライは見覚えがあった。

 

 

「まさか、な…」

 

 

奴もここにいるとは。

 

その『みかづきのはね』の光は、ダークライの心を強く締め付けた。

 

 




後書きポケモン図鑑(マイナーポケモン編)

『マイナン』
タイプ:でんき
高さ:0.4m
重さ:4.2kg
とくせい:マイナス
ゆめとくせい:ちくでん

『図鑑説明』
プラスとマイナスのマイナスの方。プラスマイナスのポケモン自体あまり記憶にない人も居るだろうが、一応ピカチュウポジション。バトルではプラスとマイナスを並べられないと言う謎状態になる。だからと言ってシングルだと余計に弱い。隠れ特性は優秀なのだが、パチリスが同特性を持っているのでパチリスの方が良くなる。耐久値も高いと言う訳もなく、じしん一発で即瀕死状態になる。
第7世代で少しは良くなるかと思いきや、追い討ちが待っていた。ライバルポケモンが増えたのだ。カプ・コケコなどのダブル向け特性を持つポケモンが増加し更に差別化され、マイナンの評価は更にマイナスとなった。ダブル向けポケモンとして登場したはいいが、他のポケモンに任せられてしまうため、バトルたでの使用者は少ない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憂晴

お ま た せ

こんなにも長く、時間がかかってしまった…(役10ヶ月)
いやホントすみません。ようやく仕事が一段落着いた、訳でもないんですが、今回は難産でした。もっと後に出そうとしていたフラグをこんなにも早期で出してしまうほど難産でした
誤字脱字も多いかもですが、見返す暇が無いんだ…


 

宿に宿泊してから、既に一夜が明けた。

 

元は馬の速度から計算して今日ここに到着する予定だったが、グリフォンとダークライの速度のせいで半日で到着してしまったので、船が出る日、つまり明日の午後まではここで待たなければならない。

 

暇な時間を少しでも消費したかったルイズは、ダークライが宿主と交渉、と言うよりは脅して無理矢理とった一人部屋のベッドで気持ちの良さそうな寝息を立てていた。

 

白い寝巻きは寝返りのせいかはだけており、さらに掛け布団は酷い寝相のせいかベッドから落ちていて、当のルイズは大の字で寝ている。姿形はやばい人が見ればとんでもない展開になってしまいそうだが、いま部屋の中にいる人間はルイズのみ。あとは影から徐々に顔を出して来るダークライだけだ。

 

 

「ルイズ」

 

 

一言声をかけるが、ルイズは苦しそうに顔を歪ませているだけで反応はしなかった。ダークライのナイトメアの影響だ。いつもなら直ぐにルイズを起こす所だが、今回はジーッとルイズを見つめるだけで起こそうとはしなかった。

 

どんな夢を見ているのかはダークライにも分からない。だが、うわ言のようにダークライを呼ぶところを見るに、ダークライが関わってくる夢のようだ。

 

 

「ルイズ、起きろ」

 

 

さすがに可哀想に思ったのか、ダークライは少し大きな声でルイズを呼ぶ。それと同時に冷たい手の平でペちペちとルイズの頬を軽く叩く。

 

すると、弾かれたようにルイズが飛び起きた。

 

 

「ダークライ!?」

 

「なんだ」

 

 

まだ夢だと思っているのか、ルイズはベッドの脇で佇むダークライを頭頂部からなかなか見せないスラッとした黒い足先までくまなく見終わり、今まで見ていたものが夢だと自覚すると、安心したように大きく溜息を吐いた。

 

 

「目は覚めたか?」

 

「最悪の目覚めよ。あんた、私が悪夢を見ていたの黙って見てたでしょ」

 

 

ルイズの問いにダークライは黙ってルイズを見ることで応える。それが肯定の意だと理解すると、いつもと違うダークライの雰囲気に恐る恐ると言った感じに疑問を投げかけた。

 

 

「もしかして、怒ってる?」

 

「怒ってない」

 

「いや怒ってるでしょ?今日見た悪夢いつもより辛かったわよ。あんたの感情が悪夢に反映されるのは分かってるんだから」

 

「確かに、私は怒っているのかもしれない。自分で起きると豪語しておきながら、昼を過ぎるまで寝続ける主にな」

 

「昼過ぎ!?」

 

 

恐るべき速度でルイズは自分の後方に位置する壁掛け時計を見た。無駄に豪勢な装飾が施されている時計の短針は、既に12をだいぶ過ぎている。まだ辛うじて1には達していないものの、寝すぎな事には変わりない。

 

こんな時間まで寝ていたのか?優雅たる貴族のこの私が?短針と長針が逆だったりなんて事は…

 

何度も見返すがそんなことある訳がなく、時計の短針は着々と1時に近づいて行っていた。

 

 

「なんでもっと早く起こしてくれなかったのよ!」

 

「朝は自分で起きるから起こすなと言っただろう」

 

「だからって朝が過ぎるまで起こすななんて言ってないじゃない!皆の前で恥かいちゃうでしょ!」

 

「なら次からは自分で起きるんだな」

 

 

そう言いながらダークライは一際大きな荷物の中に入っている着替えを取り出した。

 

 

「その格好で連中の前に行くならやめた方がいい」

 

 

大急ぎで部屋から飛び出そうとするルイズにダークライは声をかける。そう言えば着替えてなかったと我に返ったルイズは己の格好を見た。乱れていた服は一層乱れ、誤差程度のサイズの北半球が顕になっていた。

 

瞬間、顔を真っ赤にしたルイズは浮遊した着替えを取り上げ、キッとダークライを睨みつけた。

 

 

「…見たでしょ」

 

「見た。それがどうした」

 

 

まるで興味のなさそうにダークライはそう言うと、ルイズの顔は湯気が出そうなほど赤くなった。

 

 

「この…変態使い魔!変態真っ黒!変態!」

 

「何を今更。裸体など今まで何度もみて」

 

「うるさい!部屋から出ていきなさいよ変態!着替えくらい自分で出来るわよ!」

 

「物を投げるな」

 

 

左手で胸を隠しながら、花瓶やら本やら手につくあらゆる物をぶん投げるルイズ。飛んでくるものをサイコキネシスで浮かせて破損が無いように静かに床に置きながら、ダークライは部屋を後にした。

 

バタンと乱暴に扉が閉まる。

 

 

「急になんなんだ」

 

 

今まで散々寝ぼけたルイズの寝巻きやら下着やらを脱がせて着替えの服を着せていた。恐らくダークライより遥かに長い付き合いであろうワルドよりもルイズの恥部等は知り尽くしている。にも関わらずいきなり貧乳だと口にした時並に拒絶されてしまった。

 

見せた悪夢が悪かったのか?とも考えたが、ダークライはこのような事象に当てはまる物を一つ、キュルケより教わっていた。

 

 

「…なるほど、これが反抗期か」

 

 

密かにルイズに対する親心が芽生えつつあるダークライであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 

小さく吐いた溜め息が、私一人しかいなくなった部屋に響いた。なんであんなに取り乱してしまったのか、よく分からない。

 

考えてみれば最近の半月間以外ほぼ毎日、ずっとダークライは私の、その…は、裸を見てた訳で、 今更気にすることも無いはず。それに今回は裸の内にも入らない、胸の一部を見られただけ。それも多分不可抗力で。

 

それなのに、何故かダークライが私の胸を見たとわかった瞬間、こう、胸の奥が熱くなったって言うか、ドキドキしたって言うか…よく分からない感じになった。

 

この感覚は、確か子供の頃ワルドと一緒にいた時にも感じた。

 

だとしたら、まさか…

 

 

「…いや、まさか私が使い魔に、しかも人じゃない者にたいしてそんな…」

 

 

そんな事あるわけ…無いとも言い難いわよね。

 

 

「どうすればいいのよ…」

 

 

相手は人外で、しかも使い魔だ。昔見た童話では美女と野獣の惹かれ合う恋物語なんてのがあったけど、あっちはまだ人型なだけ幾らかマシでしょ。ダークライはシルエットだけ見ても上半身と下半身が切り離された人の上の部分が浮遊していると言う、とってもホラーな生き物。しかも性と言う物を知らない、寧ろそんなものが彼に存在するかも定かじゃないのに、愛するなんて出来るわけない。

 

しかも私は貴族。仮にも本当にダークライを愛すると決めたとしても、それを世が黙認するわけない。いや、でも隠れた恋って言うのもなかなか…

 

 

「って、なに真剣に考えてるのよわたし…」

 

 

ちょっと考えれば元より人以外と付き合うなんてありえない事だ。私が諦める以前に、この想いの行方なんて簡単に想像がつく。それに、これはただの一時の気の迷いで、直ぐに正常に戻る可能性だって充分にあるわけだし、そこまで気にする必要はないはず。

 

だからいつも通りやればいい。いつも通り過ごせば、いつか正常に戻るはず。

 

大丈夫、大丈夫。一先ず着替えを済ませて…

 

 

「まだかルイズ」

 

「うひやぁ!」

 

「大丈夫か?」

 

 

びっくりした…急に影から出てくるのには慣れたつもりだったけど、今更驚いちゃうなんて…。

 

 

「急に出てくるなら一声かけなさいよ!」

 

「かけたが」

 

「かけながら出てくるのとは違うでしょ!」

 

「そうか、気を付ける」

 

 

素っ気ない態度だけど本当に同じ事はしないのよね。クールって言うかなんと言うか、そういう所がかっこいいなって…

 

いや違う違う。今はこの症状を治さなきゃいけないのに、なんでちょっとこいつの良いところ見直してるのよ!治るもんもなおらないわよ!

 

 

「と、とにかく昼食よ昼食!何か食べなきゃ死んじゃうわ。ほら早く行くわよ」

 

「分かった」

 

 

ちょっと自分でも乱暴と思えるくらいの勢いで扉を開けて部屋から出る。

 

後ろから無音で着いてくるダークライを出来るだけ見ないようにして、一先ず早く昼食が食べたいから早歩きで食堂に行こう。あとダークライに追い付かれたくない。少なくとも視線に入れたくない。

 

 

「ルイズ」

 

 

なんでこういう時に呼び止めるのよ!あ、目が合った。まずい、緊張してる。

 

 

「な…何よ。私は早く食堂に行きたいのだけど」

 

「ルイズ。悩みがあれば、私に言え。私がルイズを助けてやる。絶対に」

 

 

…ど、どこでそんな言葉覚えたあぁぁぁ!

 

この妙に青い言い方、キュルケか!あの赤いのの入れ知恵か!なんて事してくれてんのよあの淫乱赤髪ぃ!

 

 

「…言い慣れないな。赤にこう言えば効果的と言われたんだが。やはり私より赤いのかタバサの方が向いているだろう。相談は彼女らにすればいい」

 

 

まずい、治すどころの問題じゃないわ!このままじゃ悪化の一途を辿るだけじゃない!なんとかこの鼓動を抑えなきゃ…いや抑えられない。全然収まる気がしないわ!

 

あーっもう!

 

 

「なんて事してくれんのよこのバカ!全然かっこいいとか思ってないんだから!」

 

「何を言ってるんだ」

 

「うっさい!キュルケどこよ!」

 

「自室だ」

 

 

あの赤いの爆破させなきゃ気が済まないわ!私のダークライに余計な知識を植え付けて、タダじゃおかないわよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でんこうせっか』並の勢いでダークライの前から走り去って行ったルイズを追うことなく、ダークライは日が沈むまで女神の杵亭付近の見回りを続けた。

 

くまなく捜索した結果、伏兵らしき人間は見当たらなかった。道中の計画的な襲撃で神経が過敏になったせいで、余計な所まで探索した気もするが、少なくとも怪しい人間の姿はない。

 

勿論これから現れる可能性も充分に有り得る。夜は奇襲に最適の時間である。日が沈んでからの襲撃は盲目になり、全員が一点に集中しているこちらにとって不利である。ルイズや他の者達は警戒心が完璧に無くなっているが、ダークライが気を緩める訳には行かない。

 

出発は明日。それまでは何としてでもこの場を死守しなければならない。

 

改めて、索敵に集中する。

 

その時だった。

 

 

「来たか」

 

 

 

夜の闇の中、東の遠方の岩陰に数名の人影が見えた。薄い月明かりの中、普通ならば見えない距離だろう。しかしダークライは夜に活動するポケモンである。夜はダークライにとって昼も同然であり、夜の暗闇はダークライからは明るくすら見える。

 

静かにだが、少しずつルイズ達の宿へと進んでいた。

 

それを確かに確認したダークライは、女神の杵の屋根に溶けていき、影となって目標に忍び寄る。

 

ダークライの速度でもそれなりにかかる距離だが、邪魔な雑草は早めに刈り取るに限る。数分間の移動の後、ダークライは目標の足元にたどり着いた。

 

敵は見えるだけでも凡そ10人。当たり前だが、ダークライの存在には気づいていない。ゆっくりと後ろにいる人間へと忍び寄り、ゆっくりと影から出る。そして片手で生み出したダークホールを放った。

 

すうっと目標の体に吸い込まれて行ったダークホール。敵の一人は、糸が切れた様に倒れる。

 

このまま残りの相手にも攻撃する。だが、新たに放ったダークホールは目標の敵が身を翻し、全て空を切る形で終わった。

 

 

「散開」

 

 

誰が言ったのか、小さく聞こえた声を合図に、残りの敵が全て高速で動き始めた。

 

 

「なに?」

 

 

空を飛び、はたまた岩を伝い。まるでダークライを混乱させるかのように周囲を飛び回る。

 

 

(魔法使いか)

 

 

相手がなんであろうとダークライには関係ない。いつも通り目標を絞ってダークホールを放つが、当てることが出来ない。しかし相手からの反撃は来ない。

 

ダークライの弱点は相手に先制攻撃される事にある。加え、ダークホールに依存している部分が多いダークライは、ダークホールが命中する事で戦況を圧倒的有利に運ぶ事が出来る。逆に、出来なければ攻撃手段は大きく減ることになる。

 

故に、ダークホールが一切被弾しない今の状況は宜しくない。『あくのはどう』は大きく力を使うせいでルイズに規制されてしまい、現在は安易に撃つことが出来ない。

 

敵の動きは、それを見越しているかのようだ。

 

 

(なぜ反撃してこない。何か企んでいるのか?)

 

 

冷静に打開策を模索しながら思う。この状況、まるで足止めをしているような…

 

そう思った時、女神の杵から黒煙が登っていることに気がついた。

 

 

「…そうか、陽動か」

 

 

やられた。と思った時には既に遅かった。この敵の狙いはダークライはこの場に留めることであり、ルイズ達を狙う訳でも、ダークライを倒す訳でもなかった。ダークライの足止め、それだけが狙いだったのだ。

 

 

(放って戻るか…いや、それでは別方向からこの連中に攻撃される。全滅させてから戻る方が無難…か)

 

 

ダークホールを頭上に掲げ、大量のダークホールを周囲に放つ。一、二人には被弾するものの、他の敵は怯んだ様子はない。

 

その様子を呆れたように見る。そしてだらっと肩の力を抜き、腕を下げる。

 

 

「…貴様らに何秒も付き合っている暇はない。失せろ」

 

 

瞬間、ダークライの姿がブれた。

 

 

「『ゴーストダイブ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度目かの爆音が女神の杵の中に響く。窓なら扉やらから暴風雨の様に絶え間なく降り注ぐ矢の数々によって、食堂にいたルイズ達は身動きが取れなくなっていた。

 

 

「なんなのよ!?」

 

「恐らく貴族派に雇われた傭兵だろう」

 

 

当たり前とも言えるルイズの言葉にワルドが答える。

 

現在ルイズ達は食堂の机の一つを立たせて壁にして矢から身を守っているが、お陰でこの場から身動きが取れなくなった。

 

 

(こんな時にダークライはどこに行ったのよ…?)

 

 

テーブルに何本もの矢が当たる音が連続して聞こえる。そんな中でも、ルイズはダークライのことを気にかけていた。昼からダークライの姿を見ていないせいで、良からぬ想像もしてしまう。

 

もしかして、既にやられたのでは?

 

いや、そんな訳がないと頭を振る。彼が簡単にはやられてたまるものか。だとしたら一体どこに…

 

考えても答えはなかなか出ないが、キュルケの声驚いた様な声がルイズの思考を遮った。

 

 

「ルイズ、窓の外に見覚えのある足が見えるわよ」

 

 

先程から机に空いた穴から様子を伺っていたキュルケが窓を指さす。そこには大きな土でできた様な足が見えた。

 

 

「あれフーケのゴーレムじゃないの、なんでこんな所にいるのよ!?」

 

「貴族派に脱獄でも手伝ってもらったんじゃない?」

 

「君たちよくそんなに話す余裕あるね…」

 

 

ギーシュが呆れたような感心したような声を出すが、誰もギーシュの言葉に耳を貸す事は無かった。

 

フーケの大型ゴーレムは徐々に壁を破壊していき、矢による攻撃範囲を広げていく。このペースであのまま破壊され続ければ、宿の倒壊にもそう時間はかからない。

 

 

「どうやら、連中は我々を圧死させるつもりのようだ」

 

 

ワルドが状況を冷静に分析する。このままではこの場で全員建物に押し潰されて命を終えるだろう。

 

この場を切り抜けるには、裏口へ回って桟橋へと向かい、船で目的地へ行くしかない。だが、全員で固まって行動すればそれは難しくなる。目的地へと向かうには囮が必要だ。

 

ワルドは作戦として、ルイズ達に伝えようとした。その時、黒い巨大な渦が外の傭兵の一部を吹き飛ばした。

 

傭兵達が混乱する。弓矢での攻撃の手が止んだ。

 

 

「遅くなった」

 

 

 

そしてルイズ達の目の前で、ダークライが影から飛び出した。

 

 

「あんたっ、今までどこ行ってたのよ!」

 

「他の連中に手間取っていた。すまない」

 

 

言葉と同時に、ダークライは傭兵達に向けてダークホールを放ち、順調に傭兵の数を減らしていく。

 

しかし数が多い。何十人もの数を相手にするのは慣れているが、それなりに時間がかかる。

 

 

「ここは私が引き受ける。ルイズは行け」

 

 

その場の全員に聴こえるように言う。ゴーレムが宿を破壊する音や弓矢が物を掠める音の中でありながら、そのいつもの様な静かな声だけは確かに全員が聞き取れた。

 

確かに、今この中でならダークライは一番強いだろう。だが、これほどの数を相手にする所は誰も見たことが無い。ダークライの実力は皆分かっているが、多勢に無勢のこの状況で、ダークライの勝率は低いと思わざるを得なかった。

 

故に、ルイズは声を上げた。

 

 

「ダークライ!」

 

 

この状況で、ダークライは殿には適役だろう。ただ足止めさせるだけでいい、別に全滅させる必要も無いのだ。危険になったら逃げてくればいい。ルイズ達が逃げ切れたらダークライも抜け出すことも出来るだろう。そんな事、ルイズは分かっている。

 

頭では分かっているのに、何故かダークライを引き止めてしまった。明らかな殺意に向けて突撃を敢行しようとしているダークライの背中を呼び止めてしまった。

 

 

なんと言えばいい?私のために頑張ってくれと?自分の使い魔に、軟弱な主の為に命を張れと言うのか?私が共に行くと言っても、彼は間違いなく否定する。だって、彼は『ルイズは行け』と行ったのだ。他の誰でもない、私に行けと。

 

なんて言えばいい。私は、私の為に戦場に飛び込む使い魔に、なんと言えばいいのか

 

 

ゆっくりと振り返るダークライ。そして、静かにゆっくりと俯きながら黙るルイズの前へと近づき、ダークライの右手がルイズの頬を触れた。冷たい体温がルイズの頬に伝わる。

 

突然のダークライの行動にルイズは慌ててダークライを見る。片目しか見えないが、ルイズの目を真っ直ぐに見つめるダークライの氷のように蒼い瞳は、何故か暖かく見えた。

 

頬が蒸気している。そう分かるが、今は隠すすべはない。頭の中で渦巻いていた思いは全て消え、今は今までにないほど至近距離にいるダークライで頭がいっぱいになる。

 

そして、ダークライは小さく頬に触れた右手を撫でるように動かし、呟いた。

 

 

「安心して、私を信じろ」

 

「…ごめん、ダークライ」

 

 

頭に浮かんでいた言葉は全て消え、自然と出てきた言葉。ダークライはその言葉を聞き、ルイズの頬から手を離した。

 

 

「必ず追いつく。行け」

 

 

そして遂に、ダークライは敵へと向かっていった。

 

飛び交う弓矢を掻い潜り、闇夜へと姿をくらます。その姿をルイズは最後まで見送った。

 

 

「ルイズ、行くわよ」

 

「…分かってるわよ」

 

 

 

 

 

 

無理だけはしないで

 

 

 

 

 

 

そう心の中で呟き、ルイズら一行は裏口へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「果たしてアレで良かったのか」

 

 

弓矢を躱しながら敵を倒し、ダークライは余裕そうに呟いた。

 

ルイズを落ち着かせるため、、昔とある少女に助けてもらった時と同じ行動をしたつもりだったが、もしかしたら逆効果だったかもしれない。右手から伝わったルイズの体温が少し上がった理由は、ダークライはよく分かってなかった。

 

何分、ダークライは他人を安心させる術を知らない。だからダークライは昔アリスと最初に出会った時と同じようにやっただけなのだが、それをルイズが知る時はおそらく来ない。

 

敵の攻撃が全てダークライに向く。敵の注意を逸らすという目的は、一先ず達成したようだ。

 

あとは、ルイズが逃げ切るまで時間を稼ぐか、連中を全員始末するだけ。

 

そう思い、ダークライは今まで以上の速度で大きく横に飛ぶ。瞬間、ダークライがいた所に大きな拳が振り下ろされていた。

 

 

「…久しぶりじゃないかい、使い魔。いや、ダークライ」

 

 

頭上から聞こえる声。その声に聞き覚えがあるダークライは気だるそうに見上げた。

 

 

「執拗い奴だ」

 

「生憎、執拗くないとやってけない職業やってんでね」

 

 

軽口を叩く声の主、土くれのフーケ。フーケは今までしていたフードを外し、ゴーレムの肩から楽しそうにダークライを見下ろす。

 

 

「ここに居るってことは、あの連中を倒したんだろう?貴族の中ではそれなりに強い魔法使いだったんだが、足止めにもならないとは役に立たないねぇ」

 

「貴様らを動かしている奴は誰だ。貴様が黒幕ではないだろう」

 

「さぁて、誰だろうねぇ」

 

 

変わらず軽口を叩くフーケ。終始余裕の表情だが、次の瞬間に驚愕の表情を変えた。

 

ダークライを囲うように地面が黒く暗黒に染まっていく。黒く染った地面からは無数の真っ黒な腕が伸び始め、うぞうぞと蠢き始めた。よく見ると、手の指は3本しか無く、どれも鋭利な爪の様に尖っている。

 

まるで既に悪夢の中にいるかのような光景にフーケは息を飲んだ。周りの傭兵達も突然の風景の変化に悲鳴をあげている。

 

暗黒の世界の中心にいる影の王は、ゆっくりとフーケへと顔を上げる。影の中で唯一の色であったその白や赤や瞳の青色は、まるで溶けるかのように歪み始めていた。

 

 

 

「…自ラ喋ルカ、悪夢ノ中デ呻キ苦シミナガラ喋ルカ。選べ」

 

 

 

冷たく言い放たれた言葉は、その空間の中でこだました。周囲には、既にその声しか聞こえない。まるで地の底から聞こえてくるような声は、何重にも重なって聞こえてきていた。

 

 

 

 

ダークライは、何百年ぶりに腹が立っていた。

 

それは、フーケ達への怒りでは無い。

 

ルイズを二度も哀しませた、自分への怒り。

 

この場はダークライの独擅場。既に彼らに逃げ場は無い。

 

憂さ晴らしには丁度良い。

 

 




もう…もうマイナーポケモン図鑑のネタが無いんダ!

因みに最後のダークライの空間はポッ拳のダークライの技を想像してもらえればいいと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。