暗殺教室妄想記『再会の時間』 (ヘイセ)
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暗殺教室妄想記『再会の時間』

二作目となる原作の続きのような物語。よろしくお願いします。
pixivでも投稿します。


 「渚!!」

 「ん、ん〜」

 「くォら渚ア!!」

 「は、はいッ」

 「なァ〜に幸せそうに居眠りこいてんだ。テメーが野外学習やりたいっつーから付き合ってやってんだろーが」

 「ご、ごめん。今行く!!」

 

 今日僕は生徒を連れて思い出の詰まったこの山に来ていた。

 相変わらずの大自然。今の時代この付近でこれだけの自然が残っている場所はとても貴重だ。図鑑でしか見られないような生き物がここにならいるかもしれない。

 僕は自分が先生にそうされたように、生徒にはできる限り本物を見せてあげたいと思ってる。それにここの空気を吸って学んでも欲しかった。聞こえるのは木の葉がこすれる音と鳥の声だけ、空気は澄んでいて、木陰は気持ちが良くてここは本当に学ぶのに適している。

 だけど一つ、不安なことがこの山にはあった。

 

 「あぁ?不審者?」

 「うん。先週見たっていう目撃情報があったんだ」

 それはグループラインでの岡野さんからの

 

 《昨日いつものように練習してたんだけど……なんか知らない人がいて、怪しかったんだよね》

 

 と言う報告だった。その後も情報を聞いて、みんなで話し合った結果は

 

 【危険性はなさそうだから様子見】

 

 本当はすぐにでも警察に連絡をした方が良いのだろうけど、なるべくこの山には知らない人を入れたくない。騒ぎの中心になってほしくないというのがみんなの気持ち(想い)だった。7年前……あんなことがあったんだから、そう思うのは当然だ。

 

 「てかよ、先週って俺らがここに初めて行った時じゃねえか!平気なのかよ!」

 「う、うん。昼間だし……それにここは広いから出会ったりはーー」

 「特徴は?」

 「特徴は……全身黒の服装だったって」

 「俺らと一緒じゃねえか!もっと他に、なんかないのかよ」

 「う〜ん髪を染めてーー」

 「だからそれも俺らと同じだろうが!他にそいつだってはっきり分かるもんは!」

 「い、以上かな」

 頼りない僕を囲みながらみんなが拳を鳴らしてウォーミングアップをしている。僕は「いつものが始まる」と思いながらスイッチを入れようとした。けど

 

 「ーーなあお前ら、その不審者っての俺らで捕まえね?」

 太い木の枝に座っていた紫龍くんの、僕らを見下ろして言ったその一言で皆は拳を鳴らすのをやめた。紫龍くんはこの教室では一番の優等生だ。それは僕が来る前からだった。だからつまり優等生っていうのは……「力がある」っていう意味。

 この教室は動物の群れのようにシンプル。力があれば誰でも言うことを聞くし、誰でも好意的に接してくる。逆に力がなければ……この教室じゃあ生き残れない。でもそれは僕が来る前までの話だから、今はその動物の群れのような仕組みも少しずつ変わってきてる。

 それなのにだ。それなのにみんな

 

 「おー!良いな!虫なんか捕まえるよりかよっぽど楽しそうだ!」

 

 紫龍くんの言葉で意識が変わる。けどこれは命令されて渋々という感じではなくて、みんなが紫龍くんをリーダーとして尊敬してるって感じだと思う。だから僕としては少し悔しい。

 

 「待ってよ紫龍くん!今は授業中!それに危ないよ!」

 「は?俺らがせっかく社会の役に立とうとしてるのに何?ナギ先はそれをやめろって言うの?」

 

 こうやってどこかの誰かさんの昔のような、ズルい言い方もする。その辺りから察するに彼は頭が良いと思う。勉強はまだ教えたばかりだからなんとも言えないけど、頭がキレるのは間違いない。いや、ズル賢いのかな?喧嘩も強いし、髪の毛も派手な紫で、見れば見る程、あの彼のよう。でもこの子はまだ、顎が上を向いている。

 

 

 「そ、そうじゃないよ。僕はただ……」

 

 紫龍くんは枝から僕の前に飛び降りると首を上げて僕を見下していた。こんな彼は、

 なんて言ったら納得してくれるのだろう。不審者を捕まえるなんてダメだよ。常識的にアウトだよ。ましてやそれを担任が許可するなんてさ。生徒が危険な目にあったら最悪だし。でもなんて言ったら……教師としてなんて言ったら正解なんだ?

 

 

『本当に自分はベストの答えを教えているのか内心は散々迷いながら、生徒の前では毅然として教えなくてはいけない。決して迷いを悟られぬように〝堂々〟とね』

 

 突然、頭の中に声が流れた。

 空、耳?違う。声だ!

 何度も聞いたことあるような……懐かしい(きおく)

 そうだよね。僕は先生なんだ。皆に見られて、皆んなに注目されて、頼りにされる存在なんだ。このくらいでおどおどしてどうするんだ。

 

 「ただ?何だよナギ先早く言えよ!」

 

 「僕はね、虫を捕まえられないみんなにはレベルが高いんじゃないかって、心配なだけだよ」

 結果、OKを出してしまったのかな。でもみんなの目がやる気に満ちてるんだ。危険な目に合いそうだったら僕が彼らを助ければ良い。

 そのためにも僕はいるんだから。

 

 「っ!言ってくれるじゃねえかよ!やってやろうぜお前ら!」

 

 紫龍くんが拳を掲げるとこれまで聞いたことないような大きな声と、見たことのない団結した様子で皆は雄叫びを上げた。

 

 「ナギ先。もし俺らが不審者を捕まえたら明日の授業休みにしてくれよ」

 「……良いよ。けど、捕まえられたらね」

 こんなの普通の先生だったら許可しないよね。それも合計二回も。でも僕の恩師もだいぶ、普通じゃなかったからね。

 

ーーーー

 

 俺らのこの大切な山に来る不審者ってのはどんな奴かね〜。顔を拝むついでに捕まえて……どうしてやーー

 足音?集団で来てる。ざっと十人か。黒の学ラン。似合ってない髪色。不審者ってどう見てもあいつらのことじゃん?

 でもあれって高校生っぽいな。だけど見たところあまり優等生には見えない。ここを溜まり場にしてゴミとか散らかされて、火事とかになったらシャレにならないし、今のうちに掃除しておこうか。

 俺一人で来て正解だった。ちょ〜っと最近理不尽と戦いすぎて疲れてさ、楽しめなくなってきたとこだから、たまにはこうやって自分に自信をつけないとね。

 

 「ねー君たち。高校生?こんな山で何してるの?」

 「誰だあいつどっから来やがった」

 「紫龍あいつって」

 「黒いスーツに赤髪。どうやら俺らの探してたモノぽいな。刃山」

 

 紫龍は首で隣にいた刃山に合図をした。

 

 「捕まえろ!たった一人……だ」

 

 7秒。

 刃山がそう命令してから紫龍の顔が絶望に変わるまでにかかった時間である。

 たった一人の赤髪の青年に突っ込んでいった黒い十人は、たった一人の彼に倒され土の上で横になっている。

 カルマは4秒で全員を倒した。突っ込んできた先頭の二人の頭を掴み衝突させた。その時後ろに回っていた三人の一人には躊躇なき頭突きをし、両サイドの二人は、彼らの顎を下から手のひらですくい上げ脳を揺らした。ここまでで2.7秒。残りの1.3秒は同時だった。同時に残りの五人を一瞬で土の上に寝かせた。ただその時にカルマは、彼らに直接手を触れていないのだ。彼の手がその時に触れたものと言えば、自身の手の平と手の平である。神に祈るようなポーズをしたら五人が倒れたのだ。

 ーーちなみに、残りのは3秒の内訳は……この有り様を見ていた紫龍が事態を飲み込み、理解するのにかかかった時間である。

 

 

 「アっレ?君たち俺と喧嘩する気?俺もうそういうガチのはしないんだけど」

 な〜んて。高校生相手にいくらなんでもこれはちょっとやりすぎちゃったな。けどこんだけ痛い目を見ればいくらバカでも、さすがにもう山には来ないでしょ。

 それでも来ちゃうような変態は俺が遊んであげるけど。

 

 「……刃山お前はナギ先呼んでこい」

 「お前はどうすんだ」

 「ナギ先の目の前で捕まえてやるよ」

 

 ん? なぎせん? ナギ先? ナギ先生?

 

 《今の実習先の生徒は荒っぽくてさ〜。僕カルマに喧嘩習っておけば良かったよ》

 

 なるほどね……面白いじゃん。

 

 「残った君、一人でなんとかなるって思ってるの?」

 「あんたがただの不審者じゃないのは分かった。けど、そこに倒れてる奴らが弱かったとも言える」

 「ふ〜ん。君はこいつらのことなんだと思ってんの?」

 「別になんとも」

 「凄いな〜まるで君は特別だ」

 「まるで(、、、)?真実だろ!」

 

 この生徒のさっきから顎を上げてポケットに手を入れて話す姿が気に食わなかった。こいつのその態度がとかじゃなくて、なんだか昔の俺を見てるみたいだったから。  

 

 「何かスポーツやってた?」

 

 ふ〜。速い速い。このパンチなら確かに敵なしだ。でも速いって言っても、マッハ20よりは遅いんだけどね。

 それに、

 「な〜んだ喋る余裕もないの?」

 パンチをするだけで一杯一杯になってる。荒いんだよね。無駄な動きが多い。あと肩に力入りすぎもっとこうさ〜、

 

 「避けてばかりのヤツが言ってんじゃねえ!」

 「じゃあ……当ててみよっか?顔面良い?」

 

 背中の筋肉を使って殴りなよ。

 

 「っ!?」 

 

 目つき、声、動作(モーション)。カルマの槍のように突き出された拳は本物だった。だが彼は、紫龍が目を瞑った瞬間、手を下ろした。最初から当てる気があったのか、なかったのか。あるいは彼への慈悲か。それとも彼が成長したからか。

 

 「殴るわけないじゃん」

 

カルマが尻餅をついて倒れている紫龍の手を握って起こそうとしたその時、紫龍は握りしめていた砂をカルマにかけた。砂は固まっていたので団子のようになった状態でカルマの前髪に当たった。

 

 「テッメぇぇ!俺が高校生だからって舐めてんのか!俺はそういう大人がいっち番腹たつんだよ!」

 

 紫龍は立ち上がって砂を払って下を向いているカルマに言い放った。

 大声を出した後、呼吸を整えた紫龍は我に返りかけていた。その時やっと、自分がカルマにしたことに気がついた。彼は恐怖を感じていた。次に顔を上げるカルマの顔はどんな顔だろう。紫龍の頭の中は怒りに満ちてルビーのように真っ赤な目をしたカルマしか浮かばなかった。

 だが顔を上げたカルマの顔がそんな顔ではないということは声で分かった。

 

 「……その気持ちス〜ゲ〜分かる。だから俺、今から君と対等でいくけど先生にチクったりしない?」

 「なんだお前そんなことビビってんのかよ」

 「だって君たちの先生がもし怖かったら俺やだも〜ん」

 「俺らの先公?ただのチビだよ」

 

 

ーーーー

 

 「起きろ渚!!」

 「は、はいッ」

 「お前授業中に寝るとかそれでも先生かよ!」

 「ほんとごめん。ただこの山って凄い落ち着くんだよ。刃山くんも寝てみない?」

 「それどころじゃねえんだよバぁカ!早く来い!不審者が見つかったんだ!」

 「す、凄いじゃん!」

 

 褒めて良いのかな。でも見つけたのは凄いよね。

 

 「ヤベぇ……んだ」

 

 彼らの〝やばい〟は何度も聞いてきた。けど今のやばいは怯えてた。彼らがこんなに怯えているのは初めてだ。

 僕は最悪の事態を想定して聞いた。

 

 「どうやばいの?」

 「殴りかかったみんなを一斉に気絶させたんだ!今は紫龍が一人でーー」

 

 みんなを気絶……紫龍くんが一人で……。

 顔に出すなよ僕。先生はどんな時でも堂々としなきゃダメなんだから。

 自分の生徒が本物のナイフで決闘をしても、自分の生徒が未知のウイルスに感染しても、自分の生徒が自分を殺そうとしても決して動揺を見せてはいけない。堂々とするんだ。そうすればみんなも落ち着くから。

 

 「落ち着いて刃山くん。僕が一緒に行くから」

 

ーーーー

 

 「もうやめたら?」

 「……やめねえ」

 

 血の痰を吐いた紫龍の学ランは土が染み込んでいた。一方カルマは彼らの前に出た時と何ら変わらない。スーツは抜いでいたがシャツのボタンは外さず、ネクタイも緩まさず、袖もめくっていなかった。

 

 「そのやる気は凄いけど、今の君じゃ俺にはその拳を当てられない」

 「なんで、そう、言い切れる」

 「なんで?それは俺の方が君よりも技を持ってるから」

 「技……だと?」

 「君の力は君の世界じゃ特別だろうね。けどそんな拳だけの力なら持ってる奴は大勢いる」

  

 『刃を研ぐのを怠った君は暗殺者じゃない。錆びた刃を自慢げに掲げた、ただのガキです』

 

 「君はさ、そこで今も倒れてる奴らと何も変わらないんだよ」

 

 「……るッセえええ!」

 「君も(、、)一度完璧な敗北を知った方が良い。それが君を強くするから」

 「負けて何が良いんだ!!かっこ悪いだけだろうが!」

 「まずさ〜。そうやって顎を上げるのやめなよ。アッパー入れるよ?」

 

 この状況でもなお紫龍はカルマを物理的に見下していた。それは彼のプライド。に、見せかけた幼い人間が持っている何か。その何かもろともカルマの下から迫る拳が打ち砕く。よりも前にカルマの上を向きかけていた顎に、女性のように華奢な人差し指の腹が触れていた。

 

 「ーーカルマ。君も、ね」

 

 カルマは名前を呼ばれた瞬間「殺される」と、死を感じた。そこからの彼の回避行動は見事だった。自身の体重を一気に足に乗せ、後方へと跳んだ。

 だが実際、声をかけられた時点で気がついていては手遅れである。なぜなら言葉よりも先に、渚の手は彼の顎に触れていたのだから。

 

 「渚!?」

 

 いつの間に……こんなとこに誰か来たら分かるのに。目の前に来ていても気がつかなかった。ちょっと熱くなりすぎてたか。

 

 

 

 「大丈夫か紫龍!」

 「バァかが刃山。捕まえなきゃ意味ねんだよ」

 「紫龍くんその怪我は……」

 

 紫龍くんの制服はボロボロ。口元には血が付いていた。さっきカルマは紫龍くんを殴ろうとしていた。でもそんなこと。今のカルマがそんなことするわけーー

 「木から落ちたんだよ」

 「えっ、木から?大丈夫?ちょっと見せて」

 「さわな!キモいんだよ!」

 

 うっ……キモいは心に刺さるよ。僕、キモいは言われ慣れてないから。

 

 「あれ〜?今度は中学生?ダメだよこんなところに来ちゃ」

 

 だけど、見た目が幼いってバカにされるのはもう慣れてるんだよ。君のせい(おかげ)でね。

 

 「何バカなこと言ってんのカルーー」

 「やろうよ。この場所で。あの時(、、、)のリベンジマッチを受けてよ!」

 

 あの時。あぁ、あの時ね。そういえばちょうどこんな風に開けたところだったけ?いや、もしかして本当にこの場所かも。あそこから飛び降りて四人を倒したんだったかな。

 

 「良いよ。やろう」

 「良いね〜その目。百獣の王みたいな動じない目!」

 

 いつかの小動物のメスはオスのライオンになっていた。

 

 「渚、あいつ何言ってんだ。リベンジマッチ?」

 「ーー二人とも、みんなのこと任せて良いかな?」

 「……良いけどよナギ先。あいつはお前の何なんだよ」

 「それは明日の授業で話してあげるよ紫龍くん」

 「ッち。みんなを起こすぞ刃山」

 

 赤羽業:身長185センチ体重70キロ

 潮田渚:身長160センチ体重48キロ

 

 背があるということはそれだけ射程(リーチ)があるということ。

 体重があるということはそれだけ威力(パワー)があるということ。

 体格が違うということはそれだけの差があるということ。

 そしてその差とはこの場合……戦闘力の差である。だからボクシングやレスリングなどの肉体(からだ)肉体(からだ)で戦うスポーツでは公平性のために階級というものがあるのだ。だがこの二人はボクサーでもレスラーでもない。二人は、元暗殺者(アサシン)である。

 

 純粋に力と力を比べたら絶対に俺が勝つ。そんなのはあの不良たちでも分かる。けど今の俺(、、、)今の渚(、、、)をあの時のように殴ったら警察に捕まる。あの時はクラスメイトという関係、そして教師公認の喧嘩だったから何しても平気だった。じゃあどうしようね。どうやってリベンジをしようか。

 って、俺はたまに考えることがあった。やっぱりあの時負けたことが悔しかった。別に自分の意見が通らなかったことは大して悔しくないのに、渚に勝負で負けたことが悔しかったんだよね。でね、渚。俺見つけたんだよ、そのリベンジの仕方。

 

 「渚。俺、出来るようになったんだよ。これ(、、)

 

 渚へのリベンジをするにはやっぱり殺し屋の(スキル)で勝たなきゃだめだと思った。 

 彼の最高の刃、才能を凡人の俺が上回ったら俺の勝ちを誰もが認める!

 

 カルマは僕の前に歩いて近づいた。僕に借りたノートを返すように。普通に……猫騙しの構え!!?

 

 見よう見まねだし俺は渚みたいに人の心の波なんて見えないから渚のとは違う。俺の場合は俺の力で力尽くで相手を圧倒させる技。

 さっきはこれで一度に五人を倒した! これだってピンチを脱する殺し屋の技で良いでしょ!?

 両手を広げて、空気を掴んで一気に! ぶつける!

 

 〝!!バンッッ!!〟

 

 爆発!? 何かがカルマの手の中で破裂した。その音は僕を襲った。頭を鈍器で殴られたようにぐらっと……ぐら……っ…と

 

 「意識はあるのに立てないでしょ渚?これやった俺でも頭クラクラすーー」

 「……てるよ。僕は立てるよカルマ」

 

 俺の必殺技を直撃したはずの渚が俺の目の前で転んで起き上がるみたいに立ち上がった。さっきくらったやつは何分も倒れていたのに。何で?

 

 「もしかして耳栓?」

 「そんな、殺せんせーみたいな器用な対策僕には出来ないよ」

 「じゃあなんで」

 

 「生徒が見てるから、カッコ悪い姿は見せられないからだよ」 

 

 冗談かと思った。けどそう言う渚の顔は照れながら微笑んでいた。これは冗談を言って、見に合わないことを言って恥ずかしがってる顔じゃない。これは渚の普通の笑顔だ。本気でそう言ってるんだ。本音を言って照れてるだけ。

 

 「何それ、ズルくない?」

 「ズルい(、、、)のは僕たちの先生もそうだったでしょ?」

 

 『カルマ君。自らを使った計算ずくの暗殺お見事です。音速で助ければ君の肉体は耐えられない。かといってゆっくり助ければその間に撃たれる。そこで先生ちょっとネバネバしてみました。これでは撃てませんねぇヌルフフフフフフ』

 

 違いない。俺たちの先生はズルいのが日常(デフォ)だった。

 

 「先生はさ、生徒の前なら力が湧くんだんだよ」

 「ならやりなよ必殺技。今度は渚の番」

 

 「やらないよ。もしここで無抵抗なカルマを倒したら僕は先生として死ぬ(失格)だからね」

 

 ま、やっぱり俺の考えなんて渚はお見通し、か。

 「何だ〜。こっちでもダメか〜」

 「ダメって、カルマは危ないな。僕の事、恨んでるの?」

 「だったら最初から殺しにいってるよ」

 

 カルマは右手を差し出した。瞬間頭に鮮明(カラー)で蘇るあの時の記憶。

 僕を起こすためのものだったあの時の右手。それを僕は今、立ったまま握った。

 

 「じゃあね渚」

 「えっもう行っちゃうの!?」

 「不審者なんていなかった。いたのは変わった先生とその生徒ってみんなに連絡しとくよ」

 「ばいばい。またね」

 

 熱の残る右手で手を振ってカルマを見送った。けど彼は数歩進むと、首をこちらに向けかけて止まった。

 

 「あ、そこのしりゅーって子。その先生チビだけど、怒らせない方がいいよ。殺されるからね」

 

 背中を向いたままカルマは踊った声で言っていた。紫龍くんと何があったかは知らないけど、珍しく紫龍くんが顔を上げて人の話を聞いていた。

 

 「良いのかよ渚あいつを逃して」

 「うん。きっとまた来ると思うよ」

 「はァ!?それってダメじゃねえか!」

 「大丈夫。彼は、僕の親友だから」

 

〜おまけの時間〜

 

 《不審者の件だけどあれ、渚とその生徒が野外学習に来てただけだったよ》

 

 と言うカルマのメッセージをきっかけに

 

 《渚!そうやって俺たち以外をあの山に入れる時はちゃんと連絡するって山を買った時約束したろ!》

 《俺、真面目に警察に電話しようかと思ったぜ》

 《あのせいでしばらく山で練習できなかったんだよ》

 《私も虫取りツアー中止にしちゃった……》

 《正義は仕事しろ》

 《なぎさ〜。そんな風にみんなとの約束守れないと男としてダメだと思うな〜》

 《俺も撮影場所に使いたかったー》

 《なんか俺も一言イトナに言われてるんだけど(-_-)》

 

 僕はみんなから集中砲火を浴びた。けど内心は久しぶりにみんなと話せたみたいで嬉しかった。

 文字だけだと怒っているように思われるかもしれないけど僕にはその文字の奥に、笑いながら肩を叩いてくるみんなの姿が見えた。

 ……ここまでは良かったんだけど

 

 《で、でも本当に不審者じゃなくて良かったよね!》

 

 と、茅野が言ってからはみんなの顔が悪いことを考えているカルマの顔に見えてきた。

 

 《お前ら、茅野さんが来たからもうその辺にしてやれよ》

 《茅野さんに言われたらしょうがないな》

 《茅野さんの前じゃ私何も言えないわ〜(笑)》

 

 《も!もう!皆そういうのやめてよ!》

 

 茅野はそう言ってたけど僕にはその意味がよく分からなかった。あと、みんながそういう風に言ったことも。茅野が芸能人だからってことかな?

 とりあえず「茅野が昔よりもイジられキャラになっていた」っていうことは分かった。

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 




ー後書きー
おまけの時間で茅野と渚の関係について触れました。
私の見解では茅野はまだ片想いの途中かなと思っています。
理由は卒業アルバムの時間で渚と茅野があっている場面で

「二人だけで会えると思ったのに!」

と思っている茅野に対して渚は生徒をぞろぞろ連れて会いに来たんですよね。
デートだったら流石に渚も連れてこないと思います。それに女優の茅野と付き合っていたらそう簡単に人には言えないと思います。
あの場面は生徒に茅野を見せてくれと頼まれた渚が誘ったのかなと思います。
もしも告白を考えて茅野が誘ったなら嬉しいことです。
ですが渚はそんな乙女心など知らず普通に遊ぶつもりで来てしまったのでしょう。そして生徒へのサービスも込めて。
あの年齢の大人の男性(一応)なら異性からそういう誘いがあったら、もしくは誘うならそういう気持ちを意識しても良いのに渚は鈍感なのか、茅野をそういう風に見ていないのか。もしくは自分が茅野のような華のある人間にそう見られるわけがないと思っているのか……妄想ばかりが膨らみます。なんにせよ結婚して幸せになる未来は変わらないのでしょうけどね。


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