潮田渚はSAO帰還者で暗殺者 (ロナード)
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第1話 SAO帰還者 潮田渚

 急に閃いたので書いてみた作品です。優先して更新はしないかと思いますが、ちょくちょくと更新はしていくつもりです。
 後、この作品では前書きと後書きにはどうでもいいかと思いますが、あまり書いたりはしないかと思います。


 プレイヤーの精神をゲームの世界である仮想世界へとダイブさせ、本当にゲームの世界に来たかの様な感じになる革新的なヘッドギア型のゲーム機であるナーヴギアに対応する初のVRMMORPGである『ソードアート・オンライン』、通称でSAOと呼ばれたゲームが正式にリリースされたのは早くも二年も前の話だった。

 SAOはプレイヤーが自らの身体を動かす事で剣や槍と言った得物を振り、モンスターを倒しながら進んでいく正統派RPGで魔法は無く、剣の腕だけで進んでいくこのゲームスタイルが注目され、SAOではソードスキルと呼ばれる必殺技みたいなモノも有り、決められたモーションを取る事でソードスキルを放つ事が出来る。ソードスキルを上手く扱いながら進んでいくのも注目された理由の一つだった。

 SAOは最初こそは一万人のプレイヤーがいたが、その実態がプレイヤーのHPが0になった瞬間にアバターは削除され、同時に現実世界でもナーヴギアから高出力の電磁マイクロウェーブが流れて脳を焼かれ死ぬというデスゲームだと知らされ、更にはログアウト不可能と脱出すら許されない、正に死の世界だった。

 その死の世界と化したSAOから脱出する唯一の手段はこのゲームをクリアする事だとGM(ゲームマスター)である茅場昌彦から告げられた。SAOは巨大な浮遊城であるアインクラッドが舞台であり、その第1層から第100層まで有るアインクラッドを上り、第100層にいるラスボスを倒す事でゲームクリアとなると告げられ、アインクラッドの上に上るには各層毎の迷宮区にいるボスを倒す事で次の層へと続く道が開かれ、その手順を繰り返す事でアインクラッドを上っていき、ラスボスの撃破を目指す様に告げられた。

 

 

 そんなSAOに閉じ込められたプレイヤーが二年で既に約3600人のプレイヤーが亡くなっており、このデスゲームに終止符を打つべく為の戦いが何と第100層では無く、第75層で行われていたのだ。

 第75層まで進んだSAO攻略を目指す攻略組のプレイヤー達は第75層のボスである『ザ・スカル・リーパー』を14人の犠牲者を出しながらも何とか撃破出来たが、それ以降の層でもこれ程の犠牲者が出るとなると攻略組のプレイヤーが誰もいなくなる恐れが有り、攻略組に少し不安が積もる中で攻略組のプレイヤーの一人であるキリトが最強の名を誇るギルド『血盟騎士団』の団長であるヒースクリフを怪しく思い、ヒースクリフに感付かれない様に一撃を加えたが、キリトの一撃は障壁の様なモノで防がれたが、障壁と同時にヒースクリフが不死属性を持つ事を告げるメッセージが表示され、ヒースクリフの正体こそが茅場昌彦だと知った瞬間だった。

 ヒースクリフはキリト以外の攻略組のプレイヤーの動きをシステムによる干渉で強制的に麻痺状態にして動けない様にした後、自分の正体を見破ったキリトに自分と戦う権利を与え、もしキリトが勝てた場合は第75層のこの時点でゲームクリアを認め、残ったプレイヤー全員を強制的にログアウトさせて現実世界に帰す事を告げた。

 

 

 キリトはヒースクリフとの戦いを始める前に攻略組の面子の中で世話になった者達に声を掛けていく。

 

「エギル、お前は商売をしながらも中層のプレイヤーのサポートをしていたよな。もし、これからもこのゲームが続く様なら続けてくれ。いずれはソイツらが攻略組のメンバーに加わるだろうしな」

「キリト・・・何をそんなバカな事を言ってんだ・・・それじゃ、まるで自分が死ぬ事を前提に言ってる様じゃないか・・・」

「クライン。俺はこのゲームが始まって直ぐにお前を置いていってしまった事を悪く思っていた。本当にすまん。もし、また会えるなら今度はちゃんと一緒に行動したいな」

「バカ野郎!!そんな事を言って誤魔化すんじゃねえよ・・・いいか、絶対に生きろよ!生きて帰ったら、ピザを奢れよ!年上が年下に奢られるのも変だけどよ、これ位のワガママを言わないと本当にキリト、お前が何処か遠くに行ってしまうんじゃねえかって不安なんだよ・・・」

「解ったよ。現実世界に帰れたら、ピザの一枚や二枚奢ってやるよ」

 

 キリトはエギルとクラインに告げた後、自分のパートナーである女性アスナに声を掛けた。

 

「アスナ、ごめんな。ここで逃げると、予定より早いゲームクリアなんて出来そうに無いし、何よりアスナをこれ以上傷付けて血を流させる事を一刻も早く終わらせたいんだ」

「死ぬつもりは無いんだよね?」

「勿論だ。絶対に戻るよ」

「わかった、信じてるよ。キリト君」

 

 キリトは心の奥で自分が消滅してもアスナだけは絶対に生きてくれと思っていたが、その思いを悟られない様に最後に水色の長髪の少年へと声を掛けた。

 

「アズワルド。今までお前はこの世界での汚れ仕事を引き受けていたな。お前は俺より年下でシリカと同じ位の年齢の筈だ。出来ればこれ以上、汚れ仕事はしないでほしい。お前がこの世界での犯罪者(オレンジプレイヤー)を影から始末した事で確かにプレイヤーの手で殺されるプレイヤーは減ったかもしれないが、お前に悪を持って悪を倒す英雄(ダークヒーロー)は似合わないよ。お前は優しい性格で犯罪者相手と言えど殺しなんかを率先として行う様な奴では無いだろ」

「キリトさん。確かに僕は殺しなんてしたく無かった。でも、裏の世界に生きるプレイヤー達を制するには誰かがオレンジプレイヤーを率先して殺って畏怖の対象になる事で殺意を一点に引き受ける必要が有った。僕は自分がその畏怖の対象になる事を決意した事に後悔は無いし、誰かが殺されて死ぬぐらいなら、僕が一点として引き受けた方がマシだ」

「お前はそれでいいかもしれないが、お前が死んだら悲しむ奴もいるんだ。クラインやエギルを含めた攻略組のメンバー達、アスナにシリカとリズ。そして俺もその一人だ。だから決して自分だけがオレンジプレイヤーに狙われ続けて殺されて死んでもいいと思うな!」

「キリトさん・・・そうですか。なら、キリトさんも約束してください。必ず生きてこの戦いを終わらせる様に!」

「ああ、解っているさ」

 

 キリトはアズワルドとの会話を終えた後、ヒースクリフとの戦いを開始する為にヒースクリフの前に出た。

 

 

 そして、キリトとヒースクリフによるゲームクリアを掛けた予定より早くラスボスとの戦いが開始されたのだったが・・・

 

「しまった・・・」

 

 キリトは中々自分の攻撃が思う様に当てられない事に焦ってしまい、ヒースクリフを相手に自分だけが持つユニークスキルである27連撃を誇る二刀流の最上位ソードスキル[ジ・イクリプス]を放ったが、ヒースクリフはソードスキルを作り上げた茅場昌彦本人であり、間違ってもソードスキルの設定者であるヒースクリフにソードスキルを当てるなど不可能に近い事だった。ソードスキルは一度放つとソードスキルの攻撃が終わるまで続き、ソードスキル使用後の硬直時間を踏まえるとキリトは完全なる隙を作ってしまったも同然だった。

 ヒースクリフはその隙を逃さずにキリトに向けて剣を突き刺そうとした時だった。

 

「キリト君・・・絶対に死なないで・・・」

「アスナ!!?そ、そんな・・・」

 

 ヒースクリフの剣がキリトの持つ剣を一本折り、その刃がキリトを襲おうとしたが、そんなキリトを庇う為に麻痺状態の中で必死に身体を動かしたキリトのパートナーであるアスナが彼を庇い、自らを盾にしてまでキリトをヒースクリフの剣から守ったが、その代償としてアスナが光の粒子となり散ってしまった。

 キリトはアスナを自分のせいで死なせてしまった事に悔いる中でソードスキル使用後硬直が解けると同時にアスナが消えた瞬間に落ちたアスナの形見であるレイピアを拾うと、ヒースクリフに剣を刺そうとしたが、キリトはアスナの死という現実に耐えきれず生気は感じない状態だった為にその攻撃はヒースクリフに簡単に防がれてしまい、キリトはヒースクリフの剣で腹部を貫かれてしまい、光の粒子となり散っていたかの様に思えた。

 

「何!?」

 

 ヒースクリフが思わず驚きの声を挙げたのは無理も無い。HPが無くなり、光の粒子となり散っていた筈のキリトが再び粒子が集まると共にアスナのレイピアでヒースクリフの胸を貫いたのだ。これはSAOの製作者である茅場昌彦(ヒースクリフ)も想定外の事で有り、キリトの思いが仮想世界での常識を覆した瞬間でも有った。

 ヒースクリフはキリトが刺したアスナのレイピアにより、HPが0となり粒子となり散る。ヒースクリフが倒れた事により、SAOにいる全てのプレイヤーにシステムによるアナウンスが流れ、ゲームがクリアされた事を告げた。

 

 

 SAOがクリアされるとキリトとヒースクリフの戦いを見ていたアズワルドはキリトとアスナの二人が死んだとは思っておらず、不思議とまた会える気がしてならなかった。意識が徐々に薄れていき、SAOのプレイヤーであるアズワルドは現実世界へと戻っていたのだった。

 

 

 

 

 SAOがクリアされ、生き残ったSAOのプレイヤー達はほぼ全員が現実世界の自分の肉体に意識が戻ったが、まだ意識が目覚めない者もいた。

 その原因がALOに有るとSAOで死んだと思われていたキリトから聞き知ったアズワルド。それにアスナも生きているが、アスナの意識は戻ってないと聞くと再びナーヴギアを使い、『アルヴヘイム・オンライン』、通称ALOと呼ばれるゲームにログインし、そのALOの中で非道な実験を行っていたALOのGM(ゲームマスター)である須郷伸之をキリトと協力して打ち倒した後に、アスナを含めた残ったSAOプレイヤー達は解放され、今度こそ全員が現実世界に戻ったのだ。

 

 SAOクリアの貢献者の一人で有り、ALOで非道な実験をしていた須郷の野望を打ち砕いた者の一人として注目されたアズワルド。現実での彼の姿は潮田渚。普通に何処でもいる14歳の少年だ。

 彼はSAOに長い間閉じ込められており、中学生の授業についていけるかどうか心配されていたが、SAOにいた時にアスナが彼を弟の様な感じで優しく中学生で習う範囲の勉強を教えてくれた事も有り、本来ならSAO帰還者専用の学校に通うところだが、成績に問題は無いので通常の中学校に通っても大丈夫だろうと判断された。

 渚はSAOにいる間に精神がタフになっていたので、SAOに閉じ込められる前に有った母親とのいざこざをキリトとエギルにクラインの三人の協力も有ったが、自らの手で解決させた。渚の母親は渚を自分の二週目の様に思っていたのか、渚に自分がいけなかった大学に通わせる為にとヒステリックになる事が多かったが、今では普通に母子をやれている。

 母は渚に自分が行きたい道を行く様に認めた上で学校はキリト達と同じくSAO帰還者専用の学校に行くのか、それとも通常の学校に通うのかを選択する様に告げていた。

 

 

 渚は色々と考えたが知り合いが多いSAO帰還者専用の学校に行く事にしたのだが、三月の終わりに入ったある日に総務省に有る通称『仮想課』の職員である菊岡誠二郎に頼まれ、防衛省に属する烏間惟臣という男と面会する事になった。

 渚は何故、防衛省の人間が自分なんかに用が有るのか解らずにいた。と言っても誠二郎があまりろくな用で呼ばない事が多いので、またかと内心では思いながらもSAO帰還者が通う病院の一室を借りて烏間という男と面会した。

 

「初めまして。私は防衛省に所属する烏間惟臣という」

「烏間さん、初めまして。僕は潮田渚と言います。それで防衛省に所属する人間である烏間さんが僕にどんな用で呼んだんですか?」

「菊岡を通して君を呼んだのはある依頼をしたいからだ」

「依頼って・・・VRMMO関係ですか?もし、そうなら僕よりキリト、いや桐ヶ谷和人さんの方が適任じゃ・・・」

「確かにSAOクリアの貢献者である事も理由の一つだが、これは『黒の剣士キリト』と呼ばれた桐ヶ谷和人には出来ない相談だからだ。私が君を呼んだのは君には椚ヶ丘中学校の三年E組に転入して貰いたい」

「転入?何故、わざわざそんな事を・・・」

「理由は今、説明する。君には椚ヶ丘中学校の三年E組の教室に通ってもらい、そこの担任となるヤツを殺してほしい!」

 

 烏間から渡された資料を見ると、資料には黄色いタコの様な謎の生物の姿を写した写真が貼ってあり、その生物こそが最近起きた月が七割蒸発して一生三日月しか見れない様にした元凶だと記されていた。この生物が来年には地球をも破壊する様だが、何故か椚ヶ丘中学校の三年E組の担任になるらしく、その教室の生徒達と協力してこの生物の暗殺をしてほしいという内容だった。

 

「つまり僕にこの生物の暗殺をしろって事ですね」

「そうだ。君は聞いた話によると、SAOでは数多の犯罪者(オレンジプレイヤー)を暗殺していた事から『アインクラッドの死神』、『処刑人アズワルド』、『SAO最強の暗殺者(アサシン)』と様々な名で呼ばれて畏怖されていたと聞いた。後は君が持っていたとされる二つのユニークスキルの一つから付けられた名前は確か『暗黒剣士(ダークブレイダー)』と聞いた位だ。SAOのプレイヤーの中では『黒の剣士キリト』にも負けない劣らない実力の持ち主だと思えるしな」

 

 渚は正直言うと、SAO時代の通り名が全て中二病っぽいので呼ばれるのが恥ずかしいのか、苦笑いした。それに気付いた烏間は気分を害した事に詫びながらも話を続けた。

 

「さすがにこの通り名で呼ばれるのは恥ずかしいだろうな・・・君の気持ちを気付かずに口にした事は詫びよう。話を続けるが、君の場合は肉体の運動能力も見るからに高い事も解っている」

「確かに僕はリハビリで身体を動かしている内に、徐々にSAOでやっていた動きを再現出来る様になってきました。今では木の上から6メートルは離れた別の木に飛び移る事も出来る様になった事に自分が一番驚いています・・・」

「おそらくだが、君がSAOで身に付けた動きについていける様に脳が君の身体に変化を与えたんだろう。今のところ、SAOでの動きをどれだけ再現出来るか知りたいのだが、君はどれだけ再現出来てると感じるんだ?」

「そうですね。ええと、良くても半分くらいかな?」

 

 木から6メートル離れた別の木に飛び移れる時点で十分に暗殺者の動きが出来てる様に思えるが、渚と烏間は一切ツッコまない。

 

「半分か。残った半分の力を再現する為にも君はE組に入って、ソコで残った半分の動きを再現出来る様にしてくれ!実戦こそが一番実力を発揮出来るだろうしな」

「そうですね。とりあえずは和人さんでは無理なのは年齢的な問題で有る事は解りましたのでその依頼は受けますけど、その前に質問します。所詮はゲームの世界での話だとかって思わないんですか?」

「簡単な話だ。例え、ゲームの中で有ろうと命を掛けた戦いをしてきた時点でそれは実戦と変わりはない。所詮はゲームの世界での話だと言うヤツは本当に命を掛けた戦いをした事の無いヤツか自分の力に過信した愚か者のどちらかだろう。俺は君を含めたSAO帰還者の事を勇敢に戦い抜いて生還した者達だと思っている。だからこそ、あの世界で生き抜き、その世界で汚れ役を引き受け、犯罪者(オレンジプレイヤー)の暗殺をしてきた君だからこそ頼む事にしたんだ」

 

 烏間は真剣に渚を見つめ、敬意を表した後に資料に掲載された生物の暗殺を頼んだ。渚は真剣に頼む烏間からの依頼を断る理由は無く、この依頼を引き受ける事にした。

 

「烏間さん。この依頼は受けますが、この生物は通常の銃器に得物は効果が無いと書いていますが、どうする気なんですか?」

「この生物を殺す為の専用のナイフや弾を撃てる銃を用意してある。全てこの生物には有害だが、人間には只のゴムのナイフ、只のBB弾でしかない為に人間に当たっても無害だ。後、君専用にSAOでのソードスキルを実際に放てる特殊な機械剣を作ってある。他にも君がSAOで使っていた投擲用のピック等も再現した物を用意してある」

「それは大助かりですよ烏間さん。銃を使うよりは慣れた剣を使う方がしっくりくるからね」

 

 こうして渚は椚ヶ丘中学校の三年E組に転入する事になり、E組の生徒達と協力しながら担任となる生物を暗殺する事となった。果たして、SAO帰還者である潮田渚は地球をも滅ぼす生物の暗殺が出来るので有ろうか・・・



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第2話 初めまして暗殺教室

 この小説での渚君は原作と違い、E組の生徒達に君付けしたり、さん付けしたりしません。基本的に呼び捨てです。


 防衛省の職員である烏間から地球を滅ぼす生物の暗殺を引き受けた渚は椚ヶ丘中学校の三年E組の教室が有る山の中に入ると、E組の生徒達に見付からない様に高い木の上に登り、登校中のE組の生徒達の姿を観察している。

 本来なら一週間前に転入する筈だったのだが、烏間が菊岡に転入の手続きを任せていたが、菊岡が椚ヶ丘に渚の転入の手続きをする事を忘れており、渚は絶対にわざと忘れたなと確信しながらも、手間を取りながらも烏間と協力して転入の手続きを済ませたので本日からE組に転入する事となった。

 聞いた話によると烏間と菊岡は幼なじみらしく、昔から菊岡に振り回されて苦労していたんだろうなと渚は思い、心の底から烏間に同情した。

 

 

 椚ヶ丘中学校は進学校である椚ヶ丘学園の中等部の学校で有り、その成績の平均は全国の中学校の中でも上位のモノなのでエリート校では有るが、成績が低い者は落ちこぼれの集まりのクラスであるE組に入れられてしまい、E組の生徒は他の生徒達とは違う山の上に有る隔離校舎に毎日通わせられ、本校舎の生徒に教員からは落ちこぼれの集まりだとバカにされ、ぞんざいな扱いを受ける差別待遇を持つ学校なのだ。

 E組の様になりたくない、E組に落ちたくないから勉強を頑張って成績を上げているので、全国の中学校の中でも上位の成績を誇る学校に創立して間もない中でなったのにも納得がいくと渚は思った。だが、弱者を切り落とすこの考えは好きになれず、むしろE組の生徒の成績を上げて本校舎の生徒に教員に一泡吹かせてやろうと考えていた。

 

「まあ、無理だろうね。今のこの人達ではね・・・」

 

 渚は登校中のE組の生徒達を観察して解った事は一つ有った。E組の生徒は自分達は所詮は落ちこぼれだと思っており、自信を喪失しており、何をやるにも結果を出せないで有ろうと思えたのだ。まずはE組の生徒達に勉強への向上心を付けさせないと何も始まらないと考え、超生物の暗殺をすると同時にE組の生徒達の向上心を活気付ける事も大切だと思った。

 

 しばらくして、E組の生徒の全員が登校した様なので朝のホームルームを始める様だ。既に一週間前にE組の生徒達は自分達の担任となった例の超生物の暗殺を烏間から引き受けていた。本来なら渚は一週間前に転入していたのだが、既に記された通り訳有りで来れずに現在に至るのだが、E組の生徒達は超生物の暗殺をホームルームで行い、銃をE組の生徒全員が乱射するが、一発も例の超生物に当たらず、全て避けられてしまった。

 例の超生物の最高速度はマッハ20で動くと聞いており、そのスピードで弾を避けているのだろうと渚が見ても明らかだった。渚は自分がとんだ怪物の暗殺を引き受けたモノだと思いつつも、嬉しく思った。

 

「ボスは強ければ強い程、倒した時の達成感が凄いからね。自分の手で倒したなら尚更ね」

 

 SAOに二年もいたのでゲーム脳な考えでは有るが、渚は本気で戦える相手を見付けたかの様だった。

 

 

 

 しばらくして、例の超生物がE組の生徒達に転入する生徒がいる事を告げた。

 

「ヌルフフフ。今日も命中弾は0ですね!さて、話を変えるとして転入生が今日から加わります。まあ、本来なら一週間前に転入する予定だった様ですが、本人が訳有りで来れずにいた様です」

『訳有りで来れずにいたって・・・まあ、一週間前は先生がこのタコだとか、このタコの暗殺をしろ、暗殺成功の報酬は百億円だとかで色々有ったし、有る意味では今日来て正解なのか?いや、一週間前に来た方が説明が省けて良かったのか?』

「その点は大丈夫です。転入生は既に烏間さんから私の暗殺をする事は説明済みらしいので、説明は不要の様ですよ。紹介しますので、教室に入ってくれませんか?」

「はい。解りました、失礼します」

 

 渚は超生物の合図を聞くと、教室に入った。渚は教室に入ると自己紹介を済ませる事にした。

 

「初めまして。僕の名前は潮田渚。こう見えて性別はれっきとした男だから。趣味は釣りかな。釣りは獲物が引っ掛かる瞬間を待ち、獲物が針に掛かったところを釣り上げるのが暗殺と似たモノを感じるし、精神を忍耐強くする為にもオススメかな」

 

 渚はクラスの皆と仲良くなれる様にも、暗殺するにも忍耐強くなる必要が有ると思い、SAOで暇な時にやっていた釣りを勧めたが大した反応は無かったので、こんなモノかと思いつつも担任である超生物に顔を向け、挨拶をした。

 

「先生も初めまして。それで先生の名前は何ですか?」

「初めまして渚君。先生の名前は有りませんので、好きに呼んでください。まあ、私を呼ぶだけなら先生で十分かと思いますがね」

「名前が無いのですか?とりあえず先生と呼ぶ事にしましょう。では先生、今日からよろしくお願いします」

「はい、私の方こそよろしくお願いしますね渚君」

 

 渚は超生物に手を差し伸べると超生物は握手の催促かと思い、触手で渚の手と握手をした瞬間、渚の手と握手をした超生物の触手が溶けてしまい、超生物は慌てふためく。

 

「にゅやあぁっ!!?先生の触手が溶けたぁぁっ!!?」

「本当に効く様で安心しましたよ。対先生用のナイフを細かく切って手に貼り付けたんですよ。ゴムの様な感じでしたので、簡単な細工だったよ」

 

 渚の手には超生物に有害なゴムの様なナイフを鋏で細かく切って貼り付けられており、超生物は只の握手だと思い油断したところを完全に点かれてしまい、痛手を受けてしまう事になった。

 更に超生物は先程のクラスメイト全員の一斉射撃で教室の床に散らばっていた対先生用BB弾を踏んでしまい、脚の触手も溶けてしまった。

 

「にゅやあぁっ!!?こ、今度は先生の脚がぁぁっ!!?な、渚君・・・手強いですね。ここまで計算してたとは・・・」

「今のは先生が勝手に自滅しただけですが・・・」

 

 さすがに渚も超生物の方が勝手に床に散らばっていたBB弾を踏んで自滅するとは思っていなかったので、呆れた表情をしながらも更に超生物を追い詰める為に自分が持っていた対先生用ナイフを懐から取り出すと、超生物に向けてかつてSAOで対峙した事が有り、倒せる寸前のところで逃がしてしまった快楽殺人者(PoH)の得意としていたソードスキル[ファッド・エッジ]を再現した動きをして振りかざした。

 しかし、渚の攻撃は超生物が触手を使い、渚の腕を抑える事で受け止められてしまい、不発に終わった。

 

「危なかった・・・本当に命の危機を感じましたよ・・・」

「受け止められたか・・・さすがに簡単には殺らせてくれないか」

「当たり前ですよ!?簡単に殺される訳にもいきませんからね」

 

 渚はナイフを仕舞い、しばらくは警戒されるで有ろうから暗殺はさせてくれそうに無いなと思った。理由は最速でマッハ20のスピードで動ける怪物である以上はガチで警戒されると、暗殺する前に止められるのがオチだと考えられるからだ。

 渚はしばらくは超生物の情報をメモしていき、暗殺はクラスメイト達が仕掛けたところをサポートに回る形にする事にした。

 

「それでは渚君。席に着きなさい。あなたの席は茅野カエデさんの隣です。教室の窓際辺りの席です。ホラ、ソコの緑色の髪の女の子の隣の席です」

「何故、前側の席が空いてるんですか?いくら何でも不自然では?」

「ああ。ソコは本来なら一週間前の時点で君が座る筈の席でしてね、一週間前に席替えをしたのも有ってとりあえずはそういう事です」

 

 何がそういう事なのだかと思いつつも渚が自分の席に移動し席に座ると、隣の席に座る少女が話し掛けてきた。

 

「初めまして。私は茅野カエデって言うんだ。よろしくね渚」

「そうか。よろしく茅野」

 

 隣の席に座る茅野と軽く挨拶を済ませた後、超生物がホームルームの終わりを告げた。

 

「それではホームルームを終えます。一時間目の授業は国語ですが、その前に床に散らばっているBB弾を片付けましょう。掃除を済ませた後に授業を開始します。掃除が終わるまで暇なので先生は静岡県の鰻パイを買いに行ってます」

『待てよ!?自分だけズルいぞ!!』

 

 超生物は床に散らばったBB弾の掃除をする様に言った後に静岡県の鰻パイを買いにマッハで飛び立っていたので、生徒達からブーイングされたが既に飛び立った超生物に聞こえる事は無かった。

 とりあえず皆は掃除を始め、渚も掃除を手伝う中で渚の後ろの席にいた生徒が掃除をしながら渚に声を掛けた。

 

「よぉっ!早くクラスに馴染める様にしろよ。俺は杉野友人って言うんだ。よろしくな渚」

「僕の方こそよろしく杉野。それにしても、初対面の相手にいきなりフレンドリーに話し掛けてくるとは・・・」

「えっ?もしかして気を悪くしてしまったのか?」

「いや、そういう訳じゃないよ。只、今の杉野の様に初対面の相手でもフレンドリーに声を掛けてくるところが僕の知り合いに似てるなって思っただけなんだ。むしろ、杉野の様な感じで仲良くしようと声を掛けてくる人の方が嬉しいかな」

「なんだ、そういう事か。これから仲良くしてこうぜ」

 

 渚は杉野の初対面の相手でもフレンドリーに話し掛けてくるところが何処かクラインに似てるなと思い、クラインと初めて出会った時もこんな感じにフレンドリーに話し掛けてきたなと思いふけていた。

 掃除を終えると、皆が席に着くとタイミングよく超生物が鰻パイを手にしながら教卓に着いた。

 

ほへへば(それでは)ずごうをきゃびじしばふ(授業を開始します)

『鰻パイを食いながら号令を掛けるのは止めろ!!』

 

 超生物が鰻パイを大量に口に含んでは食いながら号令を掛けるので、生徒達から食いながら号令するなと注意されるので、渚は本当に地球を滅ぼす様な生物なのかと疑問に思ったという。

 授業が終わった後は他の生徒達と話をし、交流を深めていった。

 

 

 

 

 昼休みになると渚は超生物が行う授業を見ると驚いた。体育を除く全ての授業が解りやすく解き方やそのコツを教えてくれるので、人間では無いものの教師としては完璧で文句のつけどころが無かった。ただし、授業が解りやすいモノでも授業を受ける生徒達が諦めている様では成績なんて伸びはしないだろうがと渚は考えていた。

 とりあえず今は昼食を取るべきだと思ったのだが、E組は隔離校舎の為か給食すら用意されていないので、誰もが弁当を持ってきている。渚も弁当を食べる中で他のクラスメイトとも交流し、クラスメイトの名前に顔を記憶した。

 渚はクラスメイトと交流をし、クラスメイトをそれぞれ自分が出会った事の有る人物に例えてみる事にすると、まずE組のクラス委員である磯貝悠馬はクラスを引っ張るカリスマ性を見るとディアベルを思い出させる。別に皆を思うあまりに前に出過ぎてしまい早死にしそうという意味では無い。

 磯貝と同じくクラス委員である女子生徒の片岡メグは責任感とカリスマ性を感じる辺り、アスナとユリエールを合わせて割った感じかなと思った。顔も凛々しい感じなので二人に似てるのだが、片岡の場合は男より女にモテるタイプという感じに思える。もしかすると、SAOに女性プレイヤーが多ければアスナもそうだったのかもしれないと思ったという。

 倉橋陽菜乃は動物に好かれそうなところとかがシリカに似てるなと思い、茅野もシリカに似てると思った。ただし茅野の場合は体型の事で有るので、間違ってもシリカと茅野にバレたらヤバそうなので口には絶対に出さない事にした。体型と言えば、矢田桃花もリーファと似てると思ったが、主にポニーテールと乳の部分で・・・これも口に出すとヤバそうなので絶対に言わないが・・・

 とりあえず今はこんなところかと思い、渚は席に座り五時間目の授業の準備をしようとした時だった。

 

「おい、新入り。ちょっとコッチに来い!」

 

 渚に自分の近くに来る様に言ったのは寺坂竜馬。磯貝達から聞く辺り、ガキ大将みたいな奴で授業態度も悪くそれが原因で成績が悪くE組に落ちたと聞いたので、渚は寺坂がどんな用で呼んでいるのかは解らないがとりあえずは寺坂の近くに移動した。

 

「寺坂だったけ?僕に何の用かな?」

「簡単な話だよ。お前はあのタコをホームルームの時間で追い詰めただろ。お前なら、あのタコの注意を引くなんて簡単だろうし、あのタコがガチでお前を警戒してる以上、ナイフが届く距離にまでは近付けさせないだろうが、お前にアレを持たせて、お前があのタコの近くにまで来ればアレを使って暗殺が出来る筈だしな」

「もしかしてこの手榴弾の事?外の茂みに有ったのを朝のホームルーム前に見つけたんだけど、玩具の手榴弾にしては中に火薬が入っていて危ないし、何かしらの装置も単純な方法だけど付いていたから中身は抜いて空にしたから今では只の玩具だけどね。玩具の手榴弾に本物の火薬を混ぜて対超生物用のBB弾を勢いよく飛ばせる様にしたんだろうけどさ、それは正直言って人の身を傷付けてまで行う人命をおそろかにした行為だって考えて解らない?」

「何だとテメェ!!もう一度言ってみろや!!」

「人命をおそろかにした行為だって言ったんだ。例え、超生物をこの方法で暗殺出来たとして誰が誇らしく思うの?お山の大将である君かい?」

「誰がお山の大将だ!!」

「実際そうだよ。多分、君は玩具の手榴弾に火薬を少し混ぜただけで怪我はしても死なないと考えた様だけどさ、人は思ったより簡単に死ぬモノだよ。ちょっとした火薬のつもりでも、その爆発のショックで身体に傷が無くても心臓に響いて心臓が止まる可能性も有るし、爆発で吹っ飛んだ結果、何処かに頭をぶつけて死ぬ可能性も考えられるし、火薬の扱い方を全く知らないと思えるね。それを考慮しないで、他人任せで自分は傷を負わない暗殺をしようとしてる奴をお山の大将と言ってもおかしくは無いよね?超生物を暗殺した場合に貰える賞金百億円で治療すればいいとかって思ってもさ、結局は火薬の扱い方を間違えれば治療すら出来ずに死ぬかもしれないって考えられなかったって事だよね?」

 

 渚の言ってる事はごもっともである。火薬はちょっとした量でも使い方を間違えれば大惨事に繋がりかねないので、渚の言ってる事は正しいのは聞いてる寺坂も解るのだが、お山の大将呼ばわりまでされた事に腹を立てたのか逆ギレした。

 

「うるせえ!!俺がどんな暗殺を考えようとも俺の勝手だろうが!!」

「だったら自分で実行した方がいいんじゃない?自分であの手榴弾をぶら下げて超生物に近付く勇気が有るならね!」

「うるせえよ!!どうせ死ぬなら、SAOみたいなゲームの中で死ぬという下らないシチュエーションで死ぬよりはマシだろうが!!」

 

 只の逆ギレで済めば良かったのだが、寺坂は渚に言ってはいけない言葉を発してしまった・・・いや、渚だけでは無くてSAO帰還者とSAOの中で死んだ者達に対して言ってはいけない事を寺坂は言ってしまったのだ。

 渚はそんなに気が短い方では無いが、今の言葉を聞いて怒らない程に気は長くない。渚は静かに怒りと殺気を混ぜたオーラを放つと、周りの生徒達は渚の気迫に驚く中で寺坂はそんな渚に睨まれているので腰が抜けてしまった。

 

「寺坂。今言った事を取り消してもらおうか?」

「な、何だよ・・・いきなり、俺は只・・・」

「俺は只?何だ?さっき言った言葉が僕の聞き間違いなら良いんだけどさ、君は思い切り言ったよね。SAOみたいなゲームの中で死ぬという下らないシチュエーションで死ぬよりはマシって言ったよね」

「い、言ったさ。言ったけど、それがお前に何の関係が有るってんだよ!!」

「また逆ギレか?下らないね、そんな図体だけデカくても、中身は小さい癖に大して考えずに発言した言葉が相手の逆鱗に触れる事を覚えた方がいいよ!」

 

 渚は寺坂の顔面にアイアンクローを喰らわせるが、超生物が教室に入ってくると割って入って止めに入った。

 

「渚君、手を離しなさい。寺坂君は今の言葉を取り消しなさい!先生も聞いてましたよ。今の言葉はSAO犠牲者に対して大変失礼な言葉です」

「チッ、今のは本当に俺の言葉に非が有った。今の言葉は取り消してやる」

「だそうですよ、渚君。君も許してあげなさい」

「今回は特別に許すけど、また言ったら次は容赦しない!」

 

 渚は寺坂から手を離すと、自分の席に戻っていた。寺坂は言葉は強がっていたものの表情はビビった様子で、腰が抜けて立てない様だ。クラスメイト達は渚が何故あそこまで怒ったのか疑問に思っていた。

 それに感付いた超生物は渚から直接話をさせて解らせた方が早いと認識した様で渚に話をする様に勧めた。

 

「渚君、あなたがどうして寺坂君が言ったSAO犠牲者に対して失礼な言葉に怒った理由を教えて下さい。先生は一応、烏間さんから君の事情は聞いてはいますが、他の生徒達は君が今まで何をしていたのか知りませんので、君の口から説明して聞かせてあげて下さい」

「黙ってるつもりだったけど、仕方無いか。話すとしよう」

 

 渚は真実を話す事にした。自分がSAO帰還者だという事とSAOがどんな世界だったかという事を。




 一応、ここで区切り次回に渚がSAO帰還者である事を説明し、SAOがどんな世界だったのかをE組の皆に説明します。
 菊岡はSAO原作と比べればお茶目なところが有りますかね・・・手続きをしないで手間を取らせた時点でお茶目では済まないレベルですけどね・・・


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第3話 SAO開始時は小6でした

 今回と次回は渚のSAOの第1層攻略までの語りとなります。後、別にサブタイトルに深い意味は無い。


 渚はかつて自分がSAOの中で二年過ごした事ををクラス全員に話し出した。

 

「二年前、僕が小6の時には既に両親は離婚していた為、僕は母と一緒に暮らしていた。父と会えるのは決まった面会の日ぐらいだった。そんな父と面会出来る日が二年前の11月に有ったんだけど、その時は父に急用が出来てしまい、父は自分が買っていたナーヴギアとSAOのソフトを僕に渡して面会出来る時間が出来ずにいた事を謝って、お詫びにそのゲームで遊んでくれと父の親切心で僕はナーヴギアを被ってSAOの世界へとダイブした。」

「つまり、渚はSAO事件の犠牲者って事なのか?だから、さっきの寺坂の言葉に怒ったのか」

「そうだ。僕はそのSAOの世界で二年間を過ごした。だからこそ、その二年間を過ごしたSAO帰還者への冒涜と言える寺坂の言葉に我慢出来なかった」

 

 渚がSAO事件の犠牲者だと知ると、クラスの誰もが渚はどんな二年間をSAOの世界で過ごしたのか知りたくなった。興味本意とかでは無く、SAOで起きた事を詳しく知ってSAO事件の犠牲者がどんな気持ちで過ごしていたのか知りたかった。

 

「今から僕がSAOにログインした後の話を少しだけ話す。よく聞いてほしい。」

 

 渚は自分がSAOで体験した話を第1層の攻略までの事を話す事にし、クラス全員は渚の話に耳を傾けた。

 

 

 渚はナーヴギアを被り、自分の憧れの姿である高身長の男の姿をしたアバターを作った後にアズワルドというプレイヤーとしてSAOにログインした。

 SAOにログインすると、渚の目には現実の様に思える街並みが写った。ソコはまるで中世時代のヨーロッパの様な街で『始まりの街』と渚の視界に街の名前が表示された。渚は自分の手を見て確認すると、現実の自分とは違う大きな手だったので、近くの窓を覗いて自分の姿を写すと、アバターで設定した通りの姿になっている自分がいた。

 渚は本当にここがゲームの世界だとは思えない程に忠実に作り上げられた世界だったので純粋にSAOの世界に来れた事に感動していた。だが、渚はこの時は小6の子供なので、アバターであるアズワルドの外見が大人に見えても精神は小6の子供なので、まずはどう動けばいいのか解らずにいた。

 そんな困った渚の姿を見た茶髪のセミロングの青年が声を掛けてきた。

 

「ソコの君、もしかしてフルダイブは初めてなのか?」

「えっ?は、はい。初めてフルダイブしました」

「ははっ!やっぱりね。その慌てようだと余程、慣れてないんだろうね。良ければ俺が教えるよ。こう見えてβテスターだしね!」

「βテスター?」

「おや?ゲーム自体が初めてなのかな?βテスターは簡単に言えば、このゲームが正式にリリースされる前に予め募集した者からテストプレイヤーを決めてゲームの進行具合に不具合が無いか確かめる為に選ばれたテストプレイヤーの事さ」

「成る程。じゃあ、このゲームの事は詳しいんですか?」

「勿論。まあ、βテスト通りなら問題は無いと思うけど、とりあえずはこのゲームでの戦い方にソードスキルの発動の仕方やアイテムの使い方を教えるよ。君の武器は片手剣か。基本的な武器だから槍使いの俺でも教えられそうだし大丈夫だよ」

 

 渚は元βテスターである青年からレクチャーしてもらう事になったので、渚は彼に感謝すると同時に名前を尋ねた。

 

「親切に教えてくれるんですか!ありがとうございます。あなたの名前は?」

「俺の名前はマキウス。君の名前は?」

「僕はなぎ・・・違った。この世界ではアズワルドという名前です」

「気を付けた方がいい。間違っても現実での名前は出さない様に。変に悪用されたら困るのは君だしね」

 

 マキウスに自分の現実での名前は出さない様に注意された後に、マキウスから様々なレクチャーをされ、SAOがどんなゲームなのか理解し、アイテムの使い方も習った後に、このゲームの代名詞であるソードスキルの使い方を指導され、ソードスキルの扱い方も理解した。

 

 

 マキウスと一緒にフィールドを移動してはモンスターをソードスキルを使い倒していき、ソードスキルの扱いにも慣れてきたところで渚は時刻を確認すると夕方なので、早くログアウトしないと母に怒られると思い慌てふためいた。

 

「しまった!?もうこんな時間に・・・急がないと母さんに叱られる・・・」

「そうか、門限が近いんだね。じゃあ、アズワルド。また会えたら、一緒に冒険しようか」

「はい。またログイン出来たらいいけどね・・・」

 

 この時の渚の母親は怒るとヒステリックになるので、渚は一刻も早くSAOの世界からログアウトしようとしてメニューを開き、ログアウトの項目を探したが見つからないので、マキウスに尋ねた。

 

「マキウスさん。ログアウトの項目が見つからないんですが?」

「えっ?そんな事は無い筈だよ。メニューを開いて一番下にログアウトの項目が有る筈・・・アズワルド、俺の方にもログアウトの項目が見当たらない。どうやら、SAOのシステムがバグったのかエラーでログアウトの項目が一時的に消えたんだろう。とりあえずGM(ゲームマスター)コールしたから、しばらくは気長に待とうか。その内にログアウトの項目が復活するかGM(ゲームマスター)が直接プレイヤーをログアウトさせてくれると思うからさ」

 

 渚はマキウスの言う通りにして、GM(ゲームマスター)が事態の改善をしてくれるのを待ったが、メッセージすら返ってこないので、何かがおかしいと渚とマキウスは思った時だった。

 鐘の音が響くと渚とマキウスの視界は真っ白になり、二人は気付くと始まりの街に強制的に転移されていたのだ。いや、二人だけではなかった。他のプレイヤー達全員が始まりの街に急に強制的に転移されたのだ。

 他のプレイヤー達も渚とマキウス同様にログアウトの項目がメニューから消えてるらしく、『早く現実に帰せ』等の声が聞こえる中で空が急に赤い警告文で真っ赤に染まると、空から赤い液体が落ちてきて、その液体が少しずつ形を作り上げていくと赤いローブの巨人となり、その巨人が全プレイヤーに向けて話し出した。

 

「私の名前は茅場昌彦。知ってるかと思うが、ナーヴギアの製作者でSAOのソフトも私が作り上げた物だ。それとこのSAOの世界を管理するGM(ゲームマスター)でも有る。諸君のメニューからログアウトの項目が消えてる事はほとんどのプレイヤーが確認済みの筈だ。それはエラーでも運営側のミスでも無い。ログアウトの項目が無いのはこの正式版SAOの仕様なのだよ」

 

 赤いローブの巨人は自分がSAOの製作者兼GM(ゲームマスター)である茅場だと言い、ログアウトの項目がメニューに無いのは仕様だと言った。その事実を知ったプレイヤー達は何かの冗談かと思った者が多いと思われるが、茅場はプレイヤー達が困惑する中でも躊躇い無く話を続けた。

 

「諸君らは私が身代金目的かテロ目的でログアウト出来ない様にしたと思っているだろうが、それは違う。この状態こそが私の目的そのものなのだ。つまり、私の目的は諸君らを現実から引き剥がしてこの世界に縛り、この世界の住人になってもらう事だったのだよ。」

 

 茅場はログアウト出来ない様にした理由はプレイヤー達を現実から引き剥がしてSAOの世界に縛る事でこの世界の住人にする事だと告げられたので、この時の渚は小6の子供の為かそんな事の為だけに沢山の人をこの世界に閉じ込める事に何の意味が有るのか理解出来なかった。

 

「私の目的を明かしたところで、この世界を脱出する唯一の方法を教えよう。この世界を脱出するにはこのゲームをクリアする事だ。諸君らが今いるアインクラッドの第1層から第100層まで上り、第100層にいるラスボスを倒す事が出来ればゲームクリアとなり、諸君らは全員が現実世界に帰る事が出来る。次の層に行くには各層毎に有る迷宮区に潜むボスを倒す事だ。ボスを倒す事で次の層に続く道が開かれる。その手順を繰り返して第100層にたどり着いてラスボスの撃破を目指したまえ」

 

 茅場から唯一の脱出手段はこのゲームをクリアする事だと告げられたが、βテストではまともに上る事すら出来なかったと聞いたとかの声が出る中でも茅場の話はまだ続いていた。

 

「続いて、諸君らにはこの世界が今の諸君らにとっての現実世界だという事を自覚してもらう為に私からプレゼントを送ろう」

 

 茅場がそう言うと全プレイヤーにアイテム『手鏡』が送られてきたので、渚はマキウスの目を見て手鏡を取り出すと、手に手鏡が握られており、渚はその手鏡を覗いた瞬間だった。手鏡が光だすと、手鏡に写っていた姿がアバターのモノでは無くて、現実世界での自分と同じ姿になっていた。顔だけでは無く、体格に身長までもがだ。

 渚は戸惑いつつもマキウスの方を向くと、ソコには茶髪で短髪の少し切れ長な目をした青年がいた。

 

「君はアズワルドかい?」

「えっ?もしかして、マキウスさん!?」

「ああ、そうだ。まさか、現実と同じ容姿にするとはな・・・それにしても、アズワルド。君は子供だったのか。道理で街で見掛けた時の仕草が子供のソレだった訳だ」

「ははっ・・・何か騙した感じになってしまいましたね・・・」

「気にするな。君はこのゲームを楽しもうと思ってこの世界に来たのだろ。だが、こんな事になるとはな・・・」

 

 マキウスはこのゲームを純粋に楽しもうとしていた渚を含めた子供のプレイヤーまでをも閉じ込めた茅場に怒りを感じていたのかもしれない。

 全プレイヤーが茅場のプレゼントである手鏡によって、現実世界での姿となった様で中には男性が女性物の装備をしている者もいる。いわゆるネカマらしく、正体が暴かれたネカマは騙されたと知った男性プレイヤー達から逃げる様子も有ったが、茅場はそんな状況だろうと話を続けた。

 

「これでこの世界が現実その物だという自覚が出来ただろう。そして、これが一番重要な話だ。正式版SAOにてHPが無くなったプレイヤーのアバターはシステムにより削除され、二度とこの世界に姿を現す事は無い。更にアバターが削除されると同時にそのアバターを使用したプレイヤーのナーヴギアから高出力の電磁マイクロウェーブが流れて脳を焼ききる。つまり、この世界での死は現実世界での死も意味するのだ。それと外部から無理矢理ナーヴギアを外そうとした場合も電磁マイクロウェーブで脳を焼かれ死を迎える。その後にアバターも自動的に消滅する。この事は全て私がマスコミやインターネットを通して世界中に知らせてある。だから諸君らは現実世界の肉体を気にせず、ゲームクリアを目指したまえ。それでは正式版SAOのチュートリアルを終える。ゲームクリアを目指して頑張りたまえ」

 

 茅場は最後にこの世界での死は現実世界での死も意味すると告げた後にゲームクリアを目指して頑張る様にと言い残して姿を消した。

 茅場が去った後、始まりの街はプレイヤーの声で響きだした。

 

「ふざけるな!!ここから出せよ!!」

「やっと就職出来たのに・・・クビにされたら茅場、お前のせいだからな!!」

「明日は重要な会議が有るんだぞ!!」

「出せよ!!俺にはまだ産まれたばかりの子供がいるんだぞ・・・こんな形で会えなくなるなんて有ってたまるか!?」

「よっしゃ!!これで毎日ゲーム三昧だ!ざまあみろ!お袋!」

 

 一つ変なのが混ざっていたが、ほとんどのプレイヤー達がこのゲームに閉じ込められた事への不満の声を挙げていた。

 マキウスは何か考えが有るのか渚に声を掛けた。

 

「アズワルド。少し考えが有る。俺についてきてくれ」

「は、はい」

 

 渚はマキウスの後を付いていき、街の出口付近に移動するとマキウスは渚に自分の考えを話した。

 

「おそらく、先程の茅場が言った事は全て本当だろう。HPが無くなれば本当に死ぬこのゲームを生き残るには二つの選択肢が有る。一つ目は何もしないでこの街に引きこもる。街にさえいれば、モンスターと会う事は無いから戦闘を行う事はまず無いだろうから、街にいれば一番安全かつ生き残れるだろう。ただし、この場合はゲームクリアを他人任せにするしかないので、ゲームクリアまで待つしかないという事になる」

「二つ目は何ですか?」

「二つ目の選択肢は言うまでも無く、SAOクリアを目指してレベルを上げて強くなり、装備を強力にしていき、各層毎のボスを倒して先に進んでいきラスボスを撃破して、ゲームをクリアして脱出する。この選択肢は戦う事が前提の為にゲームをクリアする前に自分が死ぬリスクが高い。だが、確実にこの世界に順応して生き残れるかもしれない方法としては一番だろう」

「この世界で戦いながら、ラスボスを目指して進んでいき、ラスボスの撃破を目指すか・・・」

「俺は二つ目の選択肢である戦いの道を選択する。アズワルド、君はまだ子供だ。街に引きこもる事を選択しても責める奴は誰もいない。俺としては君には生き残っていてほしい」

「何でですか?僕とマキウスは今日出会ったばかりなのに・・・」

「君は病気で死んだ弟に似てるんだよ。ちょうど君の様に男なのに長髪で女みたいな奴だったんだよ」

「酷い!?僕は好きでこの髪型な訳じゃないのに・・・」

「それは悪かった。とにかく俺はアズワルド、君に生き残ってほしい。どんな選択で有ろうとも、俺は君の味方をしよう」

 

 マキウスは渚にそう告げた後に、渚の意志を尊重する事にして渚の答えを聞く事にし、街に引きこもるなら金銭を渡して生活で苦労しない様にサポートし、戦う道を選択するならばマキウスは渚を強くする為にレベル上げやクエストの手伝いをする事を考えていた。

 渚はよく考えて自分が後悔しない道を選んだ。

 

「僕は逃げたくないです。この世界で生きる為に街にずっと引きこもるのは現実から目を背けているだけだし、自分で動かないと事態は改善されないと思います。だから僕は戦います!この世界で戦って生き抜いてみせます!そして、この世界から脱出して現実世界に戻ってみせます!」

「そうか。それが君の答えなんだな、アズワルド。わかった、俺は君を子供じゃなくて一人のプレイヤーとして接して、力を貸すよ。さあ、行こうか。この街の周りのモンスターは落ち着きを取り戻したプレイヤー達に狩り尽くされるだろう。システムでモンスターが出現するタイミングは限られているし、次の街に向かおう。ソコのモンスターはこの辺りのモンスターよりレベルは高いけど、二人で連携しながら相手すれば苦戦はしない。だから、俺と一緒に行こうかアズワルド!」

「はい!一緒に行きますよ、マキウスさん!」

 

 渚はこの世界で戦って生き抜く道を選択し、マキウスと一緒に行動する事にした。マキウスの案内で次の街に着いた後はその辺りのモンスターを倒してレベルを上げていき、区切りが付いたらマキウスが更に次の街か村に行く事を勧めた後に、マキウスと一緒に次の拠点に移動してはその辺りのモンスターを倒すという手順を三回は繰り返したと思われる。

 

 

 

 渚はマキウスと行動し、マキウスから道具屋で売られていたマキウス同様に元βテスターだったプレイヤーが書いたマニュアルを渚に渡し、渚はそのマニュアルを読んでこの世界での知識を取り入れていき、渚はマキウスが驚く程に順調に強くなっていた。

 デスゲームとなった正式版SAOが開始してから二週間経ったある日、宿で寝ていた渚が起きるといつも隣の部屋で寝ている筈のマキウスの姿が見えずにいたので、渚は街の中を探し回ったがマキウスの姿が何処にも無かった。

 不安に思った渚はもしかすると、マキウスはフィールドに出たのかもしれないと思い、街を出てフィールドに出るとマキウスを探しに動いた。マキウスを探している時でもモンスターは現れるので、現れたモンスターを倒しながらマキウスを探していると、植物型モンスターであるリトルペネントの大群にマキウスは囲まれていたのだ。

 渚はマキウスのHPバーを見ると、マキウスのHPは既にレッドゾーンに到達しており、渚はマキウスを助ける為にリトルペネントを三体纏めて片手剣のソードスキル[ホリゾンタル]を喰らわせ、三体のリトルペネントを撃破した後に残ったリトルペネントをソードスキルの使用後硬直が解けたら直ぐにソードスキルを使い、数体ずつ倒していき、リトルペネントが残り一体になったところでその最後の一体が渚の後方に回ると一撃を加えようとしてきた。

 

「しまった!?(ソードスキルを使い過ぎて後ろに回り込まれてしまった・・・)」

「アズワルド!?させるかぁぁっ!!」

 

 マキウスはボロボロで満身創痍の状態ながらも渚を押し出して、リトルペネントに槍を突き刺してリトルペネントを倒したが、リトルペネントの攻撃もマキウスを捉えており、マキウスのHPが減っていき無くなろうとしていた。

 渚は急いでマキウスに近付いてポーションを飲ませて回復させようとしたが、マキウスがそれを拒んだ。

 

「ダメだアズワルド。お前は俺を探してる間にポーションを使って数を減らしてしまった筈だ。お前の残り少ない回復アイテムを減らしてまで俺は生き残ろうとは思わない。すまないな、勝手に飛び出した結果がこの様だ。強力な片手剣と交換してくれるクエストが有ったんだ。そのクエストの報酬を得る為にはリトルペネントの中に稀に出現する花付リトルペネントを倒した時に手に入るこの花が必要だったんだ」

「でもマキウスさんは槍を使うんだから、剣なんて手に入れても・・・まさか、僕の為に・・・」

「本当にすまない。この事は秘密にして君に報酬の剣を渡して驚かせようかと思っていたんだが、どうやら俺は少し侮っていた様だ。リトルペネントは実を付けた奴もいてな、その実を付けた奴を攻撃すると実が弾けてその臭いに釣られるかの様に大量のリトルペネントを引き寄せるんだ。俺はそれを利用して花付リトルペネントを出現させたんだが、思ったより多い数のリトルペネントが現れた結果がこれだ」

 

 渚はマキウスが自分の為にこんな無茶をしてしまい、死なせる原因になってしまった事に心を痛めるが、マキウスはそんな渚にリトルペネントから手に入れた花を手渡すと、渚に告げた。

 

「これはアズワルド。君のせいじゃない。これは俺が勝手に先行してこの世界を侮ってしまった事による慢心が生んだ結果なんだ。だから君のせいじゃない。アズワルド、君は俺の分まで生き残ってくれ。どんな方法でもいい。君は無事に生き残ってこの世界から脱出してくれ。俺は君をいつまでも見守っている。さよなら、アズワルド」

 

 マキウスはそう言い残した後に光の粒子となり散った。渚はマキウスの死に悲しみながらもマキウスに言われた通り、この世界をマキウスの分まで生き残ってこの世界から脱出する事を目指す事にした。

 渚は街に戻ると街の片隅にマキウスが使っていた槍を墓石代わりに地面に刺した後に、散ったマキウスに向かって言う。

 

「僕はマキウスさんの分まで生き残ってみせます。だから僕を見守っていて下さい。僕はあなたの様に優しく誰かを守れる様に頑張ってこの世界で戦い抜きます。さよなら、マキウスさん」

 

 渚はマキウスの墓の前から去っていき、マキウスから渡されたリトルペネントの花を渡してクエストの報酬である片手剣アニールブレードを手に入れた後に街を去っていき、渚はこの世界でマキウスの分まで生き残る為にも先に進むのだった。




 何か、語りになってしまいました。渚視点では有りますが三人称で統一させてください。
 次回は言うまでも無く、語りの続きです。


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第4話 渚が語る第1層ボス攻略会議

 ヤバい、語りに2話使ってまだ終わらない・・・


 マキウスの死から二週間は経ち、渚はマキウスから教わった事と後に出会った元βテスターのアルゴから得た情報や彼女の用意したマニュアルに書かれた内容を基に順調にレベルを上げていき、ビギナーながらソロでレベルを14まで上げた。

 デスゲーム開始から1ヶ月経ち、やっと迷宮区を見つけ、迷宮区を突破したプレイヤー達がボス部屋を発見したそうなので、渚は第1層のボス攻略会議が行われる街トールバーナに向かい、トールバーナに着くと広場の方で多数のプレイヤーが装備を整えており、広場でボス攻略会議が行われると思い、広場の方に移動すると、渚の姿を見たプレイヤー達が笑いながら渚に言う。

 

「おいおい、ここはガキの遊び場じゃないんだぜ」

「そうそう。ここは今から大事なボス攻略会議が始まる場所なんだ。ガキは他の所で遊んでな!」

 

 どうやら渚を子供としか見ておらず、ボス攻略に参加しに来たプレイヤーだとは思っていない様だ。渚は自分がボス攻略に参加しに来た事を告げる事にした。

 

「僕はそのボス攻略に参加しに来たんです」

「笑わせるな、お前みたいなガキに何が・・・」

 

 渚がボス攻略に参加しに来たと聞くと、話にならないと思ったプレイヤーが追い出そうとしたが・・・

 

「そこまでにしな!!ガキだろうが戦う意志をちゃんと持ってここに集まったってのが、ソイツの目を見て解らないのか?」

 

 金髪の青年が一喝して、渚が戦う意志を持ってここに来た事が解らないかと言ったので渚を煙たがったプレイヤー達は黙り込んだ。その後に渚は自分をフォローをしてくれた金髪の青年に感謝した。

 

「ええと、ありがとうございます。フォローしてくれて」

「別に気にすんなよ。今の奴らもこの1ヶ月で第1層から未だに進んでない事に焦って苛立っているだけだと思うし、お前がボス攻略で実力を示せば見た目だけで判断してナメられる事は無くなるだろうから男らしく頑張りな!俺の名はリンドってんだ。お前の名前は?」

「アズワルドです。一応、こう見えてもレベルは14です」

「俺よりレベル高いのかよ!?まあ、先程お前にいちゃもん吐けた奴らも今のを聞いて驚愕してやがんぜ。これでお前がナメられる事は無いだろうな」

 

 リンドは渚より自分のレベルが低い事に少し落胆しつつも渚を子供では無くて、一人の仲間として認識した様で渚の頭を軽く撫でた後に適当な席に座っていた。

 渚も適当な席に座ると、広場に集まったプレイヤー達の前に青い髪の好青年が立ったので、今からボス攻略会議を開始する様だ。

 

「よく集まってくれた。俺の名前はディアベル。職業は気持ちで騎士(ナイト)をやっている」

 

 ディアベルがそう発言すると笑い声が聞こえるが、これはディアベルをバカにしてる訳では無くて彼の言葉で切羽詰まったモノが抜けて気が楽になった事で出た笑い声だ。ディアベルはこの場の空気を和やかにする為にわざと言ったのだろう。そもそもSAOに職業とかの概念は無い。

 ディアベルは冗談で場を和ませた後、ボス攻略会議を開始した。

 

「さて、ボス攻略会議を始めよう。前日に俺のパーティーが迷宮区の中を捜索していると、ボス部屋を見つけた。ボスを倒す為には人数が必要と思い、こうしてボス攻略に参加してくれる者達に集まってもらった訳だ。ボス戦は集団戦術であるレイドで行うから、まずはこの場にいるプレイヤーでパーティーを組もうか。一つのパーティー毎の人数の目安は5人か6人だ。では、各自パーティーを組んでくれ」

 

 ディアベルがそう言うと同時に周りのプレイヤー達が次々とパーティーを組んでいくので、渚は出遅れてしまいパーティーを組むにもあぶれてしまい、パーティーを組もうにも既にパーティーを組終えた者達が多い中で渚は唯一人数が足りてないパーティーを見つけた。まあ、二人だけのパーティーなのでコンビと言った方が正解かもしれない。

 渚は自分と同じくあぶれたと思われる二人とパーティーを組む事にして、渚よりマシな方だが女顔の男とローブで顔を隠した女性のコンビに近付き、パーティーの申請を頼んだ。

 

「すみません、僕はあぶれてしまいまして・・・それで二人がよければ僕を二人のパーティーに入れてくれないかな?」

「ええと、俺は良いんだが、もう一人の方が許可するかどうかは・・・」

「別に構わないわよ」

「ああ、そうですか。どうやら、この人も異論は無い様だから君を俺達のパーティーに加えるよ」

「ありがとう、僕はアズワルド。あなた達の名前は?」

「俺か?俺の名前はキリトだ。で、コッチの人は・・・」

「アスナよ」

「アスナらしい。どうもさっきパーティーを組んだ時からこんな感じなんだ。多分、悪い奴では無いと思うけど・・・」

「大丈夫かと思いますよ。アスナさんって優しくて頼れるお姉さんって感じですから」

「私がお姉さん!?そうよね、年上として私がこの子の様な子供を守らないといけないのよね・・・」

 

 何故かアスナがぶつぶつと呟き出したが、キリトと渚はその間にディアベルにパーティーを組終わった事を伝えた。ディアベルは全員がパーティーを組終えた事を確認すると次の話に進める。

 

「パーティーを組終えたみたいだし、次の話に移るとしよう」

「その前に悪いが、ちょっと待ったんか!!」

 

 ディアベルが話を進めようとした瞬間、割り込んできたプレイヤーがいた。そのプレイヤーはトゲトゲした毬栗みたいな独特の髪型をした茶髪と顎髭が特徴的だった。そのプレイヤーが話出した。

 

「ワイの名前はキバオウや!急に割り込んで悪いんやが、ボス攻略を開始する前にこの一ヶ月の間に死んだ2000人のプレイヤーとこの場の全員に謝らねばならん奴がおる筈や!」

「キバオウさん、それは誰の事ですか?」

「言うまでも無い筈や、ディアベルはん。ワイが謝れと言う奴は元βテスターの事や!元βテスターの奴らは自分の身の安全を優先してビギナーであるワイらを置き去りにして姿を眩ました上に良質なアイテムや報酬が良いクエストを独占しおった。この中にもいる筈や、元βテスターの奴がな!元βテスターの奴は今すぐ名乗り出て、持っているアイテムにこの世界の通貨であるコルを全てこの場の他の奴に渡さんかい!じゃないと背中を預けられへんわ!」

 

 キバオウは元βテスターは今すぐに持っているアイテムにコルを全て差し出せと言うが、渚はキバオウの言っている事に理不尽さを感じた。元βテスターの中には確かにキバオウの様な者もいるが、全てのβテスターがそうでは無い事は渚は知ってる。自分の為に無茶をして死んでしまったマキウスだって元βテスターだ。間違ってもキバオウが言う様な奴では無かった。

 だからこそ渚はキバオウの意見に反論した。

 

「キバオウさん。あなたは元βテスターを悪く言っていますが、必ずしも全ての元βテスターがあなたが言う様な者じゃない!」

「なっ、何やガキ。ワイは大事な話をしてる最中や。邪魔する気か?」

「大事な話の邪魔を最初にしたのはあなたですよね?ディアベルがボス攻略についての話を進める中で邪魔に入ったのは誰でしたっけ?」

「ああ、そうや。確かにワイはディアベルはんの話を遮って話の邪魔をした。それは認める。だが、ワイの言う事も大事な話やで」

「いいえ。キバオウさん、あなたが言っているのは簡潔に言えば、この場にいる元βテスターは黙ってアイテムとお金に武器を置いていけって意味ですよね?アイテムが無ければHPが少ない時にどう回復しろと?お金が無いと宿にも泊まれないし、この世界でも餓えは有るから何か食べないと生きていけないのに、お金が無いと食べていけない。アイテムを全て差し出せっていうのは武器も全て渡せって事ですよね。武器が無いと戦えないから、最悪アイテムとお金が無い状態の中で生きていくにはモンスターを倒してお金を得るしかないのに、武器すら無ければどうする事も出来ない。あなたは元βテスターに信頼してほしければ、素っ裸になって何も出来ない状態になれと言ってるんですよ!」

「ぐぬぬ・・・」

 

 キバオウは子供である渚に正論を言われてしまい、反論の余地が無いのか黙り込む。そんなキバオウに更に追い打ちする様に黒人と思われるスキンヘッドの体格が良い男がキバオウに告げる。

 

「ちょっと、いいか?俺はエギルって言うんだがキバオウさん、その子の言う通りだ。元βテスター全員がアンタの言う様な奴じゃない。そもそも1000人いた元βテスター達は既に半分が死んだと聞く。残った元βテスターは半分しかいないし、半分しかいない元βテスターからアイテムやコルを全て寄越せと言うのはさすがに理不尽だし、そんな事をしてアイテムとお金を全て取られた元βテスターが死んだらアンタはどう責任を取るつもりだ?それにだ、この本はアイテムショップで無料で配布されているしこの場のほとんどの者が持っている筈だ。これは元βテスターだった者が作って配布している物だ」

 

 そう言ってエギルは本をキバオウに見せると、キバオウもその本を持っているので文句は言えない。

 

「これで解った筈だ、キバオウさん。元βテスターの全員がアンタの言う様な奴じゃないし、βテストの時と違って本当に死ぬゲームになった正式版で元βテスターが自分の命を優先にして動くのは人間の心理として当たり前だ!もし、アンタが元βテスターだとしたら、アンタはビギナーを見捨てなかったと言えるのか?ここにいる奴らは皆がボス攻略の為に集まってんだ。そんな中でアンタが言う一部の元βテスターの影響を受け、逃げてもいない奴を含めた元βテスターの立場が弱くなっている。そんな者達にアイテムとコルを全て寄越せと言う方がどうかしてると思うぞ!」

 

 エギルがキバオウに一喝し、キバオウが怯み出した後にリンドが続けて発言した。

 

「その通りだな。キバオウのおっさんよぉ、ここはボス攻略について会議する場所で有って、間違えても元βテスターへの偏見を言ってはアイテムとコルを取り立てる場所じゃねえよ!アイテムとコルが欲しければ自分で頑張って手に入れな!それと元βテスターのせいにして、この一ヶ月で死んだ2000人が喜ぶとでも言うのか?死んだプレイヤーの内500人は元βテスターだし、今まで死んだプレイヤーの死因を元βテスターのせいにするのはお門違いだと思うぜ、おっさん!!俺としてはおっさん、アンタこそが背中を預けられねえ相手だよ!」

 

 エギルの言葉により、キバオウは完全に失意したらしく、更にリンドが追い打ちした言葉でトドメをさされたキバオウは青ざめた表情をしながら自分のパーティーの元へと戻っていた。

 ディアベルはキバオウが大人しくなったのを確認した後、ボス攻略会議を再開した。

 

「元βテスターについては色々と思うところが有るだろう。でも今は正式版SAO初のボス戦をどう攻略していくのかが重要だ。先程のエギルさんの話でも出てきた本の最新版によると、今回のボスの名前は『イルファング・ザ・コボルトロード』らしい。名前の通りコボルト系のモンスターで人型で犬の頭をした巨大なボスだ。名前が長いからコボルトロードと呼ぶ事にして、このボスはそれぞれの手に両刃の斧とバックラーを構えている様で、コボルトロードはHPがレッドゾーンに近付くと斧とバックラーを捨ててタルワールに持ち替えるらしい。その土壇場での武器の切り替えにも対処出来る様に立ち回った方が良いかもしれない。先程組んだパーティー毎に俺が役割の分担を決めておく事にしよう。各パーティー毎に決められた役割を果たしながら、スイッチを使って前衛と後衛を上手く切り替えながら戦えばボスだろうと犠牲を出さずに倒せる。その為にも今日は休息しよう。休んで身体と精神の疲れを取ってからボス戦に向かうとしよう。それでは解散!」

 

 ディアベルがボス攻略会議を終えて解散を宣言すると、各パーティー毎に自分達が泊まる宿屋へ向かった中で渚は自分のパーティーであるキリトとアスナの二人と過ごす事になるのかなと考えていると、キリトが渚に話し掛けてきた。

 

「アズワルド、さっきお前は元βテスターが全員がキバオウの言う様な奴じゃないと言ってたな。もしかして、アズワルドは元βテスターなのか?」

「いや、僕は元βテスターじゃないよ。僕はこの正式版SAOが初めてやるゲームだし、間違っても元βテスターでは無いよ」

「初めてゲームをやったのか・・・それにしても、失礼だと思うがお前みたいな子供が一人でボス戦に参加出来る程のレベルまで上げられたもんだな」

「ううん。僕一人だけの力じゃないよ。僕は元βテスターに支えられてここまで強くなったんだ。元βテスターだった彼が僕を支えてくれたお陰で僕はこの世界で生き残る為の力を得る事は出来た。だけど、僕を支えてくれた元βテスターである彼は二週間前に僕の為に無茶して死んでしまった・・・でも、僕は彼の死に悲しみながらも、彼から教わった事と彼の残した言葉を胸に閉まって、彼の分までこの世界を生き抜く決意を固めたんだ。だからこそ、キバオウさんが元βテスターを非難する事に我慢出来なかったんだ」

「そうか・・・お前が出会った元βテスターは俺と違って他人に気を使えた奴の様だな」

「その様子だと、キリトさんも元βテスターだったって事かな?」

 

 渚がキリトに元βテスターか尋ねると、キリトは思い詰めた表情をしながら答えた。

 

「ああ、俺は確かに元βテスターさ。ただし、お前が出会った元βテスターと違って、この正式版SAOで出来た友を置いていってしまった卑怯者だ。アイツは自分の事は気にしないで進めと俺に行ったけど、俺はやっぱりアイツを置いていって自分だけが先に進んで行った事を後悔してるのかもな。だから、俺の事は幻滅してもいい・・・」

「幻滅なんてしないよ。だって、キリトさんはその友を置いていってしまった事を悔いているし、その友は自分の事は気にしないで進めと言ってたんでしょ?だから、その人はキリトさんを恨んでなんかいないよ。キリトさんは自分が置いていってしまった事への罪悪感で後ろ向きに考え過ぎているだけだよ。自分がキバオウさんが言う様な元βテスターの一人だと思っているのはその罪悪感のせいだよ。だから、その罪悪感を払う為にも今回のボス戦は置いていった友の分も含めて戦うつもりでいた方がいいんじゃない」

「そうか。確かに後ろ向きに考え過ぎていただけかもな。お前と話したら、少し楽になったよ。そうだな、俺は今は前線に来れないアイツの分も頑張ってボス戦を生き残って終わらせないとな」

 

 渚と話したお陰でキリトの表情が少し活気付いたモノとなったので、渚は励ませたのなら良かったと思った。その後に渚はキリトにアスナがどんな人物なのか聞いてみる事にした。

 

「キリトさん、アスナさんがどんな人物なのか聞きたいんだけど説明出来る?」

「アスナについてか?アスナとは俺が迷宮区を探索していた時に、切羽詰まった感じでモンスターと戦ってレベル上げをしていたアスナを発見したんだ。モンスターを倒した後にアスナが電池が切れたかの様に倒れたから放っておけずに、迷宮区の外にまで運んで、目覚めるのを待っていたんだが、目が覚めたアスナは何を勘違いしたのか俺を変質者扱いしてはレイピアで俺を刺そうとしてきた。俺はアスナの攻撃を避けた後に互いに別行動しながら、ボス攻略会議に参加しにこの街の広場に向かったんだ。ディアベルからパーティーを作る様に言われた時には俺が入るパーティーは周りにいなかったから、俺と同じくあぶれたアスナと組む事になったんだ。名前だって、その後にアズワルド。お前が入った時に初めて聞いたしな。だから、アスナについては本人に聞いた方がいいぞ」

 

 渚はキリトとアスナは互いに面識は有ったものの第一印象が悪いせいか多少もつれが有るので、キリトから見たアスナは気が強いという感じなのかなと思い、これ以上はキリトでは無くてアスナ本人に聞く事にした。渚はアスナが少し話し掛け辛い雰囲気を出しているので、少し迷ったがアスナに声を掛けようとしたのだが・・・

 

「じゃあ、アスナさん本人に聞きますね。ちょっと話し掛け辛いけどね・・・」

「その気持ち解るぜ、アズワルド。アスナは気が強いのは間違いない。何か思い詰めてるみたいだし、そのせいでか話し掛け辛い雰囲気を作っているしな。そうだな、ここは俺がアスナとお前が話し易い場所に行かせるべきか」

 

 キリトもアスナが話し掛け辛い雰囲気を出していると思っているらしい。その為かキリトは渚がアスナと話し易くなる様にする為にアスナに何か話した後に、渚とアスナを自分がレンタルしたプレイヤーホームへと連れて行った。

 

 

 プレイヤーホームに入った後、直ぐにアスナは風呂に向かったので、キリトは上手く話しに乗ってくれたかと思ったら風呂目当てだったのかとどう反応すればいいのか解らないでいた。

 

「風呂目当てだったのか・・・ゲームの中だから汗はかかないし、臭いはモンスターとかの臭いとかは付くには付くけどさ、別にそこまで気になるモノじゃないしな」

「キリトさん。女性って結構、そういう身だしなみには気を使いますし、風呂に入りたくなっても不思議ではないかと思います」

「そういうもんなのか。ところでアズワルド。お前は男だよな?」

「男ですよ!!僕はれっきとした男です!!」

「すまん。俺も女顔だけどさ、まさか俺より上の女顔の男がいるとは思いもしなかったし、お前の背は女子の平均的な高さだしな・・・」

「それ、どういう意味ですか!?」

「気にするな。その内に伸びるさ、成長期が終わる前にこのゲームを生きてクリアさえすれば、まだ可能性が有るから頑張れ!」

「何で励ます訳!?」

 

 渚はキリトに責めよるが、キリトは『そういえばシャワーは10分使うと水になるのをアスナに説明し忘れていた』と言って逃げようとしたが、タイミング悪くアスナが風呂場から出てきたので、キリトはアスナに覗きの疑いを掛けられアスナから制裁を受ける事になったが、渚は一切キリトを助けようとはしなかった。

 キリトは死に物狂いで逃げ出し、プレイヤーホームの外に出ていった。必死に逃げ去ったキリトに呆れながらも渚はアスナと話した。アスナは意外とすんなりと話してくれたので、渚は驚きつつもアスナから話を聞いた。

 アスナは現実では受験生だったが、ナーヴギアとSAOのソフトをデスゲームが始まったあの日に都合が入った兄から借りて1日だけの息抜きのつもりでプレイした。だが、息抜きのつもりがゲームクリアまで現実に戻れないというデスゲームだと知ると、アスナは今まで親の言い付け通りにやって来た自分の努力が無になってしまう事に絶望したという。

 それを聞いた渚は何処かアスナは自分の家庭での境遇に似ていると思った。渚も母の機嫌を損ねると母がヒステリックになるので、母の機嫌を悪くしない様に気を付けながら生きていたから、アスナのその時感じた絶望はもしかすると自分もマキウスといなかったら感じていたのではないかと思った。

 アスナは絶望しながらも、この世界を1日でも早く脱出する為に強くなろうとしてキリトが話していた通りに迷宮区で無茶なレベル上げをしていたところでモンスターを全滅させた後に気を失ってしまい、気付くと迷宮区の外でキリトに介抱されていたのでキリトを不審者扱いしたらしい。

 その後にキリトと別れて、ボス攻略会議が行われる街に行き、ディアベルにパーティーを組む様に言われた時には自分だけで戦おうとしていたが、その場にいたキリトに声を掛けられ、ボスは今までと違って一人で戦うのは無謀だと言われたので渋々キリトとパーティーを組んだ後に渚に声を掛けられたので、渚をパーティーに入れて現在に至るとアスナは説明した。

 

「話せるのはこれぐらいかしら」

「うん。話してくれただけでも僕は嬉しいし、それにアスナさんと僕は何処か似てる感じがしてね・・・僕の家は両親が離婚して、僕と母さんの二人で生活してるんだけど、母さんは僕に自分が行けなかった大学に行かせようとしてるんだけど、自分が思う様な事にならないと機嫌を損ねてヒステリックに怒るんだ。僕は母の顔色を常に確認しながら生きていたんだ。アスナさんも両親の顔色を常に確認しながら生きていたんじゃないですか?」

「そうかもね・・・私も君同様に親の顔色を気にしてばかりだったかもね。ふふっ、話したら少し気が楽になったわ。ありがとう、アズワルドちゃん」

「えっ?今、ちゃん付けしましたか?僕はこう見えて男ですよ・・・」

「またまた、そんな冗談言わないで」

「冗談では無いから!!本当に僕はれっきとした男の子です!!この長い髪に髪型は全て母さんが僕を息子としてでは無くて、娘の代用品みたいな感じで母さんが子供の頃に自由に髪を伸ばせなかった事も有ってか、この長い髪で過ごしているんですよ・・・」

「そうだったの・・・ごめんなさい、アズワルド君。君は私と本当に似た境遇の中で生きていたのね・・・」

「ですね。とりあえず、今日は休みましょうか」

「そうね。お休みアズワルド君」

 

 渚とアスナは互いの家庭での境遇が似てると思い、互いにその境遇に同情した後にもう遅い時間なので寝る事にした。

 外に出ていたキリトが帰ってくると、キリトも夜遅くになっているので寝る事にしたが、ベッドはアスナに取られ、ソファーで寝ようにも渚が寝転んでいるので、キリトは半泣きしながら床の上で寝たという。




 次回で語りは終わらせます。
 リンドは別に原作と同じ性格ですよ。元βテスターを悪く言ってないのも、元βテスターを恨むきっかけが無いだけです。
 キバオウは弱い者を強い者が導く事を理想的だと思ってはいるのでしょうが、元βテスターを毛嫌いしてる辺り、元βテスターの裏切りでも有ったのでしょうかね。じゃないと、ここまで強く元βテスターを批判しませんよね?内心は良い人物だというのは『コード・レジスタ』で解っていますしね。彼の第1層のボス攻略会議前の過去に何が有ったのか知りたいですね。


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第5話 それぞれの意志の引き継ぎ方

 今回で第1層での語りは終わりです。


 朝になり目が覚めた渚はキリトとアスナと一緒に朝食としてパンを食べた。そのままでも美味しいパンだが、味に一工夫付ける為にキリトが出したクリームを塗る事で違う味を付けて食べた。アスナはこの世界に来てから初めて味気が有る物を食べたらしく、渚とキリトが驚く程の勢いでパンを食べ進めたのでキリトはクリームが入った瓶をアスナに渡した。アスナは遠慮したが、キリトはクエストをクリアすれば何度でも手に入るから別にいいと言うとアスナは受け取ったので、アスナはキリトに対して素直になれないだけではと渚は思った。

 

 食事を済ませた後に三人はディアベル達と合流して、ディアベルから役割分担をされ、渚のパーティーは今回のボスの取り巻きである『ルイン・コボルト・センチネル』を相手にする。他のパーティーがボスだけに集中出来る様にする為らしい。

 役割を与えられた後にディアベルの後方に続いてボス部屋までの道を進む中で襲ってくるモンスターを撃退しながら、パーティーを組んだのは今回が初めてだというアスナに前衛と後衛の位置を瞬時に切り替える連携技であるスイッチについて説明した。

 ディアベルが立ち止まると、ディアベルに続いたプレイヤー達も歩みを止めると渚達も動きを止めた。どうやら、ボス部屋の前にたどり着いた様で、ディアベルが攻略組の皆に向けて声を発した。

 

「いいか皆。いよいよボス戦だ。デスゲームが始まり1ヶ月経過して、やっとの事で見つけたボス部屋だが、この中にボスがいる。だから再度皆に確認したい。この戦いに参加する勇気が有るか?」

『おう!』

「そうか。戦う勇気が有るのと同時にこの場の全員が無事に生き残って犠牲者が出ない様に戦う様にしてくれ。俺はこの場の全員なら誰もが無事に生き残って今回のボス戦を終える事が出来ると思ってはいるが、くれぐれも最後まで油断しないで戦う様に心掛けてくれ!この戦い全員が生き残って無事に終わらせるぞ!!」

『おおっ!!』

 

 ディアベルの言葉に攻略組のメンバーが勢いよく返事を返し、ディアベルは皆の調子も大丈夫そうだと確信した後にボス部屋の扉を開けた。そして、開いた扉の奥に進んでボス部屋に全員が進入した。

 ボス部屋に入ると、犬の頭をした巨大な人型の怪物が斧とバックラーを構えて攻略組のプレイヤー達の前に姿を現した。この怪物こそがボスであるコボルトロードだ。更にコボルトロードの前から取り巻きであるセンチネルの姿が三体有り、コボルトロードが咆哮を挙げるとセンチネル三体が攻略組のプレイヤー達に襲い掛かろうとしてくるが、ディアベルが慌てずに指示を出した。

 

「B班にC班は俺が率いるA班と一緒にコボルトロードに攻撃してスイッチで後衛であるD班にE班と場所を入れ替えて防御だ。そしてF班の三人は五つの班のプレイヤーがコボルトロードとの戦闘に集中出来る様にセンチネルの相手をしてくれ!」

 

 ディアベルの指示通りにプレイヤー達が動き、コボルトロードに攻撃していく中で渚とキリトにアスナの三人はセンチネルの相手をする。三人は各自一体ずつ相手を行う。

 まず一体目のセンチネルはキリトが相手をし、センチネルがメイスでキリトを叩き付けようとするが、キリトは剣でメイスを弾いた後にセンチネルにカウンターを仕掛け、重い一撃を与えるとセンチネルは怯み、大きな隙が出来るのでキリトはその隙を逃さずに片手剣のソードスキル[バーチカル]を放ち、センチネルのHPを全損させると、キリトが相手したセンチネルは光の粒子となり散った。

 キリトが一体目のセンチネルを相手にしてた時にアスナは二体目のセンチネルの相手をしていた。アスナは素早い動きでセンチネルのメイスによる攻撃を避けると、センチネルの懐に潜り込んでレイピアでセンチネルの脇を突くと、センチネルは怯み、アスナは怯んで隙を見せたセンチネルに細剣のソードスキル[オーバーラジェーション]による10連撃の突きがセンチネルに放たれ、センチネルはその連撃でHPを無くし、光となり消滅した。

 キリトとアスナがそれぞれセンチネルと戦闘を行っている時、渚も三体目のセンチネルの相手をしていた。センチネルが素早い身のこなしで渚に近付くとメイスで殴り掛かろうとしてくるので、渚は咄嗟に後ろに半歩下がりメイスを避けると、センチネルの後方に移動し、センチネルの背中に目掛けて剣を突き刺すと直ぐに抜いて斬撃を喰らわせた後に片手剣のソードスキル[ホリゾンタル]を放ち、センチネルのHPバーを空にするとセンチネルは青く光りながら消えた。

 

 

 センチネルを三体供撃破した渚達三人はコボルトロードと戦うディアベル達の様子を確認すると、コボルトロードのHPは渚達がセンチネルの相手をしてる間にディアベルの的確な指示の中でプレイヤー達が的確にダメージを与えていた為か、既にレッドゾーンに移行していた。

 HPがレッドゾーンにまで移行し追い詰められたコボルトロードは構えていた斧とバックラーを投げ捨てると、後ろ腰から新たな得物を手に握ろうとしたので、ディアベルは情報通りにβテストの時と同じタルワールかと思い、勝利を確信してなのかプレイヤー達に告げた。

 

「皆、よくやった。後は俺に任せておけ」

 

 ディアベルは今から一人だけでコボルトロードと戦うと攻略組のプレイヤー達全員に告げるが、渚はディアベルの行動が疑問に思った。コボルトロードのHPはレッドゾーンの為に空前の灯火だが、ボスである以上は油断出来ない相手だ。ディアベルはこの場の全員を死なせない様に的確な指示をしていたが、今やる事はディアベルの行動としては迂闊に感じた。

 ディアベルは最後まで油断せずに戦えと言っていたが、これでは説得力の欠片も無くなる。ディアベルだって、その事は解っている筈なのにどうしてこんな事をしたのかと渚は不思議に思っていたが、ディアベルの視線が一瞬だけキリトに向けられたので、キリトはディアベルの狙いが何なのか解った。渚もディアベルがキリトに一瞬だけ視線が向いた事に気付き、渚も何となくだが、ディアベルの狙いが解った。

 ディアベルの狙いが解ったとしても、渚とキリトはディアベルを無理に止める必要も無いかと思ったのだが、コボルトロードが握った新たな得物を確認すると、それはタルワールでは無く、大きな野太刀だった。

 キリトは得物がタルワールでは無い事に気付いていないディアベルに向かって叫んだ。

 

「ディアベル、下がれ!!ソイツが持つのはタルワールじゃない!!野太刀だ!!」

 

 キリトが大声で叫んでディアベルに伝えようとしたが、時は既に遅かった。ディアベルはコボルトロードが振るう野太刀による斬撃を受けてしまい、その威力で空中に浮かび上がり、コボルトロードが追撃で野太刀を振り降ろすと、ディアベルは地面に叩き付けられHPが減っていく。減り方を見る限り、急いで回復させないとHPが無くなる勢いだったのでキリトに渚はディアベルに近付いてポーションを飲ませようとしたが、ディアベルは二人が手にしたポーションの蓋の上に手を置き、自ら回復を拒んだ。

 

「ダメだ。回復アイテムはこの序盤の層ではポーションすら高くて手に入り難い。今の時点ではポーションだけが貴重な回復アイテムだ。それを受け取ってまで俺は生き残りたくない。それにこの減り方を見れば、ポーションを飲んだところで俺は助からない・・・」

「ディアベル、何でこんな無茶をしたんだ!?」

「君だってβテスターなら解るだろ。俺はボス撃破時に手に入るLA(ラストアタック)ボーナスをどうしても入手したかった。この先、皆を導く為にも俺は強くなっていかないといけないと思ったからだ。俺はβテスターだが、ビギナーを見捨てる事は出来なかった。それに始まりの街に引きこもったプレイヤー達の為にも、希望を与えていつかはこのゲームがクリアされる事を伝えたかったんだ。だけど、俺はこれまでの様だ・・・」

「ディアベルさん、バカな事を言わないでポーションを飲んで回復を・・・」

「ごめん。君の気持ちは嬉しいけど、本当に序盤の間は回復アイテムは貴重な物だ。それを受け取る事は出来ない。それに君は子供とは言えど、俺より強くなれる素質が有る。だからこそ、そんな相手の可能性を消したくは無いんだ・・・本当にすまない。最後に君達二人に頼みが有る。皆の事を君達のやり方でいいから導いてくれ・・・頼むぞ、二人供・・・」

 

 ディアベルはそう言った後に光の粒子となり姿を消した。ディアベルを死なせてしまった事にキリトと渚は悔やんだ。だが、今はディアベルの死に悲しんでいる場合じゃない。ディアベルの意志を継いで、コボルトロードとの戦いを終わらせる事が先決だと思い、二人はコボルトロードの前に出た。

 

「アズワルド、ディアベルの意志は俺達が引き継ぐぞ!」

「はい!その為にも、この戦いを」

「ああ、終わらせるぞ!!」

 

 渚とキリトはディアベルの意志を継ぐ為にも動きだし、まずはキリトがコボルトロードに接近してコボルトロードとつばぜり合いになり、コボルトロードの動きが抑制されたので少し時間が出来たなと思った渚はディアベルの死に動揺していたプレイヤー達に向けて叫んだ。

 

「皆、聞いてくれ!ディアベルさんの死に動揺してるのは解っている!だけど、今はディアベルさんの死に悲しむ前にこの戦いを終わらせて始まりの街にいるプレイヤー達に希望を与える事が先決なんじゃないか!」

『はっ!?そ、そうだ。俺達がディアベルの死に動揺して自分達までここで死んだら、誰がディアベルの意志を継ぐって言うんだ。そうだな、お前の言う通りだぜ』

「そうだ、だからこそ今はこの戦いを終わらせる事が先決だ!ディアベルさんが亡くなった今、A班のリーダーはキバオウさんって事にするけど、キバオウさんのA班とリンドさんのB班とエギルさんのC班にD班にE班、そしてアスナさんも頼む!僕が出す指示通りに動いてくれ!」

「いいやろう、あんさんの言う通りに動いてやるわい!」

「ありがとう。皆でスイッチを使って、前衛の攻撃役と後衛の防御役と場所を入れ替えながら、コボルトロードにダメージを与えつつ攻撃をしのげば、ディアベルさんの他に犠牲者が出ない筈だ」

 

 渚の指示通りに動くとキバオウが宣言した為か、他のプレイヤー達も渚の指示通りに動く事を決め、渚の指示に従ってコボルトロードに攻撃をし、素早くスイッチを使い後衛の盾持ちのプレイヤーが前に出て防御に回り、コボルトロードの攻撃を防ぐと、エギルが斧でコボルトロードを攻撃して重い一撃を与えると、コボルトロードはのけ反り隙が出来たところをアスナが細剣のソードスキル[リニアー]でコボルトロードを突き出すと、コボルトロードは怯み、更なる隙が出来たところをキリトは見逃さずにトドメをさしに動く。

 

「とどけぇぇっ!!」

 

 キリトは叫びと共に片手剣のソードスキル[バーチカル]を放ち、その剣による一撃がコボルトロードに命中すると、コボルトロードのHPバーは空になり、コボルトロードは苦しそうに叫びながら光を放ち消滅した。

 コボルトロードが姿を消した今、攻略組のプレイヤー達は勝利した事に歓喜の声を挙げた。

 

『勝ったぞ!!これでやっと進めるんだな、次の層へと!』

『何とか次の層へと行ける様になったし、この調子で進めばゲームクリアも夢じゃ・・・』

 

 この場のプレイヤー達が歓喜の声を挙げる中、キバオウは何か納得出来ないのかキリトに向けて声を発した。

 

「何でや!何でディアベルはんを見殺しにしたんや!あんさんは先程、あの犬の化け物が持っていた武器が違う事に気付いとったやないか。あんさんがボス攻略会議で教えてさえいれば、ディアベルはんは死なずに済んだんや!!」

「ああ、キバオウのおっさんの言う通りだな!お前があの時に言ってさえいれば、ディアベルは死ななかったんだ!!お前みたいな元βテスターが情報を自分だけの物にしてるからディアベルは死んだって事だろうが!!」

 

 キバオウが発言した後にリンドもキリトに向けて発言した事で、キリトは元βテスターだとこの場の全員が知る事になり、ほとんどのプレイヤー達がキリトに対して嫌悪の眼差しを向け、更にはこの中には他にも元βテスターがいるのではないかと疑心暗鬼に包まれ、ほとんどのプレイヤー達が互いに互いを不信に思い、いつ衝突し始めてもおかしくない空気になってしまった。

 渚とアスナにエギルの三人は皆に落ち着く様に言うが、誰も聞こうとはせずにこの場の空気がどんどん疑心暗鬼に包まれる中、キリトは何か覚悟を決めたらしく生唾を飲むと、この場の全員に聞こえる様に高い声でドラマやアニメの悪役の様に笑いだした。

 

「ふふっふははは!!βテスターだと?俺をそんなβあがりの奴等と一緒にしてもらっては困るな」

 

 キリトはそう言いながら、ボス部屋の真ん中に移動し話を続けた。

 

「βテストの時、俺以外のテスター共は誰もが効率の良いレベルの上げ方すら知らない素人同然だった。正直言ってアンタら正式版SAOのビギナーの方がまだマシさ。それにだ、俺はβテスト時代に他のβテスターがたどり着けなかった層にまで行った。俺はその他のβテスターでは行けなかった層で刀を持つモンスターと戦った事が有る。だから今回のボスの武器に対してどう対処すればいいのか解っていた。他にも有るぜ、他のβテスター共では知らない情報が!この先に有るアイテムや宝箱の配置に隠しダンジョンとか色々とな!」

「な、何やソレ・・・そんなのもうβテスターどころでは無いやないか・・・最早チートや、チーターやないか!?βテスターのチーターやから、ビーターや!!」

 

 キリトが発言した内容により、キリトは他のβテスターとは違い、他のβテスターでは知らない情報を沢山持っていると判明すると、キバオウからβテスターのチーターだからビーターと呼ばれ、この場のプレイヤー達のほとんどがβテスターへの嫌悪感を全てキリトに向け、キリトにバッシングの声を挙げた。

 渚とアスナにエギルは気付いていた。これが全てキリトの演技で有り、キリトは自ら憎まれ役を引き受ける事で元βテスターへ向けられる嫌悪感を全て自分だけに向けられる様にしたのだ。

 

「ビーター。いい名前だな。そうだ、俺はビーターだ!これからはそこらのβあがりのテスター共と一緒にしないでくれ」

 

 キリトはそう言った後に今回のLA(ラストアタック)ボーナスである、黒いコートの様な防具を装備するとアスナにもし、この先にギルドに入る様に誘われたら断らずに入れと告げた後に次の第2層へと続く扉を開いて先に進んで行った。

 渚はキリトが自ら憎まれ役を引き受ける事で元βテスターへ向けられる嫌悪感を全て自分だけが浴びる覚悟をさせてしまった原因が自分にも有ると感じていた。こんな事になるなら、ディアベルに無理矢理でもポーションを飲ませておくべきだったと。飲ませたとしても、ディアベルが言った通りに助からなかったとしても、飲ませておけば何か変わったのではないかと感じずにはいられなかった。

 それに渚がディアベルが死んだ後に指示を出す役目に着いた事とキリトが悪役を演じた事も有ってなのか、攻略組はディアベルが死んだ今、彼を継ぐべき人物は渚ではないかと、自分の事をまるで英雄かの様に持ち上げるので、渚にとっては今の空気も居心地が悪かった。

 

「子供だろうと関係有らんわ。ディアベルはんが死んだ今、皆を導くのはアズワルド、あんさんや!」

「ああ、お前の強さは既にこの場の全員が知ってる。だからアズワルド、お前がディアベルを継いで皆を導くべきだ!」

「悪いけど僕はそんな器じゃない・・・僕は只のプレイヤーだ。それにディアベルの代わりには誰もなる事は出来ない。僕はディアベルの意志を継ぐけど、僕は僕なりのやり方でディアベルとは違う方法でプレイヤーを導く。それだけだよ」

 

 渚はキバオウとリンドに自分はディアベルの代わりにはなれないと告げ、自分のやり方でプレイヤーを導くと宣言した後に渚もキリトの後を追うかの様に次の層に続く扉の先を進んで行った。その際、アスナとエギルの二人も同行した。

 

「アズワルド君。あなたはあなたのやり方でディアベルさんの意志を継いだ行動をしなさい。君が困った時は私がサポートしてあげるから」

「俺も困った時は力を貸そう。アズワルド、お前はお前だ。決して、ディアベルの代わりでは無い。お前はお前に合った方法で他のプレイヤー達を導け。俺もいずれは俺のやり方でプレイヤー達を導ける様にしたいと思っている。その時にはお前にも少しだけ協力してもらいたい。だからこそ、お前も困った時は俺を頼ってくれよ。力を貸してやるからよ」

「二人供ありがとう。僕は僕のやり方でディアベルの意志を継いで、皆を導いてみせるよ。それがどんな形のモノになるか解らないけど・・・どんな形で有ろうと、僕は僕のやり方を貫いて皆を導くよ!」

 

 

 

 

「これ位かな。第1層の攻略までの話だった訳だけど、少しはSAOで戦ってきた人達の事が解ったかな?」

 

 渚がE組の皆に第1層攻略までの話を終えると、話を聞いたクラスメイト達は各々に思う事が有る様で、自分が閉じ込められていたらどうしていたのか、その世界で出会い仲良くなった者が死んだ時の悲しみはどれ程のモノだったのか等、様々な考えが浮かんでいる様だ。

 寺坂は話を聞いて改めて自分の失言を悪く思ったのか渚に向けて発言した。

 

「さっきの言葉は本当に失言だった。本当に悪かった・・・」

「もういい。先程の事は水に流すよ」

「そうか。それより聞きたい事が有る。SAOが開始して1ヶ月で死んだ人間は2000人もいたんだろ?1ヶ月でそんなに死んだ理由は何なんだよ?」

「モンスターとの戦闘での戦死も一つの理由だし、他には本当に死ぬとは信じられずにアインクラッドの外から落ちて死んだ者もいるけど、モンスターとの戦闘以外での死因は自殺だよ・・・モンスターに倒されて死ぬぐらいなら、自分で自分の命を絶つ人も多かったよ・・・」

 

 渚が第1層の攻略を終えるまでの時点で死んだ2000人の死因に自殺まで有ると聞くと、本当に自分が閉じ込められていたらどんな精神状態になっていたのだろうかと考える生徒が増える中、担任である超生物が空気を変えるべく渚に質問した。

 

「渚君、君は今はSAOを脱出して無事に現実に戻っていますが、君は現実に戻った後にゲームをやらなくなりましたか?」

「いえ、そんな事は無いよ。今でもフルダイブするゲームであるALOをプレイしてるよ」

『デスゲームに閉じ込められたのに、未だにフルダイブするゲームをやっているのかよ!?』

 

 渚は超生物の質問に答え、今でもフルダイブしてはALOをやっている事クラスメイト達は驚くが、渚は別に不思議では無いと告げる。

 

「別にSAOに閉じ込められたからと言って、ゲームをやらなくなる訳じゃないよ。SAOに閉じ込められて一年以上経てば、誰もがSAOでの生活に順応して、ゲームの世界である事を忘れたかの様に普通に生活していたしね。ALOは当然、SAOとは違って死なないゲームだし、ALOはアバターに生えた翅を使って空を飛べるからSAOとは違った楽しみが有るよ」

 

 渚は笑顔でそう答えた後に超生物に向けて対超生物用の投擲用ピックを投げたが、超生物は簡単に回避した後にティッシュ越しにピックを拾っては渚に返した。

 

「渚君。対先生用に特別に作られたこのピックを正確に投げる腕は本当に脱帽しますが、先生はSAOのモンスターとは違い、簡単には倒せませんよ。何せ、先生は最速でマッハ20のスピードで動けるのですからね!」

「本当に簡単には殺せない先生だね・・・」

「残念だったね渚。あっ!殺せない先生だから、殺せんせーって呼んだ方がいいんじゃない」

「茅野さん、それは良いですね。気に入りましたよ、私の呼び名は殺せんせーって事にしましょうか」

 

 急に超生物の呼び名が『殺せんせー』に決まったが、渚は話を続けた。

 

「ええと、僕はSAOにいたけど、今はこうして無事に現実に戻っているし、皆とは変わらない只の人間さ。だから、僕を気の毒な人間だとか思わずに接してほしい。話は以上かな」

 

 渚はそう言った後、殺せんせーがクラスの生徒全員に告げる。

 

「渚君の言う通り、彼はSAOからこうして無事に現実に戻っていますので、渚君の事をSAO犠牲者だからと気の毒に思わず普通に接してあげなさい!先生の話は以上です。それでは五時間目の授業を始めましょう。授業の時間を10分減らしてしまった事については水に流す事にしましょう」

 

 殺せんせーが五時間目の授業を開始すると言われたので生徒達は急いで準備をし、五時間目の授業を開始した。尚、五時間目の授業は渚の話で10分使ってしまった事も有ってか、詰め込みされた内容になっていたという。

 

 

 

 こうして、渚はE組の生徒として、E組の生徒達と協力して超生物である殺せんせーの暗殺をする為の学校生活を開始するので有った。




 やっと語り終わった・・・後、少し無理矢理だけど殺せんせーと呼ぶきっかけを作れたし、何とか無事に終われたかな?


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第6話 才能の活かし方

 今回は杉野を中心とした話となります。


 渚が椚ヶ丘中学校の三年E組に転入してから数日が経過した。渚は今まで長い髪を肩まで垂らしていたが、茅野に髪の毛を束ねた方が良いと言われ、茅野に髪を茅野と同じ髪型であるピッグテールに束ねられた。最初は戸惑ったが、髪を束ねた方が動き易いので今では自らピッグテールにしている。

 渚は学校生活を過ごしながらも暗殺対象である殺せんせーのちょっとした事でも新たな発見を見付ける度にメモを取っていた。そのメモの内容の一部を杉野に見せ、杉野は殺せんせーの暗殺に動いた。

 杉野は元野球部で対殺せんせー用のBB弾を埋め込んだ野球ボールを持ちながら、渚のメモから得た内容に書かれた殺せんせーの行動分析で朝のホームルーム前は校舎裏でハワイにまで行って買ったジュースを飲みながら、英字新聞を読んでいる事を知ったので杉野は茂みに隠れながら殺せんせーに向けて感付かれない様に勢い良くボールを投げた。だが、しかし・・・

 

「おはようございます、杉野君」

「ええっ!?俺はボール投げた筈なのに・・・いつの間に俺の後ろに!?」

「先生が最速マッハ20で動ける事を忘れた訳じゃないですよね。杉野君が私にボールを投げようとしていたのは初めから気付いていましたので、杉野君がボールを投げるまで暇でしたので、用具室に野球グローブを取りに行きました。そして、杉野君が投げたボールをグローブでキャッチしました」

 

 杉野が投げたボールは用具室までわざわざ律儀にグローブを取りにまで行った殺せんせーにキャッチされてしまっており、先程まで殺せんせーが寛いでいた場所には杉野が投げたボールをキャッチしたグローブが置かれていた。

 

「杉野君のボールに対先生用BB弾を埋め込んだのは良いアイデアですし、ボールならエアガンと違い、発砲音も無いのでバレ難い暗殺ですが、もう少し工夫しましょ。杉野君、殺せるといいですね、卒業までに!」

 

 殺せんせーは杉野のボールを使った暗殺のアイデアは素晴らしいと称賛したが、杉野は結果を出せなかった為か少し落胆した表情になる。

 

「もう少ししたら朝のホームルームを始めますので、杉野君も早く教室に入っている様に」

「はい・・・」

 

 朝のホームルームの時間が近くなったので殺せんせーが杉野に教室に行く様に告げると、杉野は少し気落ちした様子で教室に戻ろうとした時、殺せんせーが後ろに向けて触手を伸ばした。杉野は何事かと思い、殺せんせーの後ろを見ると、殺せんせーに暗殺を仕掛けようとしたのか渚が対先生用のナイフを握っていたが、殺せんせーの触手が渚の手を抑えているので、殺せんせーは渚の暗殺を防いだ様だ。

 

「渚君、気配に殺気を完全に消した上に物音を立てずに私に近付いた事は素晴らしいのですが、残念ながらこう見えても先生の鼻はいいのです。臭いさえ有れば、どんなに気配を殺し、殺気を消し、音を発てずに動こうとも臭いさえ嗅ぎ取れれば、君の暗殺を防ぐ事は簡単なのですよ。先生じゃなければ、殺せたでしょう。しかし、私は地球をいつでも消せる超生物ですので、簡単には殺られませんよ」

「失敗したか・・・鼻が無い様で有るって事か。さすがに簡単には殺らせてくれないか、殺せんせーは・・・」

 

 渚は気配と殺気を消して音を発てずに殺せんせーの背中を取ったが、臭いでバレるとは思いもしなかったので驚愕した様だが、今の暗殺の支部始終を見ていた杉野からすれば、渚の暗殺者としての才能が高く見えてしまい、自分とは違って遠い存在に思えてしまった。

 渚は杉野の心中を知ってるか知らないか定かではないが、杉野に声を掛ける。

 

「杉野の暗殺も僕の仕掛けた暗殺も失敗したか。仕方ないか、杉野。もうすぐで朝のホームルームが始まるし教室に戻ろうか。暗殺はチャンスが有ればいつでも仕掛けられるし、気落ちする必要は無いさ」

「あ、ああ。そうだな・・・」

 

 渚から暗殺はいつでも仕掛けられるから気落ちするなと言われるが、杉野は暗殺を仕掛け続けても本当に殺せんせーを殺せるのかと疑問に思い、自分が得意な野球を取り入れた暗殺を仕掛けても簡単に防がれたので、杉野は自分がE組に落ちた理由を考えると自分には才能が無いのではないかと思い落胆した表情をするので、渚は杉野をどう元気付ければいいのか考える事にした。

 

 

 杉野はホームルーム前の暗殺で失敗した事を引き摺ってしまったのか、授業中でも溜め息を吐いてばかりで元気が無かった。

 昼休みになると、殺せんせーはニューヨークのメジャーリーグの試合を見に行き教室にいないので、その間に暗殺の近況を聞こうと防衛省の職員である烏間がE組の教室に尋ねてきた。

 

「どうだ?例の暗殺対象(ターゲット)を殺せる糸口を少しは掴めたか?」

「無理ですね、渚以外は・・・渚はSAO帰還者だからなのか、気配を消して音も出さずに殺せんせーに近付く事が出来たんですけど、臭いでバレたみたいで暗殺は失敗しましたけど・・・臭いさえ対処すれば、渚なら殺せんせーを暗殺出来そうかと思いますが、臭いは完全に消すなんて不可能だから臭いを少しでも感じない様にする程度が限界ですかね。渚を除けば俺達じゃ暗殺は難しいかと思います。どうも殺せんせーはニューヨークでメジャーリーグの試合を観戦しにマッハ20のスピードを使って行ったみたいだし、正直言ってマッハ20で飛べる様な怪物を殺せそうには思えません・・・」

 

 烏間にクラス委員の磯貝が渚を除いた生徒では殺せんせーの暗殺は出来そうに無いと言うと、烏間はクラス皆に発言した。

 

「確かにマッハ20で飛ぶ様な怪物を殺すのはどんな軍隊でも不可能だろう。だが君達だけにはチャンスが有る。奴は何故か君達の教師として動く事を欠かさない。奴をこのまま放置しておけば来年の3月には地球を破壊する。月の崩壊状態を見る限り、地球が破壊された瞬間に人類が生き残る可能性は0だ。奴を生かしておくのは危険だ。現在の状況ではこの教室だけが奴を唯一殺せる場所だ!!」

 

 烏間が生徒達に発言した後、烏間は防衛省に戻っていた。殺せんせーは何故地球を破壊するのか、何故E組の担任になったのか解らないが、このE組の教室こそが殺せんせーを唯一殺せる場所なのは確かなのだが、未だに殺せんせーの素性が解らないので渚は殺せんせーの情報をこれからも集める事にした。

 

 

 放課後、杉野は未だに今朝の暗殺の失敗を引き摺っているらしく落胆した様子で下校していたので、渚は杉野を元気付ける為に明日の放課後にプレゼントを送ろうと考えた。プレゼントする物を自分の貯金を使い購入し終えた後、プレゼントは明日の放課後に渡したいので駅のコインロッカーの中に仕舞う事にした。駅員に事情を説明した後にコインロッカーにプレゼントを仕舞い、渚は帰宅した。

 

 

 次の日、杉野は昨日の失敗を引き摺っており、今日も落胆した様子で溜め息を吐いてばかりだった。その日の放課後、杉野は他の生徒達が帰宅し誰もいない校庭で溜め息を吐いていたので、そんな杉野に殺せんせーが昨日の暗殺に使われたボールをピカピカに磨いたのを杉野に手渡し声を掛けてきた。

 

「杉野君、昨日の暗殺で投げた球は良い球でした。昨日の球は先生がピカピカに磨いておきましたので、君に返しますよ」

「ボールをピカピカにして返してくれたのは感謝するけどさ、良い球でしたってよく言えたもんだな・・・考えてみりゃ、マッハ20で動ける先生に当たる筈が無いしよ・・・」

「杉野君は野球部に入っていますよね?」

「前はな・・・」

「前は?」

「この隔離校舎にまで通わせられるE組の生徒は部活禁止なんだ。成績が悪くてE組に落ちたから勉強に専念しろって事が表面上の理由だけど、正しくは本校舎の生徒と交わって部活を行えば、本校舎の生徒に悪影響を与えるだろうからって理由が真実だと思う」

「それはまた随分な差別ですね。部活も生徒の意欲を高める為にも必要な事の筈ですのにねぇ。杉野君は野球が好きだから野球部に入った筈ですし、悔しくないのですか?」

「確かに部活すらやらせてくれないのは悔しいけどさ、もういいんだ。昨日の球を見れば解るだろ?遅いんだよ、俺の球は。遅い球ばかりを投げるからさ、試合では相手に打たれてばかりだったから、レギュラーから外され二軍行きさ・・・そうなった後、俺は野球も勉強もやる気を無くしてE組に落ちた訳さ・・・」

「そうですか。なら、杉野君。先生が君にアドバイスをあげます」

 

 E組に落ちた理由を話した杉野に殺せんせーはアドバイスを送る事にし、殺せんせーは杉野を自分の触手で絡み付き、杉野をいじくり回すので杉野は何故こんな目に会っているのか戸惑うが、ある程度いじくり終わった後に殺せんせーは杉野を解放するとこう告げる。

 

「杉野君、君の投球フォームですが、メジャーに行った有田投手を真似していますね?」

「そうだけど、それがどうしたんだ?」

「触手は正直でして、君と有田投手の肩の筋肉を比べると直ぐに解りました。君の肩の筋肉の配列は有田投手と比べると悪い方でしてね、君はいくら有田投手の真似をした投球フォームで球を投げても彼の様な豪速球は投げられません」

 

 殺せんせーが杉野に有田投手の投球フォームを真似ても彼の様な豪速球は投げられないと言った後、影から話を聞いていた渚が姿を見せると殺せんせーに尋ねた。

 

「杉野にそこまで言うからには、何かしらの根拠が有るって事ですよね?」

「はい。勿論ですよ、渚君。昨日のメジャーリーグの試合中に有田投手本人に触手で触れて確かめてきましたから」

「確かめたのかよ!?殺せんせー、そんな事をして目立つと危ないだろ。先生は国家機密だしよぉ」

「大丈夫です。アメリカ国家が黙認しますので平気です。後、有田投手にサインを貰いました・・・」

 

 殺せんせーが有田投手から貰ったサイン用の色紙には『ふざけるな触手!!』と有田投手の怒りを感じる一言が書かれており、厳密にはサインとは言えなかった。

 杉野は有田投手本人の身体と比べた結果を反映した結果だと知ると、落胆した表情になる。

 

「そうか。やっぱり才能が違うんだな・・・」

 

 そう言って落ち込む杉野に殺せんせーは補足の言葉を告げた。

 

「一方で杉野君の場合、肘や手首の柔らかさは君の方が素晴らしい。鍛えれば有田投手とは違う才能を持った投手になれますし、彼を大きく上回るでしょう。いじくり比べた先生の触手に間違いは有りません。才能の種類は一つじゃ有りません、君の才能に合った暗殺を探し、先生を暗殺してみせなさい!」

 

 杉野にそう告げた後、殺せんせーはその場を後にし、杉野は殺せんせーに言われて初めて自分が持つ才能に気付き、落胆した表情が消えて今では活気付いた表情になっているので、渚は少し早まったかなと思いつつも、杉野へのプレゼントは後で渡す事にして、今は殺せんせーに聞きたい事が有ったので、渚は殺せんせーの後を追った。

 

「殺せんせー、昨日ニューヨークに行ってメジャーリーグを観戦したのは杉野にアドバイスを与える為だけに?」

「はい、勿論です。先生ですから、生徒のアドバイスの為になら殺される以外なら何でもしますよ」

「そうですか。聞きたい事が有るんだけど、殺せんせーは何でE組の担任になったか知りたいな」

「渚君。人には誰もが一つ位は語りたくない過去が有ります。君にも有る筈です、君がSAOにいた時に『SAO最強の暗殺者』と言われ畏怖されていた時とかね」

「確かに僕にも語りたくない過去が存在します。でも、せめて何故、教師になったのかどうかだけは聞かせてほしいですね」

「なら、少しだけ話します。先生はある人との約束を守る為にこのE組の担任になりました。私は来年は地球を破壊する予定ですが、その前にこのE組の担任なのです。このクラスの生徒達と真剣に向き合うのは先生にとっては地球の終わりよりも重要なのですよ。そんな訳で、君も生徒として、暗殺者としてこのE組での生活を楽しみなさい」

 

 殺せんせーは渚にそう話した後、校舎の中に入っていた。渚はこれ以上の捜索はせず、杉野と合流する事にした。

 

 

 

 杉野と合流した後、杉野と一緒に下校しないかと声を掛け、杉野と一緒に下校する中で渚は駅に着くと杉野にちょっと待っていてくれと伝えた後にコインロッカーを開けて、杉野へのプレゼントを取り出した後に杉野の下に戻り、そのプレゼントを手渡した。

 

「昨日、杉野があまりにも落胆した様子になっていたからさ、元気付けようとしてプレゼントを用意したんだ。と言っても、殺せんせーのアドバイスのお陰で随分と元気になったから、少し早まったかなって思ったけど、用意したからには渡す事にするよ」

「何か気を使わせてしまったみたいで悪かったな渚・・・それにしても、俺を慰めるプレゼントにしては少し大きくないかコレ?」

「まあ、そう言わずに貰ってくれないかな。プレゼントの中身が何かは杉野が家に帰ってから確認して。その後に僕に電話を掛けてくれれば色々と教えるよ」

「教えるって何をだ?」

「秘密だよ。お互いに帰ってからのお楽しみという事で」

 

 杉野と別れて渚は電車に乗り、家に帰宅した後、自室で杉野からの連絡を待つ事にした。

 

 

 杉野は渚から貰ったプレゼントを手にしながら帰宅し、自室に入るとプレゼントの中身を確認すると、中に入っていたのはナーヴギアの後継機であるアミュスフィアとそのソフトである『アルヴヘイム・オンライン』、通称ALOのソフトだった。

 プレゼントの中身に驚いた杉野は渚に電話を掛けて確認した。

 

「おい渚。アミュスフィアとALOのソフトをプレゼントしてくれるのは嬉しいけどさ、さすがに高過ぎて貰えないって!?」

「まあ、そう言わずに受け取ってよ。確かに高かったけどさ、お金の事は気にしないで貰ってよ。勝手に用意したのば僕なんだしね」

「はあっ・・・解ったよ、貰っておく事にするよ。それでまず、どうすればいいんだ?」

 

 杉野は渚からのプレゼントを有り難く受け取る事にし、渚にどうやって起動させるのか、ALOへのログイン方法とかを説明書を見ながら聞き、やり方を聞いた後にアミュスフィアにALOのソフトを入れた後に装着し、自ら全身を触りキャリブレーションを済ませた後、パスワードを設定しALOの世界へとフルダイブした。

 ALOにフルダイブすると、ALOは妖精の世界なのでまずは自分の種族を決める。杉野は予め決めておいた火妖精サラマンダーにし、アバター名はドイツ語で杉を意味する言葉を少しもじり『ゼベル』にした。種族とアバター名を決め終えたと同時に杉野の意識がALOの世界へと飛んでいった。

 

 

 杉野は気が付くと、サラマンダー領の街中にいた。サラマンダー領の街は大きな建物の屋上から炎が吹き出ており、まるで火山地帯みたいな雰囲気で少々焦げ臭いが、街の雰囲気を見た杉野は自分が無事にALOへログイン出来たと確信し、街に有る水場を覗きこみ自分の姿を映し、自分の姿を確認した。髪が少し赤くなっているが、容姿は現実の自分と同じなので現実で少し顔バレしないか不安だが、全く違う姿になるよりはマシかと思い、体格もキャリブレーションした為か現実と同じなので殺せんせーに教えられた自分の肘や手首の柔らかさも引き継いでいたので、本当にゲームの中とは思えない程によく作りあげられた世界だなと思った。

 とりあえずは渚のアバターであるアズワルドと合流する事にした杉野はサラマンダー領の街中を歩いていると、赤いバンダナを巻いた顎髭の野武士面の男に声を掛けられた。

 

「よぉ、ソコの兄ちゃん。もしかしてフルダイブは初めてか?」

「えっ?ああ、はい。フルダイブは初めてですし、アミュスフィアは友達からプレゼントされて今日始めたばかりだから、VRMMO自体が初めてです」

「そうか。もしかして、その友達は水色の長髪で女の子と間違えられてもおかしくない外見の男の子か?」

「えっ、もしかして渚・・・いや、アズワルドってプレイヤーの事を知ってます?」

「本当に知り合いかよ。そうか、アイツはキリト達とは違う学校へ行くと聞いたから、友達が出来るかどうか少し気になったんだが、どうやら余計な心配だったみてえだな。そんで、お前さんの名前は?名前と言っても、現実での名前じゃなくて、アバターの名前な」

「勿論、言われなくても現実の名前は言わない様にします。俺の名前はゼベルと言います」

「ゼベルってのか。俺の名前はクラインだ。年上だからって気にせずにクラインと呼び捨てでOKだし、敬語は堅苦しいから気軽に話してくれて構わないぜ!」

 

 互いに自己紹介を終えたゼベルとクラインはその後、クラインがアズワルドに連絡をしてサラマンダー領に杉野がゼベルというプレイヤー名で来た事を伝えると、アズワルドはサラマンダー領の近くに有る高原で待つと返事が返ってきたので、クラインはゼベルをアズワルドの待つ高原に連れて行く前にビギナーだからとゼベルに回復アイテムであるポーションを10個渡した。

 

「ちょっと、これはさすがに貰えないって・・・」

「遠慮すんなよ。俺の単なるお節介だと思って受け取っておけよ。さて、ポーションの次は武器を選ばないとな」

「武器なら既に持っていますけど」

「いや、それはサラマンダーを選んだ時の初期装備である片手剣だろ。別にそれでも良いなら構わないけど、やっぱり自分に合った武器を使う方が一番だと思うぜ。だから、武器屋に行って自分に合った武器をまず探そうな」

 

 ゼベルはクラインがそこまで言うならと武器屋に入り、武器屋に有る武器を色々と手にして確認すると、近接武器だけでは無くて飛び道具である弓矢が有るので、ゼベルは弓矢を手にすると、しっくり来る何かが有るので弓矢を選んだ。ゼベルが武器を選んだ事を確認するとクラインは弓矢を購入し、ゼベルに渡した。

 

「ホラよ、受け取りな」

「ありがとう、でも武器の代金は俺が払うべきじゃ・・・」

「ゼベル、お前の言いたい事は解る。だが、お前は先程初めてこのゲームにログインしたから、お金なんか持ってないだろ」

「あっ、本当だ・・・1ユルドすら無いぞ・・・」

「だろ。だから、遠慮せずに貰ってくれよ。これも先程のポーション同様に俺の単なるお節介だと思えばいいからよ」

「そうだな。じゃあ、遠慮しないで受け取っておくか」

 

 ゼベルはクラインから弓矢を買って貰った後、クラインの後に続いていき、アズワルドが待つ高原に移動した。

 

 

 高原に着くと、黒い髪のピッグテールの少年の姿が見えた。その少年がゼベルとクラインの姿を確認すると、二人に声を掛けてきた。

 

「どうやら、無事にログイン出来たみたいだね。僕のこの世界での名前はアズワルド。今の君がゼベルという名前の様にね」

「本当にお前かよ。アズワルドの外見って現実の姿と髪色を除いて一緒なんだな」

「ゼベルこそね。髪色以外は現実と同じじゃないか。ゼベルの種族はクラインと同じサラマンダー、僕の種族は闇妖精インプだよ。サラマンダーは攻撃特化の種族だから使い易いし、だから選んで正解だったと思うよ。僕の種族であるインプは奇襲型だから上級者向けだしね」

「お二人さん、話してる最中で申し訳ないんだが、俺は予定が有るからここで別れるけどよ、その前にアズワルド。お前髪型をいつ変えたんだ?」

「ああ。数日前にクラスの女子生徒一人に髪を束ねる事を勧められてね、それでこの髪型に落ち着いただけかな」

「そうか。結構、似合っているぜ。元から女みたいなナリしてるから」

「それはどういう意味か聞きたいな、クライン?」

「おっと!?そろそろ落ちねえと予定が狂うな。じゃあ、俺は街に戻ってさっさと落ちるからよ」

 

 クラインはそう言った後にサラマンダー領の街に戻っていた。アズワルドは女みたいだと言われるのも慣れっこだが、やっぱり少し気に落ちないらしい。

 

「クラインは相変わらずだな。さてと、ゼベル。もう少しで夕食時だし、簡単なレクチャーだけをしたら今日はALOからログアウトしようか」

「そうだな。思ったより時間を使ったから遊ぶ時間も少なくなったな。それでまずは何をする気だ?」

「勿論、実戦だよ」

「やっぱりか・・・」

「ちょうど、練習にもってこいのモンスターがいるし、ゼベルの武器である弓矢なら気付かれずに遠くから攻撃出来るから狙ってみなよ」

 

 アズワルドはゼベルにモンスターがいる場所を指差して教えると、ゼベルはアズワルドが指差した先にいる熊型モンスターに向けて弓矢を向けると、矢を放った。しかし、ゼベルの放った矢は他の弓矢を使うプレイヤーと比べると矢のスピードが遅く、モンスターに簡単に避けられてしまい、モンスターがゼベルに向かって突っ込んでくる。

 

「ゼベル、君の放つ矢のスピードは正直言って他の弓矢使いと比べると遅過ぎる。真っ直ぐに射とうとしても避けられるだけだ」

「ざっくり言うな、アズワルド・・・ボールを投げるスピードは遅いし、放った矢のスピードまで遅いとなると落ち込むな・・・今日の放課後前までの俺ならな。殺せんせーに言われて気付いた俺の才能、もしかするとこの弓矢でも活かせるかもしれねえ!」

 

 ゼベルは弓矢を射る時に矢の持ち方を変え、手首と肘の角度を調整しながら矢を射ると、矢は最初は真っ直ぐに動くが途中から軌道を変えていく。ゼベルは矢を連続で射る中で全ての矢は違う軌道を描きながら飛んでいき、熊型モンスターに命中すると熊型モンスターは光となり散った。

 

「野球で変化球を投げる時の様に矢の持ち方を変えて、手首と肘の角度を調整しながら矢を射る事で矢の軌道を変えた。よく考えたねゼベル」

「いや、ぶっつけ本番だったし、俺でもここまで上手く矢の軌道が変わるとは思ってもいなかったしな」

「そうだとしても上手くいったんだし、良かったんじゃない。それでどうだった?初めての戦闘の感想は?」

「最初は少し不安だったけど、自分の攻撃が上手く決まってはモンスターを倒せた時の達成感は凄かったな。まあ、俺とお前が倒すべき真のモンスターは現実にいる殺せんせーだけど、この達成感は本当に他では味わえないし、この世界にハマる人が多いのも納得だ」

 

 ゼベルは初めての戦闘で弓矢の軌道を変えるという戦法でモンスターを撃破し、自分の手でモンスターを倒せた時の達成感は凄いと感じ、ALOに夢中になる人が多いのも納得だと思った。

 その後、ゼベルは魔法を習得するかどうか悩んだが、呪文を唱えるのが大変そうだと思い断念し、アズワルドのサポートを受けながらモンスターと戦っていき、有る程度は戦闘に慣れてきたので、アズワルドはゼベルにALOの世界で一番重要な要素である翅を使っての飛行移動について教えた。

 

「翅を使っての飛行移動は初心者用の疑似コントローラーを使っての飛行移動、上級者用の背中に生えた翅を自分の意志で動かす随意飛行の二つが有るけど、ゼベルの場合は初心者用の疑似コントローラーを使っての飛行だと、片手が疑似コントローラーで塞がるから弓矢を使い難くなるし、上級者用の随意飛行が出来る様になった方がいいよ。随意飛行は背中に翅が生えたイメージをしただけでは飛べない。随意飛行は背中に生えた翅の中に擬似的な筋肉と骨が有る事をイメージしながら動かすんだ」

「翅の中に筋肉と骨が有るイメージって・・・結構難題だな、こんなに難しいとは思わなかった・・・」

 

 ゼベルは随意飛行が出来る様に頑張ったが、何度やっても落ちてばっかりだったが、何度か挑戦する内に少しコツが掴めたのか少しふらついた感じだが、随意飛行が出来る様にはなったので、アズワルドは解散しようと宣言した。

 

「そろそろログアウトしないと危ないし、今日はここまでにしてログアウトしようか」

「そうだな。やっと随意飛行のコツが掴めたんだけど、仕方無いか。自分の翅で飛ぶのも悪くないし、明日またレクチャーしてくれよ、アズワルド」

「了解。それじゃ、互いに帰ろうか」

 

 ゼベルとアズワルドはそれぞれの領に戻った後にログアウトした。尚、ログアウトした時間が夜の8時なので互いに母親に怒られたという。

 

 

 

 

 それからしばらくして、学校の授業が終わった放課後に渚と杉野はキャッチボールをしており、杉野はスピードこそは遅いものの様々な変化球を投げており、渚はその変化球をかろうじてキャッチしながら話をする。

 

「杉野、今の球は凄かったよ。まるで消えたかの様に変化したよ!?」

「かろうじてとは言えどキャッチしておいてよく言うぜ。遅いストレートでも変化球と組み合わせる事で早く見せられる。殺せんせーと渚のお陰で気付いた。人間の才能の活かし方は様々だってな。俺の才能は手首や肘の柔らかさで、それは現実では変化球を投げるのに最適で、ALOの中では弓矢を使う時に矢の軌道を変える事が出来る。才能の活かし方もそれぞれ違うってな!それでも、殺せんせーからすれば変化球でも遅いんだろうけどさ、俺は続けるよ。野球も暗殺もな!それと同時にALOもやっていきたい。あの世界で翅を使って飛ぶと、嫌な事を忘れていくしな。まあ、未だにふらついた感じでの飛行だけどな。そろそろ随意飛行が上手くなりたいところだな」

 

 杉野はこの間までとは違う生き生きとした表情をしており、暗殺は失敗しても落胆する事は無くなり、むしろ何度でも挑戦し続けるつもりだ。だからこそ、杉野は渚を連れて今、課題の採点をしている最中の殺せんせーに外から職員室の窓を開けて発言した。

 

「殺せんせー、ちょっと殺したいんだけど来てくれないかな?ちょうど新しい渚とのコンビネーションを思い付いたからさ」

「ヌルフフフ。懲りませんねえ、いいでしょう。やれるモノならやってみなさい。例え、杉野君が変化球を投げているその間に渚君が気配を消して近付いても先生は殺せませんしね」

「それはやってみないと解らないよ、殺せんせー」

 

 杉野が思い付いたアイデアで暗殺を行い、見事なコンビネーションを見せたが結局は殺せんせーは殺せなかった。それでも杉野はどこか誇らしげだったという。




 すみません、杉野のアバター名をどうするか悩んでしまい、少しペースがダウンしました。
 只今、E組生徒のVRMMOでのアバター名を活動報告にて募集していますので、良い意見が有れば活動報告の返信にてお願いします。


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第7話 ハンディキャップを自ら勝手に付けておいて追い詰められそうになるとムキになる奴は意外と多い

 熱中症で意識を失い倒れました・・・が、何とか復活しました。熱中症は怖いので皆さんも水分と適度な塩分の補給を忘れない様にしないでください。
 後、活動報告にE組生徒のアバター名を募集して直ぐに数件のアイデアが着ましたが、茅野のアバター名は私が自分で考えたモノにしましたので茅野のアバター名を書いて下さった方には悪いですが、私の考えたアバター名を使わせていただきます。本当に申し訳有りません。

 今回のサブタイトルに深い意味は無い。只、今回の話の一部と私の現実で会った出来事を踏まえて考えただけです。


 渚がE組に来てから早くも十日が絶ち、今は杉野と一緒に山の上の校舎まで話をしながら登校していた。

 

「昨日は本当に助かったぜ、渚。ALOで随意飛行の練習をしていたところを他のALOプレイヤーの集団に狙われるとは思ってもいなかったから、お前とキリトさん達が助けに来なかったら、間違いなく集団PKで倒されてリメインライトになっていたよ」

「本当に昨日は災難だったね、杉野。ALOはプレイヤーキルが認められているから、同じプレイヤーと言えど油断は出来ないからね。昨日の集団PKを行うプレイヤー達は調べたところ、ALO初心者や弱ったプレイヤーを専門に狙ってPKを行うギルドのメンバーらしいから、随意飛行の練習をしていた杉野を初心者と思って襲撃したんだろうね。まあ、僕とキリトさん達に見張られていた事に気付いていなかったから、甘い考えの連中だろうけどね」

「見張られていた事に気付いていなかったから確かに甘い考えをした連中なのかもしれないけどよ、いくら何でも質が悪過ぎるっての」

「それでも前のALOの世界よりはマシだよ。ALOは今の会社の前はレクト社が管理していたんだけど、その時のALOは各種族が他の種族より早く世界樹の攻略を目指す事を目標にしていたから他の種族との衝突が多かったし、奇襲してきてのPKなんか当たり前だったしね・・・」

「本当かよ・・・」

「うん、本当。杉野が選んだ火妖精サラマンダーと風妖精シルフとの仲はとくに悪かった。互いの領が近い事やサラマンダーのプレイヤーがシルフのプレイヤーを一方的に襲ってPKするものだから、サラマンダーとシルフの戦力はサラマンダーに傾いていたし、どちらかと言うとサラマンダーが一方的にシルフを敵視していただけかもね。今は会社が変わったし、世界樹の攻略は必要無くなったから今はそんな事は起きないだろうけど、PK推奨のゲームでは他のプレイヤーと接触する時は気を付けた方がいいよ」

「そうするわ・・・何となくだけど、PK狙いのプレイヤーから殺気を感じるから気を付けてさえいれば大丈夫だと思う」

 

 渚は杉野とALOでのPKについての話を終えると、校舎に着いたので玄関に入ろうとしたところで茅野に声を掛けられる。

 

「渚に杉野、おはよう」

『おはよう茅野』

「ねえ、二人はさっきまで何の話をしていたの?」

「ああ。ALOの事だよ。この間、俺が落ち込んでいたもんで心配した渚が俺を元気付ける為にアミュスフィアとALOのソフトをプレゼントしてくれたんだよ。それでALOをやり始めたんだけど、昨日は他のALOプレイヤーに囲まれて危ないところを渚とSAOにいた時の渚の知り合い達が助けにきてくれたから助かったけど、俺を襲った奴らがALOの中でも質が悪いPK集団だったからさ、PK狙いのプレイヤーもいるから気を付ける様にしようって話をしていたってところだな」

「成る程ね。私もALOをプレイヤーする時はそういうプレイヤーに会わない様に気をつけようと。実は私、ネット通販でアミュスフィアとALOのソフトを注文したんだ。それで今日の放課後には家に届く筈だから、家に帰った後ALOをプレイするつもりだからさ、二人の都合が良ければ一緒にプレイしたいから、二人のアバター名を教えてくれない?」

「わかったよ。ALOで一緒に行動するぐらい構わないし、むしろ歓迎だよ。僕のアバター名はSAOの時と同じでアズワルドだよ。種族はインプで見た目は髪の色が黒くなった以外は現実とほぼ一緒だね」

「俺のアバター名はゼベルで種族はサラマンダーで、見た目は髪が赤くなった以外は渚のアズワルド同様に現実とほぼ一緒だし直ぐに解ると思うぜ。それよりも茅野、アミュスフィアを買える程のお金を持っていたのか?」

「ははっ。少し事情が有ってね、お手伝いみたいな事をしてそのお礼としてお小遣いを貰っていたんだ。その時に貯めた貯金で購入したんだ」

 

 茅野はアミュスフィアとALOのソフトを注文し、放課後までには家に届くらしいので、渚と杉野は今日の放課後、家に帰った後にALOの世界を茅野と一緒に回る事を約束した。

 

 

 

 昼休みになると、殺せんせーが北極の氷山を削ってかき氷を作っていたので、クラスのほとんどが集団で暗殺を仕掛けようとしていた。

 

「今日のおやつは北極の氷でかき氷だってよ」

「北極を冷蔵庫感覚で見ているのか、あのタコは・・・」

「まあ、何にしろ今はかき氷を食うのに夢中だから油断してる筈だし動くぞ。賞金の百億は山分けだ」

 

 E組のクラスのほとんどが集団でかき氷を食べる殺せんせーの暗殺に動き始めたが、渚は後方で杉野と茅野と一緒にその様子を観察していた。

 

「渚、どう?暗殺は成功しそうに思う?」

「無理だね。殺意がだだ漏れだし、殺意を隠す為の笑顔もわざとらしい作りだしね。集団になると、殺意を隠そうにも隠しきれない者がいれば感付かれるし、あれじゃ殺せないね」

「昨日のALOで俺はそれをやられる側を経験したから、集団で襲う為に隠れてる時に一人でも殺意が漏れてしまえば、感付くしな。と言っても、俺の場合は囲まれて襲われた事に気付いても逃げる方法が無かったし、渚達が来なかったら本当に危なかったけど、殺せんせーの場合はマッハ20で動けるし四方を囲まれても簡単に突破出来そうだし、集団での暗殺より個人で仕掛けた方が殺せる可能性が高く思えてきたよ」

 

 杉野の言う事は間違いではなく、暗殺では集団で行動した場合は目立つ上に足音も重なって大きく響くので暗殺対象(ターゲット)に感付かれる可能性が高い。一方で個人の場合ならば、気付かれない様に移動出来る可能性は高いが暗殺対象(ターゲット)に気付かれて逃げる時は警備員を多く呼ばれて追い掛けられるなどで困難になる可能性が高い。集団ならば、追っ手を分断出来るので失敗を踏まえて情報を探る程度の場合ならば集団での暗殺は効果的に動く場合が有る。

 今回の場合は単に集団で殺気が隠しきれてないので、だだ漏れなだけなのだが、その時点で殺せんせーにはバレてるので間違っても暗殺は成功しないだろう。そう確信し、集団暗殺の様子を覗いていると、殺せんせーは殺気に気付いていたので集団での暗殺から簡単に脱出すると、マッハで生徒達が手にしていた対殺せんせー用のナイフをハンカチ越しに取り上げた後に、代わりに生徒達の手にチューリップの花を持たせた。

 

「笑顔がわざとらしいですし、殺気もだだ漏れですよ。皆さん、まずは花でも愛でて良い笑顔を学んでから暗殺しに来なさい」

 

 殺せんせーは生徒達に渚が指摘した通り、笑顔がわざとらしいので殺気がだだ漏れだと告げた後に花でも愛でて自然な笑顔になれる様にしてから暗殺に来る様に言ったが、手に持たされたチューリップが実はクラス皆で育てたチューリップを花壇から抜いていたので片岡に怒られる破目になった。

 

「殺せんせー!!これはクラス皆で育てた花じゃないですか!」

「にゅやあぁっ!?そ、そうだったんですか!?」

 

 クラスで育てた花壇の花を抜いてしまって片岡に怒られた殺せんせーに矢田が更に涙目で追い討ちを掛ける。

 

「酷い、殺せんせー・・・やっと咲いたのに・・・」

「すみません!!今すぐに新しい球根を買ってきます」

 

 殺せんせーはマッハで移動し、ガーデニングセンターでチューリップの球根を買って来ると直ぐに片岡と岡野の女子二人の指示通りに花壇に球根を植え始めた。

 

「マッハで植えちゃダメだからね!球根が傷むから!」

「承知しました!」

「1個1個いたわって入れてよね!!」

「はい!!」

 

 片岡と岡野の女子二人に指示されるがままに花壇に球根を丁寧に植える姿を遠くから見ていた渚と杉野に茅野は本当に殺せんせーは来年に地球を滅ぼす存在なのか疑問に思えてきた。

 

「アイツ、本当に来年には地球を滅ぼす存在なんだよな?」

「ええと、その筈なんだけど、言われるがままに球根を植えてる姿からは想像出来ないよね・・・ところで渚、何をメモってるの?」

「あの先生の弱点をメモしてる。どんな細かい弱点だろうと暗殺のヒントになる筈だからね」

「でも、そのメモの内容って役に立つの?」

「茅野の言う通りだぞ、渚。その『カッコつけるとボロが出る』って弱点、役立つ事は有るのか?」

「役立つよ。SAOでボスと戦う際に街のNPCから情報を聞いてメモしてたしね。それがどんな細かい事で有ろうともメモは忘れずにいたし、その細かい部分の情報が意外と役立ったしね」

 

 渚は殺せんせーの細かい部分の弱点だろうとメモしており、細かい弱点でも役立つと茅野と杉野に伝えた後、殺せんせーは球根を植え終えた様で花壇を荒らした責任を感じて生徒達に告げた。

 

「皆さんが育てた花壇のチューリップを抜いてしまい、花壇を荒らした先生は責任を感じています。よって、只今よりハンディキャップ暗殺大会を始めます。ルールは簡単、昼休みが終わるまで先生はあの木にロープで吊るされます。その間に君達は先生を暗殺してみなさい!」

 

 そう言うと直ぐに殺せんせーは自ら木の上にロープを巻き付け、自分にもそのロープを巻き付けると空中に吊るされた状態となったので動きが制限される事となったので、確かにハンディキャップは有るので、生徒達は暗殺の準備を済ませると暗殺を始めた。

 銃を構えて暗殺する者がいる中で、竹の棒と紐を用意して竹の棒の先に対殺せんせー用のナイフを紐で結び付けて暗殺する者もいた。

 殺せんせー提案のハンディキャップ暗殺大会が始る中で、渚は防衛省に所属する烏間がこちらに向かって歩いてきてるのを確認したので、渚は烏間に声を掛けた。

 

「烏間さん、こんにちは」

「こんにちは、渚君。明日から俺もこの校舎で教師として暗殺に協力する事になった。よろしく頼む」

「そうですか。明日から烏間先生になる訳ですね?ところであの武器は使える様になったでしょうか?」

「あの君のユニークスキルだったソードスキルを再現出来る機械剣なのだが、どうもあのソードスキルを再現するとオーバーヒートを起こしてしまい、実質的に一回だけしか使えないらしい。使う度にメンテナンスを行う必要が有る為、現在カスタマイズ中だ。だが、一回は君に使ってもらい、そのデータを用いてカスタマイズを施した方が良いのかもしれないな」

 

 渚がかつてSAOで使っていた渚だけが持つユニークスキルの一つを再現出来る機械剣は未だにそのソードスキルの威力故か一回使うだけでオーバーヒートを起こしてしまい、使い物にならないらしいのでカスタマイズを続けている様だ。

 烏間は機械剣の開発状況について説明した後、暗殺対象(ターゲット)の事について問い質した。

 

「ところで暗殺対象(ターゲット)は何処だ?」

「あの先生なら今、ハンディキャップ暗殺大会を開催して皆から一斉攻撃を受けてる最中だよ」

「ハンディキャップ暗殺大会だと?」

「実はあの先生が悪気は無いんだけど、結果的にクラスの花壇を荒らしたからその責任を取る為に自ら木の上にロープで吊るされている状態になって、その状態の先生を皆が一斉攻撃で暗殺を仕掛けているんだけど、あれを見れば解る様に吊るされていようが関係無くマッハのスピードで簡単に避けてるよ」

 

 渚が指差した方向を見ると、木の上に吊るされた殺せんせーがクラス皆から一斉攻撃されているが、ロープでぐるぐる巻きにされてるとは思わない程に軽やかな動きで避けてるので烏間は暗殺になっているのかどうかがまず疑問だった。

 

『くそっ、こんな状態なのにヌルヌルと軽やかに避けやがって・・・』

「ヌルフフフ、どうしました?E組の皆さん、こんな身動き出来ない先生の姿は滅多に有りませんから暗殺し放題ですよ」

 

 E組の皆が一斉攻撃しているが、殺せんせーは避け続けており、殺せんせーの顔に緑色の横縞模様が浮かんでいるのでナメられている様だ。

 

「渚君。聞きたいのだが、このハンディキャップ暗殺大会はあの生物にとっては遊び同然と見て間違いないな?」

「はい、完全にナメられています。顔に緑色の横縞が浮かんでいますしね・・・でも、僕がメモした内容からすると、そろそろボロが出るところかと思います。あの先生は無駄にカッコつけるところが有りますので、そんな時は大体ボロが出るのでそろそろ頃合いかと」

 

 渚がそう言うので、烏間は暗殺大会の様子を観察し続ける事にした。殺せんせーは今も尚、クラス皆からの一斉攻撃を回避しており、余裕綽々で喋っていた。

 

「無駄ですよ。このハンデをモノともしないスピードの差が有る以上は君達が私を殺すなんて夢のまた・・・あっ」

 

 調子に乗り過ぎていた様で殺せんせーは木に掛かる負担まで計算していなかった様で、ロープを巻き付けていた木の枝が折れると共に地面に落ちた。その出来事にクラスの皆と殺せんせー本人すら唖然としたが、直ぐにクラスの皆は気を取り直し、殺せんせーの周りを囲むと一斉攻撃に取り掛かった。

 

『今だ殺れーーっ!!』

「にゅやああぁぁっ!!?し、しまった!?先生とした事がぁぁっ!?」

 

 クラスの皆が地面に倒れた殺せんせーに一斉攻撃を仕掛けると、木の上にいた時よりヤバい状況になったので殺せんせーは慌てているが、それでも攻撃はちゃんと避けていた。

 

「渚の弱点メモ、役に立つかも・・・」

「そうだな。渚の言う通り、どんな細かい情報だろうとメモする事は後で役立つと確信したぜ」

 

 殺せんせーが渚のメモ通り、カッコつけると直ぐにボロが出たので茅野と杉野の二人は渚の書いたメモが本当に役立つかもしれないと確信し、渚はこれからもメモをし続ける事にした。

 しばらく、殺せんせーはロープが絡まって思う様に抜け出せずにいたが、やっとの事で絡み付いたロープを外すと皆の攻撃範囲の外である校舎の屋根に向かって飛んで着地した。

 

「ちっくしょ、抜けやがったか!?もう少しだったのに・・・」

「今のはさすがに焦りましたよ・・・ですが、ここまでは来れないでしょう。基本性能が違うんですよ!!バーカ、バーカ!」

 

 殺せんせーは子供みたいな態度で挑発をしているのに内心呆れつつも渚は、屋根の上を目指して木の上に登るとジャンプし、殺せんせーが着地している屋根の上に飛び移るとナイフで殺せんせーに暗殺をしかける。

 

「にゃや!?渚君、屋根の上にまで来るとはあなたはチートですか!?いや、ビーターなのですか!?」

「ビーターはキリトさんで有って、そもそも僕はSAOのβテスターでは無いのでビーターと呼ばれる理由が無い。ご託はいいので殺されて下さい!」

「そうはいきません!!ここは逃げるが勝ちです!」

 

 渚を冗談でビーター呼ばわりしながら殺せんせーは渚のナイフによる攻撃をギリギリ回避した後、空中に浮かび上がった。

 

「逃げる気なの、殺せんせー?」

「はい、逃げます。昼休みが終わるまではね。それともう一つ皆さんに言っておく事が有ります」

『言いたい事って何だ、殺せんせー?』

「今日の宿題はいつもの倍の量にします」

『器小せえな、おい!?』

 

 殺せんせーは今日出す宿題の量を倍にすると宣言した後、何処かに飛び去っていた。そもそも、暗殺されかけた原因は殺せんせーが自らハンデを付けた事と自滅が原因で有って、E組の生徒が悪い訳では無いので殺せんせーの大人気ない仕返しにしか思えなかった。

 

「自分でハンデを付けては勝手に自滅した癖に宿題の量を倍にすると宣言した後に逃げたぞ、あのタコ・・・」

「まあ、今までで一番惜しい暗殺だったよね」

「とりあえず、この調子なら殺せるチャンスは必ず有る筈だ!」

「殺せた後に貰える百億は何に使おうかな?」

 

 渚と烏間は客観的に見ると、中学生が嬉々として暗殺に望んだり語る姿は異常に思えるのだが、殺せんせーの暗殺という目標が有るからなのかE組の生徒達は初めて見た時と比べれば活き活きとしているので、不思議と居心地は悪くない空間になってはいる。

 烏間は今の教室の様子を確認し終えたのか立ち去った。烏間が去った後に茅野が渚に声を掛けてきた。

 

「ねえ渚、どう?殺せんせーは殺せそう?」

「殺せそうじゃなくて殺すしかないんだ。殺す気でいないとあの先生とは付き合えないしね」

 

 渚が茅野にそう告げて数分した後、昼休みが終わったので皆が教室に戻った後、殺せんせーもタイミングよく帰ってきたので午後の授業は問題無く始まった。

 

 

 

 放課後、渚は下校する為に下駄箱に向かおうとしていた時に岡島に声を掛けられた。

 

「おーい渚。ちょっと話いいか?」

「いいけど、どうしたの岡島」

「実はな、昨日アミュスフィアとALOのソフトを購入してALOをやり始めたんだけどよ、開始早々に初心者狩りの悪質なプレイヤー達に囲まれてデスペナルティで初期ステータスより弱くなちまってよ、ステータスを上げようにもソコらの雑魚モンスターにすら苦戦する程だからさ、出来れば俺のステータスを上げる手伝いをしてほしいんだけど、頼めるか?」

「実は茅野も今日からALOをやり始めるみたいで、茅野をレクチャーする予定が入っているんだ。だから茅野にレクチャーするついでにって感じになるかもしれないけど、それでもいいかな?」

「ああ、別に構わないぜ。むしろ、俺も始めたばかりだし、レクチャーを聞きながらプレイ出来る事自体が助かるしな。俺のアバターについて説明しておいとくか。アバターの名前はフォーカスで種族は土妖精ノームな」

「なら、ノーム領の街の入口前で待っていてくれるかな」

「ああ。また初心者狩りに会うのも嫌だし、街の中で待つ事にするか。手間掛けさせる様で悪いな渚」

 

 茅野にレクチャーするついでに岡島からの頼みであるALOのステータス上げを手伝う事を約束した後に渚は下校し、帰宅すると本当に倍の量になった宿題を終わらせた後にナーヴギアを被りALOにログインした。

 

「リンクスタート!」

 

 その言葉を発すると、渚の精神はALOの世界へとダイブしていき、インプ領の宿屋の一室にて渚のアバターであるアズワルドが目を覚ました。

 アズワルドはまずはノーム領にいる岡島のアバターであるフォーカスと約束通りに合流する為にノーム領に向かって飛んでいく。しばらく飛行し続けていると、ノーム領が見えてきたので着地するとノーム領の街の入口前に立っている坊主頭のプレイヤーの姿が見えたので声を掛けた。

 

「お待たせ、君はフォーカスで間違いないね?」

「ああ、そうだ。俺がフォーカスだぜ。お前は渚で間違いないよな?」

「うん。でも、ここではアズワルドというプレイヤー名で通っているから、その名前で呼んでよ」

「了解と。アズワルドの見た目って現実と変わらないんだな、髪色は除くがな」

「フォーカスなんて髪色含めて現実と同じ容姿だよね。ノーム特有の絆創膏の様な模様が顔に有るぐらいしか違いが無いよ」

 

 アズワルドはフォーカスと合流した後、茅野の捜索をゼベルに任せているので彼からの連絡を待つ事にした。

 

 

 渚がログインする少し前に茅野はアミュスフィアを使ってALOにログインし、水妖精ウンディーネを選択し、ウンディーネ領の街の中で茅野のアバターであるアラモードが目覚めた。名前の由来は茅野の好物であるプリンの種類から取った様だ。容姿は現実と同じで、髪の色は瑠璃色に染まっている。身体の質も現実と同じなので少し残念に思ったが、アラモードは気を取り直し、この場から動く事にした。

 

「無事にログイン出来たみたいだし、渚達と合流しようかな?」

 

 アラモードは渚と杉野のアバターであるアズワルドかゼベルに合流する為に動きだそうとした時だった。ウンディーネの男プレイヤーがアラモードに声を掛けてきた。

 

「ソコの君、初心者かい?良ければ、俺が一緒にお茶するついでに教えてあげるよ」

「いや私、友達から教わるので大丈夫です」

「その友達は何処にいるんだい?事前に種族を教えていればいいけど、ウンディーネのプレイヤーじゃないとしたら、どう合流する気だい?」

「多分、大丈夫です。種族が違っても、全ての領に向かって探してくれるかと思います」

「でも、それって確実性が無いって事だよね?じゃあ、俺とお茶でもした方が断然良いよね?」

 

 アラモードは男がしつこく勧誘してくるので少しイラつき始めているが、下手に抵抗すれば何をされるか解らないので、どうするか悩んでいると、アラモードにしつこく声を掛け続けている男にウンディーネの女性プレイヤーが注意した。

 

「ソコの人!その子が煙たがっているじゃない!!しつこい男は嫌われるわよ!!」

「何だよ?ゲッ!?お前は、三日前に始めたばかりとは思えない程に強い化け物女じゃねえか・・・しかも身長が男に負けない高さだからネカマの噂も有るし、関わるのはゴメンだぜ!?」

「ちょっと待て、私はネカマじゃないから!!身長が170は有りますけど、正真正銘の女性ですからね!!」

 

 アラモードに声を掛けていた男は女性の顔を見て逃げる様に走り去っていくと、女性はネカマじゃないかと失礼な事を言われたので男に自分は女だと告げた。男を追い払った女性は本当に女性にしては高身長であり、凛々しい雰囲気の顔立ちをしており、水色の長髪を後ろに一結びして束ねていた。アラモードはその女性の姿に見覚えが有る様な気がする中で、その女性はアラモードに声を掛けた。

 

「何か少し傷付いたけど、あなた大丈夫?」

「あっ、はい。大丈夫です・・・あれ?もしかして、あなたは片岡さん!?」

「えっ!?もしかして、茅野さんなの!?」

 

 どうやら、アラモードは自分に声を掛けていた男を追い払った女性の正体がE組のクラス委員である片岡だったとは思ってもいなかった様で、片岡もまさかこんなところで知人と会うとは思ってもいなかった様だ。

 

「驚いたよ、片岡さんがALOをプレイしてたなんて意外だったよ」

「渚と杉野の話を聞いている内にALOが気になってきたから、私も三日前に思い切って始めてみたの。お金もちょうど私の貯金に有ったから、アミュスフィアとALOのソフトを購入してプレイし始めた訳。私のプレイヤー名はエリアスよ」

「私はアラモードだよ。それにしても、エリアスさんが私と同じウンディーネでいて良かったよ。それに、その大剣も勇ましくてカッコいいよ!」

「私はカッコいいは求めてないのよ・・・私が三日前にプレイし始めて直ぐ、先程のアラモードさんの様に男のプレイヤーが他の女性プレイヤーにしつこく声を掛けていたところを注意して追い払ったら、その助けた女性プレイヤーに気にいられて質の良い両手剣に防具をプレゼントされて以来、私はALOの女性プレイヤーに人気が有るらしくて、パーティーに良く誘われる様になったの・・・」

「それは良い事なんじゃ?どうしてそんな気落ちした表情をしてるの?」

「パーティーに誘ってくる女性プレイヤーはほぼ全員が私に『性別の垣根を越えて付き合って下さい』という人が多くて、風の噂では同性婚が出来る様に運営にコールしてるって聞いた程よ・・・」

「ははっ・・・元気出そうか、エリアスさん。いつか他の女性プレイヤー達も大人しくなるよ、きっと・・・」

「そうなる様に祈りたいわ・・・」

 

 エリアスはALOの女性プレイヤーに人気が有るらしく、色々と苦労が絶えないらしい。アラモードはカッコいいという言葉はエリアスには言わない事にし、エリアスが気を取り直したのを確認し、アラモードはエリアスに尋ねた。

 

「ねえ、エリアスさん。アズワルドかゼベルの事を知らない?アズワルドは渚のアバターで、ゼベルは杉野のアバターなんだけど、二人の連絡先を知ってるかな?」

「私もまだ二人と会った事無いのよ。ALOをやっているとは教えていないし、二人の居場所は解らないわね」

「そう。じゃあ、どうやって二人と合流すればいいのかな?」

 

 アラモードが二人と合流する方法を考えていると、種族がサラマンダー男と思われる男のプレイヤーが声を掛けてきた。

 

「よぉ!容姿で判断してるから間違っていたら悪いんだけど、茅野か?」

「えっ、もしかしてゼベル?」

「やっぱりか!良かったぜ、他種族の領の中に入ると攻撃される恐れが有るから進んで他種族の領の中に入りたくなかったんだけど、一回目のウンディーネ領で見つかって良かったぜ。それとソチラの女性はもしかして?」

「ええ、私は片岡メグよ。この世界ではエリアスという名前で通しているからよろしくねゼベル!」

「驚いたよ、片岡もALOをやっていたのか。ところで肝心の茅野のプレイヤー名は?」

「アラモードだよ」

「こりゃ、甘そうなスイーツを思わせる名前だな。無事に合流出来たし、アズワルドに連絡をしておくか」

 

 ゼベルはアズワルドにメッセージを飛ばして連絡し、茅野がアラモードという名前で、片岡もエリアスという名前でウンディーネのプレイヤー通してALOにログインしてる事を伝えると、アズワルドは直ぐにソチラに向かうとの事だ。

 

「アズワルドに連絡したし、アズワルドが来るまで少し時間が有るし、アラモードとエリアスにあの人を紹介してみるか。同じウンディーネの女性プレイヤーだし、SAO帰還者だから戦闘のコツは掴んでいるからレクチャーしてくれる人としても頼れる筈だしな」

 

 ゼベルはそう言うと、アラモードとエリアスの二人にある人物を紹介をする事にし、二人を連れてその人物に会いに行くのだった。




 ハンディキャップ暗殺大会は殺せんせーが自ら提案した筈なのに、勝手に自滅しては大人気ない態度が目立つ話ですよね・・・
 茅野と片岡に岡島がALOデビューしました。茅野のアバター名はアラモード、名前の由来はプリンアラモードです。片岡のアバター名はエリアス、名前の由来は水。岡島のアバター名はフォーカス、名前の由来は言うまでもなくカメラから。

 次回はALOでの話の続きとなります。一応、言っておきますがALOはソードスキル実装前なので、新生アインクラッドはまだ姿を見せていません。


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第8話 ゲームは純粋に楽しむこそが南保である!

 ALOで魔法を使う為に呪文を唱えますが、唱える呪文は表記しなくてもいいですよね?例えば、アーブラー、カタブラーとかね。


 ゼベルに連れられ、アラモードとエリアスはウンディーネ領の街の角に有るレンタル式のプレイヤーホームを訪れた。

 

「おじゃまします、アスナさん。入っても構わないですか?俺とアズワルドのクラスメイト二人を紹介したいんですよ」

「別に構わないわよ、ゼベル君。アズワルド君の通う学校のクラスメイトに会って話せればいいなと思っていたし、入って構わないわよ」

 

 ゼベルに続いてアラモードとエリアスもプレイヤーホームの中に入ると、リビングに水色の長髪をした綺麗な女性の姿が見えた。名前はゼベルが言っていたのでアスナだと解っているが、その名前に聞き覚えが有った二人はゼベルに尋ねた。

 

「ゼベル、聞きたい事が有るんだけどいい?」

「何だ?」

「アスナさんって、もしかしてアズワルドの過去の話で出てきたSAOのプレイヤーだったアスナさんの事?」

「そうだぜ。そのアスナさん本人だ。アズワルドから紹介されて知り合ったんだ」

「そういう事よ。一応、説明しておくけど私はアスナ。種族はあなた達二人と同じウンディーネ、それとアズワルド君同様にSAO帰還者の一人よ」

 

 アラモードとエリアスの二人にアスナが自己紹介を済ませると、二人もアスナに自己紹介をする。

 

「私はアラモードです。アズワルドとは現実の学校の教室で隣の席です」

「私はエリアスと言います」

「アラモードちゃんにエリアスちゃんね。エリアスちゃんの名前はALOの女性プレイヤー達の間に広まっているから聞いた事有るわよ。三日前にALOを始めたばかりなのに高い実力を持ったプレイヤーだと聞いたわよ。それでその辺の男よりはカッコいいと噂されているとも聞いたわね」

「私はカッコいいと言われるのは求めていないんですけどね・・・」

「やっぱり、そうよね。女性としてはカッコいいよりは可愛いと言われたいモノよね。私はエリアスちゃんと少し違うけど、回復魔法を唱える後衛だけでなく、前線に出て攻撃する前衛型の戦いをしているんだけど、私と一緒のパーティーにいた人達からはバーサクヒーラーなんて言われたのよ。本当に失礼だと思わない?、私だって回復や魔法での援護ばかりじゃなくて、前線に出て戦いたいのよ!」

『そ、そうなんですか・・・(バーサクヒーラーって呼ばれてる理由が何となく理解出来るんだけど、言ったら恐そうだから言えないから黙っておこう・・・)』

 

 アスナがバーサクヒーラーだと呼ばれる理由が何となく解るが、アラモードとエリアスの二人は口に出すべきでは無いと思い、アスナの話に相槌を打っておく事にした。

 アスナは少し落ち着くと、アラモードの装備を見て初期装備だと気付いたのか自分のアイテムストレージから複数の種類の武器を取り出した。

 

「アラモードちゃんの装備は見たところ初期装備よね?今、私のアイテムストレージに有った武器なんだけど、この中からアラモードちゃんがしっくり来る武器が有ったらあげるわよ」

「えっ、いいんですか!?」

「いいのよ。この武器だってクエストで得た報酬や戦闘でドロップした物だし、好きな武器を選んで持っていていいよ」

 

 アスナがこう言うので、アラモードは有り難くアスナが出した武器から自分に合う武器を選ぶ事にした。アラモードは手にして確かめながら、しっくり来る武器を探していると、レイピアがしっくり来たのでレイピアに決めた。

 

「これかな。私は前線に出て戦うのは少し向いてなさそうだから、魔法を使って援護する後衛の方が向いてると思ったの。レイピアならヒット&アウェイの戦術が出来そうだし、後方から魔法での援護を中心にするならこれがいいかな」

「そうね。私もレイピアを使うんだけど、レイピアでの攻撃はスピード重視だからヒット&アウェイを主にする人にはオススメね」

「じゃあ、このレイピアは貰っておきますね。ありがとうございます、アスナさん」

「どういたしまして、アラモードちゃん。今日はキリト君達は現実で予定が入ったみたいでログイン出来ないらしいから、私で良ければ今日1日同行するけどいいかな、ゼベル君?」

「はい。そのつもりで来たので、アスナさん。アラモードへのレクチャーをお願いします。エリアスはどうする?」

「そうね、ここで会ったのも何かの縁かと思うし、私も一緒に行く事にするわね」

 

 アラモードがアスナからレイピアを貰った後、四人はアズワルドと合流する為にウンディーネ領の街の入り口前に移動したところでタイミングよく飛行していたアズワルドが降りてきた。それとアズワルドの後ろにいる男の姿も確認した。一応、アズワルドからゼベルに送られてきたメッセージで岡島のアバターであるフォーカスの存在は知っていたが、1日で現実での知り合いにここまで会うとさすがに驚くが、アズワルドは皆に向けて少し待たせた事を謝罪する。

 

「少し待たせてしまった様でごめんね。一応説明しておくけど、この世界で僕はアズワルドという名前で種族はインプだよ。後、僕の後ろにいるのが」

「フォーカスだ。種族はノームな。それにしても驚いたぜ、まさかお前らまでいるなんてよ」

「こっちの台詞だよ。今日1日で現実での知り合いにALOの中で出会うとは思ってなかったよ。私の名前はアラモードで種族は言わなくても解るだろうけど、ウンディーネだよ」

「同じくウンディーネで、名前はエリアスよ。まさか、岡じ・・・いや、フォーカス。あんたまでALOにいるなんてね・・・間違っても追跡魔法のトレーサーを悪用してスカートの中とかを見ようとしたら只じゃ済まないからね!」

「まだ覚えてないから、スカートの中を覗き見しようにも使えないからな!」

「それって使える様になったら、悪用する気が有るって事だよな・・・まあ、お前らしいと言えば良いのか・・・俺の名前はゼベル、種族はサラマンダーだ」

「私はアスナよ、宜しくねフォーカス君。でも、魔法を悪用して覗きとかしたら只じゃ済まないから、肝に命じておきなさい!」

「何で俺が追跡魔法を悪用する事前提で話が進んでいるんだよ・・・まあ、やるかもしれないけどよ」

『結局、やるのか!?』

 

 何だかんだでぶれないところがフォーカスらしいのだが、ゲームの中と言えど覗きは犯罪なので追跡魔法を習得した後は悪用しない様に注意する事にし、アズワルド達はウンディーネ領近くの平原に移動して、アラモードのレクチャーとフォーカスのステータス上げを行う事にした。

 

「それじゃ、まずは適当に戦闘して実力の確認からしてみようか」

 

 まずはアラモードにフォーカスの実力を確認するべきだと思い、アズワルドは呪文を詠唱し、近くにいたリザードマンの群れに闇属性の魔法を放ち、黒い球体状のエネルギーがリザードマンに命中し、リザードマンが一体消滅すると群れにいたリザードマン4体がアズワルド達に迫ってきた。

 

「リザードマンが迫ってきたね。アラモードとフォーカスは1体ずつリザードマンの相手をしてみて。残り2体のリザードマンはエリアス任せるけど、構わないかな?エリアスの実力も確認したいからね」

「別に構わないわよ。私も少し戦いたかったところだしね」

 

 エリアスは両手剣を構えると、リザードマンに突っ込んでいき、リザードマンが剣でエリアスを切り付けようとするが、エリアスは両手剣を横に振り回すとリザードマンの剣は折れ、リザードマンは剣が折られた事に動揺したのか隙が生まれたので、エリアスはソコを見逃さずに両手剣を振り下ろしてリザードマン一体をまるで紙切れの様に簡単に真っ二つに切り裂いた。

 エリアスの戦闘を見てゼベルは本当にALOを始めて三日目でこの強さなのに驚愕した。

 

「エリアス、本当にALOを始めて三日目なのかよ・・・両手剣を軽々と振り回す姿は本当に男顔負けの腕前だし、そもそもリザードマンって思ったより柔いモンスターじゃないぞ!?エリアス、お前ってストロング過ぎないか?」

「ストロングって言わないでほしいなゼベル・・・」

 

 エリアスはゼベルの発した言葉に少し傷付きながらも、呪文の詠唱を行う。ゼベルは詠唱を終えるまでリザードマンに弓矢で威嚇射撃して注意を引いて時間を稼ぐ。呪文の詠唱が終わるともう1体のリザードマンに向けてエリアスは水属性の中級魔法[アクアピラー]を放った。するとリザードマンの下から水が勢いよく吹き出し、リザードマンを空中に浮かび上がらせると水柱がリザードマンを飲み込み溺れさせ、リザードマンは溺死したのか光を放ち消滅した。

 

「エリアス、両手剣での接近戦だけでなく、魔法での遠距離攻撃も出来るのか。いわゆるオールラウンダーってところか。本当にストロングだな、名付けてストロングレディエリアスってか!」

「ゼベル、私は女性だからストロングって呼ばれるのは少し傷付くから、他に良い褒め言葉とか無いの?」

「そうだな・・・じゃあ、パワフル乙女エリアスとか?」

「それ同じ意味よね!?もういいや・・・その内に慣れてくるだろうしね・・・」

 

 エリアスはゼベルからストロングレディとパワフル乙女の称号を与えられたが、エリアスからすれば嬉しくない称号なのでエリアスは涙目になっていた。アスナはそんなエリアスに何処か親近感を感じたのか、ゼベルから変な称号を与えられた彼女に同情した。

 

 一方、アズワルドはアラモードとフォーカスの実力を確認していた。

 

「アラモード、リザードマンの脇下は鎧に覆われていない。ソコを狙うんだ!脇下をレイピアで刺せば怯む筈だよ」

「脇下を狙えばいいんだね。了解!」

 

アラモードはレイピアでリザードマンの脇下に目掛けて刺突を喰らわせると、素早く退いて、リザードマンの剣での攻撃が届かない範囲に移動し、呪文の詠唱を行い、リザードマンが徐々に近付いてくるが詠唱を続け、呪文を唱え終えると同時に水属性の初級魔法[スプラッシュアロー]が放たれ、リザードマンに目掛けて水が数本の矢となり飛んでいき、リザードマンを撃ち抜くがリザードマンはまだ倒れていないので、アラモードは接近してレイピアでリザードマンの胸を貫くと、リザードマンは光を放ち消滅した。

 

「初めての戦闘にしては良い動きをしていたよ。レイピアを当ててから敵と距離を取って、離れた場所から魔法を使ってダメージを与えていたし、もしかしたらアラモードは才能が有るんじゃない?」

「そうかな?私としては結構、苦労してやっと倒せたって感じだし、アズワルドからの評価に素直に喜んでいいのか解らないな」

「自分がそう思ってなくても、ヒット&アウェイで敵に攻撃して離れて距離を取ってから魔法でトドメを差す戦術が向いているから魔法を主にするべきだと思うからステータスは魔力を上げながらも、接近された場合に備えて敵に一撃を与えてから敵と距離を取れる様にする為にもスピードを上げた方がいいし、筋力も余裕が有ったら上げるべきかな。後、魔法は攻撃魔法だけではなくて、回復魔法やステータスを上昇させるバフ効果を持った魔法も覚えた方がパーティーを組んだ時に味方の補助が出来るよ」

 

 アラモードはアズワルドから少し高評価を貰えたが、自分ではまだまだだと思っているのか素直に喜んでいいのか解らない様だが、アズワルドから自分に向いた戦術とステータスの振り方を教えてくれたので、参考にする事にした。

 アズワルドはアラモードの実力を確認し終えたので、フォーカスの実力を知る為に彼の戦闘を見ると、フォーカスはリザードマンの剣による攻撃をバックラーで受け止めながら、メイスをリザードマンの鎧に集中して叩き付けていた。

 フォーカスが何度もメイスで打ち続けた結果、リザードマンの鎧は砕け散りリザードマンは丸裸にされてしまい、肌を晒したのでフォーカスがメイスでリザードマンの身体を思い切り殴り付けると、リザードマンは背中から地面に倒れると同時に消滅した。

 

「フォーカスはリザードマンの鎧をメイスで打ち続けて鎧を砕いて、鎧が砕けたところをメイスで思い切り殴り付けて倒したところから考えると、敵の特徴を捉えてから効率良く戦える方法を探す観察眼に優れているって考えられるかな」

「そうか?確かにリザードマンの防御力を落とす為に俺はメイスで鎧を砕いたけど、こういう戦術って時間が掛かるしな。少し効率が悪くないか?」

「いや、そうでもないよ。通常のモンスターなら効率が悪く思うだろうけど、ボスクラスとなると今のフォーカスの様な戦術が向いているよ。ボスは破壊出来る部位を見つけたら、その部位を破壊してボスを弱体化させる事が攻略に繋がるから、通常のモンスターとの戦闘でそういう観察眼を鍛えておくのも悪くないと思うよ。フォーカスはメイスを使うならステータスは筋力特化でいいけど、ノームは体力が多い種族だからそれを活かす為に防御力を上げるのもオススメかな。もし魔法を使うってなら、フォーカスの場合は攻撃魔法より回復魔法とステータスを上げるバフ効果を持った魔法で十分かな」

 

 フォーカスはアズワルドから観察眼を鍛えておいた方が良いとアドバイスされた。フォーカスは難しい注文だなと思いつつも、アズワルドの言う通り観察眼を磨ける様に頑張ってみる事にし、その為に色んなモンスターの情報を調べて特徴を掴んでおいとくべきかと考えた。

 

 

 

 リザードマンとの戦闘を得て、アラモードとフォーカスにエリアスの実力を確認した後、適当にモンスターと戦闘してアラモードとフォーカスを戦闘に慣れさせると同時にステータスを上げる手伝いをし、ある程度戦闘を行った後に随意飛行の練習を行う事にした。

 

「それじゃ、戦闘には慣れてきたと思うし、随意飛行の練習をしようか。アラモードちゃんは翅を使っての飛行をまだやってないし、フォーカス君は昨日始めたばかりだから飛行は疑似コントローラーで行っていたと思うけど、随意飛行出来る様にしといた方が空中での戦闘は楽になるわよ」

「アスナさんの言う通りだよ。随意飛行は出来る様にしといた方が色々と楽になるよ。疑似コントローラーで飛行していると片手が使い辛くなるから、随意飛行が出来れば空中での動きを増やせるから随意飛行の練習を行う事にしようか」

「うーん、確か翅が背中に付いているってイメージだけじゃ飛ばないんだよね?」

「そうだぜ、アラモード。背中に生えた翅の筋肉に骨格もイメージして、それを動かす事で初めて随意飛行は出来るんだ。飛べたとしても、少しでもイメージするのを忘れたりすると落ちるから、結構ハードなんだよな・・・俺はALOを始めて1週間位になるけど、随意飛行は出来るんだけど未だにふらつくんだよな・・・」

「そうなの?私は始めて三日目だけど、既に随意飛行のコツは掴めたから普通に随意飛行で飛べるけど」

「マジかよ!?始めて三日目のエリアスは既に上手く飛べるのに、始めて1週間経っているのに未だにふらつく俺って一体・・・」

 

 随意飛行の練習を行う事になったのだが、ゼベルはALOを始めて三日目のエリアスが既に上手く随意飛行で飛べると知って落ち込んだが、直ぐに立ち直り自分も随意飛行の練習を行う事にした。

 アズワルドとアスナにエリアスから随意飛行のコツを教えてもらいながら、アラモードとフォーカスは随意飛行の練習をし、ゼベルはふらつかずに飛べる様に練習を始めた。

 

「アラモードちゃん、もう少し肩の力を抜いてみて。リラックスした方が随意飛行も上手く出来るわよ」

「あっ、本当だ。少しふらつくけど、コツは大体掴めたかな。難しいけど、自分の意思で翅を動かして飛べるのは嬉しいな」

「そうでしょ。私も最初はふらついていたんだけど、上手く飛べる様になると飛ぶのが楽しくなってきたわ。だから、アラモードちゃんも頑張って自分の意思で上手く翅を動かして飛べる様に頑張ってね!」

「はい、アスナさん!アスナさんの教え方が上手いから、思ったより早く随意飛行が出来そうだよ」

 

 アラモードはアスナの教え方が上手い事も有ってか、思ったより早く随意飛行に慣れそうと考えられる。一方、フォーカスもアズワルドからアドバイスを貰い、随意飛行の練習を行い少し遅い滑空スピードだが随意飛行が出来る様になっていた。

 

「ふうっ、コツを掴めば思ったより飛べるな。空中戦を行う為にも、もう少し上手くなりたいところだな。昨日、俺が集団PKされた時は相手が全員空中から奇襲してきた奴らだし、そんな目にまた合った時の為にも空中戦は出来る様になりたいしな」

「そうだね。空中戦を行うにはある程度随意飛行が上手くないと厳しいから、随意飛行に慣れてきたら空中戦の練習を行う事にしようか」

 

 アズワルドはある程度、アラモードとフォーカスが随意飛行に慣れてきたら空中戦の練習も行うべきと考えた。ゼベルはふらつかない様に随意飛行の練習をし、エリアスは空中に漂って皆の練習を見物していた時だった。

 

「後方からくる!?避けろ、ゼベル!」

「えっ?うわっ!?危ねぇな・・・」

 

 アズワルドが何者かが魔法でゼベルに向けて炎の球を飛ばしてきたのを察知し、ゼベルに避ける様に伝えるとゼベルは急いで翅を仕舞って地面に着地して、炎の球を避けた。

 アスナは近くに潜んでいたプレイヤーがアラモードに攻撃を仕掛けようとしていたので、アスナは閃光の如く速さで移動し、アラモードに襲い掛かろうとしていたプレイヤーにレイピアで強烈な突きを連続で喰らわせると、そのプレイヤーはリメインライト化し緑色の火の玉となった。

 

「アラモードちゃん大丈夫?」

「はい、アスナさんが早く助けてくれたお陰で大丈夫です。すみません、私が不甲斐ないばかり・・・」

「気にしないで。アラモードちゃんは悪くないわ」

 

 アスナはアラモードが無事で有る事を確認した後、アズワルドに問う。

 

「アズワルド君。今のプレイヤーにさっきの炎の玉って、もしかして集団PKを行うギルドの仕業?」

「その線で間違いないです。初心者専門に集団PKを行うギルドのプレイヤー達の仕業ですね」

「初心者専門に集団PKって、どう考えても弱い相手ばかり狙う卑怯者の集まりにしか思えないわ!」

 

 アスナがアズワルドに今の炎の球を飛ばしてきた相手は集団PKを行うギルドの仕業かと尋ねると、アズワルドは初心者専門に集団PKを行うギルドのプレイヤー達の仕業だと説明し、エリアスは初心者を専門に狙ってPKを行うギルドの存在事態が不快に思った様で少し怒気を感じる表情になっていた。

 気付けば、アズワルド達の周りを種族はバラバラだが20人以上のプレイヤーが包囲していた。どうやら、このプレイヤー達が集団PKギルドのメンバーの様だ。

 

「チッ、まさか昨日俺をPKした奴らじゃねえよな・・・もし、そうだとしたら俺を良いカモとして見ていたからまた襲い掛かってきたのか・・・」

「初心者専門に狙っているって事は私にも目を付けていたから襲い掛かってきたって事なの!?」

 

 フォーカスにアラモードは自分達の事を狙っていたから、このプレイヤー達が奇襲してきたのではないかと思った。

 アズワルドはそのプレイヤー達の中に知った顔が有ったので、そのプレイヤーに声を掛けた。

 

「久しぶりですね。と言っても実際に直接会うのはお互いに初めてですね。まさか、風妖精シルフの領地から追い出された後にならず者紛いに落ちぶれていたとは驚いたよ。さすがは元シルフ領の領主であるサクヤさんの側近だっただけ有りますね、元シルフのシグルドさん!」

「久しぶりだな、小僧。お前とあの忌まわしきスプリガンと無能なトカゲ共のせいで俺の計画は潰された上にシルフ領を追い出され、何処にも属さない脱領者(レネゲイド)になってしまった!!今こそ、恨みを晴らす時だ!!」

「はあっ・・・シグルド、お前のは逆恨みって言うんだ。それに逆恨みして初心者専門に集団PKを行う様なギルドを作る程に落ちぶれた以上は手加減せず葬るよ。君と君の部下達をね!」

 

 黒っぽい緑の長髪をした青年こそがこの集団PK専門のギルドを束ねる者であり、かつてはシルフの幹部だったが、秘密利に進めていたシルフ領を裏切って転生する計画が失敗し、シルフ領から追い出され脱領者(レネゲイド)になったシグルドだった。

 アズワルドはシグルドの逆恨みに呆れながらも、手加減せず葬る為に呪文を唱え始めた。

 ゼベル達は詳しい事は知らないが、話を聞く限りではシグルドという男の一方的な逆恨みで間違いないと確信し、シグルド率いるPKギルドのメンバー達との戦闘に望む事にした。

 

「やれ!初心者専門に狙っていたとは言えど、プレイヤーと戦い勝てばモンスターより熟練値が上がるからな。数多のプレイヤー達をPKして得たステータスの力を見せてやれ!まずは呪文を唱えているあのガキから潰せ!!」

『おおっ!!』

 

 シグルドが指示すると、シグルドの部下達がアズワルドに目掛けて突っ込んでくるが、その前にアズワルドが呪文を唱え終えた。すると、アズワルドとゼベル達を包む黒い電撃の壁が展開され、その黒い電撃が周りに放たれると、シグルドの部下達はその黒い電撃を受けるとシグルドの部下は全員がリメインライト化し、アズワルド達の周りに火の玉の姿となっていた。アズワルドが使った魔法は闇属性の魔法の中でも最上級である[ボルティック・ヘルマゲドン]なので、威力も納得行くモノだ。

 シグルドは魔法一発で部下達が全滅するとは思っていなかったのか、焦った表情になっていた。

 

「ば、バカな!?PKでステータスを上げた自慢の精鋭達だぞ!!なのに何故、最上級の闇魔法を受けたとは言えど一撃で倒されたのだ!!?」

「簡単な話だ。卑怯な策だけでは強くなれないって事だよ。シグルド、どうやらお前はシルフ領を追い出されて脱領者(レネゲイド)になってしまった事で・・・いや、シルフ領を追い出される前からゲームをやるプレイヤーとして大切なモノを失っていた様だ。だから、お前の精鋭達も負けたんだ」

「俺が失ったモノだと?なら、簡単だ!!俺が失ってしまったモノは貴様とあのスプリガンと無能なトカゲ共のせいで失った地位だ!!」

 

 シグルドはアズワルドが言う自分が本当に一番大切なモノを失ってる事に気付かないまま、アズワルドに向けて剣を思い切り振り下ろしたが、怒り任せに振る剣は威力が高くても単純で動きが解りやすく、アズワルドに当たらず簡単に避けられた。

 アズワルドはシグルドの剣を避け、シグルドの後方に回るとシグルドの背中をアズワルドの剣が貫くと、シグルドのHPは削れていき、シグルドは己の敗けを覚ったのか落胆した様子で呟いた。

 

「何故だ何故・・・俺は敗れたんだ!!俺はまた敗けて地位の次はこの作り上げたギルドまで失うというのか・・・」

「シグルド、お前が失ってしまったのは地位なんかじゃない。お前が失ったモノ、それは・・・純粋にこのゲームを楽しむというゲームをやるプレイヤーとして当たり前の事だ!!」

「このゲームを楽しむ事だと・・・何故、それが負けた原因になるのだ!!」

「簡単な話だよ。僕はこのゲームが楽しいからプレイしているんだ。僕だけじゃなくて他のプレイヤー達も同じ筈だよ。このゲームが楽しいからALOをプレイしている。シグルド、お前だって最初はこのゲームを純粋に楽しんでいた筈だ。自分の磨いた技でモンスターを倒し、覚えた呪文を唱えて魔法を使えた時の喜び。翅を使って自分の力で空を飛べた時の爽快感をお前だって知っていた筈だ。だけど、シグルド。お前はシルフ領で高い地位を得た時から、このゲームを純粋楽しむ事を忘れてしまい、このゲームでの地位や名声だけを求める様になってしまった。だから、お前は負けたんだ。このゲームを純粋に楽しむ事を忘れてしまい、地位や名声だけを求めて暗躍したお前が純粋にこのゲームを楽しむプレイヤーに勝てる筈がなかったんだ」

 

 シグルドはアズワルドの言葉を聞き、いつの間にか自分はこのゲームを純粋に楽しむ事を忘れていた事に気付いた様で先程まで見せた負の感情を思わせる表情は消え、代わりに朗らかな笑みを浮かべた。

 

「成る程な・・・お前の言う通りだな。俺はいつからか、地位や名声だけを求めてしまい、このゲームを純粋に楽しむ事を忘れていた。サクヤは領主になっても、その地位や名声で見栄を張らなかった理由はそういう事か。サクヤもこのゲームを楽しんでいたんだな。だから、地位や名声だけを求め、このゲームを楽しむ事を忘れた俺とサクヤが反りに合わずにいた訳か。なら、シルフ領を追い出されても文句は言えないな。もうすぐで俺はリメインライト化するが、間違っても俺を蘇生するな。俺は一回、デスペナルティを受けた後にギルドを解散し、初めてALOをやった時の様にこのゲームを楽しめる様になりたいからな。だから、俺を放っておいて、お前達はこのゲームを楽しんでいてくれ」

「解ったよ、シグルド。じゃあ、また会った時は本当にこのゲームを純粋に楽しめる様になってる事を祈っているよ」

 

 話が終わると同時にシグルドはリメインライト化し、緑色の火の玉に姿を変えた。その後、アズワルド達はその場から去り、ウンディーネ領の入口近くにまで移動した。

 

「アズワルド、シグルドって人を放っておいて大丈夫なの?」

「アラモードの言う通りだぜ。集団PKギルドを解散したとは言っても、また奇襲とかしてきたらどうするんだよ」

「フォーカスの言う事も一理有るわね。アズワルド、本当にシグルドを放っておいても大丈夫?また初心者狩りとか仕出かすんじゃない?」

「大丈夫だと思うよ、エリアス。今のシグルドはこのゲームを楽しむ事を思い出してるし、二度と初心者狩りはしないよ。彼は自らデスペナルティを受け入れたし、今の彼なら間違った道には行かない筈だ」

「アズワルド君が言ってるんだし、きっと大丈夫よ。もし、仮にも懲りずに奇襲してきたら、アズワルド君がやった様に返り討ちにすればいいしね!」

「そうだな、アスナさんの言う通りだな。シグルドがまた奇襲してきたら、返り討ちにしてやろうぜ!まあ、今回の様に集団で来られたら、アズワルドの様な広範囲を攻撃する強力な魔法が使えないと厳しいかもだけどな」

「ははっ。魔法は無理して使わないのも一つの手だし、キリトさんにクラインとかがそうだしね。とりあえず、今日はここで解散しようか」

 

 シグルドがまた奇襲してきたらという話も有ったが、シグルドはもう二度と一方的な集団PKは行わないだろうということで解決した。シグルドの話を終えた後、アズワルドの合図で解散し、各自自分の泊まる宿が有る領や街に移動した後にログアウトし、現実に戻ったのであった。




 今回はALOでのアスナが登場し、後ALO編以降の消息が不明なシグルドも登場させました。シグルドって、ALOを楽しんでいるのか疑問に思ったので純粋にALOを楽しむ事を忘れていたって設定にしました。シグルドがまたこの作品で登場するかどうかは解らないけど・・・
 次回はやっとあの赤い悪魔の様な少年が登場します。

 後、E組生徒のアバター名は引き続き活動報告にて募集していますので、意見が有れば活動報告にて。


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