俺が考えたアリーシャヒロインのゼスティリア (具志健)
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第一話 初めて会った人間

 

 ‐導師の伝承‐

はるかな神話時代、世界が闇に覆われると、いずこより現れ光を取り戻した

時代は移ろうとも、世が乱れる度に人々は伝承を語り、救いを願う

その度に導師は姿を現し、闇を振り払ったという

しかし、平和が訪れると導師は姿を消した……

彼らはどこへ……その答えを知る者はいなかった

 

いつしか人々の記憶から、伝承の中へと消えていった

 

闇は……世界を再び覆わんとしていた

 

導師の名が再び語られ始めた

だが、いまだ導師は姿を見せなかった……

―――――――――――――――――――

 

マビノギオ山岳遺跡 外部

ス「よいっしょっと。ふー、ようやく遺跡の反対側に出られた。遺跡探検は子どもの頃からよくやっていたけど、こんな断崖絶壁まで来たのは初めてだな。うん?壁に何か描いてある……。」

 

ス「壁画……?これどこかで見たような……。たしか『天遺見聞録』に……」

 

ス「やっぱり!聖剣を掲げる英雄……『導師』の壁画だ!やった!ようやく見つけた!」

 

ミ「なるほど。まさかこんな場所にあるなんてね。道理で中々見つからない訳だ。」

 

ス「ミクリオ。」

 

ミ「スレイ、僕はハズレだったよ。先を越されたね、今回は。」

 

ス「今回『は』じゃないだろ。前の勝負だって、オレの勝ちだったじゃん。」

 

ミ「前って、いつのことのことを言ってるんだい?通算では僕の方が賭けに勝っている。」

 

ス「何言ってるんだよ。ミクリオが小さかった時なんて、俺に負ける度に泣いて悔しがってばっかだったじゃんか。」

 

ミ「む、昔のことだ。そんなこと言ったら、スレイだって……。」

 

ス「お互い様。でしょ?」

 

ミ「まあ、そういうことになるな。」

 

ス「この壁画の真ん中に書かれている剣を掲げている人……やっぱり『アスカード時代』以前には導師は身近に居たんだよ。」

ミ「そう断じるのは早計じゃないか?なにより、まだこの遺跡がアスガード以前のものか確証はないんだ。模造かもしれない。」

 

ス「でも、この規模の遺跡で様式まで測った模造建築なんてしないんじゃないか?」

 

ミ「どちらにしても、それらは憶測でしかない。それをうなずける根拠を探さなきゃならない。もっとよく調べて……。」

その目線の先には、断崖絶壁な崖から見下ろす先ほどまではなかった厚い雲。ゴゴゴゴゴと雷の音も微かに聞こえてくる。

 

ミ「なんだかまずいぞ。急に雲行きが怪しくなってきた。」

 

ス「ミクリオ、あれって……。」

 

ミ「遺跡探検はここまでだ!スレイ!急いで村に戻るぞ。」

 

雷が落ちる。

 

ミ「な……足場が崩れて……。」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「くっ!」

 

スレイは咄嗟に手を伸ばし、ミクリオの腕を掴んだ。ガシ

 

ス「ふぅー、間一髪。」

 

ミ「頼むよ、早くあげてくれ。」

 

ス「わかってるって。」

 

みし

 

ス「……なんか今嫌な音しなかった?」

 

ミ「……ああ。僕にも聞こえた。」

 

みしみしみしみし

 

ス「ここもマズイ。早く引き揚げなきゃ。」

 

ミ「スレイ!そんなに力を入れたら……。」

 

ばりばりばりばり

 

ス「うわあああぁぁぁ!」

 

ミ「双流放て!ツインフロウ!」

 

ばしゃーん!

 

ス「ごほごほ、はあはあ。」

 

ミ「スレイ、大丈夫かい!?とっさの判断だったけど、上手くいったろう?これで貸し借りなしだ。」

 

ス「助かったよ、ミクリオ。一体どこまで落ちたんだろう。それにこの場所……。」

 

ミ「ああ。まさか地下にも遺跡があったなんてね。」

 

ス「落ちたのに感謝だな……。」

 

ミ「まったく。それより戻る方法を見つけないと。」

 

ス「あっ、うん。」

 

 

 

マビノギオ山岳遺跡 内部

ス「うは~、高っ!」

 

ミ「見晴らしのいい場所に出たな。どうやらさっき僕たちが落ちた場所は大広間につながる小部屋だったみたいだ。」

 

ス「うん?あれって。」

 

ミ「スレイ、どうした?」

 

ス「ほら、あそこ。誰か……倒れている?」

 

ス「あのさ、ミクリオ?あれ……人間だ。」

 

ミ「まさか!?大体、スレイも自分以外の人間を見たことないだろ。」

 

 

ス「うん。でもなんだかそんな気がするんだ。」

 

ミ「待て。例えそうだとしてどうするつもりだ。人間には関わらない方がいい。」

 

ス「放っとけない。まだ生きてんだから。ここから飛び降りるには遠すぎるか。あの人が倒れているのは大広間。だとすれば、必ずあそこに続く道があるはず。別の道を探そう。」

 

ミ「こうなると言っても聞かないか……。わかった。僕も手伝う。とにかくあたりをもっと調べよう。」

 

ス「ミクリオ……。ありがとう!」

 

 

 

二人は大広間へとつながる道を探した。

ス「中々見つからないな……。」

 

ミ「これほど大きな遺跡だからね。どこかに何か秘密があったりするかもね。」

 

カサカサ

 

ス「うん?あそこで何か動いたような?」

 

ミ「どうかした?」

 

カサカサカサカサ

 

ス「しっ、何かいる。」

 

クモ襲来

 

ス「こんなでかいクモ、初めて見た……!」

 

ミ「ぼうっとしないで、スレイ構えて!スレイ気を付けろ!こいつ、おそらく憑魔だ!」

 

ス「憑魔?本当か…?」

 

ミ「見るのは初めてだけどね……。」

 

ス「なんで憑魔なんてバケモンがこんなところに。」

 

剣で斬る音

 

クモ逃げる。カサカサ

 

ス「逃げる気か!?」

 

ミ「スレイ、よすんだ。忘れてないよね?ジイジの言葉。」

 

ス「あ……。」

 

回想

 

ジ『憑魔は、穢れが生んだ恐ろしい魔物じゃ。ヤツらを倒せるのは特別な者だけがあやつる『浄化の力』のみ。二人とも、憑魔に出会ったらすぐに逃げるのじゃ。忘れてはならんぞ。我らに憑魔を退治することは出来ないのじゃ。よいな?』

 

回想終了

 

ス「『浄化の力』がないと憑魔は倒せない……。」

 

ミ「今は追い払えただけで満足しないと。」

 

ス「なら、なおさらだな。」

 

ミ「?」

 

ス「急いで彼女を助けなきゃ。あんなのがうろついてんだから。」

 

ミ「まったく。君ってやつは……。しかし、彼女のところへ行く手段がないんじゃ話にならないよ。」

 

ミ「仕方がない。あれを試してみるか。」

 

ミクリオが氷の術を対岸に向かって放つ。橋完成

 

ス「すげーな!ミクリオ!さすが天響術だぜ!」

 

ミ「なんとかうまくいったな。」

 

ス「なぁ、その氷の術とか、さっきの水の術とか、オレにもできるようにならないかな?」

 

ミ「それはどうだろう?天響術は基本天族しか扱えないってジイジも言っていたから、厳しいんじゃないかな?」

 

ス「そっか。オレにはやっぱり無理か。いいな~、天族は。」

 

ミ「この橋も長くは持たない。行くなら急いだ方がいい。」

 

ス「ああ。」

 

 

 

氷の橋を渡り、二人は少女のもとへ向かう。

ミ「スレイ、これ……。」

 

ア「大きな槍だなあ。この子のものかな。」

 

ミ「護衛用として普通の人間が持ち歩くのも不自然過ぎる……。人間と関わることでどんなことが起こるのか。場合によっては、村のみんなを傷つけることになるかもしれない。やっぱり考え直そう。」

 

ス「……放っとけない。」

 

ミ「スレイ!」

 

ス「あの、大丈夫?」

 

「うぅ……あれ……?私は……確か森で……。」

 

ス「よかった。元気そうだ。はい、これ。キミのでしょ?」

 

「あ、ああ。すまない。」

 

ミクリオはスレイと少女との間に入ってきた。

 

「わっ!!!」

 

ス「どわあ!」

 

「?」

 

ス「どうしたんだよ、急に大きな声を出して。」

 

ミ「別に。ちょっと試してみただけさ。彼女に僕の存在を認知しているかどうか。」

 

「うん?どうかしたのか?私は何も言ってないが……。」

 

ス「あ、いや。何でもないんだ。ははは。」

 

ミ「本当の意味でタダの人間だ。」

 

ス「だな。」

 

「ありがとう……心配をかけたようだ。君は?」

 

ス「えっと、そう、オレはスレイ。」

 

「スレイ……。」

 

ス「うん。よろしく。」

 

「スレイ。この近くで落ち着ける所はないだろうか?都まで帰る準備を整えようと思うのだが……。」

 

ス「都から来たんだ。」

 

「……どうだろう?」

 

ス「うーん。オレの住んでいるとこに来なよ。」

 

ミ「スレイ!」

 

「いいのか?何者ともしれない私を案内しても?」

 

ス「困ってる人を放っとくなんてできない。そんだけ!」

 

ミ「大体名乗らないのも変だし、この年にして護身用とは思えないような大きな槍を所持している。それにこの身なりの良さ。わからないことばかりだ。あやしいと思うのが普通だと思うけど?」

 

ス「それでも、ここにおいていくほうがよっぽど危険だ!」

 

ミ「もうどうなっても知らないよ。ジイジのカミナリ、覚悟しておくんだね。」

 

ス「ああ、わかっているよ。心配してくれてありがとう、ミクリオ。」

 

ミ「礼はよしてくれ。」

 

ア「? なんのことだ?」

 

ス「ううん、何でもない。とにかくあっちだ。さあ行こう!」

 

「あ、ああ。よろしく頼む。」

 

 

 

ス「はぁ~、無事帰ってこれた!」

 

「なんという美しさだ……。まるで神話に出てくる天族たちが暮らす神殿のよう……。」

 

ス「ホントに『天族』って呼ぶんだ。」

 

「何かおかしいだろうか?」

 

ス「ううん。『神、霊、魑魅魍魎といった姿なき超常存在を、人は畏敬の念を込めて“天族”と呼ぶ』でしょ。」

 

景色に見惚れて輝いていた少女の目が、さらに見開いた。

 

「『天遺見聞録』の引用……。」

 

ス「じゃじゃん!」

 

スレイは少女の前に古い本を差し出す。

 

「君も読んだのか。」

 

ス「君も、ってことは……?」

 

「幼い頃にそれは何度も。」

 

ス「幼い頃って……。ねぇ、天遺見聞録って子供向けの本なの?」

 

「いや、大人も大勢読んでいるよ。私が早熟だったのだろう。」

 

ス「なんだ。そっか……うん、素晴らしい本だからね。」

 

「ああ。こんなところで同じ本を読んでいる人に出会えたなんて嬉しいよ、スレイ。」

 

ミ「スレイ、早く村に戻らないと日が暮れちゃうぞ」

 

ス「あっと。オレの村はここから少し行った所だから。行こうか。」

 

「了解した。」

 

二人は村に向かって歩き出した。そのスピードはかなり遅い。二人とも『天遺見聞録』やそれに載っている神話について楽しそうに話している。同じ趣味の人に出会って嬉しいのだろう。

 

ミ「和んじゃって……。どうなることやら。」

 

一人残されたミクリオは誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。

 

 

 

イズチ

ミ「何とか日が出ているうちに戻って来れたな。スレイ、僕はジイジに報告してくる。」

 

ス「黙っとくわけにいかないよな。」

 

ミ「後で来るんだろう?」

 

ス「うん。」

 

ミ「それじゃあ、また後で。」

 

ミクリオは少女を横目でみながら、村のはずれにあるジイジの家に向かっていった。少女はまわりを興味深いそうに見渡している。

 

ス「ここがオレの村。イズチだ。」

 

「カムランではなくイズチ……師匠の予想は外れだったか……。」

 

ス「カムラン?」

 

「いや、スレイはここに住んでいるんだな。」

 

少女は首を振りながらそう尋ねる。その少女をもの珍しそうに村の天族たちが見つめていた。村の天族にとってもスレイ以外の人間に出会うことはめったにないことなのである。

 

「うん。みんな、来て。紹介するよ。」

 

それを見かねて、スレイは天族たちに話しかける。とある天族の手をとり、少女の前に連れて来たり、またとある年配の天族をおぶって、少女の近くで腰を下ろさせた。その光景を少女はそれを不思議そうにみていた。少女から見たら、スレイ一人でしゃべり、一人で村を忙しそうに走り回っているように見える。とてもシュールだ。

 

ス「これが杜で暮らすオレの家族。」

 

「えー、なんて言ったらいいか……。これは?芝居?それとも何かの演出か?」

 

少女はそのスレイの言動にひどく困惑しながら言った。その様子をみて、スレイは少し寂しそうな表情を浮かべた。

 

ス「そうか。やっぱり天族は見えない、か。……何でもない。忘れて。」

 

「君はおもしろい人だな。」

 

ス「……はは。あれがオレんち。先行って休んでてよ。オレ、ちょっと用あるから。」

 

「村の中を拝見しても?」

 

ス「いいけど、みんなを怒らせないでね。」

 

「みんな?………………。なるほど。ここは天族の杜、と言いたいのだな。」

 

ス「そう!それ!」

 

「では、粗相のないようにしなければ。ふふ。」

 

少女は目をさらに輝かせながら村を散歩しに行った。

 

ス「さって。ミクリオ、ジイジに上手く話してくれてるかな……。」

 

 

 

ジイジの家

コンコン ガチャ

 

ジ「む、来たか。」

 

ミ「……ま、スレイから直接聞いてください。」

 

ジ「しょうのない……。スレイや、そこに座れ。」

 

ジイジに促され、スレイはミクリオの隣に腰を下ろした。

 

ジ「このバッカもーーーん!」

 

スレイが腰かけるや否や、ジイジは村全体に響き渡るような大きな声でスレイを怒鳴った。

 

ス「ただいま……ジイジ。」

 

ジ「なぜ人間を我らの地に連れ込んだ!」

 

ミ「ジイジ……スレイの言い分も聞くって言ったじゃないですか。」

 

見かねて、ミクリオが間に入る。

 

ジ「今から聞くとこじゃ!スレイや、わかっていながら戒めを破ったのか?」

 

ス「ごめんよ、ジイジ。放っておけなかったんだ……。」

 

ジ「この地に禍をもたらすだけだ、人間は。」

 

ス「オレも――人間だよ。」

 

ジ「お前はワシらと共に暮らしてきた事でワシらの存在を捉え、言葉を交わす力を育んだ。普通の人間には出来ぬことじゃ。この大きな違いがわからぬお前ではないだろう。」

 

ス「確かに……あの子に霊応力はないみたいだった。」

 

ミ「それでもスレイにとって初めて出会った人間だったんです。」

 

ス「ミクリオ……。」

 

ジ「だが、同じものを見聞き出来ねば、共に生きる仲間とは言えん。」

 

ジ「ワシはこの地を護りながら、赤ん坊の時からお前たち二人を育ててきた。」

 

ス「うん、感謝してる……。」

 

ジ「それはお前たちが他のみなと同様に、この杜を守る存在となるからだ。無用な侵入者は排除せねばならない。みなの平和な暮らしのために。」

 

ス「はい……。」

 

ジ「では、行くのじゃ。処遇は追って伝える。」

 

ス「わかった。」

 

スレイは立ち上がり、家から出ていった。その場に残ったミクリオがジイジに話しかける。

 

ミ「ジイジ……。」

 

ジ「わかっておるよ。ミクリオ。あの子の気持ちはまっすぐで正しい。だからこそ、ワシは心配なのじゃ。」

 

 

 

 

ス「共に生きる仲間、か……。」

 

マ「おーい、スレイ。」

 

ス「マイセン。」

 

マ「その顔、さてはジイジにこってり絞られたな。」

 

ス「うん。予想はしてたけど。」

 

マ「はっはっは。あの人間の娘を探しているのか?あの子なら、お前の家の前でぐっすりだぞ。」

 

ス「教えてくれてありがとう、マイセン。すぐ行くよ。」

 

マ「はいよ。いやー、しかしまさかスレイが女の子を連れてくるなんてよ。おまえも隅におけないなー。」

 

ス「別にそんなんじゃないよ。」

 

マ「何か困ったことがあったら俺に言ってくれよ。女の子のおとし方の一つや二つ、伝授してやる。」

 

ス「おとし方って……。マイセンが女の人にモテてるとこ見たことないけど。」

 

マ「おお、スレイも言うようになったな。とにかく、俺はお前の味方だからな。応援してるぜ、お前たちのこと。」

 

ス「マイセン……ありがとう。」

 

マ「さっ、あの子が待ってるぜ。」

 

ス「うん。すぐ行ってくるよ。」

 

マイセンは小さい時から遊んでくれたお兄さんみたいな存在だ。少々軽いところが玉に傷であるが。

家に戻ると、マイセンが教えてくれたくれた通り、彼女は家の壁を背に眠っていた。余程疲れていたのだろう。そよ風に当たりながら気持ちよさそうに寝ている。

 

「スース―。」

 

ス「ごめん、遅くなって。疲れてたよね?」

 

スレイが声をかけると少女は背伸びをし、目を擦りながら口を開いた。

 

「うぅ……大丈夫だ。用は済んだのか。」

 

ス「うん。どう?村の中は楽しめた?」

 

「ああ。だが、ずっと誰かに見られているようでなんだか……。」

 

ぐー。

 

ス「ゴハンにしよっか。」

 

「すまない……実はもう限界だった……。」

 

ス「じゃ、オレの家に行こう。さあ入って。」

 

スレイは少女を連れて家の中に入っていった。

 




初めまして、作者です。本日から『俺が考えたアリーシャヒロインのゼスティリア』を連載していきます。今のところ、6000字~8000字程度の分量を一話分とし、毎日一話ずつ公開していきたいと考えています。今後ともよろしくお願いします。


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第二話 導師の夜明け

アリーシャがスレイの家で食事をとるところから


スレイの家

ス「おまたせ。さあ召し上がれ。」

 

「これは?」

 

ス「オレの自信作。」

 

「……いただきます。」

 

パク

 

「おいしい!」

 

パクパクパク

 

ス「それはよかった。」

 

ス「…………。ねぇ、君の住んでいる所って、どんなとこ?」

 

「都。私が暮らしているのは、ハイランド王国の都レディレイク。」

 

ス「レディレイクって……聖剣伝承の!?」

 

「知っているのか?」

 

ス「天遺見聞録にあったよ。湖の乙女の護る聖剣を抜いた者が導師になるって伝承があるんだよね?」

 

「ああ、恵まれた水源を持つ都で、酒と祭りが好きな、陽気な人々で溢れていた。」

 

ス「溢れて『いた』?」

 

「……昔はそうだった。」

 

少女の顔が次第に暗くなる。スレイは暗い空気を払しょくしようと話題を変えた。

 

ス「下界の人たちは大変なんだな。」

 

「下界?」

 

ス「山を下りた先のこと。オレ、ここから出たことないんだ。」

 

「一人でずっとここに?スレイこそ大変な境遇だったのだな……。」

 

ス「はは。そうだ、明日からの帰り支度、手伝うよ。何がいる?保存食とかカバンとか?」

 

「そうだな、あと少々の道具類と寝袋があれば。」

 

ス「わかった。じゃあまずは狩りだね。明日案内するよ。」

 

「ありがとう。感謝する。」

 

スレイは自身が普段使っているベットを指さす。少女はそこに横になり程なくして吐息をたてて深い眠りについていった。

 

 

 

夜、スレイの家の外

ミ「彼女にもっといろいろ聞いたほうがいいんじゃないか?」

 

ス「やめとくよ。」

 

ミ「君が聞きたいようなことも、一緒に聞けるかもしれないよ。」

 

ス「それこそ悪いだろ。そうとう疲れているみたいだし。」

 

ミ「名前も告げない相手にずいぶんな気遣いだね。」

 

ス「だからだろ。同じ立場だったらそっちだって無理に聞き出したりしないくせに。」

 

ミ「ふぅ……。ジイジからの伝言。」

 

深いため息の後、ミクリオはこう続けた。

 

ミ「『いつあの者が穢れをもたらすかわからぬ。みなの平和の暮らしのため、一刻も早くあの者を下界へと退かせよ。しかし、いたずらに人間を追い立て、かえって穢れを呼び起こしてしまう事態は避けたい。それゆえ、出立の支度が整うまでは待つ。急ぐのだぞ、スレイ。』だってさ。」

 

ス「えっ、それだけ?」

 

ミ「ああ、それだけだ。」

 

それを聞いたスレイは満面の笑みを浮かべた。

 

ス「ありがとう、ミクリオ!」

 

ミ「礼ならジイジに言ってくれ。」

 

ス「ああ。」

 

ご機嫌に家へ入っていくスレイをミクリオは温かい目で見送った。

 

 

 

次の日の朝。スレイと少女は村のはずれの森にいた。

ス「いたよ。ウリボウ。」

 

「あれがウリボウ。」

 

ウリボウを見せる

 

ス「あいつの肉は燻製にしたら保存も利くし、なかなかイケるんだ。皮も素材として色々と使えるしね。」

 

「少々気に毒だが……。」

 

ス「やめとく?」

 

「いや。現実は心得てる。それに都では得られない経験だ。」

 

少女は覚悟を決めた顔を浮かべながら、標的となったウリボウをじっと見つめている。

 

ス「なるほど。今だ!いくよ!」

 

暗転

 

「はああ。」

 

ばしゅ

 

ス「すごい槍さばきだ!」

 

「ありがとう、君こそたいしたものだ。」

 

ス「うん。こんだけ狩ればもう十分だ。」

 

「あの、あとはどうすれば?」

 

ス「大丈夫、燻製肉も皮のカバンも寝袋も作り方教えるよ。」

 

「何から何まで助かるよ。」

 

ス「じゃあ今日は帰ろう。」

 

 

 

家に帰る

ス「体調はどう?」

 

スレイが少女に声をかける。少女は燻製を見つめたまま答える。

 

「だいぶいい。」

 

ス「そりゃあよかった。」

 

「本当に感謝している。スレイはこの村にずっと一人だと言ったが……」

 

ス「うん?」

 

「そうじゃない気がする。スレイがここを村と言ったように。不思議だな、何か感じるんだ。」

 

少女はそう言って、スレイを見て笑った。

 

ス「そうか……。出発はいつ?」

 

「明日にも立とうと思っている。長い間世話になった」

 

ス「どういたしまて。今日は早めに休んだら?準備は俺がしとくから。」

 

「しかし、それではスレイが……。」

 

ス「俺なら大丈夫。こういうの慣れてるから。」

 

「……ありがとう。その好意に甘えさせてもらうよ。」

 

ス「任せといて。それじゃあおやすみ。」

 

「ああ。おやすみ、スレイ。」

 

 

 

夜。スレイの家の外

ミ「準備は終わったみたいだね。」

 

ス「うん。」

 

ミ「ジイジに感謝しなよ。」

 

ス「わかってる。」

 

ミ「君のおかげでこっちはヤキモチさせられたけど、とりあえず何も起こさずに終われそうだ。」

 

ス「よかったよな~あの子。ちゃんと帰れそうで。」

 

ミ「うん?」

 

ス「オレここで生まれた訳じゃないし、天族でもないけど、このイズチがすごい好きだからさ。あの子にとっても、きっと都がそういう場所で、だから無事に帰れそうでよかったなって。」

 

スレイは手に持った『天遺見聞録』を見ながら言った。まだこの世界にはスレイが知らない世界がある、そう本が語りかけているようだ。

 

ミ「そうだな。自分が育ったり、今暮らしている場所を大切に思う気持ちは、僕らも人間も同じなんだろうし。」

 

ス「面倒をかけたよな。」

 

ミ「面倒はかけられてないけど、心配はさせられたよね。いつものことだけど。」

 

ミクリオは皮肉交じりに笑った。

 

ス「天族と人間と、もっと当たり前に一緒にいられたらいいのにな~。オレ達みたいに。」

 

「スレイ?」

 

少女は扉を開き、顔だけを覗かせながら言った。

 

ス「あっ、起こしちゃった?ごめん。」

 

少女はスレイのとなりに立ち、小さく首を横に振った。

 

ス「よほどのお気に入りなのだな、その本が。」

 

ミクリオフェードアウトさせていく

 

スレイが抱えているその本、『天遺見聞録』を指さしながら言った。

 

ス「うん。子どもの頃から何度も読み返して―――。」

 

「―――いつか世界中の遺跡を回るのが夢なんだ。天遺見聞録を読んだ者、皆がそう言う。かくいう私もその一人。だが今、世界に遺跡探究の旅などという余裕はないんだ。十数年前から、世界各地は人智の及ばないような災厄に見舞われている。」

 

ス「……災厄?」

 

「謎の疫病に止まない嵐、死人が歩き回ったなどとめちゃくちゃな噂まである始末。」

 

ス「ちょ、ちょっと待って。なんていうか……。」

 

「信じられない?それとも面白そう?」

 

少女は少しばかり笑みを浮かべる。

 

ス「あ、いや……。」

 

「だが、事態は深刻だ。」

 

「災厄によって引き起こされた大陸全土の異常気象。それが原因で近い将来、作物の実りがなくなり飢饉がやってくるだろう。最大の問題は、窮した国々の間で、略奪戦争が起きるかもしれないという事。そうなってはもう止められない。」

 

ス「何か手はないの?」

 

「見当もつかない……伝承にすがる程に……。」

 

少女は悲しい表情を浮かべ、顔をうつむかせる。

 

ス「だから遺跡を?」

 

スレイの問いに、少女ははっとして顔を強張らせる。問いには答えず、スレイを見つめている。

 

「それは……。」

 

ス「いいよ。無理に話さなくても。さ、明日も早いんでしょ。家に入ってもう寝よう。」

 

これ以上言及しても彼女を困らせるだけだ。そう思い、スレイは不安を募らせる少女の手をとり、家の中へと入っていった。

 

 

 

ぐおおおおおん

ス「はっ、この胸を締め付ける感覚は……。」

 

ジ「聞け!皆のもの!何者かが侵入した!探すのじゃ!気配を隠したことからおそらく憑魔じゃ!心して探索にあたれ!」

 

ス「憑魔が……。村の中はジイジの結界で守られているはずなのに……。」

 

ス「とにかく外へ出よう。」

 

 

 

ミ「スレイ!」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「彼女は?」

 

ス「家で寝ているよ。作戦は?」

 

ミ「森には先行して、マイセンが向かっている。僕たちは森の右から回り込み、三人で挟み撃ちにする。」

 

ス「うん。いつもの訓練通りだね。了解。」

 

ミ「今回も無理は禁物。」

 

ス「それも了解!」

 

 

 

森へ進む

ミ「そろそろマイセンとの合流ポイントだ。油断するなよ。」

 

ス「ああ。」

 

マ「ぎゃあああぁぁぁぁ!」

 

ミ「今のは、マイセンの声?」

 

ス「こっちからだ!」

 

悲鳴が聞こえた方向へ全速で走る。打ち合わせ通り森を右から回り込み、マイセンが待機しているはずの場所へ向かう。そこには倒れているマイセンと見知らぬ男の二人がいた。

 

ス「マイセン!」

 

「おかしいねぇ。ここにはメインディッシュしかないはずなんだが……。また新たに二人もお出ましかい。」

 

ミ「なんだこいつは……これが憑魔だって言うのか……。ここは君が来るような所じゃない。立ち去るんだ。」

 

「クックク、カッカッカ。天族の小僧が生意気に。全身恐怖が丸出しになってるぜ。ほら、力んで腕もガチガチ。ぐふ。お前さん旨そうな匂いがするねぇ。」

 

ミ「何……だって?」

 

キツネ男は不気味な笑みを浮べ続ける。

 

「言わせるのかい?お前さんを喰いたいって。」

 

ス「ふざけるな!」

 

スレイ攻撃。だが弾かれる

 

ス「ぐはあ。」

 

ミクリオ捕まえるキツネ

 

「やっぱりうまそうだな。」

 

ス「ミクリオから離れろ!」

 

ばしゅ

 

ス「大丈夫かミクリオ。」

 

ミ「ごほ。ああ、なんとか。」

 

「死ねええ!」

 

ス「来るぞ!」

 

 

 

暗転

ス「はああ!」

 

「ぐううう」

 

ミ「口ほどにもないじゃないか。」

 

ス「さあ、まだやんのか!」

 

ミ「去れ!」

 

「何言ってるんだ。これからが本番だろうが!」

 

キツネ男の穢れが一気に噴き出した。先ほどまでは本気ではなかったのか。スレイとミクリオの表情が次第に曇っていく。男が放つ穢れとその不気味な笑みに飲み込まれそうだ。

 

ス「なっ、力が一気に噴き出して……。」

 

ミ「こいつ、今までは手を向いていたのか……。」

 

「お食事の時間だあああ!」

 

ミ「ま、マズイ!スレイ!」

 

ス「しまっt――」

 

ジ「去れ。邪悪なる者よ。」

 

ミ「この声は……。」

 

ス「ジイジ!みんな!」

 

助太刀いっぱい

 

ジ「二度は言わぬ。ワシの領域から出て行くのじゃ!」

 

カイム「それともみんなで相手してやろうか。」

 

天族がみんな一斉に構える。

 

「ふん……つまみ食いにかまけてメインディッシュを逃すのは面白くない。」

 

森全体に響き渡る高笑いと共にキツネ男は姿を消した。

 

ジ「消えたか!皆の者探せ!マイセンのことはワシに任せて、みなは周囲の護りを固めるのじゃ。」

 

天族たちは散り散り、消えた侵入者の捜索を始めた。

 

ス「マイセン!大丈夫か!?」

 

ミ「大丈夫だ。気を失っているが、命に別状はない。」

 

ス「ジイジ、さっきのキツネ人間は憑魔だったのか?オレたちと話せるなんて……。」

 

ジ「うむ。あれは人間が憑魔と化した姿じゃ。憑りつかれたといってもいい。」

 

ス「人が憑魔に……?」

 

ス「ジイジ、ごめん、オレ……。人間をイズチにまで連れてきちゃったから、あんな奴が……!」

 

ミ「それは違う!あの憑魔は君のせいでも、ましてや彼女のせいでもない!」

 

ジ「ミクリオの言う通りじゃ。あのような者が現れた責任を問いただすことなどできんじゃろうて。確かにあの娘を遠ざけておれば、邪悪な者はこの地に入り込むことはなかったのかもしれん。じゃがそれは自分たちさえ平和であればよいという身勝手な考えでもある。」

 

ジ「里の守りを固めることがいつしか閉塞のもとになっていたのかもしれん。この地の平穏は外の世界とも関係している。それを無視するようなことは我らとしてあってはならんことだ。お前は傷ついた人間を助け、そして邪悪なる憑魔は皆が力を合わせることで追い払った。」

 

ジイジはスレイに言う。それはまるで自分にも言い聞かせているようだ。

 

ス「ジイジ……。」

 

ジ「急ぎ、あの娘のところって行ってやれ。人間の目には憑魔は大きな災害として映る。さぞ、不安な時を過ごしていることだろう。」

 

「スレイ!」

 

ス「わあ!!!」

 

ジ「噂をすれば、じゃの。」

 

急に後ろから話しかけられて、スレイは大きな声を出してしまった。そこには木の陰からこちらの様子をおそるおそる伺っている少女の姿があった。

 

「すまない。驚かせるつもりはなかったんだが。」

 

木の陰からスレイのもとに向かい、スレイの顔を見つめる。その表情は硬く、とても不安そうな顔を浮かべている。

 

「こんな夜中にどうしたんだ?なにやら大きな音と光をみたんだが……。」

 

ス「ああ……、えーっと。」

 

ミ「スレイ、彼女を家まで連れて行ってやれ。キツネ男がまだ近くにいるかもしれないこの時に、普通の人間が外を出歩くのは危険だ。」

 

ス「わかった。マイセンのことは頼んだよ。」

 

「スレイ?誰と話しているんだ?」

 

ス「ああ、ごめん。えーっと、何の話だっけ。」

 

マイセンのことはミクリオに任せておいて大丈夫だろう。ミクリオはマイセンをおぶり、ジイジとともに戻っていった。

 

「夜中に大きな音で目が覚めると、スレイがいなくて、探しに出ていたんだ。途中、不思議な光を何度か見つけたので、そちらのほうに向かったら、ここにたどり着いた。スレイ、何かあったのか?」

 

ス「えーっと。ちょっと悪いやつがいたから追っ払ったんだ。起こしてしまって、ごめんね。」

 

「悪いやつ?魔物かなにかか?」

 

ス「そう!それ!そんな感じ!」

 

「魔物と戦っていたのか!?スレイ、大丈夫か!?ケガしてないか?」

 

スレイの手を取り、体の様子を確かめる。そして自分が咄嗟にとった行動に恥ずかしくなったのか、

 

「すまない。」

 

と小さな声で呟き、手を引っ込めた。

 

ス「大丈夫、大丈夫。君こそ大丈夫?ここまで一人でくるまでに何か変わったことはなかった?」

 

「いや、特には。」

 

ス「そうか。とにかく、もう遅いし、家に戻ろう。明日も早いんでしょ?」

 

「そうだな。スレイ、よろしく頼む。」

 

 

 

朝 門の前

「スレイ、本当に世話になった。」

 

ス「ホントにここまででいいの?」

 

「ああ。これ以上迷惑はかけられない。」

 

ス「そっか。」

 

「……。」

 

少女は無言で俯く。その表情は悲しそうな寂しそうな、そのような複雑な顔をしている。

 

ス「大丈夫。渡した地図通りに行けば森も迷わないよ。」

 

「あ、いや、それは信用している。」

 

「…………。」

 

少女は顔を上げ、スレイをまっすぐ見つめる。だが、スレイの顔を見ると再び俯いてしまった。その様子を見て、スレイは優しく少女に声をかける。

 

ス「ねぇ、レディレイクまではどれくらい?」

 

「そうだな、二、三日という所だろう。」

 

ス「近っ。そうだったんだ。」

 

「だが山麓の森は深くないのに、迷ってしまうことが多いんだ。」

 

スレイは、振り返り同じく見送りにきた天族たちを見る。ここは天族が護る社。ジイジの領域の力のせいで、外界と遮断しているのだろう。

 

ス「あっ……、ジイジの結界のせいだな……。」

 

「アリーシャ。」

 

ス「え?」

 

少女が顔を上げながら呟いた。先ほどまでの寂しそうな表情とはうって変わって、真剣そのものだ。

 

ア「私の名はアリーシャ・ディフダ。」

 

ス「アリーシャ……。」

 

ア「君は何も言わずに、何者とも知れぬ私を助けてくれた。それに引き替え、私は我が身可愛さに名すら告げず……騎士として恥ずべき事であった。どうか……許して頂きたい。」

 

ス「そんなこと……。」

 

ア「スレイ、私は。」

 

ス「ん?」

 

ア「私は、天族は本当に存在していると思う。天遺見聞録に記された数々の伝承はお伽噺などではないと。」

 

ア「今、世界中で起きている災厄……。それを沈められるのは伝承に残る存在なのではないかと。」

 

ス「導師、だね。」

 

ア「……君は笑わないんだな。都では殆どの者がバカにしたのに。」

 

ス「オレも信じているから。」

 

ア「君は本当に気持ちのいい人だ。レディレイクの都ではまもなく聖剣祭が始まる。導師伝承をなぞらえた『剣の試練』も行う予定だ。スレイ。『剣の試練』に挑んでみないか。」

 

ス「え……。」

 

ア「では、行く。スレイ、今の話、考えてみて欲しい。」

 

アリーシャはスレイに背を向け歩き出す。

 

ス「どうしてオレを?」

 

スレイがアリーシャを呼び止めると、歩みを止めた。そしてそのまま言った。

 

ア「伝承にある導師……それはきっと……。」

 

ここまで言って、アリーシャはこちらを振り返る。

 

ア「スレイ、君のような人物だと思うから。」

 

ス「導師……オレが……」

 

ア「スレイ、また会える日を楽しみにしている。」

 

ス「アリーシャ……。」

 

そう言って、満面の笑みを浮かべると、アリーシャは下界へ帰っていった。スレイはアリーシャが言っていたことに対して答えを出せず、ただただ彼女の背中を見えなくなるまで見送ることしかできなかった。

 

 

 

『聖剣祭』『剣の試練』『導師』。アリーシャが言っていたことが繰り返し、頭の中を巡る。彼女がこのイズチを旅立ってから数日経った今でも、スレイはそのことばかり考えていた。『剣の試練』に参加するため下界に降りるか、それともこのまま村に留まり天族達と今まで通り平和に暮らすか。一日中家のベットで考えていたが、その答えは出なかった。

 

ス「アリーシャ、か。森で迷ってなきゃいいけど。」

 

キツネフラッシュバック

 

『くかかかか』

 

ス「それにしても、あのキツネ……一体何しに……。」

 

回想

『おかしいねぇ。ここにはメインディッシュしかないはずなんだが……。』

『メインディッシュを逃すのは面白くない。』

回想終わり

 

ス「あいつがここに現れたのは、人間がイズチに入ったからじゃなくて……。ホントにアリーシャを狙って……!こうしちゃいられない。」

 

スレイは急いで荷造りを始めた。このままではアリーシャが危ない。このことをアリーシャに伝えなければ。そう思うと、即行動に移っていた。

 

 

 

あっという間に支度を済ませ、スレイは今朝アリーシャと別れたイズチの出入り口に来ていた。夜は深まり、村のみんなは寝静まっている。

夜 門の前

ス「黙って行って……驚くだろうな。」

 

人間である自分を赤ん坊の時から世話を見てきてくれた天族のみんなに感謝の気持ちをこめて手をあわせた。

 

ス「みんな。ごめん!」

 

ミ「何が?」

 

ス「わ!ミクリオ!?どうして!?」

 

隣にはミクリオが立っており、スレイの驚いた顔を覗き込んでいる。

 

ミ「抜け駆けなんてさせないさ。」

 

ス「え……。」

 

ミ「僕も行く。」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「歩きながら話そう。時間が惜しい。あのキツネ男の言葉……。狙いはアリーシャと考えるのが自然だ。」

 

ス「ミクリオも気付いてんだ。」

 

ミ「当然。さ、急ごう。」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「なんだよ。改まって。」

 

ス「来てくれて、すげーうれしい!」

 

ミ「ウソひとつつけない君じゃ、人間の中ではやっていけないだろうからね。」

 

ス「ジイジ……怒っているよな。」

 

ミ「ジイジは覚悟していたのさ。いつか君が旅立つことを。」

 

ス「大げさだなぁ~。一生会えなくなるわけじゃないのに。」

 

ミ「わかっているんだ、ジイジには。旅立ったら、君はもう人間の中で生きていくって。ジイジからの伝言だ。『自由に、自らの思う道を生きよ。お前の人生を精一杯。』……だってさ。」

 

ス「ジイジ、今までありがとう。」

 

ミ「行こう。」

 

マイセン「おいおい、どこに行くんだ。お二人さん。」

 

ス「マイセン!」

 

ミ「体はもう平気なのか?」

 

マイセン「おかげさまでこの通り。ピンピンしてるぜ。」

 

マイセン「話は聞かせてもらった。スレイ、ミクリオ、下界へ行くんだな。」

 

ス「ああ。」

 

マイセン「とうとうこの日が来たか……。」

 

ス「マイセン……、今までありがとう。」

 

マイセン「みんなには上手くいっておく。たまには帰ってこいよ。おまえが人間だろうと、ここがお前の故郷だ。苦しくなったらここに戻ってこい。愚痴ぐらいいくらでも聞いてやるさ。」

 

マイセン「さあ、行ってこい。スレイ、ミクリオ!」

 

ス「いってきます。」

 

去った後

 

マ「スレイ、ミクリオ……、頼んだぞ。世界を――」

 

マ「救ってくれ。」

 

 

ミクリオが先導して、その後をスレイが追いかける。ここから先は二人が踏み入れたことがない世界が待っている。その期待を胸に二人は外の世界は飛び出していった。

 

 

人はあまりに無力だ。それ故、時代が窮すると導師の出現を祈る。この後『災厄の時代』と呼ばれた時代に現れた導師の物語が幕を開ける

 




こんにちは、作者です。第二話です。ちょうど原作発売前の宣伝アニメ『導師の夜明け』までの内容ですね。ここまでの展開はおおよそ原作通りですが、細かい台詞の改変や、マイセン生存などオリジナル展開が少しずつ顔を出し始めています。次回は、いよいよオリキャラが登場します。いけ好かない兄さんですが、どうか彼をよろしくお願いします。ではまた三話でお会いしましょう。


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第三話 導師の誕生

イズチを旅立ったところから


レイクピロー高地

ス「ここが下界か~。」

 

ミ「意外と近かったね。」

 

ミ「まずはアリーシャのいるレディレイクへ行こう、スレイ。」

 

ス「おう!でもレディレイクまでどうやって行くんだ?オレ達、道知らないし……。」

 

ミ「手探りで行くしかないね。どこかに人が使っている整備された道があるはずだ。まずそれを探してみよう。」

 

ス「だな!……あれっ、あそこに人がいる。あの人に道を聞いたほうが早いんじゃないか?」

 

ミ「ホントだ。丘を下りていった先の木陰で休んでいる人がいる。」

 

ス「オレ聞いてくるよ!」

 

ミ「スレイ!?」

 

 

 

木陰

ス「眠っている、のかな?」

 

「……起きているよ。」

 

男はだるそうに口を開いた。続いて、大きく背伸びをして重そうな目をゆっくり開いた。

 

「やあ、おはよう。」

 

ス「起こしてしまってすみません。」

 

「いや、いいんだ。キミのおかげで寝過ごさずに済んだ。ありがとう。ボクはケイン。よろしく。」

 

ケインと名乗る男は目を擦りながら話す。

 

ス「こちらこそよろしくお願いします。オレはスレイって言います。」

 

ケ「で、ボクになんの用だい?寝ている人を起こすぐらい急いでいた、または困っていたんだろう?」

 

ス「いや、それほどのことではないんですけど、レディレイクまでの道を教えてくれませんか?」

 

ケ「レディレイク?あのハイランドの都のかい?ここから東の方向へ行った所だよ。」

 

ケインは右手でその方向を指さし、余った左手で口元を抑えてあくびをしながら言った。スレイとミクリオは教えてもらった方向を見つめる。よく見たら、遠く街らしきものが見える。

 

ス「東か~。ありがとうございます。」

 

ミ「これでアリーシャのところへ行けるね。」

 

ケ「どういたしまして。ちょうどボクもレディレイクへ行くところだったんだ。道案内するかわりといってはなんだが、ボクもスレイ君についていっていいかい?」

 

ケインは急ぎ旅支度を始めている。手馴れている様子であっという間に荷物をまとめ上げた。

 

ス「いいですよ。助かります、ケインさん。」

 

ミ「まあ、デメリットもないしね。」

 

スレイはケインの提案を承諾した。ミクリオからも異論はない。

 

ケ「おいおい、敬語はよしてくれないか。普通でいいよ、普通で。」

 

ス「わかった、ケイン。これからよろしく。」

 

ケ「こちらこそよろしく。さあ行こうか。」

 

 

 

道端

ス「ケイン、レディレイクまでは後どれぐらい?」

 

ケ「もう少しで見えてくるよ。そう遠くはない。」

 

ス「ケインはこのへんに住んでるの?」

 

ケ「いいや。ボクは旅人さ。世界中を回っているんだ。出身はローランスだ。」

 

ス「ローランス?」

 

ケ「ローランスも知らないのかい。ローランス帝国。ハイランドと並ぶ大国さ。」

 

ス「そうなんだ。」

 

ミ「アリーシャが言っていたハイランドと戦争がおきそうって国の事かな。」

 

ス「ケイン、ここ最近、レディレイクへ向かうアリーシャって人を見なかった?」

 

ケ「アリーシャ?」

 

ス「そう、アリーシャってオレと同じ年ぐらいの女の子。」

 

ケ「アリーシャって、あのアリーシャ・ディフダのことかい?ハイランド王国のお姫様の。」

 

ス「お姫様!?」

 

ケ「あれ、違ったかい?」

 

ス「ううん。たぶんその人だ。ちょっと驚いただけ。」

 

ケ「? そういえば、アリーシャ姫がここを通って都に戻ったという話をすれ違った商人たちが言ってたな。」

 

ス「よかった。無事に都に帰れたみたいだ」

 

ミ「まさかお姫様だったなんてね。姫が騎士で、しかも遺跡に捜索?一体どんな事情が……。

 

ス「考えてもしょうがない。あのキツネ男も街に入って彼女を狙っているかもしれない。早くアリーシャに知らせてあげなきゃ。」

 

ケ「そろそろ着くよ、あれが湖上の街レディレイクだ。」

 

 

 

ス「すごい……、湖の上に街がある……。」

 

ケ「街へ入る手段は陸上から橋を渡るしかない。それらの自然は美しさもさることながら、一国の首都を敵襲から護る天然要塞という側面もある。実に考えられた都市だ。もちろんボク達も橋を渡っていくしかないわけだけど……。」

 

ス「『現在馬車が壊れて封鎖中』って書いてあるね。」

 

ケ「旅をしているとこういうことは稀にあるんだ。仕方ない、復旧するまで気長に待つか。」

 

「あれ、ケインじゃん!久しぶり~。」

 

ケ「やあ、ロゼさん。久しぶりだね。元気そうで何よりだ。」

 

ロ「元気、元気、超元気。」

 

ケ「そりゃよかった。仕事の方は順調?」

 

ロ「うん。ようやく軌道に乗ってきた感じ。その人は?」

 

ケ「彼はスレイ君。ここへ来る道中で会ったんだ。」

 

ロ「……そうなんだ。よろしく、スレイ。」

 

ケ「スレイ君、こちらはロゼさん。」

 

ロ「あたしらは『セキレイの羽』。商人のキャラバン隊だよ。」

 

ス「オレはスレイ。よろしく。えーっと、キャラバン隊って事は旅してるの?」

 

ロ「そう!世界を股にかけてんだ。」

 

ス「へぇ!」

 

ロ「しばらくレディレイクに滞在するつもりだ。なんか入り用なら遠慮なくいってね。」

 

ス「うん。ありがとう。」

 

ミ「営業する前に馬車をなんとかして欲しいんだけど。」

 

ロ「馬車はもう少しで直せると思うから、ちょっと待っていてね。そうそう、最近面白い商品を仕入れてね。ちょっと見てく?」

 

ケ「このままただ待つのも退屈だし、そうしようかな。」

 

ロ「そうこなっくっちゃ。これなんかどう?ケインが前欲しがっていたやつが入荷してさ――」

 

 

 

暗転

ロ「みなさん、ご迷惑お掛けしました!」

 

ミ「橋が通れるようになったみたいだな。」

 

ス「ようやく街の中に入れるよ。」

 

ケ「スレイくんはこれからどうするんだい?」

 

ス「そうだな……、街の見学もしたいけど、まずはアリーシャかな。」

 

ケ「なるほど、わかった。ちょっと待ってて。」

 

サラサラ

 

ケ「はい、これ。レディレイクの簡単な地図。アリーシャ姫の邸宅までの道のりを大まかに書いておいた。」

 

ス「ありがとう、ケイン。」

 

ケ「どういたしまして。無事アリーシャ姫に会えるといいね。それじゃあ、また会える日まで。」

 

ケイン、フェードアウト

 

ミ「ロゼに、ケイン。それにアリーシャ。人間は穢れを生みだす存在だと聞かれていたけど、いい人もちゃんといるんだな。」

 

ス「だな!オレも嬉しいよ。」

 

 

 

レディレイク

ス「すっげえ!ここがレディレイクの都か~。」

 

ミ「なるほど……。人間の街はこんな感じなのか。ちょっと圧倒されるな。」

 

ス「だよなー!ほら、あそこ、人だかりが出来てる。」

 

ミ「ホントだ。地図には聖堂って書いてあるな。アリーシャの家はこの先だ。」

 

ス「は~、聖堂ってこんなに華やかなものなのか。」

 

ミ「さすがに導師伝承が残る街だね。それだけに気になる……。加護領域を感じない。」

 

ス「そういえば……イズチではジイジの加護を常に感じてたのに。」

 

ミ「ジイジが特別大きな力を持っているからあれほどだったとしてもだ。この街はとにかく穢れが強い……。ちょっと気分が悪くなるぐらいだ。」

 

ミクリオが手で頭を抑える。

 

ス「あ、大丈夫なのか?ミクリオ。」

 

ミ「まだね。正直長居するのは遠慮したくなってきてる。」

 

ス「オレたちってホント無力だよな……。穢れを感じているのに。」

 

ミ「もどかしいけど……しょうがない。僕たちに浄化の力なんてないんだから。それに穢れを生みだしているのは人間だ。」

 

ス「こんなに華やかな街なのにな……。」

 

ミ「これが普通なのかもな。人間の街では。」

 

ス「アリーシャが心配だ。屋敷へ急ごう」

 

 

 

アリーシャの家

ス「ここがアリーシャの家か……。」

 

ミ「立派な屋敷だ。さすが姫様だね。」

 

ス「アリーシャいるかな?」

 

ばうばう!

 

ミ「急にどうしたんだ?今まで大人しかった犬が突然……。」

 

ス「ミクリオ、あそこ!」

 

そこには、淡い炎がゆらゆらと宙で揺れていた。その中から人影が音もなく現れた。

 

「とんだ邪魔が入ったねぇ。」

 

男はこちらを見て、裂けている口を引きつらせ、不気味に笑いながら路地の奥へ駆け出した。

 

ス「見つけた!間違いない、キツネ男だ!」

 

ミ「追いかけよう!」

 

 

 

路地裏

「ちっ、行き止まりか。」

 

ミ「スレイ、あそこだ。」

 

「もう追いついて来やがった。しつこいねえ。」

 

ス「お前の好きにはさせないぞ!キツネ!」

 

「あくまで邪魔ぁするってか。」

 

男は火の玉を二人目がけて放った。ミクリオの術で相殺を図るが、押し負けてしまった。スレイは果敢に斬りかかるが、軽く止められ投げつけられる。

 

ス「にゃろっ!なんだって前より強いんだよ!?」

 

ミ「イズチでもジイジの加護領域がこいつを弱体化させていたのかもしれない。」

 

「丸焦げになって後悔しな!そーらっ!」

 

ス「ぐああ。」

 

ミ「くっ。」

 

「くっくっく。今回はしっかり殺すぜぇ。雑魚のくせに俺の邪魔しやがったんだからなぁ!」

 

「死ねえええ!」

 

ス「ミクリオ、危ない!」

 

シュ

 

「ぐああああ。」

 

ミ「何……ナイフがキツネの左足に当たった……」

 

「動くな。」

 

暗殺者登場

 

「お前は……。」

 

「ルナール、掟を忘れたか?」

 

頭領と呼ばれるスレイの背後の女は、冷たい声で言う。すごい迫力だ。

 

「掟?あのくだらない掟か。そんなもの知らないね。かっこつけて、頭領面するな。」

 

「単独行動を繰り返した挙句、その態度。反省の色がまったく見えないな。」

 

「けっ。お前らの家族ごっこに付き合ってられないんだよ!」

 

キツネ男は押さえつけていた人たちを強引に薙ぎ払い、イズチの時と同じように姿を消した。

 

「姿を消したか。まあいい、ルナールの行動はある程度読めている。」

 

ルナールを抑えていた大柄の男が吐き出すと、仲間を引き連れ引き上げていく。スレイの拘束は外され、頭領と呼ばれていた女も続く。

 

「我らへの詮索などに割く猶予はないぞ。姫が気がかりなら、聖剣の祭壇に急ぐんだな。」

 

ス「何でそんなこと教えるんだ。」

 

「我々にも矜持がある。それに思わぬ収穫もあったしな。」

 

暗殺者、フェードアウト

 

ス「行っちゃった……。一応助けてもらったお礼は言った方がいいのかな。」

 

ミ「さあ。あの仮面のやつら、キツネと顔見知りみたいだったが……。」

 

ス「とにかく今は祭壇に急ごう。アリーシャが心配だ。」

 

ミ「ああ。」

 

 

 

教会裏口

フェルが出てきてすれ違う

「こんにちは、セキレイの羽です。はい、これ。」

 

「ふむ。確かに。」

 

ミ「スレイ、あそこ。」

 

ス「ああ。ここからなら中に入れそうだな。」

 

兵士「おい、そこの少年、ちょっと待て。祭りを見たいなら表に回らないか。」

 

ス「えー、でも、今お兄さん通ってきたよね。」

 

兵士「彼はセキレイの羽。聖剣祭の運営を協力してもらっている。ここは関係者以外立ち入り禁止だ。」

 

ス「急いでるんだ。そこを何とか!」

 

兵士「ダメだ!」

 

ミ「スレイ、一旦この場を離れて、別の方法を考えよう。」

 

ス「うん……。」

 

 

 

ス「しっかしどうしようかな……。」

 

ロ「手、貸そうか?」

 

ス「ロゼ?」

 

ロ「なんか衛兵と口論していたみたいだから。どうにかして剣の祭壇に行きたいんじゃ?」

 

ス「そうなんだ!アリーシャが……。」

 

ミ「それは余計なこと。」

 

ロ「…………。」

 

ス「えーと、とにかく助けてくれるならすっごくうれしいよ!」

 

ロ「アリーシャ姫が……ね。いいよ。助けてあげる。トル、スレイに通行証を。」

 

トル「ロゼ!?いいの?」

 

ロ「いいの。さあ、渡して。スレイ、急いでるんでしょ。すぐ行かなきゃ。」

 

ロ「これがあれば、入れるはずだよ。中に入ったら、私の仲間に渡して。」

 

ス「ありがとう、ロゼ!」

 

トル「じゃあ、僕らは仕事に戻るよ。」

 

ス「ホントに助かったよ!」

 

ロ「いいってことよ。これからもセキレイの羽をよろしく!」

 

 

 

聖堂の中へ

ス「すごいあっさり中に入れたな。」

 

ミ「ああ、さっきまでの対応とは大違いだ。セキレイの羽、恐るべしだね。」

 

ス「さ、通行証もロゼの仲間に返したし、さっそくアリーシャを……。」

 

ア「スレイ?スレイなのか!」

 

アリーシャとマルトラン登場

 

ス「アリーシャ!」

 

ア「スレイ!よくぞ都へ。」

 

「姫。こちらは?」

 

ア「彼がスレイです。」

 

「ああ、辺境の遺跡で姫を救ったという……。」

 

ア「スレイ、こちらはマルトラン卿。今回の聖剣祭の実行委員長を務めてくださっている。そして私の槍術の師匠でもあるんだ。」

 

ス「よろしく!スレイです。」

 

マルトラン「よろしく。スレイ殿。」

 

ア「スレイ、都へはやはり剣の試練に?」

 

「それだけじゃないんだ。実は……。」

 

 

 

暗転

ア「その怪しい一団の言うことは事実だ。私の事を快く思わない者たちは多い。だが、それに臆するわけにはいかないんだ。」

 

ス「けどアリーシャ……。」

 

ス「……ありがとう、スレイ。心遣い、本当に感謝する。もうすぐ聖剣祭最後の祭事『浄炎入灯』が始まる。最後まで見ていってくれ。」

 

フェードアウト

 

ミ「あれが為政者の覚悟か……。」

 

ス「なんかすごいね……。」

 

ミ「そうだ!すごいものを見つけたんだ!スレイ。剣の台座を見てくれ!」

 

ス「え、うん。」

 

女性の天族が寝ている

「すーすー」

 

ス「女の人が台座の上で寝ている……。みんなには見えてないってことは天族なんだ。」

 

ミ「彼女と話せなきゃ、剣は抜けないんだろう。普通の人じゃダメなわけだ。」

 

ス「あっ、アリーシャたちが出てきた。」

 

アリーシャとマルトランが出てくる

 

マ「レディレイクの人々よ。この数年、皆が楽しみにしていた聖剣祭も世相を鑑みて慎んできた。だが今年はアリーシャ殿下のご理解と全面的な協力により開催する運びとなった。」

 

ア「最近は異常気象や疫病、不作や隣国との政情不安など憂事も多い。だが、こんな時代だからこそ伝統ある祭事をおろそかにしてはならないと私は考える。」

 

ア「さあ、湖の乙女よ!その力を現したまえ!我らの憂い、罪をその猛き炎で浄化したまえ。」

 

「うん……?」

 

それに呼応してか、先ほどまで寝ていた湖の乙女が目を覚ます。

 

ア「レディレイクの人々よ!この祭りを私たちの平和と繁栄の祈りとしよう!」

 

シーン

 

ス「あ、あれ?」

 

ミ「どうやらあまり反応が良くないみたいだ。」

 

「祈りが何だってんだ!これで俺たちの仕事が戻ってくるってのか、ええ!」

 

「評議会が武具や作物の通商権を占有したのは戦争をおっぱじめるためだろう!」

 

「俺たちをのたれ死にさせる気かっ!」

 

「こんなもんは評議会の自己満足だ!俺たちはこんなご機嫌取りにゃ誤魔化されねえぞ!」

 

ア「そ、それは……。」

 

衛兵「黙れ!祭りの邪魔をするな!」

 

シャ

 

「ひっ、ひい。」

 

ア「やめないか!」

 

衛兵「ちっ……。」

 

「へっ、ざまぁ見ろ。」

 

「高い給料を貰っといて市民いじめか。ハイランドの兵も地に落ちたな。」

 

「誰がお前たちに飯を食わせていると思っている。俺達から搾り取った税金からじゃないか!」

 

「そうだ、そうだ!この税金泥棒め!さっさと引っ込め!」

 

衛兵「貴様ら……!」

 

「なんだぁ?悔しかったらかかってこい。ま、お前のようなビビりには出来ないだろうがな!」

 

衛兵「貴様!殺してやるううう。」

 

ぶんぶん

 

「ひー、助けてくれえええ。」

 

ア「お、おい。民を傷つけてはならない。やめるんだ!」

 

衛兵「何が民だ。俺の事をバカにしやがって!」

 

ミ「ダメだ。アリーシャの声が届いてない。我を忘れて暴走している。」

 

ス「仕組まれたんだ……この暴動は!キツネの他にアリーシャを狙っているやつがいる!」

 

マルトラン「大臣の仕業に間違いない。」

 

ア「勢力争いに守るべき民を巻き込むとは!そこまで腐ったか!」

 

「うああああ!

 

男、アリーシャを襲う

 

ス「アリーシャ!危ない!」

 

スレイがいち早く反応して受け止める。

 

湖の乙女「いけません!敵意に身を任せては!憑魔が……生まれてしまう!」

 

「うがあああああああ!」

 

人々は突然現れた黒い闇に次々と包まれていく。

 

ス「憑魔になったのか……?」

 

湖の乙女「人の邪心が穢れを生み、穢れが憑魔を生む……。このままでは……。」

 

ス「湖の乙女!なんとかできないのか!?」

 

ミ「あなたは『浄化の力』をもってるんだろう!?」

 

湖の乙女「あなたは私が……?それにその出で立ち……、まさかあなた方はゼンライ様の……。」

 

憑魔のうち一匹が祭壇の炎の中につっこみ、引火している。聖堂の中は至るところに火が燃え盛っている。

 

ア「なんてことだ。このままでは歴史ある聖堂が燃えてしまう……。」

 

ス「ミクリオ、火を消してくれ!」

 

ミ「あの黒い炎は憑魔といっていい!僕に何とか出来るのは普通の炎だけだぞ。」

 

ス「わかった。」

 

ミ「はあああ!」

 

しゃあああ 憑魔発生

 

ア「スレイ、君はもしや本当に天族が見えて……。」

 

アリーシャはスレイの顔を横目で見る。ただその声は湖の乙女の話を真剣に聞いているスレイには届かない。

 

ス「湖の乙女!」

 

湖の乙女「浄化の力は私が振るうのではなく、この剣を引き抜き、私の剣となった者が操る力なのです……。」

 

ス「それなら!オレがあの剣を!」

 

ア「スレイ!?」

 

剣を手にかける

 

湖の乙女「お待ちください!私の剣となるということは、私の宿す『器』となり、宿命を背負うということ。浄化の力を操り、超人的な能力を得る代償に人に疎まれ、心を打ちのめされる事もあるでしょう。憑魔から人や天族を救うため、苦渋の決断を迫られることも……。それは想像を超えた孤独な戦いです。」

 

ミ「それが導師の宿命……?それを今、受け入れろっていうのか!」

 

湖の乙女「そうですわ。だから……。」

 

ス「君の名前を聞いても良いかな。」

 

ラ「あ、はい。ライラです。」

 

ス「ライラ……オレ、世界中の遺跡を探検したいんだ。古代の歴史には、人と天族が幸せに暮らす知識が眠ってるって信じてるから。オレの夢は、伝説の時代みたいに、人と天族が幸せに暮らせる方法を見つけること。憑魔を浄化することで人と天族を救えるなら。それは、オレの追いかけている夢と繋がってるんじゃないかって思う。」

 

ミ「スレイ……君は……。」

 

ラ「スレイさん……。」

 

ス「だからライラ、オレは『導師』になる!この身を君の器として捧げ、宿命を背負う!」

 

ラ「私はずっと待っていました。穢れを生まない純粋で清らかな心を持ち、私の声が届く者が現れるのを。」

 

ライラはスレイに歩み寄り、手をにぎる。すると、魔方陣がスレイとライラを囲む。。力がみなぎるのを感じる。

 

ラ「さあ!スレイさん!剣を!」

 

ス「よぉし!」

 

二人が光る

 

ラ「スレイさん……。」

 

ア「スレイ……本当に!?」

 

マ「この力……。」

 

ス「アリーシャ、下がってて。」

 

ミ「スレイ、憑魔は任せていいんだね!」

 

ス「うん。残った火を頼む」

 

スレイは襲い掛かる憑魔を引き抜いた聖剣でばっさばっさと斬る

 

ラ「やりますわよ!スレイさん!」

 

ス「うん!行くぞ!」

 

ス「はああああ!」

憑魔消える

あびゃああああ

ミ「憑魔が消えた……。やった、のか……」

 

ミ「スレイ!」

 

ア「スレイ……本当に……。」

 

ス「うん。オレ、導師になったよ。」

 

「導師だって!?」

 

「まさかホントに剣を引き抜くなんて……。」

 

「これで世界は救われるんだ!」

 

バルトロ「静まれ!静まれい!」

 

バルトロ登場

 

マルトラン「ちっ、バルトロ大臣……。」

 

バルトロ「アリーシャ殿下。暴動が起きたと報告がありましたが……。」

 

ア「ええ。ですが、もう収束しました。導師の出現によって。」

 

バルトロ「なんですと?……導師、だと?まさか、本当に出現するとは……。」

 

バルトロ「レディレイクの人々よ。此度の聖剣祭はこれにて幕とする。殿下、後日顛末を伺いたい。マルトラン卿もよろしいか。」

 

マルトラン「…………ああ。」

 

バルトロ「ではまた。ちっ、何が導師だ。ふざけやがって……。」

 

大臣フェードアウト

 

ス「あれがハイランドの大臣……。」

 

ミ「如何にもって感じだね。」

 

ふらり

 

ス「あ、れ?」

 

ア「スレイ?どうした?」

 

ラ「憑魔と戦って疲れがでたのでしょうか?私の力がなじむまで時間がかかりますから。」

 

ミ「人が『器』になるとそうなるのか……。」

 

ス「やば……もうダメ。」

 

アリーシャはアリーシャにもたれかかり、そのまま目を閉じる。図らずとも膝枕をする形になりアリーシャは赤面した。

 

ア「ちょ、ちょっと、スレイ!?大丈夫なのか?」

 

ス「大丈夫くない……ちょっと休むね……。」

 

ア「ちょっ、スレイ……!?」

 

スレイはそう言い残すとそのまま気を失ってしまった。

 




こんにちは、作者です。三話です。この回からオリキャラ、ケインが登場します。とは言っても冒頭でフェードアウトしましたが(笑)彼が今後どのように導師一行と関わっていくのか、それは今後のお楽しみということで。ではまた四話でお会いしましょう。


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第四話 導師の使命

スレイが導師になって気絶したところから


アリーシャの家 朝

ス「う、ううん。あ、あれ……なんでオレ、横になってるんだろう。確か聖堂で導師になって……。」

 

ミ「目が覚めた?」

 

ラ「おはようございます。スレイさん。」

 

ス「おはよう。二人とも。」

 

ミ「気分はどう?」

 

ス「うん。もう大丈夫。ここは?あれからどうなったんだ?」

 

ラ「ここはアリーシャさんのお屋敷です。」

 

ス「そっか。」

 

スレイは周りを見回す。部屋にはミクリオとライラしかいない。

 

ス「アリーシャは?」

 

ラ「アリーシャさんは、仕事があると言って早朝から出ていきました。」

 

ミ「アリーシャに感謝するんだよ。一晩中ずっとスレイのそばにいて看病してくれたんだから。」

 

ラ「倒れたスレイさんを屋敷に運び、あんなことやこんなことを、それはもう懸命に。」

 

ス「そんなことが……。アリーシャに心配かけちゃったな。」

 

ミ「昼過ぎには帰ってくるみたいだから、その時にお礼をいいなよ。」

 

ス「そうするよ。」

 

ラ「……スレイさん、ミクリオさん、少し街を歩きませんか?」

 

ス「うん。いいよ。街の様子も見て回りたいし。」

 

ミ「じゃ、行こうか。」

 

 

 

街では導師の話題で持ち切りだった。スレイを見て声を掛けてくる人たちも多い。一躍有名人だ。ライラは人が多いところを嫌い、湖のほとりへ向かうことを提案して、二人は同意した。

「おっ、導師様じゃねえか。ようやくお目覚めか。」

 

「こいつが導師か……。って、まだ子供じゃねえか。」

 

「おい、導師様に失礼だろ!このお方は災厄の時代を終わらせてくれる方なのだぞ。」

 

「導師のお兄ちゃん、頑張ってね!」

 

「おばさんも期待してるからね。」

 

ミ「一躍有名人だな。」

 

ラ「それほど人々は導師の出現を待ち望んでいたのですわ」

 

ミ「スレイ、大丈夫かい?」

 

ス「ん……なんか変な感じがするんだよ。胸が押さえつけられるような……。」

 

ラ「スレイさん、それは穢れですわ。私の器となった事で感じるようになったのです。私の力が早くも馴染んできている証ですわ。」

 

ス「へぇ~、そうなんだ。けど、穢れって……こんなに?」

 

ラ「はい。人々が活動し始めるともっと穢れを感じると思いますわ。さ、こちらへ。」

 

 

 

湖到着

ミ「ここは……。」

 

ス「綺麗な湖だな。」

 

ミ「ああ。だけどこの湖の美しさとは裏腹にレディレイクの街は穢れてしまっている……。」

 

ス「うん。オレも穢れを感じるようになって実感した。このままじゃいけないよ。」

 

ラ「ここレディレイクだけではなく、世界は確実に蝕まれていっています。このように美しい景色であっても、天族の加護がないことを何となく感じるでしょう?」

 

ス「うん。イズチではずっとジイジの加護を感じてた。なのにここでは何も……。」

 

ミ「ライラ、僕たちに、ただレディレイクの状態を再確認させたかった訳じゃないんだろう?」

 

ス「大事な話があるんだね。」

 

ラ「はい。お二人に改めてお伝えいたしますわ。導師のなすべき使命を。」

 

ラ「導師は人や天族に災厄を与える憑魔を浄化の力をあやつり鎮める事ができます。これこそが導師の力と言えますが、それをなす事が導師の使命とは言えませんわ。導師が鎮めるべきは憑魔を生む『穢れ』の源泉とも言える存在、……『災禍の顕主』」

 

ス「災禍の顕主……。」

 

ラ「はい。私たちは古来よりそう呼び習わしていますの。どの時代でも多くの憑魔が跋扈する背景には、異常に穢れを持ち、その穢れで憑魔を生み出す災禍の顕主が存在していたのですわ。災禍の顕主は、時に世界のあり方を大きく変えてしまいますわ。それほどの災厄をもたらすのです。」

 

ス「災禍の顕主。オレの知らないところで知らないところで、そんなやつがいたなんて……」

 

ス「わかったよ。ライラ。その災禍の顕主っていう穢れの大元みたいなヤツを見つけ出し、鎮めるのが導師の使命なんだね。」

 

ミ「だけど、そいつはいったいどこにいるんだ?」

 

ラ「今は導師の使命を理解してくれれば、それで十分ですわ。」

 

ス「え。」

 

ラ「私はスレイさんに答えを導き出して欲しいのです。後悔のないスレイさんの答えを。スレイさんのままで、使命は忘れず、けれど縛られずに。」

 

ス「オレの答え……。」

 

ラ「そのために、スレイさん。災禍の顕主が何をこの世界にもたらしているか。そしてこの世界で人や天族がどのように生きているか、その目で確かめて欲しいのです。」

 

ス「確かにオレはまだこの世界のこと、全然知らない……。」

 

ラ「世界を旅して、色々知って……、その上で導き出した答えを持って、災禍の顕主に相対して欲しいのです。」

 

ミ「難しく考える事はないんじゃないか?要は世界を旅して回ればいいって事だろう。一緒に答えを探しに行こう。」

 

ラ「ですわ。」

 

ス「……うん。とにかく飯!もう腹減りすぎて倒れそう!」

 

ミ「じゃあ、アリーシャの家に戻ろうか。さっき、お手伝いさんが料理を準備しているって言っていたし。スレイが倒れる前に行こう。」

 

ラ「はい。」

 

 

 

道中

ス「世界中を旅したいなって思ってたけどさ。それがこんなに色んな事と繋がってくのがなんか不思議だけど、面白いよな。」

 

ミ「はぁ……スレイほど世間知らずな導師なんてきっと史上初だろうな。」

 

ス「そっかな~。ライラ、オレ以外の導師ってどんな人だったの?」

 

ラ「え!」

 

ライラは一瞬こちらを見た後、すぐさま目をそらした。

 

ラ「えっと……聞いてませんでした。」

 

ス「オレ以外の導師ってどんな人だったの?」

 

ラ「……。」

 

ライラはスレイと顔を合わせようとせず、黙っている。

 

ス「ねぇ、聞いてる?」

 

ラ「聞いてませんでした……。」

 

ス「ライラ……。」

 

ラ「はい……。」

 

ミ「何か隠してる?」

 

ラ「今日は良い天気になりそうですわね……。」

 

ミ「どうやら話したくないらしい。」

 

ス「理由は聞いてもいいのか?」

 

ラ「私は自らに誓約をかけ、それを守る子とで他の者にない特別な力を発揮できるようになったのです。なので、その誓約に則って禁じている事があるんです。」

 

ス「ライラはしゃべっちゃいけない事があるってわけ?」

 

ミ「特別な力とは浄化の力の事だろう?」

 

ラ「あ!蝶々ですわ。」

 

ミ「誤魔化すのヘタすぎ……。」

 

ス「別にいいじゃないか。それを知るためにも世界中を旅するんだと思えば。」

 

ミ「まあ、各地で導師の伝承を追えばわかる事か。」

 

ラ「はい♪まったくその通りです♪」

 

ミ「君の他にも浄化の力を操る天族は居るのかい?」

 

ラ「早く宿に戻らないとお腹減ったスレイさんが倒れちゃうんですよね!たしか!帰りましょう!もしかしたらすでにすっかり冷めちゃってるかもしれませんわ!」

 

ス「ははは……。」

 

ミ「戻るとしょう。」

 

 

 

アリーシャの家

メイド「お帰りなさませ、スレイ様。」

 

ス「アリーシャはまだ戻ってない?」

 

メイド「はい。もうそろそろ戻るとは思いますが……、待っている間、お食事でもいかかがですか?」

 

ミ「なら、先に食事にしよう。もう一度スレイに倒れられても困るしね。」

 

ラ「そうですわね。」

 

ス「二人とも……。」

 

メイド「いかがなさいますか?」

 

ス「お願いするよ。」

 

メイド「かしこまりました。」

 

 

 

ス「ご馳走様でした。とっても美味しかったです。」

 

メイド「ありがとうございます。お役に立てて光栄です。」

 

ア「スレイ!」

 

ス「アリーシャ。」

 

ア「よかった、元気になったみたいだな。」

 

ス「うん、おかげさまでね。ありがとう。アリーシャが居てくれてホント助かったよ」

 

ア「礼を言うのは、こちらのほうだ。聖堂の暴動を見事鎮めてくれたのだから。ちょっと待っててくれ。」

 

がさごそ

 

ア「これをスレイに。レディレイクに伝わる導師の服装だ。」

 

ス「へぇ、これがそうなんだ。もらってもいいの?」

 

ア「もちろん!ぜひ着てみてくれ!」

 

服装チェンジ 暗転

 

ス「どうかな?」

 

ア「よく似合っているよ、スレイ。」

 

ス「ありがとう。」

 

ミ「馬子にも衣装だからな。」

 

ス「素直にうらやましいって言ったら?」

 

ミ「絶対言わない。」

 

ア「……もしや、そこに天族の方がおられる?」

 

ス「……そうだって言っても信じられる?」

 

ア「正直、あの聖剣祭の出来事があるまでは信じ切れなかっただろう。それに、出会った当初、君のことはなんていうか……その…。」

 

ア「少し変わった人と認識していた。」

 

ス「ははは……。」

 

ミ「まぁ、事実だね。」

 

スレイはミクリオの背中を押してアリーシャの前へ突き出した。

 

ミ「ここに居るんだ。ミクリオってのが。」

 

アリーシャは恐る恐るスレイが示した場所へ近づく。ここに天族さまがいらっしゃる。そう思うと緊張する。

 

ア「ここに、天族様が……。」

 

ア「これまでの無礼をお許しいただきたい。天族ミクリオ様。」

 

ミ「べ、別に無礼と思ってないから。」

 

ス「無礼だなんて思ってないって。」

 

ス「そしてここに居るのがライラ。みんなが湖の乙女って呼んでる人。」

 

ラ「こんにちは、アリーシャさん。」

 

ア「……君は本当に導師になるべくしてなったのだな。」

 

ア「それに引き換え私は……我々はこれほど身近に天族の方々が居ても、どうすることもできない。」

 

ラ「それは違いますわ。」

 

ア「…………。」

 

ミ「聞こえないって。」

 

ラ「スレイさん。アリーシャさんの手を握ってみてください。」

 

ス「え?うん。アリーシャ、手を。」

 

ア「あ、ああ。」

 

手を握る

 

ス「これでいい?」

 

ラ「あー、あー、聞こえますかー?」

 

アリーシャ無反応

 

ア「…………。」

 

ミ「……聞こえてないみたいだよ。」

 

ラ「む~。ではスレイさん、目を閉じて。」

 

閉じる

 

ラ「あー、アリーシャさん、聞こえますか~?」

 

ア「…………?」

 

ス「ダメみたい。」

 

ラ「スレイさん目を閉じて、今度は息も止めてください!」

 

息を大きく吸い込み、息を止める。ライラはスレイの目を抑えてこう続けた。

 

ラ「アリーシャさん。」

 

ア「聞こえる!女性の声が!」

 

ミ「本当に?成功したのか!」

 

ス「……………」

 

ラ「アリーシャさん。私たち天族はあなたたちの心を見ています。万物への感謝の気持ちを忘れないでください。私たちは感謝には恩恵で応えます。けして天族を蔑ろにしないでください。その心が穢れを生み、災厄を生むのです。」

 

ア「はい!わかりました、ライラ様!」

 

ス「………………………」

 

ラ「さあ、ミクリオさんも。」

 

ミ「大丈夫さ、アリーシャ。君の感謝はちゃんと届いて……。」

 

ス「ぶはー!!」

 

スレイ、息を吐き出す。そして同時に新しい空気を体内に取り込む。

 

ア「スレイ!もう一度!」

 

天族の声を聞いて興奮しているアリーシャ

 

ス「え~……なんかもっと良い方法ない?」

 

ラ「今のスレイさんではこれしかなさそうですわ。スレイさんがもっと私の力に馴染み、器としても導師としても力をつければ、これほど知覚遮断する必要はなくなると思います。」

 

ス「それじゃ、オレが導師として力をつけたら、天族の声をみんなが聞くことができるのか?」

 

ラ「不可能ではないと思いますが、主神である私の力では同時に三、四人までが限界です……。」

 

ス「そっか……。そんな単純じゃないみたい。」

 

ア「だが、私でも言葉を交わせた。天族は間違いなく私たちと共にある事がわかった。それだけで……。」

 

興奮するアリーシャ

 

ス「ドキドキする?」

 

ア「ああ!」

 

ミクリオライラうなずく。スレイ天遺見聞録を見る

 

ス「伝承はお伽噺じゃない……。人は天族と一緒に……」

 

ア「スレイ!もっと話を聞かせてくれないか!ずっと天族と交流を持つ者と話すのが夢だったんだ!」

 

ス「もちろん!」

 

「アリーシャ殿下!殿下はおらぬか!」

 

ア「確かあなたはバルトロの……。どうした?」

 

タ「タケダと申します。大臣閣下からの伝言です。昨日の聖剣祭の件についてお話を伺いたいとのことです。至急王宮までお越しください。」

 

タ「命令に応じない場合は……言われなくてもわかっていますよね。」

 

ア「……わかった。スレイすまない。失礼する。」

 

ス「……よし!アリーシャ!オレ達しばらく街にいるから!用があったら報せて!」

 

ア「あ、ああ。ではまた。」

 

スレイ手を振る。アリーシャ家を出る。

 

ス「アリーシャ、色々大変そうだな。」

 

ラ「王族の方ですから、あまり自由な時間はないのかもしれませんね。」

 

ス「せっかくミクリオとライラと話が出来るようになったのに――。」

 

ミ「一緒におしゃべりが出来なくて少し寂しい、もっと話がしたい、かな。」

 

ス「うん。オレ、今まで人間の友達がいなかったから、アリーシャが天族の存在を感じてくれて嬉しくて……。」

 

ミ「わかるよ、その気持ち。僕も同じだ。」

 

ラ「これから世界中を旅すれば、きっといっぱいできますわ。お友達100人も夢じゃありません。」

 

ミ「さすがに100人はハードル高くないか。」

 

ス「ははは、自分に出来るところから頑張るよ。」

 

「アリーシャ様、お助け下さい!」

 

一般市民男、登場

 

ミ「わっ。」

 

ラ「こんなに汗だくで……。どうしたんでしょう?」

 

ス「アリーシャならさっき出たけど。何かあったんですか?」

 

「地下水道で工事をしていたら、何者かが俺達を攻撃してきたんだ。周りには俺達以外人も魔物もいないのに、まるでそこに何かいるような感じで……。」

 

ミ「それって!」

 

ス「憑魔!」

 

「俺はなんとか脱出して逃げてきたんだが、まだ仲間が一人残っている。警備の兵に救助を依頼したが、構ってもらえなくて……。」

 

ス「それでアリーシャのところに来たんだ。」

 

ラ「スレイさん!」

 

ス「わかりました。俺が助けに行きます。場所を教えてください。」

 

「あなたが……?しかし……。」

 

ス「大丈夫。任せといてください。」

 

「……外縁水道区の奥にある地下水道です。どうか仲間をお願いします。」

 

 

 

遺跡に入る

ミ「ここが地下水道か。街の地下に遺跡があるなんてね。」

 

ス「うん、驚いたよ。そんなことより……。」

 

ラ「スレイさん、感じるのですね。」

 

ス「うん。街中より断然穢れている感じがする。」

 

ラ「スレイさん、どんどん力が馴染んでいっている。順調ですわね。」

 

ス「そうかな。あんまり実感はないけど。」

 

ミ「……!スレイ、あそこ!」

 

スライム憑魔が人を襲っている

 

ス「憑魔だ。下がれミクリオ!」

 

ミ「何を言う!僕だって――。」

 

ス「オレとライラで大丈夫。心配するなって!行くぞ!」

 

ラ「えっ、あっ、はい!」

 

ミ「くっ……。」

戦闘

 

 

 

ス「よかった。なんとか憑魔を倒すことができた。おじさんも無事だ。」

 

ミ「……次からは僕も戦う。」

 

ス「ミクリオじゃ憑魔を浄化できないだろ。」

 

ミ「じゃあこれからずっと君の後ろで指をくわえて見てろっていうのか?僕は足手まといになるためについてきたんじゃない!」

 

ス「ミクリオ……。」

 

ミ「……ライラ、僕も浄化の力を得る方法はない?」

 

ライラ少し考えて、ゆっくり話す

 

ラ「方法は一つ……ミクリオさんが私の力に連なるもの陪神となることですわ。そして私の器たるスレイさんに宿るのです。」

 

ミ「じゃあ、それで。」

 

ミクリオがライラの手を繋ぐ

 

ス「ダメだ!ミクリオ。そんなこと簡単に決めちゃ!」

 

ミ「君に言われたくないな。君だって導師になるってあっさり決めたじゃないか。」

 

ス「それとこれとは別だろ。ミクリオは憑魔を浄化するのが夢なのか?違うだろ。」

 

ミ「僕は天族だぞ。天族の天敵とも言える憑魔を浄化したいって思うのは自然なことだと思うけど?」

 

ス「カエルがヘビを退治したいって思わないだろ。」

 

ミ「僕はカエルじゃない。」

 

ス「何ムキになってんだ!ちゃんと聞いてくれ!ミクリオ!」

 

スレイ、ミクリオの肩を掴んで説得する

 

ミ「……ムキになってなどいない。」

 

ス「ミクリオ!」

 

男、起き上がる

 

「ゴホゴホ……君が助けてくれたのか。オレはどうなっていたんだ?」

 

ラ「説明しても分かってもらえないでしょうね。」

 

ス「えっと……おぼれていたみたいです。」

 

「そうか……いやぁ、情けないな……戻っておとなしく休んでおくよ。」

 

男、立ち上がる

 

ミ「スレイ、街まで送っていってやれ。」

 

ス「ミクリオは?」

 

ミ「足手まといは宿で待ってるよ。少し頭を冷やしたい。」

 

ミクリオ戻っていく

 

ラ「スレイさん、追いかけなくては……。」

 

ス「宿で待ってるって言ってるんだ。放っとこ!」

 

「うん?誰と話しているんだ?」

 

ス「い、いえ。何でもないです。立てますか、一緒に街まで戻りましょう。」

 

ス(……ミクリオ)

 

 

 

遺跡の外

「おお!無事だったか!ケガはないか?」

 

「ああ、大丈夫だ。この人が助けてくれた。本当にありがとう。」

 

ス「ううん、大したことはしてないよ。」

 

「なぁなぁ、あんたもしかして導師じゃねぇのか?噂に聞いてた格好とそっくりだ。」

 

「ほおお、聖剣を抜いたって例の男か!只者じゃねぇと思ってたが、納得だ!」

 

「オレ達からも礼を言わせてもらうぜ。さすが噂の導師様だ。」

 

「ああ、その俺は……。」

暗転

 

 

 

「んじゃ、導師様!またなぁ~!」

 

ラ「賑やかな方々でしたね。」

 

ス「ちょっと戸惑っちゃうよ。イズチの皆はもっとのんびりしてる感じだったし。」

 

ラ「ずっと天族の村で育ったんでしたね?人間はスレイさんお一人で……。」

 

ス「アリーシャに会うまではね。でも天族の皆がよくしてくれたし、全然寂しくなかったよ。ミクリオもいたしね。」

 

ラ「だからこそ、友達であるミクリオさんに宿命という重荷を背負わせたくない、ですね?」

 

ス「……なんでもお見通しなんだな、ライラ。」

 

ラ「いつの時代でも導師とその天族の人間の友人が必ずぶつかる問題なんです。」

 

スレイうなだれる

 

ラ「スレイさん、ミクリオさんの気持ち、わかりますわね?」

 

ス「うん。」

 

ラ「なら、もう私が言うことはありませんわ。」

 

ス「ありがとう、ライラ。これからどうしようか。」

 

ラ「アリーシャさんのところへ行きましょう。まだわたしの話の途中でしたし。」

 

ス「わかった。アリーシャ、もう帰っているかな。」

 

アリーシャの家へ向かった

 




こんにちは、作者です。第四話です。原作では、レディレイクの水道遺跡で神威化を実現させますが、当作品では普通に戦っています。ちなみにスレイの中に天族が収納されるアレもないです。あれをやられると、どうも人智を越えた存在に思えてなんとも……、いえ、実際天族は人智を越えた存在なんですけどね。台本形式だとわかりにくいところが出てきますので、その都度この場を借りて補足していくとしましょう。私、がんばります。ではまた、第五話でお会いしましょう。


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第五話 従士と陪神

ミクリオと喧嘩したスレイ。アリーシャのもとへ向かう


アリーシャの家

マルトラン「できる限りのことをしてみるが、保証はしてやれん状況だ。すまん。」

 

ア「とんでもありません。お気遣いありがとうございます。」

 

マ「お前のことだ。覚悟はしているのだろうが。」

 

ア「……はい。今の私にできることに力を尽くします。」

 

マ「我が弟子の愛すべき長所ではあるが、その性格が大臣の不安を煽るのだろうな。あまり無理をするなよ。なにかあれば報せをよこす。」

 

ア「はい。――スレイ!」

 

スレイの存在に気付くアリーシャ。

 

ス「っと……こんにちは。やっぱ、出直すよ。」

 

マ「気にするな。もう帰るところだ。」

 

ス「あなたは。」

 

マ「聖剣祭では世話になったな、導師スレイ。ハイランド王国軍顧問、教導騎士マルトランだ。これからもアリーシャの力になってやってくれ。友人としてで構わないから。」

 

ス「はい、もちろん。」

 

マ「では、失礼する。」

 

ラ「…………」

 

マルトラン去る。

ス「かっこいい人だな。空気がピシッとした。」

 

ア「だろう?私の目標とする方だ。立ち話もなんだね。どうぞ。」

 

テラスへ移動

 

ア「それで私に何の用だ?」

 

ス「ライラがアリーシャに話したことがあるんだって。手を貸して。」

 

ア「わかった。」

 

手を繋ぐ。そして目を閉じる

 

ラ「こんにちは、アリーシャさん。聞こえますか?」

 

ア「はい!聞こえます、ライラ様!」

 

ス「まだ息止めてないのに。」

 

ラ「スレイさんが私の力に馴染んだのです。以前ほど感覚を遮断しなくて同じことができるくらいに。」

 

ス「特に変わった気はしないけど。」

 

ア「よかったよ。話のたびに、スレイにあんなマネをさせては申し訳ないからね。」

 

ス「はは、あれはあれで面白かったけど。」

 

ラ「コホン。では、改めてよろしいですか?」

 

ス「そうだった。ライラがアリーシャに用があるんだって。」

 

ア「私に?」

 

ラ「力を貸していただきたいのですわ。『地の主』と『器』を見つけるために。」

 

ア「それは……どういうものでしょう?」

 

ラ「まずは、この世界の仕組みからお話しないといけませんね。古来、天族と人は力を合わせて穢れから自分たちの土地を寄ってきました。」

 

ス「天族と人が協力して……。」

 

ラ「力ある天族は、穢れのない清らかな物を『器』とすると『地の主』という存在になります。そして、器と共に人々に祀られることで、穢れを退ける『加護領域』を広げる力を得るのです。本来、聖堂とは、地の主を祀り、穢れから土地を守るためのものなんですの。ですが、この街の聖堂には、地の主も器もなく、正しく祀ろうとする者もいません。」

 

ス「それが、よくないことが続く原因なんだ。」

 

ラ「そう。いくら導師が穢れを祓っても、地の主の加護なしでその地を守り続けることはできません。」

 

ス「わかった。ライラが聞きたかったのは、地の主の器となる物の心当たりと……。」

 

ア「それらをそろえた聖堂を正しく祀ることができるかどうか、この二つですね?」

 

ラ「はい。どうでしょうか?」

 

ア「まず聖堂についてですが、我が国のほとんどの聖職者は天族への感謝の心を失っています。」

 

ス「そんな……。」

 

ア「ですが、最近司祭となったブルーノという者がいます。祭りの準備にも尽力してくれた真摯な人物です。」

 

ラ「その方なら?」

 

ア「任せられると思います。善は急げだ。聖堂に行って話してくるよ。」

 

アリーシャ走り出す。

 

ス「ちょっと待ってよ、アリーシャ。」

 

スレイもフェードアウト。

 

ラ「ふふふ。アリーシャさんは、ちょっとおてんばさんですわね。」

 

ラ「さてと。」

 

ラ「さて、聖堂に行くんでしたね。今後のことを手紙に書いて、ここに置いておきましょう!もしかしたら誰かが読んでくれるかもしれませんし!」

 

ライラは手紙をテラスのテーブルに置く。

 

ラ「待ってくださーい、スレイさーん!」

 

 

 

教会到着

ア「ブルーノ司祭!」

 

ブルーノ「姫様!?どうしたのですか、そんなに慌てて。」

 

ア「……お願いがあって参りました。」

 

ブ「わ……私などに?」

 

ア「聖堂に新たな天族を祀り、そのお世話をお願いしたいと。導師スレイからの依頼です。」

 

ブ「導師!?この方が噂の?」

 

ス「はじめまして。オレ、スレイっていいます。実は……」

 

暗転

 

 

 

ス「ということで、レディレイクを守るために、あなたに聖堂を祀ってほしいんです。まだ導師になったばかりの新米だけど、頑張りますから、よろしくお願いします。」

 

ア「私からも改めてお願いします。どうか力をお貸しください。」

 

ブ「はい、勿論です。どうか顔をお上げください。」

 

ス「ありがとうございます。」

 

ブ「お二人のご用命、身に余る光栄でございます。微力なる身ではありますが、全身全霊をもって務めさせていただきます。」

 

ア「ではブルーノ司祭、準備が整いましたら、またお尋ねいたします。」

 

ブ「はい。お気をつけて。」

 

ス「次は器を探さなきゃね。何か心当たりある?」

 

ア「穢れなき器になりえるもの……。」

 

スレイと手をつなぎ、ライラとおしゃべり

 

ア「街の北東のガラハド遺跡に清らかな滝があります。代々のハイランド王が、戴冠式の前に身を清めてきた聖水なのですが――。」

 

ラ「清らかな水……。確かに天族の器になり得るものですが――。」

 

ス「が?なに?」

 

ア「遺跡に獣が棲みついたのだ。退治に向かった兵士十名を返り討ちにするような奴が。」

 

ス「……憑魔かな?」

 

ラ「おそらくは。」

 

ス「じゃあ、急がないと滝の水も穢れてしまうかもしれない。」

 

ア「そういえばミクリオ様は?一度もお声が聞こえないが。」

 

ス「ちょっとね。ケンカしちゃった。」

 

ラ「いろいろありまして。」

 

ス「とにかくガラハド遺跡へ!憑魔なら倒さないと。」

 

ラ「そうですね。まずは出来ることから始めましょう。」

 

ア「スレイ、私も連れて行って欲しい。」

 

ス「……ごめん、アリーシャ。普通の人では憑魔とは戦えない。そんな危険な場所にアリーシャを連れて行けないよ。」

 

ア「だが、それではスレイが……。」

 

ラ「スレイさん、主神が陪神を収めるように、導師も『従士』をもつことができるのです。アリーシャさんが従士となれば、スレイさんの領域内でなら憑魔と戦えるでしょう。」

 

ス「従士……。」

 

ア「この聖堂は……いやハイランドの聖堂は私が生まれた頃から、すっとこんな様子だった。私は、穢れたハイランドしか知らなかったんだ……。お願いだ、スレイ。私を君の従士にして欲しい。私は見てみたいんだ。穢れのない故郷を!」

 

ス「それがアリーシャの夢なんだな。」

 

ス「わかったよ、アリーシャ。……で、どうすれば?」ライラにきく

 

ラ「私の詠唱の後に、アリーシャさんに古代語の真名を与えてあげてください。」

 

ス「アリーシャに名前を……か。」

 

ライラ、二人の手をとる

 

ラ「我が宿りし聖なる技に新たなる芽いずる。花は実に。実は種に。巡りし宿縁をここに寿がん。」

 

アリーシャが光に包まれる

 

ラ「今、導師の意になる命を与え、連理の証とせん。覚えよ、従士たる汝の真名は――。」

 

ス「マオクス=アメッカ。」

 

光がアリーシャの中へ

 

ア「改めてよろしく、スレイ。」

 

ス「こちらこそ、アリーシャ。」

 

ア「お初にお目にかかります。あなたが天族ライラ様ですね。」

 

ラ「はい。こうして直接お話しできて嬉しいですわ。早速ですが――。」

 

ア「はい。ガラハド遺跡までご案内いたします。どうぞこちらへ。」

 

 

 

ガラハド遺跡

ア「ここがガラハド遺跡だ。」

 

ス「ここも穢れがすごいな。」

 

ラ「気を付けて進みましょう。」

 

 

 

遺跡の奥でイベント

ス「アリーシャ!」

 

ア「ああ、わたしでも感じられる。強い憑魔がいる!」

 

ラ「気を付けて!」

 

ス「みんな!上だ!」

 

ア「えっ。」

 

敵が上から降ってくる。かろうじてアリーシャよける。スコーピオン的なモンスター

 

ア「姿さえ見えれば……、こっちのものだ!」

 

ラ「だめ!こいつは毒を!」

 

ス「アリーシャ、下がってて!」

 

ア「いいや、私も戦う。私はスレイの従士なんだ。」

 

ス「わかった。でも安全第一でいこう!」

 

ラ「スレイさん!後ろ!」

 

ス「くそ、いつの間に――」

 

ミ「ツインフロウ!」

 

ス「この技は!」

 

ス「ミクリオ!タイミングよすぎだ。」

 

ミクリオ、スレイを無視してライラのもとへ

 

ミ「ライラ、陪神契約を。」

 

ラ「……よろしいのですか?」

 

ス「おい、ミクリオ!」

 

ミ「確かに僕は手堅いクセに意地っ張りだ!認めるよ。陪神になる事だって意地を張ったさ。だけど……。」

 

ミ「だけどスレイは!肝心なことをわかっていない!」

 

ス「わかってるよ!だから、お前を巻き込みたくないんだ――。」

 

ミ「うぬぼれるなよ。思ってるのか?自分だけの夢だって。」

 

ラ「いけません!憑魔が……。」

 

ア「はああ!」

 

ラ「アリーシャさん!」

 

油断した隙にスレイとミクリオに襲い掛かる敵、しかしアリーシャが止める

 

ア「スレイ!ミクリオ様に応えて!わたしが時間を稼ぐ。その間に陪神契約を!」

 

ス「アリーシャ……。そうだな、オレたちの夢、だよな。」

 

ミ「そうこなくっちゃ。」

 

腕を合わせる。二人でうなずく

 

ミ、ス「さぁ、ライラ!」

 

ラ「静謐なる流れに連なり生まれし者よ!今、契約を交わし、我が煌々たる猛り、清浄へ至る輝きの一助とならん。汝、承諾の意思あらば、その名を告げ――るのは省略!」

 

ミ「省略!?」

 

二人は光に包まれ、敵を倒す。そしてスレイの前へ

 

ス「さぁ、いくぞ!ミクリオ!」

 

ミ「さっさと終わらせよう!」

 

ミクリオとスレイの連携で一気に倒す。

 

ス「これで最後だ!」

 

ミ「ふう、なんとか浄化できたみたいだね。」

 

ア「すごいよ、スレイ!ミクリオ様!」

 

ス「ミクリオ、ありが――。」

 

ミ「礼なんかいらない。僕は、僕の夢のためにやったんだからな。」

 

ス「わかってるって。」

 

ラ「人と天族が共に手を取り合う。……なんだか羨ましいですわ。」

 

ア「ですね。」

 

ラ「ここまでは計画通りですわ。後は私が彼らを――――まで導くことが出来れば……。」

 

ア「ライラ様?」

 

ラ「ミクリオさん、改めてよろしくお願いしますわ

 

ミ「ああ、こちらこそよろしく。アリーシャも。」

 

ア「は、はい。先ほどは助けていただいてありがとうございました。」

 

ミ「いや、なんでもないよ。この程度……。」

 

ス「いらないんじゃなかったっけ、お礼?」

 

ラ「ミクリオさん、照れ屋さんなんですね」

 

ミ「う、うるさい!ほら、聖水を取りに行くんだろ。さっさと済ませよう。」

 

ア「ふふふ。では、まいりましょうか。滝はこの先です!」

 

 

 

滝にて

ミ「ようやくついたな。」

 

ス「もうへとへとだよ。」

 

ラ「うん、清らかさは充分です。ミクリオさん。この水を凍らせることはできますか?」

 

ミ「え?ああ、多分。」

 

ラ「では、凍らせて聖堂に持ち込みましょう。氷は穢れに染まりにくい性質があるんです。」

 

ミ「わかった。やってみる。」

 

一握り大に凍らせる

 

ラ「ありがとうございます。このくらいあれば。」

 

ア「これが融けてしまう前に残りの問題も解決しないとですね。」

 

ス「地の主を探さないと。レディレイクへ戻ろう。」

 

ミ「そうそう、ライラ。」

 

ラ「はい?なんですか?」

 

ミ「手紙、助かったよ、ライラ。おかげでみんなを追いかけられた。」

 

ラ「趣味なんですの。お手紙書くのが。それにミクリオさん、ずっと後を付けていたでしょ」

 

ミ「知ってたのか!?」

 

ラ「……はい。それはもう。」

 

ラ「あ、でも大丈夫です。お二人は気付いてなかったみたいですし。」

 

ラ「いや、そこまで必死にフォローしてくれなくても……。」

 

ス「おーい、置いてくぞ。」

 

ミ「すまない。すぐ行く。」

 

 

 

レイクピロー高地

ア「うん?あれは……?」

 

ス「どうしたの?」

 

ア「いや、橋の方に人だかりが出来てる。何かあったのだろうか。」

 

ス「気になる?」

 

ア「い、いやわたしは……。」

 

ミ「どうせ帰り道だし寄ってみれば。」

 

ア「ありがとうございます、ミクリオ様!」

 

 

 

橋にて

ア「なにがあった?」

 

兵士「で、殿下!?はっ!グリフレット橋崩壊の調査であります。長雨による氾濫が原因かと。」

 

ス「原因は長雨じゃない。」

 

ミ「川を見てくれ。水位に比べて流れが異常だ。」

 

ラ「嫌な気配を感じますわ。」

 

ス「避難した方がいい。」

 

兵士「誰だ、貴様は!?」

 

ア「わかった。スレイの言に従おう。」

 

村人「スレイって……?噂の導師か?」

 

村人「だったら氾濫を鎮めてくれるかも。水神様の祟りを。」

 

ス「水神?」

 

村人「恐ろしい影さ……一瞬で橋を叩き壊すほどの――なにかだ。」

 

兵士「貴様!またそんな寝言を!」

 

ス「恐ろしい影……まさか!」

 

オォォーン。どこからか唸り声がきこえる。水のドラゴン出現。具現化していて、人からも見える

 

兵士「なんだ!?」

 

ミ「スレイ!あそこ!」

 

ラ「あれは……。」

 

村人「水神様だっ!」

 

ミ「やはり憑魔の仕業か!?」

 

ラ「ウロボロス?こんな場所にいるなんて!」

 

ス「逃げろ!みんな!」

 

ア「命令だ!早くっ!!」

 

兵士A「しかし、殿下は……。」

 

みんな逃げる。

 

ス「アリーシャはオレが守る!兵士さんはみんなを安全な場所へ。」

 

ア「頼む!」

 

兵士A「わかりました。殿下、どうかご無事で!」

 

ス「こいつ、普通の人にも見えるのか!?」

 

ラ「人の目には竜巻などに見えているのでしょう。」

 

ミ「来るぞ!」

 

ア「スレイ、浄化を!」

 

ス「ああ!」

 

ミ「今だ!スレイ!」

 

ス「はあああ!」

 

倒すと、天族がでてくる

 

ス「なっ!」

 

ミ「憑魔が……天族になった!」

 

ラ「逆ですわ。実体化するほどの憑魔は天族が憑魔化したものなのです。」

 

ミ「天族が憑魔になるだって!?」

 

ライラがうなずく

 

ラ「そして完全に憑魔化した天族はこう呼ばれます。『ドラゴン』と。」

 

ス「ドラゴンが実在するってこと!?伝説が本当に――」

 

天族「うう……。」

 

ミ「スレイ、今は――」

 

ス「ああ。この人の介抱が先だな。」

 

「私なら大丈夫だ。」

 

ス「よかった。目を覚ました!」

 

「キミには私が見えるのか……。天族を捉えることができる人間はもういないと思っていたが……。」

 

「いや、そんなことより、私はなぜこんなところにいるのか……。」

 

ス「実は――」

 

暗転

 

 

 

天族「この橋を壊したというのか……私が。」

 

天族「恥ずかしい限りだ。君たちが浄化してくれなかったらどうなっていたか。感謝する。」

 

ス「オレたちも、あなたを救えてよかったです。えっと……。」

 

ウーノ「ウーノだよ。若き導師。」

 

ス「スレイです。ウーノさん、助けた代わりっていうとアレだけど、お願いをきいてくれませんか?」

 

ウ「お願い?」

 

ス「レディレイクの加護をお願いしたいんです。」

 

ウ「しかし、今のあの街は――。」

 

アリーシャは村人と話している

兵士「アリーシャ様……お怪我は?」

 

ア「大丈夫。竜巻も消えたよ。」

 

村人「だから、大丈夫だって言ったろ。姫様には導師様がついてんだから!」

 

兵士「貴様だってビビりまくってただろうが!?」

 

別兵士「しかし、急に雨もやんだし、流れも落ち着いてきましたね。」

 

別兵士「これって導師の力……なのかな。」

 

村人「俺……導師様が竜巻を斬ったように見えたよ。こんなこと、信じてもらえないだろうけど……。」

 

村人「いいじゃねえか!信じるなら水神の祟りより、導師の奇跡の方が夢があらぁ!」

 

兵士「こら!導師様と呼ばんか!」

 

ア「ふふふ。」

皆笑う

 

ウ「まだ、こんな人々がいるのか……。いや、君が取り戻してくれたのだな。」

 

ウ「わかったよ、スレイくん。ならせてもらうよ。レディレイクの土地の神に。」

 

ス「ありがとう、ウーノさん!」

 

ウ「君が主神か?よい導師を選んだようだな。」

 

ラ「そう思います。」

 

ア「行こう。ブルーノ司祭が待っている。」

 

 

 

聖堂に到着。

ライラの火で氷を解かす。器の中に聖水が入る

ブ「おお……まさに奇跡の力……。」

 

ウ「我らの存在をまったく感じてないようだな……。」

 

ブ「この聖水、心して祀らせていただきます。天族ウーノ様、ふつつか者ですが、どうぞ末永くよろしくお願いいたします。」

 

ウ「ふっ……だが、真摯な男のようだな。」

 

スレイうなずく。ウーノ、聖水の中に入り、加護復活。

 

ア「なんだろう?今、体の中を風が通ったような……。」

 

ラ「この街に加護が戻ったのです。」

 

ウ「私の領域で街を覆った。だが、加護を維持するには人々の協力が不可欠だ。」

 

ラ「ですね。加護を助けるには、人々の祈りが必要です。」

 

ウ「うん?」

 

ミ「どうした?」

 

ウ「まだ強い穢れを感じる。そう遠くはない。街中だ。その方角を指さしながら。」

 

ア「そっちは王宮の……。」

 

タケダ「それが天族との会話というものですか?独り言にしか見えませんね。」

 

ブ「あなたは……?」

 

スレイに手紙を渡す

 

タ「ハイランド内務大臣、バルトロ閣下の使いです。レディレイクのために辛苦されている導師スレイを、私的な食事会にご招待したいと。」

 

ア「見張っていたのか。スレイを。」

 

タ「とんでもない。驚いていたところですよ。限りなく低いとはいえ、王位継承権をもつハイランド王女が、噂の導師と親密なご関係とは。姫様の愛する民衆も、さぞや喜ぶことでしょうな。」

 

ア「勘ぐりだ。そのような――。」

 

ス「アリーシャ。」

 

熱くなっているアリーシャを止める

 

ス「どこにいけばいい?」

 

タ「ラウドテブル王宮。」

 

ス「わかった。バルトロさんによろしく伝えて。」

 

タケダ帰る

 

ア「大臣たちには関わらない方がいい。私は、彼らから……。」

 

ス「穢れがある方角っぽいし。丁度いいよ。」

 

ア「すまない。甘えてしまって。」

 

ミ「気にしないでいいよ。王宮を見たいってのが本心だから。」

 

ス「王宮って初めてだ。案内よろしくね。」

 

ア「君にとっては同じなんだな。」

 

一行、王宮に向かう。

 




こんにちは、作者です。第五話です。第四話でも書きましたが、スレイはまだ神威を実現していません。一応、念のため。今回の話はほとんど原作通りですね。ここらへんのストーリーはプレイしていて楽しかったです。従士になったアリーシャと一緒に旅が出来ると、胸が高鳴っていました。しかし、それがあんなことに……。おっと、これ以上は止めておきましょう。私かて憑魔にはなりたくありません。ではまた、第六話でお会いしましょう。


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第六話 円卓での攻防

バルトロ卿から招待を受け、王宮へ向かうスレイ一行。


王宮にいく。

兵士「導師スレイ、お待ちしておりました。どうぞ中へ」

 

ジャッ。門の前でアリーシャだけ兵士に止められる

 

ア「なんのマネだ!?」

 

兵士「失礼しました、アリーシャ様。バルトロ様の命は、導師スレイをお通しせよとのことでしたから。」

 

ア「くっ。」

 

兵士「くくく、冗談ですよ。どうぞお通りください。」

 

大臣がいる場所へ向かう途中、スレイに耳打ちするアリーシャ。

 

ア「幼い王を擁する大臣たちは煙たがっているんだ。継承順位が低いくせに、政治に口を出す私を。すまない。君にまで嫌な思いを……。」

 

ス「アリーシャ、辛い思いをしているんだな……」

 

円卓の間へ向かう途中。

 

兵士「姫様は、お待ちを。」

 

ア「なぜだ!」

 

兵士「アリーシャ様には別命が下されるとの内示がありました。」

 

ア「マーリンドの件か。」

 

兵士「はい。このままご待機を。」

 

ア「わかった。」

 

ス「アリーシャ……?」

 

ア「前からあった仕事の話なんだ。すまないが、私は残るよ。」

 

兵士「導師殿、こちらへ。円卓の間へご案内します。」

 

 

 

円卓の間へ

バルトロ大臣「待たせたな、導師よ。遠慮なくかけたまえ。」

 

ミ「毒でも入ってそうだ。」

 

バ「心配無用。毒など入っていない。」

 

マティア軍機大臣「我々は君とお近づきになりたいのだよ。」

 

バ「紹介しよう。こちらは軍を統括するマティア軍機大臣。ハイランドの法を司るシモン律領博士。最高位の聖職者、ナタエル大司教。」

 

ナ「そして、王の輔弼たる内務卿……。」

 

バ「バルトロだ。」

 

ス「スレイです。招待してくれてありがとう。オレも話がしたかったんだ。」

 

着席してスレイ、食事に手を付ける

 

ス「もぐもぐ」

 

ミ「おい、素直に信じすぎ。」

 

バ「度胸はあるようだな。それとも、単なる愚か者か……。」

 

ス「美味しいな。アリーシャも一緒なら、もっとよかったけど。」

 

バ「どういう関係なのだね?アリーシャ殿下とは。」

 

ス「友達だよ。オレを外の世界に誘ってくれた。」

 

バ「建前はいい。腹を割って話そうじゃないか。」

 

ラ「スレイさんとアリーシャさんが、お互いを利用してなにか企んでいるのだろうと言っているのですわ。」

 

ス「アリーシャを利用なんてしないし、導師はそういう存在じゃない。」

 

バ「さぁて。本物の導師など見たことはないのでな。」

 

ミ「疑われているね。当然だけど。」

 

ス「いいよ。信じられないなら。」

 

バ「よくはない。王族がニセ導師を使って、人気取りをしたとなれば致命的な醜聞だ。」

 

ミ「脅迫か。」

 

ス「……証明すればいいのか?本物の導師だって。」

 

バ「ふっ、本物かどうかなどどうでもいい。問題は、国民が君を支持し始めている事実だ。」

 

シモン律領博士「民というものは、常に劇的な救済を求め、安易に欲望を託すからな。」

 

ラ「確かに……人々の過剰な期待には、歴代の導師も苦しんできました……。」

 

ナタエル大司教「民衆は、まことに愚かで低俗。非常に残念だが、これは事実なのだ。」

 

マティア軍機大臣「しかし、だからこそ君の存在が有効となる。」

 

ス「オレが?なんで?」

 

バ「単刀直入に言おう。我々の配下に入れ、導師スレイ。」

 

シ「ハイランドを守護する導師として、国民の士気を高揚させてもらいたいのだ。」

 

ナ「近年、災害が続いたせいか、国民に厭世感が広まって困ってるのだよ。」

 

マ「まったく愚民どもが!ローランスとの開戦も近いというのに!」

 

バ「もちろん十分な礼はする。」

 

バルトロ、金をスレイの前に投げる。

 

バ「前金だ。聞くところによると、君は遺跡に興味をもっているそうだな?我らの仲間になるなら、遺跡探索や、記録収集に十分な便宜を図ろうじゃないか。」

 

ス「…………。」

 

バ「アリーシャ姫に義理立てしても無意味だぞ。」

 

マ「かの姫は、疫病の街マーリンドに左遷されるのだからな。」

 

ミ「アリーシャが疫病の街に!?」

 

ナ「強情な騎士姫も、あの街で苦労すれば身の程を思い知るでしょう。」

 

シ「もっとも、本人が疫病にかかれば、その後悔も役には立たぬでしょうが。

 

バ「ふはははははは。そういうわけだ。考えるまでもあるまい?」

 

ス「断るよ。」

 

スレイ立ち上がる

 

ス「残念だな。話してわかる人たちじゃなかった。むしろよかったよ。」

 

バ「ニセ導師風情が後悔するぞ!アリーシャともども潰してくれる。」

 

ア「一体どういうことだ!王宮内に武装集団を配するとは!」

 

兵士「これはバルトロ様の命で……。」

 

ドアを思い切り蹴り、アリーシャ、登場

 

ア「スレイをどうする気だ、バルトロ卿!兵を退かせろ!」

 

ス「王宮の見学はすんだよ。行こう、アリーシャ。」

 

歩き出すスレイ

 

ス「自分の夢は自分でかなえるよ。オレもアリーシャも。」

 

ア「ああ、もちろんだ!」

 

兵士「民を惑わすイカサマ導師を成敗いたします!」

 

戦闘中

 

ミ「やりすぎじゃないのか、スレイ!?」

 

ラ「いえ、スレイさんの力が強すぎるんです!」

 

ミ「スレイ、もっと力を抑えないと!」

 

ス「そういわれても……。」

 

敵を一掃

 

「この力……本物……!?」

 

ア「バルトロ卿。今の騒ぎは忘れる。その代り、もう二度と導師スレイに手出ししないでもらいたい。」

 

バ「バカな!放置したら国の治安が!いや、こんなものをローランスに利用されでもしたら――。」

 

突然、窓が開く

 

ス「あっ!」

 

部屋中の明かりが消える。

 

「国より自分の心配をした方がいい。」

 

現れた暗殺集団が大臣たちそれぞれの首に刃物をつきつける

 

ス「あんたたちは!?」

 

「風の骨。」

 

ア「暗殺ギルド!?」

 

「そう。こいつは我らの仲間を謀り、姫殿下の暗殺を依頼した。」

 

ス「バルトロ大臣が、アリーシャを殺そうとしたっていうのか?」

 

バ「な、なにをバカなっ!」

 

「違ったか?殺すか。」

 

バ「ひい……っ!」

 

刃をさらに近づける

 

ア・ス「やめろ!」

 

ア「頼む。やめてくれ。ハイランドに必要な者なのだ。」

 

「ふふ、噂通りね。よく聞け、バルトロ卿。我らは矜持に反する殺しはしない。ルナールは今どこだ?」

 

バ「侮るな!暗殺者に話すことはない。」

 

「それが、お前の答えか……ふん!」

 

バ「がっ!ごほ……ごほ……。」

 

ア「なぜ!?」

 

ス「大丈夫。殺してないよ。」

 

ミ「変わった暗殺者だね。王宮にまで忍び込むなんてね。」

 

バ「で、であえっ!曲者だ!」

 

バルトロ鈴を鳴らす。それを合図に兵士が流れ込む。

 

ミ「やばいぞ、スレイ。」

 

「お前たちのおかげで、仕事が一手ですんだ。」

 

「返礼だ。ついて来い。」

 

正面の門は閉ざされ、今まできた道も閉ざされた。

 

ア「強行突破しか!」

 

ス「だめだ!オレの力じゃ殺しちゃう!」

 

「早くしろ!こっちだ!」

 

奥の部屋(厨房)に隠し通路が。風の骨はそこから逃げていく。

 

「ここを進めば、外に出られる。あとは自分で切り抜けなよ。」

 

ス「待て!」

 

スレイたちも続く。地下水道につく

 

ミ「ここは、地下水道?」

 

ア「厨房が、こんな場所に繋がっていたなんて。」

 

ス「あいつらは!?」

 

ラ「……もうここにはいないみたいですね」

 

ミ「まったく、あいつらは何者なんだ」

 

ア「暗殺ギルド……、ハイランド・ローランス両国内で要人たちを狙って暗殺を繰り返している。まさか大臣と繋がっていたなんて」

 

ミ「でもあいつら大臣に攻撃していたぞ」

 

ア「それは……わかりません。仲間を騙したと言っていましたが……」

 

ラ「くしゅん」

 

ア「大丈夫ですか、ライラ様。湿った服も乾かさないと風邪をひいてしまいます。屋敷は追手がかかっているはずです。宿で一休みしましょう」

 

ラ「……ですわね。」

 

ミ「そういえば、穢れの持ち主は誰だったんだろう。大臣たちは穢れを発している様子はなかったが……」

 

 

 

宿屋にて

ラ「また起こっちゃいましたわね、一騒動。」

 

ア「でも、よかった。これで、ここに思い残すことはない。」

 

ミ「そんな最後みたいに。」

 

ア「……最後なのです。私はマーリンドへ行きます。

 

ミ「……って、疫病の街だろ!?あんな奴らに従うのか?」

 

ア「大臣たちの思惑はどうあれ、命令は正式なもの。何より――マーリンドが疫病で苦しんでいるのは事実。私はできることをしたいんだ。ハイランドの民のために。」

 

ス「アリーシャ……。」

 

ア「バルトロたちは笑うだろうけど。」

 

ス「わかった。オレも一緒に行く。」

 

ア「ダメだ、私に関わっては。さっきだって、巻き込んでしまった。」

 

ス「でも、どうやってマーリンドへ?橋は流されちゃってる。」

 

ア「それは……なんとかする。」

 

ス「だったら、一緒になんとかしよう。」

 

ラ「その方が早くなんとかなりますわ。」

 

ミ「どのみち橋は必要だしね、僕らにも。」

 

ア「みなさん……。」

 

ス「お礼はいいよ。昨日王宮で食べた料理、すっごく美味しかったし。」

 

ラ「さぁ、橋の様子を見に行きましょう。」

 

 

 

グリフレット橋

ス「これは……」

 

ア「まったく作業が行われていない……?どういうことだ」

 

ス「憑魔ももういないのに」

 

ア「すまない。関係者に話を聞いてくる」

 

アリーシャ橋へ駆ける。スレイ、老人に話しかけられる。

 

「おお!その出で立ち!そなた導師殿では?」

 

ス「うん。スレイっていいます」

 

ネイフト「ワシは向こう岸の街マーリンドの代表ネイフトという」

 

ネ「スレイ殿、水神様の祟りを鎮めてくれたそうな……。本当に感謝しておりますぞ」

 

ス「そんなの気にしないで」

 

ス「ネイフトさん?何か俺に話があるんじゃないですか?」

 

ネ「ああ、うむ……。導師殿が水神様を鎮めてくれたことにより、いずれここも穏やかな流れになり橋も架けられるじゃろう。じゃがそれでは遅すぎる……。なんとか急いで薬を届けたいのじゃ」

 

ス「そうか、なら俺がやろうか」

 

ラ「スレイさん」

 

ス「困っている人はほっとけない」

 

ラ「スレイさんが導師の力を駆使して荷を届けてしまうと、他の人も同様にスレイさんに荷を運ぶことを求めるようになりますわ」

 

ス「ネイフトさん、薬をもらえますか?」

 

ネ「それもお願いしてもよいのかの?」

 

ラ「スレイさん!」

 

ミ「こういう時スレイは頑固なんだ。言っても聞かないよ」

 

ス「安心して誰でも物資を運べるように橋をなんとかする。それからでもいいですか?」

 

ネ「なんと!橋も架けられるのか!ぜひ頼む。これが薬だ」

 

ス「確かに受け取りました」

 

ネ「……いや、橋の崩壊も天族への感謝を忘れた人々への報いのようなもの。それを棚に上げて導師殿に頼んでいいものだろうか……」

 

ス「いいって。天族は確かにいる。そう信じてくれるだけで今は充分です」

 

ネ「ありがとう。恩にきる」

 

ス「だからもう少し待ってて。橋もなんとかして、薬も届けるから」

 

ネイフト去る

 

ミ「天族への感謝を忘れていない、いい人物だ」

 

ス「うん。なんとか助けてあげたい」

 

ミ「スレイの従士であるアリーシャだけなら僕の力でこの川を渡ることは可能だ。薬を届けるぐらいできるけど、橋の復旧はどうするんだ?何か策があるのか?」

 

ス「……橋の基礎部分を岩で作り上げる事はできないかな。地の天族に頼んで川底を隆起させて」

 

ミ「確かにそれは導師にしか出来ないし、その後の橋の復旧作業は人に委ねられる方法だ」

 

ス「どう?ライラ?」

 

ラ「……わかりました。良いと思いますわ。ここの西にそびえる『霊峰』と呼ばれる山に、地の天族の方がおられたはずですわ」

 

ス「うん。アリーシャにも伝えよう」

 

 

 

ス「アリーシャ、ちょっといい?」

 

ア「スレイ」

 

ア「あとで話の続きをしたい。そのつもりでいてくれ」

 

兵士「わかってますよ」

 

ス「どうしたんだ」

 

ア「ああ……マーリンドのためにもなんとか作業に身を入れて欲しいと話していたんだが……」

 

ミ「旗色が悪いということか」

 

ア「諦めるという類のものではありませんので辛抱強く話してみるつもりです。それで、スレイ。話があるんだろう?」

 

ス「うん。橋の復旧のために地の天族にお願いして、橋の基礎となる岩場を作ってもらおうかなって」

 

ア「そ、そんなことまでできるのか?」

 

ラ「はい。可能だと思いますわ」

 

ア「…………スレイ。私は彼らをちゃんと説得したい。すまないがここに残っていいだろうか」

 

ス「うん。こっちは任せて。だから……」

 

ミ「そっちは頼んだよ。アリーシャ」

 

ア「ああ。任せてくれ」

 

ス「じゃあ行ってくるよ。霊峰ってところに」

 

ア「れいほう……、待ってくれ。今、霊峰に行くと言ったか?」

 

ミ「そうだけど」

 

ア「……王宮を出入りしている天族様について研究している者がいます。彼の話によると、かの山にはドラゴン伝説が伝わる場所だと……。人が立ち入るべきでないと言ってました」

 

ス「研究者?一体どんな人なんだろう。一度会ってみたいな」

 

ラ「スレイさん」

 

ス「……忠告ありがとう。でも行かなきゃならないんだ」

 

ア「スレイ……」

 

ス「きっと大丈夫。ミクリオもライラもいるしね。じゃあ行ってくる」

 

ア「スレイ、気をつけて」

 

アリーシャは、霊峰レイフォルクに向かった三人を見送った。

 

 




こんにちは、作者です。第六話です。円卓でのバルトロ卿とスレイとの会合は個人的に好きなシーンです。バルトロ卿の小物感、たまりませんね。次回は、風の天族二人と地の天族が登場します。特に地の天族を旅に誘う場面は原作をとどめていないくらい改変しています。お楽しみに。ではまた、第七話でお会いしましょう。


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第七話 風の天族と地の天族

地の天族を捜しに霊峰へ。


霊峰レイフォルク

ス「近くで見ると、ホントすごい山だな~」

 

ミ「まさに霊峰の名にふさわしいな。それにしても……ドラゴンか」

 

ス「ちょっと信じられないよな」

 

ラ「少なくとも私が以前訪れたときにはいませんでしたわ」

 

ス「それって前の導師との旅?」

 

ラ「い、いきなりしりとり大会~!あんぱん!あ、終わってしまいましたわ!」

 

ミ「めちゃくちゃだ……」

 

ス「はは……例の誓約だね……」

 

ラ「と、ともかく!仮に本当にドラゴンが居るのなら、今の私たちでは全く太刀打ちできませんわ」

 

ス「もし出会ってしまったら逃げろって事か」

 

ミ「出会わない事を祈るよ」

 

 

 

中腹

憑魔と遭遇。悪戦苦闘

ミ「くっ、こいつ中々強いぞ」

 

ラ「スレイさん、ミクリオさん、大丈夫ですか?」

 

ス「なんとか……」

 

謎の天族「見てらんねーぜ。ボーヤたち」

 

ミ「誰だ!?」

 

「人に名を尋ねる時はまず自分から、これ社会のルールだ」

 

ラ「あなたは!」

 

銃で自分の頭を打つ

 

ザビーダ「このザビーダ兄さんがお手本ってヤツを見せてやるぜぃ」

 

憑魔を圧倒。

 

ス「つ、強い」

 

ミ「憑魔を一瞬で倒した……」

 

ザビーダ、憑魔に銃を向ける

 

ラ「いけません」

 

撃つ

 

ス「殺……した……?」

 

ミ「貴様!」

 

ザ「憑魔は地獄へ連れてってやるのが俺の流儀さ」

 

ス「オレたちの力なら殺さずに鎮められたのに……」

 

ザ「んならボーヤたちがちゃーんと勝てば良かったんじゃねぇ?それに、殺す事で救えるヤツも……いるかもよ?」

 

ミ「よくも天族が……」

 

ザ「あっはっはっは!お美しい!導師様ご一行はいつの時代も優等生揃いだ、なぁ?ライラ」

 

ラ「…………」

 

ス「オレが導師って知ってたのか?」

 

ザ「わかるさ。憑魔に挑む物好きなんざ、そうはいないからな。導師と……、あとはあいつらぐらいだ。俺はザビーダ。よ・ろ・し・く、導師様」

 

ザビーダ攻撃。

 

ミ「何を!」

 

ザ「あんた達には霊峰はまだ早いなぁ。ドラゴンがあくびしただけで眠っちまいそうだ。永遠にな」

 

ラ「ドラゴン退治が私たちの目的ではありませんわ」

 

ザ「そうなん?それもつまんないな。ライバルが居た方が燃えるのに」

 

ス「ザビーダ、ドラゴンと闘うつもりなんだな」

 

ザ「そのつもりだったんだが……パスするって今決めた」

 

ザビーダ攻撃。スレイよける

 

ミ「いい加減にしろ」

 

ザ「ヒュ~♪今度はよく出来ましたってか?」

 

ス「一体何が狙いだ!ザビーダ!」

 

ザ「ヤツに導師様ご一行ってご馳走をみすみすくれてやる気はないってこと。さっさと山を下りな」

 

 

 

戦闘

ザ「たんま!悪かった!悪かったって!もうこれぐらいにしようぜ?」

 

ミ「そっちから仕掛けてきたんじゃないか」

 

ザ「だから悪かったてば。俺は敵じゃないって。もういいだろ?な?」

 

ラ「はい。私たちが争うのは無益ですわ」

 

ザ「さっすが話がわかる!」

 

ザ「俺たちゃ目指してること、そのものは同じなんだし、な?」

 

ラ「知りません」

 

ザ「俺は坊やの陪神にはなる気ないけどな?」

 

ラ「ザビーダさん!」

 

ザ「わーった!わーったって。もう邪魔しないよ。導師殿」

 

ス「スレイだ」

 

ザ「はいはい、導師スレイね。俺もう行くから。ドラゴンからはちゃんと逃げてくれよ」

 

ス「ここにはホントにドラゴンが居るのか?」

 

ザ「あんたの目は何のために付いているんだい?スレイ殿」

 

消える

 

ス「消えた……」

 

ミ「何なんだあいつは……」

 

ス「あいつの力……浄化っていうより、むしろ穢れが食い尽くされたような……」

 

ラ「……」

 

ミ「僕はあんなヤツ認めない。殺してまで憑魔を狩る天族なんて」

 

ス「ああ、許せない」

 

ラ「行きましょう。今の私たちの目的を果たすために」

 

ス「うん」

 

 

 

ザ「まさか新しい導師が生まれていたとはな。今はまだ未熟だが、いい目をしていた。見込みはある。あいつらならもしかして……。いや、浄化の力には限界がある。やっぱり信じられるのは俺の腕とこの銃だけだ。なあ相棒」

 

 

 

山頂前の会話

ラ「まったくあの方ときたら!」

 

ス「さっきの奴のこと聞きたいけど……」

 

ラ「いつもいつも不真面目で!」

 

ミ「あの不思議な道具のことも聞きたいが……」

 

ラ「しかも乙女の前でハダカなんて!」

 

ミ「今はやめておいた方がよさそうだね」

 

ス「賛成」

 

その時穢れが急に発生。

ス「なんだ……これ……」

 

ラ「そんな!これは領域?」

 

ス「領域?こんなに穢れてるのが?」

 

ラ「スレイさん、逃げましょう!領域は強い力を持つ者が身にまとうものですの。そこに善悪も穢れも関係ありませんわ」

 

ス「え、けど……」

 

ミ「ジイジがそうだったろう!この領域の主に僕らの侵入は悟られてるはずだ!」

 

ドラゴン飛来

 

ス「これが……伝説の……破滅の使徒……ドラゴン……!こんなの……逃げるのも不可能だ……」

 

ラ「私のせいですわ……自分の記憶を頼って、ドラゴンなど居るはずないとタカをくくってしまった……」

 

ス「じゃあ、このドラゴンは最近現れたってこと?」

 

おぎゃああああああああ

 

ラ「まさか!あなたは……エドナさん!?ああ……エドナさん……まさかあなたがドラゴンになってしまうなんて」

 

エドナ「そんなわけないでしょ」

 

ラ「え、エドナさんが二人?」

 

エ「だからなんでそうなるの。だめよ、お兄ちゃん」

 

ス「お兄ちゃんって……」

 

エ「もうワタシの声も届かないのね……。来るわ、全力で逃げて!」

 

ミ「彼女が探してた天族なの?ライラ」

 

ラ「はい」

 

エ「話してる場合?走って!」

一時撤退

 

 

 

ス・ラ・ミ「ハァハァハァ……」

 

エ「まったく。バカなの?」

 

ス「へぇ?」

 

エ「何なの?ドラゴンバスターの勇名が欲しかったの?」

 

ラ「エドナさぁん!ドラゴンになってしまったのかと……ホントに良かったですわ」

 

エ「あなたは相変わらずね。そのマイペースな性格、直した方がいいわ」

 

ミ「僕たちは、君を探しに来たんだ」

 

エ「じゃあ、うかつにドラゴンの領域に入ったの?やっぱりバカね」

 

ミ「こいつ……」

 

ラ「ごめんなさい……」

 

エ「まったく……で?」

 

ス「え?」

 

エ「ワタシに何の用かしら?」

 

ス「あ、うん。オレはスレイ。君の力を貸して欲しいんだ」

 

ミ「壊れた橋を復旧できるように、橋の基礎を作ってやってほしい」

 

エ「無理ね」

 

ス・ラ・ミ「え!」

 

エ「ワタシは人間が嫌い。自分本位で感情的。困った時だけワタシたちに頼ってきて……ホント面倒。それに、お兄ちゃんを置いてなんていけないから」

 

ス「お兄ちゃん……あのドラゴン?」

 

エ「そう。彼はアイゼン……ワタシのたった一人の家族よ」

 

ス「けど……エドナ、だっけ。ここに居るのは危険すぎる」

 

ミ「そうだよ。何か考えがあるのかい?」

 

エ「それはっ!えっと……。鎮める方法を探してたけど、どうにもならなかったわ」

 

ス「オレなら鎮められるかな?」

 

エ「知らないの?」

 

ラ「ドラゴンとして実体化してしまうと、浄化の炎でも鎮められないんですの」

 

ス「それじゃ、エドナのお兄さんは救えないのか?」

 

エ「殺すしかない。まぁ、できればの話ね」

 

回想

ザ「それに、殺す事で救えるヤツも……いるかもよ?」

 

ミ「認めたくない……が……」

 

ス「とにかくエドナ、ここは危険だ。オレたちに協力してくれとは言わない。せめて離れよう」

 

ミ「そうした方がいい」

 

エ「あなた達には関係ないわ」

 

ラ「けどエドナさん……」

 

エ「放っておいて」

 

エドナ去る。

 

ラ「エドナさん!いっちゃいました」

 

ミ「協力してもらうのは難しそうだ」

 

ス「それは別の方法を考えよう。それより、このまま彼女を置いていけない」

 

ラ「そうですわね」

 

ミ「あのドラゴンの事について、例の研究者から聞き出そう」

 

ス「そうすれば説得する方法が見つかるかも。一度アリーシャのところへ戻ろう」

 

ラ「その研究者さんが近くにいるといいんですが……」

 

ミ「あまり時間はない。急ごう」

 

ラ「ええ」

 

 

 

グリフレット橋

ア「スレイ!どうだったか、地の天族様はいらしたか?」

 

ス「あ、まあ一応」

 

ケイン「やあスレイくん。また会えたね」

 

ス「ケイン!」

 

ア「二人は知り合いなのか?」

 

ス「レディレイクまで案内してくれたんだ」

 

ケ「こんなに早く再開できるなんてね」

 

ス「そうだな。会えて嬉しいよ」

 

ミ「スレイ、おしゃべりはそのへんで」

 

ス「おっと、そうだな」

 

ア「何かあったのか?」

 

ス「実は……」

暗転

 

 

 

ア「まさか本当にドラゴンがいたなんて」

 

ス「アリーシャ、さっき話していた天族を研究しているっていう研究者から霊峰のドラゴンについて聞きたいんだけど、今どこにいるかわかる?」

 

ア「ああ。今隣にいる彼がそうだ」

 

ミ「ケインが!?」

 

ケ「言ってなかったっけ。ボクは世界中の遺跡を回って天族について調べているんだ。あんまり収穫はないけどね」

 

ス「へえ、そうだったんだ!驚いたよ」

 

ケ「驚かされたのはボクのほうさ。約20年ぶりにこの世に現れた導師が、つい最近道案内した人だったなんて一生自慢できる話だよ」

 

ス「ははは」

 

ケ「……スレイくん、ボクをドラゴンがいたところまで案内してくれないか」

 

ミ「なんだって!」

 

ラ「危険です!」

 

ケ「直接この目で見て確かめたいんだ。百聞は一見にしかずっていうしね」

 

ス「……わかった」

 

ラ「スレイさん!」

 

ス「大丈夫。俺たちがケインを守ればいい。それに他に当てもないし」

 

ケ「ありがとう。自分の身は自分で守れるよ。導師の足は引っ張らない」

 

ア「ケインよろしく頼む」

 

ケ「頼まれました、と」

 

 

 

霊峰、山頂付近

ケ「この山には初めて登るけど、見た目以上に山頂は遠いんだね」

 

ス「ケイン、大丈夫?疲れてない」

 

ケ「これぐらい大丈夫さ」

 

ラ「スレイさん」

 

ミ「強い領域を感じる。近くにいるぞ」

 

ス「ケイン、ストップ。この先にドラゴンがいる。岩陰に隠れよう」

 

ケ「凄いな。壁画に描かれていたのと同じ姿。これがドラゴン……」

 

ス「…………」

 

ケ「導師の力を持ってしてでも倒す事ができない存在……、ね」

 

ス「ケイン?」

 

おぎゃあああ

 

ミ「こっちに向かってくるぞ」

 

ラ「私たちが領域内に入った事に気づいたんですわ。逃げましょう」

 

ス「ケイン、逃げるぞ」

 

 

 

中腹

ミ「ここまでこれば大丈夫かな」

 

ラ「はい、先ほどまでの穢れは感じませんわ」

 

ケ「スレイくん、少しわかったことがある。例の天族に会わせてくれないか」

 

エ「わたしならここにいるわ」

 

ラ「エドナさん!」

 

ス「いつの間に!」

 

ケ「…………」

 

エ「あなた、やっぱりバカなの?ドラゴンの力を見たでしょ。なんでまた戻ってきたの」

 

ス「それは……」

 

ケ「もしかしてここにいるのか、例の天族が」

 

ス「うん」

 

エ「この子、天族が見えてないじゃない。普通の人を連れますような場所じゃないでしょ。やっぱりバカなの?」

 

ケ「地の天族よ、少しだけ話を聞いてくれないか。ドラゴンを救う方法があるかもしれない」

 

エ「そんな方法ないわ。あったらとっくに……」

 

ラ「エドナさん、話だけでも聞いてみましょう」

 

エ「……勝手にしなさい」

 

ス「話を聞くってさ」

 

ケ「ありがとう。グリフレット橋でスレイくんは「ドラゴンとなってしまった天族は、導師の力でも鎮められない」と言ったね。でも本当にそうだろうか。世界各地に点在する遺跡の壁画によると、導師と思われる人間は天族と共に生活している様子が描かれている。それと同時にドラゴンに立ち向かっている壁画も」

 

エ「…………」

 

ケ「そこに描いてあることが本当にあったことだったのなら、人間は何かしらの力を持ってドラゴンに対抗していたことになる。それが失われた技術なのかはわからない。でも、かつて人間はドラゴンと向き合っていた」

 

ス「天族も導師もドラゴンも……本当にいた。この世界にはまだ明かされていない伝説がいっぱいある。きっとドラゴンを鎮める方法もどこかに眠ってるんじゃないか、ってことか」

 

ケ「そういうことだ」

 

エ「それを信じろって言うの?」

 

ケ「…………」

 

ミ「聞こえてないって」

 

エ「めんどうだわ。ライラ、なんとかしなさい」

 

ラ「スレイさん、ケインさんと手を繋いでください。アリーシャさんの時のようにお話が出来るようになるはずです」

 

ス「ケイン、オレの手を握ってくれ」

 

ケ「どうしたんだい、急に。ボクにはそんな趣味はないんだ。ごめんよ」

 

ス「そういうことじゃなくて!エドナが話をしたいって」

 

ケ「エドナ……、それが例の天族の名前なんだね。…………エドナ、……いい名前だ。わかった、キミに従おう」

 

ラ「あーあー、ケインさん、聞こえますかー」

 

ケ「聞こえますよ、エドナさん」

 

ラ「えっと……わたしはエドナさんではないのですが……」

 

エ「エドナはわたしよ」

 

ケ「おっと、これは失礼しました。エドナさん」

 

エ「女の子の名前を間違えるなんて男として失格ね」

 

ケ「……そういう趣味もないんだけど」

 

ス「ケインは驚かないんだね。天族と話しているんだよ」

 

ケ「ずっと天族は存在しているって信じていたからね。今この瞬間確信に変わって、驚きより嬉しさの方が大きいよ」

 

エ「わたしの話を聞きなさい!あなたの言っていることを信じろっていうの?本当にお兄ちゃんを助けられるの?」

 

ケ「さあ、どうだろう。あくまで可能性の話だ。100%あるとは言い切れない。でも、ボクは見込みのない約束はしない主義なんだ。必ずキミのお兄さんを救う方法を探し出してみせるよ、エドナさん」

 

ス「エドナ、一緒にアイゼンを鎮める方法を探しに行こう」

 

エ「…………」

 

エ「わかったわ。一緒に行く」

 

ラ「エドナさん!」

 

エ「言っとくけど」

 

ス「何?」

 

エ「どうしても連れ出したいのなら引っ張ってでも連れて行けば良かったのよ。伝説を追いかけるとか、自分を信じてとか、そんなので女の子を誘うなんて時代錯誤。説得力ゼロ」

 

ス「そ、そう言われても……」

 

ケ「そんな風に言われるのは心外だなあ」

 

エ「さぁ、ライラ、陪神の契約を」

 

ス「ちょっと待って!そこまでは……」

 

エ「誘ったのはそっちじゃないかしら?」

 

ス「そうだけど……」

 

エ「いずれにせよ、ここを離れるのなら新しい器に移らないと。すぐに穢れに侵されてしまうわ。そこまで考えなかったのかしら?」

 

ス「あ……」

 

エ「バカね、ホントに。さ、ライラ」

 

ラ「本当によろしいのですか?エドナさん、人間はお嫌いなのでしょう?」

 

エ「人間は嫌いだけど、この子たちは嫌いじゃないわ」

 

ス「ありがとう、エドナ」

 

エ「約束よ。アイゼンを救う方法、きっと探し出して」

 

ス「一緒に、ね」

 

ラ「毅然たる顕れに宿り生まれし者よ。今、契りを交わし、我が煌々たる猛り、清浄へ至る輝きの一助とならん。汝、承諾の意思あらば、真の名を告げん」

 

エ「『ハクディム=ユーバ』」

 

エ「さ、連れて行って。世界に」

 

ケ「スレイくん、ボクも付いていくよ。天族にドラゴン、そして導師。これまで知り得なかったことがたくさんありそうだ」

 

ス「ケインがいたら心強いよ。いいよね、みんな」

 

ミ「遺跡の話をもっと聞きたいしね」

 

ラ「穢れはない人みたいですし、問題はないですわ」

 

エ「勝手にすれば」

 

ス「えっと、これから従士契約といって……」

 

ケ「つまる話は後。どうせ旅は長いんだ。ゆっくり聞かせてもらうよ、導師と天族の話はね。今は早めに橋へ戻ろう。アリーシャ姫がキミの帰りを待ってるよ」

 

従士契約を素早く済ませる。

 

ス「これからよろしく、エドナ!ケイン!」

 

 

 

入口付近

エ「ねぇ水のボーヤ。名前は?」

 

ミ「僕はミクリオ!ボーヤじゃない」

 

エ「聞かない名前ね……ミクリオボーヤ」

 

ミ「好きに呼んでくれ……」

 

エ「じゃあミボ」

 

ミ「ミクリオと呼んでもらう!いいね!」

 

エ「ふぅ……しょうがない」

 

ラ「エドナさん……もうカカア天下ですの?」

 

エ「そう」

 

ミ「ちょっと待ってくれないか……意味がわからない」

 

ケ「なるほど。導師に従士。そして主神と陪神。ミクリオくんに、ライラさんに、エドナちゃんね。大体話はわかった。もっと天族って、神聖な存在だと思っていたけど、結構人間味溢れているんだね」

 

ス「根本的なところでは人間と変わらないよ。みんないい仲間だ」

 

ケ「そうみたいだ。人間と天族が一緒のものを見聞きしている。夢みたいな光景だ」

 

暗殺者「導師ご一行もずいぶんと賑やかになったものだな」

 

ミ「お前は!」

 

エ「……誰?」

 

ス「お前は暗殺団の……?オレを狙ってるのか?何で?」

 

「……お前が導師であると吹聴してるおかげで、人心がどれほど乱されているか……」

 

ス「君は……頭領って呼ばれてた人だな。オレは本当に導師なんだ。信じてもらえないかもだけど」

 

「それを証明できるのか?できないだろう。この世界の穢れを祓える力がないくせに、口だけで救いを問いて」

 

ラ「何者かの加護領域を感じます!」

 

ス「何だって!?」

 

ミ「こいつ、導師級の霊応力を持っているのか?!」

 

エ「おしゃべりはここまでね。この子強いわ」

 

「はああああああ」

 

斬りかかるのをケインが受け止める。

 

ケ「……よく分からないけど、ピンチみたいだね。どこの誰だが知らないけど、スレイくんはようやく見つけた希望なんだ。殺させやしないよ」

 

「ふふふ。さすがだな。だが!」

 

風の天族登場

 

ケ「ぐわあ!」

 

ス「ケイン!」

 

ミ「暗殺者を中心に突風が舞っている。あれは……」

 

エ「風の天響術ね」

 

風の天族姿を現す

 

ラ「あれは……デゼルさん!」

 

ミ「知っているのか?ライラ」

 

ラ「流浪を好み、最強と詠われた傭兵団を気に入って共に旅をしていたと聞いてますが……。どうして暗殺者に?」

 

デゼル「おまえたちに話すことはない。ここは一度引くぞ」

 

「ああ。悪いことは言わない、あんまりでしゃばるな。下手すると周りの人が全員憑魔になるぞ」

 

ス「それってどういう……」

 

「答える義理はない。自分で考えな」

 

暗殺者、デゼルと共に消える

 

ミ「消えた……」

 

エ「その傭兵団に何かあったのかしらね」

 

ス「訳があるんだな。暗殺者と共に居なければならない何かが」

 

ス「それを証明できるのか、か……。これが君の言う導師の宿命なんだね」

 

エ「そう。人間はあなたの気持ちなんて考えもしない。でも仕方ないのよ。それが人間なんだから」

 

ケ「やれやれ、気がついたら吹っ飛ばされていたよ。天響術?天族は魔法使いなのか」

 

ス「ケイン!大丈夫か?」

 

ラ「ええ、傷はそこまで深くありませんでした。回復術もかけておきました」

 

ス「よかった……。ケイン、さっきは盾になってくれてありがとう。助かったよ」

 

ケ「このざまだけどね。礼には及ばないよ」

 

ミ「あのタイミングでよく動けたな。何か武術の心得でも?」

 

ケ「そんな大したことないさ。昔ちょっとやんちゃしていただけで。護身術だよ、護身術」

 

エ「橋はすぐそこよ。はやく行きましょう」

 

ミ「エドナ、やっぱり協力してもらえないのかい?」

 

エ「導師は天族を司り、操る者でしょ?好きにすればいいわ」

 

ス「そんなのイヤだ。道具扱いじゃないか。エドナがイヤなら別の方法考えるよ」

 

エ「どうしても女の子からやらせてって言わせたいのね」

 

ス「ちょ!」

 

ラ「スレイさん!穢れますよ!」

 

ミ「変なヤツだとわかっていたつもりだったが……」

 

エ「何なの?その使い古された反応……もういい。最初から手伝うつもりだったわ」

 

ス「はぁ……」

 

エ「お礼は?」

 

ス「ありがとうございますー」

 

 

 

グリフレット橋

ネイフト「おお、お戻りか。スレイ殿」

 

ス「様子はどんな感じなんですか?」

 

ネ「橋復旧の目処は、まったく立ちませんわい」

 

ス「ネイフトさん。オレが橋を復旧出来るようにします」

 

ネ「復旧出来るように、じゃと?スレイ殿、いったい何を……」

 

ネ「ともかく、アリーシャ殿下を呼んでこよう。しばし待っていてくだされ」

 

ケ「確か、エドナちゃんの力で橋の基盤を作るんだったね。決行はいつだい?」

 

ス「うーん。早く安心させてあげたいし、出来るだけ早い方がいいな」

 

エ「人智を越えた力を示したあなたを、人間がどう思うのか、わかってるの?」

 

ケ「エドナちゃん、もっと言い方ってのがあるんじゃないかな」

 

エ「…………」

 

ス「わかったよ、エドナ。もっと深夜になって人が寝静まってからやるよ」

 

エ「そう」

 

ラ「それがいいですわ」

 

ア「スレイ、戻ったんだな」

 

ス「アリーシャ」

 

ネ「スレイ殿、それで何をなさるつもりか?」

 

ス「あ、えーっと……」

 

ミ「アリーシャ、あまり人目につくのも良くないと話し合って、深夜を待つことになったんだ。だから……」

 

ア「ともかく、もう日も落ちた。すべては明日の事としないか」

 

ネ「ふむ。そうですな」

 

ア「ではスレイ、また明日に。それでネイフト殿、マーリンドへの物資運び込みだが……」

 

ネ「あ、ああ、うむ……」

 

ス「ありがとう。アリーシャ」

 

ラ「では、深夜になるまで待ちましょう」

 

ケ「隙見てアリーシャ姫にボクが従士になったことを説明しておくよ。エドナちゃんも一緒に行こう」

 

エ「なんでわたしが……」

 

ケ「これから一緒に旅する仲間じゃないか。挨拶ぐらいはしておかないと。これ人間社会のルール」

 

エ「……仕方ないわね。さっさと済ませるわ」

 

ケイン、エドナフェードアウト

 

ラ「案外いいコンビになりそうですね」

 

ミ「そうだね」

 

 

 

深夜になる

ス「よし、やろう。頼むよ、エドナ」

 

エ「赤土、目覚める ロックランス!」

 

術で地盤を作る

 

ケ「へえ、エドナちゃんも結構やるね」

 

ネ「こ、これは」

 

ス「ネイフトさん……」

 

ネ「ま、まさかこんなことが……これが導師の力……」

 

ア「ネイフト殿、これは……」

 

ネ「これでマーリンドは救われる!有り難いことじゃ!」

 

ネ「ありがとう!本当にありがとう!導師スレイ!」

 

ス「お、お礼なんて良いよ!」

 

ケ「予想外の反応だね」

 

ラ「ですわね」

 

ネ「スレイ殿、このまま出立するつもりですな?人目を忍んでいるのじゃから」

 

ス「うん。このままマーリンドに行くつもり」

 

ネ「やはり……ではアリーシャ殿下も共にお行きなされ」

 

ア「ネイフト殿?」

 

ネ「アリーシャ殿下……難しい立場じゃろうが、マーリンドでの任務は正念場。いち早く向かい、誠意と能力を示さねばなりますまい」

 

ア「ご存じだったのか……」

 

ネ「お二人のような方々が先にマーリンドに向かわれるのなら、ワシもまずは一安心。頼みましたぞ。橋の事はお任せくだされ」

 

ス「わかりました」

 

ア「すまない。ネイフト殿。感謝する」

 

ケ「一応、ボクもいるんだけど」

 

エ「少し黙ってなさい」

 

ネ「ワシも見事に橋を復旧させて見せますとも!」

 

ミ「分かってくれる人もいる」

 

ラ「ええ」

 

ス「へへ。やっぱり嬉しいな」

 

エ「感動して泣かないでね」

 

ス「それじゃ、ネイフトさん、色々ありがとう」

 

ネ「なんの。例を言うのはこっちのほうじゃ」

 

ス「さぁアリーシャ、ケイン、行こう」

 

ア「本当に私も一緒に川を渡れるのか?」

 

ケ「へえ、そんなことも出来るんだ。天響術ってのは便利だね」

 

ス「うん。二人だけなら。契約もしたからね」

 

ア「ネイフト殿、心遣い感謝する。それでは」

 

ネ「スレイ殿!本当にありがとう!アリーシャ殿下、マーリンドを頼みますぞ!」

 

 

 

対岸へ

ミ「ふう、無事グリフレット橋を渡れたね」

 

ケ「ここからだと、マーリンドは東の方角だね。周りが暗くて危険だから慎重に進もう」

 

ラ「ケインさんはマーリンドへは行ったことあるんですか?」

 

ケ「しばらく前にね。ライラさんは先代導師の主神だったんだよね。彼とはどんな旅を?」

 

ラ「導師が困った、『どうし』ようー」

 

ミ「また始まった」

 

ケ「ミクリオくん、これはなんだい?」

 

ス「ライラは誓約があって話せないことがあるんだ。それで――」

 

ケ「こうなると。……スレイくんも大変だね」

 

ス「ははは」

 

ラ「すみません」

 

ア「エドナ様どうしました?」

 

エ「……ケイン」

 

ケ「どうしたんだい、エドナちゃん」

 

エ「どうしてライラは『さん』づけで、わたしは『ちゃん』づけなの。説明しなさい」

 

ケ「……呼び捨ては失礼かと思いまして」

 

エ「バカなの。説明になってないわ」

 

ケ「年上の女性には『さん』。年下の女性には『ちゃん』。これマイルールなんだ」

 

ラ「あの、エドナさんはケインさんより年上で――」

 

ケ「ってことは天族は人間に比べて見た目の成長スピードが異なるってことか。なるほど、興味深い」

 

ア「エドナ様はおいくつなんですか?」

 

エ「さあ、いくつかしらね。乙女の秘密よ。淑女に年を聞くなんて生意気ね」

 

ア「も、申し訳ないです、エドナ様」

 

ケ「アリーシャ姫は天族の事を『様』づけで呼ぶんだね」

 

ス「そういえばそうだ」

 

ア「天族様は敬われるべき存在だ。失礼のないように気をつけて……」

 

ミ「他の天族はともかく、僕は敬われるような者じゃない。呼び捨てでもいいよ」

 

ラ「そうですわね。そちらの方がお近づきになれる気がしますし」

 

エ「気持ち悪いから普通でいいわよ」

 

ア「お心遣いありがとうございます。しかしやっと憧れの天族様に出会えたんです。敬意をはらわさせてください」

 

ミ「まあ呼び方は好きなようにしておけばいいんじゃない。仲良くなるうちに変化も現れてくるだろうし」

 

エ「そうね、ミクリオボーヤ。ミボ」

 

ミ「ミボっていうな!」

一行、交流を深めながら、次の街マーリンドへ。

 

 




こんにちは、作者です。第七話です。ザビーダにエドナ、デゼル。多くの天族が初登場です。原作ではあっさりしていたエドナ加入イベントにオリキャラであるケインを絡めて、大幅改変しました。彼がパーティに加わることでどのように話が展開していくのか。ぜひ注目していただきたいです。ともあれ次回はマーリンド編。原作ではアリーシャがパーティを抜けてしまうのですが、はたして……。ではまた、第八話でお会いしましょう。


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第八話 マーリンド

グリフレット川を越え、マーリンドへ。


マーリンド到着

ス「……」

 

ア「これは……疫病のせいか……」

 

ケ「前来た時にはもっと活気があったのに。それにこの息苦しさ、これが穢れか……」

 

ア「街の中に、こんな憑魔が入り込んでる……」

 

ス「当然だよ。こんなに穢れが溢れてたら。とにかく聖堂へ、薬を届けないと」

 

 

 

聖堂へ

兵士「アリーシャ様!よくぞご無事で!」

 

ア「薬を持ってきた。状況は?」

 

兵士「……感染に歯止めがかかりません。警備兵まで罹患し、野犬の群れすら退治できない有様です。このままでは国全体に感染が広がる恐れも……」

 

ア「そんな……」

 

ス「まず薬を!患者たちに」

 

兵士「は、はいっ!」

 

 

 

外に出て

ケ「マーリンドの疫病の話は噂に聞いていたが、ここまでとはね」

 

ス「大丈夫さ。薬とか救護体制が整えば」

 

ア「ああ」

 

ミ「憑魔も僕たちで退治しよう」

 

ラ「でも、疫病を生んでいる原因はおそらく別ですわ」

 

エ「穢れを受けた強力な憑魔ね」

 

ケ「……もしかしてこの街の上空を飛び回っているのって」

 

上空に大きな影

 

ス「ドラゴン!?」

 

エ「違う、憑魔よ。人間たちが気付いていない」

 

ス「降りる!あっちだ!」

 

ミ「まさか戦う気か?ドラゴンっぽいぞ!?」

 

ス「それを確かめないとだろ。引き際の判断は――」

 

ミ「僕まかせ、だろう?いいけど、従えよ」

 

ラ「憑魔ドラゴンパピー。ドラゴンの幼体のひとつですわ」

 

エ「街の穢れが、パピーに力を与えているみたいね」

 

ア「なら、今のうちになんとかしないと!」

 

ス「落ち着いて、アリーシャ!」

 

ミ「まずい、気づかれた!」

 

ケ「一旦教会まで戻るぞ」

 

 

 

教会に逃げ込む

バタバタドタン!

ス「ふぅ……」

 

ア「危ないところだった……」

 

ア「さ、騒がせてすまない」

 

ス「……」

 

エ「まだやる気?」

 

ス「だって、ほっておけないだろ?」

 

ス「エドナ、街の穢れがあいつに力を与えてるって言ったよね?」

 

エ「……多分だけど」

 

ス「じゃあ、まずそれを祓えば」

 

ラ「ええ。パピーの力を弱められるはずですわ」

 

ミ「なんとも面倒な方法だね」

 

ス「そうだけど『損して得をとれ』だ」

 

ア「その作戦がいいと思う。……例えは違う気がするが」

 

エ「面倒×2」

 

ラ「『急がば回れ』ですよ、エドナさん」

 

ア「それです、ライラ様!『損して得をとれ』じゃなくて……」

 

ケ「いずれにせよ、憑魔も穢れもなんとかしないといけないんだ。『一石二鳥』ってやつだよ」

 

ス「よし!『急がば回れ一石二鳥作戦』開始だ」

 

ラ「ここから五時の方向から強い穢れを感じます」

 

ケ「五時か……、ちょうど美術館があるところだな」

 

ア「行ってみましょう」

 

 

 

美術館の前

ス「ここが美術館?」

 

ケ「昔は世界中の芸術品が集められていたみたいだけど」

 

ラ「雰囲気ありますね……」

 

エ「もはや廃墟ね」

 

ミ「……本当に行くのか?」

 

ア「ミクリオ様は幽霊が苦手なのですか?」

 

ラ「手、お繋ぎしましょうか?」

 

ミ「じゃなくて。わかってるだろ、スレイ?」

 

ス「かなりの領域を感じる。強い憑魔がいるな」

 

ラ「きっと『アート』驚くような奴ですわね。美術館だけに」

 

一同「……」

 

ラ「今のは『アート』と『美術』をかけた場を和ますための洒落で――」

 

エ「説明いらない」

 

ア「あ!今気付きました!」

 

ラ「要りましたわね、説明」

 

ギギギ。

 

ケ「扉が勝手に開いた……」

 

ス「さっさと来いってさ」

 

ミ「行くしかないか」

 

 

 

内部

ス「ここも加護天族はいないんだな」

 

エ「そのようね」

 

ミ「世界中がこうだと思いたくないが……」

 

エ「人間嫌いの天族は少なくないと思うわ」

 

ス「……もう人と天族は共存してないのかな」

 

エ「天族と人が共存できるとか思ってるの?夢物語ね」

 

ミ「夢とは限らないだろう」

 

エ「けど、現実はこうよ」

 

ス「難しいのはわかってる。でも、現実にそういう時代はあったんだ」

 

ミ「遺跡にも天遺見聞録にも証拠が残ってる」

 

エ「それ、いつの話?」

 

ス「大昔の話だね。けど、今もエドナみたいな天族がいる」

 

エ「は?」

 

ミ「加護も取り戻せるってわかったしね」

 

ス「そう。加護復活は共存への第一歩だと思うんだ。だから、よろしく頼むよ。エドナも」

 

エ「まったく勝手ね。だから人間は……」

 

ミ「慣れた方がいいよ」

 

エ「勝手なヤツが多いわ」

 

 

 

美術館内部

ケ「至る所にクモの巣が張ってる。長い間放置されていたんだね。アリーシャ姫、ホコリっぽいところですが大丈夫ですか?」

 

ア「ありがとう、大丈夫だ」

 

「アハハハハハハハッ!!!」

 

ス「なんだ!憑魔!」

 

ア「この憑魔が全ての元凶のようだな!」

 

エ「よかったわね、ミクリオ、オバケじゃなくて」

 

ミ「だ~か~らぁ~」

 

ス「じゃれあいは後!」

 

ラ「来ます!」

 

 

 

倒すとノルミン登場

ス「なんとか倒したか」

 

ミ「いやまだだ。まだ動いている」

 

ノルミン「あかん~!あかんんてぇ~!もお~、あかんゆうてるやんか~!も、このいけすう~!」

 

ス「え……えっと……ごめん」

 

ケ「鎧の中からなんだか小さいやつが出てきたね」

 

ラ「私、バカでしたわ。アタックさんがいると思わなかったなんて」

 

ノ「あ~!ライラはんやんか~!久しぶりやな~♡」

 

ライラ、よける

 

ノ「ぐぬぬ……相変わらずの鉄壁やな~……」

 

ア「お知り合い……ですか?」

 

ラ「ええ。昔、ちょっと」

 

ノ「ウチはアタックゆうねん~。よろしゅうな~♪」

 

ミ「変な名前だな」

 

ノ「失礼やな~!『アタック』はノルミン天族に伝わる由緒のある名前やねんで~?はんなりしてるやろ~?」

 

ア「エドナ様の傘についてるのと似てます……よね?」

 

ラ「あ!エドナさんの、それに触れちゃうとすっごく長くなるので、後ほどに……」

 

ア「そう……なんですか?」

 

ス「ライラ、ノルミン天族って?」

 

ラ「ちょっと変わった天族ですの。地の主になるほどの力はありませんが、他の天族のお手伝いができるんです」

 

ミ「お手伝い?」

 

ラ「天族の力をイイ感じに強めてくれるメイドさんみたいなもの……といえばいいでしょうか」

 

ノ「さすがはライラはんやね~!ウチのことを、よおわかってはるわ~!」

 

ミ「メイドさん……?わかったような、わからないような?」

 

ス「ライラの説明って、時々適当だよね」」

 

ノ「まあ、ライラはんのお連れさんやしぃ~。ぶぶ漬けでもごちそうするわ~」

 

ケ「ご丁寧にどうも」

 

エ「ゆっくりお食事してる場合?わたしたちの目的を忘れたの?」

 

ノ「あーーー!」

 

ミ「今度はどうしたんだ」

 

ノ「二コラの『日だまりの少女』が……、ジャンリュックの『佇む人』も……。ひどすぎるわ!誰がこんなことをしたんやな~!?」

 

ス「それは……」

 

エ「あなたよ。憑魔化した」

 

ノ「えっ……それほんまか?」

 

エ「ホンマよ」

 

ノ「思い出した……ウチや……。ウチがムチャクチャにしたんやな……大事な大事な宝もんを――。うう……うわああ~~ん!!

 

ラ「アタックさん。あなたが憑魔になるなんて、なにがあったんですの?」

 

ス「辛いかもしれないけど、教えてくれないか?」

 

ノ「あんな~……ウチ、芸術が大好きでな~。ずうっと前に、ここに棲みついてん~。大勢さんと芸術品を見てるだけでほっこりしてな~。祀られへんでも寂しなかったんや~……」

 

ス「いいな。そんな生活」

 

ノ「幸せやってん……ほんまに……」

 

ノ「けどな……国の争いが始まって人間は変わってしもたんや……。敵の国の人がつくった作品やからって、けなしたり、燃やしたりし始めてん……」

 

ケ「どの時代でも見受けられる、悲しい歴史だね」

 

ミ「芸術を利用したんだな。戦意高揚に」

 

ア「その通りです」

 

ノ「それだけやない……。そのうちに芸術品の横流しが始まってな……」

 

ス「それでこんなに……」

 

ノ「そいつらは金を手にして笑たんや……。『すっきりしたな。戦争様様だ』ゆうて……。悲しかってん……悔しかってん……許せへんかってん……!せやしっ!ウチは憑魔になってしもたんや……」

 

ス「アタックが悪いんじゃないよ」

 

ノ「おおきに。せやけど……ちょっぴりひとりにさして欲しいねん……」

 

暗転

 

 

 

美術館を出て

ス「……」

 

ミ「まさか芸術への想いから、穢れが生まれるなんてね」

 

ス「うん。驚いた」

 

ア「アタック様を追いつめたのはハイランドだ。私がもっとしっかりしていれば……」

 

ケ「ハイランドだけの責任じゃないさ。戦争を続けているローランスもまた同罪」

 

ミ「そういえばケインはローランス出身だったね」

 

ラ「穢れは、どんな心からも生まれますわ」

 

エ「特に危ないのは他人への憎悪」

 

ラ「はい。そして私たち天族は、器からの影響を強く受けます」

 

ス「オレが、穢れを生みだしたら、みんなもヤバいってこと?」

 

ラ「全員が憑魔になる恐れがあります」

 

ス「……」

 

ラ「スレイさん、アリーシャさん、ケインさん。人は、あなた方が考えている以上に力をもつ者に依存し、絶望します。自身の理想、そして自分にできることを見誤らないでください。救うべき人間への想いは、導師の大敵でもあるのですわ」

 

ス「うん、わかった」

 

ミ「だから、その堅苦しさが危ないんだって」

 

ス「あ。そうだね」

 

ケ「暗くなっても仕方ない。いつも通りのスレイくんなら大丈夫さ」

 

ラ「ふふ、余計な心配ですわね。スレイさんには」

 

ス「心配する前にやろう」

 

ア「私たちにできることを、だな」

 

ミ「街の穢れはだいぶ少なくなった。これならパピーも浄化できるかも」

 

ケ「うん?あれは……」

 

エギール「導師殿!いいところに」

 

ス「エギールさん、ロゼ」

 

ロ「橋の話聞いたよ。すっごいね!」

 

ス「あれは……まあ……」

 

ケ「こんにちは、エギールさん、ロゼさん」

 

ロ「あれ?またスレイと一緒にいるの」

 

ケ「まあ、成り行き上いろいろあってね」

 

ロ「へえ~。なんでもいいけど、受け取りのサインちょうだい」

 

ス「え?オレ?」

 

ロ「追加の薬よ」

 

エギール「ネイフトって人から頼まれた分だ」

 

ス「あ……!」

 

ロ「あと伝言。『マーリンドに向かう傭兵団を見つけ、街の警備を頼んだのですが断られてしまいました。レディレイクに援軍を要請しましたが少し時間がかかりそうです』だって」

 

ケ「傭兵団、ね。援軍に向かってくれたら助かるんだけど。その傭兵団はどこへ?マーリンドに向かったっていう」

 

エギール「『木立の傭兵団』なら一緒だったよ。この街にいるんじゃないか?補給をするって言ってたから」

 

ケ「『木立の傭兵団』、ね……」

 

ス「伝言ありがとう」

 

ロ「……ねぇ、なんでこんな面倒なことしてんの?」

 

ス「なんでって……。困ってる人をほっとくのイヤだから」

 

ロ「……ふーん、わかった。スレイが変な奴だって」

 

セキレイの羽の男「ロゼ、ちょっと……」

 

ロ「おっと、スレイ、ちょっとごめんね」

 

ロ「…………なんだって。あいつがこっちに………」

 

ケ「…………。ロゼさん、どうかしたのかい?」

 

ロ「ちょっと仕事の話」

 

エギール「さて、薬はどこに?」

 

ス「聖堂に頼むよ」

 

エギール「承知した」

 

セキレイの羽行く

 

ミ「これで薬の問題は当分大丈夫そうだね。後はパピーをなんとかすれば」

 

エ「スレイ、大樹の元へ行ってくれない」

 

ケ「何か考えがあるんだね」

 

ス「うん、わかった」

 

 

 

大樹の前へ

ラ「どうするんです、エドナさん?」

 

エ「ここで待って」

 

ア「どなたをです?」

 

エ「ワタシをよ。決まってるでしょ」

暗転

 

 

 

ス「遅いな、エドナ」

 

エ「おまたせ」

 

ア「アタック様?」

 

ノ「手伝いにきたで~!ウチの力がお役に立つらしいやんか~?」

 

ス「そうか!」

 

ミ「アタックの力を借りられたら、ドラゴンパピーを浄化できるかもしれない」

 

ノ「エドナはんが、みんなが頑張ってるって教えてくれはったんや~。街が元気になればな~、芸術を愛する心も戻るはずやってゆうてな~」

 

ケ「エドナちゃん、結構いいこと言うね」

 

ス「ありがとう、エドナ」

 

エ「いい案思いついただけよ」

 

クェ――――……… 

 

ミ「パピーだ!」

 

ラ「いらっしゃいましたわね」

 

ア「まずい、この暗さじゃ奴の姿が」

 

エ「だからいいのよ。大暴れしても人間には見えないもの」

 

ミ「そこまで考えて……」

 

エ「……たまたま、よ」

 

ケ「そういうことにしておこう」

 

ドラゴン出現

 

ラ「アタックさん、お願いします」

 

ノ「はいな~!パワー・ガ・ノルミン!」

 

ノ「ぐぬぬ……すごい力やあ~……!」

 

ス「さあ、ここからが本番だ!」

 

ミ「この大きさと迫力でドラゴンパピー……冗談だろ?」

 

エ「実際のドラゴンとの格の差は、もう見てる筈よ」

 

ス「俺たちはやるべきことをやってここにいる!」

 

ラ「そうです!今のスレイさん達なら!」

 

エ「……ま、いいわ。死なない程度に頑張って」

 

 

 

ドラゴンパピーを倒す

ス「やった、ドラゴンを」

 

エ「パピーだけど」

 

ミ「確かに。本当のドラゴンに遠いかもだけど」

 

ス「いつか必ず……」

 

ケ「天族も人間も成長する生き物だからね」

 

パピーが天族に

 

天族「浄化の炎……あんたは導師か?」

 

スレイ頷く

 

ス「あなたはマーリンドの?」

 

ロハン「加護天族ロハンだ」

 

ロ「だった……というべきか。ドラゴンになりかかっちまった俺には、もうこの街を守る資格はないだろうよ」

 

ス「そんなことは――」

 

ア「ロハン様。ハイランド王国王女アリーシャ・ディフダと申します。あなたを憑魔にしてしまった責は、人心を荒廃させた私たち、ハイランド王室にあります。ですが、必ず立て直して見せます!罰が必要なら、私が受けます。ですから、どうか今一度だけ加護をお与えください」

 

ロ「なんとも一途な姫さんだな。街の穢れが……ずいぶん減っている。あんたが祓ったんだな」

 

ス「みんなで、だよ」

 

ロ「……わかった。俺でよければやってみよう」

 

ア「ありがとうございます!」

 

ロ「よし、さっそく加護領域を展開するぞ」

 

ノ「ウチも手伝うで~!パワー・ガ・ノルミン!」

 

ロ「むっ!これは……!?」

 

ラ「どうされたのですか!?」

 

ノ「近くにな~、まだ強い憑魔がいるみたいなんや~」

 

ロ「そいつの領域が邪魔して、憑魔の侵入をとめられねえ」

 

ミ「どこにいるんだ?そいつは」

 

ロ「……南西だ。遠くない。いや、どんどんこちらに近づいている」

 

ノ「このままならここにつっこむでぇ~」

 

ケ「それは大変だね」

 

ア「スレイ、そいつを倒さないと!マーリンドが……」

 

ス「けど、今オレたちが街を離れるのは……」

 

エ「ザコ警備隊は倒れてるし、ザコ憑魔は入ってくるし」

 

ミ「……ロゼが言っていた傭兵団に頼んではどうだろうか?」

 

ス「傭兵団!その手が!」

 

ア「傭兵に憑魔が倒せるだろうか?」

 

ラ「ただの動物憑魔くらいなら」

 

エ「凶暴だけど見えるし。しょせんザコだし」

 

ミ「けど、警備を断ったって」

 

ア「私が頼んでみます。誠心誠意」

 

ケ「『木立の傭兵団』、ね。出たとこ勝負しかないかな」

 

ス「とにかく会ってみよう」

 

 

その様子を遠くから暗殺者とデゼルが見ている

デ「…………」

 

「スレイ、少しはやるみたいだな」

 

デ「どうする、やるか」

 

「いや、今は導師よりルナールだ。けじめをつけなくてはな。やつらが気付く前に行くぞ、デゼル」

 

デ「ああ。………導師、まだまだ力が足りないな。このままじゃあいつは倒せない。まあ精々がんばるんだな」

 

 

 

街中

「補給急げ!こんな物騒な街に長居は無用だ」

 

ス「なにがあったの?」

 

市民「聖堂を襲おうとした野犬の群れをあいつらが倒したのさ。いやあ、見事な連携だったよ」

 

ラ「あの犬、憑魔ですわ」

 

エ「ただのザコじゃないようね。人間にしてはだけど」

 

ス「あの。頼みがあるんだけど」

 

「あん?俺たちは『木立の傭兵団』だ。ガキの子守は受け付けてないぜ」

 

ケ「ガキの子守かどうかは彼の話を聞いてからにしてよ、ルーカスさん」

 

ルーカス「……お前どこかで会った顔だな」

 

ス「あなたたちにしかできない仕事だ」

 

ル「団長のルーカスだ。仕事ってのは?」

 

ス「しばらくの間、マーリンドを守って欲しい」

 

ル「あ~、前にも頼まれたが断った。疫病の街の警備なんておっかなすぎる」

 

団員「団長。こいつ、噂の導師ですぜ」

 

ル「橋の奇跡のか?こんな若造って冗談だろ~!」

 

ス「マーリンドを元に戻す方法を見つけたんだ。それには街を空けなきゃならない。けど、警備隊は疫病でまともに戦えないし」

 

ル「代わりに俺たちが……ってか。俺たちを利用して、美味しいところを独り占めする腹なんじゃ?」

 

ア「そんなことはしない!」

 

ル「口で言われてもな」

 

ス「じゃあ、どうすればいい?」

 

ル「教えてやるよ、導師様。傭兵ってのは金で動くもんだ。本気ならこれからいう金額をもってきな。話はそれからだ」

 

ア「……いくらだ」

 

ル「5000ガルドだ。どうするよ、導師様?」

 

ス「払うよ」

 

ミ「いいのか、スレイ」

 

ス「これで街を守ってくれるなら安いもんだ」

 

ル「へぇ……思ってた導師とは違うな。ちょっとは信用できそうだ」

 

ア「金を出せば信用するのか?」

 

ル「じゃあよ。なんで動いたら御満足なんだ?」

 

ア「……使命感や義侠心だ」

 

ル「俺の部下が疫病で死んだとしてだ。そんなもんが残された身内を世話してくれんのか?一生?」

 

ア「そ、それは……」

 

ル「だが、金があれば報いてやることができる。俺は、部下たちとそう契約してる。だから奴らは命懸けで戦えるんだ」

 

ア「う……」

 

ル「もっと現実を見な、お嬢ちゃん」

 

ス「現実……か」

 

ル「さて、依頼はこの街の警備だったな。承るが、見返りに――この街好きにしちゃってもいいよな?」

 

ミ「本当にいいのか、スレイ?」

 

ス「心配ないよ。契約を重んじる人が、そんなことしないさ」

 

ケ「…………」

 

ル「合格だな」

 

ル「仕事だ、野郎ども!全隊でマーリンドの警備にあたる!1、2番隊は外周、3番隊は市内を固めろ!警備隊へは俺が話をつける!導師直々の依頼だ。気合入れろよ!」

 

「おおお~~~っ!!」

 

ル「ほらよ」

 

ガシャ

 

ス「これは?」

 

ル「釣りだよ。仕事は適正価格で受ける主義でな」

 

ラ「まあ!意外にお得!」

 

ル「こうみえてもお客様本位なんだ」

 

ケ「『木立の傭兵団』団長ルーカス、噂通りの男だな」

 

ス「ひとまず街はルーカスに任せよう」

 

ス「変わった連中だな」

 

ア「あんな繋がりもあるんだな……」

 

エ「一応、筋は通ってるし。あいつらの理屈だけど」

 

ラ「彼らのように信じるものに自分の在り様を委ねる人間は、むしろ純粋なんですわ」

 

ミ「確かに穢れは感じなかったね」

 

ア「彼らなら信用できそうだ

 

エ「さっさと穢れを祓いに行くわよ」

 

ア「はい!」

 

 

 

ボールス遺跡

ケ「ロハンさんが言っていたのはこのへんだけど……」

 

ミ「ピリピリくる……この奥になにかいるぞ」

 

ラ「みなさん、気を引き締めて」

 

ルナール「へへへ、まさかメインディッシュ自らご登場とはな」

 

ス「この声は!」

 

ルナール「死ねええええ!」

 

ルナール、アリーシャに攻撃を仕掛ける

ア「……………!」

 

ス「アリーシャ!」

 

スレイがアリーシャを庇い、攻撃を受ける

ミ「スレイ!」

 

ア「わたしをかばって………」

 

ラ「スレイさん、すぐに天響術を!」

 

ル「ちっ、邪魔が入ったか」

 

エ「あなたがロハンが言っていた憑魔ね」

 

ケ「いきなり不意打ちなんて、卑怯じゃないか。キミ、何者だい?」

 

ミ「こいつはルナール。アリーシャを狙う暗殺者だ」

 

ケ「暗殺……穏やかじゃないね」

 

ア「わたしのせいで、、、スレイが、、、、、、スレイが」

 

ル「もう面倒だ。全員殺してやるううう」

 

エ「来るわ!落ち込むのは後よ!」

 

「やっと見つけたぞ!ルナール!」

 

ガキンンンンン!

 

ケ「キミは……」

 

ミ「風の骨」

 

ル「頭領」

 

「ルナール、お前には待機指示が出ていただろう。なぜあの娘を狙う?」

 

ル「誰がお前の命令なんか聞くか。家族ゴッコはとっくの昔に終わったんだよ!」

 

「やはりもう昔のお前じゃないか……」

 

「ルナール、お前を風の骨から追放する。裏切り者はどうなるか……わかっているな」

 

ル「さあ知らないなあ。お前らの腐った偽善の矜持なんてな!」

 

ケ「消えた……」

 

「デゼル!」

 

デ「ちっ、穢れが遠ざがっていく」

 

「まだ近くにいるはずだ、探せ!身内の始末は自分たちでつけろ」

 

ル「けけけ、無駄だ。お前たちみたいな偽善者には俺は倒せない。導師もお前も俺を止められない。必ずメインディッシュを平らげて見せる。けけけけけけ」

 

デ「完全に穢れが消えた!」

 

「逃がしたか。仕方ない、一旦引くぞ」

 

風の骨デゼルルナール去る

 

ミ「スレイ、大丈夫か」

 

ラ「命に別状はありませんわ」

 

ケ「よかった」

 

エ「あのキツネの憑魔、あなたを狙っていたわ」

 

ア「それは……」

 

エ「一歩間違えたらスレイは死んでいたわ。自分の身は自分で守りなさい!」

 

ミ「エドナ!」

 

ア「いいんです、ミクリオ様。スレイを傷つけたのは事実ですし……」

 

ス「あ、アリーシャ……」

 

ラ「スレイさん、目を覚まして」

 

ス「アリーシャ………ケガはない?」

 

ア「わ、私は……、平気……だ。すまない。足を引っ張って……」

 

ス「そんなこと、ない」

 

ケ「無理して喋らないほうがいい」

 

ラ「一度マーリンドへ向かいましょう」

 

ケ「ボクがおぶろう。それが一番いいだろうし」

 

ス「あ、ありがとう、ケ、、、イン、、、」

 

ミ「スレイ!」

 

ケ「大丈夫、眠っただけさ。少し休めばまた元気になるさ」

 

ア「……………スレイ……」

一行、急いでマーリンドへ戻る。

 

 




こんにちは、作者です。第八話です。スレイの失明云々の件は、ばっさり削除しました。あの設定は、アリーシャを離脱させるだけのこじつけ設定になってしまっていましたし、それならいっそないほうがいいかなと。その代わりといってはなんですが、ルナールがアリーシャを攻撃し、それをスレイが庇って重傷を負うというイベントを差し込みました。アリーシャファンとしてはかなりつらいイベントですが……。でも安心してください、ヒロインはアリーシャです。悪いようには決してしませんのでご安心を。ではまた、第九話で会いましょう


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第九話 突然の別れ

アリーシャを庇い、重傷を負ったスレイ。マーリンドの宿屋にて治療を受ける


マーリンド 宿屋

トントン

 

ア「はい」

 

ケ「ケインだ」

 

ラ「どうぞ」

 

ガチャ

 

ケ「ライラさん、スレイくんの容体は?」

 

ラ「だいぶ落ち着いてきましたわ。一晩休んだら元気になるでしょう」

 

ミ「よかった……」

 

エ「で、そっちのほうは?」

 

ケ「街の治安はすっかり元通り。ルーカスさんたちがよくやってくれた」

 

ミ「邪魔をしていた強い穢れはルナールみたいだったみたいだ。ロハンの加護領域も無事展開している。街に憑魔が入ってくることはない」

 

エ「一件落着ね」

 

ア「…………」

 

ラ「わたしたちも休みましょう」

 

ケ「ドラゴンパピーに暗殺者、さすがに疲れただろう。アリーシャ姫、スレイの看病は任せて。休憩できる時に休憩したほうがいい」

 

ア「しかし、わたしはスレイを……」

 

ミ「アリーシャ……」

 

ラ「傷つき疲れきった体を休めることも、穢れと向き合う上では重要なことですわ」

 

ア「…………わかました。すまない、ケイン。後は任せた」

 

ガチャ

 

エ「あっちも重傷ね」

 

ラ「…………」

 

 

 

深夜、宿の外

ア「スレイ……、わたしはキミの側にいるべきではないのか……」

 

ラ「アリーシャさん、眠れないんですか……」

 

ア「ライラ様……、はい」

 

ラ「スレイさんのことですか?」

 

ア「ライラ様、わたしは従士としてスレイのお役にたっているのでしょうか?」

 

ラ「もちろんですわ」

 

ア「わたしのせいでスレイはケガを負ってしまいました……。わたしのせいで……」

 

ラ「あれは不慮の事故ですわ」

 

ア「わたしを襲った憑魔はまだ捕まっていません。また狙われるかもしれません」

 

ラ「それではアリーシャさんが……!」

 

ア「わたしのことなら大丈夫です。それより今はスレイの身に何かあったらと思うと……」

 

ラ「それはアリーシャさんだってそうですわ。アリーシャさんに何かあったら、それこそハイランドが大変なことになってしまいますわ」

 

ア「……スレイは今やこの世界の希望です。導師に代わりはおりません。それに比べて……わたしは無力です」

 

ラ「アリーシャさん……」

 

ア「……ライラ様、お願いがあります」

 

 

 

暗転

 

ラ「……アリーシャさん、本当にいいのですか?」

 

ア「はい。お願いします」

 

ラ「出発は?」

 

ア「これ以上、スレイに迷惑はかけられません。すぐにでもレディレイクへ向かいます」

 

ラ「挨拶ぐらいはしていった方が……」

 

ア「一生の別れという訳ではありません。わたしはわたしなりにハイランドをよりよい国にしてみせます」

 

ア「…………。すみません、ライラ様。最後のわがままをお願いしてもいいですか」

 

スラスラスラ。アリーシャ手紙を書く

 

ア「これをスレイに渡してください」

 

ラ「はい。確かにお預かりしました」

 

ア「では、失礼します」

 

アリーシャ、マーリンドを離れる。

 

?「アリーシャ殿下が導師から離れました」

 

?「今がチャンスだ。ランドン様に報告しろ!」

 

?「はっ!」

 

 

 

ス「ううん……ここは?」

 

ミ「やっと起きたね。マーリンドの宿屋だ」

 

エ「キツネの憑魔と戦った後、気絶していたのよ」

 

ス「そっか。あれからオレ……。みんなごめん。心配かけて……」

 

ケ「礼ならアリーシャ姫に言うんだね。ボクとミクリオくんが看病を代わるまで、ずっとキミについてたんだ」

 

ス「アリーシャが……」

 

エ「そういえば今朝になって姿を見ないわね」

 

ミ「部屋で寝てるんじゃないか?」

 

エ「部屋にはいないわよ。わたしが起きた時にはもう布団はもぬけの殻だったわ」

 

ケ「外にいるのかな。アリーシャ姫は今ルナールに狙われている。一人でいるのは危険だ。探しに行ってくるよ」

 

ラ「お待ちください!」

 

ス「どうしたの?ライラ」

 

ラ「アリーシャさんなら昨夜レディレイクへ戻られました……」

 

ミ「なんだって!」

 

ス「どうして急に……」

 

ラ「手紙を預かっています。スレイさん宛てです」

 

ス「これはアリーシャの字だ!」

 

ケ「手紙にはなんと?」

 

ス「えっと……」

 

 

 

「スレイへ

 

 

キミがこの手紙を読んでいるということは、ケガの方はもう大丈夫なんだな。よかった。

 

わたしはマーリンドの状況を報告するためにレディレイクへ向かう。そしてそのまま次の命をまつこととなるだろう。スレイたちと合流することは難しそうだ。

 

きっとその方がいいのだろうな。わたしのせいでスレイはケガを負ってしまった。一緒にいたら、またスレイの足を引っ張ってしまう。思えば初めて会った時から、スレイには助けてもらってばかりだったな。本来なら従士であるわたしが、スレイの助けにならなくてはならないのに……。わたしはスレイの従士失格だ。一緒に旅を続けたいが、これ以上迷惑はかけられない。

 

わたし頑張るよ。穢れのないハイランドをつくるために。だからスレイは、スレイの夢を追ってくれ。必ず夢は叶う。そう信じている。

 

スレイたちはこれからどこへ行くのだろうか。ハイランドか、それともローランスか。旅の無事を遠くから祈っているよ。ケイン、ミクリオ様、エドナ様にもよろしく伝えてくれ。

 

少しの間だったが、スレイと旅ができて楽しかった。……ずっと守ってくれてありがとう。

 

 

                                    アリーシャ」

 

 

エ「ライラ、これってどういうこと?」

 

ラ「アリーシャさんは従士契約を破棄したいと……」

 

エ「それで契約を解除したのね、わたしたちに相談せずに」

 

ラ「すみません……」

 

ス「アリーシャ……」

 

ケ「スレイくん?」

 

ア「これからアリーシャを追う」

 

ラ「スレイさん!ですが!」

 

エ「あなたが追ってどうするの?あなたを傷つけた罪悪感を引きずっているあの娘を無理やり連れ回すつもり?」

 

ス「でも、こんなの間違っている!こんな別れ、あんまりじゃないか!」

 

ケ「ボクも同意見だね。一緒に旅を続けたいのなら続ければいい。少なくともボクは、アリーシャ姫に特別迷惑をかけられているとは思っていない。まったく他人に迷惑をかけずに生きていける人なんていないんだ」

 

エ「大層な屁理屈ね」

 

ケ「屁理屈で結構。本当に重要なのはキミがどうしたいかさ、スレイくん」

 

ス「ケイン……」

 

ミ「とにかく直接話を聞いてみない事にはなんとも。それからどうするか決めればいいんじゃないか」

 

ス「ミクリオ……」

 

エ「男どもってホントバカね……。あの娘がなんで直接話さず、手紙なんか手間がかかることをしたのか分からないのかしら」

 

ラ「…………」

 

ス「ライラ、反対してもオレはアリーシャに会いに行く」

 

ラ「……それは導師としてやるべきことなのですか?」

 

ス「それは……」

 

ラ「導師の出現を長年待ちわびた人々の期待を裏切ることになるかもしれませんよ」

 

ス「そんなことはしない。オレは人間スレイとして、アリーシャの夢を応援したい。そして導師スレイとしてこの災厄の時代を終わらせたい。オレの夢とアリーシャの夢は根っこの部分では同じだと思う。どっちかを選ぶなんてことはできない。だから両方選んじゃダメかな」

 

ミ「スレイ……」

 

ケ「これ以上ないベストアンサーだね」

 

エ「かっこつけすぎ」

 

ラ「スレイさん……。…………。いつからあなたとあの人が同じだと勘違いしていたんでしょう。わたしが間違っていました。ごめんなさい……」

 

ス「じゃあ!」

 

ラ「わたしは導師スレイの主神。そしてアリーシャさんは我が主の従士であり……大切な友人です。スレイさんが望むようにやってみましょう」

 

ス「ありがとう、ライラ」

 

エ「そうと決まれば、即出発」

 

「なぜだ」

 

暗殺者とデゼルが音もなく登場

 

ス「お前は」

 

「なぜだ」

 

ス「……何が」

 

「…………」

 

デゼル「なぜマーリンドに留まらない?」

 

ミ「突然なんなんだ!」

 

デ「ガキは黙れ。導師に聞いてるんだ。なぜ街を救った恩と称賛を捨てる?なぜそうまで自分を犠牲にする?あの姫様はそこまでする価値があるのか?」

 

ス「ここでできることはやった。アリーシャはオレたちの大切な仲間だ。それだけだよ」

 

「……変わってるな」

 

ス「そっちこそ」

 

ケ「今度はこっちから質問だ。キミたちの目的はなんだい?特に天族のキミ。なぜ風の骨と一緒にいるんだ」

 

デ「…………」

 

エ「スレイは、あなたの質問に答えたわ。今度はあなたの番」

 

デ「……俺たちの目的、それはこの世界の穢れを祓うこと。穢れを発するものを排除して世界を作り直す。浄化なんて生ぬるいことやっている間にゃ、あいつには敵わない。邪魔をするなら、導師であろうとも殺す」

 

ス「そんな理由でアリーシャを……」

 

「姫様のことはどうでもいい。生かしておいた方がこっちには好都合だ」

 

ミ「ということは、ルナールとお前たちは別の目的で動いているんだな?」

 

デ「質問には答えた。もう話す事はない。ふん」

 

二人とも消える

 

エ「いつも急に現れて急に意味深なこと言っては急に消えるわね」

 

ケ「少なくとも彼らはアリーシャ姫のことを狙っていないみたいだね。昨日も見向きもしてなかったし。となると、ルナールと風の骨の目的は別なのは確実かな」

 

ミ「あんな奴のことはどうでもいいさ。問題は、僕たちがどうするかだ」

 

ス「決まってる。レディレイクへ急ごう」

 

ラ「待ってください。木立の傭兵団とロハンさん達に挨拶してからにしましょう」

 

ミ「彼らにはお世話になったしね。なに、すぐ済ませるさ」

 

ス「わかった。無事でいてくれアリーシャ」

 

 

 

街の広場

ルーカス「よう、導師。やっと目覚めたか。街の治安は見ての通りだ」

 

ス「さすがだね。助かったよ」

 

ル「そっちの男から聞いた。そちらの首尾も上手くいったみたいじゃないか」

 

ス「おかげさまでね」

 

ル「そりゃよかったな」

 

兵士「団長!出発準備整いました!」

 

ル「武器の調整をしっかりしておけ!野郎ども!これから大仕事だ!気合入れろよ!」

 

兵士「おおおお!」

 

ル「じゃ、俺たちはそろそろ出て行くぜ。警備隊も活動を再開したし、別の依頼も入ったんでな」

 

ケ「別の依頼、ねえ……」

 

ス「さあ次はロハンさんだ」

 

 

 

大樹の前

ロハン「導師殿、体はもう大丈夫のようだな」

 

ス「うん」

 

ロ「見ての通り、結界を展開できて穢れは完全になくなった。少しずつだが、祈りを捧げる人間も戻ってきた。俺も頑張ってみるよ」

 

ス「よかった。これで安心して旅立てる」

 

ラ「アタックさんはこれからどうするんですか?」

 

ノ「ウチも旅に出る。いつかライラはんの力になるために散り散りになった仲間をもう一度集めるんや~」

 

ラ「それは頼もしいですわね」

 

ス「じゃあ、オレ達行くよ」

 

ロ「旅の無事を」

 

ノ「ほなまたな~!」

 

 

 

村の入り口

ミ「これで挨拶は済んだな」

 

ス「よし、レディレイクへ戻ってアリーシャに会いに行こう」

 

ラ「…………向こうから誰か来ますわ。あれは」

 

兵士「で、伝令……緊急だ!」

 

ス「どうした!しっかり!」

 

兵士「帝国が……ローランス帝国が攻めてきた」

 

ス「なんだって?」

 

ケ「ローランスが!このタイミングでか!」

 

ミ「戦争がはじまるのか……」

 

エ「次から次へと、人間って面倒ね」

 

兵士「戦場はグレイブガント盆地だ。マーリンドの者たちには君が報せてくれ。自分は都に!」

 

ス「ケガしてるに!無茶だよ」

 

兵士「一刻の猶予もないんだ!」

 

ス「気をつけて。くれぐれも無茶しないで」

 

兵士「ありがとう」

 

兵士去る

 

ミ「任されちゃった以上むげにはできないな」

 

エ「アリーシャは後。さ、みんなに報せましょ」

 

 

 

広場

ルーカス「野郎ども!仕事の時間だ!たっぷり都の連中に実力を見せつけろ!」

 

「うおーーーー!」

 

ケ「木立の傭兵団、新しい仕事っていうのはやっぱり戦争のことだったのか……」

 

ス「アリーシャに会いに行ってる場合じゃなくなってきたな……。オレも行く」

 

ミ「そうだな。彼らをみすみす死なせるのも寝覚めが悪いだろう」

 

ラ「いけません!導師が戦争に介入すれば、手を貸した陣営に勝利をもたらしてしまいますわ」

 

ミ「じゃあ黙って見てろっていうのかい?」

 

エ「そうよ。人間たちが落としどころを見つけるしかないの」

 

ス「導師の力があれば救える人たちもいるじゃないか」

 

ラ「ハイランドの人々は救えるかもしれません。ですが……」

 

ケ「…………」

 

ミ「その代わりにローランスの人々は救えない、か」

 

ス「そうか。ごめん、ケイン。オレ全然ローランスの人の事を考えてなかった」

 

ミ「そうか、ケインはローランス出身……」

 

ケ「……ボクなら大丈夫さ。スレイくんが謝る事はなにもない。悪いのは戦争をして利益を得ようとしている人達なんだから」

 

エ「そう。それが戦争。戦争に正義も悪もないんだから」

 

ラ「導師の力は世界のありように大きく影響します。まして戦争に介入すると、どれほどの歪みを生み出すか……」

 

ケ「戦場の位置を考えると、ここも巻き込まれるかもしれない。今はこの街の人を守る方法を考えるべきだ」

 

エ「…………」

 

ス「……わかった。ルーカス達も村の人と一緒に避難してもらおう。それならいいだろ?」

 

ラ「はい」

 

ミ「じゃあ早速ルーカスに話そう。さっきの調子だと、すぐにも出発するつもりかもしれない」

 

ス「うん」

 

スレイミクリオライラ、フェードアウト

 

エ「無理しているのバレバレよ」

 

ケ「ボクに言っているのかい?何の話かな」

 

エ「…………」

 

ケ「…………隠しているんだから、知らないふりしといてほしいな」

 

エ「イヤよ。バレたくないなら、もっとうまく隠しなさい。で、何。あなたもパーティを抜けたいの?」

 

ケ「そんなことないさ。戦争をどうにかして止めたいけど、その方法も思いつかない。考えつくのは、ローランス軍に頭を下げるぐらいさ。もっともそれも確率はずいぶん低い。ボクには出来る事と言ったら、被害を出来るだけ少なくするために、この街の人々を避難させること。それに……」

 

エ「それに?」

 

ケ「キミとの約束も果たしてないからね」

 

エ「…………」

 

ケ「みんなには黙っておいてくれよ。スレイくんは今、いっぱいいっぱいだ。余計なことに気を遣わせたくない」

 

エ「あなたも損な役回りね」

 

ケ「褒め言葉だと受け取っておくよ。話を聞いてくれてありがとう、エドナちゃん。改めて決意を固められた」

 

 

 

ス「ルーカス。村の人達と一緒に避難して欲しいんだ」

 

ルーカス「なぜだ!?戦場は俺達の仕事場だぞ。それにせっかくマーリンドもここまで立ち直ったんじゃないか。ローランス軍にめちゃめちゃにされてもいいのか」

 

ス「……オレはルーカス達が心配なんだよ」

 

ル「ううむ……」

 

ス「お願い」

 

ル「……グリフレット川を越えた先まで避難しよう。悔しいな。ようやく活気が戻ってきたこの街を見捨てるのか」

 

ス「大事なものは、はっきりしてる」

 

ル「へっ、かなわねぇな。導師殿にはよ」

 

ル「野郎ども、住民を連れて北のグリフレット川まで避難する!そのつもりで準備しろ!」

 

ス「ありがとう、ルーカス」

 

ル「導師もしっかり準備しとけ。橋もまだ完全には復旧してない。しばらく川辺で野営になるかもしれんからな」

 

ス「うん。わかった」

 

 

 

レイクピロー高地 グリフレット川手前

ケ「だいぶ遠くまで来たね」

 

ス「よし、ここまでこればひとまず大丈夫かな」

 

兵士「皆の者、道を開けえい!」

 

ミ「なんだ?」

 

ランドン「私はハイランド軍師団長ランドン。導師はいるか?」

 

ス「オレです」

 

ラ「貴様か……?」

 

ルーカス「ランドン師団長殿、導師にご用でこの戦列か?」

 

ラ「貴様は木立の傭兵団、ルーカスだな。……丁度いい、貴様も聞け。アリーシャ殿下の件だ」

 

兵士「アリーシャ殿下の導師を利用した国政への悪評の流布とローランス帝国進軍を手引きした疑いにより、その身を拘束した」

 

ス「アリーシャはそんな事してない!間違いだ!」

 

ラ「これは逮捕ではなく容疑だ。導師」

 

エ「なんだか雲行きが怪しくなってきたわね」

 

ライラ「……」

 

ラ「アリーシャ殿下は国への忠誠を示すために、戦争の最前線で戦うこととなった。導師スレイが力を振るい、この戦に勝利をもたらせば、その容疑も晴れるであろう」

 

ミ「バカな!」

 

ケ「最前線は激戦を強いられる。もちろん一番負傷者が多い部隊だ。もしハイランドがローランスに負けたりしたら……」

 

ス「……」

 

ラ「スレイさん、受け入れましょう」

 

エ「仕方ないかもね。もしこのままアリーシャが命を落としたら……」

 

ラ「はい。スレイさんは自らを責めてしまうでしょう」

 

ミ「そうなると、いくらスレイでも穢れと結びついてしまうかもしれない。そういいたいんだね」

 

エ「穢れた導師は戦争なんかとは比べものにならないほど、世界を悪い方向へ誘うわ」

 

ス「アリーシャは殺させやしない」

 

ミ「ほら、さっと行ってさっと終わらせよう。きっと何とかなる。僕たちが付いてる」

 

ス「オレが戦えば、アリーシャを解放するんだな」

 

ラ「勝利をもたらせば、だ」

 

ルーカス「俺たちもいくぜ。やっぱ戦いもせずに逃げる事はできねぇよ。俺たちには数々の戦いで得た誇りがあるんだ」

 

ラ「よかろう。指揮官は私だ。それを忘れるなよ。では導師。戦場で待っているぞ」去る

 

ル「なーに、俺たちがいれば導師の出番なんかないって」去る

 

ライラ「スレイさん。顔を上げてください」

 

ミ「さっき言ったよな?僕たちが付いてる」

 

ケ「そういうことさ」

 

エ「バカ正直に戦争に付き合うことはないわ。面倒だし。適当に終わらせましょ」

 

ス「……みんな、ありがとう」

一行、グレイブガント盆地へ。

 

 




こんにちは、作者です。第九話です。アリーシャ、離脱してしまいましたね。原作では、とってつけたような失明云々の設定でレディレイクに戻り、なんやかんや橋を作っていましたが、今作品では国から命を受け戦場に向かいました。ライラとアリーシャの会話や手紙の件はまるまるアレンジ。思い切った改変です。原作との違いを楽しんでもらえたらと思います。でも安心してください。今作のヒロインは紛れもなくアリーシャです。必ず彼女は戻ってくる、それだけは断言しておきます。ではまた、十話で会いましょう。


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第十話 穢れた戦場

アリーシャを追って、戦場グレイブガント盆地へ。


 

グレイブガント盆地 スレイ一行が到着する少し前

ア「ランドン!」

 

ランドン「おお、これはこれはアリーシャ殿下。どうしてここへ。あなたの仕事場は戦場の最前線ですよ。一番激戦が繰り広げられる、ね」

 

ア「こちらの戦力は奇襲を受けて圧倒的に足りていない。このままでは無駄に前線の兵を死んでしまう!一度撤退して態勢を整えるべきだ」

 

ラ「現場の指揮を任されているのはわたしです。いくらアリーシャ殿下の御意見でも聞き入れるわけにはいきませぬな」

 

ア「しかし!」

 

ラ「アリーシャ殿下、あなたは自分の立場をわかっておられぬようだ。あなたは今、導師共々国への反逆罪に問われているのですぞ」

 

ア「スレイはそんな事してない!」

 

ラ「それを証明するための戦でもあるのですぞ、アリーシャ殿下。国への忠誠心を示すのです」

 

ア「……本当にわたしが戦果をあげたら、スレイのことは――」

 

ラ「不問に致しますよ、くっくっく」

 

ラ「さあ行きなさい!ローランスを血祭りにあげるのだ!」

 

ア「スレイ、すまない。わたしの力では戦争は止められない。わたしは無力だ……」

 

 

 

スレイ、グレイブガント盆地到着

「うおおおおお!」

 

ス「この声は?」

 

ミ「戦争が始まったのか」

 

ラ「自分のうちにある、正しいと思う気持ちは見失わないで、スレイさん」

 

ス「そんなに心配しないで。大丈夫だから」

 

ケ「…………」

 

エ「このままハイランド軍として戦っていいの?」

 

ケ「……スレイくん、ボクはローランス陣営へ行く」

 

ミ「ケイン、それってどういう――」

 

ケ「もちろん、ローランス軍に加わってハイランド軍と戦う訳じゃない。ローランス軍には知人がいる。その人を説得して戦争を止めるように説得しに行く」

 

エ「確率はずいぶん低いんじゃなかったっけ?」

 

ケ「ああ。でもこのまま戦争で人が死ぬのを黙って見てられないんだ!頼む、スレイくん」

 

ス「……わかった。行っておいで」

 

ケ「ありがとう。必ずキミの元に戻ってくる」

 

エ「…………」

 

ケインを見送る

 

ス「ケイン、死ぬなよ……」

 

ミ「僕たちも行こう」

 

 

 

ハイランド陣営

ランドン「来たか。導師」

 

ス「ルーカスたちとアリーシャは?」

 

ラ「右翼先鋒、奇襲部隊だ」

 

ス「わかった」

 

ラ「待たれよ、導師!貴様には中央に展開した……」

 

ス「…………」

 

ラ「指揮に従え!導師!ここは私の戦場だ」

 

ス「……オレのやるべきことは変わらない。ここが誰の戦場でも、だ!」

 

ラ「ガキ一人がどれほどのものか!大臣の目も曇ったものだ!我らも出るぞ!」

 

兵士「おおおお!」

 

 

 

戦場

ス「これが……戦場なんだね」

 

ラ「はい。この風景だけは昔も今も変わりません」

 

ミ「人が人でなくなるみたいだ」

 

エ「事実そうよ。英雄とか豪傑とか呼ばれた連中って大抵は憑魔なんだから」

 

ラ「戦場ほど穢れを生み、人がそれを受け入れてしまう場所もありませんから」

 

ミ「そんなところで名を残した者が英雄……か。憑魔だと言われれば納得だね」

 

ス「憑魔か……知らなかっただけで、ずっといたんだな」

 

ミ「スレイ、あっちの崖上なら、きっとアリーシャたちも見つけやすい」

 

エ「その分敵にも気付かれやすいルートね」

 

兵士「伝令!傭兵団の奇襲からの挟撃は失敗。本隊に合流する。急げ!」

 

ミ「何だって!?」

 

ス「アリーシャやルーカス達を見捨てるつもりなのか!」

 

兵士「彼らの犠牲を糧にせねば、より多くの兵が命を落とす!」

 

ス「彼らはまだ戦ってるじゃないか!」

 

兵士「これは戦争なんだ!いくぞ!」

 

ミ「スレイ、彼は兵士としての役目を果たしているだけだ。責められないよ」

 

ス「くそっ!こんな殺し合い、バカげてる!」

 

ラ「人々の怒りや憎しみであふれかえっていますわ!」

 

ミ「息苦しさの原因はそれだね。戦場はまさに穢れの坩堝だ」

 

ル「みんな諦めるな!まだ負けてないぞ!」

 

ス「ルーカスの声だ!」

 

エ「行くのね?」

 

ス「うん!頼むぞ、みんな!」

 

兵士「なんだお前は!お前もハイランド兵か!死ねええ!」

 

ス「はあああ!」

 

兵士「ぐわあああああ」

 

ラ「スレイさん……」

 

ス「だいじょうぶ。手加減してるよ」

 

スレイ兵士を圧倒。天族もそれを援護

 

ス「どけ!道をあけてくれよ!」

 

ミ「スレイ、油断して足下すくわれるなよ」

 

ス「わかってる!」

 

ラ「スレイさん……怒ってますわね」

 

エ「怒りたくもなるでしょうね」

 

兵士「一人に何、手間取っているんだ!ひるむな!」

 

ミ「フリーズランサー!」

 

ス「ぐわ!氷……だ、と!」

 

兵士「なんだこいつ、ただの長剣一本で……」

 

兵士「後ろががら空きだぜ!」

 

ミ「それはどうかな」

 

ガキーン!

 

兵士「なっ!なんだ!何に防がれたんだ!」

 

兵士「ば、化け物……」

 

ス「どいてくれ」

 

兵士「くっ。弓兵!」

 

大量の弓がスレイを襲う

 

ラ「ブリッツフレイム!」

 

兵士「バカな、あれだけの矢を一瞬で……」

 

兵士「弓も通用しないのか!」

 

ルーカス「これが導師の力なのかは……」

 

ス「ルーカス、帰ろう」

 

ル「あ、ああ……」

 

ス「退け!ローランス兵!」

 

兵士「なんだ!?何者だ、貴様ぁぁっ!」

 

ス「次はない!退け!」

 

エ「エアプレッシャー!」

 

兵士「うわああああ!」

 

兵士「こいつ、大地すら自在に操れるのか!」

 

兵士「あ、悪魔だ!ハイランドが悪魔を連れてきた!」

 

兵士「退け、退け!」

 

ル「スレイ、お前こんなに強かったのか……」

 

ス「…………。アリーシャがどこにいるか知っている?」

 

ル「あ、ああ。この丘をもっと越えた先だ。…………。」

 

ス「ありがとう」

 

ス「本当に無事でよかった」

 

ル「……スレイ、お前はいったい……」

 

ス「…………」

 

ミ「スレイ、彼らもいつか分かってくれる」

 

ラ「そうですわ」

 

ス「ありがとう……気休めでも今はうれしい」

 

エ「泣いてもいいけど?」

 

ス「ううん。まだ終わってないから。アリーシャを助けに行こう!」

 

 

 

ハイランド軍 最前線

ア「耐えるんだ、ハイランドの民よ!もうすぐ援軍が来るはずだ!」

 

兵士「もうこれ以上は持ちこたえません!」

 

兵士「俺たちは捨てられたんだ!もうここで死ぬしか……」

 

ア「諦めるな!生きる希望を捨ててはならない!きっと援軍が――」

 

兵士「いつになったら援軍は来るんですか!?あなた、さっきからそればっかり!いい加減なこと言わないでくださいよ!」

 

ア「そ、それは……」

 

兵士「報告です!ローランス軍が撤退していきます!」

 

ア「な、なんだって!一体どういうことだ!」

 

兵士「導師です!導師がローランス軍を蹴散らしています!」

 

ア「スレイが!なぜここに……」

 

ローランス兵「ぐあああ!ば、バケモノだ!」

 

ローランス兵士「な、何が起こっているんだ。一時退却!退けえええ」

 

兵士「伝令!後方から導師が猛威を振るっております!」

 

兵士「導師、だと!まさかこいつが導師……」

 

兵士「逃げろー!」

 

ハイランド兵「見ろ!ローランスのやつら、一目散で逃げてくぜ!」

 

ハイランド兵「ざまあねえな!」

 

ハイランド兵「俺たちの勝ちだ!」

 

ハイランド兵「おおおおおおおおおおおおお!」

 

エ「終わったわね」

 

ス「ああ」

 

ス「あとはアリーシャを助けて、ここに生まれてしまった憑魔を鎮めないと」

 

ラ「スレイさん……」

 

ミ「ま、今回はとことん付き合ってあげるよ」

 

ス「ありがとう。ミクリオ」

 

 

 

アリーシャ、スレイの元へ

ア「スレイ……なぜここに!」

 

ス「アリーシャ、助けに来たよ」

 

ア「スレイ、わたしは……」

 

ここでランドン登場

 

ランドン「導師ご苦労だった。感謝いたしますよ」

 

ア「ランドン!」

 

ランドン「戦場で楽しくおしゃべりか。まだ仕事は終わっておりませんよ。皆の者、ローランス兵を掃討しろ!一人も逃すな!」

 

ス「師団長さん!もう勝敗は決してる!」

 

ランドン「何を甘いことを。ここで徹底的に打ちのめせば、以後も優位に立てるであろうが」

 

ス「そんな事のために!」

 

ラ「スレイさん、この人に何を言っても無駄ですわ」

 

ランドン「導師、貴様の働きのおかげでこれほど圧倒できるのだ。もっと誇られよ!くっくっく!」

 

ア「ランドン!そんな言い方……!」

 

ランドン「アリーシャ殿下、あなたにも働いてもらいますぞ。最前線で兵を鼓舞するのです!はむかえばどうなるか、わかりますかな?」

 

ア「……わかりました」

 

ス「アリーシャ!」

 

ア「すまない、スレイ。わたしにはどうすることもできない」

 

ア「なんとか前線の兵を説得してみる」

 

アリーシャ、去る

 

ス「くっ!約束通り……戦争が終わったらアリーシャは必ず解放してよ」

 

ランドン「気が向いたらな。はっはっは。私もローランスのやつらでも殺しにいくか」

 

ランドン去る

 

エ「なんて醜い人間なのかしら」

 

ス「これ以上人を殺して何になるんだ。アリーシャを追いかけよう!戦争を止めさせるんだ」

 

その時、周辺の穢れが急激に強まった。

 

ス「う、っく!」

 

エ「この領域……今まで感じたどれよりも……」

 

ミ「……冗談じゃない」

 

ラ「これ程の穢れ……まさか!」

 

エ「何なの……これ……」

 

ス「空に穴が……」

 

ラ「スレイさん!これ程の邪悪な領域を持つものは、かの者しか考えられませんわ!」

 

ミ「まさか、災禍の顕主……」

 

自軍同士殺しあう兵士たち

 

ハイランド兵「くかかかかかかかか!ローランスがにくいいい!」

 

ローランス兵「死ねええええ!」

 

エ「あの人達、正気を失ってしまったようだわ」

 

ス「と、止めなきゃ!あそこにはアリーシャもいる!」

 

ミ「スレイ!」

 

ラ「いけません!今の私たちが敵う相手では……」

 

ス「わかってる。やばくなったら逃げるよ!みんなの命も預かってるんだ」

 

エ「しょうがない子ね」

 

「ここから先には行かせん!」

 

ス「ぐわ!」

 

ラ「スレイさん!?」

 

ミ「スレイ!」

 

エ「この憑魔……」

 

ランドン「導師よ。このランドンの武功を邪魔立てする気だろう……。許さぬぞ!さあ、立て!大臣も貴様の首を見れば、私と導師のどちらが国にとって必要かわかるだろう!」

 

ラ「ダメですわ!この方はもう完全に憑魔と化している!」

 

エ「やるしかなさそうね」

 

ミ「今の状態でこいつと戦うのか!?」

 

ス「みんあ、踏ん張ってくれ!」

 

 

 

しばらく戦う

ミ「さすがに、しぶと過ぎないか……?」

 

ス「出し惜しみをしていたら勝てない……!」

 

ミ「スレイ!あれをやる気か?!」

 

ス「ああ!導師の力を、この剣に注ぐ!」

 

ス「はああああ!剣よ吼えろ!雷迅双豹牙!!」

 

ランドン「おのれええ!!」

 

バタン

 

ス「穢れが消えない!?」

 

ラ「ダメですわ。この領域の力はすでに私の浄化の力をはるかに上回っています」

 

ミ「根本を取り除かないとダメか……」

 

エ「けど、この領域の主を退けるのは無理よ」

 

ス「行くしかない……!」

 

ラ「無茶ですわ!」

 

ス「ライラ!お願いだ!オレたちがやらないと、この戦いは止まらない!」

 

ラ「……あの丘の上が穢れの中心のようです」

 

ス「ごめん」

 

ミ「詫びなんて不要だ。僕たちは死なないからね」

 

ス「ミクリオ……そうだよな!」

 

エ「行くのなら早く行きましょ」

 

ラ「はい!」

 

ス「アリーシャ無事でいてくれよ!」

 

 

 

丘の上

ミ「見ろ、スレイ。あそこ!」

 

ス「アリーシャ!」

 

アリーシャ倒れてる

 

ア「……………」

 

エ「大丈夫よ。息はあるわ。気絶しているだけよ」

 

ス「よかった……」

 

「……新たな導師が現れていたとはな」

 

ス「おまえが……」

 

「恐ろしいか?」

 

ス「な、に?」

 

「死の予感……甘美であろうが」

 

ス「みんなを元に戻せ!うおおおおお!」

 

スレイ突っ込む

 

ミ「スレイ!」

 

「ほう」

 

災禍の顕主、軽く受け止める

 

「ふん、この程度か」

 

ス「はぁはぁ」

 

「目映いばかりに無垢よな。おまえは誰よりも良い色に染まりそうだ。はあああ!」

 

ス「むううう。ぐっ、はあはあ。何だこの穢れの量は……!」

 

穢れが広がり、ライラエドナミクリオが消える。

 

「若き導師よ……。生き延びて見せられるか?……フフフ……」

 

ス「一体何なんだ……」

 

ス「ハッ!ミクリオ?おいライラ!エドナ!どこいったんだ!みんな!」

 

がさがさ

 

ス「ミクリオ?」

 

しかしそこには憑魔化した大量の兵士たち

 

大量の兵士「ドウシィィィィ!コロスウウウ!」

 

ス「こいつら……いつのまに……」

 

ア「…………」

 

ス「まずい!アリーシャを守らなきゃ!」

 

 

 

同刻同所

「デゼル!返事をしろ!クソ!災禍の顕主の領域がさらに強くなったか!」

 

?「頭領!どうする!?」

 

「一旦アジトまで退く!」

 

ス「ぐっ!」

 

「あれは、スレイ!?腕の中にいるのはアリーシャ姫か」

 

ゴゴゴゴゴ!

 

「!? 足場が!」

 

ス「ぐわわわわわ!」

 

「スレイ!」

 

?「崖が崩れて、導師とアリーシャ姫が落下。おそらくヴァーグラン森林だと思われます」

 

「…………急ぎ、彼らを保護する」

 

?「頭領!」

 

「やつらを少し監視したい。導師と姫ともども見つけたら報告。連れの天族はあたしが運ぶ。まとめてアジトで介抱しておけ。ただしこちらの正体を明かすなよ」

 

?「了解!」

 

「導師の力をもってしても、災禍の顕主とも力の差は歴然。さあどうやってあいつを殺そうか」

 




こんにちは、作者です。第十話です。二桁です。なんだか感慨深いですね。先は長いですが、頑張って更新してきたいと思います。そんなことより、本編のお話を。ゲームの方ではどうしてもスレイ目線で話が進むため、敵サイド(風の骨、災禍の顕主と愉快な仲間たち)の描写が少なかったように思えます。ここらへんがRPGの難しいところかもしれません。当作品では少しだけでもいいからスレイ以外の目線での描写を増やしていこうと思っています。……ほんの少しだけだけど。ではまた、第十一話で会いましょう。


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第十一話 一緒には行けない

災禍の顕主に敗北したスレイ。仲間の天族も姿を消したまま、気を失ってしまう。彼らを救ったのは……。


ティンタジェル遺跡

ス「うん……?ここは?」

 

ロ「よ!おはよう!」

 

ス「わっ!ロゼ!」

 

ロ「なんかスレイとはよく会うね」

 

ス「どうしてここに……」

 

ロ「どうしてって……ここがどこだかわかってる?」

 

ス「え、えーと……」

 

ロ「ここはヴァーグラン森林にあるわたし達の拠点。ティンタジェル遺跡?っていうみたい」

 

ス「俺たちは確か災禍の顕主と戦って――」

 

ロ「はっ!アリーシャは?」

 

ス「スレイの隣で寝ているよ」

 

ス「ロゼが助けてくれたのか」

 

ロ「……たまたまね。ローランスへ向かう途中で倒れていたから、ここまで連れてきて介抱してやったってこと」

 

ス「ありがとう、ロゼ」

 

ロ「いいって、お礼なんて。それよりケインは?一緒じゃないの?」

 

ス「……ケインは戦場で別れたんだ。ローランス陣営に向かったはずだけど、今はどこにいるか分からない」

 

ロ「なるほど……。おーい、トル~」

 

ト「はーい、およびですか~」

 

ロ「トル、これからラストンベルでしょ?」

 

ト「うん、新商品の件でね」

 

ロ「追加の仕事。ケインがその街にいるか調べてくれない?」

 

ス「ロゼ!?セキレイの風も忙しいでしょ」

 

ロ「そんなの気にするなって。ケインも立派な商売相手だし、勝手にいなくなっちゃ困る」

 

ト「そういうこと。今日中には戻るから」

 

ス「……よろしくお願いします」

 

ト「はいよ」

 

トル、去る

 

メ「相変わらずお前たちは忙しそうだな」

 

ロ「メ―ヴィンおじさん!こっちに来てたんだ」

 

メ「久しぶりだな。お嬢。そっちのは……今、話題の導師か」

 

ス「スレイっていいます。なぜ導師ってわかったんですか?」

 

メ「はっはっはっ。天然だな。その恰好見ればわかる」

 

ロ「この人はメ―ヴィン。ギルドの一員じゃないけど恩人なんだ。今時珍しい探検家よ」

 

ス「へぇ!」

 

メ「気ままに旅してこれの足跡を追うのが気に入ってるってだけだ」

 

ス「ケインと一緒だ」

 

メ「そりゃそうだ、ケインは俺の一番弟子だからな」

 

ス「えっ、そうなの!」

 

メ「あいつに考古学やら伝承を教えたのは俺だ。こいつを見せたら妙に食いつてきてな。少しばかり指導してやった」

 

本を見せる

 

ス「天遺見聞録!」

 

メ「お前さんも持っていたのか!ケインといい、導師といい、昔の事に興味を持つ若者が増えて嬉しいの」

 

ロ「おじさん、わたしに話があったんじゃないの?」

 

メ「おお、そうじゃった。お嬢、戦争が始まったと聞いて気になってたんだが……問題なさそうか?」

 

ロ「ハイランドもローランスもひとまず撤退したみたい。結果は引き分けかな。でもまだまだ臨戦態勢。戦争による物価の高騰を覚悟しなきゃね。今はまだ影響を受けてないけど、買いだめするなら早い方がいいよ」

 

メ「違う、もう一つの方の仕事だ」

 

ロ「…………。ぼちぼちなんとかやっていくしかないね。依頼もしばらく様子を見た方がよさそう」

 

メ「そうか」

 

ス「?」

 

メ「さて、俺はもう行くとするか」

 

ロ「え、もう?」

 

メ「あんまりのんびりしてるなよ、お嬢。導師の出現、戦争勃発……これから時代が大きく動くぞ」

 

ロ「うん。わかってる」

 

メ「導師、噂によるとケインはお前と一緒に行動していると聞いたが……」

 

ス「ちょっと戦場ではぐれちゃって、今どこにいるのか分からないんだ」

 

メ「そうか。…………。これをケインに渡してくれないか」サラサラサラ

 

ス「手紙……。わかった」

 

メ「頼んだぞ。スレイ、また会おうぜ。お嬢もな」

 

ス「うん。また」

 

ロ「じゃあね。おじさん」

 

メ―ヴィン去る

 

ス「ケインの師匠か……。きっと色んなこと知っているんだろうな。もっと話していたかったよ」

 

ロ「お互い旅しているんだし、どこかで会えるんじゃない」

 

ス「そうだな!」

 

ミ「スレイのやつ、またいつものスイッチ入ってる」

 

エ「仲間はずれが寂しいのね」

 

ラ「声が届かないって本当にもどかしいですわね」

 

ス「みんな!」

 

ミ「スレイ!元に戻ったのか?」

 

ラ「本当、よかったですわ」

 

ス「いなくなったのかと……すげー焦った!」

 

ロ「…………」

 

エ「スレイ」

 

ス「あっ……」

 

ロ「…………」

 

ス「ロゼ、これはその……」

 

ロ「……あたし、仕事思い出したから行くね。何かあったら知らせて」

 

ス「あっ、うん」

 

ロ「勝手にどっか行くなよ。まだ安全かどうかわかんないんだし」

 

ス「わかった」

 

ロゼ去る

 

ラ「なんとか誤魔化せましたわ」

 

エ「少しは警戒しなさい」

 

ス「ははは、ごめん」

 

ミ「あの獅子の顔の男、あの時一体何をしたんだ?」

 

エ「考えたことない?二つの領域が重なったら、どちらの加護が強く影響するか」

 

ス「どういうこと?」

 

ラ「スレイさんの導師としての領域がかの者のそれに打ち負けたのです」

 

ミ「そのせいでスレイの霊応力が一時的にマヒしたってわけか」

 

ス「みんなはずっとオレの側に……」

 

エ「目が覚めてからわね」

 

ミ「僕たちも獅子の男と戦った後、少しの間気絶していたみたいだ。で、気が付いたらここにいたってところ」

 

エ「しょうがないわ。ドラゴンよりも強く、穢れた領域を持っているんだもの」

 

ス「あいつが災禍の顕主なのか?」

 

ラ「まず間違いないでしょう。あれほどの穢れをまとうものは他にないと思いますわ」

 

ス「じゃあ、あいつがあれほどの穢れと力を持ったのは、何か理由があるって訳か」

 

ミ「当然だろうな。あんなのが自然に生まれてたまるか」

 

ラ「それを識り、スレイさんが答えを持ってかの者に挑まなければ……」

 

ア「ううん……」

 

アリーシャ、目を覚ます

 

ス「アリーシャ!よかった!目を覚ました!」

 

ア「スレイ?わたしは今まで何を?……はっ、戦争は!戦争はどうなったんだ!

 

ス「アリーシャ、落ち着いて。説明するから」

 

 

 

ア「なるほど、それでここに……。では天族の皆様もこちらにいらっしゃるのか」

 

ミ「そうか。もうアリーシャには天族が見えないのか……」

 

エ「従士契約を解除したんだから当然よね」

 

ラ「…………」

 

ス「ああ。みんなここにいる」

 

ア「先ほどは取り乱してしまい失礼しました」

 

ス「……アリーシャ、これからどうするの?」

 

ア「…………。わたしはハイランドへ戻る。戦争を進めようとしている大臣たちを止めなくては……」

 

ス「アリーシャは、大臣たちに命を狙われているんだよ!今戻るのは危険だ!オレたちと一緒に行こう!」

 

ア「これ以上、スレイたちに迷惑はかけられない……。わたしは一人で行く!」

 

ス「迷惑な事ない!オレはアリーシャの事が心配なんだ!」

 

ア「スレイ……」

 

ス「オレ、アリーシャが従士になってくれた時嬉しかったんだ。一緒に戦う仲間が出来たって。アリーシャがミクリオやライラやエドナと話しているのを見て、人間も天族と共存できるって思ったんだ」

 

ス「オレは、この世界の穢れを祓って災厄の時代を終わらせたい!そのためにはアリーシャの力が必要なんだ!きっとオレの夢とアリーシャの夢は繋がっているはずだから。だから、一緒に来てくれないか、アリーシャ」

 

ア「ありがとう、スレイ。わたしは……」

 

フェル「ちょっと勝手に入られたら困ります!」

 

タケダ「アリーシャ殿下がここにいるのは分かっている!ハイランドへ逆らうつもりか」

 

エ「なんだか騒がしいわね」

 

タ「アリーシャ殿下!ご無事でしたか!」

 

ミ「ハイランド兵!?」

 

ア「どうした?」

 

タ「伝令です。急ぎローランスへ向かってください」

 

ス「なんだって!」

 

ア「わたしはハイランドへ戻って、戦争を――」

 

タ「こちらを預かってきました」

 

ア「これは?」

 

タ「バルトロ大臣からです」

 

ア「…………」

 

ス「なんて書いてあるんだ?」

 

ア「……すまない、スレイ。やっぱり一緒に行けなさそうだ」

 

ス「えっ、どうして!」

 

ア「それは……」

 

タ「殿下」

 

ア「……極秘任務なんだ。すまない……」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「わたしなら大丈夫だ。スレイも安心して旅を続けてくれ。失礼する」

 

ス「…………」

 

アリーシャ去る

 

ラ「追いかけなくていいんですか?」

 

ス「オレの伝えたいことは伝えた。アリーシャだって事情があるんだ。無理強いは出来ないよ」

 

エ「なんか胡散臭いけどね」

 

ミ「アリーシャのこと諦めたのかい?」

 

ス「そんなことはないけど……」

 

ミ「災禍の顕主を倒す方法を探しながら、行った先々でアリーシャの動向を調べてみよう。危険になったら助けに行けばいい」

 

ス「そうだな。今のオレに出来る事はそれぐらいか……」

 

ロ「なんかさっき急いでアリーシャ姫が出て行ったけど、どうしたの?」

 

ス「ロゼ。実は……」

 

 

 

ロ「なるほど。それでアリーシャ姫は行っちゃったと」

 

ス「うん」

 

ロ「で、スレイたちはどうするの?」

 

ス「オレたちもローランスへ向かいたい。そこで調べたいことがあるんだ」

 

ロ「ふーん……」

 

トル「ロゼ、今帰ったよ」

 

ロ「お疲れ。どうだった?」

 

ト「どうもこうもないよ。戦争のせいで新商品どころじゃないって、まったく」

 

ト「あっ、ラストンベルでケインを見かけたよ。ローランス軍と一緒にいて話しかけられなかったけど」

 

ミ「ケインがローランス軍に!?」

 

エ「あのバカ、捕まったのかしら」

 

ス「教えてくれてありがとう。ロゼ、行き先が決まったよ。オレもラストンベルへ行く」

 

ロ「ケインと合流するんだ」

 

ス「うん」

 

ロ「なら街まで一緒に行こう」

 

ス「えっ」

 

ロ「だいたいラストンベルまでの道知ってるの?」

 

ス「あっ」

 

ロ「スレイってホントおっちょこちょいだよね。いいよ、アタシが案内してあげる」

 

ス「ロゼ……ありがとう。みんなもいいよな」

 

ラ「好意に甘えさせてもらいましょう」

 

エ「道に迷うよりマシだわ」

 

ミ「そういうことだね」

 

ロ「決まりね。じゃあ出発は明日!」

 

ス「今から行こうって思ってたんだけど……」

 

ロ「着の身着のままはさすがにノーサンキュ!アタシは女の子、おーけー?」

 

ス「あ……」

 

ロ「…………スレイ」

 

ス「うん?」

 

ロ「本当に導師の力でこの世界を救えると思う?」

 

ス「どうしたんだ、急に」

 

ロ「ちょっと気になっただけ。わたしはもう寝る。じゃあ明日ね」

 

ス「あ、ああ。お休み」

 

 

 

朝になる

ロ「おはよう」

 

ス「おはよう、ロゼ」

 

ロ「準備はできた?」

 

ス「うん」

 

ロ「行こうか」

 

トル「じゃあね、スレイ」

 

ス「トル、本当にありがとう」

 

フェル「ロゼ、ラストンベルにはロッシュがいる」

 

ロ「分かってるって。出発!」

 

ラ「セキレイの羽のみなさんにはお世話になりました」

 

ミ「聞こえてないって」

 

ラ「声が聞こえなくても感謝の気持ちを持つことは大事ですわ」

 

ス「だよな」

 

ロ「なんか言った?」

 

ス「あっ、ううん。独り言」

 

ロ「変なの」

 

ス「ははは」

 

 

 

ラストンベルの門の前

兵士「列に並び、待て!従わぬ者は処罰する!」

 

一般人「勘弁してくれよ。時間がないってのに」

 

ス「なんの検問?」

 

一般人「軍のに決まってるだろ。本格的な大戦になるかもしれないんだからな。……兄ちゃんはひっかかるかもな」

 

ス「えっ!なんで!?」

 

兵士「うしろ!騒がしいぞ!」

 

ロ「すみませーん!」

 

一般人「導師が出たって噂あったろ?」

 

ロ「あった。ハイランドでしょ」

 

一般人「それがな、ローランスにもいるらしいんだ」

 

ス「へぇ!ローランスにも」

 

ロ「……ローランス帝国は、導師をよく思ってない?」

 

一般人「ああ。騎士団は戦力と見て警戒してるし、教会は異端者として取り締まろうとしてる。おまけにペンドラゴじゃ、なんか不可解な事件が起こってるらしくて――」

 

兵士「次!」

 

一般人「おっと、オレの番だ。そういうわけだから、せいぜい気をつけな」

 

一般人去る

 

ス「大丈夫かな?不安になってきた」

 

ロ「通行証も持ってるし、任せとけって」

 

「マジかよ!エリクシールが売られてるって!」

 

ス(エリクシール?)

 

「ああ。ハイランドとローランスの貴族の間でエリクシールが流行ってるんだと」

 

「けど、アレは普通に出回るもんじゃない。教会が管理してるはずだろ……?」

 

「その教会のお墨付きで売られてるって話だぜ。けっこうな効き目でな、長寿の妙薬ってもっぱらの評判だ」

 

「すごいじゃねえか!」

 

「もっとすごいのは値段でな。金持ち貴族しか手が出せない代物だってよ」

 

「結局そんなオチかよ……」

 

ス「協会がエリクシールを売り捌いてる……?」

 

ミ「なんだか奇妙な話だな」

 

エ「ローランスも色々問題がありそうね」

 

兵士「次!」

 

ロ「スレイ、あたしたちの番。置いてくぞー」

 

ス「わかった。すぐ行く」

 

 

 

ラストンベル 入口

セルゲイ「自分は、ローランス帝国白皇騎士団団長セルゲイ・ストレルカである。帝国の安寧に資する検問への諸君の協力に、衷心より謝意を表すものである!」

 

エ「なにこいつ?堅苦し病?暑苦し病?」

 

ロ「はい、商隊ギルド発行の通行証。ここに来た目的は手形の回収ね」

 

セ「『セキレイの羽』か。手際がいいな」

 

ロ「期限がせまってるから気が気じゃなくて。取り引き元は、大通りにある酒屋の――」

 

セ「ああ、ポリス酒楼か。あそこは手広く商いをしてるようだな」

 

ロ「ウチも色々お世話になってます。他にはなにか?」

 

セ「ない。検問への協力、痛み入る」

 

ロ「お疲れ様です~!」

 

セ「次は、そちらの男だ。妙な身なりだが護衛か?」

 

ロ「っと……女の一人旅はぶっそうなんで」

 

セ「なぜ護衛が儀礼剣をさげているのだ?」

 

ミ「スレイの剣が儀礼剣って!?重心の差を見切ったのか」

 

ラ「かなりの手練れのようですわ」

 

ロ「えっと、もちろん理由があって」

 

セ「そちらの男に聞いている」

 

ロ「やば……」

 

ケ「あれ、スレイくん?スレイくんじゃないか!」

 

ス「ケイン!」

 

セ「ケイン、知り合いか?」

 

ケ「はい、ボクの友人です。……セルゲイさん、この男が例の導師です」

 

ミ「な!」

 

エ「何?裏切る気?」

 

ラ「ケインさん!」

 

ケ「ロゼさんも嘘をつくなら上手くついたほうがいいよ。今も昔もラストンベルにはポリス酒楼と名の店はない」

 

ロ「ちっ!」

 

ミ「ケイン、どうして?」

 

ケ「ここでは目立つ。詳しい話は後で。安心してくれ、悪いようにはしない。セルゲイさん、聖堂へ連れて行きましょう」

 

セ「しかし!あそこは……」

 

ケ「彼らに見せたいものがあるんです」

 

セ「…………長居はできんぞ」

 

セ「……スレイ、と言ったな。別室で話を聞かせてもらいたい」

 

ス「わかった」

 

ロ「大人しくついていくの!?逮捕されるかもしれないんだよ」

 

ス「ケインはオレの仲間だ。きっと何か考えがあるんだ。オレはケインを信じる」

 

エ「本当に甘いのね」

 

ケ「信じてくれてありがとう、スレイくん。さあこちらへ」

 

 

 

教会前

ス「ここは?」

 

ケ「この街の教会だ」

 

教会の前にくると、ロッシュがロゼに接触。ロゼ席を外す

 

ロッシュ「『依頼』『ローランス教会』」

 

ロッシュ、ロゼに紙を渡す。

 

ロ「……了解」

 

ロ「ごめん、アタシ別の仕事入っちゃった。行ってもいい?」

 

ス「……彼女は無関係です。解放してあげてください」

 

セ「いいだろう」

 

ロ「ありがとうございます!じゃあね、スレイ!」

 

ス「ああ、また!」

 

ロゼ、去る。

 

 

 

教会

ス「ここは……聖堂だな」

 

ミ「年代は新しいけど、なかなか立派な造りだ」

 

ラ「こんにちはー!お邪魔しますー!」

 

ス「加護天族はいないっぽいな」

 

ケ「見ての通り。この街には加護天族はいない。マーリンドほどの強い穢れは感じないし、特に問題は起こってないけど、一応スレイくんに教えておこうかと思ってね」

 

エ「で、どうするの?加護する天族を探す?」

 

ス「けど、手がかりもないしな……」

 

セ「ケイン、もういいか」

 

ケ「はい」

 

セ「導師殿、わたしの話を聞いていただきたい」

 

ミ「いよいよ本題か……」

 

エ「いざとなったら逃げるわよ」

 

セ「導師スレイ。貴公の力を貸してもらえないだろうか、ローランス帝国のために」

 

ス「えっ!」

 

エ「ローランスは導師を警戒してるって聞いたけど?」

 

ケ「うん。騎士団はフォートン枢機卿同様の力をもつという理由で危険視し、教会は、フォートン枢機卿を脅かす存在として異端扱いしている」

 

ラ「枢機卿ということは、教皇に次ぐ教会のNO.2ですわね」

 

ケ「宗教だけではなく、政治にも強い発言権を持っていてね。幼帝の補佐として、実際に帝国を仕切ってる」

 

セ「いかにも。そして導師と同じ奇跡を体現するといわれている者だ」

 

ス「導師と同じって――!?」

 

司祭「どういうことですかなあ?騎士が勝手に聖堂に立ち入るとは!まさか、我が信者にフォートン枢機卿の悪口を吹き込んでおられるのか?」

 

セ「司祭殿、そんなことは……!」

 

司祭「問答は無用!出て行っていただきましょう」

 

 

 

教会の外に

ケ「こんなに早く戻ってくるとは、予想外だね」

 

セ「公園に来てくれ。話の続きはそこで。ケイン案内してもらえるか」

 

ケ「分かりました」

 

セルゲイ去る

 

ス「ケイン……」

 

エ「これはどういうことか説明してもらうわよ」

 

ケ「そう怖い顔をしないでくれよ。セルゲイさんは信頼できる人だ。先の戦いで、ローランス軍の撤退を進言したのは彼なんだ。ボクの話を聞いてくれたのは彼だけだった」

 

ラ「セルゲイさんとケインさんはどういうご関係なんですか?」

 

ケ「……昔、騎士団にいた時の上司かな」

 

ス「ケイン、軍にいたんだ……」

 

ケ「ひよっこのヒラの一兵に過ぎなかったけどね。あの頃は若かったし」

 

エ「今でも十分若いわよ」

 

ケ「これは失敬」

 

ス「ああ、そうだ。ケインへ手紙を預かっていたんだ」

 

ケ「手紙……?」

 

ス「メ―ヴィンからだ」

 

ケ「師匠と会ったのか!?」

 

手紙を読む。

 

ケ「…………。なるほど。さすが師匠だ。この方法なら或いは……」

 

ミ「何が書いてあったんだ?」

 

「…………。その時になったらちゃんと話すよ。さあそろそろ行こうか。セルゲイさんを待たせるのも悪いしね」

 

 

 

公園にて

ケ「セルゲイさん!」

 

セルゲイ「先ほどはすまない。みっともないところを見せてしまった」

 

セ「……教皇様がいらした時は、騎士団と教会もこうではなかったのだが」

 

ス「教皇様?」

 

セ「教皇マンドラ様は先代皇帝陛下も信頼された人徳厚き方だった。あの方の御命令なら、騎士団も喜んで従う」

 

ス「だった……ってことは」

 

セ「一年前に行方不明になってしまわれた。その混乱に乗じたかのように、フォートンが台頭し、あっという間に権力を掌握してしまったのだ」

 

ケ「セルゲイさんは枢機卿が教皇になにかしたって考えてるんだ」

 

ス「証拠はあるの?」

 

セ「いや、騎士団の総力を挙げて捜索したが、手がかりはつかめなかった。だが、枢機卿の周辺を探った騎士が行方不明になっている。十八人も」

 

エ「怪しすぎね」

 

セ「認めたくないが、枢機卿に対するには、我らにない超常の力が必要らしい」

 

セ「悶々としていた時に、ケインから導師の話を聞いたのだ。導師スレイ、恥を承知で頼みたい。枢機卿の正体を探ってもらえないだろうか?」

 

ス「枢機卿がいるのってペンドラゴの教会だよね?普通の人が入れない神殿があるっていう」

 

セ「そうだ。立ち入りの許可については、こちらで手を回せる」

 

ス「わかった、枢機卿に会ってみるよ」

 

セ「おお、かたじけない!自分は先行して手はずを整える」

 

ケ「わかりました。こちらも準備をしてそちらに向かいます」

 

ス「ケイン?」

 

ケ「そんなに時間はかからない。少し調べたいことがあるんだ。きっとそれが枢機卿と対するときにも役にたつはずだ。上手くいけば、災禍の顕主の領域にも対抗できるようになるかもしれない」

 

ミ「なんだって!」

 

セ「わかった。ケイン、そなたには導師の護衛を任せたい」

 

ケ「任されました。言われなくてもボクはスレイくんと行くよ。ボクは彼の従士だからね」

 

ラ「ケインさん」

 

セ「ではペンドラゴで!到着したら騎士団塔まで足を運ばれたい」

 

セルゲイ去る

 

ケ「すまない、勝手に事を進めてしまった」

 

ミ「ケイン、災禍の顕主に対抗できる力って」

 

ケ「師匠からの手紙によると、スレイくんと師匠が出会った場所は天遺見聞録にも載っていない遺跡みたいだね。古い文献によると、そこには導師伝承が伝えられている。にも拘わらず全く発掘は進んでいない。なぜだと思う?」

 

エ「遺跡には興味はないわ。早く答えを言いなさい」

 

ミ「もしかして導師じゃないと進めない遺跡なのか!」

 

ケ「おそらくね。ボクもティンタジェル遺跡に行ったことがあるけど、奥に進める道を見つけることが出来なかった。それが何かしらの力で守られているとするならば……」

 

ス「もしかしたら災禍の顕主と対する方法が見つかるかもしれない!」

 

エ「そう都合よく行くかしら。いざ行ってみて、何もありませんでした、はごめんよ」

 

ラ「…………」

 

ケ「師匠がわざわざ手紙を寄越すぐらいだ。きっと手がかりがあるはずだ。ね、ライラさん」

 

ラ「ケインさん、占いをしましょう。紙を1枚選んでください」

 

ケ「じゃあ、これで。ところでさっきの話だけど――」

 

ラ「ケインさん、すごいです。今日の運気は絶好調ですわ!」

 

ケ「そうなんだ。それは良かった。ライラさんも絶好調だね」

 

ラ「あっ……」

 

ミ「ライラ……」

 

ス「ははは……」

 

ケ「エドナちゃん、これで納得かい」

 

エ「わかったわ。行けばいいんでしょ」

 

ス「よし、早速出発しよう!ライラもそれでいいね」

 

ラ「分かりました……」

 

ミ「ケインにやられたね」

 

 

 

?「災禍の顕主に対抗する手段か。まさかアジトにそんなものがあるとは……」

 

デゼル「やつらが移動する。俺らも行くぞ」

 

?「ああ。…………」

 

 

スレイ一行、ティンタジェル遺跡に向かう。風の骨頭領と天族デゼル、あとをつける。




こんにちは、作者です。第十一話です。スレイがアリーシャを説得する場面は、何度も書き直したことを覚えています。別れの場面を書くのは難しいですね。世の中の物書き、全員尊敬します。アリーシャにバルトロの指示を伝えたタケダというハイランド兵は、度々登場していますね。今後も度々登場するので頭の片隅に彼の事を覚えていてくれたなと思います。ではまた、第十二話でお会いしましょう。


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第十二話 フォートン枢機卿

メ―ヴィンからの手紙を手がかりに、災禍の顕主に対抗する方法を探るスレイたち。ティンタジェル遺跡へ舞い戻る。


ティンタジェル遺跡

ラ「戻って来ましたね。セキレイの羽のみなさんは……」

 

ス「いない、みたいだね。また仕事かな?」

 

ケ「あまり時間はないよ、スレイくん。この後セルゲイさんのところへ行かなくてはならないんだから」

 

ス「うん」

 

ケ「ここまでなら以前も来た。問題はここからさ」

 

ミ「行き止まり?いやこれは大きな扉か!」

 

ミ「入口自体が閉じてる遺跡か……やはり閉じられてる意味があるんだろう」

 

ス「けど封印の類じゃないな。カギ穴すらないし」

 

エ「面倒ね……ぶち破っていい?」

 

ミ「バカな!貴重な遺跡を破壊するなんて!」

 

ケ「何か方法があるはずだ。導師の力に反応する何かが……」

 

ミ「スレイ、久々に勝負といかないか?」

 

ス「いいよ。絶対オレが先に開け方見つけてやる」

 

ミ「ふふん。負け越してるのを忘れてるようだな」

 

ケ「……扉の左右に石碑がある。以前調べた時には何もなかったが。もしかして」

 

ケ「スレイくん、そっちの石版に手をかざしてくれ」

 

ス「えっ、うん」

 

…………

 

ラ「何も起こりませんね」

 

ケ「導師一人では発動しないのか。何か特別な条件が必要なのか。ではもう一つの石碑には――」

 

ス「なあ、いつまでこうしておけばいいんだ」

 

ケ「ミクリオくん、スレイくんみたいにもう一つの石碑に手をかざしてくれ」

 

ミ「あ、ああ」

 

ケ「これで何も起こらなかったら完全に手詰まりだ。頼む!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

ス「扉が開いた!」

 

ケ「なるほど、導師と天族が協力しないと開かない仕様になっていたのか」

 

ミ「これで先に進めるぞ!」

 

ケ「どうやらキミたちの勝負は引き分けみたいだね。水を差してごめんよ」

 

ス「すごいなケイン」

 

ケ「なに経験の差さ。師匠の教えが役に立った」

 

エ「さ、行きましょう。こんなホコリっぽいところ長居したくないわ」

 

 

 

壁画の前

ケ「ここが一番奥かな」

 

ミ「そうらしい」

 

ラ「これは導師となる者の試練を描いた壁画のようですわ」

 

エ「こんなところにこんなものがあるなんて……」

 

ス「これが導師の試練を……」

 

ケ「ビンゴだね。地図に印がついている」

 

ス「ここに導師は行かなきゃってこと?」

 

ラ「今日の晩ご飯はマーボーカレーですわ!」

 

ス「…………ライラ」

 

エ「逆に分かりやすいわね」

 

ラ「すみません……」

 

ミ「印の場所は4つか」

 

ケ「レイクピロー高地の北部にひとつ、大陸中央南端にふたつ……」

 

エ「最後のはウェストロンボルトの裂け谷方面ね」

 

ケ「試練、か」

 

ス「もしかしたら強い領域にも負けない力が手に入るかも!」

 

ミ「……ヘルダルフに対する光明が少し見えたかな」

 

ラ「はっ!みなさん!後ろ!」

 

後ろから憑魔が近づく。

 

ス「憑魔!」

 

エ「来るわよ!」

 

 

 

戦闘後

ス「はあああ!」

 

憑魔が犬に

 

「う……む……」

 

ミ「犬!?」

 

ケ「へえ、犬の天族もいるのか。興味深いね」

 

「ワシは何を――」

 

事情を説明

 

「がっはっは、それは助かった。礼を言うぞ。導師殿、天族の同胞よ」

 

ス「スレイです。ライラにエドナ、ミクリオ、それにケインです」

 

オイシ「ワシはオイシだ。こう見えても歴とした天族だぞ。よろしくの」

 

ス「オイシさん、お願いがあります」

 

オ「なんじゃ」

 

ス「ラストンベルの地の主になってもらえませんか?今、街には加護領域がないんです」

 

オ「よかろう。導師殿には恩がある。ワシでよければ引き受けますぞ」

 

ミ「よかった」

 

ラ「これでひとまず一安心ですわ」

 

ケ「…………」

 

ス「ケイン、どうしたんだ?」

 

ケ「いや、なんでもない」

 

ミ「これからどうする?試練へ向かうのかい?」

 

エ「ここから試練は少し距離があるわ」

 

ス「それまでセルゲイさんを待たしてられない。一度ペンドラゴへ向かおう」

 

ケ「…………」

 

ラ「ケインさん、聞いていますか?」

 

ケ「あ、ああ。聞いているよ」

 

ミ「遺跡探検したい気持ちは分かるけど、今はセルゲイさんのところへ行こう」

 

ケ「…………」

 

ケ「試練の壁画は確かにあった。導師は試練をこなし、力を蓄えて穢れを祓っていたんだ。ではドラゴンは……。なぜ試練の過程を描いた壁画にドラゴンが登場しないんだ。やはりドラゴンになってしまうほどの穢れを救う方法はないのか……」

 

エ「……」

 

暗転

 

スレイ一行がいなくなった後

 

デ「導師の試練。これは見物だな」

 

「デゼル、しっかり壁画を見ておけ」

 

デ「ふん。導師の壁画なんざ興味はねえよ。俺は俺のやることだけだ」

 

「あいつらの動向を知るためだ。頭に入れておけ」

 

デ「ああ。わかったよ。導師、お前がどんなに頑張っても祓えない穢れがある。それまで旅を楽しんでおくんだな!」

 

 

 

ペンドラゴ

ス「大っきいなぁ!これが……」

 

ラ「そう。グリンウッド大陸最大の都ペンドラゴですわ」

 

うおおおおおお!

 

ケ「なんの声だ!」

 

ミ「見ろ!あそこだ!」

 

ス「あれは……セルゲイ!騎士団が誰かに襲われている」

 

ペンドラゴに入る。なぜか騎士団が市民に襲われている

 

セ「はっ!」

 

市民「きゃあああ!」

 

市民「ちいいっ!」

 

セ「この力……、とても人間のものとは思えぬ」

 

ケイン助太刀に入る

 

ケ「はああ!」

 

市民「くうう!」

 

セ「ケイン!」

 

市民「新手か!一旦引くぞ!」

 

逃げる市民。

 

セ「助かった。恩にきる」

 

ケ「どういたしまして。あなたほどの猛者が苦戦する相手、間違えなく――」

 

ス「セルゲイさん!」

 

セ「……枢機卿の配下だ。捉えようとしたのだが、ただ者ではなかった」

 

エ「とんでもない動きね」

 

ケ「見えただろう。憑魔だ」

 

ミ「枢機卿の配下が憑魔になってるとは……」

 

兵士「申し訳ありません。教会神殿に逃げ込まれました」

 

ラ「事実のようですわね」

 

セ「おそらく奴は連絡係だと思う」

 

ケ「となると、ボクたち導師一行がここに到着したことも報告されると考えるのが自然だろうね」

 

セ「詳しい話は騎士団塔で。ここでは雨が凌げぬ」

 

ラ「ここにも加護天族の領域を感じられません。強い穢れが渦巻いています」

 

ケ「セルゲイさん、この雨はいつから」

 

セ「もう長いことになる。これも災厄だというのだろうか……」

 

ケ「なるほど」

 

エ「さむいー、かぜひくー」

 

ケ「天族も風邪引くんだな」

 

ス「騎士団塔へ急ごう」

 

 

 

騎士団塔の中

セ「導師殿、天族の皆さま、先ほどは失礼しました。ここなら落ち着いて話ができる」

 

ス「なんとかなった?教会に入る手続き」

 

セ「許可は得たが……先ほどの事件の後では警戒されるだろうな」

 

ケ「遅かれ早かれ見抜かれることです。セルゲイさんが気を落とすことはないですよ」

 

ス「そうだよな。やましいことはないし、行ってみよう」

 

セ「世話をかける」

 

ス「決めたのはオレだから。それに教会の中の神殿を見るのも目的なんだ」

 

セ「貴公は、どこか教皇様を思い起こさせる。あの方も、人のために身を惜しまぬ方だった」

 

エ「無駄な苦労好きなのね」

 

ス「そうなんだ……」

 

セ「宿を用意した。天族の方々も今晩はゆっくり休んでもらいたい」

 

兵士「ですが団長。潜入したポリスが連絡を絶ってもう三日です。急いだ方が――」

 

ケ「ポリスさんが行方不明なんですか!?」

 

ス「ポリスって?」

 

セ「この長雨で、食糧事情はよくないが、ペンドラゴ名物のドラゴ鍋を用意させよう」

 

兵士「心配ではないのですか!たったひとりの弟でしょう?」

 

セ「これ以上、自分たちのツケを貴公等に背負わせたくないのだ。今は体を休ませてくれ」

 

ラ「セルゲイさんのお言葉に甘えましょう。来るべき時に向けて」

 

ス「……わかった。ありがとう」

 

 

 

騎士団塔を出て

ス「セルゲイさんって、いい人だな」

 

ラ「はい。帝国の騎士団を率いるには正直すぎる気もしますけど」

 

ス「だな。ちゃんとやれてるのかな?」

 

ミ「他人の心配をしてる場合じゃないと思うけど」

 

「ケイン?ケインじゃないか!」

 

ケ「ニル!」

 

ニル「久しぶりだな!元気してたか!」

 

エ「誰?この馴れ馴れしいやつ」

 

ケ「ボクが騎士団学校にいた時の同期だ。驚いたよ、まさかキミとここで会うことになるとは」

 

ニル「最近、ペンドラゴ配属になったんだ」

 

ケ「皇都での勤務は皆の憧れだったじゃないか。おめでとう」

 

ニル「ああ。ようやくここまで来れたよ。国境付近は気が張りつめていてどうにかなりそうだったからな。ケインは噂の導師と共に行動しているみたいだな」

 

ケ「ああ。ちょっと調べ事があってね」

 

ニル「災厄の時代を終わらせる方法か」

 

ケ「まあね」

 

ニル「お前は変わっていないな。『武力ではこの災厄の時代は乗り越えられない。もっと根本的な部分から解決しなくては』。お前はそう言って騎士団を出て行った。口だけだと笑うものもいたが、俺はお前の事を買っていたんだ。事実導師を連れて、ローランスへ帰ってきた」

 

ラ「ケインさんがそんなことを……」

 

ニル「これでシランが生きていれば――」

 

ケ「ニル、人生にたらればはないんだ。今更シランのことを言っても彼女は戻ってこない」

 

ス「シラン?」

 

ニル「すまない、思い出させるつもりはなかったんだが……」

 

ケ「いや、ニルが悪いんじゃないさ」

 

エ「くしゅん!」

 

ス「エドナ大丈夫?」

 

エ「これぐらい平気よ」

 

ケ「キミ、仕事中でしょ?サボっているところがばれて、ボクまでセルゲイさんに怒られるのは御免だ。ここらで失礼するよ」

 

ニル「ああ。導師殿も引き留めて失礼しました。ゆっくりお休みください。ケイン、落ち着いたら一杯やろう。それまで死ぬなよ」

 

ケ「それはこっちの台詞さ。じゃあまた」

 

ニル「おう!ラストンベルに戻った時ぐらい墓参りに行ってやれよ。彼女も喜ぶと思うから」

 

兵士去る

 

ミ「ケインの昔の友人か……」

 

ラ「ケインさんのこと慕っているのですね」

 

エ「もっとゆっくり話してもよかったのよ」

 

ケ「災厄の時代が終わればまたゆっくり話ができるさ。さ、風邪引かない前に宿屋へ行こう」

 

 

 

宿屋

ス「ごちそうさま~!」

 

ケ「よく食べるなあ」

 

ミ「こっちの二人もね」

 

ラ「結構なお味だったので、つい……」

 

エ「ドラゴ鍋。85点」

 

ケ「久しぶりに食べたけど、何度食べてもおいしいな」

 

ス「ケインはペンドラゴの生まれなの?」

 

ケ「いや、生まれはラストンベルだ。家族も皆そこにいる。ペンドラゴには騎士団学校があったから学生時代はここで過ごしたんだ。第二の故郷ってやつかな」

 

ラ「それにしてもケインさんが騎士団にいたなんて知りませんでしたわ」

 

ケ「ラストンベルでも少し話したけどね。まあ、いたと言ってもほんの一か月ぐらいだよ」

 

ミ「そうなんだ」

 

ケ「学校を卒業してすぐ国境近くの紛争地帯に配属されてね。そこで初めて本物の戦場を見たんだ。人と人が殺し合っている。あれほど狂っているところはなかった」

 

ラ「シアンさんという方は……」

 

ケ「ボクと同じで初陣だった。彼女はボクの目の前で敵兵に斬られて戦死したよ」

 

ミ「ケイン……」

 

ケ「今思えば、溢れかえっている穢れに精神が病んでいたのかもしれない。帰還してすぐに退団届を提出したよ。彼はあんな風に言っていたけど、実際は死ぬのが怖かっただけなんだ」

 

エ「誰だって死ぬのは怖いことよ。もちろん殺す事だって……」

 

ス「エドナ……」

 

ミ「研究者になったのはそれから?」

 

ケ「騎士団学校時代から伝承に興味があってね。伝承の時代のように天族の力を借りる事ができたら災厄を鎮めることができるんじゃないかと思って。メ―ヴィン師匠に無理言って弟子入りさせてもらったんだ」

 

ス「ケインにそんな過去が」

 

ケ「隠しているつもりはなかったんだけど、言う機会がなかったからね。だからボクは今すごくワクワクしているんだ。導師と天族と一緒に災厄の時代を終わらせる旅をしている。新発見の連続だ」

 

ス「必ず皆が笑って暮らせる世の中を取り返そう!」

 

ミ「もちろん、そのつもりさ」

 

ケ「ボクはキミの従士だ。キミのことを全力でサポートする。災禍の顕主と枢機卿を倒す方法も、エドナちゃんのお兄さんを救う方法も遺跡の中に眠っているはずだ」

 

ラ「ケインさん……。……」

 

ケ「さあ昔話はここまでだ。明日は朝一で司祭に教会を案内してもらう予定だ。今日はもう休もう」

 

 

 

深夜

エ「あなたが眠れないなんて珍しいわね」

 

ミ「ケインの話を聞いてから元気がない。何かあったのか?」

 

ラ「エドナさん……。ミクリオさん……」

 

エ「どうしたの?今なら特別に相談に乗ってあげるわ」

 

ラ「…………」

 

ミ「アリーシャのことかい?」

 

ラ「どうしてそれを!」

 

エ「あなたって本当にわかりやすいのね」

 

ラ「あっ……」

 

ミ「アリーシャの従士契約を破棄したこと、後悔しているんじゃないのか」

 

ラ「…………。アリーシャさんもケインさんと同じように天族の存在を認めてくれる人でした。スレイさんもアリーシャさんを必要としています。それはもちろんアリーシャさんも……」

 

エ「アリーシャにはアリーシャの立場があるもの。あなたが一概に悪いとは言えないわ」

 

ラ「ですが、結果としてスレイさんを戦場へ向かわせてしまった。ケインさんだって、かつての仲間が傷つくところを見たくなかったはずです。今、この瞬間もアリーシャが例の憑魔に襲われているかもしれない」

 

エ「あなたがどうしようともあの娘は戦場に向かったと思うけど?」

 

ミ「ライラが抱え込むことはないさ。悪かったと思っていることを反省できてるのなら、次に生かせばいい」

 

エ「次にアリーシャに会った時、どうするつもり?」

 

ラ「従士として戻ってきてくれればいいんですが……」

 

ミ「本人が力不足を嘆いていたんだ。僕たちに守られていると思っているうちは戻ってこないだろうね」

 

エ「人間って面倒ね。苦しい時には誰かを頼ればいいのに」

 

ミ「エドナも人のこと言えないんじゃない?」

 

エ「ムっ!」

 

ラ「アリーシャさん、どこへいるんでしょう」

 

ミ「口ぶりからするとローランスにいるのは確かだ。焦らずに情報を集めよう」

 

エ「ポジティブミクリオ。略してポミね」

 

ラ「ミクリオさん、エドナさん、ありがとうございます」

 

ミ「明日も早い。もう寝た方がいいよ」

 

エ「寝坊は許さないわよ」

 

ラ「そうですわね。もう少し夜風に当たってから部屋に戻りますわ」

 

エ「先に行っているわよ」

 

ラ「はい」

 

ラ「…………」

 

ラ「……わたしは正しい答えを出せているのでしょうか」

 

ラ「ミケルさん……」

 

 

 

朝、教会にて

ケ「ここが教会神殿だ」

 

ス「あっさり入れちゃったな」

 

ラ「ここは一般信者用の講堂のようですわね」

 

ミ「その割に人いなくないか?」

 

エ「いかにも罠っぽいわね」

 

ケ「奥に人がいる。あの人が司教さんかな」

 

司教「最高の力をもつ五人の天族、五大神のお名前を全部言えるかな?」

 

子ども「えーと、えーと……」

 

子ども「ムスヒ!あと、ウマシア!」

 

子ども「ハヤヒノとアメノチ!」

 

司教「そう。そして最後の大神は、この教会神殿に祀られている――」

 

子どもたち「マオテラス!!」

 

ラ「…………」

 

司教「そう。マオテラス様は、グリンウッド大陸のすべてに加護をあたえてくださる天族ですね」

 

ス「教会神殿には、マオテラスが祀られてるのか!」

 

ミ「五大神とは超大物が出てきたな」

 

ス「マオテラスなら、災禍の顕主に対抗する方法を知ってる可能性は高いよな。なんだって五大神の筆頭だからな」

 

ケ「しかし、マオテラスほどの天族の領域がまったく感じられない。ここにはいないのか……」

 

司祭「スレイさんですね?ようこそ、ローランス本部教会へ。お話は伺っています。どうぞ奥へ」

 

 

 

碑文の前

司祭「これは『導師の試練』と、それを越えることで得られる『秘力』について書かれている碑文です」

 

ス「『導師の秘力』」

 

ケ「教会の奥に碑文があるとは……」

 

エ「あなたもここに来たことないのね」

 

ケ「ああ。ここまで奥に来るのは初めてだ」

 

ミ「本物かな」

 

ラ「カナカナカナ~♪あ、ヒグラシが鳴いていますわね」

 

ス「本物っぽいな!」

 

ス「解説っぽい古代文字があるけど」

 

ミ「文章になってない。きっと暗号なんだ。ケイン、読める?」

 

ケ「…………。ダメだね。ボクが知っている古代言語の法則のどれにも当てはまらない」

 

ス「ケインでもダメか。秘力っていうくらいだしな。どこかに解読のヒントは……」

 

司祭「おそらく解けないと思います。この碑文は、暗号で記されていて、その解読方法は代々教皇様だけに伝えられるのです」

 

ス「教皇様に読んでもらわないとダメってことか……」

 

領域が発生。穢れに溢れる。

 

エ「これは!?」

 

ラ「急に穢れが!」

 

ス「憑魔の領域!ヘルダルフの時と同じだ!」

 

ケ「司祭さんが……」

 

スレイ、司祭に目をやる

 

ス「石になってる……」

 

ミ「スレイ!」

 

ケ「ここはまずい!外へ!」

 

ス「でも司祭さんが……」

 

ミ「今は逃げるんだ!」

 

ス「ごめん……」

 

 

 

ケ「もうすぐ出口だ。みんながんばれ!」

 

ラ「気をつけて!誰かいます!」

 

「もうお帰りですか、導師よ?」

 

ス「う!?」

 

フォートン「ローランス教会枢機卿フォートンです」

 

ス「この領域は……あなたが」

 

フ「ここまで動けるなら合格ですね。その力をわたしに預けませんか、民のために」

 

ス「ハイランドでも同じこと言われたよ」

 

フ「バルトロのような俗物と一緒にされるのは心外ですね」

 

ケ「へー、あなたは違うと?」

 

フ「少なくとも、そんな挑発に乗る程度ではありません」

 

ケ「なるほど、お話はできそうだ。とにかくその理由を聞こうか」

 

フ「私の願いはただ一つ。帝国がこの災厄の時代を乗り越えること。それは民の結束なしには不可能でしょう。しかし、愛国心のみでそれを行うにはローランスは巨大すぎる。導師よ。古来より、国家が何をもって民をまとめてきたか知っていますか?」

 

ス「……信仰かな」

 

フ「そう。人は、心の救済のために最も尽くし、価値観を違える集団に対し、最大の結束を発揮します。つまり、我が教会こそがローランスの要にふさわしい」

 

ス「それがあなたの考えなんだ」

 

フ「民を導く者としての理念です。導師の名と力が加われば、より多くの民を救うことができるでしょう」

 

ス「なら騎士団と協力すればいい。それが一番みんなのためになるだろ?」

 

フ「私の意に従って働くというなら喜んで迎え入れますよ。例え、教皇が逃亡したとも知らぬ愚かな騎士団であっても」

 

ケ「教皇様が逃げた?監禁しているのではないのか」

 

フ「いいえ。教皇――いや、マシドラは自ら逃げたのですよ。帝国と信徒への責務を、すべて投げ出して。そのような男をどう思いますか?」

 

ケ「自分からばらしていくスタイルなんだね。楽で助かるよ」

 

ス「……無責任だと思う。本当なら」

 

フ「そうでしょう?なのに騎士団のように、そんな卑怯者を未だに信奉する愚か者が多い。結束のためには、マシドラを見つけだし処罰する必要があります。私に疑う無礼者どもに与えたのと同じ罰を」

 

ス「それは困るな。教皇様には碑文の意味を教えてもらわないといけないんだ」

 

フ「必要ないでしょう?協力するのなら」

 

ス「どうしても知りたいんだ。オレは」

 

フ「わかりました。つまり私の理念を拒否するのですね!」

 

穢れがさらに強くなる

 

ス「くう!」

 

ケ「体がっ!!」

 

ス「まずい!この穢れ、強すぎる……」

 

フ「死ねええええ!」

 

フォートンを牽制するようにナイフが着弾

 

フ「ちっ!」

 

ケ「ナイフ……、どこから……」

 

ス「これって……」

 

ミ「スレイ、逃げるぞ!」

 

ス「あ、ああ」

 

スレイ一行、逃げる。

 

フ「くっ!?何者かが邪魔をしたか……。その隙に導師に逃げられた。この攻撃は……」

 

フォートン、ナイフを手に取る。

 

フ「なるほど……。あいつらか。ふふふ、面白いことになってきたな」

 

フ「導師も一瞬とはいえ、私の領域を破って天族と繋がった……。楽しみですね」

 

 

 

教会の外

ス「あのナイフ……。オレたちを助けてくれたのか……」

 

ミ「話はあと!騎士団塔まで逃げるんだ」

 

「待て!」

 

風と共に暗殺者とデゼル登場

 

ケ「風の骨!」

 

ス「やっぱりお前たちだったのか。オレたちを助けたのは」

 

ミ「なんだって!?」

 

「気付いていたか……」

 

デ「教皇はゴドジンだ」

 

ス「えっ?」

 

デ「逃げた教皇はゴドジンという辺境の村にいる。場所は自分で調べろ」

 

エ「あなたたちを信じろっていうの?」

 

「信じるか信じないかはお前たち次第だ」

 

ス「なんでそれをオレたちに教えるんだ。オレのことを狙っていたんだろ」

 

デ「お前はその方法ですべての穢れを祓えると思っているのか?」

 

ス「もちろんだ」

 

デ「災禍の顕主もか」

 

ケ「何が言いたい」

 

デ「今の導師の力ではあいつには敵わない。あまちゃんのお前にはな」

 

ミ「理由になっていないぞ。ちゃんと答えろ」

 

「そこまで言ってわからないのなら、それまでだな」

 

デ「今は仇を倒すために、お前たちを利用する。それだけだ。変な行動をしたら、容赦なく殺す」

 

エ「ずいぶん勝手な言い分ね」

 

「そうそう。アリーシャ姫もゴドジンに向かったみたいよ」

 

ス「何!?」

 

「急いだほうがいい。ルナールもそちらに向かっている」

 

ケ「アリーシャ姫が……」

 

デ「じゃあな、導師。しっかり働けよ」

 

ケ「待て!まだ話は終わってないぞ!」

 

暗殺者とデゼル、消える。

 

ラ「アリーシャさんがゴドジンに……」

 

ミ「とにかく騎士団塔へ戻ろう。セルゲイに報告しなくちゃ」

 

ス「アリーシャ無事でいてくれ」

 

 

一行、騎士団塔へ。




こんにちは、作者です。第十二話です。アリーシャはスレイ達と別れた後、ゴドジンに向かったみたいですね。原作だとマーリンドで別れてから、グリフレット橋で再会するまでの長い間、アリーシャの動向は描写されませんでした。アリーシャを心配するそぶりも見せず、ローランスを探索することを選んだスレイの行動には、いまだに違和感を感じています。せめて「一方そのころアリーシャは!」と言わんばかりのカットインイベントがあれば印象も違ったのでしょうが……。アニメではどのように描写するのか気になります。ではまた第十三話で会いましょう。


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第十三話 再会

風の骨の助けを受け、フォートン枢機卿から逃げてきたスレイ一行。セルゲイが待つ騎士団塔へ報告に向かう。


騎士団塔

セ「スレイ殿!よくご無事で!マシドラ様のことはわかったか!?」

 

ス「実は……」

 

事情を説明

 

セ「マシドラ様が自ら逃げた……!?」

 

ス「ごめん、詳しい話はきけなかった。逃げるのに精一杯で」

 

セ「いや、捕らえられていないと、わかっただけでも充分な成果だ」

 

エ「アイツの領域をなんとかしないと」

 

ス「教皇様に碑文を読んでもらって秘力を手に入れよう」

 

ケ「セルゲイさん、教皇様はゴドジンにいるらしい。確定情報ではないけど」

 

セ「どうやってそんな情報を!?」

 

ス「それは……」

 

セ「何か訳ありみたいだな。導師殿が言う事だ。理由は無理に聞かぬ。こちらとしては何も情報がないのも事実。ゴドジンに捜索隊を派遣しよう」

 

ミ「待った。こっちが教皇を捜そうとするのは枢機卿もわかっているはずだ」

 

エ「下手に騎士団が動いたら、教皇様の居場所を教えてしまうことになるわ」

 

ラ「ゴドジンにはアリーシャさんもいます。ハイランドの姫がローランスにいるとなると混乱は避けられないでしょう」

 

ミ「僕たちだけなら」

 

ス「隠れて行動できる……か。ゴドジンにはオレたちが行くよ」

 

セ「しかし、それではあまりにも」

 

ケ「人数が多すぎるのもかえって危険です。ここはボクたちに任せてください。必ず教皇様を見つけだします」

 

ス「そういうこと」

 

セ「……かたじけない」

 

ス「あ、その代わりっていったらだけど、ローランスの通行証をもらえないかな?オレ、ハイランド軍の味方って誤解されてるかもしれなくて」

 

セ「貴公がどんな人物かは十分承知している。早急に手配しよう」

 

ス「よかった。これで一安心」

 

セ「自分からも、ひとつ伝えておきたいことがある。表に出てもらえないか」

 

 

 

騎士団塔の外

セ「貴公との戦いで自分が使った技を覚えているか?」

 

ス「うん」

 

セ「あれは『獅子戦吼』。代々、我が騎士団に伝えられてきた奥義だ。今の使い手は自分と、弟のポリスのみになってしまったが……。それを貴公に伝授したい。受けてもらえるだろうか?」

 

ス「わかった」

 

戦闘

 

ス「『獅子戦吼』」

 

セ「素晴らしい飲み込みの早さだ」

 

セ「すまない。無骨者ゆえこんなものしか報いる術を知らないのだ」

 

ス「ううん。すごい技だよ。ありがとう、セルゲイさん」

 

セ「もう我々は同門だ。セルゲイでかまわない」

 

ス「オレもスレイでいいよ」

 

セ「スレイ。自分は教皇様が逃げ出したとは信じたくはない。だが、この事件には自分の知らない裏があるようだ」

 

ス「わかった。教皇様を見つけて事情を確かめよう」

 

セ「頼む」

 

 

 

騎士団塔内

セ「スレイ、通行証だ」

 

ス「ありがとう。これで安心して旅ができるよ」

 

ケ「ゴドジンはここから南東の方角だ。一度調査で行ったことがある。案内しよう」

 

セ「ケイン、スレイ、頼んだぞ」

 

ス「うん。任せてよ。それじゃあ行ってくるね」

 

 

 

ゴドジン到着

ス「ここがゴドジンか」

 

ミ「こんな街道から離れたところに村があるとはな」

 

女子「あ!よそものだ!」

 

男子「こら!そういう言い方しちゃダメって学校で習ったろ?」

 

女子「そうだった!」

 

女子「こんにちは!」

 

ス「こんにちは」

 

ケ「久しぶりだね。元気してた?」

 

男子「あっ、研究しているお兄ちゃん!久しぶり!」

 

ケ「うん。元気そうだね」

 

ス「この建物は学校?」

 

女子「そうだよ!村長さんがつくったんだよ」

 

男子「村の将来のためにね」

 

ス「学校か!」

 

ケ「以前訪れた時には学校なんてなかったが……」

 

村人と村長が来る

 

村長「街のものに比べたら、ささやかすぎるだろう?」

 

ス「そうなの?オレの育った村にはなかったから」

 

ミ「ちょっと憧れだったよね」

 

スレンジ「ゴドジン村長のスレンジです。こんな辺境まで、どんな用で?」

 

ス「えっと、人を――」

 

ケ「お久しぶりです。みなさん」

 

村民女「あんたはいつかの探検家さん。また遺跡の調査かい?」

 

ケ「まあそんな感じ。以前来たより随分景気がよさそうですね」

 

村民男「それもこれも村長のおかげさ」

 

ケ「あなたが村長さんですか。はじめまして、ケインと言います。今日は遺跡調査で来ました」

 

村「それはご苦労な事です。幸いこの村は、大きな飢饉にはみまわれていません。どうぞごゆっくり」

 

村民女「それどころか前より豊かなぐらい」

 

村民男「村長のおかげでな!必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

村民女「また自分の手柄みたいに」

 

ケ「へえ。それはそうと、先行させている仲間を見かけませんでしたか?白い甲冑をつけたボクと同じぐらいの年齢の女性なのですが……」

 

村民男「ああ、あの人か。今ちょうど村にいるわよ」

 

ス「風の骨の情報は本当だったんだ」

 

村民女「久しぶりの再会だ。その仲間をつれて、うちにおいでよ。腕を振るうよ」

 

ケ「ありがとうございます」

 

村民男「じゃあ、また後でな」

 

村民去る。

 

ケ「スレンジさん」

 

村長「なんでしょうか?」

 

ケ「あなた、どこかで見たことがある顔なのですが、ボクと会ったことありますか?」

 

村長「はて、人違いではないですかな」

 

ケ「そうですか。失礼しました」

 

村長、去る

 

ケ「…………」

 

ス「いい村だな」

 

ミ「ちょっとイズチを思い出したよ」

 

ス「…………」

 

ラ「スレイさん、わたしたちで教皇様の手がかりを探します」

 

エ「気が気じゃないんでしょ。行ってきなさい、あの娘のところへ」

 

ス「わかった。ありがとう」

 

パーティ、自由行動に

 

 

 

スレイ、アリーシャを見つける

ス「アリーシャ!」

 

ア「スレイ!?どうしてここへ?」

 

ス「ちょっと調べ事をしていてね。アリーシャは?」

 

ア「わたしは――」

 

回りを見回す

 

ア「ここでは人が多い。場所を移そう」

 

 

 

ア「ここなら村の者も来ないだろう」

 

ス「アリーシャ、例の極秘任務ってやつなのか?」

 

ア「ああ。そうだ」

 

タケダ「殿下、こちらにいらしたか。むっ、お前は導師!?」

 

ス「あなたは、あの時、アリーシャを迎えにきた兵士」

 

ア「スレイ、この村ではわたしたちの素性は隠している。誰もいない場ならいいが……」

 

ス「そうか。ごめん」

 

タ「殿下、なぜ導師がここに」

 

ア「彼らは別の用事でここへ来たらしい。今から話を聞くところだ。スレイ、話を聞かせてくれないか?」

 

ス「実は……」

 

暗転

 

ア「なるほど、ローランスの教皇様がここへ。行方不明という噂は聞いていたが……」

 

タ「これはチャンスだ!教皇を生け捕りにしてハイランドに持ち帰ったら、手柄を挙げられる!」

 

ス「そんなのダメだよ!オレたちには教皇様が必要なんだ」

 

ア「わかった。教皇様の身柄はスレイたちに預けよう!」

 

タ「殿下!」

 

ア「教皇の件は任務内容に入っていない。それにハイランドは導師に恩義がある。それをむげにはできないだろう」

 

タ「しかし!」

 

ア「それにわたしたちが追っている件に繋がっている気がする」

 

ス「アリーシャたちが追っている件って?」

 

ア「最近、ローランスのみならずハイランドにもエリクシールが流通している。不老不死になると言われている名薬だ。貴族たちがこぞって買いあさっているのが問題になっている。エリクシールは普段市場に出回るようなものではなく、高値で取引されている。このままではハイランドの資金がローランスへ流れこんでしまう。そう危惧したハイランド政府は、わたしをエリクシールの調査するようにローランスへ派遣したんだ」

 

タ「殿下!?こんなどこの馬の骨とも分からない人に機密事項を」

 

ア「スレイは情報を提供してくれたんだ。こちらも持っている情報を明かさないとフェアじゃない」

 

ス「それで、そのエリクシールがゴドジンにあると?」

 

ア「ああ。ここから出荷されてペンドラゴに運ばれているらしい。しかも教会名義でだ」

 

ス「教皇様とエリクシールか……。アリーシャ、オレたちと一緒に来ない?」

 

ア「しかし、わたしは……」

 

ス「行方不明の教皇様と教会が管理しているエリクシール。これって絶対関係してるよ。調べることが一緒なら協力した方がいいよ」

 

ア「……わかった。でもスレイたちに迷惑はかけられない。この件が片づけるまででいいだろうか」

 

ス「それでもいいよ」

 

ア「ありがとう」

 

タ「導師なんか胡散臭いやつと行動するのはまっぴらごめんだ。俺は別行動しますよ」

 

ア「スレイは胡散臭くなんかない!現にここには天族様がいらっしゃって」

 

タ「殿下には、その天族様とやらが見えていらっしゃるのですか?」

 

ア「そ、それは……」

 

ス「アリーシャ……」

 

タ「俺は目に見えるものしか信じません。得体のしれないやつとは行動できない」

 

ア「くっ」

 

ス「アリーシャ、いいんだ……。そう思われても仕方ないんだ」

 

ア「しかし!」

 

タ「安心してください、仕事は放棄しませんから。俺は俺のやり方でエリクシールを探します」

 

タケダ、去る

 

ア「スレイ、すまない。失礼なことをした」

 

ス「大丈夫だよ。さてみんなと合流するか」

 

ア「ミクリオ様とは一緒じゃないのか?」

 

ス「ああ、えーと。今は別行動。教皇様の手がかりを調べているんだ」

 

ア「そうか……」

 

ス「行こう」

 

ア「……」

 

 

 

ミクリオと会話

ミ「アリーシャと再会できたみたいだね」

 

ス「うん」

 

ス「これからはアリーシャも一緒に調査することになったんだ」

 

ア「よろしくお願いします、ミクリオ様」

 

ミ「なっ!」

 

ス「アリーシャ、ミクリオが見えるの!?」

 

ア「いいや。でもスレイの顔を見ていればなんとなくわかるよ」

 

ス「ははは、これは一本取られた」

 

ミ「…………」

 

ス「そうだった。どうそっちのほうは何か掴めた?」

 

ミ「掴めたってほどではないけど、気になる事が一つある」

 

ス「おっと、ちょっと待って。アリーシャ、手を」

 

ア「あ、ああ。すまない」

 

ミ「一通り回ってみたんだが、この村かなり豊かみたいだ」

 

ス「いいことじゃないか」

 

ミ「なぜかが問題」

 

ス「……収入源か!」

 

ミ「そう。周りは農業にも狩猟にも適さないやせた土地だ」

 

ス「街道沿いでもないし、特別な産物もないっぽい」

 

ミ「変だろ?普通なら真っ先に飢饉に苦しむような村なのに」

 

ス「訳があるんだろうな。なにか」

 

ア「確かに不自然ですね。……まさか例のエリクシールの収入が」

 

ミ「エリクシール?」

 

ス「ここでは人が多い。後でみんな集まった時に説明するよ」

 

ミ「わかった。僕ももう少し村の人の様子を伺うこととするよ」

 

ス「じゃあ、集合場所は……」

 

ア「学校の裏に路地があります。そこでは誰かに会話を聞かれることはないでしょう」

 

ス「俺たちは他の人たちの所に行ってくるよ」

 

ミ「ああ。気をつけろよ」

 

ス「わかってるって」

 

ア「では、ミクリオ様失礼します」

 

スレイとアリーシャ去る

 

ミ「この感じ。なんだか少し前に戻ったみたいだな……。アリーシャが従士として戻ってくることはもうないかな。僕からしか姿を捉えられないってあんまりじゃないか」

 

 

 

ライラと話す

ラ「アリーシャさん!よかった。無事だったのですね!」

 

ス「アリーシャ、ライラだ」

 

ア「ライラ様、お久しぶりです。先日はご迷惑をおかけしましてすみませんでした」

 

ラ「いえいえ、こちらこそ結果的にあなたを苦しませることになってしまい――、聞こえていませんよね……」

 

ス「ライラ……」

 

ここでケインが歩み寄る

 

ケ「こんにちは、マーリンド以来だね」

 

ア「ケイン!」

 

ケ「元気そうで何よりだ」

 

ア「ケインこそ」

 

ケ「あっ、一応アリーシャ姫はボクの研究チームの一員ってことになっているからよろしく」

 

ア「わかった」

 

ス「それにしても、このゴドジンって幸せそうな村だよな」

 

ア「前向きで、活気がある。みんな良き人ばかりだ」

 

ス「けど、天族の加護は感じないな」

 

ラ「はい。加護天族は不在ですわね。一時は、かなり荒れていたようです。それを今の村長さんが立て直されたということですわ」

 

ス「だからみんな村長さんを尊敬してるんだな」

 

ラ「そうなのでしょうね。ここはずいぶん貧しい土地のようですし」

 

ケ「以前来た時には彼はいなかったんだけどね、かなりの手腕だよ。ぜひご教授願いたい」

 

ア「話によると村長さんは一年ほど前にこの村に来たらしい」

 

ケ「一年前、ね」

 

ラ「ケインさん、どうかされました……?」

 

ケ「ごめん、ちょっと気になっていることがあってね。もうちょっと調べたら、ちゃんと話すよ」

 

ス「二人とも、集合場所は学校の裏ね」

 

ラ「わかりましたわ」

 

アリーシャ、スレイ去る

 

ケ「アリーシャ姫がとりあえず無事そうでよかったね」

 

ラ「そうですね……」

 

ケ「これからどうするの?アリーシャ姫が戻ってくるように説得でもする?」

 

ラ「それはアリーシャさんが決めることですし……」

 

ケ「問題はキミがどうしたいかだよ。誓約が色々あるのも分かるけど、自分の気持ちを押し殺すのも良くない」

 

ラ「ケインさん……」

 

ケ「ボクも行くよ。後でね」

 

ラ「あ、はい」

 

ラ「…………」

 

ラ「わたしは……、わたしはどうしたらいいのでしょうか」

 

ラ「アリーシャさん……」

 

 

 

エドナと話す

ア「後はエドナ様だけだな」

 

ス「うん。あっ、いたいた」

 

エ「スレイ、……アリーシャと無事会えたみたね」

 

ス「うん」

 

エ「……そう」

 

ス「エドナ?」

 

エ「村の奥に遺跡があったわ。相当古くて凝ったものみたい」

 

ス「古いってどれくらい?」

 

エ「多分『クロースド・ダーク』より前。ワタシより年上かも」

 

ス「って、『アヴァロストの調律』時代!?本当なら超貴重だよ。それ!」

 

ス「……あれ?えっと、エドナって何歳――あいたっ!」

 

エ「なに?」

 

ス「なんでもないです……」

 

エ「仲直りは出来たの?」

 

ス「もともと喧嘩してないし」

 

エ「ふーん」

 

ア「エドナ様、ご無沙汰しています」

 

エ「あなたも相変わらず律儀ね」

 

ア「…………」

 

エ「張り合いがないわ。スレイ、なんとかしてこの娘にわたしの姿が見えるようにしなさい」

 

ス「そんなこと言われても……」

 

エ「もういいわ。行きなさい。遺跡が気になっているでしょ?」

 

ス「遺跡か……」

 

ア「入口の方は立ち入り禁止になっているみたいだ。村の人が見張りについている」

 

ス「何かありそうだな。ありがとう、エドナ。行ってみるよ」

 

ア「学校裏で待っていてください。私とスレイで見てきます」

 

スレイ、アリーシャ去る

 

エ「一緒にいたいなら素直になればいいのに。人間って面倒な生き物ね。話をするとき、スレイに通訳してもらうのも面倒だし、早く従士に戻ったらいいのに……」

 

 

 

遺跡前

ス「ここがエドナが言っていた遺跡か」

 

ア「誰かいるぞ。あれは村長さん?」

 

ケ「スレイ、アリーシャ、こっちこっち。そこにいちゃばれちゃうよ」

 

岩陰に隠れる。スレイ、アリーシャ、ケイン。

 

「やつら、村長を捕まえにきたんじゃないのか?」

 

「冗談じゃねえ!村長がいなくなったらゴドジンは……」

 

スレンジ「心配はいらんよ。聖域に入れさえしなければ大丈夫だ」

 

遺跡に入っていく村長。村長から穢れ発生

 

ス「村長さんから穢れが……なんで?」

 

ケ「答えは、あの遺跡にあると思う」

 

ス「……だな」

 

ア「一回戻って、ライラ様たちと作戦を練ろう」

 

 

 

みんな合流

ラ「みんな集まりましたね」

 

スレイとアリーシャ手を繋ぐ

 

ス「遺跡のほうを見てきたよ」

 

ミ「どうだった?」

 

ア「やはり見張りがいました。とても正面から入れそうもないです」

 

エ「明らかに怪しいわね」

 

ケ「そこに何かがある」

 

ア「おそらくエリクシールだと思う」

 

ミ「エリクシール?」

 

ア「実は……」

 

暗転

 

ミ「なるほど。エリクシールで収益を得ているのなら、この村の豊かにも説明がつく」

 

ス「なんとかして入れないかな」

 

ラ「方法ならありますわ」

 

ア「本当ですか!?」

 

ラ「はい。おそらくこの岩の先はあの遺跡に繋がっているはずです」

 

ケ「この崩れた岩の先か……」

 

ミ「どかすのは無理だね」

 

エ「そうでもないけど」

 

ス「エドナの術なら!」

 

ミ「試してみてくれ」

 

エ「やってあげてもいい。ミクリオが『エドナお嬢様、どうか岩をどかしてください』って頼むなら」

 

ミ「おい、ふざけている場合じゃ――」

 

エ「手がかかるのよ。『エドナお嬢様』はね」

 

ミ「くっ……なんて屈辱的な……」

 

エ「ほら、早く言いなさい。『エドナお嬢様、どうか未熟なミボに代わって岩をどかしてくださいませませ』って」

 

ミ「増えてるぞ!?」

 

エ「早くしないともっと増えるけど」

 

ラ「エドナさん、イジワルはその辺にして――」

 

ス「この岩をどかして欲しいんだ、エドナ。お願いします」

 

エ「スレイはいいのよ!?」

 

ス「オレも、いつの間にか力を貸してもらうのを当たり前に思ってたかもしれない。そういう心のせいで穢れが広まるのを見てきたのにな。感謝を忘れちゃダメなんだよな。天族を祀るにも。仲間と旅をするにも」

 

ス「もちろん天族だけではなく人間に対してもだ。ありがとうアリーシャ、ケイン」

 

ア「スレイ……」

 

ケ「唐突だね。でもその気持ちは嬉しいよ。こちらこそありがとう」

 

エ「あなたは変わらないのね。いいわ。私の『巨魁の腕』を、あなたに預ける」

 

ミ「スレイに冗談は通じないよ」

 

ス「よーし、未熟なミボに代わって岩をどかしてみるか!」

 

ミ「それも言うのか!?」

 

エ「ホント、冗談通じない」

 

ア「ふふふ、この感じ懐かしいな」

 

エ「行くわよ。ロックランス!」

 

岩壊す

 

ス「すげえ威力!」

 

エ「そう?」

 

みんな先に行ってミクリオとエドナだけ

 

ミ「『巨魁の腕』か……くやしいが、さすがは地の天族といったところか」

 

エ「……」

 

ミ「エドナ?」

 

エ「あひゃぁ!!」

 

エ「……『巨魁の腕』を使った後は全身が筋肉痛地獄になるんだから触らないでくれる?」

 

ミ「そ、そうなのか……」

 

エ「見た目通り華奢なアタシは、本来傘より重いものは持てない。守ってあげたくなるNO.1の淑女なのよ?」

 

ミ「それは別にどうでもいいが、やはり大きな力にはそれなりの代償があるってことなのか」

 

エ「気を遣われても困るからスレイには言うんじゃ、ないわよ」

 

ミ「そうかもな」

 

エ「あとさっきの話は、力を使ってないときは好きに触っていいって意味じゃないわよ」

 

ミ「知ってるよ」

 

 

 

奥に進む

ス「なんだここ?倉庫みたいだ」

 

ア「これは!?」

 

ス「エリクシール!?」

 

ミクリオ飲む

 

ミ「偽物だ。けど、なんか体が熱く……」

 

ラ「これは滋養強壮薬ですね。強力な依存性があります」

 

エ「一回売れば需要が保証される。悪質ね」

 

ア「やっと見つけた!」

 

ラ「そんなものが教会のお墨付きで売られているのですか?」

 

ケ「ゴドジンに本物の証明書を書ける人物がいるとすれば……」

 

ス「失踪した教皇様」

 

ミ「村の資金源も説明がつくね」

 

ミ「村長の穢れの理由も」

 

ス「共犯か。もしくは」

 

ケ「村長が教皇か」

 

「貴様らっ!どうやってここにぃッッ!!」

 

ロ「こいつ、まさかっ!」

 

ケ「憑魔!?」

 

ミ「まさかこの憑魔、村長なのか!」

 

ス「アリーシャ下がって!」

 

ア「あ、ああ」

 

戦闘

 

 

 

浄化完了

 

ラ「なんとか浄化できましたわ」

 

憑魔が男に

 

ケ「これは!村長じゃない!?」

 

男「やっぱり村長さんを捕まえにきたんだな……?そんなことさせねぇっ!」

 

スレンジ「やめろ!一体何があったんだ!」

 

ス「あなたは……マシドラ教皇様?」

 

マシドラ「……調べはついているのだな」

 

ケ「やはりそうだったか。どっかで見た顔だと思ってたんだ」

 

ア「なんで教皇様がこんなことを?」

 

マ「聞きたいのはこっちだ。なぜ私が教皇などという望んでもいない仕事をしなければならない?私が聖職に就いたのは、家族にささやかな加護を与えたかったから……ただそれだけだったのに」

 

ス「でも、あなたを慕っている人は大勢います。騎士団のセルゲイたちだって」

 

マ「わかっている!だからできることを必死でやった!自分を顧みず!皆のために何十年も!その結果――!気が付けば、家を顧みない男と憎まれ、私の家族は跡形もなくなっていた……。私は……一体なんのために……」

 

ケ「……ハイランドとの戦争には関わったんですか?」

 

マ「戦争も国も民も、全部投げ出して逃げた。すべてがどうでもよくなったのだ。死ぬつもりで森をさまよい、動けなくなったところを彼らに救われた。ゴドジンの皆は、私に何も求めず、ただ家族のように接してくれた」

 

ラ「それで村のために働こうと思われたのですね」

 

ミ「偽エリクシールを売り捌いてまで」

 

ケ「理由はなんであれ、ボクはあるがままを報告しないといけない。それはここにいる皆同じだ。おそらくあなたはそれ相当の処分を受けることになるだろう」

 

ス「ケイン!?」

 

ア「それも止む負えないだろうな」

 

マ「卑怯者と言いたければ言うがいい。今の私は――村人(かぞく)のために生きている」

 

ミ「同情はするよ。けど、教皇を連れ戻さないと」

 

ス「碑文を読まなきゃ秘力が得られないし、セルゲイたちも枢機卿に対抗できない……よな」

 

ラ「ですが、村長さんの人望と手腕がなかったら加護のないゴドジンはどうなってしまうか……」

 

ミ「わかるけど、同じことはペンドラゴにも言えるよ」

 

エ「そもそも、コイツが逃げたのが原因。責任を果たさなくていいわけ?」

 

ス「何か方法あるんじゃないか?碑文を読んでもらってゴドジンに戻るとか」

 

ラ「騎士団や教会があの状況では……」

 

エ「この人を解放してくれるって思う?」

 

ス「……」

 

マ「く……っ!げほっ!げほっ!がはっ!」

 

男「村長!」

 

ス「村長さん!?」

 

マシドラは、胸に手をあて、そのまま倒れ込んでしまった。




こんにちは、作者です。第十三話です。アリーシャと再会し、さあ各キャラと会話をさせようと思った時に、「従士契約を破棄しちゃったから、天族と話すどころか、その姿を見る事もできないじゃん……」と、もどかしさと寂しさを感じました。天族は人間を見る事できるけど、人間からは天族を見る事ができない。中々難しい問題ですね。あまりにも立場が違いすぎます。その中でどう共存していくか。歴代の導師は苦しんだのだろうなと思うと、心が痛いです。ではまた、第十四話で会いましょう。


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第十四話 神威

ゴドジンの村長スレンジは、マシドラ教皇だった。そのことを突き止めたスレイたちだったが、教皇は病気を患っており……


村の広場にてマシドラを休ませる

マシドラ「みんな、落ち着いてくれ……。心配はいらない。この方は本物の導師だよ。導師よ、ひとつだけわかってください。村の皆に罪はない。すべて私の責任だ。私をペンドラゴに連れて行ってくれ。しかるべき罰を受けよう」

 

ケ「人を裁くのがボクたちの仕事ではありません。後はセルゲイさんたちに任せる事にします。ですが、ゴドジンをこれまで通りに、という訳にはいきません。この村の現状も今一度騎士団に報告して、改善されるように善処します」

 

マ「ありがとう。どうかこの村を真の意味で救ってくだされ」

 

ケ「わかりました」

 

ラ「セルゲイさんたちも、きっと理解してくれますわ」

 

ケ「アリーシャ姫、ここはボクに彼の身柄を預けさせてもらえないか」

 

ア「教皇様はローランスの人間だ。ローランスの法で裁かれるのがいいだろう」

 

ミ「問題は枢機卿の領域にどうやって対抗するかだよ」

 

ス「それなんだけどさ。解読できないかなー?」

 

ミ「碑文の暗号をか!?」

 

ロ「自分で解く気?」

 

ス「無茶じゃないだろ?人が考えた物だし、なにより面白そうだ」

 

ミ「そうだけど、せめてヒントくらい教えてもらわないと……」

 

マ「導師よ、こちらへおいでください」

 

 

 

火の試練神殿イグレイン前

ス「ここって……?」

 

マ「『導師に四つの秘力あり。すなわち地水火風。其は災禍の顕主に対する剣なり。導師の力は従士に通ずる。世界に試しの祠あり。同じく地水火風。其は力と心の試練なり。力は心に発し、心は力を収める。心力合せは穢れを祓い、力に溺るれは己が身を焦がさん。試せや導師、その威を振るいて。応えよ導師、その息を賭して』」

 

ス「秘力の碑文!」

 

ミ「暗記してたのか!?」

 

ア「すごい……」

 

ミ「四つの力を得られる四つの場所がある。そこの試練に合格しろ……ってことだね」

 

ス「……うん」

 

ケ「おそらくティンタジェル遺跡の壁画に描かれていたことだろうね。いや、待てよ。確かあの地図によると、この辺を示していたような……」

 

ミ「まさかここが!」

 

マ「そう。ここが火の試練神殿イグレインです」

 

ス「入ってもいいかな?……って、ここまで勝手に入っちゃったけど」

 

マ「試練の神殿は死の危険を伴う場所とされます。それでも?」

 

ス「行くよ。秘密の神殿、見てみたいし!」

 

ス「お行きなさい、若き導師よ。ここはあなたのための場所です」

 

扉が開かれる。

 

タケダ「話は聞かせてもらったぜ!」

 

タケダ登場

 

ス「お前はさっきの!?」

 

タ「その秘力とやらを手に入れたら、俺はもっと強くなれる!戦績をあげてもっと高い位にのし上がるのだ!」

 

タケダ、遺跡の中へ

 

ア「待て!」

 

ミ「行ってしまった……」

 

マ「一般の人が進めるほど生易しいものではありません。すぐ引き返させないと」

 

ス「オレたちが行ってきます。アリーシャと教皇様はここで待っててください」

 

ア「わ、私も行く!」

 

ケ「アリーシャ姫?」

 

ア「彼は私の仲間だ。ここで指をくわえて待っていることなんて出来ない」

 

ス「わかった。でも危なくなったらすぐに逃げるんだよ」

 

ア「了解した」

 

ス「ライラ!」

 

ラ「はい、従士契約を復活させました。これで憑魔と戦えるはずです」

 

ア「ライラ様!私は――」

 

ラ「あくまで一時的なものです。この後どうするかはアリーシャさん自身で決めてください」

 

ア「……わかりました。スレイ、もう一度私に力を貸してほしい」

 

ス「もちろんさ。行こう、アリーシャ!」

 

 

 

試練神殿イグレイン 内部

ア「おーい、タケダ!くっ、ここにはいないか」

 

ケ「もっと奥まで進んだみたいだね」

 

エ「だいたい秘力だけ奪おうっていうのが傲慢なのよ。放っておいたら?」

 

ア「そんなことできません!」

 

エ「あの人はあなたのことをいじめていたけど?」

 

ア「関係ありません。彼はハイランドの民、いえ私の仲間です。放ってはおけません。先を急ぎましょう」

 

エ「いつぞやのスレイと同じことを言ってるじゃない」

 

ケイン以外フェードアウト

 

ケ「導師の試練の遺跡か。ここならもしかしたらドラゴンを救える方法が――」

 

ミ「ケイン、何してるんだ。一人になると危ないぞ」

 

ケ「すまない。今行く」

 

ケ「……今は彼を助けるのが先だ。」

 

エ「…………」

 

 

 

最深部

ス「行き止まり!ということは……」

 

ミ「ここが奥の間か」

 

ア「タケダ!いるなら返事をしてくれ!」

 

タケダ「ア、リーシャ……で、んか……」

 

ラ「あそこですわ!」

 

タケダ、大広間の端っこで座り込み震えている

 

ア「タケダ!今行く!」

 

ミ「アリーシャ、一人で突っ込むな!」

 

アリーシャ、何かしらの攻撃を受け、吹っ飛ばされる

 

ア「きゃっ!」

 

ス「アリーシャ大丈夫か!?」

 

ア「あ、ああ。しかし、なんだこのモンスターの数は……」

 

モンスター、大量発生

 

ラ「この試練の場がタケダさんを侵入者と見なしたのでしょう。おそらくこの遺跡にいる限り狙われ続けますわ!」

 

ケ「これほどの遺跡だ。盗賊用に防犯システムがあってもおかしくない」

 

ス「アリーシャ、こいつらはオレたちが相手をする」

 

エ「今のうちにその子を連れて逃げなさい!道は確保するわ」

 

ア「スレイ、エドナ様。ありがとうございます」

 

ラ「アリーシャさん、私もお供しますわ!」

 

アリーシャ、ライラ、タケダの元へ

 

ア「タケダ、大丈夫か!」

 

タ「殿下……、バケモノが……」

 

ア「ケガはそこまで深くなさそうだな」

 

ラ「アリーシャさん、油断しないで。まだまだモンスターは増えています」

 

ア「こんなに沢山……」

 

アリーシャ、タケダを守りながらモンスターと戦う

 

ア「くっ!キリがない!」

 

ス「!?アリーシャ!後ろ!」

 

ア「えっ!」

 

ラ「アリーシャさん!」

 

ライラ、アリーシャを庇い、軽傷

 

ア「ライラ様!ライラ様しっかり!」

 

ラ「これぐらい……大丈夫ですわ」

 

ス「ライラ!アリーシャ!」

 

ミ「今、回復術を」

 

ミクリオ、傷付いたライラの元へ

 

ア「また……また私が足を引っ張ってしまった……。私はやっぱり誰も守れないのか……」

 

ラ「そんなこと、ないですわ、……アリーシャさん」

 

ミ「ライラ、無理しないで」

 

ラ「アリーシャさんは強い方ですわ。人々を想い、寄り添うことができます。その優しさを忘れないでください」

 

ア「ライラ様……」

 

ラ「マーリンドであなたはスレイさんに迷惑をかけるからと従士契約を解除するように私にお願いしてきました。わたしはわかっていました。あなたがスレイさんの助けを求めていたことを」

 

ラ「そして……スレイさんもまたアリーシャさんの力になりたいと思っていたことを。アリーシャさんが自分の気持ちを押し殺して、私に相談していることをわかっていたんです!」

 

ラ「なのに、私は!導師の使命や己の誓約に縛られて二人を引き裂いてしまった!悪いのは私なんです!アリーシャさん、ごめんなさい!」

 

ア「あれは私が無理なお願いをしただけで――」

 

ス「『マオクス=アメッカ』」

 

ア「その名前は!」

 

ス「アリーシャはオレの仲間だ!楽しいことがあったら一緒に笑う。苦しい時は一緒に悩む。お互いに助け合うのが仲間なんだ!オレはアリーシャの笑顔を守りたい。だからアリーシャ!一緒に夢を叶えよう!この世界を穢れなき美しい世界にする。オレ達の夢を!」

 

ア「スレイ……」

 

ラ「お願いです!ひとりで全部背負おうとしないでください。その優しさは、必ずあなたを傷付けてしまいます……きっとまた……。私は……もう同じ過ちは……」

 

ア「ライラ様……」

 

ラ「アリーシャさん、共に戦いましょう!私たちの夢のために!」

 

ア「弱気になってしまってすみません。騎士として、従士として、そしてスレイの友として私は槍を振るいます。愛する者たち全ての人々のために!」

 

ア「ライラ様、もう一つわがままを聞いてもらえますか」

 

ア「もし私がまた弱気なことを言ったら『騎士は守るものにために強くあれ。民のために優しくあれ。ここで諦めるのか、アリーシャ・ディフダ!』と思いっきり叱ってください。」

 

ラ「アリーシャさん……。わかりましたわ。その時はお説教をしてあげますわ」

 

光がアリーシャとライラを包む。

 

ア「これは……」

 

ラ「アリーシャさんの体が光っていますわ」

 

ア「それを言うならライラ様も」

 

ラ「不思議と力がみなぎってくるわ。まさか、あの力が――」

 

ケ「くっ、これ以上持たない……」

 

ス「ぐわぁ!」

 

ア「スレイ!」

 

一行、モンスターの群れに苦戦。

 

ラ「アリーシャさん、私の真の名を捧げます」

 

ライラ、光と共にアリーシャの体の中に

 

ア「えっ、ライラ様が私の中に――」

 

ラ「その名を唱えるのです!そして、溢れる力をとどめ、身に纏うのです。それこそがあなたと私の答えです」

 

ア「わかりました!やってみます!」

 

ア「『フォエス=メイマ』!!」

 

アリーシャ、ライラ、神威化。

 

ラ「これが神威ですわ」

 

ア「神威……。すごい力がみなぎってる……。この力なら……!」

 

ア「スレイ、今度は私がキミを助ける番だ」

 

神威アリーシャ、モンスターを一網打尽。

 

エ「何、この力……。あんなに沢山いたモンスターが……」

 

ミ「次々と薙ぎ払っている」

 

ア「これで最後だ!」

 

モンスター倒す

 

ア「はあ、はあ」

 

ラ「アリーシャさん、やりましたわ」

 

ア「スレイ!みんな!無事ですか!」

 

ス「アリーシャのおかげでなんとかね」

 

エ「助かったわ。ありがとう」

 

ア「はっ!タケダは!」

 

ケ「気を失っているみたいだね。大丈夫、少し経てば目が覚めるさ」

 

ミ「それにしても、すごいな……」

 

ス「なんなんだ今の力?ライラがアリーシャの中に入っていったぞ」

 

?「それこそが五大神ムスヒが残した火の秘力。憑魔の領域……そして災禍の顕主に抗するための力。見事だったぞ、そこの娘、名をなんと申す」

 

ア「アリーシャと申します」

 

ケ「人に名前を聞くときは自分から。これ常識だよ」

 

エクセオ「そうであったな。これは失礼した。あらためて挨拶しよう、導師スレイ。私が天族エクセオだ」

 

ミ「僕たちが苦戦しているのをずっと見ていたのか!」

 

エクセオ「加護を与えるに値する存在かどうか量るため。悪く思うな」

 

ス「試練の結果は?」

 

エクセオ「合格だ。従士アリーシャは無事試練を突破した」

 

ア「え、私?」

 

エ「そうだ。その神威の力こそ我が秘力。彼女は強い意志を我に示した」

 

ケ「ということは、導師でなくても秘力を得る事ができるということか」

 

エクセオ「理論上では、な。普通なら導師以外の人間に秘力を与える事はしない。そこの男のように悪用しようと企んでいる者に力を与えると争いの火種になるからな」

 

ア「ではなぜに私に力を与えてくださったのですか?」

 

エクセオ「それは……、そなたならこの世界を救ってくれるかもしれんと思ったからだ。優しき、そして強き意志に賭けてみようと。導師よ。いい従士を持ったな」

 

ス「はい、アリーシャは大切な仲間です」

 

エクセオ「素晴らしい友情だな。私も人間だったころを思い出されるよ」

 

ス「人間だった!?」

 

エクセオ「おやおや、なにも知らないのだな」

 

エクセオ「天族になって久しいが、元はキミと同じ人間だったのだよ」

 

エドナ「天族には二種類あるのよ。天族として生まれた者と人から天族になった者と」

 

ス「驚いたな!」

 

ミ「新事実だ!」

 

ケ「実に興味深い。となると――」

 

スレイ、ミクリオ、ケイン談義。ライラ、アリーシャ、エクセオと話す

 

エクセオ「ライラといったか?契約で浄化の炎を手にしたのだな。大変な覚悟をしたのだろう。一体どれほどのものを失った?」

 

ラ「……なにも。スレイさんは、なくした以上のものを与えてくれる方ですから」

 

エクセオ「そちらの娘も大変な覚悟をお持ちのようで」

 

ア「心が折れそうな時もありました。今でも不安はあります。でも私には仲間がいます。その事実だけで十分です」

 

エクセオ「ほう。迷いが消えて吹っ切れたようだな」

 

ア「エクセオ様――」

 

エクセオ「わかっておる。あの兵士のことじゃな。今回の件に関してはそなたたちに免じて不問とする。しっかり反省したようだしな。もしまだ秘力を手に入れようとするなら、容赦はせんと伝えておけ」

 

ア「ありがとうございます。その時は私が全力で止めます」

 

ス「なんの話をしているの?」

 

エクセオ「お前は面白い導師だということを話していたのだよ」

 

ス「どういう意味?時々言われるんだけど?」

 

ラ「いいじゃありませんか。さあ、行きましょう」

 

ケ「…………」

 

ラ「ケインさん?」

 

ケ「すまない、ボクは残らせてもらうよ。少し調べたいことがあるんだ。先に行っててくれ」

 

ス「導師に関係ある事?それならオレも……」

 

ケ「早くタケダさんを宿屋で休ませるべきだ。またあのモンスターが出てきてもおかしくないし」

 

ア「それなら私に任せてくれ。スレイも遺跡調査したいのだろう?」

 

ケ「遺跡の中で女の子だけというのは不用心だ。スレイくんも付いていってあげてくれ」

 

ス「……わかった。ケインも気をつけて」

 

エドナ「…………」

 

エクセオ「試練はまだ三つ残っている。油断なく精進するがよい」

 

ス「エクセオさんもありがとう。オレ頑張るよ」

 

一行、遺跡を後にする。

 

 

 

ケ「さて、ようやく行ったか。さあお仕事お仕事」

 

エクセオ「私に聞きたいことがあるのだろう」

 

ケ「察しがいいですね。実は――」

 

エドナ「一人だけ抜け駆けはさせないわよ」

 

ケ「……エドナちゃん、どうしてここに?」

 

エドナ「安心して。スレイたちにはちゃんと断っておいたわ。で、みんなに知られたくない調べものって何なのかしら」

 

ケ「…………」

 

エドナ「言いなさい」

 

ケ「キミだけには知られなかったんだけどね。仕方ない、教えるよ。この遺跡にドラゴンを元の姿に戻す方法があるんじゃないかと思ってね。それを調べようと思ったんだ」

 

エドナ「そんなことだと思ったわ。なんでそれを隠していたの?」

 

ケ「確信がなかったからさ。ここにドラゴンのことについての情報があるかどうか」

 

エドナ「……嘘ね。ホントは強い穢れを祓う方法がないという事実を悟られたくなかったからでしょ。もしそれを知ったらスレイがショックを受けてしまうと……」

 

ケ「まだ仮説の段階だからね。だからこそ調査を続けるんだ。ボクはきっと災禍の顕主と対抗する方法も、キミのお兄さんを助ける方法も両方あると信じている」

 

エドナ「あなたはそればかりね」

 

ケ「自分で見聞きしたものしか信じない質なんだ」

 

エドナ「知ってるわ。さっさと済ませましょう。ここは暑いわ」

 

エクセオ「もういいかな」

 

ケ「お待たせしてすみません。ここにドラゴンについて伝承は伝わっていますか?」

 

エクセオ「ドラゴン伝承は特にないが、壁画なら隣の部屋にそれらしきものが……。案内しよう」

 

ケ「よろしくお願いします」

 

 

 

ドラゴンの壁画前

ケ「この壁画は……」

 

エドナ「ドラゴンと人が戦っている、わね」

 

エドナ「…………」

 

ケ「昔の人は何かしらの方法でドラゴンと向き合っていたみたいだね」

 

エクセオ「他の試練の遺跡でも同様の壁画ある。加護天族の中には詳しい者がいるかもしれない。尋ねてみるといい」

 

ケ「ありがとうございます。エドナちゃん、行こうか」

 

エドナ「…………」

 

ケ「大丈夫さ。きっとお兄さんを助ける方法はある。まだ三つも遺跡があるんだ。おそらくそこで――」

 

エドナ「わかっているわ。行きましょう。スレイたちが待っているわ」

 

エ(お兄ちゃん……。やっぱりお兄ちゃんを救うには殺すしかないの……?)

 

エ(お兄ちゃん……)

 

ケ「…………」

 

 

 

ゴドジンに戻って 宿屋

マシドラ「導師殿!」

 

ス「試練は、なんとかなったよ。きっとこれで枢機卿の穢れに対抗できる」

 

マ「昔のフォートンは、誰より責任感が強く、熱心な信徒でした。その彼女が、なぜ……?いや、私が言えた義理ではありませんが」

 

ア「人の心と穢れ……難しいな」

 

ス「うん」

 

ス「いつかわかるといいんだけど。心を救う方法が」

 

ラ「……あなたなら、きっと」

 

ア「…………」

 

 

 

ケイン、エドナ合流

 

エ「今戻ったわ」

 

ス「おかえり、エドナ、ケイン」

 

ケ「彼の容体はどうだい?」

 

ア「まだ眠りから覚めないが命の別状はないみたいだ」

 

ケ「それは良かった」

 

ケ「教皇様……、お話が……」

 

マ「わかっておる。いつかこんな日が来るとは覚悟していた」

 

ケ「明日の早朝に出立します。それまでにはやるべきことを済ませておいてください」

 

マ「一日で十分じゃ。感謝する」

 

教皇去る。

 

タケダ「う、ううん。ここは……」

 

ア「タケダ!目が覚めたか!」

 

タ「確か俺は遺跡の中で化け物に襲われて」

 

ア「ここは村の宿屋。もう大丈夫だ」

 

タ「殿下が助けてくださったのですか」

 

ア「いや、わたしだけではどうにもならなかった。導師スレイと天族様たちの力を借りたおかげだ」

 

タ「導師と天族……」

 

ミ「タケダも目覚めたし、これからどうする?」

 

ラ「アリーシャさんと私の神威で枢機卿の領域は突破できると思います。さすがに災禍の顕主ほどの力には敵いませんが」

 

ス「アリーシャの力か……」

 

ア「しかし、私はハイランドに報告に戻らねば……」

 

タ「……。殿下、報告は私に任せて、導師と共に行ってください。今ハイランドに戻るのは危険です」

 

ケ「ほう。それはどういうことだい?」

 

タ「大臣たちは辺境の街であなたを殺せと私に命令していました。今戻っても殺されるだけです」

 

ミ「そんな!」

 

ア「そんなことだろうと思っていました。大臣たちは前々から私のことを嫌っていましたから。驚くことはありません」

 

タ「ですから、殿下、今は大臣たちの目に付かないところにお逃げください!わたしがレディレイクに戻ってなんとか誤魔化します」

 

ス「!それじゃタケダさんが殺されちゃうよ!」

 

ア「あまりにも危険だ!」

 

タ「取り逃がしたとでも行ってきます。元々あなた様に救われた命です。いざとなっては逃げますから。殿下、自分の気持ちに素直になってください。今、あなたはどうしたいのか……」

 

ア「し、しかし……」

 

ス「アリーシャ、オレたちと一緒に行こう」

 

ア「スレイ」

 

ミ「ハイランドに戻ったとしてもローランスで隠れるにしても危険は多い」

 

ス「いざとなったらオレたちがアリーシャの事守るよ」

 

エ「一人前にかっこつけているけど」

 

ケ「現状で一番穢れに強いのは神威が使えるアリーシャ姫なんだけどね」

 

ラ「ですわ」

 

エ「逆に守られるのがオチね」

 

ス「ははは。オレも早く秘力を手に入れないとね」

 

ア「すまない、本来スレイが手に入れるはずだった力を私が……」

 

ス「いいって。おかげで助かったしね」

 

ア「スレイ……。私も同行して本当にいいのか」

 

ス「もちろん!オレたちはずっと仲間じゃないか!」

 

ア「ありがとう。これからもよろしくお願いします。タケダ、私はスレイと共に行く。そしてこの災厄の時代を終わらせて必ずハイランドへ戻る。それまで生き残るんだぞ。騎士の誓いだ!」

 

タ「はい!あなた様のお帰りをお待ちしています。導師殿、殿下をよろしくお願いします。では、また!」

 

タケダ去る

 

ミ「すっかり改心したようだね」

 

エ「何アレ?アリーシャにすっかりデレデレじゃない」

 

ケ「人はきっかけ次第でいくらでも変われるってことさ」

 

ス「枢機卿もきっと……」

 

ラ「そうだといいですね」

 

ケ「さてボクは教皇様の様子を見てくるよ。騎士団に懇願するにも村の現状を正確に把握しておかないといけないからね」

 

ミ「ここらの土壌の調査とかどうだろうか。この痩せた土地でも栽培できる作物があるかもしれない。調べるぐらいだったらいいよね、ライラ」

 

ラ「はい。私も協力しますわ」

 

エ「面倒だけど、明日までやることないし、暇つぶしで付き合ってあげるわ」

 

ケ「みんな、ありがとう」

 

ア「わ、私にも何か出来る事はありませんか!」

 

ケ「そうだね――」

 

ケ「スレイくんと買い出しをお願いできないかな」

 

ア「買い出し……」

 

ラ「私たち天族は、お店の方に姿が見えないので買い物できないんです」

 

ミ「スレイみたいな世間知らず一人では心細いしね。アリーシャも同行頼むよ」

 

ス「失礼な!」

 

ミ「ホントのことだろ。この前まで食材の相場すら知らなくて、危うく騙されるところだったんだから」

 

ス「あの時はミクリオも納得していたじゃないか」

 

ア「ふふふ。なるほど。わかりました。スレイにはしっかり買い物の仕方を教えます。行こう、スレイ」

 

ス「なんか腑に落ちないな。待ってよ、アリーシャ」

 

スレイとアリーシャ行く

 

エ「面倒な役回りね」

 

ケ「ボクは脇役だからね。ヒロインは主役に譲るよ」

 

ラ「アリーシャさん、ホント嬉しそう」

 

ミ「ああ。――ライラ」

 

ラ「はい?」

 

ミ「アリーシャが戻ってきてくれて良かったな」

 

エ「今回はあなたのファインプレーよ」

 

ラ「ミクリオさん、エドナさん。ありがとうございます」

 

ケ「さて、ボクたちも行きますか」

 

ラ「はい!」

 

 

 

高台から導師一行を見ている災禍の顕主一行

ヘルダルフ「火の試練を突破したか」

 

?「どうやら秘力を得たのは従士のお姫様みたいです」

 

ルナール「どうする、殺すか、ひっひっひ」

 

?「今は放っておけ」

 

ル「つまねーな。メインディッシュはまだか」

 

?「そう焦るな。奴らがヘルダルフ様にはむかうのなら容赦なく始末する。その時を待て」

 

ヘ「視察は終わった。行くぞ」

 

ル「へいへい」

 

?「…………」

 

?「導師が気になるのか。確かお前は以前、奴らに接触しているのであったな」

 

?「…………」

 

?「教え子を相手にする事になって、さぞかし悲しいか」

 

?「あのお方の邪魔をするものなら容赦はしない。急げ、サイモン。あのお方を待たせるな」

 

サイモン「ほう。意志は固いという事か。面白い。いい前座になりそうだ。真実を知るまでそうやって呑気に笑っているがいい。その顔が醜く歪む時をじっくり待たせてもらおうか」

 




こんにちは、作者です。第十四話です。今回火の試練をクリアしたのは、導師スレイではなく、従士アリーシャでした。よってライラと神威が出来るのはアリーシャのみで、今現在スレイは神威が出来ません。今後の予定といたしましては、「人間一人につき、一人の天族と神威を実現させる。そのパートナー以外と神威をすることは出来ない」というルールの中、進めていくつもりです。アリーシャ→火の神威、スレイ→水の神威、といった感じですかね。一応念のため補足しておきます。ではまた、第十五話で会いましょう。


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第十五話 仮面の中の素顔

秘力を手に入れたアリーシャ。スレイと共に行くことを決心し、ペンドラゴへ向かう。


ペンドラゴ

兵士「おお、導師殿!と、教皇様!よくぞご無事で!ご苦労だったな、ケイン」

 

ケ「そちらは何か動きはありましたか?」

 

兵士「協会が白皇騎士団の討伐を皇帝陛下に奏上しました。ニセ導師を奉じて反乱を企てた咎とのことです」

 

ミ「対応が早い。ゴドジンのことが、もう伝わっているのか」

 

ラ「フォートン枢機卿……やはり油断できない相手ですね」

 

ス「オレが関わったせいで……」

 

ア「スレイは偽物じゃない!スレイは何も悪いことはしていない」

 

エ「堂々としときなさい。導師でしょ」

 

ス「そうだよな。ありがとう、二人とも」

 

兵士「詳しくは騎士団塔で。団長がお待ちです」

 

 

 

騎士団塔

セ「スレイ!よく無事で!」

 

ケ「ちゃんと教皇様も連れてきましたよ」

 

セ「マシドラ様!!良かった。てっきり枢機卿の手のうちにあるものだと……」

 

マ「セルゲイ、わたしは……罪を犯した」

 

セ「それは、いったいどういう……」

 

ス「実は……」

 

マシドラ、事情を説明。

 

セ「マシドラ様がそんなことを……」

 

兵士「まさかエリクシールの件と教皇様が関係していたとは……」

 

兵士「信じられない」

 

ス「セルゲイ、今回は教皇様にも事情があったんだ。なんとかならないか」

 

セ「教皇様を別室へお連れしろ」

 

兵士「はっ!」

 

ス「セルゲイさん!」

 

セ「ゴドジンの現状と偽エリクシールの件についてはわかった。事後処理については任せてくれ」

 

エ「罪を犯したんだもの。仕方ないわ」

 

ス「…………」

 

ミ「エドナ!そんな言い方!」

 

ケ「ローランスにはローランスのルールがある。教皇だからと罪が軽減されては国民に示しがつかない」

 

ミ「それはわかっているが……」

 

ス「悔しいよ」

 

セ「スレイにこんな思いをさせてしまって、すまない」

 

ス「セルゲイが謝る事はないよ。それより、枢機卿が騎士団の討伐を言い出したって?」

 

セ「ああ。きっかけは先ほど届いたこの手紙だろう」

 

手紙を渡す

 

ス「『我、ポリス・ストレルカは、フォートン枢機卿の異端儀式を目撃す。枢機卿は教会神殿で邪法を用い、ペンドラゴに降りやまぬ雨を降らせている』」

 

ミ「枢機卿が雨を降らせていただって!?」

 

ケ「そんなことが出来るのか」

 

ラ「可能ですわ。あれほどの領域をもつ方なら」

 

エ「大陸を動かした天族だっているんだからね」

 

ス「大陸を動かす!?」

 

ラ「スレイさん、今は続きを」

 

ス「『フォートンこそ帝国と民を呪詛する邪なる者なり。我は、すでに枢機卿の呪いに囚われし。後事は、兄、セルゲイと仲間たちに託す』

 

セ「事ここに至った以上、枢機卿と戦うしかない」

 

兵士「でも教皇様は動けない」

 

兵士「後ろ盾なしで、どうすればいいんだ!?」

 

兵士「これは騎士団への裏切りじゃないのか!?」

 

セ「騎士団こそ!帝国と民を守る盾だったはずだ!今の事態は、我々が自分の責務を教皇様任せにしたせいで起こったのではないのか?誰かに頼る前に、やらねばならないことがあるはずだ。我らが獅子の剣にかけて」

 

兵士たち「はっ!獅子の剣にかけて!」

 

ス「待った!枢機卿の相手は普通の人間には……」

 

セ「ここまでで十分だ。スレイにまで、教皇様と同じ苦しみを背負わせるわけにはいかない」

 

ス「俺たちは、枢機卿が本当に雨を降らせているのかどうか調べる。その間にセルゲイたちは、騎士団を信じてくれるように皇帝に説得する」

 

セ「結局、スレイが枢機卿と戦うのでないか?」

 

ア「覚悟の上だ」

 

ケ「セルゲイさん、スレイくんは言っても聞かないよ」

 

セ「……すまん。危険な役ばかりさせてしまう」

 

ス「そっちも気をつけて」

 

ス「説得できたら枢機卿を捕まえられるよ。きっと」

 

セ「必ず説得しよう。民と友のために」

 

 

 

騎士団塔をでる

エ「ポリスって弟だったわよね。セルゲイの」

 

ミ「枢機卿を探っていたんだ。命懸けで」

 

ス「セルゲイ、冷静な顔をしてたけど……」

 

 

 

教会に入る

ア「ここがローランスの教会か。すんなり入れたな」

 

エ「見張りもいないとか罠っぽすぎ」

 

ス「けど、これなら思いっきり暴れられる」

 

ケ「重要な文化財だ。ほどほどに頼むよ」

 

ス「わかってる」

 

穢れが発生し、領域が展開される

 

ミ「来たぞ!」

 

ス「前みたいには!アリーシャ!」

 

ア「ああ。ライラ様!」

 

ラ「お任せください」

 

「『フォエス=メイマ』!」

 

神威アリーシャ、領域を破る

 

ス「よっし!枢機卿の領域を破ったぞ」

 

ケ「それにしても、なんて穢れだ」

 

ミ「枢機卿に憑いているのは、まさかマオテラス?」

 

ス「多分、マオテラスじゃない」

 

ミ「根拠は?」

 

ス「マオテラスと同じ五大神ムスヒ配下のエクセオがあの強さだった。この領域も相当だけど、エクセオと桁違いというほどじゃない」

 

ミ「なるほど、論理的だね。めずらしく」

 

ス「アリーシャのおかげで領域を突破出来たよ。ありがとう」

 

ミ「結局導師の秘力ってなんなんだろう?」

 

ラ「自然は地水火風の四つで構成されています。そして、それを司る最古の天族たちがいる」

 

ス「ウマシア、アメノチ、ムスヒ、ハヤヒノだね」

 

ラ「はい。グリンウッド大陸のあらゆるバランスは、彼らによって支えられているのです」

 

ケ「神話ではこの世界の神としてあがめられている。日常生活で実感することはないが」

 

ミ「それは僕たちも同じだ」

 

ミ「天響術の源も彼らのはずだが、意識することはないものな」

 

ラ「五大神とは、そういうレベルの存在なのですわ」

 

ラ「おそらく秘力とは、彼らの加護を得て地水火風の力をより強く発現させることものでしょう」

 

ス「災禍の顕主に対抗するために……か」

 

ア「それが神威……」

 

ミ「すごい力だけど、戦いのためなのは残念だね」

 

 

 

ア「はあああ!」

 

ケ「アリーシャ姫、連戦続きだけど大丈夫かい」

 

ア「ああ。問題ない」

 

ス「穢れがどんどん大きくなってきている」

 

ラ「憑魔も多くなってきましたわ」

 

エ「ザコだけどね」

 

ミ「枢機卿はこの先ってことか」

 

ライラ、何者かの気配を感じ取る。

 

ラ「この気配は……」

 

ラ「スレイさん!伏せてください!」

 

ス「えっ」

 

スレイ、投げられたナイフをよける。

 

ス「おっとっと」

 

ア「これは……ナイフ?」

 

「ちっ、外したか。デゼルの力で気配は完全に隠していたはず。よく感じ取ったな。強化されたのは領域だけではないということか」

 

ア「お前は風の骨!」

 

エ「助けてくれたと思ったら今度は暗殺。忙しそうね」

 

ミ「一体何が目的なんだ!」

 

デ「導師、お前の役目は終わった。さっさとここから去れ」

 

「領域が薄まった今となっては導師は用済だ」

 

ケ「なるほど。ここまでボクたちを泳がしていたのは、枢機卿の領域を弱めさせるためか。ここまでの敵も倒させたうえで自分たちは悠々目的達成と。上手いやり方だ」

 

エ「でもそう上手くいくかしら」

 

ス「枢機卿をどうする気だ?」

 

「あれほどの穢れ。殺す他あるまい」

 

ス「オレたちには浄化の力がある。枢機卿を浄化すれば――」

 

「浄化できるというのか。甘いな」

 

デ「秘力を得ようが何もわかっていない」

 

ア「どういうことだ」

 

デ「この世には浄化できない穢れがあるってことだ。悪いことは言わない。さっさと去れ。さもなくば」

 

ケ「さもなくば?」

 

「殺す。たとえ導師であろうとも!」

 

 

 

戦闘。悪戦苦闘しながら、二人を倒す。

ス「はああ!」

 

「ぐっ!」

 

デ「はあはあ。さすがに六人相手だと厳しかったか。導師、早くとどめをさせ」

 

ス「行こうみんな」

 

ミ「スレイ!こいつらを放っておいていいのか!」

 

エ「また襲われるかもよ」

 

ス「オレたちのやることは悪を殺すことじゃない。救うことだ。勝負はもうついた。これ以上戦う理由はないよ」

 

デ「ふっ、お前はとことん甘いんだな」

 

ス「オレはデゼルの言うように常識知らずの甘ちゃんかもしれない。でもオレは枢機卿を、そしてこの世界を救いたいんだ。そのために人や天族を殺すのは間違っていると思う」

 

アリーシャ、暗殺者に近づく。

 

ア「ケガは……そこまで深くはなさそうだな」

 

「勝手にあたしに触るな!」

 

ア「わたしは暗殺ギルドを許せない。多くのハイランドの民が殺された。罪はしっかり償ってもらう。だからそれまではしっかり生きるんだ」

 

「…………。導師一行はとんだお人好し集団だな」

 

ケ「お人好しで結構。そのぐらいじゃないと世界を救えないさ」

 

ス「オレたちが枢機卿を浄化する。ここは任せてくれないか」

 

デ「勝手にしろ」

 

「お前たちが浄化できないようなら、その時は――」

 

ス「そんなことさせないさ。な、みんな」

 

デ「枢機卿は強敵だ。気をつけろ」

 

ス「ああ。それじゃあ行ってくる」

 

 

 

スレイ一行は、教会の最深部へ。そこには十数個の石像が乱雑に置かれている。

ケ「これ以上道がない。ここが一番奥の間みたいだね」

 

ア「なんだこの石像は?ここは美術館なのか??」

 

ケ「そのような話を聞いたことないが……」

 

ケイン、石像の顔を望み込む

 

ケ「こ、これは。まさか、そんな」

 

エ「なかなかいい男」

 

ラ「美形さんですわね」

 

ア「こういうのがタイプなんですか?」

 

ラ「特にそういうわけでは……」

 

エ「きらいじゃない。生々しくて芸術的」

 

ス「ほんと。生きてるみたいだな」

 

ケ「正確には『生きていた』かもね」

 

ス「え?」

 

ケ「これを見てくれ」

 

ミ「セルゲイそっくり!?」

 

ラ「スレイさん、この方はセルゲイさんの弟さんでは……?」

 

ス「この石像は人間!」

 

ケ「間違いない。ポリスさんだ」

 

ア「そんな……。ライラ様、人を石に変える憑魔なんて存在するのですか?」

 

ラ「聞いたことがあります。確か――」

 

フォートン「騒がしいですね。祈りを邪魔しないでください」

 

ケ「ようやくお出ましのようだね」

 

ミ「フォートン枢機卿!」

 

ア「この人が……」

 

フ「またあなた達ですか。懲りないですね」

 

ス「祈りって、雨を降らすためのか?」

 

フ「その通り」

 

ア「なぜ、そのようなことを!」

 

フ「恐怖で民の心をひとつにするため。追いつめられた民衆の力を導き、帝国に勝利をもたらすのです。邪魔をするものには――永遠を与えましょう!」

 

ラ「領域が一気に強まりましたわ」

 

ミ「来るぞ!」

 

戦闘開始

 

一方そのころ、デゼルと暗殺者は……

デ「おい、大丈夫か」

 

「うん。姫様が言っていた通り致命傷は避けられている」

 

デ「あいつら、とことん舐めたマネを」

 

「デゼル、あたしもスレイみたいに強く生きられるのかな」

 

デ「何、弱気になっているんだ。俺たちは仇であるあいつを倒すんだろ。それにあいつらが本当の意味で導師になれるかどうかはわからない」

 

「世界を救う、ね」

 

デ「大丈夫だ。あいつを倒せば復讐は終わる。それからはどうなってもいいさ」

 

「そうだね。ありがとう、デゼル」

 

デ「ふん」

 

穢れが強まる。

 

デ「この領域は……」

 

「どうしたの?」

 

デ「やつだ!」

 

「何!?どこだ!」

 

デ「奥の間だ。やっぱり枢機卿に憑いていたか。読み通りだ」

 

「行こう、デゼル!ここで、あたしたちの戦いを終わらせるんだ!」

 

デ「言われなくてもわかっている」

 

 

 

スレイ一行、フォートンを倒す。

ス「はああ!」

 

ミ「やったか!」

 

フ「導師いぃぃ……。穢れ……じゃない……!私は民のため!国のためにこの身を捧げてきた!」

 

ス「な、なんだ!?」

 

フ「私は……穢れてなどいないっ!」

 

ミ「浄化できない!?」

 

ス「ライラ、アリーシャ!もう一度!」

 

ラ「はい!」

 

ケ「生み出す穢れが多すぎる……」

 

ス「なんとかとめないと」

 

フ「私は……導く者の責務をっ!果たすっ!!」

 

フ「愚かなる者たちに永遠を!」

 

メデューサフォートンの目が光る

 

ラ「見ないで!メデューサは目があった者を石にします!」

 

ス「くそ!」

 

「何を手間取っている、導師」

 

デ「下がってろ!」

 

暗殺者、デゼル、登場

 

ス「お前たちは!」

 

デ「やっと会えたな。このやろう」

 

フ「誰が来ようと同じこと、愚か者よ!私は天族も永遠にできるのですよ!」

 

デ「そうかよ!」

 

ミ「うかつに近づくな、石にされるぞ!」

 

デ「やれるもんなら、やってみな!」

 

デゼル、フォートンを攻撃

 

フ「ぐあああっ!」

 

デ「はっ!お前自身は永遠じゃないみたいだな」

 

フ「貴様ぁ……なぜだっ!?」

 

フ「……そういうことか」

 

エ「デゼル……あなた」

 

ス「目が」

 

デ「好都合だろ?」

 

ミ「しかし、なぜ見えなくてなんで戦えるんだ!?」

 

デ「俺をなんだと思ってる?風の動きで全部読めるんだよ!」

 

フ「永遠を与えるのはやめます。私を邪魔する者には――刹那の死をぉぉぉっ!!」

 

「出来るものならやってみな」

 

暗殺者、フォートンにナイフを突き刺す。

 

フ「ぬうう!」

 

ス「止めろ!殺すな!」

 

「お前は浄化できなかった。こうするしかないんだ」

 

デ「こうなった以上、殺すしかない」

 

ア「しかし、それでは……」

 

フ「殺す?私が死んだら帝国を誰が導くというの?幼帝や騎士団に、政治のなにがわかる?導師が心を救えば、飢えがしのげるのかっ!?私は責務を……げひっ!正義を!貫くううっ!いひひっ!私が!救いをっ!ひひゃひゃひゃひゃっ!私が!導くっ!!」

 

ラ「心が壊れてしまった……」

 

エ「もう人には戻れない」

 

ミ「敵意が穢れを強めてしまったのか」

 

ス「オレたちへの……」

 

フ「ぐへへへへへ。みなにえいえんをおおおおお」

 

ケ「スレイくん、危ない!」

 

ス「しまった……」

 

襲い掛かろうとしたフォートンに対して、デゼル、暗殺者が攻撃。

 

フ「ぐふぁ」

 

ロ「―――――――!!……眠りよ。康寧たれ」

 

フォートン、倒れる。絶命。石化していた騎士団員も元に戻る。

 

ア「し、死んだのか……」

 

ケ「石化していた人たちも戻っている。――良かった、みんな息がある」

 

パリン。暗殺者の仮面にひびが入る。

 

ミ「仮面が。さっきの攻防で壊れたのか」

 

仮面が取れ、暗殺者の素顔がお目見え。

 

ア「キミは、セキレイの羽の!」

 

ケ「ロゼさん!」

 

ミ「なぜここにいるんだ」

 

ロゼ「セキレイの羽は表の姿。裏では風の骨。それがあたし」

 

ス「ロゼ、なんで枢機卿を殺したんだ?」

 

ロ「…………」

 

ス「答えてくれ!ロゼ!」

 

ロ「じゃあ逆に聞くけど、あの場面で殺す以外の方法があった?スレイは枢機卿を浄化出来なかった。殺す事で救われることもあるんだよ」

 

ス「でも……、オレ……」

 

デ「おい、油断するな。これからが本番だ!」

 

ロ「わかっている」

 

ラ「枢機卿の領域が消えませんわ。まだ何者かがいます」

 

ミ「なんだって?」

 

ロ「スレイ、最後の忠告だ。そこに転がっている兵士たちを連れて急いで逃げろ!」

 

ア「スレイ、ここは一旦引こう」

 

ス「ならロゼとデゼルも一緒に……」

 

ケ「ポリスさん達もいるんだ。彼らを安全なところに連れて行くことが最優先だ」

 

ス「でも……」

 

?「おいおい、どうせならゆっくりしていきなよ、導師殿」

 

穢れの中から天族が登場

 

デ「現れやがったな、サイモン!」

 

サイモン「またお前たちか、しつこいな」

 

デ「ダチを殺し、風の傭兵団を貶めたおまえは絶対殺す!」

 

ロ「行くぞ!デゼル!」

 

デゼル、ロゼ、サイモンに攻撃を仕掛ける

 

ラ「いけません。この者は憑魔ではありませんわ!」

 

ス「なんだって!」

 

デ「はあああ!」

 

サ「力がないのにはむかってくる。愚かで醜いなあ」

 

穢れで弾く。

 

デ「ぐあああ!」

 

ロ「くっ」

 

サ「そんなに私が憎いか。その敵意が己自ら穢れを発する。哀れよのう」

 

ロ「はあはあ」

 

サ「苦しそうだな、娘。それもこれもそこにいる疫病神のせいか」

 

ロ「黙れ!」

 

ロゼ、デゼル、サイモンへの怒りから穢れが発生

 

ラ「この気配……、いけません!ロゼさんとデゼルさんから穢れを感じます」

 

ミ「なんだって!?」

 

ア「くっ。『フォエス=メイマ』」

 

アリーシャ、神威化してサイモンに攻撃。スレイ、すかさずロゼの元へ

 

サ「おっと」

 

ス「ロゼ!」

 

サ「そうだ。秘力を得た者がいたのだったな」

 

ラ「これ以上はいかせませんわ!」

 

サ「しかし、これでは我が主、災禍の顕主とやり合うことは到底不可能だな」

 

エ「災禍の顕主ですって?」

 

ス「おまえは一体何者なんだ」

 

サ「我が名はサイモン。彼と同じく業を背負った憐れな天族だよ」

 

サ「なぁ、導師。どう思う?彼のように、人に惹かれるほど……、加護を与えれば与えるほど人を不幸にする天族は存在してはならないのだろうか。彼の存在自体が悪で滅されるべきなのだろうか」

 

ロ「そんなワケない!」

 

デ「ロゼ……」

 

サ「吼えるなぁ。娘よ。我は導師に聞いている」

 

ス「オレは全ての人間と天族を救いたい。誰だって生きる権利があると思うんだ。それに人間と天族は共存できるって信じているから」

 

サ「それが穢れを生む結果になったとしても?」

 

ス「その時はオレが穢れを祓う。必ずオレの夢を叶えてみせる」

 

ラ「スレイさん……」

 

サ「甘い。それでは導師自身が穢れに耐え切れなくなって自身が憑魔化してしまうぞ」

 

ミ「そうはさせないさ」

 

ア「わたし達がスレイを支える!」

 

ス「ミクリオ、アリーシャありがとう」

 

サ「興ざめだ。今は退くとしよう。今度会う時は、お前たちにふさわしい最高の舞台を用意しておこう。それに……」

 

サイモン、アリーシャを指さす。

 

サ「娘、まだお前に真の絶望を味合わせていないしな」

 

ア「えっ」

 

デ「待て!」

 

サイモン、消える

 

エ「消えたわね」

 

ラ「領域を感じません。ここから去ったみたいです」

 

デ「くそ、まだ力が足りないのか」

 

ス「デゼル!」

 

デゼル、ロゼを連れて消える。

 

ス「枢機卿を救えなかった。ロゼがまさか風の骨だったなんて……」

 

ラ「スレイさん、落ち着いてください」

 

ケ「今はポリスさんたちを安全なところへ運ぶのが先だ」

 

ス「……」

 

セルゲイ登場

 

セ「スレイ!無事か!」

 

ケ「いいところに来た。負傷兵を運ぶの手伝ってください」

 

ポリス「あ……あに、う、え……」

 

セ「ポリス!良かった、生きていたか」

 

ケ「ひどく衰弱している。急いで救護室へ」

 

兵士「わかった!みんな急げ!」

 

セ「スレイ、フォートン枢機卿は?」

 

ス「…………亡くなった。」

 

セ「……そうか」

 

ス「ごめん」

 

セ「なんの、スレイが謝ることはない。全ての責めは自分が負う」

 

ケ「詳しい報告はボクが。とりあえずここを出よう」

 

エ「そうね。もうここには用はないわ」

 

ケ「みんなは宿屋で休んでおいてくれ。疲れただろ」

 

ラ「そうですわね。そうしましょう」

 

ミ「行こう、スレイ」

 

ス「ああ」

 

ア(…………)

 

ラ「アリーシャさん、サイモンさんが言ったこと、気にしているんですね」

 

ア「そんなこと――」

 

ラ「アリーシャさん」

 

ア「ライラ様……。はい。なんだか引っかかって」

 

ラ「気にするなと言っても難しいかもしれませんね」

 

ア「……。わたしなら大丈夫です。きっとハッタリですから。さ、早く宿屋で休みましょう」

 

アリーシャ去る

 

ラ「アリーシャさん、安心してください。わたしがみんなを、アリーシャさんをお守りしますわ」

 

 

 

朝になる。騎士団塔

ア「やっと起きたな」

 

ミ「宿に着くなりすぐ眠っちゃったしね」

 

ス「ははは、寝過ぎちゃったよ」

 

ケ「ちょうどセルゲイさんとこれからの話をしていたところだったんだ」

 

セ「ポリスの容体はだいぶ回復した。ありがとう、スレイのおかげだ」

 

ス「いいってお礼なんて」

 

セ「教会での暗殺ギルドの襲来。ケインから聞かせてもらった。アリーシャさんの話も」

 

ス「アリーシャの話も……。それってローランスの人にばれたらまずいんじゃ……」

 

ケ「内部に事情をしている者がいたほうがいいだろうとボクとアリーシャ姫、二人判断したんだ」

 

ア「ああ、セルゲイ殿は信頼できるお方だ」

 

セ「安心してくれ。アリーシャさんもスレイ同様恩人だ。悪いようにはしない。いずれは、ハイランドとの停戦交渉をしたいと思っている」

 

エ「はたしていつになるやら」

 

ケ「今までまったく政治的レベルで交流がなかった両者が歩み寄ろうとしているんだ。これは大きな第一歩だよ」

 

ア「今のわたしは王家としての権限は持っていないが、いずれは戦争を止めてみせる」

 

セ「わたしももちろん協力する」

 

ラ「頼もしいですわね」

 

ス「まったくだ」

 

セ「皇帝陛下は御親政の決意をされた」

 

セ「だが、枢機卿が束ねていた強硬派がそれぞれ怪しげな動きをみせている」

 

エ「戦争をしたい人たちね……」

 

ミ「まとまりがなくなった分、対処が難しいかもしれないね」

 

ス「また人が……」

 

セ「そうはさせない!戦争は必ずとめてみせる。スレイたちの努力を無にしないために」

 

ス「頼んだよ、セルゲイ」

 

セルゲイ、去る

 

ス「さてと!お腹すいちゃったな」

 

ミ「宿で腹ごしらえしよう」

 

スレイとミクリオとケイン、宿屋へ向かう

 

ア「減るはずだ。何も食べずに眠りつづけていたんだから」

 

ラ「いろいろありましたから」

 

エ「寝ないともたなかったのかも」

 

ア「……大丈夫でしょうか?わたしには無理をしているように見えます」

 

エ「そうかもね」

 

ラ「今は見守ることしかできないでしょうね」

 

エ「あなたが隣にいるだけで、だいぶ楽になると思うけど?」

 

ア「エドナ様!それって!?」

 

エ「冗談よ。元気出た?」

 

ア「じょ、冗談ですか!」

 

エ「ホント、からかいがいがあるわ」

 

ラ「エドナさん、それぐらいにしておいてください」

 

ス「おーい?どうしたの?」

 

ア「い、いや。なんでもない。今行く」

 

エ「冗談で言ったけど、あながち間違っていないのよね」

 

ラ「そうですわね」

 

ライラは、微笑んだ。

 




こんにちは、作者です。第十五話です。風の骨頭領がセキレイの羽のメンバーであるロゼだと発覚しました。とは言っても既プレーの方はもちろんご存知だったでしょうし、未プレーでも「なんかこいつ怪しいな」と勘づいていたことでしょう。セキレイの羽の看板娘ロゼと、暗殺ギルド頭領ロゼ。表の顔と裏の顔。改めて見ると恵まれたキャラクター性ですね。勿体無いなあ。ゼスティリアが生きるも死ぬも彼女次第だと思うので、なんとか上手く転がしたいところです。ではまた、第十六話で会いましょう。


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第十六話 人間と天族

フォートンが倒れ、穢れが晴れたペンドラゴ。次の目的地を目指す前に、まずは腹ごしらえと宿屋へ向かう。


宿屋

メーヴィン「ドラゴ鍋……70点ってとこだな」

 

ス「メ―ヴィン!」

 

ケ「先生!」

 

メ「おお、今日はケインと一緒か。久しぶりだな。手紙は読んだか?」

 

ケ「はい。遺跡の奥には導師の秘力なるものが眠っている場所が描かれた壁画がありました。一つはすでに訪れたので、これから残り三つを回る予定です」

 

メ「なるほど。ケインが役に立っているみたいだな」

 

ア「はい。彼がいないと今頃どうなっていたか」

 

メ「教え子が導師のお供になっているとは、ワシも鼻が高いわい」

 

ケ「先生も相変わらずお元気そうですね」

 

メ「ああ、おかげさまでな。お前たちも大活躍だったみたいじゃないか。聞いたぜ。教会の件」

 

メ「大変だな、導師ってのは」

 

ス「ん、いろいろあるけど……大丈夫」

 

メ「そうか。で、なにかつかめたか?」

 

ス「うん。あそこにマオテラスはいなかった」

 

メ「ほう?」

 

メ「マオテラスは謎の多い天族だ。存在自体を否定する説もあるほどだが……」

 

ミ「教会神殿は信仰を集めてきた。アスガード隆盛期からずっとだ。相当強力な天族の加護がないと、そんなことは不可能じゃないか?」

 

ス「マオテラスが存在し、祀られてたのは事実だと思う」

 

ミ「だとすると問題は、いついなくなったか」

 

ケ「マオテラスは大陸全体を加護する強い力を持った天族。なら、いなくなったのは、その加護がなくなった時と考えるのが自然だね」

 

ス「災厄の時代が始まった時か」

 

ミ「待てよ、マオテラス失踪が災厄の時代の原因だとすれば」

 

ス「マオテラスの加護が戻れば、災厄は治まる。マオテラスを捜そう」

 

ケ「先生、なんか心当たりがありませんか?」

 

メ「教会神殿以外だと、マオテラスと同じ五大神の力が残るという四つの遺跡があると……」

 

ス「試練の神殿!」

 

ケ「おそらく先ほど話した遺跡ですね」

 

メ「さすが導師だな」

 

ス「旅の途中で何かわかったら教えて」

 

メ「わかった。俺も伝承を当たってみよう。じゃあな。風邪ひくなよ」

 

ス「ありがとう」

 

メ「おう!」

 

メ―ヴィン去る

 

ラ「ケインさん、良かったのですか?もっと話したいことがあったのでは?」

 

ケ「いいんだ。ボクたちと先生が追っている伝承は大元では同じだ。またどこかの遺跡でばったり会えるさ」

 

ミ「じゃあ次の目的地は試練の遺跡?」

 

ス「ううん。その前にペンドラゴの加護を復活させたい。せっかく穢れがなくなったんだ。この状態を維持したい」

 

ラ「わたしに加護をしてくれそうな天族に心当たりがありますわ」

 

ア「本当ですか!?その方はどこに?」

 

ラ「この街にいるはずです。探してみましょう」

 

ケ「ペンドラゴの加護を復活させたら一度ゴドジンにも戻ってみないか。ボクたちが行った土壌調査を元に騎士団が派遣されることになったんだけど、如何せん戦争中という事で先延ばしになりそうなんだ。ゴドジンにも加護天族がいなかった。教皇様がいなくなってどうなっているのか、様子を見ながら加護天族を捜そう」

 

ア「やることがいっぱいなんだな」

 

ス「その分やりがいがあるよ」

 

ラ「決まりですわね」

 

 

 

ペンドラゴ 路地

ス「ライラ、ホントにこんな路地に天族がいるの?」

 

ラ「はい、確かに昔はここに……」

 

ミ「昔って何年前のことなんだ」

 

ケ「やれやれこんなんで見つけられるんだろうか」

 

「ライラちゃん!?ライラちゃんじゃないの!」

 

ラ「ムルジム様、お久しぶりです」

 

猫型天族現る

 

ス「むしかして天族!?この猫が?」

 

ケ「ラストンベルを加護してもらっているオイシさんだって、犬型の天族だった。猫の天族がいても不思議ではないだろう」

 

ラ「一匹ネコの高位天族で、強い加護の力をもつ天族ですわ」

 

ム「あなたが噂の新しい導師ね」

 

ス「スレイって言います。ムルジムさん、この街の加護をお願いしていいですか?」

 

ム「昨日、この街を覆っていた穢れが消えたわ。あなたたちがやったんでしょ?だいぶ住みやすい街になったわ」

 

ス「それじゃあ!」

 

ム「わたしでよければ喜んで」

 

ア「感謝します、天族ムルジム様」

 

ム「わたしは教会にいるわ。旅では辛いことが少なからずあるでしょう。何か困ったことがあったらいつでも相談に来なさい、ライラちゃん」

 

ラ「ムルジム様……ありがとうございます」

 

ス「さあ今度はゴドジンだ」

 

ケ「指導者を失って混乱していなければいいんだけど……」

 

ミ「行ってみよう」

 

 

 

ゴドジン

ケ「さあゴドジンまで戻ってきたわけだが……」

 

ス「どうやって加護天族を捜そうか」

 

ラ「すみません、この地域のことはあんまり詳しくないんです」

 

ミ「手掛かりなしか」

 

村人A「ケイン!やっと戻ってきたか!村長さんはどうなった?」

 

ケ「ペンドラゴまで送り届けたよ。おそらく向こうで刑を受けることになるだろう」

 

村人A「そうか……」

 

村人B「仕方ないよ。俺たちはわかっていて悪いことをしていたんだ……。騎士団に懇談する件は?」

 

ケ「聞き入れてくれたよ。ただ、現在隣国との外交関係が緊張状態で、今すぐにとはいかないみたいなんだ」

 

村人A「なんだって!」

 

村人B「それだと俺たちはどうやって生きていけばいいんだよ!」

 

子ども「パパ、ぼくたちどうなっちゃうの?」

 

ケ「すみません……」

 

村人C「ちょっと!ケインくんを責めてもしょうがないでしょ!!国が見向きもしなかったこの村を救うために頑張っているのよ」

 

ケ「いいんです。結果が出ていないのは事実ですから」

 

村人A「いや、俺らもつい熱くなってしまった。兄ちゃんは悪くないもんな」

 

村人B「また一から考え直すか。まだ方法はあるはずだ。ケインにも迷惑かけたな」

 

ケ「い、いえ」

 

村人C「これからはわたしたちでなんとかするわ。さっそく集会を開くわ。みんなを集めましょう」

 

村人去る

 

子ども「お兄ちゃん、ぼくたちのために頑張ってくれてありがとね。これあげる」

 

ケ「これは?」

 

子ども「お花。学校の花壇で育てているのを摘んだの」

 

ケ「ありがとう。大切にするね」

 

子ども「うん!」

 

子ども去る

 

ア「この村の人たちは強いな」

 

ス「うん。たくましく生きている」

 

エ「落ち込むことはないわ。あなたが悪いわけじゃないって言っていたでしょ」

 

ケ「ああ。でも――」

 

エ「でも、なに?ボクが村長を連れて行かなかったらこんなことにならなかった、とでも思っているの?」

 

ミ「エドナ!」

 

エ「わたしたちがどうしようが、あんな方法じゃ長くはもたなかったと思うわ。もっと根本的なところから解決しなくちゃ」

 

ケ「それはそうだけど、肝心の方法が……」

 

ラ「完全に手詰まりですわね」

 

ス「何か特産物があればいいんだけど」

 

エ「そもそも、なんでこの村にこだわるの?導師の仕事なら加護を復活させて終わり。それでミッションコンプリート。あとはここの人に丸投げでいいじゃない?」

 

ケ「……以前この村に訪れた時、ボクはこの村の人たちに凄く良くしてもらった。とても豊かな土地とは言えないけど、人情溢れる人達で……。ボクは彼らを救いたいんだ」

 

ラ「ケインさん……」

 

ス「村長さんと約束したしね。それにほっとけないよ」

 

エ「アリーシャは?ゴドジンはローランスの村、敵国よ。それでもこの村を救いたい?

 

ア「もちろんです。苦しんでいる民を助けるのは騎士の務め。それがたとえ敵国であろうとも同じです」

 

エ「人間ってホントバカね」

 

エ「スレイ、ケインとミボを借りるわよ。加護天族探しは残りのメンバーでよろしく」

 

ス「えっ?」

 

ミ「それってどういう――」

 

エ「いいからわたしと一緒に来なさい!」

 

ケ「何か考えがあるんだね」

 

エ「さあ、どうかしら」

 

ス「ずいぶんあいまいな……」

 

ケ「わかった。エドナちゃんを信じよう」

 

ミ「ケイン!いいのか?」

 

ケ「エドナちゃんは冗談や嫌味を言っても、ウソは言わない。かけてみる価値はあるよ」

 

ス「行っておいでよ。加護天族はオレたちで捜すから」

 

ミ「スレイまで!」

 

ラ「東の方に強い力を感じます。この力の持ち主ならゴドジンの加護を引き受けてくれるかもしれません」

 

ア「決まりですね」

 

ミ「本当にいいのか!?」

 

エ「あら、ミボ。そこまでしてスレイから離れるのが嫌なの?」

 

ミ「そんなことは――」

 

ス「ミクリオ。大丈夫、すぐ戻るから」

 

ミ「ああもう!わかった。エドナと一緒に行けばいいんだろ」

 

エ「それでいいのよ」

 

ケ「そっちの方は頼んだぞ」

 

ス「ああ」

 

 

 

ミ「エドナ、一体どこまでついていけばいいんだ!もう村の外れだぞ!」

 

エ「黙ってついてきなさい」

 

エ「ここらへんでいいかしら。ケイン、周りに人はいないわね」

 

ケ「ああ。さすがにこんな所には、めったに人がこないだろう」

 

エ「そう」

 

ケ「そろそろ説明してくれないかい?ここで何をするのかを」

 

エ「言われなくても説明するわよ。ここに畑を作るわ。それなら村の人も生活できるようになるでしょ」

 

ミ「畑を?しかし――」

 

ケ「ここは痩せた土地だ。それが出来たら苦労しない」

 

エ「バカね」

 

エ「どいてなさい。これから土壌を耕すわ」

 

ミ「なっ!?」

 

エドナ、天響術を駆使して土壌を耕す

 

エ「こんなもんかしら」

 

ミ「エドナ、いきなり危ないじゃないか」

 

エ「ちゃんと手加減したわ。ほらこれ」

 

エドナがケインに何かを手渡す。

 

ケ「これは?」

 

エ「痩せた土地でも育つ野菜やイモの種、らしいわ」

 

ミ「いつの間にこんなに……」

 

ケ「早速植えよう!」

 

 

 

ミ「ふう、やっと終わった」

 

エ「お疲れ様。どろだらけね。ドロンコミボ。略してドミね」

 

ミ「だから略するの止めろって!そういうエドナも顔に土が付いているじゃないか」

 

エ「こ、これは……。わたしは地の天族だからいいのよ」

 

ケ「エドナちゃんが一番張り切って畑仕事をしていたけどね」

 

エ「気まぐれよ。気まぐれ。男どもの作業が遅いのが悪いのよ」

 

ケ「わかった、わかった。ありがとう、エドナちゃん」

 

ミ「次はどうすればいいんだ」

 

エ「水をたっぷりあげればとりあえずは大丈夫。後は人間次第」

 

ミ「わかった。今度は僕の出番だ」

 

ケ「ミクリオくん、頼む」

 

ミ「任せてくれ。スプラッシュ!」

 

畑に水をかける。

 

ミ「これでひとまず安心かな」

 

女の子「すごーい。あそこだけ雨が降ってきたー」

 

村人「ケイン、これは……」

 

ミ「あちゃー、ばれちゃったか」

 

ケ「それは、そうだね……。どこから説明した方がいいかな」

 

村人「昨日まで何もなかったところに畑が出来ている。あんたがやったのか」

 

ケ「いいえ。仲間が協力してくれました。ボクは手伝っただけです」

 

村人「ありがとう!これで村は救われる!」

 

女の子「お兄ちゃん、ありがとう!」

 

ケ「お礼なら、ここにいるお姉ちゃんにしてください」

 

エ「え?」

 

女の子「誰もいないよ」

 

ケ「ううん。エドナちゃんっていう優しいお姉ちゃんがいるんだ。彼女がこの畑を作ってくれたんだよ」

 

エ「何を勝手に……」

 

村人「まさか、天族様がそこに!?ありがとうございます!エドナ様!」

 

女の子「ありがとう、エドナお姉ちゃん!お姉ちゃんがつくった畑、大事に育てるからね」

 

ミ「ほら、エドナ」

 

エ「ああ、もう!わかったわよ」

 

エ「水やりは一日二回。早いやつなら一月で収穫できるわ。大切に育てなさい。……強く生きるのよ。詳しいことはそこに書いてあるわ」

 

ケ「エドナちゃん……」

 

エ「早く伝えなさい」

 

女の子「ねえ、お姉ちゃん、なんて言ってるの?」

 

ケ「どういたしまして、だって」

 

女の子「ふふふ、わたし頑張るわ!今度村に来た時にはわたしが作った野菜で料理ご馳走してあげる」

 

エ「その時を楽しみにしているわ」

 

ケ「楽しみにしているだって」

 

女の子「ホント!?お姉ちゃん、絶対また来てね!」

 

ミ「完璧に僕のこと忘れているな……」

 

ケ「これに詳しい育て方が書いてあります。参考にしてください」

 

村人「何から何までありがとうございます。早速村の人達に伝えてきます」

 

ミ「これなら大丈夫だな」

 

ケ「ああ、彼らなら畑を枯らすことはないだろう」

 

村の穢れが晴れ、領域が展開される。

 

ミ「村の穢れが消えていく。加護が復活したのか」

 

ケ「スレイくんも上手く行ったみたいだね。村のどこかにいるはずだ。戻ろう」

 

ミ「ところで、エドナ。なんであんなに畑のことに詳しかったんだ」

 

エ「昔、お兄ちゃんが教えてくれたのよ。人間たちはこうやって苦しい環境の中でも生きるために努力しているって話しながら……」

 

ケ「そうだったんだ。お兄さんにもお礼を言わないとね」

 

エ「話を出来る状態じゃないと思うけど」

 

ケ「エドナちゃん、ボクに同じことを何度も言わせないでくれよ」

 

エ「…………」

 

ミ「あ、スレイたちだ。おーい」

 

ス「みんな」

 

ア「村の人から話を聞いた。上手くいったみたいだな、ケイン」

 

ケ「そっちこそ」

 

ミ「この人は?」

 

ラ「紹介しますわ。天族フォーシア様です」

 

フォーシア「こんにちは」

 

ミ「この人がゴドジンの加護を?」

 

ラ「はい」

 

フ「あなたね、畑を作ったっていう天族は。村の人たち、すごく喜んでいたわ」

 

エ「気まぐれよ、気まぐれ」

 

ケ「素直じゃないな」

 

フ「あなた方が救ったこの村、その結末をしっかり見届けます」

 

ア「よろしくお願いします、フォーシア様」

 

ス「今回のMVPはエドナだね」

 

エ「さあ、問題が解決したのならさっさと行きましょう。導師が神威を使えないなんて話にならないわよ」

 

ミ「残りの試練は、水と地と風か……」

 

ケ「水はミクリオくん、地はエドナちゃんとして、後は風の天族の陪神が必要だね」

 

ア「風の天族か。ライラ様、心当たりはありませんか?」

 

ラ「ない事はないのですが……」

 

エ「まさか、デゼルとザビーダ……。なんて言わないよね?」

 

ミ「彼らは憑魔を殺して回っているやつらだぞ!導師とやっていることが真逆じゃないか」

 

ス「加護天族を捜している間に考えていたんだ。俺なりにロゼやデゼルの事。やっぱり殺す事が救いになるなんて間違っていると思う」

 

エ「具体的にはどうするの?」

 

ス「どうにか説得できないかな?ロゼとデゼル、そしてザビーダともゆっくり話がしたいんだ」

 

ア「スレイ、それはあまりにも危険だ」

 

ス「ロゼはオレたちを助けてくれた。オレを殺す気ならいくらでもチャンスはあったはずだ。ロゼはオレたちの敵じゃないよ」

 

ミ「でも、彼らは憑魔を――」

 

ス「ロゼみたいに明るい子がなんで暗殺ギルドなんかやっているのか。気になるんだ」

 

ケ「確かに天族と共に行動するなんて普通では考えられない。良くも悪くも何かしらの事情はあるはずだしね」

 

ミ「敵と判断するのはまだ早いか……」

 

ラ「わかりました。彼らの情報も探しましょう。しかし、今は秘力を手に入れるのが先決です」

 

ア「そうですね。彼らがスレイを狙っているのなら、再び現れるでしょうし」

 

エ「それで、水と地、どっちへ向かう?」

 

ケ「壁画によると地の試練の方が近いんだけど、正確な場所までは分からないからね。もっと情報が欲しいところだよ」

 

ア「そういえば、レイクビロー高地で遺跡が発見されたという報告があったな。マルトラン師匠が調査に向かうと言っていたが」

 

ケ「レイクビロー高地か。大体の位置は一致するな。アリーシャ姫、詳しい場所はわかるかい?」

 

ア「ああ。道案内は任せてくれ」

 

ミ「でも、今アリーシャがハイランドに戻るのは危険なんじゃ……」

 

ア「わたしはスレイの従士です。わたしだけ指をくわえて見ているわけにはいきません。わたしも行きます」

 

ラ「言っても聞かないところはスレイさんそっくりですわ」

 

ス「大丈夫。いざとなったらオレがアリーシャを守るよ」

 

ア「スレイ、ありがとう」

 

エ「張り切っているけど、敵陣に無策で突撃するわけじゃないでしょうね」

 

ケ「グレイブガント盆地は両国がにらみ合っている。ラモラック洞穴を通って迂回するほうがいいだろう」

 

ア「了解した。早速行ってみよう」

 

 

 

数年前 ペンドラゴ郊外

ロゼ「はあああ!」

 

フィル「ロゼ、お疲れ。また腕を上げたね」

 

ロ「もちろん!なんたってあたしは団長なんだから!」

 

トル「団長?ははは、僕たち『風の傭兵団』の団長はブラドじゃないか」

 

ロ「いずれはそうなるの。すぐに追い越してやるんだから」

 

エギーユ「期待せずにその時を待っているよ、団長さん」

 

ルナール「…………」

 

ブラド「うん?何か呼んだか?」

 

エ「実はロゼがな――」

 

ロ「ま、待って!まだ団長には秘密なの」

 

ブラド「この俺に秘密を持つようになったか。ロゼももう子供じゃないんだな」

 

ロ「もうバカにしないでよ」

 

ロッシュ「そのぐらいにしておけ。依頼は終わったか」

 

フィル「うん。ここらへんの魔物は全部倒したよ。依頼完了」

 

ブラド「みんなよくやった。街に戻るぞ。仕事終わりだ、ぱ~と飲むぞ!」

 

トル「やった!」

 

ロ「待ってました!早く街へ戻ろう。ほら行くよ、ルナール!」

 

ルナール「そんな引っ張るな、ロゼ」

 

ロゼ「あたしは腹ペコなの。すぐにでもお腹に何か入れたいぐらい」

 

ルナール「なら一人で行け。俺はいい」

 

ロゼ「えー、みんなで食べた方がおいしいじゃん」

 

ルナール「たく、好きにしろ」

 

ロ「決まりね。みんなも早く早く!」

 

エギーユ「おい。ご馳走は逃げないぞー」

 

ブラド「やれやれ困った団長希望者だこと。今行くよ」

 

その様子を二人の天族が見守っている

 

?「あいつらとの旅は本当、楽しい。冥利に尽きるだろ?」

 

デゼル「ああ。感謝してる。俺を傭兵団に誘ってくれて。こうやって近くにいても話しかけられないのが残念だが」

 

?「俺たち天族は、ブラドたちには見えないからな。だが、確かに俺たちはここにいる。それだけで十分だ」

 

デゼル「ああ、そうだな」

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ロ「デゼル!デゼル!」

 

デ「う、うん」

 

ロ「デゼル!」

 

デ「なんだ夢か……。どうした?」

 

ロ「エギールから報告。スレイはレイクビロー高地を移動中。試練ってやつに向かったみたい」

 

デ「試練……。あの神威とかいう力を手に入れるアレか」

 

ロ「アリーシャ姫が纏っていたあの力……。あの力ならあいつ相手でも戦えるかもしれない。デゼル」

 

デ「わかっている。俺たちも神威の力を手に入れる。そして……ザビーダから憑魔を殺す方法を聞き出す」

 

デ(俺たちの傭兵団をめちゃくちゃにしたあいつを次こそ殺してやる!)

 




こんにちは、作者です。第十六話です。今回は、ペンドラゴとゴドジンの加護天族を探す話になっております。半分近くはエドナ発案の農作業でしたが(笑)エドナが人間と関わる機会を作りたがったためのイベントですね。最後の方には、デゼルの回想パート①を描きました。風の傭兵団の過去は、原作でまったく描写されていないので、ほとんど脳内補完です。あしからず。次回からは試練神殿めぐりの旅が始まります。結構改変しました。良かったら見てってください。ではまた、第十七話で会いましょう。


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第十七話 試練

ペンドラゴ、ゴドジンの加護を復活させた導師一行。災禍の顕主に対抗する秘力を得るため、水の試練神殿へ向かう。


水の試練神殿ルーフェイ

ス「ここは……」

 

ケ「まさか滝の裏に遺跡があったなんてね。知らなかったよ。これを発見した人とぜひお話してみたいね」

 

ア「マルトラン師匠に聞けばわかるだろう。師匠は過去の伝承を追って国内の遺跡の調査を進めているんだ」

 

ケ「ハイランドのマルトラン卿。噂には聞いているよ。ぜひ一度ご教授願いたいな」

 

ア「ああ。いつか必ず紹介する。師匠も歓迎するだろう」

 

ケ「それは楽しみしておくよ、アリーシャ姫」

 

ミ「滝にまったく浸食されていない。造られたばかりじゃないとすると……」

 

ス「天響術が使われている。アヴァロストの調律時代の遺跡だな」

 

「そう。ここは水の試練神殿ルーフェイ。導師の来訪は久しぶりだな」

 

ス「導師のスレイです」

 

ラ「主神のライラと申します。あなたは水の五大神アメノチ様の……」

 

アウトル「アメノチ様に仕える護法天族アウトルだ」

 

ス「さっそくだけど、水の秘力を授けてもらうにはどうすれば――」

 

「どこだっ!オレの剣はどこだ~~っ!!」

 

ア「スレイ、上だ!」

 

ス「えっ」

 

頭上から剣が落ちてくる

 

ミ「剣!?」

 

エ「上になにかいる」

 

アウトル「憑魔アシュラだ」

 

ラ「アシュラ……怒りを糧に永遠に戦い続けるといわれる強力な憑魔ですわね」

 

ス「そいつを鎮めるのが試練?」

 

アウトル「いいや。秘力を与える条件は、彼が憑魔になった理由を明らかにすることだ」

 

ミ「単に浄化するんじゃなく理由を探れと?」

 

アウトル「導師ならわかるだろう?その重要さが」

 

ス「はい。大変さも、ね」

 

アウトル「ふふふ、だから試練なのだよ。健闘を祈る」

 

ミ「水の試練……僕の番か」

 

ラ「大丈夫ですわ。痛くありませんから」

 

ミ「そういう心配はしてないよ……」

 

先へ進む一行。

 

ケ「あっ、そうだ。アウトルさん、一つ聞きたい事があるんですが――」

 

みなが先へ進んだのを確認して、ケインはアウトルに尋ねた。

 

 

 

道中

ケ「さすが試練というだけあって複雑な仕掛けだね。何度も入口に戻される」

 

エ「ちょー面倒。この仕掛けを考えた人は性格悪い」

 

ス「マルトランさんも、ここに来たのかな?」

 

ミ「入れたとしても、どうにもならないだろうね」

 

ケ「こんなトコ進めるのは導師ぐらいだよ」

 

ラ「導師か、もしくは……」

 

ス「でも、それが導師の試練って感じがしてワクワクするじゃないか」

 

エ「それは一部の人間だけよ」

 

ス「そうかな?オレは結構好きなんだけど」

 

ア「ふふふ、本当にスレイは遺跡が好きなんだな」

 

ケ「じゃあスレイくんもその一部の人間ってことだね」

 

エ「あなたがそれを言うのね……」

 

ケ「ミクリオくんもそう思うだろう?」

 

ミ「…………」

 

ス「ミクリオ、どうしたんだ?」

 

ミ「スレイ、これを見てくれ」

 

ス「これは何かの本?」

 

『コモン暦二十五年、賢者の月

導師になって三年。この活動は人生を賭けるに足るものだ

だが、穢れは果てしなく生まれてくる。なんとかしなければ。もっと多くの人を救いたい……』

 

ス「これって!?」

 

ミ「ああ、導師の日記みたいだ。所々ページが欠けている」

 

ラ「スレイさん、続きを」

 

ス「あ、うん」

 

『コモン暦三十一年、玉杯の月。輝光銀が手に入った。これで剣を打とう。オレに足りない力を埋め合わせるために。力を。力を。力を。ひたすらこの想いを念じて』

 

ラ「この方は……」

 

エ「ずいぶん思いつめちゃったのね」

 

ス「…………」

 

ミ「スレイ……」

 

ス「先を急ごう」

 

 

 

神殿 最深部

アシュラが憑魔を襲っている。

「それを寄こせえっ!」

 

ス「あれがアシュラ!?」

 

「……これも違う!どこだっ!オレの剣はどこだ――っっ!!」

 

ス「オレの剣?」

 

ケ「憑魔が憑魔を襲うなんて……」

 

アシュラがスレイ一行に気付く。

 

「導師であるオレが!憑魔を倒すのは当然だろう!」

 

ミ「やっぱり!?アシュラは……!」

 

ス「憑魔になった導師!?」

 

「よくもオレの剣を盗んでくれたな!返せ……。オレの剣を返せ――っ!」

 

ラ「アシュラは怒りの憑魔です!怒りの源が憑魔化の原因のはずですわ!」

 

ミ「つまり剣を盗まれたせい!?」

 

ス「いや……それだけじゃない!」

 

「返せ……その剣は穢れを斬る力……」

 

「憑魔を……災厄を……汚い人間を斬る力……」

 

ス「人間を!こいつは……」

 

「オレは!穢れを生むすべてを斬り祓う!」

 

ミ「世界全部を斬るつもりだったんだ!」

 

ス「それがアシュラが憑魔になった理由!」

 

アウトル「正解だよ」

 

「この声……は……!」

 

スレイの体とミクリオの体が光る

 

ス「力が……水の秘力!」

 

「うおおおおっっ!!」

 

『ルズローシヴ=レレイ』

 

水の秘力を得てミクリオとの神威を実現。アシュラを倒す。

 

「……せ……ウ……ル……」

 

エ「まだなにか言っている」

 

「剣を返せ……アウトル……」

 

ケ「アウトル、だって!?」

 

浄化される。アシュラ、消える

 

ス「消えた」

 

ラ「遥か昔に導師だった方です。穢れを浄化しても肉体はもう……」

 

エ「怒りだけで動いてたのね」

 

ミ「問題はアウトルだ。あいつがアシュラの剣を盗んだのか?」

 

ア「アシュラが導師だったなら、ひょっとしてアウトル様は……」

 

ラ「はい。アシュラと契約した天族だったのかも」

 

ス「オレと、みんなみたいな関係だったのかな……」

 

ミ「スレイ……」

 

ス「戻ろう。本人に直接確かめる」

 

アウトル「わたしならここにいる」

 

アウトル、現る。

 

ス「……アシュラは消滅したよ」

 

アウトル「見ていたよ。手間をかけた」

 

ラ「アウトル様。あなたはもしかして――」

 

アウトル「察しの通り。私はアシュラを導師に誘い、器とした天族だよ」

 

エ「剣を盗んだのも?」

 

アウトル「私だ」

 

剣を見せる

 

ア「なんでこんなことを……」

 

アウトル「輝光銀と呼ばれるミスリルの剣だ。本当に世界を斬るほどの力を秘めている」

 

ラ「だから盗んで隠したのですか」

 

アウトル「そうだ。アシュラが一番斬りたかったのは私なのだろうね。彼は、ひたすら純粋だった。純粋故に悩み、いつしか赦す心を失ってしまった」

 

ス「だから、穢れたものを全部斬るためにその剣をつくった……」

 

アウトル「君にならこの剣を渡してもいい。使いこなせば、秘力以上の力となるかもしれない」

 

ス「……遠慮するよ。剣ならもう持ってるから」

 

ラ「スレイさん」

 

アウトル「うむ。心の試練も合格だ」

 

マルトラン「いらないのなら、私がもらおう」

 

突然現れたマルトランに剣を奪われる。

 

マ「世界を斬る剣……こんなところで眠らせておくのは惜しい。我が主にこそふさわしい」

 

ア「せ、師匠!?」

 

ス「マルトランさん……!?」

 

ラ「スレイさん、アリーシャさん!よく見て!」

 

マルトラン、穢れを発している

 

ケ「この人は、まさか……」

 

ス「……憑魔!」

 

ア「マルトラン師匠が……憑魔……」

 

マ「やっと気づいたか、私の正体に」

 

ア「なんで……」

 

マ「私が信じる理想のためだ」

 

マ「湖の乙女よ、以前は挨拶もせず失礼した」

 

ラ「やはり見えていたのですね」

 

ミ「その剣をどうする気だ?」

 

マ「世界を斬るんだよ。アシュラの望んだ如く」

 

ス「なぜそんな……!?」

 

マ「逆に聞きたいな。なぜアシュラの想いに共鳴しない?ここまで穢れきった災厄の世と人間は、一度徹底的に壊さねば再生できはしないだろう?これは我が主、災禍の顕主のお考えでもある」

 

ラ「あなたはかの者の……」

 

ア「マルトラン師匠、師匠は本当に憑魔なんですか?何かの間違いでは……」

 

マ「これが現実だ、アリーシャ。お前はもう用済みだ」

 

ア「用済み……、私が……用済み」

 

ミ「アリーシャのことを利用していたのか!?」

 

マ「そうだと言ったら?」

 

ス「アリーシャは本当にあなたのことを信頼していたんですよ」

 

マ「戦争を起こすには、まず夢見がちな平和論者を暴れさせるのが効果的なのだ。皮肉なことにな。だが、すでにハイランドとローランスの全面衝突は時間の問題となった。もう小娘に……利用価値はない!」

 

剣を振り回すマルトラン。衝撃波。一行、なんとかよける

 

ス「むうっ」

 

この間に、マルトラン消える

 

ス「マルトランさん……」

 

ラ「領域を感じません。この場を離れたようです」

 

ア「そんな……マルトラン師匠は……ずっと私を励ましてくれて――。それが全部演技で、私は戦争を止めるために頑張って――」

 

ス「アリーシャ!?」

 

アリーシャ、その場で崩れ落ち倒れる

 

エ「大丈夫、気を失っただけよ。それほどショックが大きかったのね」

 

ケ「彼女がアリーシャの恩人だというマルトランさんか。まさかこんな事になるなんて……」

 

アウトル「すまない。私が油断したばかりに……」

 

ス「…………」

 

ラ「ミクリオさん、スレイさんが……」

 

ミ「多分アリーシャのことだ。一人で悩むなって言いたいけど……」

 

ラ「どうすべきか私たちにも……」

 

ケ「とりあえず安全な所でアリーシャを休ませよう。ここから一番近いのはレディレイク……いや、あそこに今戻るのは危険だ。少し遠いがマーリンドへ――」

 

ラ「おそらくマーリンドにもハイランド兵がいるでしょう」

 

エ「ハイランドでうかつに動くのは危険ね」

 

アウトル「ならばそこのお嬢さんが元気になるまでここにいるがいい」

 

ラ「アウトル様、いいのですか!?」

 

アウトル「導師のためとならば喜んでここを提供しよう。そのような迷いのある心では災厄には立ち向かえまい」

 

ラ「感謝いたします」

 

ス「…………」

 

ミ「スレイ……ともかく秘力は得たんだ」

 

ラ「マルトランも災禍の顕主に繋がる者。私たちの進む先に解決策があるはずですわ」

 

ス「……うん」

 

 

 

アリーシャを休ませる。

ミ「だいぶ呼吸が落ち着いてきた。奥でぐっすり眠っているよ。今はライラとアウトルがついてる」

 

ス「よかった……」

 

ミ「ただ精神のダメージは大きいだろう」

 

ス「……一番信頼していたマルトランさんが実は憑魔だったなんて……」

 

ミ「アリーシャにとって、とても辛い現実だろうね」

 

ス「ミクリオ、オレ、アリーシャになんて声をかければいいんだろう……」

 

ミ「スレイ……。難しいね。僕にもわからない」

 

ス「このままアリーシャと一緒に旅を続けていいのかな」

 

ミ「スレイ、それって……」

 

ス「マルトランさんが本当に災禍の顕主と繋がっているのなら、きっとマルトランさんとも戦うことになる。アリーシャには酷すぎるんじゃないかって」

 

ミ「それはそうかもしれないが、それでアリーシャは納得するのか」

 

ス「…………」

 

ミ「マルトランが憑魔だったら、穢れを祓って救ってやればいい。アリーシャもそれを願っているんじゃないのか」

 

ス「……でも、フォートン枢機卿のように浄化出来なかったら、マルトランさんは……」

 

ミ「スレイ!それ以上は言わせないぞ!」

 

ス「……ミクリオ、聞いてほしいことがあるんだけど」

 

ミ「なんだ?」

 

ス「……アリーシャは、戦争が終わるまでアウトルさんに匿ってと思う。それならマルトランさんから遠ざける事ができる」

 

ミ「何を言い出すと思ったらそんな事か」

 

ス「そんな事って……じゃあ他に方法があるっていうのか!?アリーシャを傷付けない方法が!」

 

ミ「そんなのわからないね」

 

ス「ミクリオ、お前!」

 

ミ「わからないから探しに行く。何か方法があるはずだ。スレイならこう言うと思っていた」

 

ス「えっ……」

 

ミ「キミはアリーシャの笑顔を守りたいんじゃなかったのか。一緒に夢を叶えるんだろう?」

 

ミ「火の試練の時、スレイはアリーシャに言ったな。あの頃の気持ちをもう忘れたのか?」

 

ス「ミクリオ……」

 

ミ「スレイ、キミはアリーシャと一緒で、一人で抱え込みすぎだ。もっと僕たちを頼ってくれ。僕でよければいくらでも相談ぐらいは乗る。一応これでも幼馴染なんだし、スレイのことを一番わかっているつもりだ」

 

ス「幼馴染か……。そうだよな、生まれた時から一緒だもんな。ありがとう、ミクリオ。落ち込むなんてオレらしくなかったな」

 

ミ「考える前に行動、それがスレイのいい所だからね」

 

ス「それ褒めてるつもり?」

 

ミ「もちろん」

 

ケ「スレイくん、ミクリオくん。ここにいたんだね」

 

ス「ケイン、どうしたの?」

 

ケ「キミたちを捜していたんだ。さっきアリーシャ姫が目を覚ました。その報告」

 

ス「アリーシャが」

 

ミ「スレイ、僕の言ったこと――」

 

ス「大丈夫。しっかり伝わった。ちょっと行ってくる」

 

スレイフェードアウト

 

ケ「スレイくん、元気になったみたいだね」

 

ミ「ああ。少し手間がかかったけどね」

 

 

 

ラ「食事を用意しましたわ」

 

ア「ありがとうございます、ライラ様。しかし、今は何も食べる気がしません……」

 

ラ「アリーシャさん……」

 

エ「これは相当重傷ね」

 

ス「アリーシャ!」

 

ア「スレイ、先ほどは取り乱してすまなかった。私のせいで旅を中断させてしまって――」

 

ス「たまには休憩も必要だよ。人間も天族も。……隣いい?」

 

ア「ああ」

 

ス「体調のほうはどう?急に倒れたからびっくりしたよ」

 

ア「全然平気だ。むしろぐっすり眠って気分がいいぐらい」

 

ア「それにしても火の神殿と言い、ここ水の神殿と言い、『天遺見聞録』にも載っていないような遺跡がまだまだ沢山あるのだな。今一度ゆっくり見学したいものだ」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「もちろんスレイも一緒に、だ。ミクリオ様もケインも喜ばれるだろう。エドナ様は退屈なさると思うが――」

 

ス「オレの話を聞いてくれ!」

 

ス「アリーシャ、なんか無理してない?」

 

ア「なっ、決して無理などは……」

 

ス「マルトランさんの事、気になるんでしょ?」

 

ア「…………。ショックじゃないと言えばウソになる。私がやっていたことが戦争に繋がっていたなんて」

 

ス「アリーシャはそんな事していない!誰よりも平和を願っていたじゃないか!」

 

ア「しかし、私はマルトラン師匠に利用されていたんだ。最初から利用するつもりで近づいて、まんまと私は……」

 

ス「アリーシャ……。オレ、もう一度マルトランさんに会って話してみようと思う」

 

ア「師匠は憑魔なんだぞ!」

 

ス「それでもアリーシャの師匠だ。きっと穢れの中にも人を愛す心が残っていると思う。じゃなきゃ、アリーシャみたいな心優しい弟子は育たない。マルトランさんを穢れから必ず助け出す」

 

ア「師匠と戦うのか」

 

ス「場合によっては、そうなるかもしれない」

 

ア「わかった。私はスレイの従士だ。私も一緒に行く」

 

ア「ありがとう、スレイ。おかげで決心がついた」

 

ス「お礼ならミクリオに言ってよ」

 

ア「ミクリオ様に?」

 

ス「実はオレも迷っていたんだ。アリーシャを旅に連れて行っていいか。でもミクリオに「アリーシャと一緒に夢を叶えるんじゃなかったのか」ってガツンと言われて吹っ切れちゃった」

 

ア「そうだったのか」

 

ス「アリーシャ」

 

ア「ん?」

 

ス「絶対、この世界を救おうな!」

 

ア「ああ、もちろんだ」

 

ス「安心したらお腹が空いてきたよ。ゴハンにしよう。アリーシャも食べるよね」

 

ア「私も急にお腹が……」

 

ス「決まりだね」

 

エ「やっと話が終わったみたいね」

 

ス「エ、エドナ!?それにみんな!?いつからここに」

 

エ「ずっといたわよ」

 

ケ「すっかり自分たちの世界に入っていたみたいだね」

 

ラ「邪魔してしまいましたね」

 

ア「邪魔なんて、そんな……。ミクリオ様、ありがとうございました。またミクリオ様に助けられたみたいです」

 

ミ「スレイ、余計な事を。別にお礼はいいから」

 

ア「はい。ありがとうございます。あっ……、すみません」

 

エ「ミクリオ、あなたが素直に受け取らないからこんなビミョーな空気になるのよ」

 

ミ「僕が悪いのか!」

 

ケ「謙虚なことはそれだけで美徳だけど、時には相手の顔を立てないといけないこともある。ミクリオくん、「ありがとう」に対しては「どういたしまして」。草食系では競争社会で勝負していけないよ」

 

ミ「なんの話だ!」

 

ラ「みなさん、ゴハン準備出来ましたよ」

 

エドナ、ケイン去る

 

ミ「こら、エドナ!ケイン!逃げるな……行っちゃった」

 

ア「ミクリオ様、わたし達も……」

 

ミ「あ、ああ」

 

先行くアリーシャを呼び止める

 

ミ「アリーシャ!」

 

ミ「さっきは、その……タイミングを逃して言いづらいのだが、……どういたしまして」

 

ア「はい。どういたしまして」

 

 

 

食事を済ませる

アウトル「お嬢さんは元気になったようだな」

 

ア「アウトル様、大変お世話になりました」

 

アウトル「天族の同胞たちよ。私がこう言うのもなんだが、どうか導師を支えてやってくれ。私はがむしゃらに頑張る彼を導くことが出来ず、最後の最期で導師を信じてやれなかった。お主たちには悔いのない道を選び取ってくれ」

 

ミ「言われなくてもわかっている。僕たちはスレイを信じている」

 

ス「みんなが付いているから大丈夫!」

 

アウトル「ふふふ、要らぬ心配だったか」

 

アウトル「従士の少年、言われていたものをお見せしよう」

 

ス「言われていたもの?」

 

ラ「ケインさんが?」

 

アウトル「ドラゴンが描かれている壁画を見せてくれと頼まれたのだが、導師の望みじゃなかったか」

 

ス「ドラゴン!?まさかエドナのお兄さんを助ける方法を捜して……」

 

エ「…………」

 

ミ「ケイン、これはどういうことだい?」

 

ケ「ボクは行った先々でドラゴンに関することを調べてきた。ティンタジェル遺跡に火の試練神殿イグレイン、そしてここ、水の試練神殿ルーフェイ」

 

ス「そうだったんだ」

 

ア「なぜ黙っていたんだ?」

 

ケ「たまたま言う機会がなかった。結果的に黙っていることになってしまったことは謝る」

 

ス「とにかくその壁画を見に行こう。もしかしたらドラゴンを浄化する方法が見つかるかもしれない」

 

ラ「エドナさん……」

 

エ「さっさと行きましょう」

 

ケ「エドナちゃんは残っていてもいいんだよ?」

 

エ「これは私の問題よ。私が行かなきゃ意味ないじゃない。バカなの」

 

ケ「愚問だったね」

 

アウトル「いいかな?」

 

ケ「はい、案内よろしくお願いします」

 

 

 

壁画前

アウトル「ここだ」

 

ア「うわあ」

 

ミ「これはすごいな、部屋一面に壁画が描かれている」

 

ア「圧巻ですね……」

 

ス「感動するのは後!アウトルさん、ドラゴンが描かれている所って――」

 

ケ「…………」

 

ラ「ケインさん、どうしたんですの?」

 

アウトル「もう見つけたのだな。考古学者と聞いていただけのことがある」

 

ミ「これは!」

 

ス「導師がドラゴンから穢れを祓っている!」

 

ア「ではエドナ様のお兄様を元の天族へ戻せるのですね!」

 

ケ「…………」

 

ス「ケイン?さっきから黙ってどうしたの?」

 

ケ「その壁画の左部分を見てくれ……」

 

ミ「左?」

 

ア「これは天族でしょうか?導師の周りに集まっていますね」

 

ラ「はっ、これはもしや……」

 

アウトル「これは天族自らの命を捧げて、導師に穢れを祓う力を授けている様子を描いたものだ。天族の代償を得て、導師はドラゴンと対抗する手段を得る」

 

エ「!」

 

ケ「昔メ―ヴィン師匠から聞いたことがある。導師は天族の力を借りて穢れを祓ったと。歴代の導師の中には、友となった天族を殺して、その力を得た者もいたらしい」

 

アウトル「導師の武器に天響術を込め、浄化の力と共に憑魔に放つ。どんな強力な憑魔でも必ず隙ができる。術そのものとなった天族はその隙をついて相手の懐に入り、意志のある攻撃となって内部から穢れを断ち切る」

 

ミ「それからその天族はどうなるんだ」

 

ラ「そのような事をしたら確実にお亡くなりになるでしょうね……」

 

ス「生贄ってことじゃないか!?」

 

アウトル「その通りだ、導師殿」

 

ス「そんなことって!」

 

エ「スレイ、やめて。これが現実よ」

 

ス「エドナ……」

 

エ「お兄ちゃんを助ける方法がようやく見つかった。それだけで十分よ。さあ次行きましょう」

 

アウトル「次の目的地は地の試練神殿だったな。アイフリードの狩場の奥地にある。そこにも導師にまつわる壁画があるはずだ」

 

ス「ありがとうございます」

 

エ「そ、次は私の番なのね」

 

ケ「エドナちゃん……、変なこと考えてないよね?」

 

エ「…………」

 

ケ「必ず生贄を出さずに救う方法があるはずだ。地の試練ではきっと――」

 

エ「あなた、そればっかりね。気休めはいいわ。いいのよ、気をつかわないで」

 

ミ「エドナ、ケインはエドナの事を思って――」

 

ケ「いいんだ、ミクリオくん。ボクが軽率だった。すまない」

 

エ「…………。私こそ言い過ぎたわ。ごめん。少し一人にさせてくれない」

 

エドナフェードアウト

 

ア「エドナ様……。覚悟してはいたと思いますが……」

 

ラ「こうも辛い現実を突きつけられると、お辛いでしょうね」

 

ス「ケイン…………」

 

ケ「ボクは大丈夫だ。エドナちゃんの事は少し様子を見てみることにするよ」

 

ケ「さあ当初の目標通り地の試練へ向かおう。情報収集もそうだが、秘力を手に入れなくては」

 

ア「そうだな。そこでまた別の方法があるかもしれないし」

 

ス「一歩一歩出来る事からやるしかないか」

 




こんにちは、作者です。第十七話です。導師がようやく神威できるようになりました。長かったですね。どうせ秘力を得るために遺跡を回るのなら、圧倒的力=神威を習得するイベントにしたろう!と思った次第です。次回は地の試練神殿で修行します。地の天族エドナと余ってしまったアイツの試練です。不器用なやつらですが、どうか見守ってやってください。ではまた、第十八話で会いましょう。


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第十八話 エドナの花

水の秘力を得た導師一行。さらなる秘力を求め地の試練神殿へ向かう。


同刻某所

マルトラン「ヘルダルフ様、今戻りました」

 

ヘルダルフ「ご苦労。どうだった」

 

マ「ハイランドの古い遺跡で世界を斬る剣を手に入れました。こちらを」

 

ヘ「ほう。これはいい」

 

ルナール「導師はどうしますんだあ?オレ様がやってやろうか」

 

サイモン「キツネ!ヘルダルフ様にそのような口の利き方――」

 

ヘ「よい、サイモン」

 

サ「も、申し訳ありません、ヘルダルフ様」

 

ヘ「導師はまだ殺すな。やつらにはまだ利用価値がある」

 

ル「ちっ」

 

ヘ「ルナール、そしてサイモンよ、お前たちには導師が憑魔と化し、我の配下になるよう働きかけよ。方法は問わぬ。そうじゃな、あの心優しき導師が仲間を失ったらどんな反応を示すかな……。……孤独による苦しみに耐えれまい」

 

サ「ヘルダルフ様……」

 

ヘ「マルトランはハイランドへ戻り、開戦へ向けて準備を進めよ。もう一度この世界を穢れで満たすのだ」

 

マ「御意に」

 

マルトランとルナール消える

 

サ「ヘルダルフ様……、みながヘルダルフ様のことを忘れてしまってもこのサイモンめが最後までお側にいます。だから……」

ヘ「よいのだ、サイモン。それが我が定め。ワシが災禍の顕主である所以なのだから――」

 

 

 

地の試練神殿モルゴース

ス「ここが地の試練神殿か……」

 

ミ「特に変わったところがない普通の遺跡みたいだね」

 

ア「ここが本当に地の試練神殿なんだろうか?」

 

「ほう、訪問者は久しぶりだな。むむ、誰かと思えばライラちゃんじゃないか!」

 

ラ「導師パワント!?」

 

パワント「ライラちゃん。いつもながら見事だ……」

 

パワント、ライラを舐めるように凝視する。

 

ミ「知り合い……なのか?」

 

ラ「はい。……相変わらず困った人ですわね……」

 

ス「この天族も導師だったのか?」

 

パ「その通り。死に方ひとつで種族を越える。げにこの世は愉快よな」

 

ア「天族にもいろんな人がいるのですね……」

 

パ「む!」

 

ア「はい?」

 

パワント、アリーシャを舐めるように凝視。

 

パ「導師の力を求めてきたんだな?試練だろう?そうだろう?」

 

ス「うん……まぁ……」

 

パ「そっちの娘じゃないのか……」

 

ケ「この人、ホントに導師だったの?」

 

ラ「これでも導師パワントは一万以上の憑魔を鎮めた、天族の間にも名を馳せた方ですのよ」

 

パ「うむ!」

 

ケ「へぇ、この人がね。導師のイメージを改めなくてはならないな」

 

エドナ、パワントに近づく。そして上目遣いで

 

エ「エドナにちょうだい♪おじたまの♡は~や~く~♡」

 

パ「おお!かわいい子だの~!エドナちゃんか~」

 

エ「おじたま~ん♡ワタシ我慢できないの~♡♡」

 

パ「おぉ?!だが試練だからの~。力を示してもらわなくちゃ……」

 

エ「ちっ……使えない……」

 

パ「え……」

 

エ「ワタシに今更試練とか?何なの?」

 

パ「いや、それがルールで……」

 

エ「要は力を示せばいい、そうなのね。で、何をすればいいの?」

 

パ「や、えーっと……、どうしようかな……。しばらく誰も来なかったから全然考えてなかった……」

 

ミ「なんていい加減な……」

 

エ「面倒ね。今すぐここで決めなさい」

 

パ「そうじゃのう……。ワシと戦うってのはどうじゃ。そこで力を示してくれ」

 

ラ「パワント様自ら!?」

 

パ「そうじゃ。試練としては十分じゃろ」

 

ラ「ですが……」

 

パ「何もワシを倒すことが目的ではない。力を示してくれさえすればいいんじゃ」

 

エ「それでいいわ。さっさと始めましょう」

 

パ「導師もそれでいいかな」

 

ス「ちょっと待って。秘力を受け取るの、オレの代わりにケインに出来ないかな」

 

ケ「えっ」

 

ス「オレ、ずっと考えていたんだ。地の秘力はケインに受け取ってほしいなって」

 

パ「不思議なことをいう導師だな。理由を聞いていいかの?」

 

ス「オレとアリーシャは秘力を手に入れて神威が出来るから、ある程度の穢れには対抗できるけど、ケインはそうじゃない。これからの戦いのことを考えたらケインも身につけてもらったほうがいいかなって」

 

ラ「確かに、ケインさんが神威を実現させることが出来れば、戦いの幅は広がりますわね」

 

パ「なるほど。久しぶりに出現した待望の導師の従士ということでオマケしておくかの」

 

ラ「どうですか、ケインさん?」

 

ケ「ボクはいいけど、エドナちゃんは……」

 

エ「誰と組んでも一緒よ。勝手にすれば」

 

パ「よし決まりじゃなあ。キミー、名前は?」

 

ケ「ケインです。よろしくお願いします、パワントさん」

 

パ「よろしくー。じゃあケインくんとエドナちゃん以外見学で」

 

ア「二人だけで戦うのですか!?」

 

パ「さすがのワシも六人を相手取るのは疲れるのでの。それに嬢ちゃんと導師殿の力はすでに秘力を手にしている時点で立証済みだからな。ワシは純粋に二人の力を計りのだ。本当に秘力を授けるのにふさわしい人材かどうか」

 

ケ「そういうことみたいだね。すまないが、しばらく待っていてくれ」

 

エ「試練なんてさくっと終わらせるわ」

 

パ「それはどうかの」

 

一閃。エドナに攻撃

 

エ「きゃ」

 

ス「なっ、早い!」

 

ケ「エドナちゃん!」

 

パ「よそ見をしている場合かな」

 

ケイン、攻撃を受けとめるが、吹き飛ばされる

 

ケ「ちっ!」

 

ラ「さすがパワント様ですわ。ちっとも衰えてない」

 

ア「これほどとは……」

 

ケ「大丈夫かい。ほら、立てる?」

 

エ「……これぐらいなんてことないわ。ちょっと油断しただけよ」

 

パ「ほらガンガンこんかい」

 

ケ「言われなくてもそのつもりさ」

 

ケ「行くよ、エドナちゃん」

 

エ「ええ」

 

 

 

ケ「はあはあはあ……」

 

パ「今日はもう限界のようじゃの」

 

ケ「面目ない」

 

パ「いやいや、お主はよく頑張った。また明日期待しているぞ」

 

ケ「ありがとうございました」

 

ケ「大丈夫かい、エドナちゃん?」

 

エ「平気よ。エロオヤジ、露骨に手加減していたわね」

 

ケ「ああ、軽く捻られたよ。膝が笑ってる」

 

エ「随分無茶するのね」

 

ケ「エドナちゃんこそ、今日は随分前衛に出ていたね。いつもならもっと後ろじゃなかったかい?それに全然集中してなかったし」

 

エ「戦い方なんて相手によって変わるわ。あなた、軍出身なんでしょ?それぐらいわからないの?」

 

ケ「……勉強になります、エドナ先生。でも本当にそれだけかい?」

 

エ「…………」

 

ス「ケイン、エドナ、お疲れ様」

 

ミ「今、天響術を」

 

ケ「すまない、もうしばらくかかりそうだ」

 

ラ「仕方ないですわ。相手はあのパワント様ですし。明日頑張りましょう」

 

エ「…………」

 

ラ「エドナさん……」

 

 

 

夜になる

エ(…………。眠れない……。…………少し夜風に当たろう)

 

エドナ、遺跡の外に

 

エ「アイフリードの狩り場……。聞いていた通りの辺境ね。何もないわ。…………」

 

エ(お兄ちゃん、もう少しで助けてあげるからね。ワタシが必ず……)

 

エ(うん?この花は……)

 

エドナ、一輪の花を見つける。その瞬間、何者かの領域が広がり、穢れが強くなる。

 

「やっと見つけたあぁ!」

 

エ「この領域は!」

 

ルナール「おやおや、今日はお一人かい?ひっひっひ」

 

エ「あなた、マーリンドでアリーシャを襲った憑魔ね」

 

ル「導師の姿が見当たらないな。どこにいった?」

 

エ「さあ、どこかしら」

 

ル「しらばっくれるってか。……まあいい。お前が死ねば、導師はオレへの恨みで穢れ、憑魔になるかもしれないなあ。じっくり探し出して、一人また一人と食い尽くしてくれる!」

 

 

 

ラ「は!この領域は!」

 

ラ「スレイさん、アリーシャさん!起きてください!」

 

ア「どうしたんですか、ライラ様……」

 

ス「まだ夜明け前じゃないか……」

 

ラ「近くで強い領域を感じます。ボールス遺跡でアリーシャさんを襲った憑魔と同じものです」

 

ミ「あのキツネ目の!」

 

ス「またアリーシャを狙って……」

 

ラ「それにエドナさんもいないんです」

 

ケ「なんだって!」

 

ミ「ライラ、エドナがどこにいるのかわからないのか?」

 

ラ「それが……エドナさんの力が何かに遮断されていて正確な位置まで掴めないんです」

 

ス「それって、まさか!」

 

ケ「ライラさん、領域の中心は?」

 

ラ「ここからすぐ南です!」

 

ケ「ありがとう!」

 

ケイン走り出す

 

ア「ケイン!」

 

ミ「まずい、エドナもケインも強い領域に対抗する術をまだ持っていない!」

 

ラ「もし長時間領域内にいたら……」

 

ア「考えるのは後です」

 

ス「二人を追いかけよう!」

 

 

 

ル「どうした、どうした。もうお終いかあ!」

 

エ「くっ、浄化の力もなしに憑魔相手はさすがに辛いわね」

 

ル「随分お疲れのようだな。仲間を呼んでもいいんだぞ、けっけっけ」

 

エ「あなた程度のザコ憑魔、ワタシだけで十分よ」

 

ル「強がるねえ。それじゃあ、これで最後にしてやる。死ねえ!」

 

ルナールが斬りかかるのをケインが受け止める

 

ケ「なんとか間に合ったか」

 

エ「ケイン、どうして……」

 

ス「『ルズローシヴ=レレイ』」

 

ア「『フォエス=メイマ』」

 

ス「二人から離れろ!」

 

ル「ちっ!」

 

ア「お前はマーリンドで会ったキツネ!今度は何が狙いだ!」

 

ル「……さすがに六対一は割に合わない。またに出直そう」

 

ス「待て!」

 

ラ「領域が消えましたわ」

 

ア「くそ、また逃がしたか……」

 

ケ「どうして一人で戦うなんて無茶をしたんだ!」

 

エ「キツネはスレイを狙っていた。それをわざわざ教えるバカはないわ」

 

ケ「バカはキミだろ!もしかしたら死んでいたのかもしれないんだぞ」

 

エ「……その時は残りの力を振り絞ってお兄ちゃんを解放してあげるだけよ。壁画にも描かれていたでしょ」

 

ケ「いつ死んでもいいみたいな言い方をするな!そんなことをしてお兄さんが喜ぶと思うか!」

 

ア「ケイン、少し落ち着いて……」

 

エ「あなたにお兄ちゃんの何がわかるって言うのよ!お兄ちゃんと話したこともないくせに知ったかぶらないで!」

 

ミ「エドナ……」

 

エドナの手から、何かが落ちる。

 

ス「うん、何か落としたぞ。これは……」

 

ア「花?ランの一種みたいだが」

 

ケ「これは……!」

 

ケインが拾う

 

ケ「……」

 

エ「返しなさい」

 

ケ「これは『エドナ』という名前の花だ」

 

エ「!」

 

ミ「エドナと同じ名前だ」

 

エ「あなた、どうしてその名前を……」

 

ケ「昔、やたら世話好きな人がいてね。その子が好きだったんだ、その花。「かまってちゃんのくせして、水をあげすぎるとすぐヘソを曲げるんだ」って、嬉しそうに嘆いていたよ」

 

ラ「ケインさん、その人って、もしや……」

 

ケ「素直じゃないところはキミもこの花と同じだ」

 

エ「うるさいわね」

 

ケ「ボクはもう争いなんかで誰も失いたくない。それは人間だって天族だってドラゴンだって一緒だ。この災厄の時代を終わらせて、みんなで笑いあえる世界でみんなと一緒に笑いあう。それがボクの夢」

 

ラ「ケインさん」

 

ケ「きっとお兄さんもエドナちゃんに生きていてほしいと思うよ」

 

エ「何度も言わせないで。あなたに何がわかるのよ」

 

ケ「わかるさ。誰だって大切な人は失いたくないと思い、生きて帰ってくることを願うものさ。それはオレたちだって同じ気持ち。ボクはエドナちゃんもお兄さんも死なせない。もう少しだけ、ボクに時間をくれないか。」

 

エ「…………はあ、色々めんどそうね」

 

ケ「…………」

 

エ「……いいわ、あなたが生きている間は待ってあげる」

 

ス「エドナ!」

 

エ「その代わり……わたしと一緒にお兄ちゃんを救って」

 

ケ「キミがなんて言おうと最初からそのつもりさ」

 

ラ「エドナさん、吹っ切れたようですね」

 

ミ「ケインに良いところ取られちゃったね、スレイ」

 

ス「えっ、何でオレ!?」

 

ミ「こういうのはスレイの役割だからね」

 

ア「ふふふ、そうかもしれませんね」

 

ス「アリーシャまで」

 

ケ「みんな、つい熱くなってしまってすまなかった」

 

ラ「いえいえ。新しいケインさんの一面が見れて新鮮でしたわ」

 

ミ「エドナも一人で突っ込んでいった事、反省したみたいだしね」

 

エ「反省シター」

 

ス「ははは、これで一件落着かな」

 

エ「何言っているの?まだよ」

 

ケ「秘力。ボクたちの目的を忘れたのかい?」

 

ス「あっ、そうだった……」

 

エ「明日はあのエロオヤジを相手しなくちゃならないし、もう寝ましょう」

 

ラ「そうですね、少しでも体を休ませなくてはもちませんわ」

 

エ「そういうこと」

 

ミ「神殿に戻ろう」

 

エ「それと、ケイン」

 

ケ「なんだい?」

 

エ「…………ありがと。ワタシを止めてくれて」

 

ケ「どういたしまして」

 

エ「明日足を引っ張ったら、ハリセンボンの刑ね」

 

ケ「それは恐ろしい。どうにかして試練をクリアしないとね」

 

 

 

パ「おはよう。今日も空気が澄んでいて、いい朝じゃのう」

 

ラ「パワント様、おはようございます」

 

パ「うぬ、昨晩は大変だったようじゃのう」

 

エ「あなた、知っていたの?」

 

ラ「私がお話ししました」

 

パ「あれほどの領域の強さ、間違いなくバックには災禍の顕主がついておるな。これからは色んな方法で導師殿を貶めようとしてくるはずじゃ。くれぐれも気を付けて――、って、お主たちもわかっていることか」

 

ス「うん、大丈夫」

 

ア「スレイには私たちが付いています」

 

パ「それは安心だ」

 

ケ「パワントさん、早速昨日の続きを」

 

パ「いや、その必要はない」

 

ケ「はい?」

 

パ「昨日までは二人ともどこか怖い顔をしておったが、今はとても晴れやかな顔しとる。これなら秘力を授けても大丈夫だろう」

 

ミ「そんなのでいいのか!」

 

パ「穢れに負けないためにも大切なことじゃぞ。災禍の顕主に対抗するには一人の力ではどうにもならん。仲間と協力することが不可欠なのじゃ」

 

ラ「心の試練、ですわね」

 

ケ「試練はクリアって事でいいんですよね?」

 

パ「うぬ。これからもその心を忘れるではないぞ」

 

ケ「ありがとうございます」

 

エ「で、どうすればいいの?」

 

パ「うむ。ケイン、エドナちゃん、祭壇に祈りを捧げるのだ」

 

ケインとエドナの体が光る

 

ケ『ハクディム=ユーバ』

 

ス「どう?エドナ?」

 

エ「……力を感じるわ」

 

ケ「これでようやくボクたちも穢れに対抗できる」

 

パ「ワシから見たらまだまだ未熟だが、二人とも伸びしろ多き原石。精進して自分色に磨くのじゃぞ」

 

ケ「はい」

 

エ「一応、礼は言っとくわ」

 

ス「それと、パワントさん。ここにドラゴンが描かれた壁画ない?」

 

パ「ドラゴンの?あるぞ」

 

ケ「ボクたち、ドラゴンを元の姿に戻す方法を探しているんです」

 

パ「ふむ。なるほど。確かこの辺に……。あっ、あったあった。ここじゃ」

 

壁画を見せる

 

ア「これは……」

 

ス「導師が穢れを祓っている。手に持っているのはなんだ?」

 

パ「それはジークフリート。そいつに天響術を込めて、憑魔に放つと穢れと結びつくのをしばらく防げる」

 

ケ「天族自身が傷つくことは?」

 

パ「これはあくまでも天響術を込めるだけじゃ。本人が弾丸になる必要はない。力は落ちるが並大抵のドラゴンは浄化できるだろう。力を使った天族はしばらく術が使えなくなるが難点だがの」

 

ス「じゃあ、これでエドナのお兄さんを助けられる!」

 

エ「そのジーなんとかってやつはどこに?」

 

パ「それが……ワシにもわからないのじゃ。実際に存在しているかどうかも定かではない」

 

エ「使えないわね」

 

パ「すまん」

 

ラ「パワント様でも分からないのではお手上げですわ」

 

ス「…………」

 

ミ「スレイ、どうした?」

 

ス「なんかこのジークリンド、どこかで見たことある気がするんだけど……うーん」

 

ス「あー!」

 

ア「どうしたんだ、スレイ。大きな声を出して」

 

ス「ザビーダが使っていたやつだ!」

 

ミ「ザビーダ……、霊峰レイフォルクで憑魔を殺していた風の天族か!」

 

ラ「確かに似ていますわ!」

 

エ「ザビーダ、ああ、あいつね」

 

ケ「エドナちゃんまで知っているのか。もしかして知らないのボクだけ?」

 

ア「いいや、私も知らない」

 

ス「実は……」

 

 

 

ア「なるほど、私がいない間にそんなことが……」

 

ケ「憑魔を狩る天族ザビーダと強大な穢れに対抗できるジークフリート、か。とりあえず実物を見てみない事にはなんとも言えないな」

 

ス「ザビーダを捜そう」

 

エ「何か手がかりはあるの?」

 

ミ「各地の加護天族をあたってみたら何かわかるかも」

 

ア「そうですね」

 

ケ「エドナちゃんもそれでいいかい?」

 

エ「面倒だけど、それでお兄ちゃんを救えるなら我慢する」

 

ス「決まりだな」

 

パ「行くのか」

 

ス「はい。ありがとう、パワントさん」

 

パ「何事も事象の前には原因がある。それを理解し、よく考え、そして進め。答えを焦るな。導師の道程は世界に渦巻く情念の根本を理解する事から始まると知れ」

 

ス「はい、ありがとうございます」

 

パ「しかし、またここに一人か。寂しくなるの」

 

ケ「そんなこと言わないでください。もっと強くなって、また遊びに来ますよ、ね、エドナちゃん」

 

エ「次こそはあなたをケチョンケチョンにしてやるわ」

 

パ「それは楽しみじゃ。待っておるぞ、我が弟子よ」

 

ス「ははは、それじゃ!」

 

パ「うむ」

 

 

 

神殿を出る

ミ「色々あったけど、これで火、水、地の三つの秘力を手に入れることが出来た」

 

ス「後は風だけだけど……」

 

ラ「その事も考えなくてはいけませんね」

 

ア「問題は山積ですね」

 

ス「一歩一歩進んでいくしかないか」

 

「おー、ライラはんやないか~。久しぶりやな~」

 

エ「この声は」

 

ラ「アタックさん!」

 

ノ「こんなところでみなさんとお会いできるなんてびっくりしたわ。どなんしたん?」

 

エ「それはこっちの台詞よ。ノルがこんなところで何をしているの?」

 

ノ「言いまへんかったっけ?ウチ、旅を出るって」

 

ス「そういえば……」

 

ラ「言ってましたわね」

 

ノ「ほんま大変だんたんたやで~。強い風にも吹かれるわ……冷たい雨にも打たれるわ……憑魔に食べられそうにもなったんや」

 

ア「憑魔に……それは大変でしたね」

 

ノ「でもな、もうダメだと思ったときにな、救世主が現れたんや~!上半身裸のかっこいいあんちゃんだったわ~」

 

ミ「上半身裸!それって、ザビーダのことじゃ」

 

ノ「ウチを颯爽と助けるとすぐどっか行ったさかい、名前は聞けなかったんやけど~」

 

エ「あんな格好しているやつ、あいつ以外いないわよ」

 

ラ「そうですわね!乙女の前でハダカなんてはしたない!」

 

ケ「ライラさんにここまで言わせる天族ザビーダ。ますます興味深いね」

 

ス「ザビーダと会ったのはどこらへん?」

 

ノ「自分らがウェストロンホルドの裂け谷と呼んでいるところや~」

 

ケ「ウェストロンの裂け谷。バルバレイ放牧地の西。ここからだとまっすぐ北の方角にある辺境だね。巡視隊がたまに見回りをするぐらいで、ローランスに住んでいる人でもめったに訪れない」

 

ミ「ここから北ということは、風の試練の場所と一致するな」

 

ケ「昔から原因不明の突風が吹くこと有名なところだ。おそらくその影響だろうね」

 

ア「行ってみる価値はありそうだな」

 

ノ「ウチも案内したいんやけど、ごめんな~。今は仲間を集めている最中やねんか~。かんにんな~」

 

ア「アタック様は仲間を集めてらっしゃるのですか?」

 

ノ「そうや~。ウチらも久しぶりに集結して導師のお役に立とう思ってんねん~。だいぶ集まってきたで~」

 

エ「ノルは集団になるほど強い力を発揮するわ。アリのようにね」

 

ア「それは頼もしいですね」

 

ノ「ウチらの活躍に期待しといてや~。そいじゃあ、ウチはもう行くで~。ほな、またな~」

 

ノルミンアタック、去る

 

ラ「次の行き先が決まりましたね」

 

ス「うん。ウェストロンの裂け谷へ行こう」

 

一行、ウェストロンの裂け谷へ向かう。

 




こんにちは、作者です。第十八です。パワントのキャラクター性が中々好きだったので、ただのエロオヤジではなく、師匠ポジションにしました。彼も一応、護法天族ですし、それっぽいことをさせるべきかなと。エドナの花は、ディスカバリーチャットで軽く触れられた程度でしたが、強く印象に残っていたので捻じ込みました。花の名前=キャラ名というネタは割と使われていますよね。ハリエット、エリーゼ、そしてエドナ。ぱっと思いつくだけで三人はいます。揃いも揃ってええ話やね。ではまた、十九話で会いましょう。


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第十九話 すれ違う信念

ウェストロンの裂け谷にザビーダがいるという情報を得た一行。ジークフリートの話を聞くため、彼に話を聞きに行く。



ウェストロンの裂け谷

ア「ここがウェストロンの裂け谷……」

 

ケ「まさに断崖絶壁。足元にお気を付けて」

 

ミ「ケイン、ここに遺跡と呼べるものはあるか?」

 

ケ「風の試練と思われるものは見当が付いている。もうそろそろ見えてくるはず……」

 

風の試練神殿ギネヴィア、発見

 

ス「すっげえ!こんな高い塔があるんだ」

 

ミ「遺跡としては相当古いな。少なくともアスカード以前なのは間違いない」

 

ア「これほど古い遺跡なら風の試練神殿で間違いないでしょうね」

 

エ「……完全に目的を忘れているわね。ここにはザビーダを捜しに来たんじゃなかったの?」

 

ア「そうでした」

 

ス「つい興奮しちゃって」

 

ラ「スレイさん!あそこ!噂をすればですわ!」

 

ザビーダ、発見

 

ス「ザビーダ!」

 

ミ「ちょっと待って。誰かと戦っているみたいだ」

 

ラ「しばらく様子を見ましょう」

 

 

 

ザ「お前らもしつこいな。しつこい女は嫌われるぜ、ロゼ」

 

ロ「うるさい。それをこちらに渡せ」

 

ザ「ああ、これか。やなこった、俺様はこれでやらなきゃなんないことがあんだよ」

 

デ「ざけんな!それなら力づく奪うまでだ」

 

ザ「威勢がいいねえ。デゼル、なんでお前はそれほどまでに力を求めるんだ」

 

デ「殺したい奴がいる。死ぬ程な」

 

ザ「そいつはいい。じゃあ、デゼル、なぜそこまで復讐に燃える」

 

デ「……何が言いたい?」

 

ザ「生きてりゃ世の中ムカつくことがいっぱいだ。それこそ死ぬ程な。それでも憑魔を殺そうなんていう物好きはそうはいねえ。お前は明らかに異常だ」

 

デ「それはお前もだろうが!」

 

ザ「興味があるんだよ、もしかしたら俺たちは根っこでは一緒なのかもしれない。あるんだろ、今も昔も体の中で渦巻いているクソッタレな悪夢が」

 

デ「それは……」

 

 

 

回想 数年前 ペンドラゴ 風の傭兵団拠点

団長プラドの元へローランス第二皇子コナンが訪ねてくる。

プラド「これはこれはコナン皇子、わざわざ拠点までいらしてどうなされたのですか」

 

コナン「依頼の完了の報告を受けまして参りました。こちらが謝礼です。心から感謝致します」

 

プ「こちらこそ依頼する人あっての商売です。今後とも風の傭兵団を御贔屓願います」

 

コ「それともう一つ。今回はお話があってきたのです」

 

プ「話?」

 

ロ「あっ、コナン皇子!来てたんですね。お久しぶりです!」

 

プ「こらロゼ。皇子に失礼だろ」

 

コ「いいです。女の子はこれぐらい活発なほうがいい」

 

ロ「さすがコナン皇子♪わかってる~」

 

コ「ちょうどいい。ロゼさんも聞いてください」

 

ロ「うん?何ですか?」

 

コ「あなたがたを正式にローランスに連ねたいのです」

 

プ「オレたちがローランスに、ですか。それはまたなんで?」

 

コ「ローランス帝国がハイランドと敵対関係になってからもう随分となります。今でこそ停戦状態ですが、また何が引き金で戦争が起こるかわかりません」

 

ロ「また戦争が起こるの?」

 

コ「まだ決まった訳ではありませんが……。国内情勢を見ても、次の皇帝の座を兄と私で争っている最中ということもあって、衝突が絶えません」

 

プ「なるほど、それでオレたちを配下に入れたいと」

 

コ「はい。大陸一と名高い、風の傭兵団と協力して帝国内外の治安維持に努めてもらいたい。

もちろん団員全ての生活を保障します。希望する者は帝国騎士団への推薦を私から口添えしましょう」

 

プ「ふむ、悪い話ではないな」

 

コ「それと……団長さん」

 

プ「なんですか?」

 

コ「ローランス帝国と風の傭兵団が正式に同盟を組んだ暁には、お嬢さんを私にください!」

 

プ「は」

 

ロ「ええええええ」

 

コ「私は本気です。必ずロゼさんを幸せにしてみせます」

 

ロ「ちょっ、聞いてないよ」

 

コ「急な話ではございません。初めて会った時からずっと素敵な方だと思っていました。最近ではその思いが抑えきれず、あなたのことばかり考えてしまう始末。勝手な話だとは思いますが、私の妻となってもらえますか?」

 

ロ「…………はい、あたしでよければ喜んで」

 

コ「ありがとうございます」

 

プ「これはめでてえ話だな。若いっていいねえ」

 

ロ「ちょっ、茶化さないでよ。一応私も女の子なんだから」

 

プラド、席を立つ。

 

コ「団長さん、どちらへ?」

 

プ「団員を集めてくるんだ。なんだって今日はロゼと皇子の大切な婚約記念日だからな。盛大に宴を開くんだよ。もちろん皇子も参加だからな」

 

コ「ということは!」

 

プ「娘の旦那に剣は向けられねえよ。風の傭兵団はローランス帝国と正式に同盟を結ぶ」

 

コ「ありがとうございます」

 

ロ「あたしがコナン皇子と婚約?夢みたい!」

 

プ「こんなガサツな娘だが、どうかよろしく頼む」

 

その様子をを影で見ていた天族ラファーガとデゼル

 

ラファーガ「よかったな」

 

デゼル「ああ。ロゼもコナンのやつにだいぶ惚れ込んでいたからな」

 

ラ「ロゼのことだから無意識だったかもしれないけど」

 

デ「ふっ」

 

ラ「しかし、これで長かった旅も終わりか。少し残念だな」

 

デ「終わり?」

 

ラ「そりゃそうだ。ローランス直属になったら世界中を回ることもないだろう」

 

デ「そ、そうか」

 

デ(旅が……終わる……)

 

ラ「コナンとロゼが正式に結婚したらこの旅も終わりだ。名残惜しいが、そこで風の傭兵団とはお別れだな」

 

デ(……イヤだ)

 

ラ「みんなが幸せになってくれて、本当に嬉しい」

 

デ(……イヤだ。終わらないでくれ……)

 

 

 

数日後 ペンドラゴ城入口

城の前で、コナンと兵士が話している

コ「ぬかるなよ。行かぬか!」

 

兵士「はっ、かしこまりました」

 

兵士、その場を離れる

 

ロ「コナン皇子!団長が居ないんです」

 

デ「その子に近づくんじゃねえ!」

 

コ「私に指図する貴様は何者か」

 

ラ「こいつ……すでに憑魔に……」

 

ロ「え、誰に話して……?」

 

コ「貴様らのその旨そうな匂い……たまらんなぁ!」

 

コナン、穢れを発する。それに乗じてサイモン、登場。

 

サイモン「ゆっくりじわじわと蝕もうと思っていたが、思ったより早かったな……。何故これほどの短期間で憑魔と化したのだろうな?」

 

ラ「お前は誰だ!」

 

サ「我が名はサイモン。そこにいる出来そこないと同じ疫病神だ」

 

エギーユ「皇子!俺たちが第一皇子を殺しただと!?何の冗談だ!」

 

コ「衛兵!逆賊がここに!」

 

エギーユ、衛兵に捕まえられる

 

エ「罠にかけたな……俺たちを!」

 

ラ「なぜこんな事に……」

 

コ「風の傭兵団、団長ブラドは第一皇子レオンを殺害。身柄をペンドラゴ守警隊によって拘束された。よって貴様ら全員も拘束する」

 

ロ「コナン!うそでしょ、あたしたちはやってない!」

 

コ「気安く呼び捨てで呼ぶな!私は次期皇帝様だぞ!」

 

ロ「えっ」

 

ルナール「わからないのか。お前はオレ達に利用されたんだ」

 

ロ「ルナール!?」

 

デ「まさかルナールまで憑魔に……」

 

ロ「それってどういう……」

 

ル「この男は皇帝になるために、風の傭兵団に近づいた。その力を使い、戦果をあげたこいつは実の兄を失脚させ、帝国の権力を掌握した。お前たちは利用されていたんだよ」

 

コ「お前たちは私のためによく戦ってくれた。褒美として、私の手で天国へ送ってやろう」

 

ラ「第一皇子殺害の容疑をブラドに被せたのか!」

 

コ「くっくっく」

 

ロ「コナン……、あたしの事が好きだって言ってくれたのは?あれも嘘だったの?」

 

コ「愚問だな。誰が好き好んで傭兵などやっている低俗の者を嫁に貰うか!」

 

サ「わかるだろう?コナン皇子が憑魔と化し、我欲に従い、邪魔者を除こうと考えたからだ。我はその手助けをしたに過ぎない。心の闇をくすぐり、穢れをより多く生み出すように助長した」

 

ラ「そのためにルナールも……」

 

サ「必要ならばそうせざるを得ないだろう。もっとも彼は心の底から望んでいたがな。キツネもよく働いてくれた。風の傭兵団からの使者として、第一皇子レオンに接触し、亡き者にしたのだから」

 

デ「この外道が」

 

サ「そんな事はどうでもいい。問題はどうしてこれほど早く二人が憑魔化したか、だ。その答えもわかるだろう?」

 

ラ「よ、よせ!」

 

サ「『彼』だ」

 

サイモン、デゼルを指さす。

 

デ「……俺のせい……だった?……俺の……?」

 

コ「お前も用済みだ」

 

ロ「なっ!」

 

コ「ぐふふ。人生最後の瞬間を次期皇帝と共に迎えられる!これほどの栄誉はあるまい!」

 

ロ「そ、そんな……。あんな優しかったコナンがどうして……」

 

コ「死ねえ!」

 

ラ「間に合え!」

 

コナンの攻撃に対して、ラファーガが間に入る

 

ラ「ぐ、うぅぅああ!」

 

ロ「えっ、な、なにが起こっているの?きゃあああああ」

 

発狂するロゼ。膝をつくデゼル。不敵な笑みを浮かべるサイモン。

 

サ「この悲劇は我とそして貴様の加護の賜物……。人はその力を持つものを何というか知っているか?」

 

サ「疫病神だ」

 

デ「違う……。違う違う違う!オレは疫病神じゃない!」

 

サ「哀れよのう。目の前の現実も受けとめられないか」

 

デ「ロゼ!おまえはこれでいいのか!」

 

ロ「えっ、声?どこから聞こえて……」

 

ル「何!?こいつ、霊能力が」

 

デ「コナンが憎いそう、だろう?」

 

ロ「ひっ、お、お前は」

 

見えないデゼルにおびえるロゼ。

 

デ「俺の事は今はどうでもいい。あいつにプラドが殺され、風の傭兵団が捕まったんだ!俺たちの事をバラバラにしたんぞ」

 

ロ「で、でもあたし、どうすれば」

 

デ「剣を構えろ!コナンを斬れ!」

 

ロ「えっ」

 

コ「私に剣を向ける気か。調子に乗るな!」

 

デ「俺を信じろ。プラドの仇を討つんだろ!」

 

ロ「団長の、仇……」

 

ロゼ、剣を構える。

 

コ「死ねえええ」

 

ロ「この野郎~!」

 

デ「はあああ!」

 

ロゼ、デゼル、コナンを斬る。

 

コ「ぐああああ!こん、なことは、許されぬ、わ、たしは皇帝に、な、るおと、こだ、ぞ」

 

コナン、倒れる。

 

ロ「こ、殺した……。あたしが、コナン、を。うわああああああああああん!」

 

サ「生死を分ける土壇場で霊能力に目覚めた。これもお前たちが干渉し続けた結果、か。面白い。これから娘にどんな不幸が訪れるのか楽しみで仕方ない」

 

サイモン消える

 

ル「くかかか、せいぜいその罪を苦しむんだな」

 

ルナール消える

 

デ「プラド……ラファ―ガ……、ルナール、オレたちの風の傭兵団が……。許さなねえ!あのサイモンとかいう天族、絶対探し出して殺してやる!」

 

 

 

回想終わり。現代。

ロ「しっかりしろ、デゼル!相手の挑発に乗るな!」

 

ロゼの呼びかけで、デゼル我に返る

 

ザ「おっと、俺様はデゼルに聞いているんだけど」

 

ロ「お前に話す事はない」

 

ス「『ルズローシヴ=レレイ』」

 

ス「はああああ!」

 

ザ「おっと、あぶねえあぶねえ」

 

スレイ一行、乱入。

 

ロ「スレイ。やはりここに来たか」

 

ラ「スレイさん、一旦様子を伺うと――」

 

ス「あの三人が戦っているんだ。ケガしてからじゃ遅い。早く止めないと」

 

ミ「スレイ、行くぞ!」

 

ス「ああ」

 

ラ「もう、困った方ですわ」

 

ア「それがスレイの持ち味です。わたし達も続きましょう」

 

ケ「同感だ」

 

エ「三人同時に叩いて一石三鳥、省エネ省エネ」

 

デ「ちっ、導師か。敵の数が多い。プランBに移行する」

 

ロ「だが、ザビーダがすぐそこに……」

 

デ「力を手に入れれば同じ事。塔を上るぞ」

 

ロ「…………わかった。頼む、デゼル」

 

デゼルと共にロゼが空を飛ぶ

 

ラ「ロゼさんとデゼルさんが塔を上っていきます」

 

ミ「なんだって!?」

 

エ「風の力で一気に頂上へ向かうつもりね」

 

ア「風の天族様はあんな事ができるのか!?」

 

ミ「感心しているのは後!追いかけるぞ」

 

ザ「ちょおっと待った!」

 

ス「ザビーダ、道を開けてくれ!」

 

ザ「やなこった」

 

ケ「キミは彼女たちと敵対関係にあったんじゃないのかい?それがなぜ急に……」

 

ザ「それはあいつらが勝手に思っているだけ。基本俺様は誰とでもフレンドリーなの」

 

ス「また殺すつもりか?」

 

ザ「ああ。言ったろ?憑魔は地獄へ連れてってやるのが俺の流儀ってな。あいつらがもし完全に憑魔になっちまったら、その時は俺の手で……」

 

ス「ザビーダが手を出す前に俺が浄化するよ」

 

ザ「それもどうだか。スレイももう知ってるんだろ?祓えないほどの穢れは殺すしかないことを……」

 

ス「それは……」

 

ケ「ザビーダ、キミが持っているそれ、ジークフリート、だよね?」

 

ザ「さあどうだか。グラマラスなお姉さん紹介してくれたら教えてやるぜ?」

 

ケ「……聞いていた通りの天族だな。ライラさんが苦手そうなタイプ」

 

ザ「なんか女の子が増えて華やかになったなぁ、導師殿。エドナちゃんも口説き落としてるとはやるじゃん」

 

ア「こんな天族もいるんですね……」

 

エ「あなた、変わらないわね」

 

ザ「はっはっは。なら……俺様がつぎに何するかもわかんだろ?エドナちゃん」

 

ザビーダ、ジークフリートの銃口を自身の頭に向ける

 

ラ「ザビーダさん?!」

 

ミ「戦おうっていうのか?!理由がわからない!」

 

ザ「この先何度もチャチャ入れられるのはごめんだ」

 

ザ「この際、ザビーダ先生がしっかり躾けてやるよ」

 

ス「お前が殺さなくても憑魔はオレたちが鎮める!だから……」

 

ザ「そうじゃねぇよ、スレイ。譲れないもんがぶつかったら……」

 

発砲。ザビーダの周りに気が集まる。

 

ザ「ケリはこいつでつける!それも俺の流儀さ!」

 

ケ「不思議な力が彼を覆っている。あれがジークフリートの力か」

 

ザ「さぁて!どれほどのもんになってるかな!」

 

ス「ザビーダ!話を聞いてくれ!」

 

ザ「やなこった!あとにしな!」

 

 

 

ザ「ぐあああ。ちょっ、タンマタンマ。その腕はやめ、うああああ」

 

神威ケインでザビーダを捻り潰す。

 

ア「ちょっと、エドナ様、ケイン!」

 

ケ「相手の力量が計れていないんだ。やむを得ない」

 

エ「ちょっとスッキリしたわ」

 

ザ「…………」

 

ミ「……動かないな」

 

ス「やり過ぎたかな……。手加減できなかったし……」

 

ザビーダ起き上がる

 

ザ「聞き捨てならないな。それじゃ俺様が負けたみたいじゃねーの。あー、もういいって。それこそ無駄遣いになる」

 

ス「ザビーダ……」

 

ミ「待て!ザビーダ! 俺たちは災禍の顕主に対抗するための力を探している。そのためにはそのジークフリートが必要なんだ」

 

ザ「そんな名前かどうかは知らないが、こいつは力を撃ち出す道具だ。確かに俺はこいつで穢れに抗う力を得てる。倒してるのは俺の実力。お前らには渡せない」

 

ス「ザビーダ、お前は――」

 

ザ「またにしようぜ?導師殿。今、話してもまたぶつかるだけさ」

 

ザビーダ去る

 

ス「話はあとにしろって言ったくせに……」

 

ミ「相変わらずワケがわからない……」

 

ケ「つかみどころがない男だね」

 

ラ「あの方とお話ししているとどっと疲れますわ」

 

エ「チャラ男だし」

 

ア「評価が軒並み低いですね……」

 

エ「アリーシャはああいうワイルドな男が好みなの?」

 

ア「そう言う訳では……、どちらかと言うと苦手です」

 

エ「でしょうね」

 

ミ「とりあえずロゼとデゼルを追いかけよう。塔の最上階にいるはずだ」

 

エ「でもどうやって」

 

ケ「一層ずつ登る。調査の基本は足だからね」

 

ア「こちらに入口らしきものがあります」

 

ス「とにかく行くしかないね」

 

ラ「行き違いにならなければいいのですが……」

 

 

 

風の試練神殿ギネヴィア 頂上

護法天族ワーデル「だから何度も言っている。お前達のような無礼なものに、秘力を授けることはできん」

 

デ「ざけんな!導師に出来て、なぜ俺たちに出来ない」

 

ロ「あたしたちにはどうしても力が必要なんだ、あいつらを倒すために……」

 

ワ「事情は大方察しよう」

 

ロ「なら!」

 

ワ「だからこそ、なのだ。憎しみは憎しみしか生まない。復讐などもってのほかだ」

 

デ「俺たちは俺達の方法で仇を討つ。それだけだ」

 

ワ「人間、たしかロゼと言ったね。今の自分自身にどう思う?」

 

ロ「あたしは……」

 

ワ「本当にこれでいいのだろうか?他にやり方があるんじゃないかと……心の中で迷っているのではないか?」

 

ロ「それは……」

 

デ「てめえ!」

 

ワ「我が同胞、デゼル。そして人間ロゼよ。迷いある中、やみくもに剣を振るっても穢れに飲み込まれるだけだ」

 

ロ「それでも私は――」

 

ワ「おっと、来客のようだ。君たちとは違い、律儀に一段一段登ってきたみたいだね」

 

ス「ロゼ!デゼル!」

 

デ「ちっ、もう追いついてきやがったか」

 

ロゼ、デゼル、構える。

 

ス「ちょ、ちょっと待って。オレは話がしたいだけなんだ」

 

ロ「話?」

 

ス「うん。ロゼとデゼルの事もっと知りたいなと思って……」

 

デ「お前と話すことは――」

 

ス「聞いてくれ。オレさ、ロゼとデゼルってなんか好きなんだ」

 

ア「す、スレイ!?」

 

デ「はぁ?何を言ってる!」

 

ス「人と天族が一緒に旅してるなのなんて、オレたちだけだと思ってたからさ。なんだか嬉しくて」

 

ミ「何を言っているんだ、暗殺者に対して――うが」

 

エ「ミボは大人しく見てる」

 

ラ「ここはスレイさんに任せましょう」

 

ロ「それで?」

 

ス「ロゼとデゼルに昔何があったのか、オレには分からない。でも、それでも殺す事が救いになるなんて間違っていると思う」

 

デ「甘ったれるな!そんな事じゃあいつを仕留められな――」

 

ス「確かに今のオレでは浄化することは出来ないかもしれない。でも少しずつ力をつけつつあるんだ。きっとこの世界の穢れすべてを祓うことが出来る。人間も天族も、そして憑魔も救えると思うんだ」

 

ロ「この世界の穢れすべてを祓う?憑魔を救う?どうやってだ?」

 

ス「アリーシャにケイン、ミクリオ、ライラ、エドナ。みんなの力を借りる。もちろんロゼとデゼルも、だ」

 

デ「俺たちも、だと」

 

ス「そうだ。もちろん、二人に殺しなんてもうさせない。オレはロゼとデゼルも救いたいんだ」

 

ラ「スレイさん……」

 

ス「だから、力を貸してくれ、ロゼ、デゼル。オレ一人では無理なんだ。協力してほしい」

 

ミ「スレイ、それって……」

 

ス「ロゼとデゼルに従士と陪神になってほしいんだ」

 

エ「これはまた」

 

ケ「予想の斜め上をいったね」

 

ア「スレイらしい真っ直ぐな答えだ」

 

ロ「……話はそれだけ?」

 

ス「うん」

 

ロ「スレイの気持ちはよく分かった。でも、これはあたし達が選んだ道なんだ。今まで多くの憑魔を殺してきた。……今更後戻りはできないよ」

 

ス「でも今でもまだ間にあ――」

 

ロ「これはあたし達の問題。口出し無用!」

 

デ「そうだ、俺たちが決着をつけなくちゃいけないんだ。じゃないとあいつに顔向けできない……」

 

ロ「……スレイ、一応お礼言っとく。ありがとう。……違う形で出会えてたら、あたしたち、友達になれたのかもね」

 

ス「ロゼ……」

 

ロ「さよなら」

 

ロゼとデゼル消える。

 

ア「スレイ、追いかけなくていいのか?」

 

ス「オレの気持ちは伝えた。無理強いは出来ないよ」

 

ワ「導師の旅路はあまりにも苦難が多い。それがまた宿命か」

 

ラ「お久しぶりでございます、導師ワーデル」

 

ワ「久しいな。ライラよ」

 

ケ「導師って……この天族が?」

 

ワ「もう数百年も前のことだ」

 

ミ「……エクセオと同じと言うわけか」

 

ス「ワーデルさん、ロゼとデゼルに秘力は……」

 

ワ「授けておらぬよ。困難に立ち向かい、懸命に生きているのは伝わったのだが。惜しい存在だ」

 

ス「二人がもし殺しじゃなくて救いを求めたら……」

 

ワ「その時はまた考え直そう」

 

ス「オレ、絶対二人をここに連れてきます」

 

ワ「うぬ。その時を待っているぞ」

 

エ「いいの?相手は暗殺者なのよ」

 

ミ「僕も反対だ。信用ならない」

 

ス「エドナ、ミクリオ……」

 

ケ「ボクは仲間に入れても悪くないと思う。言っとくけど、スレイくんの考えとは別の意味でね。このまま牢に入れても、天族を味方についている以上、脱獄は容易だ。不審な動きをした時、身近にいたほうが対処しやすい」

 

ラ「私はスレイさんの意見を尊重しますわ。ロゼさんも根はいい人だと思いますし」

 

ス「アリーシャは?」

 

ア「私は……、どんな理由であれ、風の骨がやったことは許されない。将来的には罪を償ってもらいたい」

 

ス「それはそうだけど……」

 

ア「私としてもロゼを救いたい、しかし……」

 

エ「アリーシャの立場上、そうも言ってられないわね」

 

ア「はい」

 

ケ「ここに留まっていても仕方がない。一度ペンドラゴに戻ろう」

 

ラ「これからどうするか、ゆっくり考えましょう」

 

ス「うん」

 




こんにちは、作者です。第十九話です。デゼルが数年抱いていた復讐心は、ただのサイモンへの当てつけだったという、なんとも拍子抜けな展開に開いた口が塞がらない状態だった2015年冬。当作を書くに当たって、何回か周回プレイもしましたが、未だに風の傭兵団云々の例の事件のことは理解できません。なんとか、こういうことなのかな、と脳内補完しまくって殆ど原型が残らなかった回想編。楽しんでいただいたら幸いです。ではまた、第二十話で会いましょう。


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第二十話 復讐のはてに

復讐の時間


グレイブガント盆地 ローランス陣営

ローランス兵「荷は確認した。さすがセキレイの羽、いい品だ。次も頼みたいが……」

 

フィル「申し訳ないけど、別の仕事が入ってて。またの機会にお願いします」

 

ロ「フィル、トル」

 

トル「ロゼ!」

 

ロ「約束の時間になっても待ち合わせ場所に戻ってこないから探しにきたよ。仕事?」

 

フ「そう。ちょっと手間取っちゃったけど、ローランス陣営への物資の運び入れ、無事完了したよ」

 

ロ「ご苦労様。それで例の件は?収穫あった?」

 

ト「うん。実は――」

 

フ「トル」

 

ト「……っと、ここじゃあマズイね」

 

フ「とにかくこっちへ」

 

ロ「了解」

 

 

 

セキレイの羽、風の骨のアジト(ティンタジェル遺跡)

ト「ローランス秘書官が接触してきた。仕事の依頼があるらしい」

 

デ「何だと?」

 

ロ「秘書官って皇帝付きの執事?」

 

フ「うん。それに気になる情報も入ってきたよ。妃殿下が病没した弟の子を自分の養子として迎えようとしているらしいって」

 

ロ「……たしか今のローランス皇帝は、前皇帝と別の女性の子だよね」

 

ト「そして妃殿下は、あの事件で自分の子と共謀して帝位を自分の直系に継がせようとした。秘書官はそれを忘れてはいないだろうね」

 

デ「ローランスのバックにはサイモンがいる。またあいつの仕業に違いない」

 

ロ「いいわ。あたしが処理する」

 

フ「受けるの?私たちの仇敵と言えるヤツからの依頼を、これはきっと罠よ」

 

ロ「忘れないで。あたし達の目的は復讐。そのためにどんな方法だって使ってきた。リスクを負わなきゃ団長の仇は取れない」

 

ト「頭領……」

 

フ「わかった。依頼を受けよう。依頼人とどう接触しようか?」

 

ロ「ペンドラゴの城に忍び込むよ」

 

ト「本気かい!?」

 

ロ「呼び出したって本当の依頼主はこないでしょ。代理人じゃ意味がない。奇襲をかけるんだ」

 

フ「わかった。城に行くならみんなを呼ばないと……」

 

ロ「……トル、フィル。二人は通常通りセキレイの羽の仕事を続けながら情報収集。この件はあたしとデゼルだけで行くよ」

 

ト「でも、頭領!」

 

ロ「表の仕事がちゃんと出来なきゃ、裏の仕事も上手くいかない。ハイランド、ローランス共に良好な関係を保つためにも大切な仕事。そんな大役を任せらるのは二人だけなんだ。お願い」

 

フ「……わかった。気を付けて、頭領」

 

二人が去る

 

デ「優しいんだな」

 

ロ「何が?」

 

デ「感じているんだろう?これから相手するやつのヤバさを。だから二人をペンドラゴから離れさせた」

 

ロ「相手はあのサイモンだ。あいつに対抗できるのはあたし達だけ」

 

デ「ああ。必ずあいつを地獄へ落としてやる!」

 

 

 

凱旋草海

ス「…………」

 

ア「スレイ、風の試練神殿を出てからずっとあんな感じだな」

 

ケ「おそらくロゼさんの事だろうね。言いたいことは伝えた。それでも彼女は復讐を止めない。万策尽きたといったところか」

 

ア「そんな、他人事みたいに!」

 

ケ「こういう時ほど冷静にならなくちゃならない。冷静にならなくちゃ、……やってられないんだ」

 

ア「ケイン……」

 

ラ「スレイさんは今すごく悩んでいますわ。現実から目を背けずに」

 

ミ「声をかけてやりたいが、なんて言えばいいか」

 

エ「なんだかチャラい匂いがするわ」

 

ラ「チャラい、ですか?」

 

ア「匂いなんてしませんが……」

 

ミ「そもそもチャラい匂いってなんなんだ」

 

ザビーダ「やっと来たか。待ちくだびれちゃったぜ」

 

ス「ザビーダ!」

 

ケ「ああ、なるほど。エドナちゃんの嗅覚も侮れないわね」

 

エ「今回ばかりは外れて欲しかったわ」

 

ミ「偶然……ってかんじじゃないね」

 

ザ「時間が惜しい。単調直入に言う。ロゼとデゼルが、今まさに復讐を実行しようとしている」

 

ス「なんだって!」

 

ザ「場所はペンドラゴ。行くなら急いだ方がいいぜ」

 

ケ「キミはボクらの敵じゃないのか。いいのかい、そんな情報を伝えて」

 

ザ「だから言ったろ。基本俺は誰とでもフレンドリーなの。で、どうするの?導師殿」

 

ス「ロゼとデゼルを止める。そして穢れを浄化する」

 

ラ「行きましょう。ロゼさんとデゼルさんが再びあの天族と会い見えたら、憎しみと怒りが抑えきれず、今度こそ憑魔になってしまうでしょう」

 

エ「今でも憑魔予備軍なんだから時間の問題ね」

 

ア「急ぎましょう」

 

ザ「ちょっと待った!俺も連れて行きな」

 

ミ「は?」

 

エ「どういう風の吹き回し?ふざけてるの?」

 

ザ「ふざけてないぜ。特に今回はな。どうせ目的は一緒なんだ。ここは手を組もうぜ」

 

ス「ダメって言っても勝手についてくるつもりだろ?」

 

ザ「もちろん」

 

ス「わかった。一緒に行こう」

 

ザ「そうと決まればさっさと行こうぜ」

 

ス「ロゼ、デゼル、無事でいてくれ」

 

 

 

ペンドラゴに入る

エ「やっと着いた」

 

ザ「すっかり遅くなっちまった。もう真夜中だぜ」

 

ミ「しかし、なんだこの異様な雰囲気は……」

 

ラ「強い領域を感じます。枢機卿の時と同じものです」

 

ケ「ということは、二人の仇だって言うサイモンと名乗る天族が動き出しているってことか」

 

ス「加護天族は戻っているのに、穢れがこんなに……」

 

ラ「それほど大きな穢れということなのでしょう。間違いなく災禍の顕主の配下の者ですわ」

 

ア「ライラ様、あそこ……」

 

ロゼとデゼルが戦っている

 

ス「ロゼ!」

 

ロ「スレイ!なぜここに!」

 

ルナール「くっくっく、よそ見している場合かなあ」

 

デ「ちい」

 

ス「ルナール!ってことは……」

 

ミ「やっぱりこいつも災禍の顕主と繋がっていたか」

 

ル「これはこれは導師様。相変わらず美味しそうだなあ」

 

ロ「ルナール、今日という今日はけじめをつけてやる」

 

ル「けじめ?ああ、あのクソみたいなギルドの掟か。誰があんなものに従うか」

 

デ「ふざけるな!風の傭兵団に、プラドに拾われた恩義を忘れたのか!」

 

ル「おお、怖い。いい目だなぁ!」

 

ロ「もはや会話は必要ない。やるしかないんだ、あたしが」

 

デ「今てめえにかける時間はない!速攻ケリつけてやるからとっとと来い!」

 

ス「やめろ!ロゼ!デゼル!」

 

ル「はっはぁ。いいねぇ。怒りと憎悪で溢れている!」

 

ル「やっぱり喰いたくてしょうがない!」

 

ア『フォエス=メイマ』

 

ア「ライラ様、浄化を!」

 

ラ「この者は自らの発する穢れが強すぎる……」

 

ミ「それじゃ、枢機卿の時と同じだっていうのか?」

 

ス「……くっ!」

 

ザ「やっぱり導師でもダメなのか。ここは俺が……」

 

領域がさらに強くなり、穢れがさらに多くなる。

 

ケ「なんだ?この感覚……」

 

エ「領域がさらに強くなった」

 

ミ「気をつけろ……まだ何かいる!」

 

サイモン「余計なことはしないでもらおうか」

 

サイモン、姿は現さず、声だけが響く。

 

デ「この声は……!」

 

ロ「サイモン!」

 

ル「うるさい!俺の邪魔しようってか?」

 

サ「キツネ。おまえの役目は彼らを誘う事であろう。余計なマネをしてあの方の怒りを買ったらどうしてくれる!」

 

ル「うっ」

 

ルナール、逃げる

 

ロ「待て!」

 

デ「サイモン、どこにいやがる!出て来い!」

 

ザ「ロゼ、デゼル、先走るな!おい」

 

ロゼ、デゼル、ザビーダ、街の内部に

 

ス「オレたちも――」

 

サ「……導師がこんなに早く来るとは予定外であったが利用させて貰おう」

 

ルナールがいっぱい出てくる

 

ス「わ!なんだこれ!」

 

ア「キツネ目がいっぱい……」

 

ラ「こんな術見たことないですわ」

 

エ「詮索は後よ。さっさと片づけるわ、ケイン」

 

ケ「了解」

 

『ハクディム=ユーバ』

 

エ「道を開けよ。晶石点睛!クリスタルタワー!」

 

神威ケイン、ルナールを蹴散らす

 

ミ「やったか……」

 

ケ「いやまだだ」

 

起き上がるルナール

 

ア「全然効いていない!?」

 

ケ「今の攻撃を受けても立ち上がってくる。異様に防御が固いのか、もしくは回復能力か。どちらにしても厄介な相手だね」

 

エ「ここはわたし達だけで十分。先へ行きなさい」

 

ラ「ですが……」

 

ケ「この大量のルナールの目的はおそらく時間稼ぎ。ならわざわざそれに付き合う必要はない。ボクたちが敵を食い止める。はやくロゼさんの所へ行け」

 

ス「エドナ、ケイン……」

 

ケ「ボク達なら大丈夫さ。片づけ次第すぐに行く。気をつけて」

 

ス「……わかった。ありがとう。ここは任せる」

 

ア「恩にきる」

 

ラ「行きましょう」

 

ミ「ああ。二人とも頼んだよ」

 

ケ「頼まれました」

 

スレイ、アリーシャ、ミクリオ、ライラ、ロゼを追いかける。

 

エ「で、対抗策はあるの?」

 

ケ「それはこっちの台詞さ。あるから足止め役を引き受けたんでしょ、エドナちゃん?」

 

エ「そんなものないわ。そういうの考えるのはあなたの仕事よ」

 

ケ「仕方ない、色々試してみるしかないか。エドナちゃんも一緒に考えてくれよ」

 

エ「足引っ張んるんじゃないわよ」

 

ケ「そっちこそね」

 

 

 

ロ「ルナール……」

 

デ「遊んでんじゃねえ!出て来い!」

 

サ「ふっふっふ。そう急ぐな。前座を楽しめ」

 

デ「ざけやがって!」

 

 

 

ミ「ライラ、気付いている?」

 

ラ「はい。この領域は穢れを持っていませんわ」

 

ス「前会った時もライラがサイモンは憑魔じゃないって言っていたけど……どうなってるんだ」

 

ラ「すみません。さっきの術といい、災禍の顕主の配下でありながら憑魔と化さない点といい、あの天族の事は分からないところばかりです」

 

ア「ライラ様でも分からない存在か……」

 

ス「ロゼとデゼルが危ない。急ごう!」

 

 

 

ロゼ、デゼル、ルナールに追いつく

ロ「ルナール!」

 

ル「ひぃ!」

 

デ「ちょこまか逃げ回りやがって……。もう逃がさねえぞ。サイモンはどこだ!?」

 

サ「吼えるなあ。私ならここにいる」

 

サイモン、姿を現す。

 

ロ「サイモン!」

 

サ「キツネ、ご苦労だった。今度は私の番だ。下がれ」

 

ル「ちっ」

 

ルナール、消える

 

サ「前座にしては有意義だった。娘よ。なかなか良い怒りだった。それが憎悪として芽吹けばあの方も喜ばれよう」

 

デ「待ちわびた……!」

 

サ「機は熟したろう?お互いにな」

 

ザ「待て、デゼル!こいつは憑魔じゃない!」

 

ロ「この日をずっと待ちわびてきたんだ。あの日からずっと……」

 

デ「てめえの命もここまでだ。ダチを憑魔にし、風の傭兵団を貶めたおまえは絶対殺す!」

 

ロゼ、デゼル、穢れが噴き出す

 

ザ「ちっ、また穢れが噴き出しやがった」

 

サ「いい。実にいい!最高のお膳立てではないか!」

 

サ「そして、この舞台の主役の登場だ」

 

ス「デゼル!ロゼ!やめるんだ!」

 

デ「うるさい!俺はこの時のためだけに生きてきた!」

 

サ「我が憎いのだろう。もっと怒れ、恨め、そしてその業に苦しめ」

 

ラ「挑発に乗ってはいけません。これは罠です」

 

ロ「なんだっていい。団長の仇がここにいる。理由はそれだけでいい」

 

デ「そうだ!貴様への復讐!そのために俺は全てをなげうつ!」

 

ア「二人を止めましょう」

 

ミ「同意だ!嫌な予感しかしない!」

 

ザ「待て。ここは俺が――」

 

サ「させぬよ」

 

サイモン、憑魔を出現させる。一行、サイモンが憑魔になったと勘違いする。

 

ラ「突然憑魔に!?なぜ……」

 

デ「やっと正体を現しやがったな!」

 

ロ「二人で挟み撃ちだ、デゼル!」

 

デ「おう」

 

ス「やめろ」

 

サ「貴様の相手はこっちだ」

 

ス「おまえ?どうして」

 

ア「スレイ!ロゼとデゼル様が……」

 

ス「わかってる!」

 

サ「ふっふっふ……」

 

サイモン、分身を出現させる。

 

ミ「今度はサイモンが増えた!?一体これはなんなんだ」

 

サ「私は他者の感覚に作用し、惑わすことが出来る」

 

ラ「では突然憑魔になったように見えたのも……」

 

サ「察しの通り、あの憑魔は本物だがな」

 

ザ「敵が多すぎる。これじゃあ、援護に回れねえ」

 

ア「私とライラ様が相手をします。スレイとミクリオ様は二人の元へ」

 

ス「わかった」

 

『フォエス=メイマ』

 

ラ「アリーシャさん、行きますよ」

 

ア「炎壁、推現!カラミティフレア!」

 

何体か消える

 

ア「やったか」

 

ラ「アリーシャさん、後ろ!」

 

ア「えっ」

 

ザ「くらえ!」

 

アリーシャの背後から強襲しようとした分身サイモンを、ザビーダが倒す。

 

ラ「ザビーダさん」

 

ザ「ぼさっとするな、まだまだ来るぞ」

 

ア「はい」

 

デ「絶対殺す!それこそが俺の存在理由!」

 

サ「よくこれ程に自己肯定の幻に溺れたものだ……」

 

デ「何を言ってやがる!」

 

サ「なんとも憐れだ。理解はできるがな」

 

サ「憑魔を殺したあと、その穢れがどうなるのか……」

 

サ「それでも思惑通りの術で復讐を成し遂げると?」

 

デ「うるせえ!」

 

ロ「はっ!薙鎌!刺宴!刺宴乱牙!」

 

憑魔、のけぞる。

 

ロ「ひるんだ!デゼルとどめを!」

 

ス「デゼル、やめるんだ!」

 

デ「そうはいくか!こいつはぶっ殺すんだ」

 

ミ「デゼル!」

 

サ「おっと、最後までやらせてやりたまえ」

 

ス「おまえは何が狙いなんだ!」

 

サ「導師、貴様は知るべきなのだ」

 

ス「何?」

 

サ「見せてやろう。『彼』という天族の業を……」

 

サ「彼は自分の力で正しく加護を与えていたにすぎない。だが天族の加護とは人にとって幸であるとは限らない」

 

デ「やっとだ!やっと貴様を殺せる!」

 

デ「死ねえ!」

 

憑魔に友人の顔が映しだされて、デゼルの手が止まる

 

デ「ラファーガ……」

 

サ「ほら、隙だらけだぞ」

 

デゼル、憑魔に体を貫かれる

 

デ「ぐわああああ」

 

ロ「デゼル!」

 

ラ「デゼルさん!」

 

ロ「このー!」

 

サ「その程度の攻撃、効かぬよ!」

 

ロ「うっ」

 

サ「お前もただの人の子。天族の力を借りなければただの無力なガキだ」

 

憑魔、穢れを発しながらロゼを体内に取り込む

 

ラ「いけません!このままではロゼさんが憑魔に……」

 

ス「ロゼ!デゼル!」

 

ス「どけぇー!!」

 

『ルズローシヴ=レレイ』

 

スレイ、相手にしている敵を一閃

 

サ「くっふっふ。さぁ、ここからだ導師。括目するのだな」

 

ス「やめろ!」

 

デ「ロ……ゼ……」

 

ア「デゼル様!……ひどいケガ……」

 

ラ「今回復を……」

 

ミ「デゼル!ここを動くな。いいね!」

 

 

 

ス「こいつ!」

 

ザ「スレイ、止めろ!」

 

ザ「ロゼのあの負傷!たとえ穢れを浄化しても負荷に耐える体力は残っていない」

 

ミ「しかし、このままだとロゼは完全に憑魔に……」

 

ス「あの怪我じゃその前に命が尽きてしまうわ」

 

サ「導師は時に決断を迫られる……そうだろう?決めたまえよ。憐れな道化の命も尽きるぞ?」

 

ラ「お黙りなさい!!」

 

ケイン、エドナ、合流。

 

ケ「これは……」

 

エ「この穢れ……何が起こっているの?」

 

デ「スレイ、いったん下がれ!俺に策がある!」

 

ラ「デゼルさん!?」

 

ス「わかった」

 

エ「ケイン」

 

ケ「ああ。ボク達が時間を稼ぐ。早くデゼル様の元へ」

 

ミ「恩にきる」

 

エドナが結界を張って時間稼ぎ。スレイとミクリオがデゼルのもとへ

 

サ「自棄を起こす事だけはやめてくれ、導師よ!それではせっかくここまで整った舞台が台無しだ」

 

デ「……スレイ、聞け」

 

ザ「傷が深い」

 

ラ「回復が間に合いません!」

 

ア「デゼル様、無理して話さないでください。これ以上は命にかかわります」

 

ザ「デゼル……」

 

デ「いいから聞け……憑魔と……ロゼの結びつきだけを……破壊するんだ」

 

ラ「たとえ導師であっても、そんな奇跡のようなこと……」

 

ス「できるわけがない……」

 

デ「……ザビーダ……アレを貸せ」

 

ザ「アレ?ジークフリートのことか」

 

デ「これは力を撃ち出すもんなんだろう?俺がその力になる。俺自身を攻撃として撃ち出せ」

 

ス「なんだって?」

 

ミ「いくらジークフリートでも、その怪我では耐え切れない!それはただの特攻だ!」

 

デ「……この一撃に俺のすべての天響術を込める。俺の残りの力を振り絞って、スレイの浄化の力を合わせれば、きっと取り込まれずに繋がりだけをぶっ潰せる」

 

ア「しかし、それではデゼル様が……」

 

デ「……俺にもロゼにももう時間はない……わかるだろう。スレイ、頼む」

 

ス「デゼル……」

 

ザ「本当にそれでいいんだな」

 

デ「ああ、俺はロゼを助けたい」

 

ザ「……わかった。スレイ、これには天響術を集めてできた弾丸が一発だけ残っている。それも使え」

 

ス「いいのか」

 

ザビーダ、頷く

 

デ「恩にきる。ザビーダ、スレイ、一つ頼まれてくれないか……」

 

ザ「なんだ?」

 

デ「ロゼを頼む……」

 

デゼルがジークフリートで己の頭を撃つ

 

ス「デゼル!」

 

デ「頼むぜ……しくじるなよ!」

 

スレイ、ジークフリートを構え、憑魔に向かって、デゼルを放つ。

 

ス「うわぁぁ!」

 

銃声。弾は憑魔を貫く。

 

 

 

ロゼとデゼルの二人だけの世界 この世ではないどこか

デ「ロゼ!ロゼ!」

 

ロ「う、ううん」

 

デ「よかった。無事か!」

 

ロ「で、デゼル!?」

 

デ「良かった!良かった!」

 

ロ「きゅ、急にどうしたの。確かあたしは憑魔に飲み込まれて……。そうだ、サイモンは!あいつはどこ行った!?」

 

デ「ロゼ、もういいんだ!俺はもうお前が傷つくところを見たくない!」

 

ロ「デゼル、何を言って……」

 

デ「俺はもうダメみたいだ。これからは側にいられない……」

 

ロ「えっ、ウソ、だよね……」

 

デ「お前も見ただろ?腹を貫かれた。おまけに天響術を振り絞って穢れを祓った。もう長くはもたない」

 

ロ「そんな……」

 

デ「ロゼ……。オレは謝らなきゃならん。俺のせいでおまえを……、おまえたちを暗殺者にしてしまった」

 

ロ「そんなの、デゼルのせいじゃないよ」

 

デ「ずっと考えていた。もしあの時、俺がロゼに声をかけなかったら、ロゼがこんなに苦しむことがなかったんじゃないかって……」

 

ロ「そんなことない!五年前のあの出来事で、あたし達はバラバラになってもおかしくなかったのに、風の骨、セキレイの羽としてまた一緒に旅ができた。嬉しかった。感謝してるよ、あたしは」

 

デ「ロゼ……」

 

ロ「苦しかった時、辛かった時、ずっとデゼルがいてくれた。デゼルがいたから、デゼルが抜け殻になっていたあたしを励ましてくれたから、今こうして生きているんだよ。あんたがいなくなったら、これからどうすれば……」

 

デ「大丈夫だ。おまえに風の傭兵団の家族がいる。一人じゃない」

 

デ「……俺は半端もんだ。結局、何も碌にできなかった。けど、たったひとつだけ。ちゃんと出来たよ。そのたったひとつをやり遂げられた事が本当に嬉しい」

 

デ「俺も……感謝してる。サンキュな」

 

ロ「デゼル、あたしは……」

 

デ「俺の代わりに復讐を、とは言わない。これからはおまえの自由だ。やりたいことがあるんだろ?なら思いっきりやって、なし遂げればいい。暗殺なんてしなくていい。復讐なんかに囚われなくてもいい。ありのままのロゼで生きいけばいいんだ」

 

ロ「あたしのやりたいこと……」

 

デ「おっと、もう時間みたいだ。スレイたちにもよろしく伝えといてくれ」

 

ロ「待って!結局あたしはデゼルに何も返せてない。まだ何も……」

 

デ「そんなもの、とっくにもらったよ。……俺を家族と呼んでくれて、ありがとう。……それだけで充分だ」

 

ロ「デゼル……。今まで守ってくれてありがとう」

 

デ「じゃあな。そのままでガンバレよ」

 

 

 

ス「ロゼ!」

 

ロ「……スレイ……」

 

ラ「良かった……」

 

ロ「デゼルは!?」

 

ア「それは……」

 

ス「デゼルはロゼを助けて、それで――」

 

ロ「そっか……」

 

ザ「ほらこれ」

 

ロ「デゼルの帽子……」

 

ス「ごめん。オレ、二人を助けるって言ったのに……」

 

ロ「スレイは悪くないよ……。あいつだって……、言ってた。スレイに感謝してるって」

 

ス「デゼルが……」

 

ロ「だから……ありがとう、スレイ、デゼル……」

 

気を失うロゼ

 

ス「ロゼ!」

 

ミ「大丈夫、気を失っただけだ」

 

ザ「穢れも感じない。浄化が上手くいったみたいだな。さすが導師、お前の力を見くびっていたぜ。……あいつの覚悟もな」

 

エ「とりあえず一安心ね」

 

サ「なぜだ……なぜ彼が人に受け入れられる……。ありえない……こんなことはあり得ない!」

 

ア「まだやる気か!」

 

サ「彼は疫病神だ。加護を与えれば与えるほど人を不幸にする害悪。……存在価値のない存在」

 

サ「疫病神が人間に感謝される?ありえない!私たちは闇の中で生きていくしかないのだ……」

 

ス「サイモン……」

 

サ「なぁ、導師。彼の死をどう思う?彼のように、人に惹かれるほど……、加護を与えれば与えるほど人を不幸にする天族は存在してはならないのだろうか。彼の存在自体が悪で滅されるべきなのだろうか」

 

ス「そんなワケない!」

 

サ「ならどうすればいいというのだ!私や彼のような疫病神は何を生きる糧にすればよいのか!穢れを消すことがお前たちの正義なら穢れを生みだす我らは悪であろう。なぜ彼の死を悔やむ」

 

ル「おい、何をしてやがる!ここは一旦引くぞ!」

 

サ「キツネ」

 

ル「ヘルダルフの期待を裏切る気か!」

 

サ「ヘルダルフ様……。あのお方はこんな私の手をとってくれた。主のお役に立つのが私の存在理由」

 

ルナール、サイモン消える

 

ス「待て!」

 

ケ「深追いはよせ、スレイくん」

 

ラ「ロゼさんを宿屋で休ませるのが先です」

 

ミ「スレイ、気持ちはわかるが……」

 

ス「わかった。ロゼを宿屋に運ぼう」

 

ザ「……デゼル、お前の気持ちは伝わった……。無駄死にさせないぜ」

 

ザビーダ、帽子を拾い上げる。

 




こんにちは、作者です。第二十話です。色々迷った結果、デゼル死亡ルートを選択しました。デゼルが生存し、ロゼと共に改心。導師と共に穢れなき世界を目指すというルートも確かにあったと思います。しかし、そのルートでは改心をうまく描く事出来ませんでした。穢れに対する方法は殺ししかないと思い込んでいる二人は、導師スレイとは真逆の存在。おいそれと仲間になる図がどうしても頭に浮かばなかった。改心には劇薬が必要。そう判断してこのルートを選びました。デゼルが生存した世界を描けなかった私の力量不足をひしひしと痛感していますが、せめてもの報いとして、ロゼとデゼル、二人にとってもハッピーエンドな作品を目指していこうと思います。長々と失礼しました。ではまた、第二十一話で会いましょう。


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第二十一話 ロゼの決意

サイモンとの戦いで命を落としたデゼル。失意の中、皆、想い想いの夜を過ごす。


ペンドラゴ

ス「ミクリオ、ロゼは……」

 

ミ「今は宿屋でぐっすり。一晩ゆっくり休めば元気になるだろう」

 

ス「そうか」

 

ミ「みんなにも明日の朝ここに集合と伝えておいた。たまには一人になるのもいいだろうしな」

 

ミ「……デゼルの死も、彼の業もあのサイモンの言葉も、災禍の顕主を鎮めるために導師は受け入れなくてはならないだろうが」

 

ス「うまく気持ちがまとまらないよ」

 

ミ「嫌ならやめればいい」

 

ス「ミクリオ!」

 

ミ「最後まで聞いてくれ」

 

ミ「導師の使命や宿命などに押しつぶされるぐらいなら……いつでもやめればいい、少なからずそう思ってた。昨日まではな。でも今は違う」

 

ス「……デゼルのためにも、答えを見つけ出したい」

 

ミ「そうだ。彼に報いるとかそんなのじゃない。ただ知りたい。もう同じ事は繰り返さないために。だからもう、やめてもいいなんて思ってない」

 

ス「きっと答えを見つけ出さないとな」

 

ミ「ああ。導師の使命だからじゃない。僕たちの旅は僕たちのものだ」

 

ス「そうだな。ありが――」

 

ミ「礼は不要だ。僕の事を話しただけだからな」

 

ス「サンキュ。ミクリオ」

 

ミ「……スレイ、あまり気に病むなよ」

 

ス「うん……」

 

ミ「じゃ、僕もちょっとぶらついてくる」

 

 

 

ス「ケイン、何してるんだ?」

 

ケ「現場検証。サイモンとルナールの何か手がかりが残っているかもしれないかもと思って探しに来たんだ」

 

ス「オレも手伝おうか?」

 

ケ「ありがとう。でもあらかた調べたしもう宿屋に戻ろうと思っていたんだ。結局無駄足だったよ」

 

ス「ケイン、ロゼのことだけど……」

 

ケ「わかっている。いきなり騎士団に突き出したりはしないよ。……アリーシャ姫がどう思っているかは分からないけど」

 

ス「よかった。てっきりケインはロゼの事嫌っていると思っていたから」

 

ケ「正直、暗殺ギルドは嫌いだよ。風の骨も罪を償うべきだと思っている。でも今はロゼさんの精神状態が心配だ」

 

ス「ケイン……」

 

ケ「風の骨の頭領はどんな人物かはイマイチ掴みかねているが、セキレイの羽の看板娘のロゼさんの事はよく知っている。本当のロゼさんがどちらなのか見極める必要がある」

 

ス「大事なのはこれから、だな」

 

ケ「うん。問題はロゼさんがこれからどうしたいのか。行動次第ではボクらは彼女を止めなくてはならない」

 

ス「そうならないようにオレ達がしっかりフォローしないとな」

 

ケ「スレイくんならやれるさ。ありのままの気持ちをぶつかれば、きっと」

 

ケ「ボクはもう休むよ。スレイくんは?」

 

ス「みんなと話してからにするよ」

 

ケ「そう。じゃあ、お先に。おやすみなさい」

 

ス「おやすみ」

 

 

 

ス「ライラ。何してるの?」

 

ラ「これですか?」

 

ライラ、自作の鶴をスレイに見せる。

 

ス「すごい!どうなってるんだこれ」

 

ラ「こうやって紙細工を作ってると落ち着くんですの。余計な事を考えなくなって、どんどん自分の世界に入っていって……」

 

ス「へぇ~」

 

ラ「……スレイさん、一人で抱え込まないでくださいね」

 

ス「……今回のは抱え込んでなくても辛いな。ホントにああするしかなかったのかとか、風の試練神殿で無理やりにでも二人を止めるべきだったんじゃないかとか、オレにもっと力があればとか、色々考えちゃうよ」

 

ラ「スレイさん、反省するのはいい事です。ですが、後悔はダメですわよ」

 

ス「ライラ?」

 

ラ「人の習慣に、亡くなった方への追悼の意を込めた紙の舟を河に流すというのがあるんですって。デゼルさんは風の天族でしたから、風に舞う鳥が良いんじゃないかって思ったんですの」

 

ラ「さぁ、スレイさん。送りましょう」

 

鶴を風に乗せて流す。

 

ス「……きっと届いたよな」

 

ス「ライラ」

 

ラ「はい?」

 

ス「ありがとう。けど、ライラも一人で抱え込んじゃダメだよ」

 

ラ「私は大丈夫!心配ご無用ですわ」

 

ラ「私はもうしばらくここにいます。風が気持ちいいですし」

 

ス「そっか。じゃあオレ先に戻るよ」

 

ラ「はい」

 

スレイ去る

 

ラ「スレイさんに心配されるなんて……私もまだまだですわね」

 

 

 

ス「エドナ」

 

エ「スレイ、まだ起きていたのね」

 

ス「そっちこそ」

 

エ「……あの不思議ちゃん。自分は業を背負うものだって言ってたわね」

 

ス「ああ。導師は悲しい業を背負った天族の事を知る必要があるとも言ってた」

 

エ「人にとって存在しているだけで悪という者。死を解放と言うこともあるわ。そこに居るだけで望まない結果を導くものにとって死は――」

 

ス「エドナ!それ以上は言わせない!」

 

エ「……バカね。デゼルの事じゃないわ」

 

ス「お兄さんの事でもダメだ。言っちゃ」

 

エ「言ったとしても、そんなのただの言葉じゃない。それも何度も耳にしたでしょ。ジークフリードを使ったとしてもお兄ちゃんの肉体が耐えきれるかどうか――」

 

ス「それでもイヤなんだ。今、聞きたくない」

 

エ「……そう」

 

エ「……じゃ、話は終わりね」

 

ス「うん……」

 

エ「スレイ」

 

エ「言いたかったのはデゼルは救われてたんじゃないかって事」

 

エ「さっきのはワタシが悪い。謝る。ごめん」

 

ス「ありがと。エドナ」

 

エ「どういたしまして」

 

 

 

ザ「よぉ……導師殿」

 

ス「ザビーダ」

 

ス「これ返すよ。さっきは貸してくれてありがとう」

 

ジークフリートを返す

 

ザ「いいのか?これが必要なんだろ?」

 

ス「これは借りた物。借りた物は返さなきゃ。ホントの事言うとザビーダにも協力して欲し

いんだけど」

 

ザ「律儀だね~、導師殿は」

 

ス「……ザビーダ、デゼルの事知ってたんだな」

 

ザ「まぁな……あいつがもっとガキの時に当時の仲間と助けてやった事があったんだよ」

 

ス「じゃあデゼルとザビーダの戦い方が似てるのは……」

 

ザ「そ。あいつが真似してたってわけ。なのに全然俺に気付かないでやんの。色々かなぐり捨てたんだろうよ」

 

ス「……」

 

ザ「捨てられたんなら捨てやいいってな。あんたらはちゃんと拾ったんじゃね?」

 

ス「ザビーダ。慰めてくれてるのか?」

 

ザ「おうよ。お前は中々見込みがあるからな。穢れられたらたまったもんじゃない」

 

ス「ありがとう、ザビーダ」

 

ザ「俺も覚悟を決めないとな」

 

ス「えっ」

 

ザ「ただの独り言。んじゃあ、明日な!導師殿。良い子はもう寝る時間だぜ」

 

ス「ちょっと、ザビーダ。ホントつかみどころがないヤツだな」

 

ス「宿に戻ってロゼの様子を見てくるか」

 

 

 

ア「スレイ」

 

ス「ロゼの容体は?」

 

ア「一晩休めば良くなるだろうとの事だ」

 

ス「そっか。ずっとロゼの側にいてくれたんだ。ありがとう」

 

ア「礼はよしてくれ。ライラ様たちとは違い、天響術が使えない私には出来る事が限られている。せめて側にいようと思っただけだ」

 

ス「その気持ちだけでもロゼに伝わっていると思う」

 

ア「そうだといいのだが」

 

ア「……スレイ」

 

ス「うん?」

 

ア「これからロゼをどうするんだ?」

 

ス「あんな事があったばっかなんだ。セキレイの羽のみんなに引き取ってもらってゆっくり休養を取ったほうがいいと思う」

 

ア「スレイは以前、ロゼに従士になってほしいと言っていた。あの時の気持ちは変わっていないのか?」

 

ス「ロゼが一緒のほうが安心だけど、今の状態のロゼを連れてはいけないよ」

 

ア「それでもまだロゼが復讐を行うのなら――」

 

ス「行うのなら?」

 

ア「逮捕せざる負えないのだろう。暗殺やテロ行為はハイランドでもローランスでも重罪とされている。法に則って処罰しなければならない。しかし――」

 

ス「迷いがあるんだよね」

 

ア「皆の前から黙って去った私を、スレイやライラ様達は快く受け入れてくれた。ゴドジンで再会したときも、マルトラン師匠が憑魔だとわかって落ち込んでいるときも、スレイのおかげで立ち直ることが出来た。皆がいなかったら今頃私も憑魔になっていたかもしれない……」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「今度は私が誰かを支える番だ。ロゼは大切な人を失って今一人で苦しんでいると思う。また殺しを行わないためにも近くで見守っていたい。しかし、王家の者として風の骨が行ったことは許すことは出来ない。ロゼをこれからどうするべきか迷っているんだ」

 

ス「難しい問題だな。アリーシャとしてはロゼに改心して欲しいと思っているんだよね」

 

ア「ああ。自身の犯した罪をしっかり反省した上で、これからを考えて欲しい」

 

ス「俺も、今までは目の前の穢れを祓う事で世界を救えると思っていた……。ううん、そこしか見えていなかったんだ。デゼルやサイモンみたいに業を背負う天族がいる。ロゼだってそうだ。そういう人とどう関わっていくかよく考えていかなくちゃ」

 

ア「私も一緒に考える。特にロゼの事はハイランド王家にも関係する話なんだ」

 

ス「うん。みんなで、ね」

 

ア「キミはどこまでも前向きなんだな」

 

ス「みんなに励ましてもらったからね。大事にしてもらっているよ。ちょっと過保護すぎるぐらいだけどね」

 

ア「それほどスレイの事を大切に思っているんだろう」

 

ス「頼もしい仲間だよ」

 

ア「もう夜も遅い。ここは私に任せてスレイは休むといい」

 

ス「アリーシャ一人に任せっきりじゃ悪いよ。オレも付き合う」

 

ア「スレイ……、ありがとう」

 

ス「どういたしまして」

 

 

 

ス「おはよう」

 

ミ「おはよう、スレイ。よく眠れた?」

 

ス「ああ……」

 

エ「そうは見えないけど」

 

ラ「今日は随分お寝坊さんですね」

 

ス「うん……昨日遅かったからかな。目が覚めたらアリーシャがいなくて驚いたよ」

 

ア「何度も起こそうと声を掛けたのだが全然起きなかったから置いてきてしまった。すまない」

 

ケ「ロゼさんは?」

 

ス「まだ寝ているよ。もうぐっすり」

 

ザ「よう。スレイ」

 

ス「ザビーダ。まだこの街に居たのか」

 

ザ「つれないねぇ、なぁ、ライラ?」

 

ラ「さぁ、全員揃いましたわ。ザビーダさん、陪神契約をする理由をお聞かせください」

 

ス「陪神契約!?ザビーダが!?」

 

ザ「はいはい、まあ黙って聞きな。俺の目的は導師殿の旅路に繋がってるのさ」

 

ミ「ザビーダの目的……。たしか決着を付けなきゃいけない相手がいるってヤツか」

 

ザ「そ。一人は可愛いエドナちゃんの兄貴。もう一人は……マオテラスさ」

 

ケ「マオテラス……あの五大神の?」

 

ザ「本来このグリンウッド大陸はマオテラスが護ってるはずだろ?なのにあの坊やは姿を消し、それと時を同じくして災禍の顕主が現れたっていうじゃないか。こりゃどういうわけだ?」

 

ミ「まさか」

 

ザ「俺はそのまさかと思い至ったわけさ」

 

ミ「マオテラスが憑魔になってヘルダルフと結びついてるって言うのか」

 

ケ「信じがたいことだけど、可能性はある」

 

エ「……確かめないといけないわね」

 

ラ「そのためにはかの者との接触は不可欠ですわ」

 

ミ「となればヘルダルフの領域下でも力が振るえないといけないか……」

 

ラ「今のわたし達では力不足ですわ。せめて――」

 

ロ「せめて秘力が揃っていたら、でしょ?」

 

ス「ロゼ!」

 

ア「体は大丈夫なのか?」

 

ロ「大きなケガもないし、全然平気。宿屋の人から聞いた。あんた達が看病してくれたんだってね。ありがとう」

 

ス「元気そうでよかったよ」

 

ロ「スレイたちはこれからどうするの?」

 

ス「ヘルダルフ……って言っても分からないか。災厄の原因を作り出している張本人を捜しに行く。調べたいことがあるんだ」

 

ロ「ヘルダルフ?グレイブガント盆地にいた強い領域をもった憑魔のこと?」

 

ラ「ロゼさん、知っていますの?」

 

ロ「あたしもそこにいた。スレイ、あんなヤバいとやりやって勝算はあるの?」

 

ス「それは……」

 

ミ「風の秘力を手に入れて、四つの秘力をぶつければ或いは――」

 

ロ「……スレイ、一つお願いがある」

 

ス「どうしたの?改まって」

 

ロ「あたしをスレイの従士にしてください」

 

ス「ロゼ……」

 

エ「前、スレイが誘ってきた時は拒否ったのに、どういう心境の変化?」

 

ア「理由を聞かせてくれないか」

 

ロ「今までのあたしは、悪の元凶は殺すしかないと思っていた。あたし達をバラバラにしたサイモンも、その背後にいる親玉も憎くて、殺す事でヤツらのせいで苦しんでいる人達を救えると本気で思っていたんだ。他の方法も考える事を諦めてそう決めつけていた」

 

ロ「でも、デゼルが居なくなって気付いた。穢れを殺してもそのせいで誰かが犠牲になるのはイヤだって。それに穢れを殺すんじゃなくて祓うことで誰かを救うことが出来るって事をスレイが教えてくれた。スレイの言うようにあたし達は間違っていたんだ」

 

ロ「あたしは、この世界の穢れを祓いたい!あたしたちのような、家族が引き裂かれることがない世界にしたいんだ!せめてルナールだけは……ルナールだけでも闇から救い出したいんだ」

 

ケ「キミとルナールは一体どういう関係なんだい?何か因縁があるみたいだけど」

 

ロ「……昔一緒のギルドにいたんだ。同じ釜の飯を分けて食べた、今も大切な仲間だ」

 

ザ「昔の仲間、か」

 

ロ「あたしとザビーダが風の秘力を手に入れたら、四人同時にあの強力な力を発揮できる。それなら、あいつの穢れにも対抗できるんでしょ」

 

ア「スレイ、どうする」

 

ス「そんなの決まっている」

 

ス「一緒にルナールを救いだそう、ロゼ」

 

ロ「スレイ」

 

ミ「とりあえず表面上は反省したみたいだしね。仲間に入れていいんじゃないか」

 

ラ「今のロゼさんには穢れを感じません。その強い意志があれば穢れにも負けませんわ」

 

ケ「とりあえず様子を見させてもらうよ」

 

エ「下手な動きを見せたらすぐボコるから。頑張りなさい」

 

ア「私はロゼの事を完全には信用出来ていない。然るべき処分は受けるべきだと思っている」

 

ス「アリーシャ……」

 

ロ「アリーシャ姫のいう事はごもっともだよ。それほどの事をしたんだ。これで罪滅ぼしになるなんて思っちゃいない。ちゃんと罰は受ける」

 

ア「それだけ確認できれば今は充分だ。これからよろしく、ロゼ」

 

ロ「アリーシャ姫」

 

ア「アリーシャでいい」

 

ロ「うん。アリーシャ」

 

ラ「いいでしょうか。早速従士契約を始めても……」

 

ロ「いつでもいいよ」

 

ラ「では始めます」

 

ラ「我が宿りし聖なる技に新たなる芽いずる。花は実に。実は種に。巡りし宿縁をここに寿がん。」

 

ロゼが光に包まれる

 

ラ「今、導師の意になる命を与え、連理の証とせん。覚えよ、従士たる汝の真名は――」

 

ス「ウィクエク=ウィク」

 

光がロゼの中に

 

ロ「デゼル、あたし、頑張るよ。近くで見守っていてね」

 

ラ「では、目的地は風の試練神殿ですわね」

 

ケ「ワーデルさんから秘力を受け取りにいこう」

 

エ「一度断られている相手よ。すんなりいけるかしら」

 

ロ「なんとかする!試練だろうがなんだろうがかかってこい!」

 

ミ「ロゼ、完全に吹っ切れたみたいだね」

 

ア「切り替えが早すぎる気がしますが」

 

ス「よし!行こう!」

 

ザ「待てってつーの!俺の陪神契約どうなった!」

 

ス「あ!」

 

エ「あなた、まだ居たの?」

 

ザ「エドナちゃんは冷たいねえ」

 

ラ「忘れていましたわ。さっさと済ませましょう」

 

ザ「ライラちゃんまで、俺の扱いひどくない」

 

ミ「一気に大所帯になったな……」

 

ア「そうですね……」

 

 

 

凱旋草海

エ「ザビーダ。あの話のことちゃんと聞かせて」

 

ザ「あの話って……告白の返事だっけ?」

 

エ「誤魔化さないで。言ったでしょ。お兄ちゃんと決着をつけるって」

 

ザ「そのままの意味さ。アイゼンとは、ちょいと因縁があってね」

 

エ「それがどんな因縁か聞いてるの」

 

ザ「『妹さんを僕にください』って言ったら殴られた」

 

エ「ウソね」

 

ザ「けど、絶対やるだろ。アイツ?」

 

エ「……わかった。話す気はないのね」

 

ザ「くくく、アイツが心配するわけだ」

 

ラ「本当は、どうなんですの?」

 

ザ「さあて、どうだったかな?」

 

ラ「もしかして誓約なのですか?」

 

ザ「いやいや、そんな大したもんじゃないって」

 

ザ「けど、口にしないもんだろ。男の約束ってのは」

 

 

 

風の試練神殿。

ア「またここに戻ってきましたね」

 

ミ「風の試練神殿……最後の秘力が眠る場所」

 

ス「前、ここに来た時はザビーダと戦ったんだっけ?」

 

ザ「そういえばそうこともあったな。ロゼもデゼルもスレイも、みんなしてジークフリートが欲しいとか言ってな。俺様って実は人気者?」

 

エ「それはない。ジークフリートが人気なだけ。あなたは所詮オマケよ」

 

ザ「そう言うなって。ジークフリートを探していると、こんな生きのいいザビーダ兄さんが付いてきました。この上なくいい買い物しただろ」

 

ミ「相変わらず調子のいいやつだな」

 

ザ「これがモテる男の処世術ってやつよ。ミク坊にはまだ早すぎたか」

 

ミ「どこかだ!」

 

ラ「なんだかんだ言ってもう馴染んでいますね」

 

ケ「あの時敵同士だったザビーダとこうして一緒に旅していると思うと感慨深いね」

 

ロ「…………」

 

ア「ロゼ?」

 

ロ「いや、みんなを見ていると、なんだか不思議な感じで。こういう付き合い方もあったんだなって……」

 

ア「スレイとケイン、そして天族の方々もすごく心優しき者たちだ。ロゼもすぐに馴染めるよ」

 

 

 

頂上

ワ「意外と早かったな、導師よ」

 

ス「ワーデルさん、約束通りロゼを連れてきたよ」

 

ワ「一緒にいた風の天族はどうした?」

 

ア「それは……」

 

ロ「亡くなったよ。デゼルは私を守って」

 

ワ「そうか。……すまない、余計な事を聞いてしまったな」

 

ロ「いいんだ。デゼルはありがとうって言ってた。きっと後悔はしていない」

 

ワ「ふぬ、以前感じた怒りや憎しみは何か別な物に昇華したようだな」

 

ワ「そこにいるお前は憑魔狩りのザビーダだな。噂には聞いているぞ。お前はなぜ憑魔を狩る?」

 

ザ「決着を付けなきゃならないヤツがいるんだ。そいつらは浄化の力を持ってしても手こずる厄介なやつでね、そのために憑魔を狩っていた。俺は生かす事と救う事の両立を諦めたが、こいつらは違った」

 

ザ「秘力を集めて穢れに真っ向から立ち向かった。そんな姿を見せつけられて心に響かなかったら男じゃないだろ。俺はこいつらの可能性に賭けてみようかと思った。大博打だけどな。だから俺たちに秘力を授けてくれ」

 

ワ「……いいだろう。試練に挑戦する事を認める。今度はその覚悟が本気かどうか、見せてもらおうか」

 

ザ「そうこなくっちゃな!ロゼ、準備はいいか!」

 

ロ「あたしはいつでもオーケー」

 

ス「ロゼ」

 

ロ「スレイ達はそこで見ていて。これは私が乗り越えなくちゃならない試練なの。……そうでしょ、デゼル」

 

ラ「ロゼさん」

 

ケ「ボクたちの時と一緒だね」

 

エ「どうしてこうも暑苦しい人ばかりなのかしら」

 

ス「わかった。必ず乗り越えろよ」

 

ロ「おうよ!任せといて!」

 

ザ「話は終わったか」

 

ロ「おう!」

 

ザ「気負いすぎるなよ。肩の力を抜け。リラックス、リラックス。なんたってお前には、頼りになるザビーダ兄さんと一番近くで見守ってくれるデゼル、イケイケな天族が二人も付いているんだ。安心して背中を任せろ」

 

ロ「それなら負けるはずがないね。期待してるよ、ザビーダ」

 

ザ「さあ行くぜ!」

 

ザ「ウィンドランス!」

 

ロ「鳳凰天駆!」

 

ア「ロゼ……、がんばれ」

 

 

 

ロ「はああ!」

 

ワ「ぬうう」

 

ザ「詐欺師!」

 

ミ「よし!相手がひるんだ!」

 

ザ「最後は自分で決めろ!ロゼ!」

 

ロ「おう!」

 

ロ「散らせ仇花!業華炯乱!」

 

ワ「見事だ……」

 

ワーデル、倒れる。

 

ザ「やったか」

 

ワ「合格だ」

 

ロ「こいつ、まだ立ち上がって」

 

エ「相手はあの護法天族。わたし達が勝てる相手じゃないわ。悔しいけど」

 

ケ「エドナちゃん……」

 

ロ「それじゃあ秘力は――」

 

ワ「安心しろ。力をもちろんの事、心、絆も見せてもらった。風の秘力を得る資格は十分にある」

 

ス「ロゼ、ザビーダ、やったな!」

 

ロ「うん。それもザビーダやスレイのおかげだよ」

 

ワ「さあ祭壇に祈りを捧げるがよい」

 

体が光る

 

ロ「これが神威」

 

ザ「こりゃいい。力が漲ってくるぜ。ロゼ、これからよろしくな」

 

ロ「こちらこそ」

 

ワ「その力は紛れもなくお主たちに授けたもの。その力を正しき事に使うのだぞ」

 

ザ「わかっている。自分の立場ぐらいはわきまえているぜ。なあロゼ」

 

ロ「ようやく殺す以外の道を見つけたんだ。無駄にはしないよ」

 

ワ「今のお主たちには愚問だったな。これからの道程に何が訪れるか、いかなる可能性も想像しておくことだ。この旅路の果てに導き出した光を見失うことないようにな。その強い志、忘れる出ないぞ」

 

ロ「おう!」

 

ワ「ではな。導師スレイ。そなたの旅路に光りあらん事を」

 

ス「ありがとう。ワーデルさん」

 

ミ「四つの秘力はそろった。ヘルダルフに対抗できるのかな?」

 

ラ「それは……」

 

ス「やってみなくちゃわからない、だろ?」

 

ケ「まずは居場所を探らないとね」

 

エ「手掛かりナシよ。どこから手をつける?」

 

ロ「ねえ、そいつが現れる場所は強い穢れが発生するんだよね?」

 

ア「ああ。加護を受けていない人、天族が憑魔になってしまうほど強力な穢れが……」

 

ロ「それなら、役に立てるかも……」

 

ア「ロゼ?」

 

ロ「スレイ、一度アジトへ向かって」

 

ス「アジト?」

 

ロ「そう。ヴァーグラン森林にあるセキレイの羽の拠点――いや、風の骨のアジト。もしかしたら仲間が戻ってきてるかもしれない」

 

ザ「一度情報収集をしようって訳か」

 

ロ「うん。それとちゃんと仲間と話しておきたいと思って。デゼルの事とかこれからの事とか」

 

ス「わかった。みんなもそれでいいな」

 

ラ「はい」

 

ミ「むやみに探し回るよりはよっぽど建設的だ」

 

エ「いぎなーし」

 

ケ「ちょうどいい。もう一度あの遺跡を見ておきたいと思っていたんだ。もっとよく調べたら災禍の顕主と対峙するヒントがあるかもしれない」

 

ア「私も導師の壁画を見ておきたい」

 

ス「決まりだな」

 

ロ「ありがとう、みんな」

 

ティンタジェル遺跡へ向かう。

 




こんにちは、作者です。第二十一話です。ロゼとザビーダが仲間になりました。そして、風の秘力もゲット。これで四つの秘力をコンプリートです。ようやく出揃いましたね。次回はいよいよ災禍の顕主との再戦。神威は通用するのか見物です。ではまた、第二十二話で会いましょう。


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第二十二話 災禍の顕主

ロゼとザビーダを仲間に加え、四つ目の秘力を手に入れた導師一行。災禍の顕主の居場所の情報を得るため、風の骨のアジトへ向かう。


ティンタジェル遺跡

エギーユ「ロゼ!無事だったか!」

 

ロッシュ「トルとフィルから聞いたぞ。ロゼとデゼル、たった二人でペンドラゴ城に忍び込んだって。その後行方が分からず心配していたが……、とりあえず元気そうでよかった」

 

ロゼ「ごめん。心配かけた。アタシなら平気」

 

トル「それにしたって、どうしたって導師一行と一緒なんだい?」

 

ロゼ「うん。その事で話したことがあるんだ。とても大事な話」

 

フィル「どうしたの?改めちゃって」

 

ロゼ「実は――」

 

 

 

エギール「そうか、デゼルが……。まさか天族のあいつが俺たちより先に逝くなんてな」

 

ロゼ「デゼルが最後に言ってた。「俺を家族と呼んでくれてありがとう」って」

 

ロッシュ「家族、か。結局、俺たちはあいつの姿を見る事が出来なかった」

 

トル「でも、ずっと守ってくれたんだよね。みんなのことをずっと……」

 

フィル「デゼル、ありがとう。人間のわたし達を家族と呼んでくれて。今はゆっくり休んでね」

 

ス「デゼル……、みんなに愛されていたんだな」

 

ラ「はい」

 

ミ「スレイ、アリーシャをイズチに連れて行った時、ジイジが言った言葉を覚えてる?」

 

ス「ミクリオ?」

 

ミ「ジイジは、「同じものを見聞き出来ねば、共に生きる仲間とは言えん」って言ったんだ。あの時は反論できなかったけど、今ならはっきり言える」

 

ス「うん。姿だって見えなくたって、声が聞こえなくたって、人と天族は共に生きることができる」

 

エ「面倒なことが多いけどね」

 

ス「それでも交流できるって事が大事だと思うんだ」

 

ラ「全ては双方の心次第ですわ」

 

ス「ああ」

 

 

 

ロ「それでこれからの事だけど……」

 

トル「導師と一緒に行動するんだね」

 

ロ「うん。あいつのためにも、そしてルナールとケリをつけるためにも、アタシはスレイと一緒に行く」

 

ロッシュ「そうか」

 

ロ「ごめん、アタシが勝手に決めちゃって……」

 

エギール「俺たちはロゼとデゼルがいなかったら、風の傭兵団もろとも殺されていたんだ。二人には返しきれない恩がある。それに……」

 

エギール「復讐の事しか考えてなかったロゼがこの世界を救いたいなんて言い出したんだ。俺たちだってそっち側に付きたいよ」

 

トル「ロゼはみんなの頭領でしょ。ほら、しゃんとして」

 

ロ「エギール……トル……」

 

エギール「スレイ、俺たちに出来る事があったら何でも言ってくれ。今までの罪滅ぼしって訳ではないが、お前たちに協力したい」

 

ス「ありがとう。早速だけど、旅の途中で強い穢れを感じたことはなかった?」

 

エギール「穢れ?」

 

遺跡調査を行っていたケイン、アリーシャ、ザビーダが戻ってくる。

 

ケ「人間にも天族にも害をなす物さ。それを生み出しているヤツをボクたちは追っているんだ。最近おかしな噂とか聞いてない?そうだな……、そこへ行った人が一向に帰ってこないとか」

 

ス「ケイン、それにアリーシャも」

 

ア「壁画を見てきた。特に収穫はなかったが」

 

ミ「ザビーダも一緒だったのか」

 

ザ「アリーシャちゃんの護衛さ。何かあったら大変だろう」

 

ケ「……ボクの事は無視なんだね」

 

ザ「気ぃ悪くした?ごめん、ごめん」

 

ケ「ホント良いキャラしてるよ、まったく」

 

ス「ええっと……」

 

エギール「おかしな噂か……。そう言えばアイフリードの狩り場に向かった商人が戻ってこないって話を聞いたことがあるな」

 

ロ「それって、いつの話?」

 

エギール「昨日、ローランス兵が話しているのを聞いた」

 

ラ「強い穢れに飲み込まれ憑魔になってしまったのでしょうか……」

 

エ「可能性は十分あるわね」

 

ス「行ってみよう」

 

ザ「信じていいのか?こんなテキトーな情報」

 

ス「調べる価値はあるさ」

 

ロ「ダメで元々!」

 

ア「他に情報がないんです。今はこれに頼る他ありません」

 

エ「ま、世界中を回るよりはマシね」

 

ラ「決まりですわね」

 

ス「エギールさん、ありがとう。おかげでなんとか何そうだ」

 

エギール「これぐらいどうってことないよ。……スレイ、ロゼの事を頼む」

 

ス「ああ」

 

ロ「じゃあ、いってくるね」

 

 

 

アイフリードの狩り場

ア「言われていた場所に到着したが……」

 

ラ「この領域の力は……!」

 

ス「ヘルダルフが居る……間違いない」

 

ス「ヘルダルフ!どこだ出てこい!」

 

ヘルダルフ「そう声を荒げるな。ワシはここにいる」

 

ヘルダルフ、姿を現す。

 

ケ「こいつが災禍の顕主……」

 

ア「すごいオーラだ……」

 

ス「前のようには行かないぞ、ヘルダルフ!」

 

ヘ「……そうあってもらわねばな」

 

ス「どういう意味だ」

 

ヘ「……行く先々に憑魔の領域があったのが偶然だとでも?」

 

ザ「……全てあんたの掌の上……そう言いたい訳かい」

 

エ「……敵に塩を送ったつもり?」

 

ア「そんなことをして、一体何が目的なんだ!」

 

へ「ふっ、知れたことよ」

 

ラ「スレイさん、油断なさらないで」

 

ス「ああ。こいつは謎が多すぎる」

 

ロ「で、こいつがホントにマオテラスと結びついてんのか……どうやって確認すんの?」

 

ザ「当たってぶつかるしか無いかもよ」

 

ミ「それは危険すぎる」

 

エ「じゃあどうするのかしら?」

 

ケ「一筋縄ではいかないだろうね」

 

ス「……ヘルダルフ、答えろ。お前は――」

 

ヘ「ふっふっふっふ。はぁーっはっはっは!」

 

ロ「な、何笑ってんだ!」

 

ヘ「あまりによくしゃべるのでな」

 

ス「!」

 

ヘ「ワシは災禍の顕主。貴様は導師。この両者の邂逅はすなわち戦い。そうであろうが?」

 

ラ「スレイさん!」

 

ス「来るぞ、みんな!」

 

ヘ「見せてみよ、導師!お前という器を!」

 

ス「気圧されるもんか!」

 

『ルズローシヴ=レレイ』

 

『フォエス=メイマ』

 

『ハクディム=ユーバ』

 

『フィルク=ザデヤ』

 

ラ「四つの秘力を合わせれば、かの者の領域に対抗できるはずです!」

 

ス「行くぞ!ヘルダルフ」

 

ロ「はあああああ!」

 

総攻撃。

 

ア「やったか!」

 

ミ「いや、まだだ」

 

ヘ「これがあの時と同じ青二才どもとはな。これほど力をつけているとは……面白い。そうでなくては!ふん!」

 

吹き飛ばされる面々。神威解除

 

ザ「…押してるのに何か嫌な感じだ」

 

エ「あなたと意見が合うなんてね」

 

ヘ「……うれしいか?」

 

ス「何?」

 

ヘ「このまま戦えばワシを討てる。そう感じているだろう?それこそがお前たちの望みであろうが」

 

ス「……何なんだ!お前!」

 

ヘ「ワシにはそれがただの欲望に見えるぞ。ふふ。溺れるか?その甘美な泉に」

 

ス「……ライラ!決着をつける!」

 

ラ「…………」

 

ア「ライラ様?どうしたのですか?」

 

ラ「スレイさん、このまま決着を付ける事が後悔のないスレイさんの答えなんですの?」

 

エ「そうね。今のワタシたちの目的はこのひげネコと戦う事だけだったかしら?」

 

ヘ「災禍の顕主を鎮める事が導師の使命……何も間違ってはおらん」

 

ミ「やれるもんならやってみろって挑発してるのか?」

 

エ「違うわ」

 

ザ「何か狙ってやがるな」

 

ヘ「……サイモン!」

 

サイモン、出現

 

サイモン「……ここに」

 

ロ「あいつは!」

 

ヘ「邪魔者を除く」

 

サ「は」

 

暗い闇があたりを照らす

 

ラ「幻術ですわ!」

 

ケ「これは厄介だね」

 

ス「注意しろ!みんな!」

 

ヘ「もう遅い」

 

スレイとライラ以外、球体に閉じ込められる。

 

ス「みんなが球体の中に!」

 

ラ「中から穢れを感じます。このままでは憑魔になってしまいますわ!」

 

ス「なんだって!」

 

ヘ「力をつけたな、導師よ。サイモン、……あの穢れの量でどれほど遮断できる?」

 

サ「かほどに強いものですと10分程度しか……申し訳もありません……」

 

へ「ま……よいわ」

 

ス「何をした!ヘルダルフ!」

 

ヘ「何、お前たちとゆっくり決着をつけようと思ってな。邪魔者を排除したまでよ」

 

ラ「来ますわ!」

 

ヘ「見たところ、主神とは神威出来ないようだな。形勢が逆転したか?」

 

ス「くっそ……!」

 

ヘ「勝利の期待から不安、焦燥、死の予感へと…!」

 

ス「くっ!」

 

ラ「スレイさん、気持ちを強く持って!……かの者は!」

 

ス「ライラ……!ヘルダルフはまだ答えを出せてないオレにつけ込もうとしてる。そう言いたいんだろ?このままこいつと戦ってたらもっとつけ込まれてどうにもできなくなりそうだ」

 

ラ「スレイさん!わかりましたわ!みんなを助け――」

 

ヘ「逃すものかよ」

 

立ちはだかるヘルダルフ

 

ス「とにかく弱点を攻めるしかない!」

 

ス「奥義で吹き飛ばして、チャンスをつかむ!」

 

ヘ「小賢しい。我が奥義で蹴散らしてくれるわ!獅子戦吼!」

 

ス「ぐはあ……。その技はセルゲイの……」

 

ヘ「ほう、この技を知っておったか。中々見込みがあるな」

 

ラ「スレイさん……あう!」

 

ヘ「抗うな」

 

ス「……イヤだ!絶対に諦めない……!」

 

ヘ「抗う事……そのいびつさに気付くがよい」

 

ス「な、に?」

 

ヘ「……サイモン。従士を解け」

 

サ「は……」

 

サイモン、アリーシャにかけた術を解く。

 

ア「きゃっ!」

 

ラ「何を……」

 

ヘ「抗ったとてどうにもならぬ事を受け入れよ。導師」

 

ス「や、めろ……!」

 

ア「スレイ、ライラ様!今、助けます!」

 

『フォエス=メイマ』

 

ヘ「ぬう」

 

ア「剥ぐは炎弾!エンシャントノヴァ!」

 

サ「くっ!」

 

ヘ「従士風情が調子に乗るな!」

 

ア「きゃああ!」

 

ス「アリーシャ!」

 

ヘ「……もはや弄するのは無駄だな」

 

ヘ「……導師スレイ、ワシに降れ。共に世界を元の姿に戻そうではないか」

 

ス「な!?」

 

ラ「災禍の顕主と共に行く先などただの穢れあるのみ……そんな事――」

 

ヘ「それの何がおかしい?」

 

ヘ「何もせずとも穢れは生まれ、ごく限られた浄化の力を持つ者によってのみ滅せられる」

 

ヘ「これが自然な事だとでもいうのか?」

 

ラ「憑魔は人も天族も傷つける存在です!」

 

ヘ「だから穢れに抗う事が自然だと?笑止な……」

 

ヘ「……導師スレイ、もう一度言う。ワシに降れ」

 

ヘルダルフ、剣を見せつける。

 

ス「その剣は……マルトランさんが持っていった……」

 

ヘ「世界を斬る剣……。この剣は導師にしか扱えぬ。導師、いやスレイよ、お前がこの剣を振るい、人々に恩恵を与えるために穢れに抗う事を課せられ、天族と称されて縛り付けれている者たちを、憑魔という本来の姿に戻すのだ」

 

ス「断るよ」

 

ヘ「……では雌雄を決するとしよう」

 

ス「それも断る。今はその時じゃない気がする」

 

ヘ「言うことよ。いずれその身で知る事となろう。世界の……人と天族の真の姿をな」

 

ヘルダルフとサイモン消える。領域も消える。

 

 

 

ザ「間違いない。あいつはマオテラスと繋がってんな。ヤツの穢れに遮断された時、気配を感じた」

 

ミ「だが、マオテラスの影も形もなかったじゃないか」

 

エ「もっと考えて。見えてないと思ってたのに実はずっと見えてたとしたら?」

 

ス「……見えてるのに意識してなかったもの……」

 

ロ「これ?」

 

ス「大地か!」

 

ミ「……ヤツと繋がってるものがグリンウッド大陸を器としてるって……?」

 

ザ「そう。そんなヤツぁ一人しか考えられないってワケだ」

 

ケ「五大神マオテラスは、グリンウッド大陸のすべてに加護をもたらす天族だと言われている。そう考えると大陸全体を器としていてもおかしくはないが……」

 

ミ「だがそれなら――」

 

ロ「そうだとしてさ。大地を浄化するってできんの?それにヘルダルフが器になってんならわかるけどさ。大地を器としてるのが、なんでヘルダルフとも繋がってんの?」

 

ア「謎は深まるばかりだな……」

 

ス「……マオテラスを探そう。ヘルダルフが本当に大地を器としてる憑魔となってしまったマオテラスと繋がってるとしたら、マオテラス自身を浄化しないかぎり、ヘルダルフを鎮める事なんてできない」

 

ミ「だが……これまでの旅路で得たマオテラス伝承にも所在を示すものなんかなかったぞ」

 

ア「ケインは?何か知っているか?」

 

ケ「すまない、ボクも正確な情報までは知らないんだ。キミたちと旅をするまで、マオテラスはペンドラゴの神殿に祀られているとばかり思っていたし」

 

ラ「……メ―ヴィンさんを捜しましょう」

 

ロ「メ―ヴィンおじさん?」

 

ケ「師匠を?」

 

ミ「そうか……彼もマオテラス伝承を追って旅を続けているんだったな」

 

ス「何かマオテラスの手がかりを得てるのかも!」

 

ロ「けど、おじさん、どうやって見つけよっか……」

 

ケ「師匠は考古学者だ。遺跡を巡って神出鬼没。連絡手段として近くの宿屋で手紙を預かってもらう方法があるけど、それもどれほど時間がかかることやら……」

 

ラ「私に心当たりがありますわ。ローグリンの遺跡を守る方々に会いましょう」

 

ロ「ローグリン……ザフゴット原野にある遺跡の街だね」

 

ラ「ええ」

 

ケ「それにしたって、どうしてライラさんが師匠の居場所を知っているんだ」

 

ラ「それは……」

 

ア「行ったらわかる。そう言いたいのですね」

 

ラ「すみません。これはメ―ヴィンさんのこれからに繋がる話なんです。私の口からはお話しすることは……」

 

ケ「わかった。師匠に直接聞くことにするよ。口ぶりからすると師匠はボクに何か隠し事があるみたいだし、これを機に色々話がしたい」

 

エ「決まったわね。じゃ行くわよ。ミボ」

 

ミ「わかったからつつかないでくれ……」

 

ザ「おい、スレイ」

 

ス「ザビーダ?」

 

ザ「これをお前に託す」

 

ス「ジークフリート!?いいのか?」

 

ザ「災禍の顕主があんなに強い力を持っているって改めて知っちゃったからな。俺様一人では太刀打ちできねえっての」

 

ザ「いいか、スレイ。これを使うかどうかはお前自身だ。出し惜しみをしていたらお陀仏だぜ」

 

ス「ザビーダ……。わかった」

 

ザ「それならよろしい」

 

ザビーダ、スレイから離れてライラと話す

 

ザ「良いのかねぇ、これで?」

 

ラ「信じます……これは賭けですわ」

 

 

 

ローグリン

ス「ここがローグリンか……」

 

ミ「街全体が砦になっているのか」

 

ケ「この街は古くから導師信仰が根強く残っていて、導師にまつわる逸話が多く残されたているんだ。街の中央にある塔は、空から落ちた天族を天に帰すため導師が造ったという話もあるらしい。ホントかどうかは定かじゃないけどね」

 

ア「ならば塔の内部を調べれば、導師の事がわかるかもしれないのだな」

 

ケ「そうかも、しれないね」

 

エ「歯切れが悪いわね」

 

ケ「そりゃ悪くもなるさ。塔の内部には入れない。特殊な封印が施されている。何度か挑戦してみたけど、まったく歯が立たなかったよ」

 

メ「ほう、よく俺の教えを覚えていたな、ケイン。感心感心。教えがいがある弟子だ、まったく」

 

ス「メ―ヴィン」

 

ロ「おじさん」

 

メ「よう。スレイ、元気そうだな。ん?お嬢も一緒なのか」

 

ロ「……ちょっと色々あってね」

 

ス「……訳ありのようだな。詳しくは聞くのは野暮ってものか」

 

ケ「そうしてくれると助かります」

 

ス「ところでメ―ヴィン。マオテラスの事、何かわかった?」

 

メ「藪から棒だな。特にこれといってないな」

 

ア「そうですか……」

 

ラ「メ―ヴィンさん。禁忌を犯す行為だとわかっていますわ。ですが、今や唯一人の導師となったスレイさんが後悔なくその道を歩めるよう、力をお貸してください」

 

メ「…………」

 

ス「メ―ヴィン……もしかして聞こえてるのか?」

 

メ「ん?何の事――」

 

ザ「刻遺の。頼むわ」

 

エ「そう……この人が今の『語り部』なのね」

 

ス・ロ・ミ「語り部?」

 

ア「それは一体なんなのですか?」

 

ケ「師匠、ボクに何か隠していますね」

 

メ「ったく……それほどのタマだったワケか。今回のヤツは」

 

ラ「それもありますが……」

 

メ「……おまえらに俺が力を貸す……それがどういう意味かもわかってるんだな?」

 

ラ「はい……」

 

メ「怖い女だ」

 

ロ「おじさんがライラと会話してる……何がどうなっているの?」

 

ミ「まったくだ。ライラ、メ―ヴィン、ちゃんと説明してくれ」

 

メ「まぁ待て。お前らは今、俺にとってかなり重大な選択を迫ってるんだぜ?」

 

ス「さっきの禁忌を犯すことになるってヤツか」

 

ラ「あの時、かの者は私たちとの邂逅で、スレイさんの心をなぶって堕ちた導師へと誘おうとしていました。ですが、後にはスレイさんに同胞にならないかと手を差し伸べてきましたわ」

 

メ「災禍の顕主が導師に手を差し伸べる、か……」

 

ス「オレ、知りたい。ヘルダルフがどうしてあんな事になったのか」

 

ア「しかし、それは……」

 

ロ「おじさんの禁忌に触れるんだよね」

 

ミ「僕らはそれがどういう意味を持っているのかわかってない。勝手なことを言っているんだろう。だが……」

 

ス「やっぱりダメかな……?」

 

メ「……ま、ついて来な。ケイン、お前が入りたがっていた塔の中に入らせてやる」

 

ケ「塔への入り方を知っていたんですか!?」

 

メ「すまんな。事情があって隠していた。でももうその必要はなさそうだ」

 

ラ「メ―ヴィンさん。本当に……」

 

メ「語り継ぐ物語も未来がなくなっちゃ意味がない。そのためだな」

 

ケ「師匠、あなたは一体……」

 

ア「追いかけよう。そこに真実があるはずだ」

 

 

 

石碑の前へ

ス「うわぁ……すげぇ……こんなでっかい石碑にびっしり何か描いてある!」

 

ミ「『神代の時代』のものか?初めて見るものだな……」

 

ケ「古代文字で書かれている。それほど前に建てられた石碑という訳か」

 

メ「この石碑はただの人にとっては特に意味のない石塊だ。が、刻遺の語り部は真の機能を発動させられる」

 

ス「刻遺の語り部……」

 

メ「刻遺の語り部は、人、天族、憑魔……導師や災禍の顕主の物語を後生に語り継ぐ者。俺はその運命を背負った一族の末裔だ。語り部は公平であるために時代の趨勢に関わるのを禁じている。が……俺も覚悟を決めたよ」

 

ケ「師匠にそんな使命があったなんて……」

 

メ「驚いたか」

 

ケ「正直なところ、そうですね。色々知り過ぎているとは思っていましたが」

 

ア「それでは、石碑の真の機能とは?」

 

メ「導師と災禍の顕主の物語を後世に語り継ぐのが俺の使命。その石碑はいわばその再生機だ。そして、その再生させることが出来るのは刻遺の語り部って訳だ」

 

ス「導師と災禍の顕主の物語?じゃあここには!」

 

メ「そう、『災厄の始まり』が記憶されている。おまえらに『災厄の始まり』を体験させてやる。感じてこい。光と闇を。全員石碑に手を触れろ」

 

全員近づく石碑に手をつく

 

メ「そして目を閉じるんだ」

 

メ「偉大なる大地の神よ。契約者『刻遺』に御心示したまえ」

 

メ「これは答え合わせじゃない。ただ、感じてこい。いいな」

 

遠のく意識の中、メ―ヴィンは最後にこう告げた。




こんにちは、作者です。第二十二話です。さすが災禍の顕主と言うべきでしょうか。四つの秘力を得ても、まったく太刀打ちできませんでした。ラスボスはこれぐらい強くなきゃ倒しがいがない。ヘルダルフさんには思う存分力を振るってもらいたいところです。次回は、先代導師とヘルダルフの過去編です。若かりしライラとジイジも出てきますよ。若かりしとは言っても、数千年寿命がある天族の彼、彼女らにとって、十数年の月日は大したことないのでしょうが(笑)ではまた、第二十三話で会いましょう。


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第二十三話 災厄の始まりと導師の答え

刻遺の語り部メ―ヴィンの力を借りて、石碑に刻まれた『災厄の始まり』の記録を体験する導師一行。


石碑の記録 十数年前 カムラン

ス「……どうなったんだ?」

 

ロ「どこここ?見た事無いとこなんだけど……」

 

ミ「『災厄の始まり』を体験しているんだ。つまりここは……」

 

ス「始まりの村カムランか!」

 

ア「あそこに誰かいるぞ」

 

ケ「人が集まってるね。何かあったのかな?」

 

ザ「行ってみようぜ」

 

エ「反対の反対」

 

ラ「…………」

 

 

 

ミケル「将軍……こんな生活をいつまで続けさせるつもりだ」

 

「ハイランドの侵攻から守っているのだ。むしろ感謝して欲しいのだがな。導師よ」

 

ス「え!?この人が先代の導師!」

 

ミューズ「あなた方が来てからの半年……こんなのは守ってるなんて言いません!軟禁です!」

 

村人男「それにハイランド王国が動き出したのも、あんた達ローランス軍がこの村を接収したからだろう!」

 

ア「聞こえてないみたいですね」

 

ラ「これはあくまで石碑に刻まれている記憶が見せてるものですもの」

 

ロ「なんだか不思議な感じ……」

 

ザ「それにこの男……」

 

エ「この出で立ち、似ているわね」

 

ミ「まさか、こいつがあのヘルダルフなのか!?」

 

ヘルダルフ「……この村の戦略的価値を導師の興した村というだけで看過できはしない。それはどの国でも同じ事よ」

 

ミケル「時間の問題だったと?」

 

ヘ「ハイランドの台頭ぶりを思えばな」

 

ミケル「……もういい。行ってくれ」

 

ヘルダルフ去る

 

村人男「ミケル様!いいんですか!このままで!あいつら、マオテラス様の神殿まで砦みたいにしちまったんですよ!どれだけ天族を冒涜すれば気が済むんだ!」

 

ミューズ「兄さん……」

 

ミケル「ミューズ、案ずるな。カムランは確かにハイランド、ローランス両国にとって重要な位置にある。ここを抑えたら両国とも自在に首都に兵を進められる。彼らもないがしろにはしないはずだ」

 

村人男B「信じるんですか?あの将軍の言葉を!」

 

ミケル「彼らがどうであれ、私たちが信じるのを忘れてはいけません。先祖代々導師が守り継いでいた村を滅ぼさせはしない。導師の我が身が朽ちようとも、みなは私が守る。必ず……」

 

ス「始まりの村はヘルダルフに接収されたんだな」

 

ラ「そして戦禍に巻き込まれていったんです」

 

ロ「まぁでも、確かに放っとく訳ないよね」

 

ミ「これじゃマオテラスに悪意を向けてるも同然だな。加護が失われて当然だ。まだ先はあるだろう。神殿の方に向かおう」

 

 

 

村人女「ローランスはミケル様がマオテラス様を連れ出した事に気付いているんじゃ……」

 

村人男A「いや、ローランスとしてはハイランドへの牽制の意味の方が強い。開戦の名目が欲しいんだろう」

 

村人男B「バカげてる……」

 

エ「まったくだわ。でもそれが人間」

 

ザ「んだな。これだけはいつの時代もかわらないねぇ」

 

ア「マオテラス様を持ちだしたのは先代の導師様だったのか。どうしてそんな事を……」

 

ラ「戦争による穢れを危惧した導師ミケルは、保護する目的でカムランに器を移転したのですわ」

 

ケ「そうだったのか……。しかしこれでは……」

 

ラ「…………」

 

 

 

村人男A「おい、聞いたか!導師様の話だと、神殿が穢されて、村の加護がなくなりつつあるって……」

 

村人女A「……まさかマオテラス様が憑魔に!?」

 

村人男B[導師様を信じよう。命に代えてもそれだけは阻止すると言ってくださってる]

 

村人男A「……けどよ。導師様を失うぐらいなら、いっそみんなで疎開した方がいいのかもしれないぜ」

 

ラ「ミケル様にそんな事ができるわけがありませんわ……」

 

ス「ああ。導師だからね。マオテラスを穢れのさなか置き去りになんて考えもしないと思う」

 

ラ「スレイさん……」

 

 

 

ヘ「こんな片田舎の村がハイランド制圧の足かがりになるのなら、導師なぞにいくら疎まれても安いものよ」

 

兵士A「で、伝令、伝令~」

 

ヘ「何ごとだ?」

 

兵士A「敵の襲撃です!ハイランド軍のようです。大軍を引き連れこちらに迫っています」

 

ヘ「……なかなかに釣られぬものよ。兵をまとめろ。撤収する」

 

兵士A「反撃しないのですか?」

 

ヘ「こんな田舎での小競り合いに兵を失えと?愚の骨頂よ。こちらの兵はまだ整っておらん。来る時まで力を蓄える。カムランはそのための捨石よ」

 

兵士B「こうなってはこの村はただのゴミクズってことだ。撤収するぞ!伝令急げ!」

 

ア「ありえない!村の人たちの幸せをなんだと思ってるんだ!それでも民を導く為政者か」

 

ミ「この村が滅びたのはこんなくだらない理由だったのか……!」

 

ス「くっ!」

 

 

 

ハイランド兵が村人を襲う。

村人「ひぃ、助けてくれ!」

 

ハイランド兵「しねえ!ローランスのスパイども」

 

ハイランド兵「殺せ!こいつらはローランスに加担していた導師の仲間だ」

 

ス「やめろー!!」

 

ラ「スレイさん……」

 

ミ「干渉できないのがより虚しさを強めるよ……」

 

ミケル「こ、これは……。まさかハイランドが攻めてきたのか……。ヘルダルフは何をしているんだ!!」

 

村人「……ヘルダルフは……村を捨てて逃げ…た……」

 

ミケル「何だって!」

 

ミケル「どうしてこんな事に……」

 

村人「導師様、ミューズ様が神殿に!」

 

ミケル「なんだって!?」

 

村人「ローランス軍に救助を求めに……」

 

ミケル「けどヘルダルフはもう逃げてる!」

 

ライラ「ここは私にお任せを。ミケルさんは神殿へ」

 

ス「ライラ!?」

 

ア「しかしライラ様ならここに……」

 

ラ「これは石碑の記憶。あの者は昔の私ですわ。ミケルさんの主神だったころの私……」

 

ミケル「ああ。わかった」

 

ミケル「ミューズ無事でいてくれ!」

 

ス「神殿に急ごう!」

 

ミ「ああ」

 

ラ「お待ちください。同じ導師という立場からスレイさんがあのお方に感情移入することはわかりますわ。ですが、メ―ヴィンさんの言葉を思い出してください」

 

エ「これは昔の記憶。ワタシたちがどうあがいたって過去は変えられないわ。……悔しいけど」

 

ザ「こういう時ほど冷静に、だろ」

 

ス「…………」

 

ラ「ミクリオさんも」

 

ミ「……すまない。ただ……」

 

ス「結末に嫌な予感しかしないんだ」

 

ス「……それでも見届けなきゃいけないんだろ?」

 

ラ「はい」

 

ラ「……行きましょう。もうすぐ全てわかりますわ」

 

 

 

祭壇

ミューズ「いやー!!」

 

ミケル「ミューズ!大丈夫か!」

 

ミューズ「あの子が!あの子が!!」

 

ミューズ「ミクリオがまだ火の中に……」

 

ス「ミクリオだって!?」

 

ア「まさかあの赤子がミクリオ様……」

 

ミ「…………」

 

ミケル、ミクリオを火の海から助け出す。

 

ミケル「生きている……生きているが……これではいずれ……」

 

ミケル「全てが失われた……。マオテラスが憑魔と化し、この子ももう……。一人の男のくだらぬ野心のせいで……」

 

ミューズ「兄さん?」

 

祭壇に向かって歩き出すミケル。ライラ、祭壇に到着

 

ライラ「これは……まさかマオテラス様が憑魔に……。間に合わなかった……」

 

ミケル「もうおしまいだ……。私にはもう何もない。愛すべき村の人々も……可愛い甥も……祈りを捧げるマオテラスも……。いっそのことこの世界なんて消えてしまえばいい……」

 

ミューズ「待って……」

 

ミューズ「やめて、お願い!兄さ~ん!!」

 

ライラ「いけません!それは禁術です!!」

 

ミケル「この災厄をもたらした者に……『永遠の孤独』を!」

 

ライラ「ミケルさん!」

 

ミケル、禁術発動。あたりは真っ暗に。

 

ミケル「ヘルダルフ……自らが生み出した地獄を背負え……。永遠に、な」

 

 

 

同刻某所

ハイランド兵「止まれ!」

 

ヘルダルフ「ちっ、もうカムランは落とされたか。導師も大したことないな」

 

ヘルダルフに落雷が落ちる

 

ローランス兵士「落雷だと?!将軍!」

 

ヘ「ぬ……」

 

ハイランド兵「ヘルダルフ!覚悟!」

 

ハイランド兵、ヘルダルフに斬りかかる。

 

ヘ「ぐはっ!」

 

効かない

 

ハイランド兵「な、何だとっ!?」

 

ヘ「効かぬ!獅子戦吼!!」

 

ヘ「ぐ、う……」

 

ハイランド兵「なんだ、この強さは……」

 

ハイランド兵「見ろ、あれを。ヘルダルフが……」

 

ローランス兵「将軍、お怪我はあり――、そ、そのお姿は一体……」

 

ヘルダルフ、災禍の顕主の姿に

 

ハイランド兵「く、来るな!化け物!!」

 

ヘ「ふん!」

 

ハイランド兵「ぐわああ」

 

ヘ「くっ、た、いしたことないやつらだ」

 

ローランス兵「将軍……、その力は一体……」

 

ローランス兵「に、逃げろー、将軍がバケモノに!殺されるぞ!」

 

ヘ「な、なぜ逃げる、おまえ、たち。ぐふ。ワシはお前たちの将軍だ、ぞ……」

 

 

 

ス「……」

 

ミ「……」

 

ザ「んなるほどなぁ」

 

エ「ひげネコは憑魔になったんじゃない。憑魔にさせられたのね」

 

ラ「……しかも最凶の呪詛をかけられた者として」

 

ケ「自業自得な部分もあるけど、こんな結末だったとは……」

 

ア「悲しい出来事だったな……」

 

ロ「そんで、それをやったのが先代導師、か……」

 

ミ「それじゃ僕は……」

 

 

 

ロ「ここは……広場辺り?」

 

エ「終わらないのはまだ先があるってことね」

 

ミ「……まだあるのか」

 

ス「ミクリオ……」

 

ザ「そろそろ全部だろ?ちゃっちゃと見て戻ろうじゃないの。な?」

 

エ「誰か来たわ」

 

ス「あれは!?」

 

ミ「ジイジ!それにイズチのみんなも!」

 

 

 

村の入り口

ジイジ「なんということじゃ……」

 

カイム「穢れがひどくて気分が悪くなってきた……」

 

ジイジ「このあり得ない程の強大な穢れは、やはり……」

 

マイセン「……ではマオテラスが……」

 

ジイジ「皆の者、村人の救助に当たれ。穢れが強いところは無理をするな。憑魔になっては元も子もない。必ず二人一組で行動するのじゃ」

 

「はい!」

 

倒れている女を見つけてジイジが近づく

 

ジイジ「この災厄が影響して早産となったのであろうか。母も子も報われんのう……」

 

赤ちゃんを抱きしめる

 

ジイジ「……これも縁か」

 

術をかける

 

カイム「人間の子ですよ!」

 

ジイジ「この世に生まれ落ちた瞬間にあるのは器の差だけの事よ」

 

マイセン「ですが、これほどの未熟児……持って数ヶ月では……」

 

ジイジ「……かもしれんのう」

 

ミューズ「ゼンライ様……!」

 

ジ「おお、ミューズ。それにライラか。何が起きた?」

 

ラ「…………」

 

ミューズ「詳しい話をしている時間はありません。穢れがイズチに流れる前に封じなければ……。その子は……?」

 

ミューズ「セレンの……?身籠っていたなんて……」

 

ジイジ「マオテラスをこの地に縛るため……イズチへの道を封ずる人柱になる気じゃな。だがの。大地を器とするマオテラスじゃ。ここに留める事はできても、それは気休めに過ぎん」

 

ミューズ「それでもこれは人間の……私たちが招いた事ですから」

 

ジイジ「導師は?」

 

ラ「わたしがいけないんです。主神であるわたしがついていながら、ミケルさんは……」

 

ジイジ「ライラ一人の責任ではない。そう気を病むな」

 

ラ「しかし……」

 

マイセン「導師……ついに絶えてしまうのか」

 

ジイジ「かもしれん……が、縁が希望を繋いだのう」

 

ミューズ「その子たちを導師と陪神となるよう育てると仰るのですか?」

 

ジイジ「人と天族の赤子が共に成長すれば……あるいはの。全てはこの子ら次第の事。希望……確かに預かった」

 

ス・ミ「ジイジ……」

 

ジイジ「ワシはこの子たちを大切に育てる。ライラ、お前は祭壇に戻り次の導師が現れるその時まで待つのじゃ」

 

ラ「しかし、わたしは導師であるミケルさんを……」

 

ジイジ「責任を感じているのは分かっておる。自分に自信がないのもな。だが、だからこそその反省を生かして、導師を導いてやってくれないか。こんな時にこんな事を言うのは、酷かもしれんが……」

 

ラ「ゼンライ様……」

 

ジイジ「今はまだ迷いがあるだろう。しかし、迷い苦しみながらも、それを乗り越えた先には必ず光がある。ワシらと共にもうひと頑張りしてくれんか」

 

ラ「……わかりましたわ。導師を正しき道へ導きます。今度こそ必ず」

 

ミューズ「ありがとうございます。ゼンライ様、ライラ様。さようなら、ミクリオ……私の坊や」

 

 

 

現代 ローグリン 石碑前

ス「ジイジ……」

 

ロ「スレイはあの村の生き残りだったんだ」

 

ザ「んで、ミク坊は奉じられて天族になったんだな」

 

ラ「すみません……。知っていたのにお話しできなくて」

 

ス「先代の導師やヘルダルフ、昔のライラの事が少しだけわかった気がする」

 

ミ「そしてボクたちのルーツもね」

 

ア「ミクリオ様……」

 

エ「泣いてもいいけど?」

 

ミ「泣く訳ないだろう。驚いたけど悲しいわけじゃない。マオテラスの居場所もわかった。あとはどんな答えを出すかだ」

 

ス「ああ」

 

ケ「で、答えは出たのかい?」

 

ス「どうしたいかは決まった。それが答えって言えるのかはわからないけど」

 

ラ「……では、メ―ヴィンさんにも聞いていただきましょう」

 

メ「で、どうだった?」

 

ス「……誰が悪いってくくれないけど、誰も正しくなかった、そう感じたよ」

 

メ「そうか。それがわかりゃいい。あとは……答えだ」

 

ラ「聞かせてください。スレイさんの答えを」

 

ス「……オレ、ヘルダルフを救いたい。オレが導師だから災禍の顕主を鎮めるんじゃなくて、先代の導師ミケルの後始末でもなくて、やっぱさ、穢れて憑魔になった天族は救うのに、穢れのせいで不幸になった人は自分の責任って放っとくの、なんか違うと思うんだ」

 

ラ「それが、スレイさんの……」

 

ス「答えになってるのかな」

 

ミ「……ヘルダルフのような人間はいくらでもいる。あの事件では全て悪い方向に繋がっていっただけだ」

 

ケ「……過去にあんな事があったとしも、それが今、酷い事していいってワケないと思うけど?」

 

ス「ああ。それは許せないよ、確かに。絶対止める」

 

メ「その上でヤツを救うってか」

 

ス「人と天族、両方とも幸せにするには、ヘルダルフみたいに憑魔にさせられた人も救えないとな!」

 

ミ「そうか……君は……」

 

エ「本当にバカね」

 

ロ「ん!そういえばスレイはこんなヤツだった!」

 

ラ「……はい。スレイさんはこんな方です」

 

ザ「そういうことらしいぜ?刻遺の?」

 

メ「あいつにとっての救い……そりゃ……孤独を終わらせる事だ。この意味がわかってるのか」

 

ス「……命を絶つって事かもしれないな」

 

ア「スレイ……」

 

ラ「……できますの?スレイさん」

 

メ「だな……重要なのは答えよりもむしろそっちだ」

 

ラ「はい。重要なのはもう迷わないか……。いえ、自分の導いた答えを信じぬき、それに至れるかですわ」

 

メ「そのために何が起きようが、どんな事になろうとも、な」

 

ミ「僕たちの天響術をジークフリートに込めて、それを放てば……」

 

メ「ないな。いくら天響術を込めて、ライラの浄化の力を合わせても、そんな生ぬるい方法でヘルダルフほどの穢れが祓えるものか。経験したろう」

 

ア「それでは!」

 

メ「ではどうすればいいか。わかっているだろう」

 

エ「ワタシ達自身が意志ある攻撃になるしかない」

 

ロ「……デゼルがやったっていう……」

 

ア「それでは、ライラ様たちが命を落としてしまいます」

 

ス「それじゃあ意味ないよ!」

 

メ「お前らは命を秤に乗せられると、途端に揺らいでしまう。仲間の命ならなおさらな。だがそのせいで迷い、迷って出した答えで失敗したら、二度と立ち上がれないだろう。それじゃ美徳が悪徳に変わっちまう」

 

ミ「…………」

 

ラ「ですが、信じた答えに殉じれば、もし失敗しても必ず再び立てます。恐れるべきは失敗ではありません。失敗を恐れ、答えを信じられない事ですわ」

 

ス「ライラ……」

 

ラ「さあ、スレイさん!」

 

ス「…………」

 

メ「……ライラ。残念だったな。こいつらわかっちゃいないみたいだ。無駄だったな……全て……」

 

ラ「いえ……もう少しですわ。時に自分の無力に怒りを覚えても、時に仲間を失って悲しんでも、道を惑わそうとする悪意に見えても、怒りから穢れに飲み込まれそうになっても、ちゃんとスレイさん達は自分たちのままここまで来たのです。みんなでここまで」

 

メ「たいした女だ」

 

エ「言っとくわ。ワタシは後悔したくないし、させたくもない」

 

ザ「スレイ。マヒしちゃったん?憑魔とやりあってるかぎり基本、命がけだろ?今更じゃね?」

 

ス「エドナ……ザビーダ……」

 

ミ「スレイ、レディレイクで僕が言った事、覚えてるか?僕は足手まといになるためについてきたんじゃない。そう言ったよな。改めて言った方がいいかい?」

 

ス「……いいや」

 

ラ「導師スレイが信じる答えはきっと災厄の時代に終焉をもたらしますわ」

 

ミ「さぁ、僕たちにも見せてくれ」

 

ア「スレイ、私たちがみんなの気持ちに応えよう。迷わずキミの答えを聞かせてくれ」

 

ケ「ボクは誰かが死んで誰かを助けてハッピーエンド、なんてシナリオ求めていないから。どっちも救う。そうだろ、スレイくん」

 

ロ「アタシを説得した時の強気のスレイはどこ行った?これじゃあ信じてついてきたアタシがバカみたいじゃん。男見せろよ」

 

ス「みんな……」

 

メ「……いい仲間じゃないか」

 

ス「ああ」

 

メ「スレイ、改めて答えを教えてくれないか」

 

ス「俺はヘルダルフを永遠の孤独から救い出す。もちろんみんなを犠牲にせずに。マオテラスはヘルダルフに憑いているんだろ?マオテラスはグリンウッド大陸を加護している天族だ。たとえヘルダルフの穢れに侵されても、直後にマオテラスに大陸全体の加護をお願いすれば、みんな憑魔にならずに済むんじゃないかな」

 

ラ「スレイさん……」

 

メ「それがお前の答えか。失敗して命を落とすかもしないんだぞ」

 

ス「失敗はしない、絶対に。必ずヘルダルフもマオテラスも浄化する。これが答えだ。だからみんな、オレに力を貸してくれ」

 

ラ「もちろんですわ」

 

ザ「よく言った、スレイ」

 

エ「元々そのつもりよ」

 

ミ「スレイ、一緒に世界を救おう」

 

ス「おう!」

 

メ「……あの一瞬でここまで思いつくとはな。予想以上だ」

 

ス「オレ一人の力で考え着いた答えじゃない。みんなのおかげだ」

 

メ「みんなのおかげ、か……。そのみんなの中に、俺の教え子がいるのは、これまた運命か」

 

ケ「師匠……」

 

メ「俺の役割はこれで終わりだ。後はこの街と共にのんびり生きるとするよ」

 

ラ「メ―ヴィンさん……ごめんなさい」

 

エ「あなたもバカね」

 

メ「違いない……だが後悔はない」

 

ス「どうしたんだ?何言ってるんだ」

 

ケ「師匠?」

 

メ「禁忌を犯したからな……」

 

ザ「誓約で得た特別な力はそれを破れば消え失せる……そういうこった」

 

メ「語り部としての俺の役割は終わった。これからは天族として、この石碑を守りながら生きていかなくちゃならない。もちろん、ここを離れることもなく、永遠とだ」

 

ケ「それではこれまでのように遺跡調査は……」

 

メ「そんな顔をするな、ケイン。元々そういう決まりなんだ。本来語り部はローグリンから動けない。それを誓約を結んで外を出歩いていたんだ……。仕方のないことよ」

 

ア「そこまでして、なぜこんなことを」

 

メ「さあな。俺は長い間一人だったからな。人恋しかったのかもしれない……。誓約に縛られる俺に、家族なんて作れる筈ないのにな」

 

ミ「それじゃ最初から……」

 

メ「……ライラを責めるなよ。お前らのためにこれが正しいと信じたんだ……」

 

メ「俺も……自分で決めた……」

 

ス「オレも信じるよ。自分の答え……仲間を。そのためにやらなきゃいけない事を迷わない……後悔しないために!」

 

メ「俺も信じているよ。お前たちが災厄の時代を終わらせることを」

 

エ「雰囲気出し過ぎ。あなたも死ぬわけじゃないんでしょ。そんなにしおらしくしないで」

 

メ「はっはっは。その通りだな。スレイ、この街の加護、俺に任せてくれないか。この塔全体を器としてこの街を守っていきたいんだ」

 

ス「助かるよ。ありがとう、メ―ヴィン」

 

ケ「師匠……、ボクは……」

 

メ「……すまない。ケインと二人で話したい。席を外してもらえないか」

 

ザ「わかったよ。行こうぜ」

 

ス「メ―ヴィン、本当にありがとう」

 

メ「おう。頑張れよ」

 

 

 

メ「さてと、こうやった二人で話すのも久しぶりだな」

 

ケ「まさかあなたがここまで知っているとは……、必死に世界中の遺跡を走り回っていたのがバカらしいですよ」

 

メ「そう言うなって。……色々学ぶことがあっただろう」

 

ケ「はい。自分の見聞が広がりました。師匠のおかげです」

 

メ「お前自身が考え、学んだ事はお前だけの財産だ。大切にしろよ」

 

ケ「師匠、エドナちゃんが言っていたこと、もう忘れたんですか?」

 

メ「忘れてはおらんよ。これは言わば卒業試験だ。お前は立派な考古学者になった。俺が保証する」

 

ケ「師匠……。今までありがとうございました!」

 

メ「息子が出来たみたいで楽しかったぞ、ケイン」

 

ケ「世界中を回ってまたここに戻ってきます。旅の思い出と師匠を越える遺跡調査の成果をお土産に」

 

メ「俺を越える、か。大きく出たな」

 

ケ「たまには親孝行でも、と思いましてね」

 

メ「そうか……、俺にもいたんだな、大切な家族が、こんな近くに……」

 

ケ「何を言っているんですか、父さん……。……当たり前じゃないですか。息子の前で、そんな悲しい事言わないでください」

 

メ「お前ってやつは……。……楽しみにしているぞ、我が息子よ」

 

ケ「みんなを待たせています。もう行きますね」

 

メ「ああ。よろしく伝えておいてくれ」

 

ケ「はい」

 

 

 

ケ「すまない。待たせたね」

 

ア「もういいのか?」

 

ケ「ああ。また会いに来る約束をした。その時にでもゆっくり話すさ。今はやる事がある」

 

ス「だな。それじゃあ出発しようか」

 

ロ「カムランだね」

 

ス「ああ。マオテラスはそこにまだ居るはずだ」

 

ミ「とにかく、まずはイズチへ」

 

ス「カムランへ通じる道があるはずだ。村が崩壊した直後にジイジが駆けつけてたし」

 

ア「やはりカムランはイズチの近くだったのか」

 

ザ「やはり?」

 

ア「スレイと初めて出会った時、私はカムランを捜していたのです。マルトラン師匠があそこにある可能性が高いと」

 

エ「今思うと、うさんくさいわね」

 

ケ「マルトランさんはヘルダルフの配下。ヘルダルフもイズチの近くにあるという事はわかっているみたいだね」

 

ミ「おそらくね。それだとハイランドとローランスとって戦略的に重要という条件にも合う」

 

ザ「ま、そうだろうな。ただしカムランへの道は封じられてるみてえだが」

 

ミ「……僕の母によってね」

 

ア「ミクリオ様……」

 

エ「泣いても――」

 

ミ「泣かないって言ってるだろう!」

 

エ「ならいいのよ。ミボは声出し部長なんだから元気だしなさい」

 

ミ「そんな役職についた覚えはない!」

 

ス「ミクリオも大丈夫そうだな」

 

ラ「……いよいよ決戦ですわね」

 

エ「終わらせましょ」

 

ザ「だな」

 

ケ「行ってくるよ、師匠」

 

ケインは決意を胸に、ローグリンを後にした。




こんにちは、作者です。第二十三話です。突然息絶える原作メ―ヴィンに対して、不思議と何の感情を持つことが出来ませんでした。スレイも一言二言話をしただけだし、ロゼとメ―ヴィンとの関係もイマイチわからないまま。パーティキャラの中に彼と深いかかわりを持っているキャラがいなかったのが原因なのかなと。なので、当作はオリキャラであるケインをメ―ヴィンの弟子として描きました。当作はスレイ主人公の物語ということで、彼らの師弟関係の描写が雀の涙ほどしかありませんでしたが、機会があれば、外伝としてケインの過去の話も描きたいですね。……機会があればね。ではまた、第二十四話で会いましょう。


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第二十四話 誇り高き騎士道

ローグリンを後にして、キャメロット大陸橋へ向かう。


キャメロット大陸橋

ザワザワザワザワ

 

エ「やたら騒がしいわね」

 

ミ「前通った時より人が多くなっているような……」

 

ス「どうしたんだろう?行ってみよう」

 

「おい、聞いたか!また戦争だってよ!」

 

「ああ。今度はローランスもハイランドも本気だ。すげえ衝突になるって話だ」

 

「戦場はまたグレイブガント盆地あたりか」

 

「こうしちゃいられねぇ!」

 

「ああ、食材に武器!」

 

「薬に、棺桶!稼ぎ時だな!」

 

ス「本気の戦争……!?」

 

ス「まずい!前以上に穢れが集まったら!」

 

ラ「それこそが狙いなのでしょう」

 

ザ「ヘルダルフの……か」

 

ケ「ハイランドにはマルトランさんが、ローランスにはサイモンがいる。兵を煽れば、戦争を引き起こす事は容易だろうね」

 

ア「マルトラン師匠……」

 

ス「グレイブガント盆地へ急ごう。戦争を止めなきゃ」

 

 

 

グレイブガント盆地 ローランス陣営

物陰で様子を伺う。

 

「青嵐騎士団の被害報告!負傷118!死亡30!」

 

「衛生兵!包帯が足らんぞ!」

 

「気をつけろ……人間と思えない力を持った女騎士が……」

 

「伝令!敵部隊に死傷約50を与たり!」

 

ケ「くっ……」

 

ア「間に合わなかったか」

 

ス「…………」

 

ミ「決着したのか?」

 

ザ「冗談だろ」

 

ラ「多分、先発部隊の小競り合いでしょう」

 

ロ「両国の本隊同士の衝突ならこの程度で済むはずないもんね」

 

ス「この程度って……」

 

「白皇騎士団はまだか!」

 

「ラストンベルの避難誘導に手間取っている模様です!」

 

「くっ!そんな場合かっ!」

 

ラ「スレイさん、このままここにいても」

 

ロ「白皇騎士団がラストンベルにいるって」

 

ミ「セルゲイに会ってみよう」

 

ス「そうだな……」

 

 

 

ヴァーグラン森林

トル「と、頭領……」

 

ロ「トル!」

 

ア「ひどいケガ……」

 

ケ「大丈夫か。肩を貸すよ」

 

トル「ありがとう……」

 

ロ「何があったの、トル」

 

トル「みんなが……ペンドラゴで捕まっちゃった。枢機卿の暗殺の容疑……僕たちがハイランドに頼まれてやったって」

 

ロ「なんで?アレはあたしが勝手に――」

 

トル「ルナールが帝国に持ちかけたんだ。そういうことにすればいいって」

 

ミ「なるほど。帝国は開戦の大義名分を探していただろうからね」

 

ラ「枢機卿の暗殺をハイランドが謀ったことにできれば」

 

ザ「十分すぎるな」

 

ア「くっ……。ハイランドもローランスもそこまでして戦争がしたいのか」

 

トル「ルナールに罠を張られて……エギールが盾になって僕だけ……。ごめん……逃げるのが精一杯だった」

 

ロ「覚悟はしてた……そういう仕事だから。けど……」

 

ス「行ってもいいよ、ロゼ」

 

ロ「でも、止めないとヤバイじゃない、戦争」

 

ミ「けど、大義名分を得たらやることは決まってる」

 

ザ「証拠隠滅だわな」

 

エ「放っとけないんでしょ。どうせ」

 

ラ「家族は大切ですもの」

 

ロ「いいの、私を信じて。前みたいに穢れにまみれて、人を殺してしまうかもしれない……」

 

ス「ロゼはそんな事しない。もうロゼは誰かを失う事でどんなに大きな悲しみを生むかを知っていると思うから。オレはロゼを信じる」

 

ロ「スレイ……」

 

ケ「彼らはちゃんと法に則って処罰されるべきだ。戦争のごだごだで勝手に処罰されては困る」

 

ア「行っておいで、ロゼ」

 

ロ「ケイン……アリーシャ。ありがと!行ってくる!」

 

ロゼ、ペンドラゴへ

 

ラ「私たちは、どうします?風の骨救出と戦争」

 

ザ「どっちもなんとかしなきゃだが、体はひとつ」

 

ケ「時間がない。ローランス側はボクが抑える。それに……遅れているというラストンベルの避難状況も気になる」

 

ミ「そうか。確かラストンベルはケインの故郷……」

 

ス「任せていいんだな」

 

ケ「ああ」

 

ア「私はハイランド陣営に行こうと思う。マルトラン師匠と話をしたい……」

 

ラ「アリーシャさん……」

 

ス「オレも一緒に行くよ。水の試練神殿で言っただろ?マルトランさんを穢れから救い出すって」

 

エ「その方が得策ね」

 

ケ「相手はあのマルトランさんだ。一筋縄にはいかない。人手は多い方がいいだろう」

 

ア「ありがとう、スレイ」

 

ケ「じゃあボクもいくよ」

 

ラ「ケインさんもお気をつけて」

 

ケ「そっちこそ」

 

ケイン、ラストンベルへ。

 

ミ「ロゼにケイン……。一人で行かせて大丈夫だっただろうか」

 

ザ「あいつらのことだ。そう簡単にはくたばらないだろう」

 

ラ「スレイさん、アリーシャさん。今は目の前の事に集中しましょう。二人を信じて」

 

ス「うん」

 

ア「迂回してハイランド陣営へ向かいましょう。そこにマルトラン師匠がいるはずです」

 

 

 

フォルクエン丘陵

ミ「だいぶ進んできたな」

 

エ「もうすぐハイランドの陣営ね」

 

ア「こうしている間にも多くの兵が戦争で……」

 

ザ「アリーシャちゃん、焦りは禁物だ。緊急事態ほど特にな」

 

ア「わかっています。ですが……」

 

ス「アリーシャ……」

 

ラ「スレイさん!あそこ……」

 

ア「マルトラン師匠……」

 

ミ「ひとまず身を隠そう」

 

 

 

マルトラン「現状を報告しろ」

 

兵士「はっ!敵の先発部隊を強襲。壊滅的ダメージを与えた模様。自軍の圧倒的戦闘力に相手方は浮足立っているとのこと」

 

マ「こちらが優勢か。私が直々に相手をしてやった甲斐があったな。全軍に次ぐ。総攻撃の準備急げ!勅命が下り次第、総力をもってローランス軍を殲滅する!ハイランドに勝利をもたらすのだ!」

 

兵士「は!」

 

マ「かくれんぼは楽しいか、アリーシャ。わざわざここまで出迎えに来たのだ。出てこい」

 

ア「師匠……」

 

エ「私たちに気付いていたのね」

 

ザ「恐ろしい女だ」

 

ア「マルトラン師匠……。なぜ戦争を進めるのですか!このままでは双方ともに大勢の死者が出ます」

 

マ「なぜ、だと。二度も言わせるな。私が信じる理想のためだ」

 

ア「……………」

 

マ「……来い。ここでは人目につく。決着をつけよう、アリーシャ」

 

ア「戦うしかないのか……師匠と」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「大丈夫だ。さあ師匠の後を追おう」

 

エ「あの子、相当無理してるわね」

 

ミ「当然だ。自分の師と戦うことになるかもしれないんだから……」

 

ミ「ライラ、マルトランはなんの憑魔なんだ?」

 

ラ「それが……正体が見えないのです」

 

ミ「わかるのは手強いってことだけか」

 

ザ「強い美人か。相手にとって不足はないね」

 

ス「ホントは戦わずに浄化できるといいんだけど……」

 

エ「やるだけやってみて、出来なかったらその時考えましょう」

 

ラ「希望を捨ててはいけません、スレイさん」

 

ザ「お姫様を支えるんだろ、導師殿」

 

ス「みんな……、ありがとう。もう一度だけマルトランさんと話してみるよ」

 

ミ「そうと決まれば、見失わないうちにアリーシャを追いかけよう」

 

 

 

ボールス遺跡

ア「師匠!」

 

マ「来たか。大仕事が控えている。手早く終わらせよう」

 

ア「なぜです!師匠っ!」

 

マ「この期に及んで、まだ問いを吐くかっ!」

 

ア「………っ!」

 

マ「今見えているものが現実であり事実だ。そんな基本もわきまえぬ者が民を導こうなど笑止極まる」

 

ア「理解はしています。でも……」

 

マ「では、悟っただろう。お前の青臭い理想など一片の意味ももたないという現実を。国にとっても。民にとっても。もちろん私にとってもだ」

 

ア「だったら!どうして私を支えるフリをしたんですか!?」

 

マ「……ふたつだけ利用価値があったからだ。お前は、ハイランドとローランスを最大の力で衝突させるための道具だった。バルトロらを反発させ暴走させる役には立った」

 

ス「でも、アリーシャはハイランドの国の人の事を考えて――」

 

マ「それだけじゃないぞ。お前がローランスの兵に殺されたという情報を流し、開戦の名目を得る事も出来た。導師、お前たちがアリーシャを大臣たちから守ろうと働いた小賢しい浅知恵の副産物だ」

 

ア「くっ…………」

 

ス「アリーシャの理想には、意味も価値もあるよ」

 

ミ「ああ。少なくともスレイは信じてる」

 

ラ「スレイさんだけではありませんわ」

 

マ「愛弟子への最期の授業だ。邪魔しないでもらいたいな」

 

ザ「邪魔が入るのが現実ってもんさ」

 

エ「あなたの思いどおりにはさせないわ」

 

マ「……最早かわすのは刃だけで十分か。まあいい。もうひとつの価値を果たすには最高の舞台かもな」

 

ス「アリーシャは下がって」

 

ア「…………」

 

ア「これは私と師匠と、ハイランドの未来に関わる問題だ。ちゃんと向き合いたい」

 

ス「わかった」

 

マ「お前と本気で手合わせするときが来るとはな」

 

ア「やってみせる!」

 

マ「ふん!隙だらけだぞ、アリーシャ!」

 

 

 

 

ス「うおおお!」

 

マ「ぐっ……うおおお。ふふ、浄化などされてたまるか……真に浄化されるべきはっ!この世界の方なのだから!」」

 

ラ「この方も……浄化出来ない」

 

マ「ぐ……おおおおおお。ぬうん」

 

ミ「何か様子がおかしいぞ」

 

エ「あまりの穢れに心身とも耐え切れなくなってる……」

 

ス「枢機卿の時と同じか…」

 

マ「やはり生身ではあのお方の大いなる力には耐え切れぬか……。だが、もう戦争は止められぬ。いずれこの世界は穢れに溢れ、私たちの理想は実現される。ここで命ついえてもあのお方が必ず……」

 

ア「もうやめてください、師匠!あなたは災禍の顕主に騙されているんです!!」

 

マ「……どこまでも優しいな。私は、そんなお前が――」

 

マ「がはっ……!!」

 

マ「反吐が出るほど嫌いだったよ」

 

ア「…………っ!」

 

マ「これが現実だよ……アリーシャ」

 

倒れるマルトラン。

 

マ「あの方の理想に身を捧げた証――。後悔は……ない」

 

穢れと共に消えるマルトラン。

 

ア「あああ……!」

 

ア「うう……っ!」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「もう嫌だ……」

 

ア「嫌だ!嫌だ!家に帰りたい!知らないよ!戦争も国も民も!陰口を言われるのも、意地悪をされるのももうたくさん!王女も騎士もやめる!バルトロでも誰でも勝手にすればいい!」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「みんなのためにって頑張っても……いいことなんてなかった……なにも……。無駄だったんだ、私の行動全部が!戦争を止めることも出来ないで誰も守れない。私のせいで……私の……せいで……」

 

ラ「アリーシャさん……。…………」

 

ミ「ライラ?」

 

ラ「『騎士は守るものにために強くあれ。民のために優しくあれ。ここで諦めるのか、アリーシャ・ディフダ!』」

 

ア「それは……」

 

ラ「約束でしたわよね。アリーシャさんが弱気なことを言ったら、思いっきり叱ってくださいって。私はレディレイクの礼拝で、アリーシャさんと街の人々を見てきました。アリーシャさんは、どんなに苦しいことがあっても、すべての人々に笑顔で接していました。アリーシャさんの行動が無駄だったなんて言ったら、街の人々が悲しみますわ」

 

ア「ライラ様……」

 

ラ「アリーシャさんの目指す先に必ず光があります。一緒に行くのでしょ、希望の先へ」

 

ア「『騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ』師匠の言葉が耳から離れないんです。きっと私を騙すための言葉だったのに……」

 

ス「あの人が嘘を言ったとしてもアリーシャが受け止めた気持ちは本物だろ?」

 

ス「それで今ここにいるアリーシャは間違いなく現実だよ。オレが保証する」

 

ア「はは……みっともない現実を見せてしまったな。ハイランドの民を守るために、穢れなき世界を見るために、最後まで青臭くあがいてみせる。それが私だから!」

 

ザ「若いねぇ~!素であんなセリフを」

 

ミ「すまない……」

 

エ「なに泣いてるわけ?あなたまで」

 

ラ「だって感動して……」

 

ス「なんか言った?」

 

ミ・ラ・エ・ザ「別に」

 

ス「これからどうする?」

 

ア「当初の目的通りハイランド陣営へ向かおうと思うが……」

 

ミ「今戻ると危ないかもしれないな」

 

ラ「ハイランド陣営内に、アリーシャさんを助けてくれる方がいるといいのですが……」

 

ルーカス「スレイ!」

 

タケダ「殿下!」

 

ス「ルーカス!」

 

ア「タケダ!無事だったのだな!」

 

タ「殿下こそ!よくぞご無事で!」

 

ル「これは驚いたな。こんなところで何をしてる。アリーシャ姫はローランスに殺されたと聞いていたが……」

 

ア「心配をかけたな。実は……」

 

 

 

ル「なるほど。事情はわかった。で、アリーシャ姫はハイランド陣営に戻りたいと」

 

ア「はい」

 

ル「わかった。オレがアリーシャ姫を護衛する」

 

ス「ルーカスが!?」

 

ル「安心しろ。知ってるだろ、俺達の実力」

 

タ「もちろん、私もお供します!」

 

ザ「二人も兄ちゃんが付いていれば大丈夫だろ」

 

ア「スレイはケインとロゼのところへ向かってくれ」

 

ス「……わかった。ルーカス、タケダさん。アリーシャをよろしくお願いします」

 

タ「言われなくとも」

 

ル「導師殿から直々のお願いとなると無下にはできないな。後で一杯おごれよ」

 

ス「ああ。約束だ」

 

ア「あまり時間がない。すぐ立とう。スレイ、ありがとう。私、もう少しだけ頑張ってみる」

 

ス「オレも頑張るよ。必ず戦争を止めよう」

 

ア「ああ」

 

アリーシャ、ハイランド陣営へ。

 

ミ「僕たちも行こう」

 

ス「ああ。ケインとロゼを助けにいかなきゃ」

 

ラ「ここからならロゼさんが向かったペンドラゴよりセルゲイさんとケインさんがいるラストンベルが近いですわ」

 

エ「ラストンベル、次にペンドラゴの順番の方が効率的ね」

 

ス「ケイン、セルゲイと合流できたかな」

 

ザ「ケインの事だ。きっとうまくやってるさ」

 

ス「様子を見に行こう」

 




こんにちは、作者です。第二十四話です。
今回はアリーシャ編。次回がケイン、ロゼ編です。ここらへんの件は殆ど原作通りですかね。敵の三幹部との直接対決。ベタですが燃える展開ですね。ではまた、第二十五話で会いましょう。


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第二十五話 大切な家族

アリーシャと別れ、ケインのいるラストンベルへ向かう。



ラストンベル

ザワザワザワザワ

 

ミ「街の中が騒がしいな」

 

ザ「戦争が始まって言うんだ。騒ぐなってほうが難しい」

 

ラ「ケインさんはどこでしょうか……」

 

セ「頼む!落ち着いて聞いてくれ!」

 

ス「セルゲイ!」

 

セ「スレイ……。すまない。開戦を止められなかった」

 

ス「まだ最悪じゃないよ」

 

セ「うむ。なんとか最小限の被害でとどめたい。そのために住民の避難を――」

 

少年「なにが避難だよ!逃げる前に戦え!父ちゃんと兄ちゃんを殺したハイランドと!」

 

男「あんたは和平派だったよな!避難とか言って、ハイランドに街を明け渡す気じゃねぇのか?」

 

少年「そんなのヤダ!」

 

セ「違う!本当に危険なのだ!ハイランドは全軍をあげて侵攻してきている!」

 

男「こっちも全軍で攻めればいい!」

 

セ「それでは果てしない殺し合いに――」

 

男「敵を殺すのが騎士の仕事だろう!なあ、みんな!」

 

少年「そうだ!ハイランドなんかやっちまえよっ!」

 

女「冗談じゃないわよ!街も財産も明け渡すなんて!」

 

ケ「みんな、冷静に!少しの間でいいから、ボクの話に耳を貸してくれ」

 

男「ケイン……」

 

ケ「ラストンベルを離れるのが不安なのもわかる。みんなが生まれ育った故郷だ。ここで積み重ねた想いがあると思う」

 

男「ならなぜ――」

 

ケ「でも、それは全て命あっての者だ。戦場では恐ろしい殺し合いが行われている。戦況次第ではこの街も戦火の渦に巻き込まれるかもしれない。今は安全な所へ避難して――」

 

男「勝手なことばかり言いやがって!」

 

男「街と住民を守って、敵を殺すそれが騎士の仕事だろう!俺たちはこの街を離れないぞ!」

 

ケ「それは違う」

 

男「違わないだろう。大体、敵に恐れをなして騎士を辞めたお前に何がわかる。定職にもつかず、どこかフラフラと……。俺らがお前に何か言われる筋合いはない!」

 

ス「そんな言い方って!ケインは世界を救おうと遺跡を回って――」

 

ケ「いいんだ、スレイくん。彼が言うことは事実だ」

 

ラ「ケインさん……」

 

エ「…………」

 

セ「スレイ……一度街を出よう。現状を報告する」

 

ス「ああ……」

 

ケ「…………」

 

ザ「おーい、置いてくぞ」

 

ケ「すまない、すぐ行く」

 

男「逃げるんじゃねぇ!腰ぬけが!」

 

男「売国奴!」

 

男「臆病者!誇りはないのか!」

 

女「戦いなさいよ!命懸けで!」

 

ザ「あんな輩、どこに行ってもいる。きっと戦争で気が立っているだけさ」

 

ケ「わかっているよ……。どうか気を悪くしないでくれ。普段はあんなことを言う人たちじゃないんだ……」

 

ス「ケイン……」

 

 

 

街の外へ

兵士「街の奴ら、団長の気持ちも知らず勝手なことを!」

 

セ「……彼らの気持ちもわかる。先のハイランドとの戦いでは大勢が死んだのだ」

 

ス「それにしても……」

 

ラ「住民の穢れが急に強まりました」

 

ミ「別の原因があるんじゃないか?」

 

ス「セルゲイ、オレたちも手伝うよ。まだ戦いを止める希望はあるさ。アリーシャも、ハイランド軍を抑えるために頑張ってるはずだから」

 

ケ「アリーシャ姫……。キミたちがここに来たって事はマルトランさんは――」

 

少年「うああっ!」

 

エ「子どもの悲鳴!」

 

セ「何ごとだ!」

 

兵士「子供がハイランド兵に襲われています!」

 

セ「なに!ハイランド兵がもうここまで」

 

ミ「ライラ、あれって……」

 

ラ「ええ。憑魔ですわ!」

 

ス「セルゲイ、こいつらは!」

 

少年「ひっ……怖いよー。父ちゃんっ!」

 

セ「ぬう!」

 

セルゲイ、少年を助ける

 

セ「少年、ケガはないか」

 

少年「う、うん……」

 

兵士「団長!後ろ!」

 

セ「な、しまった!」

 

ガキン

 

ケ「そうっら!」

 

セ「助かった、ケイン」

 

ケ「セルゲイさん、こいつらは」

 

セ「……普通ではないな。だが――。皆の者、街の中へは一人も通すな!ローランスの民を守るんだ!」

 

セ「逃げろ、少年!」

 

少年「うう……!」

 

逃げる少年

 

ミ「スレイ、僕たちも!」

 

ス「わかってる!」

 

辺りが暗くなってセルゲイたちが消える

 

ケ「な、消えた……。おーいセルゲイさん!返事してくれ!」

 

エ「この術は……」

 

ザ「幻術、だな」

 

サイモン「邪魔をしないでくれたまえ」

 

サ「せっかくお膳立てしたんだ」

 

ス「全部お前の仕業か!」

 

サ「そうだと言ったら、お前はどうするのだ?」

 

サ「ふふふ……」

 

ミ「まて!」

 

ラ「早くサイモンさんの領域を破らないと!」

 

ス「ああ!セルゲイたちを助けられない!」

 

 

 

ミ「くっ、見失ったか……?」

 

セ「スレイ」

 

ケ「セルゲイさん!?」

 

ザ「はぁ?なんでこんなとこに?」

 

セ「なに、敵を片付けたからさ」

 

ザ「…………」

 

ス「ザビーダ!」

 

ザ「姿を現せ!偽物!」

 

セ「おっと。いかん、いかん。つい返事をしてしまった」

 

サイモン姿を現す

 

ザ「風まで騙すとは、すげぇ幻術だな」

 

エ「術者はマヌケだけど」

 

サ「根が真面目なものでね」

 

ス「セルゲイの姿で何をする気だ」

 

サ「使い道はいくらでもある」

 

セルゲイに変化

 

セ「邪魔だった本人も、今頃憑魔に殺されているだろうしな!」

 

ケ「なるほど。キミが街の人々の不安や怒りを煽ったのか」

 

セ「如何にも。ははは!さあこい、導師よ!」

 

ミ「くっ!やりにくい!」

 

ザ「それが狙いだ。情をかけるなよ!」

 

ス「わかってる!こいつはセルゲイじゃない!」

 

 

 

ス「はああ!」

 

セ「ぐっ……」

 

サイモンの幻術を打ち破る。

 

サ「まったく……容赦がないのだな」

 

ス「……お前はセルゲイじゃないからな」

 

ケ「姿は似せられても、剣筋はマネできないみたいだね。剣の振り方がまるで素人だ」

 

サ「なるほど。あの騎士と同じ思考だ。友だから助けるが、敵なら殺す。穢れていなければ守るが、憑魔は消す。実に単純で素晴らしい世界だ。お前たちにとっては」

 

ス「…………。なにがいいたい?」

 

サ「ただのエゴだと言っているのだよ。穢れの源であるエゴだと」

 

ラ「そんなこと――」

 

サ「私が煽ったとはいえ、住民たちの怒りや憎しみはごく当然のものだ。だが、お前たちはそれを穢れと呼び、消そうとする。導師の使命だの騎士道だのの名目の元に。さて、誰が保証するのだ?そんなお前たちが穢れていないと」

 

ラ「違います!スレイさんは穢れてなど!」

 

サ「違わないだろう。お前の知る先代導師も――」

 

ス「使命でも、誰かのためだからでもない。自分の信じてることをやっているだけだ。オレも、セルゲイたちも」

 

サ「今更、開き直るか」

 

ス「今更じゃない。ずっとそうしてきた」

 

ミ「これからもね」

 

サ「皆に支えられて、か。それが弛まぬ所以か。だがそれは皆に愛される素養を持っているからだ。素養の持たぬ者はこうやって穢れの中に生きるしかない……」

 

ケ「キミがどう生きてきたかはわからないけど……そう決めつけるのは良くないんじゃないかな。どんな力も使い道次第。表の世界で生きていく方法もあるんじゃないか」

 

サ「そんな方法がどこに、あるというのだ!」

 

ケ「それを探すんじゃないか。迷うから探す。答えを探しているから迷う。それの繰り返しだ」

 

サ「私のやり方が間違っているというのか!闇の中で生きていくと、ヘルダルフ様と共に生きると決めた私の答えが……」

 

サイモン消える

 

ラ「スレイさん……、ケインさん……」

 

ス「戻ろう。大丈夫さ、セルゲイも」

 

 

 

ミ「スレイ!あそこ!」

 

ス「セルゲイ!」

 

セ「自分は大丈夫……だ。だが……」

 

ローランス兵「おい!しっかりしろ!」

 

ミ「これは……」

 

ケ「くっ、また戦いによって犠牲者が……」

 

男「セルゲイ殿」

 

男「……事情は聞いた。この子を助けてくれたそうだな」

 

少年「俺……父ちゃんと兄ちゃんの仇を討つつもりで……」

 

セ「気持ちはわかる。だが、激情に駆られて飛びかかるだけでは、獣と同じになってしまう」

 

少年「……それでもいいと思ってた。ハイランドの奴を一人でも殺せれば死んでもいいって……」

 

ス「いいわけない!オレたちは人間だ!もっと別の道を見つけられるはずだろ!」

 

少年「でも、僕、ぼく……」

 

ケ「ハイランドの兵に襲われた時、どう思ったかい?」

 

少年「怖かった……。ホントに殺されると思って……」

 

ケ「戦争とはそういうものなんだ。敵味方関係なしに多くの命を奪っていく。誰だって死ぬことは怖い。でも、それでも戦いあうんだ。同じ人間同士なのに……」

 

少年「…………」

 

ケ「戦争はボクと導師のお兄ちゃんで止めてみせる。だから、キミは安全なところに避難するんだ。亡くなったお父さんとお兄さんのためにも少しでも長く生きなくちゃ。それが残された者が出来る一番の事だと思うから」

 

ラ「ケインさん……」

 

少年「わかった……」

 

ケ「今までよく頑張ったね」

 

少年「うん。うわーん」

 

ザ「おいおい、男が泣くんじゃねえよ。しゃんとしな」

 

ケ「男だってたまには泣きたくなる時があるさ。思いっきり泣いていいんだよ」

 

少年「うわーん」

 

ス「ケイン……」

 

セ「我々を信じてくれ。ともに探してくれまいか。皆が生きるための道を」

 

男「……わかった。話だけは聞こう」

 

セ「かたじけない。ここは危険だ。一度街へ戻ろう」

 

ケ「ボクも残るよ。街のみんなを避難させなきゃならないしね」

 

エ「かっこつけすぎ」

 

ケ「ははは。慣れないことはするもんじゃないね。……これからスレイくんたちはどうするつもり?」

 

ス「ロゼのところへいこうと思う」

 

ラ「無茶してないといいですけど……」

 

ミ「無茶を期待しないのは無茶かもな……」

 

ザ「心配はつきねぇな。危なっかしいところはアイツと同じだからな」

 

ケ「風の骨が処刑されたという話はラストンベルに入っていない。今のところは大丈夫だと思う」

 

ミ「けど、今の状況を見ると」

 

エ「あんまり時間はないかもね」

 

ケ「ボクらも街の人の避難が完了次第、戦場に向かう。そこで合流しよう」

 

ス「わかった」

 

ケイン、ラストンベルへ。

 

ザ「こうしちゃいられない。パっと行く?でさっさと行こうぜ」

 

ラ「そんなシステムはありません!」

 

エ「バカやってないで急ぐわよ」

 

ザ・ラ「はーい」

 

 

 

ペンドラゴ

ザ「すっかり夜になっちまったな」

 

ラ「スレイさん、大丈夫ですか?今日は一日中動きっぱなしですが……」

 

ス「アリーシャやケインも頑張っているんだ、オレだけ休めないよ」

 

ミ「早くロゼを探そう」

 

エ「風の骨が処刑されようとしているなら広場が怪しいわね」

 

ス「広場?」

 

ザ「昔から大罪を犯した犯罪者は見せしめとしてさらされる。国家に逆らうとこうなるってな」

 

ミ「なるほど。広場なら人の目に留まる」

 

ザ「そうゆうこと」

 

ス「行ってみよう。ロゼもそこにいるかもしれない」

 

 

 

広場にて、風の骨三人が貼り付け。ロゼとルナールが対峙している

ロ「やっと会えたね。ルナール」

 

ル「ああ、オレも会いたかったぜ、ロゼ」

 

ロ「ルナール、どうしてこんなことをするんだ。わたし達仲間でしょ」

 

ル「かかかかっ!」

 

ル「まだそんなことを言っているのか。始めから仲間じゃねえんだよ」

 

ル「予定より早いが……、お前はこの手で殺してやるよぉっ!」

 

ロ「くっ……」

 

フィル「頭領!」

 

エギール「ダメだ!逃げろ!」

 

ル「どうしたぁ!?ボロボロじゃねぇか!」

 

ザ「させねえよ!」

 

ル「ぬ」

 

スレイ一行、登場

 

ザ「悪いな。その子が死ぬと悲しむ奴がいるんだ」

 

ロ「ザビーダ!」

 

ザ「なんとか追いついたな。悪い、少し遅れちまった」

 

ス「こいつは任せろ!」

 

ミ「ロゼは、みんなを!」

 

ロ「ごめん!すぐ合流するから!」

 

ル「導師……やはり来たか……。計画通り」

 

ザ「油断すんなよ!このキツネは!」

 

ラ「はい!穢れが異常に強まりました!」

 

ス「はあああ!」

 

ル「しねえ!」

 

ス「くっ……。浄化の力が効かない……」

 

ロ「スレイ!」

 

フィル「と……頭領」

 

エギール「一体何が……?」

 

ロ「これはあたしの仕事」

 

ミ「ロゼ、まさか!」

 

エ「また殺す気?」

 

ラ「いけません、ロゼさん!」

 

ロ「ザビーダ」

 

ザ「それがお前の答えか」

 

ロ「もうこれしか方法がないんだ」

 

ザ「わかったよ。とりあえずやってみようぜ。しくじるなよ」

 

ロ「おう!」

 

『フィルク=ザデヤ』

 

ロ「ルナール!」

 

ス「やめろ、ロゼ!」

 

ロ「千の毒晶!果てぬ影星!」

 

ル「ちっ。舐めるなああ」

 

ラ「穢れが一気に噴き出して……」

 

ミ「頭がおかしくなりそうだ」

 

ロ「はあああ!」

 

ス「ロゼ!?」

 

エ「穢れの中に突っ込んだ!?」

 

ラ「神威状態とはいえ、危険です!」

 

ル「なんだ、死にに来たのか」

 

ロ「あたしは死なないよ」

 

ル「じゃあオレを殺しに来たのか。仲間を貶めたオレを……」

 

ロ「殺させない、ルナールも、風の骨のみんなも。スレイも穢れさせない」

 

ル「何を、する」

 

ロ「ルナールは同じ釜の飯を分けて食べた大切な仲間。それは今も昔も変わらない。仲間は絶対に助ける、これ、アタシの矜持。知ってるでしょ?」

 

ル「ざけん……じゃねぇ……!どんなに格好つけようがお前たちがやっているのは、人殺しだ。ただの」

 

ロ「わかってる。でも過去は未来の行動で正すことが出来る。スレイが教えてくれた。今のルナールはちょっと前のアタシなんだ。殺すこと以外の方法を知らないアタシ……」

 

ル「うるせぇ!はなせ!」

 

ロ「はなさない!ルナールの穢れが消えるまで、アタシ、離さないから!」

 

ル「おおおおおお!なぜ、ここま、でする。俺はお前たちを裏切ったんだぞ……」

 

ロ「確かにあんたはアタシらを裏切った。サイモンに利用されたとは言え、それは変わらない。でも、それは怒りに任せて復讐しようとしたアタシたちも同じ。お互い様だよ。ルナール、この戦いが終わったら、一緒に罪を償お。アタシたちは一人じゃない。大切な家族がいる」

 

ル「ろ………ゼ…」

 

ザ「スレイ、今だ!一気に穢れを祓え!」

 

『ルズローシヴ=レレイ』

 

ス「うおおおお!」

 

浄化

 

ミ「やったのか……」

 

ロ「お帰り、ルナール」

 

ルナール、穢れが祓え、人間の姿に。

 

ス「ロゼ!」

 

エ「穢れの中に突っ込むなんて無茶するの」

 

ラ「体に何か違和感を感じませんか?」

 

ロ「何とか平気みたい……。ありがとう、ザビーダ。あんたが守ってくれたんだね」

 

ザ「お礼ならアイツに言ってやれ。きっとアイツが守ってくれたんだ」

 

ロ「うん……。ありがとう、デゼル」

 

トル「頭領!」

 

ロ「なんだ、トルも来たんだ」

 

トル「心配になって……。みんなを助け出したんだね」

 

ロ「ルナールも一緒だよ」

 

トル「ルナールも?」

 

ロ「スレイ、みんなを宿屋に連れて行く。先に行ってて」

 

ラ「ですが……」

 

ロ「大丈夫。すぐ追いつくから」

 

ス「ロゼもボロボロじゃないか!」

 

ロ「戦争を止めるんでしょ。導師が頑張ってるのに、従士が休んでられないでしょ」

 

ミ「キミはホント……」

 

エ「バカね」

 

ス「わかった」

 

ザ「クライマックスには間に合わせろよ」

 

ロ「おう!」

 

 

ペンドラゴ入口

ミ「あれこれやっていると一日経ってしまったな」

 

ラ「もう夜明けですね」

 

エ「今から向かっても、戦場に着くのは昼頃になるわね」

 

ス「戦況はどうなっているのかな?」

 

サイモン「気になるか?気になるだろうな」

 

ス「この声は!」

 

ミ「サイモン!」

 

サ「こんなところで油を売っていたのかね?導師にあるまじき失態だ」

 

ス「どういうことだ?」

 

サ「起こってしまったのだよ。ローランスとハイランドの衝突が」

 

ス「まさか!」

 

ミ「ケインとアリーシャは……」

 

サ「彼らはよくやった。だがこれが現実だ。一人や二人が行動しただけで知れたこと。もうすでに戦場は我が主の手中にある。もう手遅れだ」

 

ザ「手遅れ、か……。やってみなきゃわかんなくね?」

 

ス「まだ手があるはずだ……。戦争を止める方法が……」

 

サ「この期に及んで、まだほざくか。まあいい。自分たちの目で確かめてみるといい。きっとアレの出現も見られるはずだ」

 

サイモン消える

 

ス「待て!」

 

ラ「スレイさん……」

 

エ「ここで足踏みしていても仕方ないわ。急いで戦場へ向かいましょう」

 

ス「ああ!ここで諦めてたまるか!」

 

ザ「その意気だ」

 

ミ「グレイブガント盆地へ急ごう!」

 




こんにちは、作者です。第二十五話です。
ルナールは人間に戻すことにしました。改心したかどうかは……みなさんの想像にお任せします。次回は、アレが出現します。原作のタイトルロゴにもなっているアレです。
サイモン曰く「自分の目で確かめろ」とのことなのでネタバレはしないことにします。みなさんお察しだとは思いますが。ではまた、第二十六話で会いしょう。


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第二十六話 人と天族とドラゴンと

戦争を止めるためにグレイブガント盆地へ向かう。


グレイブガント盆地

ローランス兵「進め―!」

 

ハイランド兵「はあ!」

 

ローランス兵「ぐわ!」

 

ハイランド兵「よくも……よくも!ローランスが憎いぃ!」

 

ローランス兵「くそああ!」

 

ア「みんな落ち着け!」

 

セルゲイ「戦いを止めるんだ。この戦いは双方無駄に血を流すだけ。退けえ!」

 

ケ「くっ、穢れがだいぶ増えてきた。このままでは……」

 

憑魔が大量発生

 

ヘルダルフ「ふふふ、もうすぐだ。もうすぐでここも穢れで溢れ、元ある姿に世界が変わる」

 

サイモン「ヘルダルフ様、今戻りました」

 

ヘ「サイモンか」

 

サ「報告。マルトランとルナールが倒されました」

 

ヘ「そうか……。二人ともよく働いてくれた。ご苦労、あの世でまた会おう」

 

サ「ヘルダルフ様……」

 

ヘ「導師はどうした?」

 

サ「こちらに向かっています。そろそろ到着するころかと」

 

ヘ「この惨事だ。アレが生まれるのも時間の問題。アレを見れば、あやつもワシの配下に下る気になるだろう。どうあがくか見物じゃわい」

 

ぐおおおおお!

 

ローランス兵「なんだ、あのバケモノは!ハイランドの兵器か!」

 

ハイランド兵「こ、こっちへ来るぞ!」

 

ハイランド兵「逃げろー!」

 

おぎゃあああああ!

 

ス「ライラ!あれは……!」

 

ラ「ああ……生まれてしまった……」

 

ス「くっ……ドラゴン……」

 

ローランス兵「退避―、退避―!」

 

ザ「人間もあいつが見えてるのか……」

 

ミ「ああ。完全に実体化してる」

 

エ「一緒ね、ワタシのお兄ちゃんと……」

 

ハイランド兵「ははは!終わりだ!世界はもう!」

 

ローランス兵「ああ……助けて……母さん」

 

ミ「ひどい……」

 

ラ「恐れていたことが現実になってしまった……」

 

ス「くっ……、オレ達でドラゴンをなんとかしよう!」

 

エ「なんとかできるの?あれを」

 

ミ「ジークフリートに僕らの天響術を込めれば――」

 

ラ「たとえ私たち四人の天響術を全て込めても、あれほどの穢れはとても――」

 

ミ「じゃあどうすれば?」

 

デ「出たとこ勝負でいくしかないな。失敗したら救えねぇさ。誰もな」

 

ス「とりあえず、みんなが避難できるまで時間を稼ぐ」

 

エ「いたわ!あそこ!」

 

 

 

ティアマット(ドラゴン)と対峙

ミ「やっぱでかい……!」

 

ス「ドラゴン!」

 

ラ「スレイさん、あそこ!」

 

ルーカス「おい、しっかりしろ!立てるか……」

 

ローランス兵「すまない……、足が震えて……」

 

ルーカス「情けないな。しっかり掴まれ。全隊、倒れているやつを担いで走れ!敵味方に構うな」

 

ス「ルーカス!」

 

きええええええええ!

 

ルーカス「ぐわああ!」

 

「団長!」

 

ぎゃあああああ!

 

ルーカス「くそ……ここまでか……」

 

ス「うおおお!

 

『ルズローシヴ=レレイ!』

 

スレイがドラゴンに立ち向かう

 

ス「あきらめるなぁぁぁっ!!」

 

ギィヤァァ~~~ッ!

 

ルーカス「スレイ……」

 

ス「立って!」

 

ロ「はああ!」

 

ロゼも攻撃

 

ロ「走れぇっ!!」

 

ルーカス「すまない!」

 

ルーカス逃げる

 

ラ「ロゼさん」

 

ロ「ごめん、ちょっと遅れた」

 

ザ「ちゃんと間に合ったじゃない」

 

ロ「言ったでしょ、クライマックスには間に合わせるって」

 

ロ「こいつがドラゴン……」

 

ザ「ビビってるのかい?」

 

ロ「ぜんぜん!いつでも行けるよ!」

 

ス「いくぞ!」

 

『フィルクー=ザデヤ!』

 

ルーカス「ぐうう……」

 

ア「ルーカス殿!」

 

ルーカス「オレはいい……。こいつらを頼む……」

 

タケダ「一体なにが起こっている!?」

 

ルーカス「ドラゴンと戦ってるんだ……。スレイが!」

 

ス・ロ「はあああ!!」

 

ア「ケイン、私たちも!」

 

ケ「ああ!セルゲイさん、タケダさん。普通の人間にはアレを倒せない。みんなを連れて逃げるんだ」

 

セ「しかし、それではスレイが……」

 

ア「私たちがなんとかする」

 

ウァガアアア――――――ッ!!

 

ア「ライラ様!」

 

ケ「エドナちゃん!」

 

ラ「はい」

 

エ「一気に決めるわよ」

 

『フォエス=メイマ』

 

『ハクディム=ユーバ』

 

ス「アリーシャ!ケイン!」

 

ロ「これで全員揃ったね」

 

ア「これからが本番だ!」

 

ラ「神威の真の力をお見せしましょう」

 

ア「我が剣は緋炎!紅き業火に悔悟せよ!フランブレイブ!」

 

グロロロロ!

 

ケ「我が腕は雌黄!輝くは瓦解の黄昏!アーステッパー!」

 

ぎゃあああああ!

 

ロ「我が翼は碧天!天を覆うは処断の翠刃!シルフィスティア!」

 

ぶるわわわわわ!

 

ス「我が弓は蒼天!蒼き渦に慙愧せよ!アクアリムス!」

 

しぇえええええ!

 

ス「やったか」

 

ラ「いえ、まだです!」

 

グロロロ……

 

ロ「しぶとい……!」

 

ラ「穢れを食べているのです。自分を恐れる人間たちの」

 

ザ「さすが質が悪い」

 

 

 

セ「勝てないのか……導師の力をもってしても」

 

兵士「立ってるだけで奇跡だ」

 

ス「はあああ!」

 

ローランス兵「なんで戦えるんだ……?」

 

ル「これが導師か……」

 

タケダ「……いや、違う」

 

セ「これがスレイなんだ」

 

 

 

ア「きゃああ!」

 

ロ「アリーシャ!」

 

ザ「おい、よそ見すんなって!」

 

ぎゃあああああ!

 

ロ「ぐうう」

 

ス「アリーシャ!ロゼ!」

 

ケ「はあ、はあ」

 

エ「どうしたの……?もう、息上がっ、てるわよ……」

 

ケ「それは……こっちの台詞だね。結構キツイよ、これ……」

 

ミ「スレイ、このままじゃ……」

 

ス「くっ……」

 

シュッ

 

ス「えっ」

 

ミ「何かがドラゴンに当たって……」

 

ア「あれは……我が軍が使用している矢……」

 

ケ「ということは!」

 

タケダ「殿下!導師殿!私たちも戦います!」

 

セルゲイ「恐れるな!ドラゴンなど!」

 

ルーカス「でかいトカゲだ!」

 

おおおおお――――っ!!

 

ア「タケダ……みんな……」

 

ケ「ハイランドとローランスが手を取り合って……」

 

ロ「はは、なんか希望出てきたかも」

 

ス「オレもだ。もうちょっとだけ――」

 

ス・ロ「やってみるかぁ!」

 

ルーカス「うてぇー!」

 

はあああ!

 

せやああ!

 

セルゲイ「ひるむなっ!」

 

うおおおお!

 

はあああ!

 

ザ「はっはー!いいノリだ!」

 

エ「調子よすぎ。人間って」

 

ミ「まったくね。けどこれが……」

 

ラ「はい。人の強さなのですわ!」

 

ウーノ「私たち天族も負けてられないな」

 

ラ「あなた方は!」

 

ア「街々の加護をお願いした天族様!?」

 

ミ「護法天族も……」

 

ザ「見ない顔もいるぞ」

 

ス「どうしてここへ?」

 

アタック「ウチらが助けを呼びに行ったんや~。導師がピンチやて~」

 

ラ「アタックさん!」

 

オイシ「ノルミンの坊やたちが報せてくれたんじゃ。今こそ天族が立ち上がる時とな」

 

アウトル「そして、大陸にいる多くの天族が賛同してこの場に集まったって訳だ」

 

ロハン「ドラゴンになりかけていたところを導師に救ってもらった身。ようやく恩返しが出来る」

 

フォーシア「導師の答え、その結末しっかり見届けます」

 

パワント「可愛い弟子のピンチじゃ。気合入れるぞ~」

 

ムルジム「人間と天族の共同戦線よ」

 

おおおおお!

 

ス「みんな……」

 

ケ「都合よすぎなのは天族もみたいだね」

 

ロ「人間も天族も、平和を願っているってことでしょ!」

 

ワーデル「導師よ、我らの天響術をこの場に集める。それらを込め、ドラゴンにぶつけるのだ」

 

ア「スレイ。私たちで隙を作る。その隙にジークフリートで!」

 

ミ「スレイ、しくじるなよ」

 

ス「わかってるって。この一撃で終わらせる!」

 

ス「はあああああ!」

 

力を込め、発砲。

 

うおおおおおお!浄化することに成功する

 

タケダ「やった……」

 

セルゲイ「人間の勝利だ!」

 

うおおおおお!

 

ス「はぁ……はぁ……」

 

ミ「消えたな。穢れの気配」

 

ス「……ああ」

 

エ「ちょっと疲れたわ。さすがに」

 

ケ「まったくだ」

 

ミ「ふぅ……こっちもクタクタだ」

 

ラ「……はい。ドラゴンを倒したんですものね」

 

セルゲイ「おーい、スレイ」

 

ス「セルゲイだ、ちょっと行ってくる」

 

ケ「スレイくん、膝が笑ってるじゃないか。また無理をして……」

 

ロ「もう一歩も動けない……早くどこかで休もうよ」

 

エ「一番近い街はラストンベルだけど」

 

ザ「肝心の導師殿があの調子じゃな」

 

ルーカス「勝利の立役者、導師スレイを皆で胴上げだ!」

 

おお!!!

 

ス「ちょ、ちょっと、降ろしてくれよー」

 

ミ「休むに休めなさそうだね」

 

ラ「今回は少し目立ちすぎましたわね……」

 

ア「これではスレイも気が休まらないでしょう。事情を話してきます」

 

アタック「やったな~。ライラはん、ウチらがんばったでえ~」

 

エクセオ「導師、そして同胞たちよ、よく事を成したな」

 

ラ「天族のみなさんのおかげです。本当にありがとうございました」

 

アウトル「お礼を言うのはこちらの方だ。人間と天族が共に喜び合っている。こんな夢のような光景を見せてくれたのだから」

 

パワント「まったく。大した奴じゃわい」

 

 

 

ラストンベル

エ「で、結局宿屋についたのは夜と」

 

ラ「あの後もお祭り騒ぎでしたからね」

 

ミ「よっぽど疲れていたんだろう。宿に着くなりすぐに眠ってしまったからな。まったく……しまりのない顔だ」

 

エ「元からでしょ」

 

ラ「……」

 

ザ「心配いらねぇよ。スレイは大した奴だ」

 

ラ「それはもう。ですが……」

 

ザ「しっかりしすぎてても……ってか。母親の心境だな」

 

ラ「せめて姉にしてください。……歳、離れてますけど」

 

ザ「俺らも一休みしようぜ。お姉さん」

 

ラ「はい。みなさんに毛布を掛けてから」

 

 

 

ス「みんな、おはよ」

 

ザ「……でもないだろ。もうお昼だぜ」

 

ス「オレ、そんなに眠っていたのか」

 

ミ「とりあえず食事にしよう。お腹空いたろ?」

 

ス「あれ、みんなは?」

 

ラ「アリーシャさんとケインさんは、話し合いに行くといい、ついさっき出て行きましたわ。なんでも両国の和平交渉行うとか」

 

エ「で、ロゼはまだ眠っているわ」

 

ス「和平交渉!ということは戦争は!」

 

ミ「ああ。停戦みたいだよ」

 

ス「よかった。話し合いはどこで?」

 

エ「教会でやるって言っていたわ。もしかして行く気?」

 

ス「もちろん。どうなるか気になるし」

 

ミ「まだ疲れが残っているんじゃないか」

 

ス「大丈夫。もうじっくり休んだよ」

 

ザ「休めって言って休む奴じゃないだろ、スレイは」

 

ラ「それもそうですわね」

 

ス「よし!教会へ急ごう!」

 

 

 

教会

セルゲイ「では。続きは後日」

 

ア「はい。よろしくお願いします」

 

ス「セルゲイ!アリーシャ!」

 

ア「スレイ!」

 

ケ「ようやくお目覚めかい?」

 

ス「あれ、もう終わったの?」

 

ア「初回はな。ペンドラゴの城に招待されたよ」

 

ス「……アリーシャ一人で?」

 

ア「ああ。その代わり、ローランス皇帝陛下が直々に交渉してくださるそうだ。末席の王女の私と対等に」

 

セ「共にドラゴンと戦った戦友だ。ローランスは礼儀を心得ているよ」

 

ス「そっか」

 

セ「スレイたちが開いてくれた道だ。決して無駄にはしない」

 

ミ「あとは任せてよさそうだね」

 

ラ「はい」

 

ザ「『ドラゴン出て、地固まる』だな」

 

ラ「あ!上手いこと言われてしまいました」

 

エ「どういう競争意識?」

 

ローランス兵「で、伝令!」

 

セ「何ごとだ!」

 

兵「凱旋草海にてドラゴン出現!通行人を襲っています」

 

ス「ドラゴンだって!?」

 

エ「まさか……お兄ちゃん……」

 

ミ「今まで霊山に閉じこもっていたのに、なぜ今になって」

 

ラ「おそらく戦場で発生していた穢れに反応していたのでしょう。ドラゴンは穢れを養分として活動していますから……」

 

エ「お兄ちゃん……」

 

ケ「セルゲイさん、ドラゴンはボクたちに任せてください」

 

セ「わかった。街の警備を固めろ」

 

タケダ「俺たち、ハイランドも協力させてください」

 

ルナール「木こりの傭兵団も忘れていないか」

 

ア「みんな……よろしく頼みます」

 

ロ「あっ、スレイ。ここにいたー、やっと見つけたよ……って、なんだかお取込み中?」

 

ザ「話は後。ロゼ、行くぞ」

 

ロ「なにがなんだかよくわからんけど、わかった。ちゃんと説明してよね」

 

エ「…………」

 

 

 

凱旋草海

ス「居た!あそこ!」

 

「ひぃ、助けてくれー」

 

エ「お兄ちゃん……」

 

ラ「今なら、ジークフリートに、天族のみなさんが分けてくださった天響術が残っていますわ。それを振り絞れば浄化できるはずです」

 

ミ「しかし、エドナが……」

 

エ「ワタシのことは気にしなくていいわ。早く対処しないと被害が大きくなるばかりよ」

 

ケ「エドナちゃん、救うためとは言えお兄さんを傷付けるのが辛いのなら、無理して戦わなくてもいい。どうする?」

 

エ「それを今更聞いてどうするつもり?答え、わかってるくせに」

 

ケ「一応、確認しておこうと思ってね。ボクも覚悟を決めなきゃならないし」

 

エ「……ワタシも戦うわ。お兄ちゃんをこの手で救い出す。だから、ケイン、お願い」

 

『ハクディム=ユーバ』

 

ザ「俺もやるぜ。あいつと約束したんでな」

 

エ「ザビーダ……」

 

ス「決めよう。今ここで」

 

ザ「おうともよ!」

 

ドラゴン(アイゼン)と対峙

 

ザ「悪ぃ!待たせちまったな!」

 

エ「この時が来ちゃったよ、お兄ちゃん」

 

ミ「来るぞ」

 

 

 

エ「スレイ、今よ」

 

ス「はああああ!」

 

バン!

 

ぎゃああああああああ!

 

穢れを浄化し、アイゼン、元の姿に

 

ア「やった」

 

エ「お兄ちゃん!」

 

ザ「アイゼン!」

 

アイゼン「ううう……」

 

ラ「安心してください、気絶しているだけです」

 

ス「よかった」

 

ロ「休むにしてもここじゃあ……」

 

エ「お願い、ワタシたちをレイフォルク霊山に連れて行って」

 

ザ「あそこはあいつが育った場所だ。休むならあそこがいいだろう」

 

ア「私はセルゲイ殿に報告にいくよ。被害状況も確認したい」

 

ロ「あたしもアリーシャと一緒に行く。姫様一人じゃ心配だし。スレイたちはエドナについててあげて」

 

ス「わかった。頼む」

 

アリーシャ、ロゼ、ラストンベルへ。

 

エ「…………」

 

ザ「さて、俺らも出発するか」

 

エ「…………ケイン」

 

ケ「なんだい?」

 

エ「……なんでもないわ。行きましょう」

 

ケ「うん?」

 

 

 

レイフォルク霊山

アイゼン「う、ううん……」

 

エ「お兄ちゃん!」

 

アイゼン「エドナ……?」

 

ザ「ったく、ようやくお目覚めか。面倒かけやがって」

 

アイゼン「ザビーダ……、俺は今まで何を……」

 

ラ「特に後遺症もなさそうですね。もう安心です」

 

ス「よかった」

 

アイゼン「お前、人間か。俺が見えるのか?記憶が抜けていてよく思い出せない……」

 

ス「スレイっていいます」

 

ザ「お前は穢れに呑まれてドラゴンになっていたんだ。で、スレイがお前を浄化したんだ、ついさっきな」

 

アイゼン「俺が……ドラゴンに……。となるとお前は導師か。ありがとう、導師殿。どうやら世話をかけたみたいだな。おかげで天族の姿に戻ることが出来た」

 

ス「お礼ならケインに言ってよ。ドラゴンを浄化する方法を見つけたのはケインなんだ」

 

アイゼン「ケイン殿、重ねて礼を言う。本当にありがとう」

 

ケ「お礼なんて、そんな……。ボクは彼女との約束を果たしただけです。ほら、エドナちゃん。お兄さんに言いたいことがあるんでしょ」

 

エ「…………バカ」

 

アイゼン「エドナ?」

 

エ「お兄ちゃんのバカ!いつも勝手なことばかりして!勝手に旅に出て!勝手にドラゴンになって!残されたワタシの気持ち考えた事ある?ワタシがどんなに寂しかったと思っているの?」

 

アイゼン「エドナ……、すまん、心配かけたみたいだな」

 

エ「うう……う……」

 

ミ「エドナ……」

 

ラ「よかったですわね……」

 

ザ「感動の再開ってやつだな」

 

ケ「……………」

 

ス「ケイン?」

 

ケ「久しぶりの再会だ。しばらくの間二人にしてあげよう」

 

ラ「そうですわね」

 

ス「行こっか」

 

 

 

しばらく後

ミ「もういいのか?」

 

エ「ええ。ケインは?」

 

ザ「先に戻ったよ。ラストンベルの状況が気になるんだと。それと、エドナちゃんはもう大丈夫だから、とも言ってたかな」

 

エ「そう………」

 

ス「エドナ、お兄さんは元に戻ったんだ。もう俺たちに無理してついてこなくても……」

 

エ「これも乗りかかった舟よ。最後まで付き合うわ。それにみんなには借りがあるし。ありがと、お兄ちゃんを救ってくれて」

 

ミ「エドナ……」

 

ラ「それ、ケインさんにも言ってあげるといいですわ」

 

エ「わかってるわ。ちゃんと言う。さ、行きましょう」

 

アイゼン「エドナ。やっぱり行くのか」

 

エ「うん。災厄の時代を終わらせてくる。大丈夫よ、すぐ帰ってくるわ。そしたら、昔、お兄ちゃんがワタシにしてくれたみたいに、旅の思い出話、いっぱいしてあげる」

 

ザ「安心しな、お前の可愛い妹ちゃんには俺様がついてるからな」

 

アイゼン「それは別の意味で心配だな」

 

ザ「そういうなって」

 

アイゼン「変なことされてないかどうか、そこらへんもしっかり話を聞かないとな。……生きて帰ってこいよ」

 

ザ「言われなくても」

 

エ「それじゃ、いってきます、お兄ちゃん」

 

アイゼン「ああ。いってらっしゃい、エドナ」

 

 

 

ラストンベル

「なんとか和平決まりそうだってよ。いやぁ~アリーシャ姫は大した御方だな」

 

「まったくだよ。ウチの亭主にも見習わせなきゃ!」

 

「このコもよろこんでるよ!センソーがなくなって」

 

ローランス兵「お、可愛い子猫ちゃんだな。おじさんもそう思うよ。一杯どうだ、戦友」

 

ハイランド兵「……ああ、喜んで」

 

ス「本当に戦争が終わったんだな」

 

ラ「はい」

 

ザ「微笑ましい光景だねえ」

 

ミ「ケインもアリーシャも今日は遅くなるみたいだ。出発は明日にしよう」

 

ラ「それですわね。もう夕方ですし。私、お二人に伝えてきますわ」

 

ザ「俺もちょっとぶらつくわ。散歩するには今日の風はよさそうだ。エドナもやることあんだろ?」

 

エ「…………」

 

ス「わかった。今日は自由解散にしよう。明日の朝、ここに集合、だね」

 




こんにちは、作者です。第二十六話です。
ティアマット戦の後、無理やりアイゼンイベントをねじこみました。もうすぐ最終決戦ですし、ここしかないかなと。
今作を描いている時にはベルセリアが発売どころか発表もされていない状態で、アイゼンのキャラのイメージがかなり違っているかもしれません。
あしからず。次回はシリーズ恒例の決戦前夜。一番時間をかけて描きました。ぜひご覧ください。ではまた、第二十七話で会いましょう。


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第二十七話 決戦前夜

ドラゴンとの二連戦をおえ、ラストンベルで休息を取る。


ラストンベル 夜

ザ「おっ、ここにいたか」

 

ロ「ザビーダ。散歩?」

 

ザ「まあな。どうしたん?そんなたそがれて。ロゼらしくない」

 

ロ「そう、かな」

 

ザ「何か悩みがあるなら話してみな。聞くだけ聞いてやるよ」

 

ロ「ザビーダ、あたし、この戦いが終わったら風の骨のみんなで自首しようと思うんだ。もちろん、ルナールも一緒に」

 

ザ「やけに素直だな。ロゼちゃんはもうただの暗殺者じゃない、戦争を止めた導師の従士、英雄とも言えるんだぜ。もみ消そうと思えば、いくらでももみ消せるだろ」

 

ロ「ううん。あたしは、英雄なんかじゃないよ。自分の目的のために多くの人を殺して、頭領として仲間も守れなかった。確かに、今回少しは役に立ったかもしれないけど、そのぐらいじゃ罪を償えない。それぐらいの事をしてたんだ、あたしたちは」

 

ザ「人間の社会は難しいな」

 

ロ「ザビーダは、この戦いが終わったらどうするの?」

 

ザ「さあな。今は何も考えてないや。俺も自分の目的の事しか考えてなかったからな」

 

ロ「確か、ザビーダの目的って、エドナのお兄ちゃんとマオテラスを救うこと……」

 

ザ「そ。アイゼンは今日救えた。でもまだマオテラスが残っている。俺の目的はまだ半分しか達成してねえってこった。後の事は後に考えればいいんだよ」

 

ロ「後の事、か……。スレイ、ローグリンで災禍の顕主を救うって言ってたけど、ホントに出来るのかな」

 

ザ「なんだ、疑ってんのか、スレイの事?」

 

ロ「違うの。スレイって、時々凄い無茶するじゃん。この前のドラゴンとの戦いだって、勝ち目があるかわからないのに突っ込んでいって……」

 

ザ「それをお前が言うか~」

 

ロ「そういう無茶するとこ、少しわかるんだ。相打ちになってでも目的のためならそれでもいいって考え方。スレイはきっと自分の命を賭けてでもヘルダルフを救おうとする」

 

ザ「それが心配ってか。まあ、止めろって言って聞くやつじゃないしな」

 

ザ「心配するなって、きっとうまくいくさ。俺たちにはあいつがついてるんだろ?あいつが俺たちの事を守ってくれるさ。それに導師を助けるのが従士と陪神の役目、だろ」

 

ロ「従士の役目、あたしの……。そうだね。その時はあたしが全力でスレイを止める。それでもスレイが決断するならきっぱり諦める。あたしはスレイの信じる答えを信じるよ。ありがとう、ザビーダ、少し元気が出た」

 

ザ「なに?惚れそう?」

 

ロ「ちょっとだけ、ね」

 

 

 

ケ「やれやれ、ようやく会議が終わったよ」

 

ア「お疲れ様」

 

ケ「そっちこそ。お疲れ様、アリーシャ姫」

 

ラ「ケインさん、アリーシャさん」

 

ア「ライラ様」

 

ラ「スレイさんからの伝言を預かって来ました。出発は明日。早朝、公園に集合だ、そうです」

 

ケ「わざわざそれを伝えに来てくれたのか。ありがとう、ライラさん」

 

ラ「いえいえ。私も街の様子を見たいと思っていましたから。お二人はこれから?」

 

ア「そうですね。私も少し街の様子を見て回ろうと思っていたところです。ご一緒してもよろしいですか?」

 

ラ「もちろん。散歩は一人でより二人のほうが楽しいですわ」

 

ケ「…………。ボクは失礼させてもらうよ。この街にいるうちにやっておきたいことがあるんだ」

 

ラ「ケインさん……、わかりましたわ」

 

ケ「せっかく誘ってくれたのに、ごめんね。この埋め合わせは必ず。じゃ、また明日。お休み」

 

ア「おやすみなさい」

 

ラ「では、私たちも行きましょう」

 

 

ケ「しっかし、慣れない事をするもんじゃないな。会議があんなに退屈なんて思わなかったよ。やることをやって、今日は早めに休もう……うん、あそこにいるのは?」

 

エ「おかえりなさい」

 

ケ「ただいま。エドナちゃん、こんな遅くまでどうしたの?」

 

エ「あなたを待っていたの」

 

ケ「キミが?ボクを?一体どんな風の吹き回しだい?」

 

エ「…………」

 

ケ「……まあいいさ。エドナちゃん、ちょっと付き合ってくれる、行きたいところがあるんだ」

 

エ「行きたいところ?」

 

ケ「エドナを会わせてあげたい人がいるんだ。頼むよ」

 

エ「……わかった」

 

 

 

エ「ここって……」

 

ケ「墓地さ。ここでシランが眠っているんだ」

 

エ「シランって、戦争で亡くなったって言うあなたの……」

 

ケ「そ。実は、彼女が亡くなってから一度も墓参りに来た事無かったんだ……。彼女が死んだ現実を受けとめたくなくて……、戦争を止めるまでここには来ないって……、……勝手な事言って、バカみたいだろ」

 

エ「そんなこと……」

 

ケ「だいぶ遅くなってしまったよ、シラン。戦争は終わったよ。導師とその仲間たちが多くの命を救ってくれた。もう人間同士が傷つけあうこともない、キミが願った世界がやってくるんだ。だからそこから見守っていてくれ」

 

エ「ケイン……」

 

ケ「ごめんね。付き合わせちゃって」

 

エ「ワタシも手を合わせていい?」

 

ケ「ああ。きっとシランも喜んでくれる」

 

エ「ケイン、ワタシずっと苦しんでた。ありもしない可能性にすがって逃げる事もできずに、何百年もすっと縛り付けれて――」

 

ケ「お兄さんの事、だね」

 

エ「殺すしか方法がないと思っていた。でもワタシには力も勇気もなかった。お兄ちゃんってだけで……殺すことも出来なかった」

 

ケ「エドナちゃん……」

 

エ「もう無理だと思っていた。ドラゴンを救う方法なんて聞いたこともない。なのに、あなたたちは「どこかに救う方法があるはずだ」って無責任なことばかり言って」

 

ケ「今思えば、かなり強引だったね」

 

エ「強引、強引、超強引。…………でも、あなたに会えてよかったわ。短い間だったけど、世界中を見て回れた。お兄ちゃんをドラゴンにしたと思い込んで嫌いだった人間も、いい人もちゃんといるんだって好きになれた。あなたたちがわたしを外の世界へ連れて行ってくれたおかげよ。そして、ちゃんと約束通り、お兄ちゃんを救ってくれた……」

 

ケ「それはエドナちゃんが諦めなかったからさ。キミにお願いされてなかったらボクもスレイくんの従士になってないんだし」

 

エ「そうね……。後は」

 

ケ「うん。災禍の顕主を救う、だね」

 

エ「わかっているならいいのよ」

 

ケ「誰もが笑って暮らせる世の中を作りたい、それがシランの夢であり、ボクの夢だった。災厄の時代を終わらせればきっと……」

 

エ「幸せになれるわ、……その娘も、あなたもね」

 

エ「…………、ケイン」

 

ケ「なんだい?」

 

エ「丁度いいから今のうちに言っておくわ。……一度しか言わないから。……お兄ちゃんを救ってくれて、…………ありがと」

 

ケ「エドナちゃん……。うん、どういたしまして」

 

 

 

ラ「今日は夜空が綺麗ですね」

 

ア「はい。良く澄んで見えます。それにこの活気、ようやく平和が訪れたのですね」

 

ラ「そうですわね。戦争が終わり、穢れがなくなった。不安や怒りから解放されたのです。きっとレディレイクの街も同じだと思いますわ」

 

ア「ずっと見たかった景色、夢がやっとかなったんだ。スレイに感謝しなきゃいけませんね」

 

ラ「スレイさんだけではありません。アリーシャさんも、苦しい境遇の中、ハイランドのため、そして世界のために尽力しましたわ」

 

ア「ライラ様にそう言ってもらえるとなんだか嬉しいですね」

 

ラ「ふふふ、会議の方はどうでしたか?」

 

ア「今後の簡単な打ち合わせをしました。セルゲイ殿とケインが和平の方向に働きかけてくださるみたいです。ハイランド側の代表としても、なんとしても和平までこぎつけなくては……」

 

ラ「しかし、また大臣たちの妨害があるのでは?」

 

ア「確かに交戦派も多々いますが、必ず説得して見せます。タケダもルーカス殿も付いてますし、大丈夫です」

 

ラ「それなら安心ですわ。後は……」

 

ア「災禍の顕主、ですね」

 

ラ「……はい。これが最後の戦いになるでしょう」

 

ア「今夜がその名の通り、決戦前夜という訳ですね」

 

ラ「かの者との戦いはこれまでの旅路以上に、肉体的にも精神的にも厳しい戦いになるでしょう。アリーシャさん、決戦の前にスレイさんと話しておかなくていいんですか?」

 

ア「な、何をいきなり」

 

ラ「この戦いが終われば、お互い新しい目標に向かって歩み始めます。アリーシャさんだって忙しくなるのでしょう?戦いが終われば、今までのように毎日顔を合わせることが難しくなりますわ」

 

ア「それは……わかっていますが……」

 

ラ「アリーシャさん。胸の内の気持ちは伝えられる時に伝えておいた方がいいですわ。スレイさんはこういうの、言わなきゃ分からない人ですから。安心してください。私がしっかりサポートしますから」

 

ア「ライラ様……」

 

ラ「さ、スレイさんを捜しに行きましょう。きっと私たちのように街を見て回っているはずですわ。善は急げです」

 

 

ス「……すごい星空だな」

 

ミ「ああ」

 

ス「……誰が言ったんだっけ。星の数だけ想いがあるって。うまい事言うよな。その想いそれぞれが輝いていると比喩したものだな。よっぽどのロマンチストだったんだろう」

 

ス「……オレ、旅してわかったよ。自分から見えてない星もあるのに、見えないから輝いてないって思われる事もある」

 

ミ「……実際、イズチから見上げるだけじゃ見えない星もたくさんあったな」

 

ス「誰だって気付きさえすればその輝きがわかると思うんだ。ハイランドとローランス、人間と天族、国や種族が違くても、同じ世界で生きている家族なんだって」

 

ミ「グレイブガント盆地でも戦いでそれがよくわかったね」

 

ス「すげえワクワクしたよ。あの時。穢れを浄化して、ちゃんと互いに向き合えば敵同士でもわかりあえるって」

 

ミ「だが、あれだって君がドラゴンを、穢れを浄化しなければ……」

 

ミ「……そうか。決戦のあとどうするか、考えたんだな」

 

ス「うん。オレがマオテラスを宿せば、グリンウッド全域に力をゆだねられるんじゃないか。そうすればこの大陸全体の穢れを祓うことができるんじゃないかって」

 

ミ「確かに君の全ての力をマオテラスにゆだねればあるいは……。マオテラスの加護と導師の浄化の力……人々が憑魔になるのも防げるかもしれない」

 

ス「だろ?」

 

ミ「だが、その行動の意味をわかって言ってるのか?」

 

ス「ああ。オレはこの世界とマオテラスの穢れを浄化するまで動きがとれなくなる」

 

ミ「マオテラスと繋がり、刻(とき)にとり遺され、何年……いや、何百年待つのか……」

 

ス「待つさ、いつまでも」

 

ミ「……夢はどうなるんだ?世界中の遺跡を探検するんだろ?」

 

ス「オレが忘れない限り終わらない」

 

ミ「……わかった」

 

ス「サンキュ。ミクリオ」

 

ラ「アリーシャさん、いましたわ!」

 

ミ「ライラ、アリーシャ。どうしたの?」

 

ア「その、あのですね……」

 

ラ「ふあああ~……急に眠気が……。私、先に宿屋に戻っていますわ」

 

ア「えっ!?」

 

ス「何かオレ達に用があるんじゃなかったの?」

 

ラ「何かあった気がしますが、もう忘れてしまいました。でもアリーシャさんはあるみたいですよ、スレイさんとお話ししたい事が」

 

ア「ら、ライラ様!」

 

ス「アリーシャが?オレに?」

 

ミ「…………なるほど。そういうことか。スレイ、僕も用事を思い出した。先にもどっているよ」

 

ア「ミクリオ様まで!」

 

ラ「アリーシャさん、ファイトです!」

 

ミ「しっかり話すんだよ、スレイ」

 

フェードアウト ミクリオ ライラ

 

ス「どうしただろう、ミクリオまで」

 

ア「スレイ……」

 

ス「ん。どうしたの?」

 

ア「いや、大したことではないんだが……、スレイはここで何をしていたんだ?」

 

ス「星を見てたんだ。今日はとてもきれいに見えるんだ」

 

ア「星を?……本当だ、キレイ。…………。スレイ、お昼にペンドラゴのお城に招待された話を覚えているか?」

 

ス「ローランス皇帝が直々に交渉してくれるんだよね」

 

ア「うん。そこでなんだが……スレイも一緒にペンドラゴに行かないか?君は両国の架け橋として重要な人物だ。もちろん災禍の顕主を浄化して、一段落してからでいい」

 

ス「災禍の顕主を、か……」

 

ア「スレイは災禍の顕主を倒した後、どうするつもりなんだ?やはりイズチに戻るのか」

 

ス「イズチには戻らないと思う。そうだな、アリーシャたちが作り上げた穢れの無い平和な世界を見て回りたい、かな」

 

ア「スレイも一緒に、でしょ」

 

ス「うん……。アリーシャは?」

 

ア「しばらく公務で忙しくなるかもしれない。中々休みもとれないだろう。ずっと夢見ていた世界の為だ。これぐらいどうということない。もし、時間に余裕が出来て、スレイさえ良ければ、その、一緒に世界中の遺跡を見て回らないか」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「い、いや、変な意味ではないんだ。ライラ様やミクリオ様。みんなで一緒にって意味で、エドナ様とロゼは退屈かもしれないが……。ハイランドにはまだまだ多くの遺跡があるんだ。今回の旅ではゆっくり回ることができなかったから、じっくりと回れたらなって」

 

ス「みんな一緒に……か」

 

ア「スレイ?」

 

ス「あ、いや、なんでもないよ。わかった。一緒に行こう」

 

ア「本当か。やった!約束だぞ」

 

ス「うん」

 

 

 

ラ「アリーシャさん、本当に嬉しそうですわ」

 

ミ「ずっと夢見てたローランスへの和平が決まりそうなんだ。今回の功績で大臣たちにいじめられることもないだろうしね」

 

ラ「それだけではありませんわ。きっと隣にスレイさんがいるから」

 

ミ「ああ、そうだね」

 

ミ「…………」

 

ミ(スレイ…………)

 

 

 

ス「おはよう!」

 

ラ「おはようございます」

 

ロ「今日は寝坊じゃないんだね」

 

ス「それ、ロゼが言う~」

 

ケ「スレイくん、いよいよだね」

 

ラ「昨夜はよく眠れましたか?」

 

ス「うん。もうぐっすり」

 

ザ「これから最終決戦だっていうのに頼もしいねえ」

 

エ「心配なさそうね」

 

ス「やることはやった。戦争も止められたし、エドナのお兄さんも救えた。後はヘルダルフとマオテラスだけだ」

 

ア「ようやくここまで来たのだな」

 

ス「うん。アリーシャがイズチに来たのがつい最近に感じるよ」

 

ミ「スレイ……」

 

ス「大丈夫だよ、ミクリオ」

 

エ「まずはイズチへ行くのよね」

 

ケ「ああ、そこにカムランへ通じる道があるはずだ」

 

ラ「決戦ですわね」

 

ザ「んじゃ、気合入れていきますか」

 

ア「セルゲイ殿やタケダには話を通してある。いつでも発てます」

 

ス「さあ、出発しようか。イズチ、そしてカムランへ」

 

 

 




こんにちは、作者です。第二十七話です。原作の決戦前夜の演出が大好きで、セーブデータを個別にとって、何回も見直しています。特にエドナの「いやよ」は、BGMの演出も伴って最高ですね。個人的にはシリーズ最高の決戦前夜です。アニメではどのような演出がされるのか楽しみです。さてさて、次回から二話に渡って最終決戦をお送りします。いよいよクライマックスですね。なんとか三十話に収まりそうです。ではまた、第二十八話で会いましょう。


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第二十八話 ラストダンジョン

始まりの村カムランを目指す。


アロダイトの森

ロ「ここってアロダイトの森だよね。迷いの森って言われてる。スレイの故郷に向かうんじゃなかったの?」

 

ア「イズチはこの森を抜けた先にあるんだ」

 

ケ「そして、イズチのさらに先に始まりの村、カムランがあると……。やれやれ先は長くなりそうだね。スレイくん、村まではどのぐらいかかるんだい?」

 

ス「……」

 

ア「スレイ?」

 

ラ「これは……」

 

ス「ミクリオ」

 

ミ「ああ。ジイジの加護領域を感じない……」

 

ス「イズチに何かあったのか……?」

 

ザ「うぇ……ひっでえ穢れだ」

 

ラ「これがあのアロダイトの森だなんて……」

 

ア「あれは!」

 

倒れているハイランド兵を見つける

 

ロ「人!」

 

ア「……もう死んでいる。ハイランドの兵、バルトロが指揮していた隊の者だ」

 

ケ「バルトロ卿……、ハイランドの内政を握っているという」

 

ア「一体何故、こんなところに」

 

ラ「ゼンライ様の領域内でも力を発揮できる者がこの地に憑魔や人を招き入れたのでしょう」

 

ス「……ヘルダルフ」

 

ミ「ヤツがカムランに踏み入れるため人間に封印を破壊させようとしたのかもしれない」

 

ザ「どうかな。あいつはマオ坊と繋がってる。もともと封印なんぞ何の役にも立ってねぇだろ」

 

ス「ああ。きっとヘルダルフは、もうカムランでオレ達を待ち構えていると思う。これはきっと……ただのいやがらせだ」

 

ア「…………」

 

ザ「なら、ここでウダウダしてたらヘルの野郎の思うつぼだな?」

 

ス「とにかくイズチに急ごう」

 

エ「……ひげネコの狙いはわかりきってるわ」

 

ラ「はい……」

 

ロ「スレイに穢れを生ませるため、か」

 

エ「スレイも気付いてるわね。だから努めて冷静であろうとしてる」

 

ラ「スレイさんの心を傷付けるため、かの者が何を企てているか……」

 

ロ「想像つくよ。それだけは絶対阻止しなきゃ!」

 

エ「……行きましょう」

 

ラ「……本来ならすぐにでも埋葬するべきだが、少し待っていてくれ。この戦いが終わったら、私が責任を持って、必ず弔うから……」

 

ラ「アリーシャさん……」

 

ア「私なら大丈夫です。ここで立ち止まっていては何も変わりません。行きましょう。ライラ様」

 

ラ「はい」

 

 

 

イズチ ハイランドの兵の死体の山。穢れが充満している。

ス「これは……」

 

ア「ここがあの美しかったイズチ……なのか」

 

エ「戦場と同じね。憑魔になって自分を失い、お互い傷つけ合ったんだわ」

 

ラ「どうしてこんな事に……」

 

ミ「昔ヘルダルフが考えたのと同じ事をしようとしたのかもしれない。イズチやカムランは戦略的に価値があるんだろう?」

 

ロ「もう戦争は終わろうとしてんのに!」

 

エ「戦争を終わらせたくないバカがいるってことでしょ」

 

ス「……」

 

ザ「けどよ。こいつらのせいだけじゃねぇな、こりゃ。どっかからすげえ穢れが溢れてやがる」

 

ミ「……母が施した封印が破られたのかもしれない」

 

ミ「妙だ」

 

ス「ああ。ハイランド兵の亡骸はあるのに、社の仲間の亡骸がない」

 

ケ「身を隠しているんじゃないのか。例えば、そうだな。家の中とか……」

 

ア「捜してみよう!」

 

ス「ジイジ……みんな……無事でいてくれ」

 

 

 

ジイジの家

ス「って!」

 

ラ「これは結界ですわ。ゼンライ様がここに人が入らぬよう施したのでしょう」

 

ス「ジイジ!オレだよ!スレイだ!」

 

「スレイだって?」

 

「スレイ」

 

ス「良かった!みんな!無事だったんだ!」

 

ミ「ジイジは?」

 

マイセン「ジイジは俺達をここに残して人間を追い払うって……」

 

ラ「この穢れのさなかお一人で?!」

 

カイム「すまん……俺達も行くべきだった」

 

マイセン「……だがオレ達がついていっても足手まといになるだけ……」

 

カイム「ジイジを見殺しにしてしまった……」

 

ミ「まだ死んだって決まってない!」

 

ス「ジイジがそう簡単にやられるもんか」

 

マイセン「スレイ……」

 

ス「捜してくる!マイセン、みんな、ここを動かないで!」

 

マイセン「わかった。スレイ、ミクリオ、必ず生きて帰ってくるんだぞ。みなさん、二人をよろしくお願いします」

 

ス「急ごう、みんな!」

 

ミ「みんな無事だったんだ。ジイジだってきっと……!」

 

サ「この変わり果てた故郷を見てもまだ憑魔と堕ちないか……。やはり最後まで抗うのだな、導師よ」

 

サイモン登場

 

ロ「サイモン……!」

 

サ「もはや手応えは計れんな。だからこそ、手は唯一となり、それに賭けねばならなくなったのだが……」

 

ミ「貴様……!」

 

ア「まさかお前がハイランドの兵を!」

 

サ「彼らは力を求めていた。私はそれに応えただけのことよ。もっとも身に余る力に溺れ、自らの命を捨てたのもまた彼ら自身だがな」

 

ケ「無関係の人まで巻き込んで……キミをそこまで駆り立てるものは一体なんなんだ?」

 

サ「知れたこと、ヘルダルフ様がそれを望んでいるからだ。お前が憑魔に堕ち、ヘルダルフ様の配下に下ることを。その為には私はどんなことだってする。ヘルダルフ様のお役に立てるのならこの身が朽ちようとも成し遂げる」

 

ス「おまえらが何を企もうと関係ない。オレの答えは決まってる」

 

サ「憎かろう、私が?討ちたいだろう、私を?」

 

ス「ジイジはどこだ?サイモン」

 

サ「……神殿遺跡にある『災厄の始まりの門』に殺到した人間を除きに向かった。もはや全て手遅れだがな」

 

サイモン消える

 

ス「『災厄の始まりの門』……」

 

エ「スレイ、あの子が言っていた神殿遺跡に心当たりはある?」

 

ス「ああ。昔よくミクリオと探検していた。すぐ近くにあるよ」

 

ザ「口ぶりからするとそこにカムランへ続く道がありそうだな」

 

ミ「行こう!ジイジを助けるんだ!」

 

ス「ああ!」

 

 

 

マビノギオ神殿遺跡 封印前

ザ「なんだこりゃ……」

 

ス「ここにもハイランドの兵が……」

 

ロ「……こいつが兵を進めたんだ」

 

ア「バルトロ!」

 

エ「こいつが内務卿……自分の私欲のために多くの兵を使ってここまで来て、穢れに呑まれた……最後までどうしようもないバカだったわけね」

 

ケ「奥にもまだ誰かいるぞ!」

 

ミ「あれは!」

 

ラ「ミューズさん!」

 

ミューズも倒れている

 

ミ「くっ……意識がない」

 

ス「ライラ、治癒の天響術を!」

 

ミューズ「う……」

 

ミ「しっかりするんだ!」

 

ミューズ「ライラ様……」

 

ス「よかった。目が覚めた」

 

ミューズ「ライラ様、申し訳ありません……ヘルダルフの侵入を許してしまいました……」

 

ケ「やはりヘルダルフが神殿内部にいるのか」

 

ミューズ「この穢れの気配……。神殿内の穢れが流れ出ているのですね。ですが……まだ……私の命を使えば……!」

 

エ「何するつもり?その体じゃ無茶よ」

 

ミューズ「天族の方……。私はどうしても……希望を繋ぎたいのです……!この命に代えても!」

 

ミ「なぜそこまで……」

 

ミューズ「いつかゼンライ様が育んだ子らが……導師と、それを助ける者……となって……。人と天族の未来を……希望へと導いてくれると信じているから……」

 

ミ「それが……答えなんだ……」

 

ミューズ「……私の杖を……」

 

ス「その体では無茶だ!今はゆっくり休んで……」

 

ミューズ「希望を……希望を繋げなくては……あの子たちが、ミクリオが希望を繋げるまで、希望を……」

 

ミ「僕ならここにいる。僕がミク――」

 

ラ「いけません!」

 

ア「ライラ様?」

 

ザ「おいおい、突然どうしたん?」

 

ラ「……ミューズさんは誓約をかけて人柱になる力を得ています。その誓約は――」

 

エ「最愛の息子と別れ、その姿を二度と目にしない事、よね」

 

ラ「はい」

 

ミ「なんだって!」

 

ミューズ「ライラ様、杖を……希望を繋ぐ……ミクリオが生きるこの世界を……」

 

ス「ミューズさん……」

 

ミ「…………」

 

ミ「ミューズ。導師が今こちらに向かっている。仲間の天族も一緒だ」

 

ミューズ「導師!?新たなる導師が生まれたのですか?」

 

ラ「はい。あなたが希望を繋いだ二人の赤子が立派に成長しました。災禍の顕主に対せるほどに」

 

ミューズ「ミクリオが!」

 

ザ「ああ。俺様と比べたらミク坊もまだまだだが、骨のあるいい男になったぜ」

 

エ「ミボにしては頑張ってるわ」

 

ケ「導師との神依を成功させ、多くの憑魔の穢れを祓い、元ある姿へと誘っています」

 

ミューズ「あのミクリオが……天族様のお役に……」

 

ロ「立ってる立ってる。特に導師様のね。ホント、いいパートナーになってるよ」

 

ア「我々人間のことも真摯に考えてくださる心優しきお方です」

 

ス「ミューズさん、ここはオレ達に任せてください。もう人柱になる必要なんてない。神殿の穢れはオレ達で祓います」

 

ミューズ「……わかりました。従いましょう」

 

ミ「ここは危険だ。イズチに仲間の天族がいる。ひとまずそこまで逃げよう」

 

ミューズ「一人で大丈夫です。イズチには何度か行ったことがありますから。導師様に、そして、ミクリオによろしくお伝えください。では……失礼します」

 

ミ「待って!」

 

ミ「僕は…………、いや、ミクリオがあなたに会いたがっていた。自分に母がいるという事を知った時から、ずっと……。この戦いが終わったら、きっとあなたの元に訪れると思います」

 

ミューズ「しかし、私には誓約が……」

 

ラ「カムランを封印する必要がなくなれば、当然人柱になる必要もなくなります。そうすれば、誓約が無効となりミクリオさんにお会いすることが出来るかもしれません。私が必ずお連れしますわ。」

 

ミューズ「ライラ様……。みなさん、ミクリオをよろしくお願いします。どうか無事に帰ってきて……」

 

ス「もちろん。誰も傷つけさせないよ」

 

ミューズ「ありがとうございます。私に出来る事は何もありませんが、イズチの地からみなさんの無事をお祈りしております」

 

ミ「それだけで充分だ。また会おうミューズ」

 

ミューズ、フェードアウト

 

ミ「母さん、僕は必ず……」

 

ス「ミクリオ……」

 

エ「泣いてもいいのよ」

 

ミ「泣くのはこの戦いを終わらせて、母と再会してからだ。今はまだ泣かない」

 

エ「……強い子ね」

 

ザ「それでこそ男だ。もうふと頑張りしようぜ」

 

ラ「ゼンライ様もきっとこの先ですわね」

 

ケ「それに五大神マオテラスも」

 

ザ「ヘルの野郎もな」

 

ア「まだサイモンが控えているはずです。あの幻術に注意しなくては……」

 

ロ「気合い入れてこ!」

 

ミ「ああ」

 

ス「行くぞ!みんな!」

 

 

 

サ「……最終幕の開演か。ヘルダルフ様、本当に彼らはまだ染まるのでしょうか……。いや、それをこそ私が成すのだ……!それこそ私がヘルダルフ様のお側にいられる存在価値……。ヘルダルフ様、このサイモンめが必ずや導師を誘ってみせます……」

 

 

 

マビノギオ神殿遺跡 最深部

ケ「だいぶ先まで進んできたね」

 

ア「ライラ様……。ライラ様は以前、カムランを訪れたことがあるのですよね?」

 

ラ「はい……。『始まりの門』を抜ければすぐのはずですが……」

 

ロ「中々つかないね」

 

ザ「というか、もう行き止まりだぞ。一本道だったのにおかしくねえ」

 

ジイジ「スレイ……、ミクリオ……」

 

ス「ジイジ!」

 

ジイジ「災禍の顕主から命からがら逃げてきたんじゃ……。もうワシらにはあれはどうにもならん。スレイ、ミクリオよ、今すぐ引くのじゃ」

 

ミ「スレイ」

 

ス「ああ、わかっている。サイモン、幻を見せてオレ達を騙そうとしても無駄だよ」

 

エ「何度も同じ手は通用しないわ。出てきなさい」

 

ジイジ「ちっ……、素直に忠告を聞いていればいいものを……」

 

ジイジ消える。

 

ケ「消えた」

 

エ「不思議ちゃんの幻ね。性懲りもなくこんな小細工を……」

 

ラ「カムランへの道を隠しているのもおそらくサイモンさんでしょう」

 

ミ「これ以上時間を無駄にしないために幻を打破する必要があるか」

 

エ「どうやって?」

 

ザ「幻とはいえ相手するのは楽じゃないぜ」

 

ス「……もうすぐ幻術は解けると思う」

 

ロ「え、なんで?」

 

ス「サイモンは天族だから。こんな穢れた領域の中じゃ力を振るうのも難しいんじゃないか?」

 

サイモン登場

 

ミ「図星だったようだな」

 

サ「……いくら幻で責め立てても、お前の心にはもうさざ波も立たぬのか……。ならば、別の手を使うまでの事よ」

 

エ「何?やけくそ?」

 

サ「大人しく屈せ!」

 

ス「サイモン……お前……」

 

サ「なんだ、その目は?同情か?同情するならその身を闇と染めろ!」

 

サ「お前たちは散るべき花。目障りの極み!」

 

サイモン、分身

 

ア「これも幻なのですか、ライラ?」

 

ラ「はい、恐らく……」

 

エ「どっちにしても倒すだけよ」

 

ミ「こんな戦い、何の意味もない!」

 

サ「なら大人しく消えよ。どうせ天族は殺せまい」

 

ザ「えらくナメられたもんだな、おい!」

 

サ「ならば殺してみよ。そして憑魔と堕ちよ!」

 

ス「殺さない。殺しちゃいけないんだ。オレはみんなを救う」

 

サ「まだそんな戯言を。綺麗事を並べているに過ぎない。導師よ。その同胞どもよ……」

 

サ「もはやその身が染まらぬのなら……このまま共に夢幻と踊り狂おうぞ!」

 

 

 

ス「はああ!」

 

サ「くっ……」

 

サ「ふふ。私を殺さねばこの舞台は終わらない」

 

ス「サイモン、もうやめよう……」

 

サ「死を受け入れるか」

 

ラ「もう体は限界のはずです。これ以上戦ったらサイモンさんは……」

 

サ「…………お前たちをヘルダルフ様の所へ行かせるぐらいなら、それも本望よ」

 

幻術消えて道が開けれる

 

ア「道が!」

 

ミ「幻術が解けたのか!」

 

サ「くっ……。私の力ももはやこれまでか……」

 

ス「サイモン……」

 

サ「もはや手遅れ……。すべて我が主の掌中よ……」

 

ア「そんなのやってみなければわからない。少しでも希望があるのなら私たちはそれに賭ける」

 

サ「……なぜ抗うのだ……抗えばそれだけ苦しむ……。なぜ苦しみから解放されありのまま生きるという我が主の目指す世界を否定する……」

 

サ「……忘れてたわけではあるまい。その業ゆえに命を落とした風の天族の存在を。お前たちがヘルダルフ様を討つということは穢れの中でしか生きられないものを殺すということなんだぞ」

 

ロ「けどあいつは――」

 

サ「業を抱えたものがそれに抗う事はすなわち自分自身を否定する事に他ならない。抗い、否定した先に何があった?空虚な死ではないか。彼や私のような者はこうするしか他ならぬ。これが疫病神の宿命だ!」

 

サ「私の手をとってくださるのはヘルダルフ様しかいない。お前たちを行かせるわけにはいかない、なんとしても……」

 

ス「ヘルダルフは殺さない。必ず先代導師にかけられた呪いを解いて救い出す」

 

サ「何……?」

 

ス「……サイモン、前にオレに聞いたよな。『存在するだけで不幸をもたらす業を持ったものは存在自体が悪なのか、死ぬべきなのか』って」

 

サ「……どう答えるかなど聞くまでもない」

 

ス「……でも言ってとく。自分を悪だって決めつけなくてもいい。……違うな。悪でもいいじゃないか」

 

サ「なんだと……」

 

ス「や、なんか違うな……えーっと」

 

ミ「上手く言おうとするな」

 

ス「どんなヤツだって居てもいい。デゼルも姿は見えなくても、ちゃんと風の骨のみんなに愛されていた。サイモンの幻を見せる力だって、使い道次第では人を幸せに出来る」

 

ス「ヘルダルフだって、呪いさえ解ければ、永遠の孤独にとらわれることなく普通の生活を送れるはずだ」

 

サ「……詭弁に過ぎん……」

 

ス「すぐにわかってもらえなくてもいい。でもきっと、みんなを幸せになる方法、きっと見つけるよ。だから――」

 

サ「貴様は自分の残酷さがわかっておらん……。貴様は今まさに私の幸せを奪っているのだ……。もはや我が主の御為に働けぬ私に存在理由などない……」

 

ロ「サイモン、よく聞いて。正直、あたしはあんたのことを許せない」

 

ア「ロゼ!」

 

ロ「ちょっと黙ってて」

 

ア「!」

 

ロ「サイモン、あんたのせいで団長が死んで、風の傭兵団がバラバラになった。あたしらの生活をめちゃくちゃにしたんだ」

 

サ「……さっさととどめをさせ。今なら彼らの仇を取れようぞ」

 

ロ「昔のアタシなら、あんたにナイフを突き刺してたと思う。でもそれじゃあ、恨みが恨みを買うだけだってスレイが教えてくれた。憎いから、復讐だからって、殺してもなんの解決にもならないんだ」

 

サ「何が言いたい」

 

ロ「アタシはあんたを殺さない。アタシも自分勝手な目的のために、多くの人を殺してきた。そんなアタシがあんたを責める資格なんてない。だからこれでオアイコ。みんなで幸せに暮らせる世界でゆっくり反省して、今まで不幸だった分も存分に生きて欲しい。……きっとアイツも同じ事を言うと思う」

 

ス「ロゼ……」

 

サ「…………」

 

サ「新しい世界で幸せに、か……。私になれるだろうか……」

 

ス「なれるさ。オレ達が付いてる、それにヘルダルフも一緒だろ」

 

サ「…………。ヘルダルフ様はこれからも永遠と続くであろう孤独に苦しんでおられる。私にはどうすることも出来ぬ。苦しむヘルダルフ様を救うことも、お側にいて悲しみを癒すことも、な」

 

サ「…………導師よ、私の代わりにヘルダルフ様を災禍の顕主の呪縛から解き放ってほしい。もうあのお方が苦しむところを見たくない……」

 

ス「ああ。約束する。ありがとう、サイモン」

 

サ「言っておくが、お前らの考えに賛同した訳ではないぞ。ヘルダルフ様を救えなかった、その時はお前たち全員を闇へと葬るからな」

 

ス「わかった。必ず成し遂げる」

 

ザ「スレイ、穢れが強くなってきている。これ以上足を止めていたら手遅れになっちまう」

 

ラ「時間はあまり残されていません」

 

ス「急ごう、ヘルダルフのところへ。サイモンは……」

 

サ「私に構うな。このぐらいの穢れ、どうということもない。少し休めばまた動けるようになる。それよりヘルダルフ様を……」

 

ス「うん。無理するな、サイモン」

 

サ「それはこっちの台詞だ。ここから先の憑魔はどれも一筋縄ではいかぬ。ヘルダルフ様のところに辿りつく前にやられたら元も子もない。心してかかれ」

 

ス「ありがとう、サイモン」

 

一行、カムランへ向かう

 

サ「ヘルダルフ様、お許しください……。どんな結末になっても最後までこのサイモンめが付いています。ですから……、今は、今だけは導師の言葉を信じさせてください」

 




こんにちは、作者です。第二十八話です。いよいよラスダンです。サイモン、良いキャラですね。導師一行のアンチテーゼとしては最高のキャラ付けです。同じアンチテーゼだった過去のロゼともまた違う考えですし。いろんな考え方のキャラがいて、どれが正しいとも言えない。テイルズシリーズのいい所だと思います。次回は、災禍の顕主と導師の決戦。正義と正義のぶつかり合い。戦いの中、導師スレイが出した答えとは。ではまた、第二十九話で会いましょう。


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第二十九話 導師と災禍の顕主

ヘルダルフとの最終決戦


カムラン

ス「……ここがカムランか」

 

ロ「初めて来るのに知ってる場所なんてなんかへんなかんじ」

 

ア「……なんだか時が止まってるみたいだ」

 

エ「実際そうなのかも。マオ坊のあのバカみたいな力を考えればね」

 

ザ「おっそろしい量の穢れだな。スレイがいなけりゃドラゴンになってるぜ」

 

ミ「マオテラスが発しているのか……マオテラスに流れ込んでいるのか……」

 

ケ「この穢れがマオテラスを憑魔にしている原因だと考えるのが自然だね」

 

ラ「……この世に災厄が訪れてたあの時から、この場所はずっと穢れで覆われ続けていたんですね……」

 

ス「ライラ。大丈夫か?」

 

ラ「ありがとう、スレイさん。もちろん大丈夫ですわ」

 

エ「穢れの中心は村の奥のようね。おそらくそこに……」

 

ス「ヘルダルフとマオテラスがいる」

 

ザ「神殿までまだ結構ある。楽に行こうぜ?」

 

ラ「ええ」

 

ラ「ゼンライ様、ミゲルさん……。ようやくここに戻って来れました。今度こそ必ず……」

 

 

 

アウトリウスの王座前

ス「ここがヘルダルフがいる神殿か……」

 

ミ「改めて目の前にすると大きいな」

 

ス「……いよいよだ」

 

ミ「ああ」

 

ラ「スレイさん。あなたの後ろには私たちが居ますわ。それを忘れないで」

 

エ「そういうことらしいわ」

 

ザ「そういうことらしいな」

 

ロ「思いっきりやっちゃって!」

 

ケ「キミなら成せるさ、キミ自身の夢を」

 

ア「行こう、スレイ!みんな一緒に」

 

ス「ありがとう。みんな」

 

ミ「決着を付けよう。全てに。行こう!」

 

スレイとミクリオフェードアウト

 

エ「……二人ともカムランに入ってから一度もおじいさんの話しなかったわね」

 

ラ「ええ……ゼンライ様に危害を加えるのは無意味だと、かの者へ示しているのでは」

 

ザ「ビビってるように見えたぜ。俺はよ。あれじゃ自分らの弱点を認めてるようなもんだ」

 

ケ「道中にはそれらしき天族はいなかった。となると――」

 

ア「この先にいるだろう」

 

ロ「ここで考えても仕方ない!とにかく行ってみよう」

 

 

 

アウトリウスの王座 大神殿

ヘ「来たか、導師よ」

 

ジ「す……レイ……………ミク…………………り……お」

 

ミ「ジイジ!」

 

エ「やっぱり囚われていたのね」

 

ス「今助ける!」

 

ヘ「そんなにこのおいぼれの命が惜しいか。力を使い切った老兵なぞ怖くもない。返してやろう」

 

ジ「ぐっ……」

 

ス「ジイジ!」

 

ジ「ごほごほ、ワシなら大丈夫じゃ……」

 

ザ「自分から解放してくれるとはずいぶん聞き分けがいいじゃなねえか」

 

ヘ「ふん。ここは雌雄を決するに相応しい場。そこに導師と災禍の顕主以外の登場人物は必要ない」

 

ス「ヘルダルフ!オレ達はお前を救いに来たんだ。出来れば戦いたくない」

 

ヘ「まだそんなことをほざくか……。……苦しみとともに生きねばならぬ世界……全ての者はこれからの解放を望んでいるのは明白。何故それに抗う?導師よ」

 

ス「……確かにお前の目指す世界では苦しみから逃れられるかもしれない。けど、やっぱ違うと思う」

 

ミ「僕らは苦しみから目を背けたくない」

 

ラ「辛い事があるから楽しい事を実感できるのですわ」

 

ロ「だね。あたしらは生きてるって感じたいんだ」

 

ヘ「苦しみに抗う事でのみ得られる安寧……。そんなものを世界が享受するはずもあるまい」

 

エ「別に逃げるのが悪いってワケじゃないわ」

 

ザ「俺らがそうしねぇってだけさ」

 

ヘ「……ワシは自然の摂理を語っているのだ」

 

ス「摂理に従うのが生きる事だっていうのか」

 

ヘ「無論の事よ」

 

ス「違う!それは死んでないだけだ。それがどれだけ苦しいことか、お前は知ってるはずだ!」

 

ヘ「では、お前はどうすると言うのだ。この世界を」

 

ス「穢れがなく、誰も不幸にならない世界にする。ヘルダルフにかけられた呪いを断ち切って、負の連鎖をここで終わらせる」

 

ケ「穢れさえ絶てば、あなたも一人の人間。マオテラスの力を復活させれば、この世界の穢れを祓うことが出来るはず」

 

ア「旅路の中であなたの過去を知った。災厄の時代が始まって、一番苦しんだのはあなたなのかもしれない」

 

ス「ヘルダルフ。もう苦しまなくていいんだ。オレは必ずお前を救い出す!だから――」

 

ヘ「だから、戦うのは止めよう……そう言いたいのか。笑止、このワシがお前たちに従うと思うか。例えこの世界の全てを祓っても、穢れは無限にわいてくるぞ。直接的な解決にはならん」

 

ス「そうはさせない。穢れはオレが食い止める」

 

ヘ「最後にもう一度問おう、導師スレイ。ワシに降れ」

 

ス「断る!」

 

ヘ「……災禍の顕主と導師……やはり世の黒白ということか。だがワシは白とは変じぬ!」

 

ス「オレも黒にはならない!」

 

ヘ「……よかろう。真の孤独をくれてやる」

 

ヘ「マオテラス!」

 

マオテラス、ドラゴン化

 

ヘ「決意、覚悟、全て無駄。この力の前ではな!」

 

ス「もうお互い退けない…。退いたらこれまでの事を否定することになる。そうだろ?ヘルダルフ」

 

ヘ「小童がワシを語るか……片腹痛い!」

 

ミ「スレイ、僕らの策はその性質上、4回きりだ!」

 

ラ「神依による最大の攻撃で撃ち込んでください!」

 

ロ「スレイ、ジークフリートを!」

 

ス「ロゼ!?」

 

ロ「スレイは導師。最後まで温存する。ここはアタシが突破口を開く!」

 

ス「わかった。頼んだ、ロゼ」

 

ロ「任せて!ザビーダ!」

 

ザ「準備はいつでもいいぜ!」

 

ロ「さっすが、頼りになる」

 

『フィルク=ザデヤ』

 

ロ「行くよ!ザビーダ!デゼル!」

 

ザ「お前らとの旅、楽しかったぜ!またどこかで会おう!じゃあな!」

 

ロ「処断せし瞬天の扇動!シルフィスティア!」

 

ばきゅーん!

 

ヘ「むう……。天族を直接打ち出しただと……」

 

ヘ「残酷にして無謀極まりない。仲間と称するものを犠牲にしながら、何の功も奏しておらん。犬死によ」

 

ス「オレは……オレたちは……。信じた答え、信じてくれた道を貫く!」

 

ケ「ザビーダ、ロゼさん……、キミたちの覚悟、しっかり受け取ったよ」

 

エ「アタシたちの番ね」

 

『ハクディム=ユーバ』

 

ケ「ああ。とうとうこの時が来てしまったね」

 

エ「この一撃にワタシの全てを込めるわ。必ず当てなさい」

 

ケ「言われなくても!」

 

「黄昏し巨魁の錠亭!アーステッパー!」

 

ばきゅーん

 

ヘ「ぐふ……、無駄だ!」

 

ス「まだみんな戦ってる!」

 

ロ「そうだよ!あんた、それがわかんないの?」

 

ヘ「現実を受け入れられんのか……愚か者ども!」

 

ラ「攻撃は後二回です。アリーシャさん」

 

ア「お二人の気持ちを無駄にはしません!」

 

ア「ライラ様……」

 

ラ「覚悟はとっくに出来てます!穢れなき世界を」

 

『フォエス=メイマ』

 

ア「必ず実現させる!」

 

ア「業火たる白銀の聖錠!フランブレイブ!」

 

ばきゅーん!

 

ヘ「ぬうううう……、従士はもはや神依もできん。終わりだな」

 

ロ「決めつけんなっての!」

 

ケ「これでも元ローランス軍の兵士なんでね。体は丈夫なんだ。あなたもよく知ってるだろ?」

 

ヘ「そんな昔の事はとうに忘れたわい!」

 

ロ「きゃ!」

 

ケ「くっ……。確実に効いているはずなのに……」

 

ミ「火事場のバカ力ってやつか!」

 

ロ「これじゃ、ジークフリートを放つ隙が……」

 

ア「私に任せろ!」

 

ス「アリーシャ!」

 

ミ「無茶だ!一人で突っ込むな!」

 

ロ「無茶でもならなきゃいけない時でしょ、今は!」

 

ケ「従士の底力、見せてやる!」

 

ロ「あたしらは絶対に負けない!全身全霊全力全開!全部当てるよ!覚悟!ミリアド・サークラー」

 

ア「見切った!これが、私の渾身奥義!しかと受け取れ!皇刃蒼天衝!」

 

ヘ「ぐはああああ」

 

ミ「スレイ!今だ!」

 

『ルズローシヴ=レレイ』

 

ミ「自分の答えを信じて放て!ヘルダルフを貫け!」

 

「ヘルダルフ・・・!蒼華たる霊霧の執行!アクアリムス!」

 

ばきゅーん

 

ロ「はあ……はあ……」

 

ア「やったか……」

 

ケ「ドラゴン化は解いた……。なんとかマオテラスとヘルダルフの繋がりは断ち切れた……」

 

ア「ライラ様たちがやったんだな」

 

ヘ「ふはははは、その程度か……。ワシはまだここにおる。マオテラスの力がなかろうと天族の力を借りてないお前たちでは何もできまい。万策尽きたか……?」

 

ア「ま、まだだ……」

 

ス「アリーシャ、無理しないで……」

 

ア「しかし、ここで引いたらライラ様の覚悟を無駄になることになる」

 

ロ「アタシたちはまだやれるよ……」

 

ケ「そうさ……何度だって抗ってみせる」

 

ヘ「小賢しい!ふん」

 

ア「キャ!」

 

ス「みんな!」

 

ヘ「従士に興味はない!せいぜい外野からこの戦いの行く末を見届けるがいい!」

 

ヘ「導師……、いや、スレイ……。ワシとお前の一騎打ち、小細工なしの決闘。これぞこの舞台にふさわしい」

 

ス「ヘルダルフ……」

 

ヘ「……もはや語るまい。」

 

ス「いくぞ!」

 

ス「うおお!」

 

ヘ「我らの幕はその技か!よかろう!」

 

ス・ヘ「獅子閃光!」

 

のけぞるヘルダルフ

 

ヘ「ぬうう……!このワシが押し負けて……」

 

ス「これが!これがオレの全てだっ!!」

 

ス「終わらせる!来たれ神雷!俺の全てで、悪しきを断ち切る!秘剣!烈震神雷牙!」

 

ヘ「ぐあああ!!」

 

ヘルダルフ、倒れる

 

ス「はあ……はあ……やった。勝った」

 

マオテラスが降臨する

 

ス「マオテラス……、ヘルダルフとの繋がりを断ち切って解放されたのか。これで災厄の時代が……」

 

ヘ「……災厄の時代は終わらん……」

 

ス「ヘルダルフ!お前まだ!」

 

ヘ「輪廻は回る。マオテラスとの繋がりが切れ、ワシにかけられた呪いは解かれた。永遠の孤独から解放され、この身もやがて朽ちるだろう。されど、歴史は繰り返す。長きに渡って憑魔と化していたマオテラスが本来の力を取り戻すには時間がかかる」

 

ヘ「この地に封じられていた穢れもすでに世界中に流れ込んでいる。新しい災禍の顕主が生まれるのも時間の問題よ」

 

ス「大丈夫。ちゃんと考えがあるから」

 

ス「マオテラス!」

 

マ「…………いかようか?若き導師よ」

 

ス「オレはこの世界を災厄の時代から救い出したい。そのために力を貸してほしい」

 

マ「世界を穢れから加護するのが私の使命。言われなくてもそのつもりだ。だがしかし……」

 

ス「すぐには難しい……だよね」

 

マ「私自身、まだ完全に浄化されてない。穢れを持っている今、自浄作用は使えぬ。しばらくたてば再び憑魔と化してしまうだろう」

 

ス「そんなことさせない!オレが憑魔になるのを食い止める!」

 

ス「オレがマオテラスの器になって、穢れを祓う。そうすれば皆が憑魔になるのを防げるはずだ!」

 

マ「それが導師スレイ……お主の答えか」

 

ス「ああ」

 

ス「ヘルダルフ……永遠の孤独は終わった。でもこのまま死んじゃダメだ。この世界には悲しい事だけじゃない、楽しい事も沢山ある。お前には残りの人生をそれを嫌と言うほど味合わせてやる」

 

ヘ「しかし、ワシはもうじき……」

 

ス「死なせない。オレがマオテラスを宿して、ヘルダルフを加護する。今はまだ完全に穢れが祓えていないけど、時間をかけてでもオレが浄化するから。……もう苦しむことはないんだ」

 

ヘ「この世界を穢れに満たそうとしていたワシに今更生きる場所などない。戦いの敗者はこの世を去る。この世界にワシは必要ない存在だという事だ」

 

サ「ヘルダルフ様」

 

ヘ「サイモン……何故ここに……」

 

サ「あなたは私の主です。いつでもお側にいます。己の業に苦しんでいた私に手を差し伸べてくれたのは他ならぬヘルダルフ様です。初めて誰かに必要とされて嬉しかった。この世界の住民が皆、あなたを憎んでも、私は、私だけは、ずっと側にいます」

 

サ「だから……、自身の事を必要の存在なんて言わないでください……」

 

ヘ「サイモン……」

 

ス「ヘルダルフ、お前は孤独じゃない。共に生きよう。新しく生まれ変わった穢れなき世界で」

 

ヘ「スレイ……、ふっ、お前はどこまでも真っ直ぐなのだな。こんな気持ち、いつぶりだろう。心に希望の光が差したように暖かい」

 

マ「ヘルダルフの穢れが消えていく。浄化の力を使わず、閉ざした心に救いの手を差し伸べたか。これが今の導師……」

 

ス「さあ、マオテラス。オレの中に」

 

マ「いい目だ。全てを背負うと覚悟を決めたのだな」

 

ス「うん。約束したんだ、穢れなき故郷を見せるって」

 

マ「約束……か。その覚悟しかと見届けよう」

 

ス「ありがとう、マオテラス」

 

 

 

ア「う……、今の光は……」

 

ザ「どわあ!」

 

エ「キャっ」

 

ラ「アイタタタ、一体どうなったんですの」

 

ミ「ちょっと、みんな、どいてくれ。お、も、い」

 

ロ「みんな!無事だったんだ!」

 

エ「ええ。なんとかね」

 

ケ「そうだ、スレイくんは……」

 

ス「オレならここだよ」

 

ア「スレイ……その光は……」

 

ス「マオテラスと契約したんだ」

 

ロ「契約!?」

 

ミ「スレイ、やったんだな」

 

ス「ああ。これで人間や天族が憑魔になることはない。災厄の時代がやっと終わったんだ」

 

ロ「これで誰も憎み合い、殺し合うことが無くなるんだね」

 

ケ「あれほど溢れていた穢れがまったく感じられない。どうやらホントに」

 

ア「ああ。世界は救われたのだな!」

 

ミ「…………」

 

ア「ミクリオ様、どうしたのですか?浮かない顔をして……」

 

ラ「マオテラスを器としたということは……つまり」

 

エ「それがあなたの答えなのね」

 

ザ「スレイらしい選択だな」

 

ロ「どゆこと?ちょっと、誰か説明してよ~」

 

ス「それは……」

 

ミ「マオテラスと共に祭壇に留まり、穢れを祓い続けなくちゃならない。刻にとり遺され、何百年もの間……」

 

ロ「それって、ここから出られないってこと?」

 

ス「うん……」

 

ア「ウソ、でしょ……?」

 

ス「黙っていてゴメン」

 

ケ「という事は、スレイくんとはここでお別れ……」

 

エ「天族であるワタシたちはともかく、人間のあなた達にはそういうことになるかもね」

 

ア「こんなことって……、せっかく世界が平和になったのに……」

 

ス「アリーシャ……。オレ、この旅でいっぱい大切な事を学んだ。みんなで世界中を回って、たくさんの人に出会って……。きっとイズチに籠っていたら知らなかったことばっかりだった。そのきっかけをくれたのは、アリーシャなんだ。だから、そんな顔をしないで」

 

ア「スレイ……」

 

ス「…………うん、わかったよ、マオテラス」

 

ス「今すぐにでも流れ出した穢れを浄化する作業に移る。また誰かが入ってこないようにここを封じなくちゃならない。みんなとはここでお別れだ」

 

ミ「スレイ、ホントにこれでいいのか……」

 

ス「うん。離れ離れになっても、オレはみんなと旅した大切な思い出がある。寂しくなんかないよ。そうだろ、みんな。さあ、行って」

 

ラ「…………わかりましたわ。スレイさんに従いましょう。私はあなたの主神です。導師と主神と陪神、そして従士の絆。スレイさん、あなたは一人じゃない。それを忘れないで」

 

ス「ライラ、いつも見守ってくれてありがとう」

 

ライラ去る

 

ザ「まさか自分からマオテラスの器になるなんてな。恐れ入ったぜ」

 

ス「そんなこと言って、ザビーダの事だからホントは薄々気付いていたんじゃ」

 

ザ「さあな。その話は今度会った時の酒飲み話にでもしようや。さよならは言わないぜ。じゃあな」

 

ザビーダ去る

 

ロ「あたしもさよならは言わないよ。もう会えなくなるなんて急に言われても実感ないし、なんだかんだ言ってスレイのことだからふらっと帰ってきそうだし」

 

ス「ははは、ロゼらしいね」

 

ロ「あたし、頑張る。だから、スレイも頑張ってね」

 

ロゼ去る

 

ケ「キミとの旅、とても興味深かったよ」

 

ス「結局最後まで付き合わせちゃったな」

 

ケ「いいんだ。貴重な経験をさせてもらった。キミと一緒に旅できたことを誇りに思う。この旅の事、一生忘れない」

 

ケイン去る

 

エ「スレイ、お兄ちゃんがあなたに会いたがっていたわ。いつでもいいから会いにいってあげて」

 

ス「わかった。いつか必ず遊びにいくよ」

 

エ「……あなたのおかげで人間の事がちょっとだけ好きになれたわ。ありがとう。また会いましょう」

 

エドナ去る

 

ミ「イズチのことはボクに任せてくれ。必ず復興させてみせる」

 

ス「うん、よろしく頼むよ」

 

ミ「あの夢のこと忘れてないよね」

 

ス「もちろん!」

 

ミ「まあ、君が目覚めるころには世界中の遺跡を調べ尽くしているとは思うけどね」

 

ス「じゃあ、その時は案内してよ、ミクリオ先生」

 

ミ「ああ。楽しみにしているよ、スレイ」

 

ミクリオ去る

 

ア「…………」

 

ス「アリーシャ……」

 

ア「スレイはずっと生きるんだよね……。世界を守りながら、ずっと……」

 

ス「うん……。ごめん、アリーシャ、一緒に世界を回る約束、守れそうないや……」

 

ア「いいんだ。少し寂しいが……それも仕方ない……」

 

ス「アリーシャ、ずっと支えてくれてありがとう」

 

ア「礼を言うのはこちらの方だ。スレイが照らした世界……、必ず私たちが穢れなき平和な世界にしてみせる。いつかスレイが目覚めて、ゆっくり遺跡探検ができるような平和で穏やかな世界を目指して」

 

ス「うん……遠くからだけど、アリーシャのことずっと見守ってる。……ほら、みんな待ってるよ」

 

ア「いままで本当にありがとう、スレイ。キミに出会えて、一緒に旅が出来て本当によかった。この気持ち、ずっと、ずっと忘れない」

 

アリーシャ去る

 

ス「さようなら、アリーシャ」

 

 

 

ヘ「儀式は終わったか」

 

ス「うん。マオテラスの力で始まりの門を再び閉ざした。これでここから出られなくなった。……ホントにいいのか、ヘルダルフ。外の世界に出なくて」

 

ヘ「ああ。今までの罪滅ぼしだ。この神殿を外敵から守る。身動きがとれないお前たちに変わって、誰かがやらねばならないことだ」

 

サ「私もお供します」

 

ス「ヘルダルフ、サイモン、ありがとう」

 

ヘ「お前こそ、いいのか。あの世界でやり残したことがあるのであろう」

 

ス「オレはいいんだ。世界を浄化しなきゃならない。そんなこと言ってられないよ」

 

マ「それは本来私が行う事。私の中に渦巻く穢れを祓えさえすれば、お前がどこに行こうが関係ない」

 

ス「でも、それじゃあマオテラスが……」

 

マ「一年だ。一年あれば私も完全に浄化される。さすればお前の力を借りなくとも大陸全体を加護し、新たなる憑魔の発生を食い止めることができよう。ここからは私の仕事だ」

 

ス「マオテラス……」

 

ス「人間の一生ははかなく短い。スレイには、導師である前に一人の人間として人生を全うして欲しい。この閉ざされた世界で一生を終えるには惜しい存在だ」

 

ヘ「ワシも協力する。お前が居なくともこの祭壇を守り通す。だから安心せい」

 

サ「あの娘が待っておろう。行ってあげよ」

 

ス「マオテラス、ヘルダルフ、サイモン……」

 

マ「何はともあれ、一年だ。一年間は共に穢れを祓ってもらうぞ。生まれ変わったその世界をしかと胸に刻め」

 

ス「ありがとう……」

 

 

 

一年後

 

アリーシャの家

 

ア「今、帰った」

メイド「アリーシャ様、お帰りなさいませ。どうでした?ローランスへの視察は」

 

ア「大変有意義だった。評議会の中にも和平派が台頭しつつある」

 

メイド「……講和条約締結が見えてきましたね」

 

ア「ああ」

 

メイド「長旅お疲れでしょう。おかけください、すぐにお茶を用意いたします」

 

ア「ありがとう、頼む」

 

ア(……スレイ。見ててくれ。スレイが守る世界を争いのない平和な世界にしてみせる。それが私が出来る、スレイへの恩返しだと思うから……。…………。私がこうして想いを馳せている間にも、君はこの世界の穢れを祓っているのだろうか。……スレイ、会いたいよう……)

 

ス「アリーシャ!」

 

ア「この声は!?」

 

ア「うそ……」

 

ス「ただいま、アリーシャ。約束、果たしにきたよ」

 

ア「スレイ……。お帰りなさい」

 

ス「勢いのまま屋敷まで来ちゃったけど、アリーシャ、今時間大丈夫?」

 

ア「あ、ああ。私は大丈夫だ」

 

ス「よかった。じゃあ、早速行こう!」

 

ア「行こうって、どこに?」

 

ス「決まってるじゃないか。遺跡探検。約束、したでしょ?」

 

ア「遺跡探検……」

 

ス「さすがに急すぎたかな……。アリーシャの都合のいい日で……」

 

ア「行く!私も一緒に行く!」

 

ス「決まりだな。行こう、新しい世界へ」

 

Fin

 




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