暗躍語-アンヤクガタリ- (鈴本暁生)
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Episode.1
『フィオーレ王国』、人口約1700万人の永世中立国。
フィオーレ王国が属する大陸に幾多も存在する「魔導士ギルド」、そこは魔導士達に仕事の仲介などをする組合組織である。
フィオーレ王国東方の街・マグノリアに本拠地を置く魔導士ギルドの一つ。聖天大魔道の一人たる三代目マスター"マカロフ・ドレアー"を始めに有力な人材を多く抱え込んでおり、「フィオーレ王国最強のギルド」と評されている。
その一方、個性的なメンバーにより次々と問題を起こす為「フィオーレ王国一の問題ギルド」として魔法評議院からは目を付けられている。炎を纏う
そんな問題児を抱える、「大陸最強」にして「はた迷惑&お騒がせNo.1」の称号を堂々と獲得する《妖精の尻尾》に、新しいメンバーが加わった。立派な星霊魔導士になる為に《妖精の尻尾》に加入した少女・ルーシィ。彼女はギルド内でも問題児扱いされている「
-----------本来の
......しかし一年前になるが、ギルド創設後以来の最年少魔導士が加入していた。
その魔導士は、逸脱した戦闘力を持つ自覚がある故に孤立していた。
その魔導士は、11歳と言う若さで成人魔導士ランクのクエスト数件を同時に終わらせた。
その魔導士は、評判を聞きつけた魔法評議院会の
その魔導士は、討伐依頼を受けて数か月前ほどマグノリアを出ていたのだが........今、戻ってきていた。
◇ ◇ ◇
評議院の建造物に存在する、とある評議員の執務室。
権力を象徴する華美なつくりではなく、質素なつくりをしており、必要最低限の道具などしか置かれていない。壁側にズラリと並べられている本棚は一見普通の本棚に変わりないが、そこに収納されている書物はどれも一級品の魔導書だったり機密文書だったりすることは一部の人間しか理解できないだろう。
その執務室の主、グレル・ゲーテル枢機卿は依頼した魔導士の報告を受けていた。
「報告は以上です、ゲーテル枢機卿」
「そうですか。急な討伐任務ご苦労、セレネ・ヴァデンバーク」
依頼を受けた魔導士、セレネ・ヴァデンバークはグレルの労いを愛想笑いをするだけで流した。このクダリは指名を受けて以来、何回も経験しているため恒例化されている。
グレルは
「最近買った紅茶なんですが、一緒にどうでしょう?」
「貴方が選んだ紅茶はどれも美味しいのでありがたく戴きます.......何か、不備な点でも見つかりましたか?」
一人でに浮かぶポットとティーカップを横目に、セレネはグレルに聞いた。この部屋で盗聴される失態は有り得ないだろうが、念の為遠まわしに確認を取るとグレルは首を振った。
「いいえ、何時も通り不備一つない報告でとても有難いと賞賛したいくらいです。本来なら成人済みの魔導士に依頼したかったんですけど......君の様な逸材の魔導士が中々見かけないのが悩みの種になっていることぐらいですよ」
「そんなに逸材ってほどじゃないんですけど.....強いて言うなら弟子は師の背中を見て育つものです。偶々自分の師匠となってくれた人物が規格外だっただけですよ」
「成程、『規格外』ですか.......今まで闇ギルドを
クク、と愉快そうに笑いながらズレたメガネを指で戻すグレルの指摘に、セレネは気にも止めず淹れ立ての紅茶を啜る。グレルの述べたことは事実なので否定しようがない。セレネ自身も否定したところで彼の前では意味はないと理解している。その為セレネは否定もせず無言で紅茶を飲んだ。
無言を自己判断したグレルは、「では....」と姿勢を改めた。彼の合図に気付いたセレネは、紅茶の入ったカップを静かにテーブルに戻した。
「フィオーレ王国北東に位置する、オークと言う街はご存知ですね」
「えぇ.......
話す内容を察したセレネは返事を返した。
「二週間前のことです。ジュード・ハートフィリアがクエストを依頼し、正式に受理されました」
「それは、随分と思い切ったことを......」
「まぁ、クエスト内容を理由に近々宣戦布告するでしょう」
その後については考えていないのか、と呆れるグレルに対して反論する要素が無い。セレネは無謀な抗争を仕掛けようとするギルドに合掌した。ちなみに彼らに同情はしなていない。あそこのマスターは個人的に社会的地位を抹殺されればいいのに、と密かに祈る程度の認識である。
元々
評議院側としては見過ごせない案件だ。ジョゼの起こそうとしているのはギルド
......だが、グレルはあえて言った。
「この際ですから、あそこには潰れてもらいましょう」
「..........よろしいので?」
「えぇ、今までギリギリ規定に触れないだけであって正規ギルドの
「.....枢機卿、ストレス溜まっていますか?」
質問を微笑みで返すグレルの紳士的行動に、セレネは「失礼しました」と素直に謝罪した。これ以上刺激するのは不味いと本能が叫んだのだ。しかし、グレルはセレネの謝罪を流して言葉を続けた。
「ギルドとしては貴重な人材は点々と存在しますよ?特にエレメントフォーや黒鉄はフィオーレに残ってもらわなければ困りますけど......魔導士ならば、魔法の用途を誤ればどうなるかなど理解できない年頃ではないでしょう。
だというのに、くだらない私欲に周囲の人間を巻き込むなど
ただ、彼は語っているだけだ。
話しているだけだ。
彼と会話しているだけなのだ。
「貴方らしいですね。ゲーテル枢機卿」
........だが、同時に伝わるプレッシャーに冷酷さを覚えず、無情な覚悟にしか感じなかった。国の動かす政治に関わっていただけあって、その言葉の重みはリアルに伝わってくる。
彼にとってギルドは、等しく
だから、セレネの様な年齢の魔導士でも平然と言える。
「セレネ君、支部の方を頼みますね?」
「
「
まるで「ちょっとそこまで御遣い行って来て」と軽い口調で依頼する。しかしその内容は「やるなら徹底的に叩け」という無情な指示である。
彼は才能があれば年齢関係なく引き抜くが、同時に才能が無ければ切り捨てる合理的な実力主義者だ。一回り二回り年下の少年に、「逸脱した才能を持っている」と言うことを理由に、
「......準備が出来次第、出発します」
「タイミングはこちらの方で伝えますので、その間は身体を休ませるなりしていても構いませんよ。通信用ラクリマ持っていますよね」
「はい。分かりました」
これは、無限の可能性を秘めた魔法と各々の思惑が跋扈する世界に転生した少年によって紡がれるバトルアクション成長物語。
「そうそう。先日、《
「................」
「何時もの様に報酬金から差し引いても問題ありませんか?」
「...............大丈夫です」
「君とマスター・マカロフの御足労、心中お察ししますよ」
------------------------------である......多分。
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