年上少女の軌跡より (kanaumi)
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プロローグ
3冊目 p100 4月9日 L
前に書いていた物が詰まってしまい息抜きで書いたものです。
色とりどりの傘を片手に人々はポツリ、ポツリ、と降り出した雨の中を流れるように歩いていた。その流れを遠くから眺める者がいたならば、まるで色とりどりの花が川を流れているように見えるだろう。だが、その者も花に隠れる石には目が行かないだろう。雨の中、道急ぐ人々の目線は前にしか向かず、遠くからの目も届かない。そこに街頭に横たわる少女がいたとしても。
僕は自分の事をほとんど覚えていない。この世界の事、目の前に広がるビルやオブジェ、そんな誰でも知っている事は覚えているのに自分の名前、年齢、育った場所なんかをエルっていう名前以外は覚えてない。ぼやけてるとかじゃなくて、その記憶だけ綺麗に閉まってあるような感じだ。僕自身の事以外はわかるから生きてはいけるけど、自分の事を知らないと帰る場所がない。自分の家がどこにあるかも、家族が誰かもわからない。気がついたらこの場所にいた。帰る場所も家族もわからない、途方に暮れてた僕だけど、今もちゃんと生きている。僕を助けてくれた姉さんのお陰で。
「あなた、大丈夫?」
その日は、予報では良く晴れてお散歩日和だった。しかし、天気予報の当たらない大粒の雨の日だった。雨宿りする家も屋根も無かった僕は、全身ずぶ濡れだった。何故か頭も痛く、すごく体がだるかった。その時の僕は、熱とか風邪とかを判断出来なかったから頭痛いな位だった、でも、後に聞いたらとても酷い状態だったそうだ。
「あなた、名前は?」
「……エル」
「そう、エルちゃん、お父さんやお母さんは?」
「………わかんない」
「…そうなの」
この後、1つ2つ質問して来たが、こっちが答えるたびに顔が引きつっていった。
「………クシュン…」
「…ん?どうしたの?………大変!酷い熱だわ、どうしましょう…」
僕はこの時、僕の額に手を当てて、困った顔をしているのを黙って見ていた。
「……………」
「……」
しばらく見つめあっていると、何かを決心したように僕を見つめた。
「……ねぇ、エルちゃん…」
姉さんに助けられ、家に連れて行かれた。そこで、姉さんが両親に説明して、条件付きで僕を置いて貰えるようにしてくれた。条件は、僕の親が見つかるまでの間だけ預かるっというものだ。姉さんの知り合いの警察官に依頼したけれども、結果として僕の親は見つからなかった。警察の人も一生懸命探してくれたけど見つからなかった。1年経っても見つからなくて姉さんの両親からは見つかるまで家に居て良いと言われたが、申し訳なくて仕方なかった。それから更に数ヶ月経った頃、家に姉さんが依頼した警察官の人が訪ねてきた。
「すみません、バニングスですが…」
「…はい、今晩はガイ、どうしたの?もしかして、エルちゃんの事?」
「ああ、セシル、おばさん達は?」
「今、出かけてるわ、エルちゃんの事でしょ?お母さん達には後で話すから教えてちょうだい」
「……わかった」
姉さんが警察官の人を居間に連れて来た。大きくて見上げないと顔が見えなかった。こちらを見て、元気そうな顔で微笑んでくれた。
「エルちゃん、この人はガイ・バニングスと言って、あなたの両親を探して貰ったの」
「こんにちは、ガイ・バニングスだ、セシルの頼みで君の両親の身元を調査してきた」
「エルです。……それで、どうでした?」
尋ねると、ガイさんは難しい顔をして眉を落とした。
「あー、何というかだな…」
「…見つからなかったの?」
「……すまない!必死に探したんだが、君の両親の行方はわからなかった………ただ、君の出身地と名前はわかった」
ガイさんは、頭が机につく位下げて言った。その後、顔を上げて遠くを見ながら黙った。
「………」
「ガイさん?」
少しして、ガイさんは口を開いた。
「エルちゃん、君は帝国の人間だという事が調べていてわかった」
「帝国って、エレボニア帝国?」
「ああ、君がセシルに助けられた時着ていた服あるだろ?証拠になるかと思ってセシルに見せて貰って調べたんだ。そしたら、その服は帝国のブランドの服だった」
あの時に着てた服……そういえば、クロスベルの百貨店《タイムズ》では、見たこと無いかも。けれども…
「ガイ、それだけで出身だって決め手にはならないのじゃない?」
「ああ、貿易を活発に行うこのクロスベルじゃあ、帝国のブランドが有ったって珍しい事じゃ無い。だけど、調べたらその服は帝都ヘイムダルでしか売られていない物だった。そこで、帝都の住民票で君の事を探したんだ。そしたら、エル・エルフィミンという少女が見つかった。写真は無かったが、君のエルという名前とセシルに助けられた時期が彼女と一致しているんだ」
「…時期?」
「ああ、彼女は8ヶ月前に行方不明になっているんだ。理由は…帝国からカルバード行きの列車の脱線事故だ」
「脱線事故ってあの?」
「ああ、原因不明の脱線事故でクロスベルタイムズでも取りあげられたあの事件だ。エルフィミン一家含む15人が未だ行方不明だ。…その時乗っていたという女性を訪ねて話を聞いたら、エル君らしき人が列車に乗車していたとの証言を貰った。そこで帝国大使館に問い合わせて、エル・エルフィミンの写真を見てエル君だと判明した」
「そう…なんだ…」
エル・エルフィミン……それが僕の名前……なぜだかその名前は胸にストンと落ちた。これが自分の名前なのだと言わんばかりに。
「エル・エルフィミン…うん、そうだと思う…フフッ♪」
「エルちゃん…」
何か、姉さんの目が……恥ずかしい
「……ウウ、…それより、僕の両親は」
「……」
ガイさんがまた難しそうな顔をした。しばらく何か考えた後、口を開いた。
「……さっきも言った通り、見つかってはいない。ただ、君と同じようにカルバードかその周辺にいるかもしれないと思って捜索を行った。でも、発見する事は出来なかった。脱線事故当時も生存者の確認、捜索も行っているが、国境という場所の問題であまり捜査出来ていなかったのも大きい」
「そうですか……」
「本当にごめんな?でも、必ず御両親は見つけてみせるからな」
ガイさんは優しく頭を撫でてくれた。撫でてくれるのは嬉しいけど、少し恥ずかしいかな。
「フフッ、エルちゃん嬉しそうね」
「………うう、…」
「…さてと、そろそろ行くとするか」
そう、言うとガイさんは撫でるのを止めて立ち上がった。頭から手が離れるとつい 「……あっ」っと声が出た。
「それじゃあ仕事に戻るよ、エルちゃんどんな形であっても必ず見つけてみせるからな!…セシルの所で元気にしてるんだぞ?」
「はい、よろしくお願いします」
「ガイ、お仕事頑張ってね」
「ああ!またな」
そう言って、ガイさんは家を後にした。ガイさんはとても大きくて優しい人だった。今思えば、あの時ガイさんが遠くを見たのは、僕に本当の事言うのが辛かったからなのではと思ってる。
それから1年後、ガイさんの尽力で僕の両親は見つかった。帝国のノルド平原で両親の死体が見つかった。死因は餓死だった。状態も悪く死んでからだいぶ経ったようだった。遺体はクロスベルの大聖堂に運ばれた。葬式は行われなかったがレイテさんにマイルズさん、ガイさんに姉さんのおかげで墓には入れてもらえた。両親の火葬をする前に両親を見せて貰った。
「………この人達が僕の両親、何だね」
「ああ、エルちゃんの両親だ」
「エルちゃん、大丈夫?」
「……多分、です」
頭の中が真っ白でそれしか言えなかった。
その後、父母を入れた棺桶は火葬され骨を墓に納めた。その帰り道、姉さんと2人で歩いていた。ガイさんとレイテさんとマイルズさんは後処理をかって出てくれたためまだ大聖堂にいる。
「エルちゃん、これを」
「……これは?」
並んで歩いていると、姉さんが立ち止まり僕に何かのケースを差し出した。差し出されたケースを受け取り、ケース中身を見た。ケースに入ったいたのは朱色の宝石のついた十字架のネックレスだった。
「これは、エルちゃんのお父様のポケットに入っていた物よ、ケースの裏を見てみて」
言われた通りケースの裏を見て僕は驚いた。そこには小さく[エル・エルフィミンへ]とかかれていた。
「……」
「多分、エルちゃんに渡すために用意された物よ、ガイから葬式の後に渡されたの」
姉さんが何か言っているけど僕の耳には入って来ない。僕は手に持っているネックレスケースにしか目が行かなかった。ケースから出して手に持ってみると軽くなぜかあったかく感じた。
「…エルちゃん?」
「…きれい…」
ネックレスは見てると吸い込まれそうなほど綺麗だった。
「…どうしたの?」
ネックレスは夕日に当たってキラキラと光っている。
「エルちゃん、エルちゃん、どうしたの?」
「……あれ?」
突然左右に揺らされ僕ははっとした。キョロキョロと周りを見て自分がネックレスを見て意識が飛んでいた事に気がついた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫」
「本当?」
「うん、ネックレスがきれいだったから」
「首に掛けてみたらどうかしら?そのままケースに入れて置くのも、多分違うと思うわ」
「わかった」
かけてみると、懐かしくあったかいと感じた。十字架を少し振ってみると周りの光に反射してキラキラと光っている。2、3回振っていると光のせいなのか、まばたきが増えてきた。もう2、3回振ると目尻が暑くなった。もう、2回振ると暖かいものが頬を伝った。
「…あれ?…」
「…エルちゃん」
頬を触ると湿っていた。姉さんの方を見て初めて気がついた、自分が涙を流したのだと。
「涙……なんで…だろ?…ハハッ…葬式の時も出なかったのに……なんで…」
「エルちゃん!」
姉さんが僕を抱きしめる。暖かい、とても暖かい、でも、涙が止まらない何でだろ?
「姉さん、止まらないよ涙」
「良いの、今は泣いて良いのよ」
その後、僕は泣き続けた、自分が何で泣いてるのかわからなかったけど姉さんの胸で泣き続けた。姉さんは泣いている間ずっと頭を撫でてくれた。しばらく泣き続け泣き疲れて寝てしまった。家族が楽しそうに食卓を囲んで笑っている夢を見た。
あれから、僕は少し大人になった。背も2センチ伸びて目線が少し高くなった。誤差かも知れないけど。もしあの時姉さんが声をかけてくれなかったらどうなっていたのだろうか?両親の葬式を挙げる事もこうして自分の成長を喜んだりも出来なかったかもしれない。最近になって知ったけど、ここ、クロスベルに孤児院のような場所は無いようで七耀教会も在るけど、子供を預かったりはしていないらしい。僕には姉さんがいるけども、いない子供も多い。旧市街地には、子ども達だけのマンションが在る。場所だけ与えて、後は自分でどうにかしなさいと、大きい女性の人がマンションの鍵だけ置いていったそうだ。雨宿りできる所が在っても、生活が楽になるわけでは無いが帰る場所ができて子ども達はとても喜んでいた。もしかしたら自分もそこにで暮らしていたのかもしれない、だから、姉さんにはとても感謝しているいくら恩返しをしてもし足りないと思うくらい。
「エル~、ご飯にしましょー」
「はーい、わかりました、姉さん」
僕は女性の声に呼ばれて、開いていた日記を閉じた。返事をして声の持ち主の元に向かう。僕を救ってくれたお姉さんの元へ。
七耀暦1197年 4月9日
拝啓、僕が姉さんに助けられてから3年の月日が流れました。3年間の中で沢山の人に出会ったんだよ、友達もたくさんできたよ。悲しい事も楽しい事もあったよ。姉さんに新しいお父さん、お母さんもいる。寂しくないよ?心配しないでいいよ。お父さん、お母さん、僕はここで元気に生きています。だから、遠くでも見守ってください。
~エル・エルフィミンより~
続くかわかりませんが、よろしくお願いします。
9月18日一部訂正しました。
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3冊目 p254 9月10日 食事会.1
お父さんとお母さんの葬式をして、僕がノイエス家の一員となってもう5ヶ月位になる。だいぶノイエス家での生活にも慣れて来た。レイテさんやマイルズさんとも良く喋れるようになった。最初の頃は言葉が詰まったり姉さんに隠れたりして、居候してた時はしゃべりもしなかった。けど家族になって生活してくと普通に喋れるくらいになった。
姉さんが友達の家に遊びに行った日の事だ。そのときは姉さんが居なくてじっと動かなかったけど、マイルズさんが話しかけてくれた。内容は、僕の名前についてだった。僕は最初、ノイエス家の一員になるのだから名前もエル・エルフィミンからエル・ノイエスになるのかと思っていた。けど、マイルズさんからそのままでいいと言ってくれたので僕の名前はエル・エルフィミンのままだ。でも、家族になったのに一人だけ違うという所にノイエス家と自分に距離を感じた。でも、レイテさんは何か感じたのか変わりに自分達をお母さんとお父さんって呼んで欲しいと言った。変わりになるならと了承して、試しに呼んでみた。「お母さん」っと、すると自分の奥底から何か吹き出すのを感じた。一瞬何か解らなかった、けど、お母さんに抱きしめられると自分に何が起こったのかは分かった。けれども、解らなかった。何故?何故?と考えたが解らなかった。考えて、考えて、考えたが解らなかった。寂しかったのだろうか?それも有ったけど違った。今、思うと嬉しかったのだと思う、姉さんやお母さん、お父さんと一緒に暮らしていたけどそれは家族ではなくて預かって貰ってる人達という関係だったから、一人だと思ったのだと思う。それに、あの時は名前以外殆ど昔の事覚えていなかったから余計に一人だと思ったのだと思う。だから、家族が母親が出来たんだと嬉しくって安心したんだと思う。それから、10分位泣いていた。その間ずっとお母さんは抱きしめていてくれた。
僕も落ち着いた位にお父さんが僕の今後について話し出した。
「エル、落ち着いたかい?」
お父さんは優しく僕に聞いた。
「…うん、落ち着いた。」
「良かった、急に泣き出すから心配したよ。」
「ごめんなさい…」
「別に怒ってないよ、でも、辛いのに僕達の前で我慢しなくても良いんだよ?まあ、辛かったらセシルに言っても良いしね。」
そう言って頭を撫でてくれた。とても丁寧に優しく撫でてくれた。犬だったら尻尾を振ってたと思う位気持ち良かった。
「さてと、エルも落ち着いたしお昼ご飯でも食べようか。」
「そうですね、エルちゃんは、何が食べたいですか?」
「えーと…ビーフシチュー…かな。」
「ビーフシチューねぇ……。」
お母さんは、少し悩んで頷いた。
「では、あなたタリーズ商店に行って肉と野菜を買ってきてくださる?」
「わかった、すぐに買ってくるよ。」
そう言うと、お父さんはカバンを持って駆け足で出て行った。
「エルちゃん、あなたには少し遠いけどお使いを頼みたいの、良い?」
「お使い?何をすれば良いの?」
「エルちゃんにはミルクとコーヒーの豆を買って来て欲しいの。」
「どこに?」
「中央広場の百貨店に行って買って欲しいの。場所、わかる?」
中央広場…百貨店…うん、場所はわかる。
「わかるよ。大丈夫、行ってくるね。」
返事をするとお母さんは何かを思い出したのかバタバタとキッチンの方へ向かった。
「エルちゃん買ったらこの鞄を入れてね、急がなくて良いからね。」
「うん、行ってきます。」
お母さんが用意してくれたカバンにお金と地図を入れて家を出た。
「少し心配だけど大丈夫よね。さあ、こっちも準備しなくちゃ!」
料理の準備をしようとキッチンに向かおうと歩き出すと、ピンポーンと呼び鈴がなった。
「すみませーん。」
「あら、誰かしら?はーい、今行きまーす。」
ドアを開けるとそこには制服を身につけたガイがいた。
「…あら、ガイ君じゃないお仕事終わったの?」
「いえ、これからです。」
「…そう、セシルに用事?」
「あ、えっとセシルではなくて、今日仕事で夕御飯に間に合わなそうなのでロイドをお願いしたいんです。」
「…ロイド君を?…あらそう、わかったわ。」
「では、よろしくお願いします。」
「…お仕事頑張ってね。」
「はい」
ガイが走って階段を昇っていくのを見届けて、キッチンに向かった。
僕はアパルトメント《ベルハイム》を出て真っ直ぐ歩いた。姉さんと一緒の時は通りのカフェに寄ったけど今は関係無いので真っ直ぐ進む。お母さんは急がなくても良いと言っていたけど百貨店までは歩いて十分位歩く。
「百貨店、相変わらず遠いなぁ。」
しかし、十分というのは大人の歩幅での話で子供ではもう少し時間がかかり遠いと感じる位ある。
「そういえば……もう少ししたら僕の誕生日何だっけ?ガイさんが見してくれた住民票にそう書いてあったし。」
誕生日と聞いてもパッとしないけどお母さん達がお祝いしてくれると言っていたので凄く楽しみだ。…そういえば、記憶を失う前はどうだったのだろう?一般的に誕生日ってパーティーしてプレゼント貰ってとても楽しい日だって聞いたけどどんなパーティーしてたのかな?プレゼントって何貰ったのかな?ちょっと気になるなぁ。っと百貨店までの道が思っていたより長いので関係ないことを考えながら歩いていた。
「あっ!」
それから、少し歩いて中央広場が見えて来たところで見覚えのある人影を見つけた。
「ん?」
その人は背が高く、青に近い黒っぽい色をした髪をしていた。
「えっと…あの、葬式の時にガイさんの隣にいた人ですよね?」
「……ああ、君か。元気そうだな。」
「はい!……えーと……お名前……そういえばあの時お名前聞いてませんでした。」
「ん?そうだったか。」
うん、確かあの時泣いてはなかったけどあんまり周りの声が聞こえなかったし、ガイさんと話すとき近くにいなかったはずだし。でも、式の時は何でか周りを見渡してた時にガイさんの隣に見えたから何でか覚えてた。
「ふむ、では自己紹介をしよう。アリオス・マクレインだ」
「アリオス…さんですね。えっと、エル・エルフィミンです。よろしくお願いします。」
「…ああ、よろしく頼む。」
「アリオスさんは何をしていたんですか?」
訪ねるとアリオスさんは少し考える素振りをした。
「……ふむ、事件の捜査…だな。」
アリオスさんははっきりとしない言い方だった。何か言いにくい事があったのかな。
「まあ、人を待っている。…君は買い物かな、私事は良いから君の用事を済ませると良い。」
「あ、はい、そうします。では、失礼します。」
「ああ」
アリオスさんに別れを告げて百貨店に向けて歩き出した。
アリオスは彼女を見送り、ノイエス家に向かったガイを待っていた。
「おっ、アリオス待ってたのか?」
その後、しばらく待つと待ち人が現れた。
「ああ、用事は済んだのか?」
「ああ、ばっちしだ。」
「ならば、行くぞ場所はここから遠いからな。」
これから行くマインツには、通常時はバスで行くが今回は依頼の関係から徒歩で行くことになっていた。
「ああ」
今は、11時か、マインツには3時位につくだろう。着いたら昼食を取れるように行動しよう。
アリオスさんと別れてしばらく歩き中央広場の百貨店《タイムズ》にたどり着いた。
「やっと着いた。隣の区なのに遠すぎる。」
家を出てから30分途中アリオスさんと話してたけど10分位だったから20分位かぁ。遠いなぁ。
「とりあえず、ミルクとコーヒー豆だね。」
メモを見て確認して百貨店に入った。
「いらっしゃいませ。百貨店《タイムズ》においでくださりありがとうございます。百貨店《タイムズ》には様々な品物を取り揃えてございます。」
百貨店に入ると黒い服を着た男性に声をかけられた。
「えっと、・・・・」
急な事でどうしたら良いのかわからず辺りを見渡してると男性は再度声をかけてきた。
「・・・・お一人様ですか?」
「えっ・・・・はい。」
男性は少し考える仕草をした。
少しの間考え、男性は此方の目線に合わせて質問した。
「……何をお探しですか?」
「…ミルクとコーヒー豆を」
「ミルクとコーヒー豆ですね、それでしたら彼方です。…ご案内いたしましょうか。」
男性は右の方向を見て、案内するするかと聞いてきた。
百貨店は広く自分だけでは迷子になると思って、話に乗ることにした。
「えっと、お願いします。」
「はい、承りました、こちらです。」
男性は頷き、歩き始めた。
「此方が、お客様のご希望の品がある食品売り場《リジョンフード》でございます。」
食品売り場は入り口入って右の所にあった。
「ありがとうございます、助かりました。」
「いえいえ、では。」
「はい。」
男性はお辞儀をして先ほどいた所に戻って行った。
「さてとミルクとコーヒー豆!」
「お買い上げ誠にありがとうございました。」
無事目的の物を買えた。けれども、百貨店が思いのほか遠かったため少し疲れてきた。
「ミルクが重い…」
遠い事もあったがさらに買ったミルクが予想より重かったのだ。帰りも来た道を通るので20分かかると考えると歩く気もなくなるものだ。めんどくさいなんて考えていた。
「よいしょ、よいしょ」
買った物を入れてるカバンを両手に持って一歩一歩歩いていた。来るときの半分以下のスピードで。
「ただいま、…ハァ…戻り、ました。」
汗で前が見難くなってはいるが無事帰ってきた。
「ハア、ハア、ハァ」
立つ力もないのか入口で膝をかがめて手をついてゼェゼェと呼吸をしている。
呼吸を整えてると奥からお母さんがやってきた。
「エルちゃん、おかえり……」
お母さんは僕を見て、驚いたようだ。疲れて見れてないけど。
「エルちゃん、まずはお風呂よ!上がった頃にはご飯は出来てるから。」
僕はお母さんに抱えられお風呂に連れていかれた。
「ハァー♪気持ちいい。」
汗を流し、湯に浸かって、体を伸ばした。バキバキなんて言わないけれどとても気持ち良い。ポカポカだ。
「気持ちいいー♪」
お風呂に入ると嫌でもテンションが可笑しくなる。それほど気持ちの良い風呂でした。
「♪」
「あら、気持ち良かった?」
「うん!」
「それは良かったは、さあ、エルちゃんも上がった事ですし昼食にしましょう。エルちゃん、お父さんを読んできてくれる?」
「わかった。」
お父さんの部屋はリビングの隣の部屋で、中で本の整理なんかを休みの日にしています。
「お父さん、昼食出来たって。」
呼びかけるとゴソゴソと音をたててお父さんが出てきた。
「ああ、エルも帰ってきたか、おかえりなさい。」
「ただいま、お父さん。じゃあ、行こう。」
「うん、お腹すいたしね。」
リビングに向かうと美味しそうな匂いが漂ってきた。
読んでいただきありがとうございました。
次も一応書くので良かったら読んでみてください。
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3冊目 p254 9月10日 食事会.2
キャラの口調に悩まされます。
昼食は言っていた通りビーフシチューだった。ただ、お母さんが張り切って作ってくれたビーフシチューは3人で食べるには少し多かった。それについて、お母さんは「今夜の分も作ったのよ」との事だった。
「それじゃあ、いただきましょう」
「いただきます」
「いただきます」
鍋からシチューを装おうと手を伸ばすがオタマはお母さんに取られてしまった。
「エルちゃんは前に落としたでしょ?今日は落されちゃうと困るのよ」
「お、落とさないよ!前は偶々手が滑ったんだよ」
「まあまあ」
何とかその不名誉を取り消そうと頑張った。しかし、お母さんが曲げる事も無く、装ってもらう事になった。とても悔しい。
「ぐぐぐ……、美味しい」
「フフッ、それは良かったわ。…ほら、ドンドン食べて?」
「…うん」
「あー、こっちにも装いでくれると嬉しいかな?」
「あら、貴方も零してしまうのかしら?それはいけないわね、仕方ないから装いであげるわね?」
「…ごめんなさい、自分でします」
「そうだ、エルちゃん?夕食だけどロイド君も参加するわよ」
シチューを食べ終え、休んでいるとお母さんが手を拭きながら言ってきた。
「そうなんだ、じゃあガイさん仕事なんだね」
「ええ、そうね。ガイ君からはそう聞いているわ」
それを聞いて、少し残念だなぁと思った。ロイドが加わるのは別に良い、食べる人が増えると美味しいから。そこにガイさんが一緒だと、事件の話を簡単な物語にして聞かせてくれる。自分や周りの人の解決して新聞に載った事件をガイさんや警察の視点から英雄談のように話してくれるのだ。自分はこう考えてたやこいつのあの時の行動はすごかったなどを身振り手振りで話してくれて、それが面白し悲しかったりするのだ。
そんな事を考えていると、お母さんが微笑みながらこちら見ていた。
「フフッガイさん来なくて、つまらなそうねエルちゃん」
「少し残念だなぁって思っただけだよ。ロイドもくるしつまらないなんてないよ」
「フフッそうなのね」
……。あれ?何か勘違いされてる?
「ねぇ、何かかんー―」
「さあ、夜の買い物行くわよ。」
「ちがい―ーえっ、ちょっと!お母さん、マッテ!」
突然話を遮ったお母さんは、買い物袋を片手に部屋を出て行った。
その後、何度聞こうとしてものらりくらりとなかなか聞けていなかった。
「ねぇ、ねぇってば。」
「はいはい、服引っ張んないの。」
「質問答えてよ!ねぇってば!」
結局買い物も終わり家に帰っても答えてくれなかった。
午後5時になりお母さんも夕食の準備をし始めた。今日はロイドもいるから沢山作るのだろう。昼の残りも有るから今日は凄く多くなりそうだな。お父さんとロイドには頑張って貰わないと。あの後、お父さんは書斎に引きこもって何かしている。本の整理だろうか?職場の本の確認なのかも知れない、どっちにしても遊んでくれそうにない。姉さんは仕事で遅いからご飯も向こうで食べるそうだ。・・・・ 暇だ。手伝いとかも今は良いって言われたからやることがない。日曜学校の宿題も全部終わり、次にやるところの予習も終わってしまった。外に行こうにも午後5時なので少し危ない。どうしたものか、なんて考えていた。部屋にはキッチンからのカタカタやトントンと言う音が聞こえるのみで他の音は聞こえない。とても静かだった。いつもだったら静かで良いなぁとなるが、暇な時には静かなほど苛々してくるのだ。しかし、暇をつぶせる物が周りを見てもない。
「暇だぁ。」
溜息と共に口から出てしまう。ソファーに寝転がりながら早く時間が経つことを願っていた。
十分が経過したが、相変わらず暇なままだった。ソファーの上でグデーとしているが暇は去ってはくれないらしく、面白そうな事は見つからなかった。
二十分が経過した頃にコンコンと扉を小突くおとが部屋に響いた。すると、キッチンからエルちゃん~出てくれない?と聞こえた。はーいと返事をし扉まで走っていった。
「はーい。どちら様?」
ガチャっと扉を開け外を見るとそこにはロイドがいた。
「あーって、エルか。…返事を聞いてから開けた方が良いんじゃないか?」
「何だぁロイドかぁ。…ご飯でしょ?今お母さんが作ってくれてるから上がって」
「ああ、そうさせて貰うけど…どうかしたか?」
「暇なの」
「……そうなのか」
僕を先頭に廊下を歩いていたがさっきからロイドの呆れたような視線が僕の背中に刺さってる。痛い、何か痛い。体より心が痛い。
「ロイド、痛い」
「どこが?」
「背中が」
「気のせいだよ」
気のせいなもんか、突き刺さってるよ。とっても。前にも同じ様な事あったからってあんまりな扱いだ思う。
「……」
「……」
「ねぇ、ロイド」
「何?」
「何か面白い事を話してよ、つまんないの」
「……」
突き刺さってる物の本数が増えた気がする。
ソファーに座ってもそれは続いた。どれほど以前のことを引っ張ってるのか。以前も僕は暇に持て余していた。そこで、ロイドに暇を潰すのを協力して貰ったんだ。その時にロイドに歌を歌ってや走って来てなどどうでもいいことを頼んだのだ。ロイドは真面目だから頑張ってくれたが時間は潰れたけど暇は潰れなくて色んな事を頼んだ。だんだん難易度も上がって行って、俳句を読んでなど頼んでいた。流石のロイドも苛々したのか顔が強張っていった。僕はそれに気づかづにどんどん言った。すると、ロイドが突然大声を上げ部屋から出て行ったのだ。それから、僕が暇と言うと睨んだり呆れたりするのだ。廊下を歩く間ロイドとの会話は無く刺さる視線は増える一方だった。きまづかった。原因は自分だけど、きまづかった。しかし、それは部屋に入ると解決した。
「あら、ロイド君来たのね」
「はい、お邪魔します」
「もうすぐ出来るから部屋で待っててちょうだい」
「手伝いますよ、エルも暇してたみたいですし」
お母さんが話しかけてくれたから助かったと思ってたのに・・・・まあ、良いか。
「うん、手伝う」
「あら、そうなの?・・それじゃあ、これを運んでくれる?」
ロイドのせいで手伝うはめになったが運んでいると時間も進むので助かったのかも知れない。なら良かったかな?
ロイドと僕が手伝ったからか予定より早く準備が終わった。
「それじゃあ、いただきましょうか」
「「「いただきます」」」
お母さんが今夜作ったのは昼のシチューの他に8品作っていた。麻婆豆腐などからオムライスやクリスピーフライなど有る。食べきれるのだろうか?4人で食べる量ではないと思うのだけど。・・・・あっ、お父さんが顔をひきつらせた。やっぱり多いんだ。いつもはガイさんが片付けてくれるけど今日はいないんだよねぇ。僕は小食だからもともと頭数には入っていない。無理するとはくのだ仕方ない。ここはやっぱり食べ盛りのロイドに期待したい。そこで期待の眼差しをロイドに向ける。三分位見ていた。けど、一向にこっちを見ない。箸は進んでいるから良いんだけど、こっち見ないな。
「エル、こっちを見てないでもっと食べたらどうだ?」
「別に食べれるだけ食べるよ。そっちだって、もっと食べないとガイさんみたいに成れないよ?」
「…エル、いいかげん機嫌直してくれ、美味しいのに不味くなりそうだ。」
「……」
そう言うが、ロイドは相変わらずこっち見ないで言ってくる。機嫌が悪いのはそっちじゃないのかとか色々と言いたいけど、僕はロイド寄りも大人なので此処は引いてあげる事にした。別に言葉にはしないけどロイドには感謝して欲しい物だまったく。
「もう、エルちゃん?何をそんなに腹を立ててるのかは分からないけど、今はロイド君の言ってる事が正しいわ。ご飯の時位は機嫌を直してちょうだい」
「そうだね、折角のごちそうだよ。楽しく食べないともったいないよ」
「うっ、・・・・わかった」
仕方ない、お母さんたちに言われたら直さないといけなくなる。まあ、元をたどれば私のせいだし?……仕方ない。
「…エル」
悶々としていると、ロイドが皿を僕の前に置いた。置いたのは僕の反対に置いてあったハムサンドだ。…これくらいなら行けるかな?
「貰うよ」
ハムサンドを一口食べる。……美味しいよやっぱり。胃が小さくなかったらもっと食べるのに。
「美味しいよ、お母さん」
「それは良かったわ」
ハムサンドを食べ終わると満腹感が僕を襲ってきた。これ以上は厳しいようだ。
「お腹いっぱい」
「そう、先に休んで良いわよ?」
………。
「いや、ここでみんなが食べ終わるの待ってる」
「…そう、ならお話でもしましょうか」
「何のお話?」
「そうね、楽しい話にしましょう」
そう言うと、お母さんは持っていた箸を机に置いた。それを見てロイドも箸を置いた。お父さんは微笑ましそうに箸を進めていた。
「…と、言っても何を話そうかしら?……そうね、帝国へ旅行に行った時のにしましょう」
少し悩んでお母さんは拳を手のひらにポンとのせ話す話を決めたようだ。
「帝国?お母さんエレボニアに行った事があったの?」
「ええ、遅れた新婚旅行だったかしら?ねぇ?」
言いながらお母さんはお父さんの方を向いた。
「ん?そうだな、あの時はまだ行ってなかったしな、新婚旅行に」
「なんで行ってなかったの?」
「お父さんの仕事の関係よ」
「結婚してからしばらく職場が忙しくなってな?落ち着いた頃には新婚って感じでは無くてな。行かなかったのだがな、7年位前に行った何だったかの事で行ったんだ。何だったかな?」
「なんでだったかしらね?」
思い出せないのか二人は首を捻った。
「まあ、それで行ったのよ」
「帝国のどこに行ったの?」
「帝都よ他の州はより帝都の方が知っている事が多かったものね」
「帝都ってどんな所なの?」
帝都で生まれたらしいけど帝都がどんな所かは良く知らない。街としてとても大きいらしいけど。
「そうねえ、とても綺麗な所よ。自然って感じでは無いけど良く整備されてる綺麗な街ね」
「整備された街か……」
いままで黙って聞いていたロイドがポツリと言葉を漏らした。
「そう、とても綺麗に感じたわ」
「ああ、建物の配置にも景観などに気をつかって建てたようだった」
「そこで、いろいろと見たのよ。導力カトラムとかね」
「カトラム?」
「クロスベルで言うとバスよ。これで都内をまわるのよ」
「へー、そんなのが走っているんだ!」
目を見開く位に驚いた反応をしているロイドに比べエルは目を輝かせた。
「それに乗って、マーテル公園やヘイムダル大聖堂を見たのよ」
「ヘイムダルは16街区で出来ているがどれも違う顔をしていて面白かったな」
「凄いな…街区の数だけでもどれだけ凄いのかがうかがえるな」
「本当にねぇ」
帝都がどれだけ大きいかを改めて実感して声が出なかった。
「アルト通りでは帝都の遊撃手協会があったな」
「帝都の遊撃手協会の仕事は大変そうだったわ。いろいろんな人が出たり入ったりしてたもの。あら?エルちゃんどうしたの?」
遊撃手協会の話辺りから黙ってるエルにレイテが気がつき声をかける。
「エル?どうしたんだ?」
「…いや、遊撃手協会って聞いて何か引っかかったような感じがしたから」
「エルちゃんが帝都にいたときに何かあったのかもね。あれだけ地域密着だし」
何か赤いようなものが浮かんだけど良くわからなかった。
「そういえば、私たちがアルト通りを通ってる時に小さい女の子が外に一人で出て行ったって、言ってたわね」
「ああ、何でも7歳位の黒い髪に黒い目の女の子だったそうだ」
7歳の黒髪…うーん、何か引っかかるなぁ。記憶を失う前の僕に関係あるのかな?
「……大丈夫だったの?」
「話を聞いただけだけど無事遊撃手に助けられた用だよ」
「…良かった」
「そうね、私たちが帝都に行った日に起きた事件だけど不思議な感じよね」
「なんで?」
「たまたま、聞いた話なのに新婚旅行の動機より覚えているんだもの」
「そだねえ、不思議だね」
お母さんとお父さんはお互いに笑いあった。確かに不思議な感じがする。
「その助けられた女の子はエルの友達かもな」
「なんで?」
「エルってその時は帝都に居たんだろ?」
「アルト通りね、案外そうかもね」
その後も話たり僕以外がご飯を食べたりと時間が過ぎていった。
「それじゃあ、ごちそうさまでした。」
「ええ、今度はセシルとガイ君も一緒に食べましょう」
「はい」
「それでわ、またの機会にお願いします」
「じゃーねぇ、ロイド」
「ああ」
あの後、姉さんとガイさんが帰って来て、部屋で談笑をした。夜の9時を回って、ロイドとガイさんは自分の家に帰って行った。
七耀歴1197年 9月10日
日曜学校にも通い始めて、しばらくが立ちました。ウェンディとお喋りしたりと楽しんでます。ロイドとガイさんがたまに食卓に並びますが、いつも楽しい時間です。日曜学校自体はそんなに長くは通わないと思うけど楽しい時間です。
エル・エルフィミン
ロイドから見たらエルは手の掛かる幼なじみです。
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3冊目 p359 12月23日 ウルスラ・クリスマスパーティーⅠ
秋も終わり、14歳になった僕は寒さに震えていた。
「寒い寒い寒い寒い」
「エルちゃん少し待っててね・・・・うん、できた。はい、ミルクポタージュよ。」
温かい、12月に入って一層寒くなった気がする。雪もだいぶ積もって来て、交通にも影響を出て来るかもしれない。ますます暖房から離れられないかも知れないな。寒い寒い。
「エルちゃん、そんなに近くだとやけどするわよ。」
「離れたくない。」
「でも、やけどしたら大変よ?」
うっ、・・・・少し離れよう。暖房から少し離れ姉さんの隣に腰掛けた。寒さが離れた分増したけどやけどは怖いからね。
「外に出たくないなー。」
「そうねぇ、もう少し寒くなければ良いんだけどね。」
外は相変わらず雪が降っていた。
ゴロゴロとゴロゴロと身体を転がしていると頭の上から声が聞こえた。
「なにやってるだ?」
声が聞こえたが良いやと無視した。
「おい、無視するなよ。起きろって。」
また聞こえたが良いやと思ってたら布団から引きずり出された。ひどい。寝転がりながら声の方に顔を向けた。ロイドの困ったような怒こったような顔があった。
「エル、昼寝も良いけど手伝ってくれないか?」
「何に?」
「昨日、セシル姉が言ってただろ?明後日に聖ウルスラ医科大学病院でクリスマスパーティーを行うから手伝ってって。」
ああっとエルは思い出した。昨日もロイドとガイが家に招かれて食事会を開かれていた。そこで、セシルからクリスマスパーティーが有るからその準備を手伝ってくれないかと提案があった。ガイとロイドは直ぐに了承したが、エルは面倒くさがって返事はしていなかった。だが、ロイドの中では了承されていたようだった。
「時間?」
「ああ、もういくぞ?」
「わかったよ。」
ささっと、支度をしてロイドと家を出た。今は16時だから16時半には着くだろう。パーティーの準備は17時から行う。昼間は看護士が集められないので人が少なくなる17時から準備が始まると、ロイドが教えてくれた。
バスに揺られて30分位、聖ウルスラ医科大学病院に到着した。定期で支払いバスを降りた。病院の方を見るとオレンジ色の空が見えた。もうすぐ時間的に日は沈むだろう。
「どこで待てば良いの?」
「受付にセシル姉の手伝いに来たって伝えれば良いらしい。」
「そうなんだ、じゃあ行こうか。」
病院入り口受付に行きセシルの名前を出すと、二階に上がるように伝えられた。
二階の受付に上がると姉さんが受付にいた。どうやら受付してくれた人が姉さんに連絡してくれたようだ。
「姉さん、開始まで少し時間があるけど、時間まで何してたら良いの?」
「そうね、なら二人ともこっちに来てくれる?」
そう言うと姉さんは受付の奥に入って行った。僕達はそれについて行った。ついて行った先、そこは看護士の待機場所だった。
「二人には時間まで看護士見習いになって貰います!」
「「へっ?」」
「簡単な事だから大丈夫よ。」
「いや、だから-ー」
「エルちゃん前から興味あったでしょう?」
「そうだけど、違うよ。」
「?ならこっち来てくれる?着替えましょう。」
「「姉さん(セシル姉)~!」」
僕とロイドは叫んだ。この時の僕とロイドの気持ちは一緒だったと思う。しかし、姉さんは制服を取りに行き部屋におらず僕らの叫びは届かなかった・・・・。
「うん、似合ってるわよ。二人とも。」
「うん・・・・ありがとう。」
「ハハハ・・・・疲れた。」
姉さんが用意した制服が小さかったり、女性用2着だったりといろいろあり疲れていた。
「それじゃあ、行きましょう。」
「うん。」
「はい。」
姉さんについて部屋を出た。
姉さんは二階の突き当たりの病室の前に止まりドアをノックした。
「こんにちは、ノエルちゃん入るわね?」
「はーい。」
部屋の中から元気そうな声が聞こえた。確認し、姉さんが入って行ったので僕達もついて行った。
「ノエルちゃん、元気かしら?」
「はい、元気です!」
元気良く敬礼のポーズで返事した。
「そう、ノエルちゃん良かったら17時から明日のパーティーの準備が始まるけど参加する?」
「あっ、行きたいです!」
「なら、17時に向かいに来るわね。」
「はい、お願いします!」
「じゃあ、また後でね。」
っと、姉さんが部屋を出たので、僕達は会釈をして続けて部屋を出た。
部屋を出て少し歩くと姉さんは話出した。
「今の子はね、ノエルちゃんって言うのよ。少し前に高い所から落ちて両脚を骨折して、今入院してるの。今は、元気だけど・・・・夜には部屋で泣いてるのよ。」
「何でなの?」
「お父さんの様になりたいと、一人で特訓していたらしいの。ノエルちゃんのお父さんは、警備隊の人でお父さんに憧れて訓練をしていたそうなの。でも、三年前に亡くなったの。事故死でね。それから、ノエルちゃんはお父さんの代わりに家族を守ろうと特訓に励んでいたのだけど、一人だったから危機管理が出来なかったのだと思うわ。」
「そうなのか……。」
「クリスマスパーティーは、こういう子に元気をプレゼントするのも目的としているのよ。」
「なら、ちゃんと準備して楽しいものにしないとね。」
「ああ、もちろん。」
その後も患者の部屋を訪問した。元気に参加を希望する人や体調が優れないからと断る人など様々だったが沢山の人とお話した。最初は姉さんだけが話をしていたが、僕やロイドも会話を行ったりした。世間話だったり、姉さんに習って軽い健康診断をしたりした。
「そろそろ時間ね会場に行きましょうか。」
姉さんの担当する病室を回り終えたら備蓄倉庫にて備品を整理していた。姉さんが言うまで気がつかなかったが時計の針は16時58分を指していた。
「姉さん、場所は?」
「病院の敷地内にある、オーベルジュ《レクチェ》よ。」
「隣の棟ね。」
「ええ、パーティーの為に貸切にしてもらってるのよ。・・・・さあ、ノエルちゃんを迎えに行きましょう。」
備品の整理に区切りをつけてノエルちゃんの病室に向かった。
「ノエルちゃん、迎えに来たわよ。」
「はい、準備して待ってました。」
「エルちゃん、あそこの車椅子を持って来てくれる?」
「あれね、わかったよ。」
車椅子を転がしノエルちゃんのベッドの横につけた。
「ロイド手伝ってくれる?」
「ああ、わかった。」
姉さんが足の方を持ち、ロイドが肩の方を持って車椅子に乗せた。
「ありがとう。」
「どういたしまして、行こう。エル、セシル姉」
「ええ。」
ロイドが車椅子を押して会場に向かった。
《レクチュ》に着くと、中から話声や物を動かす音が聞こえた。
「もう、集まってる人がいるんだね。」
「この準備の時に患者さんを呼ぶのは手伝って貰うのとコミュニケーションの場にしてほしいからと言うのも有るのよ。」
「そういえばセシルさん、明日妹も呼んで良いですか?」
「ノエルちゃんの妹ね、大丈夫よ。」
ノエルちゃんは嬉しそうに顔を緩めた。建物の中には看護士の他にスリングを吊している人や松葉杖をついている人がちらほらと見えた。
パーティの準備が始まって、集まった皆で作業を進めている。車椅子のノエルちゃんは基本的に折り紙で輪繋ぎを作って貰っている。ロイドと途中で合流したガイさんはツリーの設置を手伝い、姉さんは全体の指揮を取っていた。僕は食材を買いに百貨店に行っていた。クリスマスパーティーの料理は上手いからと言う理由で、僕がメインで行う事になった。だから、食材には自分でしっかり選んできた。買った物を冷蔵庫に閉まっていると頭上から声が聞こえた。
「随分と沢山買って来たなエル。」
「ん?・・・ガイさんですか。はい、食べる人が沢山いますから。」
「おお、確かにそうだな、明日はアリオスと家族も来るみたいだしな。」
「そうだったんですか。なら、アリオスさんかご家族の好物って知ってますか?」
「ん?何でだ?」
「ガイさんがいつもお世話になってるからです。」
「まあ、世話にはなってるが別にエルがしなくても良いぞ?」
「まあまあ、良いじゃないですか。」
「うーん?」
ガイさんは顎に手を当て、うーんと悩み出した。僕はその悩む用な仕草しているガイさんを手を拭きながらみていた。
「そういやぁ聞いたことなかったな。」
「わからないですか。」
「ああ、ごめんな。」
「いえ、来ると聞いて思っただけですから。」
「まあ、エルの料理は美味しいからどれも喜ぶさ。」
「そうですか?・・・・ありがとうございます。」
「ああ、そんじゃあツリーとかの仕事に戻るな。」
「はい、頑張って下さい。」
ガイさんは片手を挙げて調理場を出て行った。
「よーし、今日作れる物は作って冷凍しておきましょう。」
「それじゃあ、今日の準備はこれまでにしましょう。皆さん、お疲れ様でした。」
姉さんがそう締めくくり、今日の準備が終わった。今は午後の10時でノエルちゃんや患者の皆さんは9時を過ぎた頃に病室に返された。さすがに患者を夜遅くまで手伝わす事は出来ないからだ。
「ガイさん、エルちゃん、ロイド帰りましょう。」
「ああ。」
「うん。」
「うん。」
その後、バスの最終便でクロスベルに戻った。
七耀暦1197年 12月23日
今年ももう、両手で数えれる位しかありませんが1197年を満喫したい今日この頃、明日はクリスマスイヴという事で聖ウルスラ医科大学病院でクリスマスパーティーが行われます。その準備に今日は行ったのですがまさか看護士見習いをさせられるとは思いませんでした。興味はあったので姉さんに簡単な怪我の処置を聞いた位でしたがさせられるとは夢にも思いませんでした。診察でノエルちゃんという子に出会いました。脚の怪我で入院という事だったので早く元気になって欲しいものです。準備時にノエルちゃんがロイドをチラチラ見てたのは何だったのでしょうか?準備にはガイさんも参加してくれてツリーの設置が早く終わったそうです。僕も何人かの看護士さんと一緒にクロスベルの百貨店に行き食材を沢山買いました。まさか、買いに行った看護士さんの中で一番料理出来るのが僕とはお母さんから習った料理の腕がこんな所で役に立つとは思わなかった。一人暮らしの時に役に立つな位に思ってたのに。今日作れるのを作り、準備がいるものは準備した。その後は他を手伝っていた。ロイドの視線が痛い。準備を終えたがこれなら良い会になりそうだ。
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?冊目 p??? ?月?日 私と僕はーー
病院からクロスベルの家に帰って来た僕は、自分の部屋に入るなりベットにジャンプで突っ込んだ。準備中は微塵も感じなかった疲労感が家に着いた途端、ドッと押し寄せて来たのだ。ベットに突っ伏した時に、着換えていない事に気づくも時既に遅く、僕は気絶した様に眠りに落ちていった。
……ここは?どこ?
微かな違和感を感じ、目覚めるとそこは真っ暗闇の中だった。物体の形は見えず、己の体を見る事も叶わず、五感の内、触覚、味覚、嗅覚が機能していない様に感じる。そして、目の前が真っ暗では視覚すら役に立たない。唯一聴覚だけは機能していた。
……。
だが、危機感は無かった。ただ、そうであると受け入れた。不思議だった。だが、僕という存在はそうであると決められているかのように僕は受け入れていた。
・・・・?・・・・…何?
何処からだろうか?耳に入って来た小さい音、ノイズも様にも感じた。次第に聞き取れるようになったそれは小さく短い打撃音だった。神経を耳に集中させて音を聞く。神経を集中させた耳はとても敏感で旺盛だった。
・・・・・・・・!
集中した耳は確かな音を拾った。先程の打撃音では無く嬉々とした女性の声だ。そして、女性の声は次第に大きくなって行った。それこそ集中も必要にならなくなる程にだ。ふと、僕は誘われるようにその声へ足を向け、前の見えない暗闇を歩き出した。
「エルちゃん、はい、クリスマスプレゼントよ!これ前から欲しがってたでしょ?」
足は止まる事無く歩き続けていた。依然として声は聞こえている。声は歩く毎に段々と大きくなっていた。そして、歩く度に辺りは明るくなって行った。
「うわぁー!ありがとーお母さん!私これ欲しかったんだ!このナイフ!」
辺りが先程と逆に真っ白へと成りつつあるそんな頃、前方には大小三つの人影が立っているのを見つけた。この空間で自分以外に初めて見る形に思わず笑みが零れた。此処にいるのが自分だけではないと分かると、小走りでその人影に向かって走り出した。
「えへへ、きれーだね!」
「うんうん、そんなに嬉しそうにしてくれるとプレゼントしたかいがあるわ。」
近づくと、朧げだった人影が鮮明に映るようになる。遠くからは同じように見えていた二つの影は大人の女性の形と小さい子供の形をとりだした。だが、それを認識すると、辺りの情景に靄が出始めた。突然の事に足を止めると、さっと、靄が晴れた。すると、先程は白一色だった情景ががらりと姿を変えていた。真っ白だった辺りは色取り取りの飾りの有る木質の茶色い壁に、足元は弾力のあるカーッペットに、何も感じてい無かった肌は暖炉の熱気を感じ出した。先程の場所とは何もかもが異なるこの空間には、先程から聞こえていた声の女性と男性と小さな女の子の三人が立っていた。女性はベージュを基調とした綺麗な服を着ていた。男性は黒い服にズボンを着ていた.
そして、小さい子供は黒髪に黒い瞳で、白い小さいドレスを着ていて両手でリボンで巻いた箱を持っていた。先程からの会話を聞く限り、クリスマス会の最中のようだ。
「喜んで貰えて良かったよ。」
「ええ、本当にね。あっ部屋の中で振り回さないの!」
「アハハハッ♪」
子供はプレゼントして貰った小型ナイフを振り回していた。それを女性が注意するが、余り効果はない様子だった。男性はそれを見て微笑んでいた。
「もう、危ないのよエルちゃん!」
女性の呼んだ名前を聞いて、目の前の3人が誰なのかを何となく察してしまった。だが、何でこの記憶に無い光景を見ているのかが分からなかった。
「これもって遊んで来る!」
「気をつけてね。」
「うん、エリオットとだし大丈夫だよ!」
「エリオット君年下だよね。」
「気にしなーい。」
小さい娘は早速貰ったナイフを使いたいらしく、元気良くこっちに走ってきた。このままではぶつかると思って、避けようとしたが何故か体が動かなかった。とっさに前を見た。小さい僕は目の前で間に合いそうに無かった。僕はぶつかる!っと目を瞑った。
しかし、痛みはなかった。目を開けて辺りを見たら僕の後ろいた。先程と打って変わって、悲しそうな顔をしていた。
「私は君に触れられない。」
そう言って、小さい僕は手を僕に向ける。僕は何故かその手に触れようと手を伸ばした。しかし、触れようとした僕の手は空を切った。
「・・・・僕は君に触れられない。」
何度試しても手は空を切るのみだった。
「・・・・」
「・・・・」
小さい娘は手を伸ばしたまま僕を見つめて動かない。小さい娘はしばらくすると手を引き、僕の目を見て話し始めた。
「・・・・・・・・あなたは私で、私はあなただったの。でも、私達は離れ離れになった。 の影響で。私は未来が無くて、あなたは過去が無い。ねえ私、あなたの後ろには何があるかしら?」
・・・・僕の後ろ・・・・。振り向くと変わらず暗闇が広がっていた。本来ここには僕の過去があったのだろうか?
「あなたには見えないだろうけど、あなたの過去は私の後ろにあるわ。」
小さい娘の後ろを見た。しかし、そこは暗闇が広がっていて何も見えなかった。あそこには僕が失った物が有るのだろうか、そう思って無意識に僕は手を伸ばした。すると、何かに触れた。いや、触った感覚は無かった。けど、何かに触れたと感じた。何だ、これは?
「・・・・わからない。でも、それがあるから私は未来が見えないの。ねえ、私は未来が見たいの。私をーー」
僕はふいに、自分の意識が遠くなるのを感じた。すると、僕の身体はどんどん小さい娘から離れていった。僕は謎の気だるけを感じた。遠くから僕を呼ぶ声が聞こえた。なん首が少し痛くなってきた。
ちなみにこれは夢の中です。
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3冊目 p360 12月24日 ウルスラ・クリスマスパーティーⅡ
「エル、起きてくれ朝だ。」
気持ちの良い朝なのに、遠慮のない揺さぶりが僕を微睡みから目覚めさせた。
「・・・・ふわぁ。・・・・・・・・おはよう。」
「ああ、おはよう。それから朝ご飯は出来てるって、レイテさんが。それと、着換え置いておくから着替えろよ。」
「わかった。・・・・ふわぁ。」
ロイドはお母さんが用意したのだろう着替えを置いて部屋を出ていった。
「おはよう・・・・。」
「ァム・・・・おはよう、眠そうねエルちゃん。」
リビングに行くと姉さんはパンを食べていた。挨拶すると姉さんは食べながら挨拶した。
「あら、凄い眠そうね。エルちゃん、顔でも洗ってきたらどうかしら?」
「ああ、そうした方が良いと思うぞ。」
「・・・・ん、そうする。」
ロイドもスクランブルエッグを食べながら言ってきた。
洗面台の鏡の前に立ち鏡に映る自分の姿を見ていた。
「……そういえば、何の夢だったかな?何か大事な事だったような気がするけど・・・・。」
バッシャっと顔に水を当てる。
「・・・・思い出せないなぁ。」
バッシャバッシャっと顔に水を当てる。
「・・・・まあ、良いか。」
顔をタオルで拭き、リビングに向かった。
「エルちゃん、食べ終わったら病院に向かうわよ?」
「うん、・・アム・・・ン・・・わかった。」
朝ご飯のパンを口に運びながら僕は姉さんに頷いた。
「・・・・ン・・・・ごちそうさま。」
朝食のパンとご飯を食べ終えて僕は一度部屋に戻り身支度を済ませた。
「・・・・・・・・ふぁぁ、ぁ・・・・」
起きてからそんなに時間が経っていないためまだ眠い。頭に血が巡って無いのだろうかぼーとする。
「・・・・・・・・ふぁぁ。」
なんだかんだで準備を終え、リビングに戻るとロイドと姉さんが待っていた。
「あら、エルちゃん準備は終わったのね?」
「うん、終わった。」
そう言うと姉さんは微笑み、ポンッと手と手を合わせ言った。
「じゃあ、行きましょうか。」
『本日は聖ウルスラ医科大学病院行きバスにご乗車ありがとうございます。只今午前9時30分です。到着予定時間は午前10時10分でございます。では、発進いたします。』
運転手のアナウンスが終わるとバスはゆっくりと動き出した。窓から見える景色がバスのスピードに合わせて流れて行く。街道に出るとバスはスピードを上げた。それに合わせて流れるスピードも速くなっていった。流れていく景色には小さい魔獣が映ったり、釣り人が竿をたらしているのが見えたりした。何度も通る道でもちょっとした変化があると嬉しいものだ。
・・・・・・・・長々言ったがバスの中は面白くないって言うことを言いたいんだ。スッゴくつまんない。早く着かないかな。・・・・あっ、ポムだ。光ってるよ、珍しいな。
『まもなく聖ウルスラ医科大学病院に到着いたします。お忘れ物のないようご注意ください。』
「やっと着いたよ。」
「言ってないで準備してくれ。」
そう言って、ロイドは読んでいた雑誌で僕を叩いた。
ロイドは発進してから雑誌をずっと読んでいた。タイトルは『釣りの基本《上級者編》』だ。以前は《中級者編》を読んでいたが《上級者編》にグレードアップしたようだ。基本が終わったら応用《初級者編》のようだ。基本に三冊も使っているのに書くことが有るのだろうか?因みに一冊100ミラだ。愛読者は多いのだそうだ。
「叩かないでよ。痛いなぁ」
「もう、降りるから準備してくれ。」
こいつ年上を何だと思ってるんだろうか。身長とか見たらどっちが年上かなんて分かり切ってるのに。」
「・・・・口悪いぞ。」
ロイドがこっちみてるけど何だろう?
「ひとまずバス降りよう。セシル姉はもう降りてるから。・・・ほら」
外を見ると、姉さんがこちらに手を振っていた。・・・・いや、よく見たら振っている手の反対の手で早く来いって合図してる。
「・・・・うん、行こう」
運賃を払い姉さんの所まで走って行った。
「では、予定時刻になりましたので準備を再開します。昨日の続きになりますが。皆さん頑張りましょう」
姉さんの開始の合図で準備が始まった。ロイドは昨日と一緒で机を運んだりしている。僕も昨日続きで調理をしている。昨日出来なかったピザやチキン何かを作っていた。準備中は特に話すこともなく、時間はあっという間に過ぎていった。今は手の空いた人で参加者を迎えに行っている。ガイさんやアリオスさん、ノエルちゃんも会場に来ている。今日の天気は快晴との事なので急遽外にも机を置いている。その関係で作る量が増えたけど、その分沢山の人が参加してくれるパーティーだ、楽しくない訳が無いだろう。だからそんなに苦じゃなかった。
「皆様今日は聖ウルスラ医科大学病院クリスマスパーティーにようこそおいでくださいました。今日は存分に楽しんでください。・・・・では、乾杯!」
夕方、姉さんの乾杯の合図でパーティーは始まった。パーティーではビンゴ大会などのイベントも有るけど、基本的に料理を食べて楽しく話す事を中心にしている。患者さんが話す事で気分転換になったら良いという考えでこの形になった。僕も料理の補充をしつつパーティーに参加してる。
「おっ、エルか楽しんでるか?」
休憩の合間に歩いているとガイさんから声をかけられた。
「はい、楽しんでますよ、ガイさんはどうですか?」
「ああ、楽しんでるよ。エルの作った料理も美味しいぞ。うまくなったな」
ガイさんは僕の頭を優しく撫でる。ガイさんにはお母さんに料理を習ってる時にロイドと一緒に試食をしてもらっていた。最初は調味料を間違えたりして、苦笑いばかりだった。
「はい、頑張りました」
だから、僕は少し胸を張りながら言った。それを見たガイさんがまた撫でてきたのはご愛嬌だ。その後も少し話してガイさんと別れた。
「あっ、ノエルちゃんだ」
ガイさんと別れた後も、何人かの知り合いと会話をしながら歩いていると前方にノエルちゃんが料理を食べているのを見つけた。少し気になったので、知り合いと別れてノエルちゃんに声をかけた。
「ノエルちゃん?」
「・・・はい!?・・・・あっ、エルさん!」
突然声をかけたからかノエルちゃんは驚いて持っていた箸を落としてしまった。
「あれま、ごめんね。驚かせちゃって」
「あ、いえ、えっと大丈夫です」
ノエルちゃんはそう言うが、今のは僕が悪かった。だから近くにある箸置きから新しい箸を持ってノエルちゃんの所に戻った。
「はい、箸持ってきたよ。いやぁ、ごめんね」
「すみません、ありがとうございます。・・・・あっ、そうだ!」
ノエルちゃんは何かを思い出したのか、車椅子にかけていた鞄から小さな箱を取り出した。
「これ、クリスマスプレゼントです。お母さんに頼んで買ってきてもらいました。開けてみてください。」
そう言って、綺麗に梱包された箱を差し出した。開けてみると、赤色の綺麗な髪留めだった。裏面には『ERU』と彫られていた。
「うわぁーありがとう。つけてみていい?」
「はい、付けてみてください」
そう言う事なので早速付けてみた。鏡が無いのが悔やまれるがノエルちゃんは似合ってると言っているので大丈夫だろう。まさかノエルちゃんから貰えるとは思ってなかったからとても嬉しい。
「エルさん、髪が白いから似合うかなって思って今日の午前中にお母さんに頼んで買って来てもらったんです。そのせいで、お母さんにもっと早く言いなさいって怒られましたけど、似合っていて良かったです」
「ありがとう、とても嬉しいよ。・・・・そういえば、妹さんが来るって言ってたよね、どうしたの?」
「はい、えーと…。あっ、いました」
ノエルちゃんが指差した先には、背伸びして一生懸命料理を取ろうと頑張っている女の子がいた。
「フラン!」
「?・・・・あ、お姉ちゃん!」
ノエルちゃんの呼びかけに辺りを見回していたが、此方に気づいて走って来るノエルちゃんの妹ちゃん。彼女の後ろで彼女の持ってたお皿がカチャンッと音をたてて、机の上に落ちたが、此方に走って来る妹ちゃんには届かなかったようだ。
「お姉ちゃん!」
「ちょっと!フラン!」
ノエルちゃんに抱きつくが、ノエルちゃんは後ろが妹ちゃんの向こうの方が気になるようだ。仕方ない、片付けに行こう。
「…僕が片付けとくよ。」
「あっ、すみません。・・・もう、フランったら」
「えへへ、お姉ちゃん♪」
入院してから会えていなかったようなので、とても甘えたかったのだろう。抱きつく妹をあやす姉の姿は周りの人達から微笑ましく見られていた。
「エルさん」
「ん、なに?」
「ロイドさんは一緒じゃないんですか?」
「えっ?」
あの後もノエルちゃん達との会話を楽しんでいた僕は、ノエルちゃんの質問に僕は一瞬呆けてしまった。多分、口を半開きにして固まったはずだ。
「・・・ええと、今は別行動だよ。」
「そう、ですか・・・何処にいるのかってわかりますか?」
ノエルちゃんは眉を少し歪めて少し困った顔をして、ロイドの居場所を聞いて来た。理由とかは解らなかったが、とりあえずロイドを連れて来た方が良いと僕は思った。我ながら思考の停止が早い物だと思うが、めんどくさかったのだ、考えるのが。ともかく、ロイドの居場所を捜そうと周りを見渡した。こういう場でロイドを捜すのはとても簡単だ。何故なら、ロイドはモテるからだ。学校での様子を見てもよくわかる。なので、パーティーでロイドが一人だと大抵、女性に囲まれる。年齢層は小さい子供から若い大人の女性までと幅広い。ロイドも嫌だと追い払う事はしないので、余計に女性が寄って来るのだ。今回も恐らくは一人での行動中のはずなので、大きな集団を捜せば見つかるはずだ。
「えーと、・・・あれかな?・・・なっ!」
顔をキョロキョロさせて捜していると、一際大きい集団が目に入った。それがロイドのいる集団かと思ってよく見ると、その集団の中心にいたのはロイドではなくて、ガイさんだった。ガイさんは、若い看護士さんに囲まれていた。片手に飲み物を持って、楽しそうに話していた。忘れていた、ガイさんもガイさんで凄くモテるのだ。ロイドと良い、この兄弟は遺伝子レベルでモテるのだろうか?そんな事を考えながらつい、目的も忘れてその集団を強く見つめてしまった。ガイさんが誰と居ようと本人の自由だと思っているが、正直に言えば凄く気に入らない。姉さん以外の女性と話しているのを見ていると凄くやきもきするのだ。その事を本人に言うことは無いけど、ガイさんにはそうして欲しくないと強く思う。
「どうしたんですか?」
「あっ」
「あの、大丈夫ですか?」
「うん、ごめんね。呆っとしてた。」
僕の様子を見たノエルちゃんが心配そうに声をかけてきた。その声に僕ははっとなって、ノエルちゃんに顔を向けた。ノエルちゃんはさっきとは違う感じの困った顔をしていた。心配させた事を謝って、改めてロイドを捜した。
ロイドの居場所は探し始めてから、ものの数分で見つかった。やはり女性に囲まれていた。ロイドも飲み物片手に女性の話に相づちを打っていたりと楽しんでいるようだった。その光景は見慣れた物なので、特に思う事はない。本人しては友達と話す感覚何だろうが、周りから見れば女性に囲まれて楽しんでるチャラ男だ。その光景は女性の僕でも罰が当たればいいのにって思う程だ。
何であれロイドの居場所がわかったので、ノエルちゃんに方向を指で指さしながら教えてあげた。それを見て、ノエルちゃんはロイドの方向に顔を向ける。すると、集団を見つけたのか固まってしまった。その様子を見て、だろうなと思いつつ、しまったとも思った。昨日の様子をみる限り、ノエルちゃんはロイドを少なからず思っていたのが何となく感じ取れていた。想いの相手が女性に囲まれて楽しんでたら、ショックをお受けるのは当たり前だ。・・・どうしよう。ノエルちゃんに抱きついていたフランちゃんも、ノエルちゃんが固まったのを見て心配している様子だった。
「お姉ちゃん?」
「ノエルちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・」
呼びかけても反応は帰ってこなかった。これはとても重症だと判断できた。お門違いだけど、この状況を作った原因のロイドをとても恨みたくなった。やっぱり、ロイドは一回罰が当たれば良いと思う。
「・・・しょうがないかなぁ。」
「お姉さん?」
「っ・・・フランちゃん、ノエルちゃんを見ててね」
一瞬、フランちゃんのお姉さん呼びに来るものがあったけど、フランちゃんにノエルちゃんを任せてロイドの所に向かった。
近づくと、ロイドを囲む女性が年上ばっかりなのに気づいた。その事に思わず珍しいと思った。ロイドに集まる女性は年上もいたのだが、同い年か年下が多かった印象があった。今回は大人の女性の方が子供よりも多いのは知っていた。けれども、子供がいなくて大人ばっかりなのは不思議に思ったが、そこまで考えて・・・まあ、良いかと思考を完結させた。今は別に関係の無いことだから。
ロイドを囲む人の壁を小さい体を使って、下から中に入り込んだ。
「ロイド」
「っと、・・・エルか、どうかしたのか?」
「ちょっと、こっちに来て」
「えっ、ちょっと!」
ロイドを見つけたので、話もすぐに連れ出した。ロイドは少し痛がっていたが気にしなかった。
「えっと?」
戻って来ると、ノエルちゃんは回復したのか僕の後ろのロイドを見つめていた。ノエルちゃんの前にロイドを連れてきたが、ノエルちゃんは見つけめたままだった。
「ノエルちゃん、ロイドに用があったんだよね?」
「・・・あっと、はい…」
やっぱりノエルちゃんに先程の元気さは感じられない。これには、状況が理解仕切れていなかったロイドも気がついたようだ。
「えっと、ロイドさん」
「あ、ああ、何かな」
「・・・クリスマスプレゼントです」
そう言って、ノエルちゃんは赤色の包み紙にくるまれた箱を渡した。ロイドはそれに少し驚いた顔をしたが、すぐにありがとうと言って受け取った。
「開けて良いか?」
「はい」
ロイドは包み紙を丁寧に外した。中には黒に金色の模様がかかれた箱が出てきた。箱をあけると、赤色の腕輪が入っていた。良くわからないが、タイムズに売っていた物にそういうのがあった気がする。
「今日のパーティーに誘って貰ったお礼です。私が指定したのは色だけですが。ロイドさんには似合うんじゃないかと思って買ってきてもらいました」
「・・・ありがとう、凄く嬉しいよ。大切にする」
「・・・はい、そう言っていただけただけでも嬉しかったです」
今日一の笑みを浮かべたノエルちゃんの顔はとても晴れ晴れとしていた。
僕は夜道を進むバスに揺られていた。クリスマスパーティーも片付けも終わって、姉さんやガイさんにロイドと一緒にバスに乗っていた。姉さんとガイさんは今日のパーティーの感想や日頃の事を話していた。ロイドは疲れたのか座席にもたれて眠っていた。ロイドの右手首にはノエルちゃんに貰った腕輪がバスの照明に煌めいていた。
「・・・」
あの後、ノエルちゃんはフランちゃんとパーティーを楽しんでいたと思う。ロイドにプレゼントを渡す前の様子は見受けられなかった。ノエルちゃんに何があったのかはわからない。悪い事だったかもしれないし、良いことだったかもしれない。わからないけれども、ノエルちゃんはスッキリとしていた。理由もないし、宛ても無いけどノエルちゃんにとってはあれで良かったのだろうと思っている。
バスの車内は大小様々な寝息が反響しあっていた。後10分もすれば夜でも明かりが消えない街に着く。それまでは、寝息の合唱をBGMにバスを運転しようと運転手は思った。
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4冊目 p71 3月12日 忙しい時には
冬至もとうに過ぎさった今日の日、春が訪れても可笑しくはない時期なのに外はまだ寒いままだ。それでも着る服の枚数を減らしても大丈夫なくらいは暖かいのだろう。この前までは寒いと感じていた服装も今はそうでも無くなっていた。
年が明けてから3ヶ月が経った。3ヶ月もたてば新年だとかの感傷は薄れてしまい、新しく何かをとか考えるよりも今を変わらず続ける事を念頭に行動していた。まあ、新しく始めた事なんてなかったのだが・・・。とはいえ、新年になったら何かが変わるかもしれないなんて思っていた元日の自分も存在していた。だけども、そんな行動力持ち合わせていないので、去年と変わらない自分の身長やロイドの説教に悩まされる日々になるのかと諦めていた。
そんな僕だけど、今年は日曜学校を卒業する年なのだ。最近忘れそうだが、僕は13歳だ。だから、卒業後の進路を決めないといけない。進学か、就職かで決めあぐねていた。お父さんとお母さんは、僕の良い方に行けばいいと言ってくれている。けれど僕にはこれと言って目指したい物が無い。だけどてきとうには決めたくは無かった。もし、上級学校に進むとしたら年齢的にまだ有余がある。その間に就職してしまう手も有るから悩んでいる。進路もろくに決まっていない僕の状況はこんな物だ。僕の周りの状況もそう多くは変わっていなかった。
しかし、変化が乏しかったのは僕の周りだけだった。世間ではめまぐるしいほど状況が変わっていた。年末にかけて騒がれ出した誘拐事件が合った。その事件は小さい子供を対象にゼムリア大陸各地で起こっている事件で、クロスベルでも子供が攫われたと新聞に書かれていた。しかも、10年以上前に起こった誘拐事件も関係していたらしい。これの解決に当たって遊撃手は勿論の事、帝国憲兵団やリベール軍など各地の軍や組織が協力して解決に動いていた。クロスベルからも被害が出ている為、クロスベル警察も捜査に当たっているようで、ガイさんもとても忙しそうにしていた。朝早くに出勤して、夜遅くに戻ってくる。そして、職場で夜を明かす事も増えていた。だからか、家の食卓にはロイドの姿が在る。ガイさんが家に帰れない事も有るのにロイドだけにするのは危険だし寂しいだろうと暫く家で預かる事にしたのだ。ガイさんに心配を掛けたくないロイドもお父さん達に「ありがとうございます、これからお願いします。」と言っていた。
ロイドを預かってから暫くたった頃、新聞で事件の概要が発表された。その新聞の記事から分かる事で目に付く物は、事件は大陸各地で活動している謎の教団が起こした物だという事、そして被害にあった子供達の多くが助からなかった事の二つだ。その教団は各地にロッジを持っていてそこで恐ろしい儀式を行っていたと書いてあった。内容は詳しくは書かれていなかった。けれども誘拐された子供たちはその儀式の生贄にされたのだと書かれている。教団は多くの勢力が動いた事で壊滅したが、教団から抵抗も激しく多くの負傷者や死傷者を出した。クロスベル近くのロッジでも多くの負傷者を出していた。負傷者は各地の医療機関に運ばれた。そして、聖ウルスラ医科大学にも多くの負傷者が運ばれていた。運ばれてくる負傷者の数が多く姉さんも向こうに泊まり込みで働いている。僕とロイドは何度も手伝いに行っていた。
大きな波を越したのは教団壊滅から2ヵ月が経った頃だった。
「エルちゃん、倉庫から替えの包帯を取って来てくれないかしら?」
「うん、どれくらい持ってくればいい?」
「そうね、とりあえず3ロール位かしら。」
「3ロールね、了解。」
そう返事をして、廊下の方へ足を向けた。目的地の倉庫は2階にあるので、3階の此処からは少し時間が掛かる。別に緊急という訳では無いけど、少し早足で廊下を進む。途中に看護婦とすれ違うが、彼女たちに焦りは感じない。少し前までは、それは酷かったので何だか感慨深い。負傷者が運ばれて来た当初はその数にベッドが足りず、簡易ベッドや敷物の上に寝かせていた。更に人手が圧倒的に足りず休日出勤の看護師や医者がいても足りていなかった。僕やロイドも手伝ったが、本格的な事は出来ないので助けにはなれなかった。負傷者はどんどん運び込まれるが他所からの応援やレミフェリアからの応援に頼って捌いて行った。1か月もすればある程度落ち着きも出て来る物だろうけどまだまだ落ち着けなかった。人手不足からの超過労働で倒れる看護師や医者も少なくなかった。本当に落ち着いたのはつい最近の事だった。その頃にはガイさん達の方も後処理なども終わり始めていた。元の状態には戻れないが、それに近い状態に徐々に戻り始めていた。
「えーと、包帯包帯はっと…」
倉庫までたどり着いた僕は、畳める脚立を片手に包帯の保管場所を探していた。今回の件で大量に物資を届けられた医科大学は、従来の保管場所では入りきらないと判断して、今まであまり利用してこなかった少し広い部屋を新たな保管場所にした。そこに、包帯を始め、メスなどの道具類も保管されている。送られて来た物資は部屋を広くした位では収まりきらないので、天井ギリギリまで物が入れられている。そのせいで背が小さいと物が取れなくてとても困るのだ。そんな愚痴を聞いた姉さんが用意したのが僕の右腕に在る畳める脚立だ。これのお陰で取りに来る度に近くの大人に頼らなくて済むのだ。小さくてもプライドがある方の僕にとっては嬉しい事だった。その代わりに姉さんからの雑用が増えたのは余計な事だったけれども。
「よいっ…しょっと!」
脚立に乗ってもギリギリな僕は、必死に手を伸ばして包帯の箱を手繰り寄せた。少しふらつきながら箱を床に置き、中身を探り始める。整頓された包帯の幅を崩さない様に上から3つ取り出す。そして、元の場所に箱を戻す。荷物が増えた事により、少しのやり辛さを誤魔化しながら部屋を後にした。
「はぁ…最近こんなのばかりしてる気がするよ。簡単な処置が出来る位に成ったら少しはかわるんだろうけどなぁ。独学じゃなぁ、出来る気がしないんだよねぇ。」
ブツブツと小言を言いながら歩いていると、前方から綺麗な女性の人が歩いて来た。
「こんにちは」
「あら、こんにちは。貴方は看護師さんかしら?」
「えっと、見習いです。」
「あら、そうなの?…まあ、見習いさんでも良いでしょう。ちょっと頼みごとをしても良いかしら?」
「えっ、え~と…。」
「…ああ、今仕事中なのかしら、それだったら違う人に頼むのだけど。」
「え、あっと、内容次第ですけど大丈夫です。」
「そう、303病室の場所を聞きたいのよ。」
「あ、それなら大丈夫ですよ。僕の目的地と近いですから。」
姉さんのいる病室は304なので隣の病室という事になる。それ位なら別に急ぎでは無いはずだから案内は可能だった。
「ならお願いするわ。」
「ええ、こっちです。」
階段の方へ体を向けながら案内を始めた。とは言ってもそんなに距離が有る訳では無いので、目的地にはあまり時間が掛からなかった。305と書かれた病室の前で女性の人とは別れた。女性が部屋に入る時にかすかに聞こえた鈴の音がやけに耳に残った。
「そういえば、名前を聞いて無かったな。…まあ、また今度で良いか。なんかまた会える気がするし。それよりも、早く姉さんの所に行かないと。」
あの後、遅かったわねと姉さんに言われたので、案内をしていたと言って誤魔化した。
「エルちゃん、そろそろ時間になるわ。」
「え、…ああ、もうそんな時間か。うん、着替えて来るね。」
「ついでにロイドの方にも声を掛けてきて挙げて。まだ、荷物整理していると思うから。」
「うん、倉庫だよね。わかった、それじゃあ姉さんまた後でね。」
「ええ。」
姉さんに言われるまで帰りのバスの時間が近づいているのに気がつかなかった。そこまで熱中していた訳では無かったはずなんだけどな。何だかんだ言って、手伝いでも嬉しいからなのかな?患者さんは辛そうで余り見ていたい物じゃないけど、患者さんからの感謝の気持ちは素直に嬉しいから時間を忘れちゃったのかもしれない。最近はこういう機会が多いから余計にそう感じるのかも知れない。そう思うと、自然と笑みを浮かべてしまう。最近はこういう笑みを浮かべる事が増えた為か、「最近のエルちゃんは別人なくらい笑うようになったよね」と陰で言われてしまっていた。こう言われると素直に喜ぶのに抵抗があって、余り嬉しくないのだ。言っている側からしたら思った事を言っているだけで、それ以外の理由がないのは良く分かるのだけど、何かむず痒い感じなのだ。だから言われると苦笑いで返していた。自分の整理が付けば早いんだけど、どうすればいいのだろうか。そう対策を考えていたら僕を呼ぶ声に気が付かなかった。
「エル?おーい……気づいてないのか?エル―!」
呼んでいたのはロイドだった。気づかずに歩き続ける僕をロイドは肩を揺らして止める。「エル」
「ん、ロイド?どうかしたの?」
「さっきから呼んでたんだけど。エルが全然反応しないから心配したけどその様子じゃあ大丈夫そうだな。」
「呼んでたの?ごめん、まったく気が付かなかった。」
「ああ、気を付けてくれ。エルは最近、考え込んでるのか危なっかしいから。」
「そうかも、気を付ける。あ、ロイド。もうすぐ帰りのバスの時間。」
「ああ、エルも早く着替えて来てくれ。セシル姉はもう着替えて来たようだし。」
ロイドは受付カウンターの方を見ながら言ってきた。僕もカウンターに目を向けると、そこにはニコニコしながらこちらに手を振る姉さんが立っていた。
「エルちゃんが余りにも難しい顔をしてたから声をかけ辛かったのよ。だから、ロイドに頼んだのよ。エルちゃんが難しい顔をしている時はロイドの方が得意だから。」
「セシル姉、別に得意じゃないから。」
「でも、ちゃんとエルちゃんは気が付いたじゃない。ロイドに任せて良かったわ。」
「いや、そうだけども。…はぁ。」
「ふふ、とりあえずエルちゃんは着替えてらっしゃい。」
「……うん、ちょっと持ってて。」
此処で騒いでも仕方ない。それが僕が下した判断だった。切り替えが完了してからの行動は早かった。姉さん達を待たせる訳にいかないので、駆け足で2階の更衣室に向かうのだった。
「二人とも今日も手伝ってくれてありがとう。貴方達のお陰で病院全体が円滑に回り始めているわ。あの時貴方達が手伝うと言ってくれなかったら、私もこうしてバスに乗って帰れていなかったわ。本当にありがとう。」
クロスベル市に向かうバスの中、姉さんは僕達に感謝と共に頭を下げた。僕達はその姿を視て唖然としてしまった。手伝いを行ったのは、姉さん達が大変そうだから暇している僕達で手伝いに行こうよみたいに軽い気持ちだったからだ。
「セ、セシル姉、頭を上げてくれ。俺達はそんなに感謝される手伝いは出来てないし、感謝されたくて手伝った訳じゃ無いんだ。なあ?」
「うん、そうだよ姉さん。そんなに感謝されたら逆に困っちゃうよ。」
「いいえ、貴方達はきちんと感謝されるべき事をしているわ。何もかもが足りていない状況に来てくれた貴方達は、あの時に最も必要だった事をしてくれたわ。あの時は、何より人手が足りてなかった。雪崩れ込むように運ばれて来る患者を診る事も判別する事も出来ていなかった。しかも、他の病院も同じ状況だから応援を呼ぶ事も出来なかったの。だから、貴方達が来てくれた時はとても嬉しかったのよ。だから、私の感謝の気持ちを受け取ってくれないかしら?」
姉さんは言い切った後、此方の言葉を待つように此方を見ていた。でも、僕とロイドは姉さんを見つめる事しか出来なかった。姉さんの感謝が僕達の想像よりも遥かに重かったのだ。その重さに僕達は耐え切れなかった、だから言葉も出ずにただ姉さんを見つめるしか出来なかった。そんな僕達を見た、姉さんの困ったような顔がこの場の雰囲気を物語っていた。
次は何時になるかは判んないです。
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4冊目 p107 4月17日 帝国へ
大陸各地を騒がせたあの事件から一か月が経った。一か月が経って各地も元の様な生活に戻り始めていた。事件解決に動いていた警察や遊撃手も事後は現場の調査や処理で慌ただしかったが、今では通常業務を再開させて各地を走り回っている。聖ウルスラ医科大学病院では、送られてきた負傷者の処置が完了し、回復を待つ状態へ移行した。それに合わせて通常の業務体制に戻して行った。それに合わせて僕達の手伝いも終わって、僕達も日常に戻って行った。
「ねえ、エルちゃん?最近は、お手伝いでゆっくり出来てなかったと思うけれど勉強はしているのかしら?」
「大丈夫だよ、空いた時間に病院の皆にロイドと一緒に教えて貰っていたから」
「あら、そうだったの?…なら、大丈夫そうね」
病院の方も落ちついて来た事で、久しぶりに帰宅して来た姉さんは何処か疲れたような顔をしていたけど、無事に済んで安心したような雰囲気も感じた。久しぶりに皆揃っての夕食はいつもより力が入った出来栄えだった。夕食後、姉さんはソファーに座って休んでいた僕に先の内容の事を言ってきたのだ。どうも、姉さんは僕が病院の手伝いばかりしていたのを気にしていたみたいだ。でも、あの手伝いの間は空いた時間に看護師長が僕達の勉強を教えてくれていた。そのお陰か、僕もロイドも勉強が疎かになる事は無かった。
「…どうかしたの?」
「ふふ、エルちゃん達が頑張ってくれたお陰で私達もとても助かったからそのお礼を皆で考えたのよ。そこで、ロイド君も連れて旅行に行って来たらどうかってなったのよ」
「旅行?」
「ええ、旅行。お金なんかは病院側が出して挙げるから行って来たらどうかしら?」
「えっ、そう、なんだ。……ん、姉さんは行かないの?」
「残念なんだけど、仕事の関係上そんなに離れる事が出来ないのよね」
「…ガイさんも?」
「そうね、貴方達二人でになると思うわ。ガイもまだ忙しいみたいだから」
急に決まったロイドとの旅行は、僕の故郷エレボニア帝国へ3泊4日の旅になった。あの後、ロイドに急いで連絡したのは内緒である。更に、ロイドから心配された。何でだろう。
そして、旅行当日になった。いつもの様にロイドに起こされ、身支度と朝ご飯を済ませた。その後、荷物のチェックを行って、ロイドと共に両親と姉さんに見送られながら僕は少し重たい荷物を持ってアパートを後にした。朝の街並みを横目に駅へ向かった。少し早かったのか、列車到着までに少し時間が空いてしまった。仕方ないのでベンチに座り、時間を潰す事になった。何となしに帝国のパンフレットを見てみたり、辺りへ目を動かしたりしていた。すると、列車の到着を伝えるアナウンスが聞こえ、帝国方面からの列車がホームに停車した。これから共和国の方に行くのだろう。そう考えていると、何故か不快に感じ始めた。列車に対してではない感じだが、その正体がすぐに浮かんでこなかった。しばらくそれを感じていると、突然それが消えてしまった。突然の事だったので、僕はつい辺りを見回してしまった。それをみてロイドがどうかしたのかと聞いて来たのはどうでも良い事だった。なぜ消えたのか、それが分からずさっきとは違う感じで悶々としてきた。そして、最初の悩みを僕は鈴の音と共に忘れてしまった。そんな僕を尻目にロイドは顎に手を当てて、冊子を見つめていた。
「ねえ、何処か良い所は有ったの?」
「ん、そうだな。あるにはあるが時間が有るのかは分からないかな。帝都は広いらしいからな」
「お母さん達も言ってたもんね」
帝都ヘイムダルは、エレボニア帝国の首都なだけあってその広さはとても広大だ。十何区に分けられた地区は一日で全部を回るのはとても骨が折れそうだとお母さん達に言われていた。だからロイドはその中からピックアップしたのだろうがそれでも回れるか怪しいようだ。帝都では帝都の遊撃手に案内を依頼しているからその遊撃手に任せてしまうのも手かもしれないとは姉さんの言葉だ。ガイさんもそれが良いと言っていた。僕もその気でいたのだが、ロイドはそれでも自分が行きたいところは決めておきたい様だった。何だかんだロイドも楽しみなのだろう、最近ロイドが年下だという事を忘れそうになるけどこういう所はそれっぽいなと微笑ましく感じた。
どれくらい待っただろうか?長く感じた待ち時間は列車が来た事を伝えるアナウンスにより終わりを迎えた。それを聞いた僕は周りに置いていた荷物を集め出した。ベンチに置いていた物や下に入れていた物を急いで手に持った。ロイドも持っていた冊子を上着のポケットにしまい込んで、同じように荷物を掴んで行った。最後に確認を行って僕らは列車に向かった。
「見てよ、ロイド!ガレリア要塞がもうあんなに先に見えるよ」
「エル、あんまり席を立たないでくれ。周りに迷惑だから。」
列車に乗って大分時間が経ち、僕らを乗せた列車はガレリア要塞を超えてエレボニア帝国の地を走っていた。
『「帝都ヘイムダル、帝都ヘイムダル、御降車するお客様は忘れ物にご注意下さい。次はーーー』
「エル、降りるぞ。準備はできてるか?」
「大丈夫だよ。ロイドこそ忘れ物をしないでよ?」
「…エルじゃあるまいし、大丈夫だよ。」
「あるまいしとか、余計な事を言わなくて良いよ。」
軽口を言いながら僕達は、ヘイムダル中央駅を歩いた。現地ガイドはヴァンクール大通りへの入口にいると聞いているのでそこに向かう。でも、始めて来る所で、更にとても大きい所だからか僕もロイドも視線があっちこっちに泳いでいる。
「ロイド、そう言えばガイドの名前ってどんな?」
「…セシル姉から聞いてないのか?」
「うん、帝都ではロイドに任せなさいって言われているから。」
「……それで良いんだ。………遊撃手、アルベルト・ガーランドさんって、人だね。叔父さんが前話していた帝都で街道に出た少女を確保したって言っていた人だよ。ガイドの件もこういう繋がりで受けてくれたのかもな。」
「へー、でもそれって、7年前だよね。相手さん良く覚えてたね。」
「そうだな、アルベルトさんが覚えていたのは偶々かもしれないな。」
アルベルト・ガーランドねえ、特に記憶に引っかかる物は無いかなぁ。対面してそうなんだけどなあ。
そんなこんなで中央駅の出入口付近までやって来た。話によればここの辺りにいるみたいだけど、何処だろう?遊撃手って、決まった制服とかないからわからないんだよなあ。あ、でも、大荷物は持って無いか。なら、身軽そうな人を探せば良いんだね。身軽、身軽っと。あれは車掌さん、あれも車掌さん、あれはカップル、あれもカップル、あれもカップル、カップルばっかじゃないか。遊撃手の人、見つかんないよ。
「ねえ、ロイド、遊撃手の人見つけれた?」
「……ああ、おそらく。」
「そっかー、見つけれたかー。……本当にっ!!え、どこ!?さっぱりなんだけど!?」
「後ろだよ。」
「おっと、正解だ。坊主、なかなか良い目をしてるな。」
ロイドが自身の後ろへ振り向きながら告げる。僕もそれに続き視線を動かすと、そこには片手を上げこちらを微笑む髭のおじさんがそこにいた。
「なっ、髭!?」
「おいおい、開口一番に髭かよ?相変わらず元気なものだよ、エル坊はよ。」
「あーえっと、エル、この人がさっき言った遊撃手さんだ。」
「この髭が!?」
「何だ、心配して損したか坊主よぉ?」
「…これは俺も予想外です。…よくわかりませんが、印象深かった、とかですか。」
「複雑だなぁ。」
「髭!?」
その後、エルの錯乱はアルベルトの拳骨で収まった。
七耀歴1198年 4月17日 (代筆:ロイド)
以前の病院での手伝いから大分時間が経った。セシル姉はもう大丈夫と言っているが、それでも他の人や兄貴の様子を見るに以前の様に戻るにはもう少し時間がいるような気がする。とはいえ、セシル姉の笑顔が見れる位に回復している。今はそれで良いのだと、俺はそう思っている。兄貴も同じような事を叔父さんと話していた。
今日は、朝早くから列車に揺られていた。先日セシル姉から打診されていた慰安旅行の様な物でエレボニア帝国に向かっている。最近、憂鬱そうな雰囲気を発していたエルを元気付けようと言うのが目的だ。何かに影響されたのか、エルはここの所元気が無かった。俺もそれは知っていたし、セシル姉や叔父さん達もわかったいた。ただ、原因はわからなかった。
だから、旅行に行って元気つけようと、セシル姉が発案し、計画を立てた。最初は、セシル姉達も一緒にだったが、予定が合わせられず悩んでいた。俺とエルでは危ないとも感じていたから余計に悩んでいたと思う。そこで、叔父さんが遊撃手に頼ろうと言い、クロスベル支部に相談した。そこからは早かった。帝都で活動している遊撃手に連絡が行き、あちらで協議され、案内をつけてくれる事が決まった。セシル姉が計画を進めていたが、俺も案内してくれる遊撃手と連絡を取り合ったりしていた。
エルがこの旅行を知ったのは、大部分が決まってからだった。伝えた時は呆然と聞いていたが、荷物を準備している時に理解追いついたのか、大声を出して驚いていた。
朝の5時頃、帝国行の列車に乗った。朝が早かったからかエルは、眠そうにしていた。けれど、心配していた事が起こる気配がなくて俺はホッとしていた。エルは列車での事故で行方不明になった。それで、もしかしたら列車に乗って発作でも起こったら旅行どころでは無くなってしまう。セシル姉もそれを危惧していた。だから、対策も用意したが杞憂で終わりそうだった。
列車内は、朝早くに乗ったので乗客は少なかった。エルも外の景色に一喜一憂しながら楽しそうにしていた。
駅に到着した俺達は、帝国という物の大きさを感じとった。クロスベルとは比べ物にならない程の巨大な駅内に、そこを行き交う人々の多さに圧倒された。これが大国か、とは何方から漏れた言葉か。
その後、案内をしてくれる遊撃手と合流した。その時のエルの反応に俺は驚いたが、遊撃手アルベルトさんは懐かしむ様に髭を撫でていた。
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4冊目 p107 4月17日 アルベルト
一騒ぎを起こした僕に髭が拳骨を落としてから少し立つ。とりあえず、3人で近くのベンチに座って休憩していた。
「エル坊、落ち着いたか?」
「…うん、落ち着いた。…髭なんだよね?」
「そうだな、立派な髭だろう?」
ポツリ、ポツリと目の前の男の事が頭に浮かんで来る。確かめる様に男を眺める。男はニヤリと髭を撫でる。
「エル、アルベルトさんの事思い出したのか?」
「…朧げに、かな?でも、髭の拳骨は何回か受けた事が有るかも。」
「ふむ、ならば後何発か落としとくか?」
「…!…何か震えて来た。」
「…記憶に無くても、覚えているようだな。」
「そうみたい、ですね。」
アルベルトの提案に体から強い拒絶反応を感じた。覚えてはいないが、余程喰らいたくないのだろう。それを見た二人は、小さな発見に頷きあっていた。
「まあ、記憶に関しては徐々に触れれば良いだろう。今は、旅行の目的を果たすとしよう。」
「…目的って、何かあった?」
「ああ、帝都の観光。エルの記憶も目的だけど、旅行を楽しむのが一番の目的だよ。」
「俺の依頼もお前さん達の案内だしな。そういえば、ロイドは帝都は初めてか?」
「いえ、一度帝都には来た事があります。…小さい頃ですけど。」
「ほうほう、なら最近出来た施設とかを中心に回るとするか。」
アルベルトはそう言って、髭を撫でながらルートを考え出した。その間、エルとロイドは再び駅へと視線を向けた。昼には少し早い時間だからか、人の通りは疎らだった。この時間の場合はクロスベルの方が人の通りが多いのかもしれない。そんな事を考えながら辺りを眺めていた。…いや、よく見たら向こうの方は人通りが多かった。僕達が座っている此処は、人通りが少ない所に設置してあるベンチの様だった。もしかしたら、髭が気を遣って此処に案内したのかも。そう思うと…いや、そんな事は無いか、だって髭だし。昔は僕が迷子の髭を探してたくらいだし、そんな気を遣うなんて出来ないはずだ。
「はあ、こいつはさっきから呆けてばっかだなぁ。」
「はい、良くやる行動なんですが、話が進みませんね。…アルベルトさんに此処を案内して貰って助かりました。」
「ああ、こいつの癖は昔から出しな。たくっ、そこは変わっていて欲しかったよ。」
「はは、それがエル、なんでしょうね。」
そんな二人の会話はエルの耳には残念ながら届く事は無かった。二人の視線はエルに向くが、エルの視線は虚空に向けられていた。その視線が交わるのはもう少し先の話だろう。今回は短縮しますが。
「ハッ!ヒゲェェ!!…ん?」
「エル、うるさいぞ。」
「痛いよロイド、暴力反対だって姉さんも言ってたよ。」
「そろそろお昼になるから何か食べるって、聞こうと思ったけど、エルは何も食べなくて良いんだな?」
「ごめんなさい」
「ハッハハ、あのエル坊をこんなに尻に引くたあ坊主もやるなぁ。」
突然立ち上がったエルにロイドは容赦なく拳骨を落とす。それを受けたエルはセシルの名を出してロイドに訴えるが、ロイドはそれをどこ吹く風と反撃を行う。昼食を人質に取られてしまえば、エルに反抗すると言う意志は直ぐに消えてしまった。その光景は、昔のエルを知るアルベルトには驚愕であり、面白可笑しくもあった。
「いい加減話を進めるか?」
「うん、髭ごめん」
「お願いします」
「さて、帝都の案内についてなんだが、お前さんら希望はあるんか?」
一段落した後、アルベルトはそう言ってエル達に問いかけた。
帝都の事に関しては、この旅が決まってから調べ直したり、お母さん達に話を聞いたりしていた。とは言っても案内役に任せられる事もあって、簡単な事しか決めていなかった。その中で行きたい場所として、劇場とマーテル公園を考えていたのでその事を伝えた。
「劇場と公園な、じゃあ、そこをルートに入れてと。…よし、早速案内するが良いか?」
「うん、大丈夫」
「よろしくお願いします」
返事を聞いたアルベルトは出口に向かって歩き出した。2人もそれに続いて出口に向かう。駅を出た3人は導力カトラムに乗り込み、帝都北東に位置するマーテル公園に向った。
「そういえば、ロイドはなんで公園に行きたかったの?」
「いや、パンフレットに書いてあったからだけど」
「えー、何か無いの?」
「…強いて言えば、屋内庭園かな。クロスベルでは見られないから」
「ああ、クロスベルじゃあ無いねえ。ミシュラムにも確か無いよね」
「クロスベルにか、彼処は敷地の問題も有るから建てようにも難しいだろうな」
「髭、クロスベルに詳しいね」
「遊撃手だからな」
そういう髭は自分の髭を撫でる。髭でも遊撃手だから隣国の情報とかを調べている様で、ウルスラ病院に多くの患者が運ばれた事も知っていた。遊撃手の知識はクロスベルのエオリアさんが教えてくれた事でも十分わかるが、髭も当てはまるとは思わなかった。髭だし。
その後もカトラムに揺られながら話しあっていた。髭の仕事振りや僕のクロスベルでの暮らし等を話した。髭が興味深そうに聞くので、少し恥ずかしかった。そうして、カトラムは目的駅に到着した。
「さて、屋内庭園〈クリスタルガーデン〉に向かうか、まあ、此処から見えるけどな」
「あれだね、本当にガラス張りなんだね」
「ああ、だからクリスタルガーデンだな」
「皇族の方も来る庭園か…」
「ロイドは昔来た時は此処に来たの?」
「いや、時間が無かったから来てないはず」
「そうだったか、なら良く見て行きな。俺は良く解らんから解説とかは出来んがな」
「役立たづ」
「うるさい」
そんなこんなで庭園を見て廻る。僕も髭の事は言えない位良さなんか解らないけど、ロイドは解るのか良く観察していた。それだけでも来たかいが有ると言う物だ。
1週した所でロイドが満足したそうだから庭園を後にした。次はドライケルス広場に一度戻り、そこからガルニエ地区に向かう事になった。
「昼御飯もそろそろ考えるか」
「レストラン行こう!」
「出店とかも有るみたいだな」
「まあ、その時考えるか…ん?」
「どうしたの急に立ち止まって?」
立ち止まったアルベルトは公園の一角に目を向けた。エルとロイドも続く様に目を向ける。そこには楽器を抱えた男女が集まっていた。
「ああ、いや、音楽院の生徒達だなって思ってな」
「ふーん、楽器を引きに来てるの?」
「おそらくな、そういえばエル、お前はエリオットを覚えているか?」
「えっ?……ん、なんか引っかかる」
「エル、大丈夫か?」
「……まあ、今はそれで良い」
そう言って、髭は歩き出した。明らかに落ち込んだ様子の髭だが、その事を突っ込む気だったけどその前にカトラムが来たので後廻しになった。
七耀歴1198年 4月17日
何故かロイドの字で書かれた文章が有るが、気にせず続きとして書く。髭、アルベルトとの合流は僕に多大な影響を与えた。記憶を無くして苦しい事は少なかったけど、髭を見ると覚えは無いけど懐かしい記憶が頭に浮かんだ。髭に叩かれた事、髭に叩かれた事、髭に叩かれた事。叩かれ過ぎでは?原因は、思い出せる中で僕のも合ったけど、他の子共のもあった。髭は慣れた手付きで僕を叩くけど、撫でる事もあった。みたい。靄がかかってるけど有るのは解る。どんな時だったのか気になるが晴れる事は無さそうだった。
カトラムから見た帝都の景色は、新鮮な気持ちもあったが、少し古い建物には懐かしい気持ちが出てくる。小さい時に見た朧げな感じを町並みから感じるのだ。まあ、僕が此処にいたのは10年も前じゃ無いけどね。
クリスタルガーデンは正直に言って退屈だった。クロスベルでも奇麗な物は奇麗だけど、それ以上に感じる事は無かった。別に否定やなんやを言いたい訳じゃ無いけど興味が無かった。まあ、僕こっちじゃ外を駆けてたみたいだし、昔からだったのだろう。髭もロイドもわかってたのか、良く見ていた割に足早に進んでたし。
髭があのとき質問した事は、簡単げに言ったけどそれからずっと尾を引いていた。大切なんだろうって無い記憶でも解る。エリオット、人の名前だよね。もし、これを見返してたら追記しといて、未来の僕。
追記 エリオットは私の大事な弟分。忘れた後悔はいっぱいした。この記憶、キーアにだってお姉ちゃんにだってもう介入させない。
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?冊目 p??? 4月17日 エリオットくん
switchしか現行機種が無いので零と碧が遊べないですが頑張ります。
マーテル公園を後にした僕達は、カトラムに揺られドライケルス広場を越えて、ガルニエ地区ヘ足を運んだ。此処は最初に行こうと予定していた劇場が有る地区だ。とは言え、劇場で公演は見ずに雰囲気を感じたかっただけだけど。クロスベルのアルカンシェルと比べてみたかったって、言うのもある。さらに、髭の話によれば出店も有るそうだ。昼に近づく空きっ腹に良い刺激をくれるだろう。
「ねえ、髭ー屋台で美味しそうなの何が有るの?」
「あー、行って見ないとわからんな。何があったか…」
「エル、あまりカトラム内で動かないでくれ、揺れているし危ないぞ」
「そうだぞ、エル坊は落ち着きがないからな」
「髭、うるさい」
背が低いからか、ロイドに肩を掴まれた状態で僕はカトラムに揺られていた。癪な事に背ではロイドに完敗していた。初見さんがいればロイドの方が年上だと思われる事だろう。姉さんから背が伸びる方法を聞いて実践しているのに何故なんだ。そんな悶々と考えている内に目的地に到着すつのだった。
「さっ、ようやっと着いたな、ガルニエ地区だ。劇場は向こうだな、すぐ行くか?」
「そうですね、中を見るわけでは無いですし、先に行ってしまいましょう」
「賛成」
「じゃあ、出発出発だ」
案内役のアルベルトを先頭にエルとロイドは歩き出した。劇場までのそれ程遠く無い道でも、物珍しい建物にオブジェ、そして、屋台から香る甘い匂いにエルが釣れない訳が無かった。劇場に着く頃にはエルの両手にクレープやら食べ物が握られており、共に歩く二人の視線から顔を反らして頬張っていた。不思議と良く食べたエネルギーはエルの何処に向かうのか、誰も気にしない7不思議が1つ増えたのだった。
なんやかんやと劇場前にたどり着く。
「着いたな、此処が帝都歌劇場〈オペラハウス〉だ」
「おおー、劇場ってだけあって大きいねえ」
「エル坊は小せいからな、余計にそう思うんじゃないか?」
「失礼な!僕じゃ無くても大きいでしょ!」
「ハッハッハッ、そうかもな。…ロイドは何やってんだ?クリスタルガーデンでもメモを取ってたが」
「いえ、クロスベルの友人に土産話をする約束でして、本当は絵なんかの方が良いのでしょうが、生憎絵心は無くて」
「まあ、口頭でも知らない事は楽しいさ」
メモを取るロイドを待ちながら、僕は手に持ったクレープを頬張りつつ、隣で物欲しそうに見てくる髭の足を踏んづけてロイドを待っていた。
「…よし、ごめん待たせた」
「なら、次はどうするか、まずは昼食か?」
「モクモク、うん、お腹すいた」
「…エル坊よぉ、お前、今食ってたクレープは何なんだよ?」
「レストランのお冷」
「アルベルトさん、クロスベルではこれが普通でした。エルが来た頃はその、少なかったのですが、いつからかたがが外れて食べる様になったんです。最初は皆喜んだのですが、次第に多くなって…」
「…ハア…昼食にするか」
本人は特に何も思ってなさそうだが、食べてるクレープは飲み物では無いはずだ。エルの食欲にアルベルトは呆れた様に静かに溜息をこぼすのだった。
「何処で食べるの?」
「そうだな、とりあえずアルト通りの方面に向かってだな」
「エル、その前に口の周りを拭いてくれ」
「ん、良し!行こう!」
昼食を探しにカトラムではなく徒歩で散策して行く。途中、(主にエルが)ウィンドショッピングを楽しみ。(エルが)屋台で串を買い食べ歩いた。そして、エルの嗅覚が美味しそうな匂いを嗅ぎ、レストランで食事をした。
「……アルト通りに着いたぞ、やっとな」
「おお、結構掛かったね」
「…そうだな」
アルト通りに着いたのは真昼を過ぎた辺だった。寄り道が多く予定よりも掛かってしまった。
「あっ、アルベルトさんやっと来たのね」
「ああ、フィオナちゃんすまんな、遅れてしまった」
「いえ、それは良いんですけど…エルちゃん」
「えっと?」
「…ううん、何でも無いわ。そうね、…初めましてフィオナ・クレイグです。エルちゃん、貴方の事はロイド君やアルベルトさんから聞いてるは」
「は、はじめまして…?エル・エルフィミンで、です」
「…うん、アルベルトさんにロイド君、家でお茶にしませんか?」
「はい、お願いします」
「ああ」
そう言って、フィオナさんは僕達を家に招いた。
「さて、エルちゃんとロイド君はハーブティーは大丈夫かしら?」
「は、はい」
「いただきます」
「アルベルトさんは水でしたね」
「待って、俺もハーブティー下さい」
フィオナさんはフフッと微笑んでキッチンに向った。その間、僕は準備しているフィオナさんを見つめていた。フィオナさんの反応から昔の僕を知っているのだろう。…思い出せない。やっぱり、霞がかかってる。フィオナさんの名前は引っかかるのに、顔が全然浮かんでこない。
「さあ、いただきましょうか。お菓子もありますから二人共遠慮は要らないわ」
人数分のカップに色とりどりのカルテットアイスが並べられ、いただく事になった。
「はい、いただきます」
「…おいしい」
「…フフ、そう、それは良かったわ。口に合うか解らなかったから安心したわ」
「あっ、これもおいしい」
「ああ、このアイスもおいしいな」
「遠慮せずにもっと食べて良いのよ」
「はい」
「エルちゃん、ちょっと抱きついても良いかしら?」
「はい、え?」
急に、視界が暗くなった。柔らかい感触が顔を覆う。懐かしく感じる匂いが鼻孔を刺激してきて少しこそばゆい。というよりも、思ったよりも力強くて苦しくなってきた。マズい、苦しい。フィオナさん、離して、もしくは緩めて、お願いします!ロイド、髭、助けて!
「あっ、エリオット!帰って来たのね、エルちゃんが来てくれたわよ!」
え、なんて?ガハッ!!腰に凄い衝撃がァ!!待って、無理。無理だってこの状況はマズいって!!腰も力強いな!?どういう状況!?ねぇ、どういう状況なの!?誰か説明してよ!?
「フィオナちゃん、ストップだ!エリオットも一旦離すんだ!」
「二人共エルが息出来て無いから!?」
「あっ」
「――」
二人の声で緩んだけど、遅かったよ。
「――ん、ん?」
「あっ、気がついた!姉さんーエル姉が起きたよ!」
気がつくと僕は横になっていた。感触からベットに寝かせられたのだろう。頭や腰がまだ少し痛い。どれだけ強く抱きついたんだ。フィオナさんの何を踏んだのかまるで予想出来ないけど、過去の僕を知っているみたいだし同じ行動でもしたのかな。本当に記憶が思い出さないと不便である。フィオナさんとは初めてじゃないんだろうし、彼女に悲しい顔をさせなかったと思うのになぁ。
「起きたのね、ごめんなさいエルちゃん。貴方の記憶が無い事は知っているのだけど、エルちゃんが好きだったハーブティーを貴方も美味しそうに飲むのですもの、ちょっと思い出してしまったの。だから、ごめんなさい」
「…いえ、此方も貴方の事を思い出せないのが悪いんですから」
「そんな事は無いわ。たとえ記憶は無くても、貴方はエルちゃんなんだって解ったから。私はそれで良いのよ」
「…ありがとうございます」
「さ、エリオットも何か言いたいのよね?私は、アルベルトさん達の所に行くから」
「…うん」
フィオナさんは再度僕を抱きしめて部屋を後にした。今度は、とても優しい抱きしめだった。
「エル姉、僕の事も思い出せないの?」
「……ごめんなさい」
「うんん、姉さんから聞いてたから大丈夫。…エル姉、抱きついて良い?」
「良いよ、貴方の気が済むまでそうして良いよ」
「ありがとう……」
僕の腰に手を回して抱きつくエリオットくん。彼の事も思い出せていない。でも、微かに残っているのか、自然と頭を撫でるように手を置いた。
「エル姉、エル姉。また、会えて良かった…」
彼から溢れた物を僕は体で受け止める。そして、震えている体を僕からも抱きしめる。不思議とそれに違和感はなく、エリオットくんのが治まるまでそのままだった。
「……ごめんなさい、エル姉の服汚しちゃった」
「これくらいなら大丈夫だよ、それより用事は済んだの?」
「…これをエル姉に返そうと思って」
顔を拭ったエリオットくんは懐から装飾された鞘に入った小型ナイフを取り出した。
「…それ、は?」
「エル姉が誕生日に貰った宝物で、大切にしていた小型ナイフ。エル姉が旅行に行く前に無くしたら困るから僕に預けるって、言って渡して来たんだ」
そう言ってエリオットくんは僕にナイフを渡す。受け取った僕は鞘からナイフを抜いた。刀身に写る景色に何故か私はいなかった。
「エル姉が帰って来たら返そうと思ってたんだ」
「……エリオット、くん。ごめん、今の私はこれを受け取れない」
「うん、…え?な、何で?エル姉が大切にしてた物だよ!?」
「うん、だからかな、僕にはこれを大切にしていた記憶が無いんだ、僕にはこれを持つ資格が無いよ」
「そんな」
「ごめん、これはエリオットくんがまだ持っていて」
「エル姉…」
「…私に出来るおまじないを鞘に込めるから、エリオットくんを守ってくれるお守りとして、ナイフを持っていて。いつか、私の記憶が戻ったら改めてナイフを受け取るから」
「……」
「ごめんね、私はまだ君のお姉さんには戻れないや」
僕の回復を待っていたロイドとアルベルトが部屋に入って来るまで僕とエリオットくんとの間で会話をする事は無かった。ロイド達も気づいているのか何も聞いて来なかった。そして、僕達の帝国旅行は終わった。
「エリオット、良かったの?エルちゃんともっと話さなくて」
「うん、エル姉も話したく無かったみたいだったから。それに、今度は僕が向こうに行けば会えるしね」
「あら、泣いていたのに何かあったの?」
「うんん、ただ、守れる位強くなりたいなって思っただけ」
「…そっか」
七耀歴1198年 4月17日 (筆者∶アルベルト)
今日は此処数年で一番の出来事があった。なんせエル坊の元気そうな姿が見れたんだから。4年前のあの事故が発生した時、俺は何も出来なかった。事故を知ったのは事故から3日程後の事だった。依頼をこなした帰りにギルドの受付で、オーラフ・クレイグが情報を募っていた所に俺が帰って来て聞いたのだ。エルフィミン一家が列車での事故に巻き込まれ、エル坊が行方不明となっていた事を。俺は信じられずにクレイグさんに詰め寄ってしまった。クレイグさんには悪い事をしたよ、エリオットの関係で知らない中じゃ無いが動転しすぎた。
クレイグさんは事故発生後に現場で調査を行ったそうだ。その時に乗客の確認も行われ、確認後に乗客はクレイグさんの第4機甲師団に連れられガレリア要塞で調書含め取調を行われていたそうだ。そこでエル坊含めて多くの乗客が行方不明となっていたそうだ。行方不明の人数が多い為に遊撃手協会の力を借りたいのだと言う事だった。軍と仲の悪い遊撃手協会だが、猫の手もとい遊撃手の手も借りたかったのだろう。まあ、クレイグさんはその辺は気にしない人だが。
俺は直にその依頼を受領して調査に乗り出した。エル坊が乗っていた列車はカルバード方面に向う列車で、エルフィミン一家は旅行としてカルバードに向う予定だった。列車事故はカルバードとの境界での事故で、両国から調査隊が軍及び遊撃手で編成され、俺はクレイグさんの第四機甲師団との部隊だった。
まあ、結果だけ言えば成果は得られなかった。事故が事件かも知れないというふわっとした事が解ったくらいか。その後は、軍内部での協議によって軍は調査から撤退していった。クレイグさんからもこの事を謝罪された。遊撃手協会でも調査の撤退もしくは規模の縮小が協議され、撤退する事になった。遊撃手としては撤退したが俺は諦めきれず独自に調査していた。まあ、それが実を結ぶのは大分後だったがな。
遊撃手として依頼を受けつつ調査を続けて暫くたった頃だ。俺は急にギルドから連絡を受けて、慌ててギルドに駆け込んだ。内容はクロスベルでエル坊に似た子が発見されただった。大使館にクロスベルの警察官から本人確認の連絡が入ったのだ。大使館には俺がエル坊の知人であり、行方を追っている事を伝えていた為に今回の件で話が回って来たのだった。大使館に届けられた似顔絵と特徴を聞いた俺は、すぐにエル坊だと判断した。髪色と瞳の色が変わっているがいつも見ていた顔だった。確信した俺はその警察官に連絡を取り、ガイと名乗ったその男と帝都で落ち合った。ガイからエル坊の様子を聞いた俺は、茫然として言葉が出なかった。エル坊の現状、記憶喪失の事をだ。想定はしたくなかったがしていた。事故から時間が経ちすぎていた。だが、だが、無理だった。
そこからガイとの話は俺が持ち直してからとなったが、エル坊の両親の話となった。エル坊の両親、ターニアさんとロンさんは未だに見つかっていない。俺はこの時、半ば諦めかけていた。あれだけ探しても足跡一つ見つけられ無かったのだから。だが、ガイは諦め無かった。俺の弱音を聞いてもガイはまだ手があるはずだと、諦めるのはまだ早いと俺を引張って行く。そして、俺達は遂にたどり着いた。…たどり着いた。
二人の葬式には参加したかったが、止まっていた遊撃手としての依頼に、何よりもしエル坊が俺を見て知らない様な顔をしたら俺が耐えられない。あの元気丸が萎れている姿を見るのが辛い。だから、俺はガイにロンさんが大事にしていたネックレスを託した。これは、ロンさんが旅行前に何故か俺に預けた物だ。ロンさんがいつも身に付けていたお守りの様な物だと言う。もしかしたらロンさんは虫の知らせでもあったのかも知れない。なら自身で付けていたら事故には合わなかったとこれを見て思っていたが、エル坊の為に俺に預けたと思って耐える。ガイにはロンさんが残したプレゼントと言う事で渡して貰う様に頼んだ。今日、エル坊を見て胸元のネックレスを見て少し溜飲が下がった気がした。
それから3年が経った。ガイが律儀にエル坊の様子を報告しに来るからエル坊がだんだん元気になって行った事は知っている。直接会えてはいないが、ノイエス家の皆さんには感謝していた。そんな時に、ガイからエル坊達の旅行の案内を頼まれた。3年前であれば断っていたかも知れない。だが、エル坊に会いたかったし、いい加減エル坊と向き合わないといけないと思っていた。
引き受けてから当日までどんな顔で会うか悩んでいた。でも、エル坊に会うと強がってしまった。だが、少しの後悔もエル坊の髭で吹っ飛んだ。エル坊が俺を髭と言った、記憶が戻った訳じゃ無い様だが、嬉しかった。まあ、その後ああなるとは思わなかったが。
エル坊は変わった所は目立つが、変わらない所も沢山あった。記憶が戻らないのは辛いが、エル坊はエル坊なのだと理解できた。エリオットはまだ割り切れないだろうが、時間が解決してくれる、俺もようやく前が見える。
「フフ、俺らしく無い事を書いた物だ。…いつか、いや、今度はガイ達皆で集まりたい物だ」
追加クラフト エリオット
条件 エリオットがエルのナイフを預かる
《ラメンターアミュレット》消費CP30
3ターンの間、状態異常防止
3ターンの間、STR&DEF&SPD50%+
3ターンの間、武器を持ち替える
エルのナイフ STR+200 DEF+50 RNG-2
エルから再度預かった小型ナイフと鞘、あの頃のエルの様に切りかかる。
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4冊目 p198 7月14日 雨が降るから
帝国旅行から少し経ち、僕の日常が戻って来て久しい夏の頃だ。日曜学校を卒業している僕はそろそろ、高等学校の事を漠然とでも考えなきゃいけない。その候補はレミフェリアの医学科の学校か帝国の方の学校が有る。なんなら帝国の方は何かと便宜を図ってくれるオーラフ・クレイグさんの伝手で良いところを紹介してくれるかもしれない。まあ、何方も行かずにウルスラ病院に行くという就職の手も有るけれど、それをしたらお母さんや姉さんに怒られそうだからちゃんと考える事にしてる。とは言っても悩む事には違い無い。選択肢は多いし…どうした物かなぁ。
「…ハァ、どうしようかなぁ」
「……」
「…ハァ」
「………」
だから、近くで読書中のロイドにわざとらしく絡む。が、ロイドは捲る手を止めず相手にされなかった。こっちを一瞥もしない奴に僕もぷんすかである。
「ロイドー、無視するなぁ」
「…ハァ、…ウルスラ医科大学に行けば良いじゃ無いか。医科大学なんだから」
「え、あー!そういえば、ウルスラ病院って医科大学じゃん」
「…ああ、でもエルがなりたいのはセシル姉みたいな看護師だっけ、医科大学じゃ少し違うのかな詳しく無いけど」
「うーん、そうだね、ちょっと違うのかな。最終的には聖ウルスラ医科大学に行きたいけども」
「なら、簡単だな。セシル姉っていう先人がいるんだ、俺よりも確実な事を聞けば良いのだから」
「…まあ、そうだよね。そうなんだけどもさ……」
「…迷惑には思わないと思うからさっさと行く!」
ロイドはそう言うと、ソファに座る僕を立たせる。そうしてロイドに押し切られた僕は、姉さんの所に向うのだった。部屋で読書をしていた姉さんは進路についてと切り出すと、やっと来たのねと呆れた様な溜息と共に相談に乗ってくれた。結果を言えば、候補は絞れたけど決めきれなかった。決めきれなかった僕に、ウルスラ病院に直接行くよりも、外に出て勉強してみた方が良いと姉さんは勧めてくれた。だからクロスベル外にも目を向けて探そうと思う。幸いな事にまだ決めきる時間は有るのが救いかな。で、これが少し前の話で有って此処からが今日となる。
少し進んだある日の事だ。天気は生憎の雨だったけど僕は家の外にいた。最近仲良くなったサンサンと遊ぶ約束をしていたからだ。雨だからどうしようとも思ったけど、サンサンからは屋内でも遊べるとお呼ばれされたのだ。遊んだ感想は外に行きたい欲求が隠せないサンサンに、僕が人形や枕を放って紛らわせていた。やはり、雨の日はやれる事が少なくなる。そのせいだろうか、枕投げは想像よりもヒートアップしていた。サンサンには悪いけど僕だって鬱憤がある。でも、僕だって心は大人だ。だから誤魔化す為に強めに放つ、顔には投げないから安心してね。だから、顔を狙うのはやめて痛いから。
七耀歴1198年 7月14日
今日はあいにくの雨だったけどサンサンのお蔭で退屈はしなかった。サンサンとの出合いは割と酷い出会いだったと思うけど、サンサンの人柄なのかすぐに仲良くなった気がする。その時の事を記録しとこうかな。
確か、最初は僕がお使いで東通りに向った時の事で、お母さんからのお駄賃を手に歩いていた僕にサンサンが声をかけて来たんだ。サンサンは店の売り子として声をかけてたんだけど、僕はその時少し浮かれ気分だった。だって、お使いの駄賃が余ったら小遣いにして良いと言われていたからそれの使い道を妄想していたのだ。気持ちが弾む物だ。だから、サンサンのに気づかなかった。まあ、それで話が終わる事だってあるけど、サンサンは何故か諦めずに再度僕にアタックした。というか、物理的に跳びついて来た。僕はそのアタックに耐えれずヘッドスライディングをかました。そこからは、訳がわかってない僕と来てと騒ぐサンサンの図が東通りに完成する。次第に愚図るサンサンにあわあわする僕と周囲の人で2枚目も画かれた。3枚目が描かれる前に《龍老飯店》から迎えが来てその場は解散となった。その後、家に謝罪に来たサンサンと話して仲直り、仲直りをした。それからはサンサンの人柄に僕が引かれて友達となったのだ。
明日も遊ぶ仲になった僕ら、これからも仲良く出来たら良いなと思う。でも、今日の枕投げは僕の勝ちだから。
次は時間が跳びます。
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6冊目 p65 2月5日 外れてくれない事
この作品の細かい日付はだいたいで決めており閃の軌跡以降位日付出てくれればそれに合わせるのですが、わからなかった所は捏造です。
七耀歴1200年 2月5日
日記の日付を確認して気がついたけれど、あの帝国旅行からもうすぐ2年が経とうとしている。旅行の原因となった例の教団事件の影響も落ち着き、世間も病院も普段通りの生活に戻って行った。あの時に運ばれた患者達も個人差はあれど回復傾向にあり、退院や通院に切り替えている患者も多い。それで僕やロイドが手伝う事も無くなっていて、それぞれの日常を過ごしている。ロイドも僕以外の友達とも遊ぶし、僕もサンサンなんかと引き続き遊んでいた。あとは、悩んでいた進路の事だけども、やっぱり聖ウルスラ医科大学病院に行く事に決めた。まあ、その為に勉強しなければならないので、姉さんに教わりながらもくもくと励んだ。そのお陰で無事に内定を貰っている。春からは看護師見習いである。
僕以外で言うと、やはりアリオスさんの事だろうか。昨年、突発的に起こった事故にアリオスさんの妻サヤ・マクレインさんと娘のシズクちゃんが巻き込まれた。その結果、サヤさんは亡くなり、シズクちゃんの目には大きな障害が残る事になった。僕も二人とは関わりがあっただけに酷く悲しんだ。葬式にも参加したけど、あの時のアリオスさんの顔はとても怖かった。シズクちゃんは聖ウルスラ医科大学病院に入院し、完治に向けて奮闘している。最初は酷い昏睡状態で御見舞も出来なかったが、今では多少の会話が出来る程に回復している。前に御見舞に行った時は、見えない目の代わりに耳で人を察知する技術を見に付ける訓練を行っていた。目の状態は良くなくて、今の技術では完治は難しいみたい。様々な方法を試しては失敗しているが、本人達が諦めていないのがせめてのに僕は感じている。しかし、事故の後にアリオスさんはクロスベル警察を辞めてしまった。ガイさんも止めはしなかったそうだ。理由は様々なのだと思うけど、ただ何か大切なものが壊れる予感がした。
「…ふぅ、ひとまずこんな所かな。…思い返すと色々、あったなぁ。それでも、アリオスさんの事はやっぱり大きいな。サヤさんにはお菓子や料理も教わったし、シズクちゃんとも良く遊んでたから特にね。…」
机に置かれた新聞を手に取る。そこには、『クロスベルの新風!遊撃手アリオス・マクレイン!』の見出しが書かれている。
「ガイさんが気にしてないと言っているからと言って、僕が気にしない訳にもいかないよね」
月に何十もの依頼をこなすその姿は、かつての姿とはかけ離れていた。ロイドや僕が憧れたクロスベル警察の若手コンビの片翼のその姿に胸を痛める思いだった。あれから二人が仲良く話合う姿は見られない。
「どうにかならないかなぁ」
部屋の天井に吐き出すが虚しく消えるだけだった。
「…」
「エルー、ご飯の時間だぞぉ」
「…あ、はーい!」
モヤモヤ気分のまま時間が過ぎ、ご飯の時間になり今日もお泊りのロイドに呼ばれて僕は部屋出た。
夕食後、僕は暇そうなロイドを引き連れ部屋に戻る。
「さて、ロイドは姉さん達の結婚式の準備はしてる?」
「…呼んだ理由はそれか。来年の予定だろ?早くないか」
「やっとなんだよ?早いに越した事ないって!」
「…まあ、そうだけど」
「でしょぉ、だからそれについて話そうと思ったんだ」
一ヶ月程前のガイさんとロイドを招いての夕食時に姉さん達からやっと結婚する事が伝えられた。昔からの二人を知っている方からすればまだだったとか言われそうなのだが、一年後に行うと二人から言われて逸る気持ちが抑えられないのだ。…まあ、ガイさんに淡い気持ち?があったのは否定しないけどさぁ、それよりも祝福の気持ちが強いのだ。少し大人になったから思うけど、ガイさんからは妹みたいな感じだったのだろうしね。だから、二人の結婚式が良いものとなる為に僕は準備をしたいのだ!
「…準備と言っても俺達が出来る事ってあんまりないよな」
「えっと、会場?」
「それは兄貴達とプロの人がするな」
「料理!」
「それも」
「……」
「…そうだな、身支度とか位かな」
「…そんなぁ、せっかくの結婚式なのに出来る事無いの?」
「沢山祝福する事が一番かな」
「そっかー」
逸る気持ちを抑えられない僕はベッドに身を投げる。それを呆れるようにロイドはため息をこぼす。
「…話は変わるけどエルは最近のアリオスさんに会ったか?」
「うん?アリオスさん?…会ってない。ほら、そこの新聞位だよ」
食事前に見ていた新聞を指差す。
「ああ、この前の特集か」
「何か気になるの?」
「兄貴が心配してたんだ」
「まあ、遊撃手になってから忙しそうだもんね」
「ああ、警察の時はなんだかんだ楽しそうだったのに今は追い詰められてるようだって」
「…サヤさんが亡くなって落ち着ける余裕が無いのかもね」
「そうかもしれないな」
「シズクちゃんには時間作って会いに行ってるみたいだよ。御見舞の時に嬉しそうに話してくれたから」
「…そっか」
その後は少し話して解散した。アリオスさんには僕もお世話になった事がある。これ以上何も無ければ良いけれど、感じた嫌な予感は頭の片隅に消えてくれなかった。
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9冊目 p322 11月21日 雨音のクロスベル
七耀歴1201年
ガイさんが死んだ
ここ最近、連日の様に雨が降っている。なぜだか嫌な感じが朝からしていた。雨の影響だろうか?何事も無いと良いけども。それはそれとして、今日もサンサンの家に遊びに来ていた。サンサンと遊ぶ日は雨が多いのだが、誰かの体質だろうか?いつもの様に遊ぶも雨が酷くなって来たので、そろそろ帰ろうかと言う所で、ロイドが傘を持って迎えに来た。どうやらお母さんが心配して迎えに寄越したそうだ。サンサンはもう少し遊びたいと愚図ったけど、嫌な感じが消えなかったからその好意に甘える事にした。サンサンにまた遊ぶ約束を取り付けて帰路につく。ロイドとの道中は特に会話する事は無く、ザーザーと傘を打つ雨の音だけが響いていた。だからだろう、本来なら拾えていた甲高い発泡音を聞き漏らしたのは。
「…ロイド、今日ってガイさんの仕事はやいんだよね」
「そう聞いてる。アリオスさんに会うんだって朝聞いたし、夕食には間に合わせるとは言っていたな」
「雨、止まないね」
「……ああ、更に強くなるそうだ」
「あっ、エルちゃんにロイドも此処にいたのね。…ちょっと、私これから外に出て来るから二人は家にいてね」
家に帰った僕がロイドとゆっくりしていると、傘を2つ手に持つセシルが部屋の扉から外に出るなと忠告を告げ、部屋を後にした。
「あっ、姉さん。…行っちゃた」
「…だいぶ急ぎだった、兄貴の迎えか?…それにしては」
「ロイド、気になるならこっちにも話して」
「ああ、気になったのはセシル姉の表情が険しかった事と傘を2つ持ってた事だ」
「そうだね、ガイさんが傘を忘れたから届けにって感じじゃ無かったね」
「それに兄貴は、傘を差すよりも走るからわざわざセシル姉に頼んだりしない」
「じゃあ、ガイさん以外の用事かな?お父さんとお母さんは家にいるし、…お友達?」
「…考えてもしかた無かったかも、ごめん」
「いや、良いよ。僕も気になったから」
姉さんの様子を気にしつつも出来る事は無かったので、夕食までロイドと部屋で過ごしてた。夕食に姉さんとガイさんの姿は無く、お父さんもお母さんも姉さん達の用事を詳しくは知らない様子だった。ただ、ロイドは今日家に泊まる事になっているそうだ。何かがあった様だけど、わからないまま今日は寝る事になった。結局、姉さん達に会えずじまいだった。
「姉さんが出たのってガイさん関係だよね?」
「ああ、マイルズさんも言っていたからな。…ただ、兄貴に会いに行ったって事だと良いけど…」
「姉さんの様子を見るに、何も無かったって感じじゃあ無いよね」
「…朝からのこの嫌悪感が嘘だと良いな」
「…ロイドもかんじてたの?…僕もサンサンの所で遊んでる間、ずっと感じてた」
「…」
「ガイさん、大丈夫かな」
「…」
眠りに着いた私は夢を見た。帝都でエリオットとロイドが私を追いかける。私は逃げている?髭が私の前を塞ぐ。私は急停止から向きを替えて逃げる。住宅街の公園に出るとセシル姉がベンチに呼ぶ。逃げてる私はセシル姉に謝りながら道を進む。髭達は変わらず私を追う。次に出たのは水路沿いの道で通行人が疎らに歩いている。お父さん達が私を見て微笑んでいる。何故私はこの夢を見ているのだろうか。逃げている私はカトラムの駅を越して大通りに出た。いつの間にか髭達は見えなくなっていた。ようやく巻いたのかと私は歩みを緩めた。旅行で見た大通りに比べて古い様に感じる。なんとなくだけど。改めて周りを見渡すと特に懐かしく感じる物を見つけた。それは、……?なんで拳銃?
「はっ!…部屋?…夢から冷めた?」
「…起きたか、エル。着替えてリビングに来てくれってセシル姉が呼んでるぞ」
「うえ、ロイドか。…うん、解った」
「セシル姉は急いでるみたいだから早く」
そう言って、ロイドは部屋を出て行った。ロイドを見送った僕だけど、姉さんが待ってるみたいだから手早く着替える。着替えながら僕はあの夢について考える。ロイドに髭に登場するのは僕の知り合いばかりだった。…その割にはガイさんがいなかったな。それに最後のは見た覚えは無いよな?
「エル、着替えたか?」
「うん、早く行こうか」
「待ってたのは俺だからな」
「細かいよ」
「…」
着替えたのを確認に来たロイドと軽口を交わしつつ、僕は部屋を後にした。リビングまではすぐなので此処も会話は無かった。リビングに入るとすぐに姉さんの姿が入って来た。姉さんは昨日に比べて、少しやつれた様子だった。僕らが来たのを見て、姉さんは椅子へ座るように促した。椅子に座った僕等の顔を見て、姉さんは口を開いた。
「…二人共、心して聞いて欲しいの。………昨日、ガイが亡くなったの」
「え」
「!」
「はじめは雨の中、市内で倒れているのが発見されたの。そこで、病院に運ばれたのだけど手遅れだったみたいね。私が駆けつけた時にはもう…」
「あ、っ」
「…セシル姉」
「…フフ、ごめんなさい。私も整理がついてないの。ガイには昨日の朝もあったから、余計に考えれないの」
「……」
「でも、朝になったら少し落ち着いたのよ?だから二人にこうして話せているのだけれどね。」
突然の事に僕はうまく反応出来なかった。ロイドは姉さんの心配をしてたけど、痩せ我慢に近い気がする。話した姉さんも多分痩せ我慢で、涙は出さなかった。この後、お父さんとお母さんと一緒に病院に向かった。そして、ガイさんの姿をこの目に刻みこんだ。淡い思いは冷たい体身を貫く事は無かった。だから、刻む。あの右手の温もりと共に。
葬式はすぐに行われた。葬式には沢山の警察関係者に加えて、遊撃手協会からも出席者がいた。というか、髭が来ていた。ガイさんの人脈の広さは凄いのだと感じた。…でも、アリオスさんの姿は見えなかった様な?気の所為かな、一番の相棒だって言っていたあの人が来ない事は無いだろう。お髭の上司さんは来ていたし。
式は人数の割に静かに終わった。お墓も大聖堂裏に作られた。この頃には、ロイドも姉さんもガイさんの死を飲み込めたようで、下を向く回数も減っていた。前の日常には戻れないけど、近づける位にはなって来た。家の雰囲気が明るくなりだして僕は隠れて安堵していた。
僕の日常が前に近づいている頃、僕の周りは着々と変わりつつあった。ガイさんの相棒のアリオスさんが警察をやめて、遊撃手になった事やロイドが警察になるため学校に行く事を決めた事等、身近の変化に市内でも大小の変化があった。そして、僕の生活も変化している。
「エルちゃん、またで悪いのだけどこれらをお願い出来る?」
「えーと、了解!すぐに行ってくる」
僕は病院側のご厚意で資格が取れるまで見習いとして働かれて貰っていた。
「くっ、相変わらず、高い、なぁ!!」
医療品の補充なりを日夜やっている。いずれは資格を取って姉さんみたいに働くのだ。下積みって奴だけど背丈が伸びてくれないとずっと苦労するんじゃないだろうか。
七耀歴1203年 11月21日
ガイさんが亡くなってから2半年が経つだろうか。亡くなったと聞いた時は誰もが傷つき、癒えぬまま半年が経った。僕もまだショックは残ってる。なにせ大切に思ってた人が亡くなったのだ。でも、誰よりも前を向いていたのは姉さんだった。誰よりも悲しいはずの姉さんなのに。それを見たロイドは警察学校への進学を口にした。ガイさんのような立派な警察官になると。反対意見などは無いが、大丈夫だろうかとロイドを見つめた時のロイドの目はとても強い意志を感じた。だから心配はしてないけど弟がこんなに大きく見えるとは思わなかった。
ロイドに続く様に僕も聖ウルスラ医科大学病院にアルバイト的に職についた。今は雑務に勉強に二足三足の草鞋を履いている。忙しい中でガイさんへの気持ちを誤魔化していた。
そういえば、警察官になるためカルバートで生活しているロイドが来年帰って来るそうだ。手紙なんかはやり取りしていたけど会うのは久々だ。立派になったであろう弟の姿を姉としてしっかりと見なければなるまい。楽しみである。
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零の軌跡
No.1 日は高くも月は低く
「皆、準備は良いか?」
「ああ、俺は出来てるぜ!」
「はい、万端です」
「大丈夫、行けるわ!」
「…これより、クロスベル警察特務支援課、強制潜入捜査を開始する!!」
『おお!!(ええ!!)(はい…!!)』
ミツケテ
ワタシヲミツケテ
「…ハッ!……?…夢…か?」
突然顔に水をかけられた様な覚醒に思わず起き上がる。その時、窓から照りつける日差しが顔にあたりとっさに腕で覆った。遮った暗闇の中、ロイドは自分の状況を思い出した。そうだ、疲れから来る眠気が温かな日差しで後押しされて、寝てしまったのか。
「あんた、大丈夫かい?」
「ずいぶんと魘されておったようじゃが…」
「えっと、あーうん。すみません大丈夫です」
順応した目を対面に向ける。クロスベル行の列車に乗った際に偶々対面席だった老夫婦だ。
「あなた、悪夢でも見ていたかのようにうなされていたわよ?」
「ああ、座席から落ちないか少し心配したぞ」
「悪夢……?」
確かに、夢をみていたような…だめだ、思い出せない、何か大切な何かを見ていたような…。
「大丈夫かい?そうだ、これをお飲み美味しいから」
「おお、婆さんの作るレモネードは格別じゃぞ、冷やしておったから眠気にも良く効くじゃろう」
「あっ、どうもいただきます」
慌てて受けとったコップの中身を口に含む。冷たい感覚が口の中で広がる。その冷たさに頭も冷え、少し感じた眠気も吹き飛びスッキリと出来た。
「…ふぅ、ありがとうございました。おいしかったです」
「フフッ、それは良かったわ」
「そうじゃ、お前さんは帝国人には見えんがクロスベル出身なのかね?」
「はい、用事があってしばらく外国で暮らしていたんだけど、クロスベルの方に戻ることになって」
3年前のあの後から叔父の家で暮らしながら警察学校に行き、警察官になるために動いていた。そして、クロスベルでの配属が決定した事で3年振りに故郷に帰って来た。
「ムム、そうか、ならば今のクロスベルの状況を見たら驚くかもしれんな」
「ええ、此処2〜3年で急速に変わって来ましたものね」
「外国にいても《クロスベルタイムズ》は取り寄せたり、何度か列車で通り過ぎる時に見たりしたけどやはりですか」
「うむ、《クロスベルタイムズ》を読んどったのならわかるかもしれんが、元々貿易がさかんな州だったクロスベルに隣国共の進出が此処数年で盛んになったのだ。《クロスベルタイムズ》も良い記事を書くのだがな、政治問題には深くまで切り込んでくれんのじゃ」
「そうだったんですか……」
「もう、お爺さん!そろそろやめましょう。…ごめんなさいね、この人政治に少しうるさいのよ」
「いえ、勉強になりますので」
ふと、時計を見る。それなりに眠っていたようで到着時刻はもうすぐだった。久しぶりのクロスベルはもうすぐだ。
セシル姉やエルからクロスベルの状況だったりを聞いていたが、問題視される事も多く有るみたいだな。兄貴、3年で自分なりに出来る事をやって来たよ。兄貴が生きてた頃よりもクロスベルは変わったかもしれないけど、俺は兄貴みたいにやってみせるよ。だから、しっかりと見ていてくれ。
~クロスベル市・駅前通り~
「やっぱり変わったな、この景色も……」
3年前と見る角度は変わらないはずなのに、見える景色に面影はあれどまるで別の所にいる感じがする。道を歩く人の数も前と比べ数倍に増えていそうだ。
「そうじゃろ?高層の建物も増えて、ずいぶんと厳つい感じになった」
「それに、ほら、車も増えたんですよ」
お婆さんの指す方には、立派なエンブレムを輝かせた車が何台も往来していた。
「うん、前の時は此処まででは無かったな」
「帝国人が増えて、帝国の車が我が物顔で往来しとるとも言われておるな」
「お爺さん、そんな刺々しく言う物では無いですよ」
「じゃがの…」
「はいはい、ロイドさんもこの後予定が有るのでしょう?此処で立ち止まるよりも歩きましょう?」
「あ、はい、そうですね!」
お婆さんに急かされる形で、俺と老夫婦は中央広場に向かう。この後の予定時刻は14時で、今は13時だ。予定ではもう少し早い時間だったが、途中の列車にてトラブルが有り時間がずれてしまったが、まだ許容範囲内だ。
~クロスベル市・中央広場~
「中央広場もずいぶん様変わりしたなぁ。前は此処もこんなに車が走っていなかったのに」
「そうじゃろ、最近ではそれも少し問題視されておっての。ほれ、此処が広いと言っても車との距離が近いじゃろ?それに車の方も減速なぞそうせんからの、子供達なんかがぶつかりそうにもなった事が有るのじゃよ」
確かに、車の通り道と人の歩く場所は分けられているように見えるが、それでも車と人の距離が近い。子供やご老人が歩くには危険に感じられる。
「そんな、警察は?速度の規制なんかはされたんじゃ」
「…一応の注意喚起は行っていたの。あまり効果も無いようじゃがな」
「そうですね、最近では帝国の車を取り締まっている姿も見てませんね」
「そうなんですか!?」
「そうじゃな、遊撃手もそこの所に深くは踏み込まんからの、警察にはしっかりとしてほしいものじゃな」
…兄貴の頃に比べて、街だけじゃなく組織にも変化があったのだろうか。俺はこれからに少しの不安を感じた。
その後、老夫婦は東通りに向かうとの事で俺は西通りに向かう為、別れる事になった。老夫婦は東通りに住んでいるとの事なので落ち着いたら伺おうと心に決め、俺と同い年だと昔言われた鐘を横目に歩き出した。
~クロスベル市・西通り~
「個々は住宅の数が増えてるな」
広場からそのまま歩き、西通りに到着する。西通りはあまり目立った変化はないが、道に連なる建物の数が増えている様に感じた。
「ん?…おっ!ロイドじゃないか!」
「えっ?」
歩いていると突然後ろから声をかけられた。振り向くと、エプロンを来た青年が箒を片手に此方に手を降っていた。
「……オスカーか?」
「おう、久しぶりだな」
声をかけて来たのは幼馴染のオスカーだった。以前の姿から背も伸びていて、すぐには気が付かなかった。
「久しぶりだな、……もしかして、オスカーの後ろのお店って」
「おう、俺の店だ!」
そこには『ベーカリーカフェ《モルジュ》』と書かれた店があった。思えば微かに美味しそうな匂いが漂っていた。
「また、買いに来いよ。割引位してやるよ」
「ああ、また来るよ」
少し背を伸ばしていた親友に別れを告げ、再び歩き出した。西通りでの目的は本来はこちらだった。オスカーの店を過ぎて『アパルトヘイト《ベルハイム》』に向かった。
「個々は変わりないな」
3年前のままの姿に少し心が落ち着く物がある。変わらない通路を進み、階段を下りて突き当たりのドアの前で止まった。
「……」
トントンっとドアを小突き、ドアの前で待った。
「はい?…あらまあ、ロイド君、帰ってきたのね」
「はい、お久しぶりですレイテおばさん」
久しぶりのレイテさんは相変わらず元気そうだ。
「フフ、そうね3年前ですものね。あなた〜ロイド君が帰ってきたわよ〜」
レイテさんがマインズさんを呼びながら部屋に戻って行った。その後、マインズさんを連れて戻って来た。
「おお、おかえりロイド君」
「はい、ただいまです。お二人共元気そうで良かった」
「フフ、ロイド君も元気そうで何よりよ」
元気そうな二人に部屋の中に導かれ、俺は久方ぶりのノイエス家に足を踏み入れた。3年前に比べて導力機器が増えてはいるが匂いや雰囲気は変わっていない、懐かしいあの頃のノイエス家だった。
「向こうでも元気に過ごしていたのかね?」
「はい、叔父さんにも良くして貰いましたから」
「良かった、ガイ君の事もあったし、心配してたのよ。…でも、立派になったはね。3年前に比べて、背も伸びて」
「そうだな、あの頃から大人びた子だったが、更に立派に大きくなった」
「ハハ、なんだか恥ずかしいですね。…ええ、警察学校に入ってからみっちりと絞られましたから」
「フフ、エルちゃんが嫉妬しちゃうわね」
「…?」
「まあ、エルもあれで成長しているからな」
「そうですね…」
その後も十分程話を続け、3年の間の話を聞いたり話たりした。
「そういえば、警察では何処の部署に配属になったんだい?」
「えっと、ですね……」
マイルズさんからそう聞かれて、俺は懐にしまっていた1枚の封書を取り出した。
ーロイド・バニングス殿ー
クロスベル警察本部、特務支援課への配属を命ずる。指定の日時に警察本部へ出頭せよ。
ークロスベル警察・人事課ー
警察学校を卒業する俺に届いたこの封書、最初はクロスベルでの勤務に喜んだのだが、特務支援課という聞き慣れない部署についての疑問が尽きず、どうにも喜び切れない物だった。
「ふむ、特務支援課か、…私も聞かない部署だな。図書の記録にも無かったと思う」
「そうね、私も聞いた事は無いわね。ガイ君からもそんな話聞いて無いわ」
「…そうですか、警察学校のカリキュラムでも聞かない名前だったので、気になっていたんですが、……クロスベルでも聞かないのか」
「…まあ、せっかく帰って来たんだ、暗い気持ちで行くよりも新しい部署なんだ位の明るい気持ちで行った方がいいだろう」
「……そうですね、そう思う事にします」
「あら、ずいぶん話こんでしまったわね、時間は大丈夫かしら?」
レイテおばさんの発言でとけいを確認すると、13時半になる位だった。そろそろ、急いだ方が良いだろうか。
「そうですね、そろそろ行こうと思います」
「ああ、初日から遅刻は大変だ」
「気をつけて行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
「ええ、今度は食事会でも開きましょう」
「仕事、気をつけてな」
「はい」
二人に見送られ、俺は《ベルハイム》を出て住宅街に向かった。
~クロスベル市・住宅街~
クロスベル警察本部のある行政区に向かう為、途中に住宅街を経由する際に、その街並みの変化が目に入った。
「ここも変わっているか」
人の入れ替えがあったのか、雰囲気が少し違っていた。歩いている横を様々な人とすれ違ったが、帝国や共和国などの人も住んでいるようだ。
「……あっという間だったか」
時計をみると針が40分を指していた。おばさん達との話が長かったのかなと思いもしたが後悔はしていない。ただ、予定としては少し見積もりが甘かったかもしれない。
「大聖堂に行こうと思ってたんだけどなぁ」
これから大聖堂に行って、警察本部に行くでは少し時間が足りない。
「…また、今度行こうか」
教会の建物を少し見て、歓楽街に向かった。
~クロスベル市・歓楽街~
「ここは華やかになったな」
カジノやホテルが並び、歓楽街という名前にふさわしい賑わいを見せていた。
「前から賑やかだったけど凄いな」
一番賑わっていたのは目の前のアルカンシェルだった。警察学校でも噂を聞ける位なので相当だとは思っていた。けれど実物を見ると改めて圧倒される気分だった。
「本番の公演は見た事は無んだよな、それは凄いんだろうなぁ。エルと兄貴は見たことあるんだっけか、自慢してたな」
感想はすごかった、らしい。エルの語彙に期待してはいないけど兄貴も似たような感想だった。セシル姉はそれに微笑みながらキラキラしていたと残している。
~クロスベル市・行政区~
「さて、ここか…。」
歓楽街を抜けた先には行政区、そして警察本部がある。今日から俺が働く所であり、兄貴のいた場所。
「…良し、初出勤と行きますか!」
自然と拳を握り、気合いを入れた。一度の深呼吸の後、本部のドアを手で押した。
所内は少し固い雰囲気を出しているが、人は少なかった。目の前のカウンターに座っている女性と奥に一人いるだけだった。とりあえず、受付嬢らしき女性に話かけた。
「こんにちはー。ようこそクロスベル警察へ。本日はどのようなご要件で?」
「あ、いや、……今日から此処で働かせて貰うロイド・バニングスです。宜しくお願いします」
「あ、そうだったんですか。……ロイドさん。……ロイドさん」
「えっと、どうかしましたか?」
名前を聞いた受付嬢がいきなり眉を潜め考え出した。俺の名前をつぶやいているが、何かやらかしただろうか?少しして、受付嬢は顔を上げた。
「あっ、ロイドさんって、もしやお姉ちゃんが――」
「おー来たか」
何かに気がついた様子の彼女が話している時に、ひとりの男性が話に割り込んできた。
「あーこいつは俺が連れてくわ」
「――言ってって、あ、セルゲイ警部。……わかりました。では、彼に着いて行ってっちゃってください!」
「え゛っ?」
突然の事に驚き変な声がでた。
「ほらいくぞ、何呆けてる」
「えっ?は、はい」
驚いてる間に男性は歩いていた。慌てて男性の後に着いて奥に向かった。
「ここだ、入るぞ」
男は無言でしばらく歩き、一つの部屋の前で止まった。どうも此処は、会議室のようだ。
「おう、最後の一人が揃ったぞ」
遠慮なくドアを開け、男は中に入る。行為を見つつ後に続いて、中に入ると様々な背丈の3人の男女がいた。
「よう、遅かったな待ってたぜ」
机に足を載っけていた背丈の高い男が足を下ろし、手を上げながらこちらに声をかけてきた。
「お前が早いだけだ」
「前の所から近いのが悪い」
男の軽口に男はつっこんだが男は軽く返すだけだった。。
「……」
「……」
女性2人は先ほどから何も喋らないが呆れているのが何となくわかった。
「まあ、いい。ロイド、空いてるとこに座れ」
「はい」
着席すると男性はボードの前に立ち、話出した。
「よし、じゃあまあ、お前ら自己紹介しとけ、最初はロイドからな」
「はい」
いきなりな指名だったが、大切な事の為しっかりやろうと、ボードの前に行こうとしたが、男性にその場でしろと言われたので、席を立ち自己紹介をはじめた。
「俺の名前はロイド。ロイド・バニングスです。」
やり直して、やり直した、少女は
「……ゥ」
真夜中でも光が消え無いクロスベル市を見下ろす影は闇に紛れるように消えていった。
「此処がクロスベルね!ようやくついたわ」
「エステル、あまり大きな声を出さないで」
「何によぉ、文句あるわけ?ヨシュア」
「いや、周りの人に迷惑だからね」
旅行鞄を手に持った二人組は言い争いながら歩いて行った。
「個々が、クロスベル…」
「私は《銀》これも仕事…」
夜のとばりに包まれるクロスベル、集まりつつあるこのクロスベル市にまた、1人訪れた。見ていたのは空に浮かぶ低い月のみ……。
導かれた風はクロスベルに何を運んだのか、それを知る者はまだ目覚めていない。
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10冊目 10p 1月10日 休日と特務支援課
12/20 前話について気になる点があったので一部変更しました。
カーテンからこぼれる朝日の起こされて、年の開けた寒い1日が今日も始まった。でも、今日は非番なので二度寝に移行する為に再び目を閉じるのだった。ちゃんちゃん。
「いや、もう昼前になるから起きろ」
「…久しぶりの再開がこれの扱いとかお姉ちゃん泣いちゃうよ?」
「エルの事を姉と思った事は無いから、むしろ手のかかる妹と思っているから」
「…相変わらずのようで安心したよ」
僕の安眠を妨げるのは3年前にカルバートに向かった弟分のロイドだった。今日はどっちも非番だった事で、会う約束をしていた。まあ、チラッと時計を見るに集合時間はとっくに過ぎてるので家に来たのだろう。相変わらず僕に対して遠慮が無い。いや、遠慮されても困るのだけど。そんな事を思いつつも、ロイドを部屋から追い出して出かける準備を行う。服は、テキトーで。髪は、寝癖を整えて。化粧、無し。よし。
「おまたせ~」
「ん、早いな、ちゃんと準備したのか?」
「うん、オケーオケー」
「…まあ、言っても聞かないか。わかった、行こうか」
アパルトメントの前で待っていたロイドにそう言うと、ロイドは驚いた様に確認してきた。まあ、女性の準備と言ったら時間もかかると相場が有るらしいので仕方無し。でも、僕は準備する事が無かったから早い、それだけだ。そんな僕を見て、ため息混じりに告げるロイドはゆったりと歩き始めた。
「うんうん、どこから行くの?」
「ああ、最初は兄貴のお墓に行く予定だ。クロスベルに帰ってから時間が取れなかったからな。」
「ふーん、支援課だっけ。頑張ってるみたいじゃん?」
「まあ、まだ市民には認められてない感じだけどね」
「あー、新聞にも書かれちゃったもんね」
「遊撃手の真似事、厳しい評価だよ」
そう言ってロイドはため息をこぼす。この前のクロスベルタイムズでの記事にはなかなか厳しい意見が書いてあった。あと、支援課よりもアリオスさんの方が大きく取り上げられていた。これは知名度もあるから一概にそうと断言は出来ないけれども。
「僕はそうとは思わなかったけどね?比較相手は悪い気がするけども」
「そうなのか?」
「だって、ガイさんがやって来てた事じゃない?市民の悩みを聞いて解決する事なんて。だから、僕は帰って来たんだって思ったよ。そりゃあ、遊撃手と似たような事をしてるけどね?でも、第一に動いてたガイさんの背中を追うんでしょ?なら、やっぱり違うよ。少なくともロイドは」
「…そっか」
「うんうん、お姉ちゃんらしい事を言ったから褒めて良いよ」
「それは無理だな」
「なんで!?」
僕が珍しく長文を喋ったのにロイドが冷たいよ。
「でも、ありがとう。応援してくれる人がいるから頑張れる事も有るだろうから」
「ふふ、ロイドの周りにはそういう人が沢山いるんだから頑張ってね!」
「ああ、そうだな」
少し先を歩いていた僕は、ロイドへ振り向きエールを送る。それにロイドは頷き返した。
そして、僕達は大聖堂の裏へと足を進めた。ガイさんの墓はそこに有る。お墓は、僕や姉さんが定期的に来て掃除を行っているので、近くのお墓よりもずっと綺麗な状態で有る。お供え物は昨日ロイドに言われて用意していた。それを供えて、二人で祈る。ロイドは帰省と支援課の報告等だろうか?僕は去年の報告だ。僕の事も姉さんの事もクロスベルの事も報告する。最近のクロスベルは1年でも直ぐに形を変えるから毎年報告しても尽きる気配が無さそうだ。それが良い事なのかは定かでは無いが、きっと良い事も有ると締めくくった。ロイドも終わったのかジッと墓石を眺めていた。僕も顔を向けると、冷たい石の材質から微かに温もりを感じた。それは、ガイさんが僕達に笑いかけてくれてる様に僕は受け取った。
お墓参りも終わり、クロスベル市街に戻って来たが、これからどうするかをロイドに訪ねた。
「さて、これからどうするの?」
「昼時ではあるから何か食べるか?」
「何かかぁ、この辺りなら麺?」
「少し歩く事になるぞ?」
「うそうそ、あっ、モルジュ行こうよ!せっかくオスカーがやってる店だし!」
「ああ、そういえば俺も結局の所まだまともに行ってないか」
「じゃあ、決まりだね」
そう言って、僕を先頭に西通りのモルジュに向かった。
〜クロスベル市・西通り〜
モルジュを目指して歩く僕達は西通りまでやって来ていた。
「あれ?あそこにいるのって、支援課の人達じゃない?」
「ん、ああ、エリィ達だ。3人共いるのは珍しいのかな」
そこでモルジュのテラス席を囲んでいる3人組を見つけた。長身の男性がランディ君だっけ?で、綺麗な長髪の女性がエリィさんね。ティオちゃんは以前病院で出会っているから知っているね。こう思うとランディ君以外は知人って事になるのか。世間が狭いのか、僕が広いのか疑問になるね。
「ん?おお、ロイドじゃねーか、昼飯か?」
「ああ、3人もか?」
「ええ、偶々だけれど」
「はい、ランディさんが奢ってくれるらしいので」
「ハハ、そんな事は一言も言っちゃあいないんだがな」
「あら、両手に花だって喜んでいたじゃない」
「…まいったね、ロイド助けちゃあくれねーか?今、懐が寂しいんだよ」
「…賭け事は程々にな」
「ありがたいぜ…と、そうだロイドよ。そろそろそっちの嬢ちゃんを紹介してくれよ」
「そうね、多分だけど初対面になるのよね?」
「…私は会った事があります」
「ああ、そうだった。こっちは俺の幼馴染になるのかな?」
四人で話している中、急に僕の紹介シフトした様子に支援課開始からそんなに経って無いのに仲が良いんだなと思いつつも、僕はロイドの発言を訂正する。
「…ロイドの姉貴分のエル、エル・エルフィミンです。ティオちゃんはこの前にあったね。えっと、エリィ、さんは初めましてだね」
「はい、この前振です」
「やはりそうですよね、エリィです。あと、呼び名はお好きにどうぞ、よろしくお願いします」
「じゃあ、エリィちゃんで、よろしくね」
訂正のついでにエリィちゃんとティオちゃんに挨拶をしておく。エリィちゃんは初めましてだけど、ティオちゃんはガイさんが亡くなる前に1度と病院で働き出してから度々顔を会わせている。
「…姉貴分?」
「ランディ、これでもエルは俺よりも歳上でランディと同じ位だ」
「マジか」
「これでもは余計かな、背丈以外は歳上だよ」
男子組の発言は、訂正箇所が多すぎるからいけない。背丈以外が歳相応の雰囲気を放っているじゃないか。
「3年で伸びなかったものな」
「大丈夫です、女性の成長期はきっともう少し在るはずです」
「ティオちゃん、それは望み薄かな…。でも、ありがとう」
「大丈夫ですよ、エルさんは可愛らしいですから」
「うん、出来れば美しい評価が欲しいな僕」
二人のフォローは嬉しいのだけど、違うんだ。そうじゃ無いんだ。
「えーと、エル、坊よ」
「何かな?タメらしいランディ君?」
「…君付けはいらねーかな。っと、それじゃあなくてな。様子を見るに昼飯だろ?せっかくだし一緒にどうだい?ロイドもさ」
「ああ、そうだよ。ロイド、昼御飯だよ!」
ムカッとしたがランディの言う通りで僕達は昼御飯で此処に来ていた。もろもろ合って忘れていた。
「…そうだな、エリィとティオもそれでいいかい?」
「ええ、大丈夫よ。元々、ランディの奢りだった訳だし」
「はい、そうですね」
「………おう」
そういう事で僕達はオスカーおすすめのパンをいくつか頼んで席に着いた。席はオスカーに椅子を出して貰い、5人座りにした。気持ちランディが狭そうだったが、本人は諦め気味だった。
「それにしてもランディが誘ったにしても、休暇日に3人で揃っているなんて思わなかったな」
「あら、別にランディの事が嫌いという訳では無いから誘われたら誘いに乗る事だってあるわよ?今回はタダって事も有る事ですしね」
「私も何も無しに断りませんよ。今日は予定も無かったので」
「…ランディ、貴方少し可哀そうね」
「あー、パンが美味しいな~」
ランディはそう言って、手元のパンに齧り付く。哀れ、きっと心では涙を流している事だろう。
「…んぐ、そうだ、ロイド達はどうしたんだ?向こうから来ていたが」
「ん、ああ、少しお墓参りにね。最近は忙しかったからこういう時に行って置かないと行けないから」
「……そうですか」
「…そうよね、特務支援課発足から駆け足で廻っていたものね」
「ああ、足がくたくただったぜ」
タイムズやロイドから簡単に聞いていたが、余程大変だった様子がそれぞれの表情で想像できた。特務支援課発足から直に、ジオフロントに潜り迷子を救助しに向かい。次の日から街中から寄せられた依頼をこなして廻り、旧市街で喧嘩の仲裁を行ったとか。世間では遊撃手の真似事と揶揄されるが、此処までしているならそのうち評価も変わりそうで、心配だけど安心も出来る。皆、何かしらを抱えていると想うけど、この4人ならやってのけるだろうと漠然とした想いが浮かんで来る。そんな気がした。
七耀歴1204年 1月10日
今日はロイドと僕の休暇のタイミングが一致したので、予てから予定していたガイさんのお墓参りに行った。ロイドも特務支援課発足でバタバタしていてゆっくり出来ていないと言う事もあって、気分転換等の意味も有るお出かけだ。
ガイさんのお墓には毎回の事として、僕や姉さんの様子を報告している。本当は、義兄さんとして夫として過ごしていたはずの出来事を共有したいという僕のエゴで始めた事だ。3年も続けると同じ様な内容も言っているかも知れないけど許して欲しいな。
その後は、ロイドの幼馴染のオスカーの店で昼御飯を食べた。その時に、ロイドの同僚である支援課の3人もそこで昼食を取っていた。エリィちゃんにティオちゃんで、ランディ、個性的な人に囲まれてロイドは大変ながら楽しそうにも感じた。ガイさんの様に周りの人に恵まれている。血筋かな?だから、ガイさんも安心して見守って欲しいな。僕も見守るから。この支援課はガイさんが残した形見みたいな物。それを弟のロイドが受け取った。運命かもしれないし、偶然かもしれない。これからどんな形になるのかは解らないけど、姉としてそれを応援しつつ見届けたいと願ってる。
だからって、私は何もしないじゃない。
男子陣
「で、彼女とのデートはどうだったんだよ」
「彼女?ああ、エルとのか。あれはデートというよりも妹の荷物持ちの方が近いよ」
「おいおい、背は低いが立派なレディだぜ?そういうのは無いのかよ」
「うーん、…難しいな」
「枯れてんのか?でも、興味はありそうだしな…」
「そこっ、男子陣は変な話で盛り上がるな!」
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No.2 見えない真実は
毎日、特務支援課として支援要請をこなして行く日々、徐々に依頼の数も増えてきた頃。朝のミーティングで俺達は集合していた。しかし、課長の姿が無く、始めるに始めれず困っていた。
「…遅いな、課長」
「おせーな、ロイドは何も聞いて無いのか?」
「聞いてないな、何かあったのだろうか」
と心配していると、玄関から課長が現れた。
「悪いな、遅くなった」
「いえ、課長、おはようございます。では朝のミーティングを――」
「いや、それは後廻しだ。先程、本部から連絡があった。今日はお前らに特別任務を受けて貰う」
「特別任務、ですか?」
「それはどういった物なんですか?」
「俺も知らん。だからまずは、警察本部に行って来い。お前らの客人が待っているはずだ。それが終わったら後はお前等の自由にして良い。俺は部屋で過ごしてるからな」
「あ、ちょっと課長!」
呼び止めようとするも無情にもドアは閉じられた。4人の雰囲気は沈んでしまっていた。その中、最初に動いたのはランディだった。
「…とりあえず、行くか」
「…ええ、そうね」
「…はい、あの人に期待はあんまりしてません」
「…まあ、此処にいても仕方ないか」
少し重い足取りで支援課4名は警察本部に足を運んだ。
〜クロスベル・行政区・警察本部3階フロア〜
「はあ、何でよりにもよって副局長の部屋何だか」
「まあ、客が待っているって、話だから嫌味何かを聞かせる為じゃないだろう」
「…どの道な気もしますが?」
「…そうね、頑張りましょう」
ため息混じりに副局長室へと足を進める。
「――特務支援課所属、バニングス以下4名、参りました。」
「―入りたまえ」
「―失礼します」
中に通され、歩みを進めると副局長の他に二人の女性が待っていた。一人は解らないが、もう一人は知っている顔だった。が、それよりも早くランディが反応した。
「げげっ…⁉何であんたが」
「あら、ご挨拶ね。ランディ・オルランド。私がいてはダメかしら?」
「あ、いや〜…意表をつかれっていうか、何というか」
「…ランディさん、何かやましい事でもされたのですか?」
「すぐに謝った方がいいわ」
「いや、やましい確定な雰囲気をですなよ」
それに見かねたピエール副局長が正すよう命令する。
「こちらは、警備隊副司令を務めておられるソーニャ二佐だ!」
「警備隊、副司令…!し、失礼しました」
「(二佐と言うと、軍隊では中佐に相当するはずですが、副局長よりも偉い人なんですか?)」
「(副局長よりと言われると、わからんが、あの人は警備隊じゃあナンバー2だな)」
「何か堅苦しくなってしまったわね、階級や立場はひとまず置いておいてちょうだい。――貴方達が、『特務支援課』ね?」
「はい、自分達4名が特務支援課です」
堅苦しい雰囲気で会話をしたくないと言うソーニャ二佐の言葉に思わず堅く返してしまう。その上、
「フフン、光栄に思うが良い。君達の様な恥さらしな新米共をこの場に呼んでやったのだからな?」
ピエール副局長のいやらしい言いかたで部屋の雰囲気はソーニャ二佐の思いと裏腹に悪くなるのだった。
「――副局長、この場はどうかわたくしに」
「――わかりました。全て貴方にお任せします」
「ありがとうございます」
そうして、この場の最高位者が決まった。
「では、改めて。クロスベル警備隊副司令のソーニャ・ベルツよ。貴方達の事は知っているから紹介は不要よ。それで、今日は貴方達『特務支援課』の力を借りに参上したわ。まずは一通り、話を聞いてくれないかしら?」
そう言って、ソーニャが語り出したのは、此処一月あまり、クロスベル自治州各地で起こっている魔獣による被害に関する事だった。
「それで、この魔獣被害の調査を貴方達に依頼したいの」
「ちょ、ちょっと待ってください!市内では無く、市街の調査ですか⁉」
「あら、不服かしら?」
「い、いえ、そんな事はありません。しかし、」
「市街であれば警備隊の方でも調査がされているのですよね?その上で私達に出番があるのですか?」
「うーん、それが大アリよ。普通に人や建物の魔獣被害であれば、警備隊で事足りるわ。でも、今回はどうも不可解な事が多すぎてね。そのせいでウチだけでは手詰まりなのよ」
「へー、珍しいもんだ」
「そうね、だから別の視点を入れておきたいって所よ」
「別の視点、ですか?」
「そう、ウチは警備のプロであって、捜査のプロでは無いの。まあ、それだったら別に貴方達で無くても良いの。例えば、『捜査一課』とかね」
そう言い、ソーニャは壁の華を決めていたピエール副局長に目を向ける。
「い、いや~紹介したいのもやまやまなんですがねぇ……」
「―色々あるそうなので、代わりにあなた達に話を指名させて貰ったわ。迷惑だったかしら?」
「いえ、判りました。そういった事情であったなら喜んでお受けします」
「そう、ありがとう。ノエル、例の物を彼らに」
「はっ、かしこまりました!」
ソーニャの後ろで静かにしていた彼女は、俺の前に封筒を差し出した。
「ロイドさん、どうぞ」
「あ、うん、ありがとうノエル」
「はい、頑張ってください」
そう言って、彼女は定位置に戻った。彼女の事も気になるが、ひとまず手元の封筒を見る。中にはいくつかの書類が入っていた。
「これは……」
「警備隊の調査報告書ですね」
「……だな」
「…見えません」
「こちらで調査した事がそれに書いてあるわ。まずは、その調査書だけを見て、捜査に入って欲しいの。余計な潜入感を与えちゃうと視点を変える意味がないから」
「判りました、後程、拝見させていただきます」
「ええ、お願いね。それでは申し訳ないけど私達はこれで失礼させて貰うわ。今後は、今回みたいでは無く、支援課と直接やり取りするから何か判ったら報告してちょうだい」
「了解しました」
「――では、副局長。どうもお邪魔しました」
「い、いえいえ、また遠慮なく」
「ふふっ、どうやら馴染めているみたいね?」
「いやあ、ハハ……。まあ、楽しく過ごさせて貰ってますよ」
「それは結構、私も紹介した甲斐があったわ。――ノエル、行くわよ」
「はい、それでは失礼します!」
そう言って、ソーニャとノエルは部屋を出ていった。
その後、ピエール副局長から追い出された俺達は、支援課に戻る為、エレベーターに乗り込んだ。
「はぁ~やっと終わったぜ」
「ハハ、…そう言えば、ソーニャ副司令はひょっとして上司だったのか?」
「ん?いや、直接の上司じゃあないぜ?ただ、訓練やら軍事演習で何度か指導を受けたくらいだ」
「その割には気にかけられていたようだけど?」
「まあ、美人なのに説教になると怖いの何のだ」
「それはランディさんの生活態度に問題があるのでは?」
「ええ、そうね。女性トラブルを起こしてたらしいし」
「うっせ、…それよりも、ロイドはあの付き添っていた女性と知り合いか?応援を受けてたしな」
「そうね、名前も知っていたみたいだし」
「え、今度は俺か、…ノエルは昔からの知り合いだよ」
「昔から、ねぇ」
「おー、何か有りそうな関係だな?エル坊と言い、お前もなかなか隅に置けないな」
「いや、そんな関係じゃないぞ⁉」
「…怪しいわね」
「………(じー)」
「兎も角、支援課に戻ろう!」
そう言って、俺は到着したエレベーターから早足で抜け出した。
「あ、逃げた」
「逃げました」
「逃げたな」
後ろで、そんな事を言われながら。
〜クロスベル・特務支援課ビル〜
帰って来た俺達は、早速渡された報告書に目を通す。書かれていた事を書き出すと、
【魔獣被害調書】
・クロスベル各地で特定の魔獣による被害が相次いでいる。
・主な被害は3箇所である。
・被害状況から‘狼型魔獣’の関与が疑われている。
こうなり、被害にあった場所は、
①アルモリカ村
②聖ウルスラ医科大学
③鉱山町マインツ
発生の時系列は、
①アルモリカ村―3週間前の深夜―集落全域
②聖ウルスラ医科大学―1週間前の深夜―病院敷地内
③鉱山町マインツ―2日前の夜10時頃―宿酒場前
他、マインツでは2件の被害があるが日時等は不明。
「……」
「本当に各地で起きているのね…。ほとんどニュースにはなっていないようね」
「ええ、そうみたいですね。検索結果は芳しくないです」
「どうやら本当にただの魔獣被害って、訳じゃ無さそうだな」
「ああ、特にウルスラ医科大学で起きた件が広まってないのは可怪しい」
「そうね、病院でこんな事が起きたらニュースで取り上げそうだわ」
「…関与の疑いがある狼型の魔獣。これはクロスベルの固有種でしょうか?」
「それはちょっと、判らないな。ただ、被害があった場所には足跡が残っていたそうだから、関与は間違いないみたいだ」
「でも、警備隊ではそれらしい魔獣は確認されてないのよね?それがちょっと気になるわね」
「ああ、姿を隠しているなら相当ズル賢い魔獣だな」
「そうですね、データベースでも調べて見ますが、どうでしょう」
ふと、ロイドが黙っている事に気づいたエリィはロイドに話かける。
「………」
「あら、ロイド、どうしたの?」
「何だ?閃いたか?」
「いや、この件を捜査するとして、何処がポイントになるのかと思ってね」
「ポイント?」
「ああ、この魔獣被害を一つの事件として考えた場合に『犯人』は誰になる?」
「そりゃ、この狼型魔獣だな。個と言うよりも群れな気もするな。アルモリカ村被害は全域だしな」
「だったら、この『犯人』の『プロフィール』と『動機』については?」
「…なるほどね。報告書にはそれらが見えてこないのね」
「ああ、もし『動機』が飢えならば、鉱山町は兎も角、病院は不可解すぎる。だから、それらに理由付けが出来る『真実』が隠れているはずだ」
「なるほどな、だったら、俺達がやる事は決まったな」
「ああ、この報告書では見えてこない『真実』を見つける、少なくとも補完する情報を探そう」
「ええ(おお)(はい)」
「それで、ロイドさん、調べると言っても何処から行くんですか?」
「そうだな…まずは最初に被害にあったアルモリカ村に行こう。被害も大きい上に足跡何かの証拠も発見されている。魔獣の特徴何かも見られるかも知れないし」
「なるほどね、良いかも知れないわね」
「ああ、初めての市街で活動だしっかりと準備をして行こう」
「…そうだ、ロイドよ。エル坊は病院勤めだよな?被害の事とか聞けるんじゃないか?」
「ん、…そうだな、一応連絡を取ってみるか」
「エルさんなら調査にも協力してくれそうよね?」
「まあ、聞いてみるよ」
エルの予定は少し判らないので、ひとまず病院かけてみた。すると、受付に繋がり、紆余曲折あり、エルと繋がった。
《もしもし、ロイド?どうしたの、仕事中でしょ?》
「ああ、エル、その仕事の関係で聞きたい事があるんだけど、今は大丈夫そうかな?」
《そうなんだ、今は、大丈夫だよ》
「エル、ウルスラ医科大学病院で1週間位前に魔獣被害は無かったか?」
《魔獣被害、うん、あったよ。ウチの研修医が襲われたんだ。今は大分良くなったけど、次があるんじゃ無いかって、対策会議が開かれたんだ》
「そうだったのか」
《うん、何、ロイド達もこの件で調べてるの?前にノエルちゃんが調査の同行で来てたけど》
「うん、そのノエルと上司の方に頼まれてね」
《そっかー、それじゃあ、病院に来るの?》
「ああ、捜査でよる事になる」
《そっか、だったら姉さんと待ってるよ。病院としてもこの件は何とかしたいから》
「ありがとう、助かるよ」
《ふふっ、どういたしまして、あ、そろそろ交代だ。じゃあ、またね。みんなにも宜しくね》
「ああ、忙しい所ありがとう」
通信が終わり、みんなに事を伝えた。
「そう、本当にあったのね」
「ああ、詳しくは病院についてから聞こうと思うが、大事みたいだな」
「まあ、治療しに行く場所で怪我しちゃあたまらないからな」
「ええ、即急に解決したいですね」
「そうだな、さて、ひとまずアルモリカ村に向かおう。東口から出れば導力バスに乗れるはずだ」
「おう(はい)(ええ)!」
そうして、特務支援課は、この不可解な事件に乗り込んで行くのだった。
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10冊目 26p 1月26日 呆れる事は沢山有る
零の軌跡を電子攻略本を見ながらプレイしてますが、誤植が酷いですね。特にキャラの立ち絵関係が。零ではエステルの立ち絵がアリオスになっていて、碧ではイリアの立ち絵がアリオスになってましたね。初め見た時は笑いました。
「エルちゃん、ヨアヒム先生は見つかったかしら?」
「うんん、何処にも見当たらないよ姉さん」
まだまだ寒い今日も僕は看護師見習いとして聖ウルスラ医科大学病院で研修兼雑務をこなしている。今だって行方不明の准教授を捜索していた。最近になってから起きている病院での事件に対する大事な会議なので、欠席されると困る為捜索しているのだが、見つからないのだ。研究棟の方廻ったが見当たらず、あとは院外の方を残すのみだった。
「…そう、困ったわね。もうすぐ会議の時間になるのだけど…」
「やっぱり外かな?」
「そうね、有るかもしれないわね」
「なら、また僕が外で探して来ようか?」
「…街道なら、いえ、危険なのは変わらないわ」
「うーん、でもなぁ、探せる所は探したよ?」
「そうなのよねぇ…困ったわね。対策会議にはヨアヒム先生にも参加して貰わないと、研修医さん達に伝達が行き届かないのよね」
「…うん、やっぱり僕が行って来るよ。もしも、途中で魔獣に出会っても、エオリアさんに習ったナイフ術で牽制して逃げるから」
病院に勤め出してから、此処までの通院で魔獣に襲われる事が増えていた。タイムズでも一時期取りあげられていて、都市や近郊部の発達や増えた導力バスの騒音より、導力灯の無い場所での魔獣の生息域に変化が起きている様で、あぶれた魔獣が導力灯がある道路に出現していると。小さい魔獣であれば、導力バスにビビり逃げるのだが、大きいのではそうはいかずに襲う事件が起こっていた。其の為に、遊撃手が定期的に調査、討伐を行って対応している。
それでも漏れは有るもので、僕も一度その場に出会ってしまい、バス内に入れば少なくとも無事であったが、やんちゃな子が一緒に乗っており、その子が飛びだしてしまったのだ。そして、運の悪い事に魔獣はその子を見つけ、手を振り上げた。それを見た僕は咄嗟にバスを飛び出して、その子を抱いてかばった。魔獣の振り上げた手は僕の背中を切り裂いた。後で聞いたが、骨まで見えていたそうだ。その時の僕はその子を助けるしか脳に無く、必死にその子を抱きしめた。しかし、魔獣からの二撃目は無く、その代わりにズウゥゥンと魔獣の倒れる音が響いた。思わず二度見した僕は、倒れた魔獣の向こうに、人影を見た。それは、クロスベルタイムズで見た、女性遊撃手であり、医師資格を持つ僕が知ってから密かに応援していたその人だった。だが、此処で僕は安心して気を失ってしまった。
その後、僕は駆けつけた救命員に病院へ運ばれた。治療が行われ、少し跡が残るが問題無く復帰出来るようだった。それでも、何週間かの入院があり、その時に救命員が駆けつけるまでの間、遊撃手が応急処置を行っていて、それが無かったらもう少し酷い状態だったそうで、それを聞き、僕は見舞いに来られたエオリアさんに開口一番にお礼を言った。エオリアさんは僕が無事で良かったと駆けつけるのが遅くなってごめんなさいと頭を下げて謝られた。恩人に謝られたら僕も困るので、謝らないでと言うと、エオリアさんは遊撃手として譲れないと再び頭を下げた。そこまで言われると受け入れるしか無かった。その後、何か出来ないかと言われたので、ダメ元で護身にナイフ術を習いたいとお願いしてみた。実は、クロスベルタイムズで見てからエオリアさんのナイフ術を習ってみたいと思っていた。記憶を無くす前もナイフを使っていたようなので、やったら何か思い出さないかと言う裏もあったが。それを聞いたエオリアさんは、暫く悩み、時間のある時のみで、一人での練習は素振り等の基礎のみと言う条件で許諾してくれた。
それから、エオリアさんとの特訓が始まった。エオリアさんは特訓になると中々厳しい人の様で、何回もボロボロになった。その度に治療もしてくれたが。そして、最近になってやっと及第点を頂いた。それでも、魔獣と正面から戦える力では無いと強く言われている。
それでも魔獣から逃げる事は出来るので、以前にも先生が外に行った時も僕は探しに行った。姉さんに相談も無く行ったから怒られたけども。
「…それは私も知っているけどね、心配なのよ。…でも、それしか無いのかしら、最近、警備隊の方に頼むにも手続きで時間がかかるし……」
「姉さん!」
「…はあ、そうね、エルちゃんにお願いするわ。でも、危険だと思ったら絶対に逃げる事よ、良いわね?」
「うん、大丈夫だよ」
「本当に気をつけるのよ?…行ってらっしゃい」
「うん!」
姉さんに見送られ、僕は職員寮にある自分のロッカーに急いだ。流石にナース服での外出は、危険だし抵抗もある。だから、僕は及第点を貰った後、エオリアさんから貰った防御性能の高く収納もあるジャケットとスカートを身に着け、タイツとストレガーGと言うのを履き、服の収納に投擲ようのナイフにピックと腰に小振りのナイフを差して準備は完了した。出来るだけ戦闘は避けて行くので、回復薬は少なくて良いか、というかヨアヒム先生って良く外に一人で行くみたいだけど、特別運が良いか強いのだろうか?あいにく弱い僕には関係ないが、こういう事もあるので控えて欲しい物だ。掃除をしていたマローネさんに挨拶してから寮の外に出た。門まで行き、警備員のトニーさんを見かけた。
「うし、トニーさん、少し出て来ます」
「え、エルさんじゃないですか、外は危ないですよ⁉」
「ちょっと、先生を探しに行かないといけないので」
「ああ~、ヨアヒム先生ですね。そういえば、今日も釣りに行かれましたね。何やら楽しそうでしたが」
「ハイ、その先生が大事な会議をほっぽいて釣りに行ったので、連れ戻しに行きます」
「…ご苦労様です。自分等が行けたら良かったのですが、最近の方針でこの場から離れられないので、すみません」
「いえ、襲撃事件もありましたし、仕方ないですよ。それに先生もそんなに遠くには行ってないでしょうし」
「はい、おそらくはそうだと思います。お気をつけて」
そう言って、トニーさんは僕を見送ってくれた。大袈裟かもしれないけど、一般人にはやっぱり辛い物である。ロイド達や遊撃手みたいに慣れている人には、そうでも無くても怖いや突発的な事は辛いのだ。僕も、特訓で強くなっても怖い物だ。
先生を探す為に病院を出た僕はひとまず、街道沿いを歩く。導力灯のお陰で魔獣も小さいのが、ちらちらとこちらを見ているが寄っては来なかった。釣りという事なので、少し街道から外れた所の可能性もあるので、音を頼りに進む。昔から音には敏感なので、人が動く音なら逃さない自信がある。エオリアさんにもそれは褒められた。後、アーツの適性も高いみたいだけど、戦術オーブメントは流石に入らないかなと思い、持っていない。まさか、こんな形で魔獣のいる所を歩くとは思わなかったけど。
街道から少し外れた川沿いを進む。釣りなら水辺なのでこうしているが、先生は見つからない。どこにいるのだろうか?先生は何処か掴み所がない人であったから性格で何処かとかは出来ない。だから、水辺なのだが、どこだろう?と、歩いていると、眼の前に魚型の魔獣、確かケサランだったはずだ。倒せるかもしれないが、エオリアさんの言葉を守り、迂回して戦闘を避ける。発見が早かったので向こうに見つからずに済んだ。遠くなったのを見て、安堵する。毎度、接敵すると緊張する。それを見つかるまで繰り返す。段々と何で僕がこんなに苦労しなきゃいけないんだと思いが出て来た。ヨアヒム先生は僕も前回の捜索からの知り合いだけど、何と言うかこう笑顔が胡散臭いというか、関わりたくないとか思うんだよね。まあ、こうやって捜索に出てるのだけど。
と、探索を進めていると、木陰で呑気に釣り糸をたらしている件の御人がおられた。
「……ハァぁ」
「…(ムカッ)……テイッ」
その姿にムカついた僕は、鞘に入れたナイフで先生の頭を軽く叩いた。
「イタァ!!」
それに驚いた先生は何故か竿を後ろに投げた。
「な、何をするんだね⁉」
「いえ、先生があまりにもあんまりでしたので」
「…って、エル君じゃないか、君がどうして此処に?」
「先生、朝のミーティングをやって無いんですか?今日は先日の件で会議を行うと言っていたじゃないですか」
「会議……ああ、そうだったね」
「ああって、被害にあったリットンさんは貴方の所の研修医でしょうに」
「いやあ、今日は良い釣り日和だったからね」
「この前も同じ様な事を言ってましたよ」
「おや、そうだったかな」
「まったく、じゃあ戻りますよ。皆さん集まっているはずですから」
「わ、判ったから引っ張らないでくれ」
まだ、動きそうに無い先生を引っ張って歩こうとすると、謎の悪寒を僕は感じた。咄嗟に振り返るとそこには竿を片手に持ち、怒った様な顔をした今にも襲って来そうなゴーディアンだった。手に持った竿はさっき先生が投げた物だ。クソ、油断した。先生が見つかって、こっちの苦労も知らずに呑気に釣りしていたからついやってしまったが、気を抜きすぎだ。
「…ヨアヒム先生、戦えますか?」
「無理ですね、僕は釣りはしますが研究の方が得意ですので」
「ですよね、そうだと思ってました。…先生、先に逃げてください。僕が、気を引きますので!」
「…判りました」
「では、僕がこれを投げますのでそのタイミングで、お願いします」
「判りました」
そう言って、僕は服の収納から取り出したピックを先生に見せ、此方を見ているゴーディアンに投擲した。
「今です!」
それに合わせて後ろの先生が駆け出すのを感じた。僕はそれを見ずにゴーディアンの行動に注視した。投擲したピックは、ゴーディアンの首元に当たった。顔を狙ったが、ズレたようだ。ゴーディアンはピック抜くと、此方を完璧に標的にした様で、鼻を鳴らして突撃してきた。僕はそれを横に飛んで回避する。そして、懐から取り出したエオリアさん特製の麻酔注射器をゴーディアンに向って投擲した。麻酔注射器は、物に当たると自動で中身を注入する便利な物だ。だが、ゴーディアンは落ち着かず、更に暴れ出した。麻酔が効かないとなると、次はどうするか、とりあえず、ゴーディアンが振り上げる腕を回避する。エオリアさんとの特訓で身体能力は向上していたお蔭で、何とかできている。でも、こっちの攻撃効いて無いし、ナイフで攻撃しに行ける程僕が強く無い。どうしよう。再び、ゴーディアンが腕を振り上げる。回避しようと横に目を向けると、そこには太い樹木があった。
「しま、グウゥ!!」
回避が遅れてしまい、ゴーディアンの腕で僕の腹を横殴りに薙ぎ払われた。飛ばされた僕は背中から木に打ち付けられた。衝撃で意識が朦朧として状況が良く見えないが、ゴーディアンは此方を向いて歩いて来ていた。ちょっとすぐには動けない、かな。どうしよう。あー、腕振り上げてるよ。その時、
「…!エルさん、目を閉じてください!」
僕は不思議とその声に従った。目を閉じた瞬間、弾けるような音が響いた。
「救助対象を確認!大型魔獣との接触により負傷!救助及び魔獣の駆除を開始します!
「
その声に続き数名が此方に走って来る。銃撃の音の後に何かを振り降ろす音と鈍い音がした。その音の合間に僕に近づく音が聞こえた。
「エルさん!大丈夫ですか⁉」
「あっと、ノエル、ちゃん?」
「はい、ノエルです!目を開けれますか?」
ノエルちゃんの声に目を開けて応答する。見えた顔は心配の色が強かった。
「良かったです、立てますか?」
「うん、何とかね。ありがとう、でも、どうして此処に?」
「はい、ご存知かと思いますが病院での事件の調査に来ていたのですが、途中でヨアヒムと名乗る医者から此処にエルさんがいると通報がありましたので、駆けつけた所です」
「そっか、先生が呼んだのか。来てくれてありがとうね」
「…本当に間に合って良かったです!」
「ノエル曹長、すみません!魔獣の撃退に成功しましたが、近くにまだ確認できますので巡回に行ってきます」
「…はい、深入りはせずに気を付けてください」
「
そう言って、警備隊員達は周囲確認のち駆け出して行った。
「…さて、エルさん。歩く事はできますか?」
「……うん、大分回復した。後は手持ちの回復薬で何とかなるかな」
「…良かったです。……本当に心配しましたよ?」
「うん、ごめん。ちょっと油断しちゃった」
「…セシルさんにも報告しますね」
「あー、それは、ちょっとー」
「…いえ、報告させて貰います。以前のバスの件も心配をかけられましたから、少しは反省してください」
「あー」
「フフ、お願い死ますね」
「ノエル曹長!巡回、終了しました!」
「お疲れ様です!では、車両に戻り聖ウルスラ医科大学病院に救助者と共に向かいます」
「ハッ!」
その後は、警備車両で病院に戻り、姉さんに報告され、姉さんの説教を受けながら治療を受けた。幸いに怪我は腹の一撃のみだから軽症と言えるな、うん。…ロイドには秘密にしとこう。
さて、ノエルちゃん達クロスベル警備隊の調査もあり、会議が遅れたが無事全員参加で行われた。ただ、原因が不透明なので効果が有るのかは不明な点が気がかりかな。
七耀歴1204年 1月26日
今日は、自分の油断しやすい性格を矯正したいととっても思った。ヨアヒム先生が悪いとはいえ、警戒を解いた僕も悪いと言えば悪い。エオリアさんに鍛えて貰ったという過信もあったのかな。くぅ、気を付けなきゃだ。ノエルちゃんは車両に乗っている間はずっと僕に抱きついていた。うん、心配かけたね。会議の方は、警備隊の調査で魔獣の被害ではとなったので、研修医さんには夜の外出控えて貰い、患者さんには看護師付きでの外出とした。当たり前の対応しか出来ないのが歯がゆいけど、警備隊との話で、警備の増援を頼めたのは幸いだ。調査の方は警備隊で行いつつ、場合によっては、とある筋に頼むそうなので、解決する事を期待したい。
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No.3 見えない足跡を追って
俺達はその後、導力バスに乗り遅れた。が、ティオとエリィが謎の自信を見せ、徒歩で向かう事になった。案の定、二人はヘトヘトになっていたが、途中の休憩で列車内で乗り合わせた老夫婦から貰ったレモネードを飲み、無事にアルモリカ村に到着するのだった。クロスベル市とはまた違う風景に感嘆するも、ひとまず聴き取り調査を開始した。村民や村長の話を聞くに、警備隊の調書に書かれた事の裏付けになる情報が多かった。その中で『神狼』と呼ばせる昔話に出てくる聖獣の話と村の被害自体は軽微だった事を聞けた。その後、宿屋《トネリコ》の店主ゴーファンさんのご厚意でお昼を戴き、知り合ったハロルドさんの車でクロスベル市に帰って来た。次はウルスラ医科大学病院に向かう為、準備と巡回を行いつつ南口に来ていた。
「なあ、今度は大丈夫そうか?」
「…ああ、バスの時刻表の通りだったら15分後に来るみたいだ」
「そう、それは良かったわね」
「はい、もう一度はしんどいです」
〜20分後〜
「……来ねーなぁ」
「…ですね」
「…可怪しいな」
「君達、時刻表はあっているのかね?」
「あ、はい、時刻表ではもう来ている時間なんですが」
「うーむ、困ったな」
「ねえ、ロイド、バスの事故か何かが起きたのかしら?」
「…ああ、俺もそれは考えているけど…」
時刻を過ぎてもバスは現れなかった。途方に暮れる待ち人達でバス停は溢れていた。そんな中、一際褪せった様子の男が走って来た。
「うわー、やっぱり来てないよ、どうしよー⁉」
「あら、彼は?」
「役員みたいだな、もしかしたら何か知ってるかもな?」
「…ああ、話を聞いて見よう―――すみません」
「ぇ゙、ああ、何かな?」
「いえ、俺達、クロスベル警察特務支援課という者でして、バスが来ない様子で何か知っている様子でしたので、話を伺えたらと思いまして」
「警察?…ああ、新設された……なら良いかな?――じゃあ、君達はクロスベルを運行しているバスには緊急時用の通話機器が取り付けられているのは知っているかい?」
「…ええ、最近魔獣による被害が多いので、その対策にエプスタイン財団が協力して設置された物でしたね」
「お、詳しいね。うん、それで緊急時には遊撃手何かに迅速に対応して貰えるようになったんだ。この前にも魔獣被害があって、遊撃手に対応して貰ったんだ」
「へー、そんなのあったのか」
「はい、導力ネットワークの応用ですね」
「では、今回もその連絡が?」
「それが、今回も連絡はあったんだけど、途中で切れちゃったんだよ。それで問題があったのかどうなのか解らなくてね。慌てて確認に来たんだよ。…うーん、でも来てないなら問題が起きてるよなぁ」
(おい、ロイドどうするよ)
小声でランディが聞いてくる。エリィ達も此方を見ている。
(…そうだな、みんなどうだろうか、俺達で確かめに行かないか?)
(…そうね、私も賛成よ)
(…ええ、ただの導力器の故障の可能性もありますが、気になりますね)
(おう、俺も賛成だぜ)
(よし、なら――)
「あー、どうしよう、遊撃手に頼もうか?――」
「すみません、俺達が確認してきましょうか?」
「え、それは助かるけど、良いのかい?」
「はい、先程言いましたが俺達は特務支援課でそういった事も仕事に入っていますので、この一件任せて貰えませんか?」
「あーと、じゃあお願いするよ。でも、気を付けてね」
「はい、判っています。――よし、みんな行こう!」
「「ええ(はい)(おう)!!」」
そうして、俺達は南口から駆け出した。
〜ウルスラ街道〜
兄貴が亡くなる前はエルに連れられて幾度もバスで通ったこの道、それを大きくなった自分が仲間達と自らの足で歩くのは何だか不思議な気持ちだ。道自体に変化も無いから迷う事は無い。それに今は仕事として急いでる。感傷に浸っている暇は無いのに久しぶりだからか感じていた。
「…ロイド、貴方は今回の件はどう思っているの?」
「…それは魔獣被害の件との関連かな?」
「ええ、元々バスの被害は少なくは無さそうだけど、無関係とも考え辛いわ」
「…はい、私もそれは気になってました」
「そうだな、俺もロイドの意見を聞きてぇな」
「ハハ、期待が大きいなぁ。…まだ魔獣と決まった訳じゃ無いけど、俺も無関係とは言えない。ただ、魔獣だったとしてそれが本筋に関わっているのか、関節的に関わって起こったのかはまだ判らない。広範囲の被害だ、副次的に魔獣の生息域や興奮した事での事故も考えられる」
「まあ、そうだわな。魔獣の生息域に他のが来て、追い返すにしろ追い出されるにしろ、変化は起こる。可怪しい話じゃねえ」
「もし、そうだとしたら迷惑な話です」
「そうね、バスが無事だと良いのだけれど」
「ああ、それを確かめる為にも急ごう」
「おう」
駆ける足を速めつつ、街道を進んだ。
「おいロイド、あれじゃないか⁉」
「ああ、みんな準備は良いか!」
「ええ、良いわ!」
「…エイオンシステム起動、オーケーです!」
「おう、行こうぜ!」
バスを囲む2匹のゴーディアンを見つけた特務支援課4名は、各々の武器を構え駆け出した。
「まずはバスから引き剥がすぞ、エリィ!」
「ええ、任せて!!」
引き剥がす為にエリィはゴーディアンの頭を撃ち抜く。ゴーディアンは頭の衝撃に此方を振り向いた。
「ランディ、バスに注意だ!」
「おう、とりあえずこっちに来やがれぇぇ!!」
ゴーディアンの角にワイヤーを引っ掛けて、力強く引っ張った。引っ張られたゴーディアンはヨロヨロと此方に足を動かした。
「ティオ、タイミングを見てバスの中の状況を見てくれ!」
「…了解です」
「ロイド、裏を頼む!」
「ああ!」
此方に動いたゴーディアンを横にティオは走り、ロイドはゴーディアン裏を取って構える。
「ロイド、エリィ、目ぇつむれよ!クラッシュボムだ、喰らえぇ!!」
ランディは手に持った筒を2匹のゴーディアンの足元に叩き着けた。叩きつけられた筒は、目をつむる様な光を放った。ゴーディアンは怯むのみだったが、その隙をロイドが詰めた。
「ハアァァ、タアァアッ!!」
放つアクセルラッシュは、2匹のゴーディアンの腹を深く殴る。殴られたゴーディアンは横に滑りながらも耐えている。が、そこに水の塊が落ちてきた。
「エニグマ駆導、ブルードロップ!」
バスの状況を確認したティオが、ゴーディアンに向けて水のアーツを発動させた。ブルードロップを受けたゴーディアンは、フラつきながらたたらを踏む。
「チャンスだ!一斉攻撃!!」
「おう!」
「ええ!」
「ラジャー!」
ロイドの号令に皆が応え、まず、ランディが飛び込んだ。スタンハルバードを大振りに振るい、2匹纏めて叩き、離脱した。ランディの離脱に合わせてエリィがゴーディアンの顔を3点バーストを放つ。ロイドがトンファーを振るい、ゴーディアンの腹を追撃した。ロイドの離脱を待って、ティオが
「………倒せたのか?」
「ああ、倒したぜ」
「…生態反応無し、倒しましたね」
「…ふう、ティオちゃんバスの様子は?」
「…危険を感じてバスから出ないようにしていた様で、怪我人は無しです」
「そうか、それは良かった」
「フー、疲れたぜ、後はバスが動くかか?」
「ああ、そう―――」
「…!ロイドさん、まだいます!」
気を緩めた所で、ティオが叫ぶ。ティオの指す先には先程倒したのとは別のゴーディアンが3匹現れた。
「くっ、油断した!ランディ、行けるか?」
「おいおい、バスを護衛しながら3匹は厳しいぞ!」
「ティオちゃん、他の反応は?」
「…無いです」
「なら、3人はバスを守ってくれ!」
「ロイド、お前は⁉」
「俺が囮になる、これ以上バスを危険に晒せない!」
「ロイド⁉」
「ロイドさん⁉」
「おいおい、ロイド⁉」
ロイドは、気を引こうと前に出ようとした。その時だ!
「そこのお兄さん、動かないでね!」
「え――」
「ヨシュア!」
「ああ、良いよエステル!」
ロイドの横を通り過ぎる、太陽の様な長い髪をした女性と漆黒の髪を持つ男性。2人は一瞬でゴーディアンの懐に潜り込んだ。
「行くわよ~、ハアアアアッ!ヨシュア!」
「うん!」
「「太極無双撃!!」」
女性が一瞬で、ゴーディアン3匹を囲み、纏めた。そこに男性が追撃し、最後は2人で連撃を叩き込んだ。ゴーディアンは3匹共、後ろの樹木に打ち付けられ、力無く倒れた。自分達ではあれだけ手をこまねいた相手を一瞬で倒してしまった2人をロイド達はただ、見続けていた。
「ふう、ヨシュア、他は大丈夫?」
「……うん、大丈夫みたいだよ」
「あ、貴方達は大丈夫?」
「え、あ、ああ、お陰様で」
「そっか、それは良かったわね、バスの方は?」
「えーと、大丈夫です」
「あ、運転手さん?乗客の方は?」
「大丈夫です、遊撃手の皆さん、助けて頂いてありがとうございました」
「ウンウン、万事オーケーかしら?」
「そうだね、そちらの皆さんもお疲れ様です」
「…ああ、助けてくれてありがとう」
「どういたしましてかしらね」
その後、自己紹介を行い、2人、エステルとヨシュアがバスの件は受け持つから先の予定を済ませれば良いと、後ろ髪を惹かれながらも任せる事にした。
病院までの道での会話は、先程の出来事で一杯だった。2人の強さ、自分達の至らなさ、行動のミスが無かったか、後悔が後を引いていた。それでも、病院につく頃には、気持ちの切り替えが出来た。
「もうすぐ、聖ウルスラ医科大学病院だ」
「…やっとだな」
「はい、体力もですが精神的にも疲れました」
「…寮棟の下にオーベルジュ《レクチェ》が有るから、時間があったら休もうか」
「あら、ロイド病院に詳しいのね?」
「ああ、昔から此処には通っていたからね」
「あー、もしかしてエル坊絡みか?」
「そう、エルやセシル姉に付き添って来てたんだ」
「…そうだったんですか」
「まあ、此処に来るのも何年か振りになるだけどな」
「そういやあ、共和国の方にいたんだったな」
「ああ、叔父の家に世話になっていたよ――と、
みんな着いたよ」
「ようやくねって言うのは可怪しいかしら?」
「…色々有りましたので仕方なしです」
「そうだな」
昼を少し過ぎた頃、俺達は聖ウルスラ医科大学病院に辿りついた。
辿り着いた俺達は警備員のトニーさんに案内され、受付に通された。
「すみません、クロスベル警察特務支援課の者ですが」
「はい、警察の方ですね、どういった要件でしょうか?」
「少し事件の調査で知り合いに繋いで欲しいのですが――」
「あら、ロイド?」
「え――」
「ロイドー!!」
「おわっ⁉」
「なっ!」
「あら」
「…おお」
「あっ」
受付嬢に取次を頼もうとしたが、いきなり現れたセシル姉に抱きつかれてしまった。何がどうなっているのか判らない俺は、諦めた。
「フフ、さっきはいきなりでごめんなさいね。えーと、初めましての方もいるわね。じゃあ、私は、セシル、セシル・ノイエスです。ロイドとは姉と弟かしら?」
「私はエリィ・マクダエルです」
「…ティオ・プラトーです」
「ランディ・オルランドです!セシルさん良い名ですね!」
「おい、ランディ」
「ロイドよ〜羨ましいぞ、こんな綺麗なお姉さんがいるなんて」
「…はあ」
「…(じー)」
「フフ、いい人達ねロイド?」
「…はあ、うん」
セシル姉の抱きつきの後、セシル姉が今回の魔獣被害の説明をしてくれる事になり、セシル姉と一緒に落ち着ける場所で有る、オーベルジュ《レクチェ》にて、軽食を取りながら聞く事になった。エルの奴は、仕事の時間だった為、後からの合流となった。
「さて、何から話そうかしら?警備隊の方からの話は聞いているのだったわね?」
「ああ、調書は読ませて貰っているから概要は知っているよ」
「なら、少し踏み込んだ話が良いかしら?」
「いや、一応、病院側で判っている事を聞きたいかな」
「そう、なら、まず、事件が起こったのは1週間前になるわ」
それから、セシル姉は事件のあらましを語って行った。深夜に研修医リットンが病院の屋上テラスで魔獣と思わしき者に襲われた事、そして、早朝に発見された事、状況から被害者の勘違いではという可能性の事、一応、対策会議を行うも原因が解らずろくに立てられなかった事を聞いた。
「被害にあったのは屋上テラスだったのね…」
「セシル姉、屋上テラスって、あそこだよね」
「ええ、病院の上の研究棟の前よ」
「…なら、3階位の高さか」
「おいおい、魔獣って狼型だろ?3階はきつく無いか?」
「…はい、一般的に観測されている犬型の魔獣の跳躍力では厳しい言えますね」
「じゃあ、調書にあった通り被害者、リットンさんの錯覚だったのかしら?」
「…いや、たとえ魔獣で無くても怪我をしているんだ、何かが起こったんだろう。どの道、捜査がいる事になる」
「なら、後は現場検証か?」
「ああ、セシル姉、案内をお願いしても良いかな」
「ええ、大丈夫よ」
そう言って、セシル姉は席を立つ。俺達もそれに習って立ち上がる。まずは、実際被害にあったリットンさんのいる202号室に向かう事になった。が、久しぶりなので、知っている顔には挨拶をと言う事で寮長のキルシュさんに挨拶してレクチェを後にした。
病院内の2階、202号室前に着いた。
「此処にリットンさんは入院しているの、でも、他にも患者さんがいるから話声には注意してね」
「ああ、判ってるよ」
「それじゃあ、入りましょう」
俺達はセシル姉を先頭に部屋に入る。すると、
『―――たっぷりと課題を積んでいるから退院したらしっかりと働いて貰うよ?』
『ヨアヒム先生、それはいくらなんでも酷いですよ、先生はSですか』
「うん?僕としてはSよりもMなのだが」
「ちょっと、先生、患者さんのいる中で何を言っておられるんですか!」
「おや、セシル君、あー済まないね。じゃあ、僕は他の健診に行くよ」
と、先生と呼ばれた男性は部屋を後にした。
「まったく、ヨアヒム先生は」
「えーと、セシル姉、さっきの人は?」
「彼はヨアヒム准教授って言うんだけどね。とっても変わった人なのよ」
「…そっか」
「それよりも、ほら、この人が、リットンさんよ」
「えーと、君達は?」
「あ、すみません、俺達はクロスベル警察特務支援課と言う者で、リットンさんが被害に遭われた事件に付いて捜査を行っていて、お話を聞かせてくれませんか?」
「え、警備隊の方には話したけど?」
「その警備隊から別で捜査を依頼されてまして、もう一度聞かせて貰いたいんです」
「へー、そうなんだ。うん、じゃああの夜の事だね」
そうして、リットンは事件当時の事を話始めた。当時、リットンは難しいレポートの作成で夜遅くまで研究棟にいた。そして、レポートが完成したリットンは屋上テラスで風に当たっていた。その時は疲労から少し意識が朦朧としていたと言う。風に当たっていたリットンはなにかの声を聞いた。そして、真っ赤に光る目と白い牙、黒い毛並みをした物に襲われて、早朝になり発見されたそうだ。怪我は右肩に牙で噛まれた様な跡と打撲や捻挫だった。
「白い牙に黒い毛並みなあ、人間じゃあ無く魔獣だな」
「はい、それにアルモリカ村での足跡と噛みついて攻撃する事と言う条件ですから調書通りの狼型もしくは犬型の魔獣に絞れますね」
「ええ、でもそれだとやっぱり屋上テラスが疑問よね」
「そうだな、犬やらが3階は厳しいぜ?」
「ああ、それに鳴き声か、他にも聞いている人がいたら立派な証拠だな」
「あ、僕の錯覚じゃなくなりそう?」
「ええ、後は現場検証や証言次第ですが」
「あー、良かった、教授や先生に錯覚って、疑われてたんだよ」
「それは、お気の毒でしたね…」
そうして、一通り聞き終えた俺達は病室に長居するのも悪いので外に出た。
「じゃあ、次は屋上テラスだな」
「ロイド、それ何だけどね。私の休憩時間がもうすぐ終わるの」
「ああ、そうなんだ」
「うん、最後まで案内したかったんだけどね。でも、丁度エルちゃんが休憩に入るはずだから一度、ナースセンターに寄ろうと思うの良いかしら?」
「ああ、こっちが無理に言っているんだし気にしないで」
「そうっすよ、此処までしてくれて感謝してるっすよ!」
「ありがとうね」
そういう事なので、ナースセンターに向かった。
「あ、ロイドにみんな、来てたんだ!」
「ああ、さっきまでセシル姉に案内して貰ってたんだ」
「よお、エル坊元気か?」
「こんにちは、エルさん」
「…こんにちはです」
「そうなの、それでエルちゃんに案内の続きを頼みたいの、良いかしら?」
「うん、良いよ、連絡貰ってたしね」
「宜しく頼むなエル」
「うん、僕に任せて」
ナースセンターに着いた俺達は、早速エルにエンカウトして、案内の続きを頼んだ。そして、セシル姉とは此処で別れる事になった。後で調査の結果を教えて欲しいそうなので、また後でとなった。
エルに連れられ、屋上テラスにやって来た。それなりの広さのあるテラスでリットンさんは端のベンチに倒れていたそうだ。ベンチの後ろは水辺なので、追い込まれて此処に倒れた等考えられた。
「さて、場所は判った。なら、魔獣と仮定して、侵入経路か」
「ざっと見た感じ、ベンチ側は無いわな」
「ええ、下は水辺ですし、反対の崖も遠いです」
「入口の方も難しいのかしら?」
「ああ、途中に屋根が有るとしても1階、約2アージュを超える程だ。大きさにもよるが、跳べたとして1アージュ位じゃないかな」
「そうね、それは難しいわね」
「じゃあ、研究棟の横は?こっちは下が陸地だよ」
「……そこの場合も高さがネックだし、例え台を用意出来てもそれならかえって目立つから目撃情報が出るかな」
「そっかぁ」
調査を進めていたが、中々これだと言う物は見つからない。何か見をとしがあるのはそうだが、それが何だか解らなかった。
「うーん、中々ねーな」
「そうね、此処まで上がって来る方法…」
「いっそ、室内からとか?」
「うーん、流石にそれは寮生や夜勤の看護師が気づくなぁ」
「……あ、エル、男性寮のテラスって今はどうなっている?」
「ん、男性寮のテラス?あー、今でもちょっとした物置だよ」
「そうか、みんな男性寮テラスの方に行こう」
「お、何か気がついたか」
「ええ、それなら行って見ましょう」
悩み過ぎて昔の記憶まで遡ってしまったが、そこにある可能生は浮上した。俺達は屋上テラスから寮の屋上に繋がる橋を越えて、屋上の柵の下を見た。
「おいおい、ビンゴじゃねえかこれは?」
「ああ、少し検証がいるが、当たりを引けたかも知れない」
そこには、下の寮のテラスび積まれた木箱が何個もあった。これなら2アージュも跳ぶ必要は無い。早速、下のテラスに赴いた。
「よし、ランディ付き合ってくれ」
「おう、それっ!」
そう言って、ロイドとランディは木箱の上に跳んだ。繰り返し跳ぶうちに、ロイドは埃の中に足跡を見つけた。
「あった、足跡だ!」
「ああ、これは犬か狼型で間違いねえな」
「あー、此処の木箱暫く動かしてないものね、埃も被るよ、雨も振らなかったし」
「…ラッキーでした」
「ええ、これで経路は確定かしら?」
「…ああ、テラスの向こうの山から来た……ん?」
確定しようと思った時に、ふと、山の方の木箱に目が行った。
「どうかしたか?」
「いや、山の方の木箱、上の埃に足跡が無いなって思って」
「…はい、確認できません」
「偶々木箱に乗らなかっただけじゃない?」
「……」
その可能性も十分有るが、どうも気になる。考えながら柵に手を乗せ、滑らせながら考えた。
「……」
「どうなの、ロイド?」
「……?」
滑らせていた手におかしな感触があった。その場で屈み、柵を注視した。すると、かすかにキズの様な物があった。
「どうした、何か見つけたか?」
「…エル、此処にキズがあるんだが、何か付くような事があったか?」
「え、キズ⁉…………いや、僕も詳しく無いけど、そこに付く様な事は無いんじゃないかな?木箱置くにも手前に置くだろうし」
「…下は駐車場だな。ロイドは此処からそこの木箱に移ったと思ってる訳か?」
「可能性としては」
「…でも、駐車場であれば大型車両を足場にすれば高さを稼げますね」
「ええ、車両自体が移動出来るから目立つ心配も少ないわね」
「…まあ、車両を使ってまで屋上テラスに登る必要性が見えて来ない以上、確定断定は出来ない。けど、侵入対策は出来そうだな」
「うん、此処に大きな柵とか遮る物を立てれば良いんだね」
「そんな物が病院にありますか?」
「……姉さんに相談かな、無かったら対策費用だって言って購入出来るかも」
「まあ、一先ずセシル姉に報告に行こう」
ある程度状況の整理為にもナースセンターに向かうのだった。ナースセンターではセシルの姿は無く、師長のマーサに上の病室に行くようロイド達は言われた。また、この時にマーサがティオを昔から知っているふうに話かけていた。しかし、ティオの表情は優れない様子だった。
「…ティオちゃん」
「ティオ、前にこの病院に?」
「……此処にお世話になったのは6年程前になります。…黙っているつもりは無かったのですが」
(…6年前?)
(6年前に?)
「…その、何ていうか、言いにくい事は誰にだってあるさ」
「あー、…そうだな、ティオ助だって、俺達だって、十年以上生きてんだ、1つや2つ位言いづらい事だってあるさ」
「…はい」
「それにティオちゃん、そんな顔をしないの。」
エリィはティオを後ろから抱きしめた。
「あ」
「せっかくの可愛い顔が台無しよ?」
「………」
「年齢も性格も趣味だってバラバラだろう。それでもこうして仲間として、俺達は一緒に行動している。今は、それで良いんじゃないか?」
「ええ、ティオちゃんの言いづらい事を知らなくても仲間であるのは変わりないわ」
「おう、そうだぜ」
「……皆さん、ありがとうございます。今は無理ですが、いつか、仲間である皆さんには言える様になりたいですね」
「無理はしなくて良いからな」
「…ええ、すみません、少々ナーバスになっていたみたいです。セシルさんは上でしたね行きましょう」
(ねえ、ロイド、6年前ってあれがあった年だよね)
(…エルも思ったか、俺もあれが浮かんだ)
(ティオちゃんってもしかして…)
(可能性の話だけどな)
(…師長が関わるって、よっぽどの事だよ)
(エルがティオにあったのは?)
(ロイドが向こうに行ってからだから最近だよ)
(あの時にいた俺達が知らないって事はそうかもな)
(…聞きたい気持ちも有るけど仲間より先は失礼だよねぇ)
(ああ、ティオの判断に任せよう。例えそうだとしてもティオはティオであり、支援課の仲間だから)
(うん、判った)
「おーい、お二人さん、置いてぞー」
「ああ、ごめん、すぐに行く」
少しスッキリしたティオを追って、みんなで304号室に向かう。
「エル、此処って」
「ああ、ロイドは知ってるよね、そうだよ」
「そうか…」
「なんだなんだ、2人だけ知ってる秘密か?」
「あ、ううん、そうじゃないよ。でも、あったほうが早いね――コンコン、失礼しまーす」
304号室に着いた俺達は、エルのノックの返事を聞いて中に入った。
「――いらっしゃい、みんな来てくれたのね」
「師長に言われてだけどね」
「あら、でも、みんなが来てくれて嬉しいわ」
「…エル坊、彼女は?」
「彼女は、シズクちゃん。みんなにはシズク・マクレインって言った方が伝わりやすいかな?」
「マクレインって⁉」
「驚きです」
「あのおっさん、娘さんがいたのか⁉」
「ああ、遊撃手、風の剣聖アリオス・マクレインの娘さんだよ」
「――えっと、紹介されました、シズク・マクレインです。その声はロイドさんですね、お久しぶりです」
「ああ、お見舞いに永らく来れなくてごめん」
「いえ、エルさんからお忙しいと伺っていたので」
「あ、そうそう、シズクちゃんが魔獣事件の時に鳴き声を聞いたみたいなの」
「本当かい?」
「…はい、正直自信が無かったので警備隊の方には言っていなかったのですが、聞きました。」
シズクの話では、当時、彼女は遅くまで点字の本を呼んでいたそうだ。その時、獣の鳴き声と悲鳴が聞こえたそうだ。ただ、大きく聞こえた訳じゃ無く、気の所為の可能性もあって言えなかったようだ。あと、獣の鳴き声の時にノイズの様な音が聞こえたそうだ。彼女は自信無さそうだが、状況と合致する為、魔獣存在を照明する証言としては十分だった。証言してくれた彼女にお礼を言って、部屋を出た。その後は、セシルにテラスでの1件を話して、対策を煽いだ。セシルはすぐに事務長のクラークに今回の件を話して、野外医療用の柵を設置するのだった。
「もう、すっかり夕方ね、今日はみんなありがとうね」
「いや、俺達は捜査に来たんだし、お礼は不要だよ」
「それでもよ、患者さんも怖がっていたから解決策が出来て感謝しているんだから」
「そうだよ、会議じゃあろくな対策出来なかったんだから」
「ヘヘ、そうかよ」
「ランディよりもロイドのお陰じゃないの?」
「…そうですね」
「お、俺も手伝っただろ…」
「明日は、マインツに行くんだっけ、気をつけてね」
「ああ、まあ、バスも有るから今日ほどじゃ無いと思うよ」
「そう?わざわざ歩いて周ってると思ってたよ」
「どっちもバスのトラブルだよ」
「そう思えば不運よね、私達って」
「…否定したいです」
「まあまあ、気をつけるのよ」
「バイバイー」
「ああ!」
その後、やってきた導力バスに揺られてクロスベル市に戻るのだった。
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