我は竜王、誇り高き竜族の王 (傾国の次郎)
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第一章~はじまりの国編
第一話


初めての投稿です。
よろしくお願いいたします。


 

照りつける太陽が瞼を焼き、その眩しさに目を開ける。

 

「…ん?…ここどこ?」

 

右を見れば山、左を見れば海からの風が顔いっぱいにふきつける。

先ほどまで自宅の物置小屋で掃除をしていたはずなのに、瞬きひとつで見知らぬ地に1人で立っていた。

 

「これは…もしや…聞いたものと随分違うけど、転生ってやつ?」

 

いきなり見ず知らずの場所に放り込まれたのにどこか冷静な自分がいた。

 

「神様とか、なんかそれっぽい言葉も啓示も覚えがないけど…その時の記憶は消されたってっていうパターンかな?」

 

どこまでも暢気な妄想を口に出していた、誰かこの場に人がいれば、通報されていたかもしれない。

 

「…いや…しかし…ん?」

 

妙に目線が低い、というより身体が縮んだように小さい、違和感があり下を向くと

 

「て…手が青い…!!…それに、なんだこの服?」

 

頭には変な形の頭巾、紫のローブに首からかけたネックレスのようなもの、そして、

 

「この杖は…」

 

自身が先ほどから握っていた杖は、どこかで見たことのある形をしていた。

 

「この姿形…ドラゴンクエストのりゅうおう?」

 

先ほどまで物置小屋にて掃除をしていた筈の男は、一瞬にして、見ず知らずの場所にドラクエの最初のボスであるりゅうおうの姿で立っていた。

 

「ちょっとまだ考えが追いつかないけど、ほんとのほんとに転生したんだ…」

 

男はその場に蹲り、全身を震わせた。

 

恐怖や不安からではない、内心では、狂喜乱舞していた。

 

(よくわからないけど、転生したってことはここは日本じゃない、異世界ってやつだ!もう税金も年金も月々のローンも払わなくていいんだ!…しゃぁぁぁぁ!!)

 

異世界に転生したかもしれないことがわかったすぐ後の発想がこれである。

普通のって、なにを普通とするのかは知らないが、転生した人間の思考とは少しばかりズレていた。

 

(りゅうおうに転生?…憑依転生ってやつか?というのはわかったが、ここはドラクエの世界なのかはたまた全然違う世界にきたのか、ドラクエの世界だったとしても、ナンバリングは?それとも全くの未知の世界か?…まずは、ここがどこなのか誰か教えてほしいな…)

 

男はテンプレの神様ガイドやチュートリアルがないことに不便を感じながら、これからのことを考える。

 

(とにかくまずはこの世界のことを知らねば…どこか人のいそうな場所、街や村をさがそう!……っ!?)

 

男の思考が突如遮られる。

 

はるか上空を巨大な鳥が飛んでいった。否、姿は見えず地にうつる影のみがその存在を知らせていた。

 

(あれは……影しか…ということは、この世界は…!)

 

男はいましがた目の当たりにした影の後を追いかけ走り出す、しばらくして小高い丘の上にでた男はやはり自分の読みは当たっていたとほくそ笑む。

 

見下ろす大地には湖や森、街道が見えその先には城門が見えた。

 

「レティスに感謝だな」

 

ここはサザンビーク地方と呼ばれる地。

 

男は、りゅうおうの姿でドラクエⅧの世界へ来ていた。



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第二話


平日は毎日投稿していくつもりです。
不慣れなため、お目汚しなことも多いとは思いますが温かく見守ってくだされば幸いです。


 

先ほどまでいた丘を下りつつ、男だったりゅうおうは考える。

 

(ここはドラクエⅧの世界…それはたぶん間違いない…けど…)

 

迷っていた。道にではない。

 

(このまま街に入ってもこの姿じゃあ騒ぎになる、かといって指をくわえて外から眺めていてもしょうがないしなぁ…)

 

この世界はドラクエⅧの世界だと思われるが、よく似た平行世界のひとつでしたみたいなオチかもしれない。真に確かめるには、実際に自分で見聞きして確かめるしかない。しかし、自分は魔物、竜神の末裔でも或はずなのだか、竜神王のような存在と比べると禍々しく、人間より魔物に近い外見である。

 

(こうなったら、少し?顔色が悪くて背の低い怪しい魔法使いでございとごり押ししてやろうか……)

 

半ば以上自棄な発想を実行に移そうとしたとき、背後の草むらから殺気が迸る。

 

「…っ!!?」

 

平和な現代日本人では、反応できなかったであろう。

殺気なんてものを飛ばされたこともなければ見たこともない。せいぜい漫画の世界の表現のひとつだろうと思われているほどであるから。

 

しかし、殺気というものは確かに在る。身近に命の危険のない日本人にはわからないが、戦場などではそれを察知できるか否かで生死を分けることもあるほどだ。

 

恐らく察知できたのはりゅうおうの高いスペックのおかげだろう。現に殺気を感じてから自分でも驚くほど自然に流れるような、正にそんな動きで背後から距離をとり、襲撃に身構えていた。

 

(すごい…考えるまもなく身体が勝手に動く…!)

 

しかし、未だ自分がどれほどの強さなのかなにもわからない。いまの動きを考察する限り、弱くはないと思う。だが、未知数で在るがゆえに不安も大きかった。

 

(くそっ…こんなことなら丘の上にいるときにある程度の検証をしておくべきだった…)

 

そんなことを思うも後の祭り。今は己の、りゅうおうの力を信じるのみ。

 

(そうだ…俺はりゅうおう、中身は日本人でもこの身体はかつてひとつの世界に覇を唱えた、誇り高き竜族の王…!なら、そんじょそこらの野良モンスターに遅れはとらないはず!!)

 

覚悟は決まった。前方の草むらからは依然殺気が流れてくるが、もう関係ない。

 

先手必勝。その言葉が頭を過った。

 

脳裏に自然と浮かんできた言葉を叫ぶように唱えた。

 

「ベギラゴン!!」

 

呪文を唱えた瞬間、自身の周りにゲームで見たときのような魔方陣が二条交差するように浮かんだ。

 

翳した両の手から閃光系上級呪文が前方の視界一面に炸裂する。

 

目も眩む光に一瞬目を閉じる。再び目を開けたとき、つい先ほどまで眼下に広がっていた広大な森は、そのほとんどが見るも無惨な焼け跡へと変化していた。



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第三話

感想を下さった方ありがとうございます!


りゅうおうの過剰攻撃が緑豊かなサザンビーク地方の森林を破壊する一時間前。

 

「王さま…王子が城下にて…」

 

「またか?今度はなにをした?」

 

ここはサザンビーク地方を治める王国、その王城玉座の間にて大臣と国王は、この国の名物王子、チャゴスのことでお互い眉間に皺を寄せ話している。

 

「現在城下にて開催中のバザーに乱入、散々場を荒らした後難癖をつけ露店商の売り子を鞭打ち、かばおうとした店主を売り物のはがねのつるぎで切りつけあまつさえ服に血が飛んだと言って店主に金を要求……」

 

出るわ出るわ名物王子の武勇伝の数々、王は頭を抱えて窓の外を見る。現実逃避である。思えば王子を甘やかしすぎたのだ、明日からは厳しくいかねば。

 

それでも明日からという点が既に甘やかしが入っているのだが、王は気づかない。なんだかんだ王子が可愛いくて仕方ないのである。

 

「……さらには首輪を嵌めたのちに紐でくくり犬のように……」

 

大臣の話しはまだ続いているが王は明日からの王子の教育方針に思いを馳せていた。

 

(まずは、はじめてのおつかいから始めよう!そしていずれは王家の谷に……)

 

すれ違う主従の思考が佳境に向かおうとした時。

 

ドォォォォォン!!

 

爆音が遠くから聞こえ、両者は身を縮ませる。

 

「なっ何事だ!」

 

玉座の間の扉がけたたましい音をたて開かれる。

 

「申し上げます!只今、城下より南東の方角に閃光が瞬き国土の一部が焦土とかしました!!」

 

城に詰める兵士が息せききってかけこんでくる。

 

「なっ……なんだとぉ!!」

 

玉座の間は城の二階に在る、王と大臣は兵士に先導され城壁の続き間を通り外にでた。

 

「王さまっ! あちらです!」

 

城壁の上には城中の兵士が件の方角を見つめ声を失っていた。王が近づくと兵士長が側に寄り指を指す。

 

「ばかな…いったいなぜ…」

 

王が見た方角は王家の谷に続く道、その先の大地が黒く焼け至るところから煙が上がっていた。王が上げた誰何の声、それに答えられるものはこの場にいなかった。

 

 

 

 

りゅうおうは茫然自失していた。まさかがむしゃらに放った呪文がここまでの威力を発揮するとは思わなかったのだ。

 

(これは…明らかにやり過ぎたか…)

 

目の前に広がる地獄絵図。中の人は地獄どころか臨死体験、ましてや地獄絵図の絵も見たことはないが、そう思った。

 

先ほどまであった殺気も今は霧散している。しかし、いまはそんなことは些事だった。

 

(やっぱり検証って大事なんだなぁ、転生ものの話しってやたら検証とかしたがるのにちょっとイライラしてたけど、これは確かにやらないと環境に悪いな、環境問題って大事だからな、うん。

 

自身がもたらした災厄にも等しい状況をほっぽりだして斜め上に思考を展開する。やはり普通?の転生者とはずれていた。



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第四話

焼け跡と化した森であった場所をりゅうおうは歩いていた。焼け跡からは様々な情報が手に入った。

 

(魔物が死んでもアイテムをドロップはしないと…死骸も消えずに残る…か)

 

りゅうおうの放った呪文の範囲は広大で、その内にいた魔物はもれなく全滅していた。しかしゲームのように倒した後消えたりはせず、特になんらアイテムを落としたりもしないようだった。とはいえ消えないにしても、魔王級の存在が放つ呪文の前にはそこらの雑魚など原型も残らない。黒く炭化した骨や肉をわずかに残すのみである。

 

(う~ん…アイテムを落とさないってのはちと痛いな……でも、だとするとキメラのつばさとかってどうやって作るんだろ?なんか魔法の品を作る技術的なものがあるんだろうか……)

 

りゅうおうは頭をひねる。本当にひねりはしない比喩である。どうやらこの世界はまるきりゲームのように

はできていないらしい。他にも…。

 

(レベルっていう概念がはあるんだな、なんかさっきから身体の周りが光ってるし…)

 

サザンビーク地方の環境を盛大に破壊した直後から身体の周りをキラキラとした光が包む、正直目がチカチカするのでうっとうしいのだが。同時に身体がなにやらムズムズする。欲情しているわけではない。身体の中が作り替えられているかのように、先ほどから周りの光に合わせるように違和感が続いているが、不思議と嫌悪感や痛みはない。

 

(…ってことは、ステータスもあるんだろうな。どうやって見るのかわからないけど…。)

 

レベルアップしていることに気づいてから、ステータスを開こうと試行錯誤しているのだが、さっぱりわからない。

 

「……ステータスオープン…!!…………だめか…はぁ、取説が切実にほしい、攻略本とかもあれば欲し

い…」

 

無人の荒れ地で1人ぶつぶつ呟きながら時折身体を激しく動かし両の手を天に翳すりゅうおう。どう見ても不審者である。必死に考え、試行錯誤するりゅうおうは気づかない、先ほどからずっと何者かに観られていることに…。

 

 

 

 

 

「ようやく見つけたわい。」

 

水晶玉に手を翳し1人ごちる老人、痴呆か。そうではない、ここはサザンビーク城玉座の間。老人はこの国の元宮廷魔導師であり数時間前のある事件、サザンビークの国土が焼かれるという前代未聞の事件の犯人を探し出すため王に出仕を請われ、隠居して久しい身でありながら事件解決にあたっていた。

 

「どれ…?…んん………こ、こりゃ…たまげたわい。」

 

「どうした?犯人がわかったのか!?」

 

老人の言葉に反応する王。王は水晶玉に映るものは見えないため、老人に先を促す。

 

「どういうわけか、情景がボヤけてなにもわからん。かろうじて…人の背丈ほどの存在だということしか…。」

 

「この大破壊を1人の人間が起こしたというのか!?」

 

王は老人に問いただす。とても信じられることではない。まだ魔物の仕業と考えたほうが現実味を帯びていた。しかし。

 

「誰も人間とは言うとらん!人間の形をしたナニカじゃ!…水晶越しにも漂ってくる濃密な魔力の波動…明らかに高位の魔物、もしくは…」

 

「も、もしくは…?」

 

老人の言葉におうむ返しをする大臣、彼はこの国の大臣としてこの未曾有の事件に対して陣頭指揮をとる立場にある。元凶である存在の情報はより多く知りたいがゆえ、身を乗りだし老人の言葉を待つ。

 

「……魔王……なのやも知れぬ……!!」

 

老人の言葉は予想していたうちでも最悪のもののひとつであった。玉座の間は葬式のように静まりかえり、誰も彼もが言葉を発することができないでいた。



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第五話

思っていたよりも多くの方に読んで頂いているようで恐縮です。


夜の海。よせてはかえすしらなみの、さわぐいそべのすみっこに、りゅうおうは立っていた。

 

ここはサザンビーク城より東の海辺、りゅうおうは1人夜空を見上げていた。

 

(これからどうしよう。)

 

りゅうおうは自身の今後を思案していた。

 

(原作はどこまで進んでいるんだろう?それともまだ始まってないのかな?レティスがまだ影の状態なんだから、レティシアまでは進んでないだろうけど……確かめようにもトロデーン城まで行く術がないしな…。あれからレティスも見ないし…困ったな…。)

 

この世界に来た直後遭遇したレティス。この世界

がドラクエⅧの世界だと教えてくれた存在。りゅうおうはこの問題に関して手詰まりだった。

 

(真の姿……竜王になれば飛んで行けるんだろうけど、どうやって変化するのかもわかんないし…はぁ不便…神様…いるのならどうか…この哀れな子羊に道標をお示しください…。)

 

りゅうおうは天に向かって手を組み合わせ祈るが、誰も応えてはくれない。

 

(…こうなったらサザンビーク城に襲撃をかけて王さまを人質に船を要求してやろうか…大丈夫、りゅうおうを倒せるのは勇者だけ!ただの人間が多少群がっても蹴散らしてくれるわ!!)

 

りゅうおうはいい加減イラついていた。なぜ誰も何も説明してくれる存在がいないのか。原作などもはや知らぬ!全てぶち壊してくれん!と、少しばかり彼の思考が飛躍した時。

 

(……ん?…あれなんだ?)

 

海岸から少し離れた海のうえを不思議な三角頭が進んでいた。三角頭はゆっくりとこちらに向かって来ているようだった。

 

(な、なんだあれ…?…大王イカか?)

 

りゅうおうは近づく謎の三角頭を大王イカだと推定するが、その時謎の三角頭は近づくのをやめ海に潜っていった。

 

(なんだったんだ?…………うわぁっ…!!?)

 

りゅうおうが海に向かって一歩足を踏み出したとき、海中からイカの足のような触手がりゅうおう目掛けて飛んできた。

 

りゅうおうは内心の驚きとは裏腹に身体を捻り触手をかわすが体勢の崩れたところに二本目の触手が向かってくる。

 

(…くっ……!。)

 

「…舐めるなぁっ!!、俺はりゅうおう!…この程度の攻撃などっ…!!」

 

りゅうおうは崩れた体勢のまま無理矢理杖で触手を払い落とし迎撃。そして海中に右手を向け、一言。

 

「イオナズン!」

 

直後海面が大きくうねり数瞬のちに巨大な水柱があがる。その周囲では波が盛り上がり、津波の如く浜辺に押し寄せ大地を飲み込んで行く。りゅうおうに自制の文字はない。いや、まだ自身の力をコントロールできていないだけだ。きっとそうだ。

 

海岸の地形を一部変えるような呪文を放った本人は目の前の謎の敵対生物を前にいっぱいいっぱいで、そんなことを考える余裕はなかった。

 

「……やったか…?」

 

……フラグである。

 

ザパァァァ!

 

浜辺に三角頭がうちあがる。三角頭は先ほどのりゅうおうの呪文でノックアウトされたようだ。よかった、よかった。

 

「…でかっ!なんだこいつ?大王イカってこんなにでかいのか?」

 

浜辺に横たわる三角頭。その姿を少し離れたところから警戒しながらりゅうおうは眺める。

 

「……ん?…こいつ、オセアーノンじゃね?」

 

謎の三角頭、その正体は原作で港町ポルトリンクから次の地方へ渡る途中の海峡で出てくる中ボスオセアーノンだった。

 

「なんでこんなとこにいるんだ、こいつ?」

 

ここはサザンビーク領の近く、原作ではポルトリンクと船着き場の間にいたはずだ、それがなぜここに?りゅうおうは疑問に思いながらもあることに気づく。

 

(こいつ…死んでない、まだ生きてる…!)

 

今日の朝サザンビーク地方の森林を焼き払った時、巻き添えを食らった魔物は全て消し炭になっていたのであるが、オセアーノンは瀕死の状態ではあるもののまだ生きていた。腐っても中ボスなのであろう。

 

(生きてるなら、まだなんとかなる。貴重な情報を得るチャンスだ!こいつを回復して、締め上げてやろう。)

 

りゅうおうは立っていた岩場を飛び降り駆け足でオセアーノンへと近づく。

 

(さっき上から見たときも思ったけど…でけぇなこいつ…。)

 

至近距離まで近づくとより大きさがわかる。船より大きなからだ、そしてかすかな呼吸音と確かな脈動。ここまで巨大な生物は日本では見たことがなかった。

 

(…はぁ~……っと感心してる場合じゃない、早く回復しないと。)

 

「ベホマ」

 

……………………………。

 

「………あれ?………呪文がでない……。」

 

確かに呪文を唱えた。しかし呪文は発動しない。

 

「ベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマベホマ…………ふっ、ベホマズン!!……。」

 

某ヘタレ神官の真似をしてみるが反応なし。ほかにも回復呪文を唱えたが、同様の結果だった。

 

(………も……もしかして……回復呪文使えない感じ……?)

 

「Oh……☆」

 

りゅうおうは本日二回目の後悔をする。

 

(…け、検証って……やっぱ大事ぃいぃぃぃぃぃ!!)

 

サザンビークの夜空にりゅうおうの心の絶叫がこだました。





どうするりゅうおう!どうなるオセアーノン!!
どうなるのよ!?


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幕間~サザンビークの名物王子~


とりあえず今日までで今週の投稿はやめます。
また来週の月曜日から投稿を再開します。


 

ここはサザンビーク城。神代の時代から続く由緒正しいサザンビーク王家が治める城。そんなサザンビーク王家の後継者は代々ある試練を乗り越えねばならぬ決まりがあった。

 

城から出て東に続く道を辿った先にある山。

 

通称王家の山は、山を管理する一族以外は次代の王にならんとする継承者以外は一切立ち入れぬ神聖な場所である。現王もその限りではなく、護衛も入れぬ正に聖地と呼ぶにふさわしい場所であった。

 

次代の王にならんとする継承者は、この山のみに生息するとある魔物を倒し、その魔物がもつという宝石を持って城へと帰還し現王に献上する。わたしは王の位を譲り受けるに足る者であると、現王や領民に証として示すのである。それ以外に王位継承権を得る方法はなく、歴代の王は皆その試練を果たしてきた。

 

当代の王も自身の王子にその試練を課し、王位継承権を与えようとしているのだが……。

 

「父上!わたしは王家の山になぞ行きたくありません!」

 

「まだお前はそんなことを言っているのか!?王家の山に行き王位継承の証を持って帰らねば次代の王にはなれぬと言うておろうが!」

 

サザンビーク城玉座の間。そこではサザンビーク王家当代の王とその王子が朝も早くから激しく論戦を交わしていた。

 

「わ、わたしは王になど……。」

 

「……はぁ……またお前は…、お前が王位を継がねば神代の時代より続く王家が絶えてしまうではないか……。」

 

サザンビーク王家の当代クラビウス王は、ため息を吐く。王子であるチャゴスは一人息子ということもあり、蝶よ花よと可愛いがり育てた、そして試練に挑む年齢になったチャゴスは歴代王家でも一、二を争う放蕩息子へと成長していた。毎日城下へと繰り出しては、領民や城下へ行商にきた商人などと諍いを起こし、城に詰める兵士や文官をストレスの捌け口にしたりと、やりたい放題であった。

このままではいかんと厳しく躾るようになったが、それがストレスや苛立ちを増長させ、また問題を起こすという悪循環にクラビウス王は頭を悩ませていた。

 

加えて最近は、教育のために雇いいれた教師たちの授業も放棄し、顔も見ぬ日も多々あり城に勤める使用人などは、王子の逃げ足と危機を察知する索敵能力は認めざるを得ないなどと、匙を投げる始末。クラビウス王は目の前にいる王子に向き直り観察する。

 

癖っけのある金髪に、歳のわりには小柄な体。サザンビーク王家特有の彫りの深い顔に母親譲りのダークブラウンの瞳端正な顔の下には筋肉質ではないが、程よく引き締まった体が頼もしい、黙っていれば二枚目という印象である。黙っていれば。

 

(外見の容姿は悪くない、だが、なまじ容姿が優れている分中身の酷さが浮き彫りになる。見た目は立派な王子なのだが……。)

 

クラビウス王は自身の息子をそう評する。

 

決して親の目フィルターをかけている訳ではない。この世界のチャゴス王子は、城の二階の自画像そのものなのだ。イケメンである。実際城を抜け出しては遊びに行くベルガラックの街の住民の間では、サザンビークの御曹司という呼び名で有名で、特に若い女性からの支持が半端ない。その人気は止まるところを知らずこの大陸中の年頃の女性は、チャゴスへの憧れを抱いていた。いけめんまじしねばいいのに。

 

しかし、彼女達は知らない。憧れの御曹司は中身が五歳児あたりで成長の止まった我が儘迷惑王子だということを。

 

その王子は現在、玉座の間にて父王であるクラビウスと向き合い、己の意志もとい我が儘を口にして王を困らせていた。

 

(毎日、毎日うるさいなぁ~父上は……昔は優しくてよかったのに、しばらく前からいきなりうるさく説教するようになって……領民や城の兵士は、王子である俺に従うのは当たり前のことだろう。抵抗せずに唯々諾々と言うことを聞けば鞭をふるったりはしないというのに……下賤な民や下級兵士の分際で、立てつくから痛い目にあうのだ。これは、いわば躾だな。……今日もこの説教のあと使用人どもを集めて、父上に話しがいかないように躾をしてやらねばな……。)

 

チャゴスは、このあとに続く遊びに考えを巡らせ、思わず顔を歪めていた。クズである。

 

「……ククッ。」

 

「なにがおかしい!!お前のことを思って言っておるのだぞ!?今日という今日は許さん!お前に王家の男児の在り方をみっちりと説教してやる!!」

 

思わず声に出し笑ってしまったチャゴスはその後昼食も抜きで説教され続け、ようやく解放されたのは日も沈む時間帯であった。そしてその日の夜城の地下にある牢屋から城に詰める使用人達の悲鳴が響いていた。その悲鳴は語るのも憚られる程の凄絶なものであり、時折悲鳴に混じり楽しそうな、本当に楽しそうな、まるで悦に入ったような哄笑がサザンビークの夜を犯していたという。





チャゴスは今後、ストーリーにも深く関わってきます
ブラックチャゴスの今後にご期待下さい。笑


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第六話


今日からまた投稿していきます。
よろしくお願いいたします!


 

まだ夜も明けきらぬ刻。サザンビーク城下のとある民家で、少女は目を覚ました。起きてすぐに服を着替え顔を洗い朝食の準備にとりかかる。まだ背が小さいため流し台の前に台を置きその上に乗る。

 

「今日の朝ごはんはなににしよっかな~♪」

 

鼻歌まじりに少女は手際よく調理をしていく、その様はまるで主婦である。まだ10にも届かない歳だが。

 

少女は二人分の朝食を作り終えると、母親の寝室へと向かう。扉の前に一度膳を置き、ドアノブに手をかける。扉を開くと部屋のなかでは少女の母親がベッドに腰掛け、少女を待っていた。

 

「お母さんおはよう!」

 

「おはよう。いつもすまないねぇ。」

 

「それは、言わない約束でしょ!」

 

お約束の会話である。いや、少女の母は本当に申し訳なく思っていた。彼女は謎の病にかかり長い。家事や炊事どころか立って歩くことすら儘ならないのだ。そのために娘である少女に自身の世話や店のことを任せっきりにしている現状にもはや怒りすら覚えていた。

 

「お前には苦労をかけて……。」

 

双眸から涙を流し、娘に謝罪する母。

 

「大丈夫だよお母さん!お母さんのびょうきはあたしが必ず治してあげるから待ってて!」

 

少女は改めて決意する。自分の母の病を治しまた一緒にお出かけしたりするのだと。健気である。

 

「じゃああたしお店の準備があるから、もう行くね!ちゃんと寝てなきゃダメだよ?いってきます!」

 

少女は母親にそう言うと自分の分の朝食を袋に包み家を出た。

 

少女の家は小さいながらも店を営んでいる。取り扱っている品物は決して安いものではなく、めったに客は来ないがそれでも母の病を治療するため値段を下げる訳にはいかない。少女の父親が店に立っていたときからの馴染みの仕入れ先も、少女の境遇に同情はしても品物の値段を下げることはしなかった。

 

少女の父親はいない。ある日仕入れに出かけたまま帰って来なかった。当時は心配したが、時がたつにつれいつしか捨てられたのだと考えるようになった。

 

帰らぬ父を待ち続けても仕方ないと、少女は代わりに店に立つようになった。母の病を治療するお金を稼ぐために。

 

少女は店に着くと奥にしまってある宝箱の鍵をあけ、中の商品を確認する。そしてまた鍵を締め店先に立つ。今日も少女の一日が始まる。

 

少女の店の客は大概常連の人間で、新規の客は珍しかった。故に、その客はひどく目立った。

 

「い、いらっしゃいませ!」

 

少女は元気良く接客するが、内心おっかなびっくりしていた。その客が怪しさ満載で挙動もおかしかったからである。

 

「こ…こんにゃ…ちは……。」

 

舌を噛みながら店の前に立つ客は、顔半分を布で覆いその身体を紫色のローブで包み右手に杖をもった、自分より少し背が高いだけの小柄な人物だった。

 

サザンビーク地方に舞い降りた環境破壊の化身。りゅうおうその人である。

 

(か、噛んじゃった、恥ずかしぃ~……。)



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第七話

なぜここにりゅうおうがいるのか。その問の答えは数時間前に遡る。

 

浜辺で遭遇、戦闘したオセアーノンに回復呪文を使おうとした結果、そもそも回復呪文を使えないということに気づいたりゅうおうは、他の手段を模索していた。

 

(呪文がダメならやくそうなどのアイテムを使えばいい…ん…だけど……。)

 

目の前に広がる焦土と化した森をみて言葉を失う。自身の過剰攻撃の結果がこんなところにまでも影響していた。

 

(……そもそも、やくそうとその他の雑草の区別がわからんな……。)

 

やくそうなどの回復手段はそんな理由で没。となれば街までいき、回復アイテムを店で買う必要があるが、この格好では怪しまれるし魔物だとバレればどんな目に遭うかわからないということが、りゅうおうに二の足を踏ませていた。

 

(……襲撃をかけてもいいんだが…変に人間に刺激を与えたくないし……やはり、変装して街に入るしかないな……)

 

未だなんの情報もない今、下手に街に襲撃をかけるのは得策ではない。ならば変装して街に入り速攻でアイテムを購入し速やかに立ち去る。これがベストだとりゅうおうは考えた。

 

幸い人間が落としたと思われるバンダナが浜辺に打ち上げられていたので、それで顔の下半分を覆うが、さすがに服までは落ちていなかったのでそれだけで諦める。これは変装といえるのか。

 

りゅうおうは焦ってもいたため顔が隠れればまぁいっかと深く考えるのをやめた。

 

(…とりあえずこれでよしとしよう。)

 

外見はなんら変化していないので、怪しいままなのだが。りゅうおうはオセアーノンの下へ戻り、状態を確認する。

 

(だんだん呼吸の間隔が長くなってるな……時折止まりもするし…街まで行ってる間もつのかこれ。)

 

オセアーノンは刻一刻とその生命活動を止めようとしていた。そして――――。

 

(……あっ…。)

 

遂に鼓動が完全に停止する。貴重な情報源になり得たものをむざむざ見殺しにしたりゅうおうは、その呆気なさに一瞬呆けるが、唐突にあることを思い出す。

 

(…そうだ。確かサザンビーク城下にはせかいじゅの葉を売っている店があったはずだ!)

 

せかいじゅの葉。ドラクエではお馴染みの死者復活アイテムである。サザンビークにはせかいじゅの葉を売る店がある。オセアーノンは死んでしまったが、せかいじゅの葉を使えば蘇る。そのことに気づいたりゅうおうは一路サザンビーク城を目指し走り出した。まだ蘇生呪文を試すという選択肢もあったのだが、りゅうおうは気づかない。

 

りゅうおうのハイスペックボディを駆使し城壁をよじ登り城下へ侵入後、街並みが多少ゲームと違うことに戸惑いながらもなんとか店の前にたどり着く。

 

そして少女に接客される場面に戻る。

 

「せ、せかいじゅの葉を…一枚?一個?ください…。」

 

吃りながらもりゅうおうは少女に喋りかける。少女はりゅうおうの怪しさに圧倒されていたが、注文を受けたことに気づくと慌て接客に戻る。

 

「しっ、失礼しました!せかいじゅの葉をおひとつですね?1000Gになります。」

 

少女は怪しい客に対価を要求するが、その瞬間その客は硬直した。

 

(……金…もってねぇ……、)

 

少女に言われて初めて気づいたがりゅうおうはお金を持っていなかった。言われるまで気にもしなかったのは迂闊だったが、この世界に来てからまだ一日もたっていないのだ、金など持っているはずがない。仕方がないので後で必ず支払いにくるので、いまは持ち合わせがないことを少女に伝えると。

 

「申し訳ありませんが、料金は先払いでしか受付けていません。」

 

と断られてしまった。当然である。常連の客ならまだしも初見の、いかにも怪しい風体のこの客を信用することなど少女には無理な相談だった。

 

「そこをなんとか…なりませんか…?」

 

りゅうおうはなおも食い下がるが、少女は首を縦にふらない。進退窮まったりゅうおうは、こうなれば強盗もやむなしと杖を握る力をこめたとき、背後に立つ人の気配に気づいた。

 

「話しは聞かせてもらった。その金は俺様が支払ってやろう。」

 

りゅうおうの背後に立っていた人物が話しに割って入ってきた。振り返るりゅうおうの目の前には、豪奢な金髪に涼しげな顔立ちのイケメンが口許を歪ませながら立っていた。チャゴス王子である。

 

サザンビークが生んだ名物王子チャゴスと環境破壊の化身りゅうおうのこれが初めての邂逅であった。

 

「………………誰?…」

 

りゅうおうのつぶやきが、まだ薄暗いサザンビークの空に小さく昇っていった。



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第八話


今日は長めにいきます。


 

太陽が顔を出し鶏の鳴き声が聞こえる。

 

サザンビークの住人たちもその大多数が動き出す頃。りゅうおうは市街地の裏路地でひっそりと身を潜めていた。

 

(…どうしてこうなった…。)

 

りゅうおうは心の内でそうごちる。が、そんなりゅうおうの思考を読んだかのように、すぐ隣で同じように家の陰に潜む金髪の少年が喋りかけてくる。

 

「そんな顔をするな、なに、おとなしく従っておれば悪いようにはせぬ。」

 

チャゴスである。先程せかいじゅの葉を売る店の前で売り子の少女と押し問答をしていたりゅうおうの前に彼は颯爽と現れ、誰何の声をかけるりゅうおうを無視して強引に商品の代金を立て替えると、りゅうおうを路地裏に引っ張りこみこう告げた。

 

「貴様のことは昨日の森での一件からいままでずっと見ていた。兵士につき出されたくなかったら俺様の計画に付き合え。」

 

そう言うと、りゅうおうの返事も待たずついて来いと先を歩きだしてしまった。りゅうおうは昨日のことを見ていたと言う少年の言葉にパニックに陥りながらそのあとを追う、見ず知らずの少年の言葉に素直に従いついて行くあたり、動揺の度合いが伺い知れる。

 

(…見られていた?いつから?始めから?わからない……それよりこの少年は何者なんだ?原作にいたかなこんな子……でもなんか、どこかで見たような…)

 

りゅうおうはパニックで思考がまとまらないまま少年の後をついて行くと、少年がふいに立ち止まり此方へ手招きする。

 

「この空き家は城の外への秘密の抜け道になっているんだ。城の外へ出たら詳しく話してやるからついて来い。」

 

そう言うなりチャゴスは目の前の民家の裏口の扉を開け、なかに入ってしまった。りゅうおうは一瞬ためらうも、ここまで来たら最後までついていこうと扉を開けてなかに入る。

 

家のなかは家具などはなく、ちぎれたロープやナイフなどが散乱する床には所々血痕が付着していて、壁には大きな布が掛けてあった。

 

少年がその布をめくると、壁には穴が開いておりなかは真っ暗でどこまでも続くトンネルのようになっていた。少年が先に入り、りゅうおうが後に続く。

 

どれほど歩いただろうか、しばらくすると外へ出た。少年はなおも歩き続け、大きな滝の側の切り株へ腰をおろすとこちらに声をかけた。

 

「足労をかけたな、その辺に座るがいい。」

 

そう言われたりゅうおうは、近くにあった手頃な岩の上に腰かける。

 

「さて…、なにから話そうか…」

 

少年は顎に手をやり考えるふりをする。りゅうおうは少年の姿を正面か見て、はっとする。

 

(…なんか様になるなぁ…この子……つーかイケメンすぎ!美少年てやつですか?そーですか!まじいけめんしねばry……)

 

りゅうおうが酷い自傷思考を抱き始めたとき、少年が口を開く。

 

「…と、まずは自己紹介をしておこうか、俺様の名はチャゴス。誇り高いサザンビーク王家の王子チャゴス様だ!」

 

少年はりゅうおうに自身の名を告げるとその場で座ったままふんぞり返りドヤ顔を炸裂させるが、りゅうおうの反応が薄いのに気を咎め、再び口を開こうとしたときりゅうおうが小刻みに震えだし、そして……

 

「……だ…」

 

「だ?」

 

りゅうおうのつぶやきが聞き取れず聞き返すチャゴス。次の瞬間、辺りにりゅうおうの叫び声が響いた。

 

「誰だお前はぁぁあぁぁ!チャ、チャゴスがあの人をイライラさせる天才みたいなクソ脇役キャラが、こんなイケメンなはずがあるかぁぁぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りゅうおうがチャゴスに向かって怒鳴り付けている頃サザンビーク城では蜂の巣をつついたような騒ぎが起きていた。毎度お馴染み名物王子チャゴスのことである。騒ぎの発端は、久しく使っていなかった地下牢の掃除をするために新米の兵士達が牢のなかに入った所しばらく前から行方不明だった使用人達が見るも無惨な状態で見つかり、わずかにいた生存者の話しから、王子に言いがかりをつけられ牢に繋がれたのち、躾と称する拷問紛いの折檻を受け、もう何日もここへ放置されていたことがわかり、事情を聞いたクラビウス王が国中にチャゴスを指名手配する布令を出す大事へと発展していた。

 

現在チャゴスはりゅうおうと共に城の外へ出ているためいくら探しても城下にはいないのだが、そんなことは兵士達には知るすべもなく、王子の捜索は続いていた。

 

玉座の間ではクラビウス王と大臣の他にも兵士長や他の貴族などが詰めかけ、事態の深刻さに誰もが言葉を忘れてしまったかのようだった。

 

そんな静まり返った場に兵士が慌ただしく駆け込んできた。

 

「申し上げます!チャゴス王子の行方は依然不明、ですが目撃情報があげられています!」

 

兵士が言うには今日の朝早く、城の近くにある店に来ていた怪しい客を後からきたチャゴス王子が連れたち二人で市街地の裏路地に消えたという。

 

(全く意味がわからぬ…。)

 

怪しい客の素性を問うも、バンダナで顔の下半分を隠していたため顔はわからず、子供ほどの背丈であったことしか情報がない。

 

「(其奴とチャゴスの関係性が謎だな…。)他に報告することは……?…なければ其方も捜索へ戻れ!」

 

兵士はクラビウス王の命令に一礼すると、部屋に入ってきた時と同じように慌ただしく出ていった。

 

「王さま……チャゴス王子の処遇…いかがなさいますか……?」

 

大臣が答えにくいことを聞いてくる、しかし後回しにできる問題でもない…クラビウス王は静かに席を立ち窓の外を見る。窓の向こうには昨日謎の閃光と共に出現した焦土が広がっていた。

 

(…この光景は、正に今の儂の心情そのものよ………信じてやりたかった…いつかは立派に王位を継いでくれると……今回のことも、何かの間違いだと…信じてやりたかった…だが……)

 

王は思考を中断し大臣以下臣下の会話に耳を傾けると、聞こえてくる王子を非難する声……あの王子ならやりかねん…だから私は昔から…やはり王子は王の器ではなかった……………。

 

(……もはやこれ以上の庇いだては不可能……このままではこの国は割れてしまう…………決断しなければならんな………。)

 

クラビウス王が臣下の列に向き直ると、彼らは私語を止め王のまえに跪く。

 

「……チャゴスの処遇を伝える…………チャゴスを廃嫡し、王家から除籍……そして…国外への永久追放とする……!!」

 

クラビウス王は決断した。王子が改心することを信じていままで庇ってきたが、今回のことでその心をへし折られてしまった。そんな王を見つめる臣下達は最大限の同情を心に抱き、王の布告を城下に広めるべく行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたか?驚いたぞ、いきなり叫びだすとは。」

 

りゅうおうはひとしきり叫んだあと急に冷静になり、叫んだこと自体が恥ずかしくなって地面に突っ伏していたが、チャゴスには先程の叫びは半分も聞き取れておらず、王子だと明かしたショックで叫び出したと勘違いされていた。

 

「まぁ、仕方のないことではあるゆえ、今回の無作法は大目にみてやる。感謝するがいい。」

 

どうだ、慈悲深いであろうと言わんばかりの態度で、ドヤ顔を決めるチャゴス。だがりゅうおうの耳にそんなことははいらない。

 

(……どーなってんの?…チャゴスがイケメンて…。)

 

未だショックから立ち直れないでいるりゅうおうであった。



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第九話

 

チャゴス王子に連れられ、サザンビーク城下から秘密の抜け道を通り外に出たりゅうおうはいま、チャゴス王子が語る計画にドン引きしていた。

 

「つ…つまり王子は…」

 

「そうだ。王家の山になどいかずに父上や臣下達を黙らせる、最高の方法だとは思わんか?」

 

チャゴス王子の立てた計画はこうだ。

 

現在サザンビークの城や城下の人々は、王子であるチャゴスへの不満を隠そうとせず、陳情や嘆願書などを城に送り付け散々王子を罵倒しているという。

(ほぼ100%正当な訴えだが)

 

自分に従い、崇め奉ることが義務であり当然のことである者共が起こしているこの暴挙(チャゴスはそう考える)に、チャゴス王子はひどく憤り、この際飼い主が誰かを人々にわからせようと言うのだ。

 

はっきり言ってむちゃくちゃな主張であるが、チャゴスは生まれながらの支配者階級で当然のように傅く人々を見て育ったため、自身の考えが歪んでいるとは露ほども思っていなかった。

 

そんなことを考えていたところ、いつものように城を脱け出しベルガラックへ遊びに行こうとしたチャゴスの目の前にそれは現れた。

 

豊かで広大な森林地帯を一瞬で死の灰が舞い踊る地獄へと変貌させた、純粋で強大な力の奔流。

 

チャゴスは震撼した。

 

幼き頃より容姿に恵まれ、また、王族の生まれというこれ以上ないほどの出自に数多の輩が羨み妬む視線を向けてきたが、いじめはおろか表だった嫌がらせの類も受けては来なかった。

 

それには理由がある。

 

チャゴスは生まれつき魔力が高く、3歳の頃には初級ではあるが、呪文を唱え発動させることができた。身体が成長するにつれ魔力もさらにあがり、同時に同年代の子供どころか城に詰める近衛兵よりも高い身体能力を発揮するようになり、10歳を越える頃にはチャゴスに戦闘で勝る者は城から消えたほどである。

 

故に下手に手を出せば、返り討ちに遭うどころかその類いまれなる力で一族郎党皆殺しにされかねないと、腫れ物にさわるように扱われたため、より増長する要因にもなった。

 

そんなチャゴスでも、目の前で起きた大破壊を起こせるかといえば否である。

 

故にチャゴスは思い付いた。

この力を利用しようと。

 

りゅうおうにサザンビークの城下を攻撃させ、程よく蹂躙させた頃、颯爽と現れるチャゴス。

チャゴスはりゅうおうと戦いこれに勝利し、晴れて王家の山に行かずとも、国を救った英雄となり、父や臣下を黙らせるという計画だ。

 

この計画にりゅうおうが加担するメリットはこれっぽっちもない。

どころかデメリットのオンパレードである。

 

りゅうおうはチャゴスに断りの返事を告げようと口を開こうとしたが、チャゴスはそれを遮りこう告げた。

 

「当たり前だが貴様に選択肢はない、断るというのなら城へ貴様の人相と共に森林を焼き払った人物であると報告する。」

 

「………。」

 

りゅうおうはチャゴスの言葉に押し黙る。

 

「…だが、協力してくれるのならば、俺様に叶えられることならなんでも1つだけ叶えてやろう。どうだ?俺様は一国の王子、叶えてやれることは多いと思うが?」

 

チャゴスの言葉にりゅうおうは揺れる。

 

(…こいつの言う通りにすれば、間違いなくこれ以降表だった行動は制限される、若しくは困難になる……だが、欲しかった情報は得られる…オセアーノンを蘇らせたところで、所詮は魔物、人間のこいつのほうがより正確で多くの情報を齎してくれるだろう……けどなぁ…言う通りにすれば人を大勢殺すことになる…ひとりふたりならまだしも、いきなりそんな大量殺人に踏み切る勇気はないしな……)

 

人間から魔物に転生した直後に大量虐殺をした者の思考とは思えないが、あくまでもあれは魔物相手であり、人間が相手となると躊躇する。とんだヘタレである。いや、同じ人間相手では罪悪感の重さが違うのであろう。今は魔物なのだが。

 

りゅうおうは悩んだ末、チャゴスの計画に同意した。

なるべく人に被害がでないようにやろうと考えたのである。

 

「そうと決まれば話は早い、早速いまから計画を実行するぞ。」

 

いくらなんでも今の今では拙速すぎるのではないかとりゅうおうは思うが、一刻も早く情報がほしいのは此方も同じであり、渋々チャゴスに従う。

 

こうして、後に世界を震撼させることになる〈サザンビークの大虐殺事件〉は幕を開けたのである。



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第十話

 

太陽が堕ちていき、月が顔を出し始める頃。

りゅうおうは城壁の上にいた。

 

チャゴスの計画に乗りサザンビークを襲撃するため、りゅうおうはひとり、合図を待っていた。

 

打ち合わせでは、太陽が完全に沈んだころに城のバルコニーから呪文でこちらにタイミングを知らせる手筈となっており、それまでの間りゅうおうは誰にも見られぬように警戒しながら城壁の上で城を見る。

 

りゅうおうは昼の間に自身が使える呪文や、大まかな身体能力を調べていた。

 

その結果だが、これまでにも使用した閃光系、爆発系は上級まで使え、右手にもつ杖で剣技を使えることもわかった。

他には火炎系と暗黒系が中級まで、上級呪文も唱えてみたが呪文が発動しなかったので使えないらしい、剣技は使えた。

故にドラクエモンスターズのシステムである、とくぎが関係しているのではないかと推察する。

ギラ&イオ、メラ&ドルマのような感じで。

 

りゅうおうはモンスターズでは一枠だったので(竜王としては二枠、しんりゅうおうは四枠)後ひとつあるはずなのだが、最後のひとつは昼間の内には遂にわからなかった。

 

りゅうおうは城壁の上から城下町を見下ろす。

既に太陽は落ちかけ城下町を暗く染め上げ、家々の窓には明かりが灯り始めていた。

 

計画の実行までもう間もなく、りゅうおうは緊張と不安で高鳴る胸の鼓動を抑え、呟く。

 

「…大丈夫、呪文の練習(威力を抑えるための)もしたし、中級呪文までしか使わなければ範囲も威力も抑えられる。……何人かは死人が出るかもしれない…いや、死人を出さないようにやるんだ!やる前から弱気になってちゃだめだよな。」

 

誰も、自分以外いない城壁の上で誰かに語るように呟くりゅうおう。アブナイ奴である。

 

「…っと、そろそろ時間だが…合図はまだかな?」

 

りゅうおうが独り言を呟くうちに、太陽は完全に沈み月明かりがサザンビークの街を照らす。

 

城壁の上に佇むりゅうおうさえも。

 

りゅうおうは城の方を見るが、まだチャゴスからの合図はない。

それもそのはず、いま城の中はとんでもないことになっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

りゅうおうと別れて一人城へと戻ってきたチャゴスは、城の大広間に出た瞬間に大勢の兵士に十重二十重に取り囲まれ槍の穂先を向けられていた。

 

その一瞬の出来事に当のチャゴスは呆気に取られてしまった。数秒後に状況を把握したチャゴスは、包囲する兵士の中に見知った顔を見つける。それは、この国の兵士長であった。

 

「…貴様ら…、なんの真似だ…?…俺様の顔を見忘れたか?」

 

チャゴスは包囲する兵士達に問うが、返ってくるのは沈黙のみ。

 

「…ちっ…、おい!兵士長!これは一体なんだ!?…父上が知れば、貴様ら全員ただではすまんぞ!!」

 

問いかけを無視されたチャゴスは苛立ちながら、そう怒鳴るが、次に返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

「儂が命令したのだ、此奴らに非はない。」

 

包囲の向こうに大臣やこの国の貴族、近衛兵を連れたクラビウス王が立っていた。

 

「ちっ父上!?…これは…一体どういうことですか!」

 

「黙れっ!愚か者めが!最早貴様など儂の息子ではない!気安く父上などと口にするでないわ!」

 

クラビウス王に怒鳴り返され、怯むチャゴス、しかしチャゴスには何故父がここまで怒っているのか、何故兵士達に槍を向けられているのか、皆目見当もつかなかった。

それが顔に出ていたのだろう、クラビウス王は大きな溜め息をひとつ吐くと低い声で語りだした。

 

いままでチャゴスが起こした事件や不祥事の尻拭いや揉み消した事案、恒常的に行われていた、領民に対する乱暴狼藉の数々……果てはつい数時間前に発覚した地下牢の件。

 

「もうお前を庇うことはできぬ、大人しくこの城を立ち去れ…そして二度と戻って来るな…、できれば縄などは打ちたくない、せめて最後くらい親孝行してはくれぬか?」

 

感情を一切排除した声音で、クラビウス王はいい放った。縁を切ったとはいえ、息子は息子。できれば縄などは打ちたくなかった、だが目の前の息子は最初こそ話を聞いていたが、途中から耳を抑え、必死に現実から逃れようとしていた、暫くうずくまっていた息子はやがて唐突に笑い声を上げた。

 

「……フッ…クックック、アーハッハッハ!!」

 

「………。」

 

突然の息子の豹変に思わず後ずさるクラビウス王。

 

「…お話は…それだけですか…?……父上のお考えはよおく分かりましたよ……つまり…ボクを敵にまわすのですね…?」

 

チャゴスは父であるクラビウス王の目をみながら自身の右手を、天高く翳した。

 

「……ボク…いや、俺様を敵にまわしたことを…後悔するがいい。…あの世でな!!」

 

そういい放つや、チャゴスは空に向かって火球を打ち上げる。そして、

 

その場にいた全員の目がうち上がった火球に注目した隙にチャゴスは左手を此方へ向け、呪文を唱えた。

 

「バギクロス!」

 

呪文が発動し、その場を中心に巨大な竜巻が発生する、一瞬の虚を衝かれた兵士達は竜巻に巻き込まれ、天高く巻き上げられていく。

 

「王さまっ!お逃げください!」

 

近衛兵が即座にクラビウス王を自身の背後に移動させ、チャゴスに立ち向かうが、数秒と持たずに竜巻の餌食となっていく。

 

クラビウス王は、側近や貴族達とともに近衛兵が身を挺して稼いだ時間で、城の中へと走った。

 

だが、それを黙って見ているチャゴスではなかった。

 

「父上ぇ…一体何処に行こうというのです…?……クックック……ヒャーハッハッハ!」

 

後、数歩で城の門を潜るというところで、チャゴスの呪文が発動した。

 

「…地獄の雷を喰らうがいい……ジゴスパークッ!!」

 

チャゴスが右手の人差し指と中指を上に向けた瞬間地面が地割れを起こし、天に向かって紫電が迸る。

 

天を衝く巨大な光の柱が出現し、辺りを呑み込んでいく、そしてその中心で高らかに哄笑をあげる息子を見たのがクラビウス王がこの世で見た最期の光景となった。





りゅうおうのとくぎ、最後のひとつをなににするか、募集したいと思います。

モンスターズで出てくるとくぎや、全くの新しいとくぎを考えてくださっても構いません。あまりにもチート過ぎなければ。

感想にてお待ちしています!

次は来週の月曜日投稿です。
よろしくお願いいたします!


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幕間~迷宮の主~

 

「…我がこの世界を席巻していた頃から随分と長い時が過ぎた。」

 

かつては世界に覇を唱えた存在は、砂漠の迷宮の奥深く下層、深層と呼ぶべき場所でその存在を知覚した。

 

1000年前、己が身を滅ぼされる直前に発動させたとある儀式が、悠久の時を越えいま発動したのだ。

 

「遂に、来たか。」

 

その存在に身体はなかった。

所謂、精神体や思念体とよぶモノだった。

 

「…復活の日は近い。ふたたび地上へと舞い戻り、1000年前に果たせなんだ野望を…」

 

そう言うと、ふわふわと空中を浮きながらソレは動き出す。異世界からの客人を招くために。遠き同郷の存在をココへ向かえるために。

 

「…とはいえ、流石に1000年手をいれてないだけあって荒れ放題の崩れ放題じゃな…。」

 

ソレは自身がいる空間を見回す。

 

闇の祭壇。そんな言葉がふさわしい部屋は僅かに壁が土に侵食されており、石畳の石もひび割れ、本来の光沢も失われてしまっていた、それに―――

 

「……ちっ、だめじゃ…かつての配下も全て石になるかくたばったようじゃな……。」

 

己の配下に思念を送ってみるも反応がないどころか、そもそも存在を知覚できなかった。若しくはとある秘術によって、自らを石に変え眠っているものだけだった。

 

「仕方ない、誰ぞ起こしに行かねばの…、一番近いのは………んん?…いや、此奴はだめじゃ…他は……おお!……爺が近くに…!」

 

ソレは、近くの壁や地面に埋もれた巨大な骨や、地表で横たわる竜の骨を見やりながら近づき、その内のひとつに手をあて魔力を流し込んだ。

 

「…爺…起きよ……ぐぐっ……年寄りの癖にやたら魔力を吸いおって…………ええい!…ぬん……!!」

 

骨に流し込む魔力の量を一気に上げる。すると。

 

土に埋もれた骨が光だし、肉をもち皮をもち始めた。

そして。

光が完全に止んだとき、ソレの前には一頭の白銀の竜が頭を垂れて、出現していた。

 

「…若…久方ぶりじゃの…」

 

「爺、年寄りの癖に復活のための魔力が多すぎるぞ、我でなければ、到底でできなんだわ。」

 

「…フン、それだけ儂が高位の存在ということよ…ところで、儂を復活させたということは…。」

 

骨の状態から蘇った白銀の竜は若と呼ぶ存在の愚痴をさらっと流し、言葉を続ける。

 

「うむ…、遂に転生者が現れたようじゃ。」

 

「…やはり…では、ココヘ?」

 

「うむ、招こうと思う。」

 

「…承知致しましてございます。では、某は他の者を起こして参ります。」

 

白銀の竜は途中から口調を正した言葉使いへと変え、くるりと後ろを向いた。

 

「うむ。任せた…後で祭壇を綺麗に調えておいてくれ…。」

 

「承知…若?…どこへ…?」

 

「客人に招待状を出しに…な、すぐ戻る。」

 

そう言うと、ソレはその場から消えるように何処かへ向かって行った。

 

後に残った白銀の竜は、その姿を見送ると踵を返し、任された仕事をこなすため、迷宮の下層へと登っていった。



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第十一話


遅れてしまい申し訳ありませんでした。


 

城から合図が上がるのを、りゅうおうは見た。

 

「やっとか、…よし!…………ん?」

 

しかし、城から上がった合図のすぐ後に一陣の竜巻が起こるのを見て、足を止める。さらにはその少し後に巨大な光の柱が天を衝く光景が広がる。

明らかに何かおかしい。

 

「打ち合わせの内容とだいぶ違うが…、そんなに派手に呪文ぶっぱなして大丈夫なのか…?」

 

打ち合わせでは、りゅうおうが街に攻撃を加えてからチャゴスが動き出す手筈であった。りゅうおうを表向き撃退して、英雄を気取る計画であった筈だが…。

 

りゅうおうはなにかしら不測の事態に陥っていると判断し、チャゴスの救援に向かうため当初の計画を変更し、城へと急いだ。

 

一方その頃、城の内部では血みどろの惨劇が展開されていた。キレたチャゴスが城中の人間を鏖殺せんと剣を片手に手当たり次第に攻撃を加えたからである。

既に城の一階部分にいた者達は裏口から逃げた者以外は全て、ただのしかばねになっていた。返事はないようだ。

 

「これ以上進ませてはならん!王の遺骸を守るのだ!」

 

「も、もう持ちません!突破されます!」

 

「いかにチャゴス王子といえど一人の人間!数の差で押し込むのだ!」

 

二階へと上がる階段の上で即席のバリケードをつくり、兵士や魔導師たちの呪文で弾幕をはるも、チャゴスには大した壁には成り得ていなかった。

 

「ククク…どうした!貴様らは映えあるサザンビークの近衛兵であろう…!…この程度ではなにもないのと同じだぞ!」

 

チャゴスは飛んでくる呪文を剣で薙ぎ払い、集団のど真ん中に呪文を叩き込んでいく。

 

「ヒャダルコ!」

 

「ぐあーっ!」

 

「手、手が…俺の手がぁぁあぁぁ…!!」

 

「…くっ!王子のMPが切れる迄耐えるのだ!呪文さえなければなんとかなる!!」

 

とは言うものの、兵士達はみるみる後退を余儀なくされ遂には二階へとチャゴスの侵入を許してしまっていた。ここを突破されれば兵士達に後はない。

 

「フン、たとえMPが尽きたとて、貴様らごときに後れをとるほど俺様は容易くはないぞ!?」

 

しかし、MPが尽きればいままでのようにはいかなくなることは確かであり、事実感覚的にはそろそろ限界が近いことにチャゴスは気づいていた。

 

チャゴスは兵士達に攻撃を加えつつも頭では冷静に状況を分析していた。

 

(…こいつらは恐らく死んでも降伏はしないだろう…いや…命令する人間が消えれば瓦解するか…ならば兵士長を先に叩くか……。)

 

チャゴスは兵士長に狙いを定め、剣で斬りかかった。

 

キンッ!!

 

乾いた音が辺りに響きチャゴスと兵士長の闘いが始まるも勝負は瞬きの間に終わった。

チャゴスが上段から降り下ろした剣は、防ごうと間に入った兵士長の剣を両断し頭から真っ二つにする。

 

「…ひ、ひぃぃぃ!」

 

「兵士長がやられたー!」

 

「もうだめだ!逃げろー!」

 

兵士長がやられたのを目の前で見た兵士達は散り散りに逃走する。

 

「フン、所詮俺様からすれば雑魚の群れにすぎんわ…さて…残るは大臣共、貴族の連中か…。」

 

チャゴスが玉座の間の扉に手をかけた時、下から声が聞こえてきた。

 

「な、なんだこれ!…酷い…。」

 

りゅうおうが遂に城に到着したのである。

 

「…そういえばこいつがいたな、忘れておったわ。」

 

チャゴスはりゅうおうの存在を完全に忘れていたことに気づき、上から声をかけた。

 

「悪いが計画は中止だ。もう貴様に用はないゆえどこへなりと立ち去るがいい。」

 

チャゴスはそう言い放つと、獰猛な笑みを顔に貼り付けゆっくりと扉の中へと入っていった。



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第十二話

 

チャゴスが玉座の間に入っていったあと、りゅうおうは足下に散らばる兵士だった肉塊を踏みつけないように、チャゴスのあとを追っていた。

 

計画は中止になり街を襲撃しなくて済んだとはいえ、今更やっぱなしなど納得ができないからである。

 

それにいまこの場で行われている殺戮をみてみぬふりもできないとりゅうおうは考え、玉座の間の扉を開け放った。

 

中へと入ったりゅうおうの目に飛び込んできたのは、切り刻まれた貴族達のしかばねと、いままさにチャゴスによって首を落とされようとしている大臣の姿だった。

 

「……ん?…貴様か…なんの用だ、貴様にはもう用はないぞ?」

 

「………なにを……?」

 

りゅうおうが部屋に入ってきたことに気づいたチャゴスは、大臣の首に剣を当てたまま目線だけをりゅうおうに向けて用件を問う。

それに対してりゅうおうは、何故こんな殺戮を行っているのか逆に問う。質問に質問で返すとは…

 

「なに、こやつらが愚かにも俺様に剣を向けてきたゆえ…処刑しているだけのことよ。」

 

りゅうおうはチャゴスから先刻の出来事を簡単に説明し、唐突に笑いだす。

 

「…ククク…ハーハッハ!」

 

突然笑い声をあげるチャゴスにりゅうおうはえもしれぬ怒りを覚えた。

 

「…………だ…。」

 

「なんだと?」

 

「やり過ぎだと言ったんだ!」

 

りゅうおうは遂にチャゴスの身勝手さに激高した。

りゅうおうが怒鳴ったのが意外だったのか、チャゴスはきょとんとしていた。

 

「なにを怒っているのだ貴様は…?」

 

チャゴスには本当にわからないようで、りゅうおうに問う。

その態度がさらにりゅうおうの怒りに油を注ぎ、怒りの炎が燃え上がる。

 

「ここまですることかっ!全て己の自業自得だろうが!クズめ!」

 

「…なぜ怒っているのかわからんが……俺様をクズだと?…貴様も此奴らと同じ凡愚か…。」

 

チャゴスは顔にあからさまに失望の色を浮かべると左手をりゅうおうに向けた。

 

「…俺様に楯突く輩は、誰であろうと殺す!」

 

チャゴスの左手に魔力が集まり光を放つ。

 

「グランドクロス!」

 

チャゴスは左手で十字を切り光をりゅうおうに解き放つ。

 

迫る光の奔流にりゅうおうは己の魔力を両手に集め、呪文を唱える。

 

「ベギラゴン!」

 

二つの閃光はぶつかり合い、眩い光を放ち衝撃波がうまれる。

 

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………ぐっ………………。」

 

あれからなにがどうなったのか、りゅうおうは瓦礫の中で目を覚ました。

 

「…っ!…奴は…!?」

 

辺りを見回すもチャゴスの姿は見あたらなかった。

サザンビークの城はりゅうおうとチャゴスの激突により半壊し、所々で煙が上がっていた。

 

「……痛っ…!!」

 

身体を起こそうとすると痛みが走る。

 

「…なんにせよ、早いとこ移動しないと…。」

 

痛みを訴える身体を無視し、無理矢理起き上がるりゅうおうに背後から声がかかった。

 

「お、お待ちください!」

 

振り向いたりゅうおうの目の前には、頭を切ったのか血を流しながらもサザンビークの大臣が立っていた。



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第十三話

 

きらびやかな玉座は瓦礫に埋もれ、栄光は地に落ちたサザンビーク。

りゅうおうはいま城跡に設置された幕舎の中で紅茶を飲んでいた。

 

「なんでこうなった…。」

 

チャゴスとりゅうおうの激突後、瓦礫の中で大臣に呼び止められたりゅうおう。

大臣の懇願によってこの場に引き留められていた。

大臣からすればりゅうおうは命の恩人であり、また国の恩人でもあった。

もしあの場にりゅうおうがいなければ、大臣は殺され荒ぶるチャゴスの矛先は自国の民に向いていたかもしれない。

 

「お待たせして申し訳ありません、もう暫くお待ちください。」

 

「いや、かまわないんだが…」

 

護衛兼監視の兵士に紅茶のおかわりを求めた所で幕舎に大臣が入ってきた。

 

「お待たせして申し訳ありません魔術師どの!謁見の準備が整いましたので、わたしについてきてください!」

 

大臣に言われるがままついていった先は臨時の野戦病院のような場所だった。

片腕がないものや、下半身が凍傷になってしまい歩けなくなってしまった者達の呻き声の間をすり抜けて奥へと進んでいると、一際豪華なベッドに横たわる人物の前で止まった。

 

「魔術師どの…この方がサザンビーク国王、クラビウス陛下です。」

 

りゅうおうの目の前に横たわるクラビウス王は、全身を包帯で包まれ右腕と左足は欠損していたが、片目をしっかりと開けてりゅうおうを見つめていた。

 

「……ご…っ…まお…は……」

 

口を頻りに動かしてこちらに言葉を伝えようとしてくるが喉をやられているのか空気が漏れてしまい、全く聞き取れない。

 

「王子の呪文でこのような姿に……。」

 

大臣の話では呪文を受けた直後は完全に死亡しており、蘇生魔法によって生き返ったという。

視力も失っており眼を開いてはいるものの、回復する可能性は絶望的だと大臣は語った。

 

「…魔術師どののお力をお借りしたく…王の傷を癒してほしいのですが…」

 

大臣はすがるように見つめてくるが

 

(いや、無理だろ。俺回復魔法つかえないし…)

 

りゅうおうは大臣に対して無言で首を横に振る。すると大臣は見るからにガッカリしたように肩を落とす。

 

「…そうですか…もしやと思ったのですが……。」

 

どうやら俺は王の怪我を直すために呼ばれたらしいが、全くもって役に立たないようだ。

 

「…わざわざご足労いただきありがとうございました…後程我々を救って頂いた報酬をお渡しいたしますので、先程の幕舎でもう暫くお待ちください。」

 

大臣にそう言われ幕舎にひとり戻るりゅうおう。

 

「…報酬か…。」

 

りゅうおうは当初の目的通り、この世界について尋ねるつもりである。

だがチャゴスは見るからに別人でしかも行方不明、クラビウス王は虫の息で、いつ死ぬかもわからない。

原作が始まっているかはわからないが、太陽の鏡も瓦礫の下に埋まっているので、主人公達がサザンビークに来ても闇の遺跡の結界を解く手段がなくなってしまった。



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第十四話

 

幕舎で待たされていたりゅうおうはいま、大臣の邸にいた。城が半壊してしまったため、落ち着いて話しができる場所が城内になかったためである。

大臣の家族は出払っており邸には大臣とりゅうおうの二人だけである。

 

「この世界について、ですか…?」

「はい。実は………。」

 

りゅうおうは大臣に対して報酬はこの世界についての知識を求めた。

 

 

 

細かい部分はぼかして気づいたらこの世界にいたこと、自分は人間ではないことを大臣に説明する。

最初は疑っていた大臣も、りゅうおうの必死さに次第に真実であると思い始めていた。

 

「にわかには信じられませんが……異世界から迷いこむという事例は過去にも確認されていますし、ありえないことではないのですが………、魔物…失礼しました。竜神族でしたな、そんな種族は聞いたことがありません。」

 

「本当なんです、人間とも魔物とも違うエルフのような存在なのですが……。」

 

大臣は暫くうむむと唸ったあと命の恩人の言葉ならと、この世界について語りだした。

その内容は概ねドラクエ8の知識と同じだったが、細かい所で知らないことがあったり、他作品の要素が見受けられた。

 

「固有スキル……ですか…?」

 

「はい。人間は産まれたときに教会で洗礼をうけます。洗礼をうけるとLvが1になり、この世界の仕組みに受け入れられます。洗礼を受けなかった場合は世界の仕組みに弾きだされ、生後間もなく死亡します。そして、洗礼をうけたときに神から授かるものが固有スキルとよばれるものです。」

 

大臣によるとこの世界の人間は誰しもが固有スキルを持っており、その種類は無限にあると言われているが、固有スキルが他人と被ることもあり、スキルのレア度という概念もあると説明された。

 

「レア度は三段階あり、下からブロンズ、シルバー、ゴールドとなります。それら以外にもユニークというレア度があるのですが、これは現在までに各一人しか発現が確認されていないスキルですので、特殊な扱いになります。」

 

固有スキルとは、所謂主人公のゆうきや、ヤンガスのにんじょうなどのことであり、大臣はりゅうおうの前にスキル辞典と書かれた分厚い本を差し出した。

 

「その本にはいままで存在が確認された全スキルがレア度の分類別に載っています。」

 

大臣はそう言って本を開きながら話しを続ける。

 

「この辞典は教会が出版しているもので、かなり正確なものですのでご安心を。りゅうおうどのはどんなスキルをお持ちですか?」

 

大臣に聞かれ答えに窮する。ステータスがみれないのだから自分のスキルなどわかるわけがない。

正直にスキルがわからないと伝えると、大臣に質問された。

 

「元いた世界では教会に行かれなかったのですかな?

この世界とは仕組みが違うのかもしれませんな。教会に行けば自分のステータスを確認できますので、いまから行きませんか?」

 

大臣の提案を受け入れると、さっそく教会に向かう。

教会なかは礼拝する人で溢れかえっていた。

それもそのはず最近は立て続けに凶事が起こり、サザンビークの領民は明日への不安を抱いていたのだ。

その凶事のほぼ全てに関与しているりゅうおうは礼拝する人々をみて、熱心な信者達だなと考えていた。暢気なものである。

シスターに連れられて大臣と共に教会の奥へと進むと、大きな水晶玉が中央に置かれた部屋へとたどり着いた。

シスターに促され水晶玉に触れると、空中に文字が浮かび上がった。

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

Lv 33

系統 ドラゴン

ちから 98

すばやさ 170

みのまもり 58

かしこさ 240

こうげき力 198

しゅび力 128

さいだいHP 320

さいだいMP 450

EX: 184052

次のLvまで 2406

 

 

 

そうび

E りゅうおうの杖

E りゅうおうのローブ

E りゅうおうのフード

E りゅうおうのネックレス

 

 

 

スキル

最強イオ&ギラ 60p

メラ&ドルマ 100p

覇王 0p

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

(これが俺のステータスかぁ………)

 

りゅうおうが空中に浮かび上がる自分のステータスをみて小さく感動する横で、大臣とシスターは眼を剥いていた。

 

(スキルが3つしかないし、武器スキルがない……しかもどれも聞いたことがないスキルばかり……、やはり人間よりも魔物に……。)

 

大臣に若干警戒の眼を向けられるも、それには気づかないりゅうおうであった。



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