新・平成ライダー創世記 (ニーソマン)
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序:会議室

2016年ーーー

8月 1日

 

PM 13:00

警視庁の一室。

重々しい雰囲気を纏うこの部屋に数人の刑事が集まっていた。

 

ドアのプレートには

〔超常現象緊急対策本部〕

と達筆な行書で張り紙されている。

 

 

室内には6人の男女…と言っても女性は1人。

男性も皆、細身故か暑苦しさは無いものの、

ほとんどが無愛想な面持ちで、重苦しいという言葉が良く合う。

さらに全員が喋らず、無音なためより空気が淀んでいる。

 

 

苦笑いを浮かべている紅一点。

大門凛子はこの状況に耐え切れず、

隣に座る赤い革ジャンを着た男に疑問をぶつける。

「あの…」

「…なんだ?」

 

相当目つきが悪い。警官と言うより容疑者顔だ。

 

「私、突然ここに呼ばれたんですが…

一体何が始まるんです?」

 

少しの沈黙。気まずい。

 

「いいか。」

「は、はい…」

「俺に質問をするな」

「えっ…あ…すいませんでした…」

 

駄目だ。日本語が通じない。

凛子は心の中で悲鳴をあげる。

 

 

彼女は今朝、いつも通り少し遅刻気味に鳥井坂署に出勤。

着替え終わったところで署長に突然警視庁への異動を言い渡されたのだ。

それ故、何故自分がこんな状況に置かれているかがわからない。

 

踏んだり蹴ったりな1日である。

 

 

 

「多分みんな分かってないと思いますよ」

「えっそうなんですか?」

 

頭を抱えている凛子に話しかけてくるのは熱血そうな青年。

 

「俺は今朝突然ここに来る様に…って言われたんですけど、場所以外教えてくれなくて。」

「私もです…」

「あ、僕もです」

対面に座っている男性も頷く。

 

徐々に会話が生まれ、騒がしくなっていく室内。

それを制止するかの様に、コンコン、とドアが叩かれる。

会話をしていた者は唾を飲み、そうで無い者もドアに視線を向ける。

 

 

「失礼します」

「失礼しますよ〜」

「失礼します!」

 

紳士的な印象を与える凛とした男性。

調子の良さそうな初老の男性。

そして、テレビで見た事のある元気な青年の3人が入室する。

 

 

紳士的な男性が正面の席中央に座り、話し始める。

「皆さん、お忙しいところ急にお呼びたてして申し訳ない。

私は長野県警捜査一課の一条薫。本対策本部の部長を務める。よろしく。」

一条と名乗る男性。

所謂、所轄の人間が何故警視庁の対策本部部長を…?

そんな疑問が室内を染める。

「私は本願寺純。本庁の捜査一課所属です。よろしく♪」

初老の男性の挨拶は場の雰囲気と全く合っていない。

「俺…自分は、警視庁捜査一課の泊進ノ介です!」

元気な青年。どうもこういう場は苦手らしい。

 

 

「あぁ!」

凛子が感銘の声をあげる。

「仮面ライダーの!」

 

周囲もあぁ、と声をあげる。

 

「さっすが泊ちゃん、有名人ですねぇ〜」

「あはは…照れるな…」

正面の席でイチャつき始める2人組。

 

 

「さて、気づいている者も居ると思うが彼は昨年ニュース等でも話題になった仮面ライダードライブこと、泊進ノ介巡査だ。

今回君達に集まってもらった事とも深く関係する。」

 

そしてその場にいた全員は納得した。

ーーーーあぁ、またか。と。

 

 

「単刀直入に言おう。世界の危機が訪れた。仮面ライダーを招集してもらいたい。」

 

 

 

 

 

大門凛子の夏季休暇の消える音が鳴った。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。



凛子ちゃんが主人公のような書き出しになってしまいましたが、
そんな事は無いです。

プロットとかナシで進めるので
ガバガバになりそうだなぁ…


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壱:非常招集

それぞれの時系列や年齢がバラバラですが、
大体が
「作品+5年」の見た目
「刑事として集まれる時間帯」を生きている
ということでお願いします。

じゃないと一条さんとかあまりに年上すぎるので。


「そろそろお気付きかと思いますが、皆さんの共通点は、『過去に仮面ライダーと関わっていた』と言う点なんですねぇ〜」

 

本願寺の気の抜けた声がシンとした室内に響く。

 

「さぁて、大方の事情も分かったでしょうから、自己紹介、いっちゃいましょうかねぇ〜??

まずは泊ちゃん!」

 

全く摑みどころのない展開に戸惑う一同。

それに構わず進む会議。…会議?

 

「じ、自分は警視庁捜査一課の泊進ノ介です!元特状課所属で、仮面ライダードライブとして、機械生命体ロイミュードと闘いました。

今はベルトさん…えっと…装備一式を封印状態なので、変身することは出来ませんが、精一杯頑張ります!よろしくお願いします!」

 

やる気いっぱいの挨拶とは裏腹に彼のネクタイは軽く緩んでいる。

緊張のせいでギアが噛み合っていないのだろう。

 

「じゃあお次は紅一点。大門凛子さん、お願いします」

「えっ!あ!はい!」

 

思いもよらぬ指定に慌てる凛子。

座っていたパイプ椅子につまずきながら立ち上がる。

 

「えっと、鳥井丸署の大門凛子です。

指輪の魔法使い、仮面ライダーウィザードと一緒に人々を絶望に陥れるファントムと闘いました。」

 

「そのウィザードは行方が知れない、と聞いているが、君は所在を知っているか?」

 

一条が口を挟む。

 

「はい。と言っても正確な場所が分かる訳では無いのですが…

彼は今、闘いに身を投じた女の子が静かに眠れる場所を探して旅に出ています。連絡手段は…ありません」

 

「なるほど。割り込んでしまって申し訳ない。」

「いえ、大丈夫です。」

 

 

「ほんじゃ次は…照井竜さん、お願いします」

 

先ほどの無愛想な赤い皮ジャンの男が凛子と入れ替わる様に立ち上がる。

 

「風都署の照井だ。仮面ライダーアクセルとして仮面ライダーWと共に街をドーパントから守っている。」

 

風都、という単語に周囲がざわつく。

犯罪発生率が異常な街として、警察内ではある意味有名な土地だ。

また、所轄なのに本庁の忘年会に毎年呼ばれ、一芸を披露するお笑い芸人の様な警官がいる事でも有名である。

以上、と言うとムスッと着席する照井。

 

「ほんじゃお次は、氷川誠さん。」

 

「は、はい!」

ガタゴト、と大きな音を立てて立ち上がる凛子の対面の警官。

堅物で無器用そうな青年である。

 

「自分は氷川誠と言います。G3ユニット…仮面ライダーG3として仮面ライダーアギトやギルスと共に未確認生命体アンノウンと闘いました。よろしくお願いします。」

深々と礼をし着席する氷川。

 

 

「次は、加賀美ちゃんね」

「はい!」

 

小学生の様に右手を突き上げ立ち上がる加賀美。

凛子に話しかけていたのは彼だ。

 

「相変わらず元気ですねぇ〜」

本願寺が思わず口を挟む。

 

「俺は先日、捜査一課に配属された加賀美新です。元ZECT所属でしたが、解体後に部署を転々として本願寺さんのお陰でこちらに移ってきました。」

「いえいえ、加賀美ちゃんの努力の玉のもですよぉ」

「ほんっと助かりました!」

言葉を交わし合う本願寺と加賀美。

ZECT解体は警察上層部に大きな波紋を生んだ。

溢れてきた優秀な若者をキャッチするのが本願寺の役割だったのだろう。

以外と抜け目の無い男である。

 

それと、と加賀美は続ける。

「仮面ライダーガタックとして仮面ライダーカブトと共に地球外生命体ワームと闘いました。以上です!」

 

満面の笑みで着席する加賀美。

一条は微笑ましく見守るが、泊は苦笑いを浮かべている。

(面倒くさそうな人だ…)

熱血バカ、という言葉が似合う加賀美。

悪い人では無いのだが、どうも人を選ぶ。

 

 

「さて、お次は…朔田流星さん、お願いします」

「分かった。」

スッと立ち上がる朔田。

 

「俺はインターポール所属、朔田流星だ。」

 

インターポールという響きにムスッとしていた照井でさえも

「ほぅ…」と反応を示す。

 

 

「学生時代に仮面ライダーメテオとして仮面ライダーフォーゼや仮面ライダー部の仲間たちとゾディアーツと闘った。」

 

「学生時代!?」

「仮面ライダー部…?」

周囲から驚きの声が上がる。

前者は加賀美。後者は照井だ。

「あぁ…高校の同級生が敵だったり、理事長が黒幕だったり、中々に濃ゆい学生生活だった…」

この男からは爆弾発言が止まらない。

 

「ま、まぁ彼は君達の中でも相当特殊な経験を積んでいる。詳しい話はまたの機会にしよう。」

一条が間に入り場を鎮める。

 

 

「そういう事だ。以上。」

説明を諦めた朔田が着席する。

 

 

 

「最後に後藤ちゃん、お願いしますよ」

「はい。」

立ち上がる後藤。

 

「後藤慎太郎と申します。よろしくお願いします。

まずはこちらの資料をご覧ください。」

そう言って全員の机の前に辞書ほどの暑さのある報告書をドン、と置いて回る。

 

「152頁をご覧下さい。800年前のとある国の王ーーー

 

 

ーーーーーーーー1時間後ーーーーーーーーー

 

 

その結果、一年に渡る戦いの末、恐竜グリードを…」

「はい、後藤ちゃん、そこまで。」

流石の本願寺も止めに入る。

当の本人は、はっとすると、

「すいません…自分こういう事をやると止まらなくて…」

どうも猪突猛進な石頭らしい。

 

 

「構わないが、程々に気をつけるように。

ところでオーズもウィザード同様に行方知れずと聞いているが?」

一条が慰めついでに疑問を投げかける。

 

「あ、753頁を…」

「一言で頼む。」

「すいません…たまに連絡を取っていますが今はイスラエルに居るそうです。」

「そうか。ありがとう。」

本願寺はやれやれ、といった表情で、

他のみんなは疲れ切っている。

 

 

 

さて、と一条。

「お疲れのところ申し訳ないが、最後の自己紹介だ。改めて、私は一条薫。16年前の未確認生命体対策本部に所属していて、未確認生命体4号、通称「クウガ」と共に殺人集団、グロンギと闘った。」

 

またもざわつく室内。

16年前、東京を中心に発生した大量殺人の一連の事件。

その事件に仮面ライダーが関わっていた事は当時の事件担当者か上層部しか知らない事実。

 

それをサラリと公表したのであるから当然だ。

 

 

「未確認生命体って仮面ライダーだったんだ…」

「4号ってクウガか…」

 

蛇足だが、氷川はその事実を知っている。

彼の装着するG3ユニットは、未確認生命体4号をモデルに作られた物だ。知っていても可笑しくはない。

 

 

 

 

「前置きが長くなってしまったが、ここからが本題だ。」

一条の言葉で緩んでいた空気が引き締まる。

 

「先日、財団Xと名乗る団体から封書が届いた」

 

ピクリ、と数名が眉を寄せる。

 

「本来なら、イタズラかその類として処分・もしくは処罰されるのが一般的だが…」

「郵送で届いた筈なのに関わらず、送り元不明。それどころかいつ投函されて誰が届けたのかも不明。挙句に文章がこんな内容ですからねぇ〜」

本願寺が前のホワイトボードに資料を張り出す。

手紙を拡大印刷したものだ。

 

 

仮面ライダーヲ集メヨ

サモナクバ

世界ハ闇二飲マレル

 

 

「…血?」

朔田流星が声を漏らす。

 

 

「そうだ。成分検査と科捜研の鑑定では、ヒトの血液で、しかも指で書かれている。」

全員の背筋が凍る。

 

「血文字で書かれた由来が一切不明な手紙。そして財団Xの文字。流石に動かない訳には行かないでしょう?」

 

「罠だという線も考えたが、誰かからのSOSの可能性もある。それを吟味するべく一旦警察側で極秘裏に仮面ライダーを集めようと言うわけだ。」

既に室内には先程までの空気は流れていない。

真夏日だと言うのに肌寒い程だ。

 

 

 

「私からは以上だが、何か質問はあるかね?」

 

はい、と朔田。

「いつから仮面ライダーを招集するのですか?」

「今日から、です。だから緊急に集まって貰ったんですよ」

本願寺が答える。

 

右手を挙げる照井。

「期限は?」

「1週間です。状況次第では短くなる可能性もあります。」

 

続けて後藤。

「方法は?」

「このあと説明しますが、2人1組のチームで指定の仮面ライダーを集めて貰います。」

 

さらに加賀美。

「もし、見つからない仮面ライダーが居たら…?」

「捜索を続けつつ行動を開始します。」

 

そして氷川。

「日常業務はどうすればいいんでしょう?」

「その辺は私におまかせ下さい。上司の方には上手く言っときますから」

 

 

あの、と凛子が声をあげる。

「もし、仮面ライダーが参加を拒んだ場合は…?」

凛子としては、仮面ライダーウィザード、操真晴人を、もう戦いに巻き込みたくない、という意思が強い。

 

「もちろん、尊重してあげて下さい。」

優しい笑顔で返す本願寺。

 

他に質問はありませんかー?と本願寺。

誰も反応を示さない。

 

 

「では、君達には早速今日から仮面ライダーの捜索に当たってもらう。チーム分けはこちらで勝手に割り振った。」

「理由は、人間性、担当地域、様々ですよぉ」

 

 

 

またホワイトボードに大きく張り紙がされ、視線が一堂にあつまる。




ご覧いただきありがとうございます。

前置きがながくなってしまいましたね。

はてさて、無事に完結できるのか!?



感想と批評を頂ければ幸いです。


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弐:不器用な戦士と笑顔の戦士1

「これ…どうやるんですか?」

「待って下さい。今説明書を…」

 

氷川誠と後藤慎太郎。

狭い覆面パトカーの車内で2人はカーナビと格闘をしている。

 

《目的地を設定しました"恐竜屋本店"でよろしいでしょうか?》

「あぁ!違う!」

「説明書がない!」

 

この30分間、

氷川はカーナビにレストラン"アギト"を入力しようと奮闘するものの、ひたすらに有名カレー店をセットし続けている。

一方後藤は説明書を探しているが、後付けのカーナビなので、ないと考えたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ホワイトボードに張り出された組み合わせ。

チームぶきっちょ 氷川誠、後藤慎太郎

担当:仮面ライダーアギト、555、オーズ

 

恐らくメンバー分けは本願寺によるものだろう。

悪意のあるチーム名である。

 

 

他には、

チームリア充 照井竜、朔田流星

チームヤング 加賀美新、泊進ノ介

チームクール 一条薫、大門凛子

といった面々だ。

名付け親の本願寺は、

「私は統括ですから常にここにいますよぉ〜」

と、お茶をすすりながら携帯でいつもの占いをチェックしていた。

 

 

 

そんなこんなで割り振られたこの2人。

 

 

《目的地を設定しました"恐竜屋池袋店"でよろしいでしょうか?》

「だぁああああ!もぅ!!」

豆腐をハシで掴めない男、氷川と。

「説明書!!!!!!!」

容量を掴めない男、後藤慎太郎。

 

 

全く捜索にが進展しないまま40分。

♪デデンデンデデン〜やーみのなーk

不意に氷川のガラケーが鳴る。

 

 

「はい、氷川です」

「あ、もしもし?氷川ちゃん?」

「本願寺さん?どうしました?」

「いえね、まだパトカーが動いてないって聞いたから、あぁカーナビで躓いたのかな、と思いましてね?」

「う…その通りです…」

本願寺純、意外と抜け目のない男である。

 

「代わりに後藤ちゃんのスマホにデータ送っときましたんで、そっちを使って下さい」

「えぇっ!ありがとうございます!」

「いえいえ〜頑張ってねぇ〜」

 

 

 

 

こうしてようやく動き出すチームぶきっちょ。

 

「意外と小回りの効く人、なんですね」

スマホを操作しながら、後藤。

 

「ええ。少し意外でした。」

運転しながら、氷川。

 

 

というか、言葉を続ける氷川

「後藤さんは機械出来るんですね?」

「えぇ、一応は。でも、説明書を熟読しないと使うのが怖いので…」

「いいなぁ、僕は全然ですよ。車の試験だって何回やり直した事か。」

お互いに似た雰囲気を感じたのか、スムーズに馴染んでいる2人。

人付き合いは器用にこなせるらしい。

 

 

「今から向かう"アギト"と言うのは?」

「仮面ライダーアギト、津上さんが経営してるレストランなんですが…」

「仮面ライダーがレストランを?」

「えぇ、変な人でして、家庭菜園とか、料理が趣味の人で。器用になんでもこなすんですよ。手品とか。」

「なんか、随分と柔らかい人なんですね。」

後藤の脳裏にオーズ、火野映司の姿が浮かぶ。

「変身したら人が変わったように淡々と戦うんですけどね。」

「へぇ…会ってみたいです。」

「もう、そろそろ…着きましたよ。」

路肩に車を停める氷川。

 

「久しぶりだなぁ…ここ。」

「そうなんですか?」

「仕事が忙しくて、道を忘れちゃうくらい久しぶりです。」

頭を掻きながら語る氷川の目はどこか遠くを見ている様だった。

 

 

「さ、行きましょう」

白を基調とした洋風な店のドアに手を伸ばしノックする。

 

…返事はない。

 

 

「あれ?休業日じゃないよな?」

ドアに書かれてる営業時間を氷川が確認する。

 

「氷川さん…あの…」

「えっ?」

一歩後ろにいる後藤が青ざめた顔でこちらに話しかける。

「あれ…」

 

ドアの反対側に貼られている、

[売家]の看板を指差しながら。

 

 

「えっ!?」

「「ええええええええええええええ!?」」

2人の悲鳴は人が少ない通りを響き渡った。

 

 

「どどどどどうしましょう????」

完全に慌てている氷川。

 

「携帯番号とか、共通の知り合いとかは…?」

「先月携帯が水没してしまって…電話帳が…」

想定外の事態に慌てふためく2人。

 

 

「このお店に、何か用かい?」

振り向くと腰の曲がった老婆が話しかけてきた。

 

「あぁ、はい…その、知り合いの店でして…」

正気を失った氷川が答える。

「そうかい、この店は半年前に閉店してねぇ…とてもいい店長さんだったんだけど、お人好しすぎて、経営が上手く行かなくなったのさ。」

「津上さんらしいな…」

「ここらの人間で何とかしようとしたんだけどねぇ…」

どうやらレストランアギトは地元に人間に愛されていたようだ。

 

 

「そうだったんですね、ありがとうございます。」

深々と頭をさげる氷川。

 

「悩んでいても仕方ないですし、予定通りに次の目的地に行きましょう。」と前向きな後藤。

 

「そう、ですね。」

「ついでにそこで夕食でも如何ですか?」

 

少し嫌味にも感じる後藤の発言に氷川もムッとしたが、

すぐに後藤なりの励ましと自分と同じ不器用さが伝わり、是非、と快く了解した。

 

 

 

 

 

 

 

20分後、後藤に案内で着いた先は、

多国籍料理店クスクシエ

アジア風の様な、インド風の様な不思議な外観を持つお店。

 

美味しそうな香りに2人のお腹が鳴る。

 

店に入ると、「いらっしゃいませー!!」

と、インドの民族衣装、サリーに身を包んだ女性店員が現れる。

 

「あらー!後藤くんじゃない!久しぶり!」

「お久しぶりです。」

やたらテンションの高い女性はクスクシエのオーナー、白石知世子。

身元不明でパンツを手に持つ変態と、ニワトリ見たいなヤンキーを親身になって住み込みでバイトをさせる(シフト自由)

という超が付くほどのお人好し。

それでも店が潰れないのは料理の味と彼女の人柄による物が大きいだろう。

 

今日も平日の夕方にしては、中々の混み具合である。

 

「あら、お隣さんは?」

「後藤くんの同僚の、氷川です。よろしくお願いします。」

「ご丁寧にどうも。話は聞いてるわよ。奥へどうぞ!」

「ありがとうございます。あ、それと食事をしても大丈夫ですか?」

「もちろん!大歓迎よ!ごゆっくり〜」

 

そう言うと知世子は手を合唱の様に合わせ、体を揺らしながらオーダーを取りに行った。

「本願寺さんに似てますね…」

「わかる気がします…」

 

苦笑いを零しながら用意された席につく2人。

「お久しぶりです。後藤さん。」

席には1人の少女が座っている。

 

「お久しぶりです、泉さん。」

泉比奈。

仮面ライダーオーズとグリードの戦いに身を投じ、生き延びた少女。

(彼女が、そうか)

行き掛けに話を聞いていた氷川は、心の内で納得する。

 

「氷川誠です。よろしく。」

「お兄ちゃんと同じ職場の氷川さん、ですよね?」

「あぁ、信吾くんにはいつもお世話になっているよ。」

 

氷川誠と泉信吾はたまに同じ事件を追う事もあり、よく知った仲である。

彼が1年間病気療養していたのは知っていたが、まさか兄妹揃って仮面ライダーオーズと関わりがあったとは。

 

「最近はお変わりありませんか?」

着席を促しながら後藤が比奈に投げかける。

「そうですね…映司君が向こうに行っちゃって、お店が忙しかったんですけど、半年前にコックの人が入ってきてくれて」

「それは何よりですね。」

「すいません、本題を。」

氷川が割って入る。

 

「あ、失礼しました。泉さん、お願いします。」

「はい!」

比奈は自身のカバンからタブレットを取り出し、ビデオ通話を操作する。

『もしもーし!』

電話口から若い男性の声が聞こえる

『比奈ちゃーん!聞こえるー?』

「聞こえてますよー」

「久しぶりだな、火野。」

『お久しぶりです、後藤さん!』

画面に映るのは、砂漠に木の棒を突き刺して座っている青年。

木の棒には何故かパンツが括り付けてある。

 

 

「はじめまして、警視庁の氷川です。」

「はじめまして、火野映司です。」

画面の中の青年、火野がそう答える。

彼こそが、欲望の器を受け入れ、欲の怪人と戦い、世界を得た仮面ライダーオーズ。

現在は、共に戦った友人、グリードのアンクを蘇る方法を探し求め世界中を旅している。

 

「すまないな、突然。」

『いいんですよ。事情は本願寺さんって人から聞きました』

「こっちには帰ってこれそうか?」

『3日後の飛行機があるのでそれで帰国する予定です。』

「助かる。」

『いえいえ』

 

少しの談笑。

「あ、そういえば。」

比奈が何かを思い出す。

 

「お兄ちゃんは今回のメンバーじゃないんですか?」

泉比奈の兄、泉信吾は、グリード復活の際瀕死の重傷を負い、アンクが死ぬまでの間、"アンクとして"戦線に参加していた。

と言っても、本人には一度目が覚めた時の記憶しかない訳だが。

 

 

「そういえば…どうなんでしょうか。」

思いもよらぬ質問に後藤が困惑する。

 

「資料では、あまり戦闘の経験がない、とありましたから、敢えて外されている可能性が大きいかと」

氷川が答える。

 

「そっか…分かりました」

そんな和気藹々とした会話をしていると、

 

 

 

「おっまたせしました〜」

コック帽を被った男が料理を運んでくる。

 

「本日は夏野菜を贅沢に使ったインドカレーです」

ナンとルーが目の前に配膳される。

ルーには細かく刻んだ鶏肉と大粒のナスやジャガイモが入って、美味しそうなスパイスの香りが鼻腔を刺激する。

 

「わぁ、おいしそう!」

「これは…すごい…」

「おいしそうですね…」

比奈、後藤、氷川がそれぞれ目の前の料理に釘付けだ。

 

「自家栽培、無農薬の野菜なんで自信作です!」

手に腰を当て、えっへん、とポーズをとる男性。

 

 

「あ、スプーン置いてきちゃった。すぐとって来ますね。氷川さん。」

「よろしくお願い…」

何故か名前を呼ばれ視線をカレーから男へと移す氷川。

 

 

 

 

 

「津、津上さん…」

 

「どうも!」

 

 

 

 

 

 

 

目を見開く氷川と後藤に爽やかな笑顔を見せる男。

仮面ライダーアギト、津上翔一がそこにいた。

 




更新ペースがやたら早いのは、テスト期間だから…


こういう時は学生でよかったなと思います。
全然良くないんですが。



さて、チームぶきっちょ始動です。
2人の性格もさる事ながら、
オーズとアギトも中々のそっくりさんだと思います。

やっぱ話を作ると周囲の人物像って似通って来ちゃうんですかね?



これからは更新ペースが落ちると思いますが、
気長にお待ち下さい。


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参:不器用な戦士と笑顔の戦士2

大変遅くなりました

気付けばエクゼイド丸々経由しちゃってましたね…


就活その他諸々で存在を完全に忘れて居ました
ようやく生活も落ち着いたのでマイペースに続けていこうと思います。


今後とも時代は2016年
パンドラボックスも空いてないしゼロデイも迎えて居ません
神も出てきませんので悪しからず…


では、お楽しみください


突如目の前に現れる、仮面ライダーアギト、津上翔一。

 

あまりの出来事に、目を見開き言葉を詰まらせる

チームぶきっちょ。

 

 

「…どうか、しましたか?」

何が起きているか分かっていない翔一。

 

 

「なんで此処に居るんですか…」

ようやく正気に戻った氷川が口を開く。

 

「いやぁ、お店潰しちゃいまして。」

まるで他人事のように言葉を紡ぐ翔一。

「知世子さんのご好意で住み込みで働いてるんですよ」

 

 

「こんな事ってあるんですね…」

驚きと呆れの間に揺れる後藤が話に入る。

 

世間とはつくづく狭いモノである。

 

 

 

 

 

 

「もしかして、僕に御用ですか?」

微笑を崩さない翔一。

 

「…今はお仕事に戻って下さい。落ち着いたらこちらに来てください」

こんな時でも意外と冷静な氷川。

翔一には振り回され慣れたのだろう。

 

「分かりました。じゃあすぐスプーン、持ってきますね。」

小走りで立ち去る翔一。

 

 

 

 

その後、すぐに木製のスプーンが届けられ、食事を楽しむ3人。

店内は今からピークであろう。

知世子と翔一が忙しそうに店内を駆け回っている。

 

翔一の事情を比奈とタブレット越しの映司に説明すると、

 

『へぇ〜、やっぱり知世子さんは人を見る目、あるなぁ』

とのんきに感心する映司に対し、

 

「そうじゃないと思います…」

呆れる比奈。

 

 

どうやらクスクシエは仮面ライダーの聖地になりつつあるようだ。

 

 

 

 

彼らがそうこうしている内に、

徐々に周囲の机は空き、客も疎らになり始めた。

 

 

「翔一君、後私がやっておくから、お友達の所に行ってきなさい」

「いいんですか?結構洗い物あるみたいですけど…」

「いいのいいの!翔一君、良くやってくれるし。たまには、ね?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

そう言うとキッチンから制服を脱いだ翔一が氷川たちの座るテーブルに向かう。

 

 

 

 

「お待たせしました」

「待ちましたよ」

「こちらへどうぞ。」

迎え入れる氷川と席を空ける後藤。

 

 

「で、何の話があるんですか?」

 

3人の雰囲気が重くなるのを肌で感じ、顔が引き締まる翔一。

 

 

「実は…ーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一連の説明を聞き終わった翔一は、はじめに見た彼とは全く別人だった。

眉を潜め、真剣な表情で資料に目を通す。

 

「分かりました。協力します。」

資料から視線を上げ、氷川へ向く翔一。

 

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

2人はテーブルに手をつき、深い礼をする。

 

「では、当面の活動は…

「1つだけ条件が。」

氷川の言葉を遮る翔一。

 

「…条件?」

「はい、活動拠点をなるべくこのお店にさせて下さい。」

 

何故?と後藤

 

「ここの仕事があるのと、裏の畑の野菜の面倒を見なければならない、のが大きいですね。

お世話になった知世子さんに恩返しもしたいので。」

 

「分かりました。手配しましょう。連絡はこの携帯でします。」

後藤がジュラルミンケースから、携帯端末を取り出し渡す。

 

「すいません、ワガママ言って。」

「いいんです。突然押しかけたのはこちらですし」

頭に手を当てて微笑を浮かべる翔一。

 

「よろしくお願いします。」

右手を差し出し、固い握手を結ぶ。

 

 

「じゃあちょっと事情を千世子さんにーーーー

翔一が厨房へ向かおうと身体を捻ると目の前に黒い影が"居た"

 

 

 

「あ…がッ……」

身体が動かない。

声も出ない。

 

「「強い光は濃い影を生む」」

 

男性とも女性とも大人とも子供とも取れる声で囁く影。

ただ、無感情な声が翔一の脳髄に響き渡る。

そして湯気の様に消える影。

 

「な…に…?」

身体が自由を取り戻すと同時に翔一を極度の疲労が襲う。

額を脂汗が伝う。

 

 

「…どうかしましたか?」

硬直している翔一に後藤が声をかける

 

「今、何かが居ました…」

「なんですって⁉︎」

立ち上がり警戒を強める氷川。

 

「映司くん!?」

同時にタブレットへ叫ぶ比奈。

画面には真っ青な顔をした映司が写っている。

 

「「黒い影が…」」

声が重なる2人。

 

 

「一体何が…」

混乱を隠しきれない後藤。

 

「突然目の前に現れて、強すぎる光は濃い影を生むと…」

「僕に、無欲こそ強欲だと…」

震えた声で2人は語る。

 

 

瞬間、翔一の脳裏には、アギトの宿命が生み出した遺物、

アナザーアギトの姿が浮かび上がる。

与えられた力と

アギトに成れなかった者との戦いが翔一の心を揺さぶる。

 

瞬間、映司の脳裏には、己が欲望が生み出した怪物、

恐竜グリードの姿が浮かぶ。

無欲だからこそ掴んだオーズの力。

強欲だからこそ得られた恐竜メダルの力。

欲望に飲まれた自身の醜い姿が映司のトラウマを刺激する。

 

 

 

 

 

 

 

2人の意識はゆっくりと眠る様に堕ちていくーーーーーー



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