虚の英雄 (秋刀魚39)
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始まり

 英雄と呼ばれし者がいる。

 それは、このポケモン世界においても例外ではない。

 大抵は、英雄には、その象徴となる伝説のポケモンが従っているのだが、この英雄においては例外である。

 

「ピカピ? ピカ?」

 

 彼女の象徴は、ピカチュウである。

 

 

 英雄と呼ばれし者がいる。

 それは、悪に立ち向かい、悪を倒す者である。

 彼女も例外ではなく、今までに幾つかの悪の組織の撲滅に手を貸している。

 アクア団、マグマ団、ギンガ団などである。

 

 

 英雄と呼ばれし者がいる。

 彼らは、何かしら普通の人と違うところが無ければならない。

 しかし、彼女は別である。

 彼女は、一般人と何ら変わらない。

 彼女は、一般人を代表する一般人———最強の一般人、最強の凡人、最強の努力家である。決して天才などではない。

 

 

 英雄は、今日も悪に立ち向かう。

 

「チュチュ! アイアンテールでなぎ払って!」

 

 力強い一撃で、吹き飛ぶ数匹のコラッタ。

 彼女は———充実していた。

 

 *

 

「プラズマ団? 人のポケモンを奪う、悪の組織。何でも、ポケモンが人に拘束されるのはいけないだとか何とか。彼らにポケモンを取られた人は、既に3桁にも登っているわ」

「ふーん。で、地方は?」

「イッシュよ」

「遠いなぁ……」

 

 友人に問い掛けた質問は、プラズマ団とは何か。返ってきた答えに、ため息が零れる。

 

「そんなこと言ってもねぇ……。どうせコバルトかワイン使ってひとっ飛びでしょ? いいじゃないの」

「それはそうだけど……」

「行きなさいよ、ハニー」

 

 ハニー。それが、英雄の名前である。

 幼馴染みであるブルーの助言に、頷く。

 

「行くっきゃないよね。じゃあ、準備しないと」

「アイツは連れて行く?」

「アイツ? どっちのことよ」

「あっちはアイツ。こっちがコイツ。コイツは公務員で忙しいんだから、アイツしか居ないでしょ」

 

 ブルーの言葉に眉をひそめつつ、アイツとは誰かを探る。

 

「ああ! あの人ね。ま、最終兵器で」

「オッケー。じゃあ、ポッポ便送っておくから」

「よろしくね」

 

 ブルーが部屋を出て行くのを見送り、愛用のリュックサックに必要なものを詰め込む。

 

「ピッカ!」

「あ、チュチュ、鍵持って来てくれる?」

「ピカピ」

 

 5分で支度を終えると、腰につけたボールベルトからリザードンのコバルトを出す。

 一瞬でメガリザードンXにメガシンカしたコバルトは、ハニーが乗りやすいようにかがむ。

 ハニーがその背中に乗ると、コバルトは青空に飛び出した。

 

「おーい! こっちよ!」

 

 ポッポ便を出して帰ってきたブルーを村の中で拾い、そのまま高度を上げていく。

 

 5分もすると、海に出ていた。

 潮風と日光を浴びながら、ハニーは手元のライブキャスターでプラズマ団について検索をかける。

 最近では、勇敢な若者が———15、6の少年少女が———プラズマ団の犯罪現場に立ち会い、奪われたポケモンを奪い返したり、ということもあるようだが、その2人は兄妹で、常に一緒に行動しているという。つまり、各地で同時にそのようなことが起きれば対応出来ないということだ。

 こんなことなら各地の英雄も連れて来ればよかった、と若干後悔しつつ、ずっと先に見える大陸に向かってスピードを上げさせる。

 

 

 充実とは、何をもっていうのか。

 それを、思い知ることになるとは知らずに。



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SPIRIT進化

SPIRIT進化や、大昔云々は全てオリジナルです。


「此処が、イッシュね」

「……」

「ねぇ、見て、ビルがたくさんあるわ! アルセウスくらい高いんじゃないかしら?」

「……」

「……何か反応してよ」

「シッ! 静かにして!」

 

 しつこく話しかけるブルーを、鋭い言葉で黙らせる。

 野生の勘が冴えているハニーは信用した方がいいのもわかっているが、せめて初めての地方に来た今くらいは話に付き合って欲しかった。

 暇を持て余したブルーは、最近購入したばかりのライブキャスターを弄ろうかと思ったが、

 

「———!」

 

 それより先に、ハニーが動き出した。

 軌道だけを残して走って行ったハニーを見て、ブルーも慌てて駆け出す。

 

「全く! 予備動作も無しにあのスピードって何なの!」

 

 悪態を付きながら、録音機能とGPS機能をonにし、一気に一般人から英雄の付き人に様変わりする。

 怒号や怒声の響くヒウンシティの中心部へ着くのに、数分とかからなかった。

 

 

「———あ? 小娘の癖してなに大人の邪魔してやがるんだよぉ!」

「そうだ! ガキは引っ込んでろっての」

「そこの少年も同じだぞ、引っ込め」

 

 ロケット団の下っ端は、周囲の人々からポケモンを取り上げ、それを止めに入った少年少女———トウヤとトウコを蹴った。

 

「うっ!」

「トウヤに何するのよ!」

「兄想いな妹だな。だが、現実はそう甘くねぇんだよ!」

 

 トウコの鳩尾に拳が叩き込まれ、トウコは咳き込みながら尻餅をついた。

 

「英雄の真似事か? いいか、英雄ってもんはな———」

 

 リーダー格の男が、素早くトウコのポケモンを取り上げる。

 

「———一般人にはなれないもんなんだよ」

「それはどうかな?」

 

 黄色い何かが男に突撃したかと思うと、次の瞬間、トウコは引っ張り起こされていた。

 

「はい、あなたのポケモン。とりあえず、この人達は片付けちゃうから待ってて」

 

 ハニーは、チュチュが取り返したトウコのポケモンを渡し、トウヤを助けてくるよう言う。

 ハニーはトウヤ・トウコより3歳ほど年齢が低い。そんな彼女に任せて平気なのかとは思うが、一旦この場から引くことにした。

 ハニーを信じたわけではない。自分が直接攻撃を食らったことに、ショックを受けていたのだ。

 

「さてさて。あなたたちが噂のプラズマ団? ロケット団の方がまだ可愛げがあるよね、ポケモンと引き離したりしないんだもの。じゃあ、あなたには、私とポケモン達の絆を見て貰おうかな?」

「……くっ。いいだろう。さっきよりも幼い小娘が相手とは、何を考えているんだか。まあいい。俺は強いぞ」

 

 リーダー格の男がポケモンを出そうとしたところで、ハニーが一旦止める。

 

「待って。……私はしがない一般人だけど、あなたはこの場のトップでしょ? 名前は?」

「下っ端だが、リーダーには違いない。マイクだ」

「ありがとう。じゃ、始めましょ。6対6のガチバトル」

「ふ、余裕だな」

 

 ハニーはモンスターボールを握り、開けたスペースに投げる。同時にマイクもボールを投げ、その瞬間に戦闘が始まった。

 

「テッカニン! まもる!」

「レパルダス、きりさく!」

 

 レパルダスの鋭い攻撃を、半透明のシールドで防ぐ。その瞬間、テッカニンの体が赤くなり、特性により素早さが上がる。

 

「もう一度!」

「飛んでかわして!」

 

 レパルダスのきりさくを、高度を上げることでかわす。レパルダスは地に足が着いた瞬間、噴水に助走をつけて登り、その勢いで高く跳んだ。

 素早さを活かしてテッカニンは回避し、素早くこうそくいどうを積む。

 

「バトンタッチ!」

「おいうちをかけろ!」

 

 素早くテッカニンがモンスターボールに戻った隙を狙っておいうちを掛けるが、精々ツメがかすった程度。テッカニンの素早さには追いつけず、素早くレパルダスが自分の陣地に戻る。

 

「ゲッコウガ!」

「ふいうち!」

 

 ゲッコウガのネイビーが現れた瞬間のふいうちを、スピードで逃げ切り、噴水を足場に使って宙へ跳ぶ。無駄に滞空時間が長いのは、忍者ゆえだろうか、降りてきたときにはあまごいが完了していた。

 突如降り出す雨に、観戦者は驚きながらも傘をさす。何が何でも、このバトルを見逃す気は無いようだった。

 

「かげぶんしん!」

「スピードで負けるなら———すなかけ!」

 

 ネイビーの目に細かい砂が入り込むが、ハニーにとって、そしてパーティにとってそこまで支障はない。

 

「バトンタッチ!」

「な! レパルダス、体勢を整えておけ!」

 

 ネイビーがバトンタッチで交代した相手は、バトル開始前からハニーの肩の上に乗っていたチュチュだった。

 素早さが上がり、そしてかげぶんしんの効果も継いであり、フィールドは雨。この先の結果が見えていないマイクでは無かった。

 急な出張ということもあり、2体しかポケモンを所持していないマイクであったが、レパルダスが倒れてももう一体で六タテ出来る自信はあった。

 

「チュチュ———かみなり!」

「耐えろ!」

 

 必中のかみなりを落とされたレパルダスは、煙を巻き上げて地面に叩きつけられた。煙が晴れたところでは、目を回し、明らかに戦える状態ではない。

 先程、ガキツインズの合計6体を倒したレパルダスは、瀕死と判断されてボールに戻された。

 

「ねぇ、あと1匹だよね? 諦めたら?」

「は? 何言ってるんだ、コイツはたいしたことはない。俺のエースの力、見せてやる」

 

 マイクが繰り出したポケモンは、カイリューだった。

 よく鍛えられているらしく、大柄である。

 

「コイツでジムを幾つか勝ち取った。ジムリーダーのポケモン以上だよ」

「……ぷっ」

「…………何処に笑う要素がある?」

「ジムリーダーのポケモンが、弱いと思う? ポケモンリーグ出場クラスのエリートのポケモンが? ジム用のポケモン使ってるに決まってるでしょ」

「な……ん……だ、と……」

「よく鍛えられているけど、自慢は変えたほうがいいかもね」

「……カイリュー、かみなりだ!」

「チュチュ、受けて!」

 

 天から落ちるかみなりで、チュチュはパワーアップをする。しかし、それは囮だったようで、カイリューの尻尾でなぎ払われ、続けて全体重を上から掛けられる。

 

「チュチュ!」

「お前の相棒か? 残念ながら、此処までだな、バトルもポケ生も。すまんな、手加減できな———」

「チュチュ! ———お願い!」

 

 踏み潰され、半分死に掛けているチュチュは、ハニーの呼びかけを受けて目を閉じた。

 マイクは、このままチュチュが死に、ハニーが降参するだろうと考えていただろうが、観戦しているブルーにはそうは思えなかった。

 何故なら———チュチュが、発光しているから。

 進化の光ではない。ピカチュウは、進化の石無しでは進化することができない。

 では、何なのか。

 

 チュチュは、純白の光を身に纏っていた。

 

 ゆっくりと、カイリューに気付かれない程度に起き上がり、

 

「ピー、カー、ヂューーーーー!!!」

 

 全力で雷を呼び寄せた。

 先程とは比にもならない程の雷がカイリューの上に落ちる。硬直している隙に、アイアンテールでカイリューを払いのけ、ハニーの前へ戻る。

 

 純白の光を纏ったチュチュ。進化ではない。メガシンカでもない。ライチュウでもないのだから、BREAK進化であるはずもない。

 では、これを何と呼ぶか。

 

 ———SPIRIT進化。

 

 ブルーは、そう名付けた。

 心の進化だと、ブルーは思っている。

 

 大昔、進化はトレーナーとポケモンの絆によって起こるものだった。

 しかし、心からの絆で進化出来る例は非常に稀で、その為にポケモンは弱いままだった。

 そこから、人や動物が重ねてきた通りの進化により、ポケモン達はレベルによって進化することになった。

 

 では、絆によって、限界を超えようとするとどうなるのか。

 答えは、SPIRIT進化である。

 最終進化系でなくても、トレーナーとポケモンの心がひとつになっていれば、ポケモンは限界を超えることは出来る。

 アルセウスが創った通りの心の進化により、BREAK進化以上の、伝説に匹敵する程の力を出すことが出来る。

 

 何故、ハニーが英雄とされ、チュチュがその象徴なのか。

 それは、世界で唯一のSPIRIT進化出来るパートナーだからだ。

 

「な、何が起こっているんだ……」

 

 マイクは呆然と、気絶しているカイリューを見下ろしていた。

 チュチュは純白の光を纏ったまま、マイクを睨んでいる。

 幼い少女。相棒のピカチュウ。純白の光。このキーワードの意味に気付いた観衆の1人が叫んだ。

 

「あの人だ! 世界の救世主! ポケモンと心を通わす———ピュアホワイトだ!」

 

 ハニーは各地方ごとに称号を持っているが、イッシュではピュアホワイトと呼ばれていた。

 黄色の少女、とピカチュウや格好、名前から言われたりするが、純白の光のピカチュウ、ということから白に関する称号も少なくなかった。

 

「これが、SPIRIT進化……。ふん。所詮はただのピカチュウだ。次はガチな面子でボコボコにしてやるから、待ってろよ」

 

 カイリューをモンスターボールに戻してから、マイクは群衆の中に紛れていった。

 同時に、ハニーも群衆に紛れる。以前、似たような状況の時、ハニーは群衆に囲まれて身動きが取れなくなったことがある。

 素早く人を掻き分け、ブルーの手を掴むと、ホテルに向かって走り出した。



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模擬バトル

「どうも。先程はあなたたちを助けたハニーです。こちらは相棒のチュチュです。よろしくお願いしまっす」

「棒読みね」

「気にしないの」

「えーと、トウヤっす」

「トウコです。トウヤの双子の妹です」

「君らか。この地方の英雄は」

「「は?」」

「え、違うの?」

「「いやいや、この地方に今は英雄いないから」」

「じゃあ、君達が英雄だね」

「「だから違うっての」」

「お黙り」

「「「はい」」」

 

 ブルーの一喝で3人が黙った。

 此処はヒウンシティのホテルの一室。先程の出来事で追っかけが始まったハニーと、新たな英雄ではと噂されているトウツインズの為に、ブルーがとった部屋だ。

 

「ま、マイクのやったことは、ブルーが音声と映像で記録してジュンサーさんに提出してきたから大丈夫。安心していいよ」

「はい。……あの、SPIRIT進化について教えて頂けませんか?」

「……いいけど。なんで?」

「ポケモンに関する知識を深めたいんです」

「トウコは熱心ねぇ」

「トウヤは熱心じゃないねぇ」

「俺も興味はあるから!」

「よろしい。おーい、チュチュ! 進化して!」

「……軽くないっすか?」

「なーに言ってんの。出来るわけないでしょ、切羽詰まってないのに」

「確かに」

 

 元に戻ったチュチュがハニーの膝に乗った。

 

「これは、切羽詰まった場面か追い込まれた場面、或いはバトル中にしか出来ないの。今のところ、だけどね」

「今のところなんですか?」

「うん。出来るようになってから日が浅いから」

「どうして出来るようになったんですか?」

「フーパっていうポケモンに会って、カロス地方に飛ばされて、伝説VS伝説で死に掛けて、色々あったの」

「そこを詳しく」

 

 トウコがノートに細かい字を書き込みながら先を促す。

 

「んーと。確か、パルキアに空間を飛ばされて、破れた世界に入っちゃったんだよね。その不法侵入に怒ったギラティナに襲われたんだけど、不運なことに手持ちは伝説VS伝説に混じってたから置いてきちゃってて。で、アルセウスの声が降りてきて、なんだっけ、『お前達の絆を認めよう。大昔に私が創った心の進化、あれは時代が過ぎるうちに無くなってしまったが、再び蘇ることは出来る。お互いを信じ、限界を超えよ』って言ってきたから、……詳しく話したほうがいい?」

「お願いします」

「限界を超えるって意味がわからなかったから、チュチュと動作を重ねてシンクロしてみたの。そしたら、チュチュが純白に光り始めて、私も同じ光に包まれて、SPIRIT進化したの」

「で、ギラティナには勝てたんすか?」

「うん。ギラちゃんは、呼べばいつでも来てくれるよ」

「凄いですね」

「凄いでしょ」

「どうやって勝ったんすか?」

「ん? ギラちゃんを破れた世界から放り出して弱体化させた」

「……どうやって?」

「アイアンテールで」

「……」

「だから、SPIRIT進化は伝説のポケモンにも匹敵する力が出せるんだって。全てのポケモンには伝説のポケモンと同じくらいのポテンシャルが秘められていて、メガシンカやBREAK進化によってその一部を、SPIRIT進化によってそのほとんどを解き放てるってトレーナーズスクールで習わなかった?」

「へ?」

「あれ、習ってない?」

「習ってるわけないじゃないですか、研究者はあなたをサンプルに出来ないんですから」

「……そうだった……!」

「オーキド博士に研究は頼んでいるけど、彼はそっちの専門じゃないものね。つまり、SPIRIT進化はあなただけの奥義なのよ」

「なんかスケールが大きいね」

「ハニーも英雄なのよ?」

「おっしゃる通りです」

「よって、未来の英雄ツインズに英雄について講義しなきゃならないわね」

「ん?」

「名付けて、ハニーのポケモン講座よ」

「んん??」

「ホワイトボードを持ってくるように指示してあるから、すぐに始めましょう」

「んんん???」

 

 

「それでは、ハニーのポケモン講座の始まり始まり〜♪」

「ピッカ!」

 

 ホワイトボードの前に立ち、ハニーは目の前に座る2人の生徒達を見た。

 

「まずは、あなたたちの実力を見ないとね。よって、バトルしよう」

「「はぁ!?」」

 

 

 場所は移ってホテルのバトルコートに。

 ハニー対トウツインズになっている。

 

「ハニー対トウツインズのバトルよ。トウツインズが、イッシュ地方の英雄であるゼクロムとレシラムに出会ったときを想定した、2対6のバトル。チュチュがゼクロム、メガリザードンXのコバルトがレシラムだと考えてちょうだい。なお、チュチュは早めの段階でSPIRIT進化して伝説級になるから気をつけて」

 

 ブルーがフィールドの真ん中に立ち、トウツインズが頷くのを見る。

 

「トウヤ、トウコ、絶対に油断も慢心もしないで。あの2匹、ハニーと一番古くの付き合いで、普通に奥義をぶっ放してくるから。じゃ、最初のポケモンを出してちょうだい。私が合図を出したら、バトルはノンストップで続くから」

 

 奥義をぶっ放してくる、と聞いて、トウツインズはエンブオーとジャローダを繰り出した。

 ブルーは合図を出し、素早くフィールドの外に出る。

 

「エンブオー! ほのおのちかいだ!」

「ジャローダ、くさのちかいよ!」

「チュチュ、クロスサンダー! コバルトはクロスフレイム!」

 

 四つの攻撃が重なり合い、爆発する。煙が晴れたところでは、エンブオーは膝をつき、ジャローダは苦しげに息をしていた。対照的に、チュチュとコバルトはけろっとしている。

 

「チュチュ、行くよ!」

 

 一瞬、チュチュとハニーの姿がぶれてシンクロし、2人が純白の光に包まれた。

 

「来るぞ、トウコ。SPIRIT進化だ」

「わかってるわよ……。エンブオーはブラストバーン使える?」

「無理に決まってんだろ。ハードプラントは?」

「まだ早いって怒られたわ。とにかく、なんとかしないと。専用技のはずのクロスサンダー、クロスフレイムを使ってきたんだから———」

「———らいげき、あおいほのおが使えないわけないってことか。厄介な相手だな」

「とりあえず、エンブオーが受けに回ってジャローダが攻撃。エンブオーはコバルトに攻撃しても、あんまり効果はないでしょ?」

「ああ。ジャローダも考えものだが、何らかの処置を受けててもらいびだったりしたら困るからな。まずはそれでやってみよう」

 

 2人の小声の相談を、余裕の笑顔で見守るハニー。相談内容を聞いてかは知らないが、素早く指示を出す。

 

「1on1で片付けて。チュチュはエンブオーよ」

「させるか! エンブオー、ジャローダから離れるな!」

「ジャローダ、チュチュにマジカルリーフ!」

「風圧を使って!」

 

 尻尾をフィールドに打ち付け、その風圧でマジカルリーフを吹き飛ばす。風圧でジャローダはよろめきながらも、トウコの指示を待たずにたつまきを放つ。

 

「ちょ! ジャローダ、何やってるの!」

「エンブオー、かえんほうしゃ!」

 

 トウコが慌てるそばで、竜巻にかえんほうしゃが当てられ、炎の竜巻となる。

 

「トウコ、ジャローダを信じろ。エンブオー、ばかぢからでコバルトをぶっ飛ばせ!」

「エアロブラスト!」

「おい! レシラム役なんじゃないのか?」

「レシラムなんだから、使えるかもしれないでしょ! チュチュ! ガリョウテンセイで吹き飛ばして!」

「マジかよ」

 

 竜巻ごと全てが吹き飛んだ。

 トウツインズが恐る恐る目を開けてみると、チュチュ以外の3体が倒れていた。

 

「……飛行タイプの技をなんでチュチュが……?」

「SPIRIT進化してるから、尻尾使えば結構な風圧が出せるの。それに、ガリョウテンセイの概念を乗っけてやるだけよ」

「つまり?」

「ただの真似事。下位互換よ」

「なるほど。じゃ、クロスサンダーもそうなんすね?」

「ん? それは電気技だから使えるよ?」

「つまり?」

「本物でーす!」

「マジっすか」

「マジっす」

 

 ハニーは、ペットボトルの水を一気飲みしてから言った。

 

「部屋に戻ろうか。反省会をしよう」



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