やはり親父は息子の幸せを願っている。 (えうえう)
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愛する家族を紹介するぜ!!
「比企谷、これも頼むよ」
「あ、はい...」
糞上司め...また俺に自分の仕事押し付けやがって。なんで俺がお前の仕事しなきゃならんのだ。
まぁそんな事言わないけどね。この年でもし職を失おうものなら小町に嫌われちゃうし、愛しの嫁さんにブチギレられる。まぁぶっちゃけ上司が怖いだけですが(笑)
俺の名前は比企谷
あ、一応息子もいる。忘れてた訳じゃないよ?ほんとだよ?
「はぁ...やーっと終わった...」
糞上司から押し付けられた仕事をやり終え、タバコを吸いつつ時折MAXコーヒーを流し込む。やっぱこのコンビは最高だな。例えるならジョニィとジャイロみたいなもん。意味わかんない?7部読め7部。
MAXコーヒーを飲み終え、帰宅の途に就こうとすると
「あ、比企谷さん今帰りですか?飲み行きましょうよ~」
「嫁と娘が俺の帰り待ってるから無理」
「いやいや毎回同じ理由で断るのやめてくださいよ...」
「ハッハッハ」
こいつは後輩の
「マジで行きましょうよ」
「お前酔うと惚気話ばっかするから嫌なんだよ...」
ぶーぶー言ってる三井を置いて今度こそ帰宅の途に就く。ちなみに車通勤で愛車はスバルのレガシィB4。アイサイトすげぇなと感動し嫁に土下座して買い換えたが、ACCの便利な事よ。まぁ過信しすぎるのは何事にも良くないけどな。特に人間。人を簡単に信用すると陸な事にならない。
ソースは俺。お、下らない持論話してたら家が見えてきた。小町ィ!今行くから待ってろよ!
「ただいま」
「あら、遅かったね。おかえり」
「おかえりー、おとーさん」
「...おかえり」
「おーう、ただいま。上司が毎度の如く仕事押し付けてきやがってな。そろそろ上にチクるまである」
「そんな度胸ないでしょ、あんた」
最初におかえりを言ったのが、比企谷
次に可愛らしい声でおかえりと言ってくれたのがMy Sweet Angel小町だ!
母親にそっくりで、とにかく可愛い。胸の辺りが少し残念だが、嫁の遺伝子ならきっと大きくなるだろう。でもそうなったらますます嫁には絶対行かせたくないな...行くなら俺を殺してから行けとか言っちゃうかも。
最後におかえりを言ったのが息子の八幡だ。小町に懐かれてるのが気に入らない。小町に頼られてるのが気に入らない。小町に(ry。まぁ目が死んでるが顔は悪く無いし勉強もできる。友達がいない事と性格が捻くれてるのと小町関連の事にさえ目をつむれば、自慢の息子だ。目つむりすぎだろ俺。てか、こいつ妙にそわそわしてんな。
「八幡、今日なんかあったのか?」
「別に、いつも通りなんもなかった」
「いつもなんもないのか...」
こいつは仮に何かあったとしても俺には言わない。と言うか誰にも言わないと思う。初めての子だった為どの様に教育したらいいのか分からず、俺の親父が俺に施した放任教育をそのまま八幡に施したら自分でなんとかしようとする思いが強い子に育ってしまった。別に自分の事を自分でなんとかするのは悪い事ではない。寧ろこれは褒められるべき事だ。しかし、いつかきっと自分ではどうにもならず他人を頼らなきゃいけない時が来る。その頼る相手は俺でなくても良い。妹でもいいし母親でも4月から通う高校で知り合った奴でもいい。とにかく、八幡には気の許せる奴を作ってほしい。
でもこいつは俺の教育+中学校での辛い思い出のせいで、他人に何かを求める事を諦めているっぽいから高校で気の置ける奴を作るのはかなり厳しくなりそうだ。俺が八幡と面と向かいながら腹を割って話したらいいだけの話なんだが、どうにも恥ずかしくて言えない。俺の悪いとこだな。...あれ、高校?今日何日だっけか...あぁそれでそわそわしてたのか。
「八幡」
「ん」
「高校で友達できるといいな」
「は、はぁ?んだよいきなり」
「親心だよ、親心。明日総武高の入学式だろ?」
「まぁ...そうだけど」
「がんばれよ、友達は大事だ」
「...なんか気持ち悪ィんだけど」
そう、八幡は明日高校の入学式を控えてるんだった。こいつ遠足の前の日は寝れないタイプだからな。緊張してそわそわしてたんだろう。と言うか、もしかしたら俺の考えは間違ってたかもしれないな。あいつが嫌いそうな事言ったのに否定しなかったし、こいつはこいつで友達が欲しいと思ってるのかも。ま、本人がやる気ならどーにかなるだろ。ふふっ、以外と可愛いとこあるんだなこいつも。
「大体、友達のいない親父に友達の大切さなんて分からねーだろ」
「「ププッ...」」
前言撤回、やっぱこいつ可愛くねーわ。
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比企谷八幡は愛されている
「ふぁぁ~...。うわ、まだこんな時間か」
皆さんも一度は経験があるのではないだろうか?目覚ましより先に起きてしまう謎の現象を。いつもなら二度寝する所だが何故か意識がハッキリしており目も冴えている。はぁ...。しゃーない、起きますかね。
「今日も一日がんばるぞいっと」
嫁を起こさない程度の声でお決まりの台詞を言った。
ベットから立ち上がり洗面所に向かう。そして顔を洗い髭を剃る。一時期、西島秀俊に憧れて髭を生やしていたが小町に髭剃った方がかっこいいよと言われたので朝は絶対剃る様にしてる。永久脱毛も考えたが結構いいお値段するのね、あれ。
コーヒー飲みながら本でも読もうとリビングへ向かうと、人の気配がする。どうやら俺より先に起きてた奴がいたみたいだ。小町か?小町だよな、きっと小町だ、間違いない。どんな話しよっかな...やっぱ学校の事か?いやいや、思春期の娘に学校の話題は良くないか。ここは最近できたケーキ屋の話でもしy....
「チッ...」
「え、なんで舌打ちされたの俺?」
残念ながら先に起きてリビングにいたのは小町ではなく、
「小町だと思って必死に話題考えてた俺の努力を返せ」
「なんで娘と話すのにそんな努力がいるんだよ...」
「小町に変な話題振って、もし嫌われでもしたら明日の京葉線が止まる」
「娘に嫌われたぐらいで死ぬなよ。それと死ぬならひっそり逝ってくれ」
「ばっか、これまで散々俺を苦しめてきた社会に最後くらい迷惑かけねーと割に合わん」
「清々しいほどのクズだな...ほれコーヒー」
「お、さんきゅ」
むっ!八幡め、コーヒーに練乳を入れたな?我が子ながら気が利くじゃねーか。こいつはきっといい主夫になる。貰い手がいなさそうだけど(笑)
「親父、俺もう行くわ」
「ん、もう行くのか?まだ早いだろうよ」
「家に居てもする事ねーし、早めに行っても損はないだろ?」
「それもそーだな。気を付けてな」
「おう」
「それと八幡」
「ん?」
「入学式行ってやれんで、すまん」
「いやいや、もうガキじゃねーんだから気にしないっての。寧ろ来ないで欲しいまである」
「そこはべ、別に来て欲しいなんて思ってた訳じゃないんだからね!って言う所だろ」
「....」
八幡は心の底から憐れむような顔をしながら無言で出て行った。なんだろうこの虚しさは....
八幡が出てってからすぐに小町と嫁が起きて、朝食を作ってくれている。今日は何故か比企谷家みんな早起きだ。明日は雨だな、こりゃあ。
しっかしこうして二人を見るとほんとそっくりだよなぁ。特に目元なんて超そっくり。俺の目が遺伝しなくてほんと良かった...山に籠って感謝の正拳突きを毎日1万回するレベル。
ちなみに俺はと言うと、カマクラを思うがままにモフってる。普段は俺に近寄りもしないが、今の俺にはササミ(猫のおやつ)がある。ササミの為に気に食わない奴にでさえ黙ってモフらせるカマクラは社畜適正Aぐらいあるな。八幡にも見習ってほしいもんだ。あ、ササミ奪って逃げやがった。
「ほら、朝ご飯できたよ」
「おーう」
「その前に手洗ってきな。カマクラ撫でたんでしょ?」
「うーい」
「おかーさん、電話鳴ってるー」
「こんな朝から誰よ、もう。...はい、比企谷です」
「はい、そうです。母親です。...え!?う、嘘でしょ!?大丈夫なんですか!?」
「お、お母さんどうしたの?」
「八千代、落ち着け。何があった?」
「は、八幡が車に轢かれて病院に搬送されたって...!」
「お兄ちゃんが!?」
一瞬頭に「死」と言う言葉が浮かび、俺まで取り乱しそうになるが理性で無理やり抑え込む。冷静になれ。今俺が取り乱してもどうにもならない。
車に轢かれた言ったが、トラックやダンプなどの大型車両の線は消していいだろう。もしそうなら「車」なんて漠然とした言葉は使わず、トラックならトラック。ダンプならダンプと言うはずだ。
次に速度の問題だが、あいつの出て行った時間は小学生の登校時間とも被ってるので制限速度以上を出す奴はほとんどいないはず。
それに
「八千代、代わってくれ....すいません、代わりました。父親の仲彦です」
「お父様ですか?○○警察署交通一課の小西と申します。先ほど息子さんが「嫁に聞きました、息子の搬送された病院と容体は分かりますか?」」
「〇〇病院に搬送されました。○○病院の者曰く精密検査はこれからなのでなんとも言えないが、足になんらかの異常があるとの事です。」
「ありがとうございます。今からでも○○病院に行こうと思うのですが、大丈夫でしょうか?」
「はい、そうなさってください。加害者の方も〇〇病院にいるそうです。それと逸る気持ちは分かりますが、くれぐれも安全運転を心がけてください。こう言った時に事故を起こしてしまう方が多いので。他にご質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「それでは、失礼致します」
「ありがとうございました」
「お父さん、お兄ちゃんは!?お兄ちゃんは大丈夫なの!?」
小町が泣きそうになりながら叫ぶ。
「まだ分からん。今から〇〇病院に行くぞ。八千代、小町の中学と自分の会社に休むと連絡を。高校には俺が連絡しとく」
「分かった!」
「小町はダメ元で病院に連絡してみてくれ。たぶん個人情報が~とか言って答えないと思うが」
「うん!」
「車で待ってるからな」
予想通り、病院は患者の個人情報は言えないとの一点張りだったそうだ。個人情報の保護も結構だが融通が利かなすぎんだろ、クソッ!
ミラー越しに後ろを見ると二人とも泣いていた。そこで、少しでも安心できればと俺はさっき自分が立てた仮説を二人に言い聞かせる。そうすると多少はマシな状態にはなったが、彼女たちの瞳から溢れ出る涙を止めるには至らなかった。
それもそうだよな。俺の仮説は箸にも棒にもかからない様な物ではなく、ちゃんと筋は通っているとは思う。だが、所詮あの仮説は自分達にとって都合の悪いことを排除して作ったものにすぎない。彼女達もそれに気づいている。故に不安が消える事はない。
そもそもこれは仮説なんて言えるほどの代物ではないか。これはただの.....希望的観測だ。
朝なので大して人もおらず、病院に付いてからはスムーズだった。受付で身分証を見せ、八幡と血縁関係である事を証明する。
「こちらです、付いてきてください」
看護師さんに黙って付いていく。ここまで来たらもはや祈る事しかできない。どうか息子を助けて下さいと、普段ならいるはずがないと一蹴する神に頼む。情けない事この上ないが、今は藁でも神でもなんでもいいので縋りたかった。
看護師さんは個室の前で止まった。どうやらここらしい。
「先生、ご家族の方をお連れしました」
「どうぞ」
「お兄ちゃん!」
小町が勢い良く扉を開けるとそこには
「ん?」
ピンピンしてる八幡がいた。ピンピンしてる八幡がいた。
大事な事なので(ry
「あぁ、ご家族の方ですか。どうも、〇〇病院整形外科医の武井といいます。まぁ座ってください」
言われるがままに椅子に座る。
「息子さん、手と足に擦り傷と左足が折れてますが...MRIの結果、脳に損傷はありませんでした。それと折れてると言っても軽い骨折なので、手術の必要はありませんし後遺症も残りません。安心してください」
先生がニコッと笑うと小町と嫁が、心配させないでよ!、とか小町ポイント全部没収!とか言いつつワンワン泣きながら八幡に抱き付いた。八幡は申し訳なさそうな顔をしている。
ずっと気を張っていたので、急にどっと疲れが押し寄せてきた。
無事で良かった。本当に....良かった。
「トイレ行ってくる」
短く断りを入れると、俺はトイレへ急いだ。
...危ない所だった。結構我慢してたからめっちゃ出る。
泣いていいのはおトイレかパパの胸の中だけなんて言ったの誰だよ。俺パパだからトイレでしか泣けねーじゃねーか。
家族泣かした罰+神への感謝として八幡の小遣いを全部神社に入れよう。
そう決めて、目を真っ赤に充血させた俺は病室に戻った。
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やはり俺は勘違いする
「八幡、ちゃんと説明しなさい」
「お兄ちゃんには説明する義務があります」
「ひゃ、ひゃい」
ただいまこの病室では家族会議が行われている。ちなみにこの病室は八幡を轢いた運転手さんの雇い主である雪ノ下家が賠償の一部として用意してくれた部屋だ。ちなみに雪ノ下建設&県議員でお馴染みのあの雪ノ下家だ。賠償される所以は無いのだが、雪ノ下家の専属弁護士の葉山さん曰く口止め料として受け取ってほしいとの事。政治家にも色々あるんだろうと言うことで八千代と話し合った結果その示談を受けいれた。まさかこんな立派な部屋になるとは思わなかったが。
「えっとですね...どっかのアホが犬のリード離しちゃったみたいで、犬が勢いよく道路に飛び出したんすよ...それで...反射的に....」
「い、犬の為に自分の命捨てようとしたっての!?それに反射的にって何!?拾える命は全部拾いたいとか思ってんの!?武装錬金なの!?熱血キャラなの!?」
「お兄ちゃんにそんなキャラ似合わないよ!お兄ちゃんにお似合いなのは、命を弄ぶ外道キャラだよ!」
「かーちゃん武装錬金知ってんのかよ...てか小町ちゃん、言ってる事酷すぎるからね?」
「うっさい、このゴミいちゃん!ボケナス!八幡!」
「八幡を悪口に使い始めたよこの子」
俺はどうにも体が反射的に動いたと言う理由に納得できなかった。理性的なこいつがあの場において判断をしくじるなんてどうしても考えられない。それも自分の命と他人の犬の命どっちが重いでしょうか。なんて誰にでも分かるような事をだ。
もしかしてこいつ死にたがってんのか?それこそ八幡らしく無いとは思うが今回のこいつの行動はそうとしか思えない。
「八千代、小町。売店で飲み物買ってきてくれ。なんでもいいから」
八千代に目配せする。どうやら伝わったみたいだな。何も言わず小町を連れて買いに行ってくれた。
「正直に答えろよ八幡。なんで犬助けた?」
「...反射的に体が動いたんだって言っただろ。自分でも分からん」
「嘘つくな」
「嘘じゃねーって....てか俺も犬も助かったんだし、もういいだろ」
「よくない。なんでそんな見え透いた嘘つくんだよ?自分自身が一番分かってんだろ、八幡。反射的に体が動いた?おニャン子クラブ全員仲良し!ってキャッチフレーズの方がまだ信じれる」
「例えが古すぎて分かんねーよ」
「普段のお前からは全く想像できないってこったよ。今回の件は」
「....」
暫く沈黙が続き、部屋には時計の音だけが鳴り響く。これ以上問い詰めても本当の事言うつもりはないみたいだな。でもこれだけは今、ハッキリとさせたい
「理由はもう言わなくてもいい。でも約束しろ八幡。二度とこんな無茶はするな。二度とだ。お前が居なくなると家族みんな悲しむ。だから、自分の命を粗末に扱わないでくれ。...もしも辛い事とか自分ではどうしようもない事が起きちまったんなら、俺を頼れ。いや俺じゃなくてもいい。お前には小町や八千代だっているんだ。お前からしたら頼りねぇかもしれん。でもな、八幡。これだけは覚えとけ。家族みんな、お前の味方だから。お前の力になりたいと思ってるんだよ」
八幡のアホ毛を潰し、頭を雑に撫でる。
「まぁ、犬救ったのは褒めてやる。よくやったよお前は。でも褒めてやるのは今回限りだからな?」
命を救う善の行為をして怒られるばっかじゃ可哀想だしな。俺ぐらいは褒めてやんよ。さて、休むって言っちゃったけど社畜は社畜らしく会社へ行こうか。仕事が山積だし。
「じゃあ、俺仕事行くから。かーちゃんに車のキー渡しといてくれ」
「....あのさ」
「ん?」
八幡が俺の目を見ながら徐に口を開く。
「俺は別に犬を助けたかったんじゃないんだ」
「?」
「犬の飼い主の女の子が轢かれそうになってる犬見てこの世の終わりみたいな顔しててさ...どうしても犬を見捨てようって気にはなれなかった。それに車の速度的に助けれそうだと思ったから...」
「つまり女の子の為と?」
「...あぁ、こっちの理由のが信じれねーだろ?」
八幡はハッキリとした声でそう言ってきた。どうやらこれが本当の理由らしい。
「俺は今すげー納得いったよ」
「え?」
「まぁ、そのだな。正直に言うとさっきまで俺はてっきりお前が死にたがってるんじゃないかって思ってたんだよ。だからそっちの理由の方がしっくり来るよ。お前意外と人情家だしな。今でも小学校4年の時の「黒歴史思い出すから勘弁してくれ!」すまん」
「...ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「いや、正直に話してみるもんだなって」
全くこいつは...
「ったく。あーあ、悩んでたのアホらし」
「悪かったよ、親父。それとさ」
「ん?」
「その、なんと言うか。まぁないと思うけど困ったら頼らせてもらう...かも」
「...おう。待ってるよ」
そう良い残し、俺は部屋から出る
.......あああああああああ!!恥ずかしい!!恥ずかしくて死んじまうわ!勘違いして勝手に心配した挙句に俺を頼れってなんだよ!今まで放任してきた癖にどの口が...いや、もういいや。あれは俺の紛れもない本心だ。なら、今からでも遅くない。八幡に頼られる親父になろう。亡羊捕牢だな、まったく...
俺は病院を後にした。
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やはり俺は勘違いする(息子視点)
夏休み長すぎる
「八幡、ちゃんと説明しなさい」
「お兄ちゃんには説明する義務があります」
「ひゃ、ひゃい」
俺は病室に移動し、かーちゃんと小町に叱られた後、事故の経緯について尋問されていた。なんか二人とも怖いんですけど...特にかーちゃんは金剛力士像みたいな顔になってる。つまり超怖い。誰か助けてくれ...あ、ダメだ。
「えっとですね...どっかのアホが犬のリード離しちゃったみたいで、犬が勢いよく道路に飛び出したんすよ...それで...反射的に....」
「い、犬の為に自分の命捨てようとしたっての!?それに反射的にって何!?拾える命は全部拾いたいとか思ってんの!?武装錬金なの!?熱血キャラなの!?」
「お兄ちゃんにそんなキャラ似合わないよ!お兄ちゃんにお似合いなのは、命を弄ぶ外道キャラだよ!」
「かーちゃん武装錬金知ってんのかよ...てか小町ちゃん、言ってる事酷すぎるからね?」
「うっさい、このゴミいちゃん!ボケナス!八幡!」
「八幡を悪口に使い始めたよこの子」
ほんとこの親子は俺をなんだと思ってんだよ。まぁ確かに、この言い訳には無理があるの重々承知してるけどさ。それにしても命を弄ぶ外道キャラとか中学2年の時の黒歴史が甦るな。精々今を楽しめよ雑種共!俺はいつでもお前らを消せるんだからな!とか脳内で叫んでた気がする。...忘れよう。この黒歴史は俺に効く。
「八千代、小町。売店で飲み物買ってきてくれ。なんでもいいから」
さっきまで黙り続けていた親父が急に声を出した。その顔からは何を考えているのか読み取れないが、いつもみたいなヘラヘラしている顔ではなかった。それを察してか小町とかーちゃんが黙って病室を出ていく。
「正直に答えろよ八幡。なんで犬助けた?」
そう来たか...やっぱバレるよな。
「...反射的に体が動いたんだって言っただろ。自分でも分からん」
「嘘つくな」
「嘘じゃねーって....てか俺も犬も助かったんだし、もういいだろ」
「よくない。なんでそんな見え透いた嘘つくんだよ?自分自身が一番分かってんだろ、八幡。反射的に体が動いた?おニャン子クラブ全員仲良し!ってキャッチフレーズの方がまだ信じれる」
「例えが古すぎて分かんねーよ」
「普段のお前からは全く想像できないってこったよ。今回の件は」
「....」
どうやら有耶無耶にはさせてくれないらしい。
確かに俺は嘘を付いている。そもそも俺は犬を助けたかったんじゃない。そりゃそうだろ、赤の他人の犬を命懸けで助けるなんてかーちゃんの言ったような熱血ヒーローか死んでもいいと思ってる様な奴だけだ。俺はそのどちらでもない。
俺が助けたかったのは犬の飼い主の方だ。見た感じ中学生ぐらいの女の子で、どこか小町を彷彿とさせる子だった。そんな子が今にも泣きそうな顔してたら...そりゃ犬助けちゃうだろ。お兄ちゃんスキルはパッシブだし。
そんで馬鹿正直に女の子の為に犬助けたなんて言っても絶対に信じちゃくれない。小町が言ったように、俺のイメージは冷めてて人助けする様な奴じゃないからだ。
真実を言っても信じて貰えないってのはかなり辛い。誰にも肯定してもらえないと酷く孤独を感じてしまうから。別に俺は孤独は嫌いじゃない。周りの奴に左右されず、なんでも自分の自由にできる。最高だ。でもそれは学校や社会での話で、家族は別だ。さしもの俺も家族にまで否定されたらかなりキツイ。いよいよ俺の居場所が無くなってしまう。
だからこそ俺は逃げて嘘を付いた。嘘なら否定されても仕方ない、そう自分に言い訳できる。しかしその嘘も見破られてしまった。ならもう俺に出来るのはボロを出さないように黙る事ぐらいだ。
時計の針の音だけが部屋に鳴り響き、それが余計に沈黙を重くする。なんで今日はこんなにしつこいんだよ親父。あんたこそらしくねーよ。
はぁ...っと親父がため息を付いた、どうやら先に根を上げたのはあっちのようだ。
「理由はもう言わなくてもいい。でも約束しろ八幡。二度とこんな無茶はするな。二度とだ。お前が居なくなると家族みんな悲しむ。だから、自分の命を粗末に扱わないでくれ。...もしも辛い事とか自分ではどうしようもない事が起きちまったんなら、俺を頼れ。いや俺じゃなくてもいい。お前には小町や八千代だっているんだ。お前からしたら頼りねぇかもしれん。でもな、八幡。これだけは覚えとけ。家族みんな、お前の味方だから。お前の力になりたいと思ってるんだよ」
てっきり怒られると思ったんだが...親父のこんな顔見たのは初めてだ。哀愁漂う顔って言うんだろうか。
「まぁ、犬救ったのは褒めてやる。よくやったよお前は。でも褒めてやるのは今回限りだからな?」
親父が近づいて来て俺の頭を雑に撫でる。その際に見えたんだが、頬には涙痕がくっきりと付いていた。
「じゃあ、俺仕事行くから。かーちゃんに車のキー渡しといてくれ」
「....あのさ」
あそこまで言われて気づかない程俺も馬鹿じゃない。親父は俺の事を本気で心配してくれてるんだ。小町のおまけぐらいにしか思われてないかと...違ったみたいだ。それと親父は俺が死にたがってると思ってるんじゃないだろうか。
誤解は解けない、もう解は出てるから。それでも俺は解かなきゃダメなんだ。親父をもう心配させたくない。信じて貰えなかったらそん時考えりゃいい。
「ん?」
「俺は別に犬を助けたかったんじゃないんだ」
「?」
「犬の飼い主の女の子が轢かれそうになってる犬見てこの世の終わりみたいな顔しててさ...どうしても犬を見捨てようって気にはなれなかった。それに車の速度的に助けれそうだと思ったから...」
「つまり女の子の為と?」
「...あぁ、こっちの理由のが信じれねーだろ?」
もうどうにでもなれ。
「俺は今すげー納得いったよ」
「え?」
「まぁ、そのだな。正直に言うとさっきまで俺はてっきりお前が死にたがってるんじゃないかって思ってたんだよ。だからそっちの理由の方がしっくり来るよ。お前意外と人情家だしな。今でも小学校4年の時の「黒歴史思い出すから勘弁してくれ!」すまん」
俺がイジメられてた奴助けてやったのまだ覚えてたのかよ。ちなみにその後イジメられてた奴は引っ越しちゃって、標的が俺になっただけと言うね。完全に骨折り損だったわ。てか、なんかあれだな。案ずるより産むが易しってのはこの事だな。
「...ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「いや、正直に話してみるもんだなって」
「ったく。あーあ、悩んでたのアホらし」
「悪かったよ、親父。それとさ」
「ん?」
「その、なんと言うか。まぁないと思うけど困ったら頼らせてもらう...かも」
「...おう。待ってるよ」
親父が出ていく。悔しいけどニヒルな笑みはかっこよかった。
にしても頼らせてもらうかもか...自分で言ったとは思えない言葉だ。でも後悔なんてしてない。
「おにーちゃん良い子にしてたー?うわ、どうしたのお兄ちゃん?」
「あ?なにがだよ」
「お兄ちゃんニヤニヤしてて気持ち悪いよ?」
「....なんでもねーよ」
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息子、部活に入る
「ふぅ...」
家に入る前に外で一服する。なんだか最近ますます喫煙者に厳しくなったと思う。俺がまだガキだった頃の大人達は病院とか電車の中でも吸えてたってのに、今じゃどこもかしこも禁煙禁煙で家の中にすら居場所がない。ちなみにタバコ吸ってなくても家庭に居場所なんてない。ハハハ...なんか笑えてきた。これは心の病ですね、間違いない。
暫く黄昏てると、いつの間にか居た息子が普段より一層死んでる目でこっちを見てた。こいつ存在感なさすぎィ!マジで気づかなかったぞ。
「よぉ、不景気そうな面してんな」
「その言葉其の儘返すわ」
こいつが事故ってからもう一年ちょいか。あれから特になんもなかったが息子との関係は良好だ。
「俺は自分の存在理由について考えてた」
「自分ちの玄関でえらく壮大な事考えてんな」
「お前はどーなんだよ」
「...今日部活入った」
「えぁ!?」
やっべ、驚きすぎて変な声出た。
「い、一応聞くけどさ。部活ってあれだよな、放課後集まってやるやつ」
「それ以外に何があるんだよ」
嘘だと言ってよ、八幡...俺の知ってるお前は
「何部だ!何部に入った!何企んでる!」
「なんも企んでねーよ。奉仕部って部活」
奉仕部?聞いた事ねー部活だな。でも奉仕って事はボランティア、つまりボランティア部か。
いやいや、こいつがボランティアなんてありえん。ただでさえ働くのが嫌いなこいつが、無償で働くとかレナちゃんに嘘だッ!!!って叫ばれるレベル。
とにかくこいつがボランティア部に入ったのにはそれ相応の見返りがあるはずだ。
ボランティア...得られるもの...ダメだ、ボランティアしたことねーから分からん。タダ働きして一体何が得られるんだよ...
いやまて...!あったぞ!ボランティアして貰える物!
ボランティアして貰える物、それは実績だ。学業の成績はそこそこいいから、後は部活動の実績さえあれば大学の推薦が貰えると考えてるんだろう。推薦入試は狭き門だが、その分一般受験よりかは楽だし合否も早めに出る。後で楽する為に今を頑張る、さすが我が息子だ。
これらの事から大学受験の為に奉仕部なる部活に八幡は入部したと思われる、Q.E.D.
「内申点目当てだろお前(ドヤ顔)」
「いや、生活指導の先生に無理やり入れられただけだっての」
....さっきQEDとか言ってたのは俺じゃない。俺の中に住んでるもう一人の俺が勝手に言っただけなんで、私には一切身に覚えがありません。
「へ、へー。ところでその部活は何人ぐらいいんの?」
「俺含めて二人だけ」
「すくなっ、ほんとに部活なのかよ...んでもう一人の部員は男か?」
「...女」
「なにっ!?」
なんてこった...16歳にしてようやく息子に春が訪れちまった。いやまて、重要な事を聞き忘れてた。
「美人か?」
「いや、それ関係なくね?」
「び・じ・ん・な・の・か?」
「はぁ...美人だよ美人。でも」
放課後に美人と二人っきりの部活って何?ラブコメ通り越してエロゲだよ。しかも部活の名前奉仕部だし...奉仕ってなんかエロいと思いました(小並感
やべ、こいつの話全然聞いてなかった。
「おい八幡」
「だいたい初対面で...なんだよ」
「警察沙汰だけは勘弁だぞ」
「ねぇ、俺の話聞いてた?耳が遠いの?もう更年期障害?」
「そーなんだよ、もう俺働けねぇわ。だからお前は比企谷家の柱になれ!高校辞めて俺を養ってくれや」
キィーーー、バタン。
昔はおとーさんっ子だったんだけどなぁ...光陰矢の如しってやつか。
でもまぁ、何はともあれ部活に入ったんだから精々頑張れよ八幡。チャンスってのは逃すと次いつ来るか分からねぇからな。
そろそろ俺も入りますかね。立夏つっても夕方は肌寒い。
「あら、今日は早かったのね」
ドアを開けようとしたら後ろから声を掛けられた。
「お前もな」
「私はいつもこのくらいなんだけど?」
「へ、へー」
いつもこのくらいってホワイト企業すぎないっすかね...それともこいつが優秀なのか...たぶんどっちもだな。
「それよりさ...括目せよ!じゃーん!」
「え、なにそれ?」
水戸黄門の格さん張りに白い箱を付きだしてくる、かわいい。
「〇〇屋のプリンだよ、アンタ前食べたいって言ってたでしょ?」
「確かに言ってたけど、良く買えたな」
〇〇屋のプリンつったら一日100個限定なのに。
「ちょっとしたコネがあってね~。ほら、入った入った」
ほんと出来た嫁だ、俺には勿体ない。誰にも譲る気はないけどな。
「はいよ、それとさ」
「なに?」
「いい歳こいてじゃーんはどうかと思うよ?」
「...(無言の腹パン)」
「うぐッ!」
キィーーーー、バタン...ガチャッ。
あ、あいつチェーンしやがった!思った事言っただけなのに...
はぁ...仕方なく俺は二本目のタバコに火を付けて、鬼の機嫌が良くなるのを待つことにした。
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