神様転生なんて大っ嫌いだ! (名無しの魔砲使い)
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001
『神様転生』、という言葉を知ってるだろうか。
いわゆる、「事故で死んだ俺が目を覚ますと目の前に神様が~(要約)」から始まる、チートだらけの原作ブレイクだ。通称『転生特典』と呼ばれるチートレベルの力なり別作品の能力なりを神様とやらに貰い、新たな生を受ける。
だけど、それ自体を物語に組み込んでる商業作品は滅多になく、基本的にはネット界隈で有象無象にひしめく二次創作がほとんど。
じゃあ、なんでネットではそんなに人気なのか。それは、このジャンルが作者の欲望を如実に反映するものだからに違いない。
——もし、あの作品のこの場面にこんな力を持った人がいたら。
——もし、あの作品のあの野郎をボコボコになるまでぶっ飛ばしたい。
——もし、あの作品のヒロインを侍らして
……最後のは胸糞悪くなる話だが、初期の頃はそんなのばっかだったみたいだし、三次元と二次元の差を無視れば妄想は誰でもすることだ。実際に行動したりしなけりゃ否定はできねえ。
と、そんなわけで神様転生モノに出てくる主人公は、ほぼ全てが喜び勇んで転生していく。
色欲にまみれた奴ら、登場人物に共感して運命を変えようとする奴ら、単純に好きだった作品の力を振るってみたい奴ら、今度こそ生を謳歌しようとする奴ら。
個々人に差異はあれど、基本的にはそれを忌避しようとしない。
だが、私にはそれが理解できなかった。
だって、よく考えてみろ? 行く先が物語の世界ということは、そこには必ずトラブルが起きるということだ。特に、戦闘なんかが起きる世界なら、命の危険があるのと一緒だ。
そんなところに進んでいく? 馬鹿馬鹿しい、いくらスゴイ力があっても死ぬときは死ぬのだ。わざわざ不幸になりに行く奴らの気が知れねぇ。人生普通が一番だ。
……さて、なぜこんなことを
——目の前に、自称神様とか言っている年若すぎる優男がいるからだ。
「というわけで転生して「フンッ!!」ぐゎぺぽッ!?」
いや、訂正する。視界に入る白一色の世界の中、体をのけぞらして宙を舞う、神を自称する二次性徴も来てないような優男がいるからだ。
「で。要約するとだ、
私がホントは別の世界に生まれるはずだった魂で、
そのせいでイロイロと浮き気味で、
それでも無理やり修正するのは服務規程違反だから放置して、
ようやく寿命で死んでくれたからお詫びもかねて元行くはずだった世界に転生させることにした……と。
なるほどぶん殴るぞこの野郎」
「な、殴ってから言うセリフじゃハイすみませんですからその足を下してくだい!」
「……ッチ」
ようやく諸悪の根源を完熟したザクロに出来ると思ったのに。いや、やろうとさえ思えば今すぐできるけど、土下座した相手を抵抗なく潰せるほど私も非情じゃねえ。吐き捨てるように唾を飛ばして、地面にへたり込む自称神様を睨みつける。
「で、拒否権は? どうせねーんだろうけど」
「えっと、ハイ、もう申請手続きは終わっちゃってるので、あとは特典を決めていただくぐらいしかできないんですけど……」
ほらみろ、予想通りいつもの通りだ。神様だとか運命だとか丁寧口調の赤毛の子供だとかは、どれだけ逃げてもいつかは追いつかれるんだよ。最初から諦めて受け入れたほうがまだ対処しやすい。この、いや前回のか? とにかく人生で学んだ
つーかマジで神様ってお役所仕事なのな、私の記憶だと割と自由に暴れてるイメージだったんだけど。いや、こいつらはあの悪霊女とはまた別ものなのか? サメにもコバンザメからジンベエザメまでいるみたいに。
まあ、それはどうでもいいか。
「転生先は? あと、そこの主人公サマたちには接触しなくちゃいけないのか? しなくていいなら全力で無視らせてもらうけど」
「えっと、あなたの世界にはない物語なので、教えるとなると特典の枠をひとつ使わなくちゃいけないです。
あと、規定で転生する魂には主人公といえる人たちに近しい運命の枠を使うことが決まってるので、望む望まないにかかわらず必ず接触はするかと……もちろん、そこからどのような関係を築いていくのかはあなたの自由です!」
なんでも、主人公の周辺には既定の路線へもっていこうとする力、いわゆる修正力が働いていて、ちょっとやそっとじゃその世界の存続にかかわるような路線にはいかないようになっているのだとかなんとか。
まー、そりゃ登場人物ガン無視で特典使いまくれば世界の覇権を握るのだって不可能じゃないし、その後どうなるのかなんてアレクサンドロス大王がわかりやすく示してくれてる。それを防ぐためって言われちゃそこに文句は言えねえな。
「そーかよ。じゃあ記憶やら魂の同一性はどうなんだ? たしか時間ループ系の超能力ですら時たま怪しくなってたはずだし、転生なんてそれ以上に難しいもんだろ」
「そうですね……20年ぐらいの魂ならそのまま送ることもできるのですが、あなたの場合だと少し魂が劣化しすぎてるので、記憶だけ外部メモリーのような感じで修繕した魂にくっつけることになると思います。その場合なら魂は記憶に曳かれて今の形に近づきますし、徐々に変化するので周囲に違和感は与えないかと」
ふぅん。そこは結構大事だからな、それなら懸念事項はひとつなくなったってことでいいか。
「ただ、それで“完成”というわけではありません。向こうで得た記憶や経験、肉体年齢でも魂は変わっていきますので、あくまで今お持ちの記憶と経験が“定着”する感じです」
「なら、その“定着”はいつなんだ? それまでに死んでましたとかなったら笑えねーぞ」
「えっと、それは大丈夫かと。周囲に違和感を与えないペースで間に合うようにとなると……大体5~6歳前後になると思います。それまでに命に係わるようなことがあったとしても交通事故ぐらいですし、それも運命に矛盾するので起きません」
……いいことを聞いた。今私は口がにやけそうになるのを食い止めるのに必死だ。
“間に合うように”、これはつまりその直後に何かが起きるということ。物語の本編か、主人公とかへの接触か……年齢的に考えるとたぶん後者だな。“運命”というのはさっき言ってた主人公に近しいって奴だろうし。
“交通事故”というのも聞き逃せないな。ある程度治安と技術が発展してないと第一候補としてはあり得ない可能性だし、かといって未来技術ばりに安全対策がなされているわけでもない。たぶん技術レベルは私が生まれたころと同等ぐらいか?
そしてなにより、“それまでに”というのは最重要単語だ。この言葉が出たということは、
情報は力だ。こんな簡単な誘導に引っかかってちゃ、いつか騙されるぜ?
「んじゃ最後の質問だ。転生特典とやらの中身について包み隠さずに教えろ。どうせなんか条件があるんだろ?」
「はい。まずひとつが、対象とできるのは転生者一人だけということです。武器や能力など、本人の付随物と認定できるものは対象内ですが、たとえば『ヒロインを俺の彼女にしてくれ』などの他者へ直接的な改変を必要とするもの、『金運を最大値に』などのその世界のルールや全体の運命を操作する必要性があるものは規定により拒否しています。
ただし例外的に、漠然とした内容、たとえば『幸せな家庭に生まれたい』などの因果律の操作が少なく危険性も薄い場合に限り、運命干渉系の特典は認められることがあります。逆に、本人の能力だとしても他者の運命を操作しうるもの、いわゆる『ニコポ』や『ナデポ』なども含めた強い催眠系暗示系、その他運命に干渉しうる能力などに関しては厳しい使用条件が課せられるか、本人が述べた言葉の範囲で意図的に歪めて付加します」
ま、それは当然だな。どうも神様とやらの中では運命への干渉というのは禁忌に近いと聞き取れる。物語の中で努力の範囲で変化する分には問題ないが、外から一気に変えるのはご法度ということなんだろう。
「特典の歪みということでもう一つ。特典の付加に関しては、今言ったような例外的な事項でもない限りは、我々神自身の手ではなく機械的に処理しています。ですので、あいまいな望みを言われると……」
「明後日の方向で叶えられるから詳細に言え、ってことだろ?」
「いえ、必ずしもそうとは言えないんです。たとえば『○○の能力が欲しい!』という願いにはその能力を付加しますが、『○○
なるほど、元ネタとなった話の平均のほうが高ければ詳細に言ったほうがいいけど、転生する世界のほうが高いならあえて濁すのも手なのか。
「ん? ってなると、転生先の“原作”を知ってる知ってないでかなりアドバンテージに差が出ねえか?」
「はい、そうですね。ですので、転生先に関する知識は特典一つ分として捉え、元から知っている方は二つしか叶えられません。ほかに注意するべき点としては、容姿や名前も“社会的な能力”として枠一つを使う必要があるということぐらいでしょうか。ああ、二つとも指定しても枠は一つですよ、あくまで“社会的な能力”の内部オプションなので」
「デフォはどうなってんだ?」
「基本的な転生だとランダムですが、あなたの場合は向こうに行くべきだった魂がこちらへたどり着いているので、すでに向こうの世界にこちらと同じ名前で同じ姿の枠を持ってます。特典を使えば別の姿名前にすることもできますが、どうしますか?」
前注意は終わり、こっからは三つの特典をどう使ってくかという話……にしたいのだろう。
だが残念だったな、私が素直に従うと思うなよ?
「いらない」
「……はい?」
「チート能力だの眉目秀麗な容姿だの原作知識だの、私の目的には一ッッ切必要ない! だからいらないって言ったんだよ! 望むとしたら平穏な家庭環境ぐらいだ」
ぽかんと口を開きやがって。んなもん当たり前じゃねーか。
強い力が面倒なトラブルを引き寄せるのはこの目で何度も見てきたし、私は別に力は欲しくねえ。普通に、平和にすごせりゃそれでいい……ん?待てよ?
「はあ。では本当にそれでいいです「いややっぱ今のナシで」か、ってええぇぇぇええ!?」
うっさい、私だって大見栄切って決め顔までしたのを撤回するとか死ぬほど恥ずいんだからな。
でも、さすがに今のままだとヤバイ。さっき自分でドンパチがあると推測してたじゃねえか。自慢じゃねぇがガチニートの私にバトルスキルなんてものはねー、主人公サマの戦いに巻き込まれたら死ぬ自信があるぞ。
「あとひとつだけ、最低限自衛できるだけの武器なり能力なりをくれ。私と家族、あとダチを守れるくらいでいい、下手に強すぎたりってのは却下だ。中身は……まあ私に向いてりゃ何でもいい、適正があるので頼む」
「はあ、それだけでいいんですか? ひとつ分余ってますから、原作知識なども大丈夫ですけど」
「ハッ、それこそありえねえ。そんなもん知っちまったらどうしてもフィクション感が出ちまうし、あてにならない未来知識ほど危ないもんはねーんだ。こっちは地に足つけて生きたいんだよ」
未来知識の危険性は私たちはよく分かってる。あと、行き過ぎた正義感もダメだ、ありゃ狂ってるのと何も変わらねー。自分が届く範囲で自分に出来る事をするぐらいでちょうどいい。
「まあそういうことなら。
では、これにてお話は終了です。後ろの扉から出た先には、新しい世界が広がっていますよ」
その言葉通り、いつの間にやら大きな青銅の扉があった。どっかで見たことあると思ったら、こりゃあれだ、ロダンの地獄の門そっくりじゃね-か、考える人もあるし。縁起がわりぃ。
「……ああ、ひとつ聞き忘れてたわ」
「はい、何でしょうか?」
「その姿、なんもできなかった私への当てつけか?━━ネギ先生?」
そういうと、若かりし恩師の姿をした神様は、静かに首を振った。
「いいえ。私は、あなたの知ってる彼ではありません。そこに悪意があるわけでもありません。ただ、この世界を代表する人物として彼の姿を借りている。それだけですよ」
「そーかい、あのガキがこんなトコまで来ちまってるんじゃないならそれでいいや。じゃあな、カミサマ」
「はい、お元気で——長谷川千雨さん」
もう振り返ることなく、ひらひらと右手を振って別れを告げる。本当に、いろいろとお世話になった
「さーて」
『我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり
義は尊き我が造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛、我を造れり
永遠の物ほか物として我よりさきに
造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ』
——だったか? まあ要約すれば、「この先はすごい神様が造った地獄だから絶望してね」ってことだ。
だけど、知ったことか。
こっちは地獄すら生ぬるい絶望を乗り越えて、それでも前を向いて進んでったバカ共のダチやってたんだ。いまさら地獄の一つや二つ来たところでどうってことねーんだよ。
たしかにココにあいつらはいねえ、胸の中で生きてるとか綺麗事を言うつもりもねえ。
これは私の意地だ。あいつらみたいに前に立てなかった私が、それでもあいつらの友達だと胸張って言うためのちっぽけなプライドだ。
両手を扉にかけて力を籠める。開いた隙間から無色の光が溢れてくるも、構わず一気に全開にした。
「地獄だろうがフィクションだろうがドンと来やがれ!
例えどこに行こうが、私は長谷川千雨——
先の見えない無色透明の向こう側へと、今、一歩を踏み出した。
確かに胸に灯る、
「ちなみに扉の向こうに道なんてありませんよ」
「だよなぁぁぁぁぁあああッッ!?」
「……歴代1位の落ちっぷりですね」
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002
さて、私がこの世界に生まれて早8年、小学2年になった。
……なに?飛ばしすぎだって? しゃーねーだろ、今がまとめるのに最適なんだよ。待ち人がなかなか来なくて時間もあるし。
生まれた家は、まあまずまず普通の家庭だった。父親がいて、母親がいる。戦争真っただ中ってわけでもない平和な国、日本の首都に住む一家だった。父親……ああもうむず痒い!親父がそこそこ大きな家電メーカーの役員やってて金には困らなかったけど、それにしたって社長でもなけりゃましてや億万長者ってわけでもない、上流階層と中流階層の中間ぐらいの、どこにでもあるような家族だ。
両親に対する心境も、周囲に違和感を与えないためっていう“定着”が私にも効いたのか、特に違和感なく“本当の家族”として認識できてる。多少大人びてるとは周囲からそれなりに言われてきたけど、それでも子供の範疇を逸脱してない範囲でだ。記憶に曳かれてない、肉体年齢相応の部分の魂とやらのおかげ様なんだろう。家族仲も良好だ。
そして、6歳になりそろそろ年末に差し掛かろうかという頃、ほぼ記憶が定着してきた私のもとに、両親が転機を運んできた。
いま私が通っている小学校、『私立聖祥小学校』の入学試験の案内という、一大転機を。
聖祥小学校は、首都圏からは少し離れた、しかしそれなりに大きな都市『海鳴市』にある学校である。
この学校、こっちの世界では結構な有名校だ。小学校にして男女学生寮完備、施設も充実していて、小1から本格的な英会話の授業があるなど学力面でも優れてる。
その高い偏差値とセキュリティーの高さから政界、経済界の重鎮の孫や子供が通うのだが、独特なのが地元枠が設けられ私立としては比較的安い授業料で通えるという特徴だ。なんでも、閉じられたコミュニティーの中だけでなく一般市民の感覚と協調することでより優れた人材の育成を目指す……っーことらしい。
まあ、ようはエリート校だ。コンセプトのおかげか偉ぶってるやつは数えられるぐらいにしかいないけど。
私の両親は、純度100%の善意でそこへの入学を進めてきた。実際、私の学力は高卒以上は確実にある。受験など余裕でクリアできるし、将来のことを考えたら断るっつー選択肢はなかった。
……たとえそこに危険なフラグが立っているのが分かっていたとしても。
そして受験なんだが、特に言うことはないな。せいぜい、親父に(むりやり)連れてかれたパーティーで知り合っていた金髪ツーサイドアップ娘、アリサ・バニングスとばったり顔を合わせたぐらいだ。少し話した限りだと、海鳴が地元でもあるらしかった。
試験自体は特に詰まることなく合格、晴れて聖祥小学校で寮生活を送ることが決定した。両親は会社の都合や一軒家ということもあり地元に残ったが、引っ越し前日のパーティーで親父がそれはそれは泣きわめいて恥ずかしくて……思えばあの日からだ、『親父』と呼ぶようになったのは。
ところで。気にはなっていたのだが、私にも一応特典というものがあったはずなのだ。
こっぱずかしい思いをしながら色々やってみたが、残念ながら何かしらの特殊能力なんてものはなさそうだった。社会的立場、というのも少し弱いように思う。つまり、与えられるのは武器だと考えていた。
それは正解……?まあ正解なんだろう、たぶん。とにかく、それは引っ越し当日に私の新居においてあった。
……実に見覚えのある
いや、嬉しいよ? たしかに私が使い慣れてたもんだし、ネギ先生の本契約と同時になくなったからもう二度と使えないと思ってたし、なんだかんだ言って便利は便利だし、まさかのあいつらもいて記憶そのままってのも懐かしかったよ?
でもさ、これ武器じゃねぇじゃん。少し丈夫で使いやすいプログラミングツールじゃん。ドンパチなんて全くできねえじゃん。せいぜい格闘の補助ぐらいじゃん。
その日一日、喜びやら怒りやらで悶々としてたのは言うまでもない。
……ちなみに、契約主の部分だけ空白だった。魔力は来るから気にしないことにしてる。
で、引っ越しの主目的は学校に行くためなのであって。翌日が始業式だった。
当たり前だが小学校にはクラスというものがあるわけで。これまた偶々同じクラスだったバニングスと世間話していると、背筋が凍るような視線を感じ取った。
すばやく、だがバレない程度に視線をめぐらす。下手人はすぐに分かった。……まさか二人もいるとは思ってもみなかったけどな。
ここであらかじめ言っておく、40人近くいる教室から特定の視線の主だけを探し出すような特殊スキルは私にはねえ。嫌な視線を浴びたことはなんとなくわかっても、向きすら掴めねーんだ、一般人舐めんなコラ。
じゃあなんで誰か分かったかというと、それが有りえねーもんだったからだ。二次性徴もまだ、一次性徴すらギリギリ抜けきったような6歳男子では絶対にありえねえ……情欲を孕んだ下衆な男の眼。
このとき確信した。……こいつら、転生者だ。
可能性としてはありえなくもない。私という実例があるんだ、他に居たってなにもおかしくねえ。それがこんな典型的な屑野郎どもでも。
とはいえ、それで物理的にどうこう出来ないのが私のクォリティーだ。非戦闘職は伊達じゃねえ……マジで自慢できる事じゃねえけど。とにかく、その時できる事は観察することだけだった。幸い、私の席は一番後ろだったから、違和感のある奴らはすぐに特定できた。
一人目、
二人目、
それと、もう一人、
そんな奴らに主に見られているのは、私を除いて三人。
まず、バニングス。財閥のお嬢様で見た目もいい、性格もさばさばしてて好感を持ちやすい。いいんちょを可愛くして神楽坂の性格にすればこうなるんじゃないかって感じだ。注目されるのも分からんでもないが、ちょっと異常なほどではある。
次に、光の加減によっては紫に見えなくもない少し薄めの髪をストレートにした少女、月村すずか。見た目深窓のお嬢様候補といったところで、後で知ったが実際に海鳴の大地主『月村家』のお嬢様だった。それと、身体能力が中1頃のまほら武闘派四天王レベルで人間離れしている。普通、隣の席の奴が
その筆箱の持ち主で、三人娘の中で一番見られてるのが高町なのは。栗色に近い茶髪をツインテにした、成長期前の鳴滝妹(いたずら成分抜き)だ。教室の扉の段差で躓くし、運動神経は切れていると考えていい。見た目が他二人と比べてずば抜けてるわけでもなし、ここまで視線を集めてるということはこいつが主人公なのだろう、正直信じられねーが。
ついでみたいなもんだが、私も視線を集めてる。色欲98%の他三人と違って奇異3割、猜疑5割、色欲2割ぐらいのイメージ。“原作”にいない主要登場人物を警戒しているにしては少々違うような気もする。
とりあえず、気を狙ってヤバそうな二人の携帯に「た゛いこ」と「はんへ゜」を直接潜り込ませた。残念ながらネット接続はしてなかったので常時連絡はできないが、たまに出して必要なことだけ聞けばいい。情報を得るにはこれで十分……盗聴は犯罪だって?電子精霊の存在を警察が知ってたらこんなことしねーよ。
まあ、そこからの情報はそうすぐに集まるわけではなかった。独り言をかき集めて全体像を捉えるのはそう簡単じゃねーんだ。特にこぼしやすい風呂場が聞き取れないとなおさら。
ただ、ひとつだけ分かったことがある。こいつらは、すぐに接触してこなかった。つまり入学はあくまで“フラグ”であり、まだ“本編”までにはしばらく猶予があるということだ。たぶん、1年以上は先のはず。
幸い、私にはほかの奴らにはないアドバンテージがあった、同性というアドバンテージが。それを利用して友人関係に持ち込んで近くで守る、これを基本方針として決めた。……経験はあっても力のない私が守れるかは考えないようにした。少なくとも人が増えるだけでやり辛くはなるはずだ。
私らしくないといえばそうなんだろうが、私も女だ。あんな発情丸出しの男どもに8歳の女子が狙われるってのはさすがに見逃せねえ。特にバニングスとは、まあ、友人と呼べなくもないくらいの仲ではあったからな。
そんなわけで今後の見通しもできて、転生者(推定)をそれなりに監視しつつ、目下最大の問題はどうやって三人をまとめるかだったんだが……それは気が付いたら解決していた。
いや、まさか私が風邪で休んだ日に話し相手のいなかったバニングスが暴走、月村のカチューシャを取るというちょっと笑えないイタズラを仕掛けたところに高町が乱入、大ゲンカからの友情とかさすがに予想できねーよ。どこの少年マンガの主人公だ、あ、高町は主人公ではあったか、たぶん。
で、その次の日にバニングス経由で私も合流し(バニングスが引っ張り込んだとか言うな)、なんとか当初の目標通り“仲の良い4人組”になることが出来た。危険転生者2人の顔が嫉妬に歪んで、すぐに色欲に歪んだ理由は考えない、身の危険を感じる。あと、安藤はなぜかすごく目を輝かせてた。
バニングスが笑顔で引っ張り、
高町が運悪くそれを悪化させ、
私が頭を抑えてツッコミを入れ、
月村が宥める(たまに怒る)。
昔懐かしのまほら中等部の頃を思い出す、騒がしい日常だった。煩くて煩くて仕方ないのに、なくなったらなくなったでなんだか寂しいもんだなんだ、また味わえたことだけはカミサマとやらに感謝しなくちゃな。
……ちなみに高町で思い出したが、あいつの家。あそこは人外魔境だ。
一度、高町の強い勧め(という名のバニングスの力技)で三人娘と一緒に高町家に泊まったことがあったが、あの家には道場があった。それだけならまだ「珍しい」で済んでいたんだけどな。寝つきが悪くて早朝に目が覚めて、聞こえてきた音に釣られてそこを覗いたら……神楽坂とか桜咲レベルのガチバトルを高町の兄姉がやってた。目を疑ったがどう見ても事実だった。
ただ、そのあとずっと心の中にしまってる、調査もしていない。いざとなったらアソコに逃げ込めばいいとは考えてるんだが……明らかに魔法少女モノに相応しくない刀とか使ってたし、なんか余計なことにまで足を突っ込みそうなので出来るだけ避けてるのが現状だ。
飛んでくる虫は叩き落とすが、夏の火には飛び込まないのが私の生き方なんだよ。
そんなこんな、入学から1年が経った頃。「た゛いこ」と「はんへ゜」、「しらたき」と「こんにゃ」をひと月ごとに交代させて集めていた情報が新展開を迎えた。
とは言っても、まだ“原作”と思われる情報は断片的なものしか集まっていない。不自然なタイミングで止まることが多かったらしいが、理由はよく分からん。取り敢えずまとめておく。
①“原作”の名前は「リリカルなのは」「リリなの(たぶん略称)」。魔法とか言ってたらしいからたぶん魔法少女モノ。
②1年後(小3)の時に「PT事件」というのが起きるらしい、口ぶりからしてそれが最初の事件。他「ジュエルシード事件」や「闇の書」などの単語が出たそうだが、そちらに関しては詳細不明。
うん、①の
③神城は宮守のことを「エミヤ」、宮守は神城のことを「カミジョー」と呼んでいる。2人が共通して知ってる“元ネタ”の知識なんだろうが、私は知らんからどうしようもない。だけど二人とも安藤はノータッチということだ。
④“長谷川千雨”は、「ネギま」という漫画に登場するキャラクターだそうだ。私も転生者仲間と思われてる。
④ってなんだ!?私がマンガの住民!?ふざけんなガチ廃人だったけどちゃんと人生全うしたわっ!転生者は転生者だけどそうじゃねぇ!
……まあ、その時はそんな感じでメチャクチャ混乱したけど、あとで冷静に考えりゃありえないことでもない。「創作物は別世界を無意識に観測した結果」とは魔法探偵で似非哲学者で読書家な元クラスメイトから受け売りした思考実験だが、可能性としてはないわけではねーんだ。むしろ、あいつらの前世が私の知ってる創作物のキャラクターという可能性だってある。
それと、タイトルからしてその漫画はネギ先生が主人公だ、となれば間違いなく私も出てくるはず。これは自慢じゃなくて、結果としてそうなってるのだから自信がある。恥ずかしい場面とかも見られてるのかもしれねーけど、記憶をなくすまでぶん殴るぐらいしか方法ねーし、それは今すぐできることじゃねえ。
そんなわけで、割と早く、二週間ほどでアイデンティティを取り戻した私だが、それ以上の問題が④に含まれていることに気がついた。
——私の能力がバレてる可能性がある。
この世界に転生するにあたり、私という人間は特典らしい特典を望まなかった。
それはつまり、前世でできたことはできるが、出来なかったことは出来ないということに他ならないっつーこと。その漫画から、私が戦闘能力が皆無なことを知られてる可能性は否定できねえ。
唯一、特典と呼べるであろうアーティファクトも、ネギ先生の人生において最も鮮烈な時期に私が使っていたものと全く同じだ。こいつの力もバレてる可能性も十二分にある。これに気がついた時ばかりはあの白の世界にいた私をぶん殴りたくなった。
今は奴らがありもしない転生特典を警戒して手を出してこないが、たぶん戦闘系の能力を貰ってるだろう下衆どもが襲ってきたら、私じゃまず勝てない。
じゃあどうするか、かなり悩みに悩んだ。
まずはじめに考えたのは、高町が力を手に入れたら参謀役になって、ギブアンドテイクで互いに守り合うことだ。
裏の世界に巻き込むのは昔の私を思い出して気が進まねーが、案外魔法少女モノってのは放置しとくと世界の危機に陥る可能性99.9%の危険地雷地帯だ。しかも適性がかなり絞られてる場合も多い、高町には悪いが盛大に巻き込まさせてもらうしかなかった。
だけど、それは“原作”とやらが始まってからの話。それまでの約1年をどうするか。それが欠けている。
奴らにとってもここは事前に接触できる最後の期間だ。始まってから正体を明かすパターンもあるけど、それでも前もってある程度の仲になっていた方がインパクトがある。先手を打っとかないと押し切られる可能性が高い。
「……来たな」
というわけで冒頭に戻る。
今わたしが居るのは、あまり使われていない備品倉庫の裏手。放課後のそんなところなんて告白スポットとも勘違いするかもしれないが、ここは体育倉庫の裏みたく告白に使える場所じゃない。つーかちょっと汚いわ虫も多いわでムードもへったくれもねーし。
そして。倉庫の陰から出てきた相手。それは……
「よう長谷川、こんなとこに呼び出して何の用だ?」
——転生者三号、安藤勝喜。
「ちょっと!ぜんぜん聞こえないじゃない!」
「でもこれ以上近づくと気づかれちゃうかもしれないの」
「ふ、二人ともやめようよー」
「「嫌(なの)!!」」
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003
安藤勝喜。
見た目は普通、家庭環境もごくごくありふれた一般家庭、成績も全国偏差で見れば上の方だろうがこの学校だと平均より少し上ぐらい。
人付き合いは比較的悪めだが他二人の転成者と違って全くないわけでもなく、見下すような態度をしてないため嫌われてるわけではない。というかそれに関しちゃ私も人のこと言えねーか。
と、ある意味で転生者と一目で分からんスペックをしている。正直今日の昼まではまだ『転生者疑惑』だった。まあ、カマをかけたらあっさり引っかかったから今は断言できるけどな。
そしてこれまた他2人と違って、これまでの観察から推測するに少なくとも下心があるわけではなさそうだ。でも高町たちを気にかけてたから原作知識はあるはず。
そんなわけで、現状、こいつが唯一協力体制を築けそうな転生者だ。この先のことを考えると、今このタイミングで接触するしかねえ。
「んで? なんの用事? まさか告白とか!」
「はぁ、分かってんだろ? あんな……ひとりでに携帯のメール作成画面が立ち上がってここに来るように書かれたんだ。お前が
それに呼び出し文章には私の名前は書いてなかったんだ。それを、さもここにいるのが当然かの如く対処できるやつなんて、私の能力を“マンガ”で知ってる……転生者しかいねぇ」
スッと、安藤の目が細くなった。本性を出すと目が細まるとか、長瀬と逆だな。
「なんだ、やっぱり長谷川もそうだったか。的確な行動をしてる割には普段の会話があまりにも自然だったから、もしかしたら違うのかと思い始めてたんだぜ」
「それは私に原作とやらの知識がないせいだろうな。それと、たぶんお前の想像してる転生者とは少し違う。私は、お前たちが知ってる『長谷川千雨』本人だ」
「……はっ?」
ポカンと口を開けてる安藤に、カミサマに言われたことを適当に掻い摘んで説明する。ついでに、私の世界が漫画になっていることを神城や宮守の携帯から聞いたことも。
「と、盗聴かよ……さすがちうっち「あ゛?」なんでもないですハイ」
「やべぇマジで本物だ」とか言ってるけど、あんたらの認識で私はどんなやつなんだよ。これでも理性的……ではなかったかもしれんな、うん。
「んで、だいたい予想はついてるだろうが、今回呼び出したのはその屑二人のことだ。私は原作知識なんてないから知らねーけど、あと1年後ぐらいなんだろ?」
「……すまん、まだ起きてない、正確には体験していない“原作”に関しての情報は他人に言えないようになってるらしいんだよ。独り言なら大丈夫だけど、他人に聞かれる可能性に思い当たった瞬間に口を開けなくなる」
げ、マジか。こいつからの原作知識は少し期待してたんだけど。
だが、なるほど、あいつらの独り言が不自然に止まったとかいう話もそれで説明がつくな。家族か……それとも私の存在に思い至ったか。どうりでぼんやりと掴むのにすら1年もかかるわけだ。
「まあそれならそれでいい。あいつらの独り言からある程度その辺は推測を立ててるからな。
もし仮にだ、私の予想してる原作の開始時期が正しいなら、そろそろ奴らが過激な行動に出てもおかしくねぇ。お前は高町たちに欲情してるわけじゃなさそうだし、出来るなら手を貸して欲しい」
「……俺な、普通の男女関係じゃ欲情しないのよ」
「……は?」
い、いきなり何言い出すんだこいつっ!?
「まあちょっと聞いてくれ。んで、まあ20年ぐらい俺は悩んで悩んで、その結果この世の真理にたどり着いた」
「し、真理?」
「ああ——男は男同士、女は女同士で恋愛するのがいい」
「〜〜〜!?!?」
ズササーッ、と3メートルぐらい離れる。ま、まさかこいつ……
「俺な、男が好きなんだわ。あと女×女を見てるとほっこりする。だからあいつらのやろうとしてることは許せねぇ!手伝うぜ長谷川ァ!」
「結局お前も変態かよ!?」
しかも一時期のネギ先生と違って性的な意味で男しか頭にねぇ! そのうえ自分の欲望で女同士のカプまで手を伸ばしてやがる!? 手のつけられなさじゃ他二人なんて目じゃねぇぞ!?
……ふぅ。まてまて、落ち着け私。情操教育的な問題を除けば、手を出す可能性がない協力者というのは満点に近い。うん、ここは諦めろ、できるだけあいつら三人との接触時間を減らせばいいんだ。それで解決する話だ。
「……よし、分かった。手を組もう。ただし、あいつらに布教したり洗脳したりってのはナシだ」
「それは大丈夫だぜ、俺がユー、あのキャラを貰えば自然とそっち方面に行くはずだからな。カプ厨も出ねえ完璧な結果だ」
「……魔法少女モノの常ってことか」
哀れ、あの三人娘は普通の恋愛が出来ないらしい。ノーマルの女としてはあいつらの行く末に泣けてくる。
「はあ。じゃあ、まずは今後のこと、特に変態ハーレム願望男二人について対策を立てるぞ」
「作戦は任せるぜ、本物のちう「ん゛?」長谷川千雨ならそう言うのはお手のもんだろ」
ったく、その名前で呼ぶんじゃねえっつーの。もう恥ずかしくてネットアイドルは引退したんだ……コスプレはたまにするけど。
「んじゃ、まずはお前の転生特典を教えてくれ。私のは平穏な家庭環境と、まあ『コレ』だ」
「ん?なんだっけそれ……ああ、魔法(科学)のステッキか。持ってなかったっけ? というか二つ?」
「これ以上の特典はいらねーって押し付け返してきた。コレに関しちゃ……まあ仮だったもんが切れたせいだ」
「……そいつは聞くべきじゃなかったな、すまん」
いや、頭下げられて謝られても困るんだけど。もう遠い昔に吹っ切れたことだし。
「ほら、頭上げろ。私はもう気にしちゃいねーよ。アレだ甘酸っぱい初恋の思い出ってやつだ。後悔なんてもう全くねーんだ」
「まあ、長谷川がそう言うなら……。
それで、俺の特典だったか? 原作知識と、防御系とかサポート系の……っ、すまん。まあそっち系の能力だ」
言えない、ってことは今後起きる物語に関わることなのか。まあ魔法少女モノなら十中八九魔法だろうけど。
「あとは死者蘇生だな」
「なるほど…………?」
ん……? “死者蘇生”っ!?
「んだよそれ!? ありえねー!?バグも良いところじゃねーか!?」
「い、いや、そんなに使い勝手は良くない、っていうかかなり制限が厳しいんだよ。使用は1回のみ、対象は特定のキャラクター1人だけ、使用後は3ヶ月間ふたつ目の特典が使えない、使う日時も指定されてる上に強制発動。その他諸々、細かい条件とかが沢山ある。ふたつ目の特典がオールマイティーじゃなくて特化してるのも、こいつの容量を空けるためでな」
……なるほど、確かにそれは厳しい。カミサマの言ってた制限とは、どうやらマジでかなり厳しいものだったらしい。いや、運命干渉系の最上位に近い死者蘇生でその程度で済んでるならまだ軽い方なのか? ……よく分からん、私は神様じゃねーんだから当たり前だけどよ。
そして、結構頭を使うタイプっぽい安藤がそんなデメリットだらけの特典を望むっつーことは……原作通りに行けば誰かが死ぬ自体に陥るということか。安藤の口ぶりだとこれでもかなり条件がパンパンだったようだから、下手したら2人以上が死ぬ可能性もある。
……それが高町たちの誰か、もしくは全員である可能性もだ。
「……つまり。お前は何かしらの悲劇を回避しようとしていて、その為にサポート系の能力ばっか寄り集めたっつーことか」
「いや、実……これも言えないみたいだな。
とりあえず、今の俺は戦闘が出来ないってのは確かだ。防御系の能力も万全の状態じゃないし」
その言い方は引っかかるものがあるが、どうせ聞いたところで制限に引っかかるのが見えてる。時間をかけるだけ無駄だな。
「じゃあ、あのゲス転生者二人の力は分かるか?」
「えっと、神城の方は多分『
「
分かるどころじゃねえ! そのままの物なら最強最悪の能力じゃねぇか!?
「まさか“リライト”まで使えるわけじゃないよな!?」
「いや、たぶん大丈夫、だと思う。元ネタの原作主人公はその力のせいで自分は超常的な力が使えなかったからな。ただ……」
「
「……腕を切り落とすとドラゴンが生えてくる」
思わず天を仰いだ。
なんだその、超緊急時にしか使えない隠し能力。意味あんのか? いや、ないわけじゃねーだろうけどどんな状況なんだそれ。腕切られるって、何があったらそうなるんだよ。
「……まあ、神城の方はそれで良い。じゃあ宮守の方は?」
「かなり記憶が怪しいけど……自分の目で見た刀剣類を解析、コピーして蓄積する世界を作り出す能力、の筈だ。なんか用語とかが沢山あったせいでよく覚えてないけど」
「世界を……作り出す?」
なんだそのチート、フェイトガールズのドラゴン娘の同類か?
「なんだっけな……『固有結界』って名前で、一定範囲内の世界を別の法則で塗りつぶす……?的な感じだったはず。ただ、それはすごい燃費悪くて、基本的には中にある剣を取り出すみたいな使い方をしてたはずだ」
「ふーん。結界か、なら範囲内に近づかなけりゃ対処はできるな。取り出すのも剣なんだろ、距離をおけばまだ何とかなるか」
まあ、桜咲並のスペックだったらそれも簡単じゃねーんだけど、対処法があるだけマシってもんだ。
……は? なんで首を振るんだ?
「いや、そっちの方が間違いなんだよ。そのキャラ、弓に剣を番えて矢みたいに撃つんだ。もちろん百発百中。
しかもその剣自体にも特殊な能力があって、空間を抉り取ったり、マッハ3でどこまでも追い続けたりする。しかももれなく全部爆発するオマケ付き」
「……なあ、それ剣なのか?」
「剣だ。盾とかも入ってるみたいだけど、それは剣。ついでに言うと近接戦自体も好んでる」
「……まー随分なチートを選んだもんだな」
もちろん、この話は外見と能力が一致していることが前提にある。だがまあ、敢えて別々のキャラからとったりすることはないだろ。他に転生者がいることを事前に知ってればまた違うのかもしれねーが、少なくとも私は違ったし安藤も違うみたいだ。なら、公平性を期す為にあいつらにも知らせてないだろう。
その場合、自分のイメージに近づく為に能力と容姿は同じにする可能性が高いはず。それに、もし違うのなら既に他の転生者を襲ってなくちゃおかしい。確実に不意をつけるんだから。それをしないということは、見た目から自分の能力を推測されて返り討ちに遭うことを恐れているということ。私と同じだ。
「……ん、まあ簡単にまとめると、あいつらはバトル系の能力を貰ったってことで良いんだな?」
「ああ。それともう1人、転生者を見つけてる」
「なんだって!? 結構気を張って警戒してたけどそんな素振りをする奴は1人も……いや、そうか。私と同じで原作知識がない可能性があんのか」
その場合は危険性はまずないから放置してた。というか自覚ないやつなんて見つけられん、原作知識がある奴が比較して初めて気がつくことだ。
「俺が見た限りでも、多分そうだと思う。とりあえず危ない人じゃなさそうだ」
「で、誰なんだそれ」
「翠屋の社員で、
「さくら?」
「それそれ、元木さくら」
翠屋ってのは高町の両親(見た目メッチャ若い)がやってる喫茶店だ。私やバニングスたちもよくお邪魔してる……たしかに主人公の高町に近い立場ではあるな。小学生だからといってコミュニティーは小学校だけとは限らねーわけか、意識から抜け落ちてた。
んで、そこで働いてる女性が元木さくらさんなんだが……まあ、怪しいところなんてひとつもないような人だ。料理が上手で厨房のNo.2(No.1は高町の母親)、性格も普通に優しく普通に厳しく、裏表がある感じではない。
高町の母親と同じく、というかこっちは行きすぎてるほどに見た目が若くて身長も低い、いわゆる合法ロリで、たまに中学生に間違われると愚痴ってた。あと、高町兄の
まあ特筆するべきはそんぐらいな人である。完璧超人っつーわけじゃなくて、虫が嫌いとか、たまに凡ミスしてたりとか普通の人……ってのが私の印象。
「……私も何度も顔を合わせてるし、よく知ってる人だけど……はっきり言って信じられねー。それ本当なのか?」
安藤が嘘をついてると思ってるわけではねーけど、考えるほどにありえないと感じるんだが。だって、人付き合いの壁っつーものが
安藤も普通といえば普通だけど、それでも雰囲気に転生者特有の壁みたいなもんがあるからな。もちろん私も持ってるんだろうし、こいつは転生者特有のもんだと思ってたんだけど。
「俺も直接確認したわけじゃないんだけどさ。原作の翠屋は家族経営で、バイト以外の社員はいないって説明があったんだよ。『社員』ってだけで原作にいない人間、転生者なのが確定してる」
ん?それ原作知識なんじゃねーの……ってああ、翠屋を“体験”してるから話せるってわけか。
うぅん、安藤がこんな嘘をつくメリットはねーし、原作知識ってもんがあるならそうなんだろうな。はぁ、これでまた私の周囲から一般人が1人消えた。
「まーいい。仮に転生者だとしても関わるつもりはない、っていうかあの感じからして原作知識も貰ってないだろうから完全に二度目の生を楽しむ方向の人なんだろ。無理に巻き込む必要はねー、それとも何かそれでトラブルがある可能性があんのか?」
「……いや、すぐにはないかな。“もしかしたら危ないかも”ってぐらいの可能性はあるけど、それは俺たちじゃどうしようもないし今すぐどうこう出来ることでもない。最低でも原作が始まるまで待たないと」
じゃあ元木さんはしばらく放置でいいな。というかあの人に関しちゃ他に選択肢がない。
「ってなるとやっぱりあの性欲男二人の対策が最優先ってことだな。ちょっと待ってろ、いま作戦を考える」
こっちは非戦闘系頭脳労働担当の私と、防御・サポート系の能力者の安藤。その安藤も何かしらの事情で防御系能力は完璧じゃない。この状況でバトルを挑むのは馬鹿のすることだ。
となると、使うのは絡め手。それも、出来るならあいつらがお互いを牽制し合うような物を……よし、これで行けるはずだ。
「とりあえず思いついたけど、私は原作を知らねえ。何か気が付いたことがあったら言ってくれ」
「早くないか?」
「これぐらいしか取り柄がなかったもんでな」
これでも英雄一味の頭脳労働担当だ。作戦立案や方針の変更を瞬時に判断しなくちゃならねーからな、自然と鍛えられたんだよ。
それはそれとして。今回の作戦の内容、安藤にやってもらうことなどを簡単に告げる。詳細な中身はあとでメールかなんかでやり取りすりゃいい。いつ人が来るかわからねー今は、大まかな全体像を手早くだ。
「……それなら大丈夫そうだな。少なくともあの2人は警戒して手を出せなくなると思うぜ」
「そうか、ならこれで行くとして……できるだけ早く動きたい。明日までに準備できるか?」
「まあ、そのぐらいなら」
「じゃあよろしく頼むぜ」
少し気恥ずかしいが、まあ礼儀だ。手を差し伸べる。安藤もその意味はわかったのか、笑顔で握り返してきた。
……うう、やっぱ恥ずかしいなコレ、さっさと分かれて寮に帰っちまおうそうしよう。
「じゃ、明日」
「おう、任せておけ!」
さて。協力者も手に入れた。これで万が一変態が組んでも人数的には対抗できる。
明日、予想外の方向に転がらないことを祈るばかりだ。
「こ、こんなところで男と女が密会してて、顔を真っ赤にして、安藤のやつが頭を下げて、千雨も笑顔で手を握って——!? うそ、あたし千雨に負けたーーっ!?」
「や、やっぱりそういうことなんだよね!?」
「それ以外にないでしょ! ああ、まさかの千雨が一抜けって。あいつが一番男に興味ないって顔してたのにぃ……」
「す、すごい敗北感なの……」
「二人とも、だからやめようって言ったじゃない……」
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004
「う〜す」
ガラガラと扉を開けて教室に入る。小学生らしく騒がしい教室は昔懐かしの3ーAを思い出してなんだかんだで居心地のいいもんなんだが、なぜか今日ばかりは違和感を感じた。
「来たわね。ちょっとこっちに来なさい千雨」
……ああ、普段なら真っ先に声がかかるバニングスが、教室の角で笑顔で手招きしてるからか?
つーかなに?なんかやな予感がすんだけど。私なんかしたか?
「なんだよ、って引っ張んじゃねー月村!お、おい!」
マジでどうしたんだこいつら!? 普段だったら大人しい月村まで力技に出るって相当だぞ。
……はあ、付き合うしかねーか。ったく、今日はこれからデカイ仕事があるってんのに。
「ありがとすずか。さ、キリキリ吐きない千雨、主に昨日の放課後なにやってたのかとか!」
「は?昨日の放課後、って……!」
まさかアレを聞かれてたのか!?
やばい、とにかく誤魔化せ!
「い、いや、別になんでもなかったっつーか、アレだ、世間話っつーか」
「ハ!あれがただの世間話なわけないでしょ! いいわ、じゃあ聞き方を変えてあげる」
まずっ、マジで聞かれてた!
なにやってんだ私!盗み聞き対策ぐらいしとけよ!
「千雨!あんた、安藤と付き合うことにしたの!?」
「…………。……はあ?」
付き合う?私が?
「もしかして、見てただけか? 話は聞いてねーのか?」
「そうよ!だけどそれで充分! 男子と女子が倉庫裏で密会してて、赤くなって頭下げたりすることなんてそれぐらいしかないじゃない!」
う、ん?そんなことしてたっけ……してたな。で、こいつらはそれをどっか遠くから見てた、と。
「勝手に見ちゃったことはごめんなさい、アリサちゃんたちが『こいつは怪しいわ!』って無理やり……」
「とか言ってすずかもしっかり見てたでしょ!千雨が安藤と手を握るとこも!」
は、はぁ……。よかった、ただのマセガキの早とちりか。これならまだ誤魔化しようがある。
「ちげーよ。私とあいつはそんな関係じゃねー」
「嘘言うな! じゃああの手に持ってたカードはなんなのよ!」
「……余り大きくは言えない話だけどよ、寮に住んでるやつにラブレター渡してくれって頼まれたんだよ。そいつが誰かは……まあそこはあいつのプライベートだから言えねーけど」
「へぇ、そうなんだ」
言い訳が通じたのか、月村は得心したように頷いてる。まあ、単なる告白にしちゃ長話だったからな、どこか違和感はあったんだろ。
……さて。爆発3秒前、2、1……
「うがーーっ!それならそーと早く言いなさいよーーっ!? 勘違いって、ああ恥ずかしい恥ずかしい!」
「いや、弁明する時間もなかったんだけど」
「うっさい! ていうか勘違いさせるような行動してた千雨が悪い!」
「それは仕方ねーだろうが!盗み見てたお前らが悪い!」
バニングスが顔を真っ赤にしてズビシと私を指し、私がそれに反論して、月村が苦笑しながらバニングスを宥める。一年続いたいつもの光景に、チラチラとこっちを向いていた教室の視線がなくなったのを感じる。
とりあえずこれでよし、っと。安藤の名前が出たけど……まあ一応こいつらも気を使ってたのか小声だったし問題ないだろ。どっかから漏れてたら精々いい案山子になって貰おう。
「お、おはよ〜……。な、なんとか間に合ったの……」
お、来たな今日の主役。予鈴2分前、寝坊した時の登校時間ジャストだ。バニングスたちと一緒じゃなかったから風邪の可能性も考えてヒヤヒヤしたぜ。
「あ、なのは〜!聞いてよ昨日のアレ、私たちの勘違いだったんだって!」
「にゃ!?そうなの千雨ちゃん!?」
「あーはいはい、休み時間に詳しく話してやるから先ホームルームな。ほら、先生来たぞ」
「うー、わかった!約束だよ!」
……さて、これからだ。
私の席は教卓から見て左寄りの奥、高町の席は右寄りの前側だ。高町の席は私からはよく見えるし、神城と宮守の席からも見えるはず。気が付けよ……!
「
よし!まず第一関門突破!
あとはそれを机の引き出しから取り出して、中身に気付くかどうかだ。出来れば神城たちも気がつけば文句なし……さてどうだ?
「……にゃっ!?」
「高町さん?どうかしましたか?」
「にゃ、にゃんでもないですっ!」
いよっし、完璧!これでクラス全員に印象付けられた!
あとは小芝居を打つだけ、そこでボロを出さなけりゃミッションクリアだ!
「……はい、皆さん居ますね。それじゃあ、今日も1日頑張ってくださいね。じゃあ明智さん、号令をお願い」
「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」
『よろしくお願いしまーす』
「あ、アリサちゃんすずかちゃん千雨ちゃん! ちょっと来てなの!」
「なによー、何か変なものでも入ってた?」
さも呼ばれたから席を立ったかのように、慌てた様子の高町の元へと向かう。ここまではいつも通り、誰が見ても自然だから問題ねー。
そしてこっちもいつも通り、バニングスはからかい半分に話しかけてるが、それビンゴ。ただし、高町がおずおずと持ち上げたそれ、引き出しに入ってた物は不審物なんかじゃなく……白い便箋(ハートのシール付き)。
「な、なっ、なっ、ななななな……!」
「あの、や、やっぱりこれって……」
「ラブレター、だな」
「なんでよーー!千雨が違ったと思ったら次はなのはかーーっ!あたしは結局抜け駆けされる運命なのかーーっ!?」
「あ、アリサちゃん落ち着いて!」
いや、小2だろ?抜け駆けとか気にするには早すぎるんじゃねーか? アラサーとかならともかく、私らはピッチピチの一桁だぞ?
「それで、なのはちゃんは中身は読んだの?」
「う、ううん、まだだけど……」
「うー、さっさと読みなさいよ!あたしたちで壁作っとくから一人彼氏持ちのリア充になればいいんだ!」
「バニングスの意見はともかく、私もさっさと読んだほうがいいとは思うぞ。もしかしたら呼び出しの手紙で、気がついたら時間過ぎてたとかあるかもしれねーし」
「う、うん。そうだね!」
手紙を隠すように固まって、高町が封を開ける。バニングス、あと意外と耳年増な月村も興味津々にそれを覗き込むが、私は一人盗み見ようとするバカを警戒するように周囲を見渡した。あれだけ騒いでたから今や注目の的だ、もちろん神城たちターゲットも含めて。
「……うっへぇ!なにこれ気持ち悪っ!」
静まり返った教室で、バニングスのオブラートを剥がしてカプセルを割ったような苦い悲鳴はよく響いた。当然、クラスメイト全員がすわ何事かと一斉に視線を強くするわけで、ここの機を逃さずに私が代表して聞きだす。
「ん? どうしたんだ?」
「ちょっとこれ見て見なさいよ」
「ん、つってもただのラブレターじゃ……?『あなたをいつも見守っております』……『危険があればすぐに駆けつけ敵を薙ぎ倒しましょう』……『私は最強です、決して誰にも負けません』……『全員幸せにしてみせます』、だあ? なんだこれ、妄想癖のストーカーか何かか?」
まあ、実際のとこは安藤にそれっぽく書かせたもんなんだけどな。予想以上に気持ち悪く書けてて、知ってた私でさえ鳥肌が立ったぞ。
「でしょでしょ!?きっもち悪い! なのは!心当たりはないの!?」
「え、うぅん、ちょっと分かんないかも」
「でも明らかにヤバイわよこいつ!しかも自分で神に愛された男って書いてるのよ!?絶対に危ないって!」
「うん、これはちょっと心配かな。恭弥さんたちにも相談したほうがいいと思う」
「そうよ!なんならパパに頼んでボディーガード雇おうか!?っていうかそうしなさい!」
もはやこいつらにとって一大事だ。机に入ってたラブレターがまさかのストーカーからの手紙だったんだから。これでこいつら自身の警戒心も上がる。それは高町たちだけじゃなくてこのクラスの転生者以外全員同じ考えだ。これならいくら力があっても迂闊に近づけねーはず。
それと、神城たちからしたら他の転生者が送った可能性に思い至るだろう。わざとそうした文章にするよう指示してるからな。安藤は容姿の特典を貰ってないから気付かれてない、女の私を除けば男の転生者と見た目で分かるのはあいつらだけ。こんなことがあったら、お互いがお互いを牽制し合って高町たちに手を出すどころじゃなくなるはずだ。
「ち、千雨ちゃんもそう思う……?」
「ったりめーだ。コレ、誰が見たってそう言うぞ。最低でも送り主が分かるまで一人で帰るの禁止な、バニングスたちもだ」
「え、わたしたちも?」
そうするために安藤に入知恵してるからな。
「この手紙には『全員幸せに』って書いてあんだろ。高町たちを含む全員ってことは……」
「あ、アリサちゃんとかすずかちゃん、千雨ちゃんもってこと!?」
「だろうな。私は寮住まいだから行き帰りの防犯もしっかりしてるけど、街中歩くお前らはそうじゃねえ。家の人間について貰うに越したことはない」
「……そうね。お昼にでも鮫島に連絡しとく」
「わたしもお姉ちゃんに電話しておかなくちゃ」
やっぱりお嬢様二人は行動が早い、慣れっつーのは恐ろしいな。高町なんて未だに混乱した顔してるぞ。
「ねーなのはちゃん、それ机に入ってたんでしょ?」
「え、うんそうだよ」
ん?えーと、こいつの名前は……そ、そ、
「私見ちゃったんだけど、今朝、安藤君が机の中を覗いてたっていうか……」
「えっ!?」
はぁっ!? 朝イチで入れさせたの見られてたのか!? ヤバイ、安藤に疑惑が集まってる!どう言い訳すればいい……!
「あ、安藤くんは違うと思うよ!」
つ、月村……?
「すずかちゃん?」
「あのっ、理由は言えないけど、でも安藤くんはなのはちゃんにこんなことしないと思う!」
「……そうね、千雨もそう思うでしょ?」
「え、あ、ああ」
そうか。こいつらの中だと安藤は『寮に住んでる誰か』に恋い焦がれてんだ。高町をストーキングするワケがねえのか。
「じゃあなんで安藤は高町の机を見てたんだよ!」
「そ、それはだな……」
っ! 神城のやつ的確なとこをついてきやがる、これじゃあ私らがいくら言っても意味がねえ。
バニングスたちが擁護してんのは、私のついた嘘がこいつらの中でうまく噛み合っただけだ。内容的に言い振らせるもんでもねーし、もし話せてもウラを取られりゃすぐバレる。
頼むぞ安藤、うまく誤魔化してくれ!
「……朝、先トイレ行くために教室の前を通ったんだけどよ。誰かが高町の机になんかしてたから、気になってちょっと見ただけだ!」
! 上手い!それなら確かに覗いててもおかしくねえ!
「誰かって誰だよ! っていうかならなんでその時どうにかしなかったんだ!」
「……それは無理じゃないかな」
左右田も気付いたか、神城の指摘には無理がある。
「この部屋、朝早くに扉から見ると太陽がすごく眩しいの、人の顔なんて分かんないよ。私も教室に入ってからやっと安藤君だってわかったし。
それに、その封筒に入ってたらラブレターだと思ってしまい直しちゃうよ。中身なんて分かんないんだし」
「うっ、そ、そうだな」
よし!神城も引き下がった。被害者の親友の月村と目撃者の左右田から擁護されたおかげで、安藤への疑念も100%じゃねーけど殆どなくなってる。結果的にだが『誰か分からない男』の存在を印象付けられて良かったのか?
「って、もう授業じゃない! 何も準備できてないっ!?」
「アリサちゃん落ち着いて、まだ間に合うから!」
「まあ、そんなわけで今はここまでだ。高町、これ先生に見せても良いか?」
「う、うん。大丈夫」
なんかまだ混乱してるみたいだけど、今は時間がねえから後回しだ。次の休み時間にでも昨日のこと話せばなんとかなるか?
……はぁ。疲れたけど、一応目的は達成できたか?
あと一年、何も起こらなけりゃ良いんだがな……。
「ねぇ、なんでなのはだけだったんだろ? 私たち全員の机に入ってなくちゃおかしくない?」
「……さてな、一番与し易いと思ったんじゃねーか?」
「一番組安い? 何それ」
「……押しに弱いってことだ。子供にゃ早かったか」
「千雨も同い年じゃない!」
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