ココロコネクト 面倒くさがりが紛れ込んだようです (黒木龍牙)
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ヒトランダム
気づいたときには始まっていたという話


どうも、黒木です。
ココロコネクトを久しぶりに読んで書きたくなりました。
主人公は面倒ごとが嫌いな名木沢 龍徒くん。
キャラクター設定などは今度考えますwww.
では、どうぞ。


感情。

これは人が持っている物だ。

もちろん、等しく持っている……、訳ではない。

反応が薄い。

これは感情を持っていないように見えたりするわけだ。

そんな感情の変化はあるものの、反応が薄い少年が、ある世界に入ることでどのような変化が起こるのか。

そのような少年が、ココロコネクトの世界でどう生きるのか。

 

「眠い……、だるい……。」

 

違った、面倒臭がりだった。

 

 

9月。

通常の学校なら、夏休みという非現実から現実へと帰還する時期だ。

そしてこの高校、私立山星高校は先日、面倒臭い文化祭があった。

勿論、俺も少しは楽しんだ。

出し物がない部室で寝ることだった。

まあ、それ以外は正直面倒くさかった。

皆のやる気が鬱陶しく、何事にもやる気が出ない。

そんな日が続いたが、ようやく皆の浮かれた気分が抜けたようで、人々のテンションは通常に戻っている。

この学校、私立山星高校は全生徒入部制、というまあ簡単に言うとクラブに絶対入らなければならないという面倒臭い校則がある。

俺は単純に家から近く、中学の知り合いが行かない所に入ったのだ。

そう、それが山星高校。

校則なんか読んでなかったわけだ。

俺の入っているクラブはそんな校則におけるひずみから生まれたものなのだ。

文化研究部、略称文研部。

日々世界中の文化を包括的に研究している…………、訳がない。

俺がそんな面倒な所に入るとすれば世界中の天気が槍の雨、銃弾の雨に見舞われるくらいの超常現象が起きるだろう。

この部は今年新設されたばかりで在籍も一年生6名という弱小部活なのだ。

そして部の方針は…………、忘れた。

なんでもありとしか覚えていないのだが…、何だっけな。

まあいい。

弱小部活なのが原因なのか、部室は部室棟の一番嫌われている最上階の最奥。

4階の階段から一番奥。

全く面倒ごとの嫌いな俺を殺したいのか。

先ほどまで気だるげな授業を終え、甘ったるい声の女性担任の声で終礼を終えた。

正直帰って寝たいが、家にいると姉貴が仕事の愚痴を言いまくるため却下。

ちなみに俺は歩くのがナメクジ並みに遅い。

ご老人にも負けるくらいの遅さだ。

俺の身長は180あるかないかくらいなのだが、足を動かすのが遅い。

貧血で倒れるよりゆっくり歩いたほうがいいだろう?

まあ、そんなことは置いといて、階段は面倒なので一段飛ばし。

二段飛ばしだと貧血になるので、一段飛ばしで落ち着いている。

登下校は自転車だ。

スケボーでもいいのだが、うちの担任は厳しい。

甘ったるい声なのだから緩くしてくれていいのに。

そんなこんなで階段を登りきる。

夏から秋に変わろうとしているこの時期の空気は暖かいというよりは涼しいといったほうがいいだろう。

階段で少し火照った体を涼してくれる。

階段を上り終え、左に曲がる。

一番奥にある部屋にやっとたどり着いた。

文化研究部とコピーされたA4の紙が貼ってあるドアを開く。

明るい日差しに照らされた心地のいい空気。

部室にはそれがある。

部室には長机が二個と六つのパイプ椅子が置かれており、左右3人づつ座れるようになっている。

部室に入ると、うちの部員が1人パソコンのキーを叩いていた。

 

「なんだ?龍斗(リョウト)、今日は早いじゃねぇか。」

 

「ああ、うん…。唯と義文が居なくなったからもう行ったのかと思ってさ。太一と伊織は?」

 

この女子は、稲葉姫子。

漆塗りのごとく艶やかで美しいセミロングの髪で、年相応ではなく大人びた印象を受ける。

俺の知ってる限り、ここまで美しい高校一年生は見たことがない。

まあ、俺も大学生と間違われることは多々あるので別に問題ないのだが。

 

「伊織はもうすぐ来ると思うが、太一は掃除の手伝いだ。全く、お人好しもいいところだ。お前が手伝いをしていたら、超常現象でも起こりそうだな。」

 

「俺も頼まれれば手伝うけど…。」

 

「へぇ?理由は?」

 

「中学で断ったら陰口言われて色々後片付けが面倒だった。」

 

なるほど、と言ってパソコンに向き直る稲葉ん。

あ、自己紹介を忘れていた。

俺は名木沢 龍斗(ナギサワ リョウト)。

身長180くらい。

体重67前後。

年齢15

誕生日は1月12日

成績は平均よりちょっと上。

数学はほぼ満点。

俺は稲葉んの横に座りバックを抱え、それに顎を乗せて目を閉じる。

俺は基本この体制だ。

 

「そういえば次の文研新聞の内容は決まったのか?」

 

「うん、一応……。次は不眠症の人へ送る睡眠をする前にすると良いことだよ。」

 

「お前は相変わらず、睡眠方法について考察しているな………。」

 

文研新聞。

これはこの文研部の活動で、月一回発行しているものなのだが、これの内容はひどいもので

ほとんど部員の趣味の延長みたいなものだ。

まあ良いだろう。

俺ごときが書いた事で眠りが良くなるなんて人はそんなにいないだろう。

すると、ドアが開いて誰か入ってきた。

 

「あれ?稲葉と名木沢の2人だけか?」

 

「見ての通りだ。」

 

「って、名木沢が早いのは何か起こるんじゃないか?」

 

失礼な。

まあ事実、俺が一番遅くに来ることが多いが。

そういえば、昨日、変な夢を見た。

唯になった夢。

夜だったので、ゆるい三つ編みにして寝た覚えがある。

今入ってきたのは八重樫太一。

茶髪で受け答えが柔らかい普通の高校生だ。

いつもはツッコミに回っている。

 

「そういえば、夢を見たんだけどさ。唯になった夢だった。」

 

「へぇ?お前は夢を見ても忘れるやつだと思っていたんだが?」

 

「ああ、俺もそう思ってたんだが…。睡眠不足というわけでもなく、快眠だったはずなんだけれどねぇ…。」

 

唯というのは、このクラブに所属している桐山唯という背の低い栗色ロングヘアの女の子で、違う中学だったが交流はその時からあった。

まあそのことは今度話すとしよう。

 

「で、太一は次の文研新聞のネタはできたのか?」

 

太一が稲葉の正面に座り、一息つくと稲葉んがそう聞いた

待ってましたとばかり机に手をついて立ち上がる。

 

「ああ、もうすぐできるぞ。ちなみに、内容は「それ長くなるなら止めてもらえる?太一のことだからプロレス技についてだろうけど、熱くなると太一うるさいから。」…………………。お前ってそんな長文ハキハキと話せたんだな。」

 

「そろそろ泣くよ?」

 

こいつの唯一、一般人とは違うところ、それがこのプロレスオタクである。

俺のお豆腐のように柔らかいメンタルがやられそうになっていたらドアが勢い良く開かれた。

 

「チーッス、おっくれました〜!ってありゃ?3人だけ?」

 

「おお、来たのか永瀬。青木も桐山も来てないぞ。」

 

「なーんだ、走ってきた意味ないじゃん。」

 

うちの担任とは違う甘い声。

アニメボイスの持ち主であり、この部の部長、永瀬伊織が部室に来たのだ。

伊織はつまらなそうにバックを置くと、奥の窓近くに置いてあるソファにダイブする。

まあ、女子はスカートなわけでそんなことをすればスカートがまくれる。

一応スパッツを履いているのだろう。

水色のそれが見えても伊織は恥ずかしがらない。

それを、赤面しつつチラッチラッと見つつ言う。

 

「な、永瀬、一応俺と名木沢という男子がいるんだぞ。」

 

「ふっふっふー、一チラ見120円。」

 

「金を取るのかよ…、の割には良心的な価格だな…。」

 

「伊織、1200円出すからそれくれ。」

 

「名木沢は変態に成り下がったのか!?」

 

冗談で言ってみたら、太一に真面目に突っ込まれた。

解せぬ。

伊織も冗談とわかっていたようで、にししと笑いつつソファに座りなおす。

 

「で、伊織は次の文研新聞のネタは見つかったのか?」そう稲葉がネタが決まっているかという確証を得るために早く言えとあごをしゃくって促す。

 

「うーん、実はこの前、『文研新聞』に足りないものについて考えていたのだよ。」

 

「で?」

 

「スキャンダラスな面は、稲葉んが担当しているから良いとして、後エロティックでバイオレンスでデンジャラスな要素が足りないという結論に至りました!」

 

勢い良く立ち上がりそう言う伊織は輝いていた。

だが、それに対して呆れたのかため息をつきつつ稲葉んはこう言う。

 

「誰も校内新聞の一つにそんな写真週刊誌ばりの刺激は求めてねぇよ。というかスキャンダラスな面がある時点で本来の趣旨から外れてるぞ。」

 

前号の『文研新聞 文化祭増刊号』にて、稲葉んと俺で教師2人の同僚を超えた関係をすっぱ抜いたのだ。

写真の入手は俺、そして記事を書くのは稲葉ん、といった感じだ。

確定できる写真はかなりの刺激だったために手を繋いでいるところと、キスシーン、隣の席で一緒に飲んでいるところを撮影したのだ。

先生方にはこっぴどく怒られたが、情報の入手先のことをやたらと聞かれた覚えがある。

(企業秘密と割り切った)

ちなみにそれでその教師2人の祝福もとい冷やかしパーティーが始まった。

それが一番の盛り上がりを見せていたのは良い思い出だろう。

俺はうるさくてたまらなかったので、近くでジュースを飲んでいた。

 

「あれはお祭り限定で、それに、龍斗の情報入手が無ければ事は簡単に進んでいなかっただろうしな。当分あんな記事を書く気はないし、新たな情報があるとも思えないがな。」

 

「先日、あの2人のよく行く居酒屋情報手に入れたんだが、どうする?」

 

「………………、おまえ、何もんなんだよ………。」

 

「で、いるの?いらないなら責任を持って誰にも漏らさないようにするけど。」

 

「あ、ああ。とりあえずもらっとく。だが他の奴らには絶対ばらすなよ。」

 

まあ、あの2人をくっつけたの俺だし。

それに、あの2人、なんとなくタイプが逆だったけど、良い感じに歯車が合ってくれたみたいだ。

よかったよかった。

俺が出している先生用の文研新聞に載せる記事。

お酒に合うつまみの簡単な作り方などを載せたいわゆる料理本である。

すべて合わせると、本になるので最終的にブックカバー的なものをつけよう。

それを作っている際に、あの2人の入っている店をたまたま見つけてしまったのだ。

あの新妻には夫に作る簡単料理レシピでも作ってあげよう。

意外と世話好きなおれが見え隠れしたところで話が戻ったようだ。

 

「と、とりあえず!『たまにはやっちゃうぞ』根性でエロにも挑戦してみようぜい?」

 

そう言ってサムズアップする伊織。

 

「高一の純情な乙女にエロネタを書かそうとするな。」

 

純情な乙女の持つ羞じらいなどすでに捨てたような様子で稲葉がそう返す。

だが、伊織はノンノンと人差し指を左右に揺らしつつ否定する。

 

「いやいや、記事は私が書くからさ。稲葉んはエロスを感じさせてくれる写真を一、二枚撮らせてくれれば……。」

 

「なんで私が男どもの性処理の材料提供しなきゃならんのだ!」

 

「稲葉が想像する「校内新聞に掲載が許されるエロス」の定義が気になるところだな。」

 

太一のボソッと言った言葉に俺も少し興味をそそられた。

っつーか男どもの性処理と言っている時点でかなりやばい写真だと思うが…。

ってかさっきの純情乙女というのはどこへ消えたのだろうか。

夜の学校七不思議に食べられたのかな?

 

「つーか、伊織の方が美少女なんだからそう言うのにはおまえのほうが向いているんじゃないか?」

 

そういえば、と思い出したように言う稲葉ん。

まあ確かに、伊織は今年の文化祭でミス山星に選ばれたほどの美少女だ。

だが、伊織は否定するかのようにこう言った。

 

「ノン、ノン。わたしは脱いだらダメなアイドルタイプ。可愛さだけなら稲葉んに勝てるけど、大人の妖艶さは稲葉んのほうが向いてるんだって」

 

「こ、この2人、完全に脱ぐこと前提で話を進めている!?」

 

太一、突っ込むのはダメだ。

話に巻き込まれるぞ。

 

「ああ、そうか、そんなことを聞かなくても、男性サンプルはここに2人いるんだしな。太一、龍斗、どっちに脱いで欲しい?」

 

俺も結局巻き込まれるのかよ……。

だが、俺は事実、この事の話には疎い。

俺はそんな性処理をするより、寝ている方が良い。

 

「俺はパス。性処理とかより寝てる方が良いし……。」

 

そう言うと、確かに龍斗だったら有りそうと言われた。

まあ、そう言う認識が広まっているのは良いことだ。

 

「じゃあ、太一。どっちが良い?」

 

「うっ、俺か……、そうだな……、全男子生徒の意見を総合して……、どっちも?」

 

「十五時五十五分、八重樫太一、『女子部員二人に対して服を脱ぐように要求ス』、と。稲葉ん、記録した?」

 

「勿論だ。今月号の編集後記録はこれで決まりだな。」

 

にんまりと笑いつつ、稲葉んはキーボードを叩く。

太一は焦るが、事実言ったことに変わりないので、反論できない。

俺は何を思ったのか、カバンから携帯を出す。

すると、唯から数件メールと電話がかかってきていた。

メールを開くと校舎裏!と大きく書かれていた。

俺はすぐさま何かあったのだとカバンを机の下に置いて、一言出てくると言って部室を出た。

 

 

校舎裏。

 

「で、なんで俺が呼ばれたんだ?」

 

「いや、あんたも自覚していないとおかしいはずなのになんで話に来ないのよ……………。」

 

ここにいるのは俺、龍斗と桐山唯、それに青木義文だ。

青木義文、普段爽やかとも取れる対応で、人との関係を良いように保つ良いやつだが、軽い。

金髪の天パ、長身で成績はあまりよろしくないいわゆるバカである。

唯のことが好きらしいが唯はいつもツンツンしている。

すると義文が俺に聞いてきた。

 

「なあ、今朝起きたら部屋散らかってなかったか?」

 

「?ああ、確かに散らかってた。盗まれたものがないか確認したけど大切なものは特になくなってなかったから、家帰ったら片付けないとな…。」

 

「唯、これは確定的だよ。」

 

「いや……、でも、わたしの意見が…。」

 

話が見えてこない。

俺は面倒くさくなってきたからかイライラしてきた。

 

「要点は何なんだよ。」

 

「う、そ、そんな怒らなくたって良いじゃない……。」

 

「龍斗は怒らせてはいけないランキング一位だったな……。」

 

少しドスを混ぜると唯が少し涙目になった。

青木の言葉について少し疑問を持ったが、気にしない。

 

「さ、最後に質問。女の子になって、三つ編みにして寝なかった?」

 

「………………。その言葉から察するに、ゆるい三つ編みになってたのか?」

 

唯の質問で何となくわかった。

俺の言葉に唯は頷く。

 

「ああ、なるほど。」

 

やっと、俺の疑問が解消された。

やはり俺は快眠だったのだ。

つまり、

 

 

 

 

 

入れ替わったのは、“現実だったのだ”。




いかがだったでしょうか。
読みやすさなどが一切ないような文章ですいません。
ではでは。


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誤魔化しは自分の秘密の趣味から。

投稿遅すぎい!!
まあ、しょうがないですかね。
六万飛びましたよ………。
コミケってメッカの崇拝の次に集まるんですってね。
オタクは宗教団体ですね。
では、どうぞ。


部室に戻ってきた俺と唯と義文。

二人とも、どうやら自分たちにあったことが信じてもらえるか心配らしく、ずっと相談していたらしい。

全く、こいつらはバカなのか。

とりあえず、俺ら以外にも意見を求めてみなければ、結論などは出ない、といえば、稲葉んたちにも話そうとしたらしいのだが、踏みとどまっていたらしい。

やはりバカか。

ドアを開ける。

 

「ただいま〜。」

 

「おかえり〜、ってあり?唯と青木も来たんだ。」

 

「お、おう。」

 

「や、やっほー……。」

 

唯と義文の微妙な反応にはてなを浮かべる伊織。

俺は二人に早く入るように促し、俺、唯、そして義文の順で奥から座る。

太一には移動してもらい、反対側に行ってもらった。

真面目な俺らの行動になんだなんだと伊織も太一、稲葉んに並んで座る。

 

「「…………………。」」

 

「「「…………?」」」

 

二人がなかなか、話そうとしない。

 

「ぐぬぬぬぬ…………、ああああ……、言おうとすると、やっぱり……。」

 

「「………………。」」イライラ

 

「………、その何というか……、気まずさが半端ないんだけど……。」

 

「「………………。」」イライライライラ

 

「いやー、その、話そうとは思ってるんだよ……?だけど」

 

「「さっさと吐きやがれ!!」」

 

「「は、はいいいい!!」」

 

なかなか言い出さない唯と義文にイライラがマックスになったのか、俺と稲葉んは同時に同じセリフを言った。

それにびっくりしたのか、あまりの迫力に恐縮したのか二人は大声で返事をする。

俺と稲葉んはこういう時でも、容赦がないと自分でも思っている。

それに、面倒臭いし。

 

「あ、あの………、その………。実は昨日の夜……。」

 

太一も伊織もつばを飲み込んだ。

そして、決死の覚悟で義文は言った。

 

「俺は龍斗の体に入ってたんだ!!!」

 

しんと静まりかえる部室内。

 

「は?」

「へ?」

「あっはっはっ…………は?」

 

順に稲葉ん、太一、伊織が三者三様に呆気にとられる。

まあ当然だろう。

義文は伝わってないと思ったのか、もう一度違う言い方をしてみる。

 

「嫌だから、魂が入れ替わってたんだって!!マンガみて〜に!!」

 

その瞬間、稲葉んがかなり力の入ったチョップ、脳天唐竹割を義文のバナナヘアーにぶち込んだ。

 

「だっ!?何すんだ稲葉っちゃん!?」

 

「おお、脳天唐竹割!」

 

興奮すんなプロレスオタク。

 

「いや、振りの割に面白くなかったから。」

 

「いやいや、大真面目なんだって!?嘘なんて言ってないから!!」

 

「そんなことより、ネタがつまらないと稲葉からツッコミという名の攻撃を受けることの方が衝撃なんだが……。」

 

稲葉んの行動に太一が呆気に取られている間も義文は大きな身振り手振りで俺と唯と義文が入れ替わったことをジェスチャーしている。

俺は先ほど、稲葉んと太一に話した昨日の夢のことを話し始めた。

 

「さっきさ、俺、唯になってたって夢の話したよな?」

 

「ああ、入れ替わったように……。」

 

「って、まさか……。」

 

「そう……、俺と唯は入れ替わっていた。その上、唯が義文に、義文が俺にっつー感じでこの3人だな。」

 

「いやいやいや、リョウの言い分もわかるけど!太一の笑顔が全く曇り気のなくなることくらいないよ!?」

 

「何気に俺にブーメランが刺さってるんだが……。」

 

俺の言葉に稲葉んは頭を抱え、伊織はツッコミし、そして太一は伊織の俺に投げたブーメランが帰ってきて見事に頭に命中したのか、こめかみを押さえていた。

 

「で、唯はどうなんだ?」

 

「うん、知らない間に軽い三つ編みになっていたの。前の文研新聞を読んだんだけれど、それが一番まとまり易いって、リョウが書いていたの。わたしはあんまりそう言うの気にしてないから、それをしたのがリョウしかいないのよ。」

 

「俺がパニクってリョウの部屋のものを散らかしちゃったんだけど……。」

 

「青木が漁った場所が限られててよかった。俺の記憶と合致したっつーわけだ。」

 

「こんなことがあり得るのか?」

 

「それが問題なんだよなぁ。」

 

記憶の合致。

これが意味することは、入れ替わりが現実となった、ということだ。

その事の疑問点、それが、「そんなことがあり得るのか」という点だ。

この非現実、これは受け入れがたいことだ。

太一の疑問はもっともだ。

だが、俺はこっちの方が問題だ。

 

「じゃあ、入れ替わりが起こった確率と、唯が俺の夢通り三つ編みにして寝たことと、唯が青木になる悪夢を見たことと、青木が来たこともない俺の部屋の特徴を予知夢で知り俺が夢遊病にでもなったごとく自分の部屋を荒らす確率、どっちが起こる可能性が高いと思いますか?」

 

そう言うと全員が苦い顔をする。

まあ、そんな長文を長々と言われたら、誰でもそうなる。

すぐに頭を働かせたのか稲葉が皆を見渡しつつ言う。

 

「わたしは圧倒的に龍斗の言っていたことの前者の方が確率が高いと思う。それに、」

 

「「それに?」」

 

稲葉んが言葉を切り、最後のことばを促すように頭を傾けつつ伊織と太一は言った。

稲葉んは俺の方を向いてこう言った。

 

「龍斗が夜夢遊病になる事は、まず確率が天文学的確率では最も低いと思ったからだ。」

 

「喧嘩売ってるのか、稲葉ん。」

 

顔をムッとさせながら言うと、唯と伊織がクスッと笑う。

 

「おいおい、ひでえなぁ。まあ、確かに俺もそう思う。」

 

事実俺も確率が低すぎると思って行ったのだ。

まあ、泥棒が入ってきて、部屋を荒らして………………。

 

「やべえ、俺じゃなくても部屋荒らせるじゃん。」

 

「「「「「え……?」」」」」

 

忘れてた、あのストーカー。

1年前に出会ったあの女なら部屋を漁る事は可能だ。

だが、俺は姉に聞いたはずだ。

 

「あの女を昨日通したか?」

 

「あー?通してないと思うけど。なにせお酒飲んでたからさ〜。」

 

ヤヴァイ。

急に自信がなくなってきた。

俺は携帯を取り出し、電話をかける。

普段絶対にかけない場所に。

 

『やったー!!リョウくんからの電話だー!!』

 

「黙れロリ、お前に興味はない。で、昨日俺の家に来たか?」

 

『およ?行って欲しかったのかな?なら今日行ってあげ』

 

プツッ、プー、プー、プー。

 

「大丈夫だ、俺以外が昨日部屋に入った事はなかった。」

 

「お前………、まさかロリコンなんじゃ。」

 

「なわけねえだろ義文。お前には後で説教な。」

 

「なんで!?」

 

「とりあえず、整理すると、だ。俺と唯、それに義文が入れ替わったっていう簡単な話d」

 

「あああああ!!!!」

 

俺がまとめると最後の「だ」を言わせないとばかりに伊織が声を上げた。

何だ何だと、伊織を見るとこう言った。

 

「教室にノート忘れた!」

 

「話をぶった切るんじゃねぇ……。」

 

稲葉んはそう言うと、早く取って来いとばかりに顎をしゃくる。

 

「じゃ、話の続きはまた後で!」

 

「あ、俺も忘れもんしたから一緒に行くか。」

 

俺も弁当を忘れたので、帰りに寄らないとと思っていたので丁度いい。

帰りに取りに行くよりマシだろう。

俺は立ち上がりドアを開けている伊織と一緒に教室まで走る。

 

「くっ!やっぱり、男の子は速いね!!」

 

「伊織も速いだろうがよ。んじゃ、取りに行くな。」

 

部室棟から教室棟に帰ってきて一番近いのは3組。

俺は1組なので一番奥だ。

俺は走って自分の席に行くと弁当箱の入ったカバンが机の横にかかっている。

 

「あーこれだこ……」

 

 

 

「れ?」

 

俺は自分の机にかかっていたカバンを取ろうとして視界が暗転したかと思うと、世界が横を向いていた。

正確には俺が顔を横向きにしていたからだ。

だが、俺はそんなことをした覚えはない。

顔をまっすぐ向けて、俺は下を向く。

するとブラウスと女子生徒のみの着用が許されるスカートが目に入った。

そして何より重い肩。

確実にこの下を向いた時に下半分を占領する大きな胸だろう。

 

「な、何これ……。」

 

あれ?

いま、“声が高かった”ぞ……?

俺は頭を触る。

すると左後ろに髪を一つくくりにしている事が、手の感触で分かった。

 

「あー、あー……、やっぱりこれ、伊織だ。」

 

呆然とそう呟いた。

一瞬、興味という名の性欲に駆られたが、誰かに見られたり、もしくは俺に入った“誰かに”見られると、面倒だ、と思ったのでやめた。

自分の考えた事が合っているかを確認すべく、俺は立ち上がり、廊下に出て、教室を確認する。

 

「1年……、3組……。」

 

やはり伊織たちのクラスだ。

すると、俺は声をかけられた。

 

「あら、永瀬さんじゃない。」

 

びくっ。

後ろからかけられた声にびっくりしつつ、後ろを向く。

透き通る、ビシッとした声。

自分の後ろには、メガネの委員長がこちらを向いていた。

俺は怪しまれないように、伊織を演じる事にした。

 

「な、なーんだ。藤島さんかぁ〜、驚いちゃったよ〜……。」

 

「あら、ごめんなさい。で、何をしていたの?」

 

「あーうん。教室に忘れ物を取りに来たんだけど、どうやら家に忘れちゃってたみたいで……。」

 

「そう。災難だったわね、ちなみに何を忘れたの?」

 

「うん、ノートなんだけど……、ってクラブに戻らなきゃ。じゃあ行くね!」

 

「ええ、廊下は走らないようにね?」

 

「はーい、委員長に言われたんじゃしょうがない。」

 

伊織のにへらとした笑いを真似て、手を振って別れる。

何とか笑顔を絶やさないことに成功した。

はぁ……、少しSAN値が減りそうだよ……。

藤島さんが階段に消え、俺は1組へ向かう。

すると少し慌てた感じの龍斗(伊織)がドアから頭だけをのぞかせていた。

 

「だ、大丈夫だった!?」

 

「大丈夫、大丈夫!若干取り乱しちゃったけどすぐに落ち着いたから問題ないよ!」

 

伊織だと思われるその言動に、俺が真似た伊織で対応すると、伊織は目をパチクリとさせ、ふふっと、笑った。

俺がこんな笑い方をすることはもう二度とないと思っていたのだが。

まあいいだろう。

 

「じゃあ、忘れ物を持って部室に帰るか。」

 

「はーい。」

 

 

 

「で、今度は何の冗談だ?」

 

稲葉が俺と伊織を睨んでいる。

怖い。

口の端をヒクヒクとさせながらそう言う。

 

「いやーなんか。」

 

「入れ替わっちゃったみたいだね〜。」

 

俺と伊織がそう言うと、稲葉が伊織にチョップをかました。

まあ、周りから見ると、稲葉が龍斗にチョップしたように見えるだろうが。

 

「ちょ、痛いよ稲葉ん!?」

 

「たわけが、伊織はちゃんといるだろうが!さっさとその真似をやめろ。きもい。」

 

「あ、俺が違和感を解消するためにやった真似が裏目にでるとは……。すまん、伊織。」

 

「うわ、伊織まで龍斗の真似をし出した……。」

 

「いや、本当なんだって!!」

 

伊織が俺の体で何とか事実だと証明しようとしているが、蛇足にしかなってない。

俺がある条件を出す。

 

「じゃあ、唯に俺しか知らない情報を言えば分かるんだな?」

 

「あ、ああ……、まあいいだろう。唯、頼んだ。」

 

「わ、わかったわ。どんときなさい!」

 

唯が胸を張って手でトンと叩いた。

俺は唯に近づき、こう言った。

 

「唯の部屋のベッドの裏に俺と一緒にお風呂に入った時の写真が貼ってあ「稲葉!龍斗で間違いないからその……、って何で知ってんのよ!!」………、お前がこの前寝ぼけてその事を言ったんだろうが……、まあ、そんな事を言っているのは俺のみだとは思うが?」

 

ちなみにそれは小学三年生くらいの時で、俺はちゃんとタオルで隠してあるのだが、唯は俺に抱きついている上、マッパなので俺に色々押し当て

 

「色々考えてることアウトなのよ!龍斗のバカ!!」

 

「じゃあ、唯は間抜けだな。」

 

「ぐぬぬ……、クラス一の天才にそんなの言われたら立ち直れないわよ……。」

 

そう言うと唯は机に突っ伏した。

俺は自分の席に戻ってきて一言。

 

「伊織には稲葉ん頼んだ〜。」

 

「ああ、じゃあ、伊織らしき奴、こっちに来い。」

 

「らしきって何さ、らしきって…」

 

ぶつくさと言いつつ、稲葉の横に行く俺の体をした伊織。

稲葉が伊織の耳元で何かをつぶやく。

すると……。

 

「ぶっ!ごほっ…………、ごほっ…ちょっ、稲葉んそれほんとなの!?」

 

「本当だ。」

 

「そ、そんな……、そんなこと今言わなくたって……。」

 

伊織の言葉に容赦なくズバッと言う稲葉。

目の当たりを手で押さえしゃがんで落ち込んでいる。

一体稲葉は何を言ったのだろうか。

 

「でも…………、こうやって私達は大人になっていくんだろうね…………ぐすっ。」

 

そう言ってソファに崩れ落ち、チーンという効果音が聞こえてきそうなほど、真っ白に燃え尽きている俺の体をした伊織を見ると、稲葉が何を言ったのか、それが何を意味するのかを知りたいような知りたくないような…。

 

稲葉は表情を変えず、はぁ〜〜、と長めのため息を吐くと呟いた。

 

「人格が入れ替わった、か…………。認めるよ。」

 

おお、と俺以外の四人が稲葉が折れた事に歓声が上がった。

 

「だが、龍斗。お前は普段、面倒くさがりなはずだ。なのに伊織の話じゃあ、藤島に違和感さえ感じさせないくらい、そして、本人が驚くほどの演技を発揮したらしいじゃねえか。それに関しては?」

 

「あー、暇があったら、こんなこと言ったらどんな反応するのかなって、妄想してるから。」

 

「へえ、じゃあ、私の真似をして見ろ。」

 

急な注文に思わず吹き出す皆。

まあなんとかなるかなと思いつつ、俺は稲葉になりきる。

 

「はぁ、まあ良いけれど……。で、何で私はそんな事を言ったんだ?私はそんな事を言うようなキャラじゃないだろ?」

 

「いや?少しからかってみただけだったんだが……、うまいなお前。」

 

「そりゃあまあ、私は私だからな。で、お前らは何でそんなに私の事を見てるんだ?」

 

「いや……。」

 

「その……。」

 

「上手くて………。」

 

「驚きだよ!龍斗!」

 

唯と太一と義文が引いて、伊織(龍斗の姿)が感動。

まあ、いいけどさ。

一番タイプが似ているからなんとなく似せることができる。

 

 

すると、急に世界が暗転した。

 

「……丈夫か!?おい!?龍斗!?」

 

俺は机に突っ伏していた上半身を起こすと、位置が変わっていることが理解できた。

すぐそこには、今さっきまで俺が入っていた、伊織の体があった。

伊織と目があう。

 

「「戻った!!」」

 

伊織は嬉しそうに、俺は気だるげにそう言った。

 

「本当かよ……。」

 

稲葉は信じられないように呆れた声でそう言った。

俺は気だるさと、今まで真似をしていた疲れに襲われ、机に再び突っ伏す。

 

「だるい……、眠い……、おやすみ………。」

 

俺の意識は闇へ放り投げられた。

 

 

起きた。

あれから約一時間。

女子二人は待っていてくれた。

どういう原理なのか稲葉がなんやかんや調べていたらしいが知らん。

太一は妹の宿題の手伝いがあるとかで帰った。

義文は散髪に行くとのことで、唯は宿題が溜まっていたらしい。

俺は伊織と稲葉と帰ることとなった。

 

「ねえ、またこんなことあるのかな?」

 

「さあな?どうだろう。龍斗はどう思う?」

 

「なんとも言えないな。明日になって見ないと……、ってか、お前ら楽したいだけだろう?」

 

俺のママチャリのサドルに稲葉が、後ろの金属部分に座布団を乗せて座っているのが伊織だ。

俺は自転車を下り坂で落ちていかないようにブレーキを握りしめつつ、バランスを崩さないように歩いている。

ニヒルと笑いつつ、二人は言う。

 

「「龍斗といると面白いんだもん。」」

 

「何がだよばか。重いんだよ。」

 

そう言うと、二人はしたり顔で見て二人でこういった。

 

「あら、稲葉さん聞きました?わたくしたちが重いですって。」

 

「伊織さん、わたくしたちが重いなんてことありえますのかしら?」

 

「まず女性に向かって体重のことを話すのは禁止ですわよね?」

 

「女性二人だから重いんだろうが。どれだけ軽かろうと40×2で80kg!俺には許容量オーバーなんだよ!!」

 

そう言うと、ベシッと頭を叩かれた。

 

「なんで体重がそうだってわかるんだよ!」

 

「そうだそうだー!」

 

と、二人がブーブー言っているので聞いてみた。

 

「じゃあ、お前らの体重、30kg代か?んな軽くねーだろうがよ。お前らこの前持ち上げたけど、少なくとも40さ「「それ以上は言わなくていい!!」………、はいはい。」

 

自分が不利になると、急に話を切るんだから……。

ちなみに持ち上げたと言っても稲葉がこの間、足をひねったらしく、おんぶしただけ。

伊織はお姫様抱っこというものを味わせろと無理やり、だが。

 

「でも、不思議だったね。体が入れ替わるって。」

 

「だな。伊織の顔は真似すると疲れやすい。」

 

そう言って俺はため息をつく。

何を〜!と伊織が反論したがっていたが、事実そうなのでしょうがない。

坂を下り終え、駅まで付いた。

 

「じゃあ、稲葉ん。私はこのまま龍斗と買い物して帰るよ。」

 

「そうか、じゃあ、伊織を頼むぞ。龍斗。」

 

「ああ、もし入れ替わりが起こったらまた連絡する。」

 

「そんなの、起こってほしくないけどな。」

 

全くだ。

稲葉と別れ、伊織と歩く。

勿論、伊織と二人乗りしても良いのだが、監視カメラがかなり多く配置されているので、ここでするのは危険だ。

俺は少し先の細い道に入り、伊織を乗せる。

そうだな、最近寒いし、なんかあったかいもんでも作るか。

伊織は振り落とされないために俺に抱きついてきた。

ああ、やっぱ胸デケェ。

今度揉む。

ぜってえ入れ替わったら揉む。

そう誓うのだった。

何をするわけではないけれど。

 

 

夜、気がついたら風呂の中だった。

おい、待て、落ち着け。

俺じゃなくてこういうのは一番人生で主人公している太一の特権だろう?

目の前に鏡があるので確認すると、唯だった。

タオルで髪をまとめ、ポニーテールにしている。

幸い、胸まで映らなかったので被害は少ない。

目を閉じ、俺はゆっくりと入る事にした。

自分の今の状況なんか考えるか。

考えてたまるものか。

だが……、

 

「お姉!私も入るから〜!」

 

「ぶふっ!!!いや、それはだめだろ!?」

 

思わず、そう叫んでしまった。

ちょっと待て、俺は何かに取り憑かれているのか!?

俺は湯船から立ち上がり、ドアを全力で力を入れて、閉める。

間違いない!

今入ろうとしているのは、唯の妹の杏!

 

「なんでさ。いっつも一緒じゃん。って、あれ?開かない?お姉〜、開けてよ〜。」

 

やばいやばいやばい!

どうしようどうしよう!!

すると、視界が暗転した。

 

 

戻って、来たのか?

俺は今、自分の部屋で半分寝こけていた。

だが、今先ほどあった出来事に思考回路が傾く。

あんなラッキースケベに会い続けたら俺の精神がどうにかなりそうだ。

はぁ、風呂入るか。

落ち着いた頃に俺に電話があった。

 

『もしもし!唯です!!そっち、今大丈夫!?』

 

「あ、ああ、問題ねぇが?」

 

『み、みいみみみ、見た!?』

 

「見るしか状況把握できねぇよ……。問題ない、胸と下は見てない。目の前の鏡で見たけど肩までしかうつってなかったしな。」

 

『………………、そう……。(見ても良かったのに)……。災難だったわね。あのエロ河童だったらどうしようかと思ったわ。』

 

一応、俺の言う事には信頼性があるらしい。

逆に言うなれば、青木は危ないやつという考え方が正しいのか?

いや、あいつほど紳士な対応をしているやつはいないと思うのだが。

ってかさっきの小声聞こえてるからな?

 

『まあ良いわ。でも、こういう事は起こってほしくないわね。心臓に悪いわ……。』

 

「ああ、俺も焦った。まあ、もう一回入り直せ。こんな事は直ぐには起こるわけが」

 

 

 

手に携帯電話を持っている感覚がなくなったのを感じ取りすぐさま目を開ける。

ここはどこだ!?

と思い、見回すと、直ぐにわかった。

モノトーンで揃えられた最低限の家具。

間違いない、稲葉んの家だ。

ベッドの近くにある充電器に刺さっている携帯電話を手に取り、俺にかける。

数秒後、電話中だと切られた。

………、自信がなくなった。

いつ何時、誰とどのタイミングで入れ替わるか分からないわけだ。

それが、この、人格入れ替わり現象だ。

すると太一から俺に電話がかかってきた。

 

「い、稲葉ん?」

 

『あ、ああ、その聞き方は伊織か龍斗だが……。』

 

「龍斗だ。太一が俺の体に入ってるのか?」

 

『か、可能性は高い……、ってか、変な感じだな。他人に入るって。』

 

今初めて実感した感じで、そう言う太一の体に入った稲葉。

はぁ、とため息を付き、それに、と付け足す。

 

『自分の体から発せられる声がこんな風に他人に聞こえている、というのも変な感じだな。』

 

「あ、そうそう、唯が風呂の途中で俺が入れ替わった。」

 

『ぶっ!おい!まじかよ!!』

 

「まあ、見たことあるし、見ても問題なかったんだが、一応見てない。」

 

『おい!それはどういう』

 

稲葉のツッコミの途中で視界が暗転し、気がつくと自分の家だった。

ややこしい。

すると、扉が開かれ、俺の天敵が入ってくる。

 

「リョウくーん!!!!!」

 

飛び込んできた。

まあ、今日くらい構ってやるか。

あ、調子乗るからパスで。

俺は背中をむんずとつかみ、ソファに投げる。

 

「ひゃあああ!!」

 

心なしか喜んでいるように見える。

そのソファは、人をダメにする、というだけありものすごく柔らかい。

そのため、そいつは顔面から突っ込み、なかなか抜け出せないでいた。

俺は足早に自分の部屋から抜け出し、玄関へ向かう。

すると姉ちゃんに会った。

 

「あら?阿里守(アリス)の声が聞こえたんだけど気のせい?」

 

「姉ちゃん、なんとかしてくれないかあの変態。」

 

「あら、可愛いじゃない。」

 

俺はドアを閉めて、足で引っ掛けて開かないようにしつつ、助けを求めるが、姉は無常である。

そして、ドアにべちっと当たって出ようとしている変態が、部屋の中で暴れている。

俺は半歩下がり、ドアを開ける。

すると、突進して開けようとしていたのか勢いよく走ってきて、廊下の反対側にビターん!!とぶち当たった。

 

「にゃあああああ!!!」

 

鼻を打ったのかもんどりうってそう叫んでいた。

チッ、こいつはだから面倒なんだ。

俺は姉にそいつを任せ、部屋に閉じこもる。

ホームセンターで鍵を数個買って設置したことは記憶に古くない。

あいつとの出会いは去年、俺が兄貴のバイトだった家庭教師を任された時だ。

兄貴が風邪をひいて俺が行かなければならなかったのだ。

 

「はいはいはいはい!!ここがわからないです!!」

 

元気よく言ったのは、春日 阿里守(カスガ アリス)。

長い金の髪をフリフリのついたカチューシャでまとめている女の子だ。

今年小学四年生で、背の小さい本当のロリっ子だ。

俺の教え方が良かったのか、算数のテストで100点を取ったらしい。

それで、俺がお気に入りとなったらしく、俺の兄貴が風邪から治っても、アリスは俺を所望した。

まあ、教えることは嫌いではないので、渋々ながら俺はアリスに勉強を教えていた。

だが、アリスが堕ちた。

正直、俺は悪くないよな?

とりあえず、寝よう。

風呂は明日の朝入ればいいだろう。

おや………す……………み…………………………。

 

 

 

 

 

『あなたは、何を望みますか?』

 

怖いくらいの低い声。

後ろから聞こえた声は聞いたことのある声だ。

ごっさん、我が文化研究部の担当教師であり、太一、伊織、稲葉の3人のクラスの担任でもある後藤龍善の声だが、いつものごっさんではない。

低い、別人のような声だ。

何を望む?

いや、そんな事はどうでもいい。

 

「ごっさんに入って何のつもりだ?“フウセンカズラ”?」

 

何故だ。

俺は何故………、相手の名前が“フウセンカズラ”だとわかった?

いや、そんな事はどうでもいい。

振り向いて、ごっさんの目を見る。

ごっさんは力が入っていない様に、肩がだらんと下がり、猫背で目が半分しか開いていない。

そいつはすぐに、口を開いた。

 

『なんだ、“梶田”さんじゃないですか…………。お久しぶりですね。』

 

梶田(カジタ)、俺の“前の前の”苗字。

俺は苗字が数回変わっている。

明堂、姫島、佐久間、鶴芝、角田、梶田、八尾、名木沢。

数回どころではないかもしれない。

父親は母に暴力を振るい、蒸発。

母は、父親の暴力でストレスが溜まり、保育園の前に、俺と姉ちゃんを残して自殺。

金的にも厳しかったらしい。

姉貴は婚約が決まっており、そのまま義理の兄の家で過ごすことになった。

だが、俺は小さい時から怖がられていたため、義兄の親から別の家に引き取られることとなったのだ。

だが、それが俺にとって、色々な意味で大変だった。

まず、市役所への申請だ。

俺の親は、ひどい人たちばかりだった。

博打打ち、暴力団、声優、と収入が安定しないトコばかりだった。

だから俺は、ボロを見つけて警察にお世話になった。

だが、こいつに会った覚えはない。

………、ぬるりとした感覚が、俺を覆う。

 

『ああ、もう覚えていないんでしたね……。』

 

ああ、そうだ。

無かった記憶が一気に蘇る感覚を覚える。

目を見開いたのに気がついたのか、不気味に口の端を引き上げる。

 

『思いだしたんですか………、やはりあなたは面白い…………。』

 

俺はその瞬間、背中が異様に冷たくなるのを感じた。

 

『では、今日の放課後、部室で会いましょう……………。』

 

そう言って、スッと、消えた。

小5の記憶を復活させる。

 

『おい、大丈夫か!?』

『早く救急車を呼べ!!』

『何で、そんな目で見てるんだよ!?』

『嫌い!嫌い!嫌い!!リョウなんか!大っ嫌い!!!!』

 

 

思い出したそれは、悪夢だった。

俺は人を、殺したのだ。




さあ、リョウトくんは小5のとき、何があったのか。
伊織の家が近くにあるが、早く歩く気はないので、電車で登校する事を嫌っている。
というか、唯との関係はマジで何なんだ。
という感じですかね。
さあ、青木のポジションが怪しくなってきたぞ?
青木、どうなる!?
次回、青木死す。お楽しみに!


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自分の機嫌は運の良さ悪さで決まる

「おにーちゃーん。あーさでーすよー!!」

 

そう言った甘い声。

俺には妹がいなかったはずだが?

目がさめると、俺の部屋がプロレスのポスターで埋め尽くされていた。

いや、違う。

俺が入れ替わったのか。

だが、次の瞬か

 

ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!

 

「うるっせええええ!!!!」

 

俺の体に戻ってきた。

だが、誰だ。

俺の体で、耳元に目覚まし時計を持ってきたやつは?

いや、違う。

俺が移動していたのだ。

寝相が悪い………………、青木いいいいい!!!!

 

「おや?起きていたのかい、リョウトくん?」

 

「あ……、おはようございます。」

 

頭を抱え、心の中でその本人の名前を呪うように叫んでいると、俺をいつも起こしに来てくれる義兄さんが、俺の部屋に入ってきていた。

 

「今日は早いじゃないか。」

 

「あ……、昨日はアリスが来ていたので、風呂に行こうに行けなかったんです……、なので朝に……、と思いましてね。」

 

「そういえば、来ていたね……。まあいいか。早くシャワー浴びてくれよ〜?」

 

「へーい。」

 

俺はタオルを持ってシャワーを浴びて、着替え、カバンを持って、革靴を履いて玄関を出る。

ガレージに止めてある自転車の鍵を回して外し、ペダルを踏み込む。

さあ、学校だ。

 

 

 

昨日の夢は何だったのか…。

俺は不快感を覚えつつ、学校に向かっている途中で携帯が鳴った。

自転車を道路脇に止めて携帯を見ると、メールだ

そのメールは唯からで、こう書いてあった。

 

『朝から部室に集合。(強制)』

 

唯は絵文字を使うのでこれは唯ではない。

伊織や、義文も使うので却下、という事は……、稲葉か。

俺はそれを見て俺は了解と送り返し、ポケットになおして、ペダルを強く踏んだ。

 

 

 

部室に着くと、大変なことになっていた。

稲葉が唯に、唯が義文に、そして、義文が稲葉になっていた。

 

「全く……、どうしてこうなった。」

 

「朝、起きたらリョウになってて驚いた……、でも目覚ましが鳴り始めたと同時に体に戻ってさ。」

 

「っていうか、なんでこんなに可愛くない体にならないといけないのよおおおお!!!!」

 

「唯!?落ち着いて!?」

 

「義文、耳まだ痛いんだが……。」

 

「なんか、収拾つかなくなってないか?」

 

唯がギャグキャラに走りかけている気がします。

順に稲葉(唯)、青木(稲葉)、唯(青木)、伊織、俺、太一の順だ。

俺は舌打ちし、ソファに寝っ転がる。

もうすでに二時間目が始まっている。

だが、これからはこうもいかないだろう。

俺はもう一度舌打ちをする。

 

「ねぇ、太一……、龍斗の機嫌……、悪くない?」

 

「ああ……、名木沢の機嫌はいつにも増して……、だな………。」

 

「聞こえてんぞ、二人。」

 

はぁ、とため息をついて、立ち上がる。

もうそろそろかな?

と思った瞬間、3人がハッと息を飲んだ。

 

「「「戻った……。」」」

 

さて、次の授業からか。

 

 

 

昼休み、もちろん、一、二時間目のサボりのことだろう。

俺と唯、それに義文が職員室に呼び出されていた。

もちろん、向こうのごっさんのところにも、太一と伊織、稲葉も招集されている。

 

「桐山さん。正直に答えてね?なんでサボったのかしら?」

 

「き、昨日みんなで食べたミニチョコパンが腐ってました!!」

 

「本当に?」

 

「その通りであります!平田先生。第一嘘ついて何やってたと思われてるんですか……?」

 

我がクラス1組の担当教師、平田涼子先生である。

おっとりめで服もゆるっとしたのを着ている。

だが、この間の文化祭騒動で、日本史の田中先生と付き合っているので、狙われる心配はないと思われる。

そして唯に質問し、義文に確認を取る、といった感じだった。

青木の言葉に顔を赤くする先生。

おい、何を考えていた。

まあいいけど。

 

「コホンッ!でも、無断で休む事はあまりしないでね?心配だから。はい、お話は終わりよ。」

 

パンッと手を合わせ、そう言うと、義文と唯が離れる。

その瞬間に俺はポケットから紙を取り出し、先生に渡す。

小声で話し合う。

 

『いつもありがとうね。リョウくん。』

 

『いえいえ、応援してますから。』

 

そう、前に言っていた、料理のレシピだ。

俺はすぐに義文たちに追いつく。

 

「じゃ、さっさと教室に帰って飯食うぞ。」

 

「私は雪菜達と食べてくるわ。」

 

「おーう、唯行ってら〜。っつー訳で、リョウ、食おうぜ」

 

そう言って背中を叩かれる。

おう、と言い、俺は教室に向かう。

青木の声は鼻にかかっている。

優男という印象を感じるいい声。

俺もこんな声が良かったな……。

 

「ん〜?どした?リョウ?おーい?」

 

「あ、………おう。すまん、ぼーっとしてた。」

 

「無理してるっぽいから無理すんな

 

 

その瞬間、視界が暗転し、目を開くと、

 

「でね、それがさ〜、」

 

目の前にあった、青木の顔が栗原雪菜になっていた。

栗原は唯の友達で、茶髪のウェーブがかったセミロング。

部活は忘れたが、この間、唯をスカウトに来ていたのは覚えている。

 

「おっと……。」

 

唯はアスパラのベーコン巻きを箸で掴んでいた。

危うく落としかけたが、運動神経のおかげか落ちている途中で箸で掴めた。

 

「ふう、危なかった……。」

 

「唯、一つ言っていい?」

 

「うん?何よ、雪菜?」

 

「人はそれを人外と言う。」

 

「私はれっきとした人間の枠内に入ってるわよ!!」

 

人間離れしているとは思うが、人外は言い過ぎだ。

そう言うと、栗原はクスクスと笑う。

してやられたと思い、アスパラのベーコン巻きを口に放り込む。

頬を膨らませる。

不機嫌だと唯は自然とこうなる。

それに気づいたのか、

 

「ごめんごめん、はい、イチゴ・オレ。」

 

「むう、……いただきます。」

 

イチゴ・オレを差し出されたので、ストローに吸い付く。

口の中に残っていた、油の甘みが、また違った甘みに塗り替えられる。

 

「で、龍斗くんとはどうなの?」

 

「ぐっ、ゔっ、ごほ………、ゆ、雪菜!?」

 

「あら?脈あり?青木くんはどうするのさ〜?」

 

栗原の唐突な話題に思わず、気管にイチゴ・オレが………。

むせてなんとか、切り返して一言。

 

「リョウとはただの幼馴染!青木はなんとも思ってないんだから!!!」

 

「あのー、唯さん?それを大声で言わないでもらえませんか?」

 

不意に後ろから、義文の声が聞こえたので慌てて振り返る。

すると、涙目でそう言った義文の顔が……、そして、俺に入っているのは……、おそらくあの、どこかひねた笑い方からするに太一!

よし、義文をいじろう。

 

「何よ、なんとも思ってない事実を言って何が悪いのよ……。」

 

「な、ゆ、唯〜……、そんなに言わなくても……。」

 

「じゃあ、今度、お菓子作ってきてよ。リョウより美味しかったら見直すかも?」

 

「ちゃ、チャンスはまだあるんですか!?」

 

「さあ?あんたがリョウを超えられるかわかんないけど。」

 

と、言い切った直後、俺に体が戻った。

唯も青木が目の前で「お菓子を作るぞー!」言っているのを見て困惑している。

俺はそれをフォローするか。

 

「で、栗原さん。俺の評価って、ただの寝てるやつ、って感じ?」

 

「私は文研新聞好きだから、お料理博士かな〜。」

 

「じゃ、義文は?」

 

「長身のバカエロ河童。」

 

「あれ!?ひどくね!?」

 

義文が相変わらずdisられる。

なんだろう、なんつーか、かわいそう。

なーむー。

 

「ってなんでリョウはそれを否定してくれないの!?」

 

「バカはどうしようもないし、エロはこの前太一とエロDVDを交換してたろ?」

 

「って、その情報をどこから仕入れた!?」

 

「え?太一だけど?」

 

「裏切り者めがああああ!!」

 

青木が太一の元へ走って行った。

ふう、青木いじり完了。

え?太一が犠牲になった?

 

「って、太一が被害受けてるじゃない!!」

 

「いや、太一だったら、プロレス技を気持ちよく受けていると思うぞ。」

 

唯の言葉にそう返すと、ああ……、と納得してしまっていた。

そして昼休みが終わり、授業となる。

あ、やばい、眠い。

寝て、起きたら終礼始まってました。

授業態度が心配だな。

別にいいけど。

 

「きりーつ、れーい」

 

「「「ありがとうございましたー!!」」」

 

ガヤガヤとする生徒たち。

机をガチャガチャと移動させる生徒たちと同じ行動をして後ろに下げる。

まあ、端っこの一番前なので遅くても問題ない。

 

「あー、昨日はありがとな!今日は俺がやるわ!」

 

「あー今日この列だっけ……。ありがとう。」

 

「いやいや、当たり前さ!」

 

そう言って、昨日は俺に頼み込んできた子に掃除をしてもらい、俺は教室を出る。

すると、俺は何かに見られている感じがした。

それは視線というわけでなく、まるでテレビを通して色々な角度で見られている感じ。

おそらく、夢に出てきたフウセンカズラだろう。

昔、感じた感覚と同様だ。

俺になにをさせようとしているのかは、分からんが……。

俺は教室棟をでて、部室棟に向かう。

運動部の部員たちが部室棟で着替え、外に出て行く。

そのうちの一人が当たってきた。

 

「ふぇべうっ!?」

 

特に意味はなく、その子は叫んだ。

俺は背が高いためか衝撃を吸収。

その子は背が低く、俺のお腹くらいに顔面がヒットしたのだろう……。

 

「大丈夫か?」

 

「ひゃ、ひゃい……、大丈夫でふ……。」

 

ってか、この人……、どっかで見たな……。

 

「あ、浅田洸(アサダヒロ)さんか。」

 

「はわ?そう言うあなたは誰なのです?」

 

「俺は龍斗だ。名木沢龍斗。」

 

浅田洸、通称子犬。

身長が145しかないため、皆に撫でられる。

その上、運動部でちっこく走り回っているのが、子犬と呼ばれる理由の一つ。

ファンクラブのメンバー数は永瀬伊織、桐山唯に次いで第3位だ。

というか、俺の周り甘ったるい声の奴多くね?

 

「ああ、料理部長の龍斗さんでしたね!」

 

「俺は文研部だ。」

 

「ヒョエ!?」

 

「ってか、料理のやつは一応先生のみにしか渡してないが……、確か教室に貼っているやつもあったな……。」

 

「そ、そうですよ?それが文研新聞じゃないんですか?」

 

「おい、待て待て、俺らは毎月発行してるだろう?それも毎月だが……。」

 

「え?そんなのあるんですか?」

 

おい、知名度低くね?

 

「あ、もしかして、心地いい眠り方が書いてあるアレですか?」

 

「そっちだ!」

 

「眠り方のものしか読んでません……。」

 

お、おう。

どっちにしても、俺の記事しか読んでねぇんだな……。

 

「おーい、ピロシキ〜、行くよ〜。」

 

「あ、はーい!じゃあ、これで!!」

 

「あ、うん。じゃあね、ヒロちゃん。」

 

他の部員に呼ばれたのか。

ってか、ピロシキって……、今度作ろうかな……。

そんなのんきなことを考えていたせいか……。

視界が暗転、気がつけば、パソコンの前に座っていた。

 

「どうした?稲葉、急に固まって……?」

 

「入れ替わったの!?」

 

「あ、ああ……、リョウトだ。」

 

ってか、階段登る前だったよな……。

稲葉、すまん。

もう一度登ってくれ。

 

そう思っていると、バタッと、誰かが倒れる音が聞こえた。

かすかだったためか、皆は気がついていない。

俺がドアから顔を出すと、階段端っこで倒れている俺がいた。

 

「太一!義文!来い!!」

 

「な、なんだ、どうしたんだ?名木沢?」

 

「い、稲葉っちゃんに義文って呼んでもらえた……。」

 

「んなことどうでもいいから俺に入ってる稲葉を連れてこい!貧血だ!」

 

「な、なるほど!」

 

「分かった!!」

 

ドアから顔を引っ込め、部屋に入ると入れ替わりに、太一と義文が出て行く。

数秒後、太一が二の腕を、義文が足を持って俺を運んできた。

 

「おま………え……、体……よ……わすぎ………。」

 

「好きでそうなったわけじゃねぇよ……。みんなも階段登る時気をつけろよ?」

 

「って、この前私より早く走ってなかったっけ!?」

 

俺がそう言うと、伊織がそう突っ込んだ。

そう、俺は本気で走ると、一応7秒台前半くらいには足が速い。

だが、俺は貧血で走ることは普通不可能だ。

俺は解説してみる。

 

「階段を駆け下りると、頭に血が登る。登った状態をなんとか保って走る。ただそれだけ。」

 

「そ、それだけであんなに速く走れるの!?」

 

「基本そうだが……、ってなんだ、青木、その目は。」

 

「いや……、ドッチボールの時のあの高速移動はそういう理由だったのかと思って……。」

 

ああ、そういえばそんなこともあったなぁ……。

あの時はクラスみんなに驚かれたっけ?

すると、普段、俺たちが揃っている時は開かないであろうドアが、外側からガチャリと開いた。

俺らの動きが止まる。

それと同時に俺と稲葉んの入れ替わりがおわり、元に戻った。

稲葉も戻ったことは分かっていても、ドアから目を離せない。

俺はソファで寝っ転がっている体を起こし、ドアの方を見る。

入ってきたのは、我が部、文化研究部の顧問、後藤龍善だった。

 

「…………はーい……。どうも……、と。」

 

やる気が全くなさそうな声だ。

 

「な、な〜んだ、ごっさんか〜。」

 

「脅かすなよ後藤!変なタイミングで入ってくるんじゃねぇ!!」

 

唯と稲葉がそう言った。

すると、後藤龍善は嫌に切れの悪い返事をした。

 

「知らないですよ……………、そんなこと…………。」

 

そう言う後藤龍善の目は濁っているようだ……。

どこかおかしい。

それは皆気がついていただろう……。

 

「なん、だよ……。どこか体調が悪いのか?」

 

さすがに稲葉もおかしいと思い、聞く。

だが、気だるげな後藤龍善の口はこう言う。

 

「いえいえ、どこも悪くないですよ………。……“この人”無駄に元気ハツラツとしていますから…。」

 

伊織は今の発言で確信を持ったように、無表情で言った。

 

「あんた、誰?」

 

そう言った伊織の声に、少し口角をヒクリとあげ、こう言った。

 

「永瀬さんは理解が早くて助かります………。私は……、そうですね………、“フウセンカズラ”………とでも名乗っておきましょうか……。」

 

めんどくさいし、とまたつぶやいた後藤龍前、いや、フウセンカズラ。

 

 

 

 

それが、俺たち、文化研究部員、永瀬伊織、稲葉姫子、八重樫太一、名木沢龍斗、桐山唯、青木義文と、人外、フウセンカズラとの初接触だった。




ブンブン、ハロ、ゲフッ、ゴホッカフッカフッ!!
ふ、普段使わないから喉痛い。
どうも黒木です。
はい、第三話です。
ど、どうか、どうかご慈悲を!!(勉強)
大学受験をするので投稿が遅れます。
ハイスクールD×Dもしかり
ということで、少し待たせるかもしれませんが宜しくお願いします。
では、おつりゅー!


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フウセンカズラ

「〈フウセンカズラ〉……、ってなんでそんなマイナーな植物の名前が……?」

 

フウセンカズラがそう名乗ってすぐ、他のみんなが動けない中、稲葉がそう言った。

 

「……はぁ?………さぁ?………まあ立場で言えば、『皆さんを観察する存在』みたいな感じで……ああ…やっぱりもういいや。じゃあ、僕はただのしがない〈フウセンカズラ〉ということで………」

 

「んで?ごっさんは今、気絶してるようなもんか?」

 

俺がそう言うと素直に頷くフウセンカズラ。

 

「ええ、……全くその通りです。………相変わらず……梶田さんは理解が早い……」

 

「俺は名木沢だ。チッ、前の苗字を持ってくるんじゃねぇ……」

 

フウセンカズラは相変わらず、梶田の名前を使ってきた。

チッ、あの夢は本当だったか。

 

「まあ……、梶田さんの言う通り、体を意識と意識の間に間借りさせていただいてます………。この人だったら、記憶がなくても寝てたで済ましそうですし……」

 

その部分だけ皆納得してしまった。

あと、梶田じゃねぇ。

 

「と言うより、……説明に入らせてもらってもいいですか?と言うより入らせてください。そして帰らせてください。お願いします」

 

気だるそうに、そして、相手のことを考えないマイペースさで、【後藤龍善の姿】をした〈フウセンカズラ〉は言う。

すると、義文が手を挙げた。

 

「と、言うことは……、この現象について説明してくれるということでございましょうか?」

 

妙な丁寧口調で、言った義文の言葉に〈フウセンカズラ〉はなんとも気だるそうに言う。

 

「……まあ……、あなた方の望むような説明じゃないかもしれないですが………。期待に応えるつもりもないですし……。じゃあ……早速………、あ、メモらないで大丈夫ですか………?………そうか……、記憶力抜群の稲葉さんと梶田さんがいましたね……。」

 

だ、か、ら、梶田じゃねえって何回言ったらわかるんだ。

あ、言ってねえわ……。

 

「ええとまず……、とりあえずこれから当分の間、皆さん六人の間で……時々アトランダムに人格が入れ替わるんです。皆さんご苦労様です、って一応言っておきます。……本当は全然思っていないですけど。……あれ?今僕最後に余計なこと言いましたよね……?ああ……、またやっちゃった。普段から独り言多いですからねぇ。治したいとは思ってるんだけど………。いや……、あんまり思ってないし、もう治そうとするのやめようかな……」

 

「誰と誰が入れ替わるってのも、いつ入れ替わるのかってのも、両方含めてランダム?」

 

今までおとなしくしていた伊織がいつも以上に声にドスは効かせず、冷静に聞いた。

いつも以上に冷たいからか、正直、底冷えした感じを覚える。

 

「ああ………さすが永瀬さん。その通りなんですよ。で、そんなランダム人格入れ替わり状態である皆さんを、僕が観察する……ただそれだけの話です。ああ……観察するといっても四六時中皆さんのプライバシーを覗き見てるわけではないのでご安心を……。特定の条件の時だけしか見ませんし………、というより見たくないですし面倒ですしねぇ……。とりあえず事態の把握はできましたか?できてないと言われても帰りますけどねぇ…。」

 

「説明不足が過ぎるだろ……。」

 

稲葉が不満をぶつけるが俺が先に質問させてもらう。

 

「なあ、とりあえず、質問だ。このランダム性には特殊な因果律もなく、何かお前らが作った機械みたいなので反映してるだけなんだよな?」

 

「よくお分かりで……、まあ、本当なら想像にお任せします……と言うところですが……、面倒くさいことはしないんです。僕は……、なので、コントロール下にあるわけではありませんからね……。」

 

「チッ、面倒だが、私からも質問を絞ってやる……。【なぜ私たちなのか】【これを終わらせるには】【お前の目的は】この三つだ。」

 

「チョイスがいいですねぇ……、稲葉さんも何回か経験しているんじゃないですか……?」

 

と訳のわからない事を言ったフウセンカズラだが、ゆるゆると話は続く。

 

「そうですねぇ……、一つ目ですが……、たまたまです……。あえて言うなら、皆さんが

なかなか面白かったから。という事になりますかねぇ……。」

 

「なかなか面白い……、って何だよ……。」

 

「皆さん……、それぞれ色々と面白いじゃないですか……?ああ……、自覚がある人とない人がいるんですねぇ……。」

 

ゆらりと口の端を釣り上げる……。

不気味だ……。

 

「あと……、なんでしたっけ?これの終わらせ方と……目的……ですか。………でも答える義理なんて無いですしねぇ……。終わるのは……なんとなく『ああ…、面白くなった』と思えるよになれば……。………しゃべることももう無いようですし……、帰ります。では……」

 

勝手に完結し、勝手に帰ろうとした《フウセンカズラ》。

 

「おい、俺の質問、もう1つだ」

 

「はい?答えるギリは無いと」

 

俺は瞬間的に移動し、フウセンカズラの胸ぐらを掴む。

 

「良いから答えろ、俺の記憶はなぜ戻った?お前は俺を、どうしたい?」

 

「別に梶田さんの記憶は僕に関係無いと思うんですけど………。多分、私を認識したことによって……記憶が呼び起こされたのでは……?目的は決まってます…………、面白おかしくしたい………です」

 

そう言うと、フウセンカズラは俺の腕を下から引き上げ、ひねって背負い投げする形で廊下に放り投げようとする。

俺はそれを逆手にとって、俺の腕を掴んでいるフウセンカズラの腕を掴み引っ張って、膝蹴りをフウセンカズラの背中にぶつけ、体制を崩す。

だが、腕をうまく引っ張ることができていなかったようで、俺の手から逃れた右腕の肘が、俺の鳩尾を深く突いた。

 

「ゴフッ!……………、痛えな……」

 

「それはこっちもですよ……。全くあなたは、相変わらずですね?梶田さん」

 

「だから、梶田じゃねぇ……」

 

俺は苦しいのを我慢し、なんとか立っていられるように踏ん張る。

皆が驚いているが気にしない、気にしていられない。

俺はさらにまだ引き止めようと、踏み出す。

右腕を突き出し、肩を掴む。

だが、フウセンカズラの左腕が俺の腕を左肩から引き剥がし、横にずれて引っ張る。

俺は鳩尾の痛みを考えることなく、その行動に移っていたわけだが、やはり痛む。

動きが鈍っていた俺がバランスを崩したところに、腹に蹴りが入る。

 

「ガッ!」

 

「梶田さん……、本気出してくださいよ。“あの時”みたいに」

 

俺はよろめいて後ろに下がり、長机に倒れこむ。

ドア側の脚が倒れ、斜めになり、ガチャンっと音を鳴らした。

俺はずるずると、重力のまま、滑って尻が地面に着いた。

息が少しできなかったが、なんとか息を吸い込んで、息を整える。

 

「はっ………ゴホッ………、あんなの……ゴッさんに使えるかよ……」

 

「まあ、そうですね……肋骨粉砕しますし……」

 

「「肋骨………」」

 

俺の言葉に面倒ごとを増やすように説明を加えたフウセンカズラのせいで、唯と稲葉が絶句する。

その瞬間、目の前が真っ暗になる………。

 

 

「ふっ……………、ぐう………ぅ…………」

 

目の前で俺が唸っている……。

俺は周りを見回すと、太一、唯、伊織、稲葉がいた。

ということは、俺が入っているのは青木か……。

だが、全員が周りを見回している

 

「あれ……?このタイミングで入れ替わりですか……。これは………面白い」

 

フウセンカズラはそう言って去っていった。

 

 

 

 

「いってぇ………」

 

悪いな、太一。

俺が手を出したばっかりに……。

男性陣内で三人が、女性陣内で三人がといった感じで入れ替わった。

俺が義文に、義文が太一に、で、太一がみぞおちに肘食らった俺にといった感じだ。

女性陣は稲葉が伊織に、伊織が唯に、唯が稲葉になっている。

俺の体の太一はソファで寝っ転がっている。

 

「ってか、龍斗ってあんだけ早く移動できたんだね?」

 

「ん〜?ああ………、えっとなぁ………。お前らは多分、あの直前までソファにいたと思ってるだろうけど……、唯の後ろに少し猫背でいたぞ?」

 

「ゑ"!?」

 

おい唯、稲葉の口からは絶対に聞こえてはならないような声で驚くな……。

みんなびっくりしてるんだろうが……、

 

「「ぶふっ!」」

 

面白すぎて義文と同時に吹き出してしまった。

我慢した方なんだけどなぁ。

 

「な、何よ……、そんな笑わなくてもいいじゃない!!」

 

「いやいや、笑うなって方が無理があるでしょ!」

 

机をバンと叩きつつ、立ち上がる唯(稲葉)。

義文(太一)は腹を抱えて笑っている始末である。

うん、やっぱりその姿で唯の言葉だとかなり無理がある。

伊織(唯)も笑っているし、本人である稲葉(伊織)も笑っている。

すると、伊織(唯)がずっと疑問だったのであろう事を聞いてくる。

 

「でも、なんで龍斗の事を梶田って呼んだんだろ?」

 

「そういえばそうだな……、心当たりはあるのか?」

 

稲葉(伊織)もその疑問に乗っかる。

心当たりが無いわけではない。

むしろ“あるに決まっている”。

なんせ、俺は……

視界が暗転。

自分の体に引き戻されたのだろう。

腹部に痛みが走る。

 

「う…………、痛い…………」

 

「戻ったか……」

 

その場で解散となった。

俺はトイレに寄って、腹を見てみると見事に青いアザが。

内出血……、くそ、通りで少しフラフラするわけだ。

 

「大丈夫?」

 

「ああ……、まあな」

 

今日は唯が門の前に残っていてくれた。

どうやら心配をかけてしまったらしい。

まあ、唯は俺が持ってきた自転車のカゴに自分のカバンを乗せ、サドルに座る。

俺はふと思った事を口に出してしまう。

 

「なぁ……、唯は俺のこと……、どう思う?」

 

「ん〜……、ふふっ、教えない」

 

んー?

いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。

そうじゃない……。

でも、唯は笑顔で俺を見ている。

 

「怖く……、ないか?」

 

「何よ、さっきのことでびっくりしてはいるけど……、今までの関係が変わるわけないじゃない?何せ私たちは幼馴染なんだから」

 

そう言い切って笑顔をこちらに向けてくる唯。

あーーーー…………、負けた。

俺は唯の頭を撫でる。

髪が乱れないよう優しく。

 

「な、何よ?どうしたの?」

 

「ん〜ん、なんでもない。ありがとな、唯」

 

すると、後ろの網の上に乗っけたクッションの上に唯が座る。

俺はゆっくりと歩を進める。

駅前に着くまで、ずっと黙って居たが、居心地が悪いわけではなかった。

駅前に着いたので唯が降りる。

 

「乗せてくれてありがとうね。あ、今度、お菓子持って行くわね!」

 

そう言って、改札を通って行った。

見えなくなって俺は腹を撫でる。

やはり痛い。

おそらく、肋骨が亀裂骨折しているのではなかろうか?

ジンジンと痛みが増してくる。

カバンから携帯を取り出し、俺は姉ちゃんに電話をかける。

数コールあって、家に帰って居たであろう姉ちゃんが電話に出る。

 

「もしもし、姉ちゃん?」

 

『リョウくん?どしたの?』

 

「こけて机の角に肋骨を打った。痛みが増しているため、病院行ってきます」

 

『うわ、無理しないでね〜。あ、そうそう、アリス私が引き取ってるから、来たら凄いことになるわよ〜』

 

なんでそんなことになってるんだ。

まあいいか。

了解して電話を切る。

と言うことで俺は病院へ向かうのだった。

 

 

翌日 肋骨の痛みとあざは消えていた。

恐らくフウセンカズラだ。

流石に、最初から自分が干渉したことで日常生活に支障を来たすことは、消したかったらしい。

同時に左手首も痛めて居たことに病院で気がついたのだが、それも無くなっている。

入院せず、絶対安静と言われたので、昨日はホテルに泊まった。

問診だけで、レントゲンなどで確認して居ないことが、事実を無効化する力を持っている。

すると、電話がかかって来た。

今は朝の6時。

画面を見ると……、ゴッさんだった。

 

「もしもし、ゴッさんか?」

 

『ええ………、まあ………、そうです……』

 

後藤龍善にしては異様に覇気がない。

もしかして……、

 

「フウセンカズラ………か?」

 

『そうですね……、本題に入ります……。あなたが病院に行った記録全てを消しました。もちろん、医者の記憶や、そこに居た人たちの記憶全て』

 

「………やりすぎじゃないのか?」

 

『いえ、これが正しいんです……。まだ始まったばっかりですからね。あなたには、もっと、面白くしてもらいます』

 

そうかよ……。

 

「あ、姉ちゃんの記憶は?」

 

『もちろん、消したつもりです。ですが……、あの人は前の現象のことを知っていて記憶を持っている人物でもあります………、ああ、知らないんでしたね?僕とは違うフウセンカズラが……、あなたのお姉さんを巻き込んで………………“現象を引き起こした”ことがあったんですよ………、。ですが………、記憶を消失させたのに覚えているようでして……』

 

待て、そうだったのか?

だったら、説明がつく。

昔、姉ちゃんの反応が異常に遅い時があった。

その時だろう。

 

「そうか……、まあ良い。あいつらには俺から説明しておく」

 

『お願いします。では………』

 

 

 

俺は学校にいつもより早く来た。

ちなみに時計は7:13を示している。

勿論、部室に入りメールで全員に召集をかけた。

 

『できれば召集

 

昨日の怪我のことで話がある。

昼休みでも良いが、いけるか?

場所は部室だ。』

 

お、返信きた。

えっと、稲葉だな。

さすが早いな。

 

『了解

 

私は大丈夫だ。

他の奴らはどうだ?』

 

って個人かよ。

集団で出したのに個人で送るってか?

するとメールがもう一件きた。

青木だ。

 

『悪い!

 

寝坊した!

電車内以外メールできない!』

 

お、こっちは全員に送ってるな。

めんどくさくなったので文面だけで説明する。

 

『もうメールで話すわ。義文は後で説教な

 

昨日、フウセンカズラに蹴られただろ?

昨日病院行ったら問診だけで、でも、おそらく骨にヒビ入ってたと思う。

問診でもそう言われたし、痛みがどんどん増して行ってたんだけど、フウセンカズラが治してくれたらしい。

あいつらの考えは分からんが……まあ、人間じゃないから超能力的な何かで治したんだろう。

なんでもありだからお前らも気を付けろよ』

 

俺はメールでそれを全員に送信した。

その後、部室棟を降り、教室に向かう。

うー、少しフラフラする。

やはり朝だからか、頭に血が上っていない。

 

そう思っていた瞬間に、一瞬で目の前が道路になった!?

見覚えがある。

おそらく青木の家の近くだ!

 

「ふざっ…………、けんな!!」

 

俺は駅まで猛ダッシュすることになったことは言うまでもない。

 




今回は少し短くなってしまいました。
それにこんなにも遅く………、フウセンカズラとの対決シーンですが………、文句は言わないでくださいね?
文才なんか皆無です。
主人公は役に立ちたかっただけなのです。
仕方な……………、くはないですね。
原作を取り入れたほうがよかったかもしれませんが、少し僕の妄想を採用させていただきました。
それと、主人公と唯が普通以上に仲が良いことも分かりますかね?
唯から主人公への想いは恋人以上かも……、しれませんねぇ?
では、また次回


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文化研究集会と情報元の命の危険

週末………、普通ならば俺だったら家でゴロゴロしたり、風呂を掃除したり、姉ちゃんと兄貴の喧嘩を止めるために奔走していたり。

もしくは料理の研究で、どの料理にはどの香辛料が合うか……、のような事もしている。

だが、今日は違う。

今は午前11:00。

俺の家は一軒家で、姉ちゃんと兄さんが向かい合わせの部屋として一階を使っていて、二階は基本俺一人となっている。

あ、書籍が二階にあったわ。

そこには学校の書類やら、昔買った本やらがあるため、兄さんと姉ちゃんも使っているのだ。

ちなみにリビングは一階にも二階にもある。

単純に広いわけでなく部屋をぶち抜いて繋げただけなのだが………。

あ、俺の部屋がそこと言うわけではない。

俺の部屋はかなり狭い。

シングルベッドを入れたのだが、俺がハマるくらいの隙間が横にあるくらいの幅で、宿題はほとんど隣のリビングで行なっていたりする。

まあ、縦に長いため、ベッドの足元がぬいぐるみやら睡眠グッズなどで占領されている。

ここが最初に青木に入れ替わられた時に荒らされた場所だ。

そんな事はさておき、だ。

今はクッションの設置やら色々している。

まあ、そこまで散らかっていないのが良かった。

すると姉貴が書籍から出てきた。

 

「ねえ、何してるの?」

 

「あん?文研部総集合で今からちょっとだけ集会するだけだ。今から料理作り」

 

「へぇ?義文くん来るの?」

 

「ああ、来るぞ………?もしかして……」

 

「采花(サイカ)呼んじゃった」

 

テヘペロする姉ちゃんの頭頂部にチョップをかましつつ、俺は考える。

青木采花(アオキ サイカ)、青木義文の姉であり、姉ちゃんと同い年の二十歳。

この二人、もうすでに酒を飲み続けるザルである。

正直ダメだと止めた兄さんも巻き込まれ、酒に弱い兄さんは一瞬で潰れる。

最終的に朝まで飲むと言うのが、姉ちゃんと采花さんのお約束となっている。

となると……、俺はあいつらの飯を作った上、姉ちゃん達のためにつまみまで用意しなければならんのか………。

 

「酒?」

 

「もち」

「……………」

 

「あだ!無言で叩く事ないじゃない!!」

 

「アル中になってもしらねぇぞ?………、つまみは用意するから下で飲んでくれよ?」

 

「はいはい、分かってる分かってる」

 

そう言って、数冊の本を持って下に行く姉ちゃん。

見た所数学の参考書らしかったが……、まあ、あの人達のことだ。

勉強など二の次だろう。

まあ、そんなことは置いといて、俺はあいつらの昼飯を用意しなければならない。

もうすぐ11時半。

いつの間にかこのような時間になってしまった。

すると電話がかかってきた。

唯だ。

 

『もしもーし、聞こえてますか〜?』

 

ん?だが、声が違う。

伊織だ。

 

「なんで伊織が唯の電話に?」

 

『単純に今入れ替わりが起こっているからなのです。ちなみに唯と稲葉んね?』

 

なるほどね。

で、伊織から電話かけてくれっつー話なわけだな。

 

『青木と稲葉ん来てないから、集まったら行くね〜』

 

「はいはい、りょうかーい」

 

電話を切って、俺は料理を作ることに決定した。

 

 

 

 

「いや〜、たらふく食べた……」

 

「美味しかったねぇ〜」

 

太一と伊織がそう言いつつお腹をさする。

青木と唯はまだがっついてるし、稲葉はトイレに。

俺は食った後の片付けをしている。

きのこのクリームパスタ、前菜としてイカとナスの入ったサラダをご馳走した。

青木と唯も食べ終わった。

皿を洗い終わり、ふう、と一息ついて、ソファに座る。

すると、伊織がどっしりと重みのあるクッションを投げ出した。

3つくらいあるので投げ合いになっている。

俺に飛んできたがはらった。

すると、それは跳ね返ってドアの方へ………。

あ、ドア開いた。

 

「ふう、もどっっ!?」

 

バフッ

戻ってきた稲葉の顔面にそれが当たったのは必然だったのだろうか?

稲葉の頭が後ろに倒れ、真上にクッションが乗って少し面白い。

稲葉が顔を戻し、クッションが落ちる。

その顔には、怒りと恨みが混ざっていた。

 

「おい……………、覚悟は…………、いいな?」

 

なお、稲葉も参戦する模様。

 

 

 

 

 

 

昼の3時。

おやつの時間だな。

俺は未だ続いているクッション投げ大会から抜け出し、自家製のポテトフライでも作ろうかと悩んでいると同じく疲れたのか、唯が出てきた。

 

「お、な〜にしてるの?」

 

「ポテトフライを作ってるところだ。唯もなんか作るか?」

 

「ううん。今はいいかな。それにしても、稲葉まで参戦すると思わなかったわ」

 

「ああ、それはわかる」

 

稲葉がプチギレて、青木と太一、そして伊織にクッションを投げまくったのだ。

そこから試合開始的な感じで、俺以外の七人がそのクッション投げ合い大会をしている中で寝ていたら思いっきり飛んで来て、時間も時間だから出て来たのだ。

ちなみにそれはもちろんうちの姉ちゃんと采花さんも入っている。

まあ、今は酔っていたと言うこともあり、少しダウンしているが……。

 

「ねぇ、今日って何のために集まったんだっけ?」

 

「ん?確か現象のことについての反省会じゃなかったか?」

 

「もう完全にみんな忘れてはしゃいでるわね……」

 

「まあ、もうそろそろ止めといてくれ。あいつら一応運動系ではないんだからな」

 

「はーい、任された〜」

 

唯に頼むと再び部屋の中へ戻って行った。

まあ、帰ったら唯もまた参戦してたんだけどね。

 

 

 

姉ちゃんと采花さんが出て行き、クッションの投げ合いが終わったため、やっと会議に入る。

 

「はぁ………、なんか妙に疲れたな……」

 

「当たり前だ………、ってさっき稲葉はどさくさに紛れて、青木を罵ってたよな………」

 

「『アホ木』連呼してたね」

 

「ってかなんで姉ちゃんいるんだよ……」

 

何をしているのだか……。

ってか、唯が疲れていないのはわかるが、何故に伊織がピンピンしてるのか。

稲葉と太一、それに青木は三人がけのソファでグダ〜としている。

それに比べ、参加しなかった俺、体育会系の唯、それにおそらく少しづつ休憩を挟んで疲れを取っていた伊織は、クッションに座り、ポテトフライをぱくついている。

1番の問題点を言ってみる。

 

「で、だ。現象の反省だろ?まずひとつ。おめーら、トイレ間違えたやつ手あげろ!」

 

俺と稲葉以外の四人が手をあげる。

 

「おい!?お前らは何を考えてんだ!?トイレ行きにくくなっただろうが!?」

 

「いや〜……」

 

「くせで………ね?」

 

義史と伊織がそう行ったので、俺は迷わずクッションを顔面に的確に投げる。

ボフッと当たり、義文は後ろの壁に後頭部をぶつけ、伊織はゴロンと思いっきり倒れる。

おい、伊織、服がまくれて下着見えかけたぞ。

だが、太一の方からは捲れた時に見えていたらしく、頬を赤くし、目をそらす。

 

「太一、死刑。この間青木から借りてた漫画の題名言うだけで勘弁してやる」

 

「水着女子水泳大か………、って待て!?なんでそうなる!?」

 

「いや、何と無くだ。まあ、そこ男子二人が水着好きと分かったところで、だ。女子に粗末な物見せたくなかったら先トイレ行くこった」

 

俺がそう言うと、唯が手を挙げた。

 

「できればでいいんだけど、同じくそれ推奨します………。だって!トイレ行くたびに、男のアレ見ないといけないのよ!?」

 

「いやー、私はもう立ちション出来るくらいには慣れました!」

 

「伊織は少しは抵抗しろ!!」

 

唯が吠えた後、伊織が爆弾投下し、稲葉が吠えた。

って、そういえば俺、立ちションしないからなぁ……。

 

「大きさは太一が一番でかいかな。順に太一、龍斗、青木だったかな」

 

「って、何言ってんだ!?」

 

まあた、伊織が爆弾投下した……。

青木まじで落ち込んでんじゃん。

ソファで体育座りして膝に顔埋めてるじゃん。

すると、太一がめっちゃ青木を慰めようと背中をさすっているが、言葉が出てくるわけではない。そういえば、青木が唯になった時、呼び方で結構揉めてたと言うことを思い出した。

 

「とりあえず、お前ら、家族の呼び方面倒臭いからまとめるぞ。義史は親父、お袋、姉ちゃん、唯は杏にママにパパ、太一は母さん、父さん、で………妹の……「莉奈だ」そうそう、莉奈、稲葉んは兄貴に、母さん父さん、伊織はお母さん…………、って感じか。プラスで、俺は姉ちゃんと兄さんだ」

 

「って、なんでそんなに知ってるの!?なんで!?」

 

青木が疑問に思い、言葉にする。

 

「いや、俺稲葉より諜報力あるから」

 

「なんだと?」

 

「一応、この五人の情報は結構知ってるかな。俺の情報をどこまで掴んでるかも知ってるし」

 

俺がそう言うと、皆が唖然とする。

何故って顔するな。

説明するけどさ。

 

「俺、一応、みんなの親とも知り合いだったり、兄弟姉妹とも知り合いだったりするし。八重樫妹はよくアリスと来るし、義文の姉さんも今来てるくらいだからよく来るし、杏はメル友だし、稲葉の兄貴は兄さんと同期だからって理由で結構来るし、伊織の母さんは伊織と買い物する時以外は一緒に買い物行くし」

 

「待て、色々突っ込みたい。兄貴が来るだぁ!?」

「待て!莉奈が来るだと!?」

「杏め……。私の個人情報を……」

「お母さん何しちゃってんの!?」

「知ってるから………もう………いいか」

 

稲葉と太一、伊織が取り乱し、唯と義文は目が死んでいる。

ちなみに、結構マジだったりするのでなんとも言えない。

 

 

 

そんなこんなで夕方。

 

「じゃあな。気つけて帰れよ〜」

 

「帰ったら、兄貴には覚悟してもらわねぇとなぁ……」

「い、稲葉ん〜。ちょっといいか?」

 

「あ?なんだよ」

 

俺はみんなが帰る中、稲葉を呼び止める。

俺はちょいちょいと耳を貸すようにジェスチャー。

耳を傾けてくるから、小声で言う。

 

「お前、ストレス予想以上に溜まってたんだろ」

 

「っ………、うっさい。私は別にストレスなんか」

 

「じゃあ、お前の右腕に出ていたはずのじんましんはどうなったんだ?」

 

「っ…………………」

 

黙りこくってしまった。

事実、ここ最近稲葉の右腕にはじんましんが出ていた。

おそらく、自分と誰かが入れ替わることにより、自分の体がどうなるか。

自閉症と人間不信である稲葉にとってはかなりのストレスになっていたのだろう。

 

「はぁ………、俺はこれでも結構人のことは見ているつもりだ。腕と足、首、顔くらいは見ている。いかがわしいことは、正直興味ないが、お前らの体調を気遣うくらいはしているさ」

 

「…………、知って………たんだな」

 

「まあ、稲葉の性格くらいはわかっている。相談くらいは乗る。何かあってからじゃ遅いからな?吐き気とか立ちくらみ、頭痛、不眠症が出たら俺に言え。俺は、裏切らないつもりでいる。お前が裏切ったら俺は泣く」

 

「泣くなよ……ふふっ……、ありがとう。元気が出たよ」

 

稲葉が、力なくではなく、心から笑っているように見えた。

稲葉と皆が駅に歩く中、方向が違う伊織が俺の方に寄ってきた。

 

「バイクで送ってってよ。暇ならだけどさ」

 

「………、はいはい。分かったよ少し待ってろ」

 

俺は車庫からバイクを出してきてエンジンを吹かす。

バイクはホンダ CBR1000RR

平成仮面ライダーにおいて多くのバイクの元となったバイクだ。

俺はヘルメットを伊織に渡して、バイクにまたがる。

伊織はヘルメットをかぶり、後ろに乗って、俺の腹に腕を回す。

 

「行くぞ」

 

「うん!」

 

俺はエンジンを吹かして、伊織の家まで走る。

 

『ねぇ』

 

「あん?」

 

ヘルメットのマイク、スピーカーを通して、伊織が話しかけてきた。

 

『稲葉んと、何話してたの?』

 

「………………、あいつのストレスの話だ。あいつ、ストレスで右腕上腕部にじんましんが出てたんでな」

 

『そう………、なんだ………。気づけなかったなぁ……』

 

暗い声。

伊織は人の異常を見抜くことが良くある。

それは少しの行動の違いだったり、違和感を敏感に感じ取る能力を持っているんだ。

だからこそ、気づけなかった。

それは友達として、クラブの部長として、親友として………………。

悔しいというよりは、自分への攻め。

何故気づけなかったのか。

気づかないなんて、おかしい。

そう思っているだろう。

 

「稲葉はお前にも気づかれないよう頑張ってた。俺も、腕まくりした時、偶然気がついた」

 

『でも、気づけなかったんだよ?親友って…………、名乗れないよ……………』

 

俺の胴に回している腕に力が入る。

俺はバイクの速度を下げ、端に止める。

スタンドを下ろし、バイクを仮固定。

エンジンを切ってロック完了。

俺は伊織に腕を少し広げてもらい、前後反対に座る。

ヘルメットを外して、伊織の頭を撫でる。

 

「な、何さ、どうしたの………」

 

「うるせ、黙って撫でられろ」

 

俺は伊織のと俺のヘルメットを前のサイドミラーとグリップに引っ掛け、伊織を抱きしめる。

 

「ちょ、ちょちょ、さすがに恥ずかしい………」

 

「お前のせいじゃないぞ」

 

「っ!」

 

「俺も、伊織が見つけて、俺が見つけられなかった時のことを考えたんだ。そしたらさ、無性に抱きしめられたかった。だから、抱きしめた」

 

俺は伊織の後頭部を撫でる。

安心したように、こわばっていた伊織の体の力が抜けていく。

 

「……………正解だから困るんだよなぁ……」ボソッ

 

しっかりと聞こえているぞ、伊織。

俺はさらに撫でる。

 

「相変わらず、直感よすぎ。もー、あんたはあたし達に甘すぎ。もっと辛く接しろ…」

 

そう言って、俺を抱きしめ返す。

少し驚いた。

まさかこんな反撃が来るとは……。

 

「でも………、今はそれが一番、私にとっての最高のご褒美だからさ。辞めないでよね」

 

「ったく………、自分勝手なこと言いやがって」

 

伊織の頭を撫でる。

優しく、今にも壊れそうな、ガラス細工を扱っているかのように。

それはもう、ヒビが入っていて、今にも崩れそう。

壊れないよう、この子がこれ以上、傷つかないよう………。

ある視線に気がついた。

その瞬間、俺の腕の中にいたのは、冷たい何かだ。

 

「……あれ?気がついちゃった………?」

 

「…………フウセンカズラ…………、しかも俺たちに接触して来た個体とは別個体か」

 

「………そこまで気がつくって………、相変わらずのキチガイ性能………。そう……、別個体…………、二番目でいいよ………」

 

バイクから降りて、伊織の体で喋る二番目。

いつも、基本は笑顔を絶やさない伊織だからか、今の無表情で俺と少し距離を取って話す伊織は不気味以外の何者でもない。

 

「何を……、しにきたのか………。それは、あなたの記憶を戻すため」

 

「は?何を」

 

俺の額から汗が垂れる。

夏も終わり、涼しいと感じる期間で、もうすぐ夜だからか、肌寒いと感じる人もいるであろうこの時間。

なのに汗が垂れて来る。

手の甲で拭うと、それは手の甲に染み着き、皮膚を赤く染める……。

血…………?

待て、これはおかしい……。

これは………、現実か?

いや、現実の映像と同時に、もう一つ、記憶が同時に流れている。

フラッシュバックか……………。

そうだ、これは夢の続きだ。

俺は、人を殺した。

自分以外が敵にしか見えなくなった。

現象だ。

そういう現象だったのだ。

そうだ。

俺は、親友を殴り殺したんだ。

今は記憶がかすれてしまった………、名前が思い出せない。

頭から流れる血は、そいつが抵抗した跡。

顔の判別がならないくらいまで、ぐちゃぐちゃになるまで殴った。

その時、親友が俺の額に石を打ち付けできた傷、そこから出てきた血は俺の額を、頰を、目を濡らした。

だが、次の日には親友を含めたみんながいつも通りだった。

その親友の命は吹き返し、顔は元のまま。

いや、異常だったんだ。

現象を知っていたのはその親友を含めて俺と四人。

だが、その親友の中で、俺は知り合い程度の判別になっていた。

俺は引きこもった。

俺は親友を殴り殺したという自分の容赦のなさ、そして、他の三人までも、俺は殺してしまうのではないかという恐怖からだ。

親友以外の三人は、見舞いとして、来てくれたが、俺は食事を摂ることも、外に出ることもなく、部屋に引きこもり続けた。

栄養失調で倒れ、一ヶ月絶対入院と、俺の体はかなり弱体化していた。

そして俺が学校に戻った時、……………その四人は失踪した。

正確には入院中に家族ごと消えた。

学校側、クラスメイトに聞いても、そんな奴はいなかったの一点張り。

そうだ。

俺が引きこもったから、あいつらは。

 

「ねえ…………、思い出した?」

 

世界がぐにゃりと曲がる。

目が回る。

焦点が定まらず、平衡感覚がなくなり、倒れる。

 

「…………?やりすぎ………かな」

 

呼吸が荒くなる。

汗がとめどなく出て来る。

全身の筋肉が痙攣を始めた。

 

「………、トラウマって…………、こうなるんだ」

 

「………だ………ま…れ…………」

 

絞り出した声が自分の声なのか。

それさえ分からないまま、意識が遠のく。

伊織の声が反響し、脳を揺さぶる。

ダメだ。

揺らぐ世界の中、なんとかとらえた伊織の顔は、笑っているように見えた。

 

 

 

伊織視点

 

「え?」

 

さっきまで抱きしめられていたのに、その感覚がなくなり、今地面にへたり込んでしまった。

なんで、こんなに疲労感が?

それに、バイクに座ってたのに……。

そう思うと同時に、目の前で倒れている龍斗に目が行く。

近付いて息をしているかどうか確認する。

大丈夫、息はしてる。

でも、荒い息だ。

 

「ハァ…………、ハァ…………、ハァ…………、ハァ…………」

 

「きゅ、救急車呼ばないと」

 

急なことで、手が震えて思うように動かない。

携帯を落としてしまう……。

それを拾おうとして手を伸ばす。

でも、携帯が差し出された。

携帯を拾ったのは全く知らない人でもなく、私の手でもない。

 

「………、落とし……たぞ」

 

「龍斗!よかった!死んじゃうんじゃないかってヒヤヒヤしたんだから!!」

 

本当に、びっくりした。

抱きしめる。

強く、強く。

苦しいはずの龍斗は、私の頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫、大丈夫だ…………」

 

「苦しい!?よね!?救急車呼ぼうか!?」

 

「耳元で声を荒げるな………、大丈夫………、落ち着いた……」

 

「でも、目から血が!!」

 

大丈夫と言っている龍斗だけど、涙じゃなくて、血涙を流している!

こんなの、大丈夫じゃないよ!

 

「あ……、目に力入れすぎたか…………、大丈夫、すぐ治る……」

 

「でも!」

 

自分でも焦っているとわかっている。

だけど、今、すごく疲れた顔をしてる。

なんでだろ、自分の視界までぼやけて来る。

龍斗は上半身を起こして、私の涙をぬぐって頭を撫でてくれる。

龍斗は無理して私に優しくしてくれているんだ。

 

「大丈夫だからさ、落ち着いてくれ。伊織」

 

「うう………、ぐずっ………」

 

なんで、私が泣いているんだろう。

自分でもそう思うくらい謎だ。

落ち着いて来た。

龍斗も、ティッシュを出して、目を拭いている。

 

「悪い、こっからは一人で帰れるか?」

 

「そっちこそ、大丈夫なの?目は見えてる?」

 

「うん、大丈夫。見えてるよ」

 

「血は?」

 

「治った………、と思う。口の奥の方でまだ血の味するけど」

 

「………?なんで口の中?」

 

「あー、目と鼻と口と耳は繋がってるからだ。涙と鼻水が同時に出るのと同じ理由」

 

初めて知った。

だから、口の中が血の味しているのか。

 

「でも、帰れる?」

 

「ああ………、なんとかな。いざとなれば姉ちゃん呼ぶし、大丈夫」

 

「そっか…………」

 

これ以上接していたら迷惑になるだろう。

 

「じゃあ、また明日。いざって時は休むんだよ」

 

「………ああ……、またな。伊織」

 

 

 

 

龍斗side

やべ………、貧血だ………。

未だに口の中が赤いらしい。

道端にぺっと唾を吐いたが、真っ赤に染まっている。

伊織のヘルメットをシート下に入れ込み、ヘルメットをかぶる。

バイクにまたがるが、血の涙が出た右側の目が少し見え辛くなっている。

まずかったかな。

俺はすぐにエンジンをかけて、家に引き返す。

数分で家について、家に入る。

すると、飲んだくれ二人が、まだ下のリビングで飲んで居た。

兄さんは帰って来て居ないのか。

俺はまず洗面所で目を洗う。

血をぬぐい切った後、二階に上がって、自分の部屋に入る。

自分の部屋のベッドの奥。

そこに、薬を入れている小物入れがある。

つまみを左手の指先でしっかりと持って引っ張るが開かない。

あれ?

俺は右手でやってみると簡単に開いた。

そう自覚した途端、左腕に筋肉痛に似た痛みが来る。

二番目に記憶を掘り起こされた時、無意識のうちにかなり左腕に力が入って居たのだ。

家に帰って来たと同時に緊張がほぐれたのか、左腕に力が入らなくなってしまったらしい。

湿布と痛み止めの錠剤を取り出し、台所へ。

水を取り出して、コップに注いで薬を飲む。

上半身を脱いで、左腕になんとか湿布を貼って、上着を着る。

俺は台所、二階リビングの電気を消して、自分の部屋に戻る。

ベッドに潜り込み、電気を消す。

入れ替わり………、それ以上に俺からしたら、フウセンカズラが厄介だな……。

目を閉じる。

布団の温かみ、左腕の湿布の冷たさ。

未だに思い出す額から顔に流れる血の感覚。

深い闇に飲み込まれるように、俺はゆっくりと夢に溶け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「………余計な事をしてくれましたね…………。面白いから良いですけど」

 

「問題………ないよ……ね?………まあ、彼は正直いらないと思うけど……」

 

「少し………、入れ替わりから除外してみましょうか」

 

「そうね………そうしましょ」

 

「ああ……、なんであなたなんかに………、とりあえず………あなたは静かにしておいてください」

 

「うん………、いいよ………」




どうも、センター試験真っ最中の黒木です。
とりあえず、次回からアニメなどでの三、四、五話あたりをしていこうと思います。
長くてすいません。
はい、龍斗君ですが、かなりの傷を負っています。
人を小学生で殴り殺す。
他人、自分以外が敵に見える。
小五の子供からしたら、精神的ショックが大きかったのでしょう。
親友だった子、名前は忘れてしまっているようですが、やはり親友が自分のことを忘れてしまうと言うことは辛いことだと思います。
全てはフウセンカズラが悪い。
そして、龍斗の情報元がまさかの五人の家族だったり、青木姉が出てきたりと、そのうちオリジナルキャラのプロフィールでも出そうと思います。
ではでは、おやすみなさいませ。


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暇を持て余した ふと思いついた 男達の 遊び

週が明けた月曜日。

俺は未だに痛む右目に眼帯をして登校した。

朝起きて鏡を見たら、右目だけかなり血管が浮いて、充血していたのだ。

正直、シャレにならないくらい、怖い。

眼帯は布製で、俺が少し前に買ったものだ。

 

「よお、リョウ、どうしたんだ?眼帯なんかつけちゃって」

 

「ちょっと目がおかしいんだ。見てもいいがトラウマになるなよ?」

 

「そ、そんなに怖いの?」

 

「血管が浮き上がって充血してるから、正直女子は悲鳴あげて逃げるだろうな」

 

「うん、でも、距離感掴むの難しくない?」

 

「お前が距離感を掴むより簡単だぞ」

 

何を!!と言っている青木を無視し、腕を組んで首を前に傾ける。

顎の骨が胸に当たって止まり、目を閉じる。

俺はこうなると寝ようと思ったということだ。

青木はすぐに俺から離れ、別のやつのところに行ってくれる。

その瞬間、俺の記憶は途切れた。

 

 

「ん?あれ?」

 

今さっきまで教室の自分の席で寝ようとしていたはずだ。

何だ?

 

「大丈夫…………ですか?」

 

後ろから声がする。

この間の夢と同じ感じ。

 

「フウセンカズラ………、一番目だな」

 

「ええ………そうですね………、二番目は………あなたにチャンスを与えたのですよ」

 

「チャンス?この右目になってもか?トラウマを、隠れてた記憶を、俺が何故、ここまで他人を自分から遠ざけていたという事を俺に思い出させたのかをチャンスというのか?」

 

「そうです………、あなたはいずれ……分かると思います」

 

「………分かった、受け入れる。お前は引っ込んでろ」

 

「ええ、そうします……。では……」

 

 

ウくん………リョウくん!リョウくん!」

 

「へ、はい?」

 

「眼帯は外してください!って」

 

目の前で思いっきりゆるい服を着たうちの担任が顔を覗き込んでいた。

 

「却下です」

 

「何でですか!?」

 

「外したいなら自分でどうぞ」

 

「では!」バッ!

 

涼子先生は俺の眼帯を取って目を覗き込んだ。

その瞬間、顔が青くなり、俺の頭に眼帯を戻した。

 

「ごめん、ちょっともんじゃ生産してくる……、朝礼は終わりでいいわ……うぷっ」

 

あーあ、やっぱか……。

俺はその後、眼帯を取って見せ、ほぼ全員がもんじゃを生産しかけたり、したりすることになる事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、義文が唯に、太一が稲葉んに、そして俺が伊織になった。

男ども全員がいないと言う状況だが、中のやつらは全員男だ。

そんな中、青木(唯)がこんな事を言ってきた。

 

「なあ、この姿で一回、告白はこんなのがいい!って動画撮ろうぜ」

 

で、できたものが、これだ。

 

『あ、あたしねっ!ずっと素直になれなくて、いつもきつく当たっちゃってたけど……ほんとは青木のこと……好き……、だから。ごめんね?突然こんな事言っちゃって……』

 

中身が青木だと分かっていたとしても、可愛い……。

 

『ア、アタシ……、あなたのことが………好き……です……。その……よければ……付き合ってください……!』

 

おお、新鮮な稲葉んを見れた。

俯き気味で上目遣いとか、タマリマセンワー。

 

『やっほー、ちょっとだけ、時間くれない?………うん………、ありがと。じゃあ、言うけどさ。前々からアプローチはかけてたんだけど、気づいてくれないから言うね。あなたの事が好きです!以上!と言う事で返事は今度でいいから!」

 

俺の趣味全開で行ってやったぜ。

ちなみにこれを撮っていたのは伊織の携帯だ。

これ見つかったらやべえだろうなぁと思いつつ、用具入れにしまっていた俺のノートパソコンに繋ぎ、データをしまい込む。

この二人には後でデータを送る、と言って丸め込んだが、撮影会は続行。

だが……、ヒートアップしすぎた。

俺(伊織)と太一(稲葉ん)が手を繋ぎあって、頰をすり合わせるようにほっぺたをくっつけて青木(唯)の方を向いて撮影していたのだが。

 

「おーっす遅れたぜい!」

 

「「「ッッッ!!!!!」」」

 

伊織(俺)と稲葉ん(青木)、唯(太一)が入ってきた。

俺は太一(稲葉)をソファに投げ、

 

「グヘェ!?」

 

青木(唯)から携帯を奪う。

 

「うお!?ど、どうした!?」

 

俺は画像をできるだけ選択し、メールで俺の携帯に送る。

そして、携帯の写真、動画を削

 

「何してるのかな?龍斗くん?」

 

「ひい!?」

 

俺ってこんな怖い顔できるのか……、というほどイラついた伊織(俺)が俺の後ろに立っていた。

だが、選択して削除した状態だ。

まあ、選択漏れはどうなのだろうな……。

 

「ムービーかぁ?伊織の携帯で何をしていたんだ?」

 

俺は選択し忘れを覚えている、俺の動画ではない太一と青木の動画だ。

まあ、俺もしていた事は一目瞭然だが……。

すると、俺と伊織の入れ替わりが終了した。

俺はメールをパソコンで基本行なっているため、自分の携帯にも届いたのだが、パソコンにも送られている事だろう。

俺は自分の携帯を取り出す。

改めて画像を見ても、危ないのばっかりだ……。

これは封印しよう。

あ、動画は見るけどね。

だが、張り詰めていた稲葉んの空気が、ブチギレた。

 

「へー?楽しそうなことやってたんじゃねぇか」

 

伊織は携帯を返してもらい、動画を見ている。

稲葉は対照的だ。

義文の姿でブレザーを脱いでネクタイを取り、シャツを脱いでその下も。

上半身裸の青木到来である。

やばいな、と思ったので稲葉ん(青木)の肩に手をやる。

 

「やめろ!義文が社会的に死んでしまう!」

 

「お前も同罪だクソ野郎!!」

 

稲葉んは義文の姿で、俺の腕を握り、背負い投げの要領で地面に叩きつけた。

 

「ごはぁっ!」

 

「リョウ!!」

 

唯(太一)が寄ってくる。

涙目の野郎に心配されても、特に何も感じねぇな。

 

「って稲葉んは何をしようとしてたのさ!?」

 

「ん?ちょっと裸で校内を走り回ってやろうと……な」

 

「ちょ!?」

 

「稲葉っちゃん!?俺は社会的に死んだら肉体的にも生きていく自信がありません!!」

 

唯の姿の青木が必死で土下座しながら言う。

だが、稲葉(青木)は唯、伊織以上にキレていた。

 

「ふん、死ね!」

 

まあ、全力で稲葉んを五人が止めるということになった事は言うまでもない。

と言いつつも、皆が元の体に戻ったために、落ち着かざるを得ない状況になったと言うだけなのだが。

 

「ねえねえ、さっきの写真と動画の件なんだけど……」

 

伊織がそう言ってきた。

待て、そういえばメール消し忘れた。

アプリを使った履歴からは消したが、送信したメールを消し忘れた……。

 

「………………、龍斗って、ああいうの好きなんだ〜………、へぇ〜?」

 

「やめろ、やめてくれ…………。反省してるから……」

 

「え?なんでもする?」

 

「言ってないぞ………、だ、だが、出来れば唯と稲葉んには………」

 

「へぇ〜?そう言う態度なんだ?じゃあ、話しても」

 

「待たれよ………、頼む…………、俺の羞恥心が負けたりすることとか怪我することとか俺のできないこと以外で頼むぞ……」

 

そう尋ねてみると、うーんと考え出す伊織。

だが、俺と伊織が話しているのとは別に太一、義文、唯、稲葉んの話が始まった。

 

「あ、そうそう、唯、一つ聞いていい?」

 

「何よ、青木………、そんな真剣な顔で………、まさか真顔であれしてほしいとか言わないわよね?」

 

「言わないっての………」

 

義文が唯に質問を投げかける。

何か嫌な予感がする。

俺は、ここで止めておくべきだったのだ。

 

「唯ってさ、俺らの事怖いとかってある?なんか【唯の体】になっている時、俺らっつーか、男のが側にいると、【体】がびくんってなるんだけど……」

 

「は?」

 

「あ!あるある!確かになんか男子の側だと体が無意識のうちにそこから離れようとするもん!」

「」

 

あ、唯が固まった。

青木の言葉に伊織が同意した。

この二人はやはりどこか似ている。

本能的な何かか、何も考えていないからなのか。

唯は急に動き出し、貼り付けたような笑顔を浮かべる。

唯の顔が歪む。

唯はまとまらない言葉のまま、言葉を発していく。

俺は止められるわけがない。

 

「……はっ…………え?……………なんで……あんたたちを………、怖がらなくちゃならない……のよ……。そんなこと……あるわけないじゃ………ん………。だって……私は………、あんた達より……強いもん……。絶対…強い……………。だから………、だから、“男なんて怖くない”」

 

人間は、確信を突かれると、自分が普段しないことを、動揺して行ってしまう。

それは言葉にも出る。

支離滅裂になったり、矛盾が起きたり、本心が出たり、分かりやすい嘘が出たり。

人それぞれだろうが、唯は最後、分かりやすい嘘が出た。

今の言い方では明らかに男が怖いと思っているのだ。

唯は少し震えている。

手はぎゅっと握りしめられ、下を向いている。

俺は立ち上がり、唯の側に行く。

 

「お、おい、リョウ?」

 

明らかにわかる嘘、男が怖いと言っているようなものだった唯に、男の俺が近づく事を、義文は疑問に思っただろう。

だが、唯は俺の制服の胸のあたりをキュッと掴む……。

腕が少し震えている。

 

「唯、もうそろそろ限界だと思うんだ」

 

「……………」コクリ

 

唯は頷く。

 

「唯、先帰ってろ」

 

「………」フルフル

 

今度は首を振った。

 

「俺と帰るか?」

 

「………」コクリ

 

「そうか………、じゃあ、自転車置場で待ってろ。ちょっと説明する。これで音楽聴くか?」

 

「……」コクコク

 

俺の音楽プレイヤーを持って、部室を出て行った唯。

俺は唯のカバンを持って、俺のカバンを持つ。

すると、伊織が俺に聞く。

 

「ねえ、龍斗………。唯は……」

 

「男性恐怖症」

 

「「っ!」」

 

「チッ」

 

まどろっこしいのは、正直この場を余計に混乱させるだけだ。

端的に言うと、男二人は息を飲み、稲葉んは舌打ちした。

稲葉んは俺に言う。

 

「お前は面倒くさいことはしないと思っていたんだが?」

 

「幼馴染だからな。これくらいはするさ」

 

「………、男性恐怖症って…………、ひどいのか?」

 

口を閉ざしていた義文がそう言った。

 

「ああ、俺以外の男子に触れる事ができないからな」

 

「ッ!!!…………………」

 

現実は非情だ。

なぜ、あの時、唯は男に襲われたのか。

唯だったら逃れられたのかもしれない。

俺はそこを救った。

正直俺の相手できる奴であった事が、唯にとっても救いだったのかもしれない。

唯の心には、唯を襲った男と、唯を助けた俺が強く残った。

だが、その時の記憶は、唯の中では曖昧になっているらしい。

唯は、男では俺しか話さなくなった。

唯の中で、触れても大丈夫な男と言う認識の人間は、俺しかいなくなったのだろう。

俺は見捨てられなかった。

そこからだ。

俺が唯を、下の名前で呼び始めたのは。

 

「唯は、大男に襲われかけた………。で、なんとか俺が助けれたんだが、どうやら精神的ダメージが大きかったらしい……。空手にも自信があったから、勝てると思ってたんだろうな…………。自信があったからこそ、勝てず敗北した事で、空手を辞めた。でも、改善しようとはしている。義文と太一には少しずつだが距離をつめるようにしてるし。俺はあいつを護る護衛係だ。解決はできれば、お前らで見つけてくんねえか?」

 

「待て、お前が助けたのか?」

 

稲葉は俺に、少し疑問を持って質問をした。

 

「…………唯の中では、一部の記憶が削除、改変されてる………。それくらい辛かったんだ……。察してやれ」

 

稲葉がそう質問してきたと言うことは、稲葉は唯から話を聞いたみたいだ。

やはり、稲葉はよく見ている。

見破ることが出来る人は極めて少ないと思っていたのだが……

 

「……………」

 

伊織は黙ったままだ。

また、考え込んでしまっているのだろう。

稲葉の時もそうだったように……

伊織の頭に手を乗せて、撫でる。

太一がムッとした顔をする所を俺は見逃さなかった。

 

「っと、唯を待たせてる。伊織、気負いすぎるなよ」

 

「あー……、うん、分かってる」

 

伊織は力なく微笑みながらそう言う。

バタンとドアを閉めて、駐輪場まで走ろうとする。

だが、その足をすぐに止めることになる。

階段で唯がへたり込んでいたのだ。

そろそろ秋に差し掛かる時期。

放課後のこの時間だと、少し涼しい。

 

「………………ちゃった……」

 

唯が呟いた言葉は小さい。

唯は階段の踊り場の端っこで座り込み、壁にもたれかかっている。

イヤホンを片方しかつけておらず、俺の声は聞こえるだろう。

そばに座って聞く。

 

「どした……」

 

「逃げ……………ちゃったな………」

 

「ああ……、そうだな……。でも、混乱している状況だ。話すのは整理してからで良い」

 

「どうしよ…………、私……、青木達に見せる顔がないよ………」

 

「大丈夫、こんなんでへこたれるあいつらじゃないから」

 

「でも……」

 

ヴー……ヴー……

俺の携帯が鳴る。

メールだ。

送信元は青木だ。

内容を見て、俺は思わず吹き出した。

 

「な、なんで笑ってるのよ!真剣な話してるんだから!」

 

「ふっ……くく………、いや、お前ら似た者同士だな〜、と思って」

 

俺がメールを唯に見せる。

文面にはこう書かれている。

 

『唯に顔向けできない。唯の症状に気がつかないまま、近づいて距離を無理やり縮めようとしていた自分は傷に塩を塗っている感じだったんじゃないかとおもってさ……。どうすれば良い?どうすれば………、唯のためになる?どうすれば、唯を助けられる?後で電話くれ』

 

「………っ」

 

「っつーかさ、“青木”達って言ってる時点で、真っ先に青木が浮かんでるじゃねぇか。“みんな”とか“稲葉達”、伊織、太一、エトセトラ………、色々言い方はあっただろうに、“無意識に青木と言っている”時点で気があるようなもんだし。まあ、真っ先に青木が浮かんできてくれて、俺は嬉しいよ」

 

唯は頰を朱に染める。

実は、唯は青木の事を結構気になっている。

多分、自覚はしていない。

だが、俺の指摘で今は動揺しているようだ。

 

「じゃ、帰るか」

 

「う………うん……………」

 

未だに自分の考えがそうなっていた事を疑問に思う唯を引きずり、自転車に乗せて、俺の家に寄り、最終的にバイクで送り届ける。

桐山家の前。

 

「おい、唯、ついたぞ。降りろ」

 

「え?あ………うん」

 

と、降りる唯。

唯は未だに半覚醒状態。

まだ義文のことを考え続けているのか。

どれだけぞっこんなのだろう。

うーん。

少しムカついてきた。

唯と義文が付き合ってくれれば、俺の苦難は減る。

楽ができる。

だが、俺に頼ってくれる唯は、ものすごく可愛い。

……………。

辺りを見回すが誰もいないな。

そして俺は思いっきり

 

「そ〜っれ!!!」

 

 

 

 

 

スカートをめくった

 

 

 

ふわりと舞うスカートの裾。

股下がいつも以上に開放的になったことに気がついた唯は下を向く。

 

「……………?……………っ!!!」//////

 

いまだに考え事をしていたのだろう。

ぼんやりとした半目が大きく見開かれ、顔面蒼白になったすぐ後に頰から首、おでこに至るまでが赤くなった。

 

「な、なな、何してんのあんた!?」

 

「幼馴染同士の少し過激なスキンシップじゃね?」

 

「少しじゃないわよ!!」

 

「そうかね」

 

「そうよ!!!………………………でも」

 

唯は握った拳をブンブン振りつつ、怒った。

だが、最後の「でも」は、振り絞るような声。

 

「あんたは基本、そう言うことは私相手でもしないでしょ………?私の事思ってのことなんでしょ?」

 

そう言う唯は申し訳なさげな声でそう言う。

少しの嫉妬をぶつけたら予想の斜め左下の反応をされたでござる。

だから、

 

 

 

もう一回スカートめくりする!

2回目のスカートめくりを成功させようと体を動かしかけた時だ。

また、悪寒が走る。

またか?

いや、唯はいつもの感じだ。

左右を確認する。

左側を見ても、誰もいない。

右を見た、その瞬間、なぜかフラッシュバックが起きた。

小学五年、放課後のいつもの帰り道。

現象を気にしつつの下校。

親友とは家が斜向かいというのもあって、家までほとんど一緒だ。

 

『なあ、この後ゲームしようぜ!』

 

ポンと、手を右肩に置かれた瞬間だった。

振り向いて見た親友の顔が、歪む。

鬼……?いや、悪魔のような顔がをした何か。

それが俺の肩に手を置いている。

俺はすぐに腕を振り払い、逃げようとする。

俺は自分の家に向かおうと走ろうとした瞬間だった。

その日は、年に一度、その街で行われる祭りが開催されていた。

全ての大人が子供が、人間が俺を殺すように言ってくる。

 

「落ち着け!!」

 

親友を服を着た何かが俺の両腕を掴んだ。

恐怖で俺はついに手を出してしまう。

両腕を掴まれていても、肘から先は動く。

まだ力が弱い時期、俺はそれなのに力を消費なく伝える術を得ていた。

胸部を手のひらで押し距離を置く。

 

「ガッ!?ケホッ…おち………つけ……」

 

「黙れ」

 

俺は地面を蹴って瞬間的によろめく親友に接近。

そのまま、まだそんなに大きくない自分の手でそいつの顔面を掴み、後頭部を地面に打ち付ける。

 

「ギャッ!……………ぁっ…………ぁっ……」

 

あまりの痛みに息が吸えないでいるらしい。

喉の奥に舌、舌根が落ちてしまって息が出来ないのだろう。

目には涙が溜まり、目は恐怖が出ている。

地面に叩きつけているのは敵、掴んでいるのは敵の顔という意識が再び俺を襲う。

 

「う………あ……あ?」

 

ダメだ。

そう分かっているのに、排除しなければ生き残れないと思ってしまう。

殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな殺すな!!!!!!

そう分かっているのに

 

恐怖で力が入る。

 

「びええええええええ!!!!???!?」

 

とうとう手の中の何かが泣き始める。

声は全て、絶叫に聞こえる。

死ね、消えろ、などの暴言に聞こえる。

 

「お前を殺す…………」

 

そこから俺は馬乗りになって、顔を殴った。

そして、現象が収まった頃には、人だかりができていた。

目の前には赤い何か。

目を背ける。

だが、気になったものが、俺の股下にある。

人の体

さっきまで一緒にいた、俺の親友の服を着た体。

ああ、とうとうやってしまったのだ。

 

「何をやっているんだ!?」

 

「ひ、人殺しぃぃいいい!?」

 

「おい!大丈夫か!?」

 

「早く救急車を呼んでくれ!!子供が!」

 

「なんで、そんな目で、こ、こっちを見ているんだ……?」

 

俺を親友から引き離し、心肺蘇生をしようとするも、顎の骨を粉砕したので口がどこか分からなくなっているらしい。

俺を恐怖の目で見る大人たち。

すると、他の三人がやってくる。

俺と親友以外の三人は女子だった。

はっきりと覚えている。

血に濡れた俺の顔と体。

親友の服を着た死体。

 

「………人殺し……」

 

大人しい目の女子、小鳥遊聖奈(タカナシ セイナ)がそう言った。

冷たい目で俺を見下ろし、そう言った彼女はいつの間にか消えて言った。

俺は、自分がした事を、再認識する。

涙が出る。

そして俺は…………

 

「リョウ!どうしたの?」

 

現実に戻ったら唯が、俺の頰をみょーんと引っ張っていた。

すぐに離してもらう。

 

「……………おう………。大丈夫だから、顔が近い、顔が近いからな!?」

 

「………いいよ?」

 

「何がだ!?何がだ『いいよ』だ!お前はなんで俺をそう惑わす!?」

 

真面目に頰を赤くするな!

乙女になるな!

お前さん義文のこと思ってたんじゃねえのかよ!?

 

「…じゃあ………さっきまでなんのことについて考えてたんだよ」

 

「青木のこと…………だよ?」

 

おお、これは予想通り。

だが、この後、唯の口から出てくる言葉は少し意外なものだった。

 

「だって、今まで猛烈にアタックしてくれたんだよ?正直、嬉しかったよ。人に好かれるって、好いてもらえるって、良いことだなって………。でも、やっぱり青木って良いなって。私を大切に思ってくれるし……」

 

「そうか………」

 

こいつもいろいろ考えてたのか……。

唯は顔を赤く染め、モジモジしている。

あー、動画撮りてえ……。

それを義文に送って、悶えさせてえ……。

 

「じゃあ、男が襲って来た時の対処を教えようか」

 

そっと耳打ちする。

すると、へぇ、と納得したような感じだ。

 

「それって痛いの?」

 

「え?ああ、今度入れ替わったら体験してみるか?イッテェぞ?主に下腹部に圧迫感が」

 

「いい!それはいいから!」

 

思った以上に、全力で拒否された。

 




どうも、亀配信ココロコネクト最新投稿です。
と言うことで………、ダメだな、涙が………。
はい。
一人暮らしが決まってしまった(泣)
と、話をするのは別にいいのですが………。
とりあえず解説に参りましょう。
一番最初の、入れ替わりですが、前回最後の二人の、会話の前に行われたものなので、まだリョウトが現象に参加している状態でした。
はい、そして、リョウトくんが小学五年生の時に巻き込まれた瞬間周敵現象です。
これはココロコネクト最終巻、ユメランダムで出ていましたね。
と言うか……、唯スパッツ履きなよ………。
これからも頑張ります。
コメントなどもお待ちしております。
と言うよりアイデアくれえええ!
では、おやすみなさい


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取り戻す 変える 壊す

あの後、すぐに別れバイクに乗って俺は自宅に帰って来た。

そして、ガレージにバイクを置いて、自宅に入ろうと、鍵をポケットから出し、ドアに挿そうとした時だ。

 

「……………梶田さん?」

 

「………来ると思ってた……」

 

フウセンカズラだ。

あいも変わらずいきなり現れる。

 

「先ほどのは………、二番目が勝手にしたことです………。もう手出しはさせませんから……」

 

「はいはい………、で、それだけ言うために来たわけじゃないんだろ?」

 

「ええ……、まあ………」

 

いちいち、歯切れの悪い言い方のフウセンカズラ。

いつも通りだからか、俺だけ個人でフウセンカズラに付きまとわれすぎなのか。

嫌な汗が背を伝う。

前とは違う。

いや、いつもとは違うと言うべきか。

少し張り詰めた空気が流れる。

それが分かるほど、接していたのか。

そして、フウセンカズラの言葉を聞いて、その予感が的中して欲しくなかったと思った。

 

「この現象で…………、“………………………”かもしれません」

 

「…………………」

 

なんで…………、そうなる?

なんで……。

 

「なんでそうなるんだよ!!」

 

「おっと…………、誰とは言ってません」

 

「だとしても……、確定しているのか?かもしれない、って言ってたし可能性としては……」

 

「ええと…………、あくまで可能性の話です……。ですが“僕の介入ではないことは確定しています”」

 

「すまん………、そうか………」

 

一度冷静になろうと、少し黙る。

自分としても、混乱していることが分かる。

なんで、あいつらが………、そうなるんだよ?

 

「っつーか、いいか?」

 

「なんでしょう?」

 

「介入するのは、二番目か?それとも、三番目となる別の何かか?」

 

そう言うと、フウセンカズラは目を見開いた。

そして、フウセンカズラは膝を折り、両ひじを抱えるように苦しみだした!?

 

「お、おい!?どうした!?」

 

「大丈夫…………です…………、ふっ………く………、出て行って…………、ください………」

 

なんだ?

何が起きて……

 

「はあ…………はあ………はぁ〜………」

 

「どうしたんだ?フウセンカズラ………、出て行けってことは……」

 

「三番目です……、思ったより早かったですね……」

 

俺が原因かと聞いたら、首を振るフウセンカズラ。

 

「いえ……、三番目は……………簡単に言うなれば………監察官です……。おそらく……、この人に入っている時間が長いと言う忠告だと……」

 

「………そうか……」

 

なるほど………。

おそらく、フウセンカズラのなかでも、ルールがあるのだろう。

 

「先ほどのことですが………」

 

「ああ………、精神的に追い詰められてってこともあるから可能性があるからな………、了解した」

 

「ええ………では……………」

 

フウセンカズラは、すぐに居なくなった。

おそらく学校だろう。

まだ五時だと言うこともあり、夕日が暮れそうになっている。

そうか…………。

正直、予想はしていた。

今考えると、自分がそうなるかもしれないし、複数人そうなる可能性だってある。

もちろん、そんなことが起きないということが一番いいと思うのだが……。

 

 

 

次の日、普通に登校している俺は、胸の内ポケットに入れている携帯が震えたのが分かった。

メールだ…………、差出人は………、稲葉んか。

 

『自転車回してくれ』

 

えぇ………。

俺の家から、稲葉の家までは結構遠いのだが。

いいけどさ……。

了解、と送信し、進路を学校から稲葉の家に変更した。

そして家に着いたのだが、稲葉んが出てこない。

インターホンを押しても音が反響するばかり。

おかしいと思い、俺はドア前まで行ってみる。

捻るのぶ式ではなく、押し引きによるプッシュプルハンドルという種類のドアだ。

掴んでそれを引くと、開いた。

それは鍵がかかっていた訳ではなく、ごく自然に、キィと金属の蝶番がこすれる音がして簡単に開いたのだ。

その先に居たのは………、倒れた稲葉だった。

俺は焦らず行動する。

うつ伏せに倒れている稲葉を抱え上げ、仰向けに寝かせる。

顔色はかなり悪い。

息は一応できている、と言っても、かなり苦しそうだ。

第1ボタンは外しておこう。

 

「あ………、りょ…う……と……」

 

「喋んな、それと今日は休め、こんな状態じゃ、保健室で寝てるだけになっちまう」

 

「うん……すまん………」

 

「家族は?」

 

「親は出張と、朝早くから仕事………、兄貴は友達ん家……、運が悪い………」

 

全くである。

稲葉の靴を脱がし、俺も靴を脱いで、稲葉をお姫様抱っこして持ち上げる。

稲葉も抵抗せず、首に腕を回している。

そんなにしんどいのか……。

階段を上がりつつ、聞く。

 

「こうなった原因は?」

 

「ストレス……、最近寝るのが遅い……、文研新聞の構想………」

 

「文研新聞は俺がしとくから、データは後で送っといてくれ……。睡眠薬もいるか?」

 

「くれ……」

 

はいはい……。

稲葉の部屋に来た。

ドアを膝で開けて、入る。

とりあえずソファに寝かせるか。

すると、稲葉の力が少し強まった。

 

「ベッドに移動するの面倒」

 

「………」

 

あれ?

稲葉んデレ期かな?

無言でベッドまで向かって、寝かせる。

 

「ご苦労……、っつーかサンキュな」

 

「ああ………、で、お前さんの家の鍵貸せ、帰りにまた寄るから」

 

「お前…………、合鍵作る気じゃ……」

 

「な訳あるかよ……、少しはマシになってるみたいだな」

 

軽口言えるくらいには回復したかな。

気持ち、稲葉の顔色も少し良くなった気がした。

稲葉のタンスから部屋着を稲葉の指示通り取り出し、渡した。

 

「じゃあ、俺行くわ。連絡はいつでも受け付けるから」

 

「あ、龍斗………、時間……やばいかも……」

 

そう言われ、稲葉の部屋にあるモノクロの時計を見る。

短針は8と9の間、長針は5と6の間だ。

………………皆勤賞逃した。

いやまあ、この前の三人入れ替わりで逃して居たか。

 

「…………担任にメール送信しとくか……、ごっさんにも……。あ、おかゆ作ろうか?」

 

「…………オネガイシマス………」

 

ということでキッチンでパパッとおかゆを作って、稲葉に食わせた。

俺が作っている間に、稲葉が着替えていたのだが、持って行ったらちょうど上半身ブラだけだったが、恥ずかしがる訳でもなかったので無反応貫いたら、さすがに恥ずかしい、と後で言われました。

稲葉んやっぱ女の子だったんだと正直に思ってしまった俺である。

で、登校したのは2時間目だった。

ごっさんの数学の時間だったので、適当に答えを全て暗算で答えて、寝た。

そして放課後、稲葉の家に来た。

どうやら唯の男性恐怖症解消に太一が頑張ったらしく、唯が自分から太一に挨拶しに行って背中バシバシ叩いてた。

そんな変化なども交えつつ、稲葉には今日のことを伝え、ごっさんにもらったプリントを渡そうと思いつつ、インターホンを押す。

入れと稲葉に言われ、ドアから入る。

他に人いないのか?

 

「親は帰って来てないし、兄貴もいねえよ」

 

「そんなに俺、キョロキョロしてたか?」

 

「まあな」

 

クックッと笑う稲葉。

おいおい、と言って鍵を返す。

 

「合鍵は……」

 

「作ってねえよ………、まだそのネタひっぱるのか?」

 

「ナイスツッコミ」

 

「………体調は大分戻って来たか」

 

「おう、今朝は悪かったな」

 

全くだ、という言葉を喉で止めつつ、稲葉の様子を伺う。

血色は良く、表情は少し疲れているが今朝ほどではない。

 

「大丈夫そうだな」

 

「まあな………、ストレスか………。まあ、来るとは思っていたが……」

 

「倒れるまでとは……、相当だな。いっそのこと、あいつらに話してみるか?」

 

「いや、無理………、絶対無理」

 

「…………強要はしねえよ。だが、また倒れるぞ」

 

全力で否定されたので、そう言っておいた。

うっと詰まる稲葉。

…………。

 

「じゃあ、俺帰るわ」

 

「あ、うん………、ありがとな」

 

「明日はちゃんと来れるように、今日は休め」

 

「なあ、後で電話してもいいか?」

 

「…………おう」

 

家に帰って寝る前に電話がかかってきた。

義文と唯のカップリングについて話していたら稲葉が寝たので、電話を切って寝る。

あ、そうだ……、と思い、パソコンを開いて文研新聞の記事を書ききる。

 

「よって、こういった睡眠効果があるので、是非とも睡眠不足に悩まされている人はこの商品、または似通ったものを購入し、適切な使用方法で使用してほしい………っと」

 

もちろん睡眠導入グッズの紹介だ。

今回は抱き枕などの睡眠導入グッズなどの紹介、それに寝る前にすればいいストレッチなどだ。

書き終わって、ホーム画面に戻すと、メールが来ていた。

平田先生からだ。

 

『やっほー、リョウくん。あのさ、最近、私に言い寄って来ていたストーカーなんだけど、いきなり来なくなったし、あのこと相談したのリョウくんだけだったから、気になってたんだけど、何かした?』

 

というより、担任とこういった連絡を取り合っているのは……、まあ、俺だから例外、というより平田先生が例外といった方がいいか。

ああ、そういえばそんなこともあったな、と思い出す。

一ヶ月くらい前だったか、そんなこともあった気がする。

あの時は……、あ、そうだ。

あのストーカー、平田先生のブレスレッドどこで買ったのか聞くに聞けなくておどおどしていたただのサラリーマンだったんだっけか。

 

『アレはストーカーではなかったようですよ……。平田先生のブレスレッドはどこで売ってるのか聞きたがってただけでして……。俺が紹介した店だったので、その人もその店行ったらしいです。なんでも彼女にプレゼントしたかったらしくてですね。見事結婚したらしいです。先生もファイト』

 

そう書いて送った。

そういえば稲葉から新聞の原稿送られて来ていないな……。

まあいいか。

そんなもんは、後日でいい。

稲葉と俺が頑張ればなんとかなるさ。

眠気が俺を襲った。

パソコンの電源を落として、ベッドに入る。

布団を自分の腹にかけて、後頭部を枕に埋めた。

電気をリモコンで消して、目を閉じる。

呼吸をだんだんとゆっくりにしていく。

すると眠気が一瞬で俺の意識をかき消した。

 

 

 

 

 

 

夢だ……。

それは純粋に、夢の中の空想。

ふわふわとした感覚が俺を夢と自覚させる。

そこに俺は立って居た。

自分が立つ部分以外、赤い…………紅い水………。

そして紅い水には、剣が多く刺さっている。

長い物、短いもの、大きいもの、小さいもの。

太いもの、細いもの、壊れているもの、新しくできたもの。

そして足元は、どうやら防具、鎧などで足場ができている。

まさに地獄、そう表現すべき場所に俺は立っている。

俺の手や体は赤く濡れている。

ああ、なんだ。

 

「ああ、そうか、殺したんだったな」

 

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

起きた。

上半身を起こし、荒い息を整えるように深呼吸をする。

未だ鼓動が早く、考えをまとめるのには適していない。

 

「………頭ガンガンする………」

 

そう言いつつ、窓を見るがまだ真っ暗だ。

時計は午前3時をカチコチと音を立てながら示していた。

 

「…………………」

 

紅い水………。

おそらく……、いや、間違いなく……血だ……。

そして、俺の姿は、恐らく制服のワイシャツ姿。

血で汚れ、白色など、全くなく、赤黒く汚れていた。

……………これから殺すという正夢なのか?

それとも、そういう未来もあるという選択肢の一つということなのだろうか?

嫌な夢。

後悔と無力さと、…………………………安心があった。

寒気が一瞬、体を縮ませた。

身震いをするほど、結構強烈な寒気。

安心…………、あの状態での安心とは……?

だが、その疑問は、一瞬で解決される。

溜め込んでいたものを吐き出した事。

風船を膨らまして、爆発させる時と同じだ。

一度爆発してしまえば、次まで時間があるという安心感。

それが、俺の中にあったのだ………。

 

 

 

 

 

 

その日、俺は昼休みにぶっ倒れた。




どうも、遅くなってすいません。
もう、うん、主人公どんだけブラックに落とし込めばいいのだろう?
いやー、原作の重苦しいのを感じさせないところを思いっきり書いてしまっている。
ってか唯のローブロー最強説を書かなかったのはまずかったかな?
というより、他の男子二人のセリフが少なすぎてんああああああああ!!!!!
いつもより少ないですが、今回はここまで。
ではでは、おやすみなさい。


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高速入れ替わり、そして告白

…………………。

唐突に目が覚めた。

目の前は天井。

つまり上を向いて寝ていたということだ。

仰向け…………?

 

「あっ!起きた!」

 

いや、起きるよ……。

左を見ると伊織が、右を見ると義文がいた。

少し珍しい組み合わせの2人だ。

 

「………今何時だ?」

 

「五時だよ………、リョウ……、どうしたんだ?」

 

「倒れたって聞いて、授業中も頭の中は龍斗の事でいっぱいだったよ!!」

 

「伊織ちゃん、少し静かにしないと………」

 

「わわ……、ごめん………」

 

保健室だな。

俺が寝ていたのはベッドで、その周りにカーテンがかかっている。

上半身を起こして状況を思い出す。

寝不足。

そうだ、ずっと眠かったが、色々考えて、授業中珍しく起きていた。

そのせいで、倒れてしまった…………のか?

あんな夢、初めて見た。

そして、俺はこいつらを殺すことができる術を持っている。

それ故の恐怖。

悪寒が体を襲い、腕を抱える。

 

「体調まだ悪い?」

 

「伊織ちゃん、リョウの事頼んだ。俺はみんなに知らせてくる。あ、それとも、もうこのまま帰るか?」

 

いつも以上に気を使われ、少し悪い気になる。

 

「あぁ………、帰るわ………。さすがに倒れないから、付き添いはいらんぞ」

 

「おいおい、リョウ。それは気遣いじゃないかもだけど、心配なのは変わりないからな?もしもが起こってからだと」

 

その瞬間、義文が固まった。

すると、すぐに話し出した。

 

「あ、起きたのか。名木沢」

 

「おお!太一!青木が行こうとしてたからナイスタイミング!」

 

俺を名木沢と呼ぶのは太一しかいないから、誰が義文に入ったのか簡単に分かったな。

いいタイミングだった。

だが、

 

「正直、携帯でメールすればよかったんじゃね?」

 

「あ……」

 

「はは……」

 

その手があったか、と納得してしまう伊織。

苦笑いする太一(義文)。

そして少し呆れる俺。

俺は未だに頭がぼんやりしていたため、帰ることにした。

2人と別れ、ひとりで自転車に乗って坂を下る。

俺は家に直行しようと思ったのだが、少しだけだが、公園に寄り道した。

ベンチでぼーっとする。

何もしない時間が流れる。

そういえば、こう言った何も考えずぼーっとする時間は、最近なかったかも。

植物の匂いが鼻をくすぐる。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

声をかけられた。

柔らかい、女の子の声。

少し前に聞いたな……。

 

「リョウ………くんって、呼んでもいいです?」

 

「おお、ヒロちゃん……」

 

通称子犬がなぜか俺に話しかけていた。

少し駅から離れているが、なぜここにいるのだろう。

ちなみにヒロちゃんは隣のクラスだが、俺のクラスでも人気である。

 

「ああ……、呼び方はいいけど……。隣座るか?」

 

「あ、どうもなのです」

 

目の端でポニーテールが揺れて、俺の隣に座るヒロちゃん。

 

「なんでここに?」

 

「この近くに家があるので……、見えたので、この間あまり話せなかったのもありますし……、少しお話ししたいなって…」

 

「へ〜、この近くに住んでるんだ……」

 

ふむ、情報が少し増える。

この子とはあまり接点がなかったから、この子の情報が少し入って来てはいたが、ほとんど無いに等しかった。

 

「あの……、悩み事でもあるのですか?相談、乗りますよ?」

 

唐突だ。

だが、今の俺にとって確実に的を得ている問いかけだった。

顔が少し歪む。

だが、なぜそこまで分かったのか質問を返す。

 

「………………なんでそう思った?」

 

「疲れた顔をされています。それに………、恐怖に取り憑かれたような感じが……」

 

この子の観察眼には感服する。

何も知らない、無垢な瞳とも言うべきか。

その瞳には俺らには見えないものまで見えているのかもしれない。

 

「まったく、その通りだ。疲れているし、恐怖に悩んでる。まあ、でも、少し安心してる部分あるから大丈夫だ」

 

「?それは?」

 

俺は握っていたモノを見せる。

小さいクマのキーホルダー。

黒と青のクマだ。

 

「お守りだ。俺の“大切な人”からもらったものだがな」

 

「でもそれでは、恐怖は消えませんよ?」

 

「ああ、そうだな。だが、乗り越えることくらいできるさ」

 

「そうですか………、その顔ができるなら問題なさそうです!」

 

そう言ってベンチから立ち上がるヒロちゃん。

 

「では、私はこれから家でご飯を食べる任務があるので帰ります。では」

 

「ああ、気を使わせて悪かったな」

 

「こう言う場合はお礼を言うものですよ〜?」

 

「お、おう、ありがとう……」

 

「どういたしましてなのです」

 

なんか、少し厚かましかったな。

まあ、少し前を向けたことは確かだ。

ヒロちゃんが公園から出て、すぐの家に入って行った。

近くね?

 

 

 

 

次の日の放課後。

部活終わりに、寄るところがあって遅くなった。

家に帰って来た。

すると、私服の伊織が俺の部屋にいた。

薄紫色と白の縞模様に薄ピンクのハートがあしらわれたシャツに、白のショートパンツ姿の伊織が俺の部屋(リビング)でソファにねっ転びながらお菓子を食べつつテレビを見ていたのだ。

いや、何故だ。

 

「それはお姉さんに通してもらったからさ!!」ぽりぽり

 

いや、俺が買ってきたお菓子食うなよ。

 

「いーじゃんいーじゃん」

 

「で、なんで俺の部屋にいる?」

 

「ズバリ、今日はお母さんがいないからだ!」

 

そう言ってトッポを俺に向けてキメ顔をする伊織。

少しムカつく。

 

「てか肝心の兄さんと姉ちゃんいねえんだが?」

 

「あ、それなんだけど、外で遊んでくるから龍斗を任せたって」

 

「そうかよ……」

 

まあつまり、伊織は俺の飯を奪いにきたわけだな。

 

「奪いにきたわけじゃないよ!強奪しにきたんだよ!」

 

「同じってかより悪くなってるからな!?と言うよりナチュラルに心を読むな!?」

 

時計を見ると午後七時。

夕食時か……。

俺は料理部屋へ移動して、冷蔵庫を見る。

キャベツ二分の一、人参、玉ねぎ、豚肉、もやし………。

 

「野菜炒めと肉炒めだな」

 

せっせと野菜を切って行く。

人参と玉ねぎを炒め、そしてキャベツを切って、洗ったもやしと一緒に入れ、炒める。

火を止め、野菜を皿に出し、そのフライパンで肉を炒める。

そして、肉をある程度焼いたら、焼肉のたれをかけて煮込む。

そしてそれを野菜炒めの上に乗せ、完成。

すると、いい匂いに誘われてきたのか、伊織が歩いてきた。

 

「おい、龍斗」

 

あれ?

口調がきつい。

それにリョウト、のイントネーションが少し違う。

 

「稲葉か?」

 

「そうだ」

 

「で、どうした。今なら珍しくも無いだろうに」

 

「いや、気になっていたことがあるんだ」

 

ふむ?

俺は廊下を、野菜と肉を盛った皿を持って歩く。

その後ろから、確かな質問が俺に降りかかる。

 

「お前、最近誰かと入れ替わったか?」

 

そうだ。

俺は足を止めた。

少し部屋に入ってテーブルに皿を置いて、振り返る。

記憶を遡り、前回の入れ替わりを思い出そうとする。

ダメだ、“思い出せない”?

 

「おい、質問に答えろ………。お前は何故、入れ替わりが起きていない?」

 

「……………分からない……」

 

「なあ、お前、もしかしてフウセンカズラと組んでるんじゃねぇだろうな?」

 

なぜ、そんな事を聞いてくる。

俺は、絶対にそんなことはしない。

 

「ずっと考えてたんだ。最近私たちは太一や伊織や唯や青木になっている。だが、龍斗、お前にはなってないんだよ」

 

「だから…………なんだよ?」

 

「だからある仮説を立てた。お前は最初、立て続けに唯、青木との入れ替わり、そして太一、伊織の入れ替わりに加わった。だが、それ以降、4回ほどしか入れ替わりに参加していない。そして一昨日から今日までみんなが誰と入れ替わったか聞いた結果、お前と入れ替わった人はいないんだよ……」

 

俺は自分を敵視していることに対しての絶望感などの気持ちよりも先に、俺は納得してしまった。

そして安堵感が俺を襲う。

………。

稲葉相手だ。

俺は不敵に笑った。

 

「だったらなんだよ?」

 

「っ!」

 

「裏切ったんだったらなんなんだって聞いてるんだ」

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「……………くふっ……」

 

「……………ふっ」

 

「くっ……くく……」

 

どことなく2人で笑い出した。

俺はある点をごまかしていた。

それはしたともしていないとも言っていない点だ。

 

「龍斗は裏切ったりしねえよな?」

 

「ああ、もちろんだ。当たり前だ。俺が部活でくつろげてるのは、お前らがいるからだからな」

 

「おいおい、そのためだけかよ」

 

そうだと俺が返事すると、また稲葉はくっくっと笑い出す。

正直、居心地がいい。

まあ、太一のプロレスや、青木の唯好きや、伊織のテンションは少し疲れる。

稲葉と唯に関しては疲れる要素はないかな。

 

「でも、何でだろうな?」

 

「さあな。俺にも分からん。確かに言われて気がついたが、俺………、そういえば入れ替わり起こってないな……」

 

そう呟いたと同時に稲葉が息を飲んだ。

いや、誰かと入れ替わったのか?

 

「お、リョウ。ってこれは伊織ちゃんの体か〜」

 

「義文か」

 

「おう!ってかさ、今晩飯食おうといただきますって言ったところだったんだが……」

 

「食うか?」

 

俺は義文(伊織)に向かってそう言った。

俺が指差した先の物を見て一瞬、義文が固まった。

 

「んー、これ伊織ちゃんのだよね?」

 

「そうだぞ?」

 

義文が改めて聞いてくる。

そうだと言っているだろうに。

 

「多くね?」

 

「あいつは食うぞ。これくらい」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

ご飯、どんぶり一杯、おかず、大皿山盛りキャベツもやし炒めと肉。

焼肉のたれがその横に、味付けが物足りない時はそれを使えとごとく鎮座している。

 

「いやいやいや!どんだけ伊織ちゃんの食べる量多いんだよ!?フードファイターなの!?お腹周りのお肉なんて……」

 

「伊織の肉は胸に行く」

 

「うん………、下を見せないがごとくそびえ立っている二つの巨峰が、お腹を見るのを邪魔してきたわ……」

 

……………。

なんだこのど下ネタ。

 

「で、どうする?食うか?」

 

「いや……、その前に胸焼けが……」

 

と、また伊織が息を飲む。

いや、何回入れ替わるんだよ伊織……。

 

「ん?……………なんかお腹が変な感じ……」

 

「伊織か唯か、はたまたもう一回稲葉なのか答えてくれないか?」

 

「へ?あ、リョウ?」

 

「おーけー、唯だな。とりあえず伊織どんだけ入れ替わるんだよ!」

 

「な、何に対してのツッコミかは分からないけどとりあえず落ち着こ?」

 

「ん、落ち着いた」

 

「早!!」

 

ん?

こんなもんだろ?

え?違うの?

 

「で、そこの大量の野菜炒めとお肉は何?」

 

「伊織と俺の飯」

 

「…………なんでこんなに大量なの?」

 

「俺と伊織だとかなり食うから」

 

「そう…………、多いわよ!?」

 

「残れば明日の昼食になる」

 

「………………考え方がもはや主婦ね……」

 

「おう………、そう言えば、恐怖症はどうだ?」

 

「んー?………うん。治すって一応決めたから………、それに無理じゃないって、太一が証明してくれたし!」

 

…………なるほど。太一が何かしたのか。

 

「そうか………、頑張れ!」

 

「うん!」

 

っていつ戻るんだろうと思っていると、唯(伊織)がまた息を飲んだ。

変わったのかな?

 

「………………戻ってきた……」

 

「大丈夫か?」

 

「うん…………、なんとか………」

 

「何かあったか?」

 

「疲れた…………」

 

「ご飯は?」

 

「いただきます!!!!」

 

「瞬間移動………だと!?」

 

今さっきまでめっちゃ疲れた顔をしてうなだれていた伊織は、俺の目の前から一瞬でいなくなり、テーブルに移動、箸を持って手を合わせていた。

俺も並んで食べる。

大皿に盛ったものを2人で食べるというシチュエーションは普通なら羨ましがるやつも多いだろうが、俺としてはまあ、これが何やかんや当たり前になりつつある。

 

「そう言えばさ」

 

「んー?」

 

「太一に告られた」

 

「ゴフッ!」

 

「って言ったらどうする?」

 

対面していた伊織にすごいカミングアウト的な何かを食らわされ、鼻に米粒が……。

ティッシュで鼻をかむ…………。

お、出た。

ため息をついて未だに食べ続ける伊織に怒鳴る。

 

「なんつー事言いやがる!?」

 

「ま、今の所、付き合うつもりはないって思ってるけどね〜」

 

「…………そうか………」

 

「理由は聞かないの?」モグモグ

 

「聞いたとしても、お前は自分の性格のことで断ったとかそういう理由だろうがよ」

 

「流石分かってるね!」

 

ビシッと箸で俺を示す伊織。

 

「行儀悪いぞ」

 

「んー?ああ、ごめんごめん」

 

すぐになおす伊織。

今日の伊織は………、少しだけ真面目だった。

伊織が帰った後、1人、ベッドにてうなだれている。

明日のぶんまで考えていた食料が尽きた。

バイクで買いに行こうにも、荷物入れをイマイチ確保できない。

リュック背負っていくか………?

いや、色々と引っかかるかもだし、危険だ。

 

 

入れ替わり。

真っ暗な部屋。

入れ替わった本人も、ベッドに寝転がっていたようだ。

金髪が目にかかっている。

義文だ。

起き上がり、自分の姿を見る。

制服のブレザーを脱いだだけ。

ワイシャツは第1ボタンのみ外され、ネクタイは緩められている。

部屋の外では家族が談笑しているようだ。

すると、義文の携帯が鳴る。

着信、俺からだ。

 

『もしもーし、間違いでなければリョウかな〜?』

 

「ああ、そうだ」

 

『正直ナイスタイミング。さっきの入れ替わりで話そうとしてすぐ戻っちまったからさ。電話しようと思ってたところだったんだよ〜』

 

「なんだ?今日の宿題わからなかったのか?」

 

『あー…………、そっちは大丈夫…………、多分………』

 

本命はそっちじゃないのか。

じゃあなんだ?

 

『明日、唯に告る』

 

「…………そうか」

 

『あれ?応援とかそういうのを期待してたんだけど………』

 

「お、おう。まだ無理って回答が返ってくるだろうが、まあ、精神を強く持て」

 

『断られるの前提!?』

 

「ああ、当たり前だ。唯はまだ男性恐怖症を克服していない。まあ、まだ俺とお前では好感度がかなり違うらしいから、俺を越えられるように頑張れよ」

 

『ぐぬぬ………反論できねぇ………、ってあれ?まだって付いてるってことは?』

 

「おっとここまでだ。もしかしたら“まだ”が付いてないかもしれないし」

 

『それは考えたくないです。やめてください』

 

「そう」

 

 

 

「か」

 

このタイミングで戻るか。

 

『おー、戻った戻った。で、宿題なんだが……』

 

「使う公式はノートに書いといた。それで解けなきゃ明日朝教える」

 

『感謝!!』

 

電話が切れる。

やっと、入れ替わりが始まった……。

いや、もう終わる……。

……………………?

なぜ、わかる?

…………………????

ピピピッ!

 

??

 

携帯にメールが届いた。

ゴッさん?

 

『あなたは例外です』

 

ぞわっ。

背筋がめちゃくちゃ寒くなった。

フウセンカズラ……。

そして続けてメールが届く。

 

『あなたはやはり危険分子である事に変わりはない………。ですが、やはり、それが面白い。このまま、続けてもらいます。ですが、あなたの思っている通り、もう直ぐ終わります。安心してください。まあ、生きてください』

 

生きてください。

この一言。

なんだ?

この、違和感のある最後の一言。

………………。

やめだやめだ。

考えたって無駄だってわかっている。

俺は直ぐに、部屋の電気を消して、ベッドに寝転び、目を閉じる。

睡魔はすぐにやってくる。

おやすみ……。

 

 

 

 

次の日の昼休み。

東校舎裏。

そこに2人の人影が。

 

『なんなのよホント………こんなところに呼び出して。クラス一緒だし、部活も一緒なんだから、いつでも話せるじゃない。お腹減ってるんだから早くして』

 

不満気……、だが、表情と声の質からいつものツンデレを発動しているのだと思う。

顔は少し赤く、落ち着きがなくそわそわしている桐山唯。

それに対面し、いつよりも真面目な顔をしているのは、青木義文だ。

 

『まあ、みんなの前、っつーのは少し恥ずいかなって……』

 

『な、何よ……?』

 

いつものような少し砕けた話し方なのに、真面目な顔だからか唯がたじろいでいる。

だが、逃げるような、そう言った気配はなく、だが、言ってもらうのはもう少し後にしてほしい、と言う願望もあるのか顔をそらしている。

青木は少し間を置いて、言った。

 

『今更って思われるかもしれないけれど、改めて言います。オレは桐山唯さんのことが好きです。もしよろしければ、オレの恋人になってください』

 

「……………」

 

それを見守る俺である。

ちなみにオレは森から見ているのではなく、校舎側の二階窓から見ている。

真正面からのどストレート告白。

女子としては、一回は体験しておきたい事ではないだろうか。

 

『う……えう……その……あうぅぅ……』

 

唯は可愛い(確信)。

青木のどストレートすぎる告白に真っ赤になる唯。

おお、嬉しそうに悶えてるけど下向いてるから気付かれてねぇ。

首まで赤くなっちって〜(おっさん)。

盛大に咳払いして表情を戻す唯。

頰は赤いまま、だが。

 

『青木、正直に言うわよ?』

 

『おう、どんと来い!』

 

胸を拳で叩いて了承した義文。

唯は大きく息を吸って答える。

 

『私を好きになってくれている事はすごく嬉しい。でも、“まだ”無理です。ごめんなさい』

 

『………うん。嬉しいって思ってくれてるだけでも分かって良かった』

 

『青木。一つ言っておくわ』

 

『どしたの唯?』

 

『私、青木の真っ直ぐなところ、嫌いじゃないわよ?』

 

『ちょ………、唯……それは反則……、可愛すぎる……』

 

唯が……デレた!?

待て、待て待て、落ち着け……。

唯よ、今までツンツンしていた、あの唯はどこへ行ったのだ。

どっかで落としたとかだったらやばいから。

うん、早く拾って吸収しなさい。

青木は悶えていたが、なんとか現実に戻ってきたようだ。

 

『ってか、なんで私なのよ?伊織の方が可愛くて、元気で、胸も大きいし。稲葉だって、大人びてて、背が高くて、頭良くて、胸大きくて……』

 

胸の事めっちゃ根に持っとるやん!?

 

『私より、断然あの2人の方が良いわよ……』

 

『唯は可愛いよ。運動神経良いし、その栗色の髪もケアしてるってわかるくらいサラサラだし。唯のご飯食べるところ、すっごく幸せそうで、俺は好きだけどな〜』

 

『〜〜〜〜〜!!!!!!』///////////////

 

バシバシバシバシ

唯が青木の胸に手を連打し始めた。

怒ってる怒ってる、と見せかけて照れ隠しだな。

 

『痛いよ!?』

 

『恥ずかしい事言うにゃああ!!』

 

『にゃ?』

 

『あっ』カァァァァ///////////////

 

噛んじまったのがすごく恥ずかしかったのか、はたまた色々と脳内の処理が限界だったのか、一気に赤くなってしまった唯。

 

『……………』

 

『ゆ、唯?大丈夫?』

 

『大……丈夫……………。うん……青木……、なんでこのタイミングで告ったの?』

 

おお、処理をなんとか終えて、ゆっくりとだが元の話題から路線を変更した。

 

『唯は、太一の事、それとリョウの事、どう思ってるんだ?』

 

「ぶふっ、ゴフッ」

 

思わずむせた。

まあ、そう来るとは思っていたが。

 

『嫉妬?』

 

『……そうですよ〜、嫉妬してますよ〜』

 

『ふーん?もちろん好きよ』

 

「……」

 

『友達として』

 

ホッとした。

唯ってば結構溜めるよね……。

 

『ちなみにオレは?』

 

『嫌いじゃないって言ったはずよ?』

 

『精進しなければ……、好きには程遠い……』

 

あ、唯がもぞもぞしだした。

青木は拳を握り、悔しそうだ。

すると、唯は青木の顔を覗き込みながらこう言った。

 

『少なくとも、太一よりは上よ。アホ木』

 

『え!?ちょ?!』

 

いたずら気に唯はそう言って背を向け校舎内に戻って行った。

青木はポカーンと行った感じで固まっている。

恐らく青木と俺の思考のシンクロ率は80%を超えていた。

 

「『唯の小悪魔感、マジパネェ………』」

 

 

 

 

あ、終わったみたいだな。

あいつらもう付き合えばいいのに。

俺は窓を閉めて、教室に戻る。

今のは微笑ましかったなぁ。

 

「おーい、リョウ〜。飯食おうぜ〜」

 

「おう」

 

義文が戻って来ていた。

俺の対面に座る義文は、いつも通りだ。

 

「で、どうだったよ」

 

「んー、まあまあ、手応えはあったかな」

 

「そうか……、ってメールだ」

 

俺の携帯が鳴った。

唯からのメールだった。

 

『青木から告られた。フッちゃったけど、めちゃくちゃ嬉しかったもう死んでも良い。だっていっつもヘラヘラしてる青木があんな真剣な顔で、好きって言ってくれたんだもの。思わずOKしかけたわ。でも、まだ少し怖いから』パタムッ

 

…………………………………。

俺は携帯を閉じる。

なんだ、このデレデレ唯。

 

「どした?」

 

「………なんでもない」ピンッ!

 

「痛い!」

 

近づいて携帯を見ようとしていた青木にデコピンして、飯を食う。

珈琲ほしい。

口の中が、これでもかというほど、激甘になった瞬間だった。




唯は可愛い。
はてさて、どうもこんばんわ。
龍牙です。
リョウトくんはお疲れ気味です。
いたわってください。
俺もいたわってください(なんでだよ)。
最近、ココロコネクトのアニメを見ているのですが、コメンタリーがすげえ面白いですね。
あー、二期を作ってくれないかなぁ(無理)。
水島さん、寺島さん、沢城さん、豊崎さん、金本さんの5人大好きです。
伊織の高速入れ替わりは四コマココロコネクトの稲葉の入れ替わりよりネタを引用。
そして、青木の告白。
いやー、あのシーン、すごく好きです。
小説版では言い淀んでいる唯が可愛かったです。
ほんと庵田先生の書くセリフに、萌えさせてもらっています。
あと、何故かリア友が俺の小説を読むようになった…………?
もっと広げてくだしあ(それでいいのかお前は)。
では、また次回。( ̄∀ ̄)ノシ


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その犠牲の先に

「どうも…………、お久しぶりです……。……あ……メールしましたね……、でも……会うのは少し空きましたし……久しぶりで……」

 

「…………フウセンカズラ」

 

覇気のない後藤龍善の声が俺以外いない教室に緊張感を走らせる。

掃除が終わり、俺が最後の片付けを終わらせると、教室に入ってきたのだ。

 

「終わるのか?」

 

「ああ………、はい………、そんな所です……」

 

歯切れの悪い言葉、独特の雰囲気を放つフウセンカズラ。

教室奥の掃除用具入れとスライドドアまではかなりの距離がある。

だが、引き込まれるように、覇気のないフウセンカズラが大きく、近く感じる。

終わる、と聞いたのは、もちろんだが現象のことだ。

肯定の言葉を口にしたが、少し嫌な予感がする。

 

「…………永瀬さん……、太一さんと…………何かあったみたいですよ?」

 

「……………」

 

「おや、反応なしですか」

 

「いや、真顔だったのか……俺」

 

心底驚いている。

反応ができなかっただけだ。

 

「………まあ、そんなことはどうでも良いです」

 

どうでも良いものなのか?

伊織がどうかしたって結構だぞ。

 

「…………私は、永瀬さんを………、殺すように見せます……」

 

「は?」

 

「ええと………もう一回言った方がいいですか……?」

 

「…………どうしてだ?」

 

「その方が面白「じゃなくて、俺に言った理由」……………貴方は、……代わりに死ぬふりを受けるかどうか、です。貴方の意見は推奨しないといけないものですからね」

 

…………?

なぜ俺を推奨するんだ。

いや、まあ、お前が面白がるのはわかる。

 

「でも、なんで俺が死ぬ役を演じねばならんのだ?と言うより俺を選んだ理由は?」

 

「………貴方は……自分の事をどれほど、面白いか分かっていない………。貴方は……太一さん以外に……かなり深く、踏み込んでいます………。皆さんへの……ダメージは……かなり大きいかと……」

 

「だからってなんでアポなんか……」

 

「いえ……、貴方は死ぬ可能性があるからですよ……」

 

死ぬ……、可能性?

どう言う事だ?

死ぬように見せる、という事では無かったのか?

 

「もし……永瀬さんだったら、致命傷になる前に病院に運ばれます………。ですが……、貴方の体は他の人より……、脆いんですよ……」

 

「脆い……?」

 

「ええ………、どうやら貴方の体は…………、かなり……、傷ついている……ようですね…」

 

どう言うことだ?

 

「………で……しますか……?しませんか………?」

 

伊織がするのか、俺がするのか。

俺がしなければ、伊織は怪我をするのだろう。

寝込むのだろう。

もしかしたら、死の覚悟を迫られるのだろう。

俺がすれば、伊織は助かる。

伊織は無事だ。

面倒臭いが、そんなの

 

「決まってるだろ?」

 

 

 

 

 

藤島の通学用自転車で俺、八重樫太一は街を走っていた。

永瀬を探しているが、見当たらない。

あっという間に街は夕焼け色に染まり始めている。

走って走って走って………、でも、見つからない。

1人の人間を見失い、この街から見つけ出すことはこんなに難しいことなのかと実感させられる。

大川にかかっている橋の上。

夕焼けに染まる街を風景に永瀬伊織はそこにいた。

橋の柵に身を寄せ、川を見ているのは永瀬伊織だった。

強めの風を避けるように顔を後ろに向け、腰を柵にあてがった時だ。

俺と目があった。

 

「た、太一っ………おわっ!」

 

「あっっぶない………!」

 

永瀬が後ろにつんのめり、ギリギリ腕を掴んだ。

危うい状態でなんとか橋側に戻ってきた。

 

「ほ、本気で焦った………。というか太一、なんでここに…………?」

 

永瀬は柵に寄りかからず、こちらを向いて立っている。

目元には確かに、涙の跡が確認できる。

ずきりと、胸に痛みが走る。

自転車をちゃんと止め直し、頭を下げる。

 

「気づいてやれなくて、本当に、すまなかった……。約束したのに。あれだけ大層な口を叩いていたのに……。こんな情けない……結果になって……」

 

永瀬は腰を柵に当てて、夕焼け色に染まる空を眺めた。

 

「人って………自分ってなんなんだろうね……。外見さえそのままなら、中身が入れ替わっても誰も気づかない。かと思えば……、誰かのふりをするだけで他人になれてしまう…………。太一が悪いわけじゃないよ!うん、全然悪くない!……こんな状況で言われたら、そう信じるしかない……、太一の反応は真っ当だったわけだ。だってずっとお互いがお互いの言っていることを信じるっていう信頼関係で、私たちは成り立ってたんだし……。あの……、本当にごめん。もう二度とあんなことはしないから……。本当に……ごめんなさい」

 

しゅんと、永瀬の姿勢が萎れ、謝罪、懺悔の言葉を口にした。

俺は、その姿を見て、背中を押された気がした。

 

「じゃあそれは……、永瀬が永瀬なりに考えて、進もうとした結果なんだろ?なら、ありがとう。だから、“次は俺の番だ”」

 

俺は今まで、それに気付かないでいた。

俺は今まで、それに見向きもせず生きてきた。

それは今さっき、核心に至った。

臆病なままでは、それを手に入れるに至らない。

進んでも、それが手に入らないかもしれない。

傷つくかもしれない。

でも………、それだけのリスクで、それは無限の可能性を秘めている。

 

「最近、いろんなことがあったけどさ……」

 

青木、桐山、名木沢、稲葉そして………永瀬………。

全ての事が自分の活動力になる。

 

「俺はそれで、たくさんのことを知ったし、学ぶ事ができた。それで、気づいたんだけどさ、俺って……………」

 

永瀬の瞳には、真剣な俺の顔が映っている。

 

「無表情な鈍感キャラっぽいんだ」

 

「……………知ってるよ?」

 

「あれっ」

 

衝撃の新事実だと思っていたのに…………。

 

「えっと……、まあ、簡単に言うと、永瀬に憧れているってことだ」

 

「憧れ………てる?こんな私に?」

 

「ああ、俺は永瀬みたいにいろんな表情で、笑ったり、怒ったり、喜んだり、悲しんだり、明るくなったり、暗くなったり、ふざけたり、真面目になったり……、まあ例をあげるときりがないからここで切るけど、やれたらいいなと、思ってるんだ」

 

そう、憧れてる。

色々な表情を次々と繰り出し、楽しく過ごしている、人生を楽しく生きている永瀬伊織に。

 

「で、でも……、それは私が演じて来たもの……であって……、憧れるようなものじゃない……。わた、私は……、ほんとの自分さえ見失った……、欠陥品なんだから」

 

「そんなことはない」

 

永瀬の時折見せる暗闇。

自分の中には、答えと呼べるかは分からないが、今の永瀬の欠陥品という言葉に関して、絶対的に否定できる物があったからだ。

 

「な、なんで、そんなきっぱり……」

 

永瀬は一瞬ぽかんとした後、そう尻すぼみに言いつつ、下を向く。

 

「ふざけたり、ボケたり、恥ずかしがったり、下ネタぶっ込んだり、無茶やったりやらせたり、ノリでなんでもやっちゃったり、実は策士だったり、勢いで暴走したり、その割に機微に敏感だったり、何も考えてなかったり、逆に深く考えすぎていたり、ポジティブだったりネガティヴだったり……………。どれが永瀬ってことじゃなく、“全てが永瀬だろう”?」

 

そう言い切った。

ふう、自分の言いたいことは全部言った。

 

「いや、待ってよ……。そんな人間いるわけ……」

 

「人に対して性格を変えるなんて誰でもやってるし、永瀬はそれが少し振り幅大きいだけだと思う」

 

そう言い切ると、永瀬と俺は思ったことを口にした。

 

「「…………ていうか途中からただの屁理屈だね(だな)」」

 

思わず2人で笑った。

ここ数年、ここまで全力で笑ったことは無いんじゃないかと、思うくらい。

だが、その笑いは、途中で途切れる事となる。

 

「あれ?龍斗?」

 

「え?」

 

橋で話していた俺らだったが、同じ文研部員である、名木沢龍斗が歩いてきたのだ。

だが、いつものどこか力の抜けた感じではない。

空気感は似ているが、どこか“生ぬるい”。

 

「どうも………、八重樫さん、永瀬さん」

 

「………フウセンカズラ……」

 

「……はい………、そうです……」

 

一気に壁を作るよう、俺は永瀬に寄る。

永瀬も威嚇するように、言う。

 

「な、何をしに来たの!?」

 

「ああ、少し………、まあ……、先に謝っておきます………、ごめんなさい……」

 

フウセンカズラはブレザーを脱いで永瀬に放る。

 

「ああ………、あなたたちが面白すぎるから……」

 

フウセンカズラは幅の狭い橋の手すりに登り、立つ。

 

「な……、に……を…………………?」

 

「ああ…………、だから……ごめんなさい……と………」

 

名木沢の体が、川の方に傾く。

だめだ、ダメだダメだダメだ!!!!!

 

「名木沢!!!!!」

 

俺は手を伸ばす。

指が名木沢の制服のズボンに届き、掴む。

だが………、すり抜け、名木沢は

 

 

ーーーーーーーー暗転ーーーーーーーーーーー

 

「おい、唯?青木?どうしたんだ!?」

 

見慣れた部室。

俺は桐山と入れ替わったようだ。

俺は桐山の姿で床にへたりこんでいる。

目線の先には、不安そうな稲葉と、絶望的な表情の青木が、いた。

 

 

 

ふと、目がさめる。

目の前には、太一、伊織、稲葉ん、唯がいた。

そしてここは、少し暗い廊下で、目の前のドアの上には手術中なるランプが赤く灯っている。

この身長からして、義文か……。

 

「ああ…………、事情は分かってるつもりだが………、溺死か?」

 

「まっだ死んでねえよ!!!」

 

べチンと稲葉んのツッコミが入る。

思いっきり頰を叩かれ、めっちゃ痛い。

稲葉達に説明された。

俺はあの橋でフウセンカズラに操られ、川に落ちたのだと。

太一と伊織がいたが、俺が落ちた瞬間、太一に義文が、伊織に唯が入れ替わったため急な判断ができなかったらしい。

まあ、救急車をすぐに呼んでくれたらしいから大丈夫だろうが。

気分は、なぜか少し好調だった。

 

「…………じゃあ、数分後には死ぬって事だ」

 

「なんで……、そんなあっさりしてるの?」

 

伊織が、震えた声で、そう聞いた。

俺は、少し考え、答える。

 

「別に、死ぬのが早いか遅いかだ。それに………、自分の“暴走”で“お前らが死ぬ”ことが無くなるんなら、俺は死ぬのは万々歳だ」

 

そう言った。

言ってしまった。

瞬間、稲葉んに叩かれた反対側の頰に、茶色の革靴がめり込む。

俺は吹っ飛ばされないよう腰を落とす事で、衝撃を回避した。

だが、これは痛い。

青木の体なのに容赦ないなぁ。

あ、青木の体だからか。

唯は俺に蹴りを放った後、吠えた

 

「ふざっけんじゃないわよ!」

 

唯は瞳に涙を溜め、怒鳴る。

 

「あんたが暴走することは、あたし達が傷つくときくらいでしょうが!!!」

 

「…………そう……だったか……」

 

俺は泣き崩れる唯を伊織に任せる。

 

「俺は、俺で死ぬ。だから、お前らと話させてくれないか?」

 

 

 

 

「なあ、なんで最初に俺なんだ?」

 

「いや、疲弊してたし……」

 

最初は義文だ。

太一の体を借りて話している。

一番最初に謝りたかったからだ。

 

「悪いな、お前の体で殴られたり蹴られたりして」

 

「ああ……、まあ、それはいいかな。そんなことより色々話そうぜ」

 

こういう時、義文の気前の良さにすごく助けられる。

相変わらず器のでかいやつだ。

 

「リョウ、頑張って、唯の中でお前を越えられるよう、頑張るよ」

 

そう言い切った

 

「あー、そういえば、お菓子どうなったんだ?」

 

「忘れてた!」

 

「おい!」

 

思わず笑う。

死ぬ間際だというのに。

 

「まあ、少なくとも、俺は伊織ちゃんと2人でムードメーカーするつもりだからさ。心配ご無用、ってな」

 

「……おう。元気でな」

 

「ああ……………ずっ………、じゃあな」

 

泣いている義文と抱きしめ合う。

これが最後だ……。

 

 

次は稲葉ん。

太一に体を借りたまま、話をすることにする。

 

「すまなかった」

 

稲葉んの開口一言が謝罪だった。

頭を下げ、そしてその一言。

 

「いや……、お前のせいじゃないし……」

 

「私がもう少し連絡を取っていれば……、こんなことには、ここまでひどくなることは無かった!!」

 

そう言いつつ稲葉んは頭を下げ続ける。

俺はしどろもどろになってしまう。

人に謝られることなど、全く体験したことないからだ。

参ったな、と思いつつ、なんと言えばいいか考える。

 

「そうだな………、じゃあ、お前さんが悪いと仮定しよう」

 

「いや……、事実そうだ……」

 

「だが、なんだ?お前さんが早く連絡したところで、太一に入った唯と、伊織に入った義文がすぐに行動できると思うか?」

 

「ぐっ……」

 

「パニックを起こしてどちらにしても遅れる確率の方が高いだろう?」

 

言い詰まる稲葉ん。

パニックになった状態だと、判断能力が著しく下がる。

あの状況で救急車を呼ぶ、周りの人に助けを求める、という判断は正解だ。

だが、まだ何か言いたそうなのでこう言った。

 

「過去は変えられん。これは事実だ。受け入れ難いとしても、お前らは受け入れないといけないんだ」

 

「そう…………だな………、だが、まだ死ぬと決まったわけじゃねぇ。私はそう、信じてるから、次が最後の一言だ」

 

「おう、どんとこい」

 

深呼吸して、稲葉んは言った。

 

「私は、お前に支えられて、多くのことをお前らと体験できた。だから、ありがとう。またな……」

 

瞳の端に涙を少し溜めながら言った稲葉の姿は、凛々しい姿と相まってかなり……、可愛かった。

 

 

次は太一、義文に再び体を借りて、話し合う。

未だに唯に蹴られた頰が痛い。

ごめん義文。

 

「すまなかった」

 

「お前も謝罪か、太一」

 

「…………なんだよ、かなり真面目に言ってるんだが……」

 

「残念ながら、俺は最後まで泣かないからな。お前らと違って毎日死ぬ覚悟してきたんだ。お前らに謝られたってなんも思わねえ。そもそも、男に真剣になられて、同性が喜ぶかよ」

 

「……………一部には」

 

「俺はホモじゃねえ、ガチレスすんな」

 

太一に対してだと、口が悪くなる傾向にあるようだ。

俺は自分で言いつつ、すまないと思ってしまっている。

 

「………伊織を頼んだぞ」

 

「なっ」

 

「稲葉もだ。お前になら、まあ、任せられんこともない」

 

「ま、待て待て。どうしてそんな話になる!」

 

この鈍感男はまだそういうことを言うのか。

 

「あの2人は少なくとも、お前に好印象を抱いている。心を開きやすいと思ったんだよ」

 

すると、太一の顔が赤くなっていった。

気に入らなかったので頭をはたく。

 

「いてっ」

 

「きめえ、まあいいか。んじゃ、次は唯」

 

 

 

唯。

今度は伊織に体を借りている。

 

「うっ…………ひずっ……」

 

「おい、そろそろ泣きやめ」

 

「ううう………、むりぃ………」

 

「ったく」

 

唯はずっと泣き続けている。

まあ、しょうがないか。

俺らは椅子に並んで座っている。

唯の頭を撫でつつ、肩に寄りかからせる。

 

「なあ、唯。俺を、安心させてくれ……。唯は、“強いだろ”……?」

 

「う………ん……………、がん……ばる………。ねぇ………、私………、言うの、忘れてた」

 

「ん?」

 

「私……、とっくに、リョウが、好きだったけど……、“ちょっと違った”の」

 

ああ、そうだったか。

俺らは向き合う。

 

「私はーーーーーーーーーーー」



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ハッピーエンドの皮を被ったトゥルーエンド

俺と唯は向き合う。

 

「私は………、リョウが好き……だけど………、それは恋愛じゃなく………、最高の、親友として…………」

 

「そう…………か…………」

 

何だ。

同じだったじゃないか。

唯は涙が止まり、スッキリとしている………。

だが……、どこか不満気。

俺が死ぬ事だろうか。

それを見ていると、どうしても………。

あれ………?

 

 

 

 

何で、こんなに苦しいんだ?

 

 

 

 

 

最後。

 

本当の最後。

永瀬 伊織………。

最後は太一の体を借りた。

 

「よっす〜」

 

「おっす」

 

「お?何と言うか、落ち込んでるねぇ。唯の顔が少しスッキリしたけどなんか複雑ってなってたことと関係あるのかな?」

 

内心ビクついていたが、顔には出なかったらしい。

よかった。

だが、少し言う。

 

「まあ………な………。色々だ。それより、お前さんに言うことがある」

 

「んー、ごまかされた艦半端ないけど、今回は許そう。何だね何だね?伊織おねぇさんに言ってみ?」

 

今回は伊織のいつも通りさに感謝だ。

俺を思ってのことだろう。

かなり我慢してるんだろうなぁ。

じゃないじゃない。

俺は少し、迷っている。

言うか言うまいか。

だが、あると言ってしまったんだと、腹をくくる。

 

「俺さ………」

 

「うんうん、何かね?」

 

「お前のこと好きだわ」

 

「うんうん。私の事が好きねぇ…………。は?」

 

?と!が何個も頭の上に出ている伊織がすごく可愛い。

 

「はぁ、お前さんって敏感そうで鈍感だよな」

 

「な、え、ど、ドユコト?」

 

「ばーか。冗談だ」

 

「なーんだ。冗談か」

 

「半分」

 

「え!?」

 

全く、面白い限りだ。

はっはっはと笑っていると、からかわれていると分かったようで伊織が頰を膨らます。

全く、どれだけ可愛いんだ。

 

「もう……、何だよ。いつも以上に、私をからかってくるじゃん」

 

「そりゃあ」

 

っと、あぶねえ。

言うところだった。

これは、とどめておく。

 

「最後だからな。お前らとの最後の交流な訳だ。実感は沸かないけれどな」

 

「そ………だよね………」

 

若干残念そうだ。

俺は椅子に座って、伊織は立っている。

伊織が近づいて、横に座る。

 

「じゃあ、私も、最後にしたい事、していい?」

 

「え?ああ、いいぞ」

 

「あー、でも………、太一か…………、太一なんだよなぁ………」

 

「…………何する気だ」

 

「最後だしいいかな……、特別だぞ」

 

伊織は俺(正確には太一の体)の首に腕をかけて、顔を近づけてくる。

目を閉じ、唇を少しとがらせ……、そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

べちんっ!

 

「あいたぁ!?」

 

「馬鹿か」

 

「もう、何でさせてくれないのさ!!」

 

両手で俺がデコピンした額を抑えて瞳の端に涙を貯める伊織。

ああ、全く……。

 

「こう言うもんは…………、俺からするのが道理だろうが」

 

「ぇ……?」

 

瞳を俺に向け、パチクリとさせている伊織に、顔を近づける。

手をあごに持って行き、引いたあごをあげる。

伊織は目をぎゅっと閉じて、少し震えている。

親指で唇をなぞり………、そして…………、静かに唇を伊織の唇に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええと……、じゃあ、聞きますけど………、誰です?」

 

誰が死ぬか。

常軌を逸するほどの重みのあるはずの質問を「後藤龍善」の姿をした《フウセンカズラ》は倦怠感丸出しで問う。

 

「俺だ。俺、名木沢龍斗が俺として、死ぬ」

 

迷いない言葉で、リョウがそう言った。

俺、青木義文は、その光景を邪魔しないように、見ていた。

リョウの決めた事、これは本人の決めた事だ。

そして………、リョウが死ぬことは………、まだ確定したわけじゃない。

俺はまだ、その可能性を、諸刃の剣として、考えている。

 

「あ、最後に、忠告だ」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「俺が死んだら……………、お前らを呪い殺す。後藤に乗り移ったお前も、二番目も、フウセンカズラ全員」

 

「おや…………、そうですか………。それは………、勘弁してほしいですね………」

 

リョウがそう言った瞬間、リョウの殺気が、オーラとなって見えた気がした。

一瞬だったが、背筋が凍った。

するとリョウが振り向く。

 

「じゃあな。お前ら」

 

「…………時間ですね」

 

リョウが言って、フウセンカズラがそう呟いた。

太一の体が少し硬直し、太一が戻ってきた。

 

「!な、名木沢は!?」

 

太一が戻ってきてそう言った瞬間、手術室のドアが開いた。

医師が出てくる。

待ってくれ。

これは、《フウセンカズラ》の言う通りなのか。

リョウが、死ぬことは、変えられなかったのか。

そうでいないでくれ。

そう思い、願い、そして………。

医師が、事実を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「峠は越えた…………、今は安定している。こちらとしても、最善を尽くせたよ」

 

太一たちは呆然としている。

伊織と唯は安心して力が抜けたのか、唯は椅子に、伊織は地面にへたりこんだ。

医師は訝し気に見ていたが、安心していると受け取ったらしく、「良かったね」と付け足し、戻って行った。

何とか回復した稲葉はフウセンカズラに言う。

 

「お……い………、これって………」

 

「はい……、お疲れ様でした………。龍斗さんには、ちゃんと、許可を………、と言わない約束でした………」

 

「あーくそ!やられた…………、確かに……、生きる可能性も考えたが……」

 

稲葉はそう呟きつつ、色々と考えをまとめ続ける。

 

「これ………、お見舞いと、お礼を兼ねての…………、和菓子です………」

 

「つまり………、リョウは………生きてる………、生き………、うわーーん」

 

唯は泣き出してしまった。

安堵と色々な感情が混ざり合い、涙が止まらない感じだ。

 

「……………うう…………、胃に悪い……」

 

伊織はお腹を手で抑えつつ、極度の緊張で胃が痛んでいるようだ。

太一は、と言うと。

 

「あ………はは………、生きてる………のか………」

 

そう呟いた。

 

「あーーー………、なんか………、足に力はいらねぇ………」

 

壁に背を当て、ズルズルと床に腰を落とした青木は、かなり疲れた顔をしている。

稲葉はフウセンカズラに問う。

 

「おい………、どこから、どこまでが計算だったんだ?」

 

「ああ……、どこから………、と言われましても……、全て………と言えば大体わかりますね?あなた方が考える以上に、こちら側が出来ることは多いですし………。だって、“人格を入れ替えられる”のですから………、ああ、これは言わずとも良かったですかね……」

 

「つまり、リョウをどうこうしようってことじゃなかったのか?」

 

青木がそう言った。

フウセンカズラは平然と頷いた。

 

「ええ……、全良なる皆さん市民の命を奪うまでの酷いことなど、しようと思ってません……。普段の現象の迷惑は………、まあ、このお茶菓子でチャラにしていただけないかと………。ああ……、お茶とチャラでかけてるんですけど………、これは死ぬほどどうでも良かった……。許してくれ………とは言いませんが、恨まないでいただければ、幸いです。実際、皆さん………、いいことあったんじゃないですか?」

 

フウセンカズラの言葉に、少しだけ、だが確実に文研部五人への感情が入っていたように思えた。

 

「じゃあ……、僕は帰ります……。ああ、わかって入ると思いますけど……“この人”ほじくるのはやめてください。面倒なので……。では…………」

 

言い終えると、後藤の体がガクンと力をなくし、崩れかけたところで後藤が体制を立て直す。

 

「………ん?ここは……?俺は確か名木沢が川に落ちて病院に運ばれたって言うからタクシー呼んでダッシュで……あれ?もうここ病院じゃん。お、文研部の名木沢以外。なんと俺は道中意識を失うほど必死なスピードでここに駆けつけたのか。……やばい、生徒のためにこんな未知のパワーを発揮する俺をマジで褒めてあげたい…………。それで名木沢の容態はーーーあだだだだだ!?痛いっ!痛いって稲葉さん!?」

 

「このクソアホンダラでエキセントリックな脳汁詰め込んだ頭に、思慮深く物事を考えないと痛い目に遭うってことを深くふかぁぁぁあく叩き込んでやるよ!!!」

 

後藤が稲葉に拷問コブラツイスト(コブラツイストを極めつつ側頭部を手で上から押さえつける技)を決めていた。極まり具合がえげつなかった。

 

 

 

それから二週間が経過した。

面倒で暇な入院生活を終え、やっと退院だ。

タクシーで自宅に帰る。

兄さんと姉ちゃんはかなり心配していたが後遺症もなく、過ごせている。

自宅に帰ってくると、文研部の皆がいた。

ああ、五時か。

 

「おかえり〜」

 

「おっす」

 

「よお」

 

「やっほ」

 

「うーっす」

 

「ただいま」

 

上から伊織、稲葉、太一、唯、義文だ。

それぞれの手にはなんだろう。

パーティーでもやるのかと言うくらい、食い物やお菓子や、なぜかケーキまである。

 

「なんだそれ」

 

「退院祝い!!」

 

「そ、そうか………、了解、上がってくれ」

 

伊織がそう言いつつ眩しい笑顔でVサインを作った。

俺は自宅の鍵を開けて、中に入ると異様な酒臭さが鼻にツンと来た。

 

「ぐっ……。お前ら、待っててくれるか?ちょっとこれはまずい……」

 

「うお!?こ、この匂いはすごいな……」

 

稲葉が俺の後ろで鼻をつまむ。

 

「唯、お前は深く嗅ぐな。酔うぞ」

 

「うぇ!?りょ、了解」

 

俺が忠告すると、唯はドアから離れる。

玄関を閉めて、上がり込んでリビングに入ると………。

 

「ゔぇっ」

 

「んごおおおおお」

 

「うぴゃぁ……、もうのめにゃいれすぅ」

 

上から姉さん、稲葉兄、青木姉、の順だ。

すると、トイレを流す音が聞こえ、リビングに入って来たのは。

 

「ああ……、リョウトくん……、おかえりぃ〜…………」

 

「顔真っ青っすよ、兄さん……」

 

顔を真っ青にした兄さんだった。

おそらく吐いていたのだろう。

 

「あの〜、この人たちが潰れるところ早々見たことないんですけど……」

 

「一昨日大きい研究が終わった、っていうか終わらせた研究室ばっかりだったからね……。基本は一昨日で終わってたらしくて………、で飲み会…………、昨日中だったんだ……」

 

「理解しました。姉ちゃんの部屋に行ってください。兄さんの部屋に稲葉さん連れ込みます。うーん、青木さんは、俺の部屋に引き連れますんで、それで……」

 

「ごめん……、頼んでもいい?………まだ頭痛くて……」

 

「水飲んで姉ちゃんの部屋に行ってください。俺が全てやります」

 

「病み上がりなのにごめんねぇ……」

 

ちゃっちゃと片した。

兄さんの部屋に稲葉兄を連れ入れ、姉を兄のいる姉の部屋にぶち込み、サイカさんを俺の部屋のベッドに寝かす。

部屋の窓を網戸を閉めつつ開けて風を通し、換気。

ドアを開ける。

 

「ん、入ってどうぞ」

 

「お邪魔しまーす」

 

「………なにかあったのか?」

 

伊織が元気よく入ってきて、太一が怪訝そうに聞いてきた。

 

「大学生全員飲み会の後片付けだ、お前らは二階のリビングに行ってろ」

 

「へーい」

 

青木が返事し、皆が階段を上っていく。

俺は車庫に入って、バイクに触れる。

少しだったが、やはり、埃が薄く張っている。

 

「心配かけたな、相棒」

 

埃を手でツーと一部剥がす。

後で拭かないとな。

すると携帯が鳴った。

ゴッさんだ。

病院に来てくれて、さっき会った所なのだが。

 

「はい、ゴッさん?どうしたんだ?」

 

『あー…………、どうも………、退院おめでとうございます………………』

 

身の毛が弥立つとはこの事か。

背中がゾワっとした。

ゴッさんじゃない、フウセンカズラだった。

 

「あ、ああ…………、で、なんでお前が?」

 

『いえ………、一応謝っておきます、ごめんなさい。あなたが協力した、という事を口滑らせまして………』

 

「そういうところはしっかりしてるのか………、ああ………、いいさ。ギブアンドテイク。こっちは色々と報酬みたいなものもあったし?ノったのは俺だからな」

 

『あなたは…………、甘すぎます……………。通りで………女性と仲いい訳です…』

 

聞こえてるぞ。

 

『という事で…………では…………また………』

 

プツッ

電話が切れる。

俺は携帯をしまい、最後の言葉に引っかかりを覚える。

“では…………また………”

 

「……………まあ、何とかなるだろ」

 

次が来ても………、俺が犠牲になれば問題ない。

そう思いつつガレージを出る。

 

二階の部屋は俺が入院した日から使っていなかったのか、まだ綺麗な方だった。

俺の家に慣れている唯と伊織がすでにテーブルを拭いて、買って来たものを並べて行く。

紙コップをみんなで持ってジュースを注ぎ

 

「龍斗の退院を祝して!」

 

「「「「「「乾杯!!!」」」」」」

 

皆ワイワイとはしゃぎだした。

そもそも、何故、俺の退院がここまで長引いたか、だが、どうやら少し、水の中で溺れている時間が長かった事から、脳への負担が大きく、左腕に痺れが生まれたから、というものだ。

今は治っているが、目を覚ましたときは左腕が本当に痺れて少し動かすくらいでいっぱいいっぱいだった。

俺の皿にはエビチリが、そして個々にチャーハンが鎮座している。

 

「体調はどうだ?」

 

稲葉だ。

あんまり箸が進んでいないことに関して言っているようだ。

 

「問題ない。稲葉んこそ、大丈夫か?」

 

「ああ………、だが、ひとつ言っておく。お前、何で私たちに文研新聞の事を言わなかった?」

 

「あー………、言ってなかったか?」

 

そう、文研新聞だ。

月一回の約束で文研部の存続を許してもらっているもの。

実はこっそり、1人で作ってゴッさんに渡しておいたのだ。

 

「寝具とデートスポットと料理………、と言うより、デートスポットってどう調べたんだよ?」

 

「取材、だな。後は俺が見つけた穴場とか。夜中行くと星が綺麗に見えるスポットとかな」

 

「へぇ?でもまあ、本当に助かった……」

 

「気にすんな、楽しむのが一番だと思うぜ?」

 

「ああ……、十分楽しませてもらってるさ………」

 

俺がチャーハンを一口、口に放り込む。

 

「で?青木は何故か唯にアタックしまくってたのは何でだ?」

 

「……………知らね」

 

知らないことにしておいた。

 

 

 

俺の退院会と称した遊びは終わり、ゴミは太一が処理してくれると持って帰った。

太一って相変わらずのお人好しというか何と言うか。

伊織は何故か、家に残っている。

青木ははしゃぎ過ぎて、ヘッドロックを稲葉にかまされて居た。

 

「で、何でまだ居るんだ?」

 

「んー?なんか久しぶりだなぁって、思ったから」

 

「姉貴に聞いてるからな?俺の部屋使って何してた?」

 

そう、俺の入院中、俺の部屋に上がり込んで何かして居たと、姉ちゃんに聞いたのだ。

でも、だいたい想像はできる。

 

「掃除だよ………、そんな期間居ないなんてことなかったんだし、龍斗は綺麗好きだから、だよ………」

 

「とか言いつつ、どうせエロ本探してたんだろ?」

 

「チッ、バレたか」

 

思い通りすぎて吹いてしまった。

伊織もそれにつられ笑う。

ひとしきり笑ったあと、沈黙が空間を征服する。

“あんなこと”をしたんだ。

当然気まずくなると言うのも道理だろう。

 

「いっつもだが、何で俺が居ない時に、そんなもん探すんだよ。無いのに……」

 

「そりゃあ………、(好きな人の好みを知りたいからだし)……………」

 

「あん?もっかいいってみろ」

 

「何でも無い!!聞こえない系鈍感系男子なんか滅んでしまえ!!」

 

「ゴフゥッ!?」

 

思いっきり腹パンされました。

いや、聞こえかけてたよ?

けれど断片的だしおぼろげだしで、わかんねぇよ。

 

「で?いつまで居るんだ?」

 

「何よ………、帰れってこと?」

 

「んなこと言ってねぇ。晩飯食ってくか、どうかってことだ」

 

「……………食べる………」

 

また、日常が始まる。

俺は自分の気持ちを再確認した。

俺の気持ちは伊織を向いている。

伊織も俺を向いている…………、多分…………。

 

 

 

 

 

 

 

夜、伊織が家に帰り、1人、自分の部屋に戻る。

 

「あ………、サイカさん居るの忘れてた………」

 

ベッドを占領して居る女性。

青木采花、20歳。

少し酒が抜けてきたのか、顔色はましだ。

んー、美人。

ベッドに手をついて顔を覗き込む。

っとぉ!?

 

「ゲフゥ…………」

 

酔っ払いのゲップはやめていただきたい。

すぐに気がついて引いたから良いものの。

がばっ!

!?

采花さんが起きた!?

俺の方を向いた。

 

「あれぇ?あたしリョウトくんのかのじょだったっけ〜?」

 

まだ酔っていらっしゃる。

 

「いや、違いますけど」

 

「ん〜、そっかぁ、じゃあいまからカレシね」

 

「え!?」

 

嫌な予感がした瞬間、腕が掴まれ、一気に采花さんの腕の中へ。

あ、割と采花さん小さい。

 

「むぅ、なんか失礼なことおもわれたきがする〜」

 

「思って無いですよ………」

 

「んー、ならいっか、んむぅ………、眠くなってきた………」

 

「ゑ………………」

 

「すぅ…………」

 

寝やがった。

おいおい………。

……………。

腕の力はほとんど入って居なかったのですぐ抜けられた。

さて……と………。

 

 

 

 

コンピュータでメールの文面を確認する。

そのアカウントは海外を数箇所通して居るのでバレる確率はかなり低い。

 

アクィラ君、久しぶりだね?榊だ。君と話せるのは何年ぶりかな?君が生きて居るということは一応知って居るよ?なんせ、僕は協力者なのだからね。裏からヨハンの事を調べてくれないかね?

 

 

内容はこんな感じ。

メールアドレスは【sakaki-gazer.Fenrir-anagura】。

??????

これの送信日は…………………、2071年…………???

……………本当に……、誰なんだよ……、アクィラ?ヨハン??で、メールアドレスのサカキという名前も初耳だ。

それにメールアドレスも無茶苦茶。

@が無い上に、送信日が訳わからん。

とりあえず返信してみる。

 

『すいません。僕はアクィラという人ではありません。それと、返信日を確認して見たのですが、そちらの機械に不具合でもあるのか、もしくはこちらの表示ミスか……。もしかしたらメールがタイムスリップして居るのか。20XXより、送信しています。そして僕は名木沢 龍斗という者です。もし、知り合いならお名前をください』

 

送信………と。

その後、すぐに寝た。

ソファで。

次の日、そのメールと送信メールは無くなっていた。

 

学校。

久しぶりに来たな。

するとゴッさんがいた。

 

「おう、名木沢〜、災難だったな………。で、お前は俺の口座から引き出した覚えのない金が引き出されていたんだが、警察に行った方がいいかな?」

 

「いや、知らないっすよ………」

 

あ、ポストに入ってたお金はそういうところからの出費なのね。

何してんのあいつ………。

すると、担任が来た。

 

「あ、リョウくん。やっと来れるようになったのね」

 

「ええ、まぁ……、一応死なずに済みました」

 

「生徒が死ぬなんて、悪夢以外の何でもないから、言うんじゃないわよ」

 

「…………はい」

 

結構真面目な顔で言われたのでそう返事した。

そんなこんなで教室で授業を受ける。

いつも通り、寝た。

 

 

 

授業が終わり、放課後。

首を横に振るとゴキゴキと鳴った。

いててて………。

 

「あ………リョウ…………、一緒に行こ?」

 

唯がそう言って来た。

別段断る理由もないので、了承し、教室を出る。

青木は掃除当番だ。

部室に向かう途中、外に出てすぐのところで、先をポケットに入れている右腕の肘を唯に掴まれ、引っ張られる。

 

「どした?」

 

「う…………、その…………、話したいことがあるの……」

 

「……………東校舎裏か?」

 

「……」コクリ

 

唯が頷いたので俺が先導して、唯がそれを追う感じになる。

東校舎裏に着いたので、くるりと振り返る。

先日の告白での青木の位置に俺が来ることになった。

 

「……何だ?別にこんな所じゃなくても良いだろうに」

 

「んー………、まあそうね。でも、一応伝えとこうと思って」

 

モジモジしている。

唯は手を後ろでカバンを持っている。

俺はまあ、普通に持っているのだが。

 

「リョウ、病院で言った言葉……、撤回させてもらえない?」

 

「??何だっけ?」

 

「!?何で忘れてるの!?」

 

唯の言葉で何かあったかなと思い、検索する。

んー、なんかあったっけな?

唯は驚愕の顔をしている。

 

「いや………、忘れてる…………わけでは………」

 

「本当に忘れてそうなんだけど……」

 

「んーと………、友達として好き………、だっけか」

 

「……………ん。それ………」

 

合ってた…………良かった。

って、撤回?

 

「まさか………、俺は友達としても嫌いだったと……」

 

「な訳ないじゃない。文研部男子では一番好感度上ですよーだ」

 

「じゃあ、何だ?」

 

「ん、そうね………、青木に告られたじゃない?」

 

「ああ、うん。メールが顔文字絵文字オンパレードだったやつか」

 

「………うん。でね?青木に聞かれたの。リョウの事はどう思ってるのか?って」

 

「何だか聞くの怖えな……」

 

「で、結論がまだ出てなかったから、ああ言う答えを言ってしまったわけで、一昨日、結論が出たので、報告しておこうかなって………。でね?友達って言ってたけど、やっぱりそれ以上で、でも、幼馴染としてもちょっと不安定で……」

 

「ああ…………」

 

「で、結論が、すでに恋人だったのでは説を推したいと思います!」

 

「な訳あるか」ペチン

 

「あうっ!」

 

かなり真剣な感じで話していたのに、どうしてかギャグ方向に行ってしまっているぞ。

唯はかなり真剣なのだが………、言い切ったと同時に軽いデコピンをしてしまった。

 

「ただの冗談じゃない………」

 

「冗談だとしても言うな」

 

「はーい。で、結論なんだけど」

 

「ああ……」

 

「兄妹みたいじゃない?私たち」

 

「お前みたいな出来の悪い妹はいらん」

 

「ひどいよ!?」

 

ニヤニヤと笑うとからかわれたと分かりほおを膨らます唯。

ハムスターかよ。

 

「はぁ………、で?なぜその回答に至ったのか。理由を聞きたい」

 

「んーと、昔っからって言うか、中学時代、勉強教えてもらってたじゃない?杏もリョウと話しててお兄ちゃんみたいだって。で、それでそういえば私からしても、お兄ちゃんっぽいなぁって思ってさ。で、今に至るわけ」

 

なるほどな。

まあ、こいつが妹だったら嬉しいかもしれない。

確かに妹っぽいし。

 

「まあ、そう言うことでよろしくね!お兄ちゃん?」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

そんなこんなで、非日常的現象が終わって、めでたしめでたし。

まあ、この後、どうなるかなんて分からないのだ。

この平穏な日々を、噛み締めて生活しようと思う。

まあ、その考えは数日後に撤回されることになるんだけれど。




はい、すごく遅れました本当にすいません黒木です。
夏終わりましたね何してましたか、僕は寝てましたすいません。
読者のコメントでダメージ受けてかけませんでしたメンタル弱いですすいません。
はい、と言うことで、ココロコネクト ヒトランダムはこれにて終了です。
次回からはキズランダム編となります。
欲望開放か……………、リョウは料理作りすぎたりするのだろうか。
コメント待ってます。
では!


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キズランダム
日常という名の異常の始まり


カタカタカタ………………

パソコンのキーを打つ音だけが響く部室内。

私立山星高校文化研究部、略して文研部は今日も活動中。

他の部活が嫌がったであろう部室棟の最上階の階段から一番遠いところにある角部屋。

まあ、この学校の校則である、全生徒クラブ強制入部ということにおけるひずみから今年生まれたばかりの部活だからしょうがない。

部員は6名、そして全員一年生だ。

黒髪セミロングで凛々しい顔立ちの女子、稲葉姫子。

茶色の短髪でプロレスオタク男子、八重樫太一。

黒髪サイドテールで可愛い顔立ちの女子、永瀬伊織。

バナナヘアで天然バカの男子、青木義文。

栗色ロングヘアでちっこく可愛い物好き女子、桐山唯。

そして、数学だけが取り柄、料理と睡眠が好きな俺、名木沢龍斗。

現在、稲葉が文研部の活動として出している新聞、文研新聞の編集中。

もうすぐ強制下校時刻。

なぜか緊張感の高まる部屋。

そろそろ息苦しくなってきた。

稲葉は焦っている。

納入日がもうすぐなのだ。

だが、現実は非情である。

下校を告げる鐘が校舎に鳴り響く。

 

「だぁ!!やっぱりちょっと終わらなかったじゃねえか!!」

 

Enterキーを感情の昂ぶるがままにターンッ!!ではなくダンッ!!!と叩いた稲葉姫子は背もたれに背を預け腕を力なく下ろす。

 

「いなばーん!!信じてたのにぃ~~~…………」

 

そう叫んだ永瀬伊織は稲葉の肩を持ってグワングワンと揺らす。

 

「しらねぇよ!!伊織!!元はと言えばお前と青木のせいだろうが!!」

 

そう、今回伊織と義文が文研新聞のネタを遅れて出したのだ。

それのせいでこうなったわけである。

だが、何故かその2人が賭けをしていた。

 

「やりぃ!伊織ちゃん、賭けは俺の勝ちだよ!さあ!ジュースをおごるのだ!」

 

「くそぉ………、なんか納得いかねーー!!」

 

「はっはっはー!!とりあえず、稲葉っちゃん、お疲」

 

「てめえらのせいでこうなったんだろうが!!!」

 

ズムッ

稲葉の人差し指と中指が伊織と義文の目をまぶたの上から突いた。

 

「ぐぬおおおお………」

 

「いぎゃあああ!!!目が!!目があああ!!!」

 

…………すげえ。

太一と唯も稲葉を賞賛していた。

 

「お前らが遅れたことがしわ寄せになってこうなったんだ!!だから青木、ジュースをよこせ」

 

稲葉は元から切れ目の目をさらに細くして青木の頭をむんずと掴む。

 

「いや、それとこれとは話が別で」

 

「あ゛?」

 

ギリギリと頭部に稲葉の指が食い込んでいく。

 

「いでデデデ!?わかった!わかったから離してくれ!」

 

「よし」

 

稲葉は義文を離すと早々に部屋を出る。

俺らもぞろぞろと続くが、痛さでうずくまる青木。

 

「遅れたらお前からも一本」

 

「ひい!?すぐ出ます!!」

 

稲葉は鬼畜であったか………。

青木はすぐに出てきた。

鍵を閉め、職員室に鍵を返したのは俺なのだが……………。

 

 

 

 

こんな平和が長く続くとは思っていなかった。

もう三週間になるのか。

人格入れ替わりが終わって。

俺たちは無事、乗り越えてしまった。

つまり、“どこかで壊れなければ終わらない”エンドレスゲームの始まりだということを、その時の俺たちは、まだ知らない。

 

 

 

 

 

それから数日後。

俺はゴッさんに召集された。

 

「なぁ、お前さん頑張りすぎじゃないか?最近だったら俺とお前さんだけで文研新聞作ったしさ。別に遅れたところで何とかなるんだし、っつーかするぞ?一応顧問だからな」

 

「いやいや、ゴッさんに手伝ってもらってる時点で、俺はまだ甘いって事ですよ。次、あいつらが間に合わないなら、俺が1人で作ります。構図とかもわかったんで」

 

「いやいや、あいつらを頼れよ~。穴を埋め合うための、友達じゃねぇの?」

 

人格入れ替わりの時の事を言われた。

今回は間に合ったものの少し遅れて、たまたまゴッさんの目に止まった俺が召集された。

ゴッさんと俺で少しお小言を言われた。

それくらいだったのだが、ゴッさんに謝られた。

そしてさっきの話に至る。

 

「穴を…………埋め合う……………」

 

「あ、まだ書類の整理終わってねぇ!んじゃ、また!」

 

ゴッさんは放課後の人が少ない校舎の廊下を早歩きで去って行った。

あの人は時々いい事を言うから何とも言えない。

さて、俺は部室にでも行くかと荷物を背負い直して、部室棟に歩を向けた。

 

 

 

 

「で?なにがどうした?」

 

部室に着いたのだが、かなり惨憺とした状況だった。

唯が伊織に抱きしめられて泣いており、稲葉はいないし、太一はいまだに呆然としているし、唯一普通なのは義文だけ。

そんでもって長机が真っ二つに割れている。

 

「え、ええと………、太一と稲葉っちゃんが倒れてるのが見えて………、唯がそれを見て取り乱して………、で机を割って………」

 

「伊織、唯の手は?」

 

「血が出てる、保健室に」

 

「頼めるか?」

 

「了解!唯、立てる?」

 

「……う…………ん……」

 

よし、で、太一だ。

右手の平を見つつブツブツと何かをつぶやいている。

 

「で?太一、どうした?」

 

「……った…………」

 

「は?」

 

「柔らかかった…………」

 

アホかこいつは。

俺は太一のほおをびろーんと引っ張ってみた。

 

「いはいいはいいはいいはいいはい!!!(痛い痛い痛い痛い痛い!!!)」

 

「ぼーっとしていたが、どうした?で、何が柔らかかったんだ?」

 

「や、ややや、柔らかい!?何のことだ!?」

 

だめだこいつ。

どうせラッキースケベ発動しただけだろう。

俺は何かムカついて太一の頭を平手で殴っておいた。

 

 

 

机は後日新しいのを入れることとなった。

金は学校側でなんとかするそうだ。

まあ、俺がもともとボロくなっており、重い荷物を置いたら割れたと適当にでっち上げておいた。

保健室から2人が帰ってきたがそのまま解散となった。

まあもちろんのこと、唯は精神的に結構突き刺さったらしく、しょんぼりしていた。

義文と伊織、そして太一が目の前でボケツッコミをしている中、俺は唯と歩いていた。

 

「ごめん、色々取り乱して……………」

 

「何があった?」

 

「そ、それはその……………」

 

顔を赤くしてモニョモニョと口先を動かすだけで声は聞こえてこない。

 

「太一が稲葉んの胸を揉んでいたとか?」

 

「な、何でわかったのよ!?」

 

「マジかよ…………」

 

例えばで答えを言い当ててしまい、2人とも動揺する。

けれど、と唯はその光景を思い出しながら疑問を口にする。

 

「でも、今考えるとおかしいのよね………」

 

「まあ、稲葉んがそんなことするとは思えねぇな」

 

「しかも稲葉が太一を押し倒してたのよ?おかしくない?」

 

「おうふ、マジか………」

 

普段、稲葉ならそう言うことはしない。

というより、普通なら部室に俺たちが来るということがすぐにわかるはずだし、まずまずそういうキャラじゃない。

っつーか、その相手が太一か………。

唯が取り乱すのも頷ける。

 

「だとしても、あれはやりすぎだな」

 

「うう………分かってるってばぁ……………」

 

と言いつつかなり不満げだ。

 

「どうした?机の件に関してだったらまだ弁明の余地があるぞ?」

 

「んー、じゃあ、言うけど、頭の中で『止めろ』声が聞こえたのよね………、で体がそれをしないといけないって感じで動いて机をこう………」

 

「……………なるほど、疲れてるんだったら寝ることをオススメするぞ」

 

「疲れてないってば!」

 

そんなこんなで駅で唯と別れ、帰ろうとペダルに足をかける。

すると、義文がコンビニに入っていくのが見えた。

駅に入るのは唯たちよりも遅れるだろう。

 

俺はその後すぐに、その場から自転車で走り去った。

まさか次の日、あんなことが起こるなんて、思いもせずに。

 

 

次の日、唯、青木が補導され、俺はその場にいたという事で同行した。

 

 

 

 

 

いろいろ警察に聞かれた次の日、俺と義文は登校していた。

だが、唯は来れなかった。

放課後、唯以外の全員が揃っていた。

 

「で、何があったかはだいたい聞いてる。だが、何で龍斗まで駅にいて、更に警察に行ってたんだ?」

 

「自転車のタイヤがパンクしててな。慌てて電車で学校に行こうとしたら、見事にその場に居合わせた。ついでに警察に被害届を提出しに行ったからだ」

 

「被害届?何のだ?」

 

たしかに今の内容だと、少し違和感がある。

まあ、それに関しては触れて欲しくなかったのだろう。

龍斗は笑顔で稲葉に訴えた。

『聞かんでくれ』

と。

稲葉は改めて、唯の事を聞いた。

 

「唯は、今どうしてる?」

 

「家に、自分の部屋に閉じこもってる。まあ、心の整理が今はできないだろ。出来ることはない」

 

「本当にか?俺らに出来ることは、絶対に「無いんだよ。無いからこう言ってるんだ」…………そうか………」

 

「俺だってかなり考えた。俺は唯を傷つけないために、今はこう言う形を取ってるんだ………。それに………、一番ウズウズしているバカが俺の目の前にいてずっと黄色い髪が揺れてる」

 

そう、今何か打開策はないのかと、一番言いたいのは青木義文だ。

何が起きたのかを説明せねばならない。

中央駅にて、山星高校の女子生徒が秋高高校の不良に絡まれていた。

それに出くわした唯がそいつらをぼこぼこにした。

だが、やりすぎた。

それを見て通報した人たちがいたらしく、警察が来たのだ。

唯はおとなしく補導されるも、そこに義文が乱入、といった形だ。

唯の一部始終を見ていたのと、友達だということで、俺もついていったという形になる。

太一は少なくとも、伊織、唯の悩みを聞いた。

そして少しだが、唯の背中を押したのはあいつだ。

だからこそ、今回も、と考えるかもしれない。

だが、今回は重すぎる。

そんなことを皆が考えている中、ドアが開いた。

 

どんよりとした空気が流れる。

思い出したくない、以前の現象の時に体験したあれだ。

猫背になり、目は半分しか開いていない、後藤龍善が立っていた。

だが、それは後藤龍善ではない。

 

「ふうせんかずら……………」

 

「ええ……、どうも………」

 

 

 

 

 

 

夜、俺は家に帰ってから、ふうせんかずらの言ったことを箇条書きでまとめていた。

 

「1・欲望を一時的に開放させる。

2・発生はランダム。

3・どの欲望が暴発するかはわからない。

4・現象が起きるときは脳内に声が響く。

5・面白くなったら終わる。

6・命は奪われることはない。」

 

このくらいか。

俺はまとめた後、毛布にくるまる。

嫌な寒気がした。

俺はそれをコピーアンドペーストで唯に送信した。

返信はすぐに帰ってきた。

 

『私はどうすればいいのかな。自分が外にいたら、迷惑しかかけられないよ………。どうしたらいいかな。何かあったら教えてください』

 

そう帰ってきた。

いつにない弱い唯。

俺は戸惑っている。

そして俺はこう返した。

 

『いざとなれば、俺や青木が止めにかかる。別に俺らを傷つけたとしても、しょうがないで済むし、青木は喜んでコンボ決められに行きそうだろ。いつ出てきてもいいからだから、今は自宅療養でいいと思うぞ』

 

俺にはそう言うことしかできない。

俺は力なく携帯をベッドに放り投げ、俺はベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。

毛布が気持ちよすぎて意識は夢に……………

 

 

 

 

 

俺は1人、何かにナイフを何度も何度も突き立てていた。

明らかに夢だ。

そう確信している。

だが、手にベタつく赤い液体はすぐ乾いて肌を赤黒く染める。

それがよりリアルさを、引き立たせている。

突き立て、俺は後ろに倒れる。

だが、突き立て、息絶えたはずのそいつが上半身を起こして、俺の首を掴む。

その顔は………………

 

 

 

「伊織っ!?」

 

俺は夢から覚醒した。

窓の外はまだ暗く、肌寒い部屋に、叫んだ声が消えていった。

俺は何という夢を見ているのだ。

脂汗をかいていた。

何度目だ?

伊織を殺す夢を見たのはこれで何度目だ!?

いい加減、もうやめてくれ。

そうでなければ、俺は……………。

……………。

汗がひどい。

シャツが肌に張り付いている。

俺は着替え、外に出る。

気分を変えるために………。

だが…………、何の因果か。

伊織と近くの公園で会った。

 

「龍斗?どしたの?」

 

「………嫌な夢を見たんだ………。気分転換だな。そっちは?」

 

「似たような感じ」

 

「そうか………」

 

伊織はブランコに座って、星を眺めていた。

………、ああ………、やっぱり……こいつは、綺麗だな……。

 

『告白しろ』

 

声が聞こえた。

現象だ……。

俺の口は、俺の指導権を外れた。

 

「なあ、伊織…………」

 

「ん?どしたの?」

 

『止めろ!』

 

「っ!」

 

自分の声が響いた。

俺は、これ以上の関係を求めていない。

今で十分なのだ。

目の前に血まみれで、同じく血に濡れたナイフを持った自分が見え、そう叫んだ様に感じた。

 

「なんでもない…………。寒くねえのか?」

 

「ん、大丈夫。夢、よっぽど辛かったんだね」

 

こいつはまた、的確に言い当ててくる。

 

「まあ、私はそういう時、星を見るかな…………」

 

「星………か………」

 

上を見上げる。

思いっきり公園の木が邪魔して見えなかった。

 

「あ、こっちからだったら見えるよ」

 

え〜、それ早く言ってよぉ……。

俺はすぐにブランコの方に歩いて近づく。

結構綺麗に見えた。

 

「ここはお気に入りなんだ。まあ、最近知ったんだけどね」

 

「へぇ、そうか」

 

携帯を取り出して見てみると、午前四時の文字が。

伊織はブランコを漕いで飛んだ。

ブランコの柵より向こう側に着地。

ブランキングファイトかよ。

 

「あ、私帰るね」

 

「んなこたわかる。送るよ。この前不審者見たし」

 

「お、悪いねぇ」

 

「調子に乗んな」

 

いししし、と歯を見せて笑う伊織。

釣られて笑ってしまった。

伊織を送って家に帰ると五時だった。

その後、すぐに学校の準備をまとめ、出発ギリギリまで寝た。

案の定眠気は取れず、いつもは起きている授業さえも寝てしまった。

 

 

 

 

 

「ああ…………、やはりあなたは面白い………。あなたは部外者でしたが………巻き込んで正解でした……………。引き続き……、5人と1人でお願いします。………まあ、もう2人は眼をつけているんですがねぇ………。まあ……、彼らはいいでしょう………。運命までは……干渉する気になれませんし……」

 

闇の中でそう囁いた後藤龍善はもちろんのことアイツだ。

そして、その手にあるのは、太一のクラスの生徒名簿。

開かれたページの黒髪で背が高い筋肉質な生徒の写真を指差していた。

名前が書かれている。

『浜墻 雄友』

そして別の名簿を取り出す、後藤 龍善。

これは龍斗のクラスの名簿だ。

そして開いたページに指を走らせ、止めた。

背は低く、少しふっくらしている背の低い女子

『福内 悠花』

 

「彼らが加わると面白そうですしねぇ…………。まあ……それはまた………今度ということで……」

 

黒が除かれ、後藤が戻ってくる。

 

「れ?また寝てたのか?って、書類片付いてねぇ!!!」

 

…………まだやってたんですか?後藤先生………。




お久しぶりです
色々あって長い期間空いてしまいました
これからもちょっとどれくらいかかるか分かりませんが投稿して行きます


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