ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 (投稿参謀)
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ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。

ふと思いついて、パッと書いた話。


 遠い昔。遥か銀河の彼方で……。

 

 

 

 ではなくて。

 

 割と近場の太陽系第三惑星地球の、欧州某所のとある城で……。

 

  *  *  *

 

「これは……いったいどういうことなんだ?」

 

 サーヴァントを召喚する儀式を終えた衛宮切嗣は愕然として呟いた。

 

 全ては完璧だったはずだ。

 召喚するサーヴァントが切嗣と相性が悪いであろうセイバーであることを除けば、儀式は滞りなく行われた。

 チラリと愛妻であるアイリスフィール・フォン・アインツベルンを見やれば、自分と同じように硬直している。

 

  *  *  *

 

 彼には父がいた。

 闇に囚われ、果てない憎しみと苦しみの中にいた父が。

 だが父は、彼の存在によって、ついに光の中へと戻ってくることが出来た。

 

 父は救われたのだ。

 

  *  *  *

 

 完全に想定外の事態ではあった。

 しかし、目の前にいる存在の発する清浄な気配と……濃密な魔力が、相手が人間ではないことを如実に物語っていた。

 

 切嗣は理解する。

 自分はアーサー王の召喚には失敗したものの……サーヴァントを呼ぶことには成功したのだ。

 

  *  *  *

 

 彼には妹がいた。

 血を分けた、たった一人の双子の妹が。

 意見を違えることはあれど、妹は彼にとって掛け替えの無い存在だった。

 

 故に、全身全霊を懸けて守ると心の内で誓っていた。

 

  *  *  *

 

 アイリスフィールは困惑していた。

 

 聖杯戦争のためにアインツベルンが用意した遺物。

 これを触媒とすれば、ほぼ確実にブリテンの騎士王……かの大英雄アーサー王をセイバーとして召喚できるはずだった。

 

 しかし、目の前の存在が。それを否定する。

 

 触媒による優先を上回るほどに、召喚したマスターと因縁のある英霊……というのも考え辛い。

 幾ら考えても、答えは出なかった。

 

 ……もし、この場に銀河の平和を守る騎士たちの、偉大な長老がいれば、こう言ったかもしれない。

 

 フォースに導かれたのだと……。

 

  *  *  *

 

 彼には母がいた。

 自分と妹を生んだ直後に亡くなった母が。

 顔を見たことも声を聴いたことも無いが……それでも、彼女が偉大な存在であることは分かっていた。

 

 何故なら、父が愛した女性だから。

 

  *  *  *

 

「とにかく……」

 

 切嗣は目の前のサーヴァントに声をかけた。

 早急に、目の前の存在の正体を把握する必要があったからだ。

 不足の事態だからこそ、とにかく情報が必要だった。

 

「君の真名(しんめい)とクラスを教えてくれ」

 

 切嗣はサーヴァントが……英雄が嫌いだ。

 それは、彼が戦場を地獄であると考え、故にこの世の地獄へと人々を駆り立てる英雄と言うシステムを憎んでいるからに他ならない。

 

 英雄や、英雄を崇拝する人々の側にも言い分があろうと言うことは分かっている。分かっていて、決して理解しようとも受け入れようとも思わない。

 

 故に自分が聖杯に懸ける願いのために、サーヴァントを上手いこと『使い潰す』算段であった。

 

 魔術師としては異例中の異例と言っていい切嗣だが、こと『自分の価値観以外を認めない』という意味では、この上なく魔術師らしかった。

 

 ……しかし、彼自身自覚していないことだが、眼前の『英雄』たる存在に対し、切嗣は不思議と嫌悪を感じていなかった。

 目の前のサーヴァントが、あまりにも『英雄』らしくないから、かもしれない。

 

 サーヴァントは、不思議そうな顔をして佇んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 

  *  *  *

 

 ジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカー……シスの暗黒卿ダース・ヴェイダーと惑星ナブーの女王パドメ・アミダラの息子。プリンセス・レイアの兄。

 

 闇の中で、それでも残された『新たなる希望』。

 

 銀河を暗黒の支配から救った、最後のジェダイの騎士。

 

 最早、剣持つ騎士(セイバー)などでは収まらぬ、救世主(セイヴァー)とでも言うべき銀河に並ぶ者なき大英雄。

 

 …………彼の名は『ルーク・スカイウォーカー』

 

  *  *  *

 

「ここどこ~! おじさんたちだれー!」

 

 た だ し 4 才 の !!

 

「うわあああん!! パパー! パパーーー!!」

 

 大声で泣き出したルークに、切嗣とアイリスフィールは、只々唖然とするのだった。

 

  *  *  *

 

【クラス】セイヴァー

【マスター】衛宮切嗣(泣きたいのはこっちだよ……)

【真名】ルーク・スカイウォーカー(ただし絵本『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』の)

【属性】秩序・善(多分)

【ステータス】不明

【宝具】不明

 

 参戦…………………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、遥か銀河系の彼方では……。

 

 ダース・ヴェイダー「息子が浚われたので、迎えに行くついでに犯人をなます切りにしてきます」

 皇帝「よかろう、死の小艦隊を動かすがよい……なんなら、デス・スターも貸そうか?」

 ヨーダ「そういうことなら、協力を惜しまん」

 オビワン「私も行こう。……あ、ちょっと待って。アソーカやレックスにも声をかけるから」

 

 




正直、すまんかった……。

最後のオチが書きたかっただけです。

一応、分からない方に説明すると、『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』とは、スターウォーズを題材としたパロディ絵本で、ヴェイダーがシングルファーザーとして育児に奮闘する話。
続編として、『ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア』『おやすみなさい、ダース・ヴェイダー』などがあります。

すごく子煩悩なヴェイダーやら、
子供たちに振り回される銀河の皆さんやら、
レイアとハン・ソロがキスするの見て絶叫するヴェイダーやら、
優しいお爺さんにしか見えない皇帝陛下やら(ダークサイドどこ行った)
絵本ながら見どころのたくさんある作品。

……つまり、私はいい年してこの絵本が大好きなんです。

ちなみにFateの方はニワカもいいトコ。

続きは未定です。


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シスの暗黒卿も現れたようですが……。

何故か続いちゃいました。


 銀河帝国皇帝の懐刀、シスの暗黒卿ダース・ヴェイダー……あるいは、アナキン・スカイウォーカー。

 『フォースにバランスをもたらす者』と予言された彼の人生は、苦難と喪失の連続だった。

 母が、妻が、自分の手の届かぬ場所で命を失った。

 師が、弟子が、自分の傍から離れていった。

 

 だからこそ、息子と娘を失うことだけは絶対に阻止する。

 例え、銀河を敵に回しても……。

 

  *  *  *

 

「パパー! パパーーー!! うええええん!!」

 

 召喚したはいいものの、意思の疎通が出来ず泣き叫び続けるサーヴァントに、切嗣はほとほと困り果ててしまった。

 目の前の泣き喚く子供は、どう見ても『兵器』として役に立ちそうにない。

 

(……いっそ、令呪を使って自害させて、別のサーヴァントを呼ぶか……)

 

 そんな考えが頭をよぎる。

 例え相手が愛娘よりもなお小さな子供であろうとも、聖杯戦争に勝ち残るためには致し方ない。

 考えてみれば、自動的に敵が一角減るのだから、全くの悪手でもないだろう。

 

 …………罪悪感が無いワケではない。

 目の前の存在が、何時か何処かの誰かの複製に過ぎないと分かっていても、無防備な子供を手にかけて平気でいられるほど、切嗣の人間性は壊れていない。

 いっそ、壊れていれば幸福だっただろう。

 

 しかし、切嗣は聖杯を手に入れなければならない。

 アインツベルン家のためなどではなく、魔術師の目指す根源などのためでもなく、切嗣自身の願いのために。

 

 愛する妻の前ではあるが……いや、彼女にも戦争の厳しさを教える良い機会だ。

 唯一の懸念はアイリスフィールの身体への影響だが……。

 

「……アイリ、このサーヴァントは使えない。ここで自害させよう」

「切嗣!?」

 

 感情の籠らない夫の言葉に、アイリスフィールは驚愕する。

 

「仕方ないさ。この子供で聖杯戦争を勝ち抜く手段を考えるよりは、もう一度サーヴァントを召喚し直す方が手っ取り早い」

「でも、こんな小さな子供を……」

「『これ』は子供の姿をしているが、本当に子供なワケじゃない。議論の余地はないよ」

 

 妻の意見を封殺し、切嗣は令呪を使おうとする。

 その間にも子供は泣き続けていた。

 

「正直、こんなことで令呪を消費するのは惜しいが……」

「うわぁあああん!!」

「令呪を持って命ずる……」

「助けてぇえええ!! パパァアアア!!」

 

 子供の泣き声が最高潮に達した瞬間、切嗣と子供の間の空間が歪み『何か』が現れた。

 

「ッ!?」

「まさか、そんな……」

 

 それは、人型をしていた。

 身を包むのは黒い黒い装甲服とマント。

 顔を覆うは髑髏を思わせるマスク。

 マスクは呼吸器も兼ねているのか、独特の呼吸音が漏れている。

 胸には何やら電飾が明滅していた。

 明らかに、異質なその姿。

 

 だがそれ以上に、それの放つ気配は禍々しくそいて圧倒的だった。

 

 切嗣とアイリスフィールは確信する。

 

 『これ』もまた、サーヴァントなのだ。

 

「召喚!? いや、そういう宝具なのか!?」

 

 別のサーヴァントを召喚する宝具。

 そんなのアリか。

 

「ここはいったい? さっきまでエクゼキューターの艦橋にいたのだが……」

 

 一方、召喚されたサーヴァントと思しき黒い男は、キョロキョロと辺りを見回していた。

 

「パパー!!」

「! ルーク!!」

 

 子供は、その黒い男の足に飛び付いた。

 黒い男は振り向くやしゃがみ込んで、その子供……ルークを抱きしめる。

 

「ルーク! 無事だったのだな! 心配したんだぞ!」

「パパ、むかえに来てくれたんだね!」

「もちろんだ。パパはお前を助けるためなら、宇宙の何処にだって行くぞ!」

 

 『パパ』のマスクから漏れる声が涙声になっている。

 ギュウっと抱きしめ合う二人を見て、切嗣は現実逃避気味に「あー、僕もイリヤを抱っこしたいなー」とか場違いなことを考えていたが、思考を無理やり現実に引き戻す。

 

(よく分からないが、これは勝ち目が出てきたかもしれないな)

 

 あの『パパ』は少なくとも子供の方よりは戦闘力があるだろうし、意思の疎通も出来そうだ。

 と、なれば……。

 

「あー……感動の再会中に申し訳ないんだが、そろそろ君たちのクラスと真名を教えてくれないかな?」

「…………」

 

 質問の答えは、無言で放たれた強烈な殺気だった。

 横でアイリが息を飲むのが分かる。

 切嗣自身、背中に嫌な汗が流れるのを感じた。……そんなことは久し振りで、少し驚いてしまった。

 

「……貴様がルークを攫ったのか」

 

 続いて放たれたのは質問だ。

 ここに来て切嗣は、相手が通常のサーヴァントのように聖杯から知識を得ていないのではと思い至る。

 ならば、どうやってこの黒い男を利用するか……。

 

「私から……息子を奪うとは……!!」

 

 この時、切嗣にはいくつかの選択肢が与えられていた。

 一つ、聖杯戦争や令呪について洗いざらい説明する。

 一つ、限定的に情報を開示し相手に『勘違い』してもらう。

 一つ、一つ目の令呪を用いて、『パパ』にお帰り願う。

 一つ、魔術と懐に忍ばせた銃で攻撃する。

 

 しかし、残念なことにそのいずれの選択肢も切嗣は選ぶことが出来なかった。

 なぜなら、何の前触れもなく首が締め付けられたからだ。

 

「がっ…………!?」

「貴様はシスの暗黒卿の極限の怒りに触れたぞ……!!」

 

 黒い男は、その場で手をかざしている。

 それだけだ。

 それだけで、切嗣の首は大男に絞められているかのような圧迫感に包まれる。

 息が出来ない。声も出せない。

 何とか反撃しようと懐の銃に手を伸ばそうとした瞬間、今度は何かに突き飛ばされたような衝撃に襲われ、壁に叩き付けられた。

 

「ぐ……!」

「切嗣!」

 

 アイリスフィールが悲鳴を上げて夫に駆け寄る。

 黒い男は、手に何か……円筒状の機械のような物を握る。

 その機械からブォンと独特と音がすると同時に、赤い……光の刃が現れた。

 宝具であるかは分からない。一見すると子供用の玩具にも見える。

 だが、それが人間とホムンクルスを一人ずつ切り刻むには十分な殺傷能力があることが、何故だか理解できた。

 

「ただでは殺さぬ。苦痛と恐怖の中で死ぬがいい」

「待って! 説明するわ! だから待ってちょうだい!!」

「その提案は却下されたぞ」

 

 アイリスフィールの必死な言葉を傲然と一蹴し、黒い男はゆっくりと二人に近づく。

 周囲の椅子や装飾品が、触れもしないのに歪み潰れ砕けていく。

 

「れ、令呪を持って命ずる……」

 

 その時、切嗣が力を振り絞って令呪を発動した。

 

「そいつに、僕たちを傷つけさせるな……」

「…………?」

 

 首を傾げたルークだが、父に駆け寄るとマントの端を引っ張る。

 

「パパ、そのおじさんたちをいじめるの?」

「このおじさんたちは、悪い人たちなんだ」

 

 さらに首を傾げ、父を見上げるルーク。

 黒い男は、ハアと息を吐いた後、光の剣を消す。

 息子の前で、人殺しは出来ないと思い止まったらしい。

 

「よかろう……貴様たちの『説明』とやらを受けよう。我が息子に感謝するのだな」

「ああ、助かるよ……ここでは何だ、場所を変えよう」

 

 切嗣はホッと息を吐いた。

 数々の修羅場を潜り抜けてきた彼であるが、今回は危なかった。

 

 ……あるいはこの異常事態に置いて、切嗣もアイリスフィールも正常な判断力を失っていたのかもしれない。

 

 令呪は確かにセイヴァー……ルーク・スカイウォーカーに効果を発揮した。

 しかし、便宜上宝具扱いではあるがルークから独立した存在であるダース・ヴェイダーには、何の影響も及ぼしていないことに気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、遥か銀河の彼方では……。

 

ピエット提督「あの、ヴェイダー卿、消えちゃったんですけど……」

皇帝「しゃーないのお。デス・スター、発進じゃ!!」

ターキン総督「おやめください!!」

ピエット提督(胃が痛え……)

 




言ったはずだ。Fateについてはニワカもいいトコだと……!

……設定の祖語とか酷いことになってそうで怖い。

ちなみにこの作品だと、TYPE‐MOON作品の舞台になってる太陽系は、スターウォーズ銀河の端っこの方に浮かんでる設定。

続きは未定。未定ったら未定。


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まるで駄目なお父さんズ

またしても続いちゃいました。


「よーし! 今日こそは絶対に負けないからねー!」

 

 アインツベルンの城を囲む森で、イリヤスフィールは胡桃の冬芽を探していた。

 普段なら父である切嗣も共に探すのだが……しかし、ここ最近は事情が違った。

 

「イリヤー! くるみ見つけたよー! ボクが一番だい!」

「ええー、またルークが見つけたのー!? 早すぎるよー!」

「えへへ、これぐらい簡単だよ!」

「むー……よーし、次は私が見つけるからねー!」

 

 先日召喚したサーヴァント、セイヴァーことルークがイリヤとそれは仲良さげに雪景色を駆けまわっている。

 普通なら微笑ましい光景なのだろうが、切嗣からしてみれば英霊などと言う碌でもない男が可愛い可愛い娘に迫っている図にしか見えない。

 それでも、娘が喜んでいるのは事実なので何も言えない。

 

 故に木の陰から能面のような無表情のまま死んだ魚のような目で二人を覗き見ることしかできないのだった。

 

  *  *  *

 

「……………」

 

 窓の傍で愛息子と切嗣の娘が遊んでいるのを……ついでにまるで駄目なお父さんオーラ全開の切嗣……ヴェイダーは腕を組んで眺めていた。

 聖杯戦争についての『説明』を受けたヴェイダーだったが、その内容はとても受け入れることは出来ない物だった。

 

 曰く、あらゆる時代、あらゆる国の英霊を七騎のサーヴァントとして召喚、使役して行う殺し合い。

 曰く、そうして最後の一人に与えられる聖杯は、あらゆる願いを叶えることが出来る。

 曰く、その聖杯を使えば自分とルークは元いた場所に帰ることが出来るかも知れない……これが自分たち親子が戦争に参加するメリットだ。

 

 ……馬鹿馬鹿しい話だ。

 

 切嗣は、嘘は言っていないのだろう。

 だが、全ての情報を吐き出してもいない。

 限定的に情報を開示して、意図的にこちらに勘違いを起こさせようとしている。

 切嗣とて、ヴェイダーが信用するとは思っていまい。

 その証拠に令呪によってルークが三回……すでに一度使ったので後二回……まで切嗣に絶対服従であり、その気になれば自害させることも出来るし、ヴェイダーがそれを阻止したとしてもその時は別の手で確実にルークを殺すと仄めかしていた。

 

 フォースの暗黒面の源ある怒りや憎悪が身内で膨れ上がっていくのを自覚しながらも、ヴェイダーは感情の暴発を抑え込んでいた。

 

 ……相手が真実を語らないのなら、こちらも全ての手札を晒す必要はない。

 

「何を見ているの?」

 

 と、アイリスフィールが隣に立った。

 ヴェイダーはそちらを向かずに答える。

 

「別に。息子の様子を見ていただけだ」

「あらあら……」

 

 微笑むアイリスフィール。

 外の夫と娘を見る視線は、慈しみに溢れていた。

 

 受け入れ難いのは、彼女のこともある。

 

 聖杯の力を使って、世界を救済したい。

 

 それが衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンの願いだ。

 その願い自体に、ヴェイダーはとやかく言うつもりはない。言えるほど立派な人間ではない。恐らく切嗣にとって、その願いは呪いにも似た大願であり、諦めるという選択肢さえないのだろう。

 だが自分と息子が巻き込まれた以上、どれだけ高尚な願いだろうと、切嗣がどれだけ切実に真摯に願っていようと関係ない。

 

 何より……その願いのために妻を犠牲にしようと言うのが、許しがたい。

 

 『小聖杯』なる存在であるアイリスフィールは、脱落したサーヴェントの魂の受け皿となり、やがて壊れる。

 

 なぜ、愛する家族を贄にしようとする?

 全身の火傷が、失った四肢が、傷ついた魂が痛む。

 

 無言だが、僅かに呼吸音が早くなったヴェイダーに、アイリスフィールは心配そうに声をかける。

 

「大丈夫? ヴェイダー」

「……何でもない、少し城の外を歩いてくる」

 

 身を翻し、ヴェイダーは部屋の外へと出ていった。

 

  *  *  *

 

 ヴェイダーがここまでの情報を得ることが出来たのは、切嗣にとっては正しく誤算であった。

 

 切嗣とアイリスフィールは、確固たる意思を持っている。

 アハト翁ことユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンも頑迷で視野が狭いが意思は強い。

 しかし……他のホムンクルスはその限りではない。

 そもそもホムンクルスとは意志薄弱な存在だ。

 故にヴェイダーはフォースの力の一端たるマインドトリックを用いて、容易く情報収集が可能だった。

 

 結果として分かったのは聖杯戦争自体が第三魔法なる物の実現、あるいは『根源』への到達を目的とした儀式であり、聖杯が願いを叶えるのはその副産物に過ぎないと言うことだ。

 さらに聖杯は一つの願いしか叶えられない上に『根源』とやらに至るにはサーヴァント七騎分の魂が必要なため、勝ち残ったサーヴァントは十中八九マスターによって自害を命じられることになる……とんだ出来レースである。

 

 そしてもう一つの誤算は、ヴェイダーとルークの親子が元いた場所に帰る手段がないと思い込んでしまった……そうなるようにヴェイダーが仕向けた……ことだった。

 

 ヴェイダーは城外に出ると、周囲に人の気配と盗聴器の類がないことを確認した。

 フッと息を吐いてから……実際に漏れた音は例によってコーホーだったが……手に持った機械を作動させた。

 

『ア…キ…! アナ…ン! 聞こ…るか?』

「オビ=ワン。聞こえている」

 

 機械から投射されたのは、白い髪と髭の老人だった。

 東洋の着物とも西洋のローブとも付かない衣装を着たその老人は、ホッとした様子だ。

 

『アナキン! 突然消えたから心配したぞ! 状況はどうなっているんだ?』

「落ち着いてくださいオビ=ワン。……こちらは今のところ無事です。ルークも発見しました」

『何だって!? いったいどう言うことなんだ?』

「これから説明します」

 

  *  *  *

 

『ふむ。……ではその場所は、未発見の星系だと言うんだな?』

「ええ。現地の呼称では地球と言うのだそうです」

『ううむ……しかし死者を呼び出して争わせるとは、何と言う恐ろしい技だ。死者への敬意と言う物がないのか?』

「シスにも、そのような技はありません。件の聖杯戦争ですが息子に戦わせるワケにもいかないので、私が参加すると言う条件を飲ませました。向こうも最初からそのつもりだったのでしょう。アッサリ受け入れましたよ」

『アナキン、お前はまた勝手に……いや、今は議論の時ではないな。とにかく、そちらへ向かおう。この通信を辿れば、その星に行きつけるはずだ。いずれ、そのフユキと言う街で落ち合おう』

「はい、では彼の地で」

 

 通信を切ろうとしたヴェイダーだったが、それまで真面目だったオビ=ワンの雰囲気が少し砕けたものになった。

 

『あまり無茶はするなよ。……レイアが心配するからな』

 

 レイアの名が出ると、ヴェイダーの纏う空気が悲しげな物になった。

 オルデラーンのベイル・オーガナ議員に預けてきた愛娘のことを思うと、寂しい気分になる。

 

「もちろんです。……私の目的はただ一つ。ルークを無事に連れて帰ることですから」

 

  *  *  *

 

 通信を終えたヴェイダーはマスクの下で一つ息を吐いた。

 まったくオビ=ワン・ケノービはいつまでも自分を弟子扱いする。

 誤解と憎しみから袂を分かち、息子と娘をきっかけに和解して、お互いの立場から距離を置きつつも親交のあるあのジェダイマスターにとって、自分は未だ『手のかかる弟分』なのだろう。

 しかし、悪い気はしない。

 ジェダイとシスがそんな関係で良いのかと先人たちが文句を言ってきそうだが、ジェダイの長老たるヨーダとシス・マスターである皇帝からして茶飲み友達みたいな間柄だから、もうどうでもいいことだろう。

 

  *  *  *

 

「パパー!」

 

 さて城に戻ろうと歩いていたヴェイダーの足にルークが抱きついてきた。

 何故だか泣いている。

 

「ルーク、どうしたんだ?」

「キリツグが……わあああん!!」

 

 また、何かやらかしたのかあの死んだ目のオッサン。

 

「キリツグ、貴様何をした?」

 

 丁度本人が歩いてきたので問い詰めてみれば、切嗣は無表情に答えた。

 

「別に? 君の息子が反則で胡桃の新芽を見つけるから、イリヤにコツを教えただけさ」

「サワグルミも胡桃だって……」

 

 心なし得意げな切嗣と涙声のルークの言に、ヴェイダーはマスクの下でムッとする。

 

「それこそ、反則だろう」

「いやいや、君の息子がフォースとか言う反則をしたからお相子さ」

 

 大人気ないことを言い出す切嗣。

 子供の戦いに大人が首を突っ込むとは。

 

「フォースは反則ではない。ルークの持つ技能だ」

「いいや反則だね。でなければ、イリヤが負けるはずがない」

 

 結局の所、そこに帰結するらしい。

 本当にどうしようもない男だ。

 ルークが負けることなど有り得ない。そんなことも分からないのか。

 

 ……結局この二人、揃って親バカであった。

 

 

 

 

 

 

 ヴェイダー「そういえば、私はどうやってフユキに行くんだ?」

 切嗣「…………(どうしよう、こいつ凄く目立つし、霊体化できないし)」

 




クローン戦争が勃発して、ジェダイオーダーが解散してて、帝国が樹立してるけど、割と皆仲良しな謎時空。

ちなみにオビ=ワンは消えちゃったヴェイダーに変わり、エクゼキューターでピエット提督との二頭体制で臨時に指揮を取ってます。

アハト翁、普通の魔術師って資料と、アインツベルン城の制御AI的な何かの生体端末的なナンかっていう資料があるけど、どっちが正解なんですか?
教えて偉い人!


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ディルムッド不遇伝説

そろそろ連載にしようかと思ってます。


 結局の所、異常なまでに目立つヴェイダーは、周りに気付かれない石ころ帽子的魔術で何とかすることになった。

 

 さらに問題はあり、アイリスフィールとヴェイダーだけ飛行機に乗せて切嗣とルークは別ルートで日本に向かおうすればルークがパパと一緒がいいと駄々をこねた。

 

 この際のルークの「キリツグは意地悪だからヤだ!」と言う言葉に、本人はちょっと傷付いていた。

 

 結局、切嗣に他人の子供の面倒を見るのは無理と言うアイリスフィールの意見もあって……当人がしょぼくれていたが事実である……全員で切嗣が新しく用意したルートで日本に向かうこととなった。

 

 出発の日、イリヤスフィールが最初に泣きついたのが父母ではなく『初めての友達』であるところのルークであったため、ヴェイダーがフォースでもって死んだ魚の様な眼で何かしようとしている切嗣を抑える破目になったり。

 密輸船がボロいわ、狭いわ、臭いわ、ムサいわ、ルーク泣き出すわで……アイリスフィールはそれでも楽しそうだったが……大変だったりした。

 

 そんなこんなで……。

 

  *  *  *

 

 冬木市のとあるホテル。

 切嗣は、先んじてこの町に潜り込んでいた助手の久宇舞弥と合流していた。

 さらに別の経路で運び込んだ銃器類を確認してから、切嗣は舞弥に向き合う。

 

「舞弥……実は折り入って頼みがある」

「はい、切嗣。分かっています。サポートはお任せください」

「……ああ、いや。そうじゃないんだ」

 

 深く深く息を吐く切嗣に、舞弥は首を傾げる。

 その上でこの聖杯戦争で愛する妻を裏切らねばならない、切嗣の不安に思い至り彼の首に手を回すが……。

 

「おばちゃん、なにしてるの?」

「?」

 

 突然、子供の声が聞こえた。

 

 声のする方に首を向ければ……さりげなく懐の銃を取り出せるようにしつつ……そこには案の定子供がこちらを見上げていた。

 

 4才くらいの、金髪に青い目の白人の子供だ。

 

 銃器の置かれた部屋の中に似つかわしくない存在だが、舞弥は冷静にその正体に思い至る。

 

「切嗣。この子が例の……」

「ああ、セイヴァーだ。それで舞弥、頼みたいことと言うのは……」

 

 

 

「こ の 子 の 世 話 だ」

 

 

「……………………は?」

 

 極めて感情の薄い、と言うより感情が育っていない女、久宇舞弥は極めて珍しいことに目を丸くしたのだった。

 

  *  *  *

 

 アイリスフィールとダース・ヴェイダーが表向きのマスターとサーヴァントとして動き、切嗣が裏で二人を援護……と言う名の暗躍……することになっているのだが、ここで困ったのがルークをどうするかである。

 聖杯戦争に参加させないのがヴェイダー参戦の条件であるからアイリスフィール組と共に行動できないし、切嗣にルークの世話は色んな意味で無理である。

 かといってまさか託児所に預けるワケにもいかない。

 

  *  *  *

 

「と言うワケで、消去法で舞弥に任せることになったんだ」

「は、はあ……。それは構いませんが……」

 

 切嗣の説明に困惑しつつも、舞弥はルークの方を見る。

 

 そこではルークが何か、青と白の丸っこいデザインの機械にしがみついていた。

 電子音のような音を出しながら、単眼のようにも見えるカメラと思しいレンズを動かしている。

 

「あの機械は……?」

「ああ、ヴェイダーの宝具で、彼が自分の整備をさせるために呼び出したそうだ」

 

 定期的に義肢や胸の生命維持装置の調整をしなければいけないと言うヴェイダーが召喚した、その機械に視線をやってから、切嗣はもう一つ息を吐く。

 まだ戦ってもいないのに既に疲れた様子である。

 

「まったく、サーヴァントと言うのは僕が思っていた以上に何でもアリらしい」

「はあ……」

 

 ……もちろん、その機械(ドロイド)……R2-D2はヴェイダーの宝具などではなく、死の小艦隊に先行して地球に到達し、ヴェイダーと合流したに過ぎない。

 それでも切嗣がR2-D2を自分の宝具だというヴェイダーの説明を信じたのは、ヴェイダー自身がルークに宝具として召喚される場面に居合わせたからだ。

 

「まあ、見た所無害そうだし、ロボットに何が出来るとも思えない。……注意するに越したことはないが、まあルークの面倒の助けにはなるだろう」

 

 これは切嗣の間違いである。

 ピキャピキャと電子音と立てながらルークと遊んでいるアストロメイクドロイドは、『見た目に騙されてはいけない』という言葉をこの上なく体現しているのだから。

 このR2-D2こそ、無害な機械などではなく、ドロイドの域を超えた知性と感情を持ちヴェイダー……アナキン・スカイウォーカーと共に数多の戦場を駆けてきた歴戦の勇士であることを、切嗣たちは知らない。

 

 つまり、面倒を見ると言う名目でルークの監視役……つまりいざと言う時にルークを害する役……になった舞弥を、さらに見張る『逆』監視役として、ヴェイダーはR2-D2をルークの傍に置くことにしたのだ。

 

  *  *  *

 

 夜……冬木港のコンテナ置き場。

 

 幾つものコンテナが積まれたここに、ダース・ヴェイダーとアイリスフィールの姿があった。

 アイリスフィールは緊張した面持ちであり、ヴェイダーは逆に慣れた様子だ。

 

「……来たか」

 

 ヴェイダーたちの前方の空間が歪み、人影が現れた。

 

「よくぞ来た、と言うべきか。今日一日この街を練り歩いたが、誘いに乗ったのはあなたたちだけだ」

 

 青い装束に白銀の鎧、星の光のような美しい金色の髪だ。

 

「正直な所、このようなやり方に戦術的な価値を見いだせないが……マスターの意向だ」

 

 そして、そのサーヴァントは……美しい女性だった。

 鎧でも隠し切れぬ、女神が地上に顕現したが如き豊満でそれでいて締まる所は締まったプロポーション。

 大人の女性のそれでありながら、凛と整った容貌。

 全身から放つ清廉で神々しいなまでの気配。

 

 闇のように黒い装甲服とマントに身を包み、禍々しくも圧倒的な気配を放つヴェイダーとは、正しく好対照と言える。

 

 ……そして何より目立つのは、手に持っている……それだけで、周囲を飲み込みかねないほどの存在感を放つ、一本の長槍であった。

 

「なるほどな。……英霊などと大層なことを言うだけのことはあるようだ」

 

 ヴェイダーは彼女の立ち振る舞いと気配からタダならぬ敵であることを見抜き、ライトセイバーを起動する。

 現れる真紅の光刃に、女性サーヴァントは合点がいったとばかりの顔だ。

 

「ほう、貴公はセイバーのサーヴァントか」

「いや違う。私は剣騎士(セイバー)を名乗れるような、高潔な男ではない」

「では……?」

「私はシスの暗黒卿ダース・ヴェイダー。これが真名……と言っていいだろう」

 

 その名乗りに、目の前の敵サーヴァントはもちろん後ろのアイリスフィールも……そして狙撃銃のスコープを覗き込む切嗣も怪訝そうな顔になる。

 その全員に答えるように、ヴェイダーは声を出す。

 

「別によかろう。誰も知らぬ名なら、弱点が漏れる心配もない」

「……確かに。シスの暗黒卿なる物も、ダース・ヴェイダーなる英雄も、耳にしたことはない」

 

 女性サーヴァントは冷静な様子だが、油断は全くなく、手に持った長槍をヴェイダーへと向ける。

 

「こちらも名乗りたいところだが、無粋を承知でクラス名でもって代わりとしよう。私はランサーのサーヴァント。……その首級、貰い受けるぞ。シスの暗黒卿!!」

 

 ……彼女の真名はアルトリア・ペンドラゴン。

 またの名をアーサー王。

 

 ブリテンの偉大なる騎士王が、槍持つ騎士(ランサー)として現界した姿である。

 




ディルムッドが不参戦! この人でなし!!

そしてFate/GOはやったことありません!
だってスマホ持ってないし! ……スマホ持ってないし!!

……地味にノチの展開が凄く変わりそう。


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自律型多目的高機動宝具『UMA』

連載にします。


 初手はランサーからだった。

 

 恐るべき速さで繰り出された長槍の切っ先がヴェイダーに迫るが、ヴェイダーはライトセイバーでこれを弾くが、次の瞬間には二手めの槍が、それもヴェイダーの頭と首と胸と腹をほぼ同時に狙う。

 

 ヴェイダーは後退しながら、こちらも同時に見えるほどの速度でライトセイバーを四度振るい、槍を防いだ。

 

 ……いや、五度だ。全ての刺突を防御すると同時に、さらに一度光刃を振るいランサーを斬りつける。

 

 ランサーは槍で持ってそれを受けるも、斬撃の重みに後退する。

 

 力比べでは不利と見たランサーは地を蹴って距離を開け、次いで怒涛の如き攻撃をヴェイダーに浴びせる。

 

 しかしヴェイダーは全ての攻撃を的確に防御し、合間にフォースプッシュによる小技を挟み込む。

 

 自らを押しのける不可視の力にランサーは驚きはしたものの、それも一瞬。地面に槍を突き立て吹き飛ばされるのを防ぎ、ヴェイダーに向け槍を振るう。すると槍の切っ先から光線が飛び出した。

 

 この意外性のある攻撃を、しかしヴェイダーは慣れた様子で光刃をもって斬り払う。

 

「見えない圧力とは……奇怪な技を使う」

「槍から光線を出す貴様に言われたくはない」

 

 一見すると、激しく動くランサーに対しヴェイダーは防戦一方に見える。

 だが、ランサーもまた金城鉄壁とでも言うべきヴェイダーの防御と隙あらば……この『隙』は常人にしてみれば、刹那よりなお短い……容赦なく放たれる苛烈な反撃を前に攻めあぐねていた。

 

 いかな英霊と言えど所詮は辺境の星の戦士、銀河を又にかけるヴェイダーの敵ではない。

 

 

 

 

 

 ……などと言う慢心はヴェイダーの中にはまったくなかった。

 

 他の星から隔絶された惑星タラーレックに恐るべきダーク・アコライトが育ち、

 独自の宗教を持つ惑星カリーでジェダイキラーと呼ばれる将軍が生まれ、

 未知なる惑星シラから不世出の天才戦略家である大提督が現れたことを考えれば、この用心は全く持って妥当と言えた。

 

 また、女性と侮る心も存在しない。

 女性のジェダイマスターたち、愛弟子、そして妻のような女傑たちを知る身としては当然だ。

 

 それでも、鋭い刺突を凌ぎながらヴェイダーの心中にあったのは、驚きに他ならなかった。

 

 あらゆる物体を溶断するはずのライトセイバーを持ってしても傷一つ付かない槍と、筆舌にしがたい速度と重さでもってあらゆる角度から繰り出される攻撃。

 何よりも、それを振るうランサーの技巧と、彼女から感じる絶大で純粋なフォース。

 

 どれもが百戦錬磨のヴェイダーをして驚愕させる。

 これほどの使い手は、長い戦歴の中でも数えるほどしか出会ったことがない。

 

「凄まじい腕だな。素直に賞賛しよう」

「貴公こそ、この恐ろしいなまでの剣技と戦馴れした態度。本当にセイバーではないのか?」

「言ったはずだ。私は騎士とは最も縁遠い男だ」

 

  *  *  *

 

 一方、物陰に隠れた切嗣は、自らの役割であるマスターの索敵に専念していた。

 

 ヴェイダーとアイリスフィールがサーヴァントを引きつけ、切嗣がマスターを狩る。

 この役割分担に、ヴェイダーは文句を言わないばかりか、むしろ妥当だと納得していた。

 

 どうもヴェイダーは切嗣のやり方を許容しているようで、そう言う意味では切嗣に取ってもやり易いサーヴァントと言えた。

 あの見るからに清廉潔白なランサーあたりとだったら、さぞ上手くいかなかっただろう。

 

 それはともかく、さっそくランサーのマスター……ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを発見した。

 ……ほぼ同時に、アサシンのサーヴァントを発見したのは幸か不幸か。

 

「しかし、アレは本当にサーヴァントなのか?」

 

 どう見ても中東の暗殺教団の出身者には見えない。

 

 覗き込んだスコープの向こう側には、『白い装甲服』に『T字型のバイザー』のあるヘルメットを被った兵士が、切嗣が見たこともない銃を手にしていた。

 

  *  *  *

 

 青と赤、白銀と漆黒、静と動。

 

 どこまでも対照的な戦士二騎は、熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

 だが……。

 

『何をしているランサー? そのような名も知らねぬような雑魚を相手に何を手こずっている?』

 

 どこからか声が聞こえた。

 恐らく、ランサーのマスターだろう。

 ヴェイダーと距離を取っていたランサーは顔をしかめた。

 

「マスター? しかし、この男はただならぬ使い手。一筋縄ではいきません」

『言い訳は無用。宝具の開帳を許す。速やかに始末せよ』

「……了解しました。我がマスター。……来たれ! ドゥン・スタリオン!」

 

 少しだけ不満げながら、ランサーが声を上げると、彼女の脇に馬が現れた。

 

 見事な白馬で、ランサーの物に似た意趣の白銀の鎧を着込んでいる。

 その迫力から、この馬もまた英霊の一種であると見て取れた。

 

 人外の域にあるサーヴァントの戦いを黙って見ていることしか出来なかったアイリスフィールも、これには声を上げる。

 

「馬!? ランサーではなかったの?」

 

 一飛びで白馬に跨ったランサーは、白馬の鬣を撫でながら槍を前へ……ヴェイダーへと真っ直ぐ向ける。

 

「元より槍とは馬上にて振るう物。これなるは我が愛馬、ドゥン・スタリオン。我が戦友にして、我が宝具。よもや卑怯とは言うまいな」

「他者を卑怯となじれるほど、正々堂々とはしていない」

「フッ……」

 

 ここに来て初めて、ランサーは笑んだ。

 ヴェイダーもまた、この敵が敬意に値する相手であると感じていた。

 

 ……だが、これは戦争であり、ヴェイダーが優先するべきは息子の安全である。

 そこらへんはキッチリと割り切っていた。

 

『じゃれ合いはそこまでにしろ。……殺れ、ランサー』

「言われずとも。……シスの暗黒卿、ダース・ヴェイダーよ。改めて……いざ、まいる!!」

 

 ドゥン・スタリオンが地を蹴るや、一瞬にしてヴェイダーの眼前に現れていた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に真正面からは受け切れぬと判断し、フォースの力で自らを弾き飛ばし横に跳んで躱そうとするヴェイダー。

 

 だが、それを見越したかのように長槍の切っ先が行く手に現れる。

 

 それをフォースでもってギリギリ反らし、斬り返そうとすれば、これは魔法のように現れた槍によって防がれた。

 

 これだけのことが、ドゥン・スタリオンに乗ったランサーとヴェイダーが交差する一瞬の間に行われた。

 

「その不可視の力……どうやら魔術とは異なるようだ。貴公はその力を完全に技の一部として取り込んでいるのだな。さらに今の一瞬でこちらを斬ろうとするとは、やはり凄まじい戦士だな、貴公は」

「やり難いものだ。その速さと重さから来る突撃力。加えてその動物の動きが槍の軌道を不規則にしている。馬と言ったか? 中々に侮り難い。……いや、何より賞賛すべきはやはり、それを駆る貴様の技量か」

 

 人馬一体とでも言うべき技の冴えを見せるランサーも、それに一瞬で対応して見せたヴェイダーも、どちらも人知を超えた技と力の持ち主だった。

 

「名残惜しくはあるが、次の一手で決めさせてもらう」

 

 ランサーの槍に魔力が籠っていき、同時にドゥン・スタリオンが力を溜めているのをフォースの流れから察知したヴェイダーは、こちらも反撃に必殺の一手を繰り出すべく身に力を込める。

 どうせ、こちらはビームだ何だは出せない身。剣技とフォースを持って応えるのみ。

 

 二人の間の緊張と力が高まっていき、それが最高潮に達して弾けようとした瞬間……。

 

「双方、剣を収めよ! 王の御前であるぞ!!」

 

 突如、雷鳴が轟いた。

 




あー……やっぱりバトルは難しい……。

UMAもといドゥン・スタリオンは宝具扱い。
初戦から対城宝具ブッパしたりはしません。

ヴェイダーはアナキン時代はビュンビュン跳び回っていたけど、サイボーグになってからは防御と一撃の重さに重点を置いた動きになってるらしいです。
反逆者たちでは、それでも速いけど。


そして百貌さん、ごめんなさい。


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この戦い、乱入多すぎねえ?

「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争に置いてはライダーのクラスを得て現界した!」

 

 雷鳴を纏って黒い戦士と青い女騎士の戦いに割り込んできたのは、二頭の牛に引かれた戦車に乗った、堂々たる偉丈夫であった。

 赤い髪と外套、古代の鎧、筋骨隆々とした肉体に、自信に満ち、それでいて人懐っこそうな顔。

 正しく人々が思い描く英雄豪傑を絵にしたようだ。

 

「何を考えていやがりますか!? この馬鹿はーーッ!?」

 

 ……脇に小柄で貧相な少年がいるのが、いささかアンバランスではあるが。

 

「うぬらとは、聖杯を巡り相争うめぐり合わせだが……まずは問うておくことがある」

 

 新たな乱入者に、そしてその乱入者が自ら秘匿すべき真名を明かしたことに、戦っていたヴェイダーとランサー。

 それを隠れて見ていたあらゆるマスターが驚き動揺する。

 

「うぬら、一つ我が軍門に下り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し! 世界を征する快悦を共に分かち合う所存である!!」

 

 さらに、豪放な笑みと共に放たれた言葉はサーヴァント、マスター、その両方の理解を超えていた。

 やはりと言うか、最初に反応したのはヴェイダーとランサーだった。

 

「無論、断る。二君に仕える気はない」

 

 こう言ったのヴェイダーではあるが、彼の言う『二君』とはもちろん切嗣とライダーのことではなく、皇帝とライダーのことだ。

 

「そもそも、貴様はそのような戯言を述べ立てるために我らの戦いを阻んだのか? だとすれば、騎士として許しがたい侮辱だ!」

 

 ランサーも顔をしかめつつ拒否する。

 にべもなく断る二騎に、ライダーは自分の親指と人差し指で輪を作って見せる。

 

「対応は応相談だが?」

「くどい!」

 

 ランサーが吼え、ヴェイダーは無言で大きく息を吐く。

 

「むう……」

「重ねて言うなら……私も一人の王として一国を預かる身。いかに大王と言えど臣下に降るわけにはいかぬ」

「ほう! それほどの美貌で一国の王とな! さぞや、臣下も士気が高かったであろう!」

 

 ランサーの言葉に面白そうに笑うライダー。

 それをどう受け取ったのか、ランサーは形のいい眉を吊り上げる。

 ヴェイダーとしては、様々な星の王や女王を見てきたので、別に珍しいこととも思わなかった。

 

 第一、妻が女王だったし。

 

「……その女の一突きを、その身に浴びてみるか? ライダー!」

「こりゃあ交渉決裂か、むう、勿体ないなあ」

「ライダァアアア!!」

『あんな馬鹿に世界は一度征服されかけたのか……』

 

 怒る女騎士、残念そうな騎手、絶叫する少年、呆れて思わず念話してくる切嗣。

 そのいずれにも特に興味は無く、しかし油断なく一連の流れを眺めていたヴェイダーだが、新たな気配を察知した。

 

「だいたいお前は……」

『そうか、よりによって貴様か』

 

 新たに聞こえた声に、ポカポカと征服王を叩いていた少年が固まる。

 

『いったい、何を思って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば……まさか君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはねえ……ウェイバー・ベルベット君?』

 

 どこか神経質そうなネットリとした声。ランサーのマスターだろう。

 

『君については、この私が特別に課外授業を受け持ってあげよう。魔術師同士が殺し合うと言う本当の意味……その恐怖と苦痛を、余すことなく教えてあげるよ。光栄に思いたまえ』

 

 その男……ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのネットリとした声に、ウェイバーは頭を抱えて震えあがる。

 どうもこの二人、何らかの師弟であるようだ。

 魔術師とはシスのように恐怖で弟子を鍛え、憎しみを煽るのだろうかとヴェイダーは考える。

 だとすれば、この厳しい態度も弟子を鍛えるためにワザとやっているのだろう。

 中々に堂の入った嫌われ役っぷり。見事な物だと感心する。

 

 ……これが素でやっているとは、露とも思っていなかった。

 

「おう、魔術師よ! さっするに貴様はこの坊主に成り変わって余のマスターになる腹だったらしいなあ? だとしたら片腹痛いのお! 余のマスターは、余と共に戦場を駆ける勇者でなければならぬ! 姿を晒す度胸もないような輩なぞ、役者不足も甚だしいぞ!! フハハハ!!」

 

 ウェイバーの背を叩き高笑いする征服王。

 しかしヴェイダーは、その意見には賛同しかねた。

 切嗣の説明や短い間だがウェイバーを観察するに、どうも魔術師と言うのは『学者』であって『戦士』ではないと見受けられる。

 そんな連中を前線に連れてきても、足手まといなだけだ。

 

 そう言う意味では切嗣は『当たり』と言えるだろう。

 

 ……自分がガチガチの非戦闘員だった幼少期に、戦場に乱入したあげく敵艦を沈めたことを大きく棚に上げた思考だった。

 

「それで? 貴様は結局、我らを勧誘しに来ただけか?」

「おう、黒いの! 確かヴェイダーだったか? そう急くな! 他にも闇に紛れて覗き見ている者がおるようだからな! 貴様とランサーの戦いに引き寄せられたのが、まさか余だけではあるまい!!」

「ああ、霊体化してる奴らのことか。二体ほどいるようだが?」

 

 何てことないように言うヴェイダーに、ランサーは目を見開き、ライダーはムウと唸る。

 ついでにアイリスフィールと切嗣も唖然としていた。

 

「貴公、霊体化したサーヴァントの姿が見えるのか!?」

「『何となく、ここらへんにいる』と言う程度だがな。どのような姿形なのか、どの程度の強さなのかは分からぬ」

「フハハハ! こいつは芸達者な奴よ! さあ、出てくるがいい!! もう逃げ隠れは出来んぞ!!」

 

 果たしてライダーの声に応えたのか、新たな気配にヴェイダーがそちらを向くと、眩いばかりの金色が目に入った。

 

「我を差し置いて王を称する不埒者が、一夜に二匹も湧くばかりか、王の姿を盗み見る痴れ者までもが湧いて出るとはな」

 

 街灯の上に実体化したのは、金色の鎧を着た若い男だった。

 

 金色の髪に赤い瞳の優男だが、ヴェイダーをして驚嘆させるほどの純粋で強烈なフォースを感じる。

 

 その表情には信じがたいほどの傲慢さが滲んでいた。

 

「難癖つけられてもなあ……、イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……」

「たわけが。真の王たる英雄は天上天下にこの我唯一人。後は有象無象の雑種に過ぎぬ!」

「そこまで言うなら、まずは名乗りを上げたらどうだ? 貴様も王たる者ならば、己の異名を憚りはすまい」

「問いを投げるか、雑種風情が… 王たるこの我に向けて! 我が拝謁の栄に浴して尚、この面貌を知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すら無い!」

 

 

 

 

 

 

 

「『そんなこと』はどうでもいい」

 

 赤い王と黄金の王の間に割って入ったのは、シスの暗黒卿だった。

 

「貴様が……いや、貴様らが何者であろうとどうでもいい。全て倒すだけだ」

「ほう? 我の耳も聞き間違えとやらがあるようだ。貴様、この我を『どうでもいい』などと抜かしたか?」

「どうでもいい、と言った。貴様が何者であろうと、敵として現れたからには斬るだけだ。まして死人の、さらにその影に過ぎぬ貴様らに興味など湧かん」

 

 黄金のサーヴァントの顔が不快と怒りに歪む。

 

「よくぞ抜かした雑種! ならば我が財宝を仰ぎ見て、同じ台詞を吐けるか試してやろう!」

 

 その背後の空間に水面の波紋のような物が浮かび、槍と剣が顔を出す。

 二振りとも、ランサーの槍には及ばずとも凄まじい存在感を持っている。

 ヴェイダーはライトセイバーを構える。

 

 殺気が高まる二人だが、そこに新たな影が踊り込んできた。

 

 魔力が渦巻き、黒い鎧と黒い霧で全身を覆い隠した騎士が現れた。

 

「むう!?」

「今度は何だ!」

「あれは……バーサーカー!?」

 

 呻く、ライダー、ヴェイダー、ランサー。

 

 この戦場、乱入者多過ぎである。

 

 そのサーヴァント……バーサーカーは、辺りを見回しアーチャーを見上げる……前にランサーを二度見した。

 

 眼をこすり、三度見。

 さらに頭を振ってからまさかの四度見である。

 

「え、えっと何でしょうか?」

「■■■■■ーーッッッ!!」

 

 ジィーッとランサーを見つめていたバーサーカーだが、おもむろに天に向かって吠えた。

 

 さらに四つん這いになったかと思うと地面を何度も殴りつける。

 その間にも絶えず咆哮しているが、その声は慟哭のように聞こえる。

 

 彼は言葉を発さぬバーサーカーではあるが、あえて訳するならば、こうなる。

 

「違うんだ! 王って言うのは小さいからいいんだ!! あの、『え? あれ男装って言い張るのは無理がね?』みたいな感じの容姿で、少年だと言い切る思い切りの良さと、絶妙なズレが素晴らしいんじゃないか!! それなのに、何だそのタワワな二つの果実は!? 私はどちらかと言えば人妻萌えだが、思わず新たな性癖に目覚めちゃいそうじゃないか!! いや、今はそんなことはどうでもよく、王なのにそんな女性的な姿がケシカランと言うことで、そんな姿だった日ににゃ、アルトリアたん萌え派の主権確定じゃあないか! アグラヴェインとかヤバいことになっちゃうでしょ!! 何が言いたいかと言うと、そんな『くっ殺せ!』とか言い出しそうな王を王と認めてなるものかぁあああ!! アーサー王燃えぇええええ!!」

 

 ……つまり、どうしようも無かった。

 

「え。えーと……」

「貴様に対する強い執着と動揺を感じるぞ。知り合いか?」

「むう、ランサーよ。お主が袖にした男ではないのか?」

「いえ、多分赤の他人かと。……と言うか、何故だかアレが知り合いだと思いたくない」

 

 動揺するランサーに、ヴェイダーとライダーが問う。

 サーヴァント、マスター含め何とも言えない空気が場を支配した。

 

 だが、次の瞬間、バーサーカーがランサーに向かってきた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に後ろに跳ぶランサー。

 バーサーカーは近くの街灯を力づくで引っこ抜くと、それを振り回す。

 その間にも絶えず泣き喚くかのように吼え続けていた。

 気のせいか、兜の目元から血涙が漏れている。

 

「何ともまあ……」

「征服王、アレには声を掛けんのか?」

「いや、アレはさすがの余も誘うのを躊躇う」

 

 ヴェイダーが聞けば、難しい顔で腕を組む征服王。

 

 かなり混沌としているが、戦闘は再開された。

 さて、どう動こうかとヴェイダーが思考を回していると……。

 

「クッ!」

 

 剣と槍が飛んできた。

 咄嗟にフォースで自分を弾き飛ばす、名付けて『フォース緊急回避(ルーク命名)』で躱す。

 地面に爆発を起こして突き刺さった剣槍は、先ほどあの黄金のサーヴァントが展開していた宝具に相違ない。

 

「我を無視するとは良い度胸だ!! その無礼、首でもって対価とせよ!!」

 

 乱入者の濃さに忘れられていた、黄金のサーヴァントは無視された怒りに任せさらなる宝具を背後に展開する。その数、六。

 

「ば、馬鹿な!? あれだけの数の宝具を持ってるなんて!?」

 

 常識破りの黄金のサーヴァントに悲鳴を上げるウェイバー。

 征服王はとりあえず、成り行きを見守ることにしたのか動く気配がない。

 

 ヴェイダーはすぐさま体勢を立て直すと、ライトセイバーを構える。

 

「せめて散り様で興じさせよ! 雑種!!」

「散るのは貴様だ。金ピカ」

 

 射出される黄金のサーヴァントの宝具。

 

 唸るヴェイダーの光刃。

 

 こうして、多少情けない経緯とはいえ、シスの暗黒卿と黄金の王の戦いが始まったのだった。

 




サーヴァント五騎も集ってるせいか、倉庫戦がなかなか終わらない……。

そしてランスロットさん、ごめんなさい。


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傷は男の勲章って言うけど、痛いのはヤダよね

そろそろ、タイトル変えましょうかね?

いや、ほとんどタイトル詐欺になってますし。


 愛馬ドゥン・スタリオンに跨り、ランサーが駆ける。

 

 その頭上から高く跳躍したバーサーカーが踊りかかり、抱えた街灯を棍棒のように振り回す。

 

 ランサーはそれを槍で弾き返すが、バーサーカーは咆哮を上げながら……やっぱり泣き声にも聞こえる……何度も何度もランサーに襲い掛かる。

 

(荒々しいが、正確で精密な攻撃……本当にバーサーカーなのか?)

 

 しかし、いくら攻撃しようと槍を破壊出来るはずもなく、逆に街灯の方が耐え切れずに中ほどで折れる。

 バーサーカーは半分になった街灯を馬上のランサーに向けて投擲。

 躱されるが、その瞬間には無造作に置かれていた鉄骨を拾うと、鉄骨に血管のような模様が浮かび上がった。

 

「なるほどな。貴公は手に持った物を宝具に変えるのだな」

 

 その奇異な力に、ランサーはふと良く知る騎士の逸話を思い起こすが、有り得ないと考えなおす。

 彼は高潔な騎士だったのだから。

 

 ……と言うか、攻撃してくる間にも何か泣き喚いている『アレ』を知人だと思いたくなかった。

 

 深く考える間もなく、ランサーは鉄骨で殴りかかってくるバーサーカーを槍で迎え撃つのだった。

 

  *  *  *

 

「せめて散り様で我を興じさせよ、雑種!」

「散るのは貴様だ、金ピカ」

 

 黄金のサーヴァントは小手調べとばかりに一本の剣を射出する。

 

 空気を切り裂きながら飛来した剣を、しかしヴェイダーはフォースの流れを読んで正確に弾き返そうとした。

 

「ぬ、う……!?」

 

 しかし、剣のあまりの勢いと重さにヴェイダーは弾き返すことが出来ない。

 地面に踏ん張るも押し返され、光刃と宝剣の間に火花が散る。

 

「お、おおお!!」

 

 機械腕に万力を込め、宝剣を弾くヴェイダー。

 だが何回も出来ることではないことは、すでに分かっていた。

 

(ならば……!)

「ふ、達者なのは口だけと見える。……これで散れ!」

 

 黄金のサーヴァントがさらに撃ち出した魔槍を、ヴェイダーはライトセイバーを構えて迎える。

 

 今度は正面から受け止めるのではなく槍の柄に横から当てるように光刃を振るい、同時に剣を振る方向と同じ方向にフォースを流す。

 

 二つの力によって魔槍は突き来る方向を逸らされ、ヴェイダーの脇を通り過ぎて背後のコンテナに突き刺さった。

 

 ヴェイダーの卓越したライトセイバーの腕と、フォースのコントロールがあって初めて出来る神業だ。

 

「小器用な雑種よ。だが、いつまで持つ?」

 

 黄金のサーヴァントは余裕を崩すことなく残る四つの宝具を発射する。

 

 大剣、曲刀、斧、鉾が次々とヴェイダーに迫る。

 

 並みの者なら後退を選ぶだろう光景だ。

 しかしヴェイダーは並ではなく、臆することなく前進する。

 

 先ほどと同じように大剣の腹にライトセイバーを当てて逸らし、

 

 返す刀で曲刀の峰に光刃を振るい叩き落とし、

 

 斧を光刃で受け止めながらも自らの技巧とフォースの力で横に受け流し、

 

 鉾を体を僅かに横にすることで躱す。

 

 しかし、黄金のサーヴァントはさらに何個もの宝具を呼び出した。

 剣が槍が斧が鎚が杖が、ヴェイダーに狙いを付ける。

 どうやら、残弾はいくらでも有るらしい。

 この調子では接近する前にヴェイダーの方が力尽きてしまう。

 

 瞬間、ヴェイダーは手に持った唯一の武器、ライトセイバーを……。

 

 

 投げた。

 

 ライトセイバーは光刃を展開した状態のまま、回転しながら黄金の王めがけて飛んでゆく。

 

「血迷いおったか」

 

 黄金のサーヴァントは慌てることなく自分の前に盾を呼び出してライトセイバーを防ぐ。

 ライトセイバーは盾に弾かれ黄金のサーヴァントの頭上を越えて明後日の方向へ飛んで行った。

 

「愚かな。……これで終いだ」

 

 ヴェイダーをせせら笑い、黄金のサーヴァントは宝具を撃ち出そうとする。

 だがその時、ヴェイダーは、自らの腕をまるで『何かを引き寄せるように』前にかざした。

 

「! 貴様!」

 

 眼を見開いた黄金のサーヴァントは体を傾けると、先ほどヴェイダーが投げたライトセイバーが後ろから飛来し、その顔のすぐ横を通り過ぎた。

 光刃の先が僅かに頬に触れ、肌が焼かれ肉が焦げる。

 

「ぐッ!?」

 

 ギロリとヴェイダーを睨む黄金のサーヴァントの右頬には、火傷のような傷が一筋入っていた。

 

「きっ……様ぁあああ!! 万物が仰ぐべき我の尊顔に傷を付けおったなぁああ!!」

「何だ、今の方が良い男だぞ。シスの暗黒卿を甘く見たツケとでも思え」

 

 フォースで手の中に呼び戻したライトセイバーを構え直すヴェイダーだが、さっきので止めを刺せなかったのは痛い。

 黄金のサーヴァントは、怒りを滾らせ、背後にこれまで以上の数の宝具を展開する。

 

「シスの暗黒卿……そうか、その技、その剣! 思い出したぞ! 懲りもせずに我が庭を荒らしに来おったか!!」

 

 その怒声に、ヴェイダーはマスクの下で訝しげに顔を歪める。

 まるで、過去にジェダイかシスにでも会ったことがあるかの様な物言いだ。

 

「ならば雑種……いや、汚らわしい害虫を駆除するは王の役目! 貴様を……ッ!? 何だ、時臣! 貴様如きの諫言で我に引けと!!」

 

 今にも宝具を撃とうとしていた黄金のサーヴァントだが、突然虚空に向かって怒声を上げる。

 どうやら、マスターから撤退するように言われたらしい。

 

「……チッ! 害虫! 貴様は我の獲物と定めた! 精々、他の有象無象に狩られないように留意するのだな!!」

 

 捨て台詞を吐いてから霊体化し、黄金のサーヴァントはその場から姿を消す。

 

 ヴェイダーは残心を欠かさず、敵の気配が完全に去るのを待った

 だが黄金のサーヴァントがいなくなっても戦いが終わったワケではない。

 

 次なる敵を求めて、ヴェイダーは動き出すのだった。

 

  *  *  *

 

 未だランサーに執拗な攻撃を加えるバーサーカーは、すでに何本目になるか分からない武器を拾う。

 

 街灯、鉄骨、鉄パイプ。

 

 一見無造作に武器にしているように見えて、その実ランサーの間合いの長さを潰すように武器を選んでいる辺り、バーサーカーらしからぬ戦術眼だ。

 

 だが、それ自体が宝具であるランサーの愛馬ドゥン・スタリオンの機動力には付いてこれていない。

 

 このまま、速度を生かして戦えば、問題はない。

 

 そうランサーが判断を下しかけた時、前方に黒い人影が立っていた。

 

 先ほどまで戦っていた相手、シスの暗黒卿ダース・ヴェイダーだ。

 その手にはあの光剣が握られている。

 

(こんな時に!)

 

 ランサーはヴェイダーが自分を援護しに来た、などと言う能天気な想定はしない。

 

 事実、ヴェイダーはすれ違いざまにランサーに一太刀浴びせ、あわよくば仕留めるつもりだった。

 

「悪いな。これも戦争の常だ。よもや卑怯とは言うまい?」

 

 後ろにバーサーカー、前にヴェイダーと言う四面楚歌に追い込まれるランサー。

 これに対し、ランサーに減速するという選択肢はない。

 

「ハア!!」

 

 ドゥン・スタリオンに手綱を振るい、さらに加速させる。

 そして、ドゥン・スタリオンは後足に力を入れ、大きく跳ねた。

 

「ッ!?」

 

 そのままヴェイダーを飛び越え、綺麗に着地し、そのまま方向転換してこちらに向かってくる。

 ヴェイダーは息を吐くと、ライトセイバーを構えようとする。

 だが、どこからかケイネスの声が聞こえてきた。

 

『撤退しろランサー!』

「……妥当な判断です、マスター」

 

 さすがに二対一は不利と見たのだろう。

 静観しているライダーがどう動くかも分からない。

 ランサーはヴェイダーを一瞥すると、無言で霊体化して姿を消した。

 

 狙う敵が消えたためか、バーサーカーも消えていく。

 

「フハハハ! いや、初戦から良い物が見れた! 余も血が沸き肉躍ったわ!!」

 

 最後に残ったライダーは、満足げに笑っていた。

 ヴェイダーは多少距離を取りながらも、油断はしない。

 

「……それで、貴様はどうする?」

「さてな、細かいことは考えん性質でな! 思惑がどうとか、戦略がどうとかは、後世の連中が勝手に言いだすことよ!」

 

 豪放に笑うライダー。

 ヴェイダーは、本格的に呆れてきた。

 こういう考えなしなのは苦手だ。

 

 ……師匠とか弟子とか戦友が聞いたら「お前が言う!?」と総ツッコミ不可避である。

 

「ま、今宵はお開きとしておこう! ヴェイダーよ、また会おうぞ!!」

 

 最後まで豪快に笑いながら、ライダーは戦車を飛ばして泣きべそをかくマスター諸共去っていった。

 

 完全に全ての敵がいなくなったのを察知し、ヴェイダーはようやく深く息を吐く。

 

「ヴェイダー!」

 

 その傍に、コンテナの裏に隠れていたアイリスフィールが駆け寄る。

 

「ヴェイダー、大丈夫なの?」

「正直、あまり良くない。R2に整備してもらわねば……」

 

 かなり無理な動きを続けたせいで、義肢に負荷が掛かっている。

 どのサーヴァントも尋常ならざる強敵だった。

 

 ランサーは本人の実力と馬による機動力もさることながら、あの槍からは得体の知れない何かを感じた。

 

 あのライダーとは戦ってはいないが、雷を纏っている時点で相性が悪い。

 

 手の持った物を宝具にするバーサーカーも油断できない。

 

 黄金のサーヴァントのデタラメな宝具の雨については言うまでもない。

 

 一方、アイリスフィールは眼前で繰り広げられていた人知を逸脱した戦いと、それに付いていけているヴェイダーに改めて戦慄していた。

 

「これが聖杯戦争……」

「まだまだ序盤だがな。……にしても、キリツグは敵のマスターを仕留められなかったのか」

 

 思わず文句の一つも出る。

 それを何処かで聞いていたのだろう。

 当の切嗣から念話が飛んでくる。

 

『狙ってはいたんだけどな。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、思っていたよりも引き際がいい』

「それには同意しよう。で、次はどう手を打つ?」

『考えはある。とにかく、一度君の整備を済ませよう。舞弥とセイヴァーにも移動してもらったから、君たちも城へ』

「ああ」

 

 こうして、聖杯戦争の、その一夜目が終わりを告げたのだった。

 

 余談だが、城まで移動する際のアイリスフィールの車の運転は、非常に激しい物だったが、ヴェイダーは涼しい顔……マスクのせいで見えないけど……だった。

 

 ポッドレースに比べれば刺激が足らないとは、後の本人の弁である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切嗣「……舞弥がセイヴァーの世話をしてるから、ホテルへの仕掛けが不完全だな。……まあ、いいや。明日でも遅くはないはずだ」

 

 冬木ハイアットホテルは、死亡フラグを(とりあえず)回避したようです。




初戦から幸先が良くないヴェイダー。
キンピカの物量に押されてたら負けてました。

時臣まじウッカリ。

そろそろ他の陣営の様子も書きたいところです。


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まったく代わり映えしない顔だな、兄弟

ちょっと他陣営の話。

まずは、気になるだろうアサシン陣営から。


 彼らは戦うために生まれた。

 

 最強の賞金稼ぎの遺伝子から機械的に『製造』され、戦うことだけを教えこまれ、戦いの中で死ぬ、戦うためだけに生まれた兵士たち。それが彼らだ。

 

 寿命を調整され、僅か10年で一人前の兵士となる彼らは、言いかえれば僅か10年で戦場に駆り出される。

 そして戦場に出た彼らは、恐るべき速さで『消費』されていく。

 

 ある者は銃に撃たれ。

 ある者は光刃に切り刻まれ。

 ある者は砲火によって粉々になり。

 ある者は野獣の餌食となり。

 ある者は船ごと宇宙の藻屑と消え。

 ある者は、ある者は、ある者は……。

 

 銀河のあらゆる場所で戦う彼らの死に方のバリエーションは無限大だ。

 彼らはあくまでも彼らを作った存在の『所有物』……物でしかない。

 物がいくら壊れても、新しく作ればいいだけだ。

 

 遺伝子を弄りまわされ、

 生命の尊厳など無く生み出され、

 親からの愛など知り得ようはずもなく、

 戦場で無限に物として消費され、

 挙句の果てに普通の二倍の速さで年老いて。

 

 嗚呼、こんなことが許されるのか?

 

 その有り様は、どうしようもなく歪で、異常で、滑稽で、醜悪で……。

 

 

 

 

 

 

 どうしようもなく尊く、言葉に出来ないほどに美しい。

 

 

  *  *  *

 

「ッ……!」

 

 言峰綺礼は粗末な簡易ベッドの上で目を覚ました。

 上体を起こして辺りを見回せば、そこは雑居ビルの一室だった。

 

 教会の一室ではない、雑居ビルの一室である。

 

 テナントは入っておらず打ちっ放しのコンクリートの壁が寒々しいが、簡易ではあるが家具一式が置かれている。

 

「お目覚めですか?」

 

 声をかけられたのでそちらを向けば、背が曲り痩せ細った皺だらけの老人が立っていた。

 綺礼は、後頭部を摩りながら答えた。

 

「ああ、99号。……私はどれくらい寝ていた?」

「ほんの、30分ほどです。軽い物でしたら用意出来ますが、食べられますか?」

 

 どうも、キャスターの暴走を時臣に報告した後、慣れない環境に疲れて少し横になったらそのまま寝てしまったようだ。

 腹も空いていないし、仕事を優先するとしよう。

 

「いや、いい。……それより、何か報告は?」

「ああはい。ギルガメッシュ王がいらっしゃっています。リビングにいますが綺礼様を起こさなくてもよい、とのことでしたので」

 

 99号の報告に、綺礼の顔が厳しくなるのだった。

 

  *  *  *

 

 本来なら、綺礼はアサシンのサーヴァントを召喚し、師と仰ぐ遠坂時臣と共謀して彼を勝利へと導く……はずであった。

 

 いや、時臣と共謀しているのは確かなのだが召喚したのはアサシンはアサシンでも、山の翁ではなく、見たことも無い装備に身を固めた兵士『たち』だった。

 

 

 『クローン・トルーパー』

 

 

 そう名乗る彼らは、同じ人物の遺伝子を基に製造されたクローンたちであり、ある戦争で散っていった兵士たち、その集合霊であると言う。

 彼らの霊格は低く、そこらの悪霊魍魎に毛が生えた程度。

 強さも一人一人では、大したことはない……いやサーヴァントとして見ればとんでもなく弱い。しかし、その真価は数にこそある。

 綺礼程度の魔力でも一度に数体から数十体は実体化させられる上、全ての兵を一度に倒さない限りいくらでも新しい兵が補充される。

 

 しかも、彼らは聖杯に懸ける望みは無く、戦いの空気に惹かれてやってきただけであり、『指揮官』である綺礼とその『上官』である時臣に従うと言う。

 

 つまり綺礼は、その背後にいる遠坂時臣は、あらゆる王が、将が、支配者が、欲してやまぬ物無尽蔵の兵隊を手に入れたのだ。

 

 

 

 

 

 ………だが問題は、綺礼も、時臣も、綺礼の父の言峰璃正も、時臣が召喚したアーチャーも、そんなもんの使い方が分かっていないことである。

 

 綺礼と璃正は元代行者だが人を率いる立場ではなかったし、時臣は個人主義の強い魔術師、アーチャーことギルガメッシュも雑兵なぞ知ったことかと言う性質だ。

 

 とりあえず、時臣発案の下ギルガメッシュにアサシンの一体をワザと倒させて綺礼が聖杯戦争を脱落したように見せかけて裏で動かすという策を取ろうとしたのだが……。

 

 

「恐れながら、時臣様。……そのような策が通じるのは、ズブの素人くらいのものです」

 

 そう言ったのは、当のアサシンの一体、『フォードー』と名乗るクローンであった。

 顔をしかめる時臣に、他のクローンより位が高いらしいフォードーは臆することなく続けた。

 

「あまりにもワザとらし過ぎます。いかに英雄王がお強くても、無傷での勝利と言うのは嘘っぽく見える物です。加えて申し上げますと、そのような兵士を無駄死にさせる作戦には賛同できかねます。どうかご一考を」

 

 そこまで言われてなお、時臣は考えを曲げず綺礼に令呪を使わせようとしたが、それを止めたのは他ならぬ英雄王だった。

 曰く、クローンの話の方が面白そうだからと。

 

 かくして、綺礼は時臣と表面上対立したまま身を隠すことになり、彼らがいつの間にか用意した新都の雑居ビルに構えた隠れ家に身を潜めているワケだ。

 綺礼の指示を受ける間でもなく方々に散ったアサシンたちは、様々な方法で敵の情報を収集していた。

 

 ある者は霊体化したまま、街を徘徊し。

 ある者は市井に扮して人々の噂に耳を傾け。

 ある者はどこからか調達したパソコンでインターネットにアクセスして……意外とこれが有効であることは、綺礼にとっても新鮮な驚きだった。

 

  *  *  *

 

 雑居ビル丸々一つ使った隠れ家の一室にあるリビング。

 

 そこに置かれたソファの上に金髪紅眼の青年がデーンと寝そべっていた。

 

 部屋に入った綺礼は思わず息を吐きながらその青年……ギルガメッシュに声をかける。

 

「何の用だ? 英雄王」

「なぁに、貴様の顔を見に来たのよ。時臣よりは貴様の方が面白いからな」

「……………」

「と、言うのは冗談でな。ここの兵士どもを愛でにきた」

 

 端正に整った顔を悪戯っぽく歪め、ギルガメッシュは何処からかちょろまかしてきたワイングラスを傾ける。

 99号の他、この隠れ家には綺礼の護衛として『ドミノ分隊』と呼ばれる五人のクローンが常駐している。

 どう言うワケか、この傲慢で気まぐれな英霊はクローンたちを気に入っていた。

 

「作られた人形でありながら、人間のように振る舞い、その癖持って生まれた性を受け入れている。その姿は見ていて哀れであり滑稽。人形芝居としては中々の見物だ」

「悪趣味な……」

「我はな、綺礼。人の業こそを愛でるのだ。故に業の化身のような兵士どもを愛でるのは必定と言う物。……そう言う意味では、時臣もそれなりに面白いが」

 

 クックックと、堪えきれないようにギルガメッシュは笑いを漏らす。

 

「表面上は退屈な魔術師の顔を繕っているが、あの男の中ではな、正道の魔術師足らんとする自分と、一人の男としての自分がせめぎ合っている」

 

 確かに、時臣は魔術師としては人間臭い男だ。

 

 その際たる例は、次女の桜の件だろう。

 極めて稀有かつ高い才覚を持つ彼女は、その魔力に惹かれてくる魑魅魍魎や他の魔術師から自衛するために魔術を覚えなくてはならない。

 しかし、そのままでは魔術協会によって封印指定にされかねず、遠坂の力だけでは守り切れないと間桐の家に養子へ出すことになった。

 

 この時、時臣は重箱の隅を突くが如く間桐の家について調べ上げ、さらには間桐の家の面々の性格や性癖までも調査していた。

 その姿は、まるで養子に出さない理由を探しているようだと彼の妻である遠坂葵は語る。

 とにかく問題無しとして養子縁組をすることになったのだが……。

 

 取決めのためにそれぞれの家族が全員集合した日、何処で聞きつけたのか間桐の家を出奔していた間桐雁夜が乱入してきて時臣と殴り合いの喧嘩に発展。

 何かもう、余裕も優雅もポイして封印指定の件とかをぶっちゃけた挙句、

 

「私だって桜を余所の家の子になんかしたくなぁあああい!!」

 

 と泣き叫んだそうな。

 

 その後、泣きだした桜を姉の凛がこちらも泣きながら抱き、そんな娘たちに己のしようとしていることの残酷さを痛感した葵が「ごめんなさい! ごめんなさい!!」と娘たちを抱きしめた。

 そんな妻子を時臣が「すまない、すまない……私が魔術師なせいで……」と魔道を遥か彼方にうっちゃって抱擁した。

 

 泣きながら抱き合う家族の姿を見て間桐臓硯がホロリともらい泣きし、雁夜が何だか敗北感に打ちひしがれていたそうである。

 

 ……正直、ちょっと見たかった。

 

「ま、それはともかく……綺礼よ、貴様はどうだ? あの兵士どもを見て、何を思う?」

 

 綺礼の意識は、ギルガメッシュの現実に声で呼び戻された。

 そう問われて、綺礼はふと考える。

 父、璃正や師、時臣はクローン・トルーパーの有り方に少なからぬ嫌悪を示していた。

 命を弄り回して生み出された、同じ顔と同じ声を持った存在が、それこそ型を取ったように無数に並ぶ。

 そこに生理的であれ、倫理的であれ、あるいは宗教的にであれ嫌悪するのは人間として当然だろう。

 だが自分は……。

 

「……さてな」

 

 綺礼は話題を変えることにした。

 

「あの黒いサーヴァント……シスの暗黒卿、だったか? あれは何者だ?」

「……あれは世界の外から来た物だ。この世界は余すことなく我の所有物。しかし、あれは違う。あれはこの世界を壊しかねない」

「世界の外? しかし、それならアサシンたちも……」

 

 ギルガメッシュは右頬に付いた一筋の傷を撫でながら露骨に顔をしかめた。

 同時に、ワイングラスを持つ手に力が入っていく。

 

「兵士どもは、単なる人形。しかし、あの害虫は違う。あれは意志と欲を持った存在だ。先程も言ったが、我は人の業を愛する。業の果てにこの星を捨てるのも、また認めよう。……だが、それは世界の外から来た者どもの入れ知恵によることではあってはならん!!」

 

 音を立てて、手の中のワイングラスが砕け散った。

 綺礼はギルガメッシュの内心を聞いても心が動かない。

 心配なのはワインとグラスの値段くらいだ。

 偉大な王の怒りに心動かないことは異常だと理解しつつも、それくらいしか思えなかった。

 ギルガメッシュは軽く息を吐いた後、首を回す。

 

「まあ、そう言うワケだ。あれは我の獲物と決めた。……あの兵士どもを上手く使ってやれ。そうすれば、貴様の魂の形も見えるやもな」

 

 ギルガメッシュは調子を取戻し不敵に笑った後、霊体化して姿を消した。

 散らばったグラスの欠片とこぼれたワインはそのままだった。

 

「……99号」

 

 綺礼は息を吐いた後、戦闘力が無いので自分の身の周りの世話を担当することになった奇形クローンを呼んだ。

 ほどなくして、99号が足を引きずりながらやってきた。

 

「はいはい。何か」

「客人が帰った。ここを片付けておいてくれ」

「イエッサー」

 

 敬礼をしてから掃除道具を取りに部屋を出ていく99号を見ながら、言峰綺礼は考える。

 

 彼らクローン・トルーパーは、この世界の常識と道徳に照らし合わせれば異常で嫌悪されるのも仕方のない存在だ。

 魔術師でさえも、その有り方には顔をしかめる。

 彼らのいた銀河でさえ、彼らを恐れ蔑む者たちはいた。

 

 しかし綺礼は、万民が美しいとする物を美しいと思えない破綻者の綺礼は……。

 

 

 パスを通じてクローン・トルーパーの物語を夢で垣間見るたびにこう思うのだ。

 

 何て、美しく、気高く、尊いのだと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

へヴィ「お前らはいいよなー、立派に戦死して。俺なんか新兵(シャイニー)のまま自爆して終わりだぜ」

ドロイドベイト「俺、ほとんどモブみたいな死に方だし……」

カタップ「お前らはまだいいよ。俺なんかウナギの餌だぜ?」

ファイブズ「長生きしてもなー。俺は陰謀に気付いたからって謀殺されたんだぞ」

エコー「なんか俺、すごい怖い形で『実は生きてました!』やった気がしたけど、そんなことなかったぜ!!(この二次では)」

99号「何にせよ、みんなとまたいっしょに戦えてうれしいよ」

 

 自分の死に様で盛り上がるのが持ちネタのクローン・トルーパー。

 




綺礼、時臣、臓硯の性格が違うのには理由を用意してあります。
詳しくは次回以降で。

クローン・トルーパー燃え。
99号は本物の勇者。異論は『断じて!』認めない。

いやマジな話、国や民や家族を守るために血を流し散っていった名もなき一般兵たちこそが、真の英雄だと言うのが作者の考えだったりします。

……どうせ人殺しだろって切嗣なら言うだろうし、究極の一とか目指しちゃうTYPE―MOON世界だとナンセンスなのかもしれないけど。


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よかった、妖怪蟲爺なんていなかったんだ

間が空いたのに、間桐家の話とか……。


 『それ』と出会ったのは偶然だった。

 

 ある晩、夜空から地上に星が墜ちてきた。

 それがたまたま自分の生家の近くだっただけだ。

 物見遊山のつもりで見に行けば、それは極めて奇妙な星だった。

 

 一言で言うのなら、星の海を渡る船。つまり、宇宙船。

 

 その船の乗組員は、人型ではあるが人間種ではない奇妙な生き物だったが、全て死に絶えていた。

 墜落の衝撃で死んだのか、死に絶えたから墜落したのかは分からない。

 

 しかし、その船は彼の知的好奇心を大いに刺激した。

 

 船体は金属ではなく珊瑚のような物で形づくられ、多くの生き物を乗せていた。

 

 剣や槍、鞭のように変形する蛇。

 爆弾のように炸裂する蟲。

 石や鉄をも容易く食い千切る飛蝗。

 

 特に奇妙なのは、蛸とも水母とも付かない巨大で丸い頭と無数の足を備えた軟体動物だった。

 

 それらが何であれ、魔術師のすることは決まっている。

 すなわち、その生き物たちを己の魔術に組み込めないかと試行錯誤すること。

 

 するとどうだろう。

 それらの生き物は、彼が元々研究していた蟲たち以上に、彼の魔術に馴染むではないか。

 彼は夢中になって、その生き物たちを調べ、試し、改良を重ねた。

 そうするたびに新しい発見があり、船から得た知識は自らの未熟さ矮小さを教えてくれた。

 

 …………時は流れ、彼はいつしか理想を得ていた。

 

 世界から悪を根絶し、平和を作り上げると言う理想を。

 

 しかし、彼は老いていた。

 死が、容赦なく迫っていた。

 理想の成就を見ることなく塵に還ることへの焦りと恐怖が彼を苛む。

 

 そんな時、あの蛸のような水母のような生き物が子を産んだ。

 単性生殖で生み出した子に、母体はテレパシーを通じて同化、自分の全てを子に教えたのだ。

 その奇跡のような世代交代を見て、彼は感動に震えた。

 

 そして、ふと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 ……この生き物に、自分の魂を移植できないかと。

 

  *  *  *

 

 シスの暗黒卿、騎士王、征服王、英雄王、クローン兵、さらには狂戦士までもが揃い混沌としていたコンテナ置き場の戦いから、いくばくか後。

 

 冬木の聖杯戦争を始めた魔術師たち、所謂御三家の一角である間桐の屋敷。

 その地下に置いて。

 

 屋敷の住人からは蔵と呼ばれるこの空間に入った者は、まず水中にいるのかと錯覚させるほどの濃密な水の匂いに驚くことになるだろう。

 その壁や床や天井は生きた珊瑚によって作られ、不可思議な蟲や爬虫類のような生き物が動き回る。

 とても人の住む街の中にあるとは思えない、魔術師たちの使う意味とは違う意味において、異界と呼べる空間。

 

 その奥も奥に、あの狂戦士はいた。

 

 ……膝を抱えて座り込んで、だが。

 

「まったく、せっかく狂化レベルを下げる細工を施したのに、勝手に暴走するとは……」

 

 その前に立つのは小柄な老人だ。

 杖を突き、頭には一本の体毛もなく皺くちゃに歪んだ顔が妖怪染みた、異様な雰囲気の和装の老人。

 老人は隣に立つ青年を睨み付けた。

 

「貴様も貴様じゃぞ、雁夜! あの局面でバーサーカーを実体化させるなんぞ、戦略も何もあったもんじゃないわい!!」

「いや、せっかくだからカッコよく登場して、時臣のサーヴァントをギャフンと言わせてやろうと……」

「ええい! 遠坂の子倅に拘るのは止めいと、話をつけたばかりじゃろうが!!」

 

 三十路に届かないだろう青年……間桐雁夜に、老人は容赦なく怒鳴る。

 

「何のために、お主に偽臣の書を預け、儂が手ずから召喚したバーサーカーを操らせておると思っておる!」

「そう言うけどな、爺。こいつあのランサーの姿を見た途端、こっちの言うことなんか聞かなくなったんだぞ」

「ムウ……こやつがこういう反応と言うことは……ランサーめはバーサーカーと因縁があると言うことか……」

 

 雁夜の言葉に、老人は頭を冷やして思考する。

 

「……あのランサーの正体は置いておくとして、アイツベルンのサーヴァントを始め、この聖杯戦争は難敵ばかりよ……仕方がない。当面はキャスターを片付けるとするか」

「ああ、俺もキャスターを倒すことには賛成だ。……アイツは許せない」

 

 町中に張らせた使い魔からの情報によれば、キャスターのやっていることは非道の極みであり、見過ごしては置けない。

 義憤を滾らせる自身の子孫に、老人こと間桐臓硯は息を吐かずにはいられない。

 魔道の家を厭い、出奔していたこの子息はどうにも考えの浅く安易に嫉妬や怒りに流される部分がある。

 いつまでも初恋を引きずり人妻に横恋慕しているし。

 人道や良心を優先し、魔術師の常識に囚われないことは美点でもあるのだが……。

 

 ああ、昔は可愛い子だったのに。

 膝の上に乗って、「お爺ちゃん」とか言ってくれる子だったのに。

 魔術師としての素養は低くとも、蟲や蛇の扱いには長けた優しい子なのに。

 それでも一応にも時計塔に留学して何とかギリギリ卒業できる程度の才覚はあったのに。

 優しいからこそ、そこで見た魔術師の生き方にほとほと嫌気が差し、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに魔術の家である生家も嫌いになってしまい、家出して。

 盆と正月、甥の慎二の誕生日……そして、早くに病没した兄嫁の葬式……にぐらいにしか帰ってこなくなったけど職にも就いて息災にやっていることだけは分かっていた。

 

 それが遠坂から養子を取ることになった時、兄の鶴野から連絡を受けたらしく舞い戻り、遠坂の子倅こと時臣と喧嘩を始めた時は頭を抱えたものだ。

 

 もちろん今回の聖杯戦争に協力してくれる、掛け替えの無い子であるのだけれども。

 

 早死にした両親に代わって育てた、我が子も同然の血族であるし。

 

 ……いやどうにも思考が逸れた。

 

「雁夜よ。……もう一度確認するぞ。儂らが此度の聖杯戦争に参加した理由は、何じゃ?」

「……決まってるだろ」

 

 

 

 

「聖杯戦争を終わらせるためだ」

 

 

 

「憶えておったか。ならば、すべきことは分かっておるな?」

「聖杯を間桐の手に……だろ? 分かってるよ、それくらい」

 

 その答えに大きく頷いた臓硯の背後で、『何か』が蠢いた。

 直径だけで10m以上はある巨大な球形の頭部と、無数の長い触手。

 頭部に申し訳のようについた小さく黒い二つの眼。

 

 蛸とも水母ともつかぬ、異形の生物。

 

 これこそが、500年の時を生きる間桐臓硯……マキリ・ゾォルケンの魂を収めた本体。

 

 老人の姿をした人型は、単なる端末に過ぎない。

 

「改めて、頼んだぞ雁夜。バーサーカーを用いて、この聖杯戦争に勝利するのだ!」

 

 間桐臓硯には時間が無い。

 本来使うはずだった蟲よりもこの蛸のような異界の生き物、『ヤモスク』はゾォルケンとの相性が良く、魂は長持ちしている。

 それでも、すでにジワジワと魂の劣化が始まっていた。

 次にヤモスクの代替わりに合わせて魂を移した時、ゾォルケンがゾォルケンでいられる保証は無い。

 だからこそ、『前回』のことがあるにも拘らず今代に置いて聖杯を得るべく、行動を開始した。

 

 己が己であるうちに理想を成すために。

 

  *  *  *

 

「おじさん! おじいさま!」

 

 蔵から出た雁夜と臓硯の前に、幼い少女が走ってきた。

 『黒髪』の、可愛らしい少女だ。

 

「桜ちゃん! 起きていたのかい?」

「目がさめちゃって……」

 

 雁夜はその少女、遠坂から間桐の養子になった間桐桜を優しく抱き上げる。

 その後ろから、雁夜とよく似た顔立ちの、髪の長い男性がやってきた。

 

「兄貴も起きてたのか」

「ああ。夜食を用意しておいた。食え」

「そんなの、俺がやるからいいのに……」

「馬鹿を言え。カップ麺とレトルトを飯とは言わん。使用人にも休みをやったし、俺が用意する他ないだろう」

 

 兄、鶴野の言葉に、弟、雁夜は苦笑する。

 雁夜以上に魔術的素養は低い兄だが、聖杯戦争に巻き込まぬために使用人を休ませている今、こうして家事をして家族を支えている。

 ちなみに彼の息子の慎二は頭が良い子で海外に留学していた。

 

「じゃあ、おじさん! いっしょに食べよう!」

「……そうだな。爺も食うだろ?」

 

 笑う桜に微笑む雁夜。

 問われて、臓硯も破顔する。

 

「そうじゃの。せっかくだからいただくとしよう」

 

 家族は揃って食堂へと移動していくのだった。

 

  *  *  *

 

 間桐臓硯……あるいはマキリ・ゾォルケン。

 

 彼が聖杯に懸ける願いは、世界の平和。

 そのために異星……遠い銀河の外で、ユージャン・ヴォングと呼ばれる種族の作り上げた生物の数々を繰り、その一種であるヤモスクに魂を移したのだ。

 

 しかしそれ以上に彼が聖杯戦争を終わらせようとするのは、子孫たちにこれ以上、自分の代からの業を引き継いでほしくないからだった。

 雁夜が臓硯に協力するのも、身内の情であると同時に、桜やその子や孫に魔術師として業を押し付けたくないからに尽きる。

 

 終わらせよう。

 数百年の夢を。

 御三家の大願を。

 子らのために。

 

 

 そのために、臓硯と雁夜は狂戦士を伴い、往く。

 

 

 

 

 

 

 

バーサーカー(何か、忘れられてる気がする)

 




おめでとう、妖怪蟲爺は妖怪蛸爺に進化したよ!(タイトルをこっちにしようか最後なで悩みました)

二次創作ではあんまり見ない綺麗な臓硯。
臓硯が綺麗なら、必然的に桜やおじさんは不幸にならないんじゃないかと思いまして。

ちなみにユージャン・ヴォングとは、今はレジェンズと言う名の黒歴史となったスター・ウォーズの小説シリーズに登場した別銀河からの侵略者。
歴史的背景と宗教上の理由から機械的なテクノロジー、とみにドロイドを非常に憎んでおり、手持ちの兵器、身に纏う衣服に防具、さらには宇宙船まで全て生物からなるという連中。(某鉄人調べ)
この作品では、(とりあえず今のところ)攻めてこない予定。

そして、間桐家のユージャン・ヴォング由来の生き物は臓硯が品種改良を重ねており、原作に比べて安全性が高い設定。(危険性が無いとは言ってない)


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割と似た者同士な二人

 結界に守られた森の奥深くにそびえるアインツベルンの城。

 欧州の山奥からそのまま切り取ってきたかのような、日本とは思えぬ光景だ。

 

 その城の一室で、ヴェイダーは豪奢な椅子に腰かけていた。

 

「…………」

 

 しかし、その特徴的なマスクは外されて机に置かれていた。

 その目の前ではR2-D2が機体の一部を開き、中からマジックハンドのような二本のマニピュレーターを出して、胸の生命維持装置を弄っている。

 深く瞑目しているヴェイダーだが、その顔は醜い火傷の跡に覆われていた。

 アストロメイクドロイドがピキャピキャと機械音声で喚くが、その内容は要約すれば「無理すんな」の一言に尽きる。

 

「ああ、すまないなR2。いつも苦労をかける」

 

 深い息と共に放たれた言葉に、R2は「まったくだよ!」と言わんばかり電子音を鳴らす。

 

 そんな様子を、切嗣とアイリスフィールは少し離れた位置から見ていた。

 強大な戦士に見えたヴェイダーの今の有様は、二人にとっても驚くものだった。

 ただし、それは戦闘でおった傷ではなく、元からのものだったが。

 

「見ただけでも全身に深い火傷。四肢は残らず欠損し、内蔵……とかく呼吸器系もほとんど機能していないようだ。目も色が判別できないらしい。機械で生命を維持しているとは言っていたが、ここまでとは……」

 

 驚きを込めて呟く切嗣。

 辛うじて人間の形を保っているだけの肉塊とでも言うべき惨状。

 とても、生きていられる傷とは思えない。

 

 魔力消費こそ少ないが、この状態で戦い続けられるのか?

 

「パパー!」

 

 と、部屋の中にルークが駆け込んできた。

 その後に舞弥が歩いて続く。心なし疲れているように見える。

 ヴェイダーは瞑っていた目を開き、優しい視線を愛息子に向けた。

 

「おお、ルーク。今日は楽しかったか?」

「パパー、ねえ聞いて聞いて! ぼく、今日はマイヤとかくれんぼしたんだよ! ……あれ? パパ、どうしたの?」

「パパは少し仕事で疲れているのだ。もう少ししたら整備が終わる。それまで、マイヤに遊んでもらっていなさい」

「うん!」

 

 父親の姿に可愛らしく小首を傾げるルークに、ヴェイダーは優しく答えた。

 反対に、舞弥は小さく息を吐いた。

 らしくない態度にどうしたんだと視線で切嗣が問えば、舞弥はやはりらしくなく小さく笑んだ。

 疲れているが、悪くはないと言う、そんな笑み。

 

「子供のアグレッシブさに驚いているだけです。……まあ、まさかかくれんぼであんな所に隠れるとは思いませんでしたが」

 

 そんな助手の姿に、切嗣は軽く驚いていた。

 と、アイリスフィールが切嗣の服の裾を引っ張る。

 

「キリツグ、ちょっと……」

 

 そのまま引かれて部屋の外に出た切嗣。

 アイリスフィールは、戸惑いながらも話しを切り出した。

 

「ねえ、キリツグ。あの、ヴェイダーのことなんだけど、どう思う?」

「どう、とは?」

 

 愛妻に問われて、その意味を問いかえす切嗣。

 

「ヴェイダーの話、本当だと思う? 彼は英霊ではなく生きている人間で、しかも宇宙人だなんて……」

「ああ、そのことか。……十中八九、彼の妄想だろう。確かに彼とセイヴァーは飛び切りのイレギュラーだが、考えてもごらん。知的生命体がわんさかいる銀河に、それを支配する帝国。光より早く飛ぶ宇宙船と、フォースとかいう不思議な力を使う騎士。まるでパルプフィクションかハリウッド映画だ」

 

 苦笑しながら、切嗣はヴェイダーに聞こえないように自分の考えを述べた。

 彼からすれば、ヴェイダーの言うことは荒唐無稽どころの話しではない。

 恐らく、何かの理由で『そうだと思い込んで』いるのだろうと当たりを付けていた。

 

「だが、その方が都合がいい。有りもしない希望に縋ってくれるなら、僕たちにとっても御しやすい」

 

 人間を操る一番のコツは、希望をチラつかせることだ。

 アイリスフィールは解せぬといった顔だが、切嗣はヴェイダーの言葉をはなっから信じてなどいなかった。

 

 ……切嗣が部屋に戻ると、ヴェイダーはまだ生命維持装置の整備をしていた。

 以外と時間がかかるらしい。

 

 ルークと舞弥の姿はすでにない。

 

「何の用だ?」

「確認だ。この聖杯戦争の進捗について」

「……あのランサーは、とてつもない使い手だ。ライダーは良く分からないが、雷を操る時点で相性が悪い。私の生命維持装置は電気に弱いのでな」

 

 そう言いつつも、声や口調に弱気な様子は一切なく『戦えば勝つ』とでも言いたげだ。

 

「それにバーサーカーもあの能力は脅威だな。金ピカは……今更言うまでもあるまい。それに……クローン・トルーパー」

 

 ヴェイダーのが目を開き、鋭く細める。

 初めて見る瞳の色は『青』だった。

 

「あの、アサシンか。ステータスはたいしたことはなかったが……」

「彼らは戦いのために生まれた、生粋の戦士であり兵士だ。地獄のような戦場を潜り抜けた猛者であり、死さえ厭わぬ本物の勇者たち。それが彼らだ。ステータスなんぞ当てにならん」

「他はともかく、ステータスが当てにならないのは同感だな。……しかし随分と詳しいんだな。知り合いか?」

「……かつて、共に戦った。向こうは私のことは分からないだろうが」

 

 どこか自嘲気味に笑むヴェイダー。

 その意味を測りかねる切嗣だが、今はどうでもいいだろうと割り切る。

 

「彼らが生まれたのは、必要に迫られたことと……巨大な陰謀が絡んでのことだったので、一概には言えんが……目的のために生み出されたと言う意味では、貴様の妻とそう変わらん」

 その言いように、切嗣は表情を変えないまま眉を少し吊り上げる。

 逆にヴェイダーは少しニヤリとした。

 

「気に障ったか?」

「別に。事実だからな」

 

 少し視線を逸らす切嗣に、ヴェイダーはさらに言葉をかける。

 

「……止めておけ。妻を殺すのは」

 

 瞬間、切嗣は凍りついた。

 何とか首を回せば、暗黒卿は鋭い目つきでこちらを睨んでいた。

 

「貴様の願いとやらがどれだけ切実かは知らん。何故、そんな分不相応な願いを抱いたのかも知らん。……が、愛する者を手にかけるというのはな、堪えるぞ」

 

 何故、それを知っている? アイリが死ぬだろうことは、彼には話していないのに。 そう切嗣が問うより早く、ヴェイダーは言葉を続ける。

 

「何もかも、どうにでもなれと投げやりになっているのに、憎しみと悲しみばかりが増大して消えることはない。やがて、それ以外は何も見えなくなる。魂が生きながら死ぬようなものだ」

「……まるで経験があるような物言いだな」

 

 カラカラに乾いた喉でようやく絞り出したのは、そんな言葉だった。

 ヴェイダーはこれまでにない、凄絶な笑みを浮かべた。

 

「ああ、ルークの母……つまり私の妻は……私がこの手にかけたのだ」

 

 今度こそ、切嗣は言葉を失った。

 

「これは経験則だ、キリツグ。どんな理由があれ、愛する者を殺めた先には無限の後悔しかない」

「……母を奪っておきながら、ルークの父親を気取るのか」

「貴様が母を奪おうと言うのに、イリヤスフィールの父親を気取るようには」

 

 切嗣は、身を翻した。

 もう話すことなんかない。

 

 こいつは、妄想狂で、人殺しの、英雄様だ。

 

 柄にもなく会話してしまったが、そもそも道具として使い捨てるつもりだったのだ。

 それでも、最後に言わねば気が済まなかったのは、弱さだろうか?

 

「……愛する者を手にかければ、後悔しか残らない。そんなことは僕が一番よく知ってる」

 

 平坦な声は、しかしヴェイダーには血を吐くような慟哭に聞こえた。

 

「それでも、ここで止まれば全部無駄に……無駄死にになる」

 

 ……去りゆく切嗣の背を、ヴェイダーは睨み続けていた。

 

(ありゃ、こじらしてるね。以前の君みたいだ)

 

 その暗黒卿に、整備を終えたR2-D2が機械音声で、そう言った。

 

「ああ、あの男の中から、果てしない後悔を感じる。苦悩はなくとも罪悪感は人並みの、面倒くさいクチだ」

(それ、君が言う?)

「……………」

 

 長年の親友の物言いに苦笑するヴェイダー。

 彼らから見て衛宮切嗣は、酷く偽悪的で割り切れていない男だ。

 と、良く知る気配が近づいてくるのを感じた。

 

「パパー! おわったー?」

「ルーク。ああ、整備なら今終わった」

 

 息子をヒョイと抱き上げるヴェイダー。

 

「ねえ、パパ? パパは今、『せいはいせんそう』っていうことをしてるんだよね。マイアから聞いたんだ!」

「ああ、そうだ。ルークは色んなことを知っているな」

「えへへ、それでね? パパはキリツグとアイリを守ってるんでしょ?」

「…………ああ、そうだな」

 

 正直、あの二人に対する義理は無いに等しい。

 それどころか、息子をこんなことに巻き込んだ怒りの方が強い。

 

「あのねあのね! ぼく、イリヤと約束したんだ! パパがぜーーーっ対! キリツグとアイリを守ってくれるって!!」

 

 ルークの言葉に、一瞬ヴェイダーは固まる。

 どうも、あの別れの時にそんな約束をしたらしい。

 

 R-2が、「どうする?」と言いたげに電子音を鳴らす。

 

 ああ、仕方がない。息子が約束したなら仕方がない。

 父として、息子が友達とした約束を守れるように努力するのは当然のことだ。

 

「……少し、方針を変えるとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃のランサー陣営。

 

ランサー「………………」

ケイネス「………………」

青髭「ああジャンヌ! ジャンヌ、ジャンヌ! ジャンヌゥウウ!! ジャァァァンンヌゥゥウウウ!!」

ランサー「そぉい!!」(槍ビーム)

青髭「ジャンヌバアァアアア!!」

ケイネス「……何だコレ? ………………いや本当に何だコレ?」

ランサー(この聖杯戦争はこんなんばっかりか……)

 




愛する者をその手にかけている。
実は子供っぽく癇癪持ち。
本質的には家族大好き。

こうして並べてみると、意外と似てる切嗣とヴェイダー。

ようやく聖杯戦争一日目が終了です。
英雄王と時臣?
まあ、今語る必要はないんじゃないかと思いまして。


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久宇舞弥とルーク(4才)

 時間は遡り、コンテナ置き場の戦いより前の昼間のこと。

 

 冬木某所の公園では、何組かの親子連れが遊具で遊んでいたり、小学生の集団がサッカーに興じていたりする。

 血で血を洗う聖杯戦争が始まらんとし、殺人鬼が巷を騒がせているにも関わらず危機感が薄い……というのは、あまりにも一方的な物言いだろう。

 

 そんな子供たちに交じって、4才くらいの白人の少年が転げまわっていた。

 さらに、丸っこくて青と白のロボットも動いている。

 

「おい、ルーク! オレにもR2に触らせてくれよ!」

「あたしもあたしもー!」

「いいよー! でもボクが一番だからね!」

 

 ルークをはじめ子供たちは、ロボットことR2-D2に群がっていた。

 

 神秘の秘匿?

 どうみても機械の塊を神秘だと思う奴がいるとでも?

 

 ルークは自然と彼らに溶け込んでいるようだった。

 そんな光景を、魔術師殺し衛宮切嗣の弟子にして右腕である久宇舞弥はベンチに腰かけて眺めていた。

 

 彼女に課せられた仕事は、セイヴァーことルークの世話であるが、子供の面倒などみたことがない。

 ……かつては腹を痛めて生んだ子もいたが、生んですぐに引き離されたので、どうにも実感が薄い。

 

 だから、こうして公園で適当に遊ばせているのだ。

 

 まあ、子供の足だ。

 遠くへ行くこともないだろう。

 

 そんな風に考えていると……。

 

「あれ、ルークどこ行ったんだ?」

「わかんない」

「かくれんぼしてたら、いなくなっちゃったー!」

 

 どうやら、甘い考えだったらしい。

 

  *  *  *

 

「いったいどこに……」

 

 公園の森の中、ルークを探す舞弥だが、中々見つからない。

 まさか仮にも戦闘職の自分の目を逃れるとは……。

 

 あのドロイドもいつの間にかいないし。

 

 切嗣から承った任務は、ルークの世話、護衛だけでなく監視も含まれているのに大失態だ。

 まさか、こんなことで切嗣に令呪を使わせるワケにもいかない。

 

「どこにいるんだ……」

 

 目を凝らし耳を澄ませるが草木をかき分けるが、影も形も捉えられない。

 そのうち不安になってくる。

 あんな小さな子が、いつまでも一人でいられるはずがない。

 

 と、ピキャピキャと言う電子音を舞弥の耳が捉えた。R2-D2の機械言語だ。

 

 その声を頼りに森を進むと、太い樹木の根本でR2が騒いでいた。

 

「R2……ルークはどこです?」

 

 事務的にたずねると、R2はマニピュレーターで上を指す。

 見上げれば高い木の上に、ルークがいた。

 

「あー、見つかっちゃったー!」

 

 呑気に笑っている。

 内心でホッとしつつ、努めて事務的に言う。

 セイヴァーと呼ぶと嫌がるので、真名で。

 

「ルーク、ここにいましたか……。かくれんぼは終わりです。降りて来なさい」

「ええと、あのね……」

 

 しかし、ルークは恥ずかしそうにしている。

 R2が鳴らす音が、どこか呆れているように聞こえる。

 

「まさか……」

「うん、おりられなくなっちゃった……」

 

 悲しそうにするルークに、舞弥は我知らず溜め息を漏らす。

 

「ジッとしていなさい。今、そちらに行きます」

 

 そう言って、舞弥は木を登り出す。

 伊達に体を鍛えているワケではなく僅かな出っ張りや枝に手を掛け、アッという間にルークのいる天辺付近までやってくる。

 

「さあ、ルーク。手を伸ばして」

「あのね、今はダメなんだ!」

「何を言っているんです……?」

 

 何故かごねるルークに舞弥が首を傾げると、ルークの後ろからひょっこりと子猫が顔を見せる。

 

「この子もおりられないんだって……」

「……ルーク、あなたはまさか、そんな子猫のためにここまで登ってきたんですか?」

「うん」

「それは愚かなことです」

 

 バッサリと、舞弥は言い切る。

 

「他者のための無償の善意で自分を傷つけるなど、愚かです。ましてあなたは切嗣の願いを叶えるために必要な存在、子猫とあなたの命は等価ではない。どうしても子猫を助けたいのなら、大人を呼べばよかった」

 

 理路整然と、舞弥はルークを説き伏せる。

 だが舞弥は知らなかった。

 

 子供に、大人の理屈は通用しないのだ。

 

「う、う、う、うわぁぁあああん!!」

「え!? ち、ちょっと!?」

「マイヤが言ってること、わかんなぁぁい!」

 

 いきなり泣き出すルークに、舞弥は面食らう。

 泣く子の相手なんてしたことない舞弥はオロオロとするばかりだ。

 

 だが、忘れてはならない。

 ここは高い木の上だと言うことを。

 二人と子猫の乗っている枝が、その体重を支えきれずに折れてしまった。

 

「うわあああ!!」

「ッ!」

 

 舞弥は咄嗟にルークに手を伸ばし、彼を胸に抱えるようにして地面との激突から庇おうとする。

 瞬間、舞弥の目に信じられない物が映った。

 

 R2-D2が、飛んでいる。

 脚部の側面から展開したブースターから、ジェット噴射して宙を舞っている。

 考える暇もなく、舞弥はルークと子猫ごとR2にしがみつく。

 

 ゆっくりと、空飛ぶアストロメイクドロイドは地上に降りた。

 

「ルーク! 無事ですか!」

「うん……えへへ、この子もダイジョブだよ!」

 

 ルークの胸に抱かれ、子猫は呑気にニャーと鳴く。

 そんな姿に、舞弥は毒気を抜かれてしまった。

 

「まったく……重ねて言いますが、あまり無茶をしないように。お父様が心配しますよ」

「はーい……」

 

 舞弥の理屈は通じずとも、父の名は効果覿面のようだ。

 

「はあ……もう。さあ、戻りましょう」

「うん! この子、公園にいた子のトモダチなんだ! みんなにダイジョブだったって知らせてあげないと!」

 

 一転、笑顔になるルークに、よく表情が変わるものだと感心してしまう舞弥。

 それと同時に、本当にこの子は他人思いだとも思う。

 戦場では早死にするタイプだが、少なくともこの平和な日本では美徳と言えるだろう。

 

「それにしても、あなたにそんな機能が……ならば何故、最初から飛んで子猫を助けなかったんです?」

 

 舞弥はR2にそう問わずにはいられない

 そうすれば、ルークを危険な目に合さずに済んだだろうに。

 

「……いえ、だからこそ、ですか? いざとなれば助けられるから、まずは自分の力でやらせてみたと?」

 

 まさか、と舞弥は首を振る。

 機械にそんな複雑な……まるで人間のような思考が出来るはずがない。

 

 R2-D2は謎めいて機械音声を鳴らすのだった。

 

  *  *  *

 

 その後、公園に戻って子供たちに子猫を返したルークと舞弥。

 まだ時間もあるので、舞弥は屋台でアイスを買って食べることにした。

 

「すいません、私はダブルをバニラとミントで。この子には……」

「チョコとストロベリー!」

「はいはい、ダブルでバニラとミント、それにチョコとストロベリーね。お姉さん、いつもありがとう! そっちは息子さんかい?」

「いえ、知人の子を預かっているだけです」

 

 馴染みの店主からアイスを受け取り、片方をルークに渡す。

 さっそくアイスを舐めたルークは、大きな笑顔を浮かべた。

 

「おいしい!」

「それはよかった」

 

 あの店は屋台ながら、舞弥が甘味食べ歩きの末に見つけた隠れた名店なのだ。美味で当然。

 今度はいなくならないようにルークの手を空いている方の手で引っ張る舞弥。

 やはり、この店のアイスは美味だと満足していたのだが……。

 

「ああー!!」

 

 突然ルークが悲鳴を上げたので下を見れば、ルークのアイスが地面に落ちていた。

 泣きそうな顔になるルークに、舞弥はまたしても我知らず溜め息を吐いた。

 そして、自分のアイスを差し出す。

 

「これをお食べなさい」

「いいの?」

「いいですよ」

 

 短い会話の後、アイスを食べだすルークは、すぐに笑顔に戻った。

 単純なものだと思いながら、舞弥は自分の分のアイスを買い直すために踵を返すのだった。

 

  *  *  *

 

 夕刻。

 切嗣から連絡を受けた舞弥とルーク、R2-D2はアイツベルンの城を目指して移動していた。

 ある程度近くまではレンタカー、その後は徒歩だ。

 

 しかし、ルークが車に揺られるうちに眠ってしまったので、舞弥がおぶっている。

 

 本当に、本当に、呑気なものだ。

 

「マイヤー……アイス、おいしかったー……」

 

 寝言もどこまでも平和だ。

 幼い彼の世界に、危険や悪徳などなく、あったとしても父が倒してしまうのだろう。

 

「まったく、人の気もしらないで……」

 

 思わずごちる舞弥。

 今日一日でドッと疲れた。

 だが、悪くない気分だった。

 

 ……子供とは皆、こうなのだろうか? ……自分の子供でも? あの子を、母として育てていたら何かが違ったのだろうか?

 

 バカバカしい考えだ。

 そんな有りえない『もしも』など、意味はない。

 

「……明日は、とっておきのケーキバイキングにでも連れていってあげますか」

 

 自分の口元に薄く笑みが浮かんでいることに、舞弥はついぞ気が付かなかった。

 




Q:R2-D2のジェットブースターって型落ちして部品が無いんじゃ?

A:ダース・ヴェイダー「フルスクラッチすればいいじゃない」

そんなワケで、実は旧三部作本編より高性能なR2。

甘い物大好きだし(仕事だからとはいえ)面倒見はよさそうなので、意外と仲良くなっている舞弥とルーク、そしてR2でした。


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番外編:Fate成分/zero

タイトル通り、Fateキャラが一切出ない、スターウォーズ側オンリーのクロスオーバーと言い難い話。

だから番外編、という言い訳。


 銀河帝国。

 

 その名の通り銀河を支配する、この巨大国家の是非の判断は未来の歴史家たちに委ねるとしても、その前身となった共和国、そしてその守護者であったジェダイオーダーの崩壊が歴史の必然であったことは、衆目の一致する所だった。

 

 保身と利権にしか興味のない議員たち、自浄作用を失った元老院、組織として硬直を起こしていたジェダイ。

 これらに対するフラストレーションはクローン戦争の勃発と言う形で爆発し、やがて銀河帝国の樹立と言う形で帰結した。

 

 その銀河帝国であるが、別に逆らう者に弾圧を加えてなんかいないし、エイリアン種族を差別もしていないし、元老院に解散を命じたりもしていない。

 もちろん『力による恐怖を持っての支配』などと言う脳筋なドクトリンを採用もしていない。

 それどころか帝国から独立したいという星には……妖怪染みた政治的手腕で帝国側が損をしないように調整した上でだが……自治も認めていた。

 難点と言えば、戦艦などの巨大な物をやたらと造ることだが、これも経済を回していると言う観点から見れば、必ずしも税金の無駄使いとは言えない。

 

 つまるところ、銀河帝国は建国時に期待された役割を、ほぼ完璧に果たしていた。

 

 それでも、その統治に不満を抱く者はいる。

 例えば旧共和国の頃の栄光……汚職にまみれた……を忘れられない者たち。

 ハット族やブラックサンなどの犯罪組織に、宇宙海賊。

 

 そして……ジェダイオーダーの残党。

 

 グランドマスターたるヨーダ自身の手によってオーダーが解散した後、多くのジェダイはヨーダやオビ=ワン・ケノービのように完全に隠居するか、プロ・クーンやシャアク・ティのように帝国の許可の上で小規模な道場を開いてフォース感知者を教育するか、あるいはセイシー・ティンのように全く違う職に就くかだった。

 しかし、一部のジェダイはあくまでもオーダーの掲げていた方法こそが正しいとし、帝国への恭順を拒んだ。

 これは帝国の皇帝が昔年の宿敵、シスの暗黒卿であったことも決して無関係ではないだろう。

 だが今や彼らこそが秩序と平和を脅かす存在と成り果ててしまったのは皮肉としか言いようがない。

 

 こう言った反社会的な勢力に対する対抗策として組織されたのがダース・ヴェイダー率いる『死の小艦隊』である。

 

 死の小艦隊は普段、銀河を巡りながら犯罪組織や反乱軍と戦い続けているのだが、今は未知領域の端の方にある未開の星系……現地の人々が太陽系と呼ぶそこの、第五番惑星に当たる巨大なガス惑星の影にいた。

 

 ダース・ヴェイダーの息子、ルークを取り戻すためだ。

 

 無論、ヴェイダーとて今回のことは私事であるワケだから最初は単身で動くつもりだったのだが、皇帝のゴリ・オシによって艦隊を出動させることになったのだ。

 

 楔形の艦体を持つスター・デストロイヤーが大小合わせて10隻は並ぶその威容は、『小艦隊』と言うには規模が大きい。

 勘違いされがちだが、スター・デストロイヤーは駆逐艦(デストロイヤー)ではない。

 この戦艦には一隻でもって惑星を焦土とするだけの火力があり、故に星の破壊者(スター・デストロイヤー)なのだ。

 

 それが、10隻。

 

 単純計算で、この星系の第三惑星程度ならば10回は火達磨に出来ることになる。

 

 そう考えれば、この艦隊がどれだけ恐ろしいか分かるだろう。

 

 中でも旗艦であるエクゼキューター級スター・ドレッドノート一番艦エグゼキューター、あるいは単純にスーパー・スター・デストロイヤーと呼ばれるこの艦は、全長約19kmと言う馬鹿げた威容を誇っていた。

 その艦橋では、突如として『消滅』したヴェイダーに代わって副官のファーマス・ピエット提督と、ヴェイダーの個人的な友人であるオビ=ワン・ケノービが二頭体制で指揮を取っていた。

 

 と言っても、オビ=ワンに正式な指揮権があるワケでもなく、ピエット提督に助言するにとどまっているが。

 

 正直なところ、オビ=ワンはこの短い航海の間に乗員からの信頼を獲得していたが、ピエット提督は彼のことを疎んでいたのだった。

 そしてそれは真っ当な軍人としては当然の反応だった。

 

  *  *  *

 

 そんな二人だが、急な通信が入ったのでまとめて本来はヴェイダーしか入れない部屋に通されていた。

 跪くピエットと頭を下げるオビ=ワンの前には、黒いフードつきのローブをまとった老人の顔が映し出されていた。

 

『して、未だ彼の星に乗り込んではおらぬと?』

「ヴェ、ヴェイダー卿からの連絡が有り次第、部隊を降下させる予定です」

 

 静かなのに異常な迫力を持った老人の声に、ピエットは哀れなほど汗を流しながら答える。

 それもそのはず、この老人こそが銀河帝国の頂点に立つ銀河皇帝シーブ・パルパティーンその人なのだから。

 

『ふーむ、しかし魔術師に聖杯戦争か。死者の霊魂を呼び出すとは、シスにも無い技。興味はあるのお』

 

 顎に手を当てて考える皇帝に、オビ=ワンは顔をしかめる。

 

「死者を冒涜する、恐ろしい技であると私は考えますが」

『いかにもジェダイらしい考えよの、マスター・ケノービ。……しかし、そんな危険なことにルーク君を巻き込むとは、ヴェイダーめの怒りも納得と言うもの。……余だって怒っとる』

 

 ギラリと皇帝の黄色い目が輝く。

 皇帝がルークを孫のように可愛がっていることは、近しい者なら誰でも知る話し。

 それこそ、血縁者がいない……多分……皇帝の後継者は、ルークなのではと、まことしやかに囁かれるくらいには。

 

『ふむ……決めた! やっぱりデス・スターを発進させるぞい! 余、自らその星に出向いちゃるわい!』

 

『…………はい?』

 

 思わず、オビ=ワンとピエットの声が重なる。

 

『いやちょうど良い機会じゃ! いっぺんデス・スターを動かしてみたかったし、ルーク君が危険な目にあっておるのにジッとはしていられんわい!』

「いえ、あの……」

『よっしゃ! そうと決まればヨーダにTELしなければ! それじゃ現地集合じゃから!』

 

 一方的に捲し立て、皇帝の立体映像が消える。

 しばらくの間、二人は唖然としていた。

 先にアクションを起こしたのはピエット提督だった。

 

「な、な、な……何じゃあコリャアアアッ!!」

 

 誰にともなく絶叫した提督は帽子を脱いで床に投げつけた。

 

「何で帝国の上司、あんなんばっかりなんだよ! 皇帝は気まぐれ起こしてばっかりだし、ターキン大提督はパワー厨だし、ヴェイダー卿は……そうだよヴェイダー卿だよ! 何であの人、任地に子供連れ回してんだよ! この艦はもちろん、主な任地にも子供部屋用意させてるし! 野球選手かよ! って言うか兵士に子守りさせんなよ! 兵士はまだしも提督に子守り頼もうとするなよ!!」

 

 何か、色々溜まっていたらしく叫び続けるピエット。中間管理職は辛い。

 

「もうやだー!! 胃が痛ーーーい!!」

 

 ひとしきり叫んだ所でピエット提督は蹲った。

 オビ=ワンはそれを憐みを込めて見つめ、そして傍によって背中をさする。

 

「その、あまり根を詰めない方がいい」

「あなたに何が分かるってんですか……ヴェイダー卿の下で働くのは、どれだけ大変か……兵士たちからも尊敬とかされないし、他の提督からは嫌味を言われるし」

 

 嘆くピエットに、オビ=ワンは懐から何かを取り出した。

 

 それは、瓶詰の胃薬だった。

 

「私も、昔は型破りな師に振り回されたり、破天荒な弟子やそのまた弟子に振り回されたり、そのことで評議会のお歴々に色々と言われたりしたものさ。おかげで慢性的に胃が痛くてね。この薬が一番良く効くから、飲むといい」

「ケノービさん……」

 

 遠く見るような目で薄く笑うオビ=ワンに、ピエットはその苦労を察し、胃薬を受け取る。

 

 こうして、帝国軍の提督とジェダイマスターの間に、友情が生まれたのだった。

 




書いた通り、大艦巨砲主義なのは皇帝(とターキンとか)の趣味。
ちなみにデス・スターにスーパー・レーザーが搭載されているのは『その方がカッコいいから』

ジェダイオーダーは壊滅ではなく解散し、ジェダイたちは細々とながら活動しています。
そこに皇帝がシスとしてのやる気が無い+一部ジェダイがダーク・ジェダイ化で
結果的に『フォースのバランスが取れて』いるのが今の銀河の状態。

さあ、次回こそ話を進めよう!(戒め)


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アーサー王が女性とか、普通は分かんねえよ!

ローグ・ワンを何としても見に行きたいけど、仕事が年末スケジュールで時間が無い件。

そして久しぶりの投稿なのに、今度はSW分がほとんどない件。


 冬木市が誇る高級ホテル、冬木ハイアットホテル。

 そのワンフロアを丸々貸し切った奇妙な客がいた。

 

 客の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 ロンドンに存在する魔術師のための教育機関、時計塔の講師にして名家アートボルト家の当主。

 天才的な魔術師であり、ロード・エルメロイの異名を持つ彼は、聖杯戦争に参加するために、このハイアットホテルに滞在しているのだった。

 

  *  *  *

 

 宿泊している部屋の中で、ランサーとケイネスは向き合っていた。

 無論、これからの戦いについて話し合うためである。

 もう一人、赤毛の美女……ケイネスの婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが興味無さげな様子で椅子に腰かけていた。

 

「……ではマスター。キャスターの討伐に名乗りを上げると」

「無論だ。言うまでもなく、追加の礼呪は魅力的であるし、あの外道をのさばらせておくのは、私の美意識に反する」

 

 ランサーの問いに不敵に笑って答えるケイネス。

 まずは、あの魔術師(キャスター)のサーヴァントでありながら魔術師とは到底言えないような狂人を誅殺するのは、魔術師として真っ当な感性を持つケイネスとしては当然のことだった。

 

 もちろんそれは、キャスターの非人道的な行いに対する義憤などではなく、魔術の秘匿を行わずに暴れるキャスターとそのマスターに対する魔術師としてだったが。

 

「私とて、キャスターの行いは決して見過ごせる物ではありません。しかしマスター、ソラウのことを考えれば、慎重に期するべきではないかと」

 

 ランサーの提言に、ケイネスは眉をひそめる。

 このサーヴァントは、ケイネスが婚約者を連れてきたことに、ずっと文句を言い続けていた。

 ケイネスの魔術の腕によって、ランサーの魔力はソラウが供給しているにも関わらず、である。

 都合、二人分の魔力を得られるのは、そこにいるだけで魔力を消費するサーヴァントにとって大きなアドバンテージなのだが、ランサーは戦場にソラウを連れ出すことに難色を示していた。

 しかしケイネスとしてもこの見た目麗しい女騎士の言うことを、一から十まで無碍には出来ない。

 

 彼女は英国が誇る大英霊、アーサー王に他ならないのだから。

 

 これが例えば古代ケルトの戦士であったりしたなら単なる礼装、使い魔の類いと割り切ることも出来たろうが、生憎とケイネスは魔術師であるが同時に生まれも育ちもイギリスだ。

 イギリス人にとって、アーサー王と言うのは特別な意味を持つ。

 

 あの忌々しいウェイバー・ベルベットめに征服王のマントの切れ端を盗まれたケイネスは、急遽代わりの触媒を用意することになった。

 最初は古代ケルトのフィオナ騎士団所縁の品を使おうと思ったのだが、ギリギリの所で何と彼のアーサー王がカムランの丘で使ったという神槍ロンゴミニアドの現物を入手できたのだ。

 召喚のために使用したら本来の持ち主に返還する約束で借り受けたそれを触媒にして呼び出すことが出来たのは、やはりアーサー王その人であった。

 

 まあ、女性であったことにはソラウ共々死ぬほど驚いたが。

 本人は女を捨てたと言っているが、ソラウ一筋のケイネスをして思わず視線が吸い寄せられるほどのタワワな果実をお持ちなので説得力に欠ける。

 

 それはともかく、最優たるセイバーとして召喚出来なかったのは残念だが、ランサーとしても彼女は優秀極まるし、考えてもみればロンゴミニアドはエクスカリバーに比べて知名度の低い品なのだからランサーとして呼び出せたことは真名の秘匿にはプラスに働くだろう。

 

 いやそもそも、アーサー王が実は女性とか、誰も思いもよらないだろうが。

 

 ケイネスとしては「この戦い我々の勝利だ!」とか言いたくなるような状況なのだが……。

 

「慎重と言われてもな。このフロア一つ借り切って構築した魔術工房は万全にして無欠。結界二十四層、魔力炉三器、猟犬がわりの悪霊・魍魎数十体、無数のトラップに、廊下の一部は異界化させている空間もある。ソラウにはこの工房にいてもらえば防備は完璧だ。後は私とお前で敵を討ちに出ればいい。互いの秘術を尽くした魔術師同士の決闘と洒落込もうではないか」

 

 改めて、ランサーの意見を一蹴するケイネス。

 そんなマスターに、ランサーは形の良い眉をひそめる。

 

 どうにもこのマスターは、戦いを甘く見ている節がある。

 最愛の婚約者を連れて来たのが、その際たる例だろう。

 

「まあ、このホテルに魔力を持った者が入れば結界ですぐに分かる……ムッ!」

 

 余裕を見せるケイネスだったが、突如として表情を硬くする。

 

「マスター?」

「どうやら、お客人のようだ……しかし、こんな真昼間からとはな」

 

 しかし、余裕を崩さず霊装の一つである遠見の水晶球を取り出してテーブルの上に置き、そこに映像を映す。

 ランサーも、今まで興味なく気だるげにしていたソラウも水晶を覗き込む。

 果たしてそこには、侵入者……ギョロリとした目が特徴的な異相の、あのキャスターの姿があった。

 

 それ自体は驚くほどのことでもない。

 

 あのジル・ド・レェを名乗るキャスターは、ランサーをジャンヌ・ダルクと間違えるほどに正気を失っている。

 ならば、この昼間に攻めてくることもあるだろう。

 

「な、何だと!?」

「こんなこと……!」

「この男は……狂っているとはいえ、そこまで……!」

 

 しかし、キャスターのいる場所はそれでも三人を愕然とさせるには十分だった。

 

 冬木ハイアットホテルのエントランス。

 

 キャスターはそこに堂々と立っているのだ。

 

  *  *  *

 

「ご覧になっているのでしょう! 聖処女よ!!」

 

 キャスターは大きく腕を広げ、霊体化もせず、エントランスのど真ん中で高らかに声を上げる。

 

「どうやら不埒な魔術師共々、結界の奥に籠っているようですね。その結界は私の手では破壊すること叶いますまい。……ならば、引きずり出させていただく!!」

 

 周囲に客やホテルの従業員たちが何事かと集まってくる。

 普通ならば、警察を呼ぶ事態だ。

 だがキャスターの常人離れした雰囲気に飲まれ、ほとんど動くことが出来ない。

 

 危険だ。何か分からない、理屈は無いが、とにかく危険だ。

 

 多くの者がそう思っているのに、動けない。

 

「さあ!! 狂乱の宴を始めましょうぞ!!」

 

 キャスターが手に持った本……宝具、螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)を広げた。

 するとどうだろう。キャスターの周辺に海星とも蛸とも付かぬ異形の存在が次々と現れたではないか。

 

 悲鳴を上げる宿泊客や従業員に、異形の海魔が襲い掛かっていく。

 

「この建物の上階に陣を敷いたのは下策でしたね。我らは下の階を制圧し、あなた方が出てくるのを待っていればいい!」

 

 次々と召喚される海魔はホテルのエントランスを埋め尽くし、それに飽き足らず他のフロアへとなだれ込んでいく。

 

「何よりも、聖処女よ! 高潔なあなたに、無辜の民が食い散らかされるのを黙って見ていることは出来ますまい!!」

 

 狂気のままに笑うキャスター。

 

 今ここに冬木ハイアットホテルは地獄と化した。

 

  *  *  *

 

「何と言うことを……!!」

 

 水晶球に映る惨劇に、ランサーは愕然とする。

 さらに、ケイネスも不愉快そうに顔を歪める。

 ソラウは、思わず吐き気を催していた。鉄のような女と言えど、人間が貪り喰われる態を見て平気ではいられない。

 それでも吐かないのは、彼女のプライド故だった。

 

「行くぞ、ランサー。……あの愚か者を倒しにな」

「!? マスター!」

 

 ケイネスの突然の言葉にランサーが驚愕し、次いで反論を始める。

 

「確かにあの下種を放ってはおけません! しかし、あなたとソラウは脱出を! ここは私に任せてください!」

 

 第一にマスターとその婚約者の安全を優先するランサー。

 そんなランサーにケイネスは鋭い視線を向ける。

 

「この私が、あんな外道に遅れをとるとでも?」

「マスター……この際です、ハッキリさせておきましょう。これは戦争です。魔術師同士の決闘などでは無い! 力が足りなければ、知恵が及ばなければ、油断すれば、その全てが足りていてなお、人が死にゆくのが戦いです! あなたがすべきことは、愛する者を守ることではないのですか!」

「……ふむ、まったくもってその通り。……しかし、どうやら私は魔術師として未熟であったらしい」

 

 ギラリとケイネスは、目を光らせる。

 

「……キャスターの暴挙を見て、私は魔術の秘匿をしていないことに憤るべきなのだ。……それなのに、私は奴の行いの残虐さにこそ怒りを感じている」

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 あるいは異なる時間軸に置いては、魔術師殺しに翻弄され無様な最期を遂げる男。

 その有り方はあくまで魔術師であり、常人や凡人など意にも介さない。

 

「なれば、真正面からあの下種を討ち果たし、この未熟さを削ぐとしよう。……それと、ついでに……あくまでもついでに、途中で一般人を拾うとしよう。何、記憶の処理などどうとでもなる」

 

 それでも…………それでも、彼は誇り高い男なのだ。

 

 ケイネスの目から覇気を感じ取ったランサーは、もはや説得は無理と考える。

 覚悟を決めて戦場に向かう男を、どうして止められよう?

 かくなる上は、剣として、盾として、彼とその婚約者を守るのみ。

 

「ケイネス……」

 

 ソラウは婚約者の横顔を意外な物を見るような顔で見ていた。

 彼女にとって、ケイネスは貴族的で学者然とした男であり、こんな顔が出来るとは思ってもいなかったのだ。

 婚約者の意外な姿に、思わぬ衝撃を受けるソラウだった。

 

  *  *  *

 

 キャスターのハイアットホテル襲撃。

 

 真昼間に、それも一般人の大勢いる場所で堂々と魔術を行使するという、普通の魔術師ならば有り得ない行動は、有り得ない行動であるが故に多くのマスターたちの虚を突く物だった。

 

 遠坂時臣はこの事態をどう収束させるか頭を抱え。

 

 間桐雁夜は飛び出そうとした所を臓硯に止められ。

 

 言峰綺礼は外道の滅殺を進言する兵士たちを宥めねばならず。

 

 ウェイバー・ベルベットは狼狽するばかりの所を征服王に張り倒され。

 

 雨生龍之介は人知れず狂喜の声を上げていた。

 

 当のキャスターがそこまで考えていたかは定かではないが、魔術師にとって秘匿は最低限の原則であり常識であるため、それを完全に無視したキャスターの行動にほぼ全ての陣営が混乱し、動きが鈍っていた。

 

 ……たった一つの陣営、いやたった一人を除いて。

 

  *  *  *

 

 ハイアットホテル近くのビルの上。

 黒い装甲服とマントに身を包んだ男は、警察、消防、マスコミに野次馬が集まっているのを見下ろしながら、何処かへと通信を飛ばしていた。

 

「ああ、そうだ。501大隊を降下させろ。大至急だ」

 

 その全身から殺気がオーラの如く立ち昇る。

 シスの暗黒卿、ダース・ヴェイダーは怒りに燃えながらも、声は絶対零度の刃のように冷たく鋭かった。

 

「……奴らに、我々の戦争を見せてやるとしよう」

 

 




てなわけで、死亡フラグから逃げられなかったハイアットホテルでした……。

いや、アルトリアがこっちにいる以上、遅かれ早かれこっちに来るだろうと思って……。
青髭の旦那は、狂人ゆえに普通ならやらないことをやってのけるので、ある意味動かしやすいです。


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ドロイド式、蛸の丸焼き

明けましておめでとうございます。


 今や地獄と化した冬木ハイアットホテル。そのパーティーホール。

 何とか海魔から逃れた人々は、ここに集まっていた。

 

 実際にはランサーをおびき寄せる餌とするために、意図的にキャスターがここに誘導したのだが。

 

 その中に、奇妙な一団がいた。

 クールな印象の黒髪の美女が、意識を失っている金髪と青い目の四歳くらいの男の子を抱え、青くて丸っこい機械が傍にいる。

 

 言わずと知れた久宇舞弥、ルーク・スカイウォーカー、そしてドロイドのR2-D2だ。

 

 二人と一体は、舞弥のお気に入りのケーキバイキングを堪能するためにここに来て、事件に巻き込まれたのである。

 

 異常を察知するや、舞弥はルークに薬品を嗅がせて意識を失わせ、抱えてここまでやってきたのだ。

 泣き叫ばれると困ると言う他に、ルークにトラウマを与えたくなかったからだ。

 残念ながら海魔の展開が早く脱出することは出来なかったが、舞弥はそこまで悲観していなかった。

 この場で最優先すべきはルークの安全、ただ一つ。

 そして、切嗣がこの状況を知れば、令呪を使ってルークを転移させるだろう。

 

 それまで、彼を守ればいい。

 自分は死ぬかもしれないが、それだけだ。この場では最小の被害だろう。

 ……他の人々の生死は、最初から考えていない。

 

 冷徹とも言える思考を回す舞弥に対し、R2は部屋の机を押して部屋の出入り口である扉の前まで持っていく。

 

「R2、何をしているのです?」

 

 思わず、舞弥は問うてしまう。

 ピキャピキャと、電子音で答えるR2。

 もちろん、舞弥にその内容は分からない。

 いや、おそらくバリケードを作ろうとしているのは分かるのだが。

 

「……あなたは、ここにいる人間たちを守ろうとでも言うのですか?」

 

 思わず出た言葉に、R2は肯定するように電子音を鳴らす。

 

「………………」

 

 ルークを守るため、なら分かる。

 だが、この小さなアストロメイクドロイドは、この状況でも他者の生命を守ることを諦めてはいなかった。

 それを単に機械のプログラムに従っているだけと断じることは簡単だが、それだけとは舞弥には思えなかった。

 

「いや、この場で考えるべきことではありませんね」

 

 一人ごちてから、ルークを床に寝かせR2を手伝って家具を扉の前に置く舞弥。

 そのまま、後ろの一般人たちに声を懸ける。

 

「申し訳ありませんが、誰か手伝ってはくれないでしょうか? 生き残りたいでしょう?」

 

  *  *  *

 

 

 衛宮切嗣は、ハイアットホテル近くのビルの屋上にいた。

 切嗣はキャスターによる冬木ハイアットホテル襲撃を知ってとき、幸運だと考えた。

 ホテルにはランサー陣営を撃破するための仕掛けが施してあり、上手くすればキャスターとランサーを纏めて片付けられる。

 

 各陣営の動きが鈍いのは、この真昼間の衆人環視の中で下手を打てば、神秘の秘匿を怠ったとしてキャスター共々討伐対象にされかねないからというのもあるが、切嗣の策は単純な爆弾によるもの、その心配はない。

 

 しかし、そこにルークたちが巻き込まれたと知ると、少々の計画変更をすることにした。

 もったいないが、令呪を使いルークを転移させ、しかる後にホテルを爆破する。

 

 舞弥を失うことになるが、仕方がない。

 葛藤がないワケではないが、幸か不幸か切嗣は自分の感情と行動を切り離すことが出来た。

 少なくとも、この時の切嗣はそう考えていた。

 

 が。

 

「キリツグ、令呪はまだ使うな」

 

 いつの間にか現れていたシスの暗黒卿がそれを止めた。

 息子を溺愛している彼らしくない言葉に、僅かに切嗣は顔をしかめる。

 だが、話すことなどないと令呪を使おうとしたところで……喉元にライトセイバーが突きつけられた。

 

「令呪を使えば、ルークを呼べるのだろう。しかしそうなれば、R2とマイヤを失うことになる」

「……舞弥には自力で脱出してもらう」

「嘘を吐くな。貴様がホテルに施した仕掛けに気付かんとでも思ったか」

 

 切嗣はさらに顔を厳しくする。

 

「この場での最適解だ。それとも息子を見捨てる気か?」

「いいや。だが、まずは生存者全員を救出する策を練り、万策尽きてから令呪を使うのが道理だ」

「甘いな……」

 

 ヴェイダーは、切嗣の襟首を掴んで自分に引き寄せる。

 

「たった二画しかない令呪をここで使うか? そうなれば、後はルークを自害させることしか出来なくなるぞ?」

「何のことだ?」

「惚けるな。願いを叶えるためには、聖杯にサーヴァント七騎分の魂を捧げなければならんのだろう? ……無論、ルークの魂も。しかし私がそれをさせない。つまり、貴様が聖杯を使うためには、二画目の令呪を使って私を始末し、さらに三画目でルークを自害させなければならない」

「ッ……!」

 

 どこまで知っているのか、この男は。

 内心で歯噛みする切嗣だが、ヴェイダーの言う通り、もう令呪の一角も無駄には出来ない。

 キャスターを討伐し、追加の礼呪をもらえれば話しは別だが、確実性には欠ける。

 

「何故そうまで令呪を使わせようとしない? 君にとって息子は何としてでも助け出したい存在のはずだ」

「息子に、R2やマイヤを犠牲にして自分だけ助かった、などと言う重荷を背負わせたくないからだ」

 

 切嗣の言葉に、ヴェイダーは平時と変わらぬ低い声で答えた。

 あまりにも甘っちょろい答えに、切嗣は怒りを禁じえない。

 

「なら、どうするつもりだ? 君が行って暴れるつもりか?」

「それもいい、だがそれだけではない」

 

 ヴェイダーが空を見上げる。

 つられて切嗣も見上げれば、空の彼方から何かが飛んでくる。

 

 飛行機のような……しかし、切嗣の知るどの飛行機とも違うシルエット。それが数機飛んでくる。

 さらにその後ろから、まるでSF映画に出てくる宇宙船のような飛行物体が、下に二本の足を持った奇妙な機械をぶら下げて続く。

 

「何だ、アレは……?」

「援軍だ」

 

 正体不明の機体の内の一機が二人のいるビルに近づいてきたかと思うと空中に静止し、コクピットと思われる部分の下にあるハッチを開いた。

 まるで、迎えに来たとでも言う風に。

 

「ではキリツグ、私は行く。令呪は最後の手段にしておけ」

 

 それだけ言うと、ヴェイダーはハッチに飛び乗る。

 

「待てヴェイダー! お前は……お前たちはいったい何なんだ!」

 

 叫ぶ切嗣。さすがに、これがヴェイダーの宝具だなどとは思わない。

 ヴェイダーは少しだけ振り向いた。

 マスクの下の顔が、皮肉っぽく笑っているように切嗣には見えた。

 

「最初から言っているではないか。私はシスの暗黒卿、ダース・ヴェイダーだと」

 

  *  *  *

 

 扉の向こうで、海魔たちが蠢く音がする。

 バリケードを築いたとはいえ、長くは持たないだろう。

 舞弥はテーブルの影に隠れて銃を構える。もう、銃を隠す必要はないだろう。

 

「入ってくる……入ってくる……」

「お、終わりだ……」

「死にたくない、死にたくない……」

 

 部屋の端に集まった生存者たちは、ガタガタと震えている。

 舞弥は彼らを情けないとは思わない。

 こんな状況で冷静さを保っている自分の方が異常なのだ。

 

 しかし、彼らよりも全身からスタンガンやら何やら展開しているR2-D2の方が頼りになる。

 

 舞弥は自分の後ろで相変わらず眠っているルークに視線をやる。

 どんな夢を見ているのか、幸せそうな寝顔をしていた。

 地獄のようなこの状況で、あまりに呑気な顔なので舞弥は我知らず笑んでいた。

 

「大丈夫、あなたは私が守ります」

 

 切嗣が令呪を使うまでなら、自分一人の命で何とかなるだろう。

 と、外が騒がしくなる。

 

 多くの人間の声と……発砲音、だろうか?

 

 それがしばらく続いた後、おもむろに外か扉を叩く音と声が聞こえた。

 

「大丈夫か! 助けに来たぞ!!」

「た、助け……」

 

 助けと聞いて民間人の一人が立ち上がろうとするが、舞弥は警戒を崩さない。

 この状況で、救助など信用出来ない。

 情報を引出そうとした舞弥だが、その瞬間、天井が崩れた。

 

「な……!?」

 

 瓦礫と共に落ちてきたのは、今まで見たのよりも大きな海魔だった。

 大型海魔は触手をうねらせ、悲鳴を上げる人々を捕食しようとする。

 

 その時、R2-D2がジェット噴射して飛び上がり、大型海魔に体当たりをする。

 単純な攻撃ではあるが、結構な重さのあるR2のジェットでの突撃は効果があったらしく、海魔は悲鳴を上げて後ずさる。

 そのまま安全圏まで後退しようとするR2だが、海魔の触手が鋭く伸び、アストロメイクドロイドの丸っこい体に巻きついた。

 R2はスタンガンを触手に押し当てるも、効果は薄い。

 海魔はR2を飲み込もうと大口を開く。

 電子音の悲鳴を上げるR2を助けるべく、舞弥は拳銃で海魔の口を撃つ。

 対人用の拳銃では威力が足りないらしいが、全く効いていないワケではないようで、海魔は悲鳴を上げてR2を放してしまう。

 すかさずR2は内蔵された燃料を海魔に吹きかけ、さらにジェットの炎で引火させてやる。

 たちまち、炎に包まれる海魔。

 のた打ち回った末に動かなく海魔だが、天井に開いた穴からさらに別の海魔が現れ、舞弥に向け触手を伸ばした。

 咄嗟に逃げようとする舞弥だが……。

 気が付けば、後ろで寝ているルークを抱き抱えるようにして庇っていた。

 

 触手が、舞弥の背に迫る。

 

 その時、爆音と共にバリケードごと扉が吹き飛んだ。

 何らかの爆発物を使って扉を破壊したのだろう。

 

「攻撃開始! 野郎ども! あの、ダイアノーガの出来損ないをフライにしちまえ!!」

 

 煙の向こうから、無数の光弾が飛んできたかと思うと海魔に次々と命中する。

 悲鳴を上げて海魔は動かなくなり、やがて消滅していった。

 

 吹き飛んだ扉を潜って部屋に入ってきたのは、白い装甲服の兵士たちだった。

 

 舞弥は、その一団を見てアサシンを思い出す。

 しかし、サーヴァントではないようだ。

 

「敵影なし! クリア!」

「周囲を警戒しろ! 油断するな!」

「生存者確認!」

 

 兵士たちは統率のとれた動きで周囲を警戒している。

 

「皆さん! 助けにきました!」

「怪我人はいませんか? 気分の悪い人は?」

 

 何人かの兵士がそう言って、民間人たちを助けに向かう。

 人々はまるでSF映画か漫画に登場するような恰好の兵士たちに懐疑的な視線を向けるが、藁にも縋る思いで彼らに従う。

 舞弥は油断せずにルークを抱きしめていると、兵士たちの中から一人の男が近づいてきた。

 他の兵士たちと違う、青いラインの入った装甲服とT字型バイザーが余計にアサシンを思わせ、舞弥は警戒心を強める。

 

「ルーク坊ちゃん、R2、無事で良かった」

「……あなたは?」

「失礼、自分は帝国軍501大隊、コマンダーのレックス。スカイウォ……いやヴェイダー卿の部下です」

 

 綺麗な敬礼をする男……レックス。

 声からして、兵士たちに指示を飛ばしていたのは彼だろう。

 R2は嬉しそうにピキャピキャと電子音を鳴らす。

 

「R2、彼は味方なんですね?」

 

 何故だか、R2がそう言っているような気がして、舞弥はようやく警戒を解く。

 レックスは舞弥に向かって手を差し出す。

 

「坊ちゃんたちを守ってくれて、礼を言います」

「こちらこそ、助かりました」

 

 素直に礼を言い返し、舞弥はレックスの手を取るのだった。

 




去年末ですが、やっとローグ・ワン見ました。

ネタバレは避けますが、すごく良かったです。

って言うか去年末は、
人理焼却とかビーストとか、やっぱりFate勢ヤバいな。これSW勢勝てないんじゃねえ?
      ↓
ローグ・ワン視聴
      ↓
やっぱり帝国軍とヴェイダー卿ヤバいな。これなら戦えそうだ。

と、意識がコロコロ変わっておりました。


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スター・デストロイヤーは出さないと言ったな? アレは嘘だ!

 501大隊と合流したダース・ヴェイダーは、まず部隊を三つに分けた。

 

 一つは、ホテルの周囲に展開し、警察消防、マスコミ、野次馬などをホテルに近づけないようにしつつ、ホテルの全ての出入り口を封鎖。海魔が外に出ないようにした。

 

 一つは、ホテルの正面から突入。海魔を掃討しつつ生存者を救助。そしてルーク・スカイウォーカーを救出する任を帯びていた。この分隊を率いるのはヴェイダーが深く信頼するクローン大戦時代からの副官、コマンダー・レックスだ。

 

 最後の一つは、シャトルをホテル屋上に着陸させ、直接突入した。

 これが、ダース・ヴェイダーが直接指揮している隊である。

 

  *  *  *

 

 

 ケイネスとランサーは、いままさにホテルの上階で事の元凶であるキャスターことジル・ド・レェと廊下を挟んで相対していた。

 

 ケイネスは礼装の一つである月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の中に閉じこもっている。

 これは何も臆病風に吹かれたワケではなく、中に一般人を匿っているからだ。

 

「お待たせいたしました聖処女よ! 狂乱の宴は楽しんでいただけましたかな?」

「キャスター……貴様は私をおびき寄せる、それだけのためにこれだけの事を起こしたと言うのか?」

「無論! そしてもう一つ! あなたに知ってもらうためです! 神の傲慢さを! 残酷さを! 神は人間を苦しめ喜ぶ存在であると言うことを! 現に御覧なさい! 人々がこれだけ苦しみ嘆いていると言うのに、神は救いの一つも寄越さないではありませんか!!」

「……もういい。やはり貴様とは会話にならん」

 

 この狂人にはもはや何を言っても無駄であると確認したランサーは、槍を構えキャスターに向け突進する。

 しかし無数に現れる海魔に阻まれる。

 ランサーは槍を振るうも、次から次から現れる海魔に突進力を殺されてしまう。

 

「ふふふ、あなたの得物はその長い槍と愛馬……どちらもこの狭い場所で戦うには致命的に向いていない」

「なるほど、無いよりはマシ程度の知恵はあるようだ。しかし、舐めるな!」

 

 それでもランサーは果敢に海魔に向かっていく。

 しかし倒しても倒しても海魔は湧いて出てくる。

 ランサーの体にも海魔たちが巻き付き、動きを拘束していく。

 

「クッ……!」

「武功の程度によって覆せる数の差には限度があります。いかな貴女と言えど、槍を振るい切れず馬に乗れぬこの場では、この数は如何ともし難いでしょう」

 

 余裕の笑みを浮かべるキャスター。

 しかし、突然黒い影が現れ赤い閃光が走ったかと思うと、海魔たちが切り刻まれて消滅する。

 

「ッ! 貴公は……」

「何者だぁ! 誰の許可を得てこの私の邪魔立てをするかぁ!!」

 

 驚愕するランサーと怒り狂うキャスター。

 果たして乱入者は、黒い装甲服とマントに身を包み赤い光剣を握ったダース・ヴェイダーだった。

 

「少なくとも貴様の許可ではないな」

 

 ヴェイダーは素早くランサーの隣に並ぶ。

 

「貴様もよくよく妙なのに絡まれるな」

「ヴェイダー……貴方は」

「話は後だ。……攻撃を開始せよ」

 

 ヴェイダーが合図すると、廊下の向こうから白い装甲服の兵士たちが現れ海魔たちを銃から放たれる光弾で撃ち殺していく。

 戦いと言うよりは作業に近い。

 光弾はキャスターにも当たるが、怯む程度で倒れる様子はない。

 

「この兵士たちは? 貴公の使い魔……ではなさそうだが」

 

 ランサーの質問に答えずヴェイダーはキャスターから視線を逸らさない。

 ブラスターを浴びているにも関わらず禄なダメージの無いキャスターを見て、ヴェイダーは確信めいた呟きを漏らした。

 

「やはり効かぬか。と、なれば……」

「き、貴っ様ぁああ!! 許さぬぅうう!! 思い上がるなよ、この匹夫めがぁああ!!」

「喧しい奴だ……しつこい男は嫌われるぞ」

「私の祈りが! 私の聖杯がその女性を甦らせたのだ!! 彼女は私の物だ! 肉の一片から血の一滴、魂に至るまで私の物だ!!」

 

 髪を掻きむしり絶叫するキャスター。

 その姿を見て、フォースを通じてあまりにも深い狂気と絶望を感じ取って、ヴェイダーは何となくだが理解する。

 

「そうか、お前も同類か」

 

 大切な何かを失い、故に狂った。

 切嗣と言い、コイツといい、この聖杯戦争とやらでは、よくよく同類に出くわす。

 

「同類だと!? 私の痛みが! 悲嘆が! 絶望が!! 貴様如きに理解されてなるものか!!」

「そうだな。だがなキャスター。……お前が何を失ったのであれ、お前はやり過ぎた」

 

 瞬間、ヴェイダーは海魔たちをフォースで天井に叩きつけ、さらに一足でもってキャスターに近づくと、魔導書を持つ手を斬り飛ばす。

 

「ぐ!? ぐがぁあああ!!」

「……ワケあって殺さぬ。しかし、その代わり四肢と舌を斬り落とした上で炭素冷凍させてもらう」

 

 悲鳴を上げて床を転がるキャスターに、ヴェイダーはさらに斬りつけようとするが、キャスターは転がりながらも魔導書を拾っていた。

 ヴェイダーの四方から海魔が飛びかかる。

 が、その海魔たちも突っ込んできたランサーの槍の一振るいで霧散する。

 しかし、その間にキャスターは何処かに逃げ遂せていた。

 

「逃げ足の速い……」

「追いますか?」

「いや、お前たちでは相手にならん。引き続き生存者の救助とダイアノーガモドキの殲滅を優先しろ」

「イエス、マイロード!」

 

 兵士たちに指示を出した後で、ヴェイダーはランサーと向き合った。

 

「さて……」

「助太刀感謝する、ヴェイダー。しかし、その理由を問いたい」

「通りがかったので、ついでだ。……さしあたって、生存者はこちらで預かろう」

 

 ランサーの問いに平坦な声で答えたヴェイダーは、生存者の確保も兼ねて彼女らを保護しようとするが、そこで異論を唱えたのがケイネスだ。

 

「貴様……! サーヴァントでありながら魔術師同士の決闘にこのような部外者どもを……!」

「ランサーのマスターよ。事はすでに魔術師同士の決闘などという枠を大きく超えているのだ」

 

 ピシャリと言い放つヴェイダー。

 

「それに彼らは私の部下だ。私も正規のサーヴァントではない」

「……チッ!」

 

 舌打ちしたケイネスは、月霊髄液の中から姿を現し、兵士たちに一般人を押し付ける。

 記憶は処理済であるようだ。

 

「何者だ。貴様は……!」

「すでに名乗ったはず。私はシスの暗黒卿ダース・ヴェイダーだと」

「そういうことではない!」

 

 イラつくケイネスだが、何とか冷静になろうと努める。

 このサーヴァントが正規の物でないのは確かだが、だとしたらアインツベルンが何かしかの反則を行ったことになる。

 キャスターの件といい、どうも聖杯戦争は思い描いていた魔術師同士が秘術の限りを尽くした戦いには程遠いようだ。

 

「ぬう……」

「ヴェイダー。この借りはいずれ返させてもらおう」

「いらぬ。今回は撤退するならイレギュラーな事態ゆえ見逃すが、次会う時は殺し合いだ」

 

 ランサーの言葉をバッサリと切り捨て、ヴェイダーは兵士たちを率いて去っていく。

 ケイネスは考え込んでいる。

 

 それでもランサーは、感謝を込めて彼らの背に一礼するのだった。

 

  *  *  *

 

 その後、ヴェイダーは部隊を撤収させた。

 

 一足違いで現場に駆け付けた言峰綺麗、間桐雁夜、ウェイバー・ベルベットらが見たのは、僅かな時間で廃墟と化したホテルと騒ぐ一般人たちだけだった。

 

 ケイネスは速やかにこのホテルを引き払い、ソラウ共々別の拠点に居を移した。

 

 キャスターは隠れ家で延々と呪いの言葉を吐き、雨生龍之介に慰められていた。

 

 多数の目撃者が出ながらも、この事件がつまり何だったのか、自分たちが見た物が何なのか理解出来ている者は誰もいなかった。当事者たちでさえも。

 

 結局のところ、この事件は火災と集団幻覚ということになり、そのカバーストーリー流布のために遠坂時臣や言峰璃正神父が四苦八苦する破目になるのだった。

 

 そして、聖杯戦争参加者たちの興味と警戒心は必然的に一つの事柄に集約される。

 

 あの、シスの暗黒卿なるサーヴァントと、その配下と思しい兵士たちはいったい何者なのかと。

 

 言峰璃正神父はアインツベルン陣営をキャスター同様に討伐対象にすることも考えたが、あまりにも正体不明すぎて、それすらも躊躇われた。

 

 そして当のヴェイダーたちはと言うと……。

 

  *  *  *

 

 アインツベルンの城。

 501大隊ごと帰参したヴェイダーは、城の中庭に堂々とシャトルを着陸させた。

 意識を失っているルークを抱いた上体でシャトルを降りると、切嗣とアイリスフィールが二人揃って茫然と上空を見上げていた。

 

 城の上空に、巨大な楔形の宇宙船が静止している。

 死の小艦隊所属、エクゼキューター完成前はヴェイダーの座乗艦でもあったインペリアル級スター・デストロイヤー、『デヴァステーター』である。

 

 切嗣とアイリスフィールに構わず、ヴェイダーはもう一人の人物に頭を下げた。

 白髪と白髭の老人で、着物ともローブともつかない服を着ている。

 

「オビ=ワン。ご足労を掛けました」

「まったくだアナキン。お前にはいつも心配ばかりかけさせられる」

 

 穏やかに笑う老人……オビ=ワン・ケノービだが急に顔を厳しくする。

 

「しかし、お前とルークの『その状態』はいったいどういうことなんだ? それではまるで……」

「そのことについても、お話ししたいと思っていたのです。……キリツグらも交えて、話すとしましょう」

「ああ、彼らからも事情が聴きたい」

 

 彼ら……切嗣とアイリスフィールの方を一瞥するオビ=ワンとヴェイダー。アイリスフィールは舞弥やレックスに声を掛けられて正気に戻ったが、切嗣はまだ上の空だ。

 

「それはそうとアナキン」

「何です? オビ=ワン」

「お前が……もちろんルークも……無事でいてくれて嬉しいよ」

「……はい。ありがとうございます、マスター」

 




ローグ・ワンの街の上に居座るスター・デストロイヤーのインパクトが凄かったので、思わず出しちゃいました。

ちなみにデヴァステーターは、EP4冒頭でレイア姫の乗った船を拿捕した、『あの』スター・デストロイヤー。

……次回は情報を整理する回になるかと。


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地球初の惑星間交流の図

 いまや帝国軍の臨時駐屯地と化したアインツベルン城。

 

 中世ヨーロッパを思わせる城を白い装甲服のストームトルーパーや二足歩行の兵器AT-STが警備している姿は、酷くミスマッチだ。

 上空にはスター・デストロイヤーがデェェェンと居座り圧倒的な存在感を放っている。

 新型クローキング装置によって外部からは探知されないようになってはいるが、さすがにいつまでもは無理だろう。

 

 そんな城の一室には、切嗣とアイリスフィール、ヴェイダーとオビ=ワン、さらにレックスが集まり、皆で長テーブルを囲んでいた。

 

「まずは挨拶から。私はオビ=ワン・ケノービ。このアナキンの師……だった者だ。弟子とその息子が世話になった」

「丁寧にどうも、私はアイリスフィール・フォン・アインツベルンです」

 

 まずはオビ=ワンが立ち上がり礼と共に自己紹介する。

 対しアイリスフィールは挨拶をし返すが、切嗣が絞り出したのは疑問だった。

 

「つまり……つまり、君たちは本当に宇宙人だったのか?」

「君たちから見れば、そうなる」

「それでセイヴァー……ルークとヴェイダーを回収に来たと」

「ああ」

 

 オビ=ワンが答えると、切嗣は頭を抱えたくなるのを堪えなければならなかった。

 さしもに、これが現実であると受け入れなければならない。

 それだけではなく、もはや力関係は完全に逆転した。

 こうなったら、聖杯戦争を続けることなど不可能だ。

 

「それじゃあ、あなた方はもう帰ってしまうの……?」

 

 不安げに声を出したのはアイリスフィールだ。

 しかし、ヴェイダーは首を横に振る。

 

「いや、そういうワケにはいかない」

「え? それって……」

「説明するより見せる方が早い。……レックス、ブラスターを貸してくれ」

「? 何に使うんです?」

 

 愛用のブラスターピストルを差し出すレックスの疑問に答えず、ヴェイダーは素早くブラスターを受け取って自分の腕に銃口を当て、引き金を引いた。

 

「!? 何を……!」

 

 驚愕するレックス以下一同だが、ヴェイダーの腕には傷一つない。

 

「これは……どういう手品です?」

「手品ではない。……これでハッキリした。私の体はサーヴァントと同質の物になっているのだ。おそらく、ルークも」

 

 呆気に取られるレックスにヴェイダーは苦々しげに答える。

 

「聖杯、とやらの影響だろう。私たちは死んではいないワケだから、疑似サーヴァントとでも言うのだろうか」

「そして、それを解決する手段は分からない」

 

 オビ・ワンも大きく息を吐く。

 彼から見て、ヴェイダーとルークはフォースの塊のように見える。

 肉体が滅びフォースと一体化した者が、こういう姿で現れることがあるが、ヴェイダーたちは間違いなく生きている。

 

「どうあれ、私と息子は聖杯とやらに縛られているのだ……!」

 

 怒りに満ちた声を漏らすヴェイダー。

 それを聞いて、切嗣はすぐに頭を回転させる。

 つまり、まだアインツベルンの聖杯戦争は終わっていない。

 それも、この軍団を上手く使えば容易に勝利出来るだろう。ルークに対する令呪はまだ生きている。

 

 ……しかし、ヴェイダーは銀河帝国の実質的な№3であるという。

 

 つまりルークは要人の息子ということで、それを拉致したとなれば武力介入する理由には十分だ。

 聖杯を使って世界から争いを無くしたとしても、宇宙から攻めてこられて滅びましたじゃ、冗談にもなりゃしない。

 

 表面上は無表情を保ちながらも、切嗣は深く懊悩する。

 

 聖杯を諦めるという選択肢が頭をよぎる。

 だが、それだけは出来ない。絶対に出来ない。

 

  *  *  *

 

 その場はお開きと言うことになった後、アイリスフィールは部屋で休んでいた。

 金色の人型ドロイドが、お茶を机に置く。

 

「どうぞ奥様。この星のお茶の淹れ方は分からなかったので、わたくしどもの知る淹れ方ですが」

「ありがとう……うん、美味しいわ」

 

 アイリスフィールがカップに口を着けると、いつもと違う風味が口の中に広がる。これはこれで悪くない。

 

「お褒めに預かり光栄です。……それでR2-D2。アナキン様に迷惑をかけてなかったろうな」

 

 そう言って、C-3POは傍らのR2-D2の頭部を軽く叩く。

 

「何だって? むしろ自分が迷惑をかけられた? まったくお前はいつもそんな生意気な口を利いて! アナキン様に怒られて、スクラップにされてもあたしゃ知らないからな!」

 

 ルークに対する慇懃な態度とは違う砕けた態度でR2に接するC-3POに、アイリスフィールは思わず笑む。

 

「あなたたちは仲が良いのね」

「仲が良いだなんて、奥様! ただの腐れ縁ですよ!」

 

 両手を上げて驚きを表現するC-3PO。

 

「こいつときたらとんだ性悪ドロイドで、いつも無茶ばかりしてるんです!」

 

 抗議するように電子音を鳴らすR2-D2。

 

「フフフ……でも、『アナキン様』ってヴェイダーのこと?」

 

 微笑んでいたアイリスフィールだが、ふとC-3POの言う名が気になった。

 オビ=ワンもそうだが、彼もダース・ヴェイダーを『アナキン』と呼ぶのだ。

 

「もちろんでございますとも。私にしてみれば、何で皆さんアナキン様のことを『ダース・ヴェイダー』とか、『ヴェイダー卿』なんて呼ぶのか理解できませんね。私はあの人に作ってもらったんですよ」

「ヴェイダー……いえ、アナキンに?」

「ええ、ええ。今でも憶えてます。まあ、ドロイドの記憶は消去しない限り消えないんですけど。とにかく、わたくしは砂と岩ばかりの惑星タトゥーインで生まれました。あの頃、アナキン様は奴隷の身分でお母様のシミ様のために……」

 

 突然、R2が甲高い電子音を鳴らした。

 

「何だR2! ……喋り過ぎ? とりあえず人前ではダース・ヴェイダーと呼んでおけ? 馬鹿を言うんじゃないよ! 例え銀河中の人間が言ったって、私は認めないね! あの人はアナキン・スカイウォーカーじゃあないか!」

 

 怒るC-3POに、R2は何処か呆れたような……しかし柔らかい電子音を出した。

 

「うん、そうだねって? 何を分かり切ったことを言ってるんだい!」

 

 漫才めいたやり取りをするドロイドたちに、アイリスフィールは思わず笑みを浮かべるのだった。

 

  *  *  *

 

 城の中庭では、舞弥がストームトルーパーに囲まれて射撃訓練をしていた。

 舞弥が持っているのは、愛用の小銃や護身用の拳銃ではなく、ストームトルーパーが使うブラスター・ライフルだ。

 

 レックスの短い説明を受けた舞弥は危うげなくホログラムの標的を撃ち抜いていく。

 

「へえ、上手いもんだな。本当にブラスターは初めてかい?」

「ええ、この星では光線銃はまだ実用化されていませんから」

 

 舞弥の横では、レックスがヘルメットを外して立っていた。

 頭髪を剃り、口の周りの髭には白い物が混じっている。

 

「しかし、やっぱり美人は何してても絵になるねえ」

「コマンダー! 俺らにもその美人さん、紹介してくださいよ!」

「どうですお嬢さん! この後、俺とカクテルでも!」

「喧しい! とっとと持ち場に戻りやがれ!」

 

 やんややんやと囃し立てる兵士たちだが、レックスに怒鳴りつけられてブー垂れながらも仕事に戻っていく。

 

「すまんな、何せ女日照りなもんで……」

「構いませんよ、兵士というのは、そういう物ですから」

 

 無表情に言う舞弥に、レックスは苦笑する。

 

「……まあ、アンタには感謝してる。ルーク坊ちゃんを守ってくれたこと、改めて礼を言わせてくれ」

「切嗣の命令でしたので」

「そうかい」

 

 あくまで表情を変えない舞弥。

 と、そこにルークが駆けてきた。

 

「マイヤー!」

「ルーク、どうしました?」

「うん! あのね、あのね! このお城で花を見つけたんだ! だからマイヤにあげるね!」

「そうですか…………ありがとう」

 

 小さな花を差し出すルークに舞弥は柔らかくフッと笑む。

 それ見て、レックスも笑顔になった。

 

「何だ、そんな顔も出来るんじゃないか」

 

  *  *  *

 

 城の城壁の上では、ヴェイダーとオビ=ワンが歩きながら話していた。

 

 そろそろ日が暮れようとしている。

 

「……では、サーヴァントを生け捕りにして、カーボン冷凍すると?」

「はい。そうすれば、アイリスフィールの肉体が崩壊することは防げるはずです」

「正直、難しい事だと思うが」

「それでも、やらねばなりません。……ルークが、キリツグとアイリスフィールの娘と約束したのです。私が二人を守ると」

 

 ヴェイダーの言葉を聞いて、オビ=ワンは苦笑混じりに笑んだ。

 この男は本当に身内に甘い。

 そこが美徳でもあり、弱点でもある。

 

「後は、どうキリツグに納得させるかですね。あの男は聖杯に執着している。……正確には、聖杯で願いを叶えることに」

「世界の平和、争いの根絶……聞く限り、そこまで悪い目的とは思えないな」

「そう簡単な話ではないようです。それに上手い話には裏があるもの。この私とルークを巻き込むような聖杯ですよ? 思わぬ落とし穴がありそうです」

 

 ヴェイダーの口調や声色は、切嗣やアイリスフィールと話している時よりも砕けた調子だ。

 二人の間にある深い信頼故である。

 

「それで、キリツグとはどんな男なのだ?」

「一番『拗らせて』た頃の私と同程度に拗らせてる男です」

「何だろう……急に関わる気が失せたんだが」

 

 微妙な表情になるオビ=ワン。

 ヴェイダー……アナキンは、過去、その優れた才能と能力が故に増長していた時期がある。

 そこに元奴隷のコンプレックスやら、ジェダイへの不信やらが重なり、大きな悲劇を生んだ。

 ヴェイダーも、マスクの下で何とも言えない顔をしていた。

 

「聞くところによると、サーヴァントはマスターに似た気質の者が呼び出されるとか……ならば、私とキリツグが似た者同士なのは当然でしょう」

「私にはそうは思えないな。……アナキン、お前は何があろうと愛する者を犠牲にすることは、絶対に無いじゃないか」

 

 それが、オビ=ワンから見たヴェイダーと切嗣の最大にして決定的な違いだ。

 この男は出会ったばかりの少年の頃から、愛する者を守ることを何より優先していた。

 それ自体は美徳であったはずなのに、執着はジェダイの道に反するからと否定したのは自分たち旧来のジェダイだ。

 そのことが、この多感で危険なほどに純粋な男を、どれほど傷つけたか……。

 

「まあとにかく、早く皇帝に連絡を入れないと。あの方もルークを可愛がっていますから、無事な姿を見れば安心するでしょう」

 

 ヴェイダーは話題を変える。

 オビ=ワンの苦悩に気が付いたのか、彼としてもあまり触れたくない話題なのかもしれない。

 と、オビ=ワンがバツの悪そうな顔になる。

 

「そのことだが……アナキン。実は一つ、言わなければならないことがあるんだが……」

「オビ=ワン? 何ですか」

「ああ、実はな……皇帝がこちらに向かうことになっている」

「そうですか、皇帝が…………何ですって?」

 

 ヴェイダーの声がらしくもなく上ずる。

 

「皇帝陛下が、この星にいらっしゃると?」

「ああ、それもデス・スターに乗って……」

「な!? 何で止めなかったんです!」

「止まると思うか?」

 

 オビ=ワンの言葉に、ヴェイダーは天を見上げた。

 確かに、あの皇帝がオビ=ワンの言葉で止まるとは思えない。

 即断即決と言えば聞こえはいいが、気まぐれをすぐに行動に移すのだ。

 何せ『カッコいいから』と言う理由で惑星をも粉砕するスーパーレーザーをデス・スターに仕込む御仁である。

 

「……キリツグには黙っておきましょう」

「それがいい」

「出来れば、皇帝が到着する前に事を終わらせたいですね」

「出来ればな……」

 

 二人は揃って溜め息を吐くのだった。

 と、ヴェイダーのヘルメットに仕込まれた通信機が鳴った。

 

「失礼……私だ」

『ああアナキン様! 大変でございます!!』

 

 オビ=ワンに断ってから通信機を開くと聞こえてきたのはC-3POの声だ。

 

「3POか、どうしたんだ?」

『はい、わたくしアイルスフィール奥様と談笑していましたのですが、奥様はわたくしのお茶を褒めてくださいまして、そうしましたら、奥様の様子がおかしいじゃあありませんか。奥様のおっしゃることはわたくしにはサッパリで……』

 

 相変わらず要領を得ない説明に、しかしヴェイダーは少し安心していた。

 昔とは何もかも変わってしまったが、あのプロトコルドロイドは自分が起動した時から、ほとんど変わらない。

 

「3PO、それでアイリスフィールは何と言ったんだ?」

『ああはい。つまり奥様が言うには結界を越えて侵入した者がいるそうです』

「ッ! 分かった。アイリスフィールに礼を言ってくれ」

 

 通信を切り、ヴェイダーはオビ=ワンと向き合う。

 二人は頷き合うと、敵を迎え撃つべく動きだした……。

 




そんなワケで、次回はある意味Fate/Zero前半のハイライト、聖杯問答の予定。

しかし反乱者たち、ヴェイダーとスローンの別格感がヤベエ。


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急に押しかけたあげく、勝手に飲み会を開く征服王

聖杯問答が、始まらない件。


 アイツベルンの城の上空に居座るインペリアル級スター・デストイヤー、『デヴァステーター』の艦橋で、とある帝国軍人は己の任務について思いを馳せていた。

 

 何故、仮にも帝国軍の精鋭たる自分たちが、こんな銀河の端も端の蛮境の地にまでやってこなければならなかったのか?

 豊かな生態系は驚くべき物があるが、産出される鉱物もありふれた物ばかり。

 文明や科学は未発達で、自力で星系の外にも出ることが出来ないばかりか、星単位で統一された政府も無く馬鹿みたいな数の国に分かれている原始的な星に。

 

 もちろんシスの暗黒卿ダース・ヴェイダーの息子を救出するためである。

 

 それは分かっている。だが、何故死の小艦隊総出で来なけりゃならなかったのか?

 無論、彼とて模範的な一軍人として拉致された子供を助けることに異論は無い。

 

 しかし、いくらなんでもオーバー過ぎやしないか?

 

 そもそも、こんな未開の星の住人が、どうやって『あの』ダース・ヴェイダーの目を盗んでコルサントから人一人を拉致したのか?

 

 皇帝やヴェイダーの考えが読めないのはいつものことだが、今回は飛び切りだ。

 

 そして今現在、何よりも彼を悩ませているのは……。

 

「おおおお! こいつは凄い! のうヴェイダーよ、この戦船を貰うワケにはいかんか! 是非欲しい!」

「ライダーよ、それはいくらなんでも不躾が過ぎるぞ。しかし、確かに凄まじいものだ……」

「ふん! やはり雑種よな! この程度の船に大喜びとは、程度が知れる」

「おう、アーチャーよ! そこまで言うからには、この戦船に匹敵する船を持っておるのだろうな!」

「……近い物なら持っている」

 

 軍人には理解できないことを言い合う、赤いマントの偉丈夫に、青い衣装の金髪美女。そして眩しい黄金の鎧の青年という仮装行列のような恰好の三人。

 

「こんな質量が空に浮かんで光より速く飛ぶだと? 火力に至っては世界を焼き尽くすだと!? 馬鹿げてる! ……いや、魔術でも理屈の上では同じことが可能だ。……果たして、どれだけの才覚を持った魔術師が、どれだけの研鑽を積み、どれだけの時間と労力をつぎ込めば可能かは、予想も付かないが……とにかく、可能なはずだ」

「それは実質不可能と言っているような物じゃないか!! その上、これと同じ船が何百隻もあるなんて……」

「…………」

 

 何やらショックを受けているらしい、青い服で金髪をオールバックにした男と、オカッパ頭の女顔の少年。

 

 ……現在、帝国の軍人を悩ませているのは、何で誉れあるこの艦にこんなワケの分からない連中が乗り込んでいるのかということだった。

 

  *  *  *

 

 それを説明するために、時間はいくらか遡る。

 

 ヴェイダーとオビ=ワンがアインツベルンの城の城門前まで行くと、そこにいたのは二頭の牛に引かれた豪奢な戦車だった。

 あのライダー……イスカンダルの宝具だ。

 

 案の定、赤い髪の偉丈夫と、オドオドとしている少年が乗っていた。

 しかしながらライダーは鎧ではなく、ゲームのロゴがプリントされたTシャツとジーンズというラフな格好の上、酒樽を担いでいる。

 

 その周りをすでにストームトルーパーやAT-STが取り囲み、銃口を向けている。

 しかしながらライダーはニッと笑うとヴェイダーに向けて手を挙げた。

 

「よっ! ヴェイダー!」

「貴様か……」

「城を構えておると聞いて来てみれば……まさか軍勢までいるとはな!」

 

 豪放に笑うライダー。

 しかし、マスターの少年、ウェイバー・ベルベットはそうはいかない。

 無数の銃口に怯えつつ、相方の無茶にツッコむことも忘れて叫ぶ。

 

「何だよコレぇ、何なんだよコイツ等ぁ! て言うか『アレ』はいったい何なんだよぉ!!」

 

 城の上空にデェェェェェンと鎮座しているスター・デストロイヤーを見て、ウェイバーは混乱しているようだ。まあ仕方がない。

 

「落ち着け坊主」

 

 そんなマスターを諌め、ライダーはヴェイダーに問う。

 

「ま、確かに気にはなる。あの船にしてもこの軍勢にしても、明らかに聖杯戦争の域を超えておる」

「それは私も気になるな」

 

 と、森の中から二つの影が現れた。

 青い衣装に白銀の鎧と金髪碧眼の女神の如き美貌の女騎士、ランサーと、そのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。

 怪訝そうなヴェイダーたちにライダーが笑いながら説明する。

 

「余が誘ったのだ! 剣を交えるばかりが戦ではあるまい。これだけの英霊が揃っておるのだ、聖杯にいかなる望みを託すのか、それが分かれば自ずと英霊としての格も分かろうというもの! 酒でも飲み交わしながら聖杯問答と洒落込もうではないか!」

「だからと言って何故、この城に……」

 

 呆れるヴェイダー。

 今度はケイネスがしかめ面のまま説明を始めた。

 

「聖杯問答とやらはともかく、貴様らには色々と聞きたいことがあるからな」

 

 まあそれも当然かとヴェイダーは考える。

 色々と派手に動きすぎた。

 しかし答える義理はない。

 

「無論、ことわ……」

「いや、いいじゃないか。一つ、問答といこう」

 

 ライトセイバーを抜こうとするヴェイダーの手を静観していたオビ=ワンが押さえた。

 

「オビ=ワン?」

「……そもそもキリツグたちを無事に連れて帰るのなら、戦いを回避するのが最善手だ。そのためには話し合いが必要だとは思わないか?」

『正気か!? 敵をわざわざ自分の陣地に入れるなんて、どうかしてる!!』

 

 往年のジェダイらしい意見のオビ=ワン。一方、何処かでこちらを監視しているらしい切嗣は承服しかねるようで念話を飛ばしてくる。

 ヴェイダーは少し考えた後で客人たちの方を見た。

 

「…………よかろう。だが、このオビ=ワンも同席させたい」

「別に構わんが、その男は?」

「私の師だ」

 

 ヴェイダーの答えに、ライダーは少し驚いたような顔をする。

 

「師? ううむ、やはり貴様は色々と規格外らしいな」

「それはこちらの台詞だ。で、招待客はこれで全部か?」

「いや、後は……」

「ハッ! いかにも害虫と雑種の巣らしい、汚らわしい場所よ!」

 

 突然、眩い黄金の光が顕現する。

 あの黄金のサーヴァント……アーチャーだ。

 

「こいつも貴様が誘ったのか?」

「おう! 町で見かけたのでな!」

 

 思わず息を吐くヴェイダー。

 何処まで勝手なのか、この征服王。

 

「おうおうアーチャーよ! 貴様のマスターはこなかったのか?」

「アレは穴熊を決め込んでいる。まったく、面白みの無いことよ」

 

 征服王が問うと、アーチャーはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 オビ=ワンは黄金の王から感じる、この面子の中でも頭一つ抜けているフォースに驚愕していた。

 

「あれが例の金ピカか……確かに凄まじいな」

「人格の方も、相応に凄まじいので気を付けて」

 

 小さな声で話すオビ=ワンとヴェイダー。

 それに気付いているのかいないのか、アーチャーは終始不機嫌そうな顔を崩さない。

 と、新たな影が姿を現した。

 

「その問答、我々も参加しても?」

 

 それは、白地に赤いラインの入った装甲服にT字型バイザーの目立つヘルメット、コートの裾のような物が付いた腰巻という恰好の兵士だった。

 

 アサシンことクローン・トルーパーだ。

 その中でも精鋭ARC・トルーパーのコマンダーであることを、その装備品からヴェイダーとオビ=ワンは察していた。

 

 新たな来訪者に最初に反応したのはランサーだ。

 

「貴公はアサシンか。暗殺者が堂々と姿を現すとは……」

「そうは申しますが、私も一応は英霊の末席に名を連ねる身。是非とも問答に参加させていただきたく存じます」

 

 慇懃な調子で頭を下げるトルーパーだが、もちろん、こうして現れたのは遠坂時臣と言峰璃正の策である。

 先刻のハイアットホテルでの一件でアインツベルン陣営を警戒している彼らだが、そうなるとやはり情報が欲しい。

 しかし自分たちが直に接触するのはリスクが高い。

 そこに英雄王からライダーに誘われた旨を告げられ、これ幸いにとトルーパーを紛れ込ませることにしたのだ。

 ここまでは時臣の計画通りだ。

 

 ……城の外に師の待機命令を無視して潜んでいる言峰綺礼を除いては、だが。

 

「とりあえず、移動するぞ。城の中の部屋ででも……」

「いや待て、ヴェイダー。その前に、どうしても聞いておかねばならぬことがある」

 

 さしあたっては客人をもてなそうとするヴェイダーだったが、そこでライダーがらしくもない真面目くさった顔で言った。

 

「まず、あの船に乗せてはもらえんか?」

 

  *  *  *

 

 そして時間は現在。

 

 ヴェイダーの案内でデヴァステーターを案内された一同の反応は様々だ。

 

 ひたすら楽しそうなライダー。

 

 何やら考え込んでいるランサーとケイネス、ウェイバー。

 

 分かり辛いが動揺しているらしいアサシン。

 

 そして嫌悪感を隠そうともしないアーチャー。

 

 彼らを艦に連れ込んだのは、こちらの科学技術や戦力の一端を見せることで、敵の戦意を削ぐと言う狙いがあったのだが、果たしてどこまで上手くいったものやら……。

 

 そして、彼等は改めて城の中庭に集まっていた。

 城の中の適当な部屋に通そうかと思ったが、ライダーが庭でいいと言ったからだ。

 

 ライダー、アーチャー、ランサーの三人の王が輪になるように地面に座り、ヴェイダーとオビ=ワンがそこから一歩引いた場所に並んで腰掛ける。

 アサシンことクローンコマンダーのフォードーはさらに少し下がった場所に立っていた。

 アイリスフィールとウェイバー、ケイネスはさらに離れた場所に思い思いの座り方をしている。

 中庭の外周にはストームトルーパーたちがブラスターを手に並んでいた。

 ちなみにルークは寝かし付けられ、切嗣、舞弥は城の中に潜んでいる。

 

 ……そして言峰綺礼は、城外で侵入の機会をうかがっていた。

 

「さてと……」

 

 ドッカリと胡坐をかいたライダーが、持参した酒樽の蓋を拳で叩き割り、柄杓で中の酒をすくう。

 

「では、まずは一献!」

 

 こうして、英雄たちが語り合う聖杯問答が始まった。

 




何か、参加者が増えました。

各陣営の思惑

ケイネス:「アインツベルン陣営の情報が超欲しい!」→「聖杯問答? 渡りに舟だがランサーに腹芸が出来るかは微妙だし、自分の目でも見ておきたいから私も行くか」

時臣  :「アインツベルン陣営の情報が超欲しい!」→「聖杯問答? 英雄王が情報持って帰ってくれるとは思えないし、アサシンに行ってもらおう!」

臓硯  :「アインツベルン陣営の情報が超欲しい!」→「聖杯問答? でもバーサーカーが暴走して他のサーヴァントに袋叩きにあったらアレだし、雁夜に腹芸は出来ないだろうし、今回は見送りじゃ畜生!」

綺礼  :「アインツベルン陣営の情報とか、正直どうでもいいから衛宮切嗣に会いたい」

切嗣  :「聖杯問答とか、馬鹿じゃないの? 話し合いじゃ何も解決しないよ」

こんな感じ。


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正直、原作でのセイバーいじめはどうかと思う

お待たせしました。
聖杯問答、前半。


 ライダーから受け取った酒を一口含むや、アーチャーは「まずい」というようなことを言い出し、自分の蔵の中から「本当の酒、王の酒」とやらを取り出した。

 気を利かせたクローントルーパーが恭しく酒の入れ物を受け取り、これまたアーチャー自前の器に注いで英霊たちに配る。

 

「おお! 旨い!!」

「確かに」

 

 これには、英霊たちも満足したらしい。

 オビ=ワンも一口含み、なるほどと笑顔で頷く。

 ヴェイダーがマスクに仕込まれた開閉ギミックで口元をパカッと開き、慣れた様子で酒を飲みはじめると、英霊も人間も一様に少し驚いた様子だった。

 

 そうして始まった問答であるが、予想通りと言うべきか揉めに揉めた。

 

 かいつまんで言えば、アーチャーに曰く聖杯は自分の所有物であり、それを得るのは当然であると言う。

 

 ライダーは自らの受肉を聖杯に願い、自らの大願たる世界制覇は自らの力で為すと言い、周囲を驚かせた。

 

 そしてランサーは、自らの故国の救済……過去の改変を望むのだと言う。

 

 そこからは、さらに問答は紛糾した。

 

 身を挺して国を救わんとするランサーをアーチャーはせせら笑い、己の刻んできた運命を覆そうとするランサーにライダーは渋い顔をした。

 

 国と民に尽くすことこそ王道であると言うランサーに対し、ライダーは国と民が王に尽くすことが王道であると言う。

 

 理想に準じ民を救うことが王の在り方と信じるライダーに対し、ライダーは誰よりも強欲であり故に民を導くことが王の在り方と解く。

 

 己の生涯を受け入れているライダーに対し、どうも生前のことを悔いているらしいランサーでは相性が悪いようだ。

 

「失礼ながら、征服王殿。貴方の言い方は、余りに一方的に過ぎるかと……」

 

 ヴェイダーは酒をチビチビと飲みながら興味なさげにしていたが、ランサーの旗色が悪くなったあたりで、オビ=ワンが口を挟んだ。

 周囲の視線が集まったところで、オビ=ワンは言葉を続ける。

 

「私のいた場所では、ランサー殿の在り方も、決して否定される物ではありませんでした。むしろ、国を背負う者には推奨されていると言っていい」

「むう、しかしな、ああー……」

「オビ=ワン・ケノービと申します。ケノービで結構」

「ではケノービよ、そうは言うがな。己と臣下の残した道を、否定する王などあってはならんではないか」

「もちろん、私とて過去を変えることは間違っていると思います。しかしあなたの言葉は、あまりにも極論ではないでしょうか? 私からすれば、貴方の言い分は強者の傲慢とも受け取れます」

「ほう? 中々に言いよる」

 

 オビ=ワンの言葉に、ライダーはむしろ面白そうな顔をした。

 

「失礼。しかし、貴方を貶める意図が無いことをどうかご理解いただきたい。私が言いたいのは、価値観は多数あると言うことです。どれか一つに拘泥してしまうのは、あまり良いこととは言えない」

「……いかにも雑種らしい考えよな。貴様の言は、結論を出せぬ能無しの常套句ぞ」

 

 アーチャーが皮肉っぽく言っても、オビ=ワンは動じない。

 ここらへん、かつては調停者の異名を持ったジェダイ・マスターの面目躍如だった。

 

「そも、我らサーヴァントは皆聖杯への願いを持って顕現しておる。話し合いでどうこう出来ると言うのが間違いよ」

「しかして、暴力だけで解決するのもあまりにも短絡的と言うもの。だからこそこうして言葉を交わしているのではありませんか?」

 

 自らの言葉に動じないオビ=ワンに、アーチャーは鼻を一つ鳴らす。

 

「だとしても、その権利を持つのはそこな黒い害虫であって貴様ではないわ」

「黒い害虫って、ゴキブリかよ……」

 

 ライダーの後ろで小さくなっているウェイバーのツッコミは、当然の如く無視された。

 しかし、ライダーは納得した様子で頷く。

 

「しかし尤も。第一、余たちはまだ、貴様が聖杯に懸ける願いを聞いておらん」

「それは……私も気になってはいた。貴公は何を望んでいる?」

 

 ランサーも同調し、英霊たちの視線がヴェイダーに集中する。

 ヴェイダーは面倒くさげに杯を置くと、息を吐いた。

 

「……そんな物は無い」

 

 無感情な言葉に、ライダーは目を丸くし、アーチャーは逆に鋭く細める。

 一同を代表するように、ランサーは疑問を発する。

 

「無い、だと? どういうことだ?」

「言った通りの意味だ。私にとって聖杯戦争は、厄介事に巻き込まれたという意味しかない」

「望んで聖杯戦争に参加しているワケではないと? ならばどうして……」

「パパー!!」

 

 さらに問おうとした時、突然場違いな声が響いた。

 この場に最もそぐわない存在の声。子供の声だ。

 全員の視線が、声のした方に向くと、やはりそこにいたのは4才ほどの白人の少年だった。

 少年は居並ぶ英霊たちに構わずヴェイダーのもとへと駆けてくる。

 

「ルーク? どうしたんだ、こんな夜更けに」

 

 少年……愛息子のルークを抱き留めたヴェイダーが問うと、ルークはニパッと笑った。

 

「えへへ、目がさめちゃった……? この人たち、だれ?」

 

 そこでルークは、初めて周りの見知らぬ人々に気が付いたようだった。

 ヴェイダーはどう説明したものかと少し考え、嘘にならない程度に本当のことを隠すことにした。

 

「この人たちは……パパが仕事をしている相手だ。私たちは、今仕事について話しているんだ。ルークはいい子で寝ていなさい」

「ええー! 遊んでよー!」

「ダメだ」

 

 頬を膨らませて分かり易く不満を表現するルークに、ヴェイダーは少し息を吐く。

 一方で、面食らっているのはサーヴァントやマスターたちだった。

 

「ヴェイダー……その子は」

「見ての通り、私の息子だ」

「息子!? いやしかし、その子はサーヴァントで……親子とも共々召喚されたと言うのか!?」

 

 ランサーは、衝撃のあまり目を丸くしている。

 答えは、意外な所からもたらされた。

 ここまで発言の少なかったアーチャーが、鼻を鳴らす。

 

「何を驚いている? その男は、今世を生きる身。(わらべ)の一人もいるのは当然であろう」

「はあああ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げるのは、ウェイバーだ。

 

「そんなことあるワケが……」

「いいや、そこの金ピカの言う通りだ。……私とルークは、今を生きる人間だ。少なくとも、まだ死んではいない」

 

 衝撃に包まれる英霊と魔術師たち。アーチャーだけは、表情を変えなかった。

 

「どういうワケだか、我が子ルークがサーヴァントとして召喚され、私は迎えにくる途中で……やはり召喚されたのだ」

「そんなことが……これはいったい、どういうことだアインツベルン!!」

「正直、私にも分からないことが多すぎるの、ロード・エルメロイ。アインツベルン家にとっても、ヴェイダーたちのことはイレギュラーなの」

 

 ケイネスはアイリスフィールに問いを投げるが、彼女は首をゆっくりと横に振った。

 

「最初は『そういう考えに囚われているだけの』サーヴァントだと思っていたのだけれど……あの宇宙船やミスター・ケノービがそれを否定しているわ」

 

 夫の言葉を拝借しつつもアイリスフィールは正直に答える。

 ここに至って嘘を吐いても仕方あるまい。

 ヴェイダーは、ルークを抱き上げたまま皮肉っぽい声を出す。

 

「しかし、貴様たちも見ての通り私たちは疑似サーヴァントとでも言うべき状態だ。理由も理屈も分からんがな。そうでなければ、死人どもの茶番劇に誰が参加するというのだ。王道でも何でも、勝手にやっていればいい」

「……アナキン」

 

 段々と口が悪くなってきている元弟子を、オビ=ワンが諌める。

 それから、英霊たちに頭を下げた。

 

「申し訳ない。普段は、もう少し礼節をわきまえた男なのですが……」

「息子を攫われた上に、殺し合いに放り込まれればこうも言いたくなります。……つまり、私にとって聖杯戦争は単なる厄介事だ」

「言うではないか、害虫。……しかし、生きているのならばこそ、欲も願いもあるのが道理。万能の窯を手にしたくはないのか? 叶えたい願望は? そこの王を名乗る娘のように、やり直したい過去……あるいは蘇らせたい死者がいるのではないか?」

 

 探るような黄金のサーヴァント。

 ヴェイダーは、少しだけ考えた後、言葉を出した。

 

「……やり直したい過去ならいくらでも、ある」

 

 ヴェイダーとて、あらゆる願いを叶える聖杯に、まったく魅力を感じていないワケではなかった。

 

 あの時、もう少し早く動けたら、母は死なずにすんだかもしれない。

 

 あの時、もう少し賢かったなら、弟子はまだ傍にいたかもしれない。

 

 あの時、もう少し心を強く持てたなら、妻は子供たちと笑い合っていたかもしれない。

 

 それでも。

 

「それでも、私は過去を変えたりはしない」

「…………」

「パパ?」

 

 何故と、視線で問うランサーに答える代わりに、息子の頭を撫でた。

 

「この子は四つになる。……娘もいる。この子とは双子で、頭の良い子だ」

 

 そう言うヴェイダーの口調は正しく『父性』と言うべき優しさがあった。

 

「たかが四年、それでも、この子たちは四年の歳月を生きてきた。その時間を否定することは、私には出来ない」

「つまり、貴様の行動原理は、息子と娘と言うことか。……随分と、矮小なことよ」

 

 嘲るような言葉を吐くアーチャーの目は、しかし試しているような光があった。

 

「小さいとも。私の手に国家だの銀河だのは大き過ぎる」

 

 こう言うヴェイダーであるが、帝国軍を指揮し銀河を又にかけて戦いを繰り広げる暗黒卿らしからぬ違和感を覚える者もいるかもしれない。

 しかし、それも言ってしまえば子供たちのため……子供たちに少しでも良い状態の銀河を残すためだ。

 

 結局のところ、ダース・ヴェイダーとは……アナキン・スカイウォーカーとは、あの砂の惑星で奴隷だった少年時代から、一貫して家族への強い……あまりにも強い愛のために生きているのだ。

 

「私に王道は分からぬ。……どうでもいいと言ってもいい。子供たちに未来を約束してくれるなら、銀河中から憎まれる暴君でも私にとっては忠誠に足るし、子供たちに犠牲を強いるなら全ての人間が諸手を上げて賞賛する名君でも逆らうには十分だ」

「全ては子らのため。そう言うのだな?」

 

 なおも、アーチャーは試すようにヴェイダーに問う。

 ヴェイダーは顔を伏せた。

 膝の上のルークは、やはり眠くなってしまったようで、うつらうつら舟を漕いでいた。

 

「いや、結局は自分のためなのだろうな」

 

 その言葉は酷く悲しげだった。

 

「良い息子にも、良い夫にも、良い弟子にも、良い師匠にもなれなかった。だから、せめて良い父であろうとあがいている。……それだけだ」

 

 何とも言えない重い沈黙が場を支配した。

 オビ=ワンは沈痛な面持ちで沈黙していた。

 ヴェイダーはフッと息を吐く。

 

「……どうにも少し酔ってしまったようだ。旨い酒だったので、少し飲み過ぎた」

 

 アーチャーはやはり傲慢な表情を崩さないが、多少ではあるが目元にある種の柔らかさが生まれていた。

 

「子を産み、育て、慈しむは、喰らい合い殺し合いの対岸に位置する、もう一つの生命の真理ぞ。……どちらか一つが絶対と信じる愚か者は後を絶たんがな」

 

 ライダーは、らしくもなく感じ入った様子で酒を煽る。

 

「我が覇道に未練は無く、生涯に悔いは無い。……が、生まれてくる我が子を抱けなかったことは残念ではあった」

 

 征服王イスカンダルの病死したのは王妃が妊娠していた時期であり、その名を継いだイスカンダルⅣ世は死後に誕生した子であった。

 

 そしてランサーは黙り込んでいた。

 彼女は常に王としての自分を優先してきた。

 それが間違っていたとは決して思わないが、王であるが故に、王妃ギネヴィアを幸せにできず、モードレッドを自分の息子と認めることが出来なかったのも事実である。

 

 アイリスフィールも、ケイネスも、ウェイバーも、それぞれ何か考え込んでいるようだった。

 

 ヴェイダーは、眠ってしまった息子の頭を撫でる。

 その場にいる全員が、ヴェイダーがマスクの下で優しく笑むのを、全員が見た気がした。

 しかし同時にその笑みの奥に、途方もない悲しみがあるのも、見えた気がした。

 

「私は子供たちを守る。そのためなら、銀河の果てまでだって飛んでゆくし、どんな敵とでも戦う」

 

 それは冗談でもよくある比喩表現でもなく……ヴェイダーにとっては、当たり前のことだった。

 




王様たちの語り合いは、どうしても原作通りになってしまうので、バッサリカット。
個人的に、アルトリアの王道を推したい所存。
イスカンダルの王道はカッコいいけど強者の傲慢っていう側面があるし、ギルガメッシュの王道はウルク民でなければ付いていけそうにないし。

ようするに、今21世紀(作中だと20世紀)だしマケドニアや紀元前ウルクの価値観で話されても……と思ってしまうワケです。あくまで個人的意見ですが。

ちなみにギルガメッシュがやたらヴェイダーに絡むのは、ヴェイダーたちを(実力ではなく存在そのものを)警戒しているからです。

次回、クローンのターンの予定です。


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クローンにも五分の魂

クローン・コマンダーのフォードーは、今や黒歴史(レジェンズ)となったカートゥーン版クローン大戦の同名登場キャラがモデルです。
ほとんど、名前を借りてるだけですが。



 アイツベルンの城の外、言峰綺礼は装甲服の兵士に見つからなよう茂みの中で息を潜めていた。

 彼が師や父の命に背いてまでここにやってきた目的はただ一つ。

 

 衛宮切嗣に問うことだった。

 

 あの男は綺礼が求め続ける答えを知っているはずなのだ。

 

 だが、衛宮切嗣と綺礼の間には、無数の兵士と暗黒卿ダース・ヴェイダーがいた。

 忍び込むには警戒厳重に過ぎるし、ここで無理に城に押し入ろうとすれば、兵士とヴェイダーばかりか他のサーヴァントまで敵に回る可能性がある。

 

 ならばどうする?

 

 このまま、あの聖杯問答とかいうのが終わるまで待つのか?

 

 いや、そんなことは出来ない。理性ではそうするのが得策と分かっていても、欲求に逆らうことが出来ない。

 

 ……ならば、城の中に入るために策を考えなければ。

 警戒を解くためには、混乱が起きればいい。

 飛び切り、大きな混乱が。

 

  *  *  *

 

 しんみりした空気が広がる中、ヴェイダーは話題を変えることにした。

 

「……らしくもなかった。ああしかし、私に願いを問うなら、もう一人問うべき相手がいるはずだ」

「そこの兵士か」

 

 話題を逸らされたことを自覚しつつ、ランサーはここまで給仕に専念し全く発言していないアサシンことクローン・コマンダーのフォードーに視線をやる。

 視線が自分に集まるのを感じ、フォードーは居心地悪げだった。

 

「ふむ、確かに。兵士よ、貴様も自ら望んでこの場にいるのだ。願いを言うのが筋と言うもの」

「……そうは言われましても」

 

 ライダーに睨まれて、フォードーは困ったような声を出した。

 

「私はあくまで兵士です。命令を聞き、戦うことが私の生き方ですから、皆様のような大願や王道などありません。……しかし、あえて言うならば戦いそのものが目的、でしょうね」

「武人、と言うワケか」

 

 ランサーの言葉に、フォードーは首を横に振る。

 

「そんな立派な物ではありません。我々兵士は勝つためなら汚い手も使いますし、弱い相手をあえて狙うことも、強い相手を数で押し潰すこともあります。……しかし、それが我々なのです。戦いを求めるのは、それが我々の存在理由だからなのです」

 

 ヴェイダーはチラリと中庭の外周に並ぶストームトルーパーたち……それを指揮するコマンダー・レックスを見た。

 彼は深く悲しみながらも、それも仕方がないと受け入れているようだった。

 クローンの悲哀は、クローンにしか分からない。

 

「誤解しないでいただきたいのは、我々は命令されれば敵を殺すことに躊躇いはありませんが……決して喜んで殺しているワケではないと言うことです。兵士と、殺人鬼は違う。……違うと信じている。もしも私のマスターが無関係の人間を巻き込むことを是とする輩なら、このブラスターで撃ち殺していたでしょう」

 

 そこまで言ってから、フォードーは獰猛に笑んだ。

 

「しかし、敵が皆さんのような英雄豪傑となれば、戦う甲斐もあろうというものです」

「むう、貴様のマスターは幸せ者よな。貴様のような兵を配下に持てるとは」

「確かに。価値観の相違はともかくとして、貴殿のような割り切った人物は好ましい」

 

 ライダーは満足げに笑い、ランサーも何処か納得しているようだった。

 アーチャーは無言だったが何故か自慢げだった。

 

「……私としては、あまりお前たちとは戦いたくはないのだが」

「ヴェイダー卿、……いえ、敢えてスカイウォーカー将軍と呼ばせていただきます。貴方があの恐れ知らずの英雄、アナキン・スカイウォーカーだったとは……」

「…………アナキンは死んだ。己の傲慢と愚かさのツケを払ってな。……お前の名も聞いている。コマンダー・フォードー。ムウニリンストやハイポリの戦いで名をはせた英雄だ」

 

 お互いに相手を知っているらしいヴェイダーとフォードーに、ライダーが怪訝そうな顔をする。

 

「何だ何だ、貴様ら知己か!」

「直接対面したことはない。お互いに、名を知っているというだけだ」

 

 素っ気なく答えるヴェイダー。フォードーも頷いて肯定の意を示す。

 

「しかし、今の我々はマスターの指揮下にある身。……知己といえど、戦うことに躊躇いはない。たった今、マスターから命令が下りました。『この場で全力で戦い、勝て』と」

「え? な、ああ!」

 

 フォードーを包む空気が変わったことに気が付いたウェイバーの横の空間が歪む。

 そうして現れたのはフォードーと同系統の装備に身を包んだ兵士……クローン・トルーパーだ。

 

「うわああ……!」

「ッ……!」

 

 驚愕するウェイバーとケイネス。

 それもそのはず、中庭の各所、さらには中庭を取り囲む城の屋根の上に、次々とクローン・トルーパーが現れたのだ。少なくとも数十人はいる。

 

 赤、青、黄、緑、様々なカラーリングのアーマーに身を包み、様々な武器で武装している。

 

 ランサーが飛ぶように立ち上がるとケイネスを守れる位置に移動し、ストームトルーパーたちも、ブラスター・ライフルを構える。

 

 フォードーも立ち上がって、ヘルメットを被り直す。

 

「我々は、元々がジャンゴ・フェットの遺伝子から生み出されたクローン。兄弟にして戦友、生きるも死ぬも共にする。……死んでからもとは、思わなかったが」

「全員で一体扱いのサーヴァントだと言うの!?」

 

 進み出たレックスに庇われながらも驚愕するアイリスフィール。

 ヴェイダーといい、この聖杯戦争にはイレギュラーが多すぎる。

 アーチャーは露骨に不機嫌そうだった。

 

「アヤツめ……!」

 

 一方でヴェイダーは動じておらず、そしてオビ=ワンは苦々しげな表情だった。

 

「待ってくれ! これではまるで……」

「オーダー66のよう、ですか? いいえ、これは我らの意思でもあります。結局のところ、我々は戦うことが好きなんです」

 

 オビ=ワンの叫びをにべもなく切り捨て、フォードーはマスクの下で勝気に笑う。

 

「ケノービ将軍、そして帝国軍の兵士たち、どうか手出しないでいただきたい! これは聖杯戦争だ!! あくまで魔術師とサーヴァントの戦いだ!!」

「……ッ!」

「オビ=ワン、下がっていてください! ……ルークを頼みます」

 

 息子を師に預け、聖杯戦争の正式な参加者たる……正確にはルークの宝具だが……ヴェイダーがライトセイバーを起動する。

 クローンたちは重火力の者やスナイパーライフルを持った者が屋根の上に並び、小回りの利く者が庭にいる。順当だが、それゆえに崩しにくい布陣だ。

 部下に指示を出そうとしていたコマンダー・レックスを、ヴェイダーが制する。

 

「お前たちも下がっていろ、レックス」

「ヴェイダー卿、しかし……!」

「兄弟で戦いたくはなかろう」

「……ッ! 申し訳ありません」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるレックス。

 そんな中、ライダーは杯を地面に置き、立ち上がる。

 

「貴様たちのマスターは幸せ者だが同時に愚か者でもあったようだな。これほどの(つわもの)たちを捨て駒に使うとは」

「そう言わないでください、征服王。あの人にはあの人なりの事情がありますので。……戦術的に下の下なのは否めませんが」

「それに自分たちはあくまで兵士。命令には従うのみ!」

「加えて、戦いの中でしか己の存在を実感できないってのもあるな」

「正直、興奮を隠し切れん。こんな英傑たちと戦えるとは、兵士の冥利に尽きるってもんだ」

「そして無関係な者を巻き込まずに済むなら、言うことなしです!!」

 

 クローンたちは口々に好戦的なことを言っていた。

 それに対し、ライダーもまた豪放な笑みを浮かべて両腕を広げた。

 

「いや天晴(あっぱれ)!! 戦いに生きる業を受け入れながら人の道を外れまいとする、その生き様たるや見事! ならば! 余も己の覇道のなんたるかを魅せねばなるまい!」

 

 そして、魔力が迸り、景色が変わった。

 




クローンたちの価値観を簡単に言うと、自分たちが戦いにしか生きられないことを認めてるし、命令も厳守するけど、そこに無関係な者、無力な者を巻き込むのは断じて御免、というケルト組とかと気が合いそうな感じです。

ある意味、他の英霊たち以上に切嗣にとっては理解し難い(理解したくない)価値観なんじゃないかなあと。

次回、王の軍勢VSクローン兵団。
ちなみに言峰がこんなやらかしてるのに、時臣が何も言ってこないのには理由があります。


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君たちは戦いが得意なフレンズなんだね!

更新が遅くなり、申し訳ありません。

タイトルに特に意味はありません。


 濃密な魔力が、空間を包み、景色が変わっていく。

 何処まで続く砂の大地、そして空。

 その中で、征服王は両腕を大きく広げ立っていた。

 

「固有結界! そんな、こんなことって……!」

「何と言う……心象風景の具現化だと!」

 

 一様に驚愕しているアイリスフィールとケイネス。

 ウェイバーも驚愕しているが、それは魔術師としてだけではなかった。

 

「ここはかつて我が軍勢が駆けぬけた大地。余と苦楽を共にした勇者たちが等しく心に焼き付けた景色だ!」

 

 ライダー……その名も高き征服王イスカンダルが、堂々と宣言する。

 

「この景観を形に出来るのは、これが我ら全員の心象だからさ! ……見よ、我が無双の軍勢を! 肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。時空を越えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち」

 

 その声に応えるが如く、地平線の向こうから現れる者たちがいた。

 

 古代マケドニアの戦装束に身を包んだ兵士たちだ。中には騎兵もいる。

 

 それもただの兵士ではない。

 

 それぞれが名を知られる勇者であり、あるいは部族を率いる長であり、あるいは無双の豪傑であった。

 

「こいつら……一人一人がサーヴァント!?」

「彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具……王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なり!!」

 

 圧倒される一同だがヴェイダーはそれ以上にこの光景に郷愁を覚えていた。

 どこまで続く熱砂は、生まれ故郷タトゥーインを思い出させた。

 

「久し振りだな、相棒」

 

 ライダーは軍勢の中から走り出し、自らの傍らに並んだ見事な黒馬の顎を撫でる。

 ランサーのドゥン・スタリオンとはある意味対照的な、力強く大柄な馬だ。

 これぞ征服王イスカンダルの愛馬、ブケファラスである。

 再会した戦友に跨り、征服王は剣を抜いて高く掲げる。

 

「王とはッ……誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!」

『然り! 然り! 然り!』

 

 自らの王の声に合わせ、兵たちが唱和する。

 

「すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王! ……故に! 王は孤高にあらず。その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!」

『然り! 然り! 然り!』

 

 視線を合わせずとも先程まで意見をぶつけあっていたランサーとアーチャーに向け、ライダーは吼える。

 

「これは……何と言う、常識外だ」

 

 オビ=ワンは、初めて見る魔術に肝を抜かれて茫然と呟いた。

 いかなジェダイマスターと言えど、こんな光景は見たことはなかった。

 

「ん~……パパ? どうしたの?」

 

 と、レックスに抱っこされていたルークが目を覚ました。

 

「あれ~? ここタトゥーイン? じゃあラーズおじさんたちのお家に来たの?」

「……ルーク、もう少し眠っていなさい」

 

 ヴェイダーは手を軽く振るってフォースを操作し、ルークを眠らせようとする。

 少し自身のフォースで抵抗したルークだが、練度の差はいかんともしがたく目を閉じた。

 

「アナキン、少し過保護じゃないか?」

「これから何が起こるにせよ、それは子供の教育にはよくないことです」

 

 少し非難するような調子のオビ=ワンにヴェイダーは軽く言い返すと改めてクローン・トルーパーたちの方を見た。

 

 せっかく得た地の利を無くし、さらには数でも……おそらく質でも、ライダーの軍勢には負けている。

 

 しかし、それで諦めるような者たちでないことを、ヴェイダーは良く知っていた。

 そしてレックスもまた。

 

「501大隊、201突撃大隊、ショックトルーパー……勢揃いだな。レックス、知己と会ってこなくていいのか?」

「……出来ることなら。しかし、今は敵です」

 

 静かに答えるレックス。

 この割り切りのよさは兵士ならではだ。

 オビ=ワンは難しい顔でレックスに声をかける。

 

「それで、彼らは諦めるだろうか?」

「有り得ませんね。坐して死を待つならば、戦って死ぬことを選ぶでしょう。……まして、この状況、むしろ興奮しますね」

 

 レックスがマスクの下で獰猛に笑むのが見えたようで、ヴェイダーもマスクの下で笑み返す。

 そんな二人に、一つ息を吐くオビ=ワン。

 何となく、いつもの空気の三人だが、そこに声をかける者がいた。

 

「……まったく、とんだロマンチズムだ。……反吐が出る」

「……キリツグ?」

 

 それは衛宮切嗣だった。

 いつもの如くムッツリした顔によれたスーツとコートだが、この砂漠では目立ってしようがない。

 さらに狙撃銃を肩に担いでいるのだから、もう言うこと無しだ。

 

「キリツグ。貴様、狙撃しようとしてこの結界とやらに巻き込まれたな」

「……正解だ。クソ、砂漠用の装備なんか用意してないぞ」

 

 平静を保とうとしているキリツグだが、心の底から不機嫌であることがフォースで分かる。

 幾らなんでもこの状況で孤立していたら命が危ないので、皆の注意がライダーの軍勢とクローン・トルーパーに 向いている間にこちらに合流しておこうという判断だろう。

 

「キリツグ!」

「アイリ、無事なようだね」

 

 駆け寄ってきた愛妻を抱き留めつつ、切嗣は集結するクローンたちを眺めていた。

 

「アインツベルン、その男は?」

 

 それを目ざとく見つけたケイネスが二人を睨み付ける。

 特に、狙撃銃を忌々しげに見ている。

 

「僕はアインツベルンに雇われた傭兵さ。彼女のサポートが役目だ」

「ッ! 魔術師の戦いにそんな物を持ち込む輩を、アインツベルンが引き入れたと言うのか? ……いや、今更か。どうやら聖杯戦争は私が思っていた物とはまるで違うらしい」

 

 一応本当ではあるが、大切な部分に触れない言葉を吐く切嗣に激昂しかけるケイネスだが、すでに状況は自分の理解の範疇を超えていると理解し、すぐに冷静になる。

 切嗣としては、この場でケイネスらを射殺したいところだが、ヴェイダーがどう出るか未知数だ。

 歯がゆいが成り行きに任せるしかないと割り切ろうとする。

 

「……それで、ヴェイダー。彼らは戦うと言うの? ……死ぬために?」

 

 そう問うアイリスフィールが見つめる先では、クローン・トルーパーたちが集結していた。

 

「死ぬため、というのは語弊があります。……我々にとって、戦うことは生きることと同義です。つまり、生きるために戦うのです」

「……そう、そうかもね」

 

 クローンなりの信義を語るレックスに、アイリスフィールは彼女なりに納得したようだった。

 何故なら、彼女もまた聖杯になるために生み出されたのだから。

 切嗣は変わらぬ無表情だったが、その心の内で激しい怒りが渦巻いているのをジェダイたちは感じ取っていた。

 

「この光景、ジオノーシスを思い出すな。今にも虫どもの羽音が聞こえてきそうだぜ」

「俺はライロスだな、メイス・ウインドウの下で戦ったんだ。見ろよ、アイツら! マジで動物に乗ってやがるぜ! まるでトワイレックだ!」

「敵が10で、こっちが1、いつもの通りだな! ブリキ野郎どもと古代の英雄様、何が違うか見てやろうぜ!」

「無駄話はお終いだ、お嬢さんたち! 総員、隊列を組め!」

 

 レックスの言葉を証明するように、集結したクローン・トルーパーたちは戦意を衰えさせてはおらず、フォードーの号令に合わせて一つの生き物のように展開していく。

 

「意見具申! コマンダー、おそらくこちらに勝ち目はありません!」

「ではどうする? 尻尾巻いて逃げるか?」

「いいえ! 宝具の使用を求めます!」

 

 フォードーのそばに並んだ兵士が、そう言うとフォードーは仕方がないと頷く。

 マスターたる言峰綺礼からは、『あらゆる手段』を使って勝てと命令された。

 『あらゆる』の中には宝具も含まれる。

 

「では、誰が『犠牲』になるかだが……」

「言いだしっぺの私が。覚悟はできています」

「自分も! 兄弟のために散れるなら本望です!」

 

 そう言ってきたのは、『スリック』『ドグマ』と呼ばれるクローンたちだ。

 さらに何人かのクローンたちが二人の周りに集まる。

 

「……分かった。また会おう、兄弟たち!」

「……今度は裏切らずに済みました。では、ご武運を!」

「命令に従うのが良い兵士。……しかしこれは自分の意志です!」

 

 短く敬礼し合ってから、フォードーは宝具を発動する。

 

鋼鉄の多脚獣(AT-TE)! 強固なる有翼獣(リパブリック・アタック・ガンシップ)!!」

 

 すると、スリックやドグマたちが光に分解されたかと思えば、光が二つに集まって大きく膨らむ。

 そして、二機の乗り物へと姿を変えた。

 

 一つは、巨大な昆虫を思わせる六本足と上部の砲台が特徴的な戦車のような物。

 もう一つは、ずんぐりとしていて無骨だが、翼がある空飛ぶ乗り物。

 

 全地形対応戦術攻撃兵器ことAT-TEと、低空強襲トランスポートことガンシップと呼ばれる、いずれもクローン大戦で兵士たちが乗り込んでいた兵器である。

 

 これこそが、クローン・トルーパーの共用宝具にして奥の手、鋼鉄の多脚獣(AT-TE)強固なる有翼獣(リパブリック・アタック・ガンシップ)

 数名のクローンの代わりに、この二機を呼び出す宝具である。

 

 何人かの兵士たちが素早く兵器に乗り込み起動する。

 この二機があってなお、戦局は極めて厳しいが、クローンたちに諦めはない。

 

 その姿を見て、馬上のライダーは惜しそうな顔をする。

 

「ふむ、そのような手も持っていたか。どうだ? 今からでも余の軍門に下らんか?」

「答えは分かっているはず」

「そうか」

 

 短いフォードーの答えに、ライダーも頷く。

 もはや言葉は不要。

 

「蹂躙せよ!!」

 

 征服王の咆哮に、兵たちは雄叫びを上げて突撃を開始する。

 フォードーは、かつて仕えたジェダイの真似をして部下たちに檄を飛ばす。

 

「我らはその他大勢、ジェダイの添え物。しかし名も無く名誉も無くとも、我らにも誇りがあり魂がある!! フォースと共にあらんことを!! ……攻撃開始!!」

 

 歴史に名を残す英雄たちと、銀河の名も無き英雄たちの戦いが始まった。

 




AT-TEとガンシップは、いわば戦車と戦闘ヘリ、普通なら歩兵キラーなんですが相手が英霊集団なのでそう簡単にはいきません。

しかし、話が進まない。


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ぼくらはみんな、いきている

戦闘が淡泊(っていうかワンパターン)になるのが悩みです。要修行。


 言峰綺礼は困惑していた。

 何故自分は、クローン・トルーパーたちに『全力で戦い、勝て』などと命令したのだろうか?

 

 ライダーやランサーの宝具を探るため?

 いいや、不確定要素が多すぎる。

 あの場にはヴェイダーや兵士たちがいるし、フォードーを介して伝わってくる情報は、どれも綺礼の理解を遥かに超えた物だ。

 

 師に指示を仰ぐべきだった。いや、どう言うワケか、師と連絡がつかない。だから自己判断で……。

 

 いや、言い訳はよそう。

 魔術を介さずとも、クローンの通信装置を使えば、師の近辺を警護しているクローンに連絡できたはずだ。

 

 結局、自分は衛宮切嗣に会いたかったのだ。彼に問うために。

 彼が得た物を、彼の答えを。

 

 しかし、切嗣があの征服王の固有結界に取り込まれた時点で、その目論みは崩れ去った。

 

 この時、綺礼の中には自覚していない『期待』があった。

 彼の生まれ持った(さが)に由来する期待だ。

 

 このような無駄に散るような命令を受けることで、それでも受けざるを得ないクローンたちの性質故に、彼らが絶望する態を見たいと言う期待。

 

 だが……。

 

 

 

 

 

 彼らは、絶望などしていなかったのだ。

 

  *  *  *

 

「撃て撃て撃て! あれだけ密集してりゃ目を瞑ってても当てられる!!」

 

 隊列を組んだクローン・トルーパーたちのブラスターが一斉に火を吹き、無数の光弾が雨のようにマケドニアの戦士たちに降り注ぐ。

 物理的に金属のドロイドを粉砕する光弾は、しかしマケドニアの戦士たちを倒すには至らない。

 サーヴァントになった時点で、霊格の差が力の差となっているのだ。

 

 AT-TEが背中の主砲を発射し、着弾と同時に大きな爆発を起こす。

 上空からガンシップがイオン砲を撃って、眼下の敵を掃討しようとする。

 

「怯むな!! 我らの戦いを魅せてやれ!!」

 

 さすがの古代の英霊たちもこれには耐え切れず何騎かは消滅するが、愛馬に跨り先頭を走る征服王の檄の下、突っ込んでいく。

 

『AAAALaLaLaLaLaie!!』

「来るぞ!! 総員、迎え撃て!!」

 

 クローンたちは逃げずに応戦する。

 敵味方が入り乱れ、たちまち乱戦になる。

 

「ハッハッハッハ! こいつはいい! どこを見ても敵だらけだ!!」

 

 ハードケースと呼ばれるクローンは、愛用のガトリング型ブラスターキャノンを発射し続けていた。

 腹に投槍が刺さり、次いで肩、太腿に突き刺さるが、ハードケースは倒れない。

 結局ハードケースは、体に8本の槍が刺さり、うち1本は頭を貫通したが、消滅する瞬間まで撃つのを止めることも、倒れることもなかった。

 

 ロングショットと呼ばれるクローンは正面から迫る騎兵を狙い撃つ。

 しかし、騎兵は止まらない。

 突撃を躱そうとするロングショットだが間に合わず、騎兵が手に持った長槍がその体を装甲服ごと貫通した。騎兵は、そのままロングショットの体を吊り上げる。

 ロングショットは気泡の混じった血と共に言葉を吐き出した。

 

 その顔は不敵に笑んでいた。

 

「前よりはマシな死に方だぜ……!」

 

 次の瞬間、手に持っていたサーマル・デトネイターを爆発させ、ロングショットは騎兵諸共消滅した。

 

「クソが! 投槍がここまで届くとか、ありか!!」

 

 ガンシップに乗ったトルーパーたちは、搭載されている全ての兵器を撃ちまくっていたが、有り得ないほどの距離を飛んできた槍がガンシップの装甲に次々と突き刺さり、機体がバランスを崩す。

 ついに操縦席の丸型キャノピーを槍が貫き、中の操縦士に致命傷を負わす。

 

「ッ……! ま、まだだ……!」

 

 レッドアイを名乗るクローンは、どうせ墜落するならと敵陣の中へ突っ込んでいった。

 

 狙い通り、ガンシップはそれに乗ったクローンと同数以上の敵を道連れにしたのだった。

 

  *  *  *

 

 絶え間なく散っていくクローンたちの感情が綺礼の中を通り過ぎていくが、彼らは誰一人として綺礼のことを恨んではいなかった。

 

『感謝を! マスター!』

『ありがとうございます! これで兵士として死ねる!!』

『おさらばです! マスター!!』

『どうかお元気で!!』

 

 彼らは皆、感謝していた。

 

(違う! 違うんだ!! 私は……!!)

 

 いつになく、言峰は混乱する。

 善より悪を愛する性ゆえに、クローンたちの感謝が何より苦痛だった。

 

 

 

 

 それに『良心の呵責』という極普通の感情が混じっていることに、綺礼はまだ気付いていなかった。

 

  *  *  *

 

(もはやこれまでか……)

 

 フォードーは両手に握ったブラスター・ピストルを連射し続けながら、冷静に戦況を把握していた。

 近づく名のある勇士の頭部と胴体に二発ずつ光弾を命中させる。

 この星では俗にコロラド撃ちとも呼ばれる撃ち方であるが、ここまでしてやっと一体を消滅させることが出来た。

 土台、スペックが違いすぎる。ライオンの群れに犬の群れが挑むようなものだった。

 

 ガンシップは墜ち、AT-TEも寄ってたかって滅多刺しにされている。

 

 もはや勝ち目はない。……『この戦闘』では。

 

 敵の列の中から、見事な黒い馬に乗った偉丈夫が、こちらに向かってくるのが見えた。征服王、イスカンダルだ。

 

(聞いておいででしょう? マスター)

 

 覚悟を決めたフォードーは、ここにはいない言峰綺礼に向け、念話を飛ばす。

 返事は無いが、構わず続ける。

 

(失礼ながら、あなたの(さが)について夢に見ました。……自分が貴方に何かを言う資格はないでしょう)

 

 善よりも悪を愛し、妻の死にも人らしい感情を抱けなかった綺礼。

 しかし、彼を人でなしとなじれるような真っ当な生き方を、クローンたちはしてこなかった。

 

(ですから、せめてこれだけ! 貴方に最大級の感謝を! 貴方は我々をこんなに素晴らしい戦場に連れてきてくれた!!)

 

 偉大な英雄たちを相手取り、無関係の人間を巻き込まず、全力で力を尽くすことが出来る。

 そして、敵たる征服王は自分たちを一個の命として認めてくれている。

 逃げ場のないこの固有結界の中こそ、クローンたちにとっては一つの理想郷と言えた。

 

 フォードーに向けて、征服王イスカンダルが乗る黒馬が地響きを立てて迫る。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

「いざ! フォースの加護のあらんことを!!」

 

 ブケファラスと交差する瞬間、フォードーは両足に力を籠めて横に飛びブラスターを発射、同時にイスカンダルが剣を振る。

 

 そして……。

 

 

 

 

 フォードーの首と胴体が別々に地面に落ち、やがて消えていった。

 

 対し、イスカンダルには右肩に焼け焦げた跡が残るのみだった。

 

 結果から見れば、それは間違いなく大敗であり、そこに意味を見出すのは無理な話しだった。

 

「……見事であった、兵士よ。貴様たちは真の勇者、真の英傑であった。天地万物が認めずとも、この征服王イスカンダルが認めよう」

 

 しかし征服王は火傷の付いた右肩を撫でながら、静かに兵士たちを悼むのだった。

 




聖杯問答編はもうちょっと続くけど、戦闘はこれでおしまい。

言峰が良心の呵責なんて俗な心の動きを見せているのには、理由を用意してあります。

次回は、この作品がアンチ・ヘイトたることの最たる物になりそう(切嗣と言峰の扱い的な意味で)


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悲報:英雄王の腹筋、大崩壊

※注意:今回、アンチ・ヘイト成分が特に強い回となっております。ご注意ください。

それでも物語上必要な話と考えて、投稿した所存。


 六本の足のうち二本を破壊され、全体に槍を突き立てられてハリネズミのようになったAT-TEが倒れるのを最後にクローン兵たちが全滅したことを確認した征服王は、あえて傷ついた腕を掲げて勝鬨を上げる。

 主君に合わせ、生き残った勇士たちも鬨の声を上げた。その総数は、3分の2にまで減っていた。残っている者の多くも傷ついている。

 

 やがて固有結界が霧散し、マケドニアの軍勢も、砂漠も、まるで夢の一間のように霧散し、後には何も残らなかった。

 

 目撃者たちの心に刻まれた何かを除いては。

 

 ウェイバーは憧憬と羨望の籠った熱い瞳で、ライダーの背を見つめていた。

 

 ランサーは胸に手を当てて瞑目し、勇敢な兵士たちを悼んだ。

 

 一見して何も変わっていないように見えるケイネスだが、手の震えを隠せてはいなかった。

 

 不機嫌な様子を隠そうともしないアーチャーだが、この多弁な王が沈黙していることが、彼なりの追悼のようだった。

 

 自分と同じ作られた存在の戦いと死に、アイリスフィールは何か感じ入った様子で佇んでいた。

 

 ヴェイダーは無言で共和国式の敬礼を散っていった両軍の兵士たちに送った。

 オビ=ワンも、もちろんレックスも、ストームトルーパーたちも、偉大な英雄たちを敬礼でもって送り出す。

 

「…………くだらない」

 

 しかし、切嗣は表情を変えないまま吐き捨てた。

 自然とその場にいる全員の視線が切嗣に集まる。

 一番先に声を出したのはランサーだった。

 

「くだらないだと? 貴様は何を言っている」

 

 ランサーの問いに、しかし衛宮切嗣は答えない。

 それどころか、視界に入れようとすらしない。

 

「答えろ! 戦場に散っていった兵士たちが、くだらないだと!!」

「私も聞きたい。……どういう意味だ? キリツグ」

 

 吼えるランサーにヴェイダーが同調すると、ようやく切嗣は口を開いた。

 それはヴェイダーに向けられたもので、ランサーが眼中に入っていなかったのは明らかだった。

 

「戦いを美化する奴らには、反吐が出ると言う意味だ。……ようするに人殺ししか出来ない異常者どもが、勝手に殺しあっただけじゃないか。それがくだらなくないと言うなら、他に何がくだらないと言うんだ」

「貴様……!」

 

 怒気を発するランサーだが、切嗣は動じない。

 そして怒りを感じているのはランサーだけではなかった。

 

「……さすがに言い過ぎでは? 余人がどう言おうと、彼らは栄光ある勇者だ」

 

 レックスだ。

 当然ながら、兄弟たちを愚弄されて不愉快に思わないはずがない。

 しかし、兵士として努めて冷静に振る舞おうとしていた。

 

「勇者? 殺人鬼の間違いだろう。……ああ、あの兵士が言っていたな、兵士と殺人鬼は違うと。……僕に言わせれば、同じことだ」

 

 その物言いにレックスの怒気が静かに膨らみ、殺気の域に達する。

 あまりにも刺々しい事を言う夫に、アイリスフィールは心配そうに声をかける。

 

「切嗣? いったいどうしたの?」

「どうもしないさ」

 

 ……そんなはずがない。

 

 ルークを召喚したこと。

 ヴェイダーが現れたこと。

 最初は妄想と思っていた彼らの言が、オビ=ワンたちが現れたことで本当だと分かったこと。

 そのことで聖杯戦争の行く末が暗礁に乗り上げたこと。

 ……これらのことは、確実に衛宮切嗣から冷静さを奪っていた。

 さらに、切嗣が蛇蝎の如く嫌悪する英雄たちの王道を聞かされたことと、クローンたちの自ら望んで死地に赴く姿を見たこと。

 アサシンことクローン・トルーパーが脱落したことで……アイリスフィールの死が免れなくなったことで、限界を迎え爆発してしまったのだ。

 

「戦場に名誉だの誇りだのあるワケがない。あっちゃいけない。何故なら、戦場以上の地獄なんて有り得ないからだ!」

 

 段々と語気が強くなってくる切嗣にランサーは眉を吊り上げるが、ライダーとアーチャーは黙って聞いている。

 

「確かにその通りだ。しかし、なればこそ戦場で戦う者たちの栄光を否定することは許されない」

「栄光? 栄光だって? 聞いたかいアイリ? この英雄様は、戦場にも栄光があるんだとさ」

 

 切嗣は僅かに表情を変えるが、そこには果てしない侮蔑が込められていた。

 

「そんな物は断じて無い!! 戦場は唯の地獄以上の物であってたまるか!! なのに人類はどれだけ死体の山を積み上げようと、その真実に気付かない! いつの時代も、勇猛果敢な英雄様が、華やかな武勇譚で人々の目を眩ませてきたからだ! 血を流すことの邪悪さを認めようともしない馬鹿どもが余計な意地を張るせいで、人間の本質は、石器時代から一歩も前に進んじゃいない!! 何が英雄だ! 何が王道だ! そんな物は戦いに巻き込まれ蹂躙される人間からすれば、いい迷惑だ!!」

 

 一息で切嗣は言い切る。それは血を吐くような慟哭だった。経験に裏打ちされ、彼がその人生の中で掴んだことだった。

 普通の人間であれば、それに飲まれ反論することなど出来ないだろう。

 

 だがこの場に普通の人間などいない。

 

「むう、なるほど。貴様の言い分にも一理は有るな」

 

 別に不機嫌な様子も見せずに頷く征服王に、ウェイバーは驚いた顔を向ける。

 

「この身が民を戦に導く悪であると言うなら、余は甘んじてその誹りを受け入れよう。しかしな、それと命をなげうってまで戦場で戦う者を愚弄するのは、ちょいと話が違うだろう」

 

 諭すように続けるイスカンダルだが、切嗣はそれに反応しない。

 オビ=ワンは溜め息を吐いてから自分の意見を言う。

 

「その意見には私も賛成だ。戦争を嫌うことと、戦争に参加した者を嫌うのは、似ているようでまるで違う」

「何が違う。同じことだ」

「……兵士たち全員が、望んで戦場に立っているとでも? それぞれの事情があることや国家の都合に振り回されているとは考えないのか」

 

 僅かに声に怒りを滲ませるオビ=ワン。

 

「僕だって、別に兵隊の全部が全部、そうだとは言わないさ! だが望んで死んでいくような奴らを賞賛する異常性に耐えられないだけだ!!」

「……望んで?」

 

 レックスが、ついに堪えきれないとばかりに声を上げる。

 ヘルメットを乱暴に外すと、先ほど散っていったクローンたちと同じ顔が現れた。

 

「俺たちが、望んで死地に赴いたとでも思っているのか!! 俺たちだって生きたかった、何かを残したかった! だが俺たちには、それしかなかったんだ! 戦うために作り出され、戦うために教育された! 俺たちには戦場での名誉以外に、生きた証を建てる方法は無かったんだよ!! 貴様みたいな部外者に、馬鹿にされる謂れは無い!!」

 

 怒りと悲哀に満ちた叫びに、しかし切嗣は答えない。

 その態度にさらに怒りを爆発させて掴みかかろうとする副官を制し、ヴェイダーは呆れた調子で呟いた。

 

「嫌いなことからは目を逸らし、言うだけ言って都合の悪いことにはダンマリか。まるで子供だな」

「……名誉だの栄光だの、そんな物を持て囃す殺人者に語る言葉がないだけだ。君も名誉とやらを信じるのか」

「いいや、もっと単純な理由だ。……彼らは、私の友達だった。友達が馬鹿にされれば、気分が悪くなるのは当然と言うものだ」

 

 諭すように切嗣に語るヴェイダーだが、切嗣は暗黒卿から視線を逸らす。

 一方でレックスは感謝と尊敬を込めた視線を上官に向けていた。

 

「だいたいからしてキリツグ。貴様はこの場にいる英霊たちを愚弄できるほど、清廉な人間ではあるまい。……少なくとも、敵に占拠されたホテルを生存者ごと爆破して、敵対者を葬り去ろうという程度には」

 

 ヴェイダーの言に、ケイネスはそれが自分たちのいた冬木ハイアットホテルのことだと察し、目を剥く。

 切嗣はこの場にいる全員の視線が集中する中で、自らの失態を自覚しつつも胸の内を吐き出した。

 

「……ああ、そうだ。僕は悪だ。今の世界、今の人間の在りようでは、どう巡ったところで戦いは避けられない。最後には必要悪としての殺し合いが要求される。だったら最大の効率と最小の浪費で、最短のうちに処理をつけるのが最善の方法だ。それを卑劣と蔑むなら、悪辣と詰るなら、ああ大いに結構だとも。正義で世界は救えない。そんなものに僕はまったく興味ない」

「……そうは見えんがな」

 

 今までと打って変わって静かに言葉を吐くキリツグに、ヴェイダーが感情の読めない声色で呟く。

 それに気付いているのかいないのか、切嗣は語り続ける。

 

「終わらぬ連鎖を、終わらせる。それを果たし得るのが聖杯だ。世界の改変、ヒトの魂の変革を、奇跡を以って成し遂げる。僕がこの冬木で流す血を、人類最後の流血にしてみせる。そのために、たとえこの世全ての悪を担うことになろうとも……構わないさ。それで世界が救えるなら、僕は喜んで引き受ける」

「切嗣……」

 

 そこまで言い切った夫に、アイリスフィールは内心で自問していた。

 夫の願いは知っていた。だがその深い理由までは理解していなかった。

 それで……夫を愛していると言えるのだろうか?

 

「……クッ、くくく、ははは、ははははは!!」

 

 重苦しい沈黙が場を支配する中、突如笑い声が響いた。

 ここまで黙って切嗣と他の者たちの言い合いを眺めていた黄金のサーヴァントだ。

 愉快で堪らないとばかりに、腹を抱えって嗤っている。

 その姿に切嗣は一瞬呆気に取られた後、思わず怒鳴る。

 

「何が可笑しい! 何故、笑う!!」

「ははは……これが嗤わずにいられるものかよ。殺し合い、食い合うのが生命の本質。貴様はその本質を否定しようと言うのだからな」

「だからこそ、聖杯に……」

「だが、真に滑稽なのは……そうなることで、この世の苦しみの一切を掃えると本気で信じていることだ!」

「なに……?」

 

 黄金の王の言っていることが理解できず、切嗣は目を大きく開く。

 そんな切嗣に、アーチャーは笑いを含んだまま諭すように語る。

 

「よいか? 仮に世界から争いの一切を消したところで……ヒトの全てが幸福になることなど有り得んのだ。何故なら、ヒトは老いる」

「ヒトは病む」

「ヒトは飢える」

 

 黄金の鎧の王の句を、示し合わせたはずも無かろうに、紅い外套の王と、青い衣の王が継ぐ。生きた時代も信じる思想もまるで違えども、三人が等しく人の上に立つ王であるが故だった。

 

「抗いがたい困難に抗うことこそが、ヒトが争うことの本質、その一端だ。……貴様はその力をヒトから奪おうと言うのだ。後に待ち受けるのは、老いにも(やまい)にも飢えにも立ち向かわぬ、緩やかな死。救いに見せかけた滅びの道よ」

「詭弁だ!」

「おお! こう言うのを当世ではブーメランとか言うのだったな! 我、腹筋が大崩壊だぞ!! ははは、はっはっはっは!!」

 

 あまりにも馬鹿にした調子で再び嗤いだすアーチャーに怒りがぶり返してくる切嗣だが、ふと周囲を見回せば、征服王は憐みに満ちた視線をこちらに向け、女騎士とケイネスは複雑そうな顔をしていて、オビ=ワンとレックスは怒りを内在した表情を張り付け、アイリスフィールは俯いて顔を上げず、ヴェイダーは腕を組んで黙っていた。

 

「あ、あの……」

 

 そして、ウェイバーはまるで怖い先生に意見するように、小さく声を出した。

 切嗣が怨嗟の視線を向けると怯むウェイバーだが、自分のサーヴァントの好奇とも期待とも付かぬ視線を感じ、口を開く。

 

「ぼ、僕は戦争のこととかよく知らないけど……歴史の本とか読むと、戦争の原因ってのは、国が貧しかったとか、作物が不作だったからとか……そういう『民』の側にも理由があることが結構少なくない気がして……全部がそうだとは言わないけど、英雄のせいって決めつけるのは少し短絡的なんじゃないかと……」

「確かに。征服王はともかくとして、ランサーが戦ったのは国土の貧しさと、そこから来る貧困と飢餓が大きな理由だった」

 

 意外にも、ケイネスがウェイバーの意見を補足する。

 

「ならば、こいつらが正しいとでも?」

 

 切嗣の反論に、ケイネスはまるで不出来な生徒に対するような目を切嗣に向けた。

 

「正しいかどうかは問題ではない。物事には理由があり、過程があり、結果がある。英雄が生まれるのは、戦争という過程の結果であり、そもそもの理由ではない。付け加えるなら、彼らの生きた時代の戦いと君が体験したと推察される戦争では、まるで内容が異なっていることも考慮に入れるべきだろう。君が言っているのは一方的な価値観の押し付けだ」

 

 まさしく教師の姿勢そのままに言い含めるケイネス。

 時計塔の講師の面目躍如と言ったところか。

 

「はっはっは……いや愉快愉快。そこな騎士といい、当世にも見事な道化がいるものよ。今日は満足した故、我は帰るとしよう! ははは、はーっはっはっは」

 

 切嗣が口を開くより早く、最後までマイペースに笑い通したまま、黄金の王は粒子化して消えていった。

 

「……ま、今宵はこれでお開きとしておこう。行くぞ、坊主。……ヴェイダー、貴様も中々に厄介なマスターに当たったものだな」

「そこは否定しない」

 

 戦車を呼び出してウェイバーを引っ張り上げると、ライダーは空へと飛び立っていった。

 

「マスター、我々も」

「ああ。しかし、これはいよいよ聖杯戦争に付いて考えなければならないか……」

 

 ランサーは表情こそ暗いが、それでも愛馬を召喚してケイネスを後ろに乗せる。

 ケイネスがブツブツと考え込みながらも跨ると、ランサーは手綱を振るい、ドゥン・スタリオンはその凄まじい脚力で城の屋根に飛び乗り、そのまま駆けていった。

 

 残された切嗣は言い知れぬ感情に振り回されながらも、それを表に出さないように努めていた。上手くいっているかはともかく。

 

「……野郎ども、仕事に戻れ」

 

 レックスは兵士ならではの切り替えの早さでストームトルーパーに指示を出すが、声はまだイライラとしていた。

 

「ううん……あれ? さっきまで砂漠にいたのに、夢だったのかな?」

 

 と、オビ=ワンの腕に抱かれていたルークが目を覚ました。

 ヴェイダーは息子の頭を撫でる。

 

「ルーク、起きたのか」

「うん。あれ? キリツグどうしたの?」

「どうした、とは?」

 

 言葉の意味を父に問われ、ルークはキョトンとした顔をした。

 

「だって、なんだか泣きそうだよ? ソロがチューバッカとケンカすると、あんな顔するんだ……」

「………………」

 

 息子の言っていることの意味を何となく察しヴェイダーは無言で切嗣を見やる。

 

 月に照らされ一人佇む切嗣に、アイリスフィールが何も言わずに寄り添っていた。

 

 あの二人の中に様々な感情が渦巻き、そしてそれに葛藤していることを、ヴェイダーは感じていた。

 フォースの流れだけでなく、自分の経験からも。

 

 英霊たちの宴が行われていた庭園は、多くの祭りの後がそうであるように、一種の寂寥感で満たされているのだった。

 




切嗣スーパーフルボッコタイム。
原作より前倒しで切嗣がキレることになったけど、作中では一日で、

ジルの旦那のハイアットホテル襲撃。

帝国軍withオビ=ワン襲来。

聖杯問答、原作では切嗣はこの場にいない。

王の軍勢対クローン・トルーパー。

といったことが起こっているので、限界がくるのもやむなし……ということにしといてください。
本当は言峰側のことも書きたかったけど、長くなったので次回に持ち越し。


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隣の芝生は青く見えるもんだ

祭りの後始末っていうか、後の祭りっていうか。
正直、前回の内容は、もっと怒られるかと思ってました。


 聖杯問答が閉幕してより少し後、久宇舞弥は一人、城の廊下を歩いていた。

 問答の最中も狙撃銃を手に潜んでいた舞弥だが、あの……切嗣に対する英霊や他の者たちの態度は不愉快だった。

 なるほど、彼らの言うことにも一理ある。

 しかしだからと言って、あそこまで貶される謂れは……いや、それは舞弥には分からない。

 謂れや理由があるかなど、どうでもいい。自分は切嗣のために尽くすのみだから。

 

 だが、フォローは必要だろう。

 

 切嗣本人には、愛妻アイリスフィールが着いている。

 自分は他を当たるべきだろう。

 さしあたっては、特に切嗣に怒りを感じているのだろう、あのクローンからだ……。

 

「失礼、コマンダー・レックスは何処です?」

「ああ、ミス・マイヤ。コマンダーなら、あちらの部屋に。しかし、今はいかない方が……」

「すごく不機嫌でしたからね。俺たちに指示を出した後は籠りきりで……」

 

 城の中を巡回していたストーム・トルーパー二人に聞けば、そんな答えが返ってきた。

 やはり、怒り心頭らしい。

 二人に礼を言ってから、件の部屋に向かう。

 

「コマンダー、お話しがあります。……コマンダー?」

 

 ドアを叩くも返事がないので、ノブを回してみれば鍵が掛かっていなかった。

 

「失礼します。コマンダー、話が……」

 

 そのまま扉を開けると、レックスは椅子に座って窓の外を眺めていた。

 クローンの肩が震え、しゃくりあげる声が聞こえる。

 

「……泣いて、いるのですか?」

「ッ!」

 

 レックスは、慌てて立ち上がり涙を拭ってから舞弥の方を向いた。

 

「ああ、あんたか。何の用だ?」

「いえ……怒って、いるものと思っていたので」

 

 まさか、涙を流しているとは思わなかった。

 レックスは一つ息を吐く。

 

「怒ってたさ。あんな言い方されりゃあな。……だが、少ししたら悲しみの方が強くなってきた。一度の死別なら覚悟していた。……しかし、二度となるとな」

 

 どうやら、切嗣への怒りより再び散っていった兄弟たちを悼む心の方が強かったらしい。

 レックスは無表情な舞弥のことをどう思ったのか、笑顔を作る。

 

「いや、俺も歳かね。どうにも涙もろくなっていかん」

 

 そう言うレックスの(まなじり)には、まだ一滴涙が残っていた。

 

 舞弥は、ごく自然にレックスの顔に手を伸ばして指で涙を拭った。

 

「ッ!? お、おい……」

「……貴方は、泣けるのですね。怒り、慈しみ、そして悲しむ……私などより、よほど人間的だ」

 

 突然のことに面食らうレックスだが、やはり表情の無い舞弥の口から出たのは、羨望とも憧憬とも付かない言葉だった。

 舞弥はそのままクローン兵の顔を撫でた。

 

「皮肉ですね。私は人らしい心など持っていない。戦場で生き残るために、心は無いほうが良かった。……しかし貴方たちは、戦うために生み出されながら、人間よりずっと人間らしい」

 

 バツが悪げなレックスだが、舞弥の目を見て口を開く。

 

「……そんなことないさ。あんたは十分人間らしいよ。現にルークぼっちゃんに優しくしてくれたじゃないか」

「あれは……切嗣の命令です」

「それだけじゃないだろう。……今や過去がどうあれ、あんたは優しくなれる人だ」

 

 レックスは、自分の顔を触っていた舞弥の手を掴んでゆっくり降ろすと、彼女から視線を逸らす。

 

「あー……それとだ、そういう、アレは止めた方がいい。……男ってのはほら、馬鹿だからな。勘違いしちまう」

「……ああ、そうですね。失礼しました」

 

 舞弥は慌てることなく手を引っ込める。

 

「それとキリツグの奴は……まあ、ああいう奴もいるさ。好きになれるかはともかく、考え方なんか、色々だ。いちいち言ってたらキリが無い」

「大人ですね」

「妥協してるだけさ」

 

 不器用に、もう怒っていないと舞弥に伝えたレックスは、廊下に出て行った。

 その背を見ながら、舞弥は自分の口元に柔らかい微笑が浮かんでいることには気付かなかった。

 

  *  *  *

 

 言峰綺礼は、アジトにしている廃ビルの一部屋で、机に突っ伏していた。

 アイツベルンの城の中庭近くまで潜り込んでいた自分が、聖杯問答が終わった後どうやってここまで帰ってきたのかは、まったく憶えていなかった。

 

 分かるのは、自分が本当に無駄なことをしていたということだけだ。

 

 衛宮切嗣は……自分の同類などではなかった。答えなど、持ってはいなかった。

 英霊たちと切嗣の言い合い……と言っていいのだろうか、あれは……を聞いて、綺礼が感じたのは、衛宮切嗣というのは『普通』の男だということだった。

 人間らしい感情と感性を持った普通の男が、この世の不条理を『当たり前』と受け入れることが出来ずに足掻いている。

 そういうことだったのだ。

 

「あんな男のために……私はクローンたちを犠牲にしたのか……」

 

 もはや切嗣や自分への怒りも感じず、残ったのは徒労感だけだ。

 

 ……いや、心の中に、未だ罪悪感がしこりのように残っている。

 

 これは綺礼が今まで感じたことのない感覚で、非常に心地が悪かった。

 

「酒……」

 

 代行者時代の同業に曰く、こういう時には酒を飲むといいという。

 今まで酒で嫌なことを忘れられたことなど一度もないが、他にすることも思いつかない。

 机に置かれたワインの瓶を手に取ろうとする綺礼だが、それを誰かがヒョイと取り上げた。

 

「ヒデエ顔だ。敗北を酒で誤魔化すもんじゃないですぜ」

 

 顔を上げれば、皺くちゃの顔に痩せ細った体で、腰の曲がった老人が立っていた。

 

 奇形クローンの、99号だ。

 

 その姿を見とめて、綺礼は目を丸くする。

 

「99号?」

「はい。……どうやら、よっぽど酷い気分だったようで。まだパスが繋がってるのにも気付かないとは」

 

 ニヤリと笑う99号に言われて、綺礼はようやく自分とクローンたちとのパスが切れていないことを……クローンが聖杯戦争から脱落したワケではないことを理解した。

 クローン・トルーパーは全滅しない限り、綺礼の魔力を消費することで次の兵を補充できるイレギュラーなサーヴァント。

 一体でも残っているなら、それは脱落とは言えない。

 

「しかし、なぜ……」

「あなたはあの時、『全力で戦い、勝て』と命令された。儂らにとっての『全力』ってのは、次の戦いに備えることも含まれるんでさ。もともと儂は戦闘力が低いですしね」

 

 なるほど、と綺礼は裏表なく感心した。

 以前、師である遠坂時臣はクローン・トルーパーの一体をワザと英雄王に倒させることで、綺礼が聖杯戦争から脱落したと他のマスターに思い込ませようとした。

 それ自体は当のクローンの意見と英雄王の鶴の一声もあって未遂に終わったが、つまり、アインツベルンの城での戦闘はその、拡大版だったのだ。

 これで誰にも怪しまれることなく、綺礼とクローンたちは時臣の裏方に回れる。

 英雄王もクローンたちの狙いを見抜いたからこそ、あの場を機嫌良く退散したのだろう。

 そこで、99号は自分の胸を叩いた。

 

「今日勝てないなら、明日勝てばいい。明日勝てないなら、明後日勝てばいいんです。それが兵士の戦いです」

 

 99号の周りに、いつの間にか5人のクローンが集まっていた。

 エコー、ファイブス、へヴィ、カタップ、ドロイドベイト……ドミノ分隊と呼ばれる五人だ。

 いずれの顔も、次なる戦いへの闘志で燃えていた。

 綺礼は、理解は出来たものの納得が出来ずに愕然と呟く。

 

「お前は、お前たちは……まだ私の下で戦おうというのか? お前たちの同胞を、死地に送り込んだ男だぞ」

「どんな指揮官も、最初から名将だったワケじゃありません。敗北から学んで、名将になるんです」

「……私は」

 

 綺礼はふと内心を吐露した。

 それは、師である遠坂時臣にも、父、言峰璃正にも打ち明けたことのない内心だった。

 

「私は善より悪を愛する。人の不幸に喜びを感じ、人が美しいと思う物を醜く思う……そんな歪んだ人間だ。……お前たちが羨ましい。どうあれ、理由を与えられて生まれ、それを受け入れているお前たちが、たまらなく」

「そうですかい。……でも、儂にしてみりゃアンタの方が羨ましい。自分の生きる意味について悩めるってことは、自由だってことだ。歪んでるってんなら、クローンなんざ歪みの極致だ」

 

 綺礼は、再び驚愕した。

 このクローンは、異常者の自分を、外道の自分を、羨ましいと言ったのだ。

 ポンとマスターの肩に手を置き、99号は優しい顔になる。

 

「マスター、人間って奴は自分が持ってない物を持ってる奴が、すごく輝いて見えるもんさ。金を持ってる奴、家族のいる奴、頭のいい奴、顔のいい奴、力の強い奴……実際には、みんなそれぞれに悩みを抱えてる。……あんたの悩みがそう簡単に晴れるとも思えんが、とりあえず、ここにあんたを羨んでいる奴がいる。……そう考えれば、少しは楽にならんかね?」

 

 そんな馬鹿な……と言うことは出来なかった。

 実際、99号の話を聞いて綺麗は少しだけ……本当に少しだけ、心が軽くなった気がした。

 

「お、ちょっといい顔になりましたね。じゃあ、一杯どうぞ」

「敗北を酒で誤魔化すのは、良くないんじゃなかったか?」

「ですんでこれは、祝い酒です」

 

 99号はコップにワインを注ぎ、綺礼に差し出した。

 受け取った綺麗はそれを一口含む。

 

「……酒というのは、こうも味が変わる物なのだな」

 

 今まで飲んできたのと同じ種類のワインなのに、まるで違って感じる。

 遅ればせながら、綺礼が愉快な気分になってきたからだ。

 一山いくらのクローンたちが、並み居る英雄や魔術師を出し抜いてみせた。何とも、痛快なことではないか。

 

 ……それは、綺礼が求めてやまない人並みの感情の発露だったが、この時の彼はそれに気が付かなかった。

 

「そう言えば、師と連絡が取れんのだが、何か知らないか?」

「はい。実は向こうも色々と大変なことになってたんで。酒の肴の代わりにでも話すとしましょう」

「そうだな。……お前たちも飲むといい。持ってきた酒を開けろ、無礼講だ」

 

 結局、綺礼はその後酔い潰れるまでクローンたちと飲み明かし、師と父を驚かせ、英雄王を、どうせならそっちの宴にも参加したかったと不機嫌にさせることとなったのだった。

 




書いてて思った。

あれ? この作品のヒロイン、舞弥さんだっけ?(アイリさんは出番が少ないのに……)

いや、そもそもこの作品の主人公誰なんだ?
ルークか? ヴェイダーか? 切嗣か?

……つまり、この小説はそこさえ決めていない適当な小説です。

で、次回は時臣の話の予定。
これもう分かんねえな……。


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子供ってのは親の背を見て育つもんだ

誰得な時臣回、始まるよ~。


 遠坂時臣は時折、父のことを思い出す。

 それなりの歳に差し掛かって自分を作った両親だが、無駄に厳しくすることも変に溺愛することもなく、真っ当に育ててくれたと思う。

 それに、自分に『魔術師』と『それ以外』の道のどちらかを選ばせてくれたのは、最大の贈り物だった。

 

 ……しかし、当時はまだ少年だった時臣が己の本質は魔術師であると自覚し、その道を選んだ時、父は悲しげな顔で言った。

 

『なあ、時臣。お前がその道を選んだことについて、文句を言う気はない。しかし、お前はあまりにも生真面目過ぎる。このままだと、お前は『魔術師』以外の価値観を切って捨てるようになってしまうのではと、それが心配でな』

 

 どういう意味か、と時臣は聞いた。

 魔術師として生きる以上、それは当然ではないか。

 すると父は苦笑しながら答えた。

 

『この世には無数の価値観があり……中には間違った物もあるが、正しい物もある。他の人々を凡俗など思うのは、唯の傲慢だ。常に余裕を持って優雅たれ……それが遠坂の家訓だが、真の余裕とは広い視野を持つということではないだろうか。……私はそれを、かつての友から学んだ』

 

 父が友と言う言葉を口にする時、それはかつて参戦した第三次聖杯戦争で召喚したサーヴァントのことを指した。

 共にあったのは数日の間だけだったそうだが、そのサーヴァントは僅かな期間で、まだ年若かった父に大きな影響を与えていった。

 典型的な魔術師だった父の人生観を、大きく変えてしまうほどに。

 

『時臣、周りを良く見て、他者を理解することを放棄しないでくれ。それは魔術師として、何より人としてお前の人生の役に立つはずだ』

 

 それも件のサーヴァントに教えてもらったことですか?

 時臣がそう問えば、父は頷いた。

 

『ああ。……彼はサーヴァントだったが、私にとってはある意味で(マスター)であると言っていい』

 

 ……第三次聖杯戦争において召喚され、父の生き方を変えてしまったサーヴァント。

 賢人と言うに相応しい知識と知性を持ち、それでいて寛容さと柔軟さを備えた、光の剣を振るう剣士。

 

 クラスはイレギュラークラスであるルーラー、その真名をクワイ=ガン・ジンと言う……。

 

  *  *  *

 

「……こんなものか」

 

 遠坂時臣は、屋敷の書斎で冬木ハイアットホテルでの事件の後始末に一段落着けて、一息吐く。

 多くの人間への暗示、書類上の辻褄合わせ、各方面への根回し……。

 言峰璃正神父の力を借りたとはいえ、大変な苦労だった。

 

「…………」

 

 時臣は高級な椅子に深く座り黙考する。

 この聖杯戦争はイレギュラーずくめだ。

 

 弟子である言峰綺礼が召喚したクローン・トルーパーに始まり、あのシスの暗黒卿なるサーヴァント。凶行を繰り返すキャスターによるハイアットホテル襲撃。さらに、あの正体不明の軍隊。

 あの部隊の装備のクローン・トルーパーたちとの類似性から見て、彼らと同じ場所から来たと考えていいだろう。

 すなわち、遠い銀河の彼方から。

 

 思わず、深く息を吐く。

 

 聖杯戦争は、魔術師と英霊の戦いのはずだったのに、あんなワケの分からない連中がしゃしゃり出てくるとは。

 

 いや、今はとにかく情報が欲しい。

 魔術師としての大願、根源の到達のために、何としてでも聖杯戦争を勝ち抜かねば。

 幸いにしてと言っていいのか、アーチャーが急に征服王主催の宴に行くと言いだし、さらにそれがアインツベルンの城で行われると言う。

 渡りに舟ではないが、貴重な情報が得られる好機である考え、クローンを送り込むことにした。

 これで、結果はどうあれ情報が得られるはずだ。

 

「相変わらず、つまらぬことを考えておるようだな」

 

 急に声をかけられてハッとする。

 目の前には、いつのまにやら自身のサーヴァントであるアーチャーが立っていた。

 戦闘装束である黄金の鎧ではなく、現代的かつ享楽的な恰好だ。

 

「失礼いたしました。御身がいらっしゃっているとは気付かず……」

「よい」

 

 慌てて……しかし、それを表に出さずに立ち上がって完璧に一礼すれば、アーチャー……その名も高き英雄王ギルガメッシュは鷹揚に頷いた。

 

「しかし、あのような害虫どもが湧いていると言うに、聖杯戦争のことを考えているとは、余裕よな」

 

 ギルガメッシュの言う所の害虫とは、あのダース・ヴェイダーたちのことに他ならない。

 

「無論。例えあのイレギュラーが何者であれ、またそれで世がどう動くのであれ、聖杯によって根源に至るのは、魔術師としての本懐ですので」

「……ほう? それは真か」

「は、それこそ遠坂の、そして魔術師としての私めの悲願にございます」

 

 正直に、聖杯戦争に臨む理由を述べる時臣。

 この英雄王には、下手な嘘は通用しない。

 英雄王が、根源に露ほどの興味も無いことは分かっていた。

 尊敬はしているが、それも所詮は絵画に対するような敬意。いざと言う時は、躊躇いなく切り捨てられる。

 遠坂時臣とはそういう男だと自負していた。

 

「……魔術師として、か」

「はい。私のことを貴族などと言う輩もおりますが、私の本質はあくまで魔術師に他なりません」

「ほう?」

 

 そこで、ギルガメッシュはニヤリと顔を歪めた。

 何となく、玩具を見つけた子供のような笑みだと時臣は感じた。

 

「……ときに時臣、貴様には娘が二人いるそうだな。可愛い盛りだろう」

「私には娘は一人しかいません」

「ああ、そうだったな。これも綺礼から聞いたが、一人は養子に出したとか。……確か間桐、だったか。そう、あのバーサーカーのマスターであろうな。養子に出したとあれば、もはや身内のような物。身内と戦うとは、さぞや辛かろうな」

 

 言っていることとは裏腹に、英雄王の表情は楽しそうだ。

 多少、ムッとする物を感じる時臣だが、それを顔には出さない。

 

「辛いなどと。魔術師同士、目的が違えば戦うことは覚悟の上です。それに他の家に養子に出した以上、最早あの子は間桐の子。私の身内とは言えません」

「なるほどなるほど、貴様は自分の血を引く子を赤の他人と呼ぶか……」

 

 英雄王は、無遠慮に……この男の思考に元々遠慮の文字は無いが……時臣の机の上に乗った写真立てを手に取る。

 写真に写っているのは、妻の葵、第一子の凛…………そして第二子の桜の三人だった。

 海外と思しい場所で、三人一緒に笑っている。

 家族で海外旅行に行ったおりに、機械音痴の時臣が四苦八苦しながら、それでも撮った家族の写真だ。

 

「後生大事に、家族の写真を机に飾っている男の台詞とは思えんよなあ」

 

 そろそろ、顔を平静に保つのも限界に近いが、それでも時臣はありったけの理性を掻き集めた。

 この気まぐれな王は、自分が礼儀を欠けば容易く命を奪っていくだろうからだ。

 

「我が娘はどちらも素晴らしい魔術の才を持っていました。それを最大限生かすためには、片方を養子に出すことが最適だったのです。幸いにして間桐の家は数百年続く名家。間桐の家の子になることは、あの子の幸せでもありました。」

「ほう? いずれたるや、魔術師同士として相争うことになってもか?」

「…………無論です」

 

 やや間を置いてから、時臣は答えた。

 英雄王はいよいよニヤニヤ笑いを大きくする。

 

「ああ、時臣よ。まったく貴様は愉快な道化よな。魔術師と一人の親としての二つの価値観の間で葛藤する態は、見ていて面白いぞ」

「…………!」

「くくく、まあ悩むのは人の特権ぞ。いつまでも答えを出せんのは愚かだがな。……では我は宴に行ってくる」

 

 言葉に詰まる時臣を少し満足げに眺めたギルガメッシュは、霊体化して消えた。

 時臣はドッと疲れたように椅子に座り込む。

 

 ……英雄王の言っていたことは、当たっていた。

 

 他者の価値観を理解するという父の教えを忠実に守っていた結果、時臣は一般人に近しい感覚を手に入れていた。

 余人からは胎を目当てに結婚したと思われている……それも正しいが……妻や、もちろん娘のことも心から愛している。

 

 しかし、それが果たして幸福なこととは時臣には思えなかった。

 

 桜を養子に出したのは、封印指定から守るためだ。

 しかし、桜のいない家を寂しく感じる。

 

 魔術師として娘たちが殺し合うことになろうとも、類稀なる才覚を腐らせ凡俗に堕ちるよりは遥かにマシだ。

 そう思わねばならないのに、心が痛む。

 

 表面上は、魔術師にして貴族たる対面を完璧に保っているが、相反する二つの価値観は時臣に果てない葛藤をもたらしていた。

 

 ……いいや、私は魔術師だ。

 遠坂の悲願のため聖杯を手に入れ、根源に至る。

 そのために、一般人の価値観などと言う心の贅肉は捨てるとしよう。

 

 あくまでも魔術師であろうと、時臣は決意を新たにする。

 まずは、アインツベルンの城で行われる宴を利用して、情報を得なければ。

 

「失礼いたします。トキオミ様」

 

 その時、一体のクローン・トルーパーが実体化した。

 時臣の身辺を警護すべく遠坂邸に常駐している数人のクローン。その隊長格らしい個体だ。

 白地に黄色の模様が入ったアーマーを着て、ヘルメットには青い異星人の子供の顔が描かれている。

 名前は確か……ワクサー、だったろうか。

 

「ノックも無しに何の用かね?」

「急ぎお耳に入れたいことが」

「ふむ、言いたまえ」

 

 すでに余裕を取り戻していた時臣は、優雅な態度で跪いているトルーパーにたずねる。

 ワクサーは、少し葛藤するような間を置いてから答えた。

 

「ご息女が、キャスターのマスターと思しい者に捕らえられました」

 

  *  *  *

 

 街に展開していたクローンの一人が、遠坂凛を見つけたのは偶然だった。

 薄暗い路地裏をうろつく主の上官の娘に、さてどうしようかと思っていたクローン……名をオズだが、そこで紫のジャケットを着た軽薄そうな若い男が数人の幼い少年少女を地下のバーに連れ込むのを目撃した。

 とりあえず、この見るからに怪しい紫ジャケットの男については後で警察に匿名通報するとして、問題は遠坂凛の方である。

 一般人を装って接触しようとした時、何と遠坂凛は紫ジャケットの男と子供たちを追ってバーに入っていったのだ。

 

 これはマズイとすぐに追ったオズだったが、バーではちょうど紫ジャケットの男が遠坂凛に異常な笑みを浮かべているところだった。

 

 オズはすぐさま実態化し、ブラスター・ライフルを構えて遠坂凛と子供たちを解放するように男を脅すが、男は驚きこそしたものの恐怖はせず、それどころかヘラヘラと笑いながらオズのアーマーやブラスターを褒めてくる。

 オズが一発威嚇射撃をしても、超COOLとか何とか笑いながら言うばかりだ。

 

 埒が明かないと肉弾戦でぶちのめしてやろうとしたオズだが、そこへ背後から異様な気配を感じ振り向くと、そこには蛸とも海星ともつかない異形の怪物がいた。

 キャスターの召喚する海魔だ。

 

 オズは仲間に通信を飛ばすも、すでに何処からか這い出してきた何体もの海魔に取り囲まれ……。

 

  *  *  *

 

 遠坂時臣がワクサーから、凛が捕らえられたと仲間から通信があったと聞かされた時も余裕のある表情を保っていた。

 

「……これは我々の失態です。どうぞ、我々にご息女の救出をご命令ください」

 

 頭を床に擦りつけんばかりに深く下げるワクサー。

 確かにワクサーの言う通りだ。

 別にクローンの失態がどうとか言う話ではなく、凛の救出は彼らに任せた方が理に適っているというだけだ。

 

 現状でマスターである自分がこの結界で守られた屋敷を出るのは危険だし、これからアインツベルンの城で何が起こるか全くの未知数である以上、細かい情報を得つつ状況に対処していかねばならない。

 父の言いつけを守らない愚かな娘を救いに行く時間はないのだ。

 魔術師としての価値観が、そう言う。

 

 

 

 

 

 

 

「……すぐに案内してくれ」

 

 しかし気付いた時には、時臣は愛用の杖を手に遠坂邸を後にしていた。

 

  *  *  *

 

「ハアッ……ハアッ……」

 

 夜の街の明かりも届かない路地裏に、一人の男が壁に寄り掛かるようにして座り込んでいた。

 クローン・トルーパーのオズである。

 仲間に通信をした後、何とかして海魔の包囲網を抜け出したが、すでに彼は死に体だった。

 

 全身をあちこち食い千切られ、特に脇腹には大穴が開いている。

 アーマーが損傷し、仲間に通信することも出来ない。

 

「ああ、畜生……碌でもない死に方だな……」

 

 血液と共に、オズは後悔を吐く。

 どうせ死ぬなら戦場で……いや、それよりも遠坂凛や子供たちを救えないことが心残りだった。

 目を瞑ろうとするオズだが、建物の陰から蛸のような触手が現れていよいよ生存を諦める。

 

「へへ……来いよ、このラスターの出来損ないめ……バーベキューにしてやる……!」

 

 しかし、どうせならとブラスターを何とか持ち上げ、海魔と刺し違えようとする。

 

 ……が、海魔が陰から現れた瞬間、何処からか飛来した飛蝗に似た虫の群れが海魔の体に群がる。

 飛蝗は青黒い体色と複数ある緑の目が特徴的で、大きさは人の頭ほどもある。

 鋭く力強い下顎を持った飛蝗に群がられ、海魔はあっという間に全身を食い千切られる。

 

「……よーし、もういいぞ。みんな御苦労さま」

 

 一欠片も残さずに海魔が食い尽くされると男性の声が路地裏に響き、飛蝗の群れは何処かに飛び去った。

 

「ッ! おい、あんた大丈夫か!?」

 

 飛蝗を操っていた男はオズに気付き慌てて駆け寄ってくるが、すでに意識が朦朧とし目が霞んでいるオズには、男のシルエットしか見えなかった。

 もう、腕に力が入らずブラスターを下ろしてしまっていたのは幸運だろうか。

 

「酷い怪我じゃないか!! ……でも、何だこの……鎧か、これ?」

「ゴホッ、ゴホッ……お、俺が何かなんてどう、でも……いい……! トオサカ……リン……に、危け、ん…が……!」

 

 薄れゆく意識の中で、オズは何とか言葉を出す。

 相手が何者でもいい、とにかく遠坂凛と子供たちの危険を伝えねば。

 

「何だって! 凛ちゃんに何があったんだ!!」

「この、チラシの、バー、た、頼む……早く、トオサ、カ…ト、キオ……ミ……さま、に……伝え…て……こ、ども………たち…………助け……!」

 

 震える手で、さっきのバーからくすねていたチラシを差し出す。

 チラシには、もちろんチラシの住所が地図付きで書かれていた。

 

「安心しろ、俺は時臣や凛ちゃんの知り合いだ。俺が凛ちゃんを助ける!! ……時臣にも伝える!」

 

 男は片膝を突いてオズを助け起こしながら、その言葉に力強く頷く。

 オズはニッコリと笑って……力尽きた。

 全身から力が抜けると同時に、その身体が消滅する。

 

「サーヴァント、だったのか……」

 

 何もなくなった腕の中を見ながら茫然と呟く男だが、すぐに頭を振ってチラシを拾って立ち上がり、懐から取り出した携帯電話を操作する。

 遠坂邸に電話をかけるが、しばらく待っても繋がらない。

 

「おいおい嘘だろ……! でろよ、時臣。頼むから……!」

 

 イライラと足踏みする男だが、電話はいつまでも繋がらない。留守番電話にもならない。

 

「クソッ! 留守電の使い方くらい覚えろよな、あのエセ貴族!!」

 

 携帯電話を切って懐にしまった男は、少しだけどうするか考えるが、それも本当に少しだけだった。

 

「凛ちゃん、無事でいてくれよ……!」

 

 オズの最後を看取った男……間桐雁夜は、知己である少女を救うべく、駆け出すのだった。




そげなワケで、実は第三次に参戦していたクワイ=ガン。
そのクワイ=ガンの影響で当時の遠坂当主の意識が変わり、その影響を受けた時臣の性格も原作とは変わっているワケです。

子は親の背を見て育つが故に、親が変われば子も変わる。そんな話でした。

で、ついでに雁夜おじさんが操ってるバッタはグルッチンというユージャン・ヴォングの生体兵器。
本来は宇宙船に搭載する魚雷のように使う兵器で、宇宙空間だろうがハイパースペースだろうが飛び回り、宇宙船も人間も喰ってしまうとかいう恐怖のバッタ。
これでも、原作に比べれば脅威度は格段に下がっています。


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優雅風バーベキュー、焼き方はミディアムレアで

この作品のタイトルは、いわゆる『出オチ』を目指していたり。


「遅かったか……」

 

 キャスターのマスターが根城にしていると思しい地下バーへと足を踏み入れた時臣とクローン・トルーパーたちだが、ある意味当然と言うべきか、それらしい人物は……もちろん遠坂凛も……すでにいなかった。

 しかし、時臣は冷静だった。

 絶対安全圏である屋敷から出た時点で、冷静とは言えないかもしれないが。

 

「魔術を使った痕跡がある。……後を追えるはずだ」

 

 魔術師としての腕を見せつつ、時臣はこのマスターのあまりの杜撰さに呆れていた。

 この敵は、魔術を隠そうともしていない。

 よほど未熟なのか、あるいは一般人が何かの偶然でマスターになり、キャスターに操られているのかもしれない。

 それで凛を攫ったことを許す気は無いが。

 

「ではさっそく、追いま……ッ!」

 

 時臣に従おうとしたクローン・トルーパーだったが、何かの気配を察知し一斉にブラスターを構える。

 次の瞬間、黒い霧が渦巻き、漆黒の鎧を纏った騎士が実態化した。

 

「バーサーカー! 雁夜か!!」

 

 すぐにそのマスターに思い至り、同時に余りの間の悪さに時臣は怒りに震える。

 いずれは倒さねばならない相手だが、なにもこんな時に現れなくてもいいではないか。こっちは一分一秒が惜しいというのに。

 

「ここは我々が引きつけます! トキオミ様は、ご息女の下へ!! おい、何人かトキオミ様に付いていけ!!」

「ッ! 分かった」

 

 議論する時間も惜しいのでワクサーの提案を飲み、バーサーカーの隙を見て駆け出そうとする時臣。

 しかし、急にバーサーカーの体に電撃が走った。

 

「■■■■―――ッ!!」

 

 苦痛に吼えるバーサーカー。

 時臣はクローン・トルーパーの仕業かとチラリとワクサーの方を見たが、ワクサーは無言で首を横に振る。

 

待て(ステイ)! 待て(ステイ)だ!! 暴れるんじゃない!!」

 

 答えは、すぐに分かった。

 地上に通じる階段から降りてきた男が、本を片手に叫んでいる。

 短い黒髪に、パーカーという姿の三十路に至っていないだろう極普通の青年だ。

 しかし、時臣にとっては因縁深い相手だった。

 

「雁夜か」

「時臣……!」

 

 男……間桐雁夜は時臣の姿を見とめるや、憎々しげに表情を歪める。

 だが、すぐに頭を振った。

 

「……時臣、今は聖杯戦争をしてる場合じゃない。凛ちゃんが危険なんだ」

「何だって? どうして君がそれを知っている?」

「さっき、そいつらと同じ姿をした奴とあった。彼が教えてくれたんだ」

 

 その答えに、クローンの一人が反応した。

 

「オズだ! 彼は?」

 

 雁夜は首を横に振って答えとした。

 

「それで……そうだ、時臣! お前、携帯電話くらい持てよ!! こっちは連絡付かなくて困ったんだぞ!!」

「そう言うのは優雅ではないからね」

「使えないだけだろ! このエセ貴族!!」

 

 無礼な物言いに時臣は顔をしかめる。

 そもそも、時臣はこの間桐雁夜という男が気にくわなかった。

 魔道の家に生まれながら、そこから逃げ出したのもそうだが、何より妻の葵に横恋慕しているからだ。

 葵は気付いていないようだが、時臣から見れば雁夜の想いは火を見るより明らかだった。

 

 実のところ、桜を間桐に養子に出すことの最大の懸念事項が雁夜だった。

 今はいいにしても、やがて美しく育った桜に葵の面影を見出し、それは邪恋を呼び起こす。そして、ある日理性が決壊して……などということにならないかと心配だった。

 

 閑話休題。

 

「……とにかく、君は敵でないと考えても?」

「構わない。とにかく、凛ちゃんを助けることが先だ!」

 

 善意と良識のままに発言する雁夜に、時臣は素早く計算する。

 これから行く場所には、キャスターが待ち構えている可能性が高い。ならば、戦力は多い方がいいだろう。……何より、雁夜を説得するなり叩きのめすなりする時間も惜しい。

 個人的な確執を置いておけるのが、時臣の優れた資質だった。

 

「……いいだろう。一時休戦だ」

 

  *  *  *

 

 時臣と雁夜、クローン・トルーパーが魔力の痕跡を追って行きついたのは、排水溝だった。

 

 この先に、凛と……キャスターがいるはずだ。

 

 迷わず排水溝の中に侵入すれば、出るわ出るわ、海魔が山と押し寄せる。

 

「撃て! 撃ちながら、前進!! 後方の警戒も怠るな!」

 

 ワクサーの指示の下、クローンたちが、すぐさまブラスターで海魔を銃殺していく。

 異形の海魔と言えど精密かつ、かなりの密度を持った弾幕の前に次々と倒れていく。

 

「殺れ! バーサーカー!!」

「■■■■■―――!!」

 

 雁夜の呼ぶ声に応じて漆黒の騎士が実態化し、海魔の群れに突っ込んでいく。

 その手には、死したオズの持ち物だったブラスターが握られていた。

 しかし、まるでマシンガンのように連続で光弾を吐き出し、それも全弾命中して海魔を消し炭にしていく。

 明らかに通常のブラスターより機能が上がっているが、これこそバーサーカーの宝具、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)の力である。

 

「雁夜、一つ聞くが君、戦闘は?」

 

 言いつつ、時臣は杖を振るって炎を巻き起こす。

 炎は粘液に覆われた海魔の群れを容赦なく焼いていく。

 しかし、時臣の背後に海魔の触手が伸び……さらに背後から現れた飛蝗の群れに食い尽くされる。

 

「その台詞、そのまま返すぞ学者先生。……そいつらは鉄噛虫(てっこうちゅう)、って呼んでる。まあ実際には鉄だろうがコンクリだろうが何だって食い尽くすんだが」

 

 そう言って雁夜は手首を新たに向かってきた海魔に向ける。

 するとパーカーの裾から目にも止まらぬ速さで鞭のような物が飛び出し、海魔に突き刺さる……いや、噛みついている。

 鞭と見えたそれは、実際には奇妙な黒い蛇だった。

 毒でも持っているのか一噛みで海魔を麻痺させた蛇は、雁夜の手の動きに合わせ鞭のようにしなって海魔を打ちのめし、あるいは平べったくなって剣のように海魔の触手を斬り落とす。

 

剣杖蛇(けんじょうじゃ)。俺の指示一つで、剣にも杖にも鞭にも、そして……」

 

 説明しながら雁夜が腕を突き出すと、剣杖蛇は口からビームのように見える何か……それほどの早さで飛ぶ液体を吐きだした。

 液体が海魔の体にかかると、海魔は悲鳴を上げて動かなくなる。しかし消滅しないことを見ると、麻痺しているだけのようだ。

 

「銃にもなる。……お疲れ、アオイ」

「それはそれは…………アオイ?」

 

 少し得意げに自身の秘術を語る雁夜に若干呆れる時臣だったが、雁夜が蛇の喉を撫でながら呟いた名前に、顔をしかめる。

 

「君、蛇にアオイという名前を付けたのかね?」

「し、しょうがないだろ! こいつが生まれた頃は、なんて言うか葵さんのことを乗り越えてない頃で……」

「絶対に乗り越えてないだろ、君……ところで思ったんだが、君のバーサーカーの能力を考えると、その蛇を持たせればいいんじゃないか?」

「馬鹿言え! バーサーカーの力に、剣杖蛇が耐えられないんだよ!!」

 

 言い合いながらも海魔を殲滅しつつ進み続ける一行は、やがて排水を溜める貯水槽に出た。

 貯水槽には水は無かったが……。

 

「これは……!」

「ヒデエ……」

「これが人間のやることかよ……!」

 

 クローンたちが呻き声を出す。

 そこにあったのは、『人間』だった。

 いや人間を使った芸術品、とでも言うのだろうか。

 言葉にするのも悍ましい、名状しがたい人だった何か。それもおそらくは年端もいかない子供ばかり。

 何があったか、すでに黒焦げな物が大半だが、いくつかはまだ『生きて』いた。

 

「これは……魔術的な意図があっての物じゃない……多分だけど、それこそ芸術品のつもりなんだろう。何にしたって、狂ってやがる……!」

 

 怒りと吐き気に震える雁夜だが、時臣はふと思ってしまった。

 

 この、悍ましい『芸術品』の材料が…………凛だったら?

 

 脳裏に、まざまざと浮かんでくる。

 

 手足に杭を打たれて目と舌をくり抜かれ、

 腹を捌かれて内蔵を引きずり出され、

 頭を切り開かれて脳を剥きだしにされ……それでも死ねない。

 

「ッ! 凛! 凛、何処だ!! 返事をしてくれ!!」

「お、おい時臣!」

「トキオミ様! 危険です!!」

 

 雁夜やワクサーが止めるのも聞かずに時臣は大声で娘を呼ぶ。

 

「凛! りぃぃぃん!!」

「ん~? 誰だい、アンタ?」

 

 と、貯水槽の柱の陰から紫のジャケットを着てオレンジの髪の若い男が出てきた。

 だが時臣にとって重要なのは、この男が凛の手を引っ張っていることだ。

 何らかの術のせいか、凛の表情は虚ろだ。

 

「ッ! 凛!!」

「リン? ……ああ! アンタ、この子の親御さん?」

 

 すぐにでも娘を取り返そうとする時臣だが、周囲に今までより大きな海魔が現れる。

 クローンたちがすぐに円陣を組むようにして時臣の周りを囲み、ブラスターを海魔に向ける。

 

「バーサーカー! 待て! 待てだ!」

 

 雁夜は敵に踊りかかろうとするバーサーカーを止める。

 この状況では、凛の身が危ない。

 

「おお、すげえや! その兵隊さんたち、アンタの仲間なんだ! じゃあ、あれだアンタらもセイハイセンソウってのの参加者なんだ! 生憎と旦那は留守だけど、ゆっくりしてってよ!」

 

 ヘラヘラと笑いながら、男……名を雨生龍之介は両腕を広げた。

 

「で、どうだった? 俺と旦那の自信作! 実は昨日、燃やされちゃったんだけど、昼の間にいくつか作ったんだ!」

「貴様……! 何の目的でこんなことを……!!」

「目的って……そんなこと聞かれてもなあ。芸術に、理由っている?」

 

 怒りに震えるワクサーに問われば、龍之介は困ったように頬を掻きながらヘラヘラと笑う。

 そこに人を殺した罪悪感など、無い。

 

「しいて言うなら……そう、人の死の意味って奴を知りたいからかな! ……兵隊さんなら、分かんない?」

「分からんな、子供を殺すような奴の考えなど、一切」

 

 ワクサーは龍之介の言葉をバッサリと斬り捨てる。

 龍之介は困ったように肩をすくめた。

 

「う~ん……みんなそう言うんだよね。俺からすればさ、俺が殺した人数なんてミサイル一発分にもならないじゃん。何でみんな、そんなに怒るかね~? 殺した数で言えば、兵隊さんの方がよっぽど多いと思うよ? あ、別に俺、兵隊さんのこと嫌いじゃないよ! 殺しのプロだし、むしろ尊敬してる。マジ、リスペクト!」

「テメエ……!!」

「……トキオミ様。すぐにこの男の射殺許可を。我慢なりません……!!」

 

 あまりにも軽薄な龍之介の口ぶりに、人並みの良心と人並みでない経験を持つ雁夜は拳を青くなるまで握り締め、ワクサーも兵士として、また心優しい気質を持つ者として到底看過できず、引き金にかけた指に力を入れる。

 一方で、時臣は冷静だった……少なくとも表面上は。

 

「いや、良く分かった。なるほど、君は芸術に対し、非情に真摯かつ誠実な人柄のようだ。……話せて良かった」

「時臣!?」

「トキオミ様、何を……?」

 

 笑みさえ浮かべて、龍之介を褒め称える時臣に、驚く雁夜とワクサー。

 龍之介は嬉しそうに破顔する。その顔はある意味、純粋無垢と言えた。

 

「おおー! 分かってくれるんだ! 俺も理解してくれる人に会えて嬉しいよ! 旦那といい、最近はツイテるなー!」

「ああ、私も幸運だったよ…………君がどうしようもない狂人で。おかげで、何の躊躇いもなく殺せる」

「へ?」

 

 淡々と放たれた言葉の意味を理解できずに龍之介が首を傾げた瞬間、その身体が炎に包まれた。

 

「ぎ、ぎゃああああ!!」

 

 魔術による炎は龍之介の体に纏わりつき、もがこうが地面に転がろうが消えない。手を繋いでいた凛には、一切伝播していないあたりが、時臣の神業だった。

 

 時臣は冷静だったのではない。怒りが限界を超えていただけだったのだ。

 

 龍之介の危険を察知した海魔たちが襲い掛かってくるが、バーサーカーやクローン・トルーパーがブラスター射撃で迎え撃つ。

 雁夜も剣杖蛇と鉄噛虫を使役し、海魔を倒していく。

 黒焦げになって動かなくなった龍之介を放っておいて、時臣は愛娘を抱き上げた。

 

「退こう! もうここに用はない!」

「お待ちを! あそこに子供たちが!!」

 

 目的を果たし撤退しようとする時臣に、ワクサーが叫ぶ。

 柱の陰に、凛と同年代の子供たちが意識の無い状態で転がされていた。

 本来なら、時臣に彼らを助ける義理も義務も無いのだが……。

 

「分かった! ワクサー、子供たちを救出しろ!!」

 

 ここまで来たら、乗りかかった船だ。

 

  *  *  *

 

「う、う~ん……あれ、ここは?」

 

 遠坂凛は目を覚まし、薄目を開けると、見慣れた背中が映った。

 

 父だ。

 

 でも、父は聖杯戦争に出ていて自分は禅城の家に……いや違う。

 凛は自分が親友のコトネを助けるために、冬木に戻ったことを思い出した。

 路地裏で見るからに怪しい男を見つけ、それから……。

 

「そうだ! コトネ!!」

 

 見回すと、ここはビルに囲まれた空き地で、何人かの装甲服の兵士たちが意識のない子供たちを介抱していた。その中に、コトネもいる。

 

「コトネ、良かった……」

「凛」

 

 ホッと息を吐く凛だが、冷たい父の声にビクリと震え、背筋を伸ばした。

 振り返った父は、スーツは汚れ髪は乱れていて、そして無表情だった。

 

「お、お父様……あ、あのわたし、コトネが家に帰ってなくて、それで心配で……」

 

 何とか今自分がここにいる理由を説明しようとする凛だが、途中でそれが『言い訳』という遠坂の家訓……『常に余裕を持って、優雅たれ』に反する行いだと気が付いた。

 

「ええと、その……ご、ごめんなさい。言いつけを破って……ッ!」

 

 謝る凛だったが、急に頬に走った痛みに硬直した。

 時臣が、凛の頬を張ったのだ。

 

「……なんで、あんなことをしたんだ!!」

 

 頬を手で押さえながら見上げれば、時臣の顔は激しい怒りに歪んでいた。

 こんな父の顔は見たことがない。

 

「何故、私に連絡しなかった!!」

「ご、ごめんなさい……だ、だって、だって……お父様に迷惑をかけちゃ……!」

 

 余裕も優雅もなく、時臣は怒鳴り散らし、凛は涙を流す。

 脇にいた雁夜が時臣を諌めようとするが、ワクサーに止められる。

 

「死ぬかもしれなかった……いや、確実に死んでいたんだぞ!! 凛が死んだら……凛が、死んだら……」

 

 吊り上っていた時臣の眉と目が、徐々に下がっていく。

 

「桜が他の家の子になって、凛までいなくなってしまったら……私と葵はどうしたらいいんだ!!」

 

 それから、震える愛娘を強く抱きしめた。

 凛は、何をされたのか分からず目を見開いた。

 

「生きていてよかった……! 本当に、よかった……!」

「う、う……うわぁぁあぁぁぁんッ!!」

 

 嗚咽を漏らしながら、時臣は娘を抱きしめて離さない。

 凛は、大きな声を上げて泣いた。

 自分が何故泣いているのか、遅れてやってきた恐怖のせいか、父を悲しませて自分も悲しいからか、父の腕の力強さと温もりに安心したからか、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……泣き疲れて眠ってしまった凛を抱き上げ、時臣は自問する。

 

 果たして自分は、このまま聖杯戦争を続けていけるだろうか?

 

 自分一人が傷つくならいい、しかし家族が傷ついた時、時臣の魔術師としての価値観は吹き飛んでしまった。

 心配なのは聖杯戦争のことではなく、今回のことで心身に傷を負った凛のこれからだった。

 今、時臣は自分が一人の父親であることを強く自覚していた。

 

「……時臣、話がある」

 

 抱き合う親子を黙って見守っていた雁夜が不意に声を出した。

 酷く、真剣みを帯びた声だった。

 

「……何かな雁夜? 君には感謝しているが、聖杯戦争では敵同士だ……」

「その聖杯戦争のことだ。……聖杯の異変について」

「何……?」

 

 その内容は、時臣の興味を引く物だった。

 雁夜は時臣の反応を待っているようだ。

 そして、時臣の返事は決まっていた。

 

「……詳しく聞かせてくれ」

 

 




ああ、ごめんよ龍ちゃんと、龍ちゃんファンの皆さん。
子持ちのオッサンばっかりのこの作品で、子供狙いの連続殺人鬼が、碌な目に合うはずないじゃないか。

ちなみに初期案では、まかり間違ってルークを攫ってしまい、ヴェイダーパパに脳天唐竹割りにされる予定でした。

作中で雁夜おじさんが操ってる剣杖蛇は、アンフィスタッフというユージャン・ヴォングの生体兵器シリーズその2.
おじさんは魔術師としては3流だけど、戦闘力はそこそこあります。

次回からは、またアインツベルン陣営に話が戻る予定です。


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おやすみなさい、衛宮切嗣

前回、入れるのを忘れてたこと。

綺礼「令呪を持って命ず。(私のいる)この場で全力で戦い、勝て」

ワクサー「了解。(自分たちのいる)この場で全力で戦って、勝ちます。ちなみに勝利条件は第一目標が遠坂凛の救出、第二目標が子供たちの救出です」

……ってな感じで、ワクサー隊は時臣に付き合ってました。

※ちょっとミスしてたので直しました。
具体的にはピエット提督を、デヴァステイターの艦長に。


 長かった聖杯問答の夜が明けて。

 朝日がアイツベルンの城……の上空にデエエエエンッ!と居座るスター・デストロイヤーを照らす。

 

 その一室でダース・ヴェイダーが瞑想室に入って休息していた。

 この上下に割れるカプセル型の瞑想室には空気の成分と気圧の調整を含めた様々な機能が備え付けられており、ヴェイダーはマスクとヘルメットを外して快適に過ごすことが出来た。

 

「パパー! パーパー!」

 

 と、そこへ息子のルークが部屋に転がりこんできた。

 ヴェイダーはマスクを着けないまま、カプセルを開ける。

 

「ルーク、どうしたんだ? ……おや?」

 

 息子の姿を見とめたところで、ヴェイダーは首を傾げた。

 ルークの後ろに、久宇舞弥が立っていたからだ。

 

「ねえパパ! マイヤといっしょに遊びにいってもいいでしょ!」

 

 無邪気に言う息子から舞弥に視線を移せば、舞弥は相変わらずの無表情だった。ヴェイダーの異様な顔にも動じる様子はない。

 

「息子さんが城の中では退屈だと言うので。無論、R2は連れていきますので御安心を」

 

 そこまで言われて、ヴェイダーはどうしようかと悩む。

 昨日の今日で、この聖杯戦争のさなか、それも他の参加者にルークのことが知られてしまった以上、外に出すのは得策とは言えない。

 

「ねえパパ、おねがーい!」

「……駄目だ、ルーク。今は危険だ」

「ちぇッ! パパのケチ!!」

 

 おねだりしてくる息子に言い含めれば、そんな言葉が返ってきた。

 意外にも、それに舞弥が同調する。

 

「息子さんの安全は、私が守りますので」

「……それよりもルーク。お前は昨日夜更かししただろう? まだ眠いのでは?」

「眠くないよ!! お出かけしてもいいでしょー! ねえぇー!」

 

 元気いっぱいと体全体でアピールするルークに、さてどうしたもんかと考える。こうなった息子を宥めるのは、とてもとても手間がかかるのだ。

 

「だ、め、だ! 寝なさい!」

「やだー! マイヤといっしょに遊ぶー!」

 

 駄々をコネまくる息子に、ハアっと息を吐くヴェイダー。

 銀河を震撼させるシスの暗黒卿も、息子には弱い。

 

「ならば、ルーク。今日は森で私と遊びましょう。レックスやR2もいっしょというのはどうです?」

 

 そこで舞弥が屈んで視線を下げ、対案を出す。

 森ならアインツベルンの結界内だし、レックスやR2もいれば敵襲があっても早々に遅れを取ることはないだろう。

 父子は、揃って同じ角度に首を傾ける。

 

「う~ん、マイヤといっしょにあそべるなら、それでいいや!」

「……レックスの他に、彼が選んだ兵を何人かつけるなら」

 

 そして、揃って舞弥の案を受け入れた。

 

「では、これで……」

「それじゃあ、いってきまーす!」

 

 二人が仲良さげに去っていくのを眺めながら、ヴェイダーはふと思う。

 

 なんかうちの息子、マイヤに懐いてない? ひょっとして初恋? どうもうちの家系は年上に弱い気がするし……。

 

 そのことを考えつつ瞑想室を閉じると、見知らぬ土地で戦ってきた疲れが出たのかウトウトしてくる。

 

「艦長」

『はい閣下。ご用でしょうか?』

「いや、私は少し仮眠を取る。その間のことは任せるので、何かあったら起こしてくれ」

『はい、お任せください』

 

 ほんの1~2時間ほど仮眠を取ることにしたヴェイダーは、デヴァステイターの艦長にその旨を伝えると、目を閉じて眠気に身を任せるのだった。

 

  *  *  *

 

「…………」

「…………」

 

 一方で、城の一室では切嗣とアイリスフィールが対面する形で座っていた。

 しかし切嗣はムッツリとした顔で、アイリスフィールは顔を伏せて、一言も発していない。

 

「あ、あの、切嗣……」

 

 オズオズとアイリスフィールが夫に声をかける。

 しかし、切嗣は答えない。

 

「切嗣、あのね。私、思ったのだけれど……彼らの言うことにも一理あるんじゃないかって」

 

 彼らとは言うまでもなく、昨晩集ったサーヴァントたちのことだ。

 切嗣はピクリと眉を上げた。

 

「……アイリ、あいつらに感化されたのかい?」

「そういうワケじゃあ……とは言わないけど。切嗣、あなたも少しは皆の話を聞いてもいいんじゃないかと思って」

「…………」

 

 すると、切嗣はプイと顔を逸らした。

 切嗣にとって、英霊たちの言葉を受け入れるのは、これまでの自分を否定することに繋がる。

 その上で、妻とクローン・トルーパーの生い立ちを考えれば、影響を受けるのも仕方ないと思えるのだが……。

 

 切嗣が選んだ対応は、『一時的な無視』だった。

 

 その姿があまりに子供っぽいので、アイリスフィールは何となく笑ってしまう。

 大人気ない部分がある人だとは思っていたが、これでは丸っきり子供だ……。

 

 いや、もしかしたらこの『子供』な部分こそが切嗣の本質なのかもしれない。

 

「切嗣……英雄の言葉を聞きたくないのは分かったわ。なら、こちらの味方ともう少し話し合ってもいいんじゃないかしら」

「……ヴェイダーとかい? 彼は聖杯戦争に掛ける願いなんかない。純粋な利害関係だ」

「だからこそ、相手の利と害を把握しておいて損はないと思うのだけど? 言っておくけど、ルークを人質にするのは止めておきましょう。怒らせるだけだわ」

「……それは、君がルークに感情移入しているだけだろう」

「それもあるわ。でも、ヴェイダーを怒らせると帝国軍を敵に回しかねない。そうなったら、もう聖杯戦争どころじゃないでしょう?」

 

 疲れ切った声の切嗣に、アイリスフィールは駄々をこねるイリヤスフィールを相手にしている時のような声を出す。

 それを聞いて、切嗣は内心で深く溜め息を吐く。

 

 かつて、自分と触れ合って急速に自我を確立したアイリだ。他の人間と触れ合えば当然さらなる成長というか変化を見せるのは当たり前だ。

 それを素直に喜べない自分に、切嗣は息を吐くのだった。

 

「それと、その……あなたの、目的についてだけど」

「目的は変わらない。聖杯を使っての、世界の救済。人類の変革。……これだけは譲れない」

「でも、アーチャーやライダーの言うことにも、一理あるんじゃ……」

「……だとしても!」

 

 触れ難い所に触れてくる妻に、思わず切嗣は怒鳴ってしまう。

 

「だとしても……! ここで諦めてしまったら、投げ出してしまったら、僕が殺してきた人々は何のために死んだんだ!! 彼らの死を無駄には出来ない!!」

 

 夫の剣幕に、アイリスフィールは少し恐怖してしまう。

 

 その顔が怒っているというよりは、泣きそうに見えたから。

 

 妻を怖がらせてしまったことに気付き、切嗣はハッとなって取り繕う。

 

「すまない。大きな声を出して。……仮眠を取らせてくれないかな? 今日は少し疲れたよ」

「……ええ、分かったわ」

 

 話を無理やり打ち切られたことを理解しながらも、夫が疲れているのも分かるので、アイリスフィールはゆったりと部屋を後にした。

 切嗣は日の当たらない位置まで椅子を移動させると、深く腰掛けて目を瞑る。

 そして、自己催眠を懸けて意識を分断していく。

 

『精神の解体清掃』

 

 自身の意識をバラバラに解体ることでストレス諸共吹き飛ばし、自然再生させるという荒療治だ。

 二時間ほどの睡眠で、疲労もストレスも解消できるというこの技法を、切嗣は多用していた。

 短時間で効率よく回復できるし、何より夢を見ない。

 

 無力だったころの悪夢も見ずに済むし、忌々しい英霊たちの過去をパスを通じて垣間見ることもない。

 

 ……そのはずだった。

 

「失礼、ミスター・キリツグ。話が……」

 

 そこへ、オビ=ワンが部屋に入ってきた。

 聖杯問答で出来た溝を自発的に埋めるべく、切嗣と話し合おうとしていたのだ。

 しかし、椅子に腰かけて寝息を立てている切嗣を見て、すぐに場を後にしようとする。寝ている人間を起こすのは忍びない。

 

 そこでオビ=ワンは、フォースを通じて切嗣の意識の状態を察知した。

 細かい断片に別れた精神は、彼から見て異常に見えた。

 

「ふむ……これはいけないな」

 

 だから、オビ=ワンは切嗣の頭に手を翳し、フォースと純粋な善意で持ってバラバラだった意識を一つに纏めてやる。

 隠居後に覚えた技の一つだ。

 

 切嗣の精神を完全に自然な状態に戻したオビ=ワンは、優しい笑みを浮かべ、部屋を後にした。

 色々あったとはいえ、他人を憎み切れないのが彼の長所であり短所でもあった。

 

「お休み、キリツグ……よい夢を」

 

 そう言って、オビ=ワンは音を立てないように扉を閉めた。

 

  *  *  *

 

 衛宮切嗣は夢を見ていた。

 夢といっても、妙にリアルな質感があった。

 

 周りは奇妙な機械や見たことも無い道具に溢れている。

 

 しかし妙に視点が低い。

 これではまるで子供の……。

 

「ルーク、ここにいたのか」

 

 自身のサーヴァントであるセイヴァーの名を呼ばれて見上げれば、黒い髑髏めいたマスクと黒衣があった。ダース・ヴェイダーだ。

 普通なら威圧感を覚えるだろう、その姿は彼……ルークにとっては絶対的な安心感を齎す姿だった。

 

「ああー! 見つかっちゃったー!」

「ルーク、かくれんぼは終わりだ。部屋の片付けは終わったのか?」

「う、うん……」

 

 返事をすれば、ヴェイダーは腰に手を当てて威圧的に言う。

 どうも、ルークが部屋の掃除をさぼってここに隠れていたらしい。

 

「そうは思えんな。……ルーク、言いつけを守らないなら、週末に遊園地に行く約束は取り消しだ」

「ええー!」

「嫌なら、ちゃんと片付けをするのだ」

「はーい……」

 

 父の言葉に、ルークはトボトボと自室に戻ろうとする。

 と、ヴェイダーのマントの後ろから、ルークと同サイズの影がヒョッコリと顔を出した。

 ルークとよく似た面立ちの女の子で、茶髪を……何と言うかお団子のようなメロンパンのような独特の形に纏めている。

 

「もう、ルークったら! いけないんだ!」

「なんだよー! レイアは片付けしたの?」

「私はいいの! 女の子なんだから!」

「なんだよそれー!」

 

 子供らしく言い合うルークとレイアを見下ろし、ヴェイダーは溜め息混じりに言葉を吐く。

 

「レイア、お前も手伝ってやりなさい」

「ええー!?」

「お前たちは兄妹なのだから、助け合うのだ。ほら、今度遊園地に行った時に、好きなアイスを食べていいから」

 

 父に言い含められてやっとルークとレイアは揃って部屋に向かうのだった。

 

 切嗣はやっと理解した。

 ああこれは、ルークの記憶か。

 

 切嗣は思う。

 ああ、何て幸せなのだろうか。

 自身の境遇との落差に鬱になってくるが、さすがにルークを恨む気にはなれない。

 

 その後も、他愛無い記憶が続く。

 ハン=ソロなる悪餓鬼と遊ぼうとして父に止められ、そのことに腹を立てて家出したり。

 家出した先で泣いていたら、父が迎えにきてくれたり。

 妹と他愛無い喧嘩をしては仲直り、ということを繰り返したり。

 

 普通の……舞台が宇宙で父が暗黒卿であることを除けば、余りに普通の親子の記憶が続く。

 

 だが、やがて……幸せな記憶は唐突に終わりを告げた。

 

 上手く説明できないが、何か、何か別の精神の波のような物が押し寄せてきて、切嗣の視界を闇が包む。

 

 何処かから、ゆっくりとした足音と共に独特の呼吸音……ヴェイダーの息遣いが聞こえてくる。

 

 それを聞いて、切嗣は理解した。

 切嗣とルークがパスで繋がり、ルークとヴェイダーはサーヴァントと宝具という形で繋がっているのだから、これからやってくる物はつまり……。

 

 やがて足音が止まり、闇の中に呼吸音だけが響く。

 そして……。

 

 赤い光……ヴェイダーのライトセイバーの光刃が唸ると、視界一杯にヴェイダーの顔が浮かび上がった。

 自分が酷く恐怖しているのを自覚しながら、切嗣の意識は闇に包まれていった……。

 

 

 

 こうして、切嗣は追体験することになった。

 

 シスの暗黒卿ダース・ヴェイダー……あるいはジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカー。その、波乱と苦悩に満ちた半生を。

 

 




そんなワケで、唐突に過去編へ。

何でダース・ヴェイダーがヴェイダーパパになったのかを書いていきます。
……つまり、しばらくFate成分/Zeroになります。ごめんなさい。

切嗣が作中でやってる精神の解体清掃は公式設定……の、はず。
違ってたらご指摘ください。直します。


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深刻なFate成分不足

どうも、一応レベルでも筋の通った過去編を考えるのが大変だったり、他の連載作品の波が来てたんで遅くなりました(言い訳)

そして、久しぶりなのに、クロスオーバーの体を成していません。


 どこまでも続く熱砂と、それを照らす二つの恒星。

 それがダース・ヴェイダー……アナキン・スカイウォーカーの原風景だ。

 

 銀河のギャング、ハット族の支配する砂漠の惑星タトゥーイン。

 アナキンはここで生まれ育った。

 

 母と共に、奴隷として。

 

 奴隷と言っても、地球における黒人奴隷などとは違い、それなりに自由と生活が与えられていた。

 主人であるワトーは、酷い仕打ちはしなかったし、今にして思えばアナキンを気に入っていたのだろう。奴隷に対するにしては、優しいと言ってよかった。

 それでも、体内に爆弾を埋め込まれ母共々こき使われる日々は幼いアナキンの中に屈折した物を育てていった。

 

 いつか、母と共にこの砂漠の星を抜け出す……。

 

 それだけが幼いアナキンの望みであり、そして必ず訪れる未来だと信じていた。

 

「僕は、いつか宇宙船のパイロットになるんだ!」

(僕は、いつか正義の味方になるんだ!)

「そして、ママを助けてみせる!」

(そして、世界を救ってみせる!)

 

 幼い声に、別の誰かの思いが重なる。

 しかし、それらの意味が全く違うことをこの記憶を観ている人物……衛宮切嗣は理解していた。

 

 あの暖かく美しい島と、この厳しく寂しい砂漠とでは、まるで違う。

 

 奴隷として貧しくも逞しく生きるアナキンだったが、やがて、転機が訪れる。

 

 外の星からやってきた、風変りな人々。

 その中の一人である美しい女性……パドメに、アナキンは一目で恋に落ちていた。

 きっと、あの人と結婚するとそう誓った。

 幼く無邪気な初恋だ。切嗣でさえ、微笑ましくなってしまうほどの。

 このころのアナキンは、歪みを抱えてはいても、それ以上に心優しい少年だった。

 

 外の人々の中でも、一際風変りな男……厳しくも優しいクワイ=ガン・ジンは、アナキンをここから連れ出そうとしていた。もちろん、母もいっしょに。

 幼きアナキンには、それがどういう意味を持つのか正確には理解出来ななかったが、しかしこれで母と自分は救われたのだと思った。

 ……もちろんワトーは『財産』を奪われてなるものかとごねた。

 結局、賭け事で決めることになり、アナキンがポッド・レースに出場することになった。

 

 切嗣から見て、このポッド・レースは正気を疑うような内容だった。

 エンジンに牽引されるだけの、剥き出しの操縦席。

 狭く曲がりくねったコース。

 複雑でとても覚えきれない操縦法。

 勝つためなら反則ありありの参加者たち。

 

 この凄まじい、記憶をなぞるだけでも吐きそうになるレースの果て、見事優勝を掴み取ったアナキンは、奴隷の身分から解放されることとなった。

 

 母親を置き去りにして……。

 

 ワトーは、奴隷二人の解放は最後まで認めなかったのだ。

 だからこそ、アナキンは誓う。

 

 いつか、母を迎えにくると……。

 

 そして銀河共和国の首都惑星コルサントにやってきたアナキンは、銀河を護る騎士たち、ジェダイ評議会の前に立つことになった。

 修行を始めるには年齢的に遅すぎるということで弟子(パダワン)になることを認めてはもらえなかったが、クワイ=ガン・ジンはジェダイを辞めてでも最後までアナキンの面倒を見る気のようだった。

 

 この時アナキンは、クワイ=ガンの中に父性を見ていた。存在しない自分の父親を見ていた。

 

 あるいはこのままクワイ=ガンの弟子となれば、この後とはまた違った人生があったのかもしれない。

 

 しかしクワイ=ガンはジェダイの宿敵、シスの暗黒卿と戦い、死んだ。

 

 そうしてアナキンは、クワイ=ガンのパダワンだったオビ=ワン・ケノービの弟子になることになった。

 オビ=ワンの下で修業していた時は、アナキンにとって幸せな時間と言えた。

 だが、彼はタトゥーインに残してきた母のことを忘れたことはなかった……。

 

 やがて青年に成長したアナキンは、いつしか母の死を夢に見るようになった。

 ただの夢というには、あまりにリアルで生々しい、そんな夢を。

 

 このころ、アナキンはかつての初恋の相手であるパドメと再会する。

 ……いや、かつての、というのは語弊がある。

 今でもアナキンはパドメに好意を抱いていたから。

 

 切嗣は驚いていた。

 このアナキンのあまりに強い愛にだ。

 普通10年も経てば、初恋など苦い思い出に代わる。

 しかし、アナキンは現在進行形でパドメへの想いを保って……いやむしろ強くしていった。

 

 だがジェダイは恋愛を禁止していた。

 それは執着が失うことへの恐れに繋がり、それが怒りや憎しみに至ることを防ぐためらしい。

 切嗣からしてもれば、この掟はかなり理不尽だった。

 地球の宗教関係者だって異性を愛し結婚することくらいあるのだ。

 ジェダイというのは、あまりにも変化を嫌いすぎていやしないか?

 この偏屈っぷりは、むしろアハト翁を思わせる。

 

 とにかく、パドメを護衛することになったアナキンにとって護衛のために訪れた彼女の故郷は、心を震わせるには十分だった。

 

 豊かな自然。

 優しい人々。

 何よりも、パドメと深く愛し合う彼女の家族。

 

 それは、アナキンが心の奥底で何よりも欲していた物なのだ。

 

 このナブーで護衛を理由に穏やかに過ごし、パドメと愛を育んでいたアナキンだが母が死ぬ夢は消えることはなかった。

 パドメの提案により、タトゥーインへと帰郷した彼を待っていたのは、母が再婚して奴隷の身分から解放されたことと……砂漠の蛮族、タスケンレイダーに母が、攫われたことだった。

 

 アナキンは母を救うべく走った。

 昼夜を問わず、タスケンを追跡し、ついにその集落に行きついた。

 

 

 

 

 手遅れだった。

 母はアナキンの手の中で力尽き、物言わぬ骸となった。

 

 その時、アナキンの身内にあったのは何だったのだろうか?

 

 怒り、嘆き、悲しみ、憎しみ、絶望、喪失感……あるいは、暴力への渇望か、その全てか。

 

 アナキンはその集落のタスケンを殺した。

 

 男を斬り殺した。

 

 女を串刺しにした。

 

 子供の首を刎ねた。

 

 殺して、殺して、殺し尽くした。

 

 そして師であるオビ=ワンを恨んだ。

 ……他に、やり場のない怒りをぶつける相手がいなかったから。

 

「全部、オビ=ワンのせいだ!!」

(英雄どものせいで……)

「こんなの、間違ってる!」

(こんな世界は間違ってる……)

 

 その叫びに、誰かの怒りが重なる。

 

 この後、アナキンはオビ=ワンの危機を救うべく戦った。

 恨んではいても、やはりアナキンにとってオビ=ワンは師であり、友であり、兄であり、父だった。

 

 様々な危機はあったが、思わぬ援軍もあってオビ=ワンを救い出したアナキンは、パドメに想いを告白し、二人は秘密の結婚式を挙げた。

 

 しかしこの時、すでに、アナキンの身内には愛する者を失う恐怖が根付いていた……。

 

 

 そしてクローン戦争が始まった。

 

 

 クローン・トルーパーたちと共に戦場を駆けるアナキンは多くの武功を上げ、恐れ知らずの英雄として名を馳せるようになっていく。

 

 そんなころ、アナキンはアソーカ・タノと出会った。

 

 この生意気で破天荒なトグルーダの少女は、何とアナキンの弟子(パダワン)となった。

 衝突はあったものの、アナキンとアソーカは師弟として上手いことやっていった。

 自分の似姿のようなアソーカを守り育てる間、アナキンはまるで父にように振る舞い尊敬と友情を得ていた。

 

 …………しかしこの頃から、異変が起こり出していた。

 

 最初に変化があったのは、他ならぬジェダイの騎士たちだった。

 

「……いやあああ! 何回も死因が変更された挙句、生死不明はいやあああ!!」

「シャアク・ティ!? 落ち着くんだ! ここに君を傷つける者はいない!!」

「……ああ、ごめんなさいマスター・プロ・クーン。……でも死の予感がするのです。それも何故か、別の方法で何回も死ぬことになるような……」

 

 突如として錯乱する者たち。

 

「アイラ! もう我慢できん! 君に私の想いを伝えたい!!」

「だ、ダメよマスター・キット・フィストー……私たちは、ジェダイなのよ。掟に反するわ……」

「君も感じているはずだ! 残された時間が少ないかもしれないと! ならば、私は後悔しないように生きたい!! ……愛しているんだ、アイラ。残りの人生を私と共に過ごしてほしい……!」

「ああ……キット!」

 

 掟に反し、オーダーを離れる者たち。

 

「ああ、何か碌な死に方しない気がする……こうなったら、好きな事を好きなだけしてみるか……ようし、スカイウォーカー! いっしょにスターファイターを魔改造だ!! 後、R2の面白い改造案があるんだが、試させてくれないか!!」

「ま、マスター・セイシー=ティン?」

 

 我が道を突っ走る者。

 

「これが、未来か。ならば儂のすべき事とは……」

 

 そして、苦悩する者。

 

「フォースが乱れている。こんな時こそ、ジェダイは自制しなければならない」

 

 一方、混乱するジェダイの中にあって、評議会の重鎮たるメイス・ウィドウは平時と変わらない姿勢を貫いていた。

 

 しかし異変はこれだけにとどまらなかった。

 

 ある時のこと、アナキンが元老院の最高議長、シーヴ・パルパティーンの執務室を訪ねた時のことだ。

 議長は何かとアナキンのことを気にかけてくれる親切な老人で、アナキンにとっては個人的な友人でもあった。

 

 少なくとも、アナキンはそう思っていた。

 

「議長、失礼します。アナキンです。……議長?」

 

 本来なら厳重に閉じられているべき執務室の扉が開けっ放しになっていたので、入ってみれば、床に老人が倒れていた。

 白い髪を後ろに撫でつけ、赤いローブのような服を着た老人……他ならぬ、パルパティーン最高議長だ。

 

「議長!!」

 

 アナキンは血相を変えて議長に駆け寄り、助け起こす。

 

「誰か! 議長が倒れた! 医務班を呼ぶんだ! 早く!!」

「い、いや、いいんだ。……少し眩暈がしただけだ」

 

 人を呼ぼうとコムリンクを起動させたアナキンを、パルパティーンはやんわりと制してゆっくりと立ち上がり、医務班に断りの連絡を入れる。

 

「議長、ご無理をなされては……」

「いや、この通り、もう大丈夫だ。……実は昔から時折、こういうことがあるんだ」

 

 執務室の接客用のソファーに座ったパルパティーンはアナキンを安心させるように微笑んだ。

 

「周囲を不安にさせないよう伏せているが、実は10年程前から……おお、確か君と初めてあった頃だな……時たま、幻覚を見ることがあってね」

「幻覚、ですか?」

「ああ、二人の幼い子供の幻だ。私の周りを駆け回ったり、あるいは膝の上に座って笑ったりするのだよ」

「は、はあ……」

 

 アナキンには、柔らかく笑むパルパティーンがその幻覚を嫌がっていないように見えた。

 

「私には家族がいないからな。そういう幻を見るんだろう。孤独な老人には、ありがちなことだ……それはそうとアナキン、掛けなさい。今日は話があるんだ」

「はい」

 

 パルパティーンのテーブルを挟んで対面にアナキンが腰かけると、パルパティーンは平時の余裕に満ちた姿をすっかり取り戻した。

 そして、次に出たのは質問だった。

 

「アナキン、君はシスの暗黒卿について、どう思うかね?」

 

 その質問の理由が分からず、アナキンは首を捻る。

 

「どう、と言われても、打ち倒すべき邪悪な敵としか……」

「ふむ、敵か……しかしこうも考えられないか? ジェダイとシスは、表裏一体であると。丁度、このコインの表と裏のように」

 

 言葉の意味を測りかねるアナキンに、パルパティーンは謎めいた笑みを浮かべ、机の上に置かれた天秤の皿の上に置かれたアンティークなコインを手に取って見せた。

 

「このコインには二つの面があるが、どちらの面が見えていてもコインであることに違いはない」

「! ジェダイとシスが、根は同じ物だとおっしゃるのですか!」

「正確には、フォースの光明面(ライトサイド)暗黒面(ダークサイド)、と言うべきかな?」

 

 何を言い出すのかと急に立ち上がるアナキンに、パルパティーンは笑みを崩すことはない。

 

「もちろん、物事はそう単純にはいかないだろう。……儂なりにフォースやジェダイ、そしてシスについて調べてみたのだ。そして得た印象は、フォースとは天秤であり、その両端に光明面と暗黒面が乗っている、と言うことだ」

 

 パルパティーンは、どこからか何枚ものコインを取り出すと、天秤の皿に乗せていく。

 

「どちらかの量が多くなれば、あるいは重い物が乗れば、天秤は傾く……しかし、こうしたらどうなるだろうか?」

 

 そう言って、パルパティーンは天秤の中央、支点に当たる部分を固定している留め金を外す。

 

すると天秤は傾きバランスを崩して、皿を下げている棒が机の上に落ち、皿からコインがこぼれた。

 

 議長が何を言いたいのか、アナキンには分からなかった。

 

「片方に天秤が傾き続ければ、やがて待つのは崩壊なのだ。皿の上に乗っているのが、ジェダイでもシスでもそれは変わらん。……ではそれを防ぐには、どうしたらいいと思う?」

 

 徐々に熱を帯びてくるパルパティーンの声に困惑し、アナキンは答えられなかった。

 そんな若きジェダイに、パルパティーンは鋭い視線を向ける。

 

「一番簡単なのは、皿を空にすることだ。ジェダイもシスも滅ぼし、零にしてしまえばいい」

 

 パルパティーンが天秤の両の皿からコインを全て落としてから支柱に棒を置くと、多少不安定ながらも天秤は静止した状態になった。

 

「そんな……」

「短絡的かね? では、天秤の皿に乗る重さを等しくなるように調整し続ける? ……無理だ。フォース感知者は、銀河中で生まれ続けている。その全員を管理し、光と闇に振り分けるなど、到底不可能だ。……だから」

 

 そして、パルパティーンは天秤の支点を留め金で固定した。

 

「こうして、しっかりと支点を固定すればいい。これなら、どちらかに天秤が傾いても、最悪の崩壊は防がれる……光と闇の中間に立ち、フォースのバランスを保つ者。そんな人間がいればと、そうは思わないかな?」

「……まるで、マスター・ヨーダのようなことをおっしゃるんですね」

 

 アナキンは苦笑した。

 議長の言うことは、まるで夢物語だ。

 

「でも、そんな人間は存在しえませんよ。それはもう、神か何かです」

「さてそうかな? 私はむしろ、人間なればこそ可能だと思う。……あるいは、自覚は必要ないのかもしれん。結局のところ、どんな道を通っても最後は同じ結果に……いいや、だからこそ……」

「議長?」

 

 ブツブツと呟きながら考え込むパルパティーンに、アナキンは不安になった。

 議長の言う所の幻覚は、本人が思っている以上にこの老人の心身を蝕んでいるのでは?

 そう思わずにはいられなかった。

 

「中々、興味深い話じゃのう」

 

 その時、アナキンともパルパティーンとも違う、しゃがれた声が聞こえた。

 

 いつの間にか、執務室の出入り口に緑色の小人のような人物が立っていた。

 大きな耳に、皺だらけの顔。アナキンの腰ほどもない背丈。

 

 その姿に、アナキンは驚いた。

 

「マスター・ヨーダ? どうしてここに?」

「議長に呼ばれたのじゃ。話が、あるとな。ジェダイのグランドマスターと、元老院議長、二人きりで話すのに、不思議はあるまい。ん?」

 

 ヨーダはヒョコヒョコと歩いてくると、ソファーに座る。

 アナキンは、少し拗ねた表情を作った。

 

「二人きり……つまり、僕は席を外した方がいいってことですね」

「すまないな、アナキン。元々、君との話は手短に済ますつもりだったのだが……つい、熱が入ってしまった」

「長話が好きなものじゃ、老人とは」

 

 謎めいた表情を浮かべる老人二人に、アナキンは溜め息を吐いた。

 そしてふと、この二人は意外と似ているのかもしれないと思った。

 人を煙に巻く所なんか、そっくりだ。

 

「それじゃあ、議長にマスター・ヨーダ。失礼します」

「ああ、また」

「うむ」

 

 そのまま、アナキンは一礼してからその場を後にした。

 

 

 

 ……後々、アナキンは思うのだ。

 

 この時には、すでに事は始まっていたのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、これはアナキンの知らない話。

 故に、切嗣も知り得ない話。

 

 アナキンが去った後、ヨーダは突き刺すような視線を目の前の老人に向けた。

 

「それで? 儂を呼び出し、何を話そうと言うのかのう? ……ダース・シディアス」

「無論、我らが行く末について。……貴様も見たのだろう? 未来を、な」

 

 共和国元老院最高議長シーヴ・パルパティーン……またの名をシスの暗黒卿ダース・シディアスは、アナキンに向けるのとは違うゾッとするような笑みを浮かべる。

 

 その瞳は、毒々しい黄色に輝いているのだった。

 




EP1~EP2、クローンウォーズは原作と同じになってしまうので、ザッと流す程度にしました。

そして、ここからSW側も原作剥離が酷くなります(今更)
一応、重要な情報はだいたい皇帝陛……もとい議長閣下が言ってくれました。


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もはやクロスオーバーの体を成してない件

過去編が終わんない……。


「我々は、分離主義者に感謝するべきかもしれませんな」

 

 クローン戦争のさなか、何回か共に戦う機会のあったウィルハフ・ターキンという軍人は、こんなことを言った。

 彼の艦隊が分離主義勢力の艦隊を粉砕した時のことだ。

 ヴェネター級スター・デストロイヤーの艦橋で、アナキンと並んだターキンは冷ややかな視線を瓦解しゆく敵艦隊に向けていた。

 

「それはどういう意味です?」

「ああ、誤解しないでいただきたい。共和国への忠誠は揺るぎませんよ。……私が言いたいのは、彼らが反共和国的な勢力を纏めてくれたおかげで、スムーズに彼らを殲滅できると言うことです」

 

 広い額と高い鼻、そして鋭い目が猛禽類を思わせるターキンは、ニコリともせずに言い放った。

 

「元々、共和国に逆らう勢力は増加傾向にありました。彼らがそれぞれに好き勝手すれば、我々はその都度対応しなければならない。しかし分離主義勢力として纏まってくれたおかげで、その手間は省けたわけです。無数の小さな虫を全て潰すより、一匹の蛇の頭を落とすほうが、遥かに簡単だ」

「……あんたは、この戦争が起こって良かったと言うのか?」

「そうは言いません。ただ、前にも話ましたがジェダイのやり方は生温い。……もっと、敵に恐怖を与えなければ。裁判を受ける権利など与えず、分離主義を掲げる者は首を刎ねてしまえばよろしい。そうすれば、多くの者は恐怖に震えて逆らうことも考えないでしょう」

 

 ターキンの弁に、アナキンは顔をしかめる。

 

「それは危険な考え方だ。……それこそ、分離主義者のやり口だ、それは」

「ある意味では、彼らの方が効率的ですからね。金と権利を与えれば人は怠けるが、恐怖を与えれば良く働く」

「…………そんなやり方をすれば、反発が増すばかりだ」

「ですから、その反発する気力もなくなるほどに痛め付けてやれば良いのです。恐怖の下であっても、秩序は秩序、平和は平和ですからね」

 

 内心でターキンの言い分にも一理あると感じながらも、ジェダイとして、また人としての良心から反論する。

 

「そんな平和は、一時の物だ」

「その『一時の平和』さえ、銀河にとっては貴重なのではありませんか?」

「人々に犠牲を強いるとしてもか?」

「私の計算では、無秩序による死よりも、戦争と弾圧による死の方が少なくなるでしょうね。……これだけでも恐怖による秩序には意味があると言えるでしょう」

 

 アナキンは納得しかねるようだが、切嗣は納得していた。

 ターキンの言い分は、切嗣がこれまでやってきたことと、ほとんど同じだった。

 救える数が多い方を選ぶべきだ。

 

 しかし、次のアナキンとターキンの会話で、その考えも凍りつく。

 

「では、あんたは惑星をその住民諸共、粉々に吹き飛ばせば平和が来るとすれば、そうするのか?」

「面白い質問ですね。……そうですね。可能なら、するでしょう。惑星をも破壊する力を独占できれば、誰も逆らおうとはしないでしょうから。しかしそれが虚仮脅しでないことを証明するためには、星一つでは足りないかもしれません。二つ三つは破壊しておいたほがいいでしょう」

 

 事もなげに、ターキンは言ってのけた。

 表情も変えずに。

 

 アナキンはジェダイ故に、ターキンの感情が全く揺れ動いていないことを察していた。

 

 この男は、そんな場面に出くわせば躊躇いなく『やる』だろう。そう確信した。

 

 切嗣は絶句していた。

 惑星を破壊……想像もつかない。核兵器の比ではない。

 それを何の躊躇もなく成せるのか。

 

 切嗣は殺すたびに罪悪感が残る。

 しかし、ターキンにそれは無い。

 ただ、冷徹と言うのも生温い機械的な打算のもとに殺すのだ。

 

 ある意味で、ターキンは切嗣の理想像だった。

 人の命その物に価値を見出さず、数としか見ないで、殺す者と救う者を選択する。

 

 その理想像を前にして、切嗣は只々戦慄することしか出来ないのだった。

 

 ……お互いの実力を認めあっていたアナキンとターキンだったが、アナキンの弟子であるアソーカの一件を巡って、二人の間には深い溝が出来た。

 それが曲りなりにも修復されるのは、大分先の話だった。

 

 そう、アソーカ・タノはジェダイから離脱した。

 

 誤解から聖堂爆破の犯人扱いされ、その誤解を解くために脱走までして真犯人探しに奔走したアソーカ。

 アナキンは彼女を疑ったことなどない。

 しかし、彼女の考えなしな行動が、結果的に彼女自身を追い詰めていることに気が付いていた。

 

 ……果たして真犯人は発見された。

 

 しかし、ジェダイ評議会……この頃には結構な数が離脱していた……その中でも特にメイス・ウィンドウはアソーカに謝罪することはなく、あくまでも試練であったと言った。

 

 確かにアソーカは先走った。考えなしだった。

 しかし、一言謝罪してもいいのではないか?

 

「評議会は私を信じなかった。だったら、私も信じない……」

 

「もうここにはいられない……おしまいよ」

 

 評議会に信用してもらえなかったことは、アソーカにジェダイ離脱を決意させるには十分だった。

 

 そしてこの事は、アナキンの中に積もり積もっていたジェダイへの不信を、確実な物へ変えていた。

 

 また、愛する妻との擦れ違いもあって、当たり散らすことが多くなった。

 この頃のアナキンの姿は、切嗣から見ても子供っぽい物だった。

 

(おいおい、これで良く僕のことを『まるで子供』なんて言えたもんだな)

 

 そう苦笑せざるを得ないほどに。

 

 そんなアナキンの苦悩にも関わらず、クローン戦争は共和国側の優位に傾いていた。

 ジェダイの長ヨーダは、どう言うワケか分離主義者の先を読むように策を張り、確実な勝利を重ねていた。

 

 ……やがて、コルサント上空にまで分離主義者の軍が迫り、最高議長パルパティーンが誘拐されるという事件が起こった。

 

 アナキンとオビ=ワンは議長を救出するために敵旗艦に乗り込み、捕らえられた議長の眼前で分離主義勢力の首魁、シスの暗黒卿にして、かつてはジェダイで最も尊敬される騎士の一人でもあったドゥークー伯爵と対峙した。

 

 相性もあってオビ=ワンを気絶させた伯爵だったが、もはやアナキンの敵ではなかった。

 

 『片腕』を斬り落とされ跪くドゥークーの首をすぐに斬れる位置に、アナキンのライトセイバーの光刃が置かれる。

 今や、シス卿の生命はアナキンの手の内にあった。

 その時、アナキンの内にあったのは葛藤だった。

 

(こいつのせいで、多くの人々が死んでいった。ここで止めを刺し、戦争を終わらせなければ……いや、ドゥークーにもう抵抗することは不可能だ。戦えない者を殺すことは、ジェダイの掟に反する。しかし……)

 

 アナキンとドゥークー。

 どちらも何も言わず、動くことが出来ず、時間だけが過ぎていく……。

 

「殺すでない」

 

 痛いほどの沈黙を破ったのは、パルパティーンだった。

 

「殺すでない、アナキン。その男には、まだやってもらわねばならんことがある。……分離主義者の敗北を宣言させ、この戦争の責任を取ってもらわねば」

 

 この状況でも落ち着き払った、静かな声にアナキンの精神も落ち着いてくる。

 しかし、反対にドゥークー伯爵はこの発言に驚き、そして怒りに満ちた表情を浮かべた。

 

「責任? 責任だと! これは貴方が始めたことではないか!!」

「…………」

「しかし、貴方は臆病風に吹かれて途中で逃げ出した! だから私が貴方の仕事を引き継いだのだ!!」

 

 その叫びに、アナキンは再び混乱する。この口ぶりではまるで議長が全ての黒幕だと言わんばかりではないか。

 パルパティーンは渋い顔で沈黙を貫いていた。

 

「共和国の打倒は、我々の悲願だったのに、貴方は投げ出したのだ! 裏切りはシスの道! だから、私もそれに従おう!!」

 

 一瞬の、出来事だった。

 

 ドゥークー伯爵は、フォースでライトセイバーを残った手に引き寄せると同時に、議長に斬りかかろうとした。

 

 だが、その瞬間には咄嗟にアナキンが突き出したライトセイバーの光刃が、ドゥークーの胸板を貫いていた。

 

 心臓を串刺しにされたドゥークーは一瞬だけ苦悶の表情を浮かべ、こと切れた。

 

 これが、分離主義勢力の指導者、シスの暗黒卿、かつては偉大なジェダイだったドゥークー伯爵の最後だった。

 

 茫然と死体となった伯爵を見おろすアナキンの胸の内には、人としての良心とジェダイとしての責任感、そして自己嫌悪が渦巻いていた。

 

「……アナキン、気に病まない方がいい。ああしなければ、私は死んでいた。君は私を助けてくれたのだ」

 

 議長はそう言ってくれたが、さっきの伯爵の言葉が気にかかっていた。

 

(シスは嘘吐きだ。今度も嘘に違いない……だいたい、共和国の最高議長が、分離主義者の黒幕だなんて、そんなことがあるはがないじゃないか)

 

 そう自分を納得させようとするアナキンだが上手くいかない。しかし悩んでいる暇はなかった。

 

 この後、アナキンたちはグリーヴァス将軍と交戦し、その末に真っ二つになった宇宙戦艦を不時着させるという荒業で生き残ったのだった。

 

 

 

 これだけの活躍をしてなお、ジェダイ評議会は……特にメイス・ウィンドウは……アナキンをジェダイ・マスターにすることを渋っていた。

 アソーカの件もあり、アナキンのジェダイに対する不信感は膨らむ一方だったが、そんなことを忘れさせるくらいに幸せなことがあった。

 

「アナキン、私、赤ちゃんが出来たの」

 

 久方ぶりに再開した妻、パドメの言葉が、どれほど嬉しかったか。

 とても言葉では表現できないほどだ。

 

(僕が父親に……!)

 

 アナキンに、よくある父になることへの不安などなかった。

 

(僕とパドメと子供と……ああ、何て幸せなんだろう!)

 

 ただ、喜びだけがあった。

 

 ……だがアナキンは再び悪夢を見るようになった。

 最愛の妻であるパドメが苦しみの中で死ぬ夢。

 あの、母が死んだ時と同じように夢とは思えないほどに生々しい。

 

 このままでは母だけでなく妻……そして子供たちまでも失ってしまうという恐怖に駆られたアナキンは、何とかして彼女を助けようと考えた。

 ジェダイ聖堂のマスターだけが閲覧できるライブラリになら、妻を助ける方法があるかもしれない……。

 

 しかし。

 

 メイス・ウィンドウを始め、ジェダイ評議会の面々はアナキンのマスター就任を渋った。

 人格的に未熟であると言う理由であり、また議長と親し過ぎるので公平性に欠けるというのが理由だった。

 意外にも、ヨーダはアナキンを擁護した。

 

「儂はそうは思わん。スカイウォーカーはマスター足るに十分な能力を持っておる」

「能力の問題ではありません。彼にはジェダイに必要な献身と自己犠牲が欠けている」

「……果たしてそれは、そんなに重要かのう? それを説いたのは儂じゃが、最近はそれだけが唯一の答えではない気がしてきてのう」

「いいえ、これが唯一無二、絶対不変の答えです」

 

 だがメイスが断固として譲らず、アナキンはジェダイ・マスターになることはできなかった。

 それだけではなく、ジェダイ評議会はパルパティーンをスパイするよう、命令した。

 

 もはや抑えようもなく、アナキンのジェダイ不信は膨らんでいた……。

 

 一方で、切嗣はパルパティーンをスパイすることには肯定的だった。

 

 あまりにも、パルパティーンに都合の良いことが起こり過ぎる

 裏があると考えるべきだろう。

 

 そして裏はあったのだ。

 

「アナキン……私はシスだ」

 

 オペラハウスで夢のことをパルパティーンに相談し、ダース・プレイガスの秘術について告げられた後にこう告白された時、アナキンの頭は真っ白になった。

 

「貴方が……シスの暗黒卿? この戦争の黒幕だっていうのか?」

「正確には、前準備を進めていたのだ。クローンを製造するようにサイフォ=ディアスを諭し、その一方で共和国に反感を持つ者たちを集めた……しかし途中で方針を変えることにした。……我が弟子だったドゥークーは、それが気に喰わなかったようでな。袂を分かったのだ」

 

 アナキンはライトセイバーを起動し、光刃を議長……いやシスの暗黒卿の喉元に突き付ける。

 しかし、パルパティーンは余裕を崩さない。

 

「前に話したことを憶えているかな? 幼い子供の幻影と、フォースの光と闇、そしてバランスについて。……かつて師であるダース・プレイガスを葬ってすぐのこと。私は未来を垣間見たのだ。フォースにバランスを齎す者をな……」

「出鱈目を……!」

「出鱈目ではない。あの者は、凄まじい闇の力を持ちながら、同時にかつてない程の光の力も持っていた。……私は確信した。あれこそ、真なるフォースの高み! 本当の意味でフォースを極めると言うことなのだと! そして儂の中に願望が芽生えた。あの高みを見てみたいとな! ……それでも、シス積年の大願であるジェダイ抹殺を諦めていいのかと迷ってはいたが、数年前に決意した。あの時見た未来こそがフォースの真実なら、もはやシスの大願に拘ることもない。それにダース・ベインのように改革者として歴史に名を残すのも一興とな……!」

 

 いつかのように、パルパティーンの声と視線には徐々に熱を帯びてくる。

 もはや、この妄想染みた老人に付き合うつもりは、アナキンの中になかった。

 

「議長、あなたを逮捕します……!」

「いやいや、逮捕は出来んよ。シスであることは共和国の法律上なんの問題もないし、このところはクリーンな手段に努めておったでな。それ以前の悪事については、もう証拠も残っていない」

「あんたのせいで戦争が起こり、多くの人が死んでいった」

「私のせい? ああ、確かに準備をしていたことは罪だろう。しかしアナキン。戦争は必然だった。もはや、ジェダイ・オーダーと共和国は限界だったのだよ。……そのことは君も感じているはずだ」

 

 穏やかなパルパティーンの言葉に、アナキンの中に迷いが生じる。

 確かに元老院はもはや自浄作用を失って久しい。

 清廉な議員たちもいるが、それでも腐敗した議員たちの権勢を止めるほどの力はない。

 そしてアソーカの一件からも分かるように、ジェダイもまた硬直化している。

 

「アナキン、私は何もジェダイを裏切れと言っているのではないのだよ。ただ、闇の力についても学んでほしいのだ。闇には光にはない秘術があるのは紛れもない事実。……その中に、奥方を救う術があるかもしれない」

 

 動揺するアナキンに、パルパティーンは優しく言葉を続ける。

 実際、アナキンはジェダイに反感を覚えていたし、パドメを救う方法を探していた。この言葉はとても魅力的に聞こえたのだ。

 

「……実の所、マスター・ヨーダとはすでに打ち合わせてあるのだ。……オーダーと、共和国の終焉について」

「!?」

 

 突然出て来た名に、アナキンの混乱が大きくなる。

 

「ヨーダもまた、未来を見たのだ。……だから取引をした。ジェダイ抹殺を諦める代わりに、オーダーを解散してもらうとな」

「そんな……」

「オーダーは消滅するだろう。共和国は滅び、別の国家が生まれるだろう。……だがジェダイが全滅するわけでも、民主主義が消えるワケでもない。ジェダイたちにはフォース感知者を教育してもらわねば困る。元老院は残すし、ベイル・オーガナやモン・モスマと言った議員たちは密かに後継者を育て、彼らが私の死後に速やかに民主制を復活させるはずだ」

「…………」

「君は、私の下でシスの技について学んでくれるだけでいいんだ。……何故、私が君に拘るかはもう分かるだろう? ……私が見たフォースにバランスを齎す者は、君なのだ。君は光と闇の両方の力を得るんだ」

 

 パルパティーンの声が、今までと僅かに変わる。

 今までよりも、優しく柔らかな……そして欺瞞のない物に。

 

「何より子供の幻影は、おそらく君の子供なのだよ。君の奥方と……そのお腹にいる子供を助けることは、私の願いでもあるんだよ」

 

 そこまで言って、パルパティーンは席を立った。

 

「もちろん、今すぐ答えを出せとは言わない。迷うのも無理はないからな。……もうすぐ戦争は終わる。グリーヴァスはオビ=ワンに討たれるだろう。可哀そうだが。……その時に、改めて返事を聞かせてくれ」

「…………」

 

 議長が去った後には、迷い続ける青年だけが残されたのだった。

 




ちょと整理、パルパティーンの行動

パルパティーン「師匠を殺したし、これで儂がシス・マスターだもんね! このノリでジェダイも抹殺しちゃるぜ!」
       ↓
パルパティーン「なんか未来が見えたんだけど、なにこれ? 光と闇は合わさって最強に見える……すげえ」
       ↓
パルパティーン「でもシスの長年の悲願を捨てんのもなあ……とりあえず、計画は進めておこう」
       ↓
サイフォ・ディアスを諭してクローン・トルーパーを製作させつつオーダー66を仕込む。
       ↓
パルパティーン「迷ってたけど決めた! やっぱり、これからは融和路線でいくぜ!」
ドゥークー「ふざけんじゃねえ! こっちは共和国をぶっ潰したいんだ。あんたとはもうやってけん!」
       ↓
ドゥークーが分離主義者を纏めてクローン戦争開始。
       ↓
アソーカ離脱後あたり。
パルパティーン「んなワケでヨーダ。ジェダイ抹殺は諦めるけど、代わりにオーダー解散してくんない?」
ヨーダ「クローンは押さえられてるし、ジェダイは硬直化しとるし、なんやもう勝ち目とかないわ……OKするしかないじゃん」

こんな感じ。
さらっとドゥークーに責任押し付けてるあたりがやっぱりシス。


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虚淵御大がやりそうな展開(白目)

 かくて、アナキンとジェダイの運命は好転したかに見えた。

 

 ……しかし、破滅の予兆はすでにあったのだ。

 

 アナキンは、ジェダイに……そしてオビ=ワンに不信感を抱いていた。故にオビ=ワンが妻を奪うのではないかと心の何処かで疑っていた。

 

 パドメは夫に嘘を吐いた。硬直化しゆくジェダイに不信感を抱く議員たちと密会したことを隠した。

 

 それは小さな行き違い、小さなすれ違い。

 しかしそれこそが、確かな予兆だったのだ。

 

 そして、誰よりもジェダイを愛する彼の行動もまた。

 

 パルパティーン最高議長のオフィスに向かう廊下にて、メイス・ウィンドウはいつもと変わらぬ顔で足早に歩いていた。

 この男の表情が変わるのは、ジャージャー・ビンクスが絡んだ時ぐらいである。

 

 しかし、その内面は怒りに満ちていた。

 

『パルパティーン議長は、シスだった』

 

『議長は共和国とジェダイ・オーダーを終わらせるつもりだ』

 

『ヨーダがそれに組みしている』

 

 酷く混乱した様子のアナキン・スカイウォーカーから何とか聞き出した言葉は、彼をして動揺させるには十分な内容だった。

 特に最後の内容は、信じがたい。

 そして即座に判断した。

 これはシスの罠であると。

 

 ならば、ジェダイの使命に従い、シスを滅ぼすべきであると。

 

 ……ここでヨーダ本人に確認を取らなかったあたり、メイスと言えど本当に動揺していたのだ。

 

 オフィスでは、やはりシーヴ・パルパティーン……いやシスの暗黒卿、ダース・シディアスがゆったりと自分の椅子に座っていた。

 

「アポも取らずに、何用かな? マスター・ウィンドウ」

「議長……貴方を逮捕する」

「アナキンにも説明したがね。それは無理なのだよ。私の悪事の証拠なぞ何もないのだから。シスであると言うことは、共和国の法律上、何の罪にもならないのだよ」

 

 余裕に満ちた態度で説明するパルパティーンに、メイス・ウィンドウは無言でライトセイバーを取り出し起動する。

 

「……それは、自らに死刑を宣告するに等しいぞ。よく考えろ、ジェダイ・オーダーと共和国の終焉は、ジェダイと民主主義の死滅と同義ではないのだ」

 

 さしもに目を鋭くするパルパティーンに対し、メイス・ウィンドウは冷厳と告げた。

 

「いいや、同じことだ。ジェダイとはオーダーであり、民主主義とは共和国その物なのだから」

「……愚かな」

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がったパルパティーンは、服の袖に隠してあった自身のライトセイバーを起動する。

 

 一拍置いてから、二人は互いに斬りかかった。

 

 

 

 アナキンが駆けつけた時、メイスとパルパティーンは凄まじい速度で斬り合っていた。

 とてつもないフォースがぶつかり合い、剣技においても二手三手どころか何十手先までも読み合う高度な戦い。アナキンの目をもってしても追うのがやっとだ。割って入ることなどできるはずもない。

 

 だがフォースの使い方ならいざ知らず、純粋な戦闘能力においてはメイスの方に軍配が上がったらしい。

 

 一瞬の隙を突いて腹を蹴り飛ばし、シスの暗黒卿を床に転がす。

 

「ジェダイの使命のため、貴様を裁く!」

「分からず屋めが! 何のためにヨーダがオーダー解散の道を選んだと思っている!!」

 

 ジェダイとシスが吼え合う。

 

「生きるためだ! いやさ、生かすためだ! お前たちを、ジェダイをだ!! 戦えば多くのジェダイが死ぬぞ! それこそ、幼い子供までも!!」

「……ならば、死ぬべきだ!! 貴様に屈するぐらいなら、誇り高く死ぬべきだ!!」

「…………愚か者め!!」

 

 ギラリとパルパティーンの瞳が黄色に輝き、指先から紫の雷が放たれた。

 紫電はメイスに襲い掛かるが、ジェダイ・マスターはライトセイバーを掲げてこれを弾き返す。

 無論、これは見た目よりも遥かに高度な技であり、高い技術と強いフォースがなければ出来ない芸当である。

 

「ぐおおおおッ……!!」

「マスター・ウィンドウ!! 止めてください!!」

 

 悲鳴を上げるパルパティーンを見ていられず、ついにアナキンはメイスを制止しようとする。

 

「邪魔をするな、スカイウォーカー!」

 

 しかしメイスは、フォースライトニングが途切れたのを見計らってライトセイバーの切っ先をもはや容姿すら変わり果てたシスの暗黒卿に突き付ける。

 

「こんなことはヨーダだって望んでいない!!」

「ヨーダは、我々を裏切った!!」

 

 何とか止めようとするアナキンに、メイスは激昂する。

 

「ヨーダはジェダイを裏切った! 共和国を裏切った! 私を裏切った!! もはや彼の言うことは聞くに値しない! グランドマスターの座にも値しない!! 彼を追放し、私がジェダイと共和国を再生させる!!」

「さ、再生だと……ははは」

 

 半ば慟哭するように吼えるメイスに、パルパティーンは失笑を漏らす。

 

「どこまでも愚かよな。もはや、共和国は死んでおる。余が何をするでもなくな……故に、一度壊し、造り直す必要があるのだ……ジェダイもな。ヨーダもそれが分かっているからこそ……」

「そんな必要はない! オーダーこそがジェダイだ!! 共和国こそ唯一の文明だ!! これからも、変わることなく、永遠に!!」

 

 ついに激怒し、いつもの冷静さを完全に捨てたメイスはライトセイバーを大きく振り被ると、老いたシス卿に向けて振り下ろした。

 

 …………その瞬間、アナキンは半ば無意識にライトセイバーを起動してメイスのライトセイバーを持つ右腕を斬り飛ばした。

 

「ッ! スカイウォーカー!!」

 

 驚愕と苦痛と憤怒に顔を歪めるメイスだが、その瞬間にはパルパティーンが指先からフォースライトニングを発し、メイスを窓の外……この場所は高いビルの上だ……に弾き出した。

 

 メイスは悲鳴を上げながら、摩天楼の間に消えていった。

 

 それを見届けてから、パルパティーンは深く息を吐きグッタリと床に寝そべった。

 全力を出した戦いだった。そこに芝居だの何だの仕込む余地はなかった。

 

 アナキンは膝から崩れ落ち、茫然と光り輝く摩天楼を眺めていた。

 

 自分は何をしたのだろうか?

 確かにメイスはパルパティーンを殺そうとしたが、メイスの言う通りジェダイの使命は……しかしヨーダが……ヨーダは裏切って……。

 

「アナキン、少しの間、休みなさい。……そしてムスタファーに向かうのだ。分離主義者たちはそこに逃げ込んだ。彼らを捕らえるのだ……くれぐれも、殺さないように」

 

 衝撃的な展開が続いて混乱しきっているアナキンに、何とか上体を起こしたパルパティーンが囁く。

 それに従う以外に、アナキンの取れる選択肢はなかった。

 

  *  *  *  

 

「皆さん、我々は敵を倒し試練を乗り越えた。しかし、戦争の傷は深く大きく、この銀河に横たわっている」

 

「それを癒し、再び立ち上がるためにはより強力な共同体が必要だ」

 

「富の独占もなく! 権力の腐敗もなく! 自由と平和を守護する!! そんな共同体が!!」

 

「私はここに、第一銀河帝国の建国を宣言する!!」

 

 歓声と共に銀河帝国は誕生した。

 これを指して『万雷の拍手の中で、民主主義は死んだ』と、誰かが言った。

 

「全ジェダイに告ぐ……ジェダイ・オーダーは解散とする」

 

「皆、戸惑っていることと思う。……しかし、これはすでに随分と前に決めたことじゃ」

 

「儂たちは長く執着を禁じてきた。……だが、いつしか儂らはジェダイ・オーダーその物に強く執着していたのじゃ」

 

「これからは、一人一人が、自らのジェダイとしての道を模索してゆくのじゃ。幸運を祈っておる……フォースと共にあらんことを」

 

 この演説を最後に、ジェダイ・オーダーは解散された。

 ある者は粛々と受け入れ、ある者は悔し涙を流し、ある者は肩の荷が下りたようにホッとしていた。

 

 そしてオビ=ワンは……。

 

 

 

 ドロイド軍を指揮していたグリーヴァス将軍を辛くも倒したオビ=ワンであったが、その勝利は紙一重の物だった。

 最後の最後でグリーヴァスが不意打ちも卑怯な手もない一騎打ちを挑んできたのは意外だったが、全力を尽くした死闘の果てに勝利した。

 しかし、オビ=ワンも無傷とはいかず戦いのダメージで昏睡状態に陥ってしまっていた。

 

 コルサントの病院で目が覚めた時、最初に彼に接触したのはクローン・コマンダーのコーディでも共和国軍の将校でもなく、コムリンクが映すメイス・ウィンドウだった。

 

『マスター・ケノービ。君が無事で良かった。……ジェダイは敗北した。アナキン・スカイウォーカーの裏切りによって』

 

 全身に火傷を負い片腕を失ったジェダイ・マスターが何を言っているのか、オビ=ワンは理解できなかった。

 

『それだけではない。マスター・ヨーダまでもが暗黒面に堕ちてしまった。……クローンも信用してはいけない。彼らはシス卿の手先だ』

 

 自分の信じていた何もかもが崩れていく感覚を、オビ=ワンは感じていた。

 アナキンが裏切るだなんて、ヨーダが暗黒面に堕ちるなんて、考えられない。

 これが他の者の言うことなら、信じなかっただろう。

 

 だが、相手は最強最高のジェダイ、メイス・ウィンドウなのだ。

 

「聖堂は……聖堂はどうなったのです?」

『ジェダイ聖堂は落ちた。あそこにいたジェダイたちは子供たちも含め一人残らず殺された』

「そんな……馬鹿な」

 

 絶望に、オビ=ワンは膝から崩れ落ちる

 

 これはメイスが嘘を吐いたわけではない。

 何故なら、メイスにとってジェダイでなくなると言うことは死と同義だからだ。

 正確には『オーダーの提唱する在り方その物のジェダイ』でなくなることがだ。

 故に、ジェダイ・オーダーが解散した時点で、メイスの中では全てのジェダイは殺されたのだ。

 普段なら、もう少し穏当な考え方が出来たのだろうが、彼もまた怪我と精神的な衝撃で弱り、思考が暴走していた。

 

『スカイウォーカーはムスタファーに向かったようだ。君には、彼を追ってほしい』

「……その前に、パドメに会わなければ。彼女なら、ことの全貌を知っているかもしれない」

 

 その後、パドメに会いに行ったオビ=ワンは、混乱する彼女にせがまれてムスタファーに連れていくこととなった。

 

 

 そのことを、オビ=ワンは今でも後悔している。

 

  *  *  *

 

 嗚呼、何故こうなったのだろうか。

 

「アナキン……止めて……!」

「オビ=ワンをここに連れてきたな!!」

 

 理由は多々ある。

 混乱した精神、些細な誤解と行き違い、積もった不信と不満、小さな嘘と真実、相互理解と会話の放棄。

 

「裏切るよう、仕向けたな!!」

「お前が招いたのだ!」

 

 そしてオビ=ワンも、ヨーダも、パルパティーンでさえも見落としていたのだ。

 アナキンの愛の強さを……それが裏返った時、どれほど強い憎しみになるかを。

 

「選ばれし者だったのに! 闇に堕ちるとは!!」

「ジェダイこそ、悪の権化だ!!」

 

 それだけではない。

 アナキンは愛を求めた。

 彼は、『自分が』愛されることを求めた。

 他人に愛を与えることを、知らなかった。

 

 だから……。

 

「アナキン、弟のように思っていた! お前を愛していた!!」

「……あんたが憎い!!」

 

 アナキン・スカイウォーカーの物語には、破滅以外の結末は有り得なかったのだ。

 




まずはメイスファンの片にお詫びをば。
結果的に汚れ役を背負わせちゃったけど、ジェダイとシスが和解するってなったら、だれが一番反対するかって考えたら、こういうことに……。

Q:メイス、どうやって助かったの?

A:そこらへんを飛んでたトランスポーターにブラ・サガリして。

Q:アナキンとオビ=ワンの決戦をダイジェストで済ますとか、馬 鹿 な の ? 死 ぬ の ?

A:原作とほとんど変わらないので、バッサリとカットしました。それに、どうやっても原作と同等のもんは書けないんで……。

本当に、すいません。

次回か次々回で過去編は終わりの予定です。


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何故、ここでジャージャー・ビンクス!?

前回、これで過去編は終わりだと言ったな? あれは嘘だ!!(筆者の地元で「思うように書けないんです、ごめんなさい」の意)

※ご指摘を受けて、少し修正。


 手足の感覚がない。

 身体の内も外も激痛が走り続け、目は色を映さず耳に聞こえる音はまるで途切れない悲鳴のようだ。

 

(これが、ヴェイダーの見ている世界なのか……)

 

 もはや麻酔も意味を為さない激痛に覆われた肉体の内側では、悲しみと憎しみがマグマのように煮え滾り、それが大きく膨らんで、他の思い出や感情を覆い尽くしていく。

 母の温もりも、師と笑い合った日々も、弟子と駆け抜けた時間も、絶望に塗り潰されて消えていく……。

 

(ああ、この感覚は憶えている……)

 

 大切な者の喪失。

 信じていた世界の崩壊。

 抱えきれない罪の意識。

 生きながらに魂が死んでいく感覚……。

 

 幼馴染の少女が、人ならざる物に成り果てた時。

 実の父親を、その手にかけた時。

 母と慕った人を、犠牲にした時。

 衛宮切嗣は、これと同じことを感じた。

 

 医療ドロイドたちが忙しなく動き回り、手術台に固定されたアナキン・スカイウォーカーの体に機械を接続していく。

 機能を失った内蔵や感覚器官の役割を果たす機具の数々。

 切断された四肢に装着される義肢。

 焼け焦げた肌を覆う黒い装甲。

 

 それはもはや生身の体を機械に置き換えると言うよりは、機械の中に有機物を埋め込んでいるような状態だ。

 

 最後に髑髏のようなマスクが被せられ、アナキン・スカイウォーカーは機械の中に埋没した。

 

 ダース・ヴェイダーという機械の中に。

 

「アナキン……いや、ヴェイダー卿よ。余が分かるか?」

 

 かけられた声はしわがれた老人の……パルパティーンの声だった。

 聞かなければならないことがある。

 

「はい、マスター。……パドメは無事なのですか?」

 

 口から漏れた声は、変声機を通されており、アナキン本来の声に比べて重く低い物になっていた。

 

「……………彼女は生きておる」

「ッ! 本当ですか?」

「辛うじて、だが。……お前のフォースが、彼女の命を危険にさらしたのだ」

 

 冷厳とした声に言われて自覚する。

 ああ、あれは悪夢などではなかったのだ。

 嫉妬と怒りから、自分は愛する妻を手にかけたのだ。

 

「今なら、間に合うかもしれん。……船は用意した。行くがよい」

「感謝致します。この御恩は必ず……」

「早く行け!!」

 

 半ば怒鳴るようにして、パルパティーンはヴェイダーを焚き付ける。

 その黄色い目には、怒りとも悲しみとも……そして期待とも付かない、複雑な感情が浮かんでいた。

 

  *  *  *

 

 小惑星ポリス・マサの医療施設。

 砕けた惑星の欠片の、その一室では、オビ=ワン・ケノービとヨーダ、ベイル・オーガナ議員が話し合っていた。

 黒い短髪を撫でつけたベイル・オーガナは惑星オルデランの王配であり、パドメやヨーダとも親しい元老院議員でもある。

 

「それでは……アナキンは虐殺などしていないと?」

「そうじゃ……全ては儂の、いや儂たちのミスじゃ。メイスにも、話しておくべきじゃった」

「そんな……そんなことが……私はなんということを……」

 

 ヨーダの言葉に、オビ=ワンは絶望のあまり両手で顔を覆う。

 苦痛を背負って、弟のように思っていた弟子を手にかけたのに、それがメイス・ウィンドウの暴走から連なる……誤解だったとは。

 こんな悪い冗談が、この世にあるだろうか?

 

「すぐにアナキンを助けに……」

「アナキンは、パルパティーンが回収した。動けるようになり次第、こちらにやってくるだろう」

 

 踵を返そうとするオビ=ワンを、ヨーダは制した。

 

「お主はいてやれ、彼女の傍に……」

「……はい」

 

 ガックリと項垂れ、オビ=ワンは頭を抱える。

 その顔は、何十年分も歳を取ったように見えた。

 

「パドメは大丈夫でしょうか?」

「分からん。フォースがどんどん弱くなってゆくのを感じる」

「オビ=ワン!!」

 

 その時、部屋の中に女性が入ってきた。

 赤い肌に顔の上下を覆う白地に青い縞模様のある器官が特徴的な、トグルーダの少女だ。

 その少女に、オビ=ワンは見覚えがあった。

 苦い思い出と共に、決して忘れることのできない相手として。

 

「アソーカ? 何故ここに……」

「儂が呼んだのじゃ。アソーカは、アミダラ議員の友人じゃからの」

 

 オビ=ワンの疑問に答えたのは、元弟子のそのまた元弟子である少女ではなく、緑色のグランドマスターだった。

 それを、アソーカ・タノ本人が補足する。

 

「たまたまコルサントにきてて、そしたら共和国が終わるとかオーダーが解散するとか……もう、ワケが分からくなっていたところに、マスター・ヨーダから連絡が入ったんです……彼経由で」

 

 アソーカの視線の先には、白地に青のアーマーを着込み髪を刈り上げたクローンが立っていた。

 

「レックス?」

「お久しぶりです」

 

 敬礼するクローン・キャプテンを、オビ=ワンは何処か疑わしげな視線で見た。

 それも当然で、発動しなかったとはいえ、彼らの脳にはジェダイ抹殺の指令が刷り込まれていると言う。

 レックスは、戦友の視線の意味を理解し、少し悲しそうな顔になる。

 

「警戒されるのも分かります。しかし……」

 

 後ろを向き、自分の後頭部にある手術跡を指差すレックス。

 

「この通り、埋め込まれていたバイオチップは取り除きました。……それでも自分がおかしくなったら、すぐに斬ってください」

「レックス、そんなこと言わないで」

 

 アソーカはそんなクローンを諌める。

 彼女にとって、クローンに命令が刷り込まれているという事実よりも、彼が共に戦場を駆けた友人であるということの方が、遥かに重要なのだ。

 そこでアソーカはより重要なことに話題を変える。

 

「それで……アミダラ議員の容体は?」

「あまり良くない。……どんどん弱っている」

 

 オビ=ワンの答えに、アソーカやレックスの顔が曇る。

 

「そんな、どうして……」

「私のせいだ。私が……もっと賢かったなら!」

「いいや、儂の責任じゃ。アソーカの時に続き、儂はまたしても間違った……」

 

 己の愚かさにオビ=ワンもヨーダも嘆く。

 

「唯一の救いは、あの双子か……」

「双子って? どういうことですか?」

 

 ヨーダの呟きに、アソーカが反応する。

 

「パドメの子じゃ……スカイウォーカーとの間の」

『子供!?』

 

 その答えに、アソーカやレックスは目を剥く。

 アナキンのフォース・グリップによって致命傷を負ったパドメだが、ポリス・マサの治療施設の優秀さもあって何とか出産することが出来た。

 オビ=ワンはその時のことを思い出す。

 

『オビ=ワン。あの人にはまだ良い心が残っています』

 

『どうか……アニーを助けてあげてください』

 

 そう、今にも力尽きそうなか細い声で彼女は言った。

 しかし……あの時、ムスタファーで対峙した時、アナキンは完全に闇に堕ちているように見えた。

 だからこそ、オビ=ワンも全力で戦わざるをえなかった……いやそれは言い訳だ。

 あの時、自分もまたアナキンを恐れていたのだ。

 負けたのはシスの暗黒卿にではない。己の中の恐怖にだ。

 

 そんな時……。

 

「あーお! ごめん、ミー遅れたかな? 道を聞いてもここの人たちの言うこと、さっぱりで……」

 

 急に、喧しい声が聞こえた。

 その声に、オビ=ワンは嫌な予感を抑えることが出来なかった。

 何とか首を巡らしてみれば、案の定、両生類系のエイリアン、ナブー原住のグンガンが立っていた。

 

「ジャージャー? ……ジャージャー・ビンクス?」

「あー……その、見つかちゃって。どうしても付いてくるって聞かなくて」

 

 困ったような表情になるアソーカ。

 どうやら、彼女に引っ付いてきたらしい。

 オビ=ワンは額に手をやる。

 何でよりにもよって、こんな時にトラブルメイカーの中のトラブルメイカーが現れるのか。

 

「ワーオ! オビー、会いたかったよ!」

「あ、ああ……どうも、ジャージャー」

「パドメが大変なことになったって聞いたネ! もうミー心配で心配で……」

 

 手を握りブンブンと振るジャージャーに、オビ=ワンはまあいいとしておく。

 心配してくれるのは確かだし、一応このグンガンはパドメと友人同士ではあるのだ。

 

「皆様! 皆様! 大変でございます!!」

 

 そこへ、C-3POが両手を上げ慌てた様子で……このプロトコル・ドロイドが慌てるのはよくあることだが……部屋に入ってきた。

 

「アナキン様が、アナキン様がいらっしゃいました!!」

 

 その言葉に一同の表情が強張るのだった。

 

  *  *  *

 

 オビ=ワンは他の者を残してアナキンを出迎えるべく発着場に向かった。

 何故彼一人かと言えば……何が起こるか分からないからだ。

 

 少なくとも、自分はアナキンに憎まれているだろう。

 

『あんたが憎い!!』

 

 そう叫んだ、弟子の顔が脳裏から消えない。

 

 発着場では、共和国……今は帝国で広く使用されているシャトルが着陸するところだった。

 シャトルのタラップが降りると、ゆっくりと誰かが降りてくる。

 

 それはもちろん、アナキン・スカイウォーカー……そのはずだった。

 

 身を包むのは闇のように黒い装甲服とマント。

 胸や腰周りには何かの機械が明滅している。

 そして顔には髑髏のようなマスク。

 

 あまりに異様な、その姿。

 

「…………妻に会いに来た。退け」

 

 声も、機械的に変声されたのだろう重低音だ。

 

 これが……これがアナキンだというのか? これではまるで、機械ではないか。

 

「退け」

 

 衝撃のあまり声も出ないかつての師をどう思ったのか、そのアナキンらしき人物……ダース・ヴェイダーは、もう一度強く言うと、腰のライトセイバーに手をかける。

 

 オビ=ワンは、思わず自分もライトセイバーに手を伸ばそうとして……。

 

「もうオビーなにやってるのヨー!」

 

 急に聞こえた呑気ですらある声に脱力した。

 チラリと見れば、やはりグンガンが大慌てで走ってくる。

 

「パドメが大変なのに、なにしてんの……オーウ! そこの真っ黒いヒトは誰ネ!? なに、ワルモノ!?」

「…………ジャージャー・ビンクス? 何故ここに?」

 

 警戒して良く分からない戦闘態勢(意味は無い)を取るジャージャーに、ヴェイダーは驚く。

 

「オウ、どうしてミーのこと知ってるネ!? ミーってば有名人?」

「…………パドメに会いに来た。僕の妻だ、会うことに何の問題がある?」

 

 百面相しながらビックリしているジャージャーを半ば無視して、ヴェイダーは話を進めようとする。

 だがそれに反応したのはやっぱりジャージャーだった。

 

「パドメが奥さん? 違うヨ、パドメはアニーの奥さんネ。ミーも最初聞いた時はビックリしたけど、思えばお似合いで……」

「だから! 僕がそのアナキンだ!!」

 

 要領を得ないジャージャーに、ついにヴェイダーは怒鳴り声を上げる。

 ビクリと体を震わせたジャージャーだが、すぐに訝しげな間抜け面になる。

 

「アニー……? ユーは、ホントにアニーなの?」

「……ああ」

 

 答えるヴェイダーだが、少し自信なさげだった。

 彼自身、もう自分がアナキン・スカイウォーカーなのか、その残骸なのか、分からなくありつつあった。

 

「なら早く行くネ、アニー! パドメが大変ヨ!!」

「あ、ああ……」

 

 ジャージャーはそんなアナキンの葛藤にも構わず、彼の手を引っ張っていく。

 もう、その奇異な姿は気にしていないらしかった。

 

 二人の背を見ながらオビ=ワンは思う。

 ジャージャー・ビンクスは、誰もが認める愚か者だ。

 余計なことしかせず、皆の足を引っ張る。

 しかし、この場においては……。

 

 オビ=ワンはグンガンに引かれていく黒衣の男の背を見ながら、初めてジャージャー・ビンクスがいてくれて良かったと心から感じたのだった。

 




カッコいい雁夜おじさんがいる、綺麗な慎二君もいる。
黒くない桜ちゃんだっている、壊れてない士郎君すらいる。

ならば、役に立つジャージャー・ビンクスがいてもいい。それが二次創作だ(暴論)

……つまり筆者は、ジャージャーが嫌いじゃないんですよ。

次回こそ……次回こそ! 過去編終了!!


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そして父になる

最後のジェダイの公開が近づいてまいりました。
楽しみな反面、不安も大きいです。


 ジャージャー・ビンクスに案内されて……途中、5回ほど道を間違えそうになって後ろからついてきたオビ=ワンに訂正された……辿り着いた部屋には、ヴェイダーの見知った顔が揃っていた。

 

「みんな! アニーが来たヨー!」

 

 陽気なジャージャーの声に対する反応は、それぞれだったが、皆『それ』がアナキン・スカイウォーカーだとは信じられないようだった。

 

 かつての弟子、アソーカ・タノ……ヴェイダーの異様な姿に口元を押さえていた。

 

 副官であるクローン・キャプテン、レックス……メットを外した顔は固く強張っていた。

 

 ジェダイのグランドマスター、ヨーダ……沈痛な面持ちで、顔を伏せていた。

 

 自分が創り出したプロトコル・ドロイドC-3PO

 

 親友でもあったアストロメイク・ドロイド、R2-D2……戸惑いがちに電子音を鳴らしていた。

 

 ベイル・オーガナもいたが、彼についてはあまり知らない。

 

 そんなかつての友人や仲間たちの間を抜け、ヴェイダーは歩く。

 

 部屋の奥のベッドの上に、彼女がいた。

 求めていた……ヴェイダーが傷つけてしまった、パドメ・アミダラが。

 腕に、眠る二人の赤子を抱いて。

 

「パドメ……」

 

 名前を呼んでから、それがもうアナキンの声でないことに気が付いた。

 この姿だって、もはや若きジェダイの面影すらない。

 そもそも、パドメを手にかけたのは自分だ。

 受け入れてもらえるはずがないじゃないか。

 

 不安ばかりが先行して一歩を踏み出せないヴェイダーに、ベッドの上のパドメは弱々しく微笑んだ。

 

「アナキン……来てくれたのね」

「! ぼ、僕だって分かるのかい!?」

「もちろんじゃないの……もう目も見えないし、声もほとんど聞こえないけど……それでも貴方を分からないはずがないわ……」

 

 掠れた声で言う妻に、アナキンは我知らず震える。

 機械の内側で、嬉しさと罪悪感が複雑に混じり合って渦巻いていた。

 

「良かった……最後に、あなたと会えて……」

「最後だなんて、そんな……すまなかったパドメ。僕は……僕、は……」

「いいのよ、アナキン……それよりも、来て」

 

 子供のように震えるアナキンを、パドメは招き寄せる。

 

「見て、あなたの子供たちよ……双子なの……」

「僕の、子供……」

 

 妻の手の中で眠る双子に、アナキンは手を伸ばそうとして……手を引っ込めた。

 独特の呼吸音が早くなり、それに連れて震えも大きくなる。

 

「あ、あ、ああ……!」

 

 自らの腕を掻きむしり、マスクとそれと一体化したヘルメットを引っ掻く。それを無理やりに外そうとしているかのように。

 その異常な様子に一同が固まる中、オビ=ワンはアナキンを止めようとする。

 

「アナキン! 止めるんだ! それを外したら死んでしまう!!」

「外してくれ!! これを外してくれ!! お願いだ!!」

 

 暴れるアナキンを宥めようとするオビ=ワンだが、アナキンは泣き叫ぶ。

 自分の腕で、妻と子供たちに触れたい。

 自分の目で、妻と子供たちを見たい。

 

「アナキン……アナキン、済まない! 済まなかった……!」

 

 弟子のその願いを察し……それが永遠に叶わなくなったことが、自分の責任であることを理解し、オビ=ワンは機械と化した弟子の体を抱きしめる。

 アナキンはもはや暴れることすらせず、すすり泣くだけだった。

 

 しばらくの間、皆が沈黙していたが、やがてヨーダが静かに声を出した。

 

「ふむ、腕はどうしようもないが、直接見ることなら……できるかもしれん。そう、ここにいるジェダイが力を合わせればな」

 

 

 

 

 

 

 アナキンを囲んだヨーダ、オビ=ワン、アソーカの三人は、全員でフォースを操作し一種のフィールドを作る。

 この中でなら、生命が活性化され一時の間だがアナキンはマスクを外すことが出来た。

 R2とレックスに手伝ってもらってマスクを脱ぐと、火傷に覆われた顔が露わになる。

 その悲惨な姿に、皆が息を飲んだ。

 

「……アナキン」

「パ、ドメ」

「アナキン、さあこの子たちを抱っこしてあげて」

 

 妻の声に、今度は自分の声で答えることができた。

 そして恐る恐る子供を受け取る。

 機械の腕は温もりを伝えてはくれなかったが、重みははっきりと伝わった。

 

「これが……これが、僕の子供……!」

「ええ、そうよ。男の子は、ルーク……。女の子は、レイヤ……」

「ルーク、レイヤ……」

 

 ヴェイダーの手の中でスヤスヤと眠っていた双子は、突然目を覚ました。

 ビクリと体を震わせるヴェイダーだが、子供たちはヴェイダーの顔を見て幼い顔に笑みを浮かべ、小さな手を伸ばす。

 

「あらあら……やっぱり、お父さんだって分かるのね……」

「あああ……!」

 

 アナキンは堪え切れずに涙を流しながら子供たちに頬ずりする。

 まだ死んでいない僅かな感覚が、微かにその温もりと柔らかさを教えてくれた。

 もう見えていない目でも、それを感じ取ったのかパドメは笑みを少しだけ大きくすると、目を瞑る。

 

「良かった……」

「パドメ……!? パドメ! そんな、嫌だ、嫌だ……! お願い、いかないで! 僕を一人にしないで……」

「ねえアナキン、貴方は一人じゃないわ……」

 

 泣きながら訴えるアナキンに、パドメは消えそうな声でいう。

 振り返ると、皆がいた。

 

「ねえ、アナキン。私はもう、軍にもジェダイにも戻ることは出来ないと思う……それでも、あなたの友達よ」

 

 アソーカ・タノ。

 自分以上に勝気で考えなしのお調子者。

 彼女はいつだって、自慢の弟子だった。

 

「オーダー66のことを知った今、自分の中で共和国……帝国への忠誠は揺らいでいます。しかし、スカイウォーカー将軍への忠誠は失われていません!」

 

 レックス。

 彼はいくつもの戦場を共に駆け抜けてきた最高の戦友だ。

 

「アニー……ミー、バカだから、分かんないこと多いヨ。でも、分かることもあるネ。……それはミーとアニー、友達ってことよ」

 

 ジャージャー・ビンクス。

 彼をグズと、嫌われ者と罵る者は多い。

 だが、そんなことはアナキンの友達でいてくれたという事実の万分の一の価値もない。

 

「アナキン様……わたくしの造物主様。これからも、あなたにお仕え致します。……R2もそう言ってます」

 

 C-3PO。

 アナキンが組み上げたプロトコル・ドロイドは、いつだって主人を気付かってくれた。

 R2-D2。

 戦友であり、親友であるアストロメイク・ドロイドは、静かに電子音を鳴らした。

 

「アナキン、済まなかった。……いたらない師だな、私は」

 

 そしてオビ=ワン・ケノービ。

 一度は殺し合った師を、アナキンはもう憎んではいなかった。

 

 手の中で双子が小さくもがく。

 命の息吹を、アナキンは強く感じた。

 幼くとも力強いフォース。

 

(ああ、そうだ。何を勘違いしていたんだろう。僕はずっと、一人なんかじゃなかったのに)

 

 自らの傲慢さと独りよがりな思い込みで、その全てを失う所だった。

 

「アナキン、愛しているわ……その子たちを……お願いね……」

 

 そう言って、パドメは眠るように息を引き取った。

 安らかな、最期だった。

 

 ……それが、衛宮切嗣が見た最後のアナキンの記憶だった。

 

  *  *  *

 

「…………ッ!」

 

 目を覚ませば、切嗣は変わらずアインツベルンの城の一室で椅子に腰かけていた。

 どれだけ眠っていたのだろうか。窓からは夕日が差し込んでいる。

 酷く、気分が悪い。

 目に手をやると、涙が流れていることに気が付いた。

 

「…………」

 

 あれは、ただの夢などではない。

 何かの偶然で自分はヴェイダーの過去を垣間見たのだ。

 

 結果感じたことは……アナキンは、結局いつだって愛する者のために動いていたということだ。

 それがどれだけ独善的で自分勝手でも、アナキンは愛する者を守ろうとしていた。

 

 ……では、自分はどうだろうか?

 

 世界から争いを無くそうとするのは、誰のためだ?

 

 アイリスフィールやイリヤスフィールのため……否。

 妻を犠牲にし、娘から母を奪う行為が彼女たちのためなはずがない。

 

 舞弥のため……否。久宇舞弥は、消費される道具でしかない。

 そんな扱いが彼女のためなはずがない。

 

 シャーレイや父、ナタリア、死んでいった多くの人々のため……否。

 彼ら彼女らはそんなこと望んではいなかった。

 

 この世界のため……否。

 切嗣は、そんな殊勝な男ではない。

 

 ……ああ、そうだ。

 自分のためだ。

 自分だけのためだ。

 自分が罪の意識から逃れるためだ。

 

 分かり切っていたはずなのに、当に自覚していたはずなのに、アナキンの生き方を見て、そのことをどうしようもなく突き付けられた気分だった。

 

「だからって、だからって……! 今更どうしろっていうんだ……!」

「キリツグ」

 

 その時、声がした。

 誰の声かは分かっていた。

 

 顔を上げれば、部屋の隅に闇に溶け込むようにしてダース・ヴェイダー……アナキン・スカイウォーカーが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は随分と遡る。

 

 惑星ナブーでパドメ・アミダラの葬儀が行われているころ、惑星コルサントはジェダイ・テンプルの一室で、二人の老人が対面していた。

 一人は、火にかけた鍋をかき回す緑色の小人……ヨーダ。

 一人は、椅子に泰然と腰かけたローブの老人……パルパティーン。

 

「さて……これで未来は失われたワケかな?」

 

 パルパティーンは、死人のようになった顔に亀裂のような笑みを浮かべた。

 

「我が弟子、ダース・ヴェイダーは体と共に多くのフォースを失った。これでもはや、前人未到のフォースの高みに至ることはできまい……普通ならな」

「しかし、高みへの道は一つではない」

 

 反対に、ヨーダの顔は苦しげだった。

 パルパティーンは笑いを堪えきれぬという様子で続ける。

 

「そう、道は一つではない。いずれヴェイダーは出会うだろう。己の運命(フェイト)にな……その日まで、ゆるり待てばいい。我らシスは待つことには慣れておる。数年ほどどうということはない」

 

 余裕に満ちた態度のパルパティーンにヨーダは息を吐きながら、鍋の中のドロドロとした液体を柄杓で掬い、器に注ぐ。

 この液体はヨーダの好物であるお茶だが、どうにも他の種族にはかなり不味い物らしい。

 オビ=ワンはこれを半分ほど飲んでダウンし、アナキンは一口含んで吐き出した。メイス・ウィンドウですら、一杯飲み干して以降は決して飲もうとしなかった。

 

 だから、これはほんの小さな嫌がらせだ。

 

 オーダーも何もかも失った老人なりの、せめてもの意趣返し。

 

「お茶を淹れた。飲むといい」

「いただこう」

 

 そしてパルパティーンはお茶を一口含み……。

 

「おお、これは旨い!」

 

 こうして、ジェダイマスターとシスの暗黒卿は茶飲み友達になった。

 




ずっと前から決めていた、この回のタイトルとオチ。

本当は、もうちょっと書きたいこともあったけど、間延びするんで、スルッと現代へ。


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大人になるって悲しいことなの

短いけど、久しぶりの更新です。


 夕日の差し込む部屋の中、ダース・ヴェイダーと切嗣はお互いに黙りこくっていた。

 やがて、ヴェイダーの方が先に口を開いた。

 

「……アリマゴ島、シャーレイ、ナタリア」

 

 短い単語の羅列だったが、切嗣はピクリと眉を動かした。

 ヴェイダーは深く息を吐く。

 

「やはり……か。キリツグ、お前の過去を見た。お前も見たのだろう? 私の過去を」

 

 切嗣は答えず、深く頭を垂れる。

 その様子に、ヴェイダーは困ったような声を出した。

 

「あれだけのことがあったのだ。ああいう考えを持つのも、仕方ないことだと思う」

「……同情はよしてくれ。言えばいいだろう、空回りしてばかりの愚かな男だと! 自分勝手な男だと、罵ればいいだろう!」

 

 絞り出すように吐かれた声は、やがてやり場のない怒りを含んだ大声に変わった。

 

「愚かというなら、私も愚かだ。傲慢さと独りよがりな思いこみで、このザマだ」

「君と僕だとまるで違う! 君は、君はいつだって愛する者のために動いていた。あれほどの憎しみを、捨てることさえできた。……僕には出来ない。どれほど独りよがりだと分かっていても、勝手な思い込みだと自覚できても、それでも……願いを捨てることができない……」

 

 大声は消え入るような慟哭になる。

 ヴェイダーは、切嗣の肩に優しく手を置いた。

 

「キリツグ……お前は私が何か、特別なことをしたと思っているようだが……そんなことはないんだ。あの時、ただ私はルークとレイヤをこの手に抱いて、自覚したんだ。自分が父親になったのだと。もう、自分の都合で周りを振り回すばかりの時間は終わったのだと」

 

 その言葉に、切嗣は自然とアイリスフィールとイリヤスフィールのことを思い浮かべた。

 愛する妻と、娘。

 衛宮切嗣の、家族。

 

「自分を捨て、大義のために生きる。それを否定するつもりはない。

己をシステムとして、それに徹するのもまた、一つの選択肢なのだろう。

武であれ学であれ、一つの目的のために他の全てを削ぎ落す生き方は、きっと美しいのだろう。

 

……しかし『我々』にはできない」

 

 静かに、ヴェイダー……我武者羅に愛に生きていきたアナキン・スカイウォーカーは語る。

 

「……結局は、僕も君も一人の男にすぎない、ということか」

「世界を救う前に、家族も救えないくらいのな」

 

 苦み走った笑みを漏らす切嗣に、ヴェイダーも悲しげな声を出す。

 

「……かつて、ある男に聞いたことがある。『星をそこの住人ごと吹き飛ばせば平和が来るのなら、そうするのか?』と」

「ウィルハフ・ターキンか」

「見たのか。……なら答えは知っているのだろう?」

 

 切嗣は頷いた。

 恐るべき冷徹な軍略家、ウィルハフ・ターキン。

 切嗣のような『ロボットのふりをする人間』でも、あるいは何処かの誰かのように『人間のふりをするロボット』でもない、『ロボットの冷徹さと人間の柔軟さを併せ持った怪物』。

 彼は、自分の信じる秩序のためなら、星を破壊することすら、厭わないだろう。

 

「実はその話には続きがあってな。……随分と後になって尋ねたのだ。『ならば、吹き飛ばす星がお前の故郷でも、躊躇わずやれるのか』とな。……YESと答えたが、それでも彼は僅かにだが逡巡した」

 

 切嗣の顔が驚きの色に染まるのを確認したヴェイダーは、言葉を続ける。

 

「ターキンのような男でさえ、故郷への情を捨てきることは出来んのだ。増して我々が、情を捨て去ることなど出来るはずもない」

 

 結局、彼らはあまりにも普通過ぎた。

 例えばアーサー王のように、あるいは征服王イスカンダルのように、そして多くの魔術師や武人たちのように生きるには、彼らは情が深すぎた。

 

「だが……僕の手は、もう血に染まっている。こんな手でイリヤを抱く資格が……」

「資格の問題ではないだろう。……お前が、どうしたいかだ」

「………………」

 

 グッと、切嗣は両の拳を握り締めた。

 どうしたいかなど、もう決まっていた。

 

「イリヤを、アイリを、助けたい。……正義の味方で、なくてもいい。僕は妻と娘の味方でありたい」

 

 その答えに、ヴェイダーはマスクの下で口角を上げた。

 

「では切嗣……取り引きしよう。知っての通り、私とルークは聖杯に縛られている。私たちが自由になる方法を探すことに協力してもらうぞ」

 

 そして、切嗣に向かって右手を差し出した。

 

「代わりに、アイリスフィールが死なないで済む方法を探す。そしてイリヤスフィールを救出する」

「そう、都合よくいくかい?」

「いかせる。何、銀河は広いのだ。知恵を借りられそうな相手にもいくらか当てがある」

 

 黒い布に包まれた手を見つめながら、切嗣はフッと笑む。

 取り引きとは言うが、実際には善意を向けられることに慣れていない切嗣のために、そう言っているに過ぎない。

 不器用な気遣いに、自然と笑みも浮かぶ。

 

 そして切嗣はヴェイダーの手を握り立ち上がった。

 

「いいだろう。取り引き成立だ」

「ああ、よろしく頼むぞ。……マスター」

 

 その時、切嗣はシスの暗黒卿のマスクの裏に、あのアナキン・スカイウォーカーの顔を見た気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでヴェイダー、ルークが四歳だとしたら、君はいったい何歳なんだ?」

「今年で26になる」

(まさかの年下……!)

 

  *  *  *

 

 何処か闇の中。

 

「龍之介……」

 

 一人の男が、地面に蹲るようにしてすすり泣いていた。

 黒を基調としたローブに、魚類が如き目の飛び出た異相。

 

 男……キャスターの前には、異様な物体があった。

 

 一言で表現するなら、肉の塊。

 人間のパーツと多足類のような触手が突き出た肉団子。

 海魔と呼ばれる異界の怪物と人間を、無理矢理混ぜ合わせ、捏ね繰り回して、球状にしたようなナニカ。

 

 人間の顔のように見える部分から呻き声を漏らすそれは、かつて雨生龍之介と呼ばれた殺人鬼の成れの果てだった。

 

 遠坂時臣により焼殺されたかに見えた龍之介だが、辛うじて生きており、キャスターの邪法によって海魔と融合されたことで生き延びたのだ。

 熱と酸欠により脳はほとんど機能しておらず、本当に生きている『だけ』だが……それでも死んではいなかった。

 

「龍之介……待っていてください」

 

 すすり泣いていたキャスターは立ち上がると、決意に満ちた顔でその場を後にした。

 彼の望みである、聖処女……ジャンヌ・ダルクの復活はすでに叶い、聖杯への願いはなかったが……。

 

「今は違います。龍之介、あなたの復活を、聖杯に願いましょう」

 

 往年の……かつて故国を救うべく聖処女の隣で戦っていた時のように、キャスター・ジル・ド・レエは戦場へと向かう。

 

 願いを叶えるためには、全てのサーヴァントを……彼がジャンヌであると思い込んでいるランサーをも倒さねばならぬことに、彼は気付いていなかった……あるいは無視していた。

 

 そして、果たしてその願いが、命の意味を求め死に焦がれていた雨生龍之介という男のためになるかは、誰にも分からなかった。

 




何で更新遅れたのかって?
………………察していただきたい。

なお、最後のジェダイのネタバレはどうかお控えください。


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緊急ミッション:巨大海魔を討伐せよ!

 日が暮れた頃、異変が起こった。

 膨大な魔力が、冬木市を縦断する未遠川から発せられたのだ。

 日本の河川としてはかなりの幅を誇るそこから、深い霧と共にゆっくりと巨大な物体が浮上した。

 それは幾重にも折り重なった肉の触手が形作る、名状し難くも悍ましい異界の邪神像だ。

 

「これは、いったい……?」

 

 川縁に最初に駆けつけたのは、愛馬ドゥン・スタリオンに乗った青い衣のランサーと、主たるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。

 目を見開くランサーだが、ケイネスは不愉快そうに眉を上げる。

 

「ふむ。おそらくはキャスターだろうな。あの悪趣味な姿、見間違えようはずもない」

「よう! ランサー!」

 

 続いて、二頭立ての戦車、彼の宝具である神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)に乗ったライダーこと征服 王イスカンダルと、そのマスター、ウェイバー・ベルベットが姿を現した。

 

 ウェイバーは少しケイネスを恐れているような素振りを見せるが、以前のように恐慌状態に陥ることはなかった。

 当のケイネスは、そんなウェイバーに一つ鼻を鳴らしただけだった。

 

「征服王……!」

「待て待て! 今はそんな場合じゃなかろう。あんなのがおってはおちおち殺し合いもできゃせんわ! 今宵は一つ、共闘とゆかんか?」

 

 槍を実態化させたランサーを、赤い外套の偉丈夫は理性的に諌める。

 チラリとランサーが主を見れば、ケイネスは無言で小さく頷いた。

 

「いいだろう。決着はいずれ」

「応よ! ……さて問題はあやつらか」

 

 女騎士の答えに快活に笑むライダーだが、空を見上げて少し難しい顔をした。

 何機かの飛行機のような物体がこちらに向かって飛んでくる。

 

 ヴェイダーの軍勢だ。

 

 その内の一機が一同の近くに着陸したかと思うと、ハッチが開き白い装甲服の兵士たちが吐き出され、その後ろに、黒い黒いマントと装甲服のシスの暗黒卿と、アインツベルンの白い妖精のような美女、さらによれたスーツとコートの男が続く。

 

「よう、ヴェイダー! うぬらも来たか!」

「アレが見えんほど、目が悪くはないのでな。……で、あれはキャスターの呼び出した物か?」

「おそらくな。……呼び出しただけで、制御は出来ていないようだが。……なんと醜い」

 

 豪放な様子のライダーにヴェイダーが平坦な調子で答えると、ケイネスは心底からの嫌悪感を滲ませて息を吐く。

 彼にしてみれば、秘匿も制御も視野に入れていないのだろう巨大海魔は吐き気を催す物らしい。

 

「あれが上陸して人間を喰らい、魔力を自己生成するようになったら始末に負えないわ!」「それでも遠からず自壊するのは目に見えているが……被害は甚大な物になうだろうな」

 

 アイリスフィールとケイネス、この場にいる中では最も魔術に詳しい者たちの言葉に、一同の表情がより険しくなる。

 

「というワケだ。ヴェイダー、ここは一つ手を組まんか?」

「仕方がない。今はあれを何とかする方が先だ」

 

 ライダーの言葉に、黒衣の暗黒卿は頷くと傍に控える副官レックスに命令を飛ばす。

 

「デバステイターに連絡して増援部隊を呼べ。民間人を避難させ、川のこちら側と対岸、それに橋の上に兵を配置して奴の上陸を阻止せよ」

「サー、イエッサー!」

 

 命令を受けた副官はキビキビとした動きで部下たちに命令を伝達する。

 それを確認したヴェイダーは誰もいない場所に視線を向けた。

 

「……さて、出てこい。いるのは分かっているぞ」

「■■■■■■――!!」

 

 視線の先に黒い霧が渦巻き、漆黒の騎士が実態化する。バーサーカーだ。

 ヴェイダーは腰のライトセイバーを抜いて起動した。

 他の者たちも得物を抜き、特にランサーは殺気と言っていいほどの警戒心を露わにする。

 

「待ってくれ! 俺たちも協力しにきたんだ!!」

 

 しかしそこで川岸の坂をパーカー姿の青年が駆け下りてきた。

 その姿を見とめたライダーが一同を代表して問う。

 

「お前は? バーサーカーのマスターと言ったところか?」

「ああ……間桐雁夜だ。初めまして」

 

 無論、切嗣やケイネスは前もって集めた情報からバーサーカーのマスターが雁夜であろうと当たりを着けていたが、今は関係ないので黙っておく。

 

「それで、協力とのことだが……」

 

 以前バーサーカーに追い回された経験のあるランサーは懐疑的な視線を漆黒の騎士に向けるが、狂戦士は以前と違い静かに佇んでいた。

 みっともなく狂乱することなどなく、そうしているだけで迫力を感じさせる。

 

「俺のバーサーカーの力は、触れた物を自分の宝具に変える。あんたらの兵器と合わせれば、大きな戦力になるはずだ。……それとキャスターについて、重大な情報がある」

 

 雁夜の説明に、一同の視線がヴェイダーとアイリスフィールに集まる。

 確かに、帝国軍の兵器が強化できれば心強い。……それが自分たちに向かなければ、だが。

 そうでなくとも、情報は欲しい。

 

「……いいだろう。申し出を受けよう。それで情報とは?」

「ありがとう。……キャスターのマスターはもう死んでいるはずなんだ」

 

 明かされた情報に、一同はざわつく。

 雁夜はキャスターのアジトに乗り込んだこと、そこでマスターである猟奇殺人鬼を殺したことを話した。

 一応、時臣やクローン・トルーパーのことは伏せてだが。

 

「となると、今は本格的に暴走している状態か……」

「我々は時間を稼ぐだけでいいワケだな」

 

 ケイネスと切嗣が冷静に言う。

 魔力を供給するマスターを持たないサーヴァントの末路は消滅のみだ。

 

「情報、感謝する。レックス、ミスター・カリヤとバーサーカーを地上部隊と合流させてやれ。……仕掛けを忘れるな」

 

 ヴェイダーの指示の最後の部分はレックスにしか聞こえない小さな声だった。

 仕掛けとはつまり、何かあったら武器を爆破する用意だ。

 

「サー、イエッサー! アポー、案内してやれ」

 

 敬礼したレックスは、近くのトルーパーに指示を出して雁夜とバーサーカーを本体に案内させた。

 バーサーカーは大人しくその後に続く。

 いったい何があったのだろうか?

 まるで前と様子が違う。

 

「……さて、ランサーよ。このままでは奴らに良い所を全て持っていかれるぞ? それでもいいのか?」

「無論、不服です。かくなる上は、我が愛馬の足と我が槍技の冴えをお目に懸けましょう、マスター」

「では魅せてもらおうか。……()け、ランサー!」

 

 短いやり取り後、ランサーはドゥン・スタリオンを駆って巨大海魔へと向かっていった。

 

「では余も行くとしよう。小僧、しっかり掴まっておれ」

「あ、ああ……」

 

 戦車の手綱を振ろうとしたライダーだが、そこでよれたコートとスーツの男……衛宮切嗣がこちらを見ていることに気が付いた。

 

「うぬは……どうした? 何か用か?」

「……僕は英雄が嫌いだ。いや、憎んでいると言ってもいい」

「な!? こんな時に何言って……!」

「待て、坊主」

 

 この場に置いてなお敵意を向けてくる切嗣に顔をしかめるウェイバーだが、当のライダーに諌められる。

 切嗣はジッと試すような顔で見下ろしてくる英雄に睨んだ。

 

「僕が英雄に気を許すことは生涯ないだろう。だが……あんたの兵とクローンたちを、悪く言ったことは、謝る。……悪かった」

 

 拗ねた子供のような、謝罪とも言えない謝罪。

 しかし征服王イスカンダルはその言葉から、目の前の男が何か掴んだことを察し、人好きのする笑顔になる。

 

「フハハハ! 良いわ良いわ! 言ったであろう、貴様の弁にも一理あると! 余と貴様は相容れぬ。それで良いのよ! フハハハハ!」

 

 上機嫌なイスカンダルは、困惑するウェイバー諸共、戦車で空へと舞い上がっていった。

 それを見届けたヴェイダーは空を見やる。

 シャトルや輸送船が、AT-STや四足歩行の巨大な戦象の如き兵器、AT-ATを投下している。

 川縁ではストーム・トルーパーたちが人々を何とか避難させようとしているが、何せあんまりにも現実感に欠けるので上手くいっていないようだ。

 

 その光景に、もう誰もツッコマない。感覚が麻痺し始めているようだ。

 

 さらにフォースを通じて、少し離れた空に奇妙な物体が浮かんでいるのを感じ取った。

 金ピカで宇宙船のようなそれに、あのアーチャーが乗っているのを感じる。

 すぐ傍には感じたことのない気配。アーチャーのマスターだろう。

 彼らに動く気配はない。

 あの黄金の王が他と歩調を合わせるなど有り得ないだろう。

 

「ヴェイダー卿!」

 

 そこにレックスが声をかけてきた。

 マスクの下でニヤリと笑っている顔が見えた気がした。

 

「行くんでしょう? ()()、持ってきてもらいましたよ!」

 

 顎で空を指すと、球体状の本体を二枚のソーラーパネルが挟み込んでいるという特異な形状の戦闘機が何機か飛んでくるのが見えた。その内の一機が近くに着陸する。

 

 これは他の物と違ってソーラーパネルがコの字型になっており、本体も前後に長い楕円球状で、上部にはアストロメイク・ドロイドのR2-D2が当然とばかりに収まっていた。

 

 これこそは帝国軍で採用されている宇宙戦闘機TIEファイターの発展系である、TIEアドヴァンストx1、それをヴェイダーが趣味と育児ストレスの発散を兼ねて魔改造しまくった専用機『エイザー・エンジェルⅡ世』である。

 

 具体的には、

 エンジン回りの大胆な改修による大気圏内でのスピードのアップ。

 レーザー・キャノンの威力の上昇。

 アストロメイク・ドロイドの収納スペースの増設。

 チャイルドシートの設置。

 などなど、もはや別物と言っていいまでに改造されていた。

 

 この改造にヴェイダーが贔屓にしている元ジェダイマスターの技術者が関わっているという噂があるが、定かではない。

 

 閑話休題。

 

「ありがとう、レックス。では、この場は任せた」

「サー、イエッサー!」

 

 シスの暗黒卿は副官に礼を言うと颯爽と宇宙戦闘機に乗り込み、操縦席に着くと操縦桿を握る。

 

「R2、今回も頼むぞ」

 

 長年の相棒は、ピキャピキャと電子音でやる気を漲らせているのを表現する。

 マスクの下でフッと笑むと、ヴェイダーはTIEを発進させた。

 

「大丈夫かしら、彼……騎乗スキルが高いワケでもないのに」

 

 空に舞い上がる宇宙戦闘機を見上げながら、アイリスフィールは不安げに呟いた。

 それを聞いたレックスは信じられない物を見たという顔をした。

 

「何言ってるんですか? あの人は銀河最強のパイロットですよ?」

 

 




どうも、お久し振りです。
エピソード8ショックから立ち直るのに時間がかかってしまいました。

それはともかく、ハン・ソロ楽しみですね。
もう、それだけが希望です(大げさ)


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大サーヴァント空中決戦

『もし本当に怪獣がいたなら、交戦許可って下りるんですかね?』

「もしこれが怪獣映画なら、俺たちはヒーローが登場する前のヤラレ役、噛ませ犬だな」

『笑えませんよ、それ』

 

 F-15のパイロットである仰木一等空尉は、同じくF-15を駆る部下である小林の言葉に冗談で応じた。

 二人は冬木警察からの災害要請を受けて緊急発進し、同市の状況を確認するために急行しているのだ。

 

 警察もかなり混乱しているらしく、巨大怪獣が出現しただの、ロボットがそれを迎え撃っているだの、荒唐無稽な情報が飛び交っている。

 先日のハイアットホテルの大火災の件もあり、万が一があってはならないと出動した彼らであったが、やがて冬木市上空に達した彼らの目に飛び込んできたのは想像を絶せる光景だった。

 

「な、なんだよ、ありゃあ……」

『お、仰木さん……』

 

 深い霧に覆われた未遠川の中ほどに、何か得体の知れない巨大な蛸か烏賊のような物が蠢いていた。

 それだけにとどまらず、川の両側と冬木の代表的な建築物である冬木大橋の上に、四足歩行の怪獣のようなロボットや二本足のロボットが陣取り、光線を撃って巨大イカに攻撃を仕掛けていた。

 その足元では人影が無数に動き回り、やはり光線を撃っていた。

 

 巨大烏賊の周りでは、いくつかの光が飛び回り、攻撃を仕掛けているようだった。

 

 あまりに現実離れした光景に、仰木と小林は言葉を失っていた。

 

『と、とにかくもっと降下して接近してみます!』

「ま、待て小林!」

 

 それでも任務に忠実な小林は、F-15を傾けて川に近づいていこうとする。

 その時、二機の無線機に通信が飛び込んできた。

 

『そこの戦闘機。ここは戦闘区域である。直ちに引き返せ』

 

 聞こえてきたのは重々しい重低音だった。

 仰木は自衛官としての本能から、問う。

 

「こちらは航空自衛隊所属、仰木一等空尉だ。そちらの所属は?」

『こちらは第一銀河帝国軍、501大隊のダース・ヴェイダー。警告する、直ちに当空域より離脱せよ』

 

 可能ならば、仰木と小林は顔を見合わせただろう。

 銀河帝国? ダース・ヴェイダー?

 意味が分からない。

 

 しかし二機のF-15の横を、ボールを板で挟みこんだような奇怪な物体がいくつか通り過ぎていった。

 先頭を飛ぶのは、板がコの字になった機体だ。

 この飛行物体の群れは、悲鳴にも似た音を立てて獲物に襲い掛かる猛禽もかくやという勢いで急降下し、巨大烏賊に猛烈な攻撃を仕掛けた。

 巨大烏賊は触手を伸ばして飛行物体を捕えようとするが、一機残らずその合間をすり抜ける。

 

『仰木さん、いったい何が……』

「分からん。分からんが……」

 

 呆然と、仰木は呟く。

 

「あの先頭の奴。あいつは、間違いなくエースだ……!」

 

 その言葉の通り、先頭の機体の動きは他と明らかに違っていた。

 

 

 

 

 触手の合間を潜り抜けながら、ヴェイダーとその配下のTIEファイター隊は巨大海魔に向けてレーザー・キャノンを撃ち続けていた。

 

「半数は上に回って直上から攻撃。残りは私に続け」

『了解!!』

 

 血気盛んなパイロットたちは、しかしヴェイダーの指示に忠実に従う。

 しかし、TIEファイターによる攻撃はほとんど効果が見られない。

 

「ああ、R2。お前の言う通り、光子魚雷を搭載しておくべきだった」

 

 電子音でピキャピキャと騒ぐ相棒に返したヴェイダーは、冷静かつ獰猛に攻撃を続ける。

 

 

 

 

 

「ハアアッ!!」

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 空を駆ける愛馬ドゥン・スタリオンに跨ったランサーは、ロンゴミニアドからの光線で海魔を攻撃し、自慢の戦車に乗った征服王は、雷を放ちながら巨大海魔の触手を剣で斬り落とす。

 しかしその傷はジュクジュクと嫌悪感を催す音を立てて塞がる。

 

「なんて再生力だ! これじゃあきりがない!」

「やはり、キャスターを直接叩かねばならないか……!」

 

 戦車に乗ったウェイバーが悲鳴染みた声を上げ、ランサーは槍の柄を強く握る。

 手はある。後は、ケイネスがそれを許すかだ。

 

 

 

 

 

 河川敷では、展開した帝国軍が何処からか涌いて出てきた通常サイズの海魔の上陸を阻止するべく、濃密な弾幕を張っていた。

 歩兵やAT-STが僅かな間も無く光弾を発射し続けるが、海魔は後から後から湧いてくる。

 

 四足歩行のAT-ATは、その大火力を巨大海魔に集中していた。

 中でも一台のAT-ATには、赤黒い血管のような模様が浮かび上がり、艦砲射撃ばりの大威力の砲撃を放っている。

 その背中に当たる部分には、バーサーカーが陣取り帝国軍の単発式ロケットランチャーを撃つとそれを捨てては、後ろのストーム・トルーパーから別のロケットランチャーを受け取ると間髪入れずに撃つ、ということを繰り返していた。

 

 この攻撃は少なくとも普通のAT-ATの砲撃よりは効果的であるらしく、確実に巨大海魔の歩を鈍らせていた。

 

 

 

 

 

「上陸を阻むので精一杯か。まったく、この辺境の星はつくづく楽しませてくれる……!」

 

 自機の操縦席で、ヴェイダーは皮肉を吐く。

 ピキャピキャとR2が電子音で喚くが無視しておく。

 

「再度攻撃を仕掛けるぞ。頭部に火力を集中する、続け」

 

 追従する部下たちに指示を飛ばし、操縦桿を倒した瞬間、後ろから攻撃を受けた。

 間一髪、機体を回転させて躱すと、黄金色の光が幾筋か通り過ぎていった。

 

「ッ! 金ピカか!!」

 

 それが事態を静観していたはずのアーチャーからの攻撃であると察し、ヴェイダーはすぐにフォースで索敵する。

 案の定、こちらに向けてあの悪趣味な金ピカの飛行物体が飛んでくるのを感じた。

 

「空気の読めない奴め!」

『ヴェイダー卿!』

「奴の相手は私がする! お前たちは、そのままあのダイアノーガの化け物に攻撃を

続けろ!」

『了解!!』

 

 血気に逸る部下たちを諫め、ヴェイダーは機首を上げて急上昇していく。

 ここで戦えば、周囲を巻き込むからだ。

 

 

 

 

「ふん、我の攻撃で部下が巻き添えを喰らわんように、空へ逃げるか……舐められた物よ」

 

 インド神話に語られる神の船、ヴィマーナに設えられた椅子に座った黄金の王は、ニヤリと口角を上げた。

 当然の如く、時臣は降ろした。

 面白い男ではあったが、すでに迷いを吹っ切りつつあるようだ。

 

「こういう戯れは久しいぞ。精々踊れ、害虫!」

 

 逃げるヴェイダーを追って上昇しながら、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開して追尾能力のある宝具を発射する。

 

 剣や槍が、恐るべきスピードでTIEアドヴァンストへと殺到していく……。

 

 

 

 

 

 襲い来る槍やら剣やらを、こちらも機体を回転させながらの回避行動で紙一重で躱しながら、ヴェイダーは毒づく。

 

「ええい、くそ! めちゃくちゃな攻撃をしてくれる!!」

 

 後ろに付かれたので振り切ろうとしているが、あの金色の機体の性能は素晴らしく、このカスタム機を持ってしても振り切れない。

 

 そのうえ、密度の濃い弾幕が襲い掛かってくるのだからたまったものではない。一発でも貰えば大破しかねないのだ。

 唯一の救いは、あの黄金の王の操縦センス自体はそこまでではないことだろう。

 明らかに、機体性能頼りである。

 

「ああ、そうだな。今度はXウィングに買い替えよう。あれは良い機体だ!」

 

 機体性能の限界以上を引き出して飛び回るヴェイダーは、R2の愚痴にそう答えるのだった。

 当のR2も、無茶な操縦で壊れそうになる機体を必死に維持していた。

 

 飛び散る火花を片っ端から消火し、矢継ぎ早に焼き切れる配線を繋ぎ直し、エラーとフリーズを繰り返すプログラムを修復する。

 

 そのスピードたるや、まさに神業。

 このアストロメイク・ドロイドがいてこそ、ヴェイダーは機体の限界以上の挙動が出来るのだった。

 

 いやそもそも追尾性能のある宝具の弾幕を悉く躱してみせている時点で、ヴェイダーの操縦技術は人間業ではないのだが。

 

「だが、限界はある……仕方がない、ここはイチかバチかだ」

 

 何か手を考えたらしいヴェイダーに、R2‐D2はいつものことだと電子音でツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 月が照らす雲海の上で、TIEアドヴァンストとヴィマーナが終わることのない演武を繰り広げる。

 

 だがやがて、TIEアドヴァンストは雲海の下へ向けて急降下を始めた。

 

「逃げるか! ……と見せかけて策があるのだろう。だがその策、敢えて乗ってやる!」

 

 ヴィマーナはそれを追う。

 流星の如く、二機は地上に向けて落ちていく。

 宝具を撃ち出すアーチャーだが、それらはやはり紙一重で躱されてしまう。

 

 雲海を突き抜け、なおも戦いの続く未遠川へ向けて、二機は降下を続ける。

 

「ふん! 大方、地上ギリギリで上昇して、我を地面に叩き付けようという魂胆であろうが、そうは行かぬぞ!」

 

 TIEアドヴァンストが機体を起こそうとするのを視認したアーチャーは、そのまま機体を起こそうとするが、その瞬間TIEアドヴァンストは180°回転した。

 

「な!?」

 

 レーザー・キャノンが火を噴き、光弾がヴィマーナに襲い掛かる。

 所詮は宝具でもないそれなど、目晦ましにしかならないが、その目晦ましが致命的な結果を招いた。

 

「ッ! おのれぇええええ!! 害虫がぁああああああッッ!!」

 

 TIEアドヴァンストはそのまま上昇してゆくが、ヴィマーナは一瞬の差で上昇しそこね、それに乗った黄金の王諸共、未遠川の水面に突っ込んだのだった。

 

 

 

 

 

「ああ……危なかった」

 

 何とか墜落ギリギリで機体を立て直したヴェイダーはマスクの下でホッと息を吐いた。

 そもそも、機体性能も火力も、向こうのほうが上だった。

 

 だが……。

 

「実戦経験と……そしてR2がいるかが、勝敗を分けた」

 

 この無茶苦茶な作戦もR2が機体を維持しれているからこそ出来たのだ。

 あれでアーチャーが消滅したとは思えない。なんだかんだと脱出しているだろう。

 決着はいずれつけなくてはならない。

 

 だが、まずは巨大海魔からだ。

 

「さあR2、もうひと踏ん張りだ。……そう言うなよ」

 

 ヴェイダーは文句をブー垂れるR2をなだめると、戦線に復帰するのだった。

 




空中戦が難しい……。
ほんと、迫力のある戦闘シーンを書ける人って尊敬します。

英雄王、一応、トッキーを降ろしてあげる優しみ。


次回か次々回で大海魔戦は終わりかな?


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番外編:あるいは、あるかもしれない未来

お久しぶりです。
スカイウォーカーの夜明けを視聴して、今後どうするにせよ一つのけじめとして投稿しました。

スカイウォーカーの夜明けのネタバレが内容として含まれますので、ご注意ください。


 遠い昔……ではないけれど、遥か銀河系の彼方で……。

 

 

 灼熱の恒星に照らされて、何処までも砂漠が続く星、ジャクー。

 砂の海のあちこちには、島のように飛び出す岩山に混じっていくつもの宇宙船や兵器の残骸が横たわっていた。

 その光景は、太古の生き物の墓場のようにも見える。

 かつてあった大きな戦いで墜落したそれらからパーツを取るジャンク漁りが、この星の主な入植者だ。

 その他には現住生物と僅かな異星人しか、この星では暮らしていない。

 

 砂漠の遥か上空、成層圏を抜けた衛星軌道上に一隻の宇宙船が浮かんでいた。

 楔型の艦体が特徴的なその船……リサージェント級スター・デストロイヤーの底部ハッチから何隻かの着陸艇が吐き出された。

 

 長方形の箱のようなシルエットの着陸艇たちは、大気圏に突入すると摩擦熱をものともせずに眼下の星に向かっていく。

 やがて船団の行く手に、砂漠の中にある小さな村が見えてきた。

 大小いくつものテントからなるこの村は旧共和国と旧ジェダイ・オーダーの崩壊後、ジェダイの知識と文化の保護を目的として設立された団体『フォースの教会』の信徒たちが暮らしていた。

 

 村のすぐ傍に着陸した着陸艇の前部ハッチが開き、そして……。

 

「ここが『聖なる村』だ。昼まではこの村の見学、昼ご飯ののちに戦場跡を見にいく。村の人たちに迷惑をかけないように行動するのだ」

『はーい!』

「よろしい、では点呼を取る」

 

 銀色に光る装甲服を着た教師に引率された、20名ほどの幼い子供たちが降りてきた。

 陽光に照らされる着陸艇の両舷には、こうペイントされている。

 

『帝国立ファースト・オーダー幼稚園』

 

  *  *  *

 

(あっれぇ? おかしいなあ……)

 

 幼稚園生たちを引率する教員であるファズマは、お弁当の時間に一息つきながらも、この状況に、もっと言えば自らの境遇に強い疑問を感じていた。

 自分は冷酷非情な女将校になるために帝国軍に入ったのに、なんで幼稚園の先生なんてやってるのだろうか。

 もっとこう、ライバルを蹴落とすとか、自分の過去を知る人間を消すとか、そういうことをするはずだったのに。

 気付けば教員生活も早10年。もはや中堅の域だ。

 

(私の人生、こんなはずではなかったのに……)

「ファズマ先生!」

 

 銀ピカのマスクの下で溜息を吐いていると、園児の一人の声に視線を落とした

 黒い肌のその生徒は、孤児であるが優しい気質の持ち主だ。しかしファズマにしてみれば、気弱で場に流されやすいのが心配だった。

 

「フィンか。どうしたんだ」

「ええと……あの、その……」

「いつも言っているだろう、人に物事を伝えたい時は、はっきりと言え。お前なら出来るはずだ」

「は、はい! 先生、これ!」

 

 ファズマの厳しい言葉に、その生徒……フィンは意を決したように何かを差し出した。

 村の土産物屋で買った物らしい、首飾りだ。

 

「……私に?」

「はい! ……先生、いつもありがとう!」

「………………」

 

 半ば無意識にその首飾りを受け取って、ファズマは首を傾げた。

 安物とはいえ、幼い孤児にしてみれば結構な値段だろうに。

 

「おこづかいを貯めてたんだ! ボク、先生のことが大好きだから!」

「……そうか、ありがとう」

 

 ああ、なんでこんなことになったのだろう。

 自分は冷酷な女将校になるはずだったのに。

 こんな、餓鬼に囲まれた生活なんて、まったく望んでいなかったのに。

 

(でもま、いっか)

 

 顔をほころばすフィンを見ていると、この生活も悪くはないと思えるのだった。

 

  *  *  *

 

 幼い子供と言えど、人が集まればいくつかのグループに分かれる。

 快活なポー・ダメロンと気弱なフィン、強気な女の子のレイはいつも一緒にいるし、帝国軍人を父に持つハックスは同じく親が軍人の子供たちといることが多い。

 そして誰ともグループを作らずにいる者もいた。

 

 黒い癖のある髪で、同じく黒い服の男の子は、他の園児から離れ一人、陰気な顔でお弁当を食べていた。

 

「ベン、一人でどうしたの?」

 

 そこに声をかける者がいた。

 ベンと呼ばれた園児が振り向くと、彼より少し年上の女の子がいた。

 大きな青い瞳と、長く伸ばした雪のように白い髪のその女の子は、ニパッと笑っている。

 

「みんなと一緒に食べないの?」

「パドメ、ほっといてよ……」

 

 ブスっとしたベンの声に、パドメと呼ばれた少女はキョトンと首を傾げた。

 すると彼女の後ろから、もう一つ人影が現れた。

 

「駄目よパドメ。ベンはね、パパと喧嘩してナイーブなの」

 

 髪が黄色っぽい金色で瞳が赤いこと以外はパドメと瓜二つの少女だった。

 しかしあどけなくも優し気な表情のパドメに比べて、この少女は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「ソロおじさんがまた遊園地に行く約束を忘れてたんだもんね。おじさん、そういとこホント駄目よねー」

「ナタリア! 駄目だよ、おじさんの悪口言っちゃ!」

 

 パドメは自分の双子の姉であるナタリアに注意する。

 この二人はベンの母方の伯父の娘であり、幼馴染だった。二人からしてもベンは弟のようなものだ。

 ベンよりも年上だが、通っている学校がフォースト・オーダー幼稚園と合同で遠足をすることになったのでここにいる。

 一方で当のベンはブスッとしていた。

 

「いいよ。ホントのことだもん。前も、その前も、その前の前も約束忘れてたし」

「ああ、うん……」

「ママとケンカばっかりだし、家よりファルコン号が好きみたいだし、お爺ちゃんやおじさんも困らせてるし、あちこちにお金借りてるし、友達は山師とか、賭博師とか、ペテン師とかそんなんばっかりだし」

「お、おおう……」

 

 次々と出てくる父への悪口と言うか歳に似合わぬ愚痴に、パドメばかりか話を振ったナタリアまでも引いてしまう。

 断っておくとベンの父は家族を愛しているし仕事も出来るのだが、どうにもスリルや冒険を求めてしまう部分があり、あんまり褒められない仕事の友人が多い。

 

 母と結婚する時も、その父親……つまりベンの祖父と大いに揉めたそうな。

 まあ当時の父は住所不定で多額の借金を抱えた無法者だったので、しょうがない。

 ライトセイバーを持ち出しベンの名前の由来でもある人物に『ムスタファー以来の暗黒面全開』と評されるほどに怒りに燃える祖父に対し、父と親友である伯父や、その他友人たちが執り成してくれて『絶対に家族を大切にする』と約束し、何とか結婚に漕ぎ着けたのである。

 

 で、この体たらくなので『大丈夫? フォースのバランス崩れない?』と方々から心配されているのだった。

 

「パパなんか、大嫌いだ……ボクは、お爺ちゃんみたいなフォースの使い手になるんだ」

 

 父のようなちょっとアレな人ではなく、大好きな祖父ようになるのが幼きベンの夢だった。

 だがベンとて本気で父を嫌っているワケではなく、父の操縦するミレニアムファルコン号に乗せてもらうのが好きだし、彼から貰った金色のダイスを大切にしていた。

 

「うん、いっしょにジェダイになろう!」

「なに言ってんの。ベンはシスになるんだから!」

 

 パドメは懐から取り出した一本のシンプルなライトセイバーを起動し、ナタリアは腰に下げたグリップの湾曲したカープ=ヒルト・ライトセイバー二本を起動する。このセイバーは練習用兼護身用の殺傷能力のない物で、光刃の色はそれぞれ緑と赤だった。

 パドメはジェダイ、ナタリアはシスを志し、すでに訓練も始めていた。

 

 というのも二人の父は新生ジェダイ・マスターであり、祖父は元シスで、その影響を受けたからだった。

 なお母親はとある辺境惑星の出だが、色々と特殊な人だった。本来なら長生きすら出来ないような身の上だったと言うが、今日も元気に夫とイチャついている。

 

 二人の両親が結婚を決めた時、父方母方の祖父同士で壮絶な死闘を繰り広げたという話もあるが、その祖父たちこそが双子の名付け親でもある。

 

「ジェダイの方が、かっこいいよ!」

「シスになれば、電撃だって出せるのよ!」

「ジェダイ!」

「シス!」

「ぼくは……どっちも!」

 

 二人してライトセイバーを構えるに至って、ベンはすくっと立ち上がると、グリップの両側に小さな光刃が出現するクロスガード・ライトセイバーを起動させた。

 十字型の刃は白く光っていた。

 

『どっちも?』

「うん。お爺ちゃんはジェダイでありシスだもん!」

「ほんと、ベンはお爺ちゃん大好きねえ」

「うん!」

 

 ナタリアがちょっぴり呆れたように首を傾げると、ベンは胸を張る。

 双子の少女は顔を見合わせると、ベンの両隣に並んだ。

 

「ん、ならさ。三人で立派なフォースの使い手になろう! わたしはジェダイ!」

「わたしはシス! で、ベンはその間! 約束しよ!」

「うん、約束!」

 

 自然とライトセイバーを天に掲げ、三人の幼い少年少女は空を見上げる。

 青い空の向こうに広がる、遥か銀河系。さらにはその先。

 

 そこにはあるいは、フォースの力すら及ばぬ未知の種族がいるかもしれない。

 あるいは、歴史や概念すら破壊するような何かがいるかもしれない。

 

 それでも三人の目には、『希望』こそが映っているのだった。

 

 

 

 

オマケ:スカイウォーカーの夜明けのネタバレの可能性あり

 

とある誰かからレイと呼ばれる少女への手紙(銀河普通郵便)

『レイへ。

 お爺ちゃんだよ! 元気にしてるかな? お勉強はちゃんとしてる?

 今度の休みに皆で地球のフユキに集まることになったから、その時に会えるのを楽しみにしてるよ!

 その時はいっしょに買い物に行こう。何か買ってあげるから、欲しい物を考えておいてね!

 お父さんとお母さんには内緒だよ? あの二人はあんまり甘やかしちゃ駄目だって言うけどね、レイはお爺ちゃんの天使だからね!

 

 って言うか、二人が欲が無さ過ぎで、お爺ちゃん心配なんだけどね!

 

 それじゃあ、体に気をつけて』

 

 

同じ人物から、レイの両親への手紙(極めて高度に暗号化されていた)

『帝国内に入り込んでいた魔術師どもは、我が弟子ダース・クラウダスと帝国魔術院のエージェント・エミヤが適切に処理しておいた。

 お前たちには苦労をかけたが、これでようやくお前たちの市井に紛れる生活も終えられそうだ。

 連中がお前たちのことを嗅ぎ付けたのは、儂のミスだ。すまないと思っているが、どうしても孫の顔を見たくなってしまったのだ。

 政治的思想も儂への怨みもなく、単純にあの子をモルモットにしようしていた魔術師には正直未だに怒りを禁じえない。今は奴がモルモットだが。

 

 ともかく、我々が本来の関係性として一時でも過ごすには冬木はうってつけだ。

 あの町は地球において唯一宇宙港のある経済特区だが、帝国に友好的なトオサカとマトウの管理下にあるし、我が弟子の地元だ。

 エルメロイ()()()()()のおかげで聖杯の解体も完全に終わり、魔術協会と聖堂教会、それに国連とカルデアも手を出せない。そのように、根回しも済ませておいた。

 

 しかし連中は恥知らずで考えなし……特に野良の魔術師は……なので何をしてくるか分からない。そこで護衛は用意させてもらう。念には念を入れて、とっておきのをな。

 

……儂の知る中で最も強く偉大な『フォースにバランスを齎した者』アナキン・スカイウォーカーだ。

 

それでは、冬木で会おう。

 

PS:久しぶりに家族として話せること、楽しみにしておるよ』

 




EP9、ネタバレは避けますが、不満はあれど納得は出来ました……ただやっぱりEP8の尻拭い感がありましたが。

あとあるシーンを見て『あれこれ、第四次聖杯戦争時のサーヴァントくらいなら、マジでどうにか出来そうじゃねえ?』と思いました。

実はこの作中世界は型月時空から見ると剪定事象になっていたけど、新たな可能性を求めていたSW時空(フォースの意思)に吸収された(言わば接ぎ木した状態)というのを、考えています。
ので、フォースがサーヴァントに通じたり、型月太陽系がうっかりSW銀河の端に浮かんでるワケです。

さてこの世界のベン・ソロ君は、双子の幼馴染がいる限りダークサイドに堕ちることも光の誘惑に屈することもないでしょう。仮にそうなっても双子が(レイ以上の荒療治で)元に戻すはずです。
あと三人の間にあるのはあくまで兄弟姉妹の絆なので、誰かが別の人と結ばれても素直に幸せを喜び祈ります。

ちなみに双子のモチーフは、プリズマイリア版イリアとクロエ。

双子を誰かに殺されたりしたら?
そんときは、シスの域を超えたアナキン以上の最強のダークサイドの使い手が誕生して、ジェダイシス殲滅ルートに入るだけですから(フォースのバランス的には)問題ありませんね。


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