魔法少女リリカルなのはvivid~守りし者~《完結》 (オウガ・Ω)
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主人公及び魔導具諸々設定

主人公及び魔導具諸々設定

 

 

タカヤ・アキツキ《和名:秋月鷹矢》

 

 

 

性別 男

 

 

年齢 13歳

 

 

髪の色、黒くてやや長め

 

瞳の色 ???

 

 

古代ベルカ緒王時代に封印されたいずれ甦るホラーを斬る為だけに………が課した訓練の日々と《ある事件》で心が閉ざしかけたタカヤを心配した眼鏡型魔導身具【キリク】が鎧召喚訓練を終えた直後、捨てても持ち主の元へ戻る魔戒剣斧【オウガ】と共に………を使って家出。それから一年後、身を寄せていた祖母に当たる人物の勧めもあってStヒルデ魔法学院に転入?する

 

 

性格はやや内向的であまり人付き合いがうまい方ではない…それにかなりの純情少年(下着などを見ただけで鼻血をだすほど(笑))で女顔のせいでよく女の子に間違われるのが悩み

 

 

魔戒騎士としての才能は秋月家歴代継承者の中で最高、それ以上と言われソウルメタルを用いた訓練を半年、魔導火を一年、鎧召喚を半年、平行して法術等も習得しまさに魔戒騎士、法師になるために生まれた天才児だった

 

 

家族構成は不明だがいずれ明らかに…

 

 

眼鏡型魔導身具【キリク】

(CV:若本規夫)

 

 

秋月家に代々受け継がれてきた魔導身具、形状は眼鏡だがフレームはソウルメタル製で耳にかける部分には龍をあしらった造形が施され喋る時は口?が動く

 

 

古代ベルカ緒王時代に現れた魔戒騎士の魔導身具でホラー探知更にはホラー避けの結界、護符(指輪)まで産み出すことができる

 

 

普段はタカヤの眼鏡になっているが『ある一族』特有の…を隠すためにつけている(本人は理由を知らない)

 

タカヤが家出する際『ある道』を使うように薦めた

 

 

性格は江戸っ子気質で少しエロい発言が目立つ

 

古代ベルカに現れた十三体のホラーと王を知る唯一の眼鏡型魔導身具

 

 

魔戒剣斧オウガ

 

タカヤの持つ魔戒剣?で継承者から離れた位置にいても必ず手元に戻る

 

剣斧はその名の通り必要に応じて柄部分を左へ回すと《魔戒剣形態》、リーチの長い相手に対しては右へ回すと《魔戒斧形態》へ変形する

 

この魔戒剣斧は戦友である三人の騎士と法師が名も無き騎士の戦いに合わせ練金手渡された。以降歴代継承者に鎧、魔法衣共々代々受け継がれてきた

 

 

魔戒騎士

 

太古の昔、人の邪心と陰我宿りしオブジェ(例えば殺人犯が愛用した銃、乗り物、自殺者が多数でる場所にある像など)をゲートに現れ陰我が適合した人間に憑依し人を喰らう魔獣ホラー

 

その闇に潜む魔獣ホラーを狩り人を守りし存在。それが《魔戒騎士》だ

 

なぜこの魔法世界『ミッドチルダ』に魔獣ホラー、ソレを狩る魔戒騎士がいるのかは物語が進むにつれて明らかに

 

次回から本編です



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守りし者、年代表(完全版)

完全版


千年前、別次元の地球で白夜の夜をゲートにし現界するメシアとは違う系統のホラー《レギュレイス》とよりすぐりの魔戒騎士、魔戒法師、人との共存の可能性を模索するホラーとの戦いが勃発、数年がかりで白夜騎士打無の手で封印に成功する

 

この時、千人以上で参戦した魔戒騎士、法師、ホラーは片手に数えるしか生き残らなかった

 

生き残った魔戒騎士は白夜騎士打無こと山刀ソウマ、閃光騎士狼怒《布道レイジ》、雷鳴騎士破狼《四万十ジロウ》、新しい鎧を拝領したばかりの秋月オウガ、上級ホラー・キリクのみ

 

 

それから一月後、別世界へ逃げた十二体の死醒ホラーを率いる死醒皇アギュレイス討滅に向かうため、生き残った魔戒騎士の一人《秋月オウガ》が二度と戻れない事を承知で新たに錬金された眼鏡型魔導身具キリク

と共に三人の騎士に見送られ別世界覇を唱えようと戦乱続くベルカ緒王時代のミッドチルダへ旅立つ

 

別世界に到着してすぐに十二体のホラーの一体を討滅。直後に民をホラーから人々を守っていた三人の王と騎士…覇王イングヴァルド 聖王女オリヴィエ 冥王イクスヴェリア、黒のエレミアと出会い協力を申し出られるもオウガは断った…が、冥王イクスヴェリアの従姉妹から「このひねくれ者!!」と言われ肉体言語?でやっと協力することになった

 

 

 

???年

 

数ヶ月ご、冥王イクスヴェリアの従姉レア・ガレアと結ばれ数日後、別世界へ呼ばれ太陽騎士ガオと出会いを果たし使命を全うし何時か再会を約束し互いの世界へ戻った

 

 

同年

 

オウガ、レアとの間に待望の男子を授かるも留守にしていた際、最愛の妻を殺され怒りに捕らわれ《心滅獣身》と姿を変える。イングヴァルド、オリヴィエ、エレミア、イクスヴェリアの必死の呼び掛けと紋章を突くことで戻った

 

 

???年

 

激しい戦いの末、遂に死醒皇と十三体のホラー封印に成功する。しばらくしてオウガは協力者であり戦友であるオリヴィエ、クラウス、イクスヴェリア、リッド、クロゼルクに別れを告げまだ1歳の我が子と共にいずことなく消え去った

 

だがオリヴィエと会うのがこれが最後になるとはこの時は思ってもいなかった

 

 

???年

 

 

聖王のゆりかご、聖王女オリヴィエをコアとすることで起動…この事を軟禁されていたヴィルフリッドからの手紙で知ったオウガが駆けつけた時にはすでに遅く、空を翔け敵を倒していくゆりかごを目にし離れるべきではなかったと激しい後悔の念に襲われた

 

???年

 

クラウス、戦場においての圧倒的な力をもって覇王と賞されるも戦場にて短き生涯を終え死亡。

 

同年、ゆりかごが搭乗者のオリヴィエ死亡と共に大地へ静かに沈む。それに伴いヴィルフリッド・エレミアの軟禁がとかれた

 

 

???年

 

秋月オウガ、一人息子と共にヴィルフリッド・エレミアを訪ねる途中現れた時空ホラー《ザギ》の手で、ミッドチルダとはパラレルワールドに当たるもう一つのミッドチルダに転移させられ、そこで魔族の王《魔皇キバ》率いるファンガイア、アーク率いるレジェンドルガとの戦いに巻き込まれ息子斬人(キリヒト)10歳がクイーンにさらわれる

 

…息子をさらわれ魔皇キバの居城へ乗り込むオウガ、レジェンドルガ側にホラーの影を感じたオウガは人の敵であるはずの魔皇キバからナニカを感じ取りと共に戦い、レジェンドルガの王アークに憑依したホラーを自らの鎧を破損させながらも封印した

 

ファンガイアにとって食糧である人でありながらアークに手傷を負わせ勝利をもたらした存在《秋月オウガ》を《魔皇キバ》は手元に置こうとするも頑として固辞され、妻であるクイーン、側近であるチェックメイトフォーの諫言もありやむなく諦めた

 

変わりに大破した《オウガの鎧》を《闇のキバの鎧》を管理するキバット族、技巧匠ナイト、ポーンに修復を依頼し完全、それ以上に《修復》し魔皇キバ自ら手渡し、オウガ親子を帰還させた

 

十年後。秋月煌牙は息子《秋月斬人(キリヒト)》に魔戒剣斧オウガを継承させ事実上魔戒騎士を引退する

 

引退後は魔導図書館、魔蔵書庫、魔導具製作技術、魔導火補充及び浄化封印施設建築(後に聖王教会が築かれる)等に力を入れ復活したホラーに対して備えを始め二十年に渡りようやく終えた直後、倒れ寝たきりの生活を送りながら、剣斧オウガ以前に使用していた魔戒剣、魔戒斧、鎧を修繕。魔號龍製作を始める

 

 

???年、秋月屋敷にて友人ヴィルフリッド・エレミア、《シュトウラの森》に住まう魔女、二代目秋月キリヒトに看取られ初代秋月煌牙死去。享年九十五歳

 

―――――――

―――――

 

 

四代目オウガ、秋月睛狼。別世界の日本(リリカルすれいや~ず世界)、平安京へ飛ばされ都に現れた未知のホラー《ーーーーーーー》と対峙する中、《逢魔一族》と出会いを果たす

 

 

 

 

 

 

旧暦???年

 

五代目白煌騎士オウガ《秋月鷹人》。突如アルハザードへ召喚され、其所でただ一人、亡き娘を弔い祈りながらもう一人の娘に対しむごい仕打ちをしてしまったと後悔の日々を送る《プレシア・テスタロッサ》と出会う。

 

しかしアルハザードが次元の狭間に飲まれ崩壊する事をキリクにより告げられ鷹人は必死に説得を続け、ようやく受け入れたプレシアと共に崩壊寸前のアルハザードより脱出。ミッドチルダへ帰還する

 

 

三年後、ようやく結ばれた鷹人とプレシアとの間に男子《鷹狼》誕生

 

しかし鷹狼が二歳になったとき全ての命を託すようにプレシアは眠るように亡くなる

 

その直後、鷹狼の髪の色が濃い紫へ魔力変換資質《雷》に目覚めた

 

 

六年後。五代目白煌騎士《秋月鷹人》、甦ったホラーと王の封印直後。どの系統に属さない未知のホラー《鎧魔ホラー》《アキレウス》《オーディーン》と戦うも一人息子《鷹狼》をかばい刺し貫かれ死亡…しかし命と引き換えに鎧魔ホラーを別次元へ封印し鷹狼を救う

 

 

旧暦???年

 

 

六代目オウガ秋月鷹狼、心界の森で魔戒樹に取り込まれた白銀の髪に赤い瞳が目立つこの余のモノとは思えない女性を偶然助け出す。屋敷へ連れ帰り介抱するうちに彼女…リインフォースが強い陰我を持ちホラーを呼び寄せることに気づきホラーをおびき寄せる囮として利用するために屋敷に住まわせた

 

 

リインフォースの強い陰我に引き寄せられ襲いかかるホラー、だが鷹狼はホラーの牙が触れさせることなく斬り伏せる…時が経つにつれ囮としてではなく守る存在へ変わり互いに恋が芽生え紆余曲折を経て想いをつげホラーの王との最後の戦いを終えたが、突如別世界の日本、幕末の京都に飛ばされ左頬に十字傷を持つ赤毛の少年と壬生狼との戦いを目にしながら還る方法を探る途中、謎のホラーに襲われる更識楯無(インフィニット・ストラトス~白騎士と狼の騎士~)を《四凶ホラー》から助け討滅…しかし復活することを予見したオロは再び現れることを楯無と約束し去った

 

 

数年後、リインとの間に双子の男子を授かる…しかし魔戒騎士になれるのは1人だけ、成長した二人は魔戒騎士となるのは誰かを決めるためサバックを行い兄應鷲の両腕を再起不能に粉砕した弟である狼真が勝利し七代目となる

 

互いにぎくしゃくしながらの何も言えない日々が続き、しばらくして蘇ったホラーを最後の一体を討滅した隙を狙われた狼真を庇い、應鷲は瀕死の傷を負いながら封印し、最後に「俺は恨んでいない」と言い残し死んだ

 

 

………それからしばらくして應鷲の妻が亡くなり、一人となった應鷲の息子《鷹流》を狼真は正当な後継者として養子として迎えた

 

しかし、魔戒騎士としての教育を拒み数年間、治安の悪いクラナガンで喧嘩に明け暮れ、辺りのならず者を拳一つで叩き伏せ《剛拳のオウル》として恐れられた…歩く凶狼、一見必殺、拳の悪魔、ラーメン王、黄昏の悪魔とモヒカン共は恐れに恐れた

 

 

特に掃除箱にモヒカンを叩き入れ上から人型になるまで殴り続ける得意技《アイアンメイデン》はオウルが通った道にみ無数に乱立する光景は恐怖の象徴になった

 

しかし、天瞠流師範代と雷帝の子孫との喧嘩を終え帰ろうとした時に、現れたエレミアに勝負を挑まれ惨敗。しかも互いの子供が産まれたら必ず見合いをさせると誓約書を取られるという結果をへて喧嘩を止め、魔戒騎士の修行を真剣に取り組んだ

 

 

旧暦???年

 

八代目白煌騎士オウガ《秋月鷹流(アキツキ・オウル)》長き眠りから覚め甦った十三体のホラーと王と戦いの最中、海賊に星を滅ぼされ復讐鬼と化した騎士《ブルブラック》と出会う。互いの信念がぶつかり紆余曲折のすえに互いを認めホラーから人々を守る為に共に戦うも命を落とした鷹流、しかしブルブラックに託された力《光》により復活、遂に《白燐の牙》を使い王を封印する事に成功した

 

 

その直後、異世界フロニャルドへ召還、マガモノとかした狼の土地神をビスコッテイ、ガレット、バスティヤージュの勇者と共に浄化、程なくして帰還するも元狼の土地神であるプリムが半ば強引に押しかけ、猛烈なアタックの末に結ばれる

 

 

新暦01年

 

オウル、アキツキ・インダストリ創設、様々な分野で成功を修めた人材を集めより良い生活を送れる未来を指標に事業を拡大する

 

 

その一方、社員達の家族手当て、有給、フレックスタイムの採用、育児休暇など企業としては破格の待遇に社員達の向上心を上げ更なる発展へと繋がった

 

オウルも社員達のいるオフィスや食堂、関連企業へ足を運び笑いながら食事する光景も見られ《名物会長》として雑誌やマスコミに取り上げられた

 

新暦40年

 

オウルの養子であり魔戒法師オウマ・クリューネ、魔戒導師マヤ・アキツキ、結婚……

 

 

新暦42年

 

メイ・アキツキ誕生

 

新暦45年

 

メイの母マヤが病?で亡くなり直後、殲滅騎士魔煌(センメツキシ・マオウ)が現れミッドチルダを巻き込んだ大いなる災いをもたらそうとするも高齢になりつつも八代目白煌騎士オウル、魔戒法師オウマ・アキツキが立ち向かい倒すもオウマは殲滅騎士の手で死亡…オウルは妻プリムと一緒に残されたメイを育てることを決めるも、新暦57年に妻プリム死去…オウルは悲嘆にくれるも魔戒法師として育てながら次期総帥の教育を始めた

 

新暦60年

 

メイに見合い話をもうけるも見合い相手すべてが叩きのめされる。

 

頭を悩ませるオウルはある日施設の点検に訪れた聖王教会で魔戒騎士の剣技に通ずる動きを見せる少年ユウキ・オーファンと出会う

 

 

 

新暦62年

 

オウルに再び組まれた見合い話の相手をみきわめる為訪れたメイ。騎士見習いと乱闘し圧倒的な実力で叩きのめすが遅れてきたユウキと戦いはじめての敗北をする…だがユウキの強さと外見…その抱き心地…すべて魅了され惚れてしまった

 

 

新暦64年 冬

 

関連企業視察中、メイが何者かに拉致される…が怒り狂い剣鬼と化したユウキとオウルの手により救出される

 

同年、ヴァイハデンコーポレーションがアキツキインダストリに吸収合併。ハーディス・ヴァイハデン元常務、違法研究および人体実験を示唆、クリーンエネルギーとして研究していたECウィルスを兵器転用し数多の次元世界で実験を指示していた事実が明るみになり次元拘置所へ更迭。無期懲役を言い渡される

 

 

フッケバイン一家、グレンデル一家、管理外世界にある政府との技術提携および視察中のオウルを襲撃。しかし敗北…ディバイダーすらも通用しないオウルに恐怖を覚えた…

   

 

新暦65年 春

 

ユウキ・オーファン、メイ・アキツキ結婚… 沢山の人々に祝福され幸せな日々を送る

 

新暦66年

 

ユウキとメイの間に待望の子が生まれる。祖父の鷹流

(オウル)の名から一文字もらい鷹矢(タカヤ)と名付けられる

 

 

新暦68年

 

オウル死去(享年140歳)、最後を看取ったのは一緒に遊んでいたタカヤだった

 

 

新暦70年

 

タカヤはじめてのお買い物?…しかしある二人の美女?が街を破壊したり不良をボコボコにしたなどの噂が流れた

 

 

新暦75年

 

大規模都市型テロ《JS事件》発生

 

アインヘリアルにおいて当時管理局に出向していたユウキ・アキツキ一尉 戦闘機人No8[オットー]、No12[ディード]との壮絶な戦いの末に殉職

 

実際は不完全に現界したホラーエアリーズのアキツキの血を引くものを抹殺せんと暗示をかけられたオットーとディードの暗示をユウキが解くもエアリーズ自身の手で致命傷を負うも呆然と立ち尽くすディード、オットー、助けた子供を守り最後までタカヤの事を想い力尽きた

 

 

新暦78年

 

タカヤ、アキツキ屋敷より家出する…それから半年後《黒のエレミア》の子孫ジークリンデ・エレミアと出会い半年間の生活を送る

 

 

 

 

新暦79年

 

クラナガンにタカヤ到着。ジークリンデ・エレミアと別れ祖母であるリーム・グレイスの進めもありStヒルデ魔法学院に転入する

 

…買い物の帰りに甦ったホラーに襲われる二人を助けるため剣を再び取り鎧を召喚しホラーシャドウを封印するがその場から逃げるように去る

 

 

 

新暦103年

 

第十代目白煌騎士オウガ《クロウ・アキツキ》、エルトリアに召喚され現れたホラーをユーリ、マテリアルズ、フローリアン姉妹の協力で封印に成功する

 

 

新暦108年

 

 

鷹矢、秋月屋敷庭園にて魔弾闘士リュウジンオーこと碓氷カズキと邂逅……刃を交え陰我を宿す悪魔手帳を渡すよう言う。手渡されたそれを魔導火で燃やすも時遅く、カズキの身体に生まれたゲートより出現した死徒ホラー《ドラグヌス》の一撃をうけ致命傷を負いながらも、魔界で見つけた魔戒刀を抜き対峙する

 

 

死が迫る中でも《守りし者》としての信念が魔戒刀を本来の姿…牙狼剣へ戻し、黄金騎士《牙狼》の鎧を纏いドラグヌスを封印するも妻ノーヴェに見取られ生涯を終えた

 

 

享年、42歳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一章 心迷いし魔戒騎士、強さを求める少女(覇王)、夢を追う少女《聖王女》、夢を模索する乙女と出逢う
第一話 邂逅(改)


 

私は夢を、夢を見ています…

 

遥か古代ベルカ

 

聖王、覇王、冥王…長く続く乱世を終わらせたいと願いながら…三人の想いは同じ筈なのに…互いに戦うことしかできなかった時代

 

 

そんな時でした…遥か次元の彼方から魔獣ホラーが現れたのは

 

人の心の闇より生まれし魔獣『ホラー』

 

 

陰我宿りしオブジェをゲートにし人へ憑依し顕れるホラーになすすべもなく喰われる民達を、人々を守るため三人の王は手を取りました…でもホラーと戦うにはあまりにも無力でした

 

 

……誰もが諦めかけた時、遥か次元の壁を超え鋼色の騎馬に乗り現れた『希望』の名も無き魔戒騎士が私達の前に現れたんです。

 

 

―光あるところ漆黒の闇ありき

 

古の時代より人類は闇を恐れた

 

しかし

 

 

暗黒を断ち切る騎士の剣によって

 

 

人類は希望の光を得たのだ―

 

 

一条の希望、その者は無色の鎧を纏う名も無き魔戒騎士

 

 

その剣は空を裂き、時間をも斬り強大な力を持つホラーを葬り

 

 

ある時は、その身体を鋼色の鎧を纏い人々を守る盾となりました

 

 

でも魔獣の王の前には無力でした

 

 

三人の王も共に戦うもその圧倒的な力の前に鋼色の鎧は砕け血を流し倒れ伏した姿、皆の心がホラーの王に屈しようとした時…彼が、三人の王と民達いえ人々の想いを胸に秘め立ち上がったのです

 

『………………………!!』

 

 

 

魔獣の王は傷つき血を流しながら立ち上がり剣を自分に向け構える騎士に問います…ですが私達に魔獣の王の言葉の意味は解りません…

 

―……俺は今まで一人で戦ってきた…だがそれは違った!―

 

 

 

剣を天に向け素早く真円を描き中心が砕け光と共に砕け血が滴る鎧を再び纏い剣を魔獣の王に向け構えた時彼の鎧に変化が起こりました……

 

 

白く金色が混じった炎を全身に纏い砕けた鎧が瞬く間に修復、白金色の炎が剣に激しく燃えながら集まり構えます

 

 

―俺は多くの人々の想いに支えられ戦ってきた!―

 

 

 

地を蹴ると共に騎士は白金の翼を大きく広げ風を切るように飛翔、そのまま魔獣の王へ《白く煌めく炎》を纏った剣が硬い身体を切り大きく口が開き、白金の炎に焼かれ《魔獣の王》は世界を揺るがすような断末魔の叫び声と共に消滅しました

 

 

其れを見届け降り立つ彼…騎士は剣?を腰に構え力強くはっきりと叫びました

 

 

―我が名は………!人々を守りし魔戒騎士だ!!―

 

 

はっきりと私の耳、いえ心に響いた声は胸の奥が熱くし、私は彼に手を伸ばそうと……

 

「は?!…………覇王の記憶…初めて見た夢です…」

 

途切れた夢から目を覚ました私は軽く背伸びをしベッドから降りる、ひんやりした感覚を足の裏に感じながら着替えを終え学院へと向かう準備をします

 

 

…私の名はアインハルト・ストラトス…St・ヒルデ魔法学院に通う中等科一年生です

 

 

私は知りませんでした…今朝の夢が私…いえ私達にとって彼と時を超えた出会いと再会になるとは夢にも思いませんでした

 

 

第一話 邂逅

 

 

教室に入ると皆さんがなにやら騒いでいます、話を聞くと今日このクラスに男子転入生がくるみたいです

 

一瞬今朝の夢…白く煌めく炎を使う騎士を思い浮かべます

 

(…そんな筈ありませんね…)

 

予鈴がなり席につくと同時に先生を見て席に座り終えたみんなを見て、静かに扉が開きます

 

 

「あ、は、はい!?」

 

 

扉を開け現れたのはボサボサの黒く長い髪、一昔前のメガネ?をつけた男子が入ってきました

 

 

「き、今日学院に転入しました…タカヤ・アキツキです…」

 

 

彼をみた瞬間ある光景が私の脳裏に浮かびました

 

 

―………、俺は無力だ…斬ることでしか人を救えない…―

 

 

―それは違う!守ったじゃないか………、………―

 

 

―貴方は、私達、いえ民達を………から救ってくれた―

 

―そうです…戒…士様が居られなかったら守れなかった…―

 

 

 

三人の王の言葉からは彼に感謝と尊敬、友情感じ彼は涙を心の中で流していた…

 

「?(い、今のは一体…)」

 

 

「…アキツキはストラトスの隣の席だ…」

 

先生に言われ彼、タカヤ・アキツキはそのまま私の隣の席につくと教材を出し確認している

 

 

(…彼が夢に出てきた人物とは違います…それよりも私にはやる事があります)

 

それは列強の王達を総て倒しベルカの天地に覇を成すこと

 

 

その為には

 

 

(…強くならないと…弱い拳では誰の事も守れない…)

 

 

やがて授業を終えた私は何時ものようにロッカーに服を預け夜の街へとむかう

 

誰にも負けないくらい強くなるために……

 

夕暮れ、空から朱色が黒へ染まり街に明かりが付き人々は帰路を急ぐなか、大きな紙袋を両手に抱えた少年が歩いている

 

「はあ、何とか学院に転入出来たよ…キリク」

 

『初日にしちゃ上出来だ…んでリームには連絡忘れるなよ…』

 

 

「うん」

 

 

『…なあタカヤ、魔戒騎士をやめるって意思は変わらないのか?』

 

 

これから必要になる生活雑貨を買い終え寮へ向かいながら問われた。いつ現れるかわからない《彼奴ら》を斬る為、ただ其だけの為に費やされる日々の生活に嫌気がさした…

 

 

「キリク、僕は魔戒騎士じゃない…」

 

『…じゃあ何で魔戒剣斧を持っているんだ?…』

 

 

…確かに……家を出る時に置いていけば良かった

 

でも僕は魔戒剣斧に選ばれてしまった…捨てても必ず戻ってくる

 

 

「…用は使わなければいいだけだよ、キリク」

 

『そういう問題か……タカヤ!彼奴らの気配でぃ!場所は近えぞぉ!!』

 

彼奴ら…嘘だと耳を疑った、遥か昔に滅んだ彼奴らの王とその僕

しもべ

 

 

あの人から耳にタコが出来るほど聴かされた昔話…

 

三人の王と共に戦った名も無き魔戒騎士の話………

 

お伽噺って信じていた僕には疑わしかった

 

 

だけど『彼奴ら』って聞いた瞬間、無意識的に僕はその場に荷物を残しコートを翻し駆け出す

 

 

走る、風を纏ったかのように街中を駆け抜け着いた、街灯もなく人気のない夜の闇が支配する公園。ここに彼奴ら…ホラーがいる

 

 

「きゃあああ!」

 

 

 

悲鳴が聞こえた方へ走ると僕の目に三人の人影が目に入りうち一つを見た

 

 

異形…人の邪心、陰我宿りしオブジェをゲートにし人間に憑依する『魔獣ホラー』の姿をみた瞬間、地面を蹴り二人の間に入り守るように立ちはだかった

 

「あ、貴方は…アキツキさん?」

 

なぜ僕の名前をと思うが今は二人を逃がさないともし戦って返り血を浴びたら…

 

「逃げて…その人を連れて早く!」

 

「は、はい!」

 

碧銀の長い髪の女性が体を震わせもう一人の赤髪の女性に肩を貸し離れるのを見届け、僕は魔戒剣斧をコートから取り出し黒地に幅広の鞘から抜き水平に構える

 

 

『気を付けろい…奴はシャドウ…植物を使った攻撃が得意でぃ』

 

 

キリクの言葉にうなずいた時、シャドウは口から無数の牙を飛ばし回りの植物に突き刺さる…すると植物から種子が弾丸のように飛んでくる

 

「はあっ!せい、せい、はあっ!!」

 

とっさに魔戒剣斧を魔戒斧形態に変え切り払い、あるいは切り落とす

 

弾丸の雨の勢いが弱まった隙を見逃さずシャドウを魔戒剣に切り替え間合いを積め袈裟斬りにする

 

【―――――――――!】

 

声に表すのも難しい叫びをあげ倒れ、その隙を見逃さず魔戒剣斧を頭上に構え円を描いた

 

 

円が砕けその中心から光が降り僕の体に纏われ現れたのは…

 

 

金属の下地…鋼色が目立ち西洋の意匠を持ち、顔は狼を模した造形の鎧を纏った姿

 

 

纏うものに絶大な攻撃力と防御力を与えるソウルメタル製の鎧を纏いし騎士

 

その名は―

 

 

―白煌騎士煌牙

オウガ

 

魔界で99.9秒の魔導刻が刻まれるのを感じながら僕は変化した魔戒剣斧『煌牙』を魔戒斧に切り替え威嚇しながらこちらを見るホラーへ剣先を正眼に構える

 

『…お前の陰我…僕が断ち斬る…』

 

 

 

剣を構え呟くタカヤとその姿を見て体を震わす群青色の魔獣ホラー…遥かな時を超えベルカ緒王時代に突如顕れた十三体のホラーとその王を追い、次元の壁を超え顕れ三人の王と協力し封印した古の魔戒騎士…『守りし者』が姿を現した瞬間だった

 

 

―――――――――

――――――

 

 

……私は夢を見ているのでしょうか?

 

 

今朝、転入してきたタカヤ・アキツキさんが目の前で群青色の魔獣【ホラー】と互角に剣で逆袈裟から構え打ち出された無数の弾丸?の雨を柄の長い斧を回転させながら切り払っていきます

 

 

「…ハアッ!」

 

 

弾丸の雨?がやむと地面を蹴り木と木の幹を足場に蹴り間合いを詰め袈裟斬りに切り上げたタカヤ・アキツキさんは剣をまっすぐ頭上に構え真円を描いて中心がくだけた次の瞬間、光が包み込み晴れると驚きを隠せませんでした

 

夢で見た名も無き鋼色の鎧を纏った魔戒騎士が剣を携え立っていたのだから……

 

『…お前の陰我…僕が断ち斬る……』

 

弾き飛ばされるよう跳躍し間合いを詰めると共に繰り出される太刀筋の煌めきと美しさの中にある違和感

 

……僅かな彼自身の迷いを……

 

 

―数分前―

 

 

「…ストライクアーツ有段者…ノーヴェ・ナカジマさんとお見受けします」

 

街灯の下にいる女性、ノーヴェ・ナカジマさんに静かに見下し私は質問をする

 

「貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」

 

 

「質問するならバイザー外して名を名乗れ」

 

「失礼しました」

 

バイザーを外し素顔を晒し訪ねます

 

 

 

「カイザーアーツ正統ハイディ・E・Sイングヴァルト…覇王と名乗らせて頂いてます」

 

そう名乗り地に降り立ち彼女に王達…聖王オリヴィエの複製体、冥府の炎王イクスヴェリアの所在を伺うも…

 

「…知らねえな」

 

「聖王のクローンだの冥王陛下だの何て連中と、知り合いになった覚えはねぇ、あたしが知ってんのは…一生懸命生きてるだけの普通の子供達だ」

 

彼女達を守る、強い意思を秘めた目で見据えられ聞くのは無理と判断し拳を構えます

 

 

「あなたの拳と私の拳… いったいどちらが強いのかです」

 

私自身の強さがどこまで通用するかを…互いに構え防護服と武装をお願いしたのですが

 

 

「ハッ!馬鹿馬鹿しい」

 

 

言葉と同時に先制を仕掛けられましたが予想した通りの攻撃、軽く受け流し互いに距離をおく

 

 

「ジェットエッジ!」

 

 

私が只者でない事に気づきノーヴェさんはバリアジャケットを装備し構えます

 

 

「ありがとうございます」

 

「強さを知りたいって正気かよ?」

 

 

「正気です、そして今よりももっと強くなりたい」

 

 

もはや言葉を交わさず互いに構え拳を蹴りを交え突撃と同時に跳躍空いたボディに体重を乗せた一撃を叩き込み距離を離す

 

「列強の王達を全て倒しベルカの天地に覇を成すこと、それが私の成すべき事です」

 

 

「寝惚けた事抜かしてんじゃねェよッ!」

 

拳を繰り出す私の拳を弾くと同時に蹴りを打ち込みます、でも手を添え受け流しながら

 

 

「昔の王様なんざみんな死んでる!生き残りや末裔達だってみんな普通に生きてんだ!!」

 

 

「弱い王なら…この手でほふるまで」

 

 

そう言った時彼女の気配が変わりました

 

「この…バカッたれが!!」

 

 

叫ぶと同時にエアライナーを展開しその上を走り抜け迫ってきたその時

 

 

『―――――――――!』

夢に出てきた魔獣ホラーが闇の中から私達の前に現れたのは

 

 

「な、なんだコイツ!」

 

 

その異様な存在感、それに怯まずノーヴェさんは私から群青色の魔獣【ホラー】に拳を奮うも素早い動きに翻弄され遂に

 

「うあああ!」

 

ホラーの一撃を受けエアライナーから叩き落とされるノーヴェさんを地面に墜ちる寸前で受け止め振り返ると群青色の魔獣ホラーが私達を体当たりし弾き飛ばされ余りの痛みに悲鳴をあげた時でした

 

強い風が辺りを舞い、一迅の風と共に黒鉄色のコートを纏い長く整えられた黒髪の少年、今朝転入してきた転入生タカヤ・アキツキが守るように剣?を構えた姿

 

「あ、貴方はアキツキさん?」

 

「お、お前…!?」

 

「…逃げて…その人を連れて早く!」

 

「は、はい!」

 

 

今朝見た彼とは違う空気を感じつつノーヴェさんを連れその場から離れました

 

何故、僕は剣を…魔戒剣斧【煌牙】(オウガ)を構え鎧を召喚したんだ

 

もう剣を振るいたくなかった

 

普通の人並みの生活を送ろうと誓ったのに

 

《タカヤ!迷ってる暇は無え》

 

踏み込みと同時に跳躍し魔戒斧で群青色の固い体を袈裟斬りと同時に柄の部分で腹を突き空に打ち上げる

 

柄を右へ軽く回すと金属音と共に魔戒剣に切り替え、無防備状態のその体を柄撃ち、袈裟、逆袈裟を組み合わせ切り裂いていく度、血が辺りに舞う

 

『―――――――――!』

 

《タカヤ!時間が無えさっさと極めろ!!》

…地に落ちフラフラと立ち上がるホラーを見据え、装着時間残りが三十秒を切ったのを感じた僕はある構えをとる

 

コレは先祖から代々伝わる技…友であった王の一人から伝授され昇華させたモノ

 

 

足先から練り上げた力と魔力を己の剣と一体化し全ての動きをのせる必殺の剣

足元の地面が乾いた音と共にひび割れホラーが襲いかかると同時に跳躍し体を宙で捻りながらホラーを剣で横凪ぎで切り裂いた!

 

 

『ハアアア!!』

 

 

互いに交差しすり抜け地面を抉りながら止まり振り返る…ホラーの身体が斬られた部分から光が罅のように広がっていく

 

 

『ハオイ・タナワ・サナラアタマカナヤ…(ア、アルジヨ!覇王、魔戒騎士ノ血筋ハ絶エテハナカッタ……ガアアアア!?)』

 

雄叫びを上げ消滅するホラーを見届け鎧を返還し僕は考える…

 

……の話だと三人の王と戦った魔獣の王とその僕

しもべ

は物、陰我宿りしオブジェに憑依し人を喰らうと聞いている

 

だけど…さっきのホラーが叫んだ『覇王』ってあの二人の内の一人なんだろうか…

 

僕は何故剣を振るったんだ…

 

只、剣を振いホラーを斬るだけの訓練漬けの毎日、心が乾いていく日々からキリクと一緒に家から逃げたしたのに…

 

 

…もう帰ろう考えるのはやめにして寮に……

 

 

「待て!」

 

 

声が響く。振り替えるとさっきの女性がもう一人を抱え立っていた

 

 

「…アキツキさん、貴方は魔戒騎士なのですか…それに……カイザーアーツを何故貴方は…うう…」

 

 

「おい!大丈夫か!?…待てお前ェは何者なんだ?」

 

 

「……今日見たことは忘れた方がいい…其れが貴女達のためだから……じゃあ」

 

「おい!まだ話は!!」

 

 

質問の途中気絶した彼女を赤髪の女性に抱き抱えられたのを見てそう言い残すとコートを翻すと呼び止められるも走り去る

 

だけどあることに気づいた

 

それは……

 

 

「買い物やり直さなきゃ…」

 

『…タカヤよ、気にするのはそれなんかい?』

 

 

キリクの呆れた声を聞きながら寮へと向かい走る

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「入寮初日から門限破りとはいい度胸だねタカヤ・アキツキ」

 

 

「あ、あの!これはその…」

 

「さて説教といこうか…」

 

 

……門限が過ぎたせいで寮長ジャビさんからこっぴどく怒られた…

 

 

それから一時間後ようやく説教が終わりあてがわれた部屋の鍵を開け近くにあったコートをハンガーに掛けるとそのままベッドに倒れ込む、シャワーは明日浴びようと考えながら眠りについた

 

 

僕は知らなかった、この時出逢った碧銀の髪の女性の正体がクラスメイトで隣の席の人アインハルト・ストラトス…覇王イングヴァルトの正統な子孫だと言うことに気付かなかった

 

 

第一話 邂逅

 

 

 

 

 




キリク
『ホラーを倒すも二人の前から去ったタカヤ…見ての通り訳ありの家出少年(?)って奴だ……そういやお前ら人間は運命って奴を信じるか?信じる信じないはそいつの自由だがこうも偶然が重なると運命って奴を信じたくなるぜ…次回、運命(一)…二人目の王との出会い!!』


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第二話 運命(改)

―もう行くのか……―

 

石造りの廊下を歩く黒鉄色のコートを纏う青年の背中へ王が呼び掛ける

 

足を止めた彼は振り返り王の顔を見て喋りました

 

―ああ、……したとは言え破られる可能性は捨てきれない、俺は騎士の血と技そして………を伝えその時に備える…イクス、ヴィヴィ、リッドにはお前から……―

 

 

―…………!何処にいかれるのですか!!……

 

 

―酷いです…黙って行かれるなんて……騎士殿…―

 

 

別れを告げ去ろうとする彼の前に二人の王が現れ詰めよりました

 

それを見た彼は二人の頭に優しく手を置き

 

 

―……ヴィヴィ、イクス……ア…これが永久の別れではない…何故かは解らないがいつかまた会える…俺の先にいる者に、そう思うのだ……―

 

そういい頭を優しく撫でる彼からは寂しさを感じとった時

 

背中から鳴き声が聞こえ手を離し優しく両手に抱きかかえたのは元気良く泣く赤ん坊でした

 

 

―……よ、この人達は俺の友であり、お前の……―

 

 

 

「う…んん…また違う夢ですか……!?」

 

 

「よう、やっと起きたか」

 

目を覚し起き上がった私を赤髪の女性がノーヴェ・ナカジマさんが横になり読みかけの本を置き穏やかな顔で見ていました

 

 

 

第二話 運命

 

 

 

 

同時刻、中等科学生寮《タカヤ・アキツキ自室》

 

 

「…キリク、コレどうしょうか」

 

 

『…浄化しに行くしかないだろ』

 

 

魔戒剣斧【煌牙】を手に握り目を凝らしみると黒みかがったオーラが邪気が見える

「……浄化封印できる場所ってアソコしかないよね…」

 

『聖王教会本部……だな』

以前、………に聞いた話だと聖王教会の最深部にある口を大きく開けた狼を型どったオブジェの口に剣を入れないとホラーの封印が出来ないと聞いた

 

 

正直彼処には行きたくない……

 

何故なら、二年前に……と用事で教会に行った時、門前でいきなり女の子に双剣で背後から切りつけられ僕は咄嗟に近くに転がってた棒で防いだ

 

 

『……嘘、防いじゃったよこの子…』

 

 

『シャンテ~貴女はなんて事をするんですか!………様、す、すいませんこの子にはきつく言って……』

 

 

『だって~強いやつのオーラ出しまくりだったから、遂…』

 

 

『ついじゃありません!シスターシャンテ!!』

 

 

あの後、僕は気にしていないと言うのに関わらず保護者?の女性は何度も謝ってきた

 

『……大丈夫でぃ二年も経ちゃあのお転婆娘も落ち着いてるだろうがよ』

 

 

「そうかな……キリク『魔界道』使えるかな…」

 

 

『…今からだったら行き帰り使えるぜ』

 

 

魔界道…魔戒騎士にしか使えない道、便利そうに見えて実は使いづらい

 

だけど迷わず使うことに決め今日学院を休むことを連絡してコートをきた僕は鏡に眼鏡…魔導身具キリクを掲げる

 

空間に切れ目が入り人が通れる道が開く

 

『行くぞ、タカヤ』

 

 

「…そうだね」

 

 

そう言い中へと入ると同時に背後の入り口がしまり蝋燭に魔導火が灯された石造りの廊下を歩きながら考える

 

 

何故僕は魔戒道を使い剣を浄化しに行くんだ

 

…魔戒騎士をやめたはず…

普通の生活を送ろうとしたのに何故あの二人を守りホラーを斬った?

 

もう嫌だった筈なのに、何故剣を振るったんだ僕は!

『……着いたぞタカヤ…』

 

キリクに声をかけられ考えるのをやめた僕の目の前には教会本部に近い森が広がり風が穏やかに流れ葉っぱが音を立て揺れる

 

昔、父さんとあの人とよく遊びに来た場所だった

 

『タカヤ、フードを被れそれと【煌牙】は隠しておけよ』

 

フードを被った僕はそのまま森を抜け教会本部に続く道へでてしばらく歩くと石造りの立派な門の前に来た

(…同じ事は二度もあると言うけど…そんなことないよね)

 

 

そう思いながら門を潜ったとき風を切る音が耳に入りとっさに上体を反らしかわすけど、二度、三度刃が迫ってくる

 

 

「うわ!」

 

一度あることは二度ある…斬撃をかわした僕の目に入ったのは

 

双剣を降り下ろした修道服姿の少女

 

 

少し驚きの表情を浮かべるも直ぐ様、次の攻撃を仕掛ける

 

分厚い刃を紙一重で交わしステップを踏みかわしていく、人気がないとはいえこのまま煌牙を使うとこの子が怪我をする。そう判断した僕はもう一人の相棒をおこす

 

 

「カーン、バインディングシールド展開…」

 

 

『承知!』

 

 

インテリジェンスデバイス【カーン】起動と同時に少女の回りにバインディングシールドが展開され身動きが止まる

 

「え、う、嘘!?」

 

「……チェックメイトかな?」

動きが止まりもがく少女に近くにあった棒を突き付けそう言うと観念したみたいだ

 

「……あ~あ、今度こそ勝てると思ったのに…相変わらず強いね、タカヤ」

 

 

「……僕は強くなんかないさ……シャンテ」

 

そう、僕は強くないんだ…

 

「ところで今日はどうしたの?」

 

 

僕と石造りの道を歩きながらシャンテが聞いてきた

 

…話していいのだろうか、多分信じてくれない……

逸れにこの子を巻き込んじゃいけないんだ

 

 

「ったら……ねぇったら!タカヤ!!」

 

考え込む僕にしびれを切らしたシャンテがグイッと顔を近寄せ覗き込む

 

 

「う、うわ、シ、シャンテ近いから……其れに」

 

「其れに?」

 

 

ささやかだけど柔らかい双丘が当たってるから…て言えない

 

その時

 

「シャンテ!何処にいるんですか!シスターシャンテ!!」

 

遠くから声が聞こえてくる、この声ってシャッハさんだよね

 

「やっば、ごめんタカヤあたし逃げないと!?またね」

 

そう言い背を向け風のようにその場から走り去るシャンテを見送り再び歩き出した

 

『ふ~相変わらずだな、あのお転婆娘は』

 

『そうだな、キリク…若、今日はどうなされたのですか?わざわざ聖王教会にまで足を運ばれたのは?』

 

 

 

…カーンは僕が魔法を使える事が解った日に父さんが作ってくれた腕時計型デバイスで、少し固い口調が目立つけど僕にとって大切な友達なんだ

 

 

「…今日は『浄化』に来たんだ…カーン」

 

 

『!若、まさか甦ったと言うのですかホラーとその王が?』

 

 

「……うん、間違いなくホラーだ伝承にあった通りの姿だった……」

 

 

伝承によると昨日斬ったホラーを除き後十一体、そして王を含め十二体もいる……だけど僕は

 

『ならば使命を…』

 

 

「……カーン、僕は剣を振るわない…僕は魔戒騎士はやめたんだ…」

 

 

『ならば何故浄化に赴いたのです!若は魔戒騎士を目指していたのではないのですか!!』

 

 

「……僕は普通の生活を…人間らしい生活を送りたいんだ…カーン強制スリープモード」

 

 

『若!』

 

カーンを強制スリープモードにし目的の場所、浄化の間に辿り着く

 

ひんやりとした石造りの空間には口から白金色の炎を燃え上がらせる龍の彫像、その反対側に僕の身長ぐらいある高さの石に狼の頭部が彫刻された石板

 

コートから煌牙を取り出し大きく口を開いた狼の彫刻の口に剣を金属が擦れる音を響かせながら差し込む

 

狼の目が光り同時に剣から邪気が抜けホラーが魔界へと封印され目から光が消えたのを見て引き抜くと汚れた気が消えソウルメタルの輝きが甦る

 

『おし、浄化と封印送還終わったぜ…タカヤ、ホラーの気配でぃ!』

 

同じ事は二度と起こる…

僕は其れを聞くや否や走り出す

 

教会本部の中を風のように走りキリクが誘導する場所へひたすら走りある一室の前に辿り着き迷わずドアを蹴破る

 

 

「あ、貴方はタカヤ様!?何故ここに?!」

 

『―――――――――!』

短く揃え一人の少女を抱え守るように戦う女性、数年振りあうシスターシャッハを見た僕は迷わずホラーの前に立ちはだかる

 

 

「…シャッハ、早く逃げて!その子を連れて早く!!」

 

 

「は、はい…タカヤ様、ご武運を」

 

一礼するとその場から去るシャッハと少女が居なくなったのを確認するとカーンを再び起動させる

 

 

『若!今日という…今はそれ所ではありませんね…結界を発動します!』

 

 

言葉と同時に結界を貼るカーンに感謝しつつ僕は煌牙をホラーに向け構える

 

 

『ナジ、マキイクスバホコヒニル?メエホウヲハモルチムカ!(ナゼ魔戒騎士ガココニイル?冥王ヲ守ルタメカ!)』

 

 

冥王?誰のことだ…まさかあの女の子が?

 

だけど今はホラーを倒さなきゃ…何故僕はそう思うんだ

 

魔戒騎士の生き方を捨てたはず、それなのに僕の体の奥からナニかが剣を握りホラーを斬れと突き動かす

 

《タカヤ、今は集中しろい!》

 

その声に我に戻った僕はホラーと対峙、魔戒剣斧を抜き放ち左手に刃を添え構える

 

『――――――――!』

 

「ハアアアア!!」

 

 

 

烈帛の掛け声と獣の叫び声と同時に結界が展開された狭い室内を黒鉄色と群青色の影が交差した

 

 

 

/////////

 

 

////

 

 

 

 

“湾岸第六警防署”

 

 

 

アレから目を覚ました私はノーヴェさん、スバルさん、ティアナさんと共に警防署で今までの路上格闘…街頭試合をしないと約束しその手続きをしてる間考えてました

 

 

私を保護したノーヴェさんの姉、スバルさんが聖王と冥王の二人と仲がいい友人である事にも驚きました……

 

 

けど夢で見たホラーと魔戒騎士、そして昨日の夜タカヤ・アキツキさんがホラーと戦い鎧を纏い倒した事に……

 

 

「よう」

 

 

「ひやっ!!」

 

 

「スキだらけだぜ覇王様」

 

そこには少し悪戯っ子みたいな笑顔で缶ジュースを持ち少ししゃがんで立ってました

 

 

「もうすぐ解放だと思うけど、学校はどーする今日は休むか?」

 

「…行けるのなら行きます」

 

「真面目で結構」

 

 

その後しばらく話して見ると知り合いに古代ベルカに詳しい方々を知っていて手伝おうと言ってくれましたが

 

 

「聖王達に手を出すな……ですか?」

 

 

「違ェよ、あ、いや違わなくはねーけど……」

 

 

「ガチで立ち会ったからなんとなくわかるんだ…おまえさ…格闘技がすきだろう?」

 

ノーヴェさんの問いは的を得ていました…好きとか嫌いとか考えたことは今までありませんでした

 

 

「覇王流は……私の存在理由の全てですから」

 

其れを聞き少し悲しそうな顔をしていましたが直ぐに元の顔に戻り、それから色々と話をしていく内に徐々に打ち解けていくの感じていた時

 

「……少し聞いていいか?」

 

まるでコレからが本題であると真面目な顔をして真っ直ぐに私の目を見て戸惑いつつ聞いてきました……

 

 

 

「…昨日のアレ…あいつ…アキツキってのを魔戒騎士って呼んでたよな…何者なんだ?」

 

…私は…彼の事を…魔戒騎士であろうタカヤ・アキツキと闇の魔獣ホラーの事を話すべきかを迷いました

……

 

 

 

 

 

同時刻“聖王教会”同施設

 

 

狭い室内にソウルメタルの音が響き渡らせながら逆袈裟に剣斧を構える

 

『油断するねぃ、奴はジェミニ、虚像と実像を使い分け幸せに満ちた……特に夢を見る子供を惑わし食らうホラーだ!』

 

夢を……子供を……喰らうホラー…其の言葉を聞いた瞬間剣斧を強く握りしめる

 

 

無言で壁と壁を蹴り跳躍、と同時に体を捻りジェミニに袈裟斬りを仕掛け胴を剣斧で薙ぎ払う

 

でも横凪ぎに切り払うも妙な手応え…まるで霞を切るかのように霧散し消えるジェミニ

 

 

『キシャアアアアア!』

 

 

背後に鋭い気配を感じ咄嗟に魔戒斧に切り替え盾がわりにし防御する、鈍い衝撃音とソウルメタルから発する振動音、火花が散る音が辺りに木霊し響く

 

 

「はあああ!」

 

魔戒斧を軸に身体を捻り回し蹴りをジェミニの腹に見舞い壁に吹き飛ばした

 

 

『―――――――――――――!!』

 

 

 

『タカヤ、熱くなるじゃねぇ!怒りは剣を鈍らせるぞ!!』

 

 

…何をいってるんだ、キリク、僕は…熱くなってなんかいない

 

 

―タカヤ、どんな理由があっても『夢』だけは奪うことだけは絶対に許しちゃいけないと想うんだ…―

 

 

僕は…熱くなんかなって…ない!!

 

 

壁に打ち付けられふらつくジェミニは悪足掻きと言わんばかりに無数の虚像を生み出し迫ってくる

 

 

『―――――――――――――!!』

 

 

僕は迷わず魔戒剣斧を空に掲げ円を描き鎧を召喚する

 

西洋の特徴と牙を剥いた狼を型どりし仮面の意匠をを持つ鎧【煌牙の鎧】を纏う

 

魔導刻が刻まれるのを肌で感じつつ変化し大型化した魔戒剣斧煌牙を構え同時に横薙ぎに切り払う!

 

 

『ヤ、ヤサクヌルググンヌイヲヒリクキヌチ(マ、マサカワガウミダシタゲンエイヲキリサクトハ)』

 

魔導力を込めた斬撃に産み出した虚像を全て切り裂かれジェミニのみが取り残される、しかし負けじと口から緑色の液体を僕に向け吐き出す

 

 

それを魔戒斧に切り替え跳躍と同時に切り払い徐々に間合いを詰め迫る僕にジェミニも負けじと腕を異形の大剣に変え魔戒剣に切り替えた煌牙と激しく斬り合うたびに火花が散る

 

 

 

『カ・ハマ・ナ…アカナラハサタイナユカ・ナヤアナ・ハタカナヤハタカナ!(ナ、ナゼダ…モハヤ冥王ヲシルモノモナクタダネムリツヅケルダケノ、夢ヲミルダケノガキナンゾ、クッテモカマワンダロウ!)』

 

 

『違う!』

 

切り結び、ソウルメタルの音が部屋全体に響き渡る中、僕は叫んだ

 

 

『例え、冥お…あの子が眠り続ける事しかできなくても…いつか誰かと再会できる願いを……夢を奪う権利は……お前には無いんだ!』

 

烈帛の気合いを込め大剣ごと押しきり、ジェミニを部屋の外に向け吹き飛ばした

 

『―――――――――――――――?!』

 

 

同時に僕も外へ飛び出し落下する砕け散乱するガラスと共に落下しながら魔戒剣の柄を回し乾いた音と共に魔戒斧へ変え大きく上段に構え迫る

 

 

『ハアアアアアアア!』

 

 

落下のスピードを利用し体を捻り無防備状態でもがくジェミニを頭から唐竹割りの応用で硬い外皮を力任せに切り裂く

 

『カナタ…ハナカラヤナサハナカアナ…ヤナカ…タヒアアアアアアア!(ナ、ナゼダアア?魔戒…騎士…マタワレラノ邪魔ヲ…ガアアアアアア!)』

 

 

魔戒斧に真っ二つにされ魔導文字を吹き出しながらジェミニはその言葉と断末魔をあげ爆散、やがてチリと変わり風に流れ去った

 

 

其れを見届けると徐々に地面が近づきのを見た僕は着地と同時に鎧を返還し背後に気配を感じ振り返る

 

 

「お見事でした、タカヤ様…いえ白煌(びゃくおう)騎士【煌牙】(オウガ)様」

 

「…シャッハ、僕は魔戒騎士はもう……」

 

《…そういうこったシャッハ嬢ちゃん…タカヤは魔戒騎士を辞めちまっ…ん?…シャッハ嬢ちゃん、そのお嬢ちゃんはまさかイクスヴェリアか!?》

「キリク、この子を知ってるの?」

 

《知っているも何も、イクスヴェリアはホラーの王を倒すために共に戦った王の一人だ、共に過ごしたあの日々の事は昨日の事のように思えるぜぃ……》

 

ソウルメタルを軋ませ懐かしそうに喋り続けるキリク…だけどこのまま話続けるのはまずいと考えカーンに結界を解くように頼むと別な部屋へシャッハと女の子…イクスヴェリア?を連れていきベッドに寝かせる

 

 

「……シャッハ、さっきの話、キリクが言った事は事実なのかな?」

 

「…はい、このお方は冥府の炎王イクスヴェリア様ご本人です…」

 

 

シャッハが言うには二年前、イクスヴェリアを利用しょうとした『マリアージュ事件』が起こり、一度目を覚ましたのだが再び眠りについた彼女を此所、聖王教会本部に保護と護衛していると聞いた。

 

 

『タカヤ、ホラー避けの護符と教会本部全体に結界を張るから、俺をイクスヴェリアの手の上に置いてくれ』

 

 

僕はキリクを外し手に置くと、再びイクスヴェリアの顔を見る

 

…… 冥府の炎王イクスヴェリアって、もっとゴッツイ女の人だと思っていたんだけど…

 

 

…実際はこんなに小さい女の子だったなんて…

 

 

「…伝承やお伽噺って当てにならないんだね……」

 

 

「タカヤ様?」

 

 

「な、何でもないよ…また剣を浄化しないといけないな…」

 

 

キリク特製のホラー避けの護符と結界を教会本部全体に展開し終えると、僕は再び煌牙の浄化を終え帰ろうと門からを出ようとした時だ……

 

「タカヤ!覚悟~!!」

 

二度目があるって事は、三度目ってのもあるんだね…はああ…………

 

 

僕は再びシャンテの双剣の攻撃をかわす……だけど何かおかしい

 

 

まるで起死回生の一撃を狙っているみたいだ、シャンテのバトルスタイルは双剣と足の速さが特徴だ

 

 

「……双輪剣舞!」

 

「うわ!?」

 

 

考えながら戦うと何時もこうだ……に言われていたのをすっかり忘れていた僕は紙一重でターンを無数に繰り返しながらかわしきった、次の瞬間

 

「かかったね、タカヤ!」

 

双剣を捨ていきなり跳躍し踵落としを仕掛けてきた

 

 

(これなら受け止められる!)

 

そう思っていた僕は後悔した

 

何故ならシャンテは上から落下するのにたいし、僕は見上げる形で防御しょうとしている

シャンテは修道服を着ている…つまり今現在スカートは広がってて、そこから見えるのは当然…下着、真っ白な下着がタカヤの目にモロに入った次の瞬間、

 

「ブウウウウウウウウウ!!」

 

 

噴水の様に鼻血を盛大に吹き、出し尽くすとまるで糸が切れたようにタカヤは倒れてしまった

 

 

「タ、タカヤ?ねえったら!?ど、どうしたの!?」

 

 

「シャンテ!貴女は、何てはしたないことをするんですか!!」

 

 

(は、鼻血が止まらないよ……だ、誰か助・け・て……)

 

 

二人の声を聞きながら心の中で助けを求めながら僕はそのまま意識を手放した

 

 

第二話 運命

 

 

 

 

 

 




キリク
『……タカヤ、少しは免疫つけろい…こういうとこはユウキそっくりだぜ…聖王教会から魔界道を使い寮へ戻るが違う場所に出てしまったタカヤ…なんだあの嬢ちゃん?オリヴィエに似てるな?次回、聖王!三人目の王との出会い!!』


次回は幕間はさんでの投稿になります



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幕間 歴史

古代ベルカ緒王時代

 

それは天下統一を目指した諸国の王による戦いの歴史

 

 

だが同時に多くの謎を秘めている時代でもある

 

 

 

近年、興味深い文献と絵画がベルカ自治領、聖王教会本部の古い倉庫から見つかった

 

 

文献には聖王、覇王、冥王が一度だけ互いに手を取りナニかと戦ったとの記述があった

 

 

 

 

信じられるだろうか?

 

 

 

 

 

もしこれが事実なら歴史研究家が指摘する空白の数年間に三人の王が手を取りナニかと戦っていた事になる…

 

 

 

『三人……王…闇……生ま……し……魔…を討伐……騎士…共に……討つ……………煌……剣を…炎……騎士………数多……砕け……鎧……………輝い……剣……(所々が破損が激しく古代ベルカ語解釈が難解の為ある少女の協力で調査は現在も進められている)』

 

 

 

 

上記の文献を裏付けるかのように三人の王と黒鉄色の外套?を纏い剣?を携えた人物が一同に会した絵画も同時に発見されている

 

 

 

これを見た歴史研究家の一人の少女は文献に度々でる『騎士』とはこの人物ではないかと推測している

 

 

 

だが三人の王と騎士はナニと戦い、何故手を取り合ったのか?

 

 

三人の王と騎士との関係等の謎が未だに残っている

 

いつの日にか明らかにされるだろう

 

 

 

 

無人世界カルナージ

 

 

 

アルピーノ家

 

 

同書庫

 

 

「ふう~流石に解釈一つでこうも違うなんて…」

 

 

椅子に座る少女の机の上には聖王教会から依頼された絵画と文献の解読調査に一区切りつけ大きく背を伸ばしながら考える

 

 

 

 

(…今日解読出来たのは騎士がオーガ?って名前だけ…フフフこれは私に対する挑戦とみたわ!面白くなりそう♪)

 

「ふふ…うふふ、ふはははははは♪♪」

 

ダンッ!

 

 

紫色の髪を耳の辺り黒いリボンでとめた少女

 

 

ルーテシア・アルピーノは机の上に足を乗せ資料が舞いちる中、下着が見えてるのも構わずに高笑いするのだった

 

 

 

 

Stヒルデ魔法学院

 

同中等科寮

 

タカヤ・アキツキ部屋

 

 

ゾクッ?

 

 

『どうしたんでぃ風邪か?』

 

 

「な、何でもないよキリク…少し寒気がしただけだから…」

 

 

筋トレを終えシャワーを浴びて体が冷えたと考えたタカヤはキリクを台座に置くとそのままベッドに入り目を閉じ眠りについた

 

このとき感じた寒気が近いうち現実になるとも知らずに………

 

 

幕間 歴史 了

 

 

浄化の聖域

 

 

聖王教会本部の最深部にある魔戒剣の浄化、魔導火の補充施設

 

原典とは違い神官は居らず幾重にも展開した結界に守られた此所に入れるのは魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師のみしか入れない

 

 

歴代《オウガ》の継承者はここでホラーを斬った剣斧の浄化と封印、魔導火の補充等をする

 

 



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第三話 聖王(改)

「…ねえキリク、此所って何処?」

 

 

『……どうやら魔戒道から出るタイミングを間違えた見たいでぃ』

 

 

アレ?から回復した僕は、ひたすら謝るシャッハと頭に大きなタンコブをつけたシャンテに見送られ魔戒道を使いの寮の自室に戻ったはず…

 

 

なのに目の前に広がっていたのは、クラナガン中央市街地だった…

 

魔戒道は、時間、月の満ち欠け等の影響を受けやすい、どうやらタイミングを間違えたみたいだ

 

 

『……まあ、歩いて帰れない距離じゃない…今日は学院を休みにしたんだ…あそこで休憩してから戻ろうぜ』

 

そう言われ僕は喫茶店に歩を進める…見ると女性客が意外に多い、

 

正直言ってこんなに人がいる場所に来たのは初めてだった

 

 

近くに空いてたテーブルに座りメニューを見ていた……

 

 

(誰かに見られている…)

 

 

見られている、自然に気配を感じた方に目を向けると…少し離れた場所に複数の女性が座っててそのうちの一人を見て驚いた

 

 

(昨日、ホラーに襲われてた女性だよね…)

 

 

視線に気づいた女性は席を立ち近付き、そのまま無言で隣に座った

 

 

「あ、あの」

 

 

「…タカヤ・アキツキ…St・ヒルデ魔法学院、中等科一年生…でいいんだな」

 

 

「え?なんで僕の名前を!?」

 

「…昨日、アタシといた子がお前をアキツキって言ってた…少し話をしないか?」

 

「……僕に何を聞きたいんですか…あな」

 

 

言おうとしたら女性の言葉に遮られた

 

 

「……ノーヴェ、アタシはノーヴェ・ナカジマだ…聞きてぇ事は昨日のアレ?と…魔戒騎士に関してだ」

 

まっすぐ僕を見るノーヴェ・ナカジマさんの金色に輝く瞳からは真剣さを感じ迷う。魔戒騎士、ホラーに関する事を関係ないノーヴェナカジマさんに話していいのだろうか

 

 

…駄目に決まっている、だけど魔戒騎士を捨てた僕には……考えていた時だった

 

 

「ノーヴェ!ここにいたんだ…その人は?」

 

ノーヴェさんに声をかけ近付いてきた少女、僕と同じ学院通う子みたいだ…

 

「えっと…はじめまして!高町ヴィヴィオです!」

 

「…あ、タカヤ・アキツキです……」

 

笑顔で挨拶と自己紹介され無意識に挨拶してしまった…

 

その子の顔と、目を……紅と翠の瞳をみて綺麗だなと思った時

 

何かが僕の頬を伝う…

 

 

「あ、あれ…何で」

 

 

僕は知らないうちに泣いていた…

 

悲しみから来る涙ではなく、まるで久しぶりにあった友達に会った……そういう感じの涙だった

 

第三話 聖王

 

 

「お、おい?どうしたアキツキ!?」

 

 

突然、涙を流したコイツ…『タカヤ・アキツキ』が、とても昨夜の怪物を圧倒的な力で倒した奴と同一だとは思えねぇ

 

 

アインハルトが話した通りならば、古代ベルカの王様がいた時代に昨夜のアレ?を倒すために次元の壁を超えやって来た騎士、魔戒騎士っていう奴の子孫のはずだ……

 

 

「あ、あの私なにか気にさわる事をしましたか?」

 

「い、いえ…僕にもわからないんです…だけど、ぐす…」

 

……本当に同一人物なのか!? 今の格好をみる限り本人に間違いねぇ……はずだ

 

 

「ぐす……」

 

 

「…一つだけ聞かせてくれないか、お前は…」

 

 

「失礼します………!ノーヴェさん?それにアキツキさんどうしてあなたがここに?」

 

アタシがアキツキに聞こうとした時、声が聞こえ振り返る

 

 

今日ヴィヴィオに会わせようとした人物、アインハルト・ストラトスがアキツキを見て驚いてる

 

 

「ノーヴェさん、これはいったい…」

 

 

「アタシにも解らねぇ…ヴィヴィオに会ってからあんな感じなんだ……」

 

 

頭を少しかきながら話すノーヴェさんの視線の先には、涙を流すアキツキさんと女の子、ノーヴェさんが会わせてくれると約束してれたヴィヴィオさんだということ気づいたときでした

 

 

―逃げろ……お前たちじゃホラーには勝てない…―

 

 

―逃げません!民達を守るのは私の務めです!!―

 

 

―僕もだ、王として…いや人として守りたいんだ!なんと言おうと僕は……、共に戦う!―

 

 

―……好きにしろ…―

 

僕と……ィエがホラーと戦い喰われようとした民を守ろうとした時だ、

 

黒鉄色の外套を纏い彼は颯爽と現れた…僕と二人の王、黒のエレミアを結びつけ、ホラーから人々を守る『魔戒騎士』との二度目の出会いだった

 

 

「…い、今のは」

 

 

再び覇王の記憶を垣間見た私は二人に近づいていき、アキツキさんを見る…涙を拭おうとしたとき眼鏡が私の足元に落ちてしまう

 

 

『痛!…すまないが俺を拾ってくれ(…年には似合わない水縞ヒモパンはいてるお嬢ちゃんだな)お嬢ちゃん…』

 

 

なにかすごく失礼な事を言われた気がします…

 

 

取り敢えず彼?…待って眼鏡が今喋りませんでしたか?

 

 

拾ってよく見ると細かな彫刻が施され耳にかける部分には龍を模しています…

それにかなりの年季が入っていると思いました

 

『ありがとうな、嬢ちゃん』

 

 

声と同時に龍の彫刻の口?が軋みながら動きました

 

…これはデバイスなのでしょうか?…

 

 

「ぐす、キリクを拾ってくれてありがとう…えとストラトスさん」

 

 

涙を拭き終わった彼を、その顔をみて驚きました

 

「あ、あのなにかついてるかな?」

 

何故なら彼の目、瞳の色が虹彩異色だったからです

私は少し迷いましたが意を決しその瞳について聞こうとした時…

 

 

「あ~時間があまりねェから、取り敢えずだアインハルト、ヴィヴィオ行こうぜ…アキツキも来いいいな!」

 

ノーヴェさんは逃げ出そうとするアキツキさんの腕を掴み歩き出しました

 

 

「あ、ええ?ちょっと僕はまだ…」

 

 

その言葉を無視し引きずるノーヴェさんを呆然と見ていた私たちでしたが、時間が無いことを思いだしヴィヴィオさんに自己紹介をしてもらいながら他の皆さんと区民センターへ歩き出しました

 

この時私は気づきませんでした

 

まさか向かった先で彼『タカヤ・アキツキ』と手合わせすることになるとは夢にも思いませんでした

 

 

第三話 聖王 了

 

 




キリク
『赤髪の女、ノーヴェに引きずられ向かったのは中央第四区にあるストライクアーツ練習場、どうやら紐パン嬢ちゃんとオリヴィエ似の嬢ちゃんが手合わせするみたいだ…ん、タカヤと手合わせしたい?…次回、演武!騎士と覇王の演武!!』


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第四話 演武(改)

「…ぐす」

 

 

お互い自己紹介をした直後でした、目の前で泣き出した年上で同じ学院に通うタカヤ・アキツキさんを見て少しだけ驚いています

 

アキツキ…何故か、なのはママの名字『高町』と響きが似てて、其れに他人とは思えない感じが、まるで昔から知っている…そんな感じが私の胸のうちに沸き上がっていました

 

第四話 演武

 

私は今、ノーヴェさんに紹介された女の子…高町ヴィヴィオさんと歩きながらお話を、自己紹介をしながら見ている

 

…小さな手、脆そうな体…だけどこの紅と翠の鮮やかな瞳…

 

私の記憶にある間違うはずもない聖王女の証…

 

 

「あのアインハルトさん?」

 

「ああ、失礼しました」

 

「あ、いえ…あ、あの少しいいですか」

 

「なんでしょうか?」

 

 

ヴィヴィオさんはノーヴェさんに引きずられ必死に抵抗するアキツキさんを見てから

 

「アインハルトさんは、アキツキさんのお友達ですか?」

 

 

「…アキツキさんはクラスメイトです、あのヴィヴィオさんどうかしたのですか?」

 

 

「あ、あの…今日はじめて会ったのに何故か昔からアキツキさんを知っている感じがして…おかしいですよね」

 

 

…ヴィヴィオさんもなにかをアキツキさんから感じているみたいです

 

 

もしかして私と同じ…かと考えましたがそれを振り払い、しばらく歩くと区民センターに入ると手合わせをするためヴィヴィオさんと別れ着替え終えロッカーを閉めコートに入りました

 

―――――――

――――

 

ノーヴェさんに引きずられ区民センターに入りコートの脇に立ち軽く柔軟をする高町さんを見ながら辺りを見る

 

……昔僕が鍛練した場所に比べ、狭いと感じながらも今日手合わせをする二人…高町さんとストラトスさんが来るの待っているとノーヴェさんが近づいてきた

 

 

「…アキツキ」

 

 

「ノーヴェさん?…僕は」

 

 

「…無理に話さなくていい…ただこれだけ聞かせてくれ…お前迷っているだろ」

迷っている…その言葉を聞き体を震わせる、何故気づいたんだ

 

 

「…あたしはこれでもコーチの真似事もしてっからよ、才能や気持ちを見る目だけはあるつもりなんだ…」

 

少し照れながらも僕を見ながらを話を続けた

 

 

「…昨夜のアレ?と戦っていたときの動き、いや太刀筋に迷いが見えた…あたしの知り合いに剣を使うのがいるからわかるんだ」

 

 

そう言われた僕の脳裏にある言葉が浮ぶ

 

―魔戒剣斧オウガは使い手の心次第では時間さえも切り裂くのよ、迷いが在ると太刀筋は鈍り……―

 

鍛練場で魔戒剣斧オウガを構える僕に黒く長い髪を揺らしながら魔導筆を向け淡々と説明しながら……は爆符を数枚とりだし投げ其れを切り払う

 

…これ以上思い出したくはなかった、家を魔戒騎士を捨てた僕には関係ないはずなのに…あの人、…の言葉が頭に響く

 

 

「…お前が何故迷っているかは解らねェ…もしあたしに出来ることがあれば協力してやる」

 

 

真っ直ぐ僕の眼鏡?越しの瞳を覗くノーヴェさん…でも、ちょっと顔が近いんです…其れに胸が見えて

 

「あ~いいところですいませんッス…二人が着たよ」

 

「だ、誰がいい感じだって!?ウェンディ!!」

 

 

「…姉としては、流石にショタコンはいただけないな…」

 

 

「チンク姉までそんな目であたしを見るのか!?」

 

 

いきなり現れた二人、会話の内容からすると、どうやらノーヴェさんの姉と妹?みたいだ

 

 

なんか勘違いしてるみたいだし、ノーヴェさんの顔が髪と同じぐらい赤くなってる、試合もそろそろ始まる頃だと感じた僕は二人に声をかけた

 

「あ、あのう…ノーヴェさん困らせない方がいいですよ…お姉さんに…其れに妹さん?」

 

 

「ば、馬鹿なにいってるんだ」

 

「わ、私が、この姉が…妹…妹、妹、妹……………」

 

 

妹さん?がいきなり顔をうつむかせ近くの椅子に座るしかも体育座りして呟く、そろに座っている辺りが暗くなっているのは気のせい?

 

背後から肩を軽く叩かれ振り向いた僕に

 

 

「アキツキ…お前が悪い、無事に生き延びろよ…」

 

なんか哀れむように僕を見るノーヴェさん、何かしたの僕は?

 

 

「じゃあ、あのアインハルトさん!よろしくお願いします」

 

「…はい」

 

やがて二人の準備が終わり、ノーヴェさんがコートの中央に出てくる

 

「んじゃスパーリング四分1ラウンド」

 

 

ストラトスさんと高町さんはコート中央近くに来てかまえる、今回は射砲撃と拘束禁止の格闘のみのと告げ、そして掲げた腕が声と共に降り下ろされた

 

「レディ、ゴー!」

 

 

ノーヴェさんの掛け声と同時に、軽快なステップをしながら高町さんが仕掛けた

 

姿勢を低くし懐に飛び込むと右拳を顔面へと繰り出す

 

しかしそれをストラトスさんは読み最小限の動きをで拳を弾く

 

回りの歓声が響くなか僕は気づいた

 

(どうしたんだろ、ストラトスさん…あんまり楽しそうに見えない)

 

 

ストラトスさんの表情はまるで違和感を感じつつ手合わせをしている

 

―――――――

――――――

 

高町さんは真っ直ぐに…ひたすら打ち込んできます……

 

繰り出される拳、蹴りの連撃をかわし、または受け流しながら私は考えていました

 

まっすぐな技、きっとまっすぐな心、だけどこの子は……

 

連撃を繰り出し僅かな間隙を縫い構えその体に踏み込みと同時に掌啼を打ち込む

 

(私が戦うべき王ではない…)

 

私の放った掌手が胴体へ決まりヴィヴィオさんは空を舞う、それを見た他の方々が動こうとした瞬間

 

黒鉄色の何かかがマット迄一メートルの所で現れフワリと受け止める姿

 

 

「…高町さん大丈夫?」

 

黒鉄色のコートを纏った少年…タカヤ・アキツキさんがヴィヴィオさんをお姫様だっこ状態で立っていました

 

 

――――――

――――

 

危なかった、後少しで床に高町さんが落ちると判断した次の瞬間、床を蹴り跳躍し抱き抱えるように受け止めた僕にオットーさん、ディードさん(待っている間に自己紹介した)は驚いている

 

 

高町さんの意識が在ることを確認して安心するけど…何故か身体を震えさせている、やっぱりどこか怪我を?

 

 

いきなり顔をあげ凄くいい笑顔な高町さん、なんかすごく嬉しそう顔に対して、ストラトスさんは何か落胆した顔になり踵を返した

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

 

「あ、あのっ!!」

 

 

いきなり高町さんが僕から飛び降りるストラトスさんの背中に言葉を掛ける

 

 

「すいません、わたし何か失礼を………?」

 

 

「いいえ」

 

「じゃ、じゃあ…あのわたし…弱すぎました?」

 

 

少し間が空け、高町さんの問いに答えた

 

 

「いえ、趣味と遊びの範囲内でしたら充分すぎるほどに」

 

その言葉を聞いた瞬間、高町さんの顔が悲しみに染まる…

 

 

「申し訳ありません、私の身勝手です」

 

 

「あのっ!すみません…今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!」

 

 

追いすがるように言葉を投げかける高町さん…その言葉に足を止め振り返り意外な言葉を口に出した

 

「…アキツキさん…私と手合わせいいでしょうか」

 

「…何で僕と?」

 

 

…何故僕と手合わせしたいんだと考える僕にストラトスさんはある構えを取る

 

「何故その構えを!?…」

 

 

腕を剣に見立て添えた拳を向ける型に僕には見覚えのありすぎる…魔戒騎士しか知らない筈の決闘を意味する構えを…何故ストラトスさんが知っているんだ?

 

 

「これの意味をわかりますね…アキツキさん」

 

 

…僕はやむ無くコートを脱ぐと高町さんに預けキリクを外す

 

 

「高町さん、後これも預かってくれるかな……どうしたの高町さん?」

 

 

「い、いえ何でもないです」

 

キリクを渡したときじっと僕の顔を観て慌てて離れて皆のいる席へといった

 

やはり僕の顔に何かついてるのかな?と考えながらストラトスさんと向かい合うと示し会わせたように構える

 

「……………」

 

 

「…………………」

 

 

お互いに動かない…いや動けない

 

 

一流同士の戦いでは先に動いた方が負けになる

 

 

しかし此所を借りていられる時間も余りない

 

 

僕は仕掛ける事を決め動く

 

素早く床を蹴り間合いを詰めフェイントを織り混ぜながら拳を撃ち込む

 

 

其れを無言で最小限ね動きで、拳を受け流され驚く

 

 

(…ひたたすら鍛練を重ね研鑽し無駄のない防御だ………くっ!)

 

 

間髪入れず放つ蹴り、拳を織り混ぜだ連撃を捌きながら考え気を引きしめる

 

でも…

 

 

―――――――

―――――

 

 

「す、すごい…」

 

わたしは目の前で凄まじい速さで拳と蹴りを撃ち込み、其れを受け流す二人…アインハルトさんとアキツキさんの動きを見て驚いています

 

アインハルトさんが蹴りを撃ち込みますが、其れをかわすと懐に踏み込み拳、または蹴り…其れを繰り返していました

 

無駄のない、俊敏さと獰猛さを秘めた美しい動きを見せるアキツキさん。けどその動きの中にわたしは迷いを感じてました

 

 

―何故僕は戦っているのだろう―

 

 

それしか言い表せないモノを感じていると

 

 

「ヴィヴィオも感じたか……アインハルトもだがアキツキの迷いはかなり深刻だ…ッ!そろそろ決めるみたいだ」

 

 

ノーヴェの言葉を聞きアキツキさんとアインハルトさんに視線を移すと二人が技を放つべく構えていました

 

 

―――――――

―――――

 

強い…まさか彼、アキツキさんがわたしと撃ち合えるとは思ってもいませんでした

 

 

フェイントを織り混ぜ繰り出した攻撃を軽々とかわすその姿は夢に出てきた魔戒騎士と重なるのを振り払い、体を沈め懐に入り下から上へと繰り出された鋭い拳を寸前で回避、微かに服を掠り何かが切れる音を耳にしながらすぐに構え直した私に対し彼の動きに迷いが濃く出て来ていました

私達の戦いをみるヴィヴィオさんとノーヴェさんも其れを感じているみたいです

 

 

(これ以上は長引かせると時間もありますので…これで決めさせていただきます)

 

 

互いに距離を置き構えた私を見てアキツキさんも構え…

 

「…もう止めよう…僕よりもストラトスさんは向き合わなきゃいけない人がいるはずです」

 

 

「え?向き合わなきゃいけない人…ヴィヴィオさんのことですか?」

 

 

コクリとうなずきアキツキさんは話を続ける

 

 

「…高町さんは強くてそれに真っ直ぐだ…心も……僕よりもあなたの想いを受け止めてくれるはずです」

 

そういい終えると構えを解きコートから出ていこうとする

 

「ま、待ってください……アキツ…!?」

 

 

振り返り彼に追い縋り彼の前に回り込み立ちはだかる私は見てしまった

 

哀しみと苦悩に満ちた顔をみた私は何も言えません

 

 

その時なにかが断続的に破ける音が聞こえ何か肌寒さと共に舞い散っていく

 

「………………………」

 

 

何故かアキツキさんが石みたいに固まり、目が私の身体の一点に注がれ鼻から赤いものが垂れマットへ落ちていく……私の攻撃がヒットし…

 

 

「ブハアアア!?」

 

 

勢いよく鼻血を吹き出しやがてそのままマットへ倒れるアキツキさんに駆け寄ろうとした私は肌寒さを感じる見るとアンダーシャツが破け、更にブラとショーツまで破けてる…あの時の鋭い拳が服を破壊していた事に気付いた

 

 

「き、きゃあああ!!」

 

 

胸元をおさえ座り込んだ私の悲鳴が区民センター中に響き渡ったのでした

 

―――――――

―――――

 

 

「…落ち着いたかアインハルト?」

 

「はい………」

 

 

アレ?から少したった…服を着替えたアタシとアインハルト達は現在ロビーにいる

 

近くのソファーで横になりまだ気を失ってアキツキもいる

 

「アキツキさん、大丈夫でしょうか…」

 

「…まあ大丈夫だ……少し刺激が強すぎたみたいだ」

 

コイツ、アキツキは謎だらけだ…出身地もわからねぇし、其れにデバイス?キリクも妙に人間くさい

 

「ノーヴェさん。もう一度、ヴィヴィオさんと試合を組んでくれませんか」

 

 

「何でだ?」

 

 

「もう一度、今度は試合形式でヴィヴィオさんと拳を交えてみたいんです」

 

 

もう一度やりたい…そういいまっすぐな瞳でアタシを見て頼むアインハルトから強い意思を感じる…

 

さっきからチラチラ様子を伺うヴィヴィオをアタシは手招きした

 

「あ~そんじゃまあ…来週またやっか?今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ」

 

 

「ああそりゃいいッスね」

 

「二人の試合楽しみだ」

 

アタシの肩を抱きながらウェンディが乗ってくる…ディエチやリオ、コロナも二人の試合を見るのを楽しみにしてるみたいだ

 

 

「…わかりました、時間と場所はお任せします」

 

 

「ありがとうございます!」

 

「い、いえ…あ、後」

 

 

ヴィヴィオに礼を言われて戸惑いながら意外なことを言ってきた

 

 

「で、出来てればアキツキさんにも立会人になって欲しいんです…」

 

 

「別に構わねぇが…」

 

 

ソファーに目を向けると気がついたのかアキツキが此方を見ている…だけどなティッシュを詰めたままくるんじゃねぇ

 

 

無言の圧力に気づいたのかティッシュを捨てるとアタシ達の側まで歩いてきた、試合に立ち会ってほしい事を伝える

 

 

「…いいですよ…それとストラトスさんさっきはごめんなさい!」

 

 

深々と頭を下るその姿、その姿を見た皆の反応は様々だ

 

 

何せ、あの動きを見せられた後じゃ本当に同一人物なのかと疑いたくもなるしな

一週間後に再戦するのを決めた後、ヴィヴィオはチンク姉と共に帰っていくのを見送り

 

何も言わずに帰ろうとするアキツキの腕をガッチリと掴み其れに姉貴やティアナ、アインハルトが驚く

 

 

「あ、あのノーヴェさん?これは一体?」

 

 

「今から、アタシ達と飯食いにいくぞ…」

 

 

「え、ちょっと?」

 

一方的にそう言ったアタシは必死に抵抗するアキツキを引きずり店へと向かう

 

 

「ねぇ、ティア…ノーヴェがショタコンの道へ走ろうとしているよ!どうしょう!?」

 

 

「あ、アタシに聞かないでよ!……年下か自分好みに…」

 

何か失礼な事を抜かす二人を気にせずアインハルトと共に店へと歩いていく

 

 

誤解がないように言っておく……アタシはショタの気はないんだからな!!

 

 

第四話 演武 了

 




キリク
『一週間後に紐パン嬢ちゃんとオリヴィエ似の嬢ちゃんの再戦が決まる一方タカヤは俺にあるものを作るように頼んできた…こいつを作るのしんどいんだぜ……次回、再戦!日常の影に闇迫る!!』


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第五話 再戦(改)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.




―………すまない、……、…、俺は………を守れなかった…許してくれ…―

 

 

……雨が降りしきる中で私達の前で泣き崩れ、彼は普段の表情からは絶対に見せない悲しみを浮かべていました

 

 

―……殿、…は貴方の血を守りました…母として愛する者を守り抜いた…―

 

 

そう言う彼女の目にも涙が浮かぶ、その手には母を失い泣く赤ん坊が抱かれその手はすでにいない母を求めるように虚しく空を切るだけでした…………

 

 

「……また、夢ですか……アキツキさんと会ってからよくみます…」

 

 

起き上がり床に足をおろす…床の冷たい感触を感じながら制服に着替え学院へ向かうのでした

 

 

第五話 再戦

 

 

「…練習試合まで後三日だね…キリク聞いていいかな」

 

『なんでぃ、タカヤ』

 

 

「…十三体のホラーとその王について…この前封印したのが二体…王を含めると十二体はいる…何故あの二人を襲ったのか理由は解るかな?」

 

 

僕は絞り出すように声を出しキリクに聞いてみる…

前回、ストラトスさん(この前、食事した時あの時の居合わせた女性の正体がストラトスさんだとノーヴェさんに聞かされ、かなり驚いた)とイクスヴェリアさんの前に滅びた筈のホラーが現れ襲われたのには伝承にある『三人の王』、《黒のエレミア》と関係ある

 

 

そう思いキリクに聞き答えを待った

 

 

『其れを聞いてどうする?お前は魔戒騎士を辞めたんだろ……それに』

 

 

 

「…僕には関係ない…って言いたいんだね…だけどもしホラーが狙うとしたらストラトスさんとイクスヴェリアさんだ……」

 

『大丈夫だ…ホラー避けの護符に教会一帯に結界を張ってある……ホラーの王でない限りは破ることは困難でぃ』

 

ソウルメタルを軋ませ説明するキリクの言葉通りならば、イクスヴェリアさんは大丈夫みたいだけど

 

でもストラトスさんが何時又ホラーに襲われる可能性も高くなった、もし襲うなら………

 

 

「………キリク、あれまだ作れるかな?」

 

 

アレ…其れを聞いたキリクは黙り混みしばらくしてソウルメタルを軋ませながら口を開く

 

 

『…しかたねぇな…う、ウオエェェ…』

 

『キュリイイイ……』

 

 

台座に納められた龍を模し大きく開かれたキリクの口?から粘着質な音ともに銀色の光沢を放つミミズ状の塊を吐き出し落ち、しばらく机の上で動き回りやがて銀色に輝く指輪になった…

 

ソウルメタル製の指輪、これがイクスヴェリアにも渡した護符の正体だった

 

 

『これを産むの大変なんでぃ…後一個は作れるぜ~ぃどうする~?』

 

 

なんだか凄く疲れたという感じで聞いてくる…あんまり無理はしないで…

 

 

「…と、取り敢えずはいいよ…」

 

 

そう言いうと僕は制服に着替え学院へ向かう、ソウルメタル製の指輪をポケットにいれるの忘れずに

 

 

――――――――

――――――

 

中等科の校舎に向かいながら私は考えていました

三日前、アキツキさんが私と手合わせしたときに見せたあの表情

 

…自分がこの場所にいては、剣を振るってはいけない…なのに何故こうして戦っているんだ…まるで罪人、いえ迷いに満ちた顔

 

覇王の記憶にある魔戒騎士とは何かが違うと…まるで罪を……

 

「ストラトスさん?」

 

 

声を掛けられ振り返ると黒くて長い髪に眼鏡をかけたアキツキさんが立っていました

 

 

「…いきなりで悪いんだけどストラトスさん、左手を出して…」

 

 

その言葉に少し疑問を感じながらも左手を出すと、優しく手を握り何かを指に嵌めた感触がし見てみると左手薬指に銀色に輝く指輪がありました

 

 

……え、これってまさか、まさか!?

 

 

「ねえ見ました、転入生のアキツキさんがストラトスさんの指に指輪をはめてましたよ」

 

 

「最近では見られない事を平気な顔でやるなんて…大胆です」

 

 

「…俺達のアイドルに………あの転入生、マジで殺すうぅ!」

 

朝の爽やかな空気が一変し騒がしくなります、他の皆様は黄色い声をあげ…殺意の混じった余計なのも聞こえた気がします

 

 

「ア、アキツキさん!?こ、これはなんですか!?」

 

 

「…御守りみたいな物だから安心して…じゃあ先に行くから」

 

 

そう言い私の前から去り、その場には私と先程の行動を見て騒ぎ立てる生徒の方々しかいません

 

 

…ですが私の思考回路はショート寸前です…どうすれば良いのでしょうか!?

 

 

――――――――

――――――

 

 

「あ~あ、切りづらいなあ…ちゃんと処分しなきゃあ…君もそう思うだろ?」

 

 

「ううんうううんうう!?」

 

 

一人の男性、だいたい四十代から五十代ぐらいの黒いスーツ姿の男と猴ぐっわをされ床に転がされもがく少年が部屋にいる…

 

 

しかしナニかに床が濡れている…目を凝らすと赤黒い血だまりが床を染め血が落ちる音を響かせながら目の前で何かを切る男性。切っているのはかつて人だったモノを切り落とし袋に詰める

 

 

「フフフ、君も運が悪いね…まあ安心しなよ」

 

 

死体を切り刻んでいたもの、アンティークの鋏を手で弄びながらゆっくりと近づく

 

 

「うううんうう!うううんうう!!」

 

 

「なに?助けてほしい……仕方ないなあ……なあんてね!!」

 

 

言いきる前に男の手に握られた鋏が少年の心臓めがけ深々と突き刺し最後の力を振り絞り男の顔を彼?は見ていた

 

 

歪みきった笑顔…まるで人を殺すことに快楽を覚えた人間の顔を…少年は命つきるのを感じながら考えた

 

何故自分がこんな目に遭うのか……

 

 

ただ近所の子供に言葉の暴力と理不尽に殴り付ける行為を奮うこの男…リュウノスケ・ネイムに注意をしただけなのに

 

正しい事をした筈なのに…

…死にたくない…家には母さんが待ってて暖かいご飯を用意している、今日は母さんの誕生日なのに…まだ死にたくない

 

 

少年はそう願った時、声が聞こえてきた…

 

 

―ニキタイキ?…ヌルブヌルチクイヤクスロ…ヌムウヌニギイキヌウツアル…―

 

…生きられる、其れを聞いた少年は迷わず最後の力を振り絞り頷く…次の瞬間鋏から無数の魔導文字が溢れ少年の魂と肉体はホラーの贄となり目に魔界語が浮かんだ

 

 

「ああ楽しかった…子供にキツイいこと言って暴力してから絶望を与えて殺すのって最高だ…カッコいい大人って俺だよね………誰だ?」

 

 

少年を絶望を与えながら殺したリュウノスケは満足そうに笑顔になり去ろうとしたとき背後に気配を感じ振り向いた

 

「………あんたがカッコいい大人?……ならカッコいい大人の死に方を教えてあげるよ…」

 

 

胸に刺さった鋏を引き抜くと投げつけるが寸前でかわす……たが鈍い音が床へ響いた

 

「へ、ふへへ…俺の腕えぇぇ!?」

 

 

床に落ちていたのはさっき少年の命を絶った鋏を持っていた腕だった

 

鋏をかわした筈なのになぜと思いながら必死に逃げる

 

「………逃がさないよ…カッコいい大人さん…」

 

 

次の瞬間ナニかが風を切るような音が2つ聞こえ体が宙に浮く…いや両足が股関節から無くなっている

 

 

「いぎやああああ…俺の足があああああ!いでえよおおお」

 

 

「足ってこれかな……」

 

 

首だけを動かし見ると両足を華奢な手で弄びながらこちらに向かってくる少年を見てリュウノスケは思った

 

何故だ、俺は間違えたことはしていない…子供にキツいことが言え殺すことができるカッコいい大人になった筈だ

 

 

ガキなんざ放っておけばそこらにある雑草みたいに勝手に生まれくるが大人に歯向かうガキなんざ殺してしまえばいい

 

 

俺は今までだってそうして何人のガキをばらしてきた…殺されるとわかり死にたくないって懇願する顔は俺に女とやる以上の快楽を与え股間をいきり立たせた

 

 

だが今は俺がばらされようとしている

 

 

「た、頼む!い、命だけは!!たのむううう、このとおりだああああ」

 

 

「…不味いな…そんなこと言うんだカッコいい大人にしてはさ…ムイイイヤ…クンヌリチミイナアアアア!!!」

 

「あ、アガアアアアアアア………」

 

 

彼、リュウノスケ・ネイムが最後に感じた感覚…全身を鋏と鎖を模した異形に変えた少年に肉を切り刻まれ骨を砕かれ内蔵を引き抜かれながら踊り喰われる感覚だった

 

『 マズイ……ヤハリ聖王、覇王、冥王ノ血肉ヲ早クワナケレバ………コノ世界に我ラガ王ヲ迎エルタメ二!…』

 

骨すら残さず喰らい終え口をぬぐい…ホラー【キャンサー】は闇に溶けるようにその場から消えた

 

 

室内にはリュウノスケのいびつに歪んだ性欲により殺された子供たちの遺体しかなかった ―――――――――

――――――――

 

 

区民公園 AM06:08

 

早朝の誰もいない公園を走る二つの影と小さな影

 

一人はヴィヴィオ、もう一人はノーヴェ、小さな影は一見可愛らしいウサギのぬいぐるみの姿をしているがヴィヴィオ専用デバイス【セイグリットハート】がふわふわとついてくる

 

 

現在二人は今日行われる試合に向け…軽い早朝トレーニングをしている

 

 

「…アインハルトの事をちゃんと説明しなくて悪かった」

 

 

「ううん…ノーヴェにも何か考えがあったんでしょ」

走りながら顔を向けながらそう言い、少し走るのを速めた

 

確かにアインハルトは自分の血統、王…覇王イングヴァルトの記憶、王の後悔の記憶に囚われている

 

 

…ヴィヴィオに会わせれば何かが変わると思ったのは早かったかもしれない

 

前回はお互い不完全燃焼の結果で終わっちまったし……

 

今回組んだ試合でヴィヴィオの想いがアインハルトに伝わるのを期待をしているんだろうな

 

 

それにアイツ…タカヤも立会人として来ることになっている…

 

タカヤにもいい影響を…って何でタカヤの事を考えてるんだ!?

 

でも食事を終えタカヤが帰った後、姉貴が…

 

 

―ノーヴェ、恋愛に年齢は関係ないって言うけどさ……いくら可愛いからってタカヤくんを食べちゃダメだよ―

 

 

―な、何言ってんだ!?アタシはショタコンじゃない!!」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

ヴィヴィオの声で我に戻ったアタシを心配そうに見る

 

「だ、大丈夫だ…其よりも少し話がある」

 

走るのをやめ共に海が見える場所に向かい柵に腕をつく

 

 

「あいつさ、お前と同じなんだよ…旧ベルカ王家の子孫『覇王』イングヴァルトの純血統」

 

 

「……そうなんだ」

 

 

「あいつも色々迷ってるんだ、自分の血統とか王としての記憶とか」

 

 

「でもな救ってやってくれとかそーゆーんでもねーんだよ、まして聖王や覇王がどうこうとかじゃなくて…」

 

「わかるよ大丈夫」

 

 

柵から離れ足元にあった石を拾い水面に向け投げた水面を跳ねやがて水へ沈むのを見ながら言葉を続ける

 

 

「…でも、自分の生まれとか何百年も前の過去の事とか、どんな気持ちで過ごしてきたのかとか…伝えあうのって難しいから、思い切りぶつかってみるだけ」

 

再び石を取り投げると水面を跳ねるのを見届け、アタシの手に軽く拳を当ててくる

 

どうやらやる気は十分みたいだな

 

 

「それに仲良くなれたら教会の庭にも案内したいし」

 

 

「ああ、あそこか……いいかもな」

 

 

ノーヴェの手に軽い音をたてながら拳を当て考えていた…タカヤ・アキツキさんの事を……

 

 

私にあった直後、いきなり泣き出しアインハルトさんと互角…それ以上の鍛練を重ねたとしかいえない美しさと獰猛さを秘めた動きを見せた人…

 

 

そして眼鏡を外し渡した時に見てしまった

 

黒く長い髪越しで見た瞳、虹彩異色の瞳を……

 

 

「悪いなお前には迷惑かけてばっかりで」

 

 

「迷惑なんかじゃないよ!友達と信頼してくれるのも」

 

ノーヴェの声で思考の海から抜け、わたしは軽く構えながら手のひらに拳を当てる

 

「指導者としてわたしに期待してくれるのもどっちもすごく嬉しいもん…だから頑張る!」

 

 

わたしはそのまま拳を前に突きだし、其れを受け止めながら互いに笑みを浮かべしばらくしてわたし達は家に戻りました

 

 

わたしの想いがアインハルトさんに伝わるといいな

 

 

―――――――――

―――――――

 

 

アラル港湾埠頭 13:20

 

廃棄倉庫区画

 

試合開始時間 10分前

 

 

「あの~ストラトスさん?」

 

「………なんでしょうか……アキツキさん」

 

 

練習試合の場所に向かう僕たちは途中、スバルさん、ティアナさんと合流し向かっていた

 

だけどストラトスさんの様子がおかしい…それも三日前から

 

 

思い当たることはしてないと感じ聞いてみるんだけどさっきみたいな返ししかこない

 

「キリク…僕、ストラトスさんに何かしたかな?」

 

 

(『………タカヤ、お前気づいてないのか?……』)

 

大きくため息をつきながらそう言ったきり黙りこむキリク、 何故か顔を赤くしながらストラトスさんは僕の顔を見てくるし、やっぱり僕何かしたかな?

 

…そう考えてるうちに試合会場に着くと、高町さん達は既に来ており準備万端のようだ

 

 

「お待たせしました、アインハルト・ストラトス参りました」

 

 

「来ていただいてありがとうございます アインハルトさん」

 

 

ペコリと頭を下げる高町さん……やっぱり真っ直ぐな子だ

 

純粋にストラトスさんと向き合おうとしている

 

 

今日試合が行われる場所はノーヴェさんが救助隊の訓練でも使わせてもらってる場所、廃倉庫が多く多少壊しても問題がないつまりは思いっきり全力が出せるって事になる

 

「うん最初から全力で行きます……セイグリット・ハート・セット・アップ!」

 

高町さんの叫ぶと同時に光と共にバリアジャケットが装備され、ストラトスさんも拳を胸元にあて呟く……

 

「……武装形態」

 

 

光に包まれバリアジャケットを装備し終えた……だけど一瞬何かがかが見えた気がし鼻血が出そうになるのを必死に押さえ込む……

 

 

「大丈夫タカヤ君?具合でも悪い?」

 

 

スバルさんや口には出さないがウェズリーさん、ティルミさん、スバルさんの家族の皆に心配されるが大丈夫と手で制止し二人に目を向けると今回もノーヴェさんが審判を勤めるみたいだ

 

…だけど僕と目があった瞬間、おもいっきり睨まれた気がする…何故に?

 

「……今回も魔法はナシの格闘オンリー五分間一本勝負」

 

 

「アインハルトさんも大人モード!?」

 

 

ウェズリーさんの驚嘆の声を聞きながらノーヴェさんが腕をあげ……

 

 

「それじゃあ試合……開始ッ!!」

 

 

声が響くと同時に二人が構え試合が始まる…そうおもった時だった

 

 

『タカヤ、ホラーの気配がする……』

 

 

嘘だと思った……護符の力は間違いなく発動しているはず、其れなのにホラーが近くにいる

 

何故…その時僕の頭にある言葉が浮かんだ

 

 

…『三人の王』、『冥王』、『覇王』、『聖王』、に共通する王族の特徴………虹彩異色の瞳…

 

虹彩異色の瞳!まさか…高町さんが『聖王』なのか?だとしたらホラーの狙いは……

 

 

『ノーヴェさん、ホラーが近くにいます…』

 

 

『!…本当かタカヤ!』

 

 

平静を装いながらキリクに正確な位置を探らせながら高町さんとストラトスさんを見る…

 

 

お互いに構え臨戦態勢を取り仕掛ける機をうかがっている

 

 

『…ホラーは高町さんを狙っています…試合が終わるまで僕がホラーから貴女達を守ります!』

 

 

『ま、待てタカヤ?……』

 

 

念話を切ると僕はホラーが居るであろう廃倉庫へと向かいながらカーンを起動させる

 

 

「カーン!セットアップ!!」

 

 

光に包まれ現れたのは黒鉄色のコートを纏い黒く長い髪を若衆髷にした青年…数年後の僕の姿になる

 

 

「キリク、ホラーの居場所は!!」

 

 

『真っ直ぐ行って突き当たりの倉庫にホラーがいやがる!!』

 

 

風を纏ったかのように迷路のよう立ち並ぶ廃倉庫を走り抜けると倉庫の扉が見える、僕は迷わず勢いを利用して扉を蹴破る、同時に倉庫内に飛び込むと辺りを伺う…背後に気配を感じ振り向くと風を切りなにかが飛んでくる

 

咄嗟に鞘に納めた魔戒剣斧オウガを楯にし防ぎながらホラーの姿を確認する…

 

 

《油断するな!野郎はホラー『キャンサー』遥か昔の殺人鬼が愛用した鋏で命を落とした子供の魂と血肉をゲートにして現れやがったんでぃ》

 

 

全身を鎖と鋏…無数の人骨を組み合わせたキャンサーを見た僕は煌牙を魔戒斧に切り替え構える

 

 

湿った空気と埃が充満する中、鞘から抜き放つたオウガから発するソウルメタルの振動音がこだまする倉庫内に対峙する僕とキャンサー

 

『――――――――――――!』

 

 

全身から鋏を浮き上がらせと叫ぶと同時に撃ち出し、風を切る音と同時に迫る無数の鋏、それを上段、下段様々な型で対処し数回切り払った時だった

 

 

―ク、クルシイヨ…―

 

その声を聞き思わず魔戒斧を振るう力が緩んだ

 

 

「ぐあ!?」

 

 

煌牙で捌ききれず鋏を腹部と腕に深く刺さり血が流れる…鋏を抜くと再び声が耳に入る

さつきの声はいったい?

 

 

『…野郎~依り代にした子供の魂を弄んでやがる!』

 

耳を疑った…つまりキャンサーはゲートにした子供の魂を今も弄んでるとことになる

 

―タ、タスケテ。ボクヲコノクルシミカラ……オネガイ…―

 

 

『…クヌグキハヒキヌイツヌギッタ!ヌギイハクヌッタヌラヒツハウヌネジヌヌダ、(…コノガキハイキタイトネガッタ…ネガイヲカナエタノダカラオレアトハノジユウダ!)』

 

 

其れを聞いた瞬間僕の中でなにかが弾けそうになるが…精神を冷静に戻す

 

『タカヤ!あの子の魂を救うには』

 

 

「…解ってる…」

 

 

跳躍と同時に素早く魔戒剣に切り替えキャンサーの身体を大きく構えた上段から袈裟斬りにする…固い外郭が切られたまらず雄叫びをあげ悶える

 

 

『――――――――――!』

 

―イタイヨハヤクタスケテ……………―

 

 

袈裟斬りから八双に構え突き縦切り、胴凪ぎ、逆袈裟斬りする度にソウルメタルから発する振動音と火花に混じり子供の魂の、苦痛に満ちた声が耳に入る…

 

 

苦し紛れにキャンサーは巨大な鋏を僕に降り下ろす其れを煌牙で受け止めた時脳裏にある光景が浮かぶ…

 

 

依り代になった子供の記憶…殺され命尽きる寸前迄の光景が鮮明に浮かぶ

 

 

―生きたい―

 

 

この子が死の直前に願った最後の言葉が響く

 

けどその願いはホラーに利用され血肉は喰われ、魂はいまだにキャンサーに弄ばれている

 

『タカヤ!』

 

 

キリクの声に我に戻る、眼前には無数の鋏が零距離から放たれる

 

当たる寸前に魔戒斧に切り替え長い柄を棒高跳びみたいに利用しその背後に飛び着地と同時に体重をのせた回し蹴りを背後から叩き込み吹き飛ばす

 

 

『―――――――――――――!』

 

 

―ハヤクボクヲタスケテ!―

 

 

吹き飛ばされ壁にぶっかり悶えるキャンサーを見据え、僕は無言で魔戒剣斧で頭上に素早く円を描く、同時に中心が砕け光が僕の体に纏われる

 

 

牙を剥いた狼の面に鋼色の西洋の甲冑を纏った騎士オウガの鎧を纏い蜻蛉の構えを取ると魔導刻99,9秒が刻まれるのを感じながら地面を蹴る、舗装された床が砕け中を舞い魔戒剣形態に切り替え素早く上段、下段、逆袈裟と同時に回転し袈裟斬りを加える中

 

―ボクノインガ……―

 

 

『…子供の魂を弄ぶお前の陰我!僕が断ち切る!!」

 

力を込めキャンサーをソウルメタルの火花を散らせながら斬り飛ばす、それと同時にライター…魔導火を取り出し魔戒剣斧に近付ける

 

乾いた音と同時に白く煌めく炎、魔導火が煌牙を覆い尽くしそのまま蜻蛉の構えをとる

 

 

『―――――――――!!』

 

 

よろめきながら立ち上がったキャンサーは無数の鋏を合体させ巨大な鋏にすると僕めがけ飛ばしてくる

 

 

凄まじい速度で鋏が迫る中、僕は瞳を閉じていた

 

『!ハアアッ!!』

 

カッと目を見開くと同時に蜻蛉の構えを解き上段に降り下ろすと同時に白く煌めく炎が巨大な鋏を切り裂き、更にキャンサーを真っ二つに貫通し半月状の白く煌めく炎が倉庫の屋根を破る寸前影が横切り白く煌めく炎と鋼色の影が合わさり激しく燃え上がり辺りを白く染めながら地面に降り立つ

 

遥か昔、魔戒騎士がソウルメタルの鎧を纏い戦い始めた頃、巨大な力を持つホラーの前に一人の魔戒騎士が苦戦していた時、突如《炎》が魔戒騎士の体に投げつけられた瞬間、今までにない力を得た騎士は炎を纏いし剣でを切り裂き見事封印し勝利した

 

 

炎を投げつけたのは『炎人』と呼ばれる人々…そのの異形の姿に忌み嫌われていたが苦戦する魔戒騎士に魔界の炎を投げつけ力を与えた……後に『炎人』は魔戒法師の祖となった

 

魔界の炎を纏った姿……これが『烈火炎装』の始まりだとも言われている

 

 

そして遥か次元を超えたこの世界…ミッドチルダに現れた、古の白煌騎士煌牙の身体に纏われた白く煌めく炎……鋼色の鎧を照らしながら激しく燃え盛る

 

 

『ノマエハヤヒリマキイクステオウヌチヒウギススンカ!!(オマエハヤハリマカイキシトオウノチヲウケツグ、シソンカ!!)』

 

 

攻撃手段を失うも叫び声をあげ身体を燃やしながら突っ込んでくるキャンサー…僕は魔戒剣を正眼に構え跳躍。同時に横に構え身体を捻り回転しながら加速、重さを乗せた魔戒剣で胴を大きく凪ぎ払いキャンサーの身体が白金の炎に焼かれ始める

 

 

『―――――――――――――(マ、マタシテモ、マカイキシニジャマサレルトハ………)』

 

横凪ぎの斬撃…抜き胴で切り払われると同時に白く煌めく炎に全てを焼き尽くされ断末魔をあげながら消滅するキャンサー…

 

 

―…ボクノタマシイヲタスケテクレテアリガトウ…―

 

 

『……ゴメン、助けてあげられなくて……!』

 

子供の魂から感謝の言葉を受ける…心が痛い、君の力に慣れなかった…涙が鎧の色違いの瞳越しに溢れてくる

 

光と共に鎧が魔界に送還され砕けた床に割れたガラス片が散らばる中に僕は一人たたずむ…

 

 

『タカヤ…残酷なようだがああする事であの子供の魂は救われた…』

 

 

「………早くノーヴェさん達の所に戻ろうキリク…」

 

涙を拭うとノーヴェさん達のいる場所へ、高町さんとストラトスさんの元へ急ぐ…しかし僕は肝心なことを忘れているのに気付かなかった

 

――――――――

―――――――

 

 

綺麗な構え…再び相対したヴィヴィオさんの構えを見てそう思いました

 

 

(油断も甘さもない、いい師匠や仲間に囲まれてこの子はきっと格闘技を楽しんでる)

 

 

潮騒の音が響くなかあることに気付いた

 

 

先程まで皆さんといたはずのアキツキさんの姿が見えない…

 

 

帰ったのかと頭に浮かびますがそれはないと思いました

 

 

食事会の後、私達の試合を見届けてください』と約束をしたから…流石にあの直後あってか目を逸らされながら頷いた彼を見て可愛いと思ったのは私だけでしょうか

 

 

けど今は集中をする…ゆっくりと構え私はヴィヴィオさんを見る…互いと向き合うために

 

――――――――

―――――――

 

 

肌に感じるほどの威圧感……

 

わたしはアインハルトさんと対峙し構えながらそう思います

 

 

…一体どれくらいどんな風に鍛えてきたんだろう、勝てるなんて思わない

 

 

だけど、だからこそ一撃ずつで伝えなきゃ

 

 

この間は「ごめんなさい」と…

 

 

わたしが構えると同時にアインハルトさんが走り込みと同時に仕掛けてくる

 

 

アインハルトさんの右ストレートを両腕を重ねガード、でも防御ごと弾かれる

 

 

その隙を見逃さずわずかに腰を沈め左、右へ拳を連打する……

 

 

それかわし上体を深く沈め右拳を構え

 

 

(わたしの全力、わたしの格闘戦技【ストライクアーツ】を!)

 

 

わたしの想いを込め胴体めがけ撃ち放つ!

 

 

 

――――――

―――――

 

重い…上体を沈め放たれた一撃を身体に受け思ったのはその言葉でした

 

 

後ずさりながらすぐさま体制を立て直す私に追いすがるかのように間合い詰めラッシュし其れをかわしながら反撃する

 

(この子は)

 

 

顔面への打撃を受けながらもその表情はひるんだ様子は見受けられない

 

それどころか隙を見計らい私の顔に一撃を入れる

 

 

「やった!?」

 

 

「…嫌、まだだよ…」

 

 

歓声が上がるなか、一人息を切らしながら声が聞こえ少し目を向けた

 

黒く長い髪を若衆髷に近い髪型、黒鉄色のコートを着て眼鏡をかけた青年が息を切らしながら皆さんの後ろに立っている

 

…まさかアキツキさんですか?

 

「はぁぁあっ!」

 

 

叫び声が聞こえ視線を戻すとヴィヴィオさんが地面を蹴り一気に間合いを詰め再び連打を仕掛けてくる

 

 

私は風をきり繰り出されたヴィヴィオさんの拳を捌きながら考えていた

 

この子はどうして

 

(……こんなに一生懸命に?)

 

 

崩れた体勢を利用し左手を支点にし放たれた蹴りをかわしながら、拳を当てながら…

 

 

(師匠が組んだ試合だから?友達が見てるから?)

 

 

私の中の疑問はさらに大きくなるばかりでした…

 

 

『向き合わなきゃいけない』

 

 

アキツキさんの言葉が頭をよぎる。そうでした私はヴィヴィオさんと『向き合う』ために拳を構えここにいるんでした

 

 

――――――――――

――――――――

 

 

 

何とか間に合った…あの後落ち着いたのはいいんだけど…道に迷い息を切らしながら何とか辿り着く事が出来た

 

 

鈍い音が響き、高町さんの鋭く重い拳がストラトスさんの顔面に入ったのを見た皆が歓声をあげるが

 

その目はまだ死んではいない

 

 

「…嫌、まだだよ」

 

その言葉に振り返る皆…何故かジイッと見ている

 

「あ、あの…貴方は?」

 

 

「今は試合を見ようか…そろそろ仕掛けるみたいだよティミルさん…」

 

 

僕の言葉を聞き皆は二人の試合に集中する…間違いない高町さんもストラトスさんも仕掛ける気だ

 

 

――――――――

―――――

 

アインハルトさんの拳を受け流しながら考えていた

 

わたしがストラトスアーツを始めた理由

 

(守りたい人がいる、小さなわたしに強さと勇気を教えてくれた…世界中の誰より幸せにしてくれた…強くなるって約束した)

 

 

だから……わたしは

 

「あああぁつ!!」

 

 

強くなるんだ…どこまでだって!!

 

踏み込みと同時にストラトスさんの身体にめがけ全力の拳を撃ち込み僅かに体勢が崩れる。決まった…そう思った次の瞬間

 

 

踏み込みと同時に私の懐に素早く潜り素早くステップ゚をし踏み込みと同時に打ち上げる

 

すごく重くて強い打撃に目の前が暗くなるのをこらえわたしは拳を振り上げる、でも僅かに顎かすったのを感じながら宙を舞う

 

 

「一本!…ってお前!?」

 

 

でも何かに抱き止められ軽い衝撃とノーヴェの声を聞いたのを最後に意識を手放してしまいました

 

 

――――――

―――――

 

 

「いたた、間一髪かな……」

 

 

瓦礫の中から高町さんを抱き抱えながら立ち上がる僕を不審そうに見るノーヴェさん…さらにディードさんにオットーさんも警戒している

 

 

「お前、誰だ?」

 

 

「…陛下を返して貰えませんか」

 

 

「今なら痛い目に遭わせませんから…」

 

 

ノーヴェさんもだけど、オットーさんとディードさんがすごく怖い…

 

 

『若、セットアップを解除しては?今の若を見た人はいないのです』

 

 

そ、そうだった!?早く解かないと二人に誤解されてしまう

 

 

「オットーさん、はい……」

 

 

高町さんをオットーさんに抱き抱えたまま手渡すと同時にセットアップを解くと皆がさらに驚いていた

 

 

「あ、アキツキさんも大人モード使えるんですか!?」

 

 

「ウェズリーさん、これって大人モードって言うんだ…カーンは知ってたの?」

 

 

《いえ、はじめてです若》

 

大人モードか…いい名前が決まったかも、其よりも今は高町さんの容態を見る

 

 

「ヴィヴィオ大丈夫か?」

 

ディードさんに膝枕されまだ気絶している高町さんを心配そうに見る皆

 

 

「怪我はないようです…大丈夫」

 

 

ディードさんはそう言うと僕の方に目をむける

 

 

「陛下を助けて頂いたのに、先ほどのご無礼をお許しくださいタカヤ様」

 

 

「…ディードさん、『様』はやめてください…アキツキでいいですから」

 

 

そう言うと少し残念そうな顔をするディードさん…様付けはあまり好きじゃないんだ(シャッハは例外)

 

 

「アインハルトが気をつけてくれたんだよね防護抜かないように」

 

 

「ありがとッス、アインハルト」

 

 

「「ありがとうございます」」

 

「ああ、いえ……」

 

 

ディエチさん、ウェンディさん、ウェズリーさん、ティミルさんたちにお礼を言われ困惑ぎみな顔のストラトスさんを見てて頬が緩む感じになる…けどホラー『キャンサー』に弄ばれた子供の魂の言葉が今でも心に響いている、子供の魂を救うためにホラーを斬った…魔戒騎士で在る事を捨て逃げたした筈なのに…

 

「……!?」

 

 

「あらら」

 

「す、すいません…あれ!?」

 

 

「ああ、いいのよ大丈夫」

 

急にふらつき倒れそうになるストラトスさんはティアナさんの胸に倒れこみ何とか体勢を維持しょうとするがうまくいかない

 

 

 

「ラストに一発カウンターがかすってたろ…時間差で効いてきたか」

 

 

「だ、大丈夫……大丈夫…です」

 

 

再びふらつくと今度はスバルさんに倒れこみ慌てる、無理しなくても良いのにと思ったときノーヴェさんから念話が飛んできた

 

 

 

『…タカヤ、二人の試合って言うか見たのは途中からだったな、どう思った?』

『はい、二人とも全力を出しきったいい戦いをしていました……拳を交えた事で少しは互いを理解できたんだと僕は思います……聞かないんですかホラーの…』

 

『…辛いなら言わなくていいタカヤ…これだけは言わせてくれ、あたし達を守ってくれてありがとう』

 

 

その言葉を聞いた瞬間涙が溢れそうになり皆を背にしキリクを外して目を押さえる

 

何とか涙をこらえ再び皆の方に振り返るとストラトスさんが断空拳についてノーヴェさんに説明していた

 

 

断空拳、僕の家に伝わる魔戒騎士の剣技にもこれがが応用されている…この世界に来た魔戒騎士が友で在る王から伝授され今に伝わり、完全に使いこなせたのは僕とあの人だけだ

 

 

「私はまだ拳での直打と打ち下ろしでしか撃てませんが」

 

 

「なるほどな…でヴィヴィオはどうだった?」

 

 

「彼女には謝らないといけません…先週は失礼な事を言ってしまいました…訂正しますと」

 

 

「そうしてやってくれきっと喜ぶ」

 

 

その言葉を聞きいい笑顔になる、ストラトスさんは高町さんの手を軽く握った

 

 

「はじめまして…ヴィヴィオさん、アインハルト・ストラトスです…」

 

 

「それ、起きてる時に言ってやれよ」

 

「………恥ずかしいので嫌です…」

 

 

改めて挨拶をするストラトスさん。だけどね起きてからいった方がいいと思うよ

 

「どこかゆっくり休める場所に運んであげましょう…あ、あの…アキツキさん、ありがとうございます」

 

 

「何で?」

 

 

高町さんを軽々と背負いながら僕に聞いてくる

 

 

「貴方の言葉がなかったら向き合うことができませんでした」

 

「僕は少しだけ背中を押しただけだよ…あ、れ……」

 

 

「タ、タカヤ!?」

 

急に目眩がし地面に倒れる寸前、ノーヴェさんに抱き抱えられ腕と腹部に痛みが走る、キャンサーーの鋏をかわしきれずに腹部と左腕に受けた傷から血が滑り溢れている

 

キャンサーは捕らえた人間を眠ったまま補食するために鋏に大量の麻酔液が仕込まれている…わずかな量でも1日から半日眠り続ける効果を持つ

 

 

先ほどコンテナにぶっかりそうになった高町さんをかばった際無理に動き傷口から体内に入った麻酔液が全身に回ってしまったんだと気づくももう遅かった

 

 

『…ノーヴェさん、お願いがあります…僕が倒れた理由を寝不足で倒れたって事にしてください』

 

『な、何バカいってるんだ!血が流れてるじゃなェか!?』

 

 

『大丈夫です…しばらく眠ったら治りますから…後は…よろ…し…く……』

 

何か柔らかいものに埋もれた感覚…すごく暖かくて優しい匂いに包まれたのを最後に眠りの底に沈んだ

 

 

―――――――

―――――

 

あたしは少しだけ困惑していた

 

 

あのホラーを圧倒的な力で倒すほどのタカヤが身体を預けるように倒れてきた、その腹部と腕から傷口からはおびただしいほどの血が流れてたけど、幸いコートに隠れているため皆の目には見えない事に少しだけ安心する

 

 

強いと思えばこんなにも弱々しい姿…其れを見てタカヤが人間だとあたしは思うし、身体を触るとしなやかで柔軟な筋肉、剣を振るう為だけに鍛えられたと感じる…それになんか抱き心地いい

 

 

「あのノーヴェさん?」

 

「うひゃああ!?」

 

 

柄にもなく声をあげてしまったあたしを見て姉貴やティアナ、チンク姉やウェンディ更にオットー、ディードまで面白いものを見たと暖かな目で見てる

 

 

「…ノーヴェさん、アキツキさんはまさかホ……」

 

 

『そのまさかだ…タカヤはアタシ達を守るために怪我をしちまった』

 

 

念話を飛ばしてきたアインハルトにそう答えながらアキツキを抱き抱え、二人並びながら歩いて行く

 

 

『…確か明日は学院休みだったよな?』

 

『ええ、そうですけど…』

 

『…今日はタカヤをあたしん家に泊める…怪我の治療もしないといけないからな』

 

 

『…わかりました…あ、あの、明日タカヤさんを迎えに来ていいでしょうか?』

 

『……そうしてもらえると助かる』

 

 

 

そう念話で話し、チンク姉達にタカヤをあたしん家に泊めると言ったらまた驚いた顔をなった

 

多分姉貴と同じことを考えてると思ったあたしはタカヤを抱き抱えたままヴィヴィオを背負ったアインハルトと共に姉貴達を残して先へと歩きだした

 

新暦79年春。アタシとヴィヴィオはアインハルト・ストラトスと魔戒騎士タカヤ・アキツキに出逢った……

 

 

この時、まだアタシ達は知らなかった、タカヤとは四年前から奇妙な縁で繋がっていた事に………

 

第五話 再戦 了

 




キリク
『二人の試合が始まろうとしたとき近くにホラーが現れた!タカヤ、油断するな…コイツなんてことをしやがるんだ!!次回、再戦(二)!…白金の炎、燃え上がる!!』


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第六話 親父(改)

―じゃあ行ってくるよ、メイ、タカヤ―

 

 

―ユウキ、どうかご無事に帰ってきて―

 

 

―うん。タカヤ、僕が帰ってくるまでいい子にして待ってるんだよ―

 

僕を抱き抱え肩車をしながら優しく語りかけてくる

 

 

―あと、僕が戻るまでの間、………の事を頼むよ帰ってきたら外のお話をたくさん聞かせてあげるから…じゃ行ってくる―

 

 

駄目だ、行っちゃ駄目だよ……

 

僕を肩から下ろし扉を開け背を向け出ていくその姿に声をかける

 

 

―うん、おとうさんいってらっしゃい―

 

 

 

違う!僕が言いたいのはこの言葉じゃない……けど声がでない…引き留めようにも足も動かない…

 

 

 

 

開かれた扉が閉まっていきおとうさんの姿が、背中が見えなくなっていく……

 

 

 

行っちゃ駄目だ!父さん…行っちゃ……

 

 

「…駄目ああああああ!……ハア…ハア…ゆ、夢?」

 

 

 

 

第六話 親父 (一)

 

 

「な、何でまたあの時の夢を……」

 

 

<起きたかタカヤあ>

 

 

キリクの声を聞きながら辺りを見回す…身体中に汗をびっしょりで気持ち悪い…涙をぬぐうと近くに置いてあったキリクを掛け辺りを見回す

 

僕の部屋じゃない?ここは一体

 

「どうしたタカヤ!?」

 

「ノ、ノーヴェさん?」

 

勢いよく開け放たれた扉から現れのは心配そうな目で見るノーヴェさんと

 

 

「お、目を覚ましたッスね」

 

「目を覚ましたの?」

 

 

ウェンディさん、ディエチさんが部屋に入ってきてすぐにノーヴェさんの横に立つ

 

「あの、なぜ僕はここに?」

 

 

「!……覚えてないのかタカヤ…」

 

 

呆れながらもノーヴェさんから語られたのは、あの後倒れてしまった僕をノーヴェさんが自分の家、家族の住む家に連れて戻り傷の手当てをしてくれた

 

 

「そうだったんですか…ありがとうございますノーヴェさん」

 

 

「べ、別に構わねぇよ…其より腹減ってるだろ?今から夕食だから食っていけよ…」

 

 

そう言うと背を向けノーヴェさんは部屋から出ていく

 

「じゃ、タカヤん行くッスよ」

 

 

「早くいかないとなくなっちゃうよ」

 

 

二人に促され部屋を出た僕はリビングへと向かう、テーブルには大きな鍋が二つと取り皿が用意されている。適当に近くの椅子に座った僕に向けられた視線

 

 

「……………………」

 

視線を感じた方を向くと男の人が椅子に座り僕をじっと見ている

 

 

「あ、あの……」

 

 

「…お前ェさんがタカヤ・アキツキか…俺はゲンヤ・ナカジマだ、まあなんだゆっくりしていってくれ」

 

 

「は、はい…はじめましてゲンヤさん」

 

 

そう言ったきり黙るゲンヤさんは何故か僕の顔をジイッと見ている、何かしたのかな?

 

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

いただきます…僕に取っては数年ぶりに聞いた言葉だ

 

まだ父さんが生きていた頃にあの人と食卓を囲み笑いながら料理を食べた日々が目に浮かんだ

 

 

「タカヤん、おかわりはいいッスか?」

 

 

「え、ああ、じゃお願いします」

 

 

ウェンディさんに器を手渡し、やがて戻ってきた器を受け取り具を口に運ぶ

 

味もだけど材料も良いのを使ってる、さらに具の味が染みだし濃厚な出汁が食欲を誘い僕は無心に味を楽しむ

 

「ねえタカヤくん、ノーヴェとは何処で知り合ったの?」

 

「え、あの、それは…」

 

 

「姉も知りたいな」

 

不味い、何処でノーヴェさんと知り合ったかを言ったらウェンディさん達にホラーの存在を知られてしまう

 

「…二週間前の夜、買い物帰りに歩いていた公園で知り合いました……」

 

 

ホラーに襲われていた点を除いて伝えるとウェンディさん達は納得した顔になる、間違えてはないはずだ…多分?

 

 

「…ノーヴェさんって姉妹が多いんですね…」

 

 

「まあな、タカヤは居ないのか?」

 

「…………」

 

 

ノーヴェさんは不味いことを聞いたと言う顔になった

 

「すまない、嫌なこと聞いちまって…」

 

 

「いえ、あまり気にしないで下さい…ん?これ美味しいですね」

 

 

暗い空気をわざとらしく祓うように具を口に運んだ。実は家族はあの人《母さん》がいる、家出してから随分経つけど……

やがて夕食を終えた僕は食器を流しまで持っていき片付けを手伝う、流石に怪我の治療と食事までごちそうになったお礼も込めてだ

 

 

「タカヤ君、手伝わなくてもいいんだよ」

 

 

「いえ、ギンガさん達に食事をご馳走してもらったのに何もしないわけいかないですから」

 

 

話をしながらスポンジに軽く洗剤をつけ食器を洗っていく水音と食器の擦れる音が二人がいる台所に響く

 

 

其れを見たディエチ、ノーヴェ、ウェンディ、ゲンヤは……

 

「タカヤって洗い物する姿…なんか似合うね」

 

 

「タカヤんとギンガ…まるで夫婦?みたいっスよ」

「夫婦…なわけ…ないだろ…ウェンディ…あたし風呂入ってくる」

 

 

「………………………」

 

 

四者四様の反応があったのに気付かず洗った皿と食器を片付け終え皆がいるリビングへと向かってしばらくして

 

 

「タカヤん、タカヤんお風呂入ってきたら?」

 

 

「え、でも…着替えが」

 

 

「着替えはお父さんのを渡すから入ってきたら」

 

 

「…じゃお言葉に甘えて…」

 

 

ギンガさんとウェンディさんに促され僕は渡された着替えを持ち浴室へと向かう

 

汗をかいたのもあってかお風呂でさっぱりしたい…

 

そう考えながら浴室に入り着ていた服を脱ぎ終えた僕が扉を開けようと手をかけようとしたその時、浴室の扉が内側から開かれた

 

 

「ふ~すっきりした……な……タ、タカヤ?何でここにいるんだ!?」

 

 

赤い髪を濡らし全裸で立っていたのはノーヴェ…赤い髪から水が滴り、その豊かな胸が揺れくびれた腰にキュッとと引き締まった体がタカヤの目の前にある

 

 

「ノ、ノ、ノ、ノーヴェさ…さ、さ、さ、ん!?……………ぶっはあああ!?」

 

 

浴室内に赤い噴水……もとい鼻血が盛大に花火のように広がり舞い上がった

 

 

 

「タ、タカヤしっかりしろ!タカヤ!!」

 

「どうしたノーヴェ!」

 

 

激しく足音を立て浴室の扉を開け放ったゲンヤが見たもの

 

 

全裸状態のタカヤ(鼻血を出しすぎ顔面蒼白になった)を同じく全裸で抱き抱えるノーヴェ…しかも足元、床には血が溜まっている

 

その光景を見て脳裏にある光景が浮かんだ

 

 

注意!ここからはゲンヤさんの妄想です

 

 

『ノーヴェさん……僕と轟天で烈火炎装しませんか?』

 

互いに全裸のまま床に押し倒すタカヤ、抵抗せず互いの指を絡める

 

『タカヤ…お前の牙狼斬馬剣?凄く大きい……さ、裂けてし…ま…う』

絡めた指を強く握るノーヴェに優しくキス…やがて離れると惚けた表情を浮かべこわばった身体から力が抜けていく

 

『烈火炎装まであと少しですから…いきますよ!』

 

 

『~~~~~~』

 

軽く矯声をあげながら二人は烈火炎装のように激しく熱く燃え上がり……

 

 

「タ~カ~ヤアアアア!俺の娘を傷物にしゃがったなあああ!!」

 

 

わなわな震え頭に血管を浮かばせながらゲンヤの叫び声が浴室から響き渡るなか、リビングでまったりくつろぎモードのディエチ、ウェンディ、チンク、ギンガはと言うと……

 

「ごめんタカヤん、すっかり忘れてたっス」

 

 

「…ワザとだねウェンディ…おねーちゃん悲しいよ」

 

 

「二人ともそんな事いってる場合か!?」

 

「早くお父さんを止めないと!」

 

この後、駆け付けたギンガ達の仲裁と着替え終えタカヤの手当てをするノーヴェの説明を受け安心したゲンヤだったが…

 

 

(…もし手ぇ出したら年齢は関係なくノーヴェを嫁にして貰うからな…)

 

等と考えながらリビングで一人酒を飲んでいる頃、タカヤはと言うと……

 

 

「ス~ス~ス~ス~ス~」

 

 

輸血パック(何故かあった)で点滴を受け鼻にティッシュを入れたままノーヴェの自室で眠りについていた

 

 

 

―――――――

――――――

 

 

 

翌朝、ナカジマ家の朝は朝食がすごい、何故なら一般家庭で出されるボリュームが明らかに違う…しかしタカヤにとっては問題はなかった

 

「タカヤん、すごく食べるんだね」

 

 

「スバルとノーヴェとギンガにタメがはれるんじゃないッスかね」

 

 

「…これぐらい普通じゃないんですか? すいませんお代わりください」

 

と空になったどんぶり茶碗をギンガさんに差し出す

 

「はい、タカヤ君」

 

 

(…婿に来たら家の食費が倍増するな…)

 

 

並々と盛られたどんぶり茶碗を受け取り食べるタカヤを見たゲンヤは心の中で呟いた

 

 

ノーヴェ自室

 

 

「…見られた…タカヤに…ハアアアア」

 

 

 

枕を抱き締め、ため息をつきながらノーヴェは呟く…

 

昨日の浴室血塗れ事件(笑)は余りにも衝撃的で自身の裸を見られたのもだが、タカヤの『アレ』も見てしまったからだ

 

 

(タカヤの身体は細身に見えて鍛えあげられているな…それにアレは…牙狼斬馬剣…ハッ!なに考えてるんだ)

 

頭に浮かんだ『アレ』をブンブンと頭から振り払うと枕をボフッとおきベッドから出て着替えリビングへと歩く途中にタカヤと会ってしまった

 

 

 

「あ、ノーヴェさんおはようございます」

 

 

「お、おはよう…タ、タカヤ…昨日は…その」

 

 

屈託の無い笑顔で挨拶するタカヤに昨日の事を聞いたが意外な答えが返ってきた

 

 

「昨日?…何かあったんですか?」

 

 

「え、タカヤ覚えてねェのか…!?」

 

 

「着替えてお風呂入ろうとした時までは覚えてるんですけど…あ、あの何かしました?」

 

 

「……な…」

 

 

「え?」

 

 

「ふざけるなアァ!」

 

 

わなわな震え呟きながらながら叫ぶといきなりタカヤの懐に潜り全力(手加減なし!)で鳩尾を殴り、タカヤは悶えながら床に倒れる

 

「ぐは…な、何で…」

 

 

「…フン!」

 

 

倒れたタカヤに振り向きもせずリビングへ向かい何時もの三倍の量の朝食を平らげたのだった…

 

 

 

「…痛たた、ねぇキリク僕昨日何かやったの?」

 

 

『……さあな、其より剣を浄化に行かないと不味いぜ…今からいけば夕方には寮に戻れるぜぃ』

 

 

ソウルメタルを軋ませキリクは告げる、剣を取り出し見ると一回斬っただけで凄まじい邪気が煌牙(オウガ)に溜まり周囲を歪ませている

 

痛む鳩尾をさすりながら身体を起こし考える

 

浄化の為に聖王教会に行くと必ずデンジャラスシャンテ?に『タカヤ~覚悟!』と斬りかかれる

 

「…キリク、魔界道使えるかな…」

 

 

『無理だ、今は使えないぜ…』

 

 

剣の浄化の為に数時間かけて聖王教会にいかないと無理だという事実を前にし考え少しため息をついた

 

 

「聖王教会に行こうか」

 

 

シャンテに斬りかかられる覚悟した僕は聖王教会に行くことを決めリビングに向かった

―――――――――――――――――――

 

「…タカヤさん」

 

「アインハルトさん?」

 

ナカジマ家の前でタカヤが出てくるのを待つアインハルトに背後から声がかけられる振り返るとヴィヴィオがたっている

 

 

「ヴィヴィオさん、どうしたんですか」

 

 

「私はノーヴェと練習をしに来たんです、アインハルトさんは?」

 

「私はタカヤさんを迎えに来たので……」

 

「あれ?ストラトスさんに高町さんなんで此所に?」

 

声がした方に振り返ると扉を開け玄関から出ようとするタカヤの姿があった

 

「タ、タカヤ…さん、おはようございます」

 

「アキツキさんおはようございます」

 

 

「お、おはよう…あ、そうだ 高町さん左手出してくれるかな?」

 

 

「え、左手ですか…はい!」

 

元気よく挨拶され少し驚いたけど、僕はポケットの中からあるものを取り出すと差し出された高町さんの左手薬指にホラー避けの護符を嵌める

 

キリクが言うにはこうした方が護符としての効果が高まるらしいんだけど

 

 

「え、ア、アキツキさん?これ…これって!?」

 

 

「…ん~お守りだよ、ストラトスさんどうしたの?」

 

「……アキツキさん、貴方は誰彼構わず指輪を左手薬指に嵌めるんですか…」

 

 

顔を俯かせ呟きゆっくりと歩み寄るストラトスさん…なんか怖い、背後にはス〇ンドみたいなのが見えた瞬間、鈍い衝撃が身体全体に響いた

 

 

「ぐは…き、今日で二回目…」

 

 

ストラトスさんの右拳が綺麗に鳩尾に入ったと感じながら悶え倒れる、僕からキリクが地面に乾いた金属音と共に落ちたのを見た高町さんが拾った

 

『…紐パン嬢ちゃん、タカヤは左手薬指に指輪を嵌める意味を知らねぇんだ…』

「え、眼鏡がしゃべった!?」

 

 

『ん?ああ、そういや自己紹介がまだだったな。俺の名はキリク魔導身具だ…』

 

「はじめましてキリクさん、高町ヴィヴィオです!」

 

『おう、元気なお嬢ちゃんだ、どうした紐パン嬢ちゃん?』

 

「わ、私紐パンなんて…それよりこの指輪外してください」

 

 

 

左手をキリクに近づけはずすように頼むが…

 

『…まあタカヤのいう通りお守りだから二人とも気にするな(紐パン嬢ちゃん外すとホラーに狙われるぞ…)』

 

 

キリクの声が二人に聞こえると同時にアインハルトに念話が飛んでくる…更に話を聞くとホラーは護符がある限り近寄れない

 

それを聞いてアインハルトはタカヤの行動の意味をようやく理解した

 

「…わかりました、お守りとして大事にします、アキツキさんこれから時間はあいていますか?」

 

 

「…今から用事で聖王教会に行かないといけないから…ごめん」

 

「そうですか…」

なんか残念そうな顔をするストラトスさんに申し訳ないと感じつつ二人を残しナカジマ家を出ようとしたとき

 

 

「あ、あのアキツキさん!先ほどはいきなり殴ってごめんなさい!!」

 

「別いいですよ、気にしてないですから…ストラトスさん、高町さんまた明日」

 

そう言うと僕は再び歩きだし、途中キリクに左手薬指に指輪を嵌める別な意味を聞いたんだけどはぐらかされた…なんで教えてくれないんだろ?

 

 

聖王教会にようやくついた僕を待っていたのは…

 

 

「タカヤ~今日こそ私が勝つからね!」

 

 

「…キリク、僕なんか疲れたよ…カーン、バインディングシールド展開」

 

 

『承知しました若!』

 

 

何時ものようにデンジャラスシャンテ?の双剣をかわし逃げるタカヤだった

 

 

その頃、ナカジマ家では…

 

 

「ハアアア~あたしなんでタカヤを殴ったんだろ…しかも昨日の事を忘れている…不公平だ…あたしだけ覚えてるのは不公平だ…ハアアア」

 

 

テーブルにうつ伏せになり呟きながら深く溜め息をするノーヴェを見たヴィヴィオとアインハルトはチンク達にタカヤと昨夜何があったのかと聞きタカヤが純情な心を持つ少年だと再確認したのだった

 

 

第六話 親父 了

 




キリク
『人間ってのは誰かを守るために戦う…例え己の命を失ってもな…ソイツは昔から変わらないモンだ…次回、別離!愛する者を失う辛さ…コイツは魔導具の俺にもわかるぜ…』


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幕間 別離

新暦75年 アインヘリアル

 

同施設付近

 

 

「参ったね…皆無事かな?」

 

 

「無事…とは言いたいですが、一尉、騎士アキツキの方こそひどい怪我を…」

 

 

物陰に隠れ辺りをうかがう、青いボディスーツを纏った女の子が空を飛び回っている

 

視線を戻し部下を見ると、怪我をしているのが大半を占め動けない者が多い

 

 

「僕なら大丈夫だよ…其よりも此所を守りきることは出来ないな…」

 

 

「一尉だけでも早く逃げてください!」

 

 

「それは出来ないな…部下を守るのは上官である僕の勤めだ…」

 

 

「ですが!」

 

 

「…僕は君達を無事に家族の元に帰さなければならないんだ…囮になるからその間に逃げるんだ、これは命令だよ」

 

 

「騎士アキツキ!!」

 

そう告げると外へと飛び出し同時に空へと飛翔する

 

 

「………………………」

 

「………………………」

 

 

無言で彼に対峙する少女…機械的で無表情な顔を見て彼は思う

 

まだ若いのに、笑顔が一番似合う年頃なのに…だけど彼にはは守らなければならない人達がいる

 

 

「僕は…管理局所属ユウキ・アキツキ一等空尉…または騎士アキツキ!ここから先は行かせないアーク!」

 

―承知したマイスター!―

 

 

剣を左手の上に添え右手を引き突きの構えをとると同時にアクセルをかけ一気に間合いを詰めると斬り合う

 

「……………………」

 

 

斬り結ぶも彼女達も負けてはいない、油断すればこちらが負け……いや死ぬ

 

二対一で突き、横薙ぎ、柄撃ち、逆袈裟を織り混ぜながら激しく斬り遇いながら部下達が逃げる時間を稼ぐ

 

僕の剣技は我流にアキツキ家に伝わる剣技を加え結果、二対一での戦いが可能になり聖王教会から『騎士』の名を授かったが…今は目の前の相手に集中し時間を稼がないと

 

 

空を三つの光が走ると同時に甲高い金属音、火花が舞わせながら響きわる

 

 

部下達、みんなは無事に逃げ切れただろうか?

 

でも今は彼女達の注意を部下達から自分に向けさせる

 

そう考え、目の前の相手……戦闘機人二人を相手に剣を交えるが僅かな違和感を感じ切り結びながら懐から一枚の札を取りだし念じる、二人の額に黒く淀んだ気、邪気が見える。

 

 

まさかと思った僕の耳に声が届いた

 

 

「…け…て…誰か…」

 

 

 

弱々しい声…しかも子供の声…

 

声がした方へ目を向けると瓦礫の下から手が見え誰かに助けを求めるように虚しく空を切る

 

―おとうさん―

 

 

「…ッ!ハアアアッ!」

 

 

剣を振り払うと同時に衝撃波を発生させ二人を吹き飛ばし一気に子供の所へ駆け瓦礫を除ける

 

 

「…あ、りがと…う…」

 

 

「もう大丈夫だから安心して…」

 

 

子供の無事な姿を見たときだった、僅かな振動と胸もとから光るなにか…血に濡れた黒い剣の切っ先を見た時熱いものが胸の奥から込み上げた

 

 

「ゴボッ…」

 

 

口からでたおびただしい血が流れ落ち地面に赤い染みを作る

 

 

「…………………………」

 

ゆっくりと引き抜かれる感触を感じながら僕はようやくわかった

 

 

自分が刺し貫かれたことに…

 

 

振り返ると無表情な顔の女の子が光る双剣を携え立ち足元には真っ黒な剣が血に濡れ落ちてるのを見ているが邪気が抜け落ち瞳に光が戻るのと同時に真っ黒な剣が魔導文字を煙のように上げながら消え去った

 

「あ、あああ!?」

 

 

正気に戻った子の声を耳にした僕の全身から力が抜け落ち地面に倒れようとしたが強い邪気を感じ最後の力を振り絞り立ち上がった

 

「………ぐ、……………くう!」

 

 

もし倒れたら目の前の子供と二人はどうなる?おそらく強い邪気を放つ存在は放ってはおかないだろう

 

ならば自分はこの子達の為に剣を振るい守らなければならない

 

 

無言のまま剣を構え、茫然自失で立つ二人の戦闘機人と対峙する。何か連絡を受け二人はそのまま何度も振り返りながら去っていくのを見届けた瞬間力が抜け大の字に仰向けになりながら倒れた

 

 

「ハアッ、ハアッ、ウ!ゴボッ…僕は死ぬのかな…」

 

―マ、マイスター!しっかりしろタカヤとメイを置いて先に逝く気か?生きろ!!―

 

アークの声をききながら薄れいく意識の中、僕はタカヤの事を思い浮かべた……

 

魔戒騎士としての才能は恐らく歴代の上をいくが『守りし者』としての本当の意味をタカヤはまだ知らない……

 

 

僕は魔戒騎士じゃないけどまだ教える事がたくさんあったのに、……は技術的、剣技と体技、ソウルメタルと魔導火の扱いを教える事はできる

 

 

其よりも僕はタカヤとの約束を破る事が気掛かりだ

帰ってきたら外のお話をたくさんする約束を果たせない

 

 

(タカヤ…約束を破ってごめんね…悪いお父さんで…ご…め…ん……)

 

 

…交わした約束を果たせない事をこの場にいない我が子に謝りながら彼は息を引き取った

 

 

小さき命と部下達を守り抜いて……

 

―――――――

 

 

新暦78年

 

 

アキツキ屋敷

 

 

同鍛練場

 

 

「立ちなさいタカヤ」

 

 

剣を構え私は…弟子のタカヤに立つように言う

 

「…貴方がソウルメタルを用いた訓練を始め半年経ちますが…しかし未だ鎧、オウガの鎧を召喚は出来ていません…今日こそ鎧の召喚を成功させなさい」

 

 

「…はい…母さ…」

 

 

「…私は貴方の母ではありません…さあ鎧の召喚をはじめなさい」

 

私の言葉に頷くと剣を構え頭上に円を描くも鎧の召喚が出来ず消えさる

 

 

「もう一度よ…タカヤ」

 

 

 

私はこの子の母だ…厳しいのは自分でもわかっている、何時ホラーが蘇るかわからない今そんな悠長に構える時間は無かった

 

あの人が死んで三年が経つ…タカヤを魔戒騎士として鍛えホラーから王の血筋を守らなければ………を甦らせる事になってしまう

 

女である私は騎士には為れない…あの人の優れた騎士の血を受け継いだあの子の才能は常軌を逸していた

 

 

六歳で魔戒剣斧『オウガ』に自身の主に選ばれ、笑いながら「ぼくとともだちになろう」と笑顔で気難しいキリクとも契約したタカヤを見てある古い伝承を思い出した

 

 

 

『十三の魔獣とその王が蘇りし時、煌牙と魔導身具に選ばれし騎士再び現れ、魔獣とその王を白く煌めく炎剣にて闇へ葬らん…』と伝えらていた

 

ならばこの子の運命は魔戒騎士としてホラーを葬り王の血筋を守る事だけが必要だ

 

 

余計な知識を与えずに只ホラーを葬るだけの魔戒騎士にしなければ…

 

鎧の召喚訓練は日付が変わろうとした時に初めて成功した …煌牙の鎧に関する説明を終え装着したタカヤに体で魔導刻99,9秒ギリギリまでの感覚を覚えさせた

 

 

剣技と体技、ソウルメタル、魔導火、鎧の召喚の訓練過程を異例の早さでタカヤは終えた

 

 

後は魔導馬【……】の召喚をするだけとなった

 

 

だがこれだけはどういう修行をすればよいかを私は知らなく、キリクに聞いてはみたものの『俺は知らない』と返され日は過ぎたが今日の鍛練終えることにした

 

 

「指導ありがとうございました…先生」

 

 

「…タカヤ、明日も早くから鍛練をします、其れまで体を休めておきなさい」

 

 

「……はい」

 

 

 

疲労困憊に満ちた顔で頷いたタカヤを残し私は鍛練場を後にする

 

この時、気づけばよかった…タカヤが家出を考えていた事に

 

 

次の日の朝、何時までも鍛練場に現れないタカヤを自室まで迎えにいくとすでに姿は無くもぬけの殻でキリクも魔戒剣斧【煌牙】も見当たらない…ふと机を見ると書き置きが一枚残されていた

 

 

『母さん…僕は貴方の道具じゃない…今までお世話になりました…タカヤ』

 

 

その一文を見た時、私はあの子を…タカヤをホラーを斬るための道具としてしか見ていなかった事に気付くがもう遅かった

 

 

私はタカヤをホラーに絶対に負けない魔戒騎士にしたかった…もう大事な人を失いたくなかった其なのにタカヤにひどい仕打ちをしてしまった

 

 

ユウキもタカヤも私を絶対許してはくれないだろう

 

「ごめんなさい…タカヤ…貴方にひどい仕打ちを…」

 

 

私は只立ち尽くしたままこの場にはいないタカヤに謝り泣く事しか出来なかった…

 

 

この日、私は愛する者をまた失った

 

 

幕間 別離 (了)




キリク
『お前ら人間は旅行に行った事があるか?俺はタカヤとあの家を出ていろんな場所に行ったぜ…これもある意味旅行だよな?……次回、旅行!ノーヴェからのお誘いは受けろよタカヤ~』



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第二章 迷い晴れる時、白金は覚醒する
第七話 旅行(改)


「…アキツキさん何でこの指輪嵌めたんだろ…しかも左手薬指………」

 

 

朝トレを終えシャワーを浴びながらため息をつきヴィヴィオは左手薬指に輝く銀色の指輪を外そうとする

 

 

「う~~~ん、何で外れないんだろ……」

 

 

どんなに力を入れても外れない、まるで身体の一部になったみたい

 

 

 

 

「ヴィヴィオ~早くしないと学校に遅れるよ」

 

 

「は~い」

 

 

なのはママの声を聞いた私はシャワーを止め浴室から出て、身体を拭き制服に着替え終えてなのはママ達のいるリビングへと向かいました

 

 

第七話 旅行(一)

 

 

「じゃあフェイトママ」

 

 

「いってきます」

 

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

フェイトママに見送られ私となのはママは途中まで一緒に話をしながら歩いてる

 

「そういえばヴィヴィオ新しいお友達、アインハルトちゃんと後…タカヤ君だっけママにも紹介してよ…(その指輪の事も聞きたいしね)」

 

「ん~お友達っていうか二人とも先輩だからね~もっとお話ししたいんだけどなかなか難しくて…アキツキさんは話しやすいんだけど純粋っていうか天然な感じがして…けどすごい体術を使う人で」

 

 

「すごい体術?」

 

 

「あ!なのはママ帰ってきたらまた話すから!」

 

 

「あ、まってヴィヴィオ…って行っちゃった…アインハルトちゃんもだけどタカヤ・アキツキ君…すごい体術…アキツキ一尉の…まさかね」

 

 

元気に走るヴィヴィオを見送りながら呟くとなのはは職場へと向かった

 

 

―――――――――――

 

 

「あ、アキツキさん」

 

 

「?ストラトスさん、おはよう」

 

『おはよう、紐ぱ…待て!俺を握りつぶすな!?』

 

 

「これ以上私を…そんな名前で呼ばないでください…」

 

 

目にも止まらぬ早さでストラトスさんにキリクが奪われ、メキメキと握り潰されそうになりキリクが悲鳴をあげる

 

 

《やめろ、やめろショッカアアアアアアアア~!?》

「ス、ストラトスさん?やめてキリクは僕の大事な友達なんだ…」

 

 

「友達ですか…あ!?」

 

 

僕の言葉に驚き、そのひょうしにキリクを地面にストラトスさんの足元に落としてしまった

 

 

『痛ッてて!…ん?今日は緑縞か…嬢ちゃん縞柄が好きなのか?』

 

 

「…アキツキさん、貴方の友達は変態なのですか…」

 

「え、ヘンタイって何?……グハアッ!?」

 

 

顔を俯かせ呟くといきなり鋭く重い拳が鳩尾に極りタカヤは地面に倒れ悶える

しかも回りには登校途中の学生達もいる

 

 

「アキツキさんとストラトスさんが痴話喧嘩してますわね」

 

 

「アキツキさん可愛そう……」

 

さらに…

 

「…俺達のアイドルの拳を直に受けさらに下着まで見るとは……絶対に許さんぞアキツキイィィィ!!」

 

様々な声が飛び交うが…なんか余計なものも聞こえる

 

 

「………………アキツキさん私、先にいってます」

まだ悶え苦しむタカヤを残しその場から去るアインハルト

 

「…い、今ので三回目…キ、キリク…ヘンタイって何?」

 

《其れより急がないと遅刻するぜ》

 

地面に落ちたキリクをかけ痛みに耐え立ち上がり校舎へと僕は向かった

 

――――――――

―――――――

 

「また殴ってしまいました…アキツキさんは悪くないのに」

 

「アインハルトさん!」

 

呼び止められアインハルトは振り返るとヴィヴィオが近くまで歩いてくる

 

 

「ごきげんようアインハルトさん!」

 

 

「ごきげんようヴィヴィオさん」

 

 

挨拶し二人はならんで歩く…昨日あった出来事などを話す内に話題がタカヤの事に移る

 

 

「え、アインハルトさんもアキツキさんに指輪を!?」

 

 

「はい、学院の生徒の前でいきなり…でもアキツキさんはお守りだと言ってましたから…深い意味は知らないと思いますし……知ってたら私…」

 

「ア、アインハルトさん?顔すごく赤いですよ!?」

 

 

最後の辺りを呟いた瞬間ボンッと音が鳴るくらいに顔を赤くしたアインハルトを見てヴィヴィオは心配する

 

 

「だ、大丈夫です…ヴィヴィオさんあなたの校舎はあちらでは」

 

 

「あ、そ、そうでした!」

 

「それでは」

 

 

「あ…ありがとうございますアインハルトさん」

 

 

「遅刻をしないように気をつけてくださいね」

 

 

「はい!気を付けます」

 

アインハルトの言葉からさりげない優しさを感じ取ったヴィヴィオは嬉しそうに自分の校舎へと駆けていく…小等、中等科は現在前期試験の最中…の筈だがなにか騒がしい

 

 

「「「「「待て~アキツキイィィィ!!」」」」」

 

 

「キ、キリク!僕なにかやったの!!」

 

《タカヤ、とりあえず教室まで逃げろおお!!》

 

 

先程の男子達から追い回されるタカヤ…しかもその背後にはホッケーマスクにチェンソー、鉤ヅメ付けた火傷した男のオーラが立ち上ぼる男子生徒達の追撃をなんとか巻き試験開始ギリギリで教室に滑り込むことに成功したのだった

 

 

その頃ナカジマ家では

 

 

「みんなで旅行あたしも行きたかったッス~!ノーヴェとスバルだけってズルいッス~~!」

 

 

「あ~うるせ~な…あたしらだって遊びに行くわけじゃね~」

 

 

ウェンディの言葉にそう告げると準備をはじめるノーヴェ、今回の旅行はオフトレーニングを兼ね無人世界『カルナージ』に行くからだ

 

 

「とかいって通販で水着とか川遊びセットを買ってるのおねーちゃんが知らないとでも」

 

「なんだそうなのか」

 

 

「おまえヒトのもの勝手に!」

ディエチとチンクに笑顔でさしだされた箱…荷物を素早く奪い取り隠すもすでに遅い

 

 

「水着ねぇ…ノーヴェ誰かに見せるの?」

 

 

「姉も気になるな…ノーヴェ?」

 

 

「もしかして……」

 

 

「だ、誰がタカヤに見せるって言った!」

 

 

「あれ~おねーちゃんタカヤ君なんて一言もいってないよノーヴェ」

 

 

いい笑顔で三人に言われ顔をこれでもかというぐらいに赤くするノーヴェ…

 

 

「そ、それよりもだ、遊びで行くわけじゃねえからな!」

 

 

「…そういえばあの子達……アインハルトとタカヤ殿も一緒か?」

 

 

ウェンディに抱きつかれ引き剥がそうとするノーヴェにチンクは尋ねる

 

「そのつもり…これから誘うんだけどね…」

 

 

「オオッ!ノーヴェさすがにこの水着過激ッスよ~タカヤんに見せたら鼻血で空を舞うッスよ!」

 

 

「な?なに勝手に取り出してんだウェンディ~~!!」

 

 

箱から新調した水着を取りだし見るウェンディから顔を真っ赤にし取り上げようとするが逃げられリビング中を駆け回るウェンディとノーヴェを見たディエチ、チンクはと言うと…

 

「ディエチ、ようやくノーヴェに春が来たようだな」

 

 

「そうだね、じゃあタカヤ君とうまくいくように応援しなきゃね」

 

 

ケーキを食べながらしゃべる二人の姉の姿があった

 

―――――

―――

 

『…合宿…ですか?』

 

 

試験期間の休み時間にノーヴェからかかってきた通信を聴くアインハルト

 

 

最初は断ろうとしたが魔導師ランクAAからオーバーSのトレーニングが見られ、さらにカルナージに住む少女が歴史…特に古代ベルカに詳しい事を聴き揺れ動いていた

 

 

『あの……』

 

「いいから来い!絶対いい経験になる!後で詳しいことメールすっからとりあえず今日の試験頑張れな…後タカヤも来るから」

 

 

『…え?は、はい……』

 

 

 

通信を切ると次の相手にタカヤが持つインテリジェントデバイス【カーン】にあたしはつなぐとすぐに出てくれた…

 

取り敢えず旅行の件を話す…断られたらバインドかけてでも連れて行くつもりだった

 

『旅行ですか…いいですよ、あの二人、高町さんとストラトスさんはホラーに狙われていますから』

 

 

ホラーに狙われる二人を守るために参加する…其れを聞いたあたしの胸の奥がチクリと痛んだ

 

「じゃあ試験後あたしの家で待ち合わせにするか、時間には遅れるなよ」

 

 

『はい、ノーヴェさん…すいません逃げなきゃ…うわ!―やあああっとみっけたアキツキイィィィ!!――――』

 

 

「ま、待てタカヤ…アイツ学院でもあんな感じなんだな…」

 

 

端末を閉じあたしは旅行の準備を始める

 

無人世界『カルナージ』で四日間の旅行…大自然に囲まれた場所で行うオフトレーニング、アインハルトもだけどタカヤも連れて行くのは理由がある

 

タカヤは自身の想いとは裏腹に身体に染み付いた何かに突き動かされている

 

あたしにはそれは判らない…タカヤの事を知れば知るほど謎か深まっていく

 

この旅行でタカヤが抱える問題が解決すればいいなと考えながら準備を終えリビングへ向かう

 

……だけど、この旅行がタカヤの謎と脆さを知る事になろうとはあたしはこの時思ってもなかった

 

 

――――――――

――――――

 

 

僕は今ホラーよりも恐ろしい相手?と対峙している

 

「タカヤ君、あの指輪がどういう意味かわかってるのかな」

 

 

「ヴィヴィオのお友達にも…アインハルトにも指輪をはめた理由聞かせてくれないかな」

 

 

 

はたからみれば穏やかに見えてると思うけど…実際には僕に見定めるような視線を送るのは高町さんのお母さん達、笑顔だけどなんか怖い…背後に何かが見えた気がする

 

 

『ノ、ノーヴェさん助けて』

 

 

その視線に耐えきれずノーヴェさんに念話で助けを求めるも…

 

 

『…すまないタカヤ、あたしにはどうしょうもできない』

 

 

何故か目を反らされ見放されてしまう…何でさ?

 

 

話は遡ること数十分前

 

 

「…来るの早かったかな」

 

『…タカヤ、ひとつ良いこと教えてやる、女より先に来て待つのは礼儀だぜ』

 

 

キリクに言われ頷きながら僕はナカジマ家の前でノーヴェさんを待っている

 

 

「アキツキさん?」

 

 

振り向くと少し大きめのバックを肩に掛けたストラトスさんが立っている

 

 

「こんにちは、ストラトスさん…どうかしたの?」

 

 

「いえ、何時もそのコートを着ていますね」

 

 

「…うん、色々入れることが出来るから便利なんだ」

 

 

「……色々ですか?」

 

 

「待たせたな二人とも、タカヤ荷物は無いのか?」

 

扉が開く音と同時にノーヴェさんがスポーツバック片手に歩きながら僕に訪ねる

 

「荷物ならありますよ、えと……これかな?」

 

 

 

コートの中に手を入れた僕を不思議そうに見る二人を他所に目的のモノを見つけ取り出し見せる

 

 

「な、なあ タカヤそれどうやって入れたんだ」

 

 

「え、普通に入れましたけど…」

 

 

「……普通は入らないと思います………」

 

 

二人の目の前には特大サイズのフライパン…家出する時、コートの中に金塊や宝石、着替え、予備の服、調理器具一式等々を入れてるけど軽い…

 

先祖代々伝わるコート、『魔法衣』の内側は異空間になってて念じるだけで目的の物を取り出せる勿論【オウガ】も入れてある

 

フライパンを見て僕は、家出して暫くして出会った女の子の事を思い出した

 

 

見たことの無い袋に入ったお菓子?ばかり食べてるのにただ者じゃない気配を漂わせていたけど不思議な訛りでしゃべる子だった

 

そんなのばかり食べてると栄養が片寄ると判断した僕は暫くの間その子…エレミアさんに料理を作ると喜んで食べてくれた…

 

 

クラナガンに着いてから別れたけど、「また会える?」と去り際に聞かれ「多分会えるよ」て言うと嬉しそうな顔をしてエレミアさんは去って行った

 

 

また食生活が片寄ってなきゃいいけど…

 

 

「…と、とにかくそのコートの中に荷物はあるって事だな、待たせるといけねぇから行くぞタカヤ、アインハルト」

 

 

ノーヴェさんに促され僕はフライパンを魔法衣の中に入れるとストラトスさんと共に歩き出し、数分待ち合わせている人達が居るという家についた僕たちはノーヴェさんに連れられ玄関に入るとチャイムを鳴らすと同時に扉が開いた

 

「こんにちは」

 

 

「アインハルトさん!?それにアキツキさんとノーヴェ…」

 

「異世界での訓練合宿とのことでノーヴェさんにお誘い頂きました、同行させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

「はいッッ!もー全力で大歓迎ですッ!」

 

 

喜びの表情にを浮かべストラトスさんの手を握りブンブン振る高町さん、そして僕に視線を移すとにこりと笑い同じように歓迎された…少しだけ手が痛かった

 

「ほらヴィヴィオ上がってもらって」

 

 

「あ、うん!アインハルトさん、アキツキさんどーぞ!」

 

 

「お邪魔します」

 

 

「お、お邪魔します」

 

 

長い金髪の女性に促された僕たちはリビングに足を向け歩き出す

 

 

「あの子達が同行するって教えなかったの正解だねノーヴェ」

 

 

「はい」

 

 

フェイトはノーヴェと軽く打ち合わせをしてからリビングに向かいながら

 

 

(タカヤ・アキツキ君、四年前、JS事件で殉職したユウキ・アキツキ一等空尉と同じ姓…偶然の一致なのかな)

 

と考えながら皆がいるリビングへとフェイトは向かった

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

「「こんにちはー」」

 

 

リビングに着くと先に来ていたティミルさん、ウェズリーさんがストラトスさんに挨拶すると髪をサイドポニーにまとめた女性が色々と質問されなんかあたふたしている

 

「はじめましてアインハルトちゃん、ヴィヴィオの母です娘がいつもお世話になっています」

 

「いえ…あのこちらこそ」

「格闘技強いんだよね?凄いねぇ」

 

 

「は…はい…」

 

 

「ちょ ママ!アインハルトさん物静かな方だから!」

 

ストラトスさんが戸惑ってるのを見た高町さんが止めに入るとえーってみたいな顔をし、今度は僕を見る

 

「はじめまして、タカヤ君…ヴィヴィオの母です」

 

 

「あ、はじめましてタカヤ・アキツキです…あの僕に何か?」

 

 

「ん~ヴィヴィオから聞いたんだけどタカヤ君ってすごい体術使えるんだよね…」

 

 

「え、ええ…高町さ…」

 

 

「なのはでいいよタカヤ君」

 

 

 

「…なのはさん」

 

 

そう言うとなのはさんは笑顔になり色々と聞いてくる…僕が使う体術や出身地等々、だけど流石に出身地は言えなかった

 

そうしてる内に準備ができ車に乗り次元港までフェイトさんが車を走らせる車内では高町さん達が賑やかに会話するのを他所に僕はキリクと思念通話をする

 

 

 

『タカヤ…向こうに着いたら「界符」の用意をしておいた方がいいな…魔導火の補充もこの前オウガを浄化した時にやっておいて正解だったな』

 

 

 

『うん、界符の正確な方位を見つけて貼らないといけないからキリクも手伝ってね』

 

 

『おう!任せろタカヤ』

 

 

 

界符はあの人…母さんに嫌っていうほど練習で作らされた

 

 

効果は決められた位置に符を貼ることでホラー避けの結界を張る事ができ、宿泊するアルピーノ家一帯に貼る必要があるからだ

 

 

…僕は時々思う何故剣斧振るいホラーを斬るのかを、ノーヴェさん、ストラトスさん、イクスヴェリアさん、高町さんを何故守ったのか…

 

そう考えてる内に次元港についた僕たちはロビーでスバルさんとティアナさんを待ち合わせしていた時、なのはさんが話しかけてくる

 

「タカヤ君、少しいいかな?ヴィヴィオにあの指輪をはめたんだよね」

 

 

「え?はい」

 

 

「タカヤ君、あの指輪がどういう意味かわかってるのかな」

 

 

「ヴィヴィオのお友達にも…アインハルトにも指輪をはめた理由聞かせてくれないかな」

 

 

いつの間にかフェイトさんがなのはさんの横に立ち僕に尋ねる…二人から何かオーラというか大砲と鎌を構えたスタ〇ド?が見える…

 

『ノ、ノーヴェさん助けて』

 

 

その視線に耐えきれずノーヴェさんに念話で助けを求めるも…

 

 

『…すまないタカヤ、あたしにはどうしょうもできない…』

 

 

目を反らされ見放されてしまう…何でさ?と思いながら口を開く

 

 

「あ、あの…アレはお守りなんです」

 

 

「「お守り?」」

 

 

「二人が…高町さんとストラトスさんは格闘技やっていますよね、だから怪我をしないように手作りのお守り(?)を渡したんです」

 

 

本当の理由を除いて二人に説明するけど左手薬指にはめる意味を知らないと言うと何故かあきれた顔をする

 

高町さんとストラトスさんがホラーに狙われています…と言っても信用してはくれないかも知れなかったからだ

 

 

 

「そうなんだ、もし知ってたら色々とお話ししなきゃと思ったんだけど」

 

 

「なのは、そろそろスバルも来るからお話しは向こうについてからでも」

 

 

「そうだね…タカヤ君向こうに着いたら『お話し』しょうか」

 

 

「なのはさん!あれタカヤ君も着てたんだ」

 

 

 

声がした方を向くとスバルさんとティアナさんが歩いてくる

 

簡単な挨拶をすませた僕達はクラナガン発カルナージ行きの次元船に乗る

 

 

到着まで四時間、僕は一応簡単なホラー避けの結界を張るとやがて眠りについた

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

無人世界『カルナージ』

 

アルピーノ家、同書庫

 

 

「…三人の王を結びつけた壁を超え顕れた名も無き魔戒騎士…後に白煌騎士煌牙(ビャクオウキシオウガ)が冥府の炎王イクスヴェリア、覇王イングヴァルト、聖王オリヴィエを結びつけたのね…だけどこの絵に描かれている『騎士とその妻子』…騎士は解るけどその妻が王族なんて…」

 

うんうん悩む少女、ルーテシア・アルピーノは聖王教会で発見された絵画と新たに見つかった絵画、文献とにらめっこをしていた

 

 

 

新たな絵画に描かれた騎士とその妻子…いや妻の瞳の色が虹彩異色という事実は歴史的発見だが、文献によるとある時期を境に騎士の行方は絶え確かめる術は無いに等しかった

 

 

「ただ名前か姓か名かはわからないけど『アキツキ』って言葉が頻繁に出て来ている…」

 

 

 

聖王教会から解読を依頼された新たな文献と絵画…解読した文献には騎士の名らしきものが頻繁に出てくる

 

 

「う~ん気分転換にお風呂入ってから考えようヴィヴィオ達もあと少しで来るしね…ふふふ楽しみ」

 

 

端末を閉じ絵画と文献をそのままにして書庫から去る

 

 

ルーテシアが見ていた新たな絵画、騎士とその妻子が描かれた絵の額縁の裏にに文字が刻まれていた

 

 

『ズヨイスワネユムユムギオルステク、ユムンクルシケクスイリオリ、キレレミユウスクスニリビ、シキウヒユムサミリワ…シロデキレレミユウヒロステワクバエテウエニネフキレチニリワ』

 

古代ベルカ語、ミッド語とは違う言語が…旧魔界語で書かれていた

 

 

果たして何が記されているのか…

 

 

古代ベルカに顕れた十三体のホラーとその王から人々を守りし魔戒騎士の子孫タカヤが絵画と出会う時、閉ざされた歴史が紐解かれるのかもしれない

 

 

―――――――

 

 

カルナージ山中

 

此所は動物達が死期を悟ると来る場所此所に年老いた男が正座しその時を待っていた…

 

 

齢百を超える老人…彼は若き日の事を思い出す

 

彼は強く数多の果たし合いを命のやり取りを戦い抜いた

 

―ゴダード、いざ尋常に勝負だ!!―

 

 

騎士が彼に剣を降り下ろす、しかし寸前でかわし抜き胴で薙ぎ払い地面に沈む相手を見るも彼の心の乾きは、強いやつと戦いたいという渇きは消せない

 

―俺より強いやつは居ないのか?―

 

 

 

 

名を上げようと挑んでくる騎士を倒し続け数年、死が迫る彼には最期の思い残しがあった…本当に自分よりも強い奴と戦いたい

 

 

そのためなら悪魔にでも命を捧げてもいい…その時声が聞こえた

 

 

『イキタイカ?ツヨイヤツトタタカイタイカ?ナラバオレトケイヤクシロ…』

 

 

契約…強い奴と戦える…彼の答えは勿論決まっている

 

 

「け、契約…する…」

 

 

『ヨカロウ…ワレトケイヤクハタシタリ…』

 

 

彼の老いた体を魔導文字が無数に包み込みやがて姿をあらわす

 

巨大な角と牛の顔、鎧が組合わさりその表面に血管が浮き出た異形に変わる

 

『ヒヒヒ、ホノノトコヌハラダホフレヒヌサワスイ(フフフ、コノオトコノカラダハワレニフサワシイ)…』

そう口にしやがて夜の闇にとけ消え去り辺りをただ静寂だけが残された

 

 

 

―……殿、あまり動かないで―

 

 

―じっとするのは好きではない…―

 

 

―あなた、

今日は私達…親子で初めての絵を残す記念日なのです我慢してください―

 

 

―………解った、それはそうとクラウスなぜ笑っている!―

 

 

―ククッ、いや魔戒騎士の君に敵わないのがいるんだなと思ったんだ―

 

 

僕が彼の滅多にみられない顔を見て笑うものだから機嫌を悪くする

 

 

―今日はヴィヴィ様とイクスヴェリアが来るのでしょ?あまり声を挙げると………が泣いてしまいます―

 

―む、むう…すまん…―

 

妻になだめられていると足音が聞こえ、オリヴィエとイクスヴェリアが笑顔でこちらに来る

 

 

―あら騎士ア…ツ…、相変わらずイングヴァルトと仲がいいですね―

 

―…皮肉のつもりか?ヴィヴィ、クラウス、それにイクスヴェリア迄笑わないでくれ―

 

 

―私を………と言ったら助けますよ…キツ…様―

 

 

―……イクスヴェリア………―

 

 

―フフ、クラウスもヴィヴィ余りからかうのは騎士アキツキに失礼ですよ―

 

 

穏やかな日差しに包まれた庭園に絵師と三人の王の笑い声につられ騎士の妻の腕の中で赤ん坊…がキャッキャッと笑う…こんな時がずっと続けばいいと僕は願った

 

 

「…ハルトさん、アインハルトさん着きましたよ」

 

 

「んっ…ヴィヴィオさん…もう着いたのですか」

 

 

 

目を軽く擦り荷物を取るとヴィヴィオさんやティルミさん達と歩きながら、私は先程の夢…覇王の夢を思い出す

 

 

あの時、騎士…魔戒騎士の妻と子、三人の王との穏やかなある日の夢、少し離れた場所を歩くアキツキさんの顔を盗み見る

 

 

…やっぱりクラウスの友である魔戒騎士と顔立ちが少し似ています

 

 

 

「ん、どうしたのストラトスさん僕の顔に何かついてるかな?」

 

 

「い、いえ何も」

 

 

目を反らしたことに不信がるアキツキさんでしたが一瞬鋭い目になったのは気のせいだったでしょうか

 

 

――――――――

――――

 

カルナージ、一年を通して温暖な大自然の恵み豊かな世界、目の前に広がる大自然に皆が驚く中、タカヤはホラーの気配に警戒していた

 

『キリク、さっきの感じは』

 

 

『間違いない…ホラーだしかも厄介だな』

 

 

『厄介?』

 

 

キリクによると、このホラーは気配が消えたと思えば別な場所で気配を発する…余りにもおかしいと言っていた

 

『…キリク、アルピーノさんの家に着いたら界符を貼ろう…なるべくストラトスさんと高町さんから目を離さないようにしょう』

 

『解った…タカヤ』

 

 

「タカヤ~早く来ないとおいていくぞ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

ノーヴェさんの声で考えの海から抜け僕は、足早に皆がいる場所へ駆けながら考える。今まで現れたホラーの狙いは間違いなく三人…王の血を引くであろう二人、高町さんストラトスさん、遥か昔に眠りにつき現代に甦るも再び眠りについたイクスヴェリアをなぜ狙うのか

 

(今度、聖王教会の最深部『魔導図書館』で調べないと…だけどシャンテやカリムさんに知られたら不味いよね)

 

 

皆とアルピーノ家がある方向け歩きながら考えるタカヤにノーヴェから念話が届く

 

『タカヤ、なに難しい顔をしているんだ?』

 

 

『……ノーヴェさんこの世界…カルナージにホラーがいます』

 

そう告げるとノーヴェも難しい顔になるがタカヤは更に続ける

 

 

『アルピーノさんの家に着いたら、一帯に界符で結界を張ります…』

 

 

『タ、タカヤ!あたしに手伝える事はないか?』

 

 

『…僕が戻るまで高町さん達をお願いします…ん、着いたみたいですよ』

 

 

『……わかった、張り終わったらあたし達の所に来い…必ず来い!いいな!!』

 

念話を終えた僕の目の前には立派な造りの家がみえ二人の親娘が出迎えに来てくれた、この世界に住むたった二人の住人…メガーヌ・アルピーノさんとルーテシア・アルピーノさんだ

 

「みんないらっしゃ~い」

 

「こんにちはー」

 

「お世話になりまーすっ」

 

なのはさんとアルピーノさんは昔からの知り合いみたいだ、ふと高町さんとティルミさんを見ると…

 

 

「ルーちゃん!」

 

 

「ルールー久しぶり~!」

 

 

「うんヴィヴィオ、コロナ」

 

ウェズリーさんとストラトスさんを高町さんがアルピーノさんに紹介を終えた時頭になにか乗った感じがしさわると暖かい…優しく掴み降ろしてみると竜が不思議そうに僕を見ている

 

「キュイキュルル?」

 

 

「えと、はじめましてタカヤ・アキツキです…君は?」

 

「キュルルキュイキュル!」

 

 

「フリードって言うんだいい名前だね」

 

 

「あの、アキツキさんこの子の言葉わかるんですか?」

「え?普通に話せるけど…」

 

 

「………そ、そうなんですか(アキツキさん、貴方いったい何者なんですか!?)」

 

 

背後から木々を掻き分ける音が聞こえた方を向くと昆虫と竜、さらに人を合わせた人物が籠を背負い立っている

 

ストラトスさんが構えるのを僕が手で止め話しかけてみる

 

 

「はじめまして僕はタカヤ・アキツキです…君の名は、ガリューって言うんだ…あ、四日間よろしくお願いします」

 

 

初対面のガリューと会話し握手した時、 アルピーノさんがストラトスさんとガリューの間に割って入るなりキリクを取り僕の目をじっと覗きこんでくる

 

 

「…虹彩異色の瞳…黒髪…それに黒鉄色の外套…あなた名前は?」

 

「え、ああ…タカヤ・アキツキですけど、どうしたんです!?」

 

「あなた…魔戒騎士だよね」

 

目を輝かせ近寄る女の子のあまりの剣幕に頷くしかなかった、するとその顔がどんどん笑顔になる

 

 

「ふふ、うふふ…私って超ついてる!タカヤ君に見てもらいたい絵があるの!すぐに見て、ていうか今すぐに!!」

 

 

「え、いやでも僕少しやることがあるから…」

 

 

「…お嬢、すまないんだけどタカヤはこれから用事あるんだ…」

 

 

「そうなんだ…じゃあそれが終わったら必ず見てね」

 

そう告げるとアルピーノさんはその場から去っていく、其所に僕と同じぐらいの年の男女が歩いてくる

「フリード、ここにいたんだ」

 

 

「ノーヴェさん、お久しぶりです…君は?」

 

 

フリードを抱きながら自己紹介をすると二人からも自己紹介される、二人はフェイトさん(名前で呼ぶように言われた)の家族だそうだ…

 

 

「だけどフリードがなつくなんて…」

 

 

「タカヤさんはヴィヴィオ達の友達でしたよね」

 

 

「…さんづけはやめてください、エリオさん僕よりも年上なんですから…」

 

 

さん付けされるのは嫌だと言うとあっさり了承してくれたエリオさんはキャロさんと共にフェイトさんの所へと歩いていく

 

 

「ノーヴェさん、さっき僕を助けてくれてありがとうごさいます」

 

 

「いいんだよ…其より約束忘れるなよ」

 

 

「はい、じゃあ僕行ってきますね」

 

 

そう言い残しコートを翻しタカヤはあたし達から離れていく

 

その姿を見送りながら想う、正直あたし達が束になってもホラーに勝てる気はしない…其れをタカヤは一人で剣?を振るいホラーからアインハルトやヴィヴィオを皆を守ってくれる…自分自身の行動に迷いを持っているのにか変わらずにだ

 

「ノーヴェ、アキツキさんは?」

 

 

 

「え、タカヤか!?タカヤなら用事を済ませに外に行った」

 

 

「そうなんだ…ノーヴェって何時からアキツキさんをタカヤって呼ぶの?」

 

 

「え?そのなんだ、アキツキって呼びづらいし…タカヤもいいって言ってたからな」

 

 

その言葉に納得したのかヴィヴィオが頷いたのをみたあたしはヴィヴィオ達…子供組と共に川遊びをするために水着に着替えるためにロッジへと向かった時、姉貴とすれ違った

 

「ノーヴェ、タカヤ君を新しい水着で悩殺しちゃダメだよ」

 

 

振り返ると姉貴の姿はなかった…あたしはあの水着でタカヤを悩殺する気はないんだからな!

 

 

――――――

 

 

「これで最後と、キリク此れで大丈夫だね」

 

 

 

『ああ、上出来だ…早く戻らないとノーヴェに怒られるぜ』

 

 

「うん、さっきノーヴェさんから念話が来たから急がなきゃ」

 

 

界符を貼終えた僕はノーヴェさん達がいるロッジの裏にある川へと急ぐ

 

 

こんなに自然に溢れた場所は僕の実家ぐらいだとばかり思っていた

 

 

『タカヤ…家を思い出してるのか?』

 

 

「…あの人どうしてるかな…」

 

 

『アイツの事だ、会社の維持に務めてるんじゃないか…タカヤの事も探して…』

 

 

「…あの人、母さんが僕を探すわけないよ…」

 

 

そのまま黙り込むとタカヤは走り出す…まるで風を纏ったかのように、しかし其れを見る影にタカヤは気付いていなかった

 

 

『…オノレ、界符ヲ貼ラレテハテダシガ…ウガガ…グウウ』

 

 

突如苦しみ出すホラーの姿が変わり始め人へと姿を変え立ち上がり自分の体を見る

 

 

あの年老いた身体ではなく若く力溢れていた時の自分を感じ走り去るタカヤを見ながら

「…ユウキ・アキツキ、相手にとって不足はない」

 

 

不敵な笑みを浮かべそう呟くとその場から立ち去るのだった

 

 

―――――

 

 

「遅いぞタカヤ!」

 

 

水着に着替えて来たタカヤに少し怒りながら声をかけるノーヴェを見てすぐに目をそらした…何故かと言うとノーヴェの水着が問題だったりする

 

 

 

「タカヤ?どうしたんだ」

 

 

 

パーカーを羽織った下には白のビキニ姿のノーヴェ、心配してタカヤの顔を覗きこもうとする度に…その豊かな胸がたゆんと揺れタカヤは鼻血が出そうになるのを必死に抑え直ぐに離れる

 

 

「あ、あのノーヴェさん…高町さん達は何をしてるんですか?」

 

 

「ん、ああ二人がやっているのは水斬りだ…タカヤもやってみるか?」

 

 

なんとか抑え、高町さんとストラトスさんが互いに競い会うように水斬りをし目の前で水が割れ空を舞う…昔、父さんとやったのを思い出す

 

 

「は、はい!でも僕がやっていいんですか?」

 

 

「ああ、好きなようにやってみろタカヤ」

 

 

 

パーカーを脱いだ僕は川の中へと入ると構える…目を閉じ脱力し拳を握りゆっくりと…撃ち抜く

 

 

水斬りをした瞬間、大きく水が断ち川の向こう側まで届きに川底が抉れるんじゃないかと思うぐらいの拳圧にヴィヴィオ達ははしゃぎだす

 

「ノーヴェ、あの子タカヤ君ってストライクアーツか何かやっているの?」

 

 

「いや、ストライクアーツじゃない…多分鍛えた奴がとんでもないだけだ」

タカヤの水斬りを見て想うことがある…タカヤを鍛えた奴の事だ

 

 

筋肉の配分もだが確りと役割に応じ無駄なく完璧に剣を振るう為だけに鍛えられた身体、例えるなら芸術品……それに触って見ると固くも柔らかくもなくしなやかな筋肉でなんかいい匂いもしたし髪はサラってして肌も……ハッ!違う今考えることじゃない!

 

 

 

 

「あはは……アキツキ先輩ってスゴいんですね」

 

 

「いったいどうやったらそんな風に出来るんですか!」

 

「え、う~ん…僕は父さんに教えて貰ったやり方をしてるだけなんだけど…もう一回行くよ」

 

 

 

再びタカヤが拳を撃ち抜くと川が割れ、水しぶきが空高く上がり虹が出来るのを見ながら考えているノーヴェにルーテシアが話しかけてくる

 

 

「そう言えばノーヴェさつきからタカヤ君ばかり見てない?…まさか」

 

 

「お、お嬢!?あ、あたしはタカヤばかり見てない!」

 

 

「ふ~ん、怪しいなあ」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべるルーテシアが尋ねられ、慌てふためきながらもそうでないと言うノーヴェを見て大体わかった…

 

 

ノーヴェがタカヤに惹かれはじめてることに

 

 

(まあ、タカヤ君は見た目もだけど中身もかなりいい子だしね…まあ天然な部分も含めて…)

 

しばらくタカヤとヴィヴィオ、アインハルトの水斬りを見ているとお昼になったとメガーヌから連絡を受け川から上がり皆でロッジに向かう…なんかいい匂いがしてきた

 

 

―――――

――――

 

 

「いただきます!!」

 

全員の声と同時に食事が始まる、先程水斬りをやってたせいか次々に口に入っていく

 

肉はほどよく味付けされ焼き加減も最高だ…その味を堪能しスバルさんとノーヴェさんのおかわりと言う声が響く

 

 

「あ、すいません僕もいいですか?」

 

「悪ぃ…さつきので最後なんだ…あたしの半分くうか?」

 

ノーヴェさんが皿から串を数本僕の皿にのせ隣に座ってくる

 

 

「ありがとうノーヴェさん」

 

 

分けて貰った串はあっという間にタカヤの口に入っていく、其れを見た皆は

 

(……タカヤ/君/さん、あの身体のどこにあれだけの量が入るのッ!?)

 

 

タカヤの皿の横には大皿が二十枚も積まれ驚くのは仕方なかった

 

―――――――――

 

「ごちそうさまでした―!」

 

食事を終え皆がゆっくりとする中、僕は調理器具を洗うために寸胴を洗い場へと運びスポンジに洗剤をつけ洗い始めた、実際こう言う事をすると心がなごむ。

 

そんな僕の耳に先に来て皿を洗う高町さんとストラトスさんの会話が耳にはいる

「ヴィヴィオさん達はいつもあんな風にノーヴェさんからご教授を?」

 

「あ、そんなにいつもでもないんですが…」

 

 

話の内容は高町さんがノーヴェさんからストライクアーツを学び始めティミルさんとウェズリーさんの事を見てくれるようになったと言う

 

 

ノーヴェさんは言葉は少し荒くて強引な所があるけど本当はスゴく優しい人だなと僕は思う…泊まって以来、心配してだろうかカーンにノーヴェさんからメールが届くようになった

 

「少しうらやましいです…私はずっと独学でしたから」

 

「でもこれからはもうひとりじゃないですよね、あ……その流派とかはあくまで別にしてですよ!?」

 

 

「いえ、あの!?大丈夫ですわかります…それに今こうしていられるのはアキツキさんのお陰です」

 

 

「僕のおかげ?」

 

 

「あの時、アキツキさんの言葉がなかったら…私は」

 

「僕は思った事を言っただけだよ…ストラ…」

 

 

「あ、あの!」

 

 

洗い終わった寸胴を片付けようとする僕に声がかけられた

 

 

「え、何?」

 

 

「…『ストラトスさん』ではなく下の名前で呼んでください…私もタカヤさんって呼びますから」

 

 

「…いいよ、じゃあアインハルトさん」

 

 

「は、はい」

 

「あ、私もいいですか?タカヤさん」

 

「うん、ヴィヴィオ」

 

 

改めて名前で呼ぶようになった僕たちは洗い終えた食器や器具を片付け辺りを歩く…途中ノーヴェさんに呼ばれヴィヴィオのお母さん達の模擬戦を皆で観戦した、正直凄いとしか言えなかった…「あの人」と互角に渡り合えるかもと思いながら一応、キリクにホラー探知をさせながら見ていた

 

 

―――――――――

 

 

『ど、どうしたのノーヴェ?』

 

 

「いや、何でもない…ナンデモナイカラアネキ…」

 

手摺をメキメキと握りつぶしたノーヴェの視線の先にはアインハルト、ヴィヴィオと仲良さそうに会話するタカヤ、模擬戦中のスバルは焚き付け過ぎたかなと少し後悔し怯えるのだった

 

――――――――

 

 

それから時間はゆっくり過ぎていき、皆はホテルアルピーノの名物天然温泉大浴場に入りにいっている、

流石に浴場迄着いていくわけにはいかず少し離れた場所で待ちながらタカヤはキリクを外し星空を仰向けになり見る…

 

 

「場所は違っても星空は変わらないんだね…」

 

 

まだ父が生きていた頃二人でこっそり星空を見に屋敷を抜け出し見た光景を重なる…あの時は《あの人》とデルクも一緒に天体観測していたな

 

 

「いる!何かいる!!」

 

 

その時、大浴場から悲鳴が聞こえ飛び起きたタカヤはキリクを掛けずに風を纏ったかのように走りだし地面を蹴り高く跳躍する

 

 

濡れた岩肌に軽く着地、辺りから悲鳴が聞こえる。湯煙が立ち込める大浴場に皆の悲鳴が聞こえる中で気配を伺う…何かが湯の中で動いた

 

 

 

「…ハアアアア!」

 

 

オウガ?を取りだし湯に向け僅かな違和感を感じた方へ切り払う、湯船が割れ何かが空を舞い下に落ち、すかさず剣を突きつけようとする

 

しかし違和感を感じ手を見ると特大フライパンが握られていた…

 

 

「あ、煌牙と間違えちゃった…ん?」

 

 

「………(きゅううううう)」

 

其所にいたのはホラーではなく水着を着た女の人が倒れていた…ホラーじゃなくて良かったと安心するが気配を感じ振り返る

 

「タ、タカヤ…お、お前どうして!?」

 

思えば振り返らなきゃ良かったとタカヤは思った…振り返った眼前にいたのはその胸を隠そうともせず全裸で立つノーヴェ、さらに後ろにはアインハルトやヴィヴィオ達までいる…タカヤがとれる行動は只一つしかない

 

「…………ブハアアアアアアアアアアアア!?」

 

今までの最高出血記録と云わんばかりの血を出し湯の色が血に染まり、やがて総て出し尽くしたタカヤはノーヴェに身体を預けるようにゆっくりと倒れた

 

「あんッ…ハッ!タ、タカヤしっかりしろタカヤ!!」

 

 

 

倒れたタカヤをその胸で受け止めた時一瞬声を漏らすが直ぐ様抱き抱えると必死に呼び掛けながら脱衣所へ駆け出すのだった

 

 

「………」

 

「……また見られました……」

 

 

「…タカヤさんに………」

 

「「「「「「見られた~~~!!」」」」」」

 

 

ノーヴェとタカヤが居なくなった大浴場に残された全員の声が満天の星空にこだました

 

―――――――――

―――――――

「…んっ此所は…何で僕は布団に寝かされているんだ?」

 

 

「…気がついたかタカヤ…」

 

 

起き上り隣を見るとノーヴェさんが布団の横に座っている

 

 

「あの僕は何故此所に?」

 

(……また覚えてないのか!?まあその方が都合がいいんだけどな…アインハルトは今ヴィヴィオ達に説明(ホラーや魔戒騎士などを除く)しているからな…)

 

 

セインが起こした悪戯をホラーが現れたと勘違いしたタカヤが大浴場に現れたと感じていたノーヴェは余り怒る気になれなかった

 

 

「…また僕が皆に迷惑を……」

 

 

<タカヤ、ホラーの気配だ!>

 

 

「ノーヴェさん、今アルピーノ家の近くにホラーがいます!結界から絶対でないでください!!」

 

 

「ま、待てタカヤ!」

 

 

 

 

ノーヴェが止めるがタカヤは素早くキリクを掛け黒鉄色のコートを纏うと窓から跳び地面へ着地、まるで風をまとったカのように結界の外へ駆け出した

 

 

 

しばらく走ると目の前に影が現れ止まると同時に煌牙を構え相手を見る

 

年齢は二十代ぐらいの赤い服を着た鋭い目つきをした男性が立ち此方を見ている

 

「キリク、この人がホラー?」

 

<ああ、間違いない…油断するなタカヤ>

 

「…『剣神』ユウキ・アキツキとお見受けする…我が名はゴダード・トウゴウ、是非一手願う…」

 

 

「!何故父さんの名前を!」

 

「ほう?ユウキ・アキツキのご子息か、よく似ている…だが言葉は無粋、剣で語ろうではないか『剣神』の忘れ形見よ」

 

強い眼差しを向け彼…ゴダードは何処からかはわからないが牛の角を二つ合わせにした剣?を右手に構えた

 

<タカヤ、奴さんヤル気満々だぜぇ>

 

 

「…………」

 

 

タカヤもオウガを鞘から無言で抜き放ち、蜻蛉の構えを取り互いに距離を置き動きを止め、辺りを静寂が支配し虫のなく声のみが聞こえる。柔らかな風が凪いだ瞬間二人は動いた

 

 

「ハアアアア!!」

 

 

「ウオオオオオ!!」

 

 

 

月明かりに照らされながら黒鉄色と赤色が重い金属音と共に火花を散らしぶっかりあった

 

 

 

タカヤの湯煙温泉血塗れ事件から少し時間が立ち、料理の準備を手伝うセインに端末が震え包丁を置きメガーヌさんにに少し離れると告げ了解を得てから外に出たあたしは端末を開く、するとディードが画面に映る

 

 

「どうしたのディード?」

 

 

『セイン、実はタカヤ・アキツキ君の事何だけど…』

 

 

「ああ、シャンテのライバルでノーヴェのお気に入りだよね…それがどうかしたの?」

 

 

『…この前の陛下とアインハルトの試合で見せたあの動き、四年前に私は見ているの…私とオットーを相手にたった一人で互角に渡り合った騎士に…』

 

 

「その時の騎士がタカヤ君?…四年前っていったらまだ九歳だよ…」

 

 

 

『…その騎士、ユウキ・アキツキには子供がいたの…』

 

 

「まさか、タカヤ君がその騎士の?今カルナージに居るんだよ!」

 

 

カルナージにタカヤ君が居ると聞いたディードは驚いた顔になり手で顔を覆い嗚咽を漏らし始めた

 

 

『何で…何でこんなことに…ノーヴェごめんなさい…』

 

 

必死にあたしは画面の向こうで泣くディードを落ち着かせる…

 

やがてディードの口から出た真実にあたしは目の前が真っ暗になった…

 

 

四年前、あたし達はタカヤ君から……

 

 

 

現在

 

 

あたしは今ホラーと戦っているであろうタカヤの元へ行くか行かないかと迷っている

 

 

『結界から絶対にでないでください』

 

 

…ホラーには勝てないけど何か手助けは出来るハズ、ドアノブに手をかけ外に出たあたしはジェットエッジを起動しBJを纏いタカヤのいる場所へと向かおうとすると影が立ちはだかる

 

「ノーヴェ、行っちゃダメだ」

 

「セイン、そこを退いてくれあたしはタカヤを…」

 

 

「ダメなんだ…あたし達は…特にノーヴェはタカヤ君にこれ以上…」

 

 

「とにかく!あたしはタカヤの所にいくからなエアライナー!」

 

セインの制止を振り切りエアライナーで出来た道をあたしは風を纏い疾走する

 

 

タカヤの脆さを知る事になるとはこの時あたしは思ってもなかった

 

 

――――――――

 

 

月明かりに照らされた岩場が点在する草原に赤と黒がぶつかり合う度に閃光が煌めく…

 

激しい金属音と火花が冷たく澄んだ空の下で散らせながら切り結ぶは黒鉄色のコートを纏った少年、タカヤ・アキツキ

 

もう一人は赤い日本風の衣装を纏った二十代後半の男性、ゴダード・トウゴウ…ホラーの筈なのだが人の意識が完全に押さえ込んでいる

 

 

「…流石は『剣神』の子息、太刀筋は父譲りだな」

 

 

「…僕は父さんから基本を教わっただけです…貴方こそ何故ホラーに!」

 

 

「強き男と戦う…武人いや騎士として当たり前ではないか…」

 

 

 

話ながらも互いに上段、下段、右凪ぎ上に切り払われるも剣形態で受け腹部に蹴りを撃つもゴダードも剣を盾にし体重を乗せた重い蹴りを胴体へ極め、タカヤは後退りしながら剣斧を構える

 

 

「…体術も出来るな良い師に恵まれたな…だが」

 

 

「くぅ!」

 

 

地面を蹴ると同時に間合いを詰めながら降り下ろされた剣を受け止める

 

 

「カハッ…クッ」

 

 

しかし余りの勢いに吹き飛ばされ背後にあった岩に叩きつけられ、一瞬息が止まった次の瞬間…首筋にピタリと剣が当てられた

 

 

「…太刀筋と動きに迷いがある、此では浮かばれぬな…戦闘機人に殺されたユウキ殿は」

 

 

「………!!」

 

 

僕の中でナニかが弾けた…次の瞬間、剣斧を斧形態に切り替え下から逆袈裟の要領で打ち据え間合いが少し空く…其だけあれば充分だ

 

 

<落ち着けタカヤ!怒りに身を任せるな!>

 

 

「…わかってるよキリク…僕は冷静だよ…ハアアアッ!」

 

 

剣形態に切り替えと同時にゴダードさんに切りかかる…逆袈裟、袈裟切り、横凪ぎ、柄打ち、フェイントを織り混ぜた斬撃は確実に追い詰めていく

 

 

けど手の中にある煌牙が重くなる…ソウルメタルで出来た剣斧【煌牙】は他の魔戒剣とは違い意思を持っていると四年前に父さんから聞いた

 

 

『タカヤ、煌牙とキリクは僕ではなくタカヤを選んだ…何故かわかるかい?』

 

 

『ぼくはわからないよ…だけどキリクは友達で煌牙はなんか寂しそうに台座に刺さっていたから握ったら抜けたんだ』

 

 

『タカヤらしいね、でも此だけは忘れないで剣斧を、煌牙を振るうときは……………を思い浮かべて振るうんだ』

 

 

 

『うん、おとうさん』

 

 

「考える暇は無いぞ…太刀筋も荒く、動きにも無駄が目立つ…」

 

 

「うわっ!」

 

 

フェイントを織り混ぜた斬撃を的確に最小限の動きで弾き、反らし、かわしていき煌牙をはねあげ再び剣を突きつけるゴダードの顔からは落胆した感情が瞳から読み取れた

 

「…今のお主では私に勝つことは出来ぬ…今宵は一先ず退こう」

 

 

剣を納め背を向け去るゴダードさんはやがて闇に紛れ消えていった

 

 

<奴さ…ゴダードと言う名はユウキから聞いたことがある最強の騎士だとな…だが百歳は越えている筈だ…タカヤ?>

 

 

「…キリク、僕は怒りで剣を…煌牙を振るった…父さ、おとうさんの約束を僕はッ…」

 

 

やがて月が雲に隠れ闇の中に僕は知らず知らずのうちに圧し殺し涙を流していた…背後に気配を感じ僕は振り返り驚いた、だってそこには息を切らしながらノーヴェさんが立っていた

 

 

―――――――

 

 

「タ、タカヤ…大丈夫か?」

 

「…すいません、少し時間をください…何時もの自分に戻れますから…」

 

 

 

頭を俯かせ力なく言うタカヤのその長く黒い髪に隠れた表情はわからない、けどあたしにはわかってしまった

 

あのホラーよりも強いタカヤが負けた…信じられなかった

 

 

「…………」

 

 

普段からは見られないタカヤの姿を見たあたしは知らないうちにとなりに座っていた…互いに話さず少しばかりの時間が過ぎてようやくタカヤが顔をあげ立ち上がる

 

 

「…帰りましょうかノーヴェさん、皆が心配してますから」

 

 

「あ、ああ帰るかタカヤ…」

 

 

目の回りを少しだけ赤くしコートに付いた泥をはたくタカヤに促され、あたしは皆がいるホテルアルピーノへと向かい歩いていく

 

 

ホテルアルピーノに着きすぐに夕食をが始まるが皆が賑やかに食べる中、チラリとタカヤを見る…普段と変わらないよう見えるが、昼間に見せた食欲が鳴りを潜めていたのにあたしは気付いた

 

 

どうにかしないとなと考えていた時、姉貴が旅行前に買ったアレを着てタカヤと話でもするか…アキツキって名字はあたしのナカジマと響きが似てる、もしかしたら地球の出身かもしれないならば善は急げだ

 

あたしは急いで夕食を食べ終えると部屋へと戻った…待ってろよタカヤ

 

 

――――――――

 

 

「見つけた!タカヤ君こっちに来て!!」

 

 

「え、ルーテシアさん?」

 

「昼間に言ったでしょ見て貰いたい絵があるって…早く来て!」

 

 

食事を終え歯磨きをし部屋に戻ろうとする僕を引っ張るルーテシアさんに引きずられあっという間にある場所へと着く、どうやら書庫みたいだ

 

 

「タカヤ君、飲み物を用意するから少し待ってて」

 

 

そう言い飲み物を用意しに離れ、一人で辺りを見回すと大小様々な歴史、伝記等の本がところ狭しと本棚に並んでいる、机の上の二枚の絵が飾られている…何の絵かと思い近寄る

 

一枚には立派な服を来た三人の男女と黒い外套を着た男性が描かれ、あと一枚を見た時だった…何かが胸の奥から込み上げ頬に熱いものを感じる

 

 

「え、何で…涙が止まらない…」

 

 

二枚目には黒い外套を着た男性とささやかな装飾が施されたドレスを纏いその腕に赤ん坊を抱いた女性が描かれている

 

その絵を見て何故か懐かしい…まるで昔から知っていると感じた

 

 

<こいつは驚いた…タカヤこれに描かれているのはお前のご先祖様…オウガ・アキツキだ>

 

 

「この人が僕のご先祖様…じゃあ僕と同じ瞳の色の女の人は……」

 

<オウガの妻だ…絵に俺が描かれてない…確か修理中だった時に書かれたんだな…ん?タカヤ額縁の裏に何か文字が書かれているんでぃ>

 

 

「これって、旧魔界語だね…」

 

 

額縁の裏の文字を見ると旧魔界語で何かが記されている…とりあえず読んでみる

 

 

―ズヨイスワネユムユムギオルステク、ユムンクルシケクスイリオリ、キレレミユウスクスニリビ、シキウヒユムサミリワ…シロデキレレミユウヒロステワクバエテウエニネフキレチニリワ―

 

「十三の闇、王甦りし時、闇を切り裂く騎士あらわる…されど心迷いし騎士ならば世界は闇に染まらん…されど心の迷い晴れし時、希望と言う名の光となる…心迷いし騎士よ、この絵に我らが守るモノあり…」

 

 

「すごい、すごいよタカヤ君!やっぱり君は魔戒騎士なのね!」

 

 

「ル、ルーテシアさん?近い、近いから!?」

 

 

いつの間にかに飲み物が乗ったトレイを素早く机の上に置き、ぐぐいっと僕の両肩を掴み顔を近付け笑顔で喜ぶ…ていうか胸が…胸がフニュンと当たって…その時、書庫の扉が大きく開かれる

 

 

「お嬢、タカヤを見なかっ…た…か………」

 

 

「…タカヤさん、ここで何を…」

 

 

「ルールー…タカヤさんと何してるのかな…」

 

 

僕たちの姿を見て、三人からオーラ…獅子や龍や虎の小〇宙が見えビシビシと肌に突き刺さる…気付くとルーテシアさんの姿がない

 

『ごめんねタカヤ君…流石に三人相手は私には無理…健闘を祈るね』

無責任な念話を最後にルーテシアさんの気配が消え代わりにホラーに匹敵するんじゃないかと言うくらいのオーラを纏った三人がゆっくり歩み寄ってくる

 

 

「あ、あのノーヴェさん、ヴィヴィオさん、アインハルトさん、何でそんなに怒ってるんですか!?…(キリク助けて~)」

 

 

(<諦めろタカヤ…取り敢えず…まあがんばれ…何事も経験だ…>)

 

 

キリクにあっさりと見捨てられジリジリと迫る三人を見て思った事は一つ…

 

女の人って怖い……

 

 

―――――――

 

 

カルナージ山中、タカヤと剣を交えたゴダードは大岩に正座し考える

 

 

(『剣神』アキツキの子息…実力は劣らぬ、しかし剣、太刀筋に迷いは恐らくは何かを得ていない、捨てようとする意思を感ずる)

 

 

 

二十数年前、ゴダードは聖王教会同鍛練場で見た少年、ユウキ・アキツキの流れるような剣捌きと体術は違いなく受け継がれている筈であると考えホラーを呑み込みタカヤと剣を交えた

 

 

確かに剣捌きと体術は受け継がれている…しかしタカヤの迷いがある限りゴダードの…強い相手と戦いたいは満たされない

 

 

(…ワシがホラー『タウラス』を抑え込められるは後一日、其れまでに迷いを捨てよ『剣神』の子息よ)

 

 

闇の中、大岩に座したままゴダードは深く眠る…迷いが晴れた魔戒騎士タカヤと再び剣を交えるのを楽しみにしながら……

 

 

―――――――

 

 

「う~~ん」

 

 

 

 

「ルール、早く説明してくれたらこんな事しなかったんだよ!」

 

 

「そうです!言ってくれればタカヤさんを殴らずに…」

 

「あはは、ごめんねヴィヴィオ、アインハルト…」

 

 

二人に詰め寄られ額に汗をかきながら謝るルーテシアの後ろにはフルボッコされダウンしたタカヤを膝枕するノーヴェ…何故か浴衣を着ている

 

ホラーに負けたタカヤを元気つけようと着てきたが肝心のタカヤは気絶している

 

まあ、三人のトリプルブレイカー?(三人同時の鳩尾殴り)を受けたから仕方がなかった

 

 

(…はあ、お嬢が早く言ってたら殴ることもしなかった…タカヤにあたしの浴衣を見せたのにな…ハアア)

 

 

あたしは膝の上で気絶するタカヤの頭を撫でながら髪を鋤く…サラッとしててさわり心地がいい

 

 

あたしは今までタカヤがどんな生活をしていたかは知らない…

 

 

ホラーよりも強くて、剣と体術は恐らくあたし達が束になっても勝てない…ホラーに負け声を圧し殺し泣く姿…まるで硝子みたいに脆い…『心』はあたし達と何ら変わりはないんだ

 

 

 

「う…ん?アレ…」

 

 

「気がついたかタカヤ?」

 

 

あたしの膝から目を擦りながら起き上がるタカヤにドキッとする

 

だってあんな無防備な顔を見たら仕方ないだろ!

 

 

「あ、あの…ノーヴェさん…その浴衣すごく似合ってます…じゃ部屋に戻ります…おやすみなさい」

 

 

、あたしの浴衣を見て顔を赤くしながら言うと部屋に戻っていく

 

少しは元気は出たようだな…浴衣が似合ってますか…今度は二人っきりで祭りとか行って見たいな

 

 

((今度タカヤさんに浴衣姿見て貰おう!!))

 

 

と二人がこぶしを握りしめていたのに気づかなかった、それから暫くの間、お嬢とあたし達はタカヤが見ていた絵を見ながらお茶を飲む、絵に描かれているのは魔戒騎士とその妻子

 

 

「この絵に描かれているのはタカヤ君のご先祖様らしいんだ…」

 

 

目をイキイキと輝かせあたし達に話すお嬢、聖王教会の倉庫から見つかった絵だそうだ…描かれている三人は幸せな表情を浮かべていて暖かさを感じた

 

夜も遅くなりあたし達は明日に備え部屋に戻り眠りについた

 

―おとうさん!―

 

 

―なんだいタカヤ?―

 

 

―どうやったらおとうさんみたいに剣を自由に振るえるの?―

 

 

剣を自由自在に振るい跳ね跳躍し降り下ろし終えたおとうさんは剣を鞘にパチンと納め、顎に手を置き少し考え口を開いた

 

 

―タカヤは剣を振るう時何を考えてるかな?―

 

 

―ぼくは…わからないよ―

 

―…タカヤ、――――――を思い浮かべて剣を振るうんだ…それが…―――…、―

 

 

 

――――――

 

 

「はっ……夢…父さん…」

 

 

あの日の夢を久し振りに観た…父さんの夢を…

 

 

ベッドから降り部屋を出ると僕はホテルアルピーノの外に出る…まだ日が昇らなずひんやりとした空気を肌で感じながら大きく深呼吸する

 

 

あの日、父さんは僕に何かを教えてくれた……けど肝心な部分が聴こえなかった

 

 

「父さん、僕は…何の為に剣を振るうんだろう…わからないよ」

 

 

そう呟くとロッジ裏の川へと歩いていく…僕自身の迷いを振り払う為に…

 

 

「……ハアアア!」

 

右斜め下段に構えた煌牙を逆袈裟で切り払う…衝撃波を伴った斬撃が川を真っ二つに切り裂き対岸まで届く…でも心が重い

 

<タカヤ、踏み込みが遅い…ゴダードに言われた事を気にしているのか?>

 

 

「…………」

 

 

ゴダードさんは僕の父さんが何故死んだか知っていた…四年前、父さんは聖王教会から管理局に出向中に起こった事件の際、戦闘機人に負わされた傷が元で亡くなった

 

…僕は戦闘機人に……

 

「タカヤさん!」

 

「うわあ!?ってヴィヴィオどうしたの?」

 

 

「タカヤさんの姿が見えないってノーヴェが探し回ってましたよ」

 

 

「タカヤお前此所で何してんだ?…んな事より飯食いにいくぞ!」

 

 

「早く行きましょうタカヤさん」

 

「あ、ま、待って!ヴィヴィオにノーヴェさん引きずらないで!!」

 

<あ~タカヤ、諦めろ…>

 

キリクの諦めに近い言葉を耳にしながら、その場から二人にズルズルと引きずられ僕はホテルアルピーノに戻った

 

 

―――――――

 

 

「「「「「「……………………………」」」」」」

 

 

「……すいませんお代わり!」

 

 

「はい、タカヤ君…其れにしてもたくさん食べるわね~」

 

 

笑顔で差し出された皿に料理を盛りタカヤに渡すメガーヌ…タカヤの回りには皿が左右に二十枚重なっている

 

まるで昨日の食べ損なった分を取り戻すかのように…

 

(タカヤの奴少しは元気が出たみたいだな…けど今日の練習試合はタカヤは参加出来ねぇし…)

 

 

(タカヤさんも練習試合にでないかな…)

 

 

(もう一度タカヤさんと手合わせをしたいです…)

 

 

…等々の思惑があるがタカヤは事前にノーヴェを通して参加しないと告げていた

ホラーが何時現れるかわからない、参加したら間違いなく狙われるかもしれない

だがゴダードからはホラーが発する邪気が全くない…さらにはタカヤとの再戦を望んでいる節がある

 

 

そうしてる内に朝食を済ませ皆は陸戦試合を行う訓練場へ、タカヤは一人ある場所へと向かう…

 

 

「…この絵に我らが守るモノあり…か…」

 

 

書庫内で絵を眺め呟く…『心迷いし騎士』、タカヤの先祖『オウガ・アキツキ』は何故旧魔界語で誰が見るとも知れないメッセージを残したのかを考える

 

 

しかし絵を何度見ても何もわからない…ただオウガと妻、そして腕に抱く子供の絵…我らが守るモノありの意味が隠されていると考える

 

 

「タカヤさん、此所に居ましたか…」

 

 

「アインハルトさん…陸戦試合はどうでした?」

 

 

「…はい、皆さんとても強くて、参加して良かったです…その絵に描かれているのはタカヤさんの…」

 

 

「…うんオウガ・アキツキ、僕のご先祖様だよ…あまり似てないな…あの人には似てるけど」

 

 

「あの人?」

 

 

しまった…『あの人』という言葉に首を傾げながらアインハルトさんは僕とは色違いの虹彩異色の瞳でじっと見つめ、暫くして小さくはっきりと呟いた

 

「…あの人とはタカヤさんのお母様の事でしょうか…」

 

 

もう隠すのは無理だと感じ僕は母さんの事を少しだけ話した。…流石に魔戒騎士と――の訓練を終えた期間に驚いた顔をされたけど

 

 

「………………………」

 

 

余りの修練内容を聞いたせいか黙り混んでる…

 

仕方ないかな…

 

 

コートに手を入れ取り出したのは一本の装飾が施された筆…チリンと澄んだ音色を鳴らし右手に持ち円を三度描きながらある言葉を呟く…

 

 

「ナゴメ、ナゴメ、メセマメターレ…」

 

 

筆、魔導筆で空中に描かれた文字から無数の色とりどりの蝶が書庫内を舞い踊る

 

人を笑顔にする術…昔キリクにこっそり教えて貰った術…アインハルトさんは暗い顔なんかより笑顔でいてもらいたいから

 

 

「フフッ…とても綺麗で、暖かいです」

 

 

「そ、そうかな?其より僕に何か用かな?」

 

 

術で生み出された蝶に触り笑顔になるアインハルトさんを見ながら魔導筆をコートに直し終え僕は聞いてみた

 

 

「…実は夜の陸戦試合にタカヤさんも参加してみませんか?」

 

 

「え、でも僕は参加しな……」

 

 

「ダメですか…」

 

 

まるで捨てられた子犬みたいな目で見るアインハルトさん…

 

 

「わ、わかりました…」

 

 

「はい!楽しみにしていますね!!」

 

 

 

頷くとさっきまでの顔が嘘みたいにパァッと明るく笑顔になったアインハルトさんを見て少しだけドキッとした

 

 

―――――――――

 

 

 

「………」

 

 

「ノ、ノーヴェどうしたの!?」

 

 

「な、ナンデモナイ…ナンデモナイアネキ……」

 

砕ける音がした方を見ると飲み物が入った容器を握り潰し黒いオーラが立ち上るノーヴェを見てスバルは震え上がった

 

 

―――――――――――――――――

 

 

それから暫く過ぎ僕は訓練場に着くと既に皆は準備体操を終えている…だけど何か揉めている?

 

 

「タカヤはウチの組に入れる!」

 

 

「いくらノーヴェさんでも譲れないです」

 

 

「あ、あの~僕はどちらでも…」

 

 

「「タカヤ/さんは黙って/ろ/て!」」

 

 

「は、はい………」

 

 

…結局、なのはさん達がくじ引きで決めたらといったお陰でフェイトさん達のチームに組み込まれた…ノーヴェさんはニコニコしていたけどアインハルトやヴィヴィオはなんか沈んでいる

「「じゃあ行くよ!セーット!アーップ!」」

 

皆がBJを装着する中僕は背を向けセットアップしBJを展開し数年後の姿になり黒いレザースーツの上に黒鉄色のコートを纏いフェイトさん達のチームへと合流する

 

『それでは第三戦目~試合開始~~!』

 

 

サムズアップしたメガーヌさんの掛け声と同時に皆一斉に散開する

 

 

『…キリク、ホラーの探知を頼んだよ』

 

 

<ああ、今のところホラーの気配はねぇ…>

 

 

キリクにホラー探知をさせ訓練場を駆ける、突然何かが目の前に現れた

 

 

「アキツキ先輩!あたしと手合わせお願いします!!轟雷炮!」

 

 

「リオ…手加減はしないよ…ハアアア!」

 

 

剣、カーンで蹴りを受け捌き同時に拳打を入れるが瞬時にかわされ打ち出した腕を捕まれ投げ飛ばされる

 

『リオ様も中々やりますね…若油断大敵ですよ』

 

 

「うん、けど追撃に転じないのはまだ甘いね…ハッ!」

 

宙で一回転し構造物の壁を蹴り反動を利用し間合いをつめリオへ剣を降り下ろす

 

 

「キャアア!?」

 

 

腕を交差し重ね防御するも吹き飛ばされ背後にある構造物に突っ込んだ

 

 

「……少しやり過ぎたかなキリク、カーン…」

 

 

構造物に突っ込んだリオを見て呟いた時

 

 

『若!避けてください!!』

 

 

カーンの声と同時に炎と雷の双龍が襲いかかる、其れをカーンで切り払いと同時に跳躍し離れる

 

 

「流石ですアキツキ先輩、あたしの炎龍と雷龍をかわすなんて」

 

 

あちらこちらがボロボロになりながらも此方に歩いてくるリオに僕は無言でカーンを構えた時だった

 

《タカヤ、ホラー…ゴダードが近くに来ている!》

 

 

恐れていた事が現実になってしまった…けど試合はまだ始まったばかりだ

 

どうするかと考える、けど何も思い付かない…どうすれば…その時頭に一つだけ考えが浮かんだ……

 

 

 

…僕はノーヴェさんに念話を飛ばしホラーが現れた事と作戦を伝える

 

 

『わかったタカヤ…1つだけ言わせろ…自分の迷いを断ち切れいいな…あ、あと…必ず帰ってこい、でないとあたしが許さないからな…』

 

 

『…わかりましたノーヴェさん』

 

 

「余所見は危ないですよアキツキ先輩!」

 

 

「ごめんリオ!」

 

 

「え、きゃあ?」

 

 

 

僕に殴りかかろうとしたリオを水色のチェーンが四方から絡めとる…リオ対策の為にあらかじめ設置した捕縛盾を発動させ其れを確認しその場から離れる

 

 

僕が狙うのは…なのはさんだ

 

 

「…来たねタカヤ君、色々聞きたいなと思ってたんだけど…後で聞かせてね」

 

 

接近と同時にアクセルシューターを展開し僕に向け撃つ、其れをカーンで横に一閃し切り払うと間合いを詰め上段に構え斬りかかった時動きが止まる

 

 

見ると捕縛盾に両腕を拘束されている

 

 

「甘いねタカヤ君、ストライク・スターズ!!」

 

 

桃色の魔力…凄まじいまでに集束された極太の砲撃に吹き飛ばされるタカヤ…桃色の閃光が訓練場の外に伸び飛び出していく

 

 

「…なのは、やりすぎだよ…」

 

 

「やりすぎちゃった…後で私がタカヤ君を…」

 

 

『すいません、なのはさんタカヤはあたしが責任もって連れ帰りますから…』

 

 

『わかったよ、じゃあ試合の続きを始めようか此方も一人ダウンしちゃったし…』

 

 

『はい、なのはさん』

 

 

先程のストライク・スターズの射線には拘束されたリオが居り次いでと言わんばかりにライフが0になり戦闘不能になるも人数は平等になり再び試合が再開された

 

 

実はこれがタカヤの目的だったりする

 

 

(く、これが魔法なのかな…魔炮の間違いだよね…)

 

わざとなのはに攻撃しホラーが現れた場所に砲撃の射線がくるように位置取りし攻撃を仕掛ける

 

 

…これがタカヤの考えた作戦だった

 

 

<…タカヤ、此所にゴダードがいる!>

 

 

 

凄まじい魔力の奔流に耐えながらホラーが現れた場所についたとキリク告げられ射線から離脱し着地するもかなり痛い…

 

 

「随分ボロボロだな剣神の子息よ…迷いは晴れたか?」

 

 

「…いえ、迷いは剣を交えて祓います…」

 

 

「ククッ、アハハハ…よく言った、ならば交えようではないか!」

 

 

豪快な笑い声をあげながら剣を腰から抜き放ち構えたの見て僕も煌牙を抜くと右手に牙突の構えを取る

 

「ハアアア!」

 

「ウオオオオ!」

 

 

昨日の夜と同じ月明かりに照らされ赤と黒…タカヤとゴダードが互いに切り結ぶ度に火花が舞う、刃がぶっかり逢うたびにソウルメタルの振動音が辺りに木霊する

 

 

切り払うと同時に剣斧を斧形態に切り替え柄打ちするタカヤ、其れを紙一重でかわし柄を掴み投げ飛ばすゴダード…宙で体を捻り上手く着地したタカヤは剣形態に切り替え構え斬りかかる

 

「はああ!」

 

「ぬうあ!!」

 

 

何度も切り着けつばぜり合いながらを拳で顔面、鳩尾を殴りつけるも弾き防ぐを繰り返すタカヤとゴダード…

二人の動きはまるで舞い…剣舞だ

 

 

その最中タカヤは思う

 

自分は何故剣を振るうのか

何の為に?

 

そう思った時、脳裏にある言葉が浮かぶ…

 

 

―この絵に我らが守るモノあり―

 

 

騎士…オウガ・アキツキとその妻とその腕に抱く子供…

 

 

妻と子供、そして……

 

 

―…タカヤ、大事な人を、守りたい人達を思い浮かべて剣を振るうんだ…―

 

 

あの日に言われた父の言葉を思いだし、タカヤは剣と拳、蹴りを交えながらようやく答えに辿り着いた

 

 

先祖…オウガ・アキツキが旧魔界語で残した言葉の意味…それは《大事な人》、《大切な人達》を守る…まだ大切な人は僕にはいない。でもみんなを、ノーヴェさん達を守る

 

 

その為に僕は剣を、煌牙を振るう!

 

「ハアアア!」

 

 

「グウウ!?」

 

 

ゴダードは驚いていた…先程まで太刀筋と動きから感じていた迷いが消え失せ代わりに確固たる強い意思、信念が籠められた斬撃と拳打、蹴撃に押される

 

火花が散り、ソウルメタルの振動音が激しく響き遂にタカヤの右からの横凪ぎに繰り出された斬撃を受け吹き飛ばされ岩に激しく打ち付けられた

 

 

「ガハッ!?」

 

 

肺から全ての酸素を吐き出し一瞬気が遠くなるも直ぐ様意識を繋ぎ止めた時首筋に冷たい金属…ソウルメタルの刃がピタリと添えられ見上げると肩で息をしながらゴダードを見るタカヤの姿だった

 

「…見事だ『剣神』の子息よ…」

 

 

「…子息はやめてください、僕の名前はタカヤ・アキツキです」

 

 

「タカヤ・アキツキ…その名しかと覚えた…もう悔いは…ウグッ!?」

 

 

「ゴダードさん!?」

 

 

突然ゴダードさんが苦しみ出し、身体が内側から盛り上がり服が破け、巨大な牛の角を頭に生やし筋骨隆々の体躯の異形がその姿を表した

 

『ヤットワレノカラダニモドッタカ…セイオウ、ハオウヲクライニイクカ…ソノマエニマカイキシオマエヲタオス』

 

 

その身体を震わせ足を踏み鳴らし僕に目掛けて突っ込んで来る、其れを寸前で跳躍し交わし剣斧を逆手に構え見据える

 

 

《気を付けろタカヤ、アイツはホラー「タウラス」…重い攻撃と突進と外見には似合わない速さが最大の武器だ》

 

 

其れを聞きながら互いに動くのを牽制していた時だった…草の繁みが鳴りそこから三人の人影が姿を現す…

「ヴィヴィオさん…ここで間違いないんですか?」

 

「うん、ここら辺に落ちたってなのはママは言ってましたよ…」

 

 

「ヴィヴィオ、アインハルト…二人とも待てって言ってるだろ…タ、タカヤ!…」

 

 

『ホウ…ワザワザ、セイオウ、ハオウガデムイテクレルトハツゴウガイイ…ガアアアアア!』

 

 

三人…ノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルトに標的を替え地面を踏み鳴らし襲いかかるタウラス…僕は同時に地面を蹴り煌牙を正面に構え真円を描き突き出す…と同時にいままでとは違う光…白金色の光に包まれた

 

―――――――――――――――――

 

 

あれから試合を終えたあたし達は途中リタイアしたタカヤ(正確にはホラーを倒しに向かう為の演技)を探しに森の中を進む

 

 

あたしのジェットエッジとタカヤのデバイス『カーン』は何故か友達になっていた(そのせいかデバイス同士の雑談が毎夜繰り返されているし…何を話してるんだってジェットに聞いても教えてくれないし…気になる、すごく気になる!)、そのお陰でタカヤがいる場所をカーンを介してジェットに伝えられ今森の中を進んでいく…最初はあたし一人でタカヤを迎えに行く筈だった、しかしヴィヴィオとアインハルトが『自分達も行く』と言い着いてきた

 

 

…多分あたし達がつく頃にはホラーを倒している、そう考えてる内に開けた場所に出て直ぐに目に入った光景…タカヤが牛と人が合体した異形と剣を構え対峙している

 

異形はたぶんホラーだ、だとしたらヴィヴィオとアインハルトが狙われる…あたしは後悔した時は既に遅かった

 

 

振り返りるとニヤリと笑いあたし達に飛びかかるホラーの前に足がすくみ動けない

もうダメだ…あたしとヴィヴィオ、アインハルトがそう思った時…光、白金色の光があたし達の前に降り立ち、激しい金属音が辺り一帯に響くと同時に光が収まり其所にいたのは

 

 

牙を剥いた狼を型どった面、西洋の騎士を想わせる造形を併せ持った白金色の鎧を纏った騎士が剣?でホラーの巨大な角を片手に構えた剣斧で受け止め守るように立ちはだかっていた

 

 

―――――――

――――――――――

 

 

(ま、間に合った…けど鎧の色が違う…何で?)

 

 

あんな形で鎧召喚をしたのは初めてだった…逸れに鎧の色が違う事に戸惑っている、けど今はホラータウラスを倒す前にノーヴェさん達から離れないと考え軽く剣を振るった

 

 

『ガ、ガアアアアアアア!?』

 

 

…筈だったのにタウラスが勢いよく吹き飛ばされ岩に叩きつけられる…軽く剣で切り払っただけなのに、タウラスはフラフラと立ち上がり此方を伺う

 

 

<タカヤ、奴さん相当タフだな…アレを極めるか?>

 

「タカヤ/さん!」

 

 

声が聞こえ振り返るとノーヴェさんとヴィヴィオ、アインハルトが不安そうな顔で僕を見てる

 

 

『…大丈夫です…僕は迷いません!』

 

 

 

色違いの瞳で三人を見てそう言うと魔導火を取りだし乾いた金属音と同時に白く煌めく炎を出し煌牙に纏わせ激しく燃え上がる

 

 

『ガアアアアアアア!』

 

『ハアアアアアア!』

 

 

白金色の炎を纏わせ蜻蛉の構えを取り凄まじい加速で突っ込んで来るタウラス目掛け抜き払う

 

 

『ガ、ガアアアアアアア?』

 

 

白金色の炎を纏った三日月状の斬撃がタウラスを真っ二つに切り裂くと上空を舞う…

 

其れに白金色の狼が…鎧を纏ったタカヤ…煌牙が炎を纏うと同時に降り立つ…

 

「綺麗です…」

 

 

「ああ…」

 

 

「…タカヤさん」

 

 

白く煌めく炎を頭、肩、胸、脚に纏わせ再び構え駆け出すと同時に跳躍しタウラスを炎を纏わせた煌牙で上段真っ二つに切り裂くと真横に構え横一閃で凪ぎ払う…十字に切り裂かれ燃え上がりながら…

 

 

『バ、バカナアアア…タカヤ・アキツキ…見事だ儂は主と剣を交える事が…出来た事を誇りに思う…さらばだ………』

 

 

タカヤにだけ聴こえる賛辞の言葉を残しタウラスと共に消滅するゴダードを見ながら

 

 

『貴方も最高の騎士でした…ゴダードさんありがとうございます』

 

 

そう呟くと烈火炎装を解くのと同時に鎧を返還した途端その場に膝をつく

 

 

「タカヤ!大丈夫か?」

 

 

「は、はい…お、」

 

 

「お?」

 

 

「お腹がすいて力が出ないです…ノーヴェさん」

 

 

「プッ…アハハハハハハハ!」

 

 

僕が膝をついた理由を聞きいきなり大きな声で笑い出すノーヴェさん、其れにつられてかヴィヴィオとアインハルトも笑ってるし…しばらくして僕とノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルトと一緒にホテルアルピーノへと戻っていった

 

――――――――――――――――――

 

 

「すいませんおかわり!!」

 

 

「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」

 

 

 

その日の夕食時、タカヤはナカジマ家、ホテルアルピーノで先日の昼に食べた時以上の記録を弾き出し皆を唖然とさせたのだった

 

「タカヤ君すごい!」

 

 

「タカヤ、あんまりがっつくな!」

 

 

「スバル、エリオ、ノーヴェ以上だわ…」

 

 

「…なのは、あの食事量はやっぱりタカヤ君はアキツキ一尉の…」

 

 

「そうだね…明日あたりお話ししてみようかな?」

 

 

等々二人のママが話し合っていたのを、すごい勢いで食べるタカヤの耳には入らなかった

 

 

夜はまだまだ長い…当然ルーテシアはあるイベントを考えていた

 

 

「ふふふ、夜はまだ長いわよ」

 

 

果たして何が待ち受けるのか?

 

 

第七話 旅行

 

 




キリク
『ゴダード、ホラータウラスを倒し確実に守りし者として成長を遂げるタカヤ。しかしアルピーノ家で行われるゲームは更なる試練?をタカヤに課す……次回、旅行(四)!…お前はまさか!!』




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第七.五話 遊戯(改)

「あ~皆さん今晩は~!此れよりホテルアルピーノ主宰!『リアルすごろく大会』始めるわよ~!!」

 

 

「「「「「おお~~~~!」」」」」

 

 

ルーテシアの開催宣言と同時に沸き立つ歓声、此所ホテルアルピーノ。レクリェーションルームで『リアルすごろく大会』が始まる…

 

 

参加者は、ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェ、キャロ、エリオ、リオ、コロナ、スバル、ティアナ、ガリュー、タカヤ。なおヴィヴィオ&ルーテシアのママ達は参加せず観戦している

 

 

「なお、二人一組で様々なトラップをくぐり抜けゴールを目指し頑張ってね」

二人一組…その言葉がでた瞬間、タカヤは寒気を感じ振り替えると三人、ノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルトが立っていた

 

「タカヤさん、私と組みましょう!」

 

 

「あ、あの私と!」

 

 

「あたしと組むよな、タカヤ」

 

 

「え、ちょ!ちょっと」

 

 

じりじりと歩み寄りをタカヤを壁際まで追い詰めた三人の前にルーテシアが割り込んでくる

 

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェ、此所はくじ引きで決めない?あまり時間がないし(作者的に)」

 

 

(た、助かった…)

 

 

くじを引いた結果…

 

 

「じゃあタカヤさん、よろしくお願いしますね!」

 

 

「う、うん」

 

 

「「………………………」」

 

タカヤ&ヴィヴィオに決まったが他の二人ノーヴェ、アインハルトは何か暗い…

 

「「…はあああ~」」

 

 

…呟きうらめしそうにこちらを見る二人の背後から何やら化身が見え身震いするタカヤ

 

 

そんな空気が辺りを漂う中、一投目…ヴィヴィオ&タカヤ組は、頭ぐらいの大きさのサイコロを振るう、コロンと転がりでた数字は…

 

「六!じゃタカヤさん行きましょうか!」

 

 

「うわ?あんまり引っ張らないで!?」

 

 

(タカヤさんの手、暖かいです)

 

ほんのり頬を赤く染めながらタカヤの手を掴みのスキップ応用で歩を進め止まった時、一枚の赤い封筒が浮かび手に取り開き読むヴィヴィオ

 

 

「え~と、『一回休み…』…アレ何か書いてある…キャッ?」

 

 

文字を見た瞬間ボフンッと煙につつまれるヴィヴィオ、皆は騒然となる中煙が晴れ姿を表したのは

 

 

「え?な、何ですか!?」

 

 

ウサ耳を頭につけ、不思議の国なアリスの格好をし黒のをオーバーニーを履き、丈の短くフリルが付いたスカート、大きなニンジンを抱き締めたヴィヴィオがそこに居た、ちなみにタカヤはと言うと…

 

 

「………か、かわいい…」

 

 

そう呟いたのを聞いた二人…アインハルト、ノーヴェからスタ〇ド?…いや化身が見え皆が震え上がる

 

 

「なお、次のサイコロを振るまでその格好でいてねヴィヴィオ♪では次は…スバルさん、ティアナさんどうぞ~!」

 

「ええ~?」

 

 

ヴィヴィオの抗議を軽く流すと、次はスバルの番になった

 

 

「じゃあ行くよ、それ!」

 

サイコロが再び転がり蛇行しながら、止まりでた数字は…

 

「やった3だ!いくよティア!!」

 

 

歩を進めるスバル&ティアナだったが

 

 

「な、何ですかこれ~!しかも何で制服?ホチキスやコンパス、三角定規持ってるの? ん、何か書いてある…『ツンデレタ~イ~ムって役になりきって恥ずかしからず言って見よう♪』…ツ、ツンデレタ~イ~ム…」

 

某アニメの直〇津高校の制服を着たスバルは両手に文房具を持ち恥ずかしながら言う

 

ティアナはと言うと…

 

 

「な、なんであたしもこんな格好を!?」

 

 

同じく制服を着たティアナ…しかしその手に握られたモノ、大きな鉈が妙に怖い

 

 

「…う、嘘だ!!…言ったからね!!」

 

 

顔を真っ赤にしてティアナが言い終え、続いてアインハルト&ノーヴェもサイコロを振るいでた数字通り進み…

 

 

「な、なんだこの格好は!!」

 

「は、恥ずかしいです////」

 

 

ノーヴェは濃紺の水着…いわゆるスク水を纏い更に胸には大きく『ノーヴェ』と書かれ何故か黒のオーバーニーを履いている

 

、一方アインハルトは何故か大人化しやたら胸を強調するゼシカ・ウォンの衣装を纏った姿…二人の姿は遠くからでも体のラインが目立ち妖しさに満ち溢れていた

 

「どうやら、あたし達には指令はないみたいだな…(な、なんでスク水なんだ!チンク姉が着たら似合うのに!?)」

 

「そうみたいですね…でも恥ずかしいです…(戦闘形態になっていないのに…)」

 

そんな二人を見たタカヤはと言うと

 

 

「……ッツ!」

 

 

鼻血をなんとか堪えていた この後もサイコロを投げ進めたエリオ&キャロ組は

 

「……雑種!王の眼前であるぞ!(コ、ゴメン、キャロ)」

 

 

「え、英雄王…あ、貴方の好きにはさせません……(ひどいよエリオ君…)」

 

エアを構えた傲慢な態度をとるギ〇ガメ〇シュ姿のエリオ、エクスカリバーをストライク・エア発動状態に構えたセ〇バー姿の涙目なキャロ…

 

 

リオ、コロナはと言うと

 

「「うわ~♪」」

 

…ジャックフロスト、ジャックランタン(P4?)を可愛らしくアレンジされた衣装

 

 

ルーテシア&ガリューはと言うと……

 

 

「フフフ、この衣装って私にぴったりねガリュー♪」

 

 

「………………………」

 

 

ライダー(第五次)のきわどい格好をし悩ましげなポーズを取るテンションが高めなルーテシア、一方バーサーカー(第四次)の姿なガリューは黙って近くにおかれた電柱を構え立っていた

 

 

――――

 

様々なトラップを乗り越え、現在の順位はノーヴェ&アインハルト、エリオ&キャロ、タカヤ&ヴィヴィオ、リオ&コロナ、ルーテシア&ガリューの順になった

 

 

ここまで来るまでタカヤは様々なコスプレをしていた…

 

 

―ウワッ!ってなにこれ…これを言うのか……あんただけは堕とす!!―

 

 

某宇宙世紀に出る変身するガ〇〇ムのパイロットスーツ姿で指令書通りの台詞を言い

 

 

更に

 

 

―今度の指令はなんだろ…………この台詞を言えばいいんだね…―

 

 

アク〇リ〇ンEVOLのカグラ・デムリの衣装を着たタカヤはいきなりヴィヴィオの顎に優しくてを添え

 

 

―…見っけたぞ俺だけのくそ女…(ごめんヴィヴィオ)―

 

 

―え?俺だけの女!?(た、タカヤさんの女)―

 

 

タカヤらしからぬ台詞とワイルドな服のせいかミコノの衣装に扮したヴィヴィオの耳には『俺だけの女』と言う言葉しか聞こえず

 

 

―…………………(怒怒怒怒怒怒怒怒怒!)―

 

 

その光景を遠く離れた場所からみていた二人の背後からは使徒ホラー以上のオーラが立ち上っていた

 

 

 

―――――――

――――――

 

 

 

「タカヤさん、後少しでゴールですね」

 

 

「う、うん、あと五マスで上がりだね…(だけどこの『衣装チェンジシステムって誰が作ったの?』)」

 

 

そしてタカヤ&ヴィヴィオ組がサイコロを振るいでた数字は……

 

 

 

「やった!五です、一、二、三、四、五、はい私たちが一番の…」

 

 

「う、うわ!?」

 

 

 

ゴールに着いた途端、ボフンッと煙に包まれ現れたのは何故かI〇学園の主人公の制服を着たタカヤ

 

 

「ん、何か入ってる…」

 

 

ポケットに何か入ってるのに気付き取り出し見ると『黒の指令書』がある事に驚き慌てて魔導火を取り出そうとする

 

 

―タカヤ、魔導火は必要ないぜ―

 

 

キリクに止められ開いて見た内容は……

 

 

「「「タ、タカヤ/さん」」」

 

声を掛けられ振り返るとアインハルト、ノーヴェ、何時の間にか隣にヴィヴィオもいる…

 

 

タカヤの脳裏に先ほどの指令書の内容を思い出す

 

 

(…黒の指令書の命令は絶対…仕方ないよね…)

 

 

深く決意をした直後、ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェ三人同時に口を開いた

 

 

「「「タカヤ/さん!あたし/私/と付き合/え/ってください!!」」」

 

 

顔を真っ赤にし三人全員が指示された台詞(サイコロを振り終えた時二人に指令書が来た)を言う、しかし……

 

 

「いいよ、買い物ぐらいだったら…(これであってるよね)」

 

 

「「「……………」」」

 

 

世界で唯一動かせる少年的な台詞(これもまた指令書に指示された)が出た次の瞬間

 

 

「「「………ハァッ!!」」」

 

 

 

「グ、グハアァァ!?」

 

 

 

カルナージに着てから二回目となる、三人同時のトリプルブレイカーを受けマップに沈みもだえるタカヤ

 

 

「…あんなところまでアキツキ一尉そっくりなんて」

 

 

「…ヴィヴィオ苦労するね…うまくいくよう何か考えないとねなのは」

 

 

「そうだねフェイトちゃん」

 

ヴィヴィオのママ…なのはとフェイトは深くため息をつく

 

 

そして、勝者はと言うと

 

 

「えへへ、私たちの勝ちだねティア♪」

 

 

「そうねスバル…ていうか文房具持ったまま私に抱きつくな!」

 

振ったサイコロの数字で進み止まったマスに『このままゴールまで一直線!』と書かれた指令書のおかげでゴールしたのだった

 

 

余談だが優勝賞品はホテルアルピーノ特製スイーツを滞在中食べ放題…タカヤも当然これ狙いで参加していた

 

 

色んなハプニングあったがゲーム大会は幕を閉じた

 

 

――――――――

―――――――――――――――――――

 

 

 

「うう、まだ痛い…キリク何で『黒の指令書』があったのかな」

 

 

―さあな、それよりもだ…気絶したお前を此所まで運んでくれたノーヴェやアインハルト嬢ちゃん、ヴィヴィオ嬢ちゃんに感謝しろよ―

 

 

身体を半分起こしながらタカヤは窓から夜空に輝く二つの月を見ながら考えていた

 

カルナージに着てから会ったホラー、ゴダード゙…父ユウキ・アキツキの事を知る人物で最強の騎士との出会い、オウガ・アキツキの残した言葉…『この絵に我らが守るモノあり』はタカヤの迷いを断ち切った

 

 

「…キリク、僕はヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさん達をホラーとその王から守る為に剣を…オウガを振るう、だから此か…」

 

 

―水くさい事言うんじゃないタカヤ、俺たちは友達だろ―

 

 

ソウルメタルを軋ませ答えた言葉にタカヤは少し笑顔になる

 

 

「ありがとう、キリク…もう寝るね」

 

 

―ああ、今日はゆっくり休めよタカヤ―

 

 

「うん、お休み…キリク」

 

キリクを外し専用台座に置くとタカヤはそのまま横になりすぐに寝息をたて眠りについた

 

 

 

「「「…………………」」」

 

 

しかしドアが僅かに空きそこから三人の視線が覗いていた事にタカヤとキリクは気付かなかった

 

 

 

――――――――――

――――――

――――

 

 

「じゃあみんな」

 

 

「ご滞在ありがとうございました~」

 

 

「こちらこそ!」

 

 

「ありがとうございました~!」

 

 

アルピーノ親子と挨拶をしこうして四日間のカルナージ滞在を終えた一行は臨行次元船で首都クラナガンへと向かう船内で

 

 

「「「最初はぐ~!じゃ~んけん!!」」」

 

 

、誰がタカヤの隣に座るか一悶着あったが、結局ノーヴェが隣を確保するが肝心のタカヤは眠ってて少し残念な様子だったが

 

 

「う…ん…」

 

 

途中、寝ぼけたタカヤが座席から体ごとノーヴェにもたれるように倒れその膝に頭が乗ったのに慌てるが

 

 

(…この四日間、あたしたちを守ってくれたから仕方ないか…でもタカヤの髪はさわり心地がいいな)

 

 

「今はゆっくり寝ろよタカヤ」

 

 

優しく撫でながら呟くがタカヤの顔が向いている方は色々ヤバい位置なのにノーヴェは気づいた

 

(う、息が当たってる…あんダメ感じちゃう)

 

 

次元港に着くまでの間ノーヴェはデルタゾーン(!)にかかる吐息にずっと耐えるのだった

 

 

首都次元港

 

同ターミナル

 

 

ミッドチルダ、首都次元港に着いた一行はフェイト、なのはが車を回してくる間『DSAA公式戦』の話題で盛り上がる中タカヤはと言うと

 

 

「イタタタ、なんでノーヴェさん平手打ちしたんだろ…」

 

 

―まあ気にすんな…お陰で俺はいいもの見れたからな(…白とは意外だったぜ、てっきり黒かと思ったんだがな)―

 

 

左ほほに大きな紅葉を着け呟いたタカヤの耳に懐かしく聞きなれた音、鈴の音が聞こえる、まさかと思い振り返り身体が硬直する

 

 

「久しぶりね…」

 

 

「………何故貴女が此所にいるんですか…」

 

 

タカヤの前には黒と赤が目立つ独創的な衣装を纏い腰まで長い黒髪、二十代後半の女性が向き合うように立つている

 

 

「…単刀直入にいうわ…アキツキの家に戻りなさい…」

 

 

「…嫌です、僕にはやる事がある…貴女の言葉は聞けません」

 

 

二人の間に険悪な空気が流れ始め、それに気づいたノーヴェが二人の間に割り込み仲裁に入る

 

 

「すいません、貴女はタカヤとどういう関係があるんですか?」

 

 

「…ノーヴェさん、僕は先に帰ります…皆にそう伝えてください」

 

 

「ま、待てタカヤ!」

 

 

そう呟くとコートを翻しその場から駆け出すタカヤ…ただならぬ気配を感じノーヴェが追いかけようとするもあっという間に姿が見えなくなった

 

 

「…私を嫌うのも無理はないわね…」

 

 

「あんた、タカヤの何なんだ…」

 

 

女性は軽く深呼吸しそしてその口から告げられた言葉、何時の間にか隣にいたをアインハルト、ヴィヴィオをも驚かせた

 

 

「…私は…メイ・アキツキ、タカヤの母親よ…」

 

 

そう告げ彼女、メイ・アキツキはタカヤのとは色違いの魔導筆を懐から鈴の音を辺りに響かせながら出した

 

 

第七・五話 遊戯

 

 




キリク
『次元港のロビーに現れアキツキ屋敷に戻るように告げるメイ…何、タカヤの居場所を教えろだと?そいつは無理な相談だぜ……………《次回、白煌!》…試練の時迫る!!』


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第八話 白煌(改)

「…タカヤの母親…貴女が?」

 

目の前にいる女性、メイ・アキツキがそう名乗った事にあたしは驚きタカヤの母?をみる…髪の色そして服にタカヤが纏コートと意匠が似通ってる?其よりも気になる事が一つある

 

 

若い、とても子供を…タカヤを生んだとは思えないどうみても二十代前半にしか見えない、同じ女性として何か…いや負けた気がしてならない

 

 

「…貴女がタカヤさんのお母様ですか?」

 

 

「メイさん、はじめまして、高町ヴィヴィオです!」

 

「……………!」

 

 

 

アインハルト、ヴィヴィオに声をかけられメイはノーヴェの隣にいる二人を見て一瞬目を大きく見開かれる…まるで信じられないモノを見たと言わんばかりに、しかし直ぐに冷静さを取り戻した

 

 

 

 

「…そういうことね…貴女、タカヤの居場所わかったらココに連絡をくれないかしら」

 

 

手渡されたのは一枚の名刺…しかし書かれた文面を見て驚いた

 

 

 

アキツキ・インダストリ―

 

CEO メイ・アキツキ

 

 

アキツキ・インダストリー、聖王教会と密接な繋がりを持ち『DSAA』…インターミドルチャンピオンシップの大手スポンサーの一つだと言うこと思い出した

 

 

「ま、待て!…貴女はタカヤの母親なんだよな?何故あんな態度とるんだ!」

 

 

 

「…貴女にはわからないわ…」

 

その言葉だけを残しあたし達の前から離れやがて人混み紛れ姿が見えなくなった

 

「…ノーヴェ、あの人…タカヤさんのお母さんすごく悲しそうだった」

 

 

「…ヴィヴィオ、アインハルト、もしタカヤの母親が居場所を聞いても…答えないでやってくれ…二人にはまだ時間が必要だ」

 

 

無言で頷いた二人を連れその場から去りながら先程のタカヤとメイの会話を思い出す

 

さっきの感じじゃ母親を名乗るメイとタカヤのあの態度からは会いたくなかったと言うのをあたしは感じた

 

……タカヤ、メイと一体何があったんだ?

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ミッドチルダ首都次元港から少し離れた道路を一台の高級リムジンが走る

 

運転するのは初老の男性デルク、キャビンには先ほどノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオと会話をした女性…メイ・アキツキがその体を任せるように座っている

 

 

「…メイ様、タカヤ様は?」

 

 

「…逃げられたわ…追跡を阻害する界符を貼られたんじゃ無理よ…」

 

 

タカヤが貼った界符を見ながら呟く、しかし収穫もあった…タカヤはあの二人、おそらく聖王と覇王の血を引いている二人を守るため行動をしている

アキツキ屋敷から家出をしたあの子がホラーから二人を守るために…

 

 

「…タカヤ…」

 

 

 

「…メイ様は、タカヤ様と会ってどうしたいのですか?またホラーを狩る道具…」

 

 

「違うわ!!」

 

 

柄にも無く声を張り上げた事を恥じ冷静さを取り戻し小さく消え入りそうな声で呟いた

 

「私は…私はタカヤに―――――――」

 

 

第八話 白煌

 

 

同時刻、ミッドチルダ南部湾岸道 同砂浜

 

 

―…タカヤ、アイツ…メイに会って気を悪くしたのはわかるが、だがノーヴェ達の前であんな態度とる必要は無かっただろうが?―

 

 

砂浜に座り海を眺める僕にソウルメタルを軋ませしゃべるキリクの言葉を聞きながら…あの人、母さんの事を思い出していた

 

騎士と法師の訓練を課していた頃と変わらない目と声…あの頃…父さんが死んだあの日からあの人は僕を『ホラーを狩る為だけの騎士』として鍛練が始まった…

 

あの日、鎧召喚訓練を終えた僕が最後に目にした母さんのあの目は次元港であった時と全く変わっていなかった

 

 

 

「キリク…今度ノーヴェさん達にあったら謝るよ、…何の音かな」

 

 

音が聞こえた方に目を向けると一人の男の子?が手製のサンドバッグ?に向け拳と蹴りを交互に織り交ぜ撃ち込んでいる

 

…粗削りだけどアインハルト、ヴィヴィオと違う光る何かを感じた瞬間、真剣な眼差しになり構え一瞬で間合いを詰め回し蹴りを打ち込みへし折った

 

 

「…蹴打の威力が半端じゃない…今度僕も試してみるかな」

 

―…ん、背後から気配がする―

 

 

『うん、一人…いや二人が僕達を見ている…』

 

 

キリクからの思念通話で平静を装いながら立ち上がり砂を払い去ろうとした時…

 

 

「ほう、私の気配に気付くとは…」

 

 

後ろから声が聞こえ振り返るとピンク色の髪をポニーテールにした女の人と銀髪の筋肉質な男の人がこちらを見定めるように見ている

 

 

「…随分と熱心に見ていたみたいだが興味があるのか?」

 

 

「あ、い、いえ…只…僕と同じぐらいの子なのにあんなすごい蹴りを放つんだなって思って」

 

 

「シグナム、そろそろ皆が来る…」

 

 

「わかった、すまないが此から稽古をしなければならない…今度はゆっくりと話をしたいな」

 

 

「え、ええ、では稽古を頑張ってください…」

 

そう告げると僕は足早にその場から去った、背中にあの二人からの視線を感じながら

 

 

―――――――――

――――――――

 

「…どうしたシグナム、あの少年が気になるのか?」

 

「…ザフィーラ、あの少年は私の放った殺気を全て受け流していた、それに戦っていたら…いやいい稽古を始めるとするか」

 

 

「…わかった」

 

 

あの少年を見た時、私の中で懐かしさを感じた…遥か昔から知っているそのような感情に囚われたのは初めてだった

 

試しに殺気を放つも全て受け流された、まるで清流を流れる一枚の葉のように…もし戦ったら

 

 

「シグナムさん、どうしたんですか?」

 

 

「いや何でもない、では前回のおさらいと言いたいがコレを直してからだな」

 

 

「す、すいませ~ん」

 

 

やれやれと思いながら弟子…ミウラが先程蹴り倒したサンドバッグを直すことにし私はあの少年の事を片隅に追いやり作業に集中した

 

 

近いうちにまた会うことになる、そう予感しながら

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

 

「…あの人、シグナムさん…ただ者じゃないねキリク」

 

 

―ああ、あの胸はノーヴェとタメが張れそうだな―

 

 

「キリク!なに言うのさ!?」

 

 

―冗談だ…煌牙を浄化しないとな…今なら魔界道は使えるぜ―

 

 

「…そうだね、魔導図書館で調べものをしないといけないし急ごうか」

 

 

そのまま人気がない道に入りキリクを外し掲げると空間が裂け入り口が現れタカヤはそのまま入ると同時に入り口は消え失せる、最初からなにもなかったかのように…

 

――――――――

――――――

 

 

魔界道を使い聖王教会に着いた僕を待っていたのは…

 

 

「タカヤ!私と勝負しょ!!」

 

 

「……シャンテ、僕少しだけ用事あるから…」

 

 

「用事?…なら仕方ないか」

 

 

構えた双剣を修めたシャンテは僕と石造りの廊下を歩く…途中、今度インターミドルに出るんだと嬉しそうに話していた

 

「よくシャッハさんが許したね」

 

 

「…実は無許可で申請出したんだ…」

 

 

無許可は不味いんじゃないと言おうとしたとき、まるで地の底から響くような声が背後から聞こえ振り向く

 

 

「シャ~ンテ~、やあ~っと見~つけ~ました~よ~」

 

 

「ごめんタカヤ!あたし逃げるね!!」

 

 

 

その場からすんごい速さ(シャンテ談)で逃げていくシャンテを鬼のような形相で追いかけていくシャッハを見送り浄化のオブジェがある場所へ向かう

 

 

「…キリク、煌牙が何か変だよ…」

 

 

『俺はそう感じないが…早く浄化した方がいいぜ』

 

 

キリクに促され煌牙を大きく口を開けた狼のオブジェ…丁度口に当たる部分に差し込んだ時だった

 

 

「う、うわ!?」

 

 

白い光に包まれ狼のオブジェの口へと吸い込まれると同時に僕は一瞬気を失う…けどすぐに回復し目を開くと白い空間が広がり魔導文字が様々な方向から飛び交っている

 

 

―…よく来たな秋月鷹矢(アキツキ・タカヤ)…我が子孫よ―

 

 

声が響き渡り振り返ると其所にいたのは…

 

 

黒く長い髪を三つ編みにし黒鉄色の外套、魔法衣を纏った僕よりも少し年上の男性が立っている

 

 

「あ、あなたは秋月煌牙?なぜ僕の『真名』を!?」

 

 

「…俺は秋月鷹矢…お前が恐れる存在だ!」

 

 

言うや否や煌牙を構え逆袈裟で切り払う、其れを受け止めるが同時に体を半回転させ僕の上半身を横凪ぎに切り払う

 

 

「ぐあ!?」

 

 

余りの痛みに踞る僕の顔を蹴りあげると同時にきりもみし地面?へと落ちた僕の首筋に剣を突きつける

 

 

「…鎧を真の色…【白金】へと変えた功績により魔導馬【白煌】(びゃくおう)召喚の許しを与えにきた…」

 

青年…秋月煌牙(アキツキオウガ)?は剣斧を鞘?へとパチンと音を鳴らし収めた

 

 

「…魔導馬【白煌】?」

 

 

魔導馬…僕の家に伝わる文献では魔戒騎士が百体のホラーを封印した証として召喚を許される。

 

僕は百体のホラーを封印してはいない筈なのに…鎧の色を【白金】にした事で許しを与えられる事に疑問を感じる僕にオウガは語りかける

 

 

「…遥か昔『牙狼』の称号を持ちし者の鎧は当初鋼色だった…あるホラーとの戦いの際《黄金色》へと変えたという…それにならってだ」

 

 

秋月家に伝わる伝承にもその記述がある…黄金騎士『牙狼』魔戒騎士最高位…確か冴島家が鎧と剣を一子相伝で代々受け継いでるとキリクから聞いた事があったのを思い出す僕に再び煌牙を抜き放ち構えた

 

 

「秋月鷹矢、魔界より生まれし力、手に入れたいならばこの俺と…」

 

 

「…戦うしかないんですね」

 

再び煌牙を抜き構えたオウガに僕も応えるように煌牙を構え互いに動きながら距離、間合いを測る

 

 

もしオウガが仕掛けるとしたら僕の攻撃を受け流してからになる

 

でもその考えは儚くも崩れ去る…最初に仕掛けたのはオウガ自身だった

 

地面を蹴ると同時に間合いを詰め突きの構えを取り迫る剣、それを上へと切り払いがら空きになった腹部目掛け蹴打を入れようとしたとき

 

突如背後に凄まじい衝撃を受け身体が地面?へと沈む…この拳撃はまさか

 

 

―覇王断空拳―

 

オウガは僕の動き…いやその一手先を読み攻撃を受け仕掛けた

 

『秋月煌牙』は盟友である覇王から『覇王流』を伝授された事を思い出した

 

 

「…どうした、秋月鷹矢…覇王流を受け継いでいるのではないのか?」

 

 

「…ウッ!クウウ!!」

 

 

煌牙を支えにし痛む体を立ち上がらせた時、手に違和感を感じみる、煌牙がソウルメタルとは全く違う材質…『鉄』に変わっている事に驚く

 

 

でも今はこの人と、秋月煌牙と戦う

 

鉄へと変わった剣斧を構え再び秋月煌牙と対峙し切り結ぶ

 

 

魔導文字が流れ飛び交う《内なる魔界》にソウルメタルと鉄がぶっかりあう音が響き渡った

 

 

―――――――――

―――――――

 

同時刻、市民公園内

 

 

公共魔法練習場

 

 

「…タカヤさん、なぜお母さんと仲良くないんでしょうか?」

 

「…わかりません、ですが剣技と体技はお母様から教わったとしか聞いてないです…」

 

 

ベンチに座り話をするアインハルトとヴィヴィオ…話の内容は数十分前、タカヤとその母メイとのやりとりだった

 

 

普段は天然?でほんわかとしているタカヤが見せたあの表情…

 

 

あなたに会いたくない…いや僕は二度と会いたくなかった

 

 

そうとも読み取れる表情を見た二人は一度帰宅し、此所に来て話し合っていたのだ

 

「…わたし、タカヤさんとお母さ…メイさんに仲直りしてもらいたいな…」

 

 

「…ノーヴェさんはタカヤさんとお母様には互いに時間が必要だと言ってました」

 

 

どうしたらタカヤとメイを仲直り出来るか…色々と考えを浮かばせるも中々良い考えが出ない

 

 

そんな二人を遥か遠くから見る影…いや影にしては余りにも巨大で人の上半身に馬の下半身を合わせたような異形だった

 

 

『ヒオウ、ヒイオウ、ミチクル…ヒラウ、スヌイヌチヲヌルガヌウニ!…(覇王、聖王、ミツケタ…クラウ、ソノイノチヲワレラガ王二!)』

 

夕焼け色から暗くなり夜が迫る公園から少し離れた場所に、新たなホラー…『サジッタ』が姿を表しやがて闇に溶け込むようにその場から消えさった

 

 

まだその時ではないと言わんばかりに……

 

―――――――――

――――――――

 

 

「グア?!」

 

 

地面?に転がるのは何回目だろう…あれからどれぐらい時間が過ぎたかはわからない

 

 

剣が凄く重く感じるのは何故なんだ…ソウルメタルでは無く鉄製で出来てるからかと思いながらも、なんとか立ち上がり再び鉄製の煌牙を構え対峙する…切傷、殴打され服も所々が破けた箇所が目立つ僕にたいしオウガは傷ひとつ負っていない

 

 

(何故なんだ…煌牙が鉄製になるなんてあり得ない…オウガは何を僕にやらせたいんだ)

 

 

 

お互いに切り結び、上段、下段、逆袈裟、袈裟を繰り出すも全てを読まれているかの様に切り払われ弾かれ体を沈め体重を乗せた回し蹴りを受け吹き飛ばされ同時に斬撃を飛ばしそれを体を捻り寸前でかわすも間合いを詰められ覇王流のステップを踏み込み

 

 

―覇王空破断!―

 

 

魔力…いや練り上げた気を錐もみしながら宙を舞う僕の胸板に正確に掌打を打ち込む

 

 

「がはあああ!?」

 

 

地面に落ち踞る僕の腕を間髪いれず煌牙で切り掛かるも其れを受け止め左手を軸にしてオウガのの足を蹴り払うが避けられ逆に切り払われ地面を転がる

 

 

「ぐ、くう!」

 

 

立ち上がりながら僕は何か引っ掛かりを感じている…何故煌牙が鉄になったのか?

 

―俺はお前の恐れる存在…ソウルメタル、鉄、お前の……!―

 

 

オウガの剣撃を切り払いながらタカヤはある答えにようやく辿り着いた

 

 

(もし、僕の考えが正しいなら…いや!僕は自分の勘を信じる!!)

 

 

そう決意した瞬間タカヤは地面を蹴り、斬り放った斬撃をその身に全て受けながらも互いの身体を煌牙で刺し貫きやがて崩れ落ちる様に足元に倒れる姿をオウガは微動だにせず見下ろしていた

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

 

「…アインハルトさん、メイさんに会いに行きませんか?」

 

 

「…でも私たちが会いに行っても門前払いされるだけでは?」

 

 

「…もしそうだとしても何回でも会いに行けばわたし達に必ず会ってくれますよ…よくはわからないんですけどメイさんはタカヤさんと仲直りしたいんじゃないかって思うんです」

 

 

「ヴィヴィオさん、そうですね…私もお母様と会ってタカヤさんの子供の頃の話や思い出を聞きたいで…いえ仲直りの切っ掛けを掴めれば…」

 

 

あれから時間がすぎ夜が公園を支配している事に気づき二人は話の続きをヴィヴィオの家でする事を決めベンチから離れ家路へと向かった時、空からナニか巨大なモノが降ってきた

 

 

「キャッ!」

 

 

「ヴィヴィオさん、あれは!」

 

 

二人の眼前には巨大な馬…いや巨大な人馬がうなり声を挙げながら此方を見据えその右手?を向けた構えた時ナニかが風を切る音が聞こえ反射的にかわす…

 

「矢?ですか!」

 

 

先程迄いた場所が無数の矢が刺さり無残にも抉れていた

 

 

『ウガアアアアア!』

 

 

「ヴィヴィオさん、早く逃げましょう!」

 

 

「は、はい!」

 

 

その場から二人が逃げる姿を眺めながら前足を踏み鳴らし駆ける…まるで最高の獲物を見つけ追いかける狩人の様に

 

 

――――――――――

――――――――

―――――――

 

 

数分前

 

内なる魔界

 

 

 

「うう…あれ痛みがない?」

 

 

「ここで受けた肉体のダメージは擬似的なモノだ…会得したようだな」

 

 

 

「はい、この鉄で出来た煌牙は…ホラーを斬る物じゃない僕自身の恐れを斬るものです」

 

 

「その通りだ、俺はお前の恐れる存在、お前は自身の恐れと向き合い踏み込んできた。其れを知ったお前ならばこの先に起こる困難を断ち斬る事が出来るだろう…」

 

 

先祖オウガと白金色に変わった鎧の力に対する僕自身の内なる恐れを認め乗り越えた僕に満足した表情でオウガは自身の煌牙を僕に手渡す…ソウルメタルの感覚を手に感じ握りしめる

 

 

―タカヤ!ヴィヴィオ嬢ちゃんとアインハルト嬢ちゃんがホラーに襲われている!!―

 

 

「急げ、鷹矢…お前の助けを待つ者達がいる…」

 

 

「はい!」

 

 

オウガの言葉に力強く応え『内なる魔界』を走る。 二人をアインハルトとヴィヴィオをホラーから守るためにただひたすら走り抜けた

 

「会わなくて良かったのか?」

 

 

―…はい、タカヤは誰に教えられた訳では無いのに『守りし者』としての道を歩み始めています、僕が出来るのは見守る事だけです―

 

 

「そうか…だが運命とは皮肉なモノだな…ユウキ」

 

 

 

―…ですが僕はタカヤを信じています、あの子達を…『戦闘機人』だった過去では無く、過去と向き合い今を精一杯に生き始めた彼女達を見てくれると…そして本当の真実を―

 

 

 

魔導文字が白い空間を走る中、オウガは響いて来た声に答えやがて霞の様に消え去る…

 

 

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

 

 

「ヴィヴィオさん、速く!」

 

「ハアハア!キャッ!!」

 

 

人気の無い大通りを走り迫り来るホラーから逃げるも足が縺れ倒れるヴィヴィオに駆け寄り立ち上がらせ逃げる二人にホラー『サジッタ』は駆けながら腕を構え矢を放つ

 

 

 

 

無数の矢が二人に後数メートルと迫り逃げきれないと覚悟し目を瞑る二人の前に黒鉄色のナニかかが立ちはだかり無数の矢を剣で弾かれた

 

 

 

「「タ、タカヤさん!」」

 

 

「…ヴィヴィオ、アインハルト…早く逃げて!!」

 

タカヤの言葉に頷き離れたのを確認しホラー『サジッタ』に煌牙を抜き放ち構える

 

 

―タカヤ!野郎は『サジッタ』…正確なと射撃、バカみたいに固い防御力が特徴だ…油断するな!―

 

 

「うん!」

 

煌牙を頭上に構え同時に真円を描き光に包まれ、牙を剥いた狼の面と西洋風の意匠持った白金の鎧を纏ったタカヤが現れ同時に地面を蹴り間合いを詰め斬りかかる

『ハァッ!セイ、セイ、ヤアアア!!』

 

跳躍し斬りかかるもその腕に防がれるが魔戒斧形態に切り替え重さを利用しガードごと切り裂き同時に無数の蹴りを繰り出され倒れるサジッタだが対して効果がない

 

 

―野郎、固いだけでなく後ろに下がってダメージを少なくしたみたいだな…どうする?―

 

 

『…見切った、行くよキリク!!』

 

 

ふらふらと立ち上がり僕に凄まじいスピードで迫るサジッタ、其れに対し魔戒斧を魔戒剣へ切り替えるとある紋章を正面に描く、菱形を描き其れを囲むように真円を描き逆袈裟で切り払う

 

白く煌めく光の斬撃がサジッタを当たる寸前で押し返し地面に倒れた時、馬の嘶く声と蹄を鳴らす音を辺りに響かせ其れは現れた

 

 

白く輝く体躯、龍を模した頭部と甲冑を纏い表面には赤と黒の模様が施された一頭の馬…魔導馬が姿を顕す

 

 

魔導馬は魔戒獣の魂を使い魔戒法師が獣の死骸とソウルメタルで作られた身体に封ずる事で産み出される…が同時に危険を伴い命を落とした法師も居たと言う

 

ある時は足、ある時は楯となり魔戒騎士と共に戦う愛馬…時空を操る事が可能で魔界と現世を行き来する能力を持つ

 

歴代白煌騎士と共に戦った魔導馬『白煌』がオウガをその背に乗せ姿を現す

 

 

「凄い…」

 

「…アレは…」

 

 

ヴィヴィオが感嘆の声を漏らす一方、アインハルトは家にある絵に描かれていた馬?と似ている事を思い出す

 

 

『…ハァッ!』

 

 

掛け声と同時に駆け出す白煌…地面を駆けると同時に白く煌めく焔と蹄の音を残しサジッタへ迫る

 

 

『――――――――――――――!』

 

 

迫る白煌に対し再び無数の矢を放つが全てを魔戒剣形態に切り替えられた煌牙に切り払われその腕を振り回すも潜り込まれ跳躍した白煌の後ろ脚におもいっきり蹴り飛ばされ仰向けにひっくり返るサジッタ

 

 

 

―…野郎、白煌必殺『人のなんたらを邪魔するホラーは魔導馬に蹴られて死んじまえ!』を食らっても平気なのかよ…―

 

 

『キ、キリク!そんなことよりもまたダメージを減らされたみたいだ…白煌、僕に力を貸してくれるかな?』

 

 

僕の問いに応えると言わんばかりに嘶き白煌は前肢を大きく振り上げ地面を蹄で踏み鳴らすと同時に衝撃波が発生し煌牙に変化が現れる

 

 

白煌の蹄に蓄積された魔導力《地獄の蹄音》が波動となりオウガの刀身を幅広く厚く、さらに自身の身長よりも巨大化した《煌牙重剣斧》へと姿を変え構える

 

『―――――――――――――――!!』

 

 

雄叫びを挙げ地を駆けサジッタは無数の矢を放つ、同時に白煌も駆け出し《煌牙重剣斧》を重斧に切り替え振り回し矢を弾き終えると同時に素早く重剣形態に切り替えると跳躍し真っ向両断し勢いは止まらず地面を切り裂き地面が大きくえぐれた

 

 

『ヌチシテモジャヌヲヌルカ…ヌイウウヌチヌウクツグシヌヌクスメ!!(マタシテモジャマヲスルトハ…メイオウノチヲウケツグキシメ……ガアアアアアアアア!!)』

 

 

 

その体を煌牙重剣形態に切り裂かれながらも魔界語で断末魔を残し弾けるサジッタを見届け僕は白煌と鎧を返還しその場に降り立つ……誰かに背後から抱きつかれ倒れそうになる

 

 

 

「タカヤさん、怖かった…怖かったよ~」

 

 

「わ、私もです…タカヤさん」

 

「ち、ちょっと!あんまり密着しないで!?」

 

 

アインハルトとヴィヴィオに両脇から僕の腕に抱きついてくる、二人のささやかな膨らみが当たって…当たってるからあんまり押し付けないで…

 

 

二人がようやく落ち着いた時は夜も遅く今の時間に一人で帰すのは不味いと考え僕は其々の家まで送る事にし三人で帰る…だけど二人ともコートの裾をキュッと握り離そうとしなかったから道行く人達にクスクスと笑われて少し恥ずかしかった

 

 

だけどこの時の判断があんな事?になるとは僕は夢にも思わなかった

 

 

第八話 白煌

 

 

 




キリク
『試練を乗り越え魔導馬【白煌】を手にしたタカヤ…しかし更なる試練がタカヤを襲う(笑)…次回、宿泊!……これで治るといいんだがな~』




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第九話 宿泊(改)

(何故、何故こんなことになってるの!?)

 

 

天国の父さん…今僕は厄介な状況に陥っています…何故なら昨夜一人で寝たはず…それなのに!

 

 

「すぅ~すぅ~」

 

 

「……ん……んん……」

 

 

二人が…アインハルトとヴィヴィオが僕の両隣で腕と足を絡ませて眠ってて、正直眠れないし…それに女の子特有の甘い匂いと柔らかいモノを腕に感じて鼻血が出そうだよ…父さん、僕を助けて!

 

 

『…それは無理だから…』

 

第九話 宿泊

 

 

遡ること数時間前、僕は二人を家へ送るべく先ずはヴィヴィオを送り届けアインハルトの家へ向かおうとした時だった

 

 

「タカヤ君、もう遅いし今日家に泊まったらどうかな、アインハルトちゃんも一緒にどう?」

 

 

なのはさんからの嬉しい申し出だったけど…泊まると必ず記憶?が抜けたり、殴られたりする(全力全開ボディブロー?)とまあ、僕にとって痛い目にしか会わない…断ろう…

 

 

「すいません…「喜んでお泊まりさせていただきます」…え?アインハルトさん?何を言ってらっしゃるのですか!?」

 

 

「はい、タカヤさんもアインハルトさんも早く上がって、上がって~」

 

「ちょ、ちょっと!僕は泊まるなんて一言も…」

 

 

「ダメですか…」

 

 

「…タカヤさん…」

 

 

うるうるとした瞳で僕を上目遣いで見るヴィヴィオ、アインハルトを前にしたら断ることは出来なかった…僕って意思が弱いのかな

 

家の中へ入ると夕食の準備中、僕は手伝う事を決めるとコートを脱ぎ食材を見るとどうやらクリームシチューと判断し食材を中に浮かせ包丁で一閃、適度なサイズ゙に切られた野菜がボウルに入る

 

「…すごいね、タカヤ君…もしかして自炊したりしてるの?」

 

 

「え、はい…ブロッコリーはこんな感じでいいですか?」

 

「うん、タカヤ君偉いね~将来はいいお婿さんになれるね」

 

 

「…あの、お婿さんってなんですか?ん、アクとりはあと少しかかりそうです…なのはさん?」

 

 

「…な、何でもないよ(…ここまでアキツキ一尉と同じだとは思わなかったよ…ヴィヴィオ、大変だけど頑張ってね)」

 

 

アク取りをするタカヤを見て深く溜め息をつくなのは、それを遠くから聞き耳をたてる二人の頭にウサ耳とネコ耳が見えたのは気のせいだろうか?

 

 

「あ、なのはさん少し冷蔵庫借りていいですか?」

 

 

「いいよ。で、何を作るのかな?」

 

 

「出来てからのお楽しみです…エッセンスと砂糖はこれぐらいで…」

 

 

シチューを作る合間に手早くボウルに何か入れかき混ぜ其れを型に注ぎキレイに並べ冷蔵庫に入れしばらくして食卓に座ると出来たシチューとサラダ等が並べられ「いただきます」を言い食べ始める

 

 

(やっぱり大勢で食べるご飯は美味しいな…)

 

 

シチューをスプーンで掬い口に運び入れると味をゆっくりと噛み締め飲み込む

 

 

―タカヤ、ゆっくりよく噛んで食べるんだよ―

 

 

―うん、おとうさん―

 

 

―タカヤ、こんなに口の回りを汚して…はい、キレイになったわよ―

 

 

―ありがとう、おかあさん。ぼく、おとうさんとおかあさん大好き!―

 

 

「…タカヤさん、どうしたんですか?」

 

 

「え?な、なんでもないよ…」

 

 

あわててシチューをわざとらしく口に運びやがて食事が終わり、僕はキッチンに空いた食器を運び終えると冷蔵庫から先程入れたモノを取り出し皿に乗せる

 

「…後はサクランボと生クリームを…出来た」

 

 

サクランボと生クリームでデコレーションされたプリン…昔、父さんが僕によく作ってくれたおやつだ

 

 

トレイに乗せみんながいる場所に向かいテーブルに置くと二人の顔が花が咲いたように笑顔になる

 

 

「これ、タカヤさんが作ったんですか」

 

 

「…ん、お、美味しいです」

 

 

「タカヤ君、パテイシェ目指してみない?修行するお店を紹介するから♪」

 

プリンを口に運びながら話題が弾む…ヴィヴィオがプリンを掬うと僕の口元に持ってくる

 

 

「タカヤさん、はいあ~ん♪」

 

 

「あのヴィヴィオ、僕のプリンまだあるんだけど…」

 

 

「…あ~ん(怒)♪」

 

 

スプーンを差し出すヴィヴィオの背後にスタープ〇チナ? が見えやむ無くスプーンを口に含むと何故か顔を赤くする

 

 

「あ、あの…あ、あ~ん」

 

今度はアインハルトからもスプーンを差し出されこれも口にいれる…ちらりとなのはさんを見ると『ふふ、頑張ってね♪』と目が語っているし

 

…結局互いのプリンがなくなるまで続いた

 

 

―――――――――

――――――――

―――――――

 

 

 

「ノ、ノーヴェどうしたんッスか?」

 

 

「ウ、ウェンディ…今はそっとしといた方がいいよ…」

 

「…ナニカイッタカ…」

 

 

「「な、何でもない/よ!/ッス!」」

 

 

リビングでヴィヴィオ達のトレーニングメニューを考えていたノーヴェは本能的に「なにか先を越された」のを感じマグカップを握りつぶしながら黒い笑みを浮かべ其れを見たディエチとウェンディは肩を抱きながらガタガタ震え怯える

 

―――――――――

――――――――

 

 

「…ハッ?うちのタカヤ君に何かあったんか!?」

 

 

ある世界で頭からフードを被った黒いジャージの少女がポップコーン?が入ったカップを握りしめながら呟いていた

 

 

――――――――――

 

 

「タカヤ君、ソファーで本当に良いの?なんならヴィヴィオの部屋…」

 

 

「い、いいです!それに慣れてますから…」

 

 

基本的に僕はどこでも寝られる…父さんとよくキャンプにいったおかげかも知れない

 

 

―タカヤ、今日は『みのむし』で眠ろうか―

 

 

―うん、ぼく『みのむし』で眠るの大好き!―

 

 

寝袋に入り木から飛び降りると太いロープが枝に繋がっており遠目から見たらみのむし親子に見える…父さんは昔、山で育ったらしくこういう遊びが得意だった

 

 

「ん~じゃ仕方ないね、」

 

僕の言葉に諦めたなのはさんは掛け布団を渡しそのまま自分の寝室に向かうのを見た僕はソファーベッドに横になる

 

 

「キリク…」

 

 

―なんだ?―

 

 

「剣の浄化が終わったら、父さんのお墓参りに行こうか…」

 

 

―…久しぶりにユウキのおやつを作ったからか?―

 

 

「…うん」

 

 

―…だが学業も疎かにするなよ…もう夜も遅いから早く寝ろよ……―

 

 

「うん、おやすみなさい…」

 

 

キリクをテーブルの上に置きそのまま布団を被り目を閉じるとやがてゆっくりと深い眠りに落ちた

 

 

―――――――――

――――――――

 

―…二人ともいつまでそうしてるつもりだ?―

 

 

タカヤが眠りについて数分後、気配を感じた起きた俺は扉に向け声を掛けるとパジャマ姿の二人が影から出てきた

 

「お、起きてたんですかキリクさん」

 

 

―基本的に俺達、魔導具は眠りにはつかない…で、二人は何しに来たんだ…まさかタカヤ(デザート)を食べ?に…待て…待て!待てったら!俺を握りつぶすなあああああああ!?―

 

 

顔を真っ赤にして無言で俺を掴み照れ隠しと言わんばかりにメキメキ!と握りつぶそうとする…やめろ!て言うかソウルメタルで出来た俺を持てるのかこの二人は!?

 

 

―た、頼むから握り潰すのだけはやめてくれ!そうだタカヤの秘密を教えてやるから…痛い!落とすなよ…―

 

 

「タカヤさんの秘密…知りたいです」

 

 

「早く教えてください!」

 

 

ため息?をついた俺は二人の真剣な眼差しの向こうに何故か烈火炎装?を纏ったオリヴィエとクラウスの姿が見えた気がするぜ

 

―…タカヤの秘密、それは…―

 

 

「「それは!?」」

 

 

―…天然記念物級の鈍感だ…って待て!その拳を俺に降り下ろすな!!―

 

 

「…ではちゃんと答えてください…でないと手元が狂ってキリクさんを潰しちゃいそうです」

 

 

―わ、わかった落ち着け…タカヤの秘密はな……―

 

 

ゴクリと喉をならす二人に俺はこう言った

 

 

―…タカヤは寝言で気になる異性の名前を言うんだ…―

 

「寝言でですか?…タカヤさんだったら」

 

 

「言いそうですね…」

 

 

―…ああ、その前に拳を下げてくれ…ふう―

 

 

二人揃って振り上げた拳を納めるとタカヤの顔にそれぞれの耳を近づける…だがなアインハルト嬢ちゃん、ワイシャツにピンクの紐縞パンはタカヤを出血死に導くからなにかを下に履いてくれ…

 

「ん…ノーヴェさん…全力全開パンチはやめて…」

 

 

「…キリクさん…助かりたい為に嘘をついていませんよね…」

 

 

―う、嘘はついてない!―

 

そう、タカヤの寝言は本人が無意識で押さえ込んでいる本音が出やすい…半年前、ジーク嬢ちゃんがタカヤが抱える問題を寝言と言う形で偶然聞いてしまった時みたいに……嬢ちゃんたちが再びタカヤの口元に耳を近づける

 

「ん、アインハルト…キリクを握り潰さないで…」

 

 

とか

 

 

「ヴィヴィオ…プリンは、プリンはもう食べきれないよ…」

 

等々を聞きながらアインハルト嬢ちゃんが俺に話しかけてきた

 

「あの、キリクさん…少し聞いていいですか」

 

 

―なんだ?―

 

 

「タカヤさんの目、瞳の色が私やヴィヴィオさんと同じ虹彩異色なのは何故ですか?」

 

 

瞳の色…虹彩異色の瞳について聞かれ少し迷った何せタカヤも知らないからな

 

 

じ~っと俺をみる二人の真剣な眼差しに負け話すことを決めた

 

―…タカヤはベルカ緒王時代、冥府の炎王イクスヴェリアの縁者の血を引いているんだ―

 

煌牙の妻はイクスヴェリアの縁者だ…何故か魔戒騎士となる者にのみ虹彩異色の瞳が見られたんだよな、推測なんだがその妻の魂が守護している証かもしれない

 

 

「タカヤさんも王族の血を引いてるんですか…じゃあ、わたし達と会ったのって偶然じゃないんですね」

 

 

―ああ、嬢ちゃんたちが王族の血を引いてるなんて瞳を見るまで気付かなかったぜ―

 

 

俺が知るタカヤの小さな頃(魔戒騎士の訓練をはじめる前限定で)の話しふと時間を見ると日付が明日になっていた

 

―…二人とも、もう遅いから部屋にん?お~い…寝てる>

 

 

見ると二人ともタカヤの両脇に陣取るように穏やかな寝息を立て眠っている

ホラーに襲われたせいもあるのかも知れないな…

 

 

―…この際嬢ちゃんたちにタカヤの鼻血癖を治して貰うか…こういう所もユウキに似なくて良かったんだがなあ…寝るか―

 

 

ああは言ったが、俺達魔導具も寝る…そろそろタカヤにアレを貰う日が近づいてる

 

正直、友達であるタカヤから貰うのには罪悪感を覚えた、契約した直後まだ六歳のタカヤが「キリクは僕の大事な友達だから良いよ」と笑顔で言った時から本当の友達になれたんだ

 

一年前の家出の際、魔界道を使わせたのは俺の案だった、出来ればタカヤには普通の生活を送らせたかった…ホラーが復活した今となっては薄氷を踏むほどに危うい

 

この世界、ミッドチルダに直系の魔戒騎士と魔戒法師はタカヤとアイツ…母親のメイしかいない

 

 

せめてあと一人魔戒騎士がいたらと思う事が何度もあった…俺の本当の身体を『真魔界』から呼び出す事が出来れば……

 

 

(―…今は、ゆっくり眠ってくれタカヤ…俺が知る限りホラーは後八体と王だけ奴等の目的は恐らく…>)

 

 

キリクが思考の海に潜る中、タカヤとアインハルト、ヴィヴィオは穏やかな顔で深い眠りについてたのだった

 

 

―――――――――

―――――――

―――――

 

 

熱い…熱すぎる寝返りを打とうとするけど身体が何か、両脇から両足にかけてナニかが乗っかってて動けない

 

なんとか腕を動かそうとうとする度柔らかいのが邪魔しそれに

 

「…んんっ……」

 

 

「スゥ~スゥ~」

 

 

聞きなれた声が耳に入った瞬間、意識が一気に覚醒しまさかと思い恐る恐る目を空け見る、目の前に碧銀と金の光景と甘い香り…そして両腕に感じる柔かな感触、そうヴィヴィオとアインハルトがいつの間にか僕の両腕に抱きつき眠ってる

 

 

(何故、何故こんなことになってるの!?)

 

 

で冒頭に戻るんだけどこの状況は色々と不味い(精神、肉体的に!)…なのはさんに見られでもしたら『ストライク・スターズ!』…間違いなくあの時以上の魔砲?が直撃する

 

 

(な、何とかして逃げ出さなきゃ…まずは右腕を…)

 

「ん…あん……ん」

 

 

アインハルトの艶のある声と甘い香りに耐えながら腕を動かす…その時ナニかが引っ掛かった事を知らず、いや気付かなかったんだ

 

(…駄目だ動かせない…何とかしな…きゃ!?)

 

 

「ううん…」

 

 

反対側、左側にいるヴィヴィオがさらにきつく腕に抱きついてくる、柔らかい感触と甘い香りが鼻腔をくすぐり鼻血が出そうになる

 

 

(だ、誰か助けて…そうだキリク!起きて!!……駄目だ眠ってる…カーン起きて!今すぐに起きて!?)

 

最後の望みを賭けカーンに念話を飛ばすも反応がない…何時もだったら起きてるはずなのに!?

 

 

―――――――――

 

 

『聞いてますかジェット!若の鼻血癖を早く治さなければ将来女性と付き合うのが難しくなるのです!ですからノーヴェ様に是非ともそこの辺りを教授を!!』

 

 

『カ、カーン、流石にマスターに『それ』の教授は無理かと、ですが最近寝言でよくタカヤの名を口にしますし…其れに寝静まった頃…』

 

 

 

早朝、ノーヴェ自室にて秘匿回線を繋ぎタカヤの鼻血癖を治す会議をカーンとジェットは熱く語り合っていた

 

 

―――――――――

 

 

…この世界に神もデバイスも魔導身具はいない、カーンもキリクも眠ってる?しこうしてる間にも二人の甘い香りと柔らかいのが押し付けられる度にガリガリガリと僕の精神を削り鼻血が噴き出すまでの魔導刻?が心滅獣身?が迫ってきてる

 

 

(は、鼻血が…垂れ…)

 

 

「…ん、タカヤさん…おはようございます……」

 

 

「あ、おはよう…アインハルト…お願いがあるんだけど…」

 

 

「ん、なんでしょうか…」

 

 

 

目を軽く擦りながらも僕の顔を覗く虹彩異色の瞳を見て少しドキッとするけど何とか言葉を絞り出す

 

 

「…僕から離れて…でないと…」

 

 

「…ふぇ?…あ!?…す、すいません!」

 

 

今の状態に気づいたアインハルトは僕の腕から離れソファーから身体を起こした時、ヒラヒラとその足元にピンクの縞模様の紐が付いた布?が絨毯に落ちた

 

 

どこから落ちたかを確認した時、僕は固まってしまった

 

 

「……あの…どうかしましたか?…」

 

 

 

アインハルトは寝ぼけながらも自分の状況を確認する下半身が妙にスースーしその前にはタカヤの顔…

 

固まったままポタポタと鼻から赤いものが滴り落ち一気に吹き出した

 

 

「………………ブハァアアアアアア!?」

 

 

盛大に鼻血を噴き出してソファーに倒れたタカヤを見下ろしながらようやく自分が下に何も穿いてないことに気づいた

 

 

「き、きゃああああ!」

 

 

早朝の高町家リビングにアインハルトの悲鳴が響き渡り、ヴィヴィオはその悲鳴で目を覚まし目を向けた先ではタカヤが鼻血をドクドクと流し倒れているの抱き抱え顔を赤くしオロオロするアインハルトの姿に驚きながらあわてて手当て(止血)をし事なきを得た

 

―――――――――

―――――――

 

 

しばらくして目を覚ました僕はふらふらしながら皆と遅めの朝食を食べる…その最中、アインハルトから視線を感じ目を合わせるも反らされた

 

二人に抱きつかれアインハルトに離れるように頼んだ直後の記憶がすっかり落ちている…ヴィヴィオに聞いても

 

 

「う~ん、わたしもよくわからないんですよね」

 

 

との返答しかなかった、しばらくして帰り支度をした僕は玄関に向かうとアインハルトが先に来て待っていた

 

 

「………………」

 

 

僕に気付かれないようにチラチラと視線を向け目が合うと顔ごとおもいっきり反らされた

 

 

「また泊まりに来てくださいね」

 

 

「タカヤくんもアインハルトちゃん、気をつけて帰るんだよ」

 

ヴィヴィオとなのはさんに見送られ家を後にする

 

 

 

「「……………………」」

 

 

 

その道中は終始互いに無言で歩きやがてアインハルトの家の前についた時、意を決し話しかけた

 

 

 

「あ、アインハルト、また明日…って言うか…ごめんなさい!」

 

 

「え?」

 

 

「…また僕がアインハルトに迷惑を懸けたみたいだから…その…本当にごめんなさい!!」

 

 

「あ、あの…タカヤさん」

 

「お詫びに何でも言うことを聞くから…」

 

 

「!何でもですか」

 

 

頭を下げながらアインハルトに言った時、声のトーンが少し高くなる恐る恐る顔をあげると少し顔を赤くしながら口を開いた

 

 

 

「…でしたら今度買い物に付き合ってくれませんか?欲しいモノがあるので」

 

「え、うん付き合うよ。僕も買わないといけない物があるし何時行こうか?」

 

 

「では来週の休日はどうでしょうか?」

 

 

「来週の休日…うん、わかったよ。待ち合わせ場所は…」

 

買い物の軽い打ち合わせをし僕はアインハルトと別れその足で剣の浄化の為に聖王教会へと向う…当然歩きで行くことになったけど

 

 

 

―――――――

 

 

「…少しずるいかもしれません…だけどタカヤさんと買い物…デ、デートと捉えていいのでしょうか?」

 

 

タカヤの姿を見えなくなるまで見送りながら軽く微笑み呟くと玄関に入る姿はどことなく嬉しそうだった

 

 

第九話 宿泊 了

 

 

 




キリク
―色々とハプニングだらけのお泊まりを終え数日後、タカヤはアインハルトと初デート、いや買い物をすることになったんだが…ん?なんだあの二人は!?…………次回、休日!…二人の初デートはどうなるんやら…―


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第十話 休日(改)

「やはりこちらのほうが似合うでしょうか…でも」

 

両手に服を持ち鏡の前に立つ下着に黒のオーバーニー姿の少女…アインハルト・ストラトスは悩んでいた

 

今日はタカヤと買い物の約束の日、手にあるのは白のワンピースと片方は黒を基調とし肩が見える服…待ち合わせまで後一時間を切っている

 

 

(あまり露出が多いとタカヤさんは鼻血を出してしまいます…やはりこちらに…)

 

 

鏡の前で悩むが時間は刻々と過ぎていくのだった

 

 

第十話 休日

 

 

「…キリク、カーン、少し早かったかな?」

 

 

―いや、これぐらいが丁度良い…―

 

『先に来て待つのは礼儀です若』

 

二人の言葉を聞きながらリニアの改札で一緒に買い物に付き合うと約束したアインハルトと待ち合わせをしている

 

 

前回(第一話邂逅)で買い忘れた物を購入するのもだがお詫び?もある

 

「…カーン、今日は大きな買い物をするからアレ出してくれるかな?

 

『了解です若!』

 

何故かやたらと張り切るカーンから転送された黒いカードをコートにいれ待つこと数分…聞き慣れた足音耳に入り振り返る

 

 

「す、すいません遅れました…」

 

「いや、全然平気だった…よ…」

 

 

「…あのどうかしましたか?」

 

アインハルトの着ている服は黒のワンピース。部分的にフリルがあしらわれていて可愛らしさを出している…見とれていたタカヤはようやく我に戻った

 

「い、いや何でもないよ…じゃあ行こうかアインハルト」

 

「は、はい…あの…手を繋いで良いでしょうか」

 

「良いよ。迷子になるといけないし」

 

 

少し不機嫌な顔になるけど直ぐに僕の手を握ってくる…だけど指を絡めるのは何故だろうと思いながら買い物へと向かった

 

 

背後で僕達を見る影に気付かずに

 

――――――――

―――――――

「………手を握ってる…しかも指を絡めて(怒)!」

 

「ノ、ノーヴェ落ち着いて!」

 

 

タカヤとアインハルトトの様子を見る怪しい影…手をしかも指を絡めて握る二人を遠くから見てワナワナと震えるのは帽子にサングラス姿のノーヴェとヴィヴィオ…

 

 

「…いいなあタカヤさんと…恋人繋ぎ…わたしも」

 

 

電柱(ミッドチルダにあるのか?)の影から覗く二人の背後にスタープ〇チナ&マ〇ジシャンズ・レ〇ドが『ゴゴゴゴ!!』とオーラが立ち上がる

 

 

「…とりあえずつけよう…(タカヤ後であたしとスパー、いやお話しだ…)」

 

 

「そうだねノーヴェ…(アインハルトさん、抜け駆けはダメだよ…)」

 

 

あまりの怒気に二人の回りを歩く人達は足早にその場を去るのを気付かず尾行をするのだった

 

 

―――――――

――――――

 

 

「タカヤさん、どうでしょうか?」

 

 

「え、うん似合うよ」

 

 

僕はアインハルトと共にアクセサリーショップにいるんだけど…入った店が問題だった

 

 

工房『AKITUKI』

 

そう此所はアキツキ・インダストリ直営店しかも独創的で尚且つ手軽に入手が出来る事もあってクラナガンに住む若者達の間では有名店、その店内にあるアクセサリーを見ながら歩いている

 

「タカヤさん…此って?」

 

「…此れはキリクと同じ…」

 

 

アインハルトが指差した先にはキリクとデザインがにた眼鏡…しかも細部までしっかり作り込まれている

 

ここまで造形に詳しい人物は僕は二人しか知らない

 

あの人…母さんと、カーンを作った父さんしかいない

 

 

「…アインハルト、他の場所に行こう、まだ買い物残ってたよね?」

 

 

「え、はい…次は」

 

 

そのまま二人で店を出てアインハルトが向かったのは…

 

 

「…タカヤさん、これはどうでしょうか?」

 

 

「…僕に似合うかな?」

 

 

工房AKITUKIから出て数分の場所にあるカジュアル『ゴンザ』…若者から老年まで幅広い客層から支持されるお店に僕たちは来ている

 

 

 

『何時もコートの下が同じ服ばかりですから私が選んであげます』理由らしいんだけど…

 

 

「タカヤさんは、白…いえ黒も似合いますね…」

 

 

白、黒の長袖を僕の胸に当て少し悩みまた別なのをハンガーから取る…を繰り返ししている様子を周りの客達はクスクス笑ってて恥ずかしいなと考えてる内にお昼になり僕は会計を済ませにアインハルトと一緒にレジに向かい黒いカードを出すと店員が驚いていた

 

 

 

「「「「ま、またのご来店をよろしくお願いします!!」」」」

 

 

「…あ、あのタカヤさん、そのカードは?」

 

 

「これ?カーンが作ってくれたんだけど…どうかしたの?」

 

 

「い、いえ…」

 

 

タカヤが使ったカードは使用額無制限の幻のブラックカード…一年前家出した当初コートの中にあった宝石?や金塊!で買い物をしていた

 

『若!無闇に金塊や宝石で買い物をしてはいけません!!』

 

 

それ以降の生活費学費などはカーンが管理するようになりしばらくしてから渡されたもの

 

アインハルトも実物を見るのは初めてだった

 

 

「アインハルト、早くいかないとお昼混むから…ほら行くよ!」

 

 

「ふぇ!?た、タカヤさん!?」

 

 

アインハルトの手を掴み僕は駆け出す…周りから『死ねリア充が!』『あらあら若いわね』『アインハルト万歳』

 

 

…等々聞いたけど

 

 

――――――――

―――――

 

 

「メイ様、どうかなされましたか?あれはタカヤ様とアインハルト様…それとノーヴェ様にヴィヴィオ様まで」

 

 

「…デルク、タカヤが彼処までユウキに似てるなんて思わなかったわ…」

 

アキツキ・インダストリ直営工房に抜き打ち査察に入り品質は落ちていない事に満足し店を出た私の目にあの子、タカヤが覇王の末裔アインハルト様の手を握りしめ駆ける姿とそれを聖王…ヴィヴィオ様と格闘技の師たしかノーヴェって言ったかしら?その後を尾行するのをみてタカヤがユウキの血を間違いなく受け継いでる事を確信した

 

 

私とユウキが結ばれるまであの女狐…特にあの二人(…)と重ね合わせてしまう

 

此所はユウキと初めてデートをした思い出の場所…これは偶然かしらね

 

 

「タカヤ様にお会いにならないのですか?」

 

 

「…行ったら間違いなくタカヤは私から逃げるわ…デルク、本社に戻るわよ」

 

 

デルクに告げ私は足早にその場から去り際に思った

 

(タカヤ、恋する女ほど怖いものはないわよ…覚悟しておくことね)

 

 

人混みを駆け抜けていくタカヤを目で追いながら心の中で呟き私はデルクが用意した車に乗り本社へと向かった

 

 

―――――――――――

―――――

 

 

「…混んじゃったね…」

 

「は、はい…あのタカヤさん…を…」

 

 

「ん?どうしたの」

 

 

「て、手を…離してくだ…さい…」

 

 

「あ、ごめん…痛かった…よね…」

 

 

少しうつむかせるアインハルトの言葉で握り締めていた事に気づいた僕は手を離し見る、白くてきれいな手が赤くなっている

 

迷わず手を上から包み込みある言葉を唱える…

 

 

「ミチヤクサニ…カナタア…デケ…(小声)…これで大丈夫」

 

 

昔、あの人…母さんと魔戒騎士の訓練時に怪我をし気絶した僕を誰かがこう手を当てて治してくれた…優しくて暖かい手で多分デルクだろうけど

 

「タカヤさん?」

 

 

「あ、ごめん…それよりも気付いているかな…」

 

 

「…はい、多分ヴィヴィオさんとノーヴェさんですね」

 

 

気付かれないように背後に目を向けると…帽子とサングラス姿の二人、なんかゴ・ゴ・ゴ・ゴ!って音とペル〇ナが背後に立ち辺りの空気が歪みその周りにいる人が怯え逃げていく

 

 

『…どうしましょうか…』

 

『…二人を呼ぼうか?でないと周りの人達が怯えてるから…いいかな』

 

 

『そうですね…(タカヤさんと二人っきりは此所までですか…でも)』

 

 

二人を呼びに席を立ち向かうのを見ながら先程の手の感覚を思い出す…

 

魔法と違った暖かさ、胸の奥から暖かくなるのを感じます

 

剣を振るい圧倒的な力でホラーを倒すタカヤさんと、今こうして私と買い物をする少し天然でお日様みたいなタカヤさんが本当に同一人物なのかと悩みます…けど

 

「…どちらの姿もタカヤさんですよね…」

 

 

 

最近見た夢ではタカヤさんの先祖もホラーがでない日は王達と談笑してましたし

 

 

「…アインハルト、二人を連れてきたよ」

 

 

振り返ると帽子とサングラスを外し少し怒り気味なヴィヴィオさん、ノーヴェさんがタカヤさんの両隣に立ち私を見ています

 

 

「ったく、買い物をしたいならあたし達も誘えアインハルト」

 

「そ、そうですよアインハルトさん。てっきりタカヤさんとデ、デ・デー」

 

 

「ヴ、ヴィヴィオ!?僕はアインハルトと買い物をしに来ただけだよ…ま、まあ服も選んで貰ったし」

 

 

何故でしょう…フツフツと怒りが込み上げてきます

 

「アインハルトは後買うものとかあるかな?」

 

「え?わ、私のはもう終わりました…タカヤさんは?まだでしたよね」

 

 

「うん、これから少し大きな買い物をしないといけないんだ…皆もくる?」

 

 

「「「もちろん/だ/です!」」」

 

 

遅めの昼食を取った私達はタカヤさんの買い物に付き合うべく店を出てしばらく歩きだす

 

 

「…えとたしか…此所だ」

 

ある店の前でを足を止め中に入る。三人もその後ろ着いてくと中には海や山の幸、見たことのない様々な食材が並びそれと調理器具も並んでいる

 

 

「お!タカヤ坊じゃねぇか!!」

 

 

「お、お久しぶりです…アモンさん」

 

 

「ん?なんだなんだ…後ろにいるのは彼女か?しかも三人やるじゃねえか!!」

 

「…彼女って何ですか、三人は僕が守らなきゃいけない人達です」

 

「ああ、そうだった…タカヤ坊はこう言うの知らないんだったな…紹介が遅れたな『食材&調理器具専門店AMON』の店主アモンだ!」

 

 

バシバシバシと肩を叩きながら話すじいさん…いやアモンじいさんは店が壊れるんじゃないかと思うぐらいのでかい声で挨拶する

 

どうやらタカヤと知り合いみたいだな…でも『守らなきゃいけない人達』か

 

 

あたしもその中に入ってるのか、そう思うと胸の奥が顔が熱くなってくる

 

 

「で、今日は何買いに来たんだ?」

 

 

「うん、今日は軍鶏と昆布、野菜を…そこにある鍋『グラウ竜鍋』を買いに来たんだアモンさん」

 

 

次々と食材をカゴに入れながらタカヤが目を向けた先には立派な土鍋が置かれ圧倒的な存在感を出している

「あと、昆布はラウス産を…いやヴェネチィ産がいいかな?」

 

「だったらコイツを持っていけ、この前『次郎じいさん』から貰った《グラウ昆布》だ!」

 

 

「ん?いい味ですね…じゃあこれもお願いします」

 

様々な食材が置かれた棚の前で材料を手に取り味見しながら悩むタカヤをじっと見るアインハルトとヴィヴィオを他所に材料を見てあたしは何を作るかわかってしまった

 

「なあ、もしかして鍋を作るのか?」

 

 

「え、はい…実はノーヴェさん家で食べた鍋の味が忘れられなくて」

 

 

こういうのは覚えてるんだな…あたしの裸をみた記憶がない癖に!でもタカヤが料理作れるなんて意外だな

 

「ん、そうだ今度僕の寮に食べに来ませんか?」

 

「い、いいのか!」

 

 

「はい、もちろんヴィヴィオとアインハルトも一緒に」

 

 

ヴィヴィオとアインハルトも一緒…其れを聞いてあたしは肩を落とす、タカヤがこういう奴だったのを忘れていた

 

だけど、もしあたしと二人っきりで鍋を食べる事になったら…

 

 

(注意!ここから先はノーヴェさんの妄想タイムです!!)

 

 

―ごちそうさまでした―

 

 

―ふ~食べた食べた―

 

 

―ノーヴェさんデザート食べま…ウワッ!あ、あのどうしました?

 

 

席を立ちデザートを取りに向かおうとするタカヤの腕を掴み身体へ引き寄せ耳元に口を近づけささやく

 

 

―タカヤ、あ、あたしもデザート用意してあるんだ…あ、あたしを食べて…みるか―

 

 

―…い、いただきます…ノーヴェさんのさくらんぼ甘くて美味しいです―

 

 

 

―だ、ダメ!敏感だからソコは吸うな~あんッ―

 

 

その日タカヤの寮部屋から熱く艶っぽい悦びに満ちた声があがった

 

 

(妄想終了!!)

 

 

「あ、あの~ノーヴェさん顔赤いですけど…」

 

 

タカヤの声でようやく戻ってきたあたしの眼前に心配そうに顔を近づけ見ている事に気づいた瞬間…妄想がフラッシュバックする

 

 

「み、見るなあああああ!!」

 

「ぐ、ぐはああああ!」

 

全力全開で鳩尾めがけ拳を叩き込まれ地面に倒れ悶える姿を見てあわててタカヤを介抱するノーヴェの姿を見たアモン

 

 

「…なあ嬢ちゃん達、タカヤ坊は何時もあんな感じなのか…」

 

「はい、鈍いというか天然というか…だけど凄く真っ直ぐな部分があります」

 

 

「あと、スゴい剣術と体術でわたしたちを守ってくれました」

 

 

「そうか…タカヤ坊!荷物は寮宛で三日後の夕方に着くようにすればいいか?」

 

 

「あ、軍鶏はしめてからの方が美味しいですから…三日後にお願いします」

 

 

「了解だ!」

 

 

 

それからすぐに回復したタカヤは再び材料選びをはじめ日が暮れはじめた頃にようやく選び終え、僕達はアモンさんに見送られ店を後にし帰路に着いた

 

先にアインハルト、ヴィヴィオを其々の家(界符で結界を展開済み)に送り届け、寮へ戻る僕の隣を歩くノーヴェさんが話しかけてきた

 

 

「タカヤ、少し聞きたいんだ…何であたしん家の鍋の材料を知ってるんだ?」

 

 

「…一度食べたらわかりますよ、昆布と軍鶏、具材から滲み出す味は絶妙で凄く美味しかったです」

 

 

「そ、そうか…なんならあたしん家にずっと居れば毎日美味しいものが食べられるから、その…あたし、あたしと」

 

 

夕焼け空に照らされたせいか少し頬を掻き顔を赤くしながら言葉の先を続けようとした時キリクが叫んだ

 

 

―…タカヤ、ホラーの気配だ!!―

 

 

「!ノーヴェさん、この荷物お願いします…後で必ずとりに来ますから!」

 

 

「わ、わかった…タカヤ必ず取りにあたしん家に来い、絶対にだ!!」

 

 

「はい!」

 

 

そういうと同時にコートを翻しノーヴェさんの言葉に応え、その場からまるで風を纏ったかの様に駆け抜けていく

 

 

―タカヤ!今度のホラーには気をつけろ…少々厄介な相手になりそうだ―

 

 

「わかったよキリク!」

 

 

風を切る感触を肌で感じながら日が沈み暗くなる街を駆け辿り付いたのは廃倉庫の前…中から悲鳴が聞こえた瞬間、重く厚い扉をおもいっきり蹴破った

 

 

 

第十話 休日 了

 

 

 




キリク
―楽しい休日から一転、ホラーを探知し向かったタカヤが見たのは不良姉ちゃんとホラー…四人を守る様に戦うがその特殊能力に翻弄され苦戦し攻撃を受けたタカヤにある変化が起こる…なんだからだが縮む!……次回、子供!…不味いぞタカヤ!!―


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第十一話 子供(改)

厚く重い扉を鈍い音と同時に蹴破り中に入った僕が見たもの…

 

 

白いコートに一撃必倒と書かれたのを羽織った六歳?ぐらいの少女が三人の女の子を庇うようにホラーと対峙している

 

白いコート?は所々破けうっすら血を流し肩で息をしながら拳を構える

 

 

「ハアハア…オレのなかまにはゆび一本触れさせねぇ!」

 

 

『――――――――――――――!!』

 

 

半透明な身体に魚の顔や骨、先端に鋭い爪が付いた触手を背中から生やしたホラーは雄叫びを挙げ少女に襲いかかると無数の触手を繰り出す

 

 

「うあッ!」

 

 

捌ききれずその身体を鋭い先端が襲い掛かろうとする、「やられる」と思わず少女が目を閉じたたその時、激しい金属音が辺りに木霊し触手が全て切り払われ湿った音と共に地面へ落ち魔導文字が立ち上ぼり消滅していく

 

「…え?お、お前!?」

 

 

「…その三人を連れて早く逃げて…」

 

 

目を開けた少女の眼前に居たのは、黒く長い髪に黒鉄色のコートを纏い剣を構えホラーから護るように立ちはだかる少年だった

 

 

 

第十一話 子供

 

 

「…その三人を連れて早く逃げて」

 

 

やられると覚悟したオレの眼前にソイツは突然現れいい放つと化け物と激しく切り結ぶのを見ながら思い出す

 

オレたちは数十分前、此所で今年のインターミドルに備え鍛えていた

 

 

人も来ない廃倉庫だった事もあってラッキーと思い早速身体を思いっきり動かし三人に動きを確認して貰った時だ…

 

 

乾ききった屋内に水音が聞こえる、音がした方に目を向けるオレたちしかいなかった筈…其れなのに人、おばあちゃんが此方をみながらと立っている

 

道に迷ったのかと思い近寄った時口を開いた…

 

 

「…妬ましい…その若さと夢、希望に満ち溢れるみずみずしい身体を…ワシに…喰わせろおぉぉぉ!!」

 

 

「うあ?」

 

 

ばあちゃんがいきなり蹴りを打ち込み咄嗟に腕で防いだ…身体が後退りし受けた腕が激しい痛みが襲う…いてぇ

 

 

「リーダー!このおばあちゃんなんかヤバいよ!!」

 

「バカっ、来るんじゃねぇ!!」

 

 

助けに来た三人が前に立ちはだかる…があのばあちゃんの力は半端じゃねぇ…

 

「妬ましい…その若さ貰う…アギャアアアアアア!!」

 

 

呟くとばあちゃんは後ろへ飛び前屈みになると身体が膨れ上がり弾けた

 

 

「な、何だよ?あれ!!」

 

 

「ば、化け物!!」

 

 

『―――――――――――――――!!』

 

 

耳の奥に残るんじゃないかと言うぐらいに雄叫びをあげるばあちゃん?は背中から鋭い爪が付いた触手を伸ばしてくる

 

 

「く!セットアップ!!」

 

 

 

セットアップを終えた瞬間、ばあちゃん?が伸ばした触手からさっきの声で気絶したコイツららを守る為立ちはだかる

 

 

「ち!うおりゃあああ!!」

 

 

なんとか触手を拳で弾いたけどかすり傷をくらっちまった…こんぐらいならまだ行ける

 

 

そう思った時、目線が下がった…力が抜ける

 

いやオレの身体が小さくなってる

 

 

ありえねぇ…そもそもこのばあちゃんは何者なんだ?

 

だけど今はコイツらを…

 

そん時鈍い音が響くと風がなり、黒い何かがオレの前に立ち剣を構える姿、最近学校に通う生徒の間で流れたある噂を思い出した…

 

 

―黒く長い髪に黒鉄色のコートを纏った男が化け物を剣で切り払い風のように去る―

 

 

そんなの嘘に決まってると思っていた…

 

実際目の前の光景をみちまったら信じるしかねぇ

 

 

―――――――――

―――――――

 

 

―コイツはホラー『ピスケス』…邪悪な思念を溜めた水と歪んだ欲を持った老婆をゲートに出現した…いいか攻撃に絶対に当たるな!―

 

 

「わかったよ!ハアッ!!」

 

地面を蹴り空を駆けながら襲い掛かる触手を切り、刃に滑らせ受け流す

 

 

その度にソウルメタルの甲高い振動音が響かせ火花が散らせながら間合いを詰め右斜め上段に素早く構え袈裟斬りにする…が手応えが無い

 

 

見ると身体を液状化させダメージを受け流している…

 

《思い出した!ピスケスは身体を液状化させるのが得意だった!避けろタカヤ!!》

 

 

キリクの叫びに驚く間も無く無意識に身体を右に捻るも右腹部に熱いナニかを感じる…目を向けると触手から血が滴っている

 

 

「く!ハアア!!」

 

 

 

液状化していない部分に鈍い音と同時に蹴りを入れ反動を利用し間合いを取り着地し同時に違和感を感じる

 

 

目線が低くなる…いや身体が若返っている

 

煌牙の刃に自身の顔を写し驚いた…何故なら家出する前正確には三年前の僕の顔だった

 

 

『…ヤヤッチナフウツマキイクシヌタワシクムツウイ…ミラュクキドムヌノマエチウスヌバフンスンシチフウヌツリウヌクトドクル(…かかったな王と魔戒騎士の血を受け継ぐ末裔…無力な子供のお前を倒せば安心して王を喰らうことが出来る)』

 

 

『…ブクガイルクグリアヌフツリニヒヂツイイニチヂシヌサセヌイ…ヒヌフテリハユヌチクブウヲムッテ、ムヌンムヌイチナルイテイル(…僕がいる限りあの二人には絶対に手出しはさせない…今あの二人は夢と希望を持って前を向いて歩いている)』

 

 

旧魔界語で喋りながら煌牙を握りしめる、重く感じる…この頃の僕は父さんの件と魔戒騎士と法師の修行も重なって精神的に不安定だった

 

キリクやカーンが傍に居なかったら駄目だったかも知れない

 

だけど今はピスケスからこの人達を守らなきゃいけない…父さんだったら必ずそうする

 

 

『ナムヂ、クブウヂ?スンニネクスイクヌンダヨ、グキヌンカウツヌヌ…ヅウグヌンズヨ!クドムヒホレチチホラーヌチッテスイクウヌオサヌンダヨ!!(夢だ、希望だ?そんなモノ糞以下なんだよ、ガキなんか大人の…道・具・なんだよ!子供は俺達ホラーにとっちゃ最高のエサなんだよ!!)

 

 

道具、子供が大人の道具…子供が持つ夢、希望…エサ…その言葉が僕の心の奥で何かが爆発した

 

 

「違う、子供はお前たちのエサでもなければ大人の道具じゃない!僕はそんなの………」

 

 

 

ピスケスに魔導筆を思いっきり投げつけるがかわされ後ろの壁へ鈍い音を響かせ深々と突き刺さる

 

 

『ヤナカンヌルッチイル(何処を狙っている)』

 

 

魚を模した顔の口をニヤリと笑みを浮かべるピスケスに煌牙を突きの構えの様に向け魔導火を刃に近づけ白金色の炎を燃え上がらせながら叫んだ

 

 

「…そんなのを認めない!ノゴメ!!」

 

 

壁にめり込んだ魔導筆に勢いよく引き寄せられまるで弾丸の様にピスケスに身体を浮かせ突撃しながら魔戒斧形態にし左斜め下に構え切り裂く

 

 

【ノゴメ】…魔導筆を手元に引き寄せる術、これが出来ないと魔戒法師とは言えないとあの人、母さんから聞いた

 

 

十歳の僕が蹴る力じゃピスケスの場所まで届かない、だから魔導筆を手元に引き寄せる術を利用し足りない力を補うと同時に身体を液状化するピスケスに有効な魔導火を纏わせた煌牙の一撃…これが僕が考えた作戦だった

 

 

『ヤ、イキズウカデクヌイ!クラドグヤキルヌウ!!(え、液状化出来ない!身体が焼かれるう!!) 』

 

 

焼かれながらピスケスは苦し紛れに残った触手をすべて飛ばし其れを正面に円を描くようにすべて切り払いとセットアップと同時に鎧を召喚し再び魔導火を使い烈火炎装を纏う

 

 

「あ、あれって『白金の狼』だよな…」

 

 

白金色の光に包まれ、狼の面を模し西洋の趣を持つ鎧を纏うその姿を少し離れた場所から覗き見る少女はもうひとつの噂を思い出した

 

―白金の狼が馬に跨がり風のように闇夜の街を駆け抜ける―

 

 

(あ、あの噂は本当だったのか…けどよぉ、あの動きジークに少し似てる気がしてなんねぇ…)

 

 

少女は知り合いと動き…体捌きが似ている事に気付くも鎧を纏い剣を正眼に構えるタカヤを見る

 

 

『クヌムヌヤヌバチヌオマキイクススリヨヌクニルヒズニクニ!!(子供になれば例え魔戒騎士すら弱くなるはずなのに!!)』

 

 

―ピスケス、お前の敗因は一つだ…タカヤを只の魔戒騎士と侮ったからだ…初代と同じ優れた騎士と法師の才能を持つタカヤをな―

 

 

ソウルメタルを軋ませながら喋るキリクの声を聞きながら正眼に構えた煌牙を素早く逆手に持つと同時に地面を蹴り身体を捻り回転を加えその胴体を切り裂き床を足で抉り止まりながら振り返る

 

『ナ、ナカナ…ハウスヌケヌリムスンワグオイン!!(バ、バカな…申し訳ありません我が王よオオオ!(死にたくない、せっかく力を…))

 

 

『…ホラーに憑依された時に貴方の魂は既に死んだんです…せめてこの炎で安らかに天に還ってください』

 

白金の炎に焼かれるピスケスと憑依された人の声を聞き呟き消え去るのを見届け鎧を返還する、身体が先程よりも若返り今は六歳ぐらいになっている

 

 

―タカヤ『メルトの秘薬』を早く飲め!―

 

 

「その前にあの子に飲ませないと駄目だ…僕はまだ大丈夫だから」

 

 

実際、魔戒騎士の訓練の一環であらゆる毒、薬に対して耐性を持っている…その子がいる場所にいくとコートからメルトの秘薬が入った銀の蓋が付いた小瓶をを取りだし渡す

 

 

 

「…味は保証できないけど効き目はバッチリだから飲んで」

 

 

 

 

「わ、わかった…ングッ……………ま、まずうぅぅい!!テメェ、オレに何てもん…あ、元に戻ってる!」

 

 

飲んですぐに身体が元通りになったのを見て喜ぶ姿に僕は思わず笑顔になった

 

「…お前も早く飲みなよ…あ!?」

 

 

渡された小瓶を見ると数滴…唇を濡らす塗らさないか位しか残って無いのを見てシュンと肩を落とし申し訳なさそうな顔をする

 

 

「す、すまねぇ…助けて貰ったのに…」

 

 

「別にいいですよ、寮に行けばまだありますから…其れよりも早く帰った方がいいです、夜も遅いですし三人ももうじき目を覚ますから安心してください…僕はこれで」

 

「ま、待て!オマエ名前は!?」

 

 

「…タカヤ、僕はタカヤ・アキツキです」

 

 

「オ、オレはハリー・トライベッカー…タカヤ、アイツらを助けてくれて…あ、ありがとうな!」

 

 

照れながらありがとうを言われたその直後、目を覚ました三人と途中まで歩き廃倉庫の前で別た…

 

 

―タカヤ、『メルトの秘薬』…寮には無いだろ…作るのに三日はかかる代物を…―

 

 

「キリク…材料は魔法衣から取り出せば大丈…夫…ッ!ウウウッ!」

 

 

突然、身体の奥が熱くなりさらに痛みが全身を襲い思わず道の真ん中に踞る…幸い車が通らない道だったから良かったけど一向に痛みが治まらない

 

 

―タカヤしっかりしろ!?…カーン起きろ!―

 

 

『どうしまし…若!キリクこれは一体!』

 

 

―ピスケスの体液が傷口から全身に回っていやがるんだ…タカヤ少し残ってるなら飲むんだ!―

 

キリクの言葉に従い頭の中が朦朧とするも先程の小瓶を取りだし僅かに残ったメルトの秘薬を飲み込むと少し痛みは治まるが身体の芯から来る熱さに意識が遠のきやがて闇に沈んだ…

 

 

―タカヤ、しっかりするんだタカヤアアアア!―

 

 

『キリク、落ち着きなさい!…ノーヴェ様に連絡をします…』

 

意識を失った若をキリクに任せ私はノーヴェ様のデバイス、親友【ジェット】に通信を繋ぐと緊急だと察し直ぐにノーヴェ様が出てくれた

 

 

『どうしたカーン?オマエがあたしに用事って珍し…タカヤに何かあったのか?』

 

『ノーヴェ様!若を助けてください!!』

 

 

私は手短に正確にノーヴェ様に現在位置と容態を伝えると表情が強ばりながらも『今からタカヤのいる場所に来るから待っていろ』と言い安心し通信を切った直後若に異変が起こりました

 

頭に三角形の黒い毛に包まれた耳とズボンにフサフサした尻尾が生え身体がみるみる内に小さくなる、やがて魔法衣に身体が隠れ何かが這い出てきた姿を見てキリクも私は唖然となる

 

 

「あれ?ここどこ?おとーさん、おかーさん…どこ~どこにいるの?」

 

 

、まだ若の父上が生きておられ今みたいに母上と仲が拗れる前の…四歳児位の犬耳が生えた若の姿がありました

 

 

「カーン、キリク!タカヤは何処だ…その子供は?」

 

息を切らし私のナビを頼りに来たノーヴェ様がキョトンとする若を見て訪ねてきます…がどうやら気付いたみたいです

 

 

「カーン、キリク、まさか…」

 

『…落ち着いて聞いてください、ノーヴェ様の足元でコートにくるまって貴方を見ている子供が若です…』

 

 

「………………………う、うそだあああああああああああああああ!?」

 

 

「…ふぇ、ふぇええええええん!」

 

 

少しの間が空きやがてノーヴェ様の信じられないと言わんばかりの声があがり其れに驚いた若が泣き出し慌てて抱き抱えあやすノーヴェ様の姿を見て似合ってると不謹慎ながら思いました

 

数時間後…ナカジマ家前

 

 

どうする…あたしはどうしたらいいんだ!

 

 

すやすやと腕の中で眠るタカヤを抱えあたしは自分ん家の前を行ったり来たりしている

 

数分前カーンの連絡を受けジェットに送られた地図を便りに駆けつけたあたしが見たのはコートにくるまった四歳ぐらいの可愛らしい犬耳が目立つ子供

 

 

カーンに若…タカヤだと驚いて声をあげてしまったせいで泣き出したタカヤをあやしながら家の前に来てある事に気づく…

 

 

「……んみゅ……」

 

 

何でタカヤの頭に犬耳が生えてるんだ?…

 

でも、でもスゴくかわいい!!

 

―――――――

―――――

 

 

「…よし、誰も居ないな…」

 

 

ドアを音を立てずにゆっくり開け顔を除かせ辺りを見回しを起こさないようスルリと中へ入る

 

抜き足差し足忍び足で歩く今の姿をウェンディやおとーさんに見られでもしたら…

 

 

―何してるんッスか?……その腕に抱いてる子供ってタカヤんに似て…まさかタカヤんとノーヴェの子供ッスか!?―

 

 

―…ノ、ノーヴェ…いつの間にかお母さんになってたんだな…俺はお祖父ちゃんか…名前を考えないとな―

 

 

…てな事になる前に早くあたしの部屋に行かないと…

 

「何やってるのノーヴェ?」

 

いきなりの声に体を震わせ振り返ると、ディエチがあたしの姿を見て首を傾げているがやがて腕の中で眠る犬耳タカヤ(頭は帽子を被せてあるので気付いてません)に視線が移る

 

 

「…最近タカヤ君と会えないからってこんなに小さな、しかもタカヤ君似の子をさらっちゃ…」

 

 

「ち、違う!こ、この子は…」

「んん~ここどこ~…お姉ちゃんたちだれですか~」

 

間が悪いってこういうのを言うんだな…目を擦りながらあたしとディエチを見るタカヤ?の愛らしい仕草に胸の奥で何かが大きく脈打つ…無性に抱き締めたいという感情が沸き上がってくる

 

 

「あ、あのお姉ちゃん…く、くるしいよ」

 

 

「は!?あ、悪い…」

 

 

「ようノーヴェ帰ってきた…」

 

 

知らないうちに力一杯抱き締めていたあたしはタカヤに謝った時、リビングの扉が開き現れたおとうさんがあたしの腕にいるタカヤを見て固まり数秒たってからゆっくりと近寄るとタカヤと同じ目線に立ち顔をじ~つと見据える

 

 

「…ボウズ、名前はなんて言うんだ?」

 

 

「ぼくはタカヤよんしゃいだよ…おじいちゃんは?」

 

 

「お、おじいちゃん、俺が!?…ゲンヤ・ナカジマだ。ノーヴェ、後で俺達にこの子について教えてくれ」

 

 

「…ゲンヤおじいちゃん、お姉ちゃんをおこっちゃだめ!」

 

 

「あ、ああ…別におじいちゃんは起こってる訳じゃないんだ…タカヤ」

 

 

あたしをおとうさんから守るように前に立ちプウっと頬を膨らませるタカヤに慌ててそういうと途端にパァッと笑顔になる…かわいい、なんなんだこの可愛さは!反則だろ!!

 

 

またギュッと抱き締めたくなりそうになり手がタカヤに伸びるのを必死に押さえながらあたしとディエチ、おとうさんと一緒にリビングに向かった

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

―――――――

 

 

「…あの子はタカヤの親戚で肝心のタカヤは外せない用事が入ってノーヴェに預けたって事か…(俺ぁてっきりタカヤとノーヴェの子供かと思ったぜ)」

 

 

「名前もタカヤ殿と同じでしかもよく似ているな…」

 

「そうッスね~ノーヴェ、良かったじゃないッスか」

 

「なにがだウェンディ?」

 

 

ニヤニヤしながらあたしに近づくと小さな声で

 

 

「将来、ノーヴェがタカヤんと結婚したら当然子供が生まれるッスよね今からその予行演しゅ…」

 

 

「ウ、ウェンデイイイイイイイイイ!!」

 

あたしはそのままウェンディのボディめがけアンチェィンナックルを叩き込むと声を上げる間もなくそのままポフンと絨毯へ沈む…結婚、予行演習、子供、ウェンディの言葉が頭を駆け巡り同時に顔が熱くなっている

 

 

…いろんな過程飛ばしすぎだ!…でも

 

 

(注意!ここからはノーヴェさんの妄想タイムです!!)

 

 

―ノーヴェさん、今日こそ作りましょうか?―

 

 

―て、でも…一回じゃ出来ないだろ―

 

 

―じゃあ朝までしましょうか…―

 

ベッドの上であたしの太股から腰を優しく愛撫しながらキスするタカヤ…互いに舌を絡めやがて行為へ移る

 

 

―タカヤのオウガ重剣斧(?)熱くて大きすぎて…もう一杯だ…はぁ…―

 

―ノーヴェさん…の…、魔導火より熱くて包み込んで…う!―

 

 

―タカヤの熱い、こんなにされたら…できちゃうよぉ…―

 

 

中で熱さを感じながら惚けた声をあげる口を再びふさぎながらオウガ重剣斧を奥へ奥へと収めながらを熱く激しく求めた

 

 

(妄想タイム終了!!)

 

 

「……やっぱり痛い…んだよな…でもタカヤに…」

 

「…すごい、ノーヴェお姉ちゃんつよいんだね!」

 

 

 

その声でようやく戻ってこれたあたしにスリッパをパタパタさせながら駆け寄ると、その色違いの瞳で見上げるタカヤを抱き上げ抱き締める…髪はさらさら肌もフニッってして其れに凄くいい匂いがする

 

 

「…ノーヴェお姉ちゃんってぼくのおか~さんと同じことをするんだね…」

 

 

「い、いやか?」

 

 

「ううん、いやじゃないよ…だって優しくてつよいノーヴェお姉ちゃんぼくだいすき!」

 

 

お姉ちゃんだいすきの言葉が突き刺さる…大好き…タカヤはあたしが大好き!?

 

…でも今のタカヤは四歳でいつかは元に戻る。あの鈍感タカヤに、この時の記憶は残らないんだろうとあたしは少しだけ残念な気持ちになる

 

 

 

「なあ、ギンガ…ノーヴェとタカヤ(4)見てると親子にしか見えねぇな…」

 

 

 

「そうだね…もしタカヤ君とノーヴェの子供ってあんな感じになるのかな?」

 

 

(ゲンヤおじいちゃん…か。早く呼ばれてみてぇな)

 

 

タカヤを抱き上げ抱き締めるノーヴェの姿を見ながらゲンヤは湯呑みを口に持っていき少し冷たくなったお茶を飲んだ

 

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

 

「ほら、じっとしていろタカヤ。うまく洗えないだろ」

 

 

「うう~だって耳がくすぐったいんだよノーヴェお姉ちゃん…絶対にはやく終わらせてよ」

 

 

あれからしばらくしてあたしとタカヤは一緒にお風呂に入っている…コートの脱がせた時汚れていたのもあるし四歳のタカヤが一人で入るのは危ないと考えた結果一緒に入っている…その前に復活したウェンディが『まずはお風呂入れからチャレンジっすか?』ニヤニヤしながら言うのをあたしは聞き流した

 

 

何故かって?タカヤ(4)の前で殴るのは教育上悪い影響しか与えないからだ…

 

 

浴室に入り軽く湯をかけまずは黒く長い髪をシャンプーをつけた手で優しく…敏感な犬耳を避けながら洗う、さらさらした感触を手に感じながらあることに気づいた…

 

 

背後に全裸のあたしがいるのにかかわらず鼻血を一滴も出していない

 

普段だったら鼻血で空を舞うんじゃないかと言わんばかりの量を出すはずだ

 

もしかして今は鼻血属性?が無いのか!?

 

「ノーヴェお姉ちゃ~ん、まだおわらないの?」

 

 

「ああ?わりぃ今からシャンプー流すから目を閉じてろよ」

 

 

「…は~い」

 

 

元気よく尻尾をゆらしながら答えるタカヤを抱き締めたくなる衝動を必死に押さえ、温度調節しお湯をゆっくりかけながらシャンプー洗い流すと同時に手で優しくゆすぎ終えそのまま湯船に抱き抱えるようにして浸かる

 

四歳のタカヤが湯船で溺れないようにするためだ、そうしてるとあたしに身を任せるように背中を預けてくる、背中とあたしの胸が当たり思わず声を出しそうになる…だけどタカヤの体温を感じるとなんかこう落ち着く

 

 

「…ノーヴェお姉ちゃんって暖かいんだね…まるでおか~さんみたい」

 

 

「そ、そうか…タカヤのお母さんってどんな人なんだ?」

 

 

「ん~とね…おとうさんがいうには『ツンデレ』だっていうけど…よくわからな…でもノーヴェお姉ちゃんと同じぐらいにすごくやさしいんだよ…おそろいの《まど~ひつ》もたんじょうびにもらったんだあとでみせてあげるね」

 

 

尻尾を湯船の中で動かしながら楽しそうに話すのを見てこの頃のタカヤは母親の事が大好きだったんだな…何が原因であんな態度をとるようになったかがわかれば、あたしが直接メイに聞きに行かなきゃいけないかもしれないな…湯に浸かりながら髪を手櫛ですくと何故か気持ち良さそうな表情を浮かべるのを眺め考えしばらくしてからあたしとタカヤは湯船から出るとバスタオルで体をふく

 

 

「こら暴れるなタカヤ!まだ濡れてるんだから」

 

 

「だ、だってシッポがくすぐったくてあひゃ!」

 

 

拭く度にくすぐったいのか体をよじらせた、足がもつれ倒れそうになるタカヤをなんとか受け止める

 

 

「あん…だ、大丈夫か…」

 

「う、うん…ごめんなさいノーヴェお姉ちゃん」

 

 

犬耳をシュンと垂れさせ謝るタカヤの小さな頭を胸で受け止めたのはいい…いいんだけど!

 

(…だ、ダメだ?動くなぁ!?後息がくすぐっ…あん///)

 

 

吐息が肌にあたる度に身体がゾクゾクッとする…それをこらえ身体から離すと再び身体を拭きパジャマに着替えあたしはタカヤの手を繋ぎ部屋へと連れていく

 

 

――――――――――

―――――――――

―――――

 

 

「…♪~♪♪♪~」

 

 

ベッドの上でタカヤの黒くて長い髪を櫛で鋤く、タカヤはこうやって髪を鋤いて貰うのが気持ちいいのか溢れんばかりの笑顔を浮かべ鼻唄を歌っている

 

 

「なあタカヤ、少し聞いていいか?」

 

 

「な~にノーヴェお姉ちゃん?」

 

 

「タカヤのその耳ってなんなんだ?」

 

 

「ぼくのみみ?うんとね~ひいおばあちゃんが『ふろにゃるど』の『びすこってぃ』生まれだからたまにこんな耳になるんだ~あとおかーさんもなるんだよ…ぼくのみみってへんかな?」

顔は見えないんだけどタカヤの犬耳がうなだれたのを見て慌てて

 

 

「い、いや!全然変じゃないしむしろ可愛いから!!ほ、ほら、終わったぞ」

 

 

「ありがとうノーヴェお姉ちゃん。そうだ『まどーひつ』をみせる約束だったね。はい!」

 

 

髪を鋤いてくれたあたしに満面の笑顔を向けお礼を言うとタカヤはベッドから降り掛けてあったコートから一本の筆を取り出し手渡してくれた

 

 

筆というには大きくて握る部分には黒地に白金の様々な装飾が施され鈴の涼しげ音色が聞こえてくる

 

「…タカヤはこれをどうやって使うんだ?」

 

 

「えっとね~こう使うんだよ、はあ!」

 

 

あたしから『まどーひつ?』を受け取りベッドの上で両腕を軽く交差と同時に無数の花びらが舞うと姿が消えた…あまりの光景に開いた口が塞がらず慌てて探すあたしの前に突然花びらがあつまるとタカヤの姿になる

 

 

「この『じゅつ』はねぼくのひいひいひいひいひいじーちゃんが『ふどーれーじ』におしえてもらったんだよ、ノーヴェお姉ちゃん…あれ?」

 

あたしと向き合う形で話していた犬耳タカヤが糸が切れたかのように身を任せ胸にふらふら倒れやがて寝息が聞こえてくる

 

 

―…どうやら術を使ったせいで体力が尽きちまったみたいだな―

 

 

「キ、キリク?お前起きていたのか!?」

 

 

―ああ、タカヤを慈愛顔で抱き締めてしかも匂いと肌触りをこれでもかというくらいに堪能する姿をしっかり目に焼き付かせてもらっ…待て!その拳を下ろすな!!―

 

 

「ん~んみゅ……」

 

 

気付いたときには枕元に置かれていたキリク目掛け握り締めた拳を降り下ろそうとするもぐっと堪える…このまま殴ったらキリクの悲鳴であたしに抱きついたまま眠っているタカヤを起こしてしまう

 

 

―と、とりあえず落ち着いてくれ…今回は厄介な事になっちまった…―

 

「厄介な事?どういう意味だ?」

 

 

あたしの問い掛けに黙り混み数秒後、金属?を軋ませながらキリクが口を開いた

 

 

―…このままだとタカヤは四歳からやり直す事になるぞ…―

 

クラナガン中央区、多数のビル郡が建ち並ぶなかの一つ一際大きな建物…一般衣類、家電製品から最新デバイス、バリアジャケットの新素材開発まで請け負う複合大企業【アキツキ・インダストリ】本社…その執務室ではCEOであるメイ・アキツキが決算及び新製品の開発状況をモニターを介して役員達と確認し一通り目を通し承認やら今後の視察、今季開催インターミドルに向けての細かなスケジュール調整を隣の席に座る初老の男性デルクと打ち合わせを終えモニターを切り、運ばれてきたハーブティーを口に運び香りを楽しんでいた

 

 

「…メイ様、今季インターミドルの出場者名簿にアインハルト様とヴィヴィオ様の名前があります。もしかしたらタカヤ様に会…」

 

 

「…デルク、タカヤは私を嫌っているわ…会えたとしても逃げ出すに決まってる…」

 

 

ハーブティーが入ったカップを軽く口につけ含むと香りが鼻腔にひろがっていく

 

四年前、夫ユウキが死んだあの日から私は親子の縁を切り魔戒騎士、法師の訓練を今までの倍の量を課させた

 

 

―立ちなさいタカヤ…ホラーの攻撃はこんなに甘いものじゃないわ!―

 

 

―…はい…ハアアアッ!―

 

 

縦横無尽に襲いかかる無数の刃を煌牙ではなく練習用のソウルメタルの剣で受け反動を利用し紙一重でかわし次々と刃を切り裂いていく。煌牙に選ばれたとはいえタカヤはまだ鎧の召喚は出来なかった…まずは剣と魔導筆を用いた戦闘訓練を同時に行う為に私はあらゆる可能性を凝縮したこの訓練法に辿り着いた

 

そうしているうちに激しい金属音と地響きを鳴らしながら最後の巨大な刃を両断したタカヤに魔導筆であらかじめ浮かせた無数の巨岩を次々とタカヤ目掛けて打ち出す

 

 

―ハアアアッ!セイ!セイ!ヤアッ!!―

 

 

打ち出された巨岩を練習用のソウルメタルの剣で切り裂き、柄で砕き片手に握られた魔導筆からは術を放つと同時に砕いた岩を足場にし上へ跳躍し向かってくる巨岩に体を捻り蹴りを叩き込み砕く…その無駄のない動きはまるで流水…十歳になったばかりの子供ができる芸当ではない

 

 

―…甘いわよタカヤ―

 

 

 

―うわあ!―

 

 

すべての巨岩を砕き切り裂いたと油断したタカヤの背中に岩がぶっかりそのまま受け身すら取ることが出来ずに修練場の固い石造りの床に背中を鈍い音と同時に激しく打ち付けそのまま気絶するタカヤに駆け寄ろうとするもそれをグッと堪える

 

 

…タカヤをホラーに絶対に負けない魔戒騎士として育て上げるまで『母』としての情を捨てると言う誓いを破ることになる…だけど母としての感情が胸の奥から溢れてくるのを必死に押さえる

 

 

―メイ!タカヤを殺す気か!いくらなんでもやり過ぎだろ…タカヤはまだ、まだ十歳なんだぞ!!―

 

 

少し離れた場所にテーブルの上の台座に納められたキリクが悲鳴にも似た非難の声を私に向ける

 

 

だけど…私は…

 

 

――――――――――

――――――――

 

 

「…イ様、メイ様!」

 

 

「!?…どうかしたのデルク…」

 

 

「はい、たった今ロビーから連絡がありましてメイ様にお会いし…」

 

 

「…今は誰とも会いたくな…」

 

「…『タカヤに一大事が起きた…魔戒法師メイ・アキツキにキリクが会いに来た』と四歳ぐらいの男の子を連れたノーヴェ・ナカジマ様と名乗る女性が伝え…」

 

 

「デルク、今すぐその二人を此所に連れてきなさい」

 

「は、はい!」

 

 

慌てて席を立ち軽く頭を下げデルクは二人を迎えに退室する。私は椅子から立つと本棚の中から一冊の分厚い本を取る

 

本棚が真ん中から寄せ木細工のように開き無数の魔導衣と秘薬棚が並びその中から一つの瓶を手にする

 

 

「…四歳ぐらいの男の子…まさか…」

 

 

銀の蓋がついたガラスの小瓶…【メルトの秘薬】を机におき魔導衣に着替え棚に掛けてあった握る部分に白金の唐草模様をあしらった魔導筆を取る…鈴の乾いた音が聞こえた

 

 

 

「…タカヤ…」

 

 

 

タカヤが四歳になった時に贈った色違いの魔導筆を手に呟き再び本を戻す。本棚は再び元の形に戻り椅子に座り二人が来るのを待った

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

「キリク、本当に大丈夫なんだな…」

 

 

(俺は嘘は教えない…こう言えばアイツは必ず迎えを寄越す…)

 

 

「ノーヴェお姉ちゃん…おかあさんここにいるの?」

 

「ああ、タカヤのお母さんはここにいる…お迎えが来るまであたしと待ってようか」

 

「うん、ノーヴェお姉ちゃん!」

 

 

母親に会えるのがとても嬉しいのか満面の笑みを浮かべあたしの膝の上にちょこんと座るタカヤの頭を帽子(犬耳を隠す為)の上から軽く撫でながら昨日の事を思い出した

 

 

―タカヤが四歳からやり直しになる?―

 

 

―ああ、ホラーピスケスの攻撃を受けたせいで子供化しちまったんだ…メルトの秘薬があればなんとかなるんだが―

 

 

―じゃあメルトの秘薬を飲ませればいいじゃないか!―

 

 

―タカヤがホラーと居合わせた子に飲ませちまった分しかないんだ…―

 

 

―じ、じゃあもう元に戻す事は…―

 

 

―………ノーヴェ、アイツ…メイに明日会いに行くぞ、あの秘薬を作れて予備を持っているのはアイツしかいない…―

 

 

……嫌々ながら言うキリク…『アイツに会うのは嫌だがタカヤの為に』と感情が込められていたのを感じ横で穏やかな寝顔を浮かべ眠るタカヤを見てあたしはメイとじっくり話したいと心の中で誓うとそのまま明かりを消し眠りについた

 

 

…なんだけど…

 

 

―ん、おかあさん…んっ―

 

 

―や、やめろったら?あたしはまだ…あんッ!?で、でないから…吸わ、ないで…あん?―

 

 

寝ぼけたタカヤ(4)があたしの胸に小さな唇で敏感な部分を吸い始める…

 

 

―ンッッ―

 

 

―…んん…おかあさん―

 

 

暗い寝室に水音が静かに響く吸われる度にあたしは身体の奥で何かが疼くのを必死に耐えた

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

「…カジマ様、ノーヴェ・ナカジマ様」

 

 

 

昨夜のアレを思い出していたあたしを呼ぶ声にようやく我に戻ると目の前に執事服の初老の男性が立っていた

 

「あ、ああ…あなたは?」

 

「メイ様の言いつけによりノーヴェ・ナカジマ様を案内するよう頼まれました…デルクと言います。さあ此方へ」

 

 

デルクと名乗る人物に案内されあたしはいつの間にか眠ったタカヤを抱っこしてメイが待つ場所へ向かう

 

「では、ノーヴェ様はアインハルト様とヴィヴィオ様の師匠なのですか」

 

 

「ああ、一応だ…あたしもまだまだだしな…」

 

 

(…ノーヴェ様は何処と無くメイ様と似ておられます、この頃のタカヤ様は私とユウキ様、メイ様にしか近寄りませんでした…なつかれるのも無理もありません…)

 

 

ノーヴェ様の腕の中で眠るタカヤ様を見ながら歩く内に執務室の前に立つ

 

 

「メイ様、お二人を連れて参りました」

 

 

「…入りなさい…」

 

 

扉が自然に開き奥へ案内され広い執務室に入りノーヴェは驚いた…壁には社員の家族からだろうか感謝の手紙や似顔絵が無数に貼られていた

 

 

「…いつまで立っているの早く座りなさい…ノーヴェ・ナカジマさん…」

 

 

なぜか帽子を被るメイの態度と言葉にやや刺があると感じながらあたしは座る前にタカヤをソファーに寝かせてその隣に座る…メイは相変わらず立ったまま此方を…いや帽子を被ったまま眠るタカヤをじっと見ている

 

 

「…無様ねタカヤ…あの時大人しくアキツキの家に戻ればこんな事にならなかったわ」

 

 

「!あんた自分の子供に向かって!」

 

 

―ノーヴェ、落ち着くんだ!メイ…俺が来た理由はわかるよな―

 

 

「…キリク、貴方が欲しいのは此れかしら…」

 

 

机に置かれていた小瓶を手に取り見せたのはメルトの秘薬…思わず手を伸ばしとろうとした時身体がふわりと浮いたに感覚に囚われる『投げられた』と気付くと鈍い衝撃を背に受け床に仰向けになって倒れていた

 

「動きに無駄があるし読みやすい…常に警戒心を持つことね…」

 

 

あたしを見下ろしそのまま部屋から去ろうとするメイの服を掴み立ち上がる

 

「ま、待て…薬を置いていけ…それはタカヤに必要なんだ…」

 

 

「…」

 

 

無言のまま服を握ったその手を掴むと投げられまた空を舞う感覚にとらわれるけどあたしはなんとか体勢を取り着地したことに目を見開いて驚いている

 

 

「…驚いたわね、これをかわしたのは貴女で三人目よ…」

 

 

「う、うるせぇ…さっさとあたしに其れを渡せよ…」

 

 

「……ハアッ!」

 

 

メイの手元でなにか文字みたいなものが浮かびそこから魔力弾?らしいのがあたしに向かってくる

 

 

「うあっ?」

 

 

咄嗟にジェットを起動させBJを纏うと回避と同時にエアライナーを部屋一杯に展開し駆け間合いを摘め死角に入る

 

(もらった!)

 

 

「…甘いわ…」

 

 

鈍い音が部屋一杯に響く…見るとノーヴェの腰を沈め渾身の力を込めた蹴りを筆?で後ろを見ずに受け止めている

 

 

「…死角を狙うのは時としてして正しい…でも上には上がいるのを忘れないことね…」

 

 

 

あたしの渾身の力を込めたリボルバースパイクを止めた筆?を見て驚く、何故ならタカヤの持つ筆と同じデザインに驚くあたしの前で帽子がふわりと絨毯へ音もなく落ち現れた三角形の二つの物体…犬耳がピンとたっていたのを見て一瞬思考が止まった

 

 

「なっ!?」

 

 

「余所見する余裕があるのかしら…これで終…」

 

 

 

振り払われ空を舞うあたしに向け筆を構え赤い光が集まり始め(やられる)と思った時、あたしとメイの間に風切り音と共に割って入る…見るとさっきタカヤを寝かせたソファーがふわふわと浮かんでいる

 

 

「…ノーヴェお姉ちゃんをいじめないで…おかあさん!!」

 

 

テーブルの上に立ち涙目になりながら自分の母親メイと対で作った筈の筆を向け構えるタカヤの姿…あたしを助けるために一番疲れる術を使ったのか

 

 

「………」

 

 

 

メイは無言のまま筆を納めると代わりに何かを取り出しあたしに投げ渡す、受け取り見ると銀の蓋が付いたメルトの秘薬が入ったガラスの小瓶があった

 

 

「…あ、れ……」

 

 

声がした方を見るとタカヤの身体が揺れ始め足を滑らせ床に落ちそうになるのを見て駆け出す…(駄目だ間に合わない!)そう思った瞬間なにか黒いのが風と共に過ぎ去る…見ると疲れて眠ってしまったタカヤをメイが抱き抱えている

 

「…ノマエハワカチヨタイシナクドム、ガルチョルブ、バハガラアカヨマモッチアグル…タカヤ」

 

まるで愛しい者を守る…そう感じさせる柔らかい表情を一瞬だけ浮かべ囁くとあたしの方を向きタカヤを預け抱き抱えたのを見てそのまま背を向けた

 

 

「…薬はあげるわ…また何かあったら来なさい…」

 

 

そう言い残し懐から筆を取り出すと同時に振ると花びらに代わりその場から消え去った…一瞬、メイの犬耳がうなだれたのは気のせいだよな?

 

 

―…メイの野郎…謝りもせずに薬だけ渡して消えやがった…―

 

 

「いいんだキリク…結果的に薬は貰えたんだ。タカヤが目を覚ましたらコレを飲ませよう…」

 

 

キリクの不機嫌そうな声を聞きながらメイが見せたあの表情。『私は親子としてやり直したい…でも本人の前だと私は素直になれない』とあたしは感じた

 

今までの会話を逆の意味にとらえ考えるとそうとしか思えない、現にさっきのやり取りはあたしを見定めるように手加減されていたと感じた

 

 

「教えてくれキリク…なぜタカヤとメイは彼処まで仲が悪いんだ…頼む」

 

 

―………何時かタカヤ自身の口から聞いてくれ……悪いが俺は眠る―

 

 

「待て……眠っちまった」

 

 

眠ったキリク?を見ていると背後に気配を感じ振り返ると執事服姿の初老の男性デルクが立っている

 

 

「ノーヴェ様、後少ししたら車でご自宅までお送りします…先程はメイ様がとんでもないことを」

 

 

「い、いやあたしは気にしてないから…それになんだメイの性格もだいたいわかったしそれに」

 

「それに?」

 

 

下げた頭を上げ不思議そうな顔するデルクに笑いながらあたしは答えた

 

「一発入れたからな」

 

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

 

「…やるわね…今度は半分…いえ本気でやらせて貰うわ」

 

 

アキツキ・インダストリ本社の屋上で右手を押さえながら黒く長い髪を風になびかせながら呟くメイの姿…渾身のリボルバースパイクを魔導筆で受けたが相殺しきれず威力がそのまま手に残ってしまったのだ

 

 

「…タカヤ…ごめんね…」

 

魔導筆を見ながら呟くその姿からは寂しさとなぜ素直になれなかったかと言う後悔が滲み出ていた

 

 

―――――――――

――――――――

―――――――

 

 

「ほらタカヤ落ち着いて飲むんだ」

 

 

「う、うん………プハッん~ん不味いよ…なんかすごく眠い…よ…」

 

メルトの秘薬を飲み終え顔を苦いという表情を浮かべやがて崩れるように倒れる犬耳タカヤを受け止め、あたしはベッドに寝かしつけ元に戻るのを待つ

 

 

…あれからデルクが運転する車でアキツキ・インダストリから家まで送ってもらい車から降り家の中に入ろうとするあたしにデルクが声をかけてきた

 

―…ノーヴェ様、タカヤ様をよろしくお願いします…―

 

 

深く頭を下げ車へ乗り込むとそのまま走り去っていったタカヤとメイがあそこまで関係が悪化した理由を聞きそびれてしまった事を少し後悔する

 

 

けど収穫もあった…タカヤと色違いだけど同じ筆?を持ってた。という事はまだ二人とも心の奥では仲直りしたいんじゃないかと?

 

 

そう思い頭を撫でた時チャイムが鳴る。あたしは犬耳タカヤを部屋に残し下へ降り玄関の扉を開けると

 

「…こんにちはノーヴェさん」

 

「ノーヴェ、遊びに来たよ」

ヴィヴィオ?それにアインハルトまでどうしてあたしん家に?今のタカヤをみたら不味すぎる…どうする!?

 

 

――――――――

――――――

 

 

 

アインハルトとヴィヴィオがナカジマ家を訪れる数時間前…

 

 

「タカヤさんは今日休みですか…」

 

 

タカヤが学院を休むと担任から告げられ一部の男子達からは

 

『そのまま死ねアキツキ!』

 

 

『リアルハーレム転校生死んじまえ!』

 

 

『死ねリア充騎士!』

 

 

『肉欲獣!』

 

 

……等々の声を聞きながらアインハルトは近くのベンチに座り溜め息をつくと誰かの気配を感じ横を向くと少し離れた場所にヴィヴィオがクリスと共に座り映し出されたモニターを顔を赤くしながら見ている

 

「…ヴィヴィオさん、何を見てるので…こ、これは!?」

 

アインハルトの目に写ったのは可愛らしい服を着た満面の笑顔を浮かべるタカヤ(4)を慈愛顔で頬擦りしながら抱き締めるノーヴェ…其れだけではない風呂から上がったタカヤの黒く長い髪を鋤く姿、タカヤに食事を『はい、あ~ん』で食べさせるノーヴェの姿…数えたらきりがない画像が写されていた

 

 

「か、可愛いです///」

 

 

「ですよねアインハルトさん////…さっきウェンディから届いたんです」

 

 

数分前、ヴィヴィオのデバイス『クリス』へウェンディから送られてきた『今家に可愛いマスコットがいるッスよ♪これはヴィヴィオとアインハルトにカワイイのをお裾分けするッス♪♪』と題名のメールを開くと可愛らしいタカヤの姿の画像データが表示され其れを見て…

 

 

「ヴィヴィオさん、授業が終わったらノーヴェさんの自宅へ行きませんか?」

 

 

「はい!だったら一度わたしの家に寄りませんか色々準備したいんで」

 

 

「わかりましたヴィヴィオさん(…画像の子はタカヤさんに似ている気が…そんなことないですよね)」

 

 

 

軽く打ち合わせをすると予鈴がなり二人は最後の授業を受けるため其々の課へと戻っていった

 

 

そして現在、ナカジマ家のノーヴェ自室では…

 

 

「んみゅ…ん」

 

 

「「はう//////////」」

 

 

ベッドの上で穏やかな寝息を立てながら眠るタカヤ(4)をその両脇に座り間近で見た二人は惚けていた

 

 

かわいい、あまりにもかわいすぎるその寝顔に二人ともノックアウト寸前…いや魔導刻?が勢い良く減っているのがわかる

 

「タカヤさんの親戚の子だってノーヴェ言ってたから小さい頃もこんな感じなんですよね…アインハルトさん?」

 

 

「はっ!?そ、そうですね(私にもデバイスがあれば記録?をとれるのですが…)」

 

 

未だに顔を赤くしながらタカヤ(4)の頬に手を恐る恐る伸ばし触れる。フニッと柔らかい

 

 

「んんっ…」

 

 

触られたかせいか声を小さくあげ寝返りをうつタカヤ(4)はちょうどアインハルトの顔の近く互いの息が当たる距離…黒く長い髪(帽子からでた)にそっと手を触れ鋤いてみる

 

 

(タカヤさんの髪はまるで絹みたいにサラサラしています…其れに何か良い匂いがします)

 

 

「…アインハルトさん、少し協力してくれませんか」

 

「え、あ、はい!えとこれは?」

 

ヴィヴィオから手渡されたのを見て驚くも互いに無言でうなずきパジャマを脱がしあるものを頭から被せ着せる、目の前には狼を可愛らしくアレンジした着ぐるみタイプのパジャマ姿のタカヤ

 

 

「に、似合いすぎ…で…す…はう///」

 

 

「そ、そうですね…クリス今のを撮ってね♪」

 

 

「(コクコク)」

 

 

ふわふわ浮かびながらクリスはしっかりとタカヤさんの親戚の子の『子狼パジャマ』姿を撮るのを見ながら次の服を取り出す…Yシャツもすごく似合うかも♪

 

 

――――――――――

――――――――

 

 

「ウェンディ!お、お前二人になんてモノを送りやがった!!」

 

『いやあ~タカヤ(4)の可愛らしさをあたし達だけ独占するの不味いかと思って…それともノーヴェはタカヤ(4)を自分だけ独占するつもりッスか?』

 

「 べ、別にあたしはタカヤ(4)を独占したい訳じゃない!」

 

 

あたしは突然来訪した二人に出すお茶の準備をしながらバイト休憩中のウェンディに通信を繋げ真っ先にアレをヴィヴィオ達に送った理由を問い質すと案の定な答えがかえってきた

 

 

『ふ~ん…でも今朝なんかチンク姉がタカヤ(4)くんの歯磨きさせてるのを後ろから「あたしがやるはずだったのに」って羨ましそうに見てたの皆知ってるんッスよ』

 

 

「な、な、な、何故ソレを!」

 

 

『あ、もう休憩終わりだからまた後でッス』

 

 

「待てウェンディ!!切りやがった…ん?」

 

 

―追伸、あとチンク姉とディエチもタカヤんとノーヴェが上手く様に応援してるッスからね♪―

 

 

通信が切れた直後、メールが入り文面を見てあたしは顔が熱くなり心臓がドキドキし始める…皆知ってたんだでもあたしの身体『戦闘機人』の身体を知ったらタカヤはあたしを人間…『女の子』として見てくれるのかな

 

 

それとも…

 

 

「…そんなことないよな…」

 

 

タカヤに拒否される…そんな考えを振り払い手早くお茶とお菓子をトレイにのせ部屋へと向かい開けた時ソコには…

 

 

「ア、アインハルトさん…これは反則ですよね////」

 

「は、はい…かわいすぎます…しかも犬耳は反則です//////」

 

 

「あ、あ、あ!?」

 

目の前にいたのは黒を基調としたゴスロリ服に白のニーソ、黒く長い髪に様々な花をあしらったカチューシャを付け薄く化粧を施し男の娘姿の犬耳タカヤ(4)の姿に言葉がでない、突然鼻に熱いものを感じさわると血が付いてる…あたしが鼻血を出している事にようやく気づいた

 

 

 

「ア、アインハルト!ヴィヴィオ!タ、タカヤ(4)になにしてんだ!?」

 

 

「あのね犬耳タカヤ(4)くんがあまりにも可愛くて着せてみたんだ後他にもあるよ♪」

 

 

ヴィヴィオが顔を赤くしながらあたしに見せたのは狼?の着ぐるみ、パジャマ姿、スク水、マジカルハロウイン?姿、Yシャツ姿な犬耳タカヤ…お茶の準備している間に着せ替え人形にしていたのか!

 

 

―いい加減にしろアインハルト嬢ちゃん、ヴィヴィオ嬢ちゃん…犬耳タカヤは着せ替え人形じゃない!!―

 

 

「え?キリクさん。じゃあこの子はまさかタカヤさんですか!?」

 

 

―ああ、ホラーから受けた攻撃で子供化しちまったんだ…まあ後二、三十分でもとに戻るぜ―

 

 

「そ、そうなんだ…でも子供のタカヤさんってスゴく可愛いんですね」

 

 

―ああ、そのせいか一時期アイツはタカヤ中毒になりかけたからな…三人ともタカヤに何時もの服を着させてくれ戻ったら服が破けて全裸になるぞ―

 

金属を軋ませながらしゃべるキリクの言葉を聞きあたし達は服を脱がせタカヤに何時もの服を着せていく…この服は革製に見えて普通の服と変わらない柔らかさを持っているお陰ですんなりと着せられ後は戻るのを待つだけになり持ってきたお茶を飲んでいた時だ

 

 

―なあ少し聞いていいか?三人はタカヤのどこが好きになったんだ?―

 

 

 

「「「!!!」」」

 

 

同時に蒸せるもなんとか押さえ台座に飾られたキリクを見る…龍を模した部分が一瞬ニヤリと笑ったように見えた…

 

 

「わ、私は少し天然でお日様みたいな感じが…」

 

 

「わたしもアインハルトさんと同じかな…タカヤさんの傍にいるとすごく安心できるって感じがします」

 

 

 

アインハルトとヴィヴィオがそう言い終え視線をあたしに向ける…

 

 

「あ、あたしは…タカヤの…」

 

 

言いかけるも中々口に出せない…わざとらしくあたしはお茶を口に運び喉を潤わせカップを置き興味津々な目であたしの言葉を待つ二人に口を開こうとした時、ベッドの上にいるタカヤ(4)の身体が光りやがて収まると元の姿に戻ってる

 

 

「う、うん…此所は?」

 

 

「タカヤ、目を覚ましたんだな…良かった」

 

 

「…確かピスケスを倒して其れから…駄目だ思い出せない…でも僕を助けてくれてありがとうございます」

 

 

「あ、いや、いいんだあたし達はタカヤに助けてもらってばかりだし…気にするなよ」

 

 

 

目を覚ましたタカヤはあたしに何度も頭を下げ其れをなんとか止めさせ皆で軽いお茶会をしてる内に時間も遅くなり三人を見送る為玄関まで出た

 

「じゃあまたねノーヴェ♪」

 

 

「ではノーヴェさん、また今度」

 

 

「ああ、また今度遊びにこいよ」

 

 

「…泊めて貰ったのに何も覚えてないですけど今度何かお礼します…ノーヴェお姉ちゃん?…あれなんで僕!?」

 

 

「~~~~!!」

 

タカヤの口から出た『ノーヴェお姉ちゃん』の言葉を聞き胸が高鳴った瞬間ドアを勢いよく閉め部屋まで駆け上がりベッドにダイブし毛布を頭から被る、さっきまでタカヤが使っていたせいか少し匂いが残っている

 

 

(…天然で優しくて強くて、でも脆い部分も全部含めて……あたしはタカヤが大好きだ…)

 

 

 

アインハルトとヴィヴィオの前で言おうとした答えをそう心で呟くとあたしは深く呼吸しタカヤの匂いを胸一杯に吸いやがて眠りについた

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

 

 

「ど、どうしたんだろノーヴェさん?」

 

 

『ノーヴェお姉ちゃん』って言葉を自然に口にした途端顔を赤くして家の中に入って行くのを呆然と見ていたら背後から凄まじい怒気を感じ振り返る

 

 

「…タカヤさん…ノーヴェと何かあったんですか?」

 

「…ノーヴェさんを『お姉ちゃん』と言うのはどういうことでしょうか…」

 

 

瞳が単色になりじわじわと歩み寄る二人に気圧され後退りしなんとかしょうとするも頭に何も浮かばない。単色の瞳で僕を追い詰める二人の背後にチェンソー持った言〇様と出刃包丁を二刀流に構えた世〇様がユラリと見える

 

 

「…そ、それが僕にも良くわからなくて…それに一日分の記憶がなくて…だからごめんなさい!」

 

 

二人に頭を下げ謝るしばらく経ちため息が二つ聞こえてくる

 

 

「そ、そうでしたね…タカヤさんは悪くないのにこんな事してごめんなさい」

 

 

「…顔をあげてくださいタカヤさん…帰りましょうか」

 

 

二人になんとか許して貰った僕はそのまま一緒に帰る事になったんだけど…

 

 

「あの~アインハルトさん、ヴィヴィオさん何で僕と腕を組むんですか?すごく歩きづ…」

 

 

「「わたし/私/と腕を組むのは嫌ですか?」」

 

 

瞳を潤ませ上目使いで僕を見られちゃ何も言えず二人の柔らかい双丘の感触に耐えながら二人を其々の家へ送り届け僕は寮へ帰るなりシャワー浴びるのと剣の浄化は明日にしょうと考えながらそのままベッドに倒れ眠りについた

 

 

第十一話 子供

 

 




キリク
『インターミドルまであと一月を切ったある日、専用デバイスができたアインハルトの付き添い(護衛)で八神家に訪れたタカヤ、一人砂浜で体を動かすタカヤの前に一人のボウズ?が現れた

ナニ?ボクと手合わせしてって?


次回 抜剣(一)!


なんだこのボウズは?』


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第十二話 抜剣(改)

早朝、朝もやに包まれる無人の公園を走る六つの影…先頭から順にヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナ、ノーヴェ、そして…

 

「~♪♪~♪♪」

 

 

鼻唄混じりに最後尾を走るのは黒に銀のラインが入ったジャージ姿のタカヤ、しかも息を切らさずここまで走っていた

 

 

第十二話 抜剣

 

「よし今日の朝トレーニングはここまでだ…からだ冷やさないようにしろよ」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

皆にそう告げあたしはタカヤの方を見る…少し離れた場所でクールダウンしながら身体をゆっくりと伸ばし深く深呼吸…足元の近くにあった棒を取り構える

 

 

「………ハァっ!」

 

瞬時に右下斜めに棒を構え素早く抜き放ち後ろへ跳躍、着地と同時に駆け出し八相に構え無駄なく正確にホラーに剣を振るう姿があたしの目に見える

 

動きに無駄…以前感じられた迷いがない、其れに真剣な眼差しの顔を見ると胸の奥が熱くなる。棒を左手に後ろに構え、やや腰を沈め一気に間合いを詰め蹴りを抜き放つと風が舞い上がった

 

 

「………キリク、今のどうかな?」

 

 

―ん~今の蹴りはもう少し速く正確に撃ち込めばホラーにダメージを与えることは可能だぜ…もしかしてあの砂浜で見た坊主の技か?―

 

「うん、僕と同じぐらいなのに凄い蹴りだった…もう一度見ないと覚えられないや」

 

 

蹴りの動作をゆっくりと確認しながらあの時砂浜でみた少年?の動きをする…タカヤは一度見た技を完全とは言えないが時間をかけ自身のモノにする事ができる…(実際ノーヴェのリボルバースパイクの動きも参考にもしていた)

 

 

タカヤが何故みんなの朝練に参加する事になったのか…二人がホラーに狙われているのもあるが…身体が鈍ってると感じ参加する事に

 

 

参加するとノーヴェに伝えたらすごく嬉しそうな顔をしたのは言うまでもない

 

「タカヤさんって剣だけじゃなく格闘技も凄いんですね」

 

 

「以前に比べて動きに迷いがなくなってます…もう一度手合わせをしてみたいです…(其れに凛々しいです)」

 

タカヤが考えながら鋭い蹴打を繰り出す姿を見てアインハルトとヴィヴィオはその動きにみいりため息をついた

 

やがてクールダウンを終え今日も学院へ向かうために家へと帰った

 

 

――――――――――

―――――――――

――――――――

 

「…デバイスを取りにいくのに付き合って?」

 

「はい、合宿の時に八神はやてさんにお願いしていた子が出来たとノーヴェさんから連絡が来たんです」

 

 

授業を終え寮に向かおうとする僕にアインハルトが話しかけてくる…剣の浄化も魔導火の補充も終えてるしヴィヴィオは聖王教会にイクスヴェリアのお見舞いに行き明るいうちに帰ると聞いてる、教会には結界も貼ってあるし『アレ』も付いてるから大丈夫と考え二つ返事で引き受けた

 

 

「じ、じゃあまた後で…タカヤさん」

 

 

「うん、また後でね」

 

 

軽く頭を下げ家へと歩いていくのを見送ると寮の自室へ戻り制服を掛け何時ものレザースーツに黒鉄色のコートを纏い待ち合わせ場所へと向かった

 

 

――――――――――

―――――――――

―――――――

 

 

ミッドチルダ南部

 

八神家

 

 

「…ここってあの子が鍛練している場所の近くだよね」

 

 

―そうだな、あの坊主が彼処で練習してるかも知れないな…―

 

 

「お~いタカヤ、早くこい!」

 

 

「は、はい!」

 

 

学院前で待ち合わせをしたチンクさんの車が着いたのがあの子が練習している場所の近くだと思い出し辺りを見回していた僕をノーヴェさんが呼ぶ声を聞き合流し暫く歩くと、八神はやてさんの家に着いた。そのままに通されリビングで待つこと数分

 

 

「いや~待たせてすまんなあ…」

 

 

ショートカットに右の方をバッテン?の髪止めをした女の人がリビングの入り口で僕を見て固まってる

 

 

「あ、あの僕の顔に何か?」

 

 

「い、いやなんでもあらへんよ…今日は遠くからわざわざ来てくれてみんなありがとな」

 

すぐに笑顔になると遅れて二人の子供が小さな箱と紙吹雪が入ったざるを持ちあらわれ同じ髪飾りを着けた子からもじ~っと顔をみられた

 

 

何かやったのかな?

―――――――――

――――――――

 

 

 

―はやてちゃん、あの男の子ってまさか…―

 

 

―…ユウキ・アキツキ一尉のお子さんにまちがいないなあ…ここまで似てはるんにはおどろいたわぁ…―

 

今日家に来たノーヴェ達と覇王…アインハルトと共に来た男の子を見てうちは驚いた

 

何故ならあのアキツキ一尉と同じ容姿…昔聖王教会でカリムとお茶を一緒にしてた時、息子が居ると聞いたけどここまでそっくりさんやとは。

 

 

色々聞きたいけど今はリインとアギトが丹精込めて作り上げたこの子をアインハルトに渡さへんとなあ

 

 

―――――――――

――――――――

―――――――

 

 

 

「まあ開けてみて~」

 

 

笑顔の八神はやてさん、リインさん、アギトさんに『早く開けて♪』と的な視線を感じながら少し胸を高鳴らせながらしながら目の前におかれた小さな箱を手にとり蓋を開けてみて私は驚きました

 

中にいたのが可愛らしい猫…私の隣に居るノーヴェさん、タカヤさん、チンクさんも多分同じことを考えてるのでしょうか

 

 

―クラウス、ヴィヴィ…どうだったか?―

 

―…駄目でした…でもここに来ていいのですか?あなたももうじき親になるのですよ?―

 

 

―…その事なんだが二人に生まれてくる子の名付け親になって欲しい…たのめるか?―

 

 

―いいのかオウガ?―

 

―あいつからの頼みだ…―

 

少し照れながら名付け親になってくれと僕とヴィヴィに頼む…最初あった時は冷たい奴だと思ったがその胸のうちには人間らしさ…いや優しさを秘めていた…

 

 

「どうしたんアインハルト?」

 

 

「い、いえ大丈夫です」

 

久しぶりに覇王の記憶を垣間見た私を心配して声を掛けてきた八神はやてさんに言うと同時に箱の中で眠っていた子が動き始め私と目を合わせると可愛らしく鳴き声をあげます

 

 

「にゃああ~」

 

 

「あっ」

 

 

箱の中にいるこの子を優しく持つと暖かさを鼓動を感じます…本当にこの子を頂いていいのかと聞くとリインさん、アギトさんに私の為に生み出した子ですからと笑顔で言われて嬉しくなりました

 

「マスター認証はまだやから…よかったら名前つけたげてな」

 

 

「はい」

 

 

この子を抱き庭まで出るまでの間私は先程垣間見た記憶を見て思い出した名前アスティオンと付けることを決めました―

 

 

「アスティオン、セットアップ」

 

 

「にゃああん」

 

 

庭に出てみんなが見守るなか足元にベルカ式を展開させ名前をつけると同時にセットアップしてみると細かいデザインが変わってて髪型まで…でもタカヤさんは何故か私に背を向け手で鼻を押さえながらたっています

 

 

どうしたんでしょうか?

 

―――――――――

――――――――

――――――

 

 

 

―なあリイン、やっぱりあの子アキツキ一尉のお子さんやな…―

 

―ま、間違いないですはやてちゃん―

 

鼻を押さえながら背を向けたのを見て、はやてとリインは間違いないと念話やり取りしながら確信する二人だった

 

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

―大丈夫かタカヤ~?―

 

 

「う、うん…でもアインハルトとティオがあんなにシンクロ取れてるなんてすごいよ」

 

 

―…子猫ちゃんとアインハルト嬢ちゃんの相性がいいって事だろうな…特にあの胸とミニスカ白ニーソは…―

 

 

「キ、キリク!」

 

 

ソウルメタルを軋ませながらしゃべるキリクの言葉を遮る…そのせいでさっきアインハルトに握り潰されそうになったのに…

 

 

「と、とにかくティオの細かい調整が終わるまでは散策してようか」

 

 

―…あの坊主がいるかわからないぞ?―

 

 

ため息混じりの言葉を聞きながら、あの子が練習していた砂浜に来たけど誰もいない代わりにサンドバッグが砂浜に刺さっている

 

 

近づき手をそっと触れてみるとかなり使い込まれ所々補修された場所もある

 

 

「キリク、少し身体を動かして良いかな?」

 

 

―調整が終わるまではまあ時間あるし良いんじゃないか?―

 

 

魔法衣を脱ぎ近くにおくと構えあの子と同じ動きをしてみる

 

 

(確か重心をこう…もう少し後ろに…あと踏み込む速さを…)

 

 

「あ、あの~ここで何してるんですか?」

 

 

考えながら動きを確認する僕に声がかけられ振り返ると僕と同じぐらいの歳の男の子…あの時すごい踏み込みと蹴打を打ち放った男の子が立っていた

 

 

「あ、勝手に使ってごめん…」

 

「い、いえ!あのさっきの動きすごいですね。なにか格闘技を?」

 

 

「…いや、僕のは格闘技になるのかな…あ、僕はタカヤ・アキツキです」

 

 

「あ、じゃあボクも…ミウラ・リナルディです」

 

 

この日ボク、ミウラ・リナルディは砂浜で同じ動きをする少し天然でお日さま?な彼…タカヤ・アキツキさんに出会いました

 

 

――――――――――

――――――――

―――――――

 

 

 

「くそ…何で俺がこんな目に逢うんだ…」

 

狭い路地裏で酒を煽りヨロヨロ壁にもたれ掛かりながら歩く

 

 

二、三日前まで管理局に務めていたが不正がばれて首になっちまった

 

 

その不正を見つけやがったのは八神はやてだ

 

 

くそ!俺からすべてを奪いやがって…だったらテメェの大事な者奪ってやるよ

 

 

調べてわかったんだが近所のガキ共にストライクアーツかなんだか教えてるらしい、その中でミウラってガキが一番の弟子で付き合いが長い

 

 

ならばやることは一つだ。このミウラってガキを再起不能にしたらどんな顔をするのか楽しみだが問題があった

 

 

コイツの回りにはコーチだかわからないが腕が立つのがいる…俺じゃ奴には勝てないどうすれば…くそ!思い付かねぇ!!

 

 

腹いせに酒瓶を近くにあった変な置物に投げた時だ

 

―チキリガフスアク?―

 

 

 

地のそこから響く声に驚いたが迷わす無言で頷いた

 

―ヌルバヤリニチマスイヲシゲスヨ、チクリヌクルヌクムルカワヌヒ《マキイクス》ヲクヌス―

 

 

魔戒騎士…聞いたことのない単語だが俺は力が貰えてあの八神はやての顔が悲しみに染まるのを見てみたい…迷わずうなずくと目の前の置物から黒い文字みたいなのが目に入った瞬間力が溢れ出した

 

 

「力が、力が溢れる、あのガキを殺して食ってやる!!」

 

溢れる力を感じながら俺はその場を後にする

 

 

あのガキを喰らい魔戒騎士を殺す為に…

 

 

――――――――

――――――

 

 

「すごく良い動きだねミウラ君…!」

 

 

「ありがとうございますアキツキさん…そこ!!!」

 

 

さっき知り合ったばかりのミウラ君と会話しながら僕は繰り出されたハイキックを右腕で受け同時に拳をボディに打つ…それを寸前でかわし構える…なぜ組手をすることになったかと言うと

 

『いきなりで失礼だと思うんですけど、ボクと組み手をしてください!』

 

 

って頼まれ時間もまだあるから二つ返事で引き受けた、実際に手合わせしてみると一打一打が重くスピードもある…ミウラ君を指導した人はかなり出来る人だ

 

気を抜いたら僕でも危ない、そう考え意識を集中させ風を切りながら繰り出される蹴打と拳打を拳で受け流した

 

 

「「セイ!」」

 

 

気合いがこもった声を発し互いに繰り出したハイキック同士がぶっかる音が砂浜に響かせた

 

「すごいですアキツキさん!」

 

「ミウラ君こそ、すごい蹴打だよ」

 

 

互いに笑いながら撃ち合った脚を離すと砂浜に座り込んだ…心地よい風が潮の香りを運びながら火照った体の上を流れていく

 

 

「ふ~風が気持ち良いですね~」

 

 

「うん、ミウラ君は何時も一人で練習を?」

 

「いえ、何時もだったら師匠が教えてくれるんですけど用事があって今日だけ一人でやってたんです」

 

 

スポーツドリンクを飲み一息をつくとミウラ君が容器を僕に渡し口につけ飲む…火照った身体が少しずつ冷えていく

 

 

「ああ~美味しい…身体を動かした後のポ〇リって最高だ…」

 

 

「…アキツキさんは女の子なのにすごいですね~ボク憧れちゃいますよ~」

 

 

 

…今なんて言ったのミウラ君?

 

 

「…だってアキツキさん女の子じゃないんですか?」

 

 

ミウラ君の視線の先を追うとやっと女の子だと判断した理由がわかった

 

 

今、僕の髪型は三つ編み…鍛練をすると長い髪が邪魔になるからそうしたんだけど、そのせいで今朝ノーヴェさん達に女の子?と間違われたのを思い出した

 

 

「…ミウラ君、僕は【男】だから…」

 

ため息混じりに告げた瞬間周りの温度が下がる、ミウラ君の顔がどんどん驚きの表情に変わっていきそして…

「……………え、ええ~!?アキツキさんって男の人なんですか!こんなに綺麗なのに!?」

 

 

大きな声を挙げあたふたするミウラ君に僕は力なくうなずいた

 

(と、どうしょう。ボクてっきり女の子だと勘違いしちゃった!あ?アキツキさん飲みかけのスポーツドリンク飲んだよね…か、間接キスしちゃった///)

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「ど、どうしたんや二人とも!?」

 

 

「い、いえ何もないです…」

 

「…早くティオの調整終わらせようアインハルト…」

 

「…はい…早く終わらせてタカヤさんを迎えに行きましょうか…」

 

 

「ああ…」

 

 

黒い笑みを浮かべながらティオの調整を進める二人からドラゴン?と虎のオーラをを背後に見たはやて、チンクは冷や汗を、アギト、リインは体をよせあいガタガタ震えていた

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「…あ、あの~アキツキさん?あんまり落ち込まないでください…」

 

体育座りをして暗いオーラを出すアキツキさんを必死に元気つける…だって男の子に見えなかったんですよ

 

黒く長い髪を三つ編みにしてボクと同じ動きを一心不乱に繰り返す姿…カッコいいなと思ったし、それにスゴくきれいで

 

 

「…そうだね、ありがとうミウラ君…帰ろうか」

 

 

少し顔を挙げ立ち上がると手で体についた砂を落とすと木に掛けていたコートに袖を通した時

 

 

「え?」

 

 

いきなりアキツキさんが砂浜に押し倒す…え、何で?まだそんな関係じゃ

 

 

「くぅ!」

 

 

何かが風を切る音が耳にはいる、アキツキさんが小さく声を漏ら顔を僅かに歪めた

 

 

「ミウラ君、今すぐここから逃げて…」

 

 

「え、でも…」

 

 

「早く逃げるんだ!」

 

 

さっきまでの天然な感じが抜け真剣な眼差しを向けボクを立ち上がらせたアキツキさんに無言でうなずくとその場から駆け出した

 

 

少し後ろを見るとアキツキさんと誰かが砂浜に立っているのが見える

 

 

…助けを呼ばなきゃアキツキさんが危ない!

 

 

―――――――――

――――――

 

 

「…ここから先は通さないよ…」

 

剣斧を剣形態に正眼に構えホラー?と対峙する…ミウラ君は上手く逃げれただろうか

 

 

「…ガキは逃がしたがまあいい…まずは魔戒騎士、お前から始末させてもらう」

 

辺りが暗くなる中、足を取られやすい砂浜を信じられない速さで駆け僕に拳で殴るが手で受け掴むと右脇腹へ蹴りを入れるが捕まれた腕を軸に横へ回避、同時に頭を蹴られきりもみしながら柔らかい砂浜に倒れた

 

 

「ぐ!」

 

 

「どうした魔戒騎士、この程度で終わりか?」

 

 

強い、今までのホラーと格が違う…痛みを堪えながら立ち上がり剣斧を構える

 

―タカヤ、コイツは上級ホラー・リブラ。狂気の芸術家が作り上げた彫像と歪んだ復讐心を持つ男にゲートにして憑依しゃがった―

 

 

剣斧を構える僕にキリクが告げると同時にリブラが砂浜に手を突き刺し丸い何かをを取り出し手にし構えた

 

見ると円盤状の盾を両手に構え交互に投げつけ風切り音をならし迫る円盤を後ろへ跳躍しながら剣斧で二、三回切り払い砂浜へ叩き落とす

 

 

ソウルメタルの甲高い振動音が辺りに木霊させながら左手の甲に魔戒剣を滑らせるよう添え正面に構えた

 

「そうこなくてはな…ならばこれはどうだ!!」

 

 

再び円盤を構え今度は四つ投げつけてくる、迷わず駆け出し剣斧を魔戒斧に切り替え回転させ二つを切り落とし頭上から迫る円盤二つを跳躍と同時に蹴り落とし空へ舞い落下しながらリブラ目掛け魔戒斧の柄を棒術の要領で大きく胴へ突きいれた

 

「ぐあ!やったなああ!」

 

腹部をを押さえ後退りしながら僕を睨み付け、体勢を整え両腕を交差と同時に何処からともなく現れた無数の円盤が身体を覆い重鎧をまとったようなリブラが本来の姿を見せた

 

 

『ホノリ、マキイクスハガホアエハクヌリホワルヂ!!(オノレ、マカイキシ。ダガオマエハモウオワリダ!)』

 

 

《終わり》と言う言葉に疑問を持ったけど今はリブラを倒す、剣斧を天に掲げ真円を描く…しかし突然描かれた真円がかき消された

 

 

「え!鎧が召喚できない!?」

 

 

驚く僕に向けリブラが無数の円盤を身体から打ち出し襲いかかる円盤を魔戒斧で撃ち落とす…でも鎧が召喚されないのは何故だ?

 

―わかったぞタカヤ!結界が張られてやがる!!―

 

 

「結界?」

 

 

襲いかかる円盤を切り払い、撃ち落としながら界符を眼前にかざし結界の基点を探し見つけた場所に驚く

 

 

結界の基点はリブラの厚い外殻に覆われた胸の中、心臓に当たる部分だった…今の状態の魔戒剣斧じゃ弾かれる、どうすれば…

 

 

―タカヤ!避けろ!!―

 

 

僕の眼前に風切り音を鳴らせ迫る無数の円盤…剣形態に切り替え切り払うがそのうち一個が僕の胴体をとらえ当たる寸前、赤く光輝く三角形型に集まった文字が円盤を粉々に破壊する

 

「い、今の術はまさか…」

 

 

「…まだ甘いわねタカヤ」

 

久しぶりに聞く声、一番会いたくなかったあの人が黒く長い髪を風になびかせ魔導筆と赤い布に魔導文字が書かれた魔導旗を其々片手に持ち魔法衣姿で歩いてくると僕の隣にたちリブラにから守るように立った

 

 

―…お前は!―

 

 

「…何故ここにいるんですか…母さん…」

 

 

一番会いたくなかったあの人…母さんが姿を現した事に僕は戸惑うしかなかった

 

―――――――――

――――――――

 

 

何故私はここにいるのだろう…

 

 

あの子、タカヤの隣に立ち魔導筆をホラーに向け構えながら想う

 

ミッドチルダ南部アキツキ系列支社の視察を終えデルクが運転する車に乗り柔らかい座席に身を任せていた

 

その心地よさに軽い眠気が誘われ目を閉じようとした時、隣の座席に置かれていた《魔導机》にホラー出現を示す魔導文字が立体上に浮かび上がりながら光輝いてる

 

 

「…デルク、少し出るわ…本社に先に帰ってくれるかしら…」

 

 

「…わかりましたメイ様」

 

 

ウィンドウを開き操作すると後部座席に不可視障壁を展開し素早く魔法衣に着替えドアを開け飛び出し、湾岸道を風を切りながら駆けていく

 

 

ホラーの出現…それはアインハルト様とヴィヴィオ様…そしてタカヤがその場に居るという事を示している

 

封印したホラーは下級、中級合わせて六体…残りは上級七体だけだが下級と違い特殊能力を持っている。もし鎧召喚を妨げるホラー【リブラ】が現れたら…そう想うと駆けるスピードが速くなる

 

(アレはタカヤ?いけない!!)

 

 

ホラーが出現した場所についた私が見たものは鎧召喚をするも妨げられ無数の鋭利な刃がついた円盤を剣斧で切り払うけど、一つがタカヤのがら空きになった胴を切り裂こうとしている、私は素早く魔導筆を構え素早く円を描き術を放っていた

 

 

そして今……

 

 

『…マキイハイスハト!?マキイクスフハシクナクチナキ!!(マカイホウシダト!?マカイキシヲタスケニキタノカ!!)』

 

 

「……」

 

 

私は無言で砂浜を駆け魔導力を纏わせ裏拳、正拳をリブラの殻の薄い部分に向け繰り出し体勢が崩れ膝をつくのを見逃さず魔導力を溜めた回し蹴りを頭?に叩き込むと砂浜の上を転がっていく

 

 

『グ、ホノレマキイハイス…(グ、オノレマカイホウシ…)』

 

 

 

「…タカヤ、下がりなさい鎧の召喚が出来なければホラーの…」

 

 

「ハアアッ!」

 

 

言い切る前にタカヤは砂浜を駆け剣斧に素早くライター…いえ魔導火をオウガの刃に近づけ白金色の炎を纏わせ体を揺らしながら立ち上がるリブラを蹴りあげ袈裟、突き、逆袈裟、更に足刀を喉元へ叩き込み胴を切り払う。でも効果がなく逆に殴り飛ばされたのを見た私は赤い旗『魔導旗』を大きく振るい包み込み引き寄せた

 

 

―タカヤ!忘れたのか鎧召喚で変化した煌牙(オウガ)で斬らないと倒すどころか封印すらできないんだぞ!!―

 

 

「わ、わかってる…」

 

 

魔導旗を手で振り払いながらくらくらと立つタカヤに近づき私は口を開いた

 

「タカヤ、キリクの言う通りだわ…」

 

 

「…何が言いたいんですか…」

 

 

 

「…鎧の召喚を出来ないまま戦って勝てるかしら?倒すどころか負け…いえ死ぬのが目に見えている…」

 

「…んっ……」

 

 

「…私の力をか…」

 

 

『…ユ、ユユウキウチワュイ!!(ヨ、ヨユウコイテンジャネエ)!!』

 

 

言葉をさえぎるようにリブラが私達に向け無数の鋭利な刃を展開した円盤を打ち出す…がそれを私は術で砕き、タカヤは魔戒斧に切り替え砕き、打ち落とし終えた私達は知らず知らずの内に背中を預けるように立っている事に気づき苦笑する

 

「…僕はあなたの…母さんの力を借りる気はありま…」

 

「…なら私、母ではなく……『魔戒法師メイ』の力を借りなさい…」

 

今の状況を覆さなければ二人…アインハルト様、ヴィヴィオ様…いえこの世界に住む人達がホラーとその王に蹂躙されてしまう…それ以上に私はタカヤが死んでしまう事が嫌だ…

 

 

もう二度とあの人…ユウキを喪った時の悲しみを味わいたくない。だから私はタカヤを守るため此所にいる

 

顔を俯かせ黙るタカヤの言葉を私は待った

 

――――――――

――――――

 

 

『魔戒法師メイの力を借りなさい』の言葉に僕は迷う…でも今の状況を覆しホラーを討滅するには魔戒法師の力が必要だけど…ふと僕の脳裏にアインハルト、ヴィヴィオ、ノーヴェさん、の顔が見える三人と関わった人達をホラーとその王から守る為に剣を振るう

 

 

あの夜、カルナージでゴダードさんと戦いを終えた日に誓った言葉を思いだし顔を上げた

 

 

「…力を貸してください魔戒法師メイ…」

 

 

絞り出すような小さな呟きを聞き一瞬驚いた顔になった。でもすぐに戻り魔導筆を構えた

 

 

「ええ、タカ…白煌騎士、私と同時に……」

 

「…仕掛ける…」

 

 

僕も魔導筆と剣斧を構え駆け出すと同時に母さ…あの人も僕とは反対方向へ行きちょうどリブラを挟み込む位置へ立ち、魔導力を足と拳に限界まで溜めながらあの人に目を向けると同じ様にしている…タイミングは一度きり、もし失敗したら警戒され二度とチャンスはない

 

 

でも何故かはわからないけど上手くいくって気がする

 

『ハニヲスルキカ?ミミイウイホタリチモスニ!!(ナニヲスルキダ?マアイイフタリトモシネ!!)』

 

 

僕とあの人に向け今度は巨大な円盤を四つ浮かせながら投げつけてくる

 

風切り音を鳴らし迫る僕達は動かない、あと少しで体に届く所まで着たとき砂浜をまるで滑るように駆け抜け寸前でひとつ目をかわして二つ目も紙一重で避けリブラの懐へ潜り腰を軽く沈め魔導力を限界まで貯めた拳と蹴りを反対側に着ていたあの人と同時に正確に只一点目掛け撃ち込む

 

蹴りと拳が交互に撃ち込まれる度に鈍い音と乾いた音が同時に何回も砂浜に響きわたる、しかし攻撃を受けるリブラは蚊程にも効いていない

 

『ホン、シンヌマニキキ…(フン、ソンナコウゲギガ…)』

 

 

「…それは…」

 

「どうかしら?」

 

「「ハアッ!!」」

 

 

『ハ、ハニイ!!(ナ、ナニイ!!)』

 

魔導力を限界まで練り上げ纏わせた拳と蹴りの一点集中攻撃、その威力は外部ではなく内部に蓄積され軽快な音を響かせ結界の基点となる心臓部に浸透しダメージを与えたのを感じた僕とあの人もある構えをとった

独特な歩法を短く踏み、爪先から気を練り上げ拳に限界まで溜め拳と蹴りが同時に結界の基点に撃ち放たれた

 

―断空―

 

僕の先祖、秋月オウガが親友である覇王から教わった技…あの人は蹴りを僕は拳を放つと結界がまるでガラスが砕ける様に消えていく

 

 

―タカヤ、今だ!!―

 

 

「…母さ…魔戒法師メイ、離れて!!」

 

 

キリクの声に応えながら母さんに下がるように伝え駆け出し、正面に素早く真円を描き剣斧を突き入れると光に包まれた腕で勢いよくリブラを突き吹き飛ばした

 

『―――――――――!』

 

声に顕すのも困難な叫びを上げ砂浜を転がっていくのを見るタカヤ、変化した魔戒剣斧オウガが握られた右腕には白金に輝く《オウガの鎧》が纏われている

 

 

(…鎧の色が違う?)

 

 

腕に纏われた白金色に輝く鎧…一年前、タカヤが初めて鎧召喚した時は黒鉄色、それが白金色に変わっている事にメイが驚く

 

 

剣斧オウガをリブラに突きの構えを取りまるで滑るよう砂浜を駆けるタカヤ、狼の唸り声が響き光と共に鎧が装着され同時に魔導刻99,9秒が刻まれる

 

 

『ハアッ!セイ!!』

 

 

上段に構え降り下ろした剣斧を鋭利な刃物が付いた円楯でうけ止めソウルメタルの振動音が辺りに響く、円盤を弾くと左脇腹へ体重をのせた蹴りを短い距離から撃つ、あまりの衝撃にリブラ再び砂浜をバウンドしながら転がるも円盤を杖がわりにして立ち上がる

 

『…何故ミウラ君を狙った!』

 

 

『…ハノギクヲホロセバ、ハノホンナ、ヤギミハヌチノクリススムクウヲミリヌルクルダ!!(アノガキヲコロセバ、ヤガミハヤテノクルシムカオガミレルカラダ!)』

 

 

円楯を二つ浮かべ合わせると刃が動きだし高速回転するチェーンソー(?)に変えリブラは力任せに切りつけてくる、何度も打ち付けられ僕は剣斧で受け止めるる度、火花を散らしソウルメタルの振動音が響く

 

 

『苦しむ顔?まさかその為だけにミウラ君を襲ったのか!!』

 

 

『ヤヤ!(ああ!)』

 

 

『……そんな事の、苦しむ顔をみる為だけに…』

 

 

激しい金属音と同時にチェーンソーが真っ二つに切り払われ地に乾いた音と共に落ちたのを見て唖然となるリブラ…

 

『…真っ直ぐに夢(目標)を追いかけるミウラ君の命を奪いその人を悲しませ、苦しめさせようとする…』

 

 

…声を震わしながら語るタカヤの脳裏にまっ白く大きなシーツに包まれたベッドの傍らに崩れるように泣きじゃくる幼い自分の姿を垣間見る

 

 

―お父さん、目をあけてよ…お父さん!!―

 

 

再び地を蹴り剣斧で横凪ぎに切り払うと半回転し回し蹴りを背中へ叩き込み海へとリブラを吹き飛ばし叫んだタカヤ…白金の鎧が輝きを増していく

 

 

『…苦しむ顔を、悲しむ顔を見たいが為に人を殺すお前の歪んだ陰我、僕が断ち切る!!』

 

 

『ガ、カナルナアアアアア(ナ、ナメルナアアアア)!』

 

 

海水を滴らせながら海から出たリブラの身体が大きく震え変化が起きる…体全体が巨大化、其れにともない両肩には体躯を包み込むほどの巨大な楯がつきやがて閉じ合わさると回転し始め地面を削りながら襲いかかる

 

 

『く!』

 

 

魔戒剣形態に切り替えリブラが変形した?巨大円鋸を火花を辺りに散らしながら防ぐ、徐々に押され吹き飛ばされたのをそれを逃さず追撃するリブラにメイがおもわす魔導筆を構え術を放とうとした瞬間

 

『白煌!!』

 

 

『――――――――――――!!』

 

 

タカヤの叫びに応えるように白金に輝く体躯を持つ魔導馬『白煌』が召喚、《地獄の蹄音》を鳴らしながら駆けその背に乗せられたタカヤは赤と白金の布で織られた手綱を握り締める姿にメイは大きく目を見開いた

 

 

(ま、魔導馬の召喚まで出来るようになったの!?)

 

白金に輝く魔導馬に驚くメイの眼前で再び襲いかかる巨大円鋸と化したリブラに剣を構え白煌がいななき地の底から響くような蹄音を鳴らしながら駆け抜け跳躍し凄まじいスピードで迫る円鋸すれすれでかわしたと同時に後ろ足でおもいっきり蹴り飛ばした

 

 

『アバアアアア(カハアアアア!?)』

 

 

―見たか!白煌必殺《騎士の恋路を邪魔するホラーは馬に蹴られて浄化されろキック》を!!今だタカヤ!!―

 

 

『うん、白煌!!』

 

 

砂浜にめり込み動けないリブラ、降り立つと同時に前肢を大きく振り上げ地面を踏み鳴らし砂浜全体に蹄音…溜め込まれた地獄の蹄音と魔導力が解放され魔戒剣斧は瞬間的変化するが何時もの倍以上に巨大化した重剣斧…オウガ大重剣斧へ姿を変え構えた横腹を蹴り駆け全身から白金の炎を纏い再び襲いかかって来たリブラの回転する強固で巨大な身体を砕き焼きながら大きく横凪ぎに切り払い砂浜を一気に駆け抜ける姿にメイは亡き夫ユウキの太刀筋を垣間見た

 

『ガ、カガガガが!…ユギミハヤチノ…フルシ……ミクムヲ……(ヤガミハヤテガクルシ……ムカ……オヲ………)』

 

 

『……ふざけるな……』

 

 

白金の炎に焼かれながら手を伸ばし体を揺らしながらと砂浜を歩くリブラの胴をを横凪ぎに一閃するとそのまま勢いを増した白金の炎と共に魔導文字を立ち上らせ消えるリブラを一瞥しタイムリミット前に鎧を返還した

「ん?」

 

背後に気配を感じ見るとあの人が僕を見ていた

 

「………………」

 

「………………」

 

互いに言葉を発せず顔を見たまま沈黙が続く…が

 

 

「…もう用は済んだから帰るわ…」

 

 

「……う!?」

 

 

あの人の後ろ姿を見送った時、突然背中に痛みが走る…触ると血が手にべっとりとついている、ミウラ君を庇った時に付いたんだろう

 

 

(ま、不味いな…でも眠れば治るからいい…か…な…)

 

砂浜に倒れる寸前誰かに優しく抱き抱えられたのを感じながら僕は意識を手放した

――――――――

―――――――

 

 

 

「急げ、アインハルト…ミウラまだ着かないのか?」

 

 

「もう少しです…着きましたよ!」

 

 

「ノーヴェさん、あそこに誰か…あの人ははタカヤさんのお母様?」

 

 

数分前、ティオの調整を終えたあたし達の前に八神家道場の通い弟子ミウラが息を切らし現れるなり『アキツキさんが変な人に襲われています!』と聞きその場所へ向かい着いて見たのはうつ伏せになったタカヤとその横に座るメイの姿…その手には白金の炎を宿らせた筆を押し当てようとする

 

「待て!タカヤに何をする気だ!!」

 

 

「…手を離してくれるかしらノーヴェ・ナカジマ…」

 

 

血が流れる傷口に炎を押し当てる寸前で腕を掴むあたしは手に力を込めたアタシはメイの目を見て気づいた

 

焦りと心配の色が入り交じった瞳を見たアタシは手の力が緩めるとそのまま筆を口元の前で構え小さく優しく呟いた

 

 

「…ワタチヌズイジナゴデム、ノマエナイズヲバハグナエチツアグル…」

 

 

そう呟きの痛々しいまでに酷い傷口に筆?を押し当て軽く撫でる…すると痛々しい傷口が跡形もなく消えたのをみたメイは一息つくとあたし達を見ずに立ち上がりアタシ達とタカヤの側から離れる

 

 

「…あと少しすれば目を覚ますわ…」

 

 

「ま、待ってください!」

 

「何かしら…」

 

 

呼び止められたメイにアインハルトは静かに口を開いた

 

「…私の大事な子供、お前の傷を母が治してあげる…さっきの言葉の意味はこれであってますよね?」

 

 

「!!………………」

 

一瞬驚いた顔になるメイは背を向け何も言わずに去っていった…やっぱりタカヤの事を心配して此所に現れたと確信しあたしは眠り続けるタカヤを抱き抱え八神家へ向かう…重くないかって?筋肉質に見えて意外に軽いから平気だ…あたしもいつかこんな風にして貰いたいな

 

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

夕暮れの湾岸道を走る黒い影…魔戒法師メイ・アキツキが風を纏ったかのように駆けていく

 

 

(迂闊だった…まさか旧魔界語の意味をアインハルト様が解釈できるなんて思わなかったわ…)

 

 

たぶん覇王クラウス様の記憶があるからだろう…親友である覇王に私の先祖【秋月オウガ】が旧魔界語を教えたのかもしれない

 

 

それよりも私の本心をアインハルト様達に知られてしまった事実…私は三人がタカヤに言わないことを祈りアキツキ本社へと駆けていった

 

 

―――――――――

―――――――

 

 

「ん…んみゅ」

 

「気が付いたかタカヤ?」

 

頭に感じる柔らかい感触と声で目を覚ました僕が見たのは存在感溢れる大きな二つのメロン?…ノーヴェさんの胸と後頭部の柔らかな感覚で膝枕されていることに気づき慌てて起き上がった

 

 

「…んん…」

 

 

でも起き上がらなきゃ良かった、スゴく柔らかくて暖かいのに挟まれた感触と熱の籠った息遣い…そう僕は今ノーヴェさんの胸に挟まっている

 

 

皆さんは知っているだろうか?こうなった場合タカヤがとる行動は『鼻血』を出すのだが…何時まで経っても一滴も出ない

 

 

「…は、離れてくれないか…タカヤ」

 

 

「は、はい…ごめんなさいノーヴェさん!いきなりその…本当にごめんなさい!!」

 

 

「き、気にするな…あたしは平気だから………それに気持ち良かったし…」

 

 

顔を俯かせ赤くしながら呟いていたけど最後辺りが聞こえなかった

 

 

やがて時間も過ぎ八神さんの家から帰る為外に出たんだけどがすごく怖い目でアインハルトが見てる

 

 

「今日は本当にありがとうございました八神さん」

 

 

「いや、ええんよ。でも大変やったなあ不審者を追い返したんはいいけど気絶して倒れたなんてその不審者さん相当な強者やったんやな~」

 

 

「は、はい…」

 

 

ノーヴェさんがうまく説明(ホラーの事は伏せて)してくれたお陰で納得してくれたみたいで良かった胸を撫で下ろすとミウラ君が歩いてくる

 

「アキツキさん。あ、あのまた今度ボクと手合わせしてくれますか?」

 

 

「ん、いいよ。同じ男なのに僕と撃ち合えるなんてすごいよ」

 

 

そういった瞬間、顔を俯かせながら小刻みに体を震わせながら僕の手を掴むと自身の胸に押し当てた

 

 

このささやかで柔らかい感触。まさか、まさかミウラ君は…

 

 

「ボク、ボクは…女の子だよアキツキさん!!」

 

 

「え、み、ミウラ君は…お、女の…ぶっはあああああああああ!!」

 

 

 

鼻血が盛大に吹き出す音と涙をためたミウラの声が辺りに響いた、この日の夕焼けは血の色よりも濃かったと記述しておこう…

 

 

―――――――――

―――――――

 

 

『ヤカチテモサッビリカ…ムサカ、マキイハイスホマキイクスバデオデルチトバ』

 

『ヤスガ、ムバフキンズン…ヤノトキホロシタクスノホモホロシベキベシタ…』

 

闇よりも暗い空間で無数の影が会話している…言葉の意味はわからないがタカヤが倒し封印したホラーが使う魔界語と同じ発音が響くなかひとつの影が浮かび上がる

 

頭からすっぽりと漆黒色のローブを纏いその顔に黒い異形の仮面をつけた人物が姿を表すと影達が膝をついた

 

『ヤケ、ゾディアック…ハレラガエアウヒツカツヌハヒチケイ…ハカキマキイクス【オウガ】ヒハ、シヌンマヌニハタエタヒカイヨミガハル…ヨミヒホチステキハレラノホウハホミガエル!!』

 

 

両手を大きく掲げ宣言する人物の右手は黒く輝く鎧が見え無数の影達は歓喜の声をあげやがて闇へ消えた

 

 

第十二話 抜剣 了

 




キリク
―タカヤ、外見と言葉遣いから男と女を判断するんじゃね~インターミドルまであと一月を切り聖王教会での練習にも熱が入るなか一人ある場所を訪れるタカヤ…次回 墓参!数奇な運命に導かれた者達の後悔と誓い!!―



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第十二.四話 闇鍋

<アレは『ミウラ君は実は女の子事件』が終わって数日後の事だ…>

 

 

 

暗い空間に浮かぶ眼鏡、魔導具キリクが龍の顎を模したフレーム部分を軋ませしゃべっている

 

 

<…アモンに頼んでいたグラウ竜鍋と鍋の材料がようやく届いたからアインハルト嬢ちゃん、ヴィヴィオ嬢ちゃん、ノーヴェを寮に招いて鍋を振る舞うことになったんだがあんなことになろうとは夢にも思わなかったぜ……>

 

 

幕間 闇鍋(一)

 

 

「材料の下拵えとグラウ竜鍋の準備はこれで…」

 

 

鍋を火にかけようとした時、チャイムが鳴り僕は寮のドアを開けるとヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさんの三人が私服姿でたっている

 

 

「こんにちタカヤさん」

 

 

「き、きてやったぜタカヤ」

 

 

「お招きありがとうございますタカヤさん」

 

 

「いらっしゃい皆、まあ中に入って」

 

 

部屋に招かれた三人はリビングに案内され少し準備があるといいキッチンに戻るタカヤ、三人はタカヤがすむ部屋を見る

 

 

生活に最低限必要な雑貨と大きめのソファーにテーブル。少し離れた場所にはタカヤが寝るため使うであろうベッドと横には机と椅子、その上には台座に納められたキリクが鎮座しその隣にはカーンがおかれている

 

 

<ん?ずいぶん騒がしいと思えばアインハルト嬢ちゃん、ヴィヴィオ嬢ちゃん、ノーヴェじゃないか…何でタカヤの部屋にいるんだ?>

 

 

 

「ああ、実は…」

 

 

ノーヴェの話によるとタカヤが三人に特製鍋をご馳走するため招かれたようだ…だがなノーヴェ、アインハルト嬢ちゃん、ヴィヴィオ嬢ちゃん、ベッドの下を除いてもエロ本は無いと思うんだが…

 

 

 

「見っからないな…」

 

 

「…そうですね(あれば今後の為に役立つのですが)」

 

 

「…タカヤさんの好みを…」

 

 

机の上からベッドの下を物色する三人はなぜ丈が短いスカートなんだ?………ん?緑縞、紐の水縞…待てノーヴェ、黒のレースにガータベルトなんてもの履いてやがる!タカヤを出血死させる気か!?

 

 

しばらく物色していたが目的のブツが無いこと確認し肩を落としながらソファーに座り鍋が来るのを待つている、タカヤの鍋を食べたことがあるのは俺が知る限り家族を除いて二人…一人はアモンじいさん、もう一人はジーク嬢ちゃんだ

 

 

家出して直ぐに会ったジーク嬢ちゃんの片寄った食生活を見たタカヤはクラナガンに着くまで半年の間、手料理をご馳走していたな

 

―タカヤ君は料理うまいんやなぁ……お嫁さんになる人は幸せさんや…―

 

 

―そうですか?エレミアさん…あ、野菜も食べないとダメですよ?―

 

 

 

―た、食べんとダメ?―

 

 

―野菜は栄養満点の食材です、この前みたいに貧血を起こしたらダメですよ?

 

―うう~タカヤ君のいじわる~―

 

 

…まあ、こんな感じでジーク嬢ちゃんの食生活を改善しながらたまに実戦形式の組手をしながらの生活をクラナガンに着くまで続けてた…もちろん鼻血展開ももあったがな

 

 

「皆、鍋の準備ができたよ」

 

 

三人同時に振り向いた先には黒地に白金のかわいらしい狼があしらわれたエプロン姿のタカヤが鍋を持ち立っている

 

 

髪を後ろにまとめた姿を見て三人は思わず心の中でため息をつく…

 

 

(((タカヤさんのエプロン姿…似合い/すぎだ/すぎです)))

 

AMON特製コンロにグラウ竜鍋を載せ具材を入れ蓋を閉じ煮立つのを待ちやがて蓋を開けるといい匂いが立ち上ぼり皆の食欲を刺激する

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

合唱した後箸を取り小皿に入れ口に運びタカヤを除き皆絶句する…

 

 

「「「お、美味しい~!!」」」

 

 

叫ぶのも仕方ないか、あの味にうるさいアモンじいさんが認めた美味さだからな~三人の背後には海〇雄山と〇岡〇郎の姿が見えたのは気のせいか?

 

 

「おかわりはまだたくさんありますからね♪」

 

 

ニコニコしながら自分用の取り皿(特大)の具を頬張る…だがこれが悪夢の始まりだとタカヤは知らなかったんだ

 

 

 

皆の箸も軽快に運び具材もあとわずかと迫った時…いきなり電気が消えやがった

 

 

「うわ?皆あまり動かないで…」

 

 

「あ、ああ…ヴィヴィオ、アインハルト大丈夫か」

 

 

「は、はい」

 

 

「う、うん……あ!そうだタカヤさん。今から闇鍋にしましょうか?」

 

 

「ヤミナベ?ってなに?」

 

 

ヴィヴィオ嬢ちゃんの話によると闇鍋とは真っ暗な室内で各人が持ち寄ったいろんな具材を鍋に入れ食べる習慣らしい…とヴィヴィオ嬢ちゃんはママ&sから聞いたらしい

 

「う~ん、ヤミナベか…電気がつくまでやってみようかな…」

 

 

「お、なんか面白そうだなアインハルトもやってみるか?」

 

 

「え?は、はい…なんだか楽しそうです」

 

 

そして暗闇の中手探りで鍋へと箸を伸ばす一同…

 

 

(…んと…これかな)

 

 

ナニかをはさんだのを確認しそのまま口に運んで感じたのは軍鶏にしては柔らかくて甘い感じがする

 

 

「…んっ」

 

 

舌を動かす度に少し離れた場所に座るヴィヴィオの声が洩れる…まさか

 

 

―あ、あのタカヤさん…わたしの指を口から…あっ……―

 

 

―あ、ああ!?ご、ごめんヴィヴィオ!!―

 

 

そう口に含んでいたのは細くて綺麗なヴィヴィオの指…あわてて口から離すとひたすら念話で平謝りする

 

―や、闇鍋だから仕方ないですよね…―

 

 

 

―う、うん…―

 

 

次からは気をつけよう、そう考えながら箸を伸ばした僕の手を誰かの箸が挟みグイッと引き寄せられ暖かい感触に包まれた

 

 

だ、誰が僕の指を!?

 

 

――――――――

――――――

 

 

(…何だ?鳥にしちゃ身が薄いな…手羽か?)

 

 

箸でつかんだ手羽らしきモノを口に含んだあたしは少し歯に力を込めるが中々か身が切れない

 

 

「ウッ!」

 

 

タカヤの呻く声が聞こえまさかと思い念話を飛ばしたら予想通りの答えが返ってきた

 

 

―すいませんノーヴェさんが口にしてるのは…僕の指です…―

 

 

あたしはタカヤの指を口に入れてるのか!?胸の奥で激しく胸が高鳴るのを感じドキドキしながら指を口から離そうとした時、パッと部屋に明かるくなった

 

 

あたしはタカヤの指を口に含んだまま固まり、そんなあたし達の姿をヴィヴィオ、アインハルトがジ~ッと見ている

 

 

「あ、あのノーヴェさん…指、指を」

 

 

「あ、ああ!ああああ!?ご、ごめんタカヤ!?」

 

 

あわてて口から指を離し謝るとタカヤも顔を真っ赤にしながらあたふたしてる

 

「と、とりあえずさもう具もないみたいだな」

 

 

「じ、じゃあ締めのうどん作りますね…あ、お醤油忘れちゃった」

 

 

「あ、あの私がとってきましょうか?」

 

 

「じゃあ、お願いできるかな場所はガラス戸の二番目の左端にあるから」

 

 

「はい」

 

 

お醤油を取りに向かうアインハルトを見送り僕は締めのうどんを取りだし軽く揉む

 

 

「なあタカヤ、このうどんってまさか」

 

 

「僕が打ちましたよ…アモンさんがいい粉を入れてくれたんです」

 

 

全員分の玉を用意した時アインハルトがお醤油を持って戻ってきた

 

軽く煮立たせたグラウ竜鍋にうどんを入れ軽く醤油を振ると蓋を閉じ数分後取ると締めのうどんが出来上がった

 

 

(あれ?なんかお醤油じゃない匂い…気のせいかな)

 

皆の皿を取りうどんをよそいながら感じた匂い…でも気のせいだと判断した僕はヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさんと出来立てのうどんに舌つつみを打ちながら食べ終わった時ソレは起こった…

 

 

みんなの様子がおかしい…息も荒いし顔も赤い

 

 

「み、みんなどうかし…うわ!?」

 

 

顔を俯かせたノーヴェさんに近寄った時いきなり押し倒された

 

 

「ど、どうしたのノーヴェさん!?」

 

 

「わ、わりいタカヤ…でも身体が熱いんだ…」

 

 

息を荒くしながら呟くノーヴェさんの背後に二つの影が現れ引き離し助かったと安心した僕に抱き着いてくる二つの影…アインハルトとヴィヴィオも息を荒い

 

「タカヤさん、すごく熱いんです…」

 

 

「熱くて、身体が…」

 

 

胸や腕にささやかな膨らみが当たり鼻血が出そうになるのを耐え引き剥がし離れた

 

 

<タカヤ!不味いぞ!!>

 

「な、何が不味いのキリク!」

 

 

<あの三人の症状は生成過程の『メルトの秘薬』の副作用だ!>

 

 

 

「あ、まさかアインハルトお醤油と間違えて!」

 

 

キッチンに秘薬と調味料の棚を一緒にしていた事を思い出した僕は何か解決策はないかキリクに訪ねた

 

 

<…だいたい一時間で元に戻るが…三人ともヤル気満々だタカヤ>

 

 

見るとセットアップを終えた三人が息を荒くしながら僕を見ている…その目はまるで獲物を狩る狼の目だ

 

「タ、タカヤ…あたし…」

 

 

「タカヤさん…身体がすごく熱い…ん…です」

 

 

「お願いです、この熱さを…」

 

 

「要するに一時間三人から逃げ切ればいいんだね…でも」

 

 

駆け出すと同時にカーンを腕にはめながら寮の窓を素早くあけ放つと夜の街を風を切りながら駆け抜ける

 

 

「…寮で暴れるとみんなの迷惑になるし…ジャビさんが怖いしね…」

 

 

<確かにな…(まさかあのジャビがタカヤの寮の管理人してるとは思わなかったぜ)>

 

 

 

呟きながらチラリと後ろを向くと三人がすごい速さで追いかけてくる…まあ明日は休みだしいいかな

 

 

(近くの森林公園に誘い込んで時間を稼ごう…)

 

 

後ろから気配を感じながら冷たい風が吹く夜の闇に身を隠した

 

 

 

夜の森林公園、現在誰もいないはずの鬱蒼とした森の中で動く三つの人影…やがて雲の切れ目から月が現れ明かりに照らされたのはノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオしかし様子がおかしい

 

顔は紅潮し目はなにかを求めている…

 

 

「タカヤさ~ん、どこにいますか~」

 

 

「…どこにいるんですか」

 

「…タカヤ、熱いんだ…」

 

 

そう呟くと森の中へ足を踏み入れタカヤの姿を探す三人を見る人影

 

 

「キリク…効果が切れるまで後何分かな?」

 

 

<後、四十分て所だ…でなにしてるんだ?>

 

 

タカヤの手には無数の小石、それに何かの術式を付与している

 

 

「……昔父さんに教えて貰った奴だよ、ノーヴェさん達に効果は多分あると思うけど…これでよし」

 

 

父ユウキ直伝の罠を持ち暗い森林公園の中を駆けなながら配置していくタカヤ…蛇を食べるのが大好きな眼帯の人がリゲイン片手にサムズアップする姿が背後に見えた

 

 

(…でもこれ使ったのってあの人と父さんが大喧嘩した時だったけ…)

 

 

 

―浮気したわねユウキ!!―

 

 

―……メイ、落ち着いて!浮気じゃないから!!―

 

 

互いに無数の拳と蹴りを繰り出し衝撃波を起こす度に屋敷がガラガラと崩れていくが、次の瞬間メイの体に何かが巻き付き身動きがとれないメイを抱え飛び去るユウキ…

 

 

(…でも次の日、父さん干からびてた気が…まあいいかな)

 

 

目的の場所へ駆けていくタカヤは知らなかった、恋する女の子達の力は時として予想外を起こすという事に…

 

 

「ハアッ…ハアッ、タカヤどこだ…」

 

 

 

 

熱い、うどんを食べてから身体の芯が熱い…それにタカヤが欲しい(?)…抱き締めたい、頬擦りしたい…そして…あたしの…ん?

 

 

 

「………………」

 

 

繁みの中で背を向け座るタカヤの姿を見てあたしは高鳴る鼓動を押さえ少しずつ近づきおもいっきり抱き締める…

 

 

「捕ま~え~た!っうわあ!?」

 

身体が空を舞う…逆さ釣りになり、あたしは足を見るとバインディングシールドのチェーンが延びている

 

「ごめんなさいノーヴェさん、あと少したったら必ず下ろしますから」

 

 

あたしの眼前でペコリと謝るとその場から木々を蹴りながら森の中へ消えた…

 

「フフフ、上等だ…逃がしはしねーぞ…」

 

 

足に絡まったチェーンを砕き降り立つとあたしはタカヤが消えた方へとエアライナーを展開し駆けていく

 

絶てー捕まえて…あたし色に染めてやるからな…

 

 

――――――――

――――――

 

 

「う!」

 

 

<どうしたタカヤ?>

 

 

「な、何でもない…うわ!!」

 

 

突然襲った寒気に震わせた僕に向け虹色の魔力弾…これってソニックシューター…てことは!

 

 

「見つけましたよタカヤさ~ん…」

 

 

 

「…やっぱりヴィヴィオ…うわ!」

 

 

「…さすがと言いたいですけど避けないでください…」

 

ヴィヴィオとアインハルトが顔を赤くし息を荒くしながら拳と蹴りを繰り出してくる…二人とも本気だと感じ攻撃を弾き、受け流しながらある場所へ逃げる

 

 

(あと少し…)

 

 

深い森を抜けた先には少し開けた場所に出たタカヤは降り立つ、そこに二人が追い付き近寄ろうとした次の瞬間

 

 

「え?」

 

 

「きゃああ!?」

 

 

無数の緑色に輝くチェーンバインドが二人の身体に絡み付き拘束した、そのチェーンバインドの大元は小石や木々の幹…タカヤはあらかじめ罠を仕掛けた此所に誘い込むために逃げていたのだ

 

 

「ご、ごめん、後で必ず解除するから暫くそのままでいて…」

 

 

二人から顔を背けるタカヤ…何故なら絡まったチェーンバインドが胸を強調させるように縛られ動く度にタユンと揺れるのを見て鼻を押さえた…それがいけなかった

 

 

「うわあ!」

 

 

いきなり…手首と足首がバインドで地面に大の字になるように倒れた僕の下半身に誰かが馬乗りになる

 

 

「フフフ、つかまえたぞ~タカヤ~」

 

 

「った?ノ、ノーヴェさん!?」

 

 

顔を赤くし息を荒くしながら僕を見下ろすといきなりレザースーツのジッパーをおろすとさわさわと胸を触ってくる

 

 

「ああ、筋肉のつき方もだけど肌触りもいいな…」

 

 

「や、やめてノーヴェさん…くすぐったいか…ら…!?」

 

 

 

「ダメだ、すごく熱くて…抑えられない…」

 

 

目の前で胸にあるリング状のモノに指をかけ降ろすと黒のレース柄の下着に豊かな胸がタユンと揺れるのを見た僕の鼻から血が出てくる

 

 

<おお~コイツは絶景だな~黒のエクスタシーって奴かタカヤ?>

 

 

「ナニいってんのキリク!ノーヴェさん、やめて…やめて…え?」

 

 

「…タカヤ、あたしが今すごくドキドキしてるのわかるか?」

 

 

 

暖かいものに包まれた僕の目には柔らかくて暖かい二つの大きな膨らみ…耳に規則正しく力強い音が聞こえる

 

 

「…はい…」

 

 

 

いつの間にか鼻血が止まってる…おかしいなと思いながらその鼓動に心地よさに身を任せる…ずっと昔に聞いた気がする

 

 

どこでだったかな…

 

 

「タカヤ…ハアッハアッ…あたしのはじ……」

 

 

 

「「ダメ/ええ/です!!」」

 

 

ナニかが砕ける音と声で記憶の海から戻った僕がみたのはノーヴェさんを引き剥がそうとするアインハルトとヴィヴィオ…でもノーヴェさんは足で腰を挟み離れまいと力を込めてくる

 

 

「ノ、ノーヴェさん…痛い、痛いから!?」

 

 

メキメキメキと骨がなってる…不味い骨が…本当に砕ける

 

 

<おお~かなり揺れてるな~見ろよタカヤ!ノーヴェの胸がバインバインに揺れてるぜ!!>

 

 

 

「キ、キリク?それよりも僕のこと心配してよ!?いたっ!?」

 

 

僕があげた声に反応した二人はあわててノーヴェさんから手を離した、二人はあの【父さん直伝無限バインディングシールド】を破壊してるし、ノーヴェさんにマウント取られてさらにバインド…これって積みかな

 

 

<…タカヤおとなしく三人に食べられろ(?)…何事も経験だしな…ははははは>

 

「な、なに投げ槍になってんのさキリク!そうだカーン起きて今すぐ起きて!?」

 

 

―…ただいま緊急メンテナンス中につき起動できません…メッセージがあります…若、大人の階段を上ってください…以上です電源?を切ります―

 

 

たのみの綱のカーンは緊急メンテナンス中…じゃないよね!

 

 

「さあ、タカヤさん脱ぎましょうか」

 

 

「や、やめてヴィヴィオ!」

 

 

僕の服に顔を赤くしながら手をかけ脱がしていく…さらにアインハルトがまとっているBJをに手をかけ脱ぎ始めてる

 

 

「な、なにやってるのアインハルト!?」

 

 

「すいません、体が熱くて仕方ないんです…タカヤさんも熱そうですから脱がすの手伝います…」

 

 

上着を脱いだアインハルトが絶対防衛?しなきゃいけないズボンのベルトに手をかけ外していく…誰か助けて? 父さん助けて!?

 

―タカヤ………何事も経験だよ…―

 

 

うっすらと涙を浮かべサムズアップする父さんの姿と声を耳にしながら抵抗をする…でもバインドが砕けない

 

 

「タカヤ…今日は大丈夫な日だから…あたしと…」

 

 

 

「はあ、タカヤさんいい匂いがします…私達と朝まで……」

 

 

「な、なにを朝までするの一体!?」

 

 

「ああ、タカヤさんの身体って触り心地すごくいいです」

 

 

ノーヴェさんは僕の腰にアインハルトとヴィヴィオはそのまま僕の胸に倒れ耳を当てる…甘い匂いがして頭がくらくらする

 

 

息を荒くしながらまるで豹みたいに僕に顔を近付けてくる…あと数センチで顔に触れる寸前で動きがいきなり止まりそのまま倒れた…

 

 

<ようやく効果が切れたみたいだな…>

 

 

「た、助かった…でもバインドが解けないんだけどどうしょうか?」

 

 

 

<アレを呼んだらどうだ?>

 

 

「そうだね…(―白竜来て!―)」

 

――――――――

――――――

 

 

無人のタカヤの部屋の机の脇に置かれたアタッシュケースがガタリと動き細かく分割し合体すると鋼色の二足歩行の竜が現す、辺りを見回し窓の縁に器用に立つと森林公園の方へ跳躍し駆けていく

 

 

【白竜】はミウラ君が実は女の子だった事件前、シャンテの双剣の襲撃をなんとか巻き剣の浄化封印を終え聖王教会本部最新部【魔導図書館】で調べものをしていた時に見つけた隠し扉の中にあった未完成の魔導具?を完成させた。性能は勿論、知能もかなり高い…前回タカヤはヴィヴィオの護衛に白竜を付けていたのだ

 

 

<ん、もう来たみたいだぜ>

 

 

茂みがガサガサと鳴り小さい鋼色のナニかが飛び出しタカヤの前に小さな羽をパタパタさせ歩いてくる

 

「白竜、いきなりで悪いんだけどこれを砕いてくれるかな?」

 

 

<キュイイ、キュウイイ!>

 

跳躍するとその口?で両手首と足首のバインドを器用に砕き手首を回しタカヤはノーヴェを優しく抱き抱え近くの草むらに寝かせ二人もその隣に寝かせ一息つくタカヤに白竜が近寄ってきた

 

 

「ありがとうね白竜」

 

 

<キュイイ!キュウイイ!!>

 

 

鋼色の頭を撫でると嬉しそうに羽をパタパタさせる

 

「あと一つお願いしていいかな…今から三人を運ぶんだけど一人ずつが限度になるからそれが終わるまでいてくれるかな?」

 

 

<キュイ!>

 

 

羽をピンと伸ばす白竜に見送られまずはヴィヴィオから部屋に運び、次にアインハルト、最後にノーヴェさんを抱き抱えた時、違和感を覚えた…

 

 

まるで人工的な物を…

 

 

<タカヤ、どうした?もしかしてノーヴェの抱き心地に…>

 

 

「ち、違うよキリク!じゃあ行こうか白竜!!」

 

 

その場から白竜と跳躍し森林公園を後にする…駆けながらノーヴェさんの顔を見る、穏やかな表情を浮かべ眠る顔を見てドキッとなる…アインハルト、ヴィヴィオの時もそうだった…

 

 

なんなんだろ…

 

 

ノーヴェさんを抱き抱え僕の部屋に戻って数分後、目を覚ました三人は何も覚えてなかった…しばらくして其々の家まで送り僕はそのまま寮へ戻り鍋を片付けシャワーを浴びキリクを台座に掛けるとベッドに倒れ、ノーヴェさんから感じた違和感について考えたけど強い眠気に負け瞼をを閉じそのまま深い眠りについた

 

 

閑話 闇鍋

 

 



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第三章 闇に呑まれ目覚める獣。過ぎ去りし時より三振りの剣、先より若き牙現る
第十二・五話 墓参(改)


インターミドル開催まであと一ヶ月を切り、ここ聖王教会ではノーヴェとディード、オットー指導の元トレーニングに熱が入る中、タカヤはと言うと…

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

ノーヴェが見守るなか、ヴィヴィオと互いに拳を構え一歩も動かない…一迅の風が吹くと同時に駆け出した

 

 

拳打をボディに入れるがかわされる…ヴィヴィオの目、視界の広さと反応する速度はすごいミウラ君といい勝負が出来るかも

 

 

「ハアッ!」

 

 

 

素早く潜り込んで蹴りを入れるが逆にカウンターで頭に蹴りが打たれ咄嗟に腕でガードし地面を蹴り離れ間合いをとる

 

 

踏み込む勇気と技を見切り反撃をする…ヴィヴィオのバトルスタイル…カウンターヒッター、これを積み上げていけば凄いのが出来そうだ…

 

 

 

第十ニ.五話 墓参

 

 

 

すごい、タカヤさんと初めてのスパーを組んでみて思ったのはわたしの繰り出す攻撃とカウンターをギリギリでかわして逆に打ち出した拳と蹴りを水が流れるように手で軽く添え受け流されます

 

 

「そこまで!」

 

 

ノーヴェの声が響き渡るとわたしとタカヤさんは構えを解くと満足した笑顔になる…それ反則過ぎますよ

 

 

「どうだヴィヴィオ、タカヤと手合わせしてみて?」

 

「わたしの攻撃が全部流されてたよ…」

 

 

「全部じゃなかったよ…ほら」

 

 

タカヤさんが目の前で袖をめくるとアザが無数に見えます

 

 

「…さすがに全部捌ききれなかったよ…それに動きも鋭くて焦ったよ」

 

 

「あ、ありがとうございますタカヤさん」

 

 

 

あのタカヤさんに攻撃が届いたのを見て嬉しくなります…わたしの想いも届けばいいのですけどね…あ!

 

―タカヤさん―

 

 

―どうしたのヴィヴィオ?―

 

 

―あ、あの…今度の休みに二人でプールにいきませんか?なのはママとフェイトママにチケットをもらったんで…ダメですか?―

 

 

汗を拭きクールダウンするタカヤさんに念話を飛ばし聞いてみる

 

 

―……いいよ、じゃあ今度の休みに―

 

 

―は、はい♪じゃあ楽しみにしてますね―

 

 

やった誘えた、ママ達ありがとう…今度の休み前に新しい水着買わなきゃと考えるわたしの所に特訓を終えたリオとコロナと合流しその足で着替えに向かいました

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

<(良かったなタカヤ、ヴィヴィオ嬢ちゃんからデートのお誘いだぜ)>

 

 

―うん、でもさデートって何?―

 

 

(……とりあえずだ今度の休みはしっかり空けとけよタカヤ)

 

体を伸ばしながら訪ねると呆れた様なキリクの答えを聞きながらコートを着ると芝生に座り明日の特訓メニューを考えるノーヴェさんに少し用事が済ませに行きますと告げて僕はある場所へと向かう

 

 

聖王教会から少し離れた場所にある墓所の入り口に入りしばらく歩きある墓の前で足を止める

 

 

小さいけどしっかりとした作りの墓に立つとコートから花束を取りそっとおくと目を閉じ小さく呟いた

 

 

「…父さん、久しぶり」

 

 

ここに眠るのは四年前JS事件で亡くなった父さん、ユウキ・アキツキのお墓…僕の言葉に答えるみたいに優しく風が流れ花が揺れた

 

―――――――――

―――――――

 

 

「さて、明日の合同練習は…」

 

 

「ノーヴェ、少しいい?」

 

芝生に座りながら明日の合同練習のメニューを考えていたあたしにセインが声を掛けてきた、いつになく真剣な表情を浮かべている

 

「なんだよ、セイン」

 

 

「ノーヴェ、まだあの子…タカヤ君と一緒にいるんだ」

 

 

「べ、別にいいだろ!ってかセインには関係ねぇだろ」

 

 

「…前に、カルナージであたし言ったと思うんだけど、ノーヴェはタカヤ君とこれ以上親しくなったら…」

 

「…親しくなったらどうなるんだよセイン!」

 

 

あたしの声にビクッと体を震わせる…聖王教会でトレーニングと特訓にタカヤがついてくる様になってからセイン…ディードとオットーの様子がおかしかった…極力タカヤに関わらない態度をとっている

 

「セイン、何であたしがこれ以上タカヤと親しくなったらいけないんだよ」

 

 

「…そ、それは」

 

 

「教えろよセイン…」

 

 

セインの肩をつかみ目をまっすぐ見てあたしは答えを待つ…何故タカヤと親しくなったらいけない理由を待った

 

――――――――

―――――――

 

真実を言うか言わないかをあたしは迷っている…でもこれ以上タカヤ君とノーヴェが親しく深い仲になって『あの事』を知ったら互いに深く傷つくのが目に見えている

 

 

ディードからあの話を聞いた時は嘘であって欲しいと願った…ノーヴェがタカヤ君と話している時の幸せだと感じさせる笑顔、あたし達姉妹でもみた事がなかった

 

何でこんな事に…ノーヴェが可哀想すぎるよ…

 

 

「…話す気がないんならいいよセイン…今の話しは聞かなかったことにするからさ…じゃ、あたし戻るから」

 

肩を離し芝生から立ち上がり離れていくノーヴェにあたしは何も言えなかった

 

「何で、あたし達はタカヤ君と会ってしまったんだろ…これが運命ならひどすぎるよ…神様」

 

 

芝生を握った手に何かが落ちる…あたしは知らないうちに泣いていた、涙をぬぐうと残りの仕事をするために教会にむかう

 

 

 

タカヤ君が『あの事』を出来ればずっと知る事が無い事を祈りながら

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

聖王教会 同墓所

 

 

「…まだ話したい事は沢山あるけどそろそろ行かなきゃ…またね父さん」

 

 

「あっ?」

 

 

立ち上がった僕の後で声が聞こえ見ると、そこにはディードさんの姿があった…それになんか慌ててる

 

「…す、すいません驚かせてしまって」

 

「い、いえ…あのタカヤ様早く急がないとノーヴェ姉様達が先程から待っていますよ」

 

 

「し、しまった長居しすぎちゃった。ありがとうディードさんじゃあまた!」

 

軽く頭を下げ僕はコートを翻しその場から駆けていく…でもディードさんなんであんな場所にいたんだろと考えながら皆がいる場所へ急いだ

 

―――――――――――

――――――――――

 

彼、タカヤ様の姿が見えなくなったのを見た私は後ろに隠していた花束を出し墓に置く…私とオットー、ナンバーズと呼ばれていた私達二人と互角に渡り合った騎士「ユウキ・アキツキ」の墓の前に膝をつく

 

 

四年前のあの日…血に濡れた光剣『ツインブレイズ』が胸から引き抜かれ倒れようとする彼が再び剣を構え立つ姿…見ることしか出来なかった私達の目に今でも焼き付いています

 

 

「ディード、僕もいい?」

 

目を開けるといつの間にかに隣にオットーが同じように膝まずいてる

 

 

「…ええ」

 

 

聖王教会に来てしばらくして騎士の名を知ると同時に彼に子供が居る事を知り今から数ヵ月前、陛下と覇王様の試合の時…あの騎士と同じ動きをする「タカヤ・アキツキ」と出会ってしまった

 

 

…この出会いはあの子から父親を奪ってしまった私達に対する罪なのでしょうか

 

…もし私達が戦闘機人で父親を奪った相手であると知ればタカヤ様は……

 

 

「…ディード、その時は僕も一緒に罰を受けるよ…」

 

 

「…ごめんなさいオットー、ノーヴェ姉様…ごめんなさい…」

 

 

静かに泣き出したディードを頭を優しく撫で慰めるオットーの目にも涙が光っていた…墓に手向けられた二つの花束が風に大きく揺れ花弁が空へ舞い上がってていく

 

 

タカヤが真実を知る日は足音を立て確実に近付いている、其れもそう遠くない日に…

 

――――――――――

―――――――――

 

「クククク」

 

髪を狂ったように掻き乱しながらある写真を舐めるように見る…いや部屋一面に所せましと貼られているのは赤い髪に金色の瞳の少女…ノーヴェ・ナカジマがありとあらゆる角度から写されていた

 

 

「はあ、私だけの物にしたいよノーヴェ・ナカジマ…その身体は私が愛でるためにあるんだ…」

 

 

歪な笑みを浮かべ舐めるように写真を見る彼…四年前、JS事件時に起こった『あの事』を『ある人物』?から詳細を聞き準備をようやく終わり行動に移そうとしていた

 

 

「…『アイツ』に感謝だな…『あの事』がある限り彼女は私には逆らえない…クククク…」

 

その手にアンティークの小さな剣?を握りしめ歪に笑い薄暗い室内に溶けるように消えていった

 

 

――――――――――

―――――――――

 

「メイ様」

 

「…少し静かにしてくれるかしら…」

 

 

魔導筆を構え赤い紙、界符の製作を終え一息つく女性…メイに声をかけた

 

 

「メイ様、もうお休みになられたらどうですか?」

 

 

「………ホラーが甦った今眠っている暇なんてないわ…」

 

様々な魔導具に秘薬が立ち並ぶ執務室にもうけられた工房で目頭を押さえながら声を漏らす

 

「……メイ様、お茶をどうぞ」

 

「…ありがとうデルク…」

 

 

次元港でタカヤと再会した日から忙しい執務の合間を縫い『秘薬』『界符』『魔導具』の作成、精製にかかりっきりのメイの健康を預かるデルクが心配して何度も苦言を呈するも聞かなかった

 

 

だがここまでする理由にデルクには思い当たることがあった

 

「………タカヤ様の為ですか?」

 

「…………………違うわ」

 

 

「では何故、ノーヴェ様がタカヤ様を連れ訪れた時にメルトの秘薬を用意されてたのですか」

 

 

「…………たまたま予備が………」

 

 

「…タカヤ様に万が一のことがあった時の為に保存期間が短いメルトの秘薬を常に管理し補充していたのを私は知っているんですよ」

 

 

「…そ、それは…」

 

「メイ様、あなたはタカヤ様と仲直りをしたくはないのですか?」

 

「…し…したいわよ…でも」

 

 

背を向けながら想いを吐露するメイ…机に置かれた無数の札に水滴が落ち文字が滲む

 

 

「なら、ならば何故タカヤ様にメイ様自身の想いを伝えないのですか」

 

 

「…ダメなの…タカヤを前にすると言葉がでないの…あんな仕打ちをした私の言葉を聞くはずがない、そうに決まってるわ!」

 

…すべては四年前の事件、すれ違いから起こった事…タカヤ様がメイ様の本当の想いを知れば昔の仲の良い親子に戻れるはず…なら私にも何か出来ることはないかと考え一枚の紙がが目に止まる

 

 

これならタカヤ様とメイ様が自然に会えるはず…そう考えスケジュール表に目を通し少し時間の空きを見つけ気付かれぬよう素早く手配を進め終えた私は複数の秘薬の精製を終えたのを見計らい声をかけた

 

 

「メイ様、来週の抜き打ち査察なのですが…」

 

 

振り返りじっと私の説明を聞き入り軽く息をつく

 

 

「…わかったわ…あと来週其所への査察は私一人でいいわ…」

 

 

呟き再び背を向け精製作業にはいるメイ様に軽く頭を下げ工房からでてすぐに退出する

 

(あとはメイ様次第です…)

 

 

執務長室に入り深く椅子に座り心の中で呟く、少し騙すようですがここまでしなければメイ様はタカヤ様に本音で語ろうとしません

 

この事でお叱りを受けるかも知れません

 

ですが私はメイ様、タカヤ様が昔のように仲のいい親子に戻るためあえてこの策をとります

 

「オウル様、ユウキ様…どうかお二人が昔みたいに仲良くなれるよう見守ってください…」

 

 

机に置かれた一枚の写真立てに目を向けるデルク、そこには五人の男女と赤ん坊、ユウキ、メイその抱く手には生まれたばかりのタカヤが抱かれリーム、オウル、デルクが見守るようにたつ姿にデルクは祈るように頭を下げた

 

 

タカヤ、メイ、ノーヴェ、ヴィヴィオ、セイン、オットー、ディード、デルク其々の想いが時間を場所を違えど交錯し、古から続く魔戒騎士とホラーの戦いも上級ホラー六体と『王』を残すのみとなった

 

…しかし四年前から繋がるタカヤ、ノーヴェ達に黒い影が迫り始めたとき因果―陰我―の歯車が音を立て動き始める

 

 

第十二.五話 墓参 了

 




キリク
―…墓参りを終え数日後タカヤはヴィヴィオと共にプールへ向かう、そこで意外な人物達と出会う…次回、陰我… 久しぶりだなジーク嬢ちゃん!―


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第十三話 陰我(改)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


―闇にとらわれるなオウガ!!―

 

 

―闇に負けないでください!!―

 

 

―どけクラウス!ヴィヴィ!!奴を……アイツを殺した奴を俺は許さん!!

 

 

黒鉄色の巨大な狼の異形…鎧に取り込まれかけたオウガに私とクラウスが必死に呼び掛ける、でも声が届きません

 

 

―た、頼む…ヴィヴィ、クラウス…鎧を解除し…てくれ…紋章を突いてくれ…オウガ…が…闇に…堕ちる前に…早く!!―

 

 

苦しみに満ちたキリクの声が届きクラウスが地面に落ちた剣斧を握り構え地面を蹴り襲いかかる鋭い金属の突起を生やした拳を紙一重で避け甲冑を切り裂かれながら徐々に間合いを詰めながら叫ぶように言葉を投げ掛けます

 

 

 

―例え奴を倒してもイクスの従姉上は帰ってこない!…復讐に囚われた君を見て従姉上は喜んだりしない!!―

 

 

―黙れ!この力があれば王を倒すことができる!その力を手に入れる為なら闇に魂を捧げていい!!―

 

 

―グアッ!やめるんだオウガ!!―

 

 

避けきれず鎧に取り込まれ目を赤く輝かせるオウガの手に掴まれ、クラウスの騎士甲冑が振動音と共に砕けていく音が響きわたる…どうすれば

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

 

「は!ゆ、夢?」

 

 

飛び起き隣にある時計を見るとまだ5:00になってもいない…夢に出ていたのは覇王クラウス、そしてヴィヴィオさんの元になった『オリヴィエ』…あの黒くて大きい狼はタカヤさんの鎧と…いえ違います

 

 

タカヤさんの鎧の色は『白金』で夢の中に現れた狼は黒…そう考え私はベッドに横になり目を閉じやがて眠りにつきました

 

でもさっき見た夢が現実になるなんてこの時の私…私達は思ってもいませんでした

 

 

第十三話 陰我

 

 

 

「キリク、此所ってまさか…」

 

 

―そのまさかだ…アキツキリゾート…アキツキインダストリの関連施設だ…―

 

 

 

ソウルメタルを軋ませため息混じりの言葉を聞きながらアキツキリゾート入り口前でヴィヴィオとの待ち合わせた場所に来て小さくため息をついた時だった

 

 

「タ・カ・ヤさ~ん」

 

 

「あくせるっ!?」

 

 

背後にタックルを受けなんとか踏みとどまり目を向けた先には腰に抱きつく笑顔なヴィヴィオ…いきなり全力全快はやめて

 

 

「お、おはようヴィヴィオ…元気だね」

 

 

「おはようございます、さあ早くいきましょ」

 

「え?ちょ、ちょっと待って!引きずらないで!?」

 

僕の腕をつかみズルズルと引きずりながら係員にフリーパスを渡し中へと歩いてくヴィヴィオ

 

 

「あら、あの子の彼氏さん将来は大変ね~」

 

 

「…大人しそうな彼氏さんにはぴったりな相手じゃない?」

 

 

「ふふ、あの彼氏さん…この服(リボンやフリルがたくさん付いた)が似合いそう…」

 

 

それを見て回りの人が笑うの聞きながらだけど

 

 

それから数分後一人の黒く長い髪の女性がゲートの受け付けにパスを提示する…あわてて挨拶する係員を手で制しそのまま中へ歩いていった

 

 

―――――――

――――――

 

 

 

「ねえ…ここの壁絵のデザインってまさか…」

 

プールサイドおかれたチェアに座り周りをみると内装の壁絵には筆で力強く赤と黒で大小描かれた文字があちらこちらにあり、チェア等にもそれの意匠がみうけられる

 

 

―タカヤ、魔導筆に自分の想いを込めて…―

 

 

―…う~ん…えい!…―

 

魔導筆を正面に構え軽く三度、円を素早く描くと光輝く無数の蝶が空をまう

 

 

―そう、後はタカヤの想いをしっかりと魔導筆に乗せて…―

 

 

「…ヤさん?タ~カ~ヤ~さ~ん!?」

 

 

「うわぁ?ってヴィヴィオ!?」

 

 

「何度も声をかけてるのにひどいですよ」

 

 

「う!ご、ごめん…あのさヴィヴィオ…何で腕に抱きついてるの?」

 

 

…ピンクのティアードフリルビキニに水色のパーカーを羽織ったヴィヴィオが絡めた腕に力を込め抱きついてくる姿にドキドキしながら訪ねる

 

 

「そ、それは…その…あ!あそこにいきませんか?(だってこうでもしないとタカヤさん、わたしを意識してくれないから)」

 

 

ヴィヴィオが指した先には複雑なカーブが組まれたウォータースライダー

 

 

「なんか面白そうだね、行こうかヴィヴィオ」

 

 

「はいタカヤさん」

 

 

絡めた腕に柔らかな感触を感じながらウォータースライダーの列にならび順番を待つ二人を見る二つの気配

 

 

「頑張ってヴィヴィオ~(小声)」

 

 

「タカヤ君…ヴィヴィオを泣かしたら承知しないからね(小声)」

 

 

プールなのに関わらず帽子にコート姿の金髪の女性と栗色の長い髪をサイドテールにした女性が椰子の木の影から二人を応援する姿に回りの客は知らんぷりしながら通りすぎていった

 

――――――――

―――――――

 

 

「次のかたどうぞ~」

 

 

「は~い、タカヤさん私たちの番ですよ」

 

 

「う、うん…でも一つ聞いていいかな…何で二人一緒に滑るの?」

 

 

「き、気にしたら負けですよ」

 

 

スライダーの入り口でヴィヴィオを前にし後ろから抱くような形で座りやがて勢いよく滑り出した

 

 

「楽しいですねタカヤさん(タカヤさんの身体ってしっかり鍛えられてる…でも暖かくてきもちいいなあ)」

 

 

「う、うん!ヴィヴィオしっかり捕まってて!!」

 

 

「え?きゃあ」

 

 

 

急な右カーブで二人の身体がさらに密着し互いの体温を間近に感じヴィヴィオの心臓はドキドキが止まらず顔を赤くするが幸いタカヤに見られていない

 

 

だがタカヤもそれは同じだった

 

 

(ヴィヴィオってこんなに小さいのに暖かいし…それに林檎、オレンジに似た甘くて良い匂いがする…)

 

 

薫る匂いに思わずクラクラするタカヤもドキドキが止まらずなぜか抱いている腕に力がこもる

 

 

(あ、タカヤさんもドキドキしてる…なんかすごく暖い)

 

 

さらに左、右、急勾配を通り過ぎフワッと浮く感覚にとらわれた二人の身体が離れ瞬間、勢いよく水の中へ落ち二つの水柱が上がる

 

「ぷは!あれヴィヴィオどこにいるの!?」

 

 

いち早くタカヤはヴィヴィオの姿を探し背後を見ると水が盛り上がり姿を見せた

 

「だ、大丈夫ヴィヴィオ?」

 

 

「は、はい!大丈夫です…でもすごく楽しかったですね」

 

 

「うん、でも少し休憩しょうか」

 

 

タカヤの言葉にうなずき上がり近くのパラソルの椅子に座り横になり風がずうっと肌を撫でる身震いするヴィヴィオにタカヤが厚手のタオルを優しくかける

 

 

「はい、身体を冷やすとダメだよ…あ、なんか暖かいもの買ってくるけど何が良い?」

 

 

「え?じ、じゃあココアミルクをお願いします」

 

 

「わかった、じゃ少し待っててね」

 

 

パーカーを羽織ると少し離れた売店へ足早に駆けていくの見送り数分たたないうちにヴィヴィオの目の前にタカヤ?の姿が見えた

 

 

(あれタカヤさんですよね…どうしたのかな…もしかして場所がわからなくなったんじゃ…少し脅かしちゃお)

 

タカヤ?の後を気づかれないように近づきいきなり抱きついた

 

「えい!」

 

 

「え?きゃあ!?」

 

 

グラリとと体勢が崩れそのままプールへと落ち水柱がたつ、ヴィヴィオは顔をあげタカヤ?を見た…

 

 

「驚きまし…た…か……え?…タ、タカヤさんのお母さん!?」

 

 

「はあっ、…こほ…なんなのよ…ヴィヴィオ様なぜここに!?」

 

 

ヴィヴィオがタカヤと思った人物…メイ・アキツキが黒く長い髪を濡らしかきあげながら驚いた顔をしていた

 

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「ミルクココア、グリーンティーお待たせしました~」

 

 

「ありがとうございます……速くヴィヴィオの所にいかなきゃ」

 

 

「あ、あの~タカヤ君でしょうか?」

 

両手にミルクココア、グリーンティーの入ったカップを持って向かう僕の背中に声がかけられ振り返り思わずを落としそうになった

 

 

「え、エレミアさんどうしてここに?…て言うか一月ぶりですね」

 

 

「う、うんタカヤ君も元気しとったん?」

 

 

黒く長い髪をアップテールにし黒地に紫のラインが入った競泳水着姿の女の子、ジークリン・デエレミアさんが顔を赤くしながら立っている

 

 

「僕は元気ですよ、でもエレミアさん何でここに?」

 

「スポンサーの人が手配した宿泊先がここなんよ…今日は少し息抜きに来たんや」

 

 

「そうだったんですか…でもちゃんと食べてますか?」

 

 

「う?ち、ちゃんと食べとるよ…でもタカヤ君のご飯がうちのより美味しいやないか…」

 

「…あ、あの落ち込まないでエレミアさんの作る料理も美味しいですよ」

 

 

うなだれ近くのチェアに座るエレミアさんの背後に白く燃え尽きた明〇のジ〇ーの姿が見えた気がするけど気のせいだよね?

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

 

「ごめんなさい、タカヤさんのお母さん!」

 

 

「あ、その別に良いわよ…誰にだって間違いはありますから…頭を下げるのをやめてくださいヴィヴィオ様!」

 

 

「で、でも服を…」

 

 

 

 

「だ、大丈夫ですから。それに服の予備はありますから…」

 

 

 

わたしがあやまるたびにいいと言うタカヤさんのお母さん…濡れた服を脱ぎ今は黒のビキニにパレオ姿のタカヤさんのお母さんはママたちに負けないくらい綺麗で特に動く度に揺れる胸はフェイトママと同じぐらい…

 

(タカヤさんも胸が大きい方が好きなのかな…)

 

 

 

「あのヴィヴィオ様?どこか具合でも…」

 

 

「あの『様』はやめてください…わたしの事はヴィヴィオって呼んでください」

 

「で、でもあなた様は」

 

 

「ヴィ・ヴィ・オ!」

 

 

「………う、ヴィヴィオ……さん…」

 

 

少し迷いながらわたしの名前を呼んでくれた

 

 

「じゃあわたしもタカヤさんのお母さん、メイさんって呼んで良いですか?」

 

「は、はい!ヴィヴィオさ…ん」

 

 

まだ固い感じがするけどまあ良いかな、でもメイさんとタカヤさんの髪って凄くく長くて綺麗

 

さっき間違えて抱きついたのは歩く姿がタカヤさんと似ていたからやっぱり二人は親子だからかな

 

 

「あ、あのメイさん」

 

「な、なんでしょうか」

 

 

「タカヤさんの小さい頃のお話聞かせてくれますか?」

 

「た、タカヤの小さい頃のですか…それを聞い………そ、それは!?」

 

 

メイさんの声が裏返る…眼前にはこの前クリスが撮った犬耳タカヤさんの可愛らしい姿、それを見る目がギランと輝きました

 

 

「あ、ああ…タカヤ……タカちゃん…」

 

 

あの次元港で見せた表情が嘘のように崩れ画像を見るメイさんの瞳からは、なのはママとフェイトママ以上の愛情を感じます

 

 

もしかしたら今でもタカヤさんを…なら二人の仲直りを出来るヒントがあるかも

でもその前に…

 

 

「……………」

 

 

「あのメイさん?メイさん戻ってきてくださ~い?」

 

 

犬耳ちびタカヤさんのあられもない姿にみいるメイさんを呼び戻すことができたのはしばらくたってからでした

 

 

――――――――

―――――――

 

ナカジマ家

 

 

 

「う~んやっぱり食事にも気を付けた方がいいか…あと疲労抜きも必要だし…」

 

 

「ノーヴェ、少し休んだら?」

 

「ん、そうするか…んじゃアタシ少し外の空気吸ってくる…」

 

 

ディエチに言われ軽い私服に着替え外へと出る…今日は休日でもインターミドルへ向けての間があまりないんだけどたまには休んでもいいよな

 

 

「…でもタカヤと何処かにいきたかったな…でもこれ貰ったからいいか」

 

手首に白銀に輝くブレスレットを陽にかざし見ているとなぜか顔が熱くなってくる

 

 

数日前にタカヤから貰った龍の顔が型どられたデザインのブレスレットをそっとさわる

 

 

―この前僕を泊めてくれたお礼です―

 

 

ってわざわざアタシの手首に填めてくれたヤツで実際かなり気に入っている

 

 

(『最近マスターは凄く充実してます…タカヤのお陰かもしれませんね』)

 

 

ジェットもそう思いながら歩くノーヴェを離れた場所で見る影…フードから覗く瞳は狂気を宿している

 

 

「見っけた…あははは、やっと一人になったなああああ…ノーヴェ・ナカジマアア~はははははは」

 

 

狂喜が混じった言葉を呟きながらあとをつける男…休日を楽しむタカヤとノーヴェ達に四年前から続く運命の時が迫っていた

 

 

―――――――――

―――――――

 

 

「メイさん、小さい頃のタカヤさんってどんな感じだったんですか?」

 

 

「…小さい頃はすごくかわいくて…でも人見知りが激しくてデルクと私、ユウキにしか近寄らなかったの…」

 

 

「そうなんですか、でも何でタカヤさんには犬耳があるんですか?」

 

 

あれからようやく戻ってきたメイさんからタカヤさんの小さい頃のお話を色々聞きながら顔を見るとすごく柔らかい笑みを浮かべ話してくれます。

 

そこで私はずっと気になっていた犬耳の事を聞いてみました

 

 

「…私とタカヤはフロニャルド出身だった祖母の血を受け継いでてそのせいか…満月の夜になると大変だったの」

 

 

――――――――

――――――

 

『あおおおお~ん』

 

 

『メ、メイ!タカヤを早く捕まえないと!!』

 

 

『わ、わかってるわ!タカヤちゃ~ん。おりてきなさ~い!危ないから~!?』

 

二つの月を見上げ尻尾を激しく左右に揺らし夜空に輝く二つの月に吠えるタカヤを全力で止める二人の姿があった

 

「――――屋敷の屋根で月に向かって吠えるのを中々止めなくて本当に大変だったわ…でも」

 

 

「でも?」

 

 

「…ようやく捕まえたタカヤ(4)を抱き締めるとすごく良い匂いがして…ユウキと同じ春の陽気、お日様みたいな」

 

 

「あ、あの~メイさん、耳出てますよ」

 

 

「え!あ、ああああ!?」

 

 

頭からタカヤさんと同じ犬耳が勢いよくたちと帽子をはねのけてる、あわてて近くにあった麦わら帽子を被ったのをみて思わずクスッと笑う私をじっと見てくる

 

「……見たわねヴィヴィオさん」

 

 

「はいしっかりと見させてもらいました」

 

 

「………うう~」

 

 

少し顔を紅くしうらめしそうに見るメイさん…そろそろ聞いてみても大丈夫かもと判断した私は本題にはいることを決め少し深呼吸し口を開いた

 

 

「メイさん、タカヤさんと仲直りしませんか?」

 

 

「…………」

 

 

少し温度が下がった気がする…でも私はさらに続ける

 

 

「タカヤさんだって本当は仲直りしたいんだと思うんです…」

 

 

「……………」

 

 

「メイさんとタカヤさんの間に何があったか私は知りません…でも親子なんです、なのに何であんな態度をとるんですか?」

 

 

「…って…私だってあんな態度取りたくない、仲直りしたい…でも…あんな事をした私の言葉なんか聞くわけないわよ」

 

麦わら帽子を形が変わるほどと両手で軽く押さえ隠した顔から一筋の涙が手に落ちた

 

 

――――――――

―――――――

 

 

「あの~エレミアさん機嫌直して」

 

 

「………うん」

 

 

体育座りしうつむかせた顔をあげながら僕を見るエレミアさん…半年前に家出して暫くたった頃に会いクラナガンで別れた時と変わらない、でもちゃんとご飯食べてるのかな?

 

 

「タカヤ君、またうちが倒れると思うとる?」

 

 

「最初に僕と会った時、お菓子片手に倒れてましたよね?」

 

 

「うう~相変わらず意地悪や~!」

 

 

「いた!痛いから殴るのやめて!?」

 

 

僕の頭を子供が殴るみたいに叩いてくるエレミアさん…回りの人が軽く手で口元を押さえながら笑いながら生暖かい目で見てるからやめて!?

 

「…今日はこれで勘弁してあげる」

 

 

殴る手を止め少し照れながら頬をかくと近くのチェアにエレミアさん、反対側に僕は座り何も話さず時間が過ぎていく

 

 

「…タカヤ君」

 

 

「なに?」

 

 

僕の顔をじっと見るエレミアさん…な、何かついてるかな?

 

 

――――――――

―――――――

 

 

タカヤ君…少し変わった気がする

 

 

最初にうちと会ったときは感情の起伏があまりなかった…一緒に生活してて深い心の傷を抱えているのを知った

 

 

半年間の生活はすごく楽しくてタカヤ君の作るご飯の美味しさと大切さをうちに教えてくれた…でも鼻血を噴水のように出したときは驚いたよ

 

 

クラナガンで別れてから数ヶ月でなんか格好よくなってる

 

 

まるで何か…やるべき事を見つけた顔におもわず顔が熱うなってしまう

 

 

「ん?僕の顔になにかついてますか?」

 

 

「え!いやなにもついとらんよ!?」

 

 

「本当に?」

 

 

「う、うん!そ、そやタカヤ君今度のインターミドル見に来るんか?」

 

 

「はい、実はヴィヴィオ達がインターミドルにはじめて出るんで僕も応援に行くんです」

 

 

「……ヴィヴィオ?」

 

 

「僕が通う学院の後輩ですごく元気な子でその友達も…」

 

 

タカヤ君の口から知らない女の子の名が出てくる度に胸の奥がざわめく…なんやろ

 

 

「……です、あれどうしたんです?」

 

 

「な、なんでもない…そや、うちが試合する日にな…お、応援に来てくれる?」

 

「いいですよ、なら試合の日がわかったらカーンに連絡ください、ついでに差し入れ持ってきますよ」

 

 

「あ、ありがとうな…(タカヤ君に応援してもらえると嬉しいなあ、差し入れすごく楽しみやあ////)」

 

 

「あ。僕、人を待たせてるからそろそろいきますね」

 

「う、うん。呼び止めたりしてごめんなあ」

 

 

「いえ、僕もエレミアさんと話すことができて楽しかったです…じゃあ試合会場で会いましょうね」

 

 

「う、うん試合会場でまた会おうなあ」

 

 

飲み物を両手に持ったタカヤに手を振りながら見送るジーク…しかし

 

 

(…………不味い、タカヤ君が他の子にとられる…何とかせなあかん!今度番長に聞いてみよ)

 

 

とタカヤを射止める決意を固める次元世界最強のチャンプだった

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「お待たせ…!」

 

 

「おかえりなさい。あのタカヤさん、どうしたんですか?」

 

 

「いやなんでも…あ、遅れてごめんね」

 

 

「あ、大丈夫ですよ。飲み終わったらまた泳ぎましょうか」

 

 

「そうだね」

 

 

笑顔で飲み物を渡して口につけながらさっきヴィヴィオから母さんの匂いを感じた

 

まさか母さんがここに? …そんなわけないよね

 

 

それからしばらくして僕たちは流れるプールで過ごしたんだけど…

 

 

 

「落ちないようにしっかり捕まえてくださいね」

 

 

「う、うん」

 

 

二人乗りの浮き輪にヴィヴィオを抱きかかえる形で流れていくのを

 

 

「やったねヴィヴィオ」

 

 

「がんばれ~でもなのは?」

 

 

「どうしたのフェイトちゃん?」

 

 

「さすがにこの格好はダメなんじゃ?」

 

 

「そうだね…着替えてこようか」

 

 

繁みが動き出てきた二人の格好は蛇が大好きな眼帯つけたスニーキング姿のフェイトとなのはは更衣室へ向かった

 

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「今日は楽しかったですね。タカヤさん」

 

 

「うん、プールって僕は初めて来たけどすごく楽しかったよ」

 

 

アキツキリゾートからの夕日に照らされ並んで歩く二人の顔はすごく穏やかな笑みを浮かべ遊んだ数々のプールで盛り上がりながらやがて高町家の前に着いた

「じゃあ僕はここで…」

 

 

「あ、あの…………また二人でプールにいきましょうね」

 

 

「う、うんヴィヴィオ。じゃ明後日学院で」

 

 

手を振りながら学院寮へと歩く姿を見ながら、今日メイさんとの会話を思い出す

 

―…そんなことないです。わたしも直りできるように手伝います―

 

 

―え?ヴィヴィオさん?―

 

―まずは何故、仲が悪くなったかの原因がわからないです…教えてください―

 

 

―………何故…何故ヴィヴィオさんは私とタカヤの事を気にするんですか…―

 

 

―……あの日、次元港でタカヤんすごく悲しそうな顔をしていたのが忘れられなかったんです…私は二人にはに笑顔でいてもらいたいんです……だからお願いします―

 

 

少し顔を俯かせしばらくして絞り出すように声を出した

 

 

―………………ヴィヴィオさん、私は……―

 

 

――――――――――

――――――――

 

…タカヤさんとメイさんの仲がこじれたのは四年前にお父さん、ユウキさんが亡くなった事と、二人の間に起こった僅かなすれ違いが原因でした

 

 

どうやって二人を仲直りできるようにするか…二人が本音で互いの気持ちを話すしかない、なら今日みたいな形でわたしが側にいればタカヤさんも逃げないはずです

 

 

「…メイさんとタカヤさんが仲直りできるように少しお手伝いしないとね…クリス後でメイさんにあの画像(一部)を送ってね」

 

「(コクコク)」

 

 

タカヤさんの姿が見えなくなったのを見て私は家の中へと入り部屋に戻りました

 

ただ入浴中、ママ達がタカヤさんとのデートを色々と聞いてきたのですごく恥ずかしかったよ

 

――――――――――

――――――――

 

クラナガン中央区

 

食材&調理器具専門店【アモン】へと歩くタカヤもデートについてキリクに聞かれていた

 

 

―ヴィヴィオ嬢ちゃんとのデートどうだったか?―

 

 

 

「うん、すごく楽しかったよ…でもキリク何で着いてこなかったの」

 

 

―水気があるとソウルメタルでも錆びちまうんだ、それに若い二人に任せた方がいいしな―

 

 

「色々気を使わせてありがとうね…そうだ今日エレミアさんに会ったよ」

 

 

―ジーク嬢ちゃんに会ったのか?―

 

 

ウンとうなずくタカヤ。ジーク嬢ちゃんとまた会ったとはな…千年前、あの魔戒騎士だったオウガと百数年前、タカヤの曾祖父オウルに地に膝をつけさせた相手も『エレミア』、その血をジーク嬢ちゃんが受け継いでる事にあの半年間の生活で気付いた時はまじ驚いたぜ

 

 

タカヤとあの日、あの場所で出会ったのは運命かも知れないな

 

 

 

「さて、今晩のおかずの材料をアモンさんの所で買いに…」

 

 

『若、ウェンディ様から通信が入っています』

 

 

「ウェンディさんから?なんだろ」

 

 

以前カーンのアドレスをナカジマ家の皆に教えてたのを思い出し開いた

 

 

『タカヤん、ノーヴェ知らないッスか!昼辺りに出たっきり連絡がとれないんッスよ!!』

 

 

ノーヴェさんと連絡がとれない、なんか嫌な胸騒ぎを感じ真っ先にホラーと考えた

 

でもキリクに反応がない、と言うことは何かしらのトラブルに巻き込まれたかも

 

「ウェンディさん、ジェットさんには通信は繋がらないんですか?」

 

 

『やってはいるんだけど全然繋がらないんッス、今チンク姉とディエチが探してるんッスけど何処いったか手がかりが…』

 

「ウェンディさん、僕も探すのを手伝います。見つけたら連絡しますから通信は繋げたままにしてください!」

 

 

『わかったッスよ!』

 

 

―おい、タカヤどうやって探す気だ?―

 

 

「キリク、白竜を呼んで手がかりを探すように頼んで…久しぶりに『あれ』をやるよ」

 

 

―そうか、その手があったかだが解るのか?―

 

 

軽く目を閉じ意識を集中させると黒く長い髪の中から黒い毛に包まれた犬耳、コートの裾から黒くフサフさした尻尾が現れる

 

 

「う!(やっぱり耳と鼻が敏感になる)…でもノーヴェさんを早く見つけなきゃ」

 

深く息を吸うと鼻と耳に意識を集中する、タカヤはフロニャルド人だった曾祖母譲りの異常なまでの鼻と耳の良さを受け継いでいる、例え数キロ先に離れた食べ物の匂いと音を感じられる

 

(ノーヴェさんの匂いは…甘くて包み込むような匂いと心臓の音は………………………………ダメだ、高い所から探さなきゃ)

 

 

目を閉じながら地を蹴り高く飛び上がり屋上に立ちノーヴェさんの匂いと心臓の鼓動を探す

 

 

(…………………………………………!見つけた?でも嫌な匂いとスゴく嫌な音が近くにいる………急がなきゃ!!)

 

 

拳を握り締め足に力を入れビルの上を蹴り駆け空を舞い近づく度に嫌な匂い、ノーヴェさんからは恐怖と心臓の鼓動が激しくなっていくのを感じ焦る

 

急がなきゃ!

 

 

――――――――

―――――――

 

 

「ん…ここは何処だ…な、なんだこれ!?」

 

 

朦朧とする意識から目を覚ましたけどからだが動かない、かろうじて動く顔を動かし見るとベッドの上に大の字に寝かされ丁寧に両手両足を鎖でがんじ絡めに縛られてる

 

 

「ホッ!気がついたかいマイハニイィィィ~~ヒャッハハハハ!」

 

 

顔を向けると其所には黒い嫌らしい笑みを浮かべるジャージ姿の男…待て確か……気分転換に夕暮れの公園を歩いていたら道を尋ねてきた奴じゃねえか

 

 

―すいません中央区のリニアまでどう行けばいいでしょうか?―

 

 

あん時、道を尋ねられジェットを出した時…首筋に僅かな痛みが走り、振り返るとがヘラヘラ笑いながら掌ぐらいの大きさの剣を握っていたのを最後に意識が途絶えたんだ

 

 

「君をここまで運ぶの苦労したんだよおおお…私と君の愛の巣にねぇ~ヒャッハハハハ」

 

 

「ふ、ふざけんな!何が愛の巣だ!気色悪いこと言ってんじゃねぇ」

 

 

「あ~はは、これを見てまだ言えるかな」

 

 

腕をあげ指を軽くならすと同時に明かりがつき見えたのはアタシの写真、しかもバイト先、区民センターで練習してる時の姿がところ畝ましと貼られているのに思わず身震いした

 

 

「君の事はすべて知ってるんだよぅ~ノーヴェ・ナカジマ…いやナンバーズ『No.Ⅸ』」

 

 

「なぜ手前が知ってんだよ!アタシをさっさと離せ!!」

 

「嫌だね!」

 

 

そのままアタシが拘束されているベッドに近づき手を伸ばし胸を鷲掴みしてきやがった…

 

 

「はああこれがノーヴェ・ナカジマの胸か~柔らかいなあ」

 

 

胸に顔を埋めながら見るコイツからなんとか逃げようとする、でも身をよじり腕と足に、でも縛られた鎖はびくともしない

 

「やめ…ろ、やめろったらあ…助けて…タカヤ」

 

 

「タカヤ?あのガキの事か?そういやこの胸にさんざん埋もれていたなあああ~だがな」

 

 

何かが破ける音が耳に入り肌寒さを感じ見ると服が破かれブラのみになってる

 

「おや?紫の下着ッてのはそそるなあもしかして私のためかあああ~」

 

 

また破ける音が木霊する、今度はのホットパンツに無造作に手がかけ手に握ったナイフで破り捨てられ現れたショーツに興奮したのか舌なめずりしながら息が荒くなってる

 

「あのガキに渡すには惜しいなあ」

 

 

「さ、さわるなあああ!やめろよ……」

 

 

その手が誰にも触れられたことのない肌をいやらしく滑べ撫でられ、身体が震え嫌悪感とそれとは別な感覚が沸き起こり身体を震わせるのを見てさらにエスカレート。太ももの外側から臀部をいやらしくなで回す手は遂にはショーツへ手が伸びノーヴェの顔がこわばる

 

「離せ!はなせったら!!」

 

 

「嫌がらなくていいんだよ~今からノーヴェを私だけのモノにしてやるよ!嬉しい?嬉しいよなああああああ!!」

 

 

ゆっくりと下ろされていくショーツの感覚を感じ恐怖に心が染まるも違う感覚に必死に耐えノーヴェは力の限り叫んだ

 

 

「いや!助けて!タカヤアアアアア!!」

 

 

「ヒャッハハハハ、此所がわかるわけないだろ~それにあの事知ったら助けてくれるかな?何せ君達はタカヤってガキのち…」

 

 

言いかけたその時、凄まじい破壊音が木霊し天井…アンティークの色とりどりのガラスが填められた巨大な天窓が砕け雨のように降り、その中に黒い外套を纏った少年が静かに着地し顔をあげノーヴェに目を向ける

 

「た、タカヤ…ぐす」

 

 

ガラスの破片を浴びながらたたずむ少年、タカヤを見た瞬間に瞳からとめどめもなく涙が溢れだした

 

――――――――――

―――――――――

 

 

匂いと心臓の鼓動を感じ中央区から少し離れた古ぼけた教会に着き迷わず天井からステンドグラスを砕き礼拝堂へ入って見たのは、服を破り捨てられ下着姿の涙目になり僕を見るノーヴェさん。馬乗りになり手を触れている男の姿…それを見て何かが音を立て切れた

 

 

「だ、誰だおま…タカヤってガキか!邪魔す……」

 

 

「…………………黙れ」

 

 

 

地の底から響くような静かで怒気が込められた言葉を発した瞬間、男は顔に熱さをともなった衝撃を感じた瞬間壁へと叩きつけられた

 

 

「が?ガハァ!」

 

コートを翻しながら拳を構えながら殴り飛ばした相手を無視し、無言のまま手足に縛られた鎖をオウガで切り払い自由になったノーヴェに自身のコートを優しく掛け踵を返しゆっくりと男の方に近づいていく

 

 

「ひ、ひいい!やめ………」

 

「………」

 

 

ふらふらと立ち上がった男の鳩尾へ体重をのせた重い拳が鈍い音を響かせ突き刺さり、胃から逆流した吐瀉物を撒き散らし悶えながら声を絞り出した

 

 

 

「や、やめ…」

 

 

「……しゃべるな…息もするな……」

 

 

底冷えするような声を聞き男は力なく壁へ背を預けずるずるとへたりこむ男に鞘から抜き放ったオウガを首筋に当てる

 

 

『やめてください若!彼は人間です!!』

 

 

―そうだ!掟を忘れたのか!!―

 

 

…人を切ってはならない…僕たち魔戒騎士の掟の一つにある

 

でもねノーヴェさんにあんな酷いことをしたコイツだけは許さない

 

 

オウガを握る手に力を込め刃を当て切ろうとした瞬間誰かに手を捕まれた

 

 

「やめてタカヤ…アタシなら大丈夫だから、何もされてな…」

 

 

「何で止めるんですか!コイツはノーヴェさんにあんな事したんですよ!!」

 

「タカヤ!タカヤの手に握る剣は人を襲うホラーを斬る為のだろ?お願いだから斬らないで…アタシははタカヤが助けに来てくれたからいいんだ」

 

 

僕のコートを羽織ったまま背中からオウガを握る手に優しく重ねられた手から伝わる震えと体温、鼓動で頭がやっと冷えオウガを首筋からはなした

 

 

「……人を切ってはならないを破る所でした…止めてくれてありがとう」

 

 

 

「…あ、ああ別にいいんだよ…あのさタカヤ、どうやって此所がわかったんだ?AMFが張ってあるみたいだし…」

 

 

「そ、それはノーヴェさんの匂いと心臓の鼓動を頼りに来たんです…これを使ってですけど」

 

 

背を向け頭にある耳と鼻を指差した犬耳が可愛らしく動くの見たノーヴェはお腹を押さえ笑いだした…しかしそんな時は長くは続かなかった

 

 

「ふ、ふざけんなあ、その女は私のものだあああああああ!!」

 

 

「なっ!」

 

 

―気をつけろタカヤすごい邪気を感じる!!―

 

 

ふらふらと立ち上がりながらポケットから古びた剣十字型の剣?を取りだし迷わず右腕へ突き刺した瞬間ゲートが開き邪気が溢れだした

 

 

――――――――

――――――

 

 

私があの男とあったのは一ヶ月前、何時ものようにノーヴェ・ナカジマの盗撮をしていた私の背後に顔が隠れるほどのフードを被り黒く輝く籠手を右腕から覗かせ立っていた

 

 

―あの女を自分のものにしたいか?ならこれをお前に渡そう―

 

 

なにかを投げ渡され受けとると古い作りの剣十字型の手のひらに収まる程の剣 さらに最近ノーヴェ・ナカジマの側にいるガキ…タカヤ・アキツキと四年前の事についても教えてもらった

 

―その剣はかすり傷を与えれば意識を奪い昏睡状態に出来る…―

 

 

 

つまり好き放題出来るわけだ…これでノーヴェ・ナカジマを私のモノにすることが出来る

 

だがなぜここまでしてくれるんだと聞いたら

 

 

―アキツキの血を闇に堕とすタメだ…四年前は――――がしくじったからな…―

 

忌々しいと言わんばかり怒気を込めた言葉を最後に姿が消え驚いたがな

 

それから準備を進め今日行動に移し一つになろうとした時あのガキが邪魔しにきゃがった

 

 

ガキの癖になんで強いんだ!うずくまりながら見えたのはガキの背中から抱きしめるノーヴェ・ナカジマの姿にどす黒いなにかが沸き立つ

 

くそ、このガキを殺してノーヴェ・ナカジマを私のモノに…

 

 

―ハノホンナヲモモニシチイカ?―

 

誰だ!

 

 

―モモニシチイカ?ハラホレトキイヤクシロ、フウスレバ、ハノホンナハヌマエノモムヅ―

 

 

ノーヴェ・ナカジマを私のモノにすることが出来るなら契約してやる!

 

 

―フカロウ、ラレヌイカタカヲ!―

 

 

右手に突き刺した剣から溢れる力に身を任せ身体が変貌するのを見届けどす黒い感情が支配する

 

 

ノーヴェ・ナカジマを骨の髄までしゃぶりつくして食べて一つになってやる

 

 

だが今は目の前にいる魔戒騎士を倒さないとな

――――――――――

―――――――

 

 

 

「あ、あれはホラー!」

 

 

―気を付けろタカヤ!ヤツは上級ホラー『カプリコーン』だ―

 

 

『―――――――――――――!』

 

 

頭に巻き角をつけ筋肉で肥大した足を持ったカプリコーンが姿を顕すと僕はノーヴェさんが着る魔法衣から素早く界符と魔導筆を取り出し念じると符が九枚浮かび回りに結界が展開される

 

「ノーヴェさん、其所から動かないでください」

 

 

「わ、わかった!」

 

 

軽く魔導筆を撫でると足元が浮きゆっくりと離れていく

 

「ハアアア!」

 

 

『――――――――』

 

 

互いに駆け出し僕は剣斧をカプリコーンは巻き角を伸ばしぶつけてくる、それを切り払い火花を散らす度にソウルメタルの振動音が教会の礼拝堂に響き渡る

 

「ハアアア!セイ!!」

 

 

巨大な巻き角を切り払いと同時に跳躍し脳天を切ろうとした…突然オウガの剣先が消えた、変わりに右腕に痛みが走る

 

 

「く!」

 

 

目を向けると空間が裂けオウガの剣先が右腕を切っている…まさか空間を操るのか?

 

 

『ヤカヌッイマキイクス(かかったな魔戒騎士)』

 

 

顔を歪める僕に、笑みを浮かべ再び角を伸ばしぶつけてくるのを寸前で回避し後ろへ飛び着地する

 

空間を操る、切りかかったら間違いなくさっきみたいに僕に攻撃が来る

 

 

『ホウシタ?スッチガノナイナネワチシガイグズ(どうしたそっちが来ないなら私が行くぞ)』

 

 

再び巻き角を伸ばした…が先端が消えている、まさかと思った瞬間左右から襲いかかってくる、それを地を蹴りかわし再び間合いをつめ剣斧を正面に構える

 

 

『ハヌイナ(甘いな)』

 

 

踏み込みと同時に胴を横凪ぎに斬った…手応えがないと感じた時、背中に鈍い衝撃が加わり壁へ打ち付けられるがなんとか立ち上がると跳躍しながらこちらをうかがっている

 

 

―野郎、近づいたら跳躍してかわし致命傷になる攻撃は空間を操ってかわすか…どうする!―

 

 

「……キリク、少し試したいことがあるんだ……白竜!」

 

―キュイイイ!―

 

 

穴が開いた天井から鋼色の体躯を持った小さな二足歩行の魔導具、白竜が姿を顕し高密度に圧縮された魔導火を打ち出しカプリコーンに攻撃を仕掛ける

 

 

『ヤヤイヒュコマカチ!(ええい、ちょこまかと!)』

 

―キュ!キュイイイ!!―

カプリコーンの動きを牽制する白竜を見ながら魔導筆を構え無地の界符八枚を素早く穂先で撫で赤、青、黄色の界符が出来たのを見て懐にしまう

 

 

『ムラムラムラムラムラ!(無駄無駄無駄無駄!)!』

 

 

―クュ~!?―

 

 

牽制しながら動き回っていた白竜を掴み壁へ叩きつけると巻き角を空間を操って死角から正面へタカヤめがけつきだしてくる

 

 

「ハァ!」

 

 

それを最小限の動きで身体を捻りかわしながら滑るように移動しながら角に魔導筆を当てていく

 

 

『ヌン、フンナフウグキキカヌ…ホレデオワリヌ(ふん、そんな攻撃効かんな…これで終わりにする)!』

 

再び巻き角を空間へ入れ今度はランダムでありとあらゆる死角から出現させ襲いかかってくる、だがタカヤは動こうとしない

 

 

「タカヤ!」

 

 

ノーヴェの叫びにも似た声が礼拝堂に響き渡る、同時に目をかっと見開き先程作り出した界符を素早く展開魔導筆を振るう、無数の魔導文字がつきだされた巻き角に絡み付く

 

 

『フヌホンヌムム………!フダクヌイ(ふん、こんなもの……砕けない)!!』

 

 

赤、青、黄色の鎖上に展開し巻き付いた魔導文字を振りほどこうとする度にさらに強く絡まっていく

 

 

「魔導八卦符、重縛符!」

 

魔導筆を収めながら剣斧を構え叫ぶ…重縛符は力を入れる度に重くなる【重符】相手を絡めとる【縛符】それらを効率よく発動させる【発符】で構成されている、カプリコーンの空間転移攻撃は一度転移させたものを入れたままにしておくと攻撃ができない事に気付き組上げた術式を功を奏したのだった

 

 

『グ、フゴケヌ(ぐ、動けない!)!』

 

 

空間転移させた角が動かず悶えるカプリコーンにゆっくりと歩み寄り素早く真円を描き光が降り注ぎ召喚された白金の鎧に包まれたタカヤ…白煌騎士オウガが姿を顕した

 

 

 

『あなたの歪んだ陰我、僕が断ち切る!!』

 

 

地を蹴り礼拝堂に置かれた椅子が宙を舞い、身体を捻り横凪ぎに切り裂いたかに見えたが寸前身体を浮かしニヤリと笑うが返す剣で真っ二つに切り裂かれ爆散したのを見届け鎧を返還しそのままノーヴェの元へ向かう

 

 

「ふう、終わりました…ってノーヴェさん?」

 

 

「ごめん、少しの間こうさせてくれ…お願い」

 

 

いきなり抱き締められ離そうとするが身体が震えてるのを感じた

 

 

やっぱり僕がもっと速く来ればこんな怖い思いをさせずに済んだはずなのに

 

「ごめんね。ノーヴェさ…」

 

「タカヤ殿!ノーヴェが見っかったとカーン殿から連絡を受けたんだが」

 

 

「なんかお邪魔みたいだったッスね~」

 

 

「あはは、先越されちゃったかな」

 

 

そこにカーンから連絡を受け駆けつけたチンク、ディエチ、ウェンディが現れ少し場が明るくなろうとしたた空気が、下卑た笑い声と共に破られた

 

 

『フヒャッハハハ、ガキ~よくも邪魔してくれたな……』

 

 

顔が半分に切り裂かれ無惨な姿になったカプリコーンの首がフワフワ浮かんでいるのをみて驚くチンクさん達とノーヴェさんを守るように剣斧を構える

 

 

『いい…こと…教えてやるぜ…そこにいる女たちはな…戦闘機人だ、言ってる意味わかるよな~なんせ今まで守ってきたのが四年前のJS事件で手前の父親を殺した戦闘機人と同類なんだからな~』

 

「「「「「「!」」」」」」

 

 

『…苦しめガキ、魔戒騎士……ヒャッハハハハ~ガ、ガアアアアアアアア………』

 

 

その言葉を最後に崩れ落ちるように魔導文字を散らしながら消滅するカプリコーンに唖然と為りながらノーヴェはタカヤの様子がおかしい事に気づく

 

 

「………………………………う、嘘ですよね、…ノーヴェさん達が戦闘機人だなんて嘘ですよね…」

 

 

「あ、あのタカヤ…それは………」

 

 

「嘘だって…言ってくださいよ…答えてくださいノーヴェさん…答えてよ!!」

 

顔を俯かせ絞り出すように大きな声で聞いてくるタカヤに何もいえなかった…でもいえばすべてが壊れてしまう気がする

 

 

 

「………う、うぐ…ひっく…キリク」

 

 

―わかった………―

 

眼鏡を外しかざすと光が走った瞬間長方形の空間ができ迷わずその中へ潜るタカヤの肩を掴もうとした…でも空しく切りやがて完全に閉じ消え去った。『四年前、タカヤの父親をアタシ達が殺した』…一体どういう事なんだよ

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

???

 

 

「うわああああああああ!」

 

 

雨が降りしきる無人の山中に叫びがこだまする度に木々が凪ぎ払われ地響きを立て倒れていく

 

 

木々を切りつけ凪ぎ払い倒したのは一人の少年…タカヤ・アキツキ。その瞳からは涙が溢れるがただひたすら切り払うが泥濘に足を取られ大の字に倒れ顔に雨が当たる

 

 

「なんで、なんで…僕はノーヴェさん達と会ってしまったんだろう…」

 

ふらふら立ち上がり力任せに剣斧を振り回し木々をなぎ倒すを繰り返すうちにやがて力がつき始め近くの洞窟に身を投げ出し死んだように眠りについた

 

 

―――――――――

―――――――――

 

 

『ヒヒヒ、マキイクスガアミニオツルホキハレラガオウガユミガユル!』

 

 

『ホニンマキスツビイシタガ……スビテハホノ【アルター】クイノキイホリドウリド!』

 

 

闇に無数の声がざわめく中、フードを深々とを被った人物が大きく両手を掲げ辺りに偉業の影が現れ歓喜の声が響き渡った

 

 

第十三話 陰我

 

 




キリク

―驚愕の真実を聞きノーヴェの前から魔界道を使い姿を消し心を荒れ狂わせ雨が降りしきるなか剣を振るい闇に叫ぶタカヤ!

セイン、ディード、オットーから語られた真実を知り深く傷つくノーヴェ達の前に新たなホラーが姿を顕す!


何、行きたくないだと!?タカヤお前!!


次回! 心滅(一)!!



破滅の足音が迫る!!



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第十三・五話 陰我~心滅(改)

千年前

 

 

秋月オウガ、白煌騎士オウガが異世界へ旅立ち八十年余りが経ったある日。三人の老人が元老院へと呼び出され謁見の間に現れた神官の前に片膝をついた

 

 

第十三.五話 陰我~心滅

 

 

「…我々を呼び出したのはなんでしょうか」

 

 

「…今日はあなたたちにお願いがあって呼びました。八十年前、この世界より十三体のホラーと王を追い彼方の世界へ向かった騎士を覚えていますか」

 

 

「はい」

 

 

「儂等の戦友、秋月オウガ」

 

 

「彼を一日足りと忘れた事はない」

 

齢九十を過ぎた筈なのに背筋は伸び眼光は鋭く輝く三人を見て神官は本題を切り出した

 

 

「あなたたち三人に異世界へ旅立った秋月オウガの血を引く者を深い闇から助けてほしいのです」

 

 

「オウガの子孫を?」「まさか!」

 

 

「闇に堕ちるというのか…あり得ん」

 

 

「…残念ながら事実なのです…これを」

 

 

目を向けた先には心を失い闇へ堕ちた漆黒の巨大な狼が雄叫びをあげる姿、思わず立ち上がる三人を手で制止する

 

 

「我らを彼方の世界へお送りください!」

 

 

「落ち着きなさい、今のは先の未来で起こる予知ですが彼の地にいるホラーは力を増しオウガの血を引く魔戒騎士も彼らの王の奸計にはまり闇に堕ちる可能性があります」

 

 

「先の未来?では尚更我らが行かなければなりません!」

 

 

「…剣と鎧、魔導具もないあなたたちではオウガの血を引く者を止めることは不可能です」

 

 

「…例え魔導具、魔戒剣、鎧がなくとも可能性が僅かでもあるなら僕たちは諦めない…」

 

「いくぞレイジ、ジロウ」

 

 

一人の老人の言葉にうなずき三人は立ち上がり去ろうとする

 

 

「待ちなさい、行けば二度とこの世界に戻ることは出来ないのですよ?それでもあなたたちは行くというのですか?」

 

「…無論だ」

 

 

「友の血を引く者の危機を見過ごすことはできん」

 

 

「例え戻ることは出来なくとも僕達はいきます…」

 

 

年老いた三人の瞳から強い意思を感じ神官はあるものを空間から少し大きめの箱を三つ出すと三人の元へ向かわせそれを受け取り開けた老人は驚いた

 

 

自分達が使っていた魔導具、魔戒剣、魔法衣…すでに跡を継ぐ魔戒騎士に渡した物がなぜと疑問に思う三人は自身の姿がかつて秋月オウガを見送った年齢になっていることに驚く

 

「…あなた達の肉体を私の力で若返らせました。コレ等の魔戒剣、魔導具はあなた方が使っていたモノと同じものです…最後にもう一度確認します。大魔導転移陣を使い世界をわたれば二度とこの世界に戻ることは出来ない、それでも行きますか?」

 

 

三人へ問いかけるが強い意思を秘めた目を向けうなずくのを見た神官は最上階へ転移させ巨大な大小様々な魔導文字を円状に展開しゲートを開いた…奇しくもここは八十年前、三人が友を見送った場所であった

 

 

魔法衣に着替えた三人は其々の魔戒剣、魔戒槍を構え真円を描き辺りが光に包まれ狼のうなり声が響き渡り白、紫、蒼の鎧をまとった騎士が姿を現す

 

 

白夜騎士打無(ダン)

 

 

雷鳴騎士刃狼(バロン)

 

 

閃光騎士狼怒(ロード)

 

 

かつて白夜の結界をゲートにし現れ数多の魔戒騎士、魔戒法師、共に戦うホラーを死へ追いやった魔獣レギュレイスとの戦いを生き残った数少ない魔戒騎士…そして魔導馬に跨がり開かれたゲートへと蹄を鳴らし真っ直ぐ火花を散らし駆けていく

 

 

『待っていろ!オウガの血を引く者よ!!』

 

 

『我らは往く!』

 

 

『彼方の世界で一人でホラーと戦いし友の血を引きし者の元へ!』

 

 

長い石畳を駆け抜けながら声をあたりに響かせ突入しやがて消え去るのを見届け

 

「頼みましたよ、四十万ジロウ、山刀ソウマ、布道レイジ…あなたたちに未来があらんことを祈ります」

 

 

 

深く頭を下げ三人と彼方の世界にいる秋月オウガの子孫の行く末を祈った

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

タカヤが魔界道を使いノーヴェの前から姿を消し数時間後

 

 

深夜のベルカ自治領山中、木々が生い茂る無人の場所に光が走り、中から人影が飛び出し地面へ勢いよく突っ込んだ

 

 

 

「うわ!っ痛あああ~!!」

 

『大丈夫かクロウ?』

 

 

「ああ、ったく親父の奴変な場所に送りやがっ…………ここってまさかベルカ自治領か?」

 

 

痛む頭を押さえながら黒鉄色のコート、魔法衣についた泥を手で払い辺りを見回し驚く少年の手首から金属が軋む音がなる

 

 

『みたいだな…ん、魔法衣に何か入ってるぞ?』

 

 

双頭の龍を模した腕輪の龍の顎が声を発すると動き、少年は魔法衣から出したのは赤い封筒…迷わずライター…魔導火で火をつけると宙に魔導文字が浮かびそれを読んだ少年の身体がワナワナと震えだした

 

 

「……しばらくの間ここで修行しろだって!?しかも因りにもよって親父と付き合う数年前の『お袋』がいる時代に送りやがって!!」

 

『確かに不味いな……もし鉢合わせして誰が母親かわかった時には一波乱来そうだぜ?』

 

「……………………鉢合わせしないようすっか…まあ念のためアレを飲も」

 

 

肩を落としながら魔法衣から銀の蓋がついた小さな小瓶を取り迷わず飲み干すと少年の身体に変化が起きる

 

………から黒い色の髪へ瞳の色も……色から黒に変わる

 

 

「これでひと安心。さって晩飯でも取りに行くか……キリク」

 

 

『ああ、だが俺の名前は不味いから変えようぜ』

 

 

「そうだな。まっ飯食ってから考えるか」

 

 

黒鉄色の魔法衣を翻し軽く地を蹴り木に飛び移るとそのまま幹を蹴りながら木々を移動、その姿はやがて消え辺りは静寂に包まれた

 

 

第十三.五話 陰我~心滅

 

 

 

 

 







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第十四話 心滅(一)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



「う、嘘だよな」

 

「…………」

 

「な、なあ…ディード、オットー。嘘だって…嘘だっていえよ!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさいノーヴェお姉さま。ごめんなさい…ッ!」

 

タカヤが姿を消して数時間後、古びた礼拝堂へ来たセイン、ディード、オットーの口から出た真実にあたしは言葉を失い目の前が真っ暗になりながらタカヤからかけられたコートを握りしめる

 

 

なんでだよ、こんなことって…

 

四年前のJS事件であたし達。いやディードとオットーがタカヤの父親の命を奪った事実に言葉を喪い立ち尽くすしかなかった

 

 

第十四話 心滅(一)

 

 

「…少しいいかオットー、ディード。『見ているしかできなかった』とはどういう意味だ?」

 

「え?」

 

さっきの話からして妙な違和感を感じディードとオットーに尋ねる

 

四年前、スバルのIS『振動破砕』でダメージを受け治療中でその場に私は居なかったが、二人の口から語られた会話には明らかな違和感、まるで記憶を操作されたようなのを感じ取るがそれよりもノーヴェの様子が気に掛かる

 

「…じゃあタカヤはあたしを…殺しに…」

 

「しっかりしろノーヴェ!タカヤ殿はそのようなことを考えてはいないはずだ!!とりあえずここから出よう、詳しい話はそ「おやおやどこに行くんですか。魔戒騎士の父親を殺した戦闘機人達?」…誰だ!」

 

声がしたほうへ振り向くと赤いスーツにシルクハットを深々と被るいやらしい笑みを浮かべる初老の男が立ち私たちを見ている

 

「おまえは誰だ!」

 

「セイン、ウェンディ、ディード、ディエチ。ノーヴェを!」

 

 

「わかったよチンク姉!」

 

「はい!」

 

顔をうつむかせ何かをつぶやくノーヴェを守るように立つ私たちにゆっくりと近づくコイツからは得体の知れないものを感じる

 

「微笑ましい姉妹愛ですねぇ~紹介が遅れました私の名は『エアリーズ』と言います。まあ、そんなことはどうでもいいっか、私の目的は王の末裔とあなた方なんですから」

 

身構える私たちにスッと手を顔の近くまであげ指をならし乾いた音が響いた瞬間空間が裂け気絶したアインハルト、ヴィヴィオがバインドらしい光に縛られ浮かぶ姿に気を取られた私達に急な脱力感と眩暈に襲う

 

「う、なぜヴィヴィオとアインハルトが……」

 

「ふふふ、あなた方には忌々しいアキツキの血を闇に落とす為の餌に使わせてもらいます…四年前に私が仕…そこ…た…魔…騎…を…暗黒騎士に…」

 

 

途切れと切れの声と暗黒騎士と言うのを聞いたのを最後に私は完全に意識が途絶えた

 

―――――――

――――――

 

ある深い森の中の一画で切り裂かれ砕かれた無数の大木が辺り一帯散らばるという異様な光景が広がるその中心に何かが動く

 

 

「ハアッ…ハアッ!」

 

 

黒を基調とした服を泥だらけにした少年が変わった剣を片手に握り息を荒くしながら大の字に倒れている

先程まで降り続いた雨が止みスウっと月明かりが辺りを照らされた顔には涙を何度も拭ったのか赤く腫れていた

 

「ウ、ウワアアアア!!」

 

 

ふらふら立ち上がるや否や地を蹴り大木へ切り掛かる少年…タカヤの心は嵐のように荒れ狂い力任せに剣斧を振るい切り裂くたびにソウルメタルは重さを増し体力を奪っていく

 

ソウルメタルは持つ者の心に応じて重量を増し時に羽毛のように軽くなる

 

今のタカヤはホラーカプリコーンの口から語られた真実

 

―おまえが守ってる奴らはな父親を殺した戦闘機人だ―

 

その言葉がタカヤの心にあった深い傷に塩を塗りこむかのように響く度に剣を振るう姿は痛々しすぎた

 

「うあっ?」

 

ぬかるみに足を滑らせ俯せに倒れやがて押し殺したような泣き声が辺りに響いた

 

「…ヒグッ…僕は…」

 

手にしっかり握られた剣斧オウガへ目を向けるがソウルメタル製の刃には自分の顔が映りこむ

 

《(くそ、オレは何も出来ないのか?)ッ!タカヤ、ホラーの気配だ。ノーヴェ達とアインハルト、ヴィヴィオも攫わ…》

 

 

「…いかない」

 

 

《な?今なんて言ったタカヤ!》

 

 

「父さんを、僕の父さんを殺した心のない戦闘機人なんか…助けに行くもんかあああ!」

 

タカヤの口から信じられない言葉が辺りに響いたその時、手に握られた剣斧が光りタカヤを包み込みその場から消えた次の瞬間風景がガラリと変わる

 

真っ白な広大な空間に大小無数の魔導文字が流れる場所にタカヤは見覚えがあった

 

「此処は…『内なる魔界』?なんで…!」

 

魔法衣が無ければ通じない筈なのに何故と疑問が浮かぶが背後に気配を感じ振り返ると栗色の長い髪を黒ヒモで纏め騎士甲冑を纏い鬼の面をつけた青年に驚く

 

「秋月鷹矢、剣を取れ」

 

「ッ!」

 

淡々と告げるや否や横凪ぎ切り払い、寸前で地を蹴りかわすタカヤは仮面の男から怒りにもにた気を感じとり剣を構える

 

「何故こんなことを!」

 

「何故だと?」

 

地を蹴り間合いをつめ切り掛かるが寸前で受け鐔ぜりあうが押されはじめ突然姿が消える、いや横へ移動し素早く後頭部へ重い蹴りが放たれタカヤは水きり石みたいに跳ねながら地面へ転ぶ

 

「…グッ!ハアアアア!!」

 

立ち上がると同時に地を蹴り再び仮面の男と切り結ぶ、無数の剣檄が火花散らしながら互いに剣を跳ね揚げ空を舞うが拳打を繰り出しふさぎ受け流し体をひねり蹴るが仮面の男も蹴りを放ち鈍い音が内なる魔界に響く

 

「グ!」

 

「ッ!」

 

互いの蹴りが足をとらえ固まるが落ちてきた剣を素早く取り切り結ぶ

 

「秋月鷹矢!お前は何の為に剣を振るう!!」

 

「!そ、それは…あなたには関係ない!」

 

 

「あの者達を守るために剣を振るうのではなかったのか!!」

 

 

青年の声に体をびくっと震わせる

 

「あの人達は戦闘機人だ…父さんを殺した心がない戦闘機械だ…ずっと傍にいて僕をだましてたんだ。助ける価値なんか…」

 

 

「秋月鷹矢!お前は今まで彼女達の何を見てきた!!お前がいうような心のない存在か?彼女達は望んで戦闘機人になったわけではない!!」

 

「!」

 

 

仮面の青年と激しく切り結びながらつばぜり合う僕の頭にさまざま光景が流れる

 

―はじめましてだなタカヤ・アキツキ殿、私はチンク・ナカジマだ―

 

背は小さいけどみんなに慕われるお姉さんなチンクさん

 

―へえ~この子がノーヴェがホの時のタカヤ…呼びづらいからタカヤンって呼んでいいッスか?―

 

会って早々僕に変なあだ名を付けた明るいウェンディさん

 

―あ、いらっしゃいタカヤ君。ノーヴェ~タカヤ君が来たよ~―

 

 

家庭的でナカジマ家に来た僕を優しい笑顔で出迎えてくれたディエチさん

 

 

―はじめましてタカヤ様私はディードです―

 

―僕はオットーって言います―

 

双子の姉妹なのに執事服を着ているオットーさん、丁寧な物腰のディードさん

 

―君がノーヴェのお気に入りか~ねぇねぇどこまでいったの?―

 

明るく笑いながらそう聞くのは聖王協会に勤めるシスターセインさん

 

 

―タカヤ・アキツキ、Stヒルデ魔法学院中等科一年で合ってるな―

 

―タカヤ、あたし達とメシ食いに行くぞ!―

 

―あ、あのさ。今度あたし達の朝練付き合わないか?ほらそうすればトレーニングを兼ねての護衛にもなるしさ。む、無理ならいいんだ―

 

 

最初はぶっきらぼうで怖い印象しかなかったけど、一緒にいるうちに本当は優しくて何かと僕の事を心配してくれるノーヴェさん、カルナージでゴダードさんに初めて負けて泣いてた僕の隣で泣き止むまでいてくれた

 

剣で切り結び殴り蹴りあう度に様々な表情と声が頭の中で響き浮かんだ。戦闘機人は心のない戦闘機械だと僕は聞いていた、でも違った

 

泣いたり笑ったりできる普通の人とまったく変わらない

 

「答えは出たか、秋月鷹矢」

 

「僕は…」

 

 

「…これ以上の言葉は無用、剣でお前の意思を示せ!!」

 

 

そう告げ仮面の青年は腰を軽く沈め剣を鞘へ修め同時に足元にベルカ式を展開、魔力が高密度に高められるのを見てタカヤは驚いた

 

何故なら父ユウキが得意とした必殺の剣「空牙」の構えに戸惑うがタカヤも剣を鞘へ修め同時に魔力を高めながら空牙の型をとる

 

だがタカヤはこの空牙を一度も成功させたことがない、何度も空牙を放とうとすると必ず集束した魔力が霧散してしまうのもだが幼い頃に一度しかみたことがなかったのもあったからだ

 

だがタカヤは目を閉じ強い意志を魔力と共に剣に込める

 

(…僕はもう一度ノーヴェさん達に…だからこの一撃に全てを込める!父さん僕に力を!!)

 

 

やがて互いの魔力が極限に高まり辺りの空気がふるえ二人同時に踏み込み空牙が放たれ辺り一帯に竜巻が巻き起こった

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「ライバ!お袋たちの気配は!!」

 

 

《すまないクロウ、気配が感じられねぇ!結界のなかに逃げられたみたいだ!!》

 

 

「こんな時に親父は何やってんだよ!」

 

 

『落ち着くのだクロウ、それに下手に今の時代に干渉したらクロウの存在g…』

 

 

「んなのわあってるよ!アークエッジ!!」

 

ビルの屋上で夜に染まる街を見ながら黒髪をかき歯軋りする少年クロウを右手首の腕時計型デバイス[アークエッジ]が宥めた所為かクロウはようやく落ち着く

 

「ったくよ…キ、ライバ、なんでお袋は今の時代の親父を好きになったんだよ?」

 

 

《さあな、男と女がくっつく理由は意外と単純なもんだぜ。んで互いに愛し合ってクロウが生まれた訳だ…ん、何かがくるぞ?》

 

左手首に嵌められた双頭の龍が型どられたリングから金属が軋ませ声が響くと同時に白金色の光が闇夜を照らし、蹄音を響かせ魔導馬[白煌]に跨り駆ける白煌騎士オウガが顕れ火花を散らしながら夜の街を風を巻き起こしながら駆け抜ける

 

『キリク、ノーヴェさん達の居場所は?』

 

《………見つけた!タカヤ、魔導八卦符で転移陣を展開しろ。ノーヴェが着ている魔法衣の気配を辿り一気に近くまで転移するぞ!!》

 

界符を八枚正面に展開し魔導筆を時計まわりに素早く三度回し転移陣を開き迷わず光へ駆けると直ぐに界符が燃え尽き陣は消える。その寸前、二つの影が入ったのにタカヤは気付かなかった

 

―――――――――

――――――――

 

『内なる魔界』

「…あれで良かったのか?」

 

「ああでもしなければ憎悪を彼女達に向け絶望に囚われ闇へ墜ちたかもしれません」

 

鬼の面を付けた青年の背後に黒鉄色のコートを纏い長い黒髪を三つ網にした青年が声をかけそれに答える度に何かが割れる音が内なる魔界に響く

 

「…気づかせる為とはいえ親とは辛いものだなユウキ…」

 

「…貴方の力で仮初めの肉体を得られたお陰であの子…タカヤの成長を感じることができました」

 

青年の顔に付いた鬼の面に罅が入り広がりやがて乾いた音と共に地面に落ち顕れたのはタカヤに似た顔が顕になり少し笑顔を浮かべ口を開く

 

「まさか僕が一度見せた空牙を会得するなんて思ってもなかったよ。タカヤ此れからが正念場だよ」

 

「そうだなユウキ、なら我々も急ぎアレを完成させないといけない」

 

 

内なる魔界の中心に光が走り顕れ三十㎝位の両刃の物体に二人の視線が注がれる

 

遥か昔、魔戒騎士秋月オウガ、白煌騎士オウガが王への『切り札』として出立前に元老院から賜ったが度重なる使用と『八代目白煌騎士オウガ』の代で力は失われ現在『内なる魔界』で力を吹き込んでいた

 

「間に合うのでしょうかオウガ様」

 

「…我らの切り札を必ず間に合わせタカヤ、九代目白煌騎士オウガに託さねばならない…」

 

 

「わかっています…僕もやれる限り力を出します」

 

 

互いに無言で頷き魔導筆を構える、すると辺りに金色に輝く龍が姿を顕し流れるような動きで龍に穂先を近づけ撫でると両刃の物体へ光を注ぎこむユウキとオウガ

 

 

両刃の物体はただ何も語らず台座へ納められ次々と力を込められていた

 

 

第十四話 心滅(一)

 

(二)へ続く

 

 

おまけ

 

???

 

「ふう、クロウ無事着いたかな…一応キリクも一緒にいるから大丈夫かな」

 

 

魔導筆を納め呟く、エルトリアに現れたホラーの討滅から帰ってきたばかりのクロウを過去へ送り一息ついた僕の背後の扉が勢いよく開いた

 

 

「お帰り~く~ちゃん!お婆ちゃんと一緒に魔戒法師の…あれく~ちゃん?どこ、どこにいるの!?さてはあの暴力嫁が私のく~ちゃん連れ出したわね!!」

 

黒く長い髪を振り乱し言う母さんの眼前をナニかが風を切り通り抜け壁へ刺さる、見ると銀色に輝くフォークが無数に深々と刺さってる

 

 

「誰が暴力嫁だ!く~はあたしの子供だ!!もう我慢できない今日こそ決着つけてやるメイ!!」

 

 

「望むところよ!暴力嫁!!」

 

 

魔導筆を構えた母さんと――――がBJを纏い殴り蹴りあう度に壁が砕けそのまま外へ飛び出し息つく間もない拳打と蹴打の応酬からくる衝撃波を受け屋敷がガラガラ音を立てて崩れていく…この前直したばかりなのにとため息をつく

 

「おとーさん、おばあちゃんとおかーさんを止めてよ」

 

涙目になりながらヒシッと抱きつく娘の僕譲りの黒髪を撫で安心させると腕時計を正面、未だに屋敷を壊しながら喧嘩する二人にかざした

 

 

「…送るの早まったかな。カーン、アンリミテッドバインディングシールド展開」

 

《わ、わかりました旦那さま!》

 

 

二人の周りに無数のバインディングシールドが展開、無数の鎖が二人の体を拘束し僕は――――を抱くような形いわゆるお姫様抱っこしながら母さんにクロウについて説明するて納得してくれたみたい…いや一人――――が納得してない

 

「なんだよ、あたしに黙って勝手なことしてさ…ひどいよタカヤ」

 

「うっ?ホントごめん…その代わりなんだけどたくさんするから許し」

 

 

「…十回」

 

「さ、さすがにそれは…」

 

「ダメ…」

 

「が、頑張らせていただきます…」

 

目を潤ませ懇願する視線に負けて母さんをバインドから解くとそのまま別宅へ向かい明日はひからびるなと考えながら空を駆けた

 

 

おまけ終わり…?

 

新キャラクター&用語紹介

 

 

クロウ・オーファン

 

年齢(15)

 

性別(男)

 

身長:145㎝

 

体重:55㎏

 

 

タカヤがノーヴェ達の前から姿を消した直後、ベルカ自治領の山中でなぞの光と共に顕れた少年

 

過去へと送られ暫く修業するように言われ憤慨するもこの頃の父親がどんな人物だったか興味があり気付かれないように行動を開始する

 

性格は母親に限りなく似て荒っぽいが優しい。家族は祖母二人、父、母、妹で構成され、祖母からかなり溺愛され愛称は「くーちゃん」と呼ばれ辟易するもまんざらじゃない(婆ちゃんっ子です)

 

 

タカヤが着る魔法衣と酷似したコートを纏い右手首に変わった腕輪型の魔導具ライバ、左手首には腕時計型インテリジェンスデバイス《アークエッジ》を嵌めている

 

外見は『変容の秘薬』をもちい変え(誰が母親かわかった場合一波乱ある為)結婚前の祖父の姓を名乗っている

 

 

魔導具ライバ

 

クロウが持つ魔導具で双頭の龍をかたどったリングでソウルメタル製で作られている

 

本来の魔導具がアクシデントで破損し止むなく仮の身体へ移植された矢先クロウごと過去へ送られるも楽しんでる節がある

 

 

アークエッジ

 

父親が祖父のデバイスと母親のデバイスを参考に制作したインテリジェンスデバイス、クロウが持つある先天技能にあわせ念入り調整され五歳の誕生日プレゼントとして渡された

 

性格は祖父のデバイス人格をベースにしているせいかやや堅いがクロウを立派に支えようと厳しい言葉を投げ掛けることもあるが心配の裏返しで其れをよく―――からかわれる

 

 

魔導具

 

魔導具とは魔戒騎士をサポートする相棒的存在で大きく分けて魔導輪(由緒ある魔戒騎士の家系等が所有している代表的なのが魔戒騎士最高位【黄金騎士牙狼】【閃光騎士狼怒】【白夜騎士打無】)、魔導鏡(【雷鳴騎士刃狼】)、イヤリング型(【灼熱騎士ヤイバ】)、ペンダント型(【銀牙騎士絶狼】)に分類される(【】は所有している騎士)

 

内部には人との共存の可能性を考えるホラーの魂が封入され魔戒騎士にホラー探知、種類等を教えサポートするが「一ヶ月に一度、一日分の命を与える」決まりになっている

 

キリクは六歳のタカヤから『僕と友達になろう』と笑顔で契約してから命を貰う事に対し常に苦しんでいる(何しろ友達になろうと言われたのが初めてだったからのもある)。

ノゴメ

 

魔戒法師が自身の魔導筆、又は魔導具を手元に戻す術。魔戒法師が最初に覚える初歩中の初歩の術だが使いこなせば様々な応用が可能である

 

ピスケス戦では子供になったタカヤが力不足を補うため壁に魔導筆を投げ突き刺し引き寄せる力を利用した

 

牙狼

ガロ

 

 

魔戒騎士最高位「黄金騎士牙狼」の称号は遥か昔魔戒騎士が誕生する前、一匹の黄金の狼が鋭き牙でホラーを切り裂き倒した事から【牙狼】の名が生まれたとも言われている

 

なお牙狼

ガロ

とは旧魔界語で【希望】と言う意味

 

暗黒騎士

 

魔戒騎士が闇に堕ちた姿…ホラーを斬り封印する魔戒騎士と違いホラーを喰らい自らの力とし最強を追い求める存在で魔戒騎士がなってはならない禁断の姿

 

闇の魔導書(メシアが力の一部を現世へ出し姿を変えた本)の力を受け入れなおかつ魔導刻99,9秒を過ぎ肉体を闇に捧げ《心滅獣身》となり己が力で屈服させることで暗黒騎士へと変わる

鎧装着時間も無制限となり材質も《ソウルメタル》から《デスメタル》へ変質する

 

 

鎧を纏う時は魔戒剣ではなく結晶化したデスメタル製のペンダントに軽く息を吹き掛け頭上で真円を描くことで纏われる

 

 

 

 





結界へと突入したタカヤ、しかしその行く手を意外な人物たちがさえぎる!

手が出せず防戦一方のタカヤの前に未来、過去、現在から強力な味方が現れる!!

次回 心滅(二)


来てくれたのか!戦友(友)よ!!


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第十四話 心滅(二)

『キリク、此所は?』

 

《まさか此所は《夢界》か?…だとするとノーヴェ達とヴィヴィオ嬢ちゃん達を拐ったのはあのクソ野郎か!》

 

『あの野郎?』

 

結界を抜けた僕の眼前に広がる薄暗い森の中を駆けながら尋ねるがタイムリミットを感じ手綱を牽き白煌の脚を止めると鎧を返還し辺りを見回すと腐りかけ木々と水から淀んだ空気が漂う場所を歩く

 

《この夢界を操れるのは上級ホラー【エアリーズ】、奴は心…精神、記憶を操作し操るのを得意としてやがんだ。しかも自ら手を汚さず喜びから絶望に染まった人間を見て喜び喰らう最低で厄介な上級ホラーだ!》

 

 

吐き捨てるように言うキリクの声を聞きながら奥へと歩いていく。が、突然身体が空に浮く

 

「うわ!?」

 

あわてて魔導筆を使い穂先に波動を産み出し足元に向け振るうと足場が生まれほっと一息つき足元を見る。底が見えない程の亀裂が広がってる、もし魔導筆を使わなかったらと思うと身震いする

 

《いい忘れたが野郎は幻影も得意だ…》

 

「それを早く言ってよキリク」

 

深くため息をつき辺りを注意し歩く。魔導針(ホラー探知や罠等を探る魔導具)はあの時ノーヴェさんに着せた魔法衣にあるから手元になく、界符もあと数枚しかない

 

でも今は拐われたヴィヴィオとアインハルト、ノーヴェさん達を助けなきゃいけない…それに僕にはやらなきゃいけないことがあるんだ

「…キリク、急ごう」

 

《ああ、一応罠がないかどうか辺りを探っておくぜ》

ソウルメタルが軋む音を聞きながら僕は森の中を駆け抜けていった

 

第十四話 心滅(二)

 

 

「う?……」

 

暗い森から明るい場所へ出て目が眩むがすぐに回復した僕は辺りを見て驚いた…近代的な建物を中心に深い森が広がるその光景に見覚えがあった

 

四年前、父さんが死んだ場所…アインヘリアルに驚いた僕の背後から気配を感じすぐさま地を蹴り離れ無数の光の雨が降り注いだ

 

「僕の攻撃をかわすなんてすごいですね……」

 

「!オ、オットーさん!?」

 

青いボディスーツに黒のジャケットを纏ったオットーさんが淡々と告げた直後光の刃が襲いかかる。それを寸前で剣斧で受け止め切りかかった相手に驚いた

 

「…………………」

 

オットーさんと同じ格好をしたディードさんが無表情で光剣で切り払いながら再び横凪ぎに一閃するけど寸前で上体を反らし上へ跳躍するが目映いばかりの光が襲いかかり咄嗟に界符で防ぎなんとか耐え放たれた方へと目を向けた

 

「…防がれちゃった…」

 

「なんなんッスかあの子は~でもあたし達には勝てないッスよ」

 

「その通りだウェンディ…ディエチ援護を頼む!」

 

「うん、チンク姉」

 

大きな大砲を構えたディエチさんにボードに乗ったウェンディさん、そしてチンクさんが僕に向けて攻撃を仕掛けてくる

 

「や、やめてくださいチンクさん、ウェンディさん、ディエチさん!」

 

「ん?私はお前と会うのはじめてだが」

「他人のそら似じゃないッスか?」

 

「うん、私も君に会うの初めてだよ」

 

「…僕も」

 

「…私もです」

 

《タカヤ!チンク達はどうやらエアリーズの野郎に記憶操作されちまってるみたいだ!》

 

「え?どうすれば元に戻るの!?」

 

《……元に戻すにはエアリーズの野郎を倒すしかかねえ!》

 

僕は背に剣斧を納刀しカーンを起動させ剣形態となったカーンを構えオットーさんが放つ光の雨を弾き剃らし地を蹴る…が何かに躓く、いや何かに脚を捕まれ地面に倒れる。

 

「つかまえた!ディエチ今だよ!!」

 

「うん、オットー、ディード離れて!!」

 

セインさんの声が響くとディエチさんが大きな大砲を構え砲口に光が集まりやがて凄まじいまでの光の奔流が襲いかかり光に包まれるでも再び界符で防ぎしのいだ。でも今ので僕が持つ最後の界符を使いきってしまった

 

「また防ぐとはな…ならこの姉が相手になろう」

 

後ろから風を切り近づく何かの気配を感じ振り返り様大きく切り払った瞬間、激しい光と熱に包まれた

 

「ぐあ!」

 

皮膚を焼く感覚に耐え素早くチンクさんの背後をとりカーンで切り払う…でもあたる寸前で刃先が止まる

 

(…ダ、ダメだ、できない…チンクさん達は…ホラーに記憶を操られてるだけなんだ…)

 

「?何故刃を止める少年…だがその甘さが命取りだ!!」

 

両手にクナイみたいな物体が現れ素早く投げそれを寸前でかわし背後で爆発、その爆風がタカヤを襲い無防備状態で空を舞うのを見てディエチが狙いを定め再び砲撃をする

 

「し、しまっ」

 

光が迫り魔導筆を構えようとする手に痛みが走り落としてしまいダメだだと思ったとき赤い布と鈴の音が目と耳にはいる

 

「ハア!」

 

聞きなれた声に黒く長い髪を揺らし魔法衣姿の母さんが魔導旗と魔導筆を構え背を向け立っていた

 

「…タカヤ…相手の初見の技には注意しなさいと何時もいってたわよね…」

 

「…何故母さんが此所に!」

 

「…今はあの子達を止めるわよ…」

 

淡々と告げながら僕の手にナニか握らせる…見るとさっき落とした魔導筆と何種類かの界符。ハッとし顔を見るけどその表情はいつもと同じだった

 

「これで二対六ね(少し厳しいわね…地中に潜ってる子はアレを配置したから問題はない。でもあの赤髪女がいないからまだましと考えた方がいいかしら)」

 

「ふ、二人に増えたからってあたし達には勝てないッスよ!!」

 

「その通りだ」

 

「はい」

 

「……(コクリ)」

 

「そうだね」

 

「うん」

 

二対六になったけどまだ不利だ、それにノーヴェさんの姿がない…まさかヴィヴィオ達と一緒に別な場所に囚われてるんじゃ…そう思うと何故かわからないけど焦りが沸き起こる

 

「…そっちから来ないんならあたし達からいくッスよ!ディエチ乗るッス!!」

 

ウェンディさんが操るボードににディエチさんが乗り大きな大砲で僕らに狙いを定めながら加速し向かってくる

 

「なんだか私たちの事を知ってるみたいだけど敵なら仕方ないよね…ごめんね」

 

謝る声と共に構えた大砲からすさまじい熱量を伴った光が僕たちに襲いかかる。

 

「「ハア!」」

 

母さんと一緒に魔導筆で円を描き防ぐ…が背後に気配を感じ振り返る

 

「私たちもいる事を忘れるな!」

 

「……はい」

 

「……行きます」

 

 

両手にクナイを、左手を掲げ光が輝き、光剣を両手に構えチンクさん、ディードさん、オットーさんが砲撃を防ぎ身動きがとれない僕と母さんにあと少しで襲いかかろうしたその時、光が広がり中心から魔導文字が溢れ出すと共に三つの影が現れ放たれた攻撃を切り払ったのは、白を基調とし裾や袖に赤い布の魔法衣、装飾が施された青い魔法衣、黒地に銀が混じった魔法衣を纏い僕よりも歳が上の男性が三人が魔戒剣、魔戒槍を構え立っている

 

 

「ふ~間一髪でしたね」

 

「転移して早々ホラーの気配を感じゲートを抜けたら攻撃されるとはな」

 

「全くだ。其よりもだ、秋月オウガの子孫はお前たちか?」

 

「え?あ、はい。秋月タカヤです」

 

「…秋月メイよ」

 

槍を構えた青年の問いに答えたタカヤ、メイの顔をじっと見る

 

「そうかお前がオウガの子孫秋月タカヤか…ゴルバ、あの者達は一体?」

 

《ソウマ!あの者達はホラーの術で記憶操作されてるようじゃ》

 

《ま、まさかその声。ゴルバじいさんなのか!?》

 

《ボクたちもいるよキリク》

 

《久しぶりだねぇ~キリク》

 

《ウルバ?それにエルヴァ婆さんまで》

 

「エルヴァ、ゴルバ、ウルバ…ま、まさか貴方様達はアキツキ家の伝承にある…白夜騎士打無【山刀ソウマ】、雷鳴騎士刃狼【四十万ジロウ】閃光騎士狼怒【布道レイジ】なのですか!?」

 

母さんの言葉に三人は無言でうなずく姿に僕は驚いた。何故なら名を挙げた騎士の名は先祖【秋月オウガ】の盟友だからだ、でも千年前に死んでいるはずなのに何故と疑問が浮かび悩んでると

 

 

 

 

「…私たち相手に話す余裕があるとはずいぶんナメられたものだ」

 

 

「そ、そうッスね…ディエチ特大のぶちかますッス!!」

 

「わかった!」

 

「詳しい話は後だ…レイジ、ジロウ、行くぞ!!」

 

「「おう!/うん!」」

 

地を蹴り三人はそれぞれ剣と槍を構え相対する

 

「ボクがあなたの相手をします……えと名前は何て言うんですか?」

 

「私はナンバーズ、No.5《チンク》だ」

 

「…じゃあチンクさん…少し痛いですけど我慢してくださいね」

 

「出来るものならばな!」

 

鞘に納めた魔戒剣とスティンガーが交差し爆発、辺りにソウルメタルからの振動音が響きわたる

 

「俺がお前たちの相手をしてやろう」

 

「……僕たちとですか?……」

 

「…行きます」

 

 

 

オットー、ディードと青い魔法衣姿の青年が鞘に納めた魔戒剣を肩に担ぎ降り注ぐ光の雨【レイストーム】を素早くまるで某コーヒーにうるさいウルフェン族みたいに動き間合いを積める

 

「二対一か…だが相手にとって不足はない」

 

「な、あたし達に勝てると思ってるんッスか!」

 

「ウェンディ落ち着いて…でもあの人相当強いよ」

 

「話はすんだか?」

 

少し苛ついた感がある言葉にウェンディはカチンときた

 

「もう怒ったッス!ディエチ!アイツをけちょんけちょんにしてやるッスよ!!」

 

 

 

「う、うん…ご、ごめんなさい」

 

 

ウェンディの怒りに驚きながらもイノーメスカノンを構えソウマに狙いをつけるディエチ。三人の魔戒騎士達の戦いが始まるなか

 

 

「ま、まずい…あの三人ってかなり強いよ…って何これええええ!?」

ディープダイバーで地中に潜航し様子をうかがうセインの身体が突然動かなくなり焦る、よく見ると腕に黄色い札【縛】と旧魔界語で書かれた界符が貼られている

 

「つかまえたわよ。しばらくそこでおとなしくしてなさい」

 

地中で動けないセインに淡々と告げるメイ…タカヤを攻撃から守った際に辺り一体の地中に縛符を大量に沈め罠にかかるのをひたすらに待っていたのだ………だがそれ以上にタカヤの足を掴んだことにかなり怒っていたのだった

 

 

「…この人たちが伝承にある白夜の魔獣を封印し生き残った古の魔戒騎士…」

 

《ああ、アイツらはオウガの仲間で最高の親友…【ザルバ】だ…》

 

 

「行け!オウガの子孫…秋月タカヤ!!」

 

「ここはボクたちに任せて行くんだ!!」

 

「でも…貴方たちは…」

 

「心配は無用だ秋月タカヤ!俺たちも必ずあとから来る!!」

 

 

チンクさん達の攻撃を受け流しながら叫ぶ三人の言葉に迷う

 

「秋月タカヤ。お前は魔戒騎士じゃないのか!」

 

その言葉にハッとなる僕にさらにソウマさんは続ける

 

「…魔戒騎士は守る者の為に剣を振るう…お前の助けを待つ者がいるはずだ!」

 

ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさんの顔が脳裏に浮かび僕はその場から駆け出した…向かう先は三人が囚われている場所。戦いながら界符【索】符で大体の場所を探り当て駆ける僕の眼前に巨大な船が見える

 

 

 

「タカヤ、私も行くわ…」

 

「…いいですよ…母さん…」

 

駆けながら淡々と告げるメイ…でも目からは強い意思を感じタカヤは無言でうなずき勢いを増し駆け出す姿はまるで黒い狼の様だった

 

(待っててヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさん今から助けにいくから!!)

 

(…タカヤ…私はあなたを…)

 

心の中で呟きタカヤとメイが向かう巨大な船…四年前に消滅した【聖王のゆりかご】、そこで二人は本当の真実を知ることになる

 

 

第十四話 心滅(二) 了

 

(三)へ続く

 

 

おまけ

 

「…ラ、ライバ。師匠達ってこの時代からいたのか!?」

 

《まあな、騎士の称号を賜るまで三人から楽しい修行をつけて貰っただっただろ?》

 

 

「あ、あれのどこが楽しい修行だよ!親父の方がまだマシだ!!」

 

 

身震いするクロウの脳裏には様々な修行風景が流れた。巨岩を練習用のソウルメタルの短剣で等身大の魔導馬の彫刻製作、三人同時の組み手、バルチャス、鐘切り、大瓶十個が水で満タンになるまで水汲み、術の訓練、秘薬と魔導具製作等々三人と父親から鍛え上げられていた

 

 

《その楽しい修行のお陰で強くなっただろ?》

 

「そ、そうだけどさ…でも親父って女にかなりモテてたんだな…」

 

《ああ。そういやクロウ、アミタ嬢ちゃんとキリエ嬢ちゃんどちらが好みだ?》

 

「な、何言いやがる!アミタとキリエは友達だから!!そんな風に考えたこともないし…」

 

(《ヤレヤレ…こういうトコは似ちまったな…近いうちアミタ嬢ちゃんとキリエ嬢ちゃんが遊び来るっていってたからな…メイやアイツに会ったら一波乱きそうだぜ》)

 

 

突如エルトリアに現れたホラーに対して紫天の書に記されたホラーを倒す存在【魔戒騎士】の記述を頼りにユーリ嬢ちゃんがクロウを召喚した(まあ現れたホラーは王に比べ弱かったがな)…でも転移先がアミタ嬢ちゃんの胸だったのは驚いたぜ

 

―な、何をするんですか~~!!――――

 

―ぐ、くはあああ!?―

 

顔を真っ赤にしたアミタ嬢ちゃんにおもいっきりぶん殴られ空を舞う姿にわらっちまったけどな、あとキリエ嬢ちゃんからは色々迫られてたな

 

―クロちゃ~ん。私と一緒に寝ましょ―

 

―だ、誰が寝るかあああああ!?―

 

逃げようとしたクロウにバインドかけて無理やり抱き枕にしてたからなキリエの奴は

 

 

「と、とにかく親父とお祖母ちゃんの跡つけるぞ」

 

 

 

《ああ、一応界符【隠】符使えよ》

 

「わかったよ…えい!」

 

界符【隠】符を数枚取りだし魔導筆で軽く撫でると空へ舞い光ると姿が消えた

 

 

おまけ終わり(エルトリアでの話はいつか明らかに)

 

新キャラクター紹介!

 

山刀ソウマ

 

年齢(17)

 

身長(170㎝)

 

体重(65㎏)

 

 

千年前、タカヤとメイの先祖[秋月オウガ]と共に白夜の魔獣レギュレイスを封印した白夜騎士打無(ダン)。オウガとは親友であり幼き頃からジロウ、レイジと共に魔戒騎士となるべく互いに切磋琢磨し修行に明け暮れながら競い励まし合い四人揃って見事騎士となった。しばらくして起こった白夜の魔獣【レギュレイス】との戦いにおいてレギュレイスを封印し【白夜騎士】の称号を得た

 

遥か彼方の世界へ逃れたホラーの王を一人追いかける命を受けた秋月オウガと【陰我消滅の晩】に四人で酒を酌み交わした次の日、異世界へ旅立つオウガを三人で見送った

 

そして八十年後、元老院に呼び出されオウガの子孫が闇へ落ちると告げられ年老いてるのに関わらず迷わず助けに向かおうと決め「二度と戻る事ができない」と言われてもその意思は変わらなかった(原典の白夜騎士ダン、山刀翼に外見が似ています)

 

 

 

使う魔戒槍は白地に金の装飾が施され刃は内部に収納され任意に出すことができる

 

 

布道レイジ

 

年齢(16)

 

身長(175㎝)

 

体重(65㎏)

 

 

親友であるオウガと共に白夜の魔獣レギュレイスとの戦いを生き残った魔戒騎士【閃光騎士狼怒】の称号を受け継ぐレイジは魔戒騎士、法師の優れた才能の持ち主でオウガに法師の技と術の全てを伝授しオウガの戦いに合わせた魔戒剣斧をソウマとジロウと共に産み出し手渡した

 

その時オウガは深く感謝し以降愛用し子孫、歴代白煌騎士に受け継がれることになった

 

レイジの外見は黒地に銀が混じったコートを纏い両刃に直刀、黒鞘の魔戒剣を携える出で立ちで容姿と性格は原典の布道レオと同じ

 

ソウマ、ジロウと共にオウガの子孫を助けるため異世界【ミッドチルダ】へと向かった

 

 

 

四十万ジロウ

 

年齢(17)

 

身長(175㎝)

 

体重(70㎏)

 

 

雷鳴騎士刃狼の称号をもつ魔戒騎士でオウガ、ソウマ、レイジとは幼い頃からの親友で白夜の魔獣レギュレイスとの戦いにおいて生き残った魔戒騎士

 

オウガとは剣を指導する一方、オウガの戦いに合わせた魔戒剣【魔戒剣斧】を作り出すためレイジ、ソウマと共に日々鍛練し様々な意見を出しながら本人には内緒で三人で作り出し(剣の鍛練からオウガの癖など適した刃渡りや形状などをジロウとソウマが意見したのをレイジが製作する)オウガに手渡した(容姿と外見は原典の四十万ワタルと同じです)

 

親友であるオウガの子孫の危機に迷わずミッドチルダへ赴くと決め異世界[ミッドチルダ]へ向かった

 




キリク

―古の魔戒騎士達の助勢を受け囚われたアインハルト、ヴィヴィオ、ノーヴェ救出の為先を急ぐタカヤとメイ。魔戒騎士と魔戒法師…子と母の間の深いわだかまりは無くなるのか?三人が囚われている場所へたどり着いたタカヤとメイの前に最大の敵が立ちはだかる―

次回 心滅(三)


―子に伝わる母の想い!!―


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幕間 まゆちゃん日記(一)

今回は幕間です


 

 

○がつ△にち、わたし…まゆ・あきつきはきょうからにっきをつけます。

 

きょうは、く~にいさまといっしょにおうちのちかくのはらっぱでまど~ひつのれんしゅうをしました

 

 

――――――――

―――――――

 

 

「ヤマレ~ヤマレ~~メサオニナ~~ル」

 

「く~にいさま すごいです」

 

魔導筆から無数の蝶を産み出し辺りに舞うのをみた短い黒い髪を風で揺らしながら喜ぶマユ。『く~にいさま』と呼ばれた少年がにこっと笑いそっと頭をなでる

 

「今のは人を笑顔にして元気にする術だ、マユもやってみるか?」

 

「はい、く~にいさま」

 

「じゃあマユ。魔導筆を構えてオレと動きを合わせて…あと想いを込めて」

 

「おもい?」

 

「ん~マユにはまだわからないか………じゃあ大好きな人、親父やお袋、おばあちゃんを元気にしたいって念じてみて…」

 

 

 

 

「は~い!」

 

―――――――――

――――――――

 

く~にいさまはまゆとおなじたかさにまでしゃがむと手をそえてなんどかまど~ひつをうごかしてじゅつができるようになりました

さっそくおと~さん、おか~さん、おば~ちゃんのまえでみせたら……

 

――――――――

――――――

 

 

「マユちゃ~ん、すごくうまくできたわね~将来は立派な魔戒法師になれるわ~」

 

マユをギュッと抱きしめるメイ…でも骨がミシミシ鳴る音が聞こえあわてて母親が引き剥がし文句を言う

 

「………マユは私のあとを継ぐ魔戒法師になるの!」

 

 

「―――!――――――!!」

 

 

………おばあちゃんとおか~さんがけんかするたびにおうちがガラガラくずれていきます

 

 

「はあ。カーン、アンリミテット・バィンディングシールド展開!」

 

『は、はい旦那様!』

 

 

おと~さんがバインドをかけておか~さんをだきかかえていなくなったつぎのひの朝、おか~さんがはだをつやつやさせておと~さんがなんかやつれてます

 

 

 

く~にいさまになんでってきくと

 

「…………いつものことだ…(この万年新婚バカップル)」

 

しかおしえてくれません。

キリクにきいたんだけど

 

《なんだマユ?タカヤがなんでひからびてるかって?それはなあ朝までたっぷり搾りと……ってメイ魔導筆をオレに向けるな!》

 

「キリク、私の大事なマユにナニを教えようとしてるのかしら?そうだ、久しぶりに私が修繕してあげるわ」

 

《よせ、よせ、よせ、よせ!お前がいじると大変なことに…た、助けてくれマユ~~~~~~!?》

 

にっこり笑ったおばあちゃんがキリクをどこかへつれていってしばらくしてとおくから悲鳴がきこえて帰ってきたキリクがガタガタふるえてました

 

…まゆが聞いちゃいけないことだったのかな

 

○がつ△にち はれ

 

く~にいさまが過去のせかい?にいってしばらくたった日の朝でした

おばあちゃんと『旧まかいご』と『あんでっと語』のよみかたをおそわってるときゅうにかいしゃからよびだしをうけたおばあちゃんは『ごめんね』をなんどもいって出かけたので、マユははらっぱでまど~ひつのれんしゅうしているとまぶしいひかりにつつまれて二人のおねえちゃんがあらわれました

 

――――――

―――――

 

「ここがクロウさんの世界…はじめましてマユちゃん。わたしはアミティエ・フローリアンっていいます!」

 

「私はキリエ・フローリアンよ♪あなたがクロウちゃんの妹なのね~う~んかわいい♪」

 

――――――――

―――――――

 

く~にいさまがマカイキシのしゅぎょうをおわったひによばれたエルトリア?でおともだちになったってきいてまゆはおうちに案内しました

 

 

でもお仕事からかえってきたおか~さんとおばあちゃんの様子が少しへんです…

 

「ふふふ、元気がいいわねアミティエさん…(さて、く~ちゃんに相応しいか見極めさせてもらおうかしらアミティエ)」

 

「はい、元気と気合いと根性は誰にも負けませんよお義祖母様!」

 

 

アミタおねえちゃんとおばあちゃんがすごくいい笑顔で組手していると、キリエおねえちゃんがく~にいさまのおへやにはいってベッドにあるまくらをかおをうずめだきしめてるのをみたおか~さんがすごくおこって大喧嘩になってしまいました

 

 

……お願いく~にいさま。はやくかえってきてアミタおねえちゃん達をとめて。でないとおうちがなくなちゃうよう

 

 

まゆちゃん日記 続くかな?

 

新キャラクター紹介

 

 

マユ

 

年齢 五歳

 

クロウの妹で魔戒法師見習い。祖母と母からかなり溺愛されているが一番大好きなのは《く~にいさま》(クロウのこと)。

 

 

簡単な術を教わったり絵本を読んでくれたりするクロウのうしろをついてく姿に鼻血を出す祖母と母の姿を見て泣き出すことも

 

 

エルトリアから帰ってすぐに過去の世界へ向かったクロウに会えない日々を送っていたがアミタとキリエが来てから寂しさはなくなった模様

 

 

好きなこと

 

法術を覚えるのと白竜弐式と遊ぶことだよ

 

 

好きな食べ物

 

お父さんが作るプリンと手作りシチュー♪

 

 

嫌いな食べ物

 

ないよ

 

 

嫌いなこと

 

……おかあさんとおばあちゃんが喧嘩しておうちを壊すこと

 

 

く~にいさまが帰ってこないこと…

 

 

 




次回から本編に戻ります


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第十四話 心滅(三)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



「ハアッ!」

 

魔導筆で素早く円を描き正面の頑丈な扉へ魔導文字作られた無数の槍状の波動を飛ばす。轟音と共に砕け迷わず中へと進んだとき凄まじい邪気が溢れだしてきた

 

《エアーリーズの野郎、この船ん中を邪気で満たしやがったな!!》

 

「…タカヤ、少し離れてなさい…」

 

母さんが一歩前に出ると魔導筆を構えながら滑らかで優雅に舞いながら炎…白金に輝く魔導火を辺りに浮遊させ鈴の音を響かせ魔導筆を奮うと邪気が消え去り内部が浄化されていく

 

「…弱い邪気は祓ったわ…強い邪気が集まる場所にヴィヴィオ様、アインハルト様、赤か…ノーヴェ・ナカジマがいる…どうしたのタカヤ」

「…何も…」

 

ただそう告げ急ぐ僕の後ろを黙って母さんがついてくる

 

…母さんが僕の前に姿を見せるようになったのはいつ頃からだろう?

 

あの日、旅行の帰りに次元港であってからだった気がする

 

「………………」

 

「………………」

 

 

互いに言葉を発せず薄明かりに照らされた通路を走る…

 

「…タカヤ」

 

「…何ですか」

 

「……た、鍛練は怠ってないようね…でも動きに無駄が残ってるわ…」

 

 

「……………」

 

「…特に術を放つ時に魔導筆を構えるのが…」

 

「……………………」

 

「…あと剣斧の切り替えを…」

 

「…母さんはいつもそうだ…」

 

「え?」

 

「…剣斧を奮うのに無駄がある、術の発動が遅い…何時も其ればかりしか言わなかった!」

 

 

 

「そ、それは」

 

あの時と変わらない口調に今まで溜まりに溜まった感情が胸の奥から溢れだす

「…父さんが死んでから母さんは毎日、毎日、魔導火、ソウルメタル、界符、旧魔界語、魔界の知識、魔導筆を扱う訓練ばかりで、怪我をしても母さんは何もしなかった…気絶して倒れた僕を介抱して部屋へ運んで怪我を治してくれたのはデルクだけだった!」

 

「違う!」

 

「何が違うんですか!僕を…ホラーを刈る道具としてしか母さんは見なかったんだ!」

 

「タカヤ聞いて!私は…私は!!」

 

第十四話 心滅(三)

 

《いい加減にしないかタカヤ、メイ!喧嘩してる場合か。今は嬢ちゃん達を……不味い強い邪気だ!!》

 

言い争うのをやめ辺りを警戒する二人、魔導火を構え乾いた音と共に照らす

 

 

―シャアアアアア~―

 

魔導火に照らされ黒い布を被った不気味な姿、それも一つじゃない天井、壁、ありとあらゆる場所に張り付きて様々な武器を持ち襲いかかろうとしている

 

「ホラー!?」

 

「ホラーじゃないわ!コイツらは【傭兵】…夢界に残留した強い負の思念がエアリーズの邪気を受けて形となったもの知能は低いけどその戦闘力は高いわ!」

 

魔導筆を構え叫ぶと八卦符を使い術を発動する母さんの背後に火の鳥が舞い群がる傭兵を焼き尽くし僕は剣斧を斧形態に切り替え回転ぎりの要領で凪ぎ払い切り裂かれた【傭兵】は霧散し数を減らしながら前へと互いの背中を守りながら進む

――――――――

―――――――

 

なぜ私はこんなことしか言えないんだろう…ヴィヴィオ様が私たちの親子関係に心痛める姿と突然執務室に現れたある少年の言葉

 

 

―貴女が自分の過去を受け入れない限り、共に前に進めない…【今】を認めてない貴女に息子の想いを背負う決断が出来て居ない―

 

その言葉は私が過去と今と向き合うきっかけを与えてくれた…その直後に新たなホラーの出現を魔導机の魔針盤が反応し向かうと夢界の結界に入るタカヤの姿を見てすぐに追いかけ苦戦する姿に迷わず術を使い防御しあの子達と対峙する私たちの前にアキツキ家に伝わる古の魔戒騎士達の助勢を受け今こうして背を合わせ戦っている…こんなに近くにいるのに私は素直な想いを言葉にして伝えられない

 

次元港で、上級ホラーリブラとの戦いの時も…タカヤと話す機会はあったのに…何で私は何時も素直になれないの

―キシャアアアア!―

 

 

無数の傭兵に向け素早く展開した八卦符数枚を穂先で撫で投げつけ当てる、傭兵は瞬く間に爆散、跡形もなくなりやがて数を減らし少し開けた場所へ出るタカヤとメイが辺りをうかがったとき手を軽く叩く音が響く、それと共に傭兵がかき消すように消えていく

 

「いやいや、よくここまで来ましたね~魔戒騎士に魔戒法師…」

 

「…ヴィヴィオとアインハルト、ノーヴェさんはどこにいるんですか…」

 

「…それを聞いてどうするんですか~ああ君にとって戦闘機人は仇ですからね~何せ四年前に【父親】を剣で刺し貫いた戦闘機人の仲間…ナンバーズを自分の手で…」

 

「違う!僕は…ノーヴェさんに…」

 

「でもまあここまで着たから三人は返してあげますよ……」

パチンと指をならすとエアリーズの居た場所から離れた場所に明かりが光るとBJを纏ったヴィヴィオとアインハルト、タカヤの魔法衣を着たノーヴェが佇んでいる

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェさん!」

 

「……!待ちなさいタカヤ!!」

 

わずかな違和感を感じメイが叫ぶ。タカヤが駆け寄るや否や三人が拳打、蹴りを放ち当たる寸前で右で受けながらバックステップでかわすも腕を押さえる…

 

「…誰だテメェ?きやすくあたしの名前呼ぶんじゃねえよ!」

 

「…魔戒騎士…覇王の強さを証明するのにふさわしい相手ですね…」

 

「…魔戒騎士…わたしのママを返して!」

 

《あの野郎!三人の記憶をいじりやがったな!!》

 

すさまじいまでの速さで繰り出される拳打と蹴打をかわし弾きながら防ぎかわすタカヤを見て界符で援護しょうとするメイ、しかしエアリーズが不適な笑みを浮かべ立ちはだかる

 

 

「ふふふ、貴女の相手は私がしましょうオウガ・アキツキの血を引く魔戒法師…」

 

「く!(不味いわ…今のタカヤは親しい人…守る者を攻撃できない…)」

 

三人がタカヤに襲いかかるのを目にし気持ちが焦る、だがエアリーズはメイの焦りを見透かしたように足刀、回し蹴りから二連撃の蹴りを放ち壁へ吹き飛ばしタカヤと三人から引き離していく

 

「ウッ!」

 

「おやおや、そんなに自分の子が心配ですか?我々を狩るための【道具】にしたてあげた貴女が…」

 

「……」

 

「…貴女のお陰で我々は数を減らされました…さすがは百年前に我々を封印した【魔戒騎士オウル・アキツキ】の孫ですね…子をそういう風に育て鍛え上げろといわれてたんですね~…【道具】として…アハッ!」

 

 

 

「違うわ!」

 

地を蹴るや否や正拳、更に裏拳、軽くジャンプと同時に魔導力を溜めた蹴りを頭めがけ叩き込む

 

「私は、私は…ホラーとの戦いでタカヤに、ユウキみたいに死んでほしくなかった!…もう誰も失いたくなかった!!」

 

「フッフ~その結果が【これ】なんですよ…」

 

メイは最初【ホラーに絶対負けない魔戒騎士】にする為、魔界の知識、祖父譲りの剣技、体術を教えていた。しかし時が過ぎるうちにそのような目で見てしまったのも事実だった

 

「…そうかも知れない…でも!」

 

裏拳がエアリーズの顔面を捉え綺麗に決まり続けて回転回し蹴りと共に魔導力を溜める

 

「…私がタカヤにしてしまったことは変えられない事実だとしても!」

 

 

その足を軸にし空いた足で首を挟むように捻り回転させ地面へ叩きつけると同時に魔導力を流し込み放電しスタンさせた

 

「…それらを全て受け入れて、タカヤに何度も拒絶されても…全力で守る!母として!!」

 

「ガハッ!」

 

あまりの衝撃と流し込まれ魔導力に身体をしびれさせ悶えるエアリーズを息を切らしながら自身の想いを言葉にしながら見下ろした…が異変がおきエアリーズの身体が一枚の札へ変わり砂のように消え去る

 

「まさか、私をタカヤから引き離すために…いけない!!」

 

直ぐ様駆けるが行く手を傭兵達が遮る

 

「そこを退きなさい!ハア!!」

 

無数の八卦符が傭兵達の体に貼り付かせ動きを止め爆発させながらメイは急いだ…今度こそタカヤを守るために

 

 

―――――――――

――――――――

 

「オラアア!」

 

「ぐあ!」

 

ノーヴェ渾身の拳を両腕で交差し防御し踏みとどまるタカヤにアインハルトとヴィヴィオがすかさず蹴りを拳打を放つ…が動きが止まる。見ると三人の身体をバィンディングシールドが縛り上げてる

 

バリアジャケットは破れ装甲にヒビが入りながらタカヤは声をかけた

 

「やめて、ノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルト…」

 

「……だから、あたしの名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!さっさとコレを解きやがれ!!」

 

「そうです、私たちは貴方に会うのははじめてですよ」

 

「わたしもだよ…」

 

 

「僕は知っている…ヴィヴィオはすごく元気で前向きでよく笑って格闘技の練習をがんばる子なんだ。さっきヴィヴィオはママがいないって言ったけどフェイトさんとなのはさんがママなんだ!」

 

 

 

「!わ、わたしにママが二人?…フェイトママ?なのはママ……」

 

「…アインハルトは物静かだけど覇王の記憶を受け継いで、たくさん悩んで一人で苦しんでいた…でも今はヴィヴィオや、ウェズリーさん、ティルミさん、ティオと一緒にインターミドルに向け頑張る素直な子で、あとティオとよく遊んでるのを知ってるよ!」

 

「な、何で…あなたが私の覇王の?…ティオ…アスティオン…」

「…ノーヴェさんは、少しぶっきらぼうで怖い人だって思った…でも、本当は優しくて面倒見がよくてみんなから慕われる優しい人だって…それにすごく甘くていい匂いがするんだ」

 

「な、何言ってやがんだ!あたしは…人じゃねぇ…戦闘機人だ!!」

 

「違う!ノーヴェさんは人だ!!」

 

 

 

「う、うるせぇ!!」

 

バィンディングシールドが破壊され三人は再び襲いかかる…が突然動きが鈍くなったのを感じながらかわしていくタカヤ

 

「いい加減くたばれ!」

 

殴るも寸前でかわされアインハルト、ヴィヴィオの攻撃もタカヤには当たらなかった

 

「…なんでかわされるんですか」

 

「どうして、あたらないの」

「…心が悲鳴をあげているんだ…こんな事をしたくないって」

 

タカヤの言葉を聞いた三人は頬に熱いのを感じ手でさわるとわずかに濡れた感触…瞳から涙が流れている

 

「な、なんなんだよ…あたしに涙…」

 

「…むねが痛いです…」

 

「…すごく苦しい…」

 

「ホラーの術に負けないで!本当の自分を強い意思で取り戻して!!」

 

 

 

頭を押さえ涙を流す三人、心の中では術で産み出された人格と本来の人格が激しくせめぎあっている…奇しくも母メイがエアリーズに重い一撃を与えたのと同時だった

 

 

《タカヤ、俺の口に剣斧を噛ませろ!今なら嬢ちゃんたちの術を解くことができるかも知れねえ!!》

 

「わかった!」

 

素早くキリクを外しフレーム部分、龍の顎を型どった部分が開き剣斧の刃を入れ正面に構え魔導力を流し込みながら思いっきり滑らしソウルメタルの振動音と魔導力の波動からなる音色が三人を包み込む

 

 

―ギイィィィンンン!―

 

 

 

三人の額から黒いモヤ…邪気が姿を変え魔界文字と変わりながら吹き出しやがて消え去った

 

《後は前に教えた【呪詩】を唱えればいい…やり方はわかるな?》

 

「えと確かこうやって…」

邪気が抜け放心状態の三人に近づきそっと抱き寄せ、耳元まで顔を寄せ軽く息を吸い呪詩を唱え始めた

 

「ヌレヌヒテスイヒト、ハリイユメハラヌヲサマスチ…ヒツモノニシスイヒテスイヒテヌムドッチ…ヌレヌヒテスイヒト…」

 

魔導力を込め手から流し優しい口調で呪詩、旧魔界語が紡がれて三人の心へ染み渡っていく中、タカヤの脳裏にあることが思い出された

 

 

―ヌレヌヒテスイヒト、ハリイユメハラヌヲサマスチ…ヒツモノニシスイヒテスイヒテヌムドッチ…ヌレヌヒテスイヒト…―

 

 

 

―おかあさん、その言葉は何て意味なの?―

 

―…この言葉はね『私の愛しい人、悪い夢から目を醒まして…何時もの優しい貴方に戻って…私の愛しい人よ』…って意味なの…―

―いとしいひと?―

 

―タカヤにもいつか見っかるわ…愛しい人【守りし者を守る者】は…あなたが全力で、命をかけて守りたい人は…でも私よりも強い娘じゃないとね…フフフ―

 

父が亡くなる二年前の記憶、母メイの膝で眠る父ユウキを優しい眼差しを向けタカヤの髪を鋤きながら交わされた会話が甦りながら旧魔界語で語り終えると三人の瞳に光が戻った

 

「え?私、今まで何を?」

 

「あれ、なんで私ここに…」

なぜ自分がここにいるかわからないと言う顔をするアインハルト、ヴィヴィオを見てホッとする…がノーヴェだけ目を覚まさず倒れ慌てて抱き止める

 

 

「ノーヴェさん!!…キリク解呪は上手くいったんじゃないの!?」

 

《…俺にもわからね……タカヤ!危ない!!》

 

 

背後から黒い剣が迫り三人を守るように立つタカヤの前に人影がはしり鈍い音が響いた

 

「くっ…うう…」

 

「か、母さん?」

 

黒い剣が魔法衣ごとメイの腹部を突き抜けタカヤの身体に触れるまで後僅かな所で血を滴らせながら止まり乾いた鈴の音と共に魔導筆を手からこぼれ落ちた

 

「…タカヤ、いつも言ってるでしょ…最後…ま…で…気を抜いたらダメ…っ…て…」

 

「か、母さん!」

 

言葉が続かず力無くグラリと倒れるメイを抱き抱え魔導筆で治療しょうとするが焦って落とすも拾いあげ黒い剣を抜き捨て穂先へ想いを込め傷口に向け構えた

 

 

 

――――――――

 

 

―メイ!タカヤを殺す気か!!…まだ十才にもなってないんだぞ!!―

 

―……ヤムレ!!―

 

魔導筆を振るいキリクを眠らせ私は傷つき倒れたタカヤの傍に寄り魔導火を魔導筆の穂先へ移し傷や打ち身だらけの身体に押し当てる

 

―…ごめんね…こんなひどいことをするお母さんで…私をずっと恨んでもいい…でもタカヤはワカチヌツイチナクドム…ワカチヲヒノチニキヌテムクナラズムモッチアグル(私の大事な子供…私の命に変えても必ず守ってあげる)…―

 

 

―――――――

――――――

 

「ヴィヴィオ、アインハルト…母さんとノーヴェさんをお願い」

 

魔導筆から流れ込んできたイメージ。タカヤはこの魔導筆が自分のではなくメイのモノであることに気づくも治療を続けやがて終えるとアインハルトとヴィヴィオにメイを任せるとゆっくりと立ち上がり背後を見る

 

 

 

「あ~あ、まさか魔界法師が魔戒騎士を守るなんてね~四年前からの仕込みが台無しになったじゃないか…」

 

ニヤニヤと笑いながら宙に浮くのはメイと戦っていた筈のエアリーズ…その手には先程の剣が握られ顔をうつむかせたタカヤに対しさらに言葉を続ける

 

「…あの人形達の心を操って四年前、アキツキの名と剣技を使う男を殺そうとしたんですがまさか【魔戒騎士】ではなく【魔戒法師】だったなんてね…あと少しのところで人形にかけた術を解かれ…やむ無く手を下しましたがね…あの時、私の剣が肉を切り裂くのが伝わる感覚は最高でしたよ…食べても良かったんですが生憎男は興味なくてね~」

 

手を下しました…その言葉を聞きゆっくりと顔をあげ怒りと悲しみに満ちた瞳でエアリーズを見る

 

 

「…おやおや~なんですかその目は?まさか仇が人形、戦闘機人ではなく私だったのに驚いたって感じですね~わざわざ【私】が父親を殺した場所を夢界で再現してあげたんですよ…最高だったでしょ!!あの人形達も四年前の記憶に戻したんですよ…貴方のためワザワザね♪」

 

「……………黙れ」

 

ユラリと剣斧を構えた瞬間、姿が消え背後に回り込むヤ否や魔戒斧形態に切り替え大きく振りかぶり力任せに切る

 

「あは!そんな感情に任せた攻撃は当たりませんよ~ハイな!!」

 

「ガアっ!?」

 

声と共に背後にローキックを受けのぞけるが魔戒剣形態に切り替え横凪ぎに斬りかかるが余裕と言わんばかりに手で反らされ逆にボディ、顔に重い拳が叩き込まれ地面へ倒れる

 

 

 

 

「どうしました~貴方の父親の敵はここにいますよ~ア~ハハ♪コッチですよ魔戒騎士♪」

 

《落ち着けタカヤ!怒りに心を支配されるな!!》

 

「ハアッ!セイ!!」

 

「あの人形二体がこの四年間苦しむ姿は最高でした~本当は殺してないのに、まあ私がやった記憶操作もありますけどね…フフ…その苦しむ様はまさに甘美でしたよ…さぞかし美味しいでしょうね…あのノーヴェという女の肉は…」

 

「…だまれえぇぇ!!」

 

――――――――――

―――――――――

 

「…先程の強い邪気を感じたか」

 

「はい、急ぎましょう…嫌な感じがしてなりませんし」

 

「…ジロウ、レイジ、この女たちはどうする?」

 

「はなせ!はなせっす~!!」

 

 

「ウ、ウェンディ…私たち負けたんだから仕方ないよ」

 

術で拘束されたウェンディ、ディエチを抱き抱えた引っ掻き傷だらけのソウマ

 

「…ま、負けた…この姉が…」

 

「…すいませんチンクさん…もしもの時は責任を取ります」

 

申し訳なさそうな顔をし界符で拘束されたチンクに謝るレイジ

 

「なぜ止めを指さないんですか」

 

「僕も知りたいです」

 

「…お前たちから悪意は感じなかった…ただそれだけだ」

 

ディード、オットーを縛符(レイジのと同じもの)で縛りながら話しながらもジロウはタカヤとメイが向かった船と辺りを見る

 

「…連れていくしかないな…邪気が溢れだしつつあるこの場に放置するのは危険すぎるからな」

 

「そうですね…少しだけ僕たちと付き合ってくださいねチンクさん」

 

 

 

「う、うむ///」

 

「暴れるなまな板女!」

 

「誰がまな板女っすか!アレはまな板じゃなく…」

 

「ケ、ケンカはやめてウェンディ!?」

 

「少しだけ付き合ってもらうが構わないか?」

 

「「(コクリ)」」

 

 

三人の魔戒騎士とウェンディ、ディエチ、ディード、オットー、チンク、地中に埋もれたセインと共に船…ゆりかごへと急いだ

 

―――――――

――――――

 

「どこを狙ってるんですか魔戒騎士?」

 

「ぐあ!う、うおおお!!」

 

頭上に真円を描くと同時に光が降りオウガの鎧を纏いタカヤは再び斬りかかりながら突き、横凪ぎ、袈裟斬りする…がエアリーズも羊の巻き角に黒い毛、筋骨隆々な本来の姿へ変わり毛を無数の黒い剣へ変えオウガへなったタカヤを斬りつける

 

 

 

『ガアッ!』

 

『ヒハハハハ、スンナモノズスカマクイクス(アハハハ、そんなものですか魔戒騎士?)』

 

黒い剣を切り払うもその隙を縫い黒く重い蹄で胴体へ掌を当て切り裂く度にソウルメタルが軋み粒子が舞う

 

《タカヤ!時間がないぞ!!》

 

『ウオオ!!』

 

鎧を纏い既に六十秒が過ぎ焦りに似た声をキリクがあげるが怒りにとらわれたタカヤの耳には届かない

 

只あるのは父ユウキの本当の仇、自分を道具として育てた筈の母メイの真実の想い、ノーヴェ達を仇だと思ってしまった自分に対する怒り、四年前にノーヴェ達姉妹の心を操り弄んだエアリーズを倒すしか頭にない

 

『ハアア!』

 

『ガハアア!!』

 

―09.9秒、08.0秒…―

 

怒りに彩られた太刀筋がエアリーズの身体を捉え逆袈裟に切り払い壁に吹き飛ばされ打ち付けられるのを見逃さず魔戒斧形態へ切り替え大きく振りかぶり力任せに袈裟、返して逆袈裟する無数の黒い剣に防がれたその時、魔界にある砂時計が勢いよく弾け飛んだ

 

 

―00.0秒―

 

『ガハッ!』

 

身体をを大きくのぞけらせ辺りに血に似た液体が飛び散り変化が起こり始める

 

『グ、グウウウウ!?』

 

オウガの鎧の腰にある紋章がガコンッと音をたて回り逆位置へかわり胴体が膨れ、次に両腕が鋭利な突起が生え尻尾が伸び狼をもした兜が形状変化と共に白金から闇よりも深い黒へ色が変わり降り立つ

 

 

その姿はあまりにも異形…まるで理性と言う名の鎖から解き放たれた狂暴な獣

魔界の力で産み出されたソウルメタルの鎧を纏った魔戒騎士が現世での召喚限界時間魔導刻99.9秒が過ぎても鎧を返還せず纏い続ける事でなる禁断の姿

 

 

―心滅獣身―

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

巨大な黒い狼へ姿を変え壁を破壊しながらその姿に思わず狂喜するエアリーズ

 

 

 

 

 

『ヤハハハハ!ホレデホウヲヨミグエルホホガデクル!【アルター】スマノクイカクドヌリ…ハトハホホロヲハヤツヨグケ(アハハハ!これで王が甦る事ができる!アルター様の計画通り…あとは心を操りだけだ)』

 

 

心滅獣獣身オウガに術をかけ制御しょうと心を覗いたエアリーズ…だが強い感情に弾き出された

 

―コロス、コイツヲコロス…コロス、コロス、コロス、コロス、コロス―

 

『ハヒィ!ハヒィィィィ!!』

 

強烈な殺意に逃げようとするが素早く掴み吠えながらエアリーズの両腕を軽く握りつぶした

 

『アグバアアアア!?』

 

『グウウウウウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

叫びながら地面へ殴り付けソウルメタルの突起に刺し貫かれ身を焼かれるエアリーズの悲鳴が響き渡る

 

 

 

 

「ん、私は…」

 

「メイさん、タカヤさんが…タカヤさんが!」

 

ヴィヴィオの視線を追い唖然となるメイ…アキツキの伝承にある心滅獣身の姿に身体がガクガクと震える

 

「何でなの、何で【心滅獣身】に…ヴィヴィオさん、アインハルトさん、その子を連れて逃げて!!」

 

立ち上がると魔導筆を構えるメイ…八卦符を数枚展開し止める方法を考える

 

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

『…ハサカ、ハサカアルタースマフ…ホウヌルクトヲ…ヤマシタナアアナ!!(…まさか、まさかアルター様は…こうなる事を…騙したなああ!!)』

 

巨大な腕に殴られソウルメタルに焼かれながら宙を舞いながら叫ぶエアリーズ。その頭を手で掴みあげもがく胴体めがけ巨大な尻尾で刺し貫く。何度も何度も貫き最後に下へと切り裂いた

 

 

『アアアアアアアアアアアア!?』

 

 

叫びが辺りに響かせながら消滅するエアリーズから目を離しメイ達がいる場所に地響きをたてながら歩く心滅獣身オウガは色違いの瞳を輝かせながらやがて地を蹴り弾丸のような速さで襲い掛かる寸前で八卦符で防壁を張るメイ…だが力任せに殴られ亀裂が徐々に入りギシギシと悲鳴をあげ始める

 

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

「ダメ、このままじゃ結界が…」

 

 

《頼む…タカ…ヤの鎧…を解除…して…くれ…タカヤが鎧に喰われ…る…》

 

 

キリクの苦しみに満ちた声と同時に限界を超え障壁が破壊され心滅獣身オウガの拳がメイに迫ろうとしたとき何かが横切った

 

 

「……お祖母ちゃんに何してんだああ!くそ親父いィィィィィ!!!」

 

 

『ウオゥガアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

 

叫び声と共に勢いよく何かに蹴り飛ばされる心滅獣身オウガ。呆気にとられるメイの前には袖を捲った魔法衣に黒く長い髪にアホ毛、タカヤより少し年上の少年が四人を護るように立っている

 

「あ、あなたは?」

 

「…クロウ…クロウ・オーファン…」

 

それだけ告げると立ち上がった心滅獣身オウガを見据える少年の腕辺りで何かが軋みながら文句をいう

 

「キリ…ライバ…ばれなきゃいいから…とにかく親父を止めるぞ!」

 

少し変わった長めの双剣を魔法衣から抜き構えながら呟いた

 

心滅(三)

 

心滅(四)へ続く




キリク
《突然現れ【心滅獣身オウガ】を蹴り飛ばした少年クロウ…正体は気になるが…今はタカヤを助けないと不味い…次回、心滅!(四)…古の三騎士と未来の騎士揃い踏み!!》



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第十四話 心滅(四)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



 

 

「…ライバ、親父の『あの姿』はなんなんだ?」

 

《ありゃ心滅獣身だ!魔戒騎士が魔導刻99.9秒を過ぎても鎧を纏い続け心を失い獣と化した姿だ!!》

 

第十四話 心滅(四)

 

 

「もとに戻す方法はあんのか?」

 

《剣斧オウガで腰にある紋章を突くんだ…だがアレをどうするかだな》

 

ライバが言葉を濁らせ呟く、双剣を構える少年の前には威嚇しながら立ち上がる黒く輝く【心滅獣身オウガ】のユラユラ揺れる尻尾に視線を向けるクロウ

 

「…マジかよ…親父の剣が一体化してやがる。うし、こんな時は…」

 

クロウの目に映ったのは尻尾と融合した剣斧オウガ。その光景に驚きながら魔法衣から無数のトランクケースを取り出しと同時に魔導筆を構え軽く撫でると乾いた金属音が鳴り響きトランクケースが鋼色に輝く二足歩行の号竜?へと姿を変え心滅獣身オウガの回りを跳ねるように動きながら牽制し始めた

 

《キイィィ!キュイイイ!!》

 

「いけ白竜弐式!!」

 

 

心滅獣身オウガの尻尾へ狙いを定めるよう号竜…白竜弐式

びゃくりゅうにしき

に指示を飛ばすクロウ

 

「あ、あの魔導具は布道レイジ様に託された号竜に似ている…それにあの子が着てる魔法衣は…でも…あり得ない…」

 

突然現れた少年

クロウ・オーファン

…夫ユウキの旧姓と同じ事に驚きを隠せなかった。でも今はタカヤを早く心滅獣身から解き放たないと闇に堕ちてしまう

 

それ以上にもう愛する人を誰も失いたくない

 

「ヴィヴィオさん、アインハルト様、この結界から絶対にでないで」

 

「あ、あのメイさんは」

 

「私はタカヤを助けにいきます…この結界に居ればあの子の目を誤魔化せます…」

 

 

 

そう告げ地を蹴りヴィヴィオさん達を結界に残しあの少年…クロウの場所まで駆け隣にたつ

 

「な、なんで来たのさ?おばあちゃん」

 

「?…私はおばあちゃんじゃないわ…貴方が何者か知らないけどタカヤを助けるのに力を貸して」

 

「……(…昔のおばあちゃんってなんか冷たい感じがするなあ~でも親父を心配するときの眼は変わらないな)…いいぜ、俺の白竜弐式が牽制かけっからおばあ…メイさんはサポートたのんだぜ。うりゃ!!」

 

「え?ちょっと待ちなさい!!」

 

言葉を背にしながら地を蹴り滑るように駆けながら白竜弐式を操作しながら圧縮魔導火を放たせる

 

『ウギガアアアアアアア!!』

 

(ゴメン親父!少し熱いけど我慢してくれよ!!)

 

 

無数の魔導火を体に浴び苦しむ心滅獣身オウガ。火が散るなかを駆け抜けその巨体の下をスライディングしながらソウルメタル製の双剣《赤煌双牙剣》を抜き体を捻り尻尾と同化した剣斧オウガの境目を狙い斬ろうとした。寸前で尻尾が向きを変え襲いかかってきゃがった

 

「ウワ?」

 

咄嗟に赤煌双牙剣を交差させ辺りにソウルメタルの振動音を響かせ防ぎながら、両腕が塞がっちまった事に気づく俺に雄叫びをあげながら親父が巨大な腕を振りかぶり踏み込みと共に鋭利なソウルメタルの刺だらけの拳が風を切りながら迫る

 

白竜弐式達を呼び戻そうと目を向けると壁に叩きつけられもがく姿と迫る拳と風を切る音を感じながらダメだと思ったとき無数の界符が正面に展開、魔導文字が無数に広がり拳を押し止める

 

 

 

「ま、まさか、この術って…」

 

「ふう~間一髪間に合って良かったよ…えと君の名前は?」

 

魔導筆を構えた黒地に銀色に輝く魔法衣をまとった少年…布道レイジがクロウに顔を向ける訪ねる…しかし空いた拳で二人に殴りかかろうとする心滅獣身オウガ、青い影が風を切りながら火花を散らしながら剣で受け横凪ぎに切り払う

 

「レイジ、今は話している余裕はない…だがグレス様が言われていたことが現実になってしまったなソウマ」

 

「ああ、だかまだ希望はまだある…オウガの子孫…メイ・アキツキ『魔導剛獣縛』は使えるか?」

 

「え、は、はい使えます!」

 

「なら其れを幾重にも束ね周囲に展開しろ…」

 

白地に赤を基調とした魔法衣に槍を構えた少年『山刀ソウマ』の言葉にうなずくもはじめて同時展開の不安から魔導筆に波動が宿らないのを見て叫んだ

 

 

「迷うなメイ・アキツキ!当代のオウガの血を引くものの母ならば己の子を助けてみろ!強い想い、自分の想いを籠め術を展開しろ!!」

 

「…ッ!は、はい!!」

 

穂先に光が集まり始めるのを見て少し頬を緩めるソウマは心滅獣身オウガに目を向ける

 

「ジロウ、レイジ、あとお前…メイアキツキが術を発動させるまで時間を稼ぐ…どうした?」

 

「…(不味い…師匠たちと会っちまった…ふ、不幸だあああああああ!!)…な、何でもないです」

 

「?そうか、ならいくぞ!!」

 

師匠達が魔戒剣、魔戒槍を構えるのを見て少し慌てて魔戒剣《赤煌双牙剣》を剣先を正面に構え素早く真円を描く

 

空間に切れ目が広がり砕け光が舞い降りやがて晴れると狼を模した鎧を纏った騎士達の姿

 

 

 

 

 

純白の狼を模し牙を隠し鎧をまとい魔戒槍《白夜槍》を構える白夜騎士打無

ダン

 

 

荒々しさを感じさせる狼を模した蒼い鎧を纏い柳刃状に変化した魔戒剣《雷鳴剣》を肩に担ぐ《雷鳴騎士刃狼

バロン

 

両耳を前へ伸ばし金の装飾が施された紫色の鎧を纏い魔戒剣《閃光剣》を左手にし構える《閃光騎士狼怒

ロード

 

そして最後の光が消え現れたのは

 

 

赤く輝く狼を模した鎧の表面に黒の装飾、両肩から足元まで伸びた黒地の布《鎧旗》に金の魔界文字が施され金の瞳を光らせ変化した赤く輝く魔戒双剣《赤煌牙剣》を両手に大きく構える《赤煌騎士クロウ》

 

古の騎士と未来の騎士…四人の魔戒騎士達が一同に会し互いにうなずくと地を蹴り荒ぶる心滅獣身オウガに迫る

 

『ウオオ!』

 

剣斧オウガと融合した尻尾から繰り出される突きをソウマは白夜槍で弾き返す…しかし拳が迫るが蒼い何かに阻まれた

 

『ハアアア!』

 

柳刃状の魔戒剣、雷鳴剣で防ぎ押し返しつつまるで狼の様に激しく動きながら撹乱する

 

『ウオゥガアアアアアア!!』

 

しびれを切らしたのか上半身を捻り殴りかかるがかわされる心滅獣身オウガの背後に紫と赤の影、閃光騎士狼怒が閃光剣を赤煌騎士九狼が《赤煌双牙剣》を構え跳躍する

 

 

 

二人が狙うのは尻尾と融合した剣斧オウガ…二人の剣が吸い込まれるように入り切り飛ばされた剣斧オウガはくるくる回りながら空を舞うのを赤煌騎士クロウが素早く掴んだ

 

『やった!後は…』

 

『危ないクロウ君!』

 

『え?ぐ、ぐああああああ!!』

 

レイジの叫びが響いた瞬間心滅獣身オウガの巨大な手に掴まれるクロウ…ソウルメタルの鎧が悲鳴をあげ苦痛に満ちた声が木霊する

 

『ウオゥガアアアアアア!!』

 

力を込める度に全身が悲鳴をあげる感覚に苦しみながら何とか剣斧オウガをはなさない様にしっかり握る…でも不味いかもと思った瞬間親父の体を無数の光が拘束する

 

「な、なんとか間に合ったわ…」

 

息を切らしながら魔導筆を構えるメイおばあちゃんの姿…魔導剛獣縛が間に合ったみたいだな…でも不味いかも

 

 

 

『なんとか動きは止まったか…だが剣斧はあの少年の手に…』

 

『どうするソウマ!』

 

『クッ!(早くしないと暗黒騎士に墜ちてしまう…何かきっかけがあれば)』

 

「タカヤさん!やめてください!!」

 

「闇に負けないで!タカヤさん。あなたは…」

 

声が響く方へ目を向ける三人、そこには碧銀の髪の少女アインハルト・ストラトスと金髪の少女高町ヴィヴィオの姿を目にした心滅獣身オウガの動きが止まった

 

――――――――

―――――――

 

 

ダレダアノフタリ?

 

意識が混濁しながら彼は思う…暗い闇に身を任せる快感から自分を呼び覚ました声に耳を傾ける

 

―………さん!聞いてください…―

 

コノコエハ…コノコエは…ヴィヴィオ?

 

 

 

―タカヤさん!あなたは、私たちを何時も守ってくれました!!―

 

…アインハルト…守ってた?…そうだ僕は二人を守って…

 

―タカヤ…戻ってきて…―

 

ずっと昔から知ってる声だ……母さん?

 

―タカヤ、あなたにひどいことをしてごめんなさい…あなたに死んでほしくなかったの…―

 

いいんだ母さん、僕の思い違いだった…怪我を治してくれたのは母さんだってやっとわかったから

 

―だから私たちの所に戻ってきてタカヤ/さん/!!―

赤黒い闇一色の世界に光が生まれはじめる

 

―アキツキ・タカヤ!戻ってこい!!―

 

―闇に負けるな!!―

 

―内なる光で己の闇を打ち払え!!―

 

三人の声…布道レイジ、山刀ソウマ、四十万ジロウの言葉を受け僕は力を込めていく

 

 

―目を覚ませ親父!あんたは何時も俺に言ってただろ!―

 

急に視界が甦り瞳に映ったのは赤く輝くソウルメタルの鎧を纏う騎士が剣…剣斧オウガを正面に翳すとソウルメタル製の刃に顔が映り驚く

 

血走った目に生気のない僕自身の顔

 

―親父!アンタは白煌騎士オウガ…守りし者だ!!―

 

――――――――

―――――――

 

 

『親父!アンタは白煌騎士オウガ!守りし者だ!!だから簡単に闇に堕ちんじゃねえ!!』

 

『ウ、ウグガ………』

 

俺を掴む手から力が抜けるのを感じ払いのけると同時に勢いよく腰にある紋章めがけ剣斧オウガを突き立てる。するとあのデカイ身体が風船みたいに縮みだし元の鎧の色に戻りながら光が走り魔界へ鎧が返還され親父が力なく地面へ叩きつけられる

 

 

「「タカヤさん!」」

 

「タカヤ、しっかりしなさい!タカヤ…ッ!」

 

メイ、ヴィヴィオ、アインハルトがタカヤに駆け寄る、遅れて鎧を返還し終えたクロウ、ジロウ、レイジ、ソウマも目を醒ますのをじっと見守る

 

「うう…」

 

「よかったタカヤ…タカヤアアアア」

「か、母さん…ヴィヴィオ、アインハルト…泣かないで」

 

ゆっくりと目をあけたタカヤを抱き締め泣くメイの姿に思わずもらい泣きをするヴィヴィオとアインハルトに少し安堵し穏やかな空気が流れやがて景色がグニャリと歪み夢界が消滅していき夜の街並みが広がった時だった

 

「タカヤ殿!」

 

「チンクさん、よかったホラーの術が解け…」

 

ホラーの術が解けたチンク達が皆がいる場所へかけてきたが様子がおかしい。ふらふらしながらメイの肩を借り立ち上がるタカヤは信じられない言葉を耳にした

 

「タカヤ殿、ノーヴェがノーヴェが目を覚まさないのだ!」

 

 

第十四話心滅(四) 了

 

 

オリジナル魔戒騎士

 

赤煌騎士クロウ(シャクオウキシクロウ)

 

謎の少年クロウ・オーファンが魔戒双剣《赤煌牙剣》を使い魔界から鎧を召喚し纏った姿

 

牙を剥いた狼を模した赤く輝くソウルメタル製の鎧で両肩から足元まで延びた黒地に金の魔導文字が書かれた《鎧旗》が備えついており防御にも使うことができる

装着時間は99.9秒、【オウガの鎧】とは全く違う造形であるため新たに作られた鎧である可能性がある

 

 

魔戒双剣《赤煌双牙剣》

 

黒地に赤のラインが入った鞘に納められた二振りの片刃のソウルメタル製の双剣

 

これも新たに作られた魔戒剣である可能性がありそれはクロウの口から語られるだろう




キリク
古の魔戒騎士達と謎の魔戒騎士クロウオーファン、ヴィヴィオ嬢ちゃん、アインハルト嬢ちゃん、メイのお陰で心滅獣身から解放されたタカヤ…だがノーヴェが全然目を覚まさねぇどういうことだ!?

次回、心界!!

目を覚ませノーヴェ!!




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第十五話 心界

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


 

上級ホラー【エアリーズ】、心滅獣身オウガの戦いから数時間後…クラナガン中央区の一際高くそびえるビル【アキツキ・インダストリ】最上階にあるメイの執務室にあるベッドで眠り続ける一人の少女ノーヴェ、その額に魔導筆を無言でかざすメイの様子をチンクをはじめとする姉妹達とヴィヴィオとアインハルトが見守っている

 

「……不味いわね」

 

「!な、何が不味いのだメイ殿!?」

 

「赤髪…ノーヴェ・ナカジマの心は『心界の森』に囚われてる…」

 

「「「「「「《心界の森》?」」」」」」」

 

「…深い後悔と傷ついた心を持つ者が囚われやすい森…その最奥にある【魔界樹】に心が取り込まれてるわ」

 

 

「ならこの姉をその【心界の森】とやらに…」

 

「…無理よ」

 

魔導筆を腰につけながらチンクの意見を淡々と切り捨てメイはさらに続ける

 

「『心界の森』にはその者と【絆】を持つ魔戒騎士。魔戒法師しかいけないわ…」

 

第十五話 心界

 

「そ、そんな…ノーヴェはずっとこのままなんですか?」

「…メイさん、ノーヴェさんを助けてください。私たちにはノーヴェさんが必要なんです」

アインハルトとヴィヴィオの声を聞き目を閉じ僅かな時が過ぎやがて目を開いた

 

「…今から私が《心界の森》へ向か…」

 

 

「メイ様!」

 

扉が勢いよく開く音が響く。振り替えるとアキツキ家の家令(執事)デルクが息を切らしながら駆け寄ってきた

 

 

 

「メイ様!大変ですタカヤ様が…タカヤ様が【心界の森】へ!!」

 

「な、なんですって!」

 

――――――――

―――――――

 

数分前、聖王教会最深部

浄化の石板がある空間のさらに奥にある祭壇にある巨大な扉の前に立つ一人の少年タカヤ・アキツキは魔導筆を構えながら先ほどの母メイとチンクの会話を思いだし辛い表情を浮かべていた

 

《どうしても行く気かタカヤ?》

 

「…うん、僕はノーヴェさんを助けにいかなきゃいけないんだ…」

 

《【魔戒騎士】としての責務か?》

 

「違うよ、ノーヴェさんを必要としてる人…アインハルトとヴィヴィオ、リオ、コロナ、チンクさん達の為に僕が行かなきゃいけないんだ…」

 

強い意思を言葉から感じ取ったキリク。やがて魔導筆を正面に構えると無数の界符が展開、扉が音をたて魔導文字が流れながら開いた先には薄暗く鬱蒼とした森が広がっている

 

 

 

《いいかタカヤ?【心界の森】では鎧の召喚はできねぇ…代わりに剣斧オウガを変化させてやる》

 

光が広がり剣斧オウガが鎧召喚時の形状へと変わり腰に納め扉を抜け辺りを警戒しながら森の中を歩いていく

 

《…タカヤ、ノーヴェはこの道のさらに進んだ場所にいるぜ…ん?》

 

鬱蒼とした森を抜け目の前に広大な湖が広がり水面に浮き島が浮かぶのを見て立ち止まるタカヤ

 

「キリク、これって」

 

《…対岸に着くには浮き島を飛んでいかないといけないみたいだ…用心しろよ》

 

キリクの言葉を耳にしながら軽く地面を蹴り浮き島のひとつに降りた瞬間

 

―キシャアアアア―

 

「ハア!」

 

背後から素体ホラーが現れ襲いかかろうとするが振り返らずその胸板へ剣斧を突き立てると弾けるように霧散する

 

 

 

 

《…どうやらこの浮き島には邪気が隠れてたみたいだ…》

 

「他の浮き島にもいるって考えた方がいいかな…なら!」

 

背中に担いだ箱を地面に置く…カシャンカシャンと乾いた音と共に鋼色の魔導竜【白竜】がタカヤの回りを跳ね回る

 

「白竜、すべての浮き島から邪気を浄化して!」

 

《キュイ!》

 

羽根をパタパタさせ隣にある浮き島へ飛び着地と同時に口から魔導火を放つと邪気が浄化され天へ上っていく

 

「ふう、これでいいか…行こうキリク、白竜」

 

《ああ、ノーヴェも待ってるはずだからな…》

 

《キュイ!!》

 

邪気を払った浮き島から浮き島へ飛び移りながらタカヤと白竜はやがて対岸へとたどり着き再び歩き出すのを木々の間から覗く影…黒い髪にやや強気な目付きの少年クロウが見ていた

 

《クロウ、どうする気だ?》

 

「…今の親父は体力が限界だ……」

 

 

《…手を貸すつもりか?》

双頭の龍を型どった腕輪からソウルメタルを軋ませる音と共に声が響く

 

「…あくまでついでだライバ…いくぞ」

 

そう呟き木々を蹴り移動する…だがこの心界の森には入れないはずなのに関わらずクロウ・オーファンは何故入れたのか?

 

それは今はまだ語られるときではない

 

―――――――――

―――――――

 

 

「今度はナニもないみたいだね」

 

しばらく歩き開けた場所に出て立ち止まり見回すタカヤ

 

《ん?まてタカヤ、足元にある木を投げてみろ》

 

「え?うん」

 

不思議に思いながら木を投げ入れると風がなり瞬く間に木が細切れになり地面へ落ちる

 

 

 

「い、今のは?」

 

《……見えざる牙か…》

 

「見えざる牙?」

 

《…【心界の森】の邪気とホラーの残留思念が凝り固まった見えざる刃だ…どうするタカヤ》

 

「キリク、僕の視界を塞いでくれるかな?」

 

《ナニをする気だ?まさか通り抜ける気か!?》

 

「…《見えざる刃》を抜けないとノーヴェさんを助けられない…なら目を閉じ肌で感じてかわすだけだ」

 

《…んなの無茶だ!そんなことしてタカヤに何かあったんじゃオレは…》

 

「大丈夫だよキリク…僕を信じて…いくよ!」

 

地を蹴り道を進むタカヤに《見えざる刃》が風を切り襲いかかるのを寸前でかわし体を捻り剣斧で反らし肌で風を感じ神経を研ぎ澄ませながら進んでいく

 

(…見えざる刃から抜けるまで後少し…風を感じるんだ…)

 

 

刃が速度を増していくが常識を超えた集中力で素早く最低限の動きでかわし遂に見えざる刃から抜けると同時に地面へ膝をついた

 

《タカヤ、大丈夫か!》

 

「はあっ、はあっ…だ、大丈夫…キリク、ノーヴェさんは?」

 

《……!…目の前だ!!》

 

顔をあげると目の前には真っ黒い樹木がそびえ立っている

 

「この中にノーヴェさんが?」

 

ふらふら立ち上がり樹木へ近寄ろうとしたときだった

 

―ヤレダ?―

 

「い、今の声は…」

 

《タカヤ、声の主はこの魔界樹だ!》

 

―ヤレダ、ノマエタ?―

 

「僕は魔戒騎士…白煌騎士オウガです!」

 

 

―マキイクス、ハニヌユウダ?―

 

木々をざわめかせながら樹木の幹に切れ目が入り目がギョロっと開き尋ねる

 

 

 

「あなたの中にいるノーヴェさんを渡してください!」

 

―ヤメダ!ホノコハククルグキズツイチル、ワトスクヌハデクヌイ!!―

 

「心が…傷ついてる……!まさか」

 

 

…ノーヴェは自分達姉妹が四年前のJS事件でタカヤの父親を殺してしまった偽りの真実を知り傷ついてる…だから魔界樹に取り込まれてしまった

 

なら自分ができることは何か?

 

―ノーヴェさんに僕の口から本当の真実を伝える―

 

そう強く心に決め魔界樹と向き直る

 

「お願いです、ノーヴェさんを返してください!!」

 

 

―ヌラ、ヒカラグツデフバウガヒヒ!(なら力付くで奪うがいい)!―

 

叫び声が辺りに響き渡りビキビキと音を鳴らしながらその身体を巨大化、中心に半透明の球体が露出する

 

「ノーヴェさん!」

 

剣斧を構え地を蹴るや否や露出した球体を切り裂きノーヴェを助け出そうとするタカヤに無数の鋭利に尖った枝が襲いかかる

 

「ハアアア!!」

 

剣斧を斧形態に切り替え逆袈裟に凪ぎ払った瞬間声が響いた

 

―来るな!―

 

「え?ノーヴェさんの声?ウワッ!!」

 

巨大な幹に殴られ地面へと叩きつけられるタカヤにまた声が響く

 

―アタシを殺しに来たんだろ!―

 

「…え?ノーヴェさん?」

 

―いや、いや…来ないで!!―

 

無数の枝が杭状に変化し全方位から打ち出されそれを右へ凪ぎ払い防ぐ度にノーヴェの悲しみに満ちた声が響く

 

―アタシはタカヤのお父さんを殺した仲間だ―

 

―…アタシが憎いんだろ!だからここまで来たんだろ!!―

 

 

「違う!話を聞いてノーヴェさん!!」

 

無数に打ち出された木の枝の凄まじいまでの勢いにたまらず吹き飛ばされ背中を地面に打ち付けられ息が止まるがフラフラと立ち上がるタカヤの眼前に木の枝に絡まった剣斧が突きつけられた

 

―ヤゼクチヌヌル?コヌムスムハクンヌニキョススシツルヌネタス?(何故立ち上がる?この娘にこんなに拒否されているのに?)―

 

「僕はノーヴェさんに真実を伝えたいんだ…例え何度も拒絶されても…」

 

いいかけた時木の枝から剣斧が離れ空に円を描き始める

 

―ノマエガナゼコノムスムヲススクタイカスリククヌッタ…ヌレノチクルジホロイヌスウカンシッユル、ズンリュクズチリムドシツミチル(お前が何故この娘を助けたいか知りたくなった…我の力で鎧を召喚してやる、全力でこの娘を取り戻して見せろ)―

 

「……ッ!」

 

地を蹴り剣斧を握ると同時にタカヤに光が降り馬の嘶く声と共に白煌騎士オウガと魔導馬《白煌》が姿を現した

 

『ハア!』

 

啼音を響かせ魔界樹へ向け駆け出し襲いかかる木の枝を切り払いながら徐々に迫るが再び幹を叩きつけるが剣斧で防ぐ

 

 

―ハゼクヌムスムヲチスクタイ?(何故この娘を助けるのだ?)―

 

『ノーヴェさんを必要としている人たちの為だ!』

 

大きく前肢をあげ地面へ蹄を踏み鳴らすと剣斧がオウガ重剣斧へ姿を変え切り払い魔界樹に駆けながら叫ぶタカヤ

 

―スレハノマエニトッチヒツヨウヌクテキ?(この娘はお前にとってどのような存在だ?)―

 

『ヴィヴィオやアインハルト、リオ、コロナと共に夢へと突き進む優しい人で甘い匂いがする人だ!』

 

 

オウガ重剣斧を重斧形態に切り替え向かってきた幹を真っ二つに切り裂きさらに駈ける

 

―ノマエニトッチヒクヨウヌスンジイキ?(この娘はお前にとってなんだ?)―

 

 

木の枝を矢状に変え打ち出すが重剣形態に切り替えた剣斧で弾きながらタカヤは考えるカルナージでの一件から自分が剣を振るう理由

 

『三人を守る為に剣を振るう』

 

『タカヤが手に握る剣は人を襲うホラーを斬る為のだろ…』

 

自分が強姦されそうになりながらも剣を降り下ろそうとしたタカヤを止めた言葉と姿が浮かび自然と言葉が紡がれ叫んだ

 

 

『ノーヴェさんは……ノーヴェは僕が…僕が守らなきゃいけない人だ!』

 

狼が唸るような声が辺りに響いた瞬間再び白煌は蹄を力一杯踏み鳴らすと重剣斧はさらに巨大化、《オウガ大重剣斧》へ姿を変え白煌はさらに駆け風のように駆け大きく横へ構え迫り来る木の杭ごと魔界樹の太く強固な幹を切り裂く音を響かせながら横凪ぎ一閃しすり抜けターンし白煌の背に立ちジャンプ、鎧返還と同時にノーヴェの心が存在する半透明の球体を胸へと抱き寄せるタカヤに最後の力を振り絞った魔界樹の攻撃が襲いかかる

 

 

「ッ!(ノーヴェさんを守らなきゃ!)」

 

身体を楯にしつつ無防備状態で落ちるタカヤに木の杭が迫る…がナニかが飛来し切り裂いた

 

「え?今のは一体…」

 

飛来した物体が戻った方向に目を向けると柄で繋がれた双剣を構えた自分よりも年上の少年の姿

 

「き、君は…」

 

「………何やってんだ、さっさと人間界へ戻ろうぜ…んじゃ縁があればまた会おうぜ……親父」

 

 

それだけ言うと少年は木々を蹴りながらその場から去っていくその姿を見ながら妙な感覚にとらわれながら魔界樹へ体を向ける

 

 

―ム、ムグッダ…―

 

「僕だけの力じゃあなたに勝てなかった」

 

―アヌムムグツンクシタヌルバ、スリハエマエズスンヌチクルダ(あの少年がお前に力を貸したならは、それはお前の自身の力だ…)スアウクヌダ、マクイクス(さあいくのだ魔戒騎士よ)―

 

それを最後に幹から無数の魔導文字が立ち上ぼりやがて完全に姿を消しタカヤは軽く一礼しその場から去ろうとしたが異様な気配を感じ立ち止まった次の瞬間何かが胸に当てられ焼き付くような痛みが胸から背中を通り抜け背後にある岩肌に赤い血のような紋様が貼りつく

 

 

「ウワッ!」

 

あまりの痛みにうずくまりそうになりながら顔をあげ目に入ったのは黒い布が全身を覆い口元まで隠した存在が黒く輝く手をかざしこちらを見ている

 

「…ッ!ウウ…」

 

「…………………」

 

苦しみながらも剣斧を構えるタカヤとフードを被った人物の間に風が巻き起こり視界が塞がりやがて晴れるとそこには誰もいなかった

 

《大丈夫かタカヤ!》

 

「う、うん…キリク今のは?」

 

《微かだがホラーの気配を感じたが、どこから現れやがったんだ?》

 

「そうなんだ…戻る前にノーヴェさんに伝えなきゃ…本当の真実を」

 

魔法衣から取り出した半透明の球体に界符を張り付けると光輝きノーヴェが姿を現し互いに向き合う

 

「ノーヴェさん、僕の話聞いてくれますか?」

 

『…アタシに何を話したいんだよ…やっぱり殺したいんだろ』

 

「落ち着いて聞いてねノーヴェさん。僕の父さんを…」

 

ホラーエアリーズの口から語られた本当の真実を伝え始めるタカヤの言葉に耳を傾けるノーヴェの表情が徐々に明るくなり涙を流し始めた

 

 

『そ、そうなんだ…アタシ達は…タカヤのお父さんを…え?た、タカヤ!?』

 

 

「ノーヴェさん、もう悪い夢は終わったんだ…だから安心して」

 

『う、うん…タカヤ…すごく暖かいよ』

 

泣きそうな姿を見たタカヤはノーヴェを優しく抱き締めその行為にドキドキしながらノーヴェは光に包まれその場から消え去るのを見届けたタカヤは心界の森を背を向けアキツキ・インダストリへと向かった

 

 

―――――――

―――――――

 

「タカヤ何で一人で心界の森に行ったの」

 

「…僕にもわからないんだ…眠り続けるノーヴェさんを見て母さんの話を聞いて気付いたら聖王教会にいたんだ」

 

帰って来た僕の前に少し怒り気味な母さん…さすがに心滅獣心した直後に疲弊した僕が心界の森に向かったのをかなり心配して起きて待っててくれた

 

「でも無事に戻ってきてくれてよかったわ…本当によかった…」

 

「か、母さん、泣かないで…もう一人で無茶はしないから」

 

「本当に?」

 

「う、うん…」

 

じっと僕の目を見てしばらくしてため息をつくと優しく髪を撫でてきた

 

「わかったわタカヤ、でも今度からはホラーが出たら私がサポートしてあげる…もう貴方だけに背負わせないから…今日はもう遅いから此所に泊まっていきなさい…」

 

クルリと背を向け歩き出す母さんの頭にいぬ耳がピョコピョコと動いてるのを見てすごく嬉しいんだなって思いながら泊まる部屋へ入り明日アインハルトやヴィヴィオ、ノーヴェさんにあったら何を話そうかと考えながら魔法衣を掛けようとした時胸に激しい痛みが襲う。ベッドに倒れ苦しみながら立ち上がりインナーのジッパーを下ろし鏡の前にたった僕の胸に大きな痣が見え脈打ってる

 

《た、タカヤ、それはまさか【破滅と忘却の刻印】か!》

 

「破滅と忘却の刻印…まさか…」

 

《もしそうだとしたらタカヤ、お前の命と記憶が…》

 

【破滅と忘却の刻印】を刻まれた騎士は鎧を召喚する度に【命】と【大切な記憶】を失っていき最後は死に至る

 

タカヤは鏡に写る刻印に目を向けながら強く拳を握りしめていた

 

第十五話 心界 了

 

 

おまけ

 

 

「ん、ここは」

 

 

「目を覚ましたッスかノーヴェ!チンク姉ノーヴェが目を開けたッスよ!」

 

 

「ノーヴェ、よかった…目を覚ましてくれて本当によかった」

 

「ええ、本当によかった…本当に…」

 

「ああ~泣くなって、ヴィヴィオ、アインハルト…アタシはもう大丈夫だから」

 

泣きじゃくるアインハルトとヴィヴィオの頭を撫でながらさっきタカヤに抱き締められた時の暖かさを思い出す…優しく暖かな匂いまでしっかりと

 

アタシを助ける為にあんな危ない所に来てくれたと想うと胸がすごく熱くなる

 

「ノーヴェ?顔が赤いけど大丈夫?」

 

「え?あ、あ、アタシなら大丈夫だから…其よりその人たちは?」

 

 

アタシのベッドから少し離れた場所にはのタカヤより年上の少年が喋りながら立ってる、よくみるとタカヤのあのコートに似てる気がする

 

「さてジロウ、レイジ、俺たちの寝泊まりする家なんだが…」

 

「ソウマ、実はさっきチンクさんから『泊まるところがないんなら私達の家に来ないか』って誘われたんだけど」

 

「…見ず知らずの他人である俺達を家に招いていいのか?」

 

「…だがせっかくの好意を無下に断ることは出来んな…レイジ、チンク・ナカジマ殿にわかったと伝えてくれ」

 

「わかったよジロウ」

 

元気にかけより了承したって伝えたアイツ…レイジと話すチンク姉の様子が少し嬉しそうに見えた

 

でもおと~さんが驚かなきゃいいけど

 

 

 

だって男三人連れて帰るんだし驚くはずだし、特にレイジって奴は何処と無くずれてる感じがする

 

 

まあなんとかなるかなと考えながらヴィヴィオとアインハルトと明日の練習について話した後大事をとりアタシだけを残し皆は帰っていった

 

でもココってタカヤも泊まってんだよな…不味いまた胸が熱くなってきた

 

タカヤと同じ屋根の下で寝泊まり

 

今夜は眠れそうもないなアタシ…

 




キリク
胸に刻まれた刻印を皆に隠すタカヤ。インターミドルがついに開催され順調に予選を進むヴィヴィオ嬢ちゃん達に付き添うタカヤに突然槍を向ける少女

オウルに技を盗まれた?なにいってんだこの嬢ちゃん?

次回 雷帝!

思い出した…昔オウルがボコった相手の孫だ…




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幕間 食卓

――――――――

―――――――

 

 

暗く闇に閉ざされた空間に浮かぶ巨大な岩場に三つの影が音もなく現れなにかを話している

 

「……エアリーズめしくじったか…」

 

「悪のりしすぎたから仕方ないんじゃないの…でも闇に堕ちかけたお陰で王の封印、忌々しい《アキツキオウル》が施した封印術式がほころび始めたよ」

 

巨大な岩場には無数の鎖に縛られ界符がところ畝ましと貼られ不可視の光が覆うのが見え表面にわずかに亀裂が入っている、影のひとつが手を伸ばし触れようとするも弾かれ手を押さえる

 

「…くそ、相変わらず忌々しい封印だぜ。これのせいで俺達の力は半減し《現界》出来るのは一体だけだ」

 

 

「…結果としては封印に綻びが出来たがな…」

 

 

 

「「「ア、アルター様!!」」」

 

闇が支配する空間に切れ目が入り全身を覆い隠した人物が現れるや否や膝をつく三人

 

「…今日はお前達に告げることがある…この世界に新たに魔戒騎士が四人現れた」

 

「…じゃ僕たちの王が復活できないじゃないか!」

 

「…おそらくは『あの世界』の神官グレスが我らの行動を《月読》で予知したからだろう…だがもう手は打ってある」

 

 

「手とは?」

 

「当代のアキツキの血筋に我が秘術『破滅と忘却の刻印』を刻んだ…」

 

全身をおおう布から黒く輝く手…いや闇よりも暗い手甲を顔の前にかざすと魔導文字が赤く輝きながら漂う

 

「じゃあこのままアキツキの血筋が鎧を召喚し続けたら間違いなく死ぬね」

 

 

 

「それに記憶も無くなるし胸の痛みに苦しみ命がつきる姿を見るのは最高だな~さすがは《王の代行者》アルター様だ」

 

 

「…千年前に我が秘術を打ち破った男《アキツキ・オウガ》の血は油断はできん…お前達《王の騎士》の力を使い当代のオウガの命をすり減らさせよ」

 

「わかったぜじゃあ俺が現界してくるぜ…ちょうどいいゲートも開いたみたいだしな…」

 

空間に魔導文字が流れゲートが開くと影は球体になり穴を抜け消え去った

 

「頑張ってねリィオウ……それまで僕たちは力を蓄えておくよ…じゃまたねアルター様」

 

「では後程アルター様」

 

 

そういい残し影がすうっと岩場に吸い込まれアルターだけが残る…が体を震わせ笑い声が上がる

 

 

「フフフ…アハハハハハハ…バカな奴等だ…まあせいぜい利用させて貰おうか……私が、いやこの俺が世界の―――――だと証明して見せてやる…せいぜい血筋が絶えるのをあの世で歯噛みして見てるんだなオウル…アハハハハハハ!!」

 

笑い声と共に黒い風が巻き起こりやがておさまるとその姿はどこにも見えなかった

 

 

アルター…その正体と目的はいまだにわからない、唯一つ言えるのは別な目的を持つ存在というだけだった

 

 

幕間 食卓

 

 

「うっ、くううう…」

 

《やっぱりメイにその刻印の事を話した方が》

 

「ダメだ、もし話したら母さんは僕を助ける為にあの時みたいに無茶をするよ」

 

《…確かにな、だがノーヴェやヴィヴィオ嬢ちゃん、アインハルト嬢ちゃん達に絶対にバレないようにしないとな…》

 

 

「うん、インターミドルに集中して貰いたいんだ…ヴィヴィオやアインハルト、ノーヴェさんの夢を邪魔するわけにいかない……それにホラーもまだ残っているから」

 

胸を押さえながら掛けてあった魔法衣に袖を通し部屋を出て屋上に出ると風で髪がたなびき押さえた僕に今まで黙っていたカーンが口を開いた

 

《若、あえて言わせてください…もう鎧の召喚をやめて普通の生活を送ってください!人としての生活に憧れてたんじゃないんですか!!》

 

「……うん」

 

《このまま鎧を召喚し続け命と記憶をすり減らしている事をノーヴェ様、アインハルト様、ヴィヴィオ様は必ず気づきますよ!一番悲しむのは………》

 

「……一応刻印を変容の秘薬で消すからバレないよ、もし忘れてしまったらキリクやカーンに教えてもらうから」

 

 

《…ですが、若の、若の命が…》

 

「大丈夫だよ、それに僕はまだ諦めてないから。初代オウガもこの刻印を刻まれて打ち消したって記述がある…僅かな可能性が有る限り僕は絶対に諦めない…それに」

 

少し間をおき

 

「僕はまだノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルトが夢を叶えるのをみていないから…死ぬわけにはいかないんだ」

 

《…わ、若…》

 

「だから僕を信じてくれるかな」

 

しばらくしてすすり泣く声が聞こえるも風の音がその声をかきけし空が明るくなり始めるのをみた僕は部屋へ歩いていくと

 

「タカヤ!?」

 

「あ、おはようございますノーヴェさん。よく眠れましたか?」

 

「あ、ああ…」

 

(少し顔が赤いなノーヴェさん、どうしたんだろ?)

 

 

顔が赤いのを気にしながら僕はノーヴェさんと一緒に母さんの執務室に向かうと大きめなテーブル、その上に焼きたてのパン、シャキシャキのサラダ、野菜たっぷりのスープが湯気を立ておかれてる

 

「おはようタカヤ。丁度呼びにいこうと思ってたから良かったわ。さあ冷めないうちに食べて…あとノーヴェ・ナカジマさんも座りなさい」

 

 

黒く長い髪を一つに纏めエプロンを着けた母さんが笑顔で席に座るよう促すんだけどノーヴェさんの時だけ対応が違う気がする

 

「「「いただきます」」」

 

手を軽く合わせいただきますは昔から家に伝わる作法だ、まずはパンを手に取り軽くちぎり口に入れる。小麦の香ばしい匂いとしっとりとした食感…父さんが生きてた頃に食べたパン、そして野菜スープをスプーンで軽く掬いあげ口に入れる野菜と鳥の旨味が広がっていくとスープになにかが落ちた

 

「どうしたの?美味しくなかった!?」

 

「ううん、少し喉詰まらせちゃった」

 

「大丈夫かタカヤ?」

 

昔野菜が嫌いだった僕のために父さんと母さんが作ってくれた献立の懐かしい味に涙を流してしまったのをごまかし僕は何度もおかわりしたけど母さんは笑顔でパンとスープを出してくれた

 

「そんなに慌てなくてもいいわよ。タカヤはユウキと似てたくさん食べるから…はい熱いから気をつけて」

 

「うん…ありがとう母さん」

 

「あ、タカヤ!」

 

「え?どうしたの?」

 

「少しじっとしてろよ…よし取れた」

 

「あ、ありがとうございますノーヴェさん///」

 

「………………………………………」

 

 

いつの間にか頬についたドレッシングをナプキンでそっとふいてくれたノーヴェさんに少し照れた。なんか視線を感じ目を向けると母さんがなんか怒ってる

 

 

 

(………私が拭こうと思ったのに……やるわね赤髪女ああ~…)

 

って声が聞こえた気がするけど気のせいだよね?

――――――――

――――――――

 

「じゃあ母さん、僕剣の浄化にいってくるね」

 

「ええ、いってらっしゃいタカヤ…少しいいかしら」

「なに?」

 

「……屋敷に戻らな…あ、嫌ならいいの…タカヤも学院に通ってるしヴィヴィオさんとアインハルト様を守らなきゃいけないってのはわかるけど…やっぱりダメよね」

 

「…母さん、近いうちに屋敷に顔を出すよ…デルクにも会いたいし後伝承も調べたいし…皆をつれても大丈夫かな」

 

「!ええ、何時でも連れてきていいわよ!あ、これをヴィヴィオさんとアインハルト様に渡してくれるかしら、あとノーヴェ・ナカジマさん。コレを家族の皆様と食べて」

 

 

母さんは僕に小さな包みを渡しノーヴェさんには特大のバスケットを二つ手渡す、中を見てみると朝食に出された焼きたてパンにレタスとハムが挟まったサンドイッチ、挽き立てのコーヒーが入ったポット

 

「いいのか?」

 

「別に構わないわ…くれぐれもいっておくけど…………」

 

ノーヴェさんに近寄りの耳元でなにか呟き離れ今度は僕に向き直る

 

「じゃあ私は仕事に戻るわね…タカヤ、ホラーが現れたら絶対に私を呼ぶのよ」

 

「わ、わかったよ母さん早くしないと仕事に遅れるから!?」

 

「そ、そうね…じゃまたねタカヤ」

 

クルッと背を向け社屋に入っていく母さんの頭に耳が嬉しそうにピョコピョコと動くのを目にしながら僕はノーヴェさんを家まで送りそのまま聖王教会に向かった

 

 

――――――――

―――――――

 

タカヤに送られ家に戻ったアタシはメイから渡された特大バスケットをギンがに渡しそのままベッドに倒れこみ寝返りを大きく打ちながらさっきのメイの言葉を思い出していた

 

 

―……タカヤはあなたに渡さないわよ…もし自信があるんなら私から奪って見せなさい…―

 

 

「んな事言われなくてもわかってんだよ…でもなアタシはタカヤの口から言わせたいんだよ……す、す…」

 

そこから先が続かず枕に顔を埋めるんだけど顔が熱くなってしまう…再び寝返りをつき左手首に嵌まった双頭の龍の彫刻が施された腕輪をみながら

 

 

「…好きだって必ず言わせるぐらい…それ以上にタカヤを守りたいんだアタシは…」

 

 

「へぇ~そうなんッスか~ノーヴェはやっぱりタカヤんにベタぼれなんッスね~」

 

「ウ、ウェンディ?いつからそこに!?」

 

「寝返りうってタカヤんに好きだって…」

 

「う、うわあああああ!?/////」

 

跳ね起きるや否やウェンディを拳で黙らせた…ったく油断も隙もない

 

――――――――

――――――――

 

 

「何やら上がうるさいみたいだな」

 

「そうですね。よしこれで完成です!チンクさん『たっちぱねる』出来ましたよ」

 

「す、すごいなレイジ殿。(うう、なんだこの感情は…レイジ殿の笑顔をみると胸がドキドキする。まさか病気なのか?)」

 

『たっちぱねる』を見せるレイジの笑顔にドキドキしっぱなしのチンク、その近くでは

 

 

「ギンガさん、これは何て言う飲み物だ?」

 

「これはコーヒーです。あの~ジロウさん?」

 

「すぅ~~(カッ!)」

 

マグカップに入ったコーヒーの香りを胸一杯に吸い『カッ!』と目を見開きイッキ飲みするとマグカップを置くや否やギンガの手を握り

 

「ギンガさん、この『こ~ひ~』を俺のために毎日淹れてくれ!」

 

「は、はい!///」

 

あまりの真剣な眼差しに思わず返事するギンガに…その光景をみた大黒柱であるゲンヤは

 

 

「なあクイント、ノーヴェに続いてチンクやギンガに春が来たようだ…さて式場の手配をするか…アキツキ・ブライダルの番号は…」

 

遠い目で亡き妻クイントの写真を見ながら電話しょうとするゲンヤに

 

―待ってあなた!まだ早いから!?―

 

 

 

天から悲鳴にも似た声が響いた

 

 

幕間 食卓 了

 

次回はいよいよ本編に入ります。

 

おまけ

 

「メイおばあちゃ~ん」

 

 

「あらまゆちゃ~ん、今日はどうしたの?」

 

「アミタおね~ちゃんが『魔戒法師』になりたいって…」

 

 

「…そう、なら私が基礎を教えてあげないと…でもあのハレンチなバリアジャケット?を変えないといけな…」

 

 

「何がハレンチですか!メイ義祖母様!!」

 

 

「あら聞いてたのアミタ…クロウはあんなヒラヒラしたスカート姿をみたら満足に戦えないわよ」

 

 

「そんなことありません!クロウさんは逆に『元気が出る』って言ってました!!」

 

 

「ならクロウが帰ってきたら本当かどうか聞かせてもらうわアミタ」

 

 

「うう~く~にいさま、アミタおね~ちゃんとメイおばあちゃんが喧嘩しそうだよ~う…早くかえってきてよう」

 

 



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第十五・五話 悪夢

ある少女が見た悪夢

果たしてこれがナニを意味するのか…


あたしは夢を見ている

 

目の前では白金の狼を型どった鎧を纏った騎士…タカヤがが黒く巨大な魔獣に剣を向け構える姿

 

でも様子がおかしい…何時もなら見惚れるほどの美しい剣裁きを見せるのにそれがない

 

まるで苦しんでるみたいだ

 

何度何度も巨大な手で殴られ岩肌や地面に叩きつけられてもフラフラと立ち上がる姿に胸が締め付けられて痛くなる

 

 

―グアッ―

 

 

殴られる度に鎧から光の粒子が舞い辺りを明るく照らす…でも白金の輝きが鎧から無くなってく

 

 

まるでなにか大切なモノが抜け落ち雪のように消えてくみたいに…

 

第十五・五話 悪夢

 

 

―ウ…クツ……グアア―

 

 

頭を押さえながらうずくまるタカヤの鎧から全ての輝きが失われ黒くくすんだ鋼色へ変わった…でもフラフラと剣斧を杖がわりに必死に立ち上がってくる

 

 

―………を……護る……僕は…僕は!!―

 

 

叫ぶなり地を蹴りあげ剣斧を向け斬りかかった…でも殴られ宙を舞うタカヤに何度も何度も攻撃が当たりついに鎧が砕け散り輝きを失った破片が落ちていく

 

 

鎧が砕けその隙間から夥しい血を流しながら何度も立ち上がるタカヤの声が痛々しくて涙が溢れだしてくる

 

 

 

 

もう立ち上がるな…そんなに血を流して何で立ち上がんだよ

 

 

 

 

 

やめてくれ…お願いだから

 

でもアタシの声は届かない…

 

黒く巨大な魔獣が唸り腕を鋭利な剣に変えそのまま剣を構えるタカヤの体を貫いた…瞳から光がなくなり剣が手から滑り落ちた

 

あ、あああ!?タカヤ…いや…タカヤアアアアアアアア!?

 

 

―――――――――

―――――――――

 

 

「っ!…ゆ、夢…何て夢なんだよ…」

 

跳ね起きて辺りを見て夢だと安心する…全身汗だくで脈もまだ早い気持ち悪い

シャワーを浴びて寝るか…気だるさを感じながら抜け出し汗で濡れた下着を脱ぎ洗濯機に入れ回すと浴室に入りシャワーを浴びる

 

 

「…………………」

 

 

ほどよい温度のお湯が肌に当たるのを感じながら想うのはタカヤのことだ

 

 

…最近タカヤの様子がおかしい。まるでなにか隠してる

 

そればかりじゃない、アタシやヴィヴィオ達となんか距離を置いてるって感じがするんだ

 

 

「…タカヤ…一体どうしたんだよ」

 

小さく声を漏らしシャワーーを止め体を拭き新しい下着に着替えそのままベッドにダイブしやがて眠りについた

 

 

この時まだアタシは知らなかった…この《悪夢》が近いうちに《現実》になるって事にまだ気づいてなかった

 

 

――――――――――

――――――――

 

 

「……オウガめ余計なものを残していたとはな」

 

 

無数の古びた本が納められた本棚がまるで壁のように立ち並ぶ薄暗く広大な空間

 

その中心に一つの影…全身を黒いフードで覆い隠した《アルター》が佇んでいる

 

その手には一冊の古びた魔導書…ふわりと浮かび開かれページがめくられやがて止まる

 

旧魔界語とナニかの絵が描かれたページ。それに目を通すと無造作に掴み破り握った瞬間オレンジ色の炎が立ち上ぼり焼失した

 

「…あとはアソコにあるモノを始末するだけだ……オウル…あの世で歯噛みして見てるがいい」

 

フードから黒く輝く鎧に包まれた手軽く振るわれ無数の花弁に変わりその場から消え去った

 

 

第十五・五話 悪夢 了

 

 

 







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特別話 家出

ある少年と次元世界最強の少女との出会い


僕はなんで剣を振るうんだろう…

 

「…立ちなさいタカヤ、ホラーはそのわずかな隙を見て襲いかかるわ…ハアッ!」

 

魔導筆を僕に向け、素早く円を描き光が生まれ襲いかかる、体を捻りその場から離れるけど足に痛みが走る…

 

「それぐらい避けなさい…」

耳につけたイヤリングを軽く指で弾くと無数の岩が浮かび魔導筆を僕に向け振るった瞬間、意志があるかの様に襲いかかってくるその岩を右手に構えた魔導筆で術を放ち左手に構えた魔戒剣斧『煌牙』で切り払い、蹴りで打ち砕きながらあの人に近づくと同時に術を放つと花びらに包まれ消え慌てて姿を探した僕の耳に声が聞こえた

 

「…甘いわタカヤ、ハアアッ!」

 

「グハ!」

 

背中に鈍い衝撃と同時に肺から酸素が抜ける…後ろを向くとあの人が足を向けたままたっている…

 

―瞬転身の術―

 

僕の祖先が閃光騎士狼怒、布道レイジから教わった瞬間移動の術を使ったとわかった、でも僕の意識は途絶えそうになる

 

「…立ちなさいタカヤ、あなたはホラーを狩る為だけに剣を振るうの…これぐらいの事で倒れるならあなたは…魔戒騎士にすらなれないわ…」

 

魔導筆を向けながら喋り続けるあの人の言葉を聞きながら思う…僕は何で剣を振るうんだろう…教えてよ父さん…

 

――――――――――

―――――――――

 

二年後、アキツキ屋敷

 

《…荷物は持ったか》

 

「…うん…キリク」

 

薄暗い明かりが灯る部屋に黒鉄色のコートに眼鏡をかけた少年…タカヤ・アキツキはうなずくと一枚の紙を机に置き離れると眼鏡を外し壁に掲げる空間に切れ目が入りやがて一人が通るぐらいの長方形の入り口が開く

 

 

―魔界道―

 

魔戒騎士しか通る事ができない道で…その日の月の満ち欠け、方位、魔導力の増減により開く…便利そうに見えるがどんな場所に出るかはわからない、その中へ迷わず滑り込むように入ると空間の切れ目が閉じ目の前に長く続く石造りの通路が燭台に灯された魔導火に煌々と照らされる

「……………」

 

通路を無言で歩くタカヤ、その表情はまるで人形に近かった

 

特別話 家出

 

数ヶ月後、ある管理世界の森林…その中でも樹齢百年、いや千年を越えるであろう大樹の真ん中に光が走り一人の少年が現れ辺りを見回す

 

「キリク、この世界って人がいるのかな」

 

《ああ、いるぜ…と言っても僅かしかいない》

 

「そっか…でもご飯どうしょうか?」

 

《…久しぶりに狩るしかないみたいだぜ…タカヤ》

 

あの家、アキツキ屋敷から家出して数ヶ月…タカヤは少しだけマシになった

 

アイツの訓練は度を超していた上に『ホラーを狩るための道具』として鍛えやがったせいでタカヤは感情がなくなりかけたからな

まあ今はンな事置いといて何度目かの魔界道を使ってこの世界に来たんだが…人があまりにも少ない、その代わりなんだが野生動物が多い食うものには困らないと考えていた時タカヤがなにかに気づき立ち止まった

 

「キリク、アレって…人…だよね?」

 

《ああ、人だ…って言うか女だ》

 

目の前に黒い服?を着た人が倒れているのを見てタカヤは体をおこし脈を取りながら

 

「…脈はあるみたいだ…でも顔色がすごく悪い…コレなんだろ?」

 

倒れていた場所の近くには食べかけのスナック菓子の袋…この人は片寄った食生活を過ごしてたんだなとタカヤはなんと無く悟った

「……キリク、悪いんだけど…」

《この女を見ていればいいんだろ?》

 

「うん…その前に界符で位相をずらして…じゃあ行ってくるね」

 

倒れていたコイツを草むらにそっと寝かせ界符を四方に貼り結界を展開しそのまま近くの森へ向かうのを見送り数分後…

 

「う、ううん…ここはどこなん?」

 

《よう!気が付いたか?》

 

「え?だ、誰かおるん!?」

《…此所だ…こ・こ!!》

身体を起こし辺りをキョロキョロ見てようやく俺に気づきやがった

 

「ま、まさか今しゃべったの眼鏡さんか」

 

《…眼鏡さんじゃない、俺の名はキリク様だ…何であんなとこで倒れてたんだ?》

 

「う!そ、それは…その」

 

《それは?》

 

「……!な、な、なんや!」

いきなり目を見開きあとずさりし驚くコイツの視線の先を追い唖然となった、馬鹿みたいにでっかい魚が口を開け俺たちを見ている

「う、う~ん……」

 

《お、おいしっかりしろ!て、テメェナニモンだ!!》

 

「どうしたのキリク?」

 

大きく口を開け見た魚の下から顔を覗かせ不思議そうな顔をするタカヤ…お前って奴は!

 

(タカヤ、お前は本当にユウキと似てやがる…天然なところがな…)

 

気を失ったコイツを慌てて介抱するタカヤを見ながらため息をついた…

 

――――――――

―――――――

 

「ん…」

 

「あ、気がつきましたか?」

 

目を覚ましたうちに黒く長い髪を三つ編みにした女の子?が近付いてくると顔を覗いてくる

 

「…顔色はだいぶよくなってますね…あ、あのさっきはごめんなさい!」

 

「え?」

 

話を聞くとさっきの大っきなお魚さん?を担いで来たんはこの子やった、てっきりうち食べられるかと思ったやないか、その時お腹がなり顔が熱くなる

 

「あ、あの…これどうぞ」

 

「これは?」

 

「…さっきの魚を使ったお粥です…あ、消化にも良いですから…」

 

おずおずと差し出された器を受け取りうちはレンゲに掬うと口に運ぶ…出汁が染み込んだご飯がスルリと喉を通り体全体に染み渡り自然に言葉が出る

 

「お、美味しい////」

 

無我夢中でレンゲを口へ運び知らないうちに空になった器を女の子?が流れるように受け取りお粥をよそう…何度か繰り返すうちにお粥が入った土鍋が空になるのと同時に落ち着いた、こんなに美味しいのを食べたんはヴィクターの執事エドガーさんが作った『おでん』以来や

 

「…え、えと、ごちそうさまでした……」

「…いえ、残さず食べてもらえて嬉しいです…えと…」

 

「…ジークリンデ、うちはジークリンデ・エレミア…君は?」

 

「…僕はタカヤ…タカヤ・アキツキです…」

 

「まさかとは思うんやけどタカヤ君って男の子なん?」

 

「…………はい」

 

「ええ?そうなん!?うちはてっきり女の子かと思った…ど、どうしたのタカヤ君!?」

 

体育座りして落ち込むタカヤにエレミア嬢ちゃんが必死に謝る姿を近くの岩に置かれ見ていたキリクは…

 

《タカヤ~三つ編みは止めた方がいいんじゃねえか?》

 

と呟いていた

 

――――――――

―――――――

 

「…インターミドルですか?」

 

「そや、うちは今度のインターミドルに向けてトレーニングしとったんよ…」

 

「…でもあんな食生活してたらダメですよエレミアさん…」

 

「う!そ、それだけは言わんといて…」

 

エレミアさんの話を聞いてわかった事、ひとつはインターミドルに向け自主トレーニングをこの世界でやってて食生活が疎かになって自主トレの休憩中、スナック菓子ばかり食べていたせいで倒れた事…現在僕たちはキャンプをするためテントを建て終え晩御飯の準備をしている

 

「タカヤ君は料理好きなんか?」

 

「はい、料理は大好きです…あ、エレミアさん次のは賽の目切りで」

 

「こ、こうかな…ツ!」

 

ぎこちない握り方をした包丁で指を軽く切り血が流れる

 

「エレミアさん、あむッ」

「た、タカヤ君?にゃ、にゃにおう/////?!?」

 

包丁で切り傷が出来たエレミアさんの指を口に迷わず入れる、こうすれば早く治ると父さんから昔きいてたんだけどエレミアさんの様子がおかしい

 

「/////」

 

顔がどんどん赤くなってるし、やっぱり休んで貰った方が良かったかも

 

「はい、これで大丈夫です…あ、あのエレミアさん?」

 

「フ、フニャアアアア~////!?」

 

頭からボンと音が聞こえ顔を赤くし気を失い倒れそうになるエレミアさんを慌て受け止めテントに寝かし僕は目を覚ましたら謝ろうと心の中で呟きながら料理を作りしばらく煮込み火を落とし余熱で仕上がりを待つ時間を利用して水場に近い地面を掘り下げシートを敷きその上に石を敷き詰め簡単なお風呂を作り始める

 

「…水は張り終わり後は」

 

料理に使った焚き火の中から石を取りだし先程はった水へ落としていく、『ブクブク』音を挙げながら水からお湯へ変わり手を入れ湯加減を確かめる…

「少し温いけどいいかな…カーン、エレミアさん目を醒ました?」

 

―はい、エレミア様なら先程目を覚まされ若を探しています…―

 

「良かった…じゃあ今から戻るよカーン」

 

―承知しました若―

 

 

手をお湯から出し拭きながら僕はそのままエレミアさんがいるテントへと向かった…でもこのお風呂があんな事になるなんて思ってもなかった

 

――――――

―――――――

 

「ふ~気持ちいいわあ~///」

 

湯船に浸かり手で湯を身体にかける…ちょうどいい暖かさにうちはほんわかしする湯加減もうちにぴったりや

 

「…うちよりも年下なのにしっかりしとるなタカヤ君…こんな立派お風呂作ったりできるなんてすごいわ…でも…」

 

眼鏡越しに見たタカヤ君の瞳…色違いの瞳の奥に暗いナニかが見えた気がする…それに何で一人で旅してるんやろ

 

「…お風呂から上がってから聞こうかな…」

 

深くなく浅くない湯船に身を任せ空を見上げるとお星さまがキラキラ輝いてたのに見とれてたうちは背後から来る気配に気づけんかった

 

 

―――――――――

―――――――

「…あしたのご飯の下拵えはよし…」

 

《…なあタカヤ、これからどうするんだ?》

 

「…しばらくエレミアさんと居ようと思う…あのままだとまた倒れちゃいそうだしね…」

 

《…タカヤがそう決めたんならいい…(ったくこういう世話好きな所もユウキに似なくて良かったんだが…)》

 

下拵えをし終えた材料を簡易テーブルに置きエプロンを近くにあった木の枝にかけ腕と背を大きく伸ばし深呼吸した時だった

 

「キ、キャアア!」

エレミアさんの悲鳴が聞こえ、迷わず地面を蹴り滑るように疾走する

 

迂闊だった…水場には原住生物が水のみに集まる、もし狂暴な生物が現れたらと思うと足に力が入り駆ける速度も速くなる、やがて開けた場所…お風呂を作ってあった場所に出ると同時に地面がえぐれお風呂の残骸が散らばる中、エレミアさんの姿を探す

 

「エレミアさん!」

 

「タ、タカヤ君!」

 

声がしたほうを見るとタオル一枚巻いた姿のエレミアさんに大熊?が大木の様な腕で殴りかかるが寸前でかわしていくその無駄がない動きに思わずみいってしまう

 

「キャッ!」

 

お風呂の残骸に足をとられ体勢が崩れ転んだエレミアさんめがけ降りおろされる…が僕は素早く地面を蹴り間に入る、頭に鈍い衝撃を感じ殴り飛ばされたと感じながら空を舞い地面に叩きつけられ悲鳴にも似た声を聞いたのを最後に意識が途絶えた

 

――――――――

―――――――

 

「タカヤ君、しっかりしてタカヤ君!!」

 

頭から血を流すタカヤ君を抱き抱えながら呼び掛けるでも目を開けない

 

グルルルルル……

 

後ろからはうなり声をあげながら牙を向いた熊がくる…うちはタカヤ君を守るように立つた時熊がビクッと体を震わせ後ずさりしたと同時に気配を感じ振り替えると顔をうつむかせ血をポタポタタカヤ君がフラリと立ち上がるや否や姿が消えた

 

「え、う、嘘…」

 

「…………………」

 

 

熊の眼前に姿を現すと同時に蹴り飛ばす…がそれだけじゃない間合いを積め殴る蹴る殴る蹴る殴る蹴る回転し回し蹴り手刀、足刀…ただひたすらに急所へ確実に叩き込み返り血を浴びるタカヤ君の瞳からは光が消えただ機械的に攻撃を繰り出す

 

「……………………………」

怖い…あの少し天然さんなタカヤ君じゃない…あれはまるで昔のうちと同じ…『黒のエレミア』そのものやないか

―エ、エレミア様…若を止めてください…このままだと…殲滅騎士に!―

 

「…殲滅騎士て?」

 

―……今は若を止める方が先決です…お願いします―

「…止めるってどうしたら…」

 

―…若を止める方法は一つ…………抱き付くことです!―

 

「だ、抱きつく…?それでタカヤ君止まるの!?」

 

―若がもしユウキ様の『アレ』を受け継いでるのであれば…可能なはずです!―

 

グウウウル…

 

「………………………」

 

地響きをたて力なく倒れる熊の体に跨がり血塗れの拳を振り地面へ返り血を降り飛ばすとゆらりと立ち上がり顔をうつむかせゆっくりと歩いてくる

 

 

―キリク、若の動きを止められるか?―

 

《…止められるのは数秒だけだが…やってみらあ!》

「…………………!?」

 

キリクのレンズが輝いた瞬間タカヤ君の動きが止まったのを見逃さずうちは前から抱きつく…暖かい温もりといい匂いを感じる

「…タカヤ君、落ち着いて…うちは大丈夫やから……」

 

「…………」

 

抱き締める力を更に強くする…こわばってた身体から力が抜けていくのを感じ顔を見ると意思のない瞳に光が戻り始めてきた

 

「…エ、エレ…ミア…さ…ん…?」

 

「良かった、タカヤ君…」

強く抱き締めながら頭を撫でる…サラサラした髪が指に心地いい、でもタカヤ君の様子がおかしい?それになんか肌寒い

 

「…ブハアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

タカヤ君がいきなり鼻から真っ赤な血を吹き出しフラリと身体が崩れてうちを押し倒すように倒れかかる

 

「あ?」

 

受け止めきれず地面に倒れたうちの胸にタカヤ君の頭が埋まる…でも体温が直に感じ見ると身体に巻いたタオルがないって事はまさか今うちは裸!?

 

「キ、キャアアアア!!」

込み上げてきた恥ずかしさと共にタカヤ君の頬に全力で平手打ちをしギュルギュルと鼻血を撒き散らしながら空を舞って地面に落ちた

―――――――――

――――――――

 

「…う~ん…」

 

 

《エレミア嬢ちゃん…さすがにやり過ぎたぜ》

 

「だ、だって…はじめてだから…お、男の子に…みられたの…」

 

―…ですがエレミア様のお陰で若を止める事が出来ました…ありがとうございます―

 

額にタオルを乗せ唸るタカヤ君を見ながらキリ君とカーン君の言葉を聞きさっきのタカヤ君の行動を思い出す…的確に相手の急所を狙い拳打、蹴打、足刀、手刀を繰り出すあの目は機械的でその動きは無駄がなくナニかを確実に仕留める為だけに鍛練されたと感じる…

 

もしかしたらタカヤ君はうちよりも強いかも知れない…それよりもカーン君の『殲滅騎士』って言葉が気になってた

 

 

「カーン君、キリ君、少し聞いてええ?…『殲滅騎士』ってなんや?」

―!…そ、それは…―

 

《…エレミア嬢ちゃん…あのタカヤ…『殲滅騎士タカヤ』を見てどう思った?恐かったか?》

 

―キ、キリク!―

 

一瞬あの時のタカヤ君の姿が浮かぶ…まだ会ってから一日しかたってない、でも…少し天然さんで優しくて料理上手なタカヤ君が本当の姿やとうちは思う

 

…だから

 

「…恐かった…でも『あの時のタカヤ君』は本当のタカヤ君やないってうちは思う…」

《…そうか…》

 

台座の上でキリ君の龍を模したフレームが少し笑ったように見える…そして殲滅騎士について聞こうと口を開こうとしたタカヤ君が苦しみだした

 

「う、ううッ!」

 

「タ、タカヤ君?どうしたの?」

 

「ウウ…い、嫌だ!」

 

「え?」

 

「ッ!…嫌だ…嫌だ!僕は…あなたの……道具じゃない!!」

 

―――――――――

――――――――

 

―タカヤ、今日は魔導火の訓練を行います―

 

―はい、母さ…―

 

―私はもう貴方の母ではないわ…タカヤ…構えなさい

―…はい―

 

互いに魔導火から白金の炎を放射する…最初は拮抗していたが徐々に押されタカヤに白金の炎が襲い火に包まれ消える

 

―う、うう…くッ!―

 

訓練服のあちらこちらが破れ火傷も目立つ、しかしフラフラとしながら立ち上がる

 

―…この程度で倒れるぐらいならはホラーを葬ることはできないわ…立ちなさい…もう一度よ―

 

再び魔導火を構え互いに白金の炎を放射しその度にタカヤは炎に包まれた

 

―タカヤ、鳴札は界符と併用することで術は精度を増します…使いこなせば…―

 

 

鳴札を口元に近づけ軽く息を吹く、乾いた音と共に回り始め周囲に配置された界符から無数の騎士が姿を表す

 

―このように騎士の影達を産み出しホラーの牽制が可能になるわ…やってみなさいタカヤ―

 

―…はい―

 

鳴札を口元に近づけ軽く息を吹くが半分の数しか産み出せなかった…一週間かけようやく完璧に出来るようになった…が突然辺りが闇に包まれる驚くタカヤの耳に母メイの言葉が届く

 

―…タカヤ、貴方はホラーを斬る為だけに剣を振るいなさい…―

 

―タカヤ、あなたは道具…ホラーを狩るための道具……―

 

―あなたはホラーを狩る為だけに生まれたの…―

 

―ち、違う!―

 

―あなたは…道具…―

 

―ホラーを狩る為だけの道具…―

 

―…嫌だ、嫌だ!僕は、僕は!…あなたの道具じゃない!!―

 

耳を押さえその場に座り込むタカヤ…しかしメイの声は残酷なまでに心に響き渡る

 

―…感情を捨てなさい…道具には必要ないわ…あなたはホラーを狩る為だけに存在するの…―

 

…僕は、ボクハ…―

 

無数に立ち並ぶ母メイの言葉が響き渡り、瞳から光が消えていき心が音を立て砕けそうになった

 

―…カ…君…具や…い!…―

 

途切れ途切れの声と共に一筋の光がタカヤに降り注ぎやがて暖かな光に包まれ今度ははっきりと響き渡った

 

―タカヤ君は道具やない!!―

 

その言葉は砕けそうになった心を瞬く間に癒した瞬間辺り一帯が光に包まれその中でタカヤは安らかな顔を浮かべながら眠りについた

――――――

―――――

 

「~~~~」

 

「…タカヤ君、辛かったんやな…もう大丈夫だからな…」

 

 

タカヤ君の頭を優しく手で撫でる…さっきまで苦しみに満ちた顔は嘘のように消え変わりに安らかな顔に思わずドキッとする

 

《…ふ~なんとかうまくいったぜ…エレミア嬢ちゃん、タカヤを助けてくれてありがとな…》

 

 

「え、うちはなにもしてな…」

 

《…助けてくれたさ…タカヤの心をな…》

 

―はい、ありがとうございますエレミア様―

 

二人にお礼を言われ少し照れながらタカヤ君を見る…キリ君を介して心の中、夢を覗いて少しだけ過去を知った…何故タカヤ君のお母さんは夢で魘されるぐらいのひどい仕打ちをしたんや…昔はあんなに仲が良かったのに

 

―エレミア様、もう夜も遅いですしそろそろ…―

 

「…そうやな、カーン君…このままタカヤ君の隣で眠っていい?」

 

―…わかりました、ですがひとつだけ言わせてください…タカヤ様が目を覚ます前に寝袋から出てください―

 

「わ、わかってる…また鼻血出したら大変やからね」

 

 

《…エレミア嬢ちゃん、寝過ごすなよ…じゃいい夢をな(……タカヤお前もな)》

 

 

ランプの明かりを消しそのまま寝袋に潜り目を閉じる…すぐとなりには男の子、タカヤ君の体温と息遣いを感じ少しドキドキしながら気づかんうち眠ってしまった

 

――――――――

――――――

 

「う、うん…ここは…それに体中が痛い…」

 

鳥の声と差し込んできた朝日の眩しさを感じ、あちこち痛む体をゆっくり起こそうとする…でも何か重たい、右腕に何か柔らかくて暖かいに包まれてる…寝ぼけた目を向けた瞬間一気に目覚めた

「…スゥ~スゥ~」

 

黒く長い髪の女の子…エレミアさんが僕の腕を抱きしめながら眠っていた…

 

(な、何でエレミアさんが僕と寝てるの!?)

 

「う、ううん……」

 

小さく声を上げ腕に力を込めギュッと抱きつく…甘い香りが刺激する…不味いまた鼻血が出る…そんな時ようやくエレミアさんがゆっくりと目をあけた

 

「ん~おはよ~う…タカヤ君…」

 

「お、おはよう…エレミアさん…あ、あの離れて…」

「うん…離れる~よっと…」

 

寝ぼけながら僕の腕から離れ立ち上がったエレミアさんはタンクトップにパンツ姿…ささやかだけど二つの膨らみが揺れるのを見た瞬間鼻から熱いものが勢いよく吹き出したのを感じながら意識が途絶えた

 

「ぶ、ブハアアアアアア!?」

 

「え?………タ、タカヤ君しっかりして!?」

 

朝から盛大に鼻血を吹き出し気絶するタカヤを介抱するエレミア…そんな二人の姿を見た魔導具とデバイスはと言うと

 

《―……此所までユウキ/様/と似ている/とは/…これは将来大変/です/だな…―》

と深いため息をつく姿があった

 

――――――――

―――――――

 

「……………………」

 

「………………………」

 

あれから数時間後、二人は水場の近くでなにやら将棋を指している…が様子がおかしい

 

将棋にしては駒が大きくタカヤはそのうち一つを取りエレミア側に置かれた駒に重ね互いに印を組む目を閉じる

 

 

すると盤上の上で二人の人影が剣と体術を駆使し組み合う姿が見えやがて片方が倒れると盤上の駒が激しい音をたて砕け散る

 

 

「うわ~タカヤ君強いなあ~」

 

「…いえ、エレミアさんこそ初めて【バルチャス】したのに強いですよ…」

 

二人がやっているのは『バルチャス』と呼ばれるゲームだ…午前のトレーニングを終えたエレミアが暇潰しに何かゲームがしたいといい、タカヤはコートの中からバルチャスの盤と駒を取りだし(それを見てエレミア嬢ちゃんはかなり驚いてたがな)やり方を軽く説明しやってみたんだが最初はタカヤが勝ったものの、何回かやるうちにコツを掴んだらしく現在エレミア嬢ちゃんが押している

 

…もしかしたらと思いながらエレミア嬢ちゃんの気の流れを見る、強い魔導力の素質を感じた…それにあのエレミアの子孫だったことに驚いたぜ

 

だとしたらタカヤと出逢ったのは必然的だったのかも知れないな、何せオウガとよく喧嘩をした仲だったからな~

 

それにこの世界の女はなぜかわからないが魔戒法師の才能がずば抜けて高いんだよな。実際オウガの妻は王族でありながら魔戒法師のだったしな

 

ただ、オウルのかみさんは違う世界から来たから法師の才能はねぇ、代わりに『紋章術』ってのを得意としてたな…確かフロニャルド?に居たって聞いたな

 

「…タカヤ君、この勝負に何か賭けない?」

 

「…賭け?ですか?」

 

「その方が面白くない?もしうちが勝ったら…タカヤ君の事…色々聞いていい?」

 

「……いいですよ…じゃあ僕が勝ったら…クラナガンに着くまでの間エレミアさんの食生活の改善をします……」

 

(《おい、タカヤ?んな賭けしていいのか!?》)

 

(……キリク…バルチャスなら僕は負けないよ…)

バルチャスの騎士の駒を手に持ち前へ進め重ねると再び印を結びイメージファイトをエレミアさんと繰り返し辺りに剣がぶっかりあう音が木霊した

 

―――――――――

―――――――

 

「ま、負けた……僕が…バルチャスに…」

 

バルチャスの盤上にあるのはエレミアさんの駒だけ…対する僕の駒は一つもない

 

「…はじめてタカヤ君に勝った~じゃあ早速聞いていい?」

 

笑顔で勝者の権利を獲得したエレミアさんが聞いてくる…答えるかどうか迷う僕に

 

―タカヤ、バルチャスでの賭けは絶対だぞ~―

 

バルチャスで賭けをして負けた場合相手の言うことを聞く…これは古くからの決まり事をだというのをキリクの言葉で思いだし僕は答えることにした

 

 

「…まずは、何から聞きたいですか?」

 

「じ、じゃあ…タカヤ君の着てるコートの中には何が入ってるの?」

 

「……コートの中ですか…見てみますかエレミアさん?」

 

「い、いいの?」

 

「はい、じゃあ先ずは…これと…」

 

コートを脱ぎ椅子にかけその内側に手を入れ引っ張り出したのは特大フライパン…それを見てエレミアさんがどんどん驚いた顔になっていく…金塊(人の頭大サイズ)、宝石(原石)、釣竿、秘薬の入った箱、界符、魔導針、鳴札、魔導火、魔導書…等々を次から次へと地面に出していった

 

……数分後

 

「…ふう、これで全部かな…あの、どうしましたエレミアさん?」

 

 

「………………そ、そんなに入ってて重くないんか?」

 

「え…重くないですよ?…」

 

不思議そうにうちの顔を見るタカヤ君の後ろには沢山の金塊と宝石の山三つ…それに赤と白のお札、昔の金貨?の山…こんなにあのコートの中はいってたん?

 

チリン…

 

なんか乾いた鈴の音が耳に入る、音がした方には金塊と宝石の山の下にしかれた赤い布の上に黒地に白金の唐草模様が描かれた筆と一振りの黒い鞘に収まった刃の幅が広い剣、近づいて恐る恐る筆を手に取る

 

「…大きい筆…でも模様がきれいや…」

 

チリンと音を鳴らしながらうちは何気なく正面に向け円を描くと筆に光が集まってきた

 

「!!エ、エレミアさん、魔導筆から手を離して!」

「え?」

 

筆から白金に輝く無数の球体が放たれその余りの勢いで倒れそうになるうちを誰かが優しく抱き抱えてくれた

 

見るとタカヤ君の横顔、普段と違う真面目な表情を浮かべそっと筆を持つうちの手に手を重ねる

 

「…タジケロ!!」

 

空を舞う白金に輝く球体に筆を向け叫んだ瞬間、球体が大きく弾けて花火みたいな光が辺りに降り注ぐのを見てきれいやと感じるとタカヤ君がフウッとため息をついた

 

「…エレミアさん怪我はないですか?大丈夫ですか?」

 

「あ、うん…うちは大丈夫や…タカヤ君が受け止めてくれたから…ありがとうな」

 

「よかった…あ、離れますね…あと魔導筆も貰います…」

 

うちから離れると筆、魔導筆?をおいてあった場所におきしばらくして出したもの全部をコートへ入れ終わって直ぐに夕食の準備するために釣りにいくと言い釣竿片手に水場へ向かうタカヤ君を呼び止めた

 

「ま、待ってうちも一緒に釣りしていいかな?」

 

「…いいですよ…じゃあ釣りざおを渡しますね…確かこれかな…はい」

 

コートから釣竿を取りだしうちに渡しタカヤ君と一緒に水場へ向かう

 

…でもタカヤ君、そのコートってホント重くないんか!?

 

―――――――――

――――――――

 

 

水場…正確に言えば川につくとタカヤ君は手慣れた様子で針に餌をつけ近くの岩に座りビュンと針を川面へ投げる

 

トレーナーの上着を脱ぎTシャツ一枚になりうちも針に餌をつけようとするけどうまくいかへん

 

「エレミアさん、少しかして…餌をつけるときはこうやって…はいできた」

 

目の前で手早く餌をつけ終え少しだけ笑顔になる…でもさっきの筆を使うた時の辛そうな表情と違う、まるでなにかを懐かしいのを思い出すような感じやった

 

タカヤ君のサバイバリティの高さは誰か大事な人に教えてもらったんやろか?と考えながら川面に針を投げ入れると辺りには川のせせらぎが聞こえてる

 

「…タカヤ君の料理やキャンプとかは誰に教えてもらったんや?」

 

「……キャンプや料理全般は父さんに教えてもらいました…」

 

川面に垂れた糸を軽く引く…小降りの魚が上がり針を抜き生け簀に入れながら答えてくれる

 

「そうやったんか…じゃタカヤ君は将来の夢は料理人さんになるん?」

 

「…将来…の夢…ですか?………」

 

 

エレミアの問いに少し考えるタカヤ…しかし何も思い浮かばない

 

物心ついた頃には魔戒騎士と法師の基礎を遊びの中で学び始め【瞬転身の術】ソウルメタル(魔戒騎士が使う剣と鎧に使われる超重量の特殊金属、使い手の心の有り様で重さを増し時には羽毛のように軽いがなお特性上常に振動しているため普通の人が触れたら皮膚と肉を破く)の扱いは自然に覚え将来は魔戒騎士になる事に疑問すら持っていなかった…

でも今は魔戒騎士と法師になる事を捨てようとするタカヤは将来の夢…なりたいモノが見えない

 

 

自分は魔戒騎士と法師以外になりたいものは何なんだろ?と考えるがわからない…

 

「…僕は…わからない…将来なりたいモノが…」

 

「……クラナガンに着くまで時間はまだあるんや、其れまでにタカヤ君のなりたいモノ…夢を一緒に探そうか」

 

「…エレミアさん…僕に見つかるのかな…なりたいモノが…」

 

「…必ず見つかるよタカヤ君」

 

「…ありがと……エレミアさん!糸引いてる!!」

 

 

「え?ほ、ホントや!?す、すごい力や!!」

 

 

川面を激しく動く釣糸と弓なりに曲がる釣り竿、必死にうちは力を込めるでもお魚さんも必死に抵抗するも、少しずつ少しずつ力が弱くなるのを手に感じ勢いよく竿をあげる

 

 

「せええのっ!」

 

 

勢いよく水面から銀色に輝く鱗を持つ大きな魚が空を舞い雨のように水しぶきがうちを襲うのも構わず川原に落ちバタバタ跳ねるのを見てへたり込んだ

 

 

「す、すごいよエレミアさん!僕が昨日捕った奴よりも大きい…よ…って…」

 

釣り上げた大きなお魚さんを見て喜んでいたタカヤ君がうちに背を向けると着ていたコートを投げて寄越す、何でと思ったときブルッと震え体を見るとさっきの水しぶきのせいで濡れたTシャツ越しに下着が透けてる…

 

「み、見てませんから…そ、それよりも早くコート着てください…風邪引きますよ…ぼ、僕魚持って先に戻ります!」

 

釣り上げたお魚さんを担ぎ上げ地面を蹴りキャンプがある場所へ向かうのを見ながらコートを羽織る…タカヤ君の言う通り全然重うない

 

「…ホント重くないんやな…それにすごく暖かい…」

 

小さく呟きコートのボタンを止めキャンプへと歩いてく…今日の晩御飯楽しみやな~

 

―――――――――

――――――――

 

「「いただきま~す」」

 

 

お椀に具をよそってフーフーしながら口の中へ運ぶ…今日のご飯はタカヤ君特製、山野菜と釣り上げたお魚さんの鍋…良い匂いと出汁が食欲をそそってお椀につがれた具材があっという間に空になる

 

「おかわりはまだありますからね…あ、よそいますね」

「あ、ありがとう…ホント美味しいわ~」

 

(タカヤの鍋はユウキ直伝の鍋だからな~食べた奴はトリコ!になるぜ~)

 

(―アーク兄上からよくユウキ様は料理が得意だと聞かされていました…ロッサ様とはお菓子作りのライバルでしたからね…―)

 

 

魔導具とデバイスの呟きは二人には聞こえず、そのまま鍋を食べ終えた二人は色々と話をしながらやがて眠りについた

 

 

――――――――

―――――――

 

 

それから数ヶ月、うちはタカヤ君の食生活改善計画のおかげで前よりも身体に力がみなぎるようなった

 

(あれだけたべたのにかかわらずに体重は増えてない)…タカヤ君の将来お嫁さんなる人は幸せさんや~美味しい料理ができて家事全般万能主夫やからな~

 

でもこの生活も今日でで終わる…長いようで短いタカヤ君との生活は驚きの連続やった

 

―タカヤ君、今日のご飯はなんや~―

 

―……………………―

 

岩に背中を預けるように眠るタカヤ君に聞いたんだけど様子がおかしい、顔まで耳を近付けたら呼吸してない…まさかと思い胸に耳を当てたら心臓が止まってる…うそ!?

 

―た、タカヤ君!しっかりしてタカヤ君!!い、医者!?お医者さん呼ばなきゃ!?―

 

身体を揺らしても目を醒まさんタカヤ君にうちがお医者さん呼ぼうとしたらキリ君があわてて声をあげた

 

 

―落ち着けエレミア嬢ちゃん!タカヤは死んでないんだ!契約で一ヶ月に一度一日分の命を俺にあげるからそうなるんだ!!―

 

 

―そ、そうなん?でも何で一日分の命をキリ君にあげなあかんの!?―

 

 

―…俺たち魔導具は契約する条件に一ヶ月に一度一日分の命を貰うんだ…―

 

 

―な、なんでそんなことするの!キリ君はタカヤ君の友達なんやろ!!―

 

 

―…ああ、大事な友達だ…でもはじめて契約したあの日この事を言ったんだ…―

《…俺と契約すると一ヶ月に一度タカヤの命を一日分貰う…それが嫌なら契約は…》

 

『…いいよキリクとぼくは友達だから♪』

 

―…契約内容を聞いてもタカヤは笑顔で『いいよ』って言ってくれたんだ…二人目なんだ俺と『友達になろう』って言ってくれたのは…一ヶ月に一度命を一日分貰うのが俺はすごく辛かった…なのに何時も笑顔でタカヤは…そのせいで死ぬのが早くなったら俺はッ!―

 

―…ごめんな…キリ君も辛い思いしとったんやな…―

…キリ君もタカヤ君も優しすぎる…でもそれだけキリ君はタカヤ君の事を心配してるんやな

 

うちも久しぶりヴィクターや番長に会いたくなった…元気してるかな今年のインターミドルでみんなと会えるといいなぁ

 

あと…うちが何度か頼み込んで断られること数回ようやくタカヤ君からOKをもらって組み手して驚いた…

 

―……………いきます…―

 

構えてすぐに地面を蹴るや否や姿が消え背後に気配、咄嗟に腕でガードでもフェイント…ハイ、ロー、ミドルの順で蹴打を繰り出される

 

動きは獣の様だけどキレイ…でも瞳から光が消えてる、夢の中に入った時タカヤ君のお母さんが鍛える風景を垣間見た

 

うちから見てもあの鍛練は異常や…大人の背丈ぐらいある岩を拳と蹴りで砕きながらお母さんが筆を構えて無数の赤い文字が槍状に集まったシューター?を放つ…其れをかわし筆と黒地に白金の装飾が施された鞘から剣を抜いて左薙ぎ、右薙ぎ、逆袈裟で赤い槍を切り払う今よりも幼いタカヤ君の姿

 

今ほどじゃないけどその瞳からは光が消え始めてる

 

余りにも過酷な訓練…でも休みはきちんととらされてたみたい…だからこそこの動きが可能になったんやな

―……!!―

 

―え?キャッ!!―

 

考えながら攻撃をかわしてたのがいけなかった、僅かな隙が生まれタカヤ君は足を軽く払うと倒れ立ち上がろうとしたうちの眼前に拳をピタリと止める

 

―……僕の勝ちですね……戻りましょうか…エレミアさん?―

 

―う、うん…あれ?うまくたてん…どうしょ……え?///―

 

―…キャンプまで送ります…じゃしっかり捕まって…行きます…―

 

―え?ち、ちょっとタカヤ君?…え?きゃああああ!?

いきなり抱き抱えられ混乱するうちを他所に地面を蹴ると木の幹を蹴り風を斬りながら移動するタカヤ君…すごく怖かったけどなんか安心できてなんかドキドキする

 

キャンプ戻ってすぐ足を見たら赤く腫れてるのを見たタカヤ君は『ごめんなさい』を何回もいいながら足首に手を当てなにかを呟くと痛みが嘘のよう消えた

 

―エレミアサンノイズヨ、ハオレ、ハオレ…はい、これで大丈夫です…さっきはホントにごめんなさい!―

 

その日が終わるまでタカヤ君はうちに何度も謝ってきた…タカヤ君が眠ったのを見計らってキリ君、カー君と色々お話ししていたらお父さんと容姿と性格が似てる聞いてカー君がある画像を見せてくれた

 

肩車されて喜ぶタカヤ君を笑顔で見る二人…肩車する男の人は髪の色は違うけどタカヤ君にそっくりさんや…その隣で笑顔で立つ女の人がお母さん…

 

夢の中よりもタカヤ君に対する優しさと愛情が溢れているのがようわかる

 

―キリ君、カー君…なんでタカヤ君のお母さんはあんなことをしたんや?

 

―すまねぇ、こればかりはアイツ…メイとタカヤの問題だ…―

 

―エレミア様…若と母上は…いえ…できればこれ以上はきかないでください…―

 

二人とも黙り混んでしまった…何度話しかけても答えなかった

 

でもメイって名前はうち聞いたことある気がする…メイ…アキツキ…メイ…あっ!?

 

インターミドルのスポンサー企業の一つ『アキツキ・インダストリ』CEOメイ・アキツキさんと同じ名前!?

 

タカヤ君ってまさかアキツキ・インダストリの御曹司やの?

 

―あ、ははは…うち色々タカヤ君にお世話になりっぱしや~どうしたらええの~―

 

 

隣でのんきに眠るタカヤ君の顔を見ながら乾いた笑いをあげその寝顔を見る…あの日以来タカヤ君は夢にうなされるようなくなりこうして穏やかな寝顔をして眠れるようなったんはうちのお陰やとキリ君達から何度もお礼を言われた

 

 

―…大会のスポンサーさんならタカヤ君お母さんに会える…ならその時でもお話しできるかも…―

 

 

そっとタカヤ君の頭を撫で呟きながらうちはタカヤ君とお母さんが昔みたいに仲よう笑いあえるよう何とかしたいと決めた

 

…ホントこの半年はタカヤ君の事で驚きっぱなしやった、でも楽しかった旅も今日で終わる…タカヤ君とあの日逢わなかったらうちは今頃こうして元気にクラナガンへ来る事ができへんかった

 

「ここがクラナガン…大きい街ですね…」

 

クラナガンの街並みに驚くタカヤ君にこれからどうするか聞いて見ると聖王教会にいるお父さんのお母さん(?)に当たる人に連絡を取るみたい

 

「あ、エレミアさんコレを…」

 

「え、なんなんコレ?」

 

渡されたんは楕円形に削られた木に赤や黄色の色が塗られその真ん中に様々な色の紐を編み込んだストラップ?

…コレってタカヤ君のコートについてるのに似とる

 

「…エレミアさんがインターミドルで怪我無く勝ち進めるように作ったお守りです…あんまりうまくないですけど…」

「あ、ありがとうタカヤ君!うち、このお守り大事にするね///」

 

少しだけ照れた感じのタカヤ君…前に比べたら感情を出すようなったんだけど鼻血癖ばかりは治せへんかった(…カー君、キリ君が言うにはお父さんの遺伝らしい)…とりあえず特製のお守りを身に付けいよいよお別れの時間がきた

 

「…ここでお別れですね…」

「うん…あ、あのなタカヤ君…また…うちとまた会える?」

「…また会えますよ…エレミアさん、その時はまたご飯つくってあげますね」

 

「う、うん!またなタカヤ君!!////」

 

 

いきなり胸の奥が大きく脈打つとそう言葉を残しその場から全力疾走する…近くの公園でうちは足を止め近くの芝生に大の字に倒れ芝生の感覚と匂いに包まれながらうちは胸が高鳴った原因がようやっとわかった

 

「…うち、タカヤ君の事……」

 

この半年の生活でタカヤ君の事が…その続きを言おうとした瞬間さっきよりも胸の奥が激しく脈打つ、そのまま体を丸め芝生をゴロゴロ動き回って木の根にぶっかりとまったうちは小さく呟いた

 

「…うちタカヤ君好きになってたんや…」

 

胸がまたドキドキし始める…日が沈むまで芝生に倒れながらタカヤ君との半年間の生活を思い出し仰向けになったまま空を見上げた

――――――――

――

 

 

「ねえキリク、エレミアさんどうしたんだろ?」

 

《さあな(…こういうとこまで似てるとはな…)…其れよりリームと連絡はとれたのか?》

 

「うん…もう少ししたら来るっ…うわっ!?」

 

「タカちゃ~んお久しぶり~元気かな~♪うんうんこの抱き心地はユウキ譲りだね~♪」

 

「や、やめてリームおばあちゃん!み、みんなが見てるから!?」

 

背後から抱きしめ逃げようともがくタカヤに頬擦りするピンクの長い髪をサイドポニーにした女性…彼女の名は『リーム・グレイス』聖王教会に所属する騎士でユウキの義母、すなわちタカヤの祖母にな…「余計なこといったら怒るわよ作者♪」(ヒイイイごめんなさい!)

 

「フフフ~タカちゃん成分五年ぶりにフル充填完~了♪」

 

 

「……うう」

 

―リーム様、実は…―

「カーン君、言わなくていいよ…其れより早く私の家に行こタカちゃん♪」

 

 

「え、ちょっとリームおばあちゃん?ひ、引きずらないでえ~!?」

 

タカヤ成分?をフル充填完了しお肌がつやつやさせたリームに家へ引き摺られるタカヤ…それから数日が経ち部屋、いや教室の扉の前で何時もまとっているコートではなく制服に鞄を片手に持ち立っている

 

―タカちゃん、うちの学院に通ってみない?―

 

―…学院にですか?……―

数日前の夕食時(料理はもちろんタカヤの手作り)に告げられたリームの言葉に少しだけ考える

 

魔戒騎士、法師になることを捨てた僕にはなりたいものがない

 

でも普通の生活がどういうものかを知りたかった僕は学院ってどういう場所なのかにすごく興味があった

 

―…学院に通ってみたいです…リームおばあちゃんお願いでき…―

 

―そう言うと思って手続きは終わらせておいたよ♪タカちゃんはかわいいからスグに彼女ができると思うんだ~♪―

 

《お、おいリーム!?》

 

―あのリームおばあちゃん…カノジョって何?―

 

―………(メイ、タカちゃんをこんな風に育てたあなたを恨むわよ(怒)~でもコレはコレで面白いかも~ユウキと同じで何人の女の子に好かれるかしらね~)―

不思議そうに首をかしげるタカヤを見て呆れつつも内心面白がりながらお茶を飲んでいた

 

そして今に至る

 

「ね、ねえ、キリク…僕すごくドキドキしてる…」

 

 

《落ち着けタカヤ、何事も最初が肝心だ…堂々してりゃいいんだよ》

 

「う、うん…ありがとうキリク」

 

「君、入ってきたまえ」

 

「は、はい!」

 

先生に呼ばれ教室の扉を開きドキドキしながら教壇に歩き壇上に立つ

 

目の前には僕と同じ年の子達がたくさんいる、誰かの視線を感じ目を向けると碧銀の髪に僕と色違いの虹彩異色の瞳の女の子がじっと見ている

 

ずっと昔にあった気がする、そう感じながらも僕は口を開いた

 

 

「き、今日転入してきた…タカヤ・アキツキです…よ、よろしくお願いします…」

 

 

 

こうしてタカヤの新しい生活は始まりを迎えた…ただ寮住まいになると聞いたリームの悲しみようは半端じゃなく一月に一度は連絡すると約束した結果了承を得ることができたと記しておく

 

―――――――――

 

――――――――

 

 

「ん?なんや夢やったんか…タカヤ君元気してるかな~」

 

寝袋からでてうちは備えつけてある手製のかまどに向かうと米を研ぎ飯ごうを火にかける。隣に用意した水をはったお鍋にイリコを入れ沸騰させないよう出汁をとると手のひらでトウフを切り入れ軽く熱を通しミソを溶きミソ汁を作る

 

 

「ん、こっちも焼けたようやな」

 

火の近くに串で指した魚がが焼き上がると同時にご飯が炊き上がる。手早くに器に入れ大きな石ルにおき座ると手を合わせ

 

「いただきます」

 

タカヤ君から教えてもらった作法?を言い箸を伸ばし口に入れてく

 

(まだタカヤ君が作るご飯には程遠いなあ)

 

よく噛みながら箸を進めやがてオカズとご飯がなくなる…最近よく食べるようになったのはタカヤ君のお陰かな~

 

「ごちそうさまでした~」

 

 

空いた食器を水につけ洗い石に立て掛けうちは歯磨きをするとテントの近くにある川原に出る

 

「……………!」

 

空気の流れを感じながらゆっくりと体を伸ばしながらインターミドルに向け最後の調整をはじめる

 

拳打、蹴打を組み合わせながら動くジークの首にはタカヤが作ったお守りが激しい動きに揺れる

 

このお守りはタカヤ君のコートについてるものと同じ物、そのお陰かはわからないんやけどタカヤ君とクラナガンで別れてしばらく経っても体調を崩すことがなかった

 

(インターミドルまであと少し、多分タカヤ君も来てくれるはずや…今年はいつもより頑張れるかもなあ///)

 

《次元世界最強の恋する乙女》ジークリンデ・エレミアはタカヤとの再会を胸に秘め練習にただひたすら打ち込む

インターミドルまで後わずか…タカヤを巡る乙女達の戦いが加速しはじめる

 

 

特別話 家出 了




次回からいよいよ本編に入ります!


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第四章 こぼれ落ちゆく記憶と命…印刻みしモノは哄笑し、想うモノ達の涙散る
第十六話 雷帝(加筆修正版)


「ノーヴェ、タカヤさんは?」

 

「ああ、なんか自分の入場パスを忘れたって…セコンドにたつなら忘れるなよな~」

 

「でもタカヤさんらしいです」

 

選考会場には入場パスが必要になる、タカヤもアタシたち『チーム・ナカジマ』のセコンドにたつ事を以前から決めていたんだけど入場パスを忘れるなんてな

 

「…まあタカヤらしいか…ヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナ、そろそろ整列しろよ」

 

「「「はい/!/は~い」」」

 

元気に駆けるヴィヴィオ達を見送りアタシはタカヤが来るのを少しだけ待った

 

―――――――――

――――――――

 

「ウウ…」

 

胸に刻まれたアザ《破滅と忘却の刻印》を見るたびに思うことがある

 

みんな…ノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルト、エレミアさん、ミウラ君、リームおばあちゃん、母さん、父さん、アモンさん、ゲンヤさん達の《記憶》がなくなっていくのが怖い

 

キリクは鎧を召喚しなければ命と記憶はなくならないって言うけど伝承には召喚しなくてもある行為がきっかけで記憶は失われていくって記述があった

 

「…ウウ!クウウッ!ハアッハアッ……」

 

パスを忘れたと言い会場入り口から離れた場所でうずくまり焼きごてを押し付けられたような熱さと針をさすような痛みが襲う度に恐怖が支配する…僕はソレを振り払い一人で耐える

 

みんなのことを忘れてしまう恐怖を耐えるしかないんだ

 

第十六話 雷帝

 

「遅いぞタカヤ!」

 

 

「すいません少し道に迷っちゃって…あ、選手宣誓とセレモニー始まりますね…」

 

「ああ、今日は予選といっても気は抜けないしな…なあタカヤ」

 

「はい?」

 

「どこか調子悪いのか?」

 

思わずドキッとなる波打つ心を必死に誤魔化す僕をノーヴェさんは心配そうに見てくる

 

 

「え?大丈夫です。実は昨日あんまり眠れなくて…」

「そうなのか?実はアタシもなんだ…こういうのに参加するの初めてだからささ」

 

「そうですね…あれ?母さん?」

 

壇上にたった女の子…宣誓を終えたエルスさんからマイクを受けとる母さん…一瞬僕と目を会わせた気がするのは気のせい?

 

『…あまり長くなると皆疲れるでしょうから短く簡潔に言わせていただきます…エルス・タスミン選手も言われた通り全力で己の持てる力を出すのも大事です…でも忘れてはいけないこともあります』

 

スウッと息を吸いやがて

 

『自分を支え信じてくれた人たちの想いを忘れず【夢】へ邁進してください…では皆さん頑張ってください』

 

軽く一礼し壇上から降りると声が沸き起こり貴賓席に向かい座る母さんに気をとられた僕の背後からなにかが近づき抱き締められた

 

「タカちゃ~ん久しぶり~元気にしてた?」

 

「リ、リームおばあちゃん!?なんでここに?」

 

「うちの教会から出る子のセコンドにたつのよ~ああいい匂い♪」

 

「や、やめておばあちゃん!みんなみてるから!!」

抱き締めもみくちゃにするのピンクの長い髪に修道服姿の女性…タカヤの父ユウキの義母で義祖母にあたるリーム・グレイス。回りの大会関係者の視線などお構いなしにタカヤの抱き心地を堪能し離れた

 

「タカちゃん成分補給完了~」

 

「うう~お願いだからいきなり抱き締めないでよ」

 

「ごめんね~だってタカちゃん最近連絡くれないんだも~ん…おばあちゃん嫌われたかと思ったよ~」

 

「あ、あの…あなたはタカヤの?」

 

 

「あら、タカちゃんあなたもすみにおけないわね~あ、わたしはリーム・グレイス。聖王教会所属の修道騎士でタカちゃんのおはあちゃんで~す☆(キラ♪)」

 

「タ、タカヤのおはあちゃんですか?ア、アタシはノーヴェ・ナカジマです」

 

 

決めポーズを決めにっこり笑いながら自己紹介され慌てて名乗るノーヴェをジッとみるリーム

 

(……全体的に絞られてるわね~でも胸とくびれとおしりも含めて合格点!!それにメイとどことなく感じが似てるわね~フッフッフ~揉みがいがあるわね~)

 

「あ、あのグレ…」

 

「スト~ップ!私のことはリームって呼んでいいわよノーヴェちゃん♪ノーヴェちゃん、今日の選考会終わったら軽くお茶しよう♪」

 

「え?お、お茶ですか」

 

 

「そっ、お茶って言うか大人のガルト(ガールズトーク)♪じゃわたしはあの子のとこいかなきゃいけないからまた後でね~」

 

「え?ちょリーム?アタシは…」

「ノーヴェさん、ああなったおばあちゃんは止まらないんです…」

 

すごい速さで第二会場へ駆けるリームに肩をおとしながら呟くタカヤに無言でうなずくノーヴェ

 

「ノーヴェ…ん?君は」

 

 

「ああ旦那!ってかタカヤを知ってるのか?」

 

「以前な…(タカヤと言うのか…主が言われていた面白い子だな)…いよいよ選考会始まりだな」

 

ジッと僕を見るのは以前ミウラ君が練習していた砂浜であった二人のうち一人…あと一人の姿はない

 

「あ、あの時は名前も言わず失礼しました…僕はタカヤ・アキツキと言います」

 

 

「(アキツキ?そうか、やはり似ているな騎士アキツキどのと)…オレはザフィーラだ」

 

「あ、ザフィーラだ!!ひさしぶり~~」

 

軽く挨拶し終えた僕たちの前にパタパタと駆け寄るヴィヴィオに笑顔でうなずくザフィーラさん

 

「ああちょうどいい…ミウラをちゃんと紹介した事はなかったな……ミウラ!」

 

「あ、はい」

 

え?ミウラ…まさかと思い振り返るとミウラ君が立ってる…その瞬間あることが脳裏に浮かんだ

 

『ボクは、ボクは女の子だよアキツキさん!!』

 

涙目になりながら捕まれた押し当てられた手に感じる慎ましく柔らかい膨らみの感覚がよみがえる

 

「っ!?」

 

鼻に熱いものを感じた瞬間ものすごい殺気を感じ振り返るとヴィヴィオが笑顔で立っている

 

「あれ~タカヤさん、ミウラさんの事知ってたんだ(棒読み)」

 

何時もと変わらないんだけど何かゴゴゴゴゴって音が聞こえるし目が笑ってない

 

「う、うん…前にアインハルトのデバイスを八神さんの所に取りいった時会ったんだ。そうだよねミウラ君!?」

 

 

「はい!アキツキさんには色々お世話になりました。また今度手合わせお願いできますか?」

 

「うんいいよ…あのヴィヴィオ?どうしたの!?」

 

「…別になんでもないですよ~(棒読み)」

 

なんでもないっていうけど背中にキ〇グオブハ〇トが腕を組んでにらんでるんだけど!?

 

「(ヴィヴィオさん、もしかしてアキツキさんの事…)…ヴィヴィオさん!」

 

「はい?」

 

「ボク負けませんよ!」

 

好きな異性が同じことに気づいたミウラとヴィヴィオの背後にザ・ワー〇ド、スタープ〇チナが立っているのを見てタカヤはある意味命の危険を感じとり身震いし始める

 

やがてリオとコロナアインハルトも集まりいよいよ予選選考が始まる、まずはヴィヴィオ、ミウラがEリング、Cリングにたつ

 

「うわ緊張してるなミウラ君…」

 

テンションMAXなヴィヴィオに対しガチガチに緊張してるミウラにタカヤは少し心配になる

 

 

「タカヤ、ミウラの事より旦那にまかせとけばいいから…テンション上げすぎだ!落ち着いてけよ」

 

 

「わかってる、わかってる!」

 

セコンドである僕とノーヴェさんが離れ試合開始の合図が響きそれぞれのリングで戦いが始まる…

 

(アキツキさんがみているから負けられない!)

 

奮起するミウラに仕掛けたのは554のゼッケン選手、でもミウラ君は軽くジャンプし相手の腕を弾き転進超接近し体重をのせた右拳《ハンマー・シュラーク》をボディへ叩き込み相手が気絶し勝ちを納める

(タカヤさんがみてる…よしがんばろう!!)

 

ヴィヴィオの方も相手が武器を構えるも右拳から無数のラッシュ…あまりの重さと速さに苦悶を浮かべるも床を蹴りかわすがすかさず腰を沈め顔面への回し蹴り《ジェットステップ》が極りダウンする

 

Dリングでも

 

(今こうしてここにいる事が出来るのはノーヴェさん、ヴィヴィオさん、リオさん、コロナさん、そしてタカヤさんのお陰です…今の私は)

 

拳を構え合図と同時に槍をつきだす選手、それを最小限の動きでかわし軌道を反らし一気に間合いを摘め踏み込みと同時に撃ち抜く

(誰にも負けません!)

 

まさにあっという間の勝利に会場にいる選手関係者は唖然となる

 

この日から[チームナカジマ]は一躍有名になった

 

 

「リオもコロナもすごかったですね」

 

「ディードやオットーのお陰もあるな…じゃ皆のとこにいくか」

 

「あ、すいません少しだけ離れていいですか?

 

 

「?どうしてだ」

 

 

「実は母さんからカーンにメールが入って」

 

カーンに届けられたメールをみるとこう書かれている

 

 

―タカヤ、今日のお母さんどうだった?かっこよかった?……コホン、其よりタカヤに少し伝えておきたいことがあるの。すぐに来てくれるかしら場所は観客席にあるアキツキ・インダストリVIP席よ……くれぐれも赤か…ノーヴェ・ナカジマさんと来たらダ・メ・よ♪…じゃ待ってるわね~―

 

「…そういう理由か…話って時間かからないだろ…ヴィヴィオたちにも伝えておくからタカヤはメイのとこにいってこいよ」

 

 

「ホントにごめんなさいノーヴェさん」

 

 

「あとで結果を聞かせるから楽しみにしてろよタカヤ」

 

「はい」

 

 

軽く頭を下げ母さんがいる観客席に向かう…でもある一角がなんか騒がしい

「ていうか負けちゃって?あなたと戦うの面倒臭いから!」

 

「なんだとてめえ―!?」

「あ~ヴィクター?番長……」

なんか聞きなれた声が耳にはいる。コレって止めなきゃダメだよね

 

「カーン、アンリミテッドバインディングシールド展開」

 

《承知しました!》

 

二人の体を縛り上げる…でも色が違うバインドもかかっている

 

「ご協力ありがとうございます…会場には選手の家族もいるんですよ」

 

さっき選手宣誓をしたエルスさんが縛り上げながら礼をいってきたんだけど別な視線を感じ振り返る

 

「ああ、タカヤくんやないか?」

 

「え?エレミアさん…選考試合には出なくていいの?」

 

「う、それは…その…」

 

「ああ!!チャンピオン!?」

 

エルスさんの驚いた声が響き辺りがざわざわしはじめる…まさかエレミアさんがチャンピオンなの?

 

「よっ!元気してたかタカヤ…ってしばらく見ないうちに大きくなったな?」

 

「トライベッカさん?選考試合には…」

 

 

「ああオレはシードだから出なくていいんだ…ついでにコイツもな」

 

「コイツとはなんですか!ポンコツ不良娘!!」

 

「あ、あの~ケンカはやめたほうが…」

 

慌ててケンカを止めようとする僕に殺気にも似た視線を感じる…恐る恐る目を向けると

 

「「「「(怒怒怒怒怒怒!!)」」」」

 

下の階からこちらをみる四人のノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ君の目がすごく怖い…何かやったの僕は!?

 

(タカヤ、あとでアタシと話そうか)

 

(フフフ、タカヤさん…ゆっくりと私とスパーしましょうか)

 

(タカヤさん…チャンピオンとどんな関係か教えてくださいね(黒笑み))

 

(アキツキさん、ボクも聞きたいなあ~)

 

視線と共に言葉が突き刺さり身震いする…とりあえず離れないと色々危ない気がする

 

「じ、じゃあ僕はここで!」

 

「あ、待ってタカヤ君……いってもうた…」

 

「何あわててんだかな~まあまた会えっからいいか…ってどうしたヘンテコお嬢様?」

 

バインドを簡単に砕くトライベッカ、しかしヴィクトリーリアは何か様子がおかしい

 

「ジーク、あの方とはどんな関係で?」

 

「え、その…何でそんなこときくんヴィクター?」

 

「…少し昔の知り合いに似てるからかしら…フッフッフ」

 

底冷えするような笑い声を響かせながらバインドを砕くヴィクトリーリアに怯える一同だった

 

――――――――

―――――――

「ふう、なんとか帰ってこれたよ…」

 

《全くだぜ大事な用があるって言ってたのにまさかあんな事だとはな~》

 

回想!

 

 

―母さん、来た…うわ!?―

 

―タ~カ~ヤ~♪―

 

 

アキツキインダストリVIP席につくなり母さんから全力ハグされた…しかも頬擦りしてくるし

 

―今日のお母さんどうだった?カッコよかった?―

 

―か、母さんカッコよかったから頬擦りするのや~め~て~―

 

―ああ、やっぱりタカヤはユウキと同じお日様みたいな匂いがするわね~―

 

……三十分してようやく母さんは離れてくれたんだけど今度は久しぶりに僕の頭に生えた犬耳を優しく撫で始めながら

 

 

―実はねタカヤ、あなたにいい忘れたことがあるの…オウルお祖父様覚えてる?―

 

 

―うん、少しだけなら…―

―そのオウルお祖父様のことなんだけど…簡単に言うと…このインターミドルに雷帝の血を引く子が参加してるから気を付けて…―

 

―う、うん…でもオウルひいお祖父様と何があったの?―

 

―昔、オウルお祖父様が―

 

―――――――――

――――――――

 

 

「まさかオウルひいお祖父様がそんなことやったなんて」

 

《仕方ないだろうな、あの頃のオウルは霞拳〇郎みたいな性格だったからな…》

 

―――――――――

―――――――

 

 

―さていただ…―

 

―親父なんか飯食わせろよ―

 

 

世紀末な一団のリーダーが黒い髪をオールバックにし長身で筋肉質な青年の体にぶっかりその手に握られたラーメン丼が地面へ落ち砕けゆっくりと世紀末ヒャッハアアアアに声をかけた

 

―……おい。俺のラーメンどうしてくれんだよ―

 

 

―ああ?ラーメンだ?んなのアパッ?―

 

 

―…とりあえず俺のラーメン台無しにしたテメエら全員ぶん殴らせろ!―

 

―リ、リーダー!?や、やっちまえええ!!―

 

―ヒャッハアアアア×∞―

 

世紀末な一団はどこからともなく釘バット、ボウガン、青竜刀、チェーンソー…各々武器を取り青年を囲み襲いかかってくる

 

―……オラアアアア!!―

 

―ハピッ!?―

 

 

―フンッ!―

 

―クッパアアアア!?―

 

先に殴りかかった一人の攻撃をかわし踏み込みと同時に拳で殴り、背後からチェーンソーで切りかかろうとするもう一人を後ろを見ずに体を捻り体重を乗せた蹴りをその頭に叩き込む

 

その動きはまるで野獣。唖然となる世紀末な一団に顔を向けボキキッ、ボキキッと拳を鳴らす

 

 

―お、思い出した。コイツはオウルだ…《剛拳のオウル》だああああ!?―

 

 

―なんだ俺を知ってんのか…今さら知っても遅い…腰たたなくなるまで殴ってやっから安心しろ―

 

―い、イヤアアアアアアア!!―

 

《剛拳のオウル》はそんな彼らの叫びを気にすらもせず集団の中へ入り殴り、蹴り、肘打、回し蹴りを繰り出す。数分後、駆けつけた自警団が見たのは壁や地面に犬神家見たいに突き刺さり魘される世紀末な一団のなれの果てと宝石と金塊の山だけだった

 

――――――――

―――――――

 

 

「ラーメンって…僕の知ってるオウルひいお祖父様そんな感じしなかったのに」

 

 

《まあな~でもな一番厄介な相手と戦ったからな…確か雷帝の血を引く当主と天瞳流当主と決闘した時なんか…タカヤ強い気が迫ってる!》

 

相づちを打った時何かが風と共に通り抜けとっさに避けた

 

 

「流石はオウル・アキツキの血を引くものですね…」

 

ゆらりと立ち上がるのは完全武装した女の人がいる、確かさっきエレミアさんと一緒にいた人で名前は

 

 

「ヘンテコお嬢様?」

 

ブチッ!

 

わなわな手を震わせ戦斧を僕に向け切りつけながら叫んだ

 

「私はヴィクトリーリア・ダールグリュン!」

 

「うわっ!」

 

慌ててカーンを起動させ剣で戦斧をただひたすら受け流す…ダールグリュン、昔若い頃のオウルひいお祖父様が叩きのめした相手の名前だった

 

「流石ですわね。ならこれはどう捌きますか?」

 

戦斧を受ける度に重い一撃で手がしびれる…気を抜いたら負ける。でも無言で戦斧の一撃一撃を流していくのに苛立ち始め抜刀の型をとるダールグリュンさんに警戒しながら僕も構える…

 

 

(クッ!)

 

 

胸に激しい痛みが襲い僅かに抜くのが遅れダールグリュンさんの魔力刃と逆手に持った戦斧の柄が両方から風を切りながら迫る

 

ダメだと感じた瞬間、自然に手が動き辺りに金属音が響く

 

「やっぱりオウル・アキツキから受け継いでいたのですね、二十三式改[刃咬]改を…」

 

ギリギリと手で挟み押さえる僕を見てそう呟くと戦斧を下げ騎士甲冑を解き背を向ける

 

「……貴方には礼をいいます。ジーク、あの子の側に半年間いてくれてありがとう」

そのまま黙って去って行くのを見届けフラフラと膝をついた

 

《若!大丈夫ですか!?》

 

「うん、少しだけ痛んだだけだからもう大丈夫。《ナカジマ》さんの所に戻ろうか」

 

《タ、タカヤ!お前…》

 

「どうしたのキリク?」

《……落ち着いて聞けタカヤ。今お前はノーヴェの名前を忘れていたんだぞ!》

 

「え?う、嘘だ…うう…僕は…」

 

フラフラと地面に踞ると嗚咽を漏らし泣き始めた…でも涙をぬぐい立ち上がる、忘れたのは名前だけだナカジ…いやノーヴェさんとの思い出はまだ僕の中にはっきりと残っている

 

 

「キリク、カーン…また僕が名前や思い出を忘れてしまったら…教えて…」

 

《わ、わかった…だがなこれだけは言わせてくれ…俺やカーンは【絶対に忘れない】からな》

 

《若、私も絶対に忘れません…何度でも私たちが教えます》

 

「ありがとう…じゃいこうかノーヴェさんたちの所に」

 

笑顔でみんなの所に行こう…そう心に決め僕は歩きだした

 

「ん?やっときたか。タカヤ~こっちだ!」

 

「あ、ノーヴェさん。ヴィヴィオ達の結果どうでした?」

 

「あと一回勝てばスーパーノービス入りだ」

 

「ヴィヴィオたち頑張ってましたからね…あ、みんな来たみたいですよ」

 

「じゃあ帰るか」

 

着替えが終わったヴィヴィオたちと合流しそのまま歩き出し笑いながら今日の試合の反省点等を話すうちにヴィヴィオとアインハルトリオ、コロナを其々の家まで送りノーヴェさんと僕だけになりやがて家の前に着いた時ノーヴェさんが話しかけてきた

 

「な、なあタカヤ」

 

「なんですか?」

 

「あ、あのさ今度アタシん家で鍋食べないか?ジロウたちの歓迎会も兼ねてなんだけどさ」

 

「…いいですね、じゃあ僕もなんかお手伝いましょうか」

 

「い、いい!タカヤはなにもしなくていいから…じ、じゃあ歓迎会やる日はカーンに伝えっからまた…あ!?」

 

玄関に向かおうとしたノーヴェさんが段差につま付きそのまま倒れそうになるのを慌てて受け止めそのまま一緒に倒れた…でもなんか柔らかくて暖かい二つの膨らみに顔が包まれて手に弾力があってふっくらした暖かいモノを感じる

 

「う、動く…な…バカァア~あんっ///」

 

ま、まさか…ゆっくり顔をあげた僕の目の前には顔を真っ赤にし涙目になったノーヴェさんが見ている

 

じゃあこの柔らかくて暖かい膨らみはまさかノーヴェさんのむ、む、胸!?

 

「ブ、ブハアアアアアアアアアアア!!」

 

「タ、タカヤ?しっかりしろタカヤああああ!?」

 

勢いよく鼻血を吹き出しパタリと気絶したタカヤを抱き抱え必死に呼び掛けるノーヴェの声が夕暮れに染まるナカジマ家に響き渡った

 

 

第十六話 雷帝(加筆修正版)

 

 

 

おまけ

 

「………………」

 

 

先ほど私が剣を交えたタカヤ・アキツキはジークの片寄った食生活を改善した恩人…なのに剣を向けてしまった

 

オウル・アキツキには確かに恨みがある。でもひい孫である少年にぶっけてしまった

 

剣を交えて感じてわかったのはすごく真っ直ぐで強い太刀筋で曇りがない…剣を交えるうちに恨みがなくなっていった

 

 

「…もしジークが知ったら怒るわよね…」

 

 

あの少年との事を聞くと必ず照れたりするし好意があるってバレバレだし

 

それにジャンクフード好きだったあのジークがおにぎりを作ってるなんて信じられなかった。多分あの少年と半年間過ごしたのがプラスになったと思う

 

 

「だったらジークとあの子が上手くいくよう応援してあげないとね」

 

 

少し微笑みを浮かべながらヴィクトリーリア・ダールグリュンはエドガーの元へ向かった

 

 





キリク

スーパーノービス入りを果たしたヴィヴィオ嬢ちゃん達に高町家でささやかなお祝いにお菓子を振る舞うタカヤ


その頃ノーヴェはウェンディ達と共に古の魔戒騎士達に街を案内する。その最中、一人の少年と出会う

次回、獅子(一)!


ホラーの影がヴィヴィオ嬢ちゃんとアインハルト嬢ちゃんに迫る


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幕間 眼鏡(加筆修正版)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



《…メイのやつ、俺をこんな所に封印しゃがって……なあどう思う?…ってお前は継承者が現れねぇと眠ったままだったな…ああ退屈だぜぇ~》

 

台座に刺さった幅広の黒塗り鞘に収まった剣斧から目を離す。オウルが死んですぐにアイツの手でこんな狭い部屋に封印されちまって四年もいればため息つきたくなる

 

話し相手は剣斧オウガだけなんだが喋らねぇし、魔導身具の俺じゃ身動きできねぇし動けたとしても扉一杯に張られた界符が邪魔しちまう

 

……まあいい少し寝るか…

そう決め目を閉じしばらくしてウトウトとしながら俺はアイツと初めてあった日の事を思い出した

 

 

幕間 眼鏡(加筆修正版)

 

「アイツ等が人間界にいって百年…俺もついてけば良かったな…」

 

あくび?をしながら岩肌に座りながら辺りをみる、ここ《真魔界》は何にも無い…前は話し相手が二人、いや三人いたんだが……

 

 

『人間と共存できる可能性』

 

『人間ってどんなんだろう?』

 

『人間の生活とやらを見てみたいねぇ』

 

……って理由で長年の知り合いである俺をほんの少し居眠りしてる間に勝手に人間界にいきやがった

 

ったくよ…他の仲間《ホラー》は人間を餌だと言うけど…俺はそうは思えねえ…あああ~俺も人間界に行けば良かった!!

 

そう叫んだ俺の目の前に突然光が広がりやがった

 

「…ん、アレはまさか《ゲート》ついてるぜ!!」

 

突然開いたゲートに俺は迷わず通った…出口がどうなってるか知らずにな…

 

『な、何だこりゃあ……しかもアレはレギュレイス、人喰い野郎じゃねえか!!』

 

 

 

俺の目の前に広がっていたのは白夜が空に広がり、白い鎧を纏った騎士がレギュレイスと戦い、さらに騎士や炎人の中に信じられないモノを見ちまった

 

『…ホラーが騎士達と手を組んでるって…信じられねぇ…』

 

 

「おい、お前…」

 

振り返ると黒鉄色の魔法衣着た十代前半のガキが俺に変わった魔戒剣?を首筋に当ててやがる

 

「お前はレギュレイスの手先か?」

 

『ふざけんな!あの人喰い野郎と一緒にすんな!ガキ!!』

 

 

「…ガキじゃない、秋月煌牙(アキツキオウガ)だ…お前、名前は!」

 

 

『…名前なんかねぇよ!』

 

言葉と同時に互いを攻撃したかに見えたが実際は互いの背後に迫ったカラクリをガキ…煌牙は剣で頭蓋を割り、俺はその無機質な仮面を龍を模した爪で砕いた

 

「…じゃあこれが終わったらいい名前をお前につけてやる、ハアッ!」

 

『そおかい!!』

 

俺達は互いに背を合わせながらカラクリを殴り切り裂きながら一体、また一体と数を減らしていく

 

 

だが多勢に無勢だ…回りにいた騎士や炎人がまた一人、倒れていく中ふとガキの顔を見ると泣いてやがる…よくみるとコイツの耳についてる飾りは倒れた騎士と同じモノだ

 

魔戒騎士の訓練を終えた奴等は共に学んだ証として御守りを貰うと昔聞いたことがある

 

まさか倒れているのはガキの友か…コイツは泣きながらも剣を振るい続けてる。辛いはずなのになぜコイツは剣を振るうんだ?

 

「…少し離れてろ」

 

悲しみを振り払うかのように意志を込めた言葉に従い離れた直後、頭上に剣を構え真円を描いたガキは光に包まれやがて収まる

 

牙を剥いた狼の面、西洋の意匠を持ち鋼色の鎧を纏った騎士…色から判断して新しい系譜の魔戒騎士だとわかった

 

『……白夜の魔獣レギュレイスとその眷族…お前達の陰我!俺が断ち切るハアアア!!』

鋼色の狼がカラクリを切り裂き、穿ち…しかし無数のカラクリに囲まれた時ガキの剣が変形し柄の長い斧へと変わり回転し凪ぎ払いやがった

 

このガキ…秋月煌牙を面白い奴だと考えている内にいつの間にか守るように戦っている事に気付き笑いが込み上げた時

 

白い鎧を纏った騎士が弓を構えレギュレイスが居る天に向け光輝く矢を放つ

 

『―――――――――――――――!!』

 

言葉にも表すことができない断末魔をあげ封印される人喰い野郎《レギュレイス》と同時にカラクリの軍勢も消滅する

『…あの人喰い野郎、また甦るだと…』

 

『…やったのか…だがッ!』

 

鎧を返還した秋月煌牙はそのまま倒れそうになる…俺が寸前で受け止めた

 

『…白夜騎士か…』

 

 

光が降り注ぐ中、白夜騎士が鎧を返還し終えると白と赤の外套を纏った青年が此方へと歩いてきた

 

《久しぶりじゃな》

 

白夜騎士の腕輪…龍を模した部分が軋むと懐かしい声が聞こえてきやがった

 

「ゴルバ、このホラーを知ってるのか?」

 

 

《…昔からの知り合いじゃ…だが何故お主は此所に来たのだ?》

 

相変わらず爺くさいなと感じながら此所へ来た経緯を話す…聞き終えた時にはガキ、秋月煌牙も目をさまして俺を見ていた、爺…ゴルバが意外な提案をしてきた

 

《…お主、この若き騎士…秋月煌牙の魔導身具になる気はないかの?》

 

『俺に秋月煌牙の魔導身具になれだと…いいぜ!但しひとつ条件がある』

 

《条件じゃと?》

 

『俺は腕輪や指輪にはせず…そうだな秋月煌牙と同じ視線でこの世界を見る事ができる形にしてくれ』

 

 

《お主は相変わらずじゃな…どうする?》

 

 

「それを決めるのは秋月煌牙だ…魔戒騎士、法師としての才能は此所でも有名だからな…」

 

「俺は未熟だ…ゴルバ殿…ソウマ」

 

『おいおい、さつき迄の威勢はどうした秋月煌牙?』

「う、うるさい!」

 

光の雨が降り注ぐ中、白夜騎士、じいさん…ゴルバは俺を秋月煌牙に任せる事を決まるとオウガは笛を取り出し曲を奏で始めた

 

倒れ命を落とした騎士、炎人達の魂を弔う曲が辺りに響き渡ると光が天へと昇っていく

 

その光景に俺は知らず知らずの内に涙を流していた…僅かな時しか共に戦っていないのに関わらずに…

 

―――――――――――

―――――

――

 

《ふあああ~よく寝たぜ、これが俺の新しい身体か》

目を覚ますと俺は新しい身体…魔導身具になった事を実感する

 

「目を覚ましたか…不具合はないか?」

 

《ああ、むしろ調子がいいな…ところでこの魔導具はおまえが作ったのか?》

 

 

辺りを見ると壁には無数の魔戒剣が飾られ、その反対には数多くの秘薬、魔導筆が数多く置かれている

 

 

「俺は此所《閑垈》では有名らしい…そう言えばお前に名前をつけると言ってたな」

 

 

《カッコイイのを頼むぜ…》

 

作り終えた魔導筆を台におきしばらく考え口を開いた

 

「…お前の名は、キリクだ」

 

《キリク?》

 

 

「…旧魔界語で『絆を結ぶ』と言う意味だ…」

 

 

「秋月殿、元老院から召集が来ました」

 

 

 

「元老院から?何のようだ…キリク早速で悪いんだが」

 

 

《おう、よろしく頼むぜオウガ》

 

 

オウガは俺を目に掛け黒鉄色の外套を纏うと其のまま空間を切り裂き入り口を開くと中に入り元老院へとむかったんだが、まさか向かった先であんな指令を受けるとは思ってもいなかったぜ

 

―――――――――

――――

 

「此所とは異なる世界へ行き十三体のホラーと王を狩れですか?」

 

「…先のレギュレイスとの戦いで多くの騎士と炎人の命が失われた現在、貴方しか適任者がいません…」

 

「…わかりました、指令ありがたく受けさせていただきます」

 

「…待ちなさい…」

 

 

オウガは神官に軽く一礼しその場から去ろうとすると呼び止められた

 

 

「…何でしょうか…」

 

 

「…今この場には私しかいません…オウガ、貴方にばかり辛い事を押し付……」

 

「…母さん…俺は『守りし者』として人々を十三体のホラーと王から守り抜きます…だから泣かないでください」

 

 

「オウガ…例え世界は離れていても私は貴方を…」

 

其所にいたのは神官の仮面を脱ぎすて異世界へ赴く息子の未来を想う一人の母の泣く声が魔導火が照らす神殿内に響く

 

 

もちろん俺は二人の会話を聞くのは無粋だと知っているから眠っていたぜ…本当にな

 

―――――――――

―――――――

 

指令を受けて数ヵ月後、誰もいなくなった木造の小屋に一人たたずむ室内を見渡す

 

 

「此所ともお別れか…」

 

《なんだ寂しいのかオウガ?》

 

「ああ…」

 

ソウルメタルの軋ませる音を耳に聞きながら何も無くなりガランとした室内の真ん中にゆっくりと座り目を閉じる…元老院から指令を受け俺は十三体のホラーとその王―――を追い明日の夜旅立つ

 

 

此所とは異なる世界へ…正直不安もある…だが俺はこれから向かうその世界に住む人々をホラーから守らなければならない

 

 

指令だからと言うわけではない…二度とこの世界に戻れないと母である神官にも言われたが俺の決意は変わらない

 

 

『守りし者』として俺はその世界に向かうのだから…

 

そう思いを巡らしていると背後に気配を感じ剣斧に手を添え立ち上がり目を開けると意外な人物達が立ってる

 

「驚かせてすまないなオウガ」

 

「ジロウ、レイジ、何故此所に!?」

 

《皆で酒を酌み交わしに来たんだよ…》

 

 

《僕もいるよキリク》

 

 

《エルヴァ婆さんに、ウルバまで…》

 

 

「オウガ、今日は無礼講だ…美味い酒も用意してある…肴は…」

 

「俺が持ってきた…」

 

《オウガ、キリク、今宵は『陰我消滅の晩』…皆で飲み明かそうではないか》

 

「ソウマ、それにゴルバ殿まで…」

 

驚く俺の前に大きな酒瓶とツマミを持った白と赤、青、魔導衣を着た三人と魔導具達は粗末な木の円い台の上に、酒瓶とツマミをその近くに置くと其々の杯を取り酒を注ぎキンと杯を軽く鳴らし酒宴が始まる

「オウガ、昔を思い出すな…」

 

…ジロウが酒を注ぎ入れ一気に飲み干しフウッと息をつき語りかける…あの頃まだ騎士見習いだった俺達は互いに切磋琢磨し訓練に明け暮れながらホラーから人々を守る立派な魔戒騎士になる夢を持ち毎日を過ごしていた

 

泣いたり笑ったり挫けそうになっても互いに励まし合って晴れて魔戒騎士になった時は皆で喜んだ

 

「…あの頃はきつかったけど楽しかった…」

 

「ああ、でもあの時の面子は俺達だけになってしまったな…レイジ」

 

ダン…ソウマも酒を飲み干し呟くとレイジもうなずく…俺は新しい系譜の魔戒騎士として新たな鎧と魔導馬を授かりレギュレイスとの戦いに参加したが共に学んだ友の多くが死んでしまった

 

 

「…皆、いい奴だったな…」

 

死んでいった友は今でも俺達を見守っている…そう思いながら注がれた赤酒を勢い良く飲み干し空になったソウマの杯に注ぎ入れキンと軽い音を鳴らし再び飲み干す

 

《キリク~どうしても別世界に行っちゃうの~寂しいよ》

 

《昔からの知り合いが居なくなるのは寂しいの》

 

 

《まったくだねぇ~》

 

《俺もさウルバ、エルヴァ、ゴルバ…》

 

 

傍らでは魔導具達が台座の上で会話に花を咲かせている…キリクと雷鳴騎士破狼『四十万ジロウ』、閃光騎士狼怒(ロード)『布道レイジ』が持つ魔導具エルヴァ、ウルバとは古くからの知り合いだと聞いた時は驚いた

 

これも何かの縁なのだろうか?

 

 

レギュレイスとの戦前から三人の友、レイジに魔戒法師としての技術を、ジロウからは騎士としての剣を互いに競い合いながら鍛練を重ねやがて騎士、法師として実力は此所【閑垈(カンタイ)】では有名になった

 

 

実際キリクはレギュレイスとの戦いの後に俺がはじめて作った魔導具である意味?最高の出来だ…それにこの魔戒剣斧はレイジ、ジロウ、ソウマがが俺の戦い方に合わせ拵え錬金してくれたものだ

 

 

レギュレイスとの戦いの前までは魔戒斧と魔戒剣を両手に構え戦っていた俺にとって最高の贈り物だ

 

 

白夜騎士打無(ダン)『山刀ソウマ』からは――――――の扱いを付きっきりで指導してもらった。酒を飲みながらソウマ、レイジ、ジロウの顔を見て明日で別れると思うと辛い…

 

 

「オウガ、久し振りにアレ歌うか…」

 

 

「…そうだな」

 

 

「昔みたいに歌うか」

 

 

杯に残った赤酒を一気に飲み干しまだ魔戒騎士の訓練をしていた時に皆で歌ったのを口ずさんだ…この場には四人しか居ない筈なのに無数の声が聞こえてくる

 

《…オウガ、俺をかけてみろ》

 

キリクに言われた通り掛け辺りを見て驚いた…俺達の周りには死んだ筈の友が、仲間達が笑顔で歌っている

 

―オウガ、向こうに行っても風邪とか曳くんじゃねえぞ―

 

 

―お前は誤解されやすいからな~まあ解ってくれる奴が向こうにも必ずいるさ―

 

―いい女を見つけるんだよ…あたしみたいなね―

 

 

―どんなに遠くに離れていても僕たちはオウガの友達だ―

 

 

(あ、ああ…ありがとう皆…)

 

亡き友達の魂の声を聞き応え涙を流すオウガ…やがて歌い終わるといつのまにかに彼らは消えやがて四人とも酔いつぶれ雑魚寝した

 

今日は陰我消滅の日…魔戒騎士達にとってホラーが現れない日は家族とゆっくり過ごせる、だが三人と魔導具達は遥か彼方の異世界へ旅立つ友と最後の日を過ごす事を選んだ

 

―――――――――

――――――――

 

「…新しき系譜の魔戒騎士【秋月煌牙】、これから赴く世界をホラーとその王から守り抜くのです…ゲートを開きます」

 

 

高くそびえる古城、元老院最上階、夜空に満月が輝く空まで伸びた長い石畳の橋に俺は一人で立つ

 

その背後の壇上に白夜騎士、雷鳴騎士、閃光騎士が横一列に並び神官が厳かに告げると同時に目の前に魔導文字が幾何学的的模様を拡げ巨大なゲートが開かれた

 

 

「…行くぞキリク」

 

《ああ!》

 

 

魔戒剣斧を抜き放ち上段に天に向け構え真円を描く、光に包まれ現れるは牙を剥いた狼をあしらった兜に西洋の意匠を併せ持つ鋼色の鎧を纏った騎士が馬…魔導馬に乗り蹄を大きく踏み鳴らしゲートへ向け駆けていく

 

『ハアッ!』

 

 

蹄音が響き火花を散らしながら駆けるが蹄音が一つ、また一つ増えていく

 

不思議に思い隣を見ると白夜騎士、閃光騎士、雷鳴騎士、各々が魔導馬に乗り共に隣を駆けて行く

 

 

『オウガ、忘れるな』

 

 

『…どんなに離れていようとも』

 

 

『俺達の心は共にある!』

 

レイジ、ジロウ、ソウマの激励の言葉が俺の胸に響き渡り目頭が熱くなりながら手綱を握りさらに駆けゲートへと突入する寸前俺は叫んだ

 

 

『ジロウ、ソウマ、レイジ、さよならは言わない…またいつか、先の未来で会おう!』

 

 

それに応えるかの様に声が聞こえたのを背中で受け無数の魔導文字が走る白い空間内を駆け抜けて行く

 

生身でのゲート突破は不可能だが鎧を纏う事で可能になりさらに装着時間も無制限になる

 

 

どれだけの時が過ぎたのだろうか、ふと目を向けた先に大きな光が見え俺は手綱を強く握り締め魔導馬――を走らせる

 

《オウガ!出口だ…あと悪い知らせだホラーの気配を感じるぜ!!》

 

 

『…早速ホラーと遭遇か…急ぐぞキリク!!』

 

 

手綱を強く握りしめ更に勢いよく駆け出す。徐々に光は大きくなり俺達はその中へと突入した

 

 

――――――――――

―――

 

 

二つの月が夜空に輝きある城下町を照らし…まるでナニかから逃げるよう人々が逃げ惑っている。そのナニかから守るよう三人の男女が安全な場所へと誘導する姿が見えた

 

 

 

しかしそれを嘲笑うかのように樹木の太い根がまるで意思を持っているかのようにその行く手を阻む

 

「クラウス、ここもダメです!」

 

 

「オリヴィエ、イクス、まだ諦めるな!」

 

 

「でも…もう…エレミアは!」

 

「エレミアはいま逃げ遅れた人たちを安全な場所へ誘導している!あなたも早く」

 

 

クラウスと呼ばれた青年が拳を構え行く手を阻む樹の太い根を砕こう拳を振るうもとするも自身も傷つき拳を押さえる彼に向けどこからともなく声が響く

 

『ナカヤ、ラハタヤラカタニツイニ(諦めろ、貴様達人間は我らにおとなしく食われる。それが運命なのだ)』

 

 

この世界の言語ではない旧魔界語…その意味を解する者はいない

 

 

しかし三人はだいたいの意味をわかってしまうが闘志を奮い立たせ民達を守るように立ちはだかった時辺りが急に明るくなる

 

 

「クラウス!アレは!!」

 

空に白金色の淡い光が広がり無数の光に彩られた文字が激しい水流の様に溢れだしてくる

 

 

『~~~~~~~~!!』

 

馬の嘶く声と力強い蹄音が辺りに響き渡り光の中から鋼色の鎧を纏った騎士を載せ鋼色の馬が駆け地面に降り立つと同時に剣?を蜻蛉の型に構え馬?の腹を蹴り蹄音を響かせ私達の眼前を駆け抜けていく

 

『ハアアアアアアア!』

 

『ア、アカナ!ホゼマキイクスナナハホホナカリ!?(バ、馬鹿な!何故魔戒騎士が此所に居る!?)』

 

 

突然、空から光と共に現れた騎士?に驚き叫ぶ魔物が無数の鋭くとがった樹の根を勢いよく伸ばし全方位から攻撃するも剣で袈裟、逆袈裟で切り払い、刀身を楯にしながら間合いをつめていく姿に私達はある少女が告げた預言を思い出す

 

 

 

―彼方より来たりし魔獣と王、生けとし生ける者達を喰らい尽くした時、世界は闇に閉ざされる―

 

 

―同じ彼方より白く煌めく火を使いし鋼の狼顕れ、魔獣と王を狩り尽くしこの地に光をもたらさん―

 

まさか彼が鋼色の狼?見ると兜?は牙を剥いた狼の面、全ての根を切り払い終え剣を構えた瞬間全身から白く煌めく火が立ち上ぼり辺りを煌々と照らす

 

 

『貴様の歪んだ陰我!俺が断ち切る!!』

 

 

再び樹の根を使い攻撃を仕掛けるも炎を纏った剣で切り払われ魔獣の身体を大きく横に構えた剣で切り払い抜け蹄から火花を散らしながら反対側に踏みとどまり断末魔を挙げ消滅するのを見届けた彼の身体から光と共に甲冑?が空に舞い消えさると剣?を携え黒鉄色の外套を纏った少年が姿を現した

 

 

「まずは一体か…キリク他に気配は?」

 

 

《いや、全く感じないぜ…ん?》

 

 

 

「あ、あの貴方が『鋼の狼』ですか?」

 

 

「…鋼の狼?…お前は誰だ?」

 

 

「…私はオリヴィエ、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトです」

 

 

「………秋月煌牙だ…」

 

 

この日俺とオウガはオリヴィエ嬢ちゃん達、後の聖王女、覇王、冥王、黒のエレミアとの出会いを境に永きに渡るホラーの戦いの日々が始まったんだ

 

 

この時代はあらゆる場所に《陰我》宿りしオブジェが多数あったが四人の理解者がいたお陰でエレメントの浄化と十三体の《死醒ホラー》と《死醒王》の封印に成功し平穏が戻った

 

オウガは数十年から百年単位で封印が解けることを予見し次の世代を育てる為、四人と別れた

 

思えばこれが最後の別れになるって知らずにな…その間血を引くもの達は様々な世界に召喚されたりしながら眠りから醒めた十三体の死醒ホラーと死醒王との壮絶な死闘を繰り広げた…八代目にあたるオウルは一番長生きでフロニャルドって世界に召喚され暴れていた魔獣を倒すんだが帰る時にその倒した魔獣…正確にいや浄化して狼の化身である元《土地神》プリムが着いてきていきなり逆プローポーズした日にはさすがに驚いたぜ

それからしばらくして娘が生まれ大きくなるまでさんざん『キリク、キリク』って遊び道具にされたときはうんざりしたが楽しかったなあ

 

一人の剣士と出会い結ばれしばらくしてメイが生まれた……

 

 

――――

――――――――

 

「変わったな…………!」

 

 

「…そこをどけオウルウウウウウ!」

 

「ワシは、お前を本当の……だと…本当の………だとも思ってた!もはや、もはや!お前を…………と二度と思わん!!」

 

 

互いに激しく剣を切り結ぶ老人とフード?を被る……、息を切らす間もなく繰り出される剣撃に辺りの空気、大地、木々が震えつばぜり合い反動を利用し後ろへ飛び構える姿…なんだこの記憶は!?

 

互いに剣を天に向け真円を描き光が降り現れたのは《白金》、闇よりも暗い《黒》の騎士

 

『はあああ!』

 

『があああああ!』

 

 

 

下段、上段、横凪ぎに火花を散らし切り払う黒の鎧騎士…だが僅かに見せた隙をつきすれ違い様にオウルの剣斧が深々と黒く輝く鎧を貫きそいつは声をあげずに息絶え地に倒れ伏した

 

 

「…すまんメイ…ワシは……を救えなかった……許してくれ…キリク…メイには……お前の記憶を…」

 

光と共にもとの姿に戻ったオウルが俺を手に取り魔導筆を向けた瞬間なにかが……消え…て…いく……

 

 

――――――――

―――――――

 

 

《な、なんだったんだ今のは…》

 

目をさました俺は先程の夢を思い出そうとするが薄靄がかかったように思い出せねえ。

 

《ん?》

 

剣斧オウガがナニかと共鳴してやがる、しかもオウルが使っていた頃と同じソウルメタルの振動音…薄暗い室内に響き乾いた音ともに無数に貼られた界符が弾けとんだと同時に扉が開き現れたのは黒く長い髪に魔法衣姿の小さいガキ、俺の横を通り抜け剣斧オウガと向き合った

 

「きみがぼくをよんだの?」

 

尋ねると嬉しそうに共鳴したのを見て手を伸ばしソウルメタルで出来た剣斧オウガを軽々と抜きやがった…まさか

 

《まさかこんなチビッコが剣斧オウガに選ばれたとはな》

 

「え?だ、だれかいるの」

 

《ここだ、こ・こ!!》

 

 

「め、眼鏡さんがしゃべった!?」

 

《眼鏡じゃねぇ!俺様の名はキリク様だ!!》

 

「きりく…さま?うんすごくかっこいいなまえだね…ねぇきりく」

 

 

《なんだチビッコ?》

 

 

黒塗りの鞘に収まった剣斧オウガを立てかけたチビッコはいきなり俺を持ち上げ笑顔でこういったんだ

 

 

「ぼくと『ともだち』になろうきりく♪」

 

 

《…………と、友達だと!?このキリク様とか!?》

 

「うん!あ、ぼくはあきつきたかや…よろしくねきりく」

 

 

この日、魔導身具でホラーである俺とタカヤは友達になった…

 

この日から《九代目白煌騎士》としてホラーから人を守るという長く辛い運命がはじまったんだ

 

 

幕間 眼鏡

 

 

 

新キャラ紹介

 

 

名無しの上級ホラー(後のキリク)

 

年齢 忘れた!

 

 

趣味 ねえな…だが魔導身具に錬金されてからは様々な世界の景色をみることだな

 

 

千年前、白夜の魔獣レギュレイスとの大戦時に開かれたゲートを通り現れた上級ホラー…ゲートを通り抜けた直後魔戒騎士になりたての秋月煌牙に斬られそうになるがレギュレイスとの繋がりを否定し襲い掛かったカラクリを撃破したことで共闘することに

 

レギュレイス封印後、ゴルバの薦めもありオウガの魔導身具になることを了承し『眼鏡型魔導身具キリク』へ錬金され歴代白煌騎士のパートナーとして魔界やホラーに関する膨大な知識を元にサポートすることになった

 

 

現在はかなり人間文化に染まりエロい発言が多いが友達のタカヤを常に心配している

 

 

なおキリクの本体は今でも真魔界にある奇岩石内に封印され何時でも戻ることができる

 

 

陰我消滅の日

 

 

二十年に一度ホラーが絶対に現れない日で魔戒騎士達にとって家族とゆっくり過ごせる日でもある

 

 

白夜の魔獣《レギュレイス》

 

白夜の結界を通じて現れる最強最悪の魔獣

 

仲間を増やす際はレギュレイスが産み出した仮面を素体ホラーに被せることでカラクリを増やし人間を食らっていく大食いのホラー

 

ホラーの始祖であるメシアとは別系統のホラーであり同族であるホラーからも恐れられていたが千年前に初代白夜騎士打無が放った《鷹燐の矢》で封印された

 

 

 

白夜の大戦

 

千年前、タカヤの先祖秋月煌牙、山刀ソウマ、四十万ジロウ、布道レイジ、若き魔戒騎士、魔戒法師、さらに人間と共存を考えるホラー達と共に白夜の魔獣レギュレイスとの壮絶な戦いを挑んだ。あまりの激しい戦いに生き残ったのは十数人にも満たなかった

 

 

元老院

 

南、北、東、西にある番犬所(正式名称ばんけんところ)と魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師を束ね管轄する

 

元老院には一流の魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師が招聘、所属し重要度の高い任務が与えられるがその反面、自身の実力を過大評価しプライドが高い者が多く、番犬所に所属しない魔戒騎士、魔戒法師を格下に見る者達もいる

 



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第十七話 獅子(改)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



「すごいこれ全部なのはさんが作ったんですか」

 

「ううん、これは全部タカヤ君が作ってくれたんだ」

 

「ア、アキツキ先輩がですか!?」

 

「『みんなが頑張ったごほうびに僕が作ります』って言ってたからね♪」

 

今日の選考会でみんなは最高のスタートを切った…で今は高町さ……なのはさんの家で軽いお祝いをやってるみんなの驚く声を耳にしながらキッチンではタカヤが丁寧にフルーツを盛り付けていく

 

《タカヤは参加しないのか?》

 

「これが出来たらいこうかな。…よし出来た!」

 

 

《なあ、さすがにこれは懲りすぎじゃないか?》

 

 

「え?そうかな…今日はお祝いだし」

 

 

生クリームで包まれたスポンジの上に季節の彩り様々なフルーツがデコレートされたフルーツケーキとブルーベリーソースをかけたチーズケーキを見て満足そうに頷くタカヤにため息をついた

 

(…全くこういうところはユウキそっくりだぜ)

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオ、追加のスイーツどうぞ」

 

「うわあああ~きれいです」

 

「食べるのが少しもったいない気がします」

 

「これ本当にアキツキ先輩が作ったんですか!?」

 

 

「すごく美味しいですこれ!」

 

「あ、慌てなくていいから!あとお土産用にも作ってあるからね」

 

 

「「「ほ、ほんとですか!」」」

 

「う、うん…」

 

目をキラキラ輝かせるアインハルト、リオ、コロナに少し驚きながら頷くとパアァッと笑顔になった

 

 

「ねえフェイトちゃん、やっぱりタカヤ君、アキツキ一尉の…ん?」

 

「あ、私が出るよ」

 

チャイムが鳴り玄関に出ると金髪に翡翠色の瞳に眼鏡をかけた青年を見て少し顔を赤くなるフェイト

 

「ユ、ユーノ?今日はどうしたの」

 

「うん、ヴィヴィオたちのインターミドル選考会の結果をロッサから聞いたんだ」

 

「そうなんだ。ユーノも上がっていかない?」

 

 

「え、でも…」

 

「むう~いいから上がる!!」

 

「あ、ひ、ひっぱらないでフェイト!?」

 

ずるずるとリビングに引きずられソファーに座らされた

 

「あ、ユーノさん♪」

 

「相変わらず元気だねヴィヴィオ……リオもコロナ…アインハルトさんに…君は?」

 

 

「あ、はじめまして僕はタカヤ・アキツキっていいます…えと何か僕の顔についてますか?」

 

 

「い、いや何でもないよ…僕はユーノ・スクライア。よろしくねタカヤ君」

 

 

不思議そうな顔をするタカヤに首を横に振るユーノ。だが最近無限書庫の未整理区画で発見した絵画《騎士と鉄腕》に描かれた人物とタカヤが似ていた事に驚いていた

 

(…解読できた文字にはオウガ…アキツキ…それにエレミア…ロッサが妙な事言ってたっけ)

 

 

第十七話 獅子(一)

 

 

数時間前、聖王教会

 

―やあユーノ、実は義姉さんが妙な予言をしてね―

 

―妙な予言?――ああ興味があるならあとでコレ見てくれるかな…じ、じゃ僕はここで―

 

 

―見つけましたよロッサ!今日は絶対に逃がしませんよ!!―

 

 

―そういうことだから……さらばだまた会おうシャッハ!!アデュー!!―

 

 

―待ちなさいロッサ!―

 

逃げるロッサを鬼気迫る顔で追いかけるシャッハを見ながら私室へ戻り渡されたデータ端末を開いた

 

―印刻まれし古の白金、蒼、白、紫紺の狼。火に身を焼かれ水が枯れはて尽き乙女たちの落涙、地を濡らす

 

黒き獣の王 六ノ門を超えるとき数多の地は闇に染まる

 

 

されど先より赤き狼、去りし時より鉤爪の乙女現れ蒼、白、紫紺の狼を印より解き放つ

 

白金の狼、強く想いし者の願いを背に翼と数多の光宿りし矢にて闇を永劫に彼方へ消し去らん

 

 

あまりにも不吉で難解な予言…度々でる白金、狼の言葉にユーノは四年前のJS事件と同じ…それ以上のナニかが迫ってることを感じてならない

 

「ユーノくん、久しぶり」

 

「久しぶり…って昨日会わなかったかな?」

 

「あはは、そうだね」

 

「………なのは、昨日ユーノと会ったってどういうことかな?」

 

 

ソファーにならんで座る二人の背後に人数分のフルーツケーキを皿にのせたニコニコ笑顔のフェイト、でも目が怖い

 

(なのは、抜け駆けはダメって言わなかったかな!)

 

(にゃはは、ごめんフェイトちゃん)

 

 

(な、なんかすごく居づらい!?)

 

 

「ヴィヴィオさん、お母様たちってまさか」

 

「はい、そのまさかなんです…」

 

ユーノをはさんで座るなのはとフェイトから何やらオーラが立ち上るのを見て怯えるアインハルトの前では……

 

「ユーノくん、あ~ん」

 

「あ、あ~ん」

 

「ひ、一人で食べれ…」

 

「「あ~~~ん」」

 

二人から切り分けられたケーキが乗るフォークを差し出され冷や汗を流すユーノ

 

「ふう~平和だねキリク」

 

(こ、コレのどこが平和なんだ?どう見たって修羅場だろうがあああああああ)

 

(……………………………………キリク、修羅場ってナニ?)

 

(こ、このド天然がああああああ!)

 

 

リビングから離れたキッチンで皆の分のフルーツケーキを疑問符を浮かべながらラッピングするタカヤにキリクの叫び声(思念通話)が響いた

 

 

――――――――

―――――――

 

クラナガン市内

 

 

「さてコレで全部揃ったな」

 

市内にあるスポーツ用品店タチバナから出る…不足しがちなモノを買い出しに来たんだけど今日はあたし一人だけじゃない

 

「すごいです、見たこともない機械が沢山ありますね…分解して良いですか」

 

 

「や、やめるのだレイジ殿!公共物分解はダメだ!?」

 

 

「ふむ、これがギンガ殿が使う《こぉひい豆》…良い香りだ」

 

「ジロウさん、まだ袋を開けないでください!空気に触れると味が落ちますから」

「む、すまないギンガ殿…………スゥ~」

 

 

「ウェンディ、俺の魔法衣を返せ!」

 

 

「ヤっすよ♪それよりアタシが選んだ服を着るッス!そんな服じゃ目立ちすぎッスよ」

 

「…ゴルバ、俺の魔法衣はそんなに目立つのか?」

 

《ウェンディ・ナカジマ嬢の言う通りじゃ、それに今日の目的を忘れたわけではなかろう?》

 

 

「……く、わかった……着たら必ず返せウェンディ」

 

 

家に居候中のコイツらにこの世界についての説明と案内するためギンガ姉とチンク姉、ウェンディがついてきてんだけど

 

レイジは街中にある端末を不思議な形をしたドライバーで分解するのをチンク姉が大慌てで止めて

 

ギンガ姉の通いつけの珈琲豆専門店《カフェ・マル・ダムール》で豆が挽き終わるまでの間に出されたコーヒを香りを嗅いですぐカッと目を見開いて飲み干していきなり『釣り入らない』っていきなり拳大の金塊をコートから出して慌てたり

 

 

ウェンディにコートをとられたソウマがまるで恋人みたいに追いかけっこしたり…まあ確かに今風の服じゃないし、それ以上にウェンディも妙に構いたがってるし

 

 

過去からタカヤを助けるために現れたって聞いてたから仕方ないって感じながら歩くあたしはショーウインドウの前で足がとまる

 

ガラスケースの中には純白の様々なフリルで飾られたウェディングドレス…なんかきれいだな

 

「なに見てるんッスかノーヴェ……コレってウェディングドレスッスよね。もしかして」

 

 

「ち、ちがう!あ、アタシは別にドレス着てみたいなんて思ってな…」

 

「あれ~あたしそんなこと聞いてないッスよ(笑)♪ウェディングドレス姿のノーヴェにタカヤン完璧に見惚れちゃうかもしれないッスよ」

 

 

見惚れる…ニコニコ笑うウェンディの口から出た言葉がぐるぐる頭を駆け巡る

 

もしウェディングドレス着たアタシを見たらタカヤは何て言うんだろ

 

一瞬、アタシの頭に顔を真っ赤にしたタカヤの顔が浮かぶ…まずい胸がすごくドキドキしてきた

 

 

「あ、ここ試着もできるみたいッスから今からタカヤンを呼ぶッス……あれタカヤンッスよね?」

 

 

端末を開き呼ぼうとしたウェンディの手が止まりあるほうへ目を向けてる方を見る、少し離れた場所で黒鉄色のコートを纏った見慣れたタカヤ?の歩く姿

 

今日はなのはさん家でヴィヴィオたちの護衛もかねて軽いお祝いするって聞いてたんだけど

 

もう終わって帰るところか?少し驚かしてやるか

 

ゆっくりとタカヤ?に近づき恥ずかしさを我慢してアタシはおもいっきり抱きついた

 

「つ、つ~かまえた」

 

「う、うわあ!?」

 

でも勢いが強すぎたせいか勢いよく地面に倒れこんだ

 

「イタタタ~何すんだよアン………ゲッ!?」

 

 

黒く長い髪にアホ毛がピンと立つタカヤより少し強気な目でアタシを見てなんか驚いてる…とりあえず謝っか

 

「だ、大丈夫か?どこも痛くないよな」

 

「だ、大丈夫だけど…さっきのは何なんだよ」

 

「その、アタシの知り合いに似てたからつい…でも本当にごめんな!」

 

「も、もういいからさ…俺そんなやわな鍛え方してないし…ほら」

 

ポリポリほほをかき平気だって感じで手をヒラヒラさせる。なぜかわかんないけどタカヤと同じ匂いを感じる

 

「な、なあこんなこと聞くの失礼だって思うんだけどさ…アタシとどこかで会わなかったか?」

 

 

「…会ってない……それよりみんな待たせてるみたいだから早く行った方がいいぜ…じゃあな」

 

 

「ま、待て…お前の名前は!?」

 

「……クロウ、クロウ・オーファン…」

 

そういうとアイツ、《クロウ・オーファン》はアタシの前から去っていったのを見ながらみんながいる場所へと歩いていった

 

…クロウからずっと昔から知ってるって感覚を感じながら

 

――――――――

―――――――

 

 

(まずい………に会っちまったあああ!?)

 

 

ビルの上で座る俺の頭に浮かぶのはさっきの出来事…幸い正体に気づかなかったみたいでよかったとしょう!

 

でも親父がいたらややこしくなってたかも知れねぇなあ

 

《クロウ、薬が切れかかってるぞ?早く秘薬を飲んだ方がいいぜ》

 

腕に嵌まった双頭の龍を象った腕輪型魔導身具ライバのキシキシと擦れるような音と声と同時に髪に変化が起きる

 

「やっべ!薬、薬…あった」

 

 

うっすらと赤みがかるのを見て慌てて魔法衣から《変容の秘薬》をとり一気にのみ干すと再び黒へ戻るのを見てため息をつくとそのままビルからビルへと飛びながらやがて姿が見えなくなった

 

 

―――――――

――――――

 

 

「フヒ!フヒヒヒヒ…殺したいなああ」

 

足元に転がる缶をおもいっきり蹴るも壁に乾いた音を響かせカラカラと落ちるのを見てさらに苛立ちを募らせながらシートがかけられたナニかに近づき一気に引き剥がす

 

赤く塗られたバイク…ホイールやマフラーにはまだら模様に黒いナニかが付着している

 

このバイクは猟奇的殺人愛好者が愛用していたモノ…それを手に入れた日から普通の人であった彼は狂ってしまった

 

暗闇に紛れては人を引き殺しタイヤ越しに骨と肉が潰れる感覚に絶頂に近い快感を覚えた

 

最初は老人、次は成人女性…引き殺す度に心は悦びに震えたが最も快感を覚えたのは子供を引き殺したときだ

特に夢に向かってひたすら前に進む子供から夢と命を奪う度に昂り快感が堪らなかった

 

今の時期はインターミドル…瑞々しい柔らかい肉が、骨が潰れる感覚を思い浮かべたとき声が響く

 

 

―ヒチヲヒキツキリヌイク?

 

頭に響く声は人語ですらなかったが意味はわかってしまった彼はうんうんうなずく

 

―ヤヤバオリヌクイヤクスリ、シシルバクリシフウダイダ…ホクニキイツリハシイクウダセ!―

 

脳裏にイメージが流れ見えたのは金髪と碧銀のオッドアイの少女二人…コイツらを引き殺したらもっと気持ちいいだろう

 

―ヤニスル、クイヤニスリカ?―

 

 

「あひひ、こんなガキ殺せるなら契約してやるぜ…」

 

―アイズ、クイヤニスルヌ!!―

 

 

「アアアアアアアアアアアアアア!?」

 

声が響いた瞬間バイクから無数の魔界文字が溢れ彼の体に突き刺さるように吸い込まれ悦びに満ちた叫び声が暗い路地裏に響き渡ると彼はバイクに乗り夜に染まる街へ走り出し姿が見えなくなると風が舞い全身フードに覆い隠された人物が現れた

 

「ふふふ、上級ホラー《リィオウ》よ、オウガの称号受け継ぐ者の命と記憶を削り尽くせ……私は邪魔者の相手をしょう」

 

そう呟き闇よりも黒く輝くデスメタルに包まれた右腕を軽く振るうと黒い花びらが包みながら風が起こる、やがて治まると姿は消えてなくなっていた

 

―――――――――

―――――――

 

 

「ギンガさん、すまないが少し別行動をとっていいか?」

 

 

「あ、僕もいいですか?」

 

「…ウェンディ、すまないが魔法衣を返してくれ…今の俺には必要なんだ」

 

 

「で、でもジロウさん達はまだ此所に慣れてないんじゃ」

 

「そうだ、レイジ殿は機械を見ると分解したがるから放ってはおけない」

 

「ソウマっちはすぐ喧嘩腰になるから心配っす!」

 

ギンガ、チンク、ウェンディから言われるが三人は首を横に降らなかった

 

「大丈夫だ、必ずギンガさんの家に我々は戻る」

 

 

「はい、だから信じてくださいチンクさん」

 

 

「………………俺もだ、ウェンディ…」

 

三人の目を見てしばらくしてため息をつくと、時間までに必ず変えるようにと強く念押しされギンガ、チンク、ウェンディは先に家へ戻るのを見届け三人は人気がない場所へと歩いていき立ち止まった

 

 

「いい加減出てきたらどうだ!」

 

「ふふふ、さすがは古の魔戒騎士…打無、狼怒、刃狼だ、今日はお前たちに」

 

声が響く渡り三人は背後を振り返る、全身フードに覆い隠された人物がたたずんでいる。驚く三人を無視し黒く輝く手を振るう、辺りに花びらが舞うと同時に姿が消え魔戒剣、魔戒槍を身構え警戒する三人。だが黒いナニかが姿を顕し、胸に鈍い衝撃と焼き付くような痛みが襲い堪らず地面へうずくまった

 

「うう!」

 

「ぐ、ぐああ」

 

 

「うぐ!」

 

「刻印を与えに来た…………せいぜい残りわずかな命を過ごすがいい」

 

うずくまる三人を見下ろしながら再び歩き出しやがて黒い花びらが舞い、その場から完全に消え去り苦しみ悶える三人だけが残された

 

――――――――――

―――――――――

高町家

 

「リオ、コロナまた明日ね」

 

「うん、ヴィヴィオ、アインハルトさんまた明日」

 

「あ、待ってみんな。お土産」

タカヤさんが今日のお祝い会で作ったお菓子が入った丁寧にラッピングした箱をリオとコロナに手渡してます

 

少し前になんでそんなにお菓子作るのが上手いんですかって聞いたらタカヤさんのお菓子作りの腕はお父さんに教えてもらったって笑顔で答えてくれました。なのはママの実家「翠屋」に負けないぐらいにタカヤさんのお菓子はすごく美味しいんですよ

 

…でも最近タカヤさんの様子がおかしいんです。まるでわたしやアインハルトさん、ノーヴェと距離をおく的な感じがして

 

何かあったのかなタカヤさん

 

「ごめんね片付けまで手伝ってもらって」

 

 

「いえ、キッチンを使わせてもらったから当たり前ですよ…よしこれで終わり」

 

使ったボウルや器具を棚へ直しシンク回りを軽くふき終えなのはさんに後を任せてリビングに向かう。ソファーにはヴィヴィオとアインハルトが今度の練習に向けてどうするか会話してて、そのテーブルではティオがキリクに噛みついている

 

《や、やめろティオ!俺をかじるなああああああ!?》

 

「なあああああ~♪」

 

 

かじかじとかじられ叫ぶキリクをティオから救いだしかけた…あ、残念そうな目で僕をじっとティオが見てる

 

「あ、ごめんねティオ…そうだ」

 

魔法衣から猫じゃらしを取り出すと目を輝かせじゃれはじめる…なんかかわいいなティオ

 

(タカヤ、胸の痛みはどうだ?)

 

「にゃ、にゃ、にゃあああ!?」

 

(…大丈夫だよ…一応痛み止めと忘防の界符を張ってるし…)

 

「う、うにゃ!!」

 

 

狙いを定め猫じゃらしに飛びかかる…でも素早く動かしティオから逃げる

 

(…だがあくまで一時しのぎだぞ!それにあの嬢ちゃんたちには何時までも隠し通せねえぞ!!)

 

(…キリク、近いうちにアキツキ屋敷に戻ろうと思う…もしかしたら刻印を解く方法がオウルひいじい様の魔蔵庫にあるかもしれない)

 

(…そうだな…あとタカヤも身体の《浄化》をしないとな…)

 

刻印を打たれてからもトレーニングに付き合う合間を見計らって僕は魔導図書館で《破滅と忘却の刻印》について調べた…それに関する本は見つかったんだけど解く方法が記されたページが紛失していた

 

正確に言えばごく最近誰かが『魔導図書館』に入りその記述が書かれたページを破り持ち去っていた

 

でも『魔導図書館』には厳重な結界が幾重にも展開してるため魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師、そしてアキツキ家の血を引くもの、許しを与えられた人間にしか入ることができない

 

今アキツキの血を引くのは僕と母さんの二人しかいない

 

許可を与えた人間は過去にほんの一握りしかいないしもう存命していない(最近別作品のキャラにメイが通行許可証をあげたのをタカヤは知らない)

 

 

いったい誰が…

 

「にゃ!!」

 

「うわあ!?」

 

「え?」

 

「きゃ!」

 

考え込んでた僕の背後からティオが手に握られた猫じゃらしを見事にキャッチ…うでがぐいっと引かれそのまま隣にいるアインハルトとヴィヴィオに倒れてしまった

 

 

「イタタタ、ご、ごめんヴィヴィオ、アインハルト大丈……」

 

 

「…ん…そんなに握らないで」

 

 

「…そんなに強くされると痛いです」

 

二人の声でハッとなると同時に手に柔らかい感覚…目を向けると手が二人のささやかだけど柔らかい胸を鷲掴みにしてる

 

「うわあああ!?ご、ごめん!?」

 

 

あわてて二人から離れるタカヤを見たユーノは

 

「あはは、なんかデジャブって感じがするね」

 

 

「ユーノ君、今度のお休みいつかな?」

 

「今度のヴィヴィオ達の試合に見に行かない?」

 

 

「来週…うん、空いてるよ」

 

「じゃ決まりだね♪」

 

「うん」

 

二人からのお誘いを受け困惑しながら頷くユーノ、こっちもいい感じになっていたのだった

 

――――――――――

―――――――

 

 

「では私はこれで」

 

「またねアインハルトちゃん」

 

「また遊びに来てね」

 

「は、はい」

 

「じゃあ僕もそろそろ」

 

「あ、わたしも見送りにいっていいですか」

 

 

「え?べ、別にいいけど…何で?」

 

 

夜になりアインハルトを家へ送ろうとするタカヤに着いていくと言うヴィヴィオに聞いてみる

 

「え、それはまだ話したいことがあって…それに今度の練習のメニューを」

 

 

「……うん、いいよアインハルトもいいかな?」

 

 

「私は別にかまいませんけど…ではいきましょうか」

「え?ちょ、ちょっと二人とも引きずらないで!?」

 

少し間を明けそういうとアインハルトとヴィヴィオに挟まれながら腕を組まれ歩いていく

 

「じ、じゃあ僕もそろそろ……って?なのは、フェイトはなしてくれないかな?」

 

「もう少しだけお話ししたいんだけどいいかな?」

 

 

「うん、ダメかな……?」

 

「う?す、少しだけならいいよ」

 

涙目プラス上目使いの二人を前にし頷きそのままリビングに引きずられるように歩いていくユーノから微かに鈴みたいな音を響かせていたことに二人は気づかなかった

 

―――――――

―――――

 

クラナガン中央区

 

 

「え?家に戻るんですか!?」

 

「う、うん、でも戻るっていっても二、三日ぐらいかな」

 

「う、家にですか。あ、あのお母様とは…」

 

「うん、この前仲直りしたんだ……あ、話それちゃったね。今度の特訓メニューに僕も参加するってノーヴェさんに言わなきゃ…ってヴィヴィオ、アインハルト!?」

 

 

「よかった、タカヤさんとメイさんが仲直りができてよかったです…」

 

「本当によかったです…お母様と仲直りできて」

 

少し涙目になるヴィヴィオとアインハルトをあわてて落ち着かせる…あの時母さんの魔導筆を握ってなかったら本当の気持ちをわからず仲直りなんてできなかった

 

それに魔戒騎士をやめようとした僕があの日、ヴィヴィオとアインハルトとノーヴェさん、エレミアさんに出会ってからかなって思う時があった

 

「うん、でも皆のお陰か……」

 

《…タカヤ!強い邪気…ホラーの気配だ!!》

 

キリクの叫びと魔法衣から剣斧を抜き二人を守るように立つ、同時に爆音を轟かせナニかが風を切りながら迫る

 

「くっ!」

 

剣斧で受けるが正面からの重い衝撃にたまらず声を漏らし辺りにソウルメタルの振動音が響かせながら力任せに火花を散らせながら振り抜くとナニかが壁にけたましい音と共にぶっかる

 

「はあっ、はあっ…キリク、今のは?」

 

《気を付けろタカヤ!コイツは上級ホラー『リィオウ』猟奇的殺人者が愛用したバイクをゲートに出現したようだ》

 

僕は魔法衣から複数の界符と水が入った小瓶数本をとり素早くアインハルトとヴィヴィオの回りに陣を描きながら魔導筆でサッと界符を撫でる

 

同時に、二人の回りに結界が生まれ魔導文字が浮かび上がり包み込んだ

 

「アインハルト、ヴィヴィオ、そこでじっとしていて!」

 

 

「「は、はい」」

 

 

二人に背を向けるとゆっくり剣斧を抜き構える

 

 

『ヤッヤクリヌハ!オウガ!!』

 

雲の切れ目からの月明かりに照らされバイクと獅子が一体化したような体躯を持つホラーリィオウが姿を表す

 

 

「フツリニハチニダスニイナイ(二人には手を出させない)…」

 

『ヨウヌカヌ(どうかな?)』

 

僅かに体を揺らした瞬間姿が消え背後からなにかが砕ける音が響く

 

「え?」

 

 

「きゃあ!」

 

 

振り返るとアインハルトとヴィヴィオがリィオウの手に捕まれてる姿…あの上級ホラーでも破壊するのが困難な結界を破壊したの!?

 

『クキキ…フウヌルヌチヒイククイクヌク(王の血を引く二人をもらっていく)!!』

 

「待て!」

 

「タカヤさん!」

 

そのままリィオウは身体、下半身をバイク?に変え夜の街を疾走していくのを見てタカヤは駆け出す。だがバイクとの差が広がっていく

 

 

「す、すいませんこれ借りていきます!!」

 

「あ、ちょっと待て!」

 

道端に停車していた白いカラーのSUZUKIのKATANAに跨がりエンジン全開にし男が叫ぶのを無視しホラーリィオウを追いかける

 

 

「あんにゃろ~人の前でバイクを堂々盗んでいくとはな」

 

「どうしたんだ滝さん?」

「ああ、今さっきお前のバイクがガキんちょに盗まれたんだ…どうした村雨」

 

「これが代金かもな…」

 

「ん?………て、これダイヤの原石じゃねぇかよ!!…あのガキいったい何モンだ」

 

 

足元にあった袋からは拳大のダイヤの原石を見ながらパンチパーマに長身の男とドクロが描かれたヘルメットを片手に持った男は呟いていた

 

――――――――

―――――――

 

《お、おいタカヤあんまり飛ばすな!》

 

「そうも言ってられないよキリク!あのホラーからアインハルトとヴィヴィオを取り返さなきゃ!!」

 

 

風を切りながらアクセルを強く回し借り物のバイクでリィオウに追いすがるタカヤ…だがキリクはあることに気づいた

 

《な、なあタカヤ…お前バイクの免許持ってるのか?》

 

「…………キリク、免許って何?」

 

《……む、無免許じゃないかあああああああああ!?》

 

「み、見えた!飛ばすよ!!」

 

キリクの叫び声を無視しアクセルを絞り先行するホラーリィオウにあと僅かと迫るがその体躯に変化が起こる、背中が盛り上がり巨大な獅子の腕が生え殴りかかってきた

 

「うわっ!」

 

ハンドルを操作し右へ、左へかわすも攻撃の手は緩まず徐々に距離が開いていく…タカヤは剣斧を抜き放ちその拳を受け流しながら鎧召喚を行おうと真円を正面素早く描いたが

 

「グアッ!」

 

 

 

胸に激しい熱さを伴った痛みに思わずハンドルを切り損なうが必死に立て直しなんとか斬り祓う(う、うっ、くうううう!!)

痛みに耐えながら追走するタカヤ…だが痛みがさらに激しさをましさらに頭痛が襲い集中が途切れそうになる

 

『ホヘシタマクイクス?フフノマヌダクフウノイヌチハニイゼ(どうした魔戒騎士、このままだと王の血を引くものの命はないぞ)!!』

 

「く、くうおおおお!」

 

痛みにこらえ再び真円を描き光が腕を包むと同時にタカヤは鎧を腕部分に装着し剣斧オウガを構え再び繰り出された巨大な腕を切り払いながら近づく

 

「ヴィヴィオとアインハルトを返せ!」

 

『ヤ~ヤネ!(や~だね)』

 

攻撃を繰り出しながらさらにスピードをます二人…だが再び激しい痛みに襲われ剣斧を振るう腕が鈍り捌ききれずタカヤの身体をとらえる

 

(く、間に合わない)

 

 

痛みで思考がままならないタカヤに襲いかかろうとした瞬間何かがよぎり火花を散らす

 

「え!?」

 

「しっかりしろ!あんたそれでも魔戒騎士かよ!!」

 

魔戒双剣《赤煌牙》で防ぎながら叫ぶ黒鉄色の魔法衣に黒く長い髪を振り乱しながら守るように走るバイクの上に立つ少年の姿に驚くタカヤ

 

「き、君は?」

 

 

「んなことはどうでもいい!今はあの二人を助けることが先だ!!」

 

そう言い切りバイクを走らせる少年、タカヤも体勢を直し走らせながらある事に気づく

 

この先は市街地、このまま行ったらホラーの存在が知られ混乱を招く…位相結界を張るにも時間があまりない

 

《不味いぞタカヤ!市街地に出るぞ》

 

《クロウ、どうする!》

 

 

キリクとライバの悲鳴にも似た声が響いたとき辺りが異様な空間に包まれホラーリィオウとタカヤ、クロウが残された

 

「こ、これって魔導八卦結界陣!?」

 

《しかもこんな大規模結界を展開できるのは魔戒法師と魔戒導師だけだ…まさかメイか?》

 

(母さん、ありがとう)

 

心のなかで礼を言うタカヤ…ただ一人クロウだけは浮かない顔をする

 

(こ、この魔導八卦結界…まさか『あの人』だあああ!)

 

――――――――

―――――――

 

 

「ふう、なんとか間に合った…」

 

右手に魔導筆、左手に複数の界符を構え大規模結界を展開させるのは金髪に翡翠色の瞳に眼鏡をかけ魔導衣を纏った青年…《魔戒導師》ユーノ・スクライアは額に汗を流しながら

 

「でも、なのはたちに何て言おうかな…」

 

これが終わったらなんて説明するかを考えながら結界維持に勤めていた

 

―――――

 

『オヌレマキイデウシ!』

 

「あんた、まだうごけるか?」

 

「え、うん…いきなりで悪いんだけど協力してくれるかな?」

 

「別にいいぜ…んじゃま王様二人を助けにいくか」

 

アクセルを鳴らしバイクを加速疾走させる二人に対しリィオウは腕をスッと向けると肘から下が分離し凄まじい加速と共に打ち出された

 

「く、ハアアアア!」

 

ハンドルから手を離しすれ違い様にタカヤは横凪ぎ一閃、クロウは素早く切り払うと同時に衝撃波を起こし向かってきた拳の軌道を逸らし切り落としていく

 

 

『や、ヤヌ!ヌヌゼクヌクヅムヲタスクヨウトスル(な、何!なぜこのガキを助けようとする)!』

 

「アインハルトとヴィヴィオは夢へ向かって進もうとしている!一歩ずつ、確実に進む二人の邪魔はさせない!!」

 

ホラーリィオウの攻撃をかわしながら叫ぶタカヤ、やがて大きく開けた広場に出るとリィオウを囲むように回りを走るがリィオウの口から信じられない言葉を耳にした

 

 

『ノマエシルヌイヌキ、クヌフタリ…スイオウハクリーンナヌダズ(お前知らないのか?この娘は聖王の複製品…人造魔導師、クローンだ!)!』

 

「!」

 

タカヤはリィオウの肩部に拘束されたヴィヴィオを見ると顔を反らしうつむかせてる

 

『シヌンマエヌヒクブヌネクギノツヌツミニウミダサリヌンタクリーンナヌダズ(四年前にゆりかごの鍵の為だけに産み出されたクローンなんだよ)!』

 

 

「く!」

 

上半身を回転させながらタカヤとクロウが乗るバイクに殴りかかり寸前でバイクから飛び降りそのまま頭をとらえ斬りかかるも頑強な腕で受けられ辺りにソウルメタルの振動音が桁ましく響く中、タカヤの目に鎖に縛られたヴィヴィオの姿…その目から知られたくなかったといわんばかりに涙が一筋落ちる

 

『ユヤリ、シングンジャニインダヨ!イネツグルヌナイユツトフヤコグッコステンダヨ!!トツチミツイヌクンクイヌンダム!!クイツガシンダッチクヌシムユツフイヌンダヨオオオ!!(つまりコイツは人間じゃねえんだよ!血の繋がらない親娘なんだよ!!ペットみたいな関係なんだだよおお!!クローンが死んだって悲しむ奴なんていない、だから喰っちまっていいだよおおお!!)』

 

「………違う!!」

 

 

ホラーリィオウの言葉を耳にしながらタカヤは静かに凄まじいまでの怒りを込め叫ぶ…

 

 

「…例え生まれかたがどんなに違っても!」

 

 

『ギカアアアア!?』

 

 

魔戒斧に切り替え力任せに顔面を斬りさらに柄の部分で顎を殴り付け無防備状態になるリィオウ

 

「なのはさんとの血の繋がりがなくても!」

 

すかさずクロウがアインハルト、タカヤがヴィヴィオの体に絡まり拘束していた鎖を斬り払い魔導文字が立ち上る中、抱き抱え地上に降りる

 

 

「…ヴィヴィオがなのはさんと一緒に歩んだ日々は、築き上げてきたたくさんの思い出、いや互いを強く想う『気持ち』は本当の『親娘』と変わりはしない!死んでいい人間なんていない!!」

 

「た、タカヤさん…」

 

 

胸と頭が激しく痛むのを耐えながら優しく涙目になるヴィヴィオを下ろし駆け出すと同時に素早く真円を描き光に包まれる

 

『…生まれかたが違う、血が繋がらないと言う理由で命を…ヴィヴィオとアインハルトの未来を奪おうとするお前の歪んだ陰我を断ち斬る!!』

 

 

『ヤ、ヤッチミルロロロロ!!』

 

99.9秒の魔導刻が刻まれるのを感じながら地を蹴り身体を捻り回し蹴り、さらに連続キックを顔面に決めながら胴を袈裟斬りに切り払うが背中からは生やした骸骨と化した獅子の顔から無数の刃を生やした鎖を打ち出すもビル壁を砕いていくがすべてかわされ弾かれ、切り落とされた鎖が壁へ刺さると溶け落ちていく

 

《気を付けろ!奴の鎖はソウルメタル以外の金属や物体を溶かす性質みたいだ!(おかしいぜ、過去のリィオウにこんな能力はなかったはず……こんな事が出来んのは…まさか!!)》

 

 

「…ここでおとなしくしろよ!」

 

 

「は、はい」

 

 

双剣を交互に構え素早く左右に真円を描くと光が左右から溢れ包まれ顕れたのは金の瞳が輝かせる赤い狼を模した仮面に両肩から腕が隠れるほど伸びた黒字に金の魔導文字が描かれた鎧旗が目立つ騎士

 

赤煌騎士九狼(クロウ)が魔戒双剣《赤煌牙》を構え駆け出す

 

『ハアアア!』

 

 

『え?君も魔戒騎士なの!?』

 

 

『まあな、さてさっさと倒すぞ…』

 

《白金》と《赤》の狼…オウガとクロウが互いに剣をリィオウに構え走りだし襲いかかる刃を生やした鎖をかわしていく

 

『ハアアアアアア!』

素早く掻い潜り抜け足?いや車輪を切り裂こうとするが素早く回避され巨大な腕がクロウを力一杯殴り飛ばすが寸前でタカヤが受け止めヨロヨロと肩をかりながら立ち上がる

 

『く、強いな…(これが若い頃の親父が戦っていた《死星ホラー》かよ…エルトリアに居た奴よりも強い!!)』

 

 

『思ったより身体が堅い……白煌!!』

 

大きく叫ぶと共に眩い光がタカヤを包み魔導馬『白煌』に騎乗、蹄を力強く鳴らし火花を散らせながら剣斧オウガをオウガ重剣斧へ姿を変え上段に構えた…だが再び激しい頭痛と胸の痛みが襲いかかる

 

(く、くううう!?)

 

 

思わず意識が遠退きかけるも必死に繋ぎ止めるが眼前に巨大な腕が轟音と共に二つ襲いかかりなんとか一つを切り払うが僅かに反応が遅れてしまう

 

『くっ!』

 

『来い!白竜弐式!!』

 

金属の乾いた音が鎧旗から響くと金属色の竜…白竜弐式が小さく鳴き身体がバラバラに分解し乗り捨て転がっていたSUZUKIのKATANAにカシャカシャと取りつき雄叫びと共に赤いメカニカルな馬へ姿を変え跨がるとリィオウとタカヤの間に割って入りその巨大な腕を赤煌双牙剣で防いだ

 

 

『しっかりしろ!』

 

目の前には赤いメカニカルな馬に乗るクロウの姿に驚くタカヤ。いきなり赤いメカニカルな馬が突然暴れ始め手綱を引き落ち着かせる

 

『お、落ち着け白竜弐式!(やっぱりまだ調整が必要だな…時間もあまりねぇし)…一気に決めるぞ!!』

『あ、う、うん!いくよ白煌!!』

 

同時に蹄を鳴らし走り出す白金と赤の魔導馬?は激しく動き回りながらリィオウの攻撃をかわし撹乱。重剣斧で脚を、双剣を組み合わせた《赤煌双牙剣》で的確にダメージを与えていく

 

《タカヤ/クロウ!あと二十秒しかないぞ!!》

 

 

『『わかった!/おう!』』

 

リィオウの正面をとり駆け抜けながら蹄の音が徐々に地の底から響く音へ変わりタカヤの持つオウガ重剣斧が《大オウガ重剣斧(重斧)》、クロウの赤煌双牙が分厚く幅広の超重量の双剣《大赤煌双牙剣》へ姿を変えリィオウの周囲を回りながら厚く堅い外郭をバターのように切り裂きたまらず雄叫びをあげるリィオウの目に二つに輝く月が写る

 

『ハアアアアアアアアア!(く、くうあああああ!?)』

 

 

その一つに影が見え、やがて大きくなり白金の光が辺りを照らしながら、風斬り音と共に巨大な大オウガ重剣斧を構え、激しい胸の痛みに耐えながらリィオウの頭から胴を真っ二つ叩き割り雄叫びをあげ巨大な体躯が砂が崩れるように消滅しその場にバイクが残されるが魔導文字が立ち上ぼりやがて消え去った

 

『ハア、ハア…くッ!』

 

《タカヤ!鎧を返還しろ!!》

 

うなずくと同時に鎧が魔界に返還され胸を押さえながら膝をつく

 

「あ、あんた、大丈夫か!!」

 

「う、うん…ありがとう…ヴィヴィオとアインハルトは?」

 

 

「あ、ああ二人なら大丈夫だ(…親父……)」

 

 

「た、タカヤさん…」

 

「ヴィヴィオ?」

 

 

「…聞きましたよね…わたしが《聖王のクローン》だって…」

 

「…ヴィヴィオ……」

 

「…いやで…え?」

 

「違うよ、リオやコロナ、アインハルト、なのはさん、フェイトさんと笑って、喧嘩したり、遊んだり、インターミドルに向かってひたすらまっすぐに頑張って練習するヴィヴィオは今を生き未来を目指す普通の女の子だよ…誰がなんて言おうとね」

 

 

「…………!」

 

「うわ?ヴィヴィオ?」

 

「少しだけ、少しだけこうさせてください……」

 

 

「う、うん…」

 

 

少しの間タカヤの胸に抱きつくヴィヴィオ…その姿を見ていたクロウは静かにその場をあとにしビルからビルへ飛び移動しながらながら

 

(親父……なぜこの時代に送ったか少しだけわかったよ…俺に足りないナニかがあるんだな…なら俺はソレを知る必要があるな)

 

そう心のなかで呟き夜の静寂へと消え去った

 

 

―――――――

――――――

 

「あ、あの~アインハルト、それにヴィヴィオ…何で腕組んでるのかな?(む、胸が当たってる!?)」

「別になんでもないです」

 

「そ、そうですよ」

 

 

あれから魔導八卦結界陣が消えるまで抱きついていたヴィヴィオがようやく落ち着いたんだけど「まだ怖い」からって理由で腕を組ながらアインハルトの家へ向かっている

 

なぜかわからないけどアインハルトも腕組んでるし…胸が当たって鼻血が出そうになるのを必死に押さえようやくアインハルトの家にたどり着き入るのを確認しながら周囲に貼った界符の効果を確認しそのままヴィヴィオを送るため歩き出した

「あ、あのタカヤさん」

 

 

「どうしたのヴィヴィオ?」

 

「…タカヤさん最近なにか隠し事してませんか?」

 

 

おもわずドキッとなった…キリクの言う通り気づかれちゃったかな

 

でも僕は…この胸に刻まれた『破滅と忘却の刻印』の事を黙っていないといけない

 

鎧を召喚する度に僕の《命》と《記憶》が喪われていくのを知ったらヴィヴィオは悲しむから

 

さっきの戦いで失われた記憶は《ヴィヴィオ》、《アインハルト》の名前…名字で呼ぼうとした僕に慌ててキリクが教えてくれたからなんとかごまかしたと思った

 

「な、なにも隠し事はしてないよ?」

 

 

「…ほんとにですか?」

 

「うん…ホントに」

 

 

「ならいいです、そのかわり今度タカヤさんの実家に行っていいですか?」

 

「え?なんで?」

 

 

「タカヤさんがどんな場所で生まれて育ったのか見てみたいんです…ダメですか?」

 

「…う~ん…いいよ」

 

「いいんですか!」

 

「ついでにアインハルトとノーヴェさん達も一緒に誘って…グハッ!?」

 

すさまじい一撃が鳩尾に入り堪らず地面に膝をつく…な、なにかやったの僕?

 

 

「そういうと思いました…でも楽しみにしてますね♪じゃおやすみなさいタカヤさん」

 

不機嫌オーラから明るいオーラに変わり笑顔で玄関に入るのを見届け歩き出した…でも激しい胸の痛みに襲われなんとか人通りの少ない路地に入り胸を押さえうずくまる

 

「ううう、くううう」

 

 

《タカヤ!しっかりしろ……ん誰だ!》

 

複数の気配を感じふらふら立ち上がると見慣れた三人…ジロウさん、レイジさん、ソウマさんが立っている

 

「タカヤ、しっかりしろ」

 

 

「まさかと思うけど…」

 

ソウマさんが無言で僕の胸のジッパーを開く、赤黒い羽を広げた魔導文字が広がり脈打つ姿に驚いている

 

「やはりか…」

 

「すいません、この事は皆には…」

 

 

「そう言いたいが…」

 

顔を見合わせたジロウさん達が胸元を大きく広げ見せたのは僕の刻まれた刻印とは違う黒い刻印…《破滅の刻印》が脈打ちながら見える

 

 

「そ、そんな…ジロウさん達まで破滅の刻印を!」

 

 

「僕たちもさっき刻まれたんだ…まさか『二回目』になるなんてね…」

 

 

少し乾いた笑みを浮かべながらレイジさんは呟いた

 

第十七話 獅子

 

 

 

 

 




キリク

破滅の刻印を刻まれ僅かな時しかないジロウ、レイジ、ソウマ、タカヤ…だが僅かな望みをかけタカヤは一年ぶりに実家へ戻るがノーヴェ達も着いてきた!

それにメイの様子がおかしいぜ


次回 帰郷!(一)


―『守りし者』、『守りし者を守る者』と帰郷せし時、新たな試練が訪れる!!―


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特別話 タカヤくん(四歳)の大冒険!+α

アキツキ屋敷 アスレチック施設


「はあ、はあ、つ、疲れたああ~」


「た、タカヤさんの体力の源がなんかわかった気がします…」


「アキツキ先輩って子供の頃からこんなのを?」


「はあッ…でもあの施設は無理ですよ…」


「「「ですよね~」」」


芝生の上にへたり混む四人は同時に声をあげるとデルクがクーラーボックスからスポーツドリンクを差し出してくる

「はあ、すごく美味しいです」

「あの~デルクさん」


「はい、なんでしょうかヴィヴィオ様」

「タカヤさんって小さい頃からここで鍛練を?」

「ええ、正確な言えば6歳から此所で訓練を始められました。ユウキ様からは剣と魔法を。メイ様からは体術と魔導術を学ばれました」


「そうなんですか…あの、小さい頃のタカヤさんってどんな感じでした?」

アインハルトの言葉にピクッと反応するヴィヴィオ、ノーヴェに少し笑みを浮かべデルクはあらかじめ用意していた一冊のアルバムを出し開いた

そこには生まれたばかりのタカヤと囲むようにたち笑みを浮かべる若い夫婦と祖父、そしてデルクの姿があった


その写真にみいる中、一枚にノーヴェの目が止まる。少し泥で汚れたタカヤが満面の笑みで野菜を抱き抱える写真


「気になりますかな?ノーヴェ様?」

「あ、ああ。これって何時のやつなんだ?」


「これはタカヤ様がはじめてお外へお買い物にいかれ帰ってきた時にとられた写真です…あの頃は本当にかわいかったですよ。メイ様は特に仕事が終わられ戻ってきたときはずっと抱き締めておられましたからね」

そしてデルクの口から今から9年前、タカヤがはじめてお買い物した時の話が始まった






「おと~さん、おか~さん。いってきま~す♪」

 

「怪我をしないようにねタカヤ」

 

「タカちゃん、何かあったら…何かあったから必ずお母さんを呼ぶのよ~」

 

「は~い♪」

 

さんさんと照らす朝日を浴びながらゆっくりと転送ポートに歩くタカちゃんの姿はいつ見ても可愛い…だってユウキ譲りの良い匂い、愛らしさ、私譲りの黒く長い髪に犬耳にユウキ特製お出掛け着姿のタカちゃんは…………………スッゴクっ!可愛いの!!!

 

もし誘拐されたらと思うと私は、私はああああああ!!?!」

 

「メ、メイ?落ち着いて!犬耳出てるから!?」

 

「え?そ、そう…じゃあ着替えて行きましょうか」

 

タカちゃんの姿が完全に見えなくなったを見て屋敷にあるクローゼットルームで目立たない服装に着替え転送ポートで後を追った

 

タカちゃん…タカちゃんはユウキとお母さんが必ず守ってあげるからね!!」

 

「め、メイ?あんまり大声だすと気づかれちゃうから静かに!?」

 

 

特別話 タカヤ君(四歳)の大冒険!

 

一時間前 アキツキ屋敷

―ABSORB・QUEEN…EVOLUTION・KING!―

 

光る、しゃべる、ラウズ機能完全再現!DXキングラウザー!君も今日からブレイドだ!!―

 

「ワアアア、すごいやあ《きんぐらうざ~》…」

 

目をキラキラ輝かせ見るのは現在ミッドの子供たちに大人気の特撮番組『仮面ライダーブレイド~紫紺の切り札~』

 

毎朝アキツキ屋敷のリビングで早起きし夢中になってみているのは頭に犬耳を生やし尻尾をパタパタさせるタカヤ君(四歳)…がそのあとのコマーシャルに目を奪われてしまった

 

―野菜がたっぷり入って体も心もポッカポカ…ハ○スシチュー、家族と一緒に食べようね―

 

(『しちゅ~』…きょうはおと~さんがごはんつくるっていってた…そうだ!)

 

画面を消し立ち上がり向かうのはアキツキ屋敷の厨房…思い扉を顔を赤くしやっと開けタカヤは食材とにらめっこするユウキの足に抱きついた

 

「今度の教会食堂デザート決定戦にロッサに勝つにはやっぱりスペシャルババロア…」

 

「おはよ~う、おと~さ~ん」

 

「うわ?どうしたんだいタカヤ」

 

「えっとね…きょうのゆうごはんは『しちゅ~』だったよね?」

 

「そうだよ、きょうはタカヤの大好きなシチューだよ」

 

ひょいとその体を持ち上げタカヤを肩車し笑顔で答える

四年前、難産の末生まれるも母メイ、父ユウキのたっぷりの愛情受け目にいれても痛くないほど元気に可愛く成長したタカヤに笑顔で訪ねた

 

 

「えっとね…ぼくお外にでて《しちゅ~》につかうお野菜をかいにいってきていいかな?」

 

 

「え?タカヤ…今なん…」

 

 

「ダメええええええええええええええ!!」

 

ドゴオオオン!と凄まじい破壊音と共に厨房の壁が砕け現れたのは魔導筆を構えた魔法衣姿のメイ、魔導筆を鳴らしながら風のようにタカヤをユウキから奪い取り思いっきり抱き締めた

 

「タカちゃん、お外は危険で一杯なのよ。ましてや街にはモヒカン(?)や頭に鋼鉄のヅラ男(?)や世紀末覇者(?)や【俺の名をいってみろ】(?)やテラフォーマーズ(?)みたいな不審者がたくさんいるのよ?」

 

「メ、メイ、そ、そんな不審者はたくさんいないと思うけど(特に最後のは)…」

 

「いいえ!ユウキ、不審者一人見たらモヒカン《以下略!》は千人はいるのよ!それにタカちゃんはスッゴく可愛いから知らない女【少年愛好者(ショタコン)】が拐って骨の髄まで全部食べられるに決まってるわ!!」

 

 

――――――――

 

……自分も人のこと言えないん…/だ、黙りなさいいいい!!/ギャアアアアアア!!

 

by作者

 

――――――――

――――――

 

 

「しょうねん…あいこうしゃ…ってなに?」

 

「あっ…タカちゃんはまだ知らなくて良いのよ~今日は買い物にいかず私とユウキと一緒にお家…」

 

 

「…おそとにおかいもの…いっちゃダメなの…おかあさん」

 

犬耳を元気なく項垂れさせうるうるした《虹彩異色》の瞳で見られたメイの頭の中では…

 

―――――――

――――――

 

 

―静粛に!これより第999回タカちゃん会議を始めるわ!―

 

―議長!ここはお買い物にいかせるべきでは?―

 

―イヤ!タカちゃんは絶対に拐われる!(年上の女に)―

 

―だがタカちゃんの成長を見るために必要なのでは―

 

―うっ?それは一理あるけど…―

 

沢山のメイが脳内サミットを開く光景…すでにこれとは違う議題が何度も繰り返されていた

 

タカちゃんを乳離れさせるにはどうすればいいのか

 

タカちゃんの髪を伸ばすか伸ばさないか、三つ編みにするかしないか

 

 

先月【アキツキホビー事業部】から無断で販売されそうになった《犬耳タカちゃん人形》を処分するかしないか

 

魔戒騎士と法師の修行をいつ頃からさせるかさせないか

 

 

等々がメイの頭で何度も繰り返され脳内サミットは僅か一秒で決議が下された

 

 

「お外には…」

 

「メイ」

 

そっと近づきユウキはメイの耳に界符《念符》を貼りつけ念話で語りかけた

 

―メイ、もうタカヤも四歳になったんだよ…そろそろ外の世界を知ってもいいんじゃないかな―

 

―で、でも…外はダメよ…私の時みたいになったら…―

 

―…街の風景、街にすむ人々、それはすごく刺激になって必ずいい経験になるって思うんだ…お買い物にいかせてあげよう―

 

―ユウキは心配じゃないの…―

 

―心配だよ、でもお買い物をしたいというタカヤの意思を尊重したいんだ―

 

―うう~でも~―

 

―そんなに心配なら僕がこっそりついていけばいいからさ…ダメかな―

 

少しの沈黙、やがて…

 

 

―わかったわよ…お買い物にいかせてあげる…でも私も着いていくわ。何かあったら絶対にタカヤを守るわよ―

 

―わかったよメイ―

 

――――――――――

――――――――

 

「おか~さん?」

 

「タカちゃん、お、お買い物…い、いっていいわよ」

 

「やったああ~おか~さんだ~~いすき」

 

 

パアアアっとなる笑顔と言葉を聞きメイも頭から犬耳と尻尾を出しちぎれんばかりにパタパタさせるのをユウキは笑いながら見ていた

 

―――――――――

――――――――

 

 

「おそとにとうちゃ~く…あれここ教会だ」

 

《転送ポート》から出てぼくはここが教会の中央だと気づいた…どうしょうぼくポートの使い方わからない…う~ん

 

「あらタカヤちゃんじゃない…」

 

「あ、アリアお姉ちゃん…あ、おはようございま~す」

 

「!…お、おはようタカヤちゃん…今日はどうしたの」

 

「えっと~きょうのばんごはんにつかうおやさい買いにきたんだ…でも教会にでたんだ」

 

「あら、少し待ってね…えっとどこにいきたいの?」

 

「…アモンってお店ににいきたいの」

 

「《アモン》たしか中央区にあったわね。はい終わったわよ…でも使用まで五分ばかり時間かかるわね」

 

アリアお姉ちゃんは少しなやんですぐにゆきさきをにゅうりょくしてくれます…このまえお父さんとはぐれて泣いたぼくをみっけてくれた優しいお姉ちゃんです

 

――――――――

――――――――

 

 

私がこの子とあったのは数ヵ月前。ドクターの命令でここ聖王教会本部に潜入し目的のモノを盗み出す算段がつき決行まで少しばかり余裕があり暇潰し程度に教会内を歩いていた私の耳に泣く声が届いた

 

 

普段なら気にしないはずなのに声に引き寄せられるように歩き出会ったのは

 

―おと~さん、どこにいるの?――

 

真っ黒な長い髪で顔が隠れた四歳ぐらいの男の子が泣きじゃくっている…

 

―どうしたのキミ?―

 

―ぐす、おば~ちゃんと…はぐれちゃ…っ…た…―

 

―………じゃあ私と一緒におばあちゃんを探そうか―

 

―ぐす、いいの?―

 

―ええ、ちょうど私も暇だったし…じゃいこうか…その前にキミの名前は?―

 

―タカヤ…タカヤ・アキツキだよ…おねぇちゃんは?…―

 

―………私はシスター・アリア…じゃあ探しにいこうかタカヤちゃん―

 

 

―うん、アリアおねえちゃん―

 

涙をふき立ち上がるこの子の手を握り歩き出した…なぜ私はこの子のおばあちゃんを探してるのかしら

 

それに手を握っているとスゴく安らぎを感じるのはなぜ?

 

今まで私がしてきた行為がすべて洗い流し清められ癒すような暖かさといい匂いをこの子から感じるのは何故?

 

―タカちゃ~ん!―

 

―あ、リームおばあちゃんだ―

 

―タカちゃ~ん、よかった~怪我してないわね~うんうん抱き心地も変わらないし最高ね~あら、あなたは?―

 

―私はシスター・アリアです…騎士リーム・グレイス様(……なんなのこの若さは?どう見ても二十歳にしか見えないわ!?)―

 

―(あら、中々の美人さんね~こんな娘いたかしら?でも悪い娘には見えないしそれに姉妹がたくさんいる気がするような…)わざわざタカちゃんを見っけてくれてありがとうねシスター・アリアちゃん…あ、今からお茶会しない?―

 

 

―え、でも―

 

―遠慮しないの♪これはタカちゃんを見つけてくれたお礼なんだから。じゃレッツら、ゴ~♪―

 

 

なし崩し的にお茶会に誘われ出されたケーキと紅茶はスゴく美味しかった、それ以上にこの子《タカヤちゃん》を膝の上に乗せて頭をずっと撫でてたことをリームにいわれるまで気づかなかった

 

なんかこういう子が欲しい…お茶会を終え眠ってしまったタカヤちゃんと騎士リームと別れ自室で秘匿回線を開きすぐにドクターに頼んだけど

 

―すまないね、今手が離せないんだ…なんならその子をアジトにつれて教育して見るのはどうだい?―

 

 

―…やめておきます…では私はこれで…―

 

 

通信を切りベッドにた折れ込み枕に顔を埋めながら何故ドクターの言葉に従わなかったのだろうと考える

 

つれていけば私好みの男に…私だけを見て私だけを愛する男に育てられる

 

でもそれをしたらなにかが狂う気がするし【連れていくんじゃねぇ!!】って声が聞こえるの気のせいかしら?

 

今に至るまで理由がわからない…でもはっきりとしてるのはこの子を私達の側に連れていってはいけないという警告にも似た感覚だった

 

「アリアお姉ちゃん?どこか具合悪いの?」

 

「え?大丈夫よ、少し疲れただけかな」

 

 

先月から管理局と聖王教会に行き来したせいか疲労していた私に気づいたタカヤちゃんはナニか閃いた顔をする

 

「じゃあぼくのとっておきのマホウ(?)で元気にしてあげる♪」

 

 

不思議な彩りの服のポケットから黒地に白金の模様が施した少し大きめな筆を取り出すとパタパタと少し歩き離れ私に向け構え大きく円を描くように回し始めた

 

「……やまれ~やまれ~めさおにな~~る♪」

 

鈴の音が響くと無数の彩り鮮やかな蝶が一斉に私の体を包む…なんかスゴく癒されて自然に笑顔になっていくのがわかる

 

でもこれ魔法なのかしら?

 

「げんきになったかな?」

 

「うん、元気一杯よ」

 

「よかったあ~あ、そうだアリアおねえちゃんにこれあげるね」

 

筆を大事にしまいかわりに私の右手にナニかをつける…木の温もりと金属のひんやりした感覚、みると銀色に輝く龍を木の台座にはめた変わったブレスレットがはめられている

 

「これは?」

 

「ぼくが《まかいじゅ》と《そうるめたる》ではじめてつくった《おまもり》だよ。アリアおねえちゃんがけがをしないようにたくさん念を込めたんだ」

 

 

にっこり笑うタカヤちゃんを見てるとなんか胸の奥が熱い…今まで手玉にとってきた男たちに抱いた感情とは全く違うのが沸き起こってくる

「どうしたのアリアおねえちゃん?」

 

「え?な、何でもないわよ!もう転送ポートが使えるみたいよ…お買い物にいかないと帰るの遅くなるわよ」

 

「あ、そうだった」

 

 

トテトテと転送ポートに入るタカヤちゃん、なんか名残惜しい気持ちで一杯になる…だってあと少ししたら私は地上本部に潜入しなければならない

 

もうタカヤちゃんと会うことができなくなる

 

「アリアおねえちゃ~ん」

 

 

「え?」

 

「ぼくね…アリアおねえちゃんのことだいすきだよ~♪またあおうねえ~」

 

転送ポートから消える寸前に聞こえた笑顔のタカヤちゃんの声を聞きしばらくボウッとしドキドキする私の足元にナニかが落ちる音がする

 

みると真っ赤な血が水溜まりみたいになってる…私は知らないうちに鼻血を出して………

 

―ぼくね…アリアおねえちゃんのことだ~~いすきだよ~♪またあおうねえ~―

 

「………………ブハッ!!」

 

何度も何度もタカヤちゃんの声を頭に響かせながら私は意識を手放した

――――――――

――――――

 

「やっと【中央区】についた~」

 

転送ポートからでたぼくの前にはたくさんの人があるいてる…おとうさん、おかあさん、リームおばあちゃん、きょうかいの人、デルク以外の人にであうのははじめてでドキドキしてます

 

「えっとこのまままっすぐ行って…」

 

おと~さんにわたされたメモをたよりに狭い路地裏を歩いていく…なんか暗くてこわい

 

 

 

でもぼくは【おとこのこ】。 しょうらいはりっぱな《まかいきし》になるんだからおかいものをがんばるもん!

 

「おかいもの~♪おかいもの~♪きょうはひとりでおかいもの~おと~さんのしちゅ~のおやさいひとりでかいにいくんだよ~」

 

 

《ぐるるるる》

 

大きな声でうたうぼくの後ろからうなり声…ゆっくり後ろをむくとまえに大きないぬがきばをむいてうなってる

 

 

《ぐるるるる》

 

《ぐうううう》

 

みぎからひだりからも大きないぬがきばをむいてぼくをみてる…こわい…でもぼくは【おとこのこ】にげないもん

 

「うううう~!」

 

こわいのをがまんしながらぼくもうなり声をあげたんだけど三匹の大きないぬは全然ひるまない

 

《ガウウウ!》

 

めのまえにいた大きないぬがきばをむいて飛びかかってきたからあわててよけようとしたけどいしにつまづいてころんでしまう

 

(…おと~さん!)

 

心の中でおとうさんをよんだしゅんかんでした

 

《キャ、キャンキャン!?!》

 

おそいかかってきたいぬが背をむけてにげてく…なんで?それに《おとうさん》の匂いがしたけど

 

「気のせいだよね…アモンまであと少し…がんばろう♪」

 

―――――――

―――――――――

 

 

「ふう、なんとか間に合った~」

 

「間に合ったじゃないでしょユウキ!あと少しで野良犬に噛まれるところだったのよ!!」

 

少し離れた路地裏に立つ二つの影。黒髪ロングの犬耳が生えたメイが魔導筆で術を放とうとするのを必死になだめるユウキの姿

 

…途中でタカヤを見失ってあわてて探したけどまさか野良犬に襲われてたのを見て思わずいつもの三倍の殺気を飛ばして追い払った…でもタカヤはメイと同じで耳と鼻が異常にいいから気づかれたかもしれない

 

「ごめん、ごめん…そんなに興奮しないで…また犬耳出てるから」

 

 

「うう~またごまかして~」

 

「ごまかしてないから…それに」

 

「え/////」

 

グイッとメイの肩を抱き寄せるとさっきまで機嫌が悪かったのが嘘のようにおさまった

 

「犬耳姿のメイは誰にも見せたくないんだ…」

 

「うう~ずるいわ…でも次にタカちゃんが危なくなっ…」

 

「よう姉ちゃんたちぃ~」

振り返るといつの間にかガラの悪いモヒカン、頭に鋼鉄のヅラを被った中年、世紀末覇者(?)【俺の名をいってみろ】、テラフォーマーズ(?)が囲んでいる

 

ホントにいたんだ…でも【姉ちゃんたち】って?

 

「こんなところであいびきかあ~ずいぶん欲求不満みたいだな~けけけけ」

 

 

「なんなら俺たちが可愛がってやるぜ~ヘッヘッへ~」

 

すごい顔のモヒカンがメイの肩をさわる…ビクンと体を振るわせうつむく……い、いけない!

 

 

「なんだあ?触られただけでいっち…アパァアアアアア!?」

 

勢いよく宙を舞うモヒカンA…その顎は見事に砕けているのを見て一斉に目をむけた先には蹴りの構えをとるメイの姿

 

 

「…私にさわったわね………台所の三角コーナーにたかるコバエ…」

 

「な、触ったのがなんだよ!へへ~もしかしてホントに…グパアア!」

 

今度は肘鉄が顔面に突き刺さりビクビク震わせながら地面に沈むモヒカンB…それを冷たい目で見下ろすメイ

 

「私に、私に触っていい男は…」

 

「アパァ!」

 

「ユウキと!」

 

「パフィイイ!?」

 

「タカちゃん!」

 

 

「ギュパ!」

 

 

「デルクとアキツキ・インダストリ関連支社の社員とその家族一員だけよ!!」

 

「シ、ショッカー!?」

 

 

群がるモヒカン&テラフォーマーズ&sを殴り飛ばし蹴りを叩き込む、やっぱりまだ【あの時】の事件が尾を引いてる!今はメイを止めなきゃ!! でも背中からガシッと羽交い締めにされ身動きがとれなくなる僕の体をまさぐってくるうう!?

 

「ゲヘヘへ、捕まえたぜ~中々の上玉じゃないか…さて《あの女》を大人しくさせるためにお前を剥かせてもら……………て、てめえ【女】じゃないのかよ!?バッチいぜモロにさわっちまっ……ヒイイ!?」

 

「…今なんていった……」

首を絞める腕をグググッと掴み上げ反対方向にねじ曲げ地面に叩きつけられた【俺の名をいってみろ】男の目の前には

 

「僕は女じゃない、僕は男だあああああああああ!!」

長い茶髪をユラユラしながら叫ぶユウキの顔面グーパンチを喰らったのを最後に意識を失った

 

「な、なんだコイツら!アビバアア」

 

「ま、まて話せば…ヴァルヴァロ!」

 

「オジャアアア!?」

 

「アダダダ、ひでぶううう!?」

 

 

「フフフフ…しゃべらないで空気が穢れるわ…選択肢をあげる…拘置所に行くか【真魔界】に逝くか…どちらか嫌な方を選ばせて・あ・げ・る(黒笑み)♪」

 

 

「僕のどこが女だって…言ってごらん(黒笑み)」

「「「「「「「「「「「「「ヒ、ヒイイイイイイイ!!/どっちもイヤアアアアアアアア!?」」」」」」」」」」

 

 

数分後、通報を受け駆けつけた陸士108部隊隊長『ゲンヤ・ナカジマ』が見たのは崩れ落ちたビルの外壁に気絶し倒れたモヒカン、テラフォマーズ、俺の名を言って見ろ、ete…指定暴力集団【ケルベロス】メンバーがビクビクしながら壁に体を半分突っ込み、犬神家みたいに突き刺さった姿。病院に収容されたメンバーは口々に

 

 

「お、鬼だ…この街には二人の女の皮を被った鬼がいるんだああああ」

 

「二度と貴方には触りません、触りませんからああああ!!」

 

 

「来るな、来るなああああ!?」

 

「す、すいません貴方は男です…立派な男ですうう!」

 

大層なにかに怯えながら無事に退院した者は別の管理世界へと姿を消し拘置所に入った者はなにかに怯える日々を過ごしたそうだと記録しておく

 

記録者ゲンヤ・ナカジマ

 

――――――――

―――――――

 

 

「おかいもの~おかいもの~おやさいかいにアモンまであとも~うす~こし~♪…あれかな?」

 

 

歩いたさきに【AMON】と大きくかかれた看板がみえる…でもなんかこわい感じがする

 

ここのおやさいはぼくのおと~さんがよくつかうからぜったいにかわなきゃいけないんだ

 

「ん~なんだボウズ。ワシの店に何かようか~?」

 

 

「ひうっ?」

 

 

 

目の前には不思議な民族衣装に赤ら顔のスッゴク大きなおじいさんがたってる

 

「んん~ボウズ、どこかであったか…」

 

「う、うう…ほ、ぼくは…ぼくはタカヤ、タカヤ・アキツキです!このおみせにあるおやさいをかいにきました!!」

 

 

「アキツキ?……ふん~~ふむ~ん~~…ボウズ、お前の親父はまさかユウキという名前か?」

 

 

「は、はい…ぼ、ぼくのおと~さんです……」

 

 

「一人で来たのか?」

 

「う…は、はい」

 

「こっちにこいボウ…タカヤ、野菜はこの店の中だ」

 

せをむけあるくおじいさんのあとをあるいていく…回りにはりっぱなおなべやふらいぱんがところせましと並んでます

 

このおなべはおと~さんのつかってるのとおなじだ

 

「ついたぞ、タカヤ」

 

「え、うわあ?」

 

ふわりとからだが浮かぶと小さな椅子に座らされるぼくの目の前には色とりどりのたくさんの野菜がならんでいる

 

「つかう野菜はタカヤが選ぶんだ…」

 

「え?ぼくが…わからないよ」

 

「…野菜の声を聴くんだタカヤ…」

 

そのままおじいさんはだまってぼくをみていた

 

――――――

―――――――――

 

このボウ…タカヤをみて驚いてしまった…小さい頃のユウキと顔と容姿が似てる

 

まさかとおもいユウキの名前を出し尋ねるとビクビクしながら『はい』と答えた

 

子供が生まれたと聴いていたが……な・ぜ・か・ワシに会わせてくれんかった…恐らくメイあたりが『あの顔は絶対に怖がるから会わせたらダメエエエ!』と言ったんだろ。ハンサムなワシの顔の何処が怖いんだ?だがこうしてお買い物に来させるとはな親になると変わるもんだ

だがな二人とも気配がバレバレだ…幸いタカヤは気づいてないみたいだがな…

 

さて、どんな野菜を選ぶか…いや選ばれるかな?

 

 

「ん~…きめた」

 

な、今朝いれたばかりのスプリングオニオンを選んだだと?

 

「えと…きみにきめた♪え、ありがとうってそんなことないよ」

 

に、入手困難なハニーキャロット…目の前で次から次へ野菜を選んでいくタカヤにワシは驚いた

 

間違いないユウキの血を【食材の声】を聴く才能を受け継いでる!

 

「あの~ぜんぶえらびましたけど」

 

「あ、ああ、すまんな…」

 

かご一杯に野菜をいれたタカヤが不思議そうな顔で見てる…全くユウキによく似ておる

 

「金額はこれだけになるが」

 

「は、はい…たりますか?」

ポケットから包みを取り出し渡されみるとお金の他に紙切れが一枚入っているがすぐにレジにいれた

 

「ああ、十分だ…一人で帰れるか?」

 

「だいじょうぶ、だってぼくはおとこのこだから…うんしょっと…じゃあアモンおじいちゃん。またね~」

 

「おう、またなタカヤ…やれやれユウキとよく似てるな」

 

 

野菜が入った袋を手に元気よく歩くタカヤを見送ると二人の気配が店から離れていくのを感じながらレジの椅子に座り紙切れに目を通した

 

―アモンさん、タカヤを絶っつ対に怖がらせないでくださいね―

 

 

―怖がらせたら真魔界に送るわよ―

 

 

「………くくっ!アハハハハハ!ったく二人して親バカめ…これでは将来子離れできなくなるぞ…だがユウキのアレまで継いでるかもな…将来が楽しみだ」

 

 

 

立ち上がりワシは「閉店」と書かれたプレートをかけ十年ものの赤酒を瓶から汲み一気に飲み干した

 

―――――――

――――――

 

 

「んしょ、んしょ…」

 

転送ポートがある公園まで場所まであと少し…アモンおじいちゃんのお店から大分あるいたけどまだとおい

 

うう、おやさいがおもい…でもがんばらなきゃ

 

「あ?」

 

「きゃ?」

 

誰かとぶっかり転んでしまう…じめんにやさいがころがるおといたいのをがまんしながらたつと桃いろのかみのワンピース姿の子がなみだをいっぱいにめにためてる

 

「あ、あの…」

 

「あ、あう…ボクこそ、ご、ごめん…おやさいひろうね」

 

おどおどしながら拾ってくれるけどうごきがおかしい…みると膝からちがながれてる

 

「…すこしがまんして…」

「え?な、なに」

 

ポケットからまど~ひつをとりにぎるそっと口許に近づけいきをかるくふきかけて光る穂先でスッとなでる

 

「どうかな?」

 

「ぜんぜんいたくない…いまのまほうなの?」

 

 

「うん、まほうだとおもう…じゃひろおうか」

 

 

「うん」

 

ころがったやさいをぜんぶ拾うとふくろにいれたぼくはその子とすこしだけしゃべりながらあるいていく

「ボクとおなじとしなんだ…ひとりでおかいもの…ボクはなにもできないしとりえもないから無理…」

 

 

「できるんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「ボクがみせたまほうもさいしょはダメだったんだ…たくさんれんしゅうしてできるようになったんだよ」

 

「でもボク…」

 

「だいじょうぶ…すこしずつで一歩ずつまえへすすめばいいとおもうよ」

 

 

「そうかな」

 

 

「うん♪あ、じゃあぼくいくね…またね」

 

転送ポートがある場所につきその子にてをふりながらアモンおじいちゃんにおしえられたざひょうをいれ光に包まれながらちからいっぱい手を振ったけど姿がみえなくなった

 

またあえるといいな

 

―――――――

――――――

 

「一歩ずつ…ボクもがんばれるかな」

 

さっきわかれた子のことばをくりかえしながらあるきながらボクはあるいていく

 

あのまほうもだけどすごいなあの子…あ、なまえききわすれちゃった…

 

 

「ミウラ~」

 

「あ、おかあさん」

 

「あら、なんか嬉しいことあったの?」

 

 

「うん!でもひみつ♪」

 

「そうじゃあ帰りましょうか」

 

 

元気よくあるきだすボクをみて笑うおかあさんといっしょにお家にかえりました

―――――――――

―――――――――

 

「おかえりなさいませユウキ様、メイ様」

 

「いまもどったわデルク」

 

「デルク、タカヤはまだ戻ってきてないよね?」

 

「はい、ですがそろそろ戻られる頃かと…さあお召し物をお着替えください」

 

屋敷の扉で出迎えた秋月家の家令デルクの言葉にうなずき急いで着替える

 

いま着てる服はあのならず者達と戦ったせいであちこちが破け埃と汗の匂いがする

 

タカヤは匂いに敏感だからすぐあの場所に僕たちが居たって気づいてしまうから急がなきゃ

 

「メイも急いで…メイ?」

 

「え、わ、わかってるわ急いで着替えましょう(帰ってきたらタカちゃんをたくさんハグハグしてあげる)」

 

最初は不安一杯でタカヤが転んでもグッとこらえ、ユウキに止められること数十回…私は耐えた…充分すぎる程耐えすぎたわよ!

 

いそいそ着替え長い髪をいつもの様にまとめ魔法衣ユウキも普段着に着替え終え庭園に出ると同時に扉が開いた

 

「おとうさん、おかあさん…おやさいかってきたよお♪」

 

 

すこし汚れたお出掛け着姿に元気よく笑顔でただいまとお野菜を抱き抱えトテトテ駆け寄るタカちゃん…でも勢い余って庭園の石畳に転んでしまう

 

「タカちゃ…「メイ、すこし待つんだ」…え?」

 

駆け寄ろうとする私の肩に手をおくユウキと私の前でタカちゃんがゆっくりと手をついてたちあがろうとする

 

 

「く、うん…う、うん」

 

 

目に涙をためながらすこしふらふらしながらたちあがると野菜が入った袋を抱き抱えゆっくりと確実に歩いてきてそして私達の前に来た

 

「ただいま、おとうさん、おかあさん」

 

「お帰りなさいタカヤ…よく頑張ったね」

 

「タカちゃん、タカちゃあああああん」

 

「お、おかあさん、いたい、いたいから…それにおやさいつぶれちゃうよおお」

 

数分後ようやく離れ私はタカヤの右手を、ユウキは左手を繋ぎ屋敷へと歩いていく…季節は冬なのに暖かな温もりをしっかりと感じ その日夕食はユウキ特製シチュー、手作りパン、生パスタ、タカヤがいつもの三倍おかわりして今日あったことや出会った人の特徴を身ぶり手振りを交えながら笑顔で話してくれた

 

「アモンおじいちゃんってすごくおおきくて怖かったけど優しい匂いがしたんだよ…あとね…」

 

 

ユウキのいうとおりお買い物にいかせて大正解だったわ…なんか行く前と違って逞しくなった

 

なんか寂しいけど知らないうちに成長するのね…

 

「あとね、おやさいの声もきこえたんだよ…」

 

「タカヤも聞こえたんだ、じゃあ簡単な料理を教えてあげるね」

 

「うん♪」

 

「タカヤ様、立派になられましたね…デルクは、デルクは嬉しくてたまりません」

 

 

その日の秋月屋敷から三人の親子と家令の笑い声が絶えることがなかった

 

 

――――――――

―――――――

 

 

新暦75年

 

(ああ、私…死んじゃうんだ)

 

冷たい床の温度を感じながら想うのは妹達と

 

―アリアおねえちゃん―

 

聖王教会であったタカヤちゃん、あれから時間があれば何度か覗きにいったけどタカヤちゃんはいなかった

 

稼働前の妹達と会いたかった…

 

でもタカヤちゃんとも会いたかった

 

ピアッシングネイルの上に五年前に貰った手作りのお守りが輝いてる…これのお陰かわからないけど怪我に逢うようなことが無くなった

 

でもいままで私がやって来たことの報いなのだろう。最高評議会の脳ミソを始末しレジアスの息の根を止めた直後、現れた騎士ゼストの槍を受け命もあと僅か

 

死にたく…な…い…

 

 

ま…だ…生き…たい…

 

生きて妹達……と…タカヤちゃ…ん…に…

 

―…ヤヤイスウナク、ワチチガネマエヲチスクツハグル(かわいそうな子、私がお前を助けてあげる)―

 

不思議と安らぐ慈愛に満ちた声を耳にし私は意識を失った

 

 

それから数分後、シグナムから連絡を受け現場に入った局員が見たのは机にうつ伏せになり息絶えたレジアスと少し離れた床に真っ黒な木の枝と葉が血だまりを囲むように辺りに散乱していたが黒い文字が立ち上ぼり跡形もなく消え去った

 

 

―――――――――

――――――――

 

あたたかい、柔らかな温もりに包まれながらまどろんでいた…でも何か声が聞こえる

 

―クヌクハワチシナイ!ワチシガムムルイテスイムスムメズムシテナルヌヌカ!!(この子は渡さない!私の愛しい娘が目覚めるのはまだ早い!!)―

 

『それを決めんのは魔界樹、アンタじゃない!!その人自身が決めることだ!!』

 

 

―ヤマレ!(黙れ!)ノマエニハワチシツヌルムムカ!!(お前に渡してなるものか)―

 

 

鈍い衝撃が私がいる場所に響く。私自身が決めること、私は何がしたかったんだろう…私は

 

 

『目をさましてくれ!!今、あなたの妹たちがいる世界が大変なことになりかけてるんだ!!』

 

 

…妹?…そうだ私は妹たちがいて…妹たちにあいたかったんだ…

 

『グアッ!魔界樹!その人を解放してくれ!!』

 

 

必死に私に呼び掛ける声…私はまどろみから抜け目を開ける。赤い鎧を纏った騎士が赤く輝く騎馬に跨がり木の根っこ?を切り払い駆けながらその距離を詰めていく

 

 

「う、うう…」

 

 

―ツヌツヌガ!(近寄るな!)―

 

 

『いい加減にしろよ!魔界樹!アリアおばさんはあんたの娘じゃない!!はあっ!!』

 

赤く輝く騎馬が大きく前足を地面へ降ろす。同時に衝撃波が起こると手に持つ双剣が巨大な片刃剣へ変化し襲いかかる木の根を切り払うと高く跳躍、大きく上段に剣を構え魔界樹の固く頑丈な樹皮を削り切り裂かれ断末魔をあげる中、、木の根や葉に包まれたくすんだ金髪に穏やかな寝顔を浮かべる女性に赤い鎧の騎士が近づき、寸前で鎧が光と共に消え失せ少年が抱き抱えた

 

「ま、まじかよ…何で魔界樹に取り込まれてんのさ?」

 

《クロウ、魔界樹が消えかかってる。早くでないと空間が消えるぞ?》

 

 

「わあってるよ…はあ、起きたらなんて説明しょうか」

 

《正直に話した方がいいぜ?》

 

 

「うう~」

 

大きくため息をつきながら女性を抱き抱えながら現実世界へ続くゲートを抜けるクロウ、だが女性にすでに意識が戻っていることにまだ気づいていなかった

 

 

続きは帰郷のおまけにて

 

 

 

特別編 タカヤ君(四歳)の大冒険!+α

 

 

最後に様々な要望書いてくれたジャマールさん、このお話のプロットを提供していただいたオニキスさん、アンケートに協力していただいたユーザーの皆様ありがとうございました!

 





「こうして、タカヤ様は立派にお買い物を終えて帰ってきました…あのノーヴェ様、ヴィヴィオ様、アインハルト様、どうかなされましたか?」


「い、いや何でもない(…タカヤって小さい頃からかわいかったんだな……でもメイが最大の敵だな…どうすりゃいい!アタシ!?)」


「ええ、何でもないですよ(タカヤさんのお母様が最大の壁になりそうです…)」


「は、はい、何でもないですよ(…い、今のうちにタカヤさんのお母様と)」


何でもないといいながらも心のうちで色々考える三人、果たしてタカヤを射止める戦いを制するのは誰か…それは神のみぞ知る。



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守りし者キャラクター紹介(其の二)&破滅と忘却の刻印について

守りし者

 

キャラクター紹介(其の二)

 

クロウ・オーファン(アキツキ)

(CV:梶裕貴)

 

年齢(15)

 

性別(男)

 

身長:145㎝

 

体重:55㎏

 

 

タカヤがノーヴェ達の前から姿を消した直後、ベルカ自治領の山中でなぞの光と共に顕れた少年

 

過去へと送られ暫く修業するように言われ憤慨するもこの頃の父親がどんな人物だったか興味があり気付かれないように行動を開始する

 

性格は母親に限りなく似て荒っぽいが優しい。家族は祖母二人、父、母、妹で構成され、祖母からかなり溺愛され愛称は「くーちゃん」と呼ばれ辟易するもまんざらじゃない(婆ちゃんっ子です)

タカヤの魔法衣と酷似したコートを纏い右手首に変わった腕輪型の魔導具《ライバ》、左手首には腕時計型インテリジェンスデバイス《アークエッジ》を嵌めている

 

外見は『変容の秘薬』をもちい変え(誰が母親かわかった場合一波乱ある為)結婚前の祖父の姓を名乗っている

 

 

魔導具ライバ

 

クロウが持つ魔導具で双頭の龍をかたどったリングでソウルメタルと魔界樹で作られている

 

本来の体であった魔導具がで破損し止むなく仮の身体へ移植された矢先にクロウごと過去へ送られるも楽しんでる節がある

 

 

アークエッジ

 

父親が祖父のデバイスと母親のデバイスを参考に制作したインテリジェンスデバイス、クロウが持つある先天技能にあわせ念入り調整され五歳の誕生日プレゼントとして渡された

 

性格は祖父のデバイス人格をベースにしているせいかやや堅いが立派に支えようと厳しい言葉を投げ掛けることもあるが心配の裏返しで其れをよく―――からかわれる

 

 

リーム・グレイス(??)

(CV:堀江由衣)

 

スリーサイズ:B70-W55-H68

 

 

本編主人公の父ユウキの義母でタカヤの祖母にして聖王教会に所属する修道騎士

 

性格は明るく人懐っこくあと恋の悩みを抱えたシスター達の相談に乗る優しいお姉さん((笑))

 

タカヤの事をメイ同様かなり溺愛してて実年齢よりも若く桃色の長い髪を左にサイドテールに纏めているのが特徴だが胸がやや残念な人

家出してきたタカヤを暖かく迎えStヒルデ魔法学院へ転入を薦める一方早く彼女が出来ることを楽しみにしている

得意な決めポーズはキラ☆♪はシスター達の間で流行り始めている

 

 

王の代行者《アルター》

 

全身を黒いフードで覆い隠した謎の人物?タカヤの胸に《破滅と忘却の刻印》、古の魔戒騎士で歴戦の戦士であるジロウ、ソウマ、レイジに《破滅の刻印》を刻んだ人物

 

 

 

目的は王の復活だが真の狙いがありタカヤの曾祖父オウルの事を知っている模様

 

時折フードから闇よりも深い色のデスメタル?は何を意味するのか

 

 

《破滅と忘却の刻印》

 

タカヤにアルターが刻んだ最強最悪の刻印

 

牙狼~MAKAISENKI~(原典)の破滅の刻印が鎧を召喚した魔戒騎士に激しい痛みと苦しみを与え命を急激に磨り減らしていき刻印が発動を迎えると逃れない確実な死を迎えるのに対し《破滅と忘却の刻印》は前述にある効果とその魔戒騎士にとって《一番大切な記憶》が痛みと共に失われていく

 

しかも記憶が失われていくのは鎧を召喚しなくても起きてしまうことが判明しており、この刻印を解くには術を掛けた《アルター》か《王》を倒すか……………しかない

 



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第十八話 帰郷(改)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



「ふう、あと少しかな」

 

「な、なあタカヤ、あとどれぐらいで着くんだ?」

 

「あと少しですけど…あの~休憩しますか?」

 

 

「あ、ああ…みんな休憩するぞ……って大丈夫か!!」

 

「う、うん大丈夫」

 

「わ、私も大丈夫です」

 

「わたしも~」

 

「ま、まだつかないんですか先輩~」

 

「…おかしいな前よりも道が変わってる…でも安心して必ずつきますから…アレ?ミツキ君は?」

 

「ぼ、僕ならここだよ~う」

 

背中に大きなリュックを背負った少年がふらふらしながら歩き石につまづき倒れた…いやリオがすごい早さで抱き抱えた

 

「しっかりして、ミツ兄(昔はあたしより体力あったのに…)」

 

「ご、ごめん、リオちゃん。でももう大丈夫だか…」

 

「ダメ。ミツ兄はあたしがいないと部屋は散らかり放題だし休みの日は一日中絵かいてるし、叔父さんと叔母様から面倒を見てくれって頼まれてるんだから」

 

 

「す、すいません…」

 

「わかればいいんです……それにミツ兄のお世話するの好きだし…」

 

「リオちゃん?」

 

 

「な、何でもないです!」

 

 

「はは、ミツキ君とリオって仲いいんだね」

 

笑顔でいいながら『あのコート』からテーブルと椅子、さらにティーカップとポットを取りだし休憩の準備をするタカヤは息を切らしてない

 

それ以上に思うのは目の前に広がる広大な緑の木々に川、さらには雲の上に隠れた山々…タカヤってどんな所に住んでたんだよ

 

「みんな~お茶の用意できましたよ~」

 

 

さっきまでヘトヘトだったヴィヴィオたちが元気よくテーブルへ向かうのを見て、少し息を整えあたしも向かうことにした

 

 

第十八話 帰郷

 

 

今から一時間前、聖王教会。同転送ポート前

 

 

「みんな揃いましたか?」

 

「「「「は~い」」」」

 

元気よく返事するのはヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナ、チームナカジマの面々とあたし、そして

 

「ごめんタカヤ君、ボクも参加させてもらって」

 

「いいんだよ、ミツキ君の絵とかの参考になればいいんだけど」

 

「ミツ兄はいつも引きこもりだから、たまには外に出た方がいいんです!(まったく昔はあんなにかっこよかったのに)」

 

「リ、リオちゃ~ん…僕そんなに引きこもりかな………」

 

「リ、リオ、言いすぎだよ」

「普段から引きこもりなミツ兄がいけないんです!」

 

ず~んと体育座りするのは『ミツキ・カーディフ』、タカヤとは同級生で食費を切り詰めて画材費など費やして空腹で倒れてたのを助けたらしい

 

たまに絵のモデルなってくれと頼んでるらしい、それ以上にリオの家のお隣さんで年が離れた幼馴染みって聞いたときはヴィヴィオ達が驚いてた

 

以前はリオの家にある道場に通う門下生だったらしいけど、今は画家になる道を選び邁進してると聞いた

 

 

―ミツ兄は昔はすごく強くて優しくて、あたしとよく稽古に付き合ってくれたんですよ…なのに門下生を止めちゃって、お父さんやお母さんはスッゴク泣いてたし…あたしも寂しかったし…あ、でも今のミツ兄も…―

 

でもミツキの話をする度に指をもじもじしながら顔が赤くなったりしたり終始笑顔が絶えなかった。まさかリオはミツキの事

 

って?話がそれちまった。 なぜあたしたちが転送ポート前にいるかと言うと試合迄、練習を詰めつつ休みをとれる場所がないかと探してたらタカヤが実家に来ませんかと提案してくれた

 

タカヤが言うには実家にはそういった設備が完備されヴィヴィオ達の特訓に適している施設もあると聞いたあたしは二つ返事で提案を受けた

 

まあタカヤも実家に帰って調べものしたいらしいんだけど、ある意味好都合かもしんない

 

だってタカヤが生まれ育った場所にも興味あるし、もしかしたら小さい頃の話とかをデルクに聞けるかもしれないし

 

あと部屋も見たいし…

 

 

まあ、んな事は置いといて転送ポートを使ってタカヤの家がある場所に来たんだけど……豊かな自然に流れる川、天までそびえる山々にあたしたちは驚いてた

 

 

「じゃあ、少し歩きますけど準備はいいですか?」

 

「いつでもいいですよ(ここがタカヤさんが生まれ育った世界…なんかカルナージに似てる気が)」

 

 

「私も大丈夫です(…ドコか懐かしさを感じます…クラウスも来たことあるのでしょうか?)」

 

 

「な、なんかスゴすぎてなにも言えない」

 

 

「そ、そうだね…あの先輩のお家って」

 

 

「僕の家はあそこだよ」

指差した先には森の真ん中、白い石壁に囲まれた西洋建築の屋敷らしいものが…ってあんな場所にあるのか

 

「す、すごい所にあるんですね」

 

 

「そうかな?じゃ行こうか」

 

そういい案内するタカヤに付いてったんだけど

 

 

―た、助けてタカヤさ~ん!―

 

 

変な植物の蔓に捕まれたヴィヴィオを助けたり

 

―き、きゃあ!?―

 

 

―あ、ま~君。久しぶり♪―

 

―ガウ?ガウウ!ガウウウ♪―

 

―あはは、くすぐったいから…やめてよ。ま~君―

 

 

アインハルトの前に現れたアオアシラ?みたいなでっかい熊と笑顔で会話?したり

 

―あ、アマゾン!―

 

 

―タカヤ、ひさしぶり、帰ってきて…よかった、?、その子、たち…タカヤ、の、トモダチ?…か―

 

―うん、トモダチ―

 

まだら模様なターザンみたいな服を着た青年と気さくに話しながら胸元で指で変な形に組んだ合図みたいなのを見せあってる

 

 

でもトモダチって…なんか…

 

―でも、守らなきゃいけない人たちだよ―

 

 

―タカヤ、ユウキも同じコトバ、言ってた、タカヤ、アマゾン、見回り、してくる、また、あう―

 

 

―またね、アマゾン。もっ君にもよろしくっていってね―

 

 

―わかった、モグラ、に伝える―

 

にっこり笑顔を浮かべて森の中へ入ってくアマゾンを見送った

 

で、今に至るんだけどさ

 

「はい、着きましたよ」

 

 

「す、すごい…これがタカヤさんのお家なんですか」

 

「す、すごく大きいです!」

 

「…お城みたい」

 

 

立派な白く輝く石組の塀を抜けた目にしたのは立派な石作りの庭園、左側と右側には彩り鮮やかな花が咲き乱れてて、さらに奥を見ると一際存在感溢れる西洋建築、いや時代を感じさせる屋敷が建っている

 

 

「…あの作りはまさか…エレミア…」

 

アインハルトがナニか見覚えがあるって顔をしてる…もしかしたらアインハルトの先祖もここに来たことがあんのかって思ったとき屋敷の扉が勢いよく開け放たれ黒いナニかがあたしたちを案内するタカヤに襲った

 

「うわっ!」

 

 

「お帰りなさ~いタカヤ~♪どう、久し振りのお家は?タカヤが帰ってきてくれて、お母さんとっても嬉しいわ~」

 

 

「ち、ちょ!母さん!?や、やめてみんな見てるから!?」

 

 

黒い影、母さんが僕を力一杯抱き締めながら頬擦りしてる…しかも骨がメキメキって音が鳴り響いてんだけど!?

 

 

「「「「「「……………………………………」」」」」」

 

 

みんな唖然としながら母さんと僕のやり取りを見てる…や、ヤバい、骨が、骨がおれる。おれちゃううう!?

 

 

「メ、メイ様、皆様が見ておられます!」

 

 

「え?…こ、こほん…」

 

 

デルクの慌てた声にハッとなった母さん。みるみるうちに顔がカアアアッ!と赤くなりクルッと背を向けワザとらしく咳払いして

 

 

「よ、ようこそ、アキツキ屋敷へ。疲れてるでしょうから、こ、こちらに…ど、どうぞ」

 

 

顔を見せずにそのままスタスタ屋敷へ向かってくのをしばらくポカンとしてみていたけどデルクの声でようやく戻っきた皆を連れ屋敷のゲストルームへと連れていった

 

 

―――――――――

―――――――

 

 

「す、すごい…これがタカヤさんのお家なんですか…」

 

 

「へ、部屋がたくさんある!」

 

 

「大きな絵も、古い本もたくさんあるよ…」

 

 

「なんっうか、すごいなタカヤの家って」

 

 

「タカヤ君、この絵は?」

 

ミツキ君が指差したのは色とりどりの六枚の翼を広げた騎士が巨大な弓?と矢?を構えいま放とうとする姿が描かれた絵

 

この絵は初代オウガが死惺王を討滅した瞬間が描かれた絵だとオウルひいじい様からか聞かされてた

 

 

…でもアキツキ家に弓術に纏わる記述や技は伝承されてない

 

なぜこの絵があるんだろ?

 

「タカヤ君?模写したらダメかな?」

 

 

「え?ああ、人に見せないならいいよ」

 

 

「ありがとう!じゃあ早速…」

 

 

手早くキャンパスを広げ木炭で描き始める…ホント絵が好きなんだなと感じる一方、少し離れた場所では

 

 

「…ミツ兄ったら、また絵を描いてる…(アキツキ先輩の絵とか描くのに、何であたしを描いてくれないんだろ…大人モードを見せたときなんか…)」

 

 

―ミツ兄!大人になったあたし。ど、どうかな―

 

 

―ん~…ボリュームが欲しいかな……特に胸がぎあっ!?―

 

 

―ば、バカァ!ミツ兄なんか知らない!!―

 

 

(…あれから調整して胸は少し大きくなるようにしたんだけど…やっぱり胸は大きい方がいいのかな…ミツ兄の部屋にある本もそればっかりだし)

 

恋もストライクアーツも思春期真っ盛りなリオと一心不乱に筆を進めるミツキを残しタカヤはノーヴェ達に少し用事ができたからといい案内をデルクに任せ二階へ上がる

 

しばらく長い廊下を歩きたどり着いたのは無数の界符が貼られた古びた扉

 

チリンと音を鳴らし魔導筆を軽く振るう、すると界符が弾けゆっくりと扉が開き迷わず歩いていく

 

 

《ここに来るのも久しぶりだぜ~》

 

 

「うん、でも今は刻印の解き方を調べなきゃ…」

 

 

 

 

目の前には無数に立ち並んだ大小様々な本が納められた棚、その壁には魔導旗、系譜図、心界の森の地図がところ畝ましと飾られている

その中央にはしっかりとした机と椅子があり迷わずタカヤは椅子を引き座ると魔導筆を振るうと無数の本が空を舞い始めた

 

探すのはオウルが残した日記…魔導筆を振るいタカヤは作業に集中しながら先日の事を思い出した

 

 

―――――――――

――――――――

一日前、魔導図書館にある一室で三人の青年と少年を前にし椅子に座り黒地に銀が混じったコートをまとった青年が魔導筆をかざし目を閉じやがて開いた

 

 

「どうだレイジ?」

 

―…まいりました。タカヤ君の刻印と僕たちが以前に受けた刻印と違いますね―

 

―なんだと?どう違うんだレイジ?―

 

―わかりやすく言うと僕たちがいた世界の魔界の力とは別な魔界の力が複雑に絡み合い構成されてるんだ―

 

タカヤの刻印に魔導筆をかざし波動を当てながらレイジは続ける

 

―…それにタカヤ君の《破滅と忘却の刻印》は僕たちの刻印と繋がっていてタカヤ君、もしくは僕らに何かあった場合必ず発動し…確実な死が待っている―

 

 

―…タイムリミットを示す魔導時は出ていないのが幸いか…キリク、以前オウガはこの世界でタカヤのと同じ刻印を刻まれた…其の時はどうやって解いたかわかるか?―

 

 

《すまないジロウ。あの時俺は王の攻撃で破損しちまったから記憶がないんだ…》

 

《まいったねぇ~キリクならわかるとおもったんだがねぇ~》

 

《それに、この魔導図書館の資料が誰かに燃やされてしまってるし……どうしたらいいの》

 

 

―…タカヤ、オウガの屋敷にはここと同じ規模の魔蔵庫はあるか?―

 

 

―あ、オウルひいじい様の魔蔵庫ならありますけど―

 

ソウマの言葉にタカヤが頷いた

 

―ならばオウガの屋敷に手がかりがある可能性が高いな―

 

―タカヤ君、君には刻印に関することが記された資料を探してもらいたいんだ―

 

―え?でもホラーが…―

 

 

―留守の間、俺たちがこの街を守る…少しは頼ることを覚えろ、お前はもう一人ではないタカヤ―

 

くしゃくしゃとタカヤの頭を撫でながらジロウがいい、ソウマも無言で頷いたのを見て留守の間クラナガンの街を任せヴィヴィオ達を屋敷に招く一方、オウルの魔蔵庫で調べるタカヤ

 

三人の想いに報いるため、ただひたすらに無数の魔導書を閲覧するのだった

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

「さあ、皆様。せっかくですからお茶でもどうぞ」

 

「ああ、すまないな、こんなに押し掛けちゃって」

 

 

「いえいえ、こんなに賑やかなのは久しぶりで、私も嬉しいですから」

 

白磁に青い模様が描かれたティーポット片手に笑顔で答えるデルクは本当に嬉しそうだ、でもタカヤがいないとなんか寂しいな

 

さっき施設を見せてもらったけどスゴすぎだろ…でもタカヤは小さい頃から遊び場がわりにしてたって聞いたときは驚いてしまった

 

だって、四方から巨大な斧が迫り其れを避ける、しかも斧が来る速さがだんだんと増す仕組みで床からも回転ノコが走る…幾らなんでもヴィヴィオ達でも怪我しちまう

 

で、一番簡単なのないかって聞いたら山あり谷ありの無数のアスレチック施設を紹介されてここまで来たんだけどデルクが「少し休憩しませんか」っていったから今は皆でくつろいでる

 

 

「さあ、お茶が入りましたよ」

 

 

「「「「は~い」」」」

 

 

動きやすい服装に着替えた四人が各々テーブルにつくとささやかなお茶会が始まる

 

「す、すごく美味しいです」

 

「ありがとうございます…実は皆様が食べられてるお菓子はメイ様がお作りになったんですよ」

 

 

「そ、そうなんですか?(タカヤさんのお母様ってお菓子作りも得意なのですか)」

 

 

「形もすごくきれいですね(…うう、わたしも作れるようになった方がいいでしょうか)」

 

 

あたしも一つとり口に入れると香ばしさとほどよい甘味が口一杯に広がる。プロ顔負けの味だよな

 

 

「デルク、メイって料理も得意なのか?」

 

 

「い、いえ、あまりお上手ではないのです…ユウキ様のレシピノートに書かれた料理・な・ら・大丈夫です」

 

 

少し冷や汗かきながら教えてくれたデルク、あの完璧超人に見えるメイに弱点あったのか。少しいいこと聞いたなと思いながら少し気になったことがあった

 

 

「なあ、あの塔ってなんだ?」

 

「あの塔は歴代アキツキ家当主の墓所でございます…」

 

「「「「墓所?/ですか?/何ですか」」」」

 

 

 

 

「はい、歴代アキツキ家の当主の霊を祀る場所であります…/(念話)ここでタカヤ様は浄化の儀式を行います/」

 

 

『浄化?』

 

『浄化ってまさか、タカヤさんがですか?』

 

『ホラーとの戦いで穢れが溜まった剣斧オウガの浄化は聖王教会地下にある浄化封印のオブジェで出来ますが、体にも僅かながら穢れが溜まります。その穢れの浄化をあの塔で行うのです』

 

 

あたしとヴィヴィオ、アインハルトに念話を飛ばしながらデルクは話してくれた、今日ここに来たのはその為もあったんだな

 

 

『ノーヴェ様、ヴィヴィオ様、アインハルト様。トレーニングが終わればなのですがタカヤ様とあの塔までいかれますか?』

 

 

『『『い、いい/のか/んですか!?』』』

 

 

『はい、タカヤ様にはあとで私の方から伝えておきますので』

 

ニコリと笑いかけながらデルクは軽く頭を下げティーポット一式を箱に納め屋敷の方へ歩いていくのを見ながらあたし達は早速アスレチック施設でのトレーニングをはじめた

 

―――――――――

――――――――

 

一時間後、アキツキ屋敷

 

「…ダメだ見つからない」

 

最後の本を閉じ棚へ納めるタカヤ、その額には汗が玉の様に光る…オウルが残した日記、手記、魔導書、すべてに目を通すも刻印に関する記述が記されたモノは見つからなかった

 

 

 

《…タカヤ。もしかしたら墓所に行けばわかるかも知れないぞ?》

 

 

「…そうだね…祀られている英霊の方々に伺いをたてればわかるかもしれないね」

 

 

キリクの言葉にしたがいタカヤは魔導筆を納めオウルの魔蔵庫から出る。しばらく歩くと見慣れた人影、ミツキ・カーディフがある布がかけられた絵をじっと見ていた

 

 

「どうしたのミツキ君?」

 

「え?うん、この布がかけられた絵ってなにかな?」

 

「これは…多分肖像画だと思うけど…見てみる?」

 

 

「いいの!?」

 

 

「うん、多分デルクがはずし忘れたやつだから」

 

 

かけられた布をそっと外すと短く整えられた髪が目立つ長身の青年と犬耳と黒く長い髪が目立つ女性が描かれた絵…色彩もだけど生き生きとしたタッチにミツキ君が小さく声を漏らした

額縁の下にはなにか文字が書かれ読んでみる

 

 

《オウマ・アキツキ。マヤ・アキツキ、新暦??年》と書かれてる

 

オウマ、マヤ…文字をみて若くして亡くなった祖父と祖母の名だと気づくタカヤ。だが少し疑問に思うことがあった

 

なぜ布がかけられ人目がつかないようにおかれていたのかを

 

「どうしたのタカヤ君?」

 

「い、いや。何でもないよ…ミツキ君、僕少し用事があるから離れるけどわからない事があったら母さんか、デルクに聞いてね」

 

 

「わかったよ、でさこの絵模写していいかな?」

 

 

タカヤが「うん」と頷くとミツキは再びキャンパスを開き再びデッサンを始めるのをみて少し笑いながら屋敷の外、英霊達が祀られた塔に向け歩き出した

 

 

時同じくして心界の森では…

 

 

「な、なんとか倒せた…なあライバ少し聞いていいか?」

 

 

《なんだ?クロウ》

 

 

「…なんで、なんでアリアおばさんが魔界樹に取り込まれてんだよ!しかもオレのいる時代と歳や外見変わんないし!?」

 

腕のなかにいる緩やかなウェーブがかかったくすんだ金髪の全裸の女性から目をそらしながら聞くが

 

 

《…仕方ないだろ、この時代にアリアがいなければお前が消えちまうんだぞ?それでもいいのか?》

 

 

「うう~親父の奴、帰ったら絶っ対にぶんなぐっ…ッ!」

 

 

「少しうるさいわよ…あなたは誰かしら?」

 

首筋に金属製の鋭利な爪を突き立て冷たい目を向けるアリアは尋ねる

 

「いや、俺はですね?怪しいモノじゃ…さ、刺さってるからやめて!?」

 

 

「…もう一度聞くわ。あなたはダ……ッ!」

 

金属製の爪を突き立てようとしたその手が止まる。何故なら目の前の少年の髪と目の色が黒から本来の色へ戻っていく…アリアと呼ばれた女性にとって懐かしい面影が少年と重なる

 

「あ、あなた…その髪と目は?」

 

「お、お袋の遺伝なんです!」

 

「…お袋?この質問に答えて…あなたのお母さんの名前は?」

 

「…………―――――。お袋の名前は――――・――――だ…」

 

 

「……………(よく似てるわね)…あなた、名前は」

 

 

「クロウ、クロウ・アキツキ」

 

 

そう告げるとアリアと呼ばれた女性は驚きながら顔に手を添えながらじっと見てフウッと軽くため息をついた

 

 

「いきなりあんな事してごめんなさい。クロウ」

 

 

「べ、別にいいんだけどさ…あ、あの…とりあえずさこれ着てよ風邪引くからさ」

 

 

「クスッ…」

 

 

「な、なんだよ」

 

 

「なんでもないわ…」

 

 

少し笑みを浮かべながらアリアはクロウから服を受け取り着替えるアリアと呼ばれた彼女の本当の名前はNo,Ⅱ《ドゥーエ》、四年前にJS事件にて死亡した筈だった彼女がなぜ生きているか?

 

 

それは十数年前、潜入していた聖王教会で出会った子供との交流がきっかけだった

 

(このエピソードはいつか明らかに)

 

 

――――――――

―――――――――――

 

『オウルめ、《アレ》をどこに隠した…』

 

 

黒よりも深い闇に佇む黒衣の人物《アルター》は手にした本をみるもその顔はフードの影に隠れ見えない。やがて本を閉じ黒衣の裾へ放り投げるよういれた

 

『……やはり《彼処の地》へ赴き手にいれ問いただすしかないか……』

 

 

黒く輝く籠手に覆われた手をスウッと正面に振るう、切れ目が広がり、やがて石造りの長い廊下《魔界道》が現れ迷わず歩きだす

 

『…待っているがいい、古の魔導具キリク…』

 

 

小さく呟き《アルター》はオレンジ色の魔導火に照らされた魔界道を進んでいった

 

何故、《アルター》は魔界道を開き使えるのか?

 

 

それはまだわからない

 

 

―――――――――

――――――――――

 

 

「あの~ノーヴェさん、アインハルト、ヴィヴィオ。無理しなくていいんだけど」

 

 

「だ、大丈夫だ」

 

 

「は、はい」

 

 

「全然平気で…きゃ!」

 

「危ない!」

 

 

足元にある石に躓くヴィヴィオを慌てて抱き止める…だが背後に凄まじい怒気。ギギギと首を向けると黒い笑みを浮かべた二人が《ゴゴゴゴゴ!》と音を立て見てる

 

 

「ど、どうしたんです?」

 

「……別にぃ(く、羨ましい…べ、別にアタシ羨ましいなん少しも!思ってないんだからな!!)」

 

 

「なんでもないです(…ヴィヴィオさん…なんて羨ましいことを…わたしだってされたいのに)」

 

 

本音と建前を垣間見ながらビクビク震えながら再び歩きだす四人。

 

オウルの魔蔵庫から出たタカヤは英霊の塔へ向かう途中、トレーニングを終えたノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルトを伴ったデルクに「英霊の塔を間近でみたいとノーヴェ様、アインハルト様、ヴィヴィオ様が言っております」と聞いたタカヤは現在、英霊の塔へ向かう為険しい道を歩いてる

ただ「では、私はこれから夕食の用意に戻ります。タカヤ様、いろいろと頑張ってきてくださいませ…」とデルクに恭しく頭を下げられ見送られたが……

 

 

「ん、着きましたよ」

 

 

深い森を抜けると青々とした草原、その中央には真っ直ぐそびえる白い塔。その圧倒的で荘厳さを秘めた塔に三人は圧倒される

 

 

「すごいな…」

 

「そうですか?じゃあ僕いってきますね…あ、近くに庭園があるのでそこで待ってもらえますか?」

 

 

「は、はい…あ、あのタカヤさん。この塔を建てた人は誰なのですか?」

 

 

「え、う~ん。確かリッドって人が建てた物なんだ…僕のご先祖様の友人でかなり気まぐれな人だったらしいんだけど。どうかしたの?」

 

 

「い、いえ…(エレミア…貴方はやはり此所に来てたんですね)」

 

 

タカヤの説明を聞き、考え込むアインハルト…どうしたのと聞くも「…今は何も言えません」と言われタカヤはノーヴェ達と別れ塔へ歩いていき魔法衣から魔戒剣斧オウガを鞘に納めたまま双頭の狼が彫刻された重厚な扉へ膝まずき翳した

 

「…第九代白煌騎士オウガ、秋月タカヤ参りました…」

 

 

―オウガの称号を受け継ぎし者よ。中へ参れ―

 

 

「はい」

 

 

扉の中心が重々しい音と共に開くと迷わず立ち上がり中へ歩むタカヤ…いつもの表情とは打って変わり真剣な眼差しで奥へと進み塔の中心に当たる場所、円状に並んだ歴代白煌騎士を受け継いだ者達の石像に囲まながら中心に立つ

 

―秋月タカヤよ、光を浴びるがよい―

 

 

「…はい」

 

 

歴代白煌騎士の石像が光輝き光が伸びタカヤを包み込む…身体から僅かな黒い魔導文字が煙のように立ち消えていく

 

 

―ホラーの穢れは浄化できても、お前の胸に刻まれた《破滅と忘却の刻印》は我等《英霊》の力では消せぬ―

 

 

「…そうですか」

 

 

―だが忘れるな、己の内にある光…守るべき《光》を守り抜け。それが刻まれた刻印を打ち消す術となろう―

 

 

「はい」

 

 

守るべき光…タカヤの脳裏には今まで出会ってきた人の顔が浮かぶのを感じながら浄化の光に包まれた…だが突然光が消えた

 

 

《な、なんだ?光が消えた!?タカヤ、上だ!》

 

 

キリクの声と同時に剣斧オウガを頭上へ抜き払う。ソウルメタルの激しい振動音が狭い室内に響く

 

 

『ほう、防いだか…オウガの血を受け継ぐ者よ』

 

 

「あなたはあの時の!」

 

 

ソウルメタル同士が接触し火花を散らしながら見えたのは黒、いやタカヤの胸に《破滅と忘却の刻印》を刻んだ黒いフード姿のアルターが斧?で剣斧と鍔ぜりあってる

 

 

《て、テメェ何故此所に入ってこれた!入れるのは…》

 

 

『…相変わらずよくしゃべる…』

 

 

わずかに見える口許を歪ませタカヤから離れ斧を構える

 

 

「キリク、あの人は一体?」

 

 

《気をつけろタカヤ!コイツからホラーの気配がしやがる》

 

『…ふん、さてオウガの血を受け継ぐ者…私にキリクを渡してもらおうか?少し聞きたいことがあるのでね』

 

《誰がテメェなんざに答えっか、ば~か!》

 

 

「き、キリク!」

 

 

『…なら力づくでいただいていこう…かあああ!!』

 

地を蹴ると共に斧を上段に構え斬りかかる。タカヤは素早く魔戒斧に切り替え受け止める

 

 

「ぐっ!」

 

 

脇腹に鋭い痛み、見ると黒いフード姿のアルターの左手に直刀両刃の魔戒剣が握られてる

 

「ま、魔戒剣?まさか貴方は魔戒騎士!!」

 

『さあな、どうした。その程度か?』

 

 

「はあああ!」

 

 

魔戒剣斧を構えタカヤとアルターは壁を蹴りながら切り結んでいく…余りの剣速に風が巻き起こり竜巻が生まれ上昇、塔の天井へ向かいながら拳と蹴りを繰り出しながら剣、斧を交差し火花が散る

 

『かあああああ!』

 

 

 

「はああああ!!」

 

 

全身全霊を込めた互いの一撃がぶつかり合った瞬間、激しい衝撃波が生まれ塔の外へ瓦礫が舞い散る中弾き出される

 

(ぐ、強い…それにあの太刀筋は…ッ!オウルひいじい様の!?)

 

 

『考えこととは随分と甘く見られたものだな?』

 

「はああっ…ぐあっ!くうくうううう!?」

 

 

剣斧を振るおうとした瞬間、激しい痛みが襲いかかり崩れ落ちる瓦礫にうずくまるタカヤに近寄り頭を掴みあげる

 

 

『……胸が痛むか?どのみちお前が死ねば、他の魔戒騎士は死に絶える…さてキリクを渡し……』

 

 

「ぐ、ぐ…はあああ!」

 

 

胸の痛みに耐え逆手に握られた剣斧でその手を切り払う。血が辺りに舞いたまらず頭から手を離すのを見逃さず蹴りを腹部へ放ち、反動を利用し別な瓦礫へ飛び移り息を切らしながら構える

 

「はあっ、はあっ、キリクを貴方には渡さない…」

 

胸と頭に襲う激しい痛み、必死にこらえながら真っ直ぐアルターを見据え剣斧を頭上に掲げるタカヤ、だが…

 

『…面白い、なら私も全力を出させてもらおう…』

 

血が滴る右手に魔戒剣、左に魔戒斧を構えたアルター。タカヤと同時に切っ先で真円を二重に描く

 

砕け落下していく瓦礫に白金の鎧を纏ったタカヤ、反対側の瓦礫に黒よりも深い闇…禍々しいまでの邪悪さに満ちた狼を模した面に紫色の瞳、表面には血管を模した装飾が施された鎧を纏い立つ騎士

 

その手には変化し巨大化した魔戒斧、魔戒剣が握られていた

 

《テ、テメェ!その鎧をどこで手に入れた!!》

 

 

『教える義務はない…残り90秒か遊んでみるか?…ハアッ!』

 

 

『ぐあっ!』

 

 

器用に魔戒剣と魔戒斧で斬撃を繰り出してくるアルターの動きは獣、いや狼だ…だがタカヤも負けじと剣斧で突き、横凪ぎ、斜め上段と組み合わせながら剣速を増していく

 

「ハアッ!」

 

『甘いな…』

 

 

切り結びながらそう呟くと同時に無数の瓦礫がまるで槍の様に変化、意思を持ったようにタカヤにミサイルのように襲いかかった

 

『ハアアアアアア!!』

 

 

襲いかかる瓦礫を正眼に構えた剣斧で砕き斬り払い、拳打を繰り出すタカヤの回りに粉砕された瓦礫が舞う

 

だが激しい頭痛と胸の痛みが再び襲いかかる…僅かに反応が遅れ槍がその胸元に迫った

 

(ぐ、ま、間に合わな…)

 

 

絶対の防御を誇るソウルメタルの鎧と言えど魔導力が込められた槍の前では確実に胸を貫かれ死ぬ。だが激しい痛みで腕が動かせない…魔戒騎士として戦うと誓ってからタカヤは死を覚悟する

 

だがアインハルト、ヴィヴィオ、ノーヴェの顔が脳裏によぎった瞬間、痛みが消え去り鎧が白金色に激しく輝きだした

 

『う、うう…ハアアアアア!!』

 

 

『ナニ!』

 

 

渾身の力を込めた剣斧で槍を破砕。同時に足に力を込め瓦礫から瓦礫へ飛びアルターを翻弄し間合いを詰め上段に構えた剣斧で斬りかかるも魔戒剣で受け止められた

 

 

『な、鞘だと!』

 

 

『セヤアアア!!』

 

 

利き手に握られていた白金に輝く鞘に気づき魔戒斧で斬りかかるも鞘を軸にし背後へ回り込み渾身の魔導力を込め魔戒剣斧で大きく横凪ぎに切り払った瞬間、辺りに再び衝撃波が生まれ、そのまま二人は残骸と共に塔の真下へ落ち土煙が舞う

 

 

『はあ、はあ、はあ』

 

 

『く、うう…』

 

 

ふらつきながらタカヤは魔戒剣斧を、アルターは魔戒斧を杖がわりにし魔戒剣を互いに向け構え牽制する…だがアルターはそのまま地面へ魔戒斧を大きく振りかぶると叩きつけた

 

 

『うわ!』

 

 

飛び散った土くれと巻き起こった土煙で視界が阻まれるも、しばらくして晴れるがアルターの姿はドコにも見当たらなかった

 

 

『き、消えた?』

 

 

《野郎、逃げやがったみたいだ………タカヤ!鎧が》

 

『…な、なんで色が変わってるの…』

 

 

腕、胸、肩、脛部分が黒く変色してる、たぶん攻撃を受けたからなのか?と考えるがタイムリミットが迫るのを感じ鎧を返還。辺りを見回しながら先程まで戦った相手の事を思い浮かべる

 

 

(あの魔戒騎士?が使ったのは《魔槍刃の術》だ…オウルひいじい様しか使えなかったって聞いたけど…………まさか、そんなことない。だってオウルひいじい様は十年前に)

 

 

「タカヤ~」

 

考え込むタカヤの耳に届く声、振り返るとノーヴェとアインハルト、ヴィヴィオ達の姿が見えた

 

 

「な、何だよこれ?っていうか大丈夫か!?」

 

 

 

「すごい音がしたから心配したんですよ。タカヤさん」

 

「一体、何があったんですか?」 「え、えと…これは、その…スト…」

 

 

《…実はな嬢ちゃん達、タカヤが出口を間違えてしまってトラップゾーンに引っ掛かってしまってな、んで。それを突破したらこうなったんだ》

 

 

「そ、そうだったんですか(エレミアならそうしますね…)」

 

 

「でも、このままにしてていいんですか?」

 

 

辺りに転がる瓦礫に目を向けヴィヴィオは尋ねてくる

 

「ん~、この搭には自己修復機能があるから大丈夫なんだ。そろそろ屋敷へ戻ろうか、もう夕食の時間だし」

 

「そうだな」

 

キリクに少し感謝しながら辺りに散らばる瓦礫を避け四人は屋敷へ向かって歩き出した

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

(……キリク、ナカジマさん、タカマチさん、ストラトスさんをうまくごまかせたかな?)

 

 

(……ああ、上出来だ……)

 

キリクからの思念話に心の中でうなずく…先程の戦いで失ってしまった《アインハルト、ヴィヴィオ、ノーヴェと何処で出会いを果たし名前で呼ぶようになったか》の記憶(思い出)…消えていく記憶に怯えを表面上は出さないもののタカヤの心は不安で押し潰されそうになっていた

 

 

「どうかしたかタカヤ?」

 

「え。な、なんでもないですよ…あのナニか?」

 

 

「少しじっとしてろ…」

 

ノーヴェに気付かれたと感じるが、ジーンズから絆創膏を一枚取りだすとタカヤの頬に手を添え、頬が少し切れ血が流れてる部分にペタリと貼り撫でた

 

 

「これで良し、なんか少し男前になったな」

 

 

「あ、ありがとう…ナカジ……ノーヴェさん」

 

言いかけた言葉を飲み込みなり、おもいっきり顔を逸らす…なぜならノーヴェの顔と豊かな胸があったからだ

 

 

(うう~なんでだろ…すごくドキドキする…)

 

 

だが背後から凄まじい怒気。振り返ると笑顔でタカヤを見るアインハルトとヴィヴィオ…しかし目は全く笑ってない

 

 

(…………そんなに、そんなに胸がいいんですか!!)

 

(……セットアップすれば負けません!)

 

 

「あ、あのタ…ヴィヴィオ、アインハルトどうしたの?」

 

 

「「なんでもないです!!」」

 

 

二人の声にビクッと震えながら、ようやく屋敷へたどり着きそのまま夕食へとなった

 

「お、美味しい」

 

「デルクさんって料理もお上手なんですね」

 

 

「喜んでいただけてよかったです…さあ冷めないうちに」

 

 

デルクが拵えた料理の美味しさに舌鼓をうち感嘆の声をリオやコロナがあげすごい早さで食べてく姿をニコニコと笑顔を浮かべみていた

 

 

 

――――――――

―――――――――

 

 

「ふう~いい湯だな」

 

 

「はい、でもカルナージのより大きいですね」

 

 

「それに狼の彫刻とかたくさんありますね…」

 

 

お湯に浸かりながら回りを見る…自然石を利用した露天風呂、滝湯、ジャグジー、巨大な平岩が見える

食事を終えたノーヴェ達はアキツキ家の大浴場で、その薄桃色の湯に身を任せながらその造りに驚いてると声が響いた

 

「お気に召しましたか、ヴィヴィオさん、アインハルト様、リオさん、コロナさん」

 

 

「め、メイさん?」

 

 

湯煙の中から黒く長い髪を肩にかけるように結びタオルで前を隠したメイが五人の近い所まで来ると湯に浸かると穏やかな表情を浮かべる

 

 

(う、浮いた!)

 

 

(…浮きましたね)

 

 

二人の目に、メイの豊かで柔らかな胸が臼桃色の湯に浮かぶのを見て自身の胸をみて落ち込みなんかぶつぶつ呟いてる

 

 

「あ、あの~あまり大きいといい事ばかりじゃないんです、肩はこりますし…」

 

「あ、あのメイさん!」

 

バシャッと湯を掻き分けリオがまっすぐ見つめてきた

 

「な、何かしら?」

 

 

「…む」

 

「?」

 

 

「どうやったらメイさんみたいに大きくなれますか!ぜひ教えてください!!」

 

軽くこぶしを握りながら真剣な眼差しでリオが聞いてくるのを見て冷や汗が流れるメイ

 

「ど、どうすればと言われても…(私の場合はユウキに揉まれたり飲まれたりしたから……)」

 

 

―――――――――

 

―ユ、ユウキ?そんなに飲んだらダメ…タカヤの分が無くな…ん!―

 

 

―プハッ…じゃあ後でたくさん出るようマッサージするから飲んでいいかな?―

 

―ば、ばかあ―

 

――――――――――

―――――――――

 

 

「メイさん、どうしたら大きくなるんですか!」

 

 

「そ、それは…」

 

 

(こんなに大きい胸ならミツ兄だって…)

 

 

真剣な眼差しで胸を見ながら詰め寄るリオにあの最強魔戒法師で息子離れ出来ないメイもタジタジの姿にノーヴェは少し笑いながら眺めていた

 

――――――――

――――――――

 

 

《…タカヤ》

 

 

「なにキリク?」

 

 

《……………何処まで覚えてる》

 

 

「…カルナージでゴダードさんと戦った迄かな……」

 

《………もうメイに話したらどうだ?これ以上は隠し通すのは無理だ!!》

 

「ダメだよ…前にもいったけど母さんに話したらダメだ…」

夕食後、久しぶりに自室のベッドに横になりながら台座に納められたキリクにそう応え部屋の中に目を向けた

 

小さな机、少し大きめな棚には無数の魔導書。そしてクリアケースに入ったキングラウザーとラウズアブソーバー、ブレイバックル、ラウズカードをみて昔よくユウキと遊んだ事を思い出し寝返りを打つ

 

 

(……もしかしたらこの記憶もなくな……絶対に忘れたくない…みんなの事も)

 

 

破滅と忘却の刻印を刻まれ、ノーヴェ達と出会ってからの記憶がまるでガラスが砕けるよう消え始めた日から失った記憶をキリクに教えて貰う事でごまかしてきた…最後の望みだったオウルの魔蔵庫には《刻印を解く方法》は無かった。そして昼間にアキツキ家の人間しか入れない筈の英霊の塔に現れた謎の人物の太刀筋が曾祖父オウルと似ていたことが気になって仕方なかった

 

(インターミドルも始まってる。みんなに絶対にバレないようにしなきゃ……みんなの《夢》を魔戒騎士である僕たちが守らなきゃ…必…ず…)

 

謎の人物の事を片隅に追いやり軽く寝返りを打ち、やがてまぶたが重くなり眠りの世界へと落ちていった

 

 

第十八話 帰郷

 

 

 

 

 





ウルバ
《タカヤが刻印について調べる為にオウガの屋敷に戻ってた頃、ボクとジロウはギンガやディード、オットーにこの世界について色々教えてもらうことになったんだ…でも変なやつが嗅ぎ回ってるみたい……次回!雷鳴!!あんな人間がいるなんて赦せないよジロウ!!》


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特別話 二年目のクリスマス

ようやく吹っ切れました


「♪~♪~」

 

 

クリスマスを一週間後に控えたクラナガンは光輝くイルミネーションで彩られた街中をノーヴェ、ギンガ、ウェンディ、チンクが買い物袋を抱え歩く姿が見えた

 

特別話《二年目のクリスマス》

 

 

「どうしたんッスかノーヴェ?妙にご機嫌っすね?」

「…べ、別にいいだろ?そういうウェンディだってずいぶん嬉しそうだな?」

 

 

「わかるっすか?実はダーリンとお泊まりするんっす。温泉入ってご飯食べて…そして、そして//////」

 

 

テヘペロっと幸せ一杯な笑顔を浮かべるウェンディに満腹な表情を浮かべる一同…

(く、羨ましいな……だが今年のクリスマスは私はレイジ殿と……)

 

 

(いいなあ~ウェンディ。私もジロウさんと朝のコーヒーを……私ったらハレンチなことを//)

 

 

……乙女回路MAXなウェンディにつられるように桃色に染まるギンガ、チンク

 

だが…ノーヴェだけは少し暗い顔を浮かべる。昨年、タカヤとの二人っきりで過ごすはずだったクリスマスを体調が芳しくなかったのに気づかず倒れてしまった事が原因だった

 

(日にちまでまだあるし、それに体調も万全にしたし…今年のクリスマスは………タカヤに…アタシを)

 

 

ボンッと頭から湯気を出すノーヴェは頭を軽く振り、そのまま皆と家への帰路を急いだ

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

「面会は30分までです………アキツキ様」

 

 

「…はい」

 

 

重苦しい扉が開き歩きだすのは黒鉄色のコートにスーツ姿の少年《タカヤ・アキツキ》、彼が向かうのは軌道拘置所に収監されている稀代の天才にして犯罪者《ジェイル・スカリエッティ》、JS事件を引き起こした彼とトーレ、セッテ、クアットロがいる区画へ迷わず歩きやがてその足を止め椅子に座る

 

 

「また君か……いい加減諦めてくれると嬉しいんだがね」

「僕は諦めるって言葉は嫌いなんです…ジェイルさん」

 

「…くく…さん付けはやめてくれ。今日は何しにきたんだい」

 

 

「…実はジェイルさん、トーレさん、セッテさん、クアットロさんに会ってもらいたい人がいるんです」

 

 

「私とクアットロたちにかい?くく、ずいぶんと物好きなのだな…」

 

 

「…その人はジェイルさん、トーレさん、クアットロさん、セッテさんと会いたがってます。今から一週間後に此方へ来るので必ず会ってほしいんです……」

 

 

そう言うと真っ直ぐジェイルと向き合うタカヤ、その瞳が今までと違うと感じ姿勢をただしたが

 

『アキツキ様、そろそろ』

 

「もう時間のようだね……」

 

 

「……そうですね。でもジェイルさん必ずあってください…お願いします」

 

深く頭を下げタカヤは立ち上がりその場から後ろ髪引かれるように歩きだし退出しジェイルは仰向けになり眼を閉じた

 

――――――――

――――――――

 

「ふう…あってくれるかなジェイルさん」

 

《会うに決まってんだろ、》

拘置所から首都クラナガンへと戻り歩くタカヤにキシキシと軋ませながら言う魔導身具キリクに少しため息をつきながら待を見ると辺りの街灯や壁には様々な飾り付けがなされ鮮やかに輝きクリスマスカラーに染め上げられている

 

「クリスマスか……今年はノーヴェさんとどう過ごそうかな……でも最近なかなか会えなかったし」

 

《(去年のクリスマスは何だかんだで次の日の朝までノーヴェを完全に喰べていたからな)……そういやタカヤ、フロニャルドには来月にいくんだったな…》

 

「うん、ダルキアンさん、ユキカゼさん、レオ閣下、ガウル君、シンク君、ミルヒオーレ姫様、エクレさん、リコッタさん……元気にしてるかな」

 

 

《アイツらなら元気にしてるだろ……》

 

 

無数の浮き島が空に浮かぶ世界《フロニャルド》でビスコッティ、ガレットの戦興行真っ最中に跳ばされ、そこで出会った人たちとの思い出を懐かしむ

 

《なあ、タカヤ。ノーヴェも一緒に誘ってみたらどうだ?あそこの戦興行はヴィヴィオ嬢ちゃん達のトレーニングメニューに役立つと思うぜ》

 

 

「そうだね……じゃあ準備しないといけないね。(あとコレも)」

 

黒鉄色のコート《魔法衣》に手をいれると四角い箱に触れながら笑みを浮かべ歩き出した

 

 

そしてクリスマス当日、

「…ふう、少し早く来すぎたかな?」

 

 

少し早めに待ち合わせ場所に来たタカヤは寒空を見上げる、街中はクリスマスのイルミネーションが輝きカップルが歩く姿が多い

 

(ん?アレは)

 

「ミツ兄、はやくはやく!」

 

 

「ち、ちょ…リオちゃん引っ張らないで?」

 

 

「だって早くしないと映画がはじまるんだよ。ギリギリまで個展の用意をしてたからこんな時間に」

 

 

「う、わかったから……人が多いからはぐれないしっかり手を握っててね」

 

 

「う、うん」

 

 

しっかりと手を握り歩くミツキとリオはやがて人混みにのまれ姿がみえなくなる、その時タカヤの視界が暖かくいい香りがする何かに遮られた

 

 

「だ、だ~れだ///」

 

 

「…う~ん…………ノーヴェさん?」

そう口にすると視界が広がり振り返ると編みニット帽をかぶり襟元や袖もとがふわふわした暖かなベージュ色のコートに身を包み少し頬を紅くしながら笑みを向けていた

 

「よ、よくアタシだってわかったな…手袋してたのにさ」

 

 

「ノーヴェさんってすごく優しい匂いがするからわかるよ…」

 

 

「バ、バカ///それよりも早く予約していた店にいくぞ」

 

 

「え?ちょ?引っ張らないで!?」

 

 

やや強引に腕をくみ歩き出すノーヴェに引きずられるよう歩くタカヤ…だが前回同様キリクはついてきていない

 

―今回も俺は着いてかないぜ。ゼルヴァ達と仙水を飲み明かさなきゃいけないんでな……まあ最近会えなかったんだからノーヴェと色々と楽しみなよ―

キシキシと笑いながらアキツキ本邸に残った

 

 

そのかわりに……

 

 

「……っうかコッチのアタシかなり大胆になったな…」

 

 

「そうだね~それにタカヤ君も鼻血出さなくなったし…それに」

 

 

「それに?なんだよ」

 

「い、イヤなんでもないよノーヴェちゃん。じゃいこうか(コッチのノーヴェは《あの秘密兵器》を持ってるからね…)…よっと」

 

 

「?…ちょ!?なにしてるんだよ」

 

 

「ん~なんかタカヤ君達を見てたらね…それにこうして腕組んであるくのは久しぶりだなってさ」

 

 

 

「そ、そうだな。久しぶりにデート気分もいいよな//」

 

照れながらカズマ(紫紺の切り札)にまるで猫のように寄り添い腕をくみ歩き出すノーヴェ(紫紺の切り札)、すこし先を歩くタカヤ&ノーヴェのデバイス《ジェット》に収納された秘密兵器とは?

 

 

しかしそれ以上に三つの桃色空間に回りのカップル達もあてられたのか更にいちゃつくと同時に

 

 

―死ねリア充共!―

 

―クリスマスのバカ野郎~!!―

 

 

―来年こそ、来年こそは素敵な彼氏をつくってクリスマスを!―

 

 

―今からでも逆光源氏計画でいい男を!!―

 

………等々怨嗄の籠った声が響いてた

 

―――――――――

――――――――――

 

「ああ美味しかった。どうだ?ここの味は」

 

 

「はい、すごく美味しかったです。またここに来ましょうかノーヴェさん」

 

 

「ああ…また二人でこような」

 

「あたしの料理を大分喜んでくれたみたいじゃの…ノンちゃん、中々いい美少年を捕まえたの」

 

 

 

「せ、節乃さん?」

「照れんでええよ~ゲンちゃんもク~ちゃんも大喜びじゃろうて…ふふふ」

 

二人が食事をした店《節乃食堂》…外観はどこにでもある食堂だが出される料理は数多の高級料理すらかすんで見え《神の味》に達する、それ以上に店主である節乃は《数多の次元世界最高の料理人》として有名で予約をとるのに十年はかかると言われてるのだが、ゲンヤと顔馴染みで娘達の名前を以前から耳にしており節乃食堂へ予約をしに訪ねに来たノーヴェをみて今回だけの特別ディナーを振る舞ってくれたのだった

 

 

(それにあのタカヤくんは食材の声を聞くことができるみたいだの…)

 

 

「節乃さん、今日の料理本当に美味しかったです。ま、また今度来てもいいですか?」

「ええとも。三人から四人分の予約ならとれるから安心おし」

 

 

「は、はい!節乃さんありがとうございます」

 

パァッと明るい表情を浮かべるタカヤにうんうんと満足した節乃、やがてコートを着終え店を出た二人

に「今度は家族で来るとエエよ~」と静かに口にしささやいた

 

 

しばらく歩いてると白いナニかが舞い降りてきた

 

 

「ん?雪だ……」

 

 

「ああ、街の明かりでキラキラしてすごくきれい…えた、タカヤ!?」

 

「ん?すこし寒くなったからね…こうすれば暖かくなるよ」

 

 

「…うん」

空から舞い降りる雪に思わず足を止めノーヴェをそっと抱き寄せ幻想的に輝き舞う雪から互いの瞳をみつめ徐々に近づきやがて唇がかさなりあい離れた

 

 

「ノーヴェさ…」

 

 

「《さん》つけは無しって前にも言っただろ…バカ」

すこし意地悪そうにタカヤの唇を人差し指で軽く押さえクスリと笑う。再び歩き出した二人は予約していたクラナガンにある高級ホテル《アマダム》。その最上階にある高級スイートルームへ入る

 

 

豪奢な天涯に暖かな光に照らされたふかふかな絨毯が敷き詰められたスイートルームに入るなり互いに強く抱き絞めながらそのままもつれるようにベッドへ倒れ混み互いの身体の温もりと柔らかさを感じつつコートを脱がそうとする

 

「まずはシャワーを浴びてさせて…まだ時間はたっぷりあるんだから」

 

 

「そ、そうだね…うん」

 

 

名残惜しそうに離れた二人…まずはノーヴェがシャワールームへ入り手にボディソープをつけ念入りに肌を磨くよう洗っていく…

 

(……アタシはなんかすごくドキドキしてる…でも今年こそはタカヤと…)

 

金色の瞳に強い決意の色をみせシャワーを止めバスローブを纏い出ると入れ替わりでタカヤも入っていく、それを見計らいジェットを起動しあるデータを呼び出すと体が光に包まれた

 

(………これで準備万端、あとは待つだけだ///)

 

グッと拳を握り顔を真っ赤にしながら笑みを浮かべて数分後、

 

 

「アレ?明かりが消えてる…どうしたんだろ…ウワッ!?」

 

明かりが消えた室内を手探りで歩いた瞬間、なにかにぶっかりそのまま押し倒されると同時に明かりがつき眩しさに目が眩むもなれたタカヤは思わず息を飲んだ

 

「せ、聖夜の空に輝く」

 

編みタイツに包まれた肉付きがいい太もも

 

「…二つの月から来た愛とエロスの使者…」

 

形のいいお尻にキュッと絞り困れた腰、たゆんと溢れんばかりの夢と希望がつまったバニーコスに包まれた二つの豊かな膨らみ

 

 

「マ、マジカルラビット・ノーヴェ降臨」

 

サンタ帽にやや垂れたウサ耳に首もとに黒のチョーカをつけあまりの恥ずかしさに真っ赤なノーヴェに言葉がでない…だが次の言葉を聞いた瞬間時が止まる

 

 

「……タ、タカヤの煌牙重剣斧?を納刀す、す、す、するぞ///」

 

キラッ☆と手をかざすノーヴェ…一瞬思考が止まるもすぐに戻りおかれた状況確認をする

(バ、バニー…て言うか押し倒されてるし…それになんか可愛いし)

 

 

「あ、あのノーヴェさ…ノーヴェ、その格好は?」

 

 

「べ、別にいいだろ!タカヤはこういうの嫌いか?」

 

「い、いや嫌いじゃないし…なんか何時もと違ってすごく可愛い」

 

 

「そ、そうか///じゃあ今日はアタシがタカヤを気持ちよくしてあげる…」

 

 

「ち、ちょ…ノーヴェ……あ、うっ」

 

 

金色の瞳に妖しい魅力を湛えながらゆっくりと手を伸ばしていくのを感じたのを最後に意識がプッんと切れた

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

「う、朝……ノーヴェ……………………って!?」

 

射し込む朝日に眩しさを感じ目を開けたタカヤがみたのは身体をガクガクと震わせ恍惚の笑みを浮かべ抱きつくノーヴェ…

 

(まさか、またやっちゃったの僕………)

 

 

朧気ながらよみがえる光景

 

―ノーヴェ、どこがいい?―

 

 

―バ、バカァ…激しくするなぁ///―

 

 

―ここがいいんだ。今まで寂しくさせてた分たくさんするからね―

 

 

―や、やあああ…そんなに胸揉むなったら~うんっ//―

 

―うわっ…すごく気持ちいいよ…―

 

―やらあ、そんなに激しくしたら、らめ…んんっ//―

 

ひたすらノーヴェを攻めあげ絶頂させた記憶に思わず頭を抱るタカヤ…「とりあえずおきたら謝ろう」と深く覚悟しながら赤い髪を優しく撫でるようにすき再び目を閉じた

 

 

特別話 二年目のクリスマス

 

 

(近々投稿予定のR18版守りし者にてHシーン追加版を投稿しますのでお楽しみに!)

 




おまけ


軌道拘置所


「お久しぶりね…」


「な、なぜ君が?」


同独房内、JS事件を起こしたジェイル・スカリエッティは目の前にたつ女性を前にして言葉を漏らす
何故ならば六年前に死んだはずの人間が存在し立っていたからだ


「本当にドゥーエなのかい?」


「ええ、ドクター…いっておくけど幽霊じゃないわよ。あと今の私は《魔戒法師アリア》よ」


不思議な民族衣装に身を包んだドゥーエと呼ばれた女性はうなずくのをみて様々な疑問が沸き起こる

だが今はソレとは違う感情が沸き起こるのを感じる…

「……君がどうして生きているかは疑問に思うが…今だけは言わせてくれ」


「何かしら?」


「……生きててくれてありがとう」


「私もドクターや妹達にあえて良かったわ…タカヤちゃんのおかげかしらね」


「タカヤ?まさかタカヤ・アキツキのことかい?」


「ええ、あの子ったら私をここへ来させるのに《盟約》を使うなんて……すこしだけ悪い子になっちゃったかしら」


《盟約》と言う言葉に首をかしげるジェイル…だが今は再会を喜ぶことを優先した




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閑話 愛憎

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)



新暦49年

 

 

第一管理世界《ミッドチルダ》魔法と科学が発展したこの世界では二百年に一度のあるかないかの奇跡の現象、太陽が《二つの月》が重なるという天体現象《皆既日食》に人々がその時が起こるのを今か今かと賑わい空を見上げている

 

人々は知らない。この現象が喪われたナニカを甦らせるためにミッドチルダに住まい生きる《あらゆる命》を魔獣の王への生贄として捧げ願いを叶える儀式である事を誰一人知らなかった

 

★★★★★★★

 

鬱蒼と繁る木々を蹴り移動する影が二つ。交差する度に火花が散り音が木霊させながら開けた場所へと降り立つ

 

「そこをどけオウル!」

 

 

「どかん!お前は自分が何をしようとしているかわかっておるのか!!」

 

 

地を蹴るやいなや剣斧を横凪ぎに切り払う、が対する相手も柄の長い斧で防ぎ半回転と同時に踏み込み胴を薙ぐもオウルは鞘で受けその反動を利用し蹴りを叩き込む

 

 

「グカッ!」

 

 

「…今ならまだ間に合う!あの術式を止めろ!!」

 

 

「やめるわけにはいかない…私は――――――為に闇に魂を捧げた。もう一度―――を――――――!!」

 

 

「……が本当にそれを望んでいると言うのか!!――――!!」

 

 

再び切り結ぶ二人の剣速は速さを増しやがて肉眼で追えない…だが互いの身体を切り裂いていき血が辺りに舞い散る

 

「はああ!!」

 

 

「かあああっ!!」

 

 

激しく刃がぶっかりあいソウルメタル同士の振動音と共に衝撃波がおき足元の地面がひび割れると共に抉れ々がはぜ飛び散る。二人は鍔是りあいになりながら互いの反動を利用し後ろへ飛ぶ、素早く剣を天に構え真円を描くと狼のうなり声が響き光が溢れ白金の狼《オウガの鎧》、黒い狼の意匠が特徴的な《………の鎧》を纏い対峙し斬りかかりと共に互いに蹴りを撃ちむもぶつかり合い白金と黒の粒子が舞う

 

『……お前に《魔戒の力》を教えるべきではなかった!!』

 

 

『それがどうした!掟に縛られさえしなければ――は―――は無かった!――をひとりぼっちににせずにすんだのだ!!』

 

 

ギィンと大きく振りかぶり刃をぶつけ叫ぶ二人から悲しみ、怒り、苦しみ、強い後悔が滲み出ている…

 

《不味いぞオウル!術式発動まで時間がないぞ!!》

 

首元から聞こえた声にわずかに空を見る。二つの月が太陽と重なり始め魔導文字がその周囲に広がるのを目にし焦りをみせたオウルにわずかな隙が生まれる。黒い狼の鎧を纏った騎士は好機とみたのか魔戒斧、魔戒剣を強く握り踏み込みと共に交互に斬りかかる

 

『ぬ!ぐうう』

 

 

『私の勝ちだああ!オウルウウウウ!!』

 

 

重い一撃を剣斧で受けるも押され苦悶の声をあげるオウルに勝利を確信した彼の変化した魔戒斧、魔戒剣が剣斧を弾く。そのままがら空きになった胴を薙ごうとした…が無数の花弁へ変わり消える

 

『なっ!?』

 

 

目の前から消えた事に驚く彼に僅かな隙を縫うように、花びらが彼の背後に集まりやがて白金の狼を模した鎧を纏ったオウルが姿を見せた

 

『…そこか!』

 

 

『………闇に魂を売り渡した貴様の陰我。ワシが断ち斬る!!』

 

 

振り返り様に大きく魔戒斧、魔戒剣を振るい鋭く鋭利な刃が迫るもオウルは剣斧を構え刃を滑らせるように受け懐へ潜り込むと突きの構えをとりソウルメタルの鎧を纏った彼の胸板めがけ突く、震動音が響きやがて砕け貫いた

 

『ガアッ!?』

 

 

狼を模した兜の牙から血を吹き、力なくグラリと倒れると共に血に濡れ輝く剣斧が胸から抜かれた

 

『……』

 

 

やがて光と共に鎧が魔界へ返還、魔法衣が切り裂かれ血を流しながらオウルは崩れるように地面へ膝を付いた

 

「……―――、ワシはお前を《本当の息子》だと思っていた……お前こそが九代目《白煌騎士オウガ》の称号を継ぐ者と信じていた…」

 

 

彼の死体を前にし顔を俯かせ地面へ拳を叩きつける【八代目】白煌騎士オウガ継承者《秋月オウル》の苦悶に満ちた声はやがて降り出した雨が激しく叩きつける雨音にかき消された

 

 

―――――――――

―――――――――

 

 

新暦69年

 

???

 

「どうした、立てユーノ」

 

「うう…」

 

 

全身を黒い布で身を包んだ彼の手に握られた唐草模様が描かれた筆?は金髪の髪を首の後ろで結んだ少年《ユーノ》に向けられている

 

「うう……」

 

 

フラフラと立ち上がるユーノの手には違うデザインの筆と不思議な文字がかかれた札が握られている

 

 

「…ユーノ、今一度聞く。お前は《魔戒の力》を何故身に付けたいのか?」

 

 

「……ぼくは……力が欲しい…守る力を」

 

 

「……《守る力》…ふん、そんなのは何の役にもたたん。それにお前が力を欲しいと言う動機を当ててやろう……【大事なナニか】を《魔法》で守れなかった。だから力が《魔戒の力》が欲しい違うか?」

 

 

「……はい…」

 

 

絞り出すようにかすれた声で答えるユーノにかつての自分と重ねてしまっている事に気づき苦笑する。

 

数ヵ月前、《ある目的》のためにベルカ緒王時代の遺跡を訪れた際に先に一人調査に来ていたユーノを見つけ動向を監視していた

 

だがある区画に仕掛けられていたトラップにかかりゴーレムに襲われていたユーノ…だがそのゴーレムこそある目的に欠かせない《アレ》が在るのを気づき破壊し無事に入手するついでに助けた

ユーノの《魔戒導師》としての高い潜在的素質を感じ無限書庫から迎えが来る三ヶ月の間、暇潰しも兼ね鍛え始めた。

 

まるで砂が水を吸うように《魔戒導師》として急激に成長していくユーノに驚きを隠せなかった…だがそれ以上に《魔戒の力》を求め学ぶには並大抵の事ではないと感じ理由を訪ねようやく気づいた

 

―大事なナニかを守れなかった―

 

ユーノと自分は似ていると言うことに…

 

 

「…ならば《魔戒の力》、《魔戒の術》を私から盗み己のものとするのだな……大事なナニかを失わない力をな」

 

 

「は、はい……先生!」

 

 

「先生はよせ……うっ…」

 

力強く答えたユーノの瞳から強い意思を感じ構えるも頭を押さえ膝をついたのを見て慌てて駆け寄る

 

 

「先生?どうしたんですか!?」

 

「な、何でもない……すまないが今日はここまでにする。明日も同じ時間に此所へ来い」

 

ふらふら立ち上がりながら筆を軽く振るうと無数の花弁へ変わり彼方へ飛ぶのをユーノはただ見ているしかできなかった

 

 

―――――――――

―――――――――

 

 

遺跡から四、五キロ離れたであろう川辺に無数の花びらが集まり一つになると黒いローブを纏った彼が頭を押さえながら声を漏らす

 

 

「う、うう………」

 

 

―ほう、まだ我に抗うか…―

 

「…黙れ…」

 

 

―その抵抗も直に無駄となるだろう……貴様が闇に堕ちるのは時間の問題だ―

 

 

「黙れ、お前の好きにはさせない……」

 

 

―……あの小僧を鍛えてるのは我に対する抵抗か?……だが断言してやる、お前は自らの手であの小僧の命を奪うだろう…それともお前と同じ様に闇に落とすのか―

 

 

「……ちがう!……貴様等の思い通りにはさせん…闇にも堕とさせはしない」

 

 

―……ふ、せいぜい抗うのだな……―

 

 

嘲笑うように消える声を耳にしながらふらふら立ち上がるとローブから魔導机を展開、取り出したのは作りかけの魔導筆を見つめ無言で念を込め注ぎ込む

 

 

(あと、あとどれぐらい《私》が保てる?……二年、いや一年か?私の持つすべて《術》《技術》を伝えなければ……頼む…時間(とき)よ止まってくれ)

 

彼に残された時間は余りない…だからこそ全てをユーノへ託す為に運命に抗う

 

それが先に起こる《悲劇》に繋がるとしても

 

 

閑話 表裏

 

 

 




次回は来年投稿になります!


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第十九話 雷鳴(前編)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「……………」

 

 

「……………」

 

 

早朝、ナカジマ家から少し離れた公園に映る二つの影…一人は青みかがったコートに髪を逆立てた目付きが鋭い青年と白地に赤、黒の装飾が施されたコートを纏った二人が槍と剣を構え相対している

 

ふわりと風が凪いだ瞬間、二人は踏み込むと同時に切りかかる…が槍に防がれ胴へ蹴りが叩き込まれるが咄嗟に後ろへ飛び威力を相殺、肩に剣を構え地を這うように駆け出す

 

 

「はあっ!」

 

 

「むん!」

 

 

激しく切り結び辺りに振動音…ソウルメタルの音が木霊し互いに蹴りを放つも激しくぶつかり合い再び間合いを開く

 

 

「…腕は落ちてないみたいだなソウマ」

 

 

「ああ、ジロウもな」

 

 

互いに構え牽制し移動する二人、心なしか楽しんでいるようだ…再び剣と槍に力を込め切り結ぼうとしたソウマとジロウ。だがその手を止め魔法衣へ互いの武器を納めた

 

 

「ジロウさ~ん」

 

 

「ソウマっち~」

 

 

「どうしたギンガさん?」

 

「あ、あの…朝御飯ができたから呼びに来たんですけど」

 

「む、もうそんな時間か…ソウマ、戻るとす………」

 

「ソウマっち、またそんな暑苦しい格好して~私が選んだ服は着ないんッスか!?」

 

 

「あんなハレンチなものが着れるか!そ、その前に抱きつくのをやめろおおお!?」

 

 

「ん~本当は嬉しいくせに…ウリウリ♪」

 

 

「ウアッ」

 

 

ソウマの背中にはTシャツ越しながら破壊力バッグんの特大スイカ二つが形をムニュンと変えながら密着、その魅惑的な感触にたまらず声をあげるソウマ

 

 

「ジ、ジロウ!見てないで助けろ!?」

 

 

 

「……………ギンガさん、若い二人に任せて戻るか」

 

「え、でも……」

 

 

「……俺はまだ魔導馬に蹴られたくないんでな……」

「?」

 

ただそれだけいいイチャイチャするソウマとウェンディを残しその場をあとにした…数十分後、妙に艶々したウェンディとやつれたソウマが戻ってきたのは言うまでもなかった

 

 

第十九話 雷鳴(前編)

 

 

「ここが聖王教会か…元老院と趣が似てるな」

 

《そうだねジロウ…》

 

 

「そんなに似てるのウルバちゃん?」

 

 

《うん、でもこの世界ってスゴいんだね~空飛べたり馬を使わない馬車があるなんて僕驚いたよ》

 

 

あれから数時間後、ジロウはギンガと共に聖王教会本部へ訪れていた。その目的はカルチャーショックという弊害をなくすためだったまだまだ現代、魔法世界の常識に不馴れなジロウたちにとってこの世界でいきる上で知識を得ることは必要不可欠だった

 

 

だが何故ジロウ、ソウマ、レイジはバラけた状態でいるのか。それはすこしばかり時間を遡る

 

 

数時間前

 

 

「あ、あのジロウさん」

 

 

朝食を終えギンガの淹れたコーヒーが入ったカップを持つジロウに話しかけてきたギンガ、どことなく顔も赤くしながらたっている

 

「あ、あの今日はお暇ですよね」

 

「ああ」

 

 

「そ、それでですね…………わ、私と出掛けませんか?まだ見てない場所ありますよね?今日私お休みですからちょうどいいかな……って…思ったんですけど…ダメ…ですか?」

 

「いいぞ、ならレイジたちも」

 

 

「あ、それなんですけどレイジさんとソウマさん用事があるみたいです」

 

 

「そうか、わかった」

 

 

ジロウのその声を聞いたギンガの笑顔は『まるで花が咲き誇ったかのようだった』と娘馬鹿な中佐がいっていたと記しておく

 

 

だがタイミングがよすぎる…何故ならば元からナカジマ家美人姉妹が想い人と二人っきりになるために打ち合わせたからであった。

当然発案者は頼れるみんなのお姉さん『チンク・ナカジマ』

 

『チンク、なんで私たちを呼んだの?』

 

 

『ギンガ、ウェンディ、単刀直入に聞く。ジロウ殿とソウマ殿のことが好きだな?』

 

 

某マダオ司令と同じコスプレを着たチンクからのあまりにもストレートな言葉に一気にボンッと湯気が立つ二人

 

『べ、別にいいじゃないッスか!チンク姉に関係ないっすよ』

 

 

『そ、そうよ…でもなんで聞くの?』

 

 

『い、いやな…この私がお膳立てしょうかと思ってな……』

 

 

マダオ司令…チンクの元で話し合われた結果。ウェンディはソウマ、ギンガはジロウをこの世界について案内する(またはデートという)作戦が組まれたのだった

 

 

(さて、私はレイジ殿と…デ、デ、デ、デート………い、いやこの世界について教えるだけだし、まだレイジ殿の気持ちを確認してないわけだ……落ち着くんだ私!!)

などの乙女なチンクの思いがあったりしたりする

 

 

各々の思惑はうまく運び現在、ジロウはギンガと共にいるのだが妙な気配を感じていた

 

それも二つ…敵意はないと判断しながらもこれ以上は無理だと判断したジロウは声をかける事を決めた

 

「いい加減出てきたらどうだ?」

 

 

ビクッとしたのを感じとるとさほど離れた場所でない教会の建物の影から出てきた二人にギンガは驚いた

 

「ディード、それにオットーまで?一体どうしたの?」

 

「あ、あの…その…この前はごめんなさい!!」

 

 

「ん?この前…」

 

 

この前…おそらくこの世界に来たときの事(詳しくは心滅を参照)だ

 

 

「本当にごめ…」

 

 

「気にするな、お前たちは悪くない…」

 

 

「で、でも僕は」

 

 

「気にするな、それにくよくよするな。男なんだからな」

 

 

ビキッ!なんかが割れた音が響く…なにかいったか俺は?オットーが目の前で顔をうつむかせてるんだが

 

「あ、あのジロウさん。オットーは女の子ですよ!?」

 

 

「ははは、何をいってるんだギンガさん。オットーはどこからどうみても男じゃないか」

 

「ジロウ様、オットーは女の子ですから!?」

 

 

どこからみても男なんだがな…一応確かめてみるか、俺はゆっくりとオットーの股間へ手を伸ばした

 

「「あっ!?」」

 

二人の声が響くと同時に掴んだ…あれ?男ならは必ずあるアームストロング砲が影も形も無い…だと?

 

 

「……あっ…ん」

 

 

変わりに指に溝?の感覚、動かす度に熱を帯びた声をオットーがもらした………………ま、まさか…オットーは女なのか!?

 

 

「…………ジロウさん」

 

「オットーに何してるんですか」

 

底冷えするような声に思わず振り返る。笑顔で何やらタービンがついた手甲と光輝く剣を構え立つギンガとディード…な、なんだこの殺気は!?

 

 

「言いましたよね、オットーが女の子だって…」

 

 

「い、いや…落ち着いてくれギンガさ……!?」

 

「ジロウ様…あなたが私の妹にしたことは万死に値します……」

 

 

「ふ、二人とも落ち着……」

 

 

「「問答無用!!」」

 

 

背後に阿修羅、鬼を浮かび上がったのを目にした次の瞬間鈍く響く衝撃を感じたのを最後に意識が途絶えた

 

 

――――――――――

―――――――――

 

 

「へへへ、機械人形ごときが人間様の振りしてやがんなあ」

 

 

薄暗い室内でソファーに足を投げ出す彼が見るのは管理局の制服に身を包んだ腰まで長い髪が特徴の女性…ギンガ・ナカジマ

 

彼の手には複数の書類があり過去、生い立ちまで詳細に記されている

 

 

彼の職業は探偵…だがそれは名ばかりで触れられたくない弱みを握り恫喝し金を巻き上げる最低の男。彼がギンガに目をつけたのは金目的もあるが…それ以上に女であることだった

 

 

「いい身体してるなあ……これなら金には困らないぜ…」

 

 

今まで彼は弱みを握った女性から金を巻き上げるだけ巻き上げ、払えないというと暴力を奮い人身売買をしてきた

 

 

―金が払えねぇだ?だったら身体を売って作れや―

 

 

彼は《金が払えない奴が悪い》と言う理由だけで暴力をふるいつづけた結果、心身共に止んだ女性も多数いた

 

「今度は頑丈そうだからなあ……どんな風にしてやるかなああ」

 

 

下婢た笑みを浮かべながら彼は追い込むための準備を進め始める彼の背後に無数の魔導文字が溢れ近くにあった黒い帽子へ吸い込まれるよう入り込んだ

 

 

―ヌンヌンクリチミタイノチイスクヌウツヌ、ヌリニフスムウシイ―

 

 

微かな声が帽子から響いた事に彼は気づかず被ると部屋から出ていった

 

第十九話 雷鳴(前編)

 

 

 




後編に続く


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第十九話 雷鳴(後編)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「…………」

 

「…………」

 

 

…あの後、気がついたジロウはギンガ何度か話しかけようするも、一方的に無視され避けられてる

 

こんなことになったのもジロウの《悟空タッチ》に責任があるんだが…だがギンガのデバイスブリッツキャリバーが鳴り響く

 

 

「どうしたギンガさん?」

 

「…すいませんジロウさん、私急な用事が入ったので失礼していいですか?」

 

 

「ああ、別に構わないが……急な用事とは一体なんだ?」

 

「…仕事のです……じゃあ鍵を渡しておきますので…」

 

「…ああ」

 

暗く思い詰めた表情が消し、何度も謝りながらその場を後にするギンガ。だが先程見せた表情からナニかを感じとりジロウはコートを翻すと風があたりを舞うとその場から消え去った

 

 

第十九話 雷鳴(後編)

 

 

「たしかここね……」

 

 

「おう、約束通り来てくれたみたいだな~管理局員さんって真面目だね~」

 

 

ジロウと別れたギンガが向かった場所は空き家となった屋敷…数年前にある家族が夜逃げした結果、無人となり手入れは無く床や家具に埃が分厚くたまっている

 

「ふざけないでください!私にあんなのを送ったのは何が目的ですか!?」

 

 

「落ち着きなって、ほら」

 

 

怒りを露にするギンガに対しヘラヘラ笑う男はある写真を投げ渡した、パシッとつかみ見た彼女の身体がガクガク震えだした

 

写真に写っていたのは今から四年前に起きたゆりかご事件に拉致され改造された自分の姿、青ざめ震える彼女に近づきながら男は舐めるような視線でギンガを見ながら喋りだした

 

 

「…まさか四年前の事件の戦闘機人様が人間様に化けて平然と暮らしてたとはなあ…」

 

 

「………きゃ?はなして!」

 

腰に触れてきた手を叩くギンガ、一瞬呆気にとられる男は再びヘラヘラ笑いだした

 

 

「そんな事していいのかなあ~?そう言えば姉妹がいるんだよなあ。更正施設にいた戦闘機人が家族ごっこしてんだよなあ?世間には顔や素性は公表されてないんだったよな……もし、俺がコレを然るべき報道機関に提供したらどうなるかな?」

 

 

「あっ!あなたまさか!?」

 

「そう、あんたの親父ゲンヤ・ナカジマは管理局をクビ、せっかく引き取った戦闘機人様は一生が真っ暗に閉ざされちまう訳よ…」

 

 

「やめて!お願いします!それだけはやめてください!!」

 

埃だらけの床に土下座するギンガの胸中にはこれから明るい未来を歩むウェンディ、チンク、ノーヴェ、ディエチの姿、ソレを守りたいが為必死に額ををすり付けんばかりに頭を下げる姿に男は気を良くしたのかポンッと肩に手を置く

 

 

 

「まあ、俺は優しいからさ……口止め料がわりにココの口座に金を入れてくれれば気が変わるかもなあ」

 

懐から一枚の名刺―私立探偵ショウ・クルキイ―と名前が印刷されたのを手渡されたギンガ、

だが書かれていた金額の高額さに声をあげた

 

 

「なんなんですか!こんな金額払えません!!」

 

 

「なんだよ、あんたにとって家族って大事じゃないのかよ……んじゃあさ別な方法にするか」

 

 

「え?きゃあああ!」

 

 

「そのいやらしい身体で金をがっぽり稼いでもらおうかあ?あはは中々揉みこごちがいいじゃないか?」

 

 

「い、嫌、離して…離して!!」

 

 

知らない男、ショウ・クルキイに制服越しとはいえ身体をまさぐられる感覚に嫌悪感を露にし咄嗟にブリッツキャリバー、リボルバーナックルを展開と同時に意識を刈り取るつもりで思いっきり殴った……だが信じられない光景が眼に映る

 

「いきなり危ないじゃねぇかよ……」

 

 

片手で平然とリボルバーナックルを受け止め先程まで浮かべていた笑みは消えショウの瞳からは嗜虐の色が見える

 

「少しばかり調教が必要だな!オラア!」

 

 

「あう!」

 

鳩尾めがけ拳を叩き込む男…その思い一撃にたまらずくの字に膝をつき悶えるギンガ、しかし美しい髪をむんずと掴み引き上げる

 

「少し優しくしていりゃいい気なりやがって!女はな黙って俺たち男の言うことだけ聞いていりゃ良いんだよお!」

 

振り挙げた手がそのままギンガの顔面をとらえた瞬間、バキッと音が屋敷に響かせながらギンガが床へと投げ出される…だが青い影が寸前でギンガの身体を受け止めた

 

 

「あん。誰だ手前!?」

 

 

「…………………」

 

 

 

無言でギンガを抱き抱えるのは短く切り揃えた黒髪に切れ長の目、胸元が大きく広げ青みかかったコート《魔法衣》を身につけた青年が全身から怒りを露にしショウ・クルキイを見据え歩き出すと近くにあったベッドに自身の魔法衣を敷きギンガを横たわらせた

 

「ジロウ…さん?」

 

 

「ギンガさん、すまない……だが今はゆっくり休んでくれ……」

 

スウッと一枚の札をギンガの赤く晴れた頬に張り付けるとゆっくり瞼が閉じていき穏やかな寝息を立てるギンガに優しい眼差しを向けながら背後にいるショウ・クルキイへ向き直った

 

 

「お前、ギンガさんに何をした?」

 

 

「え?教育だよ教育!金が払えねぇって、だから親切に身体で払えっていったのによ……これだから女ってやつ……な!?」

 

 

眼にも止まらない速さで顔前へ手が延び握られたライター《魔導火》が開き炎が点る、ショウ・クルキイの瞳に魔導文字が現れた

 

《ジロウ!こいつホラーだよ!!》

 

魔導鏡ウルバの声が響くと同時にショウ・クルキイはニヤリと笑い蹴りあげるが当たる寸前で足を掴み、頭突きを食らわす

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「はあっ!」

 

体勢が崩れたと同時に拳が顔面をとらえるが弾かれ肘がジロウの顔面にヒット、だが膝撃ちが胴へ極り堪らずうずくまるショウ・クルキイが苦悶の顔を浮かべながらふらふら立つ

 

「ふ、ふざけるな…その女は金づるだ……金の卵だああああ」

 

 

叫んだ瞬間、魔導文字がショウ・クルキイの身体を包み、やがて無数の蠍が合わさったような体躯に背後から延びた三本の尻尾、その先から異臭と共に液体が落ち床が瞬く間に腐り落ちていく

 

 

《気をつけてジロウ!アイツはホラー・スコルピス。女の首を斬ることに悦びを感じながら処刑された男が被っていた帽子とあの人間をゲートにして現れたみたいだよ》

 

 

「ああ!はあっ!!」

 

 

直刀両刃の魔戒剣《雷鳴剣》を構えじりじり間合いを積めるジロウ。だが彼がなぜこの場にいるのか?それはギンガの態度から長年の経験をもとに誰かから脅されているのではないかと気づいた結果だった

 

だが不馴れな場所でギンガを探すのは容易ではなく場所がわかり駆けつけた時には、ショウ・クルキイに殴られる姿を見てナニかが切れていた

 

 

ソウルメタルの振動音を響かせながらスコルピスと切り結ぶジロウからは凄まじい迄の剣気がみちあふれる

 

『ヌヌリ!タキイクス!!クリヌヂクルヌ!!』

 

背中から生えた尻尾から腐敗液を無数に飛ばすも八双に構えられたジロウの剣の前では切り払われていく様に恐れを抱き始めた

 

 

「……もう、終わりか……」

 

鋭い視線を向けながら身体の前に雷鳴剣を構え回転するよう回りに円を描く…光の円が頭上へ上がると中心が砕け光に包まれる、ベッドに寝かせられたギンガの瞳が微かに動き開かれる

 

(蒼い…狼?)

 

 

狼の唸り声が響くと共に光が晴れ現れたのは、荒々しい野生を感じさせる蒼い誇り高き狼を思わせる造形、牙を向いた狼の面を付け、柳刃状に変化した魔戒剣《雷鳴剣》を肩に担ぎ前屈みになりながらスコルピスを見据える騎士

 

 

雷鳴騎士刃狼《バロン》が姿を顕し大きく構えた雷鳴剣を構え駆け出すと逆袈裟に切り払い、返す刃で胴を凪ぎ回転し回し蹴りを決め壁へ叩きつける

 

『ヌ、ヌギク…ヌギキクキインキズムリシハグナヌヌ!(な、何故だ、刻印を刻まれているのになぜに動ける!)』

 

 

『この程度の痛みなどギンガさんが貴様から受けた仕打ちを思えば軽いモノだ!』

 

 

『グ、クヌニ!』

 

 

壁を壊し再び襲いかかるスコルピス、今度は拳と背後の尻尾を使い連携してくる…がジロウは最低限の動き、まるで激流の川を流れる一枚の葉の様に交わしていく

 

『どうした、オレに当ててみろ……はあっ!!』

 

 

小さく呟いた瞬間回転しながら地を蹴ると背後にたち、雷鳴剣で尻尾を切り払い蹴り飛ばすと壁と壁を蹴りながらまるで野生の狼ならぬ《ウルフェン族》を彷彿させる動きで翻弄するジロウが繰り出す雷鳴剣がすり抜け様にスコルピスの固い外皮を切り裂いていく

 

『…ガ、ガアアア!スウヌダクヌウンヌヲヤルチ!ダキリヨルシキクニ(そうだ、この女をお前にやろう!だから許してくれ!!)』

 

 

『ふざけるな!』

 

 

眼前に現れ束を握りしめた拳でスコルピスの顔面を殴り抜き

 

 

『女はモノではない!』

 

殴り抜きと同時にムーンサルト・キックを脳天へ決め叫ぶジロウの身体から魔導火が燃え上がり大きく月を描くように剣を構える

 

『女を道具のように扱い、弄び悦びを覚える貴様の陰我!オレが断ちきる!!』

 

『が、がああああ!』

 

 

同時に駆け出すもジロウは再び壁を蹴りながら回転、魔導火が刃を照らし素早く懐へ滑るよう潜り込み横凪ぎに切り払い、返す刃で正眼に構えスコルピスの真ん中から切り払った

 

 

『グ、グキヤアアアアアアア!』

 

身体を魔導火で焼かれながらもショウ・クルキイの魂の声がジロウの耳に響く

 

―い、嫌だああ死にたくないい……俺はもっと女どもをくるしめたいんだああ……言うこと聞かなければ顔を殴れば聞くのによお―

 

『……黙れ外道……女の顔は髪と同価値だ……いかなる理由があろうとも女の顔を殴る奴は最低の屑がやることだ………』

 

 

―ん、んなの…知るかあああああ…………………………―

 

 

魔導火が完全にホラーを焼き尽くしたの見て鎧を返還したジロウは膝をついた……胸の痛みと熱さに堪えながらギンガがいる場所へと向かった

 

 

―――――――――――

――――――――――

 

 

「ん、あれ私何で……え?ジ、ジ、ジロウさん?」

 

 

「ん、気がついたかギンガさん……まだ無理はしない方がいい」

 

(な、何でジロウさんが私をだっこしているの?さっきまでのは夢?でもハッキリ覚えてる)

 

 

夕焼け空の下、人気が少ない道を歩くジロウ…両手は塞がれている。何故ならギンガがいわゆるお姫様抱っこされていたからだ

 

「あ、あの…ジロウさん……あの…」

 

 

「……………いつか必ず話す……それまで待っててくれるか?」

 

先程の廃屋でのジロウの姿について聞こうとするも、その瞳から嘘偽りない意思を感じたギンガはその言葉にうなずくとウトウトし始めた

 

 

「ジロウさん……約束ですよ…」

 

 

「ああ」

 

 

優しい笑みで答えるジロウにどぎまぎしながら眠りについたギンガ…だが帰りが遅いことを心配し玄関で待っていたゲンヤにその姿を見られひと悶着があったとだけ記しておく

 

 

第十九話 雷鳴(後編)

 

 

 




刻印を解く手がかりを見つけられず秋月屋敷から戻ったタカヤは三騎士に報告へ向かう


その頃、謎の失踪事件を追うはやてに上層部より捜査中止命令がくだった


不可解な命令に疑念を抱き、独自調査を進めるはやてだったが…


次回!盟約!!


黒き魔獣が夜天の王に迫る!!




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第二十話 盟約(前編)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「捜査を打ちきり?まだ調べ始めたばかりなのですよ?」

 

「本日付を持ち本捜査の打ちきりが決まったのだよ…どこにいく八神一佐」

 

管理局内にある一室で静かに告げる准将、だが納得がいかない様子を見せるはやては軽い敬礼をし扉へ向き直る

 

 

「上へ掛け合ってきます……では失礼しま…」

 

 

「これはその上からの命令なのだよ……私も上申したが聞き入れてもらえなかった……そしてもう一つ。八神一佐には二週間の休暇が与えられることになった……」

 

 

「な、なぜなんですか!准将も調べてよいと言いましたよね?それになぜ今になって休暇を私に」

 

「……八神一佐…これは決定事項だ。話は以上だ、下がりたまえ」

 

 

「わ、わかりました…では失礼します」

 

 

納得出来ないと言う空気を醸しださせながらはやてが退室すると准将はフウッと深くため息をつき空をあおぐ…今回の捜査中止命令は上層部より遥かに上、《伝説の三提督》、《聖王教会》直々の命令に思わず目を疑ったがアレを出されては准将と言えどなにも反論すら出来なかった

 

(……管理局創設以来から存在が噂されていた《盟約》の名は出されたら従うしかあるまい……この事件は人に知られることなく闇へ葬り去るべきなのだ…八神一佐)

 

 

そう心の中で呟くと彼はそのまま事件の捜査資料へ目を通していく。

 

 

 

…三十数年に起きた謎の皆既日食の日に起きた連続失踪事件、十四年前のアキツキインダストリ令嬢メイ・アキツキ誘拐事件、そして四年前に起きた都市型テロ《JS事件》末期にも発動した《盟約》が紐解かれる時、この世界の裏で起こる《光》と《闇》の永きに渡る戦いを知ることになる

 

 

 

第二十話 盟約《前編》

 

 

「聞いてるユーノ君!あの上司と来たら《上からの命令だ》……お決まりの言葉しか言わへんのや!」

 

 

「き、聞いてるから落ち着いて……でもいい機会じゃないかな?最近やすんでなかったし、あとミウラちゃんの試合も近いんだし」

 

「そやけど~ミウラの試合も楽しみなんはホントや……」

 

 

プウッむくれながらデスクに突っ伏すはやてに苦笑いをするユーノ…現在二人がいるのは無限書庫にあるユーノの仕事部屋。キチンと整理整頓がなされた本棚、ふかふかの絨毯、ベッドにキッチン、さらにはバスルーム迄が備え付けらたここは中々家に帰ることができない無限書庫司書長ユーノのもう一つの家でもあった

 

「まあ取り敢えずいいハーブティーの葉が入ったから飲んでみる?」

 

 

「飲む……ユーノ君は優しいなあ…」

 

 

「……ねぇ、はやては何でこの失踪事件を?」

 

「……じつはなあ、失踪した子供を探してってその子のお母さんに頼まれたんよ…最近クラナガンで失踪する事件が相次いでるからもしかしたらと思うて…」

 

 

「……そうなんだ…はい熱いから気をつけて」

 

 

差し出されたハーブティーを冷ましながら飲むはやてを見て少し笑みを浮かべた

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

クラナガン近郊

 

秋月屋敷別邸

 

同魔導図書館。魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導士、ホラーとの戦いに携わる者のみが入室できる聖域。その入り口に立つ少年タカヤは沈痛な面持ちを浮かべながら中へ歩く

 

「…戻ったか…どうしたタカヤ?」

 

「…すいません、刻印を解く方法が…」

 

 

謝ろうとするタカヤをジロウは静かに手で制し、ゆっくり両肩に手をおいた

 

 

「気にするな…まだ俺たちには時間がある」

 

 

「ですけど」

 

 

「秋月タカヤ、オレ達も以前、刻印を刻まれた…」

 

 

「でもね、最後まで希望を捨てなかった……レギュレイスとの戦いの時もね……それよりも」

 

 

「……記憶は大丈夫か?」

 

 

「……はい…」

 

 

「そうか、タカヤ。ホラーも残りは二体だ……レイジ探査針に反応はあるか?」

 

「……いえ、さすがに昼間は…でもコレだけの設備を整えたオウガは天才ですよ…」

 

「あの、レイジさん達は僕のご先祖様…オウガ様とは」

 

「戦友(とも)だ…俺たち以上に守りし者としての誇りを胸に共に戦った……」

 

 

「…短い間だったけど黄金騎士牙狼《ガロ》の弟子でもあったからね…オウガは」

 

「ガロ!?……まさかあの黄金騎士の」

 

 

驚くタカヤに、古の魔戒騎士三人の口から語られる真実に聞き入った

 

 

―――――――――

――――――――

 

二日後

 

 

「じゃあユーノ君、今日は一緒に調べ物してくれてありがとな~」

 

 

「ああ、別にいいよ…………」

 

無限書庫がある局内にあるロビー…休暇を利用しユーノがいる無限書庫へあるモノに関して共に調べていた…しかし進展もなく時間が過ぎていお開きにし、はやてをロビーへ送るべく共に歩くユーノの態度が少しおかしい

 

 

「なんや?もしかしてウチとわかれるん寂しいんか~」

 

「そ、そうじゃなくて……」

 

悪戯っぽく笑うはやての顔が近いことにドキドキするユーノ…その時、乾いた音が響く

 

 

「なんやコレ?……綺麗な筆やな…」

 

ユーノの足元に落ちていた一本の筆を手に取りみるはやて。不思議な装飾が施され 穂先が微かに淡く輝いたのを見たユーノは慌てて出し、まるで奪い取るよう筆を取ると懐にしまうユーノ…二人の間に気まずい空気が流れる

 

「あ、ごめん…はやて。拾ってくれたのにあんな事して…痛かったよね」

 

「え、ええんよ?あんまり痛くなかったし……………その筆って大事なものなん?」

 

「……うん…先生から貰ったんだ…」

 

 

十年前に調査に訪れた未盗掘の状態で発見されたベルカ諸王時代の遺跡でトラップに掛かり危うい所を助けてくれた不思議な人、《先生》と呼ぶ人から貰ったモノと語る表情に懐かしさと寂しさの色を見たはやて…だが時間が迫りユーノに見送られ本局を後にした

 

―――――――――

――――――――

 

「さて、買い物をせなあかんな~…」

 

「主、お迎えにあがりました」

 

「シグナム?それにシャマルにヴィータ、ザフィーラ、ミウラも?どうしたんやみんな揃って?」

 

「はやてちゃんの帰りが遅いから心配しちゃって。私は一応とめたんですけど…」

 

申しわけなさそうに説明するシャマル…ヴィータもその後ろにいるミウラもおどおどしながらうなずく姿に笑みを浮かべながら歩き出すはやてと共に行き着けのマーケットへ買い物かごを片手に食材を手にしながらミウラに話しかける

 

「ミウラ、最近調子はどうや~」

 

「え?ま、まあ、じ、順調です…師匠に鍛えて貰ってますから!今度の相手はミカヤ・シェベル選手は強敵ですけどボク負けませんよ!!」

 

「そか……じゃあタカヤ君とはどこまでいったん?」

 

 

「な、な、な、な、何でアキツキさんの名前がでるんですか!それに、その……最近ヴィヴィオさんやアインハルトさんに付きっきりで、羨ましいっていうか。ボクと二人っきりで組み手して貰いたいなあ…って何言わせてるんですか!!」

 

 

「いやいや、ミウラも女の子なんやな~だから最近心ここにあらずやったんやな」

 

 

「か、からかわないでくださいよ~」

 

にんまり笑いながら顔を真っ赤にしながら手を慌ただしく振るミウラを暖かい目で見るはやて、後ろでカーゴを推すシグナム達はというと

 

(あの少年に想いを寄せていたのか……だが騎士アキツキの血を引いてるならば)

 

(鈍いだろうな…同時に剣の腕は達人の域を超えていたと聞く)

 

(それにあの時作ってくれたフルーツケーキはギガウマだったからな~もしかしたらソイツもお菓子作り激うまなんだろうなあ~)

 

(アキツキ一尉ってスゴくきれいだったし、その子もスゴく可愛いのかしら…フフ、ミウラちゃんの好きな子に会うのが楽しみね)

 

などなど様々な思惑があったことに気づかず、やがて必要なモノをカゴに入れレジへ進み会計をすませ外へ歩き出した

 

 

ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

 

 

「……………来たかアクエリアス」

 

「は、アルター様、ようやく顕現する事が出来たぜ………」

 

薄暗くゴミが散乱する路地裏に現れた影……黒衣に身を包んだアルターに恭しく頭を下げるジャラジャラ鎖をならしながら応えるアクエリアスに手をかざす

 

「…お前に新たな力を授けよう。そしてオウガの血を引く騎士、そして最後の夜天の王《八神はやて》の中にあるアレに関する記憶を奪え、叶わぬ時は喰うがいい」

 

「八神はやて………美味そうだなあ…、フヒヒヒ女の肉は柔らかくて止められないんだよなあああ」

 

ジュルリとよだれをたらすアクエリアスに翳したアルターの手から幾重にも重なった魔導文字が溢れその身体に吸い込まれていく

 

「フヒ、力が溢れるぜ~じゃあいってくるぜぇ……アヒャアアアア!!」

 

瞳を爛々と輝かせ夜の空へ飛び上がり溶けるように消え去るのを見るアルター…その場から去ろうと歩き出しかけた時、激しい頭痛が襲いかかりたまらずうずくまる

 

ーもう止めろ!こんな事をしてナニになる!!ー

 

 

「ま、また貴様か!いい加減消えろ!」

 

ーお前が手に掛けようとしているのは……ー

 

「だまれぇ!くだらない存在が!…………まあいい所詮おまえは見ているだけしかできないのだからな…歯噛みして視ていろ」

 

 

 ふらふら立ち上がりながら懐からナニかを取りだすアルター。螺鈿にも似た装飾が施された筆にしては大きい筆の穂先に光が溢れさせながら振るうと無数の花びらに代わり風に乗り消え去った頃

 

 

「……迂闊だったわ、まさか《盟約》の存在を知るなんて」

 

クラナガン中央区にある高層ビル、アキツキインダストリ本社の中にある執務室で聖王教会の騎士カリム、管理局三提督からのメールを見て驚きの表情を浮かべるメイ……内容は《盟約にたどり着く人物あり、現秋月当主の判断を乞いたい》の一文。そしてその人物についての詳細な資料に目を通し思わず声をもらし窓の外を見ると二つの月と星に照らされる街の風景

 

 

 

「…………最後の夜天の主……八神はやて……コレも運命、いえ貴女の血がなせる業なのかしら…………」

 

 

そう独り言を呟き魔蔵庫へ入り目を向けるのは一枚の絵……白銀に輝く美しく長い髪に深紅の瞳、この世の者とは思えない美しい女性と虹彩異色の瞳に鋭く突き刺すような眼光を見せる黒衣のコートを身にまとった男性が描かれている。今から二百年前、六代目オウガ《秋月鷹狼》とその妻の絵にそっとふれるとそのまま奥へ向け歩み始めた

 

 

 

 

第二十話 盟約《前編》

 

 

 

 

 

 

 




後編に続く


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第二十話 盟約(後編)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


(盟約…79年前、管理局創設当時にオウルお祖父様、伝説の三提督、聖王教会騎士団盟主カノン・グラシアとの間に結ばれた《管理局、聖王教会関連各位はアキツキ家当主および関係者に対し干渉しない……》)

 

 

夜空に輝く二つの月の光が立ち並ぶビル群を照らす中を一つの影が舞う

 

 

 

(《魔獣ホラーが関わったとされる事件を人目に触れることなく抹消、現れたホラーはアキツキ家当主のみが対処、その際には管理局関連部署、聖王教会関連各位は無条件でアキツキ家の言葉には従うこと……》)

 

影の正体は現アキツキ家当主にしてアキツキインダストリCEO《メイ・アキツキ》。黒くまるで絹のような振り乱しなからビルの壁を蹴り移動するメイの表情からは焦りの色が見える

 

 

(…《覇王イングヴァルト様、聖王女オリヴィエ様、冥王イクスヴェリア様、ヴィルフリッド・エレミア、ホラー封印術識を編み出した血筋の末裔を守り抜く》)

 

 

魔導衣を翻しながらまるで風を纏ったかのように夜空を駆けるメイ。その手には魔導針がある方位を指し、さらに魔界語が浮かんでいる。赤と紫に彩られた魔界語にはホラー出現と所在地、駆ける速さが増していく

 

 

(…《………そして最後の夜天の王の記憶に刻まれた初代オウガが使用した『白燐の牙』の所在を秘匿する………これらを冒さない限りアキツキ家は管理局、聖王教会への全面的に資金援助および弊社が持つ新技術を提供する》………盟約が発動したのは三十一年前に現れた《殲滅騎士魔煌》が発動させた皆既日食を用いたホラー召還ゲートを防ぐ為にオウルお祖父様、亡くなられたオウマお父様が戦ったとき、そして十四年前に私とアキツキミッドチルダ支社に立てこもり事件。混乱に乗じて次期後継者だった私を暗殺するよう、裏で示唆しアキツキインダストリ乗っ取りを画策したハーディス・ヴァイデン常務、《ヴァイデン・コーポレーション》がクリーンエネルギーとして極秘裏に研究していた原初の種《エクリプスウィルス》がホラーを引き寄せる事を誘拐立てこもり事件以前から調べていたオウルお祖父様が知り、ありとあらゆる手を使いヴァイデン・コーポレーションを逆に吸収合併、ハーディス・ヴァイデンを謹慎後に違法研究および人体実験を指示し、エクリプスウィルス研究施設の運用示唆、過程などの膨大な映像データ証拠を突きつけ関係者共々逮捕更迭、関わっていた研究員の記憶の抹消、感染者の治療とエクリプスウィルス、《原初の種》を全て魔導火で完全にこの世から消滅させた。そして四年前にユウキが死んだとき……)

 

 

移動しながら過去を振り返るメイ。しかし今は考えるときではない。それよりも為さなければならないことがあったからだ

 

(最後の夜天の王《八神はやて》……ホラーの狙いは彼女の体にとけ込み存在する歴代アキツキ当主すら知らない《白燐の牙》の所在………そしてあの方、六代目鷹狼様の妻リインフォース様との永き約束を守るために)

 

 

ビルとビルの壁を蹴り進むメイ…やがてその姿は夜の闇へと消え去った

 

 

第二十話 盟約(後編)

 

 

「みんな荷物持ってもらって悪いなあ~」

 

「いえ、主もお疲れみたいですし……」

 

 

「そうですよ、せっかくお休みをいただいたのに、はやてちゃんったら無限書庫に通いつめてますし………もしかしてユーノ司書長に」

 

「そ、そんなことあらへんから!?なにいうとるんやシャマル?」

 

 

シャマルの言葉に慌てふためきブンブン手を振りながら、顔を真っ赤にしながら否定するはやてにさらに追い打ちが入る

 

 

「でも朝早くから私たちの分とは別にお弁当をつくってますよね?誰の分なんですかね~」

 

 

「あう?」

 

 

「それに笑顔で『今日はタコさんウィンナーにハンバーグ♪明日はBLTサンドにひきたて珈琲♪デザートは…………わ・た・し…………きゃ//////』って口にしてましたよ」

 

 

「確かにいってたな…」

 

 

「聴いてるこっちが恥ずかしくなるしさ……」

 

 

「ああ」

 

 

「あう?あううう~シグナム、ザフィーラ、ヴィータまで言うん?ミウラ~みんなが私をいじめるんや~助けて~」

 

 

魔導騎士にして海上司令八神はやての凛々しい姿はドコへやらミウラに泣きつくはやてに皆が笑いながら歩き出そうとした時、辺りの空気が変わりシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラがはやてとミウラを守るように立つとはやてもミウラを守るようにあたりを伺う

 

 

(油断するなシャマル、ザフィーラ、ヴィータ)

 

 

(ああ……)

 

 

(………この感じ、ずっと昔に)

 

 

(…………くるぞ!)

 

 

暗闇から風を切るような音と共に飛来する物体をザフィーラが展開した障壁が防ぎ止め、それをヴィータのアイゼンの重い一撃で地面へ叩きつけられ跳ね、シグナムのレヴァンティンが真っ直ぐ切り払い上げると空をきりきり回りながら鈍い音と共に落ちた

 

 

だが3人から警戒の色が消えない

 

 

「イッテェナ~久し振りにあったのに、いきなりこんな挨拶するなんて酷いじゃないかよ……」

 

 

ゆっくりと身体を起こしながら服に付いたほこりを払うのは全身に鎖をこれでもかとジャラシャラつけた虎模様の髪が目だった青年がしゃべってきた

 

 

「誰だお前は?」

 

 

「悪いけど手前のことなんか知らないんだけど?」

 

 

「………へぇ、転生機能に障害があったってのはマジみたいだったな湖の騎士シャマル、烈火の蒋シグナム…盾の守護獣ザフィーラ、鉄鎚の騎士ヴィータ。忌々しい魔戒騎士と一緒に散々オレらとやり合ったことも忘れてるみたいだな…ま、今は関係ないかな!」

 

地を蹴りザフィーラの眼前に迫ると半歩進み、顔をつかみ地面へ叩きつけそのまま回転回し蹴りを胴へ叩き込まれ壁へ叩きつけられた

 

 

「ザフィーラ!テメェ!!」

 

蹴り飛ばされたザフィーラをみてヴィータがアイゼンを構え何度も殴りかかるも紙一重ですべていなされるも、僅かな隙を見逃さず大きく胴体めがけ叩き込む…

 

 

「な、なに!」

 

「焦るなったら、でも終わりにするか!」

 

 

胴体に当たるギリギリ手前でアイゼンを掴む青年はそのまま勢いをつけ頭上まで持ち上げ固い地面めがけ叩きつけた

 

「カハッ!」

 

 

「………さて次は本丸といこうか………」

 

大の字になり気絶するヴィータを見下ろしながら鎖がこすれる音を鳴らし目を向ける青年……その姿にシャマル、シグナムの身体がこわばる。ザフィーラとヴィータが簡単にあしらわれ倒されたからだ

 

(主、ここは私たちが食い止めます。ミウラを連れて安全な場所へ!)

 

 

(ダメや!みんなをここに残して逃げるわけにいかんよ!)

 

(はやてちゃん、ミウラちゃんの為にも逃げ……)

 

 

 

「バ~カ、丸聞こえなんだよ……オラアアア!」

 

 

いきなりしゃがみ込み地を蹴る青年がすさまじい加速と共にシャマル、シグナムの間をすり抜ける。その先にははやてとミウラの姿、それをみて青年の口元が耳あたりまで裂け長いグロテスクな舌が伸び狙いを定めるように動き、やがて勢いをつけた弾丸のようにミウラを抱き抱えるはやてに迫る。

 

シャマル、シグナムが駆ける。間に合わない誰もがそう思ったそのとき《黒い》何かが後僅かのところで割って入り乾いた鈴の音と共に無数の長方形の赤、緑、紫の紙が舞うと舌?を防ぎ弾き返した

 

 

「が、があああああ!?」

 

「…………」

 

たまらず声を上げ苦しむ青年の声が響く中、見えたのは真っ黒な民族衣装に身を包んだ金髪長い髪に幼さを残すも整った顔、翡翠色の瞳で青年を見下ろすようにたつ姿

 

「ユ、ユーノくん?」

 

「…………」

 

 

はやての漏らした戸惑い混じりの言葉に軽くうなずくと螺鈿模様が施された白い穂先が目立つ魔導筆を構え、左手に握られていた無数の札を軽くなでると、ふわりと浮かび上がり、ザフィーラとヴィータの身体を包み瞬く間に皆がいる場所へと来る

 

「………少ししたらケガは治るから、今のうちにみんなはその子と逃げて」

 

「待て、ユーノ……私も」

 

「…………くる!」

 

シグナムが言い掛けたと同時に赤黒い何かが飛来してくる。が再び筆をふるうと魔戒文字が浮かび上がり防ぎながらやがて消滅する、飛来して来た先には先ほどの青年がおり、その目は血走りながら爛々と邪な意志を秘め輝いている 

 

 

「や、やってくれたな《魔戒法師》!まずはテめぇから始末してやる!!」

 

 

ジャラジャラ鳴らしながら背後に雁字搦めに縛られた無数のツボを浮かばせ投げつけてくる。身構えるシグナム、シャマル、だがユーノだけは事もあろうか迫り来るツボに向け駆け出し回転胴回し蹴り、反動を利用し踵落とし、肘うち、拳で蹴り砕く姿に唖然となっていた

 

「魔戒法師じゃないのかテメェ!」

 

 

「………僕は魔戒法師じゃない!」

 

 

間合いを詰めるやいなや膝蹴りを決め、そのまま頭をつかみ固い地面へ叩きつける。しかし青年には対したダメージが見受けられない…が動きが止まる、その体には無数の鎖、いや魔導文字が絡み合い拘束している

《魔導八卦獣縛符》をみて驚く

 

 

「き、貴様、《アキツキの魔戒導師》か!………そ、それは!?」

 

ユーノの手に握られていた螺鈿模様が施された白火穂先が目だつ筆《魔導筆》を目にし顔色が変わりふるえだす青年

 

 

「…………ま、まさか、お前は、いえ!あ、《あなた様》は」

 

 

言いかけるも身体をしばりあげる痛みに苦悶の表情を浮かべる一方、はやては《アキツキ》の名にあることを思いだす

 

(………アキツキ、たしかアインハルト、ノーヴェときてたタカヤくんと同じ名前……四年前、十四年前、三十四年前に起きた不可解な事件にもあるファミリーネームが関与しとうた《秋月》………管理局のデーターベースを調べてもわからんかった、もしかしたら思うて無限書庫で調べてでてきたのは《秋月鷹流》《盟約》…………私が調べていた事件にもコレが当てはまるなら)

 

 

「………ヌズクヌジュヌヌッタ(なぜ彼女を狙った)」

 

 

「…………」

 

「ヌクリヌ!ヌズヌニイニツカ!!(答えろ!誰の命令だ!!)」

 

 

魔界語で問いただすユーノに対し、体をふるわし笑いだす青年、その顔は狂気に満ちやがてピタリト笑い声が止まる

 

 

「…………そうだよな…こんな所にあの方、アルター様がいるはずないよな……ふん!」

 

 

「!魔導八卦獣縛符が!?」

 

 

鎖状に拘束していた魔導文字を気合いと共に吹き飛ばしあたりに砕け落ちる中、コキコキ身体を鳴らしながらいびつな笑みを浮かべるも怒りの色に染まった瞳を向け叫んだ

 

 

「あの方とにた技を使う貴様だけは俺様がクッテヤルウウウ!!」

 

 

空間が揺らいだ瞬間、無数の色とりどりの大瓶が降り注ぐ。避けようとするがハッとなる。

 

(このまま避けたら、はやて達が………相手は上級ホラーアクエリアス。防ぎきれないかもしれない………でも!)

 

無数の札が音もなく現れユーノの正面に八枚並び、背後にいるはやてたちを守るように包み込む。ゆっくりと魔導筆を構え大きく真円を描くと赤、青、緑に輝く文字が舞ながら壁を作るように展開する、同時に大瓶が降り注ぎ凄まじいまでの衝撃が術を展開するユーノへ襲いかかる

 

(………まだ、あきらめるわけにはいかない……先生から託された魔導筆に誓って)

 

ビキビキひび割れ、魔導衣が破け肌が切り裂かれ血飛沫が舞わせながら耐える……が、ついに砕け防ぎきれなかった大瓶が襲いかかる

 

 

「ハアッ!」

 

凛とした声と共に無数の龍、いや魔導文字で構成された龍が巨大な顎で噛み砕く様に驚くはやて達の前には黒く絹のようにしなやかで長い髪を揺らしながら魔導衣姿のメイが魔導筆を構えている

 

 

「あ、アキツキさんのお母さん!!」

 

 

「ミウラ・リナルディさん?それに……………八神はやて…さん………少しだけご辛抱を」

 

「あ、あのアナタは?」

 

「(!…その魔導筆は!?)……今はわかっているわね……」

 

 

「(あれはアキツキの魔戒法師………得体の知れない魔戒導師と同じぐらいやっかいだな……)ち、興がさめたぜ…じゃあな……夜天の王様よ………」

 

クルリと背を向け跳び去る青年の姿を目にし、警戒を解きはやてがいる場所へ駆け寄ろうとするユーノの前にメイが近づき魔導筆が握られた手をつかみあげる

 

 

「………一つ聞いていいかしら、その魔導筆をどこに手に入れたのかしら?」

 

「…………すいません、今ははやて達を」

 

 

「…………わかったわ…」

 

それっきり顔を逸らし黙るユーノ…軽いため息をつきながら共にはやてがいる場所へと歩き出す二人………

 

 

 

そして………

 

 

 

 

「………………」

 

 

「タカヤくん!しっかりしてタカヤくん……タカヤくんっ!」

 

黒く長い髪を揺らしながら何度目かになる名前を呼ぶのは次元世界最強の少女ジークリンデ・エレミア…半ば崩れ落ちた崖の近くには赤黒く燃える魔導火と白金の魔導火、切り裂かれた岩肌と大木が散乱する中、力無くぐったりと身を任せるように抱き抱えられたタカヤに必死に呼びかけた

 

「……ん」

 

 

「タカヤくん!良かった。どこか痛いとこあらへんか?」

 

ゆっくり瞼をあけたのを見てホッとするジークをじっとみるタカヤ……だが様子がおかしい、そしてゆっくりと言葉が紡がれた

 

 

「………あの……タカヤって…誰の事ですか?僕の名前ですか?」

 

 

 

 

第二十話 盟約(後編)

 

 

 





抜け落ちていく記憶(思い出)皆に悟られないよう必死に隠しインターミドルへ向けて頑張るヴィヴィオ嬢ちゃんたちに付き合うタカヤ

そんなとき、タカヤにとっぜんの見合い話が持ち上がる!

メイがいうにはどうやらオウルが昔負けた相手の曾孫らしいんだが…


次回 鉄腕(前編)


多分、修羅場がまっているなあ


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最終章 数多の想い、強く想うモノの祈り届くとき、光を甦らせる
第二十一話 鉄腕(前編)


WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「タカヤ君!しっかりしてタカヤ君!!」

 

真っ白な炎と赤黒い炎があたりをてらしてるなかウチは必死にタカヤ君に呼びかける。なんで、何でこんなことになってもうたんや

 

 

「タカヤ君!お願いやから目覚まして………タカヤ君!!」

 

 

第二十一話 鉄腕(前編)

 

二日前

 

「ん~よく寝た」

 

朝靄に包まれ川の近くに立つテントからのそのそと這い出し目をこすりながら小さなあくびをする黒く長い髪をツインテールにしたTシャツに黒のトレーニングウェアを下にはいた女の子はゆっくりと深呼吸した

 

「さて、ご飯の用意せなあかんな~よっと」

 

近くを流れる川に向かうと手慣れた様子で針に餌をつけ自然な流れで水面へ飛ばす。僅かに引く感覚に迷わず竿をあげる、やや小振りな魚が輝く…手早く魚籠にいれに新しく餌をつけようとした…が乾いた電子音が鳴り空間モニターが形成されたのを観て手を止め竿を近場の岩へおいた

 

「……おばあちゃん?何やろ珍しいな~」

 

 

ーひさしぶり♪元気してた?ー

 

 

「元気もなにもいつも通りやよ、おばあちゃんから連絡くれるなん珍しいなあ。今日はどないしたの?」

 

 

ーえ、えとな………こんどの日曜日、正確に言えば明日なんやけど…お見合いせえへん?ー

 

「エ?」

 

 

★★★★★★★★★★★★

 

 

「いいぞ、そのまま鋭く!相手の動きを読んで確実に!」

 

「は、はい!」

 

同時刻、区民公園。インターミドルへ向けてヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオの練習にノーヴェ、オットー、ディードの指導に熱が入る中、タカヤはアインハルトと対峙し構えている

 

 

「……いきます」

 

「いつでもいいよ」

 

 

木剣を構えるタカヤに向け迷わずまっすぐ接近、拳を胴へ撃ち込む。が流れるように後ろへ下がり手首を掴むとそのまま上へ投げるように持ち上げ空を舞う

 

「っ!?」

 

体をひねり着地するアインハルト。対するタカヤは予測していたかのように詰め寄ると横凪に木剣を振るう。とっさに左腕を盾にし勢いを利用、素早く背後に回り込み踏み込みと同時に殴りつけながら蹴りを放つ…

 

(………やっぱり強いですねタカヤさん。でも今日は負けません!!)

 

拳打と蹴打を織り交ぜたアインハルトの攻撃を防ぐタカヤ、その瞳は繰り出される攻撃一つ一つをしっかりと捉えている

 

(前よりも鋭さが増している…さっき投げてから建て直すまでの時間も速くなっている…ナカジ、ノーヴェさんや高ま、ヴィヴィオ達との練習の成果が出てきいるからかな……)

 

アインハルトの動きを見ながら考えるタカヤ…いつもかけられているハズのエロ眼鏡キリクが無い。千年前に錬金され外観は無傷に見えるも内部の《仙水》が濁り燃え上がり自壊寸前になってしまい、浄化の為に魔戒騎士であり法師の布道レイジに預けられ。変わりに……

 

 

(《中々やるじゃないかい、あのお嬢ちゃん。タカヤ坊にここまで迫るなんてねぇ》)

 

 

(うん、ストラト……アインハルトは皆と頑張ってきたからね…エルヴァさん)

 

 

タカヤの指には髑髏に様々な装飾が施されたソウルメタル製の指輪《魔導輪エルヴァ》がはめられている

『エルヴァ、キリクの浄化が終わるまでタカヤ君のサポートをお願いできるかな?』《そうだねぇ~たまには違う魔戒騎士の指にはまるのはいいかもね》と心界の森へ向かう前にレイジから一時的に借り受けたからだ

 

(《…………そうだねぇ~あのノーヴェ嬢ちゃんの『こ~ちんぐ』のおかげかもしれないねぇ》)

 

 

(…………そうですね。みんなの体調管理に気を配ってケアもしっかりしてますよね…!)

 

思考を遮るように、風を切るような音と共に木剣を握った手がしびれ取り落とし後ろへバックステップしなが考え事をしていたとはいえ一撃当てたことアインハルトに驚く

 

「あ、当たりました。タカヤさんに」

 

 

「うん、すごいよアインハルト。今日の課題はクリアーできたね、そろそろ朝練も終わるし戻ろうか?」

 

「はい、あの~いたくないですか?」

 

「ん?だいじょうぶだよ………って?なにやってるの!?」

 

 

柔らかで暖かな感覚を手に感じ見るとアインハルトが両手でタカヤの手を包み込むように覆っている

 

 

「え、おまじないですけど……たしかタカヤヌイズヌナユルナユル……」

 

 

(こ、これって魔導力?それに旧魔界語を何で知ってるの!?)

 

包まれた手から溢れだす光《魔導力》に驚くタカヤ、やがて光は消え手が離れると赤く腫れていた手がキレイに治っている

 

「どうですか?まだ痛いですか?」

 

 

「え。いや?ぜんぜん痛くないよありがとうアインハルト」

 

ありがとうといわれ顔を真っ赤にするアインハルト、タカヤは地面に落ちた木剣を拾い上げ手に取ると一緒に歩き出す。今日二人がやっていたのは武器を持つ相手からの攻撃手段を学びつつ得物を破壊もしくははたき落とすというもの

 

アインハルト、ヴィヴィオ、リオ、コロナの四人は武器を持つ相手との試合経験がない。そこで剣を得意とするタカヤに白羽の矢がたち今に至る、そして

 

 

「リオちゃん。軸がずれているよ…少しいいかな」

 

「ミ、ミツ兄?」

 

 

「呼吸をぼくにあわせて………そう、その調子で」

 

 

「う、うん(ミ、ミツ兄の手がわたしの手に……あたたかい)」

 

「……春光拳は歩法も呼吸法も大事だから、大地からの気脈、空気に僅かに存在する魔力を感じ流れに逆らわないように…己を保ったまま身体の内に取り込み練り上げて………一気に解放する!!」

 

 

ミツキと重なり合うように手を添えられ呼吸をあわせ動くリオから魔力の奔流が爆発的に溢れ出しやがておさまる…その光景におもわず声を漏らした

 

 

「すごい、すごいよミツ兄!」

 

「そんなことないよ、今のはリオちゃんの力だ……大地の気脈を感じるよう周りにある魔力を内に集められれば今みたいにできるよ…っと?」

 

 

「え?キャ!」

 

ひさしぶりに運動した為か急に立ちくらみを起こしたのかそのままリオと一緒に倒れたミツキの手にささやかな柔らかい何かの感触。顔を上げると、真っ赤にしたリオの顔そしてミツキのそのささやかな膨らみに手がおかれているのを見て慌てて離れた

 

「うわあ!?ゴ、ゴメン!けがはな………あのリオちゃん、なんでそんなに怒ってるの?」

 

「…別になんでもありませんよ………(……胸触ったのにナニも無しなの?ミツ兄のバカ……でも長期戦でがんばろう!)」

 

 

「あ、あのリオちゃん?機嫌を治して?じゃないと先せ、リオちゃんのお祖父ちゃんに怒られるから!?」

 

 

なんとかリオの機嫌を治そうと悪戦苦闘する元同門(画家志望)で幼なじみミツキの姿があったと記しておく…

 

「よし、今日はここまでだ!身体を冷やさないようにな」

 

 

ノーヴェの声が響くとヴィヴィオ達はそれぞれ集まり柔軟しながら今日のトレーニングの話や反省点を互いに出し合う中、タカヤのところにノーヴェが歩いてきた

 

「どうだったアインハルトは?」

 

「う~ん、武器を持つ相手のリーチや癖は見抜けるようになったかな。とっさの攻撃に対して反応も前よりも良くなったかな」

 

 

「そっか、まあミカヤにも頼んでいるからな…タカヤとは違って純粋な刀剣術の使い手だし…」

 

「だから切り返しが早くなったんですね…僕も鍛えてもらおうかな……イタッ!な、ナニするんですかノーヴェさん?」

 

「別に……でもミカヤも選手として鍛錬してて、忙しいのを無理言って頼んでるから大会が終わってからなら会えるだろう?(ミカヤにまたからかわれるからな………この前だって…)」

 

 

ーじゃあアインハルトのことよろしく頼むミカヤー

 

ー覇王の子孫か…私にとってもその子にとってもいい経験になるからいいよ。話は変わるけどノーヴェの所に面白い少年がいるみたいじゃないか、しかも寝る前にメールを送るような仲ってー

 

ーな、何で知ってるんだ!あ、あたしは毎日メール送ってなんかないか……あ!?ー

 

 

ーほほう、毎日か…そんな仲ならばもう告白はしたのかな?ー

 

 

ーこ、告白!?ま、まだ出来ないから!あたしよりも年下で…成人してから言おうかな…でもメイの奴に勝たないと……でもライバル多いしー

 

ーフフ、かなり惚れているみたいだね…こんど私にも会わせてもらいたいモノだ………少年の名前は何というのかなー

 

 

ー…………タカヤ、タカヤ・アキツキ…………どうしたミカヤ?ー

 

ー何でもないよ。ノーヴェ………………ふふふふふ、アキツキ……オウル・アキツキ…ー

 

 

 

あの時のミカヤの顔を思い出しながら会わせるわけにはいかないという気持ちを込めたのが届いたのか頷くとノーヴェはホッと胸をなで下ろした

 

 

「…あのさタカヤ。明日暇か?暇なら、その……あの…」

 

 

「…ん?母さんからだ……すいませんノーヴェさん、少し離れていいですか?」

 

 

「あ?………………ああ」

 

頭を下げその場から離れるタカヤに言いかけた言葉を飲み込み

 

「……………ばかタカヤ…でもメイからメールか……よし」

 

何かを決意したのかノーヴェはその場から歩き出した…

 

 

「母さん、どうしたの直に会いたいなんて?なにかあったの?」

 

区民公園から少し離れた場所にある噴水の前に来た僕の前には黒いスーツ姿の母さん、そしてデルクがリムジンの脇で立ってる、でもさっきから無口だ…でもゆっくりと口を開いた

 

「………タカヤ、明日空いてるかしら?」

 

「明日は特に予定がないけど…なんで」

 

 

「…………落ち着いて聞いてね………タカヤ、お見合いしてくれないかしら」

 

 

はい?今なんていったの母さん?聞き間違いだよね?

 

「………なんで僕がお見合いをしなければならないの?」

 

 

「……………オウルお祖父様が昔、魔戒騎士になる前に天瞳流師範、雷帝の血を引くダールグリュンの当主に果たし合いを挑まれた時の事よ」

 

 

 

ーどうしたゴラア。天瞳流師範、雷帝ダールグリュン、俺を倒すんじゃなかったのかアァン!?ー

 

ーぐ、コレが剛拳のオウルか……百欄が折られるなんてー

 

 

ー雷帝の名にかけて、負けるわけにはー

 

和装に額にはちがねを巻き折れた日本刀を片手に持つ青年と金髪に砕かれた西洋甲冑、ひび割れた戦斧を杖代わりにたつ青年に対し、裸の上半身に黒いゴツゴツとしたとげ付きの両肩当てがついたコート、短く切り上げた髪、虹彩異色の瞳が目立つ青年が不機嫌な顔を向けている

 

 

ー………どこで俺の名前を聞きつけたか知らないがいきなり喧嘩ふっかけんな!さて、お前らの家はドコだ?って気絶してやがるし。しゃあねぇな……ー

 

 

ため息つきながらポケットから二枚の札を取り出しオウル(18)は二人の手当をしながら札を貼り付け念じながら家の場所を読み取り担ぎ上げた時だった。今までとは違う気にぞくりとしたオウル、ゆっくりと後ろへ振り返ると黒い服に身を包み顔が見えない人物がたっている

 

ー…誰だ手前……また俺の名前を聞きつけた命知らずか?ったく………かったりいなー

 

 

気絶した二人を近くの岩場に寝かせ、拳をゴキゴキならし構える

 

ー………ー

 

ーずいぶんと無口だな。まあいい、さっさと終わらせて屋敷に帰らないとデルクとじじいがうるさいからなー

 

 

 

 

僅かな風が流れた瞬間、互いに地を蹴り接近するやいなや息をもつかせない拳の連打が襲いかかるが黒い服の人物は軽く手を添えいなしながら足を払い、そのまま顔面へ拳をたたき込んだ

 

ーがハッ!手前!やりやがったな!ー

 

額から血を流しながら殴り合うオウルと黒衣の人物との戦いは空気を震わせ、木々を弾けさせながら戦い続けオウルは初めて敗北した

 

 

 

「そのときオウルお祖父様は相手から《もし互いの子が生まれ男と女だったら結婚させる、あ、もし女だったら無効で、孫、曾孫まで有効って事で》って約束した。いえされたのよ!あの妖怪ババアまだあきらめてなかったのかしら!ああ~お祖父様のバカバカ~何であんな約束したのよ!!」

 

「か、母さん?落ち着いて!アスファルト割れてるから!みんな見てるから!」

 

 

地団駄を踏む母さんの足元にあるアスファルトが砕けるのを慌てて止める。

 

 

「そんなにいやなら断ればいいんじゃ」

 

 

「は!………コホン、断ろうとしたわよ。でもオウルお祖父様の誓約書をもってるから無理なのよ……一応妥協案であわせてみるってなった。何とかソコまで持ち込んだのよ………とにかく、逢うだけ会ってみて………それとタカヤ」

 

「ナ、ナニかな?」

 

 

「私に隠し事していない?」

 

ジッと僕の目をみながら聞いてくる母さん、でもいえるわけないよ。この胸に刻まれたコレだけは隠し通さなきゃ…

 

「ナニも隠してないよ。それに何かあったら母さんに相談するから。それより会社に行かなくていいの?」

 

 

「!…ごめんなさいタカヤ、あまり時間がないからな母さんいくわね。あ、見合いの場所はミッド南部にある老舗旅館《千楼廓(せんろうかく)》、正午に待ち合わせしているから。忘れないでね、正午に千楼廓よ!絶対にね!」

 

正午に千楼廓と大きな声で念押ししつつ肩を落としながら僕から離れた母さんはそのまま車へ乗り込みアキツキ本社へ走り去るのをみながら皆がいる場所へと歩いていった……でも、噴水の影に3つの影を見た気が

 

「………少年、何か悩んでいるみたいだな」

 

 

背後からの声に驚き振り返るとコインを握る大人の人がじっと僕を見ながらしゃべり始めた

 

「……今、お前は大きな秘密を抱えている。その秘密は少年が大事なモノを失っていく事を誰かに知られる事だな」

 

 

「!な、なぜそれを」

 

「………占っただけだ。このままいけば大事なモノを失い続け自分自身すらわからなくなる少年の未来が。俺の占いは必ず当たる」

 

 

必ず当たる。身体の震えが止まらない。この人は僕が破滅と忘却の刻印を受けてること、それ以上に刻まれたモノの末路まで知っている。でもこの人からは邪気を感じない

 

 

 

 

「かつて俺は蝙蝠の騎士が犀の戦士に殺される未来を占いで知ってしまったことがある。迷っている内にその時が来てしまった………だが死ぬはずだった蝙蝠の騎士に迫る犀の戦士の攻撃を赤い竜騎士が盾で防いだ…………今まで外れたことがなかった占いが初めて外れた」

 

そう区切り手に握ったコインをクルクル回しながら空へ投げる…釣られてみてしまった僕にまた話しかけてきた

 

「……占いが外れた時、俺は思ったんだ…未来は変えることが出来る。赤い竜騎士が出来たのならば。少年、運命を変えて見ろ。必ず変えることが出来る」

 

それっきり言葉が途絶えると空から一枚のコインが落ちてくるのを受け取りまわりを見たらその人はもういなかった

 

 

ただ運命は変えられるって言葉だけがはっきりと心に残った

 

 

★★★★★★★★

 

翌日、ミッド南部にある老舗旅館《千楼廓》の前に僕はいる。辺りは豊かな自然に溢れてる、少し視線を向けると温泉の湯気が山肌から昇ってる。

 

「そろそろ時間かな…エルヴァさん、レイジさんは今日帰ってくるんだよね?」

 

 

《ああ、運が良ければ今日の夕方に帰ってくるよ…やはりキリクがいないと寂しいのかい?》

 

 

「うん………あのエルヴァさん、おかしくないかなこの格好?」

 

 

黒地のサマースーツ姿に魔法衣を着た僕を近くにある庭園の池に映しながら聞いてみると、「似合ってるから気にするんじゃないよ」っていうから少し安心した時、背後に気配…とっさに地を蹴り離れた岩場に降り立つと黒い小さな影が立っている……思わず構えそうになるけど影からは戦う意志が感じられない

 

「………よくかわしたの若いの……流石はオウルの曾孫じゃの」

 

 

オウル曾爺様の名前が出たのを聞いた僕はもしやと思いながら口を開いた

 

「あ、あのまさか、あなたが」

 

 

「いかにもや~しかしまあまあ。あのオウルの曾孫とは思えんほど細いのお……メイメイにようにとるし、ユウの面影もある………………さてたち話はココまでにして中へはいろか、曾孫とその友達も待っとるからの」

 

 

千楼廓に案内され長い板張りの廊下を歩きながら色々話をしているといまにも飛びかかりそうな狼が描かれた水墨画の襖が開き中に入って僕は言葉を失う。だってそこにいたのは

 

 

「た、タカヤ君?何でここにおるん?」

 

 

「アナタがジークの?…」

 

 

「………まじかよ…っうかジークの見合い相手ってタカヤだったのか?」

 

 

黒い髪を下ろし薄い翠色地に色とりどりな華をあしらった着物に身を包んだエレミアさん、私服姿のハリーさん、ヴィクトリーアさんが驚いた顔で僕を見ていたから

 

 

第二十一話 鉄腕(前編)

 

 

 

 

後編に続く

 

 

 

 

 

 

 




交錯する想いの中、タカヤとジークの見合いが進みのをみる三つの影

まさか、あの影は?

だが再び黒衣の男が姿を顕す


次回、鉄腕(後編)!


まさかお前は!




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閑話 剣斧

千年前、閑岱(かんたい)

 

 

『……………………ッ!!』

 

 

魔戒騎士、魔戒法師が輩出されたこの地にある修練場で弓を引き絞り構える二つの影…しかしその姿は異様、牙を剥いた狼に西洋の意匠を持つ鋼色の鎧を纏った騎士と狼を模しているが口許が隠された白い鎧を纏った騎士と同時に矢を打ち放つ

 

 

風を切りながら矢は真っ直ぐ的へ刺さるかと思ったが少し逸れ地面へと落ちたのに対し白い鎧を纏った騎士のは乾いた音と共に的を貫いた

 

 

『………もう一度頼むソウマ!』

 

 

『……根を摘めてやるのは己の身に付かない…鎧を返還しろオウガ』

 

 

やや間を明け光と共に鎧を返還し現れたのは白地に赤と黒の外套を纏った騎士と黒鉄色の外套を纏った14,5位の少年が姿を現した

 

 

「……ソウマ、お前はすごいな…」

 

 

少年…秋月オウガは魔戒斧と魔戒剣を外套に納め呟いた

 

 

 

閑話 剣斧

 

 

 

「…なぜそう思う?」

 

 

「槍が使えて更に弓も得意だ…俺はまだ未熟だ…」

 

 

「オウガ、お前はまだまだ伸びる…それに騎士と法師の才能を持つとレイジも誉めていたぞ?」

 

 

「…レイジが?」

 

 

「ああ、今日の弓の鍛練はここまでにしょう…いいな?」

 

 

「…わかった…じゃあまた明日だな…」

 

 

軽く一礼しオウガは鍛練場から去るのを見届けソウマは近くの岩に座り一息つき言葉を発した

 

 

「…ジロウ、お前から見てオウガの弓の腕はどうだ?」

 

 

「…最初の頃に比べれば良くなったな…」

 

 

背後の繁みから四十万ジロウが姿をあらわし近くの岩に座りながら告げると少しだけソウマは顔を緩めた

 

 

「…オウガは騎士と法師の才能を持つが教えられた技を吸収し自分の技にする才もある…それに関してはレイジも驚いていたからな」

 

 

「そうだな。一時期、かの黄金騎士牙狼の弟子となっていたがわずか一月で帰された時は驚いたな」

 

 

「ああ、冴島流牙が言うには『無理に型を変えるべきでない、君の剣は誰にもマネはできない』と……まあ俺たちでも出来ないがな」

 

 

「後はオウガの戦い方に合った魔戒剣を作るだけだが…レイジも錬金に苦労してるみたいだ…」

 

 

実際にオウガの戦い方は我流に近く、さらには冴島流牙に師事していたこともあり魔戒剣と魔戒斧を構え巧みに使いこなし戦うのを得意としている…が当然弊害もある

 

 

片方の武器を失えば鎧の召喚が出来なくなる…実際ホラーとの戦いで召喚が出来ず窮地に陥った(たまたまジロウと組んでいた為事なきを得たが)

 

 

そこで俺とジロウ、レイジは剣の鍛練を重ねながらオウガに戦い方に合った魔戒剣の製作に取りかかり工房に籠って一月が過ぎたがレイジから音沙汰がない…元老院から作るよう命ぜられた『鷹麟の矢』、『白燐の牙』の製作と同時平行で進めてるから無理もないかと考えた気配を感じ修練場入り口に目を向けた

 

 

 

「ソウマ~!ジロ~ウ!」

 

 

「どうしたレイジ?まあ水でも飲んで落ち着け」

 

 

「ングング…プハ~で、出来たんだ、オウガの魔戒剣が出来上がったんだ!!」

 

 

「「ほ、本当か!」」

 

 

水を一気に飲み干し目の下に隈を作り息を切らしながら告げられたレイジの言葉に思わず二人は立ち上がった

 

 

――――――――

―――――――

 

 

関垈…布道レイジ邸

 

 

「こんな所に呼び出して何の用だ?」

 

 

 

 

「これを見て驚かないでよオウガ」

ジロウとの鍛練を終えた俺を捕まえるなり自宅へ招いたレイジに少し不思議に思いながら工房へ入ると布が被せられた台の前に立たされ一気に布を取り払うと其所には見た事がない剣が鎮座していた

 

 

「こ、これは…?」

 

 

「オウガの新しい魔戒剣、いや魔戒剣斧だ!!」

 

 

「魔戒…剣…斧…だが…」

 

 

「…持ってみろオウガ」

 

 

「レイジの渾身の作だ…」

 

 

「ジロウ、ソウマ…何で此所に…」

 

 

いつの間にか工房の入り口にジロウ、ソウマが立っていた…俺は恐る恐る魔戒剣斧に手を伸ばし握る

 

 

ソウルメタルが持つ輝きと重さを感じ構える…手に違和感なく馴染む

 

 

まるで俺の為に作られ…まさか!

 

 

「……レイジ、ソウマ、ジロウ…まさかこの魔戒剣斧は…」

 

 

「…そんなことより柄を回しながら振ってみろ…オウガ」

 

 

ソウマに促され回しながら軽く振るうと剣斧に変化が起こる…剣から柄の長い斧に代わり試しに回すと刃風が鳴り辺りに風が巻き起こり再び回すと剣へと戻った

 

 

「どうだオウガ?」

 

 

「最高だ…今まで使った魔戒剣以上に馴染む」

 

 

 

 

「お前の戦い方に合わせるために拵えた魔戒剣斧だ…大事にしろよ」

 

 

「…ありがとう、ありがとうソウマ、ジロウ、レイジ!」

 

 

深く頭を下げ礼をする俺に笑顔を向ける三人の友の言葉は胸に響いた

 

 

本当にありがとう

 

 

―――――――――

――――――――

 

 

 

近々大きな戦いが始まると元老院の神官が予言した

 

 

『白き夜が太陽を包むとき、天に門開きて災厄の魔獣姿を見せる時、世は闇に喰われ民たちの苦痛は耐える事なき世界が訪れよう』

 

 

…難解な予言だが明らかにメシアとは別の系統のホラーだと噂している。だがどんなホラーが来ようと俺達《魔戒騎士》は人を守るために戦う

 

 

信じあえる素晴らしき友達が拵えてくれた魔戒剣斧と共に

 

 

 

これから数ヵ月後、俺達…山刀ソウマ、布道レイジ、四十万ジロウは白夜の魔獣レギュレイスとの戦いに身を投じその最中に俺は相棒と出会うことになる

 

 

 

閑話 剣斧

 

 




次回から後編開始


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第二十一話 鉄腕(後編)☆

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「…………」

 

「…………」

 

 

鹿脅しの音が庭園に響く中、畳がしかれ螺鈿細工が施された漆塗りの卓の前に座る僕の目の前には黒く長い髪を下ろし薄い水色の布地に色とりどり鮮やかな華をあつらえた振り袖姿のエレミアさんが顔を俯かせほんのり頬を赤くしながらチラチラみてくる……

 

(ウ!)

 

 

でも何故かわからないけど、庭園の方からゴゴゴゴゴゴ!って音と刺すような視線が肌にビシビシきてるし

 

「タ、タカヤ君!」

 

「ナ、ナニ?」

 

「最近元気やった?………」

 

 

「う、うん……エレミアさんも元気そうだね…って最近会ったばかりだったね」

 

 

「フフ、そういえばそうやったな。でもなウチが元気でいられるのはぜんぶタカヤ君のお陰なんやよ…それに今度の試合は楽しんでやりたいしな~」

 

 

「そ、そうかな?試合っていつやるんですか?たしかシード枠にはいってたんじゃ?」

 

 

「そうや。どんな子と当たるかも実は楽しみなんよ」

 

 

にこにこ笑いながら僕を見るエレミアさん。最初会ったときのお腹すかして倒れて元気が無かった頃より輝いてる、それに

 

「ん、どうしたんウチの顔に何かついてる?」

 

「な。何でもないで…す…」

 

「なんや~うちに隠し事しょうとしてるんか?」

 

「そ、そんなこと無いからね?ただ…今日のエレミアさん、すごく綺麗で可愛く…あっ!?」

 

 

いけない、つい口に出しちゃった……エレミアさんが僕から顔をそらして何か言ってるし怒らせちゃったかな

 

 

第二十一話 鉄腕(後編)

 

 

(可愛い…綺麗で可愛いってタカヤ君言ってくれた?可愛いって!うちの事可愛いて!?)

 

(落ち着けったらジーク!タカヤがあたふたしてるぞ?)

 

(仕方ないわよハリー、あんな不意打ちを受けたら誰だってなるわよ。ほらジーク、少し落ち着きなさい。ゆっくり、ね)

 

(……………………う、うんわかった…)

 

 

二人の思念通話にようやく落ち着きをみせるジークに少しため息をつく二人。なぜハリーとヴィクターがタカヤとジークのお見合いの場にいるのかというと遡ること半日前

 

ーどうしたジーク。オレを呼び出すなんて珍しいな…って!なんでヴィクターがここにいやがる!ー 

 

ーこちらが聞きたいですわ。ポンコツ不良娘……それよりも今はー  

 

ーご、ごめんな。みんな大会の準備で忙しいのに呼んでしもうて……実はなウチ今度お見合いする事なったんやわー

 

 

ーはあっ!?/はい!?ー

 

ーおばあちゃん言うには昔喧嘩して勝った相手のひ孫になる人なんやけどな……うちはまだやることあるしそれに…その…あのぅ…好きな人いるしー

 

顔をうつむかせ指先と指先をあわせるジーク、お見合いという言葉より好きな人がいる事実に驚きを隠せなかったが、親友が困っているのを見て一緒に同行することを決めた

 

……無論、相手がジークの家柄、エレミアの名を目当てであれば全力で阻止するつもりだった

 

いざ見合いの場に来てみれば以前に剣を交え、そしてジークと半年間寝食をともにし偏食気味だった食生活を改善した少年《タカヤ》の姿に驚いた、それ以上に驚いていたのはハリーだったりする

 

(……まじかよ…ジークの好きな相手がタカヤで『アキツキ.インダストリ』の御曹子で、半年間一緒に暮らしたなんて……でも)

 

湯呑みに入った濃い茶を飲みながらチラッとみるハリーの前で絶対に見せない照れた顔をみせるジーク

 

「そういうタカヤ君もカッコイいやない。キリ君はどうしたん?」

 

「そ、そうかな?初めてスーツは着たんだけど。キリクは調子が悪くて、代わりにエルヴァさんが……でも」

 

 

「「キリクがいないと寂しいかな」やろ?タカヤ君、キリ君と何時も一緒やったからな~ウチと一緒に生活しとった時も肌身離さずやったし…お風呂にはいった時なんかキリ君外し忘れたままやったからなあ」

 

「エ、エレミアさん?あ、あのときは単純に忘れてただけだからね?」

 

 

 

(………なあヘンテコお嬢)

 

(何かしら?)

 

(……ジーク、アイツのこと本当に好きなんだな…あんなに笑ってるとこみるのはじめてだ……)

 

(そうねハリー)

 

「それにカ~くんも元気そうでよかったわあ」

 

『は、はいジーク様もご機嫌麗しく、半年間共に過ごされた日々は忘れておりません』

 

「カ~くんは相変わらず固いなあ。でもひさしぶりに声が聴けて嬉しいなあ……少し表の庭に出えへん?」

 

「そうだね」

 

二人はゆっくり立ち上がり、そのまま履き物を履き外、石庭を歩くきながら昔話。もちろん内容は半年間の共同生活…いや半同棲生活での出来事。少し離れた位置で歩くハリー、ヴィクターの耳にも入る

 

(い、一緒に寝たですって!?ま、まさか、まさかしたのしたの!?は、破廉恥な!!)

 

(しかも裸を見られただと!?ラッキースケベにほどがあるじゃ無ぇかよ!)

 

 

「ウ!?」

 

と、心の中で二人が盛大に突っ込んだ時、ゾクリと得体の知れない、まるで鋭くとがった氷柱みたいな気配に体が大きくふるえ出すタカヤ

 

「ど、どうしたのタカヤ君?どこかきぶんわるいん?」

 

「な、何でもないよ(な、何だろノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルトの気配を感じた気が?気のせいだよね)」

 

★★★★★

 

(半年間だって!あたしは1日だけだし、なんてうらやま……まあ後でじっくり聴いてやるからな…覚悟してろよタカヤ)

 

 

(………タカヤさんと半年も一緒に?じゃあタカヤさんの寝顔を半年間見て、手料理を毎日食べてうらやま……って反則じゃないですか!)

 

タカヤとジークが歩く石庭から少し離れた岩場の影から岩肌を握り亀裂が入っていることに気づかずゴゴゴゴゴと般若のヴィジョンを背に浮かばせ見るのはノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオの三人。顔は笑っていてもハイライトが消え笑っていない瞳でジッとタカヤとジークをみている

 

なぜ三人が見合いの場である千楼閣にいるのか、それはタカヤとメイの会話を盗み聴きしていたのもあるが、《タカヤがお見合いする》寝耳に水な内容に嫉妬混じりの怒りが沸き起こり、三人が聞き耳を立てている事に気づいたメイがわざとお見合い場所と日時が聞こえるようにしたのもあった

 

…見合いを阻止するため、ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェは一致団結し千楼閣へ来てみるすんなり中へと入ることができたのはおそらくはメイの手引きがあったのかもしれない

 

そして今に至る…会話から二人が半年間、半同棲に近い旅をしていたこと、さらには生活での出来事を聞きすっかり嫉妬の鬼と化していた…がアインハルトはタカヤとジークにある既視感、いや脳裏に覇王の記憶が流れた

 

 

★★★★★★★

 

 

ーはあっ!ー

 

ーせい!ー

 

 

空気が震え鈍い音が響く中、黒く長い髪の十三~十五歳くらいの少年…オウガと首の後ろで髪を束ねた僕とオリヴィエ、イクス、魔女猫の親友であるリッドが互いに蹴りを胴へ叩き込む…でもオウガは身体を僅かにひねり突き出された脚に乗り顔面へ横凪に蹴りを入れた。

 

ー甘いよオウガ!ー

 

ーなっ!ー

 

とっさに左腕を盾にし受け止め、右手で掴むとそのまま地面へ弧を描くように叩きつける。相変わらず二人の組み手は手加減がない

 

でも二人とも魔法や魔導力を一切使わず、純粋な体技のみで戦っている…拳、蹴り、抜き手、さらには組み付いてからの脳天打ち、腕十字固め…互いの汗が舞い地を蹴り殴る度に土煙が上がる。鎧で身を包んだ兵士に対しての武器を使わず戦う徒手格闘戦

の新しい形をみているようだ

 

 

ーフフ、今日も僕の勝ちだねオウガー

 

 

ーああ、相変わらずお前の闘技は凄まじいな…ー

 

 

ー全くだね。でも今日は何で魔法や魔導力を使わなかったんだい?ー

 

ー………ただ試したくなっただけだリッド、クラウス。魔導力無しで何処まで強く鍛えられ戦えるかをなー

 

 

ー今でも充分強いと思うけど、何か目標でもあるのかい?ー

 

ー……リッド。少し良いか?ー

 

ー何かな?うわあ!?ー

 

ー…ん、やはりこれぐらい胸に筋肉をつけないとダメか。しなやかで無駄の無い柔らかく美しい筋肉が瞬発力と破壊力を生み出す拳に…ー

 

 

ーや、やめてオウガ、んん!ー

 

 

ー何顔を赤くしているんだリッド。そうか、汗だくだからか。ならちょうどいい、浴場に今から汗を流しに行くぞ。その素晴らしい筋肉をじかにみせてもらいたいー

 

ーえ?ええ!?僕はいいから!それに水風呂の方だからー

 

ーふむ、寒稽古も兼ねた水風呂か……ならオレも付き合おう。男同士の肌の付き合いも大事だからな…クラウスも一緒にどうだ?ー

 

いきなりリッドの胸の筋肉を真剣な眼差しを向け揉みながら僕の手を掴んだ時、風を切り黒い何か見慣れたアレが頭をとらえた

 

 

ーこのバカオウガ!ー 

 

 

ーグアッ!ー

 

 

薄桃色のドレス姿に大きな筆《大魔導筆》で殴り飛ばし水切り石みたいに跳ね城壁に大の字に貼り付けられたオウガに目を向け息を荒げるのはイクスの従姉に当たる《レア》様の姿

 

ーこのバカ!なんてことをしてんのよ!リッド。ごめんなさいね~うちのバカがとんでもないことしてー

 

ーあ、はいレア様…でも僕すならだいじょうぶです…でもオウガはー

 

ーいいのよ。あのバカはほっといてて、クラウス~あのバカが目を覚ましたらあたしの部屋に来るように伝えておいてね~ー

 

ーは、はい!レア様ー

 

ーじゃ、行きましょうリッド。ヴィヴィも待ってるからー

 

それだけ言うとレア様は大魔導筆を肩に掛けリッドと共に歩き出していった…レア様は相変わらずオウガに厳しいな…

 

 

★★★★★★★★★

 

 

(い、今のはタカヤさんの祖先秋月オウガ?リッド…ヴィルフリッド・エレミア……見合い相手もエレミアの名を……まさか彼女はリッドの子孫?)

 

 

再び垣間見た覇王の記憶…再び目を向けみると明らかに似ている…胸が激しく痛む。それ以上に様々な感情が溢れ出し拳に力がこもる

 

 

「……あのなタカヤ君、前にも聞いたけどやりたいことみっかった?」

 

 

「やりたいこと……はい見つかりました。僕にしか出来ないことが…?あの僕の顔に何かついてますか?」

 

「イ、イヤ何でもないんよ!(うう~タカヤ君、今の顔反則や~)…きゃ!」

 

 

「危ない!」

 

まっすぐ信念が込められた瞳にドキドキしっぱなしの次元世界最強の恋乙女…だが少しだけ陰を感じながら歩き出すも足がもつれ倒れそうになる…がタカヤがとっさに抱きかかえる。しかし互いに抱きしめ見つめ合う姿勢でトドメに互いの吐息が間近に感じる距離に心臓は高鳴り顔が熱くなったその時、凄まじいまでの怒気が刃物…いや破邪の剣が無数に突き刺さるような感覚に大きく身震いするタカヤ…ゆっくりと視線を向けた

 

「「「……………………(怒怒怒怒怒怒怒怒!)」」」

 

 

「エ?ノ、ノーヴェさん?それにヴィヴィオ、アインハルトまでなんでここにいるの!?」

 

 

「ひう!?」

 

そこにはノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルトの姿…

笑顔だけど笑っていない瞳で見据え何故か解らないが空気が揺らいでいるのを見てジークが少し怯えギュッとタカヤの腕に抱きつく

 

「…あのタカヤさんから離れてくれませんか?…お見合い相手さん」

 

「……え、あ、あの…」

 

「…悪いけどタカヤと話があるからさ…ゆっくりと全部《半年間》の出来事を話して貰わないとな」

 

 

「………そうです。エレ…アナタにはタカヤさんを渡しません!タカヤさんは《私のモノ》なんです!」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!落ち着いてヴィヴィオ、ノーヴェさん、アインハルトも!それに今モノって言ったよね!?」

 

(………ヴィヴィオ、アインハルトって確かタカヤ君が言うてたインターミドル参加する子達の名前やよね…赤い髪の綺麗な女の人ってまさか……うう~ライバル知らんうち増えてるやん!…こういう時はどうすれば………そうや!)

 

「さて、あっちで詳しく話を聞かせてもらおうか(半年間の事をな)……」

 

「え?ちょ、ちょっと引っ張らないで!イタタタ!」

 

 

ジークが抱きついていない腕を手に取るノーヴェ…笑顔だけど瞳からハイライトが消えている…もちろんヴィヴィオ、アインハルトも掴んだ。しかし岩のように動かない、何故ならばジークが腕に力を込めしっかりと踏みとどまっている

 

「……離してくれませんか?」

 

「…イヤや」

 

 

アインハルトとパチパチと火花を散らすもジークの左手が何かを不思議な文字がかかれた一枚の札を取り出した瞬間、無数の魔導文字があふれ気を取られた3人。やがて消えざるとタカヤとジークの姿が消える…

 

「…………き、消えた?」

 

 

「ふふふ、上等だ…でも必ず見つけてやるからな」

 

 

「……エレミア、あなたにタカヤさんを渡さない。絶対に…ふふふ」

 

 

(オ、オイ!アイツラ止めろよ!)

 

(む、無理よ!こういうのはアナタの役目じゃなくて!?)

 

闘志…否《嫉妬》の炎を燃やす三人に怯えるインターミドル実力者二人……しかし先程まで二人が居た場所に水色の振り袖が残されていたことに気づいていなかった

 

★★★★★

 

 

千楼閣から少し離れた深い森と滝が轟々と流れ落ちるこの場所に光、色とりどりの魔導文字が流水のように溢れ治まると二つの人影が姿を現す

 

「い、今のは転移の界符?エレミアさ……」

 

「ど、どうしたん?……キ、キャア!?」 

 

 

顔を背けたタカヤの前には発育課程の程よい大きさの胸に無駄なく引き締まった瑞々しい肌をさらし立つ全裸のジークに慌てて魔法衣をかけ背を向けるも遅く鼻血がポタポタと足元へ落とす

 

「と、とりあえず魔法衣の中にエレミアさんがきていた服が入ってるから…」

 

 

「う、うん……ありがとタカヤ君……」

 

ゴソゴソと魔法衣から服を取り出すジーク…背を向けるタカヤの耳には衣擦れの音が嫌でもって程はいる。魔戒騎士といえど思春期真っ盛りの純情少年タカヤ…多少耐性が出来たといえ耐えられるものではない

 

(お、落ち着くんだ…こういう時は……なにも聞こえない。なにも見えない。そうエレミアさんが僕の後ろで着替えていない。着替えていない。着替えていない!)

 

 

必死に言い聞かせるタカヤ、だが背中に柔らかな温もりに現実に引き戻される

 

「あ、あのエレミアさん?一体なにを!?」

 

背中から胸に手を回し抱きつくジーク。敏感すぎる鼻に少女特有の甘い香りを感じドキドキしっぱなしのタカヤにゆっくりと口をひらいた

 

「………こうしてると昔のこと思い出すなぁ…」

 

「……うん…」

 

「……ウチな今日のお見合いホントはイヤやったやんよ。王族復興、王族を救いたい、エレミアの名前目当ての人ばかりがいつも家族に取り入ろうとしとんよ。過去…千年前のことしか見れん人はウチを通して過去の《黒のエレミア》ばかりを見る人ばかりやった。ヴィクターや番長は今のウチを見てくれた…でもその人達はあきらめようとしなかった終いにはインターミドル会場に現れて迫ってきて《過去に戻る術を見つけました。これで王族を救うために黒のエレミア「ヴィルフリッド・エレミア」の血を引くアナタが必要だ》って」

 

初めて聞く内容にタカヤは憤りを覚え始めていた、過去があるからこそ今がある。積み重ねてきた過去を変えるために《今》を台無しにしようとする彼らの言葉は十分過ぎるモノだった

 

 

「…もうイヤなってた…でもタカヤ君に出会わなきゃこうしていられんかった。それにウチを黒のエレミアじゃなくてジークリンデ・エレミアとして見てくれた初めての男の子やった…今日のお見合いの相手がタカヤ君でホントに良かった。すごく嬉しかった。ウチ…ホント…」

 

無意識に震える手を握るタカヤ…あまりの事に思考が止まるジーク…ただその手から伝わる温もりと鼓動が不思議と落ち着かせていくのを感じ安らぎに満ちていく…だが辺り一帯が暗い闇に染まり驚くジークの手を離して守るように剣斧を腰に構えた

 

『フフフ、まさか《黒のエレミア》といるとはな…まあいい二人まとめて始末してやろう。まずはアキツキの魔戒騎士おまえからだ』

 

「……エレミアさん!今すぐここから逃げて…エルヴァさん!」

 

 

《わかったよ、エレミア嬢ちゃんタカヤの言うとおり逃げるんだ……ここから先は魔戒騎士だけの世界、市井の嬢ちゃんには理解が出来ない世界だ》

 

 

 

エルヴァをジークの左手薬指にはめ逃げるように促し暗闇から沸き立つ様な声と魔導文字と共に黒衣のローブをまとった《アルター》が姿をあらわすとタカヤは逃げるようジークに告げるなり鞘から抜き放つ共に地を蹴り横凪に切り払う…が魔戒剣に防がれ魔戒斧の柄で胴を殴られたまらず後ずさりするも、反動を利用し跳躍そのまま上段に構えた魔戒剣斧を魔戒斧形態にきり変え叩きつけるように切りかかるも刃と刃を滑らせるようにそらされそのまま顔面を掴まれ地面へ叩きつけられ浮かび上がったタカヤの顔面へ蹴りを入れ大木へと吹き飛ばした

 

「ガハッ!」

 

「タカヤ君!」

 

「き、来ちゃだめだ!僕にかまわず早く逃…グアッ?」

 

立ち上がろうとすると焼き鏝と錐が揉みつけられるように《破滅と忘却の刻印》から痛みが襲いかかる、苦しみもだえるタカヤに僅かに口元を吊り上げ魔戒剣をタカヤの首もとにあてる。微かに血が滲んでくる

 

 

『苦しいか?苦しかろうな……なら楽にしてやろう…ヌッ!?』

 

「ハアッ!」

 

うつ伏せの状態から地面を転がり、両手を付きその足を払おうとする、だが寸前でかわされ離れた場所に降り立つアルター…フラフラ胸を押さえながら立ち上がり剣斧を正眼の構えから手の甲へと滑らせるように構える

 

『…ほう。そんな状態でもまだ刃向かうか……ならこれならどうだ!』

 

 

「…ク!くうあ!」 

  

 

地を蹴り両手に構えた魔戒剣、魔戒斧で切りかかるもアルター、刃がぶつけあう度に火花とソウルメタルの振動音が木霊する…横へ切り払われた魔戒剣を防ぎ胴へ蹴りを入れるも魔戒斧の柄で防がれ逆に蹴りを入れられ溜まらずしゃがみ込むタカヤの絹のような黒く長い髪を掴みあげる

 

「か、かあっ……」

 

 

『その程度か?この時代のアキツキの魔戒騎士は弱くなったな。興がさめた……死ね』

 

ゆっくりと剣を首に当て引こうとする。しかしタカヤはとんでもない行動をとった、自ら持つ魔戒剣斧を逆手に構えつかまれた黒く長い髪を迷わず切る…斬られた黒髪が空をまう余りのことに僅かな隙が生まれるのを見逃さずアルターの胴へ連続蹴りを打ち出し勢いよく岩肌へ叩きつけられるもフラフラ立ち上がり魔戒剣、魔戒斧を両手に構えるその瞳は怒りに満ち溢れて睨み付け叫んだ

 

 

『や、やってくれたなアキツキの魔戒騎士…ならば出し惜しはなしだ…冥土の土産に持って行くがよい…』

 

左右に素早く真円を描き、二つの円が重なり砕けた。狼の唸り声と共に黒みがかった光が溢れ現れたの黒よりも深い闇…生物を思わせるような甲冑の表面には赤と金の装飾に赤い外套を模したボロボロの鎧旗

 

淀んだ赤い瞳を輝かせる狼の面、両手には魔戒剣《煌(オウ)》、魔戒斧《魔(マ)》が握られ素早く切り払うたびにオレンジ色の魔導火が燃え上がらせながら現れるのは闇に魂を売り渡し欲望を叶えるために暗黒に落ちた者

 

ー殲滅騎士《魔煌(マオウ)》ー

 

生気すら見えない瞳から圧倒的な殺意を浴びせられ、魔戒剣斧を構えるタカヤの表情からは生死の狭間に身をおく戦士のモノへ変わり自身も鎧を召還するべく構えようとしたとき動きが止まる…イヤ動けなかった

 

《若!鎧の召還を…》

 

 

「……カ、カーン…鎧の召還ってどうやるの…」

 

タカヤの口から漏れた言葉に声を失うカーン…逡巡の暇すらも与えずアルターいや《殲滅騎士魔煌》の魔戒剣、魔戒斧がすさまじい早さと共に繰り出されとっさに防ぐも踏ん張りきれずに吹き飛ばされ木々をへし折りながらようやく止まるも激しい痛みが頭と胸を支配し必死に耐えた

 

『フフフ、どうやら鎧召還の記憶まで喪ったようだな…さあ次はどの記憶が消えるかな?』

 

笑いながら切りかかるアルターの攻撃をかわすも身体のあちらこちらが切り裂かれ血があたりに舞い木々へ飛ぶ…だがタカヤは痛みに耐えながら必死に致命傷となる攻撃を受け流すも分が悪い。相手は魔戒剣、魔戒斧の二刀流…しかも鎧をまとっている事からして圧倒的に不利だった

 

《……若!、私を使ってください!!相手に勝つには同じ獲物を持ち勝機をつかむべきです!》

 

カーンの言葉に頷きタカヤの手に片刃の幅広い剣が握られ剣斧、カーンを巧みに使い重い剣戟を捌いていく…しかし乾いた音が耳に入る、みるとカーンの刀身に深い罅がはいり広がっていく

 

「カ、カーン!早く待機形態に戻って!僕なら大丈夫だから!!」

 

《……聞けません。私の役目はマスターである若を守り力となること…コレは我が兄アークと若の父上様から託された使命なのです…》

 

 

ーカーン、もしぼくに何かあった時は君がタカヤを守る剣になって…タカヤの力になってあげてー

 

 

ー我が弟カーンよ、タカヤを必ず護るのだー

 

 

タカヤの父ユウキ、カーンが生前に託した言葉が響く…次第に刃が欠け刀身の罅はAIコアへ到達、機能不全が見えはじめタカヤは何度も強制停止を試みるも拒否される…何よりタカヤの腕を強制的にコントロールしながら重い剣戟を防ぐ度に破片がまう

 

「お願いだから、やめてよカーン…カー…!」

 

 

『デバイス風情が!』

 

その声と共に何かが砕け散る…タカヤの目には粉々に砕け散る刀身、そしてAIコア…しかし大きく罅がはいりそのまま落ちていくのを慌てて手に受けながら魔戒斧で切りかかるもアルターの一撃をかわし渾身の力を込め斬りつけると勢いよく吹き飛ばされる

 

「カーン!」

 

『ワ、ワワワ……若…ド、ドウカ……い、いき…て………KUD………』

 

ソレを最後に光が消えAIコアが沈黙…ギュッと胸もとに抱きしめゆっくりと立ち上がる…その瞳から涙が一筋流れ拭うと剣斧を構え勢いをつけ地を駆け立ち上がったアルターへ果敢に剣をまじえ切り結ぶ。怒りが込められた太刀筋ではなく、無力な自分に対する怒り…大事な家族を失った自分への怒りに満ちていた

 

『……どうした?その程度か?鎧を纏えないお前など赤子のくびをひねるようにたやすい!』

 

 

「うわっ!」

 

切り払いと同時に回し蹴り、だが肘と膝ではさみ受けそのまま円弧を描くようにムーンサルトを決めるも鎧越しでは効果は薄く足首を捕まれ地面へ叩きつけられバウンドしたタカヤを力いっぱい蹴りまるで水切り石みたいに転がりようやく止まる…泥で汚れ衣服は切り裂かれ破滅と忘却の刻印からくる痛みに耐えながら膝をつき立ち上がろうとするタカヤの身体を誰かが支える…そして微かに香る甘い匂いにハッとなる

 

「な、なんでエレミアさんがここに!エルヴァさんと逃げてっていったのに!!」

 

 

《すまないタカヤ、この嬢ちゃんが手助けしたいって聞かないんだよ…》

 

「…タカヤ君、少し手を貸して、ウチが鎧の召還を手伝ってあげる」  

 

 

「エ?」

 

ゆっくりと魔戒剣斧を握る手と手を重ね、互いの呼吸と胸の鼓動を感じながらく身を任せるように腕を動かし切っ先を天へかざす

 

「………タカヤ君のご先祖様は空に」

 

スウッと素早く真円を描くと空間に亀裂が入る

 

「…大きな円をかいて…真ん中を突いたんや!」

 

 

亀裂が入った中心へ剣を突き入れたタカヤの手をそっとはなすと光が降り注ぎ狼のうなり声と共にオウガの鎧が纏われる…その姿にジークは胸の奥が熱くなりはじめる    

 

『く、おのれ黒のエレミア!千年前同様に我の邪魔をするか!!』

 

怒りを露わにジークに切りかかる魔煌《マオウ》の魔戒斧を片手で受け止め、重い蹴りを胸、顔面、腹部へ叩き込み、地を滑るように切りかかり怒涛の剣戟を繰り出しながらジークから離れていく

 

『ク、カアアアアア!』

 

魔戒斧と魔戒剣、魔戒剣斧がぶつかり合いタカヤが押しているようにも見える…だが鎧から《白金》の輝き

が消えると共に記憶と思い出がまるでステンドグラスが割れるように消え頭と胸の痛みが激しさを増していく

 

(バカな!我が秘術を受けているはずなのに何故こうも戦えるのだ!)

 

やがて頭部と肩のみを残して光が消えるもその勢いは止まらない…同時に鎧の胸にある鎖を模した装飾の隙間から不思議な輝きが漏れ出していることに気づいた時、オウガの鎧から白金の炎が立ち上る。

 

『………烈火炎装だと!その技が我に効くものかああああああああ!!』

 

《魔煌》も全身から血の色にも見える魔導火を燃え上がらせ魔戒斧、魔戒剣にまとわせ構える…わずかな風がないだ瞬間、地を蹴り剣斧を魔戒斧に切り替え上段から全重量を乗せ切りかかる、アルターいや魔煌は交差し防ぐ。しかしタカヤは魔導火を燃え上がらせた蹴りを顔面へ叩き込み、ぐらりと体勢が崩れたのを見逃さず素早く切り替えた剣斧《魔戒剣形態》で兜割りで切り払った

 

『グ、グアアアア!?』  

 

 

ソウルメタルの破片と血を撒き散らしながら苦悶の声を上げ切り裂かれた狼の面を押さえながら見据える魔煌…やがて手をはなしたと同時に面が割れ地面へ落ち現れた素顔にタカヤは剣を取り落としそうになる

 

白髪に深く刻まれた皺、だがその瞳は暗い闇…すべてを飲み込むような暗い輝きを湛えている、それ以上に露わになったアルターの顔を最近見たから声にでてしまった

 

 

『……あ、あなたは……秋月オウマ?』

 

 

皆と共に秋月屋敷の一目がつかない場所に置かれた目に触れられぬよう布をかけられた一枚の絵画…若くして亡くなったメイの父親《秋月オウマ》と瓜二つの容姿に思わず漏らした言葉に苛立ちを見せるアルター

 

 

『……その名で、その忌々しい名前で我を呼ぶなあああああああ!!』

 

 

再び烈火炎装を発動、激しく燃え上がらせ魔戒斧、魔戒剣に凝縮した魔導火を剣戟と共にタカヤへ向け放つ、とっさに剣斧に魔導火を燃え上がらせ勢いよく切り払うも再び痛みが襲う…だが力を振り絞り一気に力を解放しぶつかり合ったその時、血のように赤いオレンジ色の炎と白金の炎が夕闇色に染まりつつあった空を明るく照らしやがて消えさった。それを離れた場所でみていたジーク、例えようがない胸騒ぎを感じ向かい見たのは焼け焦げた木々、転々と二色の炎が点在し

気をつけてあるくと足が止まる

 

「あ、あ、た、タカヤ君……」

 

血と泥に汚れうつぶせに倒れたタカヤの姿を目にし慌てて駆け寄り抱き寄せ怪我を見る…切り傷が無数にある、耳を胸元当てると規則正しい心臓の鼓動を耳にし安心するも何度も呼びかける、やがてかすかに瞼が動き開かれた

 

「ん…」 

 

 

「…よかった。よかったタカヤ君。このまま一生目覚まさへんかと…ウチが余計なことしたから…」

 

感極まって抱きつくジーク…しかしタカヤの様子がおかしい。そして信じられない言葉を耳にする…

 

「………タカヤ?ボクの名前なんですか…」

 

「え?な、ナニ言うてるの?タカヤ君どうしたの?」

 

ゆっくりと離れ立ち上がるタカヤ…短くなった髪が風に流れながら虚ろな《我ここにあらず》の瞳を向けた時、激しい痛みが胸と頭を襲い溜まらずフラフラと膝をつき樹にもたれ掛かるようにへたり込んだ

 

 

「……ボクは、ボクは誰なんですか…教えてください…」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

やがてポツポツと雨が落ちる…まるで誰かの涙のように降り注いだ

 

第二十一話 鉄腕(後編)

 

 

 

 

 

 




???
「ついに自分が何者か解らなくなってしまったタカヤ、このまま記憶を喪ってしまうのか~?」

???
「案ずるな息子よ、伝え聞いた騎士の血を引く者ならば乗りこえられるだろう…」


キリク
「コラ~!俺様のナレーション予告をとるな!蝙蝠親子~!!」


キバットバット二世
「許せキリク、今回は特別だからな気にするな…


キバットバット三世
「そ~だそ~だ!!」

キリク
「仕方ないなあ~今回だけだぞ、今回だけだからな!」


「…ボクは誰なんだろ……」


「はじめまして」


「あなたは?ボクを知っているんですか?……えと」


「僕は紅ワタル、よろしくね秋月タカヤ君」


第二十二話 魔皇ー出会いー(前編)


wake、up!喪われた魂《記憶》の旋律を呼び覚ませ!






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第二十二 魔皇ー出会いー(Side・タカヤ)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


今回からonixさんの紅の牙、紫紺の切り札とのコラボレーションになります!





僕は誰なんだろ?

 

 

「………タカヤ…くん…」す

 

黒くて長い髪の女の子が目に涙を溜めながらタカヤって話しかけてくる…タカヤって僕の名前かな?でも解らないけど頭の奥で何かがうずく、それに何で剣?を握っているんだろ?

 

周りをみると白い火とオレンジ色の火がまばらに燃えている…

 

 

《……エレミア嬢ちゃん、あたしをタカヤの指にはめるんだ……急ぐんだ、これ以上……が消えてしまう前に》

 

金属の軋むようなしゃがれた声が耳に入る、でもココには僕と女の子しかいないハズなのに…ゆっくりと顔を俯かせながら、女の子が僕の手を取るとソッと指に指輪をはめる、頭の奥が痛くなったのを最後に目の前が真っ暗になった

 

 

第二十二話 魔皇ー出逢いー(Side・タカヤ)

 

 

「………カヤ…タカヤ!」

 

「な、なに?どうかしたんですか?ノーヴェさん?」

 

「ナニがじゃないだろ。さっきから何度も呼んでるだろ?」

 

「ご、ごめんなさい…少し考え事してて…」

 

…あたしにあやまるとヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオのトレーニング風景へ目を向ける姿を見て小さくため息をつく

 

最近、正確にいうと見合いの日からタカヤの様子がおかしい。それに長かった髪が短くなってるし、何時もおしゃべりなエロ眼鏡キリクも、さっきからだんまりを決め込んでる

 

……まるであたしやヴィヴィオ、アインハルトと最初に出会った頃に戻った感じがする

 

「……………」

 

気づかれないようにチラッとタカヤの顔を見る。キリクごしに見える瞳から意志の光が全く見えない……やっぱりあの日に何かあったのか?

 

「タカヤ、少しいいか?」

 

 

「エ?な、なにですか?」

 

「……い、いや何でもない。そろそろ練習を切り上げるからここで待ってろよ…絶対にここにいろよ」

 

 

「は、はい………ノーヴェさん……」

 

頷いたタカヤを残して歩きだす…ボウっとしたまま空を眺めている姿をみる度に、あたしの胸が痛くて苦しくなる……どうしたらいいんだ

 

「ん?」

 

教会内にある更衣室に向かう、あたしの目に入ったのは一枚の貼り紙。聖王教会で不定期で行われる《月夜の演奏会》の開催の知らせ………たしか音楽には心を癒やす効果があるってきいて…

 

 

「………これなら…」

 

 

あたしは時間と場所を確認するとヴィヴィオ達がいる場所へ歩き出した

 

★★★★★★★★

 

 

「………うまく誤魔化せたかな」

 

 

《……半分だけな……ノーヴェ嬢ちゃんは薄々気づいているぜ》

 

 

「そっか…難しいんだねキリクさん………あの人達が知っているボク、《秋月タカヤ》を演じるのって」

 

 

《………おい、アイツラの前で「さん」付けはヤメロ……》

 

「……うん…」

 

それを最後に会話を終えてボウっと空を、ドコまでも突き抜けるような青空に対しタカヤの心はぽっかりと大事な何かが抜け落ちていた…

 

今まで出会ってきた人たちの記憶、築き上げた思い出…そして《魔戒騎士》であったことすらも喪っていた

 

なのに、なぜこの場に『インターミドルへ向けて練習をするノーヴェ達がいる場所』にいるのか?タカヤの中で、いや何かが訴えるような感覚がこの場に赴かせていた

 

 

「……ボクにとって、ナカジマさん達は何なんだろ……四十万さん達も何も教えてくれないし……キリク、ボクはみんなとどういう関係だった……ウッ!クウウッ」

 

 

《ど、どうしたタカヤ!しっかりしろ!?》

 

 

頭と胸に激しい痛みが襲い、まるで逃げるようにフラフラと芝生を歩き出し、少し離れた場所に立つ樹の幹にもたれ掛かるようにヘタレ込むタカヤ…だが痛みと熱さは一向に治まらず増し、気が遠くなっていく

 

(《まずい、刻印の発作の感覚が狭まってきてやがる!はやくレイジに連絡しねぇと!…》)

 

苦しむタカヤを見てあわて出した、そのときバイオリンの音が辺りに響きわたる、その旋律は苦しむタカヤを包みように心の奥まで浸透していくと共に胸の痛みと熱が治まっていく、ゆっくり身を起こし歩きだした。音を頼りに繁みと木々を歩き抜けた先には一人の赤いストールが目立つ青年の姿。その手にはバイオリンが握られ、まるで太陽の柔らかな陽射しにも似た音色が奏でられていくのを身体で感じる。しばらくして弾き終えた青年が切れ長の瞳を向けると軽く一礼するのをみて、あわてて返した

 

 

「…………あ、あの勝手に聴いてごめんなさい……」

 

 

「いいよ。今日の曲目のイメージを掴むための練習だったから…あまりうまくないけど」

 

 

「そんな事ないです。暖かくて包み込むような……あ、上手く例えられなくてごめんなさい…でも心の中が熱くなって…その、えと…」

 

 

「ありがとう。そんな風に言ってくれたのは君で二人目だよ…あ、自己紹介がまだだったね」 

 

バイオリンをケースに入れ閉じ青年はゆっくりと口を開いた

 

「僕は紅ワタル、よろしくね《秋月タカヤ》くん」

 

 

「エ?何でボクの名前………っ!あっ?」

 

 

激しい痛みが突き刺さるように頭と胸に襲い、たまらず膝をつくタカヤ…意識が朦朧として遠のく中、断片的なイメージがあふれ出してくる

 

 

ー……俺がアークに憑いたホラーを斬る!ー

 

 

ー………笑わせるな、人間ごときの力は借りん。だが利用させてもらおうかー

 

 

 

ー……おのれ魔皇!人間……いや魔戒騎士!!ー

 

 

巨大な黄色い瞳にねじ曲がった角が目立つ巨人に蝙蝠をモチーフにした真紅の鎧を纏う戦士、白金に輝く狼を模した鎧の騎士が戦い、白金の鎧を粉々に砕かれ留も横凪に胴を切り払うと地へ落ちていく。空に輝く月が真紅に染まり怪しい音色が響き凄まじい破壊の余波がアークを飲み込むと、ふたたび場面が切り替わる

 

ー………いくな。人間……秋月オウガ、キングが命ずる。仕えろー

 

ー……さっきも言ったはず。この世界でのオレの役目は終わった……ー

 

ー世界を半分やると言ってもか?ー

 

 

ー………鎧を修復し、クィーンが斬人(キリヒト)に温もりを教えてくれた事は感謝している………だがオレにはやらなければならないことがある……ー

 

 

(…な、なんなのこれ?…頭が痛い…)

 

 

あふれ出してくる断片的なイメージと共に痛みが激しさを増していくのを感じながらタカヤはゆっくりと崩れ落ちるように倒れ意識を失った

 

 

「タカヤくん!」

 

 

『落ち着けったらワタル!はやく休ませないと不味い………聖王教会の控え室に連れて行こうぜ』

 

 

「そうだね…」

 

あわてて抱き止め呼びかけるワタルを諭す蝙蝠《キバットバット三世》に言われ気絶したタカヤを抱え歩きだす…少し離れた場所にある樹の影からデフォルメ化した悪魔《使い魔》がジッとみている…

 

 

「………見つけた…秋月の魔戒騎士………」

 

 

感情を表すことなく淡々としゃべるのは魔女っ子スタイルが目立つ少女…その手にある水晶玉に移るタカヤへ熱い眼差しを向けている

 

 

「……わたし達を見捨てた王には絶対渡さない……今度こそ、わたしたちのクロゼルクの悲願叶える……」

 

 

ほんのり頬を赤くしながら水晶玉から目を離し、手に取ったのはボロボロになった本、表紙には白金の鎧を纏った騎士と黒く巨大な魔獣が描かれている絵本《白金の狼と一三体の魔獣》…内容は古代ベルカ語で書かれておらず《旧魔界語》で記されたそれをぎゅっと抱きしめた

 

 

 

第二十二話 魔皇ー出会いー(Side・タカヤ)

 

魔皇ー紫紺の切り札ー(Sideクロウ)へ続く

 

 




次回、魔皇ー紫紺の切り札ー(Side・クロウ)


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第二十二話 魔皇ー紫紺の切り札ー(クロウside)前編

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


今回からonixさんの紅の牙、紫紺の切り札とのコラボレーションになります!


『…親父!」

 

《やめろクロウ。お前が今のタカヤと会うのは不味い。こらえろ》

 

不思議な旋律を奏でる青年《紅ワタル》と出会いを果たし意識を失い倒れる姿に思わず声を漏らしその場へ飛ぼうとする…が右腕に填められた魔導輪具《ライバ》の声に動きを止めた

 

「わかってるよ。無闇やたらに《今の時間》に関わるなだろ……アミタ達も言ってたからな…」

 

気を失った親父を抱きかかえ歩く姿が見えなくなるのを見届けつぶやきながら木の幹を握りつぶす…この時代に来てから俺が今まで親父に対しての持っていた認識が変わった。いつもお袋と砂糖吐く位に甘々な空気を撒き散らすばかりで、まだ5歳のマユの前でいきなり甘々固有結界《アンリミテッド・シュガー・ワークス》を展開したり…昔も今変わらず万年新婚バカップルぶりを見せられたら、ジロウ師匠のジロウスペシャルコーヒー(香り高く、苦味と酸味がすべてにおいて最高峰)を飲んでも甘いんだよ

 

 

そんな親父が歴代最強の《白煌騎士煌牙》の称号を受け継いでるなんて信じられなかった、いや全然信じてなかった…《蘇ったホラーと戦っていた親父がお袋と付き合う前》の時代へ送られるまでは…

 

(……ソウマ先生、ジロウ先生、レイジ先生、ユーノ師父の言葉は嘘じゃなかった………)

 

 

……修行中、先生たちから何度も何度も聞いていた。『お前の父は強い』って言葉。破滅と忘却の刻印を宿しても『お袋』とおばさん達を守りながら、必死に悟られないように戦う姿をみてようやく解った……

 

 

親父が先生たちと同じぐらい強いって事が

 

 

(俺ってバカだな…実際に見るまで解らないなんて…………)

 

「クロウ」

 

「……何だよアリアおばさ……「…お姉さま」。アリアお姉さま」

 

ボディスーツみたいなのを着たアリアおばさ…お姉さんがにっこり笑いながらピアッシングネイルで頬を撫でながら、ジイいって見てる。何を言いたいのか、だいたいのわかるけどさ…い、痛いから!?やめて!?

 

「………なんでタカヤちゃ…お父さんを助けてあげないの?心配じゃないの?」

 

 

「………助けたいさ…でも」

 

 

「でも?」

 

 

「………この時代で親父が《死醒皇アギュレイス》に勝つ為の《手札》が揃ってないんだ。あと一つ《白燐の牙》を手にしない限り、例えオレが参加しても刻印を解けない、いや死んでしまう……だから切り札が揃うまでは」

 

 

 

動けないんだ…って喉元まで出た言葉を飲み込みながら魔法衣から取り出した。手には何も描かれていない一枚のカード…十年前のあの日、友達のアマゾン、モグラのいる森で出会った、不思議なカードを使うカズ兄とお袋と似た声で話すバイクと出会ったあの日の事を

 

 

第二十二話 魔皇ー紫紺の切り札ー(クロウSied)前編

 

 

新暦0089年

 

秋月屋敷

 

 

「ク~ちゃ~ん。おばあちゃんとひさしぶりに遊びましょ~……………ク~ちゃん?どこいるの?ク~ちゃ~ん?」

 

 

今期の方針と新製品開発、管理局へ次世代レスキューデバイス《IXA-third》試験運用スケジュール、来年度インターミドル開催へ向けての会議を終えクラナガンから2日ぶりに屋敷に帰ってきた私はゲストルーム、居間、厨房、ク~ちゃんのお部屋を巡り、何度も何度も愛しい初孫ク~ちゃんを呼ぶけど返事がない。

 

いつもなら私の姿を見ると、トテトテと愛くるしい笑顔で《おばぁちゃ~》って駆け寄るのに…その気配すらないの

 

 

…………まさか、あの暴力鬼嫁が私のラブリープリティーなク~ちゃんを私に会わせないためにどこかに隠したわね!」

 

 

「誰があたしのク~を隠すか!メイ!!」

 

 

「…あら居たの暴力鬼嫁?なら早いわ。わ・た・しの可愛い可愛いプリティーなク~ちゃんはどこに隠したのかしら?」

 

 

「あたしの可愛いク~を隠す訳ないだろ。っていうか知ってても教えないからな…と・く・に・メイにはな!!」

 

 

「ふふふ、言うようになったわね…私からタカヤを奪ったばかりか、プリチーなク~ちゃんまで奪おうというのね。なら力づくで教えて貰うわよ!鬼嫁!!」

 

「アアン?タカヤとク~はあたしの旦那と子供だ!上等だ今日こそ決着つけてやるよ鬼ババアアア!!」

 

 

魔戒法師最強の秋月メイ、タカヤの妻ーーーーーが構えた拳がぶつかり合った瞬間、衝撃波が生まれ屋敷の調度品、年代物の骨董品が砕け舞う。圧倒的な破壊の嵐の渦巻く中で拳と蹴りを凄まじい速さで繰り出す二人の戦いは息子であり旦那であるタカヤがスカリエッティ達が収監されている軌道拘置所から戻るまで続いた

 

 

その頃、争いの元になったメイの初孫、タカヤとーーーーの子《秋月九狼》はというと………

 

 

「おれのなまえはクロ~。きょ~は、あ~まぞ~ん、もっくんと、とりぷるもんき~あた~っくだあ……」

 

真っ赤な髪に不思議な彩りの魔導衣(メイ特製お出かけ着、ホラーを寄せ付けない強力な符が編み込まれている)に身を包み、歌いながら深い森を歩いている。祖父ユウキの《トモダチ》アマゾン、モグラにあるモノを渡しに二人が住む森へ来たのだが、様子がおかしい。歩いては止まりを繰り返し、キョロキョロ見回すクロウ……察するからして、要するに迷子になってしまったようだ

 

「どうしょ…道わからない。おばぁちゃ、おかあさはお家、おとうさ、きりくは《すかりぇってぃ》ってヒトに会いいってる………」

 

頼れる父、母、祖母がいない、どんどん表情に陰りが見え始める…だが勇気を奮い立たせ森を進んでいく…アマゾンとモグラのいる場所へ歩いていくクロウの頭に三角形の小さな犬耳がピョコんと立たせ、胸一杯に空気を吸う

 

 

「…あまぞんとモグラの匂いは……」

 

 

匂いを頼りに歩くクロウ、繁みを抜け出し一歩進んだ。ふわりと身体が浮く…

 

「え?うわああああ!?」

 

足元の地面が消え、代わりにパックりと大きく裂けた亀裂へ吸い込まれるように投げ出され、必死に大声で叫ぶ、しかし声は届かない。まっすぐに谷底へ墜ちていくクロウ…もうダメだ。と固く目を閉じた時だった

 

 

ーMACH!ー

 

 

 

 

電子的な音声が響くと同時に、誰かに抱きかかえられる感覚と紫紺色の影をみたのを最後にクロウは気を失ったのをみて

 

「……間に合って良かった…でもなんでココに子供が?……今は休ませなきゃいけないな」

 

 

紫紺色の影…カミキリ虫にも似た特徴を持つ異形はクロウを抱き歩き出した。

 

★★★★★★★

 

「んみゅ……」

 

 

『あ、気がついたみたいですね~』

 

「ん~おかあさ………違う…あの…おねえさ…?」

 

『わたしはノインって言います、あなたは?』

 

 

「ぼくはクロウ、アキツキクロウだよ……あ、あのさわっていいかな」

 

 

『く、くすぐったいです!?そ、そんなとこさわっちゃだめ?だめですぅ!?』

 

目を覚ましたクロウがみたのは独特なフォルムの紫紺色のバイク…何よりも声が母親と似ていると感じ恐る恐る触るとくすぐったいのかライトを点滅させるノイン…

 

「ん~ノインおねえさ、おかあさと声が似てる……」

 

 

『(ギク!)ソ、ソンナワケナイデスヨ…それよりクロウ、なんでこんな危ない場所に?』

 

 

「…あまぞんとモグラのおうちに遊びに…」

 

 

(………あまぞん?モグラ?………)

 

ライトを明滅させ考え込むノイン…クロウはあまぞん?モグラ?が祖父の代からつづく《トモダチ》だと教えていく表情は眩しいばかりの笑顔を見ながら、大切な友人だと理解した

 

「この前はビクトルおじさん、マサヒコおじさんがラス君たち?をつれてきてくれたんだ。あ、ラス君たち、少し顔はこわいけど、すごくやさしいんだ……あ、写真があるから見せてあげる。はい」

 

 

『……………コレがラス君たちですか……(コ、コワイデス!すこしどころか、マスターのラウズカードに封印されてるアンデッドよりコワいです~)』

 

 

ノインの目には、マサヒコ?ビクトル?と共にラス君………《ラストバタリオン》の面々と仲良く遊ぶクロウ…バスケ、サッカー、野球を楽しみ、一緒に昼寝する姿が収められた数々の写真、最後の一枚には指をある形に構え皆で取った一枚を見終え、暖かな気持ちになっている自分に気づいた時だった

 

 

「…ふ~、なんとか戻ってこれた。ノイン、あの子は?」

 

 

『お帰りなさいマスター、クロウなら目を覚まさしましたよ』

 

 

「……おじさん、誰?」

 

 

森の奥から現れた、黒い髪に青のジャケット、ビンテージのジーンズ姿の青年をみたクロウの何気ない一言に少しダメージを受けた様子だった

 

 

「………あはは。まだ《おじさん》じゃないからね…

あ、自己紹介まだだったね。俺はカズマ、カズマ・ケンセイ。よろしくねクロウくん」

 

 

紫紺の切り札《カズマ・ケンセイ》と後の十代目オウガ《クロウ・アキツキ》との出会い…コレが《切り札》へと繋がるのか?

 

 

 

 

 

 

第二十二話 魔皇ー紫紺の切り札ー(クロウside)前編

 

 

 

 

 

後編に続く



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第二十二話(裏) 魔煌/落涙

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


むかしむかし、たくさんの《王様》達がいました

 

来る日、来る日も争いを続けていた王様たち。そんなある日のこと。《遠い国》から《黒い魔王》が《12匹の魔獣》を引き連れ現れました

 

…今までいがみ合っていた王様たちは《三人の王様》《黒の一族》《魔女》の呼びかけと民たちの声を聞きようやく手を取り、黒い魔王と12匹の獣に戦いを挑みます。でもあまりにも無力でした。

 

次々と王様たちは倒れていき、三人の王様、黒の一族、魔女たちの心に諦めの色が見えようとした時、空に不思議な文字が流水のようにあふれ出しました

 

ーマ、マキイクス!ヌジニクヌスキイニヌイル!ー

 

 

《遠い遠い国》から、《鋼色の鎧に身を包んだ騎士》が鎧の馬にまたがり《大きな剣》で獣達を蹴散らし、一体を真っ二つに斬り捨てる姿に息をのみました

 

 

 

自分たちが力を合わせて、一体をやっと退けられる獣を一太刀で倒した騎士…三人の王様、黒の一族、魔女はある少女が予言した《獣を狩る騎士》だと気づきました

 

 

しばらくして騎士は三人の王様、魔女、黒の一族に乞われ力を貸し、共に手を取り黒い獣を瞬く間に追い詰め切り払い、遂に黒い魔王と対峙しました

 

 

ーヌクキツヌ《マキイクス》、ヌリピァエ、クリスス、ヌリミイ、ヌクズルク、ヤヌスキイカラヌリヲクイキテリツハ、ニニコルマドダー

 

 

 

…でも、黒い魔王の力は騎士に《記憶と命を蝕む呪い》を与え苦しめ、今まで傷一つ負わなかった鎧を砕くと、何度も何度も叩き伏せ血を流す騎士をみて…三人の王様、魔女、黒の一族も助けようとしました

 

 

第二十二話(裏) 魔煌/落涙

 

 

 

「ねえ騎士様は負けてしまうの?」

 

 

「フフ、せっかちね…すこしお茶を飲みましょうか」

 

「………うん。でも早く続きを聞かせてね」

 

残念そうな顔をみせ反対側の椅子に座るのをみて彼女は本を閉じると、それに併せて真っ黒な使い魔達が持ってきたティーポット、カップを手に取りそれぞれに注ぎクッキーを真ん中へ置くと少し熱いのか冷ましながら飲む姿に少し笑いながら飲む。しばらく紅茶を楽しむと少女は彼女の膝に座ると再び絵本を開き語り始めた

 

 

三人の王様、黒の一族、魔女は力の限り《黒い魔王》に戦いを挑みます。でも力が違いすぎて追い詰められていきます

 

でもその瞳からは諦めの色は見えません。傷つきながらも立つ王様たちでしたが、遂には力が尽きかけようとしたその時、奇跡が起こりました

 

 

白く煌めく炎を体からあふれ出させながら、ボロボロの騎士が立ち上がり瞬く間に鎧が元に戻り、鋼色から白金の色へ輝きはじめ、天から《光り輝く牙》が現れ迷わず掴むと《大きな弓》が構えられ力いっぱい引き絞りねらいを定めながら叫ぶとうち放ちました

 

ーアギュレイス!ヌワネヤムニカイリ!!ー

 

《光り輝く牙》に貫かれ白金の炎が灼く中、黒い魔王は不吉な言葉を残しました

 

 

ーヌ、ヌリハクヌルズヌヌガヌル……クスメハヌグクイクラヌリ……マキイクス、スブツハムヅヨ……スヌッキクス…ヌリラヌクツヨ……グガアアアアアアアアアー

 

 

こうして、黒い魔王と獣は騎士と、三人の王様たちに倒されました……しばらくして皆の前から騎士が姿を消しました

 

騎士が何処へ消えたのか?それは誰もしりません

 

 

ただ一つ確かなのは、黒い魔王が再び現れたとき、必ず現れ獣を剣で切り裂き人々を守る《希望の騎士》が再び現れることを

 

 

「………騎士様はどこに行ったの?本当にいるの?」

 

 

「…この本は、千年以上前に実際に起きたことを私たちのご先祖様が絵本で伝えてるの。騎士様は本当にいて病気で苦しんでいた曾曾祖母様を助けてくれたんだよ」

 

 

わたしの言葉に驚く孫の顔を見ながら思い出すのは、黒いコートに身を包んだ黒みがかった紫髪の青年が病に苦しんでいた曾祖母様を介抱する記憶…

 

 

ーしっかりしろ、気をしっかりもて…キリク、コレはやはりアギュレイスの呪いか?ー

 

 

ー間違いない。あの野郎~封印されてもひっけぇな!だが《アムリタの甘露》で少し時間がかかるが浄化できるんでぃー

 

 

ーアムリタの甘露か…調合はさほど難しくないかな。キリク、材料を頼めるかな…安心して古き友クロゼルクの血を引く子。僕が必ず助けてあげるー

 

 

(騎士様…いえ秋月タカヒト様、あなた様に祖先を救っていただいたおかげで私たちは生きていられます……この恩は必ずお返しします……でもあなた様はお礼を言われるのはお嫌いでしたよね)

 

 

ー待ってください!せめて…ー

 

ー………僕は古き友クロゼルクとの約束を果たしたまでだよ……アギュレイスの呪いはもう消えた、あとは光ある未来を歩むんだー

 

 

ー……でもー

 

ー……またいつか会おうー

 

 

(……あなた様は最後まで気づかなかった。曾曾祖母様は……タカヒト様をお慕いしていたのですよ)

 

 

絵本の扉絵をそっとなでる祖母…すでに妻がいた騎士《秋月タカヒト》への曾曾祖母の報われない想い。それは三人の王や、黒のエレミアに対するつもりにつもった想いも孫にも受け継がれているのだろう

 

曾曾祖母、曾祖母は渡されていた《秋月領への通行手形》を用い想いを伝えようと足を何度も運んだ…

 

運が悪いのか、亡くなったタカヒトの息子《オロ》、にも腰まで届く長さの銀髪に赤い瞳の女性《リインフォース》が、オロとリインの間に生まれた双子にはそれぞれ想い人がいた

 

しかし魔戒騎士となれるのは一人だけ。二人とも甲乙つけがたい実力を備えていた。オロは悩みに悩み抜きオウガ継承者を決める為、古の儀式《サバック》を行うことを決め、訪れていたクロゼルクの血を引く彼女に立会人となってもらい、その結末を見届けた……

 

 

ーウ、ウ!?ー

 

ー………に、兄さん!なんで…《鷹鷲(オウジュ)》兄さんなら僕の剣を…ー

 

 

ー……ち、違う…お前の実力だ…俺の剣を破ったのは…父上、オウガ継承者は我が弟《狼真(ロウマ)》を推挙します!ー

 

 

ずたずたにされた筋肉、骨が砕けあらぬ方向へ向く両腕から血を滴らせながら父オロに自身の弟《狼真》を推挙する《鷹鷲》…いつも、見守るだけだった…魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師の道を進み人を守るために命を削る

 

愛する人に先立たれ悲嘆にくれ、それでも魔戒剣を、魔導筆を振るう姿

 

 

ー人殺し!ー

 

ー返して、あの人をかえしてよ!!ー

 

 

ー狼の化け物!ー

 

 

ー悪魔の使いめ!去れ!!ー

 

 

鎧を纏い剣を振るう騎士、法師に心を傷つける言葉ばかりを人々から投げかけられるばかりで報われない

 

……聖王女、覇王、冥王、エレミアの活躍に隠れた騎士《魔戒騎士秋月オウガ》の血を引く子孫がホラーを封印、甦る度に戦い勝利したからこそ得られた平和なのに…見て見ぬ振りを安穏とした生活を送っている

 

彼らは秋月の魔戒騎士を忘れてる…許せない

 

 

私は覚えてる…お婆さまから三人の王とエレミアを恨んだらいけないといわれてた

 

でも、我慢はもうしない。オリヴィエ、クラウス、エレミアの血を受け継ぎ、彼にベタベタする他の二人に渡さない

 

 

「…………秋月タカヤ……彼はワタシのモノ……」

 

プチデビルズの目を通してみる彼…秋月タカヤをみる度に胸がドキドキする。今夜に開かれる演奏会がワタシの、ううんクロゼルクの悲願達成につながるはず

 

「恩知らずの王達と違って…魔女は助けられた恩は返す、ついでに…」

 

 

……彼をワタシだけの騎士さまにする…小さく心の中で決めプチデビルズに命令を伝え、部屋の明かりを消し外へでる。もちろん絵本も忘れずに

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「……」

 

「ジーク、どうしたの最近様子がおかしいわよ?トレーニングも身にはいってないし……何かあったの?」

 

 

薄い暗がりの中、膝を抱えうつむく少女《ジークリンデ・エレミア》に親友にしてライバル《ヴィクトーリア・ダールグリュン》の声に身体が微かに震える…

 

 

「……なんでもないんよ……調子悪いだけやから……大会までにはしっかりするから」

 

 

もう何度目かになる答えを口にするジークにヴィクトリーアには思い当たる節があった。数日前にタカヤとのお見合いの日から様子がおかしかった

 

あんなに嬉しそうに笑ってたのに。それなのになぜ…

こんな状態は初めてあった頃とよく似ている

 

「ねえジーク、今夜時間あいてるかしら?」

 

「……あいとるけど」

 

 

「なら、聖王教会で開かれる演奏会にいかない?バイオリニスト《ワタル・クレナイ》が特別招待されているの。どうかしら無理ならいいけど」

 

 

「……ええよ」

 

「わかったわ。じゃあ今晩迎えにくるわね」

 

 

コクリと頷くジークをみてヴィクトリーアは支度のためにテントからでて屋敷へと歩いていく。少しでも元気になってもらいたい、親友いやライバルとして願いながら演奏会へ誘ったことが過去から続く《光》と《闇》の戦いへと巻き込まれてしまうことを知らなかった

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

『…………ねぇ…聞いていいかな』

 

黒く染まったオウガの鎧…胸から全身に巻き付いた《鎖》が弾け飛びタカヤの声が響きわたる。蝙蝠を想わせる翼と胸に怪しく輝く《魔石》から命を対価に力が溢れ世の理が変わっていく光景

 

『イギャアアアア!?』

 

その鋭く曲がった爪は水瓶座のホラーの頭部に食い込まさせ、骨が徐々に砕ける音が響く、もがき暴れるホラーから血が舞い月を赤く染めあげる

 

 

『……キミはボクの事を知っているんだよね……教えてよ……』

 

 

『イビャアアア!?』

 

 大きく開いた顎で首もとへ噛み付き引きちぎり咀嚼と共に吐き出す。狂気の色に染まる瞳を細め、背中から伸びた尻尾と同化した剣斧を何度も何度もその胴体を何度も、何度も刺し貫く

 

 

『ねぇ答えてよ………君が答えるまで続けるよ……何度でも』

 

『グ、ギガアア!た、だすげてァ、アルダーざまあああ!?』

 

 

虚無の中にある狂気を孕んだ言葉に身を凍らせるアクエリアスは必死に助けを求めるもアルターは答えない…胸にある宝石から血管にもにた何かが侵食。ついに六対の黒い翼が現わし一方的に蹂躙を続けるオウガ

 

 

…聖王女の少女は変わり果て狂気に満ち溢れた姿に言葉を失い

 

 

…覇王の少女は受け継いだ記憶にない姿に身をこわばらせる

 

 

…夜天の主に近しき少女は自分が知る少年とは違うこと、苦しむ姿をみる

 

 

…魔女の少女は絵本を握りしめ、助けようと使い魔に命ずる

 

 

…黒の少女は膝をつき、人目をはばからず涙を流し地面を濡らす

 

 

…少女達を見守る彼女は少年がひた隠しにしていた《事実》に絶望する

 

 

…少年の相棒は無残に砕け、魂無き抜け殻を地面へさらす

 

 

…母は息子の身に起こっていることに今まで気づかなかったことを深く後悔する

 

 

 

「キバット!あれは、タカヤ君の鎧の胸の石はまさか!?」

 

 

『間違いない、ありゃあ《魔皇石》だワタル!このままだとタカヤのライフエナジーが吸い尽くされて死んじまうぞ!!』

 

 

第二十二話(裏) 魔煌/落涙

 

 

 




次回より本編再開!


……魔戒用語

《サバック》

太古の昔、ホラーと戦う騎士を一人だけ選定するために行われた試練。ただしホラーと戦うのは死会う相手達の命を奪い生き残った一人のみを決める

やがて魔戒騎士が誕生してからは試練で命を落とした戦士の崇高な御霊を慰める試合となった

ルールは相手の身体から血を一滴でも流させることで勝敗が決まる。なお黄金騎士および牙狼の称号を持つ騎士は参加は出来ない


六代目オウガ継承者《秋月オロ》は双子の息子が騎士として甲乙つけがたい実力を備えていた事に悩み、サバック方式を取った…

だが結果的に、兄《鷹鷲》は両腕を再起不能にまで破壊され、騎士の道を閉ざされたが弟《狼真》を魔戒導師として支えアギュレイス封印の際に弟をかばい致命傷をおいながら、騎士になれなかったこと、再起不能にされたことを恨んでいないと言い残し《守りし者》としてその命を全うした

秋月の魔戒騎士、法師の体術は鷹鷲が完成させ今でも受け継がれている











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第二十二話 魔煌ーKIBAー(クロウside)後編☆

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「じゃあ、クロウくんは友達に会いに一人で来たんだ…」

 

「うん!でも道がわからなくなっちゃて…カズマお兄さとノインお姉さはなんで《デュクイズヌの森》に?」

 

 

「じ、じつは俺も迷っちゃったんだ…」

 

 

「そうなんだ。カズマお兄さ、もうすこしたらアマゾンのお家だよ」

 

 

クロウ君を肩車し話をしながら俺はアマゾンとモグラのいる場所へ歩きながら数分前に聞いたことを思い出した

 

 

ークロウ君、今、新暦何年かわかるかな?ー

 

 

ーいま?…………えっとね…ことしでしんれき85ねんだよ。どうかしたのカズマお兄さ?ー

 

 

ーな、なんでもないよ。じゃあクロウ君のお友達の居る場所へいこうかー

 

ーうん!ー

 

 

……笑顔のクロウ君を肩車しながら考える。でも今がクロウ君の言うとおり今が《新暦0085年》で間違いないなら250年余り前、タカヤ君がまだ生きている世界にタイムスリップして来てしまった事になる

 

 

 

 

あの時、オレを包んだ光の原因を考え真っ先にアイツ《剣崎一真》が浮かんだけど過去にオレを送る必要があるのだろうか?アイツがこんな手の込んだ事は絶対しないハズ。他の可能性を探っているうちに大きな樹齢千年を越える巨大な樹の根元にたどり着いた

 

「カズマ兄さ、少し待っててね……スゥ~~ア~マ~ゾ~ン、モ~グ~ラ~あそびにきたよ~」

 

 

クロウ君の声が何度も木霊する…すると足元がモコモコ盛り上がり勢いよくモグラを人間大にしたナニカか飛び出してきた

 

「チュ~チュチュ~クロウ、ひさしぶりだなあ。今日はお父さんと一緒じゃないのか?」

 

 

「え、えっとね…おれ、お父さときてないんだ…ひとりで来たんだ…でもカズマお兄さとノインお姉さときたから二人、三人かな」

 

「カズマ?ノイン?クロウの新しい《トモダチ》か?」

 

 

「うん!《トモダチ》だよ」

 

 

胸の前で指と指をあわせるクロウ君、もぐら?さん?…別な方向から風を切る音と一緒にマダラ模様の民族衣装姿の青年が現れオレをじっと見てる

 

 

「ムラサメ・か?」

 

 

「アマゾン、カズマお兄さだよ……リョウお兄さと似てないよ髪型とか、背も高くないし」

 

ウ?いまのはきいたなあ~確かに背は伸びてないけど

 

 

「そうか、クロウ。今日、は、どうした?」

 

 

「あそびに来たの!あとアマゾンとモグラにコレを」

 

クロウ君が服からだしたのは不思議なメダル…鷹、孔雀、コンドルのレリーフが掘られた赤いメダル。それを不思議そうに手にとるアマゾン

 

「クロウ、コレ、どうしだ?」

 

 

「いつもケーキをくれる《コ~ガミ》おじさんにもらったの。『アマゾン、モグラ君達が来て五十年だからね、その記念だよ』って……」

 

「そうか、ありがとう、クロウ…お父さん、心配して、ないか?」

 

 

「お父さ、《すかりえってい》ってひとにあいにいってる……さいきんあまりかえってこないんだ…でもお母さ、お父さかならず帰ってくるって笑ってまってるんだ…だからオレもしんじてるんだ」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「また君かね。私はこうみえて忙しいのだがね…」

 

 

「今日はスカリェッテイさんにお願いがあって」

 

 

「この私にお願い…ククク。君からお願いとは珍しい何かね?手短に頼めるかな」

 

 

「………このデバイスを治して欲しいんです。あなたなら可能なはず何です」

 

 

ひび割れた腕時計…格子越しに手渡されたのを目にし黙り込む男…稀代の天才にして広域次元犯罪者《ジェイル・スカリエッティ》。黒と白の髪が目立つ青年《秋月タカヤ》はさらに続ける

 

「……アキツキの技術開発チームでもAI人格のサルベージは不可能でした……」

 

「あのアキツキが誇る技術陣すらも匙をなげたから私に頼るか…私を何でもできる都合の良い技術者、いや魔法使いと勘違いしてないかね?」

 

 

「…そんなことないんです。アークの人格を元にしたデバイスを作って欲しい…僕とーーーーーの子のデバイスをあなたに…妻の力を受け継いだクロウの為に…」

 

 

「………」

 

 

『秋月様、時間です』

 

 

「……すいません。もう時間が来てしまいました……今度会うときまでアークを預けます………スカリエッティℵ/∮さん」

 

タカヤが面会室から出て、一人残されたスカリエッティ…手にしたアークに目を向けた。ひび割れた腕時計内部にあるAIコアの損傷は甚大、だが彼の手にかかればサルベージはおろか、それ以上のモノへと作り替えることができる

 

しかしそれ以上の興味が彼を支配していた

 

「………私を《義父》と呼ぶか……ククク…悪くない…」

 

そうつぶやき拘置所内にある独房へ刑務官を伴い歩き出した

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「むう~、また負けた」

 

「ははは、クロウくんにはまだポーカーは早いか」

 

 

「……つぎはボクがかつ……」

 

大きな樹の株の上には数枚のカード…家が壊れたため二、三日ここ、アマゾンのすむ森に預けられたクロウくん。外はあいにくの雨、家の中で遊べるゲーム《ポーカー》を二人ではじめてから一時間。最初は負けてたクロウくんだったけどはやっていくうちに強くなってきた

 

でもそれ以上に驚いたのは今ポーカーに使っているカード…ラウズカードの声を聞けるって事。特に♣のカテゴリーK嶋さんとよく話しかけたりしている。それに

 

ーあの子は私たちの声を《心》で聞けるようだ。不思議な…まるで太陽の暖かさを感じるー

 

他のラウズカードにも話しかけているらしい。反応は様々だけど…特に

 

ートラのお姉さ、少しよごれてるからキレイキレイしてあげるー

 

 

ーわ、わたしはトラのお姉さじゃな…あん…そんなとこ擦るな!ダ、ダメ…敏感だからやめ……んん!?みんなにきかれちゃ…っつ~!?!?ー

 

 

ー?お父さがお母さとお風呂にはいってるときの声に似てる…気持ちいいんだー

 

……クロウくん、あんまり弄ったら!?ま、まあ少し話は脱線したけどラウズカードに封印されているアンデッドたちの大半がトモダチになってるらしい…嶋さんは「将来どんな風に成長するか楽しみだ」と言ってたの思い出しながらラウズカードヲシャッフルしていると話しかけてきた

 

「カズマお兄さ、ポーカー何でそんなに強いの?」

 

「……ポーカーは相手に自分の思考を読まれないようにしながら手札を揃え勝負するゲーム。でもそれ以上に勝敗を左右するのは運。最後に勝つための《切り札》をつかむ事なんだ」

 

「……切り札?」

 

 

「切り札を掴むことは勝運を引き寄せる事につながるんだ。その一枚が絶望的な状況を変えることも…まだクロウくんにはわからないかな」

 

「…切り札…じゃあボクも切り札をつかんでみるよ。そしてカズマお兄さにもポーカーでかつ」

 

 

「その意気だ、じゃあオレからコレをクロウくんにあげよう」

 

「これ、らうずかーど?でもみんなみたいな絵?がないよ」

 

クロウくんに渡したのは未使用のブランクカード。すべてのアンデッドを封印した今では使うこともない、首を傾げてじいっとみながら訪ねてきた

 

「絵がないのはクロウくんだけの切り札って意味なんだ」

 

 

「………ぼくだけの切り札……ありがとうカズマお兄さ!」

 

…まぶしい笑顔だなもう、でも赤い髪にピンっとたった癖っ毛、金色の目が誰かと面影が似てる…もう会うことが出来ないけど今でも心の中に焼き付いているノーヴェちゃんと…

 

再びポーカーをはじめ、何回も負けながら諦めずクロウくんは遂にオレに勝った…すごくうれしそうに喜ぶ姿に負けたのに関わらず楽しい気持ちで胸がいっぱいになった

 

はしゃぎすぎて疲れたのかクロウくんが大きなあくびをして穏やかな寝息を立てる眠ってしまった

 

風邪を引くといけないと感じアマゾンが作った毛布にくるませベッドへ寝かしつけた時だ…手に違和感を感じ見る…光が指先から手首に広がる外に泊めてあるノインをみると瞬く間に光が包み込んでナニもなかったように消えてしまった

 

コレはあの時の光と同じと感じるも遅く、やがて意識が深い場所へと落ちていく、クロウくんの泣く声を最後に感じながら意識を失った

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

『……くださいマスター…』

 

 

「ノイン?ここは…あの時の場所………戻ってきたんだ…」

 

目の前に広がるのは250年前とまったく変わらい森…不思議な光に包まれたココに戻ってきたんだ。一瞬、夢かと考えたけどブランクカードが一枚抜けている。それにノインのライブラリーにはクロウくん、アマゾン、モグラと一緒に《トモダチ》の指文字を見せながら撮った写真がある

 

紛れもない現実…でもそれ以上にもう皆と会えない事が胸を締め付ける。クロウくん、モグラ、アマゾンとも二度と…

 

あの光はオレに何をさせたかったんだ。苦しめる為なのかと何度も自問自答しようとした。鈴の音が耳に響き人の気配を感じ振り返りおもわず呼吸が止まる

 

肩辺りまで伸ばした赤い髪片方を銀細工に似たモノで結び、黒のチャイナドレス?にも似た服に身を包んだ女の子が強い意志を感じさせる金色の目で少し不審そうにみている。ある言葉が自然と口に出た

 

「ノ、ノーヴェちゃん?」

 

「な、なんで、あたしのひいひい婆ちゃんの名前知ってんだ………っていうかさ、あんた何者?…新手のナンパかなにかか!?」

 

 

矢継ぎはやに、まくしたてるつり目で金色の目を向ける女の子…ノーヴェちゃんとよく似てる。とにかくナンパじゃないと言おう

 

「ナンパじゃないし。誤解だから…」

 

「ふ~ん。ホントにか?まあ、そういうことにしてやるか、……でさ、アタシんちの曾曾爺ちゃんの墓に何か用か?」

 

「お墓……っ!?」

 

お墓といわれよく見ると、森の向こうに石作りの白い塔が彼方に見え、少し先にある石碑に刻まれた文字に目が止まる

 

 

《第十代目オウガ継承者・秋月九狼、ココに眠る。享年251歳。生0081年~没0332年》

 

 

秋月九狼…クロウ…まさかクロウくんはタカヤ君の子…あまりのことに目の前が真っ暗になる。じゃあココはタカヤ君たち魔戒騎士がホラーと戦う平行世界の未来のミッドチルダなのか

 

 

「………あんた、もしかしてなんだけどさ。間違えてたら悪いんだけど。クロウ曾曾爺ちゃん、アマゾン爺が言っていたカズマ・ケンセイか?」

 

 

彼女の言葉にうなづくと大きなため息をついていきなりガシッと腕を掴まれた。お墓?とは逆方向、古い作りの屋敷へ引きずるよう歩き出す

 

「な!?」

 

 

「あんた…いや、カズマ。曾曾爺ちゃんさ亡くなるまでずっと感謝してたんだ…まあ詳しいナシは屋敷にいってからだ…あ、あたしの名前はーーーーーってんだ。曾曾爺ちゃんがさ《お袋と似てるから》って名前を97管理外世界の言葉でつけてくれたんだ」

 

 

「ち、ちょっと!引きずらないで!痛い、痛いから!!」

 

 

……な、なんかデジャヴって感じがする

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

現在《新暦0079年》

 

「じゃあ《白燐の牙》を手に入れないとタカヤちゃんは…あんまりすぎるわよ…ヒドすぎるわよ…教えて、白燐の牙はどこにあるの?クロウは知ってるのよね」

 

 

「…」

 

 

「答えてクロウ…」

 

 

「わからないんだ…白燐の牙は八代目オウガ継承者《秋月オウル》…曾曾祖父ちゃんが使ったのを最後に行方がわからない。でも手がかりは2つだけあるんだ、一つはスクライアおばさ……」

 

 

ー叔母さんちゃうからな~くろうちゃん。私は《お姉さん》や……つぎ叔母さんいうたらー

 

 

 

 

「………や、八神姉さんの中に溶けた《夜天の書》のリインフォースさんの記憶。あと一つはフォビア姉さんの持つ絵本《十三の黒いマモノと鋼の狼》にあるはずなんだ」

 

 

「…わかったわ。八神一佐とその絵本を持つフォビアから聞き出して、盗めばいいのね」

 

 

「…物騒な事をいわないで!?特にアリア姉さんが生きてる事知ったら八神姉さんが驚くし、盗んだりしたら親父が悲しむから……」

 

 

変なカギツメをキシキシならせながら走り出そうとしたアリア姉さんの腕を握りオヤジの名前を口にしたらシュンとなったのを見てホッとする。今の時代より四年後にみんな…おばさんたちは再会できた。

 

むやみやたらに歴史を変えたらいけない。

 

 

昔、不思議な緑色のリニア?が家の庭に墜ちてきた時にであった黒頭巾に鴉みたいな仮面をつけた変わったおじさん、そのおじさんに「デ~ネ~ブ!また勝手に弄ったな~歴史が変わってしまうだろ!!」コブラツイストをかけるユウ兄に「痛い!痛い!悠斗!子供の前でこんなの見せたらだめだ!悪い大人になってしまう!!」……ってマンザイやりながらいってた

 

デネブ兄、ユウ兄どうしてるかな?っと話がそれちゃった

 

いま、もし今アリア姉さんとお袋達が出会ったら歴史に悪影響を与えるかもしれない。それに俺がこの時代に直接的に関われるのはあと《二回》だけだ

 

 

「………白燐の牙…オウル曾曾じいちゃん、どこにあんだよ……」

 

 

第二十二話 魔煌ーKIBAー(クロウside後編)

 

 

「ん……」

 

 

《起きたかタカヤ?》

 

 

「キリクさん?あの何で僕、ベッドで……みんなの所に行かなきゃ」

 

《……ああ、それなんだけどよ。ワタルって奴からの伝言を預かってる……今日の演奏会に招待したいんだと…》

 

キリクさんがキシキシ金属を鳴らしながら説明してくれた、あの人…ワタルさんって言うんだ。すごく優しい音を奏でる不思議な柔らかさを感じた

 

でも、それ以上に懐かしい感じがした……ずっと昔に…

 

 

ーファンガイアのクィーンだな、オレの息子を返してもらうぞー

 

ーいやといったら?人間のアナタが私に勝てるというのかしら?ー

 

ーそこまでだ人間……我が妻に刃を向けるとは万死に値するー

 

 

「あ、う、う、あああ!?」

 

《どうした!タカヤ!!》

 

「な、なんでもないから……キリクさん 」

 

《………そうか。それよりだキリクさんって呼ぶのははあの嬢ちゃんたちの前で言うんじゃねぇぞ?》

 

 

「う、うん……じゃ行こうか……ナカジマ《…タカヤ》………ノ、ノーヴェさん達が待ってるだろうし」

 

(ヤレヤレ、記憶を失ってんのをバレなくするのがつらくなってきたぜ…)

 

 

毛布を畳んだ僕は軽く一礼して、部屋を出た……なんかわからないけど誰かに見られてるような気がしたけど、とにかくノーヴェさん達の所に行かなきゃ

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「タカヤどこいんだよ…ったく」

 

 

「ノーヴェさん、遅れてしまってごめん……アレ?ヴィヴィオやアインハルトは?」

 

 

「ん。今着替えてる最中だ……っていうか、どこいってんだよ?」

 

「あ、その……道に迷っちゃって…そしたら親切な人が道案内してくれて……せ、聖王教会って広いから」

 

 

怪しい…タカヤはあたしたちとよく来てるから道になんか迷わないはずだ…それになんか元気もないし……これ以上聞くのは無理だと考えたあたしは例の件を切り出した

 

 

「ならいいけどさ…あ、あのさタカヤ、今日の夜はヒマか?」

 

 

「え、ヒマですけど…」

 

不思議そうに応えるタカヤ…よし、今なら誘えるはずだ…まずい、滅茶苦茶ドキドキしてきた。勇気を出せあたし!コレはタカヤの為なんだから……

 

「き、今日の夜に聖王教会で演奏会があるんだ。有名なバイオリニストが来るって……滅多に聞けないらしいんだ……だからさ…あ、あ、あ…」

 

 

だ、だめだ、言葉が続かない……ええい!頑張れ、最近ライバルが増えてんだ。立ち止まんな!あたし!!

 

「あ、あたしと一緒に演奏会行かないか」

 

 

「いいですよ…ノーヴェさん」

 

 

「ほ、本とか!じ、じゃあ夜に聖王教会の会場で待ってるから……お、遅れたりしたら許さないからな」

 

 

言うだけ言うと、あたしはタカヤに背を向けてヴィヴィオ達がいる場所にかけだしていった…だって恥ずかしいし、目もあわせらんないぐらい顔が真っ赤になってるのがわかる

 

でも、はじめて誘うことが出来た。それだけでなんか…スッゴく嬉しくてワクワクしてるのが分かる

 

 

ーマスター、ようやく報われましたね…あとはマスターのターンが続くはずですー

 

 

ジェットも喜んでるし……これからは、ずっとあたしのターンだ…ライフ《鈍感》が0になるまで攻めるからな。覚悟してろよタカヤ

 

 

 

 

「ねえ、キリクさ……キリク。なんかノーヴェさん、うれしそうだったね」

 

 

《(気付いてないのかよ…記憶をなくしてもコレなんかい……まあ、あの嬢ちゃんにしてはよくやった方だ)……ん?》

 

 

幸せオーラ全開でファイズアクセル並に走り去った嬢ちゃんを見送った俺たちの背後にゴゴゴゴゴ!!って擬音が響く……タカヤも気付いたみたいらしくゆっくりと振り返ったら、ヴィヴィオ嬢ちゃん、アインハルト嬢ちゃんがハイライトの消えた瞳で笑みを浮かべながら立ってる

 

……まずい、ひさしぶりの修羅場になる予感が肌、いやソウルメタルにビンビン突き刺さるような怒気が二人から出てる。それに当てられたリオ嬢ちゃん、コロナ嬢ちゃんがガタガタふるえてるし

 

「演奏会ですか。タカヤさん、私も一緒に同伴しても大丈夫ですよね」

 

 

「エ?……あ、あの」

 

 

「わたしも演奏会、いってみたいなあ…世界的に有名なバイオリニスト《ワタル・クレナイ》さんの演奏は一度、聞いてみたかったんです…一緒に聞きませんか?」

 

 

「で、でも、始まるの夜だ…」

 

 

「その辺りは問題ありません。保護者の方と同伴なら大丈夫です」

 

 

「今日の演奏会にママ達とはやてさん、ユーノさんと一緒に招待されてるんです。これなら問題ないですよね」

 

 

「あ、あう……でも今日は」

 

 

「いいですよね、タカヤさん」

 

 

「もしかして、迷惑ですか?」

 

 

……ヤバい、こいつはもうチェックメイトだ。多分さっきのノーヴェ嬢ちゃんの会話を盗み聞きしてたんだろうな…しかも、短期間で完全に逃げ道を塞ぎやがってる。こういうトコはクラウス、ヴィヴィと似てやがるなあ

 

 

「め、迷惑じゃないし…」

 

 

「じゃあ一緒にいきましょう、いいですよねタカヤさん」

 

「では、待ち合わせの時間を決めないといけませんね」

 

しかも上目使い&笑顔のコンボは、反則だろう…タカヤの心にガツンと破壊力抜群だぜ…二人に首を縦に降ってるし…ノーヴェ嬢ちゃん、今回もあきらめな~まあ、相手が悪かったとしかいえないな

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

 

「………お帰りプチデビルズ…」

 

黒くて可愛いわたしの使い魔《プチデビルズ》が帰ってきた…タカヒト様、オロ様の血を引く彼《秋月タカヤ》の人間関係を調べてもらっていた。さっそく瞳を閉じて額にプチデビルズをあてる

 

秋月タカヤ…魔戒騎士であり普段はStヒルデ魔法学院《中等部》に通ってる…普段の生活はのんびりしながら、私たちを見捨てた王の子孫を守ってる

 

それ以上にエレミアの子孫と半年間一緒に暮らしてて事、二人の王の子孫、赤髪の女性から好意を寄せられてる

 

しかも今日の演奏会に三人から誘われた…もう一刻の猶予もない……あの三人から、わたしだけの騎士様《秋月タカヤ》を奪う

 

変身魔法で大人になって籠絡すればかならず堕ちる…そのための知識は万端。問題なし…

 

 

「魔女の魔法で必ず……クロゼルクの悲願をはたす」

 

 

先ずは、障害になる三人を排除する。そのためには名前を知らないと

 

少しだけ、待ってて私だけの騎士様…それからプチデビルズを再び飛ばす。もう日が暮れ始めてる森の中を歩き始める…向かうのは聖王教会

 

三人には渡さない

 

 

「………ぜったい渡さない……わたしだけの騎士様…」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「あ、あの……ノーヴェさん」

 

 

「なんか用かぁ?タカヤ。羨ましいなあ~両手に花ってさぁ~」

 

 

「こ、これは何というか……その、あの」

 

 

あう?なんかすごく機嫌悪い…両手に花って持ってないし、ただジイイイッて今座っている僕の両隣、アインハルト、ヴィヴィオを羨ましそうに見てる

 

「すごい、月と星を背景にするなんて……」

 

 

「最初の曲目は何か楽しみです…」

 

 

「あ、あの二人とも、あんまりくっつかないで?」

 

「あの、アキツキさん困ってますよ。また鼻血出しちゃいますよ」

 

笑顔でパンフレットを見ながら身体を寄せる度に甘い香りがしてくらくらする。なんでこんな事になったんだろ…待ち合わせの場所にきたらノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルトの三人が待ってて、ただならない空気に演奏会会場で入場開始まで待つ人たちが気圧されてて

 

 

ーあ、あのノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルト。どうしたの?ー

 

 

ーなあ、タカヤ……説明してもらえるかな?ー

 

 

……背中に阿修羅……いや鬼を浮かばせながら聞いてきた……なんとかなだめたんだけど、誰が隣に座るか揉めちゃって結局、ジャンケンで勝負をして決まったんだけど僕の隣にヴィヴィオ、アインハルト、その隣にノーヴェさんになった。途中でヴィヴィオのお母さん、八神さんと一緒にきたミウラくんも混ざってこんな席順に

 

「あ、あの…」

 

 

助けを求めようとしたらぷいって、そっぽをむかれちゃった…何故かミウラ君から黒い何かが見えた気が…ダメだ。ノーヴェさん機嫌が直らない、どうしたらいいんだろ

 

 

「ミウラ~頑張りや~………ええなあユーノくん、両手に華、いや禁断の果実に包まれんのは男の夢やもんなあ~((怒))」

 

 

「は、はやて、怒らないで?くじ引きで決まったんだから」

 

 

「ユーノ君、お休みとれて良かったね。それでなんだけど今度のお休みに地球に行かない?お父さん、お兄ちゃんがあいたがってるんだ」

 

「なのは、抜け駆けは駄目だよ…あの、今度お休みがとれたらエリオとキャロと一緒にお母さんに」

 

 

(………羨ましいなあ~もう……ってやばいやん!?なのはちゃん、フェイトちゃん抜け駆け禁止、禁止やあ!?)

 

少し離れた場所で同じ事が起きていたのを僕は気付かなかった…やがて開幕を告げる声が響くと照明が消え星と月の明かりに照らされたステージに昼間、僕を助けてくれたワタルさんが中央に立った

 

軽く一礼、バイオリンを構え静かに奏で始めた…繊細で柔らかな音色が会場に満ちる…身体に染み込むように響く度に胸の奥が熱くなる…ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラくん、ノーヴェさんも奏でる旋律に身を任せている

 

演目の曲目全てが終わると、一斉に席を立ちワタルさんへ拍手を送ると、深く一礼し再び構えた…もう終わりのはずなのに

 

「あ、ありがとうございます。次の曲は《ある騎士》の為に弾きます……名前はまだ決まってないですけど、聞いてください………」

 

 

一瞬、僕に目を向けてから、目を閉じゆっくりと弾きはじめた…周りの人達も姿勢を正し奏でる旋律に耳を傾けた

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

曲調は最初は静かに、ゆっくりとまるで旅立ちに赴く騎士の姿が見える…何故だろう。なんか懐かしく感じる

 

旋律が流れる度、風を切りながら黒い魔物を斬り払い舞いのように剣を振るう姿…いや彼の姿を僕は知ってる………あれは…

 

 

「キャアアアア!!」

 

盛り上がりを見せた旋律の変わりに悲鳴があがった…まわりの人達がざわめきだした…まさか

 

 

《タカヤ!ホラーの気配だ!!》

 

キリクさんの声に、僕の中で何かが切り替わる…まるで別な誰かに変わるように、自然に口が開いた

 

 

「ノーヴェさん、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラくん、今すぐ安全な場所に逃げて!!」

 

 

それだけ言うと、僕は駆け出した…向かうのは悲鳴が聞こえた場所…逃げ惑う人達をよけ辿り着いた

 

 

「ようよう!遅い到着で……さて、ショータイムダアアアア!!」

 

身体中に鎖をつけた皮ジャン?に至るとこにピアスをつけた人が耳元まで裂けた唇から舌を伸ばしながら見てる…ここで魔戒剣斧を抜いたら人目に付くし混乱を招くかもしれない

 

《タカヤ!ヤツをココから離れさせるぞ!》

 

 

「うん…はああ!」

 

 

構えると同時に殴りかかる、でも腕で防がれ返す手で手首をつかまれ、ぐいっと引き寄せられ頭突きを受け火花が舞う。我慢し逆に両手で頭をつかみ膝を顔面に入れる。宙を舞うのを見逃さず胴へ蹴りを入れようとしたとき、何かが現れた…いや二人を盾に代わりにしている。それに盾にされた一人は魔女みたいな格好をした女の子、残る一人は知ってる顔

 

 

「動くなよ。動いたら……喰うからなあ……魔戒騎士……?」

 

 

「……………」

 

「タ、タカヤくん…っ」

 

 

黒のジャージ姿のツインテールの女の子………最近知り合ってたエレミアさん…なぜかわからないけど僕から視線を逸らした

 

 

 

第二十二話 魔煌ーKIBAー(クロウside)

 

 

 

 

 

 

 

 




キリク
《光と共に喪われていく想い。鎧もまた輝きを無くしていく…止めろ、それ以上言うな!次回、落涙ーナミダー……明かされる真実!!》


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第二十三話 落涙ーナミダー

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「………二人を離せ……」

 

 

「……お?まだ《記憶》は残ってるみたいだな秋月の魔戒騎士…お前を探してたらコイツら『エレミア』、『クロゼルク』までいるとはな……さてさて~クイズだ、俺は今からなにをするでしょうか?ホオォオオ!!」

 

 

「……………」

 

 

タカヤ君は無言のまま、手にお札を数枚取りかまえた。私らを捕まえてる男の人の唇が耳まで裂けて、真っ赤な舌を身体に這わしてきた。いや、いや気持ち悪い!?隣の女の子にも血走らせた目で見るこの人はまさか、おばあちゃんが昔話してくれたホラーなん!?

 

 

「さ、さわらないで……プチデビルズ」

 

 

「無駄だよ~クロゼルクの魔法は効かないんだよ!!学習しろよ……」

 

 

ーピギャ?!?ー

 

 

「……あ、あ……プチデビルズ……」

 

 

ふわふわ浮かぶ不思議なツボがスゴい速さで男の人…ホラー?に襲ってきたプチデビルズ?を弾き飛ばしてく……ソレよりも私は…

 

ーいまだ、タカヤ!!ー

 

 

「………月光転移符!!」

 

赤、白、黄色、いろんなお札が月の光に照らされた瞬間、逃げる人たちの姿が消えた……ううん、演奏会場とは別な場所。無数の見たことない文字がいろんな方向から流れてる。今は早くタカヤ君止めないと

 

 

「やりやがったな秋月の魔戒騎士………」

 

 

「………二人を「………もう、もうやめてや…タカヤ君」……エレミアさん?」

 

 

剣を抜こうとしたタカヤ君の手が止まる…隣にいる子も疑問の込められた瞳を向けてる。お願いや、もう戦わんといて……コレ以上魔戒騎士として戦ったら……

ダメや

 

 

第二十三話 落涙ーナミダー

 

 

《気をつけろタカヤ、奴は上級ホラー・アクエリアス……希望あふれる乙女の血と肉を練り込んだ邪神をまつる器をゲートに出現したようだ………姑息な手と術が得意だ、油断するなよ》

 

 

「………うん……キリクさ…キリク」

 

 

慌てて言いなおして、僕は魔戒剣斧を鞘から抜く…あのホラーから二人を助け出さないといけない。でもさっきのエレミアさんの言葉が気になる……エレミアさんとは数日前に《初めて》あったばかりなのに。なんでか分からないけど、僕が戦うことをやめさせようとしてる

 

わからない…でも今は

 

 

「ハアアッ!」

 

「しゃらくせえ!くらいなああああ!!」

 

地面を蹴った、まずは二人を掴んでいる手を狙いつつ返り血を浴びせないよう助けないと…口を大きく開くと舌を鋭利な槍に変えつつ、変な液体を浴びせかけてくる。ぐいっと身体をひねりかわすと同時に間合いを詰め右手に剣斧、左手に鞘を握り交差させ切り払う角度を定め斬りつけた。血飛沫が舞うとたまらず二人をつかむ手が緩んだのを見て素早く抱き寄せ、力いっぱい顔面を蹴る、その反動を利用して距離を取った

 

 

 

「ぐ、テメェ……よくも(………クロゼルク、エレミアに《アレ》をうまく刻めたな…すべてはアルター様の計画通りだ……ククク)」

 

 

「エレミアさん、あと……「……ファビア・クロゼルク」………クロゼルクさん、この結界から出たらダメだよ……」

 

 

「………わかった……」

 

「ま、まってタカヤく……」

 

 

魔女の帽子をかぶった女の子、クロゼルクさんとエレミアさんを界符で作った結界に入れ、再びホラー・アクエリアスに剣斧を向け構えた……《月光転移符》は一般人から魔戒騎士とホラーを空間ごと隔離する技、でも相手が人質をとってたら意味がない。それに《内なる魔界》に限りなく近い性質を持つから一度迷ったら一般人は二度と現実世界に帰れなくなる

 

月光転移符は時間制限もあるから急がなきゃ。剣斧と鞘を握る手に力が籠もってく

 

 

「……なあ、魔戒騎士?お前の記憶はドコまで残ってる?」

 

 

《タカヤ!奴の言葉に耳をかすな!今はコイツを倒して嬢ちゃんたちを守るんだ》

 

 

「うん!」

 

 

踏み込みと同時に構えた鞘と剣斧で切りかかる、斜め上段と返す手で打突、さらには蹴りを織り交ぜながらひたすら叩き込んでいく

 

「へぇ、やるじゃないか?さすがは秋月の魔戒騎士だな…でもな」

 

 

「うわっ?」

 

 

「…俺様を此処に誘い込んだのは間違いだったようだな!!」

 

 

風を切る音と一緒に背中に強い衝撃がくる。たまらず剣斧を取り落としかけた。でも何とか耐えた僕の目に映ったのは血のように真っ白な 壺が取り囲むよう浮かんでいるのを、アクエリアスはにんまりと笑った瞬間、弾丸のような速さで襲いかかっくる

 

「うっ!ぐあっ!……かはああああ?!」

 

 

蹴り砕き、殴り、剣斧できり払う。でも数が多すぎるし、速度が増していく…何個が僕の身体へぶつかると全身から力が抜けていく感覚におそわれた、真っ白な壺がみるみるうちに真っ赤な壺へ変わりアクエリアスの元に帰って行くと手にしニヤニヤ笑っている

 

 

「……たっぷり吸ったようだな~魔戒騎士の血で染め付けた壺は色鮮やかだな~」

 

 

《な、バカな魔法衣の防御を抜けただと?(前に封印した時より強くなってやがる!こんな事が出来るのは、死んだはずのアイツしかいない)……タカヤ、気をつけろ奴は前にオウルが封印した時よりも強くなってやが……どうしたタカヤ!?》

 

 

「う、うう!……あ、ぐあっ…うううっ」

 

 

「痛いか?痛いよなあああ~我が代行者《アルター》様の刻みし刻印は……さて、もう終わりだ秋月の魔戒騎士、お前を倒せば邪魔な三人の魔戒騎士も死ぬ……楽には死なせねぇ。全身の血を俺様の壺に吸われて干からびちまいなあああ!!」

 

 

耳元まで口を避けさせ叫ぶアクエリアスの命令に応え、数百の純白の壺が一気に襲いかかる…うずくまるタカヤの腕、脚、背中へにぶつかり瞬く間に真紅に染まっていく、痛みに耐えふらふらしながら剣斧で切り払うタカヤ…剣を振るう度に大事な何かがステンドグラスが砕けていくように消えていく

 

 

ーあの、アキツキさん、ボクと手合わせしてくださいー

 

 

ータカヤさん、今度、プールに行きませんかー

 

 

ータカヤさんは黒もですが白も似合いますね…ー

 

 

脳裏に浮かんだ碧銀の髪の少女、金髪の少女、、元気いっぱいな少女三人との思い出…さらに顔が影で見えない…タカヤにとっての懐かしく大事な思い出が剣斧を振るう度に消える。

 

 

ータ☆☆・ア#∀-/。Stヒルデ魔法学院中等部一年。間違いないよな?ー

 

 

「う、うう!はあああああ!!」

 

 

赤い髪に金色の目で見る女性と初めて会話した出会いの日もひび割れ消えていく…なにかすごく大事な何かを忘れたと感じた時、わずかに剣を振るう手が遅くなる、それを見逃さんとばかりに純白のツボが剣戟の間を抜けた

 

「しぶとく頑張ったみたいだな、褒美だ真っ赤な血を撒き散らして死になあああ!!」

 

 

アクエリアスの声に応え純白の壺は瞬く間に鋭利な刺を生やし喉元まで迫る

 

 

「タカヤくん!」

 

 

「……!?」

 

 

陣の中にいるジーク、ファビアは思わず声を上げ、目をそらしたと同時に何かがぶつかり激しい振動音が鳴り響いた、恐る恐る目をあけみるとタカヤの胸元に鋭利な刺を生やした壺が何かに行く手を阻まれている。その何かはキリク。ソウルメタルでできた身体で必死に鋭利な刺を防ぐ姿

 

《ぐ、か、かあああ……》

 

 

「キリク!」

 

 

《タ、タカヤ…いまだ……鎧を召喚しろ……嬢ちゃん達を連れていくんだ》

 

 

「でもキリクが」

 

 

《でもも、へったくれもねぇんだよ!いいか、オレの言うとおりに…………………するんだ》

 

 

「……出来るの!そんなことが?」

 

 

《ああ、あの黄金騎士《牙狼》も使った手だ……》

 

「ち、魔導具風情がああああ!!」

 

 

《ここは俺様に任せろ。早く行ってこい!!カアアアアアアアアア!!》

 

 

「う、うん……キリクも無茶しないでよ!」

 

タカヤの問いに軽く身体を揺らすのを観てジーク、ファビアがいる防御陣に向かうのを見届けキリクは体内に蓄積された地獄の業火《魔導火》を全身に吹き出させタカヤを追おうとする壺へ体当たりし砕く

 

しかし…

 

(がらにもねぇことしてるなあ~タカヤが嬢ちゃん達を連れて行くまで持ってくれよ)

 

 

炎を吹き出すキリクの身体には微細な亀裂が広がりつつある…先ほどの壺からタカヤを守るために受けた際の傷…

 

(レイジには感謝だな。修繕と補強してもらわなかったら今頃、こうやって動けなかったしな)

 

 

「魔導具が死ねや!!」

 

 

《な!しまっ》

 

怒り心頭のアクエリアスの手に掴まれたキリク…身体のひびがさらに広がりを見せていく。両手でつかむと雑巾絞りの要領で締め上げていく

 

 

「無様だな。元は俺たちと同じホラーなのによ?《ガジャリ》の野郎の余計なお節介で餌に味方する奴らが出てきた……餌に味方するホラーの代わりに手前をまず始末してやんよ」

 

《ぐ、ぐあかかか!》

 

 

メキメキメキとソウルメタル製の身体がきしむ音と苦悶の声が上がる。同時にタカヤも二人がいる防御陣へ辿り着いた

 

 

「タ、タカヤくん?」

 

 

「……タカヤ」

 

 

「ごめん、今は説明している時間は無いんだ……エレミアさん、ファビアさん少しだけ僕にくっついてくれるかな」

 

 

いきなりくっついてくれ言われて混乱したけど、タカヤくんの真剣な目にうちも、隣にいる子ファビアも頷いた…こういう時のタカヤくんは真剣だ。うちが道に迷ったとき、必死になって探してくれた時の目と同じや

 

「エレミアさん、ファビアさん、しっかり捕まってて……」

 

 

タカヤくんの身体に抱きつくように捕まって頷くウチらを見て、右手に構えた剣斧を頭上にかざして一気に丸く円を描いた…暖かな光がウチらを包み込んだと同時に激しい爆発にも似た衝撃が激しく揺らした

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆

 

 

「皆さん、落ち着いてください。安全な場所へ此方に用意してます……フェイトちゃん、そっちの方は?」

 

 

「なのは、こっちも終わったよ……さっき本局とカリムにも報告して、はやてが戻ってくるって連絡もきたよ」

 

 

「そっか。でも行方不明になった二人の女の子は見つからないんだよね」

 

 

「それにタカヤくんも……ねぇ最近、こんな不可解な事件ばかりだよね。なのに表沙汰にならないって可笑しくないかな」

 

 

「はやてもそれに近い事件を調べてたみたいなんだ。でもいつの間にかうやむやにされたって……」

 

 

演奏会場での騒動が収まり、観客を安全な場所へ誘導し現場についた局員に任せ再び会場へ来た二人。状況を確認しながら、最近起きた不可解な事件について話していた…フェイトは四年前のJS事件と、三十数年前にミッドおよびベルカ自治領で起きた《大量失踪事件》の状況が似ていることを口にした

 

「三十数年前……新暦40年前後にも似たような事件があったらしいんだ。その年は二つの月と太陽が重なる皆既日食が起きた年で、年齢、性別に関係なく人々が失踪した事件。でも失踪した人々は失踪したときと変わらない格好で無事に保護されたんだけど八割は前後の記憶がなかった、でも二割はこんな事を言ってたんだ」

 

 

ー白く輝く狼の騎士と黒い狼の騎士をみたー

 

 

ー白く輝く馬に乗った白い狼が身の丈を超える大剣で何かを切り払ったー

 

 

「白く輝く狼?最近噂になってる《狼の騎士》と関係あるのかな」

 

 

「そうかな?でも三十数年前の事件には不可解なことが沢山で、それに閲覧制限がかかってるんだ………」

 

 

「フェイトちゃん、なのはちゃん、遅れてごめんなぁ。手続きと報告に時間かかってしもうて……どうしたん?そんな深刻な顔して可愛い顔が台無しなる………」

 

 

少しからかいながら空から降りてきたはやての言葉が止まる。なぜなら辺りの景色が不可思議な空の色に変貌、不思議な文字と共に何かが会場の真ん中へ落ちた。土煙が舞いながら一陣の風が吹き飛ばし見えた影に三人は驚いた

 

 

白金の輝きが抜け、黒く変わり果てたオウガの鎧を纏った白煌騎士。鎧が光と共に弾け魔界へ返還され三人の人影がジーク、クロゼルク、そしてよく見知った娘のヴィヴィオ、八神道場の愛弟子ミウラの想い人《秋月タカヤ》の姿…しかしぐらりと膝をついた

 

「はあ、はあ………エレミアさん、クロゼルクさん、大丈夫?」

 

 

「うちは大丈夫や!それよりタカヤくんが」

 

 

「大丈夫だから………」

 

 

「……タカヤ・アキツキ……これ飲んで」

 

 

苦しむタカヤに差し出したのは銀の蓋がついた小さなガラスの小瓶…中身はおどろおどろしい形容しがたい色の液体が入っている…しかしタカヤはうなずくと迷わず蓋をあけ一気に飲み干した…徐々に刻印から発する痛みと熱が引いてきた

 

「ありがとう。だいぶ楽になったよ……クロゼルクさん」

 

 

「お礼なんかいい……クロゼルクの魔女はアキツキの魔戒騎士を助けて当然」

 

 

 

「ありがとう、クロゼルクさん……エレミアさん、にもだけど一つ聞いていいかな…………アキツキ・タカヤって僕の名前かな?」

 

 

その言葉に息が止まる……タカヤは遂に自分自身の名前を忘れてしまった。その事実を前にジークはその場にへたり込んでしまう。ファビアはいぶかしげな表情になり、ハッとなりいそいそと絵本を取り出した時、声がかけられた

 

 

「タカヤくん、なんで此処にいるのかな?それに行方不明の二人を」

 

 

「……私は管理局執務官フェイト・T・ハラオウンです。少し事情があるみたいだから少し話を聞いていいかな」

 

 

「まって二人ともタカヤくんは」

 

 

娘の想い人だが、この一連の事件に何らかの関係があるタカヤ…私情を抜き管理局に務めるものとしての立場で事情を聞くため近づく二人をはやてが止めようとした。しかし空が再び震えガラスが砕けるように割れた

 

「ま、魔導具風情が、俺様と相打ちをねらうなんざ百年はえぇんだよ!!」

 

 

現れたのは先ほどまでタカヤと戦っていたアクエリアス…その手に握られていたのはソウルメタルが砕け原形をかろうじて保ったキリク。それを忌々しそうにタカヤのいる場所へ投げつけた

 

 

「キリク!」

 

 

《よ、よう……うまく出来たみたいだな…‥俺は少ししくじっちまった》

 

「しゃべらないで!早く直さなきゃ」

 

息も絶え絶えで軽口をうつキリク、触れただけでソウルメタルがこぼれ落ちるダメージ姿に慌てて修復工具を手にしたタカヤ、そこに僅かな隙が生まれる。耳元まで口を避けさせ腹から喉、そして口に純白の壺を加え一気に吐き出した…あまりの速さに最速の動きを誇るフェイトは反応できず、そのままタカヤの心臓めがけ鋭利な刃を生やした壺が突き刺さろうとした瞬間、キリクが最後の力を振り絞り結界をはる。ソウルメタル製の身体がボロボロと崩れていく

 

 

 

「キ、キリクさん!止めて!その身体じゃ…やめてよ。お願いだから……キリクさんのことを知らないのになんで」

 

 

《なんで…だって…タ、カヤ…………俺は………お前のトモダチ………だから……だ……ダチを守るのはあたり、あたり……まえDA》

 

 

純白の壺が砕け散り、タカヤに言い切る前にキリクは砕け散った。砕かれた破片は物言わぬソウルメタルの塊となり中から魂が空へ上る。それを掴もうとするタカヤの手をすりねけ虚空へと消えた…ナニも握られていない手を何度みても無い

 

いつも魔戒騎士として戦いをサポートと鼓舞しながら、時には兄貴分としてタカヤを女の子関係でからかったりしてくれた魔導身具キリクはもういない

 

 

(僕はダレなんだ?キリクさん……教えてよ?僕は……何なんだ………聞かなきゃ。教えて貰わなきゃ………僕を誰かを知っている誰かに………そうだ聞けばいいんだよね…みんなに気づかれる前に…)

 

 

それ以上に自分自身の名前すらも忘れてしまったタカヤの心の中には深い闇が満ちタカヤを飲み込もうとしている中、声が響いた

 

「タカヤ!」

 

「ノーヴェ?それにヴィヴィオ、アインハルトちゃん」

 

 

「ミウラまで、何でココに来たんや?」

 

 

「アキツキさんを探していたら、ノーヴェさん達と会って一緒に探そうってことになったんです」

 

 

「もしかしたら、ココに戻ってきてるかなって、ヴィヴィオ、アインハルトを連れてきてしまった事は謝りま……」

 

 

 

「へ、わざわざ聖王、覇王の血を引くガキを連れくるとはな……女の肉は最高に甘くてうまいんだよなあああ、アキツキの魔戒騎士は後回しだ……死になあああ………ぐべらっ!?」

 

 

舌なめずりしながら口を大きく裂けさせ喰らおうとしたアクエリアスの顔面に拳がめり込んだ。たまらず水切り石のよう地面を跳ねステージに突っ込む。なのは達の視線の先には拳を構えたタカヤの姿…ゆっくりと歩く姿からは得も知れない迫力に満ち、タカヤを知るノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、まだ出逢って間もないファビアは普段と違う事に気づいた

 

いつも感じた暖かさが無く、変わりに深淵よりも深い闇を肌で感じ取っていた…なのは、フェイト、はやても気圧されている中で小さくつぶやいた

 

 

「いつまでも狸寝入りしてるんですか?」

 

 

「があああっ!てんめぇよくも飯の邪魔してくれたな!お前からころしてやるよおお秋月の魔戒騎士」

 

 

「…やっぱりそうか。僕の事を知ってるんですね…」

 

 

「はぁ?寝ぼけてんのか秋月の魔戒騎………ギャアアアア!!」

 

 

ステージの残骸を吹き飛ばし息を荒々しくするアクエリアスに柔らかな風が舞った。言いかけた声が悲鳴に変わった。なぜならアクエリアスの右腕が切り落とされ宙を舞い落ちる光景。切られた肩を押さえ見据えた先には剣斧を鞘におさめ居合いの構えを取るタカヤ……距離が離れているのに関わらず正確に腕を切りとばした剣技に驚愕を覚えたなのは達を余所に淡々と喋り始めた

 

 

「僕の事、知ってるんですよね………教えてくださいよ」

 

 

踏み込みと同時に地を蹴り迫るタカヤ…その瞳にアクエリアスは怯んだ…光無き無に近い闇を湛えた瞳からは極寒の地に吹き荒れる嵐を見た…無自覚に無数の壺を吐き出し動きを牽制しようとする、しかしタカヤは避けることなく壺を足場代わり蹴りながら間合いをつめ遂にアクエリアスの眼前に立つ

 

 

「………クズリュウセン…」

 

 

「アギ、アガカ!ギボベアバア!」

 

 

つぶやいた瞬間、円を描くような九つの斬撃がアクエリアスの身体に襲いかかり、血飛沫が舞わせながら叫び声が木霊した…この技はタカヤの数代前のオウガ継承者が召喚された京都で《頬に十字傷》を持つ赤髪のサムライの流派にある技を見様見真似で覚えた技…秋月の剣技に組み込まれており、そして左手甲に剣斧を滑らせるように構え一気に踏み込んだ

 

 

「………ガトツ……」

 

 

「フンゴゴ!フガゴオオ、?」

 

 

凄まじい突進力に、加速された刃はアクエリアスの大きく開かれた口を貫き通し崩れたステージの壁にまるで昆虫標本のように突き刺さるも、タカヤの胴体に全力の蹴りを叩き込み離れさせ剣斧も一緒に抜け、ソウルメタルで焼かれた口から血を吐き出しながら睨みつけた…

 

 

「ガベア、ガバアアッ(なんだ、コイツ記憶をうしなってるんじゃないのかよ…………なら、最後の手段を使わせてもらおうかな)………」

 

 

両腕を交差、同時に血のように真っ赤な魔界文字が立ち上り、半分髑髏、半分腐り落ちた肉が張り付いた顔、気色悪い血管が這う壺が全身に埋め込まれボロボロの黒い布と鎖がジャラジャラならしながらホラー・アクエリアスが本性を現した…しかしタカヤは臆することなく剣斧を天に掲げ素早く円を切る、光に包まれるも何時もと違ううなり声と共に黒く染まり輝きを失いつつあるオウガの鎧を身にまとうと同時に胸や肩、足の鎧に不思議な輝きを秘めた鎖が巻きついたのを気にせず剣斧を構え一気に踏み込んだ。無数の壺からなにかが吐き出される

 

「ニュキアアアア!?」

 

 

ゲートとなった壺に魅入られた所有者の魂が傀儡として数体限界する。アクエリアスの特殊能力であり捕らえた人間の子供を壺へとり混み生きたまま消化する際の魂を原料にして生み出されている。さらに鎧の時を奪う力も備えている

 

アクエリアスは勝ったと確信していた…今代の秋月の魔戒騎士は記憶と命が後幾ばくも残されていない。今鎧の時を奪えば間違いなく鎧に喰われ死ぬ。その時こそ秋月の魔戒騎士とこの世界にいるすべての魔戒騎士最後の時だ

 

「ニュコ!キイラニツチ!ニキヌイエブウ!!」

 

 

仮面の下でほくそ笑んだアクエリアス……だが、傀儡達がタカヤの斬撃を交わし、一体、また一体がオウガの鎧にまとわりつき、魔導刻(時)を奪ってき、ついに時が来てしまった。苦しむタカヤにアクエリアスは勝利の雄叫びを人語でわざと聞こえるように叫んだ

 

 

『う、あああ………』

 

 

『残念だったな秋月の魔戒騎士!そこにいる人間達も聞けよ。秋月の魔戒騎士はこのまま破滅と忘却の刻印で死ぬ!おまえ達との記憶も思い出ももう一つも無いんだよ!誰の想いに応えることも出来ずにな。安心しろ始末したら骨も残さず食べてやる!!』

 

 

『や、やめろ………は、ぐぐあ』

 

 

 

声と同時に、タカヤを真紅の壺が上下から覆い被さり徐々に縮んでいく様を遠くから見るなのは達、しかしなのははレイジングハートを構え壺を破壊しようと全力でディバイン・バスターを放つ…しかし傷一つつかない

 

 

「そ、そんな…スターライト・ブレイカーなら」

 

 

「ダメだよ、中にはタカヤ君がいるんだよ」

 

 

「でも、このままじゃ…タカヤ君が危ないんや…どうしたら」

 

 

対策を考えるなのは、フェイト、はやて…だがノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビアは強いショックを受けていた………タカヤが死ぬ。タカヤといつも接してきたノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオはタカヤの些細な変化に薄々気づいていた……初めて出会うような感じで接し、名字で呼びかけたり………タカヤがどこか遠くを見つめる姿は、皆といるときには見なかった

 

インターミドルが終わっても学祭や買い物に付き合いながらいつか思い切って告白しようと

 

倒れていた自分を助けた時から、インターミドルで大会を制覇するまでは告白しないと決めていた

 

 

タカヤと一緒に皆とコーチングをし続けたい。そしていつかは素直になって向き合いたい。共に生きたい

 

 

タカヤの言葉が小さなきっかけとなり、ノーヴェ達と一緒に先へ進むことができるようになった。それ以上にみんな優しい人柄に惹かれた

 

 

それがホラー・アクエリアスの口から発せられた真実に無残にも砕かれた……涙が地面へポタポタと落ちていく中、ディバインバスターをあきらめず打ち続けたなのは。赤い壺にひびが入り始めた

 

『ち、魔法か……やっかいだな…‥まずはお前から』

 

 

ーまて、私が相手をしよう……確実にアキツキの魔戒騎士を始末しろ。秋月の血はしぶといからなー

 

 

『(ーわかりましたアルター様ー)………まあ、後少しで壺に喰われちまうからなあ……心配しすぎなんだよアルター様は………』

 

 

再び真紅の壺に目を向ける。その中ではありとあらゆる消化液に満ち、生身であればひとたまりもない……

 

 

(………知られた。みんなに知られた………僕の記憶と命の事を………あは、あははははは………隠してたのに、みんなに………)

 

 

鎧の時を奪われ必死に魔界の力を押さえ込む…皆に僕に刻まれた破滅と忘却の刻印を知られた事が影を落としていた……なぜこうなったんだ。浮かんだのは自慢げに秘密を暴露したアクエリアスの姿。鎧に巻きついた鎖が震えひびが入る

 

 

(……ホラー・アクエリアス………僕の秘密を暴いた……それ以上に僕の事を知っている………聞かなきゃ。もう一度みんなが知る秋月タカヤに………アクエリアスを………………………………殺してでも)

 

 

ドクン!……何かが大きく脈打ちタカヤの顔にステンドグラスにも似た模様が浮かぶ。オウガの鎧が壺の中で膨れ上がる、それは外にいるアクエリアスの目にもうつった

 

 

『な、ナニィ!』

 

叫ぶと同時に限界まで膨れた真紅の壺が内側から爆ぜた…当たりに消化液が飛び散り触れただけで地面やステージが溶け落ちていく中で、黒い異形《心滅獣身オウガ》が姿を見せた時を雲の切れ間から月の光が鋭い突起が剣山のように乱立し禍々しい体躯を照らす。胸に巻きついた鎖が弾け見えたのは深い緑を湛えた石。怪しく輝くと肩、腕、脚に巻きついた鎖が吹き飛ぶと身体が縮み始め、紅い霧が溢れ収まった

 

 

そこにいたのは《黒》……心滅獣身の力を飲み込み胸に埋め込まれた魔石《漆黒の魔皇石》から血管のようなラインが鎧表面を走り、尻尾が左右に揺れると、背中に黒く禍々しい翼が力強く開いた

 

別世界にいる歴代最強と謳われた黄金騎士牙狼の継承者《冴島雷牙》が心滅獣身を制し顕現した姿《光覚獣身・牙狼》とは異なるモノ

 

 

……内に秘めた強き闇が弱った光を覆い隠し、初代オウガが息子と共に呼ばれた並行世界(紅ノ牙)でファンガイアの王キングと出会い、鎧を大破させながらホラーを討滅後に残り仕えるように言われるも断り、鎧修復の際にビショップの嫉妬と独断により確実に命を落とすよう埋め込まれた魔皇石の力でなし得た忌むべき姿

 

 

ー光滅魔煌・オウガー

 

 

 

『……………僕の事、知ってるんですよね教えてくださいよ……』

 

 

 

『な、なんだって……ああ、知ってるけどな…‥教えてやら……ギャアアアア!!』

 

 

 

淀んだ双眸がアクエリアスをとらえた瞬間、何かがその堅い身体を貫いた。光滅魔煌・オウガの尾てい骨あたりから伸びた尻尾が九本に別れ様々な方向から刺し貫いている魔界文字が立ち上りソウルメタルがその身を灼いていく感覚に叫び声をあげずにいられなかった

 

 

 

『………答えてよ』

 

 

『ぎ、ぐ、ギャアアアア!!な、舐めるなああ』

 

 

苦し紛れに壺を再び生み出しぶつけようとするアクエリアス。その壷にはソウルメタルすらも溶かす消化液が充填されている……当たれば瞬く間に溶かし身をも腐らせる。乾いた音と共にぶつかり消化液が伝う。しかし溶ける気配がない。みると表面に光の膜が張られ防いでいる

 

 

『まだそんな手があったんだ…………別な方法で聞くか』

 

 

『や、やめろ……ひ、ギャアアアア!』

 

 

大きく開いた口をそのまま首筋に狙いを付け噛みつく。絶叫がこだましアクエリアスの血が撒き散らかされブチブチと噛み千切り吐き捨てた。もちろん九本の尾は休むことなく刺し貫いている

 

 

『………叫ぶことはできるんだ………なら応えられるよね…僕は誰なのかな?答えないと君を……………殺す』

 

 

静かにまるで地獄よりも深い場所から響くような声に戦慄するアクエリアス…もしかしたら自分はとんでもないモノを目覚めさせてしまったのではないか?知っていると言っても名前と魔戒騎士であること、それに王族しか聞かされていない

 

助けを、そうだアルター様に助けを。必死に助けを求めるも返事はない…答える気配もない

 

まさかという考えがよぎった……まさかこうなることを予測していた?

 

 

『ま、まさか、俺を捨て駒に!アルター様、お助けを………ひ、な、ナニを』

 

 

『…………教えてくれないんだ…なら、いいや……』

 

 

『ひ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだ、イヤだあああああ!?』

 

 

 

必死に逃げようともがくアクエリアス…しかしその懇願に耳を貸さず迷いなく九本の尾は身体の奥に潜り込み鋭い刃に変化、内側から肉を!骨を!内蔵を寸断していく。アクエリアスが最後にみたのは細切れになり崩れ落ちる自身の身体、九本の鋭利な刃に貫かれ焼かれていく感覚だった

 

 

『…………………そういえば、僕の事を知っている人があっちにい………』

 

 

「お止めくださいタカヤ様!」

 

 

『誰?』

 

 

タカヤがヴィヴィオ達がいる方へ向かおうと羽を広げようとした時、誰かに腕を掴まれた…視線を向けると執事服姿の男性…秋月家に代々仕える家令デルク・シルヴィニアーニ。ソウルメタルでできた鎧を素手でつかんでいる、その目に信じられないモノをみてしまった

 

「コレはやはり魔皇石……キング様の鎧に使われている漆黒の魔皇石!?タカヤ様、鎧を早く解除してください!!」

 

 

 

『離してよ。僕は聞かなきゃいけないんだ。僕が誰でどんな人間だったのかを……離さないと殺すよ』

 

 

「いいえ、退きません!あの方たちはタカヤ様が命を賭けて守ろうとしている方たちです。忘れてしまったのですか!!」

 

 

『命を賭けて?守る?………僕が………なんで………う、うう……はあ、はあ…』

 

 

「鎧の解除を急がなければ。メイ様とジロウ様達が到着するまで持ちこたえられません……せめて、魔皇石を押さえ込めれば……」

 

 

「デルクちゃん」

 

 

「リーム様!いけません!ココから早く離れてください!!」

 

 

羽交い締めにしながら動きを封じるデルク…しかしリームの姿を見て焦る。力が抜けたのをみたタカヤに吹き飛ばされ地面を転がる。ソウルメタルに焼かれ痛む身体を奮い立たせるデルクを抱き起こしたリームを見る。タカヤを止めるには封じた力を使うしかない、しかしリームの前でそれをやるのは躊躇いもある

 

しかし、ここでタカヤを止めなければ大変なことになる……メイがなのは達を護るためにアルターと戦っている事も気にかかる…リームの顔を見て僅かな逡巡、デルクは決意した

 

 

「リーム様、私は前に想いに応えられないと申し上げた事がありましたね。コレからその理由をお見せします………これを預かってください」

 

 

「え?デルクちゃん?何をするの?」

 

 

オラクルを外しリームに手渡した…とっぜんの事に困惑するリーム、デルクの顔にステンドグラスの模様が浮かび上がり、瞬く間にその姿が異形へ変わる頭に二つの立派なはさみ、鍬形虫を想わせる体躯の怪人…ギラファ・ファンガイアへ変わると再びタカヤを羽交い締めにした。リームはデルクのもう一つの姿に言葉を失いへたり込んでる

 

……そういう反応が当たり前ですねと思いながら魔皇力を押さえ込み始めた、しかし膨大な魔皇力にソウルメタルに身を焼かれ苦悶の声を上げた

 

 

『…さ、さすがに応えます……せめてキバットバッド様がこの世界に居られれば魔皇石の制御が出来るのですが、やはり私めには……』

 

 

『何を弱気な事を言っている……ファンガイアの戦士よ』

 

突然響いた声に驚くデルク、その声の主は肩当たりをパタパタと跳んでいる紅い蝙蝠…いやその姿を知っている…

 

 

『キバットバッド一世様!?なぜ此処に』 

 

 

『む、我が父を知っているようだな?残念だが私は二世だ。今は止める事が先決。いくぞ息子よ!』

 

 

『わかったよ父ちゃん!キバの鎧とはちがうみたいだけどやってみるぜ、じゃあ別世界でキバって』

 

 

反対側からも体色が違う金色のキバットバッドが父ちゃんと呼んだキバットバッド二世と共にタカヤのオウガの鎧にはめられた魔皇石に近づきねらいを定めた

 

 

『『親子で~ガブリッ!!』』

 

 

『ウ、ウ………うわあ、あ、あああ』

 

 

膨大な魔皇力が溢れだす。キバットバッド族は魔皇力の制御に長けた一族。闇のキバ、黄金のキバの鎧を管理する彼等にとって手慣れたモノ…二世、三世の強力な魔皇力制御により鎧に変化が始まり、心滅獣身、そして通常のオウガの鎧へ代わり再び鎖が胸、腕、脚に巻きつき魔界へと返還されタカヤのみが残された

 

 

『ふう疲れたぜ~なんか腹減ったな』

 

 

『息子よ、この程度で疲れるのはまだまだと言う証拠だ』

 

 

「…………………」

 

 

 

いつの間にか、近くにまで来ていたノーヴェ達がゆっくりと背を向けたまま立つタカヤに一歩ずつ近づいた。それに気づいたのかゆっくりと振り返った姿に言葉を失った

 

 

黒く艶がかった髪は真っ白に代わり、顔色は死人を想わせるように白く、瞳は光をなくし虚空をとらえている。ノーヴェ達に気がついたのか少し微笑んでそのまま崩れるように地面へ倒れた

 

 

「「「「「「「タカヤ!/さん/ちゃん/くん/様!」」」」」」」」

 

 

六人の乙女と、祖母、家令の声が月夜に響いた頃。 

 

 

 

「さあ、おとなしく八神はやてを渡してもらおうか?おまえ達の命は保証してやろう」

 

 

「断ります。あなたに何を言われようとはやてちゃんは渡しません」

 

 

 

「そうだよ。はやてちゃんを利用しようとする貴方には…友達は絶対に」

 

 

 

『ふ、ならば力付くで戴こう……メイ、大人しくしていろ。後で親子水いらずで話し合おうか。その前に始末しておこうハアッ!』

 

 

『止めて、もう止めて。…………様!!』

 

 

 

拘束されたメイに声をかけながら、不思議な筆から光の文字が槍状に組まれボロボロのフェイト、なのは、気絶したはやてに襲いかかろうとした、自分たちの魔法が全く歯が立たない相手の実力を前に諦めの感情が浮かんだ時、、一つの影が躍り出て切り払った

 

三人にとって十年以上の付き合いを持ち想いを寄せる金髪に翡翠色の眼差しを持つ青年、ユーノ・スクライア。アルターに対して鋭い眼光の中に迷いを見せながら筆…魔導筆を構える姿

 

 

『邪魔をするな、そこをどけ!ユーノ!!』

 

 

 

「もう、もう、こんな事は止めてください、オウマ先生!!」

 

 

一つの戦いが終わり、片方で新たな戦いが始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に暴かれた秘密、そしてデルクの口から明らかになる秋月家の呪われた事件。

そしてユーノの口から語られる真実


英霊達に召喚されたタカヤに何を告げるのか!


次回!剥奪ーバクロー


タカヤに下したものは?




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第二十三話 落涙ーナミダー(裏)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


「すごいタカヤ君…」

 

 

目にも止まらない速さで、前に私を襲った男の人を殴り抜いたタカヤ君…ミウラと年も変わらんのに圧倒的な動きで攻撃を回避してシグナムよりも速い剣撃を放つ姿は四年前、亡くなった騎士ユウキ・アキツキさんの太刀筋と変わらない

 

でも一番驚いたんは、タカヤ君が剣を天にかざし素早く円を切ると光と共に鎧を纏ったことや。荒々しい狼を象った鎧…頭に何かが浮かぶ

 

 

ー…………、俺の血を…引く…騎士に……コレ…ありかを……ー

 

ーなんだこれは?マカイキシー

 

 

ー俺の……世界……現れ……レギュレ…スを……じた鷹燐の矢………対を…す……《白燐の牙》…た…ー

 

 

な、なんや今のは?タカヤ君と同じコートを着た男の人が話していたんは大事な家族で空へ還ったリイン。それ以上に見せられたら矢にも似たモノは一体?

 

『う、うわあ』

 

タカヤ君の声にハッとなる。あの男の人……瞬く間に怪物になると大きく叫びながら告げられた言葉にミウラもだけどヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェ、行方不明やった女の子二人も強いショックを受けて泣いてる……タカヤ君が死ぬという言葉を聞いたら仕方ない

 

『や、やめろ……うわ?』

 

 

真っ赤な壺に閉じ込められたタカヤ君、それを助けようと、なのはちゃんがレイジングハートを構えて砲撃する…余りの硬さにスターライト・ブレイカー使おうとしたから慌てて止める。なのはちゃんは、一点に砲撃を集中してディバインバスターを撃つ、少しだけヒヒが入る。このままいけばと思った時やった

 

 

『そこまでだ、おとなしくするのだな…最後の夜天の王。八神はやて』

 

静かに響く声…ウチらの前に黒い影が不思議な文字を溢れさせながら近づいてくる不気味な仮面に不思議な服を着た人が筆を構えた…あの筆どこかで

 

 

「はやて!あぶない!!」

 

 

フェイトちゃんの声と同時にその場から離れた。さっきまでいた場所に無数のお札?が突き刺さって瞬く間に樹の蔓みたいなのが生えたかとおもったら地面を巻き込んで大きな穴を空けて消えていくのをみたフェイトちゃん、なのはちゃんが両隣に立つ

 

「…おとなしくしてください。アナタが取った行為は局員への暴行に当たります……武器を捨てて投降…」

 

 

『……ふ』

 

 

軽く鼻で笑うと無数の札を構え投げてくる…瞬く間に光の文字?が龍へ変わると私たちに襲いかかる。フェイトちゃんの速さに匹敵してる。フェイトちゃんはギリギリでかわしたけど、わたしやなのはちゃんはプロテクションを展開して防いだ…私のはあっという間に砕け散った

 

目の前に光の龍が迫ろうとした時、目の前に影が割り込んだ

 

 

「はあっ!」

 

黒く長い髪をなびかせ、フェイトちゃんのより露出度高い服に身を包んだ人…前に私が変な人におそわれかけた時に来てくれた秋月メイさんが目の前の人と同じ札を構えて不思議な文字が幾重に重なったプロテクション?を生み出し防いだ

 

 

「八神はやてさん。今すぐ此処から逃げなさい。ヴィヴィオ様、アインハルト様達を連れて速く!!」

 

 

「でもあなた一人じゃ…」

 

 

『…そこをどけメイ』

 

 

「!?」

 

 

静かに口から漏れた声にメイさんの表情が変わる。まるで信じられないモノを見たという感情がその顔から読みとれた。でもそれは一瞬で消え私たちを残し大きな旗を構えて駆け出した

 

 

「はああっ!!」

 

 

両手に構えた旗が白金に燃え上がると無数の火の塊が襲いかかる…でも筆を軽く振るいながら蹴りと拳で弾いていく姿に見覚えがあった。アレはタカヤ君の体裁きと瓜二つや。すべてをいなしたあの人はメイさんに近づくと拳、蹴り、膝打ちを息つく間もないぐらいの速さで互いに繰り出していく

 

「…くっ!……(コレは秋月の魔戒法師、導師にしか伝えれない徒手空拳。まさか、そんな……)」

 

 

『どうした?拳速が落ちているぞ?』

 

「うぁ!?………そんなわけないわ!!」

 

 

叫ぶとメイさんの動きがさらに速くなっていく。でも仮面の人は次にどうくるかわかってるみたいに、軽く手をそえながらかわしその腕を掴むと一気に投げるように地面へ叩きつけた

 

 

「っはあ!?」

 

 

「メイさん、フェイトちゃん、行くよレイジングハート」

 

 

「うん、なのは……バルディッシュ!」

 

 

なのはちゃん、フェイトちゃんがメイさんを助けようと動き、間合いを詰めながらアクセルシューターで牽制しながら近づく…仮面の人は慌てることなくアクセルシューターの中を避けるどころか突っ込んできた

 

 

「うそ!わたしのアクセルシューターを紙一重で」

 

 

『悪くない攻撃だ……しかし接近戦に弱いことを現す戦術だ』

 

 

クルリと回転しながら蹴りを無数に繰り出してくる、でも足がプロテクションから伸びたバインドに拘束された事に気づくよりも、ゼロ距離でディバインバスターを撃った。メイさんを抱き起こすフェイトちゃんも、なのはちゃんも、うちも勝ったと確信していた。でも当たる寸前で無数の花びらに変わりディバインバスターの光がただ通り過ぎた

 

 

「え?消えた?レイジングハートどこに……」

 

 

『……さすがに肝を冷やした…詰めが甘かったな!』

 

 

「きゃ!」

 

無数の花びらが集まると仮面の人が姿を見せ、同時に筆から炎にも似た無数の文字が組み合わさった槍が生まれた。それをみてレイジングハートでとっさに防いだけど勢いよく吹き飛ばされた。フェイトちゃんはメイさんを抱きかかえながら受け止め踏みとどまった。

 

 

「い、今のは魔法なの?」

 

 

「なのはの拘束を破った、ううん透過させた?」

 

 

「(違う、あれは瞬転身の術……コレを使えるのは秋月の人間である私とタカヤだけ…………まさか……)」

 

 

第二十三話 落涙ーバクロー(裏)

 

 

「なのはちゃん、フェイトちゃん!下がって!!」

 

 

シュベルトクロイツを構え拘束魔法を周囲に無数に展開、仮面の男の人を縛り上げる。コレで動きを封じたはずや。でも気にした様子も無く無抵抗にする姿に何かが訴えかけた時、また花びらに変わった

 

 

『さすがだな、もし初見ならば間違いなく拘束されていただろうな』

 

 

「え?」

 

後ろから聞こえた声、振り返った時には首筋に鈍い衝撃…仮面越しに見える狂気が見え隠れした瞳に僅かに見えた笑みにゆがんだ口をみたのを最後に意識を放り投げた

 

 

「八神はやてさん!はなしなさい!!」

 

 

地を蹴ると迷わず、気絶したはやてさんを背負う仮面の男に拳を数発叩き込む。でも、それを動きを知っているようにかわしていく…それどころか私の癖と次に何をやるかをも

 

このままだと逃げられてしまう。それ以上にはやてさんを無傷で取り戻さないと……ならコレはどうかしら!

 

 

『何を企んでるか知らないが無駄だ………』

 

 

「どうかしら……八神はやてさんを返してもらうわ…ハアッ!!」

 

 

無数の札があたりに舞う中を駆け出した。魔導筆を素早く振るいながら蹴りを撃ち放つ、でも軽くいなされた…でも僅かな時が生まれた。舞い散る界符が光るとはやてさんを包むと消えると懇親の蹴りと同時に返す脚で顔面を蹴り抜く。空に仮面が舞った瞬間全身に剛縛符が張り付いた

 

「今よ、高町さん!」

 

 

「は、はい!スターライト!ブレイカー!!」

 

 

桃色の閃光が剛縛符に包まれた仮面の男を飲み込む…さすがにあの魔砲を受けたら只じゃすまない…コレで引いてくれればいいと思った。でもそれは簡単に打ち砕かれた

 

 

『はあ、はあ、やってくれたな!!カアアアアッ!!』

 

 

またあの筆を振るった瞬間、身を焦がすような炎が私たちに襲いかかる。とっさにアインハルト様、ヴィヴィオ様達を転移符で強制転移させた。でも炎は容赦なく焦がし、ある部分に炎がはしると景色がはがれ落ちる。気絶したはやてさんを短期間で攻撃しながら見つけたというの?

 

 

『さすがだな、今代の魔法使い。そして魔戒法師………もう抵抗は止めろ。どうあがこうが私にお前は勝てない……』

 

 

「……!う、うそ………そんな」

 

 

『30年ぶりだな…我が娘メイ……』

 

風が舞いフードがはだけ見えたのは30年前、殲滅騎士魔煌を討滅する際に亡くなったオウマお父様……

だから私の体術と術を熟知していて当然。だってあの日まで私に教えてくれたのはお父様だから。でも何かが違う。笑みを浮かべ私を見る瞳からは暗い闇が見える…

 

 

『少しそこで大人しくしてくれ。八神はやてからアレの場所に関する記憶を聞かなければならないからな…闇の書が溶け込んだ最後の夜天の王からな』

 

 

いつの間にか縛符が貼り付けられ手いる私の横を歩く。暗く闇をも思わせる笑みを浮かべはやてさんをみるお父様。違う、お父様はこんな風に笑ったりしない…魔戒の力を人を傷つけるために絶対に振るおうとしない…じゃあ目の前にいるのは誰なの?後数歩というところで止まった。テスタロッサさん、高町さんが両手を広げ立ちはだかってる

 

二人のバリアジャケットは所々破け、肩で息をする姿を前にして軽く笑い意に介さないと言わんばかりに歩み始め魔導筆を構えた

 

 

「さあ、おとなしく八神はやてを渡してもらおうか?どけば、おまえ達の命は保証してやろう」

 

 

「断ります。あなたに何を言われようとはやてちゃんは渡しません」

 

 

 

「そうだよ。はやてちゃんを利用しようとする貴方には…友達は絶対に」

 

 

 

『ふ、ならば力付くで戴こう……メイ、すぐに方をつける。それからゆっくりと親子水いらずで話し合おう………邪魔立てするならば望みどおり始末しておこう。ハアッ!』

 

 

「止めて、もう止めて。オウマお父様!!」

 

 

 

拘束されたメイに声をかけながら、不思議な筆から光の文字が槍状に組まれボロボロのフェイト、なのは、気絶したはやてに襲いかかろうとした、自分たちの魔法が全く歯が立たない相手の実力を前に諦めの感情が浮かんだ時、、一つの影が躍り出て切り払った

 

三人にとって十年以上の付き合いを持ち想いを寄せる金髪に翡翠色の眼差しを持つ青年、ユーノ・スクライア。アルターに対して鋭い眼光の中に迷いを見せながら筆…魔導筆を構える姿

 

 

 

『……邪魔をするな、そこをどけ!ユーノ!!』

 

 

「もう、もう、こんな事は止めてください、オウマ先生!!」

 

 

 

魔導筆を構え素早く印を切る…私の拘束していた界符に触れた瞬間、細かく砕けた。それよりも気になったのは何故お父様を《先生》と呼んだのか。

 

彼が使う魔導筆は《秋月拵え》と呼ばれる装飾が施されている…それを二つ構えてお父様と対峙してる

 

 

『………どけユーノ。私はお前を殺したくはない……今引けばそこにいる二人と一緒に見逃してやろう?』

 

 

「……断ります!なのは、フェイト……はやても一緒返してもらいます!!」

 

 

『ならばもう語るまい………ハアッ!』

 

 

「くっ!ハアアアア!!」

 

 

界符が同時に投げつけ、無数の光の槍《破邪光槍》を放つ…なぜ、彼がお父様と同じ技を?光の槍がぶつかり合う中、拳と蹴りの応酬を何度も繰り返し、互いの蹴りがぶつかり彼が脚をつかむ。でもお父様は軽く跳躍。顔面へ蹴りを叩き込む。口から血を流しながらお返しと言わんばかりに足をつかんだまま反対側…背後にある地面へ背中から叩きつけた。応えた様子も無くそのまま爆転し、距離を置いたお父様は剣と斧を構えた

 

 

『ユーノ。おまえは私には勝てない……魔戒法師、導師として優秀だが、魔戒騎士である私には勝つことなど不可能だ!!』

 

素早く斧、剣の切っ先で真円を描くと黒い光、狼のうなり声と同時に闇よりも暗く赤い血管にも似た装飾とボロボロの鎧旗をなびかせ立つ姿

 

 

「…………オウマ先生。くっ!」

 

 

『!!何故お前がそれを持っている!?』

 

 

突然、お父様が声を上げた。ユーノさんに目を向けると手に構えた魔導筆を軽く振るうと白木の鞘に収められたら小太刀?が握られ、そのまま軽くまわり素早く円を切った、二つの円が頭上に重なり光があふれユーノさんを包み晴れた時、そこにはどこか見覚えのある鎧を纏った騎士の姿、両手に構えた双剣を振るいながら構える赤と鋼色が目立つ姿………タカヤが闇に落ち掛けた時に現れた紅い鎧を纏うクロウ・オーファンの鎧と剣が酷似している。所々、未完成という感のある鎧…腰には銘すらない

 

 

   ー無銘騎士・狼無(むめいきし・ロム)ー

 

 

『ハアアアア!』

 

 

『クウカアアアア!!』

 

 

互いに剣を構え切りかかる、ソウルメタル、デスメタルの刃がぶつかる度に得も知れない振動音が木霊する中でユーノはオウマに問うた

 

『何故、こんなことをするんです先生!僕をたすけ、守りし者は何かと教えてくれたのに何故なんですか!?』

 

 

『応える義理はない!』

 

 

『ぐ、ぐうう……お願いです先生!ジロウさん、レイジさん、ソウマさん、タカヤくんの刻印を解いてください!!こんな事は馬鹿げています!!ましてやタカヤくんは…タカヤくんは先生の孫なんですよ!!』

 

 

『だ、騙れぇユーノ。だがすでに遅い…みろ今代の秋月の魔戒騎士は死ぬ。それにオウルが血を残すためだけにメイに無理やりあてがった相手と作り愛なく生まれた望まぬ子なぞ、私の孫では無いわ!!』

 

 

「違うわ!聞いてお父様。タカヤは私とユウキの大事な……」

 

 

『メイ……オウルにそう言えと言われたかあああ!ハアアアア!!』

 

 

『うわっ!』

 

 

切り結んでいた双剣を弾く。がら空きになった彼の胸へ赤黒く光り輝く手を押し当てた。鈍い音と共に血にも似た何かが蝶が羽を広げたように見える…あれは《破滅の刻印》。さっきの彼が口にした刻印がそれだということは、まさかジロウ様達もタカヤにも刻まれて…

 

「お父様、まさか……タカヤに破滅の刻印を!?」

 

 

『違うな、奴に刻んだのは《破滅と忘却の刻印》だ、嬉しかろうメイ、望まぬ子が死ぬのだからな……記憶も命も風前の灯火だ……』

 

 

うそよ。お父様がこんな事をするなんて…目の前が真っ暗になる私の横を抜け歩いていく。向かう先にはは八神はやてさんがいる、高町さん、テスタロッサさんがふらふらしながら立つ。その前に彼が胸を押さえながら剣を突きつけたちはだかる

 

 

『…刻印を刻まれてなおも私の前に立つか…苦しかろうユーノ…せめてもの情けだ苦しまず楽にしてやる……死ねユー………う、うぐうう!?』

 

 

『?せ、先生!?』

 

 

 

『………余計な邪魔をするな……くっ…まあいい、残された命をせいぜい惜しむのだな………』

 

 

いきなり頭を押さえ悶えながら、お父様は無数の花びらに変わり消えた…気配が無いことに気づき膝を付いた彼は鎧を返還し胸を押さえている。高町さん、テスタロッサさんが駆け寄ってきた

 

「大丈夫ユーノくん!?な、ナニこれ!?」

 

 

「ひどい熱だよ。速く病院で手当てをしないと…」

 

 

「……大丈夫。心配しないでなのは、フェイト…そ、それよりはやてを、タカヤくんを…」

 

 

痛みを我慢し笑みを見せるユーノになのは、フェイトは間をおき頷くと、強い視線を感じた。視線の主はジロウ、ソウマ、レイジの三人。ソウマが歩み寄り有無を言わさず魔戒槍を首に突きつけた。なのは、フェイトがデバイスを構えようとするのを手で制した

 

 

「………なぜ、魔戒導師であるおまえが《鎧》を持っている……そして、あの男と関係があるみたいだな」

 

 

「………」

 

 

「まって!いきなりナニをするんですか」

 

 

「ユーノくんは私たちを……「待ってなのは」…え?」

 

 

「……わかりました。すべてを話します……でもその前にみんなを安全な場所に連れて行きます」

 

 

「……わかった」

  

 

静かに頷くソウマは魔戒槍をおさめた…それからしばらくして秋月家家令デルク、ノーヴェに抱きかかえられ息も絶え絶えなタカヤ、アインハルト達も伴い向かうのは聖王教会へ様々な感情を胸に歩いていく面々

 

 

…………ここまで物語を目にしてきた者達へ告げよう。

 

 

ココから先、デルクから語られる真実は三十数年前に秋月家で起きた忌まわしきモノ

 

ユーノ・スクライアが持つ真実と合わせた時、浮かび上がるは闇に魂を売り渡した愚者の歪んだ情念

 

 

 

………いまから語られるは知らなくてよき事、されどもコレを知り終わりを迎える為には避けては通れぬ道筋……

 

 

……刮目せよ。全てを無くした《秋月タカヤ》、魔戒騎士たちの最期の戦いを…

 

 

 

第二十三話 落涙ーバクロー(裏)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




………魔導刻03.0秒



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第二十四話 剥奪ーシンジツー

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


聖王教会…ベルカ自治領におかれたここは最後のゆりかごの聖王《聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒト》に由来する遺品などが多数所蔵され、礼拝堂、騎士団、修道騎士寮、そして病院をも持つ。しかし、その表の顔とは別の顔を持っていた

 

 

魔戒騎士達の鎧の修繕、魔導火補充装置、鍛錬場、ソウルメタル備蓄庫、魔導図書館、浄化の石版がおかれた《魔戒殿》が最深地下におかれている…ココには宿泊施設もあり、その一つに光が灯っていた

 

礼拝堂の半分はあろう部屋には質素ながらも高貴な気品を溢れさせるニ十人は座れよう位の広さのアンティークの円卓状のテーブル、椅子が並べられ教会騎士カリム、メイ、なのは、フェイト、意識を取り戻したはやて、ソウマ、レイジ、ジロウの前にユーノ、そしてデルクが座っている

 

アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェは意識を失い倒れたタカヤを看るためこの場にはいない。やがてメイがゆっくりと口を開いた

 

 

「ユーノ・スクライアさん。無限書庫司書長である前に一般人であるハズのアナタが何故、魔戒導師、そして騎士でも無いのに鎧と術を使えるかを聞かせてくれいかしら」

 

 

「………わかりました。どのみちいつかは話そうとは決めてました……秋月家現当主であるアナタとグラシアさんには…」

 

 

そう口にしユーノは懐から二つの筆…瞬く間に二振りの白木の鞘に収まった剣へ変わった双剣と小さな袋を手にし中から、牙をむき出しにした狼の髑髏に装飾が施された鋼色のイヤリングを取り耳に付けた。すると大きな欠伸をしながらイヤリングがガチガチと牙を鳴らした

 

《ああ~よく寝たぜ~漬け物になるまでこのままかとおもったんだな~コレが………グーテンモ~ゲン、HAHAHAHAHA……ってココどこだユンユン?》

 

 

「少し空気を読んでよクトゥバ………僕の魔導身具クトゥバです…」

 

《夜露死苦、四×九=三十六!ん?のり悪いぜ~》

 

 

「っ……は、初めて見る魔導身具ね…では聞かせてくれるかしら」

 

 

「……僕が先生…秋月オウマ先生と出会ったのは今から十三年前、新しく発見されたベルカ緒王時代の遺跡を調べていた時でした……」

 

 

(十三年前?どういうこと?お父様は殲滅騎士魔煌に三十年前に殺されたはず…)

 

 

……あの頃の僕は自分が嫌いになりかけてた。僕と出会わなければ…魔法と出会わなければ、あの日、

なのはの体調に気づいていたら…

 

 

ーお前のせいだ……なのはと昨日あってたんだろ!体調が悪いって何で気づかなかったんだよ!なのはが墜ちたのは、お前の…ー

 

 

ー止めやヴィータ!ユーノくんのせいやあらへん。ウチらにも責任ある……なのはちゃんの性格わかるやろ?ー

 

 

ー……でもー

 

 

僕は何も言い返せなかった……魔法の世界に引き込んでしまってPT事件、闇の書事件に深く関与して局員として働くようになったなのは…無限書庫に勤めるようになって会う機会は少なくなったけど、顔を合わせて話す事は何度もあった

 

あの日…撃墜したって聞いた僕は目の前が真っ暗になった…何度も何度も考えた…あの時何で気づかなかったんだって

 

…自己嫌悪に苛まれながらベルカ緒王時代の遺跡発掘に皆より先に現場に向かった、忘れたかった僕は睡眠時間と食事もとらず調査し続け未発見の通路を見つけた。調べようとした時、入り口が閉じてトラップが起動した。助けをよぼうとしたけどゴーレム?の身体から思念通話を阻害する何かが出て通じない……身体も思うように動かない。おおきくゴツゴツした拳が振り上げられスローモーションのように迫る

 

 

もういいやと思った…こんな僕なんか死んであたりまえだって、そんなときゴーレムの拳が顔面で止まる…乾いた音と同時に砕けた。その向こう側に誰かの姿を捕らえたのを最後に意識をなくした。次に目が覚めた僕は岩肌に寝かせられて焚き火の前にいた…

 

 

ー目が覚めたかー

 

 

真っ黒な生地に金、赤の刺繍が目立つ民族衣装みたいな服に頭まで身を包んだ人が座ってみていた…あたりをみるとまだ遺跡の中だというのがわかった

 

 

ーあの、あなたが僕をここに?ー

 

 

ー………あのゴーレム…魔戒人形に用があったからな…破壊したそこにお前がいた…それだけだー

 

 

それっきり会話はなかった…でも助けてくれたのには変わりはなかった。ふと僕はあるものを目にする…不思議な彫金が施された筆。思わず手にしたら、穂先に光が灯った

 

ー……ほう?まさか魔導力を扱えるとはな……お前、名はなんという?ー

 

 

ーえ?は、はい……ユーノ・スクライアですー

 

 

ー………魔導筆に光を保ったまま、私と同じ構えをしてみろー

 

 

ーこ、こうですか?あの、コレはー

 

 

ー…………お前は何かから逃げているな…ー

 

 

ー…………!?…ー

 

 

ー……この遺跡は仕掛けが至る所にある。スクライアの一族ならわかったはずの仕掛けに気づかなかった…まあ、私にとってお前が抱える問題など些細なことだがな……行くぞー

 

 

ふっきらぼうに言うと筆に灯った光を頼りに進み始めた…しばらくあるいた時、光が大きくなる?なぜかわからないけど何かがあると感じた

 

 

ー………さがっていろー

 

筆を構えながら小石を広い前へ投げる。天井から無数の槍が降り注いだ…もし気づかなかったらと思うとゾッとした

 

 

ー………いくぞー

 

 

ーは、はいー

 

 

それから何時間歩いた。やがて光が見えあたりを警戒しながら一気に踏み出した。調査隊のみんなはその場にはなかった…もしかしたらと思い端末を使い連絡すると調査隊のみんなもかなり心配していて救助隊の編成し向かわせようとしていた

 

無事を伝えたけど迎えが来るまでの間、ナニをすればと考えていた時、声がかけられた

 

 

ー…迎えがくるようだな。私の用はすんだ……ココにいる必よー

 

 

 

ーま、まってください……ー

 

 

ー……………なんだ?ー

 

 

ーぼ、僕にあなたの使う魔法を教えてください!ー

 

 

ー………なぜだ?ー

 

 

ー…………………ー

 

 

ナニも答えられない…でも僕は自分の無力さと許せない気持ちが占めていた…いや、没頭することで逃げたかったんだと思う……少し間があく。そして帰ってきた答えは

 

 

ーいいだろう。ただし迎えが来るまでのあいだだけだ……ー

 

 

ーあ、あの…えとー

 

 

ーオウマ……秋月オウマだ……ー

 

 

あっさりと諒承してくれた…迎えが来るまでの間、オウマ先生は僕に実践形式で稽古をつけてくれた…内容は過酷で何度となく倒れた。でも歯を食いしばって立ち上がる。

 

先生の使う魔法…魔導術は僕達魔導師がもつリンカーコアからの魔力で生み出されたモノではなく《魔界》の力からのモノ

 

それ以上に肉体の鍛錬、魔導術、自然界における事象。とくに月の満ち欠けによる術の効果も実際に身体で受けて覚えた、それを繰り返しながら無限書庫からの救助隊が到着した日にオウマ先生は姿を消した…蓄積していたクロノからの資料請求に悪戦苦闘、なのはのリハビリを手伝いから帰ってきた夜遅くに先生が姿を見せた

 

 

ーオ、オウマ先生?ー

 

 

ー……ナニをしている、はやく用意しろー

 

 

ーな、なにをー

 

 

ー……決まっている、お前の鍛錬だ……私がいいというまで終わりはないと思え…さあ、はじめるぞ《時間》もあまりないからな………その前にいっておくー

 

 

ー?ー

 

ー私は決してお前のことを心配でココに来たわけではないからな…鍛錬、そう鍛錬がまだな終わってないのだからな…と、とにかく構えろー

 

 

……な、何なの一体……それからはフラリと現れては術や鍛錬、魔導力を叩き込まれた…なのはのリハビリに僕がみんなと交代しながらつき合ってても変わらなかった。術や体術が成功しても誉めもしてくれなかったけど…でも先生の様子が変わり始めた。なにか焦っているようだった。そして長くて辛いリハビリが終わり、なのはが再び空を駆ける姿に皆が喜びフワリと降りてきた時は少しだけ泣いてしまった

 

あの遺跡から帰ってすぐにリハビリに付き合うと言った僕にはやて、フェイトは驚いていた。ヴィータはあまり顔をみずに頷いた…あの言葉が気になって仕方なかったんだと思う

 

 

ーあ、あのときは……そ、その悪かったな…ー

 

 

ーあ、いいよ……僕にも責任があったからいわれても仕方ないよ。だから気にしないでー

 

 

なのはの全快を祝うパーティーをやろうって事になった前の日の夜、先生がフラリと現れた。でも何かが変だった。軽く魔導筆を振るうといつも先生と鍛錬している無限書庫未整理区画に転移した。目の前には巨大な岩が鎮座していた

 

 

『……ユーノ、コレを持て』

 

 

「は、はい……うわっ!?」

 

 

先生に渡された握り柄がついた幅広い板…羽子板に似た二つを手にした瞬間、重さが増し床へ落としそうになった、なんとか踏ん張ってみたけど耐えきれず地面に握った手ごとついてしまった

 

『少しはもてるようだな…それは魔戒騎士が振るう魔戒剣と同じ《ソウルメタル》で錬金してある……持つ者の心に応じ、時には隠鉄のように重く……羽毛のように軽い』

 

 

先生は僕の手から羽子板…ソウルメタルの模造剣を軽々と手にしふわふわと浮かばせ軽々と操る……なんでこうも扱えるんだろ

 

 

『ソウルメタルは己の心のありようで自在につかいこなせるようになる。確固たる己の我、信念……く!うう……』

 

「オウマ先生?どこか具合でも」

 

 

『き、気にするな…ユーノ。お前に課題を与える……この岩を五年以内にそのソウルメタルの模造剣で砕け……術や界符を用い破壊することを一切使わずに…もし使えば私はお前を破門する』

 

 

「む、無理です僕には……初めて使うソウルメタルでこの岩を砕くなんて…」

 

 

『…なにも出来ない、無理だ…三年前同様にまた逃げるのかユーノ……あの日私に力を教わりたいと言った時に話した理由は偽りか?』

 

 

「…!い、偽りじゃありません!!」

 

 

『………ならば出来るはずだ………私はしばらく…五年は此処には来れない。それまでに砕いてみろ……ユーノ、その剣を振るうとき、大事な何かを想え……忘れるな。それがソウルメタルを扱う者に必要なモノだ………』

 

 

「待ってくださいオウマ先生!」

 

 

筆を振るい無数の花びらに変わり消えたオウマ先生…それから僕は一人で先生が課した課題に取り組んだ。最初の一年はソウルメタルの模造剣を操ることに費やした…持ち上がるけど自由自在には無理だった。それでも頭上にまで掲げふらつきながら岩へ叩きつけるように斬る…でもはじかれ何度もたたらをふみながら繰り返した

 

(先生はソウルメタルを扱う時、大事な何かを想えと言った……大事な何か……僕にとって大事なモノ)

 

 

一瞬、サイドテールにまとめた再び空へ舞う誰か、リハビリにつきあってくれた髪飾りをつけた誰か、試験に一回落ちて諦めず挑む子の顔が浮かんだ…ソウルメタルの模造剣が僅かに軽くなった…迷わず振るうと岩に滑らかな傷が入った。

 

 

「や、やった…」

 

 

汗だくになりながらようやく傷を入れることができた日からソウルメタルの模造剣は少しずつ軽く、そして操れるようになってきた、毎日切りかかり弾かれながら、巨大で硬い岩に傷をつけていった…二年、三年、四年過ぎた頃にはソウルメタルの模造剣は僕の思い通りに操れるようになった

 

 

その間、無限書庫の整理やクロノからの資料請求が苦にならなくなるほど毎日が充実してきたし、たまになのは、フェイト、はやて達の手伝いもしたりしながら……でも最近、はやてがお弁当を持って僕の無限書庫に来るようになった。他の二人からも事件の資料や愚痴を聞いてるけど名前を出すと不機嫌になるのはなぜ何だろ?

 

 

そして約束の五年目…僕は模造剣を二つ構え一呼吸する…模造剣に意識を集中し一気に地面を蹴り剣を振るう…横凪、立てなぎ、ありとあらゆる方向から息つく間も無く繰り出す、すべての巉撃が吸い込まれるように岩肌を走り抜けやがて手を止め鞘に乾いた鞘滑りの音を慣らしながら収めた

 

ピシリと乾いた音が響きはじめ瞬く間に細切れになりあたりに飛び散る中、見えてきたのは未完成の鎧、白木の鞘に収められた双剣が岩に突き刺さり、小さな箱が置かれてる。よく見ると黒い封筒が張り付けられている。迷わず手に取ると魔導火で燃やす…煙の変わりに無数の文字が浮かび並んでいくのをみて声を失った

 

 

ーユーノ。お前がコレを目にしてることは、私の課した試練を乗り越えたと言うことだろう。ここにある魔戒双剣、鎧はお前の為にこしらえた。しかし時間が無く未完成だ。お前なら完全にする事ができよう………これからが本題だ、これより数年後に大きな事件が起きるだろう。もしこの先、私に出会った時は迷わず私を斬れ……もう姿こそ私であっても《私》では無いからだ。我が娘メイにも、娘の子…恐らく魔戒騎士でる者にも同様に伝えろ《必ず私を斬れ》と。師として守りし者であるお前に頼む。私の最初にして最期の弟子ユーノ・スクライアー

 

 

「せ、先生…あなたは………」

 

 

先生の手紙はやがて消え、僕はそのまま立ち尽くしていた…先生の予言通り四年後に広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティが戦闘機人、ベルカの遺産《ゆりかご》を用いてミッドチルダを震撼させる都市型テロJS事件が起きた。もしかしたらと思い、なのは、はやて、フェイトに内緒で六課の外部協力者として動いていた

 

先生ともう一度会いたい。なぜ僕に斬るよう頼んだのかを聞きたかった…本局、六課襲撃のさい魔戒法師が使う術の残俟を幾度も感じた…でも無限書庫に戻ってゆりかごの詳細を急ぎ調べなければならなかった。後ろ髪引かれる想いで戻った

 

ゆりかごは消え、コアにされたヴィヴィオも無事に救出、戦闘機人から端を発した事件は終わりを迎えた…それからずっと先生の足取りを追ったけど痕跡すらなかった。四年後に僕がホラーと対峙し先生と再会するまでは

 

 

「…………これが僕が知る先生…秋月オウマ先生のすべてです…」

 

 

「……よく話してくれたわね…でもアナタの話には矛盾があるわ。お父様は30年前に亡くなっているわ。生きてるのはおかしいのよ……」

 

 

「………メイ様、少しよろしいでしょうか」

 

 

僕の後ろに控えていた男性…デルクさんがメイさんの疑問に答えるように重々しく口を開いた…

 

 

「……先代《白煌騎士オウガ》オウル様から固く口止めされてましたが……もう隠し通すのは無理と判断しました。心して聞いてくださいメイ様、オウマ様は三十年前に起きた二重皆既日食を利用しゲートを開こうとした殲滅騎士・魔煌に殺された訳ではないのです……」

 

 

「デルク?何を?……………」

 

 

 

「………メイ様のお父上…秋月オウマ様が殲滅騎士・魔煌なのです」

 

 

「そ、そんな……なぜ、なぜ、オウマお父様が……嘘よ」

 

 

あまりの事実に動揺を隠せないメイ…同席しているカリム、なのは、はやて、フェイトも驚いていた、しかしジロウ、ソウマ、レイジは思い当たる節がある表情を浮かべながらデルクの言葉の続きを聞いていく

 

 

「オウマ様は秋月家の血筋ではありません。オウル様が違法研究所を叩き潰した際、保護した子を養子としてお迎えになったのです、オウル様に鍛えられ剣と術に関して恐ろしいまでの才をお持ちになりましたが剣斧オウガにえらばれませんでした。優秀な魔戒法師として成長しオウル様の子《マヤ》お嬢様と結ばれました。ですがマヤ様は幼き頃から身体が弱く体調がお優れになりません。オウマ様はマヤ様の身体を治すために魔戒の知識に傾倒し始めたのです…そんなときマヤ様がご懐妊されたのです……ですが」

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「マヤ、頼むその子を産まないでくれ……君の命が」

 

 

「大丈夫、大丈夫……せっかく授かったオウマと私の子を産みたいの……愛するアナタの子を」

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「オウル様、プリム様からも反対されたのですが、頑なに固持し続けたのです……あまりの頑固さにオウマ様は折れました。そしてさらに魔戒の知識を極めるべく没頭しながらマヤ様をみておられました……10ヶ月後、ありとあらゆる備えをし終えお二人の子、メイ様がお生まれになりました………ですが三年後にマヤ様が…」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「マヤ!…………そんな……な、なに眠っているだけだ……」

 

 

「オウマ、マヤはもう」

 

 

「何をいってるんだよオウル義父さん。寝てるだけだ……ほらまだ暖かい…」

 

 

「いい加減にしろオウマ!マヤは亡くなったのだ……」

 

 

「マヤ…う、くううう…マ、ヤ……うっ」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「マヤ様を失ったオウマ様の悲しみは計り知れないモノ、それ以上に魔戒の力が無力であることに打ちひしがれたのです……オウル様、プリム様はオウマ様と一緒にメイ様を育て始めました……思えばマヤ様を喪われた時から運命が決まってしまったのです……オウマ様は魔導書庫に閉じこもりきりになりながらメイ様に簡単な体術を教えていた時、疲れて眠ってしまったメイ様を寝室に運ぼうとした時、寝言を聞いてしまわれたのです」

 

 

ー………はは様ー

 

 

「それがきっかけだったのかわかりません。オウマ様はメイ様の為に禁忌の術に手を出してしまわれたのです……魔導書庫の奥に封印された死者を蘇らせる魔戒の術が記された魔導書に……」

 

 

「やはりか……まさか存在していたとはな」

 

 

「ジロウ様は知っておられるのですか?」

 

 

「オウマが手にした魔導書は魔導書ではない。レギュレイスと対を為すホラーが自らの代行者にして不死なる存在《アルター》を選ぶ為に存在するいわば分身だ…死者をよみがえらせることは可能だ、しかし払われる対価は666の無辜の民の命だ……」

 

 

「待って、今の話が本当なら…三十年前に起きた事件の失踪した人たちも666人……まさか」

 

 

声を上げるフェイト…その恐ろしい事件を起こした身内がいることに驚きを隠せなかった。しかしその事件を起こした相手をかつての自分の母プレシア・テステロッサとオウマを重ねてしまっていた

 

失った命をもう一度…姉であるアリシアを蘇らせるために手段を選ばなかった母と

 

 

「………その魔導書を手にしたことに気づいたオウル様は私と共にオウマ様をおい相対しました…二つの月と太陽が重なる二重皆既日食を利用した死者蘇生の儀式を行うためにゲートを開こうと初代オウガ様が今の鎧を纏う前に使われていた鎧を闇へ落とし殲滅騎士魔煌へ変え纏われたオウマ様と…仮にも親子であるのに……」

 

 

鬱蒼と繁る木々を蹴り移動する影が二つ。交差する度に火花が散り音が木霊させながら開けた場所へと降りる二つの影

 

「そこをどけオウル!」

 

 

「どかん!お前は自分が何をしようとしているかわかっておるのか!!」

 

 

地を蹴るやいなや剣斧を横凪ぎに切り払う、が対する相手も柄の長い斧で防ぎ半回転と同時に踏み込み胴を薙ぐもオウルは鞘で受けその反動を利用し蹴りを叩き込む

 

 

「グカッ!」

 

 

「…今ならまだ間に合う!あの術式を止めろ!!」

 

 

「やめるわけにはいかない…私はマヤを蘇らせるために闇に魂を捧げた。もう一度マヤを!!」

 

 

「マヤが本当にそれを望んでいると言うのかオウマ!!」

 

 

再び切り結ぶ二人の剣速は速さを増しやがて肉眼で追えない…だが互いの身体を切り裂いていき血が辺りに舞い散る

 

 

「はああ!!」

 

 

「かあああっ!!」

 

 

激しく刃がぶっかりあいソウルメタル同士の振動音と共に衝撃波がおき足元の地面がひび割れると共に抉れ々がはぜ飛び散る。二人は鍔是りあいになりながら互いの反動を利用し後ろへ飛ぶ、素早く剣を天に構え真円を描くと狼のうなり声が響き光が溢れ白金の狼《オウガの鎧》、黒い狼の意匠が特徴的な《………の鎧》を纏い対峙し斬りかかりと共に互いに蹴りを撃ちむもぶつかり合い白金と黒の粒子が舞う

 

『……お前に《魔戒の力》を教えるべきではなかった!!』

 

 

『それがどうした!私が闇に身を捧げてさえいればマヤは死には死ななかった!メイをひとりぼっちににせずにすんだのだ!!』

 

 

ギィンと大きく振りかぶり刃をぶつけ叫ぶ二人から悲しみ、怒り、苦しみ、強い後悔が滲み出ている…

 

 

《不味いぞオウル!術式発動まで時間がないぞ!!》

 

 

首元から聞こえた声にわずかに空を見る。二つの月が太陽と重なり始め魔導文字がその周囲に広がるのを目にし焦りをみせたオウルにわずかな隙が生まれる。黒い狼の鎧を纏った騎士は好機とみたのか魔戒斧、魔戒剣を強く握り踏み込みと共に交互に斬りかかる

 

『ぬ!ぐうう』

 

 

『私の勝ちだああ!死ねオウルウウウウ!!』

 

 

重い一撃を剣斧で受けるも押され苦悶の声をあげるオウルに勝利を確信した彼の変化した魔戒斧、魔戒剣が剣斧を弾く。そのままがら空きになった胴を薙ごうとした…が無数の花弁へ変わり消える

 

 

『なっ!?』

 

 

目の前から消えた事に驚く彼に僅かな隙を縫うように、花びらが彼の背後に集まりやがて白金の狼を模した鎧を纏ったオウルが姿を見せた

 

 

『…そこか!』

 

 

『………闇に魂を売り渡した貴様の陰我。ワシが断ち斬る!!』

 

 

振り返り様に大きく魔戒斧、魔戒剣を振るい鋭く鋭利な刃が迫るもオウルは剣斧を構え刃を滑らせるように受け懐へ潜り込むと突きの構えをとりソウルメタルの鎧を纏った彼の胸板めがけ突く、震動音が響きやがて砕け貫いた

 

『ガアッ!?』

 

 

狼を模した兜の牙から血を吹き、力なくグラリと倒れると共に血に濡れ輝く剣斧が胸から抜かれた

 

 

『……』

 

 

やがて光と共に鎧が魔界へ返還、魔法衣が切り裂かれ血を流しながらオウルは崩れるように地面へ膝を付いた

 

 

「……オウマ、ワシはお前を《本当の息子》だと思っていた……お前こそが九代目《白煌騎士オウガ》の称号を継ぐ者と信じていた…」

 

 

彼の死体を前にし顔を俯かせ地面へ拳を叩きつける【八代目】白煌騎士オウガ継承者《秋月オウル》の苦悶に満ちた声はやがて降り出した雨が激しく叩きつける雨音にかき消した

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「そ、そんな……お祖父様がお父様を……デルク、なんで、なんで教えてくれなかったの!」

 

 

「………オウル様とプリム様に口止めされていたのです。メイ様が大人になり受け入れられる年齢になるまでは伝えるなと…まさかオウマ様が生きておられようとは思いもしなかたのです。お許しくださいメイ様」

 

 

席を立ちデルクにつかみかかり顔を俯かせ嗚咽の声を上げ何度も叩く……秋月家の闇、父が闇に堕ち王の代行者アルター、殲滅騎士魔煌であったこと、祖父が自ら手を下した事実は受け入れるには辛いもの

 

 

 

(………オウガ、コレもお前の血、いやアキツキ名を持つもの宿命か暗黒騎士を父に、神官を母に持つ光と闇の…)

 

戦友であるオウガのルーツを知る者であるジロウ、ソウマ、レイジもまた同じだった。その空気を破るように扉が力いっぱい開かれタカヤを看ていたヴィヴィオ、アインハルト、ジーク、ミウラ、ノーヴェ、ファビアが息を切らしながら飛び込んできた

 

 

「どうしたのヴィヴィオ、それにアインハルトちゃんまで」

 

 

「タ、タカヤさんが、タカヤさんがいなく、いなくなってしまったの!!」

 

 

「光に包まれて……探したけど見つからないんです!メイさん!タカヤさんがどこにいるか探してください!」

 

 

「な、何ですって!……!?ヴィヴィオさん、アインハルト様、少し無礼をお許しください」

 

 

言うや否や私はヴィヴィオさん、アインハルト様の首筋に手を当てた…あの時、タカヤを看ていた二人の首筋に見えた影…間違いであってほしいと思い魔導力を流した…うっすらと浮かんだのは魔導刻印。それも最悪なモノ

 

……まさかと思い他の4人をみると魔導刻印が首にしっかり浮かんでいる……まさか、全員がホラーの王復活の為に開かれるゲートに選ばれた

 

「あ、あのメイさん?」

 

 

何ども呼びかけるヴィヴィオさんの声は私の耳には届いていた…でもなんて残酷な……何とかしないといけない

 

一刻も早くアルター…いえお父様を止めないとヴィヴィオ様たちの未来、この世界が終わる?

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

ー………ここは?ー

 

 

ー目を開けよ、秋月鷹矢ー

 

 

まばゆい光に包まれたタカヤが目を開く。目の前に一際強く輝く八つの光が周りに現れ形をなす…光の正体は歴代オウガ継承達の姿。しかしその顔からは怒りが滲んでいる

 

 

ーオウガの継承者でありながらー

 

 

ー鎧に込められた祈りをー

 

 

ー白き輝きを喪わせー

 

 

ー二度の心滅獣身へ堕ちたー

 

 

ー…我らはここに告げるー

 

 

ー…我ら英霊はー

 

 

ー汝、秋月鷹矢からー

 

 

ーオウガの称号を剥奪する!!ー

 

 

 

第二十四話 剥奪ーシンジツー

 

 

 




      魔導刻02.5秒…………


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第二十五話 鷹矢ー序ー

《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らいつづけた、人々は闇をホラー恐れた



闇《ホラー》あるところ《光》あり。古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人をまもる者達の名を《魔戒騎士》という


ーオウガの称号を剥奪する!ー

 

 

……光にあふれた場所に浮かぶ僕を見る《光》に包まれた人達の声が響く…《オウガの称号》…ナニのことか僕にはわからない。それに此処はどこなんだろ?

 

はやく戻らなきゃ……アレ?なんでそう思ったんだろ。一瞬、誰かの声と顔が頭をかすめるけどノイズと砂嵐が邪魔してる。何か大事なことなんだろうかな?

 

 

ー……もはや己自身が何者かすらも忘れたか…ー

 

 

ー……破滅と忘却の刻印で命、記憶も微かしか残されていないか………ー

 

 

ー秋月鷹矢、此の場よ……ー

 

 

 

ー……お待ちください、オウガを継承せし英霊の方々ー

 

 

光に飲まれそうななった時、別な声が静かに響く。光の玉が現れ真っ直ぐ僕の隣を抜ける。ほんの一瞬見られた気がする…八つの光の前で止まると鬼の面をつけた人が姿を現した

 

 

ー二度の心滅にお怒りは存じ上げてます。ですが今一度、彼に機会をお与えくださいー

 

 

ーならぬ。我らが纏いし鎧から輝きを失わせ二度の心滅はもってのほ……ー

 

 

ー鎧から輝きはまだ失せてはいません!ー

 

 

魔界文字があふれたしゆっくりと鎧《オウガの鎧》が姿を見せる、輝きが失われ黒く染まった鎧の周りを英霊の魂は全身をみるよう浮遊し、びたりと止まる

 

胸にまかれた鎖の向こう側に白金の輝き…ほんの小指ぐらいの広さが残っている

 

 

ー……本来ならば英霊の座す此の場にい私がいるのは無礼であるのは重々承知してます。ですが、お願い申し上げます!機会をお与えください…どうか再考を!ー

 

 

ー………ー

 

 

何故だろう。此の声…どこかで聴いた事が…ずっと昔に…何分か過ぎたときに光が僕の周りに浮かんだ

 

 

ー……秋月鷹矢。我らは今一度、機を与える……ー

 

 

ー……しかし二度の心滅へ至った事は許せぬこと………ー

 

 

ー……故に枷を与える…来い、我らが魔戒剣斧よー

 

 

僕のコート?から黒地に白金の模様が目立つ鞘に収まった剣がふわりと浮かび上がる。瞬く間に鎖が鞘と鍔をがんじがらめに巻かれ、僕の前にふわりと近づいた。恐る恐る手にした瞬間、ずしりと重くなり地面に膝をつきそうになるのをこらえた

 

 

ー……今のおまえは魔戒騎士にとって必要なモノを

失っている……ー

 

 

ー……今一度、思い出せ………その《カテナ》は得るまでは解けぬ……得ぬ限り魔戒剣斧を力ですらも抜くことも叶わぬだろう…ー

 

 

ー………秋月鷹矢。コレが我らが与える最期の機た……現世へ戻れー

 

 

声が途切れた瞬間、目の前が真っ暗になる…ただ、下へ下へ落ちていく感覚しかわからない…………

 

 

「《秋月鷹矢》って名前なんだ僕は。でも《魔戒騎士》って何だろう………わからないや……」

 

そう口にした僕は真っ暗な闇を墜ちていく事に身を任せた 

 

 

 

教えてよ………僕、《秋月鷹矢》は誰なのかを…

 

 

………教えてよ……

 

 

第二十五話 鷹矢ー序ー

 

 

同時刻、聖王教会最深部《魔戒殿》

 

 

「メイさん、タカヤさんは今どこに?」

 

 

「…ダメ。わからないわ…」

 

 

「わからない…どういう事なんですか?」

 

 

「……まるで《この世》から存在が消えている…いいえ何かに意図的に隠されているとしかいえないわ」

 

 

魔針盤から魔導筆をおさめ、息をつく……アインハルト様、ヴィヴィオさん、ミウラさん、ジーク様、赤が

……ノーヴェ・ナカジマが私に詰め寄る。タカヤが消えて二時間、外へ出て探しに行こうとするのを必死に止め術を使って探そうと言うことで納得して貰った。高町さんにヴィヴィオさんたちに刻まれた魔導刻印《ゲート》に関して説明を念話でした。最初は信じていなかったけど話を聞いてるうちに事の重大さに気づいてくれた。テスタロッサさん、八神さんにも同じ内容で伝えた。でもテスタロッサさんはかなり取り乱し皆に心配をかけないために念話での会話していたので表面状は普通を装えた

 

 

『テスタロッサさん、高町さん、八神さん、私が必ずヴィヴィオさんたちをお守りします。ココ魔戒殿は私と祖父しかしりません……』

 

 

『……わかりました……すいません取り乱して。今はアナタに頼るしかできませんから……でも必ずヴィヴィオを、みんなを助けてください。お願いします!』

 

 

 

テスタロッサさんの声からはヴィヴィオさんたちを強く想う心を感じ取り私は必ずまもると約束し納得してもらえた……私はそれ以上に彼女たちの未来を奪わせたくない。今はジロウ様たちもタカヤの行方を探してくれてる。でもタカヤに刻まれた破滅と忘却の刻印はジロウ様、ソウマ様、レイジ様、そしてユーノさんの破滅の刻印と繋がりがある。もしかしたらソレを通じて…

 

 

 

「なあ、メイ……なんでそんなに冷静でいられるんだよ」

 

 

「ノ、ノーヴェ?」

 

 

「タカヤがあんなのを刻まれて、あたしたちに心配をかけないためにずっと黙ってたのはわかんだ。でも、母親なんだろ!なんで気づかなかったんだよ!」

 

 

「………そうね…」

 

 

「メイ!…………っ?!」

 

 

ヴィヴィオさんの止める声に耳を貸さず強引に肩を荒々しく掴まれて揺らす赤が…ノーヴェ・ナカジマの手が止まる…頬に濡れた感覚、泣いていることにようやく気づいた……同時に堰を切ったように言葉があふれだした

 

 

「………そうよ!私は気づけなかったわ!破滅と忘却の刻印で苦しんでるのも……ホラーと戦う度に命と記憶を失ってるなんて気づけなかったわよ!私は、母親失格よ……コレで満足!!」

 

 

「………メイ、お前……」

 

 

「ノーヴェ、やめなさい。タカヤ君のお母さんだって辛いんだよ…子供を大事に想わない親なんていないんだから」

 

 

「……なのはさん」

 

 

「…そうだよノーヴェ…なのはのいうとおりだよ。今は待とうか。必ずユーノ達が見つけてくれるから」

 

 

「は、はい」

 

 

「さて、もう夜も遅いし、ヴィヴィオたちも早よ寝ないといかんやろ。あとはウチらにまかせてな」

 

 

「で、でも…」

 

 

「それに皆の寝不足の顔を見られたないやろ?タカヤ君、どう想うやろな?」

 

「は、はい!」

 

「そうですね」

 

 

「では、みなさま此方へ大浴場とお部屋へ案内いたします。さあ」

 

タカヤ君の名前だしたら、みんないそいそとデルクさんに部屋へ案内され居なくなった…ミウラの家には連絡したし問題はない。今、部屋にいるのはウチとフェイトちゃん、なのはちゃん、メイさん、カリム。コレからが本題になるやろうな………三十年前の事件、そして十五年前の誘拐立てこもり事件、そして四年前のJS事件、最近起きた不可解な事件でわかった《盟約》……ウチらをここへ呼んだ理由はそれに関わるものやと確信してた

 

 

「秋月メイさん、そろそろウチらをここへ招いた理由を聞かせて貰えないでしょうか?………盟約と関わりがあることでしようか?」

 

 

「…………」

 

 

泣きはらした表情から真剣な眼差しに変わるのをみて推測は間違えてないのがわかった。カリムの真剣な眼差しの奥に迷いが巻き込みたくないとも感じた…少し目を閉じゆっくりと開いた眼には迷いは消えていた

 

 

「…はやて、コレから話すことは聖王教会、管理局の触れざる歴史、そして禁忌。口外はしないと。高町一等空尉、ハラオウン執務官も誓えますか?」

 

 

「はい。誓います」

 

 

「私も誓います」

 

 

「はい」

 

 

「…………まずは盟約が結ばれるきっかけとなった事柄から話しましょう………すべての始まりはベルカ緒王時代。黒き魔獣から民を守っていた聖王女オリヴィエ様、覇王イングヴァルド様、エレミア、冥王イクスヴェリア様、クロゼルク魔女様が《狼の騎士》と出逢った日からでした」

 

 

カリムの口から聞かされた話は驚きに満ちあふれてた。ベルカ緒王時代に聖王女オリヴィエ、覇王イングヴァルド、クロゼルク、エレミア、冥王イクスヴェリア…黒き魔獣を狩る為に遥か彼方から来た騎士との出逢い、長い戦いの末に封印した騎士の名前《秋月煌牙》の子孫がタカヤ君だと言うこと

 

しかも、その封印は70年~100年で破られるたび、子孫達が命がけで黒き魔獣の存在を隠しながら戦い封印するを何回も繰り返し、管理局創設前に若かったミゼット提督を黒き魔獣《ホラー》が襲いかかろうとした時、タカヤ君の曾祖父《秋月オウル》さんが助けてくれた事で《ホラー》の存在をしる事になってカリムのグラシア家。提督についた三人、秋月オウルさんとの間に結ばれたのが盟約

 

内容は余りにも度外視したモノ。一つ間違えば癒着ともとれる内容…でも盟約はホラーの復活、もしくはホラーが関ったとされる事件が起きたのみ秋月家の当主は管理局に対してあらゆる行動を黙認、もしくは全面的に無条件で協力する代わり、秋月家が運営する秋月インダストリアルは管理局の運営資金の八割とデバイスおよび次元航行艦、魔力炉製造、魔法関連技術に関する最新技術を随時提供する

 

そして、秋月家および運営する秋月インダストリアルに手を出すことはならない

 

以上の取り決めがなされてたこと…これでようやく納得したんやけど、肝心のウチらを呼んだ理由が聞かされてない。その時、静かなノック音が響く。乾いた音と一緒に扉からデルクさんが黒塗りの箱を大事に手に持ち運んできたのをみてカリムの盟約についての説明が終わったのと入れ替わりにメイさんが椅子から立つと私たちの前に来た

 

 

「こうして話すのは初めてですね…高町なのはさん、フェイト・テスタロッサ……いえ今はフェイト・T・ハラオウンさん、八神はやてさん……秋月家当主《秋月メイ》です。タカヤがいつもお世話になっています」

 

 

「あ、いえ、こっちもタカヤ君にはヴィヴィオがお世話になっています…私は高町なのはです」

 

 

「インターミドルの練習にいつもつきあってくれて、それに手作りお菓子も美味しいから、みんな楽しみにしてて……あ、話がそれちゃったみたいですね。改めてはじめましてフェイト・T・ハラオウンです」

 

 

「(手作りお菓子……血は争えないなあ騎士秋月も得意やったし)………ウチは八神はやてです。みんな今はお菓子作りの話はやめような」

 

 

タカヤ君のお母さん、秋月メイさんに名前を教えてもらい。突然タカヤ君のお菓子作りの才能に話しが逸れそうになりそうだったことを言うと軽くコホンと言うとデルクさんが箱を私達の前に静かに置いて蓋を開いた。その中身は杖、その握り手に黄色いAIコア?がはめられてる。後一つの小さな箱にまるで引き寄せられるように手にし開いたウチは息が止まる

 

金色に輝く円に剣十字状の飾り…十三年前の雪が降る空に還った…うちの大事な家族リインが残した形見。今はうちがつけているはず。胸元をさわると間違いなく身につけてるのに何故此処にあるん?

 

「こ、これは……か、母さんのデバイス……なんで」

 

 

フェイトちゃんも罅が入った杖を信じられない様子で手にして、母さんって口にしてる。なのはちゃんも驚きじっと見ている

 

 

「…………八神さん、そしてフェイト・”テスタロッサ”さん。そのデバイスはあなた様たちに五代目鷹人様、六代目鷹狼様から渡すように託されたモノです……どうかお受け取りください」

 

 

「ウチに……なんで同じのを」

 

 

「待って……メイさん、なんで、なんで…アナタが母さんのデバイスを持ってるんですか、母さんは十三年前にアリシアと一緒に…虚数…間に」

 

 

混乱しているウチの隣で小さくつぶやいてる、アリシア、虚数空……少し落ち着いたウチの頭で断片的なピースが揃いはじめた…なのはちゃんとフェイトちゃん、ユーノくんが出逢ったPT事件、そしてウチの家族が皆が蒐集をはじめた闇の書事件。タカヤ君の御先祖に渡すように託されたデバイス。此処に呼ばれた理由がすべてはまり答えが出た

 

でも、あくまでも推測やけど、判断出来る材料はこの場に揃っている……少し考えウチは答えを言葉にするために口を開いた

 

 

「………秋月メイさんとタカヤ君の御先祖。秋月鷹人さんはフェイトちゃんのお母さんを、鷹狼さんリインフォースと出逢ったちゃいますか」

 

 

余りにも荒唐無稽な推測にメイさんの表情が少し変わった。カリムもだけど隣にいるデルクさんは特に驚いていた

 

 

「……きかせてもらえますか?タカヤ君の御先祖様とフェイトちゃんのお母さん、リインがどんな風に出逢ったかを」

 

 

「わかりました。でも私よりデルクがよく知っているわ…秋月鷹人様とプレシア様、鷹狼様とリインフォース様が出逢ったのかを」

 

 

「……かしこまりましたメイ様。フェイト様、はやて様、そしてなのは様。少し話しは長くなりますが構いませんね」

 

 

何故デルクさんが話すのかを疑問に思うたんけど、今はリインフォース、フェイトちゃんのお母さんの話しを聞こう。フェイトちゃん、なのはちゃんも無言で頷くのをみてデルクさんが用意した紅茶が注がれたティーカップがソーサと共に置かれる

 

でも、ウチらと話してたこの時、一人の子がココから外へ出たことに気づかんかった

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「はあ、はあ……」

 

 

ふらふらしながら僕は真っ暗な森の中を歩いてた…あの光から落ちて気がついた時には片手に鎖にがんじがらめに巻かれた剣がしっかり握られてて、身体中が泥だらけで痛い。ここはどこなんだろうと考える

 

突然胸と頭が激しく痛み出す。思い出すなと言わんばかりにドンドン痛みが増してく…

 

わからない。なんで僕はここにいるのか?そしてしっかり握られた重くて引きずることで精一杯なこの剣は何なのかも

 

 

ただ名前とある言葉だけがはっきりと頭にあった。声に出してみる

 

 

「僕の名前は秋月鷹矢………秋月タカヤ…アキツキタカヤ…あきつきたかや…魔戒騎士……マカイキシ………まかいきし………う、うああ?」

 

 

あまりの痛さに足元が覚束なくなり、目の前の道がぐにゃぐにゃ曲がるのが見えた時、ふと身体か軽くなる…そして落下する感覚だと気づいた時には遅かった。木の枝や葉が顔をかすめ足が何かにとらわれそのまま転がりながら墜ちていく…剣を地面に突き刺そうとしたけど重くて持ち上がらない

 

「う、うわ……」

 

 

わずかに身体が再び浮く。でも今度は冷たい水の感覚…水の中に落ちたんだと気づくけどもう遅かった。重い剣がじゃまをして水面に上がれない。それ以上にどんどん沈んでいく、息も苦しくなってきた

 

もう、だめなのかな?僕がナニモノなのか知らずにこのまま死ぬのかな…

 

再び襲いかかる痛みに正気に戻る…まだ死ねない…僕がナニモノかを思い出さなきゃ…なんで思い出さなきゃ生けないって想ったんだろ?

 

 

ー……タカヤ!ー

 

 

一瞬だけ、たくさんの誰かの顔が見えた…誰かはわからない…でも僕は知っている気がした時、剣が軽くなった。必死に水面に上がり飛び出した。でも身体にもう力が入らない

 

「はあ……っ、はあ……」

 

 

足が草にもつれそのまま倒れそうになる。でも寸前で誰かに支えられた…みると背が高く巻き毛の髪に、白い服に黒のズボンをはいた人が支えてる、隣には骸骨のヘルメットを持った人、そして心配そうに僕をみる魔女みたいな女の子の姿を眼にしたのを最期に意識が闇に落ちた

 

 

「大丈夫か坊主!……っておい村雨。ソイツは前にお前のバイクを取った奴じゃないか?」

 

 

「そうだったな……それより今は休ませないといけないな」

 

 

「………ならコッチ……ワタシのウチ近くにあるから」

 

 

「わかった。この子は本当に君の知り合いか?」

 

 

長身の青年の言葉に横に首を振り、そっとタカヤの頬に手を添える少女《ファビア・クロゼルク》は無表情だが頬を赤く染め

 

 

「ずっと昔から……ワタシの騎士様…誰にも渡さない…コレは運命」

 

 

「(な、なあ村雨。この子色々ヤバくないか?)」

 

 

「(そうか?)……とにかくいこうか?案内してくれると助かる」

 

 

「……わかった……コッチ」

 

 

カラフルなバイクに長身の青年、髑髏のヘルメットを被った男のバイクに備え付けられたサイドカーにのるファビア、タカヤの真っ白な髪を愛おしくすきながら軽いエンジン音と共に走り出した

 

赤いテールランプはやがて森の奥深くに飲まれ消えていった

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

『う、うおおお……ぐ、ぐぬああああ!?』

 

真っ白な空間に浮く巨大な岩、石舞台でうずくまる黒い影…王の代行者にしてアルター、秋月オウマが地の底から響くような声を上げている

 

 

ー……残念だったなー

 

 

『だまれ!まさかお前が鎧と剣を与えていたとは……この私と共有してるはずだ!!』

 

 

ーすべてではない……コレでお前の計画は崩れる。諦めろー

 

 

『………まだだ、まだ手はある。バルゴよ…』

 

 

「は、ここにいます」

 

 

『………我が王復活の為のゲート、供物を探しだせ…

これより三日後の皆既日食に間に合わせココへと連れてくるのだ』

 

 

 

「はっ!アルター様………オウガの継承者はどうなさいますか?」

 

 

『……記憶と命を失っているとはいえ…念には念を押そう。それにお前にとっては仇なのだからな。供物の傍にいたら殺せ…エアリス、アクウエリアスのような失態を犯すな』

 

 

「…………では失礼します」

 

 

軽く頭を垂れ現世へ向かうバルゴ……それをみずにふらふら立ち上がるアルター。その眼前には膨大な邪気を溢れ出させ脈打つ鼓動が響く

 

 

『……お前がやったことは無駄な努力だ……王の封印もとける。そうすれば忌々しい王族の血を引く乙女の血肉、希望にあふれた瑞々しい魂は最高の供物になる。その時こそ私の願いはかなう!マヤを甦らせる…必ずな』

 

 

ーく、だが忘れるな。魔戒騎士を舐めるな……お前を必ずー

 

 

 

『だまれ!くだらぬ残りかすが!大人しくみていろ。マヤが蘇ればお前の考えも変わるのだからな!眠っていろ』

 

 

ー………く、……ー

 

 

肩で大きく息をしながら叫ぶと声は消え、アルターは封印式の解呪と供物の配置と儀式の準備を進める……ホラーの王復活まで残された時間はない

 

 

第二十五話 鷹矢ー序ー

 

 

 




魔導刻…02.0秒


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第二十五話 鷹矢ー再起ー

《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らいつづけた、人々は闇をホラー恐れた



闇《ホラー》あるところ《光》あり。古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人をまもる者達の名を《魔戒騎士》という



今回のスペシャルゲストは、すし好きさんの作品《インフィニット・ストラトスー龍の魂を受け継ぐ者ー》から碓氷カズキくん、ザンリュウジンです


「返してよ!」

 

 

「グアッ!?」

 

 

「返しなさいよ……アナタが私から奪った大事な……」

 

 

「ううっ……はぁあ…ゴホ、ゴホ」

 

何度も殴られ宙を舞う僕に投げかける言葉…冷たい地面の感覚と口いっぱいに広がる血の味、むせあがり吐きながら咳き込む。そんなのをお構いなしに頭を掴みあげ力が籠もる、鋭利な爪が容赦なく食い込んでいく

 

「何か、何かいいなさい!この偽善者!!」

 

乳白色の体躯に背中に石化した子供を無数背負う女の人がデスマスクを想わせる仮面の目から見える憎しみ、悲しみが込められた瞳を向けながら拳を何度も鳩尾を殴りつけ言葉を浴びせ、なすがままに殴られ続けた。

 

 

「返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返してよ!」

 

 

コレは報いなんだ…僕はこの人から大事な…世界で一番大事なものを奪ったんだ

 

 

「………返して……私の子供を返してよ………この人殺し!」

 

 

この人から大事な子供の命を奪った……僕は人殺し…人殺しなんだ……記憶を喪う前の僕が右手に握る鎖がんじがらめに巻かれた剣で命を奪ったんだ

 

「…違う…やめて秋月タカヤは……魔戒騎士は…」

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー再起ー

 

 

「ん…」

 

ぼうっとしながら起き上がった僕の目に天井に書かれた不思議な文字。身体を起こそうとした僕の手に何か柔らかくて暖かな、何というかささやかで控えめな膨らみを感じた

 

 

「………や、ん……激しくは…壊れる」

 

 

……………ま、まさか…ギギギと手があるほうに目を向けると魔女みたいな格好をした女の子が僕に添い寝してる。手はその胸を掴んでる。慌てて離したけどパチリと目をあけた子がジッと手を見て視線をむけた

 

「…………あ、あの!コレはその!?」

 

 

慌てて手を離そうとしたら逆に手を掴まれ押し付けられた…や、やわらか…はう!?ち、違う離して?不思議そうな顔をしながら《いえす》《べつにかまわない》って文字がかかれた枕を手にして交互にひっくり返してる?

 

 

「………するの?…ワタシはいつでもできる」

 

 

「するってナニを?ねえデキるってナニをするの!?あの、ココは?」

 

 

 

と訪ねると、女の子は自分の家だと答えてくれた。無表情だけど、頬がすこし赤くしながら、起きあがろうとした僕を横に寝かせ毛布を掛けて飲み物を取りに行くと言って部屋を出た。一人になった僕の周りには古びた無数の本が収められた棚が並び、壁には色とりどり飾りが打ちつけれてる、その内の一つ、小さな棚に置かれた本に目がとまった

 

何度も読まれ表紙の縁や表装がこすれた本、それに描かれた絵を見た瞬間、何かが浮かんだ

 

 

ー………鷹人様。どうですか?ー

 

 

ー………悪くないけど、こんなに可愛いらしくなるのかな?僕たちの鎧って…ー

 

 

ー誰が描いたと思うんですか?クロゼルクの魔女の手にかかれば…………の鎧を可愛いらしく出来ますよ?ー

 

 

真新しい本を手に読んでいく男の人、タカヒトさんの隣にいる魔女みたいな格好をした女の人が自慢げにえっへんと腕を組んでる……この人、さっきの女の子とどことなく雰囲気が似てるような気が

 

 

ーそうだったね…それにコレが皆に取って希望になることを願いたいかな……題名は?ー

 

 

ー……今回は自信があるんだよ……たいとるはー

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

 

 

 

「………………黒い王様と白金の牙………あれ?なんで……僕は……あれ…」

 

 

本を手にしていた僕は知らず知らずのうちに泣いていた…わからない。でもページをめくるたびに何かこみ上げてくる…何か大事なことを思い出せ…って言われてるような気が

 

 

「……秋月タカヤ…」

 

 

「え?」

 

 

目の前が真っ暗になる。でも暖かい温もりと甘い匂いが包む…頭を優しく撫でられた

 

 

「………ココにはワタシしかいない。だから、おもいっきり泣いていい……」

 

 

いつの間にかに戻って来てた女の子が僕を抱いてる。少し感情のこもった声に堰が切れたように泣いた……前にもこんな事があった気がする

 

…それにその時、誰かがいた気が……思い出せるのは赤い髪の……だめだ、わからない

 

 

「……ワタシがアナタを守るから……絶対に。恩知らずの王やエレミアには…」

 

 

女の子の言葉を聞きながら、僕は意識を手放した…あの赤い髪の人は誰なんだろ…

 

 

 

「………よく寝てる…」

 

…ワタシの絵本を読んで泣き出した秋月タカヤを落ちつかせ寝ついたのをみて少しホットした。真っ白になった髪を撫でる…なんで秋月の魔戒騎士ばかりこんなつらい目に、それを知らないで護られて当然だと思っている覇王、聖王、エレミアの子孫、あとの二人は何もわかってない

 

いなくなったと聞いたワタシはあそこから抜け出し家に居候しててるマダO…タキとムラサメと一緒に探して見つけた時の秋月タカヤの姿に胸が痛かった…

 

 

ワタシは秋月タカヤを護る…クロゼルクの悲願も叶え、曾祖母様みたいに我慢は絶対にしない…そのためには《破滅と忘却の刻印》をみる、まずは脱がさないと。ジッパーをおろすときめ細かで瑞々しい肌、それに男の人の匂いはクラクラしながら胸に刻まれた黒く脈打つ刻印に撫でるように指を滑らせ触れた

 

複雑な魔導式が魂と記憶を奪うように組まれた回路はリンカーコアの流れに魔戒の力が根っこのように結びついてる。やっぱり絵本に描いてある方法でしか解けない、でもリスクが大きいし《アレ》が無い。アソコに残したデビルズに探らせてはいるけど場所までは掴めてない

 

 

「嬢ちゃん、坊主の具合はどう……って何やってんだ!?」

 

 

考えてたワタシを現実に戻した声と勢いよく開いた扉には買い出しに行ってたマダ……タキとムラサメがジイッとみてる…別に変な事してないのに。とにかく事情を説明しないと

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「居たか?ソウマ」

 

 

「いや、見当たらない……せめてキリクがいれば場所を知ることができるんだが……」

 

 

「……く、僕たちが早く来ていれば」

 

 

夕焼けに染まるクラナガンの高層ビル、その屋上に四人の人影…山刀ソウマ、布道レイジ、四万十ジロウ、そしてユーノ・スクライアの姿、今の時間まで四人は魔戒殿から姿を消したタカヤ、そしてファビアの捜索をしていた。しかし探そうにも手がかりもない。さらに追い討ちを掛ける事態か迫っていた

 

空に浮かぶ二つの月が少しずつ動いて重なろうとしている…コレは三十数年前にも起こった死者蘇生の儀式に用いられた二重皆既日食とは違い、2日後の夜に完全に重なる。つまりはアギュレイス復活の兆候に間違いない

 

いま、儀式が行われている場所の特定にメイが魔戒殿から意識を飛ばし探している、月が重なれば復活の準備が整い生け贄にされたノーヴェ達の命が喪われてしまう…事態を知ったギンガ、チンク、ウェンディ、オットー、ディードが協力をすると言ってきた。最初は断ろうとしたのだがチンク、ギンガ、ウェンディから「そんな目立つカッコウしていたら捕まる」「妹の命と未来を護りたい」「私とジロウさんの将来の為ですから」「ソウマっちは少しは人に頼ることに素直になるっす!」と言われ無理をしないことを条件に了承した。もちろん、万が一に備え界符と護符を渡しているが

 

「おい、ユーノ・スクライアといったな………」

 

 

「はい、あの山刀ソウマさん」

 

 

「俺はお前を信じた訳じゃない……経緯はどうあれ暗黒騎士オウマの師事を受けた…」

 

 

「待ってソウマ!落ち着くんだ。今は…」

 

 

「不安要素を残すわけにはいかな「止めろソウマ。それ以上は言えばオウガも否定する事になる……」…………っ…すまん言い過ぎた」

 

 

「……ユーノ。お前の太刀筋には邪念、翳りも曇りもなかった……レイジ、ソウマも間近でみていたならわかるはずだ……今はタカヤとクロゼルクを探し……ぐっ……」

 

 

言いかけた時、激しい痛みに胸を押さえるジロウ…それは刻まれた破滅の刻印による痛み。ソウマ、レイジ、ユーノも苦しみだす…それでも四人は気力を振り絞り行方を探すためにギンガたちと合流するため夕焼けに染まる空を駆ける

 

この世界に住む人々をホラーから護るという確固たる信念を満ちあふれさせ忍び寄る《闇》を切り払う為に

 

 

 

 

ータカヤ……今どこに……はやく儀式の場所を突き止めないとー

 

無数の魔導文字があふれる空?を駆ける女性…秋月メイ。肉体から意識を飛ばして儀式の場所を探る表情は普段から見せない程暗い

 

儀式の場所を探す前にキバットバット二世に告げられた事が心をかき乱していた

 

 

『あの、キバットバット二世様。私に何か?』

 

 

『秋月メイよ、コレから告げるのはお前の子《タカヤ》についてだ………もう二度と鎧を召還させ纏わせ戦わせるな』

 

 

『な、なぜですか鎧を召還をしてならないと?魔皇石は封印されたのではないのですか?』

 

 

パタパタと飛びながら私に告げた言葉は信じられないものだった…なんで、なんでこんな事に

 

 

『……確かに封じた。だが私と息子。闇のキバの鎧と黄金のキバの鎧の管理をする我々の力をもってしても一時しのぎの封印だ……そしてコレからが本題だ、今タカヤの魂ともいえるライフエナジーは漆黒の魔皇石に吸い尽くされる寸前で我々の力で止めることができた。過去に人間でありながら闇のキバの鎧を纏った紅オトヤと同じ現象が起こっている可能性がある……』

 

 

『ま、まさかタカヤは……』

 

 

『今のタカヤの魂…いやライフエナジーは限り無く0だ。空に近い。もし鎧を召還し戦いの中で我々の施した封印が解かれた瞬間、残されたライフエナジーはすべて漆黒の魔皇石に吸い尽くされ待つのは……死だ』

 

 

………キバットバット二世様に突きつけられた残酷な事実…目の前が真っ暗になり倒れそうになるのをこらえた。タカヤが魔戒騎士となった日から覚悟は出来ていたはずなのに…タカヤを喪うのが怖い…愛する人をまた喪う恐れで胸の中が一杯になりそうになるのを振り払い、気がつくとキバットバット二世様の姿はそこにはなかった…ジロウ様方が必ずタカヤとファビア様を見つけてくれる…私は今出来ることをやらなければいけない。お父様が儀式をおこなう場所を見つけだし阻止する

 

再び意識を集中し私は気の流れを探るためアストラル界へ潜り込んだ…タカヤの気配も探るのを同時並行で進めながら

 

 

 

秋月メイは知らなかった……キバットバット二世との会話を聞いてしまった者が近くにいたことを。ふらふらとその場から逃げるように立ち去りシャワールームでノズルを前回にし身体に浴びながら泣きじゃくっている乙女の声は水音にかき消されていった

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「ん、朝…」

 

 

寝ぼけながら身体を起こそうとするでも左腕に重みを感じ見る。白くすきとおる布地のネグリジェ姿の女の子…ファビアさんがやや乱れた金色の髪を広げ身体をあずけるみたいにして寝てる

 

「……あう。どうしょう……起こさないように…」

 

力を加減しながらファビアさんを優しく枕をあてる。ん~と寂しそうに身体を丸めるような仕草に猫みたいだなってかんじながら目をそらした。だってネグリジェが薄すぎてその…透けて見える黒いレース柄の下着が…

 

 

「っつ!?」

 

慌てて鼻を押さえ僕は部屋から出て古い作りの扉を開ける…朝の爽やかな空気と微かに見える陽射しが落ちつかせてくれた…でも右手に握られた剣?に少しだけ心が重くなる

 

目を覚ました僕はなんとかして手から剣?を離そうとしたんだけど、離れないし鎖が手首に巻き付いている

…どんな事をしても外れない剣?と鎖は僕の心、気分ですごく重くなる…

 

 

「よう!タカヤおきたのか?」

 

 

「あ、えと…滝さん、ムラサメさん、おはようございます…いまからどこか行くんですか?」

 

 

「ああ、さっきクロゼルクに買い出しを頼まれてな。ああ、お前がいないって血相を変えて探していたぞ?」

 

「ファビアさんが?」

 

僕と他愛もない会話をする滝さん、ムラサメさん。ファビアさんから家の居候って聞いていた。聞いた話だとタチバナって言う人が里帰りしてるらしくて鍵を預かるのを忘れて途方に暮れていたところをファビアさんに来ないかと誘われ今に至るらしいんだけど

 

 

「タカヤ、早く帰らないとクロゼルクが心配し……」

 

 

「うわっ!」

 

 

いきなり金の光が僕に体当たり…あまりの衝撃に倒れそうななりながら踏みとどまれた…まさかと思いみたらファビアさんが背中に手を回し抱きつく姿…すうっと顔をあげ僕をみている

 

 

「………あ、あの」

 

「………心配した…アナタに何かあれば…ワタシは…」

 

 

「ご、ごめん。ファビアさん…」

 

 

「……滝さん、俺たちはお邪魔虫なようだな」

 

 

「ああ、しゃあねえな。嬢ちゃん、買い出しに行ってくるわ」

 

 

 

 

抱き合う二人(どちらかというとファビアが一方的に)に手をひらひらさせ、バイクに乗り走り出す二人…なお買い出しのリストは《メテオガーリック》《エア》《ニワトラの卵》《ビリオンバード》《オゾン草》《ドッキリアップル》………どこかの美食家を呼ばない限り入手不可能なものばかりだった

 

 

 

「………ファビアさん…あの離して」

 

 

「……スウゥゥ……ハアアアアア……」

 

 

「あのファビアさん?なにをされてるのでしょうか?はう!?」

 

 

胸元で深く深呼吸するファビアから惚けた吐息と共に下半身にさわさわと手が滑り大事な部分でとまりギュッと握られた。あまりのことに腰が引けそのまま芝生に倒れ込んだ。

 

「たた、大丈夫ファビアさ………はあああああ!?」

 

 

タカヤの目に映ったもの。黒のレース柄のショーツにガータベルト。ギギギと目を上にずらすとスカートの裾を持ち上げ潤んだ瞳でファビアが見てる。しかも馬乗りで色々ヤバメな体勢

 

「……大胆……こんな朝から…」

 

 

「イヤイヤイヤ!これは、その…はう!?」

 

 

「ふふ元気いっぱい。溜めるのはよくないから…優しくするから」

 

いつの間にか大人モードに変わり体を預けるように抱きつくファビア、いつの間にかに露わにされた胸板の上で指でノの字を書いてる…色んな意味でヤバい。その頃…

 

 

魔戒殿

 

 

「どうしたんですヴィヴィオさん?」

 

 

「いま、タカヤさんの大事な何かが狙われてる気が…」

 

 

「ヴィヴィオさんもでしたか」

 

 

「僕もそれ感じましたよ…」

 

 

「そうやなあ~」

 

 

……笑顔で互いに頷く4人…ただ背後から凄まじいまでのどす黒いオーラがあふれ凄まじき戦士、欲望の王すら裸足で逃げ出す程の気に満ちあふれさせる…しかし

 

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、あとチャンピオン。練習やるぞ!ったく試合まで時間無いんだからな!!」

 

 

「は、はい!」

 

ノーヴェの言葉にパッとオーラが途絶え四人は次の試合に向けての練習を個々に始める…押しつぶされそうな心の苦しみ、タカヤを失うかもしれない恐怖にワザと元気に振る舞い耐えるしかなかった

 

 

 

 

 

「うっ!?」

 

 

「………どうしたの?元気なくなった」

 

 

「い、いや、なんか凄く懐かしい感じが…何だろよく知ってるような……」

 

 

「…………秋月タカヤ…思い出さなくていい。ワタシと一緒に旅にでる…管理世界、ううん誰も知らない管理外世界にいって静かに暮らすの」

 

少し怒ったような目でファビアは言い続けた、今までと違う感情が込められている…

 

 

「………あんなにたくさん傷ついて、たくさん血を流して守ってきたのに、あの恩知らずの王達は何もしなかった…護られて当然だって……昔から変わらない。今も…秋月タカヤ、ワタシと一緒に。もうアナタが傷つくのを見ていられない、見て…られな…い」

 

 

タカヤの心は揺れ動いていた、ファビアの言葉は真摯で純粋に自分を思っている…名前以外覚えていない自分の為に…穏やかな世界で暮らす自分とファビアの姿が浮かんだ時、右手が重くなり現実に引き戻された。鎖でがんじ絡めに鞘と柄を拘束、手首に巻き付いている剣斧…一瞬、頭に白金に輝く牙をむいた狼の造形の兜、西洋の趣を感じさせる鎧を纏った騎士が睨むように佇む姿。その瞳は逃げるなといっているようだ。かき消すように消えた。右手に握られた剣斧に目を落としファビアの目と合わせた

 

 

「ファビアさん…僕の事、知ってるんですよね……教えてください。僕が何者で、持っている剣は何の為にあるのかを」

 

「……やめて、あなたがコレ以上は、おねがい秋月タカヤ。私と一緒に」

 

「…一緒にファビアさんと違う世界にいきたいと最初は思った…でも、それはやっちゃいけないって、僕の心が逃げるなって言ってる気がするんだ…ファビアさん…」

 

 

「…いや…」

 

 

「ファビアさん、教えて…僕が誰なのかを」

 

 

じっと互いの瞳を見つめるタカヤ、ファビア…しかし辺りの空気が揺らぎ始める。慌てたように空を見るとうっすらと文字…筆で描かれた円の中心にある文字がはじけ得体の知れない何かが辺りに満ちる

 

 

「……秋月タカヒトさまの結界が破られた?」

 

 

「見つけたわよ…ファビア・クロゼルク。秋月タカヤ……いえ、人殺し」

 

 

驚くファビアとタカヤの耳に入った声に身を起こす。二人の前…正確には地面から黒塗りの外套に身体を包んだ女性が姿を見せ愛憎入り混じった目を向け手をかざす。瞬く間に無数の布が現れる巻きつくとグイッと引き寄せファビアの頬を撫でた

 

 

「や、はなして」

 

「可愛いわねぇ~その未成熟な肉と血は我が王の生贄に相応しいわ。まだ破れてはいないわねぇ?さてとアナタをアルター様に届ける前に……」

 

 

つっぅと血色の悪い肌の手で胸から腹部を滑らせ止め口角をつり上げ笑みを浮かべる女性の瞳がタカヤを捉える…極寒の吹雪荒れ狂うモノをみた瞬間、身体がくの字に折れ曲がる。肺から一滴残さず空気が吐き出され膝をつこうとする…が寸前で頭を捕まれた

 

 

「あなたを殺すわ…秋月タカヤ……いえ人殺し!」

 

 

「が、はあた!ぐが!」

 

堅く握られた拳が胴を捉え殴り抜くたびに苦悶の声が挙がる。休むことなく、背中から地面へ叩きつけても止まらない、何度も足蹴にし蹴り飛ばし踏みつける…

 

 

「やめて!アナタの目的はワタシ。秋月タカヤは関係ないはず…やめて」

 

 

「…やめないわ…この人殺しはいきる価値なんか無いわ!だから私はコイツを殺す……コイツは私の、私の世界で一番大事な子供の命を奪ったのよ!!ハアアアアア!!」

 

女性の口から語られた事実にファビア、特にタカヤは衝撃を受けていた、自分は右手に握られた剣でこの女性の子供の命を奪った。じゃあ自分は人殺しなのかと剣斧は何も答えない。足音が響き再び頭を捕まれ指の隙間から見えたのは女性…いやデスマスクを思わせる仮面に眼帯がつけられ異形の女神像が乳白色の全身を構成、背中に幼子を想わせる天使がうめこまれた姿…最後の上級ホラー《バルゴ》が顕現している

 

 

 

「返しなさいよ!……アナタが私から奪った大事な……」

 

 

「ううっ……はぁあ…ゴホ、ゴホ」

 

何度も殴られ宙を舞う僕に投げかける言葉…冷たい地面の感覚と口いっぱいに広がる血の味、むせあがり吐きながら咳き込む。そんなのをお構いなしに頭を掴みあげ力が籠もる、鋭利な爪が容赦なく食い込んでいく

 

「何か、何かいいなさい!この偽善者!!」

 

デスマスクを想わせる仮面の目から見える憎しみ、悲しみが込められた瞳を向けながら拳を何度も鳩尾を殴りつけ言葉を浴びせ、なすがままにただ殴られ続けた。

 

 

「返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返して、返してよ!」

 

 

コレは報いなんだ…僕はこの人から大事な…世界で一番大事なものを奪ったんだ

 

 

「………返して……私の子供を返してよ………この人殺し!」

 

 

この人から大事な子供の命を奪った……僕は人殺し…人殺しなんだ……記憶を喪う前の僕が右手に握る鎖がんじがらめに巻かれた剣で命を奪ったんだ

 

「…違う…やめて秋月タカヤは……魔戒騎士は…」

 

 

「あの子はインターミドルに出るんだって頑張ってた。間違った事が嫌いで真っ直ぐで…それをあなたはホラーに憑依されたからって殺したのよ。魔戒騎士は偽善者よ、人殺しを正当化する詭弁よ!!死んで!」

 

ギリリと頭の骨が鳴る音を聞きながら、意識が遠くなっていく…もしこの人が言うのが事実なら、死んだ方がいいのかもしれない…

 

ータ★ヤ※◐……タカヤ!ー

 

 

まただ、知らない声と顔がよぎる……赤い髪の女人、元気いっぱいな子、少し大人しい子、不思議な訛りでしゃべる子、まっすぐな子…そして

 

 

「…秋月タカヤ…」

 

弱々しく今にも泣き出しそうな小さな声…頭から流れる血でぼんやりとしか見えない…でもしっかりと声の主を捉えた…魔女みたいな帽子をかぶり涙を目にいっぱい溜めた女の子ファビアさん。記憶の無い僕を助けてくれた女の子

 

助けたい…あの子には笑顔が一番似合うはずだ…でも人殺しの僕に助けられるのか…その時、声が響いた

 

 

ー……迷うな秋月タカヤ…ー

 

ーえ?誰?ー

 

 

ー誰かは今は関係ない。聞けタカヤ。その女の言葉が真実だとしても、おまえの手にある剣は守るために振るわれていたはずだ………ー

 

 

ーでも僕は…ー

 

 

ーたった一つでもいい…自分にとって命をかけて守りたいモノがあったから、守るための剣だからこそお前の手から離れない。お前の中にある内なるナニかが必ず導くはずだ………お前が剣を手にし刃を振るわせたモノは何だ?ー

 

 

それっきり言葉は途絶えた…再び痛みが襲いかかってくる中で想う…記憶を喪う前の僕が剣を振るっていたのは何なんだ…何かが、割れたガラスが次々と組み上がっていき見えた

 

二つの月の光が照らす室内で剣を構える僕の姿と…

 

 

ー………、僕はヴィ★※◐、ア◐ン※ルト、ノー★ェさん達を、みんなの夢をホラーとの王から守る為に剣を…オウガを振るう…ー

 

 

「…確かにアナタの言うように僕は人殺しかも知れない」

 

 

「なによ、今更命乞い?そんなこと認め…」

 

 

「それでも、ホラーに憑依された人を斬ることになっても、ホラーに襲われ夢を、未来を奪われる人達を守るために剣を振るう!」

 

右手に握った剣斧の鞘、柄に巻きついた鎖が震え亀裂がピシリと入り広がる。頭を捕まれながら正面に構えた。鎖が弾ける。あまりの衝撃に頭を掴む手が緩んだのを逃さず腕を蹴り宙を舞う、飛び散った鎖が花びらのように舞う中で鞘から剣を抜き自然に身体が動き円を描いた。光が包み込み狼のうなり声が聞こえた

 

「……白煌騎士…」

 

 

つぶやくファビアの前には胸元に鎖が幾重にも巻かれたオウガの鎧を纏い立つタカヤ。鎧の胸、つま先、肩、拳部分が漆黒から白金へ変わり剣斧を蜻蛉の構えを取りながら地を蹴り上げファビアを拘束する布を切り裂き上半身の鎧を一部解除、抱きかかえ安全な場所に下ろした

 

「………ファビアさん。ここから動かないで…」

 

 

「うん、秋月タカヤ」

 

ファビアの声に応え、再びバルゴと相対するタカヤ…再び布を飛ばしてくるも、それを足場代わりに駆け抜け迫ると同時に素早く魔戒斧へ切り替え横凪に切り払おうと力を込める…が、寸前で刃が止まる

 

 

「くっ、くあああっ!?」

 

胸に刻まれた刻印が激しく痛み出し、頭を抑え苦しみ出すタカヤ…

 

 

「コレで終わりね魔戒騎士…人殺し。私の子供の命を奪った罪の重さを感じながら潰れなさい!!」

 

『ぐ、グアアア!』

 

無数の布が巻きつきタカヤを締め上げていく。オウガの鎧が軋み、ソウルメタルの粒子が舞い始める…このままだと圧殺される。しかし今のタカヤは刻印からくる激しい痛みが力を奪われていく。もうダメだとファビアも思った時、締め上げる力が収まる

 

『な、なにが』

 

 

ーもう、やめてお母さんー

 

 

「り、リーネ……なんでココに」

 

 

タカヤの視線には半透明の子供が守るように立つ姿、ゆっくりと歩きソッとデスマスクに触れる。アイマスクの下から涙があふれ出し左手がゆっくりと撫でた

 

 

ーお母さん、お兄さんはボクをたすけてくれたの…ホラーに弄ばれるボクの魂を……だから恨まないで。お母さんにコレ以上苦しんで貰いたくないよ…ー

 

 

「そ、そんな……じゃあアルター様は………う、ううああああ!いたい!痛いいいっ!!」

 

 

突然、身をもだえさせるように苦しみ出すバルゴを見て驚くタカヤ…全身から血にも似た液体を撒き散らし異臭をあふれさせ暴れまわる。彼女がタカヤへの復讐心溢れる陰我で適合したホラー・バルゴの力を飲み込んでいた。しかし亡き子供の魂と邂逅しタカヤへの復讐心が薄れ、陰我の不適合を招いた結果だった

 

「い、痛いいいっ!!熱いいいっ!!……ああ、アナタはリーネをこの苦しみから救うた…めに?……ごめんなさい。あ、あああああ!?」

 

 

ーお兄さん、お母さんを救ってあげて………おねがいー

 

涙を貯めながら苦しむ母を救ってくれと頼むリーネ…僅かな逡巡の後に頷き、横を通り抜けゆっくりと剣斧を構え立つたまま動かない

 

 

『………………』

 

 

「はや…く……わ、わたしの……陰我を……」

 

 

……無言のまま振り下ろされた剣斧はバルゴの身体を切り裂いた。苦しみ悶えていた姿は消え変わりに私服姿の女性が仰向けになり倒れている…リーネはゆっくりと近づき手に触れた

 

 

ーお母さん、いこう。今度は寂しくないように一緒にー

 

「リーネ……一緒よ………あ、あ、ありが……」

 

涙を一筋光ると同時に肉体は消滅、リーネの隣に魂に寄り添うように母親が穏やかな笑みを見せている。軽く頭を下げ二人は光となり天へ帰っていく

 

ーお兄さん、お母さんを助けてくれてありがとうー

 

 

その言葉と同時に、鎧が魔界へ返還され肩で息をしながらゆっくりと立ち上がった…その瞳から涙を流し空を見上げ目を閉じた。僕は人を守る為にホラーに憑依された人を斬る…

 

でも、それでも…

 

 

「…秋月タカヤ……え、ナニ?コレ!?」

 

 

「ファビアさん!」

 

 

僕に近づいてきたファビアさんの身体に無数の御札が包み込んでいく。手を伸ばし助けようとしたけどふれる前に御札ごと消え去った……な、なにが起こったの?

 

同じ頃、鉄壁の守りを誇る魔戒殿では異変が起きていた

 

「なぜココを……」

 

 

「ふ、私が此処を知らぬと思ったか?ソコをどけデルク」

 

「いいえ退きません!あなた様は変わられた、昔のオウマ様はどこに行かれたのですか!」

 

 

「………余り時間がない。すべてはメイの為に……生贄は貰っていくぞ。後一人もすで我が手にある」

 

軽く振るうとファビアが無数の御札《眠符》で包まれ眠らされている姿にデルクは覚悟を決め構える…かつての家族であり幼少期からみてきたオウマを殺す事を再びギラファファンガイアへ姿を変え二度と使うまいと決めた《吸生牙》を飛ばし突き刺す…が不死身のアルターには意味がなかった

 

 

「ふ、本気かデルク……」

 

 

「な、リーム様……」

 

 

ボロボロの修道騎士服姿のリームに息をのむデルクに僅かな隙が生まれ、口角をつり上げデルクに投げつける。慌てて抱き止め命に別状がないか看て安心したのもつかの間、首筋に強い衝撃を感じ振り返ると自らを見下ろすオウマの姿

 

「デルク、弱くなったな……さて、生贄を貰っていく……」

 

 

「お待ち……くださ……あう…」

 

 

必死に追いすがろうとするも変身がとけ人間態に戻るデルク、ただリームを守るように抱きしめたまま意識は落ちた。それからしばらくして異変を感じ駆けつけたジロウ達が目にしたのは意識を失い倒れたデルク、リーム。ヴィヴィオ達がいた部屋はもぬけの空だった

 

 

すべてが終わりに向かい始める…だが、まだ希望は残されている

 

 

真魔界…メシア、ラダン、レギャレイス、ギャノン、使徒ホラーが生まれ、邪心溢れる陰我をゲートが開くのを虎視眈々と待ち、限界し人を喰らう魔物《ホラー》が跋扈するグ○メ界以上に一瞬たりとも気を抜いてはいけない。ホラーと闘う魔戒騎士、魔戒法師、魔戒導師のみが立ち入れる禁忌の世界…そこに人影、いや龍を想わせる造形の鎧に身を包んだ人物が歩いている

 

やがてその足が止まる。目の前には無数の界符が無造作に貼り付けられた見上げるほどの巨大な岩を前に誰かにはなしかけている

 

 

『ココで間違いないのかザンリュウジン?』

 

 

ーああ、間違いない……アイツの魂を感じる。世話が焼けるが約束してたからな。いそがないと使徒ホラーやラダン、メシアにレギュレイスに感づかれる。《魔弾》の力やお前の持つ力じゃホラーには太刀打ち出来ないからなー

 

 

『ふ~ん、そっか~じゃあいっちょいくか………』

 

と言い手にしたのは特大メガホン。それを口元に近づけボリューム最大に設定し大きく息を吸い込んだ

 

『お~い、寝坊助~?自分の事を忘れたからってひねくれた意気地なしのエロめがね~♪そんなことで友達を見捨てる薄情な奴~聞こえてるよね~ノックしてモシモ~シ?ん、聞こえてないか…』

 

大音量で声が目の前の巨石《鬼龍岩石》に響く。さらに言葉はつづく…かすかに亀裂が走った事に気付いていない

 

 

『引きこもるなら、ずっと引きこもってなよ、ヒッキ~お前にとって友達ってのは命を1日分もらえる程度のヤツ何だな~悔しかったら出てこいよ~ほら、カモオオン!』

 

 

ーお、おいカズキ、言い過ぎだ!……ヤバいー

 

 

ビキビキ…と音が鳴り響き、巨岩全体が亀裂が大きく走った瞬間、大きく爆ぜ巨大な何かが踊り出した

 

 

『ヌ、ヌルガツクヅシルミスチルカアアアアアアア(だ、誰が友達を見捨てるかああああああああ)!!』

 

 

ソウルメタルの鱗をギシギシ鳴らし空を舞う巨大な魔龍が翼を広げ長い身体を揺らし見下ろす姿と旧魔界語の咆哮があたりに響きわたる中

 

 

「……さてと寝坊助は起こしたからもうココはいいかな。魔戒騎士いや白煌騎士か…少し様子見してみるかな」

 

 

 

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー再起ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




………魔導刻 01,0秒

次回 第二十五話 鷹矢ー散華ー


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第二十五話 鷹矢ー散華ー(一)

「い、いや……うそ……タカヤ…タカヤああああ!?」

粉々に砕け散る鎧…白金の破片は雨のように空に舞い全身から血を流しながら地に降り立ち糸が切れたように地面に倒れた

『ヌルヌグチヌ、マキイクス……クヌ、アギュレイスヌニミクツルツミミッヌカ?』


倒れたタカヤの手には魔戒剣斧が握られている。たが身体がびくんと跳ねた

「う、うう…あう!」

僅かに残った胸鎧に巻かれた鎖がはじけ、怪しい輝きを秘めた魔石……漆黒の魔皇石が輝き命を吸い始めたのだ


「誰か、誰か……タカヤを助けて!!」






「申し訳、申し訳ありませんメイ様!私めが不甲斐ないばかりにヴィヴィオさま方を」

 

 

「デルク、アナタは悪くないわ……私がここを離れなければ……」

 

 

何度も頭を下げるデルクの肩に手をおきながら魔導筆を軽く振るう…魔戒殿の多重結界をいとも簡単に破る壊されているのが手に取るようわかる。秋月の魔戒術式を知り尽くしたお父様なら容易い

 

「秋月メイ、今は悔いている場合ではない。お前がココにいるという事は見つけたのだな」

 

 

「ええ、そこに間違いなくお父………アルターはいるわ。ヴィヴィオさま達もいる…」

 

 

軽く魔導筆を振るう。天井から巨大な鏡《魔導鏡

》が三つ現れある場所を映し出す…巨大な浮き島が見えおどろおどろしい邪気が溢れかえる光景、その場にいない筈なのに肌が泡立つのを感じながら静かに告げた

 

「……内なる魔界と真魔界の狭間……封印の地《アギュレイスの園》に」

 

 

「そこにゲートは開けるか?」

 

 

「……今から三時間後、二つの月が重なる前に転移ゲートを開ける。儀式が行われるまで4時間39分。差し引き1時間39分でアルターを倒しヴィヴィオ様達を助けだす…」

 

「そうか…タカヤは?」

 

 

「………まだわからないんです…アストラル界からも途絶されていて…」

 

 

「心配するな秋月メイ。タカヤも無事だ…」

 

オウマを父ではなくアルターと呼んだことに父オウマと闘う事を決意した事に気づいたジロウ、ソウマ、レイジの目からこれから始まる最終決戦に向け強い決意が見えた…タカヤの行方が心配で仕方ないはずだが気丈に振る舞うメイ、ゲートを開くために必要な界符、魔黒石、魔導蝋燭を揃える中、ユーノの姿がない

 

 

「ユーノくん!ヴィヴィオはどこに…教えてよ…アインハルトちゃんも…ねぇドコに」

 

 

今二人がいるのは聖王教会にある一室。事情を聞き泣き出しそうな表情を浮かべるなのはをベッドに座らせ落ちつかせていた

 

 

「落ち着いてなのは。みんなのいる場所をメイさんがさっき見つけたから………僕たちは今から三時間後にゲートを開いてヴィヴィオ達を助けに行く」

 

 

「お願い!私も、私たちをソコに連れて…「ダメだ」…え?なんで」

 

 

「…ココから先は人ならざるモノ、ホラーとの戦いだ、なのはは残って欲しい。フェイト、はやても

。ヴィヴィオ達が帰ってきたら暖かい食事を用意して笑顔で『お帰りなさい』って迎えてもらいたいんだ…コレは、なのは達にしか出来ないことだから」

 

 

「え?でも……待って!」

 

今までに無いぐらいに穏やかな笑みを見せ、コートを翻したユーノくんを慌てて裾を掴みました。だってさっきの言葉…「ヴィヴィオ達が帰ってたら」その中にユーノくんや他の人の名前がない……死ぬ気だって

 

 

「……ユーノくんも一緒に帰ってきて…」

 

 

「…うん…!?ぷはっ!な、な、な、な、な、何を!?」

 

 

頬を掴みキスした…唇が離れ正気に戻って慌てふためくユーノくんの頭を掴んで今度は長く唇を押し当てる…私のファーストキスあげたんだから必ず帰ってきて。じゃないとお話しするからね!        

 

 

「あ~~!なのはちゃんずるい!」

 

「ん~私もする!!」

 

 

「ち、ちょ!待って二人とも!ん~!?」

 

 

途中でわたしを心配して来た、はやてちゃんとフェイトちゃんの声が部屋中に響き渡るけど早い者勝ちだからね…

 

余談だが、二時間後にやつれたユーノがふらふらと歩く姿と、肌を艶々させたなのは、はやて、フェイトが目撃されたとかないとか

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(一)

 

 

「ファビアさん……くっ」

 

頭に激しい痛みが走りながら歩く…でもどうやって探せばいいかわからない…ファビアさん……あれ?誰だっけ?

 

わからない…でも僕は守らなきゃいけないんだ…あの子と、赤い髪に金色の瞳の女の人…夢にまっすぐ走りつづける金髪の色違いの瞳の子、碧銀の髪の子、元気いっぱいな子、不思議な訛りで話す子の砂嵐がかかった顔がよぎる…

 

 

行かなきゃ…でもどこに連れ去られたかわからない…

どうすれば…僕の耳に低い音が響いた。振り返ると白地にトリコロールカラー、鋭角的なフロントカウルが目立つバイクの姿。まるで意志があるように近づいてきて止まった

 

 

ー乗れ。秋月タカヤ……ヘルダイバーにー

 

 

「え?」

 

 

ー時間が無い。早く乗れー

 

 

また聞こえてきた声…何だろ昔、いや最近聞いたような…でも今は助けにいかなきゃ。声の主にお礼を言いながらバイクにまたがる…なんか懐かしいと思いながらアクセルを全開にし走り出した…スゴいパワーとスピードに振り落とされかけたけど必死にハンドルを握りしめた

 

★★★★★

 

 

「いったか坊主は?」

 

 

「ああ…滝さん」

 

 

「まさかあん時のバイク泥棒がユウキの息子だったとはな……ホントよく似てやがるな。でもなあお前があんなに気にかけるなんてな」

 

少しからかいまじりで話すのはファビアに頼まれ買い出しに出かけた滝和也、その問いに無言で返す青年《村雨良》。その目はタカヤが乗るヘルダイバーを見つめている…バルゴとの戦いの最中に語りかけた声の主の正体だったのだ。バダンを抜け記憶が無く街をさまよっていた自分自身とタカヤを重ね、人殺しと言われ悩み苦しむのをみて激を飛ばしたのだ

 

 

 

「さあな(……タカヤ、あとはおまえ次第だ)なあ滝さん、この食材どうする?」

 

 

「どうするって……手で運ぶしかないだろ。捕獲するのマジ疲れたぜ」

 

 

…見送る二人の背後にはファビアから頼まれたグルメ食材の山々に冷や汗をかく滝を尻目にヒヨイヒヨイ担ぎ上げる村雨…後に巨大なニンニク?実?が山を移動する噂が流れたらしい

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

聖王教会、演武場

 

 

「…………ゴルバ、今度の戦いは恐らく最期になるな」

 

 

ーうむ、ソウマ。ウェンディ殿には言わなくてよいのかー

 

「な、なんでウェンディの名前がでる!?戦いの前だぞ!?」

 

 

ー照れるな。往く前にいちど会えば良かろうに?それとも別れが辛いのか?ー

 

 

「……っ…そうじゃない。魔戒騎士のオレなんかよりもっと良い相手がいるはずだ……いつ死ぬかわからないオレと一緒にいるよりもっと幸せになれるはずだ」

 

 

ぶっきらぼうに言うソウマにゴルバはややあきれながらため息をついた…あの大戦からの付き合いで不器用でまっすぐな性格だと知っていた

 

ナカジマ家に居候するようになって何かにつけて世話を焼きたがるウェンディに最初は迷惑していたが、それが普通に、当たり前になり買い物という名のデートを繰り返すうち《大事な存在》に変わっていった

 

…ただ、自分みたいな…ホラーから人を守るためにホラーに憑依された人を斬る。守るためにホラーに憑依された人を斬る…

 

手をふとみると真っ赤な血にまみれている…がそれは幻…こんな俺の手ではウェンディを幸せになんか…

 

 

「………ソ~ウ~マ~っち♪」

 

 

「う、うわあ!?ウ、ウェンディ!?何でココにいる!?」

 

 

背中に魅惑のメロンを感じながらふりほどこうとししたソウマ、しかしさらに強く抱きしめさらに密着、服一枚越しの柔らかさを否応がなしに感じまくるソウマ。無理やり引きはがそうと手をかけようとしたが止まる。ウェンディの身体が微かに震えている

 

 

「………ナニがあったウェンディ?」

 

 

「……あはは、何でもないッスよ…ソウマっちこそ元気ないじゃないッスか?だからこうして元気にしようかなって…あたし、こんな事しか出来ないから…」

 

「……そんなことはない」

 

 

「え?」

 

 

「…お前からいろんな事を教えてもらった。もしウェンディと出会ってなければ…俺は路頭に迷っていただろう…俺は…」

 

…コレからこの世界の運命を決める戦いに赴く。お前とはここでお別れだ。と言おうとするも言葉が続かない…たとえいえたとしてもウェンディの悲しみに染まる表情しか浮かばない。それ以上に死に別れた妻と雰囲気が似てたのもあった

 

 

「今朝、不思議な夢を視たんッスよ……ソウマッチが……どこか遠くにいっちゃう夢を…追いかけるんだけどドンドン遠くに……」

 

 

「ウェンディ…俺は…いかな…」

 

「……言わなくてもわかってるッス…あたしが今から言うのはわがままかもしんないっすけど……い、いや。やめておくっ…や、やっぱり……か、か、」

 

 

「………心配するな。必ず帰ってくる……まだ流行りの服や店を教えて貰ってないからな」

 

 

「必ずッスよ………ん」

 

 

自然と顔が近づき唇が重ねられた……やっぱりウェンディには頭があがらないなとソウマは思いながら何度も重ねた

 

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

騎士寮

 

 

「ジロウ先生、コレは?」

 

 

「オレの指導によくついてきてくれた修了書みたいなものだ。コレから先、お前達はその剣でいわれなき暴力で苦しむ多くの人達を救うだろう。オレからお前達に最後に言うことがある…………絶望的な、先が見えない状況に陥ろうとも、わずかな可能性を見いだせたなら絶対に諦めるな…ソレが必ず道を切り開くきっかけになる。忘れるな」

  

 

「「「「はい!ジロウ先生!!」」」」

 

 

騎士候補一人、一人に言い聞かせるジロウ。候補生の胸元には色とりどりの飾りが施されたお守りがついている。元気に答える姿に嘗ての教え子…魔戒騎士たちを重ね笑みを浮かべ歩き出す……もう会えないと思うと寂しい。ゲートが開くまで二時間、聖王教会の魔戒殿で待とうと考えてると、背後に気配を感じ振り返ると、ギンガ、オットー、ディード…三人がやや戸惑いながら立つていた

 

 

「オットー、ディード、それにギンガさん。何のようだ?」

 

 

「……ジロウさん、あの………行くんですよね」

 

 

「ああ…」

 

「………そうですか」

 

 

 

ギンガさんの後ろにいるディード、オットーの顔色が曇る。二人にはオレが魔戒騎士である事を教えていない…知り合って日は浅いが二人は教会で眠り続けるイクスヴェリアの身の回りの世話を献身的に続けている。それにココで候補生達に指導している時には食堂の新メニューの試食を頼んでくるようになった……でも場所が遠いに関わらずギンガさんがここに来て昼餉を共にするようなってから色んな表情をみれた

 

ギンガさんと二人の過去をカリムから聞いてる、ふつうの女と変わらない…自らの過去を受け入れ未来へ歩いている……三人には幸せになってほしい。アギュレイス復活を阻止しヴィヴィオたちを必ず助け出す事は世界を、人々の未来を守ること、ギンガさん、ディード、オットーの幸せにつながるハズだ

 

 

「あのジロウ様……か、必ず陛下を、陛下達を連れて帰ってきてください……も、もちろんアナタさま方も一緒に」

 

 

「まだ、ジロウ様には僕とディードが作る新メニューの味見をしてほしいんです…コレからもずっと。だから」

 

 

 

「………わかった。ディード、オットー。なら美味しい食事を用意して待っててくれ。ギンガさんと一緒に…ん?」

 

 

「約束ですよ…ジロウさん………わたし信じてますから」

 

 

ギンガさんが抱きついてくる。何故かわからないが少し頬を膨らませたオットー、ディードも…三人の為にも必ずアギュレイス復活を阻止する…オレたち魔戒騎士が命にかえても必ず

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「ん~これでよし」

 

 

《ようやくできたかい。かおがいまいちかねぇ》

 

 

「はは、確かにそうかな…でもコレなら魔戒殿の守りは大丈夫だ。僕たちが《アギュレイスの庭》に行ってる間、頼んだよ《号竜・零式》」

 

レイジの前に置かれた無数の鞄が震え、ガシャガシャと展開し黒みかがった鉄にも似た金属、無骨な作りの二本脚に支えられた胴体にやや不細工な竜の顔の魔導具《号竜・零式》が跳ねながら蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていくのを見届け魔導机を畳み

始めた時、気配を感じ振り返る。腰まで届くほどの銀髪を揺らす眼帯をつけ管理局員の制服越しでもわかる豊満な胸にくびれた腰にスカートから覗く美しい脚…誰もが振り返るほどの女性にレイジは笑みを見せた

 

 

 

 

「……チンクさん。どうしたんです…あっ!?」

 

 

「…いくなレイジ殿……」

 

 

駆け寄り様、レイジの身体に抱きついたチンクの言葉から不安、恐れが感じ取れる。微かに震える身体を包むよう抱きしめた…

 

 

「…もうレイジ殿や、ソウマ、ジロウ、ユーノ、タカヤ同様に残された時間が無いのは知ってる。なのに何故、行こうとするのだ!お願いだ……いくな」

 

 

 

「……チンクさん、あそこにはあなたの妹ノーヴェさん、そして高町さんのお子さんの友達がいる…ホラーの王アギュレイスが現界したら命は喪われ、この世界に住む人々は一人残らず喰われてしまいます。僕は魔戒騎士として…あなたの大事な家族、ノーヴェさん、ノーヴェさんにとって大事な人たちを助けたいんです……」

 

 

「………!」

 

 

「それに、僕はチンクさんには笑顔でいてもらいたい…だからもう泣かないで…」

 

 

顔を上げたチンクの涙を指ですくいながら、穏やかな笑みを浮かべるレイジ…その瞳の奥に強い信念の光を見る、少ししてゆっくりと離れた

 

 

「……なら約束だ……必ずみんなと帰ってきて……私をこんな体にした責任をとってもらってないんだからな」

 

 

「はい……チンクさん、少し手を」

 

 

「…………!?コ、コレは」

 

 

「僕が帰ってくるまでエルヴァを預かってください……」

 

 

レイジに握られたチンクの左手薬指にはめられ輝く魔導輪《エルヴァ》に驚く…古より魔戒騎士が愛する女性に自身の一番大事なモノを預ける。それは必ず愛する女性のもとへ戻る事を意味する

 

それを知らずか知ってか、どんどん顔が真っ赤になっていき俯かせたのを見たレイジは拙いことをしたと勘違いした時、唇に柔らかな感触…見慣れた顔に銀髪、

眼帯…チンクがキスしてることに気づいた

 

 

「……チ、チンクさん!?に、にゃにお!?」

 

 

「わ、わたしからのお返しだ………と、とにかく!必ず帰ってくるのだ!帰ってきたら……い、いまよりスゴいのをするから!」

 

 

まくしたて、一気にその場から駆け出すチンク…

 

 

「………はい。必ず帰ってきます……チンクさんのところに」

 

魔戒剣を手にし走り去るチンクへ向けつぶやくと魔戒殿へと歩き出した頃

 

 

「クロウ…」

 

 

「わかってる……アリアおばさ「次言ったら刺すわよ」……お、お姉さん。行こう。オヤジと先生たち、おふくろたちを助けに…」

 

 

「もちろんよ!タカちゃんには私の××××としっぽり、獣のようにたくさん×××して、×付けして貰て、他の子よりも早くクロウを産んでもらわないと……」

 

 

「な、なにいってんだアリアおばさん!いろいろ危ない発言しちゃダメだから!?はう!?」

 

 

「ク~ロ~ウ~!?前にも言ったわよね~私はまだピチピチの二十代よ!おばさん言うなああああ!!」

 

 

「ひゃ、ひゃめて~くみんにしい!(や、やめて、引っ張らないでぇ!?)」

 

 

おら~!とクロウの頬をむにい~とつかみ伸ばすアリアこと戦闘機人No.Ⅱ《ドゥーエ》…未来の甥とおばさんのスキンシップはしばらくしてようやくおさまり、肩で息をしながら自身のデバイス《アーク・エッジ》を起動、動きやすさを重視した黒地に紫のラインが入ったジャケット、黒のライダースーツにも似たバリアジャケットに身を包んだクロウは厳つい装甲が目立つ手甲を上に振り上げ拳を叩きつけた

 

 

「うし、これで遅れた時間は取り戻せる…どうしたアリアお姉さん?」

 

「なんでも無いわよ、さあいきましょう」

 

 

 

一瞬、クロウと妹と姿が重なり、やっぱり親子ねとドゥーエは思いながら再び生をうけてからの日々を思い出し本当に未来から来たと確信した…それからはタカヤに刻まれた破滅と忘却の刻印を解く《白燐の牙》を探していた…ミッドチルダに点在する魔導図書館を探し回りようやくクロウ、ドゥーエはその在処のヒントを突き止めた

 

 

ービュクリヌネクブア・ワ・ムルヌシヌム・ヌ・マヌルムム・ニ・ヌグイヨヌルアラワツル(《白燐の牙》は《守りし者》を《守る者》の強き願いと想いにより現れる)ー

 

 

 

難解な旧魔界語を解読し得られたのはコレだけ。正確な場所を掴むにはファビアの持つ絵本、はやてに会う、つまりはメイがいる魔戒殿に行かなければならない。二人は乱立するビルとビルの間に光で出来た道の上を駆けていった…この世界に六人の乙女の穢れなき魂をゲートに復活を果たそうとする死醒王アギュレイス、アルターの思惑を阻止する為、夜に染まる街を走る

 

そして三時間後…聖王教会最深部《魔戒殿》。無数の赤い蝋燭《魔導蝋燭》が煌々と赤、緑、黄色、白金、紫炎の炎がゆらゆら揺れ退座に置かれ磨き抜かれた巨大な鏡《魔導鏡》、色とりどりの界符が天井にかけられた紐《魔導縛》に規則的に貼り付けられ風に揺れ、《仙水》が幾重にも円を描き石作りの地面を流れる

 

「準備はできました………皆様、準備はいいですか?」

 

 

白を基調とした魔導衣に様々な魔戒文字を書き込んだものを身に纏い、魔導筆を構えるメイの言葉に頷くレイジ、ソウマ、ジロウ、ユーノはゆっくりと魔戒剣、魔戒槍、魔戒双剣を鞘走らせ天に向け構え素早く円を切る…狼のうなり声と馬の嘶く声を木霊せながら光が満ち現れたのは希望

 

 

白夜騎士《打無》、閃光騎士《狼怒》、雷鳴騎士《破狼》、無銘騎士《狼無》…ソウルメタルの鎧に身を包みそれぞれの魔導馬に跨がり蹄を鳴らし嘶くのを手綱を引き抑えた

 

 

「……先にも話しましたが、このゲートをあけていられるのは1時間と39分が限度、それまでにヴィヴィオ様たちを助けだし、死醒王アギュレイス復活の儀式を行うアルターを止めます……私はココに残りゲートを維持にする為動けません。ですがあなたさま方のサポートを可能な限り行います」

 

 

『わかった…往くぞソウマ、レイジ、ユーノ!』

 

 

『『『おう!/わかった/はい!』』』

 

 

手綱を引き蹄を鳴らし先を行くのはジロウ…雷鳴騎士破狼、深みがある蒼に銀の装飾が目立つ二本角が前へ突き出た頭部に白い鬣を揺らし走る愛馬…魔導馬《震月》。艶やかな紫の体躯に鋭利な鬣を備えたレイジ、閃光騎士狼怒の《光輝》、白い体躯に赤、銀、鋭利な装飾に赤いラインが目立つソウマ、白夜騎士打無の《疾風》、そして鋼色に赤い装甲が目立つ未完成さを感じさせるユーノ、無銘騎士狼無の《無銘》が正面に開かれたゲートへ一直線に突入、水しぶきをあげるように鏡の表面が揺れ魔導文字が溢れ出し四人がアギュレイスの園へ向かったと同じ時刻、聖王教会から離れた場所でも戦いが起きていた

 

 

「く、くうう……」

 

 

『どうした?早く立ちなよ……守るんだろ?』

 

 

「く、そこを通して……みんなの所に行かなきゃ……守らなきゃ」

 

 

『……聞こえないなあ~お前の言葉……特に人から借りた言葉なんか説得力の欠片も無いんだよね!』

 

 

「かはっ!」

 

横倒しになったバイクの近くに倒れうずくまるタカヤの顔を掴み、そのまま鳩尾めがけ重い拳を叩き込み殴り抜いた。木の幹に背中から叩きつけられ息が止まるもすぐに咳き込みながら立ち上がるタカヤの瞳に映るのは全身を斧と髑髏をモチーフにした鎧に身を包んだ戦士《魔弾闘士リュウジンオー》がゆっくりと近づいてくる

 

 

『さあ、見せてみなよ?お前の戦う理由ってヤツをさ……お子様みたいな、ありふれた言葉なんか聞き飽きたからさ?』

 

 

ふらふらしながらタカヤは剣斧を杖代わりにし立ち上がった

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(一)

 

 

 

 

(二)へ続く

 




魔導刻……00,9秒、00,8秒、00,7秒……


…アギュレイス復活儀式開始まで1時間38分99,9秒………


予告


『ああ~聞こえないなあ。カビ臭い騎士道を信じ切る子供の戯言なんてさ…薄っぺらいにも程があるんだよ。ほら、さっきみたいにもう一度いってみなよ』


「ぐ…くうあっ!?」


『守るんだってさ?一分と少ししか、あの変な鎧を纏えないと戦えない騎士…魔戒騎士に守れるものってないんだな』



   次回 鷹矢ー散華ー(二)









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第二十五話 鷹矢ー散華ー(二)

《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らいつづけた、人々は闇をホラー恐れた



闇《ホラー》あるところ《光》あり。古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人をまもる者達の名を《魔戒騎士》という



今回のスペシャルゲストは、すし好きさんの作品《インフィニット・ストラトスー龍の魂を受け継ぐ者ー》から碓氷カズキくん、ザンリュウジンです


『ウルバ、ゲートはあとどれぐらいで抜ける?』

 

 

《後少しだよジロウ…見えてきたよ》

 

 

無数の魔導文字が流れる白い空間を駆ける四つの影…いや鎧を纏ったジロウ、ソウマ、レイジ、ユーノが魔導馬と共に走る。向かうは真魔界と内なる魔界の狭間にある《アギュレイスの庭》

 

ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェ、ミウラ、ジーク、ファビア…王復活の為の攫い、供物に捧げようするアルターいや秋月煌魔の執り行う儀式を阻止、皆を救い出す

 

その身に《破滅の刻印》を刻まれ、命がいつ尽きるかわからない。それでも彼らを突き動かすのは魔戒騎士、《守りし者》としての信念。それが伝わったのか魔導馬達も駆ける速さを増し蹄音が鳴り響く

 

 

『見えたぞ!皆、油断するな…』

 

 

『わかっているよ…』

 

 

『ああ!』

 

 

『はい』

 

 

白い空間…四人の前に赤黒い光が現れる。強い邪気を溢れさせるこの先には《歴代白煌騎士オウガ》が代々封印してきたホラーの王《アギュレイス》が眠る《アギュレイスの庭》…手綱を強く握りしめ光の中へと走り抜けた

 

 

……アギュレイス復活の儀式開始まで1時間と15分。雷鳴騎士、閃光騎士、白夜騎士、無銘騎士は儀式をくい止められるのか?

 

そして記憶を断片的に取り戻し、村雨良こと《仮面ライダーZX》から貸し与えられた《ヘルダイバー》を駆り聖王教会へ向かうタカヤ

 

 

「みてリオ。二つの月が近づいてるよ」

 

 

「うん、でもヴィヴィオやアインハルトさんもみてるかなコロナ?」

 

 

二つの月が重なる意味を知らず観測し、世紀の瞬間を捉えようとする人々に混じり空をみるコロナ、リオ。ミッドチルダ、いや全ての次元世界がホラーに蹂躙され滅びの時を迎えるまで後わずか…

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(二)

 

 

「くっ……なんてパワー…」

 

荒れ狂うパワーに必死にたえながらハンドルを握りしめる。さっきの声は誰なんだろう…でも今は急がないといけない。

 

あれ?…なぜ急がなければいけないんだろう…わからない。そう想うたびに誰かの顔と声がよぎり響く

 

……わからない…でも一つだけわかる。僕はこの人達を知っている。思い出そうとする度、胸と頭が激しく痛くなる。それでもいかなきゃいけないんだ。ハンドルを強く握りしめた時、目の前に無数の光の矢?が見え咄嗟に右、左によけた。かわしきれずに当たり前のめりになりながらハンドルから手が離れる。空を舞っていると感じた時には背中を地面に叩きつけられた

 

 

「かはっ!?」

 

目の前がチカチカする。必死に身体を起こした僕の目にフロントカウルを粉々に砕け横倒しになっているヘルダイバー…さっきの矢?で壊れたのがわかる。でも誰が?

 

 

『………』

 

気配を感じ目を向けた先には髑髏と斧を掛け合わせた鎧を纏った人の姿。手に持った中央部分に龍の顔、左右に伸びた斧の造形の弓を構えながら歩いてくる…なぜこんな事をしたのかわからない

 

「くっ……はあっ…はあっ」

 

 

『そんな身体でどこに行く気だ。教えてくれないかな?』

 

 

「……そこを退いてください。僕はいかなきゃいけないんだ…みんなを守らなきゃいけないんだ」

 

 

『…………守る?何を守るんだ?お前みたいな子供が?』

 

 

「わからない…でも……いかなきゃ…だから通して……ぐはっ!?」

 

 

横を抜けようとした時、僕の身体がくの字に折れ曲がる。膝を突きそうになりながら見えたのは深々と鳩尾に入る鎧に包まれた腕。思わず顔を上げた時、鷲掴みにされそのまま仰向けに頭を地面に叩きつけられた

 

 

『……笑わせるなよ。お前みたいな子供に何が…守れるんだよっ!』

 

 

「ゥアアッ!?」

 

 

今度はおもいっきり蹴り上げられ、そのまま岩肌に張り付けられるように激しく打ちつけられた…右脇腹に鋭い痛みが走るのを我慢しながら立つと、いつの間にか近づいていた。今度は右腕を掴むとそのまま膝で下から打ち付けるように蹴り上げた……パキッと何かが折れた音がした瞬間、激しい痛みが襲った

 

 

「う、うわっ……うう…うう!?」

 

 

『どうした?痛いか?……まあ痛いよね。右腕が折れてるんだから当たり前だよな?もう一度聞くけどさ…‥…お前はナニを守るんだ?』

 

 

「………!?」

 

 

『(やっぱりか。少し手荒になるが勘弁しろよ。キリク)………答えろよ?何を守るんだ!……烈風』

 

 

「ガッ!」

 

 

地に手を尽き回転胴回し蹴りが顎を蹴る。わずかにかすっただけだが脳が揺れ平衡感覚が失われふらつくタカヤにさらに追い討ちをかける。彼…《魔弾闘士リュウジンオー》こと碓氷カズキの猛攻は止まらない。

 

「が、ぐあ…がはっ」

 

正拳、裏拳、肘鉄、後頭部へ重い蹴りが決まり再び倒れるタカヤ…魔法衣、魔導衣がホラーおよび銃弾に耐えうる強度を持つと言えど生身の頭部、さらには魔弾闘士リュウジンオーの硬い装甲に覆われた五体、ザンリュウジンの刃その物を防ぐ程の強度を持っていない

 

なすがままにダメージを受け、魔法衣は切り裂かれ、下にある肉体をも傷つけられ遂に地面に倒れ伏した…

 

『立てよ……やっぱり子供の言う守るって言葉は薄っぺらすぎんだよ…その程度の覚悟しか無いんだな?そんまま倒れてな。この世界が滅ぶのを見てろよ。まあ俺にとっちゃ《この世界》で《何人死のう》が、滅びようが一切、心は痛まないんでね。《救う価値もない》この世界なんてな』

 

 

倒れ伏したタカヤの指が微かに動く、まるで掴むように地面に指あとを残しながら折れた右腕の痛みに耐えながら立った。その瞳に微かな怒りが含まれているのをみたリュウジンオー…カズキはザンリュウジンの龍の顔を模した部分に手を触れる。乾いた音と共に口に当たる部分が展開、鍵穴を差し込むような口が現れた

 

「ち、違う…」

 

 

『…何が違うんだ?バカの一つ覚えみたいに守るって言うんじゃないよな?誰かの言葉を借りた薄っぺらい理由を並べる気か!』

 

 

「くっ!」

 

 

『!!』

 

 

ザンリュウジン・アックスモードで切りかかったリュウジンオー…しかし刃が届く前にタカヤは受け止めた。折れた右腕で刃を掴む手のひらから夥しい血が流れ魔法衣を伝い地面に落ちていく

 

 

「この世界に死んでいい命、この世界が滅んでいい理由なんか何処にもない!!」

 

 

ググッと斬りつけようと力を込めたザンリュウジンの刃を生身、ましてや折れた右腕で押し返していく姿に驚くカズキ…何よりもタカヤから今までとは違う空気を感じとる

 

 

『なら、聞くけどさ…お前に取って価値が在るものなのか?この世界を守ることなんてさ!』

 

「……」

 

 

『……答えろよ!それとも何だ?正義の味方みたいに悪を倒すってありきたりな言葉をいう気か?』

 

 

勢いよく突き放すと姿が消える。逆袈裟、横凪、踏み込んでの打突…目にも止まらぬ速さで繰り出される攻撃の数々、防御する間もなく斬られ殴りつけらながら、タカヤはなぜさっきの言葉をいったのかを思い返していた

 

骨折した腕、右の第二、第三肋骨、罅の入った胸骨からくる痛みより遥かに深いところから、芯からくる頭の痛みと共に砕けたナニかが、時間が巻き戻るようにあつまり形をなしみえたのは、年の変わらない女の子数人にややつり目な金色の瞳の赤い髪の女性が一緒に鍛錬し厳しく指導しながら目標に向け進む姿にまばゆさを感じる

 

…なぜ守りたいのか…僅かな逡巡、それすらも許さないと言わんばかりに姿を再び見せたザンリュウジンの斧を胴へ叩き込み、前屈みになるタカヤに全力を込めた蹴りを胴へ決め空へと打ち上げた

 

 

『…ザンリュウジン・アーチェリーモード。子供の相手はもう疲れた……一夏や弾の方がまだましだったよ』

 

右腰にあるホルダーから魔弾キーを手にとると、ザンリュウジンを正面に構えアーチェリーモードへ。中央部…龍の顔を模した部分をスライド、手にしたキーを差した

 

 

『ファイナルキー…発動………』

 

 

ーファイナル・クラッシュー

 

 

『……ザンリュウジン、乱撃…』

 

 

ザンリュウジンの龍の顔の先端に形成された圧倒的な破壊の力が込められた無数の光の矢が撃ち放たれた…まっすぐに吸い込まれるようにタカヤの身体に迫ろうとした…

 

 

「僕が………僕が守りたいのは…………っ!」

 

 

虚無の瞳に光が宿らせ、ボロボロの魔法衣から魔戒剣斧を抜き放つ、落下しながら迫り来る矢に対し真円を描いたと同時、激しい破壊の奔流が荒れ狂い夜空を、ゆったりと弓をおろすザンリュウジンを照らした

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

『何だコレは!』

 

 

《スゴい数のホラーだよジロウ!》

 

 

ゲートを抜けた4人が目にしたのは一杯に広がる黒…夥しい数の素体ホラーが群れを成し犇めき歓喜の叫びにも似た声を上げている。彼らはアギュレイスが生み出したホラー。背中の翼を羽ばたかせ飛翔し向かうのは天敵てある魔戒騎士…ジロウ、レイジ、ソウマ、ユーノではない。メイが開いたゲートに我先に目指している。最上の餌《人間の血肉》を喰らうために

 

 

『マズい!このままでは現世にホラーが!!』

 

 

『……ソウマ、レイジ、ユーノ。先を行け!ここはオレが引き受ける』

 

 

『無茶です!ジロウさん一人じゃ……』

 

 

『……時間がない急げ!必ず後で追いつく!!』

 

 

有無を言わさぬ言葉に黙り込むユーノ、ソウマ、レイジ。しかし考えるた時すらも彼らには残されていない…魔導馬の手綱を強く握りしめ、それに応えるよう蹄を強く鳴らしジロウと雷鳴騎士破狼と烈斬を残しホラーの群の先、アギュレイスの庭へと駆け抜けながら切り裂き進んでいく

 

 

『…………あとは頼んだぞ………いくぞウルバ!!ココから先はお前たちホラーを一匹たりとも通さん!!』

 

 

ジロウの声に応えるよう嘶く烈斬、その身体から淡いオレンジ色の炎《魔導火》が燃え上がると共に雷鳴剣も荒ぶる狼が走り抜けるレリーフが刀身に彫られて身の丈を超える巨大な青龍刀《烈火・雷鳴剣》へ姿を変え、そのまま烈斬と共に跳躍、落下しながらホラーの群めがけ叩きつけるように切り払う。その衝撃で大地は大きく裂け、巻き散らかされた魔導火がホラーを焼き尽くしていく

 

《カゴシャアアアアアアア!!》

 

 

《ヒリャアアアアアアア!!》

 

 

『オオオオオオオオオ!!』

 

 

逃れたホラーも分厚く固い蹄に踏み潰され断末魔をあげる中を雄叫びをあげ疾走し、烈火・雷鳴剣振るい湧き出るホラーを殲滅する姿はまさに荒れ狂う野生の狼をも想わせた

 

 

『ジロウさん……くっ』

 

 

『振り返るなユーノ!ジロウは必ずくる!!』

 

 

『…僕達の目的はアギュレイスの復活の阻止と、供物として攫われた子達を救い出す事だ…例え最後のひとりとなっても必ず……危ない!』

 

 

暗雲立ち込める空から巨大な人工物が落ちてくる。寸前でかわす三人がみたのは巨大な人工物…いや規則的に歯車が動くそれが足だときづく。暗雲が晴れ見えたのは四足歩行の異形な龍、ギラリと睨むと背中から無数の砲口を向け撃ちはなってくる。辛うじて交わし弾?が当たった場所に目を向けると跡形もなく消滅している

 

 

『……あれは魔毆龍《ギリュス》!……』

 

 

『なんだと!メシアの髪と呼ばれた奴が何故ココに!!』

 

 

《ソウマ、おそらくアレは秋月オウマが蘇らせたモノじゃ…あの攻撃に当たればたちどころに消滅してしまうぞ》

 

 

ゴルバの声に息を飲むソウマ、しかしユーノは師であるオウマが闇に墜ちきったと確信してしまった時、レイジは魔導筆を構え大小様々なトランクを召還、号龍を起動させ一気にギリュスへ駆けだしていく

 

 

『レイジ!何をする!!』

 

 

『コイツの相手は僕がやるよ。ソウマはユーノと一緒に先を急ぐんだ!』

 

 

『しかし!』

  

 

『ソウマ。覚えているかい。僕達が魔戒騎士として最初に学んだ《譲り葉の心》を…今がその時なんだ……あとで必ず会おう。皆で!』

 

『くっ………すまない』

 

 

互いに背を向け先を走る二人の気配が無くなるのを感じレイジは眼前の敵…魔毆龍ギリュスへ向き直る。その心は信じられないほどに落ち着きゆっくり閃光剣を構える

 

 

『………魔毆龍ギリュス、かつてメシアの髪と呼ばれた古のホラー………たが負けるわけにはいかない!』

 

 

チンクの顔が一瞬よぎり閃光剣を握る手に力を漲らせながら砲撃をかわし腕を駆け上がりながら堅い外郭を切り裂いていくのを援護するよう大小様々な号龍達から魔導火が撃ち放たれ火の華がギリュスの身体に咲いていく。

 

 

 

 

 

『………ゴルバ!奴の居場所は!?』

 

 

《………みつけたぞ。ヤツはこの門の向こうじゃ!!》

 

 

無数、いや数千の人間の髑髏と骨にまじりホラーの死体を積み重ね血よりも赤い朱の柱、禍々しいまでの黒で塗りつぶされた巨大な門を前にゴルバの声が響く…

しかし鍵穴すら見当たらない事に疑問の表情を浮かべるユーノに今までだまっていたクトゥバがソウルメタルを軋ませ口を開いた

 

 

《ハハハ!コイツは驚いたな~オウマのクソが思いつきそうな術式だな》

 

 

『貴様知っているのか?解錠の方法を』

 

 

《オウヨ!………刻まれてる旧魔界語には《魔戒騎士が二人で殺し合い生き残った方が通れる》ってな………オウマのヤツ、遂に腐りに腐り切りやがったな?KOREGA♪》

 

 

笑い飛ばすクトゥバの声に緊張が走るユーノ、魔戒騎士同士が争ってはならない…古に魔戒騎士が生まれた時からある厳格な掟。破れば100日の寿命が削られ、最悪な場合は称号の剥奪、系譜の断絶もあることを知っているからこそ戦えない

 

いや、それ以上に…同じ魔戒騎士、仲間として

 

 

だが…戦わなければ門を通れない事実に迷うユーノを思考のループから戻したのは一閃、とっさにかわし魔戒双剣を構え唖然となった。先ほどの一撃、ソウマの白夜槍から繰り出されたモノ。大きく構え刃を光らせた

 

 

『な、なにを!』

 

 

魔導馬を駆りながら剣を槍を打ち合う…ただこの場合はソウマがユーノに対して一方的に仕掛けている。掟のことを忘れたのではと疑うユーノに石突きで撃ちバランスを崩させ返す槍で馬上から突き落とした

 

《何をするのじゃソウマ!いまは騎士同士が争っとる場合か!?》

 

 

 

『……ユーノ、オレはジロウやレイジと違ってお前を信用していない。この状況を招いたオウマに師事したおまえを…この門を通るには丁度いい。不安な要素は省かせてもらう』

 

 

『ソウマさん………くっ!』

 

 

疾風から降りるや地を蹴り白夜騎士打無ことソウマが槍を構え突進、貫こうとする。立ち上がりざまに無銘騎士狼無…ユーノは魔戒双剣《無銘》を白夜槍の刃にぶつけ、そらし反撃に転じる…凄まじいまでの槍と剣の切り払いで生じる衝撃波が二人の戦いの激しさをます度に門が大きく震えた

 

 

『おおおおお!』

 

 

『はあああ!!』

 

 

門を通るために、互いの命をかけ振るわれる剣…ソウルメタルの独特の振動音が辺りに木霊した

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

『…………』

 

 

リュウジンオー、碓氷カズキは構えたザンリュウジンをおろし空を見上げる。いまだに爆発の煙が濃厚に立ちこめている。僅かに一瞥し背を向けた時だ。狼のうなり声と奥底から響くような蹄の重低音が耳に入る、まさかと思い再び目を向けた先には、白金の輝く馬?に騎乗する騎士…牙を剥いた狼の面、西洋の流れを想わせる白金に黒、胸元に巻かれた《カテナ》を持つ全身の至る所に大小様々な亀裂が目立ち隙間から夥しい血を流す《オウガ》の鎧を纏ったタカヤの姿。驚きながらもザンリュウジンをアックスモードへ変え両手に持ち直した

 

 

『……しぶといな。乱撃を防いだのはその鎧のおかげみたいだな?でも大層な鎧を着たって俺には勝てないってのを教えてあげるよ』

 

 

再び姿を消した…《烈風》。いわゆる超高速戦闘を可能とするリュウジンオーのみに使えるスキル。先ほどのタカヤを翻弄しダメージを与え続けたのはこれだったのだ。しかしタカヤは剣斧を肩に預けるように動こうとしない、ザンリュウジンの刃が後わずかで鎧に触れようとした…

 

 

『何!』

 

 

『………』

 

 

何もない空を切るザンリュウジンの刃、かわしたのかと考えるも、この超高速で動く自分を捕らえることは出来ないハズ。再び刃を肩口めがけ振り下ろした…が、何かに阻まれる。魔戒剣斧がザンリュウジンの刃を来ることを予想していたかのように防ぎ、ソウルメタルの振動音と共に軽くいなされ払われた

 

 

『アナタの動きは確かに速い…普通の人なら目で追えない。でも防ぐ方法は一つ』

 

 

『!!』

 

 

『アナタと同じ土俵に立てばいい……こんな風に』

 

 

リュウジンオー、いや碓氷カズキの顔には驚いていた。烈風を使用した自分の動きに馬を操りながら追従、さらには攻撃をすべて柄や鞘に入ったままの剣斧で防ぎ、弾いている。それよりも先程とは違い強い意志を感じ取る

 

 

それどころか、タカヤは攻撃を仕掛けてきてない事に疑問かわいてくる。

 

 

『なぜ攻撃をしない!』

 

 

『…………アナタが《人間》だからだ』

 

 

『な!?…………ふざけるなよ?人間だから傷つけない?笑わせてくれるよ…最高だね。弱くて、すぐ裏切る、奪い合い、恐れ、殺し合うのと一緒だっていうのか?この世界の人間のようにさ!』

 

 

 

『……確かにあなたの言うことは正しいかもしれない……でも、全てがそうじゃない!僕の知る人達は辛い過去と向き合い、それでも必死に明日を、その先にある《未来》へ今でも歩き続けている……僕が守りたいのは…………』

 

 

刃を柄や腕で防ぐタカヤの脳裏で今までノイズ混じりだった顔がはっきりと見え、名前が浮かんできた…ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア……あの時、自身が強姦されかけ、タカヤが怒りのあまり犯人に刃を向けようとした手に必死に手を重ね止めたノーヴェの言葉が今まで本能で戦ってきた自分を…魔戒騎士として、一人の男として一番守りたい人の声と顔がさらなる力を生み出した

 

 

『……明日(あす)、先にある未来を歩みつづける人達をホラーから護るために魔戒剣斧を振るう!!』

 

 

狼のような唸り声と揺るぎない信念に呼応するよう、鎧の黒くなった部分が脱皮するように全て剥がれ落ちさらに輝きが増し、完全な白金へ変化…ほんの一瞬、形状が変化したのに気づいたカズキ、しかし瞬く間に元に戻った

 

 

『………(やれやれ、やっと思い出したか……さてお暇させて貰うかな。悪役を演じるのは辛いね)………そうか。なら行けよ……お前の信念が本当かどうか見物させてもらうよ』

 

 

『……わかりました……いくよ白煌、開け《魔戒道》!!』

 

 

主の強い意志に答えるように嘶き、前脚を上げ力強く蹄を地に叩きつける。空気が震え目の前の空間がぐらりと歪み、魔導火に煌々と照らされた石造りの長い通路が現れ手綱を引き、一気に駆け出す

 

向かうのは聖王教会最深部にある魔戒殿…罅が入った肋と胸骨、折れた右腕、切り傷の痛みに耐え血を滴らせるも力強く地獄の蹄音を鳴らしながら駆ける。皆を助けるために…全てを思い出したタカヤに待ち受けるのは最後の戦い

 

 

そして…すべてが終わりを迎える時

 

 

 

アギュレイス復活の儀式開始まで35分

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(二)

 

 

 

 

(三)に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔導刻…………00,3秒



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第二十五話 鷹矢ー散華ー(三)

《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らい、人々は闇を、否。ホラーを恐れた



しかし、闇《ホラー》あるところ《光》あり!古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた……


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人を守る者 



その名を《魔戒騎士》という!!


「やめてください!ソウマさん!!」

 

 

「………」

 

ソウルメタルの刃がぶつかり火花が散る。逆手に構えた魔戒双剣《無銘》を構える無銘騎士《狼無》、白夜槍を手にした白夜騎士《打無》。ユーノとソウマが刃を交えるのか。二人の背後にある赤黒く夥しい人骨を組み合わされた巨大な門。この先にはホラーの王復活を目論むアルター否《秋月オウマ》、復活のゲートとして捕らえられたノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビアがいる。

 

しかし門を通れるのは二人の魔戒騎士が殺し合い、生き残った一人だけ

 

 

「魔戒騎士同士が争ってる時間はないんです!やめてください!こんなのは馬鹿げています!!」

 

 

「確かにな…時間もない……だからこそだ……本気で来い」

 

 

もう語らないと言わんばかりに、白夜槍を構え直し刃を振るうソウマ…逆手に構えた無銘剣で交互に防ぎながら門を通るための別な方法を模索するユーノ…だが僅かに動きが鈍る。それを見逃さず石突きで右手首を打ち据えたまらず剣を落とした。胴ががら空きになる

 

 

「コレで終わりだユーノ!」

 

 

「……くっ!」

 

 

ソウルメタルの甲高い振動音と砕け肉を貫く音が赤黒くよどんだ空に響き吸い込まれるように消えた、僅かに間をあけ赤黒く夥しい門が積み重ねられた人骨を軋む。さながら悲鳴にも似た音と共に開く

 

 

魔戒騎士二人が戦い、勝った者しか通り抜ける事が出来ない忌まわしき門。通る資格を得たのは誰か?それは門のみが知る

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー

 

数分前…聖王教会にある一室に二人の男女の姿…未来から来た少年《クロウ・オーファン》。そして八神はやてがいる。魔導筆を向け目を閉じるクロウ…その瞼がゆっくりと開かれ軽く肩を落とした

 

 

 

 

 

「…もういいよ八神おば……八神さん」

 

 

「もう、ええんか?ごめんなあ役に立てんで……でもキミが未来から来たなんて信じられへんかったけど、まあコレ見たら信じるしか無いやろ」

 

 

一枚の写真を手にするはやて。三人の女性に囲まれた青年が、映されたモノを恥ずかしそうに見ている

 

 

「……本当は教えることは出来ないんだけど、そんな事言ってられる状況じゃないんだ………(一応、オーナーに許可貰ってんだけどさ)」

 

 

ー今回だけは教えても構いません。確定した未来の存在であり《特異点》であるクロウくんなら…た・だ・し三回まで特別に許可します~!?ー

 

 

ここにくる前に現れた不思議な列車に招かれチャーハンを食べながら意味深にスプーンを運ぶも旗が倒れ驚く車掌?の顔を思い浮かべる。《白燐の牙》の在処をしるリインフォースの記憶が溶け込んだ最後の夜天の王であるはやてに聞くも知らないと返された。残る手がかりはファビアが持つ絵本だけ、だがアルターの手で攫われ《アギュレイスの庭》にいること

 

 

(………お袋たちが……オヤジは今どこにいんだよ!この時代でどうやって王を倒して助け出したんだ…)

 

 

拳を握りしめ血が落ちていく…そのとき、聞き慣れた音が耳に届く…ハッとなりその場を駆け出したクロウ

 

 

「クロウくん、おねがいや……みんなを、ユーノくんを助けて……リインフォース、お願いや」

 

 

胸元かけられた二つの剣十字のペンダントを強く握りしめ祈るはやて…握られた手の中で僅かに輝いた

 

 

 

 

 

(……………ゲート維持限界まで30分……連絡はおろか皆様方の気配が消えた…それ以上に強力な邪気が満ちている)

 

 

開いたゲートの向こう側から夥しい邪気が魔導衣越しでも肌に突き刺さる感覚に冷や汗を流すメイ…すでに一時間が過ぎ、術を維持し続けるには体力と精神力がガリガリと削られていくのを感じ焦りにもにた感情が胸のうちに広がるも振り払う

 

必ず四人は生きていると確信し、魔導力をさらに高めようとしたメイの耳に蹄音が徐々に近づいてくる

 

 

『ハア!』

 

 

蹄音を鳴り響かせ現れた白金に輝く魔導馬《白煌》、それを操る騎士が手綱を引く、蹄が火花を散らしながらメイの近くで止まり頭部の鎧を解除。現れたのは息子でありオウガの称号を受け継ぐ魔戒騎士《秋月タカヤ》を見て息を飲んだ

 

額から夥しい血を垂らし立つ息子の痛ましい姿…治療しようにも手が離せないもどかしさに胸が締め付けられた

 

 

「母さん、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラくん、エレミアさん、ファビアさん、ノーヴェさんは?」

 

 

「この向こうに……《アギュレイスの庭》に居るわ……タカヤまちなさ…!?」

 

 

言いかけるも口をつぐむ。タカヤの瞳から強い意志の光。亡くなった八代オウガ継承者であり祖父《秋月オウル》、選ばれなかったモノの魔戒法師であり教会騎士である夫《秋月ユウキ》と同じ目。《守りし者》が持つ光をみたからだ。母親としてはいかせたくなかった。鎧はひび割れ血が滴り落ちている姿を見るだけでも心が張り裂けそうだった

 

例えタカヤは刻まれた刻印の痛みに苦しもうが、鎧に埋め込まれた《魔皇石》の封印が解け命を吸い尽くされても止まらないと、《守りし者》としての信念に満ちた瞳を前に出来ることは一つだけ。愛する人との間に生まれた我が子の背中を押すことだけ

 

「…………ヴィヴィオ様たちが捕らわれている場所へ四万十様、山刀様、布道様、ユーノさんが今、向かっているわ。だから必ず合流して力を合わせ助け出しなさい」

 

 

「うん……母さん。またあとで………いくよ白煌!!」

 

たづなを強く引き鐙を鳴らす。力強く嘶く白煌と共に邪気が荒れ狂うゲートへ飲み込まれていく姿…メイの足元に何かが落ちた

 

 

「ごめんな……さい…ごめんなさい…」

 

 

大粒の涙を流し言葉を紡ぎながら、ゲート維持に神経を集中させるメイ…ただ愛する息子の無事を祈ることしか出来ない自分に泣きながらも、萎えそうになる自身を奮い立たせた

 

赤黒い空間に無数の魔導文字が溢れかえる中を駆けるタカヤ…《碓氷カズキ》、《魔弾戦士リュウジンオー》との戦いで折れた右腕、罅の入った肋と胸骨、斬られた身体が痛む。それ以上に刻まれた《破滅と忘却の刻印からの》激しい胸の痛みと頭痛が絶えることなく襲う度、記憶がひび割れ砕けようとする…そのたびに忘れてはいけない。絶対に。自分の大事な人と繋いだ絆の記憶を忘れてはいけない

 

強く、痛みをも凌駕した精神力。白煌の手綱を握る手に力が満ちソレに答えるように白煌は風を纏ったかのように駆けゲートを抜けた眼前には群青の群…素体ホラーの大群が犇めく

 

『うおおおおおお!!』

 

 

その中心で巨大な剣を振るいホラーを切り捨て、蹄で踏み潰し、空を飛翔し剣を投げつけ骨ごと砕き斬る騎士…雷鳴騎士刃狼、四万十ジロウの姿。そのまま一気に駆け寄りジロウの背後から迫るホラーを斬り伏せていく

 

 

『タカヤ!?』

 

 

『遅れてすいませんジロウさん。助勢しま…』

 

 

『…先をゆけタカヤ!』

 

『え?』

 

 

とっぜんの言葉に驚くタカヤ、剣を振るいホラーを斬りながら問おうとするも息つく間もないほど湧き出し現れる群青の群に一人では?と言おうとするのを知っていたように叫んだ

 

 

『………この先にアルターに捕らわれたお前が守る者たちがいる!時間もない、急げ!!』

 

 

 

 

有無をいわさぬ気迫に満ちた言葉を浴びせホラーを斬り伏せていくジロウ。考える時間もない…剣を振るい切り裂きながら僅かに頷きタカヤは白煌と共に駆け出しホラーの体躯を蹄で踏みならすように潰し進む

 

 

『頼んだぞ………はあああああ!!』

 

 

全身から魔導火を溢れ出させ逆袈裟に大地を削りながら刃の炎を先を行くタカヤへ飛ばす。十字状に燃え上がりホラーを焼き尽くしながら鎧ごと飲み込む、瞬く間に烈火炎装・オウガはさらに加速を増し襲いかかる群青の体躯の群を燃やし灰へ変わっていく

 

 

 

『………ジロウさん……くっ』

 

 

手綱を握りしめた時、生命の息吹すら感じられない大地が震え地割れが起き隆起していくのを見て、原因を目に息を呑む。眼前には巨大な機械仕掛けの竜が一人の騎士《閃光騎士狼怒》、布道レイジに対して砲撃を浴びせる、ギリギリで回避していくのを見て白煌と共にを向かおうとする

 

 

『レイジさん!』

 

 

『!……来るなタカヤくん!!』

 

 

『え?』

 

 

新たな獲物を目にし歪めた雄叫びを上げる竜の背中から虚無よりも暗い邪気が砲弾となり降り注ぐ、近くにいた大型の号竜に体当たりされ弾かれ、少し離れた場所に降りタカヤは見てしまった。先ほどまでいた場所にいた号竜が砲弾に飲まれ体躯が削り取られていく様を。もし体当たりされていなかったら同じ様になっていた

 

 

『………メシアの髪の相手は僕がする…タカヤくんは先を急ぐんだ』

 

 

『レイジさん一人では、あのホラーには』

 

 

『いいからいくんだ!それにコイツとはレギュレイスとの戦前に一度戦い封じたからね……さあ』

 

 

『………』

 

 

『………さあ、急ぐんだ。あの子たちが君を待っている』

 

 

その言葉にわずかに首を傾け、向き直り白煌の鐙を強く踏むと背を向け力強く蹄を鳴らし駆けてい白煌とタカヤ…

 

 

『……行ったか……あの時は……いや、今は僕に出来るのは、これだけか………はあっ!』

 

 

閃光剣に魔導火を燃え上がらせ大きく横凪に切り払う。その先には力強く蹄を鳴らし駆けていくタカヤ…魔導火が身体に触れ再び烈火炎装が纏われ風よりも速く駆け抜けていく

 

 

『頼んだよ。オウガの血を引く若き魔戒騎士《秋月タカヤ》…………』

 

 

魔導火を相手に送り烈火炎装を纏わせる…それは戦友として認めた証。そして先へ進ませたレイジは再び閃光剣を構え光輝と共に駆ける。必ず儀式の阻止と捕らわれたヴィヴィオ達を助け出せると確信していた

 

 

『さあ、いくよ。《メシアの髪》ギリュス!!ああああああああ!!』

 

 

力強く地を蹴り飛翔。ため込まれた地獄の蹄音が閃光剣に蓄積、大きく姿を変える……分厚く鋭い刃が並び幅の広い刀身には牙を向き威嚇する狼のレリーフが刻まれた巨大な片刃剣《閃光・剛刃牙》を突きのような型と共に一気に砲弾を撃ち放つギリュスの頭を捉え大きく振りかぶり切りかかった

 

 

 

 

(ジロウさん、レイジさん………くっ………今は急がなきゃ……)

 

 

白煌を走らせるタカヤ…ジロウ、レイジの二人から送られた魔導火に宿る思惟に胸を締めつける…強い信頼、そして仲間としての声無き激励。そして守りし者としての信念

 

すべては自分がココへくることを信じ、道を切り開き進ませてくれた。その想いが胸の奥で震え手綱を握る力かましていくのを感じた時、目の前に凄まじいまでの邪気を溢れさせる赤黒く巨大な門が現れる…余りにも静かさに警戒しながら近づき目にした光景に息が止まる

 

 

『そ、そんな……』

 

白と赤の装飾が目立つ魔法衣を纏う騎士…白夜騎士《打無》の称号を持つ《山刀ソウマ》。胸元を赤く染め顔を俯かせ、もたれ掛かるよう立つ…その足下には血溜まりが広がる光景に身を強はらせた

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「ん……ここは」

 

 

「アインハルトさん、ノーヴェが目をさましましたよ」

 

「よかった……でも」

 

「ヴィヴィオ?アインハルト…ミウラにエレミア、あと……」

 

 

 

「ファビア・クロゼルク……」

 

 

冷ややかな視線を向け答える魔女みたいな格好をした少女から告げられた名前を聞きながらあたりを見回す…真っ白な空間に無数の魔導文字が流れていく見たことのない空間。出口を探そうと動こうとした時、中心あたりが揺らぎはじめ黒い何かが広がり現れた降り立つ。黒地に赤黒い布が目立つ魔法衣に死人をも思わせる顔色、どす黒く澱みきった狂おしいまでの狂気を宿した瞳を向け口を三日月のように歪め近づくとヴィヴィオの前でふわりと止まり、つっうと手を胸元に触れそのまま滑らせるように下へ下ろし腹部を撫でとめた

 

 

『目を覚ましたか。忌々しい王の血族よ…おまえ達のその穢れなき胎内を破り血を浴び我らが王はよみがえよう……誇るといい穢れなき生け贄に選ばれたのだからな』

 

 

 

「ふざけないで…タカヤさんが必ず助けにくるんだから!!」

 

 

 

『ククク……アッハハハハハハ…助けにだと?無駄だ。知っているのだろ?すでに命はもう無いに等しい…ここにたどり着けたとしても私と王の前では塵芥だ』

 

 

「………っ!?」

 

 

『脆く儚き希望が砕けたとき、おまえ達は素晴らしき供物どなろう………ふ、まあいい。僅かな時を謳歌するがよい……クククク』

 

 

勝ち誇ったように笑みを浮かべアルターの姿は溶けるように消えた…そんなとき微かな声が響いた

 

 

「あなたたちは…アナタたちはいつもそう…秋月の魔戒騎士がどんな思いでホラーと戦ってきたか、命を賭けてきたか解っていない……」

 

静かな怒りが込められた声…ファビアがゆっくりと顔を上げ睨むように視線を浴びせる

 

 

「あの時からずっと、そして今も……たくさん傷ついて、そして命も……なのにアナタたちは…助けてもらえるのが当たり前だって考えてる……少しは気づいて、痛みと苦しみを…」

 

「……!」

 

問いにも似た声に誰も返せない。ただ一人だけ心が荒波に揉まれるように揺れふらふらと膝をついた…赤い髪で表情はわからない。ただ頬に伝う大粒の涙が白い空間に落ちていく

 

「…たしかにそうだ。アタシは、あたしたちは当たり前だって、そばにいたのに気づけなかった…気づこうともしなかった…でも…タカヤがアタシたちを助けに来たら………じゃう……死んじゃう」

 

 

泣きじゃくりながら紡がれた言葉…あの時、キバットバット二世とメイの会話を聞いてたのはノーヴェだった…今まで当たり前に傍にいて、笑ったり、トレーニングに付き合ってくれたタカヤの命が次に鎧を纏い、キバットバット二世、三世親子が魔皇石に施した封印が戦いの中で解けてしまえば死んでしまう。もう止まらなかった。ノーヴェから明かされた残酷な真実を前に皆の瞳から涙が落ちる…ただ無情にもタカヤがココに向かっていることを誰一人知らずに

 

 

 

 

 

 

『月が重なるまであとわずか。オウル、お前の守ろうとした世界は終わりを迎える……マヤ、もう少しだメイと共に新たな世界で暮らそう……その前に無粋な輩を始末するとしよう』

 

 

儀式の最終段階まで術式を組み入れ魔導筆を収める、振り返るアルターの眼前には切り裂かれ血が浴びせられた魔法衣を翻し立つユーノが魔戒双剣《無銘》を両逆手に正面にかまえ鋭いまなざしを向けている

 

 

「オウマ先生…いや、殲滅騎士魔煌…僕はアナタを許さない」

 

 

言葉に返すように少し笑みを浮かべ無言でアルターも鞘に収められた魔戒剣、魔戒斧を正面に抜く…もはや二人の間に師弟の縁は無いに等しい

 

 

『師である私に刃向かうか………もはや私の弟子では無い。来い魔戒騎士ユーノ・スクライア!!』

 

 

 

『「ああああああ!」』

 

 

かつての師と弟子の魔戒剣、魔戒斧が激しくぶつかり合いソウルメタルの振動音が儀式のおこなわれる岩舞台《大骸石》と赤黒い空に木霊する……

 

 




儀式開始まで20分


鷹矢の魔導刻…………残り00,1秒


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第二十五話 鷹矢ー散華ー(四)

《陰我》在るところ《ホラー》顕れては無辜の人を闇に紛れては血肉を喰らい、人々は闇を、否。ホラーを恐れた



しかし、闇《ホラー》あるところ《光》あり!古よりホラーを狩る宿命(さだめ)を持つ者達がいた……


ソウルメタルの鎧を纏い、その刃でホラーを斬り人を守る者 



その名を《魔戒騎士》という!!


「う、嘘だ……」

 

信じられなかった…声を漏らすタカヤの目に映るのは凛とし自他共に厳しい白夜騎士打無の称号をもつ山刀ソウマ。魔法衣から夥しい血をたらし血溜まりを作り開いた門に寄りかかり立つ光景

 

「なんで……ぼくがもっと速く…」

 

 

 

…秋月家の伝承に語り継がれていた三騎士の一人《山刀ソウマ》の変わり果てた姿に言葉はなく力無く首をたれた、もっと速く駈けつけていればと深い後悔の念に押しつぶされかけた時だった

 

 

「まだ死んでいないわよ」

 

「え?」

 

 

突然響い声に振り返る。ぴっちりとした薄紫に青の湯浴衣を思わせる魔導衣に身を包んだくすんだ腰まで伸びた金髪を揺らし立つ女性がソウマの胸元に顔を近づけ右手の人差し指でススット軽くなでる…ふわりと光が見え少しずつ顔に血の気が戻りまぶたが動いたのをみた

 

 

「………あと少ししたら目をさますわ。さあ、いきなさい」

 

 

「え?で、でも…」

 

 

「……今はなすべき事をやりなさい…でも、その前にいいかしら。アナタの顔を見せて?」

 

その言葉に無条件で頷き解除した。驚きながら手をゆっくりと添え撫でる表情は目元まで覆った仮面で解らないが少し懐かしく愛おしさを指先から感じる。いやずっと昔にこうして頬を撫でてくれた人とかさなった

 

 

「……………いい、コレからが正念場。どんなに辛いことが待ちかまえても、アナタの想いを込めた剣が闇を切り裂き光へ導くわ……ヌクサヌツミヌヌッイク。これで少しは楽になるわ」

 

 

柔らかな声で後押しする女性の言葉に頷く気がつくと痛みが少しだけ楽になってる。しかしどうやって先を進めばいいかわからない…ふと門へ何気なく目を向ける。半ば開いた状態に疑問を感じ見ると形状変化した握り手が赤く染まったソウマの愛槍《白夜槍》が閉じないよう挟み込まれてた。恐らく閉じるのを防ぐために挟み込んだのだとわかった

 

 

「…さあ、いきなさい………」

 

 

『……は、はい…あの、ありがとう』

 

 

促され門へと向けすれ違いざまにかけられた言葉に静かにうなづく、蹄音を鳴らしタカヤと白煌が共に中へ駆けていくのを見届け彼女は静かに魔導筆を構え振り返る。門から少し離れた先の地面から群青色のおぞましい獣…素体ホラーが無数に沸き出す。ソウマの血の匂いと、若い女の肉を味わうため我先にと襲いかかる…が寸前で動きが止まり、ズルリ、ズルリと身体が生臭い悪臭を放ちながら真っ二つ、ダルマ落としのように細切れになり落ちていく

 

目を凝らし見ると極細の糸…繊維状に織り込まれたソウルメタル製ワイヤーが門と目を覚まさないソウマ、彼女を囲むようにはりめぐらされている

 

 

「…ふふふ、よく斬れるでしょ?クロウちゃん直伝《水鳥の刃陣》は。次に消滅したいのは誰?」

 

 

怯むも、再び襲いかかる素体ホラー…薄く笑うと右手首から下に装備された銀色の鉤爪…その先端から伸びたワイヤーを弾く、張り巡らされたワイヤーが細かく震え何かがその体をすり抜けた。あと少し、手を伸ばした先から輪切りにされ断末魔の叫びをあげるまもなく消滅。他の数体も微塵切りと言わんばかりに刻まれていく

 

 

「……………(あんなに小さかったのに見ないうちに大きくなって。みんなを連れて必ず帰ってくるのよ…私もここで頑張るから、未来へ繋ぐために)……さあ、次は誰?」

 

 

数年(死んでから)ぶりにタカヤの成長した姿を生で見て触れ、内から沸き起こる高揚感を胸に鉤爪をキシキシ鳴らしワイヤーを操る彼女…ドゥーエの静かな声が辺りに響く、再び群れをなし襲いかかる素体ホラーを切り刻んでいく。タカヤが皆を連れて無事に帰ることを信じながら

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(四)

 

 

 

「はああ!」

 

 

「かあっ!!」

 

 

無機質な石舞台の前に並べろれた無数の界符、不規則的に地面、岩肌に刻まれた溝を赤黒い仙水が流れ輝き始める…死醒王アギュレイス復活の為に描かれたゲートが開く兆候。それを目にし焦り始めるユーノ、対するアギュレイスの代行者アルターこと秋月オウマは笑みを浮かべ魔戒斧、魔戒剣を嵐のように振るうたびに双剣で防御、受け流しつつ機を伺うも隙が無い

 

 

「ふふ、わかるぞ、わかるぞ、ユーノ?お前の焦りがな。ここまで来たことは誉めてやろう。だが我が王アギュレイス復活は間近だ」

 

「…くっ!やめてください!こんな事して何になるんですか!!」

 

 

互いの魔戒斧、魔戒剣がぶつけ弾かせながら何度も斬りつける。しかし簡単にいなされがら空きの胴へ蹴りが打ち込まれ踏みとどまりながら逆手に構えた刃で胴から顔へ向け逆袈裟に凪ぐ防がれ辺りにソウルメタルの振動音と共に衝撃波が空気を震わした

 

 

「何故?………しれたこと、王を復活させ我が妻マヤをよみがえらせる…」

 

 

「そのために、今を生き未来へ歩む無関係な人達の…ヴィヴィオ達の命を奪っていいんですか!あなたは過去に捕らわれ、失ったモノを人ならざる力…アギュレイスの力でよみがえらせて何にもならない!!」

 

 

「……かつて我が王アギュレイスを封じるに助力した憎々しい覇王、聖王女、冥王、クロゼルク、エレミア……ククク、今世において冥王を除き揃った最高の供物を使わぬ手はあるまい?」

 

 

「…………っ!」

 

 

「それにお前も言えた義理では無かろう?同胞の命、ともに戦う魔戒騎士を葬りココへ来たのだからな…お前は私と同じ…」

 

 

「ちがう!それに彼は……友は死んではいない!!」

 

 

「何を……偽りを…なっ!?コレは……グアッ!?」

 

 

何度めかになる刃と刃を打ちつけソウルメタルの火花を散らし優位に立っていたオウマの顔が驚愕の色に染まり歯軋りしながらユーノを睨みつけ力任せに切り払う。が、腰を沈め地面に手を着け捻らせると回転、連続回し蹴りを顔面に決め反動を利用し距離を離し降り立つ

 

 

「………僕が誰から秋月家に伝わるも喪われた魔戒の術を学んだか知っているはずです……アナタからだ!!」

 

 

「ぐ、ユーノ!私の術式を!?」

 

数刻前、ユーノとソウマは門を通るために互いの命を賭け刃を交えていた…そのさなかでも、この絶望的な状況の打破をする術はないかと門に仕掛けられた術式の系統を読みながら解術を試みた。だが複雑な術式と残された時もわずか。刃をぶつけながら念話を飛ばした

 

 

ー聞こえますか、ソウマさんー

 

 

「!?……」

 

 

ー言葉には出さないで頭に念じてください…ー

 

 

ー……いまさら何だ。お前の命を絶とうとする相手に話すとは余裕だな?ー

 

 

ー………聞いてください。この門の開放条件を《相手の命を奪う》から《サバック》のルールを強制的に上書きします……ー

 

 

ー《サバック》だと……お前はソレが何か知っているのかー

 

 

サバック…それは魔戒騎士が生まれるより古き時代。屈強な剣に腕のある戦士達が命を賭けて戦い、最後に生き残った一人をホラーと戦う戦士として選抜するための神聖な儀式。しかし今現在(ソウマ達が生きていた時代)からは、その課程で命を落とした戦士たちの英霊を悼むために開かれ、ソウルメタルの武器、術を使わず鉄製の剣を用いおのが剣技を駆使し戦い相手から血を一滴流させたら勝利するというルールへ変わり勝者は《死者の間》と呼ばれる場所で僅かな時だけ逢うことを許される

 

(このサバックで勝利を収めることは最強の騎士として名を知られ、ゆくゆくは元老院付きの魔戒騎士への道が開かれる。ただ黄金騎士、黄金騎士牙狼は参加できない)

 

 

ーたとえ上書きが出来たとしても、サバックの掟通りにはなるかわからん!ー

 

 

ー………確かに、あの人が組み上げた術式には隙がない…でも、万が一上手くいかなかったら………あなたにすべてを託しますー

 

 

ーなんだと?ー

 

 

ー………この門を進むのは山刀ソウマさん、あなただ……僕に師を…オウマ先生を斬ることは出来ない…それに魔戒騎士としてあなた方に劣ります。だから僕をー

 

 

驚くも槍を振るう力を緩めることない。ソウルメタルの刃がぶつかり火花が散る…それは言葉を交え返すようにも見えた…

 

 

ー……ふざけるな。それは逃げているだけだ!今こうして俺と刃を互角に交えているのはユーノ・スクライア、おまえだ!!ー

 

 

ー!ー

 

 

ーお前と俺達と力量の差は無い。ただ足りないのは己の弱さと向き合う覚悟だ!………もはや言葉は無用、上書きはもう終えたな、ならお前が剣を握り何故ココにいるかを刃にて応えろ!!ー

 

 

 

ーソウマさん………く!ー

 

 

裏拳を顔面に入れた反動でバックステップ、槍を上段に構え横凪に構えたソウマから濃厚な殺気と剣気を感じ本気だと感じとり、ユーノも魔戒双剣を逆手に腰を沈める…僅かに風が凪いだと同時に上書きが終わるのを感じ二人は駆け出す。ソウマは踏み込みと同時に鋭い突きを連続で放つのに対しユーノは避けようとせず刃の嵐へ飛び込む。双剣を逆手に構え最低限の動きで槍をそらしながら交わすも鎧を深々と切り裂き血が空を舞う

 

 

「はあ!」

 

 

「う、うわああああ!!」

 

 

力強く踏み込まれ白夜槍の刃が胴を捉え深々と突き刺さろうとした時、鎧が光と共にはじけた。視界が塞がれ槍に微かな手応えを感じたソウマ、しかし胸元に何か熱いモノを感じた

 

 

「ごほ………」

 

鎧の胸元には魔戒双剣が深々と突き刺さり血が純白を赤く染め滴り落ち足元に血溜まりが広がる…ふらふらとしながら門にもたれ掛かると同時に閉ざされた扉が獣の叫びを思わせる音と共に開く。開いた理由、それは上書きされたサバックの掟が適用されたからだ。しかし血は一滴ではなくより多く血を流ささせた時に解錠されると言うモノだと知りユーノは後悔し声を漏らすしかなかった

 

 

「あ、ああ……」

 

 

「……見事だ……ごほ…」

 

 

「ソウマさん!」

 

 

光と共に鎧が返還され胸元を赤く染めたソウマに近づこうとするユーノ。だが手で制し開いた扉が閉じぬように血まみれの手に握られた白夜槍を力いっぱい挟み込んだ

 

 

「行け、ユーノ………俺の負けだ……」

 

 

「ま、まさかワザと僕の剣を」

 

 

「ちがう…お前の実力だ……急所は反らした問題はない…早くいけ……そして奴の企みを止めろ……それはおまえにしか出来な……い。行け、ユーノ・スクライア。いや無銘騎士狼無」

 

 

少しだけ笑みを浮かべ先へ行くよう促すソウマに拳を強く握りしめ頷き踵を返し門へ入り今に至る

 

 

「よくも術式を……許さんぞ」

 

 

「許さないのは僕も同じだ………アナタだけは倒す!!」

 

競り合いながら叫ぶと頭へ頭突き、たまらず後ずさりするオウマに向け刃を擦りながら鎧を召喚するべく素早く円を描こうとした。しかし胸に刻まれた破滅の刻印が焼け付くように痛み出し動きが鈍る、必死に耐え剣を振るうも魔戒斧の石突きが右手首を打ち据え左手の甲を魔戒剣が凪ぎ血が舞い、たまらず取り落としたユーノの鳩尾に重い蹴りが深々と入り、足場代わりに駆け上がり、胸板、そして頭に両足首を挟み込みぐるりと回転、頭から地面へ叩きつけようとするも傷付いた手を庇いもせずぶつかる寸前で手をつき逆に空へ跳躍、離れた場所へ降り立つ

 

 

「はあ、はあ…」

 

 

「刻印の痛みは苦しかろう?もはや王アギュレイスの復活も間近、三騎士も無駄なあがきを止めぬようだ。おとなしくみているがい……」

 

 

ふらふら立ち上がるユーノに目をくれず、儀式を執り行おうとしたアルター…秋月オウマの手が止まる。地獄の底から響くような重厚な蹄音が鳴り大きくなる。まさかと感じた時、狼の唸る声がアルターの身体を貫くよう木霊し、空を舞う白金の影を捉えた

 

『ハアアアアア!』

 

牙をむいた狼を思わせる面がつけられた兜、西洋の意匠を感じさせる造形、胸に封印の鎖《カテナ》が巻かれた至る所がひび割れ垂れ落ちた血に染まる白金の鎧を纏い魔導馬《白煌》を駆る騎士の姿を目にし、わなわなと身体を震わした背後で、ユーノは痛みに堪えながら魔導筆に光を集め、そのまま力強く儀式の陣に押しつけ叫んだ

 

「いけ!タカヤくん!!」

 

 

「な、なに!」

 

 

狼狽するアルターの瞳に映るのは儀式の陣に広がる光輪…そこへ力強く、迷うことなく手綱を引き締めたタカヤ…白煌騎士オウガ、その手に込められた信念に応えるよう嘶き魔導馬《白煌》が円を描きながら駆け開かれた光輪の中へ突入と同時に閉じ、光の残滓が漂ったのをみて歯噛みするアルター。ユーノのイヤリング型魔導具《クトゥバ》がけたましく軋ませ声を上げた

 

《ヒャッハアアア!やったな~ユンユン?どうでぇみたかオウマ~?手前より一枚も二枚も上手なんだよ?》

 

 

「ま、まさかクトゥバ、お前が知恵を貸したのか!我が魔導具でありながら裏切るか!」

 

 

《イエス、イエス、イエス、イエス!悪いんだけどさ手前の後ろ向きなマインドは嫌いなんだYO!裏切るっうか契約どころかテスタメントなんかしてないんだもんな~裏切るなんか関係ない?ナイナイ、ナ☆☆ティ☆イ~ン♪それにだユンユンの作戦勝ちだな》

 

 

軽口を叩くクトゥバとは違い安堵の表情を浮かべるユーノ…先ほど使った術は月光陣を独自にアレンジしクトゥバの意見を元に組み直したオリジナルの術。王復活の為に供物として捕らわれたヴィヴィオ達がいる《狭間なる魔界》へ直接繋ぐ為のモノだが使うには儀式を行ってる最中にしか発動出来ない代物。ユーノが現れた事で儀式が半ば中断し直接対決する一方ででクトゥバに儀式の構成を読み解かせていた

 

何よりタカヤがこの場に来る事を門に配置した界符を通じて知り、時を伺っていたのだ…術の発動は早すぎても遅すぎてもいけない。オウマが中断した儀式に意識を傾け集中し、タカヤがその場に姿を見せ生まれた隙を狙っていたのだった

 

 

「おのれ……だが、魔弾の戦士《碓氷カズキ》から受けた傷は軽くはない。それにだ我が刻んだ刻印よりも深い……どのみち望まぬ子であるヤツにトドメをし刺されたのも同じだ……無駄だったなユーノ?死人を送り込んで何になる?」

 

 

 

「無駄じゃない……僕は、いや。ジロウさん、れいじさん、ソウマさんはタカヤ君に託したのは…

無駄なんかじゃない…」 

 

 

《そうだぜ?ユンユンの言うとおりだな?こっからががclimax・jumpだぜ!!》 

 

 

 

「そうだね。クトゥバ……僕と一緒に戦ってくれるかな?」

 

 

《当たり前だのクラッカーだぜ?》

 

 

クトゥバの軽口に鼓舞され再び魔戒双剣を構え立つユーノ…師であるオウマとの第二ラウンドが始まろうとしていた

 

 

『…く、ぐうう…』

 

 

眩い光の中を駆けるも、破滅と忘却の刻印からくる痛みは激しさをます、身体に激しい痛みが耐えることなく襲いながら白煌の手綱を握る手に力は緩まない、砕け散りそうな記憶を必死に維持するタカヤの前に光が広がり見えたのは力なくその場に座り込むノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビア。手綱を引き止まるとタカヤに気がついたのか目を向けるも俯かせる皆に近づき白煌の背からおり鎧を返還し駆け寄る

 

「みんな、良かった無事で……どうしたの?」

 

 

何も答えない…ただ一人だけ、ゆっくりと立つのはノーヴェ…タカヤの傍へ歩み寄るも手が届くか届かない微妙な位置で止まる

 

 

「…………もう戦うな……タカヤ」

 

 

「え?」

 

 

「このまま、このまま戦ったらタカヤは……死んじゃう…あたし達の事も忘れてしまうのに。なんで、なんで、そうまでボロボロになるまで戦うんだよ…」

 

 

「タカヤさん、ごめんなさい。私たち……タカヤさんが辛いのを知らずに……ごめんなさい」

 

 

「……ホラーから守ってくれる。タカヤさんに守られて当たり前だって…」

 

 

「アキツキさをんは誰よりも強いっておもってた。でめボクと年も変わらないのに、命がけで…あの時も」

 

 

「ごめん、ごめんなあ……ウチ、タカヤくん魔戒騎士やって知ってた。なのになんも出来んかった…悪い夢見てるんやと思ってたんや」

 

 

 

「……ワタシも…アナタを通して過去の秋月の魔戒騎士を重ねてた……今のアナタの気持ちを無視していた」

 

 

ごめんなさい…謝罪の言葉がタカヤに届く。ファビアが皆に言った秋月家の先祖たち《魔戒騎士》が歩んだ歴史、そして今代の魔戒騎士であるタカヤの身に降りかかった苦難、そして命を賭けたホラーとの戦いの中で刻まれた破滅と忘却の刻印がもたらす皆との思い出と命を減らし、鎧に埋め込まれた魔皇石が命を吸い尽くす事実…いままで守られて当たり前だと無意識に思い続けてきた自分達に突きつけれた真実。《無知》の罪は気づかせるのに十分だった

 

 

しかしタカヤはゆっくりと皆に向く。その瞳は透き通ってる…ノーヴェの手を取るとピクリと震えた

 

 

「ノーヴェさん、アインハルトさん、ヴィヴィオ、ミウラくん、エレミアさん、ファビアさん出会わなかったらココには居られなかった…それに……僕は皆を守りたい」

 

「え?」

 

 

「………僕はホラーを斬ることしか出来ない。でも皆には夢がある…インターミドルという表舞台で見る人の胸を熱くして鮮烈で眩しくて、その人に夢を与えてくれる…僕は皆が夢に向かいどんなに辛い練習を重ねて、悩んで、壁に何度も当たっても乗り越えていく姿が好きなんだ」

 

 

少し恥ずかしそうに一人、一人に語りかけるように言葉を紡ぐ…飾り気もない。ただ心から湧き出すモノが声に変え、目に涙を溢れさせた皆の心に響かせた

 

 

「……皆が居たから、あやふやでアンバランスで、目的もなくただ本能で剣を奮ってた僕に、みんなの夢へと進む姿をそばで見てた………その時からかな、夢の舞台に立つの皆をみてみたいようになったんだ……」

 

 

「でもあたし達…」

 

 

「だから。皆の…ノーヴェさん、アインハルトさん、ヴィヴィオ、ミウラくん、エレミアさん、ファビアさんの夢を、皆の夢が叶う為に必要な未来(明日)を僕に守らせてください」

 

真剣で真っ直ぐ、強い信念が込められた声と色違いの瞳に吸い込まれる。静かに頷いたのを見て笑顔を返しボロボロの魔法衣を翻した。が背後から手が伸ばされ強引に引き寄せられ唇に柔らかな感触、そして安らぐような甘い香り、目に入るのは赤い髪に涙で腫らした瞳を閉じた見慣れたノーヴェの顔。愛おしそうに添えられた手が撫でられながら羨ましそうな、嫉妬混じりな視線がガンガン突き刺さる、名残惜しそうに重ねられた唇と共に離れた

 

 

「い、いまのは……その……必ず勝つおまじないだ!もし帰ってきたらコレよりスゴいことやるから……み、みんなで…」

 

 

「……は、は、はい……じゃあ行ってきます!」

 

 

顔を真っ赤にしゴニョゴニョ呟くノーヴェ。最後あたりには小さく聞こえなかったが背を向け駆け出した。タカヤが向かうは真魔界…無数の魔導文字があふれる中を抜けた先には。一切の生を感じさせない灰色の空、下には広大な無色の大地

 

それを見下ろす形で建てられたら古びた祭壇…初代オウガが施した封印に立つと彼方で赤黒い雷光が無数に降り注ぐ。やがて大地を食い破るように盛り上がり見えたのは禍々しく伸びた腕、そして這い出るように現れたのは真っ黒な体躯と血よりも赤いつり上がった目前頭姿勢で大地を踏みしめ立つと、大地がひび割れる

 

 

『ヌルワアギュレウス!ヲルハフッカツヌタサクチ!!』

 

 

雄叫びと共に叫ぶと空は震え、狂気と歓喜とも取れる叫び声が響き渡り空気を振るわせる中、タカヤは静かに折れた右腕に左手を添え魔戒剣斧オウガの切っ先を天に向け素早く円を描いた。

 

眩い光がタカヤを包み込み、狼のうなり声が響き白金に輝くもひび割れたオウガの鎧に身を包んだタカヤ、魔導馬《白煌》が現れかけ声と共に地獄の蹄音を響かせ駆けていく

 

 

『ハアッ!』

 

 

『マキイクス、オウガヌチツグルスムヌカ……』

 

 

何気ない感じで小さく呟くアギュレイス。ため込まれた地獄の蹄音が魔戒剣斧オウガを《オウガ重剣斧》へと変化、力いっぱい地を蹴り飛翔、捻りを加え大きく横に構え叩きつけるように斬りつけた。が、意にも介さないようにかざされた巨大な手に防がれ重剣斧を握りしめ一気に岩肌へ叩きつけた

 

 

『ガアッ!』

 

 

白煌の身体とオウガの鎧が軋み、ソウルメタルの粒子が滲み出した血と共に舞う。魔弾闘士リュウジンオーこと碓氷カズキとの戦い(一方的に)で罅の入った肋、折られた右腕が痛み、ザンリュウジンの刃でついた傷から血が流れ始めた

 

 

『ぐ、ぐうう……』

 

 

再び立ち上がる白煌と共に重剣斧を構え再び駆け出すと、アギュレイスとの間合いを一気に詰めへ大きく振りかぶる…がいきなり身体が別方向から何かに吹き飛ばされる。必死に手綱を握りしめ蹄から火花を散らし踏みとどまる

 

 

『今の攻撃は……』

 

 

思考するも再び何かが襲いかかる。寸前でかわた目に映り込んだのはいきなり現れたアギュレイスの巨大な拳、それがかき消えると死角から再び現れる…この攻撃方法を自分は知っている。上級ホラー《カプリコーン》の空間転移攻撃だと気づく。今度は無数の矢…無数の人骨が埋め込まれた矢が降り注ぎ重剣斧を楯代わりに防ぐも再び吹き飛ばされた

 

 

『う、ぐうう……コレはサジッタの……』

 

 

『ヌルハクヌシタワヌイチズク。スヌツタソデヌルワレガツクウヌルツイゾンダ』

 

 

 

十三体の死醒ホラーを従える王《アギュレイス》…かつてタカヤが倒してきたホラーの特異能力を行使できる事を告げられ驚く。だが《守る》、そう約束したのだから自分がココで王を食い止めなければヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア…ノーヴェの命、そして世界が滅ぶ

 

 

それだけは絶対に防がなければいけない。剣斧を握る手に力がこもり、全身の痛みが消えかわりに闘志に満ちる。それに応えるように白煌が強く蹄を踏み鳴らすと白金の炎、魔導火が包み込み《烈火炎装》を纏い再び駆ける。次元跳躍する拳を紙一重でかわし降り注ぐ巨大な矢を砕き燃やし尽くしながら遂に眼前まで肉、突きの構えで一気に頭をとらえ貫いた。しかし手応えがない分厚く鋭いソウルメタルの刃から溶け落ちるように頭が消えた瞬間、白煌ごと巨大な手に握られ引きはがされると圧倒的な力で握りしめられた

 

 

『う、うわ!……くあああ』

 

 

『スヌッチナ。オウガヌチヒキクス…ヌレニチュスイチクウバヌフズウヨウニイニカナチリシ(残念だったな、オウガの血を引く騎士…我に忠誠を誓えば祖父同様に永遠を与えよう)』

 

 

『い、いやだ……僕は永遠なんていらな……ぐあっ!?』

 

 

『ヌルハシツクルヌゼ……ムズハヌドウビダダ(ならば死を与えよう……まずは魔導馬からだ)』

 

 

『!?白煌!戻るん……』

 

 

もどれと言い切ろうとすることも許さず、アギュレイスの手に力が込められる。嘶く声とナニかが音を立て砕け散り隙間から墜ちていく…千年近く歴代オウガ継承者を守る楯、そして共に戦い続けた魔導馬《白煌》の躯が開かれた手から零れ落ちていく姿に言葉を失うも激しい痛みに我に返る

 

メキメキとソウルメタルが軋みリュウジンオーのファイナルクラッシュで傷つけられた鎧の亀裂が広がり始めた。苦痛の声を漏らし脱出しようともがくもふわりと身体が軽くなった。落ちていると感じた時、巨大な拳がタカヤに襲いかかる…無意識に剣斧を構え防ぐもそのまま地面に殴りつけられ、追撃とばかりに立ち上がとした瞬間に無数の拳が殴りかかる

 

 

『う、ぐうう………』

 

 

必死に防ぐも重剣斧は剣斧オウガへ戻り、防ぎきれず拳が四方から襲い許容量を超えたダメージに遂に鎧が砕いていく…破片と血飛沫が舞いやがて嵐のような攻撃がやみ、その場には無惨に砕けた鎧を右腕、カテナが巻かれた胸鎧、左側半分顔をのぞかせた兜以外残し夥しい血を流すタカヤの姿。その瞳から戦う意思は消えていない

 

 

『ま……もる……み、みんなの……夢を………あし……たを』

 

 

剣斧オウガを突きつけ立ち上がろうとした時、胸鎧に巻かれた封印の鎖《カテナ》が小刻みに震えだした。みると微かな亀裂が無数に広がっているのがわかる…そして遂に弾け飛び下から見えたのは暗く深緑色の拳大の宝石、闇のキバの鎧につかわれている魔石《漆黒の魔皇石》が露わになる。キバットバット親子の力をもってして一時的に押さえ込みカテナで封印を施すしか出来なかった。二重封印が解かれた今、タカヤから命…ライフエナジーを無慈悲に吸い上げ始めた

 

 

『う、うわあ!あああああ!あ、あああああああ!?』

 

 

…身をかがませ苦しみ悶えるタカヤの姿は《狭間なる世界》にいるノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビアにも届いていた

 

 

しかし自分たちにはどうすることも出来ない。例え駆けつけられたとしても力になるどころか足手まといにしからならない事実。それで何か力になりたいと想いが胸を占めた時、ファビアの絵本が輝き出し光に包まれると、皆の前に黒を基調としたドレス、BJにも似た服に身を包み背中に身の丈ほどある筆を背負った黒く腰まで伸びた髪を揺らし歩み寄り一人、一人の顔を見た

 

 

「…………あなた達、あの子を助けたい?」

 

 

静かに響く声。いきなり現れた女性に応えるよう頷いた、ほんの少し懐かしそうな笑みを浮かべる女性になぜかわからないがヴィヴィオ、アインハルト、ジーク、ファビアは昔から知っている感覚に戸惑いながら言葉を待つ

 

 

 

「助けるって、どうやんだよ」

 

 

「祈るの……この場所は人の想いを形にする《アストラル界》と《内なる魔界》に近いの。あなた達があの子を強く想うなら…あの時みたいに」

 

 

「あの時って………お前、身体が!?」

 

 

「……大丈夫…ひさしぶりに強い想いに呼ばれたから…あなた達の想いは必ず…と、どく……強く願いなさい…」

 

 

すううと最初と同じように光へ変わり絵本に吸い込まれ、自然にパラパラとめくられある場面で止まった…

 

 

 

 

 

『う、うわああああ!あ、あああああああ!?』

 

 

地面に倒れ伏しながらも必死に立ち上がろうとする。だが漆黒の魔皇石はお構いなしに命を吸い上げていく中で刻まれた破滅と忘却の刻印が激しく痛み出した…離れた場所で戦うジロウ、レイジ、未だ意識の戻らぬソウマと刻印はリンクし激しい痛みに苦しみ出した

 

 

00,3秒……00,2秒……00,1秒……

 

 

 

そして立ち上がった。が、タカヤの苦しみに満ちた叫びが止まる。力なくぐらりと膝をついた……力強く握りしめられていた剣斧から手が離れ落ち、目から光が消え倒れた…

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー散華ー(四)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




よう!ながらくお休みだったオレの次回予告再開だぜ……って次回で決着じゃねぇかよ~ったくウチのバカ作者のやる気のなさには呆れたぜ


んなことよりだ。奇跡ってのは神が為し得る事を言うんだが、人間だってここぞっていう時には奇跡は起こせるんだ



次回 鷹矢ー白燐ー


《紅の牙》と《白燐の牙》……込められた想いが奇跡を起こす!!




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第二十五話 鷹矢ー白燐/紅ノ牙ー(前編)

「待て」


「なんだ」


「…………………秋月オウガ、オレの臣下に下れ」



「…………断る」



「この世界の半分を与えるといってもか…」



石造りの回廊に声が響く…肩に血のように赤いマントをかけ、鎖にも似た装飾に身を包む茶髪に切れ長の目をむけ声をかけたのはファンガイアの王《キング》、黒鉄色の外套に身を包んだ青年は無愛想に返した。そのやりとりを冷や汗を流す初老の男性、それを不思議そうにみる幼子に暖かかな温もりがつつみこんだ


「ならキリヒトだけでも私達に貰えないかしら?悪いようにはしないわ」


黒い服に身を包む女性…その胸には我が子と、オウガの息子キリヒトが抱かれている…しかし


「……悪いが「狼の子は狼にしか育てられない」………キリヒト、今一度問う。《光》ある平穏を歩むか、それとも暗き闇に身を置き希望の光をもたらす道を往くかを」


…少し悩みながらも、キリヒトは意を決し抱きしめた腕から抜け父であり魔戒騎士《秋月オウガ》のもとにかけよる。人質としてとった人間の子供にわずかな興味を示し共に過ごすうちに懐いたと思っていた、しかし迷わず父親の元へ向かった事に驚きの色を見せたクィーン、自分のところにいるとばかり思っていたのだから無理はなかった。父親の手をしっかり握るのをみて寂しく感じていた


「……オレの鎧を直し、キリヒトに声を取り戻してくれたことだけで充分だ…」



「………なら行け…二度と顔をみせるな……人間」


「…ああ……いくぞキリヒト、デルク」


「は、はい…ではキリヒト様参りまし…どうされましたかな?」



「………………は、は…ははさ…ま…あ、あ……あり…がと…」



手を引かれるキリヒトの歩みが止まり、たどたどしく声を紡いでいく……うまくしゃべれないもクィーンの耳にはしっかりと届くと笑みを返した。静かにみていたオウガは魔導筆と無数の色とりどりの界符を撫でると瞬く間に光り輝く文字へ変わり三人を包み込むとその場から消え去った


「……行ったか」


「………ええ」


僅かに漂う光の残滓を一瞥しマントをはためかせ石造りの回廊を歩いていくキング、クィーン…わずかな時の出会いは何かをもたらしていた。そして長い時をへて二つの血は再び巡り会う






WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


限りなく遠く近い世界…いわゆる平行世界のミッドチルダ。その首都クラナガンから離れた場所に建てられた西洋の趣を持つ古い屋敷のある一室で一人の青年がバイオリンケースを真紅の布に包みを手に扉へと手を伸ばしたとき声が響いた

 

「ワタル、こんな時間にどこにいくの?」

 

 

「スバルさん……少し出かけなきゃいけないんだ…」

 

 

「それはワタルにしか出来ないこと?」

 

スバルに静かに頷くワタルをみて少しの間が空く。以前ならば実力を持ってして拘束していたであろう…そしてゆっくりと真っ直ぐ瞳を見ながら柔らかな笑みを浮かべた

 

 

「なら、急がなきゃね…いってらっしゃいワタル。私、帰ってくるまで待ってるから」

 

 

「ありがとうスバルさん。いくよキバット」

 

 

《まかせろ~ワタル。でも時間のズレがあるから気をつけろよ~ひさしぶりにキリリンに会えるからな~》

 

 

パタパタと飛びながら肩に止まるキバットにせかされながら、スバルを伴い外に出るとなぜか列車が止まっている…ワタルは迷いもせずに乗り込んだ

 

「ようこそ電ライナーへ、話はクロウ君からよ~く聞いてます…」

 

 

「おい、をんな事よりさっさとと行こうぜ!」

 

 

「ダメだよ先輩~そんな乱暴な言葉遣いはやめようよ」

 

 

「ん~ん~…がっ!?…………その通りや!」

 

 

「ねえねえ早くいこうよ~クロウとマユちゃんと一緒に遊びたいんだから~」

 

………何か賑やかな声と赤、青、黄色、紫の何かが窓越しに見え扉が閉じ、軽快なミュージックホーンを鳴らし空へレールを広げ先に広がる光へと真っ直ぐ突き進みナニもなかったように消えた

 

 

「頑張ってワタル……」

 

 

夜風に青く艶やかな髪を揺らし小さく呟くと屋敷の中へと戻っていく…

 

 

かつてレジェンドルガの王アーク、ファンガイアを率いるキングとの熾烈な戦いが繰り広げられていた時に現れた子連れの騎士…魔戒騎士秋月オウガと母の死と引き換えに声を失った幼いキリヒト。闇のキバ《初代キング》に力を貸しアークを一時的に引かせた。幾星霜の時を経て《黄金のキバ》の継承者《紅ワタル》と《オウガ》継承者《秋月タカヤ》…そして《時の列車》が二つの世界をつなぎ奇跡を起こす

 

 

第二十五話 鷹矢ー白燐/紅ノ牙ー

 

 

 

ータカヤァ!ー

 

 

 

「っ………う……」

 

 

突然、響いた声に引き戻されるも強力な脱力感に膝をつきながらも立ち上がろうする、しかし身体にまったく力は入らない、先ほどの声、胸と頭に激しい痛みがかろうじて意識を保っている

 

目に映るのは勝ち誇ったかのように魔界語で叫ぶ死醒王アギュレイスが見下ろしている…何度も力を込め立ち上がろうとするも身動き一つ取れない。魔戒騎士となってから身を守り力を与えてくれたオウガの鎧は見る影もなく砕けわずかに身体を覆うだけしかなく、魔導馬も握りつぶされ残骸が散らばっている

 

それでも立たなければと、力を込めようとするも何かに吸われていく…その原因は胸鎧に埋め込まれた魔皇石、ファンガイアの王が纏う《闇のキバ》に使われた稀少な魔石にしてファンガイアの至宝《漆黒の魔皇石》が命を、今も耐えずライフエナジーを吸いあげているからだ…どのような経緯で組み込まれたかはわからない?ただ、わかるのはタカヤの命は今、まさに一滴残らず吸い尽くされようとしているだけ。そのまま倒れそうになった時、脳裏に響く声

 

 

ーうおおおおお!ー

 

 

ーはあああああ!!ー

 

 

ーぐ、ああああああ!!ー

 

 

ーせい!やあ!ー

 

 

ジロウ、レイジ、ソウマ、ユーノが刃を振るう度に刃風鳴らし構える姿…刻印の痛みは繋がっているはずのにも関わらず力強く、雄々しき姿…その姿を垣間見え立ち上がろうと力を振り絞る

 

 

『マキイクス、ムジイキヌルカ(魔戒騎士、まだ息があるか)』

 

 

抑揚の無い声とともに何気なく翳した腕…肘から下が消えた瞬間、タカヤの背面に現れ巨大な拳が殴り飛ばし、宙を舞い鈍い音と共に固く冷たい地面へ落ちる…砕けた鎧の破片が空から倒れ伏したタカヤの身体を叩き落ちていく。

 

 

「タカヤさん!」

 

 

狭間なる世界でその戦いを見守るヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ヴィヴィオは胸が張り裂けそうな気持ちと、何よりファビアが受け継いできた《クロゼルクの絵本》にあったタカヤの胸に刻まれた《破滅と忘却の刻印》を解く方法を知り愕然となりながらみていた

 

 

 

ー…騎士に刻まれし滅びの証、白燐の牙を手にし命の源に穿ち解き放たれし時、光の牙が生まれんー

 

 

 

今の自分たちには《白燐の牙》もなければ、解く方法を伝える術は無い…でも、さっき現れた女性の言葉がよぎった…ヴィヴィオが静かに目を閉じ胸元に手を握り祈りはじめ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェも続けて祈り始めた……想うのは一つ、自分達のもとにタカヤが無事に帰ってくること。生きてかえってきてほしい。もう一度、はにかんだ笑顔をみたい。触れ合いたい………なのに今はこうして視ているだけしか出来ない自分達に歯がゆくかんじてる

 

 

 

 

 

 

 

「……う、うう…」

 

 

 

指が微かに動き地面に指跡を残し動き出す。その先には歴代継承者が鎧と共に受け継いできた魔戒剣斧オウガ…距離にしてみれば1メートルにも満たない。だが今は数キロ先にあると感じながらも必死に、命を吸われながら想うのは共に戦う仲間、そして自分が一番守りたいモノ……ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、エレミア、ファビア、ノーヴェ達の夢、そして明日を守りたい。ただそれだけを強く願い必死に伸ばしていく。震え血にまみれた手が遂にオウガの柄を握りしめた

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

『ぐ、グウウ、ゥアアアア!?』

 

 

雷鳴剣を振るうも今まで以上の痛みにわずかに反応が遅れ、無数のホラーが雪崩のように襲いかかり焼かれながらも鎧をはがしにかかる

 

 

《ジロウ、このままだと……ジロウ?》

 

 

『わかってい……る……う、ウワアアアアア!?』

 

 

群がるホラーに押し寄せられ、たまらず雷鳴剣が地面へ落とした、それは離れた場所で戦うレイジ、ソウマも同じだった

 

 

 

『ぐ、ぐあああ!?』

 

 

『ギャリハアアアアア』

 

 

無数の虚無の弾を防ぐも、遂にかわしきれず受け鎧が微塵に吹き飛ばされるも辛うじて魔法衣の加護が防ぎきる。力なく落ちたレイジに無数の虚無の砲弾が撃たれ迫るも力を振り絞るも無情に迫る

 

 

 

「しっこいわね!嫌われるわよ!!」

 

 

 

「さ、下がれ………」

 

 

 

「ナニ言ってるのかしら、けが人はおとなしくしてなさい!」

 

 

「いいから下がれ!お前に誰かは知らんが、何かあれば誰かが泣く…ハアッ!」

 

 

 

激しい痛みで目を覚まし、起き抜けに破邪の剣をホラーの眉間に投げ突き立てるソウマ…すでに限界を迎えながらも守ろうとする女性がウェンディの姉であるドゥーエであることを知らない、しかし守りし者としての信念が地を踏みしめ立つ力を与えている

 

 

 

「ぐ、ぐう………」

 

 

「諦めろユーノ、先ほどは油断したがどう足掻こうと勝てない………刻印で死を迎えるか、私の刃で死ぬか選ばせてやる」

 

 

「断ります!…………う。ううう」

 

 

 

「せっかくお前が送った望まれぬ子である秋月の魔戒騎士も最早命はつきる、我が王も蘇る…………オウル、悔しかろう。秋月の血は今日で絶える、絶える、絶えるううう…っ、あははははははははははははははは、あははははははははははははははは………」

 

 

魔戒剣、魔戒斧を連打し打ちつけ、蹴りと織り交ぜ斬りつけ狂気の声をあげる姿、かつての師の面影は無い。厳しくも見捨てたりはせず、必ずやり遂げるという期待を込めていた瞳は狂気に染まっている

 

 

「う、うぐあ……は……あ、あ」

 

 

魔戒斧の石突が胴を打ち据え、たまらず屈むのを見逃さず裏拳、軽く跳躍し踵を頭へ叩きつけ力任せに重い蹴りが決まり地面を跳ねながら岩場に大の字にぶつかり息が止まり気が遠くなる、しかしふらふらしながら剣を突きつけるように構える

 

 

命は絶え間なく削られても、なおも立つ彼らを奮い立たせるもの……それは守りたいモノ、自らの命を懸けて愛する人の顔、声が剣を握らせる力を与るもアギュレイスの強い邪気に強さを増していくホラー…すでに限界が来ていた……………

 

彼らを想う乙女たちも同じだった

 

 

「……!?………ソウマっちの御守りが」

 

 

聖王教会、礼拝堂で祈るウェンディが耳にした音。色鮮やかな紐が不思議な輝きを持つ石が編まれた護符の紐が千切れ落ちている…ソウマが戦地に赴く前、ウェンディに手渡したモノ。いやな予感がしながら手に取った瞬間、苦しみながら剣を振るう姿が浮かぶ。

 

 

 

「………レイジどの?」

 

 

 

《………チンク嬢ちゃんも見えたのかい………》

 

 

 

 

「ジロウさん………いかなきゃ!たすけに!!」

 

 

 

「ダメ……僕たちは行けない……ここで待つしか出来ないよ」

 

 

「オットー、あなたジロウさんが心配じゃ………」

 

 

「落ち着いてギンガ……オットーも心配で仕方ないの……必ず帰ってくるって約束しましたから」

 

 

「ディード……っ!?」

 

 

淡々と言うディードを睨むもハッとなる…拳が強く握りしめている。今すぐにでも駆けつけたいのはディード、オットーも同じ…今の自分たちが封印の地に向かったとしても、人ならざるモノ…闇の魔獣《ホラー》の前では足手まといにしかならない事を痛感していた…ただ無事に帰ってきてくれることを強く願った、時同じくして聖王教会の礼拝堂の屋根に音もなく不思議な電車が止まり、近くに赤いストールをまいた青年が空を見上げている

 

 

二つの月が完全に重なりかけているのを目にしバイオリンケースを静かにあけた。血のように赤く女性の肌のように艶めかしく緩やかな曲線、視るものすべてを魅了するかのようなバイオリンが収められている。ゆっくりと手にし構え瞳を閉じた

 

 

(聞こえる……この場にいる「みんなの想い」が)

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

青年…紅ワタルの手がゆっくりと動き出す…紡ぐはここにいるギンガ、オットー、ディード、ウェンディ、チンク、なのは、フェイト、はやて、メイ、デルク、リームの心が生み出す想いという名のメロディーを一つ一つ拾いあげていく、光の粒子が生まれゆっくりと舞っていくなか、クロウから告げられた事を思い出してた

 

 

 

ー結界?ー

 

 

ー………アルターはみんなの想いを遮る結界をはっているんだ…おふくろ達は親父の間近にいるから想念は届くから問題ないけど、師匠達には現世…ココからの想念は届かない…想念を遮る結界を解くにも時間が無い………だからワタルおじさんに力が必要なんだー

 

 

 

ー………想念って?ー

 

 

ー想念ってのは誰かを想い祈りを込めた念。それを想念なんだ。魔戒騎士の鎧は守りし者たちを守る者、つまりは想い人の念で変化し今までに無い力を与えることができるんだ。でも、この結界は現世とアストラル界を通じてソウルメタルの鎧を纏う魔戒騎士への想いが届くのを阻害して伝わらないようにしてる。ワタルおじさんの持つクリムゾンファングなら想いを旋律に変えて師匠達へ届けられるんだー

 

 

 

ー……わかったよクロウくん。必ずやってみるよー

 

 

 

 

(……限りなく遠い世界で戦う騎士たちの無事を願う彼女たちの想い………悪しき結界を抜けて今も剣を手にし戦い続けるアナタたちにいまこそ届け……)

 

 

すべての想いを紡ぎ上げワタルが自らの為、そして愛する人の心に纏わりつく闇を浄化し《本当の笑顔》を取り戻した名器《クリムゾンファングー紅ノ牙ー》から生まれる旋律に呼応するよう光の粒子はまた一つ、一つ、数を増し強く輝きだし曲調にあわせ明滅、やがて巨大な光が柱のように溢れ空を照らし、アルターの展開した結界へと向かう

 

 

 

…秋月屋敷から離れた場所にある歴代継承者が眠る《英霊の塔》から《八つの光》が飛び立った…それは光の速さを超え消えさった、ソレはタカヤが魔戒剣斧に触れた時と同じだった

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

ー……ここは?ー

 

 

ー………ここは《魂たゆたゆ場》…ー

 

 

 

ー秋月鷹矢。お前は煌牙の鎧を黒く染めたー

 

 

 

ー故に我らは汝に資格無しと決めつけたー

 

 

 

ーされど、汝は再び輝きを取り戻したー

 

 

 

ー記憶と命奪う印に抗い、魔石に命吸われながらもー

 

 

 

ー守る者たちの顔と想いを胸に、剣を振るいつづけた汝をー

 

 

 

ー我らは《彼の者》の言が正しきモノと悟った…ー

 

 

 

ー………秋月鷹矢を真(まこと)の煌牙(オウガ)継承者として認める………コレはその証なりー

 

 

 

 

英霊達の声が響きわたると同時に光が形を成していく。色とりどりの光が舞うなかで、そっと手に触れると吸い込まれた時。声が響いた

 

 

ータカヤさん…お願い…無事に帰ってきてくださいー

 

 

ーどうか、無事に……ー

 

 

ー秋月さん、必ず帰ってきてー

 

 

ーお願いや、無事かえってきてタカヤくんー

 

 

 

ー秋月タカヤ……ワタシもアナタの無事を祈るからー

 

 

ータカヤ……あたし信じてるからー

 

 

「……………みんな……」

 

 

やがて光が一つの形となり弾けた時、無骨な両刃の刃が左右についた物体が現れた……初代オウガがアギュレイスを封じる為に元老院から与えられた武具《白燐の牙》…守りし者を守る者の強い想いに呼応し現れ力を与え続けてきたが、長い時の中で力は衰え八代目オウガ継承者が用いた時にほぼ力が失われ形を保てないほど希薄となり《魂たゆたゆ場所》に置かれ英霊達は力を注ごうとするも力が足りなかった

 

そして今《狭間なる世界》にいるヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェの想いが《白燐の牙》に再び力を与え存在を取り戻していくのを目の当たりにした時、意識が覚醒する…

 

 

 

「っ!は、はあ…はあ…」

 

 

目を覚まし見えたのは、砕け散りながらも微かに残る鎧に包まれた右手には魔戒剣斧オウガ、そして眼前には光り輝く両刃の刃が左右についた武具……《白燐ノ牙》が浮び神々しい輝きをみせている

 

 

 

『ア、アデトメザトソイラム!ピャスミユオシパザアデ!!………ナ、ナタサラオコシ、リナリナチリラシクシロルザオコシコロアヂ……タテウ、タテケカナムサララララ!!(な、何故それがそこにある!白燐ノ牙が!!あ、あの時と同じことを…………い、いなさせてたまるかああああ!!)』

 

 

無数の赤壷を浮かばせ口をタカヤと光り輝く白燐ノ牙へ赤黒い液体を凄まじい勢いで吐き出す。わずかに触れれば瞬く間に腐り落ちる上級ホラーアクエリアスの溶解液が飲み込もうとした時、雄叫びと共に巨大な影が飛び出し割って入ると風を巻き起こし溶解液を彼方へ吹き飛ばした

 

 

『ふ~間一髪………待たせたな……』

 

 

銀の翼を羽ばたかせながら、ソウルメタルの鱗を軋ませ巨大な体躯を持つ龍が軽口を叩きながら剥き出しになった牙を見せながら笑いかけながら全身から白金の炎を燃え上がらせたつ姿に自然と言葉が漏れた

 

 

「ま、まさか……キリク?」

 

 

 

『ああタカヤ…ギリギリ間にあったぜ。さっさとケリをつけようぜ………あの陰湿野郎は俺に任せな…』

 

 

あの時、砕け散ったハズの友達で魔導身具キリク…どうしてここにいるのかを聞きたい…でも今はと思い手に握る白燐ノ牙に目を向けゆっくりと胸の前…妖しく輝きながら命を吸い続ける漆黒の魔皇石へ近づけ目を閉じた

 

 

(……ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラくん、エレミアさん、クロゼルクさん、ノーヴェさん……みんなの込められた想いと《白燐ノ牙》を僕は信じる!)

 

 

カッと見開かれた瞳に見えた決意の光、届けてくれたみんなの想いが込められ再び力を取り戻した《白燐ノ牙》を《漆黒の魔皇石》、その下に刻まれた《破滅と忘却の刻印》めがけ深々と突き刺した瞬間、刻印が弾け飛び霧散。遙か離れた場所で戦うユーノ、ソウマ、レイジ、ジロウに刻まれた刻印をも消し去ると共に光が包み込んだ

 

 

 

『ヌ、ヌルチ!』

 

 

 

辺りに四散した鎧の破片が燃えだし《英霊の塔》から飛びだった八つの光…狼ヘと変わるやタカヤの胸に穿たれた《白燐ノ牙》へと吸い込まれ。白金の炎が無数のカテナへ変化、幾重にも巻かれ複数の狼のうなり声と共に弾けとび眩い光があたりを照らした

 

 

『!……ヌ、ヌルチ!!スヌチツムリルカ!!』

 

 

アギュレイスは自分を足止めするキリク?を払いのけ無数の人骨を組み合わせた巨大な円盾を力任せに投げつけるも何かに弾かれ凄まじい勢いで自身に叩きつけられぐらついたと同時に光が晴れた

 

 

九つの尻尾を揺らめかせ、両肩、両腕、膝に牙を向いた狼の顔、胸に大きく牙をむき出しに口を開いた狼の口には《漆黒の魔皇石》が力強く脈打ちソコから血管のように伸びた装飾が赤く光り、背中に六色の蝙蝠の翼が大きく左右にひらがらせ荒ぶる狼をかたどった魔戒剣斧オウガを構えたつ騎士の姿に《黄金のキバ》、《闇のキバ》と姿が重なり、あたりに白金の魔導火と魔導文字が輝く

 

 

     

 

      ー白燐ノ煌牙ー

 

 

 

数多の試練を乗り越え、守りし者としての使命に目覚め《守りし者を守る者》の想いが蘇らせた《白燐ノ牙》に歴代継承者の魂が融合し生まれた歴代最強のオウガ《白燐ノ煌牙(びゃくりんのおうが)》が色違いの双眸をむけ、大きく剣を振るい切っ先を突きつけた

 

 

『……………アギュレイス、いまこそお前を討滅する!!』

 

 

 

地を蹴るや否や色とりどりの魔力光に輝く《蝙蝠の翼》を広げ光を纏いながら飛翔するタカヤ…それを忌々しく睨みつけアギュレイスも巨大な翼を広げ追う

 

ホラーの王…死醒王アギュレイス、秋月タカヤ戦いは終わりの時を迎えようとしていた




よお!俺参上だぜ!………っと中身が違うから意味ないよな

アギュレイスとの戦いも最後だ………あのキングも好きだが、こうして力を貸しに来てくれたワタルも好きだぜ。これ以上いったらスバルがやきもちやくかもなあ



次回 鷹矢ー白燐/紅ノ牙ー(後編)


すべての因縁が終わりを迎え、新たな伝説の始まり!!


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第二十五話 鷹矢ー白燐/紅ノ牙ー(後編)

「タカヤさん…」

狭間なる世界でタカヤの無事を祈るヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェ…先ほどまで見えていたタカヤとアギュレイスの戦いが途絶えて数分。無事なのかが気になって仕方ない様子が見て取れた

「大丈夫だ、タカヤなら負けないに決まってるだろ…」


「そうですね…必ず私たちの所に帰って来てくれるはずですよね」



「はい、だって祈っていたら秋月さんを強く感じたんです…」


「ワタシも感じた……」



「ウチもや……なあ皆、さっきのナカジマさんのアレの事で少しだけ話したいことあんやけどええん?」


何故かわからないが強く確信している皆にジークがした話……しばらくしてコレがとんでもない事に発展するとは誰も予想し得なかった



WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)





『ヌグスカ!マキイクシ!!』

 

 

『はあああ!』

 

 

真魔界、その曇天の空を駆けるのは禍々しい異形の体躯を晒し翼を広げ叫ぶ黒き魔獣の王《アギュレイス》、ヴィヴィオ、アインハルト、ノーヴェ、ミウラ、ジーク、ファビアの想いにより甦った白燐の牙、歴代オウガ継承者八人の魂、魔皇石が融合し生まれた最強のオウガ《白燐ノ煌牙》…六対の蝙蝠の翼を羽ばたかせ剣斧《白燐煌牙ノ真剣斧》を構え迫る

 

 

『ヌクムヌクム、ズムヲシックルタキスムズケハ、クルシツヌル!!』

 

 

無数の腕をはやし空間跳躍させ背後に転移、無数の拳が襲いかかる。その時《白燐ノ煌牙》の腰から伸びた九つの尾がびくりと動き光の速さをこえた動きで拳打を防ぎはじき受け流した。そのまま鷹矢は剣斧を魔戒斧モード《白燐煌牙ノ真斧》へ変え大きく体を捻らせたとき、各部パーツが六方に分解し魔導火が隙間をうめ巨大な刃と変化、アギュレイスへ力いっぱい叩きつけるように斬りつけた

 

 

『グヌアアアアア!!』

 

 

左目が大きく切り裂かれぱっくりと開いた傷口から血飛沫が勢いよくまきちらかされ雄叫びが曇天の空を震わせ響き渡った

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー白燐/紅ノ牙ー(後編)

 

 

 

『ぐ、グアアア……』

 

 

激しい胸の痛み、そして鎧を引きはがそうと身を焼かれながらホラーが群をなしのし掛かってくる重さを耐えふりほどこうともがくジロウ…ミシミシと鎧が軋んだ時、彼の耳にヴァイオリンの旋律が届いた

 

 

『こ、これは………』

 

 

    ーどうか帰ってきてー

 

    

     ーあなたの無事をー

 

 

    ー…みんなで待っていますー

 

身体に染み込むような旋律からギンガ、ディード、オットーの自分の無事を願い込められた強く純粋な想い…そして顔が浮かんだ瞬間、握られていた雷鳴剣から凄まじいまでの光と雷が生まれ群がるホラーを吹き飛ばし消滅していくのを意にも介せず再び襲いかかろうとしたホラーの動きが止まる

 

空よりも蒼く、鋭さを増した鎧に雷にも似た黄金のアンクレットが両脚甲、拳、肩に具現化。その背に黄金の翼が大きく広がりパチパチと絶えず放電させ立つ姿に怯んだ

 

 

       ー迅雷ノ破狼ー

 

 

黄金の装飾が追加され更に大きく三日月状の刀身中央に設けられたタービンが火花を散らし回転、放電し続ける雷鳴剣……新たな姿へと変わった《雷鳴月牙轟刃》を肩まで上げ構え一気に地を蹴った

 

 

『ぐるああああああああああ!!』

 

 

牙を大きく開き叫ぶ姿は野生の狼…いなウルフェン族のコーヒーにうるさい彼の姿を彷彿させ、力いっぱい振り抜いた瞬間、無数の雷が生まれ衝撃波と共にホラーの群を瞬く間に飲み込み消し飛ばし、空へ逃げようとするホラーへ雷光が剣の形を取り胴を、頭を貫き強烈な電撃を与え消滅させていく中、ジロウは雷鳴月牙轟刃を振るい飛翔しながら変化した鎧に込められた想いを全身に感じていた

 

 

『ウオワアアア!!(ギンガさん、オットー、ディード、おまえたちの想い確かに受け取った!オレは必ず帰ってくる!!)』

 

 

背後から迫るホラー数体を纏めて斬り伏せ地面へと叩きつけ地割れが起き雷光が地面を走り一体、また一体を飲み込んでいく

 

 

 

『ギヒャアアアア!!』

 

 

『アビヨアアアア!!』

 

 

 

断末魔が響く都度、雷光が瞬いていく…埋め尽くさんばかりの素体ホラーの群れが焼かれ消滅、分厚い刃に力任せに叩き潰され切られ光の雨が時折、降り注ぎ貫いていき後には迅雷ノ破狼が勝利の雄叫びをあげる姿があった

 

やがて旋律はレイジ、ソウマ、ユーノが戦う場へと流れていく

 

 

 

「く、ダメか……(チンクさん……)」

 

 

無数の虚無の砲弾を前にチンクの名前を口にした時、胸の痛みが消え旋律が形となり包み込んだ。

 

 

    ー………レイジ殿…どうか無事にー

 

 

旋律から自分を想いエルヴァを握りしめ祈るチンクがはっきりと見え左手に光が集まり《クナイ》が現れる。直感的にそれを迷わずつかみ取り閃光剣は逆手に構え素早く真円を二つ描いた。レイジを飲み込もうとした虚無の砲弾が眩い光と共にかき消され爆ぜた。ギリュスが牙を剥き出しながら殺意を溢れ出させたさきにいたのは

 

 

白銀のクナイをも想わせる鋭角的な装飾、緩やかな曲線から鋭さを併せ持つ紫紺地の鎧。背中には鎧旗をなびかせる騎士が《龍と馬》を合わせた白銀と紫紺の巨大なバイク?にも似た何かが歯車?を軋ませ、マフラー?から排気ガスの代わりに魔導火が吹き出させるそれに跨がる手綱をひく姿が逢った

 

 

    

     ー砕牙円刃・狼怒ー

 

 

『………いくよギリュス……』

 

 

手綱を引くと暴れ馬のように体躯を揺らしマフラーが後部に展開、四基のノズルから魔導火が吹き出し加速、一気にギリュスへ迫り体躯を道変わりに駆け上がっていく

 

 

『ヌ、ヌガャアアアアア!?』

 

 

タイヤが通る度、肉が裂け更に魔導火がこれでもかと焼き尽くしていく痛みに叫び声を上げながら振り落とそうともがくがタイヤから伸びたクナイが深々とスパイク替わりに突き刺さりふりほどけない、しかも刺さったクナイは数秒後に爆発し身を削っていく

 

 

『フ、フガアアアアア!!』

 

 

メシアの髪と呼ばれた自身を圧倒する存在に恐怖したギリュス、この忌々しい存在《魔戒騎士》を滅ぼすため自身の身体に無数の虚無の砲弾を形成、撃ち込んできた

 

『そう同じ手は通用しない!!』

 

 

レイジの声に応えるように砕牙円刃の両サイドがガシャガシャと左右、そして後部カウルが開き現れたのは百、いや二百以上のクナイが列を成し並び一斉発射。無数の虚無の砲弾へ突き刺さり爆発、瞬く間に消えると先ほどまで身体を傷つけていた魔戒騎士の姿がない

 

 

慌てて姿を探すギリュスを太陽にもにた光が照らす…その中に一つの影。魔導火を全身から激しく燃え上がらせ加速し近づく《砕牙円刃・狼怒》。正面に文字で描かれた円が幾重にも展開し貫いていき黄金の光がフロントカウルに集まり輝きを増していく

 

 

 

『メシアの髪ギリュス!再び闇へ還れ!!』

 

 

 

『ギュリアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

ギリュスの頭へと突貫、身体の中心を貫き肉をえぐり黄金の光が跡形もなく消滅させ勢いよく飛びだし地面へ着地、タイヤ?がこすれえぐりながら魔導火の轍が激しく燃え立たせると同時に全身に光が亀裂のように走り、全身が泡立つように膨れ上がり限界を迎え爆発消滅し、後には鎧旗をなびかせ立つ砕牙円刃・狼怒がうなり声をあげた

 

 

 

「く、逃げろ女!」

 

 

「女ってなによ!お義姉さまと呼びなさい!!」

 

 

「……ちいっ………よけろ!!」

 

 

血に染まる魔法衣を翻し槍を大きく横へ凪ぎホラーの顔面を貫き、勢いを殺さず背後から迫るホラーへ叩きつけるソウマ。しかしホラーの勢いは収まる気配がない…クロウが張った水鳥の刃陣は破られ軽口を叩くドゥーエも疲れの色が見えるも

 

 

(未来の義弟を死なせるわけにはいかないわよ……ウェンディ、チンク、ノーヴェ、オットー、ディード…妹達の為に!)

 

 

萎えそうになる闘志を奮い立たせクロウから預かった界符《雷》、《火》、《水》と魔界語でかかれたのを数枚取り出し投げる…円を描くように配置された瞬間、あたりに魔導文字が光の矢へ変わりが怒涛の勢いで無数のホラーの身体を貫き消滅させていく。しかしホラー達の動きが止まる。顔を見合わせ共食いをし始め巨大な肉塊へかわる

 

 

「な、なにを!」

 

 

《気をつけろソウマ!蠱獣化するつもりじゃ!!》

 

 

ゴルバの叫びと共に肉塊がはぜる。現れたのは女性の上半身に下半身が蛇の巨大ホラー《ズュダム》。赤い唇を歪め髪から無数の蛇を模した骸骨を飛ばてくる。その数は一つではなく百を超え、目を赤く光らせソウマ、ドゥーエを囲み黒く変色した血で汚れた牙を剥き出しにし襲いかかる。とっさに術で防ぐも障壁はいとも簡単に砕きドゥーエを飲み込もうとする

 

 

「ハアッ!!」

 

 

裂帛の叫びと共に白夜槍を構え牙を防ぐも、血を流しすぎた身体はもう限界を迎えていた時、ソウマの耳に不思議な音色が届き見えたのはウェンディの祈る姿

 

 

(………ウェンディ!?………)

 

 

 ーソウマっち…待ってるッスよ。あたしはー  

 

 

…声と共に構えた白夜槍が反応するように形状変化、眩い光に包まれ晴れた先には巨大な槍を構えメカニカルな趣を持ち緩やかな曲線を持ち後部に翼を広げ魔導火を燃え上がらせるライディングボードに乗る白夜騎士の姿

 

 

 

     ー天翔應鱗・打無ー

 

 

『………ハアアアアアア!!』

 

 

 

魔導火が激しく燃え、加速しながら逆回転し蛇躯を横凪、穿ち、貫き通しながら自身の丈を超える身体を軽々と持ち上げ勢いを殺さず投げつけた。あまりの衝撃にぶつけられた蛇躯は粉々砕け霧散していくのをズュダムは怒りを露わにし大地を削りながら蛇行し迫る

 

 

『シャアアエアアアオアアアア!!』

 

 

 

『……さがっていろ…』

 

 

「え?ちょ………もう言うこと聞かないんだから」

 

 

前屈みになり白夜槍…巨大な鏃に様々な装飾が施された覇天白夜槍を横へ構えると紫色の魔導火が全身をつつみ、ごうっと燃え盛らせ切りかかる。それを意に介さないよう鋭い突起が生えた尻尾を叩きつける。刃で受け流し切り払いながら連続突きで堅い外郭を貫いていく。たまらず叫び声を上げるのを見逃さず懐へ潜り込むと覇天白夜槍がさらに大きくなり握り手が一メートルの太さへ変わるも地面を削りながら渾身の力を込め下から上へ叩き上げ、そのままジュダムの巨大な体躯を空へ押し上げた

 

 

 

『ギ、ギャリハアサカア!?』

 

 

凄まじい速さで打ち上げられるジュダム。その直上にはライディングボード?に乗る天翔應燐・打無が覇天白夜槍を構え一気に加速。刃を突き立て魔導火を流し込みつつ地上へ加速。刃を伝い身体を燃やされながもがくジュダム。ライディングボードを足場に飛翔するとボードが、さらに形状変化し翼の形へなると装着。巨大化しさらに加速し勢いをつけ石突きへ蹴りを叩き込んだ。

 

『うおおおおお!!』

 

 

 真下に目にも留まらぬ速さで何度も何度も叩き込み、奥へと貫き進み堅い肉、血が吹き出し火に焼かれながらジュダムはボコボコ泡立つように膨れ肉塊となる前に地上へ落下、凄まじい衝撃波と煙を舞い上がらせ大きなクレーターを刻み込んだ

 

その中心に巨大化した覇天白夜槍の石突に立ち翼を広げ腕を組んだ天翔應燐・打無の姿…

 

(………なんでハート型になってるのかしら?)

 

ジュダムが消滅したクレータ…なぜかわからないがハート型に。心の中で盛大に突っ込みを入れるドゥーエの耳に…

 

 

    ーハート型は気にするな!ー

 

 

 

…とアイス好きな腕だけ怪人の言葉を耳か聞こえたのは気のせいだと思うしかなかった…

 

 

 

 

儀式の間で斬り合うアルター…オウマは歯ぎしりし力任せにユーノを蹴り飛ばし忌々しく睨みつける。魔戒騎士達に刻んだ《破滅の刻印》そして《破滅と忘却の刻印》が解かれた事を本能的に悟り怒りに震え魔戒剣、魔戒斧を擦りあわせ火花を散らす。あと少しで望まれぬ子である秋月鷹矢を殺せたはず…計画が狂わされ殺気を溢れかえらせている

 

 

 

 

「我が刻みし証を……おのれ……だが、まだだああっ!!」

 

 

頭上に真円を二つ描き、瞬く間に闇につつまれ狼のうなり声と共に鎧を纏い殲滅騎士《魔煌》へ姿を変え魔煌剣を逆手に、魔煌斧を正面に構え地を蹴り迫る、対するユーノも正面に真円を描き中へ地を滑るよう駆けながら《狼無》の鎧を召還、纏うと同時に双剣で斬り合う

 

 

『秋月オウマ……アナタの望みはもう叶わない!』

 

 

『戯れ言を!』

 

 

『もう、もう気づいてください!過ぎ去った過去は変えられない…一度咲いた花が二度と咲かないように…命もまた同じなんです!』

 

 

『………黙れ』

 

 

『過去は変えられない。でも今を戦い未来を変えれる。それを僕に教えてくれたのは………オウマ先生!あなただ!!!』

 

 

『…だ、黙れえぇ!!』

 

 

魔煌剣、魔煌斧を振るい力任せに斬りつける。しかし魔戒双剣の刃と柄で防ぎ、刃を滑らせ流し身体を捻り蹴るも肘と膝に挟まれふさがれ鎧越しに太ももを切り裂かれ魔導文字が血飛沫のように吹き出させ地におちた

 

『うわっ!?』

 

 

『…我には勝てないとわからぬかユーノ?最後のチャンスだ…闇を受け入れろ。永遠の命と力を手にできる……このようになあ!』

 

 

魔煌斧、魔煌剣を強く握りしめる。全身が膨れ上がるのをみて驚くユーノ…魔戒騎士にとって禁忌の姿《心滅獣身》へと変貌するも黒い魔導力に押さえ込められるよう闇に包まれはじけた。

 

 

鋭く鋭利、触れれば斬られる禍々しさと尾てい骨あたりから背骨を想わせる尻尾を揺らし、ひび割れた亀裂に赤い血のようなラインが走る鎧を纏い血走った紫色の瞳を向けうなり声を上げる魔性の狼

 

 

     

      ー堕煌仞・魔煌ー

 

凄まじい邪気を惑わせながら魔煌滅仞剣を振るう。闇の波動を帯びた斬撃を受け止める狼無…

 

 

『ぐあっ!?』

 

 

……防ぎきった筈なのに全身から血を吹き出した…斬られた痛みと言うより蝕まれるような感覚に包まれるのをニヤリと笑いみているオウマ

 

 

《気をつけろユンユン!ナロ~ウ、剣に闇の波動を纏わせぶつけやがった。ソウルメタルでも防ぎ切れね……》

 

 

『くっ!……』

 

考える隙も与えないと言わんばかりに間合いを詰め切りかかるオウマ…その太刀筋は自分が知るものではない闇に飲まれ堕ちた者の意志を刃越しに感じ取る…あの時の弱い自分を見捨てず鍛え上げてくれた恩師はもう死んだ

 

 

なら自分に出来るのは…歪んだ陰我にとらわれる師の魂を解き放つ……命を絶つことだけ。魔戒双剣を握る手に力がこもる。出会いから別れまでの日々が蘇る度に剣が打ちつけられ振動音が響き渡る…しかし闇の力を纏わせた刃は容赦なく身体を蝕んでいく

 

 

 

『あはっ、あははははは……死ねぇユーノォ!』

 

 

鍔ぜりあうが魔煌斧に押し負け弾かれ、がら空きになった胸元へぶあつく禍々しい魔煌剣の分厚い刃が迫ろうとした時、音色が響きユーノの持つ魔戒双剣、狼無の鎧に淡い光が灯り未完成の狼無の鎧…正確にはソウルメタルが覆われていない部分を埋めるように広がっていく

 

 

 

  ー……ユーノくん!負けないで!!ー

 

 

 

 

旋律に込められた、なのは、フェイト、はやての声を聞いた瞬間、魔戒双剣に三色の光があふれ凄まじい奔流となり魔煌剣の刃を防ぐと同時に、オウマいや魔煌を吹き飛ばし岩肌へ叩きつけられるも何事と無かったかのよう立ち上がるも動きがとまる

 

 

…透き通るような翠の鎧地、そして《牙狼の鎧》にも似た牙をむいた狼の面(おもて)、流線かつ鋭利な鋭さを持ちあわせ、背中に鎧旗をなびかせ立つ背後に幾重も《星》、《雷》、《夜》を意味する魔導文字が円環状にならぶや否やと共に魔導火をあふれ返させ立つ姿

 

 

 

 

      ー戰烈応心・狼武ー

 

 

『ば、バカな!想念による変化?まさかアストラル界に張った結界を超えただと!?………コレが出来るのは……ふふふ……闇のキバ……いや黄金のキバかああああ!!』

 

 

ーもう、もう終わりだ……今代のオウガ継承者は秋月家の伝承にある《仮面の男》達から助力を受けている。お前の負けだ……いや、私たちのー

 

ーまだ消えていなかったか!くだらぬ残滓が!!ー

 

 

ー……すべては私の弱さがお前を生み出した日から始まった………マヤを失ったあの日から…もうお前の望みは叶わないー

 

 

 

内に潜む存在の言葉に狂ったように叫ぶオウマは力任せにユーノへ殺意を込めた刃できりつける。太刀筋も関係ない乱撃とも取れる軌道からくる刃を魔戒双剣……生まれ変わった《狼武双剣》で流れるように受け、滑らせ身体をひねりざまに右腕を切り払あえ血飛沫にも似た魔導文字が散る。互いの意地、信念、想いを秘めた必殺の一撃がぶつかり儀式の間におかれた石舞台が二人を中心にめくれ衝撃波と共に岩肌が吹き飛ぶ。

 

 

 

 

『うわああああああああ!!』

 

 

『がああああああああ!!』

 

 

鍔ぜりあい睨みつけ剥き出しの牙を大きく開き叫ぶなか時が動いた。オウマの魔煌剣が右肩へ撃ち込まれようとした…が、それを寸前で腰を沈め交わし様に右逆手に握られた狼武剣が魔煌剣が握られた左腕ごと肩口に刃を滑り込ませ大きく切り払う。自らの腕を切り落とされた事で僅かな間隙が生まれた

 

 

『……………闇に囚われたアナタの陰我!僕が断ち切る!!』

 

 

狼のうなり声をあげ狼武双剣を心臓めがけデスメタルの鎧を砕き、刃が深々と貫いた

 

狼武の瞳に涙が光りおちたと同時に凄まじいまでの爆発が起き二人がいる儀式の間に溢れかえった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヌグギガア!』

 

 

 

曇天の空を超音速で飛翔し迫る白燐ノ煌牙にサジッタの矢、溶解液を織り交ぜた攻撃を繰り出すアギュレイス。しかし歯牙にもかけることなく背中にひろがる蝙蝠の翼《牙翼》を巧みに操り身体を捻らせ回避する様に感じるのは恐怖…今まで歴代オウガ継承者と戦い負け封印されても感じなかった

 

何よりも奴の身体から溢れ出す魂氣から間違いなく自分を滅しに刃を向けるコイツはなんだ

 

 

 

『マチリキシ、クスムニニイニンヌイヌツヲナルウ!ヌルガシムブヌクル!!

 

 

 

ならば懐柔し配下に加えてやろう。魔戒騎士と言えども人間だ、限りある命しかもたない。あの男《秋月オウマ》のように此方からの誘いに乗るはずだと巧みに甘言を囁く

 

 

 

『断る!』

 

 

『ヌ、ヌルチ!』

 

 

『……大好きな人と結ばれ子供を産むことで命は次へと繋がれ紡がれていく事で僕たち、人は永遠を手にしている……ただ自分だけが生きるだけの永遠はひとりよがりにすぎない。ただの自己満足だ!!』

 

 

アギュレイスから放たれた誘惑の甘言を、サジッタの矢を切り払い砕きながら拒絶、叫ぶと正眼の構えから逆袈裟へと持ち手を変え《白燐ノ煌牙真剣》へ変え胴から肩口を巨大化した刃が肉を焼き骨を砕きながら切り裂いてく

 

 

 

『マキリチシ、ナハニウズルフルヌブ!!ヌリツチグヌツ(魔戒騎士、貴様はいつか死に血も絶える!人間である限り滅びは免れぬ!!)』

 

 

『……例え、死んだとしても!』

 

 

 

『ニル!?』

 

 

 

『…遙か先絶えたとしても……』

 

 

 

『ギアッ!』

 

 

 

『……この剣斧と鎧に込められた意志、騎士の誇りを継ぐ者がいる限り魔戒騎士は滅びはしない!!』

 

 

 

肩口まで駆け上がり勢いをつけ自身の数倍の体躯を持つアギュレイスの顔面へ無数の蹴りを叩き込み距離を取った背後に歴代オウガ継承者達の姿が浮かんだ

 

 

 

ー秋月鷹矢よ…今こそ我らの力使うとき……白煌よ、今こそ真の姿となりて甦れ!!ー

 

 

英霊の声が静かに響き、砕け散った魔導馬《白煌》の破片が意志を持ったように浮かぶと鷹矢のいる場所へ跳び燃えりはじめた…そして炎の内から現れたのは金よりも白く輝きを秘めた馬と龍の意匠を持ち合わせ、矢をつがえる中心には機械的なタービン、装甲に様々な光が走り輝く巨大な弓が静かに現れたそれを手にした瞬間、歴代オウガ継承者がこれを使いアギュレイスを封印してきた光景が流れ込む

 

なぜ今まで弓に関する事が今代の継承者秋月鷹矢に伝えられなかったのか…八代目にあたるオウルが鷹矢が生まれて二年後になくなったことが起因している

 

継承者から次の継承者へ伝え守り抜かれたアギュレイス封印の秘技を今、英霊達の魂を通じ伝えられ、本能的に胸に手をおくと白燐の牙…魔皇石と融合したそれを引き剣斧へ近づけると変化が起きた。全身の要所に配された狼を象った鎧が離れ吸い込まれ巨大な矢《白燐九狼ノ矢》へ変わり弓につがえ引き絞る…機械的なタービンが高速回転、彩りの光、いやタカヤを想う少女達の魔力光が溢れ鏃に埋め込まれた魔皇石へ吸い込まれて輝きを増していくなか感じるのはヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェの想い、そして魂となりながらも自身に力を与えた英霊達

 

 

自分だけの力ではない…コレは

 

 

『スヌリ!オウガヌマキリチシ!!』

 

 

『僕一人じゃない……僕たちは一つなんだ……………アギュレイスよ!永久の闇に還れ!!ハアアアアアア!セヤアアアアアアアアアア!!』

 

 

 

無数の刃、円輪、矢、溶解液が襲いかかる寸前、限界まで引き絞られた弦を解き放った!凄まじいまでの光と衝撃波を生み出し突き進む矢にふれた瞬間、粉々に砕け霧散させながら光はやがて無数の狼の姿へ変わりアギュレイスの身体を貫きながら食いちぎり、魔皇石が容赦なく力を吸い尽くしていく。今まで自身を封印してきたモノとは違う、確実に滅ぼされていくのを貪られながら感じ恐怖した

 

 

 

『ーーーーーーー、ーーーーーーーーー』

 

 

断末魔の叫びがアギュレイス封印の地に木霊する…やがて巨大な体躯はしぼみ吸い尽くされ魔導文字が空へ吸い上げられていく中、苦しげに忌々しいモノへ投げかける嘲笑にもにた声が響く…それに応えるよう頭部鎧を解除した

 

 

『……………守りし者として剣を取り続け戦う。その時がくるまで…』

 

 

 

『ヌルキニ……ヒハハ、ヒハハハハハハ……アーーーーーーーー』

 

 

跡形も無く完全に消滅したアギュレイスの変わりに白燐九狼ノ矢が天を舞いゆっくりと降りてくる。それを掴むと鎧が返還されボロボロの魔法衣を血に染め、大きく肩で息をするタカヤ。しかしアギュレイス封印の地が大きく揺れ出した

 

 

「こ、これは?」

 

 

《タカヤ!アギュレイスの野郎が消滅したから封印の地が崩壊を始めやがった……早く脱出しねえと虚数空間に飲まれるぞ!》

 

 

ヴィヴィオたちを安全な場所へ逃がすために向かったキリクの叫びにはっとなり見る、大地に亀裂が広がり隙間から虚数空間が見えた。出口を探し力を振り絞り岩を蹴るも見つからない…焦り始めたタカヤが着地しようとした岩が虚数空間にを飲まれ身体が投げ出された

 

「くっ……」

 

 

その時、誰かに自分の手がつかまれた…目を向けた先にいたのはヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェ。腕を伸ばし手を絡めしっかりと掴む顔は今まで見たことのない笑顔に自然と笑みを返し力強く手を握りしめた瞬間、光に包まれた

 

 

 

 

「メイ、あの子達とタカヤは、ユーノはまだか!」

 

 

 

「まだ……です…ヴィヴィオ様達の気配も……くっ、それまでゲートを維持しないと」

 

 

 

現世…聖王教会最深部で《アギュレイスの庭》に繋がるゲートを全魔導力を振り絞り維持しているメイ。その後ろにはジロウ、レイジ、仮面の女性から手当てを受けるソウマの声に額から汗を流しながら応える

 

 

結界維持限界時間は五分を過ぎた。ゲートの向こう側からは濃厚な邪気とは別な何か、異なる力を感じるの数分前、この場に《アギュレイスの庭》から弾き出されるようジロウ、ソウマ、レイジ、そして仮面の女性《アリア》が現れた。疲労困憊の状態でありながらタカヤ、ユーノへの助力へ向かおうとするも阻まれた…アギュレイスの力により遮られ行く事が出来ず時間だけが過ぎていくのを見ているだけしか出来ない

 

 

その時、ゲートの向こう側からまばゆい光が溢れ出し飲み込み現れたのは本来の姿を取り戻し復活したキリク、その足元にタカヤに寄り添うように倒れたヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ジーク、ファビア、ノーヴェの姿

 

 

「あ、あ……タカヤ……」

 

 

「ただいま……」

 

 

皆に、寄り添われるような形で笑顔を向けるタカヤにすぐに駆け寄りたい気持ちをグッと抑えた時、ゲートが大きくゆがむ。慌てて振り返るも襲いかかった波動に弾き飛ばされた…ゲートから見えたのは魔導筆を構えた腕、そして何かが地を滑り止まる

 

 

「う、うう…」

 

 

何か…魔法衣も身体も傷だらけのユーノに驚き近寄るジロウ達、だが魔戒剣を手にしゲートへ視線を向けた先、右腕を肩口から切り落とされ胸に《狼武剣》を深々と突き刺し立つアルター…《秋月オウマ》の姿にメイ、タカヤも警戒する中、素顔を露わにしゆっくりとタカヤ、メイの順に視線を向け、胸の魔戒剣を力任せに引き抜きメイの足元に滑らせた

 

「………目を覚ましたら渡せ……」

 

 

端的に告げ、背を向け広がりつつあるゲートに目を向けるオウマは迷わず中へと入った…なにをする氣だと言わんばかりの行動に理解できない。ただひとりだけわかったモノがいた

 

 

「まさか……あなたはゲートを!?」

 

 

「………アギュレイスの残滓…邪気と虚数空間と繋がりつつある…ここまで開ききったコレを閉じるには方法はただひとつ!!」

 

 

 

アルター、父秋月オウマの目的を悟り声を上げたメイの前で、全身から夥しい程の邪気、魔導力を溢れさせながら術式を自らの胸から流れ続ける血を媒体に構築する様が映り、それに伴いゲートが閉じ始めた。が同時にオウマの身体が岩のように変質していく光景に皆は息をのんだ

 

 

「………内側から閉じるしかない……遥か昔、魔戒騎士、法師達が《エイリス》を七体のホラーの邪気を使い封じた術式を応用すればな……」

 

 

「な、なんで、いまさら……何が目的なの、こんな事をしたって……私はっ!」

 

 

 

「………」

 

 

ただ無言でメイをみるオウマ…身体の半分は岩へ変わっていく。しかしまだやることがある…動かなくなりつつある身体をタカヤへと向けさせた。死人をも想わせる肌に色素が抜け落ちた白髪、折れた右腕に手を添え剣斧をもち立つ姿に義父と重なってみえた

 

 

「……秋月鷹矢。しかと焼き付けろ……闇の誘惑に負け叶わぬ願いだと気づかず本当の願いすらわからなかった愚かな男の姿、その末路を…」

 

 

首から下が岩へ変わり顔だけが残されていく姿に頷くタカヤから視線を離し目を閉じ、ただ一言を紡ぎ出した

 

 

「………メイ、お前の本当の……願い…に…気づけず……すまなか……っ……た……」

 

 

 

完全に岩となった…秋月オウマは崩壊するアギュレイスの園と共に堕ちていき、直後に完全にゲートが閉じきった。

 

 

「お、お父様……オウマお父様…」

 

 

泣き崩れオウマの名前を呼び続けるかすれた小さな声を漏らした、ジロウ、レイジ、ソウマ、仮面の女性、キリクはオウマが最後の最後に娘の為、孫であるタカヤにすべてをたくしたのだと気づくも何も言わずただみていた時、気を失っていたノーヴェが目を覚ました

 

「……ん、タカヤ?」

 

 

「あ、ノーヴェさん。気がついたんですか?」

 

 

「うん…えと…タカヤ。お、お、おかえりなさい」

 

 

「た、ただいま………あれ?」

 

 

突然足元が滑り、もつれるようにノーヴェと一緒に倒れ込むタカヤの顔いっぱいに甘い匂いと柔らかさにに包まれた…まさかと思いギギギと傷む身体を起こしみえたのは、柔らかであらゆるモノを包み込む包容力の象徴に顔を埋めている

 

 

まずい、殴られる…と覚悟し目を閉じたタカヤ。だが還ってきたのは意外な言葉だった

 

 

「……仕方ないなタカヤは。コレよりスゴいことしてやるって約束したけど…我慢できないのか?」

 

 

 

「え?ええ!?ちょノーヴェさん力を込めないで…ほ、骨が…」

 

 

「…大丈夫だから、あたしに任せ……どうした?顔が青いけど…タカヤ?」

 

 

「……んきゅ」

 

 

真っ青な顔のタカヤを見て慌てだしたノーヴェ…全身の切り傷に折られた右腕、疲労困憊…血を流ししすぎてからのひさしぶりのタカヤ特有のアレはまさに毒だった

 

 

「あ~ノーヴェ!抜け駆けしたらだめだよ!」

 

 

 

「そうです!さっき決めたばかりなのに」

 

 

 

次々と意識を取り戻した、まるで大岡裁きのように身体を密着され、胸の柔らかさに女の子特有な匂いに遂に意識を手放した…

 

 

 

 

 

 

 

第二十五話 鷹矢ー白燐/紅ノ牙ー(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦いも終わり、それぞれの日常が戻りヴィヴィオ嬢ちゃん達とリハビリを兼ねたインターミドルへの練習に付き合うタカヤ


そして、嬉しい知らせが届いた。遂にアイツも年貢のおさめときだな~


最終話 明日



ブーケをとるのが誰かすごく楽しみだな~まあ、修羅場は間違いないけどな









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最終話 明日(前編)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


新暦108年…春

 

 

春の陽光が木々を色づかせ暖かな風が咲き誇る桜の花びらが舞いながら、古い洋風の屋敷へ流れ開け放たれた一室へ舞い込み天蓋付きのベッドに眠る男性と隣に座り、彼の手を握る女性の身体をさけながら顔へ落ち、かすかにまぶたが動いた

 

 

「………ん」

 

 

「……!!…良かった…《真魔界》から帰って来ていきなり倒れたから…みんな心配、すごく心配したんだからな!」

 

 

「あ、ごめん……すこし疲れが溜まってたからかな…あれ、みんなは?」

 

 

柔らかなベッドから身体を起こし、赤い髪を肩まで伸ばした女性に笑顔で応える男性。その肌は血の気も薄く髪は真っ白で首の後ろで結ぶ彼はとても40を過ぎたばかりには見えず80ぐらいにも見える…夫の肩に手を貸し寄り添い起こす女性の表情は一瞬暗くなるもすぐに隠した

 

 

「…みんなは今、すこし出かけててクロウはエルトリアにアミタとキリエを迎えに、マユ達はメイとデルクとリームが見てて…今はあたしとあなただけしか居ないから」

 

 

 

「そっか………なんか懐かしいね。二人っきりなんて。そうだひさしぶりにデートしようか?外は桜が咲いてて天気もいいから」 

 

 

「……あ、ああ…そうだな」

 

 

「じゃあいこうか…」

 

 

微かに笑みを浮かべ窓から入り込む春の風を感じながらベッドからでる彼に肩を貸す彼女の目に涙が伝い絨毯へ落ちる。ゆっくりと支えるように歩き出しドアノブに手をかけ扉を開いた……皆に託された、最期になるかも知れない《ひさしぶりの二人っきりの時間》を過ごすために………

 

 

 

 

 

最終話 明日(前編)

 

 

 

新暦79年 秋月屋敷別邸

 

 

 

 

「ほら、気合いいれろよ!試合は間近なんだからな!!」

 

 

「はい!」

 

 

元気よく声が庭園に響く。そこにはスパーをするヴィヴィオとノーヴェ、少し離れた場所ではアインハルトと…

 

 

「ほな、少し打ち合おうか?」

 

 

「よろしくお願いします…えと」

 

 

「ジークでもエレミアでもええんよ?うちはハルにゃんって呼ぶから」

 

 

「で、では…エレミアさん。いきます」

 

 

軽く構えたアインハルト、対するは次元世界最強の少女ジークリンデ・エレミア。風を切りすらっとし脚から放たれる蹴り、構えた拳がぶつかるたびに風が舞い打撃音が木霊する、もう一つの場所では

 

 

 

「ミツにぃ、こうでいいかな?」

 

 

「ん、悪くないかな…あとは先の先の動きを見切れば次の相手のトライベッカさんとやり合えるよ」

 

 

「本当に!?」

 

 

「う、うん…でも今はコロナちゃんと練習をしよう……?」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

「い、いや、誰かに視られてる氣がしたんだけど…」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「やっぱり十字架仮面と動きが似てる……」

 

 

ミツキに視線を注ぐのはツンデレガンナー執務官…ティアナ・ランスターの手元にはココ数日の行動を記録した分厚いファイル。夜に現れる怪物を無手で倒す白い鎧に十字架を模した仮面の戦士のありとあらゆる角度から納められた写真、さらには様々な書き込みがびっしりと手書きで白いノートが埋め尽くされている

 

 

 

「………じかに聞いた方が……でもそうしたら私の家から出て行ってスバルの家にまた……ダメダメダメ!私がスバルからミツキを守らなきゃいけないし……あ!?」

 

 

 

悩むティアナの手から分厚いファイルが落ちページが開き止まる…そこにはミツキが個展に向け絵を真剣に描く姿、無防備にフにゃあとした寝顔、絵筆を構え一点を視てキャンパスを前にする姿が収められている

 

 

そっと一枚を撫でるように手にしファイルへ挟みだした…

 

 

 

「そうよね…ミツキが十字架仮面な訳ないわよね~そうよ。将来は絵描きになるっていうんだし…」

 

 

現在ティアナがいるのは秋月屋敷別邸から500メートル離れたD&P社の屋上(無許可)…夜にしか起きない《ガイスト事件》は管理局内部でも問題になってるのだが捜査は何の進展もみせないどころか手を引くよういわれていた

 

だが、それがティアナに火をつけた…そしてガイストが現れる場所には十字架仮面が姿を見せる事を掴み遭遇するも質問する前に逃げられ、逆に助けられた事、そして

 

 

 

ー……ち、ちょ!はなしなさいよ!……さわるなったら!っ痛!?ー

 

 

 

ー……じっとして傷が残る……アナタは女の子…顔と髪は女の子にとって命なんです?ー

 

 

 

深く斬られた右頬に手を添える白い装甲に包まれた手が淡く、太陽のような暖かさを感じ目を閉じた、次に目を覚ました時には管理局の医療施設にいて頬の傷が綺麗になくなっていた

 

あとで聞いた話によると十字架仮面が意識を失ったティアナを伴い現れ医療局員に預け瞬く間に姿を消したらしい。しかも《お姫様だっこ》されてたと聞いて事情聴取にきた局員が退室してから顔を真っ赤にしベッドの枕に顔をうずめ悶えていた

 

 

「………十字架仮面……必ず正体をつかんでやるんだから!そしてミツキは私が守るし………でも、リオと仲良さそうだし……もしかして…し、調べてみる価値はあるわよね…そう!コレも捜査の一環なんだから…不純異性交遊はやめさせなきゃ!!」

 

 

 

無理やり納得させ再び黒字に金のXの刻印が目立つ双眼鏡を片手にミツキの観察(またの名をストーキング)を始める………家に帰ればいつものようにエプロン姿のミツキが夕食を用意して笑顔でむかえてくれるに関わらず

 

 

 

「クシュン!?風邪引いたかな?」

 

 

「ミツ兄!早く早く!!」

 

 

「よろしくお願いしますミツキ先輩」

 

 

「うん、じゃあ構えて…」

 

知らぬところで三角ならぬ四角関係になってることを気づかずリオに急かされコロナに春光拳の型を教えていくミツキ…またの名を十字架仮面、仮面ライダーイクサ…彼のゴールは果たして?

 

 

 

 

聖王教会にある墓地…古い墓が並ぶ中、真新しい墓にひざを突くのは無限書庫司書長にして新たな系譜の魔戒騎士、ユーノ・スクライアが花を手向け目を閉じていると背後に気配を感じ目を開け振り返る。なのは、はやて、フェイトが花束を手にし歩き出し止まるとそっと墓へと添え目を閉じひらいた

 

 

「ユーノくん、このお墓は?」

 

 

「……僕の先生…秋月オウマ先生のお墓だよ……嫌じゃなかった?みんなにとって先生はヴィヴィオたちの」

 

 

 

「いいの…ユーノくん」

 

 

 

ヴィヴィオ達の命を狙いホラーを差し向け、さらには攫った…といいかけたユーノの言葉を遮るなのはの隣にたつフェイトが口を開いた

 

 

 

「ヴィヴィオたちを攫ったのは許せない…でもユーノにとって大事な先生だったんだ。なんでそうなった理由も」

 

 

 

「誰だって過ちはする…でも最期は正気を取り戻して

ユーノくんを連れてきて、開きった真魔界に繋がるゲートを閉じてくれた……ウチらの大事な人とみんなが暮らしてる世界を守ってくれた…だからええんよ」

 

 

 

「…………ありがとう………じゃあ行こうか。ヴィヴィオたちの練習も終わっている頃だし」

 

 

なのは、はやて、フェイトの言葉で澱んでいた自身の心が少し軽くなり立ち上がるユーノと三人は共に墓地を後にし秋月屋敷別邸へ向かおうとするが、ふと何かを感じ目を向け息が止まった

 

 

(オウマ先生!?)

 

 

視線の先には魔戒法師の正装に身を包んだ《秋月オウマ》と導師服姿の女性…その顔は自分が知るモノと違い穏やかで険が取れ澄んだ瞳をむけている…隣にいる女性がゆっくりと頭をさげてきた

 

 

ーつらい役目を負わせてすまなかった…お前の言葉は魔戒剣で斬られるよりも効いた…ー

 

 

ーでも、僕は…先生を…ー

 

 

ー…私が正気にもどるには想念を込めし剣にて討たれるしか無かったのだ…もう気にするな、私は望んで討たれたのだ………ユーノよ、私の死を悼むつもりならば尚更、守りし者として剣を振るえ…男が一度、剣を手にしたらば倒れることならず。魔戒騎士として、守るべき者達を強く想い戦え……ー

 

 

 

声が響くと強い風が舞い墓に添えられた花が舞うと師と女性の姿は消えている

 

(先生…僕は誓います…魔戒騎士、いえ守りし者として戦うと……そして皆が明るい明日を過ごせるように)

 

 

心の中で師オウマへの誓いをたてた時、柔らかなぬくもりを感じる。ハッとなり見るとなのは、はやて、フェイトが手を握り締めている

 

 

「大丈夫だよ…ユーノくん」

 

 

「もし折れそうなったら支えるから」

 

 

「ウチらがユーノくんの還る場所になるから…元気だしてな」

 

 

「……うん」

 

 

うなずくと、笑顔になる三人…そのままゆっくりと墓地を後にするユーノの顔から迷いは消え、守りし者として戦うという強い意志に満ちあふれていた

 

 

 

ユーノ・スクライア

 

 

無限書庫司書長にして魔戒騎士。無限書庫を完全に整理し各部隊からの資料請求等への対応を常どおりなくキーワドを検索可能なシステム構築したことでスムーズにかつ正確な資料を提供できるようにした

 

魔戒騎士としては新しい系譜だが喪われた秋月家の魔導術を駆使しエレメント封印、呼びかけに応じ呼ばれた世界でホラーを討滅。その実力は三騎士からも認められるようになった

 

……しかし、これから3ヶ月後。なのは、はやて、フェイトの妊娠が発覚…鬼いちゃんs、お義父さん、赤いゴスロリハンマー、ミスターブシドーとの生死をかけた鬼ごっこが繰り広げられるも義母sの口添えがあり許しをもらい結婚(笑。一男二女に恵まれる

 

 

 

余談だが、本来ミッドでは一夫多妻制は無いのだが数ヶ月前に婚姻にまつわる法制定で《対象者の人格、経済、婚姻関係になる相手との同意が在れば認められる》と改正された

 

 

その改正に関わった一人…クロ…K(敢えて名前は伏せておく)提督によると

 

 

『……家族になって十数年になるけど、母さんと母さんの友達を前で話す義妹と親友達の目は今までに見たことがないほど恐ろしかった……出来れば二度とあの目は見たく無い……』

 

 

と、語る関係者の身体が震えていたそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チンクさん、どうかな?」

 

 

 

「ん~なかなか好い出来ではないか」

 

 

銀色に輝く十字架に翼を組み合わせた細工を見たチンクはマジマジと手にとり、触り心地と質感に簡単の声を上げる。それをみて緊張していたレイジも笑顔を見せた

 

 

「来週《お~ぷん》までに数を作らなきゃ……チンクさん、ありがとうございます。僕の為にフドウサンやら改装費も」

 

 

「いいのだ。それより今は店の開店に向けて準備をしなければ」

 

 

「あ、あの…チンクさん……休憩しませんか!?」

 

 

「う、うむ!?なら、今日はわたしが作ったケーキと一緒に食べようではないか」

 

 

「じゃあジロウから貰ったコーヒーを入れますね」

 

 

席を立ち上がり《ジロウ特製コーヒー豆》をミルで挽き始めるレイジの隣でいそいそとクロスを広げ皿を並べ瑞々しいイチゴとふんわりとデコレートされたケーキを切り分けていく。二人がいるのはナカジマ家から少し離れた場所にある一軒家を改造した店舗。中は空のショーケースが並び所々白い布がかけられている

 

手に職をと探し始めた頃、チンクと共に歩いていた時に見かけた銀細工…シルバーアクセサリーに興味を持ち材料を集めて作ってみてそれをチンクが同僚に見せた所、評判が良く噂を聞きつけた局員も《どこの店のだ》と聞きに来るほどだった

 

 

レイジの意外な才能に驚きながら、そのことを話してみると「やってみていいでしょうか?」と前向きな返答にチンクは喜んだ。開店する場所から改築工事する費用、その間に造形と経営学の勉強をしようやく目処がたった

 

 

「はい、できましたよ。さすがはジロウ特製だ」

 

 

「そうだな……レイジ……ワタシに話とは」

 

 

 

「……あ、あの……そのう……」

 

 

淹れ立てのコーヒーのなんてもいえない香りが二人しかいない店舗に漂い、チンクの質問にあたふたするレイジの姿は見ている彼女には新鮮で笑みを浮かべてしまう…

 

軽く口につけ飲むコーヒーは程よい酸味と濃厚な味わいはケーキとよくあい食指が進む中、今まで顔を伏せていたレイジが顔を上げ真剣な表情で見つめてきた

 

 

「チ、チンクさん………あの………こ、コレを受け取ってください!!」

 

 

「こ、コレは…レイジ殿……」

 

 

 

「……こんな僕ですけど、魔戒騎士で、いつ死ぬかわからないですけど……け、け、結婚を前提としたお付きあいをお願いします!」

 

 

「ひゃ、ひゃい!こ、こちらこそよろしく…た、たのむ!」

 

互いに頭を下げ渡された小さな小箱を開けるとレイジはチンクの白魚のように滑らかな左手薬指に初めて作ったペアリングを嵌め、見つめ合い手を絡めキスを交わす

 

 

《やれやれ、見せつけてくれるねぇ》

 

 

今すぐにでも特濃ブラックを飲み干したい気分のエルヴァをよそに2人っきりの甘い空間が形成されていくのを見るに絶えず眠りについた

 

 

 

布道レイジ

 

 

閃光騎士狼怒の称号をもつ…コレから数ヶ月後、シルバーアクセサリーショップ《フドウ》を開店。彼が生み出した銀細工は老若男女を問わずに魅了したちまち有名になり様々な管理世界から注文が殺到するほどになった

 

 

もちろん魔戒騎士としての務めを果たし、秋月家に残された絵図面をもとに新型号龍を開発。エレメント封印が容易になるよう尽力した

 

 

銀髪眼帯の臨時美人店員《チンク・ナカジマ》目当てにくるのも多いが《ワタシはレイジ殿の妻だ》と広言しあっさりと玉砕している

 

 

これから二年後に入籍、双子(二卵生双生児で男の子と女の子)を授かった

 

 

 

 

 

 

 

「よし!今日はココまで全員整列!!」

 

 

 

「「「「はい!ジロウ先生!!」」」」

 

 

聖王教会にある騎士達の練武場に響く声に剣、トンファ、槍を納め整列する少年少女達。その先には魔法衣をぬぎ訓練服を来たジロウが鋭いまなざしをむけ一人一人の顔を見ながら簡単なアドバイスをしていく彼らの胸や腰にはアギュレイスとの戦いに赴く前に手渡した御守りが風に揺れている

 

 

「次の指導までに各々、互いに指摘と研鑽を続けろ……《鐘割り》まであと一週間。しっかり励め。では解散!!

 

 

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

元気よく声を上げる教え子達にいつも厳しいまなざしを見せる顔が思わず緩ませながら魔法衣を手にした時、スッとタオル、ポカリが左右から現れた

 

 

「あのジロウ様。汗を吹いてください」

 

 

「喉も乾いてますよね。さあコレを」

 

 

「ん、すまないな」

 

 

ジロウへタオルとポカリを差し出す二人…柔らかな笑みに頬に朱をささせる聖王教会執事(?)オットー、顔を真っ赤にしながら俯かせタオルをだすシスターディードから受け取りのどを潤しつつ汗を拭く様に見ほれている

 

 

(………ジロウ様。細身に見えてすごい筋肉……逞しいです……)

 

 

 

(……大きい手……ボクの……もしアソコ以外に触られたら………ダメだ僕……はしたない)

 

 

 

「どうした二人共。顔が赤いぞ……風邪か?」

 

 

「い、いえ!なんでもありません!!」

 

 

 

「そ、そうです。それより今日はコレから時間はありますよね…実は新作メニュー出来たので試食を…」

 

 

「ジロウさ~~ん」

 

 

精一杯の勇気を出したオットーの声が遮られた…陸士隊制服に身を包んだギンガが練武場の出口で手を振る姿をとらえた。片方の手には大きなバスケットが握られているのをみてディード、オットーは顔を見合わせ焦っているのを気にとめず駆け寄り腕を絡めてきた

 

 

「ギンガさん?どうしてココに」

 

 

「ひさしぶりにスバルと一緒にお弁当を食べようかなって届けにいったんです…でも先に昼食とってたんです。この量は私一人でさすがにたべきれなくて……お昼まだですよね?一緒に食べませんか?」

 

 

「ああ、別に構わな………」

 

 

「ギンガ、ジロウ様は私たち姉妹とコレからお昼をする約束があります。残念だけど」

 

 

「ふ~ん。でも教会の食事って味が薄くて、お肉が少ないって聞いたんだけど。ジロウさんってお肉が大好物なんだけど」

 

 

 

「肉ばかりじゃ栄養が偏りますよ…聖王教会で取れたて野菜で作った人参、セロリ、スプラウトたっぷりサラダが好きだってジロウ様は言ってます」

 

 

練武場におどろおどろしい気が立ち込め近くで片付けをしていた生徒達は戦々恐々する

 

 

 

「ディード、オットー、ギンガさん、俺は食べられれば別に…」

 

 

「「「ジロウ様/ジロウさん/は黙ってて!!」」」

 

 

ギンッ!と使徒ホラーをも凌駕する気迫と鋭いまなざしを向けられ拭いたハズの汗がたらりと流れ出すジロウ…やがて三人に引きずられるように練武場を後にした

 

 

 

(ジロウ、ギンガ、オットー、ディード凄く怖いよ)

 

 

 

ウルバも三人から感じるオーラにおびえるしかなく無言を貫いた…

 

 

 

 

 

四万十ジロウ

 

 

雷鳴騎士破狼の称号を持つ魔戒騎士。アギュレイスとの戦い後、聖王教会の剣技指導教官として騎士カリムに招かれる。

 

 

鍛錬は苛烈では在るものの、見捨てたりはせず根気よく指導する姿と、騎士としての姿勢と人柄により教え子達からは慕われている

 

 

鷹矢たちと共に様々な世界からの呼び掛けに応えホラー討滅、エレメントとオブジェの浄化など魔戒騎士として務めも怠ること無い

 

 

 

コレから四年後、オットー、ディード、ギンガからの熱烈なアプローチに自分の想いを告げ遂にゴールイン…その際に教え子達数人(女性騎士)、神父たち(ディード、オットーのファン)の悔し涙を見せていた

 

 

ークイント~俺の娘がまた嫁に行ってしまった~うれしいんだけどよ~ー

 

 

と嬉し泣きする義父の姿があったとか

 

 

 

 

 

 

 

「ウ、ウェンディ…さすがにコレは」

 

 

「………ナ~ニいってるんっすか。今日はソウマッチとの初めてのデートなんすからね♪はいあ~んッスよ?あ~~~ん♡」

 

街中にあるオープンカフェ《甘兎庵》。互いに向き合うよう座るソウマに様々な季節の果物をちりばめた九寿餅に黒く香しい糖蜜たっぷりかけられたカップル限定スイーツ《甘い口づけ》を掬い差し出すウェンディに冷や汗を流す……実はソウマは甘いモノが苦手。しかもお客さんがいる店内での『あ~ん』攻撃は更に拍車をかけるばかりだ

 

 

ーチッ!リア充め……ー

 

 

 

ーなんてあたしたちに見せつけて楽しいわけ?ー

 

 

 

ーデルクちゃん、はいあ~ん♪ー

 

 

ーリ、リーム様!さすがにコレは……ー

 

 

ーデルクちゃん、様つけは無しって言ったじゃな~い………もう少ししたらこんな風にデートできなくなるんだしー

 

 

ーうう~わかりました……リ、リームー

 

 

 

ーよろしいっ!じゃ改めてあ~~ん♪ー

 

 

 

舌打ちする独り身女性達……それに負けないぐらい甘い空間を形成する結婚間近のカップルの睦言が薄い襖越しに響くなかさしだされた甘い黒蜜たっぷりの九寿餅に意を決して食べようとするも空を噛んだソウマの頭がガシッと手に掴まれ、唇に柔らかな瑞々しいウェンディの唇が触れ滑り込まれた舌と共に甘いナニか、先ほど《あ~ん♡》をさせ食べさせようとしていた黒蜜たっぷりかけられた九寿餅だと気づいた時には名残惜しそうに唇が離れ悪戯っぽい笑みをむけている

 

 

 

「はあ~どうっすか甘兎庵の限定スイーツは?」

 

 

「う、う、う、ウェンディ!?な、な、な、なにをぅ!?ま、周りの客が見てるだろう!?こういうのは……」

 

 

 

「こういうのは何っすか?あいかわらず恥ずかしがり屋さんっすねソウマッチは~………パパりんが居ないときはそれよりすごい事してるのに♪新婚さんプレイに外で青か…」

 

 

 

「わ~わ~!?お、大きな声で言うな!もし知り合いに聞かれたら………っ!?」

 

 

 

あわてふためきガタンと席をたちウェンディの口を押さえる…しかし背後に魔戒槍、魔戒剣、魔戒根、魔戒斧が突き刺さるような殺気、いや怒気が浴びせられギギギと振り返った先には

 

 

 

「ほ~う……オレが居ないときにそんなことやっていやがったのか…………」

 

 

「「パパりん!/ゲンヤどの!?」」

 

 

二人の目の前には怒りのオーラを纏わせた鬼…いや陸士隊制服に身を包んだ壮年の男性《ゲンヤ・ナカジマ》三佐の姿……ゆらりと歩きながらゴキキ、ゴキキと指を鳴らす度に周りの空気が歪む様に周りの客達は戦々恐々し、中には気絶、あるいは『いいぞ!リア充なんか消しちゃえ~時代はやはり可愛い男の子よ!!』と声を上げる金眼つり目、胸が残念な赤い髪の女性客からの声援があったのは気のせいだろうか?

 

 

「……さてと覚悟はできているなソウマ、いや嘱託教官補佐《山刀ソウマ》」

 

 

 

「……に、逃げるぞ!ウェンディ!!しっかり捕まってろ!!」

 

「ま、待つッス!いきなりお姫様抱っこは……」

 

 

「だまって俺に抱かれていろ!ウェンディ!!」

 

 

 

立ち上がるや否やウェンディを抱きかかえ駆け出すソウマ…その後ろを凄まじい戦士をも凌駕するプレッシャーを全身から漲らせ追いかけるゲンヤ…もちろん代金を支払って………

 

 

 

(…………ソウマよ。ゲンヤどのを説き伏せられるのは至難の業よのう………ひさしぶりに力を貸すとするかの)

 

 

龍を象った魔導輪具《ゴルバ》が必死の形相でウェンディを抱きかかえ街中を疾走するソウマをみてため息をついていた

 

 

 

 

山刀ソウマ

 

 

白夜騎士打無の称号を持つ魔戒騎士。千年前とは全く違う文化に困惑しながらもなんとか馴染みアギュレイス討滅後、居候先のナカジマ家…ゲンヤ・ナカジマ三佐がいる陸士108部隊の嘱託教官補佐として表向きの職を得た

 

 

厳しくかつ礼儀を重んじ、苛烈な指導に音を上げる隊員たちもいたが誰一人脱落せず教練を終えた彼らはめぐるましい活躍により108部隊は最強の部隊だとうたわれるようになった

 

 

もちろん魔戒騎士としての務めも怠らず(ゲンヤには自身が魔戒騎士である事を告げている)、鷹矢たちと共にホラー討滅、エレメント封印に勤しむ

 

 

この日の追いかけっこから四年後にウェンディとぎこちないながらプロポーズしたゴールイン♪♪

 

 

『ウェンディ………そのだな………お前の……一生をオレにくれ!!』

 

 

……一世一代の告白に笑顔でハイと受け止めたウェンディ…その様子がウェンディのデバイスにコッソリ隠し取られていたのは秘密

 

 

後に男児を授かりツバサと名付けられた

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませんワタルさん、何から何までお世話になってしまって」

 

 

「いいよ。それに今日は招いてくれてありがとう…でも本当にいいの?」

 

 

 

「はい。コレは本来ワタルさんのお兄さんが持つべきモノですから」

 

 

秋月屋敷別邸にある地下…様々な薬品、未完成の魔導具と魔戒剣が所狭しとおかれた室内の中央に鎮座する白金に輝くも亀裂だらけのオウガの鎧。その前には2つの人影…いやファンガイア族の技巧匠ポーン、ナイトが様々な修復工具を分厚い皮手?にも似たモノに腕を包みしらべ、周りをキバットバット二世、三世親子がパタパタと飛び回っている

 

 

「…………闇のキバの鎧に使われし《漆黒の魔皇石》……取り除くにはしばし時が必要なり」

 

 

 

「…されど他の部分は我ら技巧匠が必ず修復しよう……オウガの血を引くものよ」

 

 

 

「……ふむポーン、ナイトよソナタ等に修復を任せよう。息子よ、我らはしばらくこの場に止まる」

 

 

 

「え~!せっかくキリリンと遊べると想ったのになあ~」

 

 

「あ、キバットバット三世さん。キリクは母さんが修復しているからまだ遊べないかな…変わりにオムライス腕によりをかけて作りますよ」

 

 

 

「ホントか!オレはオムライスに関しちゃうるさいぜタカヤ」

 

 

 

キリクがいない事を残念がるもタカヤ特性オムライスに目をキランと輝かせるキバットバット三世に二世はため息をもらした。なぜファンガイアのポーン、ナイト。さらにキバットバット親子がここにいるのか

 

 

それはタカヤが漆黒の魔皇石の本来の持ち主であるファンガイアの現キング《登タイガ》へ返す為、それを秋月家に招かれたワタル、スバル夫妻に伝えた所、そのためにオウガの鎧に埋め込まれた魔皇石を取り外す事が出来るファンガイア族の技巧匠ポーン、ナイトを呼び、万が一に備えキバットバット親子もこの場にと赴いてくれたのだ

 

 

「………タカヤくん。キミはあの子達に言わなくていいの?」

 

 

 

「………」

 

 

作業を見守りながら心配そうにたずねるも無言のまま頷くタカヤ…その指先がわずかに色を失ったステンドグラスへ変わり瞬く間に戻るのをみて悲しみの表情を見せた

 

 

 

「…………大丈夫です…皆が夢へ向かって、夢を叶える姿を見るまで……それに明後日はデルクとリームお婆ちゃんの結婚式だから…………まだ………………いきませんから」

 

 

「………タカヤくん」

 

 

タカヤの言葉は鎚の鳴る音にかき消された…聞こえたのはワタルだけだった。しばらくしてキバットバット三世さんにオムライスを作るためにその場をあとにし白いエプロンにデフォルメされた可愛らしい狼が描かれたのをまとい鶏肉、卵、バター、トマトにデミグラスソースを手早く用意していく

 

 

「タカヤさん。ボクも手伝っていいですか?」

 

 

振り返った先にはミウラとファビアの姿。二人とも可愛らしいフリルがついたエプロンに身を包んでみていた

 

 

「うん、じゃあお願いできるかなミウラくんはチキンライスを、ファビアさんは卵を割って溶いてくれるかな」

 

 

 

「わかりました!お母さん直伝のチキンライスを精一杯作らせていただきます!!」

 

 

 

 

「わ、わたしも頑張る………秋月タカヤ」

 

 

 

「じゃあ、みんなの分もまとめて作るよ」

 

 

 

秋月家厨房にタカヤ、ミウラ、ファビアの気合いがこもった声が響いた。数分後、皆の分を作り終えたタカヤはキバットバット二世、三世、ポーン、ナイト、ワタルへオムライスを持って行った所……………

 

 

 

「おおおおお!!…………………香ばしいバターは手作り、チキンライスの鶏肉はジューシーかつ繊細。さらには半熟ふわふわなオムレツに使われた卵は…………ニワトラの卵だな!!」

 

 

 

 

「はい、実はコマツさんからお裾分けしてもらったニワトラの卵、ニンニク鳥、ベジタフルスカイのトマトを使ってるんです」

 

 

「まさに至高………タカヤよ一度スバルに享受してくれ!」

 

 

 

「まさに極み………」

 

 

 

「…………至極の境地」

 

 

 

 

「うん、すごく美味しいよ……(でもスバルさんのほうが美味しいかな)」

 

 

 

魔戒房にタカヤ特製オムライスにポーンとナイトは静かに歓喜、熱の籠もったキバットバット二世のマシンガントークに満ち溢れた…

 

 

 

新暦108年

 

 

 

 

「もう少しだな」

 

 

 

「うん………うわあ綺麗だね」

 

 

肩を貸し歩く夫婦がたどり着いた先には満開の桜の木々が並び立ち、その奥には樹齢千年を超える巨大な桜が花を咲かせ二人が来るのを待っていたかのように花びらが舞う

 

 

花びらが舞い、穏やかな風が流れ地面いっぱいに敷き詰められ道を進むと巨大な幹に二人でもたれ掛かるように座りこんだ

 

魔戒騎士として剣を振るいホラー討滅、異世界に呼ばれてもソレは変わらない…守りし者として戦い続けた彼が手をあげるとヒラヒラと花びらが乗りやがて風が舞い雪のように花が降りていく

 

 

不思議と穏やかな気分になる彼は昔の事を思い出し笑みを浮かべた

 

 

「どうしたんだよ」

 

 

「いや、色々あったなってね…なんか懐かしいな」

 

 

「……そうだな………って、来年もみんなで花見しような。絶対楽しいから」

 

 

「うん、また皆で……そうだね」

 

 

夫を抱き抱える形で幹に座る彼女は初めて出逢った日の事を思い出していた。色んな意味で衝撃的な出逢いと夢へ向かって共に歩んだ日々は今でも鮮烈によみがえる……魔戒騎士である夫と結ばれて子ども達が生まれ息子は立派な魔戒騎士になった

 

娘達は法師になるか市井にでるかわからない…夫が自由だと言ったのもあり他の皆は納得してくれた。魔戒騎士、法師になる道以外の生き方もある、子ども達が自分で考え決めたのならそれでいいと

 

 

でも夫がもうすぐしたら…と想うと胸が張り裂けそうになる…不安で一杯な彼女の手が暖かなぬくもりに包まれた。夫の手が重ねられていると感じた時、強烈な眠気に誘われ抗う暇すらもなく意識が落ちていった

 

 

「ごめん。少しだけ眠っていて……………」

 

 

 

愛おしく手を握り離すとゆっくりと立ち上がると魔戒剣を手に振り返る…桜の花びらが舞う中にひとりの青年の姿を捉えた

 

 

 

「29年ぶりかな……碓氷カズキくん」

 

 

 

「ああ、ずいぶん老けたな秋月タカヤ…」

 

 

 

それっきり言葉は絶え、ただ風にまう桜の花びらが二人の姿を覆い隠した

 

 

 

最終話 明日(前編)

 

 

 

後編に続く

 

 

 




長く続いたタカヤ、そして嬢ちゃん達の物語も終わりを迎えるときが来た


なに?寂しい………終わりが在るからこそ新たな物語が始まるんだせ?



次回 明日(後編)



秋月タカヤ、最後の戦い




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最終話 明日ー新暦79年ー

やっほ~~聖王教会のアイドル、リーム・グレイスです?今日は私のマイダーリン《デルク》ちゃんとの結婚式、最初はデルクちゃん断ってきたのよ《わたくしめはファンガイア、アナタとは生きる時が違います、それに化け物です》って


でね、私いったのよ~《どこが違うの?こんなに暖かくて心臓の音だってするし、黒光りする立派な角もカッコいいし、そ・れ・に外見はかんけいないわよん。大事なのはアナタの心だから》

って、まあ最初はおどろいたけど。昔、わたしを助けてくれたクワガタさんと同一人物だったのよ~別に怖がってたわけじゃないし。まさに赤い糸に結ばれてたのよ


さてさて、守りし者もいよいよあとわずか!最後まで応援ヨロシクネ♡




新暦79年

 

ベルカ自治領《聖王教会》

 

 

「おばあちゃん。すごく綺麗だ……」

 

 

「ありがとうタカヤちゃ~ん。今日の為にってメイがウェディングドレスを特注してくれたの~」

 

 

鏡の前でクルリと回り様々な花をあしらった純白のウェディングドレスを揺らし笑みを見せる女性…タカヤの祖母にして聖王教会修道騎士《リーム・グレイス》に笑みを返す

 

……聖王教会にある新婦控え室の窓から見える蒼くすみきった雲一つ無い空。暖かな日の光が室内へと差し込んでくる…今日は秋月家に千年近く仕える家令《デルク・シルヴァーニ》との結婚式が今日ココで行われるからだ

 

 

「リーム、よく似合っていますね」

 

 

「カリムちゃ……っと騎士カリム、ありがとうございます」

 

 

「ふふ、いいのよ無理に畏まらなくて、いつものようにしていいわよ。今日はあなたが主役なんですから」

 

 

「んじゃ遠慮なく、カリムちゃんありがとね」

 

 

 

ふわりと笑いかけてきた聖王教会騎士カリム・グラシアに笑みを返すリーム。今日の式の司会を務める彼女とは年を超えた友人の一人でよくお茶をともにするほどに仲が良い

 

 

「あなたが騎士を止めるとココも寂しくなるわね」

 

 

「ノンノン♪わたしは聖王教会騎士達(女の子)の悩みを解決する名誉顧問だから何時でも何処でもアナタのそばに這いよる混沌並みに会えるわよん♪そうだ、あなたにいい人紹介してあげる」

 

 

「わ、わたしは……まだ結婚は……その」

 

 

「え~でも、一回ぐらい見てよう」

 

 

寂しい空気を簡単に打ち破るとリームはカリムに知り合いたちをリストアップしたのを見せていく…こうみえて出会いの少ない教会騎士達(女の子)に良縁を取り持ち紹介するのが大好きなのだ。その成功率は100%を保持し、そのおかげで聖王教会のアイドルとキューピットの肩書きを持っている…デバイスを手にし様々な男性の顔写真と経歴、性格が事細かく記されたデータをカリムの周りを包囲するように展開していく

 

 

「カリムちゃんには………最近できたレストランAGITΩのショウイチちゃん、それか甘味処《立花》のビッキー、それよりナルミ探偵事務所のハードボイルドなソウキ……」

 

 

「あ、あの、おばあちゃん?そろそろ時間じゃ…」

 

 

「いっけない。あんまり待たせるといけないよね♪デルクちゃんをもっと私にメロメロにしてあげなきゃ♪」

 

 

慌てるも穏やかに歩き出すリーム。ようやく解放されたと後ろでホッとするカリムだったが

 

 

「あ、ハネムーンから帰ってくるまでに誰か決めててね♪」

 

 

とすれ違いざまに声をかけ控え室をあとにし残されたカリムはいつの間にかに送られてきた膨大な相手のリストに大きくため息をつきながら司会としてチャペルへと歩き出した

 

 

最終話 明日ー新暦79年ー

 

 

 

静かで厳かな空気漂う教会内にある長椅子が並び、左手にある席には黒く艶がかった髪をアップにし礼服に身を包んだ秋月家現当主《秋月メイ》

 

 

「がう~ネクタイ、きつい、はずして、いいか?」

 

 

「ダメだ、アマゾン。今日はデルクとリームの結婚式なんたからガマンする」

 

首もとをしきりに弄るアマゾンをなだめる赤い蝶ネクタイ(?)をつけたモグラ。

 

 

「まだはじまらんのか……少し呑むか」

 

 

「おい、アモン!酒を飲むんじゃねえよ!今日はデルクの晴れ舞台なんだぞ」

 

 

 

「滝さん、アモンさんも静かに…」

 

 

「村雨のいうとおりだ。滝さん、アモンさんも披露宴まで我慢するんだ」

 

 

「そうよ。静かにしないと…わかってるわね」

 

 

「「わ、わかりました!!」」

 

特殊食材から調理器具を何でも取り揃える主婦の味方《AMON》店主《アモン》が赤酒を取り出そうとするのを止めるため声を上げる滝和也、静かに制するのは秋月モータース専属テストドライバーの村雨良、そしてデバイス開発部門の主任《結城丈二》、隣に座るアンリがにっこりと笑いながら太ももに備え付けられたらホルスターから黒光りするモノを見た二人は戦々恐々しビシッと敬礼、いそいそと座るのに対して

 

 

「はは、にぎやかだねワタル」

 

 

「うん、それに…この世界で初めてのファンガイアと人との結婚式…僕はとてもうれしいよ」

 

 

右手側最前列には紅ワタル夫妻が談笑し、ノーヴェ、アインハルト、ミウラ、ファビア、ジーク、ヴィヴィオ。その二番目の席には礼服姿の四万十ジロウ、ギンガ、山刀ソウマ、ウェンディ、布道レイジ、チンク、ユーノ、なのは、フェイト、はやて…

 

 

「ソウマっち、私たちも此処で式を挙げるっすよ♪」

 

 

「な?ま、まて……まだゲンヤ殿から許しを」

 

 

「大丈夫っす!パパりんもなんだかんだ言ってもノーヴェとタカやん、チンク姉とレイレイ、ギンガとジローの仲を認めてるんっすよ?あと一押しっす♪」

 

 

ここで式を挙げること前提で話を進めゲンヤがぐらついている事をさらりと言うウェンディに驚きの声を上げそうになるソウマ…死に別れた妻と同じ口調だったからだ

 

 

ー次に生まれ変わっても、アナタと一緒になるから覚悟するっすよ~ー

 

 

(……ま、まさかな)

 

 

生まれ変わりだとしたらと…うれしいような気分を感じていたソウマの後ろでは

 

 

「ミッくん、あたしもウェディングドレス着たら似合うかな?」

 

 

「に、似合うとおもいます……スバルさん、あのはなれて(当たってる、柔らかくては暖かいスバルさんの胸が…)」

 

 

「ミ~ツ~兄…」

 

 

「いたたた!?リ、リオちゃん、なんで抓るのさ?」

 

 

「ふふ、モテモテだな…少年、私のはどうかな?」

 

 

 

「み、み、ミカヤさん!?に、にゃにおう!?」

 

 

 

抓られ悶えたミツキを背後から抱きつくのは天瞳流師範代《ミカヤ・シェベル》。豊かな胸に後頭部がすっぽりと収まるのを艶やかな悦を秘めた眼差しを向け堪能している…逃げようと必死にもがいているのだがどこか嬉しそうな顔にスバル、リオはぷっくりと血管を額に浮かばせている

 

 

 

 

「ミカヤ、ミッくんから離れてくれないかな(さっさと離れなさいよ。この淫乱剣士…ミツくんはリオちゃんとティア、アタシのモノ何だから)」

 

 

 

「そうです!ミツ兄は私たちの《モノ》なんです!!

(…む、胸で挟んでる…ミツ兄は渡さないんだからかショタコン剣士!!)」

 

 

 

「心外だな、少年はだれのモノではないのだが…(ふふ、恋敵がこんなにいるとは、だが障害が多いほと燃えるな……失伝したハズの赤心少林拳、その正統継承者ミツキ・カーディフ、いや十字架仮面イクサは私の良人(夫)になってもらうのだからな……)」

 

★★★★★

 

 

「はっ!ミツキの貞操があぶない!」

 

 

★★★★★★

 

 

静かに牽制?しあうミカヤ、スバル、リオ…この場に仕事でいないティアナも新たなライバル出現を感じ取る中、礼拝堂の中心には黄金の鎧を纏い立つ狼の騎士が剣を構え立つステンドグラスへ陽光がさし、すうっと来賓席の間に敷かれた金の刺繍が端に縫われた赤い布へそそぐと同時にパイプオルガンの音が響き渡る。コレから新たな人生を迎える二人への祝福の想いを込めた旋律が響き渡る

 

それにあわせるように重い扉が開き、姿を見せたのは新郎《デルク・シルヴァーニ》。静かに歩く姿からは不安や迷いは見えない。ただまっすぐにバージンロードを歩き神父がいる御前へとつくと再び扉が開かれた

 

(うわあキレイ……)

 

 

(ワタシもタカヤさんと……は、はずかしい)

 

 

(いいな……でもアタシなんかドレス似合わねぇし……)

 

 

(ボクもきたいなあ……)

 

 

(ええなあ…すごくきれいやわあリームさん)

 

 

(…………リーム義祖母様、キレイ……ワタシもいつか)

 

…白のヴェール、純白のウェディングドレス姿のリーム・グレイス…エスコートするようタカヤが共に御前へと歩く中、フラワーガールとしてシャンテが花をバージンロードへ降らせていく。神父の前に付くと聖書を手に二人の前で静かに一節を詠み上げ、リングボーイに扮したタカヤがリーム、デルクの前に静かに両手に柔らかなリングピローに置かれた箱を差し出し開く。細かな彫金が施された二つの金の指輪…ウェディングリングを互いに手にとり左手薬指へと嵌めるとまるで少女のような満面の笑みを向ける

 

「……では誓いのキスを……」

 

司祭の言葉と共に向き合うデルクの前には幸せ一杯な頬を赤らめ笑みをうかべるリーム。ドギマギしながらヴェールをあげ互いの唇を重ねた時、拍手と祝福の声が挙がった

 

 

「良かった……デルク……本当に…よがったわああああああ」

 

 

「か、母さん、ほらハンカチ」

 

 

涙腺が崩壊し泣きじゃくるメイ…彼女にとって父親代わりでもあり家族とも言えるデルクの新しい門出にまるで自信の事のように喜ぶ、タカヤも幼い頃からずっと傍にいたデルクに柔らかな笑みを浮かべてみている…拍手する手がかすかに色あせたステンドグラスに変わった事に気づき慌てて隠した

 

 

(………あと少しだけ……あと少しだけなんだ。最期まで…みんなに気づかれないようにしなきゃ…)

 

 

気持ちを落ち着かせるタカヤの耳に艶やかで祝福の祈りを込めた旋律が届く…目を向けた先にはクリムゾンファングを手にし弾くワタルの姿。手に広がった色彩を失ったステンドグラスは瞬く間に消えていく

 

 

ータカヤくん……少しだけ押さえ込めたけど……コレはあくまでー

 

 

憂いにも似た旋律が響く中、タカヤも手にした魔導筆を《魔導笛》に変化させ口をあて奏でる。ワタルの曲調とあわせるように旋律を紡ぎ出し声を乗せていく

 

 

ー……今日、新しい門出を迎えるデルクとリームお婆ちゃんの最高の日を涙で曇らせたくないです。ワタルさん、僕はまだ死ぬわけにはいかないからー

 

 

 

…二週間前、アギュレイスとの戦いを終え、メイやノーヴェ達がリハビリに付き合い、アキツキメディカルの高度な治療を受け『目に見える身体の傷』は治った。《破滅と忘却の刻印》は消え《漆黒の魔皇石》に命を吸われることは無くなった…しかし四日前にミウラとミカヤの試合観戦していた時に突然身体から力が抜け、手に色あせたステンドグラスの模様が浮かぶのを目にした深夜に魔戒殿を訪れメイに気づかれないように姿身鏡…《魔水鏡》に自身の姿を映した。《魔水鏡》は秋月家に伝わる不思議な鏡で姿を映すとその人に関する事柄が旧魔界語で浮かぶ不思議な魔導具

 

やがて鏡面に旧魔界語が浮かんだ

 

  ークヌヨリヒジツヌスヌスズムチリ、クスヌイヌズフクリフタテツリ(この時より、太陽が闇に四度飲まれるとき、騎士の泉は枯れ果てる…)…ー

 

 

 

……古来、泉とは命を象徴する。つまりは残された時間は四日…そして今日が最後の1日。タカヤはこの事をワタル、キバットバット親子にすでに伝えている…しかし死ぬつもりは無かった

 

 

あの時、自分に《魔戒騎士》として大事なモノを思い出させてくれた異界の戦士《魔弾闘士リュウジンオー》…碓氷カズキから感じた《あるモノ》、何より《最期まで諦めない》…アギュレイスとの戦いで培われた信念、家族であるデルクとリームの門出、自分に力を与えてくれたノーヴェ達が夢を叶える姿を見たいといそれだけが強く命の炎を奮い立たせていた

 

 

 

 

「………さ~って、堅苦しいのはこ・こ・ま・で♪……今からブーケプルズをや~るわよ♪♪」

 

くるりと華麗にVサインしながら、ウェディングドレスを翻し舞い上がる花びらの中で幸せ一杯な笑みに明るく小悪魔な聖王教会のアイドル(!?)リームに戻ると、シャンテにブーケから伸びたピンクのリボンの端をノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ジーク、ミウラ、ファビア、なのは、フェイト、はやて、ギンガ、ウェンディ、チンク、オットー、ディード、スバル、ミカヤ、リオ、コロナへと渡しながら礼拝堂の外へ出る

 

 

「あ、あのリームさん、ブーケプルズってなんです?」

 

 

「ん~♪聞きたい?えっとね~第97管理世界の結婚式のブーケトスの一つでね~」

 

 

「………え、ええ~じゃあ…」

 

「そう、あなた達が…………………ができるのよ。あとは運しだいよん♪」

 

無数の白鳩が舞い立つ音、教会の鐘が鳴り響き声が遮られ、ブーケプルズという初めて聞く言葉に首を傾げるも一気に色めき立つ一同にニコニコ説明していくリーム…隣にいる新郎デルクはハハハと少し笑いながらタカヤに『覚悟を今のうちにしたほうが良いですよタカヤ様……』と訴えかけるような視線を向けている

 

(あ、あの顔の時のお婆ちゃんって…なにかたくらんでる時の顔だ…)

 

 

「じゃあ、みんなに行き渡った所で……用意はいい?答・え・は・きいてな~~い♪♪」

 

 

 

「「「「「「「「せ~~~~~~

の」」」」」」」」」

 

 

無意識的にゾクッと身震いするタカヤの目には…ブーケプルズから伸びたリボンから無数のブーケがはじけ跳びポフっと手にしたのはノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ジーク、ミウラ、ファビア…その顔がほんのり赤みを増しゆっくりこちらを向いて歩いてくる

 

 

 

「あ、あの……どうしたの皆?ていうかヴィヴィオ、アインハルト、それにミウラくんにファビアさん、エレミアさんまで!?」

 

 

「なあ、タカヤ…あのさ前にいったよな…スゴいの皆でするって」

 

 

 

「続き……はっ!?」

 

 

逃げ出さないように迫る6人。狭間なる世界でのやりとり…瑞々しく柔らかな唇の感触が鮮明に蘇りボンって顔が熱くなる。これ以上のスゴいこと…想像がつかないタカヤの脳裏に『今日までの命』と言う現実が思考の海から引き戻す

 

 

「…あ、あ…………ごめん!!」

 

 

 

「ま、まて!ヴィヴィオ、ミウラ、ファビア、ジーク、アインハルト……タカヤを逃がすな!!」

 

 

「うん!いくよクリス」

 

 

「わかりました!いけますねティオ」

 

 

 

「必ず捕まえます!スターセイバー!」

 

 

 

「まかせてや!」

 

 

「期待にこたえる…プチデビルズ」

 

それだけ言うと現役インターミドル選手の拘束をすり抜け逃げ出す…どこにいくのか宛てが無いまま駆けるタカヤをアイコンタクトし追いかけるノーヴェ達…

 

 

「あらあら、青春ねぇ~」

 

 

「まさかリーム、あなたワザとあの子たちにブーケを……」

 

 

 

「さあ~でもいいんじゃない?タカヤちゃん、あの子たちから一人を選ぶなんて無理だし…みんなで幸せになりましようよ♡」

 

 

 

「はあ~アナタは昔から……(ヴィヴィオ様やアインハルト様、ミウラさん、ファビア様、ジーク様が私の義娘………)」

 

 

 

ーお義母さまー

 

 

 

(………わ、悪くはな…)

 

 

 

ー約束通りタカヤはもらっていくからなー

 

 

 

「………………ダメ、ダメダメダメ!赤髪に渡すものですかあああああああ!!」

 

 

 

愛する息子を抱きかかえビシッとサムズアップするノーヴェの勝ち誇ったような顔と声を想像し声を上げるの耳にしながら礼拝堂の近くにある聖王教会の森へと逃げるタカヤ…その背後からはブーケを手にした恋する乙女たちの姿を目にしながら必死に逃げ、様々なトラップを仕掛けようとカーンを起動させようとした…が右手首にはカーンはいない。あの時ジークを守り砕けた日からいまだに修復されていないことに気づいた。そこにわずかな隙が生まれる

 

 

 

「タカヤくん!捕まえた!!」

 

 

「うわあ!?」

 

 

背中から腰に勢いよくがっしりと抱きついたジーク…たたらを踏み堪えようとするも、勢いは殺せずに芝生へ倒れ込んだ…少し上気した頬にじっと自分を見る綺麗な瞳、微かな息づかいと女の子特有の甘い匂いにクラクラしながら逃げようと上体を起こし身体を捩るもしっかりと組み付いたジークの腕は万力のように固く、締め技の要領で足を絡みつかせられては逃げられないし柔らかさにドキリとなった時、背後から両手が伸びた後頭部に柔らかな何時もの感触と匂い

 

 

「……なんで逃げんだよタカヤ」

 

 

「あ、あのノーヴェさん…その…」

 

 

背後から抱きしめられる形でノーヴェからの質問に言葉を続かない…今日、自分が死ぬ事を言えない。そんな時、両手が温もりにつつまれる。ミウラ、アインハルト、ヴィヴィオ、ファビアが両側にすわり手を包むように逃がさないというように掴んでいる。もう逃げられない

 

 

「タカヤくん、逃げたことはあとで聞く…これからいうことに答えてくれる?」

 

 

 

「な、なにを?」

 

 

「あ、あたし達の中で誰が……誰が好きなんだ?」

 

 

ジークに言葉に続くようにノーヴェから告げられた、この中で誰が一番好きか?…わからない。明るくて色んな表情を見せる皆から誰か一人を決める事が出来ないし、例え選べたとしてもと考えるのを遮るように言葉が続く

 

 

「ボクはアキツキさんの事が大好きです!試合前に練習に付き合ってくれるし、それにすごく暖かくてポカポカするんです」

 

 

 

「ワタシも…タカといるとすごく落ちつく…インターミドルの楽しさを教えてくれた…それにアナタの事をもっと知りたい(………肉体的な意味で)」

 

 

 

かたやホンワカ、やや欲が垂れ流しな告白にドキリとする…アインハルト、ヴィヴィオ、ジーク、ノーヴェもじっと答えを待つているのがわかる

 

 

 皆の練習に付き合いながら街へ買い物や散策(またの名をデート)でミウラが可愛いモノが大好きで、寡黙なファビアは照れ屋で甘いもの好きで食べた時の笑顔がすごく可愛い。魅力的で明日へ向かって光輝いている姿とても眩しい、でもホラーに憑依されたとはいえ《人間》を斬る自分(人殺し)と一緒にいたら未来に影を落としてしまうじゃないかと

 

 

それに残された時間もない…頭の中で何度も、何度も考えるも答えが出ない…そんなとき右手に違和感、色彩を失いくすんだステンドグラスに変わりはじめた

 

 

「タカヤ、お前の手!?まさか…」

 

 

「……ごめん……みんな、僕は…」

 

 

「メ、メイ義母様を早く呼ばないと…ティオ、義母様を」

 

 

「クリスはママたちを!」

 

 

『ニャ!!』

 

 

胸から飛び出し礼拝堂へ駆け出すティオ、クリス…しかし無情にもタカヤの身体は半分がステンドグラスに浸食され始めていく

 

 

「な、なんだよ…コレなんなんだってんだよ…」

 

 

 

「タカヤさん、しっかりしてください!メイ義母様ぎくるまで諦めないで!!」

 

 

 

「ダメ、止まらない……治癒魔法が効かない…なんで!?」

 

 

「アキツキさん!アキツキさん………ボクまだ…」

 

 

 

「しっかりしい!タカヤくん。お願い…お願いやから……っ…お…ねがい…」

 

 

 

(あはは、まいったかな………みんなを泣かせちゃった……ごめん…何も言えなくて…)

 

 

 

涙をあふれさせ何度も呼びかけるノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ファビア、ジーク、一人一人の顔を見ながら何度も心の中で謝る…もう声を出す力も無い、手足の感覚が無くなっていく

 

かろうじて見る、聞くだけしか出来ない…ごめんと何度もつぶやき意識が落ちていく

 

 

ーまだだ!諦めんなクソ親父!!お……たちを泣かせてんじゃ…ー

 

 

 

力強い声を最後にタカヤの意識は深い闇へと落ち…やがて暗闇に支配された世界に立つと八つのまばゆい光が周りを囲む

 

 

 

ーオウガの称号を受け継ぐ者よー

 

 

 

ーお前の命は今、まさに尽きるー

 

 

 

 

ー我等ですらなし得なかったアギュレイス討滅を果たした汝には我等と列席する資格を得たー

 

 

 

列席する資格…………タカヤに英霊になれと告げる歴代継承者の言葉が木霊する…

 

 

ー我等の血は絶えるとも、剣に込められし想いを鎧と共に受け継ぐ者ある限り滅びはしない…さあ、我等と共にー

 

 

ー……お待ちくださいー

 

 

 

声と共に新たな光が現れ、鬼の面をつけた魔法衣をつけた男性が姿を表しタカヤの前に立ち英霊の前にひざをついた

 

 

 

ー英霊の方々、まだこちらに呼ぶのは早計です……彼は為すべき事が残されています。異界の戦士である碓氷カズキ、魔弾闘士リュウジンオーと再び会わねばならないのですー

 

 

 

ー何故だ?ー

 

 

 

ー三代目様が京に呼ばれ戦われた《芦屋道満》と同じモノを碓氷カズキという青年から感じました………彼と相対するまで生きなければなりませんー

 

 

 

ー…………《芦屋道満》……まさか……ー

 

 

 

ーされど秋月鷹矢の命は漆黒の魔皇石で吸い尽くされているー

 

 

 

ー打つ手は…もはや…ー

 

 

 

ーならば、私が《現世で生まれ死ぬまでの時》をお与えください……ー

 

 

 

彼の申し出に驚く英霊達、なによりその場にいた鷹矢も驚いていた…ノーヴェ達が戦闘畸人だと知り絶望した自分を奮い立たせ、剥奪されかけた時も現れた青年が何故、自分にここまでしてくれるのかがわからなかった

 

 

明滅しながら英霊達の一つがすうっと人の形を取った…190を超える身長に筋骨隆々な体躯に鋭いまなざしを向ける老人が鬼の面をかぶり膝をつく青年の前に立ち、身体を起こした

 

 

『よいのか?これを行う意味を解らぬわけは無いはずだ』

 

 

 

『はい、まだタカヤは多くの事を学んでいません。それからでも遅くは無いはずです………ではお願いします』

 

 

 

『わかった………聞け秋月鷹矢、お前の命にこの者の生きた年数を繋ぎ与える………生きよ、そして学べ魔戒騎士の本懐をなせ』

 

 

 

「な、何を…」

 

 

鬼面の青年がゆっくりとこちらを見ながら面を外し見えた素顔にタカヤは息をのんだ…四年前に死んだ父にして魔導騎士兼魔戒法師《秋月ユウキ》が少し笑みを浮かべそこにいた

 

 

「と、父さん……なんで」

 

 

『四年ぶりだね…タカヤ』

 

 

あの日、秋月屋敷から出た時と変わらない姿に唖然となるユウキの身体からアストラル・オーブが無数に浮遊しタカヤの中へと入っていく…同時に透け始めてくる

 

 

「か、身体が…」

 

 

『タカヤに僕の命を与えているんだ…この術は三代目様の妻《玉藻ノ前》様が呪いで苦しむ我が子に自らの命を与える為に使った術だ…今では秋月家から失伝したけどね』

 

 

 

「じ、じゃあ…イヤだよ父さん。せっかく会えたのに……こんなのって……」

 

 

 

『タカヤ、コレでお別れじゃない…僕は繋いだんだよ……明日、いや未来を………だから後悔はしてはいない。生きるんだ魔戒騎士《守りし者》として、そして……………』

 

 

「え?」

 

笑みを浮かべ消えゆくユウキの言葉を最後に意識が遠のいていく…

 

 

ーカヤさ……、タカヤ……ー

 

 

何度も自分を呼ぶ声に、けだるさと身体に重みを感じながら目を開けた先には大粒の涙を流し抱きつくノーヴェ、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ファビア、ジークがしゃくりあげながら何度も名前を口にししがみつくよう抱きついてる…手をみるとステンドグラスへと変わった手が元に戻っている。そのまま手をのばすとそっとノーヴェの髪を撫でた

 

 

 

「っ…ひぐ……え?」

 

 

「ごめん……みんなにまた心配をかけちゃって…」

 

 

「タ、タカヤ?お前……バカ!なんで何時もそうやって、お前は……バカ、バカ…バ…カっ」

 

 

 

「ほんとうです……タカヤさん…でも良かった…」

 

 

「まったくやね…もう……」

 

 

「うん……」

 

 

 

「………もう、なんでも抱え込まないでください…」

 

 

 

「……ですよね…タカヤさんのバカ」

 

 

 

笑みを浮かべながら泣くノーヴェ達を必死に宥めるタカヤ…その姿を遠くからみる少年《クロウ・オーファン》…いや秋月クロウがジッとみてため息をついた。

 

 

 

「ったく、最後まで世話かけさせやがって………お袋たちを泣かすんじゃねえよ…」

 

 

「クロウ」

 

 

「アリアおばさ「お姉さま」………は、はい!アリアお姉さま。もう用意は出来た?」

 

 

 

「ええ……」

 

 

黒い笑みを浮かべながら首筋に当てたピアッシングネイルを放すアリア…その後ろには古びた大木に巻かれたしめ縄に無数の界符が貼り付けられ中心に巨大な穴が見える。その中にするりと入ったのをみてクロウは魔導筆を構え軽くなでた

 

 

「ごめん、アリア姉さん……今の時代でお袋たちと叔母さんたちには」

 

 

「わかってるわ…………四年なんてあっという間でしょ?ゆっくり待つわ…またねクロウ」

 

 

「うん………またね…………《どぅーおねえちゃん》」

 

 

どぅーねえちゃん…その言葉に驚くも、とびっきりの笑顔を見せ無数の蔦に包まれ青々と茂った葉を鳴らす大木と一体化したアリアに軽く頭を下げ、そのまま歩き出した。その先には緑色の機関車が停車し僧兵にカラス天狗みたいな面みたいなモノで顔を隠した人物、そして白のジャケットに黒のジーンズ姿の青年が立っている

 

 

「ク~ロ~ウ。もう終わったのか?」

 

 

「うん、この時代でやることは終わったからさ…ユウ兄、ゴメン。《ゼロライナー》をタクシー代わりにして」

 

 

「別にいいんだよ……野上たちは今忙しいからな…」

 

 

 

「じゃあ、早く帰ろうかクロウ。マユたちも首を長くして待ってるよ~」

 

 

 

「うん、ユウ兄、デネブ…じゃあ帰ろうか《未来》に」

 

 

ユウ兄と呼ばれた青年、デネブと共に緑色の機関車?に乗り込むその顔はどことなく父親のことを理解したように見えた、軽く後退しゆっくりと走り出す。線路が空へと向かい伸び、その上を軽快な汽笛を鳴らし光の向こうへと消え去った。その下では

 

 

「あ、あのみんな……は、離れて(あ、あたってるノーヴェさんの胸が?それにエレミアさの胸も……すごくいい匂いがする)」

 

 

「やだ…離したら逃げるだろ……それにあたしらを心配させた罰だ」

 

 

ぷく~とジと目でノーヴェ。さらにジーク、ヴィヴィオ、アインハルト、ミウラ、ファビアもじぃぃぃっっと無言で泣き腫らした目をむけてる…気を失う前よりも力強くつかまれ身体が密着し柔らかさと甘い匂いにクラクラしながらタカヤは口を開いた

 

 

 

「………僕は魔戒騎士で、いつ死ぬかわからない。それに皆とは違う世界に生きてる…なのになんで僕を…「……タカヤ……」え?」

 

 

……好きなんだって言おうとしたが阻まれ、さらに綴られていく

 

 

「あたしたちの中で誰が好きなのかは聞かない……でも今の態度でよっくわかった……もう決めたからな」

 

 

「実は、その…あのですね…………タカヤさん、私たち全員と付き合ってください!!」

 

 

 

「は、はいいいい!?」

 

 

突然、前振りなしの直球ドストレートの告白…先ほどまでの暗い空気が吹き飛んだ。慌てふためくタカヤの頭は混乱しっぱなし…何故全員と付き合うのかがわからない

 

 

「……何でかってなやんでるなぁ。タカヤくん…」

 

 

「エ、エレミアさん?」

 

 

「……じつはな…タカヤくん、誰か一人なんて決められんやろ?だからな………みんなで話し合ってなタカヤくんの……その、なんというか……」

 

 

「ボクたち……秋月さんの…か、彼女になるって…近くで支えてあげたいって…あ、でもボクやヴィヴィオさん、アインハルトさん、ファビアさんはもう少し大人になってからですけど」

 

 

「だから…なんでさ!?なんでみんなが彼女になるのさ!?僕は魔戒騎士なんだ、いつ死ぬかわからないん…」

 

 

 

「んなの関係ないんだよ!あたしたちはな、話し合って決めたんだ…タカヤ以外に好きになれる奴なんかいないし、それにアタシラら以外の女に取られたくないし………だから…な」

 

 

潤んだ瞳に頬を赤くし最後あたりを口ごもらせるノーヴェ、他の面々も同じようにこちらを見ている中想うのは皆と一緒に過ごした日々、様々な思い出がよぎり長い間を開け、タカヤはゆっくりと口を開いた

 

 

 

「……僕は…みんなのことが…」

 

 

紡がれた声を遮るように巻きおこった風の音が隠し、柔らかな陽光が雲の切れ間から降り注いだ

 

 

 

新暦86年……

 

 

聖王教会の礼拝堂で一人の新郎と六人の花嫁が挙式を挙げた…たくさんの人々から祝福を受ける花嫁達に囲まれるよう歩く新郎から離れないと言わんばかりに身を寄せて、ライスシャワーと色とりどりの花々が舞うなか手を振る

 

 

「タカヤ…」

 

 

「な、なに?…」

 

 

 

「あたし達、ずっとそばにいるからな」

 

 

満面の笑みを浮かべる花嫁に見惚れながらうんと

頷く。両隣をまるで包むように歩く皆も同じだった…やがてブーケを大きく空へ投げた歓声が挙がる中、新郎…タカヤは照れながら皆と唇を重ねた

 

 

 

…………新暦88年、秋月屋敷にある一室の前でせわしくグルグルと歩く青年の姿…落ち着こうとするもなかなか出来ない

 

 

 

「お、落ち着けタカヤ。こういう時はどっしり構えてりゃいいんだよ」

 

 

 

「で、でもですね…そ、そう言うお義父さんも少しは落ち着いたらどうですか?」

 

 

 

「お、オレはいっだって落ちついてる…それより名前は」

 

 

義息子を諭した義父の格好はというと白装束に安産祈願のお守りだらけ、もう孫も何人もいるのに関わらずそわそわしながら生まれてくる子の名前を尋ねた時、産声が上がり扉が勢いよく開いた

 

 

「生まれたわ!生まれたわよタカヤ…男の子よ!!イヤッホ~さあ、パーティーよ、パーティーの準備よ~♪」

 

 

産婆姿の母の興奮しながら飛び出してきた。その言葉を聞くなり部屋へ入ると腰まで伸ばした赤髪の女性が少し笑みを浮かべながら生まれたばかりの我が子を愛おしくみている。その両脇には妻達の姿がある

 

 

「ほらタカヤ、近くにきて」

 

 

「うん…」

 

 

ベッドから上半身起こし、微笑むその手にいだかれた我が子に恐る恐る手を伸ばす。すると待っていたように指先を小さな手がキュッと握りしめた…まるで父親だと知っているようだ

 

 

「ねえ、名前は決まった?」

 

 

「うん……じゃあこの子はクロウ、秋月九狼だ」

 

 

 

「クロウ?クロウってまさか」

 

 

 

「………僕たちを助けてくれた魔戒騎士の名前さ…この子はいつか僕よりも強い魔戒騎士になるよ」

 

 

「そうだな……」

 

 

頭を撫でながら抱くタカヤに身を任せる姿を見て妻達が嫉妬したのは別な話……

 

 

そして時は流れ新暦108年、春

 

 

 

「カズキくん、君が持つ黒い手帳を渡してくれないかな?」

 

 

 

「なんでだ?」

 

 

「……何も聞かずにしてもらえると助かるんだ。君の為でもあるんだ」

 

 

 

「……俺の為?訳わかんないんだけどさ…どうしても欲しいんなら力づくで…」

 

 

ザンリュウジンを手にし中央にある持ち手…龍の顔に魔弾キーを近づけると音とともに開き、迷わず差し込む軽く振るうと同時に龍精が解放と同時にスーツが展開。瞬く間に龍と髑髏をモチーフにした装甲に身を包んだ戦士、魔弾闘士リュウジンオーが顕現、ザンリュウジン・アックスモードへ切り替え腰を沈め構えたのを見て、タカヤも薄い朱みがかった鞘から魔戒刀の刃を鞘滑らせ抜き正眼に構える

 

 

互いに微動だにしない中、風が桜の花びらを舞わせるのを合図のように地を蹴り互いの刃が交錯し、火花とソウルメタルの振動音が当たりに木霊した

 

 

 

 

 

 

 

最終話 明日ー新暦79年ー

 

 

 




新暦108年に続く


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最終話 明日ー新暦108年ー

これが最後のタカヤ様の戦いとなります…いままでお読みしていただき本当に感謝申し上げます


秋月家 家令デルク・シルヴァーニ



新暦108年

 

 

秋月屋敷、英霊の塔付近

 

 

 

「ハアッ!」

 

 

『せい!』

 

 

桜舞う中に刃と刃がぶつかり、ソウルメタルの振動音と火花が幾度も散り、巻き起こる刃風に桜の花びらが激しく乱れ散る

 

 

『やるな秋月タカヤ…』

 

 

 

「…………無駄話はいいです…」

 

 

 

声を発するのは碓氷カズキ…いや魔弾闘士リュウジンオーがザンリュウジンの刃を向けるのに対し、灰色がかった作務衣姿、薄い赤みがかった鞘に収められていた古びた魔戒刀を構え立っている

 

 

(…強い…気を抜いたら負ける…なら)

 

 

カズキ…いやリュウジンオーは地を蹴るなり一気に間合いを詰めるや大きく上体をひねりザンリュウジン・アックスモードで切りかかる。それを正眼の構えから八双に変化させ迫る刃を撃ち防ぐ。僅かな隙が生まれる

 

 

(かかった!)

 

 

左手に花びらを掴み顔面へと投げつける…いわゆる目潰し攻撃…しかし当たる寸前でタカヤは身体から力を抜き地面すれすれに沈むように回避しながら刃を滑らせば擦り足元を切り払う

 

 

『くっ!』

 

 

それに気づき、軽く跳躍と同時に蹴りを叩き込む。生身同然のタカヤが受ければ間違いなく致命傷を負うであろう一撃。しかし魔戒刀と鞘を交差し防ぐも勢いを殺せず近くの桜の幹に叩きつけられた

 

 

「かはっ………っ…」

 

 

 

ふらふらと立ち上がるタカヤをみてカズキは違和感を覚えていた…何故、鎧を召還して戦わないのか?ある結論にたどり着く

 

(鎧を召還しないのではなく出来ない…前は《変なコート》を着て、スラッシュアックス擬きの剣を使っていた………まさか)

 

 

そう、今のタカヤは魔戒騎士を引退し先祖より受け継いできた魔法衣、魔戒剣斧オウガ、魔導身具キリクを息子《秋月九狼》へ継承させたため鎧の召還は出来ない

 

つまり全力で戦えない状態なのに関わらず互角の戦いをしている…防御、攻撃の面で圧倒しているのに関わらずに

 

 

「…………碓氷カズキ君、もう一度だけ言うよ………《悪魔手帳》を渡すんだ…」

 

 

 

『………………』

 

 

 

「…………手遅れになる前に」

 

 

息を荒くしながらも魔戒刀を右斜めにだらりと下げ《無形》の型を取る…何度目かになる問答を耳にしながら何故、悪魔手帳を渡せというのか理由がわからない

 

《手遅れになる前に》の言葉を聞き…何か深刻な事がカズキ自身の知らないところで起きつつあるのではと思い。再びタカヤの目をみる

 

その瞳には29年前と変わらない強い意思の光…カズキは僅かに逡巡しザンリュウジンを左手に持つと何かを取り出した。黒い皮の表装の手帳《悪魔手帳》をタカヤへと投げ渡した。パシッと受け取り驚いたよう眼差しを向けてくる

 

 

『しかたないな…ほら確かに渡したからな』

 

 

「…ありがとう。コレでなんとか間に合った……」

 

 

 

穏やかに魔戒刀を鞘に収め幹に立てかけ、懐から目をモチーフにした装飾が目立つライター《魔導火》を取り出す。何をと思いみているカズキの前でカシュンと乾いた音と共に燃え上がる白金の炎で《悪魔手帳》に火をつけた

 

 

 

『お前!な、なにを!………っ!?』

 

 

いきなりのことに胸元を掴み上げたカズキの動きが止まる…燃え盛る悪魔手帳から《この世のモノ》ではないおぞましい声、さらに黒い無数の影が炎の中で踊り狂うように燃やされていく

 

 

『な、なんだよコレは…』

 

 

 

「………邪気、いや陰我だ。あと少し遅れていたら君自身がホラー召還のゲートになって憑依されていた…29年前に感じた邪気の源だったんだ」

 

 

悪魔手帳を見ながら淡々と語るタカヤ…しかしカズキは何故、こんなおぞましいモノが悪魔手帳に宿っていたんだと疑問を感じていた、まるでソレに答えるように言葉が続いていく

 

 

「………人がもつ闇の側面か生まれる邪な欲、負の思念が年月をかけモノ、人の心に宿ることで《陰我》は生まれる……《我、陰にあり》と読めるようにホラーは《陰我》宿りしオブジェの陰から現れる性質を持ち同じ《陰我》をもつ人間に憑依する。君の持っていた黒い皮の手帳には陰我を呼び蓄積する言葉…もしかしたら《人の弱み》を書いていたんじゃないかな?」

 

 

正鵠を射る言葉と共に燃え盛る火がやがて消え悪魔手帳が完全に灰になると、ゆっくりと掴み上げたタカヤを離した…額には汗が見え息も少し荒い、それに顔色はさらに悪くなっている

 

『なんでだ、なんで俺にここまで』

 

 

「なんでって?………僕が魔戒騎士だからさ…それに君には大事なモノを思い出させてくれた。それだけだ」

 

 

 

(………なんなんだよコイツ…人が良すぎるのに程があるだろ!俺が29年前にあんな事をしたのになんで恨み言一つ言わないんだ…)

 

 

真っ直ぐな裏表すらない言葉に困惑するカズキ…今まで出逢ってきた人間は必ずと言っていいほど利己的な輩が多かった、しかしそんな彼等とは全く違う。何故ここまで純粋に人の為に行動できるかがわからないし《魔戒騎士》という人間がわからない

 

 

「さあ、あと少ししたら《オーナー》さんとコハナちゃんが迎えにくるはずだから、少し花…………」

 

 

カズキに振り返った時、くぐもったような音が響きタカヤの身体が揺れる…胸からこみ上げる熱い何かが血が口いっぱいにあふれ地面に落ち桜の花びらを赤く染め上げていく…胸元をみると鋭く細かな棘が目立つ巨大な角。それが伸びた先には

 

 

『な、なんだよコレは!』

 

 

 

「…………ッボア……」

 

 

カズキの胸元…傷口のように広がる空間から無数の魔導文字が円環状に並び中から勢いよく飛び出したのは龍とムカデの頭が融合し無数の人骨と体液を滴らせる巨大な龍。そのまま首を振りまわし自身の角に刺さったタカヤをゴミのように桜の幹へ叩きつけた

 

 

『な、なんだよ……俺の身体から……なんなんだあれは!!』

 

 

「あ、あれは………し、死徒ホラー……ドラグヌスだ………間に合わなかった……逃げるんだカズキ君、ホラーは魔弾の力、君が持つ力、身に付けた力では討滅は不可能だ…」

 

 

傷口を押さえながら語り薄い赤みがかった鞘から魔戒刀を抜き放ち、空に滞空し伺う死徒ホラー《ドラグヌス》に刃を向けるもふらつきひざをついた。みると手にステンドグラスが広がり始めている

 

 

(こ、こんな時に、もう残された時は……あと少しだけ、あと少しだけもってくれ)

 

 

 

『いくぞザンリュウジン!』

 

 

ーおい、話を聞いていたのか、カズキ!?ー

 

 

 

『……タカヤの話が本当ならアレは俺が生み出してしまったモノだ…なら俺が奴を倒す』

 

 

魔弾キーを手にしザンリュウジン・アーチェリーモードに変え牽制の光弾を放ちながら、龍の顔に当たる部分が開き、ファイナルキーを差し込み滞空するドラグヌスに狙いを定めた

 

 

ーファイナル・クラッシュー

 

 

凄まじいまでの閃光がドラグヌスを飲み込む。勝った…カズキは確信しザンリュウジンをおろした。しかし爆発の煙から踊り出ると大きくひらいた口から溶解液を飛ばしてくる。かわすも僅かに飛沫がリュウジンオーの装甲に付着、瞬く間に虫食いみたいにに腐食し始める

 

 

 

ーやばいぞカズキ!装甲が溶けているぞ!?ー

 

 

『ちっ!(エ、エイリアン並みの体液か!?……どうする)』

 

 

 

一部分を強制解除、廃棄した装甲が溶け落ちるのをみてゾッとしながら、対策を練るカズキに再び溶解液を複数飛ばすドラグヌス…当たらないように回避するが追いつめられていく

 

 

 

『しまった!』

 

 

 

溶解液が眼前に迫る。しかし影が、タカヤが口から血をあふれさせながら魔戒刀で切り払うと霧散、消え去る…溶解液に触れたはずなのに刀身は腐食すらしてない事に驚いている

 

 

「はあ、はあ………は、早く逃げるんだカズキ君………ホラーは魔戒騎士にしか討滅出来ない……」

 

 

『な、なにを……お前一人じゃ………っ!?』

 

 

「いいから退くんだ……君の手に負える相手じゃない!」

 

 

血を吐きながら叫ぶタカヤの声に気圧される…今まで切り結んでいた時とは違う…思わず身を引いてしまう。肩で息をしながら魔戒刀を構え切っ先を向けるもすでに死に体。手のひらから腕にかけステンドグラスが広がる姿に息を飲む、この現象を過去にみたことがあるからだ…こんな状態で戦えば間違いなく死ね。それに鎧を召還出来ないタカヤに勝ち目はないと

 

しかし、そんなカズキの前で地を蹴り滞空するドラグヌスへと果敢に切りかかり、顔面へと蹴りを叩き込み、怯んだわずかな隙をみて上段に構えた

 

 

「………リュウツイセン!!」

 

 

『ピグガアアアアアア!?』

 

 

抜き放たれた魔戒刀の一撃が硬く強固な鱗に覆われた頭部へ力一杯叩きつけられ、苦悶の叫び声をあげ落下するドラグヌス…自由落下しながら刃を構え足元にラウンドシールドを展開、足場代わりにけり瞬く間に追いつくと円を描くように構え切っ先をむけ構える

 

 

「…………クズリュウセ…」

 

円環状の斬撃…九頭龍閃を放とうとするも激しい脱力感に加え胸に穿たれた傷口から溢れ出る血が止まらず作務衣を真っ赤に染め上げ、さらにステンドグラスが右腕、左手まで浸食し始めている

 

29年前、父親である秋月ユウキが存命していた年月の命が、今まさに尽きようとしていたのだ

 

 

『ドルャラアアアア!!』

 

 

 

「グアッ!」

 

 

ーやばいぞカズキ!ー

 

 

 

『わかってる!』

 

ムカデの外郭と無数の人骨を鳴らしながら、勢いよく尻尾を身動きできないタカヤを下へ叩きつけ、さらに追撃と言わんばかりにウロコを逆立たせミサイルのように打ち出すのを目にしたカズキはザンリュウジン・アーチェリーモードへと変え撃ち落としていく…しかし一つが光弾に弾かれ巨大な桜の幹へと落ちていく

 

 

ーマズい!あそこに人がいるぞ!!ー

 

 

ザンリュウジンの声に慌てて目を向ける。桜の幹には赤い髪を肩まで伸ばした女性が穏やかな表情で眠る姿。なぜ人が入ると思う前に駆け出し《烈風》を発動。超加速し迫るウロコの前に立つとザンリュウジンをアックスモードに変え斬りつける

 

 

『っ、なんて重さだ』

 

 

地面に足をめり込ませながらようやく切り払う。地面を跳ねるようえぐりながらウロコは埋まり無数の魔導文字を立ち上らせ消滅していく。降り立ったドラグヌスへ視線を向けるもタカヤの姿を探し見つけた…地面に倒れ伏し血を水たまりのように広げ沈みステンドグラスが浸食する姿を

 

『……タカヤ!』

 

 

駆け寄ろうにも眼前には興奮し最高の餌を見つけよだれをたらす死徒ホラー《ドラグヌス》が白く濁った目を細めにいいと牙をむき出し笑うようにみている…魔弾キーの力は通用しない。必殺のファイナルクラッシュすらも体表に微かに傷をつけただけ

 

 

手の打ちようがない事に気づきながらも打開策を必死に考えている中、タカヤのステンドグラスへ変質した指が微かに動き地面にあとをつけながら握りしめられ膝を尽きながら血と泥に塗れながら立ち上がった

 

 

「はあ、はあ…………」

 

 

息も絶え絶え、胸にうがたれた致命傷の傷口からいまだに血は止まらず、膝はガクガク揺れるも左手に構えられた魔戒刀を強く握りしめホラー《ドラグヌス》へ一歩、また一歩、踏みしめ近づいていく

 

 

『やめろタカヤ!……鎧も召還出来ないお前がたたかっても』

 

 

 

「…死ぬかもね…でも僕は魔戒騎士だ…この剣はホラーに襲われる者を守るためにのみ振るう……男が一度、剣を手にしたならば倒れることならず。ならば僕は立ち上がりホラーを斬る!君と妻を守るために!!」

 

 

地を蹴り、ドラグヌスの背へ魔戒刀を突き立て勢いよく切り裂いた…無数の魔導文字が血飛沫のように舞い、たまらず身をよじらせはねのけ、無防備状態で空を舞うタカヤへ再び溶解液を飛ばし、鱗を無数に打ち出す

 

 

『ザンリュウジン、ファイナルクラッシュだ!』

 

 

 

ーダメだ、このまま撃てばタカヤに当たるぞー

 

 

ギリっと拳を握りしめるカズキ、魔弾闘士リュウジンオー、無言で見守るザンリュウジン…もう打つ手はない誰もがそう感じていた中、タカヤは左手に握られた魔戒刀へ目を移す

 

 

倒れるひと月前、真魔界で魔法薬に使う鉱石を探していた際、時間の流れが狂った不思議な洞窟を見つけ、中へ入ると破損した《六つの鎧》とほぼ無傷の魔戒剣、魔戒鎚、魔戒鎌、魔戒刀、魔戒弓、魔戒坤がそれぞれの鎧の前にある岩場に突き刺さっていた

 

今、タカヤが手にしているのは一番、破損が激しく何色かわからなくなるほどくすんだ鎧の前に突き立てられていたモノ…装飾は完全に砕け薄い赤みがかった鞘に収められた魔戒刀を握るとするりと抜けた…レイジやユーノに話してみると『跡を継ぐ者が居なくなり最後の所有者が一縷の望みをかけ残したモノかもしれない』と返ってきた

 

 

現在、見つけた鎧と魔戒坤、魔戒弓、魔戒鎌、魔戒剣、魔戒鎚はユーノ、レイジに預けられ修復されることになり預けられ、魔戒刀と対の鎧はタカヤ自身が修復する事になった…が真魔界から帰還した直後に倒れてしまい今に至る

 

 

迫るウロコと溶解液を防ぎかわすらタカヤの目には自分を支えてくれた最愛の妻の一人、そして自身に大事なモノを思い出させてくれた恩人《碓氷カズキ》の姿が映る…鎧と魔戒剣斧、魔法衣、キリクは息子《九狼》に継がせた今、自分は魔戒騎士ではない

 

 

しかし魔戒騎士に必要なのは剣でも、鎧でもない…守りし者としての信念!強く握りしめ溶解液を、ウロコを切り払う姿からは死に向かおうとする者に全く見えない。しかし斬撃を逃れた鱗が意志を持つように楕円を描き背後から迫ろうとしたその時、魔戒刀が震えだし瞬く間に赤地に金の装飾が柄、鞘に広がるのをみてハッとなる

 

 

タカヤは知っている…金の装飾が施された朱鞘、柄に刻まれた《赤い三角形に金の円環》の刻印を……自然と腕が迫る鱗、溶解液を無視し頭の直上に素早く円を描き入れ中心が砕け散ると同時に黄金の光と狼のうなり声があたりに木霊し鱗、溶解液が光に飲まれ完全に消え去りドラグヌスが怯む。それにつられるようにカズキがみたモノ

 

 

…光の中に見えたのは朽ち果てる寸前の鎧、しかし瞬く間に損害した部分が修復、薄い氷を割るように下から現れたのは、鋭い牙をむき出しにした狼の顔を模した兜、鋭くも流線的な黄金の鎧。背中には光がリング状に幾重に重なり輝き、背後に魔界文字が翼を広げると、凄まじいまでの光が周囲に満ちる

 

 

 

タカヤが真魔界で見つけた主無き鎧と魔戒剣の一つ…それは全ての魔戒騎士達の頂点に立つ《希望》の名を持つモノ

 

 

 

     ー黄金騎士・牙狼ー

 

 

 

光のリングから凄まじいまでの炎が吹き出し加速、その勢いで顔面を殴り抜き、堅い外郭に拳のあとが残るのをみずに殴る、殴る、ひたすら殴る

 

 

 

『ドヌーヴ!デニュバアア!?』

 

 

 

『ぅおおおおおおおおおお!』

 

 

 

殴り抜く速さが目でとらえることが出来なくなり、みるみるうちにその巨体が浮き上がり始める光景に息をのむカズキ…生身であんな動きを見せたタカヤが鎧を纏いさらに力を上げた事に驚きを隠せない

 

 

『はあ!!』

 

 

浮かび上がっ身体めがけ腰を沈め、捻りを加え足が地面にめり込み罅がはいり込ませながら渾身の一撃を顎?へ叩き込むとドラグヌスは空へ高く打ち上げられもがくのを目にし、魔戒刀…巨大化し、両刃の大剣へ変化した牙狼剣を構え地を蹴り上げ飛翔、さらにリングから炎が燃え盛り加速、その姿は伝説にある黄金の狼と重なる

 

 

『ゲートより生まれし死徒ホラードラグヌスの陰我、今断ち切る!!』

 

 

『ギニャアアアアアーーーーーーーーーー』

 

 

全身に炎…烈火炎装を激しく燃え上がらせもがくドラグヌスの顔面を牙狼剣の刃が切り裂き、首、長い胴を焼ききり真っ二つにした瞬間、ボコボコと膨れ上がり爆発四散するも魔導火に跡形もなく燃やし尽くされ消滅する様を呆然と見るカズキの近くに黄金騎士牙狼が降り立つと瞬く間に鎧が魔界へと返還され、タカヤが姿を見せるも、ぐらりと体を揺らし倒れた。変身解除しかけよりみたのは真っ赤に染まった作務衣、血の気を完全に失った顔に虚ろな瞳から意識が混濁しているのがわかる、それに脈も不規則で全身にはステンドグラスがほぼ広がる様に言葉を失い思った

 

………もう助からないと

 

 

そんなとき、微かに声が聞こえる

 

 

 

「な、なんだよ……なにいってるんだ」

 

 

「はあ、はあ…返り血は浴びてないみたいだね……よかった」

 

 

「た、他人のことより自分を心配しろ!お前は、お前はなんで…なんで……」

 

 

「守りたかったんだ……君と妻………ノーヴェを……すこし頼めるかな…僕を…」

 

 

「わかったからしゃべるな!……連れて行くから黙ってろ」

 

 

 

肩を貸し歩き出す…手から朱鞘に収められた魔戒刀が落ちる…ステンドグラスと変化した四肢から乾いた音と共にガラス片に似たものが血のあとのように落ちていくのを目にし心が重くなる…やがて桜の幹に寝かせつけられたノーヴェの隣に座らせるように下ろした。タカヤは最後の別れを告げようとしてるのだとカズキは悟った

 

 

「少し待つんだ。カズキ君、ジッとしてくれるかな」

 

 

「な、なにを?」

 

 

 

ガラス片を零れる手に握られた魔導筆から放たれた光がカズキの身体へと入り無数の魔導文字が浮かび消えたのをみて困惑するのをみて静かに話し始めた

 

 

「君の陰我…ゲートを押さえ込んだ……でも…コレは根本的な解決にはならない……君、自身の陰我は深いところにある……それに最悪な事がわかった。君の世界に死徒ホラーが六体、悪魔手帳をゲートにして限界している事が……くっ…」

 

 

 

衝撃の事実に驚くカズキ…しかしすぐに現実に引き戻されたピキピキと亀裂が入る音が聞こえる…もうタカヤに時間がない…

 

 

 

「すまない……もっと早くに君をオーナーさんに見つけて貰うようにして入れば……だが息子なら。君を助ける事が出来るかもしれな…い…」

 

 

 

「しゃべるな。今は…」

 

 

 

「そうだね…本当にごめん」

 

 

 

目を閉じ謝罪するタカヤから離れていくカズキ…ゆっくりと体を起こし桜の幹に身を預け眠る妻、ノーヴェの髪に触れる…もうこうして髪を撫でることも互いの肌のぬくもりも、言葉もかわすことはもうできない……何度もゴメンと心の中で呟いた時、ゆっくりと瞳が開いた

 

 

「タカヤ、どうした?またそんなにボロボロになってしようがないな」

 

 

 

「あ、ノーヴェ…僕は」

 

 

 

「いいの。あたしは…アナタをこうして最期を看取る事が出来るから……」

 

 

 

強くもなく柔らかい力でタカヤを包むように抱きしめるノーヴェは悟っていた…もうこれが最期になるんだと、あの日、みんなと一緒に逆プロポーズに近い告白をし付き合い始め結ばれ…たまに喧嘩したり、意地を張り合ったり、Hの回数で揉めたりしながら楽しい日々が思い浮かんだ

 

ヴィヴィオ達もその日が来ることを覚悟していた…今年が最期になることを知り、全員で思い出作りをたくさんしたり、フロニャルドやルーフェン旅行も子供達を連れ楽しく過ごした。全員で一日交代でタカヤと過ごすようになり、ノーヴェと過ごす一日が最後の時になるなんて誰も予想もしていなかった

 

 

「ねぇノーヴェ、少しさ不思議な夢をみたんだ…」

 

 

「不思議な夢?」

 

 

「僕が魔戒騎士じゃなくて、学生でオモチャを《がんぷら》で戦う夢を…そこにはノーヴェがいて皆もいて…魔法とかはないみたいだったけど…」

 

 

 

「なんだよそれ?………でもそれも悪くないよな…学生服のタカヤ似合ってるかもな?じゃああたしも着てみようかな」

 

 

 

「うん…そうだね…………ノーヴェなら何を着ても魅力的だ……ねえ僕と一緒になって幸せだった?」

 

 

 

ピキピキと乾いた音と共に絞り出した声に胸が張り裂けそうになる…でも今は、最後まではと我慢し互いの顔を見る…顔にステンドグラスが広がり色が薄くなり瞳はもう混濁しているのにかかわらず、まっすぐみながら言葉を紡いだ

 

 

 

「幸せだったに決まってんだろ………タカヤ」

 

 

 

「うん、僕も………ノーヴェに、ヴィヴィ、ハル、ミア、クロ、ミウがいたから。でも急いで来たらダメだよ………ゆっくりコッチに来てね……みんなにもつたえて。ノーヴェ、愛し…てる…よ……」    

 

 

その言葉を最期にステンドグラスが広がり砕け崩れ落ちた。微かに残った温もりがある作務衣とステンドグラスを抱きしめた…もう離さないと言わんばかりに

 

 

「バカ、先に逝ったこと後悔するなよ………ばか…バカ………ひっ、っつーーーーーーーーー」

 

 

静かにすすり泣く声が響きわたる。その泣きじゃくるノーヴェの姿を桜の花びらが舞い隠した…

 

 

 

 

 

 

秋月タカヤ

 

 

歴代最強にして最年少のオウガ継承者。ホラーの王アギュレイス率いる十三体のホラーとの壮絶な戦いに身を投じ《守りし者》としての信念を会得し、伝説の三騎士、白夜騎士、閃光騎士、雷鳴騎士、新たな系譜の無銘騎士、先の未来から来た赤煌騎士と共に戦い遂にアギュレイス討滅を果たす

 

 

しかし、漆黒の魔皇石に命を吸われ尽くし死を待つだけだったが父親であるユウキの生きた年を継ぎ足すことで命を長らえ、ノーヴェ達からの逆プロポーズと自身の想いを告げ六年後にゴールイン

 

 

一男、六女に恵まれる

 

 

新暦108年、秋月屋敷から離れた桜舞い散る庭園で碓氷カズキと邂逅、直後にわたされた悪魔手帳を燃やすもカズキの身体に開いたゲートから現れた死徒ホラードラグヌスとの交戦により致命傷を負いながらも黄金騎士牙狼の鎧を召還、討滅直後にカズキのゲートを一時的に封印(期間は41日が限度)し妻の一人ノーヴェに看取られ生涯を終えた

 

 

 

享年42歳

 

 

歴代継承者のなかで二番目の早死になった

 

 

「……」

 

 

少し離れた場所にいるカズキの耳にも届き、拳をギリっと握りしめ血がにじんでいる。しばらく立ち尽くしていた…

 

 

「……待てよ」

 

 

声が聞こえ振り返ると真っ赤な髪に左胸に装飾品が目立つコートを纏う青年が呼び止めると同時に風が舞う…カズキの首筋にソウルメタルの刃が寸止めされた状態で止めたまま金色の瞳を向けている

 

 

「……あんたはお袋から、そしてオレの子供、シロウとユウから初めて会う爺ちゃんを奪った…」

 

 

 

「……」

 

 

「…親父はな、あんたを本気で助けようとしていた…命をかけてな……早く行けよ…オレがまだ冷静でいられるウチに………忘れるな、お前がホラーのゲートになってることをな……」

 

 

スッとソウルメタルの刃を首筋からのけ乾いた音ともに鞘へ収め踵を返す…向かうのは砕け散った破片と作務衣だけを抱きしめ泣き続ける母の元……声をかけることもなくカズキは電ライナーへ乗ると静かに走り出し空へ展開されたレールを走り去っていく

 

 

 

「……お袋」

 

 

「クロウ…」

 

 

「………ごめんお袋、オレがもっと早くエルトリアから……」

 

 

 

「いいの。あたしは覚悟…は出来てたから………大丈夫…」

 

 

 

ゆっくりと顔をあげる。目元を涙で濡らし真っ赤にはらしたまま無理に笑顔を作り父親の遺体を抱きしめる母に声がかけられない…しかし別な声が響いた

 

 

「と~さん、と~さん、この剣と~さんの?」

 

 

 

「シ、シロウ!?ユウと一緒にアミタとキリエと屋敷にいたんじゃ………こ、コレは!?」

 

 

黒髪に犬耳パーカー、ハーフパンツ姿のシロウが手にしモノに息を飲んだ…朱塗りの鞘に金の装飾が施された魔戒剣の束に刻まれた紋章が刻まれた剣…黄金騎士《牙狼》の称号を受け継ぐモノのみが許される牙狼剣を軽々持つ姿だった

 

 

コレでタカヤとあたし達の物語は終わり…あの日に出逢った事を一緒になった事は後悔していない

 

ヴィヴィオ、ジーク、ミウラ、ファビア、アインハルトも覚悟はできていたから…

 

 

あれから、タカヤが死んでからクロウは碓氷カズキのいる世界に行っている…

 

 

現界した六体の死徒ホラーを討滅するために…アミタやキリエもついて行きたがってたみたいだったけど、クロウが『お袋たちと、妹たちを頼む』って無理やり残らせた

 

 

 

メイはしばらく呆けていた…でもすぐに立ち直った。けど、たまに夜に一人で泣いてるのを目にしてる。まだ完全に受け入れられてないんだろう。あたしもタカヤが居なくなってから寂しくて仕方なかった

 

 

………でも、マユや子供達をみる度にがんばらなきゃと奮い立たせた。みんなも同じ気持ちだった

 

 

 

さて、がんばるか……待ってろよタカヤ。たくさんみやげ話を用意してっからな、アタシラらより先に逝った事をたくさん悔しがらせてやるからな?

 

 

 

 

  ーははは、いまでも充分悔しいかな……ー

 

 

 

ふと、タカヤの声が聞こえた気がした…さあ、今日も元気に生きようかな

 

 

 

 

それから15年、新暦1XX年にあたしの孫のシロウは黄金騎士牙狼の称号を受け継いだ……オウガの称号はユウの子供が継いで11の騎士の系譜が生まれたんだ

 

 

まるでユズリハのように次へと繋ぐように…それから70年が過ぎた。ヴィヴィオ達が先に行くのを見届けていた。でもあたしも永くはないかも知れない。最近ベッドに寝たきりになる事が多くなった

 

 

「…………」

 

 

もうあんまり見えないし、息もするのがつらい…カヤとの約束だけがささてたんだ

 

 

魔戒騎士の務めに奔走するクロウ、シロウ達はいない一人、放たれた窓から暖かな風に桜の花びらがかすかにみえた先にあたしより先に逝ったタカヤがいた。最後に言葉を交わした頃と変わらない。でもなんとなくわかった

 

 

「お。おそ……いよ……」

 

 

 

『………ノーヴェ、ごめんね寂しい想いをさせて…』

 

 

「いいの……たくさんはなしたいことがあるから……こんなにしわくちゃなおばあちゃんになるまで……待たせすぎだっての……バカ、バカぁ」

 

 

 

『ううん、キミは昔と変わらないよ…もう一度自分をみて』

 

 

 

「え?うそ……」

 

 

 

みるとタカヤと出会った頃の若いあたしの姿になっていた

 

 

『さあ、いこうかノーヴェ……みんなが待っているから』

 

 

 

「う、うん………タカヤ。もう、もう二度とあたしを離さないで、一人にすんなよ」

 

 

 

『うん、約束する。ずっと一緒だ……何回生まれ変わって離れ離れになったとしても、もう一度キミと』

 

 

 

「絶対、絶対だかんな!ウソつくなよ………タカヤ」

 

 

 

 

しっかりと抱きしめられたノーヴェの瞳に涙がらほほを伝い流れ落ちた……新暦1XX年、ノーヴェ・N・秋月。永眠

 

 

魔法世界に初めて生まれた黄金騎士《牙狼》の誕生を見届け、たくさんの息子達、孫達を見守る人生を終えた。その顔は笑みが浮かんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………永きに渡る輪廻転生を魂は繰り返していく。辿り着く先は異なる世界…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Plaese set your GP-Bass》

 

機会音声が響くと青みがかった光の粒子があふれる中向かい合うのは少年と少女

 

 

《Beginning[Plavesky.particle]dispersal.Fiard3,corony……Please set your GANPLA》

 

 

 

「…アストレイベースの改造機体…楽しめそうだ…………Oガンダム・B!でるぞ!」

 

 

「秋月タカヤ、アストレイ・ブレイド!いきます!!」

 

 

《BATTLE START》

 

 

 

 

秋月タカヤ、中島ノーヴェ……二人を中心に織りなす鮮烈な物語は再び紡がれていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはVivid~守りし者~

 

 

 

 

 




長らく続いた《魔法少女リリカルなのはVivid~守りし者~》、三年強に渡る連載がようやく完結を迎えられました



コレもひとえにお気に入り登録していただいたユーザー様方、なろう時代、ハーメルンに移ってから応援していただ元気づけてくれたユーザー様方があってこそ書き上げることが出来たと言えます



この場を借りて、お気に入り登録していただいたユーザー様、なろう時代、ハーメルンで応援していただき元気づけてくれたユーザー様方、ハーメルンのユーザー様方、本当にありがとうございます!








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白燐ノ煌牙、鷹矢牙狼

《白燐ノ煌牙(ビャクリンノオウガ)》

 

 

 

八代目が使用してから力を失うもノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビアの鷹矢への想いが宿り蘇った《白燐ノ牙》を手にし命を吸う魔皇石、胸に刻まれた破滅と忘却の刻印もろごと穿つ事でオウガの鎧が強い想いにより変化、誕生した最強の姿

 

 

背中には左右六対の蝙蝠の翼《牙翼》、尾てい骨より延びた九尾をも想わせる《九龍尾》。両肩腕、両脚、胸、《白燐煌牙ノ真剣斧》に歴代継承者の魂が狼と化し装着される事で《漆黒の魔皇石》を完全に制御し力を与えた

 

 

部分的に《黄金のキバ》、《闇のキバ》の鎧と似た造形、蝙蝠の翼《牙翼》現れているのは初代オウガがザジにより跳ばされた平行世界のミッドチルダで魔皇キバ《キング》がひきいるファンガイア、アークひきいるレジェンドルガとの戦に巻き込まれた際、アークにホラーの気配を感じ一時的にキングに助勢。ホラーを切るもアークにより鎧は砕けた。キングの命を受け技巧匠ポーンとナイトによりファンガイアのもつ全ての技術(闇のキバの鎧制作時の技術)を注ぎ修復した(嫉妬に駆られ独断で魔皇石を埋め込み命を奪おうとしたビショップの行動によるものである)

 

 

この姿は一度きりの姿…任意で慣れるわけではない

 

 

 

 

《白燐九狼ノ矢》/《白燐ノ煌醒弓》

 

 

 

白燐ノ牙、白燐煌牙ノ真剣斧、歴代継承者の魂、漆黒の魔皇石が融合し生まれる《白燐ノ煌牙》の切り札。

 

八代目オウガ継承者《秋月鷹流》の代まで弓に関する技を継承されていたがタカヤが3歳の誕生日を迎える前に亡くなった事で伝えられなかった…

 

 

しかし歴代継承者の魂と融合したことで記憶と共に継承、魔皇石と融合した白燐九狼ノ矢で今まで封印するに止まっていた死醒王アギュレイスを完全討滅を遂に果たすことに成功した

 

 

後に鎧修復、祖母リームとファンガイアであるデルクの挙式に招かれた黄金のキバ継承者である紅ワタル立ち会いのもと、技巧匠ポーンとナイトにより取り外され本来の持ち主である闇のキバ継承者でありワタルの兄にして現キング《登タイガ》へと魔皇石を返還された

 

 

 

鷹矢・牙狼(タカヤ・ガロ)

 

 

真魔界でタカヤが見つけた時間の流れがねじ曲がった洞窟の奥にあった六つの鎧と魔戒刀、魔戒剣、魔戒弓、魔戒坤、魔戒銃、魔戒鎚。一番損傷が激しかった鎧の前の岩に刺さっていた装飾が剥がれ、色すら消えた魔戒刀を使い鎧を召喚、朽ち果てたはずの鎧が修復、黄金に輝く《牙狼》の鎧へと変わり、碓氷カズキの身体に宿る陰我《ゲート》より現れた死徒ホラードラグヌスを圧倒し魔戒刀本来の姿…牙狼剣で斬り伏せ討滅した

 

 

背中に太陽、月を想わせる二つのリング、牙狼・翔

と光覚と似た造形を持ち瞳の色は赤と紫。

 

 

何故、タカヤが《牙狼の鎧》を召喚出来たのか…それはタカヤの孫《シロウ》が新たな《牙狼の系譜》を受け継ぐ者であったのが理由だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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少しだけ…帰ってきたよ守りし者♪タカヤくんの鼻血克服大作戦!!

少しだけ……帰ってきたよ守りし者♪


「い、いいかタカヤ……コレはアタシやヴィヴィオ、アインハルト、クロ、ミウラ、ジークの為なんだからな……」

 

 

「は、はい……覚悟はできてるから」

 

 

 

緊張した顔で頷くタカヤの前に近づくとゆっくり身体を覆うシーツが分厚絨毯にはらりと落ち…生まれたままの姿をさらしてる今のあたしは顔が真っ赤になってるのが嫌ってわかるけど。ゆっくりと椅子に縛り付けられたタカヤに近づいてく…うう恥ずかしい

 

「ぁ、あ、ああ……う、う」

 

 

「が、我慢しろタカヤ!め、目を逸らすな!!」

 

 

「だ、だってコレをやる意味は……」

 

 

 

「意味はアンだよ!このままだと、このままだと………」

 

 

 

そう、コレはタカヤを鍛える為の特別メニュー……

 

 

「………結婚してもう一年過ぎてんだぞ!、あたしをこれ以上、いや、あたしらを焦らすんじゃねえよ!バカ!!」

 

 

 

「……う、うう……も、もう限か…………ぶ、ブハアアアアアアアアア!?」

 

 

 

プツンって音と一緒に鼻血が吹き出し虹を作らせながら、カクリと首が傾くタカヤにため息をついた……あの戦いから三年、あたしとヴィヴィオ、アインハルト、クロ、ミウラ、ジークと結婚してから一年、ずっとこうだった……ったくもう、どうしたら鼻血癖が治るんだよ!?

 

 

 

 

少しだけ帰ってきたよ守りし者♪タカヤくんの鼻血克服大作戦!!《前編♡》

 

 

 

 

クラナガン、秋月屋敷別邸から離れた場所にあるナカジマジム

 

 

同オフィス……

 

 

 

 

「はあああぁ」

 

 

 

「ノーヴェちゃん、また溜め息かい?あんまり溜め息つくと幸せが逃げていくよ?」

 

 

 

「………ミカヤちゃんか……」

 

 

 

「『ミカヤちゃんか』…じゃないだろ?会長なんだからしっかりしないといけないよ?」

 

 

 

「わ~ってるよ……ミカヤちゃん、少し聞いていいか?」

 

 

 

「なんだい?」

 

 

 

「ミカヤちゃん、彼氏とはうまくいってんのか?」

 

 

 

「もちろんさ、わたしのミツキはリオちゃん、スバルちゃん、ティアナちゃん、アイリンちゃんを相手に萎えるどころか逆に壊されるんじゃないかってぐらいに愛してくれる……今朝もたくさんしてきたから……ん…まだミツキが中に感じるんだ」

 

 

……ミカヤちゃん、すごく幸せそうな顔してんな……って待て四人相手にしてるだって?確かにカーディフがルーフェン武術界の華皇拳、春光拳に並ぶ幻の拳《赤心少林拳》継承者だからってのはわかっけどさ

 

 

朝までなんて……リオはヴィヴィオ、フーカ、アインハルト、コロナと走り込みにいくまえにあったけどそんなそぶりはみせてないんだけど!?

 

 

「ノーヴェちゃんはどうなんだい?」

 

 

「あ、あたしは……その……まだ……」

 

 

 

「もしかして、あの体質が原因かい?………」

 

 

 

ミカヤちゃんの問に無言で頷く……式を上げて初夜を迎えようとしたら鼻血を吹き出して、日を改めてみたんだけどまた鼻血を吹き出して、なら2人っきりなら大丈夫かなと思ったけどまた鼻血を……別邸の部屋はほとんど鼻血で真っ赤に染まって、出血多量でアキツキメディカル謹製携帯輸血パック《ブラドディア》に何度となくお世話になった事か

 

 

 

……タカヤを前にして、ずっとお預け喰らってる…正直、魅力がないんじゃないかって不安になるし

 

 

 

「………一つ聞いていいかなノーヴェちゃん。彼氏くんの鼻血癖は生まれつきかい?」

 

 

 

「え?いや……違うと思う……」

 

 

 

あたしの脳裏に浮かんだのは小さくなったタカヤとお風呂に入った時のこと

 

 

 

『おねえちゃん、すごくあたたかいね』

 

 

あの時のタカヤはあたしをみても鼻血を出さなかった…それに今とは違って積極的に身をまかせてきたっけ…ミカヤちゃんに話してみたら黙り込んでしばらくしてこっちをみた

 

 

「………なるほど…もしかしたら小さい頃に何かがあったんじゃないかな?」

 

 

 

「な、何かってわかんねぇし……」

 

 

 

「手っ取り早く聞くなら小さい頃の彼氏を知る人に聞てみるか例えば彼氏くんの義母に聞いてみるのは?」

 

 

 

 

「却下、アイツ《鬼婆ぁ》に聞くのだけゼッタイにヤダ」

 

 

 

「……相変わらず仲が悪いんだね……」

 

 

 

「たりまえだっうの!あの鬼婆ぁからタカヤが生まれたなんて信じられるか!性格性悪で素直じゃねぇひねくれ鬼婆ぁは何時も『あら、ココにまだ埃が残ってるわよ』『こんな簡単な掃除もできないのかしら?』っていうんだぞ!ああ、思い出しただけでムカつく!!」

 

 

 

「(みんなから聞いてた以上に仲が悪いんだね………まあ、性格がにてるからだよ多分……)…他に彼氏くんの小さい頃を知る人はいないのかな…」

 

 

「………いる……あんまりあったことねぇけど」

 

 

 

「なら善は急げだ。ノーヴェちゃん。その人に会いに行けばいい……解決策が見つかるかもしれない」

 

 

 

「そ、そうだな……あ、でも」

 

 

 

「ジムの事は私がみておくから、さあいくんだ。ほら」

 

 

ミカヤちゃんの言葉を聞いて椅子から立つと、ジムのロゴが入ったジャージを脱ぎ捨て私服に着替えてその場をあとにした

 

 

じつは少し会うのが苦手だけど、タカヤのためだと想いパンと頬を軽く叩くと秋月屋敷別邸にある転移ポートに入る…向かうのは聖王教会。ソコにいるあたしに取って曾婆さんにあたる元教会騎士リーム・シルヴィアーニ《旧姓:グレイス》と夫で秋月家家令デルク・シルヴィアーニが住んでいる家に

 

 

 

 

中編に続く!

 

 

 

 

 

 




よう、久しぶりだな?……ってオレ様をしらないだあ?


オレ様の名前はキリク様だ!!


タカヤの鼻血癖を治す為に曾婆さんにあたるリームに会いに行くノーヴェ…そこで二人の口から意外な事を耳にする


次回 特別編!すこしだけ帰ってきたよ守りし者♪タカヤくん鼻血癖克服大作戦♡《中編》



果たして鼻血癖は治るかな?




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少しだけ…帰ってきたよ守りし者♪タカヤくんの鼻血克服大作戦!!(中編♡)

WHERE THERES LIGHT,SHADOWS LURED AND FEAR RAINS
(光あるところに漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた)




AND BY THE BLADE KNIGHTS,MANKIND WAS GIVEN HOPE.
(しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ)


…………太陽の光が消え、人工の光が街を照らし様々なネオンの輝きの中、家へ帰るもの、恋人と腕を組み逢瀬を、他愛もない会話をしながら笑いながら歩く人々があふれ、それは川の流れのように見えた

 

 

人が当たり前の様に過ごす日常…しかし少し離れれば光は無く闇が支配し不気味さを感じさせる。光溢れる大通りから少し離れた路地裏。途切れ途切れに明かりが灯される道に陰がみえる

 

 

 

「は、は、は、は……きゃ!?」

 

 

 

「へへへ、おとなしくしなよ姉ちゃん。あんたIS学園の生徒なんだろ……コイツは上玉だあああ~」

 

 

 

足がもつれ倒れた少女に舌なめずりしながら笑いかける男は馬乗りになり手首をつかみ固いアスファルトに押し付ける……息を荒くしながら首もとに顔を近づけ匂いを胸一杯に吸う彼の下半身に血が集まり硬さを増していくのを喜びながらゆっくりと足の間に膝を押し当てグリグリと動かす

 

「や、やあ……ん……」

 

 

 

「ああ、感じてるんだ……はあ、なんて甘い香りだ……気持ちいいんたろ?ねえ?答えてよ」

 

 

 

「っ、んん!!」

 

 

 

舌を伸ばし首筋に這わせ汗を嘗めとり含ませる…塩味よりも甘美で少女特有の甘い香りは高ぶらせ押し当てたひざが敏感な部分に当てられ緩急を織り交ぜた動きに身体がビクン、ビクンと震えやがて手首から力が抜けていく

 

 

 

「はは、気持ちいいんだ……なあ正直になりなよ……コレからが本番だよ……あは、うれしいだろ?俺のモノがお前の初めてを奪うんだからよ。最っ高~シチュエーションじゃん!黙ってやられろよ……俺を満足させろよ?なあ!!」

 

 

 

惚けた表情を浮かべる少女に目を向ける彼…連続強姦魔《ヨシアキ・アマミ》はゆっくりと手を上着にかけ力いっぱい服を引っ張る…ボタンが地面に落ちていくなか視たのは清潔感溢れる花柄が刺繍された水色のブラ…その一枚向こうには甘美な果実がある。IS学園に通う生徒はそろいもそろって美人ぞろい、ISを使えるといってもソレがなければタダのガキ。女尊男卑なご時世だが力で屈服すればそこいらのガキとかわらねぇ……ヨシアキはそれに抗うように女を犯した。無理矢理するのは堪らなくいいし女が弱いってがわかる……孕もうが自殺しようが関係ないし屈服する姿は堪らなくいい!女を蹂躙するのは堪らなくいい!だからコイツの人生なんざ関係ない……ぼろ雑巾になるまで犯してやるよ、使い物にならなくなるまでな

 

 

「じゃ、いただきま……」

 

 

 

「あ、あの~」

 

 

 

 

間が抜け、やや申し訳無さそうな声に動きを止めるヨシアキ。年の頃は13~14ぐらいの黒銀色のコート、胸元に無数の飾りをつけ肩まで伸びた白髪に黒髪が混じる髪に眼鏡をかけた少年が少し離れたから歩いてくる

 

 

 

 

「なんだお前?もしかしてやりたいのか?だったらあとでやらせてやるから待ってろよ」

 

 

 

「い、いや遠慮します……止めた方がいいですよ」

 

 

 

「ああ?」

 

 

 

「………だって、その子……人じゃないから」

 

 

 

「へ、何をいってんだゴラァ!東京喰種のカネキコスプレ坊主が!!邪魔だからさっさといけよ……さあ、楽しもう……ぜ?」

 

 

 

痺れを切らし無視し再び少女に向き直り手をかけようとするが動きが止まる…先ほどまで抵抗を見せていた顔から感情がきえ無表情で自分をみる瞳に思わず離れ地面にへたり込んだ、ゆっくりと起き上がり服についた埃を払いながら向けた顔から怒りが見え視線は少年をとらえて離さない

 

 

 

「あ~あ……なんで私の邪魔をするのかな?たぎる性欲《リビドー》、アドレナリンで拡張した毛細血管に香しい血の暖かさが絶妙に合わさることで奏でるアロマージュ、最高の味付けで完成させ………ト。トレッビアアアアアアアアンな最高の美食の調理も途中まで美味くいってたのに……これじゃ不味くて食べられないじゃない」

 

 

 

「………キミを、もう一人のキミをこれ以上、苦しませたくないからかな…」

 

 

 

「っ!…………何を言ってるかわからないわ!」

 

 

 

地を蹴るや否や間合いをつめ、拳を腹部めがけ打ち込む少女、しかしそれを肘と膝で挟み込み防ぎ、右ストレートを左頬へ叩き込むも耐えた少女は強引に右腕を引き抜き離れ、短いスカートをひらめかせ胴回し蹴りを頭めがけ狙うも防がれると同時に掴まれ勢いを殺さず地面に足を踏みならしながら叩きつけ浮いた瞬間、ミドルキックを胴に決め、勢いよく木箱が高く積まれた山へ突っ込んだ

 

 

 

「逃げて、そして今日のコトは忘れるんだ……早く!」

 

 

「は、はあ………ひい!!」

 

 

 

それを横で呆然とみていたヨシアキはその声に弾かれたかのように転びながらも駆け出していく中、木箱の山が吹き飛びあたりに散乱する。ボロボロの制服姿の少女が幽鬼のようにふらりと立つ姿を目にした時、キシキシと金属が軋むような音がなる

 

 

 

『タカヤ、あの女はホラーで間違いないんでぃ!』

 

 

 

「…キリク……いくよ」

 

 

眼鏡から聞こえた声に頷きコートの内に手を入れる、その手には黒地に白金の装飾が施された幅広の鞘に収まった剣…それを見た少女の顔がさっと変わる

 

 

 

「………まさか、魔戒騎士なの?この世界には居ないはずなのに………せっかく食べ放題天国だったのに!!」

 

 

 

「……悪いけど、ビュッフェは今日で終わりだよ……」

 

 

 

「お、オノレェェェ!!」

 

 

 

少女の顔と思えない狂気に彩られた瞳を見開き耳元までつり上がった口から呪詛にも似た叫びと共に肉がはじけ無数の魔導文字が渦巻かせる中から現れたのは植物と昆虫を合わせ無数の切り落とされた恥骨をアクセサリーのように頭部に飾り上半身裸の女性…ホラーが本性を現す。それを無言で見つめながら鞘から魔戒剣斧を抜く…あたりにソウルメタルの振動音を木霊させながら左腕に刃の背を滑らせるように腰を沈め構えた

 

 

「はああ!」

 

 

 

『ジャアアアアアアアア!!』

 

 

 

植物と昆虫を併せ持つ下半身から無数の足が生え、凄まじい速さで迫り血まみれの恥骨を撃ち出しながら鋭い爪をギシギシ鳴らしタカヤに襲いかかる…無数の恥骨をそらし、いなし、切り払うと同時に弾き返しながら距離をつめ、頭上めがけ振り下ろされた爪を冷静に凪払うよう斬りつけた。生臭いと共に血飛沫が舞い霧散、痛みで雄叫びをあげるホラーに更なる一撃を加えるべく構えるも鋭い爪を持つ左腕に殴られ宙を舞う

 

それを見てホラーは残された恥骨をドリル状に組み合わせタカヤに狙いを定めうちはなった

 

 

『ジャア、ジャアジャ!ヌリビダ。マキイクス!!』

 

 

勝利を確信した声を耳にしたタカヤ、目の前に迫る恥骨ドリルを捉えながら避けるどころか降下しながら素早く剣斧で真円を描きつきいれ狼のうなり声と同時に恥骨ドリルが爆発。それを見て歓喜の声をあげる。しかし、ナニかが通り抜け微かな衝撃、落ちる音に目を向けみたのは魔導文字を血飛沫のようにあげる自らの右腕……強烈な痛みがあとから襲いかかる中、ナニかが降り立った

 

 

『………………』

 

 

牙を向いた狼の面に、腰には秋月家の家紋に加え流線かつ鋭角的な造詣に加えファンガイア族きっての技巧匠の手で修復、強化された白金に輝く鎧を纏ったタカヤ……白煌騎士煌牙が変化し巨大化した魔戒剣斧オウガ《魔戒斧形態》を肩に担ぎ構える姿

 

 

 

《タカヤ、そろそろ決めろぃ!!》

 

 

 

 

『わかった!名も無きホラーよ、お前の陰我を今断ち切る!!』

 

 

 

『ニリ、ニリニナアガサ!!』

 

 

 

残された武器は己の身体のみとなったホラーが体当たりを仕掛けてくる…しかしタカヤは微動だにしない、あと数センチと迫った時、その場から姿が消える勢いあまり地面に突っ伏したホラー…慌てて姿を探した

 

 

 

『……ごめんね』

 

 

 

静かで穏やかな声が響いた瞬間、ホラーが動きを止める…その周りで無数の光が走り抜け吸い込まれるよう消え、身体が動きズルリ、ズルリと細切れに落ちていき最後に女性の上半身が光に包まれ消滅。辺りに大小様々な魔導文字が溢れ、やがて納まると白煌騎士煌我が姿を再び表し同時に鎧が魔界へ返還され魔戒剣斧を鞘に収め魔法衣にしまうと先ほどまでホラーがいた場所に歩み寄り魔導筆を軽く振るう

 

現れたのは先ほどの少女、そして喰われた犠牲者…場に残された魂のかけら。ふわりと筆を振るうと暖かな光が包み込んでいく

 

 

 

「……この光と一緒に逝くんだ……いつか、この世に再び生をうける日まで安らかに」

 

 

 

犠牲者達の魂が光に包まれ消え、最後に少女が残りスッとタカヤに近づき耳元でささやき、離れて消えていく…笑顔を浮かべて。この術は魂をあるべき場所へ送る秋月家魔導術秘技《光翔》。ホラーに憑依され、喰われた犠牲者の魂を癒やし天に返す技…魔戒騎士兼法師であるユーノが見つけ出し蘇らせた秘技だった

 

 

「ん、そうか戻る時間が来たんだ」

 

 

《そうだな………》

 

 

 

つぶやいたタカヤの身体が光に包まれる…歴代秋月の魔戒騎士は別世界にホラーが現れれば《その世界の意志》に呼ばれる……タカヤ達のいる世界は陰我終焉の時期(百年ホラーが現れない)を迎えているが、呼びかけがあれば応じホラーを討滅する日々を送っている

 

 

《ところでタカヤ、もうなれたのか?》

 

 

「え、何に?」

 

 

 

《さっきのホラーは女だっただろ?上半身裸のナイスバディな。ノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ファビア、ジークに負けないぐらいの大きさだったよな。日頃の特訓がようやく実を付けたな~さあコレで神が人に与えたもうた聖なる営みを……》

 

 

 

「……………………………………ぶはっ!?」

 

 

 

 

……永い沈黙を破るように勢いよく出た鼻血が月明かりに照らされ虹を作る…ふらつき倒れる直前でタカヤの姿は光と共に元の世界に帰っていく……

 

 

 

《……………まだ、治って無かったのかよ!?》

 

 

 

盛大なキリクの叫びだけが路地裏に響き、木霊するも光につつまれその場から消え去った。ただ、二人は最後まで気づかなかった。この戦いを観ていたモノが居ることを

 

 

「秋月タカヤ…なんでこの世界に。いや、そんなはずは…」

 

 

 

ー落ち着けカズキ……確かにあの時、みただろ?ー

 

 

声を震わせる青年…碓氷カズキ、その相棒《ザンリュウジン》が屋上からホラーとの戦いの一部始終を見ていた事に。しばらくし、その場から立ち去っていく…佇んでいた物影から獣のような叫びは風にかき消された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ…帰ってきたよ守りし者♪タカヤくんの鼻血克服大作戦!!(中編♡)

 

 

 

 

ベルカ自治領、聖王教会

 

同《教会騎士寮》シルヴィアーニ邸

 

 

 

 

「ふんふふふ~ふんふふふ~」

 

 

 

「リームかあさま~」

 

 

 

「あら、どうしたのミアちゃん」

 

 

 

「デルクとうさまは?」

 

 

 

「デルクちゃ……お父さんならビスコッティのお友達《ハチグマさん》ちに蜂蜜を取りいってるわよ。そして今日のおやつは、じゃじゃ~ん♪ミアちゃんの大好きな蜂蜜たっぷりかけたパンケーキよ~」

 

 

「パンケーキ!ミアはパンケーキ大好き~とうさまはやく、はやく~」

 

 

 

あ~もうかわいいわあ……あ、画面の向こうの小さな子から大きな子の皆、お久しぶり~私はタカヤちゃんのお婆ちゃんでデルクちゃんと私の可愛い可愛い愛娘ミアちゃんのお母さん……聖王教会のアイドル改め、ママドルのリームです♪

 

デルクちゃんと結婚してから騎士は引退したんだけど、カリムちゃんから嘱託で指導をしてほしいっていわれて、騎士寮の近くに建てたマイホームに住んでるの……可愛い愛娘のミアちゃんと私の夫デルクちゃんとの愛の巣に……きゃ♡言っちゃった♡てへ♡♡

 

 

「リームかあさま、だれとはなしてるの?そっちにはだれもいないよう?」

 

 

 

 

「あ、久しぶりに画面の向こうの大きなお友達に挨拶してたの……」

 

 

 

 

「がめん、の、むこう?……おおきなおともだち?」

 

 

首を傾げるミアちゃん…ああ可愛い~デルクちゃん譲りの銀髪がふわりと揺れて、目元はもう私に似て……神様、聖王様。私にデルクちゃんとの子を、ミアちゃんを授けてくれて感謝、感謝します……でも、たまに

 

 

 

 

『……あ、コインのおじさんだ。おはよ~~』

 

 

『ソウキチおじちゃん、きょうもぼうしにあってるね』

 

 

 

『アンちゃん、このアイスはミアのだからあげないもんね~こあめだるわたすからくれって?ん~いっしょにあそんでくれるならあげるよ』

 

 

 

 

………誰もいない噴水広場に手を振ったり、古びたコーヒーメーカーに駆け寄って声をかけたり……アイス屋さんで声を上げたりしたこともあるけど………そんなの関係な~~~~~いぐらいに可愛いのよ~

 

 

パンケーキの生地だねを混ぜてたらチャイムの音がなる。もしかしたらデルクちゃん帰ってきたのかしら。

 

 

『マイロード、残念ながらデルク殿ではありません。タカヤさまの御内儀様が参られたようです』

 

 

 

って答えてくれたのは私の愛機でユニゾンデバイスの《Ⅹ兵衛》…Ⅹちゃん。若衆髷に着流しの着物姿の眼帯サムライにみえても女の子なの……でもタカヤちゃんの御内儀……誰かしらね、ま迎えに行かないと玄関にいって扉をあけると

 

 

 

「あ、あの……いきなり来てゴメン……リ、リームお婆ちゃん」

 

 

 

「あら~ノーヴェちゃんじゃない!立ち話もなんだし、あがって行きなさいな。ミアちゃ~ん、ノーヴェちゃんがきたわ……」

 

 

「ノーヴェおねえちゃ~~」

 

 

 

「うわっ……とと?ミア。いきなりタックルは危ないだろ?」

 

 

 

「ん、ごめん…」

 

 

「ま、ケガがなくて良かった……それにしてもすこしみないうちに背が伸びたんじゃないかミア?」

 

 

「うん、毎日おかあさんとおとうさんが作ってくれるのご飯たくさん食べてるもん。おおきくなったらおとうさんみたいに《かれー》になるんだ~」

 

 

 

「へぇミアは家令になるんだ~デルクが聞いたらよろこぶな」

 

 

ノーヴェちゃんにたかいたかいされながら笑顔でこたえる私の可愛いミアちゃん…もう、デルクちゃんのあとを継ぐって……男装の麗人執事になった姿が浮かぶわね…ふふ、デルクちゃん喜ぶわね

 

 

しばらくあやしてから、私はノーヴェちゃんを家の中へ招き入れアモンで買った紅茶を出して入れる用意をはじめる。ノーヴェちゃんが今日ウチに来た理由はだいたいわかってるけど、デルクちゃんが帰ってきてからの方がいいわね

 

 

「でもね、ノーヴェおねえちゃん。おとうさんにはナイショだよ」

 

 

「わかった、わかった…じゃあ指切りしよっか」

 

 

二人が指切りするのを見ながらプレートにパンケーキの生地を適量流した時、再びチャイムがなった

 

 

 

「ただいま戻りました。ミアちゃ~んパパが帰ってきてきましたよ……………こ、コレはノーヴェ様!?」

 

 

 

「あ、デルク……どっかいってたのか?」

 

 

 

「はいハチグマ様の所とビスコッティにミルヒ姫様とレオ閣下に拝謁を……ところで今日はどうかなされましたかな?」

 

 

 

「ああ、それは…その……何というか」

 

 

 

 

「デルクちゃん、おかえりなさ~い。つもる話はパンケーキを食べながらしよ…ね♪」

 

 

 

「は、はい…」

 

 

 

「とうさま~おかえりなさ~い」

 

 

 

「は~いミアちゃん。おとうさん帰ってきましたよ。さあハチグマ様からいただいた蜂蜜をつかってパンケーキをいただきましょうか」

 

 

「うん♪」

 

 

「はいは~い、リーム特製ハチグマさんもびっくりパンケーキ出来上がり~」

 

 

 

笑顔で差し出された皿にはパンケーキの上にもう一枚重ねられブルーベリー、イチゴが飾られた上から黄金色の蜂蜜がキラキラ輝きながら垂らされてる。まずは一口食べる……

 

 

 

ーノーヴェ、遅れてごめんー

 

 

 

ーん~遅い……またせすぎだっての……遅くなるなら連絡しろよバカー

 

 

 

ー……本当にごめん……ー

 

 

 

ーま、いいさ。アタシも人のことは言えないし、タカやも仕事あるしさおあいこだ。さ、早くヨシノばあさんのとこにいこー

 

 

ーうん、あ、でも……その前にー

 

 

 

ーえ?んん………ー

 

 

 

 

いきなりタカヤにぐいっと抱き寄せられ唇と唇が重なり、舌が割り込んで触れて絡む度に頭が痺れて、もっとキスしたくなる…周りに人がいるけど止めたくない

…しばらくして離れてツゥっと銀の糸が伸びる

 

 

ーは、はあ……バカ、人がみてんだろー

 

 

 

ー別にいいから……僕は一向にかまわないしー

 

 

 

 

ーもう、バカ………あとでたくさん倍返ししてやるからな………覚悟しろよー

 

 

 

ああ、タカヤのキスって凄く甘くて身体がとろけてしまう…もしこれ以上のをしたら…

 

 

 

「……ちゃ……ノーヴェちゃん?どうしたの?」

 

 

 

「は?な、何でもない……」

 

 

 

「顔が真っ赤よ~もしかしてタカヤちゃんの白昼夢みたのかしら?」

 

 

 

「し、しょんなこひょない!」

 

 

 

「ふふ、顔に出てる、出てる……わかりやすいんだからね~」

 

 

 

「む、むう……あれ?ミアは?」

 

 

「ミアちゃんならリーム特製パンケーキをイクスちゃんにお裾分けにいったわよ~やっぱり女の子ね~私たちと食べた分と別腹って言うし………さてとノーヴェちゃん、今日はどうしたの?」

 

 

少し真剣な表情でアタシをみてたずねてくる。デルクも新しい紅茶を静かに出しながら見てる……少し迷ったけどはなすことにした

 

 

 

「実は……タカヤの事なんだけど…そ、そのしようとしたら鼻血だしてさ…がっついてる訳じゃないし……アタシは、いやアタシ達はタカヤともっと深く繋がりたいんだ」

 

 

 

「………やっぱりね。まあ原因に心当たりはあるわよ」

 

 

「ホントか!なら教えてくれよ、たのむ!」

 

 

「とりあえず紅茶を飲んで少し落ち着いてくださいノーヴェ様………………タカヤ様が鼻血を召される原因は……タカヤ様が恐れているからなのです」

 

 

 

 

「恐れている?アタシ達をか?なんで」

 

 

 

「違います。ノーヴェ様方を恐れている訳ではないのです。タカヤ様の鼻血癖は父君であらせますユウキ様の遺伝でありますが、もう一つ原因があるのです」

 

 

 

「タカヤちゃんは…ユウキちゃんと曾曾爺様のオウルさんが大好きだったの……でも亡くなった時にトラウマになってるの、もっと深く愛してしまったら、自分の前からいなくなっちゃうんじゃないかって」

 

 

 

「タカヤ様の鼻血癖は恐れからくる一種の防衛本能に似たようなモノなのです。幼少の砌から失い続けたのがこの様な形に………あのノーヴェ様?」

 

 

 

「……なんだよそれ……ふざけんなよ…ったけアイツはバカか!アタシ等が居なくなるわけ無いだろうが!」

 

 

「ノ、ノーヴェちゃん?」

 

 

 

乱暴に席を立つアタシをなだめようとしてる……少し冷めた紅茶を飲み干し落ち着かせ静かに座った……

 

 

 

「ふ~デルク、リーム、教えてくれてありがと。ならあとはアタシ等が何とかする……だって夫婦だからな」

 

 

「………そういうと思ったわよ……じゃあタカヤちゃんの事、お願いね……」

 

 

「まかせろ…じゃまたな」

 

 

二人に頭を下げて家を後にする……さてとタカヤ、まってろよ。アタシ達を助けてくれたように今度はアタシ等が助けてやる。その恐れから絶対に

 

 




秋月タカヤ


年齢:18


秋月家当主にして歴代最強の魔戒騎士。1000に渡るアギュレイスとの戦いに終止符を打ちノーヴェ、アインハルト、ヴィヴィオ、ミウラ、ジーク、ファビアと結婚、陰我終焉の時期を迎えたミッドチルダ以外の世界にホラーが現れた場合《世界の意志》の呼ばれ召喚されホラー討滅を担っている


容姿はアギュレイス討滅から全く変わらず十四歳位で止まっている……ノーヴェ達からのアプローチ、いわゆる初Hをしようとするも鼻血癖のせいで未遂に終わっている(今現在まで)。その剣技は益々冴え渡り、一度みた技、受けた技を習得、さらに昇華した上で自らのモノとして使いこなす



数代前の継承者の妻《叛逆の騎士》の使用していた宝具《燦然と輝く王剣《クラレント》》に主として認められている


………余談だが鈴鹿御前の宝具もたまに使って貰いたさそうに震えたりしている






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