モンスターの生態 (湯たぽん)
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その1 肉を焼くゲームです。

「ふん♪ ふん♪ ふん♪ ふん・・・・♪」

 

うだるように暑い熱帯雨林の中、小気味良いリズムの鼻歌が響いていた。

 

歌の主は真っ赤な鎧で全身を包んだハンターだった。

鎧は赤甲獣の甲殻を張り合わせて作られた重厚なもので、

見た目には死ぬほど暑そうではあるが、

本人は至って涼しい顔で鼻歌を続けていた。

 

「てってけ ててけ てってけ ててて・・・・♪」

 

しかし目だけは何故か真剣に目の前を見つめている。

少しの変化も見逃してはならない。ある種の決意すら感じさせる鋭いまなざしで───

 

「てけてん てけてん てけてん てけてん

 てってってってってん♪」

・・・・鼻歌を歌っていた。

 

 

そして鼻歌が終わってほんの数秒、微動だにせず手の中のモノを

見つめていたかと思うと、 やおら立ち上がり、手を高くさし上げて

高らかに 宣言するように大声をあげた。

 

 

 

「上手に焼けました~!」

 

 

 

 

 

 

『・・・・なにやらすごい声が聞こえたが、誰か居たのか?』

 

肉をかじりながら戻ってきた赤い鎧のハンターに

話しかけてきたのは、なんと飛竜だった。

ハンターと同じ真っ赤な角や棘が全身に生えた棘竜、エスピナス。

この、言葉を話す不思議な竜に連れられて

赤い鎧のハンター、バルトは旅を続けているのだった。

 

「いや?誰も居ねぇよ。俺の声だろ」

 

エスピナスに問われて、骨を後ろへ放り投げながら適当に答えるバルト。

 

『・・・・明らかに女の声だったが』

 

バルトとは違い、暑さに弱いのだろうか。

エスピナスは地べたにうずくまり気だるそうに長い舌を伸ばしている。

が、さすがにバルト以外の人間に対しては敏感なようだ。

声の違いを指摘すると、首をめぐらしてあたりの気配を探り始めた。

 

「女の声?あぁ、そうかもしれねぇな」

 

それでもあくまで適当に、軽薄に答えるバルト。

肩をすくめるとあっさりとエスピナスの言葉を肯定した。

 

「まーでもそいつも俺の声だぞ?」

 

『・・・・?しかし妙に甲高い声だったが』

 

「あぁ、俺の声だ。」

 

『・・・・・・?』

 

 

 

───納得できなくても従うしかないオキテってもんが、ハンターにはあるんだよ・・・・

 

心の中でそっとつぶやくと、バルトはエスピナスの口に

もう一つのこんがり肉を放り込んでやった。

 

 

 

「そーいや、”ウルトラ上手に 焼けました~”ってのもあった気がするんだが

 あれどこで聞いたんだっけかな」

 

『昨日ケルビの肉を焦がした時はプーギーの鳴き声を出していたな。

 器用なものだ』

 

こうして、ハンターと飛竜の奇妙なパーティーは

ジャングルのど真ん中で優雅なランチタイムを過ごしていた。



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その2 ギギネブラの生態

 

・・・気持ち悪い。

 

 

 

(コイツを見て、”気持ち悪い”以外の第一印象を持てるヤツって、

 この世に何人居るだろうか・・・)

 

バルトは背筋を襲う悪寒と必死に戦いながら、そんな事を考えていた。

毒狗竜の鎧に身を包み、腐った沼の毒に対しては平気なつもりだったが

旅の相方に連れられて入ったこの洞窟で、衝撃的なほどの”気持ち悪い”に、

バルトは出くわしてしまっていた。

 

 

 

『アラん!エスピナスじゃなァ~いの』

 

ぬらりとした、毛のない青白い体表面には

得体の知れない粘液がべっとりとついている。

電球のような、らっきょうのような卵型の頭には、眼がなかった。

首と尻尾はブヨブヨでどこで太さを測ればいいのか

分からないほどに皮がたるんでおり、

腕と一体化している翼までもたるんだように地面へ向かって垂れていた。

 

何より気持ち悪いのが、こんな物体が暗い洞窟天井にひっそりとぶら下がっており

不意にだるんと首だけ落っことすようにして目の前に現れた事だ。

 

 

 

(しかもコイツも人の言葉を話すのか・・・)

 

その上オネエだ。

 

完全に鳥肌立った状態で、バルトは後ろを睨むように振り返った。

 

「エスピナス・・・会わせたいってのはコイツか」

 

 

 

『人語を話すモンスターをもっと見てみたい。そう言ったではないか?』

 

バルトの後ろをのろのろと歩いてきたのは、

緑色の全身から赤いトゲを無数に生やした茨竜、エスピナスだった。

 

『久しぶりだな、ギギネブラ』

 

エスピナスといえど、この天井からぶら下がったままで

ぶるぶる首を振り回す飛竜の相手をするのは苦手らしい。

前方からわざと視線を外したまま、気のない挨拶を返した。

 

 

 

『イヤん、”ネラ”って呼ンでよエスピナス。

 ギ~とかブ~とか名前に付いてたらカワイくないモン』

 

眼の無いらっきょうが、天井に張り付いた身体ごと、

クネクネと身をよじりながら妙なことを言っている。

そろそろ吐き気が限界だ。バルトは完全にギギネブラに背を向けて、エ

スピナスの方を向くことにした。

 

 

 

『・・・バルトよ。ギギネブラと戦った事はあるな?』

 

エスピナスも視線を天井から外してバルトに話しかけた。

 

 

 

『ヤん、無視しちゃってエスピナスったらイジワル』

 

「・・・あぁ。大剣を使えば割とカモだ」

 

バルトはもとよりギギネブラは無視だ。

耳を押さえたいのを必死で我慢して返答する。

 

 

 

『卵を産むのも攻撃として行うだろう?』

 

「そうだな・・・。あれも気持ち悪いな。毒爆弾まで出すし」

 

『相変わらずステキな声してるワネ~エスピナス。もっと聞かせてン』

 

 

 

『コレを見て、どう思う?卵を産むように思えるか?』

 

観念したように・・・ではないが、話の流れ上どうしても必要だったのだろう

エスピナスがついに天井を向き、自分の鼻先にある角でギギネブラを指した。

 

 

 

「え、オネエって事か?そんな重要なのかそれ?」

 

バルトはどうしても受け入れられないらしい。

エスピナスの方を向いたまま疑問を疑問で返した。

しかし思い返してみれば、バルトの戦ったギギネブラの中に、

卵を産まなかった個体は無かった。

 

「つまり、ギギネブラは全てメス・・・?」

 

 

 

『イヤん、ちゃんとオスもいるわよ?ちなみにアタシはれっきとしたメスだけど』

 

メスなんだったらメスらしく、その話し方やめてくれ本当頼むわ。

喉まで出かかった言葉をかろうじて飲み込むと、

バルトは今度こそ観念してギギネブラのほうを向いた。

 

 

 

「オスメス関係なく卵を産める、て事か?」

 

『んっん~♪惜しいワネん』

 

相変わらず気持ちの悪いイントネーションで返事をすると、

ギギネブラは急にドスンと地面に降りてきた。

 

 

 

『バルトちゃんイケメンボイスだから、特別に見せてあげチャウ』

 

こちらが身構える程の隙も与えずに、

後ろ足だけで立ち上がると覆いかぶさるように近づいてきた。

青白くなめらかな身体の上表面とは違い、

腹側は真っ赤で何故か牙が前面に何本も突き出ている。

 

 

 

『オスとメスがずっと一緒にいるからいつでも卵産めるのヨン』

 

グロテスク極まりない真っ赤な腹の真ん中に、小さなギィギが一匹、納まっていた。

逃れたいのか、無意味にウネウネともがいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぇええええぇぇぇぇ・・・・・・」

 

洞窟を抜けた途端、なんとも情けない声を上げながら

バルトは胃が裏返るほど大量に吐いていた。

 

 

 

『・・・よく耐えた、バルト』

 

めまいでもするのか、首を大きく左右に振りながら、エスピナス。

 

 

 

「あ・・・ぁ・・・つまりアレだな。卵からギィギとして生まれた時は

 みんなオスなんだな」

 

『あぁ、一部のギィギはメスに取り込まれて生殖機能を提供するのみとなるが

 メスから逃れたものは成長して、自らがメスに性転換するのだ。

 そして小さなオスを探して体内に取り込み、卵を産めるようになる』

 

バルトの汚物に、尻尾で丁寧に砂をかけてやるエスピナス。

思う存分吐いたバルトは、ふらふらと数メートル離れるとその場に仰向けに寝転んだ。

 

 

 

「・・・俺、生まれ変わっても絶対オトコでありたいと思ってたんだが。

 ギィギにだけはなりたくないわ」

 

『・・・ちなみに、私が知っている話すギギネブラはアレ一頭なのだが

 ギギネブラというのはオスとメスが一体化しているから

 精神構造としては皆オネエになるのだそうだ』

 

 

 

溜め息と共にエスピナスが言うと、バルトも全く同じように溜め息をつき

 

 

 

「人間として生まれて良かったわ~・・・」

 

青い空をその眼で見ながら、ゆっくり大きく伸びをした。

 

 

 

 




気持ち悪くてごめんなさい反省してますまたやりたいです。


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その3 オトモの秘密

今回は、バルトの昔の盟友であるハンター仲間のお話です。
スズナは湯たぽん自身。
シュナ、マコノフ両名は友情出演いただいた狩り友です。
お二方、ありがとうございます!


「ンニャ?ご主人、ご主人」

 

アイテムボックスの向こうから、紅色の毛に覆われた首を精一杯かしげて

オトモ猫のメロが話しかけてきた。

 

 

 

「どうしたの?メロ」

 

覗き込んでいたアイテムボックスから顔を上げた女ハンター、シュナは

珍しく丈の長いスカートにヒールの高いブーツ、コートを羽織っていた。

普段はモンスターの強力な一撃にも耐えられる強固な鎧を着込んでいるが

スレンダーでありながらなんとも美人な、ギルドや酒場でよく目を引くシュナ。

久しぶりにかわいい服を選んだ姿は、オトモであるメロにとっても新鮮であった。

 

「そんな珍しい女の子の格好しちゃって、ガーグァも驚いて金の卵産んじゃうニャ」

 

「OK分かった殴られたいのね。イカリハンマーどこにしまったかな」

 

 

 

「・・・・ホントに殴ることないと思うのニャ」

 

「失礼なこと言うからよ」

 

頭だけ地面の上に出した状態で、

しかし何事もなかったかのように平気な声をあげるメロ。

とはいえ、メロでなくともシュナが着ているというだけで、

コートの間からみえる白いセーターが

嵐龍の希少毛を用いたものであるように思えたり

首に下げた大きめの金色のネックレスが

ギルドからの勲章であったりするように思えてしまう。

 

シュナという女は、それほどの一流ハンターであった。

 

 

 

「先週から言ってたでしょ、今日はスズナとお出かけするって。

 メロも家に居ないで遊びに行けばいいのに」

金色の口紅を塗った形の良い唇を尖らせてシュナが言うと、

メロは急にそわそわしだした。

 

「あ、あーそうだったニャ。

 せっかくのお休みなんだからボクもお出かけしなきゃニャ」

 

うん?

 

ふと、シュナの頭の上に疑問符が浮かんだ。

 

(ははーん・・・・そういえば・・・・)

心の中でにやりと笑うと、平然を装いながらシュナは思い出したように口を開いた。

 

 

 

「この間、スズナのオトモのオモチ君がメロとお出かけするって言ってたけど。

 それ今日じゃなかった?」

 

案の定、ビクン!と地面の中で身体を大きく震わせると、

メロが上ずった声を出す。

 

「そ、そうだったかニャ!確か今日だったかも知れないニャ!

 ぜんっぜん大した用事じゃニャかったから忘れてたけど、約束は大事ニャ。

 仕方ないから今日行ってくるニャ!」

 

言うが早いか、深く埋まっていた地面からピョコンと飛び出し、

土で汚れた服をパンパンとはたく。

 

「じ、じゃあ行ってくるニャ!オモチったら仕方ニャいニャあ!

 大した用事じゃニャいんだけどニャ!」

 

必死に平静を装っているようで、

明らかに焦っているのがバレバレな態度でばたばたと街の方へ歩き始めた。

シュナのほうも必死に笑いをこらえながら、メロの背中に声をかけた。

 

「私たち、ドンドルマへ行くんだけど。お土産はマタタビクッキーで良・・・・」

「是非!」

 

くわっと勢いよく振り返ると、メロが吼えた。

 

「・・・・ですニャ。あ、いや覚えてたらで良いニャ。

 いやもうどうでも良いニャ。でもあったら良いニャー・・・・」

 

またしても平静を装ってしどろもどろになるメロ。

未練があるかのように千鳥足になりながら、しかし街の方へと歩いていった。

 

 

 

「プッ・・・・。分かった買ってくるよ。行ってらっしゃい」

 

今度こそ堪え切れずに吹き出すと、

シュナも時間を気にしだしてお出かけの準備に取り掛かった。

 

(あれで誰にも知られていない秘密の会合とか思ってるんだもん。

 可愛いわぁ・・・・♪)

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・始めるとするかニャ」

 

暗く、狭い部屋の中でメロがつぶやいた。

 

と、すぐさま隣から別の声が上がった。

 

「フッ・・・・この場では語尾にニャを付けるのは無しだぞ、紅蓮のメロ、よ・・・・」

不敵な笑みを浮かべたのは、スズナのオトモ猫、白猫のオモチだった。

二匹は小さな蝋燭の灯りを真ん中に、中二病のような会話をしはじめた。

 

「あぁ、すまないな白銀の。そして・・・・」

 

そして、蝋燭の向こう側に現れたもう一匹に対して頭を垂れた。

 

「お許しを、マスター・ネコノフ」

 

蝋燭のそばに無意味に黒い幕をはり、そこからことさらにゆっくりと登場したのは

この秘密の会合(のつもり)の主であり、

シュナとスズナの狩猟団の盟友マコノフのオトモ猫である、ネコノフだった。

 

「あぁ、よいよい」

 

鷹揚に頷くと、白黒の毛並みの真ん中に現れた

肉球スタンプの模様を見せ付けるようにゆっくりと席に着いた。

 

 

 

「さて・・・ではそれぞれミッションの遂行具合を報告してもらおうか。

 オモチよ。ニャンターはどうだ」

 

「新人のツミレが、レベル48にまで達しております。

 戦闘力で言えば並のハンターくらいはあるはず」

 

オトモ猫はここ最近新たな能力、ニャンターを手に入れた事により

大幅な躍進を遂げていた。

オモチの言う事もあながち間違いではなく、オトモ猫だけのパーティーで

大型モンスターを狩る事も一般的になりつつあった。

 

 

 

「メロの方は、さらに進んでいるそうだな。調合リストが埋まりつつあるとか」

 

話を則されたメロは、しかし渋い顔をして口を開いた。

 

「リストは埋まったが・・・・”例の秘術”は見つからなかった・・・・こちらは手詰まりだ」

 

 

 

「そうか・・・・ニャンターの能力により、我々オトモでも調合が出来るようになった。

 これだけでも喜ばしい事ではあるのだがな」

 

こちらも神妙な面持ちで、オモチ。

 

「やはり無理だったか。ハンターの会話にも出てこない、か?」

ネコノフも予想通りだったのだろう、若干肩を落としながらも、

しかしわずかな希望をメロに向ける。

 

「・・・・ない」

 

 

 

「”錬金術”、のワードはもはや失われつつあるようだ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「錬金術?メロ君そんな昔の事気にしてるの?」

 

同じ頃、ドンドルマの街ではシュナとスズナが仲良くランチを楽しんでいた。

 

新鮮な海鮮ペスカトーレをぱくつきつつ、スズナが甲高い声を上げると

シュナもイカリングを盗み食いしつつ自分が美味しいと思ったピザを

ひときれスズナの皿に滑り込ませる。

 

「うん。全く別の素材から調合する特別なリストがあるってのを聞いたら

 眼を輝かしてね?」

 

「あ、それってもしかして・・・・」

 

スズナにとってもぴんとくるものがあったらしい。

身を乗り出して、笑いを堪えるようにこわばった顔を近づけてきた。

 

「あれ、を作りたがってるんじゃない?」

 

「やっぱり、スズナもそう思う?」

 

こちらは笑いを隠さず、くっくっと肩を震わせながらシュナ。

 

「いつでも、しかも全く別の素材からでも作れるのなら、

 あの子達にとっては錬金術は夢だよね?」

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、今作でもダメかニャぁ・・・・」

 

一方秘密の会合では、ドンドルマとは違い話が行き詰っていた。

不意に語尾にニャが付いてしまったオモチを、今度はメロが制する。

 

「白銀の。まだダメと決まったわけじゃない。

 気を抜いてはいかん」

 

びく、と背を震わせると。オモチは落ち着きを取り戻すようにひとつ咳払いをした。

 

「こほん、すまない紅蓮の。大丈夫だ。

 まだ我々の理想を諦めるには早すぎる。それは分かっている」

 

 

 

「その通りだ、白銀のオモチよ。このマスター・ネコノフもけして諦めはせん。

 我々の理想はいつかきっと達成できる。そうボク・・・・私は信じている。

 それまで人間どもから離れず、技術を盗み我々のものとし、

 我々の手で進化させるニャ・・・・のだ!」

 

興奮混じりに、しかし努めて厳かに宣言すると、

ネコノフは3匹の真ん中においてあった蝋燭の火を静かに吹き消した。

 

 

 

「”あれ”を我々の手で作れるようになる日のために、まっすぐ進み続けるのだ」

 

 

 

 

 

 

「オモチもメロもネコノフも、みんなオトモは大好きだもんねー”あれ”」

「そのための”秘密の会合”とかいうの、今日やってるみたいよ」

 

 

 

「マタタビ無しで、マタタビ爆弾を作る為の会議なんだってね?」

「あーそのための錬金術ねー」

 

ハンターとオトモ猫たちの、平和な休日はこうして過ぎていくのだった。

 




マタタビ爆弾の用途は狭い部屋で爆発させて、
マタタビ充満パーティーを行うようです。ヘロヘロになるけど楽しそう。


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その4 豚に真珠



モンスターハンター4Gにて。

森を探索中にプーギーパールというアイテムを見つけました。
それなりの額になる精算アイテムのようでしたが、
出現率が結構低いらしく、「なんだこれ???」となりましたが
よーく考えてみると・・・・





「あれ・・・・ヤシロ」

 

他人のペットを見分けるのはとても難しい事ではあるが。

 

「あ、やっぱりヤシロだ。

 どうしたのースズナ居ないの~?♪」

 

当然のように自分の家族として接する事が出来るのが

シュナという女ハンターの特技であった。

 

雪山のポッケ村はずれで、マフモフなセーターを着た豚、

プーギーのヤシロを見つけてシュナは抱き上げた。

 

「プゴ?プップップ・・・・ブギ」

 

シュナの友人、同じく女ハンターのスズナが

飼っているプーギーだが、ヤシロは

飼い主にも特に懐いておらず、当然シュナに対しても

無関心で、マイペースに腕の中でもがいていた。

 

 

 

「んー♪良いねーこのクールに無視する豚ちゃん」

 

雪が積もった地面に降ろすと、何事も無かったかのように

スタスタ歩き出すヤシロ。

にっこにこ笑いながらついてくるシュナを完全に

無視しながら、日当たりの良い雪が解けた地面を

探し出すと、ヤシロはその場でぐるぐる回り始めた。

 

 

 

「ブゴー・・・・ブゴー・・・・」

 

「・・・・?」

 

太陽に祈りでもささげるかのように

ヤシロはしばらく雪の無い地面の上で

ぐるぐるぐるぐる回り続けた。

 

 

 

 

「・・・・あれ、シュナ」

 

飽きもせずにぐるぐる回り続けるヤシロと

飽きもせずそれを幸せそうに見つめるシュナ。

 

ヤシロの飼い主、スズナが通りかかったのは

舞いが始まってからかれこれ30分も

経ったであろう時だった。

 

 

 

「あ、やっぱりシュナ。何してるのー」

 

先ほどシュナがヤシロを見つけた時と同じような

声をあげながら、かがみこんだシュナに近づいてくる。

 

 

 

「あ、スズナー」

 

目の前まで来てようやく気付いて、シュナは顔を上げた。

 

「ビグ。ブーブーグーグー」

 

対してヤシロは、飼い主が来ても動じる事無く

儀式(?)を続けていた。

 

 

 

「ねね、スズナ。これって・・・・」

 

「あ。そうねもうすぐだったっけ」

 

女ハンター2人が意味ありげに頷きあっている横で

ようやく儀式(?)を終えたヤシロは

 

今度は穴を掘り始めた。

 

 

 

「ブゴッ!ブゴッゴッゴッゴ」

 

瞬く間に穴は深くなり、ヤシロは見えなくなる。

 

「ぉー、やっぱりね」

 

小さく拍手すると、ようやく立ち上がるシュナ。

 

 

 

「2、3日後になるのかな。貰っていい?」

 

飼い主の許諾を求めるシュナに、スズナはにっこり頷いた。

 

「もちろん。両方ね」

 

 

 

 

 

そして、2日後。

ヤシロはその間掘った穴から出てこなかった。

そして、シュナもその穴の前からほとんど動かなかった。

 

 

 

「やったー♪居た居たっ」

 

服が汚れるのも厭わず、穴に潜り込むと

シュナが引っ張り出したのは

 

 

 

「プピップー」

 

「かわいいっっっ!」

 

プーギーの赤ん坊だった。

 

「あ、早かったのね。産まれた~?」

 

すんでのところで間に合わなかったが、

スズナも駆けつけてきた。

 

「へへへー。約束どおり貰うわよ」

 

泥と雪まみれの顔で、シュナは満面の笑みで

産まれたばかりのプーギーを太陽に向けてかかげた。

 

 

 

「プギ。プーギーギー」

 

すると、シュナの足元へヤシロがすり寄って来た。

鼻の穴に光るものがある。

 

「あは。ありがとーヤシロ」

 

鼻水でべたべたのそれを、全く気にする事無く

受け取るシュナ。

 

それは、真珠のように輝く白く丸い宝玉だった。

 

 

 

「それ、いくつめのプーギーパール?」

 

「ウチの子の数だけあるから、5個目だと思う!」

 

 

 

プーギーが出産を終えると、その胎盤の一部が

凝縮、結晶化し子供と一緒に出てくる。

火竜の天鱗や崩天玉に匹敵するほどの価値で取引される

プーギーパールと呼ばれるその高価な真珠を、

しかし無造作に適当なポケットへ

しまい込むシュナ。

 

強欲なようで、呆れるほどプーギーを愛するハンターであった・・・・

 

 

 

 

 

 

「なーに一人で渋いナレーションしてんの、

 マスター・ネコノフ?」

 

「ニャニャッ!?」

 

不意にスズナに声をかけられ、飛び上がったのは

シュナ、スズナの盟友、マコノフの

オトモ猫、ネコノフだった。

 

「ニャ、ニャんでもニャいニャ!

 ちょっとプーギーが・・・・って!

 マスターってニャんの事ニャ!?まさか秘密の・・・・ッ」

 

物陰で一部始終を見守り、ナレーションごっこをしていた

ネコノフはあわてふためいてごまかそうとしていたが。

 

何一つごまかせていない上にボロが出そうなのに気付き、

口を両手で大げさにおおった。

 

 

 

「マスター?んー知らないよ?そんな事、ウチの

 白銀のオモチが言ってたなんて知らないからねー♪」

 

「は、は、はくぎん!?」

 

なおもからかうスズナから逃げるように、

走り去っていくネコノフ。

 

追い討ちをかけるようにスズナがその背中に声をかける。

 

「ねー!あなた達もいつになったら

 アイルーコインくれるのーっ!?」

 

 

 

「だからそんニャものニャいんだってばー!!」

 

つんのめって転びながら、ネコノフは叫び返してきた。

 

 

 

世の中、何が価値あるのか分からないものなのである・・・・ニャ。




プーギーパール。豚に真珠があるのだから
アイルーコインも絶対あると信じています。


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その5 タイムアタッカーの事情

またもスズナ達のお話。
今回は厳密にはモンスターの生態ではなく、ハンターの生態です。

ハンターとしての戦闘力は非常に高いマコノフ、しかし致命的な弱点があり・・・?



狩り友マコノフさんに出演いただいております。ありがとうございました!
そしてごめんなさい!




「ハンターにとって最も重要な事は何だと思う?」

 

「あははー・・・・何度目かな、この話のループ」

 

ドンドルマの大酒場の片隅で。

いつものハンター三人、スズナ、マコノフ、シュナは仲良く酔っ払っていた。

 

「そう、確実に獲物を仕留める事だ」

 

「うん。何が”そう”なのか分からないけどそうだよね。

 多分3回目のループあたりの会話がよぎって返事してくれてるんだろうね?」

 

しかし、既にシュナはテーブルにうつ伏せてスヤスヤと眠っている。

酔いのせいというよりも、面倒くさい話を始めたマコノフの相手を

スズナに押し付けてただ夢の中へ逃避しているように見える。

 

「そのために必要なのは何はともあれ”準備”だ」

 

「お、新しい切り口。次はどう展開してループしてくるのかしらね」

 

下戸のスズナは香りを楽しむ程度にブレスワインを舐めているだけで、

ほぼ素面のままマコノフの相手をしている。

マコノフのほうはというと、テーブルに肘を付き、顎を腕に乗せたまま

スズナのほうを見ているのか

つまみのルドロスの海綿炙り最後の一つを狙っているのか

良く分からない目つきで延々とハンター論を展開していた。

 

「その準備ってのは、やっぱり武器が一番大事なのかな?マコノフさん」

 

律儀に会話を進めるスズナは、ハンターの腕としては平凡。

街の闘技場でギルドも驚くタイムを次々と叩き出すマコノフに

狩りのコツを聞き出そうと、シュナも誘って酒場に入ったのだった。

 

「違う違う違う違う・・・・防具じゃない。スキルよりも大事なものがある」

 

「あ、もう聞いてないっぽいね。あたしも逃げちゃおうかな・・・・」

 

デザートのケーキを取りに、皿片手に席を立とうとするスズナの手を、

急になさけない顔になったマコノフが掴んだ。

 

「聞けよぉ~話をぉ~」

 

「あっはは~・・・・面倒くさいよお」

 

結局、店員を呼び寄せてケーキを注文して席に戻るスズナ。

 

「結局の所はよぉ~。武器とか防具とかアイテムとかじゃなくてよぉ~・・・・

 自分なんだよ」

 

「・・・・?」

 

今度こそ完全にテーブルに突っ伏して、

それでもタンジアビールだけは手を離さずにマコノフはうめいた。

この状態のマコノフの発言にも反応しようとするスズナの律儀さと包容力には、

普段からシュナも呆れ半分に舌を巻いていた。

 

「だからねぇ・・・・。モンスターの特徴、動きをちゃんと把握してるか?

 地形を理解してるかぁ?何よりだな・・・・」

 

 

 

「自分の状態を冷静に分析できなきゃダメなんだよ」

 

「あ、なんか言いたい事読めてきた」

 

ぴんと来るものがあって、スズナは急にマコノフに対して真面目に向き直った。

知っていたのだ。

 

(やっぱり、怖いんだろうな・・・・)

 

ドンドルマの闘技場で、知らぬものはいないタイムアタッカーであるマコノフが

ハンターズギルドでは無名の存在であるそのわけを。

 

 

 

「ギルドの判断は分かる。当然正しい。ハンター自身の自己管理も

 また必要な能力ってことはよぉ」

 

「・・・・うん、そうだね」

 

さっきまでとはうって変わって優しくも哀しい眼をマコノフに向けるスズナ。

彼には、ハンターとして致命的な弱点があったのだ。

闘技場ではその欠点を見せずに済むのだが。

 

「あなたほどの実力あるハンターになら、

 ギルドもちょっとくらい特別扱いしてくれても良さそうなものなのにね?」

 

自虐に走りそうになるマコノフを慰めようと、

うつぶせた頭に手を伸ばそうとして・・・・

スズナは手を引っ込めた。これ以上は侮辱になってしまう。

 

(なにより、まだマコノフさんは諦めていないものね。

だから明日狩りに同行してくれるわけだし)

 

「いいんだよぉ、ダメなのがギルドじゃなく俺なのは誰が見てもそうだぁ。

 それも分かってるぅ」

 

ろれつがどんどん怪しくなっているマコノフだが、

これは自虐ではなく冷静な自己判断だろう。

現状、どうしようもない。受け入れるしかない現実には間違いなく向き合えている。

それがハンターとしてのマコノフの最後の矜持だった。

 

「でもよぉ、モンスターは確実に仕留める。それまでの過程はどうあれ

 それだけは信じてくれよぉ」

 

捨てないで、と請い願うようにスズナにすがりつく。

 

「あはは、それは安心して。みんな信じてるよ」

 

マコノフの手をしっかり握り、スズナは満面の笑みを返した。

仮に、仕留める事が出来なくても見捨てる事はないだろう。

ハンターとしてではなく、友人としてそれだけの時を共に過ごしてきた。

 

 

 

「・・・・と、まぁこれで終わりならハンター同士の美しい友情、

 なんだけれど・・・・

 あはは~・・・・明日怖いよお」

 

完全に酔いつぶれ、寝てしまったマコノフの手を握ったまま、

しかしスズナは情けない弱音を吐き酒場の天井をうつろな眼で見上げていた。

怖いのはもちろん、明日受注する予定のクエスト。

内容はスズナの苦手とする金獅子の狩猟なのだが。

 

最も怖いのはモンスターではなく・・・・

 

 

 

 

 

 

「うおおぉぉおぉおおおえええええええええ!!!!」

 

スズナの肩を借りてベースキャンプへ直行した途端、マコノフは倒れこんだ。

 

「あ・・・・ボクの樽・・・・また旦那ですかニャ」

 

最早常連なのか。タル急便ニャン次郎のタルを奪うと、

恐ろしく慣れた手つきで蓋をブチ抜き

マコノフは昨日の酒場で摂取したモノを全てタルの中に吐き出した。

 

 

 

「うーん、相変わらずの吐きっぷりね」

 

クエストの事は一旦忘れて、のんびりベッドに腰掛けながら、スズナ。

前日呑み過ぎたわけではない。これが平常運転なのだ。

 

 

 

 

 

 

乗り物酔い。

 

しかも超ド級の何にでも酔う酷い体質なのである。

 

 

 

「おヴぇ・・・・飛行・・・・船・・・・うぉ・・・・

 怖い怖いぃぃぃぅぉうぇえええ」

 

街の中にある闘技場なら自分の足で行ける。

それ故の闘技場タイムアタッカーなのだが。

飛行船に乗るとこれだ。

 

 

 

「なんか・・・・スマンですニャ」

 

マコノフのオトモ、ネコノフが律儀に謝ってくる。

 

「あはは、大丈夫よマスター・ネコノフ。いつもの事」

 

「たぶん・・・・いつも通りニャらあと30分。動けるようになると思うニャ」

 

しかし、このまま平衡感覚が戻るまでベースキャンプから1歩も動けない。

 

「当然、ネコタクも無理なのよね」

 

「・・・・ですニャ」

 

一度モンスターにやられてしまったら最後。

ネコ達に救出されようともその担架に酔い、

今度はクエストタイムリミットが尽きるまで再び吐き続けるのだ。

 

 

 

「いやー・・・・平衡感覚が戻りさえすれば金獅子でも

 5分で沈めてくれるんだけどなぁ・・・・

 まぁそもそもこの状態からだと5分で沈めないと

 ハンターとして成り立たないもんね。

 凄いのは間違いないんだけれど・・・・」

 

マコノフの背中をさすりながら、前日同様うつろな眼で空を見上げるスズナ。

 

「あり・・・・がヴぇ!?おぇぇぇぇ・・・・アリガト」

 

まともに喋る事も出来ない状態のマコノフを見ながら、

スズナはハンター生活の過酷さを改めて噛み締めていた。

 

「モガの森、ジャンボの密林、ポッケの雪山、

 ユクモの渓流、シナトの天空山、か・・・・

 ハンターズギルドも手を広げすぎよね。あはは~・・・・移動大変だわあ」

 

 

 

 




なんか吐くお話が多い気がします。ごめんなさい。


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その6 ざんねんな いきもの

https://novel.syosetu.org/94618/
最後のハンター、第二章の挿入話。
チャチャブー、エスピナスとバルトの3人旅。
白い塔への道中、なにやらどうでも良い雑談をしているようです。

※今回のお話は、モンハンシリーズの中でもクロスの内容からとなります。
分からない方は是非にゃんたーを。(笑)


「なぁ、確認なんだが」

バルトは旅の相棒二匹に語りかけた。

 

『どうした』

こちらは、飛竜のエスピナス。

 

「カくにん、っテ?」

前をのんびり歩くのは、奇面族のチャチャブー。

こちらはエスピナスとは違い、

そこまで人間の言葉に慣れておらず

言葉の頭と語尾が妙に抑揚が上がる、

奇妙なしゃべり方だ。

 

どちらも、いわゆるモンスターだ。

それが人間のバルトと

コミュニケーションを取っている。

 

「えぇと・・・・お前達は・・・・」

 

『うむ?』

 

「長く生きてるんだよな」

 

『うむ』

 

「そんで人の言葉を話す?」

 

「ウン」

 

「関係あるか?」

 

『あるだろ』

 

「ニんげんの子供だっテ、

 セい長する間にシぜんに覚えるんでしョ」

 

うぅむ・・・・低くうなって黙るバルト。

説得されてしまった。

 

「でも、まぁ俺たち人間の常識からは

 完全に外れるくらい、長く生きてるんだよな?

 たまにしか出くわさない、人間の言葉も

 自然に覚えるほどに」

 

「ソーなるネ」

 

うぅむ・・・・再び黙るバルト。

しばらく考え込んでから、低く唸るような声を発した。

 

「・・・・モンスターってのは、

 皆そんなに長生きなのか?」

ふと立ち止まり、エスピナスとチャチャブーは

二匹似たような仕草で考え込むと、口々に話し始めた。

 

『種族による、のだろうとは思うがなぁ。

 古竜は名の通り、長く生きてるのが

 多い気がする、が。』

 

「イ外と、アプトノスが長生きして

 言葉話すの多いんだよネ」

 

「マジか!?」

 

『あぁ、ハンター達は大人しくしていれば

 狙わないしな。逆にアプケロスはあまり

 話せるほど長く生きてるのを私は知らんな』

 

「あぁ・・・・生肉でもホーミングのほうには

 殺意も沸くもんなぁ」

『そうかもしれんな。・・・・ホーミング?』

妙に納得出来る説がモンスター達当人の口から

出てきて、うなるバルト。

どうやら、モンスター達の長生きの秘訣は

"ハンターに殺されないこと"のようだ。

 

「他に死因とか無いのか?

 ハンターに狙われなくても長生き出来ない

 ヤツとかいるのか」

興味が湧いてきたのか、完全に歩くのをやめて

木の根に腰を下ろして、バルトは話の続きを

催促しだした。

 

「アー、同じ大人しい草食竜でモ、

 リモセトスは無理だよネェ・・・・」

 

「?リモセトスって、あの首が長いヤツか?

 なんで?俺もあんまりあいつ倒さないぞ」

 

『あやつら、首が長すぎてすぐ立ちくらみするのだ。

 貧血が酷くて長生きできん』

 

「マジか!?」

先程と全く同じ反応をするバルト。

首が長いと心臓のポンプとしての力が

余程強くない限り、心臓から遠い頭までは

血が巡らず貧血を起こしてしまうのだ。

 

「攻撃力が無いから、弱い。

 弱いから、長生き出来ない。

 と、一瞬思ったがそうでもないんだなぁ」

感心するように、大きく頷きながら

バルトはつぶやいた。

 

ふと、何か思い出したようにエスピナスが

首を持ち上げ、得意げな声を上げた。

 

『逆に、強いのに長生き出来ない、の代表格が

 ディアブロスだな』

 

「アぁ~!ソうネ」

 

ディアブロスあるあるなのか、

チャチャブーも同調する。

 

「そうなのか?早死にするようなタマには

 とても見えねぇが」

バルトひとり理解できず、疑問の声をあげるが

 

「ディアブロス、角も凄いケド。

 キバもぶっとーいのがあるでショ」

話を引き継いで、チャチャブー。

 

「あるな。どっちも怖いぜーあれ」

 

「アの牙、生きてる限りずっと、

 太く長くどんどん大きくなるンダ」

 

「うへ、より怖いな」

 

『で、太くなりすぎて口にモノが入らなくなる』

不意にエスピナスが横槍を入れてきた。

 

「・・・・ん?」

 

「ソ。タべ物が食べれなくなって餓死してるョ」

 

「えええぇぇぇ・・・・」

げんなりしたように、ガクッと首を落とすバルト。

今のは、ちょっと聞きたくなかった・・・・

 

『餓死といえば、ティガレックスだな』

 

「ワかりやすいよネ。モちろん、ババコンガもだョ」

たたみかけるエスピナスとチャチャブー。

呆けた顔で聞いているバルトは、

夢を壊された少年のようにも見えた。

 

「あ〜分かってきた〜なんか分かってきたぞ〜」

半分投げ槍になりながら、

バルトは立ち上がり、わめいた。

 

「アオアシラとか、無駄に長生きなんだろ!?」

 

『ほう、ご明察。理由は?』

 

「・・・・健康的」

 

「ぴンポーん。はチミツ効果だよね間違いなク」

全く嬉しくない正解者であるバルトは、

頭をかきむしると、ご長寿モンスター共に

人差し指を突きつけた。

 

 

 

「・・・・お前ら、しょーもないわ!!!」

 

 

 

『我々に言われてもな』

 

「はンターに言われたくも無いよネ。

 イ然として死因ナンバーワンなわけだシ」

 

 

 

ハンター、飛竜、奇面族という

奇妙この上無いパーティーは、

言い争いながら森の中を再び歩き始めた。




ちなみに、
リモセトスはキリン(心臓の強さ動物界ナンバー1)
ディアブロスはバビルサ(牙が弧を描いて伸び続け、しまいには頭に突き刺さり死亡する・・・・という説。)
の生態を知って思いつきました。
ディアブロス好きなハンターさん、ごめんなさい。


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その7 技術の進歩

「はー・・・・龍識船か。すげぇモン作るなぁ」

 

鼻声の男が1人、誰に語るでもなしに呟いていた。

その手には丁寧に刷られた雑誌。

ギルド発行の研究書ばかりだった書店に、

こういった娯楽ものの雑誌が並ぶようになったのは

ごくごく最近のこと。

しかしあっという間にその種類は増え、

店の軒先まで侵食するほどになった。

 

「技術の進歩って凄いねぇ。巨龍砲に撃龍槍かー」

 

ただし、娯楽といってもハンター達が扱う

ギルド最新式のマシンの紹介が一番の人気。

独り言を続けるこの鼻声の男も、ご多分に漏れず

男心をくすぐるロマン溢れる雑誌を買ってきたようだ。

 

「あー、龍識船は凄いですニャ。ボクもその雑誌買いましたニャ。

 良い写真撮ってるニャあ」

 

不意に、外から独り言に応える声があった。

男が乗っているのは、ガーグァ荷車だった。

ガーグァ、我々の世界で言うダチョウに似た鳥類だが

どんな進化の過程を経てきたのか、

とにかく肥えている。

上質な脂の乗った肉も人気の、丸鳥とも呼ばれる

この世界の親しみ深い家畜だ。

それに荷車を曳かせるガーグァ荷車は、

飛行船があたりまえに往航する世の中でも、

いまだに庶民の足だ。

 

 

 

「お、運転手さんもこれ買ってんのか。夢あるよなぁ」

 

荷車の幌の中で雑誌を読みふけっていた男は

機嫌を良くしたのか、這い出てきて御者の隣に座った。

 

「でもよぉ、ギルドのお偉方やハンター様はともかく」

 

ちら、と御者台の隅を気にしながら、男は

運転手のアイルーに語り続けた。相変わらずの鼻声だ。

アイルーもまた、ガーグァ以上に人間社会に

貢献してくれている、人間以外の種族。

大型の、直立する猫だ。

知能はほぼ人間に比肩するレベルで、

言葉は勿論道具も使い、ガーグァの運転手はある事情により、

ほぼ100%アイルーが務めている。

 

「俺ら庶民にはあんまり、その技術の進歩とやらが

 反映されてる実感、ねーんだよなぁ」

 

おや?というように、御者のアイルーが首を傾げた。

 

「庶民・・・・というのもおかしいと思いますニャ

 この雑誌はほとんど兵器の紹介ですニャ・・・・あ」

 

途中で何かを思い付いたのか、ポンと両手を叩く御者。

完全にガーグァの手綱を手放しているのだが・・・・

 

「食材なんかは、飛行船技術のおかげで各地の

 名産がどこでも食べれるようにニャってますニャ」

 

「おー、そういえばそうだなぁ

 ・・・・でも俺んとこの職場、食堂がいっつも

 幻獣チーズと黄金芋酒でよぉ・・・・栄養一番なのは

 分かるが、毎日はなぁ」

 

「酒とチーズって・・・・

 それハンター食じゃニャいですかニャ。

 そもそも食堂で酒て」

 

ポッケ村の伝統食の悪口を言っていると

岩でも踏んだか、荷車がガタンと大きく揺れた。

拍子に御者台の隅に積んであったモノが跳び跳ねる。

 

「うぉっと、と・・・・」

 

服に飛び散ってないか、念入りに調べる鼻声の男。

 

「うん。まぁ・・・・分かるよ?

街のレストラン行けばいつでも各地の名産食えるし、

こんな面白い雑誌が簡単に手に入るようになったし」

 

嫌々・・・・というわけでもなさそうに、

しかし奥歯にモノが挟まったような言い方をする男。

御者アイルーがキョトンとしていると、

男は観念したように、アイルーに向けて頭を下げながら、わめき始めた。

 

「運転手さんには申し訳ないけども。

このガーグァ荷車だけは何とかならんもんかなぁ!?」

 

「ニャニャニャ!?

 ニャーにをおっしゃる。ひと昔前までは

 町と町を行き来するだけで、ハンター数名と

 ガーグァ荷車とアプトノス車数台の大キャラバンで

 のそのそのそのそ動かないと、でしたニャ!」

 

どこからでも襲ってくる可能性のあるモンスターを

撃退しながらでないと、危なくて進めない。

先行して露払いをするハンターと、護衛ハンター。

次回のキャラバンのために残りを掃討するための後詰めハンター。

定期便のたびに大きな人数が動いていた。

 

それが、2年前からは技術革新により

ガーグァ荷車1台に、ニャンター経験のあるアイルーが

一匹乗れば安全に往来出来るようになった。

 

これこそ近年稀に見る大きな技術の進歩だが・・・・

 

「そこの・・・・御者台の隅に積んであるのは何だい、運転手さん」

 

さっきからのでこぼこ道で飛びはね放題の

ソレを指差す男。開き直ったからか、もう鼻声ではない。

 

 

 

「・・・・!あ・・・・あー。うん。ニャ・・・・」

 

御者のアイルーもようやく理解できたのか、

少し荷車の速度を落とし、咳払いした。

 

 

 

「肥やし玉ですニャ」

 

「うんこ積むなよ客車に!?うんこは無いよ!

 普通に臭いよって臭ぁ!?」

 

げほげほげほ、と咳き込む男。

鼻で息することを断固拒否していたのを忘れていたのか

鼻声をやめた途端臭いを思い出したのだろう。

 

「し、しかしコレのおかげで、大型モンスターからは

 逃げられるし、小型モンスターは撃退できるニャ!」

 

「分かってる!しかもあんた達ニャンターが

 ほとんどボランティアで荷車の御者をやってくれてるから、

 旅費めちゃめちゃ安いよ!?」

 

モンスターも嫌がり逃げ出す臭いを発する

肥やし玉をどっさり搭載した荷車。

御者はボランティア、ガーグァと車は行政がもつので

運賃はほぼタダ。

 

・・・・しかし、乗る方は鼻栓と服の着替えが必須、

というのが暗黙のルールとなっている。

 

「感謝はしてるけどよ!耐えきれんわこれは!」

 

要はこの男・・・・鼻栓を忘れたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ただいまーですニャ、ご主人」

 

御者アイルーが家に帰り着いたのは、まだ陽も落ちていない

穏やかな夕方だったが。

元気の無い声に、主人であるハンターは怪訝そうな声を返した。

 

「・・・・おかえり?ツミレ。どうかしたの?」

 

しっかり体毛を洗いはしたが、未だ肥やし玉の臭いが

残る御者アイルー、ツミレを躊躇なく抱き上げたのは

ハンターのスズナだった。

 

「ボランティアやって疲れたんだよね。

 お疲れ様。偉いよー」

 

比較的鼻の良いスズナ。臭くないはずは無いのだが、

そのままわしゃわしゃとツミレを撫でてやる。

 

 

 

「・・・・サポートゲージがゼロで使えるから

 投げ放題なんだニャ・・・・つい、投げちゃうニャ・・・・」

 

「分かってる分かってる♪でもクエストクリア後に

 仲間ハンターに投げたりしちゃダメだからね~?」

 

それでもボランティアで人のお役にも立ってるんだから!

と、スズナは誇らしげに高くツミレを持ち上げ、

オトモボードのツミレの欄を”修行”から”休憩”へと入れ替えた。

 




何でまたしても汚い話が思い浮かんでしまうんでしょうね?ごめんなさい。


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その8 うちどころの悪かったクマの話(前編)

狩り友のぱるぷんて☆はるさんに登場いただきました。
ありがとうございます!

うちどころが悪かったクマの話、という絵本がありますが、モンハン世界で同じことが起きると、多分こうなります。今回は前後編にわかれますが、それでも大した長さではないので、いつも通り狩りの合間に是非。


ガツン!!

 

渾身のハンマーが大きな音を響かせた。

 

「今ニャっ!!」

 

と同時に、音の反対方向から

ネコの甲高い声が上がった。

 

「うん!!」

 

ハンマーの主、女ハンターのハルもこれに続く。

 

のけぞって後ろへ地響きを立てて倒れ伏したのは、

アオアシラだった。

頭に大きなトサカを持ち、紅兜と呼ばれる強種だ。

 

「ニャニャニャニャニャ・・・・!!!」

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

爪のビーストコンボと、ハンマーの真溜めが

倒れたアオアシラに迫る。

最初の一撃が余程効いたのか、

完全に気絶してピクリとも動かない。

 

 

 

「ニャー!!」

 

最初に届いたのは、ハルの相棒、

オトモのパルの爪だった。

 

ザクッ・・・・

 

ビーストの鋭い爪が、ハンマーに狙われている頭を

避けてアオアシラの背中に突き立つ。

 

グオッ・・・・!

 

小さな刺激に起こされたのか、これまで少しの動きも

見せなかったアオアシラが飛び起きた。

がばっ・・・・と上体を起こし立ち上がり、直立する。

 

 

 

「ちっ・・・・、せいや!」

 

ボグッ!

 

一瞬遅れて、ハルのハンマー溜め攻撃が届いた。

狙った頭ではない事に小さく舌打ちしながら、

しかし力の解放を無理やり一瞬遅らせると、

のけぞったアオアシラの腹部に正確に当てた。

 

「浅いかっ!?」

 

とはいえ、狙った頭ではない。

急に直立したせいで届く高さでは

なくなってしまっていた。

怯ませられなかったので、

予想される反撃を転がる事で避け、

再びハンマーを構えたハル。

 

「・・・・?」

 

しかし反撃は来ず、攻撃目標であるアオアシラは

直立したままぼ~っとしている。

腹を強打したにも関わらず、

こちらに気付いてすらいないようだ。

 

 

 

(何故かスタンが一瞬で解けたし、

 そもそもスタンの最中

 ぴくりとも動かなかったし・・・・)

 

直立したアオアシラの周りを回り、

慎重に距離をはかりながら、

しかし果敢にもハンマーを構え力を溜め

ハルは状況を分析していた。

 

 

 

(とびきり特殊な、多分強力な固体と

 遭遇しちゃったみたいね・・・・!)

 

彼女らが闘っているのは紅兜アオアシラ。

発見から1年と経っていないにも関わらず、

発見事例、被害報告が爆発的に増えた新種だ。

凶暴そのもので、パワースピード共に高く

苛烈な攻撃をし続ける厄介なモンスター。

のはずだが先程ハンマーでスタンを取ってから、

様子がおかしい。

 

ぼ~っと直立したまま、ハンマーの溜め攻撃や

オトモの爪連撃をその腹に受け続けている。

 

 

 

・・・・グァ?

 

 

 

数秒間滅多打ちにされていたものの、

全く怯む事のなかったアオアシラ。

ようやく気が付いたのか、ハルのほうに向き直った。

 

「ご主人ッ!」

 

「分かってる!」

 

パルの警告の声に応えると、

ハルはアオアシラの視線を振り切るように

ローリングしハンマーを持ったまま動きを止めた。

 

グルルル・・・・

 

やはり、アオアシラはこちらを見続けている。

目の色から、怒り状態ではないのが見て取れるが

スタンする前とは違う、

何やら熱い視線のような気がする。

 

何にせよ。

 

(まともな固体ではない事は確か。

 今の棒立ちでかなりダメージは与えられているのも

 確かだから・・・・)

 

攻撃の手を一旦止め、ハルは冷静に状況を判断する。

 

(ここで深追いするのは賢明じゃない。

 休憩するだけの時間はさっきの

 ラッシュで稼いでるはず。

 ミスをけしてしない為にも、ここは様子を見る!)

 

「私が引き付ける!後ろから狙って!」

 

アオアシラの反対側にいる相棒に声を届かせる。

 

ニ゛ャアアアァァァァァ・・・・・!!!

 

言われるまでもなくそうするつもりだったのか、

ほぼ同時に雄叫びと爪の音が辺りに響き渡った。

 

 

 

グオ~ゥ・・・・グアッアウッ・・・・

 

しかし、切り刻まれている当のアオアシラはまったく動じていなかった。

お尻を斬られたい放題斬られているのに、

ハルから視線を外さずさらに

何やら語りかけるようにうめき声をあげ、

じりじり近づいてくる。

 

 

 

「な、何・・・・?」

 

アオアシラの異様な雰囲気に、後ずさりするハル。

敵背後からの爪攻撃は止んでいないものの、

正面のこちらからはいまだに

攻撃の糸口がつかめていない。

 

 

 

グォォ・・・・グァッ

 

 

 

「っ!?ご主人っ!」

 

パルの警告に身を委ねたのが幸いした。

先程まで穏やかに(?)ハルの方へ近づいてきていた

アオアシラが、突然攻撃に出たのだ。

予備動作無しで大きく踏み込み、

巨大な鉤爪の付いた両腕を左右同時に繰り出してきた。

相棒の声を聞いて考えるより先に

回避行動に出ていたハルは間一髪、

アオアシラの腕を逃れていた。

 

危うく逃れただけなのではあるが、

ローリングから起き上がったハルは

何故か嬉しそうにハンマーを構えなおした。

 

 

 

「ノーモーションの両腕攻撃・・・・

 見たこと無い行動だけど、

 でも攻撃してきてくれた方がやりやすいわよ。

 隙突きゃいいんだもん」

 

にやりと笑うハル。

しかし、アオアシラの向こう側から、

パルが慌てて走りよってきた。

 

「ダメにゃ、ご主人!こいつはヤバすぎる!

 逃げるにゃーっ!」

 

走ってきたそのままの勢いでハルの

首根っこに飛びつくと、構えを解かせて

しつこく同じ行動を繰り返すアオアシラに背を向けて、

自分の主人を引きずるように逃げ出した。

 



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その8 うちどころの悪かったクマの話(後編)

「なんで!?特別な固体だったかもしれないのに!」

 

大げさにもベースキャンプまでひきずられてから、

ようやく解放されたハルは、

パルを締め上げるように持ち上げて尋問していた。

 

 

 

「ニ゛・・・・ャ、ギブギブ・・・・

 あれは普通・・・・いやむしろ

 モロい個体だったはず・・・・ニャ・・・・」

 

真っ白な毛に覆われた上からでも分かるくらい

顔を真っ赤にし、窒息しそうになりながら、

懸命に説明しようとするパル。

 

 

 

「・・・・どゆこと?」

 

どさりとパルを地面に落とすと、

ハルは大きく首をかしげた。

 

「・・・・スタンした時ピクリとも動かなかったし、

 でもすぐ起き上がって棒立ち。

 その後の攻撃だって見たことない動きだったよ?」

 

シュタッ

 

首を思い切り締め上げられていた上に

そのまま地面に落とされたにもかかわらず、

パルは何事もなく元気に跳ね起きた。

お気に入りの、泡狐竜の毛で織られた白い和服を

ぱたぱたとはたくと、今度はこちらも

首をかしげながら話し始めた。

 

「多分・・・・ニャんだけど。

 アレはスタンじゃニャくて、

 ぼーっと突っ立ってた後のアレも、

 攻撃じゃニャかったんだニャ。」

 

「・・・・?」

 

全く理解できないハルに、

説明するのも難しそうなパル。

二人とも首をかしげていると・・・・

 

 

 

「へ・・・・?ウソでしょ!?」

 

 

 

グアッゴゴォッ

 

 

 

「ベ、ベースキャンプにまで!?」

 

アオアシラがこんな場所にまで追いかけてきていた。

本来、探索の拠点となるベースキャンプには

強力なモンスター避けの香水が撒かれている。

古竜の浄血と火竜の煌液を混ぜ合わせ、

さらに雷光虫から抽出した酵母の力により

何年も発酵・熟成させた貴重なもので、

大きな街の門等にも使われる。

老山龍や砦蟹などの超大型種を除けば、

古竜だろうが極限種だろうが、

当然二つ名持ちだろうがベースキャンプに

近付けるはずはないのだが。

 

グアッ

 

「ん!ちょっ、こんな狭いとこで!」

 

またもノーモーションで踏み込んでくるアオアシラを、

さすがに何度も見たからかハルは

多少の余裕を持ってかわす。

 

「ボクが抑えるニャ!ご主人は逃げるニャー!」

 

アオアシラの背中にかじりつき、勇敢にもパル。

 

(そういえば、パルはずっと

 狙われてないような・・・・?)

 

 

 

そんな疑問符を、ハルが上げている間にも

アオアシラはパルを無視して、

背中に乗せたまま走り出した。

その先には、当然ハルが。

思わずハンマーを構えたハルだが

 

 

 

(どうしよう・・・・!逃げたくはないけど!)

 

先程のパルの妙に混乱した説明の仕方が

どうしても頭から離れなかった。

 

 

 

ゴォォッグゥッ

 

ハンマーを溜めるか、構えを解くか

迷った一瞬の間に、迫り来るアオアシラ。

 

 

 

「逃げるニャー!こいつはマトモじゃニャいのニャ!」

 

ハッ!

 

パルの叫びから我に返ったハルは、

改めてハンマーを構えなおした。

攻撃のためではない。

恐ろしい勢いで繰り出されてきた、しかし何度も見て

タイミングを覚えたアオアシラの両爪に

自然前に突き出していたハンマーをそわせた。

衝撃を逃がすようにハンマーを手前へ、

身体はハンマーを起点に横に滑らせる。

いくつもの高等技術を一瞬の間に同時進行させる、

"イナシ"と呼ばれる防御テクニックだ。

 

 

 

「分からないよ、パル!ちゃんと説明してよ!」

 

辛うじて攻撃をかわしはしたが、

言われた通り逃げる決心まではつかず、

ハルは天を仰いでわめいた。

 

 

 

「ボクは、ほんのちょっとだけど、

 クマの言葉も分かるニャ!

 こいつは・・・・このアオアシラは・・・・」

 

いまだアオアシラの背中から落とされず、

わめき返すパル。

迷いは残っているようだが、アオアシラの行動の秘密を

なんとか伝えようと必死だ。

 

「ご主人を、攻撃しようとしてるわけじゃー

 ニャいんだニャ!」

 

「そんなわけあるかァッ!!」

 

やはり伝わらないようだが。

そんな不毛なやりとりをしている間にも、

アオアシラは幾度となく両腕を大きく広げ、

踏み込むと同時に両爪をつき出す行動を

繰り出してきていた。

スタンしてから、ずっとこの行動しかしていない。

同じ行動しかしないので、

余裕を持って避けることが出来るが、

ハルは気味が悪くて反撃できずにいた。

 

「ねぇ、パル!なんでコイツ

 同じ攻撃しかしてこないのよ!?」

 

イナシとローリングを使い分け、

アオアシラの爪をかいくぐりながら、

ハルは八つ当たりのように

苛立ちを含んだ質問をパルに投げ掛ける。

 

「だーかーら!それは攻撃じゃニャいの!」

 

アオアシラの背中に乗ったまま、

振り落とされもせず、もはや乗りこなして

いるかのように慣れた様子で、パル。

 

「ご主人を抱き締めようとしてるんだニャ!」

 

「それを攻撃と言うんでしょーがァッ!?」

 

また伝わらない。

いい加減苛立ってきたのか、ハルも次第に反撃し始めた。

両腕のつかみ攻撃をイナシを使わずローリングのみで避け、

細かくハンマーで殴りダメージを蓄積させる。

 

「っていうかさ、パル!

 正直もう慣れてきちゃって、

 逆に倒しやすいんだけど!

 あんたが妙な事わめいてるの

 だけが邪魔なのどうにかならない!?」

 

慣れるどころか、半分曲芸乗りのように

いろんなスタイルでアオアシラの背中の上で

ポーズを決めるパルに対して

ハルがついにキレた。

 

「倒す倒さないじゃーニャいんだってば!

 このアオアシラ、さっきのご主人のハンマーで

 頭のネジが2~3本ぶっ飛んで、おかしくニャってるの!」

 

ピーンと。

逆にハルのほうは頭のネジがいい具合にはまったように感じた。

 

「それって、もしかして・・・・今までの抱き締め攻撃・・・・」

 

今まで激高していたのも忘れ

アオアシラを殴ろうと、ふりかぶったハンマーがぴたりと止まる。

 

 

 

 

「求愛行動だニャ!」

 

「えええぇぇぇやっぱりぃ!?」

 

無理矢理緊急回避で距離をとるハル。壮絶に、引いている。

 

「どーやらご主人が超絶ナイスバディの

 アオアシラに見えてるようだニャ」

 

「ひいいいぃぃぃ!!」

 

「この背中に居ると、このアオアシラ

 結構臭いがキッツいのが分かるですニャー」

 

「イヤガラセでしょその情報ッッ!」

 

ひとしきり、妙に饒舌になったパルの解説を聞いた後。

 

尚も情熱的に迫ってくるアオアシラから大きく距離を取り、

ハルは構えていたハンマーを背中のホルダーに戻した。

 

 

 

「うん。リタイヤしようか、パル」

 

「それがいいニャ」

 

ようやくアオアシラの背中から飛び降りて、パルは主人の背に隠れた。

 

「最後に、ちょっと・・・・」

 

「ん?」

 

何を思ったか、再びハンマーを構えると

ハルは慎重にアオアシラとの距離をはかり始めた。

 

 

 

ガァッ

 

もう何度目か、数えるのも困難になってきていた

アオアシラの情熱のハグを難なくかわすと

 

「ここね。よ・・・・っと・・・・」

 

ハルはハンマーの柄の端を両手で掴み、大きく振り回し始めた。

 

 

 

グゥグゥ・・・・ガアァッ

 

当然、諦める事を知らない二つ名持ち、紅兜のアオアシラは

渾身のベアハッグでハルに迫る。

 

しかし、ギリギリ両腕が当たらない場所で

ハンマーを回していたハルは・・・・

 

 

 

「ほいっと」

 

 

 

ガツン!!!

 

 

 

今までで一番大きな音を立てて、渾身の一撃を

アオアシラの頭に立派に尖るトサカにお見舞いした。

 

ゴ・・・・オォ・・・・

 

さすがの紅兜も、再び目を回して後ろに倒れ、大の字に。

 

 

 

「見事にフラれたニャ。

 次はまともな同族に恋するんだニャー」

 

「ま、死にはしないでしょ。

 これで外れた頭のネジが戻ると良いんだけど」

 

 

 

さ、リタイヤするわよ、と。

パルの首根っこを掴み、迎えに来た飛行船に放り投げながら

 

(でも、あんなに一生懸命

 私にアプローチしてくる男って、人間では居るのかなぁ・・・・?)

 

と、内心とっても不安なハルだった。

 



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その9 ばつぐんの スタイル

今回もモンスターハンターダブルクロス以降の作品からのお話となります。"スタイル"という言葉が分からない方がいらっしゃいましたらすみません。そして是非クロス、ダブルクロスをやりましょう(笑)





モンスターハンターという職業は、言うまでも無くモンスターを狩る人のことを指す。

しかし、そのモンスターを狩る目的は、大きく二つに別れる。

一つは排除。危険なモンスターが街道に現れれば旅人の安全が脅かされる。超大型種であれば、街道どころか街を襲う事もある。種によっては恐ろしいウイルスをばら撒く可能性もあるため、街や街道に近づける事さえ防がなければならない。

もう一つの目的は、モンスターから採る事が出来る非常に有用な動物素材だ。建材や塗料、服飾品に道具作り、最近では加工技術と機械産業の進歩から、飛行船や巨大兵器の材料としても大量に消費される。

それらがなくても、ハンターが扱う武器、防具のほとんどがモンスターの素材を材料としているために、モンスターと闘うために他のモンスターの素材が必要、というなかなかに奇妙な矛盾の中、モンスターハンターという職業は存在している。

 

「フヒーッ、疲れたあ」

 

今、狩りを終えハンター集会所に戻ってきたのは、リリィという小さな竜人族の女の子。彼女は後者の、モンスター素材のために特化された非常に貴重な人材であった。

 

 

 

「あ、リリィー!」

 

集会酒場の反対側、入り口から目ざとく彼女を見つけ、大げさに手を振ってきたのは、スズナ。平凡な腕の、特筆する事の無い女ハンターだ。しいて言えば雇っているオトモアイルーの数が尋常でない。

 

料理が山盛り置かれているテーブルをばんばんと叩いてリリィを誘導すると、いつの間に用意したのか良く冷えた渓流天然水を差し出した。

 

「スズナ?兜かぶってんのに、よくあたしだって分かったね?」

 

「リリィだもん、一目で分かるわよ」

 

そのピンクバケツと体型じゃ、ね。

 

と心の中で舌を出すスズナ。桃色の真鍮製兜を外しても、リリィは身体をまるまる包むような大きな甲冑を着込んでおり、その体型を余計に際立たせていた。

このドンドルマの街は様々な文化、種族がごったがえしており、彼女はその中でも比較的珍しい種族、小型の竜人族だ。竜人族そのものはごくごく当たり前に居るが、リリィのような小柄な竜人種族は、オトモ猫斡旋業を取り仕切る「ネコ嬢」達少数の一族のみだ。

 

「お疲れ様。今日はどのクエスト行ってきたの?」

 

受け取ったコップの水を一気のみし、ひと息ついたリリィに優しく話しかけるスズナ。そう、リリィはその小柄な体格のハンデをものともせず、ハンターの道を選んだのだ。

スズナの胸あたりまでしかない身長で、見た目は子供そのもの。甲冑を着込めばまんまるのだんごにしか見えない。公共機関を子供料金で利用出来るくらいの利点しかない身体でハンターをやれるのは、それなりの理由があった。

 

 

「今日はリオレウス希少種。街の防衛に手薄な箇所が見つかったから、耐火塗料に煌炎の雫が必要なんだって」

 

火竜リオレウスから採れる煌炎の雫。特別にレアというわけではないが、G級ハンターでないと入手することは出来ず、しかし利用価値、頻度は高いためにどこの街でも、どんな凄腕ハンターでも、集めるのに苦労する素材である。それを、街の防壁の塗料に混ぜ混むということは・・・・

 

どん。

 

「・・・・わお。」

 

リリィが荷物袋から取り出したのは、彼女の小さな身長の半分ほどもある大きな瓶。中身は確かに、白く輝く煌炎の雫だ。その名の通り、ひとしずくあれば絶大な爆炎の恩恵を得られるものを、これだけ集めるのは通常では途方もない時間がかかる。

当然、多くのハンターがたむろしている集会酒場では、みなその価値を知っている。

 

「リ、リリィ?そーゆー凄いモノはあんまりおもてに出さないほうが・・・・」

 

慌ててスズナがしまうよう促すと、リリィも具合が悪いことに気が付いたのか周りの目を気にし始めた。

 

「っと・・・・うん、確かに」

 

すぐに、貴重な素材で満タンになっている瓶を荷物袋に押し込むが、酒場内はすでにざわついていた。

 

「・・・・見たか今の。」

「あぁ、あの子もしかして、ギルドナイトの・・・・」

 

そこかしこからこちらに向けて好奇の目が向けられるのを感じる。ついでにあまり聞きたくないささやきも聞こえる。

 

「うわー、またやっちゃったぁ」

 

「不用意よぉ、リリィぃ」

 

テーブルに突っ伏し、顔を隠すリリィ。

特定の素材を狙って集めることができる特別な能力。今回はリオレウスを倒した後、重殻や厚鱗を避けて煌炎の雫だけを狙って剥ぎ取ってきたらしい。やろうと思えば天鱗を5枚持ち帰ってくることも可能なのだとか。リリィはその力を買われて、その見た目も手伝ってかなりの有名人になっていた。

 

ネコ嬢に代表される彼女ら一族は基本的に目立ちたがりで、アイドル扱いされることもまんざらではないはずなのだが。リリィには大きな不満があった。

 

今も集会酒場のあちこちから聞こえる、ざわめきのような噂話だ。

 

「さすが、"抜群のスタイル"・・・・」

 

「うぅ・・・・」

 

頭を抱えさらに小さくなるリリィ。

 

「うらやましいスタイルだわ・・・・」

 

「やめて!」

 

今度は逆に天井を仰ぎ見て小さく叫ぶ。

 

「この幼児体型をスタイル良いとか単なる皮肉にしか聞こえないんだってば!!!」

 

「そ、その意味の"スタイル"じゃないんだけど・・・・」

 

冷や汗をかきながら、フォローにならないフォローをするスズナ。彼女の種族の特徴として、どうしても子供の容姿となってしまうのだが、それが丸い身体つきのアイルー達に囲まれるネコ嬢と、すらっとしたハンター達と共に行動するリリィとでは大きく意味が変わってくる。どうやら彼女は強いコンプレックスとなっているらしい。

 

「呼び方の問題ってだけじゃない、"ハギトリ スタイル"って!気にしないでよ、もう・・・・」

 

リリィ限定の狩猟スタイルではあるが、その特殊性、有用性からハンターズギルドに正式名称として登録されてしまった。その名前が気に食わないのだったが、巷ではすっかり"ばつぐんの スタイル"という、皮肉この上ない通称が定着してしまっている。

 

 

 

「うぅ・・・・だいいち、他のハンター達が悪いんだってば。あたしだけしか出来ないなんておかしいよ」

 

やさぐれるリリィをなんとかなだめすかして酒場を出ても、家までの道中スズナはずっと彼女の愚痴を聞き続ける羽目に会っていた。

 

「ああ・・・・ちゃんと理論あるらしいね。私たちには実行できないんだけれど・・・・」

 

相づちを打っても聞いているのだかいないのだかよく分からないトーンで、リリィはぶつぶつと続けた。

 

「そりゃあ、翼から剥ぎ取れば翼爪が出るって。喉元探れば逆鱗探し当てるのなんて誰でも出来るはずなのに。光ってりゃ天鱗に決まってるでしょ、レアでもなんでもないって」

 

「ああ・・・・物欲センサーに全力でケンカ売ってるわこの娘・・・・」

 

仲の良い友人、といえど全てを共感してあげられるわけではない。無力感、とちょっぴり憐憫の気持ちでもってリリィの頭を撫でてやるススナ。

 

「ちなみに、煌炎の雫はレウスのどこから採れるの?」

 

気を紛らわしてあげようと、歩きながら質問すると、意外にもリリィは頭を持ち上げてしっかりと応えた。

 

「鼻腔のすぐ上あたりのあるのよ。口の中に潜り込んで切り上げることになるから、さすがにあれだけは身体が小さいあたしじゃないとあの量を採ってくるのは無理なんだけど・・・・」

 

「へええ・・・・」

 

急に瞳に強い光が宿ったスズナ。興味を持ったらしい。自分にもハギトリ スタイルがあれば・・・・と考えるのはハンターなら誰しも思うこと。今日はそのチャンスかもしれない。

 

「じゃあ、ええと・・・・金獅子の闘魂はどこから剥ぎ取ればいいの?」

 

「顎」

 

「アゴ?」

 

「そ。闘魂はしゃくれたアゴが持っているものでしょ」

 

急に理論が分からなくなった。

 

「じ、じゃあ・・・・アルバトリオンの天をつらぬく角は?」

 

「あれこそ簡単よ。天をつらぬいてる、つまり上を向いてる角の先っちょだけ切り落とせばいいんだもん」

 

「わお簡単」

 

部分的にでも活用できるかもしれない。そんな考えが、ふとスズナの頭をよぎったが。

 

(・・・・待てよ。以前この娘変なこと言ってたような)

 

何故か不安で不確かな記憶がよみがえってきた。確かあれは・・・・

 

 

 

「リリィ。前に聞いたかもしれないけど・・・・宝玉はどこで剥ぎ取ればいいんだっけ?」

 

 

 

リリィはこともなげに言い放った。

 

「股間」

 

「・・・・コカン?」

 

 

 

「ちゃんと股間で剥ぎ取れば、玉2個採れるよ」

 

「それじゃまるで痴女じゃないの・・・・」

 

 

 

いろんな意味で普通ではない友人を、うらやましく思ったり思わなかったり。スズナも、リリィと同じくがっくりと肩を落としながら、ピンクバケツをリリィの頭にがっぽりとはめ込んで大きく溜め息をついた。

 

 




急に下ネタになってしまってごめんなさい。どうして毎度毎度品の無い話になってしまうのやら・・・・。

ちなみに、当初リリィはネコ嬢2人の妹という設定を考えていましたが、その設定はボツとしました。何故なら・・・・

姉のカティはともかく、「ミル姉さん」とか呼ぶことになると色々イメージ上の問題が発生してしまうからです。

このネタが分かる人はおおよその年齢が分かってしまいますね。


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その10 環境生物の生態

今回はモンスターハンターの新作、ワールドから新大陸のお話です。やはり面白いですねーモンハン。


現場には、いくつも手がかりが残されていた。

 

まず、被害者。

 

「・・・・にゃふ・・・・・・・・」

 

オトモ猫のジール。ふわっふわの爛輝龍の毛皮に身を包んだこの猫は、以前から十分な経験を積んだ歴戦の強者だったが、新大陸に降りたってからはさらに強靭さを増し、不死身かとも思えるタフネスぶりを発揮していた。

 

そんな頑丈折り紙つきのジールが今、短い前肢を精一杯伸ばして自分の後頭部を押さえうずくまっている。いやもうほとんど倒れている。よほどの打撃だったようだ。

倒れていたのはジールの主人、デル・フィーニウムのマイルーム。平和なはずの自宅で被害者を襲った凶器は、そのすぐ近くに落ちていた。

 

「・・・・弾?・・・・ですニャ」

 

拳大の丸い塊。よく整理されたマイルームの片隅で、ジールとこの塊。位置関係から考えて、この弾(?)がジールの巨大なタンコブを作り上げた元凶であることは間違いない。

 

「ふむ。これは事件、ですかニャ。」

 

一生懸命ダンディーを気取るため、どこから取り出したのか火の点いていないパイプを咥えネコノフは呟いた。

 

彼こそはオトモ界に広く知られた(という彼の脳内設定の)名探偵、マスター・ネコノフなのだ。主人の友人のマイルームに遊びに来たところ、この現場に出くわした。

 

「では犯人は誰ですかニャ、マスター?」

 

ネコノフの後ろから声を上げたのは、共に遊びに来ていたオトモ猫のハクビ。器用にもネコノフの脳内設定に同調し、名探偵のアシスタント役を演じ始めた。

彼らオトモ猫はこのような"ごっこ遊び"をよく好む。突然の展開にも即座に反応し自然と寸劇が始まるのだが。

 

「ニャ・・・・良いから・・・・助けて欲しいニャ・・・・」

 

基本的には空気を読まない。今回も倒れたままのジールは放置でそれ以外の現場を検証しはじめた。

 

「ハクビめが考えますに、またジールのヤツが何かやらかして、ご主人のデル・フィーニウム氏にド突かれたと考えるのが自然ではニャいかと」

 

一本指を立てて、あくまでも軽薄そうにハクビ。対してネコノフは、重々しい雰囲気を出そうとゆっくりと首をめぐらせて、マイルーム全体を観察していた。

 

「いやいや、よく観察してみたまえハクビ君。デル氏は確かにボウガンも使うが、この装備架台に立て掛けてあるのはチャージアックス。凶器と見られるこの弾がデル氏から放たれた可能性は低いニ・・・・低いな」

 

頑張って語尾のニャを消そうとしているネコノフ。ハクビは軽薄なキャラのままに大袈裟に頷き、マイルーム内を観察しはじめた。

 

「おぉ、さすがはマスター・ネコノフ。しかし他に犯人といえば、マイルームには・・・・ミチビキウサギと、ドス白金魚と、フワフワクイナ。ユラユラに、ツチノコもいるんですニャあ」

 

「オトモ道具は壷爆弾、だニ・・・・だな」

 

名推理を始める(つもりの)ネコノフは、ベッドから扉前、暖炉前、池とゆっくり観察しながら歩き・・・・

 

そして、ユラユラの前でぴたりと止まった。

 

「ニャ・・・・なんだか、このあたり涼しくニャいか?」

 

ユラユラは、ぱっと見は花のような形のヘビの一種である。茎ともいえる細長いボディが地面から伸びており、頭には花びらのようなヒレが四方に広がり、風になびくように前後左右にゆらゆらゆらゆらと揺れる。庭や壷に活けて楽しむ、人気の環境生物だ。

そのユラユラのまわりが、明らかに他と比べ冷えている。よく見るとユラユラの口から白い冷気が出ているではないか。

 

「こ、これは・・・・!?」

 

相変わらず頭を押さえてうずくまっているジールを無視して、ネコノフ達が驚いていると。

 

「どうだーネコノフ。ユラユラクーラー凄いだろー」

 

いつの間にか部屋に戻ってきていた部屋の主が、なんとも緊張感のない声をかけてきた。

 

「デ・・・・デルさん!?ユラユラクーラーってなんなのニャ!?」

 

「いやそれよかジールが倒れてるのニャ!犯人は!?」

 

ネコノフとハクビが口々にまくし立てるなか、倒れているジールの主人であり、ハンターであるデル・フィーニウムは架台に立て掛けてあるチャージアックスを手に取り、なおも緊張感のない声をジールに向けた。

 

「あー、またやったねジール。気を付けてって言ってるでしょうに」

 

「ご、ご主人・・・・アレ早く片付けて欲しいニャ・・・・」

 

ピクピクと、細かく震えながら主人に訴えるジール。どうやら被害者自身が犯人を分かっているようだ。

 

「アレってニャに!?というかユラユラクーラーもなんか気になるニャ!!」

 

さらに興奮するネコノフとハクビに対して、デルはなおも朗らかに返す。

 

「レイギエナと一緒に捕まえたからさー、風漂竜の冷気を体内にたっぷり取り込んだみたいだよ」

 

「!ニャんですかその生態!?」

 

「別の日に、色ちがいのレアなユラユラクイーンも捕まえたんだけど。近くに居たオドガロンに裂傷状態にされてたみたいで、冷気のかわりにたまに血を吐くんだよねー」

 

「!?ニャにそれ怖いッ」

 

「昨日部屋を掃除したから今は居ないけど、カッパーカラッパを置いとくとゴミをカッパラってってくれるから便利だよー」

 

「ニャんて使い道をっ!?」

 

デルの言葉にネコノフ、ハクビが交互に叫んでいると、例によって緊張感なくネコノフの背後を指差し、デルが警告を発した。

 

「あーネコノフ。そこ、後ろ危ないよー」

 

「へ?」

 

 

 

ヒュゴゥッッ!

 

 

 

ネコノフが振り向いたすぐ横を、何かが凄まじい勢いで通りすぎた。

 

「た・・・・たたた弾・・・・ほ、砲弾・・・・」

 

ネコノフが総毛立っている隣で、ハクビが呆けている。ころころころ、と転がって戻ってきたのは、先ほどジールが倒れていた場所で見付けたのと同じ弾だった。

 

「お、僕の声で助かったねー」

 

変わらぬ声音でデル。無責任である。

 

砲弾が飛んできた先へ視線をやると、その先には。

 

 

 

ツチノコがいた。

 

 

 

平べったい身体を持ち上げて、尻尾だけで器用に立ち上がっていた。口を大きく開けてこちらを向いている。つまり、あの砲弾は・・・・

 

 

 

「マム・タロトの黄金洞窟で見付けたんだよ。設置武器の大砲のそばにいたから・・・・」

 

デルの声は、最後まで能天気だった。

 

 

 

「大砲の生態身に付けて口から砲弾出すようになったみたいだねーそのツチノコ」

 

「ンなバカな生態あるかぁッッッ!!!」

 

大きなたんこぶを頭から生やしたまま、倒れていたジールまで起き上がり、オトモ三匹はこの日一番の叫び声をあげた。

 




ちなみにレイギエナは氷属性攻撃を持つ飛竜。オドガロンは裂傷状態にする攻撃をしてきます。裂傷状態になると出血が止まらず、動く度に体力が減る状態異常です。マム・タロトを相手にした時は通り道に大砲を設置して闘う、ラオシャンロンのような戦い方でした。

モンスターハンターでは、過去作でもモンスターとハンターが必死に戦っている横で、亀やフンコロガシがのんびり歩き回っていたりしていました。G級モンスターに襲われながらフンコロガシの観察に夢中になり、オトモのオモチやマツリに怒られたものです。
ワールドでは、そんなモンスター以外の生物を投網で捕獲した場合、マイルームに住まわせる事が出来るのです。可愛かったり気持ち悪かったり、色々いますよ。


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その11 爛輝龍のバリエーション

またもモンハンワールドからのお話です。
爛輝龍マム・タロトが実装されて、このお話を思い付いたのに、書き始める前にもう次の新モンスターが実装されてしまいました。どんどんアップデートされていって楽しいですねー。

そして今回は珍しく一人称視点で書いております。新たな試み、どうなるでしょうか。


―――新大陸にやって来るような人は、皆天才か変人か、もしくはその両方か、だ。

 

確か、同期の誰かがそんな事を言っていた。はじめは失敬な奴だなと思っていたけれど・・・・

 

最近、本当にここの奴らは全員変人なんじゃないかと思えてきた。残念ながら、俺も変人なんだと思う。

その理由、というかそう思うに至った原因となるモノは、そこかしこに転がっていた。

 

「いやー、良い気分ですニャ。これひとカタマリあるだけで、クニじゃあ大金持ちですニャー」

 

足元から呑気な声が聞こえる。オトモ猫のネコノフだ。

俺の名前、マコノフにちなんで付けた名だが、猫界ではマスター・ネコノフとして俺より有名になっているらしい。

そんな小憎らしいネコノフが、短い後肢を精一杯伸ばして組んで、偉そうに座っているのは、良い感じに椅子のような形になった・・・・

 

 

 

金塊だった。

 

 

 

爛輝龍(らんきりゅう)マム・タロト。

完全新種のそのモンスターは、全身に金塊をひっつけて歩き回るという、なんとも奇妙な生態をもっていた。大勢のハンターに襲われながらも、マム・タロトは身体中に(まと)った金塊をばらばらと落っことしながら逃げ続け、ついには姿を完全にくらました。

 

その結果、マム・タロトを発見し戦場となった巨大な洞窟には、奴が集めたであろう金塊で埋め尽くされていた。ネコノフの言うとおり、持ち帰れば大金持ち間違いなし。

 

「・・・・なのに、何で誰もコレ持って新大陸から出てこうとしないんだ?」

 

思わず、俺は最近疑問に思っていたことを口に出してしまった。足元からオトモの怪訝そうな視線を感じる。

 

「あー・・・・いや、何でもねえ」

 

適当に誤魔化すと、俺は歩いて洞窟を出た。

 

戻るのは調査拠点、アステラ。

この広大な新大陸に進出しているのは、俺たち新大陸調査団だけだ。当然一般人は含まれておらず、生物と地形の研究者と、拠点建築や武具作成のための技術者、そしてモンスター達の生態調査を実地で行うハンター、それだけで構成されている。

欲にまみれていない連中とはいえ、この金塊に心奪われるものが居ないというのは若干不自然な気がする。

 

「・・・・いや、待てよ?物資流通班の連中は元商人が多いはずだよな」

 

「ですニャ。あの金塊を売り飛ばして億万長者!をやろうとしニャい理由があるなら、彼らに聞いてみると良いかも知れニャいニャ」

 

俺の独り言に、小賢しく付け加えるネコノフ。

彼らオトモ猫は本来足はかなり速いのだが、速度調整が下手なため、ネコノフは走ったり歩いたりわたわたしながら俺についてきている。少しだけ、前に出るとこちらを振り向き、首を傾げながら余計な一言を発した。

 

「・・・・たまには翼竜に乗ってアステラに帰らニャい?ご主人」

 

「酔うんだよ、あれ」

 

しょんぼりとなったネコノフを尻目に、俺はマイペースに調査拠点へと歩を進めた。

 

 

 

「あぁら、マム・タロトの金塊のこと?そりゃあ、あなたたちが一番良く分かってるんだと思っていたけれど」

 

アステラに帰って一番に会いに行った物資班の女リーダーは、逆に意外そうな顔で質問に答えてくれた。調査団メンバーしか住んでいないとはいえ、かなりの人数になる。これらが生活するにはこの調査拠点アステラにも流通という概念が必要になってくる。それを担当しているのが、今俺の目の前にいる物資班のメンバーだ。

 

「そもそも、あなたたち本土に帰ればいつだって英雄でしょ?金塊なんていまさらなんじゃないの?」

 

ウェーブのかかった黒髪を伸ばした頭を傾げて、リーダーは質問を返してきた。

 

まぁ、その通りだ。自分で言うのもなんだが、英雄となった今、金塊があろうがなかろうが新大陸から帰れば豊かな余生を過ごせることは間違いない。でもそんな刺激のない生活が嫌というのもあって、俺や他の調査団メンバーはここに残っているわけだが。

 

「あんたたちはどうなんだ?商売人として心が揺れ動いたりはしなかったのか?」

 

そう問いかけると、褐色の肌の美人リーダーはからからと笑いながらいつも通り軽く答えた。

 

「あはは、無理無理。あれだけの量、持ち帰っちゃったら金相場ぐっちゃぐちゃよ?最悪そのスジの人達に消されるわ。」

 

クイッ、と自分の首を掻き切る仕草をする物資班リーダー。こっそり少量持ち帰るならともかく、と付け加えてから

 

「多分、帰還船の積み荷を申請する時に規制がかかるわ。流通って、繊細なのよ」

 

なるほど。金があれば簡単に即金持ち、というわけでもないんだな。俺が一人で納得していると、物資班リーダーは急に声のトーンを低くして話し始めた。

 

「そもそも、アレ黄鉄鉱かもしれないしね。金に良く似た金属で、愚者の黄金って呼ばれてるんだって。ここには専門家がいないから鑑定できないのよ。」

 

なんてこった。便宜上アレを金と呼んでいたが、本当に金なのかどうかも分からんのか。

 

「あ、でもそういえば、マム・タロトって個体ごとに纏う金属が違うって、生態研究所のおじいちゃんが言ってたわよ。金なのかどうかもそうだけど、より希少なお金持ち間違いなしのモノ纏ったりする可能性もあるんじゃない?話聞いてみたらどうかしら」

 

金持ちになりたくて話を聞きに来たわけではないんだが・・・・。まぁいい、少し面白くなってきたので、俺は言われた通り生態研究所の竜人じいちゃんに会いに行くことにした。

 

 

 

「おう、おう。興味を持ってくれたんか、きみ」

 

生態研究所は、いつも通り本が山積みになっていて、その中央に竜人、耳が尖り肌にウロコが混じる長寿の種族だ、の老人が座っていた。常に本を読み、または書きモンスター達の生態を研究、記録することに情熱を注ぐ、これもまた一種の変人だ。

 

「まぁ、マム・タロトが纏っていたモノが金だったかどうかはもうどうでもいいんだが。他のモノを纏う可能性もあるんだって?」

 

俺が問いかけても、じいちゃんはほとんど本から目を離さない。いつも通りとはいえ、ちゃんとこっちの話を聞いていたのかどうか不安になるね。

そして、返答も本に対して話しかけているようにも思えてなんとも聞きにくい。

 

「そうやな。アレの素材を皆に採ってきてもらって見たけど、金と融合してるわけやない。掴むような構造にもなってない。ただただ、"着てる"ような繋がりや。キリンが雷を呼ぶように、クシャルダオラが嵐を呼び風を巻くように、古龍特有の解析できん特別な力で引き寄せてるんや」

 

淡々と語っているようで、じいちゃんの目は爛々と輝き、身体も小刻みに震えていた。研究者にとっては別の意味で興奮するモンスターだったんだな。

 

じいちゃんの、少し変わった言葉による熱弁はまだまだ続く。

 

「はっきり言って、アレが金を纏っていた理由はよう分からん。でも、少なくとも言えることは、あの洞窟の黄金はマム・タロトが集めたもんや」

 

「やはりか・・・・。黄鉄鉱だか黄金だか分からないが、あれだけ単色でごろごろ塊が固まってるっておかしいもんな」

 

俺が横槍を入れると、じいちゃんは本の向こうで大きく頷いた。お、ちゃんと聞いてくれてたんだな。

 

「そうや。金脈といっても普通は採れるのは砂金や。あんな塊はマム・タロトが特別な力で引き寄せて精練してるとしか考えられん。当然、磁力なんて力でもない。そして・・・・」

 

じいちゃんは一旦言葉を切ると、はじめて本から目をはずし俺を見た。

 

「その力は、金でなくても作用する可能性が示されとる。今回は金だったからきみ、まだ楽なほうや」

 

「鉄だった可能性もやっぱりあるか?」

 

「そうや。硬くて刃が通らんかったやろうな。金属に限らん。ダイヤモンドを纏っていた可能性もあるんやで。もっと硬くて大変や。もっとも、その場合はもし採取できたらそれこそ大金持ちになれたろうけどな」

 

なるほど。物資班リーダーが言ってたのはこのことか。でも、金属に限らんということは・・・・

 

俺の頭の中で生まれた疑問が見て取れたように、再び本に目を戻した竜人じいちゃんはぶつぶつと続けた。

 

「イメージが広がったか。昔、撃龍槍を身に付けた古龍もいたそうやな。兵器を纏ったマム・タロトもありうるんや」

 

うへぇ、恐ろしい。

 

「金属でも別の恐ろしいものもあるんやで。金を精練して纏っていたことから、ある程度金属の状態を操っている可能性があるわけやし・・・・」

 

「水銀纏いのマム・タロトもありうるんや。猛毒やで。下手すりゃ子孫まで影響してまう」

 

液状のものを纏う。若干飛躍してる気がしないでもないが、可能性としては考えておいて損はない、な。

鉛纏いも似たような毒性が考えられるな。その場合の武器防具は柔らかくて使い物にならないだろうが・・・・

 

「専門外の友人に聞いたことあるんやが、プルトニなんとかゆう物質はもっともヤバいらしいんや。放射性物質とかいうらしくてな、新大陸から完全撤退せないかんくなるらしい」

 

・・・・さすがにそんなもん纏ってたらマム・タロト自身が先に死ぬんじゃないか?

 

「あとは毛やら骨やら、生物由来の物質纏いやな。似たようなもん纏ってるモンスターもいるから大概は大丈夫やろうけれど、粘液纏いとか厄介やろな。足はとられるわ刃に付着したら切れ味も落ちるで」

 

なんだか無駄にアイデアが湧き出てきてるぞこのじいちゃん。そろそろ話聞くの面倒になってきた。

 

「オモチ纏いとかきたらヤバいで。熱々のオモチが顔にでもついたら大火傷や。しかも冷えたらあほほど硬なるで」

 

待て待て待て。

 

「納豆纏いはどないしようか。新大陸のモンスターは今まで悪臭やられを仕掛けてくるモンスターおらんかったから消臭玉を開発せんと、回復薬飲めんくなるで」

 

おいおいおいおい。

 

「そういえば硬い物質でもう一個思い出したわ。あずきバー纏いになったら、これもまた金属並の硬さになるらしいで。温度に左右されるらしいから、あずきバー纏いに対しては火属性武器が効くやろな」

 

いやもうなんだよあずきバーって。

 

 

 

「・・・・」

 

俺の冷たい視線にようやく気がついたのか、独白を続けていた竜人じいちゃんがようやく一息ついた。

 

「まあ。ぼくが何を言いたいかというとやな」

 

 

 

次に出てくる言葉が何となく予想できて、俺は待たずに腰を上げた。立ち去ろうとする前に、特に期待していなかったが予想通りの言葉がじいちゃんから発せられた。

 

 

 

「無事に帰ってくるんやで、きみ」

 

「やかましいわ」

 

金塊かっぱらって帰ろうかな・・・・やけくそに適当な強奪プランと、規制抜けの方法を頭に浮かべながら、俺は八つ当たりしに闘技場のほうへ足を向けていた。



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その12 相棒は一匹だけ

今回もモンハンワールドからです。
湯たぽんがシリーズ中もっともハマっているワールドですが、不満な点もあります。その原因は・・・・


拝啓、スズナ姉さん

元気しているだろうか。

今まで便りを出さずに心配をかけたかもしれない、ごめん。

 

姉さんからオトモのオモチを預かって僕が新大陸行きの船に乗り、もうすぐ半年が経つ。姉さんも新大陸に呼べないかと、色々模索をしていたけれど。

結局は無理なようだ。僕一人の力ではどうしようもないことが分かり、こうしてギブアップの手紙を書いている。

 

オモチは、一応元気。オモチとムァ、マスター・ネコノフまでが新大陸の耐性適性試験に合格した時は驚いたけれど、調査拠点の皆に可愛がられて意外とここの生活を楽しんでいるみたい。

 

でも、どうしても"あれ"が見つからない。ということは、試験をパスできなかったオトモ達、マツリやナダレは確かに新大陸で戦うのは無理だろう。オモチも新大陸耐性適性といえど、いつ発作が起きるか心配ではある・・・・

 

環境調査、栽培、錬金術。あらゆる手段を講じて調べてはいるけれど、今のところはお手上げ状態。今はオトモアイルーによく似た種族、テトルーにも着目している。でも、いかんせん直接対話が出来ないのが痛くて、なかなか進んでいない。

 

とはいえ、新大陸はまだまだ未知の土地がある。調査を進めていけば、いずれマツリ達に必要な"あれ"は必ず手に入ると思う。

 

まだ時間はかかるけれど、いつか必ず姉さんとオトモ達を最高のおもてなしで、新大陸に迎えるよ。

それまで、どうかお元気で

 

 

 

「・・・・だってさ」

 

弟、ユタからの手紙を読み終えて、スズナはふぅと一息つくと、急に座っていたソファーにごろんと寝転んだ。

 

「あー私も新大陸行こうかなー。」

 

すると、すぐ近くでえぇー、という不満の声が小さく上がった。オモチが新大陸に渡ったことで、筆頭オトモとなったマツリだ。

 

「でも、このウチのオトモで新大陸耐性適性があったのはオモチだけだったらしいですニャ。ボクも新大陸で色んニャモンスター見てみたいけれど・・・・」

 

「そーなのよね。意外とあんた達新大陸にワクワクしてたの見誤ってたわ」

 

ソファーに寝転がった状態で手を伸ばし、器用にマツリの喉をくすぐるスズナ。

 

「ニャ・・・・ニャふ・・・・で、でもオモチはボクらの中でも特に"あれ"が好きだったから、意外でしたニャ」

 

「や。ホントはオモチ以外にも何匹かは適性あったのよ。でもオモチを試すために、他にユタを助けてあげられるオトモが居ないのよ。どうする?って言ったら二つ返事で行きますニャ、ってさ」

 

「まぁ、ボク達アイルーの好奇心は人間のそれより強いですニャ。オモチの気持ちはよーく分かりますニャ」

 

「じゃあ、マツリあんたも行く?まだ"あれ"見つかってないけれど」

 

「微妙なとこですニャ」

 

「素直ね」

 

微笑すると、スズナは腰に付けたポーチから小さな粒を取り出した。そのままマツリのほうへ放ってやる。

 

「ほれ、"あれ"だよー」

 

「ニャー!!!」

 

放るやいなや、マツリが飛び付く。野生に戻ったかのように全身をばたつかせ、スズナが放った粒に襲いかかった。

 

「ニャー・・・・ニャふ・・・・ニャふふん♪」

 

かと思いきや、酔っ払ったかのようにその場にだらしなく倒れ、ぐにゃぐにゃと身体をよじらせている。

 

 

 

「あんた達ホント"マタタビ"好きよねー。オモチもマタタビ爆弾大量に錬金して、マタタビ充満パーティーするのが夢とか言ってたし」

 

新大陸では未だ確認されていないマタタビ。何故か栽培も出来ないので、マタタビ大好きなアイルー達は、冒険心の特に強い筆頭オトモを除いて新大陸へ渡るのをためらっているのだった。マタタビ中毒になっていないかという、新大陸耐性適性テストを受けてからでないと危険ですらある。

 

 

 

「マタタビがニャいのは残念だけれど、新大陸の新技術は凄いらしいニャ。ぶんどり刀とか欲しいニャー」

 

「そっか、マツリあんたコレクトタイプだもんね。オトモ専用の楽器とかあるらしいわよ。気絶無効とか会心強化とかの旋律が使えるんだって」

 

「うニャー・・・・♪」

 

 

 

ユタのマタタビ発見が先か、姉とマツリを新大陸に迎え入れるのが先か。どうやら、そちらのほうも微妙そうである。




原因はどうあれ、早くサブオトモやニャンターなどのシステムを解放して欲しいものです。カプコンさん、頼みます


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その13 祭とハッピとハッカ飴

モンスターハンターワールドより。モンスターハンターワールドではオトモが一匹しか連れていけないので、湯たぽんが雇っていたオトモの大部分がベルナ村に取り残されてしまいました。
そんな中、新大陸調査拠点アステラではアステラ祭が開催。ベルナ村で暇しているオトモのハッピとハッカの兄弟は・・・・

オトモの表情を想像しながらお楽しみください。


「兄ちゃん!新大陸ニャあ、アステラ祭とかいうのがあるらしいニャ!」

 

双子の弟、ハッピが喚きたてるのを、兄であるハッカは冷めた面持ちで聞いていた。

 

「祭といっても、アステラは調査拠点だニャ。そんニャ浮かれたイベントやるもんか。せいぜいボウガンの火薬を使って花火打つとかじゃーニャいかニャ」

 

このオトモ猫の兄弟、同じ空色の毛で耳も同じ丸耳、丸尻尾も同じで眼もそっくり。ただしハッカは右目が赤、左目が青なのに対して、ハッピは逆。そのくらいしか見た目の違いが無い兄弟がちゃんと見分けがつくのが、このテンションの違いのためである。

 

「うんニャ!絶対に花飾りとかオブジェ作ったりとか!セーダイに飾り付けするんだニャ!あとはお祭りのご馳走も!オモチセンパイからの手紙に書いてあるニャ、間違いニャい!」

 

新大陸から届いた、オモチのサイン(肉球スタンプ)が書かれた封筒を振り回し、なおも興奮しながらハッピが喚く。名前(法被(ハッピ))の通り、とにかくお祭り好きなオトモ猫なのだ。

 

「・・・・どこまでがオモチ君からの手紙の内容で、どこからがお前の妄想ニャんだろうな。ちょっと読ませてみろよ」

 

対して、どこまでも冷静なハッカ。名前の通りミント(和名:薄荷(ハッカ))のようにクールなのだ。

そんな兄が手紙を奪おうと前肢を伸ばすのを遮って、ハッピは余計に興奮したように飛びはね始めた。

 

「これはオモチセンパイがオイラにあてて書いた手紙だニャ!兄ちゃんが読むモノじゃニャいニャ!」

 

なにやら、ムキになっているようにも見えるハッピ。なんとなくピンと来るものがあり、ハッカはそらぞらしく手紙とは反対の方を向くと、芝居がかった声音で語り始めた。

 

「そーいえば・・・・えーとそうだ」

 

インテリ然としてはいるものの、ハッカも結局はハッピの兄。頭の回転はけして早くはない。騙そうとしているのが見え見えの浮わついた口調で必死に話をでっちあげる。

 

「ア、アステラ祭ではえーと色んな出店があって、き金魚すくいならぬ、あれだ・・・・えっと"ヴォルガノすくい"が大人気らしいニャ」

 

「ニャ・・・・ニャんだってぇ!?」

 

「ほいっと」

 

「・・・・あっ」

 

不自然極まりない臭い芝居にあっさり騙されて、あっけにとられたハッピの隙をついてオモチからの手紙を封筒ごと奪ったハッカ。そのまま便箋を開く。

しかし・・・・

 

「ニャんで兄ちゃんがヴォルガノすくいの事を!」

 

「・・・・?えーとニャにニャに。"アステラ祭が始まってから、ご主人の湯たぽんはヴォルガノすくいばかりやってるニャ"だって。ってマジかこれ」

 

何故か口から出任せが図星となってしまった。

 

「"金冠サイズを倒したくて、竜結晶のロックフェスに入り浸ってヴォルガノすくいの毎日ニャ。竜玉も足りニャいらしくて、ジュラドトすくいもやりまくってるニャ"・・・・ニャんだこれ」

 

微妙に嘘と本当が入り交じっているらしき手紙を適当に読み飛ばすと、封筒を取り返そうとまとわりついてくるハッピを避けながらハッカは封筒の中を探り始めた。

 

コロン

 

「あっ・・・・」

 

しまったというように、ハッピが小さく声をあげた。ハッカも予想していたそれは、小さな紙に包まれた丸い塊だった。

 

「やっぱりニャ。隠そうとするニャら始めッからこれだけしまっとけば良いのにニャ、ハッピ」

 

「ぐニャぁ・・・・オイラの手紙ニャのにぃ」

 

包みを開いてみると、中からはピンク色の大きめの飴玉が出てきた。包み自体も手紙になっているようで、小さく文字が書いてある。

 

「"アステラ祭で売られてるのを見つけた、ハッカ飴だニャ。キミのお兄ちゃんにぴったりだからあげるニャ。クールばっかり気取ってニャいで、コレを食べてたまにはハジケると良いニャ、って伝えといて"だとさ・・・・ふぅん」

 

ハッピに宛てた手紙なのに、飴玉は1つだけ。それがなんだか悔しくて、あげたくなかったのだろう。ハッピがうらめしそうにハッカの前肢に握られた同名の飴を見つめている。

 

 

「アステラ祭で売られていた、ねェ・・・・ハッカ飴と言っても・・・・んーニャぁ・・・・」

 

慎重に、飴玉の匂いを嗅ぐハッカ。ミント(ハッカ)の香りはしない。

 

(コレを食べてハジケると・・・・か。新大陸では確か・・・・ということは・・・・よしッ)

 

ハッカは今までの考え込んでシワのよった顔を急に崩すと、ハッピに向けて前肢を差し出した。

 

「ホラ、やるよハッピ」

 

「え!?良いのかニャ!?」

 

パアァ、と眼を輝かせてハッピ。アステラ祭に行きたくて仕方ないハッピは、せめて祭の味だけでも体験してみたかったのだ。受け取るや否や、口の中にポイとハッカ飴を放り込む。

 

 

 

味を確かめるため舌で飴玉を転がす。アゴを突き出し眼は虚空を見つめ、なんとも間抜けな顔で数秒。

 

 

 

 

 

 

ボムッ

 

 

 

 

 

 

突然、ハッピの顔が普段の3倍の大きさに膨らんだ。飴玉を放り込んだ頬なんかは5倍にはなっただろうか。

 

眼を究極まで開いた間抜けな表情のまま、完全に停止したハッピ。口や鼻、耳からはモクモクと白い煙まで出ている。

 

「あぁ、やっぱりニャ。可哀想にハッピぃ・・・・」

 

いまだにクールなハッカは、ぱたぱたとハッピの顔をうちわであおいでやっている。ハッカはオモチのイタズラを既に察知し、ハッピの口の中での小爆発の理由も分かっていた。

 

「ハッカはハッカでも、薄荷(ハッカ)じゃニャくて発火(ハッカ)の飴じゃニャいか。オモチ君、殺す気かニャ」

 

こんな状態でも絶対に死んでいない弟をうちわであおぎ続けながら、ハッカは遥かな海の向こう、新大陸のオモチに呼び掛けるように虚空に向けてつぶやいた。

 

「クールだ、クールだって言われるけれど。ボクだってボクなりに新大陸にワクワクドキドキしてるんだニャ。ハッカの実は新大陸じゃ火薬の調合材料、てことは予習済みなんだニャ」

 

たまにはハジケろ、というオモチの手紙の一部だけでそれを察知できる程度にはハッカも定期船でもたらされる新大陸の情報に聞き耳を立てていたということ。アステラ祭に夢中になっている弟ハッピと同じように、ハッカも新大陸の植物や調合に夢中になっているのだ。

 

 

 

ワクワクの仕方は、人それぞれ、猫それぞれということである。

 

 



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その14 街のギルカ屋さん

モンハンワールドで出会った狩り友ebiさん。彼はイラストを描くのが趣味という事で、スズナのイラストを描いてくれました。ありがとう!お礼にこんな酷いお話を思い付きましたごめんなさい。
エビさんが描いてくれたイラストはあとがきに載せておきます。


調査拠点アステラ。新大陸でモンスターの調査を行うための基地である。調査団しか住まない上にモンスターの巣食う新大陸の端っこの土地を開拓しながら少しずつ造った街なので、人口の割にはそれほど広くはない。それに加えハンターが使う武具やアイテムの素材、開拓のための建材など、多くの資材が行き交うために往来は常に混雑している。

 

さらに最近ではもう1つ、アステラの大通りを歩く際に気を付けなければブツかってしまう、危なっかしい存在が増えてしまっていた。

 

 

「むニャッ・・・・!」

前を歩いていた人物が急に立ち止まり、キョロキョロしながら歩いていたナダレは頭からブツかり、反動で後ろへ綺麗に一回転してしりもちをついた。

 

「う・・・・ニャア・・・・」

左右にピンと伸びたヒゲに砂がついていないか、丹念につくろいながら立ち上がるナダレ。青い毛に覆われたオトモ猫だ。主人が狩りに行っているので、自主トレーニングをサボって大通りを散歩しに来ていたところ、誰かにブツかってしまった。

いや、誰か、ではない。ブツかってしまったその瞬間にはナダレにはその相手が誰か分かっていた。

 

 

「前を歩いていたのエビさんだったのかニャあ・・・・」

んん?、と今さら気がついたのか、ナダレがブツかった人物が振り返った。

 

「あっは、ナダレだったんだこんにちはごめんねー」

流れるように挨拶と謝罪を重ねたのは、アステラの皆からエビちゃんと呼ばれているハンターだった。本名ではない。白衣のようなローブを羽織り、ウェーブがかかったピンク色の髪。高い声も手伝って、知らない人からはよく女性と間違われる。

 

「こんにちはニャあー。エビさんの触覚に気付いていればもっと気を付けて歩いていたのにニャッ」

そしてこちらも雌雄やたら分かりにくいオトモ猫。一応メスであるナダレ。

ちょっぴりからかうような仕草でナダレが指さしたエビの額には、鉢金が巻かれていた。その中心からは奇妙な触覚が2本、左右に伸び後方へ垂れている。この触覚がみなに『エビ』ちゃんと呼ばれる所以である。

 

ハンターとして新大陸調査団に加わったエビだが、学者としてモンスターの生態研究所にも所属している。さらには医者でもある、異常にマルチな能力を持つ若者なのだ。ゆえに普段から、学者のようなローブの形をした医者のような白衣を着て、額にはハンターのような鉢金を巻いているという、独特な姿で街を歩いている。

 

「あっはっはー、これは職業病のようなものだからさ、ごめんけど許してよ」

あまり悪びれずにエビ。謝りながらも、歩きだしはせず目もナダレのほうを向いてはいない。どう見ても許しを乞う者の態度ではないが、ナダレはやれやれと軽く首を左右に振るだけだった。

 

「ま、エビさんの事はみんな分かってるから良いけどニャ。今度は誰描いてるのかニャ?」

問いかけながらも自分で答を探すナダレ。キョロキョロと辺りを見回すと、すぐに目標を発見することが出来た。

 

「おぅ!ナダレ嬢よ。悪ぃが今日は俺っちが選ばれたみたいだぜ!」

雑踏の端、屋台のように荷物を広げて豪快に笑っていたのは、船乗り、現大陸との定期船を操る船長だった。海の男らしく上半身裸で、水揚げされたばかりらしい魚介を足元に、本人は綺麗な紅色をした珊瑚エビを掲げてポーズをとっている。

 

「今日はなんだか食べ物を含めたのを描きたくてねー」

エビはというと、手の中のスケッチブックに物凄い勢いで筆を走らせていた。

 

エビはハンターであり、学者であり、医者でもあるが。それよりなによりギルドカード屋として人気を博していた。ギルドカード屋、と言っても売るわけではない。勝手に本人のイラストを描いてギルドカードに貼れるようにして渡してまわるのだ。この街、調査拠点アステラに住む者は全員が本土にあるハンターズギルドに所属する『ギルド調査員』である。ゆえに、例外なくギルドにおける仕事、経歴、勲章などが記載された名刺である、『ギルドカード』を所持している。

エビが調査団に参加するまでは、誰しも殺風景な名刺としてしか使っていなかったが。彼がアステラですれ違う人々を勝手にスケッチしはじめギルドカードに貼り付けてやる、という事を始めてからはこの気紛れな若者が描いた絵が貼られたギルドカードを持つことがこの街でのステイタスとなっていっていた。

 

 

「ん。オッケーです船長。ありがとう」

どさくさに紛れて、船長が掲げていた珊瑚エビを受け取りながら、エビは一旦スケッチブックを閉じた。そのままナダレを見下ろすと、珊瑚エビを見せびらかすようににんまりと笑った。

 

「ナダレ、どうせトレーニングサボり中でしょ?一緒にお絵描きしないかい?」

 

「うニャッ♪」

ナダレにはどちらのエビも、その提案も。とても魅力的に思えた。

 

 

 

 

一旦雑踏を離れて食事場に移動すると、エビは清書用の別の用紙を、ナダレは落書き用の画用紙をそれぞれテーブルの上に広げた。

 

「あ、エビ食べるー?」

もぎ、と豪快に頭部分の殻を剥いだその状態のままナダレに差し出すエビ。この珊瑚エビという甲殻種は、火を通せば旨みが湧いて止まないダシ大名、生食では甘み弾けるスイーツ将軍と化す極上の食材なのだ。

ナダレも抗いきれずひとつまみ身を取ると、むしゃぶりついた。

 

「むっはー、こっちも描かないとねぇ!」

エビも共食いしながら、先ほどスケッチした船長ではなく、珊瑚エビのほうの調査報告書を分厚いハンターノートに描きはじめた。前のページにはブイヤベースになった珊瑚エビが描かれている。今日はその続きでスイーツとしての珊瑚エビの情報を追加、というところなのだろう。

 

「?エビさん、エビさん。珊瑚エビのイラストの隅に描いてあるマークは何なのニャ?」

ふと、ナダレが気付き肉球で指したのは、小さな2つのシンボルだった。

 

「水滴と・・・・こっちはニッパーかニャ?」

ナダレが適当にシンボルの意味を推測すると、エビはちょっぴり残念そうにかぶりを振った。

 

「惜しいね。水滴は当たってるんだけど、工具のニッパーじゃなくて、カニのハサミのつもりなんだ」

 

「あ、あーごめんニャそっちのほうが分かるニャ。」

すぐに理解できるシンボルを描きたかったのだろう、分かりやすく落胆するエビを見て、ナダレが慌てて話を進める。

 

「珊瑚エビだから、甲殻種を示しているのかニャ?でも隣の水滴?は?」

 

「水属性、さ。恐らくだけどね」

 

「恐らく?」

ナダレが可愛らしく疑問符を浮かべながら首を傾げると、エビは急に真面目な学者らしい顔付きに変わり解説を始めた。

 

「モンスターの属性は、彼らの攻撃からしかはっきりとは分からないんだ。しかも攻撃を実際に貰ってみてその時の防具の属性耐性を考慮に入れて、ね。でも命のやりとりを行うことになる狩猟に出掛ける時にそんな自ら攻撃されに行くのはリスクが高すぎる。事前に相手の攻撃属性への対策を練るには、推測するしかないんだ」

一気にまくしたてるエビ。かなり賢いほうではあるが、アイルーであるナダレにはついていくのがやっと。大粒の冷や汗をかきながらナダレは大きな目をさらに開いてエビの表情、手振りを必死に追っていた。

 

「その推測に重要なのが、この関連付け、というものなのさ」

珊瑚エビのイラストの隅にあるマークを指差すエビ。

 

「え、えぇーとつまり、甲殻種はみんニャ水属性だっていうこと??」

しどろもどろになりながらもなんとか話についていっているナダレ。これが別のオトモのオモチやネコノフだったら頭から湯気が出ている頃だろう。

 

「うん、だいたいそれで合ってるよ。もちろん、甲殻種イコール水属性とは言えないけれど、この珊瑚エビは現大陸にいる水属性のダイミョウザザミと比較的近縁、しかも水棲であるから水属性の可能性は高い、といえるわけだね」

 

「な、なるほどぅ・・・・」

かろうじて理解できたのか、興味深げに頷くナダレ。やはり頭が良いオトモは発想の飛躍も早い。すぐさま今得た知識を自分の主人の行動に当てはめて考えはじめた。

 

「ご主人は新大陸で活動を始めたとき、すぐにトビカガチの防具を欲しがってたニャ。新大陸に到着したばかりなのに、欲しい防具の特性を推測出来ていたってことかニャ?」

ヒュウ、エビが感心したように口笛をひとつ吹いた。ナダレの頭に手を伸ばし、優しく撫でてやると再びまくしたてるように解説をはじめた。

 

「その通り。モンスターの分類は何も種族や進化系統だけじゃない。狩猟のためにはむしろ攻撃属性のほうが重要だし、行動パターンを読み解き分類することでより戦闘に役立つ情報を推測できるのさ。それだけでなく、その素材を使ってつくる防具に付与されるスキルに関しても、推測が出来るというわけさ。今ナダレが言ったトビカガチは、本土に生息しているナルガクルガという飛竜に体型、行動がよく似ている。だからナルガ装備と同じような回避系のスキルがカガチ装備にも発動するだろうという推測は調査開始時からすでにあったようだね。他にも・・・・」

ハンターノートのトビカガチのページを開き、ジャンプ力を表現したであろう『脚』のシンボルマークを見せると、エビはその前のページを開いた。

 

「ドスジャグラス。このモンスターの攻撃パターンの特徴、分類は何か分かるかい、ナダレ?」

突然クイズ形式になったエビだが、優しい彼はヒントを与えるように別ページもちらちらと開いて見せてやっている。ヒントページは『イビルジョー』だ。

 

「ニャ〜・・・・食いしん坊?」

ナダレもすぐにぴんときたようだ。

 

「フードファイター、だよ」

 

「カテゴリの命名法考え直すニャ」

頭の良いナダレはつっこみも早い。

 

「んでも、面白いニャ便利だニャ。ドスジャグラスの防具には早食いスキルがついてたから、同じ・・・・フードファイター?のイビルジョー装備にも付いてる事が予測できていたんだニャ」

 

「その通り。僕は学者でもあるからね。僕が描くイラストには全部こうやってシンボルマークをいくつか付け足して分類しているのさ」

全て解説するまでもなく、ナダレが理解してくれたので満足げに、そして自分のハンターノートのイラストを誇るかのように見せびらかし、エビは大きく頷いた。

 

すると、ナダレが今度はエビの言葉に別の疑問を見つけたようで再び首を傾げた。

「んニャ?全部のイラストにシンボルマークつけてるってことは、さっきの船長さんや、ギルドカードのイラスト描いてあげた他のハンターさんも分類マークを描いてるってことかニャ?」

おぉ!今度は小さく驚きの声をあげるエビ。そこに気付くとはやるね、ナダレ、と感心したようにつぶやきながら、今度はハンターノートとは別のギルドカード屋さんとしてのイラスト帳を開いてみせた。

 

「それもまたその通り。さっき下書きを描かせてもらった船長は当然水属性だろうね。食材を求める情熱はあるけれど、あの通り結構痩せてるからフードファイターではなさそうなんだよね」

 

「だからカテゴリ名」

再び小さくナダレのつっこみ。

 

「先月描いたマコノフさんは乗り物酔いの分類を追加しないとなんだけど、マークをどう描くか思い付かなくて困っているんだよ」

本人にとって不名誉なことでも容赦なく分類するたぐいの学者なのだろう、辛辣な悩みごとを告白するエビ。

 

「そーいえば、先週ウチのご主人のイラスト描いてくれてたニャ。あれは出来上がったのかニャ?スズナの分類はどうなってるのかニャ?」

ナダレの主人、女ハンターのスズナ。言われてエビがスズナのページを開くと、オトモアイルーに抱き付かれているスズナの少しデフォルメされたイラストの端に、シンボルマークは3つ描かれていた。

 

「スズナさんは結構好奇心が強いんだよね。熱血ってわけじゃないけれど防具もトビカガチ以外では蒼レウスのものを好んで使っているし、火属性のシンボルマークがぴったりかなと思って」

エビの言うとおり、1つ目は燃える火が描かれていた。もう1つは、肉球マーク。

 

「ほら、あのヒトやたらアステラのアイルー達にモテるよね?本人も自他共に認めるアイルー好きだし、このアイルー好きカテゴリの分類も必須だよ」

確かに、とナダレも納得。しかしあと1つのマークは、奇妙な形をしていた。大きな円が2つ重なるように描かれている。

 

「この3つ目のマークは・・・・何なのかニャ?分からニャい・・・・うーん・・・・」

悩むナダレ。エビは相変わらず朗らかに笑いながら、またヒントを出してくれた。

 

「アイルーに抱き付かれてるのは何でかな?アイルー好き以外の、アイルーが抱き付きたくなる理由が、そのマークだよー」

うーむむむ・・・・と悩むナダレ。全く答が思い付かない様子に、しばらく静観していたエビは唐突に、しれっととんでもない答を発表した。

 

 

 

「ボインだよ」

「カテゴリ考え直せ」

本人よりも大きく強調されたスズナの胸に飛び込むアイルーという構図。セクハラこの上ないイラストをエビの手からもぎ取ると、ナダレはご主人に報告しようと全速力で走り出した。

 

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

エビさんが描いてくれたイラストがこちら。ありがとうございました!ステキ!


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その15 ガンサーの姫

またも狩友さんに出演していただきます。
「ちょうさん」もスズナの素敵なイラストを描いてくれたのでお礼に酷いお話を考えてみました。イラストは本人希望によりこちらには載せません。僕一人で楽しませて貰います。ちょうさんありがとー

ちなみに今作では僕自身の独自解釈により、モンハン世界で使用されている文字は表意文字であり、言語はほぼ統一されているため中国読みや英語表記となっている部分は全て"別言語っぽいもの"としてえがいております。
あらかじめ設定をご理解いただかないと違和感を感じてしまう書き方になってしまいました。申し訳ありません。ではちょうさん、よろしくおにがしま。


「よ。ちょうさん久しぶり」

 

片手剣ハンターのマコノフが手を上げて声をかけたのは背中に巨大な武器を背負った、本人は小柄なハンターだった。

 

「Oh・・・・まこのふサン。コン・・・ばんチワ」

 

「分からないからって混ぜちゃイカンな」

 

マコノフにツッコマれた小柄なハンターは、ちょうさん。本名は『張 風爽(チャン・フーソ)』という。極東の地出身のハンターで、老山龍をひたすら追いかけているうちにドンドルマにたどり着き、そのままハンターズギルドに登録、さらには新大陸調査団にまで参加しているという、異色中の異色の経歴を持つハンターだ。言語がほぼ統一されている現大陸でも、あまりに遠い極東の一部地域では別言語が使用されている。ゆえにちょうさんは今のように言葉が若干おかしい。

 

「ん?ちょうさんあんたスラッシュアックス使いじゃなかったっけか」

マコノフが疑問に思ったのは、ちょうさんが背負っている武器だった。ちょうさん愛用のスラッシュアックスという武器は巨大な2枚の刃からなり、両刃の斧モードと片刃の剣モードに変形させながら闘うために、かなり手先の器用さが要求される。

そして、今ちょうさんが背負っているのは砲身の先端に槍の穂先がついたガンランスだった。砲と槍が合体しているという巨大さゆえ、また砲身の中ほどから弾込めをする必要性から、ガンランスは納刀時、つまりハンターが背負っている時は二つ折りに分解されている。

 

「Aah・・・・おと・・としカラ?がんラんスハジメまんた」

そんな、ガンランスの詳しい説明など出来るはずもなく、たどたどしくちょうさんが自分の背中を指差しながら言う。一応、聞き取りはほぼ出来る。だが何故か自分の口から言葉を出すとなると全ての単語が崩壊するようだ。

 

「うん。一応一昨年にはもうガンランスあったけれども多分おとついから、なんだろうな。あと何で最後オニイトマキエイが出てきた」

まわりはそんなちょうさんを面白がり、本人の能天気かつ人懐こい性格もあって、ちょうさんの言葉はおかしくなったまま、受け入れられていた。マコノフもだいたい慣れた。

 

「それにしても、へぇー。別武器に手を出すかぁ。スラッシュアックス一筋だったのにな」

感心したようにマコノフ。ハンターは闘うモンスターによって、属性や切れ味など最適な武器を選ぶ。同じスラッシュアックスでも麻痺属性や龍属性、切れ味優先や会心特化など何本も所持しなければならない。当然その数だけ製造費用、強化費用と莫大な資金、そして素材が必要となる。1つの武器種に絞った狩猟生活をしていてもかなりの費用がかかるので、複数種使いこなすのはそれなりに珍しい。

 

「・・・・ニャッ」

不意に、二人が話している横から低い鳴き声と共に小さい手が出てきた。大きな肉球が付いた親指(?)を立てて静かにポーズを取っているのは、ちょうさんのオトモ猫、極東アイルーの大和(ダー・ヒェ)である。新大陸の皆からはヤマト君と呼ばれている、主人とは違い寡黙な猫である。灰色の剛毛と、眼から頬にかけて出来た大きな二本の爪痕から、歴戦の強者として別格の風格と渋さを備えている。可愛いモノ好きのスズナ達女性ハンターのみならず、渋さを評するソードマスターからも気に入られている、主人とは別の意味での人気者だ。

 

「ヤマト君か。相変わらず静かなくせに存在感やたらあるねぇ」

マコノフはアイルーよりもさらに小柄な極東アイルー、ヤマト君の目線に合わせてかがむと、手を伸ばし・・・・そして途中で手を引っ込めた。風格がありすぎて気軽に頭を撫でられないのだ。

 

「やまもとサン、てとるーと、しゃべれるよう なりマスた」

「しゃべれないから寡黙なわけじゃないのか」

ヤマト君、という呼び方には慣れていないのか本来の読み方・・・・ではなく、でもヤマトではなく山本さんと呼んでいるちょうさん。

ヤマトもそれを受け入れているようで、細い目を開くことなく微動だにしない。

 

「で?何でガンランス始めたんだ?」

改めてマコノフが聞くと、またちょうさんは一生懸命言葉を探しはじめた。色んな方向に視線を巡らし、頭をフル回転させながらも・・・・

 

「がんらンスを Aah・・・・トテモ ろまんシテくる おトモダチが、いるのでス」

結局は間違える。つっこまれずに人と話すことが全く無いのだ。

 

「ほぅ、ロマンときたか。正解はジマンしてくるお友達、だと思うがロマンのほうが良い言葉だな?俺も今度そう言うことにしよう」

とはいえ、珍しく好意的なつっこみで済んだようだ。

 

「ガンランスをロマンしてくる友人・・・・ガンランスを使うヒト、ガンサー・・・・もしかして」

マコノフには、ちょうさんをガンランスの道に引き込んだ人物が誰か、心当たりがあるようだ。

 

「ユタさんでス。ガンサーの・・・・Aah・・・・ヒメでス」

「人、くらい単語出てこいよオタサーの姫みたいになってんぞ」

ユタは男なのに、と苦笑いしながらつっこむマコノフ。

 

「ユタのやつ、意地悪だから肝心のとこ教えてくれないだろ。変なとこ嘘ついたりするしな」

共通の友人を軽くディスり、自身もほとんど使ったことはないが分かることなら教えるよ、と言うマコノフだったが。

 

「ありガトウございマス。イマは、りゅうヲ たべる やりかた、サガシてます」

「・・・・は?」

予想外の質問が飛んできた。

 

「龍の食い方?それ別世界の話?あっそうか食材のリュウノテールか?ガンランス向きの食事の組み合わせ?」

今度はマコノフのほうが、ちょうさんの言葉を理解しようと一生懸命頭の中で言葉を組み合わせ始めた。

 

「NoNo・・・・オショクジケンのはなシじゃない、でス。ガンらんスのはなシでス」

 

「ケンはいらん。お食事、でいい。汚職事件て言わせたいユタの影響を感じるぞ」

的確につっこみを入れつつも、再び視線を虚空に巡らせマコノフはガンランスと『龍の食い方』について考え込む。

 

なにか、引っ掛かるものはある。ガンランス・・・・龍・・・・気軽に教えるよと言ったものの、本当に使わない武器種なので答がなかなか閃かない。

 

「うーん・・・・」

腕組みしたまま首をかしげ、動かなくなってしまったマコノフ。すると

 

「・・・・ニャッ」

またしても横から、ヤマトが大きな肉球を出してきた。

 

「・・・・ニャッ・・・・ニャッ」

左手を大きく前に突き出し、今度は逆に半歩下がるほどに大袈裟に引き戻す。ヤマトは無口にジェスチャーで解説してくれているようだ。

これは・・・・マコノフの記憶に引っ掛かっていたものが少しずつはっきりしてきた。ガンサーである友人、ユタと共に狩りに行くときこんなヤマトのような動きをしていたような・・・・

 

「・・・・ちょうさん」

不意に、マコノフはしゃがみこみ地面に文字を書き始めた。

 

「もしかしてあんた、コレのこと言ってんのか?」

マコノフが立ち上がった時、地面に書かれていたのは

 

「Oh!コレでス。

リュウクイのホウホウ」

 

「これ『りゅうこうほう』って読むんだよ・・・・」

『龍杭砲』であった。こりゃ、狩りに行きながら実地訓練で覚えてもらうしか無いな・・・・と、ぐったりうなだれるマコノフだった。

 

「・・・・ニャッ」

またも横から、ヤマトがマコノフの肩をポンと叩き親指の肉球を見せつけてきた。

 

「おう、ヤマト君・・・・やっぱりご主人なんとかしてくれ」

今度こそヤマトの頭を撫でながら、マコノフはちょうさんの背中のガンランスをごんごんと小突いていた。



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その16 強いバゼルの弱い生態(前編)

モンスターハンターワールドから、爆鱗竜バゼルギウスの生態です。
久しぶりに本当のモンスターの生態が書けました。こんなバゼルギウスと闘ってみたいですね。


モンスターハンターとは、言うまでもなく危険の多い職業である。最先端の狩猟技術と武具が持ち込まれた新大陸の調査団にとっても事情は同じ。調査拠点アステラには、毎日のようにモンスターとの戦闘で傷を負った重症患者が運びこまれてくる。

 

「出血多いね。輸血用意しといてー」

オトモ猫が引いてきた、車輪付き担架で運び込まれてきたハンターは、全身ずたずたに切り裂かれていた。

対応する医者は真っ白な長衣を羽織ってはいるが、白衣の下からは甲殻を組んで作られた鎧が見えていた。ハンター兼医者、さらには学者でもある、異常にマルチな能力を持つアス・ルーフォというこの男は、今日は医者として働いていた。

 

「えびちゃーん、手術室3番空いてるけど、いる?」

こちらは頭にナース帽をかぶり白衣を着た完璧な看護婦姿の女性。だがぱっと見重症な患者を受け入れているにしては緊張感がない声だ。

 

「いやー大丈夫でしょー。輸血はいるけどさらっと縫っときゃすぐ治るよう」

えびちゃん、と看護師に呼ばれ応えたのはハンターでもある医者、アス。看護師同様緊張感のない声で、言葉通りさらりさらりと凄まじい勢いで傷口を縫い始めている。

 

「ほい、こんなもんでしょ。ユタさんならすぐ動けるようになるよ」

あっという間に全ての傷口の縫合を終え、ばんばんと全く遠慮なしに縫ったばかりの傷口を叩きながら立ち上がるアス。頭の後ろで髪を縛っていた紐をほどくと、ピンク色の軽くウェーブがかった髪がふわりと広がった。女性のような顔立ち、長い髪、そして額に巻いた鉢金から左右後方へ長く伸びた触覚のような前立てにより、アスはまわりから女の子を呼ぶように『えびちゃん』、というあだ名が定着していた。

 

「あー面目ない。ボッコボコにやられたよ」

微妙に聞き取りづらい声が聞こえた。顔まで包帯を巻かれた、患者のほうのハンターだ。

 

「だめだめユタさんしゃべらないで。アゴから頬にかけての裂傷が一番酷いんだから、口動かすと変に傷がくっついて治った後痛い目見るよ」

ぞんざいに扱いはしたものの、医者の良心が急に働いたのか絶対安静を命じるアス。どうやら患者とは顔見知りのようだ。

 

「ユタさんがそこまで裂傷でやられるってことは、ベヒーモスが出たんでしょ?どうせユキムラ君とマル君がすぐ倒してくれるから大丈夫だって。大人しく寝てな?」

患者の傷の状態から相手モンスターを予想し、特化部隊が倒すからと諭すように言うアスだが、包帯の塊の向こうからはまだくぐもった声が続いた。

 

「・・・・違う、ベヒーモスじゃない。オドガロンに遅れをとるような駆け出しハンターではない自覚もあるぞ」

あまり聞いたことのないような、友人の深刻な声にアスが振り返ると、処置室の入口からオトモ猫が一匹飛び込んできた。

 

「ご主人は、バゼルギウスにやられたんだニャ!今ようやく散ってった導蟲(しるべむし)をかき集めてきたニャー」

白黒の毛並みの猫、オモチだ。大きな肉球で抱え込んでいるのは、ランプのように緑色に輝いているビンだった。

 

オモチの頭を撫で、後は任せるとでも言うように医者の言い付け通り口を閉じるユタ。が、今度はアスのほうが慌て始めた。

 

「待った待った、バゼルギウスがこの全身の裂傷を?」

 

「ニャー、バゼルの鱗が爆発しなくて、でもすんごくギザギザしてて尖ってて、当たると切り裂かれて裂傷になっちゃったニャ」

包帯の奥で黙った主人の代わりにオモチが答える。事の重大さをしっかり理解しているのだろう、事細かに解説してくれるつもりのようだ。

 

「バゼルギウスに鋭い鱗!?」

がばっ、とアスはオモチの身長に合わせて屈むと、自身のハンターノートを腰のホルダーから引っ張り出した。

 

「ニャ・・・・肩掴まないでネ・・・・えびちゃん。ボクらの肩ほぼ首だから」

若干引きながらオモチ。過去に何があったのかは、学者モードに入ってしまったアスの勢いを鑑みれば容易に想像がつく。

 

「もしかしてそのバゼル、最小金冠サイズじゃなかったかい!?」

何故かアスには心当たりがあるらしい。ハンターノートのバゼルギウスの頁には本来の内容とは別に、かなり大きなスペースをとって膨大な量のメモ書きがあった。

 

「うニャ?・・・・そーいえば小さめだったかもしれニャい」

少し自信なさげに言うオモチ。小さめというだけで金冠レベルの小ささではなかったのかもしれない。

 

「とにかく一緒にきて!オモチ。お爺ちゃんとこいくよ!」

有無を言わさずオモチの手をひっつかみ、アスは生態研究所へ向けて走り出した。

 

 

 

調査拠点アステラの一角にある、本にまみれた生態研究所。その中心には、本と同化してしまったかのように本棚から動かない、竜人の所長がいた。

 

「ほぅ・・・・例のバゼルギウスが出たいうことか?えびちゃん」

生態研究所の竜人所長にもえびちゃんと呼ばれているらしいアス。しかし呼びはするものの、所長の眼はアスのほうを向いては居ない。バゼルギウスの生態調査書に目を落としたままだ。

 

「その可能性が高いんだけど、僕らが考えていたよりも戦闘力が高そうなんだよ、お爺ちゃん」

一方、こちらも自分のハンターノートにびっしりとメモを取りながら、所長のほうを見ずに話すアス。いつものことではあるのだが、異様な光景にオモチは戸惑っていた。

 

「ニャ〜・・・・やっぱりあのバゼルギウスは新種ニャのかニャ?」

オモチにしては珍しく、遠慮がちな声を出すと、所長のほうが視線をこちらによこさないまま答えた。

 

「いや、僕らの考えが正しければ、きみのご主人を倒したバゼルギウスは新種とは違う」

と、ここで所長も自分の懐からペンを取り出した。初めてオモチのほうへ眼を向けると、独り言なのかと思ってしまうようなトーンで問い掛けてきた。

 

「オモチくん、やったな。そのバゼルギウスの鱗は、爆発せんかったんやてな。大きさはどやった?小さかったり、薄かったりしたからスパッと斬れて裂傷状態になったんやないか?」

 

「鱗、持って帰れば良かったニャ。大きさは覚えてニャいけど・・・・」

所長の問いに、首を大きく傾げながら強く眼をつむり必死に思い出そうとするオモチ。

 

「空から鱗が落ちてきた時、どんな感じだった?通常のバゼルギウスだったらスットーンって真下に落ちてくるけど、違いは無かったかな」

横からアスが横槍を入れると、オモチの記憶に触れるものがあったようだ。

 

「そーいえば、鱗が微妙にヒラヒラ落ちてきたかもしれニャいニャ。避けにくかったニャ」

大きく眼を開いてオモチ。所長とアスは瞬時にシャカシャカとメモを取る。

 

「ということは、やはり、やな」

一瞬早くメモを取り終えた所長と

 

「おおまかには僕らの考えたのと変わらないようだねえ」

オモチを挟んで反対側にいたアスとが、お互いを見合わせて、オモチの上空でにやりと笑った。

 

「オモチが、例のバゼルギウスを記憶した導蟲を回収してくれてるんだ。調査にいってくるよ、お爺ちゃん」

 

「ん。無事に帰ってくるんやで、きみ」

 

導蟲とは、新大陸での調査に無くてはならない存在で、調査対象の足跡などの痕跡から匂いを覚えさせ、本体を追わせる光る蟲のことである。

今回のように一度遭遇したハンターが返り討ちに遭った場合でも、導蟲を回収しておけば再度対象モンスターを追うことができる。

 

「僕らのバゼルギウスに関しての仮説は、この調査ではっきりしてから説明するよ。手伝ってくれるね?オモチ」

医者の白衣を脱ぎ、ハンターとしての鎧姿に戻るアス。触覚が左右に伸びた鉢金を縛り直すと、オモチの返事を待たずして高らかに指笛を鳴らした。

 

「もちろん案内する!ニャー!」

オモチがアスの脚にしがみつくや否や、翼竜がオモチごとアスをかっさらい、狩猟場へと飛び立って行った。

 

 

 

 

「・・・・いっやー、こんな奥地まで来ることになるとはね」

アステラを発ってからどれくらいになるか。狩猟拠点のキャンプから、狩猟場である竜結晶の山岳地帯を通り抜けて、さらに1つ山を越えた。それでもオモチが回収してきた導蟲はまだ先を示していた。

 

「そろそろ教えるニャ。あのバゼルギウスは、新種じゃニャきゃ一体ニャに?」

ごろごろと大きな岩が転がる山道を歩くのに飽きたのか、しびれを切らしたようにオモチがアスの方を振り返り、問いかけた。

 

「んー・・・・まぁ、もういいか」

アスは首を傾げて、少し考えてから、オモチのリクエストにこたえて解説をはじめた。

 

「バゼルギウスの鱗が、何故爆発するかは知ってるかい?オモチ」

 

「爆鱗竜だからニャ!」

 

「うん!そんなところだろうね!」

 

アホな答を即答するオモチに、予想出来ていたアス。一瞬だけ頭を抱えたが、すぐに気を取り直して続ける。

 

「えっと、じゃあ少し方向を変えて。

リオレウスが火を吐くのは?」

 

「?火竜ニャんだから火を吐くのは当然だニャ?」

 

「そうだったねごめん!」

同じく即答するオモチに今度こそ両手で頭を抱えるアス。

えーっと・・・・と少し考えてから

 

「火炎袋とか、爆炎袋って、レウスの剥ぎ取り素材にあるでしょ。彼らは進化の過程で火を吐くための内臓器官を体内に作り上げてしまったんだ」

オモチはポカーンとした顔で聞いている。彼ら大型の猫、アイルー族は非常に知能が高く、道具も使うし人語も話す。しかし、さすがに人間ほど頭は良くない。高等知能生物とはいっても、アス達学者さんの中に混じればおバカさんなのは仕方のないことだ。

 

「あー、まあ要するに。レウスなら火を吐く事ができる。オモチが言った通りで良いわけだ」

 

「どやあ」

一瞬、スリンガーの照準をオモチに向けかけたが、思い直してアスは慎重に話を戻した。

 

「でも、バゼルギウスの場合は少し事情が違うみたいなんだ。体表面各所からの分泌液・・・・えぇと汗みたいなもんだ、に爆発するような成分を交えて精製・・・・鱗の形にしていることは分かっているんだけれど」

おバカさんにも分かるように慎重に言葉を選びながら説明すると、さすがのオモチも理解できたようだ。

 

「ふむ。ンじゃあバゼルギウスの鱗は汗が固まった物ニャんだね?」

 

「だいたいそれで合っているよ。ただ、汗とはちょっと違う点があってね。えーと・・・・」

ここで一旦立ち止まり、また少し言葉を探すように視線を虚空に舞わせるアス。続きを催促しようとオモチが再度振り返ると、ちょうどタイミングよく言葉が見つかったようだ、アスは人差し指をぴっ、と立てて再開した。

 

「そうだ!汗というよりは、おっぱいに近いようなんだ。ボインのほうじゃなくて、飲む方のおっぱいね?僕別にボイン好きってわけじゃないしね?で、そのおっぱいを出す乳腺という器官に極めて似たものが、バゼルギウスの体表面近くに多数存在していることが分かっている」

無駄な言い訳を加えて説明しながら、次第に学者モードに入ってしまっていっているのであろう。アスは少しずつ立ち止まっているオモチに近づいてきながら立てた人差し指を突きつけるように伸ばしてきた。

 

「ただ、乳腺に近いだけあって、妊娠など何らかのトリガーがあってはじめて鱗の分泌がはじまるようでね。そのトリガーというのが恐らく・・・・」

言いかけて、オモチの鼻先にまで迫っていた人差し指が突然、止まった。

 

「・・・・居た」

急に声のトーンが落ちた。突きつけられた指の示す方向、自分の真後ろを見ようとゆっくりと振り向くオモチ。

 

「・・・・バゼルギウスだニャ!」

 



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その16 強いバゼルの弱い生態(後編)

「・・・・バゼルギウスだニャ!」

 

 

 

「シッ!」

 

大岩の向こうに、ターゲットであるバゼルギウスが居た。しかも、

 

 

 

「さ、3頭も居るニャ・・・・」

 

 

 

「シィッ!」

 

アスにとっても、3頭は想定外だった。少しだけ慌てたように、オモチを大岩の陰に引っぱり込み、いつものハンターノートを取り出した。

 

 

 

「うっひゃあー・・・・バゼルギウスって、群れで行動するモンスターだったかニャ?」

 

オモチは大岩から少しだけ顔を出して、脅えながらも向こう側を観察している。

 

低い山の頂上。周囲は大岩が散在しているが、バゼルギウスがいる中央はかなり広い円形広場になっている。

 

 

 

「いや、あれは群れというより・・・・家族だ」

 

ハンターノートに現状をメモしながら、アスは3頭のバゼルギウスの中心を指差した。

 

 

 

そこには大きな草食竜、アプトノスが横たわっていた。既に息絶えており、3頭のバゼルギウスのうち1頭だけがその腹に牙を突き立てている。

 

 

 

「ごらん、先に食事を始めたのが、小さいほうの1頭だけだよ。大きいほうの2頭は親なのだろう」

 

アスが親のほう、と指差す2頭はかなり大きい。対してアプトノスに食らいついている個体は見劣りする体格。しかも、

 

 

 

「!食べてるほうの翼、えぐれてるニャ。ご主人が部位破壊した個体は小さいほうニャ!」

 

オモチが指差したのは小さい方。クエスト失敗とはいえ、ハンターの意地か部位破壊だけは何ヵ所かしてあるようだ。

 

 

 

「やはりか・・・・」

 

アスが素早くメモをとる。

 

巨大なバゼルギウスが2頭、エサを運び最小金冠にも満たないようなサイズのバゼルギウスに食べさせている。この家族団欒の風景が示すものは、つまり・・・・

 

 

 

「ボクとご主人がやられたバゼルギウスは・・・・鱗が小さくて薄くて、裂傷させてくるアレは・・・・」

 

ショックを受けたように、オモチが呆然とつぶやいている。

 

 

 

「・・・・そうだね。これではっきりしたね」

 

アスが言葉を継ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「幼体だった、ということさ」

 

少し気の毒に思ったのだろう、慰めるようにオモチの肩(ほぼ首だが)に手を置いている。

 

 

 

「爆鱗の形成不良で薄く鋭く、軌道も不規則になり、かえって戦闘力が上がってしまっていたのだろうね」

 

オモチをフォローしているつもりだったのだろうが、次第に早口になっていくアス。

 

 

 

「鱗を爆発させるなんていう無茶なバゼルギウスや、尻尾を赤熱化させて武器として振るうありえないディノバルド。これらの生態はあまりにも生物としての機能が特殊過ぎると、学会でも長らく議論の的だったんだ。でも最近出された仮説が支持を得て後は観測待ちという状態だったんだ」

 

バゼルギウスに見つからないようにかなりの小声、しかも早口になってきているアスの解説を、オモチは今度は真剣な面持ちで聞いていた。呑気な彼でも、子供にやられたとあれば、さすがにプライドが傷つけられたのだろう。

 

 

 

「バゼルギウスもディノバルドも、基本サイズがかなり大きい。最小金冠でも他のモンスターの最大金冠に迫るようなサイズしか観測されないのは、それだけのサイズに成長するまで長い長い期間、親モンスターの保護下に置かれ、ハンターの活動範囲内から遠ざけられた場所で、爆鱗の形成や尻尾赤熱化の技を直接伝授されているのだろう、ということさ」

 

かなり複雑なアスの話を、どうやら完全に理解しながら聞けているらしい、世にも珍しいオモチ。

 

 

 

「じゃあ、あの子もだんだん鱗を爆発させられるようになるんだニャあ」

 

部位破壊された箇所を一生懸命治そうと、懸命にアプトノスにかぶりついているように見える小さなバゼルギウスを指差し、なにやら感慨深げにオモチがつぶやく。

 

 

 

「いや・・・・ここからがまだ未確認なのだけれど、だんだん、ということは無いと思われる。恐らくキミとご主人は、彼が鱗を爆発させられるようになる、まさにその瞬間に邪魔しに行ったんだろうと思う」

 

 

 

「急に鱗が爆発するようにニャるってこと?」

 

さすがにそれは不自然なんじゃないかと、オモチが大きく首を傾げる。すると今度はアスがバゼルギウスのほうを指差した。指先は1番大きな個体を差している。

 

ゆっくりと大きく翼を広げ飛び立とうとしているようだ。

 

 

 

「おぉ・・・・っ!あれだよオモチ」

 

急に興奮しはじめ、ノートにペンを走らせるアス。声も先程より大きくなってきている。

 

一方飛び立ったバゼルギウスは、急旋回すると家族の頭上を飛び、

 

 

 

「ほら今!鱗を落としたよ。」

 

家族の真上だからか、落とした鱗は爆発しなかった。不発弾ばかり多数落とした親バゼルギウスは、再度急旋回。

 

 

 

「下の方も見て。幼体バゼルがじ〜っと見つめているよ」

 

また頭上を横切る偉大な父親に憧れるように、不発弾が降りしきる中、空を真剣に見上げている。

 

 

 

「絨毯爆撃ニャ・・・・あの厄介なワザができるようになれば鱗が急に爆発するのかニャ?」

 

まだ納得できないのか、首を傾げたままのオモチ。なおも親バゼルギウスを観察するが・・・・

 

 

 

「あ・・・・」

 

不意にアスがしまったという風に声をあげた。向こうでは親バゼルギウスがまた方向転換している。

 

 

 

「ニャ・・・・これはヤバいニャ」

 

オモチも気付いた。バゼルギウスが落とす鱗が急に赤く輝き始めた。すぐに爆発音も聞こえ始める。

 

 

 

「そりゃあ・・・・」

 

 

 

「これだけ大声でしゃべり続けてたらニャあ!!」

 

巨大な親バゼルギウスが爆撃を行いながら、アスとオモチのほうへ突っ込んできた。

 

 

 

「逃げ逃げ逃げ逃げ・・・・っ!」

 

 

 

「あかんあかんアカンアカンニャニャニ゛ヤアアあ゛あ゛!!!」

 

爆風に軽く炙られつつ、家族の時間を邪魔した不届き者は一目散に走り出した。

 

 

 

「しる・・・・べっ!むし!は!大丈夫だね!?」

 

 

 

「もももも!!?持ってるニャ!ちっこい方ならまだ追うことできるニャ!ににに逃げるニャああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後二人は散り散りになり、何故か親2頭に執拗に追いかけられたオモチが調査拠点アステラに戻ってこれたのは、丸々3日経った後だった。

 

 

 

「いやぁ〜、あれは怖かったね」

 

 

 

「えびちゃんがあんなトコで学者モードに入るからだニャ」

 

同時にアステラに到着していたらしいアスと、食事エリアで顔を合わせた二人は、互いの泥だらけの格好を見て吹き出していた。

 

 

 

 

 

「3バゼルは無理だよなあ?」

 

 

 

「しかもうち1頭はほぼ新種ニャんだから。逃げるが1番だニャー」

 

3日間貯まりに貯まった調査ポイントを超大盛りの食事に換えつつ席につく。

 

 

 

「・・・・で?ボク頭良くないからあんまり自信ニャいのだけれど」

 

意外やおバカを自覚していたオモチが、今回の調査対象に関する理解度を確認したいと言い始めた。オーダーから数秒で即出てくる巨大な骨付き肉にかぶりつきつつ、記憶を探りながらまくしたてるが、しかしその内容は驚くほど正確なバゼルギウスの生態だった。オモチにとってもやはり刺激的で興奮する調査内容だったのだろう。

 

 

 

「結局、ボクとご主人のユタぽんがやられたバゼルギウスは、大人になる一歩手前の幼体だったんだニャ?」

 

自分の主人をひどい呼び方で呼ぶが、アスは当然スルー。ゆっくりと頷いた。

 

 

 

「大人になるまで、バゼルギウスってのは爆発する鱗を作ることができニャい。爆鱗の作り方、落とし方を親に習いつつ何十年と護ってもらう」

 

 

 

「そこがどのくらいの長さの期間なのかはまだわかってないけど、ね」

 

少しだけアスが補足を入れるが、オモチの調査報告はここまで完璧だった。

 

 

 

(あのオモチがこんなに真剣に物事を理解しようとするなんて、ねぇ・・・・)

 

 

 

 

 

「で、ボクらが出会ったバゼルギウスは・・・・えーと・・・・ニャ・・・・ニャんだっけ・・・・」

 

アスが感心していると、急にオモチはどもりだした。しばらく目の焦点があわないまま手足をばたばたさせたかと思うと、

 

 

 

ボヒゅう・・・・

 

 

 

大量の冷や汗が吹き出し、頭からは煙まで出して、テーブルの上に座り込んだ。

 

 

 

「・・・・あ、流石にメモリ不足だったみたいだね」

 

 

 

「無理ニャ」

 

 

 

「ん。よく出来ました。オモチとユタさんが出会った若いバゼルギウスは、爆鱗の作り方が不十分で、爆発しなかったんだ。でも不十分ゆえに薄く不規則な形が裂傷を引き起こす。しかも薄いために落下軌道が予測できなくて、避けれなかったみたいだね」

 

引き継いでアス。オモチはあっさり復活すると、また座り直して興味津々で話を聞いていた。

 

 

 

「そうそうそれだニャ・・・・で、最後だけ聞きそびれたまま逃げ出しちゃったわけだニャ」

 

生態説明をアスに譲り、食事を思い出したのか極太ソーセージをまるで麺でもすするかのように丸呑みし、オモチが聞く。

 

 

 

「バゼルギウスが大人にニャる、というか鱗が爆発するようにニャる、ってどーゆータイミングニャんだニャ?」

 

うん・・・・。質問を向けられたアスは、頷きつつ懐から大きめの皿ほどの大きさのモノを取り出した。

 

 

 

「それは・・・・あのバゼルギウスの薄い鱗?かニャ」

 

 

 

「そ。あの後竜結晶の山頂で待ち伏せたのさ」

 

竜結晶の地。ハンターの狩猟場の最前線であり、その山頂はバゼルギウスがもっとも多く見つかる場所。

 

 

 

「そこに、再びあのちびバゼルは現れたよ。お父さんに教えてもらった通り、山の上を優雅に飛びつつ、鱗を落として。何度も急旋回して、何度もね」

 

やはり、最初は鱗は爆発しなかったよ。と言いつつ懐から次々と、何枚もの鱗を取り出すアス。取り出すにつれ、だんだん鱗は分厚いものへと変わっていった。

 

 

 

「最後に、自分ごと地面にダイブした時だよ。そこで初めて鱗が爆発したんだ」

 

アスはその場面を思い出し、感動したように眼を閉じ身体をぶるっと震わせた。

 

 

 

「心底嬉しそうに、大きく咆哮していたよ。これで真の巣立ちが出来るんだ!ってね」

 

自分が心底嬉しそうに、テーブルから身を乗り出すアスは、その情景をスケッチしたハンターノートを見せびらかすように開いて見せた。

 

 

 

「あの、絨毯爆撃、それも竜結晶の地のあの場所での、が彼らの『成人の儀』だったんだね」

 

 

 

「へえぇぇぇ・・・・ニャん」

 

興味津々でスケッチを覗きこむオモチ。

 

だがすぐに、眉をひそめてアスのほうに向き直った。

 

 

 

「でもえびちゃん・・・・。成人の儀、て言っても飛んで、鱗落として、急降下して、ってだけでいきニャり鱗が爆発するもんかニャ?逆にそんなことしニャくても、あの岩山の巣で練習しとけば爆発できるようにニャるんじゃニャいかニャ?」

 

がちゃん。首を傾げ過ぎてエールをひっくり返しているが全く気にしていないオモチ。

 

対して、さりげなくエールジョッキを戻しぱさりとタオルを敷くアスは、その質問は予想していたよと言うかのように落ち着き払ってハンターノートの別頁を開いた。

 

 

 

「ドドブランゴって、覚えているかい?オモチ」

 

その頁に載っていたのは、白い毛に真っ赤な顔の大猿だった。話をはぐらかされると思ったのか、オモチはさらに眉をひそめながらもとりあえずは素直に頷いた。

 

 

 

「ドドブランゴってね、実はまわりにいーっぱい引き連れてるブランゴと、身体の中身は全く一緒でね。群れのボスたるドドブランゴが倒されると、その取り巻きのブランゴの中の1頭が急に身体が大きくなって替わりのドドブランゴになるんだよ」

 

 

 

「!?ニャんと!」

 

がちゃん。今度はビックリしてまたオモチがエールをひっくり返した。

 

 

 

「自分が次のボスなんだ、という『自覚』。それだけであれだけの変化が起きるものなんだよ、モンスターって。バゼルギウスに関しても、『大人になった』、『成人の儀をやり遂げた』という自覚が身体に大きな影響を及ぼすのさ」

 

 

 

「それは、納得だニャあ・・・・」

 

深く感心したように頷くオモチ。今度は自分でエールジョッキを戻し、こぼしたエールを舐めとる。

 

 

 

「あ!それじゃあ、この先大きな環境変化が起きたら、何かを『自覚』して凄い進化しちゃうモンスターも出てくるかもニャ!?」

 

テーブルを舐める途中、急に思い付いたようにオモチががばっと身体を起こした。あたかも頭の上に大きなビックリマークが見えるかのようだ。

 

 

 

「あっはっは!そんなの今さらだよ、オモチ」

 

可笑しそうに笑いながら、アスはジョッキにほとんど残っていなかったエールを平らげた。

 

 

 

「ゾラ・マグダラオスが新大陸へ渡り、ゼノ・ジーヴァが新大陸に産まれ、ベヒーモスやレーシェンまでもがこの新大陸、いやこの世界に大きな影響を及ぼしているんだよ、今は」

 

アスは立ち上がり、海を指差し、大峡谷を指差し、背伸びをしてさらにその奥を指差し、今度は比較的近くの古代樹を指差す。そして最後は自分の分厚いハンターノートの、まだ多く残る白紙の頁を指差して締めくくった。

 

 

 

「この先、どのモンスターが、どんな風に進化したって、何も不思議じゃないんだよ」

 

その進化したモンスターにユタのようにボッコボコにやられるかもしれない、というのに。

 

オモチもアスも期待しかない輝いた眼のまま、改めてテーブルに運ばれてきたおかわりのエールで勢いよく乾杯した。



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その17 遺存種の生態と古代樹の暴走(前編)

モンハンワールドから、コラボモンスターの"レーシェン"の生態です。今回もワールドをプレイ済みの方にしか分かりにくい表現が多々あるかと思いますが、ご容赦ください。
またしても狩り友さんに登場してもらっています。真田さんと、そのオトモの真田丸君です。ありがとうございました!例によって酷い役柄でごめんね!


遺存種 レーシェン。『門』と呼ばれた謎の力場によって新大陸に引き寄せられたモンスターである。

レーシェンと共に門で引き寄せられてきた魔法を駆使する狩人、ゲラルトによってもたらされた情報と技術で、新大陸のハンターにも有利な戦いが出来るようになった。何度かのレーシェン襲来、さらに強個体の出現もあったが、いずれにも遅れを取ること無く、新大陸の生態系はハンターによって守られてきた。

 

だが、いつも上手くいくとは限らないと警鐘を鳴らす者が居た。

 

「つまり、レーシェンがここ調査拠点アステラ内部に出現する可能性がある、ということか?」

新大陸調査団、大きく分けて5つある団を統括しているのが、褐色の肌に銀髪の『総司令』だ。簡素な動きやすい革製の鎧を常に着込み、腕組みしたまま槍のように真っ直ぐな姿勢を少しも崩すことなく直立不動。40年前の発足当時から新大陸調査団を見てきた、ベテラン中のベテランである。

 

「その通りです、総司令。今までのレーシェンの出現報告は全て古代樹の森の中央部、第12エリアからですが、戦闘の真っ最中でも突如姿を消し、かなり距離を挟んだ全く別の場所に出現する事が知られています」

総司令に対し意見を述べているハンターは、スズナ。現大陸の各地で活躍したハンターであり、新大陸ハンターのユタの姉である。マタタビの栽培が出来ない新大陸への渡りを、愛するオトモネコ達のためを思いためらっていたが、ついに我慢しきれず新大陸からの連絡船に飛び乗って来てしまった。

 

「この、レーシェンが姿を消してから再度出現するまでの間、どれだけの距離を移動する事が可能なのか判明していない以上、このアステラ内部に侵入してくる可能性も検討すべきです」

背中まで伸びるさらりとした金髪に、おっとりとした垂れ気味の大人しげな眼。あまり我を主張しないように見られがちな外見のスズナだが、レーシェンの調査レポートに眼を通すや否や総司令に直訴しに現れた。

 

「・・・・で。君がスズナに連れてこられたということは、問題は単にレーシェンの生態に限らない、ということだな?植生の。」

と、総司令がスズナから視線を変えた先に居たのは、スズナに引きずられるようにして連れてこられた竜人族の男だった。

尖った耳に丸メガネ。枯草色のナイトキャップのようにも見える頭巾を被った『植生研究所所長』。いつも無責任に笑っている、つかみどころの無い男だが、今日は若干不機嫌そうに見えた。

 

「あ〜・・・・うん、そうなんです総司令。レーシェンがここアステラを目指す可能性は、たしかにあるんです。それに気付いたのが僕じゃなくて新大陸に着いたばかりのルーキーだってのが気にくわないけど、ね」

不機嫌の理由はプライドが関係しているようだ。

 

「根拠は」

言葉少なめに、総司令。状況を迅速に正確に把握するため、緊急かつ重要な案件と判断すると彼は急に口数が減る。

総司令に促されると、丸メガネの所長はコートのポケットから焼け焦げた樹の枝を取り出した。両手に一本ずつ、二本だ。

 

「こちらが、レーシェンから剥ぎ取った枝片。もう一本が・・・・」

二本の枝は全く同じ見た目で、見分けがつかない。どちらかを示す印が付けられているらしく、慎重に確認しながら、所長はもう一本を持ち上げる。

 

「すぐそこにある、植生研究所で栽培している古代樹の枝です」

ぴくり。所長が言うや否や、総司令の組まれた両腕が跳ねた。

 

「古代樹に反応して空間移動するということか!?」

珍しく表情を変えて吠えた総司令を目の当たりにして、性格の悪いことに多少気を良くしたらしい。植生研究所長は分かりやすくトーンを上げて話を再開した。

 

「というより、レーシェンは空間移動するごとに古代樹の幹や根で身体を構成し直しているようだね。これら二本の枝には全く差異がない。レーシェン、イコール古代樹とも言えるんです。古代樹がある場所に空間移動するとなれば、アステラ内の植生研究所のあの古代樹がレーシェンの依り代になる可能性は、あるね」

人との関わりに興味を示さないことで有名なこの所長。総司令に対しても敬語を使ったり使わなかったりと適当な物言いで自分のペースを崩さない。

が、今日はそのペースを乱した女が1人この場に居た。

 

「レーシェンがアステラの古代樹を基に身体を構成した場合、森とはまた違う性質が発生する可能性もあります。手遅れになる前に手を打つべきでは?」

丸メガネを押し退け、珍しく熱弁をふるいはじめたスズナには、調査拠点アステラの防備を固めレーシェンから護るという使命感の他に、もうひとつの狙いがあった。

 

「その通りだ。すぐ植生研究所にレーシェン討伐経験のあるハンターを常駐警備に充てよう。四時間毎の交代で1名ずつ。さらに本国に宛ててモンスター避けの資材輸送要請を出す。アステラ内部の各所と、植生研究所周辺にもモンスター避けの塗料を塗布する」

総司令があっという間に指令を出すが、なおもスズナは意見を続ける。

 

「ことはレーシェンだけの問題ではありません。新大陸の調査が大幅に進んだ今、新キャンプの設営や、いっそ新たな第2の調査拠点が必要になることもありえます」

らしくないスズナの熱弁の理由こそ、次のセリフに集約していた。

 

「モンスター避けは、今後アステラでも生産出来るようにすべきです」

総司令にぐっ・・・・と顔を近付け、真剣な眼差しで訴えるスズナ。

 

"モンスター避け"とは、ハンターがクエスト基地として利用するキャンプや、街の外壁に用いられる特殊な塗料の事である。ゾラ・マグダラオスやラオシャンロンのようなよほどの超大型種でない限り、飛竜種甲殻種牙獣種さらには古竜までも、ありとあらゆるモンスターの感覚を著しく刺激し近付けないようにする。レーシェンは別世界の存在だが、レーシェンがキャンプに浸入したという報告は無い。キャンプ資材に塗布されているモンスター避けが効果を発揮したと考えるべきであろう。

だが当然、それほどの効果を発揮する代物を街ひとつ包むほどの量生産するのは容易ではなく。その上・・・・

 

「無理だ。モンスター避けは"古竜の血"と、銀火竜の"煌炎の雫"を調合して発酵させる必要がある。古竜の血はここでも集められるが、銀火竜リオレウス希少種は現在新大陸では発見されていない」

残念そうに、しかしいつも通りきっぱりと断ち切る総司令だったが、これもスズナにとっては計画通り。怯むことなく総司令にさらに詰め寄った。

 

「でも火竜・リオレウスは居ます。希少種素材である、煌炎の雫は我々通常のハンターでは剥ぎ取る事は出来ませんが、私の友人に、この問題を解決する可能性のあるハンターがいます」

この、友人を新大陸へ招き入れる事こそ、スズナの狙いだった。

 

「『ハギトリ スタイル』という、任意の素材を選択して剥ぎ取れるスタイルを持つギルドナイト、リリィです。彼女ならこの新大陸のリオレウスでも、希少種素材である煌炎の雫を剥ぎ取れるかもしれません」

モンスターの素材を、必要なものだけ選択して剥ぎ取れる。一頭から天鱗を4枚剥ぎ取って帰ってくる事すら可能な能力を持つリリィという少女がスズナの友人であり、今回のこのスズナの行動の主たる原因である。

 

『新大陸にあたしも行きたいのに、ギルドが許してくれない』

そう言って全身全霊でむくれるリリィのために、スズナが一肌脱ごうとひと芝居うったのが、今回の直訴なのだ。もちろん、レーシェンの生態が気がかりだというのも本音ではあるのだが。

 

「ハギトリ スタイルだと?向こうにはそんな技術があるのか」

案の定、総司令は食い付いてきた。どこから取り出したのか、分厚い書類束に素早く目を走らせながらつぶやく。

 

「ゾラ・マグダラオスの障壁作戦以降、いまだに資材、素材不足から解放されていない。仮にハギトリ スタイルで煌炎の雫を集めることが出来なくても協力を要請する価値はあるな・・・・」

独り言ですら通りの良い声。総司令はさらに調査団のメンバー表らしき書類も取り出すと、ほんの数秒だけ、今度は黙って目を閉じ考えに没頭した。

すぐにカッと目を開くと、白紙とペンを取り出しスズナへと向き合う。

 

「スズナ。リリィの詳しい所属は分かるか?」

 

「はい。ギルドカードがあります」

 

「好都合だ。渡航要請を出そう。どうせ、リリィ本人に頼まれてこの話を持ってきたのだろう?本人も新大陸調査団に加わる意思を持っている、で良いな?」

完全に見透かされていたが、おおむねスズナの考え通りに話が進むようだ。なんとも手際よく対レーシェン警備の命令書とリリィの渡航要請書を手書きで作成し始める総司令。対してスズナはほっと一息。そしてこの場に居たもう1人は・・・・

 

「あー・・・・スズナ君?ほっとしてるとこ悪いんだけどさ」

植生研究所の所長だった。話し合いの中心から外れ、あっさり興味を失ったようでレーシェンの枝で1人遊びをしていたが、何やら妙なモノを発見したようだ。

調査団の会議用大テーブルのすぐそば、調査団ハンター達が居室として利用している建物(元は新大陸へ渡航した時の船だ)の入口を、所長は指差している。

 

「あそこ。アレ君んとこのオトモじゃないかい?」

指の先に居たのは、スズナのよく知る白黒の毛並みのオトモ猫だった。




ちなみに"モンスター避け"も創作です。公式でのキャンプや街の防壁に関しての説明はどうなっているのでしょう?詳しい方いらっしゃいましたら是非教えて下さい。


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その17 遺存種の生態と古代樹の暴走(中編)

部屋から出てきたのはオトモ猫だった。ただしスズナのオトモであるナダレではなく、オモチだ。

 

「あ、いえ・・・・アレは私のではなく、弟のユタのオトモ、オモチです。が・・・・」

答えながらスズナも異変に気付いた。

 

「あ、そっか5期団君のオトモだったっけ。あれ・・・・なんか変じゃないかい?大丈夫?」

 

オモチは、何やら足元がふらついていた。しかし体調が悪いわけではなさそうだ。満面の笑みで、上機嫌に唄を歌っている。

 

「はっは〜ぁ、びーばのんのん♪ニャーあニャーァ♪」

なんとも適当な、しかも場面に則していない唄だが。何故か少し鼻声で歌うオモチの鼻から、何か妙なものが刺さっているように見えた。スズナと植生研究所長に釣られて、書類から眼を離してオモチの方に気を取られた総司令が、ぽつりと呟くのが聞こえた。

 

「枝・・・・?が刺さっているのか、五期団のオトモアイルーの鼻に」

職業柄なのか何を言うにも分かりやすい説明口調になる総司令だが、この奇妙な状況では疑問符が付属せざるを得ない。が、スズナにはすぐにぴんときたようだ。

 

「あーっ!!!?オモチ、マタタビスティック鼻に刺してる!?」

普段からしまりのない大きな口をさらに極限まで開いてスズナが絶叫する。新大陸へ渡ってきたときにオモチに渡したお土産だった。新大陸ではオトモ猫の大好物、マタタビがいまだ発見されていない。生態系を崩さないことを重視するため栽培も許されないので、種の持ち込みも制限されているが枝はお土産として持ち込むことができた。

が、当然鼻に刺す用途は想定されていない。

 

「ふニャッは〜ぁ♪」

マタタビに酔いに酔ったオモチは階段をなんとも痛そうな体勢で、しかしなんとも楽しそうに転げ落ちていた。

そして、オモチの後ろにももう一匹。

 

「まーたたびーぃ〜は良〜いニャッとーぅ♪」

全くろれつの回っていないこの猫も鼻にマタタビを刺し、さらにもう一本タバコのように咥えている。

 

「マル君!?あなたまで何をやってんの!?」

慌てて駆け寄るスズナを完全に無視して、マルと呼ばれた赤毛のオトモアイルーは、先ほどオモチが転げ落ちた階段をアイススケーターのように優雅にくるっと2回転ほど回って降りた。

 

「マル君のご主人がどんニャに凄腕でも、マタタビだけは用意出来ないもんニャー。うちのご主人のユタぽんにはもーっと無理だけどー♪ユタぽんの姉ちゃん様々だニャッ」

オモチはオモチで好き勝手言っている。

酔いどれオトモ2匹が自分達の世界から戻ってこないため、どうすれば良いか分からずスズナはただ見守るしかできない状態であった。

 

「おネーしゃんにお礼しニャくちゃニャー?」

キレキレなダブルアクセルを決めたにも関わらず、フラフラとした足取りでオモチの肩に寄りかかると、マルはどこからか奇妙なモノを取り出した。

 

「おネーちゃんにコレあげちゃうニャ!オイラご主人のアイテムボックスからかっぱらってきたニャあー」

そのおネーちゃんがすぐ後ろでオロオロしている事に全く気付かず、マルは取り出したモノをお手玉して遊び始めた。

 

「ち、ちょっと待ってマル君・・・・確かに私ソレ持ってないから嬉しいけれど・・・・」

手に入れた事が無い素材なのに、マルが危ない手つきでお手玉している謎の頭骨が何なのか、スズナはすぐに気が付いた。何故分かったのか・・・・

 

 

 

「タイムリー過ぎるもん!レーシェンの頭だよそれ!」

取り上げようと手を伸ばすスズナを、酔拳のような妙な動きでかわすマル。渡そうとしている本人だとも気付いていないようだ。

 

遺存種の生態報告書では、レーシェンを召還する"門"は、レーシェンの頭骨を木の枝にくくりつけた"トーテム"と呼ばれるオブジェから発生したと書かれていた。さらに、レーシェンの強化個体は頭骨のみの状態から身体を構成したとも。実際にレーシェンを目にしていないスズナでも、マルがやっていることがなんとも不味い事であるのはすぐに知れた。

 

「すぐに!ご主人に!返し!なさい!あーもう避けないの!!」

こんな時だけご主人の動きを忠実に真似するマルは、頭骨を奪おうとするスズナの手をことごとく見切っていた。

 

「うニャーははは!レぇー♪シェンの頭はヘンな骨ぇー♪スカッスカー♪ホネっほねー♪」

ベロンベロンに酔いながらもくねくねと身体をよじらせ避けて避けて妙な唄を歌う。さらには、オモチまでも加わってレーシェンの頭骨をキャッチボールしはじめた。

 

「ちょっと!植生研究所のすぐ近くなんだから!ホントやめなさい怒るよ!?」

既に怒りながらスズナが叫ぶが、2匹とも聞く耳を持たない。レーシェン出現が最も危惧されていた植生研究所の古代樹がもう目の前にあるのに、へらへらと笑うオトモ猫2匹からレーシェン出現の核である頭骨を奪えないでいる。実は先ほどから、目の前の古代樹から変な臭いが漂ってきているのを、鼻の良いスズナは感じ取っていた。レーシェン出現の前触れに思えてならない。

そもそも、レーシェンの頭骨を頭上に掲げ練り歩く。もはやこれはレーシェン召喚の儀式なのではないだろうか。さらに焦ってスズナが前に出よう、と・・・・

 

その直前。いつの間にか近づいてきていた総司令の手がぽんとスズナの肩に置かれた。慌てるな、と静かに諭すとオモチとマルを観察する位置まで下がらせた。

 

「だっ・・・・!大丈夫でしょうか・・・・」

 

「落ち着け。オモチとマルがここに居るということは、ユタも真田もアステラ内に戻ってきているということだ。既に呼びに行かせた。あの二人が居ればレーシェンが出現しても問題ない。それに・・・・」

言いながら総司令は前方の古代樹を指差した。

 

「森にある巨大古代樹と、それをアステラに移植して根付いた植生研究所のあの古代樹、組成としては同じだが、決定的に違う点がある。それが、レーシェンの魔法に影響を受けるとするとだな。この臭いからして・・・・」

 

相変わらず根回しの良い総司令だが、今は少しだけ様子が違った。さきほどからスズナも感じていた妙な臭いに心当たりがあるのか、可笑しくて仕方がないというふうに頬の筋肉を強張らせている。

 

「多分だが。戦わずに済むかもしれんぞ」

珍しく笑いを含んだ声を出した総司令がまた別の方を指差すと、その先では。

 

「ふニャあ〜・・・・」

オモチとマルが2匹同時に酔い潰れて倒れこむのが見えた。

 

「あっ!レーシェンの頭骨が・・・・」

オモチの手からやっと離れたレーシェンの頭骨。ころころと転がると、植生研究所の古代樹が生える池にぽちゃりと落っこちた。もうここまできてはレーシェン召喚の儀式の仕上げにしか思えない。

 

 

 

ブブブブブブブ・・・・・・・・

 

同時に、どこかで聞いたような低く耳障りな音が辺りを包んだ。音は次第に古代樹の方へ近付いていき、黒い煙となって樹を覆った。

それはまるで、中から現れる主役を照らす黒いスポットライトだった。



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その17 遺存種の生態と古代樹の暴走(後編)

「これは・・・・蜂!?」

植生研究所を覆った黒い煙。それを構成するモノに気付いたスズナの緊張感のある叫びとは対照的に。

 

「クククク・・・・ハチミツの臭いが凄まじいな!ニクイドリの代わりというわけか?」

総司令は忍び笑いを漏らしている。さっき感じた古代樹から漂ってきていた臭いは、ハチミツであった。幹と言わず枝といわず。あらゆる所から樹液のように黄金の液体が吹き出している。しかし何故・・・・?と鼻をひくつかせながらスズナが頭の上に疑問符を浮かべていると

 

「スズナ。お前今植生研究所に何を依頼している」

完全に笑っている総司令が緊張感なく聞いてきた。緊張感はないが、スズナの肩をつかんで後ろに下がらせつつ、だ。暗に危険はゼロではないことを告げている。

 

「え、えぇーとハチミツと・・・・って!え?この蜂レーシェンじゃなくて私が依頼したハチミツ増殖の蜂!?」

 

「ハッハ、やはりな。ということは、残る2枠の増殖依頼は定番の」

古代樹を覆う蜂の群れの中に、チカチカと光るものが見え隠れしている。光蟲も増殖中だったのだろう。

 

総司令の推測はこの状況だった。森の古代樹とアステラに根付いた植生研究所古代樹の違い、それは"生物の成長繁殖を促し増殖させる力"であり、調査団員は皆それぞれの狩りに役立てるため生物素材を増殖させている。この力が、どうやらレーシェンの魔力で増幅されてしまったようだ。それがハチミツ、光蟲。

そして、あと1枠は・・・・

 

状況を察したらしいスズナも総司令に倣って後ろへ下がりながら、頬をひきつらせながらつぶやいた。

 

「お隣の生態研究所の本棚が倒壊したりしたら、ちょっぴり爽快かもしれませんね」

 

ザザザザ・・・・ッ

スズナのつぶやきが終わるやいなや、黒い蜂の煙の中からレーシェンが姿を表した。捻れた角を左右につけた鹿のような頭骨の下に、樹で構成された痩せ細った貧相でも禍々しい身体。両手には鋭い枝が指爪として伸びている。

本来であれば恐ろしい姿なのだが、蟲や植物、キノコなどのアイテムを増やす力を持つ植生研究所古代樹で増殖が進んでいる3種のうち、ハチミツ、光蟲に次ぐ最後の1枠が起こす現象を予想すると、総司令もスズナもにやけながら後ずさりせざるをえない。

 

「レーシェンも出現した瞬間だろうにご苦労なことだな。で、スズナよ。最後の増殖依頼品は?」

総司令の問いに答えるその瞬間、スズナはくるりと後ろを振り向き。

 

「鬼ニトロダケです」

そのまま両手を大きく広げて前方へジャンプ、階段の向こうへダイブした。

 

 

 

ドゴォン!!!

 

 

 

高級耳栓が付いていなければ鼓膜が吹き飛んでいたであろうほどの爆音が、アステラ全体を揺るがした。

"大タル爆弾グレート"の火力ブーストに使われる"鬼ニトロダケ"の増殖中であった植生研究所古代樹は、レーシェンの依り代となる際に増殖能が急激に増し、ハチミツを溢れさせ光蟲を大量発生させ・・・・鬼ニトロダケの大増殖&連続大爆発を引き起こしたのだ。

 

ドゴォン!ドゴォン!

 

「ハッハッハ!たまにはこんな鬼ニトロ大爆発も景気よくて良いかも知れんな!」

なおも続く爆発の中、総司令が緊急回避後の腹這い姿勢のまま豪快な笑いを発している。調査全団の統括という重責を担う立場上、このような形でのストレス発散をどこかで欲していたのだろうか。

 

ドゥン!ゴォン!!ドッガァン!!!

 

その後、もはやレーシェンの姿などとうに見えなくなってもまだ、鬼ニトロダケの連続爆発はしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・むぅ。素直にレーシェンと戦っていた方が被害が小さかった気がするな」

爆発が収まり古代樹に近付いていく総司令は、いつもの冷静な口調と歩調であったが、古代樹周辺は真っ黒に焼け焦げていた。

 

スズナの指摘通りアステラ内部に出現したレーシェンは爆弾により四散したが、爆発の範囲は小さかったためアステラの街自体は守られたが、古代樹がおおいにひしゃげている。なのに爆発の中心に最も近かった2匹のオトモ、マルとオモチが少し焦げただけなのが不可思議だが。

 

「でも、鬼ニトロダケのおかげで戦闘不要で勝手に爆発で倒れてくれるなら、古代樹警備は必要なさそうですね」

総司令のあとに続くスズナが気楽そうに言う。

 

「あぁ。だが建物と古代樹の修復係が要るな。リリィのハギトリスタイルも補修材確保のためにも是非欲しい。もちろん本来の目的である調査拠点拡張のためにもな。予定通りハンターギルドに申請は通しておこう。残るは・・・・」

スズナの目的達成を担保する一言を発してから、総司令は古代樹から目を離し、後ろを振り返った。

 

「この馬鹿どもの仕置きだなあ」

「ふギャッ!!?」

焦げたオモチとマルの尻尾を踏んづける。連続爆発に最後まで巻き込まれていながら元気に悲鳴をあげる2匹に対して、もはや同情する者は誰も居ない。

 

「あ・・・・あははは・・・・お手柔らかに」

流石のスズナも擁護することは出来ず、ひきつった笑みを浮かべるだけだった・・・・



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その18 技術の進歩

またもワールドより。
今回メインキャラクターになるリリィは、過去話
『その9 ばつぐんの スタイル』にて初登場。それからしばらく現大陸のドンドルマの街にてギルドナイトを続けていましたが
『その18 遺存種の生態と古代樹の暴走』で新大陸への渡航を希望していることが分かりました。
今回はその希望が通り、新大陸ハンターとして活動を始めましたが。何やら悩みがあるようです。


「あ~・・・・やっぱりあたし向いてないわ~」

調査の最中、足下に生えていたコケをむしり取りながらリリィはぼやいた。朝っぱらから情けない声を出しているのは、やたら堅牢で分厚い鎧に包まれているように見えるハンター、リリィ。しかし実は鎧が分厚いのは見た目だけで、装甲は他のハンターのそれと変わらない。そう見えるのは、彼女が子供にしか見えない身長であり、鎧を着込むとどうしても全体的に丸く見えてしまうためだ。小柄な竜人族というごく珍しい種族である彼女は、そのハンデを乗り越えてハンターとして活躍している。

 

「どしたの?リリィ」

くるりと振り向いて聞いたのは、先を歩いていたクエスト同行者のスズナ。蒼火竜と飛雷竜の素材を用いた鎧を着ているが、こちらはリリィとは対照的に鎧の上からでもスタイルの良さが分かる、見事な着こなしだ。

 

「これよ。まだ慣れられないわ」

 

「これ、って?」

 

「スリンガー」

 

「あぁ~・・・・」

左手を掲げリリィが言うと、スズナは即座に納得した。左手一本で弾を射出するスリンガーは最先端の技術だが、まだ効果も薄いし慣れるまでも大変だ。使い始めたばかりのリリィは、ただただ面倒臭そうにスリンガーに丸く固めたコケの塊を装填している。

 

「そもそもあたし、モンスターの弱点部位を狙うのが苦手だから肉質無視のガンランス使ってるのよね。スリンガーで何かを狙うってのが性に合わないみたい。すぐ外しちゃう」

2人の今回の狩場は龍結晶の地。洞窟内の壁と言わず天井と言わず、そこかしこに龍結晶がつららのように伸びている。

 

「いや、動くモンスターに当てるのが苦手でも・・・・」

言うと、スズナは天井を指差した。

 

「あそこにある結晶のつららに当てれば、落っこちてきた結晶がモンスターに当たって大ダメージが期待できるよ?」

 

「あ、知ってる知ってる。でも天井に当たる前にモンスターの翼に弾を当てちゃったりして失敗するんだ」

 

「あはは・・・・あるある」

いくらかは先輩であるが、スズナもまだ新大陸に来てから日が浅くスリンガーの扱いも慣れていないようだ。スズナもスリンガーに石ころを詰め・・・・ふと、顔を上げてリリィに呼び掛けた。

 

「当てるのが苦手だったら、コケやめてこっちの石ころにしたら?弾いっぱい拾えるからすこしくらい外しても大丈夫」

にっこりと魅力的な笑みを投げ掛けてくるスズナの提案に対して、リリィは何故か一瞬たじろいだ。

 

「あ、あ~・・・・私は・・・・良いよ、ヒカリゴケで・・・・。頑張って当てるよ」

いつも元気な友人が珍しく戸惑いを見せている事に驚いて、スズナは手を止めて立ち上がった。

 

「うん?そりゃヒカリゴケも有効な使い道あるけれど・・・・」

 

「・・・・うん」

スズナからの疑問符を含んだ反応に、またも歯切れ悪く生返事のリリィ。しばし沈黙を保つが。

 

 

 

「あ~・・・・私の"スタイル"なんだけどね」

耐えかねたのか、勝手に白状し始めるリリィ。元々黙っているということができない性格なのだ。

 

「自分の好きな素材を選択的に剥ぎ取れる・・・・だけじゃなくてね。というか、選択的に剥ぎ取るために、なんだけど」

リリィの"スタイル"は、ハンターズギルドでも重宝がられ、新大陸でも素材不足を解消する救世主として有り難がられた"ハギトリ スタイル"だ。宝玉だろうが天鱗だろうが、獄炎石だろうがいにしえの龍骨だろうが一発で

、何発でも探し当てる驚異のスタイル。

だが、リリィが言うにはそれだけではないようだ。

 

「素材の事が他の皆よりももっと見えちゃうみたいなの」

 

「スリンガー弾の素材も?」

 

「そ」

もはや狩猟対象を見失っている事も忘れ、座り込んで聞く姿勢をとるスズナ。リリィに至っては丸い岩を背もたれに、スリンガーに装填していたヒカリゴケを取り出しお手玉を始めている。

どうやら"ハギトリ スタイル"によって強制的に入ってくる素材の情報が、リリィをして石ころを敬遠させているようだ。コケをお手玉しながら、リリィはどう説明しようか考えていたが、割とすぐに話し始めた。

 

「スズナ、"胃石"って知ってる?」

 

「・・・・遺跡?」

聞き慣れない単語に首をかしげるスズナ。ちなみに二人がいる新大陸はもともと無人であったとされ、現在まで遺跡が発見されたことは無い。

 

「お腹の石、で胃石ね」

リリィがお手玉をやめてスズナの聞き間違いを正す。自分の腹を指差しながら、ぱくぱくと物を食べるジェスチャーをしている。

 

「モンスターはほぼ全種族、消化を助けるためにあらかじめ石を飲み込んで胃の中に納めているの。身体の大きさと胃の消化能力が釣り合っていない上に、顎も大きすぎるから消化しやすい大きさにまで食べ物を噛み切ったり咀嚼したり出来ないのも原因ね」

どこぞの生態研究員のように一気にまくしたてるリリィだが、スズナもかぶりつきで聞いている。

 

「ふんふんなるほど。獲物とかサボテンとかを丸呑みして、胃の中に入れといた石ですりつぶすのね?」

スリンガーとの接点は不明だが、興味津々で聞く姿勢をとるスズナ。気を良くしたリリィは、芝居がかった手つきで身ぶり手振りを交えて続ける。

 

「そ。スリンガー弾の中には、この胃石が使われているのもあるってわけよ」

 

「あぁなるほど、そこで繋がるわけね」

スズナも大袈裟に頷いて納得する。

 

「と言うことは、そこに落ちてる石ころも胃石なの?」

石ころを拾うのを嫌がった事の理由にはなっておらず、少し首をかしげながら、スズナ。するとリリィは結晶洞窟の天井を指差した。先程スズナがしたのとおなじように、リリィの指の先にはつららのように伸びている竜結晶が、地平から現れてしばらく経ち元気になってきた朝陽に照らされて輝いている。

 

「そもそも、単なる石ころを投げつけただけであの巨大な結晶が落ちてくる?大タル爆弾って、ちっちゃな石がぶつかっただけで爆発する?危なすぎるでしょ」

 

「た、確かに・・・・。モンスターの胃液か何かで威力が上乗せされるのね?」

 

「胃液だけならまだ良いんだけど・・・・」

ここでまた、リリィが言い淀む。いい加減不審に思ったのか、首をかしげたスズナが膝歩きでリリィに詰め寄り覆い被さるようにして、少しだけ苛立ちを含んだ声をぶつけた。

 

「さっきから気になる言い方するね。私けっこう石ころ使うから気になるのよ?ヤな情報が見えちゃうのなら教えてよ」

ぐぐ・・・・っと顔を近づけてくるスズナに少し引きながら、リリィは観念したように嘆息した。

 

「はぁ・・・・ホントに大したことないんだけどね?」

と、前置きしてから。

 

自分のお腹を指差した。

「さっき、スリンガー弾の石ころは胃石だって言ったよね。胃の中に入ってる石をどうやってスリンガーに装填するの?」

満足する答えが聞けそうで身体を離すスズナだが、質問内容に片眉をひそめていた。

 

「・・・・??誰かが・・・・ここでモンスターを倒して、そのお腹を剥ぎ取りで切り裂いた時にこぼれ出るとか?」

が、リリィはすぐに首を振る。

 

「それだとちょっと数足りないのよね。大型のイビルジョーくらいだったらおっきな胃に30個くらいは胃石納めてることあるけれど」

そして今度は巨大な洞窟の入り口のほうを指差す。

 

「このサイズの石ころは、表にいる翼竜達か、溶岩地帯のガストドンか、何匹か分の胃石に見えるのよね。で、普段この洞窟内にまでは入ってこない小型モンスターの胃石が、多数ここに置かれてる理由ってのが・・・・分かる?スズナ」

なんとなく真相を察したのか、スズナは少し青ざめていた。元から座っていた場所よりさらに後ろへ引いて、おずおずと口を開く。

 

「石ころって・・・・もともとは小型モンスターの胃石?ってことなのよね。それはお腹の中に入ってる」

 

「そう」

 

「その、胃の中から出てきたモノを私達使ってる」

 

「ん。胃の中からモノが出てくるってことは?」

 

「・・・・ここトイレ?」

 

「惜しいね。トイレは当たり前だけど"モンスターの糞"がある場所だから。ここはフンコロガシがフンをコロガシて集めてくる場所なの」

えええぇぇぇ、とさらに距離を取ってスズナが壮絶に引く。

 

「・・・・同じ事じゃない。私スリンガーに装填するために30個もウンチを持ち歩いてたのね」

がっくりと首を垂らしてスズナはかすれた声を上げると、リリィもうんざりしたように手の平を顔の前でひらひらと振る。

 

「・・・・あたしのさっきの微妙な空気も、察してくれた?あたしだって、必要なら"こやし玉"だって使うんだもん、石ころも躊躇しないけど・・・・」

尻すぼみになるリリィの言葉を継いでスズナがリリィの手の中にあるヒカリゴケを指差す。

 

「・・・・"他に代用品があるなら出来れば遠慮したい"、ってことね」

 

「うん。・・・・ホントに大したことないでしょ」

 

「まったくよ・・・・」

狩猟目的を諦めて、拠点帰還用の翼竜を呼ぶ準備をしながら、スズナは愛用のスリンガーの臭いを念入りに確かめていた。

 

 

 

 

 

「ちなみに、大型モンスターがひるんだ時に落とす特殊なスリンガー弾も、たいがいウンチかゲボよ」

 

「いらないその情報・・・・」

この事は他の仲間ハンターには黙っておこう、と心に強く誓うスズナだった。

 



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その19 言葉の壁

我輩はルームサービスである。名前はまだ無い。

 

・・・・などと、文学的に始めてみても誰も私に名前など付けてはくれニャいのですニャ。

 

「ん?名前が欲しいのかね?」

 

「ふニャっ!?だだだ旦那様!?」

 

急に話しかけられて振り向くと、そこには私の雇い主が立っていましたニャ。

 

「あっ・・・・い、いや何でもないですニャ」

 

「そうかね?名前が欲しくなったら言いなさい。一応考えておこう」

そう穏やかに言う私の雇い主、旦那様は『張 風爽(チャン・フーソ)』という、一風変わった名前のハンターですニャ。

名前が一風変わっているのには歴とした理由がありましてニャ。

 

 

「そうそう、前から気になっていたのだが」

旦那様は実家が由緒正しい武家ニャので、少しだけ堅いしゃべり方しているらしいですニャ。らしい、というのにも理由がありましてニャ。

 

「ルームサービス君、私の母国語を自然に話しているね?キミはこの土地で雇ったアイルーのはずなのに何故話しているのだ?今さらではあるが・・・・」

うん。今さらですニャ。私がこの旦那様にお仕えし始めてから一年半経っているというのニ。割と細かいことを気にしニャい性格の旦那様なのですニャ。

 

そう。旦那様は、遠い遠い極東の地からやってきたハンター。使用言語が違うために名前が一風変わった響きに聞こえるのですニャ。そして、この家の外で他のハンターと話すときには慣れない外国語を、必死にカタコトで使わなくてはならないのですニャ。

 

で。そんな旦那様に仕える私は、極東がふるさとなのではニャく、大都会ドンドルマ出身ニャのです。でも旦那様は自分の家においでの時くらいは気を楽に、私とも母国語で話してほしいものですニャ。つまり。

 

「覚えましたニャ」

 

「・・・・逆に私が君の国の言葉を覚えるのにはかなり苦労しているのだが」

 

「頭の構造が違いますニャ。アイルー族は旦那様のようにフクザツな武器の扱いやアイテム調合、カガク技術なんかは理解は及ばず、お世辞にも頭が言いとは言えないですニャ。しかし・・・・」

この説明をするのに最適なアイテムが、この家の片隅に置いてあるのを、ルームサービスたる私が見逃すわけはないのですニャ。旦那様のオトモアイルーであるヤマト氏のほうを肉球で指しましたニャ。

 

「テトルーやガジャプーらの、未知の言葉を覚えることは得意なのですニャ」

ヤマト氏の回りには、この新大陸で出会った別種族、テトルーやガジャプーとの交流で手に入れたオトモ道具が多数転がっていますニャ。

旦那様はテトルー達と話すことは全くできません。新大陸調査団のお偉い調査員の先生も長年無理だったのですが、旦那様が持ち帰ったヒントを元に、我々アイルーが翻訳出来るようになったのですニャ。

 

「・・・・そういえば、部分的にはジャグラスなどモンスターともコミュニケーションが取れるのであったな・・・・」

無言のまま親指を立てるヤマト氏に恐ろしいバケモノでも見たかのような目を向け、旦那様はつぶやいていましたニャ。

 

「それじゃあ、君たちはどんな言葉もすぐに覚えられるということかね」

 

旦那様は気軽に無茶ぶりをしますが、さすがにある程度知能が無いとコミュニケーションは取れないですニャ。例えば・・・・そうだ、ここマイハウスの暖炉前に良い例が居ましたニャ。

 

「そこの暖炉にいる、ギンセンザルは面白いですニャ」

サルというよりはリスに近い、フサフサの毛に覆われた長く大きな尻尾を持つギンセンザル。凍て地の温泉を好み比較的捕まえやすい環境生物ですニャ。

 

が、私がギンセンザルを指差すと旦那様は首をかしげ不思議そうな声をあげましたニャ。

「ほぅ?そこのギンセンザルはみな私が捕まえてきたものだが、あまり鳴き声を聞いたことがないな。これでもしゃべるのか?」

さすが旦那様。すぐに矛盾に気がついたようですニャ。しかし面白いというのはまさにその点。

 

「その子達の手を見てくださいニャ。野生の環境生物にしては妙に繊細な、器用そうな形をしていませんかニャ?」

言われて旦那様は素直にギンセンザルに近付いて熱心に観察しはじめましたニャ。そのあたりの好奇心はさすがハンターですニャ。

 

「ギンセンザルは手話でコミュニケーションを取るのですニャ」

 

「・・・・なんと」

ギンセンザルにバンザイをさせた状態のまま、旦那様は驚いて固まりましたニャ。実はその手だけでなく、大きな尻尾や耳も使って手話をしているようですニャ。

 

「とはいえ、話している内容は常に湯加減と泉質の具合のことですけどニャ」

 

「それはそれで興味深いな」

顎に手を当て、深く感心している様子の旦那様。ふと、何かに気付いたように、ぴっ!と人差し指を上げメモでも取るつもりなのかハンターノートまで取り出して旦那様は私のほうに詰め寄ってきました。

 

「それだけ色んな言語が分かるのならば、大型モンスターの言うこともわかるのではないか?」

 

「・・・・へ?ニャんですと?」

これには私もびっくりしましたニャ。だって、彼ら大型モンスターの言うこと、と言っても・・・・

 

「ギンセンザルの手話が・・・・言葉が分かるのであれば、ラージャンの言葉はどうだ。同じサルなら近いのではないか?目撃例はないがラージャンの棲息の可能性が濃厚な地帯があるのだ。ドンドルマ出身ならばあちらのラージャンと出会ったことはないか?」

急に多弁になった旦那様は眼を輝かせてこちらに迫ってきましたニャ。でも・・・・

 

「・・・・私はかの金獅子ラージャンと直接会ったことはありませんが、旦那様のオトモアイルー、そちらのヤマト氏とその話をしたことはありますニャ」

 

「ほうほう!して、話せるのか!?」

さらに近付いてきて、私を抱き上げるように両肩を掴む旦那様。でも、ラージャンだけでなく大型モンスターとのコミュニケーションに関して私達が分かることは1つだけ。

 

「・・・・1つだけ、ほぼ全ての大型モンスターが共通して言う言語があるそうですニャ」

 

「で!?」

 

 

 

「・・・・『コロス』ですニャ」

 

「ころす?」

復唱して数秒、旦那様の眼が点になりましたニャ。

 

「・・・・まさか『殺す』?殺意しか向けてこない、と?」

 

「いや、もう旦那様・・・・お互い様ですニャ・・・・」

互いに攻撃しあうハンターと大型モンスター。交わすことが出来る肉体言語は1つしか無いのですニャ。あ、あと旦那様やっぱり名前欲しいですニャ。

 



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その20 ラージャンの数

モンハンワールドアイスボーンに金獅子ラージャンが追加。さらにはその画像をネタにしたモノが公式で用いられるというニュースが話題となりましたね。そんな中思い付いたお話。
今回はモンスターハンターワールドアイスボーンを体験済みの方にしかわからないシステムを含みますので、その点ご了承ください。そしてセリエナに是非お越しを。


「・・・・なに、これ?」

 

ユタは自身の家の前で立ち尽くした。

真っ白なファー付きのコートを羽織り、巨大なガンランスを背負ったハンター、ユタ。自宅が酷いことになっている事に全く気がついていなかった。

と言うのもしばらくの間、ユタはハンター拠点"セリエナ"を離れていた。とはいえ鍵をかける習慣はなくとも、ここに居を構えるのは全員がハンターズギルドに認められた者たち。金目のモノをあさる空き巣など入るはずはない、が・・・・

 

 

逆だった。

盗まれるどころか、玄関先に金目のモノがわんさと置いてあったのだ。簡素ではあるが門付きのそれなりに大きな一軒家の門から玄関までのスペースに、足の踏み場もないほどのアイテムが置かれていた。

 

「剛爪・・・・煌毛に・・・・剛角まであるニャ」

ユタのオトモ猫、白黒の毛並みに空色の鎧兜を着こんだオモチが、玄関にわんさと積まれたモノを片端から物色して回る。

 

「金獅子ラージャンの素材・・・・だね全部・・・・なぜ?」

いまだ呆然としながらもなんとか状況を把握するユタ。自分が留守の間仲間ハンターの憩いの場になればと、それなりに綺麗に整え過ごしやすい空間に仕立てたはずだが、こうも変わり果てているとは・・・・

 

 

 

 

「あ、オモチ久しぶりニャー」

不意に、門の外から猫の声が聞こえてきた。

 

振り返ると、トラ柄の毛並みをしたオトモ猫が一匹、その短めの尻尾と前肢をぶんぶんと振っていた。

 

「あ、コロ君だニャ!久しー!」

馴染みであるらしいオモチがてこてこ二足歩行で走りよっていく。

同時に、少しくぐもった声も近くでわいた。

 

「げっ・・・・間に合わなかったか・・・・」

「おや、アキヤさん?」

ユタが気付いて声をかけたのは、コロの主人でユタの先輩ハンターであるアキヤだった。

 

「お、おぅユタ君。帰ってたのか」

ぎこちなく右手をあげて挨拶するアキヤだったが、分かりやすく左手を後ろ背に隠した。

 

(・・・・この人だな)

玄関先に積まれた金獅子の素材、居ないことを期待して来たような口振り。ユタはすぐさまピンときた。

 

「ありがとう、アキヤさん。金獅子素材をこんなにって、ここまでの量揃えられるのは"闘神"のアキヤさんくらいじゃない?」

何やら誤魔化そうと口を開きかけたアキヤをさえぎって、ユタは先制攻撃をしかけた。

 

(後でテオ素材でも叩きつけに行こう)

奇妙な"仕返し"を画策しつつ、ユタが疑いの目を向けるのを振り払うようにアキヤは弁明をまくし立て始めた。

 

「い・・・・いや俺じゃないよ!?いや俺だけど・・・・」

さらに疑いに目を細めるユタに、アキヤもさらに焦ったように語調を強めた。

 

「真田君もだよ!?彼も相当ラージャン狩ったしさ!あとゆーき君やちょうさんもデルさんリコーダー君みぅ君も・・・・皆だよ!」

盛大に仲間を売りさばくアキヤ。しかしその弁解を聞いてもユタの疑問は大きくなるばかりだった。

 

ハンターズギルドでは、全てのアイテム、素材をランク付けしており、一定のランク以上のアイテムをハンター同士で受け渡しすることを固く禁じていた。新米ハンターが、ハンターランクを超える素材で武具を作成し、分不相応なクエストに無謀な挑戦をするのを防ぐためではあるが、ベテランの域に達しているユタや、"闘神"とまで呼ばれるアキヤでさえもこれを破ることは許されていない。

 

「そもそも・・・・どうやって?」

ギルドのルールを破る行為に、仲間を気遣いつぶやくユタに、アキヤはそういえば、と手を叩いた。

 

「あ・・・・あぁ!そうか、ユタ君はまだ知らないか」

 

 

 

 

 

 

「・・・・"イージャン"を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・は?イージャン?」

今度こそ胡散臭そうな疑いマックスな視線を投げつけるユタ。すると、横から慌てたように主人を助けにトラ猫コロが口を挟んできた。

 

「ニャ・・・・!ギルド公認イベントだニャ!ハンターそれぞれのマイハウスを巡って、飾りつけや環境生物が気に入ったハウスに、"イージャン"を置いてくのニャ!」

そこら中に散らばっている、黄金色の毛やドリルのような角を指差しながら喚くコロを見て、ユタは理解した。

 

コロと同じようにあたりを指差し、

「"イージャン"・・・・"良いじゃん"・・・・"ラージャン"・・・・?それでウチの周りにラージャン素材が置かれていくの?」

 

「そうニャ」

 

「しょうもな!!!?」

 

 

 

「い・・・・いや、これが今流行っているんだぜ!?」

コロに助けられ、気を取り直したアキヤがまたバトンタッチで弁解を再開した。

 

「ユタ君は皆に人気だからさ?ユタハウスに"イージャン"・・・・もといラージャン素材がどんどん集まっていくんだ!」

ご機嫌とりも兼ねるように、若干揉み手しながらアキヤ。

 

「ふゥ・・・・ん・・・・そうか」

満更でもなさそうにユタがつぶやく。が・・・・

 

(まだ、何か・・・・隠してるっぽいなあ、アキヤさん)

 

 

 

「ありがと、アキヤさん。お礼に僕からも"イージャン"送っておくよ。真田さん達にも」

多少、疑いの残る視線混じりながらもアキヤとコロに向け頭を下げるユタ。オモチも一緒にぺこりと勢いよく腰を折る。が。

 

「あ!いや!真田君には良いと思うんだ!

・・・・えぇーと、ホラ!彼はラージャン狩りまくりで素材ありあまってるだろうから逆に迷惑かもよ!?」

 

(やはり、まだ裏があるな・・・・)

ちら、とオモチのほうを向き目配せした。

 

「・・・・んニャ?それはアキヤセンパイもおニャじじゃあ?」

思い切り90度に首を傾げてオモチが突っ込むと、またアキヤは大袈裟に焦り始めた。

 

「いやぁー、俺はホラ皆に"イージャン"配りすぎて足りなくなっちゃったかもなー・・・・ほ、欲しいなーラージャン素材」

 

「・・・・そですか」

そろそろ潮時かな・・・・。これ以上、"イージャン"についての情報はアキヤから引き出せそうにないな。

そう、判断したユタは、芝居くさく上目遣いになるアキヤを尻目にオモチと一緒に首を傾げながら玄関先のラージャン素材、というか"イージャン"を整理しはじめた・・・・

 

 

 

 

 

 

 

翌日。一応真田ハウスを言われた通り避けてアキヤハウスへ金獅子の煌毛を持っていく途中。道端であるモノを見付けて。

 

「あぁーなるほど。これかぁ」

ようやくユタは、アキヤの妙な態度の理由を理解した。

 

新大陸調査団、その資材管理所が主催するらしいイベントの立て看板だ。

 

「"イージャン"ポイント争奪戦!豪華景品アリ!・・・・ですかニャ」

看板を読み上げ、オモチも理解した。真田君に負けたくない、というアキヤの景品への執着が昨日のあのセリフを言わせたのだろう。

 

「景品が欲しかったのかニャ?でも、それじゃあニャんでユタぽんにあんなにたくさん"イージャン"を?」

昨日よりも激しく、110度ほどまで白黒の毛並み流れる首を傾げてオモチ。

だがユタは、既にその理由までも分かっているようだった。看板の下のほうをゴンゴンと叩いて憎々しげにつぶやく。

 

 

 

「理由はこれだね。景品の内容・・・・

二等が高級お食事券半年分、だ。これは僕も欲しいね」

そして・・・・とつぶやくと、ユタは看板のほんの少し上を指差した。

 

「一等:特大龍脈炭1年分!だって・・・・

いや、凄い景品だけど使いきれるかっっっ!!」

 

ガゴン!

 

思い切り看板を殴り付けるユタ。

 

一等の景品、『龍脈炭』は極寒の地に建てられた拠点"アステラ"を暖める蒸気機関の燃料である。この炭を納めたハンターは、大量の秘薬や防具強化玉が見返りとして受け取ることができる。

しかしこの蒸気機関、蒸気圧力を保存出来るかわりに蒸気を溜め込む際には炉からずっと目を離さず居なければならないという欠点があった。蒸気機関の前に立ってさえ居れば問題無くする事も出来るが、その間当然狩りには行けない。燃料である炭の量によるが・・・・

 

「そんな龍脈炭が1年分って。しかも特大だと一体何日かかるんだ・・・・」

 

つまり、イベント期間中不在であろう事が予想出来ていたユタのマイハウスに"イージャン"を集めて一等を押し付けておいて、二等以下の景品を争おうというのがアキヤ達の作戦だったのだ。

 

「今からだと、アキヤセンパイのとこにユタぽん一人の"イージャン"叩きつける程度じゃ到底無理っぽいニャ。二位の真田さんハウスとでも、ユタぽんハウスに集められた"イージャン"ポイントはダブルスコアどころかトリプルスコアくらいのポイント差があるらしいのニャ・・・・」

どうやら事情を資材管理所に聞いてきてくれたらしいオモチも、げっそりしたように前へ首を垂らしてうなたれている。

 

「ホント、しょうもニャいニャあ・・・・」

 

「まぁ、マイハウスを気に入ってくれたというのならありがたいことなんだけどねぇ・・・・」

ユタもオモチ同様ぐったりしながら呟いた。

 

 

 

「"イージャン"とか・・・・こんな下らない面白い事考えた天才、どこのどいつだよ・・・・」

数日間、魂が抜けた状態で蒸気機関の前に立ち尽くす事を覚悟しながら、ユタは天をあおいでいた。




ちなみに、ユタぽん(筆者)がセリエナからも新大陸からも離れて、どこへ行っていたかと言いますと
コホリント島(ゼルダの伝説)や、パレス島(ペルソナ)などです(笑)


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その21 王様のなやみごと

今回もモンハンワールドから、獣竜種アンジャナフが登場します。アンジャナフは序盤の強敵で、ティラノサウルスのような容姿に、怒ると大きく膨らむ鼻を特徴に持ちます。鼻腔内には可燃性ガスを溜め込んでおり、怒るとこれを用いて火を吐くのです。
そんな、アンジャナフの。今回はおとぎ話です。


むかーしむかし、

ここ古代樹の森よりもずっと奥地に

【花の森】という土地がありました。

そこは古代樹のような大木が当たり前のように何本も何本も生えていて、そのどれもが色とりどりのとてもキレイな花を咲かせていました。

甘い果実もいつでもなっていて、まさに地上の楽園でした。

そんな花の森には「王様」と呼ばれる獣竜、1頭のアンジャナフが暮らしていました。

 

王様は、身体こそ他のアンジャナフと比べ小さめでしたが

鋭い瞳は紅く爛々と輝き、

怒っていなくてもいつも大きく膨らんだ鼻からは火がメラメラと吹き出していて、

同じ獣竜のアンジャナフ達からも恐れられ、広い広い花の森全てをナワバリとしていました。

 

さらに、王様は敵がいなくても頻繁に大きな火を吐き出し暴れまわるので、

ハンターはおろか他のアンジャナフも、

強力な古龍でさえも花の森には近づくことはありませんでした。

 

 

 

そんな王様なので仲間は居ませんでしたが。

 

ーーー1人だけれど、こんなに素敵な森に住めるんだから良いや〜

 

豊かな花の森の恵みのお陰で王様はひとりでものんびりぜいたくに暮らしていました。

 

 

 

でも、王様には1つだけ悩みがありました。

 

 

 

ーーーハーックション!!!

 

 

 

王様は、鼻炎だったのです。

 

 

 

大きく赤く腫れ上がった鼻は燃える鼻水で溢れかえり、

瞳は真っ赤に充血。

たえずクシャミをしているのに、

そのついでにいちいち火が吹き出てしまうのです。

 

そう、王様はこの悩みゆえに王様であることが出来たのです。

 

 

 

そんな、いつでも鼻炎に悩んでいる王様が住む花の森に、ある日もう1頭アンジャナフがやってきました。

そのアンジャナフはとても大きく、美しい雌でした。

「女王様」と呼ばれた彼女はとても気高い性格で、

誰も近寄らない花の森にも怖じ気づく事なく足を踏み入れました。

 

ーーーわぁ・・・・こんにちは。

 

王様は、珍しく自分を恐れないアンジャナフ、

しかもとびきりキレイな牙と形の良い尻尾を持つ女王様に

一目惚れしてしまいました。

 

ーーーあなたが・・・・王様?

 

女王様のほうも、王様の思ったよりもずっと小さな体躯と

話に聞いていたのと全く違う穏やかな雰囲気に、すぐに惹かれていきました。

 

 

 

 

ーーー僕なんかよりも、とてもキレイな君のほうが女王様としてこの森によく似合っているよ!僕と一緒に、ここに住まないか?

 

王様は、必死にアピールします。女王様もまんざらではない様子でしたが。

 

 

 

ーーーえぇ、あなたが良ければ私もここに・・・・

 

 

 

王様は、異性へのアピールよりも必死にならなければならないことがあったのでした。

女王様が頷こうとしたまさにその時。

 

王様の我慢は限界を超えてしまいました。

 

 

 

ーーーハーックション!!!

 

 

 

女王様に気に入られようと、ずっと我慢してきたクシャミが、

超特大の火柱となって大爆発してしまいました。

女王様にかけまいと、必死に上を向いた王様の口から天高く。

 

 

 

ーーーは、ハーックション!クション、ヴェーックション!ちくしょう!

 

しかも悪いことに、一度堰を切ってしまったクシャミは止まらず、連続で大きな火の玉がそこら中に飛んでいきました。

 

ーーーきゃあっ!

 

さすがの女王様も、これにはびっくり。

今の今まで穏やかだった王様が突然暴君に成り果てたのですから。

 

ーーーあ、待っ・・・・ハーックション!

 

クシャミと一緒に巨大な炎がたちのぼる中、

まともにしゃべれもしない王様は引き留める事が出来ず、女王様は花の森から逃げ出してしまいました。

 

 

 

ようやくクシャミがおさまり、

1人ぼっちになってしまった森の中で

王様は、泣きました。

 

ーーーなんで・・・・!なんでこんな鼻・・・・!

 

憎い鼻を、地面に叩きつけます。

 

王様はクシャミし続けながら、何日も何日も泣き続けました。

 

ーーーこんな鼻・・・・!壊れてしまえ!!

 

クシャミが止まらない鼻炎を憎みました。

でも、それ以上に

 

 

 

ーーーこんな僕・・・・!!死んでしまえ!!!

 

大好きな女王様の前でクシャミさえ我慢できない自分が許せませんでした。

爆発するクシャミを連発し、炎が吹き出し続ける鼻をどこにでも叩きつけ、燃える涙を流し続け。

 

王様の悲痛な叫びは、花の森中に響き渡り

その炎は森中に火をつけ

泣き叫ぶ王様を中心とする大きな火事は

その後燃えるものがなくなるまで続きました。

 

 

 

 

 

 

1ヶ月ほど経ったのち。

女王様は、王様を心配して花の森へもう一度足を踏み入れました。

 

そこは、1ヶ月前と同じ場所なのが信じられないほど、死の世界が広がっていました。

何もかもが焼け落ちて、真っ黒に。

 

でも、そんな中に。

 

 

 

ーーーあ。

 

 

 

ーーーえへへ、ごめんね

 

王様が立っていました。

しょんぼりはしていましたが、元気そうに。

 

ーーー花の森が焼けちゃったのが、僕には良かったみたい。申し訳ないことしちゃったけれど・・・・

 

花の森の豊かすぎる花達が原因だった花粉症が治り、

王様は焼け野原ですっかり快適に鼻炎を忘れたのです。

 

そして、火を吐く竜なのに火が弱くなった王様は、

もはや王様ではありませんでしたが。

事情を知った女王様は、前よりももっと王様を好きになりました。

もちろん王様も、こんな自分を受け入れてくれた女王様をもっともっと好きになりました。

 

ーーーじゃあ約束どおり、ここは私が女王様として君臨させてもらうわね?

 

身体の大きい女王様が王様ごと荒れ地を守り。

 

 

 

2頭のアンジャナフはいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 

 

 

おしまい。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・と、いう絵本を昔、俺がガキだった頃生態研究所のじいちゃん先生に貰ったんだけどな」

と、語りかけたのはハンターズギルドの調査班リーダー。

 

「ふゥん・・・・でも、それおかしいですニャ」

話し相手はベテランオトモ猫のコロ。

 

「やっぱりそう思うか?当時アンジャナフの生態なんざ新大陸調査団のレポートだけだから、本土の絵本作家が知るような情報じゃないはずだもんな」

 

「竜人じいちゃんの自作絵本ニャんじゃあ?」

コロが首をかしげながら言う。自分の研究以外には何一つ興味を示さないあの老人が、絵本を書く姿をなかなか想像できずにいるようだ。

 

「いやー、でも人は見かけによらないもんだぜ?」

モンスターだって生き物やで。

そう、淡々と語る研究所長が眼に浮かぶようだった。



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その22 ニャいてはいけないオトモ生活

デデーン

 

『オモチ、アウトー』

奇妙な音、そしてアナウンスがどこかから響くと、またどこからか黒子ネコ装備に身を包んだ猫が一匹走ってきた。

 

「やめやめやめ・・・・あ痛ぁっ!!?」

ばちーん、と派手な音を立て、黒子猫が持った棒で思いっきりお尻を叩かれたのは。白黒毛並みのオトモ猫、オモチだった。雷狼竜の強固な素材で作られた防具に身を包んではいるが、お尻だけは何故か防具に覆われていないのだ。

 

 

 

お尻を叩かれるオモチを見て、隣にいたもう一匹のオトモ猫がバカにしたような声を上げた。

「ふふん、鳴いてはいけ・・・・ない調査団なのに、な、鳴く!からいけ二・・・・ないのだよ白銀のオモチよ」

 

デデーン

 

『ネコノフ アウトー』

 

「えジャッジ厳しくニャいか!!?」

 

デデーン

 

『ネコノフ アウトー』

 

「えええええええ!?」

 

 

ばちーん、ばちーん。

 

 

 

 

「うううゥゥゥぐ」

 

「ごわわわわわ・・・・」

仲良しの2匹のオトモ猫、オモチとネコノフが居るのはそれほど広くはない四角い部屋。その板張りの床に膝をついてうつ伏せになり、お尻を抑えて。2匹全く同じ体勢でうめいていると

 

がらり。

 

分かりやすい音を立てて木製の扉が開き、白髪をたたえた小柄な竜人が部屋に入ってきた。

 

「えぇか、二人とも」

生態研究所の所長であるこの老人が全ての元凶だった。全身を震わせて縮こまっているオモチとネコノフに対して何事もなかったかのように淡々と告げる。

 

「移動や。行くで」

 

 

 

「移動ってことは、去年のパターンだと"怒っては いけ・・・・な!い!"かニャ?」

 

デデーン

 

『オモチ アウトー』

 

タタタタタ・・・・

 

ばちーん

 

「ぐぎぎぎぎ・・・・」

 

「・・・・い、いや時間を考えたら"怒っては"とは違うと思う」

必死に語尾を変えてしゃべろうとするネコノフとは対称的に、どうしても『ニャ』が出てしまい叩かれ続けているオモチ。

 

無言の竜人所長についていくことおよそ15分。

 

たどり着いたのは、調査拠点からすぐ目と鼻の先にある雪原だった。

 

「この雪原でな、新しいオタカラの手がかりが、発見されたみたいなんや。二人で捜索してくれるか」

やけにわざとらしい、いかにも用意された台詞を読み上げていますといった感じの竜老人の言葉に、なんとも胡散臭い視線を投げ掛けながらも。オモチとネコノフは素直に雪原中を四つ足で走り回り捜索を開始した。

 

「オタカラって・・・・今さらねぇ?」

 

「そーゆー設定・・・・な!んだろうねぇ」

 

ぶつぶつ言いながら(語尾を懸命に変えながら)雪の中捜索を始め・・・・るやいなや。

 

「んあ。あった」

なんともあっさりソレは見つかった。

 

「・・・・尺でも気にしてるのか二・・・・の、のぅ」

 

デデーン

 

『オモチ アウトー』

 

タタタタタ

 

ばちーん

 

「ジャッジ厳しすぎる・・・・。と、とりあえずネコノフ、読んで・・・・そのわざとらしいの」

 

雪原のど真ん中に、わざわざ真っ黒に塗って見つかりやすくした石板が建っていた。当然の話ではあるが、妙に新しい。覗きこむと、ネコノフが読み上げ始めた。

 

「えぇーと・・・・『この石碑の文字は、必ず一句一言そのまま読み上げる・・・・ニャ』」

 

デデーン

 

『ネコノフ アウトー』

 

「嘘ぉぉぉぉ言われた通りちゃんと読んだよぉ!!!?」

石板にはこれまたわざとらしいフォントで強調された"ニャ"が書いてあった。

 

タタタタタ

 

ばちーん

 

「まぁ、読まされたとしてもルールは破ってるんだからシバかれるよね・・・・」

 

「ぐぐぅ・・・・もうひっかからないぞ。

えー続きは・・・・『なお、噛んだり違う読み方をした場合も罰隊が現れる・・・・』」

 

デデーン

 

『ネコノフ アウトー』

 

ばちーん

 

「がああああああ!無視してもやっぱりシバかれるのかああああ!!!」

 

文の最後にまた『ニャ』が書かれてあったのだろう。お尻を叩かれながら天を仰ぎ吼えるネコノフ。

 

(ボクが読まニャくて良かったニャあ・・・・)

オモチが腹黒い事を心の奥底でつぶやいている横で、ネコノフは気合いを入れ直していた。

 

「ぐうぅ、仕方ない。よしっ最後まで一気に読む・・・・よ。『この石板の正面に1人、真横に1人立つニャ。正面の1人が左に12歩、真横の1人は左斜めに9歩歩いて石板を振り返り望遠鏡で石板を覗き見える文字を交互に読むニャ!』」

 

デデーン デデーン

 

『ネコノフ 2回アウトー』

 

ばちーん、ばちーん

 

「むわああああどうだあ読み上げたぞおおお」

 

再び吼えるネコノフ。

 

「お、おおうさすがマスターネコノフ。えーとりあえず真横から左斜めに?9歩歩く・・・・よ!」

オモチが懸命に鳴くのを我慢し石板に指定された場所へ移動する。

 

「12歩・・・・と。ここで望遠鏡で、ってこの距離じゃあルーペみたいなものだね。あー小さい文字書いてあるある」

石板の表面は複雑な凹凸が全体にあり、指定されたポジションからしか見えない文字が掘られていた。

 

「えーと、『オチイ小さいッ』・・・・?」

オモチが一人で読み上げるが、意味が成立しないようだ。

 

「交互に読むんだよ、オモチ」

ネコノフの提案で、両ポジションの2匹が交互に前肢を上げて一文字宣言することになった。

 

「オ」

「モ」

「チ」

「タ」

「イ」

「キ」

「小さいッ」

「ク」

 

デデーン

 

『オモチ タイキックー』

 

「ぎにゃああああああああああ!!!!?」

♪ちゃ~ら~ ちゃらら~ら~

間の抜けた音楽が辺りに響き渡ると

 

もこもこもこもこ・・・・

積もった雪の下を何かが潜り進んでいくような痕が出現し、オモチへ向かってきた。

 

「こここここれはああああ・・・・!!?」

 

ドコォン!

 

雪の中から姿を現し、揃えた後ろ足でオモチを空中へと蹴り上げたのは

 

古竜、キリンだった。

 

「う・・・・わ・・・・あ」

上空10メートルあたりまで飛ばされただろうか。

 

「『タイ』って何だあああああああぁぁぁぁぁ・・・・・!!?」

空中で思いっきり身体を仰け反らせお尻を押さえながら叫ぶオモチ。綺麗な放物線を描いて、オモチがやけにゆっくりと墜ちていくのを、半ば呆然とした顔でネコノフは見上げていた。

 

ブルル・・・・ッ

 

何事もなかったかのようにキリンが首を一振りしてその場を離れていき、オモチはふわりと音もなく新雪積もる雪原に転がった。

 

「あ・・・・あぁ・・・・」

この場で声を上げるのはネコノフ1人だった。

 

 

「あああああああおっかねぇぇぇぇ!!!!?」

両前肢で頭を抱えて空を仰ぎ大絶叫。

 

「ね、ネコノフ!?」

 

何故か平気そうにオモチが立ち上がり心配の声をかけるが、ネコノフの絶叫は止まらない。

 

「嫌だああああぁぁもう嫌だニャあああああぁぁぁあ!!!」

 

デデ・・・・ブツッ

 

ネコノフのあまりの豹変ぶりに、シバき隊を呼ぶ警告音も空気を読んで途切れた。

 

「ボクならだ、大丈夫だニャ、ね、ネコノフ」

オモチがなおも心配そうに声をかけるが止まらない。

 

「無理いいいぃぃぃどうせこの後ボクもデンプシーされるんだあああああぁぁぁあ!!!」

この世の終わりが来たかのように泣き叫ぶネコノフ。デンプシーという謎の言葉に反応するようにオモチは首をかしげ、

 

「デンプシー・・・・?去年のネルギガンテのビンタの事じゃないかニャ?」

 

デデーン

 

『オモチ アウトー』

 

ばちーん

 

「ぐふゥ、ボクだけか。」

オモチのお尻がシバかれている間もネコノフはわめき続けていた。

 

「ネルギガンテっつったって!去年の大晦日は歴戦王すらいニャかったんだから!あんニャの"お手"みたいニャもんだニャー!!!」

あまりの剣幕に、ニャを連呼しているというのに罰隊も現れない。

 

「つ、つまり・・・・今年は歴戦ラージャンが来るってこと?」

恐る恐るオモチが聞くと、不意にネコノフは静かになった。

 

「・・・・そゆこと。どうせこの後ガッデムさ。」

いきなり素に戻ると、すたすたと調査拠点に向かって歩き始めた。

 

 

「やるよ。やるっきゃ無いでしょ。マスター・ネコノフの名が広まるなら三乙しない程度に受けてやるさ・・・・」

完全に"無"の境地に達したようで、菩薩のような顔のネコノフに、壮絶に引いたような声でぼやきながらオモチはついて歩いていった。

 

「・・・・プロだニャあ・・・・」

デデーン

 

『オモチ アウトー』

 

ばちーん

 

「ぐむむ・・・・二年前、新大陸に来る前は『ガツってはいけない』をご主人達ハンターがやってたのになぁ?」

 

「あぁ、ガッツポーズとったらシバかれてたなー」

少し表情を取り戻したネコノフも懐かしみながら、ラージャンが待っているであろう調査拠点へと、とぼとぼと歩みを進めていった。

 




年末の例の番組です。今回も面白かったですね。
アレと違うのは、連続シバきアリなのと、二匹だけでやるという点です。
『ふぅるぅ』とか言う、ハンターズギルドの謎の技術力により新大陸のハンターはもちろん現大陸でもこの2匹の様子は見ることができるらしいのです。よく頑張ったね、マスター・ネコノフ。


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その23 悪魔のレシピ

二つ名モンスター、というのを覚えておいででしょうか。
通常とは異なる特殊なモンスターで、モンスターハンターダブルクロスで猛威をふるい、数々のハンターを返り討ちにしながらも魅了していきました。
そんな二つ名の中でも特に強力だったものが、新大陸に出現したらどうなるのでしょう?


鏖魔(おうま)!?

 二つ名ディアブロスが新大陸にも居るっていうの!?」

 

場所は新大陸。ハンター達の拠点アステラの食事場で。

口から盛大にツバと食べカスを飛ばしながらわめきたてたのは、小柄な女ハンター、リリィ。

 

 

「…その可能性があるというだけだ。ここ数週間…」

「あ゛あ゛あ゛あ゛飛ばしてごめんなさいそのまま話し続けないで拭いてあげるからあああ!!」

リリィの真正面でツバと食べカスを浴び、しかしそのまま微動だにせず再び口を開こうとしたのは、長身の男ハンター、ユキムラだった。

 

「あーもうリリィは…ごめんねユキムラさん」

そう言いながら、リリィにハンカチを手渡したのは女ハンター、スズナ。リリィがユキムラの顔面にぶちまけられた食べカスを拭いてあげようと身を乗り出すが、小柄すぎる体格のおかげで全く届かない。それでも完全にテーブルの上に乗る形でユキムラに手を伸ばそうとするのを、スズナがやんわり静止する。代わりにスズナが両手で2人の顔を拭いてやっている。

 

(リリィもこーゆー所が無ければ、カティ達と一緒にアイドルやれたと思うんだけどなー)

口には出さずに友人のガサツさに呆れるスズナ。小型の竜人種族であるリリィは、子供にしか見えない程に小柄だ。しかしそれが可愛らしいと、同じ種族カティ、ミルシィらはアイドルとして大人気となっている。しかしそんなカティやミルシィに憧れながらも、体格のハンデを承知で、リリィはハンターの道を選んだのだった。

そんな幼児体型のリリィに対して、スズナはメリハリのついた見事なスタイルをしていた。実直・正直を絵に描いたようなサムライ然たるユキムラをして、『控えめに言って、ボインだな』と言わしめ、本人の代わりにリリィにはたかれたものである。

 

そんな、いつもの風景であったが。今日は普段とは明らかに違う点があった。

 

「で?鏖魔はもう見つかったの?」

今まで居なかったモンスターと闘えるかもしれない。その話題はハンターにとっては真に特別なものなのだ。

それを全身で表現するかのように期待に肩を戦慄かせながら、シュナはスズナの向かい側の席から甲高い声をあげた。新たなクエスト、しかも過去最強クラスのモンスターが出現するとなれば、ハンターとして一流である者ほど興奮するだろう。リリィの失態とユキムラの悲劇には目もくれずに鼻息を荒くしているシュナは、長い黒髪をアップにし、ちょんまげのようにも見える派手な髪型の女ハンターである。こちらは幼児体型のリリィ、ボインのスズナともまた違う細身のスレンダーな体つきだった。髪の色も、金髪のスズナ、茶髪リリィ、黒髪シュナと分かれるまさに三者三様の女性ハンター3人に囲まれて、唯一の男性であるユキムラは重々しく口を開いた。

 

「鏖魔では、無いらしい。が、恐らくはそれに近い種だ」

カタブツらしい、抑揚は無いが覇気のある強い声で慎重に話すユキムラ。他人にペースを崩されることなく、ある種愚直な話し方をする彼が、スズナ達3人に声をかけて話を持ちかけてきたのには訳がある。

 

 

 

事情を知っているらしい彼女らに、しらばっくれられない為に男性ハンター達から選ばれ頼まれて来たのだ。

 

 

 

「悪魔、というキーワードがギルド内で囁かれている」

 

「悪魔…?」

キーワードを口にした瞬間、ユキムラは素早く女性3人の顔色を見回した。すぐにピンとくるものではないようだ、が…

 

(どこかで聞いたような…という顔に見える、な)

ユキムラは心の奥でつぶやき、またも慎重に次の言葉を探した。

 

「聞いたことはない、か…。しかし受付嬢や物資班の女リーダーが頻繁につぶやいているという」

 

「…ん?」

シュナが、ピクリと動いた。明らかに何かに気付いた顔だ。ユキムラは素早く変化を見抜いたが、まだ斬り込むことはしない。

 

「悪魔、言うまでもなく鏖魔と語感、意味共に近い。しかも鏖魔と言えば過去にギルドを悩ませたモンスターの中でも特に強力な特殊個体。わざわざそれに似た語感のワード、悪魔を呼称する…そしてさらに」

ユキムラが話を続けながら残り2人、リリィとスズナの顔色を見やると、少し青ざめているようだ。

 

(やはり、図星か)

慌てて何か口を挟もうとし、しかしすぐに思い直して両手で口をふさぐリリィ。スズナは固く両目を閉じ顔を天井に向け、手こそ組んでいないものの祈るような体勢に入っている。

 

(観念したようだな…)

ユタ、アキヤよ、良い報告が出来そうだぞ。と、頭の中で仲間達に声をかけるユキムラ。

そして、下手に誤魔化されないように言葉を切ることなくつなげる。

 

「悪魔、という言葉から何か色を連想しろと言われたのならば、出てくるのは恐らく"黒"だろう」

しかし、ここまで話した時点で女性3人の顔色にまた変化が訪れた。

 

「…?」

理解、しないのだ。

形の良い眉をひそめ、首をかしげ。3人顔を見合わせ、明らかに『あれ?思ってたのと違うぞ?』の体勢に入っている。

 

(こちらとしても想定外だが…!)

内心焦るユキムラだが、諦めるわけにはいかない。多少間違っていたとしても、仲間と共に頭を悩ませ辿り着いた結論を、この裏切り娘達に突き付けてやらねば。

 

気を引き締め直したユキムラは、一層声に覇気を乗せて突き進んだ。

「悪魔というワード、実はギルド中枢だけでなく、君達の口からも出ていたという事実が、オトモ猫達からの証言から明らかになっている」

 

「…げ」

 

「わぁ…」

 

「どいつよそれ…」

得心はしないながらも、しかし気持ちの悪い心当たりはあるようで、シュナスズナリリィの3人はそれぞれ小さく悪態をついた。

 

 

想定していた部位ではないようだが、超会心ではあったようでほっと一息。安心したのか多少声を和らげたユキムラは、3人をなだめるように話の流れをシフトした。

 

「むろん、君達を責めるつもりは毛頭無い。恐らくは我々にはどうしようもないから、思いやりで黙っていてくれたのだろう」

 

 

 

「…どうしようもない、って?」

未だにユキムラの言っていることが理解出来ていない様子で、スズナがおずおずと小さく手を上げて聞いてきた。質問というより、何か失敗がバレていないかどうか探りを入れるようにも見える目付きだ。

 

 

「…我々には関与出来ない可能性が高い、ということだ」

スズナの問いに、心底悔しげに応えるユキムラ。これこそが、ユキムラ達男性ハンターがスズナらを裏切り者扱いしている原因だ。

 

「…君達がどこまで情報を得ているかは知らないが、我々にも洞察力というのがある。どうやら君達にもまだ知らされていない真実に、先にたどり着いているようだな」

スズナ、シュナ、リリィの3人娘を見据え、ユキムラは自分が上位にあることを確信し渾身のどや顔を見せつけた。

 

「ここ最近噂されている悪魔…とは

 ディアブロス亜種。その二つ名モンスターだ」

 

おおおぉぉ…

シュナとリリィは、これを聞いて小さく歓声を上げたが。スズナは、違った。いまだ祈るような真剣な眼差しのまま、ユキムラのほうへ身を乗り出した。

 

「でも…それはあなた達の予想でしかないのよね?その推理の根拠をきかせてもらえないかな」

ユキムラが一瞬、しまったというようにたじろいだ。この推理が正しいのかどうか、探りを入れるためだったのに、つい早出ししてしまった。

 

「む…確かに。実はそれほど確かな根拠があるわけではない」

少し気弱にワンクッション置くと。

 

「ここ数週間、悪魔というキーワードが何故か女性の口からのみ聞かれるようになった。しかも、どこか隠すようにこっそりと、だ」

ユキムラの言葉に、盛り上がっていたほうのリリィ、シュナの二人が再び毛恥ずかしそうな顔をした。

 

「悪魔、から鏖魔を連想したのは先程話した。鏖魔ディアブロスとは、何らかの要因で異形の角を持つに至った特殊個体だ。そして、ディアブロスのメスは繁殖期になると婚姻色と言って体色が黒くなる変化が発生し、極端に気性が荒いディアブロス亜種となる。噂の出どころから女性と関係があると推測されるので、悪魔はすなわちディアブロス亜種の二つ名ではないか、と考えられたのだ。ちなみに、君達女性陣が我々を気遣ってかひた隠しにしていたことから、このクエストは女性専用になるのではないかとも言われている。」

黒色のディアブロスは亜種というのは名ばかり、気性が荒くなったメスというだけで攻撃性が大きく増大するという珍しい生態を持っている。それが鏖魔ディアブロスにも起こりうる、ということのようだ。

 

が。さらに女性3人の顔色が変わった。

真っ赤になった顔を両手で覆い

 

「どうして…こんなことに…」

 

「ごめんなさいごめんなさいもうしません」

 

「想像力豊か過ぎるわよ…超はしゃいじゃった…」

リリィ、スズナ、シュナ。それぞれ勝手なことをつぶやいているが、そのどれもが後悔を含んでいた。

 

ひとしきり、ぶつぶつ言ったあと。スズナが代表して口を開いた。

 

「はぁ…ところでユキムラさん」

 

「なんだ」

 

「その…二つ名ディアブロス亜種が出る、って言われてるクエスト名は?」

クエスト名なんてどうでもいいだろ、と。マコノフあたりは言うだろうが。ユキムラは愚直に質問に応える。

 

 

 

「悪魔のレシピ、だ」

 

 

 

はぁ…

大きな溜め息が同時に3つ、ゆっくりとこぼれた。

テーブルにうつ伏せになるリリィ、頭を抱えるシュナ、相変わらず祈るように天井を見上げているスズナ。新クエストがユキムラやマコノフ達男共の勘違いだったとしても、不自然なほどに落胆している3人を目の前にして、さすがのユキムラも動揺していた。3人の顔をおろおろと見回していると

 

「…仕方ないね」

突然、シュナが立ち上がった。

 

「おいでユキムラ。見せてあげるよ、悪魔のレシピ」

 

「何っ!?」

ハンター4人の、狩りには最適な環境ではあるのだが、今日は誰も武器防具を身に着けていない。それなのに見せてやるとは。意表を突かれてユキムラが釣られるように立ち上がると

 

 

 

「そうね…こうなったら」

 

「あー…やるなら徹底的にやっちゃおうか」

スズナとリリィも決意の表情でそれぞれ立ち上がった。

そのまま向かうのは…

 

 

 

「…厨房?」

先程からずっと視線が泳ぎっぱなし、おろおろしてばかりのユキムラがまた疑問符をあげる。

 

「そ。ここでやるのよ」

スズナがいつの間にかエプロンを着けていた。シュナも続き、リリィは食堂のネコ店員となにやら話している。厨房を借りる許可を得ているのだろうか。

 

 

 

「オッケーよ。さあどうする?」

無事話がついたようで戻ってきたリリィに、満足そうに頷き返すと、突然スズナが歌い始めた。

 

「ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ♪」

そして当たり前のようにシュナが続く。

 

「ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ♪」

最後にリリィまで。

 

「ちゃらちゃっちゃっちゃっちゃっちゃらららん ちゃん ちゃん ちゃん♪」

 

ぽかんと口を開けたユキムラをよそに、小芝居は続く。

 

 

 

「はい!今日は〜悪魔のレシピをやっていこうと思います〜」

どうやらメインパーソナリティ(役)であるらしいシュナ

 

「楽しみですね」

ゲストか助手か、少し離れてスズナ。

 

「はやくはやくー!」

両手を上げて楽しげに飛び跳ねる、元気な子役のリリィまでいる。

 

 

 

「さて、お客さんが戸惑っているようですが〜今日は3品!」

シュナが高らかに宣言すると、横にいたスズナがいつのまに用意したのかフリップを差し出してきた。

 

「まずは…ポポノタンをまるまる一枚と、幻獣チーズをシビれるほどに使った"幻獣チーズのポポ舌ピザ"!」

 

「わぁ、最近話題のタンをピザの生地に見立てた超絶ボリュームなミートレシピですね」

 

「しもふりホールトマトをどかんと乗っけるのを忘れないでねー!」

冷静なスズナの解説と、喚きつつはしゃぎまわるリリィ。

 

 

 

 

「もう一品は角竜のモモカツ、ホワイトレバカツ、ドンドルマグロカツを乗せた、"超贅沢3種カツカレー"!」

 

「カレーにトコナツメグを致死量ほど使うのがポイントですね」

 

「ドドブラリンゴとハチミツもたっぷり入れてよね!甘いバーモントカツカレー!」

 

どう見てもヤケクソだが、3人の凄腕ハンターによるお料理教室(?)は続く。

 

 

 

「デザートも手加減はしません。甘い甘〜いドテカボチャをくり抜いて器にして、エメラルドリアン、炎熱マンゴー、トロピカパインをこれでもかと詰め込み、ポポ練乳とアイス、さらには飛竜の卵を使ったカスタードまで加えた"詰め込みパンプキン爆弾パフェ"!」

 

「きゃ〜っ!」

 

「ウラガンキンもひっくり返る甘さ!」

もはやノリについていくのを諦め、無の境地で見守るユキムラだったが。

 

 

 

スン…

 

不意に、3人のテンションが急落した。一瞬でユキムラと同じ無の境地に達すると、いつの間にか完成していた料理を、シュナが指差した。

 

 

 

「…はい、"悪魔のレシピ"」

 

「…そうか」

無でありながら、ユキムラは事の詳細をおぼろげに理解し始めていた。

 

 

 

「…つまり…"悪魔的な美味しさ"…という事か?」

顔を真っ赤にしてうつむいている3人娘にいまだ呆然としながら問いかけるユキムラ。

 

「どちらかというと、"悪魔的なカロリー"ね。だから恥ずかしくてみんな隠してたの」

 

「…そうか」

先程と全く同じ事を言いつつ頷くユキムラ。無言でカツを3枚重ねてかぶりつき、ピザを丸呑みにする。

 

 

 

「…ディアブロス亜種でも狩りに行くかー」

 

「…さんせーい」

 

「太る前にカロリー消費しないとだもんね…」

 

「嗚呼、ごめんね私のお腹…」

 

 

 

無表情ながらも、極上グルメを躊躇いなしに平らげたハンター4人は、その後カロリーを消費する間もないほどの狩猟タイムでディアブロス亜種を討伐したという。

 



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その24 マルチの疑い

モンハンの現行最新作、ワールドではマルチプレイをするのにプレイステーションプラスに加入する必要があります。しばらくモンハンから離れているうちにプラスが切れてしまい、マルチプレイをするために再加入したのですが、そのついでに余計なお話を思いついてしまいました。


「うぇーい久しぶりぃ」

 

次第に暑くなってくる初夏のハンターズギルド拠点、アステラ。その酒場の奥の席で、飲みかけの酒ジョッキを掲げたまま親しげに話しかけてきたそのハンターの印象は、ひとことで言えば"うさんくさい"だった。

ロン毛と呼べるか否かギリギリの長さの髪を茶色く染めて、目元ピアス、そして背中に背負った武器はスラッシュアックス。斧と剣に変形させながら戦う可変武器だが、この男のそれは無駄に装飾部品が取り付けられており、柄に1つ、刃にも1つ、金ピカのアクセサリ、"チャーム"が取り付けられていた。

 

(…いや、武器だけじゃないわね)

腕と言わず耳と言わず、全身至るところに派手な色のチャームをぶら下げているうさんくさい男を目の当たりにして、太刀を背負った女ハンター、スズナは早くもここへ来たことを後悔し始めていた。

 

「えーっと…アル?ごめんなさいね、私のほうは覚えてなくて…」

一応、心底の疑いは隠したまま、親しげ(な風を装いながら)に挨拶を返すスズナ。一方、"アル"と呼ばれたハンターのほうは

 

「いーのいーの!俺、ハンターアカデミーではほぼ落第組だったからさ!優秀なスズナちゃんが覚えてないのもとゥーぜン!」

やたら巻き舌で余計うさんくささを増しつつ軽やかに馴れ馴れしくまくしたてた。

 

「わ、私も成績は割とギリギリセーフなだけだったんだけどね…?」

 

「またまたー!」

謙遜しようとすると、待ってましたと言わんばかりにうさんくさ男、アルは身を乗り出してきた。

 

「俺あん時うらやましかったんだぜー?軽やかに見切りや鬼人突きを次々キメてくあんたがさー!スラッシュアックスから太刀へ転向しようか本気で悩んでた時期もあったのよ正直?今日は俺なんかの誘いに来てくれてほんっとゥー!に嬉しい!アリガトね!」

自分の背中を指差しつつアルが言うが、スズナはハンターアカデミーではまだ太刀をメインでは扱っておらず、大剣専攻だったはずだ。

 

「…で?話って何?アル」

何かを必死で我慢しながら、スズナはテーブル席のアルの対角につきながら催促した。

 

「…うん。それなんだけどねスズナちゃん」

スズナが椅子に座った途端、アルは急に声のトーンを2つ3つ落とした。周りを気にするように一瞬目線を左右に振ってから、スズナのほうへ顔を寄せてくる。

 

「…今所属してる猟団、どぉ?どんな感じ?」

 

「…え」

猟団とは、ハンター全てを統括するハンターズギルドとは別の枠組みで集うハンター達のコミュニティの事。複数かけもちで所属することもでき、パーティーとも違うため、ハンター同士の非常にゆるい横のつながりと言える。それだけに…

 

(こんなうさんくさいコを"イシュガルド"に入れたくないなぁ…)

大学サークルのように楽しくも崩壊しやすい関係性を護ろうと、スズナがさらに警戒を強めるのは当然のことであった

 

「あ〜!違うの違うのよ!別に俺をスズナちゃんの猟団に入れてだとか、スズナちゃんを俺の猟団に引き抜こうなんてそんな話じゃないの!」

突然元のテンションに戻り、大げさに手と首を左右に振りまくるアル。

 

「知り合いからスズナちゃんの話を聞いてさ、俺心配になっちゃって!」

と、ここで再び声のトーンを落とし、うさんくさい顔が近付いてきた。スズナ的にはどうしても生理的に受け付けず、アルの方へ正対することが出来ずにいると

 

「…勲章、あんまり集まってないんだって?」

 

「…!?」

虚をつかれたかのようにうしろへ仰け反るスズナ。

ハンターはモンスターと闘い、討伐したり捕獲したりすることでギルドから対価を得て生活しているが、それ以外に"勲章"というものも存在する。超大型、超小型のモンスター狩猟、小型の珍しい環境生物の捕獲や、オトモの育成などなど。勲章条件は多岐にわたり、ただ生活のためにモンスターを狩るだけでは勲章のコンプリートという栄誉は得られない。

が、スズナの弟であるユタはこの勲章コンプリートを一年も前に達成していた。姉としては誇らしいのと全く同じだけ自分もと焦りも抱えている状態なのであった。

 

「うんうん、やっぱ気になるよね?」

そのあたりの事情を見透かしているのだろうか、訳知り顔で大仰に頷きながら、アルは懐からメモ帳とペンを取り出した。

 

「俺ね!残念ながらこーんな可愛いボインちゃんが困ってるのを知ったらどうにも我慢できないタチでさ!」

ちょくちょく褒め言葉を入れてくるのもどうにもうさんくさい。ただ、勲章の件に関してだけは図星だったのでとりあえず話だけは聞いてみようと、スズナは黙ったままほんのすこしだけアルのほうへ向き直った。

 

「だからね。俺にスズナちゃんの勲章集めのお手伝いをさせて欲しいの。いや怪しくない!全然怪しい話じゃないのよ!ただ手伝うだけ。お金とか発生しないから!」

こちらが何も言ってないのにひたすら怪しくないを連発するアルに、ようやくスズナの我慢も限界に近づいてきていた。

 

(変なこと言い出したら何も聞かず席を蹴るわよ…)

だんだん自分の目つきが険しくなっていっているのを自覚しながら聞いていると、テーブルの向こうでアルはまた大げさに、落胆したように首を左右に振り始めた。

 

「猟団のみんなも冷たいみたいだねェー。ギルドカードの勲章も終わってないんだって?」

ギルドカードはハンターにとっての名刺。4人1部隊でモンスターとの戦闘に挑むよう推奨しているハンターズギルドは、ハンター同士の繋がりを深めるために"ギルドカードを50枚集める事"を勲章の条件のひとつとしている。

 

「はい!俺のギルドカード!」

気軽にメモ帳の端から1枚名刺を取り出しスズナへ差し出すアル。勲章条件とはいえギルドカードはハンターランクやマスターランク、モンスターの狩猟歴、獲得勲章などが書かれた個人情報の塊である。それが悪徳業者に渡ろうものなら…

 

「でスズナちゃんはね?ギルドカードを…」

そら来た!スズナは心の中で最大音量で警鐘を鳴らした。

 

「猟団のみんなにその俺のギルドカードを見せるの!こんなの貰ってきたよって。それだけ。他なんにもしなくていい。俺のも俺のもってみんながギルドカード差し出してくれるはずよ。話題って大事だ〜よね!」

 

(普通かッッ…!?)

思わず心の中でツッコむ。

 

「で!次の勲章なんだけどォ〜」

 

「えぇ!?」

逆に自分の名刺を要求されなかったことに驚いて、スズナは思わず叫びつつ大きな目をまたたいた。

 

(すぐ次の話題行っちゃっていいの…?)

が、これも手の内かも知れない。油断させておいて…かも、と再び気を引き締める。

 

「今度はホント大事。お金の勲章あったよね」

 

(ん…!?今度こそね!)

改めて警戒するスズナ。確かに、所持金が一定額を超える条件の勲章はある。

ハンターとして生活する上で、最も大きな支出は武器防具の作製と強化である。当然、食費などとは比べ物にならないほど高額で、何種類も装備セットを整えようと考えるとお金はいくらあっても足りないと言われている。だが、スズナはこのお"金持ち勲章"に関しては全く心配していない。何故なら…

 

「実はね、このお金持ち勲章。ワリと簡単に手に入れちゃうやり方があるんだ。ここだけの話」

またもったいつけて、今度は周囲の目を気にするように小声になり顔を近づけてくるアル。手元のメモ帳になにやらペンを走らせると、スズナのほうへ開いて見せてきた。

 

「ハンターへのクエスト報酬って、お金だけじゃあナイよね。モンスターの素材とか」

メモ帳にはいびつな形の…鱗?のつもりだろうか、なんとも適当な絵が描かれていた。

その、果たして描く必要があったのか怪しげな絵を、スズナの方から自分の手元へ戻し、アルは一旦自分で見つめた。

 

「この、鱗や爪…実は金の卵や黄金石の塊とかが特に良いんだけど…」

バッ!!と再びスズナへ向けて大きくメモ帳を開いて見せると、アルは溜めたっぷりにもったいつけて宣言した。

 

 

 

「売っちゃうんだ」

 

(…いや普通かっ!?)

あやうく手の甲をビシっと向けそうになるのをぐっとこらえるスズナ。だんだんスズナにも分かってきた。このアルという男、もしやうさんくさいのではなくて…

 

「いや全っ然!これ違法じゃないの全然ダイジョーブ!みんなやってるし!言わないだけ!みぃーんなコッソリやってんの。バレやしないし!」

またしても怪しくないことを全身全霊で説明しようとしているアルだが、もはやそれを見つめるスズナの眼は冷たい。

 

「あーでもね…これ一つだけ気を付けなきゃならないことがあってね…」

何を言うにももったいぶらないといけない病気でもあるのだろうか。

 

「天鱗や宝玉、こいつらは売らない方がいい。なんでかって?高く売れるよね?でもね、理由を聞いたら絶対イッパツで分かるよナットクするよ」

お約束のように一旦顔をひっこめて数秒。

 

「ンもったいない」

 

「…そりゃそうよ」

ここで初めて、ようやくスズナが言葉を返した。

今さらながらに分かることがあった。このアルという男、本当に善意からスズナを手助けしようとしているのだった。だが、その善意を伝える術がなんとも…

 

 

 

「ねぇ、アル。あなたもしかしたら良い人なのかも知れないけど…」

スズナも相手を真似するかのように、一旦口を閉じて言葉を溜め込んだ。

 

 

 

そしてハッキリと一言。

「"うさんくさい"ってよく言われるでしょ」

 

「そゥ〜なのよスズナちゃん分かってるゥ!でもそれホント誤解だから!怪しくないよ俺信じていいから俺!」

直接指摘されても、あくまで軽薄な口調は変えずにまくしたてるアルを見て、今度はプッ!と吹き出しスズナは笑い始めた。

 

「とりあえず、勲章集め手伝ってくれるなら今度救難信号出してよ。救けに行ってあげるから」

テーブル席を立ちながら、アルの飲み代伝票をさりげなくつまみ上げスズナは自身のギルドカードをアルの方へ放った。

 

 

 

「あなた、人を"騙さない"天才ね」

 

「そうよゥ!俺の正直さはすぐにスズナちゃんも分かるよ!」

相変わらずの調子でわめき続けるアルをテーブルに残し、スズナはなんとも気分よく酒場を後にした。

 

「なんか、アルには悪いけど勲章の事もどうでもよくなってきちゃったなぁ!」

歴戦王でも狩りに行こうかな…とスッキリした頭で考えつつ、とりあえず猟団のほうへ足を向けるスズナだった。

 




いかがでしたでしょうか。
マルチはマルチでもマルチプレイではなく…というお話。
そうです、あの一時期話題になったあのNHKの番組です。面白かったね


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その25 モスの生態とプーギーの食事情

今回もモンハンワールドより。モスとプーギーという、シリーズ通しての生態になるのでワールド未プレイな方でもわかりやすいはずです。お楽しみあれ


雨上がりのじめじめとした野原は、ハンター達の調査拠点の一歩すぐ外なだけの放牧地だというのに、雑草伸び放題のほぼジャングルだった。

 

━━ブゴッ

 

━━プゴッ

 

「…ふむ」

そんな中腕組みをするハンター、ユキムラの目の前には、2匹の豚がいた。

1匹は、小型モンスターのモス。小型とはいえユキムラの腹くらいまでの体高があり、頭部には甲殻と、短いながらも角が生えている立派なモンスターだ。ただし、ここ調査拠点アステラに居るのは食肉用の家畜である。

 

一方、もう1匹はモスの背中の上にいた。親子のような構図ではあるが別の種族。愛玩動物のプーギーだ。こちらは中型犬くらいの大きさで、見た目完全にミニブタである。

ユキムラは、このプーギーのほうを向いて何やら悩んでいた。

 

「え〜…と。お前は…ヤシ…ロ。そうだ、スズナのところのヤシロだろう」

どうやら友人の飼い豚らしい。よそのペットを認識するのはなかなかに難しい、という話を仲間内でしていたのだった。

 

 

 

ぐぎゅるるるるるうううぅぅぅ

 

不意に、すごい音があたりに響いた。分かりやすく腹時計がお昼を指したようだが。

 

「俺…はついさっき昼メシ食べたところだ。お前の腹か、ヤシロ」

アステラジャーキーでも無かったかな、とユキムラがアイテムポーチを探っていると。

 

 

 

━━プグップグッ…ガッグッガッ

ヤシロ(とユキムラが目しているプーギー)は、ユキムラを無視してマイペースに足元をまさぐりはじめた。モスの背中に乗っていたので、そのままモスの背中に口を押し付けてもがもがやっていることになる。

 

「…?お、そうかプーギーの好物はキノコだったか」

アイテムポーチを探るのをやめてユキムラ。そう、モスの背中にはキノコが生えているのだ。

モスは野生でも家畜化されていても湿地を好む。特に日課の泥浴びでは背中に念入りに泥を塗りたくるため、モスの背中は常に泥で湿っていてそこに苔やキノコが生えてくるのだ。群れで生活している場合、モス同士で互いの背中のキノコを食べ合うことも知られている。食肉用の大人しいモンスターでは他にアプトノスがいるが、自分で勝手にキノコを栽培し食べるという、餌代がかからない理想の家畜として、広く世界中に普及している。

 

━━プグッ…モガモガ…プッギー

そんな便利なモスの背中のキノコを勝手に食べているプーギーのヤシロ(仮)。腹が減っているのかよほど美味しいのか、異常なほどのペースで一心不乱にキノコを食べ続けている。

 

 

 

が、突然

 

━━グピッ!!?

 

モスの背中でキノコをむさぼっていたプーギーが突然、大きくのけぞって倒れた。

 

「!?どうしたヤシロ」

ユキムラが駆け寄ってみると、たった今まで美味しそうに食べていたキノコを口からぼろぼろと吐き出し、痙攣している。

抱き上げてみるとかなりの高熱。

 

━━グク…クプブ…

意識も朦朧としているらしく、時々白目も剥いている。ユキムラはただただあたふたとその場を行ったり来たり。

 

「ど、どうしたヤシロ。しっかりするんだ…そ、そうだカイヌシはどこだ、スズナは…」

 

━━ググググ…ガクッ

 

「おおぉヤシロおおおぉぉぉ〜!!!?」

急にぐったりとなった豚を抱き、天を仰ぐユキムラ。

 

 

 

「…それウチのコじゃないわよ」

と、そこへなんとも都合よくカイヌシ…ではなかったようだがスズナが現れた。

 

「何やってんのよユキムラ君、こんなトコで…貸して」

すたすたと冷静に近付いてくると、何故か手馴れた様子で昏倒したプーギーをユキムラから奪い、スズナは観察しはじめた。

 

「ひっさしぶりに見たわね〜この症状。新大陸で見たのは初めてだわ。モスのキノコを食べたわね?」

 

「あ…あぁ…だがプーギーがモスの背中でキノコを食べるなんて、そのようなことはしょっちゅうだろう?なぜいまさら…」

 

「ま、ね。ん〜…このコ、アキヤさんとこのプーギーじゃないの。相変わらずあの闘神は強力なモンスターを狩る以外の事には全く興味を示さないんだから…あーでもやっぱりこの症状はモスのキノコが原因で間違いないわね〜。ほらほら早く医務班のエビちゃんとこ連れてったげなさい。まだ助かるわよ」

一通りぶつくさ言ったあげく、詳細を告げないままプーギーをユキムラの胸に戻し、スズナは今度はモスのほうの観察を始めた。

 

「私はこのコを総司令のところに連れてくわ。詳しい事知りたかったら後でおいで」

モスの首に紐をつけ、スズナは落ち着いた様子で来たときと同じようにスタスタと歩き去っていった。

 

「あ〜…まぁ…急ぐか、医務班、へ…」

 

 

 

「おや?随分と久しぶりな症状だね。モスのキノコを食べて?」

医務班兼ハンターのエビちゃんことアス=ルーフォもスズナと似たような反応を示した。

二人とも、どう見ても心当たりがある反応だ。

 

「大丈夫なのか?この、アキヤ氏のプーギーは」

 

「もう薬打ったから大丈夫だよ。1週間ほどは寝込むけど、ミラボレアス君は強いしね」

 

「…ミラボレアス?」

 

「この子の名前」

 

「すごい名だな」

 

伝説の龍の名前を勝手につけられたプーギーは、アスの言う通り薬が効いてきたのだろう、落ち着いた寝息をたてていた。

 

「スズナも原因について知っているようなそぶりを見せていたが、私にはさっぱりでな、この…久しぶりであるらしい症状。教えてくれないか」

おや、知らないの?というような意外そうな顔を一瞬だけしたアスだったが、どこからか分厚いハンターノートを取り出して、楽しげに解説をはじめた。

 

「そもそも、プーギーが何故ハンターに飼われているか?特に新大陸行きのハンターには強制的に一人一匹プーギーが押し付けられるよね」

 

「あ〜…そう言えば当たり前のようについてきていたな」

ユキムラが同意すると、アスは上方、登り階段の先にあるハンター食堂を指差した。

 

「それは、ハンターの食事のためなんだ」

言いながらもすやすやと寝ているプーギー…確かミラボレアスとかいう恐ろしい名だ…を抱き上げるアス。そのまま今度はミラボレアスの口を指差す。

 

「プーギーは実はかなりグルメでね。人間とほぼ同じか、より鋭い味覚を持ってるんだ。嗅覚はもっと強いから、危ない食材に対しては激しく鳴いておしえてくれる」

 

「…つまり、毒味役か?」

なんとなく思い浮かんだ事をそのままユキムラが口に出すと、あからさまにアスは嫌な顔をした。

 

「まぁ…そうだけどあまりそのまま言われるのも嫌なものだね。でも、本来はより前向きな理由だよ。プーギーは食に対する探究心も強いから、新大陸の未知の植生の中で、食べれる食材を探すために導入がはじまったんだよ?」

なるほど。ユキムラは大きく頷いた。偉いのだな…とアスの腕の中のプーギーを撫でてやる。

 

「エメラルドリアンやオニマツタケなど、プーギーのおかげで見いだされた優れた食材は多いのだけれど。1つだけ、厄介なものがあってね…これだよ」

そう言うと、アスは自分のアイテムポーチから紫色のキノコを取り出した。

 

「毒テングタケではないか!毒投げナイフや毒弾に使われる猛毒素材だぞ。ミラボレアスも倒れるわけだ…」

特にキノコに詳しいわけではないユキムラでもピンとくる、毒テングタケはそれくらい分かりやすく"毒"としてハンターに利用される一般的なアイテムだ。

 

「そう。モスの背中には通常アオキノコしか生えない。アオキノコ以外のものが生えないような環境に、モス自身が整えているんだ。でも、ごくまれにそんな他の種の生育を強く阻害するこの環境に打ち勝って毒テングタケが生えると、その毒テングタケは味、香りに変化が起きることが分かってるんだ。そのためにプーギーも気付かず食べてしまう。…いや分かっていても食べてしまう可能性もあるらしいのだけれど」

 

「ううむ、確かにガツガツと凄い勢いで食べていたな。未知の味がする食べ物に対する探究心のなせるわざか」

またも大きく頷くユキムラに満足したのか、アスは上機嫌でまたハンターノートを開いた。

 

「ちなみに、毒テングタケって食べたことある?ユキムラさん」

 

「…あぁ、あるぞ」

アスが開いたハンターノートは、"茸好珠"の頁が開いてあった。通常、ハンターはキノコを直接は食べない。薬草などと調合しないと効果が無いためだ。が、この茸好珠は装備する事でキノコを直接食べて効果を得る事が出来るようになる、非常に有用な装飾珠なのだ。

 

「茸好珠を装備すれば毒テングタケでも食えるが…」

 

「で、味は?」

 

「不味かったぞ」

当時の味を思い出したのか、苦い顔で舌を思い切り出す。

 

「不味いよねえ、あれは。でもよ〜く考えてみて?茸好珠を装備しただけで猛毒キノコを食べれるようになる、しかも毒とは逆の良い効能を示すようになる、って無茶苦茶なスキルだよ。身体の構造まるごと組み替えるようなものさ」

 

 

 

「…だから、副作用があっても仕方ないよね」

 

「副作用?」

ユキムラが首を傾げると、大したことは無いんだけどね…と前置きしながらアスは再び解説をはじめた。

 

「茸好珠を使う事で、毒テングタケの猛毒成分が"効果が逆転"して良い効果に変わる。ということは…だ」

アスは一旦言葉を切り、腕の中で静かに寝息を立てているプーギーを指差した。

 

「毒テングタケの"味も逆転"しちゃうってことなのさ」

 

「…味が逆転…?」

ユキムラが再び首を傾げる。先程よりも角度が大きい。だがどこか閃く糸口はつかめているのか、アスが話を続けようとするのを手で制しながら数秒考え…ゆっくりと、首の角度を戻した。

 

「まさか…。毒テングタケを"茸好" 状態で食べると不味く…しかし毒ではなく良い効果が出る、というのが"味も効果も逆転"しているというのなら…」

 

 

 

 

「毒テングタケは、もともとは美味いのか?」

 

「ぴんぽーん」

ぴっ!と人差し指を立てなんとも軽薄な正解発表をするアス。

 

「猛毒なのに、か?」

 

「猛毒成分でも味があるとは限らないから、毒と味は無関係だよ。しかも、モスの背中に生えた毒テングタケはより美味しくて毒も強いらしいよ」

プーギーがモスの背中の毒テングタケを一心不乱に食べまくっていたのは、猛毒と知りつつも美味しすぎるから、ということだったようだ。

 

「そうか…あのモスの背中に生えていたのは、より強力な猛毒を持った毒テングタケだったのだな。だからスズナは総司令に知らせに連れて行ったのか」

謎が全て氷解し、ポツリとユキムラがつぶやくと。

 

 

 

不意にアスが焦ったような声を上げた。

 

「…待って。今スズナさんモスを総司令のとこ連れてったって言った?」

 

「ん…?あぁ。そう言えば詳しい事知りたかったら後でおいでと言っていたが。アスが教えてくれたからもういいな」

 

「いやいやいやいや…!ダメだよあの人にあれを連れてっちゃ!」

本格的に焦ったように、腕に抱いていたプーギーを降ろし、アスは立ち上がった。

 

「急いで追いかけよう!あぁもう遅いかもだけど!」

急に走り出したアスを追いかけて、ユキムラも走り始めた。司令所へ向かう方角だ。

 

「なんだ、どうしたんだ?危険な猛毒が出たんだ、総司令に報告するのは当たり前だろう」

走りながらも納得がいかず、ユキムラが問いかけるとアスはじれったそうに叫んだ。

 

「そんなの、モスに1滴薬品垂らせば毒テングタケくらい取り除けるからミラボレアス君と一緒に僕のとこ連れてきてくれたら良かったのさ!あぁそうか、スズナさんは新大陸後発組だから、知らないのか…ってかなんでユキムラさんが知らないんだよッッ」

 

「???な、なんだなんだどうしたんだ。スズナと総司令を会わせちゃいかんのか」

いまだ理解できずユキムラが混乱していると、アスは走りながらちょうど道すがらに見えてきたクエスト掲示板を指差した。

 

「スズナさんじゃない。総司令と毒テングタケ付きモスを会わせたら、1週間はクエスト受けられなくなるよ!!?」

 

「は!!?何故だ!」

ついにユキムラも叫んだ。クエストを受けられなくなれば新大陸でのハンターの活動そのものがほとんどストップしてしまう。1週間謹慎させられるようなものだ。

 

「総司令はね…」

 

 

 

「モスの背中に生えた毒テングタケが何よりも大好物なんだ!」

 

 

 

「何ぃ!?超猛毒なのだろう!!?」

 

「でも美味いらしいんだ!命かけて食べるんだよ総司令は!誰が止めても!」

 

「で1週間寝込むのか!」

 

「集中治療室大変なんだよ!?」

すべてのハンターを統括する総司令。たとえ彼のわがままであっても、倒れられればその間クエストが凍結される可能性は高い。

医務班の詰所から司令所までさしたる距離があるわけではないが、無限の距離があるようにユキムラには感じられた。

 

 

 

結局、スズナが総司令にモスを引き渡すのを止めることは出来ず。ハンターの調査拠点アステラはそのまま1週間ほど、総司令の意識が戻るまで静寂に包まれた。このためユキムラ、スズナ、ついでにアスまでもがハンター全員の批難を浴びることとなり、1週間誰よりも肩身の狭い思いをし。

 

昏睡から覚めた総司令の第一声、「美味かった…」を聞いた瞬間、3人が"真溜め"を撃ち込むのを我慢するのに必死にならざるを得なかったのも、当然の事だった。

 

 

 

「…あぁ、そうか…。あれだけ色んなトコから叩かれまくる前に、私達もあのモスの毒テングタケを食べておけば良かったのか…」

 

「…何それ妙案ね。総司令と一緒に寝込んでいれば何言われても耳に届かないから平気じゃない」

 

「しかも文字通り死ぬほど美味しいらしいしね〜…」

ハンターの活動が再開されてからもクエストに行く気になれず、ユキムラ、スズナ、アスの3人はぼ〜っと放牧地でいつまでも座り込んでいた。

 

 




ちなみに、美味しい毒キノコというのは実際に存在するらしいです。こちらのほうは1週間どころかホントに死ぬか、生き延びても凄まじい後遺症が残るらしいのです。命をかけて食べる人がいるかどうかはさだかではありませんが…


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その26 100万回イキった猫

今回も童話調で書くことができました。そうです、あの超有名な絵本のぱくりです。あのモンスターの生態ですが、猫のイキりっぷりを想像しながらどのモンスターのコトなのか考えてみてください。非常に短くまとめることが出来たので、今回も童話調のお話は、自信作です。なんてね。
https://syosetu.org/novel/94438/25.html
ちなみに過去のお話、「王様のなやみごと」にもリンクしたお話なので、こちらも是非どうぞ


100万回イキった猫がいました。猫はいたってフツウの小さなクロネコでしたが、いつでも自分を強く見せようと必死でした。

 

あるとき、猫は言いました。

「オレはいつもモテモテだけど、硬派だから毛はギンギンなんだぜ」

猫はもともとはサラサラのキレイな黒毛でしたが、強く見られる(と思い込んでいる)ために、イキって毛を全部逆立てて剛毛に見せかけていました。特に頭のてっぺんとシッポの先は念入りに逆立てて、シッポの逆毛は地面に突き刺さるほどでした。

 

またあるとき、猫は言いました。

「オレのシッポ攻撃なら、どれだけモンスターが群がってこようとイッシュンで全滅させられるんだぜ」

そう言うと、猫はぐぐぐ…と身体をヒネって力を溜め込み、シッポごと身体をぐるん!と1回転、反対方向にもう1回転。

しかし、イキって無理な振り回し方をしてしまったので、シッポの全部の関節を脱臼してしまいました。関節がハズれたシッポは長くナガ〜く伸びてしまいましたが、猫はイタいのをこらえてシッポをピンと張ってのしのし歩いていきました。

 

ナガく伸びたシッポは元に戻りませんでしたが、またあるとき猫は懲りずに言いました。

「オレの猫パンチはトクベツ製。あまりにスルドいパンチだから、カスっただけでもズバッと斬れちまうんだぜ」

今度は猫は入念に準備をしていました。前肢の肉球横からヒジ関節あたりまでの毛を、アブラを塗りながら何度も何度もナデつけ硬くまとめて尖らせてしまいました。ただ、またイキってアブラを塗りすぎたものだから、垂れたアブラが脇へ溜まって、皮膜になってしまいました。

 

そしてまたあるとき、猫はついに言ってはいけないコトを言ってしまいました。

「実はオレ、こんな猫のカタチは仮の姿なんだ」

 

 

 

 

 

 

「ホントは、飛竜なんだぜ」

 

 

 

 

 

言ったとたん、猫のカラダは大きくふくれあがり、イキったコトばかり言う口は相応しいカタチに左右に大きく裂けてしまい、アブラで出来た皮膜はホンモノの翼膜に、研いだ前肢の毛もホンモノの刃翼に変化しました。

 

こうして、猫はとうとうナルガクルガになってしまいました。

スルドい刃翼はいつだって密林を歩くジャマになってしまいますし、妙に長いシッポは脱臼したままでずぅっとイタみます。ガマンのあまり眼は充血して真っ赤に光るようになってしまいました。さらにカミナリに弱くなってしまったので、同じ密林に棲むジンオウガにいつもオビエて暮らすコトになってしまいました。

 

 

 

それでも、猫(ナルガクルガ)はイキり続けました。

 

 

 

「アルバトリオン?クシャルダオラ?オレにかかればヨユーだよ、ヨユー」

 

 

 

おしまい。

 

 

 

 

 

 

「な?やっぱりヘンだろ、この絵本」

新大陸のハンター、筋肉隆々な調査班リーダーは、その見た目になんとも似つかわしくない絵本を読み終わると、顎に手を当てて眉をひそめ、いぶかしげにぼやいた。

 

「リーダーが子供の頃に、生態研究所の竜人じいちゃん先生にもらったんでしたニャ」

一緒に首を傾げているのはベテランオトモ猫のコロ。

 

「ナルガクルガが新大陸で発見されたのはつい最近。でも現大陸で描かれた絵本にしては、前に見せたアンジャナフの絵本と絵柄が同じだし、新大陸に到着してから描いたにしては、ナルガクルガの絵がリアル過ぎないか?」

 

「やっぱりあのじいちゃん先生が描いたと考えるのが妥当…でも…ナゾが多いですニャあ、あのじいちゃん…」

 

この新大陸、どんなイキモノがどんな進化をしたって、不思議やないんやで。

 

直接聞いてもまともに答えないじいちゃん先生。いつものように誰に言うでもない声音で、ぶつぶつつぶやいてるだけであった。



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その27 クルルヤックがたくらんだ

今回もモンハンワールドからのお話。モンハンでは、実在の野生動物よりも『弱肉強食』の『弱』と『強』が比較的ハッキリとしています。そのため、こんな生態行動があっても良いのではないでしょうか…?


「新規クエスト申請だって?じいちゃん先生」

年中雪が降っているハンターの拠点、セリエナに居ても。声の主、若き調査団リーダーは肩から先の肌を表に晒して、寒そうな気配も無く隆々たる筋肉をむき出しにしていた。

 

そんな偉丈夫の目の前にいるのは、リーダーとは対照的に背中の折れ曲がった、痩せっぽっちの竜人族の老人だった。目線の高さは調査団リーダーと同じだが、老人のほうだけ資材がたっぷり詰め込まれた大型の木枠コンテナの上に陣取っているためだ。

 

「そうや。少し厄介な条件やが、よろしく頼むで」

少し変わったイントネーションで話す竜老人は、モンスターの生態研究所の長をつとめる学者であった。クエスト依頼書を差し出してくる手はシワだらけだが、目だけは好奇心で爛々と輝いている。

 

「ふむ、厄介ね…」

厄介事には慣れているぜ、とでも言いたげに自信たっぷりの仕草で依頼書に目を通す調査団リーダー。が、すぐにその内容が想像を超えるものであることに気付いたようで、目を剥いた。

 

「対象はクルルヤック2頭とジンオウガ1頭の…観察?討伐禁止だと!?捕獲も?50分間、観察員の目の前で戦闘を行え…?」

厄介どころではない。馬鹿にしたようなクエスト条件である。

調査団を名乗っているとはいえ、ハンターの本分は紛れも無く、戦闘。人々とその生活を守るためにモンスターを撃退し、その爪や皮などを役立てるのがハンターの意義だ。それを、戦え、でも倒すななどというクエスト条件では納得できようはずが無い。

 

「ほっ!無理なこたぁ無いやろう?これまで全ての難事件を解決してきた調査団や」

なのに、この老人煽る煽る。調査団リーダーにとっては産まれた頃からの付き合いであり、学問の師でもある生態研究所長。逆らい辛いのを承知の上でこのクエスト依頼書を持ってきたのだろう。

 

「…スマンが、どうしてもこのモンスターの調査だけは慎重にやりたいんや。このクエスト条件の観察員もボクがやる。なんとか、頼めんか…」

ゴリ押しの中にも、さすがに後ろめたさがあるのか急に声音を変えて懇願してくる。

 

「…分かったよじいちゃん先生。特別任務の形で出しておこう」

ため息混じりにつぶやく調査団リーダー。が、安請け合いするにはクエスト条件が厳しすぎるのは明白。

 

「50分間戦いながら生き延び、対象を倒しもしない…」

 

「その後の対象モンスターの生活に支障をきたしたらアカン。出来れば部位破壊もやめてくれんか…」

 

「無茶言ってくれるぜ、ハハ…。こりゃあ、竜識船の技術を頼るのが良さそうだな…」

若干頭を抱えつつも、1つのアイデアが浮かんだらしい調査団リーダー。頼るべきは何でも倒せる無敵のハンターではなく…

 

「ニャンターの出番、だ」

ハンターのサポート役、オトモ猫による戦闘パーティーだ。

 

 

 

 

 

 

「ニャニャニャニャニャ…!!!」

後ろから迫りくる巨大な気配を感じ、オモチは必死で前方へダイブを繰り返していた。

白黒毛並みのオトモ猫のオモチは、調査団がいる新大陸へ渡る前にはニャンター、つまり主人のハンター抜きでオトモ猫が狩りに出る経験を積んでいたのだった。当然、新大陸でも十分に主人のもとで狩りの経験を積み続けている。そんなオモチにとっても、このクエスト条件は厳しすぎるようだ。

 

「ニャンター久しぶり…!だし!…んニャっ!」

 

ドシン!

 

オモチが飛び退ったすぐその後を、ジンオウガが襲う。雷狼竜の名の通り、狼のように立派に逆立った背毛からバチンバチンと極大の放電を撒き散らす、危険なモンスターだ。

 

「!オモチあぶニャいッ」

 

ボッ!

 

ジンオウガの攻撃をなんとか避けたのも束の間、すぐ横からクルルヤックの蹴りが飛んできた。が、事前の警告に身を委ねていたのが功を奏し、オモチは余裕をもってこちらも避けることができた。

 

クルルヤック。頭の大きなダチョウのような、オモチに放った飛びかかるような両足での蹴りを得意とする脚の発達した鳥竜種である。鳥竜種といっても、翼よりも手先が器用に進化したために前肢で岩を持ち上げて攻撃してきたり、他モンスターの卵を持ち上げて盗むなどもする頭脳派でもある。

クエスト条件はクルルヤック2頭とジンオウガ1頭の観察。もう一頭のクルルヤックも遠巻きに様子を伺っているのが感覚でわかる。見事に3頭揃い踏みである。

 

「オモチ!こっちカカシでおびき寄せるニャ!」

先程、オモチに対して警告を発したのと同じ声がまた聞こえてきた。オモチと同じくニャンターの能力を持つオトモ猫の、ネコノフだ。今いる新大陸の技術である、モンスターをおびきよせる大型カカシを設置しおえたところのようだ。

大カカシはカタカタカタカタ…!とけたたましい音を立ててジンオウガ達の気を引く。しかもその音はカカシの全身を覆う盾や鎧がぶつかり合って出ているので、カカシの防御力がいかに高いかを示すものでもある。ちなみにニャンターは本来新大陸にはない技術で、竜識船というハンターズギルドの別の技術大系の力だ。

オモチとネコノフ、そしてもう1匹のオトモ猫は、竜識船のニャンター、新大陸の大カカシ、この2つの技術を見事に使いこなしているのだった。

 

「ふぅ〜、ニャイスタイミングだったニャ、マスターネコノフ。助かったニャ〜」

回復薬をガブ飲みしながら、一息つくオモチ。オモチを襲っていたジンオウガもクルルヤックも、すぐに大カカシを攻撃しにかかっていた。

 

「しかしオモチよ、あのジンオウガ、なんかちょっと攻撃避けにくくニャいか?」

ネコノフが大げさに首を90度に達するほどまでに傾げて疑問を呈すると、今回の特別クエストパーティーの残り二人が草むらをかき分けて出てきた。

 

「お。やはり避けにくいかオモチ君」

一人は、クエストの観測員としてついてきていた生態研究所長の竜老人。もう一人…いやもう一匹は、回復役のニャンターとして同行していた、水色毛並みのメスオトモ猫、ナダレであった。

 

「はいオモチ、回復ミツだニャ…って、『やはり』ってニャんだニャおじいちゃん。避けにくい攻撃してくるって事はあのジンオウガ、特殊個体かニャ?」

オモチの体力を回復させつつナダレがツッコむと、竜老人はしれっと肯定した。

 

「そうや」

 

「先に言え」

切れ味鋭くツッコむナダレ。慌てるオモチ達に対して冷静にアドバイスを始めた。

 

「はあ〜ぁ…しょうがニャいニャあ。このじいちゃんボケてるわけじゃないけど、話がポンポン飛んだり戻ったりするから大変だニャ。アタシが聞き出して伝えるから、二人はジンオウガ達の相手頼むニャ」

 

「で、ででででもクルルヤックもいるし、クエスト条件にはクルルヤック2頭って書いてあったからもう1頭…」

 

「あ、その2頭目はさっき見たニャ。かなり小さい最小金冠だったから幼体のハズ。弱いから気にしなくてもダイジョーブニャ。あ、でも次はネコノフが引きつけてオモチは大カカシの準備しとくと良いニャ」

 

てきぱきと指示を出すナダレに圧倒されるようにして、オモチとネコノフはカカシと大盾、それぞれのオトモ道具を準備しながら、ようやくこちらに向き直ったジンオウガとクルルヤックに対して身構えた。

 

「ニャ〜んかヘンな秘密持ってそうだニャ、あのジンオウガとクルルヤック。早くそこのじいちゃんから情報聞き出して教えてニャ、ナダレ」

不安げなオモチに対して

 

「任せろニャ」

短くひとこと、力強く宣言し前に出るネコノフ。先にネコノフが設置していた大カカシが破壊され、間に遮るもののなくなったジンオウガとネコノフ。ナダレが竜老人を引き摺って下がるのを背後に感じながら、ネコノフは再び口を開いた。

 

 

 

「…おっかねぇ〜」

 

「カッコつけたのにニャあ…」

横で呆れるオモチ。ナダレのコト好きなんじゃないかな…と胸の奥で邪推しながら、駆け寄ってくるジンオウガを再度観察する。

 

先程の遭遇戦でもそうだったが、互いに協力関係にあるはずのないジンオウガとクルルヤックが、何故か見事に連携しこちらに襲いかかってきている。それだけでも異常だが、さらにジンオウガは特殊個体であるという。

 

クケェッ!

 

とはいえ今はぶっつけ本番で動きを見切るしかない。まず襲われたのは一歩前に立っていたネコノフだった。走り寄った勢いを乗せたクルルヤックの蹴りを横に飛んでかわし、ジンオウガのパンチは後ろへ飛ぶ。その言動には不安を感じざるを得ない、お世辞にも頭が良いとは言えないネコノフだが、戦闘能力はベテランのオモチでも及ばないレベルに達している。

 

が、それもモンスターの動きをあらかじめ把握し対応できるからである。

 

「とニャあ!」

ジンオウガの攻撃を飛び下がってかわしたネコノフが、手にした鋭いブーメランで近接攻撃を仕掛けに前方へ大きく踏み込んだ。

 

「…!ネコノフ、上だニャ!」

後ろからナダレの声がする。果たしてネコノフのブーメランは空を裂き、ジンオウガは身体を丸めて空中にいた。

 

「バックステップかニャ!」

思わず、通常種ジンオウガの行動を予測したネコノフが追撃しようとさらに一歩前へ踏み出すと…

 

「…ネコノフっ!」

横からオモチの声がしたかと思った次の瞬間には。

 

 

 

ジンオウガの両足が、ネコノフの目の前にあった。

 

 

 

ドゴン!!!

 

 

 

凄まじい音を立ててネコノフが吹き飛ばされた。

 

「ジンオウガのドロップキックぅぅううう!!?」

意外と余裕があるのか、派手に飛ばされながら叫ぶネコノフ。通常のジンオウガはしない、かなり非常識な動きだった。バックステップとしか思えないモーションで小さくジャンプしたかと思うと、突然両足を揃えたクルルヤックのような蹴りを放ってきた。

 

「…クルルヤックのような?」

自分の思考に自問するネコノフ。先程からやけに息のあったコンビネーションを繰り返すクルルヤックとジンオウガ。が、これら2種はモンスターとしての格が違うため、遭遇すればクルルヤックはすぐに逃げ出すはずである。

 

 

「あのジンオウガは…ニャんでクルルヤックを襲わずに共闘しているのかニャ?」

 

「んむ…」

ネコノフ達とはほんの少し離れた場所で、ナダレは疑問を竜老人にぶつけていた。ネコノフと同じように、ジンオウガの行動がクルルヤックと共闘しているように見えたようだ。

 

「ナダレ君は、クルルヤックが"卵泥棒"と呼ばれとるのを知っとるか?」

 

「…んニャ?」

質問を質問で返され、戸惑いと共に多少イラっときたナダレだったが。この竜老人がマイペース過ぎて人の話をあまり聞かないのをよく理解している。諦めて返された質問のほうを優先させた。

 

「んあ〜、手が器用だもんニャあ。他モンスターの卵持ち上げて運べるんだよね。卵盗んで食べたり、岩を持ち上げて攻撃してきたりも…ニャ…っ!?」

言いながらハッと何かに気付くナダレ。とっさにネコノフ達が闘ってるほうを向くと

 

 

「ジンオウガの岩投げえええぇぇぇ!!?」

先程ドロップキックをくらったのと全く同じ体勢で同じように叫び同じように吹き飛ばされるネコノフが見えた。また本来のジンオウガとは違う攻撃、岩投げ。クルルヤックの技であるが、まさか…と思った瞬間に放ってきた。特殊行動をするジンオウガの対策を老人から聞き出して伝えるはずが、間に合わなかったようだ。

 

「ニャあああぁぁ!!?さっさとあのジンオウガのこと教えるニャ!オモチ達があぶニャい!」

自分に対して密かな想いを寄せている(無論気付いてはいないが)ネコノフではなく、兄弟のようにして育ったオモチのほうを心配しているナダレ。竜老人の肩を揺さぶるが、当人はどこ吹く風。相変わらずマイペースに話しはじめた。

 

「ま〜大丈夫やろネコノフ君達なら。あのジンオウガ、コードネーム"ニセコ"というてな」

 

「…北の国かニャ?」

 

「ニセコや。彼は身体はデカイがまだかなり若いはずや。体型的に無理な技も多いから、見た目ほどネコノフ君にダメージは無いはずやで。カミナリも操れんはずやし。まぁそれでもさすがにクルルヤックよりは強いみたいやが」

 

「そこまで分かってるニャらニャおさら早く言えぇ!!」

オモチとネコノフが交互にコードネーム"ニセコ"とかいうジンオウガの攻撃で吹き飛ばされていくのが見えるが、確かにすぐに平気そうに立ち上がっていた。回復役のナダレが必要ない程度の攻撃力しかないのだろうか。

 

「んむ。話がそれたかの。クルルヤックは"卵泥棒"とも呼ばれとる。それは主に卵を食べるためやけど…」

 

 

 

 

「食べる目的以外に他のモンスターの卵を盗む意味って、あるんやないか?」

 

 

 

 

「…!!?」

ようやく、特殊ジンオウガ"ニセコ"の秘密の糸口を掴めたような気がして。ナダレは改めてオモチ達が闘っているクルルヤックと"ニセコ"のほうを見た。

 

「そうニャ…!あのジンオウガ、共闘してるのも異常だけど、攻撃パターンがクルルヤックそのものだニャ!つまり…」

 

「そう、あのジンオウガ…"ニセコ"は、クルルヤックなんや」

ナダレの言葉を継いで竜老人。これまで淡々とした口調と、のらりくらりとはぐらかすような話し方になってはいたが、この老人ずっと視線はネコノフ達と闘っているクルルヤックと"ニセコ"を追い、手元のメモ帳に凄い勢いでペンを走らせていたのだった。ナダレ達クエスト同行者に対して説明を怠ったのも、面倒くさいからではない。ただただ、新しい生態の観察に没頭したいからなのだった。そして、その観察結果がようやく確信を持って老人の口から告げられる。

 

 

 

 

「あの子…ニセコはクルルヤックに育てられたんやなぁ。ニセコ、つまり偽子や」

 

「やっぱりかニャ!ジンオウガの卵を盗んで、食べずに孵化させてクルルヤックの子として育てたのかニャ!?」

ナダレも理解した。オトモ猫の中では飛び抜けて頭の良いナダレだからではあるのだが、竜老人は気を良くしたらしい。ようやくジンオウガ"ニセコ"から目を離してナダレのほうを向いて話し始めた。

 

「うん、そのとおり。やはり間違い無いようやな、確信がまだ無かったもんやから話せなかったんや。クルルヤックは鳥竜種。身体構造の多少似る鳥に似た習性を手に入れる可能性はもともとあったんやが、ついにという感じやな」

感じ入ったように何度も頷く竜老人。が、今度は納得いかなかったらしいナダレが首を傾げた。

 

「鳥に…ってもしかして"托卵(たくらん)"のことかニャ?意味が逆ニャんじゃあ…」

 

「ほう、托卵を知っとるか。ほんとに博識な猫ちゃんやなあ」

珍しく、心底感心したように竜老人は初めて"ニセコ"から目を離してナダレのほうを見つめた。さらに気を良くしたのか、早口でこれまで予測の範囲に過ぎなかった研究内容をまくし立て始めた。

 

「確かに、本来托卵とは自分の卵を他の種の巣に産み落とし育てさせるというものや。クルルヤックのやった、他の種の卵を自分の巣に持ち込むのとはまったく逆や。しかし自分の子育てを楽にし確実に種を残すという意味では同じやないかな?クエスト条件のもう一匹のクルルヤックこそ本当の子供。ジンオウガが兄弟として一緒だったら、他モンスターに襲われることなくさぞ安全に子育てできることやろうな」

しかし竜老人の言う事とは裏腹に、向こうの方では特殊ジンオウガの動きに慣れてきたのだろうか、オモチとネコノフがじゃれるように"ニセコ" とクルルヤックのまわりをぴょんぴょんと飛び跳ねまわっている。"ニセコ" は母親(と思い込んでいる)を守りたいのか、クルルヤックのような小刻みなステップでオモチ達の前に立ちはだかろうとしていたが、歴戦オトモ2匹を相手するには経験が足りないようだ。

 

「おう、そこの茂みに隠れているちび助のクルルヤックからネコノフ君を離そうともしてるんやないか?兄思いでもあるんやなあ」

意外とモンスターの気配に敏感なのか、竜老人は三匹目のターゲットの観察も忘れない。確実に特殊な動きをする"ニセコ"に慣れていっている2匹のニャンターに翻弄され、モンスター側が焦り始め家族ぐるみで防戦一方という感じになってしまっているようだ。

 

 

「いつでもカカシ出せるからニャ!ネコノフ」

 

「おっけーだニャ!…おっと」

オモチに向けて親指を立てながら、繰り出されてきた"ニセコ"のドロップキックをあっさりかわし、クルルヤックが投げてきた岩も確実に盾で防ぐネコノフ。回復役であるはずのナダレが役割そっちのけで竜老人と白熱した生態学論争を繰り広げられる程度には、余裕がでてきている。

 

「やっぱり、ジンオウガとして育てられてニャいから、雷とか出せニャいのかニャ?」

相変わらず回復役をしないまま、のんびりとナダレが聞く。ジンオウガは別名雷狼竜。雷を周囲に発生させる"超電雷光虫"を体表面に住まわせており、それを用いた強力なカミナリ攻撃を行うのだが、今回の特殊ジンオウガ"ニセコ"は一度も打ってきていない。

 

「そうやの。しかも見たところ背中の放電も無いようや。これはつまり、"ニセコ"の背中には超電雷光虫が住み着いていない、もしくは通常個体のジンオウガよりも著しく少ないということや。ジンオウガは親から超電雷光虫を受け継いでいる学説を後押しする事になりそうやな」

 

「ふんふん、ニャるほど〜」

ナダレと竜老人が楽しくおしゃべりしている一方

 

 

 

「お〜い、ネコノフ。そろそろ替わるかニャ?」

 

「さんきゅーオモチ。そっちにカカシ設置して〜」

ネコノフとオモチも余裕で"ニセコ"とクルルヤックの親子コンビと戦闘を続けていた。本来、ニャンターといえどクエスト中は制限時間内にターゲットのモンスターを討伐または捕獲をしなければならないため、攻撃を加えなければならない。しかし、今回のクエストはそのクリア条件が「50分間討伐または捕獲をせず闘う」というもの。攻撃には常に隙がつきまとう。そのリスクを負わずにひたすら回避と防御だけしていればいいのだから、このベテランオトモ猫の2匹にとっては慣れてしまえば楽なものである。

 

 

 

が。

 

 

 

バチッ

 

「…んニャっ!?」

突然、おしゃべり途中のナダレの目の前で空気がはじけた。

 

「これ…は…」

よく見るとはじけたのは空気ではない。小さな虫がほのかな光と共に現れ、時折大きめの光と共に音を立てていた。

 

「ふむ…もしかしたらヤバいんやなかろうか…?」

竜老人も気が付いた。虫とは違う、とてつもなく大きな気配が近づいてくるのを感じる。

 

 

 

「オモチー、少しくらい攻撃して怒らせたほうが生態研究にニャるんじゃーニャいか〜?」

 

「おー、そのほうが飽きニャくて楽しいかもニャー」

虫の出現に気が付いていないネコノフとオモチは、舐めきった闘い方をしていた。たまにはブーメランでも投げようかな、とオモチが竜老人とナダレのほうに目線を向けたその瞬間。

 

 

 

ウオオォォォ〜ン!!

 

 

 

巨大な咆哮があたりを支配した。

 

「ンギ…ッ!」

思わず耳を塞ぐネコノフ達。

怯んでいるニャンター達の目の前に立ちはだかったのは

 

 

 

「ジンオウガ…!」

今まで闘っていた"ニセコ"とは比べ物にならないほど巨大な、もう一頭のジンオウガだった。

 

 

 

ピシャア!ン…

 

極大の放電が周囲に雷を落とし、オモチ達を蹴散らす。

 

「ふギャッ…!」

「あぶあぶあぶ…ニャああぁぁアア!!?」

直撃を受け焦げるオモチ。必死に放電圏外へ逃げ出すネコノフ。

 

「オモチ!はやくこっちへ逃げるニャ!」

もともと戦闘圏外にいたナダレと竜老人は無事だったが、ゆっくりと歩みを進める巨大ジンオウガを邪魔するものはなにもなかった。よく見ると身体全体に深い(つや)がかかっているのが分かる。巨大なだけではなく、さらに強力な歴戦の個体であるようだ。

 

 

 

グルルルル…

歴戦ジンオウガから我が母クルルヤックを護ろうと、"ニセコ"が威嚇の声を上げながら前に出ると、巨大ジンオウガは足を止めた。

 

 

 

グルル………?

品定めさられているようで、"ニセコ"は訝しむように見上げるが、歴戦ジンオウガは敵意を示さず若きジンオウガ"ニセコ"とクルルヤックのまわりをゆっくりと観察するようにまわった。

 

「ニギー…?」

 

「ニャ〜…」

オモチ&ネコノフは突然3体に増えたモンスターの輪の中に入っていく勇気はとても無く、身動きもできずにいた。

 

 

クキ…クルルルル…?

親クルルヤックは心底怯えたように全身を震わせていた。

 

その場の全員がすくみ、誰も動けない時間。ナダレには数十分にも感じたが、実際にはほんの数秒だったろう。

 

「ま、まさか…」

"ニセコ"を見つめる巨大な歴戦ジンオウガ、また異常なほどに怯えるクルルヤック。それらを見回し状況を確認した上でナダレにピン、と。1つの考えが浮かんだ、その時だった。

 

 

 

クルル…クケエエェェェェエエエ!!!

 

突然、怯えを振り切ったクルルヤックが大きく啼いた。

そして小さいほうのジンオウガ、"ニセコ"の背中に飛び乗り、歴戦ジンオウガへ向けて必死の威嚇を開始した。

 

「…なんと!勝ち目のない敵の出現に対して、我が子…"ニセコ"を護るという選択肢を選ぶんか!母性やあああ!」

突如興奮して前に出ようとする竜老人。ナダレは必死にその肩を掴むと、安全圏まで引き摺って後退した。

 

「違うニャ!あのおっきなジンオウガは、『勝ち目のない敵』じゃニャい!あれは多分、"ニセコ"にとっての…」

 

 

 

 

「本当の母親だニャ!」

 

 

 

ウオオォォォォォォォ!!!

 

「ヒィッ…!!」

ナダレがわめくや否や、歴戦ジンオウガがひときわ大きく咆哮した。これにはニャンターパーティー一同のみならず、特殊ジンオウガとクルルヤックも大きく怯んだ。

 

ピシャアン!!

 

同時に、歴戦ジンオウガを中心に極大の放電が発生した。青白く輝くドーム状のカミナリはまたたく間に大きくなり

 

「わわわわわ…!ニセコを攻撃する気かニャ!?」

 

十分に距離をとっているはずのナダレでも後ずさりしてしまうほどの威力が見て取れる極大放電。歴戦ジンオウガが"ニセコ"の本物の親かと思ったが、違うのか…?

 

 

 

クケェッ…!!

 

グルルルルァ…!!

 

「ニ゛ャアアァァァ…!!」

 

歴戦ジンオウガに最も近かったクルルヤックと"ニセコ"、ついでに逃げ遅れたオモチも巻き込んだ後、ドーム状の放電は今度はゆっくりと範囲を縮めていき、中心にいた歴戦ジンオウガの体内におさまるように消えていった。

 

 

 

グル…ゴガガ………

 

放電がおさまったあと、その場に立っていたのは2頭のジンオウガであった。クルルヤックとついでのオモチは、ビリビリと麻痺したまま、しかし大した怪我はなさそうにその場に転がっていた。

 

歴戦ジンオウガは相変わらず謎の視線を"ニセコ"に注いでいたが、見られている"ニセコ"は明らかな攻撃を受け、完全な敵意を前方へ向けていた。

 

ガウッグウゥ…

 

「…!?」

そんな"ニセコ"を見て、竜老人が再びわめきだした。

 

「見ろっナダレ君!」

指差す先の"ニセコ"の背中には、なにやら青白い光が宿っていた。

 

ゴオオオォォォォッ!!

 

"ニセコ"が大きく吠えると、その背中の青白い光はバチンッ!と強くはじけ、鋭い光の線が歴戦ジンオウガ向けて放たれた。

 

 

…フンッ!

 

 

が、流石はホンモノのカミナリをつかさどる雷狼竜。歴戦ジンオウガが鼻息を少し荒く吐いただけで、"ニセコ"が放った放電は跳ね返された。

 

 

「…ブギャッ!!?」

なぜか、跳ね返された放電が別方向で倒れていたオモチに直撃したが。

 

「放電や!"ニセコ"の背中から!」

これを見て了解老人の興奮は最高潮に達した。

雷狼竜ジンオウガでありながら、"ニセコ"は今まで雷をまとうことはなかった。このタイミングで放電を発するのは…

 

「やっぱりホンモノの母親ニャのかニャ!?あの歴戦ジンオウガ!?」

隣でナダレもはしゃぎはじめてしまった。

 

「そうとしか考えられん!さっきの歴戦ジンオウガのドーム状の放電により、"ニセコ"の放電能力が目覚めたんや!…いや!目覚めたんやない、ホンモノの母親によって目覚めさしてもろたんや!」

クルルヤックに誘拐…"逆托卵(たくらん)"され、はぐれてしまった我が子。その本能を呼び覚ますために探し続けていたのだろう。歴戦ジンオウガはその巨体をより"ニセコ"に近付けて目を細めるようにして見つめた。

 

グルルルル…?

先程自分から放たれた謎の光線に戸惑い、"ニセコ"が動けずにいる間に。

 

ケ…ケケ…クルルルルルオォゥアアッ…!

クルルヤックが放電の麻痺から立ち直り、再び2頭のジンオウガの間に割り込んだ。

 

「え?ちょ…え?あああええぇ?」

1人取り残されていたネコノフは何ひとつ理解できず、焦げたままのオモチを救出することも忘れ立ち尽くしてはいたが。

 

 

 

…グルルルル…

歴戦ジンオウガは、今度は敵意を含まない視線をクルルヤックに投げかけていた。

 

ク…クケ…ケ…

自分が敵わない相手に対抗するために、自分より強いモンスターの卵を盗んで我が子として育てる。それが、このクルルヤックが行なった"逆托卵"という生態行動だが。その目的のためだけであれば、今この場でのクルルヤックの行動は完全に矛盾している。その矛盾の元は…

 

…ゴフゥ!

果たして、歴戦ジンオウガはクルルヤックに対してそれ以上は攻撃することはせず。一つ大きく息を吐くとゆっくり踵を返し、森の奥へと戻って行った。

 

「うぅ…ニャんだったのニャ…」

放電の直撃を受けていたオモチがようやく起き上がる頃には、歴戦ジンオウガは木々の向こうへ見えなくなっていた。

クルルヤックも"ニセコ"も状況がつかめず呆然としており、ネコノフはとりあえずオモチのほうへ駆け寄るも、やはりどうしていいか分からずフリーズしていた。

 

その一方

 

「いやー良いもん見せてもろたな」

 

「クルルヤックを母親として認めたのかニャあ〜」

竜老人とナダレは呆然とする4匹を置いてけぼりに勝手に盛り上がっていた。

 

 

「「どーなったニャ!ニャンだったのニャ!?」」

理解できるはずのない展開に叫ぶオモチとネコノフの目の前に、クエスト設定時間の50分間がちょうど過ぎたのだろう

 

『Quest Clear!!』

の文字が降ってきていた。

 




クルルヤックが"托卵"だ、でした。他のお話と比べてかなり文字数多くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。モンハンの過去作のシステムを今復活させたらどうなるだろう…という考察も含んでいるのですが、どうでしょうCAPCOMさん?ニャンターを新大陸で復活させてみませんか?

※追記
ジンオウガって卵産むの?というお言葉をいただきました。公式設定ではジンオウガの卵についての記述は見つかりませんでしたが、雷狼竜という字面から狼つまり哺乳類を連想してしまいますね。が、牙竜種、雷狼竜という種族名から竜の仲間という事を優先適用し、飛竜の卵が存在する公式設定より、ジンオウガは卵生という独自設定とさせていただきました。この考えでいくと、牙獣種であるラージャンは胎生の可能性が高いかもしれませんね。


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その28 情熱大陸

今回も、モンハンワールドの新大陸でのお話です。あの懐かしいモンスターが、実は新大陸でも密かに棲息していたようなのですが…?

今回は、モンスターハンターワールドのストーリー部分のネタバレを含みます。その点だけご注意ください。


「新大陸にはやな…」

新大陸から少し離れた陸地、極寒の地の新調査拠点セリエナにて。耳が長く腰の曲がったおじいちゃん、竜人であるモンスター生態研究所長が、いつものように手に持った本から目を離さずにぶつぶつとつぶやいていた。

 

 

 

「グラビモスがおるんやで」

 

「マジで!?」

所長の言葉に強く反応し叫んだのは、アキヤだった。黒髪を逆立て鎧も棘だらけの、色々とトガッた男ハンターだ。新大陸では"闘神"と呼ばれ、新モンスター、特に強力なモンスターには目が無いこのアキヤ、思い切り目を輝かせて竜老人に詰め寄る。

 

「いやしかし発見例は無いはず!?聞いたことがない。なのに居るって分かるのはなぜだ!?」

口からツバまで飛ばして質問攻めにするが、研究所長は本から目を離さずにマイペースに答えた。

 

「んー、昔からの学説や。実際の生体発見例はたしかに無いが…鎧竜素材の発見例は、あるんや。ごく稀にやが、新大陸各地にな」

鎧竜グラビモス。大型の飛竜で、非常に硬い甲殻と口から吐く超長距離の熱線ブレスが特徴的である。アキヤ達が今居る新大陸ではその生体の発見例が何故か無いのだが、一般の人々が暮らす現大陸では、火山や沼地など広い範囲に出没し、渡航前のアキヤも幾度となく闘った相手だ。

 

「生きてるグラビモスは見つからないのに、素材だけは見つかる…?」

オトモ猫のように首を思い切り90度にかしげ、腕を組み考え込むアキヤ。そのままの姿勢でぴん、と人差し指を立てると少し低いトーンで残念そうに答を出した。

 

「…絶滅した…?」

 

「不正解や。"おる"って言うたやろう?」

即座に切り捨てる竜老人。相変わらず手に持った本からは目は離さないが、その言葉には少しだけ熱がこもりはじめたようだ。

 

「間違いなく"おる"んや。ただ見つからないだけや。ぼくたち人類が新大陸の全てを探し回れるなんて思い上がったらイカン」

次第に早口になっていく所長が抱えている本は、新大陸の地図帳だった。アキヤが横から覗くと、地図には未だに空白部分が多く残っている。

 

「つまり、まだ俺達が踏み入れてない、この地図上の空白部分のどこかに潜んでいる…?」

所長の横から、手の中の地図上に指をつっこむアキヤ。しかし未だ首は90度に曲げたままだ。

 

(空白部分に潜んでるのなら、鎧竜素材が各地で見つかるのはおかしい…か?)

考え込んだままのアキヤを、珍しくちらりと本から目を離して見やる竜老人は、先程のように即座に不正解を言い渡しはしなかった。学者らしく、他人と一緒に物事を考え込むのは好きなのだ。

 

 

 

果たして、アキヤはファイナルアンサーを覆した。

「分かった、この地図上にあっても俺達ハンターが踏み入れられない場所に棲んでるんだな?」

 

「正解や」

少しだけ語気荒く、モンスター生態研究所長は満足げな目で頷き言い放った。

 

「どこにおるかは、分かるな?グラビモスの生態を考えるんや」

グラビモスの生態…。口の中でつぶやくと、再びアキヤは考え込む姿勢に入った。

鎧竜グラビモスの大きな特徴の1つが、その名の通り身体を覆う鎧の形成である。現大陸で闘ったグラビモスはハンター達の刃を弾き返すほどの硬度を誇る甲殻を持っていた。そしてその鎧のような甲殻を形成するため…

 

「岩食ってんだったよな…」

 

「お、正解は近そうやな」

アキヤのつぶやきに、なんとも嬉しそうに目を細めて竜老人ははじめて持っていた本を横に置いた。

 

「火山付近に多く形成される鉱物を食べてたのが、現大陸でのグラビモスやった。だがの、新大陸には鉄鉱石やマカライト鉱石とは比べ物にならんほど、グラビモスにとって良い食べ物があるんや」

ここで、竜老人はひと呼吸置いた。アキヤを正解へ導こうとしていたはずが、いつの間にか勝手に正解を言おうとしているのがなんともおかしいが、地面を指差してアキヤの言葉を待たずに口を開いた。

 

 

 

「地脈や」

 

 

「地下か…!」

地脈とは、大地のエネルギー。ここ新大陸は特にそれが豊富で、それに惹かれて海を渡る古龍もいるほどだ。しかし、地脈そのものは人類が普通に触れられるほど浅い部分にはなく、地殻変動などによりごく稀に地表に露出し、大地のエネルギーがマグマとして発散される、噴火活動くらいでしか直接観察することはできない。

 

「ぼくらでは行くことのできない、地脈の回廊よりさらに深い地下世界で、マグマをガブ飲みしながらのんびり暮らしてるはずや。が…」

 

「が…?」

 

「なんで今更こんな話をするかと言うとやな…。多分、もうすぐ…」

珍しく、心底嬉しそうにクックッと笑いながら竜老人がもったいぶっていると。

 

「おーい、じいちゃん先生」

モンスター生態研究所のすぐ隣、ハンター司令所から顔を出し声をかけてきたのは、調査班リーダーだった。

 

 

 

「グラビモスが出たぞ」

 

「マジで!?」

先程とまるで同じ反応をするアキヤに、今度こそ手に持った本を横に置き竜老人は今まで見たことの無いような満面の笑みを浮かべた。

 

「おう、おう!来たの…!ようやくお出ましか」

 

 

 

「"情熱大陸"の…!」

 

 

 

 

 

 

それから、調査班リーダーに連れられアキヤが向かったのは。新大陸にある、旧調査拠点アステラだった。アステラは新大陸のはしっこにあり、海に面しているため、稀に妙なものが流れ着く事があるのだが。

 

「ご、ごごごご主人…」

 

「…なにこれ…グラビモスどころの騒ぎじゃねえぞ…?」

オトモ猫のコロと一緒に、久々にアステラに戻ってきたアキヤは、呆然と立ち尽くしていた。てっきり地脈に近い洞窟に連れて行かれると思っていたのに、グラビモスが居たのはなんとも予想外。

 

アステラに面した海に突如、グラビモスを乗せた島が出現していたのだ。

 

「おう、おおう!ホントにグラビモスおったのう!やったの、アキヤくん」

生態研究所のじいちゃん所長はこれを予想していたようで、いまだに興奮しっぱなしだった。 

港の目の前に出現したのは、真っ黒なカタマリ。冷静に見てみれば、"大陸"という大きさでは無いが、島のあちこちから黒い煙が立ち昇っており、マグマのようなものが吹き出しているのも見える。"情熱"というより"焦熱"ではあるが…、"情熱大陸"と名付けたくなる気持ちが分からなくはない程度には、竜老人は熱く興奮していた。

 

「ほれ見てみぃコロすけ。グラビモスはやっぱり新大陸に居たんや!」

オトモ猫の背中をばしばし叩きながら年甲斐もなくはしゃいでいる。真っ黒な島の上には、アキヤが知るものよりは小さいが、白く分厚い甲殻に包まれた鎧竜、グラビモスが歩き回っていた。生態研究所長は大騒ぎしながら手にした生態研究手帳に物凄い勢いで筆を走らせているが、ようやく状況を把握できたアキヤは慌てていた。

 

「いやいやいやはしゃいでる場合じゃないだろ!?」

興奮状態の竜老人に背中を叩かれげふんげふんと咳き込んでいたアキヤのオトモ猫、コロも跳び上がった。

 

「そ、そうだニャ!あの島がニャんなのかは分からニャいけど、いっくらニャんでもアステラに近すぎるニャ!」

鎧竜の特徴として、超長距離射程の熱線ブレスをその口から吐き出すというものがある。グラビモスを乗せた"情熱大陸"は調査拠点アステラの港から100メートルも離れていない。

 

「しかも、あの"情熱大陸"…」

真っ黒な大地をのしのしと歩く鎧竜グラビモス、ではなくそれが踏みしめている大地を睨み、アキヤが声を絞り出す。

 

「熔山龍、だろう?」

 

「…!?ニャんですとぅ!」

熔山龍ゾラ・マグダラオス。超大型の古龍種で、アキヤ達が新大陸に渡る事になった原因である。生物でありながら、火山を背負ったようにその巨体のいたるところからマグマを噴き出していることから熔山龍の名がついた。グラビモスが現れたのも、熔山龍が噴き出すマグマにつられて地下から出てきたのだろう。

 

「大丈夫や。あの熔山龍は既にこと切れておる」

先程まで異常な興奮状態にあった生態研究所長が、急に神妙な面持ちで両手を合わせて一礼した。

 

「熔山龍は死に場所を探すために新大陸に来た、のは知っとるな?体内のマグマに宿った巨大な地脈エネルギー…が、新大陸と惹かれ合ったからや」

そして、新大陸の地下に眠る豊富な地脈エネルギーをさらに吸収してしまったため、新大陸の中心で寿命が尽きた場合体内の地脈エネルギーが身体を突き破り大爆発を起こす可能性をはらんでしまった。それを防ぐべく、アキヤ達ハンターは団結し熔山龍ゾラ・マグダラオスを外界へと誘導したのだった。

 

 

「つまり、外海で死んだゾラの身体が海流に運ばれて、浮島としてここに現れたってことかニャ…?」

あまり頭の良くないオトモ猫のコロにしては、珍しく解説的な事を言っている。

 

「だが…その死体の上にいるグラビモスは、やはり問題じゃないのか?」

これが、他のモンスターであれば問題はない。何故ならここは新大陸のモンスターを調査するために建設された、調査拠点アステラ。各所にモンスター避けの特殊塗料による処置が施され、ゾラ・マグダラオス級の大型古龍でなければ侵入は出来ない。だが現大陸でアキヤが出会ったグラビモスは超長距離熱線を吐いていた。それが特殊塗料の外からアステラに被害を及ぼす可能性は、確かにある。

 

「だから、そちらも大丈夫やって。今聞いてきたが、もう情熱大陸にハンターのユタくんとオトモ猫のオモチ君が向かったらしい。コロすけ達も行ってみるとええわ」

先程の興奮はどこへやら、街のすぐそばに大型モンスターがいるという異常事態なのにやたら落ち着いて話す竜老人に、少しだけイラっとすると、アキヤは黙って立ち上がった。

 

 

 

アキヤとコロが、飛竜につかまって真っ黒な情熱大陸に降り立つと、先遣隊のユタは既にグラビモスの背に居た。

 

「アキヤさん、すっげーよグラビモスだ!」

真っ白な分厚いコートを着て、猫型のヘルメットを被ったハンター、ユタは少々変わり者ではあったが、ハンターとしての腕は並以上にはあった。対モンスター戦においては最も有利な位置関係、グラビモスの背中に乗っている。背負った重装武器:ガンランスによる強力な砲撃、フルバーストをぶちかますつもりなのだろう、とアキヤは検討をつけた。

一方ユタが乗った背中を跳ね上げ、どすんどすんと小刻みにジャンプするグラビモスは、全身に岩を貼り付けたようなごつごつとしたずんぐりむっくりの胴体に、大きな飛膜のついた翼が身体の両側へ伸びていた。飛竜の中でも特に硬い甲殻が特徴的なモンスターである。その硬い背の上でロデオのように上手くバランスを取りながら、ユタはアキヤに向けて手を振る、が…

 

「…?」

アキヤは、強烈な違和感を感じていた。ユタがグラビモスの攻撃の届かない背中に居るにも関わらず、攻撃をしないのはアキヤが近付くのを待っている可能性があったのだが。

 

(グラビモスが、遠目に見ていたよりさらに小さく見えるな…いや!そんなことより…!)

 

「悪ぃユタ君遅れた!すぐ加勢する!」

背負った超重武器、チャージアックスに手を掛けながら駆け寄るアキヤ。しかし、意外なところから待ったがかかった。

 

 

「ストップや!アキヤ君」

いつの間に上陸したのやら、アキヤの後方から竜老人の声がした。

 

「そうだよーアキヤさん。いきなり攻撃するのは良くない」

グラビモスの背中に乗ったままのユタまでが言う。

 

「何言ってやがる!そいつはグラビモスだぞ!?」

武器に手を掛けながら、しかしさすがに斬りかかりはせずアキヤが戸惑っていると。

 

「…ニャんだか、楽しそうですニャ」

隣で一緒に駆けてきていたコロが、核心をついた。楽しそうなのは久しぶりに先輩に会えたユタが、ではない。天敵であるハンターに背中に乗られたグラビモスのほうを肉球で指差している。

 

 

 

「分かるっしょアキヤさん!この子全然敵意無いんだよ!」

いや、分からない。記憶のものより小さいとはいえ、危険なはずの巨大種グラビモスの背中から心底嬉しそうに叫ぶユタにまったく同意出来ず、しかしアキヤはとりあえず戦闘体制にあった全身の力を緩めて改めてグラビモスを観察した。

 

本来であれば、ハンターに乗られたモンスターはなんとか振り落とそうと大暴れする。今も、ユタに乗られたグラビモスは背中を大きくくねらせて飛び跳ねている。よく見ると尻尾にはユタのオトモ猫のオモチもしがみついているが、こちらもなにやら楽しそうだ。

 

「やほーコロくん!グラビモスにライドできるニャんてたーのしーいニャ!」

 

「ライドぉ!?」

ハンターのアシスタントであるオモチ達オトモ猫は、小型モンスターとコミュニケーションをとり協力してもらうことができる。共闘だけでなくハンターを背に乗せて走る『ライド』も、ハンターにとってはかなり有用な移動手段ではある。

 

「しかし…大型飛竜にライドなんて聞いたことねぇぞ!?」

納得できずにアキヤが叫ぶと

 

グゴォ…?

 

「…っ!」

今さらこちらに気付いたのか、突然グラビモスがユタを乗せたままこちらを向いた。

背中を跳ね上げるのをやめ、ゆっくりとアキヤのほうへ近付いてくる。

 

「うお…ぉ…」

攻撃をしてこないグラビモス相手に武器を振るう事はできず、困惑したアキヤがうめいていると、ユタがのんびりした声音で呼びかけてきた。

 

「目が悪いっぽいんだよ〜この子。鼻を撫でてあげて」

岩のクラウンに岩の面頬、鼻先には尖った大岩がそびえ立つ。とても生物の顔面は思えないグラビモスの角鼻に向けて、アキヤは言われたとおりおっかなびっくり右手を伸ばした。

 

グルル…ゴッゴグゥ…

猫のように喉を鳴らして、グラビモスはアキヤの手のひらに硬い頬をすり寄せてきた。

 

「…ここ新大陸のグラビモスは、地脈付近で仲間同士だけで身を寄せ合って暮らしとる。主食であるマグマもそこら中に溢れとるから視覚も半分退化しとるし、地下には外敵もおらん」

アキヤの後ろから、生態研究所の竜老人が解説しながら歩いてきた。グラビモスを撫でながらアキヤが振り返ると、この老いた学者は、泣いていた。

 

「だから、外部の他者と触れ合うのはこの子らには初めてのことなんや。キミ達ハンターは捕食対象でも、排除対象でもない。ユタ君のように接する事が出来れば、トモダチにもなれるんや…おぉうおうおう」

感極まる竜老人ほどではなかったが。さすがの闘神アキヤにも感じるところはあったのだろう、グラビモスの背中からひょっこり顔を出してこちらを見下ろすユタに向けて、横で羨ましそうにしていたコロをつまみ上げた。

 

「ユタ。コロも一緒に遊ばせてやってくれないか?」

 

 

 

 

 

「ひゅおおおおニャあああ!」

「ニャあああ…!」

グラビモスの翼の上を左右にダッシュして、コロとオモチが競走している。ユタも含めめいっぱいハシャいでいるのを遠目に見ながら、アキヤは熔山龍の骸、"情熱大陸"の上でくつろいでいた。

 

「どうや、アキヤくん」

隣に座っているのは、いつの間に用意したのか氷のうを頭に乗せた生態研究所長。マグマ噴き出す"情熱大陸"は、ハンターの鎧無くしてはさすがに熱く厳しい環境だったが。

 

「楽しそうだなぁ、あいつら…」

アキヤも、クーラードリンクをちびちび飲みながら寝そべってグラビモスを眺めていた。

 

「…やっぱり、俺が先遣隊じゃあダメだったか?」

少しだけ感傷的に、グラビモスの方に目をやったまま竜老人に問いかけるアキヤ。問われた竜老人は頷きながら、

 

「ダメやなぁ。もしもの時のためや、戦闘力の高いキミに2番手になってもろたんは」

歯に絹着せずに言う竜老人は、アキヤの背負った愛用の武器、チャージアックスをぽんぽん叩いた。

 

「ハンターの仕事は、そのほとんどは戦う事や。でも忘れたらあかん。1番肝要なのは、モンスターを理解し生態系を研究することや」

 

「そうだなぁ…正直、今はユタが心底羨ましいわ」

恐らく、今ならヒトに慣れてきたあのグラビモスと一緒に遊ぶことはアキヤにも出来るだろう。だが、あのグラビモスが初めて遭うハンターという生き物がアキヤであったなら、当たり前のように戦闘になっていたはずだ。

 

「ええんやで?ユタくんより、アキヤくんのほうがハンターとして優れているのは確かや。でも、たまには、あんなハンターとしての楽しみ方もええやろ」

珍しく、慰めるように優しい口調になった竜老人に対して。

 

「そうだなー。俺もたまには…あーゆーのもやってみるかー」

アキヤは頬杖をつきながら、ぼんやりつぶやいた。横では竜老人がにんまりと笑っている。

 

「んじゃあ、どうするんや。何からはじめよか?」

 

「まずは…そうだなぁ…」

強敵と戦う事ばかりで、美しい鳥を追ったり珍しい魚を釣ったり、戦闘以外の事は全て後回しにしてきた。ユタのような楽しみ方も良さそうだな、そうぼんやり思い始めたアキヤは。

 

 

 

 

 

 

「まずは…歴戦王かなぁ」

 

「もうええわ」

結局、戦闘しか選択肢に出てこなかったアキヤに。

生態研究所長はぽこんとハタくようにツッコみを入れた。



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その29 はっけようい

今回も新大陸のお話…ではありますが、モンハンシリーズ屈指のあの強力なモンスターが登場します。『飛鳥文化アタック!!』


「秋の新大陸では、色んなものが色付きます、か…ニャ〜」

オトモ猫のナダレが、屋根の上でくつろぎ雑誌を広げていた。ハンターの拠点、セリエナ。極寒の地セリエナには珍しく、晴れ間がのぞき日が照っていた。ナダレも日光浴をしに屋根に登り雑誌を読みふける、デキるOLの休日を満喫しているようにも見えるが、そこはやはりナダレ。手にした雑誌はハンターズギルド発行である。

 

「お、ナダレ嬢。そいつは"モンスター新大陸紀行"じゃねぇか」

果たして、そんなナダレにぴったりの人物が屋根にかけられたはしごから顔を覗かせ声をかけてきた。

 

「大団長〜。久しぶりニャあ」

ナダレが手を振って挨拶したのは、比較的暖かいとはいえこの極寒の地で何故か上半身半裸、しかも金髪逆毛というなんとも悪目立ちする大男、"大団長"だった。新大陸の拠点アステラと拡張拠点セリエナ、それらで活動する全てのモンスターハンターを統括する立場でありながら、実質的な指導は別の人間に任せ、自分は好き勝手にモンスターを追いかけ回している究極の自由人である。

 

「ん!しかもそれ今月号じゃねえか。もう手に入れたのかナダレ。トップの記事は俺の調査内容だぜ」

 

「マジかニャ!"モンスター新大陸紀行"お気に入りなのニャ〜」

感嘆符をあげると、ナダレは雑誌を持ったまま大団長の無駄に太い腕の中に飛び込んだ。大団長が驚いたように見下ろすが、ガチムチの腕に抱かれたナダレは全く気にせず、にんまりと笑った。

 

「読んでニャ!」

 

「はっはっは!仕方ねぇな、俺の調査記事だけだぞ?」

大団長もまんざらではないようだ。豪快に笑うと意外と繊細にナダレを抱き直し、雑誌のページをめくった。

 

「え〜…秋の新大陸では、色んなものが色付きます…と」

 

 

 

…木々の紅葉や、調査拠点アステラの収穫祭だけではありません。野に山に生命力溢れるこの季節。地底火山に、普段群れることの無い、とある生き物が集まり周囲を金色に染め上げます。

 

 

 

黄金の体毛を持ち、そして雷を扱い黄金の稲妻をあたりに撒き散らしながら火山に集うのは、金獅子:ラージャンです。

 

ラージャンはゴリラによく似たモンスターで、痩せ型ではありますが異常なまでに筋肉質な身体に、長い両腕と器用な指を持ちます。その力任せの走行速度とジャンプ力、さらには強大な握力を活用した登攀能力によって、全モンスター中トップクラスの非常に高い移動能力を誇ります。さらには体表面を覆う剛毛のおかげで断熱性をも獲得しているので、雪山だろうと火山だろうと一年中どんな場所でも移動し、平気な顔で棲むことができます。その割に縄張り意識が強く侵入者を執拗に、徹底的に攻撃するという気性の荒さもあるやっかい極まりない生物なのです。

 

そんな彼らが何年かに一度、秋に地底火山に集まるのは。

この究極生物にも弱点があるからです。

 

 

 

…グゴゴ………ゴホッ…ゴホ…

 

地底火山に集まるラージャン達は、どの個体も酷く疲れているように見えます。ときおり雷を撒き散らしてはいますが、黄金色に見えた体毛が実は白髪だったのです。毛並みも荒れ果てており、ほとんどの個体は頭頂部に毛がなくハゲている状態です。

 

実はラージャンは、その高過ぎる運動能力を維持するために異常なまでの代謝速度を必要とするので、一定の生存年齢を超え身体の限界を迎えると急激に老いてしまうのです。

今年はなんと16頭ものラージャンが地底火山に姿を現しました。しかし、老いたりとはいえここに集ったラージャンはいずれも充分に長く生き延び経験を積んだものばかり。彼らはただ死を待つためだけに地底火山を目指したわけではありません。

 

グ…グググゴオオオォォォォオオオオ!!!

 

ラージャンの中の1頭が、急に立ち上がり力強く咆えると同時に力強く自らの胸を強く拳で殴りつけました。ドゴドゴドゴ…ッ!と凄まじい音を立てると、その衝撃をスイッチとするかのようにラージャンの胸に大きな火花が散り、より激しい稲妻が全身を走ります。

通常のラージャンでは、歴戦の者であってもこれほどの電撃を扱う能力はありません。加齢により体力の限界を超えてしまっていてもなお、最期の力を振り絞れば超攻撃的生物と呼ばれるに相応しい戦闘力を引き出すことが出来る。それが、この場に立つ条件なのです。

 

さて、はじめに咆えたラージャンはそれまでの疲れ果てた、老いた姿はとこへやら。力強く跳躍し他のラージャン達の頭上高くを跳び越え、1段高い場所へと降り立ちました。

 

この、新大陸の地底火山にはラージャンが16頭も集まれるほどの非常に広い空間があります。さらにその中央には溶岩の湖があり、どういったわけかその湖の中央に溶岩にも溶けることのない赤黒い円形の島が浮いているのです。その、闘技場にしか見えない浮島にラージャンは腕組みをして立ちました。

 

そして、それに呼応するように。

 

グゴォォォオオオ!!!

 

もう1頭、ラージャンが咆えると、同じように胸を叩き闘技場へと跳躍しました。

 

 

 

そう、ここはラージャン達の"最期の闘技場"。死期を悟ったラージャン達は、それでも平穏を望まず闘いによる死を求めるのです。

 

溶岩湖の浮島に立ち合った両ラージャン。浮島はラージャン2頭にとってはやや手狭な程度の広さでしょうか。その中央でゆっくりと両手を地面につくと、それまでの荒々しい姿はどこへやら、集中の極みによる緊張感が観戦者のラージャン達も含み、あたりを包みます。実際にはコンマ数秒、しかし数分間にも感じる静寂ののち…

 

 

 

ドゴッ!!!

 

 

 

凄まじい音が地底火山に響き渡りました。2頭のラージャンは四つん這いの姿勢から全身のバネを使って前方へ突進。助走をつけた渾身の右ストレートを互いへ放ったのです。

 

バチィッ!!

 

それを避けもしない2頭のラージャン。インパクトから一瞬遅れて、首がねじ切れそうなほどに後ろへ弾かれていきます。しかしその全力のパンチを受けても、両者一歩も下がる事なく耐え、立ち位置はリング中央のままズレていません。

 

グク…グググ…!

 

さすがにダメージは隠しきれず、首を振りながらしばしの間を置いて再び2頭は正面に向き合います。そしてすぐさま大きく拳を振りかぶり…

 

ゴォン!

 

上からの振り下ろしが側頭部へ、下からの振り上げが顎へと、相打ちであるにも関わらず正確に急所を打ち抜きます。

2頭ともパンチの衝撃で身体が一回転しそうなほどにねじれますが、けしてひるみません。むしろ心底楽しそうに犬歯を剥き出しに笑い、再度向き合うのです。

 

こうして、何度渾身の相打ちを繰り返したでしょうか。終わりは突然に訪れました。

 

 

 

グ…グゴゴ…ゴ…

 

ドォン!

 

はじめに名乗りをあげたほうのラージャンが、ついにダメージに耐えかねて後ろに倒れ込みました。そのままぴくりとも動かなくなります。

 

ゴガ…

 

勝ち残ったラージャンのほうも、ダメージは相当です。頭部の骨格がひしゃげたような顔で、好敵手の顔を覗き込みます。仰向けに倒れたラージャンの顔は完全に陥没していましたが、なんとも満足げに笑っているように見えました。

 

グフッ…

 

それを見た勝者のラージャンもニヤリと笑い。

そして倒れたラージャンの頭頂部へ手を伸ばしました。そのままわずかに残っていた真っ白な頭髪を数本引き抜くと、自分の頭に振りかけました。次の瞬間、

 

 

 

ピシャア!!!

 

 

 

勝ち残ったラージャンの頭部から、凄まじい雷撃がまわりに走りました。それまでの殴り合いでフラフラだったのが嘘のように力強く胸を張り、白髪だらけでハゲあがっていた頭髪は、戦友の毛の力を得て少し生き返ったように艶を取り戻したように見えます。

 

充分に経験を積んだラージャンの頭頂部の頭髪は、『怒髪』と呼ばれ、そこに力が蓄積していくと考えられています。歳若いラージャンの頭髪にはあまり力はありませんが、この地底火山に集うほどに長く生き延び経験を積んだ個体には、凄まじい雷撃の力が宿るとされています。年老いたラージャン達が集まったのは、それぞれの限界を感じつつも『怒髪』に溜め込んだ力を無駄にしないために、地底火山での死合により生き延びた強い個体に力を集約するためだったのです。

 

 

 

 

ゴオオオォォォォ!!

 

 

 

勝ち残ったラージャンが、中央の浮島から出るともう一度力強く吠えました。次の強者、かかってこい!とでも言うような挑戦的な声に、別の2頭が吠えながら中央リングへ降り立ちます。組み技を競ったり寝技で締め上げたり。今年は妙に小さい個体も混じっているようで、より様々なスタイルで死力を尽くし戦うラージャン達の中で、『怒髪』の力が次第に集約していきました。

 

 

 

こうして、16頭ものラージャンが互いの『怒髪』を巡る死闘を繰り広げ、最期まで残ったたった1頭が『怒髪天』を持つ、『激昂ラージャン』として再生するのです。そしてさらに強くなった究極生物として再び生態系の頂点に返り咲くために地底火山の裏世界のリングから、表舞台へと戻っていくのです。

今年は、どの個体が頂点に登りつめるのでしょうか…

 

 

 

 

 

 

「…以上だ!どうだ、ナダレよ?」

がっはっは!と豪快に笑いながら雑誌をバシンと閉じると、大団長は雑誌の代わりにナダレを高々と抱き上げた。

 

「ステキ!素敵ニャ!」

ナダレは大興奮で手足をバタつかせていたが、急にピタリと止まると大団長の手を抜け出しピョン!と大団長の頭の上に飛び乗った。

 

「ところで!」

そのまま、大団長の金髪逆毛をわしゃわしゃとかき回し叫んだ。

 

 

 

「大団長の『怒髪』はどこだニャ〜!?」

 

「お!?はっはっは!バレたか!」

またも豪快に笑い飛ばすと、大団長はナダレを頭から引き剥がし再び抱き上げた。

 

「そうだ!この俺様もラージャン達に混じって地底火山のリングで戦ってきたのさ!16頭もいたから4回戦までやっていてな!どれがどいつの怒髪だかもう分からん!」

 

「ニャハハハ!さすが大団長だニャ!」

ナダレは抱きあげられたまま金髪をツンツンとつつき続けていたが、興奮覚めやらぬ風を装いながらも大団長の頭頂部を真剣に観察していた。

 

 

 

(つまり大団長…)

ナダレ自身の将来の事を考えると、他人事ではなかった。

 

 

 

(この記事ができる前はハゲていたって事かニャ!!?)

前代未聞の植毛技術を目の当たりにして、若作りの秘訣を見逃すまいとナダレは大団長の毛根をその目に焼き付けていた。

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
相撲の「はっけようい」ではなく、「発毛用意」でした。タイトルから思いつくようなお話は、たいがいオチがくだらないのです。


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その30 どくぶつ奇想天外

もうすぐモンハンライズ発売です。
体験版をプレイしていた狩友さんの様子を見て思いついたので、今回はライズの舞台である"カムラの里"

…へ出稼ぎ(体験版)に行ってきたハンター(狩友さん)のお話です。いやもうライズ楽しみですね


「わーん!結局タマミツネ倒せなかった〜!」

新大陸のハンターズギルド拠点アステラにて。そう叫ぶなり食堂のテーブルに突っ伏したのは全身を鮮やかな蒼い鎧でコーディネートした女性ハンター、ミゥだった。

 

「おう?ミゥちゃんやないか。出稼ぎは終わったんか?」

そしてミゥが倒れ込むのと同時に食堂に入ってきたのは、剥げ上がった頭に丸い帽子を乗せ真っ白なひげをたくわえた竜人族の老人、モンスター生態研究所の所長だった。

つい先日まで、新大陸を出て"カムラの里"へ出稼ぎに行っていたミゥは、しかしほぼなんの成果も挙げられないまま期限切れとなり帰ってきたのだった。

 

「泡狐竜タマミツネか。割と特殊な生態系の、そこそこ上位に位置付けされる種やな。慣れん土地で狩猟できんかったのは仕方ないんやないかの」

コツコツと杖をつきながら、竜老人はミゥのテーブルに近付いてきた。テーブルとほとんど変わらない高さの身長でありながら妙に存在感のあるこの生態研究の第一人者は、最近妙に人懐こくなってきたと噂されている。一昔前に人気のあった絵本の作者だったのではないかとささやかれるようになった頃からだ。

 

「おじいちゃーん…」

自分の向かいの席につく竜老人に水を差し出しつつ、ミゥは再び情けない声を出した。

 

「変な動きするんだもーんタマミツネ…攻撃当たらないよ」

背中に提げてある二振りの大型ナイフを後ろ手に指差すミウ。彼女はこの二振りで一セットの"双剣"を専門に扱うハンターだった。

 

とはいえ…

「…まあ、ミゥちゃんは"乱舞使い"やったし、の。タマミツネを倒すのはしんどいかもしれん。"双剣使い"にはなれたんか?」

 

「うわん!」

先程よりもさらに勢いよくテーブルにダイブし頭を埋めるミゥ。彼女はどうにも複雑な動きが苦手で、最も威力のある大技"乱舞"のみで狩りを行う非常に大雑把な闘法しかできないのだ。

 

「おじーちゃんに言われたくないしー!本に埋もれてないでモンスターと戦ってきてから言ってよ!」

急に子供かえりしたように喚くミゥに対して、研究所長はにやりと笑った。

 

「そうやなあ。…ではボクの狩りも見せてやろうかの?」

 

「…へ?」

予想だにしていなかった反応に、ミゥは面食らって顔を上げた。

 

「ちょうど仕込みが終わったとこなんや。一緒にフィールドワークといこうやないか?」

腰も折れ曲がり杖をつき、よちよちとしか歩けない身体で食堂の椅子からよっこいしょとゆっくりとしか立ち上がれない老人が、モンスターなど狩れるわけがない。はずなのだが。

その自信たっぷりの口調になぜか反論できず。ミゥはふらふらとついていった。

 

 

 

 

 

 

「…で。ボクの狩りを見せてやる、とか言っておいてこれ?」

森へ出掛けたミゥは、何故か背中に竜老人を背負っていた。妙に重い学者は偉そうに背中でふんぞり返り歩こうとしない。ハンターの拠点、アステラの街の目の前に広がる"古代樹の森"。大した距離ではなく、ハンターの体力は人ひとり担ぐ程度では影響は無い、が…

 

「仕方ないやろ、ボクは脚が悪いんや。杖見て分からんか」

どうにもこの老人の態度が気に障る。

 

「それでどうやって狩りすんの?」

文句を言うわけではなく純粋に気になってミウがツッコミを入れると、竜老人は自分と同じくミゥに背負われた双剣をつついた。

 

 

 

「ミゥちゃんは、毒は使うか?」

 

 

 

ハンターが扱う武器には、さまざまな"属性"がある。火水雷氷などの攻撃属性の他、状態異常により戦闘を有利にする状態異常属性が存在し、毒属性もその一つである。

 

「ん〜、まぁたまにしか使わないけどね。毒属性がまったく効かないってモンスターはそんなにいないから。属性に迷ったら、程度には…」

効果としては微妙…という印象であるようで、あまり乗り気でない時の言い方でミゥは言うが。しかしそれを聞くやいなや、背負われた竜老人が急にテンションを上げた。

 

「んむ、そうやろうな。しかし直接攻撃をせず、毒だけでモンスターを捕獲できたら凄いと思わんか?」

 

「いや…毒ってそーゆーもんじゃないでしょ」

半ば呆れるミゥだが、竜老人はハイテンションに言葉を続けた。

 

「それはせいぜいが"毒属性"のことなんやろ?ハンターが扱う毒はなるべくどのモンスターにも効くように、汎用的な効果でしかないんや。しかし、ボクらのようにモンスター生態研究を突き詰める事で種族特異的に効果を発揮する生存阻害…ある意味での毒…を見出すこともできるんや。これをボクらは"選択毒性"と呼んどる」

急なマシンガントークでまくしたてられて、言葉の半分も理解できなかったミゥだが。辛うじて最後の重要らしいワードだけは拾う事ができた。

 

「選択…毒性?」

 

 

「そうや。ほとんどのモンスターには全く効かないが、特定種族にのみ致命的な毒性を発揮するモノや。毒属性とは違うやろ?」

誇らしげに、ミゥの背中の上でふんぞり返る竜老人。ミゥの足は森の奥地まで進んでおり、道の勾配も強くなってきているので重心をそらされると迷惑この上ないのだが。

 

「…たとえば?」

やたら偉そうな態度の老人を背負わされてしばらく不機嫌だったミゥだが、ようやく話の方向性が掴めた気がして興味を示しはじめた。

 

「その効果をこれから観に行くんや…お、そろそろ。あぁそこや」

竜老人が指差しミゥが足を止めたのは、古代樹の中腹あたり。樹なのに中腹という言い方は適切ではないが、古代樹は小高い丘の上に、周囲の土台や岩ごと持ち上げて成長を続けた巨大樹であるため、全体が険しい山のような形状になっており、樹冠にも土があるほどなのだ。

 

そこは辺り一面、頭上の古代樹の大きな枝から蔦がカーテンのように上から降りてきていた。狩りのために来ていなければ見惚れてしまうほどに、蔦のカーテンが太陽光を調節してくれる美しく過ごしやすい場所であった。

 

「ここは…確かトビカガチの寝床…?」

あたりを警戒しながらミゥはゆっくりと、音を立てずに背中の竜老人を下ろした。いつでも背中の双剣を抜けるように両腕を脱力させつつ蔦のカーテンをかきわけながら歩みを進めると、ふと奇妙な蔦のカーテンが目に入ってきた。

 

「…?」

眉をひそめてミゥがその蔦に感じた違和感の正体を確認すると。

 

それは明らかに人工物であった。

土や草でカモフラージュはしてあるが、よく見ると中心は黄色と黒の紐を縒り合わせてある。真下には少し窪んだ地面に、周囲の蔦が集めて敷いてあった。つまりトビカガチの寝床の真上だ。

 

「なに…これ?」

 

「除電のれん、や」

 

「じょで…の…?」

予想もしていなかった竜老人の答えに、ミゥはぼんやりとオウム返しをしかけて…

 

「除電のれん!?静電気をおとすやつ?」

すぐにピンと来たようだ。

 

「そう、それや。飛雷竜トビカガチにはこの除電のれんが非常に有効…なはずなんや」

そのふんぞり返る学者の言葉に応えたかのように。

 

 

 

ググ…グルルルルル………

 

「…!トビカガチ!」

目的の竜が姿を現した。

 

細身ではあるがしなやかに長く伸びた四肢による四足歩行で、青白く逆だった剛毛に覆われたトビカガチ。全身に電気をまとわせ、飛膜付の両腕の滑空能力と強靭な後脚の跳躍力とで素早く動きハンターを翻弄し、強力な電気を帯びた一撃を見舞う牙竜の一種だ。

 

が、蔦のカーテンをくぐって現れたそのトビカガチは、何故か満身創痍であった。

全身の細かすぎる傷は、縄張り争いのライバルであるアンジャナフなど他の大型モンスターとの戦闘ではなく、大型犬程度の大きさの小型モンスター、賊竜ジャグラスらとの小競り合いに破れた事を示している。本来ジャグラス程度何十匹来ようが蹴散らせる戦闘力を持つトビカガチが、足元をふらつかせるほどの手傷を負わされる事はあり得ない。ジャグラス程度の小物がトビカガチを襲う事すら無い。「コイツになら勝てる」、賊竜にそう思われるほどにトビカガチが消耗していたのだろう。

 

「ほうほう…これほど弱るとはのう!もはや捕獲可能じゃの!」

ミゥの背中を降り、よちよちと歩いてきた竜老人がはしゃいでいる。携帯用の捕獲罠を用意しながら、ミゥはそっとトビカガチに近付いた。

 

 

 

「ふふん、どうや?ボクの仕込みは」

全く抵抗することもなく、罠にかかり麻酔玉で眠らされたトビカガチを前に、小さな竜老人は思いっきり胸をそらしドヤ顔を見せた。

 

「いや、まぁ…てか除電のれんがこんなに効いてたんなら、ラージャンやジンオウガも倒せるんじゃない?」

他の雷属性をもつ大型モンスター(自分が特に苦手なものを思い出して)を挙げてミゥが首を傾げると、竜老人はまたも食いついてきた。

 

「そこが"選択毒性"や!この除電のれんはトビカガチにしか効かん」

そしてどこから取り出したのか、分厚い研究書のトビカガチの頁を開きミゥの方へ向けた。

 

「トビカガチの雷属性は、体毛同士がこすれて発生する静電気を、体毛の中に一定数含まれる"電極針"によって増幅&蓄電したものなんや!除電のれんによる静電気除去がトビカガチに効くのはこのためで、フルフルやラギアクルスは体内器官による発雷、ジンオウガは体表面にまとわせた雷光虫を利用しての放電。キリンに至っては雷雲を操作して落雷の力を利用しとって手が出せん。カミナリとしての性質が全く違うから除電のれんが効くのはトビカガチだけなんや」

一気にまくしたてる竜老人。次の頁をくると、今度はトビカガチの全身に、細かい無数の線が引かれた奇妙な図が描かれていた。

 

「これは…神経図?」

 

「そうや。トビカガチは全身に強力な静電気をはわせるため、自分の体内の神経伝達に使われる電気信号は他の生物よりも極端に強い。トビカガチが自分の電気で感電死しないのはこのためや。そやから、逆に除電のれんで体表面の静電気を取り除くことで体内の電気信号も相対的におかしくなる。特に強力な電気を帯びる大きな尻尾周辺は影響が大きいから、除電のれんをくぐったあとはろくに動かせなくなっていたはずや」

そう言えば…とミゥが後ろを振り返ると、捕獲罠の上で麻酔が効いて眠っているトビカガチの尻尾はぴくりとも動いていなかった。

 

「ほな、次行こか」

 

「まだあるの!?」

 

 

 

次にミゥが連れてこられたのは(竜老人が背中で指図しただけで実際にはミゥがおぶって連れてきたのだが)、古代樹の基部にある、森に囲まれた狭い空き地だった。ちょっとした球技をするにも少し不便しそうな狭さ、さらに地面のあちこちに木の根が張り出している。この狭さでは飛竜や獣竜などの大型モンスターはよほどのことがない限り入っては来ない。来るとすれば…

 

「ドスジャグラスか…クルルヤック?」

 

「クルルヤックのほうや」

そう言いながら竜老人が背中のリュックから取り出したのは、大きなぬいぐるみだった。

 

 

「なにこれ…。かわい〜」

わけが分からず見た目の感想だけを言いつつミゥがぬいぐるみを取り上げると、それは猫の手を模した肉球手袋だった。普通のぬいぐるみと違うのは、リュックとほぼ同じ大きさの巨大ぬいぐるみであること、左右の手がくっついて1つになっていることそして、1つの穴になっている手袋入口だけやけに狭く頑丈な作りになっていることだった。

 

「これと同じぬいぐるみの中に、ホロロホルルの卵を多肉ニンニクで煮詰めた味玉を入れて置いといたんや」

 

「えっあの超おいしいヤツ…」

掻鳥クルルヤックは、ダチョウのような大型の鳥類に近い体躯に、長い指先の器用な腕を持つ「卵ドロボウ」の異名をとるモンスターである。

その異名の通り他モンスターの卵を好むクルルヤックが、ミゥも好物のホロロホルルの味玉をぬいぐるみの中に見つけたなら当然…

 

 

 

 

「ほれ、あぁなるんや」

 

「…!?」

ミゥが指さされた方向を見ると、そこにはやけにおとなしいクルルヤックがうずくまっていた。狭い広場にいてもハンターに気付かれないほどおとなしく佇んでいたそのクルルヤックは、何故か両腕を例のぬいぐるみの中に突っ込んでいた。

 

クキキ…クルルルルゥ…

か細い鳴き声をあげるクルルヤックは、ぬいぐるみの中を掻き回したり、手を引き抜こうとしたりしてはいたが。

 

「さっき見せた通り、あのぬいぐるみ…というか巨大手袋は手を突っ込む入り口を狭くし超強度素材で覆っとる」

そして、手袋の中に入れられたホロロホルルの卵もまた超強度の卵殻を持つため、クルルヤックの腕だけでは割る事は出来ない。クチバシで全力のヘッドバットをしてなんとかヒビが入るくらいの硬さなのだ。

 

「ホロロホルルの卵は割れない、肉球ぬいぐるみ手袋は強化素材で作ってあるから破れないし、入り口が狭いから卵を取り出すこともできんのや…」

 

「素手であれば手袋に手を突っ込む事はできるけど…卵食べたさに持ったまま引き抜こうとしても手袋入り口が狭くて出せないわけね」

鋭いクチバシは残っているが、内部のみ頑丈だが外面は柔らかい肉球手袋にパンチを封じられたクルルヤックは、先程のトビカガチよりも狩りやすい。

 

「この状態になったら、狩ることなんぞ楽ラクやろ?これが、"持つ事"に対する"選択毒性"や」

おとなしくなったクルルヤックに対して、また新たに用意した捕獲用罠を仕掛けにいくミゥ。

 

(…あたし、コイツ相手にも結構苦労するんだけどな…)

心の中でぼやきながらも、"選択毒性"の効果には舌を巻いていた。

 

 

 

その後、爪研ぎ用の木に超強力研ぎ粉をかけられ"深爪"の選択毒性にかけられたナルガクルガや、花粉症にされたアンジャナフなどを捕獲して回ったミゥは、なんとも複雑な気分になっていた。

 

 

「おじーちゃんの仕掛けがあったらこんなにラクに狩れるのに…あたしカムラで何やってたんだろ〜…」

ぼやくミゥの背中で、ん?と小さく声をあげた竜老人は急にミゥの背中をぼすんぼすんと軽く叩き始めた。

 

「違うで、違うで。確かにボクらは各モンスターに対する"選択毒性"を見出したが、大事なのはそこやない」

またもどこから取り出したのか分厚い生態研究書を、ミゥの背中から手を回してどんと目の前に開いてみせるとさらにまくし立てる。

 

「よ〜く観察することや。モンスターを理解することや。"選択毒性"はすべてそれらをもとに見出されたものやからな?自分の弱点ばっか見て凹んどらんと、もっとよく相手を見ぃや。自分のこともよく見ぃや。ハンターも学者も、そうやってモンスターと向き合っていくんや」

ミゥの目の前に開かれた研究書は、カムラの里で返り討ちに遭ったタマミツネの頁が開かれていた。

"泡に対する選択毒性として、アルカリ性洗剤の使用を提案する。泡を消散し皮膚を灼き、タマミツネが発する弱酸性の界面活性剤の泡と反応し、塩素系毒ガスを発生させる三重の毒性を期待"とある。

 

存外、ミゥのことを心配してフィールドワークに誘ったらしい竜老人。

 

 

(ありがたい事ではある、か…またカムラの里に行かないとなぁ〜)

少しだけ、気分が晴れて。

ミゥは竜老人を背中からぽい、と後ろに落として老人の罵声を無視し。軽やかにハンター拠点へ向けて歩きだした。

 



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その31 かいいかのかいかた

モンハンライズサンブレイクからのお話です。
今回はストーリーのごくごく一部ですがネタバレを含みます。ストーリーをクリアしさらにもう少しゲームを進めたプレイヤーにしか理解出来ない内容が多分にありますのでご注意下さい


調査拠点エルガドにて。報せを聞いて駆けつけてきた研究員、バハリは。眼の前にある衝撃の光景が意味するコトの重大さに1人勝手に打ちのめされ、呆然と立ち尽くしていた。

 

「ヤドカリは…」

 

たっぷり数分間固まった後、バハリは彼ら竜人族の特徴でもある4本指の掌でボサボサに逆立った自分の髪をゆっくりと撫でつけながら独り言をはじめた。

 

「…排泄物…まぁつまりウンチだね…を背負っている殻の中にそのまま出すという。近しい種であるショウグンギザミも、同じ生態を持っているんだけど…」

 

「え、何いきなり汚い話はじめてンの?」

 

横から素早くツッコミを入れる者が居た。バハリが立ち尽くしていた数分間は声をかけることなく武具の手入れをしていたが、気になる話をし始めた途端食いついてくる。このノエルという女ハンターはマイペースさと好奇心の強さで言えばバハリと同等くらいであろう、と周りからは評されていた。

 

「血や骨、牙や鱗など"傀異強化素材"は全てモンスターの体内でキュリアの影響を受けたモノ…そう思ってた」

 

バハリもバハリでマイペース。ノエルのツッコミを完全に無視して独り言を続ける。

 

「でも、違った…1つだけ、傀異強化素材の中に体内生成じゃないモノがあったんだ…」

 

バハリが髪をいじるのをやめ、伸ばした手の先にあったのは。さすがに気になったノエルも同じ方を向いた。つい先程ノエル自身が討伐してきた傀異ショウグンギザミの収穫素材が無造作に置かれていた。

 

「"傀異化した重殻"…と…ぇ何ソレ」

 

紅く輝く甲殻の欠片、傀異化した重殻は国を襲った大災害の根源である、噛生虫キュリアの強力な生体エネルギーを宿したショウグンギザミからノエルによって剥ぎ取られてきた。モンスターに寄生するキュリアは宿主が討伐されると例外無く一緒に死んでしまう。傀異化素材はキュリアが残したエネルギーのみを持った何とも都合の良い素材だった…のだが

 

「重殻に…キュリアがくっついて来ちゃってるね」

 

これまであり得なかった事が、起きていた。剥ぎ取ってきた本人のノエルも気付かなかった程の大きさだったが、虫ほどの大きさのモノが殻に喰い付いたままニョロニョロとうごめいていた。ウインナーに羽根が生えたような姿、キュリアだ。

 

「ショウグンギザミが背負った殻は体内生成じゃない…でも同化しているからキュリアの影響も受ける…でもでも本体とは違うから殻に喰い付いたキュリアだけは宿主が死んでも生き残る可能性があった…のかな…?」

 

バハリの独り言考察でなんとなく事態を察したノエルは、小さなキュリアに興味を持ち始めた。気軽に自分が剥ぎ取ってきた重殻を手に取り、キュリアをちょんちょんとつつく。赤い円筒形の身体の先端には鋭い牙が並んだ口があるが、爪先ほどの大きさになってしまった今では噛まれても問題はないだろう。

 

「もし噛まれて傲血やられになったらバハリ君を殴って回復するネ」

 

「やめてね?」

 

「じゃあウナバラさん殴ろ」

 

「それならいっか?」

 

マイペース同士妙なやり取りをするノエルとバハリ。こうなってしまうとツッコミ不在である。とはいえノエルにつつかれまくっている小さなキュリアは噛みついてくる様子はなく、こちらもマイペースにニョロニョロしていた。

 

「ふ〜ん…なんか可愛く見えてきたカモ」

 

ノエルはキュリアに対して少し愛着が湧いてきたようだ。傀異化した重殻ごとキュリアを持ち上げると、バハリの方を向いた。

 

「飼っちゃダメ?」

 

突拍子もない事を言い出すが、もともとが突拍子もない奇跡的な出来事である。バハリは腕組みをすると悩ましい声をあげた。

 

「う〜ん…傀異強化素材にくっついて生き残れた、と考えれば…傀異強化素材か精気琥珀で作ったハウスに入れとけば飼育可能だったりしないかな…」

 

傀異化モンスターを討伐した時にのみ手に入るモノを列挙するバハリ。ノエルほどの凄腕ハンターであればどちらも安定供給する事はできるはず。

 

「マカ錬金の壺に入れとけば神おま出してくれたりしないカナ?」

 

「それだッッ!」

 

キュリアのエネルギーが活性化した状態が保たれるマカ錬金の中であれば飼育が出来る可能性はある。ノエルが望む神性能の護石が出る可能性とは全く別の話だが、バハリはそんな事気にするはずもなく、その場にそれをツッコむ者は居なかった。




ショウグンギザミの殻を破壊すると、なんかプリっとしたお尻が出てきます。お尻の穴も見えるので、狩友ノエルさんとキモいね〜などと言いながら遊んでたらいつの間にかお話が出来てました。


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