僕の先輩はキョンシー (蒼雲)
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その一、僕と先輩の出会い~前篇~

閲覧いただき、ありがとうございます。

細かいことは後にして、本編をどうぞ。


 

僕の先輩はキョンシーだ。

比喩とか揶揄じゃなくて、まじりっけなしのキョンシーなのだ。

肘は曲がらないし、歩かずに跳ねて移動する。

おまけに噛まれた人はキョンシーになる。(らしい)

何より、『勅命』と書かれたお札がおでこに貼ってあることが何よりの証拠だ。

そんな僕の先輩は、「宮古芳香(みやこよしか)」という名前である。

 

 

先輩というからには僕ももちろん先輩と同族なわけで。

ぴょんぴょん跳ねて移動するし、肘も曲がらない。ごく一般的なキョンシーだ。

そんな僕と先輩の出会いはちょっと変わったものだったが、話してみればありきたりなもので、僕たちキョンシーという種族と比べれば、極めて普遍的なものだったように思う。

 

 

ある日僕が目覚めると、女の子が僕の顔を覗き込んでいた。

あいにく女の子にもてたことがない僕はこの状況に困惑したが、鼻のあたりで自己主張している彼女のおでこについたお札が、この状況を丁寧に説明してくれていた。

 

彼女はおそらくキョンシーだ。お札があるし。

 

僕は地面に大の字で寝ている。

 

そして彼女の頭(顔は彼女のおでこから垂れていると思われるお札で視界がふさがれてあまりよくは見えない)が目と鼻の先にある。

 

相変わらず回転の悪い頭が、蛍光灯のように光ったとき、

 

 

()()()()

 

 

上体を起こす。キョンシーと頭がぶつかる。目の前に星が見える。

 

そんなことは関係ない。ここから早く逃げなくては。

 

が、腰が抜けているのか、うまく立てない。

後ずさろうにも、肘が曲がらない。

 

キョンシーが衝撃から立ち直ったのか、僕の方に目線を向ける。

 

まずい。

 

キョンシーの口が微かに開く。

肉をかみちぎるためのギザギザの歯が白く輝くのが見えた。

 

「いきなりなにをするんだ…… いたいじゃないかー」

 

ずいぶん気の抜けた話し方である。

 

「せいががいってた。 わたしはせんぱいなんだぞー」

 

せんぱい?せんぱいって……先輩?

僕の頭は蛍光灯みたいに回転が遅いが、それと関係なく、この状況を理解するのは困難だと思う。

だってこの目の前のキョンシーの言葉を信じるなら僕は

 

 

キョンシーじゃないか。

 

 

衝撃の事実というか、人間(今は死んでキョンシーになったらしいが)が理解の範疇を超えたことを目の当たりにしたとき、意外と冷静になるもので。

自分の体を調べてみれば、おでこに先輩と同じようなお札が貼ってあった。

それと、肘が曲がらない。地味に不便な体である。

 

この状況を受け入れることはできなかったが少なくとも理解はできた。

この後考えるべきなのは……今後のことだ。

キョンシーに今後や未来もクソもないような気がする。だってもう死んでるし。最後は脳が溶けて自我もなくなるし。

とりあえず立ち上がってみた。うまく立てないが、体をひねって無理やり立ち上がる。

今気付いたが歩くことが出来ない。膝がうまく曲がらないので、跳ねて移動することになりそうだ。

ますますキョンシーみたいである。(というか、もうキョンシーそのものである。)

 

ふと先輩の方を見てみると、得体のしれないネズミのような何かをぴょんぴょんと楽しそうに追いかけていた。

それを捕まえてどうするつもりなのか。丸かじりするつもりなのか。

 

「つーかーまーえーたー」

 

さらばネズミ(のようなもの)よ、安らかに眠れ。南無。

 

尻尾をつかんで頭からがぶっ

 

ネズミの中身と赤い液体が先輩の頭にどばっ

 

先輩はニコニコしている。

が、上半身が無くなったネズミだったものと、ネズミの中身やらなにやらで赤黒く染まった先輩の顔が、満面の笑みを台無しにしている。

何とも猟奇的な光景だ。

 

先輩はネズミの骨まで丸ごと砕いて食べて、尻尾は腕を器用に回して遠くに投げ捨てた。

遠くでがさっという音が聞こえてきたところで、僕はようやく先輩に話しかけることが出来た。

 

「えっと……先輩?」

 

「なんだー こうはい」

 

「ここはどこですか?」

 

「はかば……?らしいぞ。せいがにここにいるようにいわれたのだー」

 

「せいがと言う人はどなたなんですか?」

 

「せいがはせいがだぞー」

 

そういうことではなくて。キョンシーの先輩に聞くのが間違いなのか。

 

そういってる間に先輩はまたぴょんぴょんと飛び跳ねていってしまった。

僕も急いで後を追う。先輩の背中を追いながら跳ねる。

 

ぴょんぴょん ぴょんぴょん

 

我ながらシュールな絵だと思う。安いおもちゃみたいな動きだ。

 

先輩が止まった。追いついた僕も止まる。

 

「今から何をするんですか?」

 

「たいそうだぞ」

 

「体操?」

 

「これをやるとここがやわらかくなってうごきやすくなるってせいががいってた。」

 

そういうと先輩は腕を勢いよく回し始めた。

その回し方だと肩しか柔らかくならないと思う。やり方が違うのではないだろうか。

 

「こうはいもやるんだぞー」

 

先輩に言われては仕方ない。僕も先輩を見習って、腕をぐるぐる回してみた。

先輩と違って勢いよく回らないため、やっぱり安いおもちゃみたいな動きしかできなかった。

そんな僕の様子を見て先輩は気を良くしたのか、先ほどよりもずっと早く回し始めた。

風を切る音が聞こえる。先輩の腕がどんどん加速する。

そろそろ目で追えなくなってきたそのとき、

 

ぶちちちっ すぽっ

 

不穏な音、言うなれば何かがちぎれたような音が聞こえてきた。目の前にあった先輩の腕が無い。

まさかと思って空を見上げてみる。

 

先輩の腕が、空に舞い上がって、ぐるぐる回っていた。

それは雲一つない青空に勢いよく飛ぶ竹とんぼみたいだった。

飛んでるものはそんなかわいいものではない。人の腕がそんなに勢いよく飛ぶものなのか。

目の前で起きていることは、ある意味ではさっきの状況よりもずっと理解しがたいことだった。

先輩の腕はしばらく空の旅をしてから、先ほど投げ捨てたネズミの尻尾ように遠くへ飛んでいき、これまた先ほどと同じようにがさっと音を立てて消えた。

 

 

 




今回は初回なので短め(2339文字)です。
大体3000くらいをコンスタントに投稿できればと思っております。



もしよろしければ次回も見てやってください。

ではでは                      ノシ


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その二、先輩との出会い~後篇~

 

竹とんぼと化した先輩の腕をぽかんと見届けていた僕はようやく現実に戻ることができた。

どこに着地したんだろ。見た限り結構飛んでたみたいだけど...

両腕が無くなった先輩の方を見ると

 

「おおおおお!!みたかこーはい!とんだぞ!わたしのうで!」

 

目を輝かせていた。

なぜハイテンションなのか。自分の両腕が空に舞ったことがそんなにうれしいのか。

 

「これが『ろけっとぱんち』か!すごいぞ!」

 

絶対に違う。自分の腕は使い捨てではない。

嬉しがっている所悪いが、無くなった腕はどうするのだろう。

キョンシーはゾンビだが、流石に腕が無くなると生活に不便だと思う。それに肘が曲がらないというキョンシーのアイデンティティがなくなるし。

 

「からだがかるい!こんなきもちでいるのははじめて!」

 

当たり前である。どこの世界に自分の腕を竹とんぼみたいに飛ばす妖怪がいるのか。(さっき目の前でそれが起きたが)両腕が無くなって体が軽いで済むのも、正直に言っておかしいと思う。キョンシーならではなのか。僕もさっき目覚めたばかりのビギナーキョンシーだが、その感覚がわからないのは、ビギナー以前の問題だろう。

ハイテンションな先輩には悪いが、腕を探した方がいいと思う。

 

「せんぱい」

 

「なんだーこうはい? わたしはいまきげんがいいぞ」

 

「腕はどうするんですか?」

 

「ろけっとぱんちはつかいすてじゃないのか?」

 

たとえロケットパンチの腕が使い捨てだとしても、自分の腕はそうではない。

……そう思いたい。

 

「これから困りますよ?」

 

「そうなのかー」

 

それは他の妖怪の持ちネタだからやめましょう。

何とか先輩をうまく丸め込む……もとい説得できないだろうか。

そういえば……キョンシーって体のパーツは再生するのだろうか。他の妖怪だと、妖力を傷口に集めることで、再生速度を早めることができる。力が強い妖怪にもなると、瞬時に再生することもあるらしい。

だがキョンシーは死体に防腐の術をかけるだけだ。あとは術者(ご主人)の能力次第で変化する。

何が言いたいのかと言うと、体自体は人間の死体のままだということだ。もちろんのこと人間の体は瞬時に再生したりはしないため、妖怪と死体の間に位置するキョンシーは、いったいどうなるのか?

 

そんな僕を尻目に先輩は僕の周りをぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。

 

ぐるぐる回る。

 

スピードがついてくる。

 

びゅうっ

僕の顔に先輩が起こした風が顔にかかる。あまりの風速に目をつぶる。舞い上がった砂や細かい石の感触が伝わってくる。

先輩は何をするつもりなのか。今度は腕ではなく、自分がロケットになるつもりなのだろうか。

探す手間が増えるのでぜひともやめていただきたい。

いよいよ先輩の姿がブレ始めたそのとき、

 

急に風が止んだ。風に飲まれていたカラスが体制を建て直し、先輩がいた場所を中心にして、一気に飛びたっていたのが見えた。

どうした風が止んだのか。それはもちろん、先輩に何かあったからである。

地面に這い蹲っているこの腕無しキョンシーが、原因を物語っていた。

盛大に言ってるようだが、こけただけである。おそらく腕が無くなったことにより、バランスが取りずらくなったのだろう。

 

「いきなりどうしたんですか?先輩。」

 

「うーん……せいがが……せいがが……」

 

先輩を起こしつつ、先輩の行動を見て思いついたこじつけの理由を告げる。

 

「先輩。腕が無いとロケットパンチ、出来なくなっちゃいますよ。」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

そんなわけで先輩の腕を探すことになった。

腕(ロケット、竹とんぼでも可)が飛んだ方向はわかってるんだけど、距離が全く予想できない。

……不毛な気がする。探す手段も虱潰し(しらみつぶし)にしていくだけだし。

なんだかやる気がなくなってきた。先輩にはこれから『腕なしキョンシー』としての新たな立場を築きあげてもらうことになるだろう。新たなアイデンティティの獲得の瞬間だ。実にめでたい……かもしれない。

 

「ろけっとー ろけっとー うでどこだー」

 

独特のリズムで自分の腕を探す先輩はどこか楽しそうだ。

無いやる気を振り絞って、先輩の腕を探す作業に戻る。

無くした場所(腕が飛んで着地した場所)を見つけるのは難しくても、腕自体を見つけるのは難しくないはずだ。なにせ、人間の腕が転がっているのだから。その辺の小石があるのとはワケが違う。それが日常と化した世界は、世紀末か何かだけで充分である。

 

 

虱潰しというものは効率的なやり方ではないことは明らかである。探し物をするときは記憶の筋道に従ってやらないと、いつまで経っても見つからないのだ。

先輩の腕が見つからないワケはそれだけではないけど。

 

目を離したら先輩がいない。

あたりは一面緑だらけ。いついなくなったかわからない。おまけに腕と違ってどこに行ったかもわからない。

……ホントにどうしようコレ。

 

 

途方に暮れて歩いていると、幅が広い川を見つけた。

澄んだ水がさらさらと流れ、魚も見える。僕がキョンシーでなければ喜んで入ったかも知れない。死体となった今では、出来はしないだろうけど。

水面に僕の顔がうっすらと移る。

肌が青白いことが、僕が「キョンシーとして目覚めたことを改めて思い知らされた。

無意識に、考えた。僕はどうしてキョンシーになったのだろうか。

ご主人は先輩が言っていたせいがさんと言う人だろう。その人に防腐の術をかけられているのはほぼ間違いないと思う。

でも、僕には生前の記憶が無い。自分の名前も覚えてないくらいだ。だからどのようにして死んだのか、覚えてない。

僕が思考の世界に流れようとしていたそのとき。

 

「こーはい こーはい」

 

先輩の声が聞こえてきた。その方向に顔を向ける。

 

先輩が、川上の方から、仰向けになって流れてきた。ちなみに腕はない。泳いでいるのではなく、流されているようだ。

 

「……どうしたんですか?先輩」

 

「うでがー」

 

「腕がどうしたんですか?」

 

「とーらーれーたー」

 

川下の方を見てみるとタヌキのような妖怪が腕を口にくわえて川を器用に下っていた。

急いで追いかける。先輩はそのまま流れてくるようだ。

こういう時に跳ねることしかできないキョンシーは不便だ。肘や足がうまく曲がらないから走ることが出来ないし、ましてや泳ぐことなんでそれ以前の問題である。

対してタヌキのような妖怪は案外早く、僕たちとの差を確実に広げている。

まずい。このままだと本格的に先輩に新たなアイデンティティの確立を目指してもらう方向に走らなければならなくなってしまう。

懸命に追いかけるも、追いつくことが出来ない。

 

追いつけない!  ……もう駄目かもしれない。

 

「あらあら……そう簡単に男の子があきらめちゃダメよ」

 

水色の衣をまとった人が目の前に現れた。腕には、タヌキのような妖怪が握られていた。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ 

 

 

 

「うちの芳香(よしか)芳香ちゃんが迷惑かけたわね。」

 

「いえ、本当に助かりました。」

 

タヌキのような妖怪から腕をとりかえした僕は、水色の人物にお礼を言った。

 

「せいがー」

 

「芳香ちゃん。駄目じゃない。後輩に迷惑をかけちゃ」

 

「ごめんなさいだぞー」

 

この人が「せいがさん」らしい。僕と先輩のご主人に当たる人……なのかな?

 

「あの……せいがさん。」

 

「何かしら?後輩くん。」

 

「これからよろしくおねがいします……?」

 

「……そう、よろしくね。」

 

ここから僕のビギナーキョンシーとしての生活が始まるのだ。

抜けてる先輩……芳香先輩とご主人のせいがさんとともに。

 

 

 

ちなみに……キョンシーの場合、失った部位は縫い付けておけば引っ付くらしい。なんという生命力。

 

「さあ、芳香ちゃん。腕、がっちゃんこしましょうねぇ」

 

「うーせいがー……」

 

「なあに?」

 

「ろけっとぱんちがうてるようになりたいぞ……」

 

せいがさんはぽかんとしていた。そりゃ、そうだよね。

 

 

 

 




3120文字。
こんなに3000文字って書くのしんどかったっけ…?

腕無しキョンシー(仮)の口調が難しい…




ではまた次回   ノシ


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その三、先輩キョンシーの生態~最初の数ページ~


※注意

キャラ崩壊を起こしてしまうような描写と、他作品ネタが含まれています。ご注意ください。


僕の先輩はキョンシーだ。

混じりっけ無しの、マジものだ。

肘は曲がらない、跳ねて移動する、おでこにお札が貼ってある。

そんな先輩キョンシーの生態をここに記しておくことで、ビギナーキョンシーである僕の今後の糧としたいと思う。

 

 

1、先輩は何でも食べる

 

 

「おーなーかーすーいーたー!」

 

僕たちキョンシーの体は人間の死体から出来ている。そのため、食事は必要としないのが一般的なキョンシー(略してパンシー)だ。そもそも胃がない(腐って欠落している)ので食べたとしても消化できない。だが、先輩は少し違う。先輩の能力である『何でも喰う程度の能力』が働いている...らしい。

その名の通り、先輩は何でも喰うことが出来る。食べ物以外にも石、土といったものから霞までも食べ、自分の体の一部としてしまう。

だが性質までは取り込めない。人間が魚を食べても水中で呼吸ができないように、今先輩が嬉しそうに食べているネズミらしきもの(ここではネズミと表記するが)を食べたからと言って、四足歩行になったり尻尾が生えることはない。

 

というか先輩、またネズミ捕まえて食べてたのか。美味しいのかな?あれは......

言うまでもないことだが、食べ方は相変わらず頭からひとかじりオンリーである。

 

 

2、先輩はグルメ

 

 

先ほどは先輩の能力『何でも喰う程度の能力』について取り上げたが、名前と違って先輩にも好みがあるらしい。

あくまでも僕が観察した範囲内の話だが、先輩の好物は、

・ネズミ(頭からがぶっと)

・鶏、牛、豚などの肉(腐りかけている方が好みのようだ。豪快に一口。)

・せいがさんから貰う謎の肉(せいがさんの腕ごと一口)

・乳製品(こちらも腐りかけのもの。お肉と一緒に一口。)

 

纏めてみると肉ばかりである。生よりは腐っている方が好みのようだが、ネズミのように生け捕りの後踊り食い(一口目のみ)が好きという場合もあるようだ。

 

逆に嫌いなもの(食べているところを見たことがないもの)は、

・雑草

・農作物(特に葉物)

・水気が多いもの(生け捕りの肉から滴る赤いヤツは除く)

 

このようになっている。

グルメというかただ単純に好き嫌いが激しいだけのような気がする。何でも喰うとはなんだったのか。せいがさんも苦労(本人は楽しそうにしているので一概にはそうと言い切れないが)しているようで。謎の肉の隙間に野菜を忍ばせたり、野菜の中に肉を詰めたりと工夫をしてどうにか先輩に野菜を食べさせようとしていた。実にほほえましい光景である。

一言で纏めると、『肉が好きで野菜が嫌い』

......先輩ってほんとにキョンシーなのかな?

 

 

3、先輩はトラブルメーカー

 

 

もう特徴でも何でもないような気がするし、これは見習うべきものでもないというかそういう次元のものじゃないような気がする。

自分からトラブルに足を(無意識に)突っ込んでいくし、何もないところからトラブルを生成したりともう好き放題である。それらは全て無自覚なので余計にたちが悪い。言い換えるならトラブルの女神(?)に愛されてるというか、トラブルをくっつけて歩いているというか...

そう、そんな先輩だからこそ...

 

「あれー?このねずみ、わっかがついてるぞ?」

 

...新たなトラブルを持ってくるペースもきっと早いはずなのである。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

先輩が言っていたわっかというのは言い換えると「首輪」であった。

動物に首輪をつけるというのは、その動物を世話している動物がいる、ということだ。つまり、そのネズミには飼主がいる。

(ここで誰が好き好んでネズミに首輪を付けて飼うんだよと思ってはいけない。ペットの基準は生き物それぞれだ。人間が人間を飼っているケースもあるらしいし、それに比べればネズミをペットとして飼っているというのはそこまでおかしくないだろう。)

そのペットのネズミを、先輩はひとかじりしてしまった。トラブル待ったなし、である。

 

先ほど先輩がトラブルを持ってくるペースが早いという話をしたが、ペースも早ければ進展ももちろん早い。

何故か?それは、

 

「お前だな!うちの『ぱるみ』をひとかじりしやがったやつは!」

 

飼い主の生き物ー言葉を話す人間の形を持ったのネズミーが現れたからだ。

ここで一つ、訂正することがある。

......ネズミがペットって、やっぱりちょっとおかしいかもしれない。

 

 

「『ぱるみ』は…ただの若いネズミだった…普通のネズミたちと同じに…家族を愛し、つがいのネズミを愛し、皆を愛する、私に忠実なただの若いネズミだった…」

 

 

人形ネズミはナズーリン、と名乗った。

短髪の髪に袖口が広い服を着ている。両手には複雑に折れ曲がった鉄の棒が握られていた。

随分と達者な口上をぼーっと聞いている限りでは、どうやら先輩がひとかじりしたネズミはこの人形ネズミの部下(配下、ペットでも可)だったらしく、その仇討ちとして参上したとのこと。

 

「いざ尋常に!勝負!」

 

「じんじょうにー」

 

ここでは、揉め事といったら弾幕ごっこで解決するのが決まりだ。

弾幕ごっこというのは、霊力や妖力などを使って、弾幕を作り、それを撃ち合う遊びのことだ。自分の能力を駆使してその弾幕の美しさを競ったりもする。

 

「後輩」

 

先輩の声がした。でも、口調やトーンが先輩のソレではない。声が低くなってなんだか歴戦の傭兵って感じだ。

 

「特と見ておくがいい。先輩の勇姿を!」

 

そう言ってから人形ネズミと傭兵キョンシーとの弾幕ごっこが始まった。

僕にはどっちが勝ってるとかわからないけど、ぼんやりと弾幕ごっこを見ながら考えていたことがあった。

 

4、先輩は戦いになると、キャラが変わる

 

弾幕ごっこはどうやら先輩の勝利という形で終わったようだ。

 

「くっ...無念...」

 

「さー、かんねんしてくわれるのだー」

 

なんだか目的が変わってるような気がする。そもそもどうして弾幕ごっこしてたんだっけ?

まぁ、そんなことはどうでもいいよね。

どうやらネズミの件は首輪のないネズミに関しては食べてもよい、という話でまとまったらしい。でも先輩なら半日...下手すれば一時間後には忘れてるかもしれない。

 

「いやぁ、あんたにも迷惑をかけるね。」

 

「いえ、改めて先輩がご迷惑を。」

 

なので僕が食べてもよいネズミかどうかを判断することになった。

 

「そういえば君は...キョンシーになったばかりなのかい?」

 

「はい。そうみたいで...」

 

「どうりで会話がまだしっかりと出来るんだね。」

 

まだしっかりと出来ていると思いたい。切実に。僕まで脳が腐り落ちたら、誰が先輩のネズミのあれを管理するのか。いや、違うな。脳が腐り落ちたらビギナーキョンシーを卒業出来るのかな?もしそうなら、卒業なんてしたくはない。

 

ナズーリンさんは近いうちにまた会おうと言って、帰っていった。僕はひそかに安心していた。だってネズミはチーズ、つまり腐った食べ物が好きだ。僕も防腐の術はかけられているとしてもキョンシーの端くれとして、一応死体な訳で。かじられたりしないかとよくわからない心配をしていたのだ。

 

「あのねずみはおいしいのか?」

 

先輩は弾幕ごっこが終わってからずっとそんなことを言っていた。どこまで食欲旺盛なのか。何でも喰うとは伊達ではないということか。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「今日は楽しかったな。久しぶり弾幕ごっこなんてやったな。」

 

件の人形ネズミは上機嫌にそう言って、スキップしながら帰路についた。

 

このときの僕は一つ忘れていたことがあった。

それは『先輩はトラブルメーカーだった』ということである。トラブルを自分から持ってくるし、トラブルの方から来ることもある。言い換えれば、トラブルを引き付ける。

 

「後で寺の皆にも話してやろう。キョンシーなのになんか変なキョンシーがいるって。」

 

なので、この事が新たなトラブルを引き起こすことなんて、思いもしなかったのである。

 

 

 

 

ちなみに、この事をせいがさんに話してみると...

 

「ぱるめ?ソレってパルメジャーノじゃない?あのネズミ自分のペットに好物の名前つけてるの?」

 

せいかさんはいつかみたいにぽかんとしていた。

...知らなくてもいい事実ってあるものだなぁ。

 





3260文字、かなり難産でした。

ナズーリンがここから話に関わってくるかは...その...なんだ。未定です。

せいがさんが若干空気なのは気のせいです。多分。


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