やはり俺がドキドキ!させられるのはまちがっている (トマト嫌い8マン)
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遠足というのは基本的に何かが起きる、ボッチの身にさえも

え~あらすじはだいぶん仰々しいものとなってしまいました。というか中二感全開ですね。

もともとはpixivで投稿していた作品なのですが、だいぶんたまったので何話分かをひとまとめにしてこっちにも投稿してみようと思ってしまった分けな作品です。

題材としてはやはり俺の青春ラブコメは間違っているの主人公比企谷八幡をドキドキ!プリキュアに混ぜてみたというだけの物語。八幡とプリキュアのコラボをいくつか思いついて書いてみて、その中でも続きそうだと思ったこの作品だけとりあえずこっちに載せてみた感じです。

設定としてはもちろん彼も中学二年生に変更。そのために卑屈さもだいぶん控えめになっていながらも目はちゃんと腐ってしまっているという少年になっています。ちなみに読書量や知識量はこの年にしては高めになっているためちょっと頭いいやつです。

恋愛要素は今のところはいるかどうか不明ですがまぁ気長に気楽に読んでみてください。


遠足というのはぼっちにとっては大分面倒なイベントである。それは当日に限ったことではない。その面倒臭さは班作りの時にまでさかのぼる。

幸か不幸か俺の所属するクラスは男子が奇数だったために必然的に俺が余ることとなる。そこまではいい。問題は遠足の班が男子1,2人と女子2人で構成されることにある。

自慢ではないが俺は女子からやたらと遠巻きに見られている…嘘ですちょっと見栄はりました。普通に好かれていない。ゆえに俺の班を作ること自体が困難なのである…通常は。実際去年はそうだった。まぁこういう時以外は平穏な学生生活が過ごすことができるため特に文句はなかったが今年はどうやらそうもいかないらしい。そもそも俺の班が一番最初に決まること自体がおかしかったのだ。この後に俺が不自然極まりない出来事に巻き込まれるのは、至極当然のことだったのかもしれない。

 

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東京クローバータワー。全高999メートルもあるこの国どころか世界最大の電波塔だ。いやそこまで行ったなら1000にすれば良くね?と割と考えもしたがいざ来てみるとその大きさには感心せざるをえない。こんなタワーを作る四葉財閥ハンパねぇな。

 

今日は大貝第一中学2年生の遠足の日。この国で最大の電波塔であるここが今日の俺たちの遠足の場である。まぁ和紙を作ったり、鎌倉とかの歴史ある場所を巡るのもそれはそれで風情があるがやはりこのタワーの存在感は圧倒的である。なんてったってでかい。もう、どデカイ!

 

ちなみに俺たちの担任は移動バスの中で昼寝している。なんだよそれしていいなら俺もしたいんだけど。まぁ班のやつが許してくれないんですけどね。通常は担任が引率者として生徒たちの様子を確認して助ける役目をするはずなのだろうが、俺たちの場合はその必要がないのだ。なぜならうちのクラスには、とんでもないやつが1人いるのだから。

 

「俺の財布!ありがとうございます会長」

 

「もう気分大丈夫です、ありがとう会長」

 

「わかったよ、喧嘩はしねぇから、会長」

 

貴重品の落し物から、バスで酔った生徒の介抱、他校の生徒との喧嘩の仲裁までどう考えても担任がいても手にあまりそうな案件の数々が次々にたった1人の生徒によって解決されていく。あまりにも鮮やかなその手口に思わず惚れ惚れしてしまう。まぁ別に惚れはしないけど。

まぁ俺には関係のないことだからと俺は1人で適当に妹のための土産を物色しようとタワー内部に向かった。

 

「こら、比企谷君!単独行動禁止だってば。ちゃんと班で行動しよう?」

「半分くらいはマナのせいでもあると思うけどね。それでも、一応そういうルールなんだから、1人でどこかに行くのは感心しないわよ」

 

残念、即座に捕まって行けなかった。案件が終わるのを待つのは非効率であるという言い訳も考えていたのに本人に捕まったら意味ねぇな。

声の主は2人、どちらも俺と遠足の班を組んでいる女子である。今回の遠足で俺の班が即決したのはこの2人が行動したためである。

 

「少し目を離すとすぐこうなんだから」

 

文面だけ見ると怒っているようだがこれを言っている本人は割と笑顔でいる。さっきまであちこち走り回っていたというのに息一つ乱れてない。超人か?

特徴的なピンク色の髪に絶やさない笑顔。そこそこ、というかかなり整った容姿をしていて人望もある。彼女こそ大貝第一中学校の生徒会長にして俺の遠足の班の班長、相田マナだ。結構な博愛主義者らしく俺と席が隣同士ということもありやたらと俺に話しかけてクラスに馴染ませようとしてくる。まぁ実際はそれが原因で一部の男子から痛い視線を向けられるという彼女の思惑とは正反対の結果を生み出しているんだが…

 

「ほんとよ!先生は寝てるしマナは慌ただしいし、仕事を増やさないでよね」

 

その隣で、あっこっちは割と怒ってらっしゃる。まぁとにかく、相田の隣に並んでいるのは生徒会書記の菱川六花だ。青みがかった長い髪にいかにも真面目な優等生という立ち振る舞い。成績は学年トップにして全国でも10位以内に入るくらいだ。ちなみに俺は国語だけなら学年2位だったけどな。相田の幼馴染らしく、相田をあらゆる方面でサポートしている。当然というかなんというかこいつもかなりの美人であるためこの2人が俺と同じ班になると宣言した時にはクラスのほとんどが動揺していたなぁ。

 

「悪かったよ。忙しいなら無理にこっちに合わせてもらおうと思わなかったんだよ」

「あのねぇ、忙しそうなら手伝おうと思わないの?」

「いや、手伝おうとしても俺が関わるだけで面倒かけるだけだろうしな。なら俺という面倒ごとがどこかに行くことによって少しは楽になるだろうかと思ったわけで」

「いなくなられたら探すという面倒ごとが起きるんだけど・・・」

「それに、みんな一緒の方が楽しいよ。友達と思い出作りってキュンキュンするよね」

 

ちっ、失敗か。こんな感じのことを言えば大体の人はまぁ本人がそういうならと考えて放っておいてくれるのに。この責任感の強い菱川と博愛主義者の相田には通用しないようだ。仕方ない、諦めて一緒に行動するとするか。

 

「悪かった。以後気をつける」

「うん、じゃあせっかくだし・・・っあ」

「まぁ、反省しているならいいんだけどね。ただでさえマナも急にどこかに行っちゃうんだから・・・ってあれ!?マナ?」

 

言ってるそばから相田のやつがまたどこかに行ったようだ。さっと辺りを見渡すとそこには迷子と思わしき女の子を泣きやませようとしている相田の姿があった。というかよくもまぁ困っている人をそんなすぐに見つけられるな。センサーでもついてるんじゃねえの?とりあえずため息をつきながらも相田の手助けに向かった菱川について行った。

 

「大丈夫だよ、すぐにママは見つかるからね」

「ほんと?」

「うん!お姉ちゃんが一緒に探してあげるからね。だからもう泣かないで、ね」

 

ほんと、こいつはお人好しというかなんというか…それで実際に子供を泣き止ませることができるからまぁすごいやつだと思わざるをえないんだが。

 

「ちょっとマナ?どうやって探すつもりなの?顔もわからないんでしょ?」

「それはね、比企谷君!」

「は?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「どうお母さん見つかった?」

「えーとね…」

 

相田の考えた作戦はいたってシンプル。俺が女の子を肩車することで彼女の視野を広げるというものである。至極シンプルではあるがなるほど案外いけるかもしれない。ただね、少しテンションが上がるのはわかるけど俺のアホ毛を引っ張るのはやめておくれ、痛いから。

 

「みちこ!」

「ままだ~!おーい!」

 

どうやら無事に母親が見つかったようだな。ようやく一件落着だな。あと、嬉しいのはわかるけど頭をペチペチ叩くのやめてね。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ふーっ」

 

思わずため息がこぼれる。軽かったとはいえずっと肩に人が乗っていたのだから仕方がない。

 

「あの子、お母さんに会えてよかったね」

「全く、マナは幸せの王子様みたいね」

「えっ?なにそれ?」

 

幸せの王子様。相田は知らなかったようだがなかなか有名なお話である。黄金で表面を包み込まれ、たくさんの宝石を使って作られた王子の像は大勢の人が幸せになれるように自身の体の金や宝石を全て配ったという。そして動けない王子の代わりに金を届けた一羽のツバメがいた。最後までそのツバメは王子の元を離れなかった。その結果命を落としながらも。まぁ話には一応続きがあるけど大胆こんな感じだったはずだ。まぁ相田が幸せの王子様だとすれば菱川がツバメなのだろうか?

 

「だいたいこんなお話よ。わかった?」

「幸せの王子様か~。でも、私は人助けをするのが好きだからなんか似てるって言われるのがわかるような気も…あれ?なんだろう?」

 

相田の視線の先にはすごい人だかりができていた。一瞬エレベーターの並び口かと思ったがどうやら違うようだ。

 

「誰か有名人でも来ているんじゃない?」

「えっ誰だろ?ん~、あれ?あれってまこぴーじゃない?」

「まこぴー?剣崎真琴のことか。こんなとこにまで仕事しに来てるのか?」

 

剣崎真琴。最近世間を賑わせている新人のアイドルだ。驚くことに彼女は俺たちと同じ中学2年生だということだ。人垣の奥、彼女の特徴的な紫色の髪が見えたからおそらくは本物だろう。

 

「生まこぴーだ!キュンキュンするよ!・・・あれ?」

「どうしたの?」

「これ、まこぴーが落としたみたい」

 

相田の手のひらには金色のチャームのようなものがあった。なんかいわゆるキューピットの矢みたいなのが描かれている。

 

「あたし、届けてくる!すいませーん、ちょっと通してください!」

「あっ、ちょっとマナ!もう!」

 

菱川と2人、特に会話するでもなくその場にとどまっていた。まぁ当然だ。菱川が俺と会話するのは基本相田が俺に話しかけてくるからだ。おそらくあいつがいなければ俺たちの間には一切つながりなんて生じなかっただろう。だから突然声をかけられた俺が驚いたのは仕方のないことなんだ、うん。

 

「比企谷君は、マナのことどう思う?」

「は?いきなりなんだよ?」

「いやっ、変な意味じゃなくて。ほら、幸せの王子様みたいって私言ったじゃない?比企谷君はあのお話の終わりって知ってる?」

「いや、あんま詳しくは」

 

嘘だ。あの物語の結末には思うところがあって嫌という程何度も読み返したことがある。ただ俺は菱川がわざわざ話をふってきたからには彼女の知る幸せの王子様の結末がどういうものだったのか知りたくなった。あの結末を悲劇と捉えるかハッピーエンドと捉えるかで大分変わってくるしな。

 

「人々を幸せにした王子様はみすぼらしい姿になってしまうの。その王子様は心無い人々に溶鉱炉で溶かされてしまうのよ。流石にマナはそんなことされないだろうけど・・・それでも心配になるの。いつか、その優しさが誰かに踏みにじられた時、マナがどうなっちゃうんだろうって」

「どうだろうな、わからねぇ。というかその話を俺にしてどうするんだよ?」「わからない。でも、比企谷君は何か違うものをいつも見ている気がするから・・・うまく説明できないんだけどね。ごめん、忘れて。マナにもこの話はしないで」

「俺からあいつに話しかけることなんざねぇし、こんな話できる相手なんていねぇよ」

「そんなことを誇らしげに言われてもね・・・」

 

そうこう話していたら相田が走ってくるのが見えた。

 

「2人とも、お待たせ~まこぴーにありがとうって言われちゃた!」

「じゃあ三人揃ったんだし、そろそろ上に行くために並びましょ」

 

「そこのお嬢さん」

「ほぇ?」

「よろしければ僕のアクセサリーを見ていきませんか?」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

エレベーターに向かう俺たちに声をかけてきたのは鮮やかな金色の髪に金色の瞳をした1人の男だった。どうやらここでものを売っているらしく、その隣にある台車には幾つものアクセサリーが並んでいた。

 

「へぇ、いろいろあるのね」

「あっ、これ!さっきまこぴーが落としたものに似てる」

 

相田が見ていたものは確かにさっき見た剣崎真琴の落し物にそっくりだった。そっくり、というよりもまんま同じもののように見える。

 

「お嬢さん、お目が高いね。それはキュアラビーズと言ってね、不思議な力があると言われているんだ。綺麗だろう?」

「はい、とっても!」

「そっか。そんなに気に入ったのなら、それ、もらってくれないかな?」

「えっ?そんな、頂けませんよ」

「いいからいいから、僕は人を見る目には自信があるんだ。このラビーズは君が持っていてくれた方がいいと思うんだ」

 

そう言ってその謎の男は相田の制服のリボンにそのラビーズを付けた。最初は驚いていた相田だったが鏡を見ながら喜んでいる様子からすると満更でもないようだ。が俺はそんなことより気になっていることがあった。

 

この男が売っていたラビーズ、ざっと台車を一通り見てみたがどうもあの一個しかないようだ。かと言ってそれが人気ですぐになくなったのかと言えばそういうわけでもないように思える。俺自身が詳しいわけではないがあの剣崎真琴が身につけていたものだ。剣崎真琴の大ファンの妹がそれに食いつかないはずがない。どころか親父にねだって買ってもらうだろう。が、そんなこともなかったわけだ。そもそもこれを売っているこの男は一体どこでどうやって手に入れたのかも気になる。どう見ても手作りじゃねぇだろこれ。

 

「じゃあ、僕は向こうにも売りに行くつもりだから、これで。君に幸福が訪れんことを」

「はい!頑張ってください」

 

しかし俺が何か聞く前にすでにこっちでは話終わってしまったようだ。まぁ引き止めてまで聞くようなことでもないだろうし別にいいか。

 

「じゃあみんなで行こうか。展望台に!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

流石はクローバータワー。展望台に向かうためのエレベーターは長い行列ができていた。まぁ俺は待つのは慣れている。妹とか母親とかの買い物の時間とか。1人で適当に時間を潰す方法ならいくらでも知っている。相田たちはどうだろうかと思い隣をちらりと見てみると相田は楽しそうに並んでいた。こいつもこいつなりの楽しみ方があるのだろうか。

 

「ちぇっ、こんなの並ぶの面倒臭ぇな。割込んじまうか?」

「それはダメだよ。ちゃんと並んでから見た景色の方がいいよ。きっともっとキュンキュンできると思うんだ。だからちゃんと並ぼう、ね」

「っ、ま、まぁ、偶にはいいかもしれないな」

 

あっ、こいつ一級フラグ建築士ですわ。今ので絶対立ったよ。あいつ明らかに顔真っ赤になってるから。そうじゃないなら前々から立っていたんだろうな。相田、恐ろしい子!

 

「あっ、あそこ!みちこちゃんたちだ!おーい!」

 

相田が手を振っていたのはさっきの迷子の女の子だった。今まさにエレベーターに母親と乗り込んだその子は笑顔でドアが閉まるまで手を振っていた。

 

「はぁ、こんなに並ぶのもなぁ。いっその事列を無視して・・・いや、そんなことしちゃダメだよな」

 

すぐ近くに並んでいた男性の呟きが聞こえた。まぁこういうのは慣れないと面倒ではあるよな。けどまぁそういうマナー的なのを守るのは重要だからなぁ

 

「いいんじゃない、別に割り込んでも」

 

ゾクリと何か嫌なものを感じた。いつの間にかさっきの男性の近くに1人の少年が浮いていた。白い髪に金色の目、黒を基調とした服装。突然現れたそいつに人々は驚かざるをえなかった。

 

「お前の願い、叶えてやるよ」

 

そう言い彼が指を鳴らすとさっきの男性が苦しみだした。突然胸からコウモリのような羽を生やした黒いハートが飛び出し、男性は気を失って倒れた。

 

「これは極上のジコチューが作れそうだ。さぁ、暴れろ!お前の心の闇を解き放て!」

 

謎の少年が黒いハートにエネルギー(多分、知らんけど)を注入するとハートが巨大化し、ひび割れ、巨大なカニが現れた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ジコチュー!」

「さぁ、暴れろ!キングジコチュー様復活のためのジャネジーを集めろ!」

 

その巨大なカニはすごいスピードでエレベーターのドアに突っ込みそのまま上を目指してかけ上がり始めた。

 

「ナラブノナンテメンドクサイ!ヨコイリ、オレノマエニハイルナ!」

 

えっ、何?あのカニ、列に並ぶのがめんどくさいっていう気持ちで暴れてるの?心小さいな~。俺を見習えよ。どれだけ嫌な目にあっても復讐しようと思ったことなんてないぞ。まぁそんな度胸自体がないだけなんですけどね。

 

「マナ!?どこに行くの!?」

 

見ると相田が非常階段の方に向かって行った。あいつ、まさかこのタワー登るつもりか?まぁエレベーターは大破してるしそれしかねぇんだろうけど

 

「相田!」

「何?比企谷君?」

「さっきの子、助けに行くのか?」

「うん、そうだよ」

「見ず知らずの人のために命を捨てるつもりかよ。ありゃどう見てもお前の手に負えないぞ」

「そんなつもりはないんだけど・・・やっぱり、放っておけないよ!」

 

そう言い相田は迷いなく階段を駆け上がっていった。

自分で動きまくる幸せの王子って、実はかなり面倒なのかもしれないな。やっぱり動くのは、ツバメだけにとどめとくべきだろ。

 

「はぁ~、ったく!」

 

軽く気合を入れて俺は相田の後を追って階段を駆け上がり始めた。自転車通学で良かった~、そうでなきゃこれ途中で死んでたよ。いや、既に死ぬかもしれないけど。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

side change

 

「はぁ、はぁ。ここが・・・展望台?」

 

流石に階段でクローバータワーを上るのはきついかも・・・やっと展望台のところについたけど・・・さっきの黒いカニさんは?みちこちゃんとみちこちゃんのお母さんも大丈夫かな・・・?

 

急いでドアを開いてあたりを見渡す。横走りで動き回っているカニさんから離れようとしてみんなが窓際から急いで離れようとしていた。でも、みちこちゃんたちの姿が見当たらない。そうしている間にもカニさんから逃げようとしている人たちがどんどん非常階段の方へ向かっていった。

 

「みちこ!」

「えっ?」

 

声のした方を見るとみちこちゃんがこけてしまったみたい。さらにさっきの大きなカニが今まさにそこを通ろうとしていた。このままじゃみちこちゃんが危ない!でもこの距離じゃ・・・

そこへ一つの人影が走り出てみちこちゃんを抱きかかえて助けた。絶望的だと思ったその状況を変えたのは、私の知っている一人の男の子だった。

 

「あっぶね~・・・大丈夫か?」

「うん!ありがとう」

 

 

side change

 

ほんとに危なかった~。ギリギリもギリ、間一髪もいいところだったわ。死ぬかと思った・・・人間ほんとにやべぇ時は火事場の馬鹿力が働くっていうけどあれほんとだったんだな、マジビビるわ。おかげでもうくたくただわ、動きたくねぇ。ともあれさっきの女の子を助けた俺はすぐに駆け寄ってきた母親に少女を渡した。

 

ふと視線を感じた俺はその方向に振り向いた。そこに立っていたのは相田だった。驚いたような表情をしながらこっちを見ていたが、何?俺がいちゃまずかったの?

 

「どうした?」

「うぅん、ちょっと驚いただけだから。比企谷君がここに来たことが意外だったというか」

「まぁ俺だって別に積極的に来たいとは思ってなかったよ。疲れるし、高いし、降りるの大変そうだし。さっきもマジで死ぬかと思ったし」

「でもそれじゃあなんで?」

 

なんで・・・か。ふと考えてみる。なぜ俺はあんなバカみたいな段数の階段を駆け上がってまでこの場に来ようと思ったのだろうか。俺は相田のような人助けをするのが好きというわけではない、むしろ嫌いなまである。そんな俺がわざわざここまで来た理由は・・・

 

「まぁ、どっかの班長が勝手に行動しちまったからな・・・班員として探しに行かないわけにはいかねぇだろ」

 

答えは出なかった。だから俺はその場をうまく切り抜けるためにごまかすことしかできなかった。相田の人助け精神がうつったのだろうか、何それヤダめんどい。ただ、いつかはこの時の行動の理由がわかったらいいと思った。

 

「ジコチュー!」

 

って忘れてた!このカニまだいたのかよ?どうやら展望台を一周したらしいそのカニは再び俺たちに向かって走ってきていた。

 

「ストーップ!」

「ジコッ!?」

「は?」

 

と、相田の制止の声によって急停止させられていた。

 

「この景色を独り占めしようとするなんてダメだよ!もちろん、割り込んだりするのも!ちゃんと並んでみんなで一緒に見ようよ。そのほうが絶対にキュンキュンすると思うよ」

 

マジか・・・こいつ、この謎のカニに対して説教してやがる・・・いやいやいやそんな幼い子供に言い聞かせるようなことをしても、こいつどう見てもあれだろ、止まるわけねぇだろ。と思いカニの様子を見てみると・・・

 

「ジコ・・・」

 

若干面喰っているというか反省しかけている表情をしてらっしゃる~!?えっなにこれ、このままこいつ解決しちゃうんじゃねぇのすごいな相田おい。こいつがいれば世界平和の実現も夢じゃないんじゃねぇの。

 

「お願いシャル!」

「「えっ?」」

 

俺たち以外には誰もいないはずなのに響いた声に俺と相田は驚きを隠せなかった。が、その直後に俺はさらに驚かされることになった。そこにいたのは

 

「私たちに力を貸してほしいシャル」

 

ピンク色の・・・ウサギ?ウサギだよな?がそこに浮いていた。しかもしゃべった!?

 

「誰?」

「私はシャルル、トランプ王国から来た妖精シャル」

「あっ、初めまして。あたし、相田マナです。どうぞよろしく」

「あっ、これはどうもご丁寧にシャル・・・って、驚いてないシャル!?」

 

受け入れんの速すぎるだろぉ!何普通に握手とかしちゃってんの?疑問とか抱かないの?どう見てもおかしいだろ、しゃべるところも、ピンクなところも、浮いてるところも。というかこの巨大カニの前で何を落ち着いて挨拶とかしてるんだお前は。

 

「それで、何をすればいいの?」

「いや、待て相田、落ち着け。というかむしろ少しはあわてるなり驚くなりしろ。どう考えても、というか考えられないくらい非現実的すぎる。なんでお前そんな冷静なんだよ?」

「え?もう慣れたかな」

 

駄目だ、こいつの順応能力が高すぎる。俺のリアクションの方がむしろ間違っているんじゃないかと錯覚してしまう。こいつほんと将来大物になりそうだよな・・・

 

「こんな人間・・・ありえないシャル・・・って、そんなこと言ってる場合じゃないシャル!伝説の戦士、プリキュアになって一緒に戦ってほしいシャル」

 

伝説の戦士、プリキュア?なんだかよくわからないけれども戦うって・・・いくらなんでもそりゃむちゃくちゃだろ。このカニと戦うって言ったってこのサイズだぞ。無理に決まってるだろ。それにさすがにこんなのは相田だって・・・

 

「うん、いいよ」

 

そんなあっさりぃ!?ってそういえばこいつは助けてと言えば特に事情を聴かずにオーケーしちゃう奴だった!ほんと、将来悪い男にだまされるんじゃないか少しばかり心配になってくる。まぁ菱川がいるからたぶん大丈夫だとは思うんだが・・・

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それで、何すればいいの?」

「私を使って、変身するシャル!」

 

ポンッ!という効果音とともに、シャルルと名乗った妖精はその姿を変えた。タッチパネル機能付きの携帯端末みたいだ。すげぇな妖精ってこんなこともできるんだ。って、俺もナチュラルに受け入れ始めている!

 

「わかった」

 

シャルルを手に取った相田はカニの前に立った。右手にシャルルを持ち、どこぞの一号がとるようなポーズをとって

 

「変身!」

 

・・・何も起こらなかった。

 

「あれ?・・・変っ、身!」

 

いや言い方の問題じゃねぇだろ、どこの「質問するな!」な警察官ライダーだよ。おそらく必要な手順が何かあるはずだ。とりあえずシャルルからその方法を聞いてだな・・・

 

「う~ん・・・どうすれば変身できるシャル?」

「知らないの?」

 

知らないんだ!?どうするのこの状況。ほら見ろ、カニの方まで戸惑っちまってるじゃねぇか。

 

「わたしたちは生まれて間もなくこっちの世界に来たシャル。だからどんな風にプリキュアに変身してたか知らないシャル。でもきっと何とかなると思ってたシャル・・・」

「そっか・・・」

 

生まれて間もなく・・・それはしょうがないな。というかそんな生まれてすぐにこっちに飛ばされなくてはいけないような状況ってどういうことだ。何かそこにも深い事情がありそうだが、今はそれを詮索できるような状況じゃなさそうだな。

 

「何してるジコチュー!そんなやつ、適当に片付けちまえ!」

 

と先ほどの謎の少年の声が響いた。その声に我に返ったのか(いやそれはおかしいかそもそもがおかしくなってるわけだし)カニは相田めがけてその鋏を振り下ろそうとした。やべぇ!

 

しかし彼女をその鋏が襲うことはなかった。突然現れた紫色をまとった少女が、そのカニを蹴り飛ばしていたのだから。薄い紫と白の二色の衣装(というか服装?)、肩は白い羽のようにさえ見えるデザイン。そして強い決意を宿した瞳。

 

「キュアソード!」

「キュア・・・ソード?」

「プリキュアシャル!」

「あれが・・・プリキュア」

 

キュアソードと呼ばれた少女はちらりとこちらを一瞥するとカニと対峙した。そのカニの横に先ほどの少年が並び立ち、キュアソードを敵意のこもったぎらぎらしたまなざしで見ていた。

 

「待ってたぜ、キュアソード!ここでお前を倒して、王女の情報を頂くぜ!やっちまえ、ジコチュー!」

「ジコチュー!」

 

少年に命じられた衣装に装着されていた携帯端末(おそらくさっきのシャルル同様に妖精が変身したものだな、鳴いてたし)に大きくハートマークが描かれていたキュアラビーズをセットした。

 

「閃け!ホーリーソード!」

 

腕を勢いよく振り下ろした彼女は正面の空間を一閃、無数の光の刃がカニに向かって放たれ、カニの体を光で包み込んだ。

 

「ラブラブラ~ブ」

 

無数の刃を食らったカニは目をハートマークにしながら消え、そこにはピンク色となり天使の羽のようなものをはやしたハートが浮かんでいた。そのハートはしばしそこにいたかと思うとエレベーターの方へ行き下へ降りて行った。おそらくは先ほどの男性のところに戻るのだろう。

 

強い。キュアソードの戦いを見て思ったのはそれだった。これが、伝説の戦士プリキュア。謎の怪物と戦うことができる戦士・・・もしかしたら相田はこいつと同じようになっていたのかもしれないのか・・・そうならなかったことにほっとしている自分がいる。もし相田がプリキュアになったとしたら・・・何かとんでもないことが起きるんじゃないかと、少し心配になった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「キュアソード・・・?」

 

今の一連の流れを見ていた相田はどうやらあまりの驚きに戸惑っているようだ。無理もないだろう、というか俺もだいぶ戸惑っている。なんだったんだ今の?女の子があの巨体を蹴り飛ばした上に光の剣を無数に飛ばした…やべぇ何言ってんのか全然わかんねぇ・・・あれがプリキュアってやつなのか?

 

「キュアソード・・・やってくれたな」

 

とそこへ先ほどあのカニを作り出したと思われる謎の少年が現れた。忌々しそうにキュアソードを見ている様子から察するにこいつらは敵対関係にあるらしい。

 

「あの・・・ありがとう、助けてくれて」

 

相田がソードに歩み寄ろうとした瞬間、彼女の真上の天井にひびが入った。って、あいつ気づいてねぇ。あぶねぇ!

 

「危ない!」

 

その相田をまた助けたのはキュアソードだった。しかし今回はさっきとは一つ異なる点があった。崩れてきた瓦礫に交じって大きなはさみが降ってきて、そのままキュアソードの体を挟み込んだ。

 

「なっ、あれはさっきの!?」

「ジコチュー!!」

 

崩された展望台の屋根の上に乗っていたのはさっき倒されたはずの巨大なカニだった。そいつが、その鋏を使ってキュアソードの体を挟んでいた。

 

「あんたはいつも仕事が雑なのよ、イーラ」

 

そのカニの横に並ぶように現れたのはカニを作り出した少年と同じ白髪に金色の瞳を持った女性だった。その姿を見たイーラと呼ばれた少年の表情が怒りに近い表情になる。

 

「マーモ!お前、さては俺のジコチューが倒されるまで待ってたな!?」

「あら、だったらどうしたの?」

「くーっ!なんて自己中なやつだ!」

 

いやお前が言うなよ・・・どう見てもお前ら同族じゃねぇかよ。なんだ?こいつらは多分仲間・・・なんだろうけど。カニの怪物がジコチューって叫びまくることといい、こいつらは自己中の集まりかよ・・・めんどくせぇなそれ。

 

「さて、捕まえたわよキュアソード。トランプ王国最後のプリキュアであるあなたなら知ってるでしょ。王女の居場所について・・・教えなさい」

 

断片的な情報しか得ることができていないが一度整理してみる。この自己中集団とシャルル、プリキュアはトランプ王国と呼ばれる場所からきていて、自己中連中は王女様なる人を探しているらしい。んで、最後のプリキュアってのが気になるが・・・

 

「っ、おあいにく様。あなたたちに教えることなんてっ、何一つないわ」

「あら、そう?ジコチュー」

「っあっぐぁ」

 

おいおい、ちょっと待て。いくらなんでも・・・っち!

 

気づいたら体が勝手に動いていた。危険だとか、むちゃくちゃだとか特に考えもしなかった。ただ俺はあいつらがいる屋上に向かって登り始めた。どうやら相田も同じ考えだったようで、あいつも必死に向かおうとしていた。

 

side change

 

もう、ここまでなのかしら・・・この世界に来てからずっと探し続けてきたけれど、王女様の行方は見つからなかった。トランプ王国を守ることができなかった私は、せめて、せめて王女様だけでも守りたかった。きっと生きている、こっちに来ているんだったらきっと出会える。そう信じて今まで歌って、戦ってきた。でも結局、王女様には出会えなかったし、もうこの状況から脱出する方法も思いつかない。

 

「ぐっうっ、あぁっ!」

「強情な子ね~。まぁ、このまま潰しちゃってもいいかしらね。邪魔者がいなくなれば、王女なんてすぐに見つかるもの」

 

また、何も、守れなかった・・・

 

「ダメ!」「やめろ!」

 

そこにあらわれたのはさっき助けたはずの二人だった。どうしてこんなところに・・・?早く、逃げない・・・と

 

「その子を離して!」

「ぐっくぅぁ」

 

二人はジコチューの足をつかんでどうやら私を助けようとしているみたいだった。無茶よ。

 

「何を・・・してるの・・・早く、逃げ、なさいよ」

「そうしたいのは山々なんだが・・・そういうわけにもいかねぇんだなこれが!」

「どうっ、して?」

「あたしを助けてくれたからこんなことになってるんでしょ。それなのに自分だけ逃げることなんてできないよ!」

「こいつが逃げねぇんなら俺もだな。そんなことしたら班員に合わせる顔がなくなっちまう。さらに言えば妹に嫌われた上に死にたくなるまである」

「なぁにあれ?ジコチュー」

「ジコ!ポイッ!」

 

ジコチューが足を一振りするだけで二人は簡単に吹き飛ばされてしまった。

 

「ただの人間は引っ込んでな」

「くっ、相田、大丈夫か?」

「どうしよう・・・あたしのせいで・・・」

 

 

side change

 

 

「どうしよう・・・」

 

あの子を助けたい。あたしのせいでいま彼女は苦しんでいるんだもん。でも、今のあたしじゃ・・・

 

握りしめていたシャルルが変身したアイテムを見つめる。ちゃんと使うことができたら、きっとあの子を助けることができるはずなのに。

 

「お願い・・・」

 

助けたい!どうしても。

 

「あたしに勇気を、力をください!」

 

少しでも、あたしに何かできる可能性があるのだとしたら。あの子を助けるための力を、立ち向かえるための勇気が、私は欲しい!

 

「お願いします!」

 

 

side change

 

 

突然、それは起きた。さっきアクセサリーを売っていた男が相田に渡したキュアラビーズがまばゆい光を放ちだした。強く、優しく、温かいその光は、まるで相田の祈りにこたえるかのように輝いていた。

 

「っあ!マナ!その輝きを私にセットして叫ぶシャル!プリキュア・ラブリンク!」

「うん!」

 

先ほどのキュアソードがしたように、相田は胸に着けていたキュアラビーズをシャルルにはめ込んだ。

 

「プリキュア・ラブリンク!」

『L・O・V・E!』

 

そう叫び、相田はまばゆい光に包まれた。再び光の中から現れた相田の姿は変わっていた。髪の色はピンク色から美しい金色になり、さらに言えばかなり長くなっていた。ピンクと白の衣装に身を包み、左胸にはピンクのハート、キュアソードと少し似ている姿になった。そうか・・・なったんだな、相田。伝説の戦士とやらに。

 

「みなぎる愛!キュアハート!」

 

プリキュアに。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「キュア、ハート?」

「プリキュア!?」

「まだいたのか!?」

 

三者三様の反応をする彼らと違い、彼の心の中にはいくつもの感情が渦巻いていた。不安、後悔、安堵、期待。一言で表せない感情を持ちながら彼は彼女がその一歩を踏み出すのを目撃した。長い長い、戦いの一歩を。

 

「愛をなくした悲しいカニさん。このキュアハートが、あなたのドキドキ、取り戻して見せる!」

 

 

「ついに目覚めたようだね・・・マイ・スィート・ハート」

「キュア、ハート・・・これが、相田の・・・」




というわけでいかがだったでしょうか。
大体本編の一話分を引っ張って書いてみたらこんな感じになりました笑。

この先もたまっては載せたまっては載せを繰り返していくと思うのでよろしくです!


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ハートのツバメ

書き貯めしてあったとしてもなかなか私生活で時間が取れずに増やせずにいるのはやっぱり痛いですな~

というわけで一応第2話分?を投稿させていただきますね~


「変身しちゃったんだ・・・あたし」

「あぁ、そうだな。もうわかったから、その発言何度目だよ」

 

最上階の展望台・・・ではなく、その一つ下のところ。そこに俺と相田は二人だけで立っていた。あの後いろいろと大変だったのは言うまでもないことだがざっくりと説明させてもらうとだ・・・

 

変身した相田の身体能力マジやばい。もともとかなりのハイスペックだったのがさらに何倍にもなっていてもはや意味不明。それを見た敵側がソードを人質にしようとしたらソードが自力でカニの鋏から脱出。その勢いでジコチューを投げたわけなのだがその時にバランスを崩して落ちそうになった。とっさに俺がその腕をつかんで一安心、かと思ったらジコチューがソードの足を挟んだために2人と1匹で仲良くタワーから落ちて行ったとさ。

 

ほんと、よく俺生きていたな・・・もちろんそれにもちゃんとした理由がある。なんとというかやはりというかそこはさすが相田だとしか言いようがない。俺たちが落ちていくのを見た彼女はすぐに俺たちの後を追って飛び降りたのだった。そして俺の腕をつかむとその近くにあった窓の清掃用のエレベーターのロープをつかんで勢いを殺すことに成功したのだった。

 

-----------------------------------------------------

 

「はぁ~」

「どうしたの?」

「いや、ほんとどうなるんだろうこれからとか考えてただけだ。多分あの連中、これっきりってわけでもないだろうしな」

 

キュアハートとなった相田の活躍によって二匹目のカニも無事に倒された。まぁ、その時にキュアソードが浄化した云々言っていたから厳密には違うのだろうが。それを見届けた謎の二人組は消えて行った。いかにも悪役っぽい捨て台詞を残して。

 

「でも、キュアソード・・・どうしたんだろう?」

「まぁ、あいつもよくわからないよな。話聞く前にどっか言っちまったし、何か知ってると思うけどな」

 

同じプリキュアとして戦おう、友達になろう。そういって差しのべられたその手を、キュアソードは拒んだ。彼女にも彼女なりに思うところがあるのだろうが結局何も聞くことができず、プリキュアについてもあの連中についても何もわからないまま終わってしまった。まぁこれは後で考えるとしてだ・・・

 

「ところで相田」

「何?」

「いい加減下に降りたほうがいいんじゃねえか?菱川が多分死ぬほど心配してると思うし」

「あ~そうだね。じゃあ比企谷君、戻ろうか?」

「それと、ちゃんと何かしら言い訳考えとけよ。残念ながらお前をフォローできるだけの話を俺は思いつかん」

「え~でも比企谷君だって一緒にいたでしょ~」

「俺は特に気にされるわけがないから問題ない」

「またそういうこと言って・・・よくないよ、そういうの。幸せとかきゅんきゅんとか、みんな逃げて行っちゃうからね」

 

その後、下に降りた俺たちを出迎えてくれたのは担任の先生、菱川、そして他数名の生徒たちだった。先生たちは相田や俺の適当にでっち上げた話を信じてくれたが約一名、相田に向かっていぶかしげな視線を送っていたのに俺は気づいた。菱川六花が複雑な表情を浮かべていた。

 

-----------------------------------------------------

 

遠足の翌日である今日。ぶっちゃけ遠足の翌日はもう休みでいいじゃんかと割と思ってしまうがここで自主的休学(さぼり)をしてしまうと相田や菱川がまた面倒くさいくらいに説教っぽいことをかましてくるんだろうからここは普通に登校した方がいいだろうな。まぁ個人的にあの後相田と菱川がどうなったのかが割と気にはなってるということもあるんだが。相田は嘘をつくのがおそらく苦手なタイプだろうし、何より相手は相田の幼馴染の菱川だ。感づいているとかいうレベルじゃない、おそらく何かがあったということを確信しているだろう。何か面倒なことが起こらなければいいのだが。

 

 

 

「おはよ~」

「あっ、おはよ~」

「昨日どうだった?」

「あのね~」

 

登校している中、昨日の遠足のことで盛り上がっている生徒がちらほらいた。俺としては楽しかったとかそういう思い出よりも複雑な何とも言えない経験をしていたため思い出を語り合うことができない。いや、まぁそれ以前に語り合えるような仲の人自体がまずいないんだが・・・

 

「おはよ~、八幡君!」

 

その声とともに肩に軽い衝撃を感じた。その方向へ目を向けるとにっこり笑顔の相田がそこにいた。

 

「おぉ、おはよう」

「おっ、八幡君、今日はちゃんとあいさつしてくれたね」

「いつもしてるだろ」

「うぅん、いつもは『ん』とか『あぁ』だけだもん。ちゃんと『おはよう』って言ってくれたのは初めてだと思うよ」

「そうなのか・・・」

「うん!だから八幡君も、一歩前進だね!」

 

そんなのいちいち覚えてるのかこいつ?やめろよそういうの勘違いしちゃうだろ?というかなんだ、この違和感?何か昨日と今日でこいつの何かが変わったような気がする。いや、外見的にとか行動的にとかそういうことじゃなくて、本当に些細なことではあると思うが・・・

 

「ふ~ん、比企谷君のこと名前で呼ぶようになったんだ?」

 

少しとげのある感じの声が相田の後ろから聞こえてきた。ジト目でこちらを眺めていたのは相田の幼馴染にして今の俺の最大の懸念事項でもあった菱川六花だ。というか、

 

「六花・・・あっ、おはよう?」

「なんで疑問形なんだよ、おはようさん」

「おはよう。それで?何があったの?」

「何がって・・・何?」

「どうして急に比企谷君のことを名前で呼ぶようになったの?昨日の時点では呼んでなかったでしょ?」

 

言われてみれば確かに。俺がさっきまで感じていた違和感はこれか。確かに相田が俺のことをしたの名前で呼んでいる。急にそんな行動に出た理由には・・・まぁ正直心当たりはない、ないはずだが一つだけそのきっかけになりそうなことはある。昨日のタワーでのあの騒動、それがきっかけなのか?

 

「え~と、それは・・・その・・・昨日ちょっとしたことがあって、八幡君と・・・ね」

 

ちょっと待てそのタイミングで俺に話を振るな。これ、絶対菱川がすんげぇ勘違いするパターンだぞ。ってほら案の定俺のことすげぇ見てるし。なんでそんなにごまかし方へたくそなんだよ。

 

「あぁ、まぁその・・・ちょっとわけありというか他言できない内容というか・・・」

「二人だけの秘密というか・・・そのぉ・・・」

 

やべぇ、このごまかし方もミスった~。余計に怪しさ全開だろこれ。人には言えないような秘密を共有しているって間違っているわけじゃないと思うがこうして聞いてみるとなんだか危ない隠し事をしているように聞こえてしまう・・・あっ、危ないことには間違いはないか。

 

「ふ~ん、あっそ。じゃあ私は先に行くから、お二人はごゆっくりどうぞ」

 

そう言い残して菱川はさっさと学校へ向かってしまった。あれは相当怒ってるな、経験でわかる。ソースは小町。普段いつも一緒に家を出るんだがそうしないときはしばらく不機嫌な状態が続くんだろうな・・・

 

「八幡君・・・」

「何だ?」

「どうしたらいいんだろう・・・」

 

どうしたらいいのかねぇ?

 

-----------------------------------------------------

 

さて学校についたのはいいのだが相田はなんかしおれた感じになってるし菱川は未だにツンツンしてるし・・・これどうすればいいのさ?ちなみに相田は生徒会としての挨拶活動に参加していて今俺たちは校門にいる。なぜ俺が生徒会役員でもないのにここにいるのかというとだ。

 

「ねぇ、比企谷君?ちょっと待っててもらってもいい?」

「あ?いや、別にいいけど・・・」

 

という具合でここで待たされているのである。いやもう思わず断ることができなかった。だって菱川超怖いんだもの。まぁまだホームルームまで時間もあるしどのみちこいつはいろいろと俺に聞いてくるんだろうと予想していたからな。人の波もひと段落したようで菱川がこっちに歩いてきた。

 

「んで?」

「マナとの間に何があったのか、聞かせてくれない?」

 

怖い、怖いよ。心なしか目からハイライトが消えているように見えなくもないし。こいつ絶対ヤンデレの気質があるよ。

 

「あ~そのことなんだが、俺の口からは話せねぇんだ。俺はたまたまあることを知ってしまっただけで当事者じゃねぇし」

「じゃあどうしてマナが急に比企谷君のことを名前で呼んだかは?」

「いやそれは正直わからない。別にそうしてくれとは頼んでないし」

「あ、そう。ほんとに何もなかったのね?」

「だからねぇっての」

 

本当に何もなかったんですってば。だからそのジト目やめてください若干怖いので泣いてしまいそうです。

 

「会長!大変です!」

 

突然数人の生徒が急いで登校してきた。ただ急いでいるだけならとくに変に思わないかもしれないが明らかに焦りよりも恐怖の感情の方が近い表情をしている。

 

「どうしたの?」

「化物が・・・信号機の化物が現れたんです!」

「信号機の化物?」

「何よそれ?この前のカニみたいなの?」

「あぁ、多分そうだろうな・・・」

 

「それが、こっちに向かってきているんです!」

 

またあいつらが現れたってわけか。とりあえず今重要なことはこの場から一般生徒を遠ざけること、相田が変身することができるようにしなければ止められるもんも止められなくなっちまう。

 

「みんなは急いでここから避難して」

「マナはどうするのよ?」

「私は、あの怪物の足止めしてみる!」

「無理よ!あんなの普通じゃない」

「大丈夫だよ。あたしに任せて六花も逃げて。それに八幡君も手伝ってくれるでしょ?」

「そこでなんで俺に振るんだよ・・・いやまぁやれってんならやるけど」

「だったら私も残る!」

「でも!」

「私じゃダメ?幸せの王子は一人じゃ幸せを届けられないの。私じゃマナのツバメにはなれないの?」

「・・・六花」

「相田、この際菱川にも手伝ってもらおう」

「八幡君・・・わかった。六花、お願い!」

「そうこなくっちゃ!」

 

-----------------------------------------------------

 

急いで俺たちが向かった先は体育倉庫。そこからバスケットボールが入っている籠を校門まで運び出した。ちょうどいいタイミングだったらしく、信号機の形をしたジコチューが坂を上ってきているところだった。

 

「行くぞ、「「せーのっ!」」」

 

三人で籠を倒してボールを道路にぶちまけた。緊急事態ではあったが、よい子は絶対に真似しちゃいけないからな。うまくいったようでボールを踏んづけたジコチューはかなり痛いころび方をしていた。

 

「ダレダオレノマエニボールコロガシタノハ!?」

「あたしだよ!」

「ちょっ、マナ!?」

「シャルル、行くよ!」

「まさか、ここで変身する気シャル?友達を巻き込む気シャル?」

「緊急事態だもん、それに六花なら大丈夫!」

「もう、どうにでもなれシャル!」

 

一体いつからそこにいたのかシャルルが相田のポケットの中から携帯状態で飛び出してきた。とりあえずもう菱川には隠すつもりはないみたいだな・・・

 

「菱川、よく見とけ。今の相田をな」

「えっ?」

「プリキュア・ラブリンク!」

 

その掛け声とともに相田の体が光に包まれた。その光から現れた相田の姿は変わっていた。今更ながらあれも本当に現実だったんだと実感してしまう。やっぱり当事者じゃねえと一回見ただけじゃ現実じゃないように思ってしまったのだろうか。

 

「みなぎる愛!キュアハート!」

「マナ・・・」

 

-----------------------------------------------------

 

キュアハートに変身した相田は一人ジコチューと戦い始めた。初めは善戦していたキュアハートだったがジコチューの不思議な力によって体の動きを止められてしまった。

 

「キュアハート!」

「どうしよう・・・このままじゃ・・・ん?」

 

突然菱川がメガネをかけた。こいつは遠くを見る時や集中するときにメガネをかけると相田が言っていたが何か見つけたのだろうか。

 

「比企谷君、あれ!怪物の背中に何かボタンみたいなの無い?」

「は?」

 

言われてみてジコチューの背中を目を凝らしてみてみる。するとその真ん中に「押してください」と書いてあるスイッチがあるのが見えた。この信号機型ジコチュー、ずっと赤信号の止まれ状態のままだと思ったら押しボタン式だったのかよ!?

 

「あれを押せばハートも動けるようになるかもしれないってことか」

「でも、うまくあの怪物に近づけるかな?」

 

確かに。あの怪物に気付かれないようにしながら後ろから接近して押す以外に方法はない。だがぐずぐずしていてはハートが危ない。

 

「菱川、俺が押しに行くからもし失敗した時にはカバー頼む」

「えっ?でも」

「頼んだぞ、ハートのツバメ」

「へっ?」

 

ここで俺の108ある特技の一つを使用する。自身の存在感の低さを最大限に活用して人知れず行動を起こす。その名もステルスヒッキー。残念ながら最近では相田や菱川のおかげで発動しようとしてもできなかったのだが・・・

 

一歩ずつ、一歩ずつ。あと少し・・・

 

「ン?」

「げっ!?」

「ダレダオマエハ~!?」

「ちっ!」

 

あと少しのところで気づかれてしまった。作戦失敗・・・とはならねぇよ!

 

「おらっ!」

 

勢いよくジコチューに掴み掛る。少しでも動きを制限することができればいい。あとは・・・

 

「頼んだ!」

「オッケー!」

 

後ろに控えていてくれた菱川が全力で走ってくる。今うまく後ろを向けなくなっているジコチューの背中のボタンを彼女が押してくれた。「しばらくお待ちください」という文字が表示される。もう少し、もう少し時間を稼げれば・・・

 

「シマッタ!?」

 

よっし、青信号に変わった。その瞬間このジコチューによって止められていた鳥やボール、そしてキュアハートも動けるようになった。

 

「二人とも、ありがとう!愛をなくした悲しい信号さん!このキュアハートが、あなたのドキドキ取り戻して見せる!あなたに届け!マイ・スィート・ハート!」

 

-----------------------------------------------------

 

キュアハートの浄化技によって信号機ジコチューは無事に浄化された。完全に疲れ切ってしまった俺と菱川はその場に座り込んでしまった。

 

「六花、八幡君!・・・大丈夫?」

「まぁ、この前に比べればまだましだな・・・」

「うん・・・二人の秘密って・・・こういうことだったのね」

「はぁ・・・まぁ、な」

「危ないから巻き込まないように秘密にしようと思ったんだけど」

「本当に信じられないくらい大きなことに巻き込まれたわ」

「感想は?」

「・・・今度から私も、ちゃんと手伝わせてよね」

 

思わず相田と顔を見合わせてしまった。

 

「流石は相田マナ唯一無二のベストパートナー、菱川六花・・・だな」

「いや~照れますな~」

「さて、問題はどうやって説明するかよね~」

「へ?何を?」

「・・・完全に遅刻だなこりゃ」

「へ?あっ、あぁ~!?」

 

やれやれ、これはこれでめんどくさそうなことが待っているみたいだな・・・

 




というわけで菱川さんと比企谷さんの連係プレーでした~

ちなみにカップリングを検討しているんですけどリクエストとかってありますかね?
あったら教えてくださいな~


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一歩を踏み込んでみる勇気

なんだかんだ聞かれなくても、続けてあげちゃう自己満足!

というわけで続きますよ、このSSは。

今回は一話分ではなく少しだけ砕くことにしました。


「じゃあ、改めまして自己紹介とかしようか!」

 

現在俺、相田、菱川の三人は理科準備室に集合している。ちなみに言うが自己紹介というのは・・・

 

「相田マナです!」

「菱川六花、よろしくね」

「比企谷八幡だ・・・これ、俺も必要なのか?」

「シャルルシャル!」

「ラケルケル!」

「ランスでランス~」

 

人間三人が横並びに座り、その正面に3匹の妖精たちが浮いているという構図だ。初めに言わせてもらおう。すんげぇシュールだ・・・

 

 

 

 

「・・・というわけケル」

「六花、わかった?・・・六花?」

 

一通り事情を菱川に説明し終えた俺たちだったが、緊急事態が発生してしまったようだ。あまりの出来事、というかあまりに突拍子もない話を聞かされた上にそれが否定しようにもしきれない現実だということもあって菱川の脳回路がショートしてしまっているようだ。まぁこいつは頭がいい分かなり現実的な考え方をする人間だからな。おそらく自分の知っている現実と今目の前に起きている現実がうまくかみ合わなくなってしまった結果云々なんだろうな・・・そう考えると相田はともかく割とあっさりこの現実を受け入れてしまっていた俺って結構頭の中問題があったのだろうか?何それヤダ~、ただでさえ変人扱い受けているのにもっとひどい扱い受けることになってしまうじゃねぇかよ。

 

「お~い、六花~」

「しっかりしろ、現実を見るんだ」

「っ、大丈夫!大丈夫だから」

 

ほっ、どうやら無事にこっちに戻ってきたようだ。一安心だな。

 

「とりあえず、状況はわかったか?」

「何とかね・・・でも、結局どうすれば解決するの?」

「それが・・・」

「僕たちにもよくわからないケル」

「まぁとりあえず目的云々はわからないとして、だその封印されているキングジコチューとやらの復活を遅らせる。当面の行動としてはそれでいいんだよな?」

 

「そういうことシャル」

「とりあえず、これから頑張って行こう!ねっ、二人とも?」

「いや、俺は戦わないし」

「それこそ菱川がいれば・・・菱川?」

 

また菱川の様子がおかしくなった。今度は心なしか表情もすぐれなく見える上に黙り込んでしまっていた。

 

「六花?」

「あっ、なんでもないよ・・・なんでもない」

「そう?あっ、そろそろ夕ご飯の時間だね!今日はうちで食べて行ってよ、ね?」

「あっ、うん、そうする」

「八幡君も!パパの作るごはん、すっごくおいしいんだから」

「ほ~ん、ならごちそうになろうかな」

 

断る理由もとくにないしな。それに・・・菱川の様子も気になるしな。

 

その後突然現れた教師にさっさと帰れと言われた俺たちは急いで帰りの準備を済ませ帰路に就いた。けど、その時何かが足りないような、忘れてしまっていたような気がするんだが気のせいだろうか?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いらっしゃいませ~って、お帰りマナ」

「あっ、パパただいま~!」

「お邪魔します」

「おや、今日は六花ちゃんも一緒か、ようこそ・・・ん?」

「・・・どうも」

 

洋食屋ぶたのしっぽ。相田の家族が経営しているレストランらしい。入口を入ってすぐ木製のテーブルやカウンターが目につく。カウンターの裏に立っているコック服に身を包んでいる男性。この人が、相田マナの父親・・・とりあえずこっちに気付いたようだから挨拶をしてみたがどうにも反応がない。何か俺したかな?

 

「ま、ま、マナが・・・」

「?あたしがどうしたの?」

「マナが男の子を連れて来た~!」

「何?何?どゆこと?」

「何事じゃ!?」

 

次々にあらわれる相田一族・・・なんなのこの現状?というか全員が全員俺のことを見ているんだが何?俺が何かしたの?というかさっきの発言、完全に何やらあらぬ誤解が生じているような気がするんだけど・・・

 

「なぁ、相田?これ何どういう状況?」

「さ、さぁ?六花、どうしたらいいのかな?」

「私に聞かれても・・・」

「君、名前は?」

 

うぉっ、びっくりした。さっきまで家族で固まっていたと思ったらいつの間に俺の前まで来てたんだこの人。相田も結構気づいたら近くまで来ていたってことあるけど何?親譲りの才能か何かなの?

 

「あ~比企谷八幡ですけど・・・相田とは同じクラスです」

「そうなのかい?今日はどうしてうちに?」

「なんか相田がうちでご飯食べないかって誘ってくれたんで三人でちょっとやることがあったので・・・」

 

何で俺急に質問攻めにあっているの?俺何かした?いやないな、そもそも個々の人たちとは全員初対面だし入って数分間の間に俺がしたことと言えばあいさつしたことくらいだし。

 

「あの・・・俺、何かしました?」

「気にしなくてもいいと思うわよ・・・ただ珍しいだけだと思うから」

「珍しい?」

「マナって誰とでも仲良くなれるけど、「友達」は少ないのよ。さらに言えば今まで男の子の友達なんていなかったし」

 

「そうなのか?」

「そんなマナが突然家に男友達を連れて来たんだものそりゃびっくりもするでしょ」

「いや~あたしもびっくりしたよ~。まさかみんなこんなに驚くなんて・・・」

「おっと、すまなかったね。すぐに夕食の用意するから少し待っていてくれるかい?」

「あ、はぁ」

 

なんだか暖かいというか明るい家庭だな。うちは両親共働きだし小町は割と友達の家に行ってばかりだし家の中がこんなににぎやかなのはあまり経験したことがなかったな。この家で育ったらそりゃ相田もあんな感じに育つわけだな。

 

「ん?八幡君どうしたの?」

 

どうやら無意識のうちにじっと相田のことを見てしまっていたようだ。いかんいかん、家族の前でそんな意味深なことしたら変な誤解をされてしまうだろうが。

 

「いや、なんでもない」

 

結局俺の下の名前で呼んでいるということについて再び相田の家族が驚いていろいろと聞いてくることもあったがそれはまた別の話。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あ~満足。さすがに洋食屋ということだけあって相田の父が作ってくれた夕飯はうまかった。御代を払おうとしたら「いいよいいよ、マナの友達だしね。これからも仲よくしてあげてくれ」とか言われて結局ただで食べさせてくれたし、なんならおかわりも自由にさせてくれた。やべぇよあの人超かっこいい。

 

「ごちそうさまでした」

「ごっそさん」

「ごちそうさせました」

 

外も暗くなってきたこともあり、俺と菱川は帰ることにした。ご丁寧な菱川と若干投げやりな俺のお礼の言葉に相田は奇妙な造語で返事しやがった・・・お粗末様とかでいいだろそこ?まぁお前が作ったわけじゃないから何とも言えないが

 

「六花、よかったら僕のパートナーになってくれないケル?」

「えっ?」

「六花は頭もいいし、優しいし、一緒に戦ってくれると頼もしいケル」

「それいいよ!名前は・・・そーだなぁ。あたしがハートだから・・・キュアダイヤとか?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ私は、マナみたいに運動神経良くはないし。それに私にはああいうフリフリした衣装とか、多分似合わないし。マナの足を引っ張るようなことはしたくない」

 

「そんなことないよ!あたし、いつも六花に助けてもらってばかりだし」

「・・・ごめん!でも、今まで通りサポートはするから。じゃあ帰るね」

「じゃあ俺も」

「あ・・・そっか。じゃあ、また明日ね。八幡君、六花のことよろしくね~!」

 

それはつまり家まで菱川を送れということですかそうですか。まぁ確かにそこそこ暗くはなってるからな・・・

 

「・・・まぁ、じゃあ送るわ」

「あ、うん。ありがとう」

 

 

MU・GO・N!

 

菱川の家まで送ることになった俺はとりあえず菱川の隣を歩いているだけだった。同じ秘密を共有していて協力関係となった俺たちではあったがやはり相田がいないと特にお互いに話すこともないためかただひたすらに歩くだけになっていた。

 

別に会話がないことに対しては気にはならない。ただ、先ほどから菱川が何やら沈んだ表情をしているのが気になる。先ほどの相田との会話からやや気分が沈み始めていたようにも見えたためおそらくはああいう返事をしておきながら自分自身ではどこか思うところがあるのだろう。

 

本来ならば、ボッチたる俺が他人の悩み事に首を突っ込むなどという愚行に走った暁には俺の社会的抹殺及び新たな黒歴史の一ページの始まりとなるために極力関わらないようにするのだが、なんだかんだ言ってこいつとはプリキュアの件で協力関係にあるわけだし、なんならあのジコチュー連中がいつまでいるのかわからないわけでもあるからな。付き合いが長くなると予想されるのであればここで何もしないというのは少々後味悪くなるだろうな。俺は意を決して菱川に話しかけることにした。

 

「なぁ、菱川」

「何?」

「お前、何をそんなに迷ってんだ?・・・まぁ、言いたくなきゃ別にいいけどよ」

「何?もしかして慰めてくれるつもり?」

「いや、それはないな。俺は妹以外の女子の慰め方なんて知らねぇし。何なら慰めようとしたら逆に泣かれたまである」

 

「なんでそんなに誇らしげなのよ・・・」

 

いやだってそうでもしないとなんだか悲しくなっちまうんだよ。こういう話って忘れられないからな。だからネタにすることで自分の中でも笑い話に意図的にしているんだよ。

 

「まぁでも気にしなくてもいいわよ。大したことじゃないし」

「そうか?そうは見えねえけど」

「さっきも言ったけど、マナの足を引っ張りたくないだけ。私はマナほどすごくはないから・・・」

「全国模試で必ず上位10人に入るやつのせりふとは思えねぇな」

「医者を目指しているわけだし、それくらいはね。それしかマナの役には立てないから。マナほど運動できないし、行動力もないし」

 

「けど相田に必要とされている。それだけでお前がやるには十分な理由じゃねぇの?」

「・・・ここ、私の家だから。また明日ね」

「・・・そうか。んじゃまた明日な」

 

どうやら、俺に話すような内容ではないということらしい。なら俺も引き下がろう。特にしつこくかかわろうとする理由もないしな。はてさて、この先の雲行きが怪しくなったような・・・まぁ、俺にはどうしようもないことなんだろうな。

 




ドキプリの何がいいって相田マナのあのプリキュアピンクチーム随一ともいえるオールマイティーさですよ。

なんですかあのチート主人公は。しかもその行動や思考は八幡とはある種正反対なものにも見えますし、どこか似ているようにも思えますね。

どこかのエピソードでこの二人の考え方の対立か何かを描けたらいいと思ってるんですけどね~


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英知の光とお嬢様?

3人目のプリキュアで、4人目のメインキャラクター登場ですね~

あぁー寒いな~。具体的に言うと指先と爪先が寒い・・・冷え性なんで


翌朝、せっかくの土曜日ではあったが今後についてもっと深く話し合おうという相田の一声で俺は朝の惰眠を削ることとなった。ご丁寧に相田の奴、「八幡君は寝坊しそうだからね」とか言ってわざわざ俺の家に先に来やがった。ちなみに小町は初対面で相田のことをえらく気に入ったらしくすぐに連絡先の交換をしていた。ついでに俺もした。まぁ知っておいて損はないだろうし、なんならむしろなぜ今まで必要な状況が訪れなかったのが不思議なまである。それだけ俺たちが一緒に行動することが増えたということなのだろうか。

 

「あれ?」

「ん?どした?」

「あそこにいるの、六花じゃない?」

 

隣を歩いていた相田が指差した先には確かに菱川がいた。ちょうど手紙を出しているところなのだろう、目の前にはおなじみの真っ赤なポストがあった。

 

「ラブレター?」

「っ、マナ!?」

 

少しニヤッとしながらそっと菱川の背後に回った相田。気づいていなかったのだろう、突然かけられた声に少しびくっ、としていた。なんだよちょっとかわいいとか思ってしまっただろうが。まぁ思うだけで決して口にはしないけどな。したら俺が傷つくだけだし、多分。

 

「お父さんに手紙出してるだけよ。出さないとすぐにすねるんだから。あっ、比企谷君おはよう」

「うっす。親父さん、出張か何かか?」

「あれ?知らないの?六花のパパって世界的に有名なカメラマンなんだよ!」

「カメラマン?マジか」

「今はマチュピチュにいるんだって。昨日お土産付きで手紙が来てたのよ」

「いや~ほんと、すごいですなぁ~六花のパパは」

「マナのパパだってすごいじゃない。料理であんなに人を感動させることができるなんて」

「普通の両親のもとに育った俺からすればどっちもすげぇけどな。それよか、なんか話があるから集まったんじゃねぇの?」

「あっ、そうだった。それでね、このラビーズをくれた人に話を聞こうと思って」

「あの男の人ね。一体、何者なのかしら」

「それはいいだが、お前今あの人がどこにいるのか知ってるのか?」

「えっ?わっ!」

 

俺の言葉に振り向いてしまった相田が前にあらわれた人に気付くことができずにぶつかってしまった。これって俺のせいでもあるよな、やっぱり。

 

「ごめんよ、大丈夫かい?」

「あ、はい。って、あぁ~!?ラビーズのお兄さん!?」

「あっ!」

「・・・んなあっさり」

「やぁ、また会ったね君たち」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「でも、ラッキーといったところかな。開店初日に君たちと出会えるなんて、運命ってやつかな」

「開店?」

「あれが僕の店だよ」

 

彼が指差した先にはいつの間にできていたのだろうか変わった形をした建物が建てられていた。アクセサリーショップを開くことにした・・・ということなのか?

 

「わ~かわいい!」

「よかったら寄っていくかい?」

「ぜひ!」

「いやちょっと待て」

「へ?」

「あなた、一体何者なんですか?あなたにもらったこのラビーズでマナは変身したんですよ!」

「変身・・・女の子はちょっとしたことで変わるらしいからね~」

「いや比喩じゃないんですけど・・・」

「あたし、本当に変身しちゃったんです」

「知らないとは言わせないんだから!」

「っふ、そんなに僕のラビーズを気に入ってくれるなんて嬉しいな。あっ、そうだ。さっき荷物を整理したらこれを見つけたんだけど」

「っ、ラビーズ」

「せっかく開店初日に来てくれたんだから、これは君に上げよう」

「そんなもの頂けません!私はあなたの思い通りになりません!」

「君は何か勘違いしてるよ僕が君を選んだわけじゃなくて、ラビーズが君を選んだんだ。その力をどう使うかは君次第なんじゃないのかい?」

「・・・それは」

 

胡散臭い・・・胡散臭すぎるぞあいつ。明らかにラビーズについて、プリキュアについて何か知っている口調だ。菱川じゃねぇけどこいつのことは少し警戒していなければいけないみたいだな。

 

「マナ、八幡。大変シャル」

「なに?」

「どした?」

「ジコチューの波動を感じるケル」

「どうしよう?」

「とりあえず、そっちに向かったほうがよさそうだな。菱川!」

「ほら、お友達が呼んでるよ」

「・・・また後日で詳しい話を聞きに来ますから。行こう、マナ」

「あぁ、そこの少年君」

「なんすか?」

 

「君もそれなりの覚悟を持っていたほうがいいよ。この先、きっと大変なことも多いだろうからね。いつか必ず彼女たちに君が必要な時が来ると思うよ。その時に君がどうするか・・・よく考えておくといいね」

 

「・・・ご忠告どうも」

 

先に向かった二人の後を追って走り出した。ジコチューのこともあるが何よりこの男に得体のしれないものを感じ、なんだか話していて気持ち悪くなったからだ。まるでこの先に何が起こるのかを見透かしているみたいだ。本当に、何者なんだ、あいつ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、いいからゆうことを聞けって!」

「ウメェーウメェー、テガミモハガキモウメェー」

「だぁかぁら、いい加減にしろってぇ!」

 

でっけぇ黒ヤギと白ヤギの半分こ怪人が大量の手紙を食べていた。なにこれ?子供のころの懐かしい歌を思い出すんだけど・・・仕方がないのでお手紙書くんですか?

 

「これっ、六花のエアメール・・・人の思いのこもった手紙を食べるなんて、許せない!シャルル!」

「オッケーシャル」

 

「プリキュア・ラブリンク!みなぎる愛、キュアハート!愛をなくした悲しいヤギさん!このキュアハートがあなたのドキドキ取り戻して見せる!」

 

「出たな~プリキュアめ。ジコチュー!あいつをやっちまえ!」

 

その言葉に従ったのかハートの持っていた手紙にひかれたのかは知らないがヤギのジコチューはまっすぐ突っ込んできた。単調な攻撃だ。これならハートは

 

「くっ、手紙が・・・」

 

思っていたよりもハートは苦戦していた。その両手には大量の手紙が抱えられていたからだ。あいつの性格だ。きっとそれを手放してまで戦おうとは思わないだろう。だが手紙を抱えた状態でまともに戦えるはずもない。ここは・・・

 

「俺が手紙を回収するっきゃねぇな!」

「そうはいかねぇ!そう何度もお前に邪魔されてたまるか!」

 

ハートの手助けをしようと走り出した俺の前にイーラと呼ばれていたジコチュー少年が現れた。そのまま繰り出されたけりに反応することすらできずあえなく吹き飛ばされてしまった。

 

「がっ!?」

 

ブロック塀に激突させられた俺の口から息が漏れる。少しばかり鉄の味がすることから察するにどうやら口の中のどこかが切れているようだ。

 

「そこでおとなしく見てなって、プリキュアがやられるのを」

「くそったれ・・・」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「比企谷君!キュアハート!」

 

どうしよう、どうすればいいんだろう。今の私には、この状況をどうにかすることなんて・・・

 

「あっ」

 

ふと自分の手の中に握られているそれを見る。

 

「キュアラビーズ・・・」

 

これがあれば、私もプリキュアになれるの?でも、私なんかに務まるわけがないし。

 

「菱川!」

 

急にかけられた声の方向へ目を向ける。口からわずかに血を垂らしている比企谷君が私のほうを見ていた。いつもの死んだ魚のような眼、その奥に強い輝きのようなものが見えたような気がした。さっき壁にぶつけられて相当痛い思いをしたはずなのにそれでも彼の眼はあきらめていないことを示していた。

 

『相田に必要とされている。

それだけでお前がやるには十分な理由じゃねぇの?』

 

昨日の比企谷君が言っていたことを思い出す。今、きっと私が動けばマナも、比企谷君のことも助けることができる。動き出すのなら、それは今だ!

 

「ラケル!」

「ケル!?」

「お願い、力を貸して!」

「わぁっ、もちろんケル!一緒に行くケル!」

「うん!プリキュア・ラブリンク!」

 

 

まばゆい光。それは相田の元からではなく、少し離れて立っていた菱川の元から発せられた。その輝きの原因を俺は一度見たことがある。そうか、ついに菱川が・・・

 

「英知の光、キュアダイアモンド!」

「また新しいプリキュアだと?」

「キュア、ダイアモンド!」

「人の思いがこもった手紙を食べるなんて許せない!このキュアダイアモンドが、あなたの頭を冷やしてあげる!」

 

菱川の髪や瞳の色に近いきれいな青色をまとうプリキュア。ハートの時よりもだいぶんフリフリしている感じがする衣装ではあったが本人が心配しているほど似合っていなくはなかった、というかむしろすげぇかわいいと思う」

 

「はぁ?」

「えっ?」

「・・・」ボンッ

 

あれっ?さっきまでのシリアスな感じから一転、敵味方関係なしになぜかこちらに注目している。何かあったか?

 

「ぇ、あぅ、いやもうそんなこと言ってる場合じゃなくて!ラケル、行くよ!」

「えっ?あ、はいケル!」

「煌きなさい、トゥインクルダイアモンド!」

 

指先から放たれた凍てつくような攻撃はジコチューを包み込み完全に浄化した。ジコチューによって行われた破壊活動の影響はまた完全に戻った。おそらくはジコチューが食べていた分の手紙も元に戻っていることだろう。

 

「まっ、これにて一件落着って感じだな」

「う~ん、まぁ確かにそうなんだけど・・・」

「なんかもう、変身することさえ恥ずかしい気がしてきたわ・・・」

「あ?なんでだよ?」

「八幡君、全然覚えてないみたいだね。もしかして無意識だったのかな・・・」

「何がだ?」

「はぁ・・・もういいわ。気にした私がばかみたいだもの。こうなったからには、最後まで付き合うわよ。八幡君もね!」

「あ、おう。というかお前も急に名前呼びなんだな」

「いいじゃない別に、これから一緒に戦う仲間なんだから」

「・・・まぁ好きにしてくれ」

「でもプリキュアが増えたことはいいことシャル」

「そうケル!これであとはランスがパートナーを見つければ・・・あれ?」

「どうしたのラケル?」

「ら、ら、ランスがいないケル!」

「は?」

 

「「「ええぇぇっ!?」」」

 

「そういや全然見てねぇと思ったら」

「どどどど、どうするシャル!?」

「いつから、いつの間にいなくなっていたっけ?」

「え~と、確か理科室でラビーズを調べたときはいて・・・」

「そういえばそのあとから見てなかった気がするケル!」

「ってことはその時にはぐれたのか?」

「じゃあ今はどこに?」

「その疑問には、わたくしがお答えしますわ」

「えっ?」

 

気が付くとすぐそばにピンク色の明らかに高級そうな車が止まっていた。その近くには執事らしき人と、黄色い服に身を包んでいるやたらと風格というか、威厳のようなものが感じられる少女が立っていた。歳は俺たちとそう変わらないだろうがどこか大人びたイメージすら感じる。

 

「アリス?」

「マナちゃん、六花ちゃん、お久しぶりですわ」

 

 

 

 

 

 

「・・・っていうか誰?」

 




なんかこう、うまい具合の時間できないかな~

分身とか作って、それに他のことやらせて書き続けるとか。

まぁたぶん何をやるかで分身とけんかして終わりそうだな~


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プロデューサーは戦わない!・・・なんで?

取り合えず間隔短めですけど続きを載せちゃいます

そろそろ時間とれるようになると思うので続きをちゃんとかけたらいいんですけどね~


「改めまして自己紹介させていただきますわね。わたくし、マナちゃんと六花ちゃんのお友達の四葉ありすですわ」

「はぁ、どうも。相田と菱川の同級生の比企谷八幡です」

 

ところ変わって大豪邸に案内された俺たち大きな部屋に案内されそのままお茶を出されていた。ソファに座っている四葉とその体面に菱川、相田、俺の順番に腰かけていた俺たちだったが俺以外の二人は完全にリラックスしていた。友達というだけあってきっと何度も御呼ばれしているのだろう。しかしながらこんな経験初めての俺からすればどうふるまえばいいのか全く分からない。

しかし、四葉・・・もしかして

 

「ありすは正真正銘のお嬢様、なんとあの四葉財閥のね」

「やっぱそうなのか・・・お前らすげぇやつと友達なんだな」

「ありすとは小学校が一緒だったんだ」

「ってことは幼馴染ってことか?」

「そういうことでございますわ」

 

え~ってことは何?俺邪魔な感じじゃねぇの?けど最初に誘われたときにちゃんと行かないという意志表明をしたはずなんだけどな~。それでも是非にって四葉が言ったのと、相田と菱川に半ば連れていかれるようになったからここにきてしまっているわけで・・・

 

「それで、ありすどうしたの?」

「恒例のお茶会はまだ今日じゃなかったと思うけど何かあった?」

 

こいつらそんなことしてたのか?本当に仲がよろしいことで。

 

「はい、実はプリキュアのことでお話がありまして」

「えっ?」

「「ぶっ!?」」

 

四葉の発したひとつの単語に俺たちは反応してしまう。なぜ彼女がプリキュアについて知っているのだろうか。これは大きな問題だ。だがその前に俺にはとんでもない危機が迫っていた。

 

俺と違って紅茶をちょうど口に含んでいた相田と菱川。先ほどの四葉の発言があまりにも衝撃的だったらしく二人して女子にあるまじき行動を起こしてしまった。しかしそこは相田と菱川、ちゃんといろいろと考えたうえでことを起こした様子。正面には四葉、そして隣には友人が座っていることからおのずと彼女たちはお互いに顔をそむけるような形になった。

 

普段ならこれで問題はなかっただろう。ただ、ここでイレギュラーなことがあった。それは今回のお茶会、俺もいたということだ。もうお分かりだろうか?お互いに顔を背ける形で霧吹きしてしまった菱川と相田。そして座席の並び順。そこから導き出される回答は・・・

 

「あ・・・ごめんね、八幡君」

「いや、まぁ、うん。気にするな」

 

まさか同級生女子に紅茶をぶっかけられることになるとは思ってもいなかったわ。それも怒りに任せてただぶっかけるというならまだわかる。そうではなくて一度口内に含まれたという特殊な状態のものが俺の上半身、主に顔を濡らしていた。まぁすぐに執事のおじいさんが持ってきてくれたタオルでふくことができたからまぁいいんだが。

 

「それで、四葉さんは「お待ちください」えっ?」

「わたくしのことはありすとお呼びください」

「は、いや、でも初対面なわけですし、それにそもそも立場が・・・」

「マナちゃんのお友達はわたくしのお友達ですわ。それにわたくしたちは同い年。何の問題もありませんわ」

「いや、けど・・・」

「これから長い付き合いになると思いますし、私の持つ四葉財閥という立場をあまり意識されても困りますので。だから、私のことは名前で呼んでくださいな」

「はぁ、わかりま「敬語もです」・・・わかったよ。あ、あり、す」

「はい、よくできました!」

 

押し切られてしまった。すっごいずっと笑顔なのになぜか逆らえない。ていうか俺は敬語外すのにそっちはそのままなのかよ。やっぱり財閥のお嬢様というのは一般市民にとっては逆らい難い存在なのだろうか。というかまぁうん、俺が押しに弱いだけですよね。

 

「じゃあ話を戻して、あ、ありすはなぜプリキュアのことを知ってるんだ?」

 

やっぱり名前で呼ぶのはどうしても照れてしまう。が今はそんなことよりも重要なことがある。お嬢様ではあるけれども、基本的にそれ以外は一般の人間に変わりはないはずの四葉ありす。その彼女がどうしてプリキュアのことを知っているのか。

 

「はい、それはですね・・・」

 

とありすがリモコンを操作すると大きなスクリーンが天井から降りてきた。そしてそこに映し出された映像は・・・

 

『プリキュア・ラブリンク!みなぎる愛、キュアハート!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

これがアニメなら間違いなくだらだらと汗を流しているであろう俺、相田、菱川はその映像に言葉を失ってしまった。なぜこんな映像がある!

 

「こ、これは・・・」

「なんというか・・・」

「これはクローバータワーの監視カメラに写っていた映像ですわ」

 

あの時のかぁ~!!

 

「わたくしがすぐに気づいてくしゃぽいしたからよかったものの。もう少しで大変なことになっていたかもしれませんのよ」

「はい、反省してます」

「本当にそうね、ありすがいてくれてよかったわ」

 

相田たちがどこまで理解しているかはわからないが、これは本当に下手するとシャレにならなかったかもしれないのだ。もしあの映像が一般人にわたっていたら?もしかしたらどこぞのテレビ局に流れ着いていたかもしれない。その場合相田の身に何が起こるかもわからない。プリキュアのあの人間とはとても思えないような驚異的な身体能力。それを悪用しようと考える人間が出てくるかもしれない。そうでなくともその力を「平和利用」したいがために相田を実験材料と考えるやつが出てもおかしくない。それはひいてはシャルルたち妖精や、彼女たちの出身地であるトランプ王国にまで被害が及ぶかもしれないのだ。そう考えると本当に運が良かったとしか思えない。

 

「それで、ありすはこのことについてどうしたいんだ?」

「安心してください、誰にも話すつもりはありませんわ。ただ、プリキュアをプロデュースさせてほしいだけですわ」

「プリキュアの・・・」

「プロデュース?」

「大体の事情はもう聞いていますので」

「えっ、誰から?」

「それは・・・」

 

また別のボタンを四葉が操作すると今度は地面からやや小さめの台が出てきた。その台の上に乗せられた小さなソファーで、ジュースを飲みながらくつろいでいる小さな影。そこにいたのは

 

「どうもでランス~」

「ラ、ランス!?」

 

行方不明になっていたランスだった。

 

「いやぁ~どうもどうもでランス~」

「なななななんでランスが」

「こんなとこにいるケル!?」

「それは~」

 

どうやらランスが俺たちとはぐれたのはあの理科室にいた時で正解だったようだ。眠ってしまっていたために俺たちが退出するのに気づかなかったとか。そして目が覚めたら外は真っ暗。そんな状況でランスは俺たちを捜し歩いていたらしい。

 

「そこをわたくしが発見してうちに連れて帰ったのですわ。プリキュアの話もその時にお聞きしました」

「そういうことは勝手に話しちゃダメシャルよ!」

「でもシャルルだってマナに話したでランス~」

「まぁいずれにしてもだ。もうすでに事情は知っているのはわかった。けど、プロデュースってどういうことだ?」

「プリキュアの活動は秘密。誰にも話すことができません。でもいち早くあのジコチューと呼ばれる敵を倒さなければならない。でしたらすでにその秘密を知っているわたくしが協力しますわ」

「協力ってどんな風に?」

「それは・・・あら?」

「マナ、ジコチューの鼓動シャル!」

「えっ、場所はどこ?」

「大貝町の駅前のようです」

「えっ!?わかるんですか?」

「四葉財閥の情報網を侮ってもらっては困りますわ」

 

すげぇな四葉財閥。どんな情報網を持っているんだよ。シャルルたちがジコチュー出現を感知したのとほぼ同時だったぞ。

 

「それでは、参りましょうか。セバスチャン」

「はっ」

 

また新しいスイッチを押すと今度はちょうどこの部屋の外、ただの開けた通路だと思っていた場所が開き地下から車が上がってきた。さらにはその場所に面していた壁も地面に引っ込みいつでも準備オッケー状態になった。いやだからどんな秘密基地だよこの家!?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あ~すごい運転だった・・・もうね、死ぬかと思ったわ。おかげで割とグロッキー状態です。

 

「み、みなぎる愛、キュアハート・・・うぅ」

「英知の光、キュアダイアモンド!って大丈夫!?」

「うぷ、よ、酔った・・・」

 

正義のスーパーヒーローまでもがあの様子だ。一般人の俺にはきつすぎたのだが・・・

 

「おかわりはいかがですか?」

「ありがとう」

 

なんか平然としながら紅茶を飲んでいらっしゃる。本当に只者ではないんだな、このお嬢様は。って、あれ?

 

「よつ・・・ありすは戦わねえのか?」

「ええ」

「何やってるでランス~!僕たちも早く一緒に戦うでランス~」

「必要ありませんわ。もう勝負はついていますもの」

「え?」

 

iPodにそっくりな形をしていたジコチュー。ヘッドホンから音による攻撃を発射していた。ハートとダイヤモンドはそれをよけることしかできずにいたが突然攻撃しなくなった。なんだ?どういうことだ?

 

「どうした?って、電池切れ~!?」

「なんでそんな変なとこまできっちり再現してるんだよあれ・・・」

「今です!」

「あなたに届け、マイ・スィート・ハート!」

 

あっけなく、本当にあっけなく決着がついた。結局ハートたちはよけて時間をかけていただけ、俺はそこに立っていただけ。そしてありすは紅茶を飲んでいただけ。それだけだった。

 

 

「目撃情報についてはすでに手をまわしてあります。ネットなどに挙げられた写真やつぶやきについても同様です」

「ありがとう、セバスチャン。と、こんな風にわたくしたちの力をもってサポートさせていただきます」

「さすが四葉財閥・・・」

「でも、確かに私たちにとってもすごく助かるわね」

 

ところ変わって再び四葉財閥宅。完全に作戦室扱いをされているこの部屋へ案内された俺たちは先ほどの戦いについての振り返りがてら四葉財閥のサポートがどんなものなのか詳しく理解した。しかしネット上に挙げられた情報にまで干渉することができるとか、何この財閥怖すぎるんですけど。というか敵ではなく味方であることが本当に頼もしいことこの上ないな。

 

「ありすは、どうして戦わないランス?」

 

と、これにて一件落着な雰囲気を出していた相田たちだったが、その空気を切ったのは最もぼけっとしている印象のあったランスだった。まっすぐその目はありすを見据えていた。

 

「マナも六花も必死に戦ってたのにありすだけお茶を飲んでいて。そんなのどう考えてもおかしいでランスよ!」

「ランスちゃん・・・」

「でもプリキュアになるにはキュアラビーズが必要なんだし」

「キュアラビーズ?」

「ほら、これ」

 

髪を結ぶリボンに普段つけているラビーズをはずし、相田はありすに見せる。相田も菱川も同じようにこのラビーズをパートナーの妖精が変化した端末にセットすることで変身している。仮にランスをパートナーにすることができたとしてもこれがなければ意味がない。

 

「それでしたら、セバスチャン」

「はい、こちらに」

 

そういって執事が差し出した小さなトレーのようなもの。その上に載っていたのは金色の・・・

 

「ってラビーズじゃねぇか」

「ちょっと、それ、どこで?」

「町にいた際にアクセサリー店にいた金髪の男性から頂きましたわ」

「金髪の男性・・・」

「それって、多分・・・」

「あぁ、あいつだな」

 

間違いなく、今俺たち三人の頭には、共通のひとりの顔が浮かんでいるだろう。きらりとか効果音が入りそうな、いかにも怪しい笑顔を浮かべているあのアクセサリー店の男が。ほんとマジで何者だ。

 

「だったら話が早いでランス!ありす、僕のパートナーになってほしいランス!僕はきっと君に会うためにここにいるでランス!だから!」

「・・・ごめんなさい、わたくしはプリキュアにはなりません」

 

そういって彼女は自分の手を握っていたランスの手をそっと離した。その際の彼女の表情は少し沈んでいるように見えた。何か大きな葛藤があるような、迷いがあるような、そんな顔をしていた。

 

「あ、ありすの・・・バカ~!」

 

しかし幼いランスにはそのことを察することができず、なきながら飛び出して行ってしまった。

 

「ランス!」

「待つシャル!」

 

その後を追うように相田と菱川、シャルルにラケルが部屋から飛び出していった。俺も追いかけようかと思ったがその前に自分の中に生じた疑問を解消すべくいまだ悩みを抱えているような表情をしているありすと話してみようと思った。普通初対面で相手の内面に踏み込もうとするのは無粋というか失礼なまであるかもしれないが、そこを聞かない限りは協力関係を維持するのにも何かしら支障をきたすことになるかもしれない。つまるところ、俺は知っておきたいと思ったのだ。この四葉ありすという個人について。

 

「なんで断ったんだ?」

「わたくしには、戦う資格などありませんわ」

「そういってる割には浮かない顔してるが?それにそれならラビーズをとって置く理由がわからん」

「・・・それは」

「まぁ話したくないならしょうがないけどよ・・・その何?一応これから協力し合うわけなんだし、話してくれたほうが俺としては助かるというか、なんというか」

「そうですわね・・・マナちゃんたちのお友達なのですし、話しておいたほうがいいかもしれませんわね」

「すまん、助かる」

 




とりあえず完全仕様変更してからは初投稿になりますかな?

といっても本当に「」をまとめたのと名前消しただけなんですけどね・・・

何か変わった感じしますか?


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お嬢様の実力

あっ、pixivに追いついてしまった・・・
まぁ、うん。これからは同時並行で行きましょうかね(・・;)


いわく昔はお嬢様だからいじめられていたということ。いわくそれを相田たちに助けてもらって仲良くなったということ。いわくいじめた相手が中学生の兄を連れてきた挙句相田を泣かせたこと。そしてそれにきれたありすが・・・

 

 

「ということがありました」

「えっ、何それ?ありすってそんな強かったの?」

「昔からおじい様から空手や柔道、剣道なども教えていただいていましたので。あの一件以来、武術の修練はやめてしまいましたが」

「けど、それならなおさらあいつらと一緒に戦えばいいんじゃねぇの?戦力としては大きく助かると思うし、あいつらも安心する」

「わたくしは恐ろしいのです。また自分の感情を抑えられずに誰かをひどく傷つけてしまうことが。こんなわたくしに、戦う資格など・・・」

「ってことはあれだろ?本音では一緒に戦いたいんだろ?」

「えっ?」

「なんとなくだけどな、相田の友達ってならそう思うんじゃねぇかと思っただけだ。発言からしても戦いたくないと思ってるわけじゃないっぽいしな」

「それは・・・」

「無理に戦えとは言わねぇし、別に協力してくれるのは素直に感謝する。けど、お前自身がそれでいいと思っているのか?」

「いえ、それでも。やっぱりわたくしは・・・」

「ありすのバカ~!」

「え?」

 

 

 

 

いつの間に帰ってきていたのか空いた窓から入ってきたらしいランスがさっきの捨て台詞を繰り返してきた。こら、そんなにバカバカ言うんじゃありません。お母さんとかに言われなかった?「バカっていうほうがバカなんです!」みたいなこと。

 

 

「プリキュアの力は大切なものを守るための力。それを怖がっちゃだめでランス!」

「守るための、力」

「『心を鍛えよ』っていつだったか俺の知ってるヒーローが父親から教えられていたな。お前が身に着けてきたものも、今こうして手に入れるかもしれない力も、要はお前がどうするかだろ。何のためにお前はその拳を振るうんだ?何のために戦う?」

「わたくしが、戦う理由は・・・」

 

 

ぎゅっと握られたその手。お嬢様らしい傷が見当たらない小さな手。しかしその手を握る彼女の表情は凛としていた。一種のオーラ、つわものの風格さえ感じられた。そっと開かれた瞳にはもう迷いは感じられなかった。

 

 

「大切な人たちを守るため!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さぁジコチュー!さっさととどめをさせ!」

「ど、どうしよう」

「コンセントにつながってるなら、電池切れもないし・・・」

 

 

「お待ちなさい!」

 

 

突然響いたその声に、敵味方関係なく一瞬ほうけた。これもこのお嬢様が持っているカリスマなのだろうか。相田以上に半端じゃない雰囲気をまとっている。しかし割りとどうでもいいことではあるし、正直今言うべきことでもないかもしれないんだが。

 

 

「死ぬかと思った・・・」

 

 

どう見ても相田たちがピンチなわけで、そう考えると急いできたことが正解なわけで、むしろよく間に合わせたと執事さんの運転技術に感服するべきところなのかもしれないだろうけれど、まさか最初の出動時よりも激しい運転になるとは思ってもいなかったわ。

 

 

「わたくしはもう、逃げ出しません。わたくしの力で、大切な人たちを守りたい。そのための力が私にあるというのなら!」

 

 

その言葉にこたえるかのように、彼女の掌の上、キュアラビーズからまばゆい光が放たれた。

 

 

「ランスちゃん、お願いします」

「行くでランス~」

「プリキュア・ラブリンク!陽だまりポカポカ、キュアロゼッタ!」

 

 

光の中から現れた四葉は黄色の衣装、胸元にハートとも四葉のクローバーともとれる飾りをつけた姿に変わっていた。というかハート、ダイヤときたからクラブ!とか来るんじゃないかと思っていたがさすがにそれはなかったか。

 

 

「世界を制するのは愛だけです。さぁ、あなたもわたくしとともに愛をはぐくんでくださいな」

 

 

一度戦闘に入った四葉、改めキュアロゼッタは初めてとは思えない強さを見せてくれた。動きに無駄がないうえに力の使い方もうまい。本当に格闘術を習っていたんだなと実感するとともに、ブランクを全く感じさせないその戦いに驚きを通り越して感心せざるを得ない。

 

 

「これが、わたくしの力。誰かを守るための力・・・」

 

 

四葉の決意に反応するように新たなラビーズが生まれた。正面に立ったジコチューはスピーカーから強力な音波の攻撃を3人のプリキュアに向けて発射した。その攻撃を臆することなく見据えたロゼッタは新しいラビーズをランスにセットした。

 

 

「カッチカチのロゼッタウォール!」

 

 

両の掌に現れた四葉型の盾。それを使ってロゼッタは敵の攻撃を完全に防いでいた。見ためは確かに小さいがその性能は想像以上のもののようだ。しかしながらこれではただの持久戦、しかも相手は電源を確保できている分ほぼ無限の供給があると考えてもいい。

 

 

「防御するだけじゃあな」

「いいえ、防御こそ最大の攻撃です!」

 

 

両の手の盾をロゼッタが敵の攻撃をはさむようにたたきつけた。と、その瞬間に敵の音波による攻撃がかき消された。まるで完全に無に返されたように。

 

 

「な、何が起きたんだ!?」

「そっか、ノイズキャンセリング!」

 

 

ノイズキャンセリング?確かとある音波に対してそれと全く正反対の振動を持っている音波をぶつけることで差し引きゼロ、つまりは無音の状態を作り出す・・・みたいなものだったか?いやちょっと待て、たったあれだけのことでどうやってそんなことができたんだ?プリキュアの力って何でもありかよ。

 

 

「今です!」

「よ~し!あなたに届け、マイ・スイート・ハート!」

 

 

間髪入れずに放たれたハートの浄化技が無防備になっていたジコチューに命中し、浄化に成功した。

 

 

「くっそ~本当にどんだけ増えるんだよ!覚えてろよ!」

 

 

もはやお約束の捨て台詞を残して敵は逃げて行った。ついに三人目の仲間、キュアロゼッタが誕生したってわけか・・・

 

 

「皆さん、ランスちゃん。これからよろしくお願いしますわ」

「うん!」

「これで三人目のプリキュアの誕生ね」

「いや、ソードを入れたら4人目だろうが」

「なんですの?」

「もう一人プリキュアがいるの。誰かはわからないんだけど」

「それなら、心当たりがありますわ」

「嘘!?」

「わかるのか?」

「プリズムタワーの監視カメラの映像にプリキュアと思わしき方が写っていました。そう、確か、この方だったと」

 

 

そう言って彼女は隣を指さした。別にそこに人が立っていたわけではない。そこにあったのは一つのポスターだった。いやそれだけならなんのこっちゃと思ったかもしれないが、そうもいかなかった。そこにあったのはただのポスターではなく、一人の少女が写っているものだった。最近人気の商品エースティを片手に微笑んでいる彼女。

 

 

「えっ!?」

「まじか・・・」

「まこぴー?」

 

 

知る人ぞ知る・・・というか知らぬ人のほうがいないといっても過言ではないのではないだろうか。剣崎真琴がそこには写っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

アイドル、剣崎真琴。デビューしてからそれほど時間はたっていないはずだがスターロードを順調に進んでいる。かなりの才能の持ち主だということがそれだけでもわかるが、ライブのチケットがわずか3時間で売り切れるだとか、CDがどれもミリオンを獲得しているだとか、とにかく超売れっ子アイドルである。しかし・・・

 

 

「ほんとなの、アリス?」

「クローバータワーを登った人と降りた人をカメラで確認したのですが、真琴さんとそのマネージャーだけが写っていなかったのです」

 

 

「けど、それだけで剣崎がキュアソードだと決めつけるのは無理じゃねえの?」

「いいえ、それだけではございません。現場に残されていた指紋、足のサイズ、毛髪など。どれもこれもが一致しています」

「あ、そうですか」

 

 

これを調べるためだけにもしかして科警研まで動かしたのだろうか?どんだけ本腰入れているんだよ。怖い、四葉財閥怖いよ。完全に作戦室として使われているありすの自宅のこの部屋、そこまで寒くはないはずなのに少しばかり寒気がした。

 

 

「じゃあさっそく会いに行ってみようよ!」

「どこにだよ?」

「えっ?あ、どこにいるのか知らない!」

「それに知ってたとしても簡単に会えるわけないでしょ?相手は芸能人よ」

「そっか~」

 

 

がっくりと肩を落とす相田。とはいえ仕方のないことだろう。芸能界にいるということは仕事をしている身であるということだ。そう簡単に会えるもんでもないだろうし、何より仕事の邪魔をするわけにはいかない。たとえ本当に剣崎真琴がプリキュアだったとして、そのプライベートまで邪魔するわけにはいかないのだ。

 

 

「その点はわたくしにお任せですわ」

 

 

そういった彼女の笑顔がだんだん恐ろしく思えてきてる・・・

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「着きましたわ」

 

 

翌週、ありすの車に乗せてもらい俺たち4人が着いたのは

 

 

「ここ、テレビ局?」

「真琴さんは本日こちらで歌番組の収録があるのですわ」

 

 

四葉の情報網パネェ~。そんな情報どっからしいれてくるのさ。

 

 

入り口をくぐって建物の中に入る。さすが最大級のテレビ局だけあってエントランスだけでもかなりスケールがでかい気がする。それにしてもヨツバテレビ・・・まさか

 

 

「おぉ~、こんな風になってたんだ」

「でもどうやって彼女に会うつもり?自由に出歩けるわけじゃないし」

 

 

と話しこんでいる二人をよそにありすはさっさと関係者用のゲートに進み、そのまま通過してしまった。そこに立っていた警備員にいたっては「お疲れ様です」とまで声をかけていた。ってことはやっぱり・・・

 

 

「なんだ、普通に入れるんだ!ほら、六花も八幡君も!」

「あ、相田、ちょっと待て!」

 

 

ありすの様子を見ていた相田がそれに続いて関係者入口へ向かおうとした。が、案の定、警備員に止められてしまった。この様子から俺は確信した。

 

 

「大丈夫ですわ。その方たちはわたくしの客人ですわ」

「はっ、失礼しました」

 

 

鶴の一声、というわけではないが彼女のその一言で相田はすぐに通れてしまった。俺も警備員に軽く会釈しながら通った。しかしながら別段止めずに通してくれたのはいいけどいぶかしげな視線を俺だけに向けるのはやめていただけませんでしょうか、心臓に悪いです。

 

 

「なぁ、もしかしてありすって・・・」

「はい、そうですわ。ここヨツバテレビはわたくしの父が所有しているテレビ局ですわ」

「えっ、そうなの?」

 

 

やはりというかなんというかである。そもそもヨツバって名前からしてそう連想するべきだった。よく考えるとクローバータワーもありすが一応所有しているらしいし、テレビ局くらいあってむしろ当然だろうな。しかしまぁなんだろう。もうありすの持っている力というか、影響力の大きさに驚かなくなっている俺ガイル、不思議!・・・あれ?なんか字が違った気が・・・まぁいいか。

 

 

「おはようございます」

「えっ、はいっ!お、おはようございます」

 

 

すれ違いざまにあいさつをされた相田がおどろいたのか、いつもと違って緊張したような挨拶をしていた。あぁ、そうか。ここは関係者の通路だし、そこにいるなら俺たちも仕事で来ているのかと思われてるんだろうな。実際剣崎真琴は俺たちと同年代だし、子供が来ていても不思議には思われないだろう。

 

 

「びっくりした~。でも今ってお昼だよね?」

「この業界、っていうか大体の仕事場じゃ挨拶は決まっておはようございますとお疲れ様なんだよ。時間帯は関係ない」

「へ~そうなんだ。八幡君詳しいね」

「まぁ、俺もどっかで読んで知ってたってだけだけどな」

 

 

そうこう話しながら目的地のスタジオへ向かう。途中何人かの有名人とすれ違った時に相田が元気よく挨拶をしたあとに、興奮気味に菱川に話しかけるのを繰り返したがそれ以外は割とすんなりとスタジオに入ることができた。

 

 

「みなさん、お疲れ様ですわ」

「お疲れ様です!本日はどうしてここに?」

「はい、わたくしの友人たちに、父やわたくしの仕事に関係している場所を紹介しておりますの。見学させていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですとも。皆さんもゆっくりと見ていってください」

 

 

ありすがプロデューサーと一言二言会話をして俺たちの見学の旨を伝えていた。まぁ、実際剣崎真琴がプリキュアかどうかを確かめるために来ちゃいました!とか言えるわけねぇし、実際どんな仕事なのかを見られるのはなかなか経験できないことだし。

 

 

「おはようございます」

「おっ、真琴ちゃん。おはよう。今日はよろしく頼むよ!」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

しばらくスタッフが収録のための準備をしている様子を眺めていると、今回のお目当ての人物、剣崎真琴がマネージャーと一緒にスタジオに入ってきた。改めてみてみると確かにあの時であったキュアソードに似ている気がする。その後彼女たちは準備のために楽屋のほうへ向かって行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「何とか無事にここまで来ることができたわね」

「まぁ、問題はどうやって剣崎真琴に接触するかだけどな・・・ありす、どうするつもりなんだ?」

「次の作戦はなにか考えてる?」

「・・・ありませんけど?」

「「へ?」」

「わたくしは真琴さんに会える状況を作ることまでしか考えていませんでしたから」

 

 

それでいいのか四葉財閥のご令嬢?会社の経営とかなら先の先を見据えたうえで計画とかを練りに練って、調査をしてから行動するものじゃねぇの?知らんけど。この突然の行動力はどこか相田に似ているな~。本当に仲のよろしいことで。

 

 

「あとはマナちゃんがどうにかしてくれますわ」

「まぁ、言い出しっぺは相田だしな」

「それで、どうするの、マナ?あれ、マナ?」

 

 

ふと気が付くと、相田がいなくなっていた。確かに剣崎がスタジオに入ってきたときにはいたはずだ。隣で興奮気味に「まこぴーだ!」と小声で菱川に言っているのが見えたから。じゃあその直後くらいに消えたということになる。この状況で相田が行く場所、手洗いかあるいは・・・

 

 

「ちょっと行ってくる!」

「あ、ちょ、八幡君!?」

 

 

相田がどこに行ったのだろうかと話をしている二人を置いて、俺はある方向へ向かった。もし俺の予想が正しかった場合は嫌な予感がする。まぁ間違っていた場合でも、相手の俺に対する印象が少し悪くなるくらいのことだからそこまで大した問題ではないだろう・・・と思いたい。控室のある通路に入り一つ一つの部屋に張られている名前を確認する。そして俺は一つの部屋の前で止まった。

 

 

「あった・・・」

 

 

その控室に張られた紙に書いてある名前は『剣崎真琴』。あの行動力の塊のような相田のことだ。あの時にすぐ行動していたとすればここにきている可能性が高い、そう考えてここまで来てみたが・・・よく考えたらこれ中の様子どうやって確認しよう?普通にノックして失礼します!とか言って中に入ればいいのか?いやといっても入るにしても何か理由を説明しないといけないだろうし、友人を探しに来ました・・・いや胡散臭いな・・・どうすればいいんだ?

 

 

などと考えを巡らせていた俺の耳に、少しばかり怒っているような声が聞こえた。この声はテレビとかで聞いたことがある声に似ている。ということはこの部屋をあてがわれた彼女の声で間違いないだろう。問題はなぜ怒ったような声を出しているのかということだ。意を決した俺はノックをし、「はい」という返事を聞いてからドアを開けた。

 

 

「失礼しまっす!」

 

 

 

 

 

 

あ、若干嚙んだ・・・

 

 




ちなみにこの話で出てきた「心を鍛えよ」って言われたヒーローというのは、20年前にスクリーンに登場したヘタレくんです。まぁ言われたのはその次の年の作品なんですけどね。

いまだにそれのDVD持ってるんですよね笑


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覚悟と想い

せっかくなのでこっちにも投稿です。

あぁ、もう今年が終わる


思っていた通り、そこには相田がいた。そして剣崎真琴も。少し怒っているようなその表情はキュアソードに似てるな~とか一瞬考えていた俺だったが、この状況を見る限り相田があまりいい接触をしたようには思えない。

 

「あなた、ここの職員じゃないわよね?何の用?」

「あ、いえ。すみません。知り合いがご迷惑をおかけしたようで」

「この子の知り合い?なら一緒に連れて行ってくれる?何をしにここに来たのかはわからないけど、ここは私たちプロが人々に夢を届けるための場所。勝手な行動で邪魔をしないで」

 

普通なら、別に相田の行動に対して問題を感じることはないかもしれない。だが今回は違う。ここは剣崎真琴にとっての仕事場。彼女は本気で取り組んでいるのだろう。きっと苦しいことも、つらいことも、大変なこともすべて含めて彼女はまっすぐこの仕事に向き合って、歌っているのだろう。だからこそ彼女は怒ったのだ。たとえ悪気がなかったとはいえ、相田の行動は決して褒められたものではないのだから。無断で自分の大切な場所を踏み荒らされることは誰だって我慢ならないだろう。だから、彼女の怒りはもっともだ。

 

「本当に、すみませんでした。相田も」

「・・・ごめんなさい」

「あら?何の騒ぎかしら?」

 

ちょうどそのタイミングで剣崎のマネージャーが部屋に戻ってきた。手に紙コップを二つ持っていることからきっと飲み物を買いに行っていたのだろう。タイミングが良かったのか悪かったのかわからないが、とりあえずここは引き上げるべきだ。

 

「あら?あなたたちは?」

「お騒がせしてすみませんでした。もう戻りますので」

 

マネージャーに深く礼をしてから俺は相田に外に出るように促した。彼女の言葉が相当答えたのだろう。沈んだ表情でうつむいていた。

 

「マナ!やっぱりここにいた」

「いきなりいなくなったので心配しましたのよ」

 

少し遅れて菱川とありすもやってきた。おそらくはほかの可能性がある場所も探していたのだろう、少し息が上がっているようだった。

 

「あの・・・本当に、ごめんなさい」

 

そういって剣崎に向かって深く礼をした相田は俺より先に部屋から飛び出していった。二人はその様子を見て一礼をしてから相田を追いかけて行った。あんな感じの相田、初めて見るな・・・そんなことをふと思い、俺はもう一度礼をしてから相田の後を追おうとした。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

が、呼び止められてしまった。ほかならぬ、剣崎真琴によって。

 

「真琴、もうすぐ収録が始まるわ。今は、」

「大丈夫。すぐに終わるわ」

 

マネージャーが止めようとするが、そんなことはお構いなしに彼女は俺を見据えていた。なんだろう。俺、この一連の流れで何か彼女を怒らせるようなことをしただろうか。

 

「あの子、一体何なの?」

「はい?」

 

いきなりの質問にポカーンとしてしまった。しかしそれも仕方ないことだろう。質問の意味さえよくわからなかった。

 

「いきなりこんなところにまで来て、一体どういうつもりなの?どうかしてるわ」

 

あぁなるほど。そういうことか。確かに普通では考えられないことだ。プリキュアのことを差し引いてみると、完全に質の悪いファンがやりそうなことだ。そしてたいていの場合はここで逆恨みして、問題を起こして、つかまっちゃうんだよな~。それくらいあいつの行動力ははたからしたら理解しがたいものだろう。ただ、

 

「あいつはただ、一生懸命なだけですよ」

 

きっと相田本人には迷惑をかけるつもりも、邪魔をするつもりも毛頭なかったのだろう。本人は徹頭徹尾一生懸命ただ一つなのだ。本当にキュアソードだとしたらきっとその手を取りたかったのだろう。一緒に戦って、一緒に助け合って、そんな風に仲間に、友達になりたかったのだろう。アイドルだからとか、ファンだからとかは関係なく、同じ目的のために助け合える仲間になりたかったのだろう。菱川やありすと同じ、友達に。

 

「今回はその一生懸命さがから回って迷惑をおかけしましたけど、あいつは誰に対してもきっとあんな感じです。一生懸命で、まっすぐで、前向きで・・・ただ、それだけのことですよ」

「・・・そ。でも、もうこんなことはしないように伝えて」

「はい」

 

そう言って俺は立ち去ろうと思った。が、なぜかこれだけは言っておいてもいいかもしれないと思った。

 

「あいつのこと、嫌いにはならないでやってください。あいつ、あなたの大ファンなんで。今回のことはあいつが悪いですけど、あいつは本当にあなたのことが、あなたの歌が好きなんで。・・・それでは、失礼しました」

 

あ~、なんだか偉そうに語ってしまったような気がする。まぁしかし、あいつ自身はたぶん反省しているだろうし、この件で剣崎があいつのことを嫌いになってしまうのはやっぱり避けたいからな。仮にプリキュアじゃなかったとしても、自分があこがれている相手から嫌われるのはやっぱり痛いだろうからな。ソースは俺・・・まぁあこがれるの意味合いが少し違うし今となってはもうどうでもいいまであるけど。

 

「あっ、八幡君」

「ん、おう」

 

スタジオに戻ろうとした俺だったがちょうど目の前の控室の扉が開き、中から相田が顔をのぞかせた。

 

「えっ、何ここ?」

「ありすが頼んで、私たちにこの部屋を使えるようにしてもらったんだって・・・」

「そうか。まぁまだ時間はあるみたいだし、休める場所があるのはいいな。二人は?」

「中で作戦会議中。直接話すのは難しいかなって」

「そうか」

「うん」

 

なんだか非常にやりづらい。相田がここまでしゅんとした態度をとっていること自体が珍しいわけで、いつもの元気さというか快活さがないとどうにも話しにくく感じてしまう。

 

「あたし、大切なことを忘れてた。どんな人とでもきっと手をつなぐことができたら仲良くなれるって思ってた。でも、そのためには相手の気持ちをちゃんと尊重しないといけないのに。ここは、まこぴーにとって、きっととても大切な場所、一生懸命夢を与えるための場所。歌を歌うことは、とっても大事なことなのに、真剣な気持ちを邪魔しちゃった・・・」

「まぁ、やっちまったもんはしょうがねぇだろ。人間、そういうのはやり直せないしな。けど、自分でちゃんと気づけたってことは、反省できているってことだろ。なら、それを次に生かせばいい」

「うん・・・あたし、ちゃんと謝りたい!」

 

そう言って顔を上げた相田は少し普段の相田に戻ったように思える。これなら次は大丈夫だろう。ちゃんと考えて、考え抜いたうえで行動することができる。こいつはそういうやつだ。落ち込んでも、失敗してもそれをばねに次に向かうことができる。そういう相田を、俺は尊敬している。

 

「ちゃんとわかってくれたみたいね」

 

突然声をかけられた俺たちは傍から見たらどうした?ってレベルでビクッとなってしまった。やべぇ、恥ずかしい。声の主へ顔を向けると、そこに立っていたのは

 

「剣崎真琴はいつだって真剣。だから彼女の歌は心に響くのよ」

「あ、あなたは」

「剣崎真琴の、マネージャーさん?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「続きまして、ヒットチャート急上昇中の『Song Bird』、剣崎真琴さんです!」

 

マネージャーに連れられて俺たち4人がスタジオに入ってみると、ちょうど剣崎の出番のようだ。スポットライトに照らされたステージの中、彼女は歌い始めた。その時の彼女の顔は、先ほど見せられた怒り顔から一変、楽しそうで、うれしそうで、本当に歌うことを好きだと伝えられるような、そんな笑顔だった。小町経由で何回か剣崎真琴の歌を聞いたことはあったが、その時はアイドルに対して、彼女らは欺瞞にあふれている、という考え方を持っていたこともあってそこまで気にも留めていなかった。けれども、ステージに立って歌う彼女を見ると、そんな考えは失礼に値するのだと、彼女を侮辱することに他ならないと思わざるを得ない。それほどまでに彼女が歌うことに真剣に取り組んでいるのが伝わってきた。同時に、先ほどのマネージャーとの会話が思い出される。

 

 

 

 

『あの子、不器用だから。普段はあんな言い方しかできないけど、その歌には大切な願いが込められているの。それは自分の歌を聞いてくれた人が、笑顔になってくれること。だから、いつでもベストを尽くして、最高のパフォーマンスを披露しなくちゃいけないの。あなたたちにも、そういうの無い?』

『あたし・・・あります、そういうの』

『どうですかね・・・今はまだない・・・かもしれないです。けど、剣崎真琴がどれだけの覚悟を持って仕事に臨んでいるかは、なんとなくわかった気がします』

『あたし、ちゃんと謝りたいです!』

『わかったわ、時間を作ってあげる』

 

 

 

 

マネージャーは、この収録が終わったら少しだけ時間が取れるはずだから、その時に謝ったらいいと言ってくれた。相田もさっきまでの沈んだ表情はもうどこにもなく、剣崎のパフォーマンスに見入っていた。彼女の真剣な様子を直に見て、きっと相田なりに何か感じるものがあるのだろう。それを確認した俺はステージに目を戻した。が

 

「ジコチュー!」

 

突然大きな星の形をしたジコチューがステージに現れた。

 

「ジコチューシャル!」

「なんでこんなところに?」

 

周りを見渡してみると、スタジオの端のほうに一人の少女が倒れていた。衣装を着ていることから考えて、きっとこの番組の出演者なのだろう。突然現れた怪物にスタッフはおびえ、逃げ始めた。しかしジコチューはその人たちには目もくれず

 

「スターハコノアタシヨ、ホカノライバルハハイジョスルマデ!」

 

そう叫び、ジコチューはステージ上の剣崎に向かって突っ込んでいった。間一髪のところで躱した剣崎だったが、衣装がヒールだったためにバランスを崩して倒れてしまった。

 

「六花、ありす。行くよ!」

「おっけー」

「はいですわ」

「「「プリキュア・ラブリンク!」」」

スタッフが全員いなくなったのを確認した三人は、すぐにプリキュアに変身してジコチューに挑みかかっていった。しかし星の形をしているジコチューは体から強烈な光を放ち、三人は目を開けていることができず、思うように戦えずにいた。強力な体当たりで三人は壁まで吹き飛ばされてしまっていた。

 

「コレガスターノカガヤキヨ!」

 

体制を崩してしまった剣崎に向かって、ジコチューが再び突っ込んでいった。後で聞かれたときには、無意識のうちに体が動き出していたとしか答えられなかった。気づけば俺は走り出していた。逃げ出していたのなら、かっこ悪くてもまぁこの状況に対する判断としては正解だったかもしれない。実際他の連中もそうしていたわけだしな。けれども俺の体はステージに向かっていた。なんで勝手に走り出していたのだろうか。あぁマジでわかんね。

 

そんなことを考えながらも体は動いていた。ジコチューが剣崎に当たる直前に何とか彼女のもとにたどり着く。さすがに避けきるだけの時間はもうないのがわかる。とっさの判断で彼女とジコチューの間に立ち、前に飛びながら彼女の体を抱きかかえた。背中に衝撃が走る。その勢いのまま俺たちは吹き飛ばされ、壁にたたきつけられた。

 

「っがぁ!?」

 

思わず息が漏れる。前に飛ぶことで何とか攻撃による衝撃をいくばくかやわらげたつもりだったが、逆に壁に当たるときにはより強い勢いがついてしまった。

 

「っ、ちょっと、大丈夫!?」

 

腕の中にいた剣崎が声をかけてくる。壁に当たる前に彼女と自分の位置を無理やり入れ替えてみたが、どうやらうまくいっていたようだ。見たところ彼女には目立った外傷もなく、衝撃でどこかを痛めた様子もなかった。ほっと口から息がこぼれる。とりあえず、やるべきことはやれた・・・気がする。

 

どうやら背中だけではなく、壁に激突した際に頭も打ったらしい。どうにも頭がくらくらする。はっきりしない意識のまま顔を上げて前を見てみると、至近距離で剣崎が心配そうな顔をしてのぞき込んでいた。いつもの俺なら緊張で顔をそらすだとか、距離を取ろうとするだとか、なんらかしらの反応をしたかもしれないが、今の状況ではその気力がなかった。剣崎の後ろからジコチューが迫ってきているのが見えた。早く逃げなければ、そう思ったが体が思うように動かなかった。と、キュアハートが俺たちの前に立ってジコチューの攻撃を防いだところが見えた。が、そのまま俺は自分の意識が遠のいていくのを感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side 真琴

 

がくりと彼の頭が落ちたのを見て慌てて心臓に耳を当てる。

 

トクン トクン トクン トクン

 

一定のリズムで刻まれる心音を確認できてほっと息がこぼれた。血も出ていないし、気を失っているだけみたいね。安心して彼を壁にもたれさせる。振り向くとあの子たちがまだ戦っていた。自分でもきついことを言った自覚はある。もともと不器用だと言われているし、人付き合いが決して得意というわけでもなかった。だからあの子も、傷ついただろうし、悲しかったり怒っていたりしているかもしれないと思った。けれどあの子は私を助けてくれた。私の歌が好きだと言ってくれた。心から一生懸命、歌に取り組んでいるこの場所も守りたいと言ってくれた。本当に不思議な子だわ。

 

ちらりと後ろで気を失っている彼を見る。彼の言っていた通りだ。あの子は一生懸命なだけなんだろう。彼はあの子をよく理解している。どれだけの時間を一緒に過ごせばそうなれたんだろう。私は結局、先輩たちときちんと信頼関係を築く前にここにきてしまった。もしも彼らのような関係を築けていたら、結末は変わっていたのかしら。

 

でも、今はそんなことを考えている場合じゃなさそうね。光による目くらましにあの子たちは苦戦していた。まったく、見ていられないわね。




天気がいいので昼寝しちゃいたいとか思っちゃってます笑

そうしたら年越せるよなぁ


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繋がれた手

プリキュアの新シリーズ、スッゴイガーリーな感じですな
しかも高校生が二人も増えるだと!?

お菓子のレシピ興味ありますね、作者は自分で作りまします笑


 

気が付いたら知らない天井を見ていた。ぼーっとする頭であたりを認識する。ここは、ソファの上?隣の机の上にはシャルルたち妖精が仲良くお昼寝をしていた。この壁の感じに天井の色、確かどこかで見たような・・・

 

「あっ、気が付いた?」

 

近くから声がした。頭をソファから離し、その方向を向いてみる。

 

「よかったぁ~気が付いたんだ」

「もう、心配かけないでよね」

「まぁまぁ六花ちゃん、こうして無事ならよいではないですか」

 

三人がちょうど部屋に戻ってきたところらしく、ドアのところに立っていた。そうか、どこかで見たことがあると思ったら、ここは剣崎の使っていた控室と似ているのだ。ってことはここはまだクローバーテレビってことだよな・・・

 

「大丈夫?気持ち悪いとかない?」

「ん、まぁ大丈夫だな・・・何があったんだ?」

「あの後、キュアソードが現れて、ジコチューを倒して行ったのよ」

「結局、真琴さんかどうかはわからずじまいでしたが」

「そうか・・・じゃあまた別の方法を考えるしかないな」

 

まぁ気を失っている間に一応一件落着とはなったわけか。しかし結局一番の目的だったキュアソードかどうかを確かめることには失敗してしまったわけで。さらに言えば相手にはあまりいい印象を与えることができなかったように思える。この先が少し不安だ・・・

 

 

そのあと俺たちはスタッフにあいさつして、ありすの家の車に乗って相田の家まで帰った。ちょうどお昼時になったため、相田が家においでよ!と言い出して結局そのままご飯を頂いてしまった。相田家マジいい人ばっかりだな~。

 

「さて、結局どうすればいいんだろうか」

「え?何が?」

「いや、お前あの後剣崎はすぐにどこかへ行っちまったんだろ?」

「うん、そうだったわね」

「真琴さんはアイドル、忙しい身ですから仕方ありませんわ」

「いや、なら謝るための時間とれなかったんじゃ」

「・・・そういえば、そうだった」

 

せめてちゃんと謝って関係をある程度修復できていたのなら、次の手というわけではないが、また機会はあるかもしれない。しかしながら印象が悪いままでは、次に何らかの方法で接触を試みてもうまくいかない可能性が高くなってしまう。

 

「何とかして会えないものかしら」

「そうですわね。でもまた今回のようにプライベートで会いに行くよりは、ちゃんとした場を設けて会うか、あるいはほかの人と同じように会いに行くかのどちらかですわね」

「イベントとかやってんだろ?そういうのに行けばいいんじゃないのか?」

「まこぴー人気だから全然チケット取れないんだよ~・・・あれ?今誰か来たような・・・」

 

がっくりと肩を落とした相田が何かに気付いたようだ。リビングから廊下へ出て玄関を見てみる。特に誰もいるようには見えないが・・・ん?床に置いてあった白いものが目に留まり拾ってみる。

 

「手紙・・・みたいだな。相田宛の」

「誰から?・・・DB?」

「確かその名前、真琴さんのマネージャーさんのお名前ですわ」

「なんだろう・・・あっ、これって、まこぴーのファン感謝デー握手会のチケット!それも二つ入ってる」

「ってことは、このイベントにきて伝えたいことを伝えろってことか」

「でもなんで二つ入ってるのかしら?」

「もう一枚、手紙が入っているみたいですわ」

「あ、ほんとだ・・・え~と何々?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「わ~流石ね」

「えぇ、これだけたくさんの方々が応援しているのですわね。さすが真琴さんですわ」

 

行列を遠くから眺めながら、菱川とありすはのんきに会話していた。まぁ正直その感想には同意せざるを得ない。ファン感謝デーの行列はそれこそあの日のクローバータワーのものを彷彿とさせるほどのものだった。たった一人のためにこれだけの人が来ている。そのことがどれだけすごいかをこの身をもって体感した。というか現在進行形でしている。なぜなら、

 

「あっ、もうあと一回折り返せばあたしたちの番だね。ワクワクしてきたな~」

「いいけど、ちゃんと伝えるべきことを忘れるなよ」

 

今回この行列に並んでいるのは俺と相田の二人だったからだ。別についてくることはやぶさかではなかったが、まさか自分がこういうイベントに参加することになるとは思わなかった。今回は特別、というか訳ありだ。

 

『このイベントで真琴に言いたいことを言ったらいいと思うわ。もう一枚は、真琴を助けてくれたあの男の子に渡してくれる?真琴がちゃんとお礼を言えてなかったこと、気にしているみたいだから』

 

などと手紙に書いてあったから来ることにしただけだ。それがなかったら多分小町に譲っていただろうな。というかそもそも俺は辞退したうえで相田が菱川と一緒に行こうとしたんじゃないだろうか。そもそも別にお礼を言われたくて行動したわけじゃない。あれだってほとんど無意識のようなものだ。それに対して剣崎が罪悪感や後ろめたさを覚える必要はないし、そもそも俺は大して気にしていない。ただ直接話すことで気が楽というのなら、俺が行けばいいだけのことだし、という考えで来たというだけだ。

 

そうこうしているうちに相田の番が回ってきた。

 

「あなた・・・」

「今日はファンとしてきました。この前は、ごめんなさい」

「も、もういいわよ」

「あたし気づいたんです。まこぴーにとって歌が大事なことであるように、あたしにもやらなきゃいけないステージがあるということに。まこぴーみたいに素敵なステージじゃないんですけど、それでも一生懸命やってみたいんです。」

「あなたのやりたいことって何?」

「みんなの笑顔を守ることです!」

 

そう言い切った相田の表情は今まで以上に自信にあふれていた。ちゃんと謝ることができて、そして自分の伝えたいことを伝えられて。きっとあいつは今、晴れ晴れとした気持ちなのだろう。

 

「握手してもらえますか?」

 

そういって差し出された相田の手を剣崎は少し戸惑った様子を見せながらも握った。ずっと差し伸べられていた手が、イベントの企画の一部とはいえ、ようやくつながれたのだ。

 

「ありがとうございます!これ、お父さんに作ってもらった、ももまんです!すっごくおいしいから、早めに食べてくださいね」

 

そう言って持ってきていた包みを渡すと、相田は一足先に菱川たちのもとへ戻っていった。

 

「次の方、どうぞ」

 

マネージャーの声を受けて、少し緊張しながら俺は剣崎の前に立った。って、なんで俺が緊張してるの?別に俺は何か伝えるわけでも、特別言いたいことがあるわけでもないし。そんなに俺は握手することを意識してるのん?

 

「あ、あなたは・・・」

「この間は、どうも・・・あいつの握手、受けてくれてありがとうございます」

「べ、別に。ファンを大事にするのは当たり前のことだし・・・その、あのときはありがとう」

「いや、あんま気にしないでください。大したこともなかったし」

「それでも、助かったから」

 

そういって今度は彼女のほうから手をさし伸ばしてきた。一瞬ためらったが、それでも受けない理由がない。そっと手を出してその手を握った。相田や小町には何度か手を握られたこともあったが、その二人とも違う感触に、鼓動が早くなるのを感じた。

 

「じゃあ、これからも頑張ってください。それじゃあ」

「あの、一つだけ聞かせて」

 

そのまま去ろうとした俺を再び呼び止める剣崎。今度は何なのだろうか。

 

「な、なんでしょう?」

「どうして、助けてくれたの?あれだけきついことを言って、友達もきっと傷ついていたと思うのに」

「・・・まぁ、特に考えてなかったですね。気が付けば勝手に・・・そんな感じだったと思います。まぁ、助けるのに理由なんてない!とか、相田ならいいそうですけどね」

「そう・・・ありがとうございました!」

 

納得いったのかいかなかったのかはわからない。ただ俺の答えを聞いた剣崎はすぐにアイドルとしての顔になり、次に並んでいたファンの対応をし始めた。少し前ならそれを欺瞞だと思っただろう。けれどもその裏にどれほどの覚悟があるのかを、少しだけとはいえわかった俺はもうそんなことを思うことなんてできなかった。最後にちらりと後ろを向いてから、俺は相田たちの待っているほうへ歩いて行った。




初夢、覚えてないので意味がない!

みなさんはどんな夢見ましたか?


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料理って意外と大変だな

なんだか最近頭がくらくらしっぱなしだ

寝不足かな?


剣崎真琴のファン感謝祭から数日後。もはや日課となりつつある相田と菱川と一緒に帰宅し、そして軽い作戦会議を行うために相田の家に向かった。最近ではそのまま夕飯をごちそうになることが増えているが、両親が共働きしているため正直助かっている。小町は小町で最近できた友達の家で食べることが多いから、自分で作る必要がなくなったのは大きい。しかもご丁寧に時間があるときには料理を教えてくれるという太っ腹さ。おかげでたまに作るときにも困らないし、小町に「小町、お料理では誰もお兄ちゃんにかなう気がしないや」とまで言われた。真面目に相田の父親には感謝してもしきれない。

さて無事に俺たちは到着したのだが、

 

「あれ?なんだろう」

「人がいっぱい集まってるわね」

「あれってテレビ局の車だろ?なんかの撮影か何かじゃねえの?」

 

とりあえずギャラリーの壁をかき分けて家、正確には店の中に通してもらう。そこには相田の父親が緊張の表情を浮かべ、母親が落ち着かせようとしていて、祖父が厳しい表情で父親を見ていた。

 

「ただいま~!お父さん、どうしたの?」

「あ、あぁ、お帰りマナ。二人ともいらっしゃい」

「お邪魔します」

「どうも・・・何かあったんですか?」

「うん、実はね・・・」

「えぇ!?ここでお料理番組の撮影!?」

「そうよ。なんでもお料理体験でここの看板メニューを作ってみるっていう番組らしいのよ」

「すごいじゃないですか」

 

テレビで紹介されるということはそれだけの知名度が付くということ。そもそも紹介されるにはそれなりの実績か、それなりの味がなければならないだろう。それはつまり相田の父の料理の腕が認められたということであり、かなりの名誉ある仕事だろう。というかそんな人が作る料理を定期的にごちそうになっている俺って結構贅沢?

 

「いやぁ、うちの店にテレビ局が来てくれるなんて。ここは、二代目ぶたのしっぽ店長として、しっかりと決めないと」

「ふん、わしゃまだ認めてはおらんがな」

「まぁまぁ、お父さんもそう言わずに。今日はアイドルが来てくれるそうだし、笑顔でお迎えしましょう」

「アイドルが来るの!?」

 

あれ?なんだろう。もうこの時点でなぜか誰が来るのかわかった気がする。最近読み始めたライトノベルとか、小町が好んでいる少女漫画とかの定番の展開だよな。たまたま知り合った芸能人が~みたいなの・・・いやまさかな・・・

 

「あの、どなたがいらっしゃるんですか?」

「あぁ、マナはよく知ってると思うよ。実は、「失礼します」あっ、来たみたいだ」

 

ドアを開けて店に入ってきたのは、やはりというかなんというかである。相田マナの大好きな、剣崎真琴とそのマネージャーだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「剣崎真琴です。今日はよろしくお願いします」

「わー!うれしい!まこぴーが家にきてくれるなんて!」

「仕事で来ただけよ。あなたの家の店だったの?」

「あたし、相田マナです」

「私は菱川六花。よろしくお願いします」

 

三人が会話している様子をマネージャーがどこか、「素直じゃないんだから」とでも言いたそうな表情で見ていた。あぁ、そういえばあのファン感謝祭で相田のやつももまんを渡していたな。ご丁寧に店の包装紙をそのまま使っていたからな。たぶん剣崎はそこで名前を知っていたのだろう。もしかしたらこの店を指定したのも剣崎だったりして・・・いやないか。ないよな?

 

ふとマネージャーと目が合ったから軽く会釈する。相手も笑って会釈し返してくれた。よかった~忘れられてない。前に一回学校で知り合いだと思っていた相手に会釈したら本気で誰?って顔をされたトラウマが・・・視線を他へ巡らせるとテレビ局のスタッフたちが相田の父親とあいさつをしていた。相田の父親、かちんこちんに固まりすぎだろ。どんだけ緊張してるんですか。その様子を母親がほほえましそうに眺めている。

 

「それじゃあ、リハーサルを始めます!本番と同じ手順で行きましょう。真琴さん、お願いします」

「はい!よろしくお願いします」

 

エプロン姿に着替えた剣崎と相田父が並んで厨房に立っている。相田家+2は店の関係者という扱いで、キッチンに通じる通路からその様子を眺めている。というか本来俺と菱川は関係者でも何でもないんだけどな・・・まぁ今更指摘するのも面倒だしいいんだけど。相田なんて目をキラキラさせて見ているし。

 

「5秒前、3、2、1」

 

そういえば剣崎は料理とかするのだろうか。忙しい身だし、そこまでする機会はないのかもしれない。というか心なしかマネージャーが歌番組の時と比べる不安げな表情をしているような気がするんだが。いくらなんでも小学校の調理実習とかあっただろうし、料理の基本中の基本の知識くらいはあるだろうし、まぁ下手でも相田父がいるから何とかなるだろう。それでは、アイドル剣崎真琴のお手並みを拝見といこうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

結論から言っていいですか?すごかったです、もう色々と。材料を洗おうとするときには洗剤を持ち出すわ、卵は握りつぶすわ、包丁の使い方は危ないわのてんやわんや。ごめんなさい正直なめてました、剣崎の料理スキルの低さを。終いには相田のおじいさんからかなり厳しい言葉をもらってたしな。今日のリハーサルは終わり、明日の本番でなんとかできるようにという話でスタッフと剣崎は帰って行った。

 

「まさかまこぴーがあそこまで料理下手とはね〜」

「下手っていうか、やったことないだけだろ」

「大丈夫かなぁ。おじいちゃんに言われたこと、気にしすぎてないといいんだけど」

「まぁ、きつい言い方ではあったけど、間違ったことは言ってないだろ。それに、ヒントにもなることだったしな」

「うん・・・」

 

問題は剣崎がそれに気づくことができるかどうかだな。それに、できれば練習をしたほうがいいな。

 

「あたし、まこぴー探してくる!」

「ちょっとマナ!いまどこにいるのか知ってるの?」

「あっ・・・知りません」

「あら?皆様、どうかしましたの?」

 

相田が向かおうとしていた店の門から歩いてきたのは、いつものように執事のおじさんを連れたありすだった。

 

「ありす!丁度良かった!まこぴーが今どうしてるかとかわからない?」

「今ですか?さすがにそれは、」

 

まぁそうだろうな。むしろわかったら本格的に怖すぎるわ。何?この前GPS付けたの?ってレベル。今日はもう無理か、と思ったところへ、

 

「私がどうかしたのかしら?」

 

思わぬ声がかかった。一度帰ったはずの剣崎とマネージャーが、ありすたちの後ろから歩いてきた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まこぴー?どうしたの?」

「その、料理を教えて欲しいのよ」

「えっ?」

「か、勘違いしないで。私は一度引き受けた仕事を投げ出したくないだけ。絶対に成功させて見せるんだから」

 

わー、テンプレのようなツンデレセリフいただきました〜。まぁけど、こちらから探しに行く手間が省けた上に、料理を通じて仲良くなれればプリキュアのことも聞きやすくなるだろう。

 

「わかった。それじゃあ、あたしが」

「ちょっと待って!」

「えっ、何?」

「マナ、今日は生徒会から持ち帰った作業もあるでしょ。それも明日提出のものが」

「あっ、そうだった!六花〜」

「今回は私だけじゃ無理よ。ありすと八幡くんは生徒会関係ないからダメだし」

「えー、でも」

「マナちゃんのお父様ではダメなんですの?」

「このあとはずっとお店の方の仕事があるし」

 

おいおい。折角剣崎との距離を縮めるチャンスだというのに、なんでこんな時に限ってそんなものがあるんだよ。何?ありすが教え役に回るの?と言ってもここのレシピで作るわけだし。というかそもそもありすは料理するのか?執事の爺さんならなんとかいけるか?

 

「えーと、うーん。ん?あっ、そうだ!」

「何?何か閃いたの?」

「八幡くん、オムライスの作り方お父さんに教えてもらってたよね?」

「あ?」

「お願い!すぐに作業終わらせるから、それまでまこぴーにお料理教えてくれない?」

「俺が?」

「うん!」

 

律儀に両の掌をくっつけてまで懇願する相田。いやまぁ確かに教わったけど、それでいいのか?ちらりと剣崎とマネージャーの方も見てみる。もしも嫌そうだったら断ろうかとも思ったが、特にそんな様子はない。まぁ一応確認しておくか。

 

「えっと、俺でいいなら、すぐに始められますけど」

「お願いするわ。すぐにでも上達したいの」

「了解」

 

そんじゃあ、小町に敵なしと言わしめた俺の料理スキルを、思う存分発揮するとしますか。

 

 

10分後、俺と剣崎はエプロンをして、相田の家のキッチンにいた。相田が頼んでおいてくれたため、材料は好きに使っていいそうだ。ちなみにその本人は菱川とともに部屋で作業中、ありすと執事さん、マネージャーの三人は俺たちを見守るそうだ。

 

「よし、割るわよ」

「待て待て、そんなに力むな。卵割るのにそこまでの力はいらない。ボールの縁とかにぶつけてちょうどいい感じのヒビが入ればいい。こんな感じに」 コンコン パカッ

 

例を兼ねて実践してみる。最近は片手で割れるようになったから、ついついそっちでやりそうになったが、相手が初心者なのを思い出ししっかりと基本から始める。

 

「こ、こうかしら?」 コンコン パカッ

「おっ、そうそう。そんな感じだ」

 

幸いにも剣崎は覚えがよく、実演してみたものを次々にこなしていった。こいつ、料理の才能ありそうだな。

 

「えーと、人参を切って、と」

「ストップ。その持ち方はあぶねぇぞ。力入れにくいし、変な入り方したら指を切っちまうしな。手の形は、いわゆる猫の手って呼ばれるこんな感じで・・・」

 

あっ、今気づいた。なんかナチュラルに小町に教えるように手を握ってしまってた。やべぇ、怒られる?キモがられる?通報される?内心穏やかじゃない俺は少し慌てて手を離した。

 

「すまん!妹にやる癖で、すまん」

「別にいいわよ。それで、この手の形で切るの?」

「あっ、あぁ」

「ほんとね、こっちの方が切りやすいわ」

 

色々と覚悟していた俺だったが、本人はどこ吹く風。いたって気にした様子もなく、料理に取り掛かっていた。俺が気にしすぎだったのだろうか?それともアイドルの持っている、どんなファンでも大事にしようというその精神を褒めるべきなのだろうか?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「終わったよ!まこぴー、八幡くん、お待たせ!」

 

ちょうど材料の下準備が終わって、いざ調理というところで相田と菱川が戻ってきた。

 

「おう、お疲れ」

「お疲れ様ですわ。今丁度下準備が終わったところですのよ」

「これから火にかけていくとこなんだが、相田、代わるか?」

「そうしたかったけど、ちょっと疲れちゃった〜」

「そりゃあね、あんなに必死に仕事するマナも珍しいわよ。いつもは余裕な感じでやるのに」

「だって〜」

 

ありすと会話しだす二人を横目に、剣崎の指導を再開する。火をつけ丁度いい火加減を探ってから材料を入れ始める。緊張の面持ちのまま、剣崎は俺の指示や実演を見聞きして料理を続けた。そして、

 

「・・・出来た」

 

お皿の上に乗っていたのは少し焦げ目はあるものの、きれいな形をしたオムライスだった。

 

「まこぴーすごーい!美味しそう」

「こんなにすぐに上達するなんて」

「まぁ、とてもお上手ですわ」

 

三人はそれぞれの感想を述べている。マネージャーさんも執事さんもすごく嬉しそうだ。俺もなんだか達成感がある。ちゃんと教えられるもんだな、俺も。

 

「あとはケチャップをかけて完成だな」

「はい。ケチャップを、かけてっと」

「完成だー!」

「ふぅ」

「上出来よ、真琴」

 

マネージャーがいつの間にかスマホを取り出し、写真を撮っていた。まぁうん、そうだよな。初めてうまくいった料理って、なんか写真で残したくなるよな。少し懐かしい思い出気分に浸っていると、

 

「はい、八幡くん!」

 

と、目の前にオムライスが乗ったスプーンが突きつけられた。それを持っているのは満面の笑顔の相田。

 

「え?何?これをどうしろと?」

「最初の一口、ほら」

「は?」

「まこぴーに料理教えたの、最初から最後まで八幡君一人でやってくれたでしょ。それにこういうのは最初に他の人からの感想をもらえたほうがいいと思うし。だから、はい」

 

つまり、どういうことだってばよ。あ、パニクりすぎてしゃべり方がどこぞの火影様になってしまった。え、これをこのまま食べればいいの?これってあれですよね。いわゆるあれですよね。小町の大好きな少女漫画でもある、あの嬉し恥ずかしのイベントですよね。これ菱川さんからは・・・あ、不機嫌そうな顔してらっしゃる。その隣のありすは・・・ニコニコ笑顔だな。ただしその裏にどんな思惑があるのかが正直わからないので素直に安心できない。んで、剣崎は・・・ちらちらこっち見てらっしゃる。やっぱりアイドルはこういうイベントからは離れているんですかね?けれども興味はあるよね。しょうがない、女の子だもん!・・・きもいな~。一応律儀に誰もまだ食べずにいるってことは早く食べたほうがいいのですかね。

 

「ほら、あ~ん」

 

こら!余計なことをするなよ、なおさら意識して恥ずかしいことになっちゃうだろうが。

 

「あ、あ~・・・む」

「ど、どう?」

 

少し不安げな表情で剣崎が訪ねて来る。まぁ自分の初めて作った料理を他人に食べてもらうのは緊張するからな。ソースは俺。妹がおいしいと言ってくれた時はマジでうれしかったのを覚えている。まぁそれを踏まえた上だけど正直に話すと、

 

「まぁあれだ・・・うまい、と思う」

「そ、そう?」

「よしっ、じゃああたしも!はむ!」

 

待ちきれなかったのか、相田は手に持ったスプーンでそのままオムライスを一口食べた。やめて!意識していないからだと思うけど、お願いむしろ意識して!さっきから菱川さんが複雑な顔をしてるから、ありすの笑顔に含みがあるように思えるから。それとは別に剣崎が少しうれしそうな顔をしてるのを、にやにやしながら見てるマネージャー、やめてあげて。後からその子が死にたくなるから。というかうれしさを隠そうとして隠しきれてない剣崎さんかわいい・・・じゃなくて!

 

「ほれ、自分でもちゃんと食べてみろ・・・んで、自分で感想言ってみ」

「あ、うん・・・あ、おいしい」

「うんうん!まこぴー、これすごくおいしいよ!」

「ええ、初めてとは思えないくらい」

「練習の成果がしっかりと出ていますわね」

「真琴、よくやったわ」

 

皆口々に剣崎の料理をほめる。実際うまいわけだし、これなら明日の収録でも問題ないだろう。その後オレがお手本がてら作った分のオムライスも消費し、当然のように相田父が用意していてくれたそのほかの料理も全員で食べ、剣崎とマネージャーは一足先に戻っていった。

 

「八幡君、お疲れさま」

「おう・・・まぁあとは明日にかけるだけだな」




新年始まって、仕事とかも始まって、あー。

もうしばらく正月気分に浸っていたい


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勇気の刃

ポコピー化した後の関係性ってどう変わるかな?


 

翌日、一日中相田がそわそわしているのを苦笑する菱川とともに眺めながら、俺たちは無事にその日の授業を終わらせた。生徒会としての用事を電光石火の速さで済ませた相田たちをしばし待ってから、またまた一緒に下校、相田家、正確には洋食屋、「ぶたのしっぽ」へ直行した。

 

「少し早く来すぎたみたいね」

「テレビ局のスタッフもまだ見たいだしな」

「まこぴー、今日は大丈夫だよね?」

「まぁ昨日練習したしな、コツさえ忘れてなければ問題ないだろ」

 

とは言ったものの、なんだか俺も緊張してきた。ただ誰かの仕事を眺めるだけならいざ知らず、今回の場合はある意味自分も大きくかかわってしまったわけで。弟子を見守る師匠ってこんな気持ちなのかしらん?

 

到着して早々撮影スタッフが慌ただしく動き始めた。しばらくして、剣崎真琴とマネージャーも到着し、支度を済ませる。さらには何故かありすまで来て驚いたが、よくよく見るとスタッフの腕章にヨツバテレビと書いてあるのが見えたのですぐに納得した。また特権行使ですか。撮影が始まる前に、剣崎がこちらへ歩いて来た。

 

「あっ、まこぴー!おはよう、でいいんだよね?」

「ええ、おはよう」

「頑張ってね。あたしたち、しっかり応援するから」

「昨日の通りにできれば問題ないはずよ」

「リラックスして、頑張ってくださいな」

 

皆一言ずつ激励の言葉をかける。チラリと剣崎の視線がこちらを向いた。この流れで俺が何も言わない、のは流石にないよな。それに教えたのは俺だし、送り出す責任があるのかもしれない。

 

「まぁ、頑張れよ」

「ええ」

「まぁ、あれだ。うまく作るとか失敗がダメとか、そういうこと考えながら作るよりかは、食べる相手を喜ばせることだけを考えればいいんじゃねぇの?つまりあれだな。要は気持ちを込めろってことだ」

「何その言い回し。でも、そうね。行ってくるわ」

 

全ての準備が終わり、相田の父と剣崎が並んでキッチンに立った。いよいよ始まる。ごくり、と思わず息を飲んだ。

 

「本番!3、2、1」

 

料理体験番組はこうして始まった。剣崎は昨日のリハーサルの時とは比べ物にならないほど手際よく料理を進めていた。卵を割り、材料を切る。料理慣れしていると言えるほどの腕ではないものの、初心者にしては中々と言えるレベルだ。ここまで時間的には1日も経っていないというのに。こっそりマネージャーが、「あの子、珍しく家で料理したのよ。練習したいからって」と、教えてくれた。というかマネージャーと一緒に住んでるのか?血縁者?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「で、できた」

 

フライパンから綺麗に整ったオムライスが皿に移される。ケチャップを上にかけて、ついに料理は無事に完成した。流石に完璧!とまでは言えないものの、十分見た目も綺麗だった。ただ、問題としてあげられるとしたら

 

「多くね?」

 

材料が明らかに多すぎたのだ。その証拠に通常のオムライスと比べても2、3倍の大きさになっている。

 

「あ、すみません。あたしが材料多めに用意しちゃったから」

「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。映像的には見栄えしますからね。そうだ。あなた方も一緒に食べるところを取らせてもらってもいいですか?きっといい絵が撮れると思うので」

 

プロデューサーからの頼みにより、相田、菱川、ありすの3人が剣崎と一緒に食べるところを撮ることになった。まぁ、三人とも剣崎と並んでもなんら見劣りしないルックスの持ち主だし、絵的にいい感じになりそうだしな。ノリノリの相田、緊張気味の菱川、そしていつもニコニコのありす、そして流石はアイドルという感じの剣崎。4人がテーブルに腰かけ、ともにオムライスを食べる・・・っていうか、昨日の夕飯もオムライスだったんだけどな。

 

「あぁ、腹減ったなぁ。俺も撮ってばかりじゃなくて、オムライス食べたいな・・・」

 

ふと、カメラを持っていたスタッフのつぶやきが聞こえた。まぁこういうおいしそうに食べているのを見るとなんだか自分も食べたくなる感情はわからんでもない。そろそろおやつ時ともいえる。しかしそういうのを我慢してでも仕事しなければならないと考えると、やっぱりいつでも時間が取れる専業主夫になるしかないな。

 

ガチャリ、と玄関のドアが開く音がした。誰か来た?顔を廊下に出して確認すると、そこには

 

「お前の欲望を叶えてやるよ」

「イーラ!?」

 

ジコチュー集団の一人、イーラが立っていた。指を鳴らすイーラ。途端にカメラを持っていたスタッフが苦しみ出し、豚のジコチューが現れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ハラヘッタブー!」

 

大きな声を上げ、ジコチューはなんと壁を食い破り、撮影現場に入ろうとした。と、丸い体型のため腹が支えているようだった。すぐさま相田たちは机の下に隠れていなくなったように見せた。それを確認し、俺と執事さんは他の人を避難させることにした。

 

「早く外へ!急いで下さい!」

「でも、マナたちが」

「ご安心を。既にわたくしが避難させました。さぁ、どうぞこちらへ」

 

執事さんに促されてスタッフも相田の家族も外へ出た。それを確認し、部屋に戻ると、

 

「ダビィ」

「その表情、待ってたわ」

 

ポンッと音を立て、剣崎のマネージャーは姿を変えた。シャルルたちとよく似た、携帯端末状の姿に。

 

「プリキュア・ラブリンク!勇気の刃、キュアソード!このキュアソードが、愛の剣であなたの野望を断ち切ってみせる!」

 

ついに、キュアソードの正体が判明した。それはやっぱり剣崎真琴だったのだ。凛とした姿はアイドルの時とは違い、鋭い雰囲気、抜かれた剣のようだった。ラビーズをダビィにセットするキュアソード。

 

「閃け、ホーリーソード!」

 

腕を横に一閃すると、そこから無数の刃が飛び出し、ジコチューの体を包み込んだ。浄化されたジコチューのハートは、元のスタッフの元へ戻って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まこぴー、やっぱりキュアソードだったんだね」

「ようやく正体を教えてくれたわね」

「別に、見てられなかっただけよ。それに、借りもあるしね」

 

借りのくだりでソードの視線がこちらにくるのを感じた。借りって俺に?料理のことで?

 

「料理教えただけだ。大した借りじゃないだろ」

「それだけじゃないわよ。あなたには2回も助けてもらったじゃない」

「は?」

 

なんのことだったかあんまりよく思い出せない。あ、一回はあのスタジオでのやつか。もう一つは?

 

「クローバータワーのことよ」

「は?」

「落ちそうになった時、最初に助けようとしてくれたじゃない」

「いや、それも結局は相田だったし。というかあんまし貸しだの借りだの、そういうのはやめとこうぜ。収拾がつかなくなりそうだ」

「そ、そうね」

 

 

 

「なんだもう終わりか?面白そうな会話をしていたのに、残念だ」

 

突然知らない男の声が響いた。いつの間に現れたのか、黒い服にサングラスを掛けた男性がそこにはいた。ただ、その白い髪は年から来たものではなさそうだ。

 

「誰!?」

「名乗る必要はないさ。どうせお前たちはこれから消えるんだからな」

 

そう男が言うと、突然床が消え、大きな穴が現れた。どうすることもできず俺たち5人はその穴へ落ちていった。

 

「もうこの世界に光が届くことはない。ここは我々、ジコチューの世界だ」




なんだか展開がうまくいかない気がするなぁ

難しいなぁ


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王国の真実

トランプ王国最初の旅、ちょっと色々端折りま〜す


落ちる!

 

落ちる落ちる!

 

というか、落ちてるんだった・・・

 

これ死ぬんじゃね?

 

 

 

長く続くこの落下の中で、正直助かる見込みがない気がしてきた。ここで人生終了、皆さんさようなら〜ってか?などとアホなことを考えてしまった。軽い衝撃を肩に感じ、意識がはっきりとした。

 

「いててて、夢か?いや、ここは?」

 

気がつくと周りは砂だらけだった。さっきまでの落ちていると感じていたのは夢の中でのことだが、この状況は夢じゃないらしい。あの時、突然現れた謎の男の力で、ここに送り込まれてしまったようだ。

 

肩に感じた衝撃は手だった。その相手は俺の意識が戻るのを確認すると周囲を見渡していた。

 

「あ、すまん」

「別に謝られるようなことでもないわよ」

「あいつらは?」

「この辺りじゃなさそうね。ダビィたちもいない」

「そうか。とりあえず探してみるしかなさそうだな」

「そうね」

 

慣れた様子で剣崎は歩き始めた。逸れないようにといそいそと後を追いながら、俺はこの場の異常な空気について考えていた。人が一人も見当たらないのだ。相田たちはこっちに来ているだろうけれども、他に誰もいないようだった。

 

歩くことしばし、あたりに何もないのは変わらなかったが、大きな影が目に止まった。禍々しい姿をしている、黒く巨大な影。全く動く気配はなかったが、その存在そのものが恐ろしく見える。その存在感に圧倒されていると、少し離れた場所から声がした。

 

「八幡くん!まこぴー!」

「お前ら、無事だったのか」

「ねぇ、ラケルたち見てない?」

「どうやら逸れてしまったようでして」

 

妖精たちだけ全然違う場所に落とされてしまったみたいだ。見ず知らずのこの場所で、しかも四人ともプリキュアに変身できない。状況は思ってたよりも悪そうだ。

 

「ねぇ、あれってなんだと思う?」

 

相田が指差したのはその巨大な影。禍々しい表情は動かないが、嫌なエネルギーで満ちているのが離れているここまで伝わってくる。

 

「キングジコチューよ」

「キング、ジコチュー?」

「いい機会だし、そろそろあなたたちにも話すわ。この国、トランプ王国のことを」

「トランプ王国って、シャルルたちが生まれた場所、だよな?」

「ここが、そうなの?」

「私はキュアソード、このトランプ王国を守護する最後の戦士」

「最後、って」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「このトランプ王国は平和な国だったわ。王女様の元で、人々は平和に暮らしていた。けれどある日、奴らが襲って来たの」

「ジコチューのことですわね」

「そう。すぐに大勢の人たちがジコチューにされてしまったわ」

「そんなにすぐに?どうして?」

「人間、災害だとか身に危険が迫る恐怖に会うと、途端に周りが見えなくなっちまう。パニックになれば一斉に逃げまどう。他の連中を見捨ててでも、自分だけは助かりたいという一心になる。つまり、その瞬間誰もが自己中になるってことだ。そこを一斉にまとめてってとこだろ」

 

きっと俺たちの世界は運がいいのだ。奴らがここを攻め落とした時のように、一斉にジコチューを作り始めたら、それこそ終わりだ。奴らがそうしない理由があるとすれば、

 

「キングジコチューは動けないってことなのか?」

「そうよ。王女様は最後まで戦ったの。そしてキングジコチューを封印した。だから今は動けないのよ。あいつらはキングジコチューを復活させるためにジャネジーを集めているの」

「そうだったんだ」

「けど、お前はなんでこっちの世界にいたんだ?それに、最後の戦士ってのは?」

「私のように、この王国を守る戦士は他にもいたのよ。先輩プリキュアや近衛騎士のような戦士たちが。でも、ジコチューの侵略を食い止めようとして、力を失ってしまった」

「だからまこぴーが最後の戦士なのね」

「私は力を使い果たした王女様を連れて王宮にある魔法の鏡に飛び込んだ。どこでもいい、王女様を逃すことができればよかった。でも、奴らの攻撃で移動中に王女様と離れてしまったわ。気がついたら、あなたたちの世界にいて、王女様は見つからなかった」

 

俯き表情が暗くなる剣崎。不安だっただろう。誰も知らない世界に放り出され、一緒に来たはずの人ともはぐれ、いつ会えるかもわからない中、戦い続けた。歌い続けた。それも、たった一人で。

 

「よーし、それならすることは決まったね」

「えっ?」

 

腰に手を当て立つ相田。その表情からは何やら自信があふれていた。その様子に剣崎は戸惑ったようだ。

 

「みんなで王女様を探せばいいんだよ」

「マナ?」

「わたくしたちは王女様を見たこともないのですよ」

 

相田の発言に二人は少し難しそうな表情を浮かべた。全く知らない相手を探すのはやはり難しいだろうし、今俺たちの世界でも起きる戦いがある。あまり余裕はないかもしれないだが、

 

「いや、妥当だな」

「八幡さん?」

「急にどうしたのよ、八幡君まで」

「あいつらジコチューに初めて会った時、あいつらも王女様を探していた。多分、見つかると何か不都合があるんだろう」

「えぇ。王女様を取り戻せたら、きっと奴を完全に封印できるわ」

「そうと決まれば、みんなで頑張ろう!一人より二人、二人より五人!」

「あ、ナチュラルに俺もその数に入ってるんですね」

「当たり前でしょ、何を今更」

「みんなで力を合わせましょう」

 

先ほどまでの暗い雰囲気から一転したこの空気に剣崎は驚き、小さな笑みを浮かべた。

 

「宮殿に行きましょう。そこの鏡からなら戻れるはずよ」

「あの妖精たちもいてくれればいいんだが」

「大丈夫!なんとかなるよ」

 

自信満々の相田に押し切られるように、俺たちは宮殿を目指して歩き出した。途中ジコチューに遭遇しそうになったり、橋から落ちそうになったりと割と生命の危機にも直面したが乗り切った。というかこの四人、運動神経おかしいだろ。なんで運動そこそこ苦手と公言してる菱川まであの中央が崩れた橋飛び越えられるんだよ。

 




マジで今回八幡役立たずじゃね?とか思ってしまいました


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新たな決意

やっと帰ってきた〜

この先の展開は多分ちょこちょこ省くかもしれません

一年分はきつい


宮殿の中心部、そこにはたくさんの鏡が置いてあった。このうちの一つが魔法の鏡のはずらしいが、

 

「遅かったな」

 

響く男の声。その方向へ目を向けると、俺たちをこの世界に送り込んだ男が鏡を手に立っていた。

 

「お前たちが生きていたら、必ずここにくると思っていた。元の世界に行くにはこの鏡が必要だからな。だが、無意味だ」

 

男が鏡を倒した。その衝撃で鏡にヒビが入り、淡く輝いていた鏡から光が消えた。

 

「これでもう、向こうに帰ることはできないな」

 

剣崎が崩れ落ちた。菱川とありすも絶望的な表情を浮かべていた。正直、俺も似たようなものだろう。最後の希望、元の世界への唯一の扉が閉ざされてしまったのだから。

 

「はっはっはっ「はっはっはっは」は?」

 

高笑いする男の声に被さるように、別の笑い声が響いた。それもすぐ隣から。この絶望的な状況にありながらも、どうすればいいのかもわからない状況にいながらも、彼女は笑っていた。自信に溢れた強い瞳で前を見据えながら、相田マナは笑っていた。

 

「その程度で、あたしたちの心を折れると思ったら、大間違いよ」

「なんだと!?」

「あたしたちはあなたの力でここに送り込まれた。それはあなたに世界を自在に行き来する力がある証拠。つまり、鏡がなくてもあなたに連れて帰って貰えばいいだけ」

「お前、俺を言いなりにできる前提で話してないか?」

「そんなこと、出来るのかよ?」

「もちのろん!」

 

言い切った〜。超ドヤ顔で言い切りましたよこの子。どこからそんな自身湧いてくるんですかね、ほんと。

 

「全く、変なとこで自信満々なんだから」

「でも、それがマナちゃんらしいですわね」

「負けたわ、あなたには」

 

相田の言葉で他も立ち直ったようだ。まっすぐ、明るく、恐れ知らず。根っからのリーダー、天性のカリスマって感じだな。一緒にいるだけで安心できる。一人の時に一番落ち着ける俺も、こいつといる時は安心感を覚えてる。それが不思議だ、が不快感は全くない。

 

「帰ろう、あたしたちの世界へ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

突然降ってきたシャンデリア。先に到着していたらしい妖精たちと合流することができた相田たちは、プリキュアに変身し、男に挑みかかった。しかし流石に幹部らしき男は手強そうだ。攻撃が防がれ、逆にロゼッタのシールドでも奴の攻撃を完全に防ぎきれなかった。

 

「その程度じゃ、俺を従わせることはできないな」

 

「私が隙を作るわ。その隙にあなたたちの攻撃を当てなさい。閃け、ホーリーソード!」

 

ソードの放った無数の光の刃を躱した男だったが、光の刃は鏡に反射し、予想外のところからの攻撃に対応できずにダメージが入った。

 

「煌めきなさい、トゥインクルダイヤモンド!」

 

着地したその瞬間に、ダイヤモンドの冷気が敵を拘束した。動けなくなった男。

 

「あなたに届け、マイスウィートハート!」

 

ハートの浄化技が男に決まった。体から黒いエネルギーが気化するかのように立ち上った。完全に浄化こそできなかったものの、だいぶん弱らせることはできたようだ。

 

キラリ、と何かが光るのが見えた。目を凝らすと、先ほど割られた魔法の鏡、その破片のうち一つが破られる前と同じ輝きを放っていた。

 

「まだ完全に魔法が死んだわけじゃないってことか?ハート、お前ら!あの鏡の破片へ」

 

声に反応し、四人が集まってくる。指を切らないように鏡の破片を手に取る。

 

「逃がすか」

「逃げるんじゃないわ。必ずここに戻ってくる。キングジコチューを倒し、トランプ王国に平和を取り戻してみせる!」

「行くぞ」

 

鏡を上にかざすと、光が溢れ出る。そして再び謎の浮遊感に襲われると、目の前の宮殿の部屋も、ジコチューの幹部も視界から消えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

落ちた先は、家の近くの公園だった。誰もいないのは幸いだったな〜。こんなところを見られたらなんて説明したらいいのかわからなくなる。

 

空を見上げると、俺たちが落ちて来た時空の穴ようなものがあったが、徐々に小さくなっていき、消えてしまった。

 

「時空の穴が、閉じてしまったわね」

「大丈夫。すぐに戻る方法も、王女様も見つけられるよ。そして、キングジコチューを倒して、トランプ王国に平和を取り戻そう」

 

そっと手のひらをを下に向け差し出された相田の手。その上に菱川とありすが手を重ねる。

 

「この世界で、ジコチューに勝手なことはさせない」

「皆さんと一緒なら、なんでも出来そうですわ」

 

期待の眼差しが俺と剣崎に向けられる。溜息一つついてから、ありすの手に自分のを重ねた。

 

「まぁ、取り敢えず付き合うだけ付き合うことにするわ。今更知らない振りとか無理だし、そもそも相田が逃さなさそうだしな」

 

ん、と剣崎とアイコンタクトを取る。俺たち四人を見渡したあと、小さな笑みを、アイドルの時とは違う、トランプ王国のキュアソードとしての笑みを浮かべてから、剣崎はその手を俺たちのに重ねた。

 

「お願い。力を貸して」

 

「「うん」」「ええ」「おう」

 

こうして改めて、剣崎真琴、キュアソードが俺たちの仲間に加わった。ただ現れたジコチューを倒すだけではなく、明確な目標もできた。これからさらに忙しくなりそうだな。けど、不思議と不満や倦怠感は感じられなかった。




ここまで恋愛色はないな〜

入れていくにしてもどうやっていこうかなー


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休日に待ち合わせて

あぁ、リアルが忙しい

続きが書けない、時間がない


休みの朝に目が覚め、ゆっくりとした時間をゲームしながら過ごしていたところ、俺の携帯が連絡の通知を受け取った。ゲームを終え、携帯の画面を起動する。連絡用のアプリを起動し、連絡を確認する。

 

さてこの携帯、登録されている連絡先は本当に少ない。親父、お袋、小町、相田と菱川。ここまではいい。しかし四葉財閥のお嬢様の連絡先や、大人気アイドル剣崎真琴の連絡先が俺の携帯に入っているのは間違っている気しかしない。ちなみに一応マネージャーと執事のおじさんのも持っている。

 

そんな考えはさておき突然入ってきた連絡を確認する。差出人は菱川だった。

 

『ちゃんと集合時間に来るように。まこぴーもそこまで時間がないんだからね』

 

へいへいわかってますよ、とひとりごちる。了解と返事しておき、取り敢えず着替えて下に降りた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「およ、お兄ちゃん?着替えてるってことはどこかお出かけ?」

「おう」

 

下に降りるとなぜか俺のシャツを着用し、随分とだらしない格好で雑誌を読んでいる妹、小町がいた。というか、家の中とはいえ服装くらいはしっかりしなさい。外に出ないといけない時が来たらどうするの。

 

「またマナさんたち?」

「まぁそうだな」

 

相田が一度俺を連れて行くために家を訪ねた時に、小町は一度だけあったことがある。相田のカリスマのなせる技か、小町とすっかり仲良くなっていたな。その他のメンバーとは未だに面識がないが、俺から一応話は聞いているため、既にに知っている気持ちになっているようだ。もちろん剣崎のことは伏せているが。

 

「いい人だよねーマナさん。他の人たちもいい人っぽいし」

「そうだな」

「ありゃ、珍しくお兄ちゃんが素直だ」

「ばっかお前、俺とか超素直だろ。嫌なことははっきり嫌というし、めんどくさいことはやりたくないと宣言するし、感想とかも思ったことしか言わない」

「はいはい、そういうところが捻くれてるの。お兄ちゃんのそういうところも、小町は受け入れてるけど。あっ、今の小町的に超ポイント高い」

「はいはい、高い高い」

「テキトーだなー」

 

なんてアホなやり取りを続けるわけにもいかない。遅刻したらマジで菱川に怒られるんだろうな。

 

「取り敢えず行って来るわ」

「はいは〜い、行ってらっしゃ〜い。楽しんで来てねー。マナさんによろしくー」

「おう」

 

小町の声を背中に浴びながらドアを開けて外に出る。まっ、行きますか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

待ち合わせ場所に着いて辺りを見渡す。一応時間前とはいえあいつらが先に来ててもおかしくは、ん?

 

「・・・ふぅ」

 

いた。一人いた。帽子をかぶり、赤い淵のメガネをかけていたが、間違いなさそうだな。取り敢えず相田たちはいないみたいだが、先に合流しておくか。

 

「よう」

「あ、おはよう」

 

軽く挨拶を交わすとあとは無言。やばい、何がやばいってこの空気がやばい。相手はアイドルだし、というかそもそも何を話したらいいかわからないから必然的に無言になってしまうが、流石にそれは気まずいというか配慮に欠けているのでは。一人で考えていると、近くのスクリーンから歌声が流れた。その中で歌っているのは今隣に立っている剣崎真琴本人だ。

 

「私この歌すきなんだよね」

「あたしも〜」

 

近くを通る女子の声が聞こえる。ちらりと横を見ると、困ったような嬉しいような表情をしていた。まぁ、こうして自分の歌を聞いてくれて、好きだと言ってくれる人がいるのはやっぱり嬉しいんだろうな。

 

「二人とも、お待たせ〜」

 

相田の声がして二人でその方向を向くと、やたらとキラキラとしてる相田の顔があった。本当にキラキラしてて、星が見える気までする。

 

「今日はお日柄もよく、桜は綺麗で、空は青くて、絶好の待ち合わせ日和だね!」

「ちょっとマナ、テンション高すぎて変よ、色々と」

「だってだって、あのまこぴーがここにいるんだよ!」

「落ち着け。色々おかしいのは本当だし、リアクションに困ってるぞ。なんなら俺まで困る」

「マナちゃんは、真琴さんとお友達になれたことが本当に嬉しいのですよ」

「えっ、えぇと」

 

剣崎が本格的に戸惑ってるな。変装用の眼鏡も若干ずれてるし。まぁわかる、その気持ちはよくわかる。まぁ俺もここまでではなかったが、秘密を共有するようになったあの後の相田はすごかったからな。

 

「まぁあれだ、慣れろ」

「えぇっ」

 

取り敢えず菱川が相田を落ち着けさせたようだし、そろそろ移動するか。あの謎の男、ソリティアという店へ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここね、あなたたちにラビーズを渡した人がいるのは」

「そうだよ」

 

暫くして、俺たちはソリティアの前に立っていた。トランプ王国の戦士プリキュア、その戦士の力の源であるラビーズを持っていた男がここにいる。

 

「名前は?」

「えっ、なんだっけ?」

「「さぁ?」」

「そういや聞きそびれてたな」

「はぁ〜」

 

溜息をつく剣崎。まぁ、よく考えたら名前も聞いてない相手から貰い物をしたわけだから、実際呆れられても仕方がないわけだが。危機感なさすぎだろ、俺たち。

 

「あのお兄さんなら、きっとトランプ王国や王女様のこと、何か知ってるよ」

「・・・そうね」

 

店の中に入ると、中には誰もいないようだった。あの金髪の胡散臭い男もだ。

 

「誰もいないみたいですわね」

「鍵もかけないで、この店大丈夫なのかしら?」

「ん?これって」

「何何八幡くん?わぁ、ラビーズがいっぱいある」

 

ちょっ、近いんだけど。台の上に置かれていたケースの中にはいくつかのラビーズが入っていた。それをよく見ようと思ったら相田がすぐ隣に来て覗き込んで来たのだ。あっ、なんかちょっといい匂いが、じゃなくて!

 

ささっと前を譲り店内を見渡すと、剣崎が何かを見ているようだった。近くまで行って見ると何か布が置かれたものがテーブルの上に乗せられていた。

 

「何か見つかったのか?」

「あ、これ」

 

剣崎が指を指すと同時にテーブルの上のものが揺れ、掛かっていた布が落ちた。そこにあったのは

 

「は?」

「えっ、これって」

「卵?」

 

上から俺、剣崎、相田の順である。いつの間にこっちに来ていたんですかね!相田さんや。

 




まぁ、忙しくてもなんとか投稿の時間は見つけられるだけマシか

続きはしますからね〜、終わらないよ、多分


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不思議赤ちゃん誕生!?

きゅぴらっぱーとかでリアルの用事全部うまくいかねぇかなぁ


あらすじ。トランプ王国について聞こうと思ったら、卵っぽいもの発見しちゃった!なんだこれ、意味わからねぇぞ。

 

「でっかい卵だー!」

「オムライスにしたら10人前は作れるでしょうか」

「オムライスって」

「食べる気かよ」

「いやいや、卵のはずがないでしょ。ダチョウの卵だってもっと小さいわよ」

「というかそもそもハート柄の時点でもう色々とおかしいだろ」

 

そう、この卵。大きさも規格外ではあるが、なぜか大量のハートで表面が埋め尽くされているのだった。卵にいろんな色があるのはまだいい。ハート柄ってなんだよ。

 

「恐竜とか、エイリアンとかの卵だったりして」

「「ないない」」

 

思わずツッコミが菱川とハモってしまった。

 

「おーい、早く出ておいで〜」

 

と相田が指先で卵をつつくと、卵の殻にヒビが入った。ヒビは徐々に大きくなり、突然卵が光り輝き始めた。中から現れたのはハートの形に髪?を結い、小さな手足に白い肌。そしてにっこり笑顔。

 

「きゅーぴー」

 

奇妙な泣き声とともに赤ん坊が生まれたのだった。

 

「う、生まれた」

「嘘」

「赤ちゃんの卵でしたね」

 

驚く俺や相田たちを見てその赤ん坊は首をかしげると、

 

「きゅぴー」

 

満面の笑顔を浮かべた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「かっわいいー!」

「か、可愛いけど、それより前に言うべきことない?」

「卵から生まれるなんて、珍しい赤ちゃんですわね」

「えっ、いいの?それでいいのか?珍しいとかそれ以前の問題じゃねぇの、これ?」

 

卵って、卵って。何それどゆこと?人間って卵から生まれるっけ?いやいや、母ちゃんが腹を痛めて産んでくれたわけだし。いやでも元々は卵だよな、受精卵って。っていやいやいや。

 

パニックになっている頭を整理しようと相田の腕の中にいる赤ん坊を見ると、

 

「おっ、飛んだ〜」

「お上手ですわ」

「ちょっと待って、それって褒めるとこなの?私がおかしいの?」

 

安心しろ菱川、俺も多分お前と同じだ。いやまぁ妖精だのプリキュアだの不思議体験は色々として来ましたよ、それは認めます。段々とそれに慣れてきている自分自身がいることも認めますよ、はい。けどね、これは無理だわ。キャパオーバーだわ。

 

「ねぇ、それより、お店のお兄さんは?」

 

いいぞ、剣崎。そうだ、当初の目的を忘れてはいけないな、うん。と思ったが、真正面から微笑みかけられて、剣崎も赤ん坊の魅力にとりつかれてしまったようだ。だって今まで見たことない笑顔浮かべていましたもの。と、飛び疲れたのか、赤ん坊は相田の胸に飛び込んだ。

 

「鳥の赤ちゃんは、生まれて初めて見たものを母親と思うそうですよ」

「そうなんだ。あたしが、ママのマナですよー」

 

おいちょっと待て、鳥と同じでいいのか?というかお前何言っちゃってるんですか相田さん?ママって、お前世話できるのかよ。

 

「あ〜頭が痛くなってきた」

「奇遇だな、俺もだ」

 

その後、仕事があるため剣崎は帰宅し、俺たちも特にソリティアの店主、ジョー岡田からは話を聞くことができずに終わった。ただ、アイちゃんと名付けられた赤ん坊は明らかにトランプ王国と関係があるのだろうということだけは、わかった。いつの間にか、手にキュアラビーズが握り締められていたのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、仕事の都合がついたという剣崎の時間に予約を入れてから、俺たちは再びジョー岡田に会いに行った。

 

「やぁ、どうも」

「トランプ王国の王女様について、何かご存知ではありませんか?」

「あぁ、王女様」

「知ってるんですか?」

 

その時、一瞬だけジョー岡田の見せた表情に、俺は違和感を覚えた。ポーカーフェイスをキープしている胡散臭い笑顔、それが一瞬だけどこか悲しげな笑みに見えたのだ。それも一瞬のことだったため気のせいかもしれないが。

 

「女の子はみんなお姫様だからね。僕のアクセサリーでもっと美しく着飾ってもらえれば、僕も嬉しいよ」

「そういうことではなくて!」

「あなたはトランプ王国のことを、どの程度知っているの?」

「あの卵はどうしたのですか?」

「どうしてラビーズを持っていたんですか?」

 

次々に質問が投げかけられたジョー岡田は、またあの胡散臭い笑顔を浮かべて、

 

「何度も来てくれて嬉しいけど、僕は今日このあと用事があるんだ。アイちゃんのお世話、よろしくね」

「えっ、はい」

「あぁ、それから少年くん」

「なんすか?」

「モテモテなのはいいけど、ちゃんと一人を選んであげるか、全員を平等に愛するかのどちらかにしないとダメだよ」

「はぁ?」

「女の子に優劣はない。特別な人になるかどうかだけだよ」

「いや、何言ってるんですか?」

「ふふっ。じゃあ、よろしく頼むよ」

 

そう言って本当に出て行きやがった。なんなんだ、あいつは本当に。




まぁ、現実逃避しててもしょうがないんですけどねぇ

あぁ、一年中休みなら、いやそれはそれでつまらないな


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羊が1匹おりました

最近眠っても寝足りないことが多い

このジコチューで世界中が同時に眠りについたらどうなるだろうか
超カオスしか予想できない、ワロえない


 

とりあえず、アイちゃんを連れた俺たち5人は近くの公園へ散歩に来た。また何も聞き出せなかった上に、まさか赤ん坊の世話まですることになるとは。ちなみに驚くことにこの赤ん坊、相田たちにすぐに懐いたのはもちろん、どういうわけか俺のことも気に入ったらしい。俺の目を見てもこんな純粋な目で見つめ返してくれるとか、浄化されるんじゃね?

 

と、突然アイちゃんがぐずり出してしまった。ミルクでもおむつを変えて欲しい訳でもないようで、遂には泣き出してしまった。さすがに赤ん坊の世話なんてしたことがない俺たちは慌ててしまった。母親の仕事の関係で詳しい菱川でもよくわからないようだ。

 

「そうだ。子守唄を聞かせてあげればいいんだよ。そうしたらきっとよく眠れるよ」

 

そっとアイちゃんを抱き上げながらの相田の提案になるほどと思った。確かに眠れないことが原因かもしれないしな。ところで、菱川とありすが少し離れて耳をふさいだのは何か理由があるのだろうか、いやむしろあるとしか思えないのだが。声が大きいのだろうかと剣崎と顔を見合わせる。

 

「すぅー。ねぇ〜むれぇ〜、ねぇ〜むれぇ〜!」

 

突然響いたその音俺たち2人と妖精は飛び上がった、かと思うと手で耳を抑えてかがみ込んだ。ひどい。これはマジでひどい。もう下手とか音痴とかそういう話ではない。なんというか、あれだ。とにかくひどい。

 

「マナってなんでもできるのに、歌だけは全然ダメなのよ」

「本人は自覚がないのですけど」

 

指摘してあげてくんない、そこの幼馴染コンビ?自覚がないとか一番ダメなパターンじゃねぇかよ。

 

その後、アイちゃんが驚きから立ち直り、さらに大きな声で泣きだすまで、地獄のリサイタルは続いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

相田が歌をやめ、再び全員でなんとか笑ってもらおうとしたが、一向に泣き止む気配がない。これにはさすがに弱った。どうしたものか、と悩み始めたその時、

 

「ジコチュー!」

 

羊の姿をしたジコチューが現れた。その姿に怯え、泣き止んでしまうアイちゃん。いや、流石にこんな泣き止ませ方は良くないよな。

 

「大丈夫だよ。あたしたちが絶対に守るから。八幡君、一緒に隠れてて」

 

そう言ってアイちゃんを渡された。取り敢えずまた泣きだす気配はなく、一安心・・・ってジコチューの前だと安心も何もないな。アイちゃんをしっかり抱き抱え、少し離れた茂み近くに身を隠した。

 

プリキュアに変身した間たちはジコチューと戦おうとしたが、突然その姿が分裂したかと思うと、地面から何やら柵のようなものが生えて来た。

 

「何これ?」

 

ハートたちがあっけにとられていると、分裂した羊ジコチューは整列し、

 

「ヒツジガイッピキー、ヒツジガニヒキー」

 

と、次々に柵を飛び越え始めた、ってこれ。睡眠誘導のアレじゃん!どんな攻撃!?というか見た目がシュールというかファンシーという、か、

 

「あれ、なんだ?急にスッゲェ眠く・・・って寝てる場合じゃ!あ?」

 

必死に眠気を払おうとして顔を上げると、ハートたち4人がぐっすりと眠っているのが見えた。何やってんのあいつら!?というかハートだけ大口開けて寝るとか勇ましいですね。あぁ、けど俺も人のこと言え、ねぇ、かも・・・

 

 

「きゅぴらっぱー!」

 

 

突然目が覚めた。辺りを見渡すと空に浮かんだアイちゃんから眩しい光が溢れていた。その光の影響か、ハートたちも意識を取り戻し来てたようだった。しかしそれもつかの間。疲れたのか、高度が落ち始めるアイちゃんに向かってジコチューたちが迫っていた。慌てて立ち上がりなんとかアイちゃんをキャッチする。しかしそこでまた凄まじい眠気が襲い、そこから動けなかった。腕の中のアイちゃんがまた泣きそうなのを感じ、抱え込むように抱きしめ、ジコチューが視界に入らないようにする。

 

「大丈夫、大丈夫だ。お前のママたちは、強いからな。心配しなくても、すぐに、終わらせて、来て・・・」

 

なんだかハートとソードが大きな声で何か言っているような気がしたが、眠気に抗えず、俺の意識は遠のいた。

 




短いですけど続きを載せていきまーす


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名前と思い

何だか八幡以外だとすぐにソード視点を描きたくなる不思議


SIDEソード

 

眠っちゃ、眠っちゃダメ!

 

気づいたら、私はキュアハートの頬を叩いていた。驚く彼女に対して、自分でもびっくりするくらいにすらすらと言葉が出てくる。

 

「ママのマナなんでしょ?守るって約束したんでしょ?だったら、なにがあっても守り抜きなさい!」

 

しばしポカンとした後、ハートは私の肩を掴んでゆすり始めた。

 

「ソードだって、本当はアイちゃんのこと、可愛いと思ってるんでしょ?だったら変な意地はらないでいいじゃない!」

 

「わかってるわよ。私たちがやらないで、誰があの子を守るの?」

 

「絶対に守り抜くよ!」

 

気合いを入れるハートを見て、私も意識がはっきりして来た。ジコチューたちの方を見ると、彼がアイちゃんを守るようにして倒れているのが見えた。彼も、一緒に戦ってるんだと、改めて感じる。

 

「ハート!」

「うん!うちの子を泣かせるなんて、許さないんだから!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

SIDE八幡

 

…さい…なさ…

 

「起きなさぁい!」

 

パァン

 

「痛って!」

 

突然頬を襲う衝撃に意識が覚醒する。しばらく頬を抑えてうずくまった後、何事かと顔を上げると、キュアソードとキュアハートが覗きこんでいた。

 

「起きたかしら?」

「あ、あぁ」

「八幡君アイちゃんを、しっかり守ってて。大丈夫。すぐに終わらせるから」

「おう」

 

いつの間に復活したのだろうか、ダイヤモンドとロゼッタも、吹き飛ばされたのか、遠くにいるジコチューと俺たちの間に立った。

 

「ヒツジガイッピキー、ヒツジガニヒキー」

 

再び睡眠誘導攻撃を仕掛けてくるジコチュー。ところが、

 

「ヒツジガ「328万5925匹!」メェ?」

 

 

突然放り込まれた数字に混乱したのか、統制が取れなくなっていた。なにその攻略法、さすがダイヤモンドさん、なのか?

 

「閃け!ホーリーソード!」

「あなたに届け、マイスィートハート!」

 

ジコチューがわちゃわちゃしている間に、ソードが柵を破壊し、続けて放たれたハートの技によってジコチューは完全に浄化された。

 

 

 

 

先ほどの戦いの中で、相田と剣崎はなにやら話し合うことができたらしい。内容までは分からなかったが、あの時聞こえたのは幻聴ではなかったということか。そのおかげで2人の距離も無事に縮まったようだ。

 

ふと相田の腕の中のアイちゃんがおとなしいと思ったら、ウトウトし始めていた。

 

「眠たそうだな」

「きっと、いろいろあって疲れてしまったのでしょう」

「泣いてたのも、眠れなかったからとか」

「だったら今度こそあたしの子守唄で」

「「え?」」

 

思わず菱川と2人で、なに言ってるんだこいつは、みたいな声を上げてしまった。心なしかなんとか笑顔をキープしたありすの表情も固まってるような。

 

災が、ゲフンゲフン、相田の歌に備えようとしたその時、その腕の中から、剣崎がアイちゃんをそっと受け取った。

 

「私に任せて」

 

起こしてしまわないように気をつけながら優しく揺らしながら、そっと剣崎は歌い始めた。最近小町からCDとか借りて聞くようになったが、それらの曲での明るい歌い方とは違う、とても安らぐ、心地のいい歌だった。アイちゃんの目が少しずつ閉じていき、

 

「寝たみたいだな」

「さっすがまこぴー」

「マナ、あなたは歌のレッスンが必要よ」

「そうかな?って、今あたしのことマナって呼んだよね?」

「そうだったかしら?」

「絶対呼んだ。ね、もう一回呼んで、ね!」

「「「しーっ」」起きちまうだろ」

「あっ」

 

その後、起こさないように細心の注意を払いながら、4人はアイちゃんを見守っていた。こんなにも頼もしいママが4人もいるんだ。何があっても、大丈夫だろう。それが分かっているのかは知らないが、アイちゃんは安心しきった顔で眠っていた。

 

 

 

余談だが、アイちゃんが学校に来た時に様々な怪奇現象が起きてその後大貝七不思議として語られるようになったとか、アイちゃんの不思議パワーでプリキュアたちが一時的にパワーアップしたのだが、それはまた機会あれば詳しく話そう。




次はソード転入回です

しかし、この子動かしやすいな、なんか


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転校生はアイドル

剣崎さん学校登場ですな

八幡の周囲がまた変わっていくー


朝、いつものように登校していた俺はその途中で相田と菱川を見かけた。とりあえずスルーする理由もないし、挨拶だけでもしておくか。

 

「うっす」

「あ、八幡君、おはよう」

「おはよー!ねぇねぇ八幡君、六花ってあたしの奥さんみたいだよね!?」

「はぁ?」

 

朝っぱらから真面目にわけわからない質問が飛んで来た。何、奥さん?どゆこと?百合なの?2人は百合キュアなの?ハートがマックスで星がスプラッシュしちゃうの?あれ、なんか違うタイトルが混じった気が。

 

「お前らってそういう関係だったのか?」

「違うわよ!もう、ちゃんと最後まで聞いてよね」

「いや、おう。なんかすまん」

「奥さんって、一番近くにいる信頼できるベストパートナーのことでしょ?あたしにとってそれは六花かな?って」

「ほーん」

 

まぁお前らお互いに大好きフリスキーだもんな。それに菱川の方は割とガチなんじゃないかとたまに思ってしまうし。王子とツバメのように切っても切れない関係って奴なのかもしれないな。

 

そんな会話をしながら、俺たちは教室に着いた。もう周りもこの3人がいることに慣れたのか、特に刺さるような視線は最近感じなくなった。あぁ、これくらいの方がぼっちには生きやすいな。

 

 

今思い返すと、よりによってこの日にこんなことを考えたのは、もう既にフラグだったのかもしれないな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

席に着き、本を取り出し読み始める。やっぱり視線を浴びずに住むのはいいことだ。相田と菱川も生徒会の話でいっぱいのようだし、久々の1人の時間を楽しむことができた。

 

チャイムが鳴り、朝のホームルームが始まった。教師が教卓に立つとみんな前を向いた。

 

「えー突然だが、今日からこのクラスに新しい仲間が増えるぞ」

 

「転校生ですか?」

「男?女?」

「ドキドキするね!」

 

途端にざわつくクラス。しかし転校生か。これは良かった。これでクラスの注目はさらに俺から外れることになる。あとは転校生とは必要最低限の関わりだけを持つように気をつけておけば万事オッケーだな。取り敢えず興味がない俺は再び本に目を落とした。

 

「みんなの方がよく知ってると思うぞ。どうぞ、入って」

 

ガラリと扉が開き、足音がする。クラスが一瞬シーンと、静まり返る。流石に不思議に思った俺は本から顔を上げた。

 

「えっ?」

 

「「「「「えぇぇぇぇえ!?」」」」」

 

その時、クラスの中で驚きの表情を浮かべていなかったのは先生と本人とやたらキラキラしてた相田だけだろう。入って来た転校生は誰もが知っている相手だった。特徴的な紫の髪、強い意思を示しそうなツリ目、そして整った容姿。アイドル、剣崎真琴がクラスメートになった瞬間だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「剣崎真琴です。よろしくお願いします」

 

教室が爆発した。いや物理的にじゃないが音がね。男子どもの歓声に女子の喜びの叫び声。頭がガンガンするからやめてほしいものだ。とりあえず机に突っ伏してスルーしよう、そうしよう。

 

「それじゃあ剣崎の席は、あの後ろの方。窓際の列な。あそこで寝てる比企谷の隣だ」

「はい」

 

え?足音が近づいてくるのがわかる。俺の席の右側の通路から後ろを通り、反対側へ回ったのを感じる。椅子が引かれる音がして、空いていたはずの隣に誰かが座るのを感じる。ちらりと顔の角度を変えて隣を見ると、剣崎真琴がそこに座っていた。

 

「クッソー、なんであいつの隣なんだ?」

「俺の隣だって空いてるのに」

 

怨嗟の声が聞こえたような気がするがスルースルー、気にしたら負けだ。とりあえずこういう時にはとてつもなく便利なあの人の名言を使おう。ほんと使い勝手良すぎるだろブラウニーさんや。

 

「なんでさ?」




マジで使いやすいセリフ

「なんでさ」

日常でも使えるという


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そして教室は荒れまくる

投稿先間違えたorz

何やってんの俺


ホームルームが終わり、先生が教室を出ると、早速廊下が騒がしくなった。他のクラスの連中もわざわざ見に来たらしい。男子と女子のグループが、それぞれ別々の隅から剣崎のことを眺めていた。とりあえず俺は隣で目立たないように机に伏せて寝たふりを続けながらその様子を見ていた。

 

「あたしファンなんだ!すっごく嬉しい」

「テレビで見るのとはやっぱり違うね」

「本当に可愛いね!」

 

「生まこぴー、超かわいい」

「俺このクラスでよかった〜」

「僕なんて席が前ですよ、前」

 

はい、唯一席が隣な俺ですけど何か?まぁ、割とどうでもいいが。流石に話しかけるのは気がひけるのだろうか。やっぱり国民的アイドルともなると大変だな、色々と。

 

しかしそんな中で例外は当然いるわけで、堂々と話しかけているやつが約2名いた。もうお察しだろうが、我らが相田マナとその妻(笑)の菱川六花です。うん、かっこわらいって実際の会話だと絶対使わないよな。

 

「ビックリしたよー。まさか転校してくるなんて」

「急にどうしたの?」

「王女様を見つけ出すためにも、もっとこっちの世界のことも勉強しようと思って」

「もうキュンキュンだよ!まこぴーとクラスメートになれるなんて。歓迎するよ!ようこそ、大貝第一中学校へ」

 

差し出された相田の手を、剣崎は躊躇いなくとった。途端にどよめくクラスの連中。流石に注目されているのに戸惑う相田と菱川。しかしそこはさすが人気アイドル、笑顔を見せることで生徒たちの心をガッチリと掴んでしまったようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一時限目のチャイムがなり、生徒たちは全員席についた。担任が再び教卓に立つ。

 

「それじゃあ授業を始めるぞー、とその前にさっき言い忘れてたことがあったな。比企谷〜」

「ゔえっ、あ、はい」

 

突然名前を呼ばれたせいで思っきし変な声が出てしまった。クスクスと小さい笑い声が聞こえる。なんでわざわざクラス全員の前で呼ぶんですかね、授業後でもいいでしょうに。が、次の先生の発言で笑い声がピタリと止むこととなった。

 

「しばらく剣崎の面倒見てやってくれ。学校案内と授業中のサポート、任せたぞ」

「えっ」

 

「せんせー、俺がやります!」

「私たちがやりますよ」

「いやいや僕が」

 

クラスがまた騒がしくなる。剣崎とお近づきになりたいのかみんなこぞって立候補する。そんなに剣崎が好きなのかよ、お前ら。俺はというと別に誰がやってもいいだろ、と先生が他の人を指名するのを待っていた。というかこういうのは相田が適任だろ。

 

「はいはい、みんな落ち着きなさいな。そうやってはしゃぎすぎるから彼にしたんだよ。彼は剣崎が来ても冷静でいたからね。ここではアイドルとしてではなく、一生徒だ。そうして接することができる彼が適任だろう」

「あたしも八幡君がいいと思う!」

 

手を挙げてそう宣言したのは相田だった。てっきり自分がやると言い出すと思っていた俺を含むクラス全員があっけにとられた。

 

「まこぴーも、八幡君でいい?」

「ええ。お願いするわ」

「決まり!八幡君、まこぴーのことしっかりとお願いね」

「えっ、あ、おう」

 

本人はそれでいいのか?ちらりと隣を見るとばっちり剣崎と目が合ってしまった。笑顔を向けられたので取り敢えず頷きで返事をする。

 

「またあいつばかり」

「ちくしょー、羨ましいなぁ」

「爆ぜればいいのに」

「俺だってまこぴーとお近づきになりたいのに」

「相田さんたちとも仲良いですしね」

 

「ねぇねぇ、もしかしてまこぴーも?」

「それってヤバくない?どこで知り合ったんだろう?」

「でもそれなら生徒会長が比企谷君を推すかな?」

「そこはほら、無自覚なんじゃない?」

「一番気にしそうなのは六花かな」

「三つ巴ってやつ?なんだか面白そう」

 

またなにやら色々と聞こえてくる。そういうことは本人に聞こえないように話すものでしょうが。男子は恨めしそうに、女子は興味津々にこっちを見て来てやがる。まぁ、王女のことを探すことも考えたら秘密を知ってるやつのほうがいいか。相田や菱川は生徒会で忙しい時もあるしな。

 

「まぁ、よろしくな」

「ええ。よろしくね」

 

すると剣崎が手を差し出す。相田の時のように握手のつもりなのだろうが、今ここでやらないとダメですかね?ただでさえ周りの視線が痛いのに。が、断ったら断ったで剣崎に失礼だしな。取り敢えず握手に応じると、黄色い歓声っぽいのと悲壮感あふれる叫び声みたいなのが教室に響いた。

 

 

 

 

「君たちね、今授業中なの忘れてるでしょ?これ怒られるの俺なんだからね」

 

先生、すみませんけど自業自得な気もします。

 




どうやったら間違えるんだろうか


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騒がしく慌しい一日

この作品は久しぶりだなぁ

一応続き書ける時には書いてますので


さて人々が落ち着きを取り戻したため授業が始まったわけなのだが、取り敢えずサポートと言っても何をすればいいのかがわからない。あれか?教科書とかノートとか見せればいいのか?

 

「よし、それじゃあ小テストを行うぞ」

 

げぇ、と本気で思ってしまった。完全に小テストのことを忘れていた。最近色々と忙しくて全く勉強してなかった。隣の剣崎でさえ動じることがないのを見て少しばかり負けた気になる。まぁ、現国は得意な方だし、なんとかなるだろ。

 

テストが開始して数分、割と簡単だった問題を解き終えた俺は少し気になって隣の剣崎の様子を横目で確認した。突然のテストだというのに一切動じずに取り組んでいる様子から問題はなさそうだな、って

 

「待て待て違う違う、そこに書くのはサインじゃないっての」

「えっ?」

 

何をトチ狂ったか名前を書く欄にはとても丁寧なサインが書いてあった。いや確かにそれもお前だっていうのはわかりやすいけどよ。

 

「普通に書けばいいんだよ。っていうか俺たち一般人はサインとかねぇからな」

「あ、そうね」

 

いそいそと消して書き直す。なんだか急に不安になってきたぞ。この後、何事もなければいいが。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんだかあの時にフラグを立ててしまった気がする。

 

その後、書道の時間では硯を使わずに直接墨汁を筆にぶっ掛けようとするわ、家庭科の裁縫ではいつの間にか雑巾と別の布を縫い合わせるわで大変だった。相田と菱川も手伝ってはいたが、最終的には俺がどうにかすることになるから、本当に。

 

「ふぅ」

「八幡君、なんだか疲れてるね」

「まぁ、いろいろあったものね」

「いや、それもあるけどよ。どっちかっつーと視線に晒されるのがきつい」

「「あぁ〜」」

 

先生に命じられたことだから、俺が学校案内をすることになったわけで、その時に学校全体を回った。が、そのせいでほぼ全校生徒に俺が剣崎真琴と一緒にいるところを見られることとなったのだ。ヒソヒソ声が恨めしい。男子どもの恨みのこもった視線や、女子の面白がっているような視線を1日浴び続けた俺のメンタルはボロボロだ。これがしばらく続くと考えると、なんだか急激に疲れてきた。

 

「ごめんなさい」

「あ?」

 

少し伏し目がちな剣崎が謝罪の言葉を紡いだ。どうやらいつも以上に俺が疲れているのを見て罪悪感を感じてしまったようだ。

 

「迷惑だったかしら?」

「いや別に迷惑ってわけじゃねぇけどよ」

「マナたちと一緒に戦うと決めたから、あなたのこともちゃんと知ってみようと思ったから。でも、迷惑なら他の人でも」

「いや、別に迷惑じゃねぇって。こういうのには慣れてる」

「え?」

「まだそんなに長くはねえけど、ほぼ毎日のように相田といるんだぞ。こんなもの、面倒のうちにも入んねぇよ」

 

ほんと、かつての俺はどこへ行ったのやら。いつの間にかメンタル的にも肉体的にも鍛えられた気がする。これくらいのこと、どうってことはない。

 

「それに、一応任せられたことを途中で放棄するのは気持ち悪い。だからまぁ、最後まで俺が引き受ける」

「流石八幡君、捻デレさんだねー」

「おいなんだそれ?変な造語作んな」

「小町ちゃんが言ってたよ」

「小町ェ」

 

クスクスと笑う声。相田とのやり取りを見て剣崎が笑っていた。そんなに面白いことがあったか?

 

「じゃあ、最後までお願いするわね」

「おう」




短いけど許して!

忙しいんです最近は


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似ている……のか?

こっちも続けてみよっかな


授業も終わり、やっと刺さるような視線から解放されると思った俺は一伸びしてから帰り支度を始めた。

 

「八幡君、一緒に帰るよ!」

「あ?生徒会はどうしたんだ?」

「今日はお休みなのよ。特に大きな案件もないしね」

「それに、まこぴーにこの辺りを案内したいしね。だからほら、行くよ」

 

勝手に俺の鞄を引っ掴んで歩きだす相田。苦笑しながらついて行く菱川に、特に気にしている様子もなく続く剣崎。溜息を一つこぼし、俺も後を追いかけることにする。

 

 

 

校門近くまで行くと、何やら外が騒がしいのに気づく。ピンクのハッピを着、整列する男達。

 

「まこぴー、お疲れ様です!」

「「「「「お疲れ様です!」」」」」

 

「何だこれ?」

「なんだか、凄いわね……」

 

「この人たちは、真琴の応援団の方達ダビィ」

 

いつの間にいたのか、真琴のパートナーのダビィが教えてくれた。流石はアイドル。にしても、わざわざ学校まで来るか普通。まぁ、ダビィ曰く、礼儀正しいいい人たちばかりらしいから問題はないのかもしれないが。

 

ところでさっきからその応援団の皆さんの視線を感じるのは気のせいですかね。えっ、違う?だと思ったよ。

 

「まこぴーと学校、いいなぁ」

「制服姿も可愛いし」

 

おおう、応援団員の心の声ダダ漏れですよ。そこへ団長らしき人からの一喝。プライベートを守るのも自分たちの務めだと言いきり、何やら団員の心得を全員に復唱させ始めた。

 

いや、あの、ここ校門前なんですけど。

 

暫く校門で団員達を眺めていると、何人かの大人が校門に近づいてきた。服装や持ち物から察するに、剣崎真琴の学校まで取材しにきた雑誌記者あたりだろう。

 

唐突に写真を撮り始める記者達。おいおい、制服を着ている間は、剣崎真琴も一生徒だろうが。それに、他の生徒の顔も写ってるのは流石にまずいんじゃないのか。というか、これだと剣崎も帰ることができなさそうだ。ここは俺が、

 

「相田、ここは「私がなんとかするわ」は?」

「マナと八幡君はまこぴーを連れて、裏門から」

 

俺が言い切る前に、菱川が前に進み出た。

 

「あなた方。ここは一般の学校ですよ。制服を着ているうちは、真琴さんも一生徒。それに、うちの生徒の写真を勝手に撮られては困ります。お引き取り下さい!」

「そうだそうだ!まこぴーのプライベートは俺たち応援団が守る」

 

菱川と応援団が記者達を引き受けてくれているうちに、俺たち三人は裏門から出て、相田の家に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「迷惑かけちゃったわね、ごめんなさい」

 

相田の部屋にたどり着いて一言目に出たのがこれだ。剣崎もどうやらあれには参ってたようだ。

 

「全然大丈夫!ああいう時の六花は本当に頼りになるんだから」

「そう。とても信頼してるのね」

「うん。なんてったって、あたしの奥さんだからね」

「奥さん?」

「言葉通りには受けなくていいぞ。ただ単にそれくらい阿吽の呼吸で通じ合ってるって感じだ」

「なるほどね」

 

「あ、あたしおやつ準備して来るね。二人はここでちょっと待ってて」

 

そう言って部屋を出る相田。いきなり剣崎と二人きりになってしまった。気まずいわけでは無いが、なんだか少し緊張してしまう。あ、ダビィとシャルルいるから二人では無いな。

 

「ねぇ、少し聞いてもいいかしら?」

「ん?まぁ、答えられる範囲でな」

「あなたは、どうしてマナたちと一緒に行動していたの?」

「していた?」

「初めてマナがプリキュアになった時も、あなたが一緒だった。同じ秘密を共有しているから一緒にいるのはわかるけど、あなたって、その、一人でいるのが好きな印象があるから」

「まぁその認識で間違ってねぇよ。実際、あいつと関わるようになってまだ半年も経ってないしな」

 

言いながら思い返すと、この数ヶ月がいかに濃ゆいものだったのかを実感する。そうか、まだほんの数ヶ月なのか、相田と菱川と同じクラスになって、相田がプリキュアになって、菱川もプリキュアになって、四葉財閥のお嬢様と知り合いになり、今こうして大人気アイドルの剣崎真琴と話している。

 

うん、マジで濃ゆすぎんだろ。

 

「まぁ、なんだ。相田と同じクラスになる前までは、学校では完全ぼっちだったんだよ。あいつから話しかけるうちに、なんとなく菱川とも話すようになって、遠足で同じ班になったって感じだな」

「そうなの……じゃあ、あなたはただの一般人で、偶々あの場所でマナがプリキュアになるのを目撃したから、ジコチューとの戦いに巻き込まれたってこと?」

「まぁ、概ねそんな感じだな」

 

少し考え込む剣崎。やや真剣な表情で問いかけてくる。

 

「怖く無いの?あなたは戦わなくていいのだから、逃げたっていいのに」

「いや怖ぇし、いつも逃げてるだろ?その辺に隠れてるだけだしな」

「そうじゃなくて。本当なら、あなたは戦いを見届ける必要も、見守る必要もないはずでしょ?なのにどうして、」

「あー、一つ言っておくけど、俺は別に義務感とかで関わってるわけじゃないからな」

「えっ?」

 

少し説明するのが照れくさい気もするが、真剣に聞いて来たからには正直に答えるべきだろう。頭をガシガシとかきながら口を開く。

 

「まぁ、なんだ。巻き込まれたのはそうなんだが、もう知らぬふりをするには知りすぎちまったしな。それに、相田達といるのも、存外悪くないって思ってるし、あいつらの力になれるものならなってやりたいって、そう思ってる。あいつらには、割と感謝もしてるしな」

「感謝……じゃあ、私と似てるのかもしれないわね」

「……かもな」

 

顔を見合わせて笑う。丁度相田がドアを開け放って入って来たため、会話は終わったが、なんだか、前よりも剣崎と仲良くなれた気がする。まぁ、あくまで俺が勝手に思ってるだけなんですけどね。




全然話が進まないなぁ

まぁ、なかなか見直す時間も見つけられてないし


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俺の妹が自宅でやらかすわけが……

なんかかなり久しぶりですなぁ、こっちは

一応続き載せてみますね

あー、ジュリオカムバック!


「お邪魔します。マナ〜「「しーっ」」?」

 

学校まで来た記者たちを引き受けてくれていた菱川が来た。入って来て早々、俺と相田の挨拶に対するリアクションにキョトンとしている。その後ろから、ありすが来ているのを見ると、どこかで合流したのだろう。

 

「六花、ありがとう。ありすも、ようこそ〜」

 

いつものようなハイテンションで挨拶する相田。しかし小声だ。何故なら相田の部屋にあるソファ、その一つで、剣崎が眠っているからだ。

 

「まこぴー、寝ちゃったの?」

「ま、疲れてたんだろ。学校でも気を張ってなきゃいけないみたいだしな」

「明日はお仕事ないみたいだから、今日は泊まっていってもらうの」

「まぁ、そうなんですの?こういう時は、ゆっくりと疲れを取りませんと」

「ん、なら俺は帰るわ。邪魔してもあれだしな」

「ではわたくしも。六花ちゃんはどうしますか?」

「えっ、私は……もうちょっといる、かな」

「ではマナちゃん、六花ちゃん。また今度」

「うん。八幡くんもね」

 

立ち上がりながら剣崎の方を見る。他人の家に来て、割とすぐに眠ってしまった。それはつまり、それだけ疲労を感じていたということだろう。

 

俺たちと歳の変わらない女の子が、たった一人でこの世界に来た。頼るあてもなく、どこにいるかもわからない王女を探すために、一人でジコチューたちと戦ってきた。自分の歌を届けたいと、アイドルになり、孤独の中で必死に歌い続けてきた。

 

一体どれほどの孤独を感じたのだろう。

 

どれほどの苦しみを味わったのだろう。

 

俺には、とても想像もつかない。

 

「じゃあな」

 

そう言って、俺は相田の部屋を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

窓の外を流れる景色を見ながら、俺は一人物思いにふけっていた。考えるのは剣崎のこと、そしてもう一人、菱川のことだ。今日はほぼ一日行動を共にしたわけだが、何かが引っかかっていた。

 

「そんなに怖い顔ばかりしていますと、定着してしまいますわ」

 

声の主に目を向けると、眠っているランスを膝に乗せ、優しく撫でている。しかし、四葉ありすの目はしっかりと俺を見ている。笑顔ではあるものの、それがかえって本心を読み取らせにくくしているため、俺は未だにありすの機嫌の良し悪しが判断できずにいる。

 

「元々こういう顔なんだよ、ほっとけ」

「そうですの?」

 

さて、そろそろお気づきの方もいるだろうけど、俺は今、セバスチャンさんの運転するありすの家の車に乗っている。

 

何故こんなことになっているのかというとだ、一人で先に帰ろうとしていたところを、ありすから「お話ししたいことがあるので、うちに来ていただけませんか」と言われ、真剣な話っぽかったために断ることができなかったのだ。一応小町には夕飯を自力でどうにかするように伝えてあるし、問題ないだろう。

 

「それで、話ってなんだよ?」

「はい。お話というのは、八幡さんのことについてです。これから先、恐らくジコチューとの戦いはもっと激しくなるでしょう。その時に、八幡さんの身に危険が訪れるかもしれません」

「まぁそうだな。実際もう何度か痛い目には合ってるしな」

「そこで、わたくしから提案なのですが、週末にわたくしのお家に来ていただけますでしょうか?」

 

 

 

「……はい?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌朝、俺の眠りを妨げたのは、一本の電話だった。なんなんだとぶつくさ言いながらも携帯を手に取る。チラリと画面に表示された名前を確認してから、電話に出た。

 

「もしもし?」

『あ、八幡くん、おはよー!起きてた?』

「今起きたんだよ……何か用か?」

『あ、うん。アイちゃんに会いに行こうと思うから、すぐにまこぴーとそっち迎えに行くね』

「……は?」

『じゃ、準備しといてねー』

 

切れた。は?いや迎えにって、えっ?何?ドユコト?頭を悩ませる俺だったが、相田が来るというなら間違いなく来るので、仕方なく着替えて、外に出る準備をする。家のチャイムがなったのは、丁度俺がパンを口に押し込んだ瞬間だった。

 

 

 

「おっはよ〜!」

「いや、さっきも電話越しで挨拶しただろ」

「いやいや、こういうのはちゃんと毎回するのが大事なんだよ」

「そうですか……うっす」

「ええ、おはよう」

 

朝からなんだこの状況?美少女二人(片方生徒会長、片方アイドルな転校生)が家に迎えに来るとか、どこのギャルゲー?しかし、パンを片手に持ってる時点でしっかりとした挨拶も何もないような気がするんだが……

 

「もしかして朝ごはん中だった?」

「もしかしなくてもそうだ……まぁ、あれだ。もう少し時間がかかるから、取り敢えず上がるか?コーヒーならあるが」

「いいの?じゃあお邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 

ドアを広げ、道を譲ると、相田は元気よく、剣崎は丁寧なお辞儀をしながら家に入った。取り敢えず二人をリビングに案内し、コーヒーを入れる。時間がなかったため、とてもシンプルな朝食がテーブルの上に並んでいる。

 

「へー、八幡君の家って、こんな感じなんだ」

「そんなに珍しくもないだろ」

「いやぁ、男子の家って初めてだから、なんだか新鮮で」

「そうかい」

 

取り敢えずあまり待たせるのも悪いと思い、いそいそと朝食を摂る。食べ終わり、皿を洗い始めた頃、ドタドタと上から誰かが降りてくる音が聞こえる。どうやら小町が起きてきたみたいだ……って、あれ……

 

この状況……ヤバくないか?

 

そこまで思考が至った時、リビングのドアが開けられる。

 

「お兄ちゃん、おっはよ〜!今日は早い……ね?」

 

朝から元気よく挨拶をしてくれる小町。うん、今の挨拶は相田から満点をもらえると思うぞ。ただし、その服装はダメだろ。

 

 

 

小町が着ているのは短パンと俺のシャツである。短パンはまだいい、が、俺のシャツは流石にサイズが大きくてぶかぶかだ。おかげで首元も大きく開いて、下着が一部見えてしまいそうだ。小町曰く、

 

『寝る時楽なんだもん』

 

ということらしく、止めても聞いてくれたことがない。

 

 

 

さて、まぁこれでリビングにいたのが俺だけだったらまだいい。が、しかしだ。今は相田と剣崎の二人がリビングにいた。二人とも小町の登場に驚いた表情をしている。小町も小町で目が点になってる。

 

……え、どうすんの、この状況?




ようやく小町がドキプリメンバーと会話するシーンになるなぁ

まぁ、会話以前に、とんでもないことになっている気が、しないでもないが


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お休み気分

うーん、こっちはなかなか進められなくて、なんか、すみません

じゃあ、すっごい短いけど続ける意志があると示すためにも、どーぞー


「に、」

「「に?」」

「にゃぁぁぁあ!?」

 

朝っぱらから元気すぎる叫び声をあげて、小町はリビングを飛び出し、部屋へと戻っていった。おそらく着替えにいったのだろうが、今更すぎるんじゃないかね、妹よ。

 

「……なんか、妹がすまん」

「あははは……小町ちゃん、寝るときラフな格好なんだね」

「まぁ、本人曰く楽だから、らしいけどな。何度止めても聞いてくれない」

「そっかぁ」

 

やばい。相田のこんな気まずそうな表情初めて見た。まぁ流石に知り合いの男の子の家に行ったら、その妹があんな格好で出てくるとは思わないわな。というか俺の服なのは見たらわかるわけで……あれ?これあらぬ誤解かけられてない?

 

「あなた、妹がいたの?」

「あ、おう。二つ下のな」

「そう」

「あ」

「何?」

「あ、いや。あいつ剣崎のファンらしいからさ、サインとかしてやってくれないかなぁ、なんて」

「別にいいわよ」

 

リビングのCDとかがしまってある棚から、一つのCDを取り出す。剣崎真琴の最新シングル「song bird」、小町が発売当日に買いに行って、入手できたことを大喜びしていたのをよく覚えている。

 

「なら、これに頼むわ。宛名は小町で」

「ええ。これでいい?」

「サンキュー」

 

スラスラと書いて手渡してくれる剣崎。流石トップアイドル。先程の出来事にも全く動じていない。

 

と、また階段を駆け下りる足音が聞こえる。今度はちゃんと私服に着替えた小町が、息を切らせ、やや恥ずかしそうに下を向きながら、リビングに入ってくる。

 

「お、お騒がせしました……」

 

こんなにうるさくない、もといおとなしい小町は、ずいぶん久しぶりに見る。まぁ無理もない。

 

「あはは、おはよう小町ちゃん」

「マナさん、おはようございます」

「うん。1日の始まりは挨拶から。えらいえらい!」

 

褒めながら小町の頭を優しく撫でる相田。流石の手際の良さというか、手馴れているというか。どうやら小町も嬉しいらしく、少しは元気が出てきたようだ。

 

「でも、いくら家の中でもそろそろ中学生にもなるんだから、ちゃんとした格好しないとね」

「うう……マナさんにも言われたぁ。小町も、そろそろお兄ちゃんの服、卒業かなぁ」

 

いや卒業も何も、最初から着ることの方がおかしいっての。普通妹の方が嫌がるだろ、兄の服って。どうなんだよ、全国の妹持ちの兄貴たち!?まぁ、聞いたところで答えはないんですけどねぇ。

 

と、ここで「ふにゃぁ〜」って猫みたいな声を出していた小町が正気に戻った様子。人懐っこい笑みを浮かべ(アニメとかでよく見る目を閉じているような奴)部屋にいたもう一人の客に話しかける。

 

「こんにちは、兄の妹の小町です」

 

頭を下げながら、元気よく挨拶する。おや、確か小町は剣崎のファンだったからもっと喜ぶかと思っていたのだが……

 

「初めまして。剣崎真琴よ、よろしく」

「はい。いつも兄がお世話になっています……って、えっ!?」

 

目をパチクリさせ、顔を上げる小町。一応変装用のメガネをかけているとはいえ、あの至近距離で見間違えるはずもない。

 

二、三度瞬きをする小町。様子がおかしい。相田や剣崎と顔を見合わせ、首を傾げる。

 

「ま、」

「「「ま?」」」

「まこぴーだ〜!?」

 

本日既に2度目の大声をあげ、小町が剣崎の正面のソファに、後ずさるようにしながら座り込む。なんだ、そのアニメとかでよく見る謎のリアクション?そういう芸人を目指しているのだろうか。

 

「え、本物、ですよね?」

「え、ええ」

「何でまこぴーがリビングに!?」

 

ぐりん、と顔をこちらに向ける小町。朝からテンションが高すぎるんじゃないか、こいつ。

 

「あー、相田が連れてきたんだよ」

「何と!マナさん、まこぴーとお友達だったんですか?」

「そうだよ」

 

満面の笑みを浮かべる相田。一方剣崎の方は何だか照れくさそうだ。まぁ、なかなか慣れないよな、相田みたいにストレートにそういうこと言ってくれる奴って。

 

 

結局、この後小町が剣崎に握手を求めて、OKが出ると「ふぉぉ〜」、と何やら恍惚の表情を浮かべたり、相田によって剣崎がうちの学校に転校して来た事がバラされて小町に詰め寄られたりとバタバタしたため、当初の予定よりも少し遅い時間に家を出ることになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うーん、小町ちゃんいい子だね」

「まぁ俺がいうのも何だが、あいつはそういう交流スキルはやたらと高いからな」

「小町ちゃんみたいな妹、私も欲しいなぁ」

 

ソリティアについた俺たちは、用事があるとかでどこかに向かったあの怪しい男からアイちゃんを預かり、外のベンチに座っている。

 

妹がいるその様子を想像しているのだろうか、アイちゃんを抱きながら、相田が楽しそうにニヤニヤしている。しかし、男子がニヤニヤするとキモいとか言われるのに、相田のような美少女がすると、どうしてこう微笑ましい気持ちになるのだろうか。

 

「そういや、今日は菱川と一緒じゃないのか?」

「えっ、うん。後でソリティアで合流することになってるんだ」

「ほーん」

 

それもそうか。相田と菱川だって、いつも一緒にいるわけではないのだろう。しかし、俺の記憶している限りでは、相田と菱川が一緒にいないことなんて、片手で数えるほどしかない。そのためか、何か違和感に近いものを感じる。

 

「まこぴーも、抱っこしてみる?」

「えっ、でも」

「ほら」

 

相田からアイちゃんを渡される剣崎。アイちゃんが剣崎に笑いかけると、いつもの感じとは違う、少しデレっとしているような笑顔を剣崎も見せる。さすがは赤ちゃん。女の子には大人気の存在だな。

 

「ほら、ミルクをあげて」

「ええ」

 

ラビーズの力で召喚した哺乳瓶を手に取り、アイちゃんへと差し出す剣崎。哺乳瓶を口にし、アイちゃんが美味しそうに飲み始める。

 

おお〜、剣崎の表情が緩んでらっしゃる。やっぱり普段気を張っていても、女の子なんだよなぁ。可愛いもの好きなんですね、わかります。

 

「ほらほら〜、アイちゃん。パパ……は、八幡君だから、まこぴーは……お姉ちゃん?」

「おい、それ色々とおかしいだろ」

 

剣崎の立ち位置もだけど、何さらりと俺をパパ扱いしてるの?つーかそれ、ママがお前ってことは……いや、相田のことだ。多分何も考えていないんだろうな。

 

「もうママが四人ってことでいいんじゃねぇの。別におままごとやるわけじゃねぇんだし、役職にこだわる必要もないだろ。とりあえず、相田が保護者筆頭、みたいな感じで」

「そっか!じゃあママが四人で、パパが一人だね」

 

しまった、悪化した。というかこれはめんどくさい。何がって言ったらこの会話を学校の連中や、そうでなくてもご近所に聞かれたらまずい。

 

「ん?」

 

ふと辺りを見渡すと、菱川とありすが近くに立っているのが見えた。こちらに来るでもなく、何処かを見ている。取り敢えず様子を確認しがてら、声をかけてみることにする。

 

「……何してんだ、お前ら?」

「えっ、あ、八幡君。おはよう」

「おはようございます」

「うす。で、何してんの?」

「うん……その、さっきまでここにまこぴーの親衛隊の人がいたの」

「何やら八幡さんのことを見ていましたわ。そう、羨ましそうに、ですわね」

 

そう言ってチラリと、ありすは菱川の方を見た。そのことに、なんとなく納得してしまった。ああそうか。この前の菱川が少しおかしかったのも、そういうことかと。

 

「?何よ?」

「いや、まぁ。なんか納得したっていうか……まぁ、気にすんな」

「えっ?」

 

「ジコチュー!」

 

突然響くあの声。菱川たちが見ていた方向からだ。ということは、まさか、親衛隊の人が?

 

「八幡君は2人を呼んできて!私たちは先に行ってるから。ありす!」

「はい!」

 

走り出した菱川たち。俺も急いで相田たちの元に戻る。見ると2人とも既に立ち上がっている。

 

「相田!」

「うん、ジコチューだよね!」

「すぐ近くだ。菱川たちは先に向かってる」

「わかった。まこぴー、行こう!」

「ええ。この子をお願い」

 

そう言って剣崎がアイちゃんを俺に手渡す。落とさないようにしっかりと抱き抱えて、俺も2人の後を追って走り出した。




はい、ようやくバトルだよ………次が!

長い長いよ


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人の心は難解で……

クッソ短くなっちゃって、すんません

でも、ちょっと展開を変えていこうと思ったので、その前部分だけでも終わらせて見ました、はい

あと、人の心理描写?的なのってやっぱりスッゲェ難しいっす


公園にたどり着いた俺が見たのは、いかにもアイドルの応援やってますっという姿をしたジコチューと、戦っているハートたち。敵に見つからないように、近くの茂みから覗くようにする。

 

「し〜っ。見つからないようにしないと、な」

「アイ。し〜」

 

人差し指を立てて口に当てる。ぶっちゃけ普段やってたらきもいと言われるだろう仕草にも、アイちゃんは素直に従ってくれる。やはり赤ん坊は素晴らしいな〜、ってそんなことを考えている場合ではなく。

 

「まこぴーハオレダケノモノダ!」

 

叫びながらサイリウムを振るうジコチュー。愛がどうとかジコチュー叫ぶと、サイリウムが発火し力が増している。

 

「アノオトコ、クサッタメナノニヒトリダケナカヨクシテ!ユルサン!」

 

あ、これ俺のことですね、間違いない。というか腐った目は余計だっつの。いや、事実だけどね。

 

けど、これではっきりしたことがある。

 

このジコチューを動かす強い感情。それは嫉妬心だ。

 

俺にも覚えはある。小学校のころ、帰りに誰かの家によってみんなでゲームをする、なんてことを羨ましいと思ったことは何度もあった。そしてその感情は、おそらく今も……

 

きっと誰もが、誰かに嫉妬して、その瞬間に自己中になるのだろう。ふと、様子がおかしかった菱川の姿を思い出す。あれも、きっとそうだったのだろう。相田と菱川が一緒にいるのは、きっと今まで当たり前のようなものだったのだ。そこへ最近になって俺が来て、剣崎が来て……不安に思うこともあったのかもしれない。

 

「……けどな、菱川。お前は本当に恵まれてると思うぞ……」

 

思わずそんな言葉が口から漏れる。聞こえないとはわかっていても、つい言い聞かせるように話してしまう。そんなことをしたところで、結局のところ何の意味はないとわかっていても。

 

「相田にとって……お前は唯一無二の存在だ。なんてったって、夫婦と言われるくらいなんだからな。そんな風に思ってくれる相手がいる。それは、本当に恵まれてる……」

 

知らず識らずのうちに暗い表情になっていたのだろうか。腕の中のアイちゃんが不思議そうな顔をして覗き込んでくる。なんでもないと首を振り戦いの方に視線を戻す。

 

力を合わせて戦う四人は、一つのチームになっていた。余分なものがなくて、足りないものもないチーム。そんな印象を抱かせる連携を見せている。

 

 

なら俺は、果たしてそこにいるべきなのだろうか?

 

相田と関わるようになって、。菱川と関わるようになって。

 

ありすに出会って。剣崎を知って。

 

俺は、諦めたはずのものを、また勝手に期待し始めてしまったのではないか。

そんなもの、するだけ無駄だと、知っているはずだというのに。

 

 

相田と菱川のコンビネーションによって、ジコチューが浄化される。四人が勝利の喜びを分かち合うのを見た俺は、一人でソリティアへと先に戻った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みんなで親友になれる。私はそう思ってるよ」

「私も。ありすとも、まこぴーとも、ちゃんと親友になりたいと思ってる。それに、八幡君とも」

 

四人で一緒に戦うことを改めて決意した私たち。でも、これまではいつも戦いの場所に来ていた彼は、今日は来ていなかった。

 

アイちゃんを危険に巻き込まないように、ここに来なかったのかしら。

 

 

彼については、少し気になっている。

 

 

何の特別な力も持たない、ただ巻き込まれただけの一般人。でも、その彼に、私は何度も助けてもらっている。

 

「もちろんですわ。八幡さんも含めて、一緒に戦う仲間ですもの」

 

一緒に戦う仲間だとこの前言っていたけど、彼はいつもマナたちとは一歩引いた場所にいる。積極的に関わろうとはせず、でもマナが声をかけると応じてくれる。

 

彼は、どう思っているのだろう。

 

マナのこと。六花のこと。ありすのこと。

 

プリキュアのこと。ジコチューのこと。

 

あいちゃんのこと。そして私のこと。

 

 

彼の様子を見ていると、どこか俯瞰で眺めているような気がしてくる。どうしたら一緒の場所から物事を見られるようになるのだろうか。

 

 

何故自分がここまで気にしているのかもわからないけれど、

 

「そうね。私も彼のことを知っていきたい。彼も、私たちの仲間だもの」

 

 

 

私たちがソリティアに戻ると、眠っているアイちゃんを、彼が抱っこして外のベンチに腰掛けている。

 

「終わったみたいだな」

「うん。みんなで力を合わせたからね」

「そうか」

 

そう言って立ち上がった彼は、腕に抱いていたアイちゃんをマナに渡す。

 

「じゃ、俺帰るわ」

「えっ?まだ時間あるし、一緒にどこか行こうよ。せっかくのお休みなんだし」

「馬鹿、お前。せっかくの休みの日にどこか行ったら、それは休みじゃねぇだろ。俺は休みの日は休みたいんだよ。つーわけで俺は家で休むことにするわ。じゃ、また学校でな」

 

さっさと立ち去る彼を見て、マナと六花は首を傾げている。ありすは何か心配しているような表情をしている。私は……

 

 

どうしてかわからないけど、彼がどんどん遠ざかっていく気がした。物理的な距離もそうだけど、それよりももっと大きな、根本的なところで。

 




次のエピソードから、展開が色々と変わっていくと思います

まぁ、書く気力が湧いてくれたらの話ではありますが、ね笑


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プリキュアパーティー?

この頃のお話だったような気がしたので、せっかくなので

というわけで、オールスターズNS2編笑、始まります


伝説の戦士プリキュア。

 

トランプ王国を守る戦士をそう呼んでいたとのことらしい。

 

現在俺の身近には、4人のプリキュアがいる。トランプ王国の妖精は彼女たちのパートナーである4人しか残っていないため、新しくトランプ王国からのプリキュアが増えることはない。

 

しかし、いつから妖精はトランプ王国からだけ来ると錯覚していた?

 

つまり、いつからプリキュアは彼女たちだけと錯覚していた?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

事の発端はシャルルに突然来た連絡だった。

 

その日、相田、菱川、ありすの3人恒例のお茶会というやつに、俺と剣崎が初参加することとなった。

 

 

 

「それじゃあ、八幡君とまこぴーの初参加を記念しまして、お茶会を始めまーす!」

「あ、ありがとう」

「……おう」

 

テンション爆上がりの相田、笑顔の菱川とありす。目の前に並べられるいろいろな食べ物に、執事のおじいさんが淹れるお茶。なんかもう、色々と豪華すぎて萎縮してしまう。まぁ、そもそも自分が場違い感あるのは前々から思っていたことであるため、今更な気もするが。

 

それに、やはり自分が入るべき場所は、どこにもない。リーダーは相田、ブレインは菱川、あらゆる面でのサポートをありす、そして戦闘経験の多い剣崎。バランスのとれた、いいチームだ。だが、そこに俺を加えようとしたらどうなるのだろうか……

 

「アイ?」

 

なぜか俺の膝の上に乗りながらこちらを見上げるアイちゃん。考え事をしているのが顔に出ていたのだろうか。とりあえず首を振って心配するなと伝えてみる……って、赤ん坊にこれで伝わるのか?

 

そんな人の考えなど露知らず、お茶会が着々と進んでいく。あ、紅茶まじうめぇ。

 

「今日はせっかくなので、あちこちで隠れた名産品と言われている食べ物を、色々用意させてもらいましたわ」

 

たこ焼き、チョココロネ、豆大福、シュークリーム、ハートの穴があるドーナッツ、カップケーキ……なんとも統一性がないものの、どれもこれもが名産品と言われているだけあり、なかなか美味しそうである。

 

と、相田が皿に盛られた飴を指差す。

 

「ありす、これ何?」

「それは世間で一時期入手困難になる程の人気を博した、納豆餃子飴ですわ」

「納豆……」

「餃子飴?」

「なんだその地雷臭しかしないネーミングの食べ物は……」

「ねぇありす、これ、美味しいの?」

「さぁ?まだ食べたことはなかったので」

 

いやいやいや、それにしてもだろ。名前だけでもう危険ってわかるじゃん!というか味を確かめていないのかよ……

 

「いや、流石にこれは、って剣崎?」

 

隣に座っていた剣崎が、手を伸ばし納豆餃子飴を一つ手に取る。ゆっくりと包みを開ける剣崎。えっ、おいまさか、食べる気なのか?

 

「どんな味がするのかしら?」

「あ、まこぴー、やめといた方が……」

 

菱川の制止の声も聞かず、剣崎が飴を口の中に放り込む。一瞬の沈黙、そして、

 

「〜〜〜〜〜〜!?」

 

部屋に響くのは声にならない悲鳴。うわぁ、アイドルが絶対しちゃいけない顔になってるよ、これ。あまりのリアクションに、流石の相田も少し引いてるし。

 

「ま、まこぴー、大丈夫?」

「ほら、お茶!お茶飲んで」

「ンク、ンク……はぁぁぁっ、な、なんなの今の?」

「あらあら、噂通り、強烈な味のようですわね」

 

あ、これありす知ってたパターンや。完全に確信犯だろ、怖っ!それからダビィも止めてやれよ。さっき食べる前にニヤニヤしてたのしっかり見てたからな。

 

「とりあえず、納豆餃子飴はやめておこっか。でも、他のもすごく美味しそう!」

「お茶会でたこ焼きって、なんか変な感じするけどね」

 

そんなこんなでわちゃわちゃする相田たち。と、急に携帯の着信のような音が鳴り始める。

 

「あたしじゃない。六花?」

「違うわよ」

「わたくしもです」

「私でもないわね」

「八幡君は?」

「違う。そもそもお前ら以外とか小町くらいしかいないしな」

「じゃあ誰?」

 

「あっ、シャルルシャル!」

 

はて、ここにいるメンバー以外にシャルルのことを知っていて、なおかつ連絡を取ることができる奴がいるのか?

 

「今出るシャル!」

 

そう言ってから相田のコップへと向かうシャルル。指先でコップのふちに触れると、映像が投影される。

 

白いふわふわした毛並みに、くるりと巻かれた金色の髪……いや耳か?どっちにせよ、今まで見たことない動物が、

 

『シャルル!久しぶりクル〜!』

「キャンディ!久しぶりシャル!」

 

喋った!?

 

なんてリアクションは流石にもう通り越してしまった。これはあれですね。また新しい妖精ですね。

 

慣れて来ている自分が怖い……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「シャルル、その子知り合い?」

「この子はキャンディシャル。マナと会う前に、仲良くなったシャル」

『はじめましてクル!』

 

やや舌足らずな喋り方ではあるものの、しっかりとお辞儀して挨拶してるところから、意外としっかり礼儀は学んでいるらしい。

 

「今日はどうしたシャル?」

『あ、そうクル!シャルルたちもパーティーに来るクル?』

「パーティーシャル?」

「なんのパーティーケル?」

『プリキュアパーティークル!プリキュアがみーんな集まることになってるクル!』

 

「プリキュアパーティー?」

「プリキュアみんなって……」

「わたくしたち以外にも、プリキュアの方がいらっしゃる、ということですの?」

「そういうことでランス〜」

「トランプ王国だけではなく、様々な世界にプリキュアの伝説があるビィ」

 

なんか妖精界の神話みたいなものらしいな、プリキュアって。ということはあれか。相田のようなお人好しが、他にもいっぱいいるってことなのだろうか。

 

しかし、

 

「でも、パーティーがあるなんて聞いてないケル」

『招待状、届いてないクル?』

「もしかしたら、マナたちがまだプリキュアになって日が浅いから、招待状が間に合わなかったかもしれないビィ」

 

なるほど。そういうこともあり得る、のか?

 

「そっちにいるの?プリキュアさん!おーい!」

『はーい!』

 

相田の呼びかけに応えるように、映像内に1人の少女が映り込む。

 

年は同じくらいだろうか。顔立ちはやや幼く見える。くるりと巻かれた髪に、黄色のリボン。どこか相田と似たような感じもする少女。

 

『星空みゆきです!』

『キュアハッピークル!』

「はじめまして、相田マナです!」

「キュアハートシャル!」

 

しばし見つめ合う2人。と、星空の視線が菱川、ありす、剣崎と来て……

 

『あれ、男の子もいるんだ!』

「あ、いや、俺は……」

『なになに!男の子やって?』

『ほんとですか?』

『ひゃー、そりゃまたびっくりだよ』

『そんな一度に覗き込むと、あちらも見えにくいですよ』

 

俺はあくまで違うと説明しようとしたら、突然向こう側にさらに4人の顔が映り込んだ。少しボーイッシュで関西弁を話す子、気弱そうにも見えるが興味津々に覗き込んでくる子、ポニーテールに髪をまとめた子、そしてやたらと上品な雰囲気のある子。

 

『あ、えーと、こっちから日野あかねちゃん、黄瀬やよいちゃん、緑川なおちゃん、それから青木れいかちゃん。私たち、スマイルプリキュアです!』

 

星空が全員を軽く紹介する。どうやら彼女がこのチームのリーダーらしい。それに対し、相田は、

 

「じゃあこっちも。この子が菱川六花、四葉ありす、まこぴーこと剣崎真琴、それから比企谷八幡君!みんなで、ドキドキ!プリキュアです!」

「いやちょっと待て」

 

思わずつっこんでしまったが、それも仕方がないだろう。いつから俺はプリキュアになったんだ?俺はあくまで秘密を共有している協力者ってだけなんですけど。

 

しかしそのツッコミも完全にスルーされ、

 

『みんなと会えるの、楽しみにしてるからね!妖精学校に来て!』

「うん!パーティーで会おう!」

 

なんて、2人のリーダーはさっさと約束してしまうのだった……

 

投影が消え、一瞬の静寂が訪れる。

 

「よーし行こう!妖精学校へ!」

「あー、俺はパスす「さぁ行こう!」っておい!」

 

そーっと退散しようとした俺の腕が相田に掴まれる。逃す気は無いということですね。

 

こうして、俺たちは妖精学校のあるという世界へと向かうことになったのだった。

 

それが、プリキュアたちを誘き寄せるための、罠であったとも知らずに。

 




思い返してみると、色々とすごかったなぁこの映画

プリキュア教科書とかいうチートアイテムとか、
初代様たちの戦いとかも


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パーティの裏の影

八幡とプリキュア、コラボって意外と少ないのね

ラブライブ!とかアイマスとかは結構見るのに……なんでだろ?


はてさて、謎の虹色の道を通って俺たちがたどり着いたのは、緑豊かな場所だった。空には向日葵にも見える太陽があり、優しく大地を照らしている。

 

「ふっ、眩しすぎるぜ」

「ほーら、くだらないことやってないで歩く」

「……へいへい」

 

冷たい視線の菱川に押されるように、先頭を歩く相田に続く。相田の腕の中では、アイちゃんが物珍しそうに辺りを見ている。心なしいつもより機嫌が良さそうなのは、妖精の国だからだろうか。

 

「早く会いたいなぁ、他のプリキュアのみんな!」

「どんな方がいらっしゃるのでしょう」

「もしかしたら、王女様のことを何か聞けるかもしれないわね」

 

他の奴らもまぁ楽しそうにしちゃって。こちとら他のプリキュアのメンバーから「えっ、なんでいるの?」ってキモがられるんじゃないかと気が気じゃないんだけど。いやほんと、大丈夫かな。スマイルプリキュアの人たちにもなんか変な誤解されてたっぽいし。それにしても、一つ問題があった。

 

「で、結局そのパーティー会場ってどこなんだよ?」

 

一応妖精学校の世界に来たものの、こんな広い場所、全部見て回ったらもうパーティーも終わるわ……あれ、むしろそれはそれでいいんじゃ無いだろうか。いや、けどそれだとかなり疲れるしなぁ……

 

「「はぁ〜」……ん?」

 

思わずついた溜息が、誰かの声と重なる。その声はしかも足元から聞こえて来たような……

 

「……えっ?」

「ひゃう!?」

 

俺の足元、つま先の近くに、被っているフードからキツネのような耳が出ている、1人の妖精がいた。

 

……若干涙目になってるのはなんでかな?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「わぁっ、可愛い!君、名前は?……ってあれ?」

「驚いてるみたいね」

「八幡君、何かしたの?」

「ふっ、よく考えてみろ菱川。俺が何かすると思うか?コミュ障の俺がだぞ」

「まぁ、それもそっか。それに、その目を見るだけでも十分驚かされるものね」

「そうそう。目と目が合う瞬間に恐怖を与える、っておい!」

 

思わずコントみたいなノリを披露してしまったじゃないか。というか、この子本当に固まったまま動かなくなっちゃったんですけど。

 

「わたくしたちは怪しいものではありません。実はプリキュアパーティーの会場を探しているのですが、ご存知ですか?」

「ひゃっ!?ぷ、ぷ、ぷ、プリキュアパーティー!?」

 

固まっていたかと思ったら、猛スピードで駆け出していく妖精。にしても今の反応……明らかに何か知っているようだったが……それも、悪い意味で。

 

「なぁ、相田。今の妖精、「「わぁぁぁあああっ!」」、って、なんだ!?」

 

今度は二つの悲鳴が森の方から聞こえてくる。そちらを見ると、先ほどの妖精に加え、熊に似た妖精が、真っ黒な猪に追いかけられている……って、

 

「猪!?」

「まぁ、真っ黒ですわね」

「いや、落ち着いてる場合じゃないでしょ」

「マナ、行きましょ」

「うん。八幡君、2人をお願い」

 

携帯型に変身したシャルルを手に、相田が構える。当たり前のように俺が行動することを疑っていない。なんだってそんなに俺のことを信頼できるんだ、こいつは……まぁ、

 

「わかった」

 

その信頼に応える努力だけはしてみますか。協力者として。

 

 

今にも追いつかれそうな2人の妖精を抱え、横に飛ぶ。突然のことに驚いたようで、目を白黒させている。一方腕の中のアイちゃんは仲間が増えたと思ったのか喜んでいるようだ。呑気でいいな、お前は。

 

猪が無理矢理急停止し、その黄色く光る瞳がこちらを向く。

 

「なんだ、お前は?」

「名乗るほどのもんじゃねぇよ。俺はおまけみたいなもんだ」

 

ふっ、一度は言ってみたかったセリフを、まさかこんなところで言えるとは。ヤベェ、ちょっとテンション上がって来たぞ。

 

まぁ、実際に俺はおまけみたいなものだしな。本命はあくまで、あいつらだ。

 

「「「「プリキュア・ラブリンク!」」」」

 

その掛け声とともに、4人が光に包まれる。光のベールを脱ぎ去り、姿を変えた4人が現れる。

 

「みなぎる愛!キュアハート!」

「英知の光!キュアダイヤモンド!」

「陽だまりポカポカ!キュアロゼッタ!」

「勇気の刃!キュアソード!」

「「「「響け、愛の鼓動!」」」」

「「「「ドキドキ!プリキュア」」」」

 

「ドキドキ、プリキュア?」

「あの人たちが?」

「ん〜?ドキドキプリキュア?」

 

三者三様の反応。うち熊の子と黒い猪は全然知らないという反応だったのに対し、狐の子はまるで何処かで相田たちを知ってるかのような口ぶりだった。

 

猪の突進をかわす相田たち。と、猪が形を変える。猫のように見える頭に、人間のような胴体。そいつ……仮に影とするか、影は一冊のピンク色の本をめくりながら、首を傾げている。

 

「ない……ない……プリキュアなのに、なぜ載っていないんだ?けっ!」

 

本を閉じた影は、戦う様子を全く見せず、飛び上がって、森の奥へと消えていった。

 

 

「なんだったんだろう、今の」

「すぐに逃げ出してしまいましたね」

「あっ、そうだ!さっきの子たち!おーい、八幡君!」

 

駆け寄ってくる相田に、腕の中の3人を見せることで無事を伝える。

 

「良かった〜無事で。八幡君、ありがとね」

「おう。んで、まぁさっきのやつについてだが……こいつらに話を聞いてみたほうがいいかもな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あたし相田マナ!よろしくね」

「いや、今のお前はキュアハートだろ」

「私はキュアダイヤモンドよ」

「キュアロゼッタですわ」

「キュアソードよ」

「それから、八幡君!」

「いや自己紹介させないのかよ。いやいいけどよ」

「2人の名前、教えてくれる?」

 

屈み込みながら話しかけるキュアハート。驚いた様子の妖精たちは互いに顔を見合わせると、

 

「ぼ、僕、エンエン」

「お、俺は、グ、グレルだ!」

 

一先ず名前を教えてくれる。泣き虫のエンエンに、怒りっぽそうなグレル……うーむ。名は体を表すとはいうが、表しすぎじゃね?なんて俺の思考など知る由もなく、ウンウンと頷いてから、ハートがエンエンを見ながら質問する。

 

「さっき、プリキュアパーティーについて、何か知ってるような感じだったけど、何かあったの?」

「そ、それは……」

 

チラリ、と一瞬エンエンの視線がグレルの方を向いたのを、俺は見逃さなかった。どうやらエンエンだけではなく、グレルも関係あるらしい。それも、悪い方向で、だ。

 

「さっきの影と、何か関係があるのか?お前ら襲われてたみたいだが」

 

それにだ。ここが正しい待ち合わせ場所の世界だとしたら、既に他のプリキュアたちも来ていなければおかしい。そして相田たちと同じように、プリキュアに選ばれるような連中が、あの影を放置しておくわけがない。

 

そうなると考えられるのは二つ。

 

一つ目は俺たちがくる場所を間違えてしまったこと。それはまだいい。とりあえずここの事件を解決した後にでも合流する方向で考えればいいのだから。

 

厄介なのは、もう一つの場合だ。二つ目、他のプリキュアが戦える状態にいない場合。変身が出来ない、既に負けた、あるいは捕まったなど、色々可能性はあるが、この場合は最悪すぎる。

 

それが示していることは、

 

敵がプリキュアさえも倒すことができるほどの相手だということ。

 

そして、それを相田たちだけで相手しなくてはならないということ。

 

どうやらプリキュアパーティーの裏には、何かとんでもない出来事が待ち構えていたらしい。

 

心なしか、空の太陽がどんどん暗くなって来ている気がする。まるで何か良からぬことの暗示かのように……

 




ところで最新のプリキュア、キャラデザがかなり好きですね〜

なお、的組織のバイトちゃんがかなり可愛い模様笑


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託された希望

どーでもいーんですけど、
風呂上がりのアイスって最高ですよね!

至極どうでもいい感想すんません

はい。じゃあ続きまーす


「先輩プリキュアたちが、みんな捕まってしまったなんて……」

「プリキュア教科書、恐ろしいアイテムですわ」

「それに、この子の影が実体化したものだったなんて……」

 

少し落ち着いた様子のエンエンの話を聞いて見ると、やはり予想していた通り、他のプリキュアたちはみんな捕まってしまい、戦える状態どころではないらしい。

 

グレルの影から生まれたあの敵は、グレルのみんなを見返したいという感情、それを叶えるべく、プリキュアを捕まえるために罠を張ったとのことらしい。

 

しかし影はグレルの負の感情が形を持ったような存在。次第に暴走を始め、今はこの世界を破壊せんと、暴れている。

 

何より厄介なのは敵が所有しているというプリキュア教科書。妖精たちの教材であり、あらゆるプリキュアの特徴や戦い方が書かれているとのこと。つまり、簡単に言えばプリキュア攻略本である。

 

その教科書のために、他のプリキュアたちは攻撃が通じず、変身アイテムやサポートする妖精と引き離されてしまったとのこと。

 

攻略法が分かっている相手など、倒すことは造作もない。ゲームでも言えることだが、それがあるだけで簡単に俺TSUEEEEが出来てしまうわけだ。

 

にしても、そんな危険なものを取り扱っている妖精学校って……

 

「今動けるのは、私たちだけのようね」

 

まさかパーティーに参加するはずが、そんな大役を背負う戦いに挑むことになるとは、本人たちも思っていなかっただろう。それでもプリキュアである以上、いや、相田が相田である以上、助けに行かないわけがない。それに、

 

「キュアハッピーの言葉、ちゃんと受け止めたよ。だから、助っ人に行かないとね」

 

『ちょっとピンチ。助っ人求む』

 

それが最後にキュアハートに伝えて欲しいと、星空、キュアハッピーがエンエンにたくした言葉だそうだ。

 

そんな言葉を相田が無視するわけがない。だから、

 

「マナらしいわね。でも、賛成」

「そうですわね」

「ええ」

 

彼女たちが付いて行くのも、当然の流れだろう……まぁ、こうなると俺も行くしかないわけなんだが……

 

「うぅ……ぅぅ」

「な、なんだよ!俺を見るなよ!そうだよ!俺が悪いんだよ!分かってるよ、そんなこと!」

 

怒鳴り散らすグレルとボロボロと涙を流すエンエン、この2人をまずどうにかしなければならなさそうだ。

 

グレルは罪悪感を感じているが、それを素直に表すことができないのだろう。孤立して、除け者扱いされ、そんな中でも必死に、自分のプライドだけは守りたかったのだろう。1人でも平気だと。でもそれは、その行動や態度は、誰かに見て欲しいという気持ちの裏返しだ。周囲は変わらないし、自分を曲げたくもない。だからこそ自分を騙して、気持ちを偽って……その葛藤が、そして願望が、今回の事件につながってしまった。

 

エンエンの場合は罪悪感だけではなく、責任感にも押しつぶされそうになっているのだろう。友達を止めずにここまで見過ごしてきたこと、彼らに加担したことをキュアハッピーに許してもらい、願いを託されたこと。引っ込み思案で、自分なんかと思ってしまって、自分の意思で何かを行動に移すことができない、そんな自分の弱さが、この結果を招いたと、そう感じている。

 

二人の姿は……何処か自分を見ているような気持ちになる。

 

小学生の頃、まだ他人(ひと)に期待していた頃。何処か自分に自信を持てなくて、周りに流されるままになってしまった自分。そして人間関係を諦めたつもりで、だけれども諦めきれなかった故に、誰かに認めて欲しいと思っていた自分。

 

この件は、彼らの心に深いトラウマを植え付けることになるかもしれないな……

 

「はい、ストップ!」

 

と、二人の間に手が差し出される。手の主であるハートが、笑顔で彼らの目線を合わせるようにしゃがむ。

 

「泣くことも怒ることも、楽しくないでしょ?楽しくないことはやめちゃおう!ね?」

 

「ぅぅ」

「で、でも、もうどうしようもないし……」

 

俯くグレル。学校を襲い、この世界を破壊しているのが、自分の感情、自分の影だということが、重くのしかかっている。

 

みんなの敵になってしまった自分は、もうここにはいられない、もう誰の側にもいられない。

 

そんな姿に、自分を重ねてしまう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

新しいクラス、最初の席でも、俺の隣は相田だった。その頃の俺は、小学校から続く様々な黒歴史やトラウマ的なものの所為で、極力人と関わらないようにしていた。

 

既に濁り始めていた目のおかげか、誰も積極的に俺と関わろうとしなかった。隣の席の相田を除いて。

 

一度、自分と関わろうとする相田の真意がわからなくて、向こうから辞めさせるためにひどいことを言ったことがある。

 

うざい、鬱陶しい、偽善者……あいつの行動を出来る限り否定する言葉考え、それらを投げつけた。それも、クラスメートがいる目の前で。あの時の相田の表情は、今でもよく覚えている。悲しそうで、悔しそうで、そして、それでもなお、俺を気遣うものだった……

 

それがきっかけで、クラスでの俺は完全な悪として、みんなの敵になった。クラスに俺の居場所なんてなくなる……いや、本当ならなくなるはずだった。

 

そんなことがあってもなお、相田は俺から離れようとしなかった。周りに止められようが、俺に無視されようが、それでも、あいつは声をかけ続けた。

 

どうしてそこまでするのだろうか。

 

ああ、そういえば、あの頃もそう思ってたな……

 

だからどうしてもわからなくて、本人に聞いたんだった。

 

『あたしが比企谷君と仲良くしたいから。それだけじゃ、ダメかな?』

 

初めてだった。心からの本心で、そんなことを言ってくれたのは。

 

『嫌いにならなかったのか、って?全然そんなことないよ。比企谷君は、本当はすごく優しいって、わかるから。むしろあたしの方こそ、比企谷君に、させたくもないこと、させちゃって、ごめんね』

 

長くない付き合いで、何が分かると言うのだろう。けれどもその時の俺はその言葉に何も返せなかった。その瞳が、あまりにもその発言に対して、自信に溢れていたから。

 

『みんなで、ドキドキ!プリキュアです!』

 

みんな……なんてものに自分が含まれたことなんてなかった。でも、迷いなくそう言ってのけるのが相田なのだろう。

 

 

今、あいつら四人の中に俺は必要なのか。この間から幾度となく考えたことだ。でも、まるでそれが当たり前かのように俺の腕を引いて、どんな時も俺を巻き込んで、俺があいつらといることを否定ことなんて微塵も考えていない姿を見て、

 

 

 

俺は、求めたいと思えたんだった……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なぁ、グレル……だったよな?」

「っ、な、なんだよ!?」

 

俺が声をかけるとビクッと体を震わせるグレル。強がっているようだが、俺を見る目はどこか怯えている……いや、別に取って食うわけじゃないんだから、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないかな?

 

目か?目がダメなのか?

 

「今回の件、確かにお前が引き起こしてしまったことかもしれない。どんな顔して他の妖精に会えばいいのかも分からない。だろ?」

「っ、そ、それは……」

「まぁ、確かに今回のことで周りから冷たくされる可能性もある、だが、「あの!」」

 

と、俺が続けようとすると、エンエンがグレルの隣に並ぶように立ち、俺を見上げてくる。ボロボロと涙を流していながらも、俺を見上げるエンエンは、何か覚悟が決まっているような目をしている。

 

「ぼ、僕も、悪いんです!だから、その、グレルばかり怒らないで下さい!」

 

涙を流しながら、でもしっかりと聞こえる大きな声で、エンエンは俺に言った。グレルはそんなエンエンを見てから、俯くように顔を背ける。

 

ああ……その行動の理由が、その裏にある考えが分からなくて、怖くて、それを受け入れられない。そんな所は、俺に似ている。

 

でも……

 

「……」

「あ、あの……その、」

「別に怒るつもりはない。そもそも怒ってるわけじゃないしな。まぁ、一先ずはこの状況をどうするかって感じだ」

 

少し語気を弱めて、出来るだけ優しく声をかける。キョトンとしているエンエン。

 

こいつらは、多分大丈夫だ。そう思える、思わせてくれる存在が、互いにいるのだから。

 

 

「それじゃあ早く助けに行こう!」

「ちょっと待って。そんないきなり突っ込んで行ける相手じゃないわよ。相手はプリキュアのことならなんでも書いてある本を持ってるのよ。もっと作戦を練らないと……」

「いや、それは多分大丈夫なんじゃないか?」

「えっ?」

 

この場にいる全員の視線が集まる。まぁしかしなんだ、注目されるのにも慣れて来たな〜なんて思ってしまう。いや、そんな場合ではなく、

 

「さっきの影。あいつはお前らのことを知らないみたいだった。そもそもパーティーがプリキュアを捕らえる目的で考えられた嘘だったことから考えても、少なくともお前らはイレギュラーな存在ってことじゃないか?」

「そうなの?」

「そういえば、ドキドキ!プリキュアって、教科書には載ってなかったよね?」

「あ、お、おう。そうだったかもしんねぇ」

 

エンエンに同意を求められ、直ぐにそっぽを向くグレル。なんだか急に声をかけられた自分のような姿に、なんだか余計な親近感まで湧いてしまう。なんだこれ。こいつもしかして俺の妖精としての生まれ変わりとかじゃねぇよな?ないよな?

 

「つまりあいつにとって、お前らは未知の相手ってことだ。攻略法がわからない、つまり実力で倒さなければならない相手ってことだ」

 

そして同時に、

 

「あいつを倒せる可能性があるのは、お前らが一番高いってことでもある」

 

こいつらが、最後の希望だ

 




と、いうわけで若干の解釈とか背景情報とか混ざってますけど、もしかしたら出会いとか、過去の振り返りとかもいずれするかもですね

同時に八幡の中に芽生えた葛藤に対する、
「一つの答え」
的なのも描きたかったので、入れちゃいました


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その姿こそが———

こちらの作品ごぶさたですね

今回八幡達がとんでもないことに!?

では、どうぞ


影により、妖精学校の空を照らす太陽から光が奪われてしまい、夜のように錯覚してしまう。

 

暗い影が落ちる森の中を、グレルとエンエンを肩に乗せたハートを先頭に、俺たちは走っている。

 

涙を堪え、しっかりと前を見つめるエンエン、おもちゃの剣を強く握りしめるグレル。強い決意の表情をしている二人。

 

『この後どうなるかは、あなた達がどうしたいか、それが大切よ』

『わたくし達は先輩プリキュア達を助けたいと思っています。それに、妖精学校のことも』

『あなた達は、どうしたい?』

 

『大丈夫だよ。あたし達がついてるから』

 

どうしたいか問いかけられた二人は、差し出されたハート達の手を取ったのだった。

 

「俺の影は、プリキュアの妖精や変身アイテムを、まとめて捕まえてた。きっと何処かに居るはずだ」

「プリキュアのみんなは、影の技で結晶みたいなもので固められちゃってるんだ。何とかしてそれを解かないと」

 

メインミッションは二つ。

 

妖精達の救出と、プリキュア達の解放。

 

それを影の妨害を切り抜けてやらなければならない。

 

「みんな!メップル先輩たちと連絡が取れたケル!」

「どうやら、滝から檻ごと落とされたらしいでランス〜」

「滝?」

 

辺りを見渡すと、森の奥の方に滝があるのが見える。しかしそこに行くには、妖精学校のそばを通らなければならない。

 

「行こう!」

 

ハートの後を追うように走る。激しく揺らされることになっているはずだが、腕の中のアイちゃんは寧ろ楽しそうにしている。

 

無邪気って強いなぁ〜

 

「あの影に見つからないようにしないといけませんわ」

「それなら、私たちで引き付けたら?」

「そっか!私たちが影と戦ってその間に、」

「うん!八幡君、グレルとエンエン連れて行って!」

 

「見つけた!ドキドキ!プリキュア!」

 

ハートの肩からグレルとエンエンを受け取った直後、あの影が再び現れた。すぐさまソードとダイヤモンドが迎え撃つ。一瞬だけ、二人と視線が交わる。笑みを浮かべ、小さくうなずく二人。視線を外すと、ハートとロゼッタも俺のことを見ている。同じように、笑顔とうなずき。なんだこれ。俺に任せて先に行け!ってやつかよ。それって普通死亡フラグなのに、こいつらがやるとなんでこんなに頼もしいんだか。

 

「行くぞ」

「はい!」「おおっ!」「きゅぴ~」

 

腕の中の三人がそれぞれ答える。目指す先は学校を過ぎた滝。全速力で、駆け抜けるしかない!

 

背後に戦闘の音を残しながら、俺はひたすら滝をめがけて走り出した。それにしても……日ごろから自転車を愛用していてよかったと本気で思う。出なかったらもう完全にバテて終わってただろうな……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side ハート

 

影の繰り出す拳を受け止め、蹴り飛ばす。一歩下がると、背中が何かにぶつかる。

 

「キュアハート、大丈夫?」

「うん。キュアソードは?」

「ええ」

 

視界の端では、キュアダイヤモンドとキュアロゼッタもいつの間にか背中合わせになっているのが見える。

 

「めんどくさいなぁ……ならもっと増えるか!」

 

1人から4人に増え、そして今もまた4人から12人へと増える。元々が影ということもあって、太陽がどんどん暗くなっていくにつれて、影たちの力もより強く、より大きくなってきている。

 

「ただでさえ強いのに、厄介ね……」

「大丈夫だよ。きっとグレルとエンエンが、それに八幡君がなんとかしてくれるから」

「その自信、本当にどこから来てるのかわからない時があるんだけどね」

「でも、それがキュアハートですもの。それに、わたくしも信じていますから」

「うん。私も」

「ええ」

 

私たちのするべきこと、それは影たちの注意を引き付け、八幡君たちが他の妖精とプリキュアを助けるまでの時間稼ぎをすること。あの三人なら絶対に大丈夫。だから、

 

「あたしたちも、絶対に負けないよ!」

 

足に力を込め、大地を蹴る。拳と拳が激突する。

 

パワーもスピードもあたしたちと同じ、ううん、それ以上かもしれない。

 

でも、みんなで協力したら、負けない!

 

 

 

 

そうだよね、八幡君?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

森を抜け、崖を登る。滝へ続く道はこれしかないというのだから厄介にもほどがある。ちょうど人の足分の幅しかない道をひたすら歩く。流石に腕の中にグレルたちがいてはバランスを取ることができないため、滝への道案内もかねて、グレルとエンエンが先を歩いている。というかこの道って大丈夫なのか?今にも崩れ落ちそうな気が……

 

「っ!」

「うわぁっ!」

「グレル!」

 

ピシリ━━━

 

なんとも嫌な音を立て、グレルの立っている場所が崩れ落ちる。慌てて元来た道を戻ろうとするグレル。エンエンもそんなグレルに向かって手を伸ばす。と、

 

「わっ、わわっ!?」

「なっ!?おわっ!」

 

やはり都合よく俺たちの足場だけ無事、なんてことはなく、三人の立っていた場所にもひびが走る。とっさのことで驚いたものの、流石に何度も修羅場をくぐったせいか、いやにはっきりと取るべき行動を模索している自分がいる。

 

エンエンとグレルを抱き寄せ、必死に崩れる足場を蹴る。

 

落下しながらもジャンプし、反対側の道を目指す。

 

飛び移ることは不可能、しかし向こう側をつかむことができれば……

 

必死に右手を伸ばす……もう少し、あとちょっと……

 

「は、八幡!」

「八幡さん!」

「っ!」

 

グキッ、なんて音が聞こえたような気がする。これ、俺の腕やっちゃったんじゃないだろうか……がしかし、火事場の馬鹿力というべきなのだろうか、俺の右手はしっかりと滝へと続く道の崖っぷちを掴んでいた。

 

「おい、大丈夫か?」

「ぐぅっ……な、なんとか」

 

本当になんとか、としか言いようがないほどギリギリだ。いや鉄棒とかやっててもわかると思うが、実際人一人の体重を手だけで支えてぶら下がるのって相当きつい。いいとこもって数分ってところじゃないだろうか。ましてや今は腕の中には3人の妖精がいるわけで……

 

「っ、アイちゃん……悪いっ、ちょっと上まで飛んでくれるか?」

「きゅぴ?あい!」

「グレルとエンエンも……俺の腕、上っていけるか?」

「えっ、お、おう」

「わかった」

 

ふよふよと効果音付きで飛んでいくアイちゃん。腕の中から肩、頭、そして掴まっているほうの腕へと上っていくグレルたち。これで腕の中は軽くなったし、両手が使えるようになる。3人が無事に登り終えたら、後は自分が上っていけばいい。

 

「上ったぜ!」

「八幡さんも早く!」

「おう……っとわ!?」

 

3人が無事なのを確認し、空いていた片手で崖っぷちを掴み登ろうとしたその時、まさに手をかけた部分が崩れ落ちた。体重を手にかけていたため、ガクンと体が浮遊感に襲われ、心臓が強く跳ねる。

 

ガシッと崖を掴んでいた手を何かが掴む。見ると、落ちないようにグレルとエンエンが手を掴んでいる。

 

「な、にしてんだ……っ、先行ってろ」

「だって、だって!」

「このままじゃ、お前落ちちまうだろ!」

 

必死に引っ張り上げようとする2人だったが、小さな妖精では大の人間を持ち上げることができるはずもない。更に言えば、先ほど道の一部が更に崩れてしまい、2人の立っているところ、そして俺の掴んでいるところも不安定になっている。

 

「っ、早く行け!このままじゃ、3人とも落ちんぞ!」

「やだ……」

「お前らが行けば、プリキュアを助けられるだろ。いいから、先行け!」

「嫌だ!」

 

大きな声を張り上げ、まるで俺の声をかき消すかのように叫んだのは、エンエンだった。目深に被っていたはずのフードも外れ、涙を流していながらも、強い意志を感じ取れる目と目が合う。

 

「僕、嫌だよ!僕を助けるために、また誰かが……そんなの、ダメだよ!」

「俺だって……俺だって!本当は、プリキュアを助ける妖精に憧れてた!守ってもらうだけじゃなくて、一緒に戦えるようになりたかった!」

 

それはきっと、そいつらの心の叫びだったのだろう。涙を流しながら、鼻水垂らしながら、みっともない姿のまま発した叫びは、それでも———こんな状況で何をと思われるかもしれないが———それでも、嬉しかった。

 

ぶつけてくれたその本音で、知ることができたと。

 

必死なその姿で、裏がないとわかったと。

 

ああきっと、その姿勢が、その姿が———

 

———俺の求める、本物、なのだと

 

 

そう思った瞬間、俺の掴んでいた岩場が崩れる。襲うのは果てしないほどの浮遊感。きっと俺の手に捕まったままの2人も感じてるのだろう。

 

俺たちは、下の暗い森めがけて、落ちていった。

 




どうでもいいけど、クロスオーバーとかでたまにツンデレの子が八幡の名前呼ぶのって、なんだか良くないですか?

個人的に一番ツボなのは真◯ちゃん可愛いかきくけこぉ〜!
なんか声のタイプがまこぴーに似てる気が……ふむ……


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一難去ってまた一難


ぶっちゃけありえない!

まぁ、今回はこの二人を絡ませたいがためにこうしただけなんですけどね笑


バサリ———

 

落下する中目を瞑った俺が聞いたのは、重々しい羽ばたきの音。まるで巨大な羽が風を切るかのような音。だが、当然俺に羽なんてないし、アイちゃんだったとしても、こんなにはっきりした音にはならない。

 

幻聴か……

 

そう思った瞬間、浮遊感が止まった。言っておくが、落下が完了して感覚が消失したわけではない。というかそれもう死んでるよね?終わりだよね?先生の次回作にご期待ください、ってなるアレだよね?

 

まぁ、今回はそうはならなかった。

 

俺が感じたのは、軽い衝撃と、柔らかい感触。そう、犬や猫の体毛のような、柔らかくて温かいもの。

 

恐る恐る目を開くと、

 

「間に合ったでござる!」

「お兄ちゃん、ナイスキャッチクル!」

「アイ、アーイ!」

 

巨大な鳥のような姿の生き物が、俺たちを背に乗せ、空を飛んでいる。いつの間に合流したのか、アイちゃんがもふもふの感触を堪能している。無事なことにホッとしながら、もう1人に目を向ける。頭付近に座る影は見覚えがあった。ほんの数時間前に、通信越しに会っただけではあったが。

 

「お前、キャンディ、だよな?」

「クル?あっ、シャルルのとこにいた男の子クル!大丈夫クル?」

「あ、ああ。悪い、助かった。あんたも、えーと」

「拙者、キャンディの兄、ポップと申す。ですが挨拶は後。まずはプリキュアを助けるのが先決でござる!」

 

一瞬だけ顔をこちらに向け、名乗る鳥……いや、妖精か。にしても、こんな大きい妖精もいるのか……やべぇ、普通にかっこいいじゃねえかよ。

 

と、呆けていた状態から回復したのか、グレルとエンエンが腕の中から飛び出して、頭の方へと駆け寄る。

 

「お願いします!滝の方へと向かってください!」

「滝クル?」

「その下に、プリキュアの妖精と変身アイテムがあるんだ!」

「お兄ちゃん!」

「了解でござる!皆の者、しっかり掴まるでござる!」

 

加速して滝へと向かうポップ。空を見ると、既に太陽の輝きが完全に失われてしまったらしい。わずかに見える光は、擬似的な星や月から与えられるもの。幸い、そちらはまだ手をつけられていないらしい。

 

「で?どうやって滝の下に行くんだ?」

「拙者が中に向かうでござる。流されないように、しっかり掴まるでござるよ」

「わかった。妖精たちの捕まった檻を見つけたら、陸まで引っ張りあげるぞ」

「うん」「ああ」「クル」

 

頷く妖精たち。かなり危険な行動になるが、みんな覚悟が決まっているらしい。相田たちの時間稼ぎだって、いつまでも持つわけじゃない。

 

急がないと———

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「煌きなさい!トゥインクルダイヤモンド!」

 

キュアダイヤモンドによって放たれた冷気が次々に影を凍らせ、浄化していく。しかしそれとほぼ同じペース、いやそれ以上に、影は増殖を繰り返していく。

 

「まだまだぁぁぁあ!」

「閃け!ホーリーソード!」

 

迫り来る影の軍団に対し、その正面の空間を一閃するキュアソード。無数の光の刃が影を貫き、浄化する。

 

「キリがないわね」

「来る!」

 

反撃とばかりに影が迫り来る。連続で影の力を込めた球体の攻撃が口から放たれる。

 

「カッチカチの、ロゼッタウォール!」

 

狙われたソードとダイヤモンドの前にロゼッタが降り立ち、両手に作り出した盾で攻撃を防ぐ。即座に飛び上がるハート。

 

「あなたに届け!マイスイートハート!」

 

胸のハートのブローチから放たれた光が、正面の影を一掃する。しかしそれでもなお、影の勢いは衰えない。

 

「だんだんわかってきたぞ、お前たちの技」

 

「あの影、私たちの攻撃を受けながら、分析してたの?」

「なかなか賢いですわ」

「関係ないわ。やることは変わらないもの」

 

気合いを入れるように地面を踏みしめるプリキュアたち。決して状況は良くないものの、彼女の笑みが曇る様子はない。

 

「もう少しだから、みんな、頑張ろう!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここだ……でも、」

「すごい勢いクル……」

 

間近で見下ろした滝の勢いは、正直予想以上だった。下の川もやたらと勢いのいい水しぶきが上がっている。というか何あれ?なんで光もほとんどないのに虹がかかってるの?しかもなんか石とか弾いてるし、マジモンの橋なの?

 

「ポップ、水面ギリギリまで降りてくれ」

「ぬ?中ではないでござるか?」

「でかいお前だけならともかく、こいつらじゃ流れに逆らえねぇよ。だから、俺が探す。んで、上に上げるから、お前が引っ張り上げてくれ」

「それは……とても危険でござるよ」

 

そんな深刻そうな声出すなよ、余計に怖いだろうが。いや、見てわかる。この流れの中で何かを探すのは大変だ。探すだけならまだしも、それを水面から上げるために持たなければならない。その間、どこまで踏ん張れるか……けどまぁ、こういうときあいつなら笑いながらこう言うんだろ。

 

「なんとかなるだろ、多分……知らんけど」

 

あ、ダメでした。うん、あそこまで自信満々にはなれないです、はい。そんな俺の回答に、一瞬キョトンとした顔をしたものの、ポップは笑みを浮かべた。

 

「なんとかなる……でござるか。確かに!」

 

言うが早いか、ポップは水面に向かって降下を始める。

 

「それにしても、こう言っては悪いでござるが、八幡殿からそんな言葉が出るとは思わなかったでござる」

「奇遇だな。俺も俺がこんなこと言うとは思わなかったぜ」

「案外気が合いそうでござるな」

「まっ、同じ兄だからな」

「ほほう。では下に誰か?」

「妹だ」

「なんと。同じでござるか」

「だな」

「では気があうもの同士、パートナーになってみるでござるか?」

「冗談でもやめてくれ。あんな衣装着た俺とか、それだけで兵器だろ」

「違いない」

 

バカみたいな軽口を叩き合いながら、俺たちは水面まで降りた。俺たちの様子を不思議そうに見ているグレルたち。まぁ、難しいことは考えなくて良いさ。

 

それに、決戦前の日常会話とか、若干死亡フラグっぽくて笑えねぇしな。

 

「八幡殿」

「ああ」

 

小さく頷き、深呼吸を繰り返す。

 

落ち着け。

 

水の中で慌てたら終わりだ。

 

だから落ち着け。

 

落ち着いて、探すことだけに集中しろ。

 

「よしっ」

 

最後にしっかりと腹に空気を溜め込み、ポップの背中から飛び降りる。

 

瞬間、一気に冷たさが襲いかかった。

 




いい加減プリキュア復活を描きたい……

まぁ、あと2話くらいか?
頑張るしかないか


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救出作戦、実行

‎|ω・`)チラッ

I˙꒳˙)

( ๑´•ω•)੭_□ ソッ

( 'ω')ノシサラバ


最初に思ったこと。ゴーグルもなしに水の中に潜るのって、やっぱキツイわ。特に流れが速い水だと、目を開けるのもキツイ。

 

けれどもそんな弱音を吐いている暇なんてあるはずもなく、暫く流れに逆らっていると、なんとか大きめの岩を掴むことができた。

 

(けど、どっから探せばいいのか……って、ん?)

 

岩を掴んでいたはずの手に、何か不思議な感触のものが当たる。ゴツゴツしておらず、硬さ以外に弾力のようなものが。慌てて手が触れているものを確認する。

 

真っ黒な墨のようなものが、カプセルのような形を形成している。なんとか目を凝らして見ると、中には色とりどりの妖精と、携帯やら大きい丸い物やらが見える。

 

(っ、これか!うおっ!?)

 

すぐに持ち上げようと思ったものの、思ったよりも重いのと、流れが影響して、うまくいかない。更にこのままでは息が持ちそうになかった。

 

(一旦浮上してから、戻るしかないな……場所は分かってる……なら!)

 

急いで水面まで泳ぐ。水しぶきが上がる中、なんとか呼吸を整える。

 

「八幡殿!見つかったでござるか?」

「っ、ぷはっ!はっ、はっ…ああ!これから取りに潜る!だから水面に俺の手か檻が上がったら、つかんで引き上げてくれ!」

「了解でござる!八幡殿、無茶はなされぬよう!」

 

最後に大きく息を吸い、再び水の中に再び突っ込む。大まかな場所が分かっているなら、後はそこをめがけるだけで時間は短縮できる。今度はすぐに檻までたどり着いた。

 

(よしっ、掴んだ……後はこれを、っ!?)

 

なんとか檻を持ち上げ、水面を目指そうとしたその時、突然、首元に何かが巻きつく。

 

(なんだこれっ!?絞まる……っ!)

 

首元への圧迫感。まるで浮上させまいとするように引いて来ている。

 

(っ、これ…影か!?)

 

首元を見下ろすと、掴んでいた檻の形状が変化し、細めの黒い紐のようなものが伸びている。どうやらこの檻もある程度の意思があるらしい。いや、これかなりまずいだろ!

 

(息がっ…)

 

ただでさえ水中で呼吸もままならない中で、首に感じる圧迫感がより一層に体力を奪っていく。

 

(んなろ……)

 

意識が遠くなってきているのがわかる。このままでは沈んでしまいそうだ…

 

やべ…力が…抜け——

 

(早く逃げるメポ!)

 

「っ!」

 

突然聞こえた声に、遠のいていた意識が驚きで一瞬はっきりする。

 

(メップルたちのことはいいから、君は逃げるメポ!)

(このままじゃ、危ないミポ!)

 

少しくぐもった声は、どうやら檻の中から聞こえてきたらしい。視線だけをそちらに向けると、心配そうな表情の妖精たちがこちらを見ている。

 

(……って、沈めるわけ、ねぇか)

 

根性論は嫌いだか、今回ばかりはその考えを参考にさせてもらう。無理は承知で脚に力を込めて水を蹴る。

 

 

そうだ、あいつらは今戦っている。

 

——なんのため?

 

この妖精たち、そしてプリキュアたちを助けるためだ。

 

——今それができるのは誰だ?

 

この状況だと、檻を掴んでる俺しかいないわな。

 

——逃げろって言ってるが?

 

んなもん、

 

(聞けるわけ、ねぇだろうが)

 

ずっと思ってた。

 

あいつらと一緒にいるべきなのか、必要があるのか?

 

求めたいと思った。あいつらと、一緒にいるための自分の役割、自分の「本物」を。

 

だから——

 

『八幡君、グレルとエンエンを連れて行って!』

 

笑顔で送り出してくれたあいつらに、応えたいんだ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

八幡殿が潜ってから暫し。

 

先ほどよりも長い時間はおそらく経っていたでござろう。

 

水面から黒い檻が顔を出したのが見えたでござる!

 

「お兄ちゃん!」

「任せるでござる!」

 

すぐに降下し檻を両足でしっかりと掴む。

 

「みんな、捕まってるでござる!」

 

あまり時間をかけるわけにもいかないため、思い切り翼に力を込め上昇する。すぐ近くに開けた場所があったためそこに着陸する。

 

「八幡殿は?」

「っく、ゲホッ!いるっての。それよりこの檻を何とかしねぇと。というかなんとかしてくれ」

 

疲弊した様子の八幡殿が答える。肩で息をする八幡殿の首の周りに、檻の1部が絡みついている。

 

「八幡!」

「だ、大丈夫ですか?」

「まぁな。さっきまでと違って、今はこいつは動いてねぇ。締まってる訳じゃないけど、外そうにも力が入らねぇわ」

 

確かに絡まっていこそすれど、影と八幡殿の首の間にはそれなりの隙間がある。ただ引き抜くのは難しそうであるため、結局のところ、

 

「みんな、早くこの檻を壊すクル!」

「そうでござる!」

 

ここからが拙者たちの本番でござる!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クラクラする頭を振る。

 

首あたりに絡みついた影を引っ張ってみようとするものの、まだ全然力が入らず、仕方なく草の上に手をおろしグレルたちの方を見る。

 

グレル、エンエン、キャンディ、ポップの4人は檻を叩き、乗り、体当たりしと色々やっているものの、檻が壊れる気配はない。

 

「ど、どうしたら……」

 

エンエンの表情が暗くなる。諦めてはいないだろうけれども、このままの調子ではいつまでも檻を壊せないのは確か。

 

何とか体勢を変えて檻の方に顔を向ける。

 

ガラスのように中の様子が見えるものの、硬さを踏まえるなら下手な防犯ガラス並みである。プリキュアの力でなら壊せないこともないだろうが、残念ながら今ここには一人もいない。

 

「ん?」

 

と、ふと気づく。

 

影とはいえ既に光がさらに差し込む訳でもない状況なら、既にその量は決定されているはずだ。

 

形を変えたとしても、影の質量は変わっていないはずだ。

 

ってことなら、この檻を形成している影から俺の方へと伸びている分、何処かが手薄になっているんじゃ無いか?

 

その仮説を思いつき目を凝らしながら檻を見る。と、やはり僅かながら綻んでいる箇所が見つかった。先の尖ったもの出なければ突くことも難しそうだが、確かな小さな綻び。

 

「グレル、エンエン!ここを」

「見て!ここからなら、壊せるかも!」

「何か尖ったものないか?それでうまく突けば……」

 

えーとえーと、と2人が当たりを探す。石でも落ちていないかと思ったが、そんな気配はない。

 

「あ……」

 

とここでエンエンが息を漏らす。

 

「どうした?」

「グレル、これだよ!」

 

そう言ってエンエンが指したのは、グレル

が持って来ていた木の剣だった。

 

「でも、これおもちゃだぜ?」

「グレル」

 

戸惑うグレルを、エンエンが強い決意を込めた瞳で見つめる。信じて、信じ切って、疑わない目。

 

その目を見つめ返したグレルが、手に持った剣を強く握りなおす。

 

「やるぞ、エンエン!」

「うん!」

 

2人が並んで剣を握り、しっかりと目的の綻びを見据える。互いにもう一度視線を交わし、気を引き締める。

 

「いち、」

「にの、」

「「さん!割れろ(て)〜!」」

 

2人が息を合わせて剣をつきだす。

 

強い思いと願いを込めて。

 

すると2人から小さな光が溢れ、剣が当たると共に強い閃光となった。

 

目を開けられなかった俺にわかったのは、自分の首周りに巻かれていた影が砕ける感触だった。

 



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やらなきゃいけない事を

「ありがとうメポ!」

 

最初に耳に入ったのは感謝の言葉だった。

 

目を開け、状況を確認する。

 

さっきまで首に巻きついていた影は消え、自由に動くことができる。まだ少しダルさの抜けない身体で立ち上がる。

 

と、先ほどまで檻のあった場所に、多くの妖精と恐らくは変身アイテムであろうものがごちゃっと集まっていた。

 

代表らしき黄色の妖精が、グレルとエンエンにお礼を言っていた。

 

バツの悪そうな表情のグレル。自分のせいで大変な目に合わせてしまったという負い目からか俯いてしまっている。

 

「その、俺…」

「僕たちを助けてくれて、ありがとうメポ」

 

そんなグレルの様子を見て——見ていながらも、妖精たちは笑顔を向けた。心からの、感謝を伝えた。

 

「それから君も」

 

そう言いながら妖精たちの視線がこちらを向くのを感じる。不思議出来事には慣れたつもりだったが、この状況のシュールさは否めない。

 

「君は命がけで僕たちを助けようとしてくれたメポ」

「別にそんな殊勝な考えじゃない。ただ俺しかやれる奴がいなかったからやっただけだ」

 

実際そうだ。もし俺以外にできそうな奴がいて、俺がリスクを負うことがないのだとしたら、その道を俺は選んで……いたのかもしれない。

 

「それでも、助けてくれたメポ」

「だから、それは」

「君たちが心から僕たちを助けようとしてたことは、ちゃんとわかってるメポ」

「なぜわかる?」

「その光が何よりの証拠ミポ」

 

黄色の妖精の隣に並んだピンクの妖精が俺たちを指差す。

 

いつの間にか俺たちの手の中には、小さなアイテムが握られていた。

 

小さな灯り、人間の掌で包み込めるんじゃないかというくらいの小さな、でも暖かくて確かな光。

 

「これ、ミラクルライトだ」

「ミラクルライト?」

「妖精学校で習ったことあるよ!プリキュアがピンチの時に力を与えられるんだって。凄い光ってる」

「ミラクルライトは思いの力を光のパワーにするメポ。その光が影の力を弱めてくれたメポ」

「2人の正しいことをしようという気持ち、絶対にあきらめないという気持ちに、ミラクルライトが応えてくれたミポ」

 

言っている間も、ずっとその灯りが消える気配はなかった。

 

小さくて、儚げで、それでいて闇夜を照らす希望に満ちた光。

 

「僕たち妖精はプリキュアのようには戦えないメポ。でもちゃんと力はあるメポ。奇跡を起こすための、思いの力が」

「妖精だけじゃないミポ。君にも、そんな力がちゃんとあるミポ」

 

こちらを見上げながら、妖精たちが頷く。なんだかむず痒い気持ちになったため、視線を逸らしながら話題を変える。

 

「とりあえず、今やるべきことはプリキュアたちを救出することだろ。今俺の仲間たちが戦って時間を稼いでくれてるうちにな」

 

『俺の仲間たち』なんて言葉を使う日が来るとは思ってもいなかったけれども、意外とすんなりと、その言葉は口から出た。

 

「その通りでござる。妖精のみんなと変身アイテムは、拙者がお届けするでござる!」

「シロップも行くロプ!運び屋としての誇り、見せてやるロプ!」

 

言いながらポップとシロップと名乗ったペンギンっぽい妖精が姿を変える。現れたのは二羽の巨大な鳥のような姿。

 

「ここからはメップルたちの出番メポ!」

「3人はここから離れるミポ!」

 

順番に二羽の背中に妖精が乗り込む中、黄色い妖精——恐らくはメップル、がこちらを見ながらいう。

 

「クル!みゆきたちはここから近いクル!キャンディは自分でスマイルパクトを持っていくクル!」

 

そう言いながらキャンディがスマイルパクトを一つ持ち上げる。

 

「キャンディ、一人で全部運ぶのは無理でござる」

「だったら」

「僕たちも行きます!」

 

ポップの言葉に、グレルとエンエンがキャンディのそばに駆け寄りスマイルパクトを手に取る。

 

確かにそれなら五つ分運ぶことはできるだろう。けれども、ただ運ぶだけではダメだ。

 

影の力で体を固められてしまったプリキュアたち、彼女たちの拘束を解くこともまた、同時に行う必要がある。

 

影の力を弱めることができたのは、ミラクルライトの力だった。かなりの人数プリキュアはいるらしい。であるのならば、その拘束を解くためにも、ミラクルライトの力が沢山必要になる。

 

じゃあ、その力はどこから来るのか?

 

「いや、俺が行く」

 

そこまで考え、俺はまだ若干の疲弊の残る身体を動かし、スマイルパクトを手に取った。

 

「八幡?でも、」

「まだ休んでなきゃ!」

 

心配気に見上げてくるグレルとエンエンだったが、首を横に振る。

 

「別に、大丈夫だ。それよりお前らにはやって欲しいことがある」

「やって欲しいこと?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side fairy

 

スマイルパクトを八幡とキャンディに任せて、俺たちは大急ぎで走っていた。

 

目的地は、今も影が大半を包み込んでいる妖精学校。

 

走りながら、さっきまでのやりとりを思い出す。

 

 

 

『変身アイテムを届けることができても、プリキュアを拘束している影を壊すことは力だけじゃできない。助けるためには、もっと他の何かが必要だ』

『他の何か?』

『それって何ですか?』

『お前らの握ってるそれだよ』

 

そう言って八幡は俺たちの手の中にあるミラクルライトを指差す。

 

『そうか!強い光のパワーがあれば、きっとみんなを助け出せるメポ!』

『ああ。だがこの二人だけでプリキュア全員を助けるのは無理だ。もっと多くの手がいる。だから、』

『妖精学校のみんなの力を借りるミポ?』

『そういえば、タルトが今あそこにいるはずメポ!事情を話せば、きっと力になってくれるメポ!』

『そのタルトってのはよく知らんが、まぁそういうことだ。妖精たちの力でプリキュアを助ける。その為には誰かに学校まで行ってもらう必要がある。俺が行ってもいいが、ただの人間の言葉を信じてもらえるかはわからん。けど同じ生徒で、そのミラクルライトの力を引き出せたやつなら?』

 

そう言ってから八幡はじっと俺たちの方を見た。

 

 

『でも、俺の言葉なんて…みんなが信じるわけ』

『信じるよ、きっと』

 

弱々しい言葉を切ったのは八幡でも、プリキュアのパートナーたちでもなく、隣にいた友達だったを

 

『みんなだってプリキュアを助けたいと思ってくれるはずだもん。僕たちの言葉、きっと信じてくれるよ!』

『エンエン』

『みんなにも教えよう!僕たちにもできることがあるって!妖精とプリキュア、力を合わせたら、きっとどんな困難にも勝てるって!』

 

いつも頭巾を被って顔を隠し、か細い声でしか会話しない。ずっと見てきたそいつの姿は、もうそこにはなかった。

 

脱がれた頭巾はまるで俺がしているのと同じマントの様で、その視線は強い意志を持って俺を見ていた。

 

情けない。

 

俺の弱さがこんなことを引き起こしてしまったんだ。

 

それをどうにかしたい、そう思ったはずだろ?

 

『よし!やる!きっとみんなに伝えてくるぜ!だから八幡、スマイルパクトは頼んだ!』

 

見上げた相手はしっかりと俺の目を見て、頷いた。

 

『それじゃあ、みんな行くメポ!』

 

メップルの号令で俺たちは行動を開始した。

 

 

「グレル、もう少しだ!」

「ああ。急ぐぞ、エンエン!」

 

ドキドキ!プリキュアたちのおかげか、影の注意が学校からはほとんど外れているみたいだった。

 

偶に使っていた抜け道を通って中へと忍び込む。階段を駆け上っていくと、沢山の妖精が廊下に当てめられているのが見えた。

 

「みんな!」

 

その声にみんながこっちを見た。

 

驚き、恐れ、戸惑い、いろいろあるけれど。

 

「頼む!みんなの力が必要なんだ!」

 

やらなきゃいけないことを、やるだけだ!

 




あと少し……あと少しで彼女達が……


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光の使者たち

ココニオイテオイテ…… \(-_-;)ゞポリポリ





ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ サラバ‼


「ここを右クル!」

「おう。はっ、はっ」

 

両手いっぱいにスマイルパクトを抱え、キャンディの指示通りに走る。

キャンディが先導しようとしていたが、一刻も早く彼女たちの所にたどり着くのに効率がいいという判断から、俺の肩に彼女を乗せて走る。

 

「はっ、はっ。お前は変身するタイプのパートナーじゃないんだな」

「変身クル?」

「いや。うちのとこの妖精たちは変身アイテムに自分がなるタイプだったから」

「そうクル。みゆきたちはキャンディと一緒に変身しているわけじゃないクル」

「……きつくなかったか?一緒に戦えないのって」

「クル?」

「いや。なんつーの?あいつらは俺のことも同じチームの仲間みたいにお前らに話してたけどさ。俺には戦えるような力があるわけでもないし、生徒会やらお嬢様やらアイドルやら、そんなすごい役割があるわけでもない。あいつらが戦う時も、見てることくらいしかできない。いろいろ知ってしまったし、あいつらも俺とかかわり続けようとしてくれているから、見て見ぬ振りもできないし一緒にいる感じだけど……なんか、もどかしさっつーか」

 

きっとどこかで、思うところがあったのだろう。妖精と人間。その違いはあれど、実際に一緒に戦っていないという立場。それに対する考え方は、似ているのではないか、なんて。そんなこと、考えられるほど、俺は他のプリキュアのことなんて、知らないわけだけれども。

 

「キャンディ、難しいことはよくわからないクル。でも、キャンディもみんなの力になりたいって、思ってた時があったクル。助けてもらってばっかりみたいで、キャンディにも何かできることはないかって思ってたクル」

「そうか「でも!」?」

「戦えないキャンディを、みゆきたちは大切な仲間だから!っていつも一緒にいてくれたクル。そんなみんなと一緒にいて、みんなのためにって気持ちが大きくなって……そうしたら、キャンディだけにできること、キャンディがみんなのために出せる力。それがわかっていったクル」

 

「全く同じようにしていなくても、キャンディはみゆきたちと一緒に戦ってきたクル。だから、もしちみが見ているだけ、だなんて思っていたら、きっと違うクル。みんな、ちみといたいから、ちみを仲間だと思っているから、一緒にいるクル。そしてきっと、ちみにしかできないことがあるクル。今だって、離れていても、違うことをしていても、一緒に戦ってるクル」

 

こちらを見上げながら笑顔を向けてくるキャンディに、なんだか自分の中にあった変なくすぶりや毒気を抜かれた気分になる。

 

下っ足らずで、体も小さくて、どこか幼い印象のこの妖精。自分の周りにいつもいる妖精と比べると、アイちゃん未満とはいえ、もしかしたらランス以上の幼い印象を与えてくる、気が合ったあの妖精の妹。

 

とてもその羊のぬいぐるみみたいな容姿や言動からは想像もつかないが、危機的状況や修羅場の経験に関しては、俺が想像しているよりもずっとしてきたのだろう。痛い思いも、苦しい思いも、つらい思いも、寂しい思いも。きっと、たかだか10数年普通の人生を送ってきた俺とは、密度が違う。

 

だからかもしれない。その言葉はありきたりで、大人であればきっと言わないような――成長するとともになかなか言えなくなるような、そんな優しすぎるようなものだったにもかかわらず――妙に腑に落ちた。

 

「あ、もうすぐクル!あそこに見えてきたクル!」

 

肩から身を乗り出すようにキャンディが指さす方向を見る。紫色の結晶のようなものが5人の少女を覆っている。と、突然暗くなり続けていた周囲を突き刺すような、まぶしい光が背後から彼女たちを照らした。

 

「この光って」

「妖精学校の方からクル!」

「ってことは、あいつら上手くやってくれたみたいだな」

 

見覚えのある光。妖精たちを閉じ込めた檻を壊す時に見えた光。

でもその時よりも何倍も強く、眩しく世界を照らしている。

 

その光に照らされた少女たちの方に変化が起きていた。

 

結晶が割れ、徐々に彼女たちの体から消えていく。

 

「みゆき!みんな!」

 

キャンディの声に反応するように、少女たちが動くようになった手をこちらに伸ばす。

 

と、ガコン!というどこか嫌な音が頭上から聞こえてきた。思わず何事かと思い空を見上げると、黒く染まりきってしまったこの世界の太陽が、急速に巨大化して――

 

「クル!太陽が、落ちてきたクル!」

「っ、受け取れ!」

 

今からあそこまで走っても間に合わないかもしれない。もう十分近くまで来た、そう判断し抱えていたスマイルパクトを手に取り、一つずつ、彼女たちの方へと投げた。自分でもびっくりするほどうまく投げられたそれを彼女たちは掴み取り、

 

「「「「「プリキュア・スマイルチャージ!」」」」」

 

――眩しい五色の光が柱のように空へと飛びあがり、他の場所から上るようにしている光の柱と合流し、落ちてきた太陽へと向かっていった。

 

 

Side Heart

 

「ハート!あれ!」

 

影の攻撃を防ぎながら、ダイヤモンドが指さした方向に目を向ける。

 

と、落下してきていた太陽に向かってたくさんの光の柱が伸びていき、空へと押し返すのが見えた。

 

「あれはまさか!」

「なぜだ!?ちゃんと変身アイテムも妖精も捕まえていたはずなのに!」

 

動揺したのか、分裂していた影たちが一つにまとまっていく。

 

「どうやら上手く行ったみたいですわ」

「そうみたいね。学校の方も、プリキュアたちの方も」

「ハート」

「うん。八幡君たちが頑張ってくれたんだから、あたしたちもまだまだやらなきゃね!」

 

「だったら、もう一度捕まえるだけだ!」

 

一つになって体を大きくした影が腕を振りかぶってこっちに向かってくる。身構える私たちだったけど、

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

背後から飛んできた別の女の子――ううん、プリキュアの攻撃が命中して、影は形を崩して消えた。

 

「助っ人ありがとうってすぐに伝えたくて、思わず来ちゃった」

 

振り返りながらそういうプリキュアの言葉で、すぐに誰かわかった。

 

「初めまして、キュアハッピー。今度は助けてくれて、ありがとう」

「初めまして、キュアハート。私たちの方こそ、助かっちゃった」

 

通信越しじゃなくて、こうしてちゃんとお話しできるの、やっぱり嬉しいし、すっごくキュンキュンする。でも、

 

「ゆっくりお話したいけど、みんなが待ってるから」

「そうだね。早く行こう!」

 

頷きあって、私たち5人は飛び出した。

 

太陽を押し返した際にできてしまった小さなクレーターの中心には、色とりどりの女の子たちがいた。

 

「まぁ。あんなにたくさん!」

「心強いわね」

「あれが、プリキュアの仲間たち!」

 

さぁ、妖精学校を――みんなを救おう!

 



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