サイヤ人に捧ぐ (もちマスク)
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幕間
閑話 かあちゃんのヤンチャ時代と舞台裏の淀み


遅くなるといったな。
アレは嘘だ。

とは言え、今回は説明回です。
ぶっちゃけ、表に出すつもりはなかった裏設定なのですが、気になる方もいるのではないかと書きました。正直難産でしたが、書いてて楽しかったです()
ただ、DBの世界観には少し合わないかなと思われるような設定かつ説明回なので、もし見苦しいようでしたら読み飛ばしていただいても大丈夫です、後の展開に影響はありません(多分)。
また、わかりにくい設定かと思いますので、後書きにできるだけわかりやすくまとめてあります。最悪そちらを参照にしていただければ問題ないかと。
でももしこういう、くどくて癖の強いものでもよければ読んでやってください。
次話からは元の作風に戻りますので、その辺はご安心いただければ幸いです。

また、閑話としてifの話をかければなぁとも思ってますので、もし《エミューゼvs〇〇がみたい!》とか《こんな場面ならどうなるの?》などアイデアがあれば、良ければ提案してみて下さい、喜んで飛び付きます

あとですね、なんとイラストが届きました!
後書きに挿絵として載せさせて頂きます! ネコサさん、本当にありがとう!
後書きが本編になっちゃう!

追記
スミ ネルさんから素晴らしい感想を頂いたので加筆修正を行いました。



「……何をやってんだか、ボクは」

 

宇宙の暗闇の中にて佇む男が自嘲気味に言葉を漏らした。

一目で只者ではないとわかる風態をした男だった。

眠たげな瞳と垂れ下がった長い耳とは裏腹に、その佇まいに隙など微塵もない。

態度も堂々としたもので、少し先で“最後の輝きを放つ星”の爆発など全く恐れていない。

 

「ご機嫌斜めですねぇビルス様。目が覚めるなりサイヤ人を破壊すると仰ったのは、ビルス様じゃありませんか」

 

そんな彼ーーー破壊神ビルスに、彼の付き人のウィスが不思議そうに声をかける。

鬱陶しそうに顔を歪めるビルスであったが、すぐに肩を竦め、反論することなく視線を“ある方向”へと移す。

 

「どうやら“アレ”が目覚めたみたいだったからね。余分なリスクは破壊してしまった方がいいだろ」

 

ビルスの視線を追うと、恐らく消滅前の惑星ベジータから射出されたものであろう、ポッドがあった。

赤子のカカロットと、エミューゼの乗るポッドである。

 

「寝坊助のビルス様が珍しく惰眠を貪ることを止めたかと思えば……彼女に同情でもしてしまいましたか」

 

「バカを言うな。ウィスこそ、“アレ”を“彼女”だなんて、まるで人間みたいに…お前こそアレに同情してるんじゃないだろうな」

 

「おや、ビルス様。私は昔から彼女には同情していると、前々から言っているではありませんか。彼女は歴とした人間ですよ。少なくとも、“今はね”」

 

心外です、と言わんばかりに口元に手を当てて態とらしく振舞うウィスに、胡乱げとも憮然ともとれる表情を向けるビルス。

 

そうだったっけ、と呟きながら頭を掻き。

再び惑星ベジータのあった場所に視線を戻す。

しかし既にビルスの意識はそこにない。

彼の思考は過去の記憶へと割かれていた。

遥か昔。

古代サイヤ人が跋扈する、太古の時代の事である。

 

 

ーーーーーーーーー

 

若い界王神は湧き上がる激情をこらえきれず、テーブルに拳を叩きつけた。

陶器がぶつかり合う何処か小気味良い音を立て、ティーカップが跳ね上がる。

 

「何故です……何故このような存在を放置するのです!」

 

震える手で必死に人差し指を立て、水晶玉に突き立てる。

正確には、水晶玉に映る怪物に。

若くして界王神となった彼は、正義感に溢れる熱血漢を絵に描いたような人物であった。

そんな彼にとって、水晶玉に映る怪物は到底許しておけるものでは決してなかった。

彼は義憤に駆られるままに、破壊神に対しても臆する事なく声を荒げた。

 

「こりゃあ、派手にやってるねぇ…ボクの仕事を盗られたような気分だよ」

 

水晶玉を一瞥したビルスはそんな彼を軽く受け流し、どこか投げやりといった様子で悪態をつく。

 

水晶玉には、1人の少女……の形をした怪物が映っていた。

破壊と殺戮の具現。

猛者を屠っては心底楽しそうに嗤う鏖殺の徒。

エミューゼが繰り広げる凄惨な惨劇が映し出されていたのだ。

 

「あんな怪物を放置しておけば、この宇宙は滅びてしまう…そんな事くらい、貴方たちならわかるでしょう!」

 

界王神は絶叫した。彼は自身の担当しているこの宇宙を愛している。

まだ界王神となって間もないが覚悟は他の誰にも負けはしないと自負している彼は、破壊神にも臆する事なく叫んだ。

激情と共に血反吐でも吐きかねない、痛みを伴った叫びであった。

あまりある迫力を持った叫びであったが、しかしビルスは疲れた仕草でやれやれと首を振るばかりであった。

 

「わからないね。だって、“アレ”が宇宙を滅ぼすなんてありえないし」

 

「職務に実直なのは素晴らしいですが、少し勉強不足ですねぇ…」

 

ビルスは気のない返事をし、ウィスは呆れたようにため息をつく。

そしてそのままテーブルに付き、好き勝手にくつろぎ始めてしまった。

尚も動こうとしない破壊神とその付き人に業を煮やし必死に食い下がろうとするも、普段と様子の違う2人を前にして口を噤む。

 

「あのさぁ。ボク達から見ても化物としか思えないような奴がそう簡単に産まれると思うのか。突然変異なんかで、そうホイホイ現れると思うのか?」

 

「言って仕舞えば、彼女は唯の自然災害ですから、気にするだけ無駄です。台風だとか火山の噴火だとか…いえ、規模的にはブラックホール以上ですが、そういった自然現象にカテゴライズされるのですよ」

 

テーブルに溢れた紅茶を片付けながら、ウィスは淡々と語る。

本当になんでもない事なのだと、落ち着いた様子で入れ直した紅茶を口に運びながら、彼は語る。

 

「確かにこの調子でサイヤ人達が暴れていれば宇宙は滅びてしまうでしょうね。“彼女さえ産まれてこなかったら”の話ですが」

 

「まさか………そんな馬鹿な」

 

「馬鹿もクソもあるか。“アレ”はそういう存在だよ。滅びたくないという宇宙の意思そのものが、滅びの原因となる“サイヤ人を滅ぼすために”産み出した抑止力の権化だ。自然の自浄作用ってやつさ」

 

「言ってみれば宇宙そのものがサイヤ人を使って産み出したデザインベイビーみたいなものでしょうか。ちょっと過激な白血球とも言えるかも知れませんね」

 

エミューゼ本人は知らないだろうけどね、と締めくくるビルスを、界王神は不満げに睨め付ける。

嫌な予感が、彼を苛み始めていたのだ。

 

「確かに彼女は彼女自身の意思がありますし、彼女にサイヤ人を滅ぼしている自覚はないでしょう。異常な才覚を持って産まれた事と、思考を誘導されている以外は、普通のサイヤ人ですから」

 

「心配しなくてもリミッターくらいはかけているだろうさ。例えば“闘いを愉しめる相手が居ないと生きていけない”とかさ。ほら、これなら最終的に…必然的に自分と同種のサイヤ人がターゲットになるだろう。他に強い奴なんていないんだから」

 

「皮肉なものですねぇ。誰よりもサイヤ人らしく、誰よりもサイヤ人を愛し、誰よりもサイヤ人であることに誇りを感じている彼女が…他ならぬ彼女自身が、サイヤ人を滅ぼしてしまうのですから」

 

それでもまだ心配か? という様子のビルスに、やはり界王神は不満気な様子であった。

今の説明を信用していないわけではない。むしろ逆である。

ビルス達の言う通りであれば、サイヤ人達は滅びるだろう。他ならぬ、エミューゼの手によって。一安心していいはずだ。

だが。

しかし、それではーーー

 

ーーーそれではあまりにもエミューゼが哀れ過ぎるではないか。

 

先程まで憎悪にも近い感情を抱いていた相手ではあったが、よく言えば善良、悪く言えば未熟で青臭い界王神はエミューゼに同情した。

自分が担当しているこの宇宙にて…自分の預かり知らぬところで得体の知れない力が働いている。

寒気すら感じているのに、じっとりとした嫌な汗が、若き界王神の背中を滑り落ちた。

 

「それが、本当なら……サイヤ人を滅ぼしたあと、彼女は生きる目的を失うのでは……?」

 

「そりゃあ、あのサイヤ人達を滅ぼしてしまえるような奴がそのままのさばってちゃ危ないだろ。生きる目的を失って失意に堕ちるとこまで計算づくで設計したんだろうさ。悪趣味だよねぇ、宇宙の意思もさ」

 

「使い捨てですか…一見して悪魔みたいな奴ですが、仮にも宇宙を救う存在なのでしょう…なのに…」

 

 

蓋を開けてみれば、憎むべき悪魔は、宇宙を救う救世主で、役目を終えれば用済みとばかり捨てられる。

それでは、あんまりではないか。

そんなこと、あんまりではないか。

何か反論したいが、しかし結局言葉に詰まり、何も言えずに界王神は黙り込んでしまう。

 

釘をさす必要があると、ビルスは思った。

若い界王神が余計なことをしない様に、彼は追い打ちをかけるようにして、うつむき黙り込む界王神に鋭い言葉を投げかける。

 

「頼むから余計な事はするなよ。変に同情して“アレ”に真実を教えたり下手に刺激を与えてたりなんてして暴走でもされたら、本当に宇宙が滅びかねないからな」

 

「逆に言えば、サイヤ人を滅ぼして初めて彼女は解放されるのです。自殺なんて真似をしなければ、その時ようやく彼女自身の人生が始まると考えましょう」

 

「……はい」

 

「いいか、絶対に干渉するな。これはボクだけじゃない、全王様のお考えでもあるんだからな」

 

その言葉を最後に、3人の誰も言葉を発する事はなかった。

沈黙こそが、雄弁に彼らの心境を物語っていた。

やがて、彼らの予想通りに古代サイヤ人は滅び、エミューゼもまた眠りにつく事になるが、彼らの心にかかるモヤは晴れることはなく、むしろ濃くなる一方である。

 

 

ーーーーーーーーー

 

「それにしても」

 

不意にウィスはビルスに語りかけた。

過去の回想に没入していたビルスは耳だけをウィスに寄越すことで返事をする。

 

「起きるなりサイヤ人を滅ぼすなどと…いったいどういった風の吹き回しです?」

 

「別に。前々から気に食わなかったんだよね、サイヤ人って連中はさ」

 

「まさか、彼女をサイヤ人という呪縛から解放してあげようだなんて思ってませんよね?」

 

ウィスの指摘にビクリと肩が動き、ビルスは口を噤んだ。

しまったと、思った時にはもう遅い。

また付き人の小言が始まるのだ、うんざりした気分でビルスはウィスに視線を投げる。

 

「そんな事をしても意味ないでしょうに。いっそビルス様が彼女と闘ってあげれば良いではありませんか」

 

そして、破壊して終わらせてあげればよい。

そう、ウィスは言外に語っていた。

 

「そいつができない事はお前だってわかっているだろ。アレはどうしようもなく、“古代サイヤ人”の権化だぞ」

 

サイヤ人は闘いの中で強くなる。もしビルスと闘おうものなら、凄まじいスピードで成長し、手に負えなくなるかもしれない。

いや、ひょっとしたら、既にビルスでも手がつけられないなんて事もあり得るかもしれない。

那由多の彼方に等しい可能性ではあるが、相手が相手だけに警戒せざるを得ない。

いくら役目を終えたとは言え、パワーダウンしたわけではないのだ。

寧ろどんなきっかけで現役時代に…いや、現役時代を超えるかわかったものではない。

もし暴走でもすれば、もはや全王様案件になりかねない核爆弾だ。

 

「全王様もアレには接触するなと言ってただろう。全王様に逆らうなんて真似ができるか」

 

何を当たり前の事を言っているんだとばかりにウィスを非難するが、ウィスの視線は冷たいままである。

 

「ですから。全王様に逆らう覚悟もない癖に中途半端に干渉するなと申し上げているのです」

 

結局、言い返す事も出来ないまま、住処に帰るまで永遠とチクチク付き人に小言を貰うことを覚悟しなければならなかった。

だが、同時に、哀れな小娘の事を考えなくて済むと、ビルスは静かに瞼を落とし、ウィスの小言に付き合う事にしたのだった。

 




ネコサ様より頂きました、主人公エミューゼのイラストです!
イラストを描いていただけたのは初めてなので正直テンション上がりまくりです!
ありがとうございます、ネコサさん!
孫悟飯老人の料理を食べているところでしょうか、非情に可愛らしいイラストに感謝です!

【挿絵表示】


【挿絵表示】


さて、今回の話はエミューゼの正体というか、出生の謎についてです。
まとめてみましたがそれでも長いな…
1.古代サイヤ人ヤバすぎ、もぅマジむり宇宙滅びちゃう
2.滅びたくない宇宙氏、古代サイヤ人を滅ぼすために、他ならぬ古代サイヤ人エミューゼを産む。
3.つまりエミューゼは宇宙の自浄作用そのもので、台風や噴火やブラックホールやビッグバンみたいな自然災害の一種。宇宙の白血球みたいなもの。ちょっとばかし過激な。
4.でもエミューゼ自身にはその自覚はなく、普通に古代サイヤ人の両親から生まれた事もあって、なんかやたら強い事と思考を誘導されている事以外は普通の古代サイヤ人。
5.でもこんな化物じみた強さのエミューゼを宇宙が野放しにするはずもなく、“強い敵がいないと生きる目的を失う”様に設計された。つまりはエミューゼが失意に堕ちるのは必然であり計画されていた事であった。
6.ぶっちゃけ使い捨てなので、界王神やビルス、ウィスは内心同情気味。彼らからしたら立派に宇宙救っていますからね。
7.彼らがエミューゼに干渉しないのは、役目を果たせば脅威とならない事がわかっていたからです。

型月作品で言えば、抑止力とかギルガメッシュとかエルキドゥに近いのでしょうか。
地球で若干穏やかになっていたのは、役目を果たし終えて宇宙の意思の干渉から解放されたために、彼女本来の意思が表に出てきたからとなります。
とは言え、育った環境が環境な上に種族も宇宙意思による初期設定もヤバいので、緩くなったと言ってもパワーダウンもしていなければ非情さや成長率もまるで衰えてはいません。

ちなみに、正義感溢れる若い界王神ですが。
実は後にゼットソードに封印される老界王神だったりします。

次回は閑話3か、原作無印に入りたいと思います


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if:劇場版 復活のf 前編

なんか筆が詰まったので息抜きに。需要があれば後半も書きます。
俺はZが書きたいんや…無印むつかしいんや……
あと今回はオリ主最強色がかなり強くなります(今更感)


何故だ。俺は宇宙の帝王フリーザだぞ。こんな事ありえない。あるはずがない。

必死に立ち上がろうとするも、混濁する意識がそれを許さない。

無様に地べたを這い、屈辱だけが虚しく自分を掻き立てる。

 

「その代わり、一番おいしいところは俺がもらう」

 

「わかってるよ、交代だ!」

 

2人のサイヤ人…孫悟空とベジータが呑気に言葉を交わしている。

ーー憎きサイヤ人に。自分が支配していた種族に、よりにもよって2度も自分が。

そう思考した途端に、全身の血液が沸騰するような怒りが湧き上がるが、それでも立てない。

胸中を抉るような激情を原動力としても、再びゴールデンフリーザに変身する事は叶わなかった。

 

「おのれ……そ、そんな…馬鹿な……! たかがサイヤ人如きに…こんな猿如きにィィイ……!!」

 

言葉とは裏腹に。

フリーザはプライド故に絶対に認めない事ではあったが、彼は誰よりもこう思っていた。サイヤ人は強い。まさに天敵。自分を脅かす存在があるとすれば、サイヤ人以外にはありえないだろうと。

かつてエミューゼという少女に会った時から、そう予感していた。

超サイヤ人が現れた時も、エミューゼに育てられた男なのだから当然だという、ある種の奇妙な納得があった。

プライドをかなぐり捨てるならば、やはりサイヤ人は部下に欲しかった。自分でさえ御することが出来なかったサイヤ人……これだけの強さを持つ存在が仲間であったのならばと、そう思わずにはいられなかった。

もし、あのままエミューゼを地球に送らずに手元に置いておけばどうなったのだろうか。

しかし、もう2度とプライドを捨てるような真似はしたくない。無様に命乞いをするような真似は絶対に。

 

「貴様はもう終わりだ。2度と蘇るんじゃないぞ」

 

「ちくしょう……ちくしょォォオ!!!」

 

あぁ、こいつらが私の死かーーー

 

その時である。

 

空を切り裂くような音が、その場一帯を凪いだ。

 

「この気は…」

 

ピッコロが突如として出現した何者かに気が付いた。凄まじい速度でこちらに向かってくる。

否。

 

「ーーどうやら。私はあなたを甘やかしすぎたようですね」

 

すでにこの場に存在している。

緑を帯びた銀の髪を靡かせ、この場の全てを支配するように、最古のサイヤ人、エミューゼが。

 

「ーーー悟空」

 

遥か上空より飛来し、地面を大きく削ることで慣性を殺しながら、フリーザとの間を遮るようにベジータの眼前に静止する。

 

「獲物を前にして舌舐めずりをして、ちっぽけな光線銃で撃ち抜かれるなど……母はそのように育てた覚えはありません」

 

「か、かあちゃん、別にオラ舌舐めずりなんて…」

 

「ーーお黙りなさい。油断して無様に敗北したことに変わりはありません。その上、他者にその尻拭いをさせるなど…恥を知りなさい!」

 

煮え滾る怒りを具現したような、凄惨な表情であった。

悟空の額に思わず冷や汗が流れた。悟空は知っている。この顔をした母には何を言っても無駄だ。母の怒りが収まるまで、ただひたすらに生き残ることを考えなければならないのだと、幼い頃からの経験が物語っている。

 

「まさかとは思いますが。戦闘民族サイヤ人が……同時ではないとはいえ2人がかりで疲弊した宇宙トカゲ1人を相手に闘うなど、そのようなみっともなく嘆かわしい行いをするつもりではありませんね?」

 

「いやぁ、でもベジータがずるいって言うしよ」

 

そこで俺の名をだすのか!? とベジータは内心で悟空を非難するが、眼前に立つエミューゼの手前、口を噤んでおく。この辺りの機敏さは父親譲りであった。

 

「言い訳は聞きません。そうですね、教育も兼ねて私がフリーザの側に立ちましょう」

 

「え、えっと…冗談なんですよね、おばあちゃん?」

 

「ん? 何か言いましたか、悟飯ちゃん」

 

孫に対しては一転して朗らかに笑うエミューゼを見て、恐怖に顔を引きつらせながら悟飯が悟る。

冗談じゃない…本気だ。

悟飯だけではない。その場にいる誰もが思い出した。

凶暴で、暴虐を好み、暴力によって全てを支配するサイヤ人の中にあってなお、数億年も語り継がれる伝説があったことを。

伝説に君臨していた最古のサイヤ人の恐ろしさを。

サイヤ人の祖エミューゼーーーそれが自分たちの眼前にいる存在の正体だと思い知らされたのだ。

 

余談ではあるが。

戦闘民族たるサイヤ人が油断して負けた挙句、ローテーションして疲弊した相手を2対1で仕留める事にエミューゼは憤りを感じているわけで。

悟空にはサイヤ人として恥ずかしくないように闘って欲しい、これを機に反省し、さらに上を目指して欲しい…しかし、このまま決着をつけてしまうと、悟空のサイヤ人としての誇りにシコリを残してしまう…そんな事は母として見過ごすわけにはいかない。

自分がフリーザにつけば2on2になる、まだギリギリでセーフということにして、大目に見て差し上げましょう…あぁ、また息子を甘やかしてしまうなんて、私は母親失格です……という思考故の行動である。

 

畢竟するに。

エミューゼにとってはただのお節介なのだ。

もっともそれを正しく読み取り受け取れているのは、悟空ただ1人である。

ビルスやウィスを含めたその他の者にとっては災厄に巻き込まれたようなものでしかなかった。

 

 

「え、エミューゼさん……なのですか?」

 

「随分と久しぶりですね、フリーザ。随分とまぁーーーー」

 

その時、フリーザの心中にあったのは純粋な喜びであった。

エミューゼ。自分が初めて脅威を感じた古代サイヤ人。抜け殻を思わせる儚げな美しさは、色褪せてなどいなかった。

敗北を知らなかった自分がブレーキをかけていたせいだろう、かつては彼女の強さがはっきりとはわからなかった。

漠然と、最強である自分に匹敵する強さだと、そう感じていただけだ。

しかし、今ならわかる。あの時には既に彼女は超サイヤ人よりも強かった。

超サイヤ人と闘った時、不思議とエミューゼを相手にするくらいならと内心を過ぎった事は錯覚ではなかった。

そのエミューゼが。かつての力の象徴が、眼前で、自分を護るように立ち塞がっている。

屈辱を感じる間もなく、フリーザの胸中は安心感で埋め尽くされた。

儚げで小さな背中が、異常に頼もしく見えたのだ。

見えたのだが。

 

「随分とまぁーーー美味しそうに力をつけましたね…本来なら私が喰らってしまいたいのですが…」

 

彼女の獰猛な笑みを見て思わず息を呑んだ。

あぁ、そういえばそうだった。彼女も…というか彼女こそサイヤ人だった…。

敵がいなければ生きていけない生物が、相手になりそうな敵を見つけたらそりゃあロックオンもする。

それほどに強くなったことを喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、フリーザは悩んだ末に、疲れたように考える事をやめた。

体力の回復が優先だ、どちらにせよ、自分が帝王としての矜恃を取り戻すにはサイヤ人に打ち勝たなければならない。

恐怖は打ち砕かなければならないのだ。絶対に乗り越えなければならない…それが今なのだ。それが生きるということなのだ。

“帝王”はこのフリーザだッ!依然変わりなくッ!

 

そんなフリーザを喜色に満ちた笑顔で一瞥した後、エミューゼは再びベジータへと視線を戻す。

 

「弱さという種に、暴力という水をじっくりと撒いて、慎重に、花を愛でるように、時間をかけてゆっくりと、貴方達を更正させましょう。甘やかしすぎた分まで、サイヤ人らしくね」

 

「ーーー舐めるなよ、エミューゼ。貴様が古代サイヤ人だろうと、超サイヤ人ブルーとなった俺様の敵じゃないッ!」

 

ベジータは吼えた。サイヤ人の王族としてのプライドと、フリーザという敵を討つ邪魔をされた怒り。そして、超サイヤ人の枠を越え神の領域にたっているという圧倒的な自信。

かつて恐れたエミューゼでさえ、自分は恐れる必要はもうないのだと。

闘気に溢れる眼光が雄弁に語っていた。

 

「超サイヤ人ブルーですか…素晴らしい力です。ですが、サイヤ人としては唾棄すべきものだと言わざるをえませんねーーー」

 

吐き捨てるようにエミューゼはベジータと悟空を睨み付けたが、言葉とは裏腹にエミューゼの表情は喜色に満ちたものであった。

かつての諦めは。失望はもうない。

良くもここまで育ってくれた。良くも私に立ち向かってくれた。

それが堪らなく嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

「サイヤ人は戦闘民族です。闘争本能こそが私達の全て……それを抑えつけ穏やかな心で闘うなどーーー」

 

 

 

地響きが起こった。

エミューゼの心臓の鼓動が波打った音によるものであった。

彼女を中心に大気が震え、荒れ狂う。

 

「貴方達には見せた事がありませんでしたね。貴方達が古代サイヤ人と呼ぶ生物の姿を。真なる戦闘民族の在り方を」

 

明らかな変貌であった。今まで戦闘力を極限まで抑えていたものが消え去り、“暴力”としか形容できないものが膨張して周囲を押しつぶしていた。

対峙するベジータはおろか、離れた場所にいる悟空たちや、庇われる形になっているフリーザでさえ戦慄と圧迫感に身体を支配されていた。

 

エミューゼの華奢な身体を緑を帯びた白銀の燐光が包み、彼女の長い髪と目の下がうっすらと光に縁取られる。

そう、まるでーーー

 

「ーーーお、大猿?」

 

大猿を思わせる変化であった。

溢れる力が全身から噴き出さんばかりに表面化し、オーラのように立ち上る。

増大した力が体内で畝り狂い、漲る力と圧迫感が世界を支配する。

 

そう。

これこそが彼女の真の姿。

とある世界線では超サイヤ人4と呼ばれる存在である。

 

前代未聞な事に、観戦している破壊神の額にすら、じわりと冷や汗が浮かんだ。

 

「ーーーおいおい、現役時代より強くなってるんじゃないのか、あれ。」

 

「そのようですねぇ。かつて彼女が超サイヤ人ゴッドと闘ってから随分と経っていますから、当然と言えば当然でしょうが」

 

対峙するベジータはたまったものではなかった。

サイヤ人としての本能が警鐘を鳴らして止まなかった。

かつてブロリーを前にした時も、これほどの脅威を感じはしなかった。

 

「ーーークソッタレが」

 

「ーーーでは教育してあげましょう。本当のサイヤ人の闘争というものを」

 

 

 

 

 

 

 




悟空はエミューゼの出現を、あっちゃぁ…としか思ってません
()


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if:劇場版 復活のf 中編

中身がないけど、戦闘シーンをば
ベジータ好きには申し訳ない、割とガチで噛ませになっちゃった()
中ボスキラーだから大ボスには多少はね?




先に仕掛けたのはベジータであった。

否、仕掛けさせられたと言うべきか。

そうしなければ、闘わずしてベジータは膝をついていただろう。戦意を削がれ、成す術もなく叩き伏せられていただろう。

ぐっしょりと水分を含んだ服が纏わりつくようなーーーいや、まるでドロドロに溶けた鉛の海を泳いでいるような錯覚がベジータを襲う。

剥き出しとなったエミューゼの闘気が、荒れ狂う嵐のようにベジータを容赦なく飲み込み、彼の戦意をゴリゴリと削っているのだ。

 

ベジータは知っている。

これはエミューゼが好んで使っていた“烈風拳”だ。

ベジータの知る、ただエネルギー波を飛ばすだけの烈風拳とは似ても似つかない、ただ単にその場に佇んでいるだけにしか見えないがーーー間違いない、これは烈風拳だ。

闘気が劣る相手に自分の闘気を烈風のように、疾風のように当てることで戦意を削ぎ、触れずして勝利を得るという、烈風拳の真髄であった。

 

故に、ベジータは悪手と知りつつも。自身を罵りつつも、エミューゼに突撃せざるを得なかった。

 

「なんということだ…たかが烈風拳が、これほど恐ろしい技だったとは……っ!!」

 

だが、無策というわけではない。

ベジータには秘策があった。

当たりさえすれば、エミューゼすら倒し得る技が。かつて幼い頃にエミューゼより伝授され、いつかこの技を持って彼女を打ち倒そうと修練を積み続けてきた奥義が。

 

「くそったれぇーーーッ!!」

 

自身への叱咤と激励を織り交ぜた雄叫びを上げ、ベジータは全ての力を振り絞ってエミューゼに突貫する。持久戦は不利だと、ベジータの直感が告げている。

故に、出し惜しみなく、この奥義に全てをかけるしかない。全神経を集中させ、全速力を持って距離を詰め、エミューゼの虚をつくことで、奥義を直撃させる他ないーーー!

 

「ーーーーーー」

 

「っづ!?」

 

直前、エミューゼと視線が合う。

ゾッとするほど冷たい瞳で、品定めをする様な視線であった。蛇の様に絡みつき、ベジータが何をしてくるのかを今か今かと垂涎しながら、じっとりと観察する様な。

喰らってやるから、撃ってこいーーーそう告げていた。

しかしベジータは怯まない。超サイヤ人ブルーになる事によって極限まで高められた集中力が、ベジータにこれが千載一遇のチャンスである事を告げている。

ベジータは歯を食い縛りながら、そのまま口の端が釣り上がるのを抑えられなかった。

 

そうかい…ならば望み通りくれてやる。

あの時、死に物狂いで貴様から覚えた技だ……ようやく貴様に叩き込んでやれる時が来たーーー!!

 

 

「喰らいやがれっ……これがベジータ様のーーー“デッドリー・レイブ”だアァア!!」

 

 

それはかつて、エミューゼがベジータに授けた奥義。悟空に伝授した“龍虎乱舞”の対となる必殺の乱舞だった。

怒涛の如く繰り出される打撃の嵐。苛烈なまでの拳打の連撃を弾雨の如く浴びせ、最後にはち切れんばかりの気の塊を叩きつける乱舞ーーーそれらの動作が、一瞬の内に淀みなく行なわれる。

その一発一発が大地と大気を揺るがす、恐るべき殺傷力を秘めた一撃であることは、誰の目から見ても明らかであった。

 

だが、あろう事か、エミューゼは躱すことはおろか、防ぐことすらしなかった。まるで、身体を動かすことすら億劫だと言わんばかりに、その練撃を余すことなくその身に受けーーー

 

 

「所詮……こんなものかーーー小僧」

 

 

獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「“デッドリー・レイブ”。なるほど、よくここまでモノにしました。かつて私がその身に教え込んだ通りですーーーですが」

 

 

ベジータは目を疑った。確かにエミューゼは躱すことも防ぐこともしていない。しかし、まるで何故か手応えがない。傷一つ負っていない。

完全に受け流されたーーーそんな動作はまるで確認出来ていないが、宙を舞う羽根を殴りつけたような、ぬるりとした感覚が事実を物語っている。

 

 

「言われた事しかできない人間を三流。言われた事を上手にできる人間で、ようやく二流。あなたは何時になれば一流になるのですか?」

 

 

唖然としながら、思考をフル回転させて何が起きたのかを把握しようとするが、すぐに意識を切り替える。

戦闘中に意識を切らすなど、自殺行為に他ならないからだ。

超サイヤ人ブルーの能力を最大限に活用し、思考をクリアにしてエミューゼの一挙一動を見逃すまいと睨めつける。

しかし、完全に。全てが手遅れであった。

例え一瞬であろうと、集中力を切らすべきではなかった。

不意にエミューゼの姿がブレたかと思うと。

 

 

「私が教えた技で、私に勝てるはずないでしょう」

 

 

いつ攻撃されてもおかしくないと覚悟を決めていたベジータだったが、古代サイヤ人ーーーエミューゼを前にして、そんな前準備が何ら意味を為さない事を身を以て悟る羽目になった。

超サイヤ人ブルーの感知能力をして、気が付いたらとしか表現の出来ないタイミングで、ベジータは身体の中心に凄まじい衝撃を感じた。

目を離していなければ、気を逸らしてもいないと言うのに、反撃も防御も、それどころか何の反応も出来ず、知覚すらできない。

 

否、ベジータは視界の端に、エミューゼが構えを取るのをかろうじて捉えていた。

 

「“デッドリー…レイブ”か……!?」

 

それはたった9発の連撃であった。恐らくエミューゼが調整しているのであろう、スピードも威力も、寸分の狂いもなく、ベジータのデッドリー・レイブと同じであった。

しかし。

まるで練度が違った。

その一撃一撃の全てに意味が込められていた。

全ての一撃が必殺であり、全てが連鎖する前準備であった。

一撃目でベジータの構えをこじ開け。

重心をずらす事で体勢を崩し、軸を固定し、肺を潰し、力の逃げ場を失くし、脳を振動させ、意識を奪い、気の源を絶ち。

 

護りを全て奪われ完全に無防備となったベジータに、トドメとなる気の塊を叩き込み、炸裂させる。全ての守りが引き剥がされ退路も潰されたベジータに、抗う術などない。

軸をぶらすことも、衝撃を逃すこともできず、その暴力の全てを余す事なく急所に受け入れるしかなかった。

 

鈍く、凄惨な音が響く。

 

ベジータの身体が遥か後方に吹き飛び、岩盤に叩きつけられ、糸の切れた人形の様に、その場に仰向けに崩れ落ちる。そのままピクリとも動かない。

必死に立ち上がろうとするも、まるで力が入らず、指先に至るまでまるで動けなかった。

意識を辛うじて保っている事すら、まるで奇跡だ。

サイヤ人としての意地が、ここで終わる事を良しとしなかったのだ。

 

必死で途切れそうになる意識を繋ぎ、震える手で地面の土を握りしめる。

かつてはあの“デッドリー・レイブ”で完全に意識を失った。

今度は耐えてみせる…耐えて、いつか、奴に勝たなくてはならない!

エミューゼは既に過去のサイヤ人…今を生きるサイヤ人が、絶対に超えなければならないのだ!

 

それは、自分のためでもあり、内心の奥底でエミューゼの事を思っての事であった。

失われたとエミューゼが嘆いた、サイヤ人の誇りは決して失われていないのだと。

自分が受け継いでいるのだと、証明してやらなければならないのだ。

ベジータは自身を叱咤する。まだまだ終わっちゃいないはずだろう。こんなところでいつまで寝ているつもりだ。

しかし、身体は動いてはくれないし、眼前の壁はあまりにも高かった。

 

悔しさに任せ、握りしめていた土を地面に叩きつける。

どうしようもない虚しさだけが残った。

ベジータの視界が、溢れる悔しさで滲む。

 

 

「な、何故だ…何故、超サイヤ人ブルーとなった俺の攻撃をいなせるんだ…何故奴の動きが捉えられないんだ…!!」

 

 

血反吐を噛み締めながら、ベジータは呻く。

勝ち筋がまるで見えない。

不可解であった。古代サイヤ人と言えど、神の気を纏う超サイヤ人ブルーの気は感知できないはずだ。

その疑問に、エミューゼは当たり前のように答える。

 

 

「神の気とやら。確かに古代サイヤ人には感じ取れないでしょうが……本来のサイヤ人の動体視力を持ってすれば気が読み取れなくとも支障はありません。眼で追って、脚で追いついて、叩け伏せればいい。気を読まれるのならば、読まれていようと逃れられない速度と、受け流せないほどの力で上から叩き潰せばいい。知覚できない速度で動けばいいーーー戦闘民族サイヤ人には、それができるんですよ」

 

 

無茶苦茶で、理不尽な理屈であった。

生来備わった力と戦闘センスこそが、根本的な身体能力こそが、サイヤ人の…戦闘民族サイヤ人の最も強力な武器なのだ。

超スピードと、超パワー。単純極まりない暴力こそが、古代サイヤ人を最強たらしめる象徴なのだ。

道理を蹴散らし、常識を喰らう。ただ闘争本能の赴くままに。

 

もっとも、エミューゼの場合はそれだけでは済まないのだが、それを知ってこの場にいるのは破壊神とその付き人のみである。

 

 

「よく言うよ。こりゃあ、古代サイヤ人だとかブルーだとかじゃない…単純に練度の差だね」

 

「彼女、実際には、神の気も感じ取っているようですからねぇ。纏う気はないようなので動きは筒抜けですがーーー」

 

「それこそ古代サイヤ人の馬鹿げた身体能力と馬鹿げたパワーだ。感知できたところで、あの超スピードじゃ軸をずらして打点を反らすことすらままならない」

 

「加えてあの練度ですからねぇ…膨大な時間を湯水の様に使って技術面まで隙がないですし…」

 

「古代サイヤ人はどいつもこいつも、必要ないからって技が単純だったから付け入る隙があったっていうのにさ。どうすんだよ、アレ」

 

 

パフェを食べながら観戦しているビルスとウィスが、場違いなほど呑気な会話をしているが、その声の軽さに反して、両者の額には冷汗が流れている。

力と技の極致。まさに闘争の化身。

 

ビルスを破壊神と呼ぶならば、エミューゼは“闘神”とでも呼べば良いのだろうか。

 

 

「では、王子ーーー」

 

 

既に虫の息となりつつあるベジータに、歩を進めるエミューゼ。

柔らかな物腰とゆったりした動作であった。

優雅で花でも咲きそうな微笑を浮かべならベジータへと歩み寄る。

 

気が気でないと言った様子で見守っていたブルマは、エミューゼの笑顔をみて安堵する。

しかしすぐに、安堵は不安に変わる。

エミューゼの笑顔の下にあるものを見抜いたからだ。

フリーザもまた、この笑顔に見覚えがある。

コレは獲物を逃さないための微笑だ。

 

 

「ーーーお別れです」

 

 

エミューゼの静かな死刑宣告に対して、もっとも素早く反応したのは悟空であった。

 

 

「いけねぇッ! 掴まれるんじゃねぇ、ベジータ!!」

 

 

混濁する意識をどうにかフル活動させ、どうにかエミューゼから距離を取ろうともがくベジータだったが、不意に浮遊感を感じた。

 

そして数瞬して、自分の顔面を片手で掴み上げているエミューゼを確認し、顔を青ざめさせる。

 

「ふ、ふぉお…!?」

 

“やみどうこく”。

掴んだベジータを中心に、エミューゼの気が逆巻き始める。このままではベジータの全身は見るも無残に捻れ千切れるであろう。

悟空も、地獄の鍛錬で喰らった経験がある。あの時は手加減されていた為に四肢の骨が砕けかける程度で済んだ。

しかし、その全力を喰らってしまってはベジータはーーー!

 

 

 

 




次回、ベジータ死す! デュエルスタンバイ!

ベジータが教わったのはデッドリーレイブ、悟空は龍虎乱舞となります。
ベジータ「俺のデッドリーレイブにそっくりだ!」ってのを、やりたかっただけです

しばらくしたら幕間に移します。


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if:劇場版 復活のf 中編2

悩んだ末に、とりあえず復活のfだけは一旦書ききることにしました。
本編も同時に書いてるので少々お待ちください。

といいつつ、まだ中編2です()
まだも少しだけ続くんじゃ


 ぐちゃぐちゃに掻き回された意識の中、ベジータは自分でも驚くほどに冷静であった。

一瞬に過ぎない刹那の間が、永遠のように感じる。

永遠に匹敵する時間の中で、ベジータはぼんやりと目の前の脅威の事を考えた。

 

なんだ、この女はーー人間、それとも化物か。

いや、違う。これが真の“戦闘民族”なのだろう。

ならば俺やカカロットはなんだというのか。これ程までに力の差がつくほど、自分達の種族は退化してしまったというのか。

今まで信じ続けていた自分の血とは、誇りとはいったいなんだというのか。

 

眼前のエミューゼからは何の感情も読み取ることができない……しかし、彼女が浮かべている微笑みに違和感を感じた。

ベジータは当初、これを『圧倒的な強者の余裕』として見ていた。

だが、違う。何かが違う。

ベジータは己の死を前に、氷のような冷静さをもってこの違和感の正体を模索した。それこそが自身に残された唯一の道だと、何故かそう感じ取った。

考え抜いた末に、エミューゼは何かに耐えているのだと悟った。

この儚げな花を連想させるような微笑みは、敵を逃さないためのものでは決してない……ただ胸の内にある空虚さを隠すためのものなのだと、ベジータは推察した。

エミューゼの苦悶な微笑みに浮かぶもの――それは虚しさだった。

 

「足りないというのか」

 

「……はい?」

 

ピタリと、ベジータを引き裂かんとしていた暴力を孕む風が止んだ。

 

「超サイヤ人ブルーとなってもなお、貴様には物足りんということか」

 

「………王子?」

 

 死を目前にすることで、感覚が研ぎ澄まされたベジータが思ったこと。

それは戦いを始めて以来尽きることの無かった不甲斐ない己への怒りと、かつてない興奮だった。

 

「うぉああああぁッ………!!」

 

蝕むようだった痛みが理性という枷と共に消し飛び、全身に気をはち切れんばかりに注ぎ込む。鉛のようになった身体が悲鳴をあげるが、どうということはない。

俺は“サイヤ人”だ。そして、目の前の女は化物などではない、自分と同じ“サイヤ人”なのだ。ならば同じサイヤ人の王子たる俺が勝てぬ道理などない。

ベジータは考えることを放棄した。ただ、目の前の恐るべき存在から放たれる全てを感じ取り、そして捻じ伏せたいとだけ思った。

完全に捕らえらていた体勢からがむしゃらに足掻く。

気が爆発しそうな程に全身に力を込め、一気に解放して身体を回転させると、意図せず不意を突かれる形となったエミューゼの手からベジータが弾き出される。

 

自由を取り戻したベジータは、素早く距離を取り、全身から聞こえるギシギシと軋む音を頭の片隅に置いやり、しっかりと大地を踏みしめてエミューゼを睨みつける。

 

「……俺たちサイヤ人は戦うほどに強くなる。それも、相手が強ければ強いほどに……そいつは貴様自身がよぉ〜くわかっているはずだ…ッ!」

 

「……まさか、先程の攻防で。たったあれだけの一瞬で、成長を遂げたというのですか」

 

唖然と。しかしどこか興味深そうに。期待を込めた表情をするエミューゼ。

初めて変化したエミューゼの表情をみて、不敵にベジータが笑う。

 

「貴様が嘆くほど。貴様が絶望する程に、サイヤ人は退化などしていない! 俺たちはまだまだ進化する。貴様のような化石など、あっという間に抜き去って置き去りにしてやる。俺たちサイヤ人の進化は光よりも早いんだ!」

 

言葉に出来ない程疲労し、まさに満身創痍でありながら、ベジータの身体から活力が溢れていた。

エミューゼの興味深そうな面が、驚愕に変化する。

ベジータは嬉しくなった。

痛みも疲労も、ここに来て気にする意味を失った。否、初めから意味などなかった。奇しくも、かつてベジータの父であるベジータ王がフリーザに挑み、擬似超サイヤ人になった時と同じ感情であった。

 

怒りと闘いに対する歓喜はいつだってサイヤ人を。ベジータを強く高みへと押し上げた。今再び、あの時の感覚が。初めて自分が超サイヤ人に目覚めた時の感覚が蘇り、失意の底からベジータを引きずりあげる。

呼吸は荒く、ダメージを引き摺ったおぼつかない、重心で、それでもなお滾る闘志を込めてベジータは叫ぶ。

 

 

「サイヤ人は戦闘種族だ!!!!なめるなよォーーーッ!!!」

 

 

エミューゼの驚愕に、再び変化が起こった。

頬が紅潮し、まるで乙女のような眼差しをしていた。

手を口元に寄せて、目をまんまるにして、まるで世界中に知れ渡る状況でプロポーズを受けた女性のような表情であった。

 

平たく言えば、胸キュンしていた。それはもうキュンキュンしていた。

エミューゼは、破壊神とウィスの目が点になり、ジャコとクリリンが4016円顔になるほどに、モジモジしていた。

ブルマが危機感を覚えるほどに、エミューゼは乙女になっていた。

 

「ぇ、へぁ、あ…そんな、私、困ります…」

 

そんな状況にあって、悟空ただ1人が深刻な表情で、冷や汗をながしている。

 

「やべぇな…」

 

「そ、そうよ孫くん、ベジータは妻子持ちなんだから! あんたの母親でしょ、色々不味すぎるわよ、ドロドロの関係なんて私いやよ!?」

 

「いや、そうじゃねぇ……いや、その通りだったら確かにそれもやべぇけど…ベジータのやつ、母ちゃんの逆鱗を引っこ抜いちまった、殺されっぞ…!」

 

パニックに陥るブルマだったが、事態は彼女が考える以上に深刻であった。

 

 

 

「そんな大胆な…私、困ってしまいます…だって…そんな……立派なサイヤ人が相手なら……

 

 

 

 

 

 

 

手加減できません…死合わなきゃ………!!」

 

 

この瞬間、エミューゼにとってベジータは戦士となった。

1人の、立派なサイヤ人の戦士として、認めてしまった。

 

そして、そのサイヤ人の戦士は、自分に挑んだのだ。

暇潰しなど。手加減など。

そんな失礼な真似など、どうして出来ようか。

果敢にも自分に挑んでくる相手を、無碍にはできない。

 

「素敵です。やはり、サイヤ人は素晴らしい…。私に挑むのはいつだってサイヤ人です。サイヤ人でなくてはならない…!」

 

先程より濃密に。それでいて純粋な殺気…やや桃色を帯びている気もするが、純粋な殺気を受けたベジータは。

 

「くそったれが」

 

悪態をついた。しかし、先程までの恐怖や、諦めの色はない。

身体が満足に動けば、という悪態ではあったが、未だその闘志は揺るがない。

勝てるわけがないという予測と、勝ってみせるという意気込みが同居していた。

確かに満身創痍、身体は重く、自分のいう通りに動いてはくれない。消耗は決して軽くない。

だが、五感は今まで以上に研ぎ澄まされている。今のベジータは完璧でないが故に完璧以上なのだ。

 

 

「ど、どういう事だ…消耗しきっているはずなのに、明らかにベジータは強くなっている………!!」

 

観察眼に優れるピッコロには分かる。立ち上がるだけで精一杯という様子のベジータだが、先程より強くなっている。

エミューゼに痛めつけられる前の万全の状態だったベジータは、今の満身創痍のベジータに触れることもできないだろう。

疲弊からか緩慢な動作であるが、微塵も隙がないのだ。超サイヤ人ブルーの特性を合わせ、無駄というものがまるで感じられない。

 

「ピッコロも気づいたか。ベジータのいう通りだ。強ぇやつと戦えばオラ達は強くなる。母ちゃんっていう未曾有の強敵を前にしてベジータはサイヤ人として成長したんだ…」

 

「普通ならあそこまで急激に成長しないし、エミューゼを前にすりゃ戦意喪失して成長もクソもあったもんじゃないけどね。恐怖を乗り越え、サイヤ人としての本能を引き出して、ほんの僅かな細い糸からチャンスを手繰り寄せたんだ。そりゃ強くもなるさ」

 

それでもまだまだ足りないけどね、と破壊神は付け加える。

 

 

 

「……でも、このままじゃベジータ殺されっちまうぞ。仕方ねぇ、ベジータにゃ悪ぃけど、オラも親孝行に混ぜてもらうとすっか」

 

 

そして、この闘いを前にして、この男が我慢できるはずもなかったのであった。

 

のちの話ではあるが、意外にも、ベジータはこの事に関しては悟空を責めることはなかった。

乙女顔になった母親を見ていられなかったわけでは決してないとは後の悟空の弁である。

 

 

 

 




フリーザ? あぁ、ラグナ・ハーヴェイの事か。奴さん死んだよ。

フリーザ様は後編に備えてエネルギーを蓄えています。

エミューゼさんは乙女顔ダブル烈風拳の構えですが、アーカードのアンデルセン神父に対する感情のようなものだと思ってください。
別に何億年も生娘で処女を拗らせたわけではありません()
まだ若いし。いけるし。見た目もロリに近いし。

サラッと流しましたが、フリーザを相手にした時、ベジータ王は死にかけの最後の最後に擬似超サイヤ人になっています。悟空がスーパーナメック星人ことスラッグさんを相手になったあの状態です。
いつか書きたい()


ちなみに、花京院が恐怖を乗り越えないほうが強い性能の格ゲーがあるのは内緒な
また後に閑話に放り込みます。


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if:劇場版 復活のf 後編1

いよいよ最終局面
悟空の機転により勝機が生まれる!
乞うご期待………


予告詐欺です()
リハビリ気味に書いてみたけど、変な方向に筆が走った()
一週間くらいしたらまた幕間に移動します。


それは、完璧な奇襲であった。この場にいればヒットですら舌を巻くような。

音も無ければ容赦も一切ない、頸部を穿つ必殺必勝の拳。

ブルーによる、気を感じさせない瞬間移動からの渾身の一撃は、孫悟空が奇襲を行う事を予め予期していたピッコロをして、躱すこと能わず仕留められるだろうと冷汗の流れるものであった。

 

しかし。

 

「へへっ。まあ、通じねぇよなぁ、母ちゃんにはよ」

 

必殺の筈の拳は、何かにーーーエミューゼの尻尾に、当然のように阻まれていた。

腕に巻き付くでも無く、ただ拳の先に添えるように置かれた尻尾の先が、悟空の一撃を受け止めていたのだ。

エミューゼは訝しげに。しかし決して悟空に視線すら投げることなく言い放ちーー

 

「何となく空気の揺らぎを感じたかと思えば…母はいま戦士の相手で忙しいのです。行儀よく仕置をまっていなさい、悟空」

 

ーーそのまま、尻尾で悟空の頭をはたく。

まるで舞い上がる埃を払うような動作であった。

ぺちっという、コミカルな擬音でも鳴りそうな緩慢なものでしかなかった。

 

しかし。首が千切れ飛びそうな衝撃が悟空を襲い、顔面が轟音と共に地面に陥没する。

 

〝なんとなく〟

 

それはつまり、エミューゼが危機を感知するには充分すぎる事を意味する。

 

その光景を目撃した誰もが“ふざけるな”と思った。

必殺の一撃を、“なんとなく”で防がれては溜まったものではない。

 

完全に、相手にされていない。

だが、それでも悟空には勝算があった。すぐさま頭を引っこ抜き、ベジータの隣に素早く潜り込む悟空の表情には、闘志あふれる笑みが浮かんでいる。

ベジータは嫌な予感がした。カカロットのあの笑みが、自分にとって良いものであった試しなどないのだ。

 

「何の真似だ、カカロット。出しゃばるんじゃない、エミューゼは俺の獲物だ」

 

「わりぃけんども、ベジータ。今回ばっかしは譲れねぇ。おめぇだってわかんだろ?」

 

「……ちっ。いいだろう、足を引っ張るんじゃないぞ。どちらが奴を倒すか、競争だ」

 

あぁ、やはり。と天を仰ぎ呻きたくなったベジータだったが、同時に納得もしていた。

エミューゼほどの存在を前にして、お預けを許容できるサイヤ人などいるわけがないと、理解してしまえる自分が堪らなく苛立たしい。

それに、二人でかかったところで、誤差にもならないような戦力差なのだ。

 

「それによ。母ちゃんとの闘いには、オラが先約なんだぜ? 勝てると思ったら、いつ如何なる時だろうとかかってきなさいってな」

 

「ーーー確かに言いましたね。ですが、わかっているのですか、悟空」

 

その言葉の意味を。

理解しているのか、と。

 

エミューゼはゆっくりと。

自分を落ち着かせるように腕を下ろし、拳を力一杯に握り潰す。

 

 

「ベジータ王子と同じく。戦士として私の前に立つというのですか?」

 

 

内心、エミューゼは戸惑っていた。息子は、本気で私に挑むつもりなのだろうか。死ぬかもしれない…いや、確実に死ぬ。

今の実力で私に挑めば、確実死ぬとわかっているだろうに。

 

しかし、詰問するようなエミューゼの眼光を受けてなお。

悟空の瞳から闘志が消える事がないのを見て取りーーー

 

 

「……今日は素晴らしい日です」

 

 

エミューゼは小さく笑った。寂しさと哀しみを宿した、死別を覚悟した笑みだった。

とうとうこの日が来てしまったのだと。

別れは唐突にやって来るものだと、悟ってしまったが故の笑みであった。

 

「えぇ、本当に素晴らしい日です。愛する息子と、その好敵手が! 切磋琢磨の果てに成長し一人前の戦士となり! 私の前に立っている!」

 

搾り出すような、慟哭のような声は、歓喜の叫びへと変わり。

寂しげな笑みは、犬歯を剥き出しにした獰猛な笑みへと変質する。

 

「やはり…サイヤ人は素晴らしい。私に挑むのはいつだってサイヤ人ーーーサイヤ人でなければならないーーー!!」

 

 

幾星霜の時を超え、この瞬間を待ち望んでいた。さぁ、見事この胸に殺意を叩き込んで見せろ!突き立てて見せろ!

 

焦がれるように、エミューゼは叫ぶ。

願わくば、自分を超えて。

永きに渡るこの命を絶ってくれと。

那由多の彼方にある勝機を掴み、死にゆく母に、その愛しい勇姿を見せてくれと。

 

 

「私にサイヤ人賛歌を歌わせてください……喉が枯れ果てるほどにーーー!!」

 

 

「じゃ、母ちゃん。0.0001%組手頼むな」

 

「ーーーえっ」

 

 

悟空はあっけらかんと言ってのけた。

それは、まるで悪戯に成功したような表情であった。

 

0.0001%組手。それは悟空が幼き日に受けた特訓の一つである。

エミューゼが力を0.0001%にまで下げる代わりに、一切の情を捨てて試練を課す修行。

幼き日は、0.0001%のエミューゼを相手に5分間隠れて生き延びるというものであったが。

その修行を何とか生き延びて終えた際、エミューゼはこう言ったのだ。

 

「次は、この状態の私に一撃入れるようになりなさい。もし見事こなせたなら、ご褒美をあげましょう」

 

と。

 

「母ちゃん、こうも言ってたよな。0.0001%組手に挑む覚悟ができたら、いつでもかかって来なさいって」

 

 

「……言いましたね。確かに言いました、私」

 

 

今度はエミューゼがお預けを食らったような表情をしていた。

頰は引き攣り、何とも言えない表情をしている。

 

「で、ですが、今は違うでしょう。もっとこう、闘争的な空気がですね!」

 

「いつ如何なる時も、オラからの挑戦は断ったりしねぇって言ってたじゃねぇか」

 

「でも、悟空、今はですね。そう、違うのです、あれは」

 

「言い訳したり約束破ったりする奴はサイヤ人の風上にも置けないやつって母ちゃんに散々言い聞かされたんだけんどもなぁ〜。な、悟飯」

 

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 

悟飯は思った。

僕を巻き添えにしないで下さいと。

 

ベジータは思った。

鬼だ。鬼がいやがる。自分の母親を、母親の律儀な性格を完全に把握した上で、弱みに付け込む不良息子が、さも俺も仲間だと言うように隣に立ってやがる。

 

ビルスは戦慄した。血は繋がっていなくとも親子なのだと。そりゃ幾ら力量差があるからと言っても、親子として長年過ごしたのだから、弱みの一つや二つ見つけているだろう。悟空こそエミューゼの弱点だと考えてはいたが、まさか別の意味で悟空自身がエミューゼの弱みだとは思わなかった。

そして何のためらいもなく、いつものとぼけたような表情のままに母の弱みを握り利用する悟空に恐怖した。

 

 

「う、ぬぅ…ぐぐぐ」

 

 

エミューゼは再び思った。

とうとうこの日が来てしまったのだと。

唐突にやって来るものだと悟ってしまった。

可愛い息子に“反抗期”が来てしまったのだ…!

 

「い、いい、ぃぃでしょう。0.0001%組手ですね。久しぶりの息子との稽古です、受けてやりますとも!」

 

 

だが、エミューゼは律儀なサイヤ人である。愛する息子との約束を破る事がどうしてできようか。

 

「エミューゼめ、目を閉じやがった。呼吸も亀のように鈍くなってやかる…あれが0.0001%組手か。だが悟空の奴め、何を考えている……」

 

そう。

ピッコロが危惧するように、状況はあまり変わってなどいないのだ。0.0001%組手は、力をセーブする代わりに、一切の情を捨てる。

先程までベジータと闘っていた時も手加減していたことを考えれば、結局、戦力差が更に開くのを抑えたに過ぎない。

それどころか、仕置をするだけのつもりだった悟空まで死の危険が出て来てしまったのだ。

一撃を当てればいいという勝利条件こそ生まれたものの。

その一撃がどれだけ遠くにあるのか、わからない悟空ではあるまいに。

 

エミューゼは訝しむ。何故、悟空はこのタイミングで0.0001%組手を仕掛けてきたのか。ベジータを救うにしても、このやり方では2人とも危険に晒されてるだけだろうにーーー

 

 

「ーーー勝算はあるのか、カカロット」

 

「ある。母ちゃんは目を閉じてっから、あのとんでもねぇ動体視力は封じた。ブルーになったオラ達の気も、感じ取る事ができねぇ筈なんだ」

 

あとは、匂いと音だけーーーと、悟空は気を引き締める。0.0001%に力を抑えていようと、エミューゼは間違いなく、依然として宇宙で最強の生物なのだ。

 

 

「技をかりっぞ、ヤムチャ!」

 

 

繰気弾。悟空の作戦は単純極まりないものだった。

繰気弾がエミューゼの周りを縦横無尽に駆け巡り、空気を裂く音や地面を抉る音を奏でる。

 

小賢し真似を…そんな子供騙しがエミューゼに通用するものかとビルスは鼻で笑う。

しかし、ふと気付く。繰気弾の軌道に違和感がある。

何より、エミューゼが僅かに狼狽えたのが見えたのだ。

 

 

「ビルス様とブルマには感謝しねぇとな。ブルマの持ってきたパフェの匂いを、繰気弾で風に乗せりゃ、音と同時に食い意地の張った母ちゃんの鼻も一緒に誤魔化せる!」

 

 

本当に小賢しかった。しかし、流石親子と言うべきか、悟空はエミューゼの弱点を研究し尽くしていたのだ。

 

 

「さぁ、ベジータ! こっから本番だ、力入れていくぞ!」

 

「貴様! あんな外道殺法使っておいてよく格好つけられるな!」

 

 

この時、誰も気付かなかった。

エミューゼの五感を封じることが、何を意味するのかを。

この状況で、誰が1番得をするのかをーーー

 

 

 




この状況で、得をするのは誰だろう(棒)
ヒント:この話は復活のF()

バーチャロン新作買うか悩むし、ディシディアは過疎化&アプデ中々ないし、モンハンもやりたいし。どうしようね?

ドラゴンボールファイターズ?
アーク制だから恐い…世紀末バスケとか、戦国とかね?


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本編
存在しえない歴史


この作品には以下の要素が含まれます
・独自設定
・主人公最強

プロローグなので地の文が続きますが、読み辛ければ後書きに簡単にまとめてあります。


遥か古の話をしよう。

孫悟空やベジータが誕生するよりも。超サイヤ人ゴッドが確認されるよりも遥か昔の事だ。

 

後にサイヤ人と呼ばれる事となる種族は、エイジ700年代とは比較できないほどに強大な種族であった。

荒れ狂う暴力を形容したかのような存在。超越種。暴虐の嵐。

仮にこの古の時代に宇宙トカゲの突然変異種がいたとしても、まるでおがくずか何かのように消しとばされ、食い散らかされ、淘汰されていたことだろう。

全ての存在が彼らに追いつくことができない。

彼らは古代サイヤ人。とある世界線では“超サイヤ人4”と呼ばれる存在であった。

 

彼らの過ぎ去った後には何も残りはしない。原型を無くし微塵に滅びた星々の残骸が散らばるのみである。

そんな悪鬼達の跳梁跋扈する時代が、確かに存在していたのだ。

 

そんな暴力の化身とも言える種族だったが、それでも彼らは絶滅の危機に瀕していた。

彼らに外敵など存在しない。欲しいものも暴力によって手に入る。

では何故かと問われるならば、彼らを絶滅の危機に追いやったのは、他ならぬ彼ら自身であると答えよう。

その身に収まりきらぬ凶暴性は、彼らを共喰いに赴かせ、互いに殺し合い、その数を減らしていったのである。

血を血で洗う地獄のような環境が、古代サイヤ人達にとっての揺籠だったのだ。

 

しかし、その揺籠から誕生した1人の怪物によって、古代サイヤ人達の運命は大きく変わることとなる。

それは、おおよそサイヤ人とは思えない、白く透き通った髪を持つ美しい少女だった。

他の古代サイヤ人には見られない類い稀な知性と理性と気品を持ちながら、彼女は他の誰よりも凶暴性を内に秘めていた。

彼女は理知的でありながら、他の何を差し置いても、闘いが、闘争が、生命の鬩ぎ合いが何よりも好きだった。愛していた。

誰よりも暴力を愛し、そして誰よりも強さに貪欲である彼女にとって、他の古代サイヤ人は最高の馳走であり、この地獄のような揺籠は最高の餌場であった。

彼女の誕生によって、古代サイヤ人の絶滅は更に加速することになる。

 

卓越した力と道理を蹴散らすような凶暴性をもつ古代サイヤ人にとってすら、彼女は天敵と呼べるものであり、彼らは次第に彼女を畏れるようになった。

 

力を持ち過ぎれば、彼女に喰われる。強くなれば、彼女は嬉々として殺しにくる。

兇悪な古代サイヤ人の中であってなお、異質な存在であった彼女は、古代サイヤ人達に“出る杭は打たれる”という事を理解させるのに充分過ぎる存在であったと言えよう。

 

やがて古代サイヤ人達は考えた。如何あってもこの怪物に勝つことはできない。束になって闘いを挑んだとしても、あるいは奇襲、暗殺を試みても、彼女を悦ばせるだけ。事実、彼女の殺害を試みた猛者達はすでに塵と化し、死闘を経た事により彼女がさらなる成長を遂げるだけの結果となった。もはや生物と呼んで良いのかわからない。全身の細胞は常に活性化し、彼女の肉体は老いる事をやめてしまった。

もはや老衰を待つ事すらできない、永遠に成長を続ける怪物の誕生だ。

 

そこで彼らは“退化”する事を選んだ。弱くなる事で、彼女の興味の対象から外れようとの考えからだ。

自分達の力に絶対の自信と誇りを持つ彼らにとって、それは苦渋の決断であったが、それ以上に彼女は恐ろしすぎた。

古代サイヤ人達のこの決断に、彼女は怒り狂った。

 

『それでも戦闘種族か。恥ずかしくないのか。誇りはないのか』

 

彼女は激情の赴くままに古代サイヤ人達を罵ったが、彼ら疲れたように肩をすくめるのみであった。

 

『誇りだと…そんなものはとっくに貴様に貪り尽くされた』

 

彼女は激昂した。仮にも戦闘民族がーーー自分の同種達がこんな惨めで情けない存在であっていいはずがない。彼女は瞳を涙で濡らしながら彼らを睨みつけた。

 

『誇りも力も失ったというのならば、そのようなサイヤ人など、もはや存在する価値などありはしない、滅ぼしてやる。滅ぼしてやる。滅ぼしてやる』

 

阿鼻叫喚であった。抵抗する気力すらない古代サイヤ人達を、彼女は情け容赦なく滅ぼしていった。

 

しかし。

6人の古代サイヤ人が立ち上がり、奇跡が起こる。

ただ純粋に生きたいと。滅びを迎えさせるわけにはいかないと。

その祈りが、奇跡を産んだ。

超サイヤ人ゴッドが邪悪のサイヤ人を倒すために、サイヤ人全体の滅びの危機を前にして現れたのである。

 

彼女は狂喜乱舞した。自身に立ち向かう存在は何年ぶりだろうか。10合も自分と打ちあう事ができる存在が他にいただろうか。

彼女は今までの怒りを全て忘れ、その一瞬を堪能し、闘争に没頭した。

ただひたすらに目の前の存在が愛おしくてたまらなかった。

 

しかし、奇跡は長続きはしなかった。超サイヤ人ゴッドの力は長持ちしない。

彼女がウォーミングアップを終えたところで、変身は解けてしまった。

それからの事はよく覚えていない。

気がつけば彼女は呆然と、事切れた超サイヤ人ゴッドだったサイヤ人の前で涙を流していた。

感じたことのない、どうしようもない孤独感が彼女を襲った。

 

彼女は全てがどうでもよくなってしまった。

心に失望と諦観が根付いてしまった。

 

もう自分に立ち向かう存在は現れないのだ。

もう自分の闘いは終わってしまったのだ。

もう自分は、命をかけた闘争を楽しめないのだ。

不完全燃焼のまま、もう2度と。

燃えカスのような自分がどうしようもなく惨めに思えた。

 

失意のまま、彼女は永い眠りについた。いつかは。やがて、いつかは、自分と闘える存在が現れる事を夢見て。やがて、自分を越えるような存在が現れる事を祈って。

また、嵐のような闘争を愉しめる日が訪れると信じて。

 

何年も。何千年も。何万年も。例え幾億年でも。

 

 

一方で古代サイヤ人達は、超サイヤ人ゴッドの存在を闇に葬る事にした。

もしもこの先に超サイヤ人ゴッドが現れてしまったら。

確実に彼女は目を覚ましてしまう。それだけはあってはならない。

 

こうして超サイヤ人ゴッドの伝説は抹消され、古代サイヤ人達はただのサイヤ人へと退化を遂げる。

しかし今でもなお、サイヤ人達の間ではこんな伝説が今でも深く根付いている。

 

『偉大にして(えい)(ごう)なる戦闘民族の祖“エミューゼ”

そは久遠(くおん)に横たわる死者にあらず

測り知れざる永久(とこしえ)のもとに死を越ゆるものなり

惑星の墓場 悠久の揺籠にて死せる戦士の神を夢見るままに待ちいたり』

 

 

 




というわけで、主人公は古代サイヤ人の女性、エミューゼです。名前の由来は『ゲミューゼ』から。
読み飛ばした人のためにまとめると

1.サイヤ人の祖先は超サイヤ人4。
2.同じくサイヤ人の祖先である戦闘狂系ヒロインエミューゼに食い散らかされて古代サイヤ人が絶滅の危機
3.強いとエミューゼに目をつけられるので、古代サイヤ人、弱体化を決意→エミューゼ激おこ
4.暴れるエミューゼを止めるために超サイヤ人ゴッドが現れてエミューゼご満悦。でも時間切れであっけなく終了。エミューゼさん不完全燃焼で失意のため冬眠(不貞寝)
5.超サイヤ人ゴッド現れたらエミューゼ起きちゃうから超サイヤ人ゴッドの伝説は闇に葬られる。反面エミューゼは、目覚めさせていけないことを語り継ぐためにどこぞの旧支配者(グレートオールドワン)の如く祀られる。


次回は
6.フリーザにいびられたベジータ王がエミューゼを蘇らせるも、退化しきったサイヤ人にエミューゼ激おこ
をお送りします

この作品では、超サイヤ人やブロリーは、古代サイヤ人への先祖返りという設定です。
黄金大猿が進化して→古代サイヤ人(超サイヤ人4)→退化してサイヤ人の流れになります。
サイヤ人が先祖返りを起こし、一時的に古代サイヤ人の力を少しだけ発揮=超サイヤ人みたいな


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我ら大猿調査団

まだ長めの地の文が続きます。あとちょっとグロいかも


ベジータ王は自身が最強であると自負していた。サイヤ人は宇宙最強の戦闘民族であり、自分はその頂点に立っている。

故に、自分こそ最強なのだと。

そういった自惚れが、彼のプライドを強固なものにしていた。

サイヤ人のプライドこそが、彼の原動力であった。

 

そのプライドが揺るぎ始めたのはいつの事だっただろうか。

フリーザにこき使われた時だろうか。破壊神ビルスに足蹴にされた時だろうか。

しかし上記の2人では、彼のプライドを砕く事は出来ない。反骨精神の塊であるベジータ王は彼らへの復讐を誓い、怒りを内心で育て、眼をギラつかせていた。

今は敗北してもいい、自分は戦闘民族サイヤ人だ。サイヤ人の王だ。すぐに奴らより強くなり、奴らを地獄へ叩き堕としてやる。

ベジータ王にとって敗北による激情は強みであり力の源でしかなかった。

彼女が目覚める、その日までは。

 

惑星サダラ。

ベジータ王は地上げする星の視察、及び歴史的文化財の調査という名目で、かつてのサイヤ人の母星を訪れていた。

フリーザの部下の科学者を強引に拉致し、数人のサイヤ人で調査団を編成。惑星サダラに眠るとされている“伝説”を捜しに来たのだ。

それは、拍子抜けするほど呆気なく見つかった。

 

惑星サダラは酷い有様であった。もはや惑星とは呼べない残骸が其処彼処に散らばり、かつての内紛の激しさを物語っている。

しかしその中にあってなお異彩を放つものがあった。

残骸の中心に位置するような建造物。まるで揺籠のように星屑の中を漂っている。

 

それこそが、ベジータ王が探し求めていたものだった。

彼とてサイヤ人。同じサイヤ人にすら恐れられたという“エミューゼ”の伝説は、子供の頃から何度も聞かされて育った。

 

悠久の時を巡り眠り続ける古代種。何があろうと決してその眠りを妨げてはならないと。

 

眉唾だ。ベジータ王はお伽話など信じてなどいない。

しかし、サイヤ人最強の自身が勝てない相手が存在し、いいようにこき使われ、足蹴にされる。フリーザの存在それすなわちサイヤ人全体の危機であると彼は考えていた。

そう、ベジータ王は藁にもすがる思いであったのだ。

 

エミューゼの眠る遺跡を見つけたとき、ベジータ王の心は少年のように高鳴った。

 

伝説は本当であった! あのお伽話に登場する最強の存在は実在していのだ!

 

遺跡を進んでいくにつれ、ベジータ王の歓喜は勢いを増した。まるで珍しい虫を見つけた虫取り少年のように、その足取りは軽く、浮き足立っていた。

 

反面、無理やり連れてこられたフリーザ軍所属の科学者の顔色は悪くなる一方であった。

この遺跡からは、エミューゼに対する畏怖とその奥にある恐怖心が読み取れる。

彼は、遺跡の端々に存在する碑文を読み解き、過去に何があったのかある程度理解していた。

永き眠りについてなお、凶悪なサイヤ人に慰霊の遺跡を自主的に造らせる存在がここにいる事を、彼だけが理解していた。

 

 

「いよいよですな、王よ」

 

深奥の扉を前にして、ベジータ王のそばに控えているサイヤ人が声を上げる。

絞り出すような声だった。

この扉を抜ければ、そこは玉座。

眠りについた死の具現が座している空間がそこにある。

単なるお伽噺でしかないと、軽いピクニック気分に考えていたサイヤ人達も、深奥から漏れ出す異様な雰囲気に呑まれていた。

 

「先祖の墓だ。仮に遺体しかなくとも土産話にはなるだろうよ」

 

己を誤魔化すように冗談を飛ばすサイヤ人もいたが、王はそれを咎める気にもならず、険しい表情で扉に手をかける。

 

その扉はゆっくりと開いていく。重厚な扉に相応しく、厳かな速度で開いていく。

 

そこは、間違いなく玉座の間のはずであった。しかし、玉座の間と呼ぶにはあまりにも不釣り合いな空間であった。壁の基調は暗く、絢爛であっただろうシャンデリアも、幻想的であっただろう絵画も、中央を彩る真紅の絨毯も、水晶で形取った玉座も、彼女が好んでいたとされる調度品の数々も。

その全てが朽ちかけていた。

一部が腐り落ちて穴だらけになった壁や天井。

床は荒れ果て、柩の近くに置かれた水瓶は割れている。そこら中が埃まみれだ。

 

ベジータ王が壁にかかる旗に手をかけると、手の中で脆くも千切れてしまう。

 

尋常ではない風化具合。やはり伝説は伝説。この様子ではエミューゼも生きているはずがない。ベジータ王の顔に陰りが差した。

 

「………信じられん」

 

静寂を切り裂いたのは、無理やりに連れてこられた科学者だった。

何事かとベジータ王が視線を向けると、おそらくは知的好奇心に負けたのだろう、柩を開ける科学者がそこにいた。

勝手な事を、サイヤ人の祖先の墓だぞ、という身勝手な怒りを飲み込み、柩のそばへと歩みよる。

そして、息を飲んだ。

 

柩の中では、美しい少女が眠りについていた。

比喩表現でもなんでもない。少女は規則正しい寝息を立てて。慎ましい胸を呼吸で上下させて。当たり前のように眠っていた。

 

その姿は、まさしく伝承にある通り。

サイヤ人らしからぬ白く柔らかな髪。シルクのような玉肌。緑を帯びた白銀の長い尻尾。

 

間違いなく、エミューゼその人だった。

 

「信じられません…眠っているだけです…コールドスリープでも何でもない……この悠久の時を、ただひたすらに、ただただ眠り続けてきたというのか?」

 

ありえないと、首を振りながら科学者は簡易メディカルチェック機器を何度も確認している。

しかし、この風化具合からして、おそらく間違いない。少なくともここ数百年で、この空間の中を移動した存在はいない。目の前の白い少女は、ただひたすらに眠り続けたのだろう。

 

「……しかし、スカウターの数値では戦闘力たったの1ですぜ。迷い込んだだけのガキじゃないのか」

 

「…いえ、しかし。身体を軽くスキャンしてみましたが……この肉体面から予想される身体スペックでは戦闘力1なんてありえません。おそらく、戦闘力をコントロールしているか、エネルギーの消耗を極限まで抑えているのではないかと」

 

科学者もここにきて興が乗ったのか饒舌になり、連れてきたサイヤ人達と口々に意見を交わしている。

 

 

「……それで。どうすれば目を覚ますのだ?」

 

ベジータ王が気になっているのは一重に、如何にして目覚めさせるかである。

伝承が本当であれば、自身と同等かそれ以上の力を持っている。古代人であれば碌な知識もあるまい、うまく利用すればフリーザと戦うための戦力になるはずだ。自身の統治を見せ、うまくおだてれば、自分の地位を脅かすこともないだろう。

そう考えていた。

 

「……生半可なことでは起きんでしょう。何せ億単位で眠り続けているような生物です」

 

難しそうに唸る科学者だったが、不意にもしかしたら、と呟いた。

 

「道中あちらこちらにあった碑文の通りだとするならば…強い戦闘力を感じ取れば目を覚ますのではないかと。エネルギー波をぶつけてみるのがよろしいと思います」

 

果たしてそれは科学者の嘘でもあり、真実でもあった。

メディカルチェックから予想されるスペックをみた科学者は、こんな存在を目覚めさせてはいけないと考えていた。目を覚ませばフリーザ様ですら危ういかもしれない、ここで始末してしまうしかない。

そう考えていた。

 

ベジータ王達は疑うこともせず、一斉にエネルギー弾を寝息を立て続けているエミューゼに向かって放つ。

この程度で死ぬならば、そもそも必要ないという考えからであった。

 

「……俵六玉の言う通りだ、たしかに戦闘力1なんてありえねぇな、こりゃあ」

 

無傷。意に介さず、眠り続ける少女。サイヤ人達は情けない気持ちになると同時に、意地でも少女を起こしたくなった。

科学者はもう泣きたくなった。

 

「……パワーボールだ。大猿になりゃあ、流石に無視できねぇはずだ」

 

この場にいるサイヤ人達はみなエリートである。大猿になっても理性を保つことができるため、誤って暴れ尽くすこともないだろう。

 

彼らの行動は迅速であった。科学者が巻き込まれないように、見張りのナッパと共に宇宙船へと返すと、ベジータ王がパワーボールを作り出し、一斉にサイヤ人達が大猿へと変化する。

 

その時だ。

 

うっすらと、少女は目を開けた。

8体の大猿の戦闘力に反応したのだろうか。

 

否。少女は作り出された月をぼんやりと眺めていた。

ベジータ王達は知る由もない事だが、パワーボールの放つ微弱なブルーツ波こそが、彼女の目を覚まさせたのだ。

 

エミューゼは大きく欠伸と伸びをし、ふらふらと近くの調度品へと手を伸ばす。

しかし風化しきったそれは呆気なく形をなくし、彼女を困惑させた。

 

しきりに首を傾げる彼女を、なんとも言えない面持ちで見つめるサイヤ人達。

 

「……あれが、伝説のサイヤ人、エミューゼか?」

 

「超サイヤ人と並ぶ伝説としては、間抜けに見えるな…」

 

「ま、伝説は伝説。所詮は原始人ってか」

 

寝惚け眼のエミューゼをみて失望するサイヤ人達。ベジータ王も内心で溜息をついていた。

これでは戦力になりそうにない、永い眠りが彼女を弱体化させたのか、所詮はお伽噺でしかなかったのか。

遺跡探索と生きた古代人の発見、貴重な経験が出来たと考えるべきか。古代人を飼い、かつてのサイヤ人の話を聞くのも一興か、フリーザへの言い訳も、奴を見せれば納得するだろう。

 

これまでのベジータ王の興奮もエミューゼへの関心も、完全に消え失せていた。

 

ーーーしかし。

 

「まて、パワーボールをみても大猿にならねぇぞ。髪も変だし、こりゃ、サイヤ人とすら呼べやしねぇnーーー」

 

 

最後まで言い切る事は出来なかった。

その大猿の頭は、この世から完全に消え失せていた。

 

「脆すぎる」

 

鈴を転がしたような、愛らしい声だった。

しかし、確かな知性と、底冷えするような怒りを感じさせる声だった。

 

「言うに事欠いて私がサイヤ人ではないだとーーー巫山戯るなよ劣悪種どもが!!」

 

誰も動く事は出来なかった。

甲高い音が炸裂し、頭部を失った大猿の残された身体が弾け飛んだ。

 

いったい何が起きたのか。ベジータ王がそれを理解するよりも早く、エミューゼの姿が掻き消えた。

爆ぜたとしか表現できない速度で、エミューゼが移動したのだと理解した時には、先程にエミューゼを口々に罵った大猿達が消し飛んでいた。

命乞い、という単語が脳裏をよぎった時には、ベジータ王の側にいた大猿の頭にエミューゼが片手をそっと添えていた。

気づけばその大猿は、頭から地面に向けて押しつぶされていた。

首が身体に陥没し、胴体が潰れ、脚がよじれ、音を立てる間もなく全身が圧力によって弾け飛んでいた。

悲鳴をあげる暇すらない、ほんの一瞬の出来事である。

 

その日。

ベジータ王と、宇宙船へと戻っていたナッパ、科学者を除き。

調査団の構成員全てが死んだ。

 




ベジータ王「伝承が本当ならワシに並ぶつよさはあるだろうな」キリッ
SSJ4エミューゼ「あ?」


余計な事を話さなかったおかげでギリギリ、ベジータ王は生き残りました。内心に止めた事が命運を分けた感じ。

風化前の部屋が無駄に豪華だったのは、全部よその星から強奪したものです。


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王の胃はサバンナの蟻地獄である

「それで、おめおめと帰ってきたのですか。このサイヤ人の玉座に」

 

底冷えするような冷淡な声だった。

例えるならば絶対零度。痛みすら覚える冷気。

静かで平坦で、抑揚がないのに怒りを感じさせる、暴力性を孕んだ確かな怒声であった。

ベジータ王は泣き出しそうだった。許されるならばこの場から消え去ってしまいたいとすら思える、こんな恐しいことはなかった。

 

側に控えていたナッパは柱の陰にそっと身を隠した。

ずるい。ワシだって隠れたい。ベジータ王は思った。

同時に、ナッパがこの場から逃げ出さない事を少しだけ感謝した。

 

「あなたを生かしておく理由を、私は説明しませんでしたか?

私が目を覚まし、サイヤ人の現状を知った時の怒りを、あなたはご存知ではありませんでしたか…?」

 

 

エミューゼを惑星ベジータに迎えてから3ヶ月が過ぎた。

 

あの日、ベジータ王と、ナッパ、フリーザ軍所属の科学者の3名を除き、調査団の構成員その全てが殉職した。

ガタガタと震えるベジータ王に向けられたエミューゼの笑顔は、今なお王のトラウマである。

 

「私を起こしたのは貴方ですか。私に挑む勇者は何処に? その惨めな戦闘力から察するに、貴方は勇者の使い走りかメッセンジャーか何かなのでしょう?」

 

ベジータ王は応えることは出来なかった。否、身動き1つ出来なかった。

平服し、許しを請う事すら出来なかった。

 

見下され、当たり前のように蔑まれながらも、屈辱を感じる事すらできなかった。

 

彼はサイヤ人である。それも、優秀な。

だからこそ、目の前の怪物がどのような存在かを、サイヤ人の本能で察していた。

フリーザや破壊神ビルスを前にした時よりも、明確な恐怖が彼を支配する。

スカウターは依然として1の数値を表しているが、もはやベジータ王は微塵もスカウターの数値を信じてなどいない。

 

「…少し脅かし過ぎましたか。寝起きは機嫌が悪いので大人気ない事をしてしまいましたね。貴方のような雑魚には食指も動きません、むしろ萎えるばかりですので、安心なさって結構ですよ」

 

まるで、赤子をあやすかのような声色と笑顔であったが、ベジータ王はまさしく赤子のようなものであった。額から膨大な汗を流し、息は荒く、目には涙すら蓄えている。

 

「ど、どうか、お助け下さい…さ、サイヤ人を、お救い下さい」

 

見栄も外聞も捨て、震える声で懇願した彼を、誰が攻める事ができようか。

ここにきて、彼はサイヤ人の未来を案じた。

絞り出すようにあげた声は、ベジータ王の隠れた、彼自身ですら気付かなかった本心であった。

彼はどうしようもなく傲慢で邪悪ではあったが、確かにサイヤ人の事を憂いていたのである。

完全に折れたかのように見えた彼のプライドが、そのプライドの破片とも呼べる小さな意地だけが、彼を突き動かしていた。

 

彼がエミューゼに事情を話し終えるまで、かなりの時間を要した。

えずきながら、死と向き合う恐怖から、何度も言葉に詰まった。

 

「……つまり、私に挑む者もいないのに、貴方は私を起こしたのですか」

 

丁寧な口調ではあったが、激情は隠し切れていなかった。完全に殺気を放っていた。

 

「何を血迷ったか……サイヤ人を救えだと……ここまで惰弱に堕ちたというのですか? サイヤ人が他者に救い求める?」

 

心底理解できないといった彼女に、ベジータ王は必死に弁明を続けた。

 

 

ベジータ王が生き延びられたのは、偏に彼女の気まぐれ故である。

 

眠りにつく前の最後の闘いから無気力になった彼女は、気分転換に少し現代を見て回ろうと考えたのである。

同時に、惑星ベジータにつけばベジータ王、延いては無様にも他者にいいように使われるサイヤ人達を皆殺しにしようとも考えていた。

かつて、サイヤ人でいることに耐えられなかった脆弱者どもの末裔だ。奴らの成れの果てを見ておくのも悪くないと。

嘲笑ってやるつもりで。かつての憎き同胞達に唾吐くつもりで。

 

だからこそ彼女はベジータ王を生かし、この惑星ベジータへとやってきた。

 

そこで彼女が目にしたのは、憐れなまでに退化したサイヤ人の姿だった。

 

まさか、自分たちの一族の地位を脅かす危険がある因子を排除までしていると知った時は、本当に殺してしまおうかと思った。

気を失いそうなショックを受けた。

こんなものがサイヤ人の末路なのか?

諸行無常なんて、盛者必衰なんて、冗談ではない。

 

何がサイヤ人の誇りだ、何が戦闘民族だ。

支配を受け入れ下品に笑う者達。見る影もない惨めな戦闘力。

聞けば、ブロリーという生まれながらにして高い素質を持っていた赤子を始末したという。

強い者が成長する前に消されていると言う退化の極み。

かつて自分を否定した怨敵たる同種たちを嘲笑う…そんな気も失せ、エミューゼは悲しみにくれた。

憎くも愛き同胞たちよ、これがお前達の望んでいた姿なのか?

お前達はこんな光景を望んでいたのか?

エミューゼの無気力は、さらに加速する一方であった。

 

そんな彼女を僅かにでも変えたのは3人のサイヤ人である。

 

ベジータ王は、エミューゼを刺激するサイヤ人が現れないよう、エミューゼを自身の隠し子であると公表した。

真実をしっているのは、ベジータ王自身と、調査に同行したナッパのみである。同じく同行した科学者は、表に真実が漏れないように軟禁している。

彼ら2人は当然だがエミューゼに喧嘩を売る気など微塵もない。

しかし、エミューゼの恐ろしさを知らぬサイヤ人達は、血の気の多さから彼女に絡んでしまうかもしれない。そんな事があれば自分達などこの星ごと宇宙の塵である。

かといって古代種であることを、フリーザに知られるわけにも行かなかった。

ゆえに、エミューゼを王族として扱うことにしたのである。

 

結果、ベジータに姉が出来ることとなったが、これが功を奏した。

 

ベジータの才能に、エミューゼが僅かながらに興味を抱いたのだ。

他にも、バーダックという下級戦士でありながら恐れを知らず修羅場を潜るサイヤ人、その息子であり、戦闘力でおとる身でブロリーを泣かせたカカロット。

 

ほんの微かではあるが、彼女はサイヤ人をかつてのあり方に戻すことができるかもしれないと希望を抱いた。

 

 

「ベジータ王子を生み出した功績……ただそれだけで生かしてやっているのです。サイヤ人復興に尽力なさいと私は言いましたね? サイヤ人らしく、誰にも、私にも頼らずに成し遂げれば、貴方の罪を赦すと、私は申し渡しましたね?」

 

 

「うぅ……し、しかしこれ以上は誤魔化せません…どうか、どうかお聞き届け下さい…!」

 

 

裏を返せば。彼女はその3人以外にはまるで興味がなかった。

ゆえに、ベジータ王が何をしようと、干渉する気はなかった。

口では脅しているものの、もはや殺すことすら億劫であると感じていた。

 

「ただでさえあの調査で不信感を持たれている…貴方の協力なしでは、もう……」

 

 

ベジータ王はまるで生きた心地がしなかった。前門のタイガーフリーザ、後門の核弾頭エミューゼ。

エミューゼが直接動く気がない以上、ベジータ王はフリーザに挑むことはできない。

結果として、以前よりもずっと胃が痛い日々が訪れてしまった。

 

つい先日、フリーザに呼び出された時のことである。

 

「お久しぶりですね、ベジータ王。なぜ呼び出されたかは、わかりますね?」

 

「貴方のところの兵は、私の資産でもあるのです。それが7人も死亡。我が軍の科学者も行方不明。たかだか滅びた星の調査でです」

 

「ベジータ王。黙っていてはわかりませんよ? 殺されたいのですか?」

 

 

悔しくてたまらなかった。もしエミューゼがその気になってくれれば、この忌々しい宇宙トカゲも始末してくれるだろうに。

今は恥辱に耐えるしかない。

ベジータ王は屈辱で震えていた。

 

「冗談ですよ、そんなに怯えないで下さい。今日お呼び出したのはお祝いのためです、ベジータ王」

 

不意に、フリーザが笑った。否、嗤った。

まるで、獲物を追い詰める蛇のような表情であった。

 

「なんでも娘さんがいるそうじゃありませんか。サイヤ人では珍しい白い髪をした娘さんが」

 

「知りませんでしたよ、貴方にあんなに似ていない娘さんがいるなんて。これはお祝いしなければならないでしょう?」

 

「どうしたんですか。私には会わせたくないと? わかりますよ、その気持ちは。自分の子は、娘さんは可愛いですからねぇ」

 

 

「でも安心してください。ただ、話をしたいだけです。貴方の娘さんと、ね」

 

 

ベジータ王の心臓が早鐘のように鳴る。

もしこの話を持ち帰れば、エミューゼに殺されてしまうかもしれない。

しかし、断れば、今ここで殺される。

 

ベジータ王の受難はまだ、始まったばかりであった。




次回はフリーザ様とエミューゼの対面となります


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紅茶の色は紅かった

登場初期のフリーザ様は本当にかっこ良かった


フリーザがエミューゼを前にして抱いた感想は“やはりか”というものだった。

 

彼はサイヤ人でもなければ、スカウターなしに強さを測る術ももたない。戦闘力をコントロールする相手がいれば、彼に相手の強さを知ることはできない。

 

それでもなお、彼はエミューゼに対して戦慄を覚えた。

彼以外は気付いてはいない。側に控えるドドリアは鼻を鳴らしてあからさまにエミューゼを見下し、ザーボンは呑気にエミューゼの美しさを評価している。

 

しかし、この場にいてフリーザだけは、目の前のサイヤ人が只者ではない事を見抜いた。

長年、ならず者達をまとめ上げていた彼は人を見る目に自信があったし、加えてフリーザの勘は昔からよく当たった。後にナメック星にて見知らぬサイヤ人の成長を嫌な予感として捉えられる程には、彼の直感は卓越していた。

 

ゆえにフリーザは自身の判断を疑わない。最大限の警戒が必要だと考えた。少なくとも、第一形態のままでは瞬殺されるだろうことは察することができた。

 

(この感覚……妙ですね。いまのサイヤ人がこの眼をできるはずがありません)

 

フリーザがまず違和感を覚えたのは、まず彼女の視線であった。

この視線に、フリーザは妙な既視感を抱いたのである。

 

(この眼は…強者の眼だ。自身の強さを信じて疑わない絶対者が持つ眼だ)

 

兄のクウラや父コルド達と同じ眼だ。恐らく、自分と同じ眼だ。

対峙する相手を遥か高みから値踏みするような、そんな眼だ。

自分に支配され、屈辱を噛み締めているであろう今のサイヤ人が持っていてよい眼では断じてない。

ゆえに、この時点でフリーザは、彼女がベジータ王の娘ではないこと、スカウターの数値が虚偽であることを確信した。

更に、ベジータ王がエミューゼの話をした時に妙に怯えていた理由、彼等の力関係に当たりをつけた。

 

同じ絶対者だからこそ。そしてフリーザの卓越した識別眼だからこそ見抜くことができた事だった。

 

やはり、7人ものサイヤ人が死んだという惑星サダラの残骸調査が関係している。

目の前のサイヤ人は明らかに何かがおかしい。

 

フリーザは恐怖など抱かなかったが、不安を覚えはした。

 

目の前の存在は明らかに誰かの下につくことを良しとはしないだろう。ベジータ王の下にいて大人しくしているはずがない。

何故、彼女は惑星ベジータにあって不気味なほどに沈黙を保っているのか。

何故戦闘力を隠し、ドドリア如きに嘗められて意に介さないのか。

 

彼女の目的の不透明さだけが、フリーザの不安の種だった。

 

もしこのフリーザと利害が衝突すれば、厄介な障害になりうる事は容易に想像できた。

少なくとも、兄クウラ並みの脅威として見積もっていた。

 

「お待ちしていましたよ。初めまして、エミューゼさん」

 

「えぇ。中々に立派な宇宙船だったものですから、つい散歩に興じてしまいましたもので」

 

 

悪びれもせずに笑顔で応えるエミューゼ。フリーザは眉を微かに動かしたが、咎める事まではしなかった。

それどころか、彼はいまのやり取りだけで、腹の探り合いは必要なさそうだと感じた。

どうやら彼女はベジータ王の顔を立てる気は無いようだったからだ。

むしろ、彼女を筆頭に挙げてベジータ王が反旗を翻さない理由に合点がいったくらいであった。

いまの応酬の意味に気付かなかったドドリアは額に青筋を立ててエミューゼを非難するが、彼女は何処吹く風かと言わんばかりに紅茶を口に運んでいた。

 

なんでも、食堂でギニュー隊長に奢ってもらったのだとか。

 

「とても親切な方で、此処までの道を教えていただきました」

 

「それは良かった」

 

フリーザが気にする様子が無い上に、ザーボンはある程度事情を読み取ったのか、エミューゼに紅茶の飲み方やマナーを説く始末。この辺り、流石は元王族かとフリーザはザーボンの評価を少し上方した。ドドリアは混乱するばかりであったが。

 

「なるほど。茶とは中々に奥が深いのですね。このようなものは、私が生きた時代にはなかったものですから」

 

新鮮な気分です、と微笑むエミューゼ。

 

フリーザの眉は再び動いた。

生きた時代?

それは、惑星サダラの調査に関係あるのだろうか。

しかし、聞く事はしなかった。もう少しばかり彼女との会話を楽しみたいと感じていたからだ。

 

結局、この日はただお茶会を開いただけに終わった。

思いの外、エミューゼとの話は弾んだ。野蛮なサイヤ人とは思えない立ち振る舞いはドドリアにすら好評であった。

お開きになった時に「珍しい奴もいるもんだ」とガハハと笑っていたほどに。

 

しかし、ザーボンの表情は険しかった。

 

「よろしかったのですか、フリーザ様。彼女の目論見はわからずじまいでしたが…」

 

「構いません。少なくとも、不穏な動きを見せるベジータ王に与していないことはわかりました」

 

「まあ、ベジータ王に御せるような存在ではないでしょうが……」

 

「反抗期ってやつか? 俺の娘も最近生意気を言うようになってきてな」

 

「ドドリア。少し黙ってた方がいいよ、お前」

 

しゅんとなるドドリアをよそに、フリーザは機嫌が良かった。

自身の勘が正しければ、彼女は自分の“目的”の邪魔はしないだろう。それどころか、嬉々として応援するだろう。

 

「で、でもよ。戦闘力はたったの1だぜ。いくらサイヤ人だからってあれを警戒する必要なんて…あ、俺の娘は最近戦闘力を上げてきてな。そりゃあもうお転婆で」

 

「ドドリア、今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ。フリーザ様、やはり彼女は……」

 

「十中八九、そうでしょうね。あなたや私と同じように」

 

「変身する。あるいは、珍しい話ですが、戦闘力を増減させる…」

 

「戦闘力を増減させるにしても。1まで押さえ込みながらあの自然体です。尋常な使い手ではないでしょう」

 

だからこそ。彼女は自分の敵にはならないだろう。

破壊神ビルスの要請で惑星ベジータを滅ぼすつもりの私の邪魔は、決して。

 

「私や彼女のような人種にはね、ザーボンさん。もっとも嫌悪する存在があるのですよ。そこに存在するだけでも虫唾が走るような、どうしても許せないものがね」

 

「……なるほど」

 

「美を好み醜いものを嫌う貴方なら多少は理解できるでしょう。そうです。彼女は他ならぬサイヤ人が憎くて仕方ない」

 

フリーザは確たる信を持って述べた

 

「同じサイヤ人でありながら、どうしようもなく愚かで弱いサイヤ人達が、憎くて仕方ないのですよ、彼女は」

 

「流石フリーザ様、御慧眼です」

 

「念のため、惑星サダラについて調べなさい。惑星ベジータの調査もお忘れなく。私の考えが正しければ、サイヤ人に囚われた科学者がいるはずです。救助し、話を聞く必要があります」

 

フリーザの指令を受けた2人の行動は素早かった。

頭を下げ、任務に向かう2人を満足気に見送りながら、フリーザは考える。

 

「優秀なサイヤ人だけ、手元に残すつもりですが…選別は彼女に任せてもよさそうですね」

 

惑星ベジータが滅ぶ日は、そう遠い未来ではなかったーーーー

 




勘だけでサイヤ人が成長していて、それがベジータではなさそうと結論できるフリーザ様マジ宇宙の帝王。

次回は
フリーザ「こいつマジかよ」ドン引き
をお送りします


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孤独のサイヤ人

原作まで、まだ、もうちょっとかかるんじゃ
あと、今回の話は軽くホラーかつエゲツない要素が含まれます。
少なくとも原作ジャンプでやることじゃねぇ()


ちょっと早まったかもしれないーーー

 

同僚に肩を借りて退室する科学者を、引きつった顔で見送りながらフリーザは思った。

 

惑星ベジータを調査し、拉致された科学者を救出するという任務を、ドドリアは見事、文句無しに果たしてみせた。

 

ーーー満身創痍、血反吐を吐き、いまにも息絶え事切れそうになりながらもではあったが。

 

フリーザは驚愕した。ドドリアならばサイヤ人など、例え複数人が束になっても問題なく切り抜けられるはずだ。彼の戦闘力は22000。到底サイヤ人がかなうわけがない。

 

いったい誰が。エミューゼか? 否。それならばドドリアは生きてはいるまい。

ならば誰が、彼をこんな目に合わせたのか。

 

答えは科学者が知っていた。

呼吸すら億劫であるといった様子ドドリアを労い、メディカルマシーンまで運ばせたあと、フリーザは救出された科学者を呼び出した。

 

科学者は正気を半ば失っている状態で、話を聞き出すのは困難を極めたが、時間をかけてでも話を聞くことができたことをフリーザは心底感謝した。途轍もなく貴重で、必要な情報であったからだ。

 

同時に。エミューゼのあの微笑みの。

その裏にある狂気が垣間見えたようで、フリーザは背筋を凍らせた。

 

ドドリアを襲ったのは、エミューゼの実験に参加させられたサイヤ人だったのだ。

 

「実験……ですか。野蛮なサイヤ人らしからぬ試みですが、エミューゼさんならおかしな事ではありませんか」

 

フリーザは、知性を感じさせるエミューゼの瞳を思い出す事で納得した。この時点ではまだ笑い話で済んだ。

ドドリアに匹敵するようなサイヤ人を教導できるとは、エミューゼをフリーザ軍の戦技教導官に推薦するのも良いかもしれない。

そんな、呑気な事を考えていた。

フリーザはすぐ後にこんな馬鹿な考えをした自分を殴り飛ばしたくなる。

 

その実験とは、エミューゼが生きた環境を再現し、サイヤ人としての在り方を矯正することで戦闘力をあげ、あわよくば超サイヤ人を生み出そうという実験だという。

 

エミューゼが生まれ育った環境。

人はそれを“蠱毒地獄”と呼ぶ。

多数の虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。

エミューゼが行った実験はまさにこの蠱毒の再現に尽きる。

 

自分以外の全ての存在が敵。戦わなければ生き残れない。サイヤ人達は自身が生き残るために、閉ざされた空間で互いに殺し合いを繰り返した。僅かな隙をみては同種だった肉を腹に納め、命がけで仮眠をとり、ただひたすらに生き残る事だけを考えるしかなかった。状況を嘆くものから死んでいく。

まさに地獄であった。

 

ちなみにエミューゼはこの光景をみて“鶏肋”と呟いたという。

かつて彼女が生きた環境はこんな生易しいものではなかった。

しかし、科学者はこのおぞましい実験の監督をさせられたために心が磨耗し、精神を患うことになったようだった。

 

フリーザは正直なところ、恐怖を感じた。そしてそれを恥じる事はしなかった。

野蛮を通り越してもはやホラーであると渇いた笑いすら出る。

悪の帝王フリーザをして、“よくもこんな非道な事を笑ってできるな”と言われるものだった。

 

その実験の生き残りが、ドドリアを襲ったのだ。

そのサイヤ人はとうに正気どころか、知性や理性すら失っていた。だらし無く開けられた口からは血の混ざった涎を垂らし、奇声をあげながらドドリアに飛び掛った。

そのサイヤ人にはもはや、個人の区別などついてはいない。眼に映る動くもの全てが敵である。

先に殺さなければ殺されるーーーなどという思考すら、とうの昔に消え去った。

只々、動くものは殺すという、身体に刻み込まれ、染み付いたものだけが彼を支配している。そうしなければ生き残れなかったが故に。

もはや知的生命体とは呼べない風態であったが、しかしその両の眼だけは猛禽類のように己の敵を見定め鋭く光らせていた。

 

もちろん、ドドリアは応戦する。逞しい腕力から繰り出される拳は寸分の狂いすらなく、そのサイヤ人の頭部を捉えた。

ドドリアは恐怖した。

ダメージを厭わず、顔色すら変えず、サイヤ人はそのまま再び襲いかかってきたのだから。

 

捨て身と生への執着。相反する2つの意思を持って襲い来るサイヤ人。

闘いは熾烈を極めた。

スカウターによれば、そのサイヤ人の戦闘力は21500であったという。

ベジータ王など歯牙にもかけない強さである。

腕がもげようと、脚が消炭になろうと、顔半分が吹き飛ぼうと奇声をあげながら凄まじいスピードで飛びかかってくる、死を恐れぬ亡者の戦士。

勝利を収めこそしたものの、ドドリアも無事では済まなかったというわけだ。

むしろ、ドドリアがPTSDを患っていないかをフリーザは案じた。

フリーザは邪悪で、使えなければ部下すら平気で殺すような男ではあったが、その彼をして、ドドリアの境遇には同情せざるをえなかった。

ボーナスと休暇をあげようとフリーザは本気で思った。

存分に家族サービスしてほしいと目の端に涙すら浮かんだ。

よくも生きて任務を果たしてくれたものだ。

そして選別したサイヤ人の教育はエミューゼに任せようなどと考えていたことを心底後悔した。

 

先日のエミューゼの微笑みに薄ら寒さすら感じる。

いったいどんな精神構造をしていれば、この凶行の上にあの完璧な微笑みを浮かべることができるのだろう。

薄っぺらく貼り付けたようなものでは決してなかった。

 

想像以上のホラー体験を聞かされたフリーザは、もう正直お腹いっぱいであったが、エミューゼと惑星サダラ調査の関係を聞かなければと意識を切り替える。

 

「古代サイヤ人……ですか。想像以上に厄介な存在のようですね」

 

実験の内容が、“エミューゼの生まれ育った環境の再現”であることから、嫌な予感はしていた。

科学者の話と、惑星サダラの調査から帰還したザーボンの話とを総合すれば、彼女こそサイヤ人の中でも崇め祀られている太古の生物なのだろう。

 

つまり。

 

今よりもずっと強いサイヤ人が跋扈する世界で。

先の実験なんぞとは比べ物にならないほどにおぞましい、まさに真の蠱毒地獄にあってなお。

彼女は生き残り、今なお伝説として語り継がれ、サイヤ人に恐れられている。

 

熟練しているはずだ。洗練されているはずだ。狂っているはずだ。

彼女は自分が想像する以上の修羅場を生きてきたのだろう。

これが、本当の戦闘民族たる所以だったのだ。

そりゃあ今のサイヤ人を見れば彼女は怒るはずだ。

彼女にすれば今の群れるサイヤ人など、なまっちょろくて仕方ないのだろう。

 

フリーザは自身の強さに絶対の自信をもつ。自分は生まれた時から約束された力を持っている。

家族以外で自分を苦戦させた相手はいない。

努力などしなくても、全ての存在が自分より弱者であった。

自分より強いものはいない。

自分の戦闘力は圧倒的なのだ

 

しかし、こと“闘争”に限れば、自分は彼女に劣るかもしれない。

 

自分が今まで行ってきたのは、一方的な虐殺。“戦闘”などでは決してない。雑魚にとっては真剣な死闘であっても、フリーザにとってはただの運動。掃除。お遊びであった。

 

故に、いかに自分が高い戦闘力とずば抜けたセンスを持っていようと。

彼女の“戦闘”“闘争”の経験値はやはり厄介である。

 

消すべきだろうか。

しかし、難しいだろう。

相手は正真正銘、化物。

一族の者が恐れたというあの超サイヤ人と並ぶ伝説の存在だとするならば。

自分が最終形態となり彼女と闘ったとして、負けないまでも、凄まじい被害がでるだろう。

少なくとも、フリーザ軍は壊滅するのは想像するに容易い。

 

正直なところ、フリーザが出したい結論は。

 

超関わりたくない。

 

これに尽きた。

エミューゼは完全に狂人である。狂人は何をしでかすかわからない。

読めない。

そんな輩とは関わらないのが1番である。

 

確かに、エミューゼの話は引き込まれるようで面白いし、ころころと変わる表情は見ていて飽きないし、過ごす時間は本当に楽しいと感じた。

 

故に惜しいとも思えるが、それ以上に、自分の障害になりうる。

 

障害となるならば全力で排除しよう。自分は宇宙の帝王フリーザ。負けることなどありえない。

だがしかし。もしこちらの害にならないのであれば、下手に刺激したくはない。

 

要するに。手元に置いておけば何をしでかすかわからず、敵対すれば厄介極まりない。

故に、放置したかった。関わりたくなかった。でもたまには会って、監視も兼ねて話をしたかった。

 

そしてそれは、フリーザにとって最高の形で実現する事になり、フリーザは狂喜乱舞することになるのだが。

 

 

 

それはさておき。

 

「さて………どうしてくれましょうか。ベジータ王め、厄介な存在を連れてきてくれましたね」

 

怒りの矛先は全てベジータ王に向かったのであった。

 

 




フリーザ様のホラー耐性が試されるお話でした。
フリーザ様「これが人間のやる事かよォ!?(ドン引き」


部下にするにも敵にするにも厄介な存在。超絶面倒クセェ心底面倒クセェ。でも話すと楽しい相手。それがフリーザ様にとってのエミューゼです。

エミューゼにとって肝練りはただのスポーツ。リアル戦闘民族の島津さん家と仲良くなれそう()

次回、カカロットとエミューゼ、地球へ発つ。惑星ベジータ、デデーン
をお送りします。


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サイヤ人に捧ぐ

別に最終回じゃありません。普通に続きます()
あと、一部の話を誤字脱字修正、ルビ振りなどを行いました

ラディッツ、ナッパについて加筆修正を行いました


「それでは。ベジータ王子をよろしくお願い致します」

 

「えぇ、他ならぬエミューゼさんの頼みですから。存分に目を掛けて可愛がってあげますとも」

 

 

宇宙船のデッキにて。

惑星ベジータを見下ろしながら、2人の怪物が談笑に興じていた。

両者の間には、どこか哀愁が漂っている。

今日がありとあらゆる意味で、最後であるとわかっているからだ。

 

今日この日、惑星ベジータは滅び、たった2人を除いたサイヤ人は根絶され。

エミューゼもまた、サイヤ人の赤子と共に行方を眩ますことになる。

 

「ベジータ王子とのお別れはあれでよろしかったのですか? なんでしたら、もう数日ほど決行を遅らせますのに」

 

「いえ、あれで構いません。彼もサイヤ人ならばきっと、今ので私の技を身につけることでしょう」

 

エミューゼの視線の先には、ボロクズのように地面の染みと化しているベジータがいる。

フリーザは冷や汗をかきながら、少しだけベジータに同情した。

 

未だ幼さの残るベジータに対して、“私の奥義の1つをあなたに贈りましょう”と。

容赦なくその奥義を叩き込んだのだ。

もちろん、エミューゼは極限まで力をおとし、ギリギリ虫の息で生き長らえるよう絶妙な手心を加えている。

そう。生きているだけである。

ピクリとも動かないが、ちゃんと生きている。

生きているといえば生きていると思える。

多分、生きていると思う。

シュレディンガーのベジータ爆誕である。

 

狂人め、とフリーザは内心で思っていたが、エミューゼはきっとベジータは自分に感謝するだろうと本気で思っていた。

サイヤ人ならば、この程度で根を上げるなどありえない。

自分の技をその身に刻み込み、習得しようというのだ、死に瀕し集中力を極限まで高めるのが当然である。

“痛くなければ覚えません”というのが、エミューゼの持論である。

 

事実、ベジータは“こ、殺される…!”と思いながらも、彼女の一挙一動を見逃すまいとその乱舞を脳裏に焼き付けていた。

結果、後に五年ほど掛けて彼女の技の習得に成功することになる………が、ベジータがエミューゼに感謝することは結局なかった。

 

「そ、そうですか。しかし、意外でしたよ。貴方が選んだサイヤ人が、ベジータ王子は兎も角として、下級戦士の赤子とは」

 

エミューゼに選別を任せた結果、彼女の御眼鏡に適ったのはたった2人のサイヤ人だった。

少なすぎるでしょう…厳しすぎるでしょう…とフリーザは思ったが、エミューゼの選別には彼女なりの基準が存在している。

ベジータとカカロット。エリートと下級戦士。

一見正反対に見える彼等の間には共通点が存在している。

反骨精神、強敵の渇望、純粋に闘いを楽しむ心、強さへの執着。

まだ赤子に過ぎないカカロットだが、その父のバーダックの存在、ブロリーとの一幕は、エミューゼに彼の存在、才覚を認めさせるに充分であった。

むしろ、赤子だからこそ。自分が手を加える余地があると考えた。

故に彼女は、カカロットの他星遠征に付き添うことに決めたのだ。

 

ちなみにバーダックが含まれないのは、彼女なりの慈悲である。彼は恐らくサイヤ人として闘いを挑み、散ることをのぞむだろうとの気配りからであった。

できれば手ずから介錯してやりたいとは思ったが。

自らの手でバーダックの最期を飾ってやれないことに対する負い目も、カカロットを選んだ一因に含まれてあった。

 

またエミューゼに選別されたサイヤ人の他に、他の惑星に侵略に向かったが故に命拾いをするサイヤ人ーーーラディッツとナッパがいるが、彼らはそもそもエミューゼの眼中になく、彼らが生き残ったのはただの偶然である。

部下となるサイヤ人がベジータだけでは物足りないと考えていたフリーザが密かに彼らの生存を喜び、改めて粛清をしなかったあたり、2人の幸運…否、悪運は筋金入りと言えるかもしれない。

 

「意外…ですか。そうかもしれませんね。しかしーーー」

 

訝しむフリーザに対し、エミューゼは続ける。

 

「かつて。私に立ち向かったサイヤ人は弱かった。臆病で、よく虐められて顔を腫らし泣いて帰ってきたものです。でも、あの子はサイヤ人として最も大切なものを持っていたーーー」

 

強大な力に立ち向かう心を、彼は持っていた…エミューゼは懐かしむように目を細め、そう語った。

 

「……まるで恋をするようにおっしゃるのですね」

 

「えぇ。もう、叶わぬ恋となってしまいましたが」

 

そこで初めて、エミューゼは穏やかな微笑みを浮かべた。

フリーザは思わず見惚れ眼を奪われた。

 

美しかった。

影のある、どこか寂しげな横顔。

今まで見たどの人間のどの表情とも違う、フリーザの初めてみる類の微笑み。

 

あの時、死んでおけばよかったのだと。

惨めに生きながらえ、望む強敵は現れず、生きるままにして心が腐っていく事が辛くて。

まだ闘いを愉しめる存在がいるあの時にーーーあの時に彼に殺されていればよかったのだと。

過去に思いを馳せ、後悔と失望にその身を蝕まれている事が、痛いほどに伝わってきた。

 

フリーザは納得した。

宇宙の帝王として長年君臨している自分ではあるが、永遠を生きたこともなければ、闘争に悦びを見出したこともない。

故にエミューゼの考えは理解できない。

しかし、理屈を抜きにして、そういうものなのか、という不思議な納得が、フリーザにはあった。

 

“これが本来の戦闘民族サイヤ人なのか。彼女は敵がいなくては生きていけない生物なのだ…”

 

サイヤ人の赤子を連れて何処ともしれない辺境の惑星に行く。

もはやそれは隠居だと言えるだろう。

厄介な存在が消える。それは自分に取って喜ばしい事のはずだ。

しかし、フリーザは何処か物悲しさを覚えた。

もはやフリーザはエミューゼに脅威を感じてなどいなかった。

彼女はただの抜け殻だったのだ。

いくら強大な力を持っていようと、警戒に値しない……絶対者“だった”抜け殻でしかなかったのだ。

 

フリーザは時の流れすら忘れ、思考に没頭する。

彼女のような自身に匹敵するであろう強者でも、いつかは抜け殻に成り果ててしまうのだろうか。

自分がこのまま宇宙を支配し君臨しつづけたとして。

自分が仮に不老不死を得たとして。

いつかは彼女ように、死に焦がれる事になるのだろうか。

 

エミューゼの背中が見えなくなり、ザーボンに名を呼ばれるまで、フリーザの心はエミューゼで支配されていた。

エミューゼという絶対者の抜け殻。

彼女がもつ退廃的な、ある種の美しさと呼べるものに心を奪われていた事を自覚した。

今までに感じた事のない、未知の感覚だったが、そういう美しさもあるのかと、心の何処かにすっぽりとはまったようだった。

 

「寂しくなりますねぇ…」

 

「……フリーザ様。サイヤ人共が謁見をと願い出ております。どうやら彼女がうまくやったものかと」

 

「………随分とせっかちですね、彼女も」

 

謁見。それはフリーザの元に辿り着くためのただの口実である。

ベジータ王の反旗。それはエミューゼが惑星ベジータを離れた事を示す、フリーザと取り決めた合図であった。

 

自分を復活させた男を、滅びの鐘を鳴らすための鉄砲玉扱いとは、その無慈悲さに清々しさすら感じながら、フリーザは告げる。

 

「ザーボンさん。そこの扉を開けなさい。サイヤ人の皆さんをこちらに案内するのです」

 

「承知いたしました」

 

「慣れない感傷に浸ってしまいましたからねぇ。たまには運動するのもいいかも知れません」

 

 

ここからは、本来の史実通りである。

ベジータ王は倒され、1人最終決戦に挑んだバーダックも斃れ。

惑星ベジータはフリーザによって破壊される。

エミューゼのいるこの世界線も何ら変わることはない。

 

ただ、異なる部分をあげるとするならば。

 

ベジータ王は倒されこそしたものの、彼はフリーザの鉄拳を耐え、死の間際に己が一撃を叩き込むことに成功していた。

エミューゼに失望されたくないという一心と、王としてのプライド、サイヤ人としての誇りが成した最後の意地であった。

 

それは、たった数十秒だけ寿命が延びただけに過ぎないかも知れない。

意味のない変化であったかもしれない。

しかし、史実と違い、彼はフリーザに一矢報いることができたのだ。たとえ、その一撃が致命たり得ぬとも。

 

「……ベジータ王め。最後の最後に限界を超えて戦闘力をあげましたか。やってくれましたね…この私に殺した事を惜しいとおもわせるとは」

 

フリーザは事切れたベジータ王を一瞥し、眉間に皺を寄せた。

 

エミューゼがこの場にいれば、少しは彼を見直しただろう。

残念ながら、現実としてエミューゼはこの場に居らず、ベジータ王はただ無意味に倒されただけである。記憶力に優れるフリーザも、数秒後には一連の応酬など記憶の片隅に追いやり、既に死したものなどに興味はない。今後も亡きベジータ王に意識を割くことはないだろう。

だが、果たしてそれはやはり無意味だったのだろうか。

 

少なくとも、ベジータ王は最期に王としての矜持を見せることができた。

確かな変化ではあったが、果たしてそれは滅び行くサイヤ人達の慰め足り得るのだろうかーーー

 

 

 

 




というわけで、エミューゼがいようがいまいが、原作と変わらずサイヤ人は滅びてしまいます。
原作と違い、ベジータ王はある程度善戦しますが、やはり敵わず敗れ、野晒す兵となります。
あとは、ベジータがエミューゼから技を1つ伝授されています。
悟空vsベジータでお披露目になるでしょう。
他作品の技なので、苦手な方はご注意をば。

ちなみに、フリーザ様の言う通り、エミューゼは抜け殻。心に傷を負った女性(笑)なので、口説けばコロッと堕ちます。
ちょっとエミューゼより強くなって愛を囁くだけ……ね?簡単でしょう?
エミューゼ「素敵!抱いて(殺しあって)!」となること請け負いです。ちょろいですよ!
フリーザに警戒心を抱かせないための演技という可能性も微粒子レベルであるかもしれませんが

感想欄の書き込みにてラディッツとナッパの表記がなかった事に気付いたため修正を行いました。この場を借りて感謝と謝罪の意をば…

次回は地球についた2人、をお送りしますーーーの前に、閑話を挟むかもしれません。
ベジータ王の心境やifの闘いなどを書ければなぁと思います。
しばらく書き溜めに入るので、少し投稿が遅くなります。


話は変わりますがね。
愛の妙薬2、ルーの光輪、ダレイオス2、ケイカ、カエサル、呂布3、恋知らぬソラウ、麻婆豆腐、バベッジ、クーフーリン、静謐のハサン、一成2、シュトルリヒリッター、モータード、ライオンのぬいぐるみ、メフィスト、寺、ステンノ、援護射撃

fgoの夏の期間限定ガチャを引いた結果です。だれかピックアップの意味を教えてください

追記
水着マリー引けました。レベル100デオンとフランスパを組もう()


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宿命のサイヤ人

エミューゼの意志、闘争本能が揺らいでいるのにはちゃんと理由があります。
それは破壊神や界王神、ひいては全王がエミューゼに不干渉を貫いている理由にも関係しています。

閑話で書いていますが型月脳な方ならもしかしたら予想できるかも


地球という辺境の惑星に辿りついて間もなく出会った老人は、エミューゼにとって都合の良い老人であった。

なんと得体も知れない自分とカカロットの面倒を見てくれるというのだ。

一見、儚げな少女にしか見えないエミューゼと赤子のカカロット。

人里離れた場所にたった2人でひっそりと過ごしている事を訝しみ、そしてそれ以上に心配になったのであろう、なんとも人の良い老人である。

エミューゼは心の底からその老人に感謝した。

 

“なんと気立ての良い老人なのでしょう。正体のわからぬ私達を迎え入れてくれるなど……それに…”

 

それゆえに、彼女はその老人ーーー孫悟飯を生かしておくつもりはなかった。

 

正確に言えば。

エミューゼは、カカロットに孫悟飯を始末させるつもりであった。

 

“ちょうど良い戦闘力です…カカロットが闘いを知るいい材料になるでしょう”

 

この惑星の生命体はあまりにも脆弱すぎる。雑魚ばかりで、カカロットの“教育”にはまるで役に立たないと悩んでいた矢先の出会いであった。

地球という辺境の星にあってなお、この孫悟飯という老人はそれなりの戦闘力を有していたのである。

下級サイヤ人の子供にとって、これほどちょうど良い相手がいるとは、なんと都合の良いことなのか。

何かしらの武術を修めている事も、エミューゼは評価していた。

戦闘力の低いカカロットが戦う術を身につけるのにちょうど良い。

何よりーーーこの人の良い老人を殺させることによって、カカロットは非情さを身につける事ができる。

 

加えて、頭を強打して以来様子のおかしいカカロットの世話も楽ではなかったため、エミューゼは素直な喜びのもと、老人の世話になる事にした。

 

 

しかし。

それは誤算であった。

 

エミューゼは1つ、致命的なミスを犯してしまった。

 

 

「じっちゃん、おかわり!」

 

「悟空、おやめなさい。はしたない」

 

「なんだよ、かあちゃん…かあちゃんだってそれ5杯目じゃねぇか…オラだってまだ食べたりねぇぞ」

 

「食べ方が汚いと言っているのです。食器を使いなさいと何度言えばわかるのですか。言葉遣いも直しなさいとーーー」

 

「まぁまぁ、悟空も育ち盛りなんじゃし、多目に見てじゃな」

 

「お爺様は悟空を甘やかしすぎなのです! ほら、悟空、口元を拭きますから大人しくなさい」

 

 

御覧の有様である。

エミューゼの誤算とは早い話。

胃袋を掴まれた。この一言に集約される。

孫悟飯老人の作る手料理は非情に美味であった。

山で採れたばかりの新鮮な肉と野菜、果物。

それらを巧みに調理する孫悟飯老人を、目を輝かせて見守るエミューゼの姿がそこにあった。

永い時を生きるエミューゼであったが、食事事情に関しては哀しみを背負うような生き方をしてきたこともあり、すっかり孫悟飯老人の手料理に魅了されていた。

何度も計画を実行しようとするも、手料理が惜しくてつい先延ばしにしてしまう。

いつの間にか、そんな生活に慣れきってしまっていた。

 

“この生活も悪くはありませんが……このままではいけませんねーーーいえ”

 

カカロットもすっかり老人に懐いてしまっている。

もう、カカロットにこの老人を殺すことなど到底できないだろう。

それはサイヤ人として致命的だ、敵を殺せない戦士など、欠陥品以外の何物でもない。

 

エミューゼはもう、自らの手で老人を始末しようと考えた。

幸い、カカロットは老人に武術の手ほどきをある程度受けている。

老人を消してしまっても、カカロットは自らの力で成長を遂げるだけの地力はある筈だ。

カカロットが非情さを身に付ける事ができないのは残念で仕方ないが、このままカカロットに甘さが染み付いてしまうよりはよほど良い。

しかし。

エミューゼは悩んだ。

 

“いえ……これで良いのかも知れません”

 

ふと、悟空が老人にじゃれついて幸せそうに笑う姿が脳裏をよぎる。

 

“もう、サイヤ人の……いえ、私の時代は、終わった…そういうことなのでしょう”

 

もう既にこの身は死したも同然ーーーカカロット…いや、孫悟空の成長を見守りながら余生を過ごすのも悪くない。

 

そう1人物思いに耽ったその日の出来事であった。

 

それは満月の夜。

一匹の獣が唸りを上げ、老人が死んだ。

思考に没入していたエミューゼが気づいた時には、孫悟飯は既に息絶えていた。

大猿となったカカロットが、彼を殺してしまったのだ。

 

エミューゼは酷く狼狽した。

同時に、“やはりか”と思った。

あぁ、やはり悟空は。

カカロットはサイヤ人なのだ。

どうしようもなく、カカロットもまた、サイヤ人であったのだ。

サイヤ人としての運命が。宿命が。

きっとカカロットを逃しはしないのだろう。

 

エミューゼは決心した。

カカロットには立派なサイヤ人になってもらわなければならない。

これから待ち受けるであろう、数奇なる闘いの運命に打ち勝てるようにならなければならない。

 

 

老人がもう帰らぬ人となった事を察したのであろう、一晩中泣き喚き、今もなお啜り泣くカカロットに告げる。

 

「泣くのはおよしなさい、悟空ーーーいえ、カカロット」

 

「…かあちゃん? オラ、孫悟空だぞ……カカロットってなんだ……?」

 

「カカロット……あなたもそろそろ独り立ちしても良い頃です。どのみち何時までもお爺様に頼りきりになるつもりはありませんでしたからね」

 

「か、かあちゃん、何言ってんだ……かあちゃんまで、どっかいっちまうんか…? そんなのやだぞ、オラ、一人ぼっちは嫌だ、行かないでくれよ、かあちゃん……!」

 

 

悟空の縋るような声に、エミューゼの思考は真っ白になった。

餓鬼が、仮にもサイヤ人ならば甘ったれるんじゃあないーーーとは思わなかった。

それどころか、今すぐ力強く抱きしめてやりたい衝動に駆られるのを必死で堪えなければならなかった。

下級戦士の子で戦闘力も低いか弱い存在なのだ。

やはりこの子には……まだ、早過ぎるのではないかーーーッ

いや、ダメだ。

カカロットはサイヤ人。サイヤ人ならばサイヤ人に相応しい生き方、宿命がある。

遅かれ早かれ、カカロットはきっとその身を闘いに投じる時がきっと来る……!

 

 

エミューゼは自らの目的では無く、純粋にカカロットの将来を案じている自分に気付き、内心で大きく動揺した。

エミューゼは地球での暮らしによる自身の心境の変化に戸惑いながらも、真っ直ぐに悟空の眼を見据える。

 

「よく聞きなさい、悟空ーーーカカロット」

 

ーーーーーー

 

 

この時のことを、悟空は印象深く覚えている。

鋭利で冷たい…それでいてどこか優しく温もりのある視線。

それは雪の降る寒い日だった。

泣くことしかできない自分の代わりに、母が黙々と立ててくれた“じっちゃん”の墓の前で、母は自分に告げた。

 

子供だった自分に、難しいことはわからなかった。

戦闘民族だとか、サイヤ人だとかカカロットだとか。

当時の自分にはわからないことばかりであった。

 

しかし、母が真剣に自分の事を案じていること、そして母の表情が苦悩に満ちていることはわかった。

 

「明日から1年間。1年間のみです。一切の情を捨て、貴方に生きる術、戦いの術……サイヤ人の生き方をその身に叩き込み、刻み込みます。死ぬ気で覚えなさい」

 

できますね? と問いかけるような。

自分を見つめる強い視線に掻き立てられるように涙を拭う。

言いようのない哀しみや恐怖……そしてそれらを押し返すような、強い感情のうねりが、悟空を掻き立てた。

今にして思えば、サイヤ人としての本能が刺激されたのかもしれない。

何を言えば良いのかわからない。

何かを言わなければならない気がしてならないのに、その言葉が見つからない。

そんな自分が少し嫌になりながらも、ただエミューゼから目をそらすことは決してしなかった。

 

そんな悟空を見て、エミューゼはふと表情を緩める。

思わず。といった様子で、彼女は柔和に微笑んだ。

 

「とはいえ……今日は一緒に寝ましょうか」

 

この日が、母と共に寝た最後の日となる。

強い感情のうねりは嘘のように消え去り、代わりに必死に堪えていたものが溢れ出し、再び涙となった。

 

「よしよし……こんな、感じでよいのでしょうか…」

 

戸惑いながらも、嗚咽を堪えることのできない悟空を全身を使って抱擁し、背中を摩る。

悟空はひたすら母の温もりに浸った。

明日からは、もうこの温もりは感じられないのだろう。訳もなく、本能がそう告げている。

明日になれば、母は決して自分に対して情を表にださないだろう。

母のいう一年が過ぎれば、母は自分のもとを去ってしまうのだろう。

そう考えてしまうと、もう堪えることはできなかった。

幼い悟空では、溢れ出す感情を制御出来なかった。

悟空はその日一晩中、エミューゼから離れることはなかった。

 

 

 




悟飯老人の運命は変わらず…です。彼はエミューゼに得体の知れないものを感じていましたが、それでも迎え入れています。


他のDB二次作品にイラストがあって羨ましくて仕方ない我が輩です。


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ガールミーツボーイ/ファイターミーツシンガー

無印原作開始です。
ですが、今回は悟空パートは少なく、暗躍エミューゼがメインになります
また、他作品技が登場します、ご注意ください。



孫悟空と名乗る少年と出会ってから数日がたった。

ブルマがこの少年に抱いた印象はチグハグなものだった。

異常パワーをもつ原始人染みた田舎者。

かと思えば妙に紳士的な部分もあり、立ち振る舞いが所々ではあるが上流階級のように洗練されている。

彼曰く、“行儀よくしないと母ちゃんに殺されっちまう”らしい。

まぁ、チグハグな所をみると、母親も半ば諦めているのだろうが。

 

なんにせよ、悪い印象は抱かなかった。

彼の祖父の形見を利用する事に少し罪悪感を抱くくらいには、ブルマは悟空を気に入っていた。

 

「このパンっていうやつスカスカしてうまくねぇな。この汁苦いしよ……」

 

「コーヒーよ。スキキライ言ってるから背が大きくならないのよ」

 

「え、これがコーヒーなんか。母ちゃん言ってたぞ。“コーヒーなんぞ泥水です。紅茶こそ至高…偉い人にはそれがわからないのです”って」

 

「……とりあえず、あんたの母親とは相互理解できそうにない事はわかったわ」

 

彼は何年か前に母親が出て行き、山で1人で生きてきたらしい。それから一年に一回しか母親とは会っていないという。

ブルマはひどい母親もいるものだと思ったが、悟空はそんな母親をとても慕っているようだった。

彼が異常に強いのも、母親にみっちり“死ぬギリギリまで”鍛えられたからだという。

銃弾を握りつぶすような子供を鍛えるような母親だ、ただ者ではないのだろう。

少し興味を覚えたブルマは、それとなく尋ねてみる事にした。

 

「ふーん…あんたも色々大変なのね。なんて名前なの、あんたの母親」

 

「母ちゃんか? 母ちゃんはエミューゼってんだ」

 

「エミューゼ…随分とまあ…」

 

それは、最近芸能界に彗星の如く現れたカリスマ演歌歌手と同じ名前であった。

まあ、偶然の一致だろう。

彼女はとても14歳の子持ちには見えないし、何より、彼女はコーヒー好きで有名なのだから。

 

ーーーー

 

南の都にある酒場。

知る人ぞ集うような、細々とした酒場であるが、常連たちが集うといつも決まって騒がしくなる。

だが、この日は異様な静けさに包まれていた。

 

それは厳しい顔をした男だった。

長い黒髪を三つ編みに束ね、殺と書かれた馬掛に身を包むという奇妙な出で立ち。

冗談のようなセンス溢れる格好であったが、男から立ち込める尋常ならざる気配から、誰も彼を笑うことはない。

当たり前の話である。誰も、彼の眼前に広がる赤い染みの一部になどなりたくはないだろう。

 

「これが武道家? 師弟揃ってどうしようもない愚か者だな」

 

この日、酒場には2人の格闘家が訪れていた。

南の都にて格闘技の大会があり、その大会に出場するために遠征してきたのだ。

格闘家として有名な彼らが訪れたということもあり、その酒場も大いに賑わっていたのだが。

 

「ぁ………師匠……?」

 

不幸なことに、世界一と称される殺し屋もまた、この酒場を訪れていたである。

 

凄惨な光景であった。

後にサタンと呼ばれる男……その師はすでに息絶えている。

優れた格闘センスと、決して浅くない経験を積んだ古強者だったが、その幕切は余りにもあっけない。

振り向きざまの一突きで正確に心臓を捉えられ、胸に大きく風穴を開けられた彼は、自身の死を理解することもなく絶命した。

死の直前と同じ笑顔を浮かべたまま、自身が作り出した血溜まりに沈む様を、弟子のマークは茫然と眺める事しかできなかった。

 

「……人殺しだ。師匠を殺しやがった……」

 

マークもまた優れた格闘家であったが、目の前で殺人が起きるのは初めての事であった。

仇討ちだとか、闘うだとか、果ては逃亡だとか。

そんな事を考える事すらできず、頭の中が真っ白だか真っ赤だかわからないような色に染まり、構える事すらままならない。

 

その致命的な隙を、殺し屋ーーー桃白白が見逃すはずもなく。

 

「お前も嗤っただろう。わたしの髪型がなんだって?」

 

「……ぇ……あ、いや…」

 

蛙を潰したような音が響いた。

それが自分の発した声だとマークが理解した時には、呼吸ができなくなっていた。

桃白白の一撃で、喉を潰されたのだ。

 

「次は肺だ」

 

「……ぃっひく…ぅげ」

 

桃白白がマークの胸に手をぬらりと手を置くと。

ただそれだけで凄まじい衝撃が彼を襲った。

 

「この程度の浸透勁であれば耐えるか。喜べ、貴様は師を越えていたようだぞ」

 

マークは混乱した。

酸素の足りない脳を全力で回転させ、生き延びる術を探した。

ダメだ、目の前がチカチカしてまるで砂嵐のようだ。

見えない、見つからない。どうすればよいのか。

顔面は蒼白、唇も紫色になり、必死に肺に酸素を流そうと情けなくか細い呼吸音が鳴る。

脚がガクガクと震え、闘うことは疎か逃げる事すらままならない。

すでにマークの瞳は絶望で光をなくしていた。

 

「あの世で師に自慢してやるといい。直ぐに送ってやる」

 

しかし。

桃白白の言葉で不意にマークの瞳に光が宿る。

眼光は鋭くなり、機能しなくなった肺と脚に拳を叩きつけ、無理やりに酸素を取り込み地面に根をおろす。

重心を低く降ろし、これまでの修練で見に刻みつけてきた構えを取る。

 

奴の言う通り、あの世で師匠に自慢してやろう。

この拳を奴に叩き込み、一矢報いたと報告してやる。

 

マークは…後にミスター・サタンと称えられる男は臆病な男であったが、それを克服する勇気を持ち合わせてもいた。

師を殺されて立ち上がれないような男ではなく……彼もまた、1人の格闘家であったのだ。

 

「いっちょ前にやる気か」

 

そんな目の前の光景を嘲笑するように、桃白白は肩を竦めた。

力の差もわからぬ雑魚め。気も扱えぬただの格闘家風情が、この桃白白に挑むつもりか。

この後に及んでマークから殺気が感じられない。試合気分でいるのか、まるで鋭さが足りんわ。

あっさりと殺してやろう、そう桃白白が足を踏み出そうとした時。

 

「少しよいでしょうか」

 

不意にかけられた声に、全力でその場を飛びのいた。

とてつもない殺気を感じたからだ。

目の前の男…いや、マークではない。

鈴を鳴らしたかのような、美しい声だ。

 

殺し屋としての経験が警鐘を鳴らしていた。

全身をじっとりとした汗が舐め回し、今にも叫び出したいような衝動に駆られるのをやっとの思いで飲み干す。

 

「………ぅッ!?」

 

脚がガクガクと震え始め、呼吸が困難になり吐き気を催す。

目元には涙すら滲み、例えようのない恐怖にガチガチと歯が鳴り始めた。

 

桃白白はすかさず全身に気を張り巡らせ、殺気の正体を暴くべく、鉛のように重い脚に気合を叩き込み、振り返る。

 

そこに立っていたのは、何処かで見た……否、観たことがあるような、愛らしく儚げな少女だった。

 

テレビで見たことがある。そうだ、たしか『カリスマ演歌歌手』のエミューゼ。兄が密かにファンだったのを覚えている。

こんな小娘1人になにを怯える必要があるというのかーーーー何故だ。

 

何故、身体の震えが止まらない。

眼前にあるのは、吹けば飛んでしまいそうな細身の小娘だぞ。

だというのに、身体の震えは止まらない。

殺気は消えていない。

先程より濃密になった殺気が、眼前にある。

間違いない、殺気はこのエミューゼという少女から放たれている!

 

錯乱する桃白白を余所に。

エミューゼは今にも倒れそうになっているマークに手を差し伸べ、彼を酒場の椅子へ休ませる。

 

「良き闘志でした。あとは私が引き受けましょう」

 

マークは少し戸惑い、しかし疲労と緊張に耐え切れず。

霧散した闘志では抗いきれなかったのか、意識を失った。

周りの客に出来た人間がいたのか、すぐさまマークは外へ運ばれていく。

桃白白はそれをどうすることもできず、ただ見送るしかなかった。

 

「……貴様、何者だ。よもやただの演歌歌手などではあるまーーー」

 

「名乗りなさい」

 

「ぐっ………桃白白、殺し屋だ」

 

遮るように、有無を言わさないとばかりに告げられた言葉に、桃白白は逆らう事は出来なかった。

もし逆らえばその瞬間に絶対に自分は死んでいただろうと予感させられていた。

 

「殺し屋……それは良い事を聞きました。少しテストしてみましょうか」

 

「テストだと?」

 

「簡単なテストです。貴方の最高の一撃を私に叩き込む。ただそれだけです」

 

なんの事はないと言わんばかり、エミューゼは淡々と告げた。

 

「クリアできれば、貴方に依頼をしましょう。前払いで2億ゼニー。悪くない話でしょう。あぁ、ありえない話ではありますが、もし私が死んだとしても、後ろに控えているマネージャーが払いますからご安心を」

 

桃白白は肯定も否定もしなかった。そんなものは必要ないのだ。逆らえば、死ぬ。

クリア条件はなんなのか、クリア出来なければどうなるか、という質問もしなかった。無意味な問いである事がわかっていたからだ。

とにかく全力でこの女を殺す気で攻撃する。

それが女の御眼鏡にかなわなければ自分が死ぬ。

ただそれだけだ。

ただそれだけである事を、老練な殺し屋は識ることが出来ていた。

 

桃白白の意識が研ぎ澄まされていく。殺し屋としての経験が彼から無駄なものを取り払っていく。

故に、先程の師弟の事など既に脳裏にすらなく、生き延びるために必要なものだけが厳選されていく。

修羅場はいくつも潜り抜けてきたのだ。

桃白白は無言で、自身の必殺の一撃を放つために、指先へと気を集中させーーー

 

「どどん波ーーー!!」

 

光線。

殺傷能力に特化した、恐るべき死の光であった。

直線を描き放たれた気は、果たしてエミューゼに届く事はなかった。

地面にクレーターが現れたかと思うと、甲高い炸裂音と共にどどん波は消し飛び、桃白白は倒れ伏していた。

傷一つ負っていないというのに、身体がまるで動かせない事を悟り、桃白白は眼球を必死にエミューゼへと向ける。

 

何が起こったのだーーーその瞳はそう訴えていた。

世界一の殺し屋、桃白白の眼を持ってしても、エミューゼの動きをまるで捉えることが出来なかった。

 

「せっかく、戦闘力を貴方方くらいにまで抑え、貴方方でも私を殺せるようにしたというのに……こんなものなのでしょうか。可能性などなかった……所詮地球人ですね」

 

エミューゼはゆったりと桃白白へと近づいてゆく。

 

「以前、惑星コノハで見た技ですが。良い技だったので密かに練習してみたのです。あの子に教えるのに適していたのでね」

 

動け…動いてくれ身体よ。桃白白は必死に全身に気を送りつけようてして。

違和感の正体に気付いた。

 

気が練れない!

 

それはかつてエミューゼが封印される前に体得した、異星人の技を改良した技。

八卦六十四掌と呼ばれる技であった。

 

「なるほど……あの子にはちょうど良い。テストは合格にしておきましょうか。先の技をあの子が習得できていれば勝てる絶妙な戦闘力です」

 

エミューゼはそう言って、マネージャーを呼びつけ、2億ゼニーを用意するように指示を出すと。

動けぬ桃白白の前に静止し、にこりと笑みを浮かべた。

 

「さて。これからする私のお願いにハイかYesで答えてください」

 

「……ぐっ、こ、殺しの依頼か」

 

「えぇ。1人、少年を殺していただきたいのです」

 

そう言って、エミューゼは写真を桃白白に見せる。

まだあどけなさの残る、尻尾の生えた少年が写っていた。

 

「なぜ、わたしに頼む…貴様ならばわたしに頼らずとも……」

 

「地球の殺し屋は。クライアントの事情を知らなければならない職業なのですか?」

 

随分と命知らずな職業なのですねぇ、と口を三日月にするエミューゼに、桃白白はすかさず口を噤む。

桃白白に許された言葉は、先程エミューゼがあげた二言しかないのだ。

 

 

余談ではあるが、ミスター・サタンはとある演歌歌手の熱烈な大ファンなのだという。

 




というわけで。レッドリボン軍よりも早く桃白白先生が登場です。

また、他作品技でナルトから回天と八卦六十四掌。
SNK系列や北斗系列などと悩みましたが、スタイリッシュさを重視して採用させていただきました。

設定的には、かつてエミューゼが侵攻した星で、柔拳に似たような技を使う戦士がいました。 その技を自己流にアレンジしたものとなりますので、日向一族は何の関係もありません。

ちなみに、エミューゼはコーヒーが大嫌いでしたが、とある砂漠の虎を名乗るマネージャーにコーヒーをご馳走してもらったところ、コーヒーにドハマりしました。

原作と違って悟空は、銃弾を食らって「いってー!」じゃなく、握りつぶしています。
原作よりは少しだけ、つよめのイメージです

コメントでご指摘を受け、後のリングネームのサタンから本名であるマークへと表記を変更しました。
コメントで指摘して下さった方、ありがとうございます。


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母の誕生日

在りし日の孫悟飯老人と暮らしていた日の1幕であります。

あと、幕間など話の並び替えを行いました


地球を訪れた時、エミューゼは実のところ、カカロットに対して愛情を持っているわけではなかった。

カカロットやベジータ、バーダックに興味こそ抱いたものの、やはり彼女にとっては彼らも惰弱な現代サイヤ人……憎き同胞が遺した負の遺産に過ぎず。

マイナスが少しゼロに近づいただけのことであったのだ。

さりとて、殺意を抱くほどではない。もう何をする気力も湧かず、これから続くであろう闘いのない地獄のような日々を過ごす上での、手慰みになれば上々だと考えていた。

そう、彼女は当初、カカロットをただの玩具としか見ていなかったのである。

ただ淡々と栄養を与え、下の世話をする。

そこに感情などなく、ただの作業でしかなかった。

 

 

「びーびーぴーぴー…良くもまぁ泣き喚くものですね」

 

「赤ん坊は泣くのが仕事ですからのう。おーよしよし、お腹が空いたのか悟空や」

 

休眠期間を除いたとしても、それでもなお永きを生きながら、エミューゼには子育ての経験はない。

彼女にとってカカロットは、自分のことすらままならずに誰かに任せ、頼り切ることしかできない脆弱で未熟な生物…見苦しい存在でしかなかった。

 

「何という面倒な生物なんでしょうか…サイヤ人が聞いて呆れます」

 

「サイヤ人が何かは知りませんが、どんな生き物でも赤子は皆こんなものじゃよ…」

 

しかし。

カカロット……悟空とて、サイヤ人。

地球人である孫悟飯老人だけでは手を付けられない事も多々あり、自然とエミューゼが、悟空の世話をする事が多くなっていく。

ある期を境に悟空が大人しくなるというちょっとした事件もあったが、エミューゼは変わらず淡々と、ただ機械的に悟空の世話をこなす日々が続き、悟空はすくすくと育っていった。

 

 

ーーーそしてまた月日が流れ。

 

 

 

「えぇい、そっちに行くんじゃありません! 先日も崖から落ちたばかりでしょうが!

あぁ…もう、はいはいが出来るようになってからというもの、本当に落ち着きのないにも程があります!」

 

「悪戯には気をつけないと。歩き始めたら行動範囲が広がりますからのぅ」

 

「悪戯って……あぁっ、私の花壇が……!?」

 

 

げんなりと肩を落すエミューゼを、孫悟飯老人が微笑ましく見守る日々が始まる。

はいはいが出来るようになってからと言うもの、とにかくエミューゼは忙しく走り回る羽目になった。

 

 

「って、そっちは崖! どれだけ崖に心惹かれてるんですか、獅子だって自ら崖には落ちませんよ!」

 

「聡い子になったのう…あぁ、捕まえるなら気をつけて抱くんじゃよ、座りが悪くなりまーーー」

 

「わかっていますから、早くこの子の替えのおしめを用意して下さい!」

 

 

孫悟飯は、かつて感情なく悟空を抱くエミューゼを見た時の事を思いだし、朗らかな笑みが浮かぶ。

 

「エミューゼさんやーーー」

 

「あっ、こら、頬をひっぱるんじゃ……何ですお爺様、見てのとおり忙しいのです、小言は後にしてくれませんかーーー」

 

「ーーー楽しそうじゃのう」

 

「ーーーっ!?」

 

パシャリ、と音がした。

 

「ーーーーーーへっ?」

 

エミューゼの呆けた顔を、孫悟飯は微笑ましげに見つめながら、カメラを仕舞う。

完全にからかわれたと察したエミューゼが、慌てて顔を引き締め(悟空に引っ張られたままではあるが)老人を睨みつける。

 

「ち、違います、悟空には強くなって私をころしーーー」

 

してもらわなければならないから、仕方なくーーーと言い切る前に、すっ、と悟飯老人がエミューゼの背後を指差す。

 

「あ、悟空が腕を抜け出してまた崖にーー」

 

「ひきゃああああ!? 何回性格変えるつもりですか、戻りなさいったら!!」

 

 

今までのエミューゼでは考えられない事であった。

孫悟飯老人は武術の達人である。エミューゼが危険な存在である事はわかっていた。

しかし、その孫悟飯が、エミューゼをからかったのである。

そして、エミューゼは自然とそれを受け入れた。

慌ただしく騒がしい日々が、エミューゼをゆっくりと変えていったようであった。

 

 

そして、ある日。

その変化は確実な形として現れる。

 

 

「ーーー心臓病?」

 

「……心臓の鼓動がおかしいのじゃ。気も乱れておる。都の医者も見た事がない症例だと」

 

エミューゼの視線の先には、苦しそうに喘ぐ悟空の姿ある。

額にびっしりと汗を流し、ぐったりとしている。

呼吸は乱れているが、ひどく弱々しいものだった。

エミューゼは得体の知れない感情の畝りに戸惑う。それは彼女が未だかつてないほどに感じた焦燥であり、初めて抱いた未知なるものであった。

しばらくの間、ただひたすらに、胸の奥で荒れ狂う感情の嵐を堪え続ける。

これはなんだ。いったい自分はどうしてしまったというのだ。

分からない…分からないが、確実大きくなってくるのがわかる。

不安、焦燥……そうか。

今まで感じた事がないはずだ。

これはーーー恐怖だ。

私は怖いのだ。

カカロットを……悟空を失うのが、堪らなく怖いのだ。

 

あぁ、そうだ。認めよう。私は悟空を失うのが今や何より恐ろしい。

 

「……要するに、乱れを正せばよいのでしょう。心の臓の気の乱れを正す秘孔は…これです」

 

私はサイヤ人だ。ならばやる事は決まっている。敵は撃ち倒す。恐怖という敵とて例外ではない…!

 

流石と言うべきか。

エミューゼの治療は適切であった。かつて侵略した星の戦士から盗んだ技術は、悟空の心臓の鼓動を正常に戻す事に成功する。

とはいえ、実のところは一時的に抑え込んだだけであり、このウィルス性の心臓病が完治するには、後に未来からやってくる少年が持ってくる特効薬が必要となるのだが、今のエミューゼが知る由などありはしない。

 

さらに付け加えるなら。事態はそこで終わりなどしない。

エミューゼは、その強さとサイヤ人に対する認識から、赤子である悟空の体力を考慮していなかったのだ。

 

「……まずい。熱が下がらん…かなり衰弱しておる」

 

「そんな…間違えた…何て事はないはずです!」

 

「いや、気の乱れは収まっておる。しかし、悟空の身体が弱りきっておる。病が治ったとて、体力が回復するはずもなし…」

 

 

再び例えようのない感覚がエミューゼを襲う。うなされる悟空の吐息を聞くたびに。リンゴのように真っ赤に染まる悟空の頬を見るたびに、ノイズがエミューゼの脳裏を走る。

 

「どうすれば……いったいどうすればよいのですか!? 」

 

この子を助けるにはーーー。

そう訴えるエミューゼを孫悟飯はある種の納得を持って見つめ返した。

 

そうか。底の知れない少女であるが…彼女もまた子供なのだ。それこそ、産まれたての。“感情”といったものを初めて持ったかのような。

孫悟飯老人は、ここにきてようやく、エミューゼに対しての警戒を完全に解く事になり、そして。

自身の子に諭すように語る。それが、自分の役割であると悟ったからだ。

 

「……酷く汗をかいておる。水分の補給と、何とかして栄養を摂らせねばならん」

 

「わ、わかりました、すぐに手配をーーー」

 

「それから。一番大事なのは、悟空から目を離さず、逐一様子を見る事じゃ。声をかけて、励ますこと……これはエミューゼさんにしかできん事なのじゃ」

 

「励ます……たったそんな事で…いえ。わかりました」

 

この日。エミューゼは初めて自分以外の誰かを頼った。

初めて、祈りというものを捧げた。

汗を拭き、寝巻きを変え、とにかくつきっきりで看病をした。

 

 

 

そして、やがて夜が明ける。

 

「…熱も下がったようですね。よかった…本当にーーー」

 

悟空の容体は回復した。峠を越え、ほんの少し寝顔が安らかになり始めたのを見て、エミューゼはほぅっと一息吐いた。

 

「……良かったのう悟空や。もう大丈夫じゃ。エミューゼさん……いや、お前のお母さんが助けてくれたんじゃよ」

 

不意に、悟空がうっすらと目を開ける。

悟飯老人が、起こしてしまったか、と反省するも。

 

「だぁう……かぁ たん ?」

 

「………へっ?」

 

「………たまげた。いま、悟空のやつ、喋りおったぞ」

 

「………喋っ…た?」

 

数瞬後、悟空はぱっちりと大きな目を開き。

エミューゼを見て。

 

「かあ…たん!」

 

その時。

その言葉を聞いた時。

エミューゼに電流のようなものが走った。

その時の感動を、エミューゼは深く刻み込んだ。

押し流されるような感情の奔流。これも、エミューゼは今まで感じた事のないものであり。

 

「………えぇ。そうですーーー」

 

その日こそ、真にエミューゼが誕生した日であり。

 

「ーーー私が、あなたの母ですよ」

 

エミューゼが、初めて愛情という“感情”を知った日であった。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「あのぅじゃな。少々過保護すぎやせんか、エミューゼ」

 

亀の甲羅を背負った老人は、何故か“過保護”という部分の語気を強めながら溜息をついた。

 

「まあ。何を仰るのですか、武天老師。世の中何があるかわからないのですから、準備をして、過ぎることなどあるませんよ」

 

「いや、まあ。その通りなんじゃがな? だからと言って、流石に殺し屋を送りつけるのは“ない”と思うんじゃが、これいかに」

 

ちなみに、送りつけた殺し屋が桃白白という名前を知って亀仙人が慌てるのはもう数刻ほど後のことである。

 

 

 

 

 

 




エミューゼが頬を引っ張られている写真は、四星球と一緒に飾られています。
あと、悟空の心臓病ですが、北斗神拳の力を持ってしても数十年抑えるのが精一杯…超サイヤ人になろうものなら症状が現れるでしょう……という設定です。
あと、復活のfの後編はいま執筆中です


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