Re:フラグから始める攻略生活 (律乃)
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オリジナル主人公 自己紹介文

簡潔にこの小説の主人公の自己紹介文を書きました。良ければご覧ください(礼)


名前 : 一条 晴糸

 

読み : イチジョウ ハルイト

 

年齢 : 17歳

 

愛称 : ラムとスバルからは『ハル』、レムからは『兄様』、ロズワールからは『ハルイト君』、エミリアとパックからは『ハルイト』、ベアトリスからは『女々しい奴』等、様々呼び方をされている様子

 

誕生日 : 3月 20日

 

星座 : 魚座

 

身長 : 175cm

 

血液型 : AB

 

父親 : 一条 晴彦

 

母親 : 一条 小糸 (旧姓 : 水無瀬 小糸)

 

容姿 : 赤く癖っ毛の多い髪に大きめな赤い瞳を持つ、短い赤い髪は前髪だけ母親から貰った幼稚なヘンピンを付けている。身長は高めですらっとしていて、日頃から行っている『特訓』のおかげで、筋肉質である。 母親の血を深く受け継いでおり、母親の若い頃と瓜二つの容姿を持っている為、時折、父親に間違われることもある。

 

好きな食べ物 : 父親の作ってくれた料理全てとラムの蒸かし芋、レムが作ってくれた料理。それ以外は好きでも嫌いでもない

 

嫌いな食べ物 : 特になしだが、苦い物は食べない

 

好きな飲み物 : ココア、コーヒー(砂糖とミルク多め)

 

嫌いな飲み物 : ブラックコーヒー

 

尊敬する人 : 師匠、母親。父親や周りでお世話になっている人も尊敬している。

 

日課 : 『フラグについて』とタイトルのメモ帳に今日中に現れたフラグと、師匠に定期的に行うように言いつけられている『特訓』を行っている

 

生まれた頃から持っている能力 : 元の世界では『ファントム』、召喚させた世界では『魔獣』や『魔女教』たちの存在を認知する事が出来る。しかし、考え事や余計な事に気を取られていると見落としてしまうらしく、まだその能力を上手く使いこなしてない。

ちなみにこの能力は母親から受け継いだもの。

 

召喚されて身についた能力 : フラグを見れる力

 

魔法の属性 : 『火』、『陽』だが全ての魔法を使うことが出来る

 

愛用の武器 : 五行思想が描かれた手袋

 

 

 

 

 

◎使えるパロール

 

自身のパロール : 不死鳥を思い浮かべることによって、能力を発揮する

 

【燃える燃えて燃え上がれ、竜胆(りんどう)の光焔(こうえん)よ。不死鳥の名のもとに、この者の苦しみを焼き尽くせ!】

→治癒

 

【燃える燃えて燃え上がれ!竜胆の光焔よ。燃える燃えて燃え上がるこの拳は、あらゆるものを打ち砕かん】

→攻撃

 

 

 

父親が得意としていたパロール : 紙に召喚獣を描き、召喚出来る能力

 

【前いまし今いまし先します主の戒めあれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。罪生の魔性を回生せよ。EVOKE、朱雀、白虎!】

 

→召喚獣 : 四神と麒麟。主に白虎と朱雀を召喚する

 

 

 

 

ハルイトの師匠が得意としていたパロール : 五行思想を基準に生み出された能力ーー発動するにはその五行が示す箇所に触れなくてはいけない。

例)火ならば心臓

 

【五行万象を発生し、帥にして錘なる水の氣は火を吸い込む。腎の水氣で拳を満たさん。翠にして錐なる水氣は拳を満つ】

 

【火克金の理により五行万象を発生し、緋にして橙なる火の氣は金を禁ず。心の火氣で拳を満たさん。陽にして飛なる火の氣は拳を満つ。いざや!一騎当千の戦に挑もうぞ!】

 

【五行万象を発生し、緊にして琴なる金の氣は木を禁ず。肺の金氣で拳を満たさん。勤にしいて禽なる金氣は満つ。いざや!破邪顕正の戦に臨もうぞ!】

 

【五行の脚、五氣を増し、護身を打つ!いざや!破邪顕正に挑まん!】

 

【五行万象を発生し、五臓の御行を五常とし、五指に満つ!】

 

 

 

 

母親が得意としていた能力 : 歌声で相手を攻撃する能力

 

【開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、焔を知らしめせ!】

 

【開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、光を知らせしめせ!】

 

【開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、標を留め置け!】




この後にある章は飛ばして、プロローグから読んで頂けると嬉しく思います。


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特別で章 いつもありがとうございますを記念して
〈大切な約束と道ずれフラグ〉でのBAD END


第一章『大切な約束と道ずれフラグ』のその後を書いたものです。
まず、最初にリクエストを頂いたこと、本当にありがとうございます。リクエストされた通りの展開になっているかは分かりませんが、頑張って書いたものなので読んで頂ければ嬉しいです。そして、何処かおかしいところがあれば、ここ違うよ〜と指摘して頂ければと思います。


「…」

 

質素な部屋の中、青い髪を肩までのところで切りそろえている少女が立ち尽くしている。大きめな薄青色の瞳に映るのは、赤い髪を短く切っている少年が勉強机の上で目を瞑っているところで、それだけならまだいいだろう。しかし少年はその勉強机を真っ赤に染め上げるほどに血を吐いていた。

 

「どうして……、にい……さま……」

 

紐の切れた操り人形のように、そこに崩れ落ちた青髪の少女・レムはその大きめな薄青色の瞳に涙を溜めて、もう息をしていない赤髪の少年・ハルイトへと視線を向ける。

思わず、零れ落ちた声には単純な疑問が混ざっている。困惑する頭の中で、繰り返されるのは勉強会での出来事だ。

いつものように一緒にロ文字の勉強をして、いつものようにレムがハルイトに厳しく指導して、いつものようにハルイトが照れ笑いを浮かべて直す。それがレムとハルイトのいつもの勉強会であり、今日もそれがいつものように何も起こらず終わる予定だった。予定だったのにーー

 

「あぁ……にい…さま……」

 

ーー顔をあげれば、凄まじい死に様を迎えたハルイトの姿が見える。

椅子に座った状態で息耐えたハルイトの両手がダランと風が吹いてないのに揺れる。安易な木で出来た勉強机の一面はハルイトが吐いた血で覆い尽くされており、さっきまでハルイトが記入していたロ文字がびっしりと書かれたノートは吐いた血の上に、新たな血が吐かれた成果、黒ずんだ血と新しい血のコントラストが出来ている。最後に吐いた血はまだ乾いてないらしく、右側を下にして机に伏せているハルイトの真っ赤な髪と整った顔立ちを汚している。まるで居眠りをする時みたいな表情を浮かべているハルイトの死顔にレムは嗚咽が漏れる。

 

「うぅ、うぐ……兄様……本当に……死んでしまったのですか?もう、レムの頭を撫でてくれないんですか?レムのっ……ひくっ……料理を美味しいって言ってくれないのですか?兄様…兄様…兄さまぁあ、うぁあああああああん。ぁああぁあああああぁあああーーッ!!!」

 

その死顔はこのまま、ずっと一緒にいれば、そのうち

『えへへ、驚いた?レムちゃんのそんな顔、初めて見た』と笑いながら起き上がって、泣きじゃくるレムの頭を優しく撫でて、あの時みたいにこう言ってくれるだろう。

『だから、そんな顔しないで?レムちゃんは笑ってる方が可愛いからさ』

そんな淡い期待を浮かべたくなるほど安らかで……しかし、それが妄想であるとレム自身も理解しているし、認めたくなくても恐る恐る触れた右手が、冷たかったことはどうしようとハルイトが死んだ事を示しているだろう。

 

「ぁあああぁああーーッ!!!兄さまぁあああ……兄さまぁあああ……兄さまぁあああぁああーーッッ」

 

レムはただ泣きじゃくる。赤子のようにハルイトの右手を両手で包み込み、大声をあげて泣き続ける。もう夜も深まり、屋敷に住む多くの住人が眠りについていた事もレムには分かっていたが、しかしレムには湧き上がってくるこの感情を抑えることは出来なかった。

 

「レム!レム、どうしたの?開けるわよ」

 

そんな時、ガチャンとドアが開く音が聞こえ、レムと同じ容姿を持つ少女が入ってきた。凛とした光を放つ薄紅色の瞳が、泣きじゃくるレムと机に身体を預けている赤髪の少年の姿を捉えた。しかし、次の瞬間、瞳が大きく見開く。

 

「……ハル……。どうしたのよ、その血……」

 

薄紅色の瞳はしっかりと捉えていた赤い髪を汚す黒ずんだ血と机の上を覆い尽くす血色を。

ヨロヨロとあまりの衝撃に後ずさる桃髪の少女・ラムは、グッと唇を噛みしめると部屋を後にする。

 

τ

 

「死因は圧迫死だーぁね。心臓がまるで手で握りつぶしたような感じになっている」

 

ハルイトの死体を診た長い藍色の髪を持つ青年・ロズワールの言葉に右横に立っていたクリーム色の髪を縦ロールにした少女・ベアトリスが頷く。

 

「ロズワールの言うとおりかしら。魔法というよりは呪術よりではないかしら」

 

「……」

 

そんな二人を黙って見つめるのはレムで、その傍らにはラムの姿がある。レムは泣き疲れたようで、薄青色の瞳は光を失っており、ラムの支えなしでは立っていることさえも出来ないだろう。入り口にはサラサラと揺れる銀髪の腰の辺りまで伸ばした少女・エミリアの姿がある。無残なハルイトの姿に驚き、悲痛な表情を浮かべている。

そんな光景が数時間、過ぎた時だった。レムはある事に気づいたようで辺りを見渡すと、何も浮かんでなかった表情が震怒に染まる。

その瞬間、レムの行動は早かった。

姉が手を離した隙に、呆気にとられるエミリアの脇をくぐり、黒髪の少年が眠る寝室へと走り出す。

 

τ

 

黒髪の少年が眠る部屋へと辿り着いたレムの表情は怒りに染まっていた。冷たく光る瞳に、レムが歩くたびにチッリンチッリンと鈴ような音が響く。しかし、レムが手に持ったそれは鈴のような可愛らしい物では無く、女の子が持つには禍々しいものであった。取手に繋ぎれた鎖の先には重量感たっぷりの鉄球が吊るされている。

それが歩くたびにチッリンチッリンと音を立てるのだ。

 

「……もっと早くこうするべきだったんです」

 

眠るスバルの横に立ち、底冷えする眼差しで見つめる。呟かれた言葉には後悔が多く含まれていた。取手を掴む手が強く握りしめられる。

 

「そうすれば、兄様は死なずに済みましたのに……。兄様に言われて、我慢していましたがやっぱりダメだったんですっ!兄様に止められても、実行すべきだったんです!もうレムは迷いません」

 

レムがスバルにモーニングスターを振りかざす瞬間、レムの右手が握られる。驚き、後ろを振り返れば、桃髪の少女が立っていた。レムにとっても桃髪の少女・ラムに止められるとは思ってもみなかったのだろう。

 

「なぜ、止めるのですか?姉様」

 

そんなラムの後ろから、次々と屋敷の住人が入ってくる。今まさに、モーニングスターを振り下ろさんばかりのレムにエミリアは驚き、割って入ろうとするところをロズワールに止められる。そんなロズワールとベアトリスは黙って、事の成り行きを見ている。どうやら、暴走したレムを止められるのはラムだけと二人とも思っているらしかった。

 

「バルスはもう死んでいるわ。だから、レムが無駄に手を汚す必要はないわ」

 

「………」

 

静かにそう言うラムにレムは振り下ろそうとしていた右手を下ろすと、その場に崩れ落ちる。

 

「では、兄様の仇は?誰が兄様を殺したのですか?スバルくんでないのなら、兄様を殺したのは誰なのですか?」

 

その声音は虚ろで、もう怒りはなかった。しかし、何もできなかった自分自身には怒りを感じているらしく、そんなレムをラムはただ抱きしめ続けた……




どうでしたか?
出来れば、ご感想をよろしくお願いします!



レムさんの気持ちばかり書いてしまいましたね。ラムさんの気持ちをこの場を借りて書くと
「なんで、死んでしまったの?バカハル」みたいな感じですかね。
レムさんほどではないですが、ラムさんもショックは受けてます。なんだかんだいって、ラムさんの好感度は着々と上がってきてます。ラムさんの中でのランキングでは、トップ10入りをしたくらいですね。ロズワール、レムの次に親しい友人?みたいな人物の死は少なからず彼女の心を開いたことでしょう。


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どうやら、レムはハルに耳かきをしてあげたいらしいです

【評価者10人突破】を記念して書いたものです。大変遅くなりすいませんでした!本当はもっと早く書きたかったのですが、案が浮かばず……今に至ると。
今回の話はタイトルの通り、レムちゃんとハルイトがイチャつく話です。甘い雰囲気が出るように書いたので良ければご覧ください、では。

※初めて読まれる方はこの章は後回しにして、読んで頂くことをお願いします。


ある部屋の中、一人の少年が窮地に立たされていた。床へと正座で座り、同じく正座で真向かいに座る青髪の少女の表情を伺うようにチラチラと見ている。

 

「えぇ〜と、レム……ちゃん?」

 

俺はぎこちない笑みを浮かべて、正面に座る青髪の少女へと声をかける。青髪の少女はいつも身につけている肩や胸元が露出しているメイド服ではなく、休日用メイド服というものを身につけている。露出は少なめだが、ハッキリとスタイルが現れるところはいつも着用しているメイド服と大差ない。

 

「何ですか?兄様」

 

俺に声をかけられたのが、よっぽど嬉しかったのか、レムちゃんが満面の笑顔で俺を見つめてくる。そう満面の笑顔、不自然くらいの光り輝く笑顔を。

“うぐ……、その笑顔が今は痛い……”

 

「その……怒ってる?」

 

おっかないびっくりに声をかける俺にレムちゃんは慈愛に満ちた微笑みを口元へと浮かべせて、横へと首を振る。

 

「どうして、レムが兄様に怒らなくてはいけないのですか。変な事を言う兄様ですね。確かに兄様とのお出かけは楽しみにして居ましたし、ちょっぴりおめかしをしようと兄様が贈ってくださった髪飾りをつけて、鏡の前で何度も何度も身なりを気にしましたが、それはレムが勝手に舞い上がってしてしまった事ですし、兄様が気になさることはないんですよ」

 

「本当にすいませんでした!!!!!」

 

何度も頭を床へと叩きつけながら、同時に自分を責める。

“俺のバカバカバカバカ、バカちん!”

ゴンゴンゴンゴン、ゴチンガチンゴチン。

 

「兄様!?ダメです。そのようなことをなさっては」

 

「止めないでくれ、レムちゃん。これは俺へと戒めだから!!レムちゃんが楽しみにしてくれてたデートをすっぽかした俺への。よし、これで最後」

 

最後にもう一度、床へと頭を打ち付けて、正面の少女へと向き直る。

 

「本当にごめん、レムちゃん。こんな事で許してくれるとも思わないけど、今からレムちゃんが言うことを何でも聞くよ。もちろん、今日のデートも違う日に改めて、一緒に行こう!だから、なんでも俺に言ってみてくれ」

 

「……その、なんでも……いいのですか?」

 

遠慮がちに俺の方を見るレムちゃんに俺は胸を叩いて言う。

 

「あぁ、俺に出来ることなら何でも任せてくれ」

 

「なら、兄様」

 

意を決したのか、レムちゃんは俺を見てこう言ったーー

 

「レムに……をさせてください」

 

「えへ?」

 

俺はその言葉に間抜けな声を漏らした……

 

τ

 

「〜♪」

 

「……」

 

頭上から聞こえてくる鼻歌を聞きながら、自分の状況を軽く分析。

・見慣れた景色が横を向いているように見える→自分が寝かされているから

・頬に感じる暖かく柔らかい感触→誰かの太ももに頭を乗せているから

・左耳から聞こえる何かを取る音→耳かきを誰かにされてるから

上の三つの状況から俺は何者かに膝枕をされて、耳かきをされていることがわかる。

なら、誰に?

それは下の会話文を読めば、分かってくるだろう。読まずとも分かる人、あんた凄いな。

 

「兄様、痛くありませんか?」

 

「ん……うん、痛くないよ……。むしろ、気持ちいいくらい」

 

「そうですか、良かったです。あと少しで此方の掃除が終わるので、もう暫くお待ちくださいね」

 

「うん、分かった」

 

再開される鼻歌。俺はそれを聞きながら、思考を再開する。

そう、俺はレムちゃんに膝枕をされて耳かきをされている。

…………。いや、いくら考えてもおかしいだろう!?この状況!?俺がレムちゃんにお詫びして、奉仕しなくていけないのに、逆に奉仕してもらって、癒されているとはどんな冗談だ!?

“いかんいかん、いかんぞ。これは”

由々しき事態だ、これは。早急にどうにかしなくては、これはレムちゃんの為に用意したお詫びの時間なのだから!!勇気を振り絞れ、俺!!

 

「兄様、此方は終わりましたよ。次は其方の掃除をしたいので、御手数ですが、顔をレムの方へと向けてください」

 

「あ……うん」

 

ゴロンと向きを変えて、黒いメイド服の生地と白いエプロンが目の前に来る、漂ってくる甘い香りにふわっとする思考。

 

「じっとしててくださいね」

 

拍車をかける慈愛に満ちた優しい声。俺は無意識に返事をしていた……

 

「……うん」

 

再開させる耳かき。右耳から聞こえるガシャガシャという音を聞きながら、俺は心の中で悶える。

“あかんかったーー!!!何をやっとるじゃ、俺!?”

バカか、バカなのか俺。あぁ、バカだな俺!俺はバカだ、バカだからこんな事態に陥っても何もできないんだな!?

 

「?右の方はあまりないようですね……、残念です。兄様、お疲れ様でした。耳掃除、終わりましたよ」

 

「あぁ、ありがとう、レムちゃん。おかげでいつもより耳が聞こえる気がするよ」

 

「いえ、お礼などいいのですよ。レムは兄様にしたいことをしているだけなので」

 

そう言って、今度は俺の赤い髪を撫で始めるレムちゃん。壊れものを扱うように俺の身体を動かすと、頭を撫でながら下を向く。バッチリと重なり合う赤い瞳と薄青の瞳。

 

「ずっと羨ましかったんです、姉様が」

 

「……」

 

羞恥心で頬が赤くなるのを感じながら、俺は真上で照れたように微笑むレムちゃんを見つめる。小さな桜色の唇が奏でる音を聞き逃さずようにする。

 

「兄様にいつも、このように膝枕をしておりましたから……兄様も嬉しそうでしたし、何より兄様はレムのことなど気にもされておりませんでした」

 

「……」

 

「でも、近頃は兄様もレムの存在に気づいてくれて、念願だった膝枕をさせてくださいました。

兄様……、レムは兄様の側に居られるだけで幸せなんです。レムがしたことで兄様が喜んでくれる事が何よりも幸せなんです」

 

「……俺も、レムちゃんが側に居てくれたから乗り越えてこれた事が沢山ある。だから、レムちゃん」

 

「はい」

 

俺は目の前の大切に思っている人にこの思いを伝えないといけない。だから、言葉にするよ。

 

「ーーこれからも側で情けない俺を支えてくれると嬉しい」

 

コクリとうなづく青い少女の笑顔を見ながら、俺はその幸せな時間を過ごした……

 




最後のセリフは断じてプロポーズとかじゃないですよ!


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どうやら、ラムとレムはハルを起こしたいらしいです

【評価者20人突破】を記念して書かせて頂いた話です。

遠い未来、ハルイトがラムとレムと付き合っている未来。そんな未来の幸せに包まれた日々をここに……
をテーマに書いた話なので、甘々な雰囲気を出せてるかは分かりません。ですが、かなりの自信作なので良ければご覧ください。


机に両腕を重ねて、その上に頭を乗せて 微睡んでいるのは短く赤い髪が特徴的な少年である、名前をハルイト。そのハルイトの両側に立つのは短い髪にお揃いの髪飾りをつけた愛らしい顔立ちをした少女達で、二人を見分けるのは髪の色と瞳の色、胸の大きさくらいだろう。逆に言うとその三つくらいしか違いを見分けられない瓜二つの双子というわけだ。その双子姉妹はそれぞれ、右左と分かれてハルイトを揺すっていた。

 

Zzzz……。ゆさゆさ

 

「兄様、起きてください。こんな所で休まれては、お身体に触ります」

 

熟睡するハルイトを優しく揺すっているのは右側に立つ少女で名前をレムという。大きめな薄青色の瞳を慈愛と心配で満たして、青い髪と双子の姉より大きい二つの膨らみがハルイトを揺する度に動く。もし、これをハルイトが見ていたらーー鼻の下を伸ばして、もう一人の少女に本気のアッパーカットをお腹へと食らっていただろう。そのアッパーカットは〈五割は嫉妬〉〈三割は激怒〉〈二割は姉心〉と乙女心というのは実に複雑である。

 

Zzzz……。ゆさゆさ

 

「ハル、起きなさい。こんな所で寝てしまっては、風邪を引いてしまうでしょう」

 

青髪の少女ことレムよりやや強めでハルイトを揺すっている少女の名前はラムという。レムの双子の姉であり、レムより胸元が控えめとなっている。今まではあまり気にしてなかったラムだったが、ある頃より気にするようになった。原因としてあげられるのは、恋する男性が胸が好きな変態だった。事あるごとに妹の胸元へと視線を向けている等というわけである。その度にアッパーカットや物理攻撃にうつるのだが、効果はイマイチとなっている。

 

「んぅ……すぅ……」

 

そして、上の二人が恋するのが寝息を立てているこのハルイトというわけだ。桃髪と青髪が揺れては、なかなか起きてくれないハルイトを薄青色の瞳、薄赤色の瞳が心配そうに見つめている。

だが、件のハルイトというと実に呑気なものだった。下のハルイトの思考を読んでもらえれば、呑気というのが分かるだろう。

 

むにゃむにゃ……、ふわぁ〜……

“さっきから何か声が聞こえてくる……”

でも、今だけはこの微睡みに身を任せていたい。なので、この声の主たちには申し訳ないけど、寝かせてくださいっお願いしますっ!よし、お願いした俺は寝ます!!

 

Zzzz……、むにゃむにゃ……

 

尚、眠り続けるハルイトに両側に立つラムとレムは顔を見合わせて、苦笑を浮かべる。

 

「姉様、姉様。兄様がなかなか起きてくれません」

 

「レム、レム。困ったわ、ハルが起きてくれないわ」

 

「どうしましょうか?姉様」

 

「そうね。………何か毛布でもかけて様子を見るとしましょうか」

 

「そうですね。流石姉様ですっ」

 

問いかけるレムにラムは腕組みをして、少し考えると意見を述べる。

 

「なら、レムが持ってきます。姉様は兄様が落ちないように見守っていてください」

 

「えぇ、任されたわ」

 

姉の意見を聞き、早速とレムが行動に移す。その背中が見えなくなるとラムはこっそりとハルイトの寝顔を覗き込む。

 

Zzzz……、むにゃむにゃ……

 

“可愛いわね……、これは……”

そこには想像以上の光景が広がっており、ラムの顔は知らぬうちに朱に染まっていくと同時に心拍数とだんだんと上がる。ラムも両腕へと頭をのけて、ハルイトの寝顔を堪能する。

 

「ハル。ラムはハルを愛してるわ」

 

誰に言うでなく、自分へと言う。胸元へ手をおけばドクンドクンと脈だつ心臓。締め付けられるようなこの感じ。

 

「えぇ、愛している。この愛おしさはレムにも負けないわ」

 

目の前のこの少年をこんなに愛おしく思う日が来るとは思わなかった。だって、常にラムの恋心は一人のピエロのような青年に占領されていたのだから。しかし、いつの間にか その硬く閉じられた鉄の心のドアをこの少年はゆっくりもゆっくりと留め具を外して入ってきた。入ってきたと思ったら、みるみるうちにラムの心を支配し、あの日の約束のようにラムを振り向かせたのである。

 

「……。もう少し見ていたいけど、そろそろレムが帰ってくるわね」

 

残念そうな顔をして立ち上がったラム。まさにその瞬間にレムが両腕に毛布を抱えて、帰ってきた。

 

「姉様、毛布を持ってきました」

 

「えぇ、ありがとう、レム。レムがかけてあげるといいわ」

 

「はい、姉様」

 

レムはハルイトへと毛布をかける。その際に見えた寝顔に笑顔がこぼれる。それと同時にドクンドクンと脈だつ心臓の音に、改めて目の前で眠る少年を愛している、好きと思う。最初は少年を姉から離したいと思った。しかし、今は違う。正直、姉へ向けられている視線をもう少し此方へと向けてくれてもいいではないかと思うこともある。でも、そんな嫉妬がどうでも良くなるほど少年はレムを大切に思ってくれる。愛の言葉も照れながらではあるが囁いてくれる。助けが欲しい時、姉ではなく自分を頼ってくれる。そのどれもが何よりもかけがえのないものであり、レムが大切にしたいと思う少年とのやりとりである。

 

「それでは、姉様、レムたちも寝ましょうか」

 

「えぇ、そうね。寝ましょうね、レム」

 

顔を見合わせて笑い合う少女たちは其々右側と左側へと分かれて、椅子へと座った。そして、視線で合図してーー

 

「おやすみなさい、兄様」

 

「おやすみ、ハル」

 

ラムは頬へと、レムは赤い髪をのけてオデコへと。

 

 

 

ーー習慣になったおやすみのキスを行った

 

 

 

ゆっくりと唇を外した少女たちは微笑み合い、恋人のマネをして眠りについた……

 




この小話を書いた理由はーー
読者の皆さんに更新がいつも遅いので迷惑をかけているお礼。

単に作者がテレるラムさんが見たかっただけです(笑)

テレるラムさんがどうだったか感想を書いてくださると嬉しいです!
では!!


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どうやらラムはハルにあーんをしてあげたいらしいです

この本文は【評価者30人突破】を記念に書いたものです。大変遅くなりましたが、甘々な雰囲気が漂っているを作れたと思うのでどうかご覧下さい。

※甘々なラムさんがこの本文に登場します。こんなのラムさんではない、ラムさんはこんなんじゃないと思われる方は読まれないことをお願いします。


「…」

 

「………」

 

赤い髪を短く切りそろえている少年・ハルイトは恐る恐るといった様子で、目の前に座る桃色のショートボブが似合う少女・ラムの表情をチラチラと確認している。

“ぅう〜っ、下手に怒鳴られるよりも怖いんだけど……”

そう、ラムは目の前に正座しているハルイトをにこやかな表情で見つめている。

 

「………え〜ぇと、ラムさん……?」

 

「……」

 

にこやかな表情が強張るのを感じて、ハルイトはヒィ〜と竦む。そして、腕を組み出すラムを見上げて、もう一度声を掛ける。

 

「ラム」

 

「何?ハル」

 

凛々しくも幼さが残る声音が鼓膜を擽るのを感じて、ハルイトはふぅーと張り詰めていた息を吐くと、床に頭をくっつけた。

 

「本当にごめん、ラム。大切なデートなのにすっぽかすみたいな事しちゃって。ラムが怒るのも分かるし、俺が悪いことも自覚してる。でも、これだけは信じて欲しい。俺もこのデートの事楽しーー」

 

「ーーハル。ハルは何か勘違いをしているわ」

 

「えへ?」

 

床に頭をくっつけながら、謝り続けるハルイトにラムは穏やかな表情でその謝罪の言葉を遮った。その言葉にハルイトは思わず、鳩がはと鉄砲を食らったような表情を浮かべる。そんな間抜けな表情を浮かべるハルイトを見て、クスっと笑うラム。

 

「真剣な表情も凛々しくていいけど、そんな表情も可愛らしくて……ラムはますますハルを愛おしく思うわ」

 

「……うん、俺もだよ……って、そうじゃなくてっ!俺、デートに遅れたんだよ!もっと怒っても……」

 

頬を染めて、そんなことを言ってくれるラムにハルイトは余りの破壊力に呆然としつつも、今はハルイトにデレデレなラムへとツッコミを入れる。そんなハルイトにラムはキョトンとしている。

 

「ラムはそんな事では怒らないわ。ラムにとって、ハルが全てなのだから。そんなハルの行いを何故、怒らなくてはいけないの?」

 

ラムのその発言にハルイトは苦笑を浮かべると

 

「でも、それじゃあ俺の気が済まないよ…」

 

「ハルは相変わらず生真面目なのね、そういうところもラムは好きよ」

 

照れたようにそう言うラムにクリティカルヒットしながら、ハルイトはブンブンと顔を振る。

 

「俺もラムの事は好きだよ。でも、それとこれは違うと思うんだ。だから、今から一つだけラムの言うことを聞くよ。あっ、もちろん、デートはまた違う日にするから」

 

ハルイトのその言葉にラムは困ったような表情を浮かべると、うーんと考えると前を向き、ハルイトを見た。

 

「それなら、ハル。ラムに……させて?」

 

「えへ?」

 

ハルイトの間抜けな声が部屋に響き渡った。

 

 

τ

 

 

「はい、ハル。あーん」

 

「あーん。むぐもぐ」

 

差し出されるスプーンに、大きな口を開けて迎え入れる。途端、口に広がる甘味にハルイトは頬を緩める。そんなハルイトを見て、頬を更に朱色に染めたラムを見て、ハルイトが頬を染めるという出来事が起き、二人が醸し出す甘酸っぱい雰囲気に周りは其々の反応を現しつつあった。

 

「ふふふ、ハル、美味しい?」

 

「あぁ、美味しいよ。こんな美味しいの初めて食べた。ラムも腕を上げたね」

 

「本当に?嬉しいわ」

 

「本当に美味しいよ。嘘だと思うなら、ラムも食べる?ほら、あーんして」

 

「あーん。もぐ……ん、本当に美味しい」

 

「でしょう?前に作った時と何が違うのかなぁ〜」

 

「それはラムのハルへの愛情の量よ」

 

「ッ!そっ、そっか……」

 

「えぇ、そうよ」

 

満面の笑みで尋ねてくるラムにハルイトも笑みを浮かべて、答える。二人が作り出す桃色のオーラを、遠く見ていた屋敷の人達の反応は三者三様だった。

黒髪を上へと持ち上げている少年はまた始まったかと溜息をつき、その黒髪の少年の傍らに居た美しい銀髪を背中へと流している少女は二人のやりとりに頬を染めながらもチラチラと二人を盗み見ていた。長い藍色の髪を持つ青年は微笑ましげに二人を見て、クリーム色の巻き毛をツインテールにしている少女は黒髪の少年によって目隠しされていた。理由は教育に悪いから、らしい。青髪をショートボブにしている少女は桃髪の少女を羨ましそうに見ながら、次は自分が赤髪の少年にしようと決意をしたらしい。

しかし、そんな周りの様子に気づかないで、二人の世界を作り出しているハルイトとラムのじゃれあいは暫くの間続くのだった……




L・M・T(ラムさん・マジ・天使)!!
L・M・Tっ!
L・M・Tっ!
L・M・Tっ!
L・M・Tっ!
さぁ、皆さんも一緒に!!
L・M・Tーー!!!

はぁ〜ぁ、ラムさん……可愛いですね……


※甘々ラムさんの感想を出れば、宜しくお願いします!


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ヤンデレラムさんっ♪その①

ヤンデレを履き違えているかもしれません!!そして、これは完全にお遊びですので、気分を悪くした方、本当にすいません(汗)
真面目なものが思い浮かばず、こんな感じになってしまいました……



※注意※
面白くする為に登場人物の性格を多少いじっています



ので、こんなにラムさんみたくないと思う方はこの回は見ずに飛ばしてください。よろしくお願いします!

※これは【感想50件】を超えたのを記念に書いたものです!


〜もし、ハルがメイド姉妹とお風呂場で鉢合わせてしまったら〜

危険度:★★★★☆

愛情表現度:★★★★★★★★★

 

 

 

 

ハルは一人、着替えを持ってお風呂場に向けて歩いて行っていた。そして、お風呂場へと辿り着き、脱衣所の扉を開けた時だった……

 

「ふぅー、今日も疲れたし……お風呂に入って疲れを…ーー」

 

ガラガラと扉を開けた先には一糸も纏ってないあられもない姿を晒している同年代の二人の少女の姿があった。

 

「「……」」

 

少女達も俺の侵入に戸惑いの表情を見せる。俺も必死に顔を逸らそうとするが男の性というのは辛いもので、瓜二つの顔立ちをしている少女達の違う所を自然に見つけようとしてしまう。人生で初くらいの高速スピードで横に並ぶ二人の少女の姿を見比べる。

可憐な顔つきは二人とも同じで、驚きでまん丸にしている瞳は右側が薄紅色で、左側が薄青色である。水気を含んだ艶っぽいショートボブは桃色の髪はタオルに隠れており、水色の髪はポタポタと胸元で縛られているバスタオルへと水滴を落としていた。その水滴を辿って、視線がいくのは水色の髪の少女・レムちゃんの年相応より一回り……いや、二回りほど大きく実った胸元でーー

ゴクン

そんな生唾を飲み込む音がこんなに大きく聞こえたのは初めてだ。もちろん、彼女の胸元には自然と視線が行ってしまいがちだったが、まさか脱いだら、こんなにも大きかったとは……

 

“お母さんっ、お師匠っ!俺、生きてて良かったですッ!!”

 

心の中で高速土下座を二人へと捧げているとふと、緑色のカッターみたいなものが飛んでくるのが見えた。ギョッとして、慌てて尻餅を着くと真っ二つに割れる脱衣所の扉に震え上がる。ガラガラと震えながら、後ろを振り向くとそこには不自然な程にニコニコとした笑みを浮かべているラムさんの姿がーー

 

「……」

「ねっ、姉様……兄様が怯えております……」

 

レムちゃんもラムさんから溢れ出すどす黒いオーラに怯えながら、ラムさんを止めようとしているがラムさんは聞く耳を持たずにふらぁ〜ふらぁ〜と俺にゆったりと近づくと右手を振り上げて、風の刃を俺へと放ってくる。

 

「エルフーラ」

「ちょっ、ちょっとタンマ!タンマ!ラムさん、一旦タンマ!お願いだから落ち着こう、ねぇ?」

「……」

 

右手を再度振り上げようとしていたラムさんを何とか止めて、理由を何とか聞き出そうとする。

ラムさんは暫く、考えるとポツンと何かを呟いた。

 

「OK!よし、ラムさん…何で、俺殺そうとしているか。ご説明をお願いします」

「……しょう?」

「はっ?」

 

ポカーンとしてる俺にラムさんは感情が凍結した大きな瞳で、ラムさんはレムちゃんへと振り返り、レムちゃんはそんなラムさんにピクッと肩を震わせる。

 

「ハルはラムの胸よりレムの胸が好きなんでしょう?

だから…ハルを殺して、ラムも一緒に死んで生き返ったら……ハルが望む巨乳に生まれ変われるかと思って……ダメだったかしら?」

 

可愛らしくキョトンと首を傾げる姿は本当に可愛らしいが、俺を見つめる瞳はその発言が冗談で無いことを告げている。

俺は冷や汗をかきながら、高速で右手を横に振る。

 

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤッ‼︎そんな事出来ないからっ!?それに俺はラムさんのそのままの姿が好きなんだよ!巨乳のラムさんとか……その、想像付かないし……飾らないラムさんが俺は好きだからッ!だからーーぐぶっ!?」

 

溝うちに身体が曲げながら、万力の力で抱きついてくるラムさんの言葉に意識が遠のきつつも頷く。

 

「それって、レムよりもラムが好きってことよね?」

「あぁ、好きだ。愛してるよ」

「本当の本当?本当に巨乳じゃなくてもいいの?」

「うん、ラムさんはラムさんのままで魅力的だよ」

「嬉しいわ、ハル」

「喜んでもらえて嬉しいよ、俺も」

 

スリスリと顔をすりつけてくるラムの頭を撫でながら、俺はついに意識を失ったのであった……




というわけで、その①終わりです!

もし、このコーナーが好評であれば、その②も書きたいと思うので感情などをよろしくお願いします。

そして、一つ質問なんですが……ヤンデレってこんな感じですか?履き違えて……ないですよね?(汗)


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Valentine Special STORY 【2/14記念】

バレンタイン発祥地とされる欧米や外国では、男性から女性へ花を贈り物として渡して、愛を伝えるという習慣が一般らしい


ということでーー


このリフラのバレンタインはハルから二人へと花を贈る話となっております。

※バレンタインということで、二人のデレさも緩和しておりますので普段、彼女達が取らないであろう行動を行っても「バレンタインのせいなんだぁ〜」的な感じまで流してください(礼)


俺はベッドから起き上がると、カーテンを開き、部屋に朝日を取り込む。

 

“ふぅ〜、ついに来てしまったな…”

 

大きく深呼吸をして、引き出しから大切な二人に送るために作ったあるプレゼントを取り出す。其々の髪の色で分けられた小さな袋を執事服のポケットへとしまい込み、心臓へと手を上げると、まだ緊張からかドクンドクンと脈打っている。

そんな心臓の音を聞いていると、やはりやめてしまうかという弱気な気持ちになってしまうが、また大きく深呼吸して、弱気になりそうになる気持ちに喝を入れる。

 

“何のために、今まで準備してきたんだ!俺!!”

 

この2月14日を最善の状態で迎えるために、これまで多くの事を準備してきた。このプレゼントを作るまでにこっそり一人で街まで買い物へ向かったり、取り寄せたりと頑張ってきたものだ。二人にバレそうになった事、数知れず…その度に何とか誤魔化しきり、ついにきたこの本番で怖気付いてしまったら、これまでの準備が泡になることだろう。

 

“よっしゃ!いくぞ!!”

 

心の中でガッツポーズを作り、俺は颯爽と仕事場へと向かった……

 

 

τ

 

 

2月14日。

この日がこんなに勇気が必要となる日であったとは思いもしなかった。

 

“本当、世の女性達には頭も上がりませんわ…”

 

赤く癖っ毛の多い髪を掻きながら、すっかり仕事の新しいパートナーとなりつつある青いショートボブヘアーの少女を盗み見る。真剣な眼差しで窓拭きを行う少女はこの後もずっと予定で埋まっている。そんな多忙な彼女の隙を見つけて、本当にこのプレゼントを渡せるだろうか?そもそも、こんなもので喜んでくれるだろうか?

 

“あぁーァ〜〜ッ!!!ダメだ、考え出したらドツボにハマる”

 

元の世界では貰うばっかしだった俺だが、よもや異世界でこのようなことをしようと考えつくとは思いもしなかった。

 

“我ながら…乙女チックな事で……”

 

おでこに右手を添えて、下を向くと薄青色の大きな瞳が俺の顔色を覗き込んできた。続けて、幼い感じが残る愛らしく鈴の音のような声音が鼓膜をくすぐる。

 

「兄様、お疲れなんですか?ここはレム一人でも大丈夫ですので、少しお休みになられてもーー」

 

「ーーうんうん、大丈夫だよ、レムちゃん。心配かけてごめんね」

 

「しかし、お顔が優れないように思われます。それにいつもよりもボゥーとされているように思われます」

 

俺がニッコリと笑ってもなお、心配な顔を浮かべる青髪の少女ことレムちゃん。

 

「少し考え事をしてたからだよ、本当にレムちゃんは心配なんだから」

 

今だに俺を心配そうに見つめるレムちゃんの視線から逃れるように仕事を片付ける。

 

“まぁ、うだうだ考えてても仕方ないよな……。なるようになるさ”

 

その後は吹っ切れたように仕事へと打ち込んだ俺は時間を忘れて、全ての仕事が終わった時はもう日は落ちており、辺りを藍色と真っ黒い闇が包んでいた…

 

 

τ

 

 

私服へと着替えた俺はまずレムちゃんの部屋へと向かった。

コンコンとノックをする。すると中から「はーい」という声が聞こえる。

 

「レムちゃん?俺だけど…入っていい?」

 

「兄様ですか?」

 

扉を開けて、ひょっこりと顔を出したレムちゃんは慣れぬ緊張感から変な笑みになる俺を不思議そうな顔で見た後、部屋へと入れてくれた。

 

「その……兄様、レムに用事とは…?」

 

肩にかかる所で切り揃えている青髪をフワリと揺らして、振り返ったレムちゃんは普段の肩や胸元が露出しているメイド服姿とは違い、ゆったりと身体のラインを隠す水色のネグリジェを着用している。

 

“あれ?レムちゃんのメイド服以外の姿ってこれが始めて……なんじゃあ……”

 

そう意識してしまうと、ドッと嫌な汗が溢れ出してしまう。そして、心なしかさっきまでは全然気にならなかった女性の部屋独特の甘い香りが鼻腔を擽る。

そして、そればかりかレムちゃんが恥ずかしそうに上目遣いで俺の反応を盗み見ている仕草に俺の理性と思考のメーターはMAXへと安易に達し……

 

“おおおおお、落ち着け、おおおお俺…ししし深呼吸、ししし深呼吸。ふーはーふーはー”

 

テンパりつつある思考を何とか、深呼吸で落ち着かせ、ポケットからレムちゃんと同じ髪の色となる青色の包みをレムちゃんへと手渡す。

 

「兄…様?これ……は?」

 

戸惑いを全面に出すレムちゃんに、俺は一言だけ言う。

 

「開けてみて」

 

「………」

 

震える声でそういう俺に困惑しつつもレムちゃんは丁寧に包みを括るリボンを解いていく。そして、中に収まっているあるものを取り出して……目を丸くした。そのまま、掌に乗っけると俺を見つめてくる。

 

その掌の上には

 

 

 

ーー青色の忘れな草と淡い紫色が綺麗な菫のグラネーションが美しいコサージューー

 

 

 

が鎮座してある。

 

そんなレムちゃんに俺は赤く癖っ毛の多い髪を撫でると、照れたようにはにかんで、レムちゃんの掌に乗っかってあるものの説明をする。

 

「俺の世界ではね、二月十四日になるとチョコレートっていうお菓子を送って、異性に愛の告白をするという風習があってね…。

流石にチョコレートじゃあ、かっこ悪いから…俺の世界にある花をモチーフにコサージュっていうのを作って見たんだけど…どうかな?」

 

恐る恐るレムちゃんの様子を盗み見てみると、きめ細かい白い肌を流れる透明な雫に俺は違う意味で慌てる。

 

「なななっ、なんでッ、レムちゃん泣いてッ……あっ、もしかして嫌だった!?なら…捨ててもらってもーー」

 

「ーーふふ、違うんですよ…兄様。この涙は嬉しい涙です…」

 

ほっそりした指先で涙を拭き取りながら、慈愛に満ちた笑顔で俺を見つめてくれる。

 

「とても嬉しかったんです…今までこれ程、嬉しい贈り物をレムはもらったことがありませんでしたから…。兄様の思いはこのコサージュを見るだけで伝わってきます…。

……レムは…こんなにも兄様に愛されていたんですね……」

 

最後に囁かれた言葉に頬を朱色で染めながら、再度レムちゃんを見る。すると、レムちゃんは俺へとコサージュを渡す。

 

「兄様、レムに付けてくれませんか?」

 

「うん、いいよ」

 

レムから青い忘れな草と菫のコサージュを受け取り、無難なところへと付けてあげる。すると、レムちゃんはクルッと回ると俺へと問いかけてくる。

 

「どうですか?兄様、似合っておりますか?」

 

「ん。すっごく似合ってる、可愛いよ」

 

「かっ、可愛い…、そんなお嫁さんに欲しい程可愛いなんて照れてしまいます…」

 

「あはは、喜んでもらえて嬉しいよ」

 

レムちゃんのいつもの暴走に苦笑いを浮かべて、部屋を出ようとしたその時ーーグイッと袖を後ろへと引っ張られ、後ろへと振り返った俺の唇へと柔らかい感触が広がる。

 

“!!????$¥€*〒%〆×+¥$?????”

 

部屋に入った時よりも数倍酷いパニックに陥りながら、俺はその柔らかい感触が離れるまで目を白黒させていた。

 

「ん…」

 

時間が止まったみたいに思えた瞬間はレムちゃんが漏らしたやけに色っぽい声によって、再度動き出す。

 

「レムに出来るお返しは、これが精一杯ですから…」

 

ゆでダコのように顔を真っ赤に染めながら、そう言うレムちゃんに此方も負けないくらい真っ赤になりながら…

 

「うん…ありがとう。その……ご馳走様?」

 

と訳のわからない返事をしながら、ラムさんの部屋へと向かった…

 

 

τ

 

 

「遅いわ」

 

ベッドで足を組んで、腕を組んで、不機嫌な顔つきを隠そうともしない桃髪を肩にかかる所で切り揃えている少女ことラムさんに、俺は頭を抱える。

 

「そのごめんなさい…前の用事が長引いちゃって…」

 

「ハルはラムと過ごす時間よりもそっちの藪用の方が大事というの、そう……死になさい」

 

「いやいやいやいや、意味がわからないから!?前の文章とも合ってないから!!」

 

俺のツッコミにもいつも通り、「ハァッ」と鼻で笑うラムさんの服装はレムちゃんが着用していたネグリジェの色違いを着ている。此方は、部屋を訪れるたびに見ているため、レムちゃんの時のような動揺はしない。

ラムさんは俺が必死でつっこむところを見て、満足すると自分の横をトントンと叩く。そこへと当たり前のように腰掛けながら、ポケットからラムさんの髪の色と同色の包みを取り出し、ラムさんへと差し出す。

 

「はい、ラムさん、これ」

 

「ハル、何なの?この紙は」

 

その包みを面倒くそうな様子で見ているラムさんに、頭を抱えながら、頬を描く。

 

「いや……紙って…。俺からラムさんへ贈り物、開けてみて」

 

「………」

 

リボンを解き、ラムさんが取り出したのは、レムちゃんと同じコサージュだった。しかし、デザインが違う。

 

 

ーー桃色の忘れな草にオレンジのパンジー ーー

 

 

となっている。

 

それを見ながら、俺はさっきレムちゃんに行った説明をする。するとラムさんは暫し、コサージュを眺めているとふいに胸元へと付ける。そして、俺へと向き直ると

 

「どう?ハル、ラムに似合ってるかしら?」

 

「うん、ラムさんの魅力を更に引き立ててると思うよ。流石、俺だね!!」

 

自分の見立てに自画自賛していると、その得意げな顔がうっとおしかったのか、ラムさんがコサージュへと手を伸ばしかける。

 

「白々しいわね、外そうかしら…」

 

「うわーーッ!!?ごめんなさいッ、ごめんなさいッ!!調子に乗りました、なので付けていてください!」

 

必死に頭を下げる俺にラムさんは得意げな鼻を鳴らすと

 

「そこまでハルが言うのなら、付けていましょうか」

 

「本当、ありがとうございます!ラムさん!!」

 

再度、感謝の意を伝えた俺はラムさんの隣へと腰掛け直すと、コサージュへと視線を向けていたラムさんがポツンと呟いた。

 

「でも、花を送るって…やっぱりハルは女々しいわね…」

 

「うぐッ……生身の花ってわけじゃないんだよ、ラムさん…」

 

だんだんと小さくなって行く俺の声を遮るように鼻で笑ったラムさんは

 

「花は花でしょう?それに変わりはないわ、それとその花をここまで精密に再現するハルが女々しいってことも」

 

「………もう、その通りでございます…ラムさん。俺は女々しくて頼りない男です……」

 

落ち込む俺にラムさんはボソッと何かを呟く。しかし、その呟きは余りにも小さかった為、俺には聞き取れなかった。

 

「………言い過ぎたかしら。ラムはどんなハルでも好きなのだけれども…」

 

しかし、心なしか、頬が赤く思えるラムさんはそろそろ退散しようとする俺を呼び止める。

 

「ハル、待ちなさい」

 

「はい、何ですか?ラムさん」

 

振り返った俺に目を閉じろと言ったラムさんの言うとおりにした俺に再度衝撃が走る。

 

唇にまたしても感じる柔らかい感触に、俺はまた目を白黒させる。

 

それが前の時と同じくらい続いた時、某然とする俺の背中を蹴飛ばして、廊下へと放ったラムさんの行動と気持ちが俺には正直、全然分からない……

 

“まぁ…、いいかぁ…。無事、二人に渡せたし…”

 

 

 

 

 

こうして、俺の異世界生活で初めて行ったサプライズは成功に終わったのだった……




忘れな草の花言葉・・・【私を忘れないで】【真実の愛】

菫の花言葉・・・【謙虚】【誠実】【小さな幸せ】

パンジーの花言葉・・・【もの思い】【私を思って】


との事です。



どちらもレムちゃん、ラムさんにぴったりだと思いませんか?


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真実は小説よりも奇なり その①

【お気に入り登録100件突破】を記念して書いた話です。

この話は、レムちゃんとラムさんが入れ替わったどうなるのかなぁ〜と思い書いたものです。少しだけネタバレ要素も含むので、読まれる時は何処かネタバレなのかな?と思って読まれるとより一層楽しめるかと、思います!




俺の朝の訪れは、優しい揺さぶりと慈愛に満ちた幼さの残る可愛い声によって知らされる。次第に強くなっていく揺りと、愛おしく思う愛らしい声音によって、ゆっくりと眠りの海から海面目指して登っていく…そして、ゆっくりと重たい瞼をあげるとそこには頬を朱に染めて、可愛らしく微笑む青髪の少女が居てーー

 

ーーそれが俺の変わらない日常であり、それは変わらずにこれからも続くものだと信じていた…いや、今でも信じている…だが、真実は小説よりも奇なりとは本当によく言ったものだ。

 

だって、俺は朝のあの出来事から数時間が過ぎているのに…今だに目の前の光景に慣れないのだから……

 

 

τ

 

 

「…いさま」

 

ゆさゆさと優しい手つきで身体を揺さぶられ、俺はゆっくりと覚醒へと導かれていく。

 

「兄様、起きて下さい。朝ですよ」

 

次第に強くなっていく揺さぶりに、俺はゆっくりと瞼を開けて…ぼやける視界の中、目をこすりながら起き上がった俺は頭の中でいつも起こしに来てくれる青髪の少女の事を思い浮かべていた。

 

「………ん」

 

「あっ」

 

“…また、レムちゃんに起こしてもらっちゃったな…。本当に、いつもいつも申し訳ない。これで〈兄様〉なんて呼んでもらってるんだもんな…、これじゃあどっちが上か、わかんないなぁ…。

まぁ、好きな女の子に起こしてもらうなんて…男冥利に尽きるんだけど……

そこだけは、寝坊助で良かったって思うんだけどね”

 

自分の不甲斐なさとそれによって得られる幸せの狭間で、俺はこの朝に弱いという弱点を直すべきか悩む。しかし、まず俺は起こしてくれた青髪の少女へお礼を言うべきだろうと思い、指定位置の左横へと視線を向けてーー

 

「おはようございます、兄様」

 

「ん……おはよう〜、レムちゃーーん?」

 

ーー目を丸くして、俺は固まった。

下から視線をあげていくと、まず目に付くのはほっそりした両脚を包み込むガーターベルト付きの純白の靴下だろう。その上には、白いフリがついた黒いスカートが続き、白いエプロンが括れた腰へと巻きついている。その更に上には、ぱっくりと胸元が空いたメイド服が続く。

改造されただけあって露出度が半端ない。まぁ、一つだけ言えるのは、間違いなくこの改造メイド服は着る人を選ぶであろうということだろうか…。

で、その着る人を選ぶ改造メイド服を見事に着こなしている双子の姉妹は、顔つきや身長などが瓜二つというくらいに似ている。

しかし、そんな瓜二つの二人だが…二人を間違えることは限りなく少ないだろう。その理由をあげるのであれば、まず、髪の色と瞳の色を指摘するだろう。

俺が世界で一番愛すると誓った少女の髪の色は桃色で、大きな瞳は薄紅色だ。そんな少女と同じくらい好きになった少女は青色であるし、大きな瞳の色は薄青色で間違う余地もない……無いはずなのにーー

 

「どうかされましたか?兄様。もしかして、具合でも悪いんですか?」

 

「………」

 

ーー俺を心配そうに見つめる大きな瞳は、予想に反して〈薄紅色〉をしていた。某然とした様子で、視線を上へとあげると当たり前のように、さらさらっと揺れる桃色の髪。

 

“なんで…”

 

「……なんで…、ラムさん?」

 

そう、俺の左横にいる少女はメイド姉妹の姉であるラムさんであった。

 

“今日は…ラムさんが起こしに来てくれたのかな?”

 

と思っていると、トントンとノックする音が聞こえて、ズカズカと俺の部屋へと入ってくる青髪の少女の姿が視界に入る。そして、青髪の少女・レムちゃんは俺とラムさんを腕を組んでみると、ラムさんへと視線を向ける。

その視線がいつもの穏やか眼差しでなく、鋭さを含むのは俺の寝ぼけ眼のせいだろうか?それに対して、左横にいるラムさんの眼差しが、普段の剣呑な感じではなく穏やかに思えるのも…夢または幻であってほしいと俺は願うが、その願いが叶うことはなかった。

 

「レム、ハルは起きた?」

 

“はぁ〜ぁ?レムぅ?”

青髪の少女が桃髪の少女に向けて、そう言い放つのを見て、俺は空いた口が塞がらない。

普段から彼女らが、一人称を自分の名前で言っているのは見慣れているが、その見慣れている光景とは明らかに違う異様な空気が流れていた。

そんな異様な空気に気づかない様子で、話し出すメイド姉妹を俺は驚きでまん丸な瞳で見つめる。

 

「はい、姉様。起きられたのは起きられたんですが、まだお寝坊さんみたいで…目をパチクリされてるんです」

 

「そう、これ以上レムとラムの足を引っ張るようなら…一発殴るか首を刎ねるかね。どっちがいいかしら…やっぱり、首を刎ねるほうがハルのお好みよね。早速、実行しましょう。レム、ハルを抑えててーー」

 

「ーーいやいやっ、暴力反対!!覚めた、目覚めたからっ!?それに、今ラムさん?の身体はレムちゃんだから!!」

 

俺は驚きから抜け出すと、高速で右手を横に振る。これ以上、話をそらせてはならないと本能が俺に告げる。

だが、そんな俺が気に入らない様子の青髪の少女は腕を大きく振り上げると、今まさに氷の槍を出そうとする。

 

「そう、なら氷漬けね」

 

「イヤイヤ。意味わかんないから!!」

 

「…」

 

「ラムさん、ラムさん。そこで何故そんな残念そうな顔をされるのか…俺にはラムさんのお気持ちが分かりかねるんですが…」

 

「ハァッ」

 

「……」

 

“この人…本当に俺の事好きなんだよな?”

 

小馬鹿にしたように鼻で笑う青髪の少女の中身が、完全に自分が異世界で初めに好きになった少女であると確信する。

あの戦いの後、俺に向けて好意を伝えてくれた桃髪の少女・ラムさんは俺を愛しているというわりに、あたりの強さが緩和する様子はない。

ラムさん曰く、俺を甘やかしすぎてもいけないと姉妹で話し合った結果、レムちゃんが飴と鞭の飴役で、ラムさんが鞭役との事だった。

確かに、その宣言通り、自分の役割を全うする二人だが…俺だって思うことがある。少しでいいから、鞭役を引き受けたラムさんも甘えてきて欲しいとーー

 

「何を惚けているの、ハル。早く起きないと、朝のお勤めに間に合わないわ」

 

ーーだが、現実は厳しく…今はこんな訳のわからない出来事が目の前で起きている…。

 

“もう…何が何だか…”

 

「わかんないよ…」

 

そんな軽いパニック状態の俺へと、変わらぬ奉仕を続けてくれる飴担当ことレムちゃん……いや、身体はラムさんなんだからラムさんなのか?

まぁ、とりあえずレムちゃん?にしておこう。

そんなレムちゃん?が、濡れタオルを俺へと差し出してくれる。それを受け取った俺は、顔を拭うとレムちゃん?へとお礼を言う。

 

「兄様、どうぞ」

「えっ、あっ…うん……ありがとう、レムちゃん?」

 

「どういたしまして。ですが、何度も言っているようにお礼は要らないんですよ。

レムは兄様のお役に立てるだけで幸せですので」

 

本当にそう思っているらしいレムちゃん?は、いつもは鋭さを前面に出している薄紅色の瞳を柔らかいものへと変える。頬を淡く朱に染めながら、クネクネと嬉しそうに揺れる。

そんなレムちゃん?を見て、俺は複雑な気持ちを抱きつつ苦笑を浮かべる。

 

「うん、もっと他にも幸せを感じようね〜。まぁ、そう言いつつ、レムちゃんに甘えってばっかなんだけどね…」

 

「えぇ、そうね。ハルはレムに過ぎだわ。

兄様なんて呼ばせているくせに、兄らしいこと一つ出来ないなんて…ハルの無能さにラムは頭を抱えるわ」

 

と此方も通常運行のラムさん?は、いつもは柔らかな光を讃えている薄青の瞳へと凍え死にそうなくらい冷たい視線を俺へと向ける。

 

“あはは…、鞭担当も変わらぬ切れ味で…”

 

「うん、ラムさんにそう言われるのは筋違いと言いますか…」

 

苦笑を浮かべる俺に、ラムさん?はもうこれ以上は付き合わないっていうように、ドア向けて歩いて行く。そして、ドアをあげると、こちらを見ることなく、レムちゃん?へと指示すると颯爽と部屋を後にした。

 

「まぁ、ハルの戯言なんていいわ。これ以上、待たされたら、ラムは眠たくなるし…先に仕事へと向かうわ。レム、ハルの着替えを手伝ってあげなさい」

 

「はい、分かりました、姉様。兄様、右腕を此方へとーー」

 

「早っ!?」

 

ラムさん?の指示の数秒後には、俺の仕事着を手に持ったレムちゃん?が俺の隣にスタンバっていた。その閃光の如き動きに、俺は目を丸くしてつっこむ。

が、キョトンとしたレムちゃん?ーーキョトンとした表情を浮かべるラムさん(外見)に思わず心を奪われ、撃沈。

 

「?」

 

「……」

 

“中身がレムちゃんってことは分かっていても…、外見がラムさんだからな…”

そう、だから、俺がドキドキすることは仕方が無いことなのだ。だって…普段は表情に乏しいラムさんが、こんなにも分かりやすいリアクションをとってくれるのだから。

そんなレアラムさんに見惚れていたら、レムちゃん?が心配そうに見つめてくる。

 

「兄様…?本当に大丈夫ですか?」

 

「あぁ、うん、大丈夫だよ。それより着替えだよね…」

 

「はい、此方へと右腕を通してください」

 

「がってん」

 

そして、ロズワール邸 メイド姉妹入れ替わり事件は幕を開けたのだった……




二話へと続く…


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☀︎やらかしてしまった未来ーレム編ー

まぁ、タイトル通りの話です。

そして、また数ヶ月休んでしまってすいません…(汗)

出来る限り、今年中に第1章とその後にあるラムさん章を終わらせてしまう予定です。その前に、ずっと更新できなかったお詫びという事で…二つの話を『特別で章』へと更新しようと思ってます。
一つが今回の話。次の話は、少しネタバレ話となっております。

そして、どっちもメインヒロインはレムさんとなってます。

なので、この小説を読んでいただいている読者のみなさんの中にいらっしゃるラムさんファンの皆様は、少々不快な内容となっているかもしれないので…読む際はご注意下さい。

では、本編をどうぞ!


*お気に入り912名!評価者59名!感想も多く頂き、本当にありがとうございます!!

また、久しぶりに書いたので…読みにくいかもです…


アーラム村からロズワール邸へと向かう帰り道。

二つの影が寄り添うように、歩幅を合わせて歩みを進めている。

さらさらと癖っ毛の多い赤髪を風に揺らして、ビッシっと執事服を着込む少年・ハルイトへと隣を歩く青い髪を肩まで切りそろえている胸元や肩を露出した改造式メイド服に身を包んでいる少女・レムが話しかけてくる。

 

「重くないですか?あな…ハルイトくん」

 

「ふっ」

 

「もう、なんで笑うんですか!ハルイトくんっ。レムは真剣に心配してるんですよ」

 

「いいや、ごめんって、レム。だって、今は二人っきりでしょう?だから、呼び方を変えなくたっていいのにさ。レムってば、律儀に変えるもんだから…おかしくって」

 

クスクス笑うハルイトは今だにプクーと頬を膨らませて怒るレムへと視線を向ける。

夕焼けに照らされた青い髪は茜色と混ざり合い薄紫色の柔らかい光を放ち、こちらを見ている大きな薄青色の瞳は不満そうな色を浮かべており、幼さが残る輪郭はプクーと膨らんでおり、更に子供らしい。

だが、そんな愛らしい顔つきと裏腹に、白と黒で作られている改造メイド服なるものから覗く胸元は年不相応に大きく実っており、歩みを進めるたびに上下へと揺れる。見事にくびれたウエストは今は〈大きく〉なっている。メイド服を内側から押し出すお腹の中に順調に実っていっている新たな命に思わず頬を緩めてしまう。

 

“あぁ…やっぱり、俺はレムを愛しているんだな…”

 

彼女の全てが愛おしく、狂おしい。今こうしている間もそんな気持ちでどうにかなってしまいそうになる。

初めて会った頃は、こんな気持ちになるとは思いもしなかった。

 

“…少しだけならいいかな?”

 

ハルイトはレムの紙包みを持ってない方の腕を引くと、彼女の桜色の唇へと自分の唇を押し付ける。

 

「…んっ」

 

びっくりして大きく瞳を見開くレムの唇を優しく慈しむように啄ばみ、私欲を満たしていく。

少しと見込んでいたキスの時間は数分にも達し、ゆっくりと唇を外した際、ハルイトとレムの間を透明な唾液の橋が架かる。

酸素が足りてないのだろう。ボォーとした表情と可愛らしい声音はハルイトを幸せにも、また理性を壊しそうにもなる蠱惑的な魅力を放つ。

 

「…ハルイ…ト…くん…?」

 

「今は二人きりなんだから…いつもみたいに、あなたって呼んでほしい」

 

その誘いを強く抱きしめることで我慢したハルイトは、耳元で囁く。

ハルイトの提案に渋るレムへと脅迫しようとするが、それは脅迫というよりもレムもしたいと思っていた事だった。

 

「ですが、今は…」

 

「言ってくれないなら、言ってくれるまでキスする」

 

「ふふ。それ、脅しになってないですよ、あなた。レムにとって、それはご褒美です」

 

「そっか…。脅しにはならんか…」

 

「はい、ならないですよ」

 

クスクス笑うレムにハルイトは頭をかくと、そんなハルイトへとレムが腕を絡めてくる。それを嬉しそうに受け入れたハルイトはレムから紙包みを受け取るとロズワール邸へと歩いていく…

 

τ

 

 

「たっだいまー」

 

「今、帰りました」

 

扉を上げて、屋敷へと入ったハルイトとレムへと小さな疾風が二つほど二人へと突進してくる。

それをレムに当たる前に抱き上げたハルイトへと、その疾風たちの後ろにいた黒髪を後ろへと持ち上げたような髪型をしている執事・スバルが愚痴る。

 

「たく、やっと帰ってきたか」

 

「よっ、スバル」

 

「よっ、じゃねーよ!!何時間かかってんだ!こっちは大変だったんだぞ!餓鬼どもの世話はしないといけねぇーし!姉様はだらけってばっかで何もしてくんねぇーし!俺、ハイパー頑張ったんだから!」

 

身振り手振り、今までの功績を言ってのけるスバルの話を半分以上聞き流しながら、ハルイトは抱き上げている我が子供達を改めて見る。

 

右腕に抱きかかえているのが、3歳となる長男・焔水(えんすい)で母親似の爽やかな青に父親似の癖っ毛の多い髪質をしている。顔つきは母親似で可愛らしく、性格もどちらかというと母親似の大人しい感じなので、ハルイトはふと心配になる。それはエンスイが、余りにもハルイトの小さい頃に似ているからだ。故に、ハルイトは物心がついた頃には息子が自分の二の舞にならないように鍛えようと考えている。そうすれば、少しは可愛らしい顔もかっこよくなったりはしないだろうか?

お嫁さん曰く、鍛えなくてもエンスイにはエンスイのいいところがあるので無理に鍛えなくても…とのことだったが、自分のように女々しい女々しいと言われるのは余りにも可哀想だと思うので、ハルイトはじゃれついてくる長男を見つめながら、強く思うーー必ず、かっこいい男へと成長させてやるからなっ!と。

 

もう一方の腕に抱いているのは、一歳となる長女・光水(ありな)である。父親似の赤い髪に母親似のサラサラな髪質、お兄ちゃんと違い、父親からの遺伝子が強く、どちらかというと彫りが深く美人な感じとなっている。そして、性格もどちらかというと父親似ということで、お兄ちゃんよりも暴れん坊となっている。

ハルイトもお嫁さんも性格が逆だったらいいのにというほどのやんちゃぷりで、ハルイトもアリナの世話はてんてこ舞いとなっている。なので、将来がすごく心配だが…まぁ、なるようになるだろうとアリナの場合は気楽に構えている。多方面から親バカなどと呼ばれるが、気にはしない。

 

そんな愛する我が子を見ながら、二人へと質問すると、その答えがすぐ後ろが聞こえてきた。

二人を抱えたまま、振り返ると呆れた表情を浮かべて、両腰へと両手を添えているお嫁さんと瓜二つな顔つきと服装をした桃髪のメイドさんが立っていた。

隣に静かに佇むお嫁さんと比べると暖かみのある色合いを持つ桃髪のメイドさんことラムさんだが、それがどっこい、その質はその色合いとは正反対で毒舌と絶対零度の如くで俺を凍えさす人だったりする。まぁ、もっと言えば、それ以上に思いやりに溢れた人だったりするのであるのだが…それは下のようなセリフにより、上手く隠されていたりする。

 

「お前たち、いい子してたか?」

 

「えぇ、 とてもいい子だったわよ。どっかの年中発情期の犬みたいに自分の嫁さんに襲いかかるような下卑た父お…いいえ、ハルと違って」

 

「うぐ…、ラムさん…。それは言いっこなしですよ…。それと言い直せてないですからね!それだと!!」

 

「わざと言い直したのよ。だって、事実でしょう?ラムの大切な妹をあんなにも弄んで、汚して…もう三人目を妊娠させているのよ?」

 

「…ほんとごめんなさい。これでも反省してるんです…」

 

確かに、ラムのおっしゃる通りでハルイトは絶賛、お嫁さんことレムを妊娠させている。しかも三人目と…これは、ラムが怒り心頭なのもうなづける。

 

「反省してるのなら、態度で示しなさい。晩御飯を作るわよ、ハル」

 

「…はい、ラムさん」

 

故はハルイトは項垂れながらも、ラムと共に晩御飯作りに精を出すのだった…。

 

もちろん、子供の世話はスバルに任せて…

 

 

 

 

 

➖オマケ➖

 

「エンスイ、大きな口を開けなさい。あーんは出来るでしょう?」

 

「…やっ」プイ

 

「エンスイ、これを食べないと大きくなれないわよ?」

 

ラムは癖っ毛が強い青髪を持つ幼児を相手に離乳食を食べさせていた。

傍らには妹のレムがいて、エンスイの妹となるアリナへと母乳を与えている。小さな手でレムの胸元を揉みながら、ごくんごくんと飲んでいくアリナをチラッと見て、ラムは口元を緩ませる。

そんなラムの視線を感じたのか、アリナを見ていたレムが顔を上げると駄々を捏ねる息子へと視線を向けると、ラムへと申し訳なそうな顔をする。

 

「…姉様、ごめんなさい。エンスイが我儘を言ってしまって…」

 

「いいえ、気にしなくてもいいわよ、レム。エンスイは小さい頃のレムによく似ているもの。懐かしく思うわ」

 

「そうですか?」

 

「えぇ、流石ラムの妹の息子だわ。きっと、早く大きく、立派に育つはずだわ」

 

「はい、姉様」

 

そんな妹へとラムは首を横に振るとエンスイが見せた隙を見て、小さなスプーンを口へとつっこんだ。

 

「…もぐもぐ」

 

エンスイがもぐもぐしている最中に零している離乳食をスプーンで掬ってやりながら、ラムは終始懐かしい気持ちになりながら、エンスイへと離乳食を与えていた…




ということで、絶賛三人目妊娠なレムさんなのですが…本当、どうしてこうなったのか…(汗)

また、久しぶりに書いた話がこれで良かったのか…?という気持ちを抱きながらも更新した作者な訳ですが…

ふと、今回みたいな話を浮かんでしまう時がありまして…作者がラムさんからレムさんへと心が揺らいでいる証拠なのでしょうか…(苦笑)
ラムさんがお母さんっていうのも…いいと思うんですがね…。ラムさんがどんな風にお母さんしてるのか、思い浮かばなくって…(汗)

そして、すごく今更なんですが…今回の話はifストーリーとなってます。なので、ハルイトがレムちゃん一筋なわけで…(汗)
オマケは溢れ出るラムさん愛が溢れでてしまって…、書いたものです…。ということは、まだ私はラムさんファンですね(笑)



さて、そんなことは置いといて、次回はネタバレが多く入った話となってます。
ので、読まれた方はそのシーンが本編のどこに入ってくるのか?
楽しみに見ていただけば、嬉しいと思います(礼)


そして…そして…機会があれば、今回のような話のラムさんverも書いて見たいなぁ〜とか思います。機会があれば、ですが…(汗)
あと、お母さんラムさんのイメージか固まればっ!


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プロローグ〜ストーリーフラグと攻略対象フラグに導かれる未来〜
零話『少年と少女達のファーストコンタクト』


駄作ですが、読んで頂けたら嬉しいです。
この小説は【無彩限のファントム・ワールド】の要素が多く入っています。
では、ご覧ください


フラグ

ーーその人の性格、苦悩、悩乱、煩悩、願望、本願そして運命、辿る人生が印されし旗。

その旗を見る事が出来るということはその人の運命も人生も変えてしまうということ、生も死も思い通りに操れるそんな畏怖の念すら抱く力を俺は持ってしまった。誰が俺にこの力を授けたのか分からないが、俺は元の世界に戻る為にこの力を振るおう。それがどんな結末になろうと……

 

τ

 

「くそッ!わけがわかんねぇ〜!!」

 

暗闇の中、俺は追いかけてくる犬達に理不尽さを感じる。靡く赤髪をうっとおしく思いながら 両腕両脚を懸命に動かしながら、白い牙を輝かせて時折飛びついてくる犬と攻防を繰り広げる。

 

「くそッ!意外と痛いし牙がギラついてるし涎ダラダラとか俺捕食されるの!?」

 

わけが分からないテンションでそう叫びながら、行き止まりに喉を鳴らす。ゆっくり振り返ると俺を囲む黒い犬達が姿を現していた。

 

「………ッ。やるしかないということか。師匠、不甲斐ない俺にどうか力を!」

 

目を閉じて、師匠の顔を思い浮かべる。

後ろで束ねられた金髪を揺らしながら、振り返る師匠の美しい顔を。振り返った振動でプルンプルンと震えるたわわに実った胸元を。

“こんな非常事態に師匠のおっぱいを思い出すとか、俺の性欲に嫌気がさす”

違う。今はそんな事よりもアレを思い出さなくては……。繊細な作りの顔を微笑で崩して、茶色い瞳を細めて 俺の赤い髪を撫でる。指を一本、立てた師匠は

『いい?晴糸。あんたに教えた《五行の氣》はね。其々に弱点があるの。水なら土、土なら木、木なら金、金なら火、火なら水といった具合にね。ここまで言えば分かるわよね?ほら、やって御覧なさい』

といってのけた。幼い俺は見よう見まねでそこに触れーー

 

パチと目を開けた俺はジワリジワリと距離を詰めようとしてくる黒い犬達を母譲りの赤いレイザービームを放つ。この異世界に召喚?されてから見えるようになった頭上の旗へと視線を向けた俺は小さく呟く。

 

「……こいつらの弱点は?」

 

黒い犬達の頭上に浮かぶ旗にはーー

【メラメラと燃え上がる紅と黄色のグラデーションが綺麗な炎】がプリントアウトされていた。

ーーということはこいつらの弱点は

 

「OK、水って事ね。ならっ」

 

腕をクロスして、服の上から腎臓へと触れる。ゆっくりと掌を撫で回す。瞼を再度閉じると水の氣を集めることに集中力を割る。

 

「五行万象を発生し、帥にして錘なる水の氣は火を吸い込む。腎の水氣で拳を満たさん。翠にして錐なる水氣は拳を満つ」

 

ゆっくりと目を開けると両手の甲に淡い水色の五行の氣が現れている。師匠直伝の構えを作りながら、近づいてくる犬達に一瞥する。

“かかってくるなら来いや!一網打尽にしてやる!”

という意も込めて。

 

「ガルルルゥゥ!」

 

「ハァアアアアアア!!!」

 

正面の黒犬がそれに挑発されてか、進み出てくる。そして、構えを取る俺の左肩を噛み裂こうと飛びかかってくる。その攻撃を冷静に観察して、身体をズラす事で避ける。その黒犬の白い牙がギラついている顎へとアッパーカット。その勢いに任せて、後ろの二匹の横腹へと回し蹴りをお見舞いする。派手に飛ぶ犬達を残る犬共が仇を打つみたいな紅い瞳で俺を睨んでくる。

“おいおい、マジかよ……”

構え直しながら、冷や汗を二つ三つ流す。

 

「さっきので戦意喪失というのが俺の理想なんだけど……。その殺意漲る紅い目はどういうことかな?もしかして、俺 選択間違えた?早くも」

 

「ガルルルゥゥゥ」

 

「そのガルルルゥゥゥって吠えるの、地味に怖いからやめて欲しいんだけど。マジでまだかかってくるのかよっ!?」

 

飛びかかってくる犬の顔面へと拳を埋め込んでから、後ろから不意打ちを狙う犬へと蹴りを加える。

 

「師匠や母さんに比べたら、俺もまだまだだがお前らの相手くらいは出来るんだよぉおおおお!!!」

 

いつの間にか、群がっていた黒犬共を片っ端から殴り飛ばしていたら、倒すまではいかないにしろ 気絶させる事は出来たらしい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

大量に氣を使い過ぎたらしい、肩で息をしながら この物騒な森から出ようと足を動かす。

 

「師匠……俺……頑張ったんだ……」

 

バタンッと鈍い音が森に木霊する中、俺は意識を手放した……

 

τ

 

「姉様、姉様。変な格好した方が倒れております」

 

「?」

 

妹に呼びかけられ、少女は手に持った紙袋と共にそちらへと振り返る。サラサラと風に靡く青色のショートボブを気にせずに薄青色の瞳に怪訝そうな色を浮かべて指差す少女は紙袋を持った少女の妹で名前をレムと言う。そして、そのレムに姉様と呼ばれた少女の名前はラム、言わずとも青髪の少女のレムの姉である。外見はレムと瓜二つである、身に纏っている格好も可憐な顔つきも同じである。違いと言ったら、レムの髪型と瞳が青系統なのがラムは赤系統なところと身に纏っている雰囲気が違うところだろうか。

ラムは妹が指差す方で仰向けに倒れている赤髪の男を一瞥する。暫し、考えてーー

 

「そうね。奇妙な服装をしてる女々しい男が倒れているわ。……。レム、お願い」

 

ラムの言葉にレムは“いいのですか?姉様”とアイコンタクトしてくる。ラムはそれに頷くとレムは赤髪の男へも近づくとその触れれば折れそうな細い腕で男を担ぐと小さな肩へとのけてしまう。

 

「ロズワール様にはラムから言うわ」

 

「はい、姉様」

 

紙袋をレムから受け取ったラムはそのまま、働き先の屋敷へと歩いていく。その後に男を担いだレムが続くのだった



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一話『桃髪の少女と奇妙な雇い主』

基本、2千文字を目標に書きたいと思います。今回はメインヒロインとなるラムの登場です。ラムの毒舌がちゃんと書けているか不安ですが、ご覧ください。


「ぅん?ここは……」

 

真っ白な天井、その天井に取り付けられたシャンデリア。その眩さに目を細めながら、起き上がる。目をこすりながら、辺りを見渡す。

“誰も居ない……”

ザッと見渡したが、人の気配は感じられない。

“しかし、本当に広い部屋だな……”

二十畳くらいありそうな掃除の行き届いた部屋。白光りするタイル、これ程大きな部屋なのに配置されているものが今 腰掛けているベッドしか無い。ふかふかのベッドは今まで愛用していたものとは明らかに格の違いを感じる。

 

「あら、目が覚めたようね。お客様」

 

ビクーンと肩を震わせて声がした方へと向き直ると、入り口と思われる所から一人の少女が此方の様子を伺っている。

肩までで揃えられた短い桃色のサラサラな髪。此方を見つめる薄紅色の瞳はスゥーと細められて、フッと微笑を浮かべる桃色の唇。適度に整った顔立ちにはまだ幼さが残る。

 

「………」

 

それ以上に桃髪の少女が身に纏っている服装に目を見張った。

“メイド服だ、と!?”

黒を基調としたエプロンドレス、頭の上にはホワイトプリムが続く。細い肩が露わになった特殊な改造メイド服。華奢な体のラインがはっきりと浮き出ていて、何処と無くセクシーである。

“〈メイド服〉

黒や濃紺のワンピースに白のフリがついたエプロンを組み合わせたエプロンドレスに白いフリルが付いたカチューシャを組み合わせた服装の事である。始まりはよく分からないが18世紀にはあったらしく、その頃の貴婦人達のファションブームにもなった。19世紀後半の米国では最初に触れたタイプのものはメイドの人が午後の仕事に着用するものだったらしく、本来であればメイド服というのは存在しないものだったが、『貴婦人が連れ立って歩いていたら、後ろを歩く女性(メイド)には声をかけてはいけない』というマナーがあったため、女主人とメイドを明確に区別するためにメイド服が必要とされたという説がある。他にもダニエル・デフォーという人が『女中はそれにふーー”

 

「ーーレムを連れてこなくて良かったと。ラムは今、お客様のいやしい視線を受けながら思うわ」

 

細められた薄紅色の大きめな瞳に嫌悪と憤慨(何に対してかは分からない)の色を大きく含んでおり、俺は困惑した顔を浮かべる。父譲りの残念知識を頭で流してたのは悪いと思うが嫌悪される程に彼女の姿を見つめていないと思うが……。それ故に俺は桃髪の少女にツッコミを入れる。

 

「ただ眺めただけでその反応!?」

 

「ラムのメイド姿を視姦してよく言うわ。あのまま、森に捨てていれば良かったとラムは自分の老婆心に嫌気が差すところよ」

 

肩を竦めて、此方を蔑む視線を送る桃髪の少女に俺は諦めたようにため息をつく。実際、彼女のおかげで助かったのだ。文句をいうものでは無いだろう。俺はベッドの近くまで歩いてきた桃髪の少女に頭を下げる。

 

「その老婆心のおかげで俺はここに居るわけね。取り敢えず、助けてくれてありがとう。それより、さっきレムって言ったよね?君のほかにもここで働いている子がいるの?」

 

俺の質問に意味深な沈黙で答えた桃髪の少女は俺を一瞥するとスタスタとドアの方へと歩いていく。

 

「………。はぁ……。着いてくるといいわ、お客様。この屋敷の主、ロズワール・L・メイザース様がお客様をお呼びよ。……なんでこんな女々しい男をここで働かそうとするのか、ロズワール様のお気持ちがラムは不思議でならないわ」

 

「おい!そこッ。着いてこいっていうわりにズンズン歩いて、お客様を置いてけぼりとかメイド失格と思わないのか!?俺の質問にも答えないし!それ以上に本音をチラリズムとかどうかと思うよ!?」

 

「煩いわね、お客様。レムの仕事の邪魔になるでしょう」

 

「うん、お客様より同僚が立場が上とかどうかしてんな!?この屋敷!」

 

「はいはい、早く来ないと置いていくわよ お客様。ラムだって忙しいんだから」

 

「くっ……、それを言われては何も言い返せないな……」

 

その後は黙って、桃髪の少女の後ろを着いて歩いた。

 

τ

 

「ロズワール様、連れてきました」

 

桃髪の少女に連れられて来られた部屋に入ると一つの人影が目に入る。椅子に座っているその人影は俺を見るとニッコリと笑う。

濃紺色の髪を背中に当たるくらいに伸ばし、左右で異なる瞳が俺を映し出している。線の細い体つきは此方が心配になるほど病弱で整った顔も青白かった。しかし、その身につけている奇抜なファッションやメイクは何なのだろうか?

 

「はじめまーぁしてだね。私はこの屋敷の当主、ロズワール・L・メイザース。君も黙ってないで名乗ったらどぉーだい?」

 

あまり想像していたよりも数倍個性的な屋敷の主に驚きが隠せない俺。

 

「………。あっ、ごめんなさい。俺の名前ですね。一条 晴糸(いちじょう はるいと)といいます」

 

絶句していた俺は瞬時に自分の置かれている状態を思い出し、頭を下げながら名乗る。ロズワールは俺の無礼には気にも留めてない感じで机の上に組んだ手の上に顎をのせると俺に微笑みかけながら、更に俺を驚かせる事をいう。

 

「ハルイトくんだぁーね。突然だけど、ここで働かないかぁーい?」

 

「へぇ?…………ッ!?」

 

驚く間も無く、ズキンと心臓が軋む。その痛みから冷や汗を流しながら、前を向くとロズワールの頭の上にひょっこり顔を覗かしている白い旗ーー

“ッ……こいつが原因って訳か……”

ーーそこには

【1と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】

が描かれており、俗に言うストーリーフラグというものだろう。ストーリーフラグとは物語を進めるために必要な分岐点が印されたフラグの事で、そのフラグが現れたということはーー

“俺はこのロズワールのお願いを聞き入れなければならないということか?”

ズキンと心臓が脈打ち、続けて現れる白い旗。

【ロズワールに跪く赤髪の中性的な顔立ちをした少年】

がプリントアウトされた旗に俺は困惑する。その旗に印された少年は間違いなく俺だろう。その俺がロズワールに跪いているということは

ーー忠誠を誓えというのか?この得体の知れない青年に?

ズキンズキン。

『まるで口答えするなッ!』というように心臓が締め付けられる。目の前の光景が遠のいてくる。ドクンドクンと脈打つ心臓の音だけ やけにやかましい。

 

「はぁ……はぁ……。ッ⁉︎」

 

ズキンズキン、ドクンドクン。

カンカンと警告音が頭の中に鳴り響く。

 

「ハルイトくんはだぁーいじょぶかい?顔色が悪い気がするよ?」

 

遠くの方で誰かが俺の名前を呼んでる気がする。しかし、所々しか聞き取れず 何を言っているのか分からない。

ズキンズキンズキンズキン、ドクンドクンドクンドクン、カンカンカンカン。けたたましく鳴り響く三つの音。

 

「お客様?大丈夫なの?足が赤子のようにフラフラよ」

 

まるで熱が加わったプラスチック容器みたいにグデ〜ンと視界が溶けていく。その間にもズキンズキン、ドクンドクン、カンカンと言った警告音は鳴り響く。荒く息を繰り返しながら、俺はふらつく脚に力を入れて こう言った。

 

「分かりました……。俺をこの屋敷で雇ってください……」

 

途端、ズキンズキンと心臓に広がる不快な痛みもカンカンとけたたましく鳴り響く警告音も鳴り止んだ。胸元を掴みながら、深呼吸を繰り返す。そんな俺を見つめる二人が心配そうな瞳の裏に意味深な色を滲ませていることも俺には気づけないでいた……




主人公の名前を見て、ピンときた人も居るのではないでしょう?これからの話で主人公のお父さんとお母さん、この二人の事も書いていこうと思うので宜しくお願いします。それまでは皆さんも主人公のお父さんとお母さんが誰なのか考えながら、ご覧ください。

※お気に入り登録をして下さった六名の方、評価9をつけてくださった方。本当にありがとうございました!
間をあけずに更新出来ればと思います、これからも応援宜しくお願いします!


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二話『双子メイドと女々しい執事』

今回はレムさんの登場です。此方もセリフを考えるのが難しかったです。ので、ラムさんに比べると少なめです。本当、ラムさんと主人公の漫才みたいになってます。

※お気に入りが10を超えました!ありがとうございます!!


「着いてきなさい、ハルイ。部屋に案内するわ」

 

「惜しい!先輩。もう一文字足りないな〜」

 

「……そうね、もう一回言い直すことにするわ。着いてきなさい、ト。部屋に案内するわ」

 

「名前ですらないッ!?」

 

あの後、正式に屋敷で働く事になった俺は仕事上先輩となった桃髪の少女に連れられて、自分の部屋へと足を踏み入れていた。広さ十畳ほどで置かれているものは木で作られた机と椅子。安易なベッドがそれぞれ鎮座してあった。ベッドへと腰掛けて、桃髪の少女を見る。

 

「えーと、ラムちゃんだっけ?名前」

 

「えぇ、そうよ。ト」

 

腕を組んで、見下ろしてくる桃髪の少女ことラムの素っ気ない態度に涙目になる。

“それにはトってなんなんだよ……”

女の子に名前すら呼ばれないって男の子にしてみたら、かなり悲しいことだぞ?そういえば、お母さんも最初はお父さんに対してこんなんだったって聞いたことがーー

 

「ーー何よ、ト。ラムの顔に何か付いてる?」

 

小首を傾げて、此方を見てくるラムに不覚にもドキッとしてしまう。朱色の染まってしまった頬を隠そうと横を向きながら、早口にまくし立てる。

 

「いや、何もついてないし可憐で綺麗な顔立ちだけどさ!そのトって呼び方だけは正そうか!?ラムさんッ」

 

「なぜ、正さないといけないの?無意識に女をたらしこもうとするような女々しい男に。そんな安っぽい言葉でラムを落とせると思ったの?その考え方が浅はかだわ、卑しい」

 

褒めたはずなのに被害者的視線を向けられる俺はこの報われない理不尽さで涙が目の端から零れそうになる。それどころか両手を胸の前で抱きしめて、細められた薄紅色の大きい瞳には軽蔑、嫌悪、それを超える不愉快という色が渦巻いている。俺の褒め方が悪かったのだろうか?それなら、謝るがこの一方的な言いようは何なんだろうか?最後に呟かれた『卑しい』が今だに胸の一番深いところに突き刺さっている。

 

「なんで、俺が批判されてるんでしょうかッ!?素直に思った事を言っただけなのに!?俺はこの理不尽に異議をとなえたい‼︎」

 

「勝手にとなえてなさい。明日も早いんだから、ラムは寝るわ。トもいつまで発情期の犬のモノマネして騒いでないで寝なさい」

 

「むきぃー!ラムさんはその態度から正した方がいいと思いますッ!!この先、苦労すると思いますよッ!!」

 

「ご忠告ありがたく受け取って置くわ。おやすみ、ト」

 

顔を真っ赤にして憤慨する俺をハイハイと右手であしらったラムはドアノブに手を上げるとそのまま、出て行ってしまう。俺はというと「はぁ……はぁ……」と怒りポルテージでMAXまで上昇してしまったので、それを下げるのに数時間を使用しなくてはならなかった……

 

τ

 

「姉様?この方は?」

 

「今日から働くことになったトよ」

 

「オイコラ、ラムさんッ!一文字しか掠ってないからな!?そして、呼び方が昨日から全然改善されてないのは俺の気のせいでしょうかッ!もう一度言うけど、俺の名前はハ・ル・イ・ト。イチジョウ・ハルイトだ‼︎」

 

「どこが間違っているというの?ト。一言一句、完璧じゃない。ラムの記憶力を侮れないで欲しいわ」

 

「侮るよッ‼︎早速、間違えてるじゃんッ‼︎!ハルイトだって言ってるでしょうよがッ!」

 

「煩いわよ、ト。まだ ロズワール様、他の方も眠っていらっしゃるのよ?吠えたいのなら庭でなさい」

 

「あんたが俺を怒らしていることについては触れんか!?俺は名前で読んで欲しいだけなんだけど!?」

 

「ハルイトくんって言うんですか?これからよろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしく。あれ、そういえば まだ君の名前きいーー」

 

「ーートこそ、学習してないわね。ラムの目の前で堂々とレムを口説くとはいい度胸をしているわ。……こんな女々しくて女を手当たり次第口説くことしか考えてない頭がお花畑の男の名前を。何故、ラムが呼ばなくてはいけないの?」

 

「そこッ!サラッと傷つくこと言うんじゃない‼︎それと誰が頭の中、お花畑じゃ!!」

 

「はいはい、ハル。これで満足した?」

 

「むきぃー!その『まぁ、妥協してこれならいいかしら?』って態度が気に入らないッ‼︎人の名前を呼ばない、間違えるはマナー以前の話だからなッ!」

 

「ふわぁ〜。ハル、寝言は終わった?終わったなら、仕事の説明に入るわ」

 

「……もう、いいです……。ラムさんと付き合うということはそういうことって認識します……」

 

「そういう誰に対しても物怖じないところが姉様の素敵なところです。ハルイトくんもそう思うでしょう?」

 

「確かに君の言うとおり、ラムさんの物怖じない態度は素敵だと思うけど……って。んぅ?姉様って?」

 

いつもの数倍騒がしい朝を迎えた屋敷の廊下、三人の使用人の姿がある。一人はきっちりと執事服を着込んだ身長170cmくらいの中性的な顔立ちが特徴的な少年。赤く短い髪は所々癖っ毛ではねており、星を形どった幼稚なピン留めが前髪を止めている。大きめな赤い瞳は諦めと疲れから瞼が半分くらい降ろさせていた。しかし、それも目の前に立つ少女達の言葉に大きく見開かれた。見開かれた赤い瞳の左眼に映るのが不敵に腕を組む特殊改造されたメイド服に身を包む桃色をしたショートボブの少女である。薄紅色の大きい瞳が適度に整ってはいるがまだ幼い可憐な顔立ちの中でキラキラと宝石のように光る。右の瞳には左眼に映る少女の同じ顔立ちをした少女が白いエプロンの前に両手を添えて立っている。左眼の少女と違うところというとお揃いのショートボブの髪型が青いところと此方を見つめる大きい瞳が薄青色なところだろうか?あとはオーラが違う感じだ、もちろん態度も多いに違うが……。

だが、赤髪の少年・ハルイトが問題視したのはそういうところではなかった。青髪の少女・名前がまだ分からないが横に並んで立つ桃髪の少女・ラムに『姉様』と言った事についてだ。

“姉様?姉様って言ったよな?この子……”

手に取るように狼狽するハルイトを「ハァッ」と鼻で笑ったラムは隣に立つ青髪の少女に視線を向ける。

 

「何をビクついてるの?ハル。レムはラムの妹よ。見て分かるでしょう?」

 

「申し遅れました、姉様の妹のレムです。この屋敷で使用人頭を務めております」

 

折り目正しくお辞儀してくる青髪の少女改めレム。そのレムとラムを交互に見て、放心状態のハルイト。無意識に口元が動く。

 

「レムさんね……、それに使用人頭か。凄いね……。それでどこまでがジョーク?」

 

「ハルの頭の中……いえ、脳がよ」

 

「それは流石に言い過ぎたと俺は思うんだけどッ!?」

 

吐き捨てるように言うラムにハルイトが一瞥する。しかし、当のラムは素知らぬ様子だ。ハルイトはクシャクシャと赤い髪を掻き毟ると改めて、並び立つ二人を見る。

“嘘だろう……?嘘だろう、嘘だろう”

彫りの浅い顔立ちを幼さで彩って、その輪郭を隠すように流れる髪はそれぞれ桃色と青色をしている。此方を見つめる大きめの瞳はそれぞれ片方は隠されていた。ラムは左眼、レムは右眼をだ。隠されてない瞳はラムは薄紅色、レムは薄青色といった具合。

“そう……、瓜二つと言わざるおえない容姿から二人が双子ということはレムさんを見た時から気づいていた。が、問題はそこじゃない。そこではないのだ……”

黒を基調としたエプロンドレスに白いフリのついたカチューシャが続く。そこまではいいのだ、そこまでは。問題は特殊に改造させて露わになった二人のスタイルにある。白いフリのついた布に覆われた胸元。

“……明らかにレムさんの方が大きくないか?ラムさんに至ってはぺったんだろ?”

俺は左に立つラムの胸元を見てからすぐに右に立つレムの胸元を見る。ラムさんは年相応というよりその一ランク下くらいだろうか?それに比べて、レムさんの方は年相応というところか?いや、それより一回り……二回りうーーグハァッ!?

 

「いやらしいオスね、死になさい」

 

顔面に思っ切りグーで殴られ、そのまま ゴロゴロと赤いカーペットを転がる。止まるとスクッと起き上がり、さっき殴ったであろう犯人を指差す。

 

「痛かったよッ!ラムさん!?いきなり殴るとか何?イジメ?」

 

「レム、レム。ハルという犯罪者が何か言っているわ」

 

「姉様、姉様。ハルイトくんっていう変態さんが話しかけてきましたね」

 

「………。悪かったよ、俺が悪うございました」

 

メイド姉妹によるコソコソ話の内容にクリティカルヒットを何発も食らった俺は頭を下げた。実際、そういう目で見たのは事実であるから。

 

「悪いと思っているのなら、これから教える仕事を頑張ることね」

 

「分かりましたよ、ラムさんについていきます」

 

その後、俺はラムさんに連れられて 屋敷の各部屋とラムさんが預かっているという仕事を分担して終わらせたのだった……



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三話『特訓と思い出』

今回の話は主人公だけとなってます。そして、いよいよ 主人公の親が誰が分かります。

※主人公のパロールを変えました


静まり返った屋敷の庭に俺は立っていた。手元にある紙にスラスラと絵を書いていく。書き上がった絵の隅にある魔法陣に指先を切り、血を染み込ませて行く。二枚書いたうちの一枚には炎の翼をはためかせた鳥が描かれていた。もう一枚には白と黒のシマシマが特徴的な虎が書き上げられている。どちらにも素早く血を滲ませていく。

 

「前いまし今いまし先します主の戒めあれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。罪生の魔性を回生せよ。EVOKE、朱雀、白虎!」

 

「キュルルル」「ガルルル」

 

二匹が黄緑色の魔法陣から姿を表せると二匹が脚や頬にふさふさの毛並みをすり寄せてくる。それをこそばゆく思いながら、召喚に応じてくれた二匹を改めて見る。

俺の肩にとまり、頬に擦り寄ってくるのが朱雀で大きさとして俺の顔くらい。ユラユラと揺れる橙と紅のグラデーションが美しい焔の翼と鶏冠を持っている。愛くるしいまん丸の黒い瞳が此方を見つめている。脚に擦り寄ってくるのが夜風にたなびくサラサラの白と黒色をしたシマシマ模様が特徴の虎である。大きさとして寝そべった俺がまるまる入るくらいだろう。此方も愛くるしいまん丸の黒い瞳で俺を見つめている。

そんな二匹を撫でながら、俺は申し訳なさそうに眉をひそめた。

 

「いつも悪いな、朱雀 白虎。今日も俺の特訓に付き合ってくれるか?」

 

「キュルルル」「ガルルルル」

 

二匹は揃って、人懐っこい鳴き声を庭へと響かせた。感謝の意を伝える為に二匹をもう一枚撫でて、俺は構えを取る。二匹も俺から離れると其々の立ち位置へと移動した。

 

「ガルルルル」

 

「今日は白虎が相手してくれるのか?」

 

「グルルル」

 

「そうか、ありがとうな。朱雀は俺と白虎が誤って放った力の分散をお願いする、頼むな」

 

「キュルルル」

 

「頼りにしてるからな。じゃあ、始めようか?白虎」

 

「ガルルルル」

 

手招きした俺へと白虎が飛びかかってくる。それを腕で防ぎ、カウンターを入れようと右手を突き上げた。

 

τ

 

俺の住む世界にはファントムという者たちが暮らしている。

〈ファントム〉ーー英語で『幽霊』『亡霊』などを指し示すその言葉の通り、ファントムは人類にとって架空あるいは幻想とまで呼ばれていた者の姿を認識出来るようになったのは、ある施設から流れ出たウィルスが原因であると言われている。そのウィルスが人類の脳は刺激されて、認識機能が改変された。それによりファントムと呼ばれた者たちの姿を誰でも認識出来るようになり、次第に日常の一部となっていったのである。しかし、ファントムも人間と同じで色んな者が居る。人類に友好な者もいえば、人類に害する者も少なからず居る。そんな悪事を働くファントムを封印、追い払うのが〈特異能力者〉の役目である。

俺の父と母もこの特異能力者であった。

父は〈絵を書くことにより封印や召喚〉が出来る特異能力を持っており、母は〈歌声〉で強力な攻撃を放つ特異能力を持っていた。冒頭で触れたセリフはバロールで特異能力を発生しやすくするものと前、師匠に教わった気がする。

そんな二人の間に生まれた俺だが、実にチグハグな身体になってしまった。

〈母譲りの火力に父譲りの運動神経ゼロ〉

師匠曰く未完成な器に水が注ぎ続けられている感じ、らしい。母も同じような事を言っていた。父に至っては師匠と母の鋭い視線を受けて縮こまっていた。

師匠の言った話をわかりやすく言うと水=力(特異能力)を充分に発揮するための器=身体が出来上がっていないということ。幼い俺は噛み砕いて要点を話してくれた師匠に首を傾げたものだ。そんな俺の様子に師匠は笑い、頭を優しく撫でてくれた。

物心が付き始めた頃には師匠と共に基礎体力を上げる為、ランニングや腕立て伏せをした。毎日、へこたれながらも続けた結果 基礎体力と筋肉が多少ついた。しかし、まだまだで鍛練を続けるようにという師匠の言いつけ通り、たまにこうして召喚した使い魔と共に対戦しているということだ。

 

τ

 

「ガルルルルッ!!!」

 

「トッ」

 

俺を追い詰めようと飛びついてくる白虎を交わして、回し蹴りを決める。少し距離が空いた隙にバロールを唱える。

 

「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、標を留め置け!」

 

スゥーと息を吸い込み

 

「アァアアアアアアーーー」

 

母が得意としていたバロールだ。淡い檸檬色の光を放つ鎖に繋がれた白虎にもう一撃加える為に構えを取る。

 

「火克金の理により五行万象を発生し、緋にして橙なる火の氣は金を禁ず。心の火氣で拳を満たさん。陽にして飛なる火の氣は拳を満つ。いざや!一騎当千の戦に挑もうぞ!」

 

唱えながら、胸元を撫で 火の氣を集める。淡く赤い星の印がついてきたのを感じて、目を見開き 白虎へと拳を放とうとして一歩踏み出した。そして、視界が緑へと早変わりする。じわじわと広がる疲労感と筋肉痛、そして足を走る電機めいた痛みに俺は視界が早変わりした理由が分かった

“つったんだな、足”

 

「ガルルルル」

 

ペロペロと頬を舐められながら

 

「あはは、やっぱりお前には勝てないよ。白虎」

 

痛みを無理やり笑い声で白虎といつの間にか、近くに降りていた朱雀へと手を伸ばす。二匹によしよしとしてやり、二匹を本来居るべき場所に帰した。

 

「痛ぅ……、これは暫く こうしてた方がいいな……」

 

小さくそう呟き、俺はポロリと涙を流した。そんな芝生へと倒れこむ主人公を二つの人影が最上階から眺めていた……




主人公の親ですが、父親が一条晴彦さん 母親が水無瀬小糸さんとなっています。無彩限のファントム・ワールドで作者が特に好きだったキャラクターです。主人公の外見は小糸さんからとってます、名前は二方から一文字ずつとって名付けみました。この二方はまだ主人公の回想にあまり出ていませんがいつかしっかりと書きたいと思います。


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四話『桃髪のメイドの㊙︎密会』

今回の話はラムさんとロズワール様の密会兼報告会ですね。割と作者はあの密会のシーンが好きだったりします。普段見せるラムさんとはまた違うラムさんの表情、さてその表情はいつになったら主人公は見ることが出来るでしょうか?ではでは、駄作ですがご覧ください。

※お気に入り40人、評価者二人。
本当にありがとうございます!びっくりしました最初にこの数字を見たときは。個人的に目指しているお気に入り登録数は100人です。それを越えれるように頑張って、怠けず更新出来ればな……と思う次第です。



「あれはハルイトくんじゃないかぁーな」

 

「?」

 

最上階に位置する執務室、今そこに怪しげな雰囲気を醸し出している二人の人影がいた。

広い部屋が月明かりに照らさせて、その広い部屋に鎮座する家具達が目に見える。まず、中央に配置させているのが来客を出迎える応接用の長椅子とテーブル。最奥にこの部屋の主が執務するために配置された机と椅子がある。黒檀の机の上には書類と羽根ペンが転がさせており、ほんのりと湯気立つカップが其々、二つずつ用意させていた。

黒い回転式の椅子に腰をかけて、窓の外を眺めているのがこの部屋の主。ロズワール・L・メイザースである。長い藍色の髪を椅子の腰掛けへと流し、左右違う瞳で興味深げにそこで白い虎と対決している赤髪の少年を見ている。

そんな主に釣られて、窓の外へと視線を向けるのはこの密会のもう一人の参加者のショートボブの桃色の髪を揺らす改造メイド服を身につけた小柄な少女はいうまでもなくラムである。

 

「ラムが彼を拾ってきてくれて、もう三日経つんだぁーね」

 

「はい。あの時はラムの身勝手な行いに寛大な慈愛を下さり、返す言葉もございません」

 

「いぃーや、いや。いいのだよ、君は本当に面白い拾い物をしてくれたものだぁーよ。それに関しては私の方からお礼がいいたいものだぁーね」

 

「もったいないお言葉ありがとうございます」

 

ロズワールは視線は今だに赤髪の少年へと向けられており、それをチラリと見たラムの薄紅色の瞳が微かに感情で揺れる。そして、ロズワール越しに白い虎と戦い続ける赤髪の少年を見る。その瞳には本人にも気づかない僅かな感情が波を立てていたのだが、ラム本人がその感情に気づくのはこの密会から数ヶ月先の事である。

 

「ところでハルイトはどうかぁーな?使用人としての才能は?」

 

「はい。教えたことはすぐに覚えますし、仕事の速さもレムとラムの真ん中くらいです。それとこれはとても意外なのですが、料理が出来ます」

 

「へぇー、そういうのには疎いと思っていたのだがぁーね」

 

「はい、ラムもそう思っておりました」

 

頷くラムにロズワールも微笑む。今だに続く赤髪の少年の訓練を背にロズワールはラムを手招く。それにいつも表情に乏しいラムがみるみるうちにその仮面を剥がして行く。ふらふらと覚束ない足取りで手招きする主へと近づき、遠慮げに椅子に腰掛ける主の膝へと体重を預ける。

 

「宜しくお願いします……」

 

小さく羞恥心が混ざった呟き声を漏らして、おでこにかかる桃色の髪を左右に分けられて、ラムは熱を帯びた薄紅色の瞳をロズワールへと向けた……

 

τ

 

「あれは?」

 

姉と雇い主に配茶を終えたショートボブの青い髪を持つ露出度が高いメイド服に身を包んだ少女ことレムは、手入れの行き届いた庭の芝生の上に横たわる赤髪の少年を見かける。近づいてみると少年は始めて会った時の服装をしていた。黒いカッターシャツにフードのついたベスト。年季の入ったジーンズ。それを身につけている人物、その全てがレムには〈奇妙なもの〉という認識しか持てなかった。

しかし、その全てがレムの勘違いであることに今日出会って気づかさせれた。長年培った姉の機嫌度パラメータによると彼の評価は良くも悪くも普通であり、上に上昇することはあっても真ん中から下へと下がることはない。それが何を意味するのか、レムには分からないが姉と彼が良い関係であることは断言出来る。レム自身も同僚としての彼の仕事ぶりは評価するに値する。実際、姉よりも仕事の腕は上である。そんな彼が風邪などを引きてしまってはそれこそ姉に膨大な迷惑がかかることだろうーー

 

「ハルイトくん、こんなところで寝てしまっては風邪を引いてしまいます。起きてください」

 

ユサユサと身体を揺り動かすと薄っすらと目を開けたハルイトが赤い瞳でレムを映した。

 

「ぅぅ……レムさん……?なんで……?」

 

「姉様とロズワール様に配茶してきたところなんです。ハルイトくんこそ、こんなところでどうしました?」

 

「………俺?俺はちょっと……特訓みたいなことしてたんだ……、それと足が釣ってしまって動けなくて……」

 

「………」

 

「その『心配して損した』って顔やめて!地味に心が痛むから!!」

 

「まだ動けそうにないんですよね?仕方ないですね、レムが送って行ってあげます。ハルイトくんが風邪を引かれては姉様にも迷惑がかかりますから」

 

「ありがとう、本当にごめんね……。と、それはいいけどレムさんって本当にラムさんが好きだよね」

 

「姉様は素敵ですから」

 

「確かにそれは俺も思うよ、何故 そう思うのかは分からないけど」

 

本当に申し訳なさそうに言うハルイトにレムはヒョイとお姫様だっこで持ち上げて、ハルイトの部屋へと向かうのだった……




次回は攻略フラグが遂にでます。誰かといえば、桃髪と毒舌が素敵なあの方ですかね。


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五話『次のステージと攻略対象フラグ』

今回の話の登録人物はラムさんと主人公の二人です。ラムさんの攻略どうなるんでしょうかね。ではでは、ご覧ください。

※評価6と感想ありがとうございます!
これから、どんどんと話が面白くなるのでどうぞ楽しみにしていてください。


「ッ……くっ……」

 

ズキン、ズキン。変に心臓が脈だつ。

 

「ッ……!?」

 

心臓を締め付けられて、その苦しみから目を覚ますと目の前にひょっこりと顔出す白い旗。

【2と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】

これは間違いなくストーリーフラグで〈2〉ということは次の段階に進んだということだろうか?俺がロズワール様の使用人となったから……

 

「しかし……」

 

知らせてくれるのなら、もう少し落ち着いた時にして欲しかった……。寝てる時に勝手に現れて、心臓を締め付けるとかシャレにならない。

 

「変な時間に起こされたし……、執事服に着替えるか……」

 

俺は着替え終えると手櫛でザザッと髪を整えて、母からもらった幼稚な髪留めを前髪へと付ける。前にある鏡を見て、服の乱れがないか 確認して 部屋の外へと足を踏み出した。

 

τ

 

〈早起きは三文の徳〉とは、朝起きをすればいいことが起きるという意味の諺で誰もが一度は口にしたことや耳にしたことがあるのではないだろうか?ならば、俺の起こっているこの現象も早起きは三文の徳といっていいのではないかと勝手に思っているのだが……その認識は間違っているのだろうか?

 

「ハル、何を惚気た顔をしているの。早くここの掃除を終わらせて、レムのお手伝いをするわよ」

 

「はいはい、ラムさん。相変わらず、毛厳し……ッ!?」

 

ズキンズキンと心臓が軋む、もう慣れたあの感覚。俺は冷や汗を流しながら、前を向く。そして、目を見開くのだった。

“オイオイ、これは何の冗談だ……?”

見慣れた桃髪の上にひょっこりと顔を出した白い旗にげんなりする。近頃は朝に見かけたくらいで済んでいたのに、新しいステージに進んだ瞬間 ポンポンと顔を出しては心臓を痛めつけやがる。

【白地にデカデカとピンク色のハートの形】

攻略対象フラグ、その名の通り そのマークが着いている人物を攻略しなくてはならないというものなのだが……、いやしかし……

“攻略しろってか?ラムさんを?難易度高すぎるだろう……”

目の前で窓拭きを行うラムさんを見つめながら、取り敢えず ダメで元々で挑むことにしようと決意を新たにした俺に黒を基調とした露出度満載の改造メイド服を揺らして振り返ったラムさんが一言。

 

「何、ジロジロとラムを見てるの?」

 

大きい薄紅色の瞳を細めて、俺を見下してくるラムさん。本当に文字通りに上の方を拭くために持ってきた椅子の上に乗っかり、窓際に溜まる埃をとっている俺を一瞥する。その切れ味抜群の鋭い視線に俺はスゥーと視線をラムさんから逸らすと

 

「いや、見たくて見てたわけじゃなくて……」

 

何処か怪しい俺の言葉にウンウンとうなづいたラムさんは細められた瞳に軽蔑の色を浮かび上がらせて、

 

「そう、見たくなくても女とあらば視姦するのね。汚らわしい」

 

両手を胸の前でクロスして、自分の身体を抱くラムさん。そんなラムさんの態度に軽く傷つく俺は悲しいやら悔しいやらで堪らず地団駄を踏む。

 

「ラムさんはなんで、いつもそう両極端な反応しか出来ないのっ!!」

 

「地団駄を踏まないで。折角、掃除したのに埃がたつでしょう?」

 

「君は一言一言が余計なんだよッ!?それと俺が地団駄を踏む時は決まってラムさんが余計な一言を言った時だけだよッ!!」

 

「はいはい。ほら レムのお手伝いに行くわよ。ハル」

 

「ラムさんはもう少し俺に優しくてもいいと思うよ……」

 

スタスタと部屋を出て行く桃髪のメイドの後ろ姿にボソリと呟いてから、俺は今回ばかりは難しいかもしれないと思うのだった。しかし、それで諦めるほど俺は弱くはない。

 

「まずはラムさんの事を知らなくてはな。それと俺がラムさんに何を思っているのかもちゃんと整理しないと……」

 

“それじゃあ、ラムさん攻略開始って事で”

 

「ハル、いい加減にしないとラムは怒るわよ」

 

「はいはい、ラムさん。すいません」

 

立ち止まって、振り返ったラムさんの瞳は本当に怒りの炎が揺らいでいる。早足でラムさんの隣まで歩いてくるとため息をつく、ラムさんをチラリと見る。その上で揺れている白い旗に描かれた大きいピンク色のハートの中に【赤い文字で52】と刻まれていることに気付くのと同時に調理場へと到着した。その後も決められた仕事をキッチリとこなし、ラムさんのハートに書かれた52という文字の意味が分からないまま、夜を迎えたのだった……




次回は遂に主人公のバロールが見れるかもしれません


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六話『勉強会と魔刻結晶』

今回の話はタイトル通り、勉強会の話です。そして、前の後書きで主人公のバロールを書くと予告したんですが……次回になりそうです。

※お気に入り登録50突破、10という勿体無い評価。そして、感想も続けて二つ書いてくださりありがとうございます!


「はぁ……」

 

思わず、溜息をつきながら 俺はベッドに寝転がっていた。右腕で目元を覆い、考えるのは攻略対象フラグの事。

“……多分、元の世界に戻る為に必要な事なんだと思うけど……”

何故か、色々と考えてしまうのだ。このまま、ストーリーフラグのいうとおりに行動していれば本当に元の世界へと帰れるのだろうか?とか帰ったところで俺に居場所は既に無くなっているのではないか?とか本当に実に様々。

 

「はぁ……」

 

“師匠……俺って、本当に優柔不断です……”

 

「何、辛気臭いため息をついているの?」

 

「うわァッ!?………。なんで、居るの?ラムさん……」

 

トントンとノックもせずに俺の部屋へと侵入してきたのはサラサラと手入れの行き届いた桃色の髪を持つ少女、ラムである。肩までで切りそろえられた桃色の髪を右眼だけ出している。そこから覗く薄紅色の大きな瞳は悲鳴にも似た声を発した俺を凄い形相で睨みつけている。

“何故、悲鳴を上げただけでそんな顔をされなくてはいけないのだろうか……”

そんな俺の心の叫びに気付くことのないラムさんはスタスタと木でできた黒光りする勉強机と思しき所に立つとコンコンと細い白い指で机の上を叩いた。その行動に首を傾げる俺にラムさんは今度こそ、「はぁ……」と長いため息をつき 右手で頭を抑えて首を横に振った。

 

「そんな短い動作で何を察しろって言うだよッ!君は!!」

 

堪らず叫ぶ俺にラムさんは再度、視線を俺へと向けると「はぁ……」と同じようにため息つき、首を横に振った。まるで、本当に呆れたような態度に少なからず 俺の心はクリティカルヒットした。

 

「本当に覚えてないの?ハル」

 

「覚えてないの?って何を」

 

「今日、文字を教えるから部屋で待ってなさいって言ったでしょう?」

 

身に覚えのない申し出の筈のだが、俺は念のため 目を瞑り、今日の出来事を振り返るーーうん、そんな約束した覚えない!

 

「してないよ!?ラムさん」

 

「ラムの記憶よりハルの記憶の方が優れてるっていうの?寝言も大概になさい、ハル」

 

「なんで怒られているのか分からないしッ!出会って早々、俺の名前 覚えられなかった人に言われたくないなッ!!」

 

「ハルの名前は覚えていたわ。ただめんどくさかったし、死んでもハルの名前は呼びたくなかったのよ」

 

「なんだそれ!なんだそれ!!だった四文字でしょうが!ロズワール様は五文字だよ?四文字くらい楽勝でしょうが!」

 

「ロズワール様と並び立とうなんていい度胸ね、ハル」

 

「ロズワール様と並び立とうなんて恐れ多くて考えてもないしッ!!ただ、俺は……。まぁ、いいや。文字を教えてくれるんでしょう?ラムさんが」

 

「えぇ、光栄と思って咽び泣きてもいいのよ?ハル。そしたら、さっきの失言を取り消してもいいわ」

 

「うん、光栄には思うけど咽び泣くまではいかないな……」

 

何故か、得意げに無い胸を突き出すラムさんに俺は苦笑。途端、溝うちに綺麗なアッパーカットが放たれた。

 

「グハッ!?………痛いんですけど……ラムさん……」

 

カーペット上にのたうちまわる俺を心底冷えた瞳で睨むラムさん。俺はそんな薄紅色の瞳を涙を溜めた赤い瞳で見つめた。

 

「何故かハルを殴らないと、思ってしまったのよ。何故そう思ったのかは分からないわ」

 

「理由、不明ってそんな理不尽あってたまるかッ!意味なく殴られる俺の気持ちにも一度でいいからなってください!!」

 

「いやよ」

 

「即答ッ!?」

 

俺はまだヒリヒリと痛みが走る溝うちに左手を添えながら、机へと着席する。その横に立つラムさんへと視線を向ける。ラムが手にする本はかなり年季が入っているようで所々、表紙が擦り切れて 中から白い紙が見えている所もある。机の上に既に用意されたであろうノートの横に転がる羽根ペンへを手に持つ。ラムは手に持った古ぼけた本を開くとある文字を指差す。

 

「まず、ハルに覚えてもらうのはこのイ文字よ。ロ文字とハ文字はイ文字が完璧になってからよ」

 

三文字あるということは日本で言うところのひらがな・カタカナ・漢字というところだろうか?

“それを全部覚えるのか……、かなりきついぞ、これ……”

まぁ、後の事を考えたら ここで教えてもらうに越したことはない。横に立つ、ラムさんへと視線を向けるとコクンとうなづく。

 

「了解です、ラムさん。それでそのイ文字の何を練習すればいいんです?」

 

「今日、練習するのはイ文字の中で基本とされてるこの文字よ。ラムが書き出すから、それをこのページが埋まるくらい書き写しなさい」

 

「ページが埋まるくらいって……、酷な事をいいますね。ラムさん」

 

「それくらいしないと愚かなハルは覚えないでしょう?」

 

「愚かって……俺はそこまで愚かではないと思うのだけど……」

 

目の前のノートにスラスラと書かれて行く何かの暗号のような文字に苦戦しつつも、その書かれた五つの文字を覚えようと頭に叩き込んで行く。その間、ラムはベッドに座り 手に持った古ぼけた本を足を組んで優雅に読んでいた。

チラッと彼女の上に揺れている白い旗を見ると

【43】と最初に現れた時に比べて、何の文字か知らないが下がっていた。

“うーん、もしかして あの数字って好感度?だったりするのかな?”

可能性、の話だが。そんな俺の視線を感じ取ったのか、ラムさんが本に視線を向けたまま こちらへと問いかけてくる。

 

「ハル、終わったの?」

 

「うん、大体は」

 

「そう、意外と早いのね。冥日一時まで、まだ時間があるわね。あともう二列くらいはいけるかしら」

 

正直、もうこの五つの文字で右手は限界で手首が痛いのだが……。

“親切心で付き合ってくれてるのに、俺が弱音吐いちゃあいけないよな……”

しかし、そう思うと当時にさっきの不穏な発言に気になる言葉が含まれていた。〈冥日一時〉とはなんだろうか?

 

「ラムさん、ラムさん」

 

「何よ、ハル」

 

「まず、その殺意が篭った瞳をどうかしましょうかッ!」

 

「これでも抑えている方よ?」

 

「抑えて、それ!?さっきよりも険しいよッ!前々から思っていたけど、ラムさんの基準は周りとズレてると思うッ!!」

 

スゥーと細まる薄紅色の瞳には確実に殺意と嫌悪、激怒と負の要素となる感情が所狭しと並んでいる。チラッと頭の上を見てみれば、【31】とデカデカと赤い文字が書かれていた。これでハッキリした、この数字は好感度であると。それと、俺おめでとう!過去最悪の好感度記録更新だ!!

“こんな調子で攻略とか無理だろう……”

普段の数倍増しでおっかないラムさんにヤレヤレと思う俺であった。

 

「〈冥日一時〉ってどういう意味かなって思ったんだ」

 

「………」

 

「その『心底ガッカリした』って顔やめて!本当に分からないし、胸にグサってくるからッ!」

 

「そうね、ハルにちゃんと教えてなかったラムにも落ち度はあるわ。その女々しい目を見開いて、この魔刻結晶を見なさい。説明してあがるわ」

 

「一言余計ッ!」

 

いつもの間にか、隣へと歩いてきたラムさんは手のひらには淡い光を放つ結晶が転がっていた。

 

「これが魔刻結晶?」

 

「えぇ。今は丁度冥日零時だから、水の刻といって魔刻結晶が淡い青をしているでしょう?」

 

言われてみれば、魔刻結晶と呼ばれているこの結晶が淡い水色をしている気がする。

 

「…-陽日零時から六時までが風の刻。そこから六時間刻みで火の刻。冥日零時からが水の刻で、そこから六時間刻みで地の刻となっているわ。ハルも気づいてるように、この魔刻結晶は時間が進むに連れて色が濃くなっていくの。風なら緑、火なら赤、水なら青、地なら黄色といった具合よ。他に質問したいことはある?無知なハル」

 

「無いよ、全く無い。けど、その無知なハルっていうのには少し異議をとなえたいと思う」

 

俺の言葉を聞いたラムさんは「ハァッ」と鼻で小馬鹿にしたように笑うと

 

「こんな常識も身につけてないハルがラムの何に異議をとなえるというの?」

 

「………面目ないです……全くその通りです……」

 

ラムさんは項垂れる俺を流し目で見ると手元にある魔刻結晶へと視線を向ける。

 

「ハルが無知なせいで余計な時間がかかったわ。あと二つ行出来ると思ったのに」

 

「そう言って、その倍ノートに書いているラムさんの行動は矛盾していると俺は思います」

 

スラスラと書かれていくイ文字の量は明らかにラムさんの腹いせが多く含まれている事だろう。数にして、12文字。それぞれページが埋まるまで寝れないとはかなり酷ではないだろうか?

 

「………ラムさんは部屋に帰らないんですか?この量は明らかに冥日一時は過ぎると思いますけど」

 

「ハルが書き終わるまでここにいるわ」

 

「なら、早く終わらせないとですね」

 

ノートに書かれた12文字をノートが埋まるくらい書いていく。半分以上、殴り書きだが覚えることが前提で丁寧に書くことは二の次なのでいいだろう。俺は早く終わらせるために羽根ペンをノートへと滑られた……




次回こそ、主人公のバロールを……ッ


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七話『寝顔と治癒能力』

さて、今回の話で八話となりましたが。十話までに完結出来るかな?このプロローグと思ってます。まだ、出てないキャラクターも居ますし ラムさんの攻略は難儀ですし 最低でもあと五話くらいはいるかな?
話は変わりますが、ついに主人公の特異能力が現れます。どんな特異能力を持っているのか、それがラムさん攻略のキーになるのか?では、ご覧ください。

※お気に入り登録や評価、感想など本当にありがとうございます!皆さんのおかげで楽しく、この小説を書かせて頂いてます。ちなみに作者が好きなラムさんのセリフで一番好きなのは「食らうがいいわ」です。あっつあっつの蒸かし芋をスバルの口に入れた時に言ったセリフですね。深い意味は無いです、ただ自分も一度でいいのでラムさんにあぁやって食べさせてもらいたいな〜と思ったくらいで……あっつあっつは嫌ですけどね(笑)


なんとか12文字を書き終えて、堪らず「ふぅ〜」と息を着く。それから、ベッドで終わるまで待っていてくれたラムさんへ、一つはお礼を言わなくてはいけないだろう。俺はベッドが鎮座してある方へと視線を向ける

 

「………」

 

「ぐう」

 

可愛らしい寝息を立てて、ベッドの上で眠りにつくこの勉強会の教師に俺は頭を抑えて ため息をつく。

“まぁ、仕方ないか……こんな時間まで俺が付き合わせてしまったんだし……”

 

「しかし、こうして見るとやっぱりラムさんって可愛いよな」

 

スヤスヤと眠りにつくラムさんの顔あたりに膝跪き、ベッドに上で両腕を組んで その上に顎を乗せる。

近くで見る桃色の髪は暗闇の中で柔らかな光を放っていた。そんな桃色のショートボブがサラサラと頬や瞑る目へと掛かるのを無意識にかきあげる。

“柔らかい……んだな”

そっと桃色の髪へと手を伸ばして、指入れて手櫛をしてみる。前にレムさんがラムさんの髪や服装を手入れしているって聞いたことがある。ラムさんからレムさんへは聞いたことはないけど、しているのではないかと思う。

 

「んぅ……っ」

 

「ッ!?」

 

身じろぎして艶かしい声を上げるラムさんに不意をつかれ、俺は伸ばしていた右手を引っ込めて 頬が赤くなっていくのを感じる。

“さっきのは反則だろ……っ”

何が反則なのか、それは目の前でまだスヤスヤと眠り続ける桃髪の少女に原因がある。そう、その少女の口元が些細、本当に僅かに笑みの形を形作っているのだ。起きてる時はまず拝むことさえ許されない彼女のレアな笑顔。それをこんなに形で見れるとは思ってみなかった。

“寝てるときはこんなに無防備なんだな……。信頼されてるのか単に自分の欲求に忠実なのか……まぁ、後者だろうな。ラムさんの事だから……”

それでも、俺はーー

 

「すぅ……ぅ」

 

ーーいいと思う。

ゆっくりとこうやって、彼女の知らない一面を知っていって 彼女を可愛い、美しいと思える。それはとても素晴らしいことなのではないかと思える。

“攻略するつもりが攻略されちゃったな”

照れ隠しにニコッと笑って、もう一度と彼女の可憐な寝顔を瞼に焼き付けようと彼女へと視線を向ける。

 

「……ッ!?この……痛みは……っ」

 

するとーーズキン、ズキンと心臓が暴れる。

“ッ……!あれか?”

身を覚えがある痛みから眉を顰める。すると、俺の正面にいるラムさんとそのおでこから伸びる白い旗が見えた。

【目をつぶる桃髪のショートボブを持つ少女のおでこへとキスする赤髪の少年】

の絵がプリントアウトさせている白い旗に顔を真っ赤になる。

“オイオイ、冗談だろ?”

さっきのを見せられた後でそれはかなり難易度のミッションだと……痛ッ……。

ズキンズキン、続けて脈立つ心臓。

ピコピコと現れる白い旗、それも二個。

【中央に大きなピンクのハートの中に赤い文字で+30と書かれている】と【赤髪の少年が大きな口を開けて、魔法を放っている】が描かれているその旗と前に現れた旗を組み合わせると

ーー寝ているラムさんのおでこに俺が唯一使える特異能力を使えというのだろう

 

「そんなっ、こといって……寝てる女の子にそんなこと……ッ、つべこべ言わずやれってか?分かったよ、分かりましたッ!」

 

ズキンズキン、ドクンドクン、カンカン。いつものあの騒がしい三つの音が聞こえて、俺はヤケクソになって バロールを唱える。

 

「燃える燃えて燃え上がれ、竜胆(りんどう)の光焔(こうえん)よ。不死鳥の名のもとに、この者の苦しみを焼き尽くせ!」

 

ラムさんの桃髪の髪をかき分けて、フラブが指差す何かの傷跡のようなところに唇をくっつけた。途端、俺の中に流れる力が唇を通して ラムさんへと送り込まれていく。それから数十分、俺はラムさんへと力を送り込んだ。

俺の特異能力は不死鳥ことフェニックスの力を借りて、聖なる炎で相手を癒す。即ち、治癒ということだ。この治癒能力は珍しいらしく、俺の余分な火力も手伝って この能力は重宝している。まぁ、使った後は無駄に疲れて 戦闘などには向かないのもまた事実である。

 

「……。本当にこんなにことして良かったのかな……」

 

しておいてなんだが、純粋に罪悪感が這い上がってくる。今だに眠り続けるラムさんが起きそうな気配は無いので、俺は今夜どこで寝ようかと思案するのだった……




作者は願います、寝てる時くらいガードが緩くてもいいのではないかと


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八話『青髪のメイドとクリーム色の巻き毛の幼女』

今回の話は初登場のあの人が主です。タイトルで大体の方は分かっていると思います。では、ご覧ください

※お気に入り78人!感想8件と本当に多くの人に見てもらえて嬉しいです。感想でよくラムがデレる姿が浮かばないとかロズワール様という壁をどう攻略するの?と聞かれるんですが、多分ラムさんがデレるのはかなり先の事になると思います(苦笑)ロズワール様、まじパネェということで……


「ハルイトくんはここを掃除して下さい。レムは応接間の方をしてくるので、終わったらそちらへと」

 

「了解。早く終わらせて、レムさんの手伝いに行くから」

 

「あまり急がなくていいですよ。急がれて、花瓶やらを壊されたらレムの仕事が増えるので」

 

「レムさん、最近厳しんだけど俺なんかした!?でもっ花瓶壊したの事実だから何も言えないッ!!」

 

傍に立つ少女の青い手入れの行き届いた髪が揺れて、可愛らしく小首をかしげられる。?マークが浮かぶ薄青色の瞳の無自覚さに俺はため息を着く。

雑用をこなせるようになった近頃はよく彼女の手伝いをしているのだが、彼女が言ったことも嘘というわけではない。事実、俺が急いだ結果 花瓶を割った数は今日までで五回。その度に彼女に呆れられた顔をされて、小言を貰いながら片付けた物だ。しかし、今日はそうならない自信がある!何故か分からないけどッ

 

「では、ハルイトくん。よろしくお願いします」

 

「うん、じゃあ 後で」

 

頭を下げるレムさんに右手を上げて、応じながら 目の前のドアノブへと手を伸ばして手前へと引っ張る。そして、目の前に広がる光景に赤い瞳を極限まで大きくしてーー

 

「ギャーギャーとうるさい奴かしら」

 

ーー本に囲まれている部屋の中央で紅いドレスが可愛らしい幼女が本を読んでいた。

 

「幼女がいるッ」

 

「あと、その幼女っていうの腹ただしいからやめるかしら」

 

「なんで?幼女は幼女でしょ?」

 

俺の発言に次第と目の前に座る幼女の顔が険しくなっていく。それを知らない俺はズンズンと彼女の前まで歩いていくと周りを見渡す。当たり前だが 本と本、本が所狭しと並んでいた。スゥーと息を吸い込み、フゥーと息を吐く。

“うん、落ち着くな。やっぱり、本に囲まれていると……”

俺の父、祖父共に本の虫と呼ばれるものであった。なので、俺の家も壁という壁が本だらけでその中に子供が好きそうな童話は数冊あるかないかで殆どは父の残念知識の源となるものばかりであった。しかし、そんな父から産まれた俺も母が呆れるほどの本の虫ぷりを発揮した。なので、父の残念知識も俺が受け継いだとなる……ん?ちょっと待てよ、なら俺はあの二人から残念なところしか受け継いでないというわけか?……ジーザス‼︎なんてことだ!俺が何をしたというのですか?神様……

 

「壮大にバカなことを考えているかしら、その女々しい顔つきは。用が無いならさっさと出て行くといいのよ」

 

椅子に座る少女はふっくらとした顔つきを剣呑な顔つきへと変えると俺を睨みつける。クリーム色の髪は縦ロールで身につけている紅いドレスはフリルがあしらわれていて、とても愛らしい。しかし、そんな幼女にさえ女々しいと罵倒される俺って……

 

「女々しい顔つきは自前ですよ、お嬢さんッ!!お嬢さんこそ、なんでこんなところに居るの?保護者は?居ないとまずでしょう?幼女一人でこんな所にこもってるとか」

 

「幼女は余計かしら。それに女々しいお前に心配されなくてもいいのよ、ベティーの居場所はここだから」

 

「はぁ……この〈書庫〉みたいのところが?寂しくないの?」

 

「寂しくないかしら。それよりお前はいつまでそこに居るのかしら?さっきから質問ばかりでうるさいのよ」

 

確かに目の前に座る少女の頬がプックリと膨れ上がっている。しかし、だからといって幼女をこんな所に一人置いておいていいものだろうか?

 

「本当に失礼な奴なのよ、幼女幼女って。少し痛い目ち合わせてやるかしら」

 

「え………ぐはっ!?」

 

少女が此方へと右手を向けた瞬間、全身に強い衝撃が走る。その衝撃により、身体は廊下を越えて窓の方へと。パリンとガラスの音が響き、窓の外へと放り出される身体を寸前で支える。

 

「ッ……、このまま落ちたら死ぬ……死ぬに違いない……」

 

顔を青ざめさせながら、俺は下を見る。広がるのは青々と茂る植物達、その周りを赤いレンガが囲んでいる。

“花壇か……あの上に落ちたら……”

プルプルと震える右手がそろそろ限界なのを教える。こうなったら、一かバチか。覚悟を決めよう。俺は目を閉じるとゆっくりと右手を外した……




次回はあの方の登場です。セリフを考えるのが難しい……


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九話『猫の姿をした精霊と銀髪の少女』

今回の話でロズワール邸に住む全ての住人と会いましたね。良かった〜。このプロローグが完結する予定は16〜20話です。なので、それまで暫しよろしくお願いします。

※お気に入り登録一名、感想一件本当にありがとうございました!


「ッ、痛ぁ……。なんで、俺がこんな目に……」

 

「えっ……と、大丈夫?君」

 

全身に走る打ち身の痛みと泥から漂う悪臭に涙が溢れる。頭上から響く柔らかい声に俺はゆっくりと立ち上がって、その少女の横へと進み出る。全身を多く泥を拭いながら、少女を安心させるためにニッコリと微笑む。

 

「うん、大丈夫だよ。これくらい」

 

“師匠との特訓はこれよりもかなりハードであったから……。しかし、本当に死ななくて良かった……”

上を向くとよくあんな高さから無事だったものだと感心する。

 

「本当に?レムがさっきそこに動物の糞を肥料にまいてたのよね」

 

「………、………。うん、大丈夫大丈夫。これくらいでへこたれる俺じゃないから……うん……」

 

“もう、泣いてしまいたい……。俺って、なんでこんなに報われないの……”

涙目になりながらも気遣ってくれた少女にお礼を言わないといけないだろう。その少女はキラキラと太陽の光を反射する銀髪を腰近くまで伸ばしていて、紫紺色の瞳を泥まみれ元い動物の糞まみれの俺へと向けてくる。服装は白を基調としたもので紫色のフリルや線が所々入っている。胸元で輝く緑色の結晶と銀髪の髪から覗く耳が少しとんがっているのが不思議に思うところだろうか

 

「俺の事、気遣ってくれてありがとうございます。それと始めましてですよね?このロズワール邸で使用人として働くことになりました、イチジョウ・ハルイトです」

 

「君が……、ロズワールから聞いて気になっていたの。とても面白い子って聞いてたからどんな子かなーって思ったけど、とっても可愛らしい。本当に男の子?」

 

「それは訳すと女々しいって事ですか?それも男に見えないほどに……」

 

これで出会った全員から女々しいという称号を授かったというわけだ。ぅ……ぅっ……、もう いやだぁ〜。見知らぬ幼女に閉め出されて、動物の糞まみれにはなるし、今まで出会った全ての人に女々しいって言われるし。

 

「あっ、ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないの。だから、そんな泣きそうな顔しないで。ねぇ?」

 

「うっ……ぅっ……ぅ……」

 

「どっ、どうしよう。そうだ、パック 起きて」

 

取り止めとなく流れ出す涙を拭いながら、前を向くと銀髪の少女の掌で「ふわぁ〜」と大あくびをして、伸びをしている小さな灰色の猫が目に入る。ポカーンと間抜けな顔を晒す俺の前で少女と小猫が言葉を交わす。

 

「おはよう〜、リア」

 

「うん、おはよ パック。起きていきなりなんだけど、そこにいる男の子の身体 洗ってあげてくれる?」

 

「んぅ?」

 

そこで俺に気づいたらしい灰色の猫は可愛らしく小首をかしげると数秒間 何かを考えて、ウンウンとうなづき、可愛らしいピンク色の肉球を此方へと向けて

 

「うん、いいよー。じゃあ、洗うねー。それ!」

 

「いや、そんな簡単に……ぐぷぷぷぷ……がはぁっ……」

 

軽口を叩く俺を突然、包み込む渦巻く水。その発生源はあの灰色の猫からみたいで俺に向けて突き出されている小さな両手を起点に、青白い輝きが展開する。その光は次の瞬間、大量の水へと変わり 渦を巻き、俺の身体は抵抗虚しく その渦へと身を任せた。

 

「それ〜それ〜」

 

「ぐはっ……死ぬ……しにゅ……ごぽぽぽぽぽ………」

 

グルグルと回る視界、息苦しく酸素も無い水の中。俺は数分間、意識を何度も失いかけて なんとか、その人間洗濯機を耐え抜いたのだった……。

 

「………ごほっ、ごほっ。息が吸えるってこんなに素晴らしい事なんだね……」

 

「うん、バッチリ綺麗になったね」

 

芝生に倒れこみながら、呼吸ができる幸せを噛みしめる。ビショビショに濡れた身体を起こすと俺は恨めしく灰色の猫を見つめた。

 

「どうしたの?お礼ならいいよー」

 

「確かに……、確かにお礼は言わなくてはいけませんね。洗っていただきありがとうございました。しかし、それと同時に俺の心に湧き上がってくるこのメラメラと燃える気持ちはなんなんでしょうか?」

 

「うーん、怒り?」

 

「そうですね、それが一番 俺の今の気持ちに適切かもしれません。なら、怒ってもいいですよね?死ぬかと思ったわッ!!あんなの生身の人間にやってはいけませんッ!!俺でも一瞬、意識飛んだからッ!!」

 

「あはは、大丈夫だよー。ボク、ちゃんと手加減出来るからー。さっきのはほんのちょっとだけ余分な気持ちが混ざっちゃっただけだからー」

 

「ほんのちょっとじゃないわッ!!大分多く余分な気持ちが混ざってたよッ!!そんな余分な気持ちで死ぬかもしれない危険にさらされた俺の気持ちにもなってくださいッ!!」

 

灰色の猫と口論していると近くから小さな笑い声が聞こえてくる。首を傾げて、横を見るとあの銀髪の少女が口元を抑えて 笑い声を漏らしている。

 

「あはは!ごめんね、でも もうダメ。だって、二人して何してるの……あは、ふふふふ!ああ、お腹が痛い」

 

その笑顔に見惚れているとほっぺに尻尾でビンタがお見舞いされた。叩かれた右頬を抑えながら、宙を浮く灰色の猫を睨む。

 

「痛かったですよッ、猫さんッ!!」

 

「いやー、複雑な親心っていうか。変な虫を娘に近づけたくないって感じだね。うん」

 

「うんじゃないよッ!俺、全然納得できないからッ!!」

 

「ふふふ、あはは!」

 

灰色の猫と漫才じみたやりとりを繰り広げている横で銀髪の少女がお腹を抱えて笑う。そんな光景がしばらく続いた後、銀髪の少女が目に溜まった涙を細い指先で拭う。

 

「名前、まだ教えてなかったね。私の名前はエミリア、こっちはパック」

 

「エミリアさんにパックさんですか。これからよろしくお願いします」

 

「うん、よろしく。さっきはパックがごめんなさい」

 

ぺこりと頭を下げるエミリアさんに俺は両手をブンブンと振る。

 

「いえ、俺こそ洗ってもらってありがとうございます。あのまま、仕事場に帰っていたらラムさんレムさんに怒られていたでしょうし、いや この濡れたまま帰っても怒られるか……」

 

安易に想像出来るあの二人のコソコソ話に俺は顔を青ざめる。それにあの二階の窓硝子も割ってしまったのだから、今日は正座で淡々と毒舌を聞かさせるのだろうか?

 

「あの二人、そんなに怖い?」

 

「怖いどころじゃないです……心に大きな傷を負います、あのコソコソ話は……」

 

「あれはハルイトをからかっているだけだと思うけど」

 

「そうですかね?そうだといいんですが……」

 

「こんなところに居たのね、ハル。レムに頼まれた仕事も果たさず、おまけに二階の窓硝子を割って、レムとラムがその後片付けに追われているを知りながら、淫蕩三昧とは随分と偉くなったものだわ。あの女々しいハルが」

 

スラスラと背後から語られる毒舌に俺は目をギュッとつぶって、諦めるとそちらへと向き直った。そこには仁王立ちで此方を見下ろすラムさんの姿がーー

 

「すいませんでしたッ!!本当に色々あったんです、あの硝子は変な幼女に飛ばされて壊したものであって……」

 

速攻で土下座を繰り返す俺をいつも以上に冷えた瞳で見ていたラムさんは俺の言い訳じみたセリフの一部に眉を上げる。

 

「変な幼女?ベアトリス様の事かしら、そんな事はどうでもいいわ。早くこっちに来なさい、ハル。ハルのせいでレムとラムの仕事に大きな支障が出たのよ、今からその支障をハルが全て一人で終わらせるのよ。今から取り掛からないと夜までに終わらないでしょう?」

 

「それは無謀というものです、ラムさん……。痛たたたた、耳がッ。耳が痛いです、ラムさんッ!!」

 

突然、現れた桃髪のメイドに耳を引っ張られながら去って行く赤髪の執事を取り残されたエミリアとパックは微笑ましげに見ている。

 

「ロズワールの言うとおり面白くていい子ね、ハルイトは」

 

「そーだね、少しやかましくはあるけど」

 

顔を見合わせたエミリアとパックはどちらからともなく、笑い声を庭園へと響かせた……




ロズワール邸住人が抱く主人公の好感度と認識調査その1

〈エミリア〉好感度【51】認識【面白くていい子】
〈パック〉好感度【45】認識【いい子だけど娘には近づけたくない】
〈ロズワール 〉好感度【62】認識【面白くて不思議な子または有能そうな駒】
〈ベアトリス〉好感度【21】認識【やかましくて失礼な奴】
〈ラム〉好感度【47】認識【なぜか見てるとイライラする。理由はわからない】
〈レム〉好感度【36】認識【仕事の面では信頼出来る。しかし、??の匂いが時折漂ってくるのが不安な気持ちにさせる】

以上、好感度と認識調査その1でした。


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十話『お風呂と交流』

十一話目の更新です。遅くなってしまい、すいませんでした……。で、今回の話ですがロズワール様と主人公の会話が中心となっています。

※お気に入り登録 94人、ありがとうございます!!


仕事も一通り終わり、一日の疲れを癒すために湯船へと浸かる。

 

「いぃーやぁー。ハルイトくんじゃないかぁー、仕事の方はどうだね?」

 

チャプンと水音を立てて、隣に入ってきた雇い主に俺は視線を向ける。流石にあの趣味の悪いメイクはとっているらしく、そのメイクの下には美男子と言わざるおえない素顔が広がっていた。左右で違う青と黄色の瞳に見つめられながら、俺はさっきの問いに答える。

 

「はい、何とかやってます。レムさんもラムさんも丁寧に教えてくれますし、何よりもやり遂げた後の達成感が凄いですね、ここまで広いと。それよりもラムさんが俺に対して特別厳しいんですけど、あれは何なんですかね?レムさんも最近ちょくちょく、俺を刺してくるし……」

 

「ハルイトくんを気に入っているのだぁーよ。いぃーや、仲が良きことはいいことだぁーね」

 

「そういうものですか?俺にはさっぱり……」

 

「分からなくても結構だぁーよ、これからも二人と仲良くしてくれたまえ」

 

「は、はぁ」

 

“仲良くしたいのはやまやまだけど……、あの二人がね……”

心を開いてくれないことには仲良くするにも出来ない。ラムさん攻略も全然進んでないし……。

 

「はぁ……」

 

溜息をつき、丁度いい湯加減に設定されている湯船の中でパタパタと脚を動かす。そんな俺を片目をつぶってみていたロズワール様が意味深な笑みを浮かべる。

 

「ハルイトくんは不思議な子だぁーね」

 

「俺が不思議ならロズワール様は特殊ですね」

 

「手厳しいぃーね、ハルイトくんは。しぃーかし、そういうところも私は評価しているんだぁーよ」

 

「そうなんですか?ラムさんに聞かれたから怒られそうな内容ですね」

 

「ふふふ、そうだぁーね。でも、ラムも分かってくれるだぁーろうさ。事実、ハルイトくんを評価しているのも本当のことだしぃーね。………私の果たそうとしている願いに君はもう不可欠な存在となってしまったよ……」

 

「?」

 

小声で呟かれる独り言に何故か、背中に悪寒が走る。しかし、俺はもうこの人に忠誠を誓うと言ったんだ。誓いをそう簡単に破るわけにはいかない。

俺は折角なので、色々と質問してみることにした。ロズワール様とこうやって裸の付き合いは稀であるだろうから。

 

「ロズワール様、質問宜しいですか?」

 

「いいぃーよ、ハルイトくん。ハルイトくんになら私の全てをさらけだぁーそう」

 

「いや、ロズワール様の赤裸々話はあまり聞きたくないですね……」

 

「本当、君は裏表がなぁーいね。少しは裏も用意しておいた方がいぃーいと思うよ?この世界を生き抜くにはね」

 

「はい、肝に命じときます」

 

俺はうなづくとロズワール様へと向き直る。

 

「ロズワール様。金髪の巻き毛の幼女とエミリアさんとパックさんのことなんですけど、あのお三方はこの屋敷でもかなり上に位置する方々で?」

 

「そぉーだね、エミリア様はこのルグニカ王国四十二代目〈王候補〉の一人だからね。そして、君がさっきからパックさんといっているのぉーは大精霊様だぁーね」

 

「つまり、ものすごい偉い方々ということで……?」

 

「そぉーだね」

 

「うわぁあああ!?俺、お偉いさん方になってことをォ!!」

 

「あははっ、ハルイトくんも大胆な事をしたものだぁーね。失礼は無かったようだぁーし、私からハルイトくんにお咎めはなぁーいよ。そして、もう一人は多分 ベアトリスではないかぁーな?」

 

「ベアトリス?」

 

俺が小首をかしげるとロズワール様はうんうんと首を縦に振るとえっへんと胸を張る。

 

「ベアトリスは私が所有する本を管理しているのだぁーよ。簡単に言うと司書さんだぁーね」

 

「司書さん?あの全ての本を管理してるって事ですか?あんな小さい子が……」

 

「それが契約って言うものだぁーからね。ハルイトくんもするかい?」

 

「いえ、お構いなく」

 

「それはしないということかぁーな?残念だね、ハルイトくんとなら素晴らしい契約を結べると思ったなのぉーに」

 

「素晴らしい契約ってどんなやつですかっ。絶対に嫌ですよ!」

 

「あははっ。本当に面白い子だぁーね、君は」

 

その後も雑談等を交わし、貴重な時間を過ごすことが出来た……



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十一話『勉強会と不穏な空気』

続けて更新です。今回の話はレムさんが主人公を疑うところです。今回の話とあと四話くらいでプロローグ終わるつもりです。

※ちょっと補足
主人公はフラグが表れた時だけ魔女の残り香が放つ時があります。


「今日はレムさんが教えてくれるんだ。珍しいね、お仕事は終わったの?」

 

ニコニコと此方に笑いかけながら話す赤く短い髪の少年をレムは品定めするように見つめる。

“…………臭わない、どういうこと?”

朝、共に仕事をしていた時は臭っていた筈なのに……あの咎人の残り香が。

 

「え……と、レムさん……?」

 

戸惑っている少年にレムはぺこりと頭を下げる。

 

「すいません、ハルイトくん。考え事をしていました」

 

「そうなの。レムさん、いつも忙しいもんね。俺も手伝えたらいいんだけどね」

 

「いえ、お構いなく。ハルイトくんが張り切ったら、その分 レムと姉様の仕事が増えるので」

 

「本当 躊躇なくなったよねっ!レムさん!!」

 

赤く大きな瞳に涙を薄っすら溜めて、少年がツッコミを入れるのをレムは聞き流すように勉強机の横に立つと少年に向き直る。そこにはガク……と肩を落としている赤髪の少年の姿があった。少年は机に向き直ると手元にあるノートを開く。そこにはお世辞にも綺麗とは言えないイ文字がズラッと並んでいた。

 

「本当に勉強してるんですね」

 

「それってどういう意味?ねぇ、どういう意味なの!?」

 

「さぁ、始めましょうか?」

 

「無視。レムさんは無視で俺を傷つけにくるんだねっ!?」

 

「しぃー。夜も遅いんですし、ハルイトくんも音量を下げてください」

 

「そうだね……ごめん。それで、今日はどの文字を勉強すればいい?」

 

「はい、今日はーー」

 

レムはスラスラと少年の手元にあるノートにイ文字を書いていく。それを見ながら、熱心に勉強する少年を一歩下がったところから見るレム。

“……変わった様子は無い”

白い紙に羽ペンを滑られる細い手、手本と自分の書いた文字を見比べている赤い瞳。短く赤い髪は前髪だけ幼稚な髪留めで止められていた。

“……意味がわかりません”

赤髪の少年に特に変わった様子は無い。なら、近頃 彼から漂ってくるようになったあの匂いは何なのだろうか?

“……レムが間違えた?いえ、そんなことは……”

あの悪臭をレムが間違えるはずがない。あの瘴気を、魔女の残り香を。あれは自分と姉の人生を狂わせた夜の記憶を呼び起こすのだ。あの時に抱いた気持ちと共に、その匂いはレムの深いところに刻みつけられている。

“レムが間違えるはずがないんです。間違えるはずが……。なら、やっぱり ハルイトくんは……”

レムは知らず知らずに赤髪の少年を睨みつける。その瞳には激怒、嫌悪、憎悪という怒りの感情が燃え上がっている。紡いでいる唇もギューと噛み締めており、前で重なっている両手も目の前に座る赤髪の少年への怒りを色濃く表している。

 

「……レムさんは居眠りとかしないんだね」

 

「?」

 

突然、声をかけられて レムは咄嗟に浮かべていた怒りの形相を引っ込める。いつもの無表情で振り返ってくる赤髪の少年を迎えるとかけられた言葉が理解できず、首を傾げる。そんなレムに赤髪の少年は「あはは」と笑うと自分の赤い髪を撫でる。

 

「あっ、意味が分からないよね。ごめんね。………ラムさんって、この時間になると居眠りするだよ。毎回ってわけじゃないんだけどね」

 

「それは……」

 

「うん、ラムさんも疲れているもんね。それなのに、俺の勉強会を開いてくれて、丁寧に教えてくれる。レムさんも本当にありがとうね、俺なんかの為に」

 

「いえ……」

 

ニコニコと笑う少年の頬が少し赤いことにレムはいち早く気づいた。

“……もしかして、ハルイトくんは……”

遠くを見るような少年の瞳。その赤い瞳に誰を映しているのか悟った時、レムは怒りともう一つの感情でごちゃごちゃになる。そんなレムの変化に気づいてない少年は瞼を閉じると力の源となっている桃髪の少女を思い浮かべて、勉強に取り掛かる。レムはというとそんな少年を複雑な心境で見つめていた……




次回はラムさんの気持ちをかけたらな〜と思います。


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十二話『裏切りと不意打ち』

今回の話では主人公が何者かに襲われます。……大体の人はお分かりですよね(笑)

※お気に入り登録103人、ありがとうございます!これからもこの更新速度を守って、更新出来ればと思います。

※※主人公のパロールを変えました


「ふぅー。それじゃあ、定期的にやってる特訓をするとしましょうか」

 

レムさんとの勉強会を終えた俺は足音を立てずに庭に出ると深呼吸をする。手元にある紙にはもう二匹の神獣が書かれている。一つは炎の翼をはためかせている鳥、もう一つは白と黒のシマシマが特徴的な牙が鋭い虎。月明かりに照らされて、浮かび上がった魔法陣に指先を切って血を染み込ませていく。

 

「前いまし今いまし先します主の戒めあれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。罪生の魔性を回生せよ。EVOKE、朱雀、白虎!」

 

黄緑色の魔法陣から現れるのは二匹の神獣。一匹は俺の右肩にとまり、可愛らしい鳴き声をあげている紅い鳥。メラメラと燃える焔の翼と鶏冠。まん丸な瞳は俺を見つめている。もう一方はというと、呼び出された理由が分かっているそうでじゃれあいもそこそこに自分の立ち位置へと移動していた。サラサラと風に揺れる黒と白のシマシマ模様が特徴的な虎だ。紅い鳥を朱雀といい、白い虎を白虎という。

 

「ガルルル」「キュルルル」

 

「今日は朱雀が相手かな?」

 

俺がそう言って、朱雀を見ると肩に乗っていた朱雀が俺から一メートル離れたところまで飛んでいく。そして、此方を見ると来い来いと手招きしている、ように見える。まぁ、遠からず間違ってはないだろう。意外とせっかちな朱雀に失笑すると離れたところにいる白虎へと声をかける。

 

「キュルルル」

 

「そうか、宜しくな」

 

「ガルルル」

 

「分かってるって、白虎も宜しくな。朱雀が相手だから、絶対 変なところに放つから、その分散を頼んだぜ」

 

「ガルルル」

 

「うんじゃあ、練習試合といきましょうか?」

 

白虎へと注意も終わったところで、俺は師匠直伝の構えをとると朱雀を見つめる。メラメラと燃える翼と鶏冠から察するに朱雀の属性は火だろう。なので、必然的に弱点はーー

 

「ーー朱雀だから、属性は火だよな。ということは弱点は水」

 

「キュルルル‼︎」

 

俺に特異能力を使わせまいと朱雀が先制攻撃を仕掛けてくる。それを寸前のところで躱すと冷や汗を一筋流す。

 

「おっと、あぶねぇー。だが、あの日のようなヘマはしないぜ」

 

「キュルルル」

 

自由自在に飛んでくる朱雀をホップステップジャンプで回避しながら、師匠が得意としていたパロールを唱えていく。

 

「五行万象を発生し、帥にして錘なる水の氣は火を吸い込む。腎の水氣で拳を満たさん。翠にして錐なる水氣は拳を満つ」

 

飛んできた朱雀に向けて、アッパーカットを放つ。水を纏った拳が丸々と太ったお腹へと決まる、だが それで喜ばせてくれるほど神獣は弱くない。俺は思わず、緩んだ顔を引き締めるとまた 構え直す。

 

「ハァーッ!よしっ、決まった!!」

 

「キュルルル!?キュル!キュルルルー!!」

 

「チッ、しかし 致命傷まではいかないか。だが、それくらいで俺もめげないぜ」

 

「キュルルル!?キュルルル!!」

 

「お前も本気出すのか?朱雀。程々にしてくれよ……」

 

俺のヘボヘボパンチを食らったのがよっぽど朱雀のプライドを傷つけたらしい。いつもは可愛いまん丸な瞳を鋭く細め、俺へと飛び込んでくる。俺は交わしながら、 「あはは……あはは……」と乾いた笑い声を漏らしながら、朱雀へと反撃すべく、一歩踏み出した……

 

τ

 

それからどれくらい時間が経っただろうか?汗をシャツで拭いながら、朱雀へと手招きする。

 

「そろそろ終わろうか、朱雀。こっちへとおいで、白虎もお疲れさーー」

 

“ーーなんだ?この気配……。冷や汗が出るような……ゾクっとするような……”

瞬間、嫌な予感がする。背後にいる白虎へと振り返るとその巨大な体躯へと抱きつく。その際、右腕に何か とんがったものが掠り 軽く肉を抉られる。

 

「……ッ!?」

 

「クルルル……」

 

「白虎のせいじゃないさ。いつもお前たちには世話になってるからな。これくらいして当然だ。それよりーー」

 

俺は白虎を後ろに下がらせると振り返る。赤い瞳を極限まで釣り上げて、俺は暗闇を睨みつける。

 

「いきなり、俺の大切な友達を撲殺しようとするとか。どういう意味でこういう事するのかな?理由があるなら言って欲しいんだけど」

 

月が襲撃者を映し出す。

改造された露出度満載のメイド服、頭の上には白いフリが付いたカチューシャ、俺を映し出す大きい瞳は薄青色でサラサラと夜風に遊ぶショートボブの髪は青色をしていた……




次回は対決回


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十三話『其々の真意と思い』

予告通り、決着回です。はて、主人公はレムさんと互角に戦えるのか?

※お気に入り登録・108人ありがとうございます!感想も一件ありがとうございました!!


「……」

 

「無視かな?もう正体バレてるんだし、何か言ったら?」

 

「しっ!」

 

「っ!?話の途中で武器を振るうなんて……マナーがなってないな。もしくは俺と話す気もさらさら無いといったところか」

 

俺は数メートル前に静かに立つ青髪のメイドに苦笑いを浮かべる。俺の質問に答える気は相手にはないらしい。俺は離れたところにいる朱雀と白虎を帰すと構えをとる。あの二匹がいれば、確実に彼女はあいつらを狙うことだろう。理由は変わらないだが、そうさせる絶対的な信念が彼女の中にある。そうと俺は少なからず思う。

“だからって……あんなの一発食らったら、肉の塊に早変わりだな……”

ならばーー諦め悪く足掻いてやろうじゃないか!!

 

「俺はそう簡単に殺されてあげるほど潔い男じゃないだ!だから 抵抗させてもらうよ、レムさん。君と俺とじゃあ明らかに君が強い……でもね、弱い奴っていうものは頭を使うんだよ。どうやったらこの絶体絶命の危機を乗り越えられるか、どうやったら逆転出来るかってね。火事場のクソ力って奴見せてやろうじゃないか!!」

 

俺を見つめる薄青色の瞳が僅かに揺れた。桃色の唇が引き締まり、鉄球を鎖で繋いだ重量感たっぷりの武器を握りしめる。

“痛ッ……、こんな時に心臓締め付けるなよ……”

胸元を握りしめながら、前を向くと青髪に見慣れた白い旗が風に靡いていた。

【黒いとんがり帽子に赤い×印が付いてある】

“黒いとんがり帽子……?黒いとんがり帽子で有名といえば……〈魔女〉、か?ならば、あの赤い×印というのは……一体どういう意味で?何故、この瞬間に現れた?”

 

「……その臭いです」

 

俺の思考を遮ったのは静かな声だった。冷たい声音で青髪のメイドは俺を睨みつける。

 

「へ?」

 

「レムがハルイトくんを狙う理由ですよ。知りたがっていたでしょう?」

 

「いや、知りたいと思ってはいたけど……臭いって。俺、毎日ちゃんと風呂入ってるからそんなに臭くはーー」

 

「とぼけないでください!そんなに魔女の匂いを漂わせておいて無関係だなんて白々しい……あなたから漂うその悪臭がレムの心をかき乱すんです!!」

 

「ッ……意味が分からないよ、レムさん」

 

ギラつく薄青色の瞳、極限まで細められたその眼光に俺はたじろぐ。

出会って今まで感情をぶつけられたことはなかった。彼女が俺に向けて浮かべる感情は呆れ、無関心、心配、迷惑それらが主だった筈だ。なら、今 ぶつけられている感情はなんだ?あの薄青色の大きな瞳で燃え上がっている感情はなんなんだ?

 

「姉様やロズワール様からはあなたを迎え入れるように言いつけられました。でも、限界なんです。あなたが姉様と親しげに話しているのを見るのがっ!」

 

「……」

 

“そうか……俺は今、彼女にーー”

 

「姉様をあんな目に合わせた元凶が……関係者が、レムと姉様の大切な居場所に……。あなたは何が目的なんですか?姉様から今度は何を奪うつもりなんですか?」

 

風に揺れる青い髪が彼女の表情を隠す。しかし、月に照らされている薄青色の大きな瞳は俺を捉えて離さない。蛇に睨まれた蛇とはよく言ったものだ。本当……全然、身体が動かない……。

 

「答えてください。あなたは姉様に何をするつもりなんですか?」

 

「何をするつもりって……俺は何もしない、するつもりもない」

 

「つもりはない、ですか?時間稼ぎのつもりですか?御託なら結構です」

 

ーー〈厭悪〉〈積怒〉〈激怒〉の三つの感情をぶつけられているんだ。つもりに積もった憎悪と怒り、後悔が積怒となり厭悪となり激怒となっている。

幼い頃の彼女らに何があったのかは分からない、けどその壮絶な生き方は目の前の荒れ狂う青髪のメイドを見れば、安易に想像出来る。

 

「………君たちに何があったのかは知らない。けど、これだけは信じて欲しい。俺は好きになった人を貶めようとは思わない」

 

「そんな甘言には騙されません。レムはーーレムのするべきことをするだけです」

 

「………。そうなるんだね」

 

俯いていた顔を上げるレムさんの表情はいつも以上に無表情な気がする。俺はギュッと両手を握りしめると唇を軽く噛む。そして、スゥーと深い深呼吸をすると

 

「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ。調べ調べ調べ調べて、光を知らしめせ!」

 

「っ!」

 

突然、叫び出した俺には唖然とするレムさん。しかし、すぐに愛用している武器を此方へと振り払ってくる。それをスゥーと息を吸い込んで

 

「アァアアアアーー」

 

鉄球は俺の作り出した光の壁にぶち当たり、両手を添えて防御する俺の右手へと収まる。

“痛ぁ……、衝撃を抑えてもこの威力とかシャレになってない”

今度からはなるべく当たらないように回避する必要があるな。それはそう、短く分析すると鉄球を振り回すレムさんの懐に潜り込もうと身を屈める。

 

「五行の脚、五氣を増し、護身を打つ!いざや!破邪顕正に挑まん!」

 

素早くパロールを詠唱するとその華奢な体躯へと拳を突き上げた。しかし、それはレムさんの並ならない反射神経により決まることはなかった。素早く鉄球でカウンターを決められそうになり、後ろへとジャンプして一旦、距離を置く。

 

「ハルイトくんは意外と強いんですね」

 

「意外は失礼かな、俺だってやるときはやるんだから。 それで、少しは俺の事 信じてくれるかな?」

 

「いえ、余計信じられなくなりました。もう少ししたら朝になってしまいそうですし、決着をつけましょうか?」

 

「そう簡単にやれるかよ。俺だってやりたいことが沢山あるんだから」

 

俺はそう意気込むと青髪のメイドへと襲いかかった……




次回は……ヒロインの登場かな?


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十四話『桃髪のメイドと赤髪の執事』

この回で15話目となりました!皆さんの応援のおかげです!ありがとうございます!!
今回の話ではこの小説のヒロインたるラムさんの気持ちを書いてます。上手に書けてるか不安ですが……、どうか ご覧ください。

※お気に入り登録数・110人!ありがとうございます!!


赤髪の少年を助けたのはラムにとって気まぐれでしかなった。少年に言った通りで本当にただの〈老婆心〉であった。しかし、少年はラムの予想に反して ラムとレムの雇い主であるロズワール・L・メイザースの信頼心を勝ちとった。それどころか、今ではちょくちょく彼の名前が主から出てくるのをラムは複雑な心境で聞いていた。

“ロズワール様はラムよりハルの方がいいのね……”

有能な駒として、少年はラムよりロズワール様に必要とされている。ロズワール様が少年の何にそこまで必死になるのか、ラムには分からないがロズワール様の悲願の為に少年が必要なことは考えずとも分かった。実際、少年は自分よりも使用人としての仕事ぶりは評価に値したし、妹もそれには異を唱えなかった。

しかしーー

 

「ラムさん、ラムさん。見て見て、このスープ美味しそうでしょう?」

 

「……煩いわ、ハル。そんなに呼ばなくても見ているから、さっさとしなさい。そんなにノロくては料理が冷めるわよ」

 

「ノロくないよっ!俺の限界スピード超えてるよっ!!」

 

「ハルはレムが作ってる様子を見たことがある?」

 

「……ごめんなさい……」

 

ーー少年が自分へと話かける回数が増えた。

実際、一緒に仕事している時間は妹と比べて、自分の方が多いのだから何もおかしい所は無い。おかしくは無いのだが……

 

「ふ」

 

「?」

 

少年はラムと話をした後、必ずといっていいほど微笑むのだ。頬を朱色に染めて、照れたように嬉しいそうに笑う。それを不思議に思うと同時に何故か〈可愛い〉と思えてしまうのだ。少年の外見もそう思わせる原因なのかもしれないが……

 

「あっ、エミリア様。こんにちわ」

 

「うん、こんにちわ。ハルイト」

 

「今日もいい天気ですね。洗濯物とか干したら、よく乾きそう」

 

「ふふふ、ハルイトって男の子っていうより女の子って感じよね」

 

「……俺ってやっぱり……そういう方向性なのかな……」

 

遠くで誰かと話していると何故か〈ムッ〉とする。それは何故かレムやエミリア様、ベアトリス様だけでそれが何を意味するのかはラム自身も分からない。

“こんな不快な気持ちにさせられるなんて、ハルを一発殴らないとラムの気が収まらないわ”

 

「ぐはっ!?」

 

「ラム!?」

 

「ハル、ラムが頼んだ仕事は終わったの?」

 

「……終わったよ。ついでに他の仕事も片付けたから、エミリア様と楽しくトークしようとーーがはっ!?なんで殴るのさッ!ラムさん。二発も、割とマジなやつをさ!!」

 

「ラムが汗水流して働いているのにハルが楽をしてるのが目に余ったのよ」

 

「意味わかんねーよ!!俺にも労働基準法ってのがあって……」

 

「無いわよ。ハルにそんな勿体無いもの付けるわけないでしょう」

 

「暴君!ここに暴君がいらっしゃる」

 

「褒めてもなにも出ないわよ。ラムは飴と鞭では鞭しか持つ気がしないわ」

 

「褒めてないよっ!!それと飴も持ちましょうよ、鞭ばかりじゃあやっていけない人も居るんですから……」

 

少年とのこのやりとりを〈心地よく〉思う自分がいる。少年といると〈安心〉する自分がいる。それがとてつもなくラムを不快にさせるのだ……

 

τ

 

「もう、お終いですか?」

 

俺は鎖によって叩かれた横腹を構いながら、よろけるように立ち上がる。闇夜に冷たく光る薄青色の眼光を一身に受けながら、フッと鼻で笑う。

 

「俺を……殺したって……君に得なことッ。……なんてないだろう?そればかりか……雇い主の……意思をっ。ゲボゲボ、無視したことになる……」

 

激しく咳き込んだ俺の口元からは生々しい血液が吹き出ている。吐き出した血を見つめながら、青髪のメイドへと視線を向ける。

 

「俺が……ラムさんを好きなのがそんなに気に入らない?」

 

「はい」

 

「そっか……」

 

即答を悲しく思いながら、俺はふらつく脚を何とか踏ん張る。

“だからって、死ねるかよっ!!”

 

「燃える燃えて燃え上がれ、竜胆の光焔よ!!不死鳥の名のもとに、この者の苦しみを焼き尽くせッ!!」

 

右横腹が竜胆色の焔に包まれる、みるみるうちに打撲傷が回復していく。その様子を見ていたレムさんは苦い顔をする。

 

「えへへ、延長戦いつでも行けるぜ?俺が行こうか、レムさん」

 

俺は構えるとスゥーと息を吸い込んで、レムさんへと走り寄る。思いつく限りの角度から拳を沈めていく。

 

「ッ!ハァーッ!!」

 

「っ!?しぃ!」

 

華奢なお腹、横腹、顔は確実に決まった気がする。しかし、レムさんも俺の攻撃に応戦してくる。激しい攻防戦が繰り広げられる。

 

「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、標を留め置け!」

 

「!?」

 

スゥー

 

「アァアアアアー!!」

 

黄色い鎖がレムさんの動きを止める。戸惑うレムさんに俺はニッと笑うと

 

「えへへ……。こういうことがあるだろうなって思って……密かに練習してたんだ……。俺の……」

 

俺は目を閉じて、不死鳥を思い浮かべる。

 

「燃える燃えて燃え上がれ!竜胆の光焔よ。燃える燃えて燃え上がるこの拳は、あらゆるものを打ち砕かん‼︎」

 

目を開けた俺は右手が竜胆の焔に包まれているのを見て、成功したことを知った。グッと握りしめて、黄色い鎖に繋がれているレムさんへと走り寄る。

“負けない”

 

「喰らえ!ハァーッ!!」

 

竜胆の焔に包まれた拳がレムさんへと近づいていく。

 

“負けたくない!だって、俺はまだーー”

 

後、一センチでレムさんのお腹へとヒットする。

 

“ここでしなくてはいけないことも、ラムさんに告白もしてない”

 

「だから……負けるわけ……に…………は…………………」

 

次の瞬間、俺の視界は闇に包まれた……




次回でプロローグが終わる予定です。


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最終話『月夜の誓いと約束』

遂にプロローグ完結です!イェーイ!!長かった……。
で、今回の話はいよいよハルがラムへ告白です。ハルの愛がラムへ届くといいですね〜。では、ご覧ください

※お気に入り登録数・118人。感想一件、本当にありがとうございました!!


「ぅ……ん?」

 

「あら、起きたのね。ハル」

 

「えっ?」

 

聞き慣れた声に俺は目を丸くする。見開いた赤い瞳に映るのは、俺を優しげな表情で見る桃髪の少女でーー

“ん?ん?ん?、なんでレムさんじゃなくラムさんが?もしかして、幻???、いや……にしては……???!?!?!?!?”

突然の展開に脳がついていけない。それもこれも後頭部に感じる柔らかい感触のせいでもあるだろう。

“柔らかく感触……?えっ?もしかして……俺、ラムさんにーー”

つまり、この状況を簡単にいうと俺はラムさんに膝枕されているということだろうか?傷だらけの無残なカッコ悪い格好で……

 

「どうしたの?ハル。顔が赤いわ」

 

「いや、その……。ラムさんがこんな事してくれるなんて、ご褒美にしては豪華すぎるな〜と思ったりするんだけど?俺、ラムさんにこんな事してもらえる資格ってあったけ?」

 

「資格はないけど、ハルの無用さが目についたのよ。こんなにボロボロなハルを虐めてもやり甲斐がないわ」

 

「一瞬〈今日のラムさん優しいー!〉って思った俺の気持ち返して」

 

「そんなものラムは受け取ってもないし、渡したくもないわ」

 

「本当っ、いつも通りですね!!ラムさんっ」

 

喚く俺にラムさんはフッと口元を小さく緩める。そして、膝に乗せている俺の赤い髪を優しい手つきで撫でる。普段見せない彼女の母性に満ちた姿にドクンドクンと心拍数が上がっていく。

“……もう、言ってしまおうか?俺の気持ち”

半分、無意識に右手がラムさんの手へと伸びて ギュッと握りしめる。ラムさんは一瞬、驚いたような顔をしたがすぐに不機嫌と戸惑いを混ぜたような顔つきへと変わる。

 

「ハル?」

 

「ラムさんは……俺の事、どう思ってる?」

 

「…………。女々しくてなよっとしてパッとしない奴と思ってるわ」

 

「悩んで、その答えって……。俺ってどんだけ女々しいって思われてるの……」

 

予想通りといえば予想通りの答えに悲しく思いながら、俺は薄紅色の大きな瞳を見つめる。そこに映る俺が余りにもカッコ悪いけど……

 

「じゃあさ、俺がラムさんの事 どう思ってるか知ってる?」

 

「……知らないわよ。さっきから回りくどいわよ、ハル。言いたいことがあるなら、はっきりいいなーー」

 

「ーー俺はラムさんの事を好きだよ、愛してる」

 

ラムさんが眉を顰める。

“あっ、信じてない顔だ……”

俺はニッコリと微笑んで

 

「俺はラムさんの事を愛してる。付き合いと思ってるし、結婚もしたいと思ってる」

 

「意味が分からないわ、なぜ そうなるの」

 

「好きになった事に理由なんて無いよ。気付いたら、好きになってた。ただ、それだけだよ」

 

俺をジィーと見つめていたラムさんが頭を抱える。そのまま、頭を横に振り 「はぁ……」と溜息をつくと感情の消えた表情で俺を見つめて、こう言った。

 

「なら、ハルはラム以外の全てを諦めてとラムが言ったらそうするの?」

 

「うん、するよ。君が……ラムがそれを望むなら」

 

「……、本当に全てよ。この世界に溢れているものからラムだけを選んで、ラムだけを見つめて、ラムだけを愛して、ラムだけに尽くして、ラムだけに愛されて、ラムだけに許されて、ラムだけに全てを捧げて……それがハルは出来るというの?」

 

「うん、出来るよ。ラムだけ居れば、他は何もいらない。ラムが傍にいてくれる、それが……ううん、それだけが俺の今の望みだから。どうしても叶えたい」

 

真剣な表情で答える俺にラムさんは苦笑して、小さく呟く。

 

「……ラムにはハルがそこまで慕ってくれる理由が見当たらないわ」

 

「ふふふ……本当に分からない?でも、ラムさんは分からないだろうね〜」

 

「えぇ、全然分からないわ。それとハル、その笑い声は少しイラっとしたわ」

 

ムスーとした表情を浮かべているラムさんを〈可愛い〉と思いながら、俺は思いつく限りの理由ーー彼女を愛おしく思ったキッカケを語り出す。

 

「………勉強を教えてる最中にさ、居眠りをよくするでしょう?ラム。その時ね、ふと笑顔を浮かべてくれるんだ。それがとても可愛らしい」

 

「……」

 

「俺が仕事で失敗した時に浮かべる呆れた表情も好き。俺を虐めて詰る表情も好き。時々、俺が仕事を失敗した時 慰めてくれようとする言葉が好き。いつも、自分に正直な所がもっと好き」

 

「……」

 

「撫でると柔らかいサラサラな桃色の髪も意思の強い大きな薄紅色の瞳も控えめな胸元も華奢な体躯も全てが大好き」

 

「……」

 

「でも、もっと好きなのはね。ーー俺を罵倒する声が一番好きだよ」

 

「はぁ……、ハルはとんでもない変態なのね。貶されて喜ぶとかとんでもないマゾ野郎よ」

 

「マゾ野郎でもなんでもラムと話せるならいい」

 

ラムさんの表情が少し崩れた。いつもの無表情が何かしらの感情を抑え込もうとしてる。俺をまっすぐ見つめる薄紅色の瞳が色々な感情でごちゃ混ぜになっている。

“追い打ちをかけるなら、ここかな?”

俺はもう一度、ラムさんの手をギュッと強く握りしめる。

 

「ねぇ、ラム。俺はラム、君が好きで愛おしい。世界一愛したいし、愛されたい。こんな告白だけどラムは俺の事も受け入れてくれる?」

 

俺の言葉を受け取ったラムさんは無表情を崩して、しどろもどろになる。しかし、すぐにいつもの調子へと戻ったのが残念に思う。

 

「……そんな事言われてもラムは戸惑うわ。でも、それが事実というのなら、これから それを実践してみてちょうだい。ラムがハルのその気持ちに揺れたら、お望み通り ハルに尽くしてあげるわ」

 

「おぉ〜!!それはいい条件だね。まぁ、言われずとも そうするけどねっ。今はロズワール様が一番かもしれないけど必ず俺がその座 奪ってみせるから」

 

「ラムのロズワール様に対する敬愛は揺るがないと思うけど」

 

すっかりいつもの調子に戻ってしまったラムさんをこれ以上押すのは無理と判断して、別の提案を出してみる。

 

「うん、だから 困ってるだけどね。あっ、そうだ ラムさん。一つだけお願いしていい?」

 

「面倒事?」

 

“うわぁ……心底嫌そうな顔された……”

俺は首を横に軽く降ると

 

「違う違う、違うよ。ただ毎日、一時間……ううん、もっと短くてもいい。十分でも五分でもいいから会いに行っていいかな?」

 

「それのどころが面倒事じゃないのよ、面倒事じゃない。それにハルの言っている意味が分からないわ。ラムとハルは毎日会っているでしょう」

 

「仕事の話じゃないよ、それが終わった後の話。もっとラムの事を知りたいし、俺の事も知ってほしい。ダメ?」

 

「ラムの事?知ってもいい事は無いと思うのだけど」

 

ラムさんは本当に思っているそうで、俺の提案も乗る気ではないらしい。しかし、それでも俺は少しでも彼女の事ーーラムの事が知りたい。

 

「それでも構わない。ラムの事は全て知りたいんだよ。ラムがどういうところでどう育ったのか、とか好きな食べ物とか色とか。ラムはくだらないと一蹴するかもしれない些細な事から全部、俺に教えてほしい」

 

「………ハルにとって聞きたくない話もあるかもしれないわ。それでもいいというのなら来なさい」

 

呆れ顔をしながら、そういうラムさんに俺はニッコリと笑って

 

「うん、ありがとう ラム。大好きだよ」

 

と言ったが、すぐに不機嫌な顔つきのラムさんによって撃沈。

 

「今の大好きは安っぽかったわ。その一言でラムがハルになびくのは数十年先になったわ」

 

「………、マジっすか……」

 

「えぇ、だから その間にラムが認める男になりなさい」

 

「うん」

 

素直に頷く俺に優しい手つきで頭を撫でるラムさん。そんな穏やかな時間が流れ、俺は眠りについた……

 

τ

 

ラムは膝の上で安らかな寝息を立てている赤髪の少年を見つめる。その表情は数メートル後ろで、二人の様子を見ていた青髪の少女も近頃、見ることがなくなった〈母性に溢れた〉表情であった。

 

「レム」

 

名前を呼ばれた青髪の少女は姉に近づくとグッと唇を噛む。そんな妹を見上げたラムは

 

「レムも分かったでしょう?ハルはレムの思ってるような輩じゃないわ。第一、こんなパッとしない奴にラムがやられるわけないでしょう」

 

「……ですが、姉様……」

 

「レムの言いたい事も分かるわ。でも、ハルにそんな力もないし ロズワール様のご恩を無下にする男とはラムは思えないわ」

 

「……」

 

青髪の少女は姉の言葉に押し黙る。そして、姉の膝の上で眠りにつく少年を見る。その幼い子供のような顔にさっきまで燃えていた怒りの炎が小さくなっていく。姉の横に跪き、そおっと赤い髪を撫でてみる。

 

「……ふ」

 

「!?」

 

ふにゃふにゃと口元を動かして、微笑んだ少年に青髪の少女も吊られて 笑顔を浮かべる。それの様子を見ていたラムは

 

「全く男とは思えない。女々しい寝顔ね」

 

「はい、全くです」

 

その後、桃髪の少女と青髪の少女が微笑みあったのは、空に浮かぶ月のみぞ知る……




結局、レムさんにトドメを刺されそうになったハルはラムさんが助けてくれました。そして、氣と能力の使いすぎで倒れたハルは目が覚めるまで ずっとラムさんが膝枕してくれていました。ハル、羨ましいですね〜

次回はレムさんの英雄登場!!
で、此方も予定なのですが。お気に入り登録数が100人を皆さんのおかげで達成出来たので、特別編を書きたいと思います。皆さんの期待を越えるよう、頑張るつもりです!!


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レム章 Alrescha〜ハルイト君……兄様って呼んでいいですか?〜
一話『塞がらない溝』


この話は【UA50000】達成を記念して書いたものです。


レムちゃんがハルを兄様と呼ぶまでの話を全五話くらいで書きたいと思います。かなり短い文章になると思いますが、どうかよろしくお願いします!


 

レムさんを止めようとして止められず、代わりにラムさんに助けられたあの日から早くも三週間が経ったがまだ埋まらない溝というのが確かにあった。

その溝というのがーー

ラムさんに叩き起こされ、シブシブ最初の仕事場へと向かおうとした時、向こうから青色のショートボブを風に揺らしながら歩いてくる少女が居る。その少女の名前はレムさんで、さっき俺を叩き起こしたラムさんの双子の妹で、俺らロズワール邸で働く使用人を束ねる頭でもある。まぁ、単純に言うとスーパーメイドというわけだ。多々ある家事を凄まじいスピードでそれも丁寧に終わらせてしまうという神業の持ち主。しかし、それは彼女のただならぬ努力の上に成り立っていることは、ラムさんから聞かされていた。

“襲われた時は怖かったけど……それは単純にラムさんを守りたかっただけなんだよな…”

そんな責任感が強い彼女と和解したいと俺は思っているのだが……その深まった溝というのはそう簡単には塞がらず……ーー

 

「おはよう〜レムさん」

「おはようございます……ハルイトくん」

 

俺が軽い感じで三歩先を歩く青髪の少女へと声をかけるが、ぎこちなく振り返ったレムさんが気まずそうに俺をチラッと見ては、ゆっくりと頭を下げる。

そんな気まずい雰囲気にめげず、レムさんへと他愛ない会話を振ってみるが、レムさんの回答は硬く、はっきり言って教科書通りの返答しか返ってこない。それにもめげず、ずっと会話を続けていくと、何とか中身がある回答が返ってくるようになる。なので、そのままの調子でもう一歩近づこうとすればーー

 

「それでね、レムさんはどうおもーー」

「ーーそれでは、レムはこっちですので…」

「あぁ……うん、頑張って」

「ありがとうございます。ハルイトも頑張ってください」

 

と言った感じでそつなく距離を取られ、俺はというとーそんなレムさんの様子に俺は癖っ毛の多い赤髪を掻きながら、その小さくなっていく背中を見送るしか出来ない。

その後も何とか元の距離感に戻れないものかと、レムさんに必要以上に関わろうとしたが、何故かそつない感じに交わされて、後に残るのはラムさんに押し付けられた雑用のみである。

本当にトホホ……である。骨折り損のくたびれもうけみたいな……ここまで素っ気なくぎこちないと逆に俺だけがこの距離感を解消したいだけなんじゃないか?と思えてしまう。本気でそう思った時はラムさんへとガチのトーンで相談し、「ハァッ」とバカにしたように鼻で笑われるのが俺の日課となりつつあるほど、俺とレムさんの溝と関係性は手の内用がないほど深まっていった……

近づいては遠ざかり、遠ざかれば近づいてという奇妙な距離感を絶妙に保ちながら、俺はこのロズワール邸での執事業が二年目へと差し掛かった時だった。

俺とレムさんーーレムちゃんとの距離が縮まることになった出来事が起こったのは……ーー




この話はこのくらい短い感じで書き進めて行きます。ずっと書きたかった話だったので、皆さんに読んでいただけて嬉しいです!

ハルとレムちゃんにこんな過去があったんだ〜的な感じで読んでいただけると嬉しいです!!

では!!


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二話『星空と和解』

今回もかなり短めです。



 

その出来事がおきたのはーー俺が定期的にやっている訓練をしている時だった。いつものメンバーとの特訓を終え、俺はゴロンと芝生に寝そべると夜空に浮かぶ星たちを眺めていた。

 

「キュルルル……」

「グルルルル……」

「あぁ、本当綺麗だなぁ……。そういえば近頃、色々ありすぎて、ゆっくりまったりする時間なかったもんな」

 

寝そべったら俺の身長を越す白虎に抱きついて、暖を取りながら、あれはあの星座かな?とか思っていると背後から足跡が聞こえ、何故か立ち止まった。はて?と首を傾げていると……

 

「ハルイトくん…ですか?」

 

と背後から聞こえた幼さを含む可愛らしい声の持ち主には、身を覚えがあった。起き上がって、振り返りとやっぱりそこに物静かに佇む青髪のメイドさんに俺はニッコリと微笑み、夜空を指差す。

 

「あぁ、レムさん、いつもご苦労様。ほら見て、今日の星空はとっても綺麗だよ」

「?」

 

眉をひそめつつ、俺へと近づいたレムさんは俺がトントンと横を叩くのでそこに腰掛ける。

 

「グルルル……」

「あなたは……」

 

俺とレムさんの後ろへと回り込んだ白虎は、戸惑った顔つきをするレムさんへと甘えた鳴き声を出し、顔をレムさんへと擦り付ける。そんな白虎と俺を交互に見ながらもやはり、どうすればいいのか分からないらしい。

 

「撫でてあげて。白虎は頭を撫でられるのが好きなんだ」

 

俺が白虎の脚を優しく撫でるのを見て、意を決したレムさんは恐る恐る白虎の頭を撫でる。そうすると、白虎が気持ち良さそうにトントンと尻尾を動かすのを見て、俺はレムさんへと笑いかける。

 

「気持ちいいってさ。白虎もレムさんに撫でてもらえて喜んでる。俺が撫でた時とかこんなに尻尾動かさないんだぜ。なんだかんだ言って、現金な奴だな、お前っ」

 

グリグリと白虎をどつくと白虎がチラッと俺を見て、素知らぬ顔でレムさんへと甘えた声を出す。

 

“む……、何だよ、その態度。そっちがその気ならーー”

 

「いいよぉ〜だ、俺は朱雀と遊ぶからぁ〜。おいで、朱雀って……」

 

当の朱雀もレムさんの左肩へと乗り、スリスリとレムさんの顔へと甘えたように体を擦り付けている。何という裏切り!朱雀にまで裏切られるとは思いもしなかった……ッとガクンと肩を落とす俺にクスクスと小さな笑い声が聞こえる。

横を見ると口元を抑えて、俺らのやりとりをおかしそうに笑っている青髪のメイドの姿があった。ひとしきり笑った彼女は目頭に溜まった涙をほっこりした指先で拭いとると、右肩に止まる朱雀も優しく撫でてあげている。そんな穏やか表情を浮かべる彼女に俺も自然と表情が緩む。

“どうやら、こいつらとは和解できたようだな……”

暫くの間、二人の間にゆったりとした時間が流れていった……

 




出来れば、感想を頂ければと思います……


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三話『星座と約束』

レム章、三話目は星座の話をするところですね。私自身も星座が好きですので、こういう話が書けて嬉しいです!


レムさんに優しく撫でられながら、深い眠りについた白虎と朱雀に苦笑しながら、隣へと向き直る。

 

「なんかごめんね。レムさん、こいつら、いつの間にか寝てしまって…」

 

「構いませんよ…、そのハルイト君、すいませんでした…」

 

「? なんでレムさんがあやまーー」

 

「ーーレムはこんなに可愛い子達を手にかけようとしていたんですね…」

 

遮られて、ポツンとつぶやかれたその一言で全てを悟ったーー

 

ーー彼女は彼女なりに俺との……いや、俺たちとの関係を改善しようとしていたんだ。あの時やってしまった自分の行いに恥じて、俺たちに素直に謝ろうとしている。

 

そこまで分かってしまうと隣に腰掛ける青髪の少女が愛らしく思えてくる。なので、俺は何処と無くしょんぼりしているように見えるレムさんへと視線を向けると微笑む。

 

「別に気にしなくてもいいよ…レムさんにはレムさんの事情があったんだろうし…。でも、こいつらに謝ってくれたことは正直嬉しかった…ありがとうね」

 

「ッ!?」

 

微笑んだ俺を見て、何故か頬を赤く染めるレムさん。それに首を傾げる俺。

 

「???」

 

 

τ

 

 

 

「……」

 

しかし、その光景がまるで氷のように固まったように数分が経過しても変化することはなかった…

 

“んー、気まずい……”

 

その謎の沈黙とレムさんの頬の赤みに戸惑いつつ、俺はレムさんへと語りかける。

 

「そうだ、レムさんの誕生日っていつ?俺は3月20日だよ」

 

「?」

 

俺は癖っ毛の多い赤髪を掻きながら、照れ臭そうにはにかむ。そんな俺を不思議そうな顔つきで見つめてくる青髪の少女に俺が視線を向けるとーー青髪の少女ことレムさんが焦ったように答える。

 

「レムの誕生日は2月2日です」

 

「へぇ〜、2月2日ねぇ……ということは星座は水瓶かぁ…」

 

「み…ず、が……め?」

 

聞いたことない単語に首を傾げるレムさんを可愛らしく思いながら、俺は上を見上げる。だが、そこにお目当ての星座は浮かんでいる様子はなかった。困ったように赤髪を掻きながら、俺はレムさんへと微笑みかける。

 

「んー、紙が有ったら描くんだけどねぇ…。

そうだ、さっき言った水瓶っていうのはね。俺の元の世界にある占い?……っていうのかな…、星と星を繋いである形を創って、物を表現するものなんだけどね。俺たちの世界では、その形作ったものを誕生日に合わせて、12個用意してあるんだ」

 

「12…個、ですか…?」

 

「うん。えーと、順から言うと…牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座で12個だね」

 

スラスラと言ってのける俺にレムさんは眉間にシワを寄せる。難しい顔をして、俺が言った12個の星座を言おうとしている。

 

「おひつ…じ?お…うし……ふたご……。そのあとは……えーと…」

 

「蟹だよ、レムさん」

 

「あっ、蟹ですか。ありがとうございます、ハルイト君」

 

笑顔でお礼を言ったレムさんはまた下を向いて、その後をぶつぶつと呟いている。それが数分、続いた後にレムさんは俺へを向き直ると

 

「ハルイト君の星座?……は何ですか?」

 

「俺?俺は魚だよ、一番最後のやつ。良かったら、明日俺の部屋へおいでよ。全部、教えてあげるから」

 

そういう俺にキラキラと目を輝かせるレムさんに頬を掻きながら、立ち上がる。

 

「よ〜し、じゃあ、そろそろ寝ようか。レムさん」

 

「はい、ハルイト君」

 

レムさんへと手を差し伸べて、立たせてあげながら、俺は明日の予定を立てていた……

 



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四話『面倒事と生まれつきの能力』

四話目、更新です!

この話では、タイトル通りの話となります。ラムさんから面倒事を押し付けられたハルの生まれつきの能力が明らかになります。一番上にある自己紹介文を読まれた方はもうお分かりかもしれませんね(笑)



レムさんと約束した次の日の事、速攻で自分の仕事を終えた俺は目をこすりながら、レムさんに頼んで変わって貰った食事当番の為に、廊下を歩いていると向かい側から、一人の少女が歩いてくる。

桃色のショートボブと露出度が格段と多いメイド服を揺らして、欠伸を噛みしめる俺に絶対零度の如き視線を送る薄紅色の瞳を向けてくる。しかし、そんな明らかに不機嫌を全面に出した態度でも愛おしく思えてしまうのは、俺が彼女に恋心を抱いているからだろう。

 

「ハル、仕事中に欠伸とは関心しないわね」

 

「あはは…ごめんね、夜更かししちゃったみたいで」

 

赤髪を撫でながら、そう答えると桃色のメイドことラムさんが、呆れたように「はぁ〜」とため息を着く。

 

「そんなに眠たいなら、ラムから一つ仕事提案してあげるわ。これでハルの眠気もやる気も元通りでしょう。ラムの寛大な心に感謝することね、ハル」

 

そう言ってのけるラムさんに俺は少ながらず、こう思った…ー

 

ーー“それって…ただ面倒事を俺に押し付けてるだけなんじゃあ……”とーー

 

 

ということで、ラムさんから半ば強引に押し付けられたアーラム村に張られている結晶の点検を自分の出せる最大のスピードで昼ご飯の調理を片付けて向かう。

 

「ふわぁ〜ぁ…たく、ラムさんって俺のことを都合のいいアッシーかパシリとしか思ってないだろう、この扱いは…ムゥ〜、これはガツンと言うべきか?いや……」

 

“今日のラムさん…いつもよりもダルそうだったし…仕方ない、今日は目を瞑るか…”

 

とパシリに使われた怒りよりも彼女を気遣う気持ちが勝ってしまう面、俺はラムさんに関しては甘々なのかもしれない。レムさんもラムさんに甘々なので、ロズワール邸での使用人図を書いてみたら、割とひどい図になるかもしれない。

 

“このままじゃあダメとは分かってるだけどなぁ…”

 

と自分の優柔不断さに溜息をつこうとしたその時、自分の心に、脳に直接くるような痛みのような…曖昧な感覚が広がる。

 

“これは?…お母さんが言ってた…”

 

母から受けづいたこの能力は感覚的に敵を発見することができる能力である。母曰く慣れば、オーラも見ることが出来るらしく、残念ながら俺もまだそこまでいってはいない。それどころか、この能力もうまく使いこなしていないらしく感覚的というか…ズキンとした一見すれば見落としてしまいそうな僅かな痛みでしか、俺は敵を認知することが出来ない。まぁ、それに関しては何も不満も何もないのだが…俺の生まれつきの性格的なものもあるだろうし、才能の面もあるだろうし、と。それよりも周りを注意深く観察しなくてはーー

 

「……てぇ」

 

「ーー!!こっちか!?」

 

僅かに聞こえた悲鳴らしき声に俺はその方面へと走り出す。 心で思うことはただ一つだけだーー

 

ーー“間にあってくれ!!”ーーと



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五話『因縁のライバルといわくつきの革手袋』

続けて、五話目を更新です!
そして、この話で記念すべき50話となりました!パチパチ

いや〜、嬉しいものですね、そして飽きっぽい私がここまで書けた事に凄く驚きです(笑)
それ程、リゼロが魅力的ということでしょうね。

そして、多くの方に応援して頂けている事に深く感謝申し上げます(礼)


「ッ!」

 

悲鳴らしき声が聞こえた方面ーー俺の進んでいる小道へと走って行くとそこに荷車を押している商売人みたいな男があの黒い犬に襲われているところだった。

 

「来るなぁ!来るなぁ〜ぁ!!誰か、助けてくれぇ〜〜!!」

 

「チィ」

 

“また、あの犬か”

 

この世界の召喚されて以来、俺のライバル的ポジションへとなりつつあるこの犬の頭上を見つめ、浮かび上がるフラグを見ると同時に母が得意としたパロールを口にする。

 

「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、標を留め置け!」

 

スゥーと息を吸い込み、大きな口を開けて

 

「アァアアアアー」

 

と声を出す俺から次々と淡い檸檬色の光の鎖が飛びては、今まさに商売人へと飛びかかろうとしていた犬へと絡みつき、身動きが取れないようになる。

 

「ガルルルゥ」

 

「ふっ、ひとまずこれであの人が襲われる事はないって事だな、と……こうちゃあいられないなぁ…トドメを刺さないと」

 

再度、鎖に掴まれている犬の頭上を見つめ、浮かび上がるフラグを見つめる。

 

“【風にそよぐ葉っぱと幹】がプリントアウトされてるかぁ…”

 

突然、現れた淡い檸檬色を放つ光の鎖に目を点にさせている商売人を庇うように前に立つと師匠直伝の構えを取ると、「フゥ〜ハァ〜」と深呼吸して、頭の中に五行思想を思い浮かべる。

 

“風にそよぐ葉っぱと幹ということはーー多分、《木》を合わしているのだろう、だとしたらーー弱点は……”

 

「五行万象を発生し、緊にして琴なる金の氣は木を禁ず。肺の金氣で拳を満たさん。勤にしいて禽なる金氣は満つ。いざや!破邪顕正の戦に臨もうぞ!」

 

胸元を撫でて、金の氣を集めた俺は鎖に動きを封じされている黒い犬へと拳を突き出す。

 

「っ、ハァ!っ、ハァ!っ、これでーー」

 

高速で犬の身体へと拳を埋めていく、数にして十…十一、十二、十三…飛んで、九十九。

 

“へなちょこなら質じゃなくて量で、勝負ってね。そろそろいいだろう。なら、決めされてもらうぜ、魔獣さんよーー”

 

「ーー終わりだァ!!ハァアアアアーーー!!!」

 

高速で拳を埋めたおかげで凹みに凹んだお腹へと、最後に気合と殺意を沢山込めた拳でそのお腹へとクリティカルヒットを食らわせる。

 

「グルルル……」

 

呻き声を上げて、地面へと落ちた魔獣の亡骸にやっと張り詰めていた息を吐く。そして、嫌な脂汗をかいたおでこを拭くと後ろへと振り返って、まだ地面へと腰掛けている商売人へと手を差し伸べる。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「あぁ、ありがとうございます」

 

俺の手を掴んで、立ち上がった商売人は深々頭を下げると何かを思ったようで、立ち去ろうとする俺を引き止めると荷車を探る。

 

「あっ、お待ちくだされ、貴方様は私の命の恩人だ」

 

「いや、同然のことをしたまでですし…、それに命の恩人だなんて大袈裟ですよ」

 

「いいえ、そんな事はありません。なので、せめてもの気持ちとして…受け取って欲しいものがあるのです」

 

「それなら…」

 

必死に訴える商売人の男に流されるまま、商売人がその物を取り出すのを黙って待つ。そして、暫く経つと…荷車から黒い革手袋を取り出した。それを得意げに俺の掌へと置くのを黙って…ポカーンとして俺は見ている。

 

「これの手袋は持ち主を選ぶと云われるいわくつきものなんです。この手袋に資格なしと思われてしまうと、何故か付けられないという……、なので商売品としてはいつも余ってしまいましてね。面白がって買ってはいただけるのですが、すぐに返品されてしまいまして…、そんな事情からわたくしも執事様に貰って頂けるのなら、本望なのですよ」

 

「はぁ…この手袋が…?」

 

掌に置かれてある黒い革手袋からはそんな邪悪な感じは感じられないが…かといって、この商売人が浮かべる表情にも嘘をついている様子は見受けられない。

 

“んーって、言ってもな…”

 

この黒い革手袋の扱いをどうしようか迷っていると、商売人がクルッと身を翻して、荷車へと這い上がる。

 

「それでは、執事様、先ほどはありがとうございました!そいつも大事にしてやってください、では」

 

「ちょっ……あぁ〜、行っちゃった…」

 

遠ざかっていく荷車と手元に残る黒い革手袋に困惑の表情を浮かべながら、気を取り直して、アーラム村へと向かうことにして、貰ってしまった手袋をポケットへとつっこみ、歩き出す……



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六話『スケッチブックと落書き』

かなり短めです


「フゥ〜、これでお終いか…」

 

と呟くと、俺は汗を拭う。どうやら、この前にある結晶でアーラム村に設置してあるものの検定を終えたらしい。

 

「んー、じゃあ、帰るか」

 

踵を返し、ロズワール邸へとトボトボと歩いて帰る。ロズワール邸についた後も、俺は夜になるまでキッチリと働き、ついにレムさんと約束した時間を迎えることになった……

 

 

τ

 

 

説明のために、星座の絵を描いていると控えめにトントンと扉を叩く音が聞こえてくる。

 

「どうぞ〜」

 

と俺が言うと、そこには待ち人が立っていた。

伺うように、少しだけ扉を開けて俺を見つめる大きな瞳は薄青色で、その仕草で肩までで切り揃えられている青髪がサラサラッと揺れて、仄かにシャンプーの香りを漂わせる。身につけている服装は、普段から彼女が身につけている胸元や肩が大胆に露出した改造メイド服で、少し前屈みの姿勢のためか、パックリ開いた胸元から覗く双子の姉よりも大きい胸が作り出す溝が更に深くなった気がするーーそんな彼女の胸元へと遠慮のない視線を向けていた俺はブンブンと首を横に振ると、ニッコリと微笑む。

 

「どうぞ、レムさん、中に入ってよ。対したものは無いんだけどね…」

 

「失礼します」

 

何処と無く緊張した面持ちで、俺の部屋へと入ってきたレムさんにベッドに座るように伝えて、俺は勉強椅子を動かして、レムさんと向かい合うところに配置する。そこで、俺は振り返るとレムさんへと問いかける。

 

「そうだ、レムさん…何か、飲む?……って言っても、対したものは淹れなれないんだけどね、お茶でいいかな?」

 

「へ、あっ…はい……ハルイトくんにお任せします」

 

レムさんがそう言うのを聞き入れて、俺は立ち上がると手に持ったスケッチブックをレムさんへと手渡す。それを戸惑いの表情で見つめているレムさんに、俺は適当なページを開きながら、言う。

 

「ん、じゃあ少し待てて。そうだ、このスケッチブックに描いてる絵を見てていいよ。殆ど、落書きって感じだけど……予習することは大事な事だと思うから。じゃあ、レムさん、少しだけ離れるね」

 

俺はレムさんを残して、お茶を淹れるに部屋を後にした……

 

 

τ

 

 

“どうしましょう…”

 

一人、とり残された青髪の少女は暫し、手元にスケッチブックを持ったまま固まっていたが、癖っ毛の多い赤髪の少年の言うとおりにスケッチブックを見て、少年の事を待つことにした。お茶を淹れるだけなので、すぐに帰ってくるとは思うが、パラパラとページを捲るだけでも青髪の少女・レムはそこに描かれている絵に夢中になっていったーー

 

“この方は何をされてるのでしょうか?”

 

赤髪の少年・ハルイトが適当に開いて行ったページに描かれていた医者らしい男が大蛇を持っている姿が書かれている絵には、眉をひそめて、この人は一体蛇を持って何をしているのだろうか?という疑問を抱いてしまう。その後も描かれている絵に疑問や感想を抱きながら、何と無く最後のページを開いた時だった……

 

“この方たちは…?”

 

最後のページから前に数ページ程、見たことない人たちの似顔絵が描かれていた。最後のページには、その人たちとハルイトが並んでいるーーまるで、写真のようなカットで描かれている絵があった。その中に居るハルイトは輝くような笑顔を浮かべていて、何故かそれが何処と無く悲しく思えてしまう…。

 

“レムは何を悲しんでいるのでしょうか?”

 

しかし、このスケッチブックに描かれているどの絵も嬉しそうな笑顔を浮かべているが、何処と無く哀愁が漂っているーー多分、それは…描いているハルイトもこの人たちを思い出しながら……いや、懐かしく思いながら描いたからだろう。

 

「……レムは…ハルイトくんのこと、何も知らないんですね……」

 

気が付くとそんな事を口にしていた…、ハルイトによく似た女性の絵を見つめながら、レムは暫し、呆然と胸に浮かんでくるいろんな気持ちを整理していた……




続く


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七話『好みと漫才』

この小説のメインヒロイン登場!

※感想で訂正した方がいいところを教えて頂いたので、そこを訂正したのとラムさんのセリフを少し変えました…


レムがそんな複雑な気持ちを抱いているとは、露も知らずにハルイトはお茶選びに精を出していた。

 

“ん〜、レムさんってどんな味のお茶が好きなんだっけ?”

 

今の今までギクシャクしていたのと…あまり、接点がなかったために彼女が喜びそうな味や温度がイマイチ分からない。俺は割と熱いものでも、ガブガブと飲めたり、甘かったら何でもいいという適当な基準なので、それを参考にするのはーー

 

“ーー流石に…ねぇ”

 

そういうことで、手の持った茶筒を見比べたりしながら、頭を悩ませていると背中に凄まじい激痛が走る。その衝撃で前のめりに倒れ、更に鼻や顔面を打った俺は涙目になりながらも後ろへと振り返り、やはり予想通りの人物が立っているのを見て、心から湧き上がってくる怒りの気持ちとこんなに好意を伝えているのに今だに変わらない俺へと接し方へと落胆から複雑な気持ちになる。

 

「コソコソと戸棚を漁っていたから、泥棒と思ってしまったわ。よく見たら、ハルだったのね…」

 

詫びる気持ちもない淡々とした口調で紡がれる言葉は、凛とした雰囲気を漂わせている。しかし、その凛とした雰囲気はその声の持ち主が常に漂わせているものでもある。その凛とした雰囲気に、更にマイナス0度の如き視線が加わった暁には…流石に泣きたくなってくる。

 

「何、泣きそうな顔をしているの?女々しい顔が更に女々しくなるわよ」

 

そう言って、俺を見下ろすのは桃色の髪を肩まで切り揃えている少女である。薄紅色の大きな瞳は、泣き出しそうになっている俺を心底、面倒に思っているように思える。しかし、それには異議を唱えよう。

 

“俺がなきそうになってるのは……こんなにも気持ちを伝えているのに、一向に俺への態度が甘くならないラムさんに対してです…グスン”

 

桃髪の少女・ラムさんは大きくため息を着くと俺を見る。

 

「はぁ…、それでハルはこんなところで何をしているの?もしかして、自分の部屋が分からないの?ボケるにはまだ早いでしょう」

 

「自分の部屋くらい分かるよ!まだ、そこまでいってないしッ!!」

 

俺のツッコミをスルーして、ラムさんは腕組みして、他に考えていた予想を口にして、俺へと風の刃を放とうと右手を振り上げる。その素早い行動に俺は手を高速で横に振る。

 

「そう、ということは…本当に盗みを働こうと企てていたわけね。見損なったわ、ハル」

 

「ちょっ、何故、そうなるの!違う、違う!レムさんが部屋に来てて、レムさんってどんな味のお茶がいいかなぁ〜ってとおもっグハッ!?」

 

「ーー死になさい」

 

「何で!?」

 

今度は回し蹴りを食らわされ、俺はラムさんの足がめり込んだ横腹へと両手を添えて、起き上がろうとする。そんな俺を底冷えする視線で見つめるのは、ラムさんだ。

 

「ハルごときがラムの世界で一番大切で可愛い妹に手を出そうとしているなんて…万死に値するわ、今すぐ死になさい」

 

「いやいや、俺がそういう事を考えるのはラムさんだけだから!?」

 

「そう…ラムに気持ちが通じないと分かって、外見が瓜二つのレムに欲情したとーー汚らわしい、今すぐにそこにある包丁で命を絶ちなさい。ラムの気が変わらないうちに」

 

「いやいやいや、ちゃんと話聞いて!!お願いだから!!そして、その目はやめてください……お願いします……」

 

マジでその道端に落ちてるウ○コを見るような瞳には、これ以上俺には耐えされそうにない。

 

“なんで…好きな人にこんな目で見られなくちゃいけないんだよ……”

 

しょんぼりする俺に、ラムさんは戸棚からある茶筒を取り出すとそれを俺へと差し出す。

 

「…?」

 

それを不思議そうな顔をして、受け取る俺にラムさんは小さく嘆息すると俺をチラッと見て、説明してくれる。

 

「レムの好きなお茶でしょう?それがこの屋敷であの子が好きって言ってたお茶だわ」

 

「ありがとう!やっぱり、ラムさんは優しくて思いやりに溢れた人だね!」

 

満面の笑顔でお礼を言う俺を、まるで追い払うようにシッシッと右手を振るラムさん。

 

「……そういうのはいいから、早く行きなさい。レムが待っているのでしょう?」

 

俺は痛む横腹を抑えながら、立ち上がると俺の部屋へと歩き出そうとして、もう一度振り返り

 

「ラムさん、大好きだよ、愛してる。茶筒ありがとうね」

 

とラムさんに言うと、心底うっとおしそうな顔をしてた。

 

“まぁ、そういうところがラムさんらしいんだけどね…”

 

と思ったのは、秘密である…




八話へ続く…



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八話『懐かしさと落書き』

八話、更新です!

今回は父親や母親、親しくしていた人達との関係を書いてますので、宜しければご覧ください…

※そして、今回は長めです、個人的に重要な話だと思ったので……。
まぁ、長い…といっても、普通の章の話くらいなんですけどね(笑)


ラムさんに選んでもらったお茶を持ち、自室へと戻ってきた俺にも気付かずに、レムさんは微動だにせずに、あるページをジィ〜と見る。

 

“ん〜、何を見てるんだろ?”

 

レムさんを驚かせないように近づいて、そのページを見てみると、そこには俺にそっくりな女性が描かれていた。

癖っ毛の多い長い赤髪はゆったりと後ろで結ばれているようで、前髪も彼女の息子がつけているような幼稚なヘヤピンで止められていた。大きく勝ち気な赤い瞳は、強い意志を感じる。適度に整った顔立ちは、可憐というより美人の方に属されているのであろう。

 

“懐かしいなぁ…、これ、俺がこの屋敷で働くことになった時に書いたんだっけ”

 

この屋敷に来たときは知っている人も居らずに、つい…お母さんやお父さん、師匠などに縋り付きたくなり…気付けば、一晩で8ページを描いてしまっていてしまった…。

その時を思い出して、気恥ずかしさから赤く癖っ毛の多い髪を撫でる。その動作で、青髪の少女は俺が戻っていたことに気付いたのだろう。

慌てた様子で俺の方を見ると、パタンとさっき見ていたページを閉じてしまう。

 

「……、…!?あっ、ハルイトくん…帰ってきてたんですね…」

 

「あはは…ごめんね、レムさん。驚かせちゃった?」

 

俺がティーセットに乗っけっているカップにお茶を注いで、レムさんへと渡すと、レムさんは軽く会釈してそれを受け取る。

 

「いえ、レムは…そこまで。その…ハルイトくん、ごめんなさい…」

 

受け取りながら、申し訳なそうな顔をするレムさんに俺は眉を上げる。

 

「なんで、謝るの?俺が見てていいよって言ったんだから」

 

「いえ、しかし…レムが勝手に見てしまったのは事実ですから…」

 

そんなレムさんの隣に腰掛けながら、俺はさっきレムさんが見ていたページを開くと、不思議そうな顔をするレムさんへと微笑む。

 

「なら、もう少し見ててもいいよ。ちなみに、その女性が俺のお母さんだよ、名前は小糸。ほら、前に俺が光の壁や鎖を作ったことがあったでしょう?本来は、その技はお母さんの力なんだ」

 

「コ……イ、ト…さん?」

 

俺が母の説明をすると、レムさんがいつかの時みたいに難しい顔をして、言葉を発する。その発せられた言葉に頷きながら、俺は次のページをめくる。

そこにはーー深緑の短い髪に、空のように澄んだ青で大きめの瞳を持つ穏やかな笑みが特徴的な男性だ。昔、若い頃の写真を見せてもらったことがあるが、その時と変わっているところというと……年になって、目が悪くなったと眼鏡をかけているところと皺が増えたことだろうか。

 

“俺も将来は、こうなるのかな…?”

 

しかし、父のような穏やかな人になれるのであれば、とてもいいことだと思う。幼い頃によく遊んでくれたし、俺にとっての理想の父親図はやはり、父なのだから…

 

「そう、コイト。そして、次のページに描かれてるのが、俺のお父さんで晴彦っていうのが名前なんだ…。で、ここまで言っちゃうと分かると思うけど、俺の名前はそんな二人からそれぞれ人文字ずつ取ってから付けられたわけですよ、全く安易だよね?」

 

「コイトさんにハルヒコさん……、………あぁ、本当ですね」

 

俺がレムさんへと困ったように微笑みかけると、レムさんは暫し俺の言葉の意味がわからなかったようだ。小さく俺の父と母の名前を反芻して…パッと顔を明るくさせて、俺の方を見てくる。そんなレムさんに頷きながら、次のページを開く。

そこには、俺が今までで一番、お世話になった女性が描かれていた。鮮やかな色合いを持つ金髪は母のようにゆったりと結ばれており、慈愛に満ちた紫の瞳は少し切れ長で、左眼の下にあるホクロも女性を表現するのに必要となる要素だろう。

 

「納得してくれたようで嬉しいよ。そうだ、ついでに他の人達も教えてあがるよ。次のページに描かれているのが、俺をここまで強くしてくれた舞師匠。俺の技はこの人が作ったものなんだ」

 

「そうなんですか…この人が……」

 

そう呟くレムさんの薄青色の瞳に、複雑な感情が芽生え始めているのに俺はおろか、レムさん自身も気づいていなかっただろう。

まぁ、俺はそんなレムさんの些細な変化より、くだらないことに思考を咲いてしまっていたから……

 

“まぁ…師匠を表すには胸を伝えれば、一発なんだけどね………”

 

一緒に練習していると、プルンプルンと暴れまくるおっぱいは幼心に今だに覚えているーー

 

「ーーって、そんな事しか覚えてないのかよ、俺……」

 

自分の事ながら情けない…

 

「ハルイトくん?」

 

そんな最低な思考回路の俺を心配そうな表情で見つめるレムさんに申し訳なくなってしまう。俺はレムさんに笑いかけながら、次のページをめくる。

そこには、艶やかな黒髪を小さな肩へと流している女性が描かれている。まん丸で大きな水色の瞳に続くのは、適度に整った顔立ち。しかし、女性は美人というより可愛らしい……可憐と表現したくなるほどに愛らしい。それは、今でも俺が思っている事だ。

 

“叔母さん…元気かな…”

 

「あぁ、大丈夫だよ。で、次の黒髪の女性が玲奈叔母さん。小さくて可愛らしいんだけど、その見た目からは想像できない位よく食べるんだ……子供ながらに、この量の食べ物はこの人の何処に行くんだろう?って思ったよ。それくらいよく食べるし、すら〜としてるんだ。そして、次がーー」

 

「ーーふふふ…」

 

突然、笑い出したレムさんに首を傾げる俺に、レムさんは申し訳なそうな表現を作るが、それも一瞬でキョトンとしている俺を見て、また笑い出す。

 

「?」

 

「いえ、すいません…ハルイトくんが家族の皆様のお話を楽しげに話しているので、つい…」

 

「……ッ、!?」

 

レムさんの謝罪を聞いた途端、胸を締め付けられる。ゆっくりと上を向くとサラサラと手入れの行き届いた青い髪にひょっこりと顔出す白い旗。

 

“【真っ白な布地の真ん中にはピンク色の大きなハート】がプリントアウトされてるか……”

 

どうやら、何がトリガーになったのか分からないが、レムさんもラムさんと同様に攻略しないといけないらしい…。

こっそりとレムさんを盗み見ると、レムさんも俺の視線に気づき、小首を傾げてくる。ただ、それだけの仕草なのにーー

 

“ーーレムさん、可愛いッ!!”

 

と思ってしまった俺は本当に最低な男である……。本当…ラムさんという人がおりながらも、他の女性へと目移ししてしまうとは……

 

“でも、仕方ないよね……フラグが出ちゃったんだもんっ”

 

と開きなった俺は、そのあとに続く人達の説明をした……

 

τ

 

それから、数時間後にふと魔刻結晶を見た俺はまだ興味深げに見ていたレムさんへと声をかける。

 

「あっ、もうこんな時間だ…レムさん、時間だよ。そろそろ、寝なくちゃ」

 

「?あっ、本当ですね」

 

俺と同じように、魔刻結晶を見たレムさんはスケッチブックを閉じると、俺へと差し出す。それを受け取りながら、俺は申し訳なそうな顔を作る。

 

「結局、星座の話出来なかったね、ごめん」

 

「いいんですよ、ハルイトくんが大切に思っている家族の方たちの話が聞けたので…」

 

そう言って、立ち上がったレムさんは俺へと頭を下げるとドアへと歩いていく。そんなレムさんの手助けをするように、ドア開けて、もう一度頭を下げてくるレムさんへと右手をひらひらと振る。

 

「こんな話で良ければ、いくらでもしてあげるよ。それじゃあ、お休みなさい」

 

「はい。おやすみなさい、ハルイトくん」

 

ゆっくりと遠ざかっていく青髪を俺は小さくなるまで、眺めていた……




九話に続く…


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九話『獣使いの少女とフラグが見える少年の恋路』

今回も長めです。そして、このレム章ですが……12か13くらいで終われたらいいなぁ〜と思っております。では、ご覧ください…


ラムさん攻略も進んでないのに、何故か突然始まったレムさん攻略は、思っていた以上に順調で…順調すぎて不安になるほどであった。

その日も、新たな日課になりつつあるレムさんとの昔話?を終えた俺は特訓へと精を出していた。

 

「スゥ〜、ハァ〜、良しッ!いつでもいいぜ、玄武」

 

そう言って、振り返った先にはーー硬そうな亀に蛇が巻きついているような姿を持つ召喚獣がいた。身長は俺の身長をゆうに越えて、二mくらいである。

そんな巨大な玄武は俺に甘えた声を上げると、伸ばした首でスリスリと頬をする。

 

「キューキュー」

 

「あはは、そういえば、玄武とこうして特訓するの初めてだよな?いつもは白虎や朱雀だし」

 

俺の呼び掛けに、頷くような仕草をした玄武だが、俺は知っているーー玄武が俺に一番甘く、一番厳しいことにーー

 

「キューキューキュー」

 

「あぁ、分かってる。お前は優しいやつだけど、俺の教育には人一倍厳しかったもんなっ……俺もお前に強くなったところを見せるチャンスだし、手抜きなんてしないよ」

 

「キューキュー!!」

 

「あぁ、そろそろ始めよう」

 

そう構えた矢先の時だった。

突然、現れた大勢のあの黒い犬は戸惑う俺からはあの商人から貰った黒革手袋をーー

玄武へと近づいた他の黒い犬は、玄武を取り囲むと俺から離していく。そんなことになっているとは、知らない玄武はうっとおしそうに、取り囲む黒い犬に攻撃を繰り返しては交わされ、ある方向へと誘導されて行った。そんな玄武を助けようと、一歩踏み出した俺に唸り声を上げる黒い犬が続く。

 

「ちょっ、玄武ッ!!」

 

「グルルルゥ……」

 

「チッ!また、お前かよッ!邪魔をしないでくれるかな?」

 

「ガルルルゥ……」

 

舌打ちをする俺に、あの黒い犬はここを通さないと言った感じで唸り声を更に強くする。

 

「無理ってか…、ならッ!仕方がない!!

前いまし今いまし先します主の戒めあれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。罪生の魔性を回生せよ。EVOKE、朱雀、白虎!」

 

朱雀と白虎を呼び出した俺は、邪魔するあの黒い犬を何とか倒すと、玄武が連れて行かれた方向へと走り出す。そして、森に入って…暫くすると、広場みたいなところに出た。

そこには、玄武を撫でる長い青髪をお下げにして前に垂らしている幼い少女が居た。青いワンピースを揺らして、俺へと振り返ると黄緑色の瞳を大きくする。そんな少女に向けて、俺は右手を差し出す。

 

「その手袋と俺の友達をどうするつもり?俺、返して欲しいんだけど…」

 

「お兄さん、速いねえ。わたし、びっくりしちゃったあ」

 

年相応の甲高い声に、眉をひそめながら、少女に右手を差し出し続ける。

 

「あぁ、そう」

 

「なんか、冷たーい」

 

「冷たくされたくないなら、返すものを返して」

 

「嫌だって言ったら、お兄さんはわたしをどうするつもりなの?」

 

首を傾げる少女は、こんな状態でなければ、可愛らしいと思うだろうが…今の俺にはそんな余裕すらなかった。ポキポキと指を鳴らすと、肩のとまる朱雀と俺の横で少女へ向けて威嚇音を出している白虎を見る。そして、互いに頷き合うと、少女を睨みつける。

 

「……本当は嫌だけど、力ずくで言うことを聞かせる…ッ」

 

そう言って、距離を詰める俺たちを見ても、少女は余裕の表情だ。

 

「やだあー、お兄さんって怖い人なの?そんなに可愛らしい顔をしてるのにい」

 

「可愛い顔とか…そんな事、今は関係なくない?それより、構えなくていいの?俺、女の子でも容赦しないよ?」

 

「あーん、こわーい。やっぱり、お兄さんって怖い人なんだあね」

 

少女がそう言うと、親指と人差し指を重ねて、自分の口へと咥える。そして、スゥ〜と息を吸うと、ピィ〜と指笛を吹く。すると、ゾロゾロと集まってくる魔獣たち。

あっという間に、周りを囲まれ、俺は舌打ちをする。

 

「これでも、どうにか出来るかな?」

 

「チィ、君こそ可愛い顔して…えげつないことするね」

 

「ふふふ、頑張ってね、お兄さん♡」

 

少女のその掛け声を元に、俺たちへと飛びついてくる魔獣たちに埋もれるようにして、俺たちの姿は魔獣の群れに埋れていった……

 

 

τ

 

 

それから数時間後、辺りが明るくなってきたのを確認して、俺は近くにあった大きい岩へと腰掛けて、パタパタと脚を動かして見物していた少女へと向き直った。

おでこから流れ落ちる汗を拭いながら、少女の近くへと歩いてきた俺は右手を差し出す。

 

「はぁ……ッ、全部倒した、次は君の番だ。そろそろ観念したらどうだ?」

 

「あら?お兄さんみたいな人にやられるなんて、この子達弱いねー」

 

「ッ」

 

俺の後ろで山積みにされている魔獣の死体の山には、見向きもせずに肩を落として、やれやれといった感じの少女に少なからず、イラっとする。

そんな俺の様子に少女は、ピョンと岩から降りると玄武の背中を優しく叩く。

 

「そんな怖い顔しないで。はい、この子でしょう?返してあげる、いい子だけど…わたしの言う通りにはならないみたいだから」

 

「それはどうも。で、俺に返すのはそれだけ?」

 

「はい、これもわたしには扱えないみたいだからあげるー」

 

玄武も黒革手袋も興味なさげに俺へと返す少女に、俺は困惑する。そんな少女だが、俺の困惑した表情にも気付かずに、玄武へと視線を向ける。

 

「ちょっ、……はぁ……君な」

 

「お兄さんって可愛い顔つきしてるけど、かっこいい人なんだね。その子から色々聞いたよー」

 

「聞く?」

 

首を傾げる俺に、少女は一歩一歩と俺に近づいてくる。そんな少女に警戒する俺。

 

「うん、本当に色々な話をしてくれた。お兄さんに貰った恩をまだ返してないし、まだ育てきれてないから…わたしの所には行けないってー。すごくお利口さんだね、おにーさんの事に信頼してる」

 

「玄武……。当たり前だろ、俺の自慢の仲間たちなんだから」

 

甘えたように、首を脚に擦り付けてくる玄武に俺は優しい手つきで玄武の頭を撫でる。

そんな俺と玄武を見ていた少女は、いつの間にか俺の目の前に来るとニコニコと可愛らしい笑みを浮かべる。

 

「それでね…わたし、お兄さんのそんな話聞いてたらーーお兄さんの事に好きになちゃった。ねぇ、お兄さんも私と一緒にママに会いに行こうよ。ママもお兄さんに会いたがってたし…」

 

「はぁ……?」

 

“意味がわからない…何がどうなったら、そうなるんだ?”

 

少女が俺を恨むことあっても、恋に落ちることはないはずだ。それも出会ってーーまともに会話して、数分と経ってない。そんな相手に何故、恋心を?

 

「君は何を言っているんだ…、そんな幼稚な作戦で俺を混乱させようとしてるのか?」

 

「あーん、お兄さんは全然分かってないねー。わたしは本当はお兄さんのことを好きになったんだよ。その子を助けるために必死なるお兄さんがカッコいいって思ったのっ。それだけじゃ、不満?

わたしのものになってよ、お兄さん。ねぇ、いいでしょう?」

 

少女の言い方はまるでオモチャを欲しがり、タダを捏ねる子供ような感じだった。

 

“甘く見られたようだな…”

 

俺は少女をジィーと見つめると、ゆっくりと切り出す。

 

「すまない…。俺は君のものにはなれない……だって、俺には心に決めた人が居るんだから、その人にもう身も心も捧げちゃってるんだ。ごめんね」

 

「……ふーん。でも、わたしは諦めないよー。だって……」

 

さっきまで、ハートマークだった瞳が俺の言葉を聞いた途端、どす黒い煙に包まれて行く。

少女の纏う雰囲気も黒く染まって行くのに、俺が眉を顰めると少女はニヤ〜と薄気味悪い笑みを浮かべると、俺の身体を触り出す。その少女とは思えない手つきに、俺はこの少女がいよいよ分からなくなってきた。

 

「???」

 

「その人さえ殺しちゃえば、おにーさんはわたしのものになってくれるんでしょう?あぁ、そうだ。わたし以外の人を殺しちゃえばいいんだぁー。ふふふ、ねぇ、おにーさん、いい考えでしょう?」

 

“ラムさんを殺す!?そんなことさせるわけーー”

 

「ーーがはぁ…」

 

勢い良く吐き出した息に混ざり、多くの血が草を紅く染め上げる。そして、それの血につられるように自分の身体を見た俺は、その場に崩れ落ちた。

 

「でも、その前におにーさんがわたしから逃げないように脚と手を奪っておかないとね……」

 

崩れ落ちた俺の横腹を蹴飛ばして、仰向けにさせた少女は俺を見下ろすと、うっとりするように微笑む。

 

「こんな状態なのにそんな顔するんだー。ますます、好きになっちゃった」

 

「普通は好きになった人にこんなことはしないはずだけど?」

 

「だって、こうしないとお兄さん逃げちゃうでしょう?どんな姿になっても、お兄さんはお兄さんだもの。わたしがずぅーと、側に……居てあげる」

 

「!?がぁ!…………」

 

俺は少女に呼び出された魔獣にあちらこちらを噛みつかれて朦朧する意識の中、あの屋敷の人達に会えないことを悲しく思いながら……意識を手放した……




何だが…むちゃくちゃな展開に……。

十話に続く…


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十話『炎の小鳥と青髪の少女』

大変、お待たせいたしました!

今回はレムちゃんの気持ちを中心に書きましたので、宜しければご覧ください!では!!


癖っ毛の多い赤髪の少年との対話を終えて、自室へと帰った青髪の少女・レムは心ここに在らずの様子で、寝支度を済ませていく。

露出度が高い仕事着から、水色のゆったりしたネグリジェへと着替えると、レムはストンとベッドへと座る。

 

「……」

 

“レムはハルイト君のことをどう思ってるんでしょうか?”

 

確かに最初の頃は怪しくて、この屋敷の、姉様の害となる存在だと認識していた。そして、何よりも彼から漂ってくるあの悪臭が、レムの深いところにある傷を引っ掛いて行くのだ。そのレムの気持ちにプラスして、彼の容姿もレムの心を脅かすものであった……。

燃える炎のように真っ赤な瞳と癖っ毛の多い髪の毛は、あの炎の夜を安易に思い出してしまうものであり、それに加えて時折漂ってくるあの魔女の残り香に…あの時に思ってしまった気持ちを責められている気がしてーーあの夜にレムはずっと考えていた襲撃を実行した。そして、レムは思い知ることになるあの頃の自分と、今の自分が変わってい事にーー

 

“でも…、ハルイト君はレムが思っていた人と違って…”

 

ーー彼はレムの考えているよりも、もっとずっと思いやりに溢れた心優しい少年だった。それは、彼と共にレムが滅ぼそうとしたあの小鳥と虎も同じであって……

 

「そんなハルイト君と…あの子たちをレムはこの手でーーゥっ」

 

“何も変わってない…あの時のレムと何一つも……”

 

罪悪感から溢れてくる涙を俯いて、堪えようとするがどうも上手く行かない。暫し、静かに涙を流している時だったーーその僅かな音が聞こえたのは……

 

コンコン

 

「?」

 

コンコンコンッ!!!

 

「!?」

 

激しさを増す音を探る為に、後ろへ振り向いた時だった……

 

「キュルルル」

 

「あなたは…」

 

窓の外に、燃えさかる炎の鶏冠と羽根を持つ小さな小鳥が顔を覗かせているのを見たのは…レムが慌てて、窓を開けると肩へと止まって、何かを訴えているようにしきりに、森へと視線を向ける。レムが眉を顰めると、今度は外に出るようにコンコンと、嘴でドアを叩く。そこで、レムは気付いたその小鳥の主が居ないことに……

 

「ハルイト君に何かあったのですか?」

 

「キュルルル!!キュルルル!!」

 

「ッ!」

 

炎の小鳥がレムの問いに肯定と思える鳴き声を上げるのを聞いて、レムは一目散に玄関へと駆け出し、暗闇に紛れ異様な存在感を表す森へと足を踏み入れた…

 

 

τ

 

 

炎の小鳥に導かれるままに、森を横切るように走り続けるレムに突然、横から黒い影が襲いかかる。

 

「キュルルルーーッ!!」

 

そんな黒い影へと体当たりして、その小さな体から出てるとは思えない程に大きな炎の玉をその黒い影目掛けて吹き付ける。

 

「グルルル……」

 

情けない声をあげて、忽ち丸こげになった黒い影を見て、レムは呟く。

 

「ウルガルフ……、この魔獣にハルイト君は…」

 

「キュルルル〜〜」

 

そんなレムの肩へと乗っかり、頬に擦り寄る炎の小鳥にレムは微笑み、優しく撫でる。

 

「レムを守ってくれたんですね、ありがとうございます。……やっぱり、あなたは優しい子ですね。確か、あなたの名前は朱雀ちゃんでしたか?」

 

「キュルルル〜!」

 

肯定とばかりに、更に擦り寄ってくる炎の小鳥・朱雀のふわふわな羽毛が頬を撫で、擽ったい。

 

「ふふふ…くすぐったいですよ、朱雀ちゃん…」

 

「キュルルル」

 

朱雀が前を向くのを見て、レムは頷き、その手にはいつの間にか重量感たっぷりの鉄球が鎖に繋がれた武器を持っていた。

さっきまでの微笑みを消して、薄青色の瞳を鋭く細めてレムは歩き出す。

 

「えぇ、そうですね。ハルイト君を救い出しましょう、魔獣からーー」

 

「ーーキュルルル!!!」

 

レムの言葉に甲高い鳴き声で答えた朱雀は、レムを導くように先頭を羽ばたいていく。

そこに現れる複数のウルガルフに、レムは青いレーザービームを放ち……

「ガルルルゥ……」

 

「そこをどいてください、レムは先を急いでいるんです」

 

と愛武器のモーニングスターを横になぎ払い、複数のウルガルフを葬った……




十一話へと続く…


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十一話『青髪の少女とお下げの少女』

続けて、更新です!

さて、今回の話ですが…レムちゃんとお下げの少女ことメィリィのこの二人が中心に話が進んで行きます。
どうか、最後までご覧ください!では!!


その後も、幾度となる戦闘の果てにレムと朱雀はやっと、ハルイトの所へと来ることができた。

 

「ハルイトくん!!」

 

レムが見たのはーー草むらの上に横たわる癖っ毛の多い赤髪の少年で、その少年を取り囲むようにどす黒い液体が草を濡らしているのを見て、レムはカァーと血が上り、赤髪の少年の側にしゃがみ込み、その髪を撫でている藍色の髪をお下げにしている少女に鋭い視線を向ける。

 

「あなたですか…」

 

俯き、静かに少女へと問いかけるレムにやっと気づいた様子でレムの方を向くお下げの女の子は、事の重大性が分かってない様子でプク〜と頬を膨らませる。

 

「あぁ〜ぁ、あと少しでお兄さんの心はわたしのものだったのにいー。青髪のお姉さん早すぎい来るのおー」

 

「あなたなんですか…」

 

「……」

 

レムが漂わせている雰囲気に気づいた様子で、押し黙るお下げの少女にレムはカッと目を見開き叫ぶ。

 

「レムの大切な人を傷つけたのはーーッ!!!」

 

青い髪を掻き分けて、姿を現す桃色の光を放つ角にお下げの少女はサッと指を口に咥えて、ピィ〜と笛を吹く。

そんな少女の呼び掛けに応じるように森の奥から様々な魔獣が姿を現すがーー

 

「しっ!」

 

短い掛け声と共に葬られる複数の魔獣たちに、お下げの少女は焦ったように更に口笛を吹き、更に多くの魔獣を呼びつける。

 

「あのお姉さんを殺して!早く!早くしてよお!!」

 

甲高い声で、複数の魔獣の中央で荒れ狂うように戦い続ける青髪の少女へと指差すお下げの少女に答えるように飛び掛かる魔獣は、忽ちに肉の塊へと早変わりしたのは想像するも容易いだろう。しかし、魔獣たちも黙って殺されるようなものではない。

 

「ガルルルッ!!」

 

「しッ!」

 

「ガルルルッ!!」

 

「!?」

 

レムの一瞬の隙をつき、腕や腹部へとその鋭い牙を突き立てる。しかし、それも一瞬であるのだが…

 

「ーーッ!!」

 

レムの鋭い拳を受けた魔獣たちの身体から、内臓や血が溢れるのを見て、お下げの少女は、これ以上マズイと思ったか身を翻すと

 

「あぁ〜ぁ、もう少しでいいところだったのにー。でも、あのおねーさんを相手するのは疲れそうー。仕方ない、逃げようか…、じゃあ、またね、メィリィのおにーさん♪」

 

地面へと倒れ伏せるハルイトへと、最後の投げキスをして、森の中へと姿を消した…

 

 

τ

 

 

「…………」

 

“あぁ…ヤバ…これ、死ぬパターンだわ…”

 

ボヤける視界の中、ハルイトは自身の死を確信する。

 

「……ーーッ!」

 

“え?”

 

走馬燈のように今までの出来事が頭の中で流れる中、聞き慣れた声が聞こえた気がして、顔をゆっくりと上げる。そして、ハルイトは目を丸くする。

 

「しっ!ッ!?」

 

鉄球を振り回し、魔獣を葬っている青髪の少女のおでこ当たりに桃色の光を放つ角が顔を表しているのを見て、ハルイトはこう思った。

 

“へ?鬼?”

 

鬼って……あの、鬼だよな……?

昔読んでもらった桃太郎さんやらでも、悪役に指定されているあの鬼がこんな可愛らしい女の子?

 

“いや、待て…レムさんが鬼ってことはーーラムさんも?”

 

いやしかし、ラムさんからそんな話を聞かなかった気がーーって、殆ど俺が勝手に行って、俺の家族の話やらを話して帰ってくるだけだったっけ?

 

“俺のバカッ!なぜ、もっとラムさんにーー”

 

「……ハルイト君。…無事ですか?」

 

後悔する俺の耳に愛らしい声が聞こえてくる。しかし、その声も疲れている様子で所々掠れている。

俺を抱きかかえるように腕へと抱いた青鬼はその幼さが残る顔を悲痛な色で染め上げて、大きな薄青色の瞳に沢山の透明な雫を溜め込んでいた。

そんな青鬼の姿に、俺はーー

 

“あぁ…綺麗だなぁ…”

 

ーーと場違いの感想を抱いてしまう。それ程までに、青鬼は美しく愛おしかった……。

俺を助けるために無理をしてくれたのだろう、普段はて丁寧に整えてある青髪はボサボサで返り血を浴びて、べったりとしていた。涙をたたえた薄青色の瞳は静かに波を立てており、桜色の唇は何かを堪えるように一文字に結ばれている。

そして、その唇はゆっくりと開くと可愛らしいが疲れを含んだ声が鼓膜を擽る。

 

「…良かった…………、生きて…る、んですよね?」

 

「…………」

 

小さく僅かに首を縦に振る俺を見て、青鬼・レムさんはヒシッと俺を抱きしめる。

 

「ハルイト君!ハルイト君!良かった…です、本当に良かった!!」

 

「…………」

 

“レムさん…苦しーー?”

 

俺をポロポロと大量の涙を流して抱きしめてくれるレムさ

んの後ろに広がる森の中、ピカッと何かが光ったような気がした。

目を凝らして見ると、やはり僅かにピカッと光る僅かな光の後に小さな足音が聞こえる。

 

“あれは!?”

 

あの光が見えたところから、いつの間にか姿を消していたあのお下げの少女がレムさん目がけて、ナイフを構えて走ってくる。レムさんはそれに気づいた様子はなく、涙を流し続けている。

 

“俺が守らなくちゃ!レムさんを!!”

 

「ーーはぁっ!!」

 

「っ!?」

 

「へ?」

 

抱きかかえてくれているレムさんの右肩に手を置き、軽い掛け声と共にレムさんを草むらへと引っ張る。レムさんは突然のことに、抵抗出来ずに草むらへと身体を横たわさせ、その上へと覆いかぶさるように両手を草むらへと両手を付いた俺の背中へと深々と突き刺さるナイフ。

 

「ゴホッ」

 

「ハルイト君!」

 

「うそ…、なんでお兄さん……まだそんな力…」

 

血を吐き、唖然とするレムさんへと倒れた俺にお下げの少女は後ずさる。

そんな少女に向けて、レムは鋭い視線を向ける。

 

「また…あなたですか…ッ。あなたなんですかッ!!」

 

「………」

 

「待て!絶対に逃がさない!!エル・ヒューマ」

 

その視線を負けてしまい、逃げるように森へと走り出すお下げの少女にレムは氷の槍を突き立てる。それを器用に避けたお下げの少女の放った一言で、レムは動きを止めてしまう。

 

「……早くしないと、お兄さんが死んじゃうよ、青髪のお姉さん」

 

「ッ!?」

 

「じゃあねえ、青髪のお姉さん、メィリィのお兄さん」

 

レムは早速と逃げて行くお下げの少女の姿に、悔しさから地面を叩きつける。

そして、ハルイトを優しく持ち上げると

 

「ハルイト君…絶対に助けますから、死なないでください…」

 

風を切るように、一目散に屋敷へと帰っていった……




勝手に沢山の魔獣を動かしてしまったメィリィは、多分ママに怒られたことでしょうね(笑)
それほどまでに、ハルを自分のものにしたかったのでしょう…。

で、次回でこのレム章が最終回となります。最後まで、どうかよろしくお願いします(礼)


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最終話『青髪の少女と赤髪の少年の恋路』

最終話となりましたこのレム章ですが、最初は三話くらいで終わらせるつもりでしたが、この後の展開を考えて、こんな長編へとなってしまいました。

なので、このレム章が今後にどのような展開を齎すのか。楽しみにしていただければなぁ〜と思います!では、ご覧ください!


あの戦いから、深い眠りについたままだった俺だが、屋敷に居る方々のおかげで、目覚めた一時間後には外で星を見るくらいには、体力が回復したのだった。

手入れの行き届いた芝生に寝転がり、二人して鮮やかに光る星たちを見る。

 

「綺麗だね、レムさん」

 

「はい、そうですね」

 

月に照らせて、淡く光る青髪を揺らして微笑むレムさんに俺も微笑み。

暫し、二人の間に沈黙が流れる…

 

「………」

 

「………」

 

そして、その沈黙を破ったのは、最初に沈黙を作った俺であった…

 

「あー、レムさん…ひとつ聞いていい?」

 

「はい、何なりと」

 

と慈愛に満ちた笑顔で俺を見つめる…いや、見下ろすレムさん。そう、見下ろしているのだ。そして、俺の頭の後ろには柔らかくも程よい弾力性があるものが広がっている。俺が上を見上げると、年相応よりも大きく実った二つの双丘が見えーー

 

「ーーなんで、俺はレムさんに膝枕されて、頭を優しげに撫でれているのだろうか?」

 

「それはハルイト君がまだ無理をしてはいけない身体なのに、星を見ようとレムを誘ったからですよ。レムは心配で心配で胸が張り裂けそうなのに、ハルイト君が強引に迫るからレムは仕方なくーー」

 

余計なことまで口走りそうになるレムさんを、暴れて黙らせる。

 

「あーあ〜〜ッ!!、ストップ!ストーップーー!!

まずその誤解を招く発言はやめるようにと、レムさんは本当に嫌だったの!?の割に、笑顔が素敵なんだけど!!」

 

「そんな、夜空に光る星たちよりもレムの笑顔が素敵なんて…照れてしまいます」

 

「飛躍しすぎだよ!」

 

「そんな、褒めすぎですよ、ハルイト君。お嫁さんに欲しいなんて…」

 

「………ダメだわ、これ」

 

完全に自分の世界へと入ってしまったレムさんに、俺は苦笑する。

 

“まぁ、レムさんには…迷惑かけちゃったし……”

 

しばらくの間、彼女の好きにさせてあげようと思い、俺は変な抵抗をやめて彼女へと体重を預けた。

 

「……」

 

「ハルイト君…手を貸してください」

 

「? はい…って、レムさんくすぐったいっ」

 

俺が差し出した右手を両手で掴んで、隅々まで触るレムさん。あまりのくすぐったさに、手を引っ込めようとするが力強く握れ、断念。

レムさんの謎の行動は、激しさを増していき、色んなところへとレムさんのほっそりした手が伸びていく。

 

「こんなにほっそりした…綺麗な手なのに、やっぱり男の子なんですね…少し、ゴツゴツしてます」

 

「そうかな?」

 

「そうですよ。それにハルイト君の髪の毛は、癖っ毛が多いのにレムよりサラサラしてる気がします」

 

「えっと…それは、かな〜りドリーム入ってるような…」

 

「ハルイト君の瞳は鋭いのに大きくて…優しい光がいつも浮かんでいて、素敵です」

 

「いや、俺よりもーー」

 

「ハルイト君はがっしりしてるんですね。胸板とか、思ったよりも大きくてーー」

 

「ひゃあ!?レムさん…そこは…っ」

 

その後も、レムさんの謎の行動に疲れた俺が見上げると、当事者が微笑んでいた。そんなレムさんだが、満足そうに首を縦に振ると小さく呟く。

 

「……です」

 

「へ?」

 

「レムは…ハルイト君の事が好きみたいです」

 

「みたいですって…」

 

「言い方を間違えてしまいました…レムはハルイト君を愛してます」

 

「……」

 

堂々と告白するレムさんに、俺は唖然とする。スゥ〜と上を向くと、あの攻略フラグにいつの間にか、赤い文字で済と書かれていた。

嬉しいのは、嬉しいが何がどうして…いきなり、レムさんが俺の事をーー

 

“ーー好きなんて…愛してるなんて…”

 

「あの時…レムを助けてくれました。レムに、沢山のことを教えてくれました。レムの知らない世界のことを沢山、聞かせてくれました」

 

「そんな事で?」

 

「……」

 

俺の一言に、頬を膨らませるレムさんに俺は何故か冷や汗が流れる。

 

「いくら、ハルイト君でも言っていいことと悪いことがあると思います!レムがハルイト君を好きになった理由をそんな事なんて」

 

「ごめんなさいっ、そんなつもりはなく…」

 

「ふ」

 

俺が必死で謝る様子に、小さく笑うレムさん。

 

「へ?」

 

「そんなに謝らなくても…冗談なんですから。そういうハルイト君の真摯なところもレムは好きですが、こんな風に騙されないか心配です」

 

「それは遠回しにお人好しって言ってるのかな?」

 

「でも、それもハルイト君の素敵なところですよ」

 

「フォローしてないからね!?」

 

ツッコミを入れつつ、暴れる俺を落ち着かせるために頭を撫でるレムさん。

そんなレムさんを見上げると、偶然に見下ろしてきたレムさんの視線を重なる。

 

「ハルイト君はレムを好きになってくれますか?姉様と同じように愛してくれますか?」

 

「……」

 

「やっぱり、レムではダメですか?」

 

「……ダメじゃないよ。俺には勿体無いくらい素敵な女性だよ、レムさんは。

……そんな素敵な女性を愛さないわけないでしょう。俺も好きだよ、レム」

 

「っ……ありがとうございます…っ、ハルイト君…」

 

俺は起き上がると泣きじゃくるレムさんを強く抱きしめた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜『オマケ』〜〜〜〜〜

 

「ハルイト君はレムにどう呼ばれたいですか?」

 

「…………。…………へ?」

 

ある日のお昼休憩にて、向かいに座る青髪のメイドさんの口から聞こえてきた言葉に、俺は傾けかけていたカップを危うく零しそうになる。

 

“レムちゃんなんて言った?どうヨバレタイカッテ?”

 

どう呼ばれたいと言われても……。

この十七年間、同学年の女子と関わりあったことがあまりなかった為に…こう呼ばれたいと思う呼び名がない。それ故に、何故レムちゃんが俺にはこんな無理難題を問いかけてきたのだろうか?

 

「レムだけ、ハルイト君から呼び方を変えてもらったので…不公平な気がして」

 

“あぁ…なるほど、そういうことか…”

 

「んー、俺は今のままでいい気がするけど……そうだね、言われたい呼び名かぁ〜」

 

腕を組んで、考え込む俺を期待の眼差しで見つめてくれる。

 

“やめて、そのキラキラな瞳はやめて”

 

これは変な事を言ってはダメなタイプのやつだ。ボケてはいけない感じのーー

 

「ん〜、ん〜〜」

 

そういえば、レムさんに攻略フラグが立ったなくて、ラムさんの攻略が今よりも順調に進んでいたら、ラムさんと今頃…その…婚約とかしちゃったりして…レムちゃんに『お義兄さん』って言われてたのかな?いや、『義兄さま』か?

 

「……義兄さまかぁ…、ぐふふふ……いいな…」

 

俺を甲斐甲斐しく世話するラムさんに、可愛い義妹のレムちゃんーー有りだな!これ!!

 

「兄様?ハルイト君はレムに兄様って呼ばれたいんですか?んー、兄様ですか…」

 

「ん?」

 

何やら、レムちゃんは難しい顔をしている……どうしたのだろうか?

 

「ごほん」

 

小さく咳払いをしたレムちゃんは、スゥ〜と息を吸うと俺の目をまっすぐに見つめて、俺にとってある意味、爆弾にもなりうる言葉を俺へと放った。

 

「兄様」

 

「……」

 

「……どうですか?」

 

「……」

 

恥ずかしかったのだろう、僅かに赤らんだ頬にウルウルな薄青色の大きな瞳は俺の反応を心配そうに、上目遣いで伺っている。

 

“………”

 

「兄様?兄様、どうされました?」

 

まるで石像のように固まったまま、動かなくなった俺へとレムちゃんは恐る恐る触れる。

 

バタン

 

「兄様ぁああああ!?」

 

触れた拍子に、椅子ごと後ろへと倒れた俺はというと、その後、レムちゃんの叫び声を聞いて駆けつけてきたラムさんの割とマジな踵落としによって、目を覚ましたのだった……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




レム章完結です。

レム章によって、第一章の所々を変わったと思うので、それらを付け加えたり、消したりしつつ第一章を完結出ればと思います、では!!

*間違えていた場所を直しました


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第一章 ロズワール邸での激動の一週間
一話『不思議なお客様と赤髪のメイド』


タイトルから察するに赤髪のメイドとはあの人の事です。何故、そうなったのかは本編を見てからの楽しみと言う事で……。やっと、スバルの登場ですねー。主人公とどんな絡みを見せるのか、想像しながら見てみてください。

※お気に入り登録143人、感想一件ありがとうございます!!


「いっ……、嫌ぁ……それはいやだぁっ」

 

「兄様、我儘を言わないでください」

 

「そうよ、ハル。レムが困ってるんでしょう?」

 

朝を迎えたロズワール邸のある部屋の中、二人の少女が薄っすらと涙を浮かべてただをこねる赤髪の少年に手を焼いていた。だが、二人の少女が本当に困っているというわけではない。何故なら、二人とも微笑みを浮かべているのだからーーそれも意地悪な笑みを……

 

「困っているのは俺の方だよっ!なんで、今日に限ってメイド服を着ないといけないんだよっ。そんなの着たら、俺の男としてのメンツが……ッ」

 

「はぁ……」

 

泣き崩れる赤髪の少年ことハルイトを見つめながら、顔を見合わせる双子のメイドことラムとレム。ラムは桃色のショートボブを揺らすと溜息をつくと、ハルイトの前へと進み出る。見上げるハルイトにラムは冷酷にもこう命じた。

 

「ハル、着なさい」

 

「ラムさん、それだけは……それだけはご勘弁を……」

 

「いいから着なさい」

 

「……嫌、それだけは……」

 

「着なさい。これは命令よ」

 

「…………………はい」

 

何度も土下座を繰り返すハルイトにラムは静かに命じる。このメイド服を着ろと、そうしなければ今日の話し合いは無しにすると、事の次第によってはその先も無くすかもしれないと……。そんなのを薄紅色の大きな瞳で言われたなら、もう従うしかない。そうするしか、ハルイトは生きていけないだろう。

ポロポロと涙を流すハルイトを立たせると傍らに立っていた青髪少女ことレムが着替えさせる。本来なら自分で着たいだがメイド服など、どう着るかなんて分かるわけがない。なら、そのエキスパートに任せるしかない。というわけではハルイトは大人しく、今日の仕事着へと袖をとおした。

 

τ

 

メイド姉妹と別れた俺は今日の初仕事に精を出していた。着慣れてないメイド服を揺らしながら、朝食を作っていく。スープをかき混ぜて、口に含むと舌を転がして 味を確かめる。

 

「良しっ、いい感じの味付け。レムちゃんに習って俺の料理スキルも上がったな」

 

テキパキと魔鉱石を操りながら、食材を切ったり煮たりしていく。今日は俺が食事当番だ。ちなみに明日はレムちゃん、その次が俺だ。一日ごとに変わりばんこというのが俺とレムちゃんで話し合った結果なのであった。

“しかし……、運がいいのか悪いのか。エミリア様を助けてくれた大事なお客様の最初の食事が俺って”

口に合えばいいけど、と思いながら俺は手を動かし続けた……

 

τ

 

件のお客様は何というか、不思議な奴だった。黒く短い髪を上へと持ち上げている。服装は動きやすそうな黄色いラインが入ったジャージというものだろう。目つきは両方釣りあがっていて、がたいはそれなりに鍛えているのだろう、がっしりとしている感じだ。

 

「ハル、いつまでつったてるの。さっさと配膳しなくては料理が冷めてしまうわ」

 

ポカーンとお客様を見つめる俺に後ろから厳しい声が聞こえてきた。振り返ると俺と同じタイプのメイド服に身を包んだ桃髪の少女が居た。薄紅色の瞳が段々と険しくなるのを感じ取り、すぐさま行動を起こす。

 

「あっ、すみません。ラム姉様、すぐに取り掛かります」

 

上のセリフは俺が発したものだ。何が何だか知らないが、メイド服に身を包んでいる俺はラムさんとレムちゃんの妹という設定らしい。なので、そのように振る舞うようにと固く言いつけられた。俺にとっては何の利益も無いがラムさんが言ったことだし、腹を括るしかないだろう。

最初は件のお客様から配膳を行なっていく、俺が台車を押す係で食事を並べるのがレムちゃんの役割でお茶とスプーン、フォークを並べるのがラムさんの役割である。

 

「失礼いたします、お客様。食事の配膳をさせていただきます」

 

「失礼するわ、お客様。食器とお茶の配膳をさせてもらうから」

 

テキパキと配膳していく二人の側、俺はというと手持ち無沙汰で台車を次のところへと押していた。すると、ふと視線を感じて 振り返るとあのお客様が俺を見つめていた。小首をかしげる俺にサッと視線を外すお客様。

“なんなんだ……一体……”

不思議に思いながらも俺は二人のサポートへと向かった……




ハルが可哀想でしたね〜


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《新》二話『黒髪の少年と赤髪のメイド』

ラムさん以外にヒロインっていた方がいいですかね?作者はリゼロのDVDを3巻と4巻を持ってるんですが、見返せば見返すほどレムちゃんが可愛くて……、いえ断じて揺らいではないですよ(汗)

※お気に入り登録・145人。感想二件ありがとうございます!!


「むぅ……普通以上にうまいな」

 

黒髪の少年がそう口にしたのを耳にして、胸を撫で下ろす俺。そんな俺をチラリと見たロズワール様は意味深に笑うと得意げに胸を張った。

 

「ふふぅーん、でしょでしょう。こう見えて、ハルとレムの料理はちょっとしたものだよ?」

 

「ん?じゃあ、この料理を作ったのは……青髪の子、レムちゃんと……あの赤髪の子って事か?」

 

お客様が俺とレムちゃんへと視線を向ける。ちなみに立ち位置を言うと俺とレムちゃんがロズワール様の左側に並び立ち、ラムさんが右側に立っているといった感じだ。レムちゃんは何故かキツネを手で作って、お客様へと向ける。俺はレムちゃんの行動に首を傾げつつ、褒めてくれたお客様へと頭を下げる。

 

「はい、お客様。当家の食卓はレム姉様とハルが承っています。ラム姉様はあまり得意というわけではないので」

 

「んぅ?ハルって君ことだな?」

 

「はい、お客様。その通りでございます」

 

鋭い瞳が横に並ぶ俺ら三人を見る。途端、難しい顔をしたかと思ったら 小首を傾げだす。その行動の意味にいち早く気がついたロズワール様は俺たちを見ると

 

「なぁーに、おかしいことではないさ。ラムとレムは双子でハルはその二人の妹なのだぁーからね」

 

“オイ、コラ!!何、取り返しのつかなくなるような事言ってくれるのー!?”

と思ったが、こんな格好してる時点で俺はお客様に大きな誤解を招いたことになる。後でどう誤解を解けばいいんだ……とこの先に広がる苦難に思わず目眩がする。

 

「へ?妹?」

 

お客様は再度俺と横に並ぶレムちゃんを見る。そして、納得したような納得してないような微妙な顔つきになってしまった。その横ではエミリア様がクスクスと笑っている。

“人の気も知らないで……”

恨めしさから右横を見るが、ラムさんはいつも通りの感じで俺を流し目で見ると一瞬だけ意地悪な笑みを浮かべて、前を見た。俺も仕方なく前を向く。振り向いた先にはお客様が食事を再開していた。スープとサラダを次々と口に入れている。

 

「でも、本当にうまいな……。そういえば、ラム姉様だっけ?長女さんはどんな分野で活躍して?」

 

「はい、お客様。姉様は掃除、洗濯を家事の中では得意としています」

 

レムちゃんの言葉にうなづいたお客様は何故か得意げな顔をして

 

「じゃあ、あれだ。レムりんとハルちんは料理系得意だけど、掃除と洗濯は苦手な感じか」

 

その問いには俺が答える。

 

「いえ、お客様。ハルもレム姉様も掃除と洗濯は得意ですよ。ラム姉様より」

 

「長女の存在意義消えたなっ!?」

 

お客様の叫び声にも動じないラムさんって本当に凄いな。ブレないにしてもブレなさすぎだろう。呆れ顏の俺に再度お客様が話しかけてくる。

 

「この感じの流れていうと……じゃあ、ハルちんの方がレムりんより家事全般が得意な感じ?」

 

「いえ、お客様。ハルの微力ではレム姉様の足元にも及びません。レム姉様ほどの腕前を持つ使用人をハルは生まれてこの方見たことはありません」

 

「マジ次女パネェーなっ!しかし、三女の微力にも負ける長女って……」

 

お客様がラムさんの方を見るがラムさんの自信に満ちた表情は揺らぐことなく、何故か隣のレムちゃんがソワソワしてる。俺の方をチラチラと見ては、恥ずかしそうに頬を染める。

“レムちゃん…テレてるな…。うん…可愛い…”

俺は上目遣いで見てくるレムちゃんへと柔らかく微笑む。俺の反応に更に頬を赤らめるレムちゃん。

“あぁ〜ぁ、もし仕事じゃなかったら…頭を撫で回していたのにっ”

レムちゃんの愛らしさに癒されながら、前を向くとあの黒髪のお客様が微妙な顔つきをしていた。そんなお客様と俺たちのやりとりを見ていたロズワール様は何故か、嬉しそうにしていた。

“あれ?俺何か、間違えた?”

俺はゆっくりと首を傾げる。

 

τ

 

何故、そうなったのかは分からないがお客様もといナツキ・スバルが同僚としてこの屋敷で働くことになった。傍らで控えて、話の成り行きを見ていたが全くどうしてかそうなってしまった。改めて、働くことになったスバルへと自己紹介を済ませる。レムちゃんとラムさんに続く。

 

「改めまして、当家の使用人頭を務めされていただいております、レムです」

 

「改めて、ロズワール様のお屋敷で平使用人として仕事をしている、ラムよ」

 

「改めまして、ロズワール様のお屋敷にて使用人として働かせて頂いてます、ハルです」

 

三者三様の自己紹介にスバルが言った言葉をこれだったーー

 

「ーー長女急激にフランクになってんな。いや、俺が言えた話じゃないけど」

 

腕組むスバルに俺たち三人は手を取り合って

 

「だってお客様……改め、スバルくんは同僚になるのでしょう?」

 

「だってお客様……改め、バルスって立場同じの下働きでしょ?」

 

「だってお客様……改め、スバルさんは同僚になるってことでしょう?」

 

「おい、長女。俺の名前な目潰しの呪文になってんぞ。それとハルもなんか疑ってんな」

 

スバルはロズワール様へと向き直ると

 

「俺の立場ってやっぱりアレな感じか。執事とかってより使用人見習い的な?」

 

「現状だと三人の指示で雑用、っていうのが一番だーぁろうね。不満だったりする?」

 

「不満があるとすれば、雇ってと養ってを間違えたさっきの自分にしかねぇな。ま、悔やんでも仕方ないことは悔やまない。そんなにわけで、よろしくお願いしますぜ、先輩方。よーしっ、超頑張るぜー、粉骨アレしてな」

 

「「「砕身」」」

 

「そう、ソレしてな」

 

右手を上げるスバルに同じく手を上げた俺たち三人はハイタッチを行う。その様子にウンウンとうなづいたロズワール様はスバルへと声をかける

 

「仲良きことは美しきかな。お互いのわだかまりもなーぁいみたいで、雇い主としても大いにけっこうなことだーぁよ。ねーぇ?」

 

「あぁ、不思議と波長が合ってな。あのロリより間違いなく相性いいぜ!あのロリより!」

 

「よっぽどベアトリスと仲良し扱いされたのが嫌だったんだ……」

 

ボソっと囁かれるエミリア様の呟きに俺も心の中で賛成する。ベアトリス様、可哀想だな……。

“ん?痛……”

ドクンドクン、カンカン

といつもの音がなり響く中、心臓が締め付けられるような感触と共に黒髪の上に現れる旗たち。

【黒い旗と白い旗が変わりばんこに円の形に並んでいる。その白い旗と黒い旗を繋ぐ矢印は赤色】

でーー

“なんだ?このフラグ……”

初めて見るタイプのフラグで俺は眉を顰める。もう暫く、考えていたいがどうやら、仕事に戻らないといけないらしい……

 

「兄様、臭いです」

 

隣を歩くレムちゃんに小さく言われたのが心に刺さった……




次はスバルと仕事するシーンかな

※内容を少し変えました!
レムちゃんの視線に戸惑うハル→レムちゃんの視線を愛おしく思うハルになっています。


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三話『青髪のメイドと赤髪のメイド』

今回の話はタイトルの通りです、前に現れた謎のフラグについては後々書くとして……。遂にスバルの初仕事というわけですね。頑張れ!スバル。それと同時にハルイトのこの女装をどこまで続けようかなと迷ってる感じです。

※お気に入り登録227人、評価者14名、感想を新たに6件貰いました!ありがとうございます!!
この数字を見た途端、思わず笑みが零れてしまいました。この小説が多くの人に見てもらえてることに感謝を!
本当にありがとうございます!!これからも応援宜しくお願いします。


「最近はレム姉様とお仕事するのが多いですね。ハルはちゃんとレム姉様の役に立ってますか?」

 

「ふふふ。兄様、今は二人きりなのですから、〈妹〉の真似しなくても宜しいのではないですか?レムも普段の兄様の方が好きです」

 

「なら、なんでこんな格好させたの!?」

 

悲鳴にも似た叫び声を上げたのは、露出度満載のメイド服に身を包む赤髪の少年である。傍らでクスクスと笑う当事者の青髪の少女を知らず知らずに睨む。

 

「兄様なら似合うでしょうって、姉様がおっしゃったので……」

 

「……頼むから、レムちゃんはもっと自分の意見を表に出そうよ」

 

「いえ兄様、姉様は悪くないんです。レムも好奇心に負けてしまって、兄様にこのような格好をさせてしまったのですから……なので、姉様の事は責めないであげてください」

 

「はぁ……」

 

頬を朱に染めて、恥ずかしそうに微笑む青髪の少女ことレムに頭を抱える赤髪の少年ことハルイト。そんなハルイトを申し訳なそうに見上げてくるレムの青髪へと手をのけると撫でる。

 

「兄様?」

 

突然のハルイトの行動にレムが驚く。ピクリと肩を震わせる様子を柔らかい笑みを浮かべて、優しい手つきでふわふわとした感触が気持ちいい青髪を堪能する。

 

「そんな顔しなくてもいいよ。俺もレムちゃんと同じ立場なら悪ノリしてそうするだろうし、それにラムさんに言われたら仕方ないよ」

 

「兄様……、しかし」

 

「嫌がってるように見てるかもだけど、意外とこの格好っていいよね?執事服より動きやすいし、暑くない。たまにはこういう格好もいいと思うけどな、俺は」

 

「本当ですか……?兄様は本当にそう思ってますか?」

 

「もちろん!そうりゃあ、恥ずかしいし、男としてのプライドがメチャクチャになったかもだけど……こうやって、始めて出来た後輩にイタズラするのって心踊るから。だから、レムちゃんもこのドッキリが成功するように応援と援助をお願いね」

 

「はい!」

 

レムが笑顔を浮かべるのを見るとハルイトも笑顔を浮かべる。二人して、テキパキと食堂の掃除を終えた後は別行動となる。

 

「それじゃあ、レムちゃん また後でね」

 

「はい。兄様」

 

お互い、手を振り 其々の仕事場へと歩いていった。

 

τ

 

“……今日の俺の仕事は……、東棟の掃除だったな。生け花の水を変えなくてはいけないし、取り替えなくてはいけないのなら、それもしなくてはいけないだろう。その後はカーペットを掃き掃除して、窓を拭いて、各部屋もしないとな……。簡単な掃除の後は食事の準備をしなくては……”

今日のこれからの予定を頭の中で経てながら、東棟へと向かう途中 庭園で並んで、草抜きするラムさんとスバルの姿を見つける。声は流石に聞こえないが、なんだかんだいって懇切丁寧に教えてるのだろう、ラムさんの事だから。毒舌はその優しさの裏返しということだろう。

 

「よし、俺も頑張るぞ!」

 

掃除用具を取り出し、俺は颯爽と東棟へと歩いていった

 

τ

 

「ん。サラダのソースはこれでいいと……。後はスバルさんとラム姉様が切ってくれてる具材を流し込んで、グツグツと煮つければ スープの出来上がり。後はしゅーー」

 

「ぁだーー!!!」

 

突然、響いた半泣きの悲鳴が後ろで皮剥きを行うスバル、ラムさんから聞こえたことは予測できた。なら、その悲鳴を上げたのは誰かーー言わずともスバルであろう。その証拠にラムさんの呆れが含んだ声が聞こえてくる。

 

「反省のないことだわ。バルス、上達って言葉を知らないの?」

 

「けどね、先輩。俺、箸以外の調理器具を触ったとこないスタートなんですよ」

 

“まぁ……、仕方ないよな……。俺も始めて、料理した時はそうだったし……”

肉の塊を食べやすい大きさに切りながら、後ろで繰り広げられている会話へと耳を済ませる。

 

「しっかし、俺はともかく 姉様まで皮剥き担当ってのは実際どうなのよ。長女としての威厳とかは」

 

「得意分野は任せて、長所を活かした仕事をするの。ラムの出番はここじゃないわ」

 

「事前に得意分野でも能力値で負けてるって聞いてるんですけど!?」

 

騒がしい後ろを微笑ましく思いながら、熱したフライパンへと肉を入れると、隣でグツグツと沸騰している鍋を見て、皮剥き担当の二人へと振り返る。

 

「スバルさん、ラム姉様。準備はよろしいですか?」

 

振り返り、ラムさんとスバルの作業台を見て 俺は言葉を失う。

“うん、まぁ……。仕方、ない……よな?うん……”

スバルとラムさんの作業台には幾つもの、皮剥きをした野菜が転がっている。一つは慣れた手つきによって丸裸にされた野菜達が、もう一方は向いた野菜が俺の親指くらいしか残ってなかった……

“可哀想に……、キンピラでも使うか……”

心で無残な姿にかえられてしまった野菜達へと手を合わせる。

 

「はい、ハル。大きさはこれくらいでいいかしら」

 

「はい。流石、ラム姉様です。ハルの思ってる事はお見通しなのですね。あっ、スバルさんのは論外なので切らなくていいですよ」

 

「姉様と俺との対応の差に悪意を感じるぞっ!くそくそ、見てろよ。今にメキメキと実力をつけてーーあぁあああ!!」

 

悔しそうに地団駄を踏んでいたスバルが手元を見ないままにナイフを動かすものだから、指先へとナイフがめり込み、再度血が吹き出る。ラムさんから野菜を受け取り、スバルに頭を抱える。

 

「スバルさん、もういいのでラム姉様から受け取った野菜を四頭分に切ってください」

 

「その呆れた表情が更に俺の心を抉る……」

 

そんなスバルの呟きを聞き、流石に悪いと思ったが仕方ない。新人が早く成長してくれるのを楽しみに思う俺であった……




前の前書き書いたことですが、もう暫く悩んでみることにします。確かにあのお二人がハルを慕って下さるなら、作者としても嬉しいのですが。まだ、決めるべきではないかなーと思いまして(笑)
これからのスバルとの関係、お二人との関係らを踏まえまして 考えていくつもりです。


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《新》四話『疑念と疑問』

この話で丁度20話となりました!パチパチ
この一章が何話続くか分かりませんが、飽きず応援の程をよろしくお願いします

※お気に入り登録・303人!!評価者15人!!感想を二件新しく頂きました!!ありがとうございます!!
感想で頂いた主人公の魔法の属性を説明する話ですが、もう少しお待ちください。


「ふぅー、やっと一息がつけるかな。ねぇ、レムちゃん」

 

「はい、兄様」

 

食器の片付けをラムさんとスバルに任せ、俺は先に東棟で掃除を行っているレムちゃんと合流する。手分けして、各部屋を掃除していくと今度は窓ふきを行う。俺が上を掃除して、レムちゃんが溝を掃除していく。一人前とラムさんとレムちゃん二人に認められてから、レムちゃんと仕事を共にすることが増えた。なので、連携も板についてきたというところだろう。

全ての窓を吹き終わり、堪らず ため息をつく。下で溝を掃除をしているレムちゃんへと声をかけると、レムちゃんも快くうなづいてくれた。梯子を降りて、掃除用具を片付けていく。

 

「その……兄様、少しいいですか?」

 

梯子を肩に担いだところで後ろから声をかけられる。小首を傾げながら振り返ると、強い意思を感じる薄青色の瞳が俺を射抜く。その目力にたじろぎながら、わざとおどけるような声を上げる。

 

「んぅ?レムちゃんから俺に質問とは珍しいね、それで用って何?」

 

「兄様は。スバルくんの事をどう思ってるのですか?」

 

“どう……思ってる……。ね……”

この視線は何処かで見たことがあるとは思ったけど、あの時か……。俺を始末しようと襲いかかってきた時と同じ雰囲気に視線か。ふぅ〜〜

“どうしたものかね、これは……”

どう答えればいいのかね、スバルから俺と同格かそれ以上の〈魔女の残り香〉が漂ってくるのだろう。俺や他の住人には匂わないその微々たる香りが彼女の鼻腔を刺激し、彼女の思考回路をあらぬ方向に進ませようとしてると……。参ったな、これ……

“ロズワール様からもラムさんからもきつく言付かってるしな”

俺は肩を竦めて、首を横に振る。

 

「うーん。まだ会ってちょっとしか経ってないからね、何ともいえないけど……そうだね、スバルはいい奴だよ」

 

「いい?」

 

「うん、いい奴だよ。不思議で得体の知れないというのもあるけど、あいつはいい奴だよ。少なくとも俺はそう思う。ラムさんの説明にも真剣に耳を貸してるみたいだし、まぁ レムちゃんの思ってるような事をしない奴だと俺はスバルを信じてるよ。だから、レムちゃんももう少しスバルを信じてもいいと思うよ」

 

「……はい、兄様がそう言うなら……」

 

“ひとまず、これでいいか……”

薄青の瞳にはまだ疑念が渦を巻き、納得もいってないみたいだけど 今はこれでいい。俺の時もそうだったが、レムちゃんは一度冷静になる必要があると思う。今がその機会というわけだろう。

“くっ、痛ぁ……”

ズキンズキンと心臓を締め付ける感覚と共に現れる白い旗。青い髪の上にひょっこりと顔を出したそれはーー

【3と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】

と描かれていた。

“レムちゃんがスバルを敵とみなしてるところで、ストーリーが3に進むとか縁起があまり良くないね……”

頭痛を感じ、頭を抑えると思わず隣が気になり、チラ見すると至って普通な様子のレムちゃんに俺は癖っ毛の多い赤髪を撫でながら謝る。

 

「レムちゃん、ごめんね…嫌な匂いを漂わせちゃって…」

 

「いえ、構いません。鼻が曲がりそうな匂いでも、それが兄様の匂いですので…どんな匂いでもレムは兄様の匂いが好きですよ」

 

「んー、それは素直に喜んでいいのかな?まぁ、いいや。それじゃあ、行こうか、レムちゃん」

 

「はい!兄様」

 

τ

 

「うーん」

 

無事に今日のお勤めを全うし、俺は自室に戻り 私服へと着替えていた。この屋敷で働き始めてから、俺の服はこの私服と執事服しか持ち合わせてない。実際、その二つしか必要と感じないから不思議なものだ。

 

「しっかし、スバルの頭の上に現れたあのフラグは何なんだろうな……」

 

顎に右手を添えて、目を瞑り 目の前のメモ帳に考えをまとめていく。

“白い旗というのは本来〈生〉を司るものだ。そして、その反対は黒。その禍々しい雰囲気から黒い旗は〈死〉を司る”

白い旗の絵を書き、その横に生の文字を。黒い旗の絵の隣には死の文字を書く。

 

「なら……、なら あのフラグは何を示している?スバルは何を隠してるというんだ?それは俺にーーいや、この屋敷に何を招く?」

 

“白い旗と黒い旗が変わり番にたち、赤い矢印が互いを指差しあってると……”

カリカリとメモ帳に今日見たスバルのフラグを書き留める。トントン、羽ペンで紙を叩きながら この無理難題を頭を抱えて解いていく。

“生と死は常に隣り合わせであり、交わることも重なり合うことは断じてない。命はいつも一つであり、それだからこそ大切に大事にしようと思うのでないだろうか?”

 

「そう……命は本来一つ……一つであるべき」

 

だからこそ、スバルのフラグは訳がわからないのだ……

“〈生〉→〈死〉へ矢印が向かうことはあっても、〈死〉→〈生〉へと矢印が向かうことは本来ならあり得ない”

死んだ者が生き返るのだ、不死身ならまだしも普通の人間が……

“普通の……人間?”

 

「俺がそうであったようにスバルも異世界から召喚されたと考える。その時に俺はこの〈フラグを見る力〉を、スバルも何か受け取ったと考えられる。こんな力を俺みたいな凡人にくれるんだ、スバルも俺以上のーーいや、それ以上のものを受け取ったとしても何も不思議ではない。そう、不思議じゃない……」

 

そう、不思議でないのだ。ならば、このフラグが指す意味はーー

“あぁ、そうか……。スバル、君は……死にもーー”

 

「兄様、レムです。ロ文字を勉強する時間となりましたので、部屋を訪れました。入ってもいいですか?」

 

ドアから聞こえてくるレムちゃんの声にハッとする。バタバタとメモ帳からさっきの落書きを破りとり、引き出しへとつっこむ。ガチャンとドアを開けて、中に入ってきたレムちゃんはさぞかし、不思議だっただろう。だって、不気味な笑みを浮かべ、はぁ……はぁ……と肩で息をしながら、俺が冷や汗をダラダラと流しているのだから……




変な終わり方をしてしまった……。

※レム章により内容が変わりました!

魔女の匂いを嫌がるレム→魔女の匂いを気にしないレム


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《新》五話『新たな疑問と勉強会』

この作品のヒロインですが、ラムさんとレムさんに決めました。スバルには申し訳ないですが、レムさんはハルイトが頂きます。
しかし、ハルイトはラムさんにゾッコンですからね。レムさんのことは可愛い妹くらいしか思ってないことでしょう。レムさんの反撃を願って、前書きを終えようと思います。

※お気に入り登録・311人‼︎評価者15人‼︎感想を新たに四件頂きました‼︎ありがとうございます。


「……」

 

「ーーま」

 

この夜に開かれる勉強会も数で数えること、数十回となった。その数ほど、この屋敷で過ごしたということになるだろう。その分、思い出もあるし好きな人も大切にしたいと思う人も出来た。

“だから、あまりこの場所を荒らさせたくないんだよな……”

 

「ーーさま」

 

さっき結論に達した謎のフラグへと、いつの間にか思考に向かってしまう。ロ文字の練習といっても、ページを埋めるだけなのだから。こんな事を思ってしまっては、教えてくれている二人に悪い気がするけど……、この際仕方がないだろう。背に腹は変えられぬという奴だ。

“スバルのあのフラグは多分何やらかの原因でスバルが〈死に戻ってこれる〉ことを指しているのだろう”

大体、死に戻ってこれるような魔法力がスバルに備わってるのだろうか?否、スバルからそんな気配は感じ取れない。

母から受け継いだこの能力で、探ろうとしたが何も感じ取れなかったし、そもそもスバルがエミリア様を陥れようとしている悪い奴とはどうも思えない。

“うーん、降り出しに戻ったか……”

 

「ーーい様」

 

そういえば、朝にレムちゃんに〈スバルの事をどう思うか?〉と問われたが……、まぁ関係ないか。レムちゃんもスバルに警戒しているだけだろう。レムちゃんも冷静に見えて、冷静じゃないからね……うん。

ラムさん曰くレムちゃんは物事に集中しすぎると周りが見えなくなるらしい。

俺自身も最初はそんなバカなと思っていたが、この日が訪れるまでに数回そのような場面にあったので、レムちゃんが早とちりして行動に移さないように心がけたいものだ。そう、思いを新たにした瞬間ーートントンと軽く肩を叩かれて、無意識にそちらへと顔を向ける。

 

「やっと、気づいてくれましたか?兄様」

 

無意識に顔を向けたその先には、薄青色の大きな瞳に心配の二文字を浮かべているレムちゃんがいた。一瞬、その文字の意味が分からず、ポカーンとしていたが手元にあるノートを見て、その理由が分かった。

“これは……”

手本として書かれた五文字のロ文字。その五文字の内に最初の文字をなんと3ページ分殴り書きしていたのだ。思わず苦笑して、レムちゃんへと向き直る。

 

「ごめんね、レムちゃん。心配かけちゃったね」

 

「いえ、いいんです。レムは兄様の事を思っているだけで幸せなので」

 

「あははっ、俺もレムに思ってもらえて嬉しいよ。でも、心配は掛けちゃったんだし…ごめんね」

 

レムちゃんが慈愛に満ちた表情でそう言ってくれるのが、純粋に嬉しい。余計な心配をかけてしまったせめてものお詫びに手招きして、ふわふわと柔らかい青髪を撫でる。レムちゃんは目を細めながら気持ち良さそうにしていたが、やはり俺が思い悩んでいるのが分かるのか、上目遣いで俺を見つめる。

 

「兄様、また難しい顔をされてます。何か悩み事があるのですか?レムでは力になれないかもしれませんが、誰かに話すだけでも楽になれると思いますよ」

 

“うーん。レムちゃんにスバルのフラグを話すか……”

嫌な予感しか感じないから却下だな。例えば、スバルをあのモーニングスターやらで撲殺とか撲殺とか撲殺とか。ヤバイ、撲殺しか浮かばんわ。俺の不安を取り除きたい一心でとかシャレにならない。

ブンブンと横に顔を振り、レムちゃんに向けて笑顔を浮かべる。

 

「対したことじゃないから。レムちゃんも気にしないでいいよ」

 

「そうですか……。兄様がそうおっしゃるのなら」

 

ズーンと効果音がしそうな感じで肩を落とすレムちゃんに、罪悪感を感じながらも流石にフラグの事だけは人に話すわけにはいかないだろう。

羽ペンを握り直し、ロ文字を覚えるのに精を出す。俺が勉強してる横では一歩下がったところでレムちゃんが俺の勉強の様子を見守っている。

“レムちゃんに心配かけるわけにはいかないし、勉強へと視線を向けよう”

 

「兄様。ここの文字、見本と違います」

 

「あっ、本当だ」

 

いつもと同じにレムちゃんに厳しく教えられながら、その日の勉強会は終わりを迎えた。

 

τ

 

「うーん、結局 スバルが何者かは分からなかったわけか」

 

んーと背伸びをしながら、引き出しから破いたメモを取り出す。それを見返してみても、答えが分かるとはどうも思えない。

“魔法ではないというと……、何かしらのアイテムかな?”

しかし、そういったものを持ってるとも思えないんだよな……

 

「はぁ〜、やめだやめだ。ラムさんのところ行って、癒してもらおう」

 

新たに書き加えたメモを引き出しへとしまい、俺はラムさんの部屋へと向かった……




次はスバル視点の話を書こうと思います。

※ヒロイン変更によって、タグを変えようと思います


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六話『黒髪の少年と銀髪の少女』

11月入っての始めての更新と、お待たせしてしまいすいませんでした……。
今回の話はスバル目線となっております。そして、次回もスバル目線かな。あと少しで最初の死に戻りがあるんですよね。スバルもがんばって欲しいですが、ハルにも頑張って欲しい。そして、作者は皆さんに応援してもらえる主人公を書きたいということで、前書きを終えます。

※お気に入り登録・420人!!評価者・25人!!本当にありがとうございます!!
そして、特別章に多くの感想を書いてくださったこと、嬉しい気持ちと感謝の気持ちでいっぱいです!!

では、大変遅くなってしまいましたが、楽しく読んで頂ければなぁ〜と思います。


「ぐは……疲れた……」

 

キチンとベットメーキングされた寝所の上に、疲労困憊な身体を投げ捨てる。包み込む柔らかいクッションの感触が夢の世界へと誘う。

 

「あー、こき使われたこき使われた!」

 

ベットに転がりながら、黒髪を上に持ち上げたリーゼントみたいな髪型をした少年ことスバルがボヤく。

 

「勤労ってすげぇわ、世の働くお父さんたちのすごさがマジでわかった!一日でこれとか、半端ないッスわ」

 

間違いなく明日は筋肉痛で苦しめられるのであろう。その前に少しでも痛みを和らげておくとしよう。モミモミと今日頑張ってくれた筋肉へ労いを込めて、マッサージを行う。そのまま、ゆっくりと瞼が下がっていくのを感じて、スバルは眠りについた。

 

τ

 

「スバルさんはよく怪我をなさるのですね」

 

呆れたような声音でそう言うのは、赤く短い髪を持つ少女だ。適度に整った顔立ちは可憐というより、綺麗な方だ。その外見と身長から出会った当時は姉達より上だとスバルは思っていたが、その予想に反して、赤髪の少女はメイド姉妹の一番下ということになっている。

 

「なんか悪いな、ハル」

 

スバルが礼を言うと、赤髪の少女ことハルが少し不機嫌な感じでいう。

 

「悪いと思ってるのなら怪我を余りなさらぬようにお願いします」

 

「あぁ、了解。いつもサンキューな」

 

「どういたしまして」

 

素っ気ない態度で言うハルだが、メイド三姉妹の中で一番、スバルに優しい。

まだ、スバルが痛そうな顔をしていたのだろうか、ハルはそう言うとスバルの顔を覗き込んでくる。整った顔が近づいてくるのにドキッとしながら、スバルは右手を軽く横に振る。

 

「レム姉様に治してもらいしょうか?」

 

「いや、いいよ。名誉の負傷ってやつだよ。カッコいいだろ?」

 

スバルにそう聞かれたハルは暫し、呆れたような顔をしていたが、満面の笑顔を浮かべると

 

「確かにカッコいいですね」

 

「おぉ。その笑顔、百万ボルトの夜景に匹敵するね」

 

「………」

 

指を鳴らして、そういうスバルにハルは無言で受け入れる。随分と嫌そうな顔がスバルの心にクリティカルヒットして、気持ちが一気に沈んだ。

 

そんな調子でスバルの執事生活は早足にかけていった……

 

τ

 

月明かりの下、絹のような銀髪を風へと遊ばせている少女が日課を行っている。それを遠くから見ている黒髪の少年の瞳には、暗闇の中に淡い光を放つ精霊が空に浮かぶ星々のように見えたであろう。

少女が座る芝生へと歩いていくスバルの気配を感じ取ったのか、目を閉じていた銀髪の少女ことエミリアを目を開ける。アメジストを埋め込んだようにキラキラと純粋な光を放つ瞳が歩み寄るスバルを見つめると、スバルがピクッとして変な声を上げる。

 

「おふっ。こ、こんなとこで奇遇じゃね?」

 

「毎朝、日課に割り込んでくるくせに。それに奇遇って……同じ屋根の下よ?」

 

いつものようにため息をつくエミリア。そんなエミリアに負けずと、スバルは近づくと

 

「一つ屋根の下って、改めて言葉にするとなんかムズムズするね」

 

「そのムズムズって言葉、すごーく背中がぞわぞわってして、なんか嫌」

 

じと目で見上げてくるエミリア。スバルは頬をかくと、当たり前のように、エミリアの隣へと腰を下ろした。無言で受け入れるエミリア、その無言の中にはどのような思いが詰まっているのであろうか?

スバルには分からないけど、しかしエミリアの隣にいれること、それがとてつもなくスバルには嬉しいことである。

 

「で、で、何してんの?」

 

「んー?朝の日課の延長をしてるの。大体の子とは朝の内に会えるんだけど、冥日にしか会えない子たちもいるから」

 

エミリアの答えにスバルは頷く。

この世界には陽日や冥日といった、前の世界で言うところの午前、午後というものがある。最初の頃は慣れなかったその表現もこの世界で過ごすことにより慣れてきた。しかし、それと並行した形で三人娘によるスパルタ使用人業務の手ほどきはかなり精神的にも肉体的にもくるものがある。

 

「土日休みのゆとり教育世代としては、もっと長期的な目で見てほしいというか……」

 

ついこぼれてしまうこんな愚痴も仕方がないことなのだ。そんなスバルの横で、エミリアは冥日限定のお友達との会話を続けている。

そんなエミリアが作り出す幻想的な光景に隣に座るスバルは、口を紡ぎ、ジィーと黙ってエミリアの横顔を見つめている。

 

「見てても楽しくものでないでしょう」

 

無言のスバルがそんなに珍しいのか、エミリアがふと呟いた。その呟きには申し訳なさそうな響きが混じっていた。そんなエミリアにスバルは首を横に振る。

 

「エミリアたんと一緒にいて、退屈と思うこととかねぇよ?」

 

「なっ」

 

スバルのストレートな言い方に、思わず息を詰まらせるエミリアが赤顔する。そんなエミリアを見つめているスバルも耳まで真っ赤あったが……




次回はハル目線とスバル目線で書きたいと思います。


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七話『大切な約束と道ずれフラグ』

今回で記念すべき25話目となります。そんな記念すべき回なのですが、スバルとハルイトが死にます。最初の死に戻りですね。そんな悲しい回が記念すべき25話でいいのかとも思いますが、仕方がありません……。やっと、ここまで書けたと嬉しく思います。まだまだ先は長いんですが……。

※お気に入り・422人!!評価者・26人!!感想を新たに一件頂きました!ありがとうございます!!


美しい満月が浮かぶ空の下、執事服をビシッと着こなした黒髪の少年ことスバルと、美しい銀髪を腰まで伸ばした少女ことエミリアが並んで座っていた。穏やかな時間が流れる。

 

「月が綺麗ですね」

 

ふと、スバルが無意識にそう呟いた。

 

「手の届かないところにあるもんね」

 

そんなスバルのセリフにエミリアが返したのはこのセリフであった。

 

「狙って言ったわけじゃなかったのに、すごい心にくるコメントが返ってきた!?」

 

「え、何か悪いこと言った?」

 

スバルの世界ではロマンティックの代名詞みたいなセリフが、エミリアの手によってはたき落とされて、スバルは戦慄。その返しに心にくるコメントまでもらって、スバルは文豪に心で謝罪する。

 

「あ……」

 

そんな中、エミリアがスバルの左手を見つめて声を漏らす。

度重なる仕事での失敗によって、絆創膏だらけとなってしまった手を。

スバルは照れ笑いしながら、見つめられていた左手を後ろへと隠す。

 

「おう、やべ、かっちょ悪い。努力は秘めるもんだもんね」

 

舌を出して誤魔化そうとするスバルだが、エミリアの真剣な表情により撃沈。押し黙るスバルにエミリアはボソッと呟いた。

 

「やっぱり、大変なのよね、みんな」

 

その呟きに込められた意味がスバルにはわかる。このロズワール邸で一から何かを学んでいるのはスバルだけではない。エミリアもまた、女王候補として学ばなければない様々な事柄を吸収している最中なのだ。そんなエミリアとスバルでは周りからの圧力も何もかもが違うであろう。そんなエミリアには誰にも打ち明けられない悩みの一つや二つは軽くあるであろう。

 

「……治癒魔法、かけてあげようか?」

 

ぽつりとそう問いかけるエミリアに、スバルは首を横に振る。

 

「いや、いいよ。治してくれなくても、このままで」

 

「どうして?」

 

「んー、なんか言葉にし難いんだけど……そだな。これは、俺の努力した証だからだ」

 

スバル自身、らしくないことを言ってることは自覚している。しかし、これがスバルの思っていることであるから、力強く傷だらけの手を握りしめる。

 

「俺って意外と努力、嫌いじゃねぇんだよ。できないことができるようになんのって、なんつーか……悪くない。大変だし、めちゃ辛いけど、わりと楽しい。ラムとレムは意外とスパルタで、あのロリはムカつくし、ロズっちは思ったより会わないから影薄いけど」

 

スバルのその言葉にエミリアは苦笑。

 

「それ、ロズワールに言ったらきっとカンカンよ」

 

「カンカンってきょうび聞かねぇな……」

 

話の腰を折られたスバルは立ち上がり、右手をおでこに当てて綺麗な敬礼をエミリアに送る。

 

「ま、そうやって一個ずつ問題をクリアしてくのがいい。ここじゃ俺はそれをしなきゃ生きてけねぇし……どうせなら、楽しい方がいいよな」

 

スバルは元の世界では『楽』をして生きられればそれでよかった。だが、この世界ではそんな安穏とした生活は望めない。ならば、スバルはこの世界では『楽』しさぐらいは要求したい。それは理不尽にこんな世界に放り込まれた運命に対する、スバルの意地ともいえた。

エミリアはというと、スバルの決意表明に時間が止まったように表情を固くする。暫く経った時、ふと笑みをこぼす。

 

「そう、よね。うん、そうだと思う。ああ、もう、スバルのバカ」

 

「あれあれ、リアクションおかしくね!?惚れ直してもいいところだよ、ここ!?」

 

「もともと惚れてませんー。もう、バカなんだから……私も」

 

大袈裟なリアクションを取るスバルには、エミリアの最後の呟きが聞こえなかった……

 

τ

 

「ん〜、はぁ……」

 

背伸びをして、深いため息をつくのは短く切りそろえられた赤い髪を持つ少年である。仕事着になっている露出度抜群のメイド服を脱いでから、私服へと着替え終わったところだ。

 

「結局、スバルのあのフラグに進展はないし……、俺もわかんないし……。はぁ……、スバルのせいで無駄に疲れるな……」

 

魔刻結晶を見ると赤い色をしている。どうやら、勉強会までにはまだ時間があるようだ。

 

「ふわぁ……、少し寝ようかな」

 

欠伸をしながら、眠そうにハルイトは目をこする。そして、綺麗に整えられたベッドへと横たわるとウトウトと目を閉じた……

 

τ

 

スバルとエミリアの密会も終わりを迎えつつあった。屋敷に戻ろうするエミリアにスバルは一つ指を立てた。

 

「そだ。よかったら明日とか、俺と一緒に村のガキどもにリベンジ……もといラブラブデート……もとい、可愛い小動物見学に行かね?」

 

「なんで何回も言い直したの?……それに、うん、私は」

 

口ごもりつつ、躊躇するエミリアは俯く。

 

「スバルと一緒に行くのは嫌じゃないし、そのちっちゃな動物も気になるけど……」

 

「じゃ、行こうぜ!」

 

「でも、私が一緒だとスバルの迷惑になるかもしれなくて……」

 

尚も躊躇するエミリアにスバルは強引に迫る。

 

「よしわかった、行こうぜ!」

 

「……ちゃんと聞いてくれてる?」

 

「聞いてるよ!俺がエミリアたんの一言一句聞き逃すわけないじゃん!」

 

「スバルなんて大っ嫌い」

 

「あー!あー!急になんだー!?何もきーこーえーなーいー!!」

 

耳を塞いで即座に前言撤回するスバルの思い切りの良さに、エミリアは悩み事が抜けたように笑声があげる。それから、アメジスト色の瞳に浮かんだ瞳を指ですくう。

 

「もう……。私の勉強が一段階して、ちゃんとスバルのお仕事が終わってからだからね」

 

「よっしゃ!ラジャった!超っぱやで終わらせてやんよ!」

 

デートの言質を取り、スバルはぐっとガッツポーズを決める。そんなスバルの様子を見て、エミリアは微笑を浮かべたまま小さく吐息を漏らす。

 

「スバルを見てると、私の悩みって小さいなぁって、そう思っちゃう」

 

「そんなことねぇよ!?そんな女王様になるかもしれないクラスの悩みとか抱えてたら、ストレス社会で胃袋ハチの巣だよ!」

 

スバルのその発言にエミリアは堪えきれなくなったのか、噴き出す。彼女の笑い声につられてスバルも笑い出す。二人してひとしきり笑い合って、この日の密会は終わりを告げた……

 

τ

 

「……にいさま、おきてください」

 

ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚で、浅い眠りから目が覚める。ゆっくりと目を開けると、こちらを見つめる青いボブヘアーに薄青色の大きな瞳を持つ少女に苦笑を浮かべる。

 

「ごめんね、レムちゃん。起こしてもらっちゃって」

 

身体を起こして、うぅーと背伸びをした俺は尚も心配そうな表情を浮かべる青髪の少女ことレムに笑いかけると両手で力こぶを作るように動かす。

 

「大丈夫だって、レムちゃん。ほらこの通り、元気だからさ」

 

「……あまり、無理はなさらないでくださいね」

 

「もちろん!それより、ロ文字の勉強だったよね」

 

「はい」

 

俺は椅子へと腰掛けると、勉強机に置いてあるノートを開く。横に立つレムちゃんへと視線を向けると

 

「それでは兄様、今日はこの文字を練習いたしましょう」

 

「あぁ、よろしく」

 

書き出さられたロ文字をノートをいっぱいに書いていく。それが、四文字目に罹った時だった。

 

「うぐっ!?」

 

心臓を鷲掴みにされる感触。見えない手によって、握り潰される心臓が悲鳴を上げる。

 

「あぁ……がッ……!」

 

「兄様!?どうされたのですか?兄様!!」

 

身体を揺さぶられるて揺れる視界の中、机の上に見慣れた旗が姿を現れる。

【真っ黒な旗と白い旗が手を繋いでいた】

 

“グッ……息が……出来な……”

 

「ゴホッゴホッ、がはっ」

 

真っ白なノートに広がる生々しい血の色。それはハルイトが咳き込むほど、多くなっていく。

 

「兄様?血……吐いて……。しっかりしてください!兄様!!」

 

近くでレムちゃんが悲鳴を上げてる声が聞こえる。悲痛な叫びに、俺は帰す言葉もない。

薄れていく視界の中、俺は目の前の【白い旗が黒く染まって】いくのを眺めていた。唯一、動かせる目で白い旗を黒く染めている黒い旗へと視線を向けると

【黒い旗に赤い文字で大きくこう書かれていた

ーーナツキ・スバル bad end】とーー

 

「魔法が追いつかないっ、兄様。死なないで……お願いします、兄様。死なないで……っ、死なないでください、兄様ぁ……」

 

レムちゃんの泣き声を聞きながら、俺は深い眠りへと誘われた……




次回はハルイト視点で書きます。


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《新》八話『遊び心とメイド服』

長らくお待たせいたしました、二回目のロズワール邸ですね。今回はハルイトだけの視点となってます。あの女装騒動の少し前のやりとりを書いたので、良ければ読んでみてください。

※お気に入り登録・487人!評価者・28人!感想を新たに二件頂きました!!本当にありがとうございます!!
普通の小説でこれ程、評価とお気に入り登録されたものが無かったのでとても嬉しいです!!


簡素な部屋に置かれたベッドの上に、赤く短い髪を持つ少年が眠りこけている。規則正しい寝息を立てて、眠り続ける少年の部屋に誰かが入ってきた。

 

「はぁ…レムレム、ハルってば相変わらず女々しい寝顔だわ」

 

「姉様姉様、ですが…そこが兄様の素敵なところです」

 

赤髪の少年・ハルイトの部屋に入ってきたのは、瓜二つの顔立ちをした少女達であった。

露出度が高い改造メイド服に身を包んだ少女達は、ハルイトを挟んで右側と左側に分かれて立っている。ハルイトから見て、左側に立っているのが桃色のショートボブに薄紅色の大きな瞳を持つ少女である。腕を組んで、ハルイトを見下ろしては、しきりにため息をついている。この少女の名前はラムで、右側に立つ少女の姉に当たる。

その右側に立つ妹は、姉が赤系統に対して青系統である。青のショートボブに大きめな薄青色の瞳を持っている。ちなみに名前をレムという。

そんな少女達は双子といわれるもので、体格や顔つきも鏡移しのように瓜二つであるが、そんな二人も見分け方はある。例えば、先程あげたような髪と瞳の色の違いや胸の大きさの違い、雰囲気の違いなど見分け方は沢山ある。

そんな二人には朝に必ず、することがある。それが、この今だに眠り続ける赤髪の少年を起こすことである。執事仕事を難なくこなす少年だが、どうも朝だけは苦手なようだ。

 

「Zzzz……」

 

気持ち良さそうな寝息を立てて、眠り続ける赤髪の少年を優しく揺り起こすのは青髪の少女・レムである。

 

「兄様、起きてください。朝ですよ」

 

慈愛に満ちた声音に、心地よい揺りがハルイトの覚醒を邪魔してしまう。

 

「Zzzz……」

 

「んー。姉様、どうしましょう……。今日の兄様はいつにも増して、お寝坊さんです」

 

困り果てるレムに、ラムは腕を組むと

 

「ハルのくせに生意気だわ。レムやラムの手を煩わしているばかりか、一人ぬくぬくと布団にくるまっているなんて。……ラムだって眠いのに……」

 

ハルイトに対して、悪態をつくラムはレムよりやや……いや、かなり乱暴にハルイトを揺する。それにより、ようやく目を覚ますハルイトはまだ眠いのか、コクンコクンと首を揺らす。薄っすらと目を開けて、ニッコリと微笑んだハルイトは両側に立つラムとレムに頭を下げる。

 

「あ〜、おはよう〜。ラムさん、レムちゃん……」

 

そんなハルイトにレムは嬉しそうに笑い、挨拶をする。その手には濡れタオルが握れており、それをハルイトへと差し出す。

 

「はい、おはようございます、兄様。こちらに濡れタオルがありますので、これでお顔を拭いてください」

 

レムから受け取ったハルイトは、濡れタオルで顔を拭うと、横からラムの声がした。

 

「はい、ハル。今日のハルの衣装はこれよ、ラムが直々に持ってきてあげたのよ。ハルはラムに喜びの舞を送るべきね」

 

「ん…?喜びの舞?踊れたら、踊るよ……でも、ありがとう、ラムさん……」

 

今日の仕事着をラムから受け取り、それを着ようと手を伸ばした時だった。嫌な予感がしたのはーー、その予感は元を辿ると本の些細な違和感であった。

“今日のラムさん、いつもより優しいなぁ〜”とか“何か、いつも着てる執事服よりこの服、布地が少ないなぁ〜”とか、本当に些細な事だった。ので、ハルイトは目を開けて、確かめようとした。目を開けてみて、ハルイトはびっくりした自分が掴んでいたのは、両側に立つ少女達が身につけているのと全く同じものであったからーー

プルプルと俯いたまま、震えるハルイトにレムが心配したように歩み寄った。

 

「兄様、どうされたのですか?何が悩み事があるのでしたら、レムに言ってください。兄様が一番に頼るのは、いつでもレムであってほしいので」

 

ハルイトはレムのその言葉を聞きながら、心の中でこう思った。

 

“ならば、何故。ラムさんの奇行を止めてくれないんだ!?”とーー。

ラムさんが俺に改造メイド服を渡すところは確実にレムちゃんに見えていた筈だ。なのに、何故それを止めてくれなかったんだ!!男の女装姿+メイド服姿なんぞ、誰得なんだよ!?得なことなんかねぇーじゃねぇか!?

“あぁ……なんか、イライラしてきた……”

ハルイトはゆらりと左側へと視線を向ける。そこには、腕を組んで、ハルイトを見下ろすラムの姿が。

 

「………」

 

「何?ハル。感謝を通り越して、咽び泣くの?」

 

首を傾げる姿は可愛らしい、可愛らしいがやっていい事とやってはいけない事があるだろうが!!

そこで、ハルイトの怒りは頂点に達した。ギューと布団を掴むとラムを睨みつける。

 

「咽び泣くわけないでしょう!!違う意味で涙が溢れそうだよ!なんで、メイド服なんだよ!!俺のメイド服姿なんか見たい人居るわけないでしょうが!?」

 

あまりの怒りから肩で息するハルイトにラムは至って冷静で、妹の方を見ると

 

「そうなの?レム」

 

と妹に尋ねる。ハルイトもつられて、レムの方を見るとレムは頬を染めていた。

 

「いえ、兄様のメイド服姿はレムの眼福です。きっと、兄様ならどのような服もお似合いになることでしょう」

 

目をキラキラとさせて、そう語るレムにハルイトは絶句。ラムはフンと鼻を鳴らすとハルイトに向かって、得意げに笑う。そんなラムにハルイトは悔しそうな顔をする。しかし、このままメイド服を着て、仕事には出られない。今日は特別な日なのだから……。

なので、ハルイトはレムを諭すことにする。

 

「いや、レムちゃん……冷静に話し合おうよ。俺の……いや、男のメイド服姿だよ?見せれるものでもないし、いい笑ものになると俺は思うんだけどなぁ〜」

 

「兄様を笑う人はレムが許しません。それに兄様は線が細くて、お顔も美しいので絶対お似合いになられることでしょう」

 

「………」

 

“ダメだ……。聞く耳を貸してくれない……”

ハルイトは項垂れるが、次の瞬間、頭を下げるのだった……




次回はスバルとハルイトの二つの視点で書きます。

※※※特別章で書いて欲しい話を募集中です!!※※※

活動報告の【Re:フラグから始める攻略生活〜リクエスト〜】にある方は御手数ですが、書いてください。感想では違反となるのでなさらないのようにお願い申し上げます。

皆さんのリクエスト、とても楽しみにしてます。

※※※※※※※※※※※※※※※※


※少し内容を変えました…。
ラムさんとレムちゃんのセリフを返しました


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九話『赤髪のメイドと奇妙なお客様』

金曜日、更新出来ずすいませんでした。
さて、今回の話はスバルと双子姉妹が合う場面ですね。そして、作者は過ちに気づきました。そのシーンでこの小説で書いてないんですよね(苦笑)なら、押し切るしかない!!というわけで、この話です。

※お気に入り登録・563人!!評価者34人!!感想を新たに一件頂きました!!本当にありがとうございます!!
しかし、本当にお気に入り登録500人、突破したんですね……夢を見てるような感じです……。
これはお祝いにイチャイチャしなくては(笑)


「嫌だよ!何でそんなもの着なくてはいけないんだよっ!?」

 

「ハルが毎回朝寝坊して、レムとラムの手を煩わすからでしょう?」

 

「確かにそれに関しては何も言えないけど……。ラムさんが俺を起こしに来たのってこれを合わせて、三回だからね!?レムちゃんに言われるならまだしも、ラムさんには言われたくない!!」

 

ロズワール邸のとある部屋の中、赤い髪を短く切りそろえて、前髪に幼稚なヘヤピンを付けた少年が、桃色の髪を肩までで切りそろえている少女と言い合いをしている。

その言い合いの原因となっている露出度MAXの改造メイド服は、二人の言い合いを静かに見守っている青髪を肩までで切りそろえている少女の手に大切そうに持たれている。

タダをこね続ける赤髪の少年ことハルイトを桃色の髪の少女ことラムは腕を組んで「ハァッ」と鼻で笑うと

 

「ハルこそ何もわかってないようね。ラムはハルを起こそうと思えば、いつでも行けたわ。でも、めんどくさかったし、ハルの間抜け面を見るのが忍びなかったのよ」

 

「間抜け面とはなんじゃ!!寝顔と言って、頼むから……っ」

 

「それより早く着替えなさい、ハル。ラム達は今からお客様を起こしに行かなくてはいけないのだから。変なタダをこねて、レムの手を煩わせるものではないわ」

 

「うぐ……」

 

ハルイトは、青髪の少女ことレムをチラリと見てから、唇と両手を握りしめると泣きそうになりそうになりながらも、レムへと向き直った。

 

「レムちゃん、ごねてごめんね。着替えさせてくれる?メイド服は俺、着たことないから」

 

「はい、兄様」

 

満面の笑顔を浮かべるレムに複雑な思いを抱きながら、ハルイトはレムの達人の手によって、改造メイド服へと着せ替えられて、母似の癖っ毛が多い赤髪を軽く櫛をとおされる。最後に母から貰った幼稚なヘアピンを前髪へと付けられて、仕上げとなる。

 

「……これで満足でしょうか?ラムさん」

 

ラムの前でクルリと回って、恨めしい顔つきをして、ハルイトはラムを睨む。ラムはというと、そんなハルイトを見て

 

「流石、普段から女々しいだけあるわね、ハル。とても似合っているわ」

 

ラムのその言葉に思わず地団駄を踏みそうになるが、そうしても時間の無駄と知り、深いため息をつき、トボトボとドアへと歩いていく。

 

「〜〜ッ!!はぁ……、それではお仕事へと行きましょうか。俺は朝ご飯を作りへ行くので、お先に失礼します。レムちゃん、後で」

 

振り返り、レムへと手を振ったハルイトに、ラムは近づくと

 

「それとハル、これだけは言っておくわ。その姿の時のハルは、ラム達と姉妹ということになっているわ。ちなみに未子よ、可愛いでしょう?」

 

嬉しそうなラムにハルイトは頭を抱えて、確認の為にラムへと呼びかける。

 

「……ラムさん、ラムさん」

 

「何よ、ハル?」

 

「それをすることで俺へのメリットは?」

 

「メリットなら、沢山あるわ。ラムがハルのその姿とお客様の反応を見て、面白く思う。そうすると必然的に仕事の効率が上がるというものでしょう」

 

「……ラムさんがそれで喜んでくれるなら、俺はやるよ……。ラムさんを愛している気持ちに偽りないのだから。でもなんだろう……このモヤモヤっとした気持ち、何かシャキンとしないな……」

 

 

ラムの言葉に釈然としないまま、ハルイトは持ち場へと歩いていった……

 

λ

 

紅いカーペットが敷かれた廊下の中、黒髪の少年は駆けていく。時折、転びそうになりながらも少年は両手と両脚を懸命に動かし続けていた。俯いた顔はしわくしゃで今にも泣き出しそうな子供のようであった。

そんな時、ドンッと軽い衝撃が走ると、俯いた視線に映るめくれた白いヒラヒラがついた黒いスカートとそこから覗く白いガーターストッキングに覆われたほっそりした両脚。

 

「痛たた……」

 

その直後、アルトよりの声音が黒髪の少年ことスバルの鼓膜を揺らす。その見知った声にスバルは俯いた視線を僅かに上へと上げるとそこには、短い赤い髪の前髪に幼稚なヘアピンを付けたメイドが居た。

“ぁ……あ……”

 

「……ハル…」

 

スバルの表情に僅かな希望が生まれた。

“この少女なら、いつも優しかったこの少女なら

ーーこの不安を取り除いてくれるかもしれない”

しかし、その希望を一瞬で打ち砕かれる。

 

「ッ!?お客様、本当に申し訳ありません。お怪我はされてませんか?」

 

上を向き、立ち上がった赤髪の少女が何気無く言った言葉、その中に含まれた“お客様”の三文字にスバルはヨロヨロと後ずさる。慄き、震えながらも、大きめの赤い瞳へと視線を送る。

 

「お客様、どうされたのですか?もしかして、さっきのが古傷に?」

 

赤い瞳に期待した親しみは無く、代わりに他人行儀が浮かんでいた。心配そうな表情の赤髪の少女から逃げるようにスバルは振り返り、来た道を走り、目の前にあった扉の中へと逃げ込んだ……




次回はベアトリスとスバルの話



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十話『黒髪の少年と金髪を縦ロールにした少女』

続けて、更新です。
今回の話はベアトリスの所にスバルが駆け込んで、今の状況を確認することです。

そういえば、リゼロでゲームが発売されるんですよね!攻略を目的としているこの小説の参考として、買おうと思ってます。スバルはどうやって、ラムさんを攻略するんですかね?楽しみです!


「ノックもしないで入り込むなんて、ずいぶんと無礼な奴なのよ」

 

深く深呼吸を繰り返す黒髪の少年ことスバルに掛けられる冷たい声にスバルは前を向く。

そこには、所狭しと並べられた本棚の真ん中で脚立に腰掛けている小さな少女がいた。金髪を縦ロールにして、赤く可愛らしいドレスはフリルが多く腰についているピンクの大きめなリボンが可愛さを更に強くしている。

そんな少女は膝に広げている大きい書物をバタンと音を立てて閉じると、スバルへと視線を向ける。

 

「どういうことかしら?さっきいい、今といい……こうも簡単に“扉渡り”が破られるなんて」

 

そんな金髪を縦ロールにした少女・ベアトリスにスバルは両手を重ねて、拝む。

 

「すまねぇ、暫くの間でいい、いさせてくれ。頼む」

 

ベアトリスの返事を待たずにスバルは考える。

“もう何が何だかわかんねぇ”

さっきからスバルに降りかかる出来事は何なんだ?現実逃避したくなる思考を停止して、己と向き直る。

“俺は誰だ?ここで何をしていて、さっき居た双子とメイドはなんなんだ?目の前に座っているこの少女の名前は?存在、そもそもこの部屋はなんなんだ?四日間、誰と何を約束した?明日、俺は、誰と一緒に、どこへ行くって約束……”

自分自身に質問をぶつけながらも、瞼に浮かぶのは月夜に光り輝く銀髪と、はにかむような微笑を浮かべていた少女だ。

 

「……エミリア……。そうだ、エミリアは……」

 

力なく下げていた顔を上げたスバルは、ベアトリスへと視線を向けると

 

「なぁ、ベアトリス」

 

「呼び捨てかしら」

 

「お前、さっき俺に『扉渡り』を破られたって今言っていたよな?」

 

ベアトリスの表情がだんだんと険しくなっていく。それはそうだろう。呼び捨てされた上に、不躾にも質問を投げられたのだから。

 

「つい三、四時間前に、無神経なお前をからかってやったばかりなのよ。もう忘れるなんて頭のネジが数本飛んでるに違いないかしら」

 

「頭のネジが飛んでるだけ尚更いいだけどな……。そうか、目論見スルーしたからお前がヘソを曲げたときのことか。わかったわかった」

 

スバルの皮肉にベアトリスのヘソがまた折り曲がったことは間違いないだろう。そんなベアトリスを知ってか知らずか、スバルは記憶を整理するのに専念する。

“三、四時間前にベアトリスとの遭遇”

今のベアトリスの言葉が意味するのは、スバルがロズワール邸で最初に目を覚ましたときのことだろう。永遠と続く廊下の突破口をスバルが引き当てたときのことだろう。その後、この少女・ベアトリスと遭遇し、マナドレインという荒技によって昏倒させれた。そして、二回目に目覚めた時には朝で、双子のメイド・ラムとレムが寝台の横に立っていて、あの末っ子との遭遇は確か食事の時だったはずだ……

 

「ということは……つまり、今の俺がいるのは……屋敷で二度目に目覚めたとき、だよな」

 

記憶の引き出しを引っ張り出して、記憶と引っかかるところと自分の今の立ち位置を確認する。スバルの記憶から、メイド姉妹が二人揃ってスバルを起こしにきたのはあの朝だけだ。そのあとは二人が交代で、時折末っ子がスバルを起こしにきた。そして、何よりスバルがお客様用の寝室を利用したのはあの朝だけだった。その後は、スバルは客室用のベッドを利用するような身分でなくなった筈だ。

 

「……そうか、なんか知らないけど五日後から四日前まで戻ってきたって、そういうことになるのか……」

 

王都の時と同じく、スバルだけの時間が遡行したのだと、今の状態を定義出来る。

“なら、何故?”

王都での時間遡行は『死に戻り』だった。三度の死を乗り越えて、エミリアを救って、ここまで辿り着いた筈だ。

このロズワール邸での一週間は、王都より平和だったはずだ。なのに、突然の時間遡行だ。何の前触れも無く。

 

「前回と条件が違う、のか?死んだら戻るって勝手に思ってたけど、実は一週間でキャリーオーバーとかで巻き戻るとか……いや、だとしたら」

 

こうして、ロズワール邸初日の朝に巻き戻った理由が分からない。時間遡行の原理も不明だが、王都でのループにはある程度のルールがあったはずだ。その一つが復活場所の問題で、もしスバルがあのループから解放されていないなら、スバルが目覚めるのは三度見た果物屋の傷顏店主の前になる筈だ。

 

「しかし、現実は傷面の中年から見た目は天使のメイド二人だ。がらっと変わってる」

 

だが、受け取った心境は、天国と地獄が正反対だったが。スバルはペタペタと自分の身体を触るも無事を確認する。何事ない、と思う。ということは、これまでの条件に従うなら、スバルが戻った理由は明白。即ちーー

“俺は死んだってことか……”

 

「ただ死んだとしたらどうして死んだ?寝る前まで全部普通だったぞ。眠った後だって、少なくとも『死』を感じるような状況には陥ってねぇ」

 

即死、にしても本当に『死』の瞬間を意識を感じさせないものなのだろうか。毒やガスで眠ったまま殺された可能性も考えられるが、それはつまり暗殺を意味することになる。そうされる理由がスバルにはないため、前提条件が成立していなかった。

 

「となると……クリア条件未達による強制ループなのか?あるいは」

 

ゲームに見立ててしまえば、必要なフラグを立てなかったが故の結果ーーゲームオーバーだ。が、誰が目論んだフラグがわからない上に、トリガーすらも不明のクソゲー仕様。

 

「たく、俺はもともとすぐに諦めて攻略サイトに頼るゆとりゲーマーだってのに……」

 

「ぶつぶつ呟いてると思ったら、くだらない雰囲気になってきたのよ」

 

思考回路を全力で死の謎の解明へと向けるスバルに、ベアトリスは退屈そうに言って嘲笑を浮かべる。

 

「死ぬだの生きるだの、ニンゲンの尺度でつまらないくだらないかしら。拳句に出るのが妄想虚言の類。お話にならないとはこのことなのよ」

 

そっけない、ある意味では酷薄なほど突き放すようないいぶりに、スバルは安堵を覚えた。その安堵はベアトリスの変わらない態度によるものだ。スバルは立ち上がると扉へと向き直る。

 

「行くのかしら?」

 

背中から聞こえるベアトリスの言葉にスバルは頷くと

 

「あぁ、確かめたいことがあるんでな。凹むのはその後にするわ。助かった」

 

「何もしてないかしら。……とっとと出て行くといいのよ。扉を移し直さなきゃならないのよ」

 

ベアトリスの優しさとは無縁の響きが、今のスバルには心地よかった……




次はハルイト視点が書きます


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《新》十一話『捜索と驚愕』

遅くなりました、更新です。
今回の話は、スバルをハル、ラムとレムが捜索しているシーンです。作者が勝手に考えて書いたものなので、皆さんの想像と違うかもしれません。なので、クスリと笑って頂けるように面白く書いたので、読んでみてください、では。

※お気に入り登録・601人!評価者・40人!その多くが9という勿体無い、高評価に頭が下がる一方です。そして、感想を新たに一件頂きました!本当にありがとうございます!!そして、リクエストの方にも一件頂きました!!

リクエストの方は暫く、時間がかかると思います。なるべく、早く書こうと思いますので宜しくお願いします。


紅いカーペットが敷かれている廊下を、人影が三つ慌ただしく駆け回っている。三人とも同じ服装で、肩や胸元が多く露出している改造メイド服を着用している。そんな三人は一旦広場に集まると、其々の情報を交換する。

 

「ラムさん、レムちゃん、そっちに居た?」

 

と赤く癖っ毛の多い髪を持つ少年・ハルイトが、集まった瓜二つの少女達に問う。最初にその問いに答えたのは、ハルイトの右側に立つ青い髪を肩のところで切り揃えている少女・レムで、力無く横に首を振ると申し訳なさそうにハルイトを見つめる。

ハルイトが何故、男なのにメイド服を着てるかは、この二人の悪戯心によるものと書いておこう。

 

「いえ、レムの方は……。お役に立てず、すいません、兄様」

 

「いや、レムちゃんは悪くないよ。よくしてくれてる、とても助かってるよ。俺も偉そうな事言えないし、ラムさんは?」

 

レムを労ったハルイトは、左側に立つ少女へと視線を向ける。すると、桃色の髪を肩までのところで切り揃えている少女・ラムは腕を組んで、首を横に振る。

 

「ラムの方もレムと一緒だわ。全く突然変な事を言ったかと思ったら逃げ出すなんて……。お客様じゃなかったら、こんな面倒なことまでしないのに……」

 

悪態をつくラムにハルイトはため息を着く。

 

「お客様であっても……そうするでしょう、ラムさんは……」

 

「流石、ハルね。ラムの事、よく分かってるわ」

 

「分かりたくて、分かったんじゃないけどね……。でも、早くお客様を探さないと。お客様、何か調子悪そうだったし」

 

ラムの言葉に苦笑を浮かべるハルイトは、黒髪を上に持ち上げた感じで髪型をセットしている少年を思い出す。その黒髪の少年とは数分前に廊下でぶつかって、何故かハルイトを見ると悲しそうな顔を浮かべていた。困惑するハルイトを置き去りにして、黒髪の少年は元来た廊下を駆け戻って、何処かに姿をくらましているという訳だ。そのあと、呆然と立ち尽くしたままだったハルイトは、後から追いかけてきたレムとラムからも事情を聞き、黒髪の少年が二人の時も同じだったことを知り、三人で大慌てで黒髪の少年を探し回っているというわけだ。しかし、その黒髪の少年の姿は三人が総力を挙げて探し回っても、髪の毛一本も見つからない。しかし、あんな状態の人を置いておくなんて、人としてダメな気がする。

ハルイトは二人の向き直ると指示を出す。

 

「まぁ、取り敢えず、まだ探してないところを中心にお客様を探そう」

 

「えぇ、分かったわ、ハル」

 

「はい、分かりました、兄様」

 

駆け出す二人の背中の見つめたハルイトは、黒髪の少年の頭の上に浮かんでいた見慣れた旗に眉を顰める。

“【黒い旗と白い旗が変わりばんこに並び、赤い矢印がその間にあり、その中央には2という文字がデカデカと聳え立っていた】”

 

「……不思議なフラグだったな」

 

ハルイトは駆け出しながら、考えをまとめる。

 

“黒い旗→白い旗→黒い旗→白い旗→黒い旗→白い旗→と並び、中央に2の文字か……。2ってことは、1があるって事だよな?……しかし、何が?何が、1なんだろうか?”

 

「ん〜、分かんねぇ〜。まぁ、いいか。それより、お客様を探さないと」

 

τ

 

俺らの努力虚しく、件のお客様は庭園で見つかった。それもエミリア様と楽しくお話中とは、流石の俺もドッと疲れが押し寄せてきた。そのあと、ロズワール様とベアトリス様を加えての食事会。そう、そこまでは良かったのだが……、本当どうしてこうなったのだろうか?あぁ、何度でも言おう、どうしてこうなったか、と。

 

「うんじゃ、先輩方、宜しくお願いしやすぜ!よぉーし、超頑張るぜ、粉骨アレしてな!」

 

「「「砕身」」」

 

「そう、それ!」

 

そう、本当にどうしてこうなったのか。黒髪の少年が一緒に働くことになった同僚として、あんな複雑そうな表情を浮かべていたのに、今見ればこのヤル気に溢れた表情……いったい、何が何だか。

呆れ顔の俺に近づいてくるニッコリ顔の黒髪の少年・スバルが話しかけてくる。

 

「ハルも宜しくな。俺、すげぇー足引っ張ると思うけど。まあ、呆れずに付き合ってくれ。俺、こう見えてもやれば出来る子だから!」

 

「えぇ、よろしくお願い致します、スバルさん。ハルはレム姉様のお手伝いで忙しいので出来れば、足を引っ張らないで頂けると嬉しいです。それに自分でやれば出来る子って自分でいう人って、殆ど方が出来ない方多いですよね。スバルさんも口先だけならないように頑張ってくださいね」

 

「あれぇええ、意外と辛辣!?」

 

オーバーリアクションを取るスバルに、俺は苦笑を浮かべる。チラリと上を見上げれば、あの不思議なフラグが浮かんでいた。そして、後ろを見れば、苛立ち顔をラムさんが……

 

「バルス、行くわよ」

 

「ほいほい、ラム姉様。うんじゃ、ハルちんとレムりん、また後で」

 

ラムさんに連れられて行くスバルの背中を俺とレムちゃんは見送った……




次回はスバルとハルイト視点で書きます。

※特別章〜リクエストされたものを更新いたしました。宜しければご覧ください。


※少しセリフを変えました!


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十二話『メイド生活と執事生活』

今回の話はタイトル通りの話です。ハルとレムとのやり取り、スバルとラムとのやり取りを簡単に書いてみました。最近、ラムさんよりレムさんを書いている成果、ラムさんの罵倒をどう書くんだったけ?となります。書いているうちに思い出すんですが、その度にまだまだだなぁ〜と思い知らされます……

※お気に入り登録・406人!評価者・41人!
本当にありがとうございます!!一度書いたと思うのですが、本当にRー18以外にここまで続けられた小説もお気に入り登録して下さった事も評価をここまで多くの方に付けていただいたのも初めての事だったので、皆様の応援と優しさに感無量です!!
そして、面白くユーモア溢れる感想を送ってくださる皆様方にも改めて、お礼を申し上げます。いつも読ませていただいて、力を頂いてます。

まだまだ未熟な私ですが、これからも応援とご感想を頂ければと思います!

長々とすいませんでした!では、どうぞ!!


桃色の髪を肩のところで切りそろえている少女・ラムに連れられて、屋敷と分担された仕事へと向かった黒髪を上へと持ち上げた感じで固めている少年・スバルを見送った後、残された赤い髪の前髪だけ幼稚なヘアピンをつけた少女元い少年・ハルイトと、ラムと同じ容姿を持つが髪の色と胸元が多いに違う少女・レムが食堂の後片付けに追われている。

 

「本当に無駄に大きいんですよね、このテーブルっ」

 

短く切りそろえてある赤い髪を揺らしながら、大きなテーブルを吹き終えたハルイトは露出度満載のメイド服を揺らしながら、背後へと振り返ると簡単な掃き掃除をしているレムへと呼びかける。

 

「レム姉様、レム姉様。ハルの方は終わったので、そちらのお手伝いをいたしましょうか?」

 

「……ふふふ」

 

「〜〜ッ」

 

しかし、レムはハルイトの質問に答えることはなく、声を殺して笑っている。それがハルイトにとっては、何故か無性に心を傷つける。ひとしきり、笑ってからレムはハルイトへと向き直る。

 

「そんな顔をしないでください、兄様。その……兄様のその膨れっ面も小さい子供のようで可愛らしくて、レムはもっと見ていたいんですが……そういうわけにはいきませんもんね。

レムはただ、今は二人きりなので、妹の真似などなさらなくてもいいんですよって伝えたかったんです。でも、レムは兄様のそういう律儀で真摯なところが好きですよ」

 

「…俺…レムちゃんの事、純粋に凄いって思うよ……。俺なら赤顔しちゃうようなセリフ…サラッと言っちゃうんだもん……」

 

恥ずかしがる様子も無く、サラッと褒め言葉と〈好き〉の二文字を言ってのけるレムにハルイトは感心を通り越して尊敬の眼差しでレムを見る。そんなハルイトの視線にレムは恥ずかしそうにクネクネと体を動かすと

 

「そんな……レムの言葉で兄様が恥ずかしくなってくれるなんて眼福です」

 

「いや!顔赤くないからねッ!!それに眼福って……」

 

頬を赤らめるレムにハルイトはつっこむと、首を横に振る。ハルイトは肩をすぼめるとボソッと呟いた。

 

「俺よりレムの方が断然可愛いでしょうに」

 

「そんな……可愛いレムをお嫁さんに欲しいなんて照れてしまいます」

 

「俺の呟き声、聞こえんの!?サラッとお嫁さん発言より、そっちの方が驚きだわ!!」

 

ハルイトのツッコミにレムはクネクネをやめるとにっこりと微笑む。

 

「レムは日頃から兄様の言葉を一言一句聞き逃さないように耳を立てておりますので」

 

「立てなくていいところもあると思うけどなっ、俺!?」

 

ハルイトの言葉にレムは頬を膨らませると

 

「兄様の声と言葉はいつもレムを勇気付けてくれたり、奮い立たせてくれるんですよ。

そんな兄様の言葉を聞かなくていいなんて、いくら兄様も言っていいことと悪いことがありますよ」

 

レムのセリフにハルイトは愕然とすると、その場に頭を抱えてしゃがみ込む。

 

「どうしよう……レムちゃんがそう思ってくれてることも知らずに、くだらん事ばっか言ってしまった……!今までの俺を出来ることなら殴ってやりたい!!」

 

そんなハルイトの肩へと両手を置いたレムは

 

「レムは兄様の冗談を皆様が効く耳を持たなくて、皆様が笑われなくてもレムだけは兄様の話をずっと聞いていますから」

 

「それって遠回しに俺のジョークが面白くないって言ってるよね!!俺、ラムさんのズバッと直接には慣れてきたけど……レムのサラッと遠回しには、かなり心が抉られるよ……」

 

半分泣きそうなハルイトにレムは不思議な顔を浮かべている。そんな調子でハルイトとレムの二組はいつも通り、素晴らしい連携を見せて、残りの仕事を片付けていったのだった……

 

τ

 

一方のラム・スバル班はというとーー

スバルが用意したフラグカンニングペーパーを軽く超える量の雑務に追われていた。

庭園内の簡単な掃き掃除を終えた後、ラムに連れられてロズワール邸周りの見回りを終えたスバルはまだ平気であった。最初の死に戻りでもこれくらいの量はこなしていたのだから……。しかし、スバルの予想を超える雑務がその先も続いていた。洗濯に、庭園に植えてある花や植物の水やり。そして、一息ついた今はラムと共に草抜きをしている。ヘトヘトなスバルにラムは呆れ顔。

 

「この程度でへたるなんて、体力が赤子と同じではないの?バルス」

 

「へたってるのは、お前が殆どの仕事を俺へと押し付けてるからだよ!」

 

つっこむスバルにラムは「ハァッ」と鼻で笑うと

 

「押し付けるなんて人聞きの悪いわよ、バルス。ラムはちゃんと手本を示していたじゃない」

 

「それ以上は丸投げだったけどな……」

 

スバルの文句もどこ吹く風のラム。その後もスバルはラムにこき使われ続けるのだった……

 

τ

 

「はぁ〜」

 

ザブーンと勢い良く、湯船へと身体を沈めた黒髪の少年・スバルはため息を着くと用意していたカンニングペーパーと今陥っている状況を照らし合わせる。

あの月夜に交わした約束と銀髪の少女の笑顔をもう一度見るために頑張ると決意した後は一回目と変わらない展開を辿ったはすだ。しかし、ロズワール邸での雑務の量が前回と明らかに違う。量も質も全く持って、今回の方が遥かに上であった。

 

「っ……、前回も前回でクタクタだったけど、今回の方がハードだったぜ……」

 

“しかし、一回目でこんなに違うんだ……2日目となると……”

 

更に違うことが起こるに違いない。せっかく作ったカンニングペーパーが無駄になるの悔やむと共に、これから先どう行動すべきかを悩むスバルの背後に二つの人影が浮かび上がった。そして、それに気づいたスバルが振り向き、目を丸くするのと二つの人影のうちの一人が顔をしかめるのとがほぼ同時であった……




次回はマナについての話を書こうと思ってます。ずっと前からリクエスト頂いていたハルの特性についてもここで書こうと思っていますのでよろしくお願いします。


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十三話『お風呂と驚き』

今回はお風呂シーンですね。そして、遂にスバルに男ということがバレてしまうハルイト。メイド姉妹にお仕置きされなければいいですね(笑)

※お気に入り登録・411人!評価者・41人!
本当にありがとうございます!!


黒髪を上へと持ち上げたような髪型をしている少年・スバルはただただ驚いていた。それ程までに目の前に広がる光景は衝撃的であった。

一方、スバルと同様に、いやそれ以上に驚いていたのはスバルが視線を送り続けている癖っ毛が多い赤髪の少年・ハルイトであった。赤い大きな瞳をパチクリとした後、苦虫を噛んだような渋い顔を浮かべている。

そんな少年たちを微笑ましげに見守っているのが、長い藍色の髪を背中のところまで伸ばしている青年・ロズワールだった。興味深げに双方を眺めていたロズワールは呆然としているスバルに近づくと

 

「やぁ、ご一緒していーぃかい?ハルイトくんもそこにつったってないでおいで」

 

振り返り、手招きするロズワールにハルイトは我に返ったようでロズワールの横へと歩いてくる。

 

「えへ?あっ、はい。ロズワール様」

 

スバルはそんな二人を見つめる。しかし、見間違いではなく、本当に赤髪を揺らして歩いてくるハルイトの股間には聖剣がぶら下がっていた。それもここにいる者たちの中で一番大きいときた。

“なんか……負けた気がするな……”

スバルがガクッと肩を落とす姿にハルイトは眉を顰める。そのまま、スバルの横へと身体を割り込ませると湯船へと身体を沈めた。その横にはロズワールが入っている。

 

「しっかし、ハルって本当に男なんだよな。驚いたぜ」

 

スバルの声にもハルイトは苦笑いを浮かべる。癖っ毛の多い赤髪を撫でながら、言葉を発する。

 

「いやぁ〜、本当にごめんね、スバル。本当はもっと早く言うつもりだったんだよ。でもね、スバルが気付いてくれないし、ラムさんが面白いからこのままでって言うからね。本当、ごめん」

 

両手を合わせて謝ってくるハルイトにスバルは右手を上げて横に振るとロズワールへと視線を向ける。

 

「まぁ、いいさ。俺も気づかなかったんだし、それよりロズっち、風呂の時は流石にあの化粧落とすんだな」

 

スバルの質問にずっと黙っていたロズワールが答える。

 

「そうだね。おや、ひょっとすると私がスバルくんの前で素顔をさらすのはこれが初めてだったりするのかーぁな」

 

「まぁ、そうなるな。なんだ、普通にかっちょよくて何だよーって気分。隠す必要ねぇじゃん」

 

「あの化粧は趣味で、べーぇつに顔を隠したいってわけじーゃないからね。口が裂けてたり鼻が曲がっていたり、目つきが絶望的に悪いわけでも……おっと」

 

ロズワールがスバルを見て、言葉を止めたのを見たハルイトは忍び笑う。そんなハルイトを小突くスバル。

 

「ぷっ……ふふふふ、あはは……」

 

「ハルも笑ってんじゃねぇよっ!ロズっちもロズっちだよ!俺を見てそういうセリフを言うなよ。心の弱い三白眼なら死んでるぞ」

 

スバルのこの三白眼は母親から受け継いだものだ。文句を言いたくても何も言えない。

そこまで考えて、ふと横に座るハルイトへと視線を向ける。その視線にスバルの考えていることが分かったのだろう。ハルイトは自分の癖っ毛の多い赤髪を弄りながら言う。

 

「スバルのお察し通り。俺はお母さん似だな。お父さん曰く今の俺の姿は出会った頃のお母さんにそっくりらしい」

 

「なんだそれ、惚気か!」

 

「まぁ、うちの両親は格別仲良しだからな。いい歳なんだなら弁えろよと思うこと多々ならず。それ以上はいいお父さん、お母さんなんだけどな」

 

「あぁ……そうか……、ハルも大変だな……」

 

両親の仲睦まじい姿を思い出したのだろう苦い顔を浮かべるハルイトに、スバルもそれ以上は言えず黙る。そんな二人を見ていたロズワールが話を変えてくれた。

 

「そういえばスバルくん、ラムとレムとは仲良くやれそうかーぁな?あの二人はこの屋敷で働いて長いから、後輩との接し方も弁えているはずだーぁけどね」

 

ロズワールの質問にスバルは腕を組みながら、考える。

 

「んー。レムとはまだあんましだけど、ラムとは仲良くやってるよ。むしろ、ラムは少し馴れ馴れし過ぎる気が。先輩後輩以前に、俺がお客様の時点から態度変わらねぇよ、あの子」

 

スバルのその言葉にうんうんと懐かしそうに首を縦に振るハルイト。

 

「まぁ、それがラムさんのいいところだからね。スバルはもう少しさりげない優しさに気づくべきだね」

 

「あの毒舌のどこに優しさが!?ハルも大分、ラムに毒されてるな」

 

「ははは、本当に仲が良いね、スバルくんとハルイトくんは。いーぃとも、これからも仲良くしてくれたまーぁえ」

 

「はい、ロズワール様」

 

「へい、ロズっち」

 

二人の返事に頷いたロズワール。

 

「スバルくん達に負けず劣らず、ラムとレムはじーぃつに良くやってくれてるとも。ラムの足りないところをレムが補う。姉妹だから助け合わなくちゃね」

 

「まぁ、聞いて見た限りじゃレムがフォローするばっかで、ラムは妹の劣化版なんですけど」

 

スバルは瞼を閉じて、桃髪の少女・ラムと青髪の少女・レムを思い浮かべる。いま話題に上がっているこの姉妹はあらゆる家事技能での優劣をつけている。あらゆる技能で妹に一歩及び二歩及ばない姉。普通なら劣等感に苛まれそうな設定なんだが……

 

「なのに『姉だからラムの方が偉い』ときたもんだ。あの神経の太さにゃビビるよ」

 

「そんなこと言ったら、スバルも充分に太いと思うけどな」

 

「あはは、ハルイトくんのいうとーぉうりだね。でもそうか。そんな風に答えていたかい。ずけずけ踏み込んで遠慮のないことだ。実にいーぃことだよ」

 

「オノマトペ込みで褒められている気は全然しねぇなぁ」

 

「まぁ、スバルは空気読まないもんね。そのずけずけと他人のテリトリーに入っていってしまう癖はなんとかしないとね。フォローするの大変なんだから」

 

「悪かったな」

 

膨れるスバルにハルイトは謝っている。ロズワールは片目をつぶると、左の黄色い瞳だけで天井を仰ぐ。

 

「スバルのそういうところは実際、いーぃことだと私は思っているよ。あの子らは少し自分たちだけで完結しすぎてるからねーぇ。そのあたり、ちょこーぉっと他人か外から引っかき回す……それで変わるものも、きっとあるんじゃーぁないかな。もちろん、その他人にはハルイトくんも入っているよ」

 

ロズワールのその言葉にハルイトは眉を顰める。スバルも同じように?マークを頭の上に浮かべて、互いに顔を見合わせる。

 

「そういうものかなぁ」

 

「そういうもんですかねぇ」

 

「そんなもんですともーぉ」

 

ハルイト、スバルの二人の呟きに頷いてから、三人は肩まで湯船に浸かった……




すいません、マナで行けなかった……


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十四話『マナとゲート』

続けて、更新です。
今回でこのお風呂シーンは終わりとなります。そして、今回の話が今までの話で一番長いです。色々と複雑な気分ですが、どうぞ!


ポカポカな湯船に浸かり、温まってきた黒髪を上へと持ち上げるような髪型をしている少年・スバルは同じく湯船に入っている藍色を背中の方まで伸ばしている青年・ロズワールへと視線を向ける。

 

「そだ、ロズっち、ロズっち。ちょっと聞きたいことがあんだけど、聞いてよろしくて?」

 

「まーぁ、私の広く深い見識で答えられる内容なら構わないとーぉも」

 

「自分、物知りなんですってそんな迂遠な言い方する奴を初めて見たよ。それはともかくとして、この風呂ってどんな原理で湧いてんの?」

 

コンコンと浴槽の底を叩き、スバルはずっと疑問に思っていたことを問う。

スバルたちが浸かるこの浴槽は石材でできていて、触り心地から大理石のようなイメージを抱かせる。浴場は屋敷の地下の一角にあり、さすがに男女兼用だ。しかし、この浴場は贅沢なことに入浴者ごとにお湯を入れ替えており、エミリアの後に入ったとしても充実感をスバルに与えない。その事実に気付いた時、スバルは愕然としたものだ。

 

「別にお湯飲んだりしないけどね。飲む前に気付いてたし」

 

「スバル……」

 

スバルの発言に冷たい視線を送るのは癖っ毛の多い赤髪を持つ少年・ハルイトだ。ロズワールは驚いたように目を丸くしている。

 

「君の冒険心には時々驚かされるねーぇ。これが若さか……いや、しかし私が若かった頃に君のその発想が出ただろうか。いや、出なかっただろうね」

 

ロズワールはスバルの向こう見ずな若さを眩しそうに見るとコクンコクンと頷く。

 

「まぁ、ともあれ、その答えは簡単だーぁよ」

 

「浴槽の下に、火属性の魔鉱石を敷き詰めているんだよ。入浴の時間にはマナに働きかけて湯を沸かすって原理だね。スバルも見たことあるだろ?あの調理場で俺とレムちゃんが使ってるのをさ」

 

ロズワールに説明を丸投げされたハルイトはロズワールを睨みつつ、スバルへと向き直ると説明する。しかし、スバルにはちんぷんかんぷんだ。だが、最後のセリフには納得した。

 

「あぁ〜、なるほど。鍋ってそういう原理だったんだな。ガスがないのにどうやってんだろと思ってたんだ」

 

「俺も最初来た時はびっくりしたなぁ〜、今はもう慣れたけど」

 

スバルの様子を懐かしそうに見ていたハルイト。しかし、スバルはまだ『マナに働きかける』というのが分からない。

 

「そのマナにどーたらって魔法使いじゃないとどうにもならないわけ?」

 

今度のスバルの質問に答えたのはロズワールだった。

 

「いーぃや、そんなことはないよ。ゲートは全ての生命に備わっているかーぁらね。動植物すら例外じゃーぁない。でなければ、魔鉱石を利用した今の社会は成り立たないだろうしねーぇ」

 

新しい単語の出現に首を傾げるスバルを見兼ねてか、ハルイトが右手を上げる。

 

「はーい。ロズワール先生、俺もそのゲートやらが分からないので教えて欲しいです〜」

 

「よし、仕方がなーぁいね。ここは少し無知蒙昧な君達に魔法使いのなんたるかを教授してあげようじゃーぁないの」

 

「なんかつっこみたくなるな……」

 

「ハルもか」

 

「あぁ、スバルも」

 

「あぁ」

 

しかし、タダで教えてもらえることはないだろう。スバルとハルイトはロズワールへと正座で向き直る。

 

「それじゃーぁ初級から。スバルくんはもちろん『ゲート』について知っているね?」

 

右手を上げて、横に降るスバル。

 

「いや、そんな知ってて当たり前みたいに言われても、知らない側はぽかんですし……」

 

「すんごい急に声の調子が落ちたね。ハルイトくんは?」

 

「いや、ゲートについては……俺も全然分からないです。レムちゃんに教えてもらって、手をかざして、えいってやったら魔鉱石も動かせましたし、そんなに深く知らなくてもいいかなぁ〜って」

 

「相変わらず素直だーぁね、ハルイトくんはーぁ。しかし、二人ともゲートのことも知らないか……控え目に言って、え、それ、マジ?ってーぇ感じ。二人とも使い方、合ってる?」

 

ロズワールが『マジ』の用法の確認を取る。そんなロズワールに二人はうなづく。三人でハイタッチをしてから、授業へと戻る。

 

「ロズワール様、つまり『ゲート』って何ですか?」

 

「あるとないとじゃあ何が変わるの?」

 

「まぁーぁまあ、二人とも。順を追ってから説明するかーぁらね。そうだーぁね、簡単に言ってしまうとゲートというものは自分の体の中と外にマナを通す門のこーぉとだね。ゲートを通じてマナを取り込み、ゲートを通じてマナを放出する、生命線だーぁね」

 

ロズワールの説明に其々の反応を取るスバルとハルイト。

 

「なーる。MP関連の蛇口のことね……」

 

「なるほど。俺の世界でいうパロールってことか」

 

ロズワールの丁寧な説明によって、合点がいく。おおよそ、想像してた通りの内容だった。

 

「ゲートが誰にでもあるってことは、俺にもあるってことじゃね?」

 

「そうだね、スバルにもあるよ」

 

「まーぁ、そりゃあるだろねーぇ。人間の自信があれば。君、人間?」

 

「ふふふ、あっはははっ!ロズワール様、それマジ失礼」

 

「いや、笑ってるお前が一番失礼だかんなっ」

 

ロズワールのセリフに笑ながらつっこむハルイトに、スバルは軽くハルイトの頭を叩く。叩かれたところを抑えながら、恨めしげに睨んでくるハルイトにスバルはどこ吹く風。

 

「ロズっち、俺ほど真人間のまま異世界に放り込ませた男はかつていねぇよ。マジ常人、マジモブ」

 

「ぷっ……スバル、モブで常人なん?そんな目つき悪くて?」

 

「〜〜ッ!!お前は黙ってろっ」

 

ハルイトの頭をポカンと叩いたから、ロズワールへと向き直る。

思い返せば、ここまで辿り着くまで幾つもの困難があった。召喚された一日目には理由もわからず、沢山死に戻りした。このロズワール邸に来てからも一回、死に戻ったが。それがこの魔法習得によって、この死に戻りが緩和されるかもしれない。いや、そんなめんどくさいことはいい、取り敢えず魔法が使いたい!異世界で魔法使いになるとか最高じゃん!!

もうドキドキワクワクのスバルは興奮気味に語る。

 

「この異世界に来てからの一番嬉しかったことはもちろんエミリアに会ったことだけど、これもかなりヤバイな!きたがついに俺も夢の魔法使い……いや、これでこそが俺が待ち望んでいたチャンス!」

 

「いや、チャンスって……魔法使いもそんな楽しいのじゃないと思うけどね……」

 

「いーぃや、魔法の話でそこまで喜んでもらえるとなーぁると、魔法使い冥利に尽きるってーぇもんだね。もっとも、ゲートがあっても素養の問題は大きい。自慢しちゃうけど、私のように才能に恵まれることはまずなーぁいもんだよ」

 

「……ッ」

 

ロズワールのそのセリフにハルイトは胸を抑える。いつもの心臓を握りしめられる感覚にハルイトはスバルへと視線を向ける。そこにはーー

【ドヤ顔を浮かべた黒髪の少年が腰に両手を添えて、自信満々な様子で踏ん反り返っている】絵が白い旗にプリントアウトされている。

“うわぁ〜、意味わからんけどムカつくフラグが出た〜”

これまた今まで見たことがないフラグだが、見ていると無性に腹が立ってくるのはどうしてだろうか?

そんなハルイトに気づく様子がないスバルはロズワールへと魔法の話を促していた。

 

「きたぜ、きたきた。ロズっち、俺の新しい希望だ!魔法、魔法、魔法トークしようぜ。なんか分かんないが、俺には分かる!今、魔法の波がきてる。俺の輝かしい未来が、波間に漂ってるよ!」

 

「そーぉ?それじゃ続けちゃおう。魔法には基本となる四つの属性があるわけだーぁけど、知ってるかなーぁ?」

 

「知らなーい!」

 

「知らないのかよ……。基本となるのは火・水・風・土だろ?」

 

「チィ」

 

「なんで俺舌打ちされた!?」

 

スバルの舌打ちにハルイトはオーバーリアクションを取る。そんなハルイトを置いておいて、ロズワールへと向き直るスバルは続きを促し続ける。

 

「ハルは置いておいていいからさ、続き続き!」

 

そんなスバルに気を良くしたロズワールは説明を続ける。

 

「熱量関係の火属性。生命と癒しを司る水属性。生き物の体の外に働きかける風属性。体の内側に働きかける土属性。主に属性はこの四つに大別されていて、普通の人はその中の一つに適性があるってーぇこと。ちなみに、私は四つの属性全てに適性があるよーぉ?」

 

「わぉ、自慢うざいけど形式上褒めとく、すごい!属性ってどうやって調べるの?」

 

「それはロズワール様ほどの魔法使いなら触っただけで分かるんじゃないんですか?」

 

「チィ」

 

「なんで、俺が答えるとスバルは舌打ちすんの!」

 

「で、ロズっち。ハルの言ってたことって合ってるの?合ってんなら、俺にして!」

 

「無視かよ!」

 

「そーぉだね、分かるよ」

 

「ロズワール様まで!?」

 

スバルとロズワール双方から無視されたハルイトはガクっと肩を落とす。そんなハルイトの横でスバルは興奮気味でロズワールに近づくと

 

「マジでマジで!きたよ待ってたんだよ、こんな展開!見てくれよ、今すぐそして教えてくれ!」

 

「よっし、スバルくんの見てあげようじゃーぁないか。ちょこーぉと失礼します。みょんみょんみょんみょん」

 

ロズワールがスバルのおでこへと右手を置くとスバルの瞳がキラキラと輝く。

 

「うおお!魔法っぽい効果音だ!今、ファンタジックしてる!」

 

「よぉーし、わかったよ」

 

「きたきた、待ってました、待ってましたよ!何だろ、何なるかな。やっぱ俺の燃えるような情熱的な性質を反映して火?それとも実は誰よりも冷静沈着なクールガイな部分が出て水?あるいは草原を吹き抜ける涼やかで爽やかな気性が本質とばかりに風?いやいや、ここはどっしり悠然と頼れるナイスガイな兄貴分な素養を見込まれて土とかでちゃったりして!」

 

「よくそんなに自分のハードルを持ち上げられるよな……、四つともスバルではない気がするけど」

 

目を開けたロズワールにスバルの期待がMAXへと達する。そんなスバルの横にはハルイトが呆れ顔を浮かべている。

 

「うん『陰』だね」

 

「ALL却下!?」

 

「ぷっ」

 

「笑うんじゃねぇ、そうだハルはどうなんだよ!」

 

スバルの押されて、ロズワールの前へと押されたハルイトのおでこへとロズワールはのっける。

 

「んー、『火』と『陽』かな」

 

「負けた!」

 

「いや、勝ち負けとかないだろう……」

 

ハルイトの呆れ声にロズワールはスバルへと視線を向ける。

 

「スバルくんのはもう完全にどーぉっぷり間違いなく『陰』だね。他の四つの属性との繋がりはかなーぁり弱い。逆にここまで一点特化は珍しいもんだけどねーぇ。

ハルイトくんのは程よく全ての属性を使えるよーぉだね。練習の賜物ってわーぁけだね。程よく使える属性の中で『火』と『陽』が格別に高いーぃね」

 

「ちょっと待った!『陰』ってなんだよ!分類は四つじゃねぇの?カテゴリーエラーしてるよ」

 

怒り気味のスバルにロズワールが説明をする

 

「話さなかったけーぇど、四つの基本属性の他に『陰』と『陽』って属性もあるの。たーぁだーぁし、適合者はほとんどいないから説明は省いたんだけどねーぇ」

 

スバルは怒りを鎮めようとする。そう、これはある意味チャンスなんだ。そう限りなく希少な属性ということなんだ。例外がないってことは……。

スバルは期待を込めて、ロズワールへと問いかける。

 

「なんかすごい属性なんだろ、実は?五千年に一度しか出ないとかいう超強力的みたいな!」

 

「そーぅだねぇ、『陰』の属性の魔法だと有名なのは……相手の視界を塞いだり、音を遮断したり、動きを遅くしたりとか、それとかが使えるかな?」

 

「デバフ特化かよ!?」

 

デバフとは敵を弱体化させるスキルの総称であり、補助職まっしぐらな特化性能である。

申し訳なそうな言葉を紡いだロズワールの表情からこの事実を覆すことは出来ないのであろう。

スバルはその後、落ち込んだように何も喋らなかった……




次回はスバルとハルイトの視点で

※特別章:ラムとハルがイチャつく話を書きました。宜しければご覧下さい。


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《新》十五話『お仕置きと子犬』

大変遅くなりました。
今回は少し長めです、そしてあと少しで二回目の死に戻りですよね……うぅ〜、複雑です。そして、前の回で特別章をのける本編が30話へと達しました、パチパチ。記念すべき回があの回で良かったのか……と思うところですが、仕方ないですよね(笑)
今回の話は主にタイトルの通り、お仕置きとあの子犬がメインの話となっています。次の死に戻りがハルとスバルにいい結果をもたらすことに期待して、前書きを終わりにしようと思います。

※お気に入り登録・636人!評価者・45人!感想を新たに一件頂きました!!本当にありがとうございます!!


「兄様、何か考え事ですか?」

 

「んぅ?あぁ……」

 

黒髪を上へと持ち上げたような髪形をしている少年に、男性だとバレた俺はラムさんによるお仕置きよりもスバルの上へと浮かび続けるあの奇妙なフラグの方が心配……いや、気になって仕方がない。

“真ん中に2の文字。それを囲むように白い旗と黒い旗が変わりばんこに並び、其々を繋ぐように赤い矢印が繋ぎあっている……か…………”

それ以外にも変わったフラグを見たことがあるが、例えばーー。

俺は机の横に変わらぬ姿勢で立ち続ける青髪の少女・レムちゃんへと視線を向ける。

 

「兄様、どうされたのですか?」

 

突然、視線を向けられたレムちゃんは困惑しつつも嬉しそうに頬を染める。

 

「……」

 

「そんな凛々しい目で見つめられたら、困ってしまいますよ、兄様」

 

「……」

 

「にっ、兄様?本当にどうされたのですか……?

いえ、兄様に見つめられるのが嫌なわけではないんです。とても嬉しいことなのですが……突然、このように見つめられたら……お役目が果たせなく……しかし、お役目がどうでもよくなるほど…兄様の凛々しい瞳…とてもカッコいいです……」

 

俺の視線に耐えきれなくなったのか、レムちゃんがクネクネと恥ずかしそうに身体を動かし始めると同時に小声でブツブツと何かを言っていた。そんなレムちゃんの頭の上には、これまでに俺が見てきたフラグが並んでいる。

左側に立つのがーー【白地にデカデカとピンクのハートが書かれた旗の中央に赤い文字で済と大きく書かれている】

そして、右側に立つのがーー【黒いとんがり帽子に赤い×マークが付いている】

“左に立っているのが、多分攻略対象フラグだよな”

現れた時はどうしたものかと思ったけど、想像していたよりも早く攻略することができた。あれ程まで、俺のことを嫌っていたから、これからも嫌われたままなのかなぁ〜って思ったけど、本当に仲直りできて良かった。

“で、右に立つのが魔女や魔女教徒が嫌いといったフラグだったよな”

彼女ーーレムちゃんはどうやら、魔女の残り香を嗅ぎ取ることが出来るらしい。その魔女の残り香というのが俺からも漂ってくるらしく、前はそれを原因で追いかけ回されたり、あのモーニングスターとやらで撲殺されそうになったが今はそんな事がない。いや、あっても困るのだけど……。

苦笑すると心配そうに此方を見つめるレムちゃんを手招く。レムちゃんが近づいてくるとそのフワフワな感触が気持ちいい青髪へと右手をのけて撫で回す。

 

「ごめんね、レムちゃん。ボゥーとしてた」

 

気持ち良さそうに目を細めるレムちゃんは上目遣いで俺を見てくる。そんなレムちゃんに俺は笑いかけるとレムちゃんもつられて笑いだす。

 

「お疲れなんですか?あまり、ご無理をなさってはいけませんよ」

 

「あはは、それは俺じゃなくてレムちゃんに使うべき言葉だよ。レムちゃんこそ、無理しないでね」

 

「うふふ、心得ていますよ、レムが倒れたら兄様や姉様に負担が掛かってしまいますもんね」

 

「スバルにもだろ?」

 

「スバルくんはそれ程多く、仕事をこなしてませんもの」

 

「あはは、辛辣だね」

 

笑いに包まれながら、その日の勉強会は終わりを迎えた。

 

 

τ

 

 

「スバル、さっさと歩けよ。時間は有効なんだぞ」

 

俺はアーラム村へと続く山道をズンズンと歩いていく。その後ろを歩くのが、ビシッと執事服へと腕を通した黒髪を後ろへと持ち上げるような髪型をしている少年・スバルと肩や胸元が惜しげもなく晒されている露出度満載の改造メイド服を身につけている青髪の少女・レムちゃんで、二人とも心なしか口元が歪んでいる気がする…。しかしその理由は否応なく俺自身であろう。

スバルの焦げ茶色の瞳に映る俺自身の服装はーー簡単に言えば、レムちゃんの身につけている改造メイド服の色違いだ。しかし、その色違いというのが問題であったーー

俺は悔しげに唇を噛むと笑いをこらえるのが必死といったスバルに鋭い視線を向ける。

 

「ッ!なんで……、俺がこんな目に……っ」

 

ーー癖っ毛の多い赤髪に止められたフリルのついた薄桃色のカチューシャ。薄桃色のエプロンに撫子色の改造メイド服、そして終いが薄桃色のガーターベルト付きの靴下だ。何が悲しくて、異世界でこんなコスプレじみた事をしなくてはいけないのだろうか!

そんな姿を母さんや師匠が見たら、白目を向いて倒れかねない。

“あぁ、お母さん師匠、俺は元気でやってます……。精神的に辛く涙が出ることが多いけど……”

 

右斜め後ろから聞こえる忍び笑いに苛立ちながら、アーラム村へと到着。

 

「俺はあっち側から買い物してくるから、レムちゃんはそっちお願い」

 

「分かりました、兄様」

 

其々の持ち場へと向かう俺たちに取り残されたスバルは唖然とする。

 

「まっ、ハル。俺は?」

 

俺は振り向きざまに冷たく言い放つ。

 

「子供たちと遊んでいればいいじゃない?あぁ、そうだね……このまま、この村の子供になってしまえばいいよ。うん…いい提案だ」

 

「んなわけあるかー!ってちょっ、お前ら、やめ」

 

「ふ」

 

村の子供たちに揉みくちゃにされるスバルに俺は薄い笑みを浮かべる。その表情を見たわけではないけど、多分凄い悪い表情をしていたのではないかと思う。

俺はスバルの置き去りにして、買い出しへと精を出した……。

しばらく経ち、あの場所へと帰ってみると、スバルと子供たちの姿が見えなかった。それを不思議に思っているとズキンとあの感覚が現れた。

 

「ッ……」

 

久し振りに感じる心臓を握りしめるような感覚に、見慣れた白い旗が地面に現れた。

【白地に赤い矢印】が書かれたフラグは森へと続く小道を指差している。

“そっちに行けって事か”

俺は矢印の指差す方へ走り出すと見慣れた黒髪に執事服を身につけている少年にあった。橙のショートヘアーに、赤いリボンを付けている少女が抱っこしている子犬を撫でようと試みているようだった。しかし、その子犬はスバルに触られるのを嫌うようにグルルルと唸っている。

 

「おっ、ハル。お前もこの小動物の可愛さに駆けつけてきたのか?」

 

「はぁ……はぁ……。どこ行ったのかと思ったら、こんなところにいたのかよ、スバル」

 

「ハルイトもさわるー?」

 

「かわいいよー」

 

「あぁ、そうだね…」

 

子供たちの言葉に適当に答えながら、今だに心臓が握りしめられている理由を探ろうと子犬へと視線を向けると、ひょっこりと現れる謎めいたフラグ。

【白地に真っ黒に塗りつぶされた人の上半身。こちらを見つめる瞳は真っ赤でいかにも悪人っぽい】

“おいおい……こんな時に何のフラグだよ……”

 

「おっ、チャンス!」

 

「おい、スバル」

 

大人しくなった子犬に触れようとするスバルを俺が止めると、その音でスバルが触ろうとしたのが分かったのだろう。子犬がガブッと噛み付くのは、俺の右手でーー

 

「っあーーッ!?」

 

「あぁ〜無理矢理触ろうとするからだよ、ハルイト」

 

吹き出る血に涙を堪えながら、スバルの方へ振り返るとその手を掴み、強引に引っ張って 来た道を帰っていく。

 

「いや、俺が触ろうとしたわけじゃないからな!?スバルが触ろうとしただけで……って、クソいてぇ。バカスバル、ほら見たことか、こうなるから触るのはまた今度にしろ。レムちゃんが待ってる」

 

「いや、ハル。俺にも考えがあって、エミリアたんとのラブラブデートっていう野望がーー」

 

「ーーくだらん、帰るぞ」

 

「この鬼畜ぅーー!!悪魔ぁーー!!」

 

ただをこねるスバルを引きずりながら、レムちゃんが待つ集合場所へと辿り着いたのがそれから数分後のことだった……




この後の話を書こうか迷ってる。しかし、大事なシーンだと思うしなぁ…うーん

※レム章により少し内容を変えてます。

子犬を抱っこしている少女を青髪のお下げの子・メィリィ→橙のショートヘアーに、赤いリボンを付けた子・ペトラ

へと変化しております。


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十六話『置き手紙とメモ帳』

お待たせしました!
前回で子犬で噛まれたハルですが、皆様の予想通りといいますか、今回の話で亡くなります。そんな彼がスバルへと書いたのが、タイトルにある置き手紙とメモ帳ですね。その二つがスバルにいい結果をもたらすことに期待してます

※お気に入り登録・640名!評価者・46名!感想を二件頂きました!!
ありがとうございます!


「フゥー、今日はマジで疲れた……」

 

ベットに倒れこみながら、俺は今日で疲労困憊した精神と肉体を癒す。

思い返せば、本当に沢山のことがあった。ラムさんによるお仕置きから始まり、買い出しにて謎のフラグ登場からの、極めつけの可愛らしい子犬にカブリとされたというわけだ。

 

「あんなちっさいのに凄い力だったなぁ……。そして、現れたあのフラグって……」

 

“真っ赤な瞳がこちらを睨んでいるように見える、真っ黒に塗りつぶされた人間の上半身がプリントアウトされた旗……か……”

 

「いかにも悪党って感じだったから、スバルを守ったけど……大体、あの子犬に何が出るっていうだ?襲いかかるにもかかれないと思うし……うーん、まぁいいか……」

 

うーんと背伸びしてから、勉強机へと腰掛ける。右の引き出しから、『フラグについて』というメモ帳を取り出す。このメモ帳には今まで出てきたフラグを俺がこのメモ帳へと書いている。

 

「んーー、と、最後はそうそう。これこれ、スバルのフラグ。この横にあの矢印のフラグと子犬のフラグを書いとくか……」

 

サラサラっとフラグを書き足しながら、身体が不自然に気だるい感じがして、眉を顰める。

 

「ん?俺もまだまだってことだな……、あれくらいで弱音を吐くとは」

 

フラグを書き終え、気になった点を余ったスペースに書き足しながら、ロ文字の勉強会の時間になったので引き出しへとメモ帳を隠す。

それと同時にドアが空いたので、今日の勉強会の教師は誰かと期待を込めながら、振り返るとそこには予想に反して、桃髪のメイドが俺の顔を見て頭を押さえているところだった。

 

「おっ!今日はラムさんなの!?」

 

「ハル、その品性のない顔つきは何なの?発情期の犬みたいで見るに堪えないわ」

 

ニコニコと満面の笑みの俺にラムさんはうっとおしいって感じで、顔をしかめる。そんなラムさんが机の横へ立つのを見て、俺の笑みが更に深まる。

 

「それだけ、ラムさんに会えて嬉しいってことだよ」

 

「はぁ……、そう」

 

呆れた様子で俺の愛の囁きを受け流すラムさんは至って、普通通りで俺も普通通りめげずにラムさんを口説く。

 

「そういう冷たくも優しいところがラムさんのいいところだよね!」

 

「……張り倒されたいの?それとも、もう二度とその軽々しい口を開けないようにするために、首を落とされるのがハルのお好みかしら?」

 

「何故!?俺、そんなにラムさんを怒らせた!?」

 

「……」

 

「むぐっ…」

 

俺の悲鳴じみたツッコミにラムさんの表情が更に凍りつく。それを見て、ゾッとした俺はこれ以上余計な事を言わない方がいいと判断し、口元を塞ぐ。

そんな俺の様子にラムさんは首を横に振ると、手元のノートへとお手本を書き出していった……

 

 

τ

 

 

「………」

 

息苦しさを感じ、飛び起きた俺は強い疲労感が身体を包むのを感じた。

 

「うっ……げほ、うぇ……。ッ……なんだ?これ……」

 

汚物をベットへと吐き出しながら、クネクネと周りの景色が変な風に映る。まるで熱を加えたプラスチック容器のように溶けて合わさる景色に吐き気を感じながら、心臓を握りしめられる感覚に冷や汗をかく。

ボヤける視界の中、ポンポンとリズミカルに現れた三つの旗を交互に眺める。

右側にあるのは【真っ黒な布地を持つ旗】で、真ん中にあるのは【赤く癖っ毛の多い髪の少年が、黒髪を上に持ち上げている少年へと耳打ちをしているのがプリントアウトされている旗】。そして、一番左側に立つのが【赤く癖っ毛の多い髪の少年と黒髪を上に持ち上げている少年が肩を組んでいるのがプリントアウトされた旗】であった。

その三つのフラグを見た俺が最初の思ったことは、今更だった。

“今更、あなたは死にますっていわれたって……。それに最後の二つのフラグなんだよ……。こっちはもう死にかけっていうのに……無理難題押し付けんなよ……ッ”

 

「ふ」

 

俺は疲れたように笑うと、冷や汗と寒気を感じながらもフラフラしながら、勉強机へと座り、鍵のついた引き出しから『フラグについて』と書いてあるメモ帳を取り出す。震える手で最後のページを開きながら、真ん中にあったフラグと左にあったフラグを書く。

メモ帳を閉じた俺はボヤける視界の中、右にあったフラグを見て、苦笑する。

 

「あはは……俺……死ぬのか……。意味分かんねぇ……死に方だよな……」

 

黒い旗は【死亡フラグ】といい、そのフラグが立った者は近いうちに命を落とすといったいわく付きのフラグだ。そのフラグを折ることや回避することは出来ないと聞いている。

 

「そうだ……スバル……や、皆に手紙書かなきゃ……」

 

俺は机に置いてあったメモ帳へと震える字で手紙を書きながらも力尽き、深い眠りへと落ちていった……




次回はスバル視点で、オリジナル展開となってますので日にちが空く可能性があります…楽しみにしてくださっている皆様、本当にすいません…


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十七話『乗り越えた朝と乗り越えなくてはいけない死』

メリークリスマスです♪読者の皆様!
読者の皆様はどの様なクリスマスを過ごされていましたか?
作者はごくごく普通……、といいますか、文章に追われるクリスマスでした(苦笑)

そんなクリスマスですが、あと少しで終わりなんですね…早いなぁ〜としみじみと感じているところで、今回の話を簡単に説明したいと思います。
スバルを子犬の呪いから守ったハルイトは、その呪いによって亡くなってしまいます。そんなハルイトが発見されるのが、今回の話となってます。
オリジナル展開で不十分な所だけだと思いますが、ご覧頂ければと思います。
個人的に注目してほしい所は、ラムさんの言動です。彼女がハルイトをどう思っているのか?ハルイトの為に泣いてくれたのか?とか、読者の皆様も気になってウズウズしていたのではないでしょうか?
読者の皆様のご期待に添える話となっていることをお願いして、前書きを終わりにします。


※お気に入り登録・646人!評価者・46人!
そして、感想を新たに三件も頂きました!!本当にありがとうございます!!
これからはオリジナル展開で拙い文章が続くと思われますが、飽きず、どうか最後まで応援よろしくお願いします!


「ッ!?」

 

黒髪を上へ持ち上げるような髪型をした少年・スバルはハッとしたように目を見開くと、苦虫を噛んだような顔をした。

 

「チッ。何やってんだ、俺……死ぬかもしれねぇのに寝落ちって……ってあれ?」

 

スバルは身体をペタペタと触れて、安堵する。それと同時に眉を顰める。

 

“俺は一回目を忠実に再現した筈だ……なのに、なぜ……?”

 

所々、一回目と違った展開があったのは否めないがこうも簡単にループが抜けられるようなものなんだろうか?

 

“一回目と何が違ったっていうんだ?そこに何かヒントが……”

 

スバルが一回目と今回を照らし合わせようとした時、渡り廊下から足音が聞こえたかと思ったら、ギィーと重々しいドアの音が聞こえて、見慣れた顔が入ってきた。

双子の妹より研ぎ澄まされた刃のように鋭い雰囲気と視線を兼ね備えた桃色の髪を肩当たりで切り揃えられている少女・ラムだ。ラムにしては珍しい大きな声でスバルを呼ぶと、ベッドの脇でへたり込んでいるスバルにズカズカと近づいてきた。

 

「バルスッ!バルスは起きてる!?」

 

ラムから漂う雰囲気に慄きながら、右手を上げて挨拶をするスバルにラムは端正な顔を近づけると、ジャージの襟首を掴み上げた。

 

「やぁ、姉様、おはよ…がぁ…」

 

「……」

 

薄く赤い色が浮かんでいる目元からは、スバルを品定めするような鋭い視線が送り続けられている。しかし、それも一瞬でジャージを離すと文句を言うスバルを一瞥して、部屋を出ていく。

 

「イテェよ、姉様。流石にこれは俺もーー」

 

「ーーいいから、黙ってきなさい」

 

「……」

 

ラムの凄みにスバルは押し黙ると、ラムに連れられてある部屋へと入っていく。スバルの部屋を出て、右へ二つ部屋を通り過ぎたその部屋の主は、スバルが女だとずっと誤解していた使用人が暮らしていたはずだ。なのに何故、こんなーー

 

「兄さまぁああああーーっ!!!」

 

“ーーこんな悲鳴が聞こえるんだよ…”

 

「……」

 

無言のラムに続き、部屋を覗いたスバルは目を丸くする。崩れ落ちそうになる両脚へと力を入れて、目の前の光景を受け入れようと努力する。

しかし、その光景はどうしても受け入れられなくて……

 

「……なんで…」

 

ぽつりとそんな疑問符が口から零れた。そんな疑問をこの場にいる者たちが答えられるはずが無かった……

 

スバルは机に伏せて、青髪のメイド・レムに抱きつかれながら、息を引き取っている癖っ毛の多い少年・ハルイトだったもの。そう、だったもの。そこには、既にもう魂はないのだ。

 

スバルはくしゃくしゃと頭を掻き毟る。

 

“意味がわかんねぇ…意味がわかんねぇよ。なんで…、なんで……”

 

「ハルが……、死んじまってるんだよ……」

 

 

τ

 

 

スバルは傍らで長い藍色の髪を持つ青年・ロズワールとクリーム色の縦巻きロールの少女・ベアトリスがハルイトの死因について話し合っているのを放心状態で聞いていた。

そんなスバルにラムは手に持っていた紙とメモ帳を押し付ける。

 

「ハルが握っていたこのメモはバルスへそうよ。それとこのメモ帳もバルスへと書いてあったわ」

 

「あぁ……、ありがとう、ラム」

 

そんな放心状態だったスバルはラムの小さな異変に気付くことが出来なかったーー

 

「……ラムをこんな思いにさせるなんて。生きていたら、ラム直々に手を下すところだったわ、バカハル」

 

ーーそう呟いたラムの瞼が赤く腫れ上がっていることに。鋭い視線がさらに鋭くなることに。

 

ラムから受け取ったメッセージとメモ帳を呆然と見ていたスバルは、ゆっくりとハルの書いたメッセージへと視線を落とす。

辛うじて読める程に歪んだひらがなをゆっくりと呼んでいくスバルの頬が次第と濡れていく。ポタポタとメモへと広がる染みで掠れていく文字ごと、抱き締めたスバルはその場に崩れ落ちる。

 

「そんなこと言われたって……、俺…ッ。……なに、勝手に死んでるだよ……ッ、ハル……」

 

スバルは顔をくしゃくしゃにして、泣き続けた……




次回の回はハルイトが書いたメッセージとフラグメモ帳を書こうと思います。

※ご指摘により、表記を変更させていただきます。ご不快な思いをさせてしまい、本当にすいませんでした……


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十八話『ハルからのメッセージ』

遅くなりました。
今回の話ですが、ハルからみんなへ向けたメッセージと『フラグについて』というスバルに預けたメモ帳が書かれてます。
一話から抜き取って書いたのですが、そう考えると色んなフラグを書いてきたんですね…と感深くなりました。


ろずわーるさまへ

 

ろずわーるさまのもくてきをはたすまえに、いきたえてしまうおれをどうかおゆるしください。

おれは、ろずわーるさまにおんがえしできたでしょうか?

ただ、それだけがこころのこりです。

 

ーーーーー

べあとりすさまへ

 

べあとりすさまとは、けんかばかりしていたきおくがあります。いつか、かならず、べあとりすさまのさがしもとめたひとがあらわれます。

それまではどうか、おれのともだちのおせわをよろしくおねがいします。

 

ーーーーー

 

えみりあさまへ

 

えみりあさまのえがおは、おおくのひとをいやすちからをもっているとおれはこころのそこからおもっています。

どうか、そのえがおでおれのともだちや、やしきのかたたちをささえってあげてください。

 

ーーーーー

 

ぱっくさまへ

 

ぱっくさまはとてもやさしく、おおくのかたをみていらっしゃいますよね。そして、おおくのこともしっていらっしゃいます。

そのちしきをおれのともだちにもおしえてあげてください、よろしくおねがいします。

 

ーーーーー

 

れむちゃんへ

 

こころやさしいれむちゃんのことだから、ないちゃってるよね…。こんなふがいないあにきぶんでごめんね。

したってくれたこと、おれのたりないところをおぎなってくれたこと、かんしゃしてもしきれません。

なので、ありがとうといわせてください。

 

ーーーーー

 

らむさんへ

 

らむさんはおれがなくなって、すくなからずないてくれているのかな?ないてくれてるとうれしいなぁ…。

らむさんにはずっとおれのきもちつたえているよね…。

あらためていうと、おれはらむがすきです。あいしてます。でも、ただひとつだけいいたーー

 

 

ーーーーー

 

すばるへ

 

すばる、ごめんな、しんじゃって…。おれのぶんまで、らむさんとれむちゃんをささえてあげて。れむちゃん、ふさいじゃいそうだから…。

それじゃあ、あとのことはたのむぜ、こころのとも!!すばるなら、できるっておれはしんじてるから!

 

 

 

 

 

τ

 

 

 

 

『フラグについて』

 

●フラグ●

 

その人の性格、苦悩、悩乱、煩悩、願望、本願そして運命、辿る人生が印されし旗。

その旗を見る事が出来るということはその人の運命も人生も変えてしまうということ、生も死も思い通りに操れるそんな畏怖の念すら抱く力だと俺は思っている。

そんな力を俺に持たせたということは……、神様って本当に気まぐれなんだな。

 

 

●弱点フラグ●

 

【メラメラと燃え上がる紅と黄色のグラデーションが綺麗な炎】がプリントアウトされた白い旗。

 

この弱点フラグは、よく戦闘時に現れることが多い。とても世話になってるフラグ。

 

 

●ストーリーフラグ●

 

【1と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】

【2と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】

3と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】

 

といった感じで、ストーリーが次の段階に入った時に現れるフラグ。その度に心臓を握れて、すげぇいてぇー。マジで勘弁して欲しい……。

 

 

●服従フラグ●

 

【ロズワールに跪く赤髪の中性的な顔立ちをした少年】

がプリントアウトされた白い旗

 

フラグが現れた相手に絶対服従を誓うって感じだろうな、多分。ロズワール様だっけ?あの怪しいピエロ…、あれに服従っていうのはかなり辛いものがあるけど、お母さんや師匠に会うためだもんなぁ…、よーし頑張るぞ!

 

 

●攻略対象フラグ●

 

【白地にデカデカとピンク色のハートの形】をプリントアウトした旗。

 

あの桃髪の子ーーラムという名前らしい。現れたこのフラグだけど、無理じゃあないだろうか?すげぇ、辛辣だし…俺の事嫌いみたいだし……。

 

ラムさんの寝顔…すっごく可愛かった……。ラムさんが帰った後でもドキドキする……ヤバイなぁ…、これが恋ってやつか…。

 

 

●攻略対象済フラグ●

 

【白地にデカデカとピンクのハートが書かれた旗の中央に赤い文字で済と大きく書かれている】

 

レムちゃんって、ラムさんより攻略しにくいって思ったけど、想像以上にいい子なんだなぁ…。俺もこの子の負担を少しでも和らげる為に、仕事覚えないとなぁ……

 

 

●好感度フラグ●

 

【赤い文字で52】がプリントアウトされた白い旗。

 

このフラグが100を越えると済という文字がピンク色の大きなハートにつく。ラムさん攻略、頑張るぞー!!

 

●イベントフラグ●

 

【目をつぶる桃髪のショートボブを持つ少女のおでこへとキスする赤髪の少年】の絵がプリントアウトさせている白い旗

【中央に大きなピンクのハートの中に赤い文字で+30と書かれている】が書かれている白い旗。

【赤髪の少年が大きな口を開けて、魔法を放っている】が書かれている白い旗。

 

そのイベントを行うことで、好感度アップするらしい。だからといって、ラムさんにキスとか恥ずかしすぎて…次の日、顔見れねぇ〜

 

●魔女嫌悪フラグ●

 

【黒いとんがり帽子に赤い×印が付いてある】

レムちゃんに浮かんでいたフラグ。これを最初に見た時は何のことか分からなかったけど、ラムさんから昔の話を聞いた時…レムちゃんが俺に襲いかかったのも頷けた。でも、レムちゃん。スバルは悪い奴じゃないよ、それだけは分かってあげて欲しいと思う。

 

 

●スバルのフラグ●

 

【黒い旗と白い旗が変わりばんこに円の形に並んでいる。その白い旗と黒い旗を繋ぐ矢印は赤色】

 

スバルのフラグは正直、意味が分からない。まず、このフラグを分析する前にこの二つの旗を書かなくてはいけないだろう。

 

【真っ白な布地】を持つ旗

→これは『生命フラグ』というもので、そのフラグを持つ者が生きていることを示している。

 

【真っ黒な布地】を持つ旗。

→これは『死亡フラグ』というもので、そのフラグを持つ者が亡くなっていることを示している。

 

だから、この二つが其々を指差し合うことはないのだが……うーん、やはりこのフラグだけは分析することが出来ない…。

 

 

●ドヤ顔フラグ●

 

【ドヤ顔を浮かべた黒髪の少年が腰に両手を添えて、自信満々な様子で踏ん反り返っている】絵が白い旗にプリントアウトされている。

 

このフラグを見た時はすげぇー、ムカついた。何なんだ、このドヤ顔。まぁ、いいか……

 

 

●道標フラグ●

 

【白地に赤い矢印】

 

その名の通りの何かしらのイベントに繋がる道標を記してくれるフラグ。

 

 

●黒幕フラグ●

 

【白地に真っ黒に塗りつぶされた人の上半身。こちらを見つめる瞳は真っ赤でいかにも悪人っぽい】

村の子供たちが可愛がっていた子犬に現れたフラグ。あの可愛い子犬に何ができるのか、分からないけど…子供たちが危ない目に合わないことを祈る。

 

 

●???フラグ●

 

【赤く癖っ毛の多い髪の少年が、黒髪を上に持ち上げている少年へと耳打ちをしているのがプリントアウトされている旗】

 

【赤く癖っ毛の多い髪の少年と黒髪を上に持ち上げている少年が肩を組んでいるのがプリントアウトされた旗】

 

 

スバル……ありがとうな……、こんな俺と友達になってくれて……。出来れば、この二つのフラグみたいな感じな親友になりたかったなぁ…

 




これで申年、最後の更新となります。
今年もありがとうございました。様々アドバイスやご指摘、心温まる感想を沢山頂けたことにとても嬉しく思います。
これからも更新が遅くなったり、早くなったりするかもしれませんが応援をよろしくお願いします!


〜※〜※〜※〜※〜※〜※

お気に入り登録・654名
評価者・46名
感想・46
UA・51498
総合評価・1060



多くの方にこの小説を読んで頂けた事に感謝致します


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十九話『これからの方針と対策』

酉年、初めての更新となります。
皆様、明けましておめでとうございます。今年もどうか、この『Re:フラグから始める攻略生活』をよろしくお願いします!

さて、今回の話は主にスバルとベアトリスの話となってます。このやりとり聞いたことあるぞと思う方もいらっしゃると思います。
では、ご覧ください。

そして、新年早々なんですが……皆様に尋ねたいことがございまして……御手数ではないのなら、そちらにもお答えいただけると嬉しく思います!

※お気に入り登録・664名!評価者・46名!感想を新たに3件頂きました!ありがとうございます!!


赤髪の少年・ハルイトが其々に向けたメッセージを読み終えた者たちは、三者三様の反応を見せた。

ある者は静かに仇討ちを胸に抱き、ある者は亡骸へとしがみつき、暫くの間動こうともしなかった。そんな様子を見ていた黒髪の少年・スバルは手元にあるメモ帳へともう一度、視線を落とす。

“ハルは、あの子犬が犯人って書いてたよな?”

スバルは部屋の中を見渡し、目的の人物を見つける。クリーム色のロングヘアーを縦ロールにした、紅いドレスがとても似合う愛らしい外見をした少女・ベアトリスだ。

ベアトリスへと歩み寄ったスバルに、ベアトリスは眉を顰める。水色の瞳がこちらを見上げてくるのをスバルは硬い表情で迎え入れる。

 

「何かしら?」

 

「ベア子、お前に聞きたいことがある。今の俺ではあいつの意思を継ぐことも、仇を撃つことも出来ないからな」

 

「……その顔からして、ここでは話せないことのようかしら」

 

「あぁ」

 

「いいのよ。あの赤毛の女々しい男にも頼まれたのだから…力は貸すかしら」

 

「恩に着る」

 

ベアトリスへと頭を下げたスバルは、もう一度ハルイトの亡骸へと視線を向ける。そして、唇を軽く噛むとこう誓う。

“ハル、俺が必ずお前の仇を撃ってやる!”

 

 

τ

 

 

ハルイトの部屋を暫くの出たところで立ち止まったベアトリスは、スバルへと視線を向けるとこう口を開いた。

 

「それで話というのは何かしら?」

 

スバル、ごくんと唾を飲み込むとベアトリスを見つめる。

 

「ハルの死因は魔法という線より呪術って言ってたよな?呪術って何だ」

 

「何を言い出すかと思えば……呪術とは随分、けったいな事を聞きたがる奴かしら」

 

隠す気もない悪意。まるでその単語すら聞きたくないという感じの嫌悪。ベアトリスがそこまで毛嫌いする呪術とは何なのだろうか?

しかし、その呪術を俺は知らなくてはいけない。あいつを死に追いやったそれをーー。

 

「呪術っていうからには…基本、他人に迷惑かける前提の魔法なんだよな?多分。ほら、北国の方で生まれたとかいうやつみたいな感じか?」

 

ベアトリスは腕組みをするとスバルを見上げる。

 

「そこまで知ってたら十分な気がするかしら。……呪いによって対象を病魔で侵したり、一定の行動を禁じたり、純粋に命を奪ったり……性格の悪い系統なのよ」

 

「なんつーか、マジで文字通りの呪術なんだな……」

 

他人の足を引っ張るしか使い道のないそれは正しく〈呪い〉であった。

“ハルはあの子犬が犯人だって書いてた……、即ち何かしらの理由でハルはあの子犬に殺されたってわけだ。だが、なんで殺させた?考えろ、考えるんだ!ナツキ・スバル!!”

押し黙るスバルにもう用事が済んだと解釈したのだろう踵を返そうとするベアトリスにスバルは慌てる。

 

「もうベティーから聞くことは終わったのかしら?なら、ベティーは行くのよ」

 

「ちょっ、ちょっと待った!もう一つだけ聞かせてくれ!その呪術を防ぐ方法とかあるのか?」

 

肩を掴むスバルをうっとおしげに見たベアトリスは、はぁ〜とため息をつくと

 

「ないのよ」

 

「へ?」

 

「だから、ないかしら。一度、発動してしまった呪術を防ぐ方法は存在しないのよ。発動したが最後、それが呪術かしらーー」

 

ベアトリスの言葉を聞きながら、スバルは項垂れる。

“何だよそれ……。即死耐性無効化呪文とか、どこぞの積みゲーだよッ。最強すぎるだろ!”

 

「ーーただし、発動した呪術に限定した話なのよ」

 

「へ?は?何言って…」

 

焦りを顔に浮かべるスバルを見ながら、ニンヤリと笑うベアトリスにスバルは騙されたことを悟った。

胸の中に込み上げてくる怒りを何とか飲み込み、ベアトリスに続きを促す。

 

「さっきも言ったとおり、発動した呪術を防ぐ手段はないのよ。ただし、発動前の呪術ならば妨害できるかしら。発動前はただの術式だから、できる技術があれば解呪は簡単なのよ。

……この屋敷では、まずベティーとにーちゃ。あとはロズワールくらいかしら。小娘三人は経験がなさそうだから無理かしら…あ、お前は勿論、論外なのよ」

 

「失敬な!俺も頑張ればあれやこれや出来るつーのっ!」

 

「お前の努力なんてたかが知れてるかしら」

 

「あぁ、たかが知れてるよっ!だから、お前に知恵を借りてるんだ。取り敢えず、発動前の術式って言ったよな?術をかける為の前準備ってことか?」

 

ベアトリスの辛辣な返しをヤケクソ気味で言い返すと、強引に話を前に進める。

 

「効力の強い呪いには当然強い負担がつきまとう。魔法も呪術もそこは同じかしら。呪術は特にその側面が強いのよ。欠陥だらけ、とベティーが言うのもわかるかしら」

 

「つまり、前準備ってことだよな?なら、その前準備とかって見当ついたりするのか?」

 

スバルの質問にベアトリスは瞑目して、乾いた唇を湿らせると

 

「内容次第で変わるけれども……呪術には絶対に外せないルールが存在するのよ」

 

「外せないルール……?」

 

ごくんと唾を飲み込んだスバルは、ベアトリスへ懇願の眼差しを向けると、ベアトリスは軽く顎を引いて答えた。

 

「ーー呪術を行う対象との接触。これが必須条件かしら」

 

「…………」

 

“確かにハルはあの子犬と接触……。そう確か、子犬に噛まれそうになった俺を構って……ーー掴んだ…掴んだぞ、尻尾”

嬉しさのあまりプルプルと震えるスバルを一瞥するとベアトリスは身を翻す。

 

「それよりもういいかしら、ベティーは本当に行くのよ」

 

近くの扉へと向かうベアトリスにスバルは声をかける。

 

「あぁ、ありがとうな。すげェ〜、助かった」

 

ベアトリスが本当に姿を消すと、スバルは自分の部屋へと向かう。

“あの子犬が噛んだものを無差別に呪いをかけていたんだとすれば……、ハルが死んだのもこれから起こりうることも想像できる。村に向かわないとーー”

だがその前に助っ人調達だ。

 

「ロズワールに話すっていっても……、この場合誰に……」

 

「さっきからグタグタと何を言ってるのかしら、バルス。その目つきの悪さと相余って、何かを企てている犯罪者のようだわ」

 

「……」

 

突然、現れた桃髪のメイドを暫く見ていたスバルはニンヤリと悪い笑みを浮かべる……




次回は村に訪れるところだと思います。

さて、皆様に聞きたいことはというとーー
この作品のメインヒロインのラムさんについてです。レムちゃんは攻略済みですので、いいとしまして……ラムさんの扱いをどうしようか迷っています。
ネタバレを含むので、多くの事は言えないのですが……ラムさん攻略を第三章の中盤頃には終わらせたいのですが、皆様の意見の程を伺いたいと思います。

詳しい事は、【リフラ〜アンケート〜】へと書いてますのでチェックして見てください。

※リフラとは・・・Re:フラグから始める攻略生活の略です。


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二十話『ラムの気持ちとスバルの作戦』

遅くなりました!特別編とこの本編を加えた話数で言うと40話となりました!!パチパチ
そんな回の話ですが、本作のメインヒロインたるラムさんの気持ちを書いてます。ラムさんの気持ちの部分は、スバルとベアトリスが話している時と考えていただければ、幸いです!

※お気に入り登録・689名!評価者・47名!感想を新たに二件頂きました!!
そして、アンケートをお答え頂いた四名の方、本当にありがとうございました!!様々なご意見が書かれており、とても嬉しかったです!!


※1/23〜誤字報告、ありがとうございます!
誤字を出来るだけ少なくして行こうと思っておりますので、応援よろしくお願いします!そして、誤字を見つけたら、感想でもいいのでここ違うよ〜っておっしゃってください。すぐなおしますので!


「兄様ァああああ〜〜〜ッ」

 

癖っ毛が多い赤髪が特徴的な細身の少年にしがみ付いて、妹が泣いている。

“レムは…ハルの事が好きだったものね……”

ラムは静かにそう思いながら、自分の胸の中にもぽっかりと空間が開いてしまったのを感じていた。

赤髪の少年・ハルイトの死体を見つけたのは、ラム自身だったりする。ハルイトの死体を見たとき、気が動転して、いつもは冴え渡っている思考もなかなか回らなかった。まず、雇い主のロズワールへと助けを呼びに行き、屋敷に暮らす住人を集めた。

それからというもの、ラムはハルイトの亡骸に抱き着き、泣きじゃくる妹の姿をただ呆然と見ていた。右から聞こえてくる話し声も左へと抜けていく。勝気な薄紅色の大きな瞳は黒光りする机に伏せて、生きたえているハルイトを見つめている。まるで居眠りしているようにも見えるハルイトの横顔がチラッと見えて、ラムはハッとする。そして、さっきまで考えていた問いの答えに気付く。

“悲しい?……いえ、これは……”

ぽっかりと空いた穴の状態に気付いた時、ラムはフッと鼻で自分を笑った。少し瞑目し、心の中にいる自分自身へにも問いかける。すると、やはり彼女も同じ事を考えているらしかった。

“そう……やはり、そうなのね”

目を開けて、もう一度赤髪の少年を見て、壁際に立っている腰まで伸びた藍色の青年へと視線を向けて、もう一度赤髪の少年を見る。

ドキドキ。胸に当てた右手から聞こえてくる心拍数が藍色の青年を見た時より赤髪の少年を見ている方が強くなっている。

“……本当にムカつく男だわ、ハル。ラムをこんな気持ちにさせて、先に逝くなんて……”

 

「ラム?」

 

近くからエミリアの澄んだ声が聞こえてくる。しかし、ラムはハルへと歩いていく。そして、ハルに抱き着き、泣きじゃくる妹・レムの背中を優しく撫でて、立たせると壁際まで歩いていく。その際、ラムが呟いた囁き声は誰にも聞こえなかっただろう。

 

「ハル。ラムはハルの事を愛してるわ…」

 

と囁いたことを……

 

 

τ

 

 

月が闇夜を照らす頃、ラムはレムと共にスバルの部屋へと来ていた。ヨッと右手を上げて、軽い感じで挨拶するスバルを見下ろしたラムはスバルへと冷たい声を出す。

 

「それでバルス、ラムとレムをこんな夜更けに呼んだのは何の用かしら?もし下品な事を考えているのだとすると、首から上が無くなると知りなさい」

 

腕組みをして、そんな事をおっしゃるラムにスバルは頭を抱える。

 

「んな事はしねぇーよッ!お前ら二人にそんな事!!

レムもラムの言葉を真に受けて構えなくていいから!俺が頭の中をピンクに染めるのはエミリアたん、ただ一人だから!」

 

「…エミリア様が可哀想です」

 

スバルの発言にいち早く反応したレムも上のような発言だ。スバルはガクンとオーバーリアクションを取ると、レムへと向き直る。そこには青色の髪のメイドがもしかしたら、姉よりも冷たい視線をスバルへと向けていた。そんな何時もよりも冷たい二人の視線にも負けずにスバルは、早速本題へと話を切り替えることにする。

 

「失敬なっ!レム、お前のが一番心に来るよ!!

じゃあなくて、お前ら、村の子供らが可愛がっていた子犬を知ってるか?」

 

「子犬ですって?」

 

「子犬ですか?」

 

首を傾げるメイド姉妹に、スバルは自分の頭を差しながら、その子犬の特徴を伝えていく。

 

「あぁ、頭のてっぺんに十円ハゲみたいなモンがあたったんだが……、俺はそいつを今から倒しに行こうと思う」

 

「バルス一人で……ハァッ、身の程を知りなさい。死にたいの?」

 

スバルの発言をラムは鼻で笑うと、スバルはムッとしたような顔をすると、ラムとレムに問いかける。

 

「死にたくねぇーよッ!!だから、お前ら2人に頼んでんだ。二人にも俺と一緒に来てくれないか?」

 

「どうして、バルスにラムとレムが付き合わなくてはいけないのよ。それに、ラム達はこの屋敷も守らなくてはいけないわ。バルスのおあそーー」

 

「ーーそれがハルの仇を取るのに繋がるからだ」

 

スバルの言葉に息を飲んだラムは押し黙る。レムはというと、スバルの言葉の意味がわからないらしく、小首をかしげる。

 

「………」

 

「兄様の?」

 

「あぁッ!協力してくれるってんなら、その理由話してもいいぜ?

さぁ、どうする?姉様方」

 

そう言うとスバルはニカッと笑う。そんなスバルの言葉に瞑目したラムは頷くと

 

「バルス、協力してあげるわ」

 

「おぉ〜っ!さっすが、姉様!!」

 

嬉しそうにはしゃぐスバルは気づけなかった。ラムの薄紅色の瞳の奥に仇を取るという復讐の炎が静かに燃えていることに……




ラムさんの気持ちを簡単に書くと、ハルを好きになっていた……ということですね(笑)

そして、前の回でアンケートを行った結果をお知らせしようと思っています。
アンケートは本作のメインヒロインたるラムさんについてでした。

まず、最初の問いはラムさんの攻略終了期間ということでしたが、三章中盤とお答え頂いた方と殆どの方が私の好きな通りにしてくださいとの事でしたので、【二章終盤】に攻略終了させたいと思います。

そして、二番目の問いのラムさんのハルに対してのデレ度についてですが、ツンデレ〜ヤンデレが多かったですね。そして、最も多かったのがデレデレ(ハルに対して常にデレる)が多かったです。なので、このデレデレが出せるように書き進めて行きたいと思います!!

ご意見とアンケートにお答え頂いた四名の方、本当にありがとうございます!!!

※一部、間違った文章を書いていたので書き直しました。本当にすいません(汗)










※※特別で章を更新しました。宜しければ、ご覧ください!


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二十一話『見たくない景色と果たせなかった約束』

大変お待たせ致しました、オリジナル展開の終わりとスバルの二度目の死に戻りとなります。
このオリジナル展開はスバルのあるセリフを元にこの話を作成しました。それがどのセリフかは、皆さんなら分かるばす!
そして、かなり簡潔に書いてるので……書きたいと思っていることが皆さんに伝わっているかどうか不安なところもあります。では、ご覧ください!

※お気に入り登録・739名!評価者・50名!
多くの方に応援して頂いている事に感謝の気持ちを申し上げます。これからもゆっくりですが、更新していけたらと思いますので宜しくお願いします(礼)


「それでバルス、これからどうするの?」

 

簡単な説明を終え、二人が黙って、俺の作戦を聞き終えた頃にはもう外が明るくなり始めていた。呼び出した時間も時間だったのだから、こうなる事は予想をしていたが……。

 

「それでバルス、これからどうするの?バルスの無駄に長い説明のせいでお日様が登りかけてしまっているのだけれど」

 

「無駄に長くって悪かったなっ!?」

 

そう言って、腕を組む桃髪を肩のところで切り揃えている少女がいつもの調子に毒を吐くのに、ツッコミを入れた後、俺は不敵な笑みを浮かべると……

 

「そうだな……取り敢えず、俺が村に様子を見に行くっていうのでどうだ?」

 

「「………」」

 

“うぐッ……”

 

正面に立つ双子は其々、無言ながらも俺を呆れた様子で見ている。暫く、蔑むような視線で俺を見続けた後、そのままで居た二人は顔を見合わせると其々、桃色の髪と水色の髪を揺らして振り返る。

 

「レム、行こうかしらね」

 

「はい、姉様」

 

二人は何事もなかったように踵を返して、町の方へと歩いて行く。

 

「ちょっ、置いてくなよっ!?」

 

 

そんな二人を追いかけて、俺も村へと向かう。

 

 

τ

 

 

「なんだよ……これ」

 

村に着いた時、俺は目の前に広がるその光景についていけなかったーー

 

「うっ、おえ……」

 

口元を抑えて、這い上がってくる胃液を何とか、奥へと押し返す。しかし……それにしても……。今、目の前に広がっている光景がいまいち頭に入ってこない……だってーー

 

ーー辺りを多い尽くす臭いに、彼方此方に倒れている村人たちの死体ーー

 

があるなんて……あり得るのかよ?嘘だろ?あの子犬、ハルだけじゃあ足りず、この村全員を襲ったっていうのか?

 

「くっ……」

 

俺は唇を噛みしめる、自分自身の無力さが不甲斐ない。それは俺の隣に並び立つラムとレムも同じようだった。レムは目の前の光景に目を丸くして、ポツンと呟く。

 

「……っ。これ全部、あの子犬がやったのですか?」

 

「バルス、レム、立ち止まっている暇はないわ。まだ息がある人がいるかもしれないわ。手分けして探すわよ」

 

ラムが鋭い指示を俺らに飛ばすのに、俺もレムもハッとする。

“確かに……そうだよな……”

まだ全員、死んだって事は無いよな?まだ、希望はある!俺は近くにある村人へと跪くと脈を取る。

 

「あぁ!すまねぇ、ラム。その通りだよなっ!まだ全員が……ってわけじゃないよな」

 

「はい、姉様」

 

俺とレムが少し息のある村人達を一箇所へと集め始めた時、ラムが突然立ち上がる。

 

「レム、バルス、ラムは一旦屋敷へと戻るわ。そこでロズワール様やベアトリス様達のお力を借りる予定。あの方々ならこの呪術を解除出来るはずよ」

 

そう言って、屋敷の方へと走って帰って行くラムの小さくなっていく背中に希望を委ねて、俺とレムは屋敷の人々が現れるまでの時間稼ぎを続けた。

そして、ロズワール達が現れたのはそれから三時間後であった……

 

 

τ

 

 

なんとか、意識のあった村人達の呪術の解除が終わった後、俺はあることに気づいていた。

残念ながら、助けられなかった村人たちの中にもまだ治療を受けている村人たちの中にも、小さな身体ーー子供達の姿が無い…

 

「ッ!?」

 

俺は身を翻して、あの子犬と出会った小さな小道へと向かう。

“オイオイ、マジか?まさか、そこまで運命は……”

 

「ちょっと、バルス。何処へ行く気なの!?」

 

「スバル君、どうしたんですか!?」

 

後ろから聞こえる二人の声に答える余裕もなく、あの小道へと向かうと数人の小さな足跡があった…、そして、小さな肉球の跡もーー

 

「クソッ‼︎」

 

自分の黒髪をグシャグシャと掻き毟り、森林へと視線を向ける。

“覚悟を決めるしかないな……。エミリアなら…ハルなら……こういう時どうする?あの二人なら……”

目を瞑り、答えを見つけた時、自然と足が動いていた。

“あの二人なら迷わず、助けるはずだ!”

草むらを掻き分け、奥へと進んでいく。その時、横から何かが飛んでくる予感がした。

 

「ッ!?」

 

「フーラ!」

 

俺へと飛びつき噛み付こうとする犬を真っ二つにする緑色の刃の絶妙なタイミングとあと少しで死んでいたという実感によって、その場にへたり込む。そんな俺を抱き起こすのは、水色の髪が視界で揺れていたのでレムだろう。

 

「バルスはもう少し、自分の実力を知った方がいいわね」

 

「あぁ、すまねぇ……ラム、助かった…」

 

腕組みをして、腰の抜けた俺を呆れた様子で見る桃髪の少女に礼を言うと、何とか自力で立ち上がれるくらいにはなったようだ。

 

「それで、バルス。突然、走って無謀にも森林へと足を踏み入れた理由を聞かせてもらいましょうか?」

 

「あぁ…ガキ共の姿が村の中に見えなくてな……もしかしても思って…」

 

俺の説明を聞いた後、ラムは振り返ると俺へと視線を向ける。

 

「この先にこの子供達はいるのかしら?」

 

「あぁ、いると思う」

 

俺の言葉に頷き、瞑目するラムは目を開けると俺と横に並び立つレムへと視線を向ける。

 

「なら、行きましょう。そのためにラムたちはこの村に来たのだから」

 

「はい、姉様」

 

「あぁ」

 

そう返事すると、隣から聞こえるチリンという音に俺は目を丸くする。さっきまで何も持ってなかったレムの手の中に重量感たっぷりの鉄球が先についた武器が収まっていたからだ。それに何故か、冷や汗が背中を伝う。

 

「………あの…レムさん…それ……」

 

「護身用ですよ、スバル君」

 

「へ?でも、それ……」

 

「護身用です」

 

「あぁ、うん…OK、理解した」

 

そんなやりとりから、数分後、俺たちは目的だった子供達を発見し、村へと戻る途中であの子犬と鉢合わせてしまった。

大勢の仲間を連れて、中央で偉そうに立つその姿に腹が立つがそいつを倒す力はまだ、俺は持ててない。

 

「グルルル……」

 

「おいおい、マジかよ……あっちは大勢の仲間を連れて、俺らは子供達を連れて遅れをどっちにしても取るって……」

 

子供達を抱えている俺らを取り囲むように、連携を整える魔獣に俺は苦虫を噛むような顔を浮かべるとーー

 

「バルス、ラムとレムが隙を作って、時間稼ぎを稼ぐからその隙に子供達を村へと運びなさい。それくらいなら、バルスでも出来るでしょう」

 

「でも、お前ら……」

 

「グダグダ言ってるとその身体を真っ二つにするわよ。さっさと行きなさい」

 

ラムからの視線が厳しくなるのを感じ、俺は戦闘態勢に入る二人のタイミングに合わせて、いつでも出られるように走る体制を取る。

 

「それでは、バルス、頼んだわよ。フーラ!」

 

「しっ!」

 

陣形が一番脆い右側へ鉄球と緑色の刃が飛ぶ、その隙に俺は子供達を近くにある木々へと寝かしつけ、二人ずつ村へと運ぶ。

 

「これで終わりと……、そうだ……ラムとレム」

 

子供達を全員にロズワール達に預けた後、俺はラムとレムが戦っているところへと帰る。

 

「ラム!レム!子供達は全員、村に帰した!」

 

「遅いわ、バルス。それでも、全力を出したの?」

 

「お疲れ様です、スバル君」

 

おでこから汗を流すラムを構いながら、レムが愛武器を振るっている。それ一振りで肉の塊へと姿を変えていく魔獣たちを敵ながら哀れに思いながら、あの子犬は何処へ行ったのか?と辺りを見渡す。

 

「グルルル」

 

「居た!あいつ」

 

ラムとレムの背後に陣取ったあの子犬の身体が黄色に染まるの見て、俺は駆け出す。そんな、俺に気づいたのか、子犬が俺へとターゲットを変更する。

 

「うっおぉおお!?」

 

下の地面が浮き上がり、身体が上へと弾かれて、混乱する俺に子犬もトドメとばかりに次の魔法を放とうとする。しかし、それはーー

 

「ーーエル・フーラ!!」

 

緑色の刃によって、真っ二つにされた為、その魔法が実行されることはなかった…。

そして、俺はというと、ドンと強い音を立てて地面へと激突すると……顔をしかめる。

 

「痛ててて……」

 

「無事なようね、バルス。その頑丈さだけは認めてあげてもいいわ。ねぇ、レム」

 

「そうですね、姉様。その悪運と頑丈さと見た目の悪さでスバル君の横に出る人は居ないでしょう」

 

「お前ら、助けろよ!!」

 

どうやら、あんなにいた魔獣の群れは二人の手によって片付いたのだろう。あまりの痛さで立ち上がれない俺を見下ろす二人の露出度満載のメイド服は所々、返り血を浴びて酷く汚れていた。比べて、二人が受けた傷は擦り傷くらいで目立ったものはない。

 

「………やっと、仇が打てたのね…」

 

自分がドドメを指した子犬へと視線を向けたラムの薄紅色の瞳の奥に見たことない感情が揺れるのを見て、俺は目をパチクリしてラムを見る。

 

「???。ラム?」

 

「何よ、バルス。いつまで、地面に寝転がってるの、帰るわよ」

 

「ちょっ、まっ……本当に痛くて、動けないんだって……」

 

そんな俺の訴えへを無視して、歩き出すメイド姉妹に冷や汗と涙が溢れる。何とか、上半身を起こして、横を見ると真っ二つにされた子犬の死体があるーー

“やったんだな……俺たち…”

ゆっくりと広がる達成感に俺は心の中で赤髪の少年を思い浮かべていた。

“ハル…やったぞ……、お前の仇取ったぞ…”

なのでーーなので、俺は後ろに隠れ潜んでいる悪意に気づけないでいた……

 

ガブッと、首筋を噛みつかれた感覚がした後ーー

 

気付くと、目の前にはドロドロと粘っこく紅い液体に濡れた地面と草が目の前にあり、何とか動く目だけで状況を理解しようとするが思考が上手くついていかない。

 

「バルス、しっかりしなさい」

 

「スバル君、待っていてください。い……」

 

両脇で俺の身体をゆする双子のメイドの珍しく焦った声に驚きを覚えながら、俺は意識を手放した……




というわけで、オリジナル展開のおしまいです。

スバルには死んでもらいたくありませんでしたが……これもハルの為なんですッ。スバル、すいません



※レム章、ゆっくりですが更新中。宜しければご覧ください。


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二十二話『再会と戸惑い』

お待たせいたしました(礼)
三回目のハルとの初対面ですね、スバルにとって。そんなスバルの視線とレムちゃん、ハルの三つの視線でこの話が出来てます。タイトル通りの話となってます、スバルは再会を嬉しく思っておりますがハルにとっては困惑しかいいようがない…そんな気持ちを前面に出せるように書いたので、宜しければご覧ください(礼)

※お気に入り登録・750名!評価者・51名!新たに感想を三件頂きました!!本当に本当にありがとうございます!


「ん……」

 

薄っすらと目を開けた先に見える、真っ白な天井に思わず右手を握りしめて、クソッと軽くシーツを殴る。

“…あと少しだったんだけとな…”

俺があの時、油断さえしなければ…っ、思い出すのは首をあの子犬の仲間に噛みちぎられた時のもの。自分の愚かさに嫌気が差す。本当に悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。

 

「姉様、姉様。お客様ったらまだ寝ぼけていらっしゃるみたいです」

 

「レム、レム。お客様ったらあの歳で可哀想にボケてるみたいだわ」

 

その声にハッとする。

“そういえば…俺は死に戻りしたんだよな?って事は…ーー”

俺はバッと飛び起き、驚きで大きい瞳をさらに大きくする二人がお互いの手を取り合っているところを握り、二人に尋ねる。

 

「あ」

 

「え」

 

「ハル……、お前たちの妹に合わせてくれないか?今すぐに」

 

「「???」」

 

露出度が多い改造メイド服を揺らして、困惑した表情を浮かべる二人に俺は頭を下げる。

 

「頼む、至急で会いたいだ。お前たちの妹に……この通りだ、頼む…」

 

俺が頭を下げ続けていると、「はぁ……」と何処か疲れたような呆れたような溜息が聞こえてきた。恐る恐る前を向くと、薄紅色の瞳が今だに強く握りしめている二人の手へと注がれている。

 

「お客様、ハルに会わせてあげてもいいけど、手を離してくれないかしら。それと強く握りしめ過ぎたわ、手が痛くなったじゃない」

 

「はぁっ!?」

 

慌てて、手を離すがもう遅い。二人は俺から高速で距離を取り、俺が強く握りしめていた手を痛そうに振る。その仕草には、申し訳なさが積もるが此方としてはそれ程に心の余裕がなかったのだから仕方がない。

 

「お客様、それでは案内するわ。迷わずについてきなさい」

 

「おうっ、りょーかい」

 

俺がビシッと右手をおでこへと添えると、桃髪のメイドことラムが肩をすぼめると振り返り、何事無かったように歩き出した…

 

「ちょっ、おい。スルーはスベってるように思われるからッ!?」

 

その後を追いかけるのが、俺と

 

「お客様、あまり焦るとお身体に触ってしまいます」

 

と僅かに呆れを含んだ様子で俺の後を追いかける青髪の少女ことレムだったりする…

 

 

τ

 

 

前を歩く黒髪を後ろへと持ち上げたような髪型をした少年へ鋭い視線を送りながら、レムはその少年に握りしめられていた左手へと視線を向ける。

かなりの力で握りしめられていた成果、まだズキンズキンとした痛みが走る。まだ赤みがある左手と前を歩く黒髪の少年から漂う悪臭ーー魔女の残り香に眉を顰める。

“兄様の知り合いの方?いいえ……兄様はこの方を知らない様子でした…、ならば何故この方はーー”

 

ーーこんなにも、兄様に会いたがっているのだろうか?

 

まるで親友と久しぶりに会うような…、その焦げ茶色の瞳の奥に漂う無数の感情の波をレムは正しく読み取ることは出来ないが、もし…仮にも、もしもレムの兄様へと……この屋敷に波乱を巻き起こす者であるのならばーー

 

「ーーレムが始末しないと…」

 

姉の桃色の髪がバサッと揺れるのを見て、レムは思考を停止した…

 

 

τ

 

 

「ハル、居るかしら」

 

凛とした雰囲気が漂う声が厨房に響くのを聞いて、俺はスープをかき混ぜる手を止めると、声がした方角ーー入り口へと満面の笑顔を浮かべて振り返る。

“ラムさんが俺に用事って…なんだろ♪なんだろっ♪”

 

「……、…………へ?」

 

“誰?そいつ”

 

ワクワクドキドキで振り返った俺の視線の先に立っているのは、桃色の髪を肩まで伸ばした髪型に此方を見る瞳は薄紅色の大きな瞳に双子の妹とは似ても似つかぬ堂々とした雰囲気を漂わせている少女ことラムさんが居た。

その横には見たことない黒髪を後ろへと持ち上げたような髪型をして、鋭く釣りあがっている焦げ茶色の目に好意的な光を浮かばせている少年と、鮮やかな青色の髪を双子の姉と同じ髪型にした少女の薄青色の瞳に映る俺の顔は何とも愉快な顔をしていた。ムッとしたような…唖然としたような、困惑したような顔をしていた。

そんな俺の気持ちを知らずに、二人の間にいた黒髪の少年は両目に薄っすらと涙を浮かべて、俺へと駆け寄ってきた。

 

「ハル……、ハルなんだよな?……ハルゥ〜〜」

 

“ななななな、なんだこいつ!?”

 

ガシッと抱きついてくる黒髪の少年に困惑した表情を浮かべる俺は後ろへとまだ立っているであろう双子のメイドへと視線を向ける。

 

“あの〜、ラムさんレムちゃんこれって……?”

 

視線で問いかける俺に、ラムさんは肩をすぼめて答え、レムちゃんに至っては首を横に振ると俺に熱い抱擁をしている黒髪の少年へと視線だけで殺しそうなほどおっかない顔で睨みつけている。

 

「ハルゥ〜、ハルゥ〜〜、ハルゥ〜〜〜」

 

“いてぇ〜、こいつ。力強ッ!?しにゅ……空気吸えなくて死ぬぅ〜”

 

このままでは生命の危機を感じると思った俺は、必死に抱きついてくる黒髪の少年を自分から剥がそうとする。ん〜、ん〜となんとか剥がすのを試みて、三十分。

 

「はぁ…はぁ……」

 

「ひでぇよ、ハル〜。俺の愛を受け止めてくれないなんて…」

 

肩で息をする俺に泣き崩れる黒髪の少年。

少年の芝居のかかった言い方と態度に途中から遊ばれていたことに気付く。なのでーー

 

「いきなり抱きついてきて、愛も何もあるかッ!?それ以前に私、あなたの事知りませんしッ!!」

 

と黒髪の少年を避難の声を上げる。

 

「……そういえば、そうだよな……。俺の事は記憶にないもんな……」

 

黒髪の少年は一人、納得したような顔を浮かべると立ち上がってニカッと笑った。

 

「俺はナツキスバルっていうんだ、よろしく」

 

此方に差し出してくる右手を俺は胡散臭い目で見つつも、その右手を右手で握りしめて握手した……




微妙な終わり方?


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二十三話『スバルの思惑とレムの思い』

大変、遅くなりました…。
今回の話はスバルの行動にハルとレムちゃんが振り回されます(笑)
果たして、その行動によってもたらさせるのは、どんな結果なのかーー

そういうところを注目しながら、この後の展開を見ていただければなぁ〜と思います(礼)




と、これは余談なんですが…リゼロのゲームの公式サイトを見た際にオープニングを見ました!
いやぁ〜ぁあ、メガネを装着してるラムレム、もぉ〜サイッコォーでしたね!!!メガネをクイって上げてる所とか、ドキドキしまくりでした!境界の彼方の秋人くんの気持ちがその時は痛いほど、分かりましたよ!!うん!!!そして、こう叫ばせてください…

メガネ女子、サイコーだーーーッッッ!!!!!

と、すいません…余りの破壊力に興奮してしまって……そして、初回特典って水着に着替えられるものなんですね。まぁ、私は通常盤なので……、縁がないことなんですが……(涙)
初回特典を予約しされた方はどんな感じだったのか…ゲームをされた後にでも、この小説の感想にでも書いてください…。それを励みに私も頑張って更新して行きますから…(泣笑)




と、だいぶん話が逸れてしまいましたね…(笑)

では、リフラ第二十三話『スバルの思惑とレムの思い』をご覧ください(礼)


※お気に入り登録・775名!評価者・52名と本当にありがとうございます!
これからも応援をよろしくお願いします!


突然、抱きついてきたあの黒髪の少年が、件のお客様だと分かったのはそれから二時間が経過した頃だった。台車を引いて歩く俺は、エミリア様の横に腰掛けて、俺が見えた途端、右手を軽く挙げて、ヒラヒラと降ってみせる黒髪の少年ことスバルに俺は苦笑いしか浮かべられない。その理由は実に簡単で、台車を押す俺の後ろから着いてくる青髪のメイドことレムちゃんの視線がとても痛い……っていうか、責められているような気さえもする。

俺へと親しげに手を振り続けるスバルと俺を交互に見ては、スバルを品定めするような視線を送っている。

 

“レムちゃんのこの視線には見覚えあるんだよなぁ…”

 

襲われる前に、俺へと向けていたあの視線とかなり酷似している。

 

“スバルを始末しようとか、考えてないといいけど…”

 

と人知れず思い、そっとため息を着く。しかし、件のスバルはというとーー

 

「ーーお〜い、ハル〜〜!」

 

とブンブンと子犬の尻尾みたいに右手を振り回して、俺の名前を呼び続け、これ以上無視するのは酷だなと思い、右手を軽く挙げると小さく横に振る。俺が応じるとニコッと笑うスバルに俺は溜息。

 

“どこであったのが分からないけど…こんなに俺の事を信頼してくれてるんだもんなぁ…”

 

その異常にも思える全面的な信頼と好意に裏があるのでは?と思えるが、それよりも俺は抱きしめられている時は気付かなかったが…スバルの上にいつの間にか、浮かんでいたフラグが気になって仕方ない。

 

“【黒い旗と白い旗が変わりばんこに円の形に並んでいる。その白い旗と黒い旗を繋ぐ矢印は赤色で、その中央に3という文字が置かれている】かぁ…”

 

「……果たして、スバルは何者なんだろうなぁ…」

 

人知れず、呟いた声は誰に聞かれることもなく、静かに床へと沈んでいった……

 

 

τ

 

 

「って事で、これから宜しくお願いしますぜ、先輩!」

 

「気合が入ってるのはいいことだけど、せいぜいラムの足手まといにならないことね、バルス」

 

「ッ。ラムちーはもう少し、可愛げを身につけた方がいいじゃねぇか?」

 

「ハァッ、なぜ、バルスみたいな男に媚びなくてはいけないの?媚びていい事があるとは思えないのだけども……もしかして、襲おうと思っているの?汚らわしい、ラムの前から消え去りなさい」

 

「マジで口悪いし、態度デカいなぁ!お前!!今に始まったわけじゃないけどさ!!」

 

ということで、何がどうなってか、スバルが同僚となってこの屋敷で働くことになった…。

スバルの教育係にロズワール様直々にご指名されたラムさんとスバルが互いの悪口を言い合いつつも、皿洗いを凄まじいスピードで終わらせるのを見届けて、俺とレムちゃんは自分の立場に移動する。

 

「……」

 

“うぅー、レムちゃんから発せられるオーラが身に痛い!痛いです…レムちゃん、お願いですから……そんな目で俺を見ないで…”

 

「兄様、今日のロ文字の教師はレムですから、その時に今日のお話でも致しましょう」

 

「……はい」

 

静かにそう告げる青髪の少女の有無を言わさぬオーラに俺は項垂れながら、小さく返事した…

 

 

τ

 

 

「兄様はスバル君の事をどう思っておいでですか?」

 

俺の部屋を訪れて、最初に発せらされたその言葉に俺は縮こまる。それ程までにレムちゃんから発せられるオーラが怖かった…背後に鬼がおる、あっいやレムちゃんって正真正銘の鬼なんだっけ…?

 

「…兄様…レムは真面目に聞いているんです。なので、兄様も真面目にお答えください」

 

“ヒィイイイイ”

 

笑った背後の青鬼が笑ってる!!牙を覗かせて嗤う青鬼にちびりそうになりながらも、俺は小さく答える…

 

「どう…って、不思議な奴かな?第一印象は」

 

俺は癖っ毛の多い赤髪を撫でながら、レムちゃんへと答える。

 

「不思議な?」

 

「あぁ、ラムさんとも割と早く打ち解けてたし…、俺ともレムちゃんとも仲良くしたい感じだったしさぁ…。別に会ったわけでもないのに、初対面の人とすぐ様、仲良くしたいって思えるなんて不思議な奴だなぁ〜って思ったんだけど…純粋に」

 

「……」

 

椅子に座ってはいるが、心ではカーペットの上に正座している気持ちでレムちゃんからの返事を待つ。

だが、青髪の少女は一人、考えるような表情を浮かべると…俺の方をチラッと見て呟く。

 

「……兄様は優しすぎます…、なのでレムはとても心配なんです。その好意が悪意に利用されないか…、またあのようなことが起きたら…レムはとても……」

 

「……レムちゃん…」

 

俺がレムちゃんの方を見つめていると、レムちゃんも俺を見つめ返す。その瞳の奥に揺らめいている多数の感情は純粋に俺とラムさんを心配する感情に溢れている。

 

“俺なんかよりも、レムちゃんの方がよっぽど優しいって思うけどなぁ…”

 

そんな俺の気持ちをどう解釈したのか、分からないがレムちゃんは小さく唇を噛み締めるとポツンポツンと自分の気持ちを語り出す。

 

「……兄様の言いたいことは分かっています、スバルくんはエミリア様を助けてくださったお方です。そんな方を暗殺しようものなら、エミリア様の信頼が無くなるのもレムは分かっています…。でも……でも、理性では抑えられない気持ちもあるんです…、姉様はレムのたった一人の家族です…兄様はこんなレムに自分らしく生きることを教えてくれた人です…、そんな大切な二人をーーそんな人をもう…失うのは……嫌なんです…。

だから…だから、レムは兄様と姉様が危険に晒されるようなら…間違いなく、スバルくんをーー」

 

「ーー大丈夫だよ、レムちゃん」

 

「…へ」

 

彼女の柔らかい手触りの青い髪を撫でながら、俺は心配そうに見上げてくる彼女に笑いかける。

 

「俺はまだまだ弱っちいし、頼りないけど……ほら、言ったでしょ?

俺は大切に思う人が傷つくことはしたくもないし、させたりもしないって」

 

「……兄様」

 

ナデナデと彼女の青髪をクシャクシャと撫で回しながら、いつの間にか身を寄せてきたレムちゃんを落ち着かせようと抱き寄せた…

 

 

 

 

τ

 

 

「前いまし今いまし先します主の戒めあれ。ZAZAS、ZAZAS、NASZAZAS。罪生の魔性を回生せよ。EVOKE、朱雀、白虎!」

 

俺は右下へと書いてある魔法陣へと血を染み込ませて行く。そうすると、薄緑色の光が薄暗い辺りを照らす。その光の中から朱い鳥と白い虎が飛び出してくると同時に、背後から声を掛けられる。

 

「こんなとこに居たのか、ハル…探したんだぜ…ふぅ……」

 

“またか…”

 

俺は今日一日、振り回された相手へと忌々しげに振り返った……

 




ロズワール邸住人が抱く主人公の好感度と認識調査その2

〈スバル〉好感度【98】認識【心の友と書いて、親友と言える関係と思っている】
〈エミリア〉好感度【72】認識【面白くていい子。仕事面でも信頼出来る】
〈パック〉好感度【50】認識【いい子だけど娘には近づけたくないが、少しなら許す】
〈ロズワール 〉好感度【83】認識【面白くて不思議な子または有能そうな駒。仕事面でも信頼出来る】
〈ベアトリス〉好感度【30】認識【やかましくて失礼な奴。時折、ちょっかいをかけて来るのがうざったい】
〈ラム〉好感度【92】認識【仕事面でも、通常の時でも信頼出来る関係。時折、側にいると安心出来る】
〈レム〉好感度【120】認識【何に関しても信頼しているし、力になりたいと思っている】

以上、好感度と認識調査その2でした。




※あらすじを変えました、突然の事にびっくりされている方もいらっしゃると思いますが……本当にすいません(汗)
私が考えた結果、あのあらすじのほうが皆さんにこの小説を楽しんで読んで頂けると変更した次第です。
本当にすいませんでした……


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二十四話『死に戻りとメモ帳』

第一章を更新するのは、久しぶりですね。

今回の話はスバルとハル二人だけの話となってます。まだ、ハルの設定として決めかねている所があるので、多くは書けませんでしたが…楽しんでいただければと思います(礼)


※お気に入り登録・789名!評価者・53名!そして、感想を一件新たに頂きました。本当にありがとうございます!

そして、UAが8万を超えました!!パチパチ

本当に、多くの方に読んで頂いているんですね。ありがとうございます(礼)


更新が遅くなったり、早くなったりするかもしれませんが応援の程をよろしくお願いします!


「で、スバル。俺になんか用?」

 

俺は特訓を中断して、庭園に配置されている屋根付きのベンチへとスバルと共に腰掛けると足を組んで、気だるげに隣へと問いかける。

すると、隣に座る黒髪を後ろへと持ち上げたような髪型と目つきの悪い茶色い目が特徴的な新米執事は、不満げに俺を見てくる。

 

「いや、なんでそんな嫌そうなんだよ」

 

「俺の貴重な特訓の時間を邪魔されたからだよ…」

 

俺がボソッと横を向いて呟くと、すかさずつっこんでくる新米執事・スバル。

 

「お前、そんなに筋トレフェチだったのっ!?」

 

「まぁね。で、本題は」

 

俺がスバルのツッコミをスルーして、先に進めるように仕向けると、スバルは俺へと向き直る。そして、緊張したようにスゥ〜ハァ〜と深呼吸を繰り返す。

そんな、スバルの様子をただ黙って見ていた俺がある事に気付いた。

 

“あれ?もしかして…これって……”

 

俺がある事を思い浮かべると共に、スバルが重い口を開くが、俺はそれに対して嫌な顔を浮かべる。

 

「ハル…、俺が今から言うことを信じてくれるか?」

 

「……」

 

「いや、なんでまた嫌そうなんだよっ!!」

 

俺は大声を上げるスバルの両肩へと、手を置くと、出来る限り真剣な表情作って言う。

 

「スバル、先に言っておくけど……告白ならノーサンキューだ」

 

「そうそう、今日の夜空は星が輝いてて綺麗だし。そして、こんな最高な日に二人っきりっていうのが、またロマンチックだよな〜。告白するなら今ーーってアホかっ!するわけねぇだろう!?男に!

俺の心はいつだって、エミリアたん一筋だ!!」

 

「おおぉ〜」

 

“ノリツッコミって初めて見たわ…。しかし、ヤバイな。スバルって面白い奴だな”

 

俺が関心しつつ、パチパチと手を叩くと、はぁ…はぁ…と肩で息をしているスバルが俺を睨む。

 

「何やらせんだよ、ハル。俺が言いたいのは……もっと違うことで、これからの俺の生死に関わることなんだよ!」

 

俺が首を傾げると、スバルが頷く。

 

「生死?」

 

「あぁ、生死だ。……もしかしたら、これで。ループを抜け出せるかもしれないからな…」

 

スバルの遠くを見る目が鋭さを増すのを見て、俺は足を組んでいたのを直すと、真剣な表情を作った。

 

「なら、真剣に聞かないとな」

 

俺のその言葉にズコッとコケるスバルは、本当にノリがいい。そんなにスバルの頭上には、あの謎のフラグがはためいている。

 

「今まで真剣じゃなかったのかよっ。まぁ…いいけど…、じゃあ言うぜ。ハル……俺ーー」

 

ゴクンと、俺が生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。スバルはその間に、また深呼吸をすると決心したように、それを言葉にした。

 

「ーー死に戻りしてるんだ」

 

“………は?”

 

あんなに重要な話っぽい事いってて、結局はそんな事か。しかし、そのスバルの告白によりあのフラグの意味が分かってきた。

 

“ずっと生を司る白い旗と、死を司る黒い旗が互いを指差しあっているのが疑問だったけど…なるほど、そういう意味か。

なら、互いを指差しあっているのが理解できる”

 

ウンウンと1人納得したように頷く俺に、隣に座るスバルは困惑気味。

 

「……なるほど…、だからフラグがそんなんなのか」

 

「え?あれ?」

 

「3ってことは……。スバルは既に三回死んだって事か?それとも三回目って事?」

 

「何、ブツブツ言ってるんだよ、ハル。それより、もっと驚かないのか!?」

 

「いや、なんで…そんな事で驚かないといけないんだよ。それより、顔が近いんだが…キモいっ」

 

興奮と困惑により適切な距離感をはかれなかったのか、スバルの顔が近い事に俺も困惑と嫌悪を感じ、近づいてくるスバルを引き剥がす。俺が引き剥がしにかかる中、スバルはブツブツと何かを呟いていた。

 

「……そういえば、ハルってそういうのが見えるんだったよな。フラグっていうんだっけ?」

 

「フラグがどうしたよ、スバルさん」

 

「いや、ハルって見えるんだよな?」

 

「あぁ、見えるけど…」

 

俺が答えると、またしても飛びついてくるスバル。俺は両手を掴まれているため、引き剥がすにも剥がせず、されるがままである。

 

「その力を俺に貸してくれないか?この通り、頼むっ」

 

「まぁ、いいけど…」

 

スバルの必死な表情と特に断る理由も見つからなかった為に、俺が首を縦に振ると、スバルの表情がキラキラと輝いてくる。

そのキラキラ感に内心、うわぁ…と引きながらも黒髪の少年とはいい関係を結べるかもしれないと密かに思う。そんな俺の想いに気付かずに、スバルはニコニコと笑いながら立ち上がる。

 

「なら、早速。ハルの部屋へと行こうぜ!時間がないんだ」

 

「いや、今からって…俺忙しいんだが…」

 

「俺のこの問題は、この屋敷に暮らす人にも関係あるかもなの!!」

 

中断されていた特訓へと精を出そうする俺の背中を、有無を言わせない勢いでスバルが押してくる。俺も抵抗はしたが、スバルの思惑通りに部屋へと戻ってきてしまった。

 

“今日は…特訓は無しかな…”

 

ため息をつきながら、椅子へと腰掛けた俺は引き出しから『フラグについて』というメモ帳を取り出し、ベッドへと腰掛けるスバルへと差し出した……




変な終わり方ですが、ここで終わります。次回はスバル視点で書こうと思います。


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二十五話『少年たちと例外フラグ』

久しぶりの更新です!

なんとか、この三回目でこの屋敷の死に戻りループを抜け出したいなぁ〜と思います。そのためにも、スバルとハルにはがんばってもらわないと(笑)

※お気に入り登録・802名!評価者・54名!本当にありがとうございます!


俺は癖っ毛の多い赤髪の少年から受け取った《フラグについて》というメモ帳をひとしきり読むと悩む。

 

“俺の記憶では、このフラグ帳に書かれてないものが幾つかある…”

 

だが、それをこの親切な少年へと伝えていいのだろうか?この少年を巻き込んでいいのだろうか?

そう考える裏側で、赤髪の少年に頼りたいという気持ちもある。

 

“ぁああ〜っ、わかんねぇよ!!俺はどうすればーー”

 

そんな俺の気持ちも知らずに、件の赤髪の少年がひょっこっと、俺の顔を覗き込んできた。男にしては大きめの赤い目と目つきが悪く思われがちな俺の茶色い目の視線が交差する。その際、意地悪な笑みを浮かべれ、思わずドキマギしてしまう。

 

「ーーで、スバルさんよ。スバルの答えとなるものはございましたかね?」

 

「あぁ、うん…まぁな…」

 

曖昧に答える俺に、赤髪の少年・ハルは不満げに自分の位置へと帰っていく。

 

「なんだよ、煮え切らないなー。貸した損だな」

 

「……」

 

自分の指定位置へと帰還したハルは足を組むと、何かを考えるように遠い目になる。そんなハルの横顔を見ながら、俺は考える。

 

“ハルに聞いてみていいのだろうか?”

 

だが、それで前の時みたいに彼を殺してしまったなら…。俺は今度こそーー

 

「ーー力になれることがあるなら言いなよ、スバル」

 

「……へ?」

 

俺が声がした方へと向くと、ハルがニンヤリと俺へと笑いかけていた。照れくさいように、自分の赤髪を撫でながら、言葉を紡ぐ。

 

「スバルが何に悩んでいるのか…俺には分からないけど。今更って思うんだよな。

俺はスバルに協力するって決めたんだし…、中途半端頼るんじゃなくて、頼るなら頼って欲しい。

まぁ…俺がスバルの悩みに貢献できるかどうかは分からないけど。俺に出来ることがあるならやりたいし…。その…なんだ…親友が困ってるのに、黙ってみてるなんて俺には出来ねぇよ」

 

「ハルっ!」

 

「ちょっ!?キモいっ!抱きついてくんなっ!!」

 

抱きつこうとする俺を気持ち悪そうに、払いのけるハル。だが、本気で俺を払いのけようとはしてない感じだった。しばらく、そんなやりとりの後…諦めたハルは、俺の涙の抱擁を受け入れる。

 

「で、相棒よ。そろそろ離れてくれると嬉しいんだが…」

 

抱擁から数分後、ハルが言いにくそうに俺へと話しかけてきた。俺は涙を拭って、身体を離すと親友へと頭を下げた。

 

「悪かったなぁ、親友。俺の弱いとこ見せて」

 

「……まぁ、いいんじゃないかな。俺だって弱いとこ、沢山あるし、そういうところを互い補って、こその親友だろ?

……で、相棒は何に悩んでるんだ?」

 

その言葉にまた泣きそうになりながら、俺はハルへと向き直る。スゥ〜と息を吸い込み、真剣な表情を作る。

 

「これから話すことは実際に起こること…いや、起こったことなんだ」

 

「あぁ」

 

「その中には、ハルの……聞きたくない話も含まれている…それでも聞くか?」

 

「愚問だぜ、相棒。俺は俺の発言を簡単にひっくり返すようなことはしない。それにスバルの力になれるなら、俺はなんだってするよ」

 

そう言うハルが余りにも男前すぎて、自分の器の小ささを思い知る。なので、今日の俺がいつもより泣き虫なのは仕方がないことなのだ。

 

「ハルゥ〜」

 

「……なんで、そこで泣くのさ…。まぁ、それより…話っ。そろそろ、レムちゃんあたりが来そうな気がするんだ」

 

「はぁ?」

 

妙に焦っているようにも見えるハルに、俺は眉を顰める。

 

“なぜ、レムがこんな時間にハルの部屋へと来るのだろうか?あっ、もしやーー”

 

「ーーレムにやらしいことを教えるために俺を排除しようと?」

 

若干、引き気味で尋ねるとハルが俺を睨みつける。

 

「オイ、ぶつぞ…相棒。じゃなくて、違くて!?スバルが思ってるようなやましいことじゃないんだよ!ただ、毎日星座や俺の世界のことをレムちゃんに教えてるんだよ」

 

「なぁ〜だー、面白くなぁー」

 

「マジでぶつぞ。まぁ…いいだろ、俺とレムちゃんのことはっ。それより、スバルって死に戻りしてるって言ったよな?今、何周目?」

 

ハルがおっかない顔をしてきたので、ふざけるのはやめて、真面目に答えることにする。

 

「三周目」

 

「なるほど、だから…真ん中の数字が3なのか…」

 

俺の頭へと視線を向けて、そうつぶやくハルに俺はずっと疑問だったことを尋ねる。

 

「そういえば、ハルってフラグが見えるんだよな?普段から見えるの?」

 

「普段…なのかどうかは知らないけど、割とピコピコ出てくるな。ほとんどは条件さえ満たせば、自然と消えてくれるんだが…。時に例外があるな」

 

「例外?」

 

俺が首を傾げると、ハルはメモ帳を開くとそこに書かれているフラグを指差す。

 

「例えば、これ。レムちゃんの《魔女嫌いフラグ》なんかは今だにたってるしな。スバルのフラグもずっとたってるし…いったい何が原因でたち続けるのかは、俺には分からないな」

 

「そっか。りょーかい、すげェ分かり易かった」

 

「それはどうも。で、スバル、他に聞くことはない?」

 

ハルにそう言われ、俺は腕組みすると…この時点で書かれてないフラグについて聞いてみる。だが、その前にあの事を言わなくてはいけないだろう。

 

「ハル。俺が死に戻りしてることは伝えたよな?」

 

「あぁ、まぁな」

 

突然、話題を変えてくる俺に怪訝そうなハル。たが、これは話さなくていけない…そんな気がした。

なので、俺は話を続ける。そんな俺に怪訝そうな顔をしつつも相槌を入れてくれるハル。

 

「俺はここに来るまでに二回しんだんだ。どれも異なる死に方でだ」

 

「おう、んで?」

 

「…一回目は寝ている間に死んだ。その原因は何にかもわからない。だがーー」

 

「だが?」

 

「ーー二回目で、理由が分かったんだ。その理由も…ハルにこうやって、このメモ帳を見せてもらって分かったんだけどなぁ…。

ハルのメモ帳にはこう書いてあったんだ…《黒幕フラグ》ってな。その黒幕フラグのページに書かれてあったそいつはーー村のガキどもが可愛がっている子犬なんだ」

 

「……はぁ…子犬ぅ?」

 

熱く語る俺に対して、胡散臭そうな表情を隠さないハルに俺はせめよる。

 

「そう子犬、ハルは見たことないか?ここんとこが、十円ハゲになってんだ」

 

「いや…見たことないから…、俺がそのフラグを見てないんだろ…」

 

「…」

 

“あっ、なるほど…そうか……”

 

呆れ顔のハルに諭されて、さっきまで熱く語っていたのが恥ずかしく思う。そんな俺に構わず、ハルは考えるように眉を顰めると…

 

「ん〜、その子犬は見たことがないがーーその子犬を操れそうな子には見覚えがあるんだよな…。もしかしたら、その子が本当の意味で黒幕かもしれないな…」

 

その言葉に俺は期待が高まり、ついつい前のめりになってしまう。だが、後から思えばこの行動がいけなかったと今思う。

しかし、無情にもその時が近づいてしまったーー

 

コンコン

 

と小さなノック音が響くと、俺とハルは互いの首を傾げる。しかし、次の瞬間に聞こえた愛らしい声にハルが慌てふためく。

 

“?”

 

『兄様。レムです、開けていいですか?』

 

「なっ、レムちゃん!?やばっ、スバル隠れーー」

 

「はっ!?痛っ、何して…ハル?」

 

テンパって、ベッドの中へと押し込もうとするハルに俺は意味もわからず、抵抗する。

 

『ーー兄様?…失礼します』

 

ガチャンと、慌ただしくしていた俺たちにはその小さな音が聞こえなかった。ドアを開けて、中に入ってきた青髪の少女が見たのは…ベッドの上でふざけ合う男たちでーー

 

「ー……」

 

そんな少女の笑顔が固まるのを見た二人の少年は、それぞれに声を漏らす。

 

「あっ…」

 

「やばっ…」

 

しばらく、フレーズしていた青髪の少女は笑っているのに目が笑ってないという不思議な笑顔を浮かべて、少年たちを一瞥してこういう。

 

「兄様とスバルくん、随分と仲良しですね」

 

「「ーー」」

 

そういう青髪の少女の後ろに鬼が揺らめいているのに、気づかないほどに空気を読めないわけじゃない、俺は。

静かにカーペットへ正座する親友の隣へと、俺も静かに正座した…




なんか話がごちゃごちゃになっちゃったな…


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二十六話『正座とレムの誤解』

お待たせしました。

今回はレムに勘違いされそうなシーンを見られてしまったハル達が説教される話です!
ギャグ要素が多めですので、笑っていただければと思います。

※お気に入り登録・814名!評価者・55名!本当にありがとうございます!!


カーペットに並んで座る俺とハルを交互に見た青髪の少女・レムはうなだれているハルへと問いかける。

レムの問いかけに、うなだれながらも受け答えするハル。ちらりと、ハルの表情を伺ってみたが、その大きく赤い瞳は絶望の色を多く含んでいた。

 

“…レムの説教って……そんなに怖いものか?”

 

だが、俺にも見えた通り、今目の前にいる青髪の少女の背後には今だに、白い牙を覗かせて嗤う青鬼の姿がある。

 

“…あんなの見ながら…、長々と説教されたら…こんな目にもなるよな…”

 

すまない、ハル。俺には黙って聞いていることしかできないんだ…っ。

どうか、親友の心が壊れないように…と密かに願う俺であった…

 

「兄様。レムが勉強を教えに行った時は、スバルくんとはなんでもないとおっしゃってましたよね?」

 

「はいぃ…」

 

「それなのに、どうして。スバルくんとベッドの上で戯れていたのですか?もしかして、兄様はそういう趣味をお持ちなのですか?」

 

「はいぃ……」

 

“ん?”

 

さっき、聞き捨てならないセリフをレムから聞こえた気がしたが…気のせいか?

俺は、親友とともにレムの説教を聞いている最中に聞こえた言葉に、眉を顰めるが…隣に座る親友の表情から、気のせいだと判断し、再び 説教を聞く。

しかし、次のレムのセリフから俺の違和感は正解だったことに気づくのだった。

 

「っ。やっぱり…そうなのですね。ちなみにどうして、スバルくんなんですか?レムのどこが悪かったのですか…?レムの…呼び方に問題があったのですか?」

 

「はいぃ……」

 

“ん?この展開…なんかヤバいやつじゃないか?”

 

レムの悲しそうな声音と言っているセリフの意味に気づいた瞬間、俺はそっと隣に座る親友へ向けてアイコンタクトを試みようとするが、虚ろの瞳はカーペットの一点を見ていて、ピクともしない。

 

“あぁ〜ぁ、ダメだ、こいつ…”

 

完全に心ここに在らず状態の親友に、俺はこの状態をどう突破しようか考える。

 

「っ、兄様が…不安だったのですね……。そして、スバルくんみたいなお調子者…話しやすい方が好きになってしまわれたと?」

 

「はいぃ……」

 

「……レムのことは………っ。レムはもういらないのですか?スバルくんの方が好きになってしまわれたのですか?」

 

「はーー」

 

“ここだ!”

 

俺は機械のように決まった返事をしようとする親友の言葉を遮り、大きな声を出して、レムの方を見て…誤解を解く努力をする。

 

「ーーースト〜〜ップ〜〜〜ッ!!!これ以上はやめよう、取り返しのつかないことになる!主に俺とハルが!!」

 

「む…」

 

「そんな顔しても無駄だから!レムは何か誤解をしているっ。俺とハルはそんな関係じゃないから!ハルもなんか言えよっ」

 

俺の顔を見た瞬間、不機嫌な表情になるレムに、これは俺では手に負えないと判断して、隣に座る親友を肘で小突く。それによって、覚醒した親友は俺を救援するどころか、自ら窮地へと向かおうとする。

 

「スバル…、俺と親しくなりたくないのか?あんなに語り合ったじゃないか!俺の秘密も見せたのに…それだけじゃ満足じゃないのか?」

 

「ひ…みつっ…、レムにもみせたことないのに…。やっぱり…レムのこと…きらいに…っ、ぅぅ…」

 

その爆弾発言により、ついにレムはその薄青色の瞳に涙を溜めてしまう。それに俺は慌てて、この状況に気付いてないであろう親友へと怒鳴り声を上げる。

 

「違うから!ハルも何、誤解されそうなこと言ってっの!お前のせいで、レム泣いてんじゃん!」

 

「誤解……?あれ、レムちゃん?どうして、そんな泣きそうな顔してるの?スバルに変なことされた?」

 

そこでようやく、レムの変化に気づいたハルは俺へと疑いの眼差しを向けてくる。

 

“なんで…そんな目で俺が見られなければならないんだ…”

 

理不尽にも程が有るだろう。未然にあらぬ誤解を解いた俺に、ハルはもっと感謝の意を見せてもいいと思うのだが…、なので俺はハルへ食いかかる。

 

「俺じゃねぇ〜よっ!ハル!ハルがレムを泣かしたんだよ!」

 

「バッカなぁ…、俺はそんなことしないぞ!俺、レムちゃんのこと愛してるし、レムちゃんの泣き顔みたくないもの。いくら、スバルでもそんなデタラメを言うもんじゃない!」

 

「兄様…」

 

ハルの聞いているこっちまで恥ずかしくなる発言に、頬を染めてクネクネするレムに、もう俺は文句を言う気も失せてしまった。

ので、イチャついている彼らが忘れているであろうことを俺は言う。

 

「あー、ごちそうさま。それより、いつまでこの体制でいればいいんだ?」

 

“ここまで…正座したことないからっ…しびれた…”

 

「あっ、そうだな…レムちゃん、お説教は後でしっかり受けるから」

 

「はい…兄様。レムの方こそ、変な誤解をしてしまってすいませんでした」

 

「いいって、俺たちも誤解されそうなことをしていたのが悪いんだから」

 

ハルがレムの許可を取り、正座を崩した後でも俺は…暫く、動けなかった……

 

「おーい、スバル。動けるか〜?」

 

「なんで、お前はすぐに動けるんだよ…化け物か?」

 

「失敬な。鍛え慣れてるからだよ…」

 

そう言ったハルは、俺を起こすとベッドへと座り直した…




次回、新しいフラグが登場


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二十七話『作戦会議』

数ヶ月ぶりの更新です。
大変、お待たせしてしまって…本当にすいません(汗)

本当に久しぶりの更新となってるので、本編はちくばくとなってやもしれません。

※お気に入り登録・862名!評価者・60名!また、UA9万越え、本当にありがとうございます!!
多くの方に読んで頂けていることに…本当に感謝です!!


 

「さて、それじゃあ…話し合いをしようか。レムちゃんも付き合わせるようなことしてごめんね」

 

ベッドへと腰掛ける癖っ毛の多い短い赤髪を持つ少年・ハルイトは、隣に腰掛ける青髪のショートボブの少女・レムへと視線を向けると申し訳なさそうな表情を浮かべると少し頭を下げる。そんなハルイトを見つめながら、首を横に振るレムは何処か嬉しそうな表情を浮かべると、ハルイトを慈愛に満ちた瞳で見つめている。そんなレムをハルイトもうっとりしたように見つめる。

 

「いえ、構いません。兄様のお役に立てることがレムの幸せですので」

 

「……」

 

しかし、そんな二人が作り出す甘い空気をジト目で見てくる者が居たーースバルだ。

黒い前髪を後ろへと持ち上げるような髪型をしているその少年の普段よりも鋭さを増す三白眼から発せられるただならぬオーラにハルイトも負けじと、ジト目でスバルを見返す。少し唇がとんがってるのは、愛する少女との幸せなひと時を邪魔させたことによるちょっとした鬱憤晴らしのようなものだろう。

 

「なんだよ、相棒」

 

「いや…、なんでもねぇよ。それより…話し合いっていっても」

 

そんなハルイトの顔を見て、呆れた表情を作ったスバルはハルイトの腕を掴んで、自分の方へと近づけると耳打ちする。ハルイトの視界の端ではキョトンとした可愛らしい表情を浮かべて、此方を見つめている青髪の少女の姿があった。

 

「……レムに言っていいことなのか?死に戻りとかさ」

 

「……言っちゃダメに決まってるだろ。もし、言ってみろよ。レムちゃんのことだから…俺の負担を減らすために、とか言ってってさ…。無茶しかねない…それだけは避ける」

 

「……んならどうするよ?今からレムを追い出すのか?」

「……そういうところは俺を任せろよ。そうさせたいために、言葉を選ぶんだろ?」

 

「……まぁ、レムに関しては。ハルに任せるわ」

 

「……了解」

 

短い会議の末、ハルイトがこの会議の進行を務めることになったらしい。近づけていた身体を離したハルイトとスバルは心配そうに此方を見てくるレムへと不自然な笑みを浮かべて、見事に同期した動きで横をブンブンと両手を振る。その動きは見事に怪しいものであったが、レムが口を開く前にハルイトの咳払いがその先を封じる。

 

「兄様?スバルくん?」

 

「なんでもないぜ、レム。な?ハル」

 

「ああ、ないでもない」

 

「?やっぱり、何かあっーー」

 

「ーーごほん。さて、それじゃあ始めようか?」

 

レムもハルイトの咳払いでその先を聞くことを躊躇ったらしい。大人しく引き下がると、ハルイトとスバルを交互に見て尋ねてくる。レムの問いかけに、ハルイトはあっけらかんとした様子で本題となるある動物をいきなり切り出す。

 

「はい、兄様。それで、兄様とスバルくんはどんな話をされていたんですか?」

 

「あぁ、村にね。可愛い子犬がいるんだってさ」

 

「子犬?」

 

薄青色の大きな瞳が?マークで埋め尽くされるのを見ながら、ハルイトはニコニコと笑いながら、子犬のサイズを両手で合わしてはレムへと問いかける。そんなハルイトの姿に冷や汗が止まらないスバルは、ハルイトの左手を掴むと顔を寄せる。そんなスバルに、ハルイトはまたしても顔を険しいものへと変える。

 

「うん、スバル曰くふわふわもふもふの超絶かわいい子犬らしい」

 

「ちょっ!?」

 

「……なんだよ、相棒」

 

「……俺は一言も子犬が可愛いとは言ってないんだが?」

 

「……それはそうだろ。俺の勝手な想像なんだから…。もしかして、あってなかった?」

 

「……まぁ、あってるけどな」

 

「……なら、いいじゃん」

 

「……言い訳あるかっ」

 

「兄様?スバルくん、どうされました?」

 

レムのその言葉に素早く元の状態に戻った二人は訝しむレムの気を剃らせようと、子犬の話をする。引きつった笑みを浮かべるハルイトは明らかにレムからしておかしいものであったが、問いかけられてしまえば…それを真摯に考えて、答えなくてはならないだろう。

 

「あぁ、うん。なんでもないよ、レムちゃん」

 

「…そうですか?」

 

「うん。さて、そんな子犬なんだけどね。レムちゃんは見たことないかな?」

 

「いえ、レムは見たことないです。お役に立てずすいません…」

 

考え込んだレムは暫くすると力無く首を横に振ると申し訳なそうに、ハルイトへと頭を下げる。そんなレムへ穏やかな笑顔を浮かべたハルイトは、聞きたかったことをレムへと質問する。

 

「うんうん、いいよ。そうだ、レムちゃん…もう一つ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「はい、レムに答えれることでありましたら」

 

「レムちゃん、前に魔獣使い?って言うんだっけ…あの子」

 

曖昧な言葉で問いかけるハルイトのセリフの断片からある人物を思い描いたレムは、ハルイトへと問いかける。ハルイトはレムの言葉に頷くと、心の中に青髪をおさげにした少女を思い浮かべる。

 

「もしかして、あのお下げの子の事ですか?兄様」

 

「うん、あの子。あの子って今、この村の近くに来てるのかな?」

 

「ん〜、どうでしょうか?村の中で見つけたら、レムが見逃すわけないですし…兄様はどうですか?」

 

「あぁ、俺もあれ以降見てないよ。ん〜…」

 

腕を組んで悩む二人に、スバルは近くにいるハルイトへと問いかける。ハルイトはスバルへと頷くと、納得出来ようようで悩み続ける。しかし、答えは出なかった様子で諦めた様子で、次の議題を出そうとする。

 

「そのお下げの子って奴が…今回の?」

 

「あぁ、もしかしたら…その子かな…?と思ったけど…無理だもんな。んー、あの子のことはここまでにして…。他のことで意見を出し合おうか?」

 

「あぁ」

 

「はい」

 

その後も三人は意見を交わし合ったが、納得するものが出ずにその日は終わりを迎えた……




次回こそ、新しいフラグ…


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二十八話『桃髪のメイドからの無理難題』

さて、またしても久しぶりの更新です…。本当にお待たせしてます…。

そんなお待たせした二十八話ですが、タイトル通りの話となってます。新しいフラグとラムさんが取らないであろう行動をするので…読者のみなさんはあれ?と思われる方といらっしゃると思います。

ですが、最後まで読んでいただければ幸いです。



※お気に入り登録・872名!評価者・62名!!本当にありがとうございますっ!!


黒い前髪を上に持ち上げるような髪型をしている少年・スバルと青いショートボブの少女・レムちゃんとの作戦会議を終えた俺は、いつもの如くとある少女の部屋へと来ていた。

トントンとノックをすれば、ゆったりと華奢な身体つき隠すような桃色のネグリジェを身につけて、絶対零度の如く視線をこちらに向けている少女へと俺はにっこりと微笑むと当たり前のようにその部屋の中へ入ろうとして、鋭き刃の如き視線に胸を抉られる。そんな鋭い視線に続くのは、冷ややかな声音で紡がれる冗談か本気か分からないセリフ…恐らく、この少女・ラムさんの場合は前文の方なのだろう。そうでなければ、こんな鋭い視線や聞いてるだけで背筋に悪寒が走る声音で物事を言わないはずだから…。

 

「…なんで、ハルがいるのかしら?もしかして、夜這い?だったとしたら、被害が出る前に消さないとだわ」

 

ごく自然な動作で俺を抹殺しようとするラムさんへと俺は冷や汗を流しつつ、呆れと悲哀な視線をラムさんへと向ける。だが、ラムさんは俺のそんな視線などお構いなしで、桃色のショートボブと同色のネグリジェをふわりっと揺らして、ベッドへと歩いていく。その後に続く俺はそんなラムさんの後ろ姿に見惚れつつ、ベッド腰掛けるラムさんの一人分あけた所に腰掛ける。

 

「いやいや!夜這いって…。この時間には、いつもラムさんの部屋を訪れてるでしょうが…、はぁ…。ラムさんと話がしたくて来ました。少しお話いいですか?」

 

「…そう。好きにすればいいわ」

 

「うん、好きにするよ」

 

ベッドに腰掛けた俺は、優雅に足を組むラムさんへと向き直る。ラムさんも横目で俺を見つめると顎で話を促す。俺はラムさんのその動作に頷くと、今日話したいと思っていたことを話す。

いつものように身振り手振りでニコニコと話する俺の話を眠そうな顔をしつつも、時折相槌を打ってくれるラムさんの囁かな優しさに触れながら、俺は今日の話を終えようとした時だったーー

 

「ーーハル、ラムの目を見なさい」

 

と、突然 ラムさんが一人分空いてる距離を詰めて、俺の輪郭へと右手を添える。そのほっそりした、しかし女の子特有の柔らかさを持つ掌に俺は軽くパニックに陥る。

ラムさんらしからぬその行動に、俺は滑舌が回らなくなり、深夜というのに素っ頓狂な大きな声が出てしまう。それを聞いたラムさんの薄紅色の瞳がスッと細まるのを見て、俺はラムさんの指示通りに口を紡ぐ。

 

“%$€÷*$€+#°”

 

「ななななんで!?」

 

「煩いわ。黙らないとその目をくり抜くわよ。いいから、ラムの目をじっと見なさい、早く」

 

「……」

 

「「ーー」」

 

一文字に唇を噛みしめる俺の両頬をラムさんの両手が包み込み、まだ驚きが覚めてないためにまん丸のままの赤い瞳を、大きく凛々しい雰囲気を持つ薄紅色の瞳がじっと見つめる。

息をすれば、互いの息が頬にかかるくらいに顔を寄せているこの状況は俺にとってはラッキー、幸せと言わずにおれない出来事だろう。だって、この屋敷に勤めて、二年ちょっと、彼女からは回し蹴り・アッパーは毎回のこと貰うも、こういったハタから見れば恋人の間違われてしまうようなスキンシップを行うことは皆無だったのだから。いや、一度だけ膝枕をしてもらったくらいだろうか?それがどうしてか、今日 突然こんな事になってしまって…俺にはどうしていいか分からない上に、ラムさんの本音が読み取れない。

 

“まぁ、ラムさんが俺に本音を見せてくれることなんて無かったけど…”

 

俺が溜息を着きそうになる前に、今まで沈黙を保っていたラムさんがボソッと呟く。その呟きは、この距離感だからこそ聞き取れたようなもので、本当に小さくその内容は眉を顰めるものだった。

 

「やっぱり、何か悩んでいることがあるのね。それはバルスの事?それとも、レムの事かしら?」

 

「……」

 

その呟きを聞いて思ったことはただ一つだ。

“どうして、分かるんだ?”だ。俺が抱えている問題に、なんで目を見ただけで分かるんだろう。

そこまで、ラムさんは俺のことを見てくれていたんだろうか?いや、絶対見てくれてないだろう。俺が話にしたことすらも夜這いって間違えたくらいだし…。だとすれば、さっきの呟きもまぐれだろう…。

 

「そう、両方の事なのね。…いえ、両方でもあって、両方じゃないなのね。それはラムには言えないことなのかしら?」

 

“まぐれじゃない…。ラムさんは俺の気持ちを読み取ってる…”

 

俺の目をまっすぐ見つめてくる薄紅色の瞳には 相変わらず感情を載せずに、彼女は俺が隠したがっていることや言えないことを読み取ってくれてる。それが嬉しい反面、胸がギュッと締め付けられる。それが好意ではなく、悲しみや悔しさからくるものだと気づいた俺は、ラムさんへと掠れた声で尋ねる。

 

「ラムさん…」

 

「何かしら?ハル」

 

普段よりも声音が暖かい気がして、俺は顔を俯く。そうしないと、まともにラムさんを見ていられなかった。膝の上に置いている両手が無意識に強く握りしめる。

 

“ラムさんはいつもそうだ…”

 

俺の事をなんとも思ってないような言動を取る癖に、俺の事をよく見て・理解してくれる、分かってくれる…それがとても悔しくて、情けない気持ちになる。

 

ーー俺はこの人に弄ばれているだけでないのか、と?

 

そんな事を思ってしまう自分自身に嫌悪し、最愛の人を心の底から信じられない自分自身へ怒りを覚える。そんな負のサイクルに陥ってる事をこの人は知ってるんだろうか?

 

「ラムさんは…俺にこんなことして…からかってるんですか?俺のラムさんを愛してるって気持ちをーー」

 

「ふ」

 

小さく笑い声を漏らしたラムさんは、笑い声に驚いて顔を上げた俺へと突然、質問する。その質問の真意が読み取れず、俺は眉を潜めつつも答える。

 

「ハル、ラムの好きな人を答えてみなさい」

 

「へ?ロズワール様でしょう?」

 

「違うわ、ハルを見直していたのに…。これは認識を改めないとだわ…」

 

心底ガッカリしたって感じで肩を上げて、首を横に振るラムさんに俺は頬を膨らませると質問する。もちろん、ヒントを見つけるためだ。

 

「む…。じゃあ、ラムさんの好きな人って誰なんですか?俺の知ってる人です?もしかして、スバル?」

 

「バルスは無いわ、例外よ。…そうね、ハルに教えるのは癪だから…自分でみつけなさい。それで、もし ラムの好きな人をハルが当てられたら、ハルの願いを一つ聞いてあげるわ」

 

「へ?…ッ!」

 

“これは…”

 

【癖っ毛の多い赤髪の少年が進んでいる道の先が、二つに割れている。右手の空は明るく、左手の空が暗い】

恐らく、右手が成功した方の道で、左手が失敗したときのものだろう。

 

“これは…【人生の分かれ道】フラグ”

 

だとすれば、このラムさんからの無理難題は、これからの俺とラムさんの関係性へと左右してくるというわけか。

 

“じゃあ、正解しないわけにいかないな”

 

小さく意気込む俺へと、顔をしかめたラムさんがいつものように冷たい言葉を投げかけてくる。それを笑って受け流して、俺はベッドから立ち上がる。

 

「ハル、どうしたの?女々しい顔が更に女々しくなってるわよ」

 

「やっぱり、相変わらずだね、ラムさんは。さて、ラムさんからの問題、絶対正解するからね。じゃあ、まだ明日」

 

「えぇ」

 

俺は後ろを振り返り、ラムさんへと手を振ると自分の部屋へと帰っていった。

 

 

τ

 

 

パタンと閉まったドアをじっと見つめていたラムは、口元に柔らかい笑みを浮かべる。

 

「…今のハルには、絶対ラムの好きな人は分からないわね。でも、どうしてかしら?気づいて欲しいと思うのは…」

 

その問いかけは、暫し 考えても思い浮かばなかった…




という感じで、ラムさんからの無理難題ですが…読者の皆様なら、ラムさんが誰を好きなのかお分かりなのでは?と思います。

その人を好きになった経緯は、後々書けたらと思っております。

では、最後まで読んでいただきありがとうございます!


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二十九話『忍び寄る影と眠たい俺』


大変遅くなりましたm(__)m

言っていたネタバレの話なのですが…完成まで、もう少し時間が掛かりそうなので、本編を更新させていただきます。

予想として、第1章があと、5話か早くて3話で終わるので…そのあとは、ラムさん章を更新しようと思ってます。その章もあまり話はないかもです。

そして、その頃にはネタバレ回も書き終わっていると思うで…第1章とラムさん章が終わった後に、ネタバレ回を更新したいと思ってますm(__)m


※お気に入り919名!評価者・61名
本当にありがとうございます!

また、暖かい感想の数々、痛み入ります…。

皆様のご期待に添える展開になれるよう、これからも更新していきたいと思いますので…

どうか、よろしくお願いしますm(__)m


ゆぅ〜らゆらと微睡みの海を背泳ぎで泳いでいた俺を誰かが遠くから呼んでいる。

俺は眉を潜めて、その声をよく聞くと、どうやらその声は鈴のような可愛らしい声音である事が分かった。そして、その中に隠しきれるほどに溢れている慈愛に、俺は声をかけている人物が青い髪をショートボブにしている少女だと気付く。

毎朝してくれているように、優しい手つきで俺を揺すり、起こそうとしている彼女には、毎朝のことながら本当に迷惑をかけている。

 

だがしかし、今日ばかりは俺とてこの安眠を譲るわけにはいかない。

 

その理由が今の今まで相手にされてなかったこの青髪の少女の姉に当たる少女による不意打ちにドキドキし過ぎて、眠ろうとしても寝れなかったという…余りに女々しく乙女すぎるものであるが、本当に眠いのだ。寝れたのは時間にして、約二時間か三時間…その間、バクバクする心臓を静かにさせようと羊を数えたが、一万匹を数え終えても寝れそうになかったのでやめた。

ゴロゴロとベットの上を動き回り、やっと眠りについたのが…窓の外が明るくなってきた頃ときた。

 

“これが眠くないわけないだろ?”

 

完全に自分のせいであるが、こんな状態で仕事してもいい動きができるとは思えない。

ならば、いい仕事を行う為にあと一時間ほど寝かせてもらう為に、俺の背中にしなやかな手を置き、揺さぶっている少女・レムちゃんを説得しなければならない。

 

「…いさま、気持ちいい朝ですよ。起きてください」

 

近くにある布を強く抱き寄せ、絡まるように眠りこける俺からみるみるうちにタオルケットなどを剥ぎ取ったレムちゃんは眠気まなこで自分を見つめてくる俺をにっこり微笑んで出迎えてくれる。

そんなレムちゃんの笑顔と同じように微笑んだ俺は、いつも使っている《あの作戦》を実行する。

 

「…レムちゃん好き大好き愛してる。あと一時間、寝かせて。お願い」

 

「はい、レムも兄様と同じ気持ちですよ。兄様のことが大好きで、誰もよりも愛しています。そして、そんな兄様のお願いをレムも聞いてあげたいのですが…今日はダメなんです。ロズワール様と姉様が兄様を何としても起こすように、と言付かってますから。なので、兄様、今日は我儘を聞いてあげれられなくてごめんなさい」

 

きめ細かい白い肌をほんのり赤く染めながらも、薄青色の大きな瞳には強い意志が宿っており、その中でも《兄様を二度寝させてはいけない》という使命感みたいなものがぼんやりした俺の目からも読み取れた。

 

“今日のレムちゃん相手には無理っぽいな…。うん、諦めて…いう事聞こ”

俺は諦めて、起き上がるとレムちゃんがいつものように程よい暖かさで濡らされたおしぼりを手渡してくる。

 

「うん、なら仕方ないね。レムちゃんのいう事聞く」

 

「はい、そうして頂けるとレムも嬉しいです。兄様、これで顔を拭いてください」

 

「うん、いつもありがとう」

「いいえ。兄様の側に居れる事、兄様のお役に立ててる事がレムの幸せですので」

 

その後も甲斐甲斐しく、俺の周りを動き回るレムちゃんに申し訳ないと思いつつも、俺は慣れたおしぼりを握ったまま、うとうととしていた…

 

 

τ

 

 

このロズワール邸使用人頭と書いてスーパーメイドと読むレムちゃんの神業により、俺の身なりは見違えるほどに整えられた。

母譲りの癖っ毛は梳かすのも大変だが、寝癖がつくと更に大変な事になる。あっちらこっちに飛び跳ねる赤い髪に俺は何度頭を抱えたことか、だがそんな難関をレムちゃんはいとも簡単にクリアし、俺の髪のセッチングまでこなすほどになっている。

 

まさに《なすがまま》であり、うとうとと船を漕ぎながらも、恐らくラムさんよりも世話をかけてしまっている現状に思わず溜息が出てしまった。

そんな俺に気付かずに、最後の仕上げに俺の前髪をしなやかな指先で持ち上げたレムちゃんは幼稚なデザインな髪留めをパチンとはめると、俺の赤い瞳を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「兄様、出来ましたよ。今日もカッコよくて、素敵です」

 

「うん、ありがとう。レムちゃんも可愛いくて素敵だよ」

 

「いいえ、兄様の方が素敵ですよ」

 

「いいや、レムちゃんの方が」

 

「いいえ、兄様の方が」

 

と、いつものように互いを褒めあいながらも、指定された場所にレムちゃんとついた俺へと、先に来ていたらしい黒い髪を上へと持ち上げている少年執事が「よっ」と右手を上げてくるので、それに「あぁ」と答える。

「今日もレムに起こしてもらったのか?兄様よ」

 

黒髪の少年執事・スバルの横に並んだ俺の横腹を肘でつついてくる相棒の方を鬱陶しそうに見てくる俺をニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて見てくるスバル。

 

「悪いかっ。いや、スバルは羨ましいんだろ?俺がレムちゃんとラブラブだからな。そっちはエミリア様と……あっ、ごめん。その人相の悪さじゃあ、進歩ないよな…期待してごめんな」

 

「兄様、それは流石に言い過ぎですよ。確かに、スバルくんの三白眼は怖くて、足の短さは気持ち悪いですが…そういうのも含めて、スバルくんの特徴なんですから」

 

「…そうだね、レムちゃん。そういうのも含めて、スバルの特徴だもんな。

スバル、大丈夫さ!エミリア様は優しいお方だ、スバルの見た目の悪さじゃなくて、中身を好きになってくれるはずだから」

 

「お前ら、いい加減にしろよ!なんで、そんなところまで息ぴったりなんだよ!!あと、レムの気持ち悪いが一番、効いたからっ!そう言うことはもっとオブラードに包んで、言うべきことだから!!」

 

俺とレムちゃんの切れ味抜群のカウンターを食らったスバルが泣き喚いていると、階段の上から俺たちを呼んだ張本人が現れた。

脇に控える桃髪のメイドから注がれる絶対零度の如く視線にスバルは口を紡ぐと、俺がいつもよりも…というのは雇い主に失礼な感想だが、まともな格好をしている我が主人・ロズワール様へと話しかける。

 

「ロズワール様、今日はどこかにお出かけですか?」

 

「うん。ハルイト君の読み通りだーぁよ。すこし厄介なところから連絡があってねーぇ。ということで、今からガーフィールのところと外を回ってくるよ」

 

肩をすくめるロズワール様へと今度はレムちゃんが尋ねる。

 

「今夜にはお戻りになられますか?」

 

「いーぃや、無理だろうね。というわけだからーーラム、レム、ハルイト、任せたよ」

 

主人のその言葉に俺たち三人は同時に腰を折ると、その命令に答える。

 

「はい、ご命令とあらば」

 

「はい、命に代えましても」

 

「はい、この身を盾にしてでも」

 

俺たち三人の忠誠に満足にうなづいたロズワール様は、俺の側にいるスバルへと視線を向けると声をかける。

 

「スバルくんもよろしくお願いねーぇ。どうもきな臭い気がすーぅるかーぁら。エミリア様の事はよろしく」

 

「あぁ、任された!ちょー頑張るぜ」

 

「ハルイトも、よろしくねーぇ」

 

「はい、心得ております、ロズワール様」

 

胸を叩くスバルから俺へと視線を変えたロズワール様は、チラリと青髪のメイドを見てから俺をみる。そのアイコンタクトに俺は深く頷くと、深々ともう一度頭を下げる。

俺のそのセリフに今度こそ満足したロズワール様は、優雅に魔法を下して、空を飛んで、ガーフィールさんのところ…俺は名前を何度か聞いたことがあるだけ…へと向かっていった。

 

残された俺たちはというと、使用人頭の「主人がいないからこそ出来るところがある。なので、手抜きをせずに、いつも以上に綺麗にしましょう」のお言葉通り、其々仕分けられた仕事へと精を出していた。

 

「ふぅ…、こっちの見回りは終わりだな」

 

俺の今日の仕事は、庭園の手入れと簡単な掃除、アーラム村への買い出しと点検となっている。下の二つは、スバルも行くと行かないので、絵面的に酷いが…男二人でお出かけとなっている。

そんな楽しみにたくないお出かけの時間となった俺は、今の今までラムさんにこきを使われていたのか、既にヘトヘトなスバルを伴って、アーラム村へと続く山道を歩いていた。

 

「じゃあ、まず村に着いたら、子犬を探さないとだな」

 

「あぁ、だな。そいつが今回の犯人確定だからな」

 

「俺たちでどうにかしたいけど…スバルはヘボいし、俺もあの二人に比べて戦力は低いからな…」

 

スバルを意見を交わしながら、歩いていた時だったーーふと、気に留めなければ…受け流してしまいそうな痛みが脳に流れたのはーー。

ズキンとやけに大きく脈立つ僅かな痛みに、恥ずかれたように脇の木々の方を見た俺の赤い瞳は大きく見開かれる。

赤い瞳に映っていたのは、濃い青髪をお下げにしている少女の姿があった。そんな少女の腕には、頭のてっぺんがちょうど10円玉が入るくらいに禿げたモフモフな毛が可愛らしい子犬が抱かれていた。

そんな少女と子犬の足元には、犬に噛まれたような跡を残している大中小と様々な塊がありーー

 

“マジかよ…こんなタイミングで…”

 

「おい、ハル。突然、黙ってどしたよ?」

 

「ーー」

 

「おいってば!ハァ〜ルゥ〜、聞こえてますか〜?」

 

突然立ち止まり、一言も喋らずに木々の一点を見つめ、一筋の汗を流す俺を見て、スバルも只ならぬものを感じたのだろう、押し黙る。

そんなスバルへは視線を向けずに、執事服のポケットへと手を突っ込んだ俺はそこから穴あきの黒革手袋を取り出しては嵌め、ゆっくりとスバルを匿うように構えを取る。

 

そんな俺の背中に隠れるスバルの背後に《僅かな痛み》を感じた俺は振り返り、飛びかかってくるおでこにツノを生やした大型犬の顔を思いっきり殴り、そのまま蹴りを食らわせた俺はびっくりするスバルの背中を乱暴に屋敷方向へ蹴飛ばすと、次から次へとスバルへと襲いかかろうとしているツノが生えた大型犬へと師匠直伝の技を食らわしていく。

 

「ハ…ル…ッ」

 

「スバル!屋敷に戻って、この事をラムさんとレムちゃんに連絡して!そして、村の人たちを安全なところへと!!」

 

地面に倒れたままのスバルへと視線を向けながら、俺は叫ぶ。そんな俺の叫びに応じるように駆け出すスバルの邪魔をしようとする大型犬の行く手を母直伝の光の壁で遮る。光の壁に行方を阻まれた大型犬へと水の氣を含んだ拳を埋めた俺は、手袋とは反対側に入れていた紙へと血を染み込ませていく。

そして、顔を出すお馴染みのメンバーに囲まれながら、俺はもう一度構えると大きな声を出す。

 

「ここから先は残念ながら通行止めとなってるんだ、犬ころさん達や。

纏めて、相手してやるーーかかってきなっ!!」

 

くいくいと右手を動かして、挑発する俺へと近くの崖にいた大型犬が白い牙をギラつかせて、飛びかかってきた…





ということで、30話へと続きますm(__)m





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三十話『鉄壁の護り・光焰なる壁』

早めに更新すると言って、時間がかなり経ってしまいましたね…本当にすいませんm(_ _)m

今回も少し長めです、そして読みにくい感じに仕上がっているやもしれません…

また、このリフラは毎週金・土で可能であれば…更新したい思ってます。

わがまま言ってすいません…(汗)



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本当にありがとうございますm(_ _)m


 

すっかり日が落ちた山道を一人の少年が血相を変えて、走り抜ける。

朝に綺麗にセッチングした黒髪は激しく舞う風により、無残なことになっており、今の今まで全力疾走という過酷なマラソンにより…その少年・スバルは吹き出る汗を乱暴に袖で拭くとやや乱暴に怪しげなピエロメイクが特徴的な雇い主が建てた屋敷の扉を開けた先には、二人の露出度が高いメイド服を着ている少女がいた。

触れれば柔らかそうな髪を揺らしながら、奉仕に励む二人は血相を変えて転がり込んで来たスバルへと、片方は薄紅色の瞳へと鋭利な色を浮かべ、もう片方は薄青色の瞳へと憂慮の色を漂わせている。もちろん、その憂慮の色は肩で息をしているスバルに向けたものではない…いや、ほんの少しはスバルにも向いているのかもしれない。だって、薄青色の瞳はキョロキョロとスバルとその後ろのドアを交互に見ている。

 

「はしたないわね、バルス。それでもロズワール様の使用人としての心がけはあるのかしら?無いのだとしたら、一から調教し直さないとだわ」

 

「スバルくん、一人なんですか?」

 

手すりを吹いていた手を止め、スバルへと絶対零度の視線を送り続ける瓜二つの双子の妹よりも胸が小さめのメイド・ラムの言葉にスバルは目をカッと見開き、何か反撃しようとする声を遮ったのは…さっきからずっと後ろのドアを見つめている瓜二つの双子の姉よりも胸元が膨らんでいるメイド・レムであった。大きな薄青色の瞳へと憂慮の色を浮かばせ、なかなかスバルの後ろのドアから入ってこない赤髪の少年へと鬼胎を抱いている様子だった。

レムのその様子に、ラムへの口答えは後回しと判断したスバルはまだ荒い息を繰り返しながら、さっき起こった出来事を目の前のメイドたちへ伝えようとするが…いまいち、伝わってないのか、ラムが腕組みすると眉をひそめる。

 

「大変なんだ…っ!大変なんだよ!ハルが…っ、村が…っ!犬…魔獣に襲われて、俺を逃がすため…ハルがっ!まず、村のやつらを助けろってっ!えっと…だから…っ」

 

「バルスのやらしい鼻息が邪魔して、言ってることが分からないわ。息するかしないか、どっちかにしなさい」

 

「兄様と村がどうしたんですか?スバルくん」

 

「流石、レムりん!姉様とは違う!マジ天使!!」

 

「ーー」

 

「その本気で嫌そうな…迷惑そうな顔は地味に凹むからやめて、お願い」

 

稀に見ないレムの本気と書いてマジのしかめっ面を見せられたスバルはガクッと肩を落とすと、今はそんなことで落ち込んでいる場合じゃないと気を取り直して、大きく深呼吸する。

 

「さっきは悪かった。ちゃんと説明するよ。アーラム村に向かう途中に、ハルが森の一点を見つめたまま、微動だにしたくなって、その時から俺もなんかやな予感を感じて…そんな俺の背後から魔獣が飛びかかってきたんだ。ハルは俺へと村人を救出と、ラムとレムのこのことを伝えてくれって言われたんだ」

 

スバルの説明を聞いた二人の反応は違った。

弾けたように飛び出そうとするレムの手を掴んだラムは、何か言いたそうなレムとスバルを見て、静かに指示を出し、それにスバルがつっこむ。

 

「レムはここに居なさい。ロズワール様も居ないこの屋敷を守り、いつ襲ってくるか分からない魔獣の群れに対抗出来るのはレムだけよ。

村の方は、バルスとラムで受け持つわ。最悪、バルスは盾に使えそうだし…」

 

「なんで、俺を盾に使う前提なんだよ!!」

 

 

τ

 

 

ラムが二人へと指示を出し、スバルがつっこむ数分前、癖っ毛の多い赤い髪を振り回しながら、執事服へと腕を通している少年・ハルイトは素早く敬愛する師匠が得意としているパロールを口にすると、黒い革手袋に刻まれている《五行の氣》が赤い光を放つ。

それを確認したハルイトは襲いかかってくる敵への尖った白い牙が剥き出してになっている顔へと拳をねじ込む。

 

「ハァーーーッ!!!」

 

飛びかかってくるツノの生えた大型犬ことウルガルフへと火の氣を溜めた拳を埋め込ませたハルイトは呼び出した力強い仲間たちへと声をかける。

 

「朱雀と白虎は屋敷方面を死守!残りの二匹は俺と共に村と山道に残る犬コロを抹殺する!かかれ!!」

 

ハルイトの指示に其々応えた四匹は、各々の立ち位置はと移動する。

ロズワール邸へと続く山道を塞ぐは、普段はくるくるとしたまん丸な黒い瞳が可愛い火の鳥と白い虎だ。ロズワール邸へと近くものは何であろうと、真っ赤に燃える焰と鋭い爪で微塵切りに、又は真っ黒な灰へと姿を変える。

 

次から次へと溢れ出るウルガルフへと拳を埋めつつ、ハルイトは森の中へと入っていく。

そして、心友と書いて親友と読むあの黒髪の少年が言っていた通りのフラグを立てる子犬を抱えている青髪をお下げにしている少女を睨むハルイトの姿は凄まじいものだった。

いつもはビシッと決めている執事服は所々、ウルガルフの返り血や自身が流している血によりどす黒くなっており、ウルガルフの牙や爪により引き裂かれた肌は中にある血色した筋肉が剥き出しとなっている。折角、セッチングされた赤い髪には小さい枝や葉っぱが付いている。

 

「…」

 

「…なんで、君がここに居るんだ?今度は何をしでかす気だ…」

 

そう問いかけるハルイトへと青髪をお下げにしている少女・メィリィはにっこりと満面の笑みを浮かべるとハルイトへと走り寄ってくる。

ハルイトはそんなメィリィから距離を取ると、それ以上近づいたから容赦無く殴ると拳を握ると、ようやくメィリィの動きは止まる。

しかし、メィリィは満面の笑みは崩さぬまま、その頬へと朱を混ぜる。

 

「なんで、ここにいるのってえ。おにーさんに会いたかったからに決まったらじゃなあい。でも、わたし嬉しいなあー、おにーさん直々に会いに着てくれるなんてえ」

 

「俺はあまり君には会いたくなかったけどね…。さて、ありきたりだけど…なんでこんな事をしたのか、聞かせてくれるかな?」

 

師匠直伝の構えを解かないままにハルイトは、ニコニコと楽しそうなメィリィへと問いかける。

その問いに可愛らしくきょとんとするメィリィはその黄緑色の瞳へと愛寵の念を多く含ませ、うっとりしたようにハルイトを見つめる。その狂気を含んだ瞳にハルイトは身体を寒くないのに震えだす。

 

「なんでってえ、あそこで住んでる人とかおにーさんが住んでるところに暮らしてる人がより多く死んだ方がおにーさん、わたしを探し出そうとしてくれるでしょう?わたしを殺したいって、わたしを痛めつけたいってえ。おにーさんのそういう目がわたし、一番好きだからあ。それにほら、本当におにーさんがわたしを探し出してくれたでしょう?これって愛だよねえ?わたし、思うんだあ。愛しあっている同士、一緒にいた方が良いって…ねえ?おにーさんもそう思うでしょう?」

 

“狂ってる”

 

ハルイトは少女のそのセリフを聞き、はじめにそう思った。

黄緑色の瞳へと狂おしいほどの純愛の焰を滾らせ、少女はまるで名案を閃いたようにパチンと手を叩くと、ハルイトへと問いかける。

そんな少女へとハルイトは首を横に振ると、最近練習していた技を試すべく…準備をこっそりと整えていく。

 

「…すまないけど、俺は思わない。俺のこの心はもう、二人の少女へと向いている。それは君がいくら頑張ったところで変わることのない…事実だよ。

だから、こんなくだらないことはやめるんだ!」

 

ハルイトはそこまでいうと、大きく空気を吸い込む。

 

「燃える燃えて燃え上がれ!竜胆の光焔よ!!邪なるものを弾く聖なる光の壁へと宿れ!そして、我をーー我らを守り給え!!!」

 

師匠の次に尊敬する母の技と自分の技の合わせた新技は、光の壁へと聖なる竜胆の焰がまとわりつき、邪なるものーー敵が内に入る事を妨害している。

まさに、鉄壁の護りに少女は聳え立つ竜胆の光を放つ壁に舌打ちをする。そんな少女へとハルイトはふらっとしかけている脚へと力を込めると、少女へと挑発するように笑う。




新技のパロールは、良いのが思い浮かんだ際に書き変えます…

そして、次回はハルイトが『何者か』に『大事なもの』を暴れます。
果たして、それは一体なんでしょうか…?


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三十一話『奪い渡すもの』

大変…大変、お待たせしました(高速土下座)

前の更新から恐らく約半年くらい過ぎたでしょうか、その間にもこの小説を読んでくださり、お気に入りしてくださった方、評価してくださった方、感想をくださった方、そしてしおりをつけてくださった方…本当にありがとうございます(礼)

恐らく、これから先もこんな感じの長くあけた更新が続くと思いますが、よろしくお願いします。

また、今回の話はいつもよりも文字数が少なめかつ久しぶりに描いたので読みづらいと思います。
では、長らくお待たせしました、31話をどうぞ!

※お気に入り997名!そして、評価者61名と多くの方にお気に入りしていただけて嬉しく思います!!
また、休んでいる間に暖かい感想をくださった方、本当にありがとうございます。かけてくださった言葉に勇気付けられ、またこの小説を再開することができます(礼)


夜風に肩まで切り揃えた桃色の髪を遊ばせながら、薄紅色の瞳を持つ少女・ラムが薄暗い夜道や村を照らす竜胆の焰を纏う光の壁を見つめている…いいや、確実にいうと、ラムはその壁の先にあるであろう癖っ毛の多い赤髪を持ち、中性的な顔立ちをした少年・ ハルイトのことを思い描き、案じているのだ。きっとこの壁が崩れてしまった時にハルイトが無傷でいる可能性は低い、きっと最悪の事態となっている方が可能性的にはずっと上だろう。

 

“…ハル、ラムが出したあの問題を答えないで死ぬなんて許さないわよ”

 

そう、あの問いの答えをまだハルイトへと伝えてない。

それを伝えるまではハルイトに死んでもらうわけにはいかないのだ。

 

“きっと大丈夫でしょう、ハルはどんな約束も破らない男。それに何よりもラムが惚れた男だもの、そんなやわじゃないわ”

 

ハルイトがどんな小さな約束も破ったりしたことはなかった、律儀な程に真面目でまっすぐなその柔らかい瞳や想いにゆっくりと胸に固くかけていた鍵を開けられ、何も不快な気持ちもなく、いつの間にかラムの心の真ん中へと居座ったあの赤髪の少年が自分のするべき事を今全身全霊を込めて行なっているのだ。

自分がそれに答えなくてどうするというのだ。

 

ラムは竜胆の壁に向けていた視線を前に戻す。すると、丁度屋敷から戻ってきたのだろう黒い前髪を後ろに流している少年・スバルがその三白眼をラムに向けてきた。きっと、文句が言いたいのだろう。

なので、ラムはスバルが文句を言う前に心底ガッカリしたというように残念な声を漏らす。

 

「バルス、こういう時くらいその無駄に期待上げた筋肉を使わないでどうするの。やはりその筋肉同様使えないものなのね…さて、要らないゴミはここで捨て切ろうかしら」

 

「こらこら待て待て!って、そういうてめぇも少しは働きやがれ!こっちとりゃ、もう往復五回だぞ?全力疾走の上に両手に抱え切れる限界まで人を担いでの村と屋敷の往復だぞ?これがえらくならないわけないだろがっ!!」

 

「情けない上に使えないバルス…いいえ、犬…また間違えたわ、ゴミだわ」

 

「お前にとって俺は犬ですらないのか!!」

 

キャンキャン喚く黒い執事から視線を逸らしたラムへと駆け寄るのが彼女と瓜二つといっても胸元の膨らみと纏う雰囲気はまるで違う双子の妹であるレムであり、彼女の華奢は肩や腕には其々村人が乗っかっており、恐らく彼女が担ぎ抱えている人達で此処にいる村人は全員であろう。

 

「姉様、この人達で村の人は全員です」

 

「そう」

 

「兄様、お一人で大丈夫でしょうか?」

 

不安そうにラムの視線の先にある竜胆の焰を纏う光の壁のさらに先を見つめる薄青色の瞳に多くの色を浮かばせながら問うレムにラムは安心させるように淡く微笑むと優しい声音でその問いに答える。

 

「大丈夫よ、ハルはああ見えてやわじゃないわ」

 

「はい、そうですね」

 

「さぁ、ハルが壁を作ってくれている間に村の人たちを運び出しましょう」

 

そう言い、走り出そうとした矢先に村から屋敷へと向かう道全体を覆っていた竜胆の光壁がボロく崩れ去る。

まず、村を覆っていた壁が段々と半透明になっていき、ボロボロと壊れていき、その綻びから広がるひび割れによって屋敷へと向かう壁も淡く脆く崩れていく。

それが意味することはただ一つであり、真っ先に駆け出そうとするレムの腕を掴んだラムへとレムが何か言いたそうな顔をする。そんなレムにラムはそっと答える。

 

「ラムがいってくるわ。だから、レムは屋敷とその人たちをお願い」

 

「姉様ですが…」

 

「今のラムでは屋敷の村人とエミリア様を守りいるのは無理があるわ。だから、レムが守りを固めてくれる方がいいわ」

 

「そうですが」

 

「ハルの事はラムに任せなさい。どんな状況でも連れ帰って見せるわ」

 

「はい…」

 

渋々といった感じで引き下がるレムの髪の毛を軽く掬い、ラムは黒い闇に包まれる森へと駆け出す。

どのくらい走ったのだろうか?

時々現れるウルガルムを風の刃で引き裂きながら、ラムが森の抜けた所に来たときだった。

 

月の光に照らされ、闇の中に湧き上がるのはラムがもっとも見たくなかった光景であった。

 

濃い青い髪をおさげにしたものを下に垂らし、その小さな両手が切り傷や泥に汚れた中性的な顔立ちを持つ少年の頬を覆い、年相応に愛らしい顔を少年の顔を近づけるとその少年の桜色の唇へと自分のそれを重ねている。

 

「んぅ…」

 

静かな森に響くリップ音から少女は短いキスを繰り返している様子だった。赤髪の少年の唇を味わうように蠢く小さな唇と耳にしたくもないリップ音にラムの心にしていた蓋が音を立てて、外れてしまった。それ程までに青いおさげの少女と赤髪の少年…ハルイトのキスシーンはラムにとって衝撃的なものだった。

 

無造作に自身の右腕を横に振るラムから放たれた緑色の風の刃を寸前で交わした青いおさげの少女が見たのは、肩や胸元が出るようにオーダーメイドされた特殊なメイド服に此処に来るまでに葬ってきたウルガルムの返り血を染み込ませ、肩まで伸びた桃色の髪を自身が起こしている風にはためかせーー

 

「ラムの男から離れなさい、この泥棒猫」

 

ーーそう冷たい声音で呟く、激怒の風に荒れ狂う赤鬼の姿だった。




次回はラムさんと青いおさげの少女・メィリィの決闘となります。
また、寝ている間にファーストキスをメィリィに奪われてしまったハルイトをどうかロリコンと言わんでやってください。彼は被害者なのです…だから、ロリコンと言わんでーーはい、くどいですね…(笑)


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三十二話『ラムさんの手を血で染めたくないから』

あけましておめでとうございます。

そして、ここまで更新を長引かせてしまってすいません……(大汗)
ほんっとすいません(高速土下座)
何度謝ればいいか…わかりませんが、本当にごめんなさい……

多くの方に『更新待ってます』と感想を頂いたこと、そしてこんな私の小説を多くの方が読んでくださっていること…励みになってます!!

ありがとうございます!!!!




※UA14万突破!お気に入り登録者1077人!評価者63人、そして休んでしまった間に多くの励ましの感想を書いてくださった多くの皆様、ありがとうございます!!!!

っていうより、いつの間にお気に入りが4桁に…(ガタブル)

お祝いの話書かなくては…っ!


月夜に蠢くのは二つの影。

一つは自身が巻き起こす疾風に肩出し改造メイド服と桃色のショートボブをはためかす小柄な少女・ラムで、もう一人はそのラムが放つ緑色の刃から必死に逃げ回っている安易なワンピースと濃い青色の髪を三つ編みにしている幼い少女・メィリィだ。

 

「エルフーラ!」

 

右手を振るうラムの改造されたメイド服にはこれまで彼女が葬った数多くのウルガルフの返り血によって黒ずんでおり、またフリが沢山ついた白いエプロンや黒いスカートは切り裂かれた後があり…破けた場所から覗く白い肌にも一筋の数が走っており、そこから薄っすらと血が吹き出ているのだが、ラムにとってその痛みはあってないようなものなのだろう。

ぶんぶんとウルガルフの返り血によって赤く半分染まっている桃色のショートを風によって巻き上げるラムの表情は常に瞋恚だけで染め上げられている。

 

“なんなのお、なんなのお!”

 

ラムが絶え間なく繰り出す緑の刃が寸前で交わし続けながら、メィリィは愛らしい表情を苦悶に染め上げて、目の前で荒れ狂う赤鬼に慄く。

このまま避け続けているだけでは自分に勝ち目がないのは火を見るようも明らかだ。しかし、もうメィリィには引き寄せられる魔獣が居ない。

手詰まりを再認識してしまったからか、メィリィの足取りが鈍くなり、そこをラムに突かれたメィリィはでんぐり返しをして、ハルイトが転がっている近くへと辿り着く。

 

「くっ……」

 

数枚ほど脚の皮を緑の刃で引き裂かれたのだろう。夜風に当たり、チクチクと染みる痛みを堪えて、立ち上がろうとした瞬間

 

「エルフーラ!」

 

またしても緑色の刃にメィリィの逃げ道を塞ぐように左頬のすぐ横を通り過ぎて行き、頬を流れる血と共に冷や汗が背中を流れるのをメィリィは感じた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「もう鬼ごっこは終わりなようね。観念したのかしら?」

 

薄紅色の瞳へと凍え死にそうなほどの絶対零度の視線を讃え、追い詰めたメィリィを見下ろしながら、無造作に右手を上がるラムは目の前の少女の可愛らしい口元が微笑の形に歪んでいる事を知り、訝しげに片眉をあげる。

 

「…ふふふっ」

「何?自分が死ぬとわかって遂におかしくなっちゃったのかしら?この泥棒猫」

「ううん、そうじゃないよお。私が可笑しいのはお姉ちゃんだよお」

「は?」

 

思いもよらぬ名指しにラムが眉を潜めるのを見上げながら、メィリィは余裕に満ち満ちた笑みを浮かべる。

 

「お姉ちゃん、羨ましいんでしょうお。私がお兄ちゃんとキスしたからあ」

 

ニンヤリと嗤う少女を、その唇を見た瞬間、ラムの中にフラッシュバックしたのは先程の少女とハルイトがキスをしているシーンだった。

小さな唇がハルイトの唇がぴったりと合わさり、身体を外した二人の間に僅かな唾液の橋が架かるのまで……思い出したラムはニタニタと挑発的な笑みを浮かべている少女を感情が消え去った瞳で見下ろす。

 

「ーーい」

「お姉ちゃんしたことなんでしょう?お兄ちゃんと。お兄ちゃんの唇ね、すっごい柔らかいんだよお」

「ーーなさい」

「くっつけた瞬間、ぷるって弾いてくれるのお。それで僅かに甘いんだよお、お兄ちゃん男の人なのに不思議だよねえ?」

「黙りなさいと言っているの。聞こえないのかしら?」

 

静かに憤る赤鬼に少女はほくそ笑む。

やはりだ、この少女は自分の背後に力無く寝転がっているこの少年へと思いを寄せている。そして、その思いを寄せている少年が自分とキスをしたのが気に入らないんだ。

ならば、分からせればいい。後ろにいる少年がその真実を知ってどうなるかを。

 

「お姉ちゃんも分かってるんでしょう?お兄ちゃんが本当はお姉ちゃんのことをどうとも思ってないってえ。それはそうだよね。だって、初めてお兄ちゃんとキスしたのは私がだもの。私のことを好きになるのは当たり前……痛ぅっ……」

 

頬に痛みが走り、少女は恐る恐る痛みが走る頬へと掌を添えるとべったり叩くのは真っ赤な血痕で背筋を悪寒がゾクゾクと走っていく。

カンカンと脳内を警告音が響き渡る……六感が告げている。このままここに居れば、自分は確実に目の前の赤鬼に八つ裂きにされる、と。

その証拠にメィリィを見下ろすラムの瞳は光沢の一つもなく、桜色の唇から流れる凛々しい声は温かみを全く感じられない北極の氷のような冷たさを持ったものだった。

 

「そこまでラムをーー何よりもハルをコケにしたのだから。もう手加減は要らないわよね…?」

 

蛇に睨まれた蛙のようにガタガタと恐怖によって身動きが取れないメィリィにトドメを刺すべくラムが動く。

自分を怯えたように見上げる青色の瞳をただただ感情に消え去った薄紅色の瞳で見下ろしながら、右手を上へとゆっくりと持ち上げていき……そしてーー

 

「エルフーラ!」

 

ーー勢いよく振り下ろした右手から緑の刃がメィリィの身体めがけて飛んでくる最中、メィリィの背後で蠢く影があった……げほげほと吐血しながらも自分の目の前で怯えるお下げの少女を守るべく、少年は母親が得意としていたパロールを弱々しく口にする。

 

「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ。調べ調べ調べ調べて、光を知らしめせ!………ァァァァ!」

 

パチン、と薄い光の壁によって弾かれた緑の刃を苦々しく見送りながら、ラムは自分の前に現れる人物を一瞥し、怒りを抑えきれてない声音で問いかける。

 

「……ハル、どういうつもり」

 

「どういうつもりも何も無いよ」

 

ラムにそう問われた人物・ハルイトはもう原型を留めてない返り血や自分の血によって黒ずんだ執事服を揺らしながら、メィリィを庇うように両手を広げる。

にっこりと笑っているがその笑みが強がりであるのはラムももちろんメィリィも知っているだろう。

実際、ハルイトは立っているだけでも限界なのだろう…全体的にぷるぷると震えており、にっこりと笑っている顔からは冷や汗が流れては頬を濡らしている。

 

「何も無いのならそこをどきなさい。ラムが用事があるのは後ろにいる小娘だけよ」

 

「いいやどかない!ラムさん、俺はね。これ以上ラムさんの手が血で汚れるのを見てられないんだ」

 

ラムは自身の手を汚す赤黒い液体を見て、鼻で笑う。

 

「これはウルガルフの血よ、ハル。ラムはこれまでも何度もこの血を浴びてるわ。今更よ」

 

「確かに今更だね。……でも、それでも嫌なんだ。俺はこれから先はラムさんの手をこれ以上血で汚したくない。だって、俺が好きになったラムさんの手は優しくて暖かい思いやりのある手なんだから…」

 

そうにっこり笑うハルイトをラムはただただ感情が消え去った瞳で見つめていた。

その瞳の奥に揺らめく感情をハルイトが気づくことはないだろう……




異世界かるてっとのラムさん可愛すぎ…っ、惚れてまうやろ!


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UA10万突破記念! 異世界かるてっと編
<1>


副タイトルが思い浮かばなかったので……こちら、そのまま番号のみをふっていこうと思います。

ということで、【異世界かるてっと編】はっじめるよー!!



※此方は【UA10万】を記念して、投稿していくシリーズです。
内容は本編にほんの少しオリジナル要素をプラスしたものとなると思います…。

※お気に入り1093名。評価者65名。本当にありがとうございます!!!


「……ま。……いさま」

 

ゆさゆさと心地よい眠りの海からぷかぷかと浮き上がっていく間に重たかった筈の瞼がゆっくりと開いていく中、こっちを見下ろしている青色の髪を肩まで伸ばした少女の愛らしい顔が視界という名の画面いっぱいに映し出される。

 

「れ……む、ちゃん……?」

 

「はい。兄様のレムです」

 

名前を呼ばれたことが嬉しいのか、ズイっと更に顔を寄せてくれた事で俺は揺り起こしてくれたのがレムちゃんであることを確信する。

にっこりと俺を見つめ、微笑むレムちゃんが身動きする度に甘い香りがする青色の髪がさらさらと揺れ、同年代の子よりも二回りくらい大きな胸が柔らかく揺れるのを見上げながら、ふと思うのはーー

 

「あー、レムちゃん?」

 

「はい、なんですか?兄様」

 

ーーズイと更に身を寄せ、顔を近づけてくるレムちゃん。

 

“やっぱ近くね!?”

 

胸板にむにゅっと押し付けられる大きな胸、俺を心配そうに見つめる大きな薄青色の瞳は言葉通り目の前にあって…吐息を漏らす桜色の唇がぷるんぷるんと揺れ、魅惑的な光に誘われる度にその唇へと自分のを押し付けたくなるーーーーって俺の馬鹿野郎っ!!もしそんなことをしたらラムさんに節操の無い男って思われ、嫌われてしまうかも…それに突然そういう行動を取るのはレムちゃんにも失礼だしな…。

 

「兄様突然どうされたのですか?顔が真っ赤です。も、もしかして、慣れぬ場所で無理をしてしまって…風邪を引いてしまわれたのですか?体温を計らないと……少しおでこを失礼しますね」

 

"ちょちょちょちょっ、待って!!これ以上は本当に勘弁してっ。理性が崩壊する…っ”

 

「レムさん、一旦落ち着きましょう!!!!それ以上顔を近づけてしまわれては接吻(せっぷん)してしまいます!俺的にはラッキースケベ待ってましたー!って思いますし、何よりもレムさん前のめりですから、その……あの……」

 

「…?」

 

突然大声で喚く俺をキョトンとした様子で小首を傾げてみつめるレムちゃん、本当に可愛いな。

しかし、その可愛さの分胸板に押し付けられている膨らみの柔らかさが健全な俺には暴力的なのですが……って、今更だけどなんだよこの柔らかさっ!?これは舞師匠よりもあるのでは…?いや、師匠の方がまだ大きかったか?技を繰り出す度に揺れるあの胸は幼い俺でも釘付けにーー

 

「ーー女々しい上に変態とは救いようのない(クズ)ね、ハル」

 

背後から響く凛々しい声を見間違うわけがない、ラムさんだ。

あの世界で一番最初に恋に落ちて、彼女の為ならばどんな辛いことも乗り越えられる…乗り越えてみせようと思えた。彼女の世界で一番に……ううん、彼女の世界に存在していいと言われることがとても嬉しかった。彼女の鬱陶しそうな顔や仕草、声を聞くだけで胸が高鳴り、今日1日頑張ろうと思えた。俺にいろんなことを教えてくれたラムさんには感謝しかない。

 

「朝早々、ラムやエミリア様達の前でよくもレムに破廉恥な行為をしたわね………死になさいッ!!」

 

「なんでェェ!?」

 

しかし、そんな感謝も思い出も綺麗な回し蹴りによって粉砕され、蹴りを食らった俺は並べられている布団の上を三回バウンドし、壁にべちゃりと当たった後に思いっきり打った鼻を押さえながら立ち上がる。

そして、腕組みをして、いつものように薄紅色の瞳へと冷たい色を含ませて、仁王立ちで俺を見下ろすラムさんへと涙声で抗議する。

 

「なんで、ラムさんはいっつもいっつも俺を殴るの!俺が何をしたっていうの!?こんなに俺は貴女へと愛を伝えているってのに!!」

 

「ラムの妹を公衆の面前でやらしいことをしようとしたからでしょう」

 

「してないわ!冤罪っていってるでしょうが!!」

 

「してたわよ。レムの胸元をガン見して、鼻の下を伸ばしたりして……汚らわしい(ゴミ)だわ。真っ二つにされるか押しつぶされるか、好きな方を選ばせてあげるわ。寛大なラムに感謝なさい」

 

いやいや。恋人を殺すとか言ってる時点で寛大も何もないでしょうよ。 本当……俺、ラムさんと恋人になったんだよな?回し蹴りに容赦なさがなくて逆に辛いんですけど……。

しかし、むふーって得意げに無い胸を晒しているラムさん、可愛いな。

酷い事を言われているというのに彼女の何気ない仕草に頬が緩み、デレデレになるところを見ると俺はどこまでもラムさんには甘いらしい。

 

「ふん!」

 

そして、そんなデレデレ顔にめり込まれるのは流れるような動作で放たれる回し蹴りだ。

意味わからん!何故、二回も回し蹴りをっ!?

2回目は何もしてないじゃん!!!

 

「なんでっ!?」

 

「何故かは分からないわ。ただ無意識でハルを蹴らなくてはと思ってしまったのよ」

 

詫びる様子もなくさらりと言ってのける桃色メイドに俺は何度も思っている事を喚きながら訴える。

 

「無意識で蹴るのやめてくれません!?」

 

ポワポワした理由で生傷増えていく俺の身にもなってよ!

ラムさんの容赦がない分、マジで痛いんだからっ…。

 

くすんと涙を浮かべながら訴える俺を『ハッ』と鼻で笑ったラムさんは俺を見下すような笑みを浮かべると当然とばかりに耳を疑う事を言ってのける。

 

「ハルはラムの不満や鬱憤(うっぷん)の捌け口……いいえ、サンドバックでしょう?」

 

「急速に俺の扱い酷くない!?もう数年の付き合いだし、俺の事好きって言ったよね!?あれ嘘なの!?」

 

「ラムはハルの事を好きよ。でも、それはそれ。これはこれって事よ。いつでもケジメは必要でしょう?」

 

「変なところ区別しないでくれません!?」

 

ってか、さっきさらっと受け流しちゃったけど……ラムさん、俺のこと好きってはっきり言ってくれたよね?あの世界では恥ずかしがってかどうか分からないけど…はぐらかされてばかりだったけど…今回はちゃんと面と向かって言ってもらえただけでも嬉しいと思わなくてはっ。

 

“っていうか…ラムさんの好き発言、嬉しすぎて…胸が痛いんですけど…”

 

普段言われ慣れてないせいか、はたまた意識してしまったからか……むしろどっちもか。

脳内ではさっきのラムさんの好きだけが何度も延々とリピートされ、心臓は煩いくらいに脈を打ち、顔は火照っていき……頬は自然とにやけていく。

そして、そのにやけ顔を見たラムさんにもう一度回し蹴りを食らったところでもう既に学校へと向かう準備を終えていたスバルとエミリア様、ベアトリス様に呼ばれて、俺もワタワタとレムちゃんに手伝ってもらいながら、着替えるのだった……。




二話へと続く…



異世界かるてっと編はこんな感じで進んでいきます(予告)

因みに、かるてっとに出ている作品は【オーバーロード】【盾の勇者】以外は全部見てます。
オーバーロードチームとはより多く関わっていくと思いますし…アニメは遅くなると思うけど全部見よ……あと、新しいフラグも考えとな…(思案)
ダクネスさんのドMフラグとか…その他諸々……。


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