甘粕はヒーローを信じたい (namaZ)
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アマカスはヒーローを信じたい

 それは、英雄の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を揺るがす大事件があった。

 

 

 

 

 

 "個性"という己だけの力。

 人類は思い知らされた。

 この力は、一個人が持つには過ぎた力だと。

 元々"無個性"だった人類は、"個性"と向き合わなければならない。

 安全装置など無いのだ。

 "個性"は、いとも容易く人を傷つける。

 自覚が足りないのだ。

 己は、隣人を、友人を、恋人を、家族を、己さえ傷つけてしまう"個性"に無頓着すぎる。

 力を持つという責任が欠落している。

 "個性"が初めて確認されてから世界は劇的に変わった。

 そこには、熱意があった。

 そこには、使命があった。

 そこには、力に対する責任が存在していた。

 

 

「そこには、未知への恐怖が確かにあった。だが、そう。それでも、彼らは決して止まろうとはしなかった。我々のような特異体質、おっと進化だったか?まあその辺はどうでもよい」

 

 

 嗚呼怖いだろう。進化する(進む)のは。

 嗚呼恐ろしいだろう。未知に挑むのは。 

 

 

「未来ある子供たちのために、"無個性"である大人たちは先へ繋がる道をつくったのだ。それは生半可なものではなかっただろうに」

 

 

 これを勇気と言わず何というのだ。

 

 

「今や"個性"は常識、己を表すステータスと言って過言ではない。だが、"個性"がまだ超能力などの超常現象に分類されていた頃はどうだ?神から祝福(ギフト)を承った幸せの子か?おおぉ、おおおおお!!なんと神の愛を感じられること、でしょうか。我が子は天使なのですと風潮でもするのか?見方を変えれば悪魔の子と何も変わらんというのに」

 

 

 増え続ける異形の子供たちを守ろうとした者がいた。魔女狩りなど時代遅れだが、希少な特殊能力を身に宿した子供を売りさばく商人がいた。

 

 

「今でこそ"個性"を持つものが上に立つ時代だが、昔はそれはそれは酷いものだ。未知に対する恐怖で罪のない子供の血が流れた。力の管理が今より不十分で、教育も確立していない時代は、身に宿す力に振り回され最初に両親を殺すといったケースも存在した」

 

 

 己だけが常に見えない拳銃を所持できる。それは脅威でしかないが、皆が平等に見えない拳銃を所持する社会ならどうだ?

 

 

「所持を許されていない平和な日本では分かりにくい感覚かもしれんが、アメリカでは拳銃は誰でも持てる便利アイテムだ。国民誰もが抑止力を持つ事で規律を敷いたのだ。アメリカ合衆国の信念は今も昔も一つ、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけ……素晴らしいぞ!」

 

 

 だが、現実はどうだ?英雄(ヒーロー)(ヴィラン)と無力な一般市民の三つのカテゴリー。

 

 

"個性"が当たり前(このような世の中)だからこそ、世の未来を憂いた無力な大人が劇場舞台を用意してやったのだ」

 

 

 好きなのだろ?英雄譚が。

 好きなのだろ?悪を倒す己が。

 好きなのだろ?正義と戦う己が。

 好きなのだろ?悲劇を演じ正義に助けられる己が。

 

 

「人とは不思議なものだ。予め用意されたキャラクター以外を決して演じようとはしない。ヒーローとは、ヴィランとは、無力な一般市民とは。かく言う俺も分かりやすいのは好きだし、否定もしない。これは好みの問題だ」

 

 

 悪を倒す、人間の光を浴びる正義の執行者。

 我が物顔で秩序を乱す、人間の闇を体現する忌むべき者。

 

 

「ようは何でもよいのだ。俺はただ人の素晴らしいところを滅ぼしたくないのだ」

 

 

 何故、守られる事に恥を覚えない。愛する女を正義の他人に助けられ何故、屈辱を感じない。男なら気概をみせろ。

 

 

「貴様らも"個性()"を持っているのだろ?皆が平等に見えないピストルを、輝きを秘めている」

 

 

 そう――――――

 

 

「願う真が胸にあるなら、ただその道をひた走れ。躓き、倒れ、泥をなめようが何度でも立ち上がるのだよ。なぜなら誰でも、あきらめなければいつかきっと夢はかなうと信じているから」

 

 

 だから――――――

 

 

「だから―――俺は魔王として君臨したい!」

 

 

 ビジネスでヒーローを目指すのではない。

 何となく、仕方なくでヴィランを目指すのではない。

 

 

「俺に抗い、立ち向かおうとする雄々しい者たち。その命が放つ輝きを未来永劫、愛していたい!慈しんで、尊びたいのだ。守り抜きたいと切に願う」

 

 

 欺瞞に満ちた世界などいらんだろ。カテゴリーにハマるのではない。真に己がヒーローと名乗るなら、その輝きを見せてくれ。

 

 

「俺に人の輝かしい勇気を見せてくれッ」

 

 

 曰く、魔王。

 曰く、勇者。

 曰く、馬鹿。

 曰く、人を思いやれるのに自己中。

 

 

「本音を語るが、俺はおまえの噂を聞いたとき、正直半信半疑だったのだ。だってそうだろう?俺が求める人間が本当にいるのか?間違っているのは俺なのではないのか?俺の世界は期待と不安で膨れ上がり胸が押し潰されそうな毎日を送っていたのだ」

 

 

 ヒーロー共に守られているのがそんなに誇らしいか。己が何もしなくとも、守られて当然と誤認していないか。己はヒーローの威を借り、口だけが大きくなってはいないか。

 

 

「太平の世界において、避け難く生じるのは人間性の腐敗・堕落・劣化である。"自分は守られている、故に如何なる危険もこの身を害し得ないであろう"――――――そのような愚劣極まりない認識が、現世における匿名を用いた誹謗中傷や、"施し"紛いの公民権運動、そして論理整合性の破綻した愛護活動、等々の原因となっている」

 

 

 無知蒙昧の無責任な奴原。

 

 

「脳に蛆の湧いた阿呆どもが闊歩する世界。それを守るヒーロー。もしかするとそれが正しい形で在り、間違っているのは俺ではないのかと、自信がなかったのだ」

 

 

 そんな折、真のヒーローに救われたのだ。

 

 

「人の人たる在り方とは、人の命が放つ輝きとは、決してそのようなものではない筈である。――――――我も人、彼も人。そのことを常に弁え、覚悟と責任を絶えず胸に抱いた上で、雄々しく立派に生くべきではないのか。そして元来、人とはそういうものではなかっただろうか。現に今こうして、自分に真っ向から対峙するオールマイトという人間の、何と勇敢で雄々しいことか」

 

 

 俺は、確かに英雄を見たのだ。

 

 

「このような素晴らしい人間性を、命の燃やす輝きを、失わせてなるものか、劣化など決してさせまい。しかし、ひとたび安寧に身を浸せば、人は生来抱えた惰性のために、その美徳を自ずから手放してしまう。ならば結構、必要とされているのは試練である。立ち向かい、乗り越え、克服すべき高い壁に違いない。希求されるのは即ち、それらを掲げ、人々に授ける魔王のごとき存在である」

 

 

 易きに流れるなよ、胸を張れい。おまえは必ず、おまえの人生を踏破できる。

 

 

「俺はいつも、いつもおまえたちの傍に在るのだ――――――忘れるな。よいか、忘れてはならん。それが勇気だッ!」

 

 

 我も人、彼も人。故に対等、基本だろう。

 

 

「目の前には異なる思考回路を備えた他者がいる。殴られるかもしれんし、社会的に制裁されるかもしれん。しかしそれを肝に銘じて行動するのが、相手に対する礼儀であろうが。俺は殴る。だから、おまえも殴り返せよ?」

 

 

 決戦は東京。オールマイトは、アマカスが用意した試練(災害)と戦っている。

 象徴が戦って他のヒーローが戦わない道理はない。まだ東京に残された400万人の人々を救助している。

 日本の首都に、ヒーローが集まっている。皆が皆、アマカス(魔王)に必死に抗っている。

 ここには、アマカスが望む楽園が広がっていた。

 

 

「アマカスッ!!」

 

「そうだ、来い。俺はここにいるぞ!」

 

 

 東京を数分で壊滅させる試練に、オールマイトは全力で戦い、被害が拡大しないよう抑え込んでいる。その余波に、崩壊した瓦礫の下敷きになった人の救助と避難。少しでもオールマイトの手助けになるよう微々たるものだが外殻を削っていく。

 

 

「ほら、今がチャンスだぞ?俺は現状弱体化している。アレをつい出してしまったのはいいが、そのせいもありリソースの大半が奪われている。今の流行りで言うところの、そう――――――ワンチャンの可能性があるぞ?」

 

 

 アマカスの正面にヒーローが並び立つ。オールマイトがヒーローたちがつくったこの千載一遇のチャンスを無駄にしない為に躍り出る。

 

 

魔王(ヴィラン)めが!貴様はヒーローであるエンデヴァーが倒す!」

 

「No.2ヒーローエンデヴァーか、上位ランカーのヒーローたちがこうも勢揃いだと圧巻なものだな。実はおまえと出会うのも楽しみにしていたのだ。オールマイトに万年負け続けながら、諦めず、ひたすらに走り続ける気概ある男と見込んでいる。故に――――――俺におまえたちの強さ(ひかり)を見せろ。愛させてくれ」

 

 

 鉄をも溶かす業火がアマカスに振るわれる。ヒーローとして敵であっても殺しはご法度。しかし、このレベルの攻撃をしなければこの男を決して止めることは出来ない。他のヒーローもそれに続く、気絶させる手加減した威力はなく、殺す気の全力攻撃。

 

 

「ううぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 弱体化したアマカスに回避は不可能。すべての攻撃を受け入れる。だが、これで倒したなどヒーローは誰も考えていない。幾度となく、その理不尽な"個性"を体験してきたのだから。

 

 

「一気に畳み掛けろぉおおお!奴を止めるのは今しかない!」

 

 

 ヒーローは止まらない。プロとして鍛えてきた"個性"を全力で一人の敵にぶつける。後の事など考えない。否、そもそも後などないのだ。

 

 

「オールマイトもアレに勝てるか分からない!こいつが"個性"で生み出したのなら、こいつを倒せば止まるかもしれないッ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

 

 一人の男を袋叩き。そこに理性はない。それ以上に、この男を生かしてはならないと本能が後押しをする。どれだけ攻撃を叩き込もうがこの男は倒れない。屈しない。そもそも諦めるという言葉を知らない。故に、この千載一遇のチャンスに、ここまでアマカスを追い込みながら倒せなかったヒーローたちは、真にアマカスの理不尽を体験する。

 

 

「素晴らしいぞお前たち!故に俺に負けてくれるなよ。今、殴り返すぞ」

 

 

 ヒーローたちは戦慄した。在り得ないと。"個性"は強さの有無は個人で違いは出るが、その応用力と総合的な強さは、毎日ヒーローとして戦ってきた経験と"個性"の限界を引き上げる訓練がものを言う。それをこの男、たった今の一瞬で、気合と根性だけで突破したのだ。

 

 

「このようになァッ!」

 

 

 瞬間、薙ぎ払った軍刀の一閃が東京湾を断ち割った。直撃を喰らったエンデヴァーは言わずもがな、その衝撃だけでヒーローたちは壊滅した。

 

 

「おっと、巻き込んでしまったか。だが、おまえたちなら何とかするだろ」

 

 

 アマカスの一撃に巻き込まれた一部のヒーローが倒され、試練(災害)の包囲網に穴が出来てしまった。

 

 

「今の一撃で立ち上がるのはおまえだけか。どうやら、他のヒーローは見込み違いだったようだ。さぁ――――――次だ」

 

 

 アマカスは次の手札を切ろうとする。その時。

 

 

「……貴様は間違っている」

 

「ほう。何を間違っているのだ?」

 

 

 アマカスは攻撃の手を止め、対話に応答する。

 

 

「貴様の理屈は性悪説で、誰も信じられないことの裏返しに過ぎない。人の愛や勇気に魅せられ激賞するのは、それが在り得ない夢だと本音じゃ思っているからだろ」

 

「成程確かに、俺はその問いに否定はできない。してはいけんのだ。先も言ったであろう。間違っているのは俺ではないのかと。だから俺は一人の漢に気づかされたのだ。このままでは魂が劣化してしまうと」

 

 

 これが、アマカスの歪み。

 

 

「俺に抗い、立ち向かおうとする雄々しい者たち。その命が放つ輝きを未来永劫、愛していたい!慈しんで、尊びたいのだ。守り抜きたいと切に願う」

 

 

 故に――――――

 嗚呼故に――――――

 

 

「人間賛歌を謳わせてくれ、喉が枯れ果てるほどにッ!」

 

 

 アマカスの攻撃の直線状にはまだ沢山の一般市民がいた。先の攻撃はヒーローだけを狙ったものだが、次は無差別に被害を拡大させようとしている。これはアマカスなりの信頼だ。

 

 "ヒーローなら、後ろに一般人がいる方がやる気が出るだろ?"

 

 またしても薙ぎ払われる軍刀に、誰もが絶望した。

 

 ――――――誰か、助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう大丈夫』

 

 

 その一言は、絶望に染まった心を希望に染め。

 

 

『何故って?』

 

 

 東京湾を叩き割る一撃を正面から相殺し、魔王を殴り飛ばした。

 

 

『私が来た!!!』

 

 

 全身から七色の星光が溢れ、その神々しさに全員の目が眩む。ハッキリと分かるのは――――――今、奇跡に立ち会っている、と言う事だけであった。

 誰もがその光景に息を飲み、言葉を失う。

 

 

 ――――――英雄が来てくれた。

 

 

「アレを鎮めたか。おまえの"個性"では当然無理。……ちょうどアレと相性のいい"個性"で道を開いたか」

 

『ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!魔王(ヴィラン)よ、こんな言葉を知っているか!?Plus(更に) Ultra(遠くへ)!!』

 

「嗚呼知ってるさ。ここからは小細工抜きの真っ向勝負。物語の終わりは概してそういうものだ」

 

 

 オールマイト。おまえはなんと素敵なヒーローだろう。まるで俺が思い描いた英雄そのものではないか。だがしかし、あえて難癖をつけさせるとするなら一つだけ、定番であるだけにつまらない欠点をお前は持っている。

 

 

「俺が性悪説の奴隷なら、おまえは性善説の奴隷だよ。人を安易に信じすぎだ。それは言い換えれば、無責任とも表現できる。おまえは確かに強く優れた男だが、誰もがおまえのようではないのだぞ?己が背中をもって道を示す。それは結構なことだろうが、おまえが歩けた道を他者が歩けるとは限らない。保証がない理想論だし幼稚だろう。上手くいかなかった場合はどうするのだ?そんなものはただ単に、とにかく頑張るんだと言っているだけに過ぎまい」

 

『ヒーローってのは本来奉仕活動!地味だ無責任だと言われても!そこはブレちゃあいかんのさ……笑顔で人を救い出す"平和の象徴"は決して悪に屈してはいけないんだ。君は勘違いをしてないか?ヒーローは誰かを助けたい思いさえあれば誰でもなれるんだ!それがヒーローへの第一歩だ!!私は"平和の象徴"として、未来へ向かう子供たちの道しるべに、人々の目標になりたいんだ!』

 

「ふむ、嗚呼、俺は今満ち足りている。この神話的世界こそ我が理想。そこに掛ける覇気と覇気のぶつかり合いこそ我が王道。とにかく小細工抜きでやりたいのだよ俺は」

 

 

 故に、ここに頂上決戦が開幕される。

 

 

「リトルボォォォイ!」

 

 

 日本に落とされた二つの終焉の炎。第二回目の世界大戦において生まれ、使用された悪魔の兵器。この男は三つ目を日本に落とそうとしている。核分裂反応による超々高熱の炎が破裂する刹那、オールマイトは全力でリトルボーイを大気圏まで吹き飛ばす。広島の炎が天を赤く染める。

 

 

『舐めるなよ。君なら最初っからこうすると読んでいた』

 

 

 オールマイトもまた、アマカスを信頼していた。この男なら初手で核兵器の類を使うと。

 

 

『今回は痛いじゃすまないぞ!』

 

 

 全力の全力、100%を超える1000000%の拳。

 

 

「ぬうッうおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!ツァーリ・ボンバァァ!!」

 

 

 創り出されたそれは決し無視をして良い物ではない。あれこそ爆弾皇帝。史上最大の水爆に他ならず、その総威力はリトルボーイの数千倍を上回る。大気圏まで吹き飛ばしてもその威力は地上の人を蹂躙するには十分な威力だ。オールマイトは先ほどより力が込められた拳を振り抜いた。

 

 

『ふんッ!』

 

「はあッ!」

 

 

 アマカスの軍刀が砕かれ、右腕の骨が粉砕する。それでも拳を止めない。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る――――――殴る。

 

 

『哀しいよ、それほどの"思い"と"個性"がありながらこんな事にしか活用できない君の在り方に!私には仲間がいる!志を同じくするヒーローがいる!背中を預けるのはそれだけで十分すぎる!』

 

 

 二人のヒーローが爆弾皇帝に接近する。一人は巨大な分身を生み出し空中で起爆する爆弾皇帝の距離を詰める。そして、すべてを飲み込むブラックホールが爆弾皇帝を無に帰した。

 

 

「そうだァ!それでこそヒーローだッ!魔王()を否定するのだろ?ならおまえは英雄(ヒーロー)としての答えを示せッ!」

 

 

 全身の骨は砕かれたはずだ。内臓も破裂し、筋肉も破壊されている。なのに――――――この漢は倒れない。

 オールマイトはアマカスの行いを絶対に認めない。それでも、その気合と根性、思いの重さを誰よりも認めている。この先の人生、これほどの漢に出会うことはない。それ故に、拳を振るうたびに胸が締め付けられる。

 もしも、もしも――――――ほんの少しでいい。アマカスが人を信じられたなら、オールマイトの隣に並ぶヒーローになっていただろう。ヒーローとして、オールマイト以上の活躍をしたかもしれない。そして、一仕事終えた後共に酒を飲み交わし、馬鹿みたいな会話で腹を痛めるほどお互い大笑いするに違いない。

 そんなかもしれない話。

 

 

『アマカス、君の懸念は尤もだ。私とて君の全てを否定はできまい。それでも、やりすぎなんだよッ!』

 

「一つ言わせてもらおう。俺は子を見込んでいるからこそ殴るのだ。そして殴るのが好きなわけでは決してない。血も戦争も好かんと答えよう。それをもって自罰している。ゆえ文句あるまい」

 

『大有りだッ!!』

 

 

 互いの拳がクロスし一撃で飛ばされる。距離をとった戦いこそアマカスの本領だが、そこまで考えていたかは甚だ疑問である。

 

 

「ロッズ・フロム・ゴォォォッド!」

 

 

 ゆえにアマカスは手加減などしない。ここまで乗り越えてきたヒーローを信じている。

 衛星軌道上から音速の十倍で地上に放たれた神の杖は。純粋な運動エネルギーの塊であるだけに理屈で対処できる代物じゃない。どれだけ読まれようが関係ない。そんな一撃。もはや人の知覚では捉えることも出来ない。

 だから――――――これを防ぐとなれば一つしかない。

 

 

『君のそういう所を信じてたよ!』

 

 

 絶対に命中を許した状態だからこそ、見えなくてもオールマイトは安心して動くことなく真っ向から迎え撃った。

 

 

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)ッ!!」

 

 

 天候を変える一撃をもってして、神の杖を真っ向から粉砕する。無論、オールマイトとてその威力には深手を負い、僅かだが動きを止めてしまう。

 

 

「むうッ!」

 

 

 僅かでも動きを止めればアマカスはその隙に次の試練を叩き込む。だがしかし。

 

 

「「オールマイト!」」

 

 

 繊維を自在に操る"個性"とコンクリートを自在に操る"個性"でその動きを阻害する。どちらも強力な"個性"だが、アマカスの前では少しの足止めにしかならない。しかし――――――

 

 

『ありがとう君たち。私は決して、もう君を絶対に放さない!』

 

「熱いお誘いだ」

 

 

 距離をとった瞬間、アマカスは破壊兵器を何の躊躇もなく解き放つ。それだけは、阻止しなければならない。ゆえに戦術は単純。

 

 

『拳の語らいと行こうじゃないか!』

 

 

 ステゴロの殴り合い。これこそ漢の決闘に相応しい。

 

 

「ふはっ――――――」

 

『HAHAっ――――――』

 

 

 互いの拳がぶつかり合い、命中する。一撃一撃に絶対の威力を込めた拳が互いの体を破壊する。それでも、加速する。

 

 

「はは、はははははははははははははははははははッ!!」

 

『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAッ!!』

 

 

 オールマイトもアマカスももう限界を超えている。いつ死んでもおかしくない傷が二人に刻まれている。それでも止まらない。二人を奮い立たすのは気合と根性――――――そして――――――

 

 

「俺のッ」 

 

『私のッ』

 

 

 ここに英雄と魔王の戦いは終結する。

 

 

「勝ちだッ!!」

 

『勝ちだッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地に膝を屈したのは、アマカスだった。

 最後のあの瞬間、"個性"を無力化する"個性"でオールマイトのみ無個性に戻ったあの瞬間、100%、否、1000000%、否、10000000000%の全力がアマカスの顔面に命中した。

 

 

「これが、ヒーロー(おまえ)()の差か」

 

『ああ、これがヒーローって奴だ』

 

 

 俺はそんなオールマイトに憧れの念を禁じ得なかった。最後のあの瞬間、オールマイトが無個性へとなったあの瞬間、俺は真の勇気を見たんだよ。加減したわけでは誓ってない。しかし憧れを粉砕するために全霊以上を絞り出すのは不可能だ。

 そうさ、そもそも俺が彼と同じ境地に立とうと思い、魔王として――――――

 

 

「だが、それすらまだ甘かったのだな……」

 

 

 真の勇気を俺は見た。

 見せてくれ。教えてくれ。救いを与えてくれ英雄(ヒーロー)、と――――――

 

 

「おまえの存在こそが俺の楽園。そう確信した瞬間に、もはや決着はついていたのだ。おまえならば、たとえどのような黄昏だろうと踏破する。何よりそう信じたがっているのは俺なのだからな」

 

 

 誰も信じていない男。もっとも絶望し、もっとも勇気がない男。

 そんな俺が生涯唯一人信じた男。

 英雄には、拍手喝さいが御似合いだ。

 

 

「認めよう、俺の負けだ!俺の宝と、未来をどうか守ってくれ。おまえならすべてを託せる」

 

『ああ、君が信じた私を信じろ。その先に、必ず未来がある!』

 

 

 辛気臭く死を迎える趣味は持たん。人は泣きながら生まれてくる以上、死は豪笑をもって閉じるべきだと決めている。もとより、これは祝福だろう。俺が何より愛したものが、この天下に存在すると証明されたわけなのだから。

 

 

「万歳、万歳、おおぉぉォッ、万歳ァィ!」

 

 

 そうして――――――

 とっくのとうに限界を超えていたアマカスの意識は、黄昏の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、英雄の物語。

 

 

 

 

 



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アマカスはヒーローを信じた

何となく全ての始まりの後日談的なものを書いてみた。正直センスはないと自分でも思った(小並感
評判が悪ければ消そうと思っています。










 一年前、世界を揺るがす大事件があった。

 "個性"という力が生み出す危険性とその在り方を考えさせられる大事件。

 男はヒーローに語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  "個性"という己だけの力。

 人類は思い知らされた。

 この力は、一個人が持つには過ぎた力だと。

 元々"無個性"だった人類は、"個性"と向き合わなければならない。

 安全装置など無いのだ。

 "個性"は、いとも容易く人を傷つける。

 自覚が足りないのだ。

 己は、隣人を、友人を、恋人を、家族を、己さえ傷つけてしまう"個性"に無頓着すぎる。

 力を持つという責任が欠落している。

 "個性"が初めて確認されてから世界は劇的に変わった。

 そこには、熱意があった。

 そこには、使命があった。

 そこには、力に対する責任が存在していた。

 

 

「そこには、未知への恐怖が確かにあった。だが、そう。それでも、彼らは決して止まろうとはしなかった。我々のような特異体質、おっと進化だったか?まあその辺はどうでもよい」

 

 

 嗚呼怖いだろう。進化する進むのは。

 嗚呼恐ろしいだろう。未知に挑むのは。 

 

 

「未来ある子供たちのために、"無個性"である大人たちは先へ繋がる道をつくったのだ。それは生半可なものではなかっただろうに」

 

 

 これを勇気と言わず何というのだ。

 

 

「今や"個性"は常識、己を表すステータスと言って過言ではない。だが、"個性"がまだ超能力などの超常現象に分類されていた頃はどうだ?神から祝福ギフトを承った幸せの子か?おおぉ、おおおおお!!なんと神の愛を感じられること、でしょうか。我が子は天使なのですと風潮でもするのか?見方を変えれば悪魔の子と何も変わらんというのに」

 

 

 増え続ける異形の子供たちを守ろうとした者がいた。魔女狩りなど時代遅れだが、希少な特殊能力を身に宿した子供を売りさばく商人がいた。

 

 

「今でこそ"個性"を持つものが上に立つ時代だが、昔はそれはそれは酷いものだ。未知に対する恐怖で罪のない子供の血が流れた。力の管理が今より不十分で、教育も確立していない時代は、身に宿す力に振り回され最初に両親を殺すといったケースも存在した」

 

 

 己だけが常に見えない拳銃を所持できる。それは脅威でしかないが、皆が平等に見えない拳銃を所持する社会ならどうだ?

 

 

「所持を許されていない平和な日本では分かりにくい感覚かもしれんが、アメリカでは拳銃は誰でも持てる便利アイテムだ。国民誰もが抑止力を持つ事で規律を敷いたのだ。アメリカ合衆国の信念は今も昔も一つ、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけ……素晴らしいぞ!」

 

 

 だが、現実はどうだ?英雄ヒーローと敵ヴィランと無力な一般市民の三つのカテゴリー。

 

 

「"個性"が当たり前このような世の中だからこそ、世の未来を憂いた無力な大人が劇場舞台を用意してやったのだ」

 

 

 好きなのだろ?英雄譚が。

 好きなのだろ?悪を倒す己が。

 好きなのだろ?正義と戦う己が。

 好きなのだろ?悲劇を演じ正義に助けられる己が。

 

 

「人とは不思議なものだ。予め用意されたキャラクター以外を決して演じようとはしない。ヒーローとは、ヴィランとは、無力な一般市民とは。かく言う俺も分かりやすいのは好きだし、否定もしない。これは好みの問題だ」

 

 

 悪を倒す、人間の光を浴びる正義の執行者。

 我が物顔で秩序を乱す、人間の闇を体現する忌むべき者。

 

 

「ようは何でもよいのだ。俺はただ人の素晴らしいところを滅ぼしたくないのだ」

 

 

 何故、守られる事に恥を覚えない。愛する女を正義の他人に助けられ何故、屈辱を感じない。男なら気概をみせろ。

 

 

「貴様らも"個性力"を持っているのだろ?皆が平等に見えないピストルを、輝きを秘めている」

 

 

 そう――――――

 

 

「願う真が胸にあるなら、ただその道をひた走れ。躓き、倒れ、泥をなめようが何度でも立ち上がるのだよ。なぜなら誰でも、あきらめなければいつかきっと夢はかなうと信じているから」

 

 

 だから――――――

 

 

「だから―――俺は魔王として君臨したい!」

 

 

 ビジネスでヒーローを目指すのではない。

 何となく、仕方なくでヴィランを目指すのではない。

 

 

「俺に抗い、立ち向かおうとする雄々しい者たち。その命が放つ輝きを未来永劫、愛していたい!慈しんで、尊びたいのだ。守り抜きたいと切に願う」

 

 

 欺瞞に満ちた世界などいらんだろ。カテゴリーにハマるのではない。真に己がヒーローと名乗るなら、その輝きを見せてくれ。

 

 

「俺に人の輝かしい勇気を見せてくれッ」

 

 

 

 

 

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 日本中に響き渡った彼の声が、人々の心を揺さぶった。

 世界中に轟いた魔王と英雄の戦いが、人々を動かした。

 魔王は確かな傷を人々に刻んだのだ。

 ヒーローは、オールマイトのような未来を導く英雄になりたいと強く願った。

 ヴィランは、アマカスのような在り方に胸を打たれた。

 一般市民は、ヒーローになったもの、ヴィランになったもの、今の道を強く生きると誓ったものがいた。

 世界中の人間が、その足を一歩踏み出した。

 人それぞれ、確かに別の道を歩み出したのだ。

 これから世界は、未知へ進んでいく。

 オールマイトが望んだ。人から人に繋がる希望に。

 アマカスが望んだ。人の強さ(ひかり)の輝きに。

 これから先、アマカスのような"個性"が魔王に希望を見出さないような社会を作る必要がある。

 誰もが、他者を信じられる世界をつくる必要がある。

 

 人を誰よりも愛しながら、誰も信じられなかった男。

 人を誰よりも信じながら、その背中を押し続けた男。

 

 誰もアマカスの全てを否定はできやしない。

 今を、未来の危機を、一人で憂い、一人で戦い、一人で納得した男を誰も否定できない。

 それは誰もが持ちうる人間性だからだ。

 アマカスは、その人間性がとびっきり規格外なのを除けば、何処にでもいる人間不信を懐いた臆病者だ。

 そんな、何処にでもいる人間だったのがアマカス。

 ただ、それをちゃんと理解している理解者はオールマイトしかいない。

 臆病者と真っ向から殴り合い、互いを制定し否定した馬鹿共。

 アマカスの本質に触れて理解したのは、どこまでも人を愛しながら信じられない男の唯一つの"真"。

 ヒーローに憧れる少年の様に、アマカスもまた英雄に憧れていた。

 ヒーローを信じる少年の様に、アマカスはオールマイトを唯一無二の"真"と信じた。

 オールマイトは、アマカスの気合と根性、思いの重さを誰よりも認めている。この先の人生、これほどの漢に出会うことはない。

 ゆえに、そんな漢に認められた事を誇りに思うし、そんな漢に託された未来を裏切らないと誓った。

 

 これは、そんな漢たちの出会いの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会いたかったぞ我が友よ」

 

『ん?やあおはよう!君はどちら様かな?』

 

 

 二人の初めての出会いは、どうってことのない日常の一ページから始まった。

 一月一日の年初め、オールマイトは富士山山頂で日の出を背に背負った軍服の漢に朝の挨拶を交わした。

 

 

「これは失敬。挨拶など基本中の基本。基本を怠れば人の底が見えるというもの。俺としたことが、緊張と嬉しさのあまり忘れていたよ。ゆえに、やり直すチャンスをくれないか?これでも乙女のような初心な心構えで挑んできたのだ」

 

『HAHAHAHA!君おもしろいね!いいよ、やりなおそうじゃないか!』

 

「心遣い感謝する。それでは改めさせてもらう」

 

 

 帽子を深く被り直し、軍刀を正面の地面に突き立て軍刀の茎尻に両手を被せる。俗にいうセイバー立ちだ。

 

 

「明けましておめでとう!そしておはよう!今年の始まりを飾るになんと素晴らしい日の出かァ!」

 

『明けましておめでとう!そしておはよう!ニュースじゃ雨マークだったから正直不安だったんだ!いや~晴れてよかった!』

 

 

「はははははははははははははははははははははははは!」

 

『HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!』

 

 

 富士山山頂で、二人の男が大笑いする。二人は初対面だが、第一印象で彼と気が合うと確信している。

 

 

「ああ、ありがとうオールマイト。俺は今、心の底から歓喜している。こうしておまえと出会えた運命に感謝さえしている。新しい年の始まりを飾るになんと素晴らしい!俺はまさに、今生まれ変わり、今から始まるのだ。ありがとうォォ!ありがとうォォォォオ!ありがとうォォォォォォォォォォオ!」

 

『よくわからないがお役に立てたのなら結構!けど、君ヒーローでもないのに刃物を所持するのはいただけないな!そういうのはよくないと思うぜッ!』

 

「御尤も。これを所持できる役職についていない俺は銃刀法違反でお縄だ。警察所までご同行かな?」

 

『そこまではしないさ!厳重注意にとどめておくさ!けど、次はないからね?』

 

「痛み入る。だが、その約束は承諾しかねる。俺は今日、俺という人生の答えを証明しに来たんだ。頼む。俺の人生に意味を与えてくれ!そのために俺はおまえに会いに来たのだから!」

 

 

 オールマイトの頬に冷や汗が流れた。彼の人生で、これほどの気迫を見せた漢を知らない。ゆえに、プロとして、ヒーローとして、この漢を導く必要がある。

  

 

「俺はおまえのような漢に聞きたいのだ。何故、ヒーローをしているのか。是非聞かせてくれ、おまえとは何だ?正義とは何だ?知りたいんだ。それを知らなければ、俺は何も始まらない!」

 

 

 この漢は天秤だ。ヒーローにもヴィランにもどちらにも傾く天秤。

 ヒーローになれば、オールマイトを超える"平和の象徴"になる。

 ヴィランになれば、――――――世界の敵になる。否、魔王になる。

 オールマイトはこの漢を導かなければならない。まだどちらにも傾かず、迷っている今だからこそまだ間に合う。だから、私は私の答えを述べよう。

 

 

『正義のための闘いなんてどこにもない。正義はある日突然反転する。ヒーローとヴィランは表裏一体なんだ。逆転しない正義は献身と愛だ。目の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人へ一片のパンを与えること。なにより利益や損得で助けるんじゃない。大切なのは(ソウル)!"考えるより先に体が動いていた"その(ソウル)こそが勇気!ヒーローとは、人を信じて人々の背中を押して正しい道に導くこと。私一人じゃ全員を助けることは不可能!でも、一人が十人を助けられれば、そうしたことが重なって、大勢の人が助かる!そうやって人は支えながら生きていくんだ!皆が人助け(正しいこと)をした日には、笑顔が世界中を埋め尽くす!!きれい事!?上等さ!!命を賭してきれい事実践するお仕事だ!!』

 

 

 ――――――ヒーローは、一人で頑張るんじゃない。希望を次の世代に繋ぐんだ。

 

 

『私は"平和の象徴(ヒーロー)"として、この背中に人々の希望を背負い、道に迷った人の道しるべになりたいんだ!!』

 

 

 ゆえに――――――

 

 

『私は君を知らない!!君の人生も考えも分からない!!けど、道に迷ってるなら私が正そう!!君の思いの強さがあればヒーローになれる!!これを踏まえて、自己紹介だ!!』

 

 

 胸を大きく張り、親指を自分に向けヒーロースマイルが眩しく輝くほど前歯を強調する。

 

 

『趣味は人助け!誕生日は6月10日!身長220cm!体重274kg!年齢は残念ながら企業秘密だ!そ・し・てェ!私がオールマイトだァァァァァア!!』

 

「ああ……」

 

 

 それは、あまりにも眩しかった。普段のこの漢を知るものが見ればそれは目を疑う光景。

 

 

「俺は正しかった……ッ」

 

 

 軍刀の茎尻を強く握る手と肩がプルプル震える。深く被った帽子のせいでよくは見えないが、水が流れ出る。勢いよく流れ出る。

 

 

「俺の心は決まった」

 

 

 オールマイトはミスを犯した。

 

 

「俺の名はアマカスッ!!」

 

 

 アマカスという異端児を自分たちと同じと考えてしまったところだ。

 ここは分岐点。取り返しの利かない運命の枝分かれ。

 オールマイトは、アマカスの思い描く理想の英雄すぎたのだ。

 

 

英雄(ヒーロー)に仇為す魔王(ヴィラン)になる漢の名だァッ!!」

 

『何故そうなる――――――!?今の話の流れで何でそうなるの!?ギャグだとしたらナンセンスだ!!今の流れは完璧に"俺もヒーローを目指す!!"だろッ!!?ほんっっっっっっとなんでよりにもよってヴィランなんだ!!……よし、一旦落ち着こう。私も冷静になるから君も勢いで言うんじゃなくてちゃんと考えて言うんだ。いいね?』

 

「俺は魔王(ヴィラン)として君臨したい!」

 

『そうじゃない!?そうじゃないんだ!?え、ちょっと待って。……なんでそうなるの?』

 

「俺は今確信した。ゆえ正さねばならん。おまえのような熱い漢がいる世界だ。ああ、人とはそうなのだ。……間違っていたのは俺ではなく世界の方だったのだ!!」

 

 

 人の話を聞かず一人納得するアマカス。君は決闘者か!

 

 

「目標を決めたからには準備が必要だ。これで『たいしたことなかったよ(笑)』と笑われては俺の沽券にかかわる。ゆえ失望させないと誓おう。俺は俺の全てをかけて全うする。願う真が胸にあるなら、ただその道をひた走れ。躓き、倒れ、泥をなめようが何度でも立ち上がるのだよ。なぜなら誰でも、あきらめなければいつかきっと夢はかなうと信じているから」

 

 

 言うだけ言ってマントを棚引かせ下山しようとするアマカス。

 

 

『チョチョチョチョチョチョーーーイッ!待ちたまえアマカス君!私のせいで一人の若者がヴィランに行くのは罪悪感が半端ないんだよ!考え直さない!?』

 

「俺は構わん」

 

『私が困る!ヴィランに行こうとする者をこの私が見逃すと思っているのかい?』

 

「熱い眼差しで睨まないでほしい。これでも我慢してるんだ。そう、自制している。これ以上誘惑すると流石の俺も我慢の限界だ。今日という素晴らしい日に色を飾るのも一興だが――――――どうする?」

 

『……』

 

 

 アマカスの目は本気だ。覚悟を決めた者の目だ。アマカスの言動一つ一つに熱意と覚悟が溢れ出し人の目を引き付ける。彼がもしその気なら真のスーパーヒーローとして活躍できる気概を感じる。ゆえに、オールマイトは彼の目を信じた。

 

 

『私は君の正しい心を信じる。次に会う時は共にヒーローとして手を合わせるのを期待しているよ!』

 

「ああ、オールマイト……おまえは本当に俺好みの漢だ。――――――また会おう!!」

 

 

 戦隊ヒーローよろしく、爆炎を発生させ高笑いしながら下山していく後姿に。

 

 

『まったく、とんだ正月になったもんだぜ』

 

 

 ヤレヤレと、今日であったアマカスの事を考えながら、彼が正しい選択を掴む人だと信じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空気が旨い」

 

 

 肺一杯に深呼吸し空気を循環させる。蛆の湧いた糞の匂いに満ちた空気が浄化されていく。

 

 

「身体が軽い」

 

 

 溜まりに溜まった不満と鬱憤、怒りが幸福に変換され放出されていく。

 

 

「素晴らしい!これが、絶望の消える感触というものかッ!」

 

 

 アマカスは文字通り、生まれ変わった。唯のアマカスとして生きていくのはもはや不可能。オールマイトの"真"に触れた今、己の"真"を見せなければ失礼にあたるだろう。

 

 

「未知は確かに恐ろしい……しかし、それでも俺は行動しよう。待っていてくれ俺の英雄……俺の答え(正しさ)を示そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、英雄と魔王の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 



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アマカスはヒーローを

なんで続いたし(白目
この話は、頭を空っぽして読むのをお勧めしますよ!!
これだけは、言っときます。アマカスは、何となくで自分の"個性"が何ができるのかを本能で理解しています!!それを踏まえたうえでどうぞ!!












 警察もヒーローの目も届かない闇の世界。ヴィランの闇組織の一つである町はずれの倉庫にその男は出向いていた。そして、単身乗り込めば囲まれるのは当然の事。

 

 

「おいおいニーちゃんよぉ!!ここが何処だかわかってんのか!!ああぁ!!?」

 

 

「大切なのは実年齢ではなく肉体年齢だと言う奴がいるが、これは間違ってはいない。真理だ。だが俺から言わせれば一つ足りない」

 

 

 行き成り何言ってんコイツ?余りに落ち着いた態度で会話が成り立たず逆に戸惑う闇組織の組員達。

 

 

「それは思いの強さ。それさえあれば"個性"の優劣など関係ない。そう、思いこそが力なのだ!」

 

 

 最初こそ馬鹿にしていた闇組織の組員達も、この男の空気(カリスマ)に呑まれ圧倒されている。

 この男とは文字通り格が違うと。

 

 

「この場のリーダーに話がある。通らせてもらうぞ」

 

 

 それを止められる者いない。否、止められない。この男の目に留まるとは死すら生ぬるいと本能が叫ぶからだ。

 彼らは、猛獣の背中が見えなくなるまで汗一つかくことが出来なかった。猛獣?そんなもんじゃない。あれは――――――魔王。

 

 

「この先か」

 

 

 この男を止められる者はいない。異常を察した闇組織の組員達は皆、圧倒的覇道を撒き散らす怪物に目をつけられないよう道端の小石になり切る。小石はただ踏まれ、蹴られる存在だが、この怪物の目に留まるのだけは絶対にあってはならない。

 

 

「待っていろ……オールフォーワン。オールマイトの対をなす表裏一体の益荒男」

 

 

 表社会では決してその素性を明かさないヴィランの実質的支配者。"悪の象徴"として君臨するオールフォーワンの居場所を突き止めたのだ。意外かもしれないが、アマカスと言う男は力だけではなく、情報収集能力も優れているのだ。だてに外の世界とシャットアウトした音信不通のヒッキー病人の居場所を見つけられるだけはあるぜ!

 

 

「やあ君は何者だい?僕はこの場所を決して誰にも悟られていないと自負している」

 

「こんにちはオールフォーワン。お初にお目にかかる。俺がおまえに会いに来たのは目標を達成するためだが、その前に一つ訂正しておく、別におまえに落ち度などない。この俺が特定するのに一ヶ月を要したのだ。こんな経験は初体験だ。覚悟を決めていざ実行しようとした最初の段階で躓いてしまいスタートダッシュを挫かれた。今までの人生やると決めれば即実行を心がけて終わらせてきた俺にとってこれほどの時間を費やしたのは初めてだった。……いや、そもそも覚悟を決めるのに二十年以上費やした時点で、俺はそこらの凡人と何ら変わらんのだろう。だから、嗚呼……だからこそ、この無駄にした二十年を取り戻すため、勇往邁進するのだ。この歪んだ腐り切った世界を真の楽園(ぱらいぞ)にするため俺はおまえに会いに来たのだ。手始めに、俺と友にならないか?」

 

「友だちかい?そうだね……うん、面白そうだね。楽しくなりそうだ。なら、名前の交換をするのが形式かな」

 

「そうだな。一方的に此方が名前やら何やらを知っていては真の友とはいえんな。俺の名はアマカス。己自身が脅威として魔王として君臨するために立ち上がった!そして、その先にある楽園(ぱらいぞ)を実現するため奮闘中だ」

 

「アマカスくんね。それで?僕に何を求めているの?」

 

「実はヴィラン側に来たは良いが伝手も足もない状態でな。オールフォーワンの手を借りられればなと思い推参したのだ。俺一人では試練の手が足りなくなる。まぁ"個性"を使えば時間さえあれば創造できるが――――――何事も順序と言うものがある。俺はそれを大切にしていきたいのだ」

 

 

 以外と脚本家なアマカスは早速オールフォーワンと意気投合し話題を広げていく。オールフォーワンはまだ知る由もないが、どれだけ順序と脚本を練ろうがついヤっちゃうのがアマカス。ある意味ヒーロー以上にオールフォーワンの頭を悩ませる存在になる協力者なのだ!

 

 

「つい盛り上がっちゃったね。ゆっくりできる居住先があるんだ。そこまでどうだい?」

 

「無論上がらせてもらう。友の家に呼ばれるのも上がるのも初めてなのだ」

 

「それは意外だね。クラスの中心にいる人気者をイメージしていたんだが」

 

「なに、どういつもこいつも俺の目から見て強い輝きを放つ夢見る者たちではあったが……如何せん、誰も俺にはついてこれなかったのだ。皆"個性"があり自意識が強い者たちであっただけに残念でならない」

 

「話を聞く限り君は人を試すのが好きなようだが、僕の事はいいのかい?」

 

「これでも人を見る目はあるつもりだ。おまえはオールマイトと同じだ。正確には、逆方向に同じだ。陰と陽。光と闇。例えは何でもいいが要するに対極だ。俺が認めたあの漢と同じ領域にいるのだ。見ただけで分かる」

 

 

 オールフォーワンとしては、不本意であるがそれは的を射ていると思う。互いが気に入らず嫌ってはいるが、表裏で似たような立場と対極な"個性"。宿命のライバルと言っても過言ではない。

 倉庫を抜け、街中を並んで歩く二人。和気藹々と人々が楽しそうにしている風景をアマカスは良い物だと思うと同時に悲しいと唇を噛み締める。

 

 

「アマカスくんのぱらいぞだったかな?この光景は君から見てどうなんだい?」

 

 

 アマカスはオールフォーワンの案内を無視しショッピングモールに歩を進める。そこには悲しみなどない。ふざけ合う友がいる。愛し合う家族がいる。大切に思える恋人がいる。この場所は、笑顔がいっぱい溢れている。一階、二階、三階、四階、すべてを回りその光景を目に焼き付ける。屋上まで出向くと街を一望できる端まで歩み寄る。そして、今日を生きる人々の姿を目に焼き付けた。

 

 

「平和そのものだ。幸福で幸せで喧嘩をしても次の日には仲直りで何があっても生活も生命も国とヒーローが保証してくれている真っ当な社会だ。目に見えない腐敗もあろうがそれはそれだ。汚職も悪事もいじめもようは"平和が造り出した腐敗だ"死ぬこともなく、誰かに傷つけられる心配もない。国が保証してくれるから、何をしようが死ぬことはまずないと今どきのヴィランには眩暈を覚える」

 

 

 アマカスはオールフォーワンに向き直る。その眼は燃えている。誰が何をしようが消えることのない不変の炎。

 

 

「肉親である父が言っていた。俺は生まれる時代を……そもそも生まれる世界を間違えたそうだ。成程、納得だ。思想も思いも情熱も"個性"も、俺は人とは違いすぎる。異常だよ。普通でも特別でもない。異常で異物、ホモ・サピエンスから新たに生まれたアマカスという血族。俺はその大願だ。人が猿から人に進化したように、俺は人から俺になった。そこで俺は考えに考え抜いた。間違っているのは世界ではなく、そもそも俺なのではないのかと」

 

 

 アマカスは町の一画を指さす。その直前上にヒーローがヴィランを倒し、周りの野次馬が拍手喝采を送っている。

 

 

「平和ボケもこの通り、目立ちたいとばかりにヒーローは"個性"を駆使しやられ役のヴィランは態々目立つように事件を起こす。それを上から見下ろし見物する民衆たち。嗚呼素晴らしい。平和が造り出した舞台劇だ。どいつもコイツも踊っている。俺も分かりやすい物語は好きだし単純なのは嫌いではない。だが、これはない」

 

 

 アマカスは拳を震わせ忽然に掲げる。

 

 

「俺は見たいのは紛い物の英雄譚などではない。真の勇気と気概を感じる英雄を見たいのだ」

 

 

 オールフォーワンに緊張が走る。これは――――――

 

 

「オールマイトに出会い。俺は人間なんだと確信した。ならば正しい人間が間違っている人間を正すのは問題あるまい?行き成り地球にやってきた宇宙人に此方のやり方に従って貰うと攻撃されればそれは納得できまい。そもそも生物としての価値観が違うのだからな。その点俺は、人間だ。俺こそが人だ。ならば証明せねばならん。俺が口だけではない男というのをな。オールフォーワン、俺を試してくれ。代わりにおまえは俺に強さ(ひかり)を見せろ」

 

 

 アマカスは体を捻り右拳を水平に後ろに引く。

 

 

「我も人、彼も人。故に対等、基本だろう。故、殴るぞ。だから殴り返せ」

 

 

 己が"個性"と身体能力を全力全開。一切の容赦なく殴り飛ばす。

 

 

「グッ!!」

 

 

 "個性"を発動させ怪我はないが、五百メートル吹き飛ばされたオールフォーワンは最早呆れるしかない。

 自分も対外捻くれた男だが、アマカスはそれ以上に真っ直ぐな漢だ。

 

 

「……そんな君だからこそ、その心を圧し折ってやりたい」

 

 

 アマカスの願いが、人の輝きの強さを見たいなら。

 オールフォーワンの願いは、人の輝きの強さが屈する様が見たい。

 自分の手で、自分の計画で、自分の思い通りに、輝き(ひかり)に影を落としたい。

 

 

「ワンフォーオールに連なる者以外に、こんなにも眩しいと思える者がいるとは……そうじゃない、そんなもんじゃない。君は、一人で完結している」

 

 

 金、水、木、火、土、別々の"個性"を組み合わせ陰陽師五行に見立てた力は、発動と同時に一帯を吹き飛ばした。その力を"集束の個性"で束ね放出。ここまでの動作を吹き飛ばされた時間を足せば約十秒ちょい。アマカスに向かって放てば五百メートルの間に被害が出るが、そんなことを気にする二人じゃない。だが、アマカスはもうその拳を振り上げ目前に迫ってきていた。

 

 

「はッ!!」

 

「ふん!!」

 

 

 陰陽師五行ビームの直撃に呑みこまれたアマカスは、ビームを喰らいながら一歩一歩足を踏みしめ殴りにかかる。咄嗟につくった空気ボムをアマカスにぶつける。無論、自分に衝撃波が来ないよう貫通力重視型。アマカスは常人なら土手っ腹に風穴があく威力を無防備にくらい、流石に軌道がずれる。攻撃を外したアマカスは、その"個性"の真価を発揮する。

 

 

「パンツァァァァファアウストォォォォオオオオオ!!」

 

 

 一瞬にして空間を埋め尽くす数十の火器の槍衾。そのすべてが己を巻き込みオールフォーワンに命中。しかし"自分の炭素を操る個性"で硬化し火力を無力化。この漢の戦い方もそうだが何より注目すべきはその"個性"。

 

 

「物質の創造!?身体能力はオールマイトクラス……これ程のものを一瞬で作り出せるのはそうはいない。まさか君も複数の個性を」

 

「否、断じて否だ。俺の"個性"は産まれてからたった一つ。俺だけのものだ。奪うなどと性に合わんことなどしないさ。何より俺自身が驚いている。俺は今日、生まれて初めて"個性"を使用した」

 

「なッ」

 

 

 それはつまり、初の"個性"発動でここまでの芸当を実現したと?成程、確かに生まれる世界を間違えている。云わば、この戦いは試運転だ。パイロキネシスのような"個性"があったとしよう。子供のころ初めて発動させたのがマッチにも劣る炎だったとしても大人になれば自分の身の丈ほどの炎を生み出すことも出来る。そう、アマカスにとっては無自覚かもしれないが、これはマッチだ。今出せるマッチ(全力)でしかない。

 

 

「アマカスくん……いや、アマカスと呼ばせてもらうよ。君の父君は危惧したんだね。その"心"と"個性"を。おそらくだが、父君の"個性"は"他人の個性を知る事が出来る個性"だったと推測できる」

 

「そうだ。だから使うなと教え込まれたし、人の何たるかを教わった。俺は人の儚さと弱さを叩き込まれた。だからかな、俺は他とは違うんだと早くから気づかされたよ。"無個性"のレッテルを張られながらも俺は、尊敬する父の言葉を片時も忘れなかった。だが、俺は俺だ。アマカスだ。教えを信じ、身につけ、その父の背中を追いかけようが俺は俺なんだ。俺は、オールマイトとの出会いに、父の教えは正しいが、また完璧な教えなどないのだと理解した。俺は人だ。オールフォーワンも人だ。オールマイトも人だ。なら、真にただせねばならん。こんなにも同じ人間がいるのだ。叩けばもっと出てくるだろう。そう、俺たちは何も特別なんかじゃない。無論、己の"個性"が結局何なのか今も分からないのは変わりないがな」

 

「……素晴らしい。君の思想はとてもいい。破滅的だ。――――――おっと、ヒーローが来たから退散させてもらうよ。住所はわたしておく、いつでも来たまえ」

 

「心遣い感謝する」

 

 

 爆炎に紛れこの場を離脱したオールフォーワン。アマカスは、今し方やってきたヒーローに向かい合った。

 

 

「吾輩は束縛系ヒーローシュピ虫である!このような街中で不埒な行い!天魔が見逃してもこのシュピ虫が許さないのである!」

 

 

 見た目は蜘蛛系"個性"のヒーローだが、面は三流悪党向きである束縛系ヒーローシュピ虫さん。彼は運が悪いことにアマカスと出会ってしまったことも含まれるがそれ以上に、人生初のハッスル時にヒーローがやってきたら我慢なんて出来るはずもないアマカスのターゲットになってしまったことだ!むしろ自分が満足するまで俺好みに調教するかもしれない!か・も・し・れ・な・い・!

 

 

「デビュー戦だ。おまえの輝きを見せろ。無論、俺もすべてをさらけ出そう」

 

「なーに頭の悪いことをほざいてやがるのですアナタ!そんな三流負けポジの戯言を吐いたからにはもう呑み込めませんよ?大人しく吾輩の人気の糧になるがいい!」

 

 

 蜘蛛の様に舞、蜘蛛の様に刺すを心がけているシュピ虫さん。キラキラエフェクトが付きそうな優雅な動きだが、絵面が気持ち悪い。未だにヒーローとしての人気が出ないのはこれが原因の気がするぞ!

 

 

「吾輩の糸の前にはヴィランなど無力。お縄に付きなさい!」

 

 

 あのアマカス相手に蜘蛛の糸を雁字搦めに縛り付けた!すごい!だてに万年No.10のヒーローは格も違うぞ!やったね!!

 

 

「!!ッほう、……これは」

 

「気づきましたか。そう!!脱出は最早不可能!!吾輩の糸からには何人たりとも抜け出すことなど不可能なのです!!あのオールマイトでさえこの糸を千切るのは不可能と心得なさい。何をしようが無駄なんですよ無駄ァ無駄ァ!!」

 

 

 アマカスまさかのピンチ!誰がここまでアマカスを追い込むと予想していただろうか!

 

 

「さあ、死になさい!」

 

 

 顔にも糸を巻き付け息の根を完璧に取りに来たシュピ虫さん。勿論殺さないが。

 

 

「素晴らしい。シュピ虫と言ったか?"個性"を十全に活かすその姿勢、嫌いではない。なら、これはどうかな。――――――フン!」

 

「はひ?」

 

 

 アマカスの体が高熱を発し炎が吹き荒れる。その衝撃と熱量で蜘蛛の糸を焼き尽くす。

 

 

「なななななななななななんですとぉーー!!」

 

 

 実力の違いを垣間見たシュピ虫はヒーローの職務を忘れ、一目散に逃げようとするが。

 

 

「待て、これからだろ。……体のほてりが治まらない。成程、これが暴走か」

 

 

 "個性"初使用の全力全開によって暴走状態に移行したアマカスの"個性"。誰にも止めることはできない炎はアマカスの情熱に応えるかのようにその勢いを増していく。

 

 

「俺はこの激情に身を任せる!なに、半径百メートルが吹き飛ぶ程度だ。ヒーローなんだろ?守って見せろ」

 

「ワワワ吾輩の"個性"は炎との相性が最悪なのですよぉぉお!!?」

 

 

 駆けつけてきた他のヒーローは民間人を逃がすため急いで避難誘導と抱えて被害範囲から逃れようとする。

 

 

「さあシュピ虫。俺を倒せば止まるぞ?どうした。来ないのか。なら、俺から行こう」

 

「来ないでくださいましぃぃぃぃいいいいいい!!!!!?」

 

 

 皆のために時間を稼ぐシュピ虫さん。他のヒーローも民間人も君の活躍は決して忘れないからね!

 

 

「では――――――行くぞ」

 

「いやあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 その日の犠牲者は直径で二百メートルも吹き飛ぶ大惨事にもかかわらず、シュピ虫さんの活躍もありなんとゼロ人!シュピ虫さんありがとう!シュピ虫さん本当にありがと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、これはアマカスのヴィランデビュー戦として後に、被害者が一人もいなかった唯一の事件として特集が組まれ。その被害者数をゼロ人と言う脅威な数字を叩きだしたシュピ虫さんはお茶の間のアイドルとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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