比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ (@まきにき)
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俺の奉仕部生活はこうして始まる。

注意ですがコードギアスで出てくるあの方とは何も関係ありません。



よければ感想や御指摘お待ちしてます。


青春とは嘘であり、悪である。

青春を謳歌せし者達は常に自己と周囲を欺き自らの環境の全てを肯定的に捉える。

彼等は青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念もねじ曲げてみせる、彼等にかかれば嘘も秘密も罪とがも失敗さえも青春のスパイスでしかないのだ。

仮に失敗することが青春の証であるのなら友達作りに失敗した人間もまた青春のど真ん中でなければおかしいではないか。しかし彼等はそれを認めないだろう。

全ては彼等の御都合主義でしかないのだ。

 

 

 

結論を言おう。

青春を楽しむ愚か者ども砕け散れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今授業の際に何故か再提出になった作文「高校生活を振り替えって」を持って職員室に来ている。

 

「砕け散るのは君の方だ。なあ?比企谷。私が授業で出した課題はなんだったかな?」

 

「はあ。高校生活を振り替えってというテーマの作文でしたが」

 

「それで何故君はこんな舐めた作文がかけるのかね?なんだこれ。どうしてこうなった?」

 

今俺を怒っているのは国語教師兼生活指導の平塚 静先生だ。

舐めた作文と言われたが別に俺は舐めて書いたわけではない、むしろ今までの経験を生かして真面目に書いたのだ。俺には右目で相手を見ると相手の心の中で思っている声が聞こえてしまうという訳のわからない能力を持ってしまっている。この能力はなりふり構わずに相手の心を読んでしまうため人間という生き物の内に隠している黒い物を俺は散々いままで見てきてしまっているのだ。

こんな内容になっても仕方がないだろう。因みに今現在俺は右目と左目にカラーコンタクトをすることによりこの能力を封じている。勿論カラーコンタクトを右目だけつけると片方ずつ目の色が変わってしまうという中二病的なことになり恥ずかしいので両目に付けている。俺の能力はどうやら赤い物を通して見ると弱まるので目の色は赤色になっている。

 

「はあ。でも人間なんて所詮は内に黒い物を持っているものじゃないですか、そんな内にあるものを隠して青春をしている奴を嘘と表しても間違いではないと思いますが」

 

「確かにそうだと私も思う。だがな比企谷嘘と本当は紙一重だ。時に大切な嘘というのもあると私は思うよ」

 

「そんな嘘、俺は知りません」

 

なんせ、生まれて初めて母親を見たとき俺は聞いてしまっている。いや目で聞いてしまったのだ。「女の子が良かったのに...」俺は今でもこの事を忘れることが出来ない。産んでくれた者に産まれたことを拒絶されたのだ。当然俺は母親と仲良くすることなんて出来るはずもなく、なかなかなつかない俺に両親は嫌気をさしたのだろう、いつの頃だったかあからさまに俺を避けるようになっていた。そして俺も右目で両親を見るのが...いや聞くのが怖くなっていた。

 

 

ポフン。

 

俺の頭には平塚先生の手が乗っていた。こういうところだ、人の心理を見抜くというか普段は暴力的でがさつなのに急に優しくなる、俺はこの先生を信頼していた。勿論右目のカラーコンタクトは外したことはない。いや外すことが出来ないのだ。これだけ信頼してしまっていてもし裏切られたらと思うと怖くて仕方がなかったから。

 

「落ち着いたかね?」

 

「・・・はい。ありがとうございます」

 

「そうだ。比企谷、ちょっと着いてきたまえ」

 

平塚先生に言われ着いていくと以前は何かの部活で使われていたのか、今では綺麗に並べられて後ろに整頓されていた。教室の真ん中にだけ置かれた、椅子と机。そしてその椅子に座る少女。友達を作らず人との接触を避けてきた、俺でも知っているこの学校の有名人がそこにいた。

 

 

「平塚先生。入るときはノックをお願いしたはずですが」

 

「君はノックをしても返事をした試しがないじゃないか」

 

「返事をするまもなく先生が入ってくるんですよ。それで、そのヌボーっとした人は?」

 

この少女は国際教養科J組。女子が9割りをしめる、そのクラスは偏差値が高く派手なクラスとして知られている。その中でも異彩を放っているのが雪ノ下雪乃。学内誰もが知る有名人だ。

 

「彼は入部希望者だ」

 

「え、えと2年F組比企谷八幡です...入部って何ですか?」

 

「君には舐めくさったレポートの罰としてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは一切認めない。と言うわけで彼はかなり根性が腐っていてな、そのせいで孤独な哀れむべきやつだ。この部で彼のひねくれた孤独体質を構成する。これが私の依頼だ」

 

「お断りします」

 

おお。なんと頼りになるまでの即答。俺もう帰っていいかな?いいよね?

 

「そこの男のその目の色...カラーコンタクトですよね?何故許しているんですか?」

 

「ああーこれはな...」

 

そう。この学園ではカラーコンタクトは禁止なのだ。勿論俺以外にもカラーコンタクトを付けているやつはいるだろう。だが赤は目立ちすぎている、隠す気が無いと思われても仕方がないだろう。だが俺の過去を少し変えて校長に頼みに行ったところ特別に許可がおりたのだ。だから俺は悪くない。

 

「別にお前には関係ないだろ?」

 

「いい度胸ね。依頼をしにきたのにそのものの良いよう」

 

「俺が頼みにきたわけじゃない」

 

「成る程。平塚先生が心配してる理由が少し分かった気がするわ」

 

「止めたまえ。君達、比企谷が何故カラーコンタクトを許されているか、それは中学の時に虐めにあっていたからだ」  

 

え?言っちゃうんですか?そこは教師として絶対に喋ってはいけないところではないですかね?例え嘘の話ですけど半分嘘じゃないからね?実際に見せる的なことになったらどうするの?

 

 

「虐めですか?」

 

「そうだ。比企谷、ちょうどいい。お前の目、雪ノ下にも見せてやってくれないか?」

 

「嫌です」

 

絶対に嫌だ。そんなことしたら聞きたくないことまでまた、聞いてしまうことになる。

 

「フンッ!!取れ」

 

「・・・はい」

 

平塚先生に俺は寸止めをされあまりの恐怖に頷いてしまった。

俺はカラーコンタクトを外しながら人前でこれ外すの2年ぶりだなとか考えながらカラーコンタクトを外した。

 

「こ、これは...予想以上に酷いわね」

 

人の目を見て第一声がこれである。訴えれば告訴出来るのではないだろうか。

それと同時に雪ノ下の心の声も入ってきた。

 

[ど、どうすればいいのかしら.....。想像以上だったわ、でも彼は嫌がっていたのだし謝罪をした方がいいのかしら...]

 

いままで何回も相手の心を聞いてきた俺だったがこんな風に俺のことを思ってくれる言葉を聞いたのは初めてだった。

 

「そ、想像以上に気持ち悪い目ね。そんな下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じるわ。早くコンタクトを付けなさい」

 

「フッ、そうですか」

 

「何を笑っているの?」

 

「いや。初対面でここまで非難されたのも初めてだったんでね」

 

「そ、それは」

 

「それで」

 

「え?」

 

「俺は入部してもいいのか?」

 

「ほう。どうした比企谷、まさかお前M」

 

「それはないです」

 

「・・・少し抵抗はありますが、先生からの頼みを無下には出来ませんし承りました」

 

「そうか。なら頼んだぞ、雪ノ下」

 

平塚先生はそのまま教室を出ていってしまった。女の子とろくに会話をしたことがない俺にはこの空気は重すぎるので動くことも出来ずその場に立ち尽くしていると、雪ノ下から「座ったら?」と言われたので椅子を1つ後ろから持ってくる。

 

「なあ」

 

「何?」

 

「ここって何部なんだ?」

 

「当ててみたら?」

 

ここで能力を使えば簡単に分かるが思っていることも分かってしまう...。俺は必死に周りを見渡して考える。

 

「文芸部だろ?」

 

「へえ。その心は」

 

「この部屋の中に特殊な環境、特別な機器が存在していない。加えてあんたは、ずっと本を読んでいる」

 

「はずれ」

 

「じゃあ何部なんだよ」

 

「今私がこうしていることが部活動よ」

 

「さっぱり分からん」

 

「比企谷君。女の子と話したのは何年ぶり?」

 

どうしよう。俺が避けているだけであって話しかけられたりするんだけど。告白も何回かあるけどあれは完全に俺を罰ゲームか何かにしてやっているんだろう。中学の時に告白してきたやつ、聞いたときまじで死ぬかと思ったわ。もう二度とあんな気持ちになるのはごめんだ。

 

「先日話したばかりだが」

 

「なら何故あなたはここにいるの?」

 

「だから、俺が知るわけないだろ」

 

「告白された経験は?」

 

「嘘なら40回を越えたくらいか」

 

「嘘なら?」

 

「ああ。まぁ中学の時にあったんだ、俺に罰ゲームとして告白するみたいなやつ」

 

俺は何でこんなこと、こいつに話しているんだ?

 

「そう...。そういうこと。これは思った以上に大変な依頼になりそうね」

 

「どういう意味だ?」

 

 

ガラッ。

 

平塚先生が教室に入ってきた。

 

「雪ノ下。邪魔するぞ」

 

「先生ノックを」

 

「悪い、悪い。どうやら比企谷の更正に手間取っているようだな」

 

「予想より大変な内容でしたので」

 

「ほう。そこまでは理解したのか」

 

「先生は知っていたんですか?」

 

「ああ。だからお前に任せたんだ」

 

「はぁ。まずは彼の性格から変えなければいけないかもしれませんね」

 

「俺は俺自身が変わったほうがいいとは思っていない」

 

「あなたは変わらないといずれ後悔するわよ」

 

「だけど変われだのそんなことお前等に言われる筋合いはないし。これは俺がいままで生きてきて身に付いた、謂わば経験だ。それを否定されるなんざごめんだ」

 

「それは只の逃げの言い訳よ」

 

「変わるってのも現状からの逃げだろ?何故今の自分を過去から得た今の自分を受け入れてやれないんだよ」

 

「それじゃあ、悩みは解決しないし。誰も救われないじゃない!」

 

「二人とも落ち着きたまえ。古来より互いの正義がぶつかった時は勝負で雌雄を決するのが少年漫画の習わしだ」

 

「何言ってるんですか?」

 

「つまりこの部でどちらが人に奉仕できるか勝負だ」

 

「強引すぎる...」

 

「勝ったほうが負けたほうに何でも命令出来る。というのはどうだ?」

 

 

何でもか。一生カラーコンタクト付けるなとかだったら俺の人生終わりなんですけどそのルール大丈夫ですか?

 

「お断りします。この男が相手だと身の危険を感じます」

 

何だろう。全くそういう方面を考えていなかったのにそういうことを言われると、むしろそういう方面じゃないといけないのかとも思ってくる。

 

「さしもの雪ノ下雪乃にも恐れるものがあったか。そんなに負けるのが怖いか?」

 

「いいでしょう。その安い挑発に乗るのは少しばかりシャクですが、その勝負受けてたちます」

 

「決まりだな」

 

俺の意志はないんですよね?そうですね。

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

放課後になり、俺はどこぞのサラリーマンのごとく奉仕部の前まで来ていた。勿論帰ろうとしたが平塚先生の鉄拳制裁に倒れ今ここにいるのだ。

 

 

「こんにちわ。もう来ないかと思ったわ。もしかしてマゾヒスト?」

 

別に俺は来たくて来たのではない。平塚先生に無理矢理来させられたのだ。

 

「違う」

 

「だったらストーカー?」

 

何なのこいつ?俺能力使ってこいつの心の声とか聞いてないよね?なんでこいつこんなに本来は心の中に隠しておいてある言葉を平然と言えるの?でも何故か隠れて言わないよりこうして言ってくる方が楽だと俺は思った。 

 

「俺は別にお前に好意とかないぞ?」

 

「あら?違うの?」

 

「違えよ。その自信過剰ぷりには流石の俺も引くぞ。俺のことよりさ、お前友達いんの?」 

 

「そうね。まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらってから」

 

「ああ。もういいわ、それ友達いないやつの台詞だわ。ソースは俺。お前人に好かれそうなくせに友達いないとかどういうことだよ」

 

「あなただってその性格直せば出来るでしょ?女の友達なら」

 

「いや何でだよ。男の友達すら出来てないのにおかしいだろ」

 

「ああでも、コンタクトは外しちゃダメよ。絶対に」

 

「おい。少し分かったことで尚更ムカつくんですが?」

 

「まぁいいじゃない。その程度なら」

 

「どういう意味だよ?」

 

「私って昔から可愛かったから。近付いてくる男子は大抵私に好意を寄せていたわ」

 

「人に好かれてるくせにボッチ名乗るとかボッチの風上にもおけねえな」

 

「本当に誰からも好かれるならそれも良かったかもしれないわね」

 

「どういう意味だ?」 

 

「小学校の頃。60回ほど上履きを隠されたことがあったのだけれど内50回は女子にやられたわ。おかげで私は毎日上履きとリコーダーを持って帰る羽目になったわ。はぁ....」

 

「大変だったんだな」

 

「ええ大変よ。私可愛いから。でも仕方ないと思うわ。人は皆完璧ではないから、弱くて醜くてすぐに嫉妬し蹴落とそうとする。不思議なことに優秀な人間ほど生きにくいのよ。そんなのおかしいじゃない。だから変えるのよ、人ごとこの世界を」

 

 

雪ノ下の話を聞いていて俺も共感することがあった。人は弱くて醜くい。そして嫉妬しすぐに蹴落とそうとする。俺はこの不思議な能力によっていままで経験するまえに分かって回避してきた。でも他の人にこんな能力はない。恐らく雪ノ下は、全てをぶつけられて生きてきたのだろう。辛く苦しい日々を誰からも助けられず誰にも頼ることは出来ず。そして誰も信用できなくなり...でもそれじゃあ、まるで雪ノ下は俺と、俺と同じなんじゃ....。

でも俺には人を変えるなんて思うほど余裕はなかった。諦めてしまったから、見離してしまったから、自分を守るために。

 

「が、頑張れよ」

 

不思議とその一言が出ていた。

 

「・・・驚いたわ。この話をしたのもあなたが初めてなのだけれど、応援されるとは思ってもいなかったから」

 

「別におかしいと思わないしな」

 

「そ、そう」

 

トントン。と部室の扉を叩く音がして最初の依頼者が来る。こうして俺の奉仕部としての初仕事が始まる。

 




由比ヶ浜は次回に回すことにしました。


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俺達の奉仕部はこうして始まった。

たくさんのお気に入りと評価、感想ありがとうございます。たくさんの人に読んでいただいてとても嬉しいです!




御感想、御指摘あればお願いします。


成り行きで奉仕部の一員になってしまった俺の初仕事の相手であろう人物が奉仕部の扉をノックして入ってきた。

 

「し、失礼しまーす....。平塚先生に言われて来たんですけど...な!何でヒッキーがここにいるの!?」

 

「いや俺ここの部員だし」

 

つうかヒッキーって俺のこと?その前にこいつ誰?こんな友達みたいなニックネームで呼ばれる関係のやつ俺にいたか?それに仮にいたとしてもこんないかにもトップカーストにいそうな友達なんて俺にはいない。

 

「2年F組由比ヶ浜さんよね。とにかく座って」

 

雪ノ下は由比ヶ浜の為に椅子を1つ後ろから持ってくる。ずいぶん俺とは態度が違うことだな、おい。

 

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

「全校生徒を覚えてるんじゃねえの?」

 

「いいえ。あなたの事なんて知らなかったもの」

 

「そうですか...」

 

そういえばそうでしたね。ええ、分かっていましたとも。

 

「気にすることないわ。あなたの存在から目を反らしたくなってしまう、私の心の弱さが悪いのよ」

 

「お前それ慰めてるつもりなの?」

 

「只の皮肉よ?」

 

「なんか...楽しそうな部活だね!」

 

この状況を見て楽しそうとかこの子頭の中大丈夫なの?俺がただ虐めを受けてるだけなんですが?

 

「それにヒッキーよく喋るよね?」

 

「は?」

 

「ああ、いやなんていうか!その、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。なんつうか...いつもは、もっとクールって言うかあんまし喋らないから」

 

そりゃな、女子ってものがどれ程怖いか俺は知っているからな。知ってるか?いつも楽しそうに友達と笑顔で話してるのに心の中では[こいつうぜー、てかあたしらと対等とか本当に思ってるの?まじ受けるんですけど]とか思ってるんだぜ?まじあの時はトラウマレベルでやばかった。

 

「別に俺の自由だろ?」

 

「で、でも!たまに見せるキョドりかたはキモいよ!」

 

何?今俺を何かからフォローしたつもりなの?友達いないという事を察して話を変えようとしたの?逆効果だって気づいてる?  

 

「このビッチが」

 

初対面の相手にビッチと言ったのは初めてだな。うん、でも何故か後悔はしていない。

 

「はぁ!?ビッチってなんだし!あたしは、まだしょ....う、うははは、な、何でもない!」

 

「別に恥ずかしいことではないでしょう?この年でバージン...「うううはぁは!」」

 

「ちょっと!なにいってるの!?高2でまだとか恥ずかしいよ!雪ノ下さん女子力足んないんじゃないの?」

 

「くだらない価値観ね」

 

「にしても女子力って単語がもうビッチ臭いよな」

 

「また言った!人をビッチ呼ばわりとかあり得ない!ヒッキーまじでき...キモい!」

 

「ビッチ呼ばわりと俺のキモさは関係ないだろ?つか一瞬なんで言うの躊躇ったんだ?」

 

「た、躊躇ったわけじゃないし!え、えと...そ、そう!溜めただけだし!」

 

何を溜めたんだよ...そしてお前は俺に向けて何を討つ気なんだよ。

 

「溜めて何を討つんだよ、ビッチ」

 

「こ、の!ほんとうざい!キモい!てかまじあり得ない!」

 

つうか今更だが雪ノ下程ではないがこいつも俺に対して普通表に出さない事まで言ってくるよな、いや俺が言い過ぎたのか?それに心の中ではどう思ってるかなんて分からないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、クッキー?」

 

「手作りクッキーを食べて欲しい人がいるのだそうよ。でも自信がないから手伝って欲しい、というのが彼女のお願い」

 

俺達は由比ヶ浜に料理作りを教えて欲しいと言われて家庭科室に移動してきた。俺は料理が出来ないので帰ろうとしたが、雪ノ下に「味見をするだけでいいからきなさい」と言われたので仕方なくここにいるわけだが。

 

「ふっ、そんなの友達に頼めよ」

 

「あ、そ、それは....あの、あんまり知られたくないし。こんなマジっぽい雰囲気友達とは合わないから」

 

いろいろ大変なんだなー友達。良かったー俺ボッチで。

 

「そうですか」

 

「それに平塚先生から聞いたんだけど、この部って生徒のお願い叶えてくれるんだよね?」

 

え?そうなの?何それ八幡そんなこと知らないんだけど?

 

「いいえ」

 

ほんとこいつ誰に対しても即答で否定するな。むしろ清々しいまである。

 

「奉仕部はあくまで手助けするだけ。飢えた人に魚を与えるのではなく、捕り方を教えて自立を促すの」

 

へえ。初めて奉仕部の活動方針を聞いたな。

 

「な、なんかすごいね」

 

「曲がってるわ。あなたエプロンもまともに着られないの?」

 

「ごめん、ありがとう」

 

まじ俺空気だわ。このまま帰ってもバレないんじゃないかってレベルで。このあとに俺は帰らなかったことを後悔する出来事が起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木炭。

由比ヶ浜が料理?を終えてクッキーを見て俺はそう思った。

 

「何故あれだけミスを重ねることが出来るのかしら?」

 

「ホムセンで売ってる木炭みたいになってんぞ。もはや毒味だ」

 

「どこが毒だし!」

 

・・・・・・。

「やっぱり毒かな?」

 

考えたが毒に至ったらしい。

 

「死なないかしら?」

 

材料的には死なない筈だが....死なないと言えないことがリアルで怖い。

 

「さて、どうすれば良くなるか考えましょう」

 

「由比ヶ浜が2度と料理をしないこと」

 

「それで解決しちゃうんだ!やっぱりあたし料理に向いてないのかな...才能ていうの....?そういうの無いし」

 

「解決方法は努力あるのみよ。由比ヶ浜さん、あなたさっき才能が無いって言ったわね?」

 

「え?あ、うん」

 

「その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能があるものを羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者の積み上げた努力を想像できないから成功出来ないのよ」

 

「で、でもさー最近皆やんないって言うし、こういうの合ってないんだよ」

 

「その周囲に合わせようとするの辞めてくれるかしら?酷く不愉快だわ。自分の不器用さ無様さ愚かしさの影印を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」

 

雪ノ下の性格から考えて恐らくだが努力をしていままで乗り越えてきたのだろう。だから由比ヶ浜が諦めて、その諦める要因を人のせいにしたことに雪ノ下が怒るのは俺にも何となくだが分かる。だが人間は皆完璧なわけじゃない、人は皆自分に甘い生き物だ。ズルをして先に進めるならズルをする、楽をして先に進めるなら楽をする。そういう生き物だ、そして俺もその一人だ。

確かにいままで頑張ってきたやつに対してそいつの頑張りを否定するような言い方は正直良くないと思う、だが完璧ではない人間に自分の理想を押し付けても何処かで壊れてしまう。だから俺はどちらも間違っていないと思うしどちらも正しいと思う。だが平塚先生が言っていた「大切な嘘」とはこの事なのだろう、矛盾しているが間違った本当の気持ちを言ってしまった溝はもう元に戻ることはないのだから。

 

「か、カッコいい」

 

「は?」

 

「は?」

 

俺と雪ノ下が初めてハモった瞬間だった。いや恐らくこれから先ないだろう。

 

「建前とか全然言わないんだ。なんてゆうか、そういうのカッコいい!」

 

俺は今まで見て聞いてきたことで人を信じられなくなっていたが由比ヶ浜の今の言葉が嘘であるとは思えなかった。普通ならあり得ないような言葉だが何故かそれだけは右目で聞かなくても分かってしまった。

 

「は、話聞いてたのかしら?結構キツイこと言ったつもりだけど」

 

「確かに言葉は酷かった。けど...でも本音って感じがするの。あたし人に合わせてばっかだったから、ごめん次はちゃんとやる!」

 

「正しいやり方教えてやれよ」

 

「ふぅ...1度御手本見せるから、その通りにやってみて」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木炭・・・では無くなった。まぁ初めてクッキー作りをして失敗してしまったくらいには良くなった。

 

「全然違う...」

 

雪ノ下が作ったケーキ屋さんで売っていてもおかしくない程のクッキーを見ながら由比ヶ浜が自分のクッキーと見比べて言っている。

 

「どう教えれば伝わるのかしら?」

 

このままじゃ終わるはずがない。というか1日で木炭だった物がクッキーになるはずがない。そこで俺は考えた。

 

「あのさ、何でお前ら旨いクッキー作ろうとしてんの?」

 

「はあ?」

 

「何が言いたいの?」

 

「10分後ここに来てください。俺が本当の手作りクッキーてやつを見せてやりますよ」

 

これで勝負は俺のターン。

 

 

 

 

 

ーーー10分後ーーー

 

由比ヶ浜と雪ノ下が戻ってきて俺はクッキーを二人の前においた。

 

「これが本当の手作りクッキーなの?」

 

「んっ、あんま美味しくない!」

 

「そっか。わりい捨てるわ」

 

「ま、待って!別に捨てなくても言うほど不味くないし!」

 

「まっ、お前が作ったクッキーなんだけどな」

 

「ふえ?」

 

「どう言うことかしら?」

 

「これは俺の友達の友達の話なんだが」

 

そうこれは俺がまだ小学生の時カラーコンタクトで右目の力を抑えられると知らなかった時の話。

 

「何かある度に話しかけてくる女子がいたそうだ。もうこれ絶対自分のこと好きだよ!と俺、じゃなくてそいつは思った。で、意を決して聞いてみることにしたんだ。好きなやつ教えてよ、イニシャルでいいから。でその返答がHだったんだ。だからそいつはこう言ったんだ。それって...俺のこと?そのあとのことは想像に任せるが翌日学校に来たときに黒板にでかでかと俺のキャラみたいなのをかかれて、吹き出しにそれって俺のこと?とかかれていた」

 

ああ、勿論言ったあとに聞こえたさ。なんて聞こえたかなんて言いたくもない。ただ時々今でも夢に出てくるとだけ行っておこう。

 

「ちょっと待って。あなたのその経験談から」

 

「ちょ、バカお前!俺の友達の友達だ!」

 

何?やっぱり雪ノ下も俺と同じ能力あるの?俺の考えてること読まれるとか...やばい死にたくなる。

 

「で、そこから何を導けば良いのかしら?」

 

「つまりあれだ、男ってのは単純なんだよ。話しかけられただけで勘違いするし、手作りクッキーてだけで喜ぶの。だから美味しくなくてもいいんだよ」

 

「美味しくない?う、うっさい!」

 

「まぁお前が頑張ったんだって姿勢が伝わりゃ男心も揺れるんじゃねえの?」

 

一般的にはな。心の声が聞こえてしまう俺は嬉しくはあっても揺れないだろうな...。そこまで俺は色々失っている。

 

「そう言うものかしら....」

 

「ヒッキーも揺れるの?」

 

「は?....あ、ああ。超揺れるね、てゆうかヒッキーて呼ぶな」

 

「で、どうするの、由比ヶ浜さん?」

 

「うん、あたし自分のやり方でやってみるよ。ありがとね、雪ノ下さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由比ヶ浜の依頼を終えてから1週間過ぎたが由比ヶ浜以外に奉仕部に来るやつは誰もいなかった。もう俺こなくても良いんじゃないの?ってレベル。てか来ても御互いに本読んで時間になったら解散だし、ハッキリ言って時間の無駄だ。だが俺は何故か足しげくこの場所に通ってしまっていた。

 

「本当に良かったのかしらね、先週の由比ヶ浜さんの依頼」

 

雪ノ下がいきなり俺に話しかけてきた。確かに俺もあれでよかったのか?という疑問はあるが、本人が納得した以上他人がこれ以上口を挟むことでもないだろうと思っていた。

 

「なんだよ急に」

 

「私は自分を高められるなら限界まで挑戦すべきだと思うの。それが最終的には由比ヶ浜さんのためになるんじゃないかと」

 

「努力は自分を裏切らない、夢を裏切ることはあるけどな」

 

「え?」

 

「努力しても夢が叶うとは限らない。むしろ叶わないことの方が多いだろ、でも頑張った事実がありゃ慰めにもなる」

 

「ただの自己満足よ。甘いのね気持ち悪い」

 

トントン。

 

1週間ぶりに奉仕部の扉がノックされて誰かが入ってきた。

 

「やっはろ~」

 

由比ヶ浜だった。よく分からない挨拶をしながら入ってきた。

 

「なにか?」

 

「え?なにあまり歓迎されてない?雪ノ下さん、あたしのこと嫌い?」

 

「別に嫌いじゃないわ、ちょっと苦手かしら」

 

「それ女子言葉じゃ同じことだからね!」

 

「で、何か用かしら?」

 

「あ、この間のお礼ってのクッキー作ってきたから」

 

「私あまり食欲が」

 

「いやーやってみると楽しいよね♪今度お弁当とか作っちゃおうかな~。あ!でさゆきのん!部室でお昼を一緒に食べようよ」

 

「いえ、私は1人で食べるのが好きだからそういうのはちょっと...それからゆきのんって気持ち悪いから「あ、でさゆきのん」」

 

「あたしも放課後とか暇だし部活手伝うね!」

 

 

相手の本当に思っていることを知らないから友達になれる、俺はそう思っていた。だが御互いが本音でぶつかってもこんな風に友達みたいになれるのかと俺は思った。だが俺にはまだ眩しくて自然と奉仕部から出ていっていた。

 

「ヒッキー?」

 

「ん?」

 

廊下で由比ヶ浜に呼ばれ俺が振り返るとクッキーを投げられた。なんとかキャッチしたクッキーは、まだ焦げた所もあったが何回も挑戦して失敗を繰り返したと分かるくらいに形になっていた。

 

「一応お礼の気持ち。ヒッキーも手伝ってくれたし」

 

由比ヶ浜は俺にクッキーを渡すと笑顔で奉仕部に戻っていった。

俺は由比ヶ浜から貰ったクッキーを食べるために学校の中庭に移動して袋のリボンを外してクッキーを出した。袋越しからも見えていたがやはりまだ黒くて美味しそうではないけれど俺にはどこのケーキ屋で売っているクッキーよりも美味しく見えた。

 

「うっ...あぐっ」

 

でもやっぱり味は苦くて美味しくはなかった。けど不味くもなかった。

 

 

 

 

 

 

 




御指摘で教えていただいたので活動報告のほうで書くことにします!


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こうして彼女と巡り会う。

皆様からの御指摘ありがとうございました。全て重く受け止めて今後にいかしていきたいと思います。


最初に書いておくのを忘れていたのでこれだけ。
「」は話している時の言葉で。

[]は比企谷が聞こえた相手の心の声です。


 

「あの...私と付き合ってください!」

 

 

 

なぜ俺が告白をされているのかというと少し前まで遡る。俺はいつも通り学校に登校してきて上履きに履き替えようと下駄箱を開けると1枚の手紙が入っていた。そう世に言うラブレターというやつだ。そこらの男子ならここで舞い上がって喜ぶところだろうが俺は違う。この告白は嘘だと決めつけていながらも指定した場所に向かってしまうのは心の底で期待してしまっているのかもしれない。

ただ、ラブレターの指定した場所が体育館裏なのは止めてもらいたい、リンチされるのかと思ってしまうので本気で止めてもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで今に至る。

 

 

見た目は大人しそうで、黒髪。毛先は良く手入れされており長髪だとだというのに全然毛先が傷んでいない。その黒髪を左右で分けて結んでツインテールにしている、なんとも可愛い女の子だった。だが俺はこの女の子のことは全くといっていいほど知らなかった。今まで高校に入って13回ほど告白(仮)をされたが流石に1度や2度見覚えがあった。でも今回の相手は名前はともかく見たことすらなかったのだ、いっその事コンタクトを外して心の声を聞いてやろうかとも思ったが無闇に傷つくのも嫌なので辞めておく。

女の子があまりに返答の遅い俺に痺れを切らしたのか恐る恐る顔をあげてくる。

 

「あ、ああ。悪い、その君は誰でしたっけ?」

 

もし、可能性の話だが会ったことがあったとしたら気まずくなるので忘れてたくらいですむように濁して聞くことにした。

 

「あ、そうですよね...すいません急に。私の名前は神埼彩月って言います。えと、今年総武高に入学して1年生です」

 

女の子は慌てて自己紹介をしだした。なんだろう...。うしろに友達がいて、この子に罰ゲームをさせてるのだとしたらリアクションがおかしすぎる。これじゃまるで本当に告白をしに来ているみたいじゃないか、てか入学したばかりって後輩って事だよな....それゃ知らないはずだ。

 

「あ、ああそうなんだ...。えとたぶん話すのは初めて...だよね?」

 

「は、はい!ずっと話してみたいと思ってたんです!」

 

えーなにこの子。というかどうしようこれ...本気ぽい。俺はこの時妹である小町に言われている事を思い出した。「もしお兄ちゃんに告白してきた人がいたらコンタクト外してね♪小町的にはコンタクトしてないお兄ちゃんを好きな人じゃないと許せないから♪あっ!今の小町的にポイント高い♪」

これは余談だが小町は唯一俺の右目の能力について知っている。何故バレたのかと言うとそれはまた別の機会で話すことにする。

 

「そ、それじゃあさ」

 

「は、はい!」

 

「俺、実は目にカラーコンタクトしてるんだ、これ外して目を見てから決めてくれる?」

 

「え?そうなんですか!?・・・分かりました!ドンとこいです!」

 

あーほんとにドンとくるからね?俺はあんまり分からないけど妹から目が腐ってるとか言われるほどだからね?

 

 

 

・・・さてと。

 

 

 

俺は意を決してカラーコンタクトを両方外す、そして聞いた...いや聞こえてきた。

 

[嘘....まるで別人じゃない。嫌、こんなの...嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌]

 

嫌までは許容出来るがこれは無理だ、まじで死にたくなる。てかほんとに殺されそうというかこの子は、あれだ俗にいう危ない子だ。

 

[で、でも...目さえ潰せばカッコいいんだし...]

 

俺は嫌な予感がし額から汗が伝い落ちる。俺は見るよりも先に行動していた。ただしゃがんだだけだが、相手がなにもしてこなければ今すぐ帰って悶えたい所だが俺の目を見て先程まで茫然と立っていた女の子はいつの間にか右手をチョキの形にして俺の目が先程まであった位置につき出されていた。俺はコンタクトを付けるのも忘れて一目散に教室に向かうのだった。

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

授業開始の合図の鐘が鳴り響き日直が挨拶をする。「起立!」そのあとが中々聞こえてこない。何故だあとは礼と言って授業が始まるだけではないか。そんなことを考えていると俺の目の前に誰かがいるような気配がした。そして俺の頭にいきなり痛みが襲う、俺はその痛みで机から顔をあげて...そう机から顔を、今気づいた、後輩から謎の告白(目を潰されそうになった)から逃げ出してコンタクトを落とした事に気づき周りを極力見ないように顔を机に伏せていたらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 

 

「比企谷ー私の授業で寝るとはいい度胸だな?」

 

俺はなるべく平塚先生を見ないように横目で顔をあげる。...平塚先生の脅迫じみた言葉に自然と体が震えるが体制はそのままで何とか口を開く。

 

「こ、これには深い事情がありまして...」

 

「ほう?どんな事情だ、言ってみろ?」

 

目で見た人の心が聞こえてしまうので目を伏せてるんです...なんて言えるはずがない。

 

「・・・ぐ、具合が悪いです」

 

誰でも1度は使ったことがあるだろう。教師に言って一番効くのはこの言葉だ。教師というのは職業柄生徒に何かあった場合一番最初に責任を取られるのはその時の担当の教師だ。だから具合が悪いと言えば何とかなるのが世の常だ。

 

「ほう。問題ない、すぐに顔をこちらに向けて教科書を開け」

 

この人ほんとに教師か?と疑念しか浮かんでこないが今更感が否めないので諦めて顔を向けることにする。

 

「ひ、比企谷...本当に具合が悪かったんだな。すまない保健室に行って休むか?」

 

納得がいかない。俺の目を見て判断しやがったこいつ、しかも心で思ってることも一緒ってことが尚更納得出来ない...。てかあなたは俺の目にカラーコンタクトしてるの知ってましたよね?だが今は堪えて保健室に行くことにした。

 

保健室に入ると保健の先生に「何故こんな目になるまで我慢してたの!?早く病院に行ってみてもらうわよ!」とか言われたときは突っ込む気も失せて保健室のベッドの上で眠ることにした。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

 

俺はチャイムの音で目を覚ました。近くにある時計を見ると丁度4時限目が終わりお昼になった時間だった。少しお腹が空いたなと思いつつもここで保健室を出てしまえば午後は授業に出なければいけなくなると思い鳴り止まないお腹を押さえながら布団を深く被って無理矢理眠ろうとする。だがお腹が空いているときは人は寝付くことが難しいようで虚しい腹の虫だけが静かな保健室で俺の耳に響いていた。

これからどうしようかと考えていると保健室に誰か入ってきた。

 

「失礼しまーす」

 

「失礼します」

 

二人の女の子の声だった。俺はこの声の人物を知っていた。

俺のベッドの周りにある、カーテンが少しだけ開かれて由比ヶ浜が覗いていた。

 

「あ!ヒッキー、やっはろ~」

 

「お、おう、由比ヶ浜どうしたんだ?」

 

俺はこの時忘れていた。コンタクトをつけていないことを。気付いた時には既に由比ヶ浜の声は聞こえたあとだった。

 

[ヒッキー、思ったより元気そうで良かった。これなら午後の授業には出られるかな?部活は出てくれるのかな?でも体調悪いなら部活はやめた方がいいのかな...]

 

由比ヶ浜の心の声は俺の体のことを心配してくれていた、とても嬉しかったが同時に何か言われるのではないかと少しでも思っていた自分に自己嫌悪を抱いていた。

 

「あら、思った以上に良さそうね。サボり谷君」

 

「何その変な名前は誰だよ。というか雪ノ下もきてくれたのか?」

 

「私は由比ヶ浜さんにお願いされたからきただけよ」

 

「そうですか」

 

[この状態なら心配はいらなさそうだけれど、今日は部活を休みにした方が良さそうね]

 

雪ノ下は言っていることはいつもと同じく皮肉だが、心の中では由比ヶ浜と同じく俺のことを心配してくれていたことが嬉しくて自然と口が緩む。

 

「何を笑っているのかしら?気持ち悪いわよ?」

 

「ヒッキー...その笑い方は流石にキモいよ?」

 

こいつらは少しオブラートに包むってことを覚えた方がいいと思う。

 

ぐー。

俺の忘れかけていた腹の虫が二人の心の声を聞いて安心したせいか再び鳴り出した。それもいままで溜めていたせいか、かなり大きな音で鳴り出した。俺はこの場で布団に潜り込み悶えたかったがそんなことも出来ずに二人から視線を逸らす。

 

「クス。やっぱりヒッキーお腹すいてたんだね、はい!ヒッキー」

 

「・・・ん?」

 

俺は恥ずかしくなって逸らした目線を由比ヶ浜に戻すとお弁当を手渡された。

 

「え、ええと...これは?」

 

「由比ヶ浜さんが、あなたがお腹すいてると思うからって聞かなくて仕方ないから持ってきたのよ」

 

[言ってくれれば私も何か用意したのだけれど....]

 

「その自分は違うですよ、アピール要らないから....ぷっ」

 

雪ノ下のあまりに思っていることと言っていることに違いがありすぎて思わず吹き出して笑ってしまう。

 

「その反応は少し気に入らないのだけれど...」

 

「そんなことより、この弁当大丈夫か?由比ヶ浜が作ったんだろ?」

 

「な!だ、大丈夫だし!」

 

[あたしが作ろうとしたけど失敗しちゃって結局ママに作ってもらったやつだしね...]

 

「そうか。なら安心だな」

 

「え?」

 

「あ、いや何でもない」

 

やばい。心の声に反応しちまった...。

 

[今ヒッキー、私が思っていたことに反応したような...気のせいだよね?]

 

「それより、比企谷君?今日は奉仕部休みにしようと思うのだけれどどうかしら?」

 

「いいのか俺なんかのために」

 

「別にあなたのためじゃないわ」

 

[部活がないって言わないと、無理にでも来そうだものね]

 

ほんと、思っていることと言ってることが全くといっていいほど噛み合ってないな...。でも普通隠す方逆なんだけどな。

 

「それじゃあ、ヒッキーお大事にね!」

 

「比企谷君、それじゃあ」

 

由比ヶ浜と雪ノ下が保健室から立ち去ったあと俺は由比ヶ浜からもらったお弁当を食べ始めた。量はそんなに入っていないが栄養バランスがとても良く1つ1つのオカズが冷凍食品ではなくしっかりと作られており、由比ヶ浜のお母さんの料理の腕の高さを堪能しつつ、それを遺伝出来なかった。由比ヶ浜に静かに合掌したあと俺はもう一度布団に潜り込み眠るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

俺は、新しく購入したカラーコンタクトを付けて授業を乗りきり、放課後になったので奉仕部に向かった。

 

 

「あら。こんにちは、もう体調はいいのかしら?」

 

奉仕部に入ると雪ノ下は既に来ており、それなりに心配してくれていたのだろう。俺の体調を聞いてくる。

 

「ああ。お陰様でな」 

 

「私は特に何もしていないのだけれど」

 

確かにそうだった。でも元々体調が悪かった訳でもないので上手い言い訳も出てこないので俺は後ろから椅子を1つ持ってきて座る。

 

ガラッと勢い良く奉仕部の扉が開いて由比ヶ浜が入ってきた。

 

「やっはろー♪ヒッキー、ゆきのん!」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

「ああ」

 

「あれ?なんか二人ともテンション低くない?」

 

「いや、いつもこんな感じだろ?元々俺は話すのが好きじゃないんだよ」

 

「私もあまり好きではないわね」

 

「ええーそんなぁー!せっかく3人いるんだしなんかしようよ!」

 

由比ヶ浜がいつも通り騒がしくしているとコンコン....と奉仕部の扉を叩く音がした。

 

「失礼しま~す♪あっ!見つけました!」

 

「あれ?いろはちゃん?」

 

「あー!結衣先輩~♪」

 

「やっはろー、どうしたの?」

 

「実は~」

 

なんだろうものすごく嫌な予感がしたので自然と右目のコンタクトを外していた。

 

「そこに座っている先輩に用があって来ました~♪」

 

[新しいオモチャ発見♪]

 

俺は嫌な予感しかしないと思い溜め息を吐いてコンタクトを右目に戻すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いろはす登場しました。何故来たのかは次回に回すことにしました。


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親友

遅くなってしまって本当にすいません...いや忙しくてですね...いや本当に忙しくてですね...。忙しかったんですよぉ...


少し荒っぽい表現や嫌な思いをする表現が含まれるのでダメな方はバックをお願いします。


危ない子という言葉がこれでもかと似合う女の子から告白?をされた次の日の放課後に奉仕部に二人の女の子が訪ねてきた。

 

「結衣先輩がここにいるなんて意外でしたよ~」 

 

「あはは、ちょっと色々あってね、でもいろはちゃん今日はどしたん?」

 

「実は友達から頼まれちゃってある人を探してほしくて来たんですよ」

 

「その友達って?」

 

「一緒に来てるんで紹介しますね」

 

そう言って一色という女の子の後ろにいた女の子を掴んで俺達の前に引っ張ってきた。俺はその時、戦慄という言葉が似合うほど寒気を体全体で感じていた。

 

「あ、あの……神埼彩月って言います。ヨロシクお願いします」

 

その女の子は礼儀正しく挨拶をして頭をペコっと下げた。由比ヶ浜は「可愛い!」と叫んでいるが俺の心中はそれどころではなかった。

 

「な、なんで……」

 

俺は独り言のように小さく呟いていた。それもそのはず神埼彩月という少女を俺は知っているからだ。静かに付けたカラーコンタクトを片方だけ外して神埼彩月を見た。

 

「ヒッキー?」

 

「比企谷君?」

 

俺が取り乱しているのを見て由比ヶ浜と雪ノ下が声をかけてくれているがそんなものは耳に入ってこなかった。

 

[あ、見ぃつけた★]

 

俺には神埼彩月の心の声しか聞こえていなかった。

俺が放心状態に陥っていると雪ノ下が「取り合えず話を聞くので座ったら」と促して二人とも俺達に向かい合うように席についた。

 

 

「それでどんな依頼で来たのかしら?」

 

 

「それがですね~さっちゃんが人を探して欲しいって私に頼んで来たんですけど中々見つからなくて~それで頼みに来たんですよ~」

 

俺は一色の人を探してと聞いた瞬間に心臓が飛び出しそうになるくらいに心臓の音が速くなるのを感じていた。徐々に呼吸がしずらくなっていき、目線も自然と下にさがってしまう。

 

「で、でもねいろはちゃん……」

 

神埼彩月の声がして俺の体が大袈裟に反応する。額には変な汗をかき拳を握る力は少しずつ強くなっていく。

 

「実はその人見つかったの」

 

静寂。一瞬だっただろう。すぐに一色が「ええ!そうなの!?じゃあ私が来た意味は!?」みたいなことを言っていたからとても一瞬のことだったのだろう。でも俺にはとても長く感じていた。ここにいたくないという不快感に襲われて今すぐにでもここを飛び出して家に帰りたかったが足が固まってしまって動くことも出来ない。

 

「はぁ、それでは依頼は終わっていると思うのだけれど……何故きたのかしら?」

 

雪ノ下の疑問は至極当然と言えるだろう。だが俺は探している人物を知っているだけに雪ノ下に対しての返事も予想できる。そしてそれは俺が一番聞きたくない言葉でもあった。

 

「私は、そこに座っている先輩を探してたんです」

 

「え?ヒッキーを探してたってこと?」

 

「はい、昨日少し失礼なことをしてしまったので謝りたくて……」

 

さて昨日のあれは少し失礼な事で済ませてもいい事なのだろうか?俺の目をなんの躊躇も躊躇いもなく指で刺そうとしてきた事が少し失礼な事で済むのなら警察は要らない気がするというものだ。

 

「あ、あの比企谷先輩……」

 

神埼彩月は俺の名前を呼ぶ。俺は先程からずっと顔を伏せているので、こちらに顔を向けて欲しいという意味が含まれているのだろう、そして謝罪をしてくるのだろう。だが断る!

正直怖くて顔を見れる状態じゃない。

 

「ひ、ヒッキー……何があったか知らないけどさ、謝ろうとしているみたいだし許してあげたら?」

 

由比ヶ浜は優しいな、だが今回は無理だ。何故って俺の全神経が警告の鈴を鳴らしているのだ。

 

「比企谷君、顔をあげなさい」

 

Oh……。命令ですか、俺の味方はここにはいないのん?うん、ここ以外にも何処にもいないね!まじ泣きたくなってきたわ……。

 

「…………はい」

 

「てゆうか先輩、普通さっちゃんみたいに可愛い子からこんなこと言われたら嬉しいと思うんですけど?」

 

いや、全然嬉しくないし。むしろ公開処刑されている気分ですらある。

 

「いえ、皆さん本当に私がいけなかったことなので……比企谷先輩本当にすいませんでした」

 

俺は今神埼彩月という女の子が頭をこちらに下げている姿を見ながら謝罪を聞いているという風に周りには見えているだろう。だがそれは大きく異なっていた。

 

[ふふふ、あの目……目目目目目目目目目目目目目この前は嫌だったけどなんかいいかも]

 

「…………」

 

俺は無言でその姿を見ていることしか出来なかった。

神埼彩月がしばらくして頭を上げてきたことで俺と目が合うとにこっと笑った。

 

「あ、ああ……」

 

俺はなんとか声を振り絞った。俺がそれ以上何も言わずに空気がおかしくなりそうになると由比ヶ浜が「そ、それじゃあ!これで仲直りしたってことで!!」と言ってその場の空気を変えてくれた、流石トップカーストだけはあると思いながら由比ヶ浜に感謝して椅子に座り直した。

 

 

「それでさっきから気になっていたんですけど、先輩何で右と左目で目の色が違うんですか?」

 

出来るだけ話しかけて欲しくなかった俺は少し間をあけたが由比ヶ浜が「それはねー」と全部話してしまいそうだったので由比ヶ浜を制止して俺が言葉を続けた。

 

「俺はオッドアイなんだ」

 

「へぇ~」

 

特に知りたかったわけでも無かったようで空返事が返ってきた。

そのあとに一色から「それじゃあそろそろ私達は帰りますね~」という言葉を言った後帰っていった。

 

「……気に入らないわね」

 

雪ノ下が不意に呟いた、そのひとことは俺の今考えている事と少し似ている気がした。

 

「え?ゆきのん、どうしたの?」

 

「あの神埼彩月さんって人、彼に何をしたのか分からないけれど、あの目は反省している人の目じゃないわ」

 

俺は少なからず驚愕した。雪ノ下は俺と同じような力はない。俺だってこんな変な力が無ければ彼女の違和感に気付けないと思うしそれだけ彼女の演技は迫真なものだった。

それに俺は最後神埼彩月から信じられない事を聞いてしまっている。

 

「雪ノ下の言うことには俺も賛成だ」

 

「何か思うところがあるのかしら?」

 

「ああ。それよりも少し気になることがあってなこれから少し行かなきゃならない、だから話は明日でもいいか?」

 

「……ええ。構わないわ」

 

雪ノ下は俺の目を見ると1度何かを考えるように目を閉じて、肯定した。

 

「ええ!私何も分からないんだけど!?それにどこか行くなら私も一緒に「それは駄目だ!」」

 

俺の怒声にも似た声で由比ヶ浜が少したじろぐが今回は譲れない。あんな言葉を聞いてしまったからには誰も連れていくわけにはいかない。

 

「すまない、大きな声を出して。それも明日説明するから待っててくれないか?」

 

「……分かった。でも絶対だかんね!」

 

由比ヶ浜は、涙目からなんとか笑った顔を見せてくれた。心の中で感謝しながら俺は急いで奉仕部から出た。

 

 

 

 

 

 

[やっぱりいろはちゃんは邪魔かな♪]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今ひたすらに走っていた。自転車通学で自転車があることも忘れて一色達を追いかけていた。

 

「はっ、はっ、はっ、確かこれからゲームセンターに寄ってくって言ってたな」

 

勿論言っていたのを聞いたのではなく、心の声を聞いたのだが、ここら辺でゲームセンターがあるとすれば駅前に1つしかない。

ようやくゲームセンターが見えてくると一色達が丁度ゲームセンターに入っていくところだった。俺は安堵してその場で立ち止まり深呼吸をして息を整える。普段の運動不足がたたったのか息は切れ切れで肺には酸素が足りていないのか若干、喘息にも似た感覚に陥るがそれもしばらくすると良くなり落ち着いたところでゲームセンターに入って一色達を探すことにした。

 

 

ゲームセンターに入って探しているうちにこれが初めてのゲームセンターデビューだなと少し悲しくなったが、その後も見つからないように探しているとプリクラから出てくる、二人の姿を発見した。

 

 

[さっちゃん、何か様子がいつもと違うけどどうしたのかな?]

 

[はぁ~いろはちゃん、ほんとに邪魔だなぁ~もうこうなったらーーーーーでもいいかな]

 

 

俺は二人の心を聞いて、いや神埼彩月という女の子の心を聞いて言葉を失った。それと同時にこれからどうすればいいのか震える足を必死に止めて見つからないように物陰からコッソリ尾行することにした。

それから別段特に何もせずに二人はゲームセンターから出て一緒に歩いている。

 

[やっぱり、今日ーーーちゃうか~、はは楽しみ♪]

 

ここまで息が詰まりそうになる心の声を聞いたのは初めてだと思いながらも必死で帰りたいという衝動と闘いながら尾行を続けた。

 

二人を尾行して小1時間が経って周りも大分薄暗くなってきた時急に何もない路地裏で神埼彩月が立ち止まった。

 

[ここどこだろ?さっちゃん本当に今日はどうしちゃったのかな?]

 

俺は心の中で一色にバカ野郎と叫んでいたがそんな叫びが聞こえるはずもなく一色はただ神埼彩月の隣で「どうしたの?」と立ち止まっていた。

 

[さーて、始めよっか♪]

 

神埼彩月は懐から果物ナイフを取り出して一色に向けた。

一色は訳がわからないといった様子で「え?え?」とただ少しずつ後ろに後ずさっていた。

 

「私ね~貴女のこと前から嫌いだったの」

 

酷く感情が抜けている言い方だと思った、まるで人間に話しかけているようではなくもう死者に話しかけているような言い方だった。

 

「さ、さっちゃん?」

 

「くすっ……その呼び方やめてくれない?ほんとに耳障り」 

 

そう言って神埼彩月はナイフを構えて少しずつ一色に近付いていく。

 

「な、何でこんなこと……」

 

「えー?なんで?分からないの?」

 

「…………」

 

一色は無言だった。

 

「わかるわけないよねー?男子に良い格好ばっかりして女の子とは仲良くしないでさー、まぁそれならそれで良かったんだよ、誰とも仲良くしないならさーなのに……」

 

神埼彩月の手は震えていた。怒りで我慢出来ないと言った風に。

 

「なんで、私と仲良くしたの?」

 

「…………え」

 

今日会った一色からは考えられないほど弱々しい声だった。

 

「まっ、そんなのはいいや。私が陰でどれだけ虐めに合っていたか知ってる?」

 

「…………」

 

一色はまた無言だった。

 

「知らないよね、知ってるはずがないよね?そう、だって貴女にとって私なんてその程度の価値でしかないんだから、それに私と仲良くしてから貴女に対する被害って減ったって思わなかった?」

 

一色はその場で俯いてもう下がることもしなくなった。

 

「やっぱり…………もう……死んで」

 

一色はその言葉を聞くと涙でグシャグシャになった顔をあげてーーー。

 

 

[ごめんねーーーー]

 

俺は一色の最後の言葉を聞いて思わず走り出していた。そして神埼彩月により振り上げられたナイフが一色に降り下げようとした瞬間に神埼彩月に後ろからおもいっきりぶつかり神埼彩月を突き飛ばした。

 

「きゃっ、な、何?」

 

神埼彩月はいきなりの事で混乱しているようだったが、俺は果物ナイフを拾い神埼彩月を見た。

 

[な、何でここに……いやそんなことよりも見られたんだ、はは……全ておしまいじゃん]

 

「あ、あのさ……まだ終わってねえよ」

 

「!?」

 

神埼彩月は、心底驚いたような表情になり俺を見てくる。

 

「お前がやったこと、許せるなんて言えない。でも一色は恐らく心の底から反省して謝ってる。だからお前がもうこんなことしないって言うなら大事にしなくていいと俺は思う」

 

一色は腰が抜けたのかその場にへたりこんでいたが、今はそっちまで見ている暇はない。

 

「なん……で?」

 

[何でそこまでしてくれるの?]

 

なんでか……それはたぶん俺自身、神埼彩月の気持ちを理解出来てしまうからだろう。理解は出来ても今回のことは納得出来ないし肯定出来ないでも、同じような事を思ったことがあるから手を差し伸べてしまうんだろう。

 

「なんでか……それは一色に聞けよ。俺はあいつの意見を尊重しただけだ」

 

「え?」

 

一色が涙を拭いながら未だ止まることのない涙を流しながらこちらにきた。

 

「さ、っちゃん……ごめんね……。私、私自分のこと、ばっかりで……でもさっちゃんと仲良くなったのは別に私の代わりに周りの被害を押し付ける為なんかじゃないよ」

 

「…………」

 

今度は神埼彩月が黙って一色の話を聞いていた。

 

「私、こんな正確だから……昔から女子と仲良くなれなくて、そんなときに話しかけてくれたのが、さっちゃんだった……。私、あの時本当に嬉しかった、だから……一緒に遊びたいって思って誘ったの……」

 

「…………バカ」

 

「さ、っちゃん?」

 

「いろはちゃんのバカ!バカ!バカ!バーーーーカ!!なんで言って……言ってくれないん、だよぉ……」

 

「ごめん、ごめんね……」

 

「もう、バカ……謝って欲しいんじゃないよ……」

 

神埼彩月は一色に抱きついた、一色は目を丸くしていたが少しずつ目からまた涙が溢れていった。

 

「後少しで……私の大切な親友を無くしちゃうとこだった……怒ってよぉ……」

 

「ううん、怒れないよ」

 

「いろはちゃん……」

 

「さっちゃん……」

 

二人は抱きついたまま涙を流してそのまま眠ってしまった。

 

 

 

…………えーとお二人さん?良い雰囲気のところ申し訳ないんですが、ここ路地裏なんですが?もう夜の7時くらいなんですが?俺の携帯めちゃくちゃなっているんですが!?と叫びながらコンタクトを付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

俺と一色と神埼彩月は、今絶賛土下座中である。

 

「それで?おバカ3人組に私はなんて言えば良いのかしら?」

 

雪ノ下の怒気が含まれている声に三人とも震えながらただ無言で下を向いていた。

何故このような状態になったのか、それは神埼彩月が奉仕部に来て昨日の出来事を全て雪ノ下と由比ヶ浜に打ち明けたからだ。

話をしていくうちに何故か俺まで巻き添えをくらい、来るのが遅れていた一色までも標的になり今こうして三人で雪ノ下さんのお説教を土下座で聞いているのだ。

 

 

[死んでいたかもしれないのよ?]

 

 

こんな言葉を聞いてしまった俺は何も言い返す事が出来ず絶賛反省中である。

 

「でも、三人とも無事で良かったよ」

 

由比ヶ浜の一言でなんとか雪ノ下が引いてくれて椅子に座ることを許してもらえた。

因みに神埼彩月が俺に向けていたおかしなことも今では聞こえなくなり、ただ感謝の言葉しか聞こえてこなくなった。

 

だが1つだけ問題が増えた。

 

 

 

 

 

それは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「せーんぱい♪また来ちゃいました!」

 

あれ以来一色が奉仕部に度々訪れるようになってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 




難しい...の一言で。


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テニス勝負(前半戦)

 

一色と神埼彩月の問題が解決してから一色は奉仕部に入り浸っていた。由比ヶ浜の話によるとサッカー部のマネージャーをしているらしいのだがそっちに行っている気配はまるで見えない。

 

 

「あーそういえば、せんぱーい」

 

「なんだ?」

 

「先輩の目ってオッドアイだったんじゃないんですか?今どちらも赤いんですけど~」

 

あーそういえばそんな話をした気がしたが生憎と説明するのも面倒なので誤魔化すことにする。

 

「別に気のせいだろ」

 

「えー意味わからないんですけど~」

 

「ヒッキーの目の色が違うのはヒッキー、カラーコンタクトを付けてるからだよ?」

 

ちっ、余計なことを。

 

「えー、それじゃあ嘘じゃないですか~ていうか先輩、カラーコンタクトって校則違反ですよ?」

 

「由比ヶ浜何で言っちゃってるの?」

 

「えへへ」

 

えへへじゃねーよ。ちょっと可愛いとか思っちゃっただろうが!

 

「はぁ、俺のカラーコンタクトが違反ならお前の香水だって校則違反だろうが」

 

 

・・・・・。

 

 

一瞬の静寂。そしてその静寂を破ったのは由比ヶ浜だった。

 

「き、きもっ!ヒッキーマジきもい!何いろはちゃんの匂い嗅いでるの!」

 

近付かなくても残り香が残るレベルだから香水だって言ったんだが由比ヶ浜さんは何か誤解をしたらしく頬を赤く染めて俺をひたすらディスり始めた。

 

「由比ヶ浜さん、少し落ち着きなさい」

 

「で、でもさ!ゆきのん!」

 

おー、珍しく雪ノ下が俺を庇おうとしてくれている、うん涙が出てきそうだ。

 

「これが変態なのは最初からよ」

 

違う。余計にディスられただけだった。もうやめて!八幡のHPはもう0よ!

 

「あ、とそ、そうですか...それでその....どうですか?」

 

何が?

 

俺が黙っていると痺れを切らしたのか一色が言葉を続けてくる。

 

「ですから!その...臭くない、ですか?」

 

そんな頬を赤く染めながら上目使いで見られたら臭いなんて言えるはずがない、てか臭くないし。

 

「べ、別に臭くにゃい.....」

 

うん、おもいっきり噛んでしまった。人との接触をなるべく避けてきた弊害がこんなところで出てしまうとは...。

 

「ぷ、なんですか気持ち悪いですよ?先輩♪」

 

「っ!」

 

俺は一色の笑顔に思わず見とれてしまい慌てて顔を背ける。

 

「あー!ヒッキー!顔赤くなってるー!」

 

今そこを指摘するの?鬼なの?悪魔なの?

 

「ヒキガエル君ほんとに引いてしまうほどの気持ち悪さだわ」

 

「おいこら、なんで俺の小学校の時のアダ名知ってんだよ」

 

今では当たり前のようになっている会話を4人でしていると奉仕部の扉をノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

因みに一色は俺と由比ヶ浜の間に椅子を持ってきて座っている。

 

「し、失礼します」

 

「あ!彩ちゃん!」

 

「由比ヶ浜さん、さっそく来ちゃった」

 

「うん!待ってたよ!」

 

「どういうことだ?」

 

「ほら!私もここの部員だし何か手伝えることはないかなーってそれで彩ちゃん、困ってたからここの部のこと教えたの!」

 

いや仕事増やすなよ。俺は働きたくない。

 

「ちょっと待ってくれるかしら。由比ヶ浜さんはそもそも部員ではないのだけれど」

 

違うんだ...。いつのまにか流れで部員になってる展開とかじゃないんだ。

 

由比ヶ浜本人も「違うんだ!?」と言って雪ノ下に部員の名簿に名前がないものと言われたので急いで入部届けを書いて雪ノ下に渡した。

 

「先輩、これって私も書いた方が良いんですかね?」

 

「俺に聞くな、知らん」

 

「一色さんは、サッカー部のマネージャーをやっていると由比ヶ浜さんから聞いたのだけれどそちらの方には行かなくていいのかしら?」

 

「あーとそれはですね...」

 

歯切れが悪いことから察するに行かないとまずいのだろう。本当に何でこんなとこに来てるんだ?

 

「あのー...」

 

そう言えば、忘れていたが依頼人が来ていたんだったな。それにしても由比ヶ浜の知り合いだけあってかなり可愛いな。

 

「彩ちゃん!ごめんね!取り合えず座って!」

 

「大丈夫かな?迷惑じゃなかった?」

 

「ううん!大丈夫だよ!皆優しいから!きっと彩ちゃんのお願い叶えてくれるよ」

 

ここで雪ノ下から「由比ヶ浜さん、それは違うわ」といつものくだりをしたのだがそれはいいとして。

 

「あの、うちのテニス部ってすごい弱くて...だから僕を鍛えて欲しいんです!」

 

「あなたが強くなったとしてもテニス部が強くなるとは限らないと思うのだけれど」

 

「そ、それは...」

 

「で、でもさ!ゆきのん!誰かが引っ張っていったほうが皆のやる気も上がると思うしさ!」

 

「で、でもね由比ヶ浜さん」と由比ヶ浜が雪ノ下を説得しているなか戸塚と言うらしい由比ヶ浜の友達は俺に話かけてきた。

 

「やっぱり....迷惑だったよね」 

 

「・・・んなことないんじゃねーのか?」

 

「え?」

 

「何かを真剣にやろうとすることは素直に凄いと思うし、あとはやり遂げられるかどうかだ。それに由比ヶ浜があれだけ言ってるんだ、下手に迷惑なんて言う方が失礼だと俺は思うぞ」

 

まぁ俺自身努力や、何かに真面目に打ち込んだことなんてないから気持ちが分かるなんて口が裂けても言えないが由比ヶ浜のやっていることに泥を付けることだけはしてほしくなかった。

 

「ぷ、先輩らしいですねっ♪」

 

「ほっとけ」

 

ガタン。と音がしたと思ったら戸塚がいきなり俺の手を掴んできた。

 

「そうだね!あの比企谷君本当にありがとう♪」

 

「いや、えっと...え?」

 

俺の頭の中ではパニック状態に陥り上手く思考が働かなかった、唯一分かっているのは女の子に手を握られているということだけだった。段々、手汗がとか考えられるようになってきたので少し落ち着いてきたのだろう。

丁度その頃、由比ヶ浜が雪ノ下を説得したらしく俺に話しかけてくる。

 

「ヒッキーも協力してね!」

 

「お、おう...」

 

「ありがとう♪」

 

「ところでさ、俺の名前知ってたみたいだけど知り合いだったっけ?」

 

「ヒッキー、ありえない!同じクラスじゃん!」

 

「あはは、同じクラスの戸塚彩加です。よろしくね」

 

「いや、俺、女の子の友達なんていねーし...」

 

なんだったら男の友達もいないまである。

 

「あはは、僕...男なんだけどな」

 

は?ははは。なんの冗談だ?

 

戸塚の表情を見る限り嘘には見えないがそれでも見た目からは信じることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一悶着あったが俺は今体操着に着替えてテニスコートに来ていた。

 

 

「それで何でお前までいるの?」 

 

「えー良いじゃないですか~♪」

 

何故か一色も体操着に着替えて俺達と一緒にテニスコートに来ている。

 

「お前暇なの?」

 

「何言ってるんですか、暇なはずないじゃないですか~。先輩の為にここにいるんですよ♪」

 

「あーはいはい。あざとい、あざとい」  

 

一色は周りから可愛く見られたいがために自分を偽ってこういうことを言っているのを俺は初めて会ったときに聞いてしまっているので何を言われても聞き流すことが出来る。

 

「それじゃあ、練習を始めましょうか」

 

「は、はい!よろしくお願いします」

 

雪ノ下に深くおじきをしながら話を聞いている姿は真剣でどれ程真面目なのか見ているだけでも充分に伝わって来るほどだった。

雪ノ下の練習内容はとてもハードなものだった、確かに後々の事を考えれば良いのかもしれないが初日からこんなに飛ばしていたら戸塚の体が壊れてしまうかもしれない。それでは本末転倒だ。だが俺はこの時雪ノ下が以前由比ヶ浜に言った言葉を思い出して何も言えずに見ているだけしか出来なくなっていた。「成功できない人間は成功者の積み上げた努力を想像できないから成功出来ないのよ」雪ノ下は相手に厳しいがそれよりも自分にもっと厳しい。それ故に絶対的な信念を持っていて少しやり過ぎたこともしてしまうのだ。

 

「うわっ!」

 

戸塚が疲労困憊で足がもつれて転んだ。「彩ちゃん!」と由比ヶ浜がかけよっていくと雪ノ下は「まだ続けるつもりなの?」と言って戸塚に聞く。

 

「うん。皆、僕の為にやってくれてるから」

 

震える足でなんとか立ち上がると先程転んだ時が原因か少し足が擦れて怪我をしていた。

 

「そう。由比ヶ浜さん、私は少し行くところがあるからあとは任せたわ」

 

「え?ゆきのん?」

 

[確か保健室に救急箱があったわね]

 

成る程なと思い俺はコンタクトを付けて戸塚の元に向かう。

 

「あはは、あんまり上達しないし、見捨てられちゃったかな?」

 

「そんなことないよ!ゆきのん!頑張っている人を見捨てるなんて絶対しないよ!」

 

「そうだな、お前の料理にも最後まで付き合ってくれたしな」

 

「それはどういう意味だ!」と由比ヶ浜が叫んでいたが全員から笑い声が漏れた。

 

キィー。とテニスコートの入り口が開く音が聞こえて数人の生徒が入ってきた。

 

「あれーテニスとか超久し振りなんですけど~」

 

「べー!まじべー!」 

 

「ぐふふ、隼人君と戸部っちがボールの打ち合い...ぶはぁ!」

 

「ちょ!海老名まじ擬態しろし...ねえ、あーしらもここで遊んで良い?」

 

「三浦さん、僕達は別に遊んでいるわけじゃなくて」

 

「ええ?なに聞こえないんだけど?」

 

一色は何故か俺の後ろに隠れたが状況を見るになんとなく分かったのでそのままにしておく。

 

「ここは戸塚が許可もらって使ってるものだから他の人は無理なんだ」

 

「は?あんたも使ってんじゃん」

 

「いや、俺は練習に付き合ってて教務委託って言うか、アウトソーシングなんだよ」

 

てかなんだよこいつ、こえーよ。あと怖い。

 

「はー?何意味わかんないこと言ってんの?キモいんだけど?」

 

「まぁまぁ喧嘩腰になんなって、皆でやった方が楽しいって」

 

「皆って誰だよ。俺はそんな相手いねーから使えたことねえよ」

 

ああ、そうかこいつはあれだ。

 

「そう言うつもりでいったわけじゃないんだ、なんかごめんな、悩んでいるなら相談に乗るからさ」

 

俺が一番嫌いなタイプの人間だ。

 

「必要ない、強いて言うならここから出てってくれない?今すぐに」

 

後ろから一色が「何言ってるんですか!?」と小さい声で言ってる気がするがそんなもんはスルーだ、スルー。

 

「あんたさ、何生意気なこと言ってんの?」

 

「まぁまぁ、落ち着けって優美子」

 

「でも!」

 

「なぁ比企谷、こうしないか?俺とお前がテニスで勝負する、そして勝った方がテニスコートを使える。勿論戸塚君の練習の相手にもなる、それに練習相手は強い方が戸塚君の練習にもなるだろう?」

 

サッカー部のエースが帰宅部エースの俺にテニスで真剣勝負とか吹っ掛ける時点で公平じゃない気もするが、それが一番簡単に事なきを得そうな気がするのでその提案に乗っておく。

 

「何それ!面白そ!ねぇそれならいっそのこと混合ダブルスとかにしようよ、やだあーし頭良いんですけど~」

 

は?こいつ何いってるの?混合ダブルスとか俺にパートナーいない時点で詰んでるんですけど?

 

「あー俺パートナー「ひ、ヒッキー」ん?」

 

「あの、ヒッキー私で良ければ...」

 

「ばか!やめとけよ!あいつお前のことめっちゃ睨んでるだろ!」

 

「え!マジ?」

 

「結衣ーそいつと組むってことはあーしと戦うってことだけどそう言うことで良いってことなんだよね?」

 

「そ、それは...」

 

「先輩♪私がいるじゃないですか~」

 

「い、いろはちゃん!?」

 

「いやでもお前...」

 

「あー葉山先輩の事なら気にしなくていいですよ~それに私三浦先輩のこと嫌いですから♪」

 

「全く...お前は」

 

まぁこれで、なんとか試合ができそうだ。

 

「ま、待って!私も大丈夫だから!ね!ヒッキー!」

 

いや、ね?と言われても...この状況でどうしろと?

 

「先輩♪勿論わ・た・し・とやりますよね?」

 

「ひ、ヒッキー....」

 

何これ?テニス勝負より怖いんだけど?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し迷い中なので、一色と由比ヶ浜どちらと組ませたほうを見たいかよければ感想お願いします。


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テニス勝負(後半戦)

皆さんの意見の結果でいろはと組ませることに決めました。たくさんの意見ありがとうございます。

テニスのルールは少し自信がないので間違った表現などあれば御指摘お願いします。


 

どうしてこうなった。

今の状況を見ると一番適切な言葉と言えるだろう。戸塚から奉仕部に依頼があり練習に付き合っていただけだのはずだ。なのに勝手に横から入ってきた奴等に勝負を挑まれている。しかも何故か混合ダブルスで女子とペアを組んで勝負をしなくてはいけないというおまけ付きだ。え、何この状況どこの少年漫画の主人公だよ。

 

「それで~先輩♪どちらを選ぶんですか?」

 

気のせいか語尾が怖いんですが一色さん...。

 

「ひ、ヒッキー...そ、その」

 

なんだこのラブコメ主人公みたいな状況、こんな状況本来俺にくるべきイベントじゃないはずだ。それに仮に由比ヶ浜を選んだとしたら後々三浦達とわだかまりは出来てしまうだろう、一色は...大丈夫だな、うん。

 

「一色、テニスの経験はあるか?」

 

「ひ、ヒッキー、やっぱりあたしじゃ駄目?」

 

由比ヶ浜が今にも泣きそうな顔で俺に聞いてくる。やめてくれ、俺の元々少ないSAN値が削られていくから。

 

「そうじゃない、由比ヶ浜には雪ノ下を呼んできてもらいたいんだ。たぶん保健室にいるはずだから、頼めるか?」

 

「へ?ゆきのん保健室にいるの?」

 

「ああ、戸塚の足が擦れて怪我しただろ、それで救急箱を探しに行ってるんだ、たぶん」

 

「そ、そっか!」と言って由比ヶ浜は校舎の方に走っていった。

 

「それで一色、テニスの経験は?」 

 

「ありますよ?」

 

「意外だな」

 

「聞いといて酷くないですか?」

 

「いやだってお前努力とかしなさそうだし」

 

「何いってるんですか!私超努力家じゃないですか!」

 

「いや知らないから、それで本当は何でテニスやってたんだ?」

 

「だって~テニスが出来る女子って可愛いじゃないですか~♪」

 

「・・・さぁて試合始めるかー」

 

「ちょ!先輩!待ってくださいよ!」

 

一色は俺がテニスコートに向かおうとすると慌てて服の袖を掴んでくる、少しドキッとなってしまったが平静を装ってなんとか振り返る。

 

「どうした?もう聞くことはないぞ?」 

 

「そうじゃなくてですね、三浦先輩、中学の時テニス部で県選抜にも選ばれてるんですよ」

 

え?何それ、勝てる要素がないんですけど?どれくらい勝つのが無謀かと言うと勇者と魔王にモブキャラが勝とうとするくらい無謀。

 

「・・・お前三浦のボール打ち返せるか?」

 

「難しいですね、予めどこに飛んでくるか分かっていれば話は別ですが...」

 

ほう、それは良いことを聞いた。

 

「なあ一色、俺から作戦がある」

 

「何ですか?」

 

「まず初球は三浦の実力を見るために敢えて見逃す、そして2球目からは、ーーーーーーだ。」

 

「いやいや...先輩流石にそれは無理だと思うんですけど...」

 

「信じろって、上手くいくからたぶん」

 

この作戦は信じてもらえなかったら意味ないしな。と言ってもいくらなんでも無理か。

 

「たぶんですか...先輩らしいですね。・・・分かりました、先輩を信じます」

 

「は?」

 

信じてくれるとは思ってなかったので思ったことをそのまま口に出していってしまう。

 

「は?って何ですか?もしかして嘘だったんですか?」

 

「いや嘘じゃねーけど、こんな作戦、普通信じられなくないか?」

 

「はぁ、まーそうですね、ぶっちゃけ今でも疑ってます。でも先輩はそんな意味のない嘘をつくような人だとは思ってませんから♪」

 

それだけ言って一色はテニスコートに入っていく。一色の性格を知らなかったらうっかり惚れそうになってたなと頭を掻きながら俺もコートに入った。

 

 

「葉山先輩、ヨロシクお願いしますねっ♪」

 

「この頃部活に出てないと思ったらこっちにいたんだね、いろは」

 

「駄目でしたか~?」

 

「いや、駄目じゃないよ。でも程々にしてくれよ」

 

「はーい♪」

 

「ねえ?隼人、知り合い?」

 

「ああ、1つ下で一色いろは、サッカー部のマネージャーをやってくれているんだ」

 

「ヨロシクでーす♪」

 

「へえ。でもおかしくなーい?サッカー部のマネージャーってことは隼人のこと知ってるよね?」

 

「はい。知ってますけど?」

 

「それなら何でそいつとペアなんて組んでるわけ?」

 

「そんなこと三浦先輩には関係ないと思いますけど♪」

 

一色は、ずっと笑顔で三浦に答えているがこんな怖い笑顔はないだろう。なにせ空気が軋んでいてこの場所にいたくなくなる。そんな二人の雰囲気を感じ取ったのか葉山が三浦を宥めて試合開始となった。

審判は経験者の戸塚にやってもらい葉山達からサーブとなった。

 

「The best of 1set match 三浦&葉山is serving. Play!」

 

おお、なんて言うか本格的だなぁと思っていると三浦がサーブを打ってくる、最初のサーブのボールはある程度くる場所は決まっているので打ち返せるだろうと甘く考えての初球様子見だったのだが現実はそこまで甘くはなく三浦が打った打球は俺の予想よりかなり速かった。

 

「まじか...」

 

「15ー0(フィフティーン・ラブ)」

 

これは最初から使わないと駄目か...と半分諦めて審判(戸塚)にタイムを申告する。

 

「あれー?まだ初球だけど?あっ、勝ち目がないと分かって作戦会議?まじウケるんですけど~」

 

三浦が何か言ってるが気にせず俺は、右目のカラーコンタクトだけ外して一色を呼ぶ。

 

「先輩、何でコンタクト外してるんですか?」

 

[まじあのたてロールムカつくんですけど!]

 

「ああ、その意見には俺も賛成だが少し落ち着け」

 

「ん?」

 

「あ、ああいや何でもない。それよりあのボール打ち返せるか?」 

 

「当たり前じゃないですか!」

 

[余裕ですよ!]

 

「そっか、それじゃあ手筈通りにな」

 

「はーい♪」

 

俺達は作戦会議を終えるとテニスコートの周りに下校しようとしていた生徒が集まっていた。

というか女子生徒ばかりが集まっていた。

 

 

「戸塚、タイムは終わりだ。始めてくれ」

 

「うん。それじゃあ15ー0(フィフティーン・ラブ)から始めます」

 

ダブルスのルール上俺と一色が交代で三浦のサーブを打ち返さなければならない。俺一人だったら確実に負けていたなと思いながら一色に全てを任せることにした。

三浦のサーブはダブルス用のコートギリギリを狙った良い打球だった。流石は県選抜に選ばれただけはあるだろう。

 

「三浦先輩~そんなんじゃ私からポイントはとれませんよ!」

 

一色は上手く合わせて葉山の方に打ち返す。俺と一色は手筈通り、俺が前に出て中央に移動し一色は後ろの中央に移動した。俺が一色に言った作戦は、ただ俺が走ったほうと逆に走ってくれ...だ。そうすれば全て一色の方にボールが飛んでくると説明した。他人任せと思われるだろうが当たり前だ、俺は出来るだけ動きたくない。簡単に言えばこの作戦は普通サーブするほうがやる高等テクニックの1つで゛オーストラリアンフォーメーション“と言うのだがその逆なので゛逆オーストラリアンフォーメーション“とでも名乗っておこう。

 

葉山は1度怪訝そうな顔をしたが俺にはどちらに打とうとしているのかまるわかりなので葉山が打つよりも少し早くに動き出す。

俺が右に走ることで一色は左に走り葉山が打った時には一色が丁度移動しており見事に決める。いやほんとに見事でした、葉山の上に打ち返してインさせるとかどこのプロだよとか思いながらもこちらに笑顔で駆け寄ってきた一色とハイタッチする。

 

「15-15(フィフティーン・オール)」

 

俺達の攻撃を見た、野次馬「生徒達」はたいへんはしゃいでおったそうな。

 

 

「ま、まぐれだし!」と三浦が言ってくるが悪いな三浦これはまぐれじゃないんだ、諦めてくれと心の中で合掌をして俺の番になる。

流石に俺が打ち返すのに先程の作戦は使えないので普通に横並びで対応する。

 

三浦のサーブをなんとか返した俺だが相手にとってはチャンスボールになってしまった、ふわふわと三浦のいる位置にボールを返してしまった。

 

[チャンス!でも隼人にあんな態度とって簡単に点とるのもあれだし~そうだ、スマッシュじゃなくてドロップショットで決めてやるし!]

 

俺は三浦が走ったのと同時に前に走った、三浦は驚いていたが気付いたときは既にドロップショットで打とうと構えている時だった、俺は軽く打ち返された、ボールを三浦に当てないように打ち返してポイントをとった。

 

「15-30(フィフティーン・サーティーン)」

 

このあとも゛逆オーストラリアンフォーメーション“で得点を取り1ゲームを先取した。

このまま俺達の勝ちで終わると思ったその時事件は起きた。

 

「これはなんの騒ぎかしら?」

 

酷く冷たい声で雪ノ下雪乃は現れた。

 

 

 

 

・・・さっきまでの賑やかな雰囲気が嘘のように辺りは静かになり周りにいた野次馬もいつの間にかいなくなっていた。

 

「まぁまぁ雪ノ下さん、落ち着いて」

 

「何故あなたがここにいるのかしら?」

 

今の雪ノ下に話しかけるとか俺には無理だなと考えながら見守ることにした。

 

「ちょっと手違いでね、勝負をしようってことになったんだ」

 

「勝負?」

 

「てかさーあんたこそいきなりきて何様のつもりなわけ?」

 

「おい、優美子やめ「私はあなたより前にここにいて正式に依頼を受けてここにいたのだけれど、それであなたは誰なのかしら?生憎だけれど虫のように群がって自分のテリトリー内でしか威張ることの出来ない人に心当たりなんてないのだけれど」...」

 

雪ノ下の後ろにいる、由比ヶ浜が何か言ってる気がするがこっちまで聞こえないほど声が小さいし泣きそうなので察することにした。

 

「なっ!あんたまじなんなわけ!?」

 

「ただ怒鳴り散らすことしか出来ないの?全くほんとに救えないわね」

 

遠目で見ても三浦は憤慨しているようで腕をプルプルと震わせている。因みに雪ノ下がなぜここまで機嫌が悪いのかと言うと自分を除け者にして勝手にこんなことをやっていたことで主に俺にあたりにいこうとしたが途中で三浦にケンカを売られ丁度いいからストレス発散の為に三浦に当たることにしたらしい。

俺の身代わりになった三浦に敬礼!

 

 

「っ!それならあーしと一騎討ちでテニスで勝負しようじゃん」

 

「おい!優美子!!」

 

「葉山君は黙っていなさい。これは私と三浦さんの問題だわ」

 

「それでどーなの?」

 

県選抜に選ばれた三浦がテニスで負けると思えないが、それよりも雪ノ下が勝負に負けることの方が俺は想像できないんだよな。

 

「いいわ。受けてたちましょう、でも後で部員に躾もしなくてはいけないの、悪いけれど1セット先に先取したほうの勝ちでいいかしら?その代わりあなたにサーブを譲るわ」

 

「とことん舐めてくれるじゃない...その自信たっぷりの顔を踏み潰してあげる」

 

「へえ、でも貴女には無理ね」

 

「そんなことやってみなきゃ分からないじゃない!」

 

「分かるわよ、だって彼に負けていたんでしょ?」

 

雪ノ下は俺の方を見ながら三浦に言う。どうでもいいが俺が関係ないところで俺をディスるのやめてくれませんかね、ほんとに。

 

「べ!別にあいつに負けていたわけじゃないし!殆どそっちのいろはって子が決めていただけてでそっちのやつは殆ど何もしてないし!」

 

「そう。゛貴女“にはそう見えたのね」

 

゛貴女゛には?俺は少し気になる事が出来たので未だに慌てている由比ヶ浜をこちらに呼ぶ。

 

「ヒッキーどうしよう!このままじゃ、ゆきのんと優美子が」

 

「大丈夫だ、あの二人のことは、ほっておけ。それよりも雪ノ下とお前はいつから試合を見てたんだ?」

 

「いつってえーとねー。ヒッキーに言われて保健室に行ったらほんとにゆきのんがいて、説明してそのまま連れてきたから殆ど最初からいたよ?」

 

「黙ってみてたってことか?」

 

「うん!面白そうだったし!」

 

「そうですか...」

 

「それにしても、いろはちゃん凄かったね!なんか優美子の打球、バーンて打ち返してポイント取っちゃうし!」

 

「い、いえ。あれは先輩のおかげですから...本当に凄いのは先輩ですよ」

 

「え?ヒッキーどういうこと?」

 

「雪ノ下は分かってるみたいだしあとであいつに聞いてみろ。それより試合が始まるぞ」

 

 

 

 

「え、えと。これより雪ノ下さんと三浦さんで試合をします。サーブは三浦さんからで1セット先に取った方の勝ち。それでは」

 

戸塚の「それでは」という掛け声とともに三浦がサーブを打った。俺達は初球三浦の実力を知るために見逃したが雪ノ下は難なく返してポイントを奪った。

 

「その程度なの?」

 

「くっ....くっそぉおお!」

 

三浦は先程よりも鋭い打球を打つがこれも雪ノ下に打ち返されてしまう。今度は三浦も反応して右サイドに打ち返す。雪ノ下は左サイドにいたので三浦のポイントかと一瞬思ったが三浦が打つ前にいつの間にか雪ノ下は左サイドに移動しており強烈な回転をかけて三浦のラケットを弾き飛ばす。

 

「先輩...雪ノ下先輩って何者ですか?」

 

「知らん、俺が聞きたいくらいだ」

 

ほんとにあいつ何者なんだろうな、弱点とかないのかね?あーあったは俺と同じで友達がいない。

 

「凄い!ゆきのん!」

 

俺達が雑談していると葉山がこちらに近付いてきた。

 

「やあ」

 

「なんだよ」

 

「優美子じゃ、雪ノ下さんには勝てない。それは分かっていたんだ」

 

「だから止めようとしたのか?」

 

 

「ああ。でも遅かった、出来ればあの二人には仲良くしてもらいたかったんだ」

 

それは無理だろう、あんなに性格が違っているのに仲良く出来るはずがない。

 

「隼人君、私もゆきのんと優美子には仲良くしてほしいって思うよ。でもあそこで止めても仲良くは出来ないんじゃないかなって思うんだ」

 

「でも、恐らく優美子はポイントを取れずに負けると思う、そしたら仲良くなるにはもっと難しくなるんじゃないかと思うんだ」 

 

「そんな外面だけ気にしてる関係が友達って言えるのか?」

 

「・・・どういう意味だい?」

 

「ほんとはお前なら分かってるんだろ、外面ばっかり気にして本音を話せずに皆が大好きな葉山隼人を演じているお前ならな」

 

「・・・君は「悪いな試合が終わったみたいだ」...」

 

葉山がなにかをいいかけたが俺は葉山の言葉を制止して雪ノ下の元に向かう。

 

「ま、待って!ヒッキー」

 

「置いてかないでくださいよー!先輩!」

 

振り返ると葉山が下を向いて俯いていたのでキャラじゃないと思いながらも葉山の元に戻り「お前は今やらなきゃいけないことがあるだろ?」と言ってテニスコートで泣き崩れている三浦と元気づけている由比ヶ浜と最初三浦と一緒にきたやつらを残して部室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




連役やなぁ....おかしくなければいいなぁ。


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だから俺は葉山隼人が嫌いだ

少し八幡の能力についてですが。八幡の右目の能力は全てが分かるということではなく、今実際に思っていることが分かるという能力です。遅れての説明ですいません。


 

葉山達とテニス勝負をした翌日。

三浦は思っていた以上に普通で由比ヶ浜もいつも通り話していることから昨日のことが問題になり由比ヶ浜が孤立するという最悪の状況になることは回避できていたと分かった。だが葉山は今日1日俺を意識して避けていたようだが元々話をする仲でもないので気にせずに授業を受け、放課後に部室に向かった。

 

 

「さて。それじゃあ躾を始めましょうか」

 

淡々と雪ノ下は俺を床に正座させて言ってきた。何故このような状況になっているのか分からないと思うが大丈夫、俺にも分からない。だが事の顛末は20分ほど前のことだ。俺が奉仕部に入ると雪ノ下はいつも通り先に来ており1人読書にいそしんでいた。ただ本を読んでいるだけなのにやけに絵になるなとか考えながらいつも通り自分の椅子に座ろうとしたら雪ノ下が急に「あなたの座る場所はそこじゃないわよ」と言ってきて口論になった末にこうなった。つまりだ...。雪ノ下に口喧嘩を挑んだ俺が浅はかだった

 

「えーと。雪ノ下さん?俺は何故ゆえ、こんな冷たい床の上で正座しているんでしょうか?」

 

勿論大体の検討はついている。どうせ昨日のテニス勝負のことだろう。だがあれは三浦が犠牲になってくれたおかげで終わったはずだ。

 

「ほんとに分からないのかしら?それとも分かっていてわざと言っているのかしら?後者だとしたら今のうちに謝罪しなさい。今ならまだ許してあげるわ」

 

「・・・テニス勝負の事か?」

 

「なんだやっぱり分かっているじゃない」

 

「もうすんだ話ではなかったですかね?」

 

「私は三浦さんとの勝負の前に躾をしなくてはならないと言ったはずだけれど、それに勝手に帰ったのは誰だったかしら?」

 

確かに言っていた。だがそれなら俺にも言い分はある。

 

「俺は1度部室に戻ったぞ?だけど中々戻ってこないから帰っただけだ」

 

だから俺は悪くない。中々戻ってこなかったお前らが悪い。

 

「はぁ。由比ヶ浜さんは、泣いている三浦さんに付いて、私は保健室から借りてきていた救急箱を返しにいってから制服に着替えていたのだけれど」

 

「・・・」

 

「何か他に言いたいことはあるかしら?」

 

「・・・無いです、すいません」

 

「まぁでもいいわ。椅子に座りなさい」

 

俺は「はい」と頷いて椅子に座りなおす。何故そこまで上から目線なの?って言いたいがここは我慢だ。

 

「それでどうやって三浦さんの球筋を全て完璧に読んだのかしら?いえこの場合は葉山くんのも含まれるわね」

 

どうやら雪ノ下は、あの試合で俺が三浦と葉山の球筋を全て見切っていたと思っているらしい。別に球筋を見切っていたわけではないが同じようなことなので、あの試合でそこまで理解した雪ノ下に純粋に驚嘆する。だがほんとのことを言うわけにもいかないのでここは誤魔化すことにする。

 

「俺にあいつらの球筋なんて読めるわけないだろ?」

 

「ええ。私も直接三浦さんと勝負してそれは思ったわ。大したことはなかったけれど、たったあれだけの時間で球筋を完璧に見切れるほど優しい球ではなかったと思ったのだけれど」

 

「つまりお前は俺に何が聞きたいんだ?」

 

「・・・さあ、なんでしょうね」

 

いや質問に質問で返すなよ。次なんて答えればいいのか分からなくなっちゃうだろうが。

 

「ただ、姉さんなら出来ると思ったからあなたにも姉さんと同じような何かがあると思っただけよ」 

 

「ん?姉さん?雪ノ下、姉がいたのか?」

 

「ええ。・・・ごめんなさい。話が脱線してしまったわね」

 

姉の話をした途端に急にしおらしくなった雪ノ下に俺が戸惑っていると奉仕部をノックする音が聞こえた。由比ヶ浜が来ていないので由比ヶ浜かと思ったが由比ヶ浜がわざわざノックして入ってくるとは思えなかったので誰か依頼に来たのだろうと思った。

雪ノ下の「どうぞ」という一言で入ってくる。

 

「し、失礼します」

 

「っ!....」

 

俺は現れた相手を見て驚愕した。奉仕部に入ってきたのは神埼彩月だった。別にあの事件以来おかしなことがないのでビビる必要もないのだが一番最初の印象が強すぎて反射的にビックリしてしまうのだ。

 

 

「彩月さん、今日は依頼できたのかしら?」

 

「い、いえ!あ、あの...いろはちゃんから伝えてくれるようにと頼まれまして。今日は危ない気がするのでサッカー部の方に行ってきます!先輩骨は私が拾ってあげるので心配しないでくださいね♪と」

 

一色のやつ、逃げやがった。てかそれ知らせるためにわざわざ奉仕部に来たのかよ...。

 

「はぁ...。一色さんには後で話をした方が良さそうね。それでもう用事はすんだのかしら?」

 

神埼彩月は「い、いえ...」と言って顔を急に俯かせてごにょごにょと聞き取れないが喋っている。気のせいか顔もほんのりと赤くなっている気がした。

 

「あ、あの先輩...」

 

「どうした?」

 

「私と..つ「やっはろー!あれ?彩っちどしたの?」」

 

由比ヶ浜が来たことで彩月が何を言いかけたのか分からなかったが「そ、それでは私はこれで!」と逃げるように奉仕部から出ていったので最後になんて言おうとしたのか結局分からなかった。

 

「ど、どしたの?」

 

「さあな」

 

「それで由比ヶ浜さん、今日は遅かったみたいだけれど何かあったのかしら?」

 

「えーと...ね。なんていうか」

 

由比ヶ浜が言いずらそうに奉仕部の入り口で口ごもっていると由比ヶ浜の後ろからもう一人入ってきた。

 

「やあ。こんにちは」

 

「葉山....」

 

「それで葉山君がなんのようかしら?」

 

「今日は依頼があって来たんだ」

 

「は?お前が?お前なら何でも自分で解決しちゃうんじゃねーのか?」

 

「もう!ヒッキー!」と由比ヶ浜が言っているが実際こいつに必要とは思えなかった。

周りの期待に常に答えようと自分を偽る葉山は常に周りを騙している。皆各々で人言えないことなどは絶対にあり偽るがそれはあくまで自分の為だ。だが葉山の場合は違う。こいつは完全に周りの為に合わせて自分を偽っている。そんな生き方はいままでの俺の生き方を否定されているようで気に入らなかった。結論を言おう。俺はこいつが大嫌いなのだ。

 

「はぁ、取り合えず話を聞かせてもらえるかしら?」

 

「あ、ああ。すまない」

 

葉山は椅子に座りポケットの中から携帯を取り出して俺達に見せた。

 

「実はこんなメールがクラスで出回るようになったんだ」

 

葉山から見せてもらったメールは謂わばチェーンメールというものだった。内用としては、葉山といつも一緒にいる、戸部 と大和と大岡の3人が裏で良くないことをしているというものだった。

 

「これが出回るようになったのはつい最近なんだけど、こんなものが出回ってから皆の空気が悪くなるし、友達の事をこんな風にかかれれば腹も立ってくる。それで最初結衣に相談してたんだ。」

 

どうでもいいがこいつらは何で名前呼びなの?付き合ってるの?

 

「うん、あたしの所にも来てたから気にはなってたし...てか調べてみたらうちのクラスの大半にはメールが来てたみたいなんだ」

 

え?俺そんなメール知らないんですが?あー俺のメールアドレス知ってるの小町とamazonだけだった。あれ?なんか涙出てきた。

 

「そう。依頼を受けましょう」

 

えー受けるのかよ。俺帰りたいんだけど。

 

「ゆきのん!やってくれるの!」

 

「チェーンメール。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さずただ傷付ける為だけに誹謗中傷の限りを尽くす止めたいならその大元を根絶やしにするしかないわソースは私」

 

「実体験かよ...」

 

「根絶やしにしたんだ...」

 

雪ノ下は椅子から立ち上がると「私は犯人を探すわ。私が一言、言えばピタリと止まるはずそのあとはあなたの裁量に任せるわ、それでいいかしら?」と言った。

 

「あ、ああ。それでいいよ」

 

「メールが送られ始めたのはいつからかしら?」

 

「先週末からだった筈だけど、だよな結衣?」

 

「うん」

 

「クラスで何か合った?由比ヶ浜さん、葉山君」

 

「特に無かったと思うけどな」

 

「うんいつも通り...いやヒッキーのテニス勝負以来。他のクラスの女子がわざわざ教室まで来てヒッキーに話しかけてたかも」

 

由比ヶ浜が少し怒った様子で言ってくる。だがあれはどう考えても葉山を人目見に来て三浦のせいで話にくいから俺を利用して教室に入ってきているだけだろう。なのにこの言いぐさ解せぬ。

 

「へえ。それは中々面白いことを聞いたわね」

 

「ばっか、お前等あれは葉山を見に来てたんだよ」

 

「いやいやどう考えてもヒッキーに話しかけてたじゃん!」

 

「三浦が睨むから葉山に近付けないだけだろ?だから教室に入るために俺を利用したんだよ」

 

「ヒッキー....」

 

「はぁ、あなたは変わらないわね」

 

「君はそう思ってたんだね」

 

「実際そうだからな。それで結局どうするんだ?」

 

「こういう類いの行為が起こるときは何かとあるものだけれど。一応聞いておくわね、比企谷君、ここ最近で何かあったかしら?」

 

「一応ってなんだよ。俺も一応同じクラスなんだが。ここ最近ねー、職場見学とかあるな」 

 

「それだ!班分けだよ。ああいうイベントでの班分けは後々に響くから」

 

うわーいちいちそんなことまで気を使わなきゃいけないのかよ。ほんと俺ボッチでよかった。

 

「班分けは3人一組。そりゃ誰か1人蹴落とすよな、てことは犯人は戸部か大和か大岡で決まりじゃ「それは違う!」」

 

いままで黙っていた葉山が急に声を張り上げて怒鳴った。普段の葉山からは考えられないことで由比ヶ浜がビックリしてたが俺は右目のコンタクトを外して葉山を見る。

 

 

・・・・・。

 

あー、そういうことか。やっぱり俺はお前が嫌いだ。

俺は葉山を見て、聞いて改めてこいつの事が嫌いだと思った。

 

 

 




少し短いですが調度区切りにはいいのでここまでにします。


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やはり俺がラブコメに巻き込まれるのはどこか間違っている


葉山の依頼を先にこなすはずが思わぬところで増えてしまいました....。まぁでもいいやと開き直りでの投稿です。


 

葉山が奉仕部に来た翌日。

俺はある程度今回の依頼と葉山がどうしたいのか分かってしまっていた。葉山の今回のやり方は言ってしまえば葉山の自己満足だ。別に葉山自身が困るようなことにはならないし、俺には理解出来ないことだったが依頼を受けたからにはなんとかしようと、HRが始まる前に寝たフリをしながら横目で葉山達のグループを見ていた。

いつもの風景で別段変わったことはないなと思っていると、急に前から「おはよう、比企谷君♪」と声がした。つい最近もこの声を聞いた覚えがあった俺は声が聞こえた方に顔を向ける。

 

 

するとそこにはーーー。

 

 

 

 

天使がいた。

 

 

 

「比企谷君聞こえてる?」

 

 

 

「お、おう...」とおもわず一瞬口ごもってしまった。声のした方に顔を向けると前髪が目にはいるのか左手で髪を押さえながら俺に話しかけている、戸塚がいた。

 

「もう!比企谷君、挨拶してるんだからちゃんと返してよー」

 

戸塚は、むっとして怒った様子を見せているが不思議と可愛く見えてしまう。

 

「お、おう悪いな」と俺が謝るとチャイムが鳴り戸塚は自分の席に戻っていった。

 

 

HRが終わり次の授業の準備をしていると葉山が俺に話しかけてきた。

 

「やあ」

 

「・・・なんだよ」

 

「はは、そんなあからさまに嫌な顔をされると流石に傷付くな」

 

え?そんな嫌そうな顔してた?かなり隠してはいたんだけどな。

 

「本当に嫌だからな」

 

「誰かに直接ここまで否定されるのは初めてだな...それで何か分かったかい?」

 

「その話を教室でするのもあれだしな、取り合えず授業が始まるまで廊下に移動するぞ、いいよな?」

 

「ああ。構わない」

 

俺と葉山が教室から出ようとしたとき三浦と由比ヶ浜が何か言っていた気がするが無視して廊下に出る。

 

「ここまで来れば誰にも聞かれないだろ。そうだな、まず聞くが今回の依頼。犯人を探しても無駄だろ?」

 

「っ!・・・それは何故だい?」

 

葉山の問いに俺は黙って、ただ葉山を見ていると「・・・そうか、やっぱり気付いてたんだね」と葉山は答えた。

 

「今回の依頼、内容を変えるつもりはないのか?」

 

それは葉山が今しようとしている自己満足ではなく、自分の為に自分の理想を相手に押し付ける方法を取らないか?という意味を含めた問いだった。勿論葉山が俺の言葉をどこまで理解できるかは分からないが、今のこいつを見ているといままでの自分が否定されているようでイライラして仕方がなかったのだ。

 

「・・・断る。今回の依頼はあの3人にチェーンメールを出したのは誰かということだ」

 

「それならお「キーンコーンカーンコーン」・・・授業が始まるな、さっさと教室に戻るぞ」

 

「・・・ああ」

 

教室に戻ると1時限目の担任こと我等が奉仕部顧問の平塚先生が仁王立ちで待っていた。「お前は席についていいぞ葉山。比企谷はこっちにこい」と言い、葉山だけ椅子に座らせた。何故だ、そして今から俺に放つであろうあの拳、今日も調子が良いみたいでボキボキと鳴らしている。

 

「えと何で葉山は良いんですか?」と俺は素朴な疑問を平塚先生に聞いたところ、何故か三浦から俺が葉山を連れ出したことになっており全て俺のせいになっていた。三浦許すマジ。

俺は振り返り三浦の方を見ると三浦がすごい形相でこちらを睨んでいた。てかどれだけ睨んでんだよ...何?俺は仇か何かなのん?

 

「比企谷、今から鉄拳制裁を大人しく喰らうか後で私の手伝いをするかどちらかを選ばしてやる」  

 

あー、あれだ。この人ただ貯まった雑務を俺に押し付けようとしてるだけだ。教師としてそれはどうなの?と思ったが鉄拳制裁よりはましだと後で手伝うことにした。

 

授業の合間の休憩時間に葉山のグループを見ても普段と変わらず、あっという間に4時限目になった。4時限目の授業は数学だった、苦手科目ということと昨日のテニスでの疲れもあってか、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。

 

「ヒキ....がゃ...」

 

なんだろう、声が聞こえる。でもこれはあれだ俺が呼ばれているわけじゃない。

 

「ひき、がや!」

 

人の周りで騒いでるの誰だよ....煩い。

 

「比企谷!」

 

あー煩い。てか比企谷君、無視してないで返事してやれよ。

 

「ちょっと隼人~そんなやつどっちでもいいじゃん」

 

「そう言うわけにもいかないだろう...おい比企谷。いい加減に起きろ」

 

誰かの手により俺の体が揺すられる。俺は未だに重い瞼を擦りながら顔を上げると葉山とやたら俺を睨んでいる三浦がいた。

 

「やっと起きたか...比企谷。お前に用があるって子が来てるぞ?」

 

俺は今の状況が理解できないまま教室の入り口を見ると神埼彩月が俺の方を見ていた。

何故神崎がこんなところにいるのか分からない。俺は自然と葉山の方に目線を戻すと苦笑いしている葉山と俺を先程から睨んでいる三浦がいた。あまりに三浦が怖いので自然と3人が見えないところに目線を移動すると、葉山といつも一緒にいる戸部と大和と大岡の姿が目にはいった。だが普段の彼等とは違い、今は3人とも話そうとはせず携帯を弄っていた。その姿を見て全てが繋がった俺だが三浦の「あんた聞いてんの?」というドスの聞いた声で慌てて席から立ち上がり神崎のもとにいく。俺が立ち上がり三浦の隣を通りすぎようとした瞬間に「あんた、結衣を泣かせたら殺すからね」と言われ、意味のわからない恐怖を与えられた。

 

「あ、あの先輩....急にすいません」

 

クラスの男子の目が痛いと思いながら俺は「別に気にしてないから、用件は?」と言い話を切り出してもらう。

 

「あ、あの!」と神崎はいつもの小声ではなく勇気を振り絞ったような大声で「一緒に昼ごはん食べてくれないでひょうか!?」と噛みながら言った。うん、赤くなってる神崎も悪くないとか思いながら、俺は今教室にいることを思い出した。

神崎は今年入った1年の中では5指に入るほどに゛男子”から人気があるらしい。あだ名もあるらしく『神崎大和撫子』と言うらしい。一色から聞いたことだが。そんな女の子が昼ごはんに男子を誘ったらどうなるか....。

 

・・・・・・。

 

 

「「「うぉあああああ!」」」

 

「「「何故だぁああああああ!」」」

 

「まじかよ!ひきたに君!マジっべー!マジっべー!!」

 

と男子達の悲痛な叫びがこだました。てかマジっべーて何だよ。そして誰だよ、ひきたに君。

 

神崎は男子達の叫び声で少し驚いていたが俺に目線を戻して「駄目....でしょうか?」と上目使い+消え入りそうな声で言ってきた。その表情で男子達は再び騒ぎ始めるわ、三浦は睨んでくるわで俺が返事に困っていると、急に海老名さんが俺達の前に出てきて「神崎さん、悪いけど...ひきたに君は葉山君と付き合ってるから諦めて」と訳がわからないことを言ってきた。

 

「は?」

 

「え?....えぇえええええ!!」

 

神崎から聞いたこともないような悲痛な叫びがあがる。

 

「で、でも!男同士なんて「性別なんて関係ないわ!いやむしろそこがいい!葉山君がひきたに君を言葉攻めにしていたのを私は今日見たんだから!!葉山君の言葉攻めでひきたに君が全てその言葉を受けて、はや×はち....きましたわぁあああ!ぶはぁ!!」ひっ...」

 

海老名さんのテンションに引いた、神崎を他所に三浦が海老名さんを連れていってくれた。

 

「せ、先輩今の話本当です...か?」

 

「なわけないだろう。全部あいつの妄言だ」

 

「で、ですよね...でも!私は2番目でもいいですよ?」

 

「・・・は?」

 

「ひ、ヒッキー!に、にに二番ってどうゆうこと!?」

 

「お、落ち着け由比ヶ浜...俺が一番分かってない」

 

「それで先輩ご飯ですが...」

 

「あー俺1人で食べるのがす「あの、今日朝たまたま、ほんとたまたま起きてしまいまして、多めにお弁当作って来てしまったんですけど....駄目、ですか?」」

 

何この断りにくい状況、どこのラブコメだよ。小町~お兄ちゃん、もう帰りたいよ。

 

「・・・分かった、弁当勿体無いしな」

 

俺が答えると神崎は「はい♪」と笑顔で言ってきた。

 

ここに1秒でもいたくなかったので、足早に移動しようとすると、神崎が俺の腕に抱きついてきた。俺の思考が止まるのと同時に神崎は動かなくなった俺を引きずるように教室から出ようとした。俺の思考が少しずつ回復していくとこの状況の恥ずかしさと神崎の由比ヶ浜よりは小さく、雪ノ下よりはかなり大きい胸の感触が俺の腕に拡がった。

 

「ひ、ヒッキー!何くっついてるの!!」と由比ヶ浜が叫んでるが、どう考えても俺が悪いわけじゃない。まぁ俺から抱きついたら普通に警察に通報されるレベル....おい、由比ヶ浜携帯を構えてお前どこに電話を...おい。

 

「あっもしもし、ゆきのん?」

 

待ってくれ、由比ヶ浜...それだけはという俺の心の叫びもむなしく...。

 

「ヒッキーがねーーー。」

 

 

 

死刑判決を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は昼休みで普段ならベストプレイスで1人ご飯を食べている時間だ。なのに....どうしてこうなった。

俺は今、奉仕部で神崎と一色、雪ノ下と由比ヶ浜、それに何故か葉山と三浦と海老名さんというメンバーでご飯を食べている。

 

「つーか。何であーし等までこんなとこでご飯食べてるわけ?」

 

それは俺が聞きたいんだけど?何でいんの?ほんとに。

 

「まぁまぁ、優美子たまにはいいじゃん」

 

「でもさー海老名、あーしこの女のこと嫌いなんですけどー」

 

「あら、それは奇遇ね。私も貴女のこと嫌いだから安心してちょうだい。それに私はいつもここで食べていて、急に来た貴女に文句を言われる筋合いはないのだけれど」

 

「ま、まぁまぁゆきのんも、優美子もさ仲良くしようよ」

 

「無理」

 

「無理ね」

 

「はは、息ピッタリだし...」

 

「なぁ...俺もう帰っていい?」

 

「センパ~イ、今この状況で逃げたら切り落としますよ♪」

 

何を!?とは聞けなかった。

 

「あ、あの先輩、これ口に合うか分かりませんが食べてみてください」

 

神崎の作ってきた料理を見て俺は素直に美味しそうだと思った。でもいくら美味しそうでも学校のお弁当に、おせちはどうかと思う....。てか伊勢海老とかも入ってるし。

食べない訳にもいかないので玉子焼きを1つもらい食べた。その味は中はとろけるようにふわふわで外は固すぎず柔らかすぎずで何より絶妙な甘さを醸し出していておもわず口から「うまい...」と言っていた。

 

「ほんとですか!?ありがとうございます♪」

 

「じゃあ~明日はわたしが先輩にお弁当作ってきてあげますね♪」

 

「いやいいよ。俺はパン買って食べるから」

 

「えーそんなにわたしの手料理は食べたくないんですかー...」

 

「そういう訳じゃないが...」と俺はマッカンを飲みながら一色に答える。

 

「あっ!それなら~雪ノ下先輩~」

 

「何かしら?一色さん」

 

「勝負をしませんか?」

 

俺はこの時心底嫌な予感がしていた。

 

「勝負....?」

 

雪ノ下はいつもの冷静な口調ではなく少し語尾が強くなっている。

 

「はい♪ここにいる人で先輩に誰の料理が一番美味しかったか判定してもらうんです♪」

 

「何故私がこの男にそこまでしなくてはいけないのかしら?」

 

「もしかして雪ノ下先輩」

 

辞めろ一色...。お願いだからその先を言わないでくれ。雪ノ下にその言葉は...。

 

 

 

「私に負けるのが怖いんですか?」

 

 

 




皆さんからの意見を聞きまして色々と反省するところがありました。これからも不甲斐ないところはあると思いますが頑張って書いていきたいと思います。


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比企谷八幡は後悔をする

今回の話は少しシリアスです。シリアスが嫌いなかたは、バックキーを押した方がいいかもしれません。


たくさんのお気に入りと、感想ありがとうございます。


 

 

目を覚ますとそこは俺の部屋のベッドの上だった。俺は覚醒してきた頭で昨日の出来事が全て夢だったら良いのにと思いながら、弁当勝負の事を思いだしていた。事の原因と言えば、神崎が俺に弁当を作ってきたことだろう。一言で言うとめちゃくちゃ美味しかった。眉目端麗、才色兼備、料理も出来る。『神崎大和撫子』とはよくいったものだ。神崎の性格を知らないやつなら、うっかり惚れても仕方ないだろう。

そして火種を作ったのは間違いなく一色だろう。あんな挑発に簡単に乗った雪ノ下も雪ノ下だが、あいつの性格を考えれば乗っても仕方ないかと思う。

俺は一色が何を考えているのかサッパリ分からなかった。てかあいつ、最初葉山の事が好きとか言ってませんでしたっけ?

まぁそんなわけで何故か弁当バトルが始まってしまった。勿論三浦と海老名さんは断ったが。

 

俺は目が覚めたので朝御飯を食べるため自分の部屋からでる。

部屋から出ると朝御飯の良い匂いが....あーこれ昨日の残りの肉じゃがだ。と日常あるあるを思いながら少しやる気が落ちたなーと、1階に向かった。俺が階段を下りて台所に向かうと小町が朝御飯を盛っているところだった。

 

俺と目があった小町は「あっ!お兄ちゃん、おはよう♪」と言ってくる。俺も「おはよう。小町」と返して盛られた皿をテーブルの上に運ぶ。

 

「「いただきます」」といつもと同じく言い、食べようとすると小町が俺の方を見て「何かあった?」と聞いてきた。

 

「何がだ?」

 

「んーなんだろ?でもな~んか怪しいし、何かあった?」

 

「別に何もない。まぁあれだな、俺の人生何も無さすぎるまである」

 

「どしたの?お兄ちゃん」

 

「いや...だからあれだよ。なんでもねえよ」

 

こいつにだけは絶対に言いたくなかった。後輩と同じクラスの女子から弁当作ってもらうんだーなんて。言えるはずがない。

 

「ねえ、お兄ちゃん知ってる?」

 

「何?豆しば?」 

 

「お兄ちゃんが朝、小町の前にカラーコンタクト付けてくるときは何かしら隠し事があるときだよ」

 

「・・・なんでそんなこと知ってるんだよ」

 

「ふっふっふ。小町を誰だと思ってるの?お兄ちゃんの妹なんだよ?」

 

「・・・はあ」と俺は諦めて事の顛末を全て小町に話した。

 

「お、お兄ちゃんが...ラブコメってる!!」

 

「おい。今の説明でどうしてそうなる」

 

「えー?だって今の話を聞いてたら自慢してるのかなーって小町思ったよ?」

 

「は?いや何でだよ」

 

「はあ...。まぁお兄ちゃんには分からないかー。……で、お兄ちゃんは誰が本命なの?」

 

「・・・は?」

 

「いやいや。は?じゃなくて複数いるんでしょ?誰が本命なの?」

 

「後輩と同じ部活ってだけだ。それ以上でもそれ以下でもねえよ」

 

ましてや友達ですらないまである。

 

「ふーん。まっいいや。明日土曜日だし誰かうちに連れてきてよ、お兄ちゃん♪」

 

「いやなんで?」

 

「ん?そんなの小町が会ってみたいからだよ?」

 

「だから何でだよ」

 

「そんなの未来の小町のお姉さんになるかも知れない人だよ?小町だって知りたいじゃん!」

 

「決めた。絶対に連れてこない」

 

「えー!」と小町は最後まで渋っていたが、俺はご飯を口のなかに掻き込み支度をするために自分の部屋に戻る。すると諦めたようでそれ以上声が聞こえなかった。

 

 

「レッツゴー!」

 

支度を終えて玄関の扉を開けると俺の自転車の荷台に小町が乗っていた。

 

「いや何やってんの?お前」

 

「何って、ほら早くいくよ!遅刻しちゃうよお兄ちゃん!」

 

お兄ちゃんという言葉に何処か弱い俺は自転車に跨がり少し重くなった自転車をこいで学校へ向けて走り出す。

 

「お兄ちゃん、今朝は小町乗ってるから事故らないでね?」

 

「俺一人の時はいいのかよ?」

 

「お兄ちゃん、あの時は心配したんだよ?」

 

「悪かったよ」

 

そう。俺は高校に入った入学式の日。学園生活を送るに当たって一番大切な日である今日、車との接触事故で入院しているのだ。生まれたときから人の黒い部分を聞いてきた俺は、高校に入っても同じだと諦めてわざわざギリギリに行こうとしていたのだ。だが小町が初日は大切だからといつもより1時間も早く家から出されたのだ。いつもより早すぎる時間に家を出ることになった俺は自転車ではなく徒歩で行くことにした。徒歩で学校に向かっているときにある信号で止まっていたのだが飼い主の鎖を外したのか、まだ赤だというのに犬がわたってしまった。犬がわたっているときに右から高級車と思われる車が犬と衝突しようとしていた。俺の体は考えるよりも先に動いており、犬を突き飛ばすと走ってきた高級車と激突したのだ。

 

そして開幕ボッチの完成と言うわけだ。

 

「元はと言えば小町が無理矢理お兄ちゃんを早く学校に行かせたのが問題なんだし...」と小町は俺の腰に腕を回しながら言ってくる、小町の腕は震えていて今でも気にしてくれていることが分かる。

 

「別に小町のせいじゃねーよ。ただ俺が不注意だっただけだ」

 

「でも...」

 

「それに逆に言えばあの時俺があの場所にいなければ間違いなく犬は死んでただろ?」

 

「そうだけど...」

 

「終わり良ければ全て良しって言葉を知らないのか?俺も暫く学校サボれたし良いことずくしだったよ」 

 

「ぷ、何それ。・・・お兄ちゃん」

 

「どうした?」

 

「ありがとう」

 

「おう」

 

小町を中学校まで送り届けると、小町の周りにはすぐに数名の女の子が近寄ってきて話しかけている姿が見えた。おそらく小町の友達なのだろう、このハイブリットボッチがと思いながら俺は総武校に向けて自転車をこぐのだった。

教室に入るといつもと空気が違っていた。というか男子生徒からの視線が痛い、いつもなら俺が教室に入ったところで誰も気にしないのだが今日は違った。殆どの男子生徒が俺をずっと睨み続けているのだ。俺にはなぜこのような状況になっているのか皆目見当がつかないので立ち尽くしていると戸塚に話しかけられた。

 

「おはよう。比企谷君、今日は遅かったね」

 

「ああ、ちょっと妹を学校まで送っててな」

 

「そうなんだ」と言って席に戻ろうとする戸塚を止めて何故こんな空気がギスギスしているのかと聞いてみた。

 

「あー...。それはね、ついさっきなんだけど。この教室に神崎さんがまた来たんだよ」

 

「・・・それで?」

 

「比企谷君を探してたみたいだから、まだ来てないよって言ったらね」

 

「おう」

 

「そうですかって帰ろうとしてたんだけど...小金井君がね」

 

ん?小金井君って誰?そんな人いたっけ?

 

「えーと。すまん、戸塚。小金井って誰だ?」

 

「えーと...。ほら後ろの入り口から一番近い席に座ってる」

 

あー。あいつ小金井って言うんだ。

 

「てか、スッゲー睨んでるんだけど...俺何かした?」

 

「うーん...比企谷君が何かしたと言うよりは....。神崎さんかな?」

 

「・・・取り合えず、さっきの続きを聞かせてくれるか?」

 

「うん。えとね、小金井君があんな男より俺と一緒にご飯食べませんか?って言ったんだよ」

 

「・・・それで?」

 

「そしたら....えーと。ごめんなさい、私比企谷先輩以外の男性に興味がないので....って」

 

ハッハー!小金井ざまぁあああ!!....じゃない!だから三浦も睨んでるのか!止めて!俺のせいじゃないから!

 

「それでこんな状態に...」

 

「そ、そうか...」

 

キーンコーンカーンコーン。

心は晴れなくても授業は始まる。

 

1時限目の授業が終わると小金井が俺の机の前まできた。

 

「おい、比企谷。ちょっとこい」

 

あーこいつ、あれだ。ドラマの見すぎだ。そんな台詞で付いていくやつなんていない。

 

「嫌だ」

 

「っ!てめえ!」

 

「おい!小金井!」

 

俺が聞く耳もたずにスルーしていると小金井は俺に掴みかかろうとしてきた。俺は痛いの嫌だなーとか思ってると意外な....でもないな。葉山から助け船が出された。

 

「んだよ!葉山!お前には関係ねえだろ!」

 

「あるさ!同じクラスの仲間じゃないか、それに君はフラれたんだ、大人しく諦めるのも大事だと思うよ」

 

「女子にモテモテだからって調子にのんなよ?葉山!」

 

「ちょっと、あんた煩いんだけど?」

 

出ました。女王三浦の登場です。

 

「ああ?女はだま「あぁ?」...」

 

三浦怖すぎだろ...小金井黙っちゃってるし。

 

「んでヒキオ、あんたはちょっと、あーしと来な」

 

「は?」

 

「2度も言わせる気?」

 

「・・・はい」

 

 

キーンコーンカーンコーン。

2時限目が始まるチャイムの音が聞こえる。なのに何故か俺は三浦に連れられて別館に三浦と二人で来ている。

 

「あーしさ、あんたに言ったよね?結衣泣かせたら許さないって」

 

「・・・」

 

俺は何も言うことが出来ない。

 

「無言....か。なんで結衣はこんなやつのこと...はぁ」

 

「なんて「なんでもない」...はい」

 

「それであんたは誰が好きなの?」

 

「誰がって?」

 

「だから、結衣と雪ノ下さんだっけ?あと一色ってこと神崎って子」

 

「・・・お前には関係ないだろ」

 

パシン。

別館に甲高い音が響き俺の頬がジンジンと痛み。痛みが無くなると今度はどんどん熱くなっていき自分が言葉にしてしまった喪失感に襲われまるで自分がスローで動いてるような気分になった。

 

「あんたなんかに...結衣は渡さないから」そう言って三浦は教室に戻っていった。俺は暫くそのまま動くことが出来ず、もう何回目のチャイムがなったのか分からなくなった頃教室にカバンも取りに行かず家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってお風呂に入って、ご飯も食べずに布団の中にうずくまるように入る。今日学校で何をしていたのか覚えていない、唯一覚えていたのは三浦から頬を叩かれたことだけ。

 

「なにやってるんだ、俺は...」という独り言で夢に落ちていった。

 

朝、目が覚めるとこれでもかというほどに体が重かった。力も入らずただただ布団の上から天井を見上げるだけ。

 

ふと横を見ると朝御飯だろうか。俺の机の上にベーコンハムエッグがのせられていた。今更だが俺は昨日授業をサボり、勝手に帰ってきてしまったことに気付いた。色々と頭に浮かんでくる顔。それは由比ヶ浜や、雪ノ下、一色に神崎の顔だった。急に痛くなる頭を押さえながらベーコンハムエッグに手を伸ばすと1枚の紙が乗っていた。

その紙には数字が11個だけ書いてあった。

 

080-0000-0000。

 

どこから見ても電話番号だろう。だが誰の電話番号なのかは分からなかった。昨日の今日でかけるのも嫌だったが、これをかけないと一生後悔すると思い震える手を押さえながら携帯でかける。

ボタンを押して耳に付けるとプルルルルと普段聞きなれた音が聞こえてきた。だが俺の心臓はいまだかつてないほどに跳ね上がり唇は乾燥している。

 

プルルルぷっ....「はい、もしもし?」という声を聞いて俺は電話の相手が誰なのか分かった。

 

「えと....もしかしてヒッキー?」

 

電話の相手は、今一番話したくない相手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだヒロインは決めてません。もう少し進み具合を見ながら決めようと思います。


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比企谷八幡の選択はやはりひねくれている

今回もシリアスです、たぶん。苦手な方はバックキーお願いします。




 

 

「ひ、ヒッキーだよね?」

 

「ああ...」

 

「あはは、ごめんね....ヒッキー」

 

「何がだ?」

 

「優美子のこと....あ、あのね!優美子も悪気があって言ったんじゃないと思うんだ!・・・昨日ヒッキーだけが戻ってこなくて...優美子に聞いても何も答えてくれなくて...ヒッキー部活にも出てこないし」

 

「昨日は...少し具合が悪くてな慌てて帰ったんだ。悪いな」

 

下手くそな言い訳だと自分でも思った。でも由比ヶ浜ならこの言葉で納得してくれると思った。これ以上この話をしたくない、これ以上あの時のことを思い出したくない、だから早くこの話を止めたい、だから俺は由比ヶ浜の優しさに甘えることにした。

 

「そ、そうなんだ...ははは...。ぐ、具合が悪かったなら仕方ないよね!うん!あたしもよく具合悪くなるときとかあるし!そ、それじゃあヒッキー今日は学校休みだからゆっくり休んでね!またね!」

 

由比ヶ浜の笑い声は元気がなく枯れていた。由比ヶ浜が許容してくれることを分かってて甘えたことなのに先程よりも心が締め付けられる感覚に陥った。

 

「な、なあ。由比ヶ浜」と由比ヶ浜が切る前に呼んだ。

 

「な、何?」

 

こんなことを言っても、俺は後悔する。でも言わないと恐らくずっと後悔したままになる。だから由比ヶ浜に。

 

「今日空いてるか?」

 

「う、うん!!」

 

 

俺は由比ヶ浜を誘った。直接会って何を話せばいいのか、どんな態度や顔で由比ヶ浜の前に出れば良いのか分からないが誘ってしまった。卑屈にも嫌われるのは慣れていると思った瞬間に心が少し楽になった。だが代わりに三浦にぶたれた頬が痛くなる。実際に痛いわけではないが自然と右手が頬にいきあの時の光景が頭の中でフラッシュバックする。その時1つの結論が俺の中で出た。これが合っているのか間違っているのかは分からない。でも心のつっかえは全て取れて肩も何だか軽くなり三浦の言葉もあれほど響いてこない。

 

 

 

 

そうだ。由比ヶ浜に嫌われればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

俺は今由比ヶ浜と待ち合わせたデパートの前に来ている。時刻は11時10分前。約束の時間より10分ほど前に着いて由比ヶ浜を待っている。

時計の針が11時を指そうとしたとき遠くから見慣れた人物が慌てながら走ってきた。

 

「はぁ、はぁ...ひ、ヒッキー!ごめんね!またせちゃった?」

 

今の由比ヶ浜の服装は夏手前だと言うのに大胆に胸元が空いているTシャツに短いショートパンツ、おまけにブラが片方大胆に見えている。というか息を切らして前屈をしているので谷間が大胆にも見えてしまっている。俺は慌てて顔を反らして「そ、その...ブラ見えてんだけど?」と聞いた。

 

「な、ななななな!!」と由比ヶ浜の顔はみるみる赤くなっていく。

 

自分でも聞いといてなんだが、これは俺の意思じゃない。いきなりこんな光景を見てしまって谷間が見えてますなんて言えないからブラを言ってしまっただけだ。だから俺は悪くない。そんな格好をしているお前が悪い。

 

「こ、これは!見せブラって言うんだし!」

 

いやブラ見せるってどんだけお前ビッチなんだよ。

 

「このビッチが」

 

「もう!また言った!!こんなんみんなしてるでしょ?」

 

いやそんなの俺が知ってるわけないじゃん。女の子と出掛けるとかいままで無かったんだから。

 

「知らねえし、てかどうしたんだ?遅かったな?」

 

俺は今回、由比ヶ浜に嫌われるために来ているので昨日Yahoo!さんに聞いておいた。彼女と待ち合わせて言ってはいけないベスト10!をチェックしておいたのだ。その中でもこれはベスト3!

 

「あはは。ごめんごめん。ちょっと道に....み、道で倒れているお婆さんを助けてから来たから」

 

こいつ今道に迷って遅れたこと(遅れたと言っても2分ほど)を架空のお婆さんのせいにしやがった!こんなときの対処法、Yahoo!さんには載っていなかったぞ!由比ヶ浜恐ろしい子!

 

「お前...それ嘘だろ?」

 

「えー!?何で分かったの!?」

 

しかも簡単に認めちゃうのかよ!

 

「はぁ...それじゃあ行くか」

 

「あ!ま、待ってよ!!ヒッキー!」

 

俺達はデパートの中に入っていった。俺達の会話を聞いていた人物には気付かずにーーーー。

 

 

 

「ふーん。あれがそうなんだ~。くす、おもしろそ♪」

 

ふふふふん♪と鼻歌混じりに俺と由比ヶ浜にその人は着いていった。

 

 

 

「それでヒッキー?どこ見るのー?」

 

ここで再度投入Yahoo!さん!こんなとき何て言えばいいか。

 

「悪いな。何も考えてなかった」

 

これで8割りの女は帰るらしい。何がいけないの?と思ったがそこは、まぁいいだろう。

 

「だよね!ねえねえ!だったらさ!ヒッキーここにいこ!」

 

あれ?おかしいな...ここで由比ヶ浜は俺に嫌気をさして帰るはず...何で?

 

「・・・それで何故ここ?」

 

俺は由比ヶ浜に言われてランジェリーショップの目の前まで連れてこられていた。

 

「何でって、そろそろ買っておきたいし....その古いやつはそろそろきついって言うか...も、もう!なに言わせるし!」

 

その大きなものは、まだ成長中だったんですね...雪ノ下、憐れ....。さて自分で勝手に喋って自分で墓穴をほった由比ヶ浜はおいといて、少し離れた所に休憩する椅子が見えたので移動しようとすると由比ヶ浜に手を捕まれた。

俺の心臓は急激に高鳴り「にゃにゃんだよ...」とおもわず噛んでしまった。

由比ヶ浜も照れ臭いのか顔を赤くしている。由比ヶ浜は慌てて俺の手を離すと。

 

「ご、ごめん....でもヒッキー、またどこかに行っちゃうんだと思って」

 

「・・・ちげえよ。ただここは入りずらいし、そこに椅子があるだろ?そこで座ってようと思ってな」

 

由比ヶ浜は「そ、そっか!」と言ってランジェリーショップの中に入っていった。

 

 

由比ヶ浜がランジェリーショップに行っている間、俺は1人考えていた。Yahoo!さんに聞いた彼女が嫌がること沢山しているのに何故由比ヶ浜は帰らないんだ?・・・あっ..由比ヶ浜、俺の彼女じゃないじゃん....。俺はそれがわかると椅子のすぐ近くにある机に突っ伏した。

 

「ねえ?君君、何してるの?」

 

すぐ近くで女の人の声が聞こえるがこんな声は知らないので無視してそのまま机に突っ伏すことにした。俺の隣にあった椅子が引かれて誰かが隣に座ってきた、すごく良い匂いがするので恐らくは女の人だろう。突っ伏しているので足下は見えるのだが隣の女の人が椅子ごと少しずつ此方に近付いてくるのが見えた。俺は慌てて起き上がると目の前に芸能人ですか?と思うほど綺麗な人がいた。

 

 

「ふふ、こんにちは♪」

 

「だ...誰ですか?」

 

「んー?わたし~?誰だと思う?」

 

いや知らねえよ。知らないから聞いたのに何で質問で返してくんだよ。

 

「知りませんよ」

 

「あはは。そうだよねー私の名前は雪ノ下陽乃って言うの、よろしくね比企谷君♪」

 

俺は自分の名前を知っている事に驚き立ち上がるが名前を口に出して言って何かが一致した。

 

「雪ノ下...まさか雪ノ下の」

 

「そ♪雪乃ちゃんは、わたしの妹」

 

そういえばテニス勝負の後、雪ノ下と話したときに姉がいるって言ってたな。この人がそうか。

 

「・・・それでその雪ノ下のお姉さんが「やだなー♪そんな他人行儀じゃなくていいよ?陽乃でも陽ちゃんでも、あっ!お姉ちゃんでもいいよ、むしろ推奨♪」はは....雪ノ下さんは」

 

「もう!他人行儀じゃなくていいのに~」

 

「何故俺に話しかけてきたんですか?」 

 

雪ノ下さんは、俺に更に近よってくる。そして「何でだと思う~?」わざと誘惑するように耳元で言ってくる。俺はため息を吐いて立ち上がり、右目に付けてあったコンタクトを外して雪ノ下さんを見た。

 

[そんなの~雪乃ちゃんが興味ある子だからに決まってるじゃない♪]

 

「雪ノ下が?」

 

「んー?どうしたの?」

 

[コンタクトを外した?何故?それに今の雪ノ下は雪乃ちゃんのこと?もしかしてーーーーーかしら?]

 

俺は慌ててコンタクトをし直した。

 

「ねえ?比企谷君、あなたもしかして」

 

雪ノ下さんの手が俺を逃がさないぞと言うかのように肩におかれる。その手はとても細く簡単に振り払えそうなのに何故か動くことが出来なかった。

 

「わたしの思っていることが分かるの?」

 

心を全て聞く前にコンタクトをいれて、聞かなかったが、まさか今の一言でバレるとは思っていなかった。だがまだ半信半疑なはずだ。

 

「・・・分かるわけないじゃないですか」

 

俺は未だ雪ノ下さんに肩を掴まれたまま顔を見れずに答える。

 

「ふーん。そっか、ふーん」

 

そう言って俺の肩から雪ノ下さんの手が離れた。

 

「それじゃあ、わたしは帰るね♪比企谷君、今度会ったときはお茶しようね♪」

 

俺は肩から手が離れたというのに未だに動けずにいた。そして雪ノ下さんその場をあとにした後も暫くそのままで動けなかった。

 

「ヒッキー!」と買い物を終えたのだろう、由比ヶ浜が戻ってきた。だが俺は雪ノ下さんの登場でもうほとんど力尽きた状態だった。だからもう言ってしまおうと思った。これは本当に言いたくなかった。出来ればYahoo!さんの意見で全て終わらせたかった。

 

 

でも俺も色々と限界だった。

 

 

 

「なあ、由比ヶ浜」

 

「ん?何?ヒッキー」

 

「由比ヶ浜は優しいよな」

 

「え!?いや、そんなこと急に言われても..」

 

本当に言ってしまって良いのか?

後悔はしないか?

これを言えば間違いなくリセット、いや最初からには戻らないな。全てが終わる。

それでもいいか?

 

俺は俺自身に問いかける。

 

そして....ああ。と結論は出た。

 

「由比ヶ浜は優しいから俺なんかと一緒にいてくれるんだろ?本当は嫌だったんだろ?今日だって、分かってたよ、途中から....」

 

何が分かってるんだ?お前は何も分かっていない。

 

「そうだろ?俺なんかと一緒なんて誰だって嫌なはずだ」

 

結論をだしたはずなのに未だにこんなことを思っているんだ。分かっているフリをしているだけだ。

 

「なあこたえ....」

 

「ばか」と由比ヶ浜は一言だけ言って俺の隣を走っていってしまった。

 

俺は1人なったデパートの天井を見上げる。先程の由比ヶ浜の顔が目を閉じても目の前に出てくる。涙を流しながら「ばか」と言ってきた由比ヶ浜が。

 

俺はそのまま家に帰る。小町が出迎えてくれたが俺の顔を見た小町は一瞬にして顔を曇らせて「小町...余計なことしちゃった?」と弱々しくき聞いてきた。

 

「小町は悪くねえよ」

 

「でも...」

 

「お腹空いたからご飯頼むよ」

 

「うん...」と言ってリビングに向かう小町。

 

本当に悪いのは俺だ。

 

 

 

 

 

 

 




葉山の依頼をそろそろ解決しなければ....。


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比企谷八幡とあざとい後輩





 

 

由比ヶ浜と出掛けた翌日。俺は日曜日だというのに普段より2時間も早く起きていた。

 

「・・・まだ5時、か...」

 

もう一度寝ようと改めて横になるが一向に眠くなる気配がない。そればかりか思い出したくないことまで思い出してしまう。

俺は寝ることを諦めて腰を起こして立ち上がる。

まだ誰も起きていないようでとても静かだ。だが今の俺にはこの静けささえも憂鬱に感じてしまう。

 

「はぁ、散歩でもしてくるか」

 

普段なら絶対にしないが、今はその場で横になっても気分が曇っていく一方なので、寝間着から着替えコンタクトを付けて、誰も起こさないように玄関の扉を開けて外に出た。

どこにいこうかと悩みながら歩いていると、公園があったのでベンチに腰かける。太陽が昇り始めて今の時刻を確認するためポケットから携帯を取り出そうとするが、携帯どころか財布も持ってきていなかった。

 

「・・・はぁ」

 

自然とため息が出た。空を見ると雲ひとつない快晴で太陽が昇り始めており癒されるように空を眺めていた。

 

 

・・・・・・・・・。

 

「セーンパイ」

 

誰かの声が聞こえる。ああ、そうか。俺、散歩に外に出て公園のベンチの上で空眺めてたら寝ちまってたのか。

 

「先輩!!」

 

俺が目を覚ますとそこには一色がいた。

 

「何でこんな所にいるんだ?」

 

「それはこっちのセリフですよ~」と一色は言いながら俺の隣に座ってくる。

 

少しの静寂の後。

 

「どうして部活にこなかったんですか?」

 

「・・・・」

 

俺はまた答えられなかった。

 

「はあ...そうですか。ならいいです」

 

呆れられたかと思ったが一色は黙ったままでいくら待っていても俺の隣から離れようとしない。

 

「・・・何で何も言わないんだ?」

 

これは一色に言ったのではなく自分に言ったのかもしれない。俺はどうして何も言えないんだ?と答えを求めるかのように。

 

「だって」と一色は足を両手で抱き締めるように抱えて頬を染めながら言ってきた。

 

「先輩が言いたくないって顔してましたから」

 

その顔に、いつものあざとさはなく純粋に可愛いと思ってしまった。一色の顔に見惚れていた俺に「どうかしましたか?」と一色が聞いてきて我に返る。

 

「・・・あざといんだよ」といつもより小さい声で言い訳をしてしまう。

 

「え?先輩何かいいました?」

 

「何でもねえよ。それで一色は何でこんな所にいるんだ?」

 

「あーとですね、私友達から一緒に図書館に行こうって誘われてまして、向かってたら先輩を見つけたって感じです」

 

「・・・つまりお前は、図書館に行かなきゃ行けないんじゃないのか?」

 

「いやいやいいですよ。先程やっぱり用事できたので辞めまーす♪って連絡したので♪」

 

「あっそ...それじゃその用事に戻れよ。大切な用事なんだろ?」

 

「何いってるんですか?」

 

「は?」

 

「その用事は今してるじゃないですか♪」

 

この時の一色の笑顔は、いつものあざとい笑顔に戻っていた。

 

「・・・帰る」

 

「ちょ!ちょっと先輩!女の子にドタキャンさせて自分は帰るって酷くないですか!?」

 

「いや頼んでないから、てかほんとに良いのかよ行かなくて」

 

「はい、どうせ男しかいませんから♪」

 

あーこいついつか絶対刺される。

 

「でも、ギュルルル....」と昨日の夜から碌に何も食べれてなかったなーと思い出しながら今の状況に羞恥で顔が熱くなっていく。

 

「ぷ!ふふふ、せ、先輩お腹すいてるんですか?」

 

「・・・朝何も食べてないんだよ、悪いか。だから家に「わたしが何か作ってあげましょうか?」・・・は?」

 

「いえいえ、は?ではなく。わたしが何か作ってあげますよ♪」

 

「いや流石に悪いし」

 

「大丈夫ですよ、家もこの辺りなので遠くないですし」

 

いやいや。女子の家に俺が入れるわけがない。てかいままで友達がいなかったから友達の家にいくなんてイベント、俺には皆無だったのだ。そんな経験値0の俺にいきなり後輩女子の家に朝御飯食べに行くとか無理。

 

「いやそういう問題じゃないだろ...ほら」

 

「は?もしかして家にいってわたしに何かする気なんですか?すいません、まだちょっと覚悟とか出来てないし早いと思うので今回は諦めてご飯だけ食べていってください」

 

ものすごい早口でとんでもないこと言った気がするが、そもそも行く気がないのでこんなことを言われるのは心外である。

 

「・・・心配するな。俺は帰る」

 

帰ろうとする俺の肩を一色が掴んでくる。なんかこの前もこんな状況あったなと思いながら一色の方に顔だけ振り向いた。

 

「帰すと思いますか?」

 

すごい笑顔で....怖かった。

ご飯だけ食べて帰ればいいわけだし、と考えながら俺は一色の家にお邪魔することにした。

 

「・・・分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「先輩、ここがわたしのお家です♪」

 

「へえー」と一言返して一色についていく。

 

「それだけですか!?」と言われたが言い方があざとすぎて正直どうでもよくなってきていた。

 

「ただいま~♪」と一色は家の扉を開けて...開けてって事は家に家族がいるのか?家の中から此方に向かってくる足音を聞きながら、俺は一気に血の気が引いていくのを感じていた。

 

ああ、俺今日死ぬのかな。

 

俺と一色の前に現れたのは、一色のお姉さんと思われる、若くて綺麗な女の人だった。一色も大きくなったらこうなるんだろうなというくらい一色に似ていた。だが一点だけ違う所があった。それは由比ヶ浜よりも大きく豊満な胸だった。部屋着というラフな格好のせいなのか服では隠しきれてない谷間が見えてしまっている。俺はそれを見て目をそらし一色と目が合い凍りついた。

 

「いろは、お帰りなさ~い。早かったのね?あら、その人は?」

 

俺を睨んでいた一色は目線をやっとお姉さん?の方に移してくれた。

 

「途中で帰ってきたから♪お母さん、この人はね……」

 

「え?...お母さん?」

 

「あら?見えなかった?」

 

俺は思ったことが口に出てしまっていた。

 

「い、いえその...お姉さんかと」

 

「あら♪嬉しいこと言ってくれるじゃないの♪それであなたはいろはの彼氏さんかな?」

 

「違います」

 

ここだけは、ハッキリと違うと言わなければいけないと思った。俺なんかが一色の彼氏で、あっていいはずがない。別になりたいとも思っていないが。勿論思われるのもよくないだろう。

 

「はぁ...」

 

「あらあら♪」

 

そんな俺の反応にため息の一色と、面白そうに俺と一色を見比べる一色のお母さん。

 

「えと、それじゃあ先輩、リビングにいきましょう」

 

「あ、ああ」

 

「その前に一色、その人のお名前は?」

 

「あ、忘れてました、比企谷先輩でわたしの1つ上だよ」

 

「そう、頑張ってね♪」

 

最後のお母さんの言葉がよくわからない俺を、一色はリビングまで連れていきソファーに座って待っているように言ってきた。

一色が料理を作り始めて30分くらいしたところで、俺のために作られた料理が並べられる。

 

それにしても...「上手そうだな....」と、どれも美味しそうでつい言葉に出してしまっていた。

 

「ありがとうございます♪では食べてください」

 

「ああ」

 

俺は一色が作ってくれた、鮭のムニエルとキノコのお味噌汁、ごはん、サーモンのカルパッチョを残すことなく完食した。

 

「ふぅ....ほんとにありがとな。一色、全部旨かった」

 

「先輩が素直に誉めるなんて珍しいですね...明日は雨ですか?」

 

酷い....。

 

「まぁでもいいです。これでようやく本題に入れます」

 

「・・・本題?」

 

「はい、先輩にお願いが、いえこの場合は依頼ですね。わたしから依頼があります」

 

「・・・断る」

 

「な、何でですか!?てかまだ内容すら聞いてなくないですか!?」

 

「だからこそだ、今のうちに断る!それに俺はまだ葉山の依頼すら達成してないんだぞ?それで次の依頼なんて出来るはずないだろ」

 

今の状況で葉山の依頼をどうにか出来るのか?

由比ヶ浜がもし、明日部活に顔を出さなかったら?

いやそもそと学校を休んだら?

俺はどうする気だ?

 

「由比ヶ浜先輩とそんな状況で葉山先輩の依頼なんて上手く出来るんですか?」

 

「・・・知ってたのか?」

 

「いえ、私はたまたま昨日デパートの前を通りかかった時に由比ヶ浜先輩が泣きながら走って行くのが見えただけです」

 

「でもそれだけなら俺じゃないかもしれないだろ」

 

「いいえ、先輩しかいません」

 

「何でそんなことが分かるんだ?」

 

「だって」と一色は言葉を紡ぐ。

 

「由比ヶ浜先輩をあんな風に泣かせられるのは先輩だけですから」

 

「っ....それは....」

 

どういうことだ?とは聞けなかった。いや、言葉が出なかった。俺は自身の瞳から流れてくる涙で上手く言葉を発する事が出来ずにいた。

一色は、静かに俺の隣に来る。一色のしてくれそうなことが分かった。

 

でも辞めてくれ、俺には、俺にはそんなことをしてもらえる価値なんてないんだと。心の中で叫ぶ...でも。

 

一色は優しく俺の頭を己の胸で抱き締めるように包み込んでくれた。優しく頭を撫でてくれ俺は嗚咽が漏れ、顔が涙でぐしゃぐしゃになっていく。一色は温かく俺はどこか安心したのか泣くのに疲れたのか眠ってしまっていた。

 

「・・・このあとどうしましょう...」

 

 

 

 

 

ーーーー3時間経過。

 

俺が目を覚ますとそこは知らない天井だった。辺りを見回すとピンクで彩られた可愛らしい部屋で俺はベッドのうえにいた。

 

「何故...」

 

俺が目を覚まして何があったのか思い出そうとしていると、部屋の扉が開いて一色が入ってきた。

 

「あ、先輩よく寝られましたか?」 

 

うん、ビックするほどすこぶる快調だけど寝る前の事を思い出してきた俺は一色から目線をそらす。

 

「あ、ああ」

 

「でもほんと困りましたよ。あんな格好で寝られて...お父さんまで帰ってきて」

 

え?まじで?....娘が知らない男を抱き締めている...もし小町だったら俺はそいつを殺してるな。....小町~お兄ちゃん、もうダメかもしれない。

 

「え、えと....あ、あれは...」

 

何か言い訳を考えたが何も思いつかない、いつものひねくれた考えすら出てこない。これは...詰んだ。

 

「ふ、ふふふふ」

 

俺が真剣にどうしようか考えていると急に一色が笑いだした。

 

「せ、先輩分かりやすすぎです、ふふふ。それにお父さんが帰ってきたというのは嘘です♪」

 

「・・・洒落になってないぞ?」

 

「すいません♪」

 

全く反省してないな....。でも。

 

「そのすまん。一色、色々と楽になった。ありがとな」  

 

「いえいえ。あとは依頼の話です」

 

「・・・ああ」

 

「わたしの依頼は……」と一色は真剣な目になり俺に言ってくる。俺も依頼ならしっかりとやろうと覚悟を決めて一色の話を聞く。

 

「由比ヶ浜先輩としっかり仲直りしてください」

 

一色からの依頼は俺が想像していたよりも困難だった。

 

 

 



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小町からのお願い

今回は少し短めです。


 

一色に依頼をされ受けると言えないまま俺は家に帰った。

 

「お、お兄ちゃん!どこ行ってたの!?朝起こしにいこうと思ったら部屋に誰もいないし!携帯鳴らしたら小町の隣で鳴ってるし!」

 

「お、おお悪い悪い。少し外の空気が吸いたくてな」

 

「やっぱり昨日ことまだ気にしてるの?」

 

「・・・」

 

「お兄ちゃんに何があったのか小町には分からない。けど、けどね、"何かが"あったのは分かるんだよ?」

 

「・・・凄いな、何で分かるんだよ?」

 

「だってお兄ちゃんの妹だもん!」

 

「そっか...」

 

 

真っ直ぐ俺の目を見てくる小町に俺は昨日由比ヶ浜と何があったかを話した。

 

 

「お兄ちゃん....最低」

 

「うっ...」

 

分かってはいたがここまで直球でこなくてもいいんじゃないかな?俺のライフはすでに削りきれてポーションも無いんだからね!

 

「はぁ...ごみぃちゃんだとは思ってたけどここまでだったなんて」

 

「えーと、小町?ごみぃちゃ「それでお兄ちゃん」ん?」

 

小町は真剣な表情になり俺に言ってくる。

 

「お兄ちゃんはどうしたいの?」

 

「どうしたい、か」

 

「うん」

 

どうしたいか、分かっているなら相談なんかしていない。・・・いや違うな。分かっているけど俺自身がその答えを認めることに躊躇っているんだ。

 

 

だってその答えを認めてしまうと言うことはーーー。

 

 

由比ヶ浜と友達になりたいってことじゃないか。

 

 

「・・・分からない」

 

情けないの一言だろう。

妹にすがってしまい尚且つ自分を偽っている。

 

「そっか。なら小町からお願いがあるんだお兄ちゃん♪」

 

小町は笑顔で俺に言ってくる。

 

「小町も由比ヶ浜さんとは仲良くしたいから"小町の為"に仲直りしてくれないかな?」

 

「っ...!」

 

小町は昔から俺の事を気にかけてくれていた。嫌なことがあって家に帰った日があれば、ずっと一緒にいて話しかけてくれた。悩んでいれば俺から言わなくても相談に乗ってくれた。

 

ははは....。これじゃあどっちが歳上か分からないな。

 

気付いたら俺は笑っていた。昨日今日と、憂鬱にしか感じてこなかったのに、今は1秒でも早く行動したいと心臓の鼓動が早くなる。

 

「可愛い妹の頼みならしょうがないな」

 

俺は恥ずかしさをまぎらわせるために小町の頭を少し強めに撫でながら言う。

 

「あははは。うん♪お兄ちゃんの妹だからね、仕方ないよ♪」

 

ほんとに俺は小町には敵わないな。

 

「小町...」

 

「ん?」

 

「ありがとな」

 

「良いよ」

 

 

 

 

翌日。俺が早めに学校に行って教室に入ると、既に由比ヶ浜がいた。由比ヶ浜は俺と視線を1度合わせると目を大きく見開いたが直ぐに目線を斜め下にして手を震わせていた。

そんな由比ヶ浜の表情を見た、三浦と目が合い、やはりというか椅子から立ち上がり俺の方に来る。

 

 

俺の目の前まで来た三浦は一層俺の事を睨み、今にも殴りかかってきそうだった。

 

「ヒキオさ!よく堂々と教室に入ってこれたよね?」

 

「その煩い口を閉じなさい。騒ぐことしか能がないのかしら?」

 

「ゆ、ゆきのん?」

 

由比ヶ浜が反応してまた此方を見るが、俺と目が合うと直ぐに逸らしてしまう。

 

「雪ノ下さん、あんさー。何であんたまでいるわけ?」

 

「貴女には関係のないことよ、三浦さん。それに貴女邪魔なのよ」

 

「はぁー!!」

 

「比企谷君、いきなさい」

 

「ああ、悪いな。雪ノ下」

 

「依頼はしっかりこなすわ」

 

 

 

 

 

雪ノ下が何故俺と一緒に教室にいるのかといえば昨日まで時間は遡る。

小町からお願いを受けた俺はどうすれば由比ヶ浜と二人で話が出来るのか考えていた。

 

「やっぱり問題は...三浦だよな」

 

由比ヶ浜に何かあれば三浦が出てくるであろうということは簡単に予想できたので、三浦をどうすれば由比ヶ浜と離すことが出来るのか考えていた。

 

葉山に頼んで...いや無理だな。絶対無理だ。即却下だ。

 

戸部に頼んで...そもそも話したことないし却下だ。

 

なら海老名さんに頼んで...女子に頼むとか無理だな。却下だ。

 

あれ?俺ってこんなに頼れる人いなかったっけ?

 

俺がどうしようかと考えていると携帯が鳴った。

 

「誰だ?・・・平塚先生、か」

 

そりゃ連絡も来るか。無断で帰り、その後の連絡も無し。こりゃ久しぶりにセカンドブリットくらいは覚悟しないとな...。

 

「はい、もしもし。比企谷です」

 

電話に出ないと後が怖いので素直に出ることにした。

 

「おお、比企谷。私が何故電話したのか分かるか?」

 

受話器からでも聞こえてくる指の鳴らす音にびびりながらも答える。

 

「はい。無断で帰ってしまってすいませんでした」

 

「まあ、それもあるが。そんなことはどうでもいいのだよ」

 

は?どうでもいいの?ならなんでかけてきたのん?

 

「では何故かけてきたんですか?」

 

「なあ比企谷。そもそも無断で帰ったことなら帰ったその日に連絡がいってると思わないか?」

 

確かにそうだ。今日は日曜日でしかも夜だ、こんな時間を電話を掛けてくる必要なんてない。

 

「君が帰った原因は由比ヶ浜から大体聞いた」

 

「由比ヶ浜、から?」

 

「ああ。三浦と何かあったようだな。それにお前の妹からも謝罪の電話があった」

 

小町から....。

 

「なあ比企谷。もう一度聞くぞ、何故私が電話をかけたと思う?」

 

「・・・」

 

「まあいい。君が悩んでいるんじゃないかと思ったからだ」

 

「っ!」

 

「君のことは理解しているつもりだ。2年間も受け持った生徒だからな。ひねくれてはいるが誰よりも優しい奴だ」 

 

「・・・俺は優しくなんてないですよ」

 

現に今由比ヶ浜を泣かせて傷付けてしまっている。

 

「君がやろうとすることは毎回君自身が傷付いている。私はそう思うよ」

 

「そんなこと、無いですよ...」

 

俺は俺自身がこれでいいと思ってやって来たことだ。だから自分を犠牲になんかしていない。

 

「そうか。でもな比企谷、もう少し他人を頼ってはどうだ?」

 

平塚先生の言葉は、自分でも驚くほど響いてくる。

 

「でも、頼る相手が...」

 

「いるじゃないか。今の君には奉仕部があるんだ」

 

「っ!?」

 

「さて!あんまり説教してもな、明日は学校に来いよ?朝から私の授業だからな遅れずに「あ、あの!平塚先生」なんだ?」

 

「雪ノ下の連絡先を教えてもらってもいいですか?」

 

「え?知らなかったのか?」

 

「・・・はい」

 

「あははははは!なんだお前らお互いの連絡先も知らんのか、雪ノ下には了承を得てないが、まあ問題あるまい」

 

「ありがとうございます」

 

平塚先生から雪ノ下の連絡先を教えてもらい俺は雪ノ下に連絡をした。

 

 

「はい。雪ノ下雪乃です」

 

「雪ノ下か、悪い。比企谷八幡だ、お前に依頼がある」

 

 

 

 

 

そして今雪ノ下は俺と一緒に教室に来てくれている。

俺は由比ヶ浜の席まで行く。

未だに俺とは顔を合わせようとしないし体は震えている。

 

「な、なあ由比ヶ浜」

 

「・・・」

 

由比ヶ浜は無言だった。あれだけ由比ヶ浜の方から話しかけてくれていたこともあり、心臓が握られているんじゃないかって思うほど痛くなって声も出ずらくなっていく。

 

「この間は本当に悪かった。お前のことも考えずにあんなこと...本当にすまなかった」

 

由比ヶ浜は少しずつ顔をあげてくる。

由比ヶ浜の目には涙が溜まっていた。今にも溢れてしまいそうになるほどの。

 

「ヒッキー...」

 

「由比ヶ浜さん、このごみ谷君に何を言われたのかは分からないけれど、そんなに気にする必要はないわ」

 

「ゆきのん...」

 

いつの間にか三浦を泣かした雪ノ下が此方にきていた。

 

「それに...由比ヶ浜さんがこれからも奉仕部にいてくれればなって..」

 

「ゆき....のん....」

 

「由比ヶ浜さん」

 

由比ヶ浜は雪ノ下に抱きついてその場で泣き出した。それを雪ノ下は優しく頭を撫でている。

 

 

あれ?俺忘れられてる?

 

「ヒッキー....」

 

「あ、ああ」 

 

「今回は許してあげる」

 

「ありがとな」

 

由比ヶ浜の笑顔を見て俺と一色の依頼、小町のお願いは無事に達成された。

 

 

 

 

 

 

 

 



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こうして葉山隼人の依頼は達成され神崎は動き出す

皆様お久しぶりです。投稿が遅れてしまいすいません...もう少しペースをあげようと思います。

感想をくれた方ありがとうございました。おかげで書く勇気をいただけました。


由比ヶ浜と仲直りすることが出来た放課後。久し振りに奉仕部に入った瞬間、扉を閉めて帰りたくなった。

 

奉仕部には雪ノ下と由比ヶ浜と一色、それに神崎までいたのだ。

 

「あら?比企谷君そんな扉の前にいないで早く此方に来なさい」

 

「あ、ああ」

 

「せーんぱい♪お久し振りです♪」

昨日あっただろなんて今言ったら何故かは分からないが終わってしまう気がする。

 

「あ、あのその...比企谷先輩会いたかった....です」

 

「ヒッキー、やっはろー!」

 

あーなんて言うかカオスな面子だよな....。

 

「悪い。俺帰るわ」

 

「ちょ!なんで帰るし!」

 

「せーんーぱーいー、照れなくても良いじゃないですか~」

 

「あ、あの...私比企谷先輩に嫌われるようなことしましたっけ...」

 

「はあ...」

1人こめかみに手を押さえて溜め息をつきながら俺を睨む雪ノ下、マジ怖い。

 

「帰らないから...落ち着けって、えーと後、神崎出来れば俺のクラスには来ないでくれるか?」

 

「迷惑でした....か?」

 

「いやその...迷惑っていうか...1年が2年のクラスに入るのは何かと危ないからな....」

 

「先輩....」

やっぱりこんな誤魔化しじゃ無理があったか。

 

「私のこと心配してくれたんですね!」

 

「は?」

神崎は扉の前で固まっている俺に抱きついてきた。抱き付かれたことにより神崎から女の子特有のいい匂いと由比ヶ浜に劣らずとも勝る2つの胸の膨らみが制服越しにも伝わってくる。

 

「ちょ!さっちゃん!何してるんですか!?」

 

「いろはちゃん...ごめんなさい。もう我慢できないの......比企谷先輩」 

 

「ひ、ヒッキーいつまでくっついてるし!」

 

「とんだ変態ね、早く離れたらどうなの?」

 

「いや!俺のせいじゃないだろ?」

神崎は俺の背中に手を回して顔をあげる。これだけ密着して顔をあげれば自然とお互いの唇は近付いていきーーー。

 

「おう、邪魔するぞ」

 

 

・・・・・・・・

 

「見せつけるきか!!!」

 

「ぐぁ....」

何故か俺だけセカンドブリットを顔面にくらって平塚先生は奉仕部から出ていく。

 

「平塚先生初めていい仕事しましたね」

 

「だねー」

平塚先生が不憫に思えてきたぞ...。

 

「それにしてもあの人何しに来たんだ?」

 

「うう...私勇気振り絞ったのに....」

 

「まぁまぁさっちゃんならもっといい人簡単に捕まえられますから♪」

 

「いろはちゃん...ごめんね、私比企谷先輩以外には興味ないから」

 

「先輩.....」

 

「何故俺を睨むんだよ...」

 

「もういいから早く座ってちょうだい。話が進められないわ」

 

「あっ!そうだった!」

 

「話?」

 

「先輩忘れたんですか~?葉山先輩のお願いですよー」

 

「あー」

 

「あーって....まあわたし達も先程思い出したんですけどね」

 

「思い出したのは私よ、一色さん」

雪ノ下も忘れてたのかよ...。

 

「ちょっ!そこはどっちでもいいじゃないですか!」

 

「いろはちゃん、落ち着こ。ね?」

 

「ね?って!何でまた先輩に抱き付いてるんですか!」

 

「うう、ヒッキー!」

 

 

 

 

ほんと俺帰っていいよね?

 

 

 

 

 

 

一悶着あったがなんとか席に座ることが出来たので本を開くと一色に本を取り上げられてしまった。

 

「先輩、逃げようとしてもダメですよ♪」

 

「分かった...葉山の依頼の件だったな」

 

「ええ、由比ヶ浜さんは何か気付いたことはあったかしら?」

 

「うーん...あんなことがあって周りを気にしてられなかったというか....」

全員で俺を見てくるが俺が悪いので逃げることも出来ずただ顔を反らす。

 

「そうね....一色さんや神崎さんは何か分かったことはあったかしら?」

 

「私は元々興味が無いので....力になれずすいません」

 

「んーわたし的には葉山先輩少し元気がないように見えましたよ」

一色は感じてたのか葉山の違和感に、あいつはあいつ自身、悪いことだと分かっていてやっているから罪の重さに感情がついていけていない。表面上をいくら誤魔化そうとしても見てるやつにはバレてしまう、常日頃から自分を偽っている奴に限って本当に偽りたいときにどんな風に偽ればいいのか分からなくなる。

 

「どんな風にかしら?」

 

「そこまでは分かりませんけど....」

 

「そう...一応聞くけどあなたは?」

 

「・・・犯人は言えない、が解決方法なら見つけた」

 

「どういう意味ですか先輩?」

 

「・・・犯人は言えないということは分かっているということでいいのかしら?」

 

「ああ」

 

「なら何故言えないのかしら?本人に直接言われたの?」

 

「いや別に言われた訳じゃない」

 

「なら言ってもらえるかしら?それが葉山君の依頼なのだから」

 

「・・・確かに葉山はそういう依頼を出した。でも本質は違う」

 

「本質?」

 

「ああ、あいつらの周りを観察していて分かったことがいくつかあった」

 

「それは?」

 

「まず話を元に戻す。今回の依頼は職場見学の班決めが原因だと言ったよな?」

 

「ええ、そうね」

 

「だからその犯人探しをしてるんじゃないですかー」

 

「うんうん」

 

「で、でも皆。先輩にも何か考えがあるんだよ」

 

「あの3人の中に犯人がいると思っていた。葉山と一緒の班になりたいが3人1組って決まってるからな」

 

「それで?」 

 

「観察した結果。あいつらはいつも葉山と一緒にはいるが、あいつら自身は仲が良くないんだよ」

 

「どういう意味かしら?」

 

「簡単に言うとあいつらは葉山とは友達だが他の2人とは友達の友達ってことだ」

 

「・・・由比ヶ浜さんはどう思うかしら?」

 

「確かにそういうのはあるかも...話の中心の人がいなくなっちゃうとなに言っていいのか分からなくてつい携帯開いちゃうし」

 

「あーわたしもそれ分かりますよ」

 

「私はそういうのは...友達あまりいませんし」

 

「さっちゃんは、わたしの大切な友達だよ!」

 

「いろはちゃん!」

仲いいなぁーこの2人。

 

「さて、それじゃあ本題に戻すぞ。つまり葉山の願いって言うのは」

 

「その3人が仲良くなるようにしてくれ...と言うことね」

 

「いやそうなんだけどさ、何でそこで言っちゃうの?」

 

「ゆきのん流石!」

 

「ゆ、由比ヶ浜さん、落ち着きなさい」

あーこの2人も仲良かったね。

 

「そ、それで比企谷君。解決方法は考えてあるのかしら?」

 

「それなら簡単だ。葉山を除外させてやれば良い。あいつがいるから仲良くなれないならその障害を退かすしかないだろ」

 

「ヒッキー....それはちょっと」

 

「成る程」

 

「あれ!?ゆきのんもなんか乗り気!?」

 

「先輩確かにその方法は悪くないと思うんですけどー具体的にはどうするんですか?」

 

「いろはちゃん、たぶんだけど班を一緒に組まなければ良いんじゃないかな?ですよね先輩?」

 

「ああ」

 

「依頼も解決したみたいだしそろそろ帰りましょうか」

 

「ねえ!ゆきのん!帰りにシュークリーム食べて行こうよ!」

 

「いや...このあと少し用事があるからそれは」

 

「えー良いじゃん~。ね?お願い!」

 

「・・・少しだけね」

 

「やったぁー!」

 

「それじゃあ、さっちゃん。わたし達も行きますか?」

 

「いろはちゃんが行くなら♪先輩はどうしますか?」

 

「俺はやることがあるから今日は遠慮しておく」

 

「えー!ヒッキーこないの?」

 

「先輩も行きましょうよ~」

 

「はあ...由比ヶ浜さん、一色さん、神崎さん。この男は急に帰った件で平塚先生に呼ばれているのよ。だから次回にしてあげなさい」

無論平塚先生に呼ばれてなんていないのだがこんな嘘を付いてくれる辺り雪ノ下は誰が犯人なのか気付いているのだろう。

 

「・・・そうなんだよ。悪いな」

 

「うーん....それなら仕方ないですね」

 

「残念です...あの先輩..また今度一緒に行きましょうね」

 

「ヒッキー、それじゃあまた今度ね!」

 

「比企谷君、彼のやったことを私は許す気はないわ。チェーンメール事態最低な行為だもの。でも昔の彼とは変わった気がするわ。どうにかするために動いている....誰の影響かしら」

 

「・・・んなの葉山にしか分からねえだろ」

 

「ゆきのーん!早くー!」

 

「そんなに慌てなくてもお店は閉まらないのだから大丈夫よ」

 

「さてと...」

 

俺は誰もいなくなった奉仕部で携帯を取り出して葉山に連絡を入れようとしたが、連絡先が分からなかった。なので、雪ノ下に連絡をして葉山の連絡先を聞いてようやく葉山に電話をかけることができた。

 

「やあ、珍しいね。君から連絡をくれるなんて」

 

「連絡先を知らなかったからな」

 

「知ってたらかけてくるのかい?」

 

「ないな」

 

「はは、だろうね。それで本題はなんだい?」

 

「今から奉仕部に来てくれ。俺以外は誰もいない」

 

「・・・分かった」

 

 

葉山に連絡をしてから10分ほどで奉仕部の扉がノックされた。

 

「やあ」

 

「悪いな急に呼び出して」

 

「君が謝るなんて明日は雨でも降るのかい?」

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

「はは、冗談だよ。・・・依頼の件かな?」

 

「ああ。まず犯人はお前だ」

 

「どうしてそう思ったんだい?」

 

「今更な気もするけどな。お前、自分を除いたあいつら同士が微妙な関係だって気づいたんだろ?」 

 

「・・・それは少し違うな。友達だとは思っているよ。でも」

 

「違和感がある、だろ?」

 

「そう、だね...。違和感があったんだ」

 

「そんな違和感があるのに友達なんて言えるのか?」

 

「分からない...でも」

 

「言えないんだよ。いいか?あいつらはお前の友達だ。でもな、あいつら自身は葉山の友達ってだけでそれ以外は友達の友達なんだよ」

 

「・・・」

 

「お前、お前がいないときのあの3人見たことあるのか?」

 

「・・・それは」

 

「ないよな。あるわけがないんだよ。お前は常に中心にいるんだから。でも気付いた、だろ?」

 

「・・・」

 

「それでお前が取った行動だが、何故自分を貶めようとしたのか、だが」

 

「・・・」

 

「最初はあいつらに仲良くなってもらいたくて自分を貶めれば仲良くなれるとでも考えたのかと思ったが、たぶん違うな。お前はあいつらを利用して皆の憧れている葉山隼人を辞めたかったんだろ?」

 

「っ!」

 

「その顔は自分で気付いてなかったって顔だな」

 

「・・・ほんと君とは仲良くなれないだろうな」

 

「ああ。俺もお前が大嫌いだからな」

 

「俺は君に平等でいてほしかった。君に劣っていると思ってしまう自分が嫌だったんだ」 

 

「ならなんで今回こんなことをしたんだ?」

 

「君と平等でいたかったから、かな」

 

「上位のお前が何で底辺に来たがるんだよ」

 

「君が底辺だと思っている人は、たぶん見る目がないんだろうな」

 

「何を言って」

 

「だから俺は君に負けたくない」

 

「・・・」

 

「今回のこと感謝してるよ。間違いだった。でも解決はしていない」 

 

「解決策ならあるさ。お前が一緒に班を組まなければ良い」

 

「成る程な....今は劣っているのかもしれない。でもいつかは追い抜いて見せるさ、君を」

 

「言ってろ....」

話も終わり鍵を返して俺は自転車に股がり黄昏時の夕陽を見ながら昨日より軽くなったペダルをこぐのだった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お兄ちゃん、お帰り!仲直り出来たんだね!」

 

「何で知ってるんだ?」

 

「お兄ちゃんの顔を見れば分かるものですよ」

えっへん、とどや顔になる小町の頭をチョップしてリビングに向かう。

 

「もぅ!お兄ちゃんご飯抜きにするよ!」

 

「本当にごめんなさい」

 

「うわぁ....ここまで完璧に土下座されるとこれはこれで引くわ....」

 

「これが俺の本気だ」

 

「あっそ...ほらお兄ちゃんお風呂入っちゃって」

 

「へーい」

風呂に入ってご飯を食べて小町と何気ない会話を楽しみながら布団の中に入り今日1日の出来事を思い出す。

あのときの葉山の言葉。「君とは平等でいてほしかった」誰から見ても葉山の方が頭もよくて顔も良い友達も多くて女子におもてになる。そんなやつが何から何まで底辺の俺と平等でいたいとかわけが分からなかった。

 

「はぁ....寝るか」

考えてもイライラするだけなので寝ることにした。

 

 

 

朝起きると小町は日直ということで朝御飯の支度だけしてあり先に出たということだった。

 

「日直?」

メモを読みながら嫌な予感がしたが目の前に置いてある美味しそうな匂いに負けて椅子に座ると家のチャイムがなった。

 

「誰だ?」

小町がいないので仕方なく玄関まで行って扉を開けるとそこには。

 

「先輩。おはようございます♪その...来ちゃいました」

神崎が制服姿で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おかしなところがあれば御指摘お願いします。


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嫉妬(前編)

久し振りの投稿になってしまい申し訳ありません。題名を短くという意見が多数ありましたので題名を変更いたしました。



多数のお気に入り本当にありがとうございます。




おかしい。この状況は絶対におかしいはずだ。何がおかしいって学校行く前に俺の家のリビングで神崎と朝御飯を食べていることだ。

小町が残したメモに日直とか書いてあった所から嫌な予感はしていたが、まさか神崎の分まで作ってあるとかもはや小町確信犯だろ。

 

「小町ちゃんが作ってくれたご飯美味しいですね!」

 

「うん、美味いんだけどさ」

 

「先輩、どうかしましたか?」

 

「いや。てかさ何でいんの?」

 

「その...先輩に会いたくて、ダメでしたでしょうか?」

神崎は潤んだ瞳で俺を見てくる。俺はどうにも涙に弱いらしい。

 

「・・・ダメというか、用事があってきたのかなって」

 

「あ、いえ。その用事は特に無くてですね...。本当にただ、先輩に会いたくて、それだけで...」

確かに俺は1度神崎に告白されている。俺に対して好意を抱いてくれているのは素直に嬉しい。だけど....未だにトラウマなんだよなぁ。

 

「・・・今度来るときは連絡してからにしてくれ....あれだ、そのビビるからまじで」

でも、小町以外の奴とご飯食べるのも悪くはないかもと思う俺もいる。泣かれても困るし。

 

「はい♪毎朝来てもいいですか!?」

 

「それは駄目だ。せめて余裕のある休日くらいにしてくれ」

 

「で、では休日になったら毎日!」

 

「それも駄目だ。俺は忙しい」

 

「ではいつ来ていいんですか?」

 

「・・・だから連絡してくれ」

俺は黙って携帯を神崎に渡す。

 

「・・・はい♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ...」

 

「八幡どうしたの?溜め息なんてついて」

 

「ああ、戸塚か。いや疲れたから帰りたいと思ってな」

 

「今来たばかりだけど体調でも悪いの?」

 

「いや体調は戸塚のお陰でいつもより良くなった」

 

「え!?僕何かしたっけ?」

 

「ああ、気にするな。それより何故かは知らないが平塚先生遅いな。もう1時限目が始まるのに」

 

「うん。確かにおかしいね。何かあったのかな?」

俺が考えていると携帯のバイブ音がしたので開いてみる。

 

「これは....」

 

「どうしたの八幡?」

 

「悪い。事情も後で話す。でも今は」

そう言って俺は教室から飛び出した。メール画面を開きっぱなしで携帯を握る力を強めながら。

 

 

 

From:一色

 

To:先輩お願いします!進路指導室にいます。

 

 

 

助けてください!

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッと俺は勢いよく進路指導室の扉を開けると一色と神崎、それに平塚先生に一色と神崎の担任である、子萌先生がいた。

 

「比企谷...何のようだ?」

 

「先輩!」

 

「比企谷先輩.....」

 

「比企谷君。何しにきたの?」

 

「はぁはぁ...すいません。一色何があったんだ?」

 

「はい。あの」

 

「一色。私が話そう。比企谷それでいいかね?」

 

「はい」

 

「神崎も構わないね?」

 

「はい....」

 

「ちょっと、平塚先生。そんな勝手に」

 

「勝手ではないさ。本人に許可はもらった何も問題はないだろう。それにこいつは面白半分に話を誰かに話したりはしないやつだよ」

 

「もう....私は責任もてませんよ?」

 

「構わないさ。さて比企谷。ことの発端はクラスである問題が起きたことだ」 

 

「ある問題?」

 

「ああ。これだ」

そこには神崎が所謂ラブホテルに入っていく写真だった。

 

「っ!これは誰から渡されたんですか?」

 

「クライアントの秘密を話すわけにはいかないよ」

 

「わ、私は....行ってません!」

 

「ふぅ....まだ誰もこの写真が本物だなんて言っていないさ」

 

「偽物って可能性があるってことですね」

 

「ああ。不自然なところがあるからな」 

 

「因みにそれはどこですか?」

 

「ここだ」

平塚先生は神崎の立っている場所とラブホテルの丁度間を指していた。

 

「ん?なんだこれ少しズレている?」

 

「ああ、これは合成などをしてミスをしてついたものではないかと私は思っている」

 

「でも」

 

「そうだ。それでは証拠にならない。それに例え嘘でもこんな写真が出回ったら神崎自身が学校に来れなくなるだろう。あるいは」

 

「写真を撮って平塚先生に渡したやつの工作だったとしたら」

 

「それはもはや犯罪だ。然るべき罰を受けてもらう」

 

「そうですか」

 

「先輩!さっちゃんは絶対にこんなところにいってません!」

 

「いろはちゃん...」

 

「そんなことは分かってる。神崎」

 

「は、はい」

 

「奉仕部に依頼をしてくれ。嫌かもしれないが....」

 

「いえ、嫌じゃないです。先輩が私のために拳を強く握ってくれてるのすごい嬉しいですし...先輩の気持ち伝わってきます。先輩よろしくお願いします」

 

「ああ。任せてくれ」

 

 

話を聞くためだと神崎だけを残して俺と一色は教室に戻された。

 

 

「意外でした」

 

「何がだ?」

 

「こういうとき先輩は1人で解決しようとするんじゃないかなって思ったんです」

 

「ああ。俺も意外だったさ。でもな、今回は人1人の人生がかかってるからな....荷が重すぎる」

 

「そんなこと言って何かあったときに雪ノ下先輩達にフォローしてほしいだけなんでしょ?主にさっちゃんのことを」

 

「・・・なんでそう思うんだ?」

 

「何でですかね....先輩」

 

「どうした?」

 

「私に出来ることがあったら何でも言ってくださいね。さっちゃんのために私も何かしたいですから!」

 

「助かる。それならこの頃のあいつの周りの事とか教えてくれるか?」  

 

「んーそうですね...あっ!さっちゃんうちの学年の男子に一昨日で全員制覇したんですよ!」

 

「は?」

 

「いやですから、全員に告白されて全員断ったそうですよ」

 

「・・・んな話は関係.....なくないか」

 

「どうしました?」 

 

「一昨日で制覇したんだよな?」

 

「はい。何ですか先輩気になるんですか?」 

 

「変な意味じゃないけどな。その最後にフラレた奴分かるか?」

 

「はい。えーと確か野球部の笹松完二君でしたよ」

 

「お前のクラスでその笹松完二とやらを好きな女子がいないか調べてくれ」

 

「え?先輩、それってつまり....」

 

「ああ。まずそいつが怪しいだろうな」

 

「分かりました。私なりに調べてみます」

 

「ああ、だけどあまり深入りはするなよ?今回はここまでやったんだ何するか分かったもんじゃない」

 

「先輩私のこと心配してくれるんですか?」

 

「少しは危機感を持てって言ってるんだ。あと神崎の側にいてやってくれ」

 

「それは当然ですよ!」

 

「悪いな。たぶんお前も色々と言われると思うが...」

 

「そんなこともう馴れてますから♪私もさっちゃんも先輩達が分かってくれているだけで大丈夫です♪」

 

「強いな。お前も神崎も」

 

「女の子は強いんですよ?」

 

「そうだな...」

 

「でも誰かがいてくれるから強くいられます」

 

「その誰かってお前のことか?」

 

「さあ?誰のことなんですかね」

俺と一色はお互いのクラスに向けて別れ俺は教室に戻ってきた。

 

 

「ヒッキー心配したよ。いきなり出ていっちゃうし、どうしたの?」

 

「ああ。ちょっとな」

 

「また一人で何か背負おうとしてない?・・・頼りないかもしれないけどさやっぱり頼ってほしいっていうか...あはは、ごめんね!私何いってるんだろ。やっぱり忘れて」

 

「いや今回は頼ろうと思う。放課後雪ノ下も含めて話をする。迷惑かけるかもしれないけど....頼めるか?」

 

「っ!うん!勿論だし!!」

 

 

 

 

 

俺は心中気になりっぱなしでとても授業どころではなくあっという間に時間は過ぎて放課後になっていた。

 

 

 

「それで一色さんと神崎さんが来るまえに何があったのかまず説明してもらえないかしら?」

 

「ああ、そうだな。ことの発端としては神崎のクラスの誰かが神崎がホテルに入ったところの写真を平塚先生に渡したところから始まった」

 

「え!?彩っちが!?」

 

「由比ヶ浜さん、落ち着きなさい。本当に行ったのならこんな事態にはなっていないでしょう」

 

「その通りだ。俺は今回の件は誰かが故意に神崎を嵌めようとしてやったことだと思ってる」

 

「酷い....でもその写真は証拠になっちゃうんじゃないの?」

 

「恐らく合成だな。少しパソコンの知識があれば誰だって作れる」

 

「成る程ね。私は神崎さんが依頼内容をしっかり言ってくれればサポートをするわ。犯人にも然るべく罰を受けてもらって、ね」

 

「わ、私も!協力するからね!」

 

「ああ、でも今回の事案に関して此方からは手が出せない。神崎が頼ってくれないと俺達は手を出してはいけない。それは理解してくれ」

 

「ええ。分かっているわ」

 

「え?何で?」

 

「・・・1つは今回の件は下手をすると警察沙汰になるからだ。まぁ犯人はよくても退学だろうがな。そんな事案に首を突っ込むんだ、俺達も何かしらの疑いの目がくるだろう。それに平塚先生もだ。奉仕部の部員が全員で動いたら奉仕部の顧問っていうのと生徒指導っていう立場のダブルパンチで学校から責任を全て押し付けられるだろう。だからこれは神崎からの依頼ということで俺達が動くんだ。そして2つ目は神崎の為にならないからだ」

 

「彩っちの?」

 

「ああ、俺達は2年生。神崎は1年生だ。俺達はいずれ卒業する。そんな中で頼れる相手がいなくなったらどうする?勿論一色は神崎の味方になってくれるだろうが神崎自身が甘えて行動を起こせなかったらあいつは一生前には進めなくなる」

 

「そっかぁ....」

 

「由比ヶ浜さん、彼が一番辛いのよ。ここまで分かっていて今日一日何も出来なかったのですから」

 

「ゆきのん....」

 

「コーヒーを淹れるわ」

雪ノ下がコーヒーを淹れてくれようとしたとき奉仕部の扉がノックされて扉が開く。

 

「こ、こんにちわ...」

 

「先輩方お待たせしました」

 

「皆揃ってるようだな」

 

「・・・何で平塚先生もいるんですか?」

俺の作戦では平塚先生がここにいるのはまずい。平塚先生がここにいたらもしもの時に結局責任を取らされてしまうからだ。

 

「ん?ああ。君の考えなどお見通しだよ。私に迷惑がかからないように色々考えたようだがな比企谷、少しは私にも頼ってくれ。一人で何でもしょいこもうとするな」

 

「俺は別に...今回もこいつらに頼ってますし」

 

「だが行動を起こすのは君だけにするのだろう?他の奴にはもしもの時に責任を取らされないように」

 

「比企谷君、その話は本当かしら?」

 

「ヒッキー....」

 

「・・・ならどうしろって言うんですか。正直犯人を見付けるだけなら簡単です。ですが証拠を見付けるにはそれなりのことをしなければいけません。危ないことだってするつもりです。こいつらにそこまで背負わせるつもりはありません」 

 

「あなたは!!」

 

「雪ノ下、落ち着け。なあ?比企谷」

 

「はい」

 

「お前はお前が失敗したときの保険として雪ノ下達を頼った、そうだな?」

 

「言い方は気になりますが...間違ってはいません」

 

「そんなやり方では誰かを救えても君自身を救うことは出来ないと私は思うよ」

 

「でも...全員退学なんかになったら.....」

 

「そんときはその時に考えればいいさ。それにそうならないように君が答えを出せばいい」

 

「・・・あんた滅茶苦茶だ。誰もが救われるなんてアニメの主人公くらいにしか出来ませんよ」

 

「なら君が主人公になればいい。そうだな。アニメじゃないなら、神崎の神崎彩月の主人公に君がなってやればいいじゃないか」

 

「俺には....」

 

「荷が重いか?だから周りの力を借りるんだ。奉仕部の部員は君の味方だ。無論私もな。ほらこれは私からの餞別だ受け取っておきたまえ」

 

「これって....」

平塚先生から渡されたのは1枚のメモ用紙だった。そこに書かれていたのは神崎の写真を持ってきた女子生徒の名前だった。

 

「これで私も同罪だ。責任は私が全てとろう。だから好きなように君が選ぶ道を後悔のないようにやってこい」

 

「・・・はい」

俺は平塚先生が奉仕部から出ていくまで感謝を込めて見送った。

 

「それで比企谷君?一体どうするつもりなのかしら?」

 

「その前にだ....神崎」

 

「はい....先輩」

一色は俺の隣に椅子を持ってきて座り神崎は俺達と向かい合って座った。

 

「先輩方に依頼をお願いしにきました。たぶん....たくさん迷惑をかけてしまいます。本当なら私の問題なので....でも。でもお願いします。私に力を貸してください!」

 

「うん!勿論だよ!!彩っち!」

 

「さっちゃん、わたしも手伝うからね!」

 

「神崎さん。あなたの依頼を受けるわ。私の全力をもってサポートさせてもらうわ」

 

「決まりだな。今回の主犯であろう人物のだが。1ーB名前は

 

 

 

 

                古市真奈」




次回は八幡が右目をフルに使います。


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嫉妬(後編)

皆様お待たせしました。嫉妬の後編がようやく書き終わりました。雪がふったり仕事が忙しかったりと大変な1年でしたがこれからも頑張って執筆は続けていきます(*´ω`*)



御気に入り数が1000件を越えました。沢山の方に読んでもらえて本当に嬉しいです。




嫉妬。

嫉妬と言えば七つの大罪の1つでもあり、

また旧約聖書に登場する海中の怪物レヴィアタンを連想する。曲がりくねった蛇を元にしているらしいが、上手く考えてあると言える。だが俺は思う、人間が持つ嫉妬は海中の怪物なんかよりも恐ろしくもっとずっとひねくれているのだと。

 

 

 

 

 

 

 

「それで比企谷君。あなたなりの解決方法を聞かせてもらえるかしら?」  

 

「ああ....だけど」

 

「大丈夫よ、今のあなたの考えなら大丈夫なはずよ」

 

「・・・分かった。まず一色、頼んでいたことだが、何か分かったか?」

 

「はい。先輩に言われて調べてみたんですけどやっぱり真歩ちゃんが好意を寄せていたみたいです。1度告白してフラれているみたいですし」

 

「これで殆ど決まりだな。それでその古市真奈という生徒はどんなやつなんだ?」

 

「それが....あまり目立たない性格と言いますか、普段から誰かと話しているところすら見たことがないので.....」

 

「え?それって......」

 

「おい由比ヶ浜、何で俺を見るんだ」

 

「い、いやぁー。なんでだろうなー。あはは」

 

「由比ヶ浜さん、別に隠す必要はないわ。そこにいる比企谷君同様にボッチということなのでしょう」

 

「そ、そんな...先輩には私がいますから....」

 

「さっちゃん。今はそんなことをいってる場合ではありません。それで先輩、どうやって証拠を見つけるんですか?」

 

「ああ、その件だが。もう一度聞く、辞めるなら最後だ。まだ間に合うからよく考えてくれ」

 

「先輩何度も言わせないでくださいよ」

 

「そうだよ!ヒッキー!」

 

「ええ。何も心配することなんてないわ」

 

「・・・最悪ここにいる全員が退学になるかもしれないんだぞ?」

 

「だから何なのかしら?」

 

「うんうん!それにさヒッキー。ここにいる全員で退学になっちゃったとしても退学になったときに考えれば良いよ♪」

 

「結衣先輩は相変わらずですね~。でもわたしも賛成です。ここにいる全員で退学になったら喫茶店でもやれば良いんですよ!雪ノ下先輩に紅茶を淹れてもらってさっちゃんと私と結衣先輩で接客をして」

 

「あれ?俺は?裏方でもないの?」

 

「先輩はそこのマスターに決まってるじゃないですか~♪」

 

「は?いや、え?」

 

「それは...中々面白そうね」

 

「うん、いいね!なんか、スッゴい楽しそう!」

 

「ね?さっちゃんもそう思うよね?」

 

「・・・うん!先輩達と私の大切な親友と一緒で本当に、楽しそうで....本当に.....」

 

「神崎?」

 

「彩っち?」

 

「神崎さん?」

 

「さっちゃん?」

 

「本当にありがとう、ございます」

神崎は満面な笑みを浮かべて幸せそうに笑っている。その姿を見るだけで俺は、、、俺は。

 

「それじゃあ作戦を説明するーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

翌日の放課後。

俺は今屋上に来ている。1人で。

何処も行く宛が無くなって1人黄昏の夕日を見に来ているわけではない。ある人物を待っているのだ。

キィーという甲高い音とともに屋上の扉が開いて1人の生徒が入ってくる。俺は緊張で何時もより鼓動が早くなっていく心臓を落ち着かせるため目を閉じて深呼吸をし、右目のコンタクトを外す。

 

「こんにちわ。比企谷先輩、呼ばれたのでここに来たのですが何か私に用ですか?」

 

「ああ。まあな」

俺は、まだ振り返らずに夕日を見ながら呟く。

そして携帯の録音ボタンを押した。

 

「?それで此方も向いてくれない先輩と何を話せばいいんですか?用がないのなら帰りますけど」

 

「お前、ここから夕日を見たことあるか?」

帰られるのはまずい...というか何でこっちに来ないで扉の前から動かないの?普通奥までくるでしょ?にしてもここからの夕日を見たことあるか?ってなんだよ...。

 

「いきなりなんですか?」

ごもっともで。

 

「さぁな。悪いけどこっちまで来てくれるか?」

携帯の録音は相手が近くに来ないと音を拾うことはできない。かといって近くで押そうとすれば異変に気付く。だからこっちに来る前に押す必要があったがこっちにこないとか予想外。

俺は諦めて古市の方に体を向ける。

 

「それで何のようなんですか?」

 

[どうせ。私のこと疑ってるんだろうし。はぁーめんどくさい]

 

「お前さ。・・・・ほんとにボッチか?」

 

「はぁ?」

古市は予想外のことを言われたのか首を傾けて聞いてくる。俺も最初はこんなことを聞こうとは思っていなかった。でも初対面の、それも異性に対してこんなにも流暢に話せるやつがボッチなはずがない。ソースは俺。

 

「いや悪い。お前いつも1人でいるって聞いてな、ボッチなのかと思ってたんだわ」

 

[誰からそんなこと...ああ。神崎か一色ちゃんからかな?]

 

「それで比企谷先輩。用ってなんですか?」

 

「・・・単刀直入に聞く。今回の神崎の件、犯人はお前だな?」

 

「その話ですか。勿論違いますよ?」

 

[私ですよ]

 

「・・・。そうか、因みにその話ってことはどんな話を聞かれるか最初から分かっていた。てことだよな?」

 

「・・・はぁ。そうですね。分かっていました。他にありませんし」

 

[でも何で私が写真を持っていったことを?・・・それが分からなければ疑いの余地すらないのに...もしかして平塚先生が?]

 

「っ!・・・ふ、古市」

 

「はい?」

 

「俺が何故お前を疑っているか。それはお前が進路指導室に写真を持っていくのをたまたま見たからだ」

 

「っ!?そんなはずは....あの時は誰もいませんでしたし、ありえません」

 

[それに...時刻は授業中の11時。私はお腹が痛いと言って持っていったんだから見られるはずは]

 

「俺実はさ。2年の最初に事故にあっててさ簡単にサボることが出来るんだよ。だからその時も保健室行ってきますって言って行こうとしたらたまたまお前を見たってこと。あの時は...確か11時くらいだったか」

 

「っ!?だ、だとしても!私はただ、神崎がホテルに入っていく所を写真に撮っただけ!それを報告しただけ!何か文句あるの!?」

 

「お前は写真を撮ったときに神崎が本当はどこにいたのか知ってるのか?」

 

「そ、そんなのホテルの前にいたに決まって「それはありえない」っ!」

 

[神崎はその時家にいたはず...毎週金曜日は親が遅いって聞いてたしその時電話もかけたけど誰も出なかった.......もしかして]

 

「神崎はその時間俺の家にいた」

 

「・・・・・・。ちょ!ちょっと待ってよ!あの写真は携帯のカメラから撮ったやつをパソコンにおとしたやつだから日付は分からないでしょ!?何で家にいたなんて言えるの?」

 

「ふーん。携帯ねぇ。ならさ古市、携帯で古市を撮ったって言うならその写真の画像を見せてくれないか?」

 

[あ......]

 

「そ、そんなのもう消去してるに決まってるでしょ!?」

 

「ならお前は神崎の写真を何時に撮ったんだ?」

 

「そ、そんなの.....し、知らないわよ!覚えてるわけないじゃない!」

 

「覚えてない、か」

 

「な、何よ...おかしな話じゃないでしょ?時間なんて見てなかった、ただそれだけよ」

 

「まあ。確かに時間をいちいち見てるやつは少ないわな」

 

「で、でしょ?」

 

「ならさお前が神崎を撮ったのは金曜日。それで間違いないよな?」

 

「ええ」

 

「時刻は写真を見るに午後6時以降だ。お前はそんな時間にそんな所で何してたんだ?」

 

「べ、別に遊んでただけよ!」

 

「ふーん。その金曜日って先週の金曜だよな?」

 

「そ、そうだけど?」

 

「なら余計にありえない。その日神崎はウチに泊まっている」

勿論これは大嘘。所謂フェイクだ。

 

「・・・え?」

 

「神崎の家の固定電話を調べたよ。非通知が1件入ってた。お前のだろ?でもさおかしいと思わなかったか?」

 

[....そんな......]

 

「神崎電話にでなかったろ?」

 

「・・・・」

 

「神崎は出なかったわけじゃない。いないからでれなかったんだ」

 

「・・・だとしたら!あなたたちも犯罪よ!」

 

「あなたたちも?」

 

[しまっ.....]

 

「それで?あなたたちも?なんなんだ?」

 

「・・・・・そ、そうよ!私が写真を偽造して持っていったのよ!あいつ!あいつのせいで!私は!」

 

「認めるんだな?偽造したことを」

 

「ええ。だから何?今更あなたの言うことを信じる人なんて」

俺は黙ってポケットから携帯を取り出して古市に録音中の文字を見せる。

 

「そ、それって!?」

 

「ああ。今までの俺とお前の会話が録音されている」

 

「私を嵌めたってこと?」

 

「どういう風にとってもらっても構わない、がお前のやったことは犯罪だ」

 

「・・・だって!仕方ないじゃない!あの子さえあの子さえいなければ....私は!」

 

「それは違うわ」

屋上に隠れて見ていた雪ノ下が此方に向かってくる。そのとき一緒に神崎と一色と由比ヶ浜も出てきた。

 

「!?な、なんでここに....いやそれよりも違うってどういう事ですか?あなたは何もしらないはずでしょ?というか誰ですか?」

 

「私の名前は雪ノ下雪乃よ。確かに私はあなたたちのことを知らないのかもしれないわ。でもね。あなたのやったことは自分がフラれたことを納得できずに神崎さんに原因を擦り付けただけ」

 

「っ!ち、違う!違う!違う!違う!!!」

 

「違わないわ。違うと言うならあなたが好きだった相手に対してあなたはどういった努力をしてきたのかしら?あなたのことは大体聞いたけれど努力をしていたとはとても思えないのだけれど」

 

「う、うるさい!私の事なんて何も知らない癖に!偉そうに!」

 

「そうやって怒鳴って否定して。他人の意見を受け入れずに自分のことを肯定し続ける。悪いとは言わないわ。けれど学ぶことも必要だと私は思うわ」

 

「・・・う、うるさい」

 

「ね、ねえ。古市さん?ゆきのんの言ってることあたしは間違ってないと思うな。好きな人を取られそうになる気持ち、辛いのはすごく良く分かるよ。でも..でもね。こんなやり方は間違ってる!」

 

「うるさい...うるさいうるさいうるさい!!!」

 

「真歩ちゃん.....わたしは多分一生あなたを許すことは出来ないと思う。さっちゃんは、わたしの大切な親友だから。どれ程傷付いて悩んだか知ってるから。でもお願い。さっちゃんにちゃんと謝って」

 

「・・・うぅ」

俺は本当に涙に弱いみたいだと心底自分に呆れながら夕日が沈んで周りが暗くなっていく中で星空を見上げながら大きく息を吸って吐き出した。

 

「皆。悪いけど1度奉仕部に戻っていてもらえるか?」

 

「・・・分かりました。行きましょう、さっちゃん」

 

「うん....」

 

「ヒッキー、らしいね。それじゃあ待ってるからね?」

 

「ああ」

 

「比企谷君」

 

「・・・」

 

「このまま終わりにだけはさせないわよ?」

 

「分かってる。それは俺もするつもりはない」

 

「そう。それを分かってくれていればいいわ」

 

 

古市と俺だけを残して全員が屋上からいなくなり涼しげな風の音と古市の泣き声だけが聞こえる。

 

「なあ。古市」

 

「・・・ひっく、、、は、はい」

 

「お前は間違いに気付けたか?」

 

「はい....」

 

[私のしてしまったことがどれ程のことか気付きました...でも謝りたくても......言葉が出てこなくて]

 

「なあ。古市」

 

「・・・はい?」

 

「星ってさ、幾つもあるだろ?」

俺は星空を見上げながら淡々と話続ける。

 

「・・・」

 

「あの星の輝きは、人が間違えた数で出来てるって思ったことはないか?」

 

「間違えた数?」

 

「ああ。人は誰しも間違ったことをする。だけどその間違いの大きさは人それぞれ大きい物や小さな物があるだろ?そんな間違いを重ねていってこの世界が出来上がってるんだ。星に願いを叶えてもらう。流れ星に願いを込める。それは願いを込めて星が流れれば間違いをやり直すことが出来るって事なんだと思うんだ」

 

「やり直す、ですか?」

 

「ああ。お前は今回大きな間違いをしてしまった。だけど生きていけばこれからだって間違いをすることだってあるだろう。だけどさ、きっとやり直せると思うんだよ。お前がそれを強く望めば、きっと星は流れてくれる」

 

「私に出来るでしょうか....」

 

「ああ、出来るさ。困ったら誰かに助けを求めればいい。誰もいなければ俺に相談すればいい。まっ俺なんかじゃ頼りないかもしれんがいないよりは楽になるだろ?」

 

「比企谷先輩は...さしずめ私にとっての天の川と言ったところですね」

 

「んな大層なもんじゃねーよ。それでどうだ?まだ言葉は見付かりそうもないか?」

 

「いえ....もう見つかりました。最初のお願いです、比企谷先輩。私を神崎の...神崎さんの所に連れていってもらえませんか?」

 

[早く謝らないと...謝って私は]

俺はコンタクトを元に戻して古市を奉仕部まで連れていった。

 

 

 

 

 

 

奉仕部の扉を開けると全員が椅子から立ち上がり俺を見てくる。俺は横にズレて古市を奉仕部の中に入るように促して神崎以外は奉仕部から出るように言って二人っきりにさせた。

 

 

「さてと。お前ら自販機行くぞ」

 

「いや、先輩....流石に早すぎて状況を飲み込めないんですけど?」

 

「ひ、ヒッキー....大丈夫なの?あの二人を二人っきりになんて」

 

「そうね。本当に反省しているのかなんて分かったものではないのだし」

 

「大丈夫だ。聞かれたくない話だろうしな、ほら行くぞ」

 

「えー!もう...」

 

「仕方ないですね...」

 

「まぁ。後でしっかりと話は聞かせてもらうわよ?」

 

「ああ。それで構わない」

 

少し肌寒くなった風が制服越しに伝わってきてそろそろ夏になるというのに春の兆しがまだ残ってる事が分かる。自販機の前まで来ると俺はマッカンに、レモンティーとミルクティーとコーヒーを買ってそれぞれに渡してマッカンの蓋を開けて一口呑み込む。

 

「ふぅ」

 

「クス。なんかヒッキーお爺さんみたい」

 

「いいだろべつに。今回は本当に疲れたんだよ」

 

「それにしても何故私はコーヒーなのかしら?」

 

「奢ってもらって文句まで言うな」

 

「わたしは~ミルクティー大好きなので嬉しいですよ♪先輩♪」

 

「あ、あたしだって嬉しいし!」

 

「おい。んなことで喧嘩すんなよ。奢った俺が悪いみたいじゃねーか」

 

「あなたが悪いのよ?」

 

「うんうん!」

 

「ほんとですよ!なので今度奢ってくれるときはもっとしっかりお願いしますね♪」

 

「いやもう奢らないし」

 

「あー先輩~。実はですね駅前の喫茶店で美味しそうなミルフィーユがあったんですよ~」

 

「へえー」

 

「あっ!それあたしも知ってる!!食べてみたいと思ってたんだぁー。ねえねえ!ゆきのんも一緒に行こうね!」

 

「わ、私はそういうお店はちょっと」

 

「えーいいじゃん。行こうよー」

 

「はぁー」

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「行きましょうね。さっちゃんも一緒に皆で」

 

「ああ。気が向いたらな」

 

 

 

 

 




奉仕部で神崎と古市に何があったのかは次回にすることにします。


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嫉妬(解決後)

所謂後日談みたいなやつです。なので今回はかなり短めになりました。


奉仕部には今、加害者と被害者がいた。

嫉妬により頭のブレーキが外れ被害者を傷付けてしまった加害者。

自分のせいで嫉妬し哀しみや悔しさを知らずのうちに与えてしまった被害者。

 

二人は暫く無言で御互いを見ながら最初の言葉を言いたくても中々言い出せない状況が続いていたが、その静寂は外から聞こえてくる虫の音が止むとともに終わりを告げた。

 

「あ、あの....神崎さん」

 

「・・・はい」

 

「その....すいませんでした。謝って済むことではないのは理解しています。それなりの罰も覚悟しています。ですが....本当にすいませんでした」

 

私は古市さんが素直に頭を下げて謝罪してきたことに驚いていた。古市さんと話をしたことがない私だが、古市さんが誰かに対して頭を下げて謝罪する姿を見たことは無かったし、今回の件について少なからず自分の事を恨んでいると思っていたからだ。

私の大好きな先輩と何を話したのか.....とても気になるけど私はその内容を知らない。詳しくは途中しか知らない。それも雪ノ下先輩が出ていった時に私も出ていって少し聞いただけ....でもあの状況では少なくとも古市さんの心の中では私に対して恨みや憎しみといった感情しかないように見えた。あの時の古市さんの瞳は以前の私に良く似ていたから誰よりも理解できる。先輩に告白してフラれて.....いろはちゃんを手にかけようとしたあの時の私その物。

でも、私は先輩のお陰で変われた.....変わることが出来た。もし古市さんもそうなら....先輩のおかげで変われたのだとしたら少し意地悪な質問かも知れないけど確かめたい事があった。

 

「古市さんは.....何に対して謝っているんですか?」

 

おかしな質問なのかもしれない......。

 

聞く人が聞けば私の精神が病んでしまったというのかもしれない。

 

普通なら写真の事だって分かるから....でも私が謝って欲しいのは別に写真の事なんかじゃない。

 

先輩がもし、私と同様に古市さんも変えてくれたならきっと私の望む答えが返ってくるはずだと思ったから。

 

「・・・・あなたを傷付けてしまったこと....それにあなたの周りにいる人や一色ちゃんのことも傷付けてしまったこと......」

 

流石先輩だと思った。あの人はどんどん周りを...いえ、関わった人を変えていく。

 

「古市さんの謝罪しっかり伝わりました。私自身については今回の謝罪でもう怒ってはいません。でも....いろはちゃんや先輩達の事はやはり許すことは出来ないです」

 

「・・・・はい.....」

 

「でも。時間はかかるかもしれないけど.....古市さんとも、その....お友達になれたらいいなと今では思ってます」

 

きっと先輩がいなかったらこんな解決にはなっていなかったと思う。

 

「・・・・はい!」

 

そう。だから....私は先輩の事が大好きで、そしてそんな先輩がいるこの場所も大好きで......言葉にしてしまえば簡単に崩れてしまうこの状況がいとおしくて.....先輩に私の気持ちを再び伝えるのはもう少し先でも良いと心の中で言い聞かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

放課後になり何時ものメンバーと平塚先生が奉仕部にいた。

 

「さあて、全員聞きたい事があるだろうが先に言わせてもらう。古市は転校することになった」

 

「っ!?な、どうして!」

 

「落ち着きたまえ。本来今回の件はお前たち全員が問題にしないでくれと昨日言ってきた時から、古市が責任をとらなくて良いように私の方でも動いていたんだ。今回の件を知っているのは神崎のクラスの奴だけだ。しかも古市はあの写真は嘘だと自供もした。学校側だって何かしらの処分を与えれば評判が落ちるからな、大丈夫だと思ったんだ」

 

「結果を見れば駄目だったってことですか?」

 

「そんなぁ.....」

 

「由比ヶ浜さん....」

 

「先輩なんとかならないんですか?」

 

「・・・こればっかりは」

 

「誤解しているみたいだから言っておくぞ。古市は学校から処分を受けたのではなく自ら転校していったんだ」

 

「え?」

 

「それって....」

 

「ああ。別に転校する必要はないって言ったんだがな。古市自身が.....ここからがスタートなんです。初めからやり直して....そして出来るだけ星を流れさせないといけないですから。だとさ。星の話はいまいち分からんがな。あんな顔されれば止められんさ」

 

「それって....ヒッキー?」

 

「星の話は比企谷君が知っていそうね」

 

「先輩~わたしー超気になるんですけど」

 

「古市さんと何話していたんですか?」

 

「いやいやお前ら....さっきまでそんな雰囲気じゃなかったよね?そして俺の心をさりげなく抉ろうとするのやめてくれない?」

 

「えー!聞かれて困ることなんだー!ヒッキーサイテー!」

 

「比企谷君が最低な人間なのは今に始まったことではないわよ、由比ヶ浜さん」 

 

「お前ら酷くない?」

 

「大丈夫ですよぉ~先輩にはわたしがいますから♪」

 

「え?何が大丈夫なのん?死刑宣告なの?」

 

「いろはちゃん、先輩は私のですよ!」

 

「さっちゃん!これだけは譲れませんよ!」

 

「くそう!リア充が爆発しろぉ!!」

 

「ぐはぁ.....教師が生徒殴って泣きながら走って行くなよ!」

 

「それでヒッキー何があったの?」

 

「諦めていいなさい」

 

「そうですよぉ!先輩!」

 

「私も気になります!」

 

「・・・・・はぁ」

 

 

今日も1日平和で良く分からない俺の日常は過ぎていく。

 

 

 

「はぁ......はぁーーーーー」

 

俺は家に帰るなり風呂に入り、今至福の時を過ごしながら体の力を抜き溜まっていたものを全て吐き出すように深呼吸をしていた。

 

「お兄ちゃんが珍しく疲れた時の声出してる。何かあったの?」

 

洗濯物をたたみ終えた小町が脱衣所から声をかけてくる。

 

「あー?ああ。小町ーお兄ちゃん疲れたよ。こんなに世の中の為に働いたお兄ちゃんには何かご褒美があってもいいと思うんだ」

 

「なーに言ってるんだか....お兄ちゃんは生きてるだけで世の中の害悪にしかなってないんだからたまに良いことしたってプラマイゼロにもならないんだよ?むしろマイナスだよお兄ちゃん」

 

「常時マイナスって.....なんかカッコ良くない?」

 

「はぁ....今のは流石にキモいよお兄ちゃん。小町的にマイナス2000点だよ」

 

「それって何点満点なのん?」

 

「勿論100点満点に決まってるじゃん♪」

 

「オーバーしすぎで俺の体力をオーバーキルしすぎなんじゃないですかね?俺何回死んじゃうの?というか2000点ってどう考えても100点オーバーしてんじゃねえか」

 

「やだなぁ~お兄ちゃん。100点が上限とは小町言ったけどマイナス100が一番下なんて言ってないよ?」

 

「・・・そうでした....はぁ........」

 

「それでお兄ちゃん何があったの?」

 

「なんでもねえよ」

 

「えー、絶対嘘だよ!まーた女の人が絡んでいるんでしょ?今度は誰かな~?雪ノ下さんか結衣さんかいろはちゃんかーそれとも...あ!今日朝うちに来てた神崎さん!?あの子も可愛かったよね!」

 

「別に.....というか、どうしてお前は俺のプライベートのことをそこまで詳しいの?」

 

「え?そんなのお兄ちゃんの妹だからに決まってるじゃん!」

 

「答えになってねー........」

 

「さーてと。あっ!お兄ちゃんそう言えば後1ヶ月で夏休みだけど予定開けといてね!」

 

「は?なんで?俺の夏休みのスケジュール全部埋まってるんだけど?」

 

「どうせ一日中家でゴロゴロしながら予約したアニメの観賞会でしょ?」

 

「ぐっ.....だ、だからなんだ。それだって立派な用事だろ?むしろ予定が無いってことを書いておけば予定が無い事が予定になるまである」

 

「うわー.......」

 

「おいこら小町。風呂場からでもお前の声聞いたらどんな顔してるか分かったぞ。おっ!今の八幡的にポイント高いよな?」

 

「いやーさっきから低すぎだってゴミぃちゃん」

 

「おい、ゴミぃちゃんとか言うなよ。いくら本当の事でも言って良いことと悪いことがあるんだぞ」

 

「自覚はあるんだね.....まぁでもいいや。夏休みそのまま予定開けといてね!」 

 

どうせ俺に予定とか入るわけないしな。

 

「うーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はいきなり1ヶ月ほど進み夏休みに入りますです。


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俺の夏休みは何処か間違っている。

皆様あけましておめでとうございます。かなり投稿が遅れてしまいすいませんでした。


夏休み初日。朝早くから俺の携帯は鳴り続けている。何故携帯に出ないのか、それは連絡の相手が平塚先生からだからだ。

夏休み初日からほんとに勘弁してもらいたい。既にかれこれ30分鳴りっぱなしの俺の携帯は1年分くらい仕事したんじゃないかと思う。目がゴロゴロすると思ったらカラーコンタクトを付けたまま寝てしまったようだ、洗面所で顔を洗うときに新しいのに付け替えるかと考えているとノックも無しに俺の部屋の扉が開かれた。

 

「お兄ちゃんー!おっはよー!」

小町は俺の部屋に入ってくると先程から煩いくらいに鳴っている携帯を取り二言程話して電話は置かれた。

ん?内容?そんなの怖くて聞けるはずがない。

 

「お兄ちゃん、もう起きてるんでしょー?」

 

「ん?ああ小町か。どうした?」

 

「いや、そんな今起きましたみたいな演技されても....。ほら今から出掛けるんだから仕度してよ」

 

「出掛ける?」

 

「少し前に言ってあったでしょ?夏休みに入ったら予定空けといてって」

 

「あーそう言えばそんなこと言われたような気がするな」

 

「はぁ。その様子だと忘れていたみたいだね」

 

「い、いやまぁなんだ。思い出したぞ」

 

「てことは忘れてたんじゃん。まぁ良いけど、ほらお兄ちゃん早く仕度して行くよ」

 

「そもそも何処に行くんだ?」

 

「それは秘密でーす♪」

 

「・・・」

どや顔で言ってくる小町に少し違和感を覚えた俺は断ろうとしたが、前々からの約束ということで違和感を抱えながら仕度をすることにした。

 

「あ、お兄ちゃん。泊まりだから着替えとか持ってねー?」

 

「はぁ!?」

 

何処に行くのか分からないまま二日分の着替えと歯磨きセット、タオル、まぁ必要最低限の物だけ持って鞄に入れ、重くなった鞄を肩に掛けて小町を待っていると何週間泊まるの?って突っ込みたくなるくらいキャリーケース一杯に着替えやら何やら詰め込まれていた。

 

「さあ!行くよお兄ちゃん!」

 

「いや行くよってその荷物は何だよ?何日帰ってこないつもり?いつの間にか妹に放浪癖が出来ていたなんてお兄ちゃんビックリだよ」

 

「何言ってるの?お兄ちゃん。泊まるのは一日で一泊二日だよ?」

 

「いや、お前の荷物どう考えても多すぎだろ」

 

「もう、これだからゴミぃちゃんは...」

 

「おいゴミぃちゃんって」

 

「いい?女の子はね色々と必要なの。小町以外にそんなこと言ったら切腹もんだからね?」

 

「俺はこんなことで腹切られるんですかね」

 

「はぁ....まぁお兄ちゃんに期待しようってのが無理かぁ。やっぱりお義姉ちゃん候補達に頑張ってもらうしか.....」

 

小町は何やらブツブツ言ってるがろくなことじゃないのは分かってるから聞かずに玄関の扉を開けた。

ジリジリと開けた瞬間に太陽から発せられる熱で今は夏なんだと改めて理解させられる。

 

「暑い.....」

 

「うわー今日も暑いね。お兄ちゃん」

 

「ん、ああ。そもそも夏休みってのは昔暑すぎて生徒の熱中症が増えた為出来たもんだしな」

 

「え!?そうだったの!?」

 

「そうそう。だから家で大人しくしてろって事なんだよ。ほら、まだ間に合うから帰ろうぜ?」

 

「いやいやいや。帰らないよお兄ちゃん。そのほんとかどうかも怪しい雑学で小町は騙されないよ!」

 

「ちっ」

 

「それよりもーお兄ちゃん」

 

「あ、どした?」

 

「小町はか弱い乙女なわけですよ」

 

「へえ。お前って乙女だったんだな。というか乙女の定理を教えてほしいもんだ」

 

「そんなか弱い乙女にこの荷物はキツイわけですよ」

 

「・・・それで?」

 

「荷物持って、お兄ちゃん♪」

俺は夏休み早々から妹のやたら重いキャリーケースをゴロゴロと引っ張り、太陽をまるで仇のように睨みながら駅まで歩くのだった。

 

「お兄ちゃん。暑いのは分かるけど.....太陽を睨むのはどうかと思うよ?」

 

「そう言えばそうだな。ならこの荷物自分で」

 

「いやーほんとに今日も暑いね~。お兄ちゃん♪」

 

「はぁ....」

千葉県民の兄なら分かるだろう。千葉県の兄は妹からのお兄ちゃんという言葉には逆らうことは出来ないのだ。

 

 

 

駅に着くと見覚えのある顔が見えてきた。俺は顔面蒼白になって回れ右をすると何かにタックルされて尻餅をついてしまう。

 

「痛っ....て神崎!?」

 

「はい♪先輩があまりに遅かったので私心配で1度先輩の家まで行ったんですけどお留守だったみたいで....交通事故にでもあってしまったんじゃないかって....」

 

今まで寝ていて遅くなったなんて口が裂けても言えず、目の前で泣いている神崎に罪悪感を抱きながらこの状況を早くなんとかしようと神崎の肩を掴んで離れさせようとする。と、後ろから夏だと言うのに一気に冬になったんじゃないかと勘違いするほど冷たい声が聞こえてきた。

そして俺はその声を知っていた。

 

「・・・雪ノ下」

 

「あら何かしら?こんな往来の真ん中で女の子と抱き合っている変態谷君」

 

「ひ、ヒッキー....」

 

「おい、ちょっと待てって。この状態は....」

 

「あー!先輩ー!何さっちゃん泣かしてるんですか!?」

 

「い、いいいや泣かしてねえよ」

 

「全く....どうやったらこういう状況を作れるのかしら」

雪ノ下がこめかみを押さえながら聞いてくるがそれは俺が聞きたいくらいだ。

 

「それに俺は今日から小町と泊まりで旅行だ。偶然ここであっただけで」

 

「本当に偶然だと思っているの?」

 

「やあ。比企谷」

 

「・・・お、おはようございます」

 

「あれだけかけていたのに何故電話に出なかったんだ?」

 

「そ、その、まだ寝ていたので」

 

「お前の妹は起きていたと言っていたぞ?」

 

「ぐっ....」

 

「まあ来たんだ。今回は許してやろう。それよりも私の目の前で良い度胸だな」

ボキバキと指を鳴らし始めた平塚先生の顔は表面上笑っていたがその笑いはどんな怒った顔よりも怖かった。

 

 

何故か俺だけ平塚先生に制裁という八つ当たりをくらい散々雪ノ下からディスられ、由比ヶ浜からはサイテーと言われ、一色は「わたしが慰めてあげましょうか~?せーんぱい♪」とか言われ。その事にまた、雪ノ下からディスられて.....もう俺の体力はスライムにアーサーがエクスカリバーを放つくらいオーバーキル状態だった。うん。わけわからないな。

 

「さて比企谷は私の隣で助手席に乗りたまえ。異論は認めない」 

平塚先生に助手席に座るように言われたが俺だってその唯一の安全エリアに最初から座るつもりだった。

だが何故か小町が助手席に乗り始めた。

 

「・・・私は比企谷に助手席に座れと言ったのだが?」

 

「いやですねぇ。私も比企谷ですよ?」

 

「ふ....やるじゃないか」

 

「いえいえ~♪」

さて問題はここからだ。平塚先生が用意した車は基本的に前に二人。後ろに3人の5人乗りだ。成人男性が3人座れることを考えて細身の(由比ヶ浜は一部分が危ないが)俺達なら座れないことはないがそうは言っても狭いのだ。そりゃーもう肩なんて余裕でぶつかって更に寄らなくてはいけないくらいには。

 

「えーと~。それじゃあ先輩には一番右に座ってもらってその隣はわたしが、そしてその隣にさっちゃんに」

 

「いろはちゃん?それは何の冗談なの?」

 

「そ、それじゃあ窓側がわたしで先輩、そしてさっちゃんでいい?」

 

「それならいいけど」

 

「ちょ、ちょっと待ったぁあああ!」

 

「どうしたんですか?由比ヶ浜先輩」

 

「もしかして結衣先輩も~先輩の隣に座りたいとか?」

 

「え、いやーそれは....」

そこで何で俺見るんですかね?目そらすことしか出来ないよ?

 

「んん....ゆきのーん」

 

「私は.....比企谷君。車には座席以外にもスペースがあることを知ってる?」

ああ、あれですね。俺は荷物を置くところに乗れということですね。いやまぁ、それが一番良さそうだから良いんだけどさ。平塚先生のガッツポーズが少し納得いかないと言いますか。

 

「まぁ仕方ないか」

 

「そんな....先輩が可哀想ですよ」

 

「神崎さん、これは仕方のないことなのよ」

 

「でも....。分かりました」

 

「理解してくれたようで良かったわ」

 

「私が先輩の膝の上に座ります!それで全て解決ですよね?」

おぃぃ。この子は何を言ってるのん?一色ですら唖然としてるからね?そして平塚先生、そんなおもいっきり車殴ったら壊れますよ....というか小町。なんで此方見ながらニヤニヤしてるの?お兄ちゃんそんな子に育てた覚えはないよ!

 

「さ、さっちゃん!?思わずフリーズしてしまいましたが....本気?」

 

「勿論だよ、いろはちゃん。私....先輩なら大丈夫だから」

 

「比企谷君.....」

 

「ヒッキー....」

 

「先輩.......」

なにこれ俺がいけないの?何で皆俺を腐った目で見てくるの?そもそも平塚先生がこんな小さい車で来たのがいけないわけで俺のせいじゃない。

 

「そもそも何で平塚先生はこの人数で行くのに5人乗りの車で来たんですか?」

 

「ああ?」

 

「すいません....」

平塚先生はかなり機嫌が悪いようで原因を擦り付けることは死に繋がると悟った。

 

「はぁ....これでは埒があかないわね.....」

 

「ああ。ほんとにな」

 

「他人事のように言っているけれど貴方のせいよ?」

 

「え?それなら俺帰っていい?」

 

「いいわけないでしょ?」

 

「はぁ....それじゃあこうしよう。行きは一色と神崎の真ん中に。帰りは雪ノ下と由比ヶ浜の隣に座る。それでいいだろ?」

 

「まぁ。それなら」

 

「わたしも異論ありません~」

 

「わ、私は....」

 

「い、良いじゃんそれ!ね!ゆきのん!良いよね?」

 

「や、私は....」

 

「ねえ、ゆきのん。良いでしょー?」

 

「ゆ、由比ヶ浜さん....でも」

はぁ相変わらずユリユリってるなぁ。どうせ雪ノ下は由比ヶ浜に弱いから大丈夫だろうし。乗りますか。

甘かった。俺の判断は甘かったとこのあと思い知らされることになった。

神崎は、やたらとボディータッチしてくるしそれに対して雪ノ下からはディスられるし、由比ヶ浜は騒いでるし、一色は一色で俺の肩に頭を乗せて寝息立ててるし。平塚先生は.......いやもうあの人は放っておこう。

 

 

かれこれこんな事を繰り返すこと3時間。ようやく目的地に着いた。

 

「・・・千葉村?」

 

「君達にはここで林間学校のサポートスタッフとして働いてもらう」

 

「サポートスタッフ?」

 

「ああ、そうだ。小学生がこの千葉村で過ごすそうなんだが人手が足りないらしくてな。若手に、そう若手の私に話が回ってきたと言うわけだ」

うわー。大切な事なので2回言いましたよこの人。てかそれって良いように雑用押し付けられただけなんじゃないんですかね....。

俺が平塚先生を哀れに思っているともう1台ワゴン車が駐車場に止まった。

 

 

「やあ。君達も来ていたんだね」

そのワゴン車から降りてきたのは先日依頼をしてきた葉山隼人だった。

 

「そっちは何で来たんだ?」

 

「募集の貼り紙があってね。手伝って働き次第では内申点を上げてくれるって書いてあったんだ」

 

「どういうことですか?俺達そんな話聞いてないんですけど?」

 

「君達は奉仕部の合宿で来てるんだ。当たり前だろ?それに良い機会だ。君達は別のコミュニティーと上手くやる術を身に付けた方がいい」

 

「無理ですよ。あの辺と仲良くするなんて」

 

「仲良くする必要はないさ。上手くやれと言っているんだ。敵対でも無視でもなくサッと無難にやり過ごす術を身につけたまえ。それが社会に適応するということさ」

 

「はぁ.....」

 

このあと直ぐに俺達は集められて小学生の前に立たされ俺達がサポートをする事を伝えられて小学生は自由行動になった。

 

「さて、君達の最初の仕事はオリエンテーリングのサポートだ。一緒に行動してトラブルの無いよう見守ってくれ」

そう平塚先生は言うと1人車に乗り込み何処かに行ってしまった。俺達は仕方なく小学生の一番最後尾の少し後ろを歩き、トラブルがないように見張ることにした。

 

「べー!まじ小学生とか若いわ~!高校生とか、もうおっさんじゃね?」

 

「ちょっとやめてくれる?まるであーしがババアみたいじゃん」

 

今の発言を平塚先生に聞かせたらどうなるのかなと考えながら歩いていると、ひとつの女の子のグループで誰が見ても分かるくらいにハブられて楽しそうじゃない女の子がいた。グループからは少し遅れて歩き、時々思い出したように持ってきていたカメラを見ながら手を震わせていた。

 

「チェックポイント見つかった?」

 

「いえ」

 

「そうか。君、名前は?」

 

「鶴見留美」

 

「留美ちゃんか。俺は葉山隼人、よろしくね。あっちの方とか隠れてそうじゃない?一人じゃ見付けるの大変だと思うし皆で一緒に探そうよ」

そう言って葉山は、少し離れながら探していた女の子をグループの中に戻しにいく。誰が見ても分かると思ったけどいたよここに1人分からない奴が。

 

「隼人優しい♪」

 

あーここにもいましたね。

 

「見た?今のスッゲーナチュラルに誘って、ナチュラルにあの子の心削りにいったぞ」

 

「まぁ、葉山先輩ですからね。でも心を削ったってどういう意味ですか?」

 

「ボッチには、自分を守るための距離感ていうのがあるんだよ」

 

「あの女の子がボッチだと何故分かるんですか?」

 

「いろはちゃんは分からないの?」

 

「さっちゃんは分かるの?」

 

「分かるよ。だって....私と似た雰囲気あるから」

 

「そうね。彼のしたことは、あまり良い事ではないわ」

 

「そう言えばですが、ここにいるのボッチばかりでしたね....結衣先輩は、小学生と楽しそうに話してますし」

 

「あまり納得したくは無いけれど.....特に私はボッチというわけではないのよ?」

 

「そうだな。今は由比ヶ浜がいるからな」

 

「いえ、そういうわけではなくて....」

 

「なんにしろ、見てれば分かるさ。葉山が一緒に行ったときは、なんか仲良くしてそうだろ?」

 

「はい」

 

「でもな、葉山がいなくなれば」

 

「・・・あ、また少しずつ離れて」

 

「あいつのやり方じゃその場の解決にはなってもあの女の子の状況の解決にはならないってことだ」

 

「それなら。先輩ならどうしたんですか?」

 

「ほっとくな」 

 

「え?いやでもそれって....」 

 

「別に見捨てるってことじゃない。今の状況で俺達が動いてもあいつにとっては悪い方向にしかいかないってことだ」

 

「そうね。今出来ることはないわね」

 

「私もあの状況なら放っておいてほしいかも」

 

「今の状況って事は先輩は何とかするつもりなんですか?」

 

「さあな。別に頼られた訳じゃないし、そのままでも良いんじゃないか?」

 

「はぁ、そういうものですか」

 

オリエンテーリングも終わり夕飯のカレーライス作りが各グループにより始められた。

俺は、先程一人だった女の子を見ていた。別に探した訳じゃない。ただ昔の自分を見ているようで懐かしく感じたのかもしれない。1人黙々と作業を進め自分の役割をこなしていく。小学生というのに、かなり慣れているようで殆ど1人でカレーを作りあげていた。女の子と同じグループの他の女の子達は、全員で楽しそうに話ながら飯盒でご飯を未だに作っていた。そんなグループの女の子達を見てカメラに目を落として、俺と目が合うと何処かに行ってしまった。

 

「比企谷君。気になるの?」

 

「雪ノ下か、別に気になってる訳じゃないんだが....自然と目がな」

 

「そう....あなたも、あんな感じだったの?」

 

「まあな。でも俺は1人が嫌だなんて思ったことはないけどな」

 

「まぁそれは私も思っていたわ」

 

「んで、他のやつらは?」

 

「平塚先生に呼ばれてるわ。私は用件が済んだので先に来たというわけ」

 

「俺そんなの知らないんだけど?」

 

「貴方は良いのよ。知らない方が良かったなんて良くあることでしょ?」

 

「おいちょっと待て。なんだそれめちゃくちゃ怖いんだけど?」

 

「それより、貴方は何かするつもりなの?」

 

「どうだろうな....あいつがどう思ってるのかなんて本人にしか分からないだろ?」

 

「そうね。もしあの子がそれを望んだら貴方はどういう風に動くのかしら?」

 

「そんなのその時にならないと分からないだろ?」

 

「そうね。留美さん、此方に来なさい」

 

「は?」

 

雪ノ下が鶴見という女の子を呼ぶと先程ハブられていた女の子が茂みから出てきた。

 

「鶴見留美です.....」

 

「え、えーと。雪ノ下さん?」 

 

「何かしら?」

 

「これはどういうことでしょうか?」

 

「鶴見さんは、私の親戚の女の子なの。前々から関わりがあったのよ」

 

「ゆ、雪乃お姉ちゃん.....」

 

「あら、ごめんなさいね。比企谷君、先程の続きなのだけれど」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ....話についていけん」

 

「ついてこれなくても良いわ。貴方の頭が残念なのは理解しているもの。それより小学生の女の子が名前を言ったのよ?貴方は何を呆けているのかしら?」

 

何で俺こんなときでもディスられてるんだろう....。最後の方は、正論なので何も言い返せないが。

 

「あ、あの....」

 

「俺の名前は比企谷八幡だ。えーと鶴見だっけ?よろしくな」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「ちゃんと自分の口から言うのよ?」

 

「う、うん.....。そ、その.....八幡は私と同じ感じがしたの」

 

「いきなり呼び捨てかよ」

 

「なんか、雰囲気っていうか.....他の人とは違うって感じ」

 

それは俺も思ったが俺の問いはスルーなんですかね?

 

「それで?」 

 

「そ、その.....。お願いがあるの」

 

やっぱりこのパターンなのか。俺の夏休みは最初から俺を休ませてくれることは無さそうだ。

 

 

 

 

 





タグにオリジナル設定と独自解釈を追加することにしました。



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鶴見の人生相談

皆さんこんばんわ。毎回沢山の方に読んでもらえていて嬉しいです。


 

 

「お願い?」

 

夏休み。何故か千葉村で小学生のボランティアをすることになった俺は雪ノ下の親戚という女の子からお願いされていた。

 

「うん。でも、お願いっていうのとはちょっと違うかも」

 

鶴見は、カメラに視線を落としながら淡々と話を続ける。

 

「相談、かな。うん。人生相談」

 

何かに納得したように目線を俺に移してくるが、人生相談って完全に人選ミスってるだろ。

 

「俺に人生相談なんかしたって何も得るもんなんかないと思うぞ?」

 

「やっぱり、雪乃お姉ちゃんの言った通りの返事だね」

 

俺は雪ノ下に何を言ったのか睨む事で聞こうとしたが逆に睨み返されて鶴見に視線を戻した。

 

「はぁ。それで俺にどんな人生相談をしたいんだ?」

 

「うん。私実は....皆と仲良くして遊びたいんだ」

 

その一言だけ言ってまたカメラに視線を落とす鶴見を見て何かがあったことは理解した。

 

「鶴見は昔から1人だったのか?」

 

「ううん。小学4年生までは普通だったよ。友達もいたし.....。でも、4年生の夏頃に問題が起きたの」

 

「問題?」

 

「うん。先生が算数の小テストを抜き打ちでやるって言い出したんだけど」

 

それあるー。ほんとあれ嫌だよな、テストの点数が良くなかったので小テストやりまーす。とか言う先生いるけど、生徒からの人気急降下だからね?

 

「それでその時の問題なんだけど.....。図形の角度と長さを求める問題が幾つか出題されたんだけど....」

 

図形の角度問題か~、俺も苦手だったなぁ。意味わかんないんだよな、あれ。線が垂直で重なってできる角度は90度とか分かるわけがない。1度ずれてるかもじゃん?目分量の垂直なんだからってことを長々と回答用紙に書いたら職員室に呼び出されたっけな。

 

「比企谷君。あなたしっかり聞いているのかしら?」

 

俺が自分の思い出を振り返っていると雪ノ下がジト目をしながら聞いてきた。

 

「聞いてる。それでその図形の問題で何が問題だったんだ?」

 

「うん....なんか三角形の角度を求めるときに線を1本引っ張って90度を作って角度を求めるらしかったんだけど」

 

「ああ、あるな。そんな意味分からん問題」

 

「私はsin cos tan を使って解いたんだけど....」

 

「・・・ちょっと待て」

 

「どうしたの?」

 

「なあ、雪ノ下」

 

「なにかしら?」

 

「sin cos tan って中学生で習う範囲だよな?」

 

「そうね。高校で初めて習うところもあるから中学校によるらしいけれど」

 

「それを何故、小学生が使えるんだ?」

 

「私が教えたからよ?」

 

こいつか....。なんだろう、こいつが一人でいる理由が何となく分かってきた気がする。というかボッチである雪ノ下から色々と教わっているとなれば、自然とボッチになると言うものだ。

 

「な、なあ。鶴見」

 

「何?」

 

「それで結果はどうだったんだ?」

 

「答えはあってたんだけど・・・全部×にされた」

 

だろうな....。今時の小学校は、習っていない公式を使って問題を解くと教師によってだが×にされることが多い。それは授業中に話をしっかり聞けているかのチェックをするためと言われているが、恐らく教師が知らない公式を使われると困るからだろうと俺は思う。

 

鶴見は、その時の事が悔しいのか手を力強く握っている。

 

だが1つ分からない事がある。小テストで全部×にされたから鶴見はハブられているのか?それだったら今時の小学生怖っ、になるけどいくらなんでもそれはないだろう。何か他に原因があるはずだ。

 

「なあ鶴見?」

 

「何?」

 

「お前は小テストで×にされたからハブられているのか?」

 

「・・・違う」

 

「なら原因はなんなんだ?」

 

鶴見は原因が言いにくいのか目線を逸らして下を向いてしまう。無理矢理聞くわけにもいかず雪ノ下に目線を移すと溜め息を吐きながら俺に近づきながら話始めた。

 

「私も詳しいことまでは分からないのだけれど、知ってることだけでいいかしら?」

 

「ああ」

 

「鶴見さんから、テストの話を聞いて驚いた私は、翌日。鶴見さんの小学校まで行って採点をした先生を呼び出したわ」

 

「・・・は?」

 

あまりの内容に聞き返してしまった。お前は鶴見の母親か!って思わずツッコミそうになったわ。

 

「あら?聞こえなかったの?」

 

「いやいや聞こえなかったわけじゃない。ただ、何故先生を呼び出したんだ?」

 

「そんなの決まってるじゃない。間違っていないのに間違いにした、と言うことは採点をした先生が答えを理解出来ていなかったと言うことでしょう?それなら教えに行ってあげるべきでしょ?」

 

雪ノ下は、当然のように言ってのける。ただ雪ノ下の瞳からは少し怒気が含まれている気がした。

 

「・・・。な、なあ雪ノ下」

 

「なにかしら?」

 

「それでお前はどうやってその先生に間違いを指摘したんだ?」

 

「そんなの簡単な事よ。私が授業をしてあげたのよ」

 

「先生に代わってか?」

 

「何を言っているの?その先生に授業したに決まっているじゃない」

 

あー....分かった。これ絶対こいつのせいだ。概ね怖いお姉ちゃんがいるから関わりたくないとでも思われたんだろうな。

 

「鶴見。お前が皆と仲良くする方法がひとつだけある....」

 

「ほんと?」

 

「ああ。だがやるかどうかはお前次第だ」

 

「・・・やりたい。このまま一人は嫌、だから」

 

「そうか。雪ノ下」

 

「なにかしら?」

 

「お前にも協力してもらう」

 

「構わないけれど....あまり良い予感はしないわね。何をさせるつもりなの?」

 

「大丈夫だ。ちゃんと上手くいくはずだ、たぶん」

 

「八幡頼りない」

 

「うっ.....小学生に言われると意外と効くな....」

 

「それでロリ谷君。私の質問に答えて欲しいのだけれど」

 

「おい変なアダ名をつけるんじゃねー。ちゃんと説明するよ」

 

「雪乃お姉ちゃんと八幡は仲良いね」

 

この子は何を言ってるんだ?俺と雪ノ下が仲が良い?今の会話を聞いて何故そう思えるんだ。俺がディスられてただけなんですけど?

 

「鶴見さん。私にも怒るときがあるのよ?だいだいこんな変態谷君と仲良くしたい人なんてこの世に......。数人しかいないわ」

 

ちょっとー。今何を考えて間を取ったの?いやその数人分かっちゃうから何も言えないけどさ。勝手に人をロリ谷やら変態谷やらとアダ名を増やすのは止めてね?

 

「でも雪乃お姉ちゃん、何時もはそんなに喋らないから」

 

「・・・比企谷君。ちょっと待っててくれるかしら?大丈夫よ、15分程ですむと思うわ」

 

雪ノ下は目を細めて笑顔のまま鶴見に近付いていく。鶴見は恐怖心からかその場に動けず涙目で俺に助けを求めてきた。動けなくさせるとか....これからは雪ノ下に氷の女王というアダ名をつけよう。

 

「落ち着けって。説明もしたいし、眠い」

 

「はぁ....分かったわ。それでは、比企谷君説明を」

 

「ああ。俺の作戦はカレーを食べ終わった後の胆試しで行おうと思う」

 

「胆試しで?」

 

「ああ。それでお前らにやってほしいのはーーーーーーーーーーー。

            頼めるか?」

 

「なんかあまり気は乗らない」

 

「そうね。でもやってみる価値はあると思うわ」

 

「それじゃ、よろしくな。さてご飯だ、雪ノ下。俺達も今日はカレーなのか?」

 

「ええ......。カレーになっていればいいわね」

 

「え....何その言いかた怖いんですけど」

 

「由比ヶ浜さんがあなたの為に作ると張り切っていたわよ」

 

「なん、だと.........。で、でも一色や神崎。それに葉山達もいるんだ。流石にそこまで酷くはならないんじゃないのか?」

 

「だと良いのだけれどね....」

 

 

俺と雪ノ下は甘かった。いや俺が甘かった。作るのが由比ヶ浜だけじゃない。だから大丈夫だと思っていた。だが由比ヶ浜クオリティーと言うべきだろうか。俺が雪ノ下に連れられて俺達が食事をとるであろうスペースに着くとそこは地獄絵図と化していた。

 

「こ、これは....」

 

「流石.....由比ヶ浜さんね」

 

一人残らず机に頭を突っ伏しており戸部辺りは泡を口から垂れ流していた。概ねはしゃいで一気に大量の物体Xを喉にいれたせいであろう。

 

「この状況どうする?」

 

「私にそれを聞かれても困るのだけれど...」

 

「そもそも由比ヶ浜が料理を作るのを何故止めなかったんだ?」

 

「それは.....。私だって止めたのよ。でもあんな顔で頼まれたら....」

 

「あんな顔?」

 

「あなたは知らなくても良いのよ。それよりも由比ヶ浜さんは、この物体Xをあなたに食べてほしいと言っていたのよ?」

 

俺は背筋に寒気がはしり、一歩ずつ後ろに下がっていく。雪ノ下からは目が離さず少しずつ後ろに下がっていくと何かに躓いて転んでしまう。

 

「痛っ.....。なんだこれ、は。・・・・・。なあ雪ノ下」

 

「え、ええ。これはそうとうまずい状況のようね.....」

 

俺が躓いたのは我らの国語担任兼奉仕部の顧問の平塚先生だった。口からは物体Xを出しながら目は焦点があっていない。

 

「はぁ.....。雪ノ下は何か食べれそうなものを余り物で作ってくれ」

 

「それは構わないのだけれど、あなたは?」

 

「皆を起こしてみる。水でも被せれば簡単に起きるだろ」

 

「だと良いのだけれどね.....」

 

「戸部は起きないかもだが他の連中は微量の摂取しかしてないし大丈夫だろ」

 

「はぁ.....。何か薬物でも飲んだかのような表し方ね」

 

「薬物というよりは毒物だけどな」

 

「由比ヶ浜さんが聞いたら何て言うかしらね」

 

「さあな。というか自分の作ったもんで倒れてるんだ、何も言えないだろ」

 

「それもそうね」

 

俺はグラスに水を汲み一人一人順番にかけていくことにした。勿論最初は平塚先生だ。あまり教師が倒れている姿なんて生徒には見せたくないだろうし、何だかんだ言ってお世話にもなってるので配慮ということで一番最初に。

 

ピチャッという音をたてながら平塚先生の顔に少しずつグラスを傾けて水を顔にかけていく。時々「んっ」とか「あ......ん.......」とか聞こえてきていけないことをしているような気持ちになって来たので思いきってグラスを一気に傾けると気道に入ったのか噎せながら目を覚ました。

 

「ゲホっゴホッ.......。比企谷、か?」

 

「あ、はい。大丈夫すか?」

 

「ああ。というか何が........。あの物体のせいか」

 

「俺からしてみれば平塚先生が何故あの物体Xを食べたのかが謎でしたよ」

 

「ああ、それか。なんか皆楽しそうにカレー作って青春してたから邪魔しようとした」

 

うわ、さいてーだこの人。それで横槍をいれようとして逆に倒れたと?この人本当に先生なのか疑いたくなるな。

 

「・・・。さーて、他の奴等もお起しにいくか」

 

「おい。比企谷、連れないじゃないか。どうして直ぐに私から離れようとする?」

 

「(離れたいからだよ!なんなんだ、さっきからこの先生は.....暇なの?寂しいの?多分両方なんだろうな......)」

 

「おい、比企谷。どうした?黙りこんで」

 

「い、いえ......。ああ、そうでした。そう言えば、雪ノ下が平塚先生を探してましたよ?」

 

「雪ノ下が?」

 

「はい。ご飯を作っているんですけど、何でも“若い”大人の女性の意見を聞きたいらしくて」

 

「ほう。そうか、“若い”か。そうだな私は“若い“からな!分かった!」

 

平塚先生は”若い”を強調してから唾を返して調理場に向かっていった。雪ノ下に心の中で合掌をして俺は今から起こさないといけない奴等を見て溜め息を盛大につくのだった。

 

「はぁ.......」

 

 

 

 

 

 

 



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由比ヶ浜の料理は毒物じゃないですっ!

大変遅れましてすいません。

更新スピードをあげるために短く区切ることにしました。

サブタイトルが謎やぁ......。


「さて...誰から起こすか」

 

平塚先生を起こしたあと、俺は誰から起こすべきか悩んでいた。

 

ここにいるのは右から由比ヶ浜、一色、神崎、葉山、三浦、海老名さん、戸塚......戸塚!?よし待ってろよ戸塚!直ぐに起こしてやるからな!ん?あと一人足りない?大丈夫だ俺には見えてない。

 

俺は優しく少しずつ戸塚の顔に水を溢していく。時々聞こえてくる声に耳を集中させて、戸塚が何故女子ではないのかと、女子だったら絶対告白してフラれてたなとか考えながら。

 

やっぱりフラれちゃうのかよ。

 

「げほっ.....。んん.....はち、まん?」

 

やばい、可愛い。平塚先生の時の下品な起き方とは雲泥の差だ。思わず顔がにやけちまう....。

 

「お、おう。戸塚。目が覚めたか?」

 

「僕は...確か由比ヶ浜さんの作ってくれたカレーを食べて」

 

「いやいやいや、戸塚。それは夢だ」

 

「夢?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「そっかぁ。僕、まだ眠いや」

 

「そうか、ご飯が出来たら起こしてやるから寝てて良いぞ?」

 

「うん、ありがとう。はちまん.....」

 

戸塚を木で出来た椅子に寝させて、未だ地獄絵図と化している風景を見た。

 

「こいつら全員起こさなきゃいけないのか....」

 

俺は考えた。一人一人起こしていくとして皆同じことを言って起きるであろうと。それはめんどくさかった。だから考えた、ここでの最善の手を。そして思い付いた。俺が楽をする方法を。

 

俺は、バケツに水を汲んできて、一人を机から引きずって草むらの上に寝かせて服が濡れない程度に顔面めがけてバケツをひっくり返した。

 

「ぐはっ。うう...ごほっ....ごほ.....これは....水?」

 

「よお葉山。目が覚めたか?」

 

「比企谷?まさかそのバケツを?」

 

「おいおい、勘違いするなよ。お前がこのままだとヤバイって思ったから起こしてやったんだ」

 

「僕が?・・・そう言えば結衣がカレーを作ってくれてそれを一口食べたら...ううっ.....」

 

思い出しただけで吐き気を催すレベルだったのかよ。

 

「ほら、まだ起こしてないやつもいるんだ。起きたならさっさと起こしてきてくれ」

 

「君が起こせば良いんじゃないのかい?」

 

「起こすのがめんどくさいからお前を起こしたんだ。後は任せる」

 

「ははは、君らしいな。じゃあ僕は優美子達を起こすから君は結衣達を起こしてくれるかな?」

 

「何故そうなる」

 

「この人数なら二人で手分けして起こした方が早いだろ?それに...彼女たちは君に起こしてもらいたいだろうしね」

 

「・・・・どういう意味だよ」

 

「さあね。さて、それじゃあ僕は優美子から起こすよ。君は....誰から起こすのかな?」

 

葉山の言いたい事はなんとなく分かっていた。誰から起こす。俺には選べないから葉山に丸投げするつもりだったんだが.......。

 

考えろ。この状況で誰から起こしても平和に穏便にすむ方法を......。

 

俺は右人差し指だけ一番左で倒れている神崎に向ける。

 

「やっぱり君はそういう方法を選ぶんだね」

 

「........。どれにしようかなー。神様のいう通りっと、神崎からだな」

 

コップ一杯に水を汲み神崎の口の中に水を入れようとしたら葉山が「僕の時とは起こし方が違うようだね」と言ってきたが無視だ、無視。

 

「こほ....ひき、がや先輩?」

 

「ああ、目が覚めたか?」

 

神崎は、体を起こして周りを見渡し俺の右手に握られた水入りのコップを見て顔を紅くする。

 

「そ、その....嫌ではないですけど、出来れば二人きりの時の方が、私は、その....いえ!決して嫌ではなくてですね!」

 

神崎は何を言ってるんだ....分かりたくないと思う自分がいる。暫く一人で盛り上がっていそうなので放置して一色にもコップから水を顔にかける。

 

何回かかけてるが起きる気配が無い。

もしかして死んでる?

 

「ん、んん..........」

 

いや生きてたわ。

てかさっきから片目が動いてて起きてるのバレバレなんだが。

何故起きないのか不明だ。

 

よし次にいこう。

 

「おーい、由比ヶ浜起きろー」

 

「ちょっとせんぱい!どうして起こしてくれないんですかっ!」

 

「いやだってお前、最初から起きてただろ?」

 

「うっ....な、なんのことですか?」

 

「とぼけても無駄だ。てか一色は食べなかったんだな」

 

「はい、何かヤバそうな気がしましたので。そしたら皆次々に倒れていって」

 

「どうして倒れたふりを?」

 

「平塚先生が来るのが見えて説明するのがめんどくさかったのでわたしも倒れるふりをすれば事情を話さなくて済むじゃないですか~」

 

「はぁ....。まあ気持ちは分からなくないけど...起きてるなら由比ヶ浜起こしてやってくれるか?」

 

「え~。わたしは別に良いですけどー。由比ヶ浜先輩は、先輩に起こしてもらいたいんじゃないですか?」

 

「んなことねーだろ。てか俺は忙しい」

 

「いや、どうせわたし達を起こすように雪ノ下先輩に言われたんじゃないですか?」

 

一色は唇に人さし指を当てながら言ってくる。

 

この1つ1つの動作があざとくて、可愛いと思っている俺もいる。

 

「........さて俺はそろそろ」

 

「あー!図星!図星ですね!先輩分かりやすすぎですよ♪」

 

「はぁ....なあ一いs......」

 

「何ですか先輩?」

 

俺は初めて恐怖を感じていた。

今一色の後ろには右手にしゃもじを持ち腕を組んで仁王立ちをしている、般若がいた。

 

「一色さん。悪いのだけれどそこをどいてくれるかしら?」

 

明らかに声に怒気が含まれている。

一歩、一歩と近寄ってくる。まるで雪ノ下の歩いた場所が氷っていっている感じさえる。

 

「ひぇっ!?ゆ、雪ノ下先輩!?」

 

一色も普段の雪ノ下との違いを感じ取ったのかすぐさま道をあける。

 

「比企谷君。何か言いたいことはあるかしら?」

 

言いたいことならある。何故しゃもじ持ってんのお前?言ったら終わることが分かるので言わないが.....。

 

尚も笑顔で俺に近付いてくる雪ノ下。

 

もう猶予はないだろう。何か、何か考えろ!と俺の頭をフル回転させる。

 

「何もないようね」

 

これ以上ないほどに良い笑顔をしている雪ノ下の顔を雪ノ下さんにも見せてやりたいとか考えてる場合じゃない。

 

「えーと.....なんでしゃもじ持ってんの?」

 

頭をフル回転させた結果。一番酷い結果に辿り着きましたとさ。

 

「クス。今から分かるわ」

 

俺の背中に冷たい汗が流れ落ち空を見上げる。

ああ、小町。お兄ちゃんもう駄目みたいだ。

てか小町は何処にいるんだ?

 

 

 

それから1時間。詳しくは先生から肝試しをやるから仕度をしてくれと言われるまで雪ノ下から説教と言うか八つ当たりを受け続けた。

 

「あなたに分かる!?いきなり平塚先生が来て若手の私が手伝ってやろう!若手の私がと永遠と私の隣で言ってきたと思ったら、予想以上に料理は下手で、なんでもかんでも何処から取り出したのか分からないけれど焼き肉のたれをドバドバ入れ出して、あなたに私の気持ちが分かるかしら!?」とこんな話をされ続けた俺は今、意気消沈中である。

 

因みにしゃもじは俺が耐えかねて下を向いたときに顎に当てられて頭を起こされた。その為に持ってきたのかよ、どんだけ触りたくないんだよとか若干鬱になっていた。

 

だが鶴見との約束もあるので何時までも意気消沈しているわけにはいかない。

 

「はぁ.....」

 

「あれー?お兄ちゃんどしたの?」 

 

「あー、小町かぁ。てかどこ行ってたの?」

 

「いやーなんか小町、小学生の子達とご飯作ってたら一緒に食べようって誘われちゃって一緒に食べてたんだよね」

 

「平和だな.....」

 

「どしたのお兄ちゃん?」

 

「世の中には知らない方が良いこともあるんだよ...」

 

「ふーん、まあ良いけどさ。また何かしようとしてる?」

 

「.....なんのことだ?」

 

「はぁ....お兄ちゃんの事は小町が一番分かってるんだから隠しても無駄なの。それで何やるつもり?」

 

実は鶴見と雪ノ下に伝えた作戦はバラバラだ。雪ノ下に説明したのは、今回の事はお前に問題がある。それならその問題を排除すればいい。と言ってある。

簡単にだが、雪ノ下が鶴見の班が回ってくる所で脅かす役をやってもらうが半ば強引にキレてあの日の事を言ってもらう。あの時の先生の生徒ね、とでも言わせとけば恐怖心を仰げるだろう。そこで鶴見が前に立ち、皆を守れば恐怖対象から少なからず一緒にいれば守ってくれる存在にまでは立場が変わるだろう。

そう説明したら雪ノ下は納得したし、現状の打破にはなるだろう。

 

だけどそれは本物の友達とは少なからず言えないだろう。

 

鶴見に伝えた作戦は何も言わずに合わせろ、だ。

 

「まっ、言えないのも分かってたけどね。はぁ.....ねえお兄ちゃん」

 

「なんだよ」

 

「たまには小町も頼ってね」

 

そう言って小町は俺から離れていった。

 

「頼ってるさ、いつもな」

 

独り言のように呟き立ち上がり葉山とおばけの格好の衣装で若干揉めたがなにはともあれ肝試しは始まる。

 

 



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