ハイスクールD×D ゴースト×デビルマン HAMELN大戦番外地 (赤土)
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HAMELN大戦番外地 ~ゴースト/デビルマン舞台裏~
DX1. とある会社員の生活記録「ダイアリー」


企画していた番外編の投稿にこぎつけることが出来ました。
今回のリクエストは微笑みのアルベルト様からのものです。
ご協力ありがとうございました。

……こんな感じでいいですかね?
補足とか諸々必要であればいつでも仰ってください。

尚、本作はリクエスト内容に準じ、日記形式での作品となります。


※一度間違えて投稿してしまいました。
その間にアクセスされた方には深くお詫び申し上げます。


4月~日

今年度も外回りの営業の仕事が始まる。

今年度の新入りはゼロ、やはり今は外回りなんて流行らないのだろうか。

外回りと称して喫茶店やパチンコでサボるリーマンも今は昔、か。

などと言う事を駅前のビラ配りに愚痴ったが、機械的な応対で返された。

嘗めやがって、クソッ。

頭に来たのでもらったビラを目の前で破り捨ててやった。

何か変な図形が書いてあったが、知った事か。

 

 

4月○日

今日、外回りの最中にえらいものを見た。

公園でやけに息を切らしている高校生が2人いたと思ったら

すぐに原付に乗って走り出していった。

そこまでならまだいいのだが、偶然その高校生が通り過ぎるのを直後に見かけた。

原付にしてはえらいスピードだったが、最近の暴走族ってあんななのか?

 

……次の瞬間、空を飛んでる女の子を見るまでは俺もそう思った。

 

 

4月◎日

今日も日記を書こうと思ったら昨日の日記が何かおかしい。

俺はいつから夢日記を書くようになったんだ。

女の子が空を飛ぶわけないじゃないか、天空の城のアニメじゃあるまいし。

 

 

4月△日

……そういや、あの辺で原付の事故があったって新聞に載ってたっけ。

原因はスピードの出し過ぎ。そりゃそうだ。

2人乗りしていた高校生は命に別状はなかったそうだけど1人は重体。

もう1人は軽傷で済んでいるとか。早速ネットじゃ陰謀論と結び付けている奴がいる。

お前らも暇な奴らだなぁ。

 

 

4月×日

今日から外回りのコースが変更になった。

例の2人組の高校生がいた公園とその周辺だけは絶対に通るなって

課長命令だ。変だとは思うが、命令じゃ仕方ない。ヒラの辛いところだ。

 

 

4月●日

何なんだ、一体。俺には何か変なものでも憑いているのか。

また外回りのコースが変更になった。

まあ今回はあの薄気味悪い廃工場や廃屋を避けて通れるから、ラッキーなんだけど。

 

 

4月=日

今日、金髪の女の子に道を聞かれる。

しかし俺は英語を話せない。いやイタリア語か?

どっちにせよ、言葉が通じないので意思疎通が出来ないので逃げるより他なかった。

結構可愛い子だったのに、惜しい事をしたかもしれないがこればかりは仕方がない。

 

……駅前留学、始めようかなぁ。

 

 

4月?日

また外回りのコースが変更だと。今度は猟奇殺人事件現場が

外回りのコースに入っていたためだそうだ。

いつぞやの廃屋もいつの間にか更地になっているし、ちょっと薄気味悪いものを感じる。

お祓いをしようにも、隣町まで行かないといけない。

休みも満足に取れない俺にはちょっと、だ。我慢するか。

 

 

4月!日

今月に入って何度目だよ、外回りのコース変更!

今度は廃教会が謎の爆発事故で安全のために、ったって……

流石にこうも続くとモチベに関わるので課長に問い詰めるが

糠に釘を打っただけだった。まあ、わかってたけどさ。

明日は給料日。来月はこんな事無いといいんだけど。

 

 

4月Z日

色々あって遅れた新歓で飲み過ぎたらしい。

記憶では大学のあたりを歩いていたんだが、変な灰色の怪物を見た……気がする。

酔ってたんだろうな、どっかの野音のライブの音も聞こえてたし。

 

……あれ? 野音のライブってあんな遅くまでやるっけか?

このところの仕事のストレスで俺もおかしくなっちまったか?

 

 

5月○日

今月こそはと思っていたら、またコース変更だ。やっぱり俺呪われてるのか?

ネットの噂だが、ゾンビが出たとか出ないとか。

んなアホな、と一笑に付したが、ここ最近を踏まえるとそうも言えないのがなんとも。

けれどゾンビなんか出たらもっと怖い事になってないか、と思うのは

俺がゾンビパニック系の映画を見過ぎているからなんだろうか。

 

 

5月?日

この騒動にはゴールデンウイークとか五月病とかあるのだろうか。

ここ最近は平和だが俺も五月病気味らしい。休みなのにお祓いに行くでもなく家で寝ている。

新聞には「警視庁、新部署を発足。運用試験として駒王町をモデルケースに指定」との記事。

そりゃあれだけ変な事件が起きてりゃ警察も動くわな。

 

 

6月○日

このところは平和だ。国もやればできるじゃないか、ちょっと今度の政権を見直してる。

と言うか「超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)」なんて得体のしれない部署を発足なんて聞いた日には

「日本オワタ」と思ったし、ネット上もそんな意見が大半だった。

しかしこの町の連続殺人や謎の行方不明が激減したのと発足がほぼ同タイミングとあっては……

何であれ、平和に過ごせるならそれでいい。お祓い行く必要も無さそうだ。

 

 

6月◎日

誰だ平和なんて言ったのは! 俺か。

ニュースを見て度肝を抜かした、何せ指名手配中の連続殺人鬼、フリード・セルゼンが

また潜伏してるって話だ。しかも白昼堂々の行動がみられているお陰で、コース変更どころか

外回り全面禁止。まあ、この季節にはありがたいかもしれないが。

 

……給料に響かないといいが。

 

 

6月△日

気のせいか、街中が物々しい雰囲気に包まれている。まあ連続殺人鬼が潜伏してるって

話もあれば警察も動くよなぁ。おかげで出退勤が余計に緊張する。

流石に「通勤中・仕事中に殺人鬼」なんて妄想はしてないが

今日町の通りで爆発事故が起きたとあれば……妄想は妄想だからこそ楽しいのに。

ネットではこれまた全国指名手配犯もこの町にいるって噂もあるみたいだ。

 

……呪われてるのって俺じゃなくてこの町じゃね?

 

 

6月!日

信じられないことが起きた。外に巨大生物が発生、避難命令まで出たのだ。

今避難先でこれを書いている。避難誘導にいつぞや見た金髪の女の子がいたけど

他人の空似だろうな、きっと。

しかしこんなのまで出てくるなんて、やっぱこの町呪われてるって!

 

……でも通勤するのに隣町行くと不便だしなぁ。

 

 

6月?日

……避難勧告はすぐに解除されて、今日は仕事も休みと言う事でゆっくりしていた。

今日も日記を書こうと思ったが、昨日の日記がおかしい。

何か前にもこんなことがあったような……

そんな巨大生物が出るわけないよな……疲れてるのか、俺?

 

 

6月~日

そういえばフリード・セルゼン逮捕の報道を全然聞かない。

ネット上では逃げられたって噂もあるが、本当のところはどうなのか。

いずれにせよ、俺の外回りの仕事はまだ再開のめどが立っていない。

それならそれで、せめて夏が明けるまでは捕まってくれるなと思うのは不謹慎か。

 

 

6月=日

休みの日、近くのショッピングモールで女子学生の二人組を見た。

水着売り場に入っていくのが見えたが……2人ともいいものを持っていた。

ガン見したら事案発生しそうなのでやめておいたが

ついつい2度見してしまった俺は悪くないと思いたい。

 

と、ここまでならいい気分だったのにそこからの帰り道に

変人と出くわしてしまう。この間銀行強盗があったばかりだってのに。

……やっぱ引っ越すべきなのかもしれないなぁ。

 

 

7月×日

……この町の事件発生率は一体どうなっているんだ。

例のショッピングモールの地下で今度は学生が殺される事件が起きた。

これを世も末と見るか、やはりこの町は呪われていると見るか。

これは外回りの仕事は当面回りそうにないな。暑い中歩かなくて済むのはありがたいが

営業、どうすんだよ……

 

 

7月!日

今日、課長から肩を叩かれた。

別にこの所の営業成績とかじゃないのだが、こう危険な状態では

外回りの営業が難しいと上も判断したらしい。

そこで、ネット営業に方針転換すると言う事での肩叩きだ。

 

……そりゃまぁ俺はIT系のスキルを持ってないからってあんまりだ。

くそっ、タダじゃ済まさないぞ……

 

 

7月Z日

昨日の夜は一体何だったんだ!

パトカーのサイレンは夜中じゅう鳴り響くわ

怒号はあちこちから聞こえるわ

事もあろうに銃声は聞こえるわ……

 

やっぱり引っ越そう。実家の佐世保で船乗りの仕事でも探すかな……

そういえば、ネットでこの辺りは「日本とは思えない位治安が悪い」なんて書かれてたっけ。

いくら何でも脚色が過ぎると思ったらとんでもない。

東洋のジンバブエとかソマリアなんてレベルじゃねーぞ。

……行ったことないけど。

 

 

7月~日

引っ越しの段取りと退職の日程が決まった。

社内の噂では会社ごと引っ越すって噂もあるらしい。どうでもいいけど。

来月にもこの怖い町ともおさらばだ。

 

 

7月?日

町民課がえらい混んでる。この混み具合はおかしいだろ。

聞けば、皆俺と同じようなことを考えているらしい。

そりゃあ混むよなぁ。仕方がないのでネットやスマホのゲームをしながら時間を潰していた。

 

結局、8時間くらいも待たされてようやく手続きが終わった。

これでも当日中に手続きが終わらなかった連中に比べれば幸せな方か。

これで来月中頃にも実家に帰れる。

一応電話は入れてあるので、あとは荷物纏めるだけだ。




各日補足
4月~日
配られていたのは悪魔契約のビラ。

4月○日
本編ではイッセーとセージがレイナーレに追われている場面。
つまり、全ての始まりの時です。セージ町中でカブを全速力させていたので。

4月◎日
「天野夕麻」と言う存在・記憶がこの世から消えています。
しかし彼の日記からは消去されていなかったようです。
それは彼の日記が特別だからなのか、それとも……

4月△日
イッセーとセージの現状。片や悪魔転生し無傷、片や瀕死の重体。
これが後にあんなことになるんですからね。

4月●日
セージが初めてはぐれ悪魔と戦った時(Soul2.)後の時間軸です。
事件発生率が半端ない駒王町でどうして外回りをしているのでしょうね、この彼。

4月=日
アーシア登場。しかし彼は語学堪能ではなかったらしく逃げ出してしまっています。
仕方ないね。

4月?日
フリード登場前後。あんな惨たらしい殺し方してれば報道もされますって。
されなくてもネットで話題になったりとか。今はそういう時代。

4月!日
1巻部分のラスト(本編Soul9~10.)に該当。どうなったかは本編をご覧ください。

4月Z日
本編Extra Soul1.に該当する時期。彼は酔っぱらっていましたが実際は……

5月○日、?日
本編Soul12.以降に該当。超特捜課(ちょうとくそうか)が報道発表されたのもこの辺り。
超特捜課が動き出したことやソーナの活躍ではぐれ悪魔による事件は
5月は沈静化してます。メタな言い方するとこの時期ライザー戦の真っただ中。

6月○日
いや、普通にオカルトを専門とする部署が公的機関の、税金で動いているとなれば
物凄い反対運動起こると思うんです。ただでさえ税金泥棒な国なのに。
シン・ゴジラ? あれは……うん、まぁ……そう……そうねぇ……

6月◎日、△日
Soul28.~Life32.前後に該当。外回りしていた彼が外回り禁止を会社に言い渡されました。

6月!日
本編「Encounter」~「Reentry」の時期に該当。ケルベロス……の弟分、オルトロスが
駒王町に放たれた時です。漢字七文字の超兵器は3桁の魔獣登場までお待ちください
(出るのか!?)

6月?日、~日
悪魔による情報隠蔽とフリード報道関係。一応この時点で逮捕はされているはずなのですが……

6月=日
Extra Saint4~5.、Soul40.に該当。
女子学生2人(リアスと朱乃)の件は原作通り。鼻の下を伸ばした矢先に
帰り道に変人に遭遇。ご愁傷様です。

7月×日、!日
「Tragedy of juvenile crime」後に該当。
超特捜課もマジギレするほど後味の悪い事件でした……
そしていよいよ肩を叩かれた彼。地味に経営状況悪くなってる事が窺えます。

7月Z日
三大勢力会談時に該当。詳細は本編をご覧ください。
こちらでは外にまで影響が及ぶほどの事件が起きているとだけ。


以後は駒王町を逃げるように後にすることを触れている彼。
無事に駒王町を出られればいいのですが。

なお、別に佐世保の船乗りに深い意味はありません。


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DX2. 超常事件特命捜査課 捜査記録 File1

今回もある意味日記形式。
特にリクエストはございませんでしたが
警察組織(と言うか超特捜課)では大体こんな感じで事件に対応していました、と。
(リクエストは変わらず募集しております)

今回新たにタグを付け加えさせていただいております。
それが意味するところは後書きにて。

……あのキャラ出せない予防線と言えばそれまでなんですが
非常にやり口があくどいですね。最初に謝っておきます。

なお、私は本物の捜査記録なんてものを読んだことがありませんので
この記述方式はフィクションです。今更ですけどね。


超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか) 捜査記録(持出禁止!!)】

 

ケース X-0

 

2000年X月Y日

長野における大量殺戮事件

 

概要:長野県三六ヶ岳(さむがたけ)遺跡を中心に

   謎の生物による大量殺戮事件が発生。

   この脅威に対し、長野県警の対策課が「神経断裂弾(しんけいだんれつだん)」を開発。

   それをもって謎の生物の鎮圧を行い、1年がかりで事件は終息した。

 

被害者:約20万人(201X年7月現在)

    うち狗神(いぬがみ)小学校の児童234人が死亡、学校閉鎖に追い込まれた事案もあり。

 

ケース X-1

 

200Z年X月Y日

姫島神社における集団殺人事件

 

発生時刻:未明頃

 

現場状況:姫島神社。集団で争ったような痕跡がある。

     関連のある五大宗家に対し取り調べを行う。

 

被害者状況:主に斬殺

 

被害者氏名:以下28名

      姫島 朱里(死亡)

      (中略)

      姫島 朱乃(重傷・消息不明)

 

その後の状況:被害者のうち姫島 朱乃はその後無事が確認された。

       なお201X年現在、五大宗家による事件への関与は否定されている。

 

      

――――

 

 

ケース B-1

 

4月■日

駒王町郊外廃工場付近における惨殺事件

 

発生時刻:いずれも深夜~未明頃、検死の結果。

 

現場状況:経営難により放棄された廃工場。人通りはほぼない。

 

被害者状況:糸のようなもので拘束された後、体液を失っている。

 

被害者氏名:以下5名

      (省略)

 

ケース B-2

 

4月■日

駒王町郊外廃屋敷における惨殺事件

 

発生時刻:いずれも深夜~未明頃、検死の結果。

 

現場状況:人通りの少ない位置に建てられた屋敷。

 

被害者状況:いずれも強い力で引き千切られた様な痕あり。

      原形をとどめておらず、現場及び近辺から

      欠損した体の部位や内臓等は見つかっていない。

 

被害者氏名:以下11名

      (省略)

 

遺留物:なし

 

ケース B-3

 

4月■日

駒王町内における第260号(フリード・セルゼン)による連続猟奇殺人事件

 

発生時刻:いずれも深夜~未明頃、検死の結果。

 

現場状況:一般の民家。但しいずれも悪魔召喚の儀式を行っていたと思しき痕跡あり。

 

被害者状況:斬殺、刺殺、絞殺、銃殺と多岐に渡る。

      血文字で何らかの文字が描かれていた。鑑識の結果待ち。

      以下鑑識の結果

      特定は不可能だが、宗教的なものを感じる意匠である。

      詳細は取り調べや鑑定を行わない限り断定は不可能。

 

被害者氏名:以下7名

      (省略)

 

遺留物:なし

 

ケース B-4

 

4月■日

駒王町郊外廃教会における爆発事故

 

発生時刻:23時頃

 

現場状況:放火の痕跡は無し。

     建築材料は不燃性のものであり、内部に木造家具は見られたが

     自然発火の痕跡も無し。長い間使われていなかったために粉塵が充満して発生した

     粉塵爆発として処理。

     ※しかし下記理由により超特捜課(ちょうとくそうか)預かりとする。

     (超特捜課発足後加筆)

 

人的被害:なし

 

遺留物:近隣の森林内において、何らかの鳥類のものと思われる黒い羽根が3枚検出。

    念のために鑑識に回すが、DNAがカラスではなく人間のものに近いと言う検査結果。

    (以下、参考写真)

 

ケース B-5

 

5月■日

駒王町内にて感染が確認されている奇病と変死体について

 

発生時刻:不定

 

現場状況:路地裏等、人通りの少ない場所。

 

被害者状況:遺体には謎の植物が寄生しており、鑑識に回す。

      鑑識の結果、既存の植物とはDNA等が一致しないが

      事件も同時に起きていることを顧み、報道規制する。

      また、奇跡的に一命をとりとめた被害者も存在するが

      彼らにも植物は寄生しており、隔離病棟に移送した。

 

被害者氏名:以下860名(201X年7月現在)

      (省略)

 

目撃情報:以下の怪物が目撃されたと言う情報が入っている。

     (参考写真)

 

 

――以下、超特捜課発足に伴いケースAへと移行する――

 

 

ケース A-1

 

5月■日

駒王町内における暴徒による暴行未遂事件

 

発生時刻:夜半頃

 

現場状況:公園等、人がまばらな場所。

 

事件状況:暴徒はこちらの呼びかけにも答えず、町民に暴行を試みたため応戦。

     その際自衛のために氷上 涼(ひかみ りょう)巡査が発砲を行い、暴徒の死亡が確認。

     しかし暴徒は死後3日以上が経過しており、氷上巡査の発砲は死因ではない事が判明。

 

被害者:なし

 

ケース A-2

 

5月■日

駒王町内における駒王学園近辺での婦女暴行未遂事件

 

発生時刻:深夜

 

現場状況:人通りは無く、監視カメラの死角となる位置であった。

 

事件状況:犯人と氷上 涼巡査がもみ合いになった結果、犯人のDNAを採取するが

     DNAと一致する前科者は無く、また人間のDNAとも僅かに異なっているため

     捜査は難航を極めている。

 

被害者:確認されている限りではなし。

 

その後の状況:巡視の強化を行ったが、201X年7月?日現在再犯は起きていない。

 

ケース A-3

 

6月■日

駒王町内における第260号(フリード・セルゼン)捕縛作戦

 

発生時刻:未明頃。

 

現場状況:駒王学園近くの公園

 

作戦結果:テリー (やなぎ)警視を交え、行われた本作戦であり

     テリー 柳警視の「神器(セイクリッド・ギア)」を投入、第260号を追いつめることに成功するが

     途中乱入したゼノヴィアと言う少女のために頓挫。

     第260号の逃亡を許す結果となってしまう。

 

     以後、同様の作戦が立案されたため当作戦をCP作戦と呼称する。

 

その後の状況:緊急逮捕したゼノヴィアだが、ヴァチカンの司教枢機卿から

       釈放手続きがあったため釈放の手続きを取る。

       紫藤 イリナと言う少女が現地身元引受人となったため

       氷上 涼巡査を監視に付ける。

 

ケース A-4

 

6月■日

第二次CP作戦

 

発生時刻:夕方頃。

 

現場状況:駒王町表通り裏路地

     第260号はケースB-5の怪物を使役。

 

作戦結果:軽犯罪法に触れていたゼノヴィア、紫藤 イリナ2名を護送中

     第260号と遭遇。その際パトカー1台大破。

     テリー 柳警視合流の後、現場権限にて本作戦を実行。

     新兵器・プラズマフィストの投入、駒王学園の生徒2名の協力により

     同日19時29分第260号、フリード・セルゼンを確保。

 

その後の状況:全国指名手配犯バルパー・ガリレイの手により

       第260号は護送についていた警官を殺害し脱走。

       以下ケースA-5へと移行する。

 

ケース A-5

 

6月■日

巨大生物鎮圧及び第三次CP作戦

 

発生時刻:夜半頃。

 

現場状況:駒王町表通り。ケースA-4からの連続しての事件。

     二つの頭を持つ巨大な犬のような怪物

     (薮田 直人(やぶた なおと)博士により「オルトロス」と命名)の出現。

     交通課及び防衛省と協力し市民の避難誘導を行う。

 

被害状況:オルトロス発生に伴い、交通のインフラがマヒ。十数万人の足に影響が出た模様。

     また、警官44名が負傷。

     (以下省略)

 

作戦結果:薮田 直人博士により「神器」や「神経断裂弾」の使用が具申され、認可される。

     警官隊との交戦により、21時34分頃オルトロスの沈黙を確認。

     死体は鑑識に回された。

 

鑑識の結果:現代科学では説明のつかないエネルギー等が確認され

      薮田 直人博士の論文の証拠となり得る一件であった。

      その為、一部を除き報道規制を敷く。

 

第三次CP作戦:オルトロスの前哨戦とも言える形で第260号と接触。

        オルトロスの出現に伴い逃走。作戦は失敗。この際警官3名が死亡

        (以下省略)

 

ケース A-6

 

6月■日

悪魔による少女誘拐事件

 

発生時刻:未明頃。

 

現場状況:駒王町表通り。ケースA-5からの引き続いての事件。

 

被害状況:氷上 涼巡査が負傷。また、警護していた紫藤 イリナが誘拐される。

     それに伴い、ゼノヴィアの身元引受人が喪失。

 

犯人:カテレア・レヴィアタンと言う名を名乗り、自らを「魔王」と称していた。

   紫藤 イリナを拉致、逃走。

 

ケース A-7

 

6月■日

第四次CP作戦

 

発生時刻:深夜。

 

現場状況:駒王学園。何らかの影響による破壊の痕あり。

 

作戦結果:通報を受け、現場に向かった時には既に捕縛されていた。

 

その後の状況:201X年7月■日に脱獄。以後第260号に射殺許可が下る。

 

ケース A-8

 

6月■日

指定暴力団組織による銀行強盗事件

 

発生時刻:昼過ぎ頃。

 

現場状況:駒王町表通り大手銀行。刃物を従業員に突きつけ現金を奪い逃走。

     その後町中で市民と揉め事を起こしているところに超特捜課が接触。

     なお、犯人は「悪魔」を連れていた模様。

 

犯人:自称指定暴力団「曲津組(まがつぐみ)」組員3名。いずれも逮捕。




ここで一部の皆様に残念なお知らせがあります。
本編でも出ていないキャラなので
ここでこんなお知らせをするのもどうかと思うのですが……

幾瀬 鳶雄氏の死亡が確認されました。

ケースX-0の狗神小学校の死亡人数。これは堕天の狗神~SLASH/DOG~にて
事件を免れた幾瀬を除いた犠牲者233人、そこに1加わっていると言う事は……

と、言うわけです。
よって、本編にも彼は出てきません。故人ですから。
49日も99日も過ぎてるから復活もゴーストも無し、って事で。

(原作では陵空高校ですが、時間軸との兼ね合いもありますので。
あとグロンギの事件モチーフなので小学生全滅ゲゲルとかやってもおかしくない。
ジャラジってトンデモねーヤローもいることですし)

と言うわけですので(本編では別のタイミングになると思いますが)
原作キャラ死亡タグをつけさせていただいた次第です。

>三六ヶ岳遺跡
元ネタは仮面ライダークウガの九郎ヶ岳遺跡。
で、なんでこの名前かと言うと……
36ヶ岳>6が3つ>666……と言うわけです。
これ以上は本編に出ていない奴なのでノーコメントで。


番外編であまり長くし過ぎるのもどうかと思うので
今回は3巻部分までの事件とさせていただきました。


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DX3. 駒王学園裏サイト

ちょっと間を置きましたが番外編。
今回は「本編世界での駒王学園の裏サイト」をテーマに上げています。

冗長になるだけなので一部を抜粋した形にしてあります。
本編でも一度だけ取り上げた「匿名掲示板」形式になっております。


スレッド一覧

 

1.駒王町の名物あげてけPart2(6)New! 2.【駄乳】駒王学園二大お姉さまアンチスレ101【煩乳】(193)

3.学園テスト傾向と対策42回目の夏(88) 4.【変態】変態三人組アンチスレ1287【死すべし】(987)

5.闇に葬られた事件 37件目(824) 6.駒王学園二大お姉さまファンスレ114(286)

7.正直ここの学園の教師っておかしいよな 26人目(442) 8.おーい、誰か駒王番長の行方を知らんか?(305)

9.今度引っ越すことになったんだけど(326) 10.正直、リアス・グレモリーってどこがいいの?Part128(36)

スレッドをもっと見る

 

 

駒王町の名物あげてけPart2

 

1 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentA

 

これだ!

ってものが無いように思えるんだけど、お前ら何かおすすめある?

 

前スレ 駒王町の名物あげてけ

[URL]

 

2 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:JaLienPEDanO

 

|-|・▽・|-|

ヽ|□ □|ノ ガシャーン

 | __| ガシャーン

  ||

 

3getジョーだよ

自動で3getしてくれるすごいやつだよ。

 

3 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentB

 

2get

 

4 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:SutdentC

 

>>1

ない

 

 ― 終 了 ―

 

5 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:Char6Gremory

 

 ― 再 開 ―

 

6 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:DJSnake

 

>>1

最近変な花みたいなドラゴンフルーツのしなびたのみたいな果物が

あちこちに生えてるらしいぜ。

バケモンの噂もあるけど、すごく美味そうって話だぜ。

ま、俺は食ったことないんだけどな。

 

 

【駄乳】駒王学園二大お姉さまアンチスレ101【煩乳】

 

1 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentA

 

よくわからないのにちやほやされてるあいつらがむかつく人たちのためのスレです。

 

注意事項

・犯行予告はだめ、ぜったい。

・ここはアンチスレです。ファンスレじゃないから信者は(・∀・)カエレ!!

・信者もだけど荒らしもスルー。

・転んでも泣かない

・過去スレは>>2-

 

前スレ 【乳牛】駒王学園二大お姉さまアンチスレ100ml

[URL]

 

2 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:SutdentA

 

過去スレ

【おっぱい】駒王学園二大お姉さまアンチスレ99【おばけ】

[URL]

【頭の栄養】駒王学園二大お姉さまアンチスレ98【全部胸】

[URL]

【乳揺れゲー】駒王学園二大お姉さまアンチスレ97【御用達】

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【貧乳の】駒王学園二大お姉さまアンチスレ96【敵】

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【格差社会に】駒王学園二大お姉さまアンチスレ95【負けない】

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~省略されました、全て読むにはここを押してください~

 

3 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:JaLienPEDanO

 

|-|・▽・|-|

ヽ|□ □|ノ ガシャーン

 | __| ガシャーン

  ||

 

3getジョーだよ

自動で3getしてくれるすごいやつだよ。

 

4 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentB

 

2get

 

5 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentKiryu

 

よく巨乳には巨乳の苦労があるっていうけど

正直言ってこの二人は巨乳ってだけで今の地位得てるんじゃないかって気がする。

リアスの方は生徒会長と違って極端に成績優秀じゃないし(特に日本史)

朱乃の方は媚びてるの見え見え。

 

ここだけの話、実は朱乃ってあれで男嫌いらしいよ?

 

6 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentC

 

>>5

それじゃ男子に向けてるあの笑顔は媚びてるって事? うわキモ

 

7 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentKatase

 

>>5

それマジ? そういえばあの二人、最近やけにうちのクラスの変態と絡んでるけど

ああいうのが好みなわけ? やっぱ胸にしか栄養行ってない奴はそういうのが好みなのか……

 

8 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMurayama

 

>>7

栄養じゃなくて揉まれて大きくなったって考えも出来るって事だよね?

うっわ、あの変態ども覗きに飽き足らず実行まで移すとかマジ最悪

 

9 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentD

 

何か話題ループするくらい語られてきてるよね。

>>5の話題だって何スレか前に言われてたことだし。

だから余計にあいつらが何であんなに人気なのかわけわからん。

何か変な催眠術とかトリックとか使ってるんじゃないかって位。

 

……あるいは、悪魔とかだったりして

 

10 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:WhiteLittleCat

 

>>9

それ以上いけない

 

 

闇に葬られた事件 37件目

 

1 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentA

 

最近多発している怪奇事件についていろいろ語るスレです

 

注意事項

・犯行予告はだめ、ぜったい。

・過去スレは>>2-

・実名は伏せよう

 

前スレ 闇に葬られた事件 36件目

[URL]

 

816 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:SutdentB

 

最近だとやっぱあれだな。

モール地下で起きた事件、あれうちの生徒も犠牲になったらしいからな。

親戚のおっさんも言ってたけど、もうここダメなんじゃね?

 

817 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentC

 

つーか、殺人なのか事故なのかわからない事件が多すぎる。

モールでも事件起きてるから、学校終わった後遊びにも行けないし

 

818 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentD

 

ほんこれ。

モールのゲーセンに「船これ」の筐体来たからやりたいんだけど

怖くて近寄れない。出素戸炉井もだけど、金座もいるから

関わり合いになりたくないから近寄りたくない。

 

819 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMotohama

 

まして今番長もいないから怖くて怖くて仕方ない>モール

そういえばあのモール、番長バイトしてたらしいぜ

 

820 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMatsuda

 

>>819

部活入ってないと思ったらそう言う事だったのか>番長のバイト

まさかモールで事件が起きたのも、番長が入院したからじゃ……

 

821 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentKatase

 

>>820

いやそれは関係ないっしょw

 

822 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMurayama

 

>>821

でもそういう話題が出る程度には番長だよね、彼。

どっかの変態どもも見習えって話。

 

823 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentKiryu

 

そういえば最近駅前とかで変なビラ配ってる人見ないんだけど。

警察仕事したのかな?

 

824 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMatsuda

 

>>823

いや、俺とダチはこの間貰ったぞ?

ちょっと夏休み中に試してみるつもり。

 

825 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentE

 

>>824

それやばいやつじゃね?

何か変なビラ貰った奴が変死体になって発見された事件もあったじゃん。

 

 

おーい、誰か駒王番長の行方を知らんか?

 

1 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentA

 

結局家にも帰ってないみたいだし、一体どうなってるんだ……?

 

2 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:SutdentB

 

2学期には出てくるように……お祈りしな!

 

3 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:JaLienPEDanO

 

|-|・▽・|-|

ヽ|□ □|ノ ガシャーン

 | __| ガシャーン

  ||

 

3getジョーだよ

自動で3getしてくれるすごいやつだよ。

 

4 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMatsuda

 

>>1

入院してるってよ

 

5 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMotohama

 

>>4

でも意識不明の重体じゃん

 

~中略~

 

301 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentKiryu

 

でも番長の搾精ならちょっと見たいかも

 

302 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:PassingSoulSeiji

 

>>301

ドゴォ(AA略)

 

303 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentKatase

 

で、番長は何処にいるんだ?

 

304 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMatsuda

 

>>303

入院してるってよ

 

305 : 名無しさん YYYY/MM/DD HH:MM:SS.SS ID:StudentMotohama

 

>>304

でも意識不明の重体じゃん

 




3ゲットジョーさんこちらでも大活躍(?)。

>駒王町の名物上げてけ

いや、本当に何が名物なんでしょう、あそこ。
本編世界だと「事件」が名物になっている節がありますが。
なお最後に触れられているのは……IDと特徴を考えると
絶対に人に勧めてはいけない果実……

アインストと言い、クロスゲートと言い、この果実と言い変なのに好かれ過ぎです。
ある意味原作以上に。
そして設定上あの混沌さんにも目つけられてる気配が……

>二大お姉さまアンチスレ

もうちょっと掘り下げたかったかもしれない。
でもこの辺りの「ルックスでしか人気が無い」と逆に取れかねないのは
やっぱり色々致命的だと思うんです。
そうなったら異性人気はともかく同性人気は地の底になるはずですし
この二人が常時魅了魔法発動してるとかそういう催眠系の術使ってない限り
嘘みたいに同性にもちやほやされるってのはおかしいと思うんです。
アンチのいない人気作なんてありませんからね。

>闇に葬られた事件

「船これ」は「艦これ」のパロディ。軍艦じゃなくて漁船を集めて
漁業に出る的なゲーム。擬人化したキャラデザがえらい人気になったとか。
そしてやはり話題になってるモールの事件。そりゃ自分と同じ学校の生徒が
犠牲になれば話題にならないわけがない。
最後はフリードが殺した契約者の件。
だからなんでリアスは契約者1人守れないんだ……

>おーい、誰か駒王番長の行方を知らんか?

これは往年の名スレ(?)より。
流れも大まかに忠実に再現出来たかと思います。
そして>>303、上、上!

※9/11一部修正。


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DX4. Apology pilgrimage

サブタイは謝罪行脚の直訳。
google翻訳ですので本場で通じるかどうかは保証しかねます。


私生活で諸々あったので気分転換を兼ねて。
ギリシャに謝罪に行ったシェムハザとヤルダバオトの話です。


――時は三大勢力の会談直後まで遡る。

 

 

「……やれやれ、気が重いですね」

 

ギリシャ・冥府奥地の楽園、エリュシオン。

ここにはギリシャの冥府の神ハーデスが妻ペルセポネーのために用意した田園風景や

立派な神殿が建立している。

 

そんな中に、黒い鳥の羽を生やした男と

金の装飾が入った白のローブを纏った男が連れ立っている。

ギリシャ冥府の最下層・コキュートスに堕天使勢力の戦争犯罪人・コカビエルが監禁されたと聞き

関係者かつ責任者である堕天使総督代理・シェムハザと

聖書三大勢力の元締め、ヤハウェの代理を務める

ヤルダバオト。その二人がギリシャ冥府の管理人であるハーデスに事情を説明するために

遠くギリシャ冥府の最奥地であるエリュシオンまでやって来たのだ。

 

「ファファファ、よく来たな。カラスに元締めの偽神よ」

 

髑髏の歯をカタカタと鳴らしながら、ミトラを被り祭服に身を包んだハーデスは

玉座に座り、頭を垂れているヤルダバオトとシェムハザを迎え入れた。

側近として黒い鎧に身を包んだ男が二人立っている。

 

「お久しぶりです、ハーデス様。この度は――」

 

「分かっておる。我が領地に勝手に放り込んでくれたあのカラスの事と

 そのカラスが持ち出してくれた我がペットの事であろう。

 

 ……ラダマンティス、ここへ参れ」

 

「はっ……お初にお目にかかる。我が名はラダマンティス。

 裁きの太刀にて咎を断つ、冥府の判官なり。

 以後、よしなにお頼み申す」

 

ハーデスの背後から、黒い翼竜の翼を思わせるローブを羽織い

バイクのエンジンを思わせるプレートアーマーをその下に装着した男が現れた。

ラダマンティス。ギリシャ冥府にて審判官を務める、ハーデスの家臣の一人である。

 

「さて……審判官が一人ラダマンティスをここに呼び寄せたと言う事は、わかっておろうな?」

 

「はい。この度は我が陣営のアザゼルが勝手な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

審判官であるラダマンティスがいる以上

如何に偽物とはいえ聖書の神や堕天使の総督代理と言えど

ここでは裁きを待つ罪人同様である。

実際のところ、ラダマンティスはそこで立っているだけなのだが

彼の立場上、嘘――即ち咎を断つ役割を担っている。

ハーデスに加え、そんな彼がここにいるというだけでプレッシャーにもなると言う物だ。

実際、堕天使陣営はギリシャ冥府に損害を与え元締めである

聖書の神クラスの存在が動かざるを得ない事態を招いているのだから。

 

「ふん……聞けば、アインストなる怪物に腕を食われ療養中と言うではないか。

 幸い、我がギリシャにはアインストなる怪物は現れてはおらぬが……

 どうじゃ、ヤルダバオト、シェムハザ。ここは司法取引と行かぬか?」

 

「司法取引……ですか?」

 

「そうじゃ。貴様らは我々に『ゲート』の情報を用意するのじゃ。

 儂はそんなものに興味はないが、アポロンの奴がその話を聞いた途端血相を変えよったからな。

 それが少しばかり気がかりでな。故に、ゲートの事は我々も知りたいところなのじゃ。

 しかし、儂らは軍勢を動かせぬ。

 どこぞの誰かが我が領地にとんでもないものを寄越してくれたからな。

 

 ……サマエル、と言ったか。アレの対策のためにタナトス・ヒュプノスまでも

 動員せねばならん現状じゃ。冥府の人手が足らんと言うのに、じゃ」

 

サマエル。その毒はあらゆるドラゴンを打ち滅ぼすという最強の龍殺しにして堕天使。

それがどういうワケだか、ギリシャ冥府のコキュートスに封じ込められているのだ。

となれば、ギリシャ冥府を拠点とする神々は黙って見過ごすわけにはいかない。

そのため、コカビエル以外にも三大勢力――

特にコカビエルが所属する堕天使陣営はギリシャ勢力に対し借りを作っているのだ。

 

「取引内容はこうじゃ。我々もゲート調査に参加させてもらいたい。

 と言うよりは、情報を我々にも頂きたい。特にアポロンにの。

 そうすれば、カラスが持ち出したケルベロスの件は減刑しようではないか」

 

「お待ちを、ハーデス様。サマエルについては……」

 

「『ゲート』の件だけで片づけられるほど簡単ではなかろう。

 それくらいサマエルが我々にもたらした損害は大きいのじゃぞ。

 現にワイバーンやヒュドラ、エキドナ、ラミア達から苦情が上がっておる。

 『何でそんなピンポイントな劇物をここに置くんだ』とな。

 シェムハザ総督代理よ。この件について申し開きはあるか?」

 

サマエルについても、先の戦争のごたごたで

ギリシャ冥府のコキュートスに封じ込められた存在である。

それを今になって引っ掻き回すのはアンフェアであると思いながらも

実害が出ている以上、その事について言及は出来ない。そういう意味では

ハーデスは、ギリシャ勢力は被害者なのだから。

故に、シェムハザは歯ぎしりをしながら沈黙を返すしかなかったのだ。

 

「沈黙……つまり、申し開きはないと言う事じゃな。

 全く、ここが正規の会談の場でなければ一撃を加えておるところじゃ」

 

「ハーデス様。お戯れを」

 

「フン、要らぬところがゼウスに似おったか。まあよいわ。

 サマエルについては早急に引き取ってもらいたいところじゃが、今の貴様らに引き渡したら

 ろくなことに使わなさそうじゃからな。暫くは我々で監視させてもらうとする」

 

監視、と言っているが要は龍殺しの毒を自分たちの戦力にする腹積もりである。

あまりにも露骨な態度だったためか、シェムハザもヤルダバオトもそれに気づいたが

特に指摘する事は無かった。と言うか、指摘できなかったのだ。

 

「では、ゲートの件については吉報を待っておるぞ。

 ……そうじゃ、餞別にアポロンの言っておったことを特別に教えてやろう。

 ゲートの正式名称じゃが、奴はアレを――

 

 ――『クロスゲート』と呼んでおったそうじゃ。

 何故アポロンがそれを知っておるのか、それは儂も知らぬし

 そのクロスゲートなる名前が本当に正式名称かどうかもわからぬ。

 が、アポロンは未来予知の力も持っておる。恐らくだが、間違いは無かろう」

 

「クロスゲート……聞きなれぬ言葉ですね」

 

「ファファファ、聖書の偽神にも分からぬことはあるか。

 ともかく、ゲート調査には我々ギリシャ――即ち、オリュンポス・ティターン共同で

 調査に参加させてもらおう。

 その旨、貴様らの所の他の連中、それに神仏同盟にもきちんと伝えるのじゃぞ」

 

三大勢力を徹底的に愚弄する一方、神仏同盟にはある程度の敬意を表しているハーデス。

まるで自分たちをメッセンジャーに使うハーデスのその態度に

シェムハザは引っ掛かるものを覚えたが、立場上表に出すわけにはいかない。

後ろでは、ラダマンティスが議事録を取っているのだ。

記録を終えたラダマンティスが、ヤルダバオトとシェムハザに退室を促す。

 

「ではこちらへ……それと、ヤルダバオト様。

 ウェールズの大使より言伝を預かっております。

 

 『二天龍及びエクスカリバーの件について、説明願いたい。

  責任者を招集されたし』――と」

 

「またですか……ヤハウェよ、どこまであなたは監督不行き届きだったのですか。

 わかりました。責任者を連れてそちらに向かいます。

 連絡は私の方で行いますので、ありがとうございました」

 

ラダマンティスの事務的な物言いに、再びヤルダバオトは頭を抱えるのだった。

現在エクスカリバーは天界の管轄になっている。紆余曲折を経てのものであるが

ここに来てその話が出ると言う事は、ここでハーデスが言ったことと内容はほぼ同じであろう。

エリュシオンを出たと同時に、ヤルダバオトはガブリエルに連絡を取り

至急地上に降りるように言い残すのであった。

 

「ガブリエルですか? 私です。ヤルダバオトです。

 エクスカリバーの件について、ウェールズの者が話があるそうですよ。

 至急、地上のカーナーヴォン城までお越しください。

 私もそこに向かいます。よろしいですね?」

 

連絡を終え、ため息をつくヤルダバオトに思わずシェムハザが声をかける。

しかし、自分たちの陣営も今しがた謝罪のため――結局は司法取引を持ち掛けられたが――に

ギリシャ行脚を強いたためにそれはある種の藪蛇であった。

 

「ヤルダバオト様。今回の件は……」

 

「ああ、まさか私もあなた方がヤハウェの下を去った後に

 このような行いをされるとは思いませんでしたよ。

 おかげでシトリー君達の帰省と言う名の合宿に顧問として付き添う予定でしたが

 できなくなってしまいましたよ。宿題で顛末を記すようには言っておきましたがね。

 

 ……ああ、そういえば。『ヴァイスリッター』でしたっけ。悪魔勢力と共同で作っている。

 やるのは結構ですが、アインストや禍の団の動いている今やるべきことですか?

 団結は物事の解決に有効ですが、馴れ合いは腐敗と災いを招きますよ」

 

「……心得ております。では、私はこれにて」

 

「ええ。アザゼルによろしくお伝えください。彼は嫌がるかもしれませんがね」

 

言い残し、シェムハザは魔法陣を展開させ冥界の堕天使領へと帰還していく。

ヤルダバオトもまた、魔法陣でウェールズにあるカーナーヴォン城へと向かうのであった。

三大勢力が各地に残した戦争の禍根。それは最悪ともいえるタイミングで

こうして噴出しているのであった。

 

 

――そして、彼がウェールズにて会談を行っている頃

駒王町では大規模なテロが発生していたのであった……




ギリシャ冥府は星矢のイメージを多分に取り込んでます。
シェムハザはともかくヤルダバオトなら嘆きの壁の一枚や二枚ぶっ飛ばせそうですし
(主神的に考えて)

>ラダマンティス
台詞と言い外見と言いペルソナ2のラダマンティスをモチーフに。
星矢ラダマンティスも若干含まれてますが。
同僚のアイアコスとミーノスは諸般の事情により不参加。

>サマエル
だからなんでコイツここにいるの。
監視のために死と眠りの神が動いているという体たらく。
オーフィス(無限)に影響を及ぼす位の劇物なんだから
神様動いてもおかしくないよねと言う理屈からこうなりました。
この件がギリシャ冥府の人手不足に拍車をかけています。

>アポロン
原作では出ていない(筈)ですので設定色々弄ってます。
具体的には中の人が某壁際のいぶし銀じゃないかってレベルで。
ゲートやアインストの情報を知って血相を変えたり
クロスゲートって名前を知っていたりもしかして……

でも設定的に本人にはできない罠。色々ややこしくなりますので。

>エクスカリバー
今回は触れませんでしたがこの後ウェールズの人たちに
二天龍の件も合わせてガブリエル共々ヤルダバ先生はこっぴどく怒られます。
考えてみたらウェールズは三大勢力に軒並み奪われてるんですよね。
しかもエクスカリバー壊されてるっていうね。文句言わないのがおかしいレベル。

赤龍帝:悪魔
白龍皇:堕天使
エクスカリバー:天使

そしてここで足止め喰ったおかげでヤルダバ先生がテロ対策に間に合わなかったとか
言っちゃいけません。ウェールズの人たちにも事情ってもんがありますし。


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DX5. 駒王町崩壊の日

次回に向けてのネタも含めて
「あの日、人間界では何があったのか」を
掻い摘んで取り上げてます。

……ちょっとマイルドに。


――とある夏の日。

 

夏休みと言う事もあり、各地では平和な時間が流れていた。

騒動はあっても、それは大なり小なり日常の範疇に入るものだ。

だから誰も、その日常が音を立てて崩れるなんてことは思いもしない。

 

 

……一部地域を除いては。

 

 

「番組の途中ですが、臨時ニュースです。

 

 本日未明、駒王町を中心に同時多発テロが発生。

 それに伴い政府は非常事態宣言を発令。

 駒王町を中心とした半径50キロ地域に戒厳令を発令したとの事です。

 

 また、このテロの影響により多数の死傷者が出ている模様。

 駒王町上空のレポーターと繋がって……

 

 

 ……はい、はい……えっ?

 上空のヘリが未確認飛行体に撃墜……?

 

 

 ……た、たった今入ったニュースです。

 

 駒王町上空に向かった当局のヘリが未確認飛行体に撃墜されたと

 報告が入りました。繰り返します、駒王町上空にて、ヘリが

 未確認飛行体に撃墜されたとの情報が入っております。

 乗り合わせていた操縦士、レポーター、カメラマンいずれも安否は不明です……」

 

 

突如変わったテレビの画面に、視聴者は何事かと目を丸くする。

そしてそこで語られたのは、日本で起きたテロ事件。

それも過去の出来事ではなく、今現在進行形で起きていることだ。

 

 

……ちょっと! これじゃ現場の状況わからないでしょ!

 

うるせー! 次のヘリ飛ばすにしてもあんな報道出したら

許可が下りるわけねぇだろうが!

 

 

アナウンサーの後ろではやし立てているスタッフが、事態の慌ただしさを物語っている。

 

 

「……繰り返します。本日未明、駒王町を中心に同時多発テロが発生。

 それに伴い政府は非常事態宣言を発令。

 駒王町を中心とした半径50キロ地域に戒厳令を発令したとの事です。

 

 該当する地域の皆様はくれぐれも外出などせず

 テレビ、ラジオなどの情報収集に努められますようお願い申し上げます。

 また、事実確認の取れないデマなどに騙されることの無いよう

 落ち着いて、冷静に政府の指示に従って行動するようお願い申し上げます。

 

 

 ……国会からの映像が入っております」

 

 

そして、テレビの映像は国会議事堂の総理大臣を映す。

 

 

――――

 

 

――国会議事堂

 

 

「……であるからして、我々としましてはこのような行為に対し遺憾の意を表明するとともに

 被害に遭われた駒王町の皆様の無事をお祈りし、先刻緊急対策本部を立ち上げ

 全面的な支援を駒王町並びに被害に遭われた地域の皆様へと行う事をここに発表いたします」

 

 

総理! 今回はテロと言う事ですが、実行犯については中東の過激派組織ではないかと

一部では囁かれておりますが、それについてはどのようにお考えでしょうか!?

 

総理! 一部では某国の侵略行為ではないかと疑われておりますが

それについてはいかがお考えですか!?

 

総理!

 

総理!!

 

総理!!!

 

 

フラッシュとマスコミの質問の嵐が総理大臣に向けられる。

ある意味、いつもの光景であるが、題材は非現実的極まりない。

 

 

「……今回の件につきましては、目下調査中であり……」

 

 

総理、会見中失礼します。

 

 

「…………えっ? 声明が?」

 

 

次の瞬間、映像はさらに変化したのだった。

 

 

――――

 

 

――某所・会見の席

 

 

壇上には、旧ナチスドイツの軍服に身を包んだ中年の男性が立っている。

彼は右手を握り、力強く声高に声を上げる。

 

 

「諸君の中には、私の顔を見て驚いた者もいるかもしれない。

 蛇蝎の如く忌み嫌うものも当然いるだろう。

 或いは、この姿でここに出てくるはずがないと、そう思っている者もいるだろう。

 だが、現に私はここにこうしている。

 だが、今私が率いているのはかの組織ではない!

 

 ――禍の団(カオス・ブリゲート)なる組織である!

 

 私……フューラー・アドルフとでも名乗ろうか。

 私はこの禍の団に集いし英雄達と共に、この世に巣食う正しく悪魔を駆逐すべく

 ここに蜂起したのだ!

 

 その手始めとして、日本の駒王町と言う地域を重点的に襲撃した!

 ここは、悪魔が、そしてその悪魔と利権を争う堕天使と呼ばれる者達!

 そしてさらには、そこから漁夫の利を得ようと虎視眈々と狙っている天使!!

 

 天使と聞いて、善なるものとイメージを抱く者も少なくないだろう。

 しかし、そんなイメージはこの私の言葉を最後に捨て去ってもらいたい!

 彼らこそ、人類を謀り続け、自分たちの利権のために人類を欺くことを何とも思わぬ

 悪魔そのものと言えるのだ!

 

 ならば堕天使は正義か? 否、断じて否である!

 彼らは人間に託された希望――神器(セイクリッド・ギア)なるものを恐れ

 老若男女を問わず人類を殺害して回っているのだ!

 

 かつての私の行いを棚に上げてと思うものもいるかもしれない!

 だが、そんな生易しいものではないのだ!

 彼らにとって人種など、男女など、老若など関係ない!

 生まれながらの発現するかどうかもわからぬもののために命を落としたものは数知れぬ!

 

 そして悪魔!

 彼らは言葉巧みに人類に接近し、知らず知らずの間に人類の生活の場を侵略しているのだ!

 諸君らの隣人が、実は悪魔だったかもしれない!

 そんな事が、現実として起きているのだ!

 

 そして彼らは、自分たちが起こした問題を何一つ自分達で解決しようとしない!

 そのしわ寄せが、人類に寄せられているのだ!

 だからこそこの私、フューラー・アドルフは起ったのだ!

 

 日本は、かつての枢軸国の同盟国であった。

 その同盟国に手を下さねばならんのは私としても慙愧の念に堪えん!

 だが、忘れないでほしい。その同盟国を蝕んでいる者こそが

 天使、堕天使、そして悪魔……これら三大勢力であると言う事を!

 

 彼らが行いを改めぬ限り、我々は断固として戦い続けるであろう!

 我ら英雄、英霊と共に! 人類を搾取する悪を決して赦すことなく、根絶やしにするまで戦わん!!」

 

 

シュプレヒコールと共に、フューラー・アドルフの演説は幕を閉じ

テレビの映像も元のスタジオに戻るのだった。

 

 

――――

 

 

――某テレビ局・スタジオ

 

 

……え?

 

何今の、ヒトラーのコスプレ?

 

言ってる事がトンデモすぎてどうリアクションしていいのか……

 

 

「……い、以上、テロリストグループによる声明でした……

 正直、私にも何を言っているのかさっぱりわかりません……」

 

 

無理もない。あまりにも非現実的すぎて、日本に住む人々は趣味の悪い電波ジャック――

実際にフューラー・アドルフの演説は電波ジャックて流れたものなのだが――を

疑う始末であった。

 

 

……えっ!? それは本当なのか!?

駒王町が……わかった、映像こっちに回して!

 

 

「……ここで新しい情報です。駒王町で多発していた超常事件は

 全て先ほどの三大勢力なる存在によるものであると情報が入りました。

 映像がこちらです……」

 

 

そして映し出された映像は、かつてオルトロスが駒王町を襲った時の映像。

悪魔が隠蔽を試みたが、こうしてネットの海にはまだ残っていたのである。

そしてさらに、駒王学園で戦うコカビエルとイェッツト・トイフェルの映像が

どういうわけだか収録されており、それも流されているほか

神仏同盟を交えた五大勢力の会議における戦闘までも映像として流れているのだ。

 

 

これ……映画とかじゃないんですよね?

 

そう言えば、駒王町ってこの間色々騒ぎがあったような……

 

そう考えれば、納得がいくけれども……

 

 

「……繰り返します。本日未明、駒王町を中心に『禍の団』による同時多発テロが発生。

 それに伴い政府は非常事態宣言を発令。

 駒王町を中心とした半径50キロ地域に戒厳令を発令したとの事です。

 

 該当する地域の皆様はくれぐれも外出などせず

 テレビ、ラジオなどの情報収集に努められますようお願い申し上げます。

 また、事実確認の取れないデマなどに騙されることの無いよう

 落ち着いて、冷静に政府の指示に従って行動するようお願い申し上げます……」

 

 

その後も、緊急報道番組は絶えることなく続き

新たな情報が入るたびにテレビ局のスタジオは忙殺されることになるのだった。

 

 

――――

 

――????

 

「オーフィス様。英雄派が勝手なことを仰ってますが……」

 

「捨て置け……それより……『門』、開いたか……?」

 

赤と青の鉱石や、ストーンサークルが空間に浮かぶ謎の場所。

ここで一人の茶髪の男が巨大な龍のような怪物の眼前にて対話を行っていた。

旧ベルゼブブの血筋の悪魔、シャルバ・ベルゼブブと

かつて「無限龍(ウロボロス・ドラゴン)」オーフィスと呼ばれた存在――

ウンエントリヒ・レジセイアの人格部分、ウンエントリヒ・リヒカイトである。

 

「……はっ」

 

「……時……満ちようとしている……

 世界……静寂に満ちなければならない……」

 

門――クロスゲートから次々と現れる自らの眷属――アインストを目にし

満足げに語るオーフィス。禍の団の重鎮たちは

このどこだか分らぬ世界から、人間界を、冥界を危機に追いやっている。

悲願の達成は間もなくだと言わんばかりに。

 

「……静寂を乱す者は、誰であろうと排除せねばならない。

 たとえそれが、禍の団であっても……」

 

「……そう。静寂……それが我の求めしもの……」

 

 

 

その日。

駒王町にて沈黙していたクロスゲートは突如稼働し、多数のアインストを召喚。

伝令を出す間もなく見張りの部隊は全滅させられ

そのままアインストは駒王町を襲撃。それに乗じて禍の団によるテロ活動が行われた。

 

それによる死傷者や行方不明者は多数。

超特捜課と蒼穹会(そうきゅうかい)も応戦するも初の敵、アインストを前に

苦戦を強いられる結果となり、奇跡的に戦闘員の死傷者ゼロと言う結果だけが虚しく輝いている。

 

その混乱に乗じ、曲津組(まがつぐみ)駒王町支部が勢力を拡大。

一部地域は闇市さながらの無法地帯と化すのだった。




当初の予定では阿鼻叫喚も入れる予定でしたが
シルバーブルーメの反響がでかすぎたために自粛。

>総理
この辺はシン・ゴジラ意識してます。
あれほどすごいのは無理ですけどね。

>フューラー・アドルフ
禍の団を率いていると言ってますが
これは英雄派を率いているという意味で。
オーフィスは見て見ぬふりをしてますが果たして。

でも言ってる事は微妙に正しい、微妙に。
元ネタのキャラ考えるとこれすらも茶番なのが笑えねぇ話。
そして彼(?)がここで演説かましてるって事は
日本にあのナチスもどきがやって来たわけです。
ネタバラシしますと聖槍騎士団もアレンジくわえてますよー
ヒント:でかい暁

>クロスゲート
一時的にとは言え稼働しました。
そしてその影響でアインストが発生。
拙作におけるご都合主義の塊です。まあもともとそんなもんですけど。

>オーフィスとアインスト
「静寂」と言うキーワードだけで組み合わせたこの取り合わせ。
やっぱりまずかったかなぁと思いつつ
ここまでやってこの絶望感なのだから十分原作でラスボス張れるじゃないか!
なんでラスボスやらないんだよ! とも思いつつ。


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DX6. たまにはこんな日常を

ふと思い立った日常ネタ。
プルガトリオに挟もうかとも思いましたが、本当に本筋に全然関係ない
(拙作では非常に珍しい)日常の一コマなのでこちらに。

艦これ。
甲乙丙丙丙で無事完走。
完走した感想は復帰初のイベント海域なのでそれもあって楽しめました。
(一期最後のレイテに参加できなかったのは地味に後悔していたり)
何より岸波とゴトランドが来てくれた上にE5-3攻略中に
アークロイヤル(ラスダンドロップ)と
聖槍騎士団もといビスマルクが来てくれたのがもうね。
後、欧州水姫かっこいいです。

現在は1-1キラ付けと並行して秋刀魚釣り中。
リアイベなんてなかったんや


駒王町・宮本家

 

かつて堕天使レイナーレの兵藤一誠暗殺に巻き込まれ身体を失った宮本成二だったが

その後紆余曲折を経て悪魔アモンの力を借り、無事身体を取り戻せた。

今はこうして母親の他にさる事情から転がり込んできた

猫魈(ねこしょう)・黒歌と白音の姉妹も一緒に住んでいる。

 

駒王町自体も、先の大規模テロのお陰で物流が滞るなどの被害を被っていたが

劇的ともいえる復興速度で、ほとんどの店が営業を再開している。

 

店の営業が再開されると言う事は、そこに住む人々にとっては

人間らしい生活を実感させてくれると言う事でもあり。

テロによって家財などを喪失した住民はこぞって店舗に押しかけ

折角再開した店舗が完売御礼の札をかけるのに時間はかからなかった。

 

それは飲食店にも言える事であり、ただのファーストフードショップでさえ

長蛇の列が珍しくない事態になっていた。

 

そんな中、セージこと宮本成二の母が職場で手に入れたチケットから

今回の話は始まる……

 

――――

 

「……と言うわけで、職場で貰って来たのよ。これ」

 

そう言って、セージの母が取り出したのはテロが起きる前から営業していた

ケーキバイキングの店のチケット。

しかし、セージの母が持っているのは二枚。

ここにいるのはセージ、その母、黒歌、白音の四人。枚数が足りない。

 

「……全員じゃ行けないですね」

 

「そうなのよ、でも余らせるのも勿体ないじゃない?

 だからあなた達で行ってきなさいよ」

 

ケーキバイキングの店と言う事もあってか、健啖家の白音は心なしか鼻息が荒く

目も輝かせている。それ故か、4人全員で行けないと言う事実をもどかしく思えているようだ。

 

「じゃあ、黒歌さんと白音さんで行ってきたらどうだ?

 ほら、俺は超特捜課(ちょうとくそうか)絡みの色々あるし」

 

セージの一言に、白音は一変して微妙な顔をしている。

確かに黒歌と行くのが普通なのだろうが、セージも彼の長身の体躯通りに大食漢と言える。

ただ、大の男――高校生とは言え――がケーキバイキングに行くのは如何なものか、と

セージは考えていた。

 

「ん? もしかして白音と行ったらデートになるから気後れしてるだけなのかにゃ?」

 

「違……ん、いや、それもあるか」

 

黒歌の一言に、セージは一瞬慌てたそぶりを見せるがすぐに平静に戻る。

その一方で、白音がやけに慌てているのだが。

 

「そっ、そそそそうですよ姉様! 私はケーキが食べたいんであって

 セージ先輩とデートしたいとかそう言うんじゃないですし

 そもそもセージ先輩には……」

 

言った瞬間、白音はあからさまに「しまった!」と言う顔をした。

露骨に慌てるあたりは怪しいのだが、それ以前にセージの交友関係に

触れるような事を口走ってしまったからである。

 

牧村明日香(まきむらあすか)。セージにとって憧れの人であり

幼少期から共に過ごした年上の幼馴染。セージが小学校を卒業するとともに

交友はぱたりと途絶え、つい昨年偶然にも再会したが

その時、すでに彼女には子供がいた。

そんな彼女も昨今の世情の変化からこの町を去る事となり

セージは二度もまともな別れの挨拶を交わすことなく

彼女と離れ離れになっているという事情が存在したのだ。

それ故か、セージの明日香に対する慕情の念は募るばかりであった。

 

「……ごめんなさい、セージ先輩」

 

「謝る事じゃない。いつまでも執着してる俺に問題があるだけの事だ。

 となると、白音さんは俺をご指名らしいが……

 と言うか、俺はさっき話した通り超特捜課の――」

 

セージが言い終える手前で、セージの母がセージからスマホをひったくり

勝手に使い始めてしまう。

 

「あ、もしもし? そちらにテリー(やなぎ)さんはいらっしゃいますか?

 私、宮本成二の母なんですが……はい、はい。

 あ、今度の日曜日なんですけど、うちの子ちょっと都合がつかないものでして。

 そちらのお仕事はお休みませていただくと言う事で……」

 

「ちょっ!? 何勝手に話進めてるんだ母さん!?

 学校行事ならともかく、デートでそっち休むとかそんなんアリかよ!?」

 

「お兄さん、白音と行動するのをデートと言ってくれるのは姉としては嬉しいけど

 それならそれで真摯に行動してもらいたいにゃん。

 この町を守るのも大事だけど、それ以上に女は自分を一番にしてくれる人に

 惹かれるものだにゃん」

 

黒歌の言う事は尤もであるのだが、セージが白音を女性として見ているかと言うと

疑問符が残る。そもそも、外見だけならセージの好みのタイプはイッセーとほぼ同じ――

即ち、肉付きのいい女性である。白音はその点が致命的である。

だが、セージが今まで出会い、かつ交友関係もそれなりにある中でその条件を満たす女性は少ない。

強いて言えば、虹川家の次女・芽留(める)が該当するのだが、彼女は幽霊だ。

そもそも、先述の通りセージの脳裏には未だに明日香の影が存在している。

 

(……デートって言ってもだな……姉さんの踏ん切りがつかないのに

 他の人とデートするってどうなんだよ、それ……

 絶対、碌な結果にならんと思うんだけどな……)

 

とは言え、セージも朴念仁ではないので、デートとなれば相手を異性として

認識せざるを得ないだろう。しかしそこには、どうしても彼の事情が介在する。

ここでいい加減な男ならば、「それはそれ、これはこれ」と開き直りもするのだろうが

セージはその点でうまく立ち回れなかった。経験の問題もあるのだろうが。

 

「……あー、これどうすりゃいいんだよ。超特捜課には休むって言った手前

 出ると却って怪しい。ケーキバイキングのチケット腐らせるのは勿体ない。

 でもって何故だか俺が強制参加になってる。相手は白音さんか黒歌さん。

 

 ……あのなぁ。悪いけど俺は……」

 

「そんなうだうだ考えて食べるケーキは不味いわよ、セージ。

 せっかくなんだから、楽しんでいらっしゃい」

 

「こういう時位、妹に譲ってやるのもお姉ちゃんの余裕って奴にゃん。

 でもって、白音がお兄さんと結婚したら私はお兄さん――セージにとっても

 お姉ちゃんになるわけだにゃん。姉の言う事は聞くものだにゃん」

 

「ちょっ、姉様!?」

 

二重の意味で白音はぎょっとしていた。セージと「そう言う関係になる」と言うのも

彼女にしてみれば実感の沸かない事であることに加え

セージにとってのある意味の地雷である「年上、特にお姉さんぶる」を

これでもかと踏み抜いたのだ。さっき自分がやらかしたのは何だったのかと

言わんばかりの清々しい地雷の踏み抜きっぷりだ。

 

(姉様! 何考えてるんですか! セージ先輩は詳しく事情は知らないですけど

 「年上の女性」に何かしらの思い入れがあるんですよ!?

 それなのにそこをつつくような真似をするなんて……)

 

(だからこそ、よ。心に影を抱えるななんて私はおろか他の誰にも言えやしない。

 けれど、どこかで折り合いは付けないと足元を掬われる。

 失恋の傷を癒すには新しい恋って相場が決まってるものよ)

 

耳打ちをしながら、とんでもない事をのたまう黒歌に白音は自分の頭が痛くなるのを感じつつ

黒歌の意見に対して否定しきれずにいたのだ。

 

白音もまた、異性に対して正しい判断が出来ていない。対する黒歌はその恰好

――流石に下宿先たる宮本家では自重しているが――に負けず劣らず

男を手玉にとるスキルは持ち合わせていた。彼女の場合、過酷な環境で生きるために

仕方のないと言う事情もあったのだろうが。

 

白音の場合はグレモリー眷属として過ごした期間もそれなりにあるため

そう言う場面に恵まれなかったと言う点も少なくない。

何せ、主たるリアスが彼氏無しかつ婚姻話を蹴るような(我儘な)生娘であるため

主を差し置いて眷属が相手を持ち、かつ関係を結ぶなど到底あり得ない事だからだ。

 

今では宮本家と言う普通の――人間社会の尺度ではだが――家庭に身を置いている事で

白音も黒歌もそう言うとがった部分を修正しつつあるが、宮本家そのものも

セージが赤子の頃に親が離婚しており、セージ本人も年上の子持ちの女性に恋心を抱くなど

普通とはかけ離れた部分も少なくはない。それでも、悪魔社会に比べればと言ったところか。

 

「……デートじゃないです。ケーキ食べたいだけです」

 

「……だな。そう言えば実体取り戻してからバイキングなんて行ってないし

 悪いけど堪能させてもらうかな。だからケーキを食いに行くんであってデートじゃない。

 偶々白音さんと一緒に行動するだけでデートじゃない。

 目的はケーキであってデートじゃない。うん、何ら問題はないな」

 

心なしか、顔を紅くしながらデートであることを否定する白音と

ケーキバイキング>デートであることを口煩く主張するセージ。

そんな二人がケーキバイキングに向かう機会は、すぐに訪れた。

 

――――

 

日曜日。

本来ならセージは寝ているか、超特捜課に出向き捜索手伝いや

周辺警備を行っているはずである。

しかし、この日は違っていた。

出かける準備はしていたが、警察たる超特捜課に赴く際の服装である

駒王学園の制服ではなく、白のシャツに黒のジャケット、ジーンズと

あからさまな私服である。

 

玄関先では、同じく私服――白のワンピースの上に薄紫のストールを巻きつけた

白音が佇んでいた。

 

「悪い、待たせてしまったか」

 

「……いえ。大丈夫です」

 

そう。何故か、お互いそれなりに気合が入っていたのだ。

 

二人が向かう先は駅から少し離れたところにある商店街。

セージもバイトをしていたショッピングモール・ジュネス駒王店も存在しているが

現在ここはエリアの半分が未だ避難場所として活用されており

完全復旧には至っていない事情があった。

 

そんなジュネスのお陰でシャッターが下り始めている商店街。

ここをさらに少し離れた場所に、目的地であるケーキバイキングの店があったのだ。

二人が到着した時には、既に混雑しており

住民が甘味に飢えていた事を匂わせる風景であるとも言えよう。

 

「……席、予約しておいて正解でしたね」

 

「だな。と言うか、よく予約取れたって気もしないでもないが」

 

率直な感想を述べつつ、チケットを提示して入店する二人。

ケーキバイキングの店らしく、中には若い女性やカップルが多く

セージも同伴者を見て「カップル……いや、まさかね」と思ったとか思わなかったとか。

 

中でもひときわ目を引いていたのは黒のジャケットに上下共に黒と言う

ややファンシーめな店舗には似つかわしくない恰好の男性。

ケーキ皿ではなくアサルトライフルを持たせた方が似合いそうな位である。

顔は心なしか、超特捜課の安玖信吾(あんくしんご)巡査に似ていると思ったセージであった。

 

「とにかく折角ですから食べましょう、セージ先輩」

 

「だな。荷物は見張っておくから、先にとってくるといい」

 

白音が席を立つと同時に、先ほど見かけた黒ずくめの男性が隣の席に着いたのだ。

店員曰く「予約とは言え席がいっぱいなので相席をお願いしている」との事で

セージも、その男性も首を縦に振った。

セージに目をくれることも無く、皿に盛られたケーキを堪能しようとしている男性。

すると、今度は男性の連れであろう黒い長髪に弓道着を思わせる服装の女性が席につく。

 

「このケーキ……上々ね、今日と言う日を待ちわびた甲斐がありました」

 

(この人らもカップルか……ってか、皿の上のケーキの量……

 白音さんどころか、天照様クラスじゃねぇかこれ!?)

 

さる事情から日本の主神である天照と対面する機会のあったセージ。

その際に、彼女が健啖家であることをまざまざと見せつけられる出来事があったのだ。

それを思い出しているうちに、ケーキを取りに行った白音が戻ってくる。

 

「お待たせしました、セージ先輩」

 

白音もまた、その女性に負けず劣らずの量を持ってきた。

早速何事も無かったかのように食べ始めるその光景にセージのみならず、隣の男性も目を丸くしていた。

 

「おいおい。最近の女はケーキドカ食いするのがトレンドなのか?」

 

男性の零した言葉に、思わず恥ずかしそうにする女性に釣られ白音も俯いてしまう。

そんな二人の事などお構いなしにケーキを食べようとした男性の持っていた

スマホが鳴り響く。

 

「いっけね……悪いな。音切っておくのを忘れてたぜ。

 ……はい安玖。つーか、非番中は連絡すんなっつったろ。

 

 ……あ? はぐれ悪魔が出た? 対応の悪魔は何してたんだ。

 ……はぁ? 日曜で学校が休みだからこっちに来てない?

 ……バカなのか、そいつら。で、当番隊も全部出動中で招集できない、と。

 ……じゃあ超特捜課だ。あいつらなら休日返上で行けるぞ。

 ……なに? 手に負えないから応援要請?」

 

「隊長、出動命令ですか? ですが今日は非番かと……」

 

「休日返上だ。行くぞ」

 

隣の電話の内容にただならぬものを感じるも、相手の素性が分からない上に

ここではいくら神器(セイクリッド・ギア)があるとは言えただの高校生。

大人の領域に踏み込むべきではないとセージは判断し、黙って聞くにとどめていた。

 

「悪いなクソガキ。お暇させてもらうから席は自由に使ってくれや」

 

まだ口も付けていないケーキ皿を恨めしそうに眺めながら、女性は男性に付き従う。

その際、セージと白音に頭を下げつつ男性の後を追っていった。

男性もケーキ皿を手に、レジの店員の下へと歩いていき

 

「すいません、持ち帰りって出来ます? 二皿分」

 

と一言尋ねていた。

逞しい(?)人だなと思うと同時にセージもまた、自分の分を取りに向かおうとしていた。

 

 

そんな中、また別の席では先程の弓道着の女性の知り合いなのか

似たような、かつ色違いの弓道着を纏ったサイドテールの女性が

スーツ姿の男性と向かい合わせに座っていた。

 

(まぁ、こういう店ならカップルは多いよな……)

 

等と思いながら、セージは自分が食べる量……と言うよりは

目についたケーキを片っ端からよそっていた。

そんな中、先の弓道着の女性の相方であろうスーツ姿の男性はおもむろに店員に対し

 

「メス……あ、いえ、ナイフとフォークを……」

 

「……兄さん。こんな時にまで冗談はやめてもらいたいものだわ」

 

クールに言い放つ女性に対し、男性はムキになったのか

「俺に切れないものはない」と明後日の言い訳をしつつ

運ばれてきたナイフとフォークで皿の上のシュークリームを切って食べると言う

高い技術ではあるのだろうが、シュールな振舞いをしてみせてしまっていた。

 

癖のある客を遠巻きに眺めつつも、セージは盛りつけたケーキ皿を手に席に戻る事にした。

戻ると同時に、白音が二週目を取りに席を立つ事になったのだが。

 

結局、互いにただひたすら黙々とケーキを食べるだけに終わってしまっていた。

 

 

店を出た二人を、遠巻きに眺めている黒猫がいた。他ならぬ、黒歌である。

実は彼女、店の窓から二人の様子を観察していたのだ。

 

(なぁにやってんのよ白音! 折角のデートなのにこれじゃいつもと変わらないじゃない!)

 

二人の様子を眺めていた黒歌は不機嫌そうに思わず尻尾を振ってしまっているが

その背後から、店員と思しき男性が現れる。

飲食店の裏口に猫がいると言うのは、あまり衛生的によろしくない。

表口なら看板猫と言い訳もできるだろうが、裏口では店が出した廃棄を漁りに来た

野良猫と見做されても言い訳が出来ない。

実際、黒歌はそうやって食いつないでいた事もあるのでその点について言い訳が出来ないのだが。

 

「おら! どっかいけこのバカ猫!」

 

シッシッ、とあからさまに邪険に扱われる黒歌。宮本家での生活の都合上

首輪なんてものをつけているはずがないので、野良猫と見做されてもおかしくはない。

首輪がついていたとしても、追い払われることに変わりはないのだが。

脱兎のごとく(猫だが)その場を後にした黒歌には、その後の二人がどうなったのかはわからなかった。

 

――――

 

帰路。

ジュネスが近くにあるとは言え、映画館まではまだ再開していなかった。

そのため、本当にケーキを食べに出かけただけに終わってしまう――かに思われた。

 

「ここは……フン、無意識とは言え来ちまうものだな。引き寄せる何かでもあるのかね」

 

二人がやって来たのは、かつてイッセーがレイナーレに殺されそうになった公園。

そこにセージが割り込んだことで、取り巻く運命は大きく変わっていったのは

最早言うまでもない。

 

「……後悔していますか? イッセー先輩を助けようとしたこと」

 

「人助けで後悔なんて、一番抱いちゃいけない感情だと思うんだ。

 誰かを助けると言う事は見返りを期待してやる事じゃない。

 後悔するってのは、見返りを期待してなきゃ出てこない感情だと思うからな」

 

白音の問いに、はっきりと答えるセージ。

確かに、イッセーを助けた事でセージは負わなくてもいい苦労を背負い

立ち向かう必要のない運命に向かう事となったかもしれない。

 

……しかし、それでも。

 

「……私は、言っちゃ悪いかもしれませんけどセージ先輩がいてくれて、その力を得てくれて

 本当に良かったと思ってます。姉様も助かりましたし、私も自分の道を歩けそうですから。

 リアス部長の下にいた時も、自由は確かにありました。

 けれど、それは転生悪魔としての自由。リアス部長の所有物であると言う現実は

 どこまでも付いて回ったと思うんです」

 

転生悪魔の置かれている状況、取り巻く環境はセージも冥界で調べていた。

そして出した結論こそが、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の破壊によるはぐれ悪魔の解放。

この方法で黒歌は救われ、ひいてはよりブラッシュアップした手法が

「生きながらにして安全に悪魔の駒を抜き去る」手術である。

 

しかし、この方法は「一度殺されたうえで転生させられた転生悪魔」には適用されない

――その場合、摘出した時点で命を落としてしまう――ため

未だ悪魔の駒を取り巻く環境は良いものであるとは言えない。

結局、本人の意思に関係なく他者を束縛する枷。

それが、悪魔の駒否定派から見た悪魔転生システムの結論なのである。

 

白音もセージも、既に悪魔の駒の呪縛からは解放されている。

それは、リアス・グレモリーと言う干渉を受けることなく、冥界の思惑に左右される事無く

本当の意味で、自分の道を選ぶことができることを意味している。

生きると言う事は選択の繰り返しである、それを行う権利は誰しもになければならない。

たとえ幸せであろうとも、選択する権利を奪われた生に何の意味があろうか。

 

そして、選択した結果には責任が伴う。それを、セージはある意味で痛感していた。

 

「後悔はしてない。ただ、責任は重大だなと思ってさ。

 黒歌さんにしたって、『助けました、ハイ終わり』じゃ済まないだろ?

 はぐれ悪魔で無くなったのはいい。だが、それからどうするか。

 勿論決めるのは本人さ。けれど、それに俺がノータッチってのは

 ここまで彼女を引っ張ったって事を考えると、どうかと思うんだ」

 

黒歌を助けた事によって背負うリスク。彼女が誰かから恨みを買っていないか。

彼女には死んでもらっていた方が都合がよかった勢力もあるだろう。

彼女を生かし、そして協力すると言う事はそんな連中とぶつからないとは限らないのだ。

 

「……言いたい事は分かりました。けれど、それじゃいつかセージ先輩は……」

 

「こう言いたいのか?

 『そうやって誰かを助け続けていたら、いつか支えきれなくなって自壊する』って。

 ……俺もそう思う。けれど、何もしないで見捨てる方が余程後味が悪い。

 俺に力があるなら、猶更だ。

 

 だから、自分が手を煩わせた、とかは思わないでくれ。

 そう思われるのが、一番自分のやった事に疑問を抱いちまうからな」

 

話は終わりだ、と言わんばかりにセージは半ば強引に話を切り上げ

食後の運動と言わんばかりに公園を歩き始める。

白音もそれに付き従う形で、結局ケーキを食べに行くのと

手をつなぐことも無く公園をほっつき歩くだけで

二人のデートは幕を閉じたのだった。

 

 

(……何故でしょう。セージ先輩の背中が大きいのはわかるんですけど……

 

 ……いつか、壊れてしまいそうな危うさが見えて仕方ありません……)

 

白音の胸には、言いようのない不安が去来するのだった……




……あれ? 日常回のはずがそれほどギャグやってないぞ?
なお当事者以外がギャグ時空にいる模様。

>ケーキバイキングの店
赤土って奴が昔行ったケーキバイキングの店のパスタがえらくまずかった。
割となんでもうまいと言う彼にしてみたら珍しいお話。
そりゃあ、ケーキバイキングでパスタ食うのは邪道かもしれないけどそれにしたって。

因みに本文中では触れてませんが、やはり物資不足なので時間制限シビアです。

>ケーキバイキングの客の元ネタ
「仮面ライダーアマゾンズ」より黒崎武と「仮面ライダーエグゼイド」より鏡飛彩。
そして「艦これ」の一航戦の二人。
今までと同じくそっくりさんです。

黒崎さんの名字が拙作出演済みの安玖信吾と同じ「安玖」になってますが
これは中の人同士の関連性から。台詞は本編で実際に訪問した際のパロディ。
今回ケーキ食べる前にはぐれ悪魔討伐に駆り出された形ですが別にセージのせいじゃない……と思いたい。

因みに、原典の黒崎さんはアメリカ特殊部隊出身ですが
拙作の安玖(兄)はシャルモンのオッサンとの繋がりでフランス外人部隊に
在籍していた経歴があります。

加賀さんらしき人が鏡先生らしき人を「兄さん」と呼んでいるのは
加賀(かが)(かが・み)、持ち歌(?)の加賀岬(かが・みさき)の混成ネタ。
鏡先生の恋人の名前も早紀だけど、今回は鏡早紀としちゃうと
真夜(防空重巡でもレッポジ編集長でもあらず)の中の人と被ってしまうから
兄妹設定に。

ライダー俳優組は甘党、一航戦は大食いのベストマッチ(?)で今回出演と相成りました。


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DX7. 不可抗力 ~春先のある何気ない一日~

今日フードコートでスマホいじってるときに起きた出来事が元ネタ。

時系列がすっ飛んで本編開始前になってますが、そこはお気になさらず。


俺は宮本成二。

ついこの間、駒王学園の二年生に進級したばかりだ。

 

春先で浮かれているからなのか、あるいは元々なのかは知らないが……多分元々だろう。

同じクラスの三人の阿呆どもによる警察沙汰すれすれどころか向こう側な事件が

毎日のように起きているが、一応それらも何とか事あるごとに防げるものは防いでいる。

お陰であいつら――特に兵藤一誠――からは睨まれているが知らん。

そもそも悪いことをする方が悪い。当たり前だろうが。

人が嫌がることはするなと、両親祖父母誰かに教わらなかったのか?

 

まぁ、それはさておき。

俺はこいつらの言動を(別段観察する気はないのだが)観察しているうちに

どうにも腑に落ちない部分があることに気が付いた。それは……

 

 

――エロ本を不特定多数の目が触れる場所で広げて、恥ずかしくないのか!?――

 

 

いや、マジでそこなんだ。

そりゃあ、俺だってそういうのを隠し持つ程度には興味がある。

だが、それをこんなところで広げるなんてとてもじゃないができない。

 

エロ本と言えば、性行為を示唆する本であり、性行為を描写しているものも少なくない。

というか、基本的に性行為を描写しているものだ。

 

つまり、それをおおっぴらに広げるという事は

不特定多数の目が触れる場所で性行為を行っているという事じゃないのか?

 

……俺も駒王番長というあだ名がいつの間にかつく程度には勇気がある方だと自認しているし

行動力も持っている方だと思っている。

だが、その俺をもってしてもこんなところでエロ本を堂々と広げる勇気はない。

言うなれば、他人の目の前で性行為をしているようなものだ。できるかんなもん。

 

一度、そのことをこいつらに問い詰めてやったが返ってきた言葉は

 

「いや、だって俺ら童貞だし」

 

「人の目の前でセックスったって、そもそもセックス自体したことねーし」

 

「つーか、なんでそういう方向に発想が行くんだ? ま、まさかセージお前……!?」

 

兵藤の奴が要らんことを吹聴する前に、俺は慌てて話を逸らした。

変な話が広まったら、俺の立場が危うくなる。

童貞かそうじゃないかなんて問題じゃない。話の発展によっては

それよりももっと名誉の毀損が起こりうる展開になりそうな予感がしたのだ。

 

「んな事はどうでもいいだろ。少なくとも俺には出来ねぇってだけの話だからよ」

 

……とにかく、俺は人前でエロ本を広げるなんて真似はできない。

そんなのは、人目を憚らずいちゃつくどころかヤることまでヤるって話だからだ。

俺はエロ本を見る時は、そういう心構えで見ている。

少なくとも、煎餅をバリバリ齧りながら読める本じゃない。

 

「どうだすげぇだろ! 駒王番長といえども、出来ねぇことはあるんだな!」

 

「褒めてねぇしそれで負けても全然悔しくねぇ」

 

偉そうにどや顔を決めてみせる兵藤の頭を小突きながら、鐘の音を聞き着席を促す。

この日も、ごくありふれた一日が過ぎてくれることを願いつつ

俺達は授業を聴くこととなった。

 

――――

 

休み時間。

珍しく兵藤が別行動をしており、松田も桐生さんと話しており

元浜もそれを遠巻きに眺めているだけなので、俺が出る幕でもないなと思いつつ

スマホを弄っていた。とは言え、俺のスマホにはねこを集めたりするアプリとか

データ上の悪魔を合体させたりするアプリとか程度しか入っておらず

ブラウザでブレーメンだか言う二次創作投稿サイトを眺めていたり

船これの情報を集めていたり、だ。

後は色々役に立つtsubuyaita位か。

 

そして、事件はそんな俺がブラウジングしている最中に起きる。

ニュースまとめサイトは手軽に情報が集まる反面、玉石混淆であることは否めず

また、表題で煽るだけ煽って中身には責任を持たず、収益だけあげているような

悪質なものも少なくない。しかも、そういうサイトに限って表示される広告が……

 

……エロ漫画。

 

しかも、一番性質の悪い「乳首解禁してあり、かつカラー」という

とんでもない広告を載せて来るパターンだ。

 

普通にニュースサイト(というか、アンテナサイトか?)見ているだけなのに

何でエロ漫画の広告を見なきゃならないんだ!? そういう気分でもないのに!

しかもここは教室だぞ!

 

……ふと、視線を感じた。さっきまで向こうにいた元浜と、いつの間にか戻って来た兵藤だ。

恐る恐る、身体を奴らの方向に向ける。

 

「ほほーぅ? セージも読みたいんじゃねーか。お前エロ本買うときもそうだけど

 存外素直じゃねぇな? もっと素直になろうぜ? 俺らみたいに」

 

まじまじと俺のスマホを覗き込んでくる兵藤に、俺はストレートをお見舞いしてやろうかと思ったが

流石にこれは俺の不注意でもある。そこまでやるのは理不尽だろう。だがどうしたもんだ。

このままでは、俺もこいつらの仲間入り(もう遅いかもしれないが)は免れない。

 

 

せめて女子が気付く前にと、証拠隠滅じゃないが俺は慌ててスマホの電源を落とした。

長押しで一番早く落ちるまで十数秒かかるのでその時間がもどかしいが、不特定多数に見られるよりましだ。

何かのデータが飛んだかもしれないが、それさえも頭から飛ぶ程度には慌てていたのだろう。

 

「あっ! その広告のリンク先気になったのによ!」

 

「知るか! そもそも他人のスマホ覗き込むんじゃねぇよ!」

 

俺と兵藤はすごく低レベルな言い争いをして、元浜がそれを呆れながら見つつ

松田と桐生さんは、心なしかそれなりにいい雰囲気になりそうな感じもしながら

俺らのやり取りを見ていた。そんな風に、何故だかふと思えた。

 

 

 

……そして、兵藤が彼女が出来たと言いふらすのは

この少し後の出来事である。




If. に回そうかとも思いましたが、本編過去にあってもおかしくない出来事なのでこちらに。
前日談は前日談でもう完結してますし。

現在の情勢を考えると、本当に「どうしてこうなった」としか言いようがない情景ですね……
一度なくなった平和は、もう戻ってこないんです。
どんな奇麗事を並べたって、その時間は帰って来てはくれないんです。
失くしちゃいけないものだからこそ、大事にしないといけない。
失くしてもまた用意すればいい、では済まされない問題は少なくないんです。

……そういえば、「デビルマン」編に移行しましたが
こっちのタイトルどうしましょうね。
まぁ、デビルマン編の時系列の番外編が出来てから考えますか。

さて。
私のスマホだけかもしれませんが、最近やけに扇情的なイラストが出て来る
バナー広告が多い気がします。
作中では漫画としてありますが、ゲームアプリも大概です。
おちおちまとめサイトブログも読めません。
(流石にハーメルン見てるときにはそんなん見かけませんけどね)


セージが言ってることを要約すると
「エロ本広げるってのはヤることとほぼ同義、他人の目があるところでヤれるか!」です。

……いや、エロ本広げるってのはエロ本の中身の女性とヤるってのと
ほぼ同義なわけですし。二次元三次元関係なく。
その事考えたら公の場でエロ本広げるなんてできないです。私だけかもしれませんが。

(だから戦利品を駅前で広げるなんて行為もNGです。がらがらの電車の中ならいざ知らず)


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DX8. 珠閒瑠ジャーニー

アンケート実施前の当初の予定だった
「セージが珠閒瑠市の勉強のために見ていた動画」
(参照:https://syosetu.org/novel/185653/49.html)です。

本編並かそれ以上に長くなりましたが、どうぞ。


珠閒瑠(すまる)、ジャーニーィ!!」

 

テレビに映し出されたのは、珠閒瑠TVが制作した、地元紹介番組。

スタジオには、茶髪にサングラスという、アラサーにしては前衛的な格好をした男性と

エキゾチックな服装に身を包んだ浅黒い肌の中性的な女性――と思われる。

ヴェールで顔が見えないため判別がつきにくい――の

司会者が並んで立っており、番組のオープニングらしく拍手で盛り上がっている。

 

「さあ、今週もやってまいりました! 珠閒瑠ジャーニーのお時間!

 司会は俺様上杉秀彦(うえすぎひでひこ)ことブラウンと……」

 

「昴星の輝きの別面を、今日もまたご覧に入れて見せよう……珠閒瑠ジニーじゃ」

 

十年前にデビューし、今は一時ほどの勢いこそ失ったがベテランとして

地に足をつけた活躍を繰り広げているお笑いタレントと

港南(こうなん)区に店を構える占い師という異色の取り合わせだが

彼女の人選の鶴の一声は他ならぬブラウンである。

 

その理由は、ただの駄洒落的な語呂合わせに過ぎないが。

 

「さて、ブラウン殿よ。今日はまた、新たな絆が生まれる……妾の占いでは、そう出ておるぞ」

 

「おっ、さすがジニーちゃん! そう、今日はスペシャルなゲストが来てたりするんだよね!

 ご紹介しましょう、あの……りせちーこと、久慈川(くじかわ)りせちゃんだ!」

 

ブラウンの紹介でスタジオに入ってきた少女こそ、今をときめく準トップアイドル

久慈川りせであった。彼女が入るなり、一気に色めきだつ辺りが彼女の人気を物語っている。

 

「こんにちはー! 久慈川りせ、りせちーでーす!

 ブラウンさん、ジニーさん、今日はよろしくお願いします!」

 

「いいねぇ~、やっぱりせちーはこの新鮮な感じがいいよ。

 俺様、これだけで張り切れちゃうかな、でひゃひゃひゃ!」

 

「……はてブラウン殿よ。妾の占いでは、女難の相もでておるようじゃがの。

 それに、りせ殿は未成年。このままでは新鮮どころか、臭い飯を食う羽目になるじゃろうな」

 

この珠閒瑠ジャーニーという番組。

メイン司会者のブラウンが、女性ゲストの場合口説き落とそうとするが

その都度珠閒瑠ジニーに窘められる、というのが定番の展開となっている。

今回は相手が未成年という事もあって、ジニーのツッコミも辛辣だ。

この辺りは、かつてブラウンが大女優黒須純子(くろすじゅんこ)と共演していた

「SumasumaSUMARU」という番組に近いものがある。

 

「さて……ブラウン殿が本当に臭い飯を食べる羽目にならぬうちに、今週も珠閒瑠市にある

 独特な店を紹介するとしようかの。なに、妾も港南区で占い師を営んでおる身。

 そう言った情報ならば、占わずとも……ごほんっ! 妾の占いで最適なものを導けようぞ。

 時にりせ殿。そなた、珠閒瑠市についてはどれほど知っておるのじゃ?」

 

「う~ん……私、稲羽(いなば)市なら土地勘があるんですけど、珠閒瑠市は……」

 

「ふむ、ならばりせ殿にも馴染み深いものがいいであろう。何がいいかの?」

 

「あ、私! 辛いのが大好きなんです!」

 

りせちーは実は辛党である、と言うのはファンの間では通説となっている。

ただ、かなり極めた辛党であるというのは、それこそコアなファンでなければ

知り得ない情報でもあるようだが。特に、彼女お手製のオムライスは

それこそ溶岩と言う比喩が正しいレベルだ。ファンイベントを一度地獄絵図にして以来

料理番組には出禁になったとか、なっていないとか。

 

「……ふむ。では占ってしんぜようぞ。

 

 ……これは……ふむ……

 

 ……平坂(ひらさか)区にある『しらいし』と言うラーメン屋が出たの。はて、ここは……」

 

ジニーの示した「しらいし」と言うラーメン屋。

確かにラーメン屋という事で、辛口のラーメンも扱っているのだが

ここはそれ以上に、ゲテモノラーメンが多い事でも有名である。

 

「平坂区に大学が出来たから、学生さん向けに昼はラーメン屋、夜は赤提灯にしたみたいだぜ?

 実は俺様も、仕事であそこのバナナチャーシュー、挑んでみたんだけどさ……

 思わず『嘘だろぉ!?』って膝から崩れ落ちちまったよ。

 だから俺様はヤダっつったんだよぉ!」

 

「ブラウン殿よ。過ぎたことを嘆いても未来はかわりはせぬぞ。

 ならば年長者として、りせ殿の手本になるのも大事ではないかの?」

 

何かを思い出したかのように泣き崩れるブラウンを宥めるジニー。

その一方バナナチャーシュー、と言う単語を聞いたりせの頭に?マークが浮かぶ。

息をするように冗談を交える店長が昔から作っている、ゲテモノラーメンの一種だ。

他にもアンコタンメンなどの癖の強すぎるメニューがある。

 

「で、でもちょっと気になります! と言うわけで行って来てみました!」

 

「りせちゃん嘘だろぉ!? で、でもVあるんだよね。

 じゃ、じゃあ見てみようぜ……VTR、ヨロシクぅ!」

 

 

――――

 

 

珠閒瑠市・平坂区

カメヤ横丁。

 

昔ながらの商店街、と言った趣の通りだが、かつてに比べるとややシャッターが下り始めている。

その風景に、りせは実家のある稲羽市を思い出していたようだ。

流石に、そこまで田舎ではないが。

 

「と、言うわけで来ちゃいました! 『しらいし』!

 今日は伝説にもなっているという『バナナチャーシュー』を紹介したいと思います!

 

 ……だ、大丈夫かな」

 

ADが「りせちゃんスマイル!」と書いたカンペを見せているのかどうかはわからないが

あまりにも前衛的なメニューを前に、りせも及び腰になっているようだ。

 

「あいよ~、それにしても取材も久しぶりだねぇ~。

 前はトラックに店が潰されちゃって、赤提灯として出直す少し前だったけれど。

 そういやあの時も、アイドルがレポーターとして来たっけねぇ~」

 

以前――と言っても10年前だが。当時のアイドルグループ「MUSES」の2人が

当時ラーメン屋だったしらいしを取材したのだ。

因みにその当時から、あんこ餃子だのバナナチャーシューだのは置いてある。

 

「あの時は茶髪の子がおいしそうにあんこ餃子食べてくれたっけねぇ~。

 でも最近、この位じゃみんな満足しないのよ~。

 ヤサイニンニクアブラマシマシ、だっけ~? ああいうのが流行りだそうじゃな~い」

 

りせは辛党だが、健啖家ではない。

そんなヤサイニンニクアブラマシマシなんてラーメンは、守備範囲外だ。

しかもこのしらいし、それをモチーフに何か新しいメニューを考えたというのだ。

 

「そこでアタシも考えたわよ~。

 中部地方にあるって噂の霊峰からもインスピレーションを得た

 その名も『抹茶あんこタンメンバナナマシマシ』よ~」

 

「えぇ……は、ハイカラですね……」

 

一応笑顔を崩さない辺り、りせも準トップアイドルである。

だが、流石に語彙はかなり絞られてしまっているが。

 

「わ、我こそはって方! ぜひこの平坂区はカメヤ横丁にある

 『しらいし』に尋ねてみてください! そ、それじゃスタジオに返しまーす!」

 

「おや、食べないのか~い? 仕方ないわねぇ~……

 他にも色々なアバンギャルドでハイカラなメニューを揃えているから

 また来てちょうだいねぇ~」

 

カンペかどうかは定かではないが、強引にVTRは終わりスタジオへと戻ったのだった。

 

 

――――

 

 

「……は、はい。平坂区の『しらいし』でした。

 ここ、前に他の番組で取り上げたんだけど、相変わらずだね……」

 

「ちなみにあの『抹茶あんこタンメンバナナマシマシ』は

 あの後スタッフがおいしくいただきました」

 

「うむ……妾もこれは予想外……い、いや! う、占いの通りであったな……」

 

微妙な空気になってしまうスタジオ。りせもアレが衝撃的だったのか

うわごとのように「スタッフがおいしくいただきました」と繰り返すばかりであった。

 

「……き、気を取り直して次のお店行ってみよう! ジニーちゃん、ヨロシクぅ!」

 

「うむ。では次なるお店を占ってしんぜようぞ……

 

 見える……見えるぞ……これは……

 

 ……蓮華台(れんげだい)の『がってん寿司』じゃな」

 

半ば強引に、ジニーが次の店を紹介する。

蓮華台にある、回らない寿司屋である。

この店、余談ではあるが度々移転をしており平坂区→蓮華台→平坂区と来て

またも蓮華台に戻ってきた経歴がある。と言うのも――

 

「えー、こちらインタビューにお伺いしたんですけれども、板さんが腱鞘炎に罹ってしまっていて

 今はお弟子さんとヘルプのコックさんがお店を切り盛りしているそうです。

 

 でも、お寿司のネタとそれを引き立てるシャリは今まで通りなので

 是非来てください、とのことでした!」

 

「それと、全くの余談ではあるが。このがってん寿司の板前殿の長男。

 彼の者はビジュアル系アーティスト『ミッシェル』として

 音楽界でちょっとした話題になっておるそうじゃ。知る人ぞ知る、といった程度ではあるがの」

 

「その彼の高校時代の映像を収録した番組『SUMAsumaSUMARU』は

 珠閒瑠TVの動画配信サイト、珠閒瑠TUBEで好評配信中だから

 そっちもシクヨロ!」

 

がってん寿司の板さんこと三科寛吉(みしなかんきち)。寿司の握り過ぎか、腱鞘炎に罹ってしまったらしく

今は弟子であるショーゴと、蓮華台に住む元コックの帰化外国人

スティーブン・シルバーマンの協力でがってん寿司の営業を行っているようである。

蓮華台に引っ越したことが、功を奏したようである。

しかし代償として金髪碧眼のダンディが握る寿司屋と言うあらぬ個性がついてしまったのは

寛吉としては痛し痒しと言ったところか。

 

「それじゃ続いては……『珠閒瑠の街からレッツらゴー!』のコーナーだぜぇ!

 今日は鳴海区にあるフランス料理店『クレール・ド・リュンヌ』の名物ギャルソンでもある

 副島(そえじま)さんからのご紹介で、沢芽(ざわめ)市ってところに行ってみたぜ!」

 

「沢芽市……妾の占いでは、世界樹のような大きな塔を象徴とする

 珠閒瑠市と同じくらいの大きさの都市である……と出ておるな」

 

「私も行ったこと無いんですよ、どんなお店なのか興味があります!」

 

がってん寿司でもインタビューがなされなかったという事で

微妙なスタジオの空気を入れ替えられなかったが

コーナーの移動という事で、スタジオの雰囲気はがらりと変わったのだった。

若き日を思い出しながら、ブラウンが勢いで仕切っていくのだった。

 

「それじゃあ、今回もリポーターはキスメット出版の編集長、天野舞耶(あまのまや)さんだ!

 ご機嫌なインタビュー、やっちゃってぇ!」

 

 

――――

 

 

沢芽市・シャルモン。

 

「――と言うわけで、今日もお送りするのはキスメット出版の編集長、天野舞耶でーす!

 チャーオ☆」

 

長髪でスタイルのいい、しかし着ている服は両胸のハートマークを始めとして

あまりにも前衛的なファッションの女性がカメラに向かって受け答えする。

十年前からサイズこそマイナーチェンジすれども、基本的なデザインは変わっていない。

本人曰く「親友が選んでくれたから」らしいが

選んだ本人は「いい加減他のデザインのも着てくれ」と思っているとか。

 

「今日はクレール・ド・リュンヌのギャルソン副島さんからのリクエストで

 沢芽市のパティスリー『シャルモン』を紹介しちゃうわよ!

 それじゃあ、沢芽市のおいしいもののご紹介……チョメチョメタ~イム!」

 

沢芽市のみならず、他の街にも名の知れた洋菓子店「シャルモン」。

偉丈夫なパティシエとその二人の弟子が作り上げる洋菓子は

値段こそ張れども、間違いなく一級品である。

 

「――と、言うわけで、今日はオーナーパティシエの『凰蓮(おうれん)・ピエール・アルフォンゾ』さんに

 シャルモンおすすめのメニューを紹介してもらいたいと思います!

 凰蓮さん、よろしくお願いします!」

 

Bonjour(おはよう). ご紹介に賜りましたワテクシが凰蓮・ピエール・アルフォンゾですわ。

 今日は珠閒瑠市のMonsieur(ムッシュ)副島の紹介らしいですわね。

 懐かしいわ、Monsieur(ムッシュ)とはフランス外人部隊に所属していたころの戦友でしてよ」

 

「わーお! 従軍経験のあるパティシエさんなんて、オドロキの経歴ですね!

 副島さんも凄腕らしいですが、凰蓮さんもただ者じゃない雰囲気を出していますね!」

 

意外ともいえる繋がりに、舞耶も収録とは言え驚きを見せる。

凰蓮も副島も、現地での修行の一環としてフランス外人部隊に在籍し

フランス国籍を有することになった凰蓮。副島は給仕としては優秀だが、シェフではない。

そう言う意味では凰蓮とは少し方向性が違う。実力は凰蓮に勝るとも劣らないが。

 

「そうだったんですか! 私も副島さんとは長い付き合いで……」

 

「あーら、そうだったの。そういえば、昔Monsieur(ムッシュ)副島から聞いたことがあるわ。

 当時ワテクシはフランスで修業中だったけれど、彼は一足先に日本に帰国していたのよ。

 そこでお店――『クレール・ド・リュンヌ』だったかしら。試作メニューとして

 『クサヤスパゲティー』なるものを用意したらしいわね。販売はされなかったそうだけど」

 

クサヤスパゲティー。その名前を聞いたときに舞耶の顔が曇った。

何故なら、彼女はクサヤが苦手にもかかわらずその試食をしたのだ。

その件が、いまだトラウマになってしまっている。

 

「そこで、ワテクシも考えてみましたの。果物の王をふんだんに用いた

 まさしくその名の通り『完璧』なスイーツ――

 

 『ドリアン・パルフェ』を今日のために用意させて頂いたわ!」

 

エレキギターの音が響き渡るようなインパクトと共に舞耶の前に出されたのは

見た目はちょっと豪勢なパフェだが、用いられているクリームや果物は

ドリアンだったり、ドリアンを混ぜ込まれていたりと

まさしくドリアン尽くしの一品であった。

 

だが、ドリアンは一説にはくさや以上の異臭を放つ食べ物である。

出された際には舞耶はあからさまに顔を顰めていた。

 

「あーら。この程度の匂いで顔を顰めるなんて、まだまだね。プロ根性が足りなくてよ。

 そんな様子ではまともな食レポは期待できそうに無いわね。仕方ないわ……

 

 ボウヤ達! アータ達、これの食レポなさい!」

 

「「え、ええっ!?」」

 

厨房にいた初瀬と城乃内に声がかけられる。

このドリアン・パルフェ、彼らも今その存在を知ったのだ。

カメラに映らないように厨房にいた彼らの元にも、臭いは漂っていた。

 

「これも修行よ、やって見せなさい!」

 

あからさまに無理難題ではあるが、カメラが回っているという事と

凰蓮に彼らが逆らえるという道理はないため、渋々食べることとなった。

 

 

――団栗(どんぐり)松毬(まつかさ)試食中...

 

 

結論から言おう。

完食こそしたが、味を言う前に二人そろってダウンしてしまった。

ほとんど放送事故である。

 

「……ちょ、チョメチョメ完了~!

 それじゃ、次回またお会いしましょう~! チャ~オ☆」

 

強引に舞耶が締めたため、どう見ても放送事故のような終わり方になってしまった。

ディレクターは戦々恐々としたが、シャルモンは元々沢芽市では超がつくほどの人気店であり

そもそも凰蓮が変人の領域に足を突っ込んでいるためさほど問題にはならず

しらいしに関しても、ここで変なメニューが出るのは珠閒瑠市では有名で

他所からもそれ目当て出来ている客層も少なからずあること。

がってん寿司もシルバーマン氏の寿司は人気となり、結果としてよい宣伝にはなったため

お咎めなしと言う結果になったのだ。

 

 

――――

 

 

「い、以上、シャルモンからでした」

 

「今日は随分と騒々しいロケが多いのう……占い通りとは言え、これは大丈夫なのか?」

 

(ジニーさん、占いって絶対ウソでしょ)

 

結局、微妙な空気になってしまったスタジオ。

しかし、この日の放送の残り時間も僅か。締めなければならない。

 

「……さ、さてブラウン殿、りせ殿。そろそろ時間が迫ってきたようじゃ」

 

「え? もうそんな時間!? いやあ、毎度の事だけど時間が経つのは早いねぇ。

 俺様、そんなに年取ったつもりは無いんだけど」

 

「そんなこと無いですよー。私にとってもあっという間でしたもん」

 

まるでカンペでもあるかのように(実際生ではなく収録なのだが)

和気藹々としたムードに戻るスタジオ。

この辺りは、みな揃ってプロであることを伺わせる。

 

「じゃ、りせちゃん。また珠閒瑠に来てくれるかな?」

 

「いいともー!」

 

「……ブラウン殿よ。そのネタはマズいと毎回言うておろう……」

 

締めのコールにジニーが突っ込むのも、この番組の定番である。

色々な(各地から突っ込まれそうな)ヤバいネタも交えた締めのコールだが

不思議と人気を博しており、ジニーのツッコミまで合わせて名物と化している。

 

「それじゃ、今日の珠閒瑠ジャーニー。司会は俺様ブラウンと」

 

「進むべき道知りたくば、またここを訪れるがよい。珠閒瑠ジニーじゃ。そして……」

 

「みんなのりせちー! 久慈川りせでお送りしました!」

 

珠閒瑠ジャーニー。

新たな時代に放映されている、珠閒瑠市と、全国に向けて放映されている情報番組。

 

……これが珠閒瑠観光の一助となるかどうかは、また別の話でもあるが。




今回のコンセプトは
「罰特典ディスクの番組(特にSUMAsumaSUMARU)の追体験」でした。
一応某所に動画上がってますけどね……

あれから拙作では10年。当時のままの番組編成ではあるまいという事で
イケスマは見送り(今のコンプライアンスだと個人情報の観点から無理でしょ)。
番組タイトルは地の文で触れてる通り駄洒落。

番組内のネタについて

>ブラウン
多分(?)ペルソナ芸能人枠の元祖。りせちーやP4A以降のゆかりっちとか
彼女等の先達として申し分ない働きしてると思います。
似たような個性のマークに比べてキャラ立ってると思うし。

>珠閒瑠ジニー
洒落のためだけにMCになった人。
多分凰蓮軍曹にシンパシー感じてる。SUMAsumaSUMARUにおける純子枠。
元々彼女(?)の占いはフリで噂が高じて……なので時々妙なことを。

>りせちー
芸能人・いじめられた経験あり・自分の役割に疑問を持っているなど
かなりブラウンとの接点あるんじゃね? な子。
何気に番長の決め台詞(?)言ってたりしますが、これが意味するところは……

今回描写はしてませんが拙作では特に悩んでないですし
楽屋でブラウンが相談に乗ったりはしてそうな感じ。

>しらいし
昼間ラーメン屋、夜は赤提灯。でも夜もラーメンとか変なのとか普通に出ます。
因みに中部の霊峰は実在するあのお店。最近行って無いけど。

>がってん寿司
ギンコパパがセ〇ールで、ガチの日本びいきなので……ってことで。
コックと板前は違う気もするけれど。
お互い息子や娘の話をしているかどうかは、さて。
ショーゴは影人間にされたりしたミッシェル子分その3。
〇ガールさんが来てなかったら、彼が握っていたかも。

>シャルモン
なんでいるんだよ枠。いや、副島さんとの絡みとか
クサヤスパゲティ―に対抗してドリアン料理出したかったとか色々あるけれど。
ただ副島さんはギャルソンであってシェフではない(っぽい)ので
副島さんはフランス外人部隊従軍経験ありって接点位。

……なんか番外編に出てた安玖巡査の兄さんと言い外人部隊従軍経験者多くない?

その他拙作における珠閒瑠市の現状についてはこちらに
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=247514&uid=87099


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DX9. 4月の馬鹿の与太話

エイプリルフールにゃ間に合いませんでしたが……


冥界・アグレアス。

 

その起源は原初の魔王にまで遡る、空中浮遊都市。

そこに設けられたありふれた酒場に、そのような酒場に入り浸るには

些か服装が小綺麗すぎる男がグラスを傾けていた。

 

「おや……こういう形でお会いするとは、奇遇ですね。

 私も今回ここで行われる大規模なレーティングゲームの大会の来賓として招かれたのですが

 どうやら少し早く来すぎてしまったようです」

 

男は先客であったようだ。着席し、自分の分の飲み物を注文しながら

同業者、あるいは同様の役職についていると思しき男の話に耳を傾ける。

 

「……ここでお会いしたのも何かの縁ですし、ちょっとした蘊蓄を語らせてください。

 暇つぶし程度には、なると思いますよ」

 

グラスの中身の影響か、饒舌になった男は蘊蓄と称し

この冥界で古くからおこなわれている転移技術について語り始めた。

 

「転移技術。悪魔の用いるそれは、魔法陣を中心とし魔力を媒体に

 任意の場所へと一瞬にして移動できる、運輸や交通などにおいては

 画期的ともいえる技術と言えます。

 

 この技術を初めて確立させたのは、魔王ベルゼブブであるとも言われていますね。

 ……ああ勿論、アジュカではありません。原初のベルゼブブですよ」

 

原初のベルゼブブ。現在ベルゼブブと言う「職」についているアジュカと異なり

生まれながらにしてベルゼブブであった者。

その彼が、現代までも通じる悪魔の転移技術を確立させたというのだ。

 

「確かに、現行の魔王も技術面に関してはベルゼブブが一手に担っていますが

 その昔は明確な役割分担などは無かったそうですよ。

 にもかかわらず、転移技術についてはベルゼブブが第一人者となりました。

 

 ……次は、その『理由』についてお話いたしましょう」

 

グラスをあおりながら、男は小休止を挟みつつ話を続ける。

その間に注文した飲み物が来たため、男と同様にグラスを傾けつつ

男の蘊蓄に耳を貸すこととなった。

 

 

「襲名しただけのアジュカは全く違いますが、元来ベルゼブブとは『蠅の王』という異名の通り

 蠅の意匠を象った、或いは蠅そのもののような姿であったと言えるでしょう。

 原初のベルゼブブともなれば、その性質はデーモン族に極めて近いでしょうから

 それこそ、蠅そのものな姿形であったも考えられますね。

 

 ……ですが。いくら蠅が腐敗物の消化分解に適した能力を持っているとは言っても

 他の悪魔に対し優位に立てるほど強力な生物かと言えば、難しいところでしょう。

 実際、蠅の食物連鎖上の立ち位置など下から数えた方が早いですからね」

 

蠅と言う生物のヒエラルキーからは想像もつかない、ベルゼブブの「蠅の王」と言う異名。

蠅と言う存在のまま、魔王と言う強大な存在になれたということなのか、それとも。

その答えともいえるかもしれないある「説」が、男から語られることとなった。

 

「ここでベルゼブブが確立した転移魔法の技術について振り返ってみましょう。

 確かに彼は、魔力を用いた空間転移を可能としましたが、そこに至るまでには

 様々な試行錯誤が当然のように行われておりました。

 その試行錯誤を自らの身を以て行ったそうなので、その辺は好感が持てますが……

 まあ、今はそこは関係ないので省きましょう」

 

原初のベルゼブブが行っていたという空間転移技術のための実験。

魔力を媒体とするそれは、着々と改善されていき

ようやくそのお披露目が行われることとなった。

 

闘争を主軸に据えた文化体系を持つデーモン族においても

空間転移と言う技術は、魅力的なものであった。

それが故に、ベルゼブブの技術公開には人だかりができていたのだ。

 

多くの観客が見守る中、ベルゼブブは魔力による空間転移を敢行、成功させる。

この成功を受け、悪魔の間での魔法陣を用いた技術の進歩は劇的に早まることとなった。

これは、今のベルゼブブ――アジュカ・ベルゼブブの立ち位置にも通ずるものがあると言えよう。

 

「……ええ。勿論、これでこの話は終わりではないですよ。

 ここで終わっては、ただの魔王の功績のプロモーションに過ぎませんものね。

 ここからですよ。何故ベルゼブブが『蠅の王』などと呼ばれるようになったのか、は――」

 

 

ベルゼブブによる技術公開からしばらく後。

ベルゼブブは、頻りに体の異変を訴えるようになった。

悪魔である以上、魔力によって体の変調は抑止することはできる。

入浴の習慣が無かった昔の貴族が、その体臭を香料などを用いて強引に消したように。

 

しかし、ベルゼブブの訴える体の異変は、その魔力で抑止できる範囲を超えていたのだ。

それこそ、生まれつきその体質であったかのように。

八方手を尽くすも、ベルゼブブの身体の異変は止まることが無く、ついにはその姿は――

 

 

――等身大の蠅を思わせる姿へと、変質してしまっていたのだ。

 

 

「ベルゼブブによる技術公開。この時行われた空間転移は、彼自らがその身を賭して行ったそうです。

 これを適当な悪魔にやらせれば、或いは結果が変わったかもしれませんがね」

 

 

男の話は、なおも続く。

 

ベルゼブブの身体に起きた異変を受け、ただちに調査が行われた。

しかし、結論から言えば技術は凍結されず、危険性を帯びたまま行使されることとなったのだ。

 

では何故、ベルゼブブの身体に異変が起きたのか。

それは、彼が空間転移を試みたその瞬間の出来事であった。

 

偶然、魔法陣の上に飛んできた一匹の冥界蠅が、ベルゼブブの転移に巻き込まれてしまったのだ。

その影響で、ベルゼブブの肉体と冥界蠅の因子が混ざり合ってしまい

ベルゼブブの肉体は蠅そのものと言っても差し支えないものへと変異してしまったのだ。

 

生物と言う無機物とは比べ物にならない情報量を有する物体を転移させる。

それは上級悪魔の膨大な魔力を以てしても難しいものであったのだ。

転移の際に、悪魔の因子と蠅の因子が混ざり合ってしまった。

 

しかし、身体に異変を訴えながらも人格そのものはベルゼブブのまま変わらず

結果として、ベルゼブブは「蠅の王」としてその力を示すこととなった。

空間転移の技術については、その後も研究と改変が重ねられ

現在使われている魔法陣による転移へと繋がっていくこととなったのだ。

 

 

「……とまあ、今悪魔が当たり前のように使っている魔法陣転移と

 それを確立させた原初のベルゼブブについてのお話でした。

 ご清聴、ありがとうございます」

 

いつの間にか空になったグラスを下げてもらいながら、男は会計のために席を立とうとする。

それを呼び止める声。今の話は、本当なのか――と。

 

 

「さあ。確証を持たない、酒の席での与太話ですよ。即席のでっち上げとも言いますがね。

 そもそもベルゼブブだって、生まれながらに蠅の姿であったとも言えますし。

 転移で虫が紛れ込んで、その遺伝子情報が混ざるなんて一昔前のSFホラー映画ですよ。

 いくら昔の悪魔でも、そこまでお粗末な技術は使わないでしょう」

 

あっさりと否定され、種明かしまでされてしまう始末。

酔っ払いの戯言に付き合わされた。それが今回の出来事の一部始終であろう。

それ以上でも、それ以下でもない。

カウンターにグラスがもう1個増えるのは、このすぐ後の事であった。

 

 

 

(……確かにベルゼブブの件は酒の席の即席の与太話ですが……

 ことクロスゲートに関しては、そうとも言い切れないものがありますね。

 昔の悪魔の転移技術など比べ物にならない程高性能であるにもかかわらず

 その危険性は、ともすればそれよりも危険であるかもしれない。

 

 ……さっきは冗談で言いましたが、クロスゲートによる転移は、もしかすると……)




即席の嘘八百(なお日付)

他愛もないネタバラシしますと語り手は薮田先生。
聞き手は名も無き来賓客。来賓なのでそれなりの地位はある感じ。

実は今回「も」本編と時間軸はリンクしています。
少しばかり、未来のお話ではありますが。

>ベルゼブブ
彼に限らずなんですが、蠅だの飛蝗だの虫がとんでもない悪魔になるって
海の向こうじゃよくあるお話。日本じゃ実感わきにくいですけどね。
とは言えゴキブリみたいな悪魔も日本原産でいる以上、人の事は言えますまい。

蠅になる件は往年のSFホラー映画から。
ドラクエ4コマでもネタにされた、アレ。
結果として、襲名しただけで全然蠅っぽくないアジュカに
技術屋として原初のベルゼブブとの接点が生まれましたが
まあ、それは拙作設定ってことで一つ。

>転移
今回は元ネタ通り蠅でネタにされましたが
最後に触れている通り、悪霊で似たようなことをやっている奴がほら、そこに……


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DX10. 鑑賞会、私の好きな言葉です

今回はシン・ウルトラマンのネタバレが含まれています。
未見の方はご了承ください。


某日・ジュネス駒王町店前

 

併設の映画館も再開したらしく、休日という事で来てみることにした。

そして、同じことを考えている人はかなり多いらしく、結構人がごった返している。

この光景だけ見ると、ここがテロ組織や怪物に狙われているなんて

にわかには信じられないくらいだ。

 

さて。映画鑑賞に赴くこと自体は別にいい。それに同伴する者が思いのほか多くなったのも

まあそれはいいだろう。

 

だが、ここにはあるとんでもない……やんごとなきお方もおられる。

そうなるに至った話は今から数日前に遡る――

 

 

――――

 

 

「……映画鑑賞に天照様を同伴させてほしい!?」

 

 

やけに続く長雨、時期外れの梅雨のような雨模様の続く中

月読様から頂いた話は、我が耳を疑うには余りあるものであった。

なにせ、日本の主神が「お忍びで映画館に行くからその護衛を頼む」などと

どうして信じられようものか。いや、現に話持ちかけられてはいるけれど。

 

「そうなのだ。少し前の話だが、ある神明社の膝元の商店街に……

 ……えっと、なんだったか」

 

「アルテルウォーク、よ。月読」

 

アルテルウォーク。よくある旅番組と言えばその通りなのだが

この番組は所謂カルトな人気を博している。何故ならば。

 

 

――番組MCがアルテルマンに出てくる怪獣や異星人なのだ。

 

 

「そう、その番組がな。公開収録で訪れることになって

 ある地方の神明社にも訪れる、そんな話が上がったそうなんだが……」

 

「ええ、私は番組が来るのを首を長くして待っていたのです。ですが……」

 

 

――ごめんなさい、そういうの(怪獣や異星人のきぐるみ)はちょっと……

 

 

と言う神社関係者の一言で、収録は叶わなかったそうだ。

 

 

「私がいいって言ってるんだからいいでしょ!? 私がどれだけ楽しみにしてたか!

 今日だってアルテルマンの映画を見に行くって話が無かったら私は……」

 

わんわんと泣き出してしまう天照様。月読様が言うには

 

「その出来事がショックで岩戸籠りしかねない勢いだった。と言うか半ばしてる。

 アルテルマンについて調べたら、映画を丁度やっているそうではないか。

 そこで、映画鑑賞に行けば少しは気が晴れるのではないか、そう思ってな。

 ただでさえ大変なこの時期に、岩戸籠りなどされては敵わん」

 

だそうだ。岩戸籠りってどれだけですか。

と言うか、岩戸籠りなら適任がおられるのでは? と思い聞き返してみるが――

 

天宇受賣(アメノウズメ)の事なら、そう言う目的で彼女を出すことは暫くできない。

 何せ、悪魔連中が『神社の神気を払う技術』などと言うものを作ったという話が出てな。

 そんなものを用いられて、我らの領域に入られるだけでも事だと言うのに

 それが原因で、我らの属性をあらぬ方向にもっていかれては困るからな。

 我々に関してもそうだが、天宇受賣に関してもだ。

 彼女が岩戸開きの際に何をしたか、知っているだろう?」

 

岩戸開き。引きこもった天照様を引っ張り出す際に

天岩戸の前で騒いで気を引く、って話だったはずだ。

その際に天宇受賣様がやったことと言えば……所謂……す、スト……

 

『成る程。神事をサバトの紛い事にされちゃ、日本神話としても立つ瀬がないってことか』

 

おいアモン。そうだけど言い方。

とは言え、確かに下手をすれば岩戸開きの神事はサバトになりかねない。

サバトも岩戸開きも、騒ぐという点において

かつ性的な要素を交えて高揚するという点において共通点がある。

見解の相違かもしれないが、確かに背徳の代名詞ともいえるサバトと

厳粛なる神事を同列に見做すのは、当事者たる日本神話の神々からすれば複雑か。

 

「フッ、そこな悪魔の言う通りよ。岩戸開きは我等にとって重要な神事。

 それを悪魔の都合よく解釈されて穢されては

 最悪天宇受賣の神性そのものにも悪い影響が及びかねない。

 故に、悪魔が我らの力を悪用しないと立証できるまで、一部の神は隠れてもらっている。

 こと天宇受賣に関しては、戦となると非力だからな」

 

話が見えてきた。引きこもってしまった天照様を出そうにも、天宇受賣様が出てこられないから

岩戸開きの神事が出来ない、よって違う方法で天照様を外に出そう、と。

スト……の代わりに特撮ヒーローの映画ってのは、何と言うか差が激しいが。

 

「引き受けてはもらえまいか? と言うか、引き受けてもらわねばこの雨が上がらぬ」

 

「話は分かりましたが、何故俺なんです? お付きなら宮内庁の方がいらっしゃったような……」

 

旧日本軍の海軍将校のような身なりをした彼の事である。

俺に頼まずとも、彼に頼めばいいのでは? そう思ったのだが、思わぬ返事が返って来た。

 

「今回の事はお忍びのお忍びです。彼と行動を共にするという事は

 少なからず、宮内庁の行動としての顔を持ちます。

 ですが今回は、お恥ずかしながら完全な、私の個人的な事情でして……」

 

……あー、完全にプライベートの話だから持って行きづらい事情か。

おまけにこの事態招いているのも完全に私事、と来てる。

ケリをつけるにしても、大事にならないように誰かに付き添ってもらいたいわけか。

で、それをやるにあたっては俺が適任だったと。趣味的な意味でも。

 

「……わかりました、引き受けます。

 ですが木を隠すには何とやら、何人かこちらで見繕った者達を同伴させますが

 それは宜しいですか?」

 

「構わない。姉が世話になる」

 

月読様に畏まられるが、俺としても気が気じゃない。

元々映画は観に行くつもりだったので、それに同伴者が一人――一柱増えただけだ。

同伴する予定だった祐斗やアーシアさんには悪い事をするようだが……致し方あるまい。

 

……それより、この件どう説明しようか。

 

 

――――

 

 

「あの……本日はよろしくお願いします」

 

と、言う訳で俺は数名と一緒に映画――新約・アルテルマンを見るはずだったのだが

その数名の中に一柱が入ってしまい、現在に至ると言う訳だ。

 

当然、祐斗やアーシアさんと言った悪魔組は目を丸くしていたし

異教の神を前にゼノヴィアさんはどうリアクションしていいのかわかっていない。

光実(みつざね)は急遽用事が入り不参加。その代わり通りがかりで出くわした

大那美(だいなみ)の連中が来たので思いのほか大所帯になった。

白音さんは少し不服そうだが、今回別にデートのつもりしてなかったんだけどな。

と言うか、デートでアルテルマンの映画は流石に無いだろ。

白音さんがサブカルにも興味があるってのは知っているが、特撮も守備範囲なのかね?

 

「セージ……おめえ、いつからそんなにモテるようになったんだよ。

 やっぱあれか? 駒王学園行ったからか? くそぅ、だったら俺も……」

 

「冗談でもやめとけ、あそこは地獄だ。特に今はな」

 

甲次郎に茶化されるも、現状の駒王学園を鑑みればとてもそんな気楽には。

白音さんやアーシアさん、ゼノヴィアさんと駒王学園の女性陣もいるが

特に否定の言葉がない。魔境だと思われているのだろうな。

 

「にしても、随分とにぎやかになっちまったね。

 こりゃちょっと話……と思ったけど、チケットもう用意してあるんだっけか。

 先に映画観ようかね」

 

甲次郎に付いてきた皆美の言う通り、これは大所帯だ。

まず俺に祐斗、白音さんにアーシアさん、ゼノヴィアさん。

大那美から甲次郎に皆美、大那美レスリング部の山田頼牙(やまだらいが)

 

因みに、大那美連中に声をかけたのは俺だ。

情報交換と、記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)の運用に関するヒントにならないかと思っての事だ。

この面子なのは、都合がついたのがこの三人だったというだけに過ぎない。

 

そして、何より。

 

「あ、あの……私、浮いてないでしょうか?」

 

「気にせんでください。それじゃ行きますよ」

 

 

――――

 

 

――新約・アルテルマン。

 

 

アルテルマンと言う話そのものが、外宇宙の生命体と地球人類の話なので

隔たれた価値観、と言う描写の意味ではすごく、現状思い当たる節があり過ぎる。

 

特にこの原典では悪質宇宙人と謳われ、今作においても地球の文明を堪能しつつも

その実、地球人類を生物兵器か何かとしか見ていなさそうな、この悪辣な宇宙人に曰く

「プレゼンテーションは成功した」と。

 

……こう言う事を考えながら映画鑑賞をするのはよくないが、まさかサーゼクスも……

もしそうだとしたら、今回作ったスタッフの勘がよすぎる。偶然だろう。

 

そして、結果として作品世界のアルテルマンの同胞にして

太陽系方面監査官ゾーフィーが送り込んだ文明消去砲「一兆の恐怖(ワン・オブ・テラ)」。

原典を知るものからすれば、衝撃的なものであり

これを見た天照様が思わず声を上げたのが聞こえた。

 

 

そして、それに勝利をおさめたのもやはり、人間の知恵と意思だった。

過去幾百、幾万、幾億と繰り返された人間賛歌の武勇伝。

これを伝えるために、過去シリーズでも語られた「アルテルマンは神ではない」のフレーズが

今一度、輝いていたのだ。

 

……個人的に、何度見ても人間賛歌は飽きないものだ。

それが故に、生半可に真似て欲しくない思いもある。

何らかの形で人間賛歌に触れた悪魔が、それに憧れて半端に人間の生活を真似したのか。

今の冥界の諸々――特に、サーゼクス周り――は、そう思えてならない。

 

 

……クライマックス。ここで、原典のアルテルマンとは大きな違いが生まれた。

 

命は、一つしかなかったのだ。いや、当たり前なんだけど。

原典では、アルテルマンが過失で喪ってしまった命と、戦死したアルテルマンを救うべく

救援に駆け付けたゾーフィ―が命を2つ持って来たというとんでもない解決法を提示していた。

 

しかし、今回ゾーフィーはアルテルマンの命を、過失で喪ってしまった命に代えることで

地球人は生還。しかし、アルテルマンは……

 

 

……ここで、映画はスタッフロールを迎えた。

アルテルマンがどうなったか。この世界の地球が今後どうなるか。それはわからない。

だが、同じスタッフの前の映画同様、人の力で、人知を超えた怪異に打ち勝った。

その力が正しく使われる限りは、未来は安泰だろう。多分。

 

 

アルテルマン。人が思い描いた、遠い彼方の強き隣人。

彼は神の如き力を持ちながらも、決して神でなく、また神たろうともせず。

ただ、一つの命として、地球人に寄り添う事を選んだ、遠い彼方の強き隣人。

 

人類にとっての善悪はさておき、強き隣人がごった返しているこの現状。

アルテルマンの精神に至れるものは、どれくらいいるのだろうか――

 

 

――――

 

 

「……色々、考えさせられました。アルテルマンのファンとしても、日本の主神としても」

 

後半部分は大那美連中に聞こえないようにしながら、天照様が呟く。

そうなのだ。この事件は、悪魔や天使、堕天使のみが徒に悪者なのではない。

その力を悪用しようとする人類や、領分を超えた隣人たる妖怪や神々もまた、その範疇に入る。

人間の傲慢かもしれないが、やはりこの世界は人間の世界なのだ。

強いて言うなら、そこに他の命を零さないようにしながら守り続けることこそが

主たる人間の役目であろう。

 

「……ケイスケも言っていたが、日本人の信仰意識が私には理解できなかった理由が

 なんとなくわかったかもしれない。

 私には、あれだけの力を持ちながら神にならない彼の気持ちがわからないよ」

 

ゼノヴィアさんによる、アルテルマン評。

それこそ母さんや下手すりゃじいちゃん、ばあちゃんでも知っているかもしれないアルテルマン。

俺にしてみれば、子供の頃から当たり前にあったテレビのヒーロー。

だけどそれは、祀られた神像に、活躍を語る聖典を掲げた神話の神とどれほど違うのだろう。

ゼノヴィアさんにとっての聖書の神が

俺――いや、子供たちにとってのアルテルマンであるように。

 

ただ、決定的に違う事がある。

ゼノヴィアさんの言う聖書の神は唯一無二であるが

アルテルマンはその背景の商業的事情があるにせよ、代替となる偶像が存在する。

面ドライバーや、フェザーマン。少し毛色は違うがダンガム、とかだ。

もっと毛色が違うドラグ・ソボールだってそう言う側面が無いとは言い切れない。

これもまた、日本人の無節操な信仰心のなせる業なのかもしれないが。

そういう背景があるからこそ、子供のヒーローが子供のヒーロー以上の意味を持っている。

……のかもしれない。

 

だが、信仰は集めこそすれ、崇拝対象かと言うと、それもまた違う気がする。

アルテルマンは神ではない。その言葉の意味は、都合よく縋りつく対象を求めてはならない。

自分の足で立ってこそ、人は人足り得るのだ。

……そう言う事なんだろうか。

 

 

そう言う事をつらつらと考えてしまう位には、この新約・アルテルマンは深い作品だった。

とは言え、それはあくまでも俺の感想だ。ただの怪獣映画の一環、として見る人もいるだろう。

特に、俺の考えをつらつらと述べようものならば悪魔組に苦い顔をされそうだ。

 

 

「いやあ、真剣に見ちまったら腹減っちまったぜ。飯食いに行こうぜ」

 

「いいですね、下にバイキングの店があったのでそこにしませんか?」

 

「……バイキング!?」

 

甲次郎の一言に、天照様と白音さんが食いつくように目を輝かせる。

バイキングなら、いつぞやみたいに金が吹っ飛ぶ心配はないだろう。

出禁にはなるかもしれないが。

とは言え甲次郎の言う通り、俺も腹は減った。飯にするという意見には全員が同意した。

 

 

――――

 

 

食事の際には会話を交えながらだったので、思いのほかがつがつとは行かなかった。

特に甲次郎からは、またあの変な兜の夢を見た、って話をされたし。

本当にあったりしないよな、それ。

 

天照様も、アルテルマンの映画を見られてご飯も食べられた、という事もあってか

ご機嫌のご様子だ。よかった。これだけの大所帯になった時は流石にどうしようかと思ったが。

映画に関してもリアクションに困るって程のものでは無い(若干名除く)ので

概ね、今回に関しては成功したと言えよう。

 

帰り際に、天照様が綿志田(わたしだ) 豪三(ごうぞう)を名乗る

どことなく不思議な印象を持った中年男性とアルテルマントークで盛り上がっていた位か。

そのトークも終わったところで、今度は俺が天照様に呼び止められる。

 

「今日は本当にありがとうございました。

 個人的なことではありますが、今回の事はきちんとお礼させていただきますね。

 具体的には、これは大日如来様にも話していない……私の力。

 

 これを、限定的ではありますがあなたが必要になった際に、お見せしようと思います。

 あなたならば、正しく使えると信じておりますので」

 

……参ったな。俺は神様に信頼されるほど人間出来てないと思うのだけど。

力を以て解決せねばならないオーフィスやらなんやら、最悪サーゼクスとの戦いに関しては。

天照様のおっしゃる通り、頼らねばならないことになるのかもしれない。

 

そうなってほしくは無いと思いつつも、覚悟だけはしなければならない。

俺は、そう思いながら天照様と共に皆と合流することにした。




我は汝、汝は我。
汝さらなる絆を得たり。

我ら「女教皇」の力
また一つ、さらなる高みに極めん。


……と言う訳で、番外編にかこつけてコミュ話と
遠回しなシン・ウルトラマン観てきた報告でした。
結構悪ふざけしてますが、まあ番外編って事でどうか一つ。

>アルテルウォーク:ウルトラ怪獣散歩
この番組が神社仏閣出禁なのは割と有名らしく
天照様がそのお陰で岩戸籠りしかける事態に。
ちなみに商店街には普通に来ていた様子。

>ゾーフィー
つい最近解禁された彼。
この世界では新約も原典も同じ名前の様子。

>アルテルマン
神ではない、とはメビウス映画でも言われた言葉。
では神とはなんぞや。超常の力を揮えば、神なのか。
あがめられれば、神なのか。だとしたら神と悪魔の違いは何ぞ?

……そもそも、神って必要なのか。
それが故に、まだゼノヴィアにはアルテルマンの在り方が理解できてない様子。
アーシアも言及はしていないものの、ちょっと難しい問題として受け入れている様子。

拙作天照様は「人間に憧れた神様」な部分があります。
月読様は職務に忠実と言うか、ドライと言うか。

>天照様
今回こうなった原因。
岩戸籠りで異常気象になりかけたので、月読から映画をダシに引っ張り出された様子。
最後に言及している新たな力、とは元ネタキャラが改二内定(次イベで来る?)に
因んだお話。同じ理屈で大日如来様もハイパー隠し持っていたり。

>天宇受賣様
す、スト……(セージ談)の神様。
見解の相違ながら、サバトにも通ずるものがある、として
悪魔との接触は可能な限り避けたいという月読様の意向。
岩戸開きがサバト扱いされたら、一番影響大きそうなのこの神様だと思いますし。
ヤリまくって乱痴気するのと、裸踊りでどんちゃんするのも然程……
と言うのは、些か強引かもしれませんが。

神社に入るために神気を払う、ってのが原作仕様ってのが、なあ……

>綿志田教授
鴨志田じゃありません。私だ……もとい、綿志田です。
春間(はるま)大学鳩星研究室所属の教授。

で、アルテルマンの話に絡んできたので元ネタはもう言わずもがな。
念のため言っておきますが、ディス・レヴ絡みの話は一切ありません。

>大那美の皆さん
思いのほか話が長丁場になったので削ったら出番が殆どなくなってしまった。
リバプールの風になりそうな人が新しく来ています。
一応、本編でセージが披露する予定のある技の前振りのつもりではありましたが。

>ミッチがニアミスになった理由
今回ウルトラマンの話なので、まあ。


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DX11. ホラ吹き凌馬

本編が難産なので番外編に逃げてます。
そしたらこっちはこっちで難産に。

……もうエイプリルフール合わせにしちまえと。
そしたら本編並に長くなっちゃいましたが。
もう少し短くするつもりでした。

なお、その本編では現在アンケート行っております。
よろしければご協力お願いします。
(もう結構経ってますけど……)


某日

ユグドラシルタワー

 

 

「…………光実(みつざね)

 

 

ロックシードの開発、クラックの調査のみならず

沢芽市に発生するインベスやアインストへの対応など、呉島貴虎(くれしまたかとら)戦極凌馬(せんごくりょうま)と言った

ユグドラシルのスタッフは日々の職務に忙殺されていた。

 

 

その中でも、実弟である光実にテロリスト容疑をかけられている貴虎は

目に見えて憔悴していた。 

 

弟の無実を証明すべく、その身を粉にして東奔西走していたのだ。

……物理的には、職務のために沢芽市はおろかユグドラシルタワーに軟禁状態であるために

ほぼほぼネットを介しての行動ではあったのだが。 

 

「貴虎。光実君の事は気がかりかもしれないが、それで君が倒れられでもしたら困る」

 

「……大丈夫だ、凌馬。光実の苦労を思えば、この程度は……」

 

珍しく他人を気遣う凌馬の台詞にも、貴虎は強がって見せているが

その言葉には明らかに力が足りていない。 

 

「ストップだ。もし今君が斬月の運用テストを控えている、と言う状態だったならば

 私は管理者権限でテストを中止するだろうね。それ位、今の君は消耗している」

 

「…………そうか」 

 

実際にアーマードライダーシステムを運用しているのは貴虎だが

そのシステムのコンディションなどを統括する立場である凌馬に強く言われては従う外ない。

無闇に意地を張るほど、貴虎も青二才ではないのだ。 

 

「そうだとも。そう言う訳だから受け取りたまえ。

 本来なら湊君あたりに頼むことだが、彼女も哨戒で忙しくてね」 

 

「ああ……すまんな」 

 

コーヒーの注がれたマグカップを、凌馬は貴虎に手渡す。

互いに激務の中の束の間の休息、と言えよう。

 

 

その束の間の休息の中、貴虎はふと疑問を口にしたのだ。 

 

「……そう言えば、だ。斬月にせよ、龍玄にせよ。

 これらの名前はどこから出てきたんだ?」

 

「あれ、前に言わなかったかい? ただの私の趣味だって」

 

「変身時のガイダンス音声はお前の趣味だってのは聞いたが、名前もそうだったか」

 

ただの個人的趣味。貴虎の質問に対し、アーマードライダーやロックシードの開発者である

凌馬は事も無げに答えた。

スペックは趣味の一言で片づけるにはすまない性能をしているが、それに伴う名前や

変身時に流れる音声ガイダンスは完全に彼の趣味であった。 

 

「まあね。ああ、因みに現状唯一我々の関係者以外が所持している

 ドリアンのアーマードライダー……ブラーボだがね。

 あれも私の趣味だ。なんとなくそう言うイメージが湧いたんだ」

 

「イメージ、か」

 

休息の最中の与太話。コーヒーを片手に凌馬の話に耳を傾ける貴虎。

自分の使っているアーマードライダーの名前と言う

真剣に語るべきでもない話題を凌馬に振っている。

傍からすれば荒唐無稽な話だが、その荒唐無稽を具現化できる。

戦極凌馬は、そうした人物の一人でもあった。 

 

「……で、斬月の名前の由来を知りたいって話だったね」

 

「ああ。だが休憩中の気晴らしの与太話だ。真に受けなくてもいいぞ」

 

「いや、寧ろよくぞ聞いてくれたよ貴虎!」

 

貴虎としては気分転換の話題の一つのつもりだったが、自分の開発品の事について聞かれたからか

凌馬はすこぶる上機嫌である。放っておいてもべらべらと早口大声で話し続けかねない程度には。 

 

「そう、あれは私が以前イギリスに旅行に行った時だった」

 

「イギリス? 斬月と言う名前の響きからは随分程遠い場所だな」

 

貴虎の言う通り、斬月はその名前、デザイン、ガイダンス音声など和風で統一されている。

それなのに、イギリスの話が出てくるとは一体。

貴虎はその時点で疑問に思わざるを得なかった。 

 

「そこでイギリスで起きた事件の文献を目にする機会があってね。 

 

 ……そう、それは十八世紀頃の出来事だったかな。

 今でも駒王町や珠閒瑠(すまる)市と言った場所で悪魔の目撃例は多数あるけれども

 それらはある人物によって炙り出された存在だ。

 尤も駒王町と珠閒瑠市の悪魔は、起源は別だけどね。 

 

 ……で、だ。その十八世紀のイギリスでも、悪魔による暗躍はあったそうなんだ。

 その時に、当時オランダ辺りを経由してやって来たのかな。

 ある一人の侍が、イギリスで暗躍していた悪魔を倒した――そう記されていた。

 その侍の名が……」

 

「読めたぞ。その侍に肖って名付けたんだな」

 

得心がいった様子で貴虎は断言するも、凌馬は薄ら笑いを浮かべている。

してやったり、といったようだ。

 

 

「…………だと言ったらどうする?」

 

「なに? 違うのか?」

 

「私がイギリスに旅行をしたのは本当だが、今話したのは公式な文献なんかじゃなく

 現地に伝わる御伽噺みたいなものだよ。忍者じゃなくて侍って辺りが

 イギリスもなかなか日本の侘び寂びを理解しているな、とは思ったがね。

 いくら私でも、大事なアーマードライダーの名前にどこの馬の骨とも知らない

 著者の寓話の登場人物の名前など付けないさ。 

 

 それに、そうだとしたら斬月は対悪魔を念頭に置いたアーマードライダーに仕上げている……

 そうは思わないかい? 貴虎」

 

「まあ、それも道理か。インベスを悪魔と解釈出来なくも無いだろうがな」

 

言い包められた感は無きにしも非ずだが、確かに戦極凌馬の

その自己主張や承認欲求の強さを鑑みれば、伝説や神話と言ったメジャーなものならともかく

どこの馬の骨ともわからないものを起源にするとは考えにくい。

貴虎の凌馬評は、そこに落ち着いていたのだ。

 

「悪魔対策と言えば。さっき話していた侍も、まさか地力で悪魔を倒したわけではあるまい。

 何かしら、悪魔に対し有効な武器……刀とかか。そう言うのを使ったんじゃないか?

 それを、アーマードライダーに応用してみてはどうだ」

 

「勿論、君に言われずとも既に対悪魔用のロックシードは研究しているさ。

 成果次第では、既存のロックシードにもフィードバックできるかもしれないね」

 

アーマードライダーシステム。それは、人類の叡智にして、自衛の手段の一つ。

戦極凌馬が作り上げたそれは、人ならざるものの脅威にも十分以上に立ち向かえた。

その彼の研究が成果をあげているこの現状。彼にとっては願ってもない状況であるとも言えた。

 

「そいつは頼もしいな」

 

「ああ、任せてくれたまえ」

 

そう自慢げに答える凌馬であったが、その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

(……だが、その対悪魔のデータを仕入れるためには。

 光実君には悪いが、彼にモルモットになってもらうとしようか。

 何せ、今や彼が一番悪魔に近い位置に立っているからね。

 貴虎には、もう既にアインストの相手をしてもらっているんだ。

 今悪魔に喧嘩を売って敵を増やすこともない)

 

その成果のためには。友の弟でさえも売り渡すことを厭わない。

戦極凌馬。その実力や実績は本物であるが、人格はそれに比例しない。

 

その彼の目論見も、貴虎が知ることは無い。

知れば、反対するなり身代わりになるなりするだろうから。

 

「因みに、龍玄はどうなんだ?」

 

「ロックシンガーだよ」

 

「……お前、真面目に答える気が無いだろう」

 

「はっはっはっ、バレては仕方が無いな」

 

雑談に戻り、おどけた様子でけらけらと笑いながら答える凌馬。

その姿に、貴虎はただ嘆息するのみだ。とは言え、貴虎も真剣に尋ねたわけでもないので

そのおどけた様子を責めることは無いし

そもそも、凌馬は普段から大体こうだという事もおおよそ把握している。

 

「俺はてっきり、白を基調とした斬月に対し黒を意味する玄を取り入れたのかと思っていたが。

 防御に優れ、近接戦闘を得意とする斬月に、飛び道具を持ち後方支援に適した龍玄。

 見事に運用がかみ合っていると思ってな。

 俺の斬月はともかく、まさか龍玄を初めから光実が使う事を見越していたわけではあるまい?」

 

「当たり前だよ。光実君にアーマードライダーとして戦ってもらうなんて

 君が許さないだろうと思っていたからね。 

 

 ……だから意外だったよ。

 貴虎がこうもあっさり光実君がアーマードライダーになることを承諾したのは」

 

「光実自身に言われてはな。俺もあいつ自身が名乗り出る形でなかったのならば

 あいつがアーマードライダーになることを認めはしなかっただろうがな」

 

光実がアーマードライダーになろうとした理由。

それは、彼なりに変わろうとした結果だったのかもしれない。

学校生活にはお世辞にも馴染めているとはいえず

その延長線上でストリートギャングの遊びに参加し。

それをひた隠しにしながら、家では兄の手伝いをしている。

その中で、自分を失うまいと変わろうとした結果が

アーマードライダーという力だったのだろう。

 

「とは言え。本当は今でも反対しているんだろう?

 寧ろ、手元に置いておきたい……そう考えているんじゃないかい?」

 

「……否定はしない。だが、いつまでも俺の影に置いておいても、あいつのためにならない。

 そう思っていたんだがな……」

 

光実のためを思い、敢えて色々な経験を積ませるための一環として

ユグドラシルでの自身の手伝いや、駒王学園への交換留学を体験させていた。

 

ところが、結果はこれだ。

光実はテロリスト容疑をかけられ、駒王学園が行った七姉妹学園との合同学習会に参加した際には

その七姉妹学園がある珠閒瑠市で事件が起こり。

これらの事件が立て続けに起こった事で、貴虎も自責と後悔の念を覚えていたのだ。

 

「……そうだな。まるで、彼の行く先々で狙いすましたかのように事件が起きているようだ。

 この沢芽市だって、光実君が出た途端静かになった。

 ユグドラシルタワーと言う戦略的価値のあるものがあるにもかかわらず、だ」

 

「……タワーでは無いだろう。寧ろ、タワーの上にあるもの。

 それが、光実の……いや、我々人類に襲い来る試練の根源かもしれんぞ」

 

ユグドラシルタワーの上空に鎮座し、不気味に佇んでいる建造物――クロスゲート。

その存在はユグドラシルによって隠蔽されているが

そこから現れる存在――アインストに関しては、隠蔽しきれるものでは無い。

そのため、ユグドラシルはインベスの対応に加えて

アインストにも対応せざるを得ない状況になっているのだ。

 

「貴虎。アインストもインベスと同じく……いやそれ以上に厄介な

 『理由のない悪意』と言えるかもしれない。

 ……認めたくは無いが、今ある私達の力だけでは及ばないかもしれない。

 

 ……だからね、借りようと思うのだよ。悪魔の力を」

 

凌馬の提案。それは、貴虎にとっては驚くべきものであった。

神とは対面したことのある貴虎だが、悪魔の情勢については疎い。

その点、凌馬はこうは言っているものの、既に悪魔とのパイプは有しているのだ。

 

つまりこれは、事情を知るものからすれば「白々しい提案」なのである。

 

「――っ!? 正気か、凌馬!?」

 

「正気だとも。だからこそ、悪魔にも対応できるようなロックシードの研究をしていたんだ。

 悪魔の力を借りようとして、寝首を掻かれては笑い話にもならないからね。

 それに……悪魔と言うのは胸先三寸で契約不履行を行ったりするそうだ。

 我々が守るべきは人類の未来だからね。

 人類の未来を胸先三寸で決められてはたまったものでは無いよ」

 

「その人類の未来を守るのに、まさか悪魔の力を借りるとは……」

 

悪魔と言うものを光実からの報告程度でしか知らない貴虎は

凌馬の提案に関して「我々も堕ちるところまで堕ちたか」と思わざるを得ないものだった。

しかし凍結はしたものの、かつて人類の8割程を間引こうとした計画を立てていた手前

貴虎も「自分も似たようなものか……」と胸中で呟いたのだ。

 

「フッ、まあ悪いようにはしないさ。そんなわけで、私は暫くこの日本支部を留守にする。

 置いていくロックシードやドライバーについては好きに使ってくれたまえ」

 

「そうだ。ドライバーと言えば……ドライバーの紛失の件はどうなった?」

 

「流通を追ってみた結果わかったんだが、ディーラー連中の不始末だったよ。

 私の方から締め上げておいたから、貴虎が気に病むことは無いよ。

 警察にも私の方から伝えておいたよ。

 これ以上騒がれるのも、私の周りで警察にうろつかれるのも不愉快だからね」

 

これも凌馬はこう言っているが、ディーラーによるマフィアへの横流しを黙認している状態だ。

手を打つつもりなど、彼には毛頭なかったのだ。

質より量。それは戦極ドライバーの運用実験における凌馬の方針であった。

 

「そうか……悪魔の拠点にはいつ行くんだ?」

 

「今晩にでも発つさ。

 私の留守は湊君に任せるが、くれぐれも君も昔みたいに無茶をするんじゃないよ。

 朱月君に怒られたくはないのでね」

 

「……そうだな。体を壊して、あいつの仕事を増やすわけにもいかん」

 

家族も同然の使用人の顔を思い浮かべながら、貴虎はコーヒーを飲み終える。

そんな貴虎に挨拶を交わし、凌馬も部屋を後にする。

貴虎も、光実は気がかりではあるものの己の職務を蔑ろには出来ない。

ユグドラシルの主任と言う立場と言うよりは、沢芽市を護るアーマードライダーの筆頭格として。

 

アーマードライダー。

それは、ストリートギャングであるビートライダーズの用いる戦力となるはずだった。

だが今は、理由なき悪意に晒される沢芽市を護るための

ユグドラシルが運用する、自衛のための戦力。

それが、この世界におけるアーマードライダーの役割になりつつあった。

 

 

「――さて、と。すまないがもうしばらく私のホラ吹きに付き合ってもらうよ、貴虎。

 アジュカの推し進めている計画も、私にとっては渡りに船なんだ。

 

 …………君が凍結させた、あの計画を私流にアレンジさせて再開させるためにもね」

 

誰もいない廊下。

戦極凌馬は独りごちりながら、自身の研究室へとその足を向ける。

 

――研究室にある魔法陣から、アジュカ・ベルゼブブの下へと向かうために。

 

アジュカにとっては、祭典の来賓として親しい知己を呼んだに過ぎない。

しかし凌馬にとっては、自身の研究の進歩のための足掛かりに過ぎない。

 

貴虎と理想が食い違っているように、アジュカともまた求めているものは食い違っていたのだ。

それは悪魔と人間の違いによるものでは無い。

 

ただ、戦極凌馬と言う存在が良くも悪くも唯我独尊を自負していたが故なのだ。




以前感想欄でも言われたBloodstainedネタ。
開発経緯こそオカルト入ってますが、アーマードライダーの斬月は
あちらさんの斬月ほどオカルトじゃないです。空即是色もしません。
ネタを拾っただけなので、別に十八世紀のイギリスで当時のグレモリーが暴れたとか
そう言う話はありません。


実は今回、斬月の名前に関するネタやりたいがためだけなので、別にクロス要素取っ払えば
鎧武の二次創作としても成り立ちそうな話なんですよね……
一応友人としての接点は最後の最後まであったっぽいですし。貴虎と凌馬。
それを軽く上回るレベルで貴虎が(対人において)節穴で凌馬が性格クソだったわけですが。

ちなみに龍玄はToshl。この時点で貴虎にも「真面目に答える気が無い」と突っ込ませてます。


ミッチ。
実は彼も鎧武本編と比べると若干成長してます。アーマードライダーになることを兄に直談判したり。
それを貴虎が認可したのも鎧武本編考えるとあり得ない部分ではありますが。
メンタルにおいては鎧武本編より強いかもしれません。多分。
テロ容疑かけられていたり、珠閒瑠市の事件について触れられているので
今回の時系列は本編で言えばセージがシャドウと戦う少し前あたり。


凌馬。
実は書いてて楽しいタイプのキャラなんですが、整合性も考えるとなると
「ここでこれ以上貴虎にばらしはしないだろ」とか「いくらこいつでもそこまでは言うまい」とか
何気に制約かかる場面もしばしば。
あくまで「自分の研究」こそが最重要であるので、悪魔の力や研究も
「自分の研究を引き立てるための添え物」程度にしか見てません。
一応、貴虎に関しては割と本気で心配してますが。利害が不一致になったら容赦なく切るだけで。


貴虎。
実は「ミッチの自主性もある程度以上に重んじている」この一点において鎧武原作以上の存在になったかもしれない人。
まあ(ネタバレのため検閲)要素含んでますので。
しかし今回それが裏目に出て、結果として鎧武原作みたいなことに。
ミッチのために良かれと思ってした行動(駒王学園への交換留学)が結果として大事件に巻き込まれる羽目に……


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DX12. 駒王警察署特設リングにて

ご無沙汰してます。
ネタは浮かべど筆が進まず、身体的疲労と精神的不調が重なって
かなり間が開いてしまいました、すみません。

今回は年明け早々に起きた事件を受けて
「大変な時期だけど盛り上げていこう」と言うコンセプトで。

故に、ちょっと悪戦苦闘したかもしれませんが。


一時に比べれば避難所生活をしている人々は減ったものの

物理的に家が破壊されたり、アインストのミルトカイル石や

インベスのヘルヘイムの実などで汚染されているなど

帰宅困難になっている者も確実に存在している。

 

また、自宅に戻ることが出来たとしても

度重なる町内での戦闘行為等で心休まる暇は住人には無かった。

ここまでの事態になってしまっては、悪魔のお家芸とも言える記憶操作による

カバーストーリーを組み立てるにしても無理がある。

そもそも、既にフューラー演説によって怪異の存在は公に知れ渡っている。

最早、記憶操作など何の意味も成さない状況なのだ。

 

しかし、この有様を目の当たりにしても

それでも人々はこの絶望的な今を生きようとしていたのだった――

 

 

――――

 

 

某日、駒王警察所前避難所。

 

「……元気づけるための興業で、プロレスをやる……か」

 

眉間にしわを寄せながら、提案された意見を復唱しているのは

警視庁超特捜課課長、蔵王丸(ざおうまる)警部。

彼は元々駒王警察署の所属では無いが、超特捜課が駒王警察署を拠点としている関係上

代表のような立ち位置となってしまったのだ。

 

「やるのは構わんが、設備とかどうするんだ。

 言っとくが、俺ら超特捜課にそんな余裕は無いぞ」

 

「そこは俺達が何とかやります。警察の訓練施設の一角を使わせてもらえれば。

 そう思って、提案したんですが……」

 

蔵王丸警部と交渉しているのは同じ超特捜課特別課員の宮本成二。

彼は駒王学園に籍を置いている都合上、特別課員として

超特捜課の治安維持出動に参加している形となっている。

 

ちなみに、プロレスの立案は彼ではない。

彼の中学時代の友人の一人にして、大那美高校の山田頼牙(やまだらいが)

レスリング部である彼のきっての希望により

興業と言う形でプロレスが行われることとなったのだ。

したがって、本当のプロレスラーが来るわけではない。

 

「……ま、いいだろう。だが成二、怪我人とか出すなよ?

 俺達もプロレスのルールは知らねえから、レフェリーだって出来ねえ。

 その辺もどうにかしなきゃ、興業にならねえだろ」

 

蔵王丸警部の指摘に、セージも黙り込む。

セージもまた、レフェリーが出来るほどプロレスには詳しくないのだ。

ついセージが頭を抱え込んでいると、どこからともなく声が響き渡った。

 

 

「そう言う事なら、俺に任せなさい」

 

「ん? ……ああ、お前さんか」

 

 

入って来たのは元教会の戦士にして、今は怪異絡みの事件によって

身寄りを無くした子供達を引き取っているNPO法人「蒼穹会(そうきゅうかい)」に所属している伊草慧介(いくさけいすけ)

蔵王丸警部もまた、蒼穹会には顔が利くために、二人は顔見知りでもあった。

 

「お久しぶりです、蔵王丸さん。こっちに来たとは聞いていたんですが」

 

「お前こそ、結構やんちゃをしたって聞いてるぞ。駒王署の連中に迷惑かけてないだろうな?」

 

立場は異なれど、気心の知れた顔なじみと言った具合に言葉を交わす二人。

砕けた挨拶もそこそこに、慧介は本題を切り出す。

 

「話は聞かせてもらった。レスリングのレフェリーなら、俺に任せなさい。

 めぐがプロレス好きでな、付き合っている間にルールを覚えてしまった」

 

そんな背景が、とセージが思いながらも事情に明るい者が携わるのは話が早い。

そう考えたセージは、早速慧介にレフェリーを頼むことにした。

 

「任せなさい。で、誰がリングに上がるんだ?」

 

リングに上がるのは頼牙とセージ。

普通に戦えばセージに軍配が上がるのは明白だが、これはプロレスだ。

実際の力量差云々よりも、どれほど派手で見栄えがするかの方が重要視される。

その点において、セージの戦闘スタイルはプロレス向きとは言い難い。

普段能力が明らかに上である悪魔やアインスト等を相手にしているため

どうしても堅実な立ち回りを要求されるのだ。

力と技でのぶつかり合いは、アモンの独壇場なのだ。

 

(俺が出てやろうか?)

 

(やめてくれ。頼牙を殺す気か)

 

当然、今回アモンを出すわけにはいかない。

デーモン族のアモンと、マグネタイトによる補強の全くない

正真正銘生身の人間の頼牙とでは、プロレスの知識以前の問題だ。

 

「それじゃ華に欠けるわねぇ。私達にも一枚噛ませてほしいにゃん」

 

頭を抱えていたセージの背後から、ぬるりと黒歌が絡んでくる。

黒歌もプロレスの知識は無い。はずなのだが。

しかし、その傍らには妹の白音もついている。こうなると、少し話は変わる。

 

「やっぱりみんな女子プロも観たいと思うのよ。レスラーなら当てがあるから大丈夫にゃん。

 ね、白音」

 

「…………修行の一環、という事ですので」

 

修行の一環。彼女は現在、宮本家の近所にある四川料理屋「縦横不敗(じゅうおうふはい)」でアルバイトをしている。

そこの店主である十文字修司(じゅうもんじしゅうじ)に、格闘技と気功術の教授を受けているのだ。

戦車(ルーク)」の頃の近接戦闘の癖が抜けておらず、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の無い現状で近接戦闘を続けるのは

身体能力的にもリスキーである。矯正が難しいのならばと、悪魔の駒とは別のアプローチで

近接戦闘をこなせるようにしようと言う、黒歌の提案でもあった。

 

 

――店の制服でセージにちょっかいをかけさせようという入れ知恵もあるのだが。

 

「そういや拳法ならってるんでしたっけ。異種格闘技ってわけですか。

 それなら構いませんけど、ドレスコードは加えさせてもらいますよ。

 黒歌さんに任せたんじゃえらいことになりかねない」

 

「それはそれで需要があると思うんだけど……まあ、仕方ないにゃん」

 

ここは警察の管轄の敷地である。警察のお世話になりそうな興業は出来ない。

黒歌の普段の言動から過剰に心配したセージは、念入りに釘を刺す。

釘を刺されていなかったら実行に移したのか。

後でお蔵入りを見せるという黒歌。

つい想像してしまったセージは、頭を振りながら表に出さないようにして

黒歌に塩対応を返している。

 

「ところでドレスコードって、そんなにヤバいものなのか?

 いや、場合によっちゃ許可を取り消さざるを得んからな」

 

「やらせませんよ。普通にジャージで……」

 

「そんな色気もへったくれも無い芋ジャージでやる女子プロレスなんて誰が見たいにゃん!?

 それは断固として拒否するにゃん! 折角白音と合わせでコスチューム用意したってのに!」

 

「……それ今初めて聞いたんですけど。でも気になるので見せてください」

 

ジャージでのプロレスと聞いて、断固抗議する黒歌。

それでは確かにプロレスの興業と言うよりは、体育の授業である。

黒歌も白音も素材がいいので、それでもそれなりには見栄えはするだろうが

黒歌は一切納得しなかった。

白音も黒歌の用意したというコスチュームに興味があるのか、食いついている。

それじゃあ、という事で外に出て着替えてくることとなったのだ。

 

 

――――

 

 

「いえーい! やっぱ私の見立てに間違いは無かったにゃん!」

 

「……でもちょっと、恥ずかしいです」

 

白音が恥ずかしがる通り、そのコスチュームとは純白のレオタードにスカート状のフリルを拵えた

レスラーと言うよりもアイドルのようなコスチュームだったのだ。

女子プロでも可愛い路線とかだとあるのかもしれない、そういった類である。

 

「これは……いいのか?」

 

「あ、アイドルのコンサートみたいなもんだと思えば……」

 

「最近のアイドルはプロレスもするのか。

 そりゃ聞いた話じゃ一次産業に手出してるアイドルもいるらしいがな」

 

セージも思わず蔵王丸警部や慧介と顔を見合わせ、アイドルのコンサート、という事で

各々納得することにした。

 

尚、その後黒歌が披露した自分の分だが、こちらは一昔どころか二昔前の

特撮の女幹部と言った趣で、今となってはパロディでこすられる程度にしか用いられない

デザインの、刺激的なコスチュームだった。

 

……こっちは男性陣三人でかなり揉めたが、悪役(ヒール)担当って事で納得してもらうことにした。

ちょっとだけ、子供番組制作における放送倫理会との兼ね合いで苦心する

番組製作陣の気持ちがわかったような気もしたセージであった。

 

尚、頼牙からの好評の意見は下心が見えすぎるという事で

あまり意見としては反映されなかったようだ。

 

 

――――

 

 

頼牙の思い付きから始まったプロレス興行だが、思いのほか好評を博した。

どれくらい好評だったかと言うと、今回の興業が本物のプロレス団体の耳に入り

そこの花形レスラーである「ニン肉マン」をはじめとしたレスラー達による

慰安も兼ねた興業の約束が取り付けられたのだ。

実際のところは以前から行われている興業の一環ではあるのだが

応援興業という事で、駒王町や沢芽市などにも訪れることが決まったのだ。

 

白音と黒歌の試合も、かなりの好評だった。

元々は白音の訓練の一環だったのだが、黒歌のマイブームにプロレスがあったらしく。

その点においても趣味と実益を兼ねたとのことである。

頼牙から手合わせを熱望されているが、これも軽くあしらわれてしまっている。

 

 

――その頼牙とセージの試合だが。

セージは頼牙の必殺の掌底を受けてからのパワーボムで沈んだ。

いくら打ち合わせた上での流れとは言え、セージの普段の戦いを知る者からすれば

呆気ない、と言う返答が返ってきてもおかしくない試合の内容であった。

 

「……セージ先輩、もうちょっとアモンに頼らない体技も鍛えた方がいいと思います」

 

「……俺もそう思う。と言うか、これでも凰蓮(おうれん)軍曹から鍛えられたつもりしてたが。

 やっぱ付け焼刃か。この調子で凰蓮軍曹に再会したらまたどやされちまうし

 今度特訓に付き合ってくれないか」

 

白音からの指摘にも、セージはぐうの音も出ない程に何も言い返せずにいた。

実際彼の戦闘スタイルは、直接前に出るよりは後方からの戦いの方が相性がいい。

と言うよりは、前に出て戦うことに関しては最近専らアモンに一任しているのだ。

実際正しいのだが、自衛も出来ない程となると話は変わってくる。

その事をセージも自覚しているのか、白音の指摘は素直に受け入れ

訓練の打診を返答としていた。白音もまた、この打診には二つ返事を返していた。

 

 

「布団の中じゃ中々の実力なのにねえ。

 せっかくだしセージ、白音との特訓、布団の中でもやったらどうにゃん?」

 

「黙ってろ色ボケ猫」

 

――一方で黒歌の茶々には塩対応を返しているが。

 

「ん-、でも真面目な話。掌底打ちも気功を合わせたらすごい威力になるにゃん。

 セージが喰らってよろめいてたと思うけど、あれ当たった瞬間に気を流し込んだら

 普通にぶっ飛ばせる威力出せるわよ。顎とか狙ったら人型なら潰せるわね、多分」

 

「元々、掌底って力任せの技じゃないっすからね。

 そりゃ力任せの派手な技もいっぱいあるっすけど、無理に仕掛ける技は自滅にも繋がるっすよ」

 

「……あ、それはなんとなくわかります。

 師匠に教わったライトニングフィンガーも、掌底の発展形の技ですし」

 

頼牙の掌底も、白音さんのライトニングフィンガーも見た目以上の威力を出している。

ライトニングフィンガーは白音の気が発する光からいくらか派手にはなっているが。

力任せの技ではない、それはつまり仮に「戦車」時代にライトニングフィンガーを会得し

「戦車」の力でライトニングフィンガーを繰り出したとしても

技の威力にそこまでの変化はなかったかもしれない。

逆に言えば「戦車」時代と変わらぬ威力の技を繰り出せるという事で

ライトニングフィンガー、ないし十文字修司の流派「縦横不敗」は

今の白音と相性がいいと言える。

 

実際、「縦横不敗」の教えは

「自分自身もまた天然自然に生きる自然の一部。故に大自然に流れる気を己のものとし、

 自身の気も大自然のそれと重ね合わせ、還元し、自らに活かすものとする」と言う

自然の中に存在する大いなる気の流れと一体化することで、身体の気の流れを活性化。

自然を、地球を愛し共に生きようとする十文字修司の考えに基づいている。

 

これは奇しくも、白音の弱点であった

「身体の気の許容量に対し白音が持つ気の量が多く、暴発しかねない」という

下手をすれば命にも関わる、致命的な弱点の克服にも繋がっていた。

 

 

白音の訓練と、セージの問題点の洗い出し。

そして何より、避難所生活を強いられる一般の人々への活力の供給。

それらをして、頼牙が発案したプロレスの興業は成功したと言えるだろう。

 

何気ない生活を送る一般の人々がいるからこそ、超特捜課も、セージ達も戦えるのだ。




本編では謎()のレスラー、マスク・ザ・ハチワレとカムカム・ミケとして活動している
黒歌と白音。
何でそうなったのかと言う補足も兼ねて。
時系列は特に考えてませんが、一応珠閒瑠市行く前のどこか、です。

>伊草慧介
何気に久々登場のなg……伊草さん。
嫁さんの元ネタキャラもプロレス好きそうなイメージが。
拙作では嫁に付き合ってるうちにプロレスのルール(お約束)を覚えてしまった。
頭の固さ的に台本ありきなプロレスの戦いは苦手そうだけど。

>山田頼牙
セージの中学時代の級友の一人。現在は大那美高校のレスリング部。
名前の由来はリバプールの風、と言えばお分かりかと思います。
彼も永井豪由来ですし。そう言えばファイヤーからサンダーにパワーアップしたのは
あるプロレスラーの名前が「山田」だったからでしょうか。
音読みしたらサンダーになりますし。多分関係ないか。
黒歌がプロレスにハマったのは彼の持ってるマンガ「ニン肉マン」のせい。

>ニン肉マン
元ネタは言わずと知れたアレ。
なんかザ・ニンジャあたりと混じっちゃったデザインしてそう。
この世界にはキン肉マン達超人はいないので、興業している彼らは
マンガのキャラクターを基にしたプロレスラー。
よって2世で出てきたインチキ超人レスラーとかではなく
正真正銘ガチのプロレスラー。ただキャラクターを売り出しているだけで。


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セージの劇的ビフォーソウル
Before Soul1. どのようにして彼と出会ったのか


色々思うところが最近あったので気晴らしで書いた短編。

本編前、セージがどうやって変態三人組との絆を持つに至ったのか。
と言うところにスポットを当てられればと思います。


短編ではありますが、続き物となっております。

8/25追記
舞台設定について、活動報告に設定を載せておきました。
金座とか大那美とか聞きなれない単語についてはそちらもご参照ください。

あ、ネタも募集してますのでよろしく。



余談

伊26来たよー
あと2人目の高波

以上余談


――1年前。

 

私立駒王学園生徒、元浜某が私立金座(かねざ)高校の女子生徒に脅迫される事件が起きた。

 

これは、その際に偶々通りすがったある少年の出会いの物語である――

 

――――

 

俺は宮本成二(みやもとせいじ)

紆余曲折を経て、家からほど近い私立駒王学園に入学することが出来た。

しかし、私立と言う事で学費もバカにならない。

その分、母に迷惑をかけてしまっている。

父はいない。と言うか、顔さえも知らない。

だからこそ、俺は学校の終わった後に町のショッピングモールでアルバイトをしているのだが……

 

……まさか、小さいころよく一緒にいた明日香(あすか)姉さんと同じ職場だったなんて。

幸い、レジの明日香姉さんと品出しの俺は顔を合わせる機会はそう多くないが……

けれど、それを抜きにしても明日香姉さんの態度は妙によそよそしかった。

それは「聞くな」と言う無言のオーラで俺に伝わってくる。

久々の再会だと言うのに、妙なしこりを残す結果になってしまった……

 

 

……そんなわけで、有体に言えば俺は今あまり機嫌がよくない。

そんな最中、信号待ちをしているときに何やらよからぬ光景を目撃してしまう。

アレは確か金座の制服だよな……相手は……うちか……

 

……って! アイツら何やってやがる!

俺は慌てて原付から降りて、その現場に駆けだしていく。

 

 

「……しけてんわねぇ。これが天下の駒王なの?」

 

「ほんとほんと。ま、こいつ見た感じで雑魚っぽいし?

 道理で簡単に引っ掛かると思ったのよ……」

 

「や、やめてくれよ……それ、俺の今月分なんだ、返してくれよ……へぶっ!?」

 

うちの生徒の顔面に、金座の女子生徒の蹴りが入る。

うわ、これあからさまに暴行だろ。警察に言うべきか?

いや、他に誰か……

 

とにかく、大声を出してみよう。

 

「おいっ! そこで何をやってるんだ!」

 

「た、助けてくれ! こいつら、俺の財布を……」

 

四つん這いになりながら情けない恰好でうちの生徒がこっちに来た。

こいつ確か……あの変態三人組の1人、元浜じゃなかったか?

特徴的なメガネは見るも無残に割れており、顔もボコボコだ。医者コースだなこれ。

メガネは……ご愁傷さまか。結構高い代物なのに……

 

俺は元浜の状態を確認した後、金座の生徒に目を向けなおすが

全然悪びれる様子もない。金座の黒い噂、大那美(だいなみ)甲次郎(こうじろう)から聞いていたのは

どうやら本当らしいな。

 

「ちょっ、変な言いがかり付けないでよ!

 こっちはそいつに変な事されそうになったから、懲らしめてやっただけよ!?」

 

「そうそう、いきなり声かけてくるわしつこいわで、ちょっとお灸を据えてたのよ!」

 

うわぁ。まあそう来るだろうなあとは思っていたが。

俺も噂では変態トリオの活躍――勿論悪い意味でのだが――を知っているために

彼女らの言葉にもある一定の信憑性が出来てしまっている。

 

「…………」

 

「ち、ち、違う! 違うって! 声かけたのは本当だけど、かけたのはむしろ向こうから!

 俺はここを通りかかって、今日出る新作を買おうと思ってたのに

 こいつらがいきなり……」

 

この狼狽ぶりも本当っぽいな。さて、俺は一部始終を見ていない。

着いたら元浜が蹴られている現場に出くわしただけだ。

俺の知識の中では――

 

・元浜は学園内の素行は良くない。

 

・金座も黒い噂がある。

 

・元浜は物的損害を既に受けている。

 

これらの情報を統合すれば、答えは一つだった。

 

「……あー、だったらこいつは俺が身柄を預かるって事でいいか?

 だから、その取り上げた奴をさっさと返してくれ。

 こいつだってメガネが無いと生活もままならんだろう。

 そのメガネの修理代位は持たせてやりたい」

 

「――ちっ。じゃあしょうがないわね、はい」

 

「もう二度と変な真似するんじゃないわよ――出しゃばりが」

 

投げ寄越された財布を受け取り、中身を本人に確認させたのち

俺達は現場を後にした。現場は路地裏。

元浜の証言を鵜呑みにするならば、甘言で連れ込まれて財布を……

 

ってシナリオだったんだろうな。で、そこに俺が入り込んだからおじゃんになった、と。

ま、いずれにせよ……

 

……どっかでこいつのけがの手当てをせにゃならんな。

 

――――

 

表通りから少し中に入ったところにある公園。

用意したけど結局使わなかったタオルと水飲み場の水を使い、元浜の顔を拭ってやる。

 

「あだっ! いだだだっ! くぅ……なんでこんなガタイのいい男に手当されてるんだよ……

 もっとロリロリな、例えば小猫ちゃんみたいな子に手当されたかったぜ……いででっ!?」

 

「助けてもらって贅沢言うな。ま、そんな事を口走れる元気があるなら大丈夫そうだな……

 っと。あとどこか痛いところはあるか? 俺としては病院行きを勧めるが」

 

「病院かぁ……行くと今日の新作の限定版DVDが手に入らないかもしれな」

 

「よし病院だ。送って行ってやる。後ろのれ。早くしろ。受付が閉まる」

 

呆れた奴だ。こんな時にまでエロDVDの話か。その様子なら病院は行かなくてもよさそうだが

メガネは割れるわ顔はボコボコだわで見てる方が痛々しいんだ。

俺がやったのだって、応急手当にもならない俄仕込みだ。

そんなわけで、俺は半ば強引に元浜を原付の後ろにヘルメットを被せて乗せ、キーを刺す。

 

時速30キロ。歩くよりははるかに速いスピードで駒王総合病院までたどり着いた。

平日の夕方と言う事もあり、少々混んではいたものの診察や治療自体はスムーズに進んだ。

流石医者。やはりこういう時はプロに任せるに限る。

 

俺は余計な金を持っていなかったため

治療費は元浜の新作DVDの軍資金から捻出することになったが。

 

「よし次はメガネだな。元浜、行きつけの眼鏡屋は何処だ?」

 

「ふざけんなバカヤロー! 新作DVD買えなくなっちまったじゃないか!

 これ以上俺に何の金を出させ……」

 

「……病院だ、静かにしろ」

 

限定盤に執着する気持ちはわからんでもないが、時と場所をわきまえろ。

ここは病院だぞ。静かにすべきところだぞ。そんなわけで俺は元浜の肩を掴みながら

握り拳を作り、息を吹きかけるモーションを取っている。

流石にけが人相手に実際にぶん殴るわけにはいかないし、ここは病院だ。

これには元浜も反省したのか、「アッハイ」と言わんばかりの態度で委縮、大人しくなる。

 

ともあれ、流石に少し暗くなったこともあり家に連絡を入れる。

元浜にスマホを貸し、家に連絡を入れさせる。

その際、俺にアイコンタクトで「事件の事は話すか?」と聞かれたが……

はっきり言おう。俺に聞くなよ。そりゃ自分から首を突っ込みはしたが。

お前が遭遇した事件だろ、言う言わないはお前の自由だと思うが。

後後の事を考えれば、言うべきかもしれないけどな。

 

――――

 

結局、元浜は一部始終を話し、警察にもこの事件の事は伝わることとなった。

尤も、甲次郎曰く

「金座は権力でも動いているのか

 後ろめたいことやっても逮捕者が一人も出ていない」らしいので

警察もどこまであてにできるかわからないが。

 

そんなわけで、メガネを修理するはずが警察で事情聴取を受けることとなり

2人して警察署から出た時は既にくたくただった。

幸い、担当の氷上(ひかみ)って警察官がうどんをおごってくれたので晩飯の心配はなかったが。

 

「……なんか、色々と大変だったな。悪いな、変なことに巻き込んじまって」

 

「気にするな。てめぇで勝手に首突っ込んだんだ。謝る事じゃない。

 まぁしいて言うなら……スケベ根性は今後程ほどにしとくべきだな」

 

「ああ、全くだ。でもやっぱ男のロマン! ううっ、捨てがたい……」

 

あ、これ近いうちにまたバカやらかすわ。

やれやれ、またこんな事件起こされても俺も困るし後味が悪い。

仕方ない、こうなったら……

 

「元浜。もしよければ、俺がボディガードに名乗り出てもいいんだが」

 

「ええっ! いいのか!? じゃあ今度女子更衣室の……」

 

「あ、そういうのは却下で。今日みたいに金座とかの

 アホみたいなハニートラップに引っかかった時用だ。

 むしろそういうのは積極的に妨害していくんで宜しく。

 俺だって同級生が犯罪者なんて嫌なんだよ」

 

警察署のど真ん前で犯罪実行を声高らかに宣言しようとするこのアホっぷりに度肝を抜くが

そういうのも矯正できればいいなとは思う。

ガチガチの真人間ばかりで世の中回らないのは事実だが

だからって犯罪に手を染めていい理屈はない。

 

そもそもその性犯罪のせいでもてるにしたってマイナスからのスタートじゃないか。

それをプラスに転じるには……こりゃ、骨が折れそうだ。

 

「ま、まあ俺ももうあんなのはこりごりだし……よし、じゃあボディーガードっつーか

 俺の友達って事で! 改めて、俺は元浜だ! えっと……」

 

「成二だ、宮本成二。セージでいい」

 

「ああ、よろしくな、セージ!」

 

これが、俺の元浜との出会いだった。

それにしてもこの日は色々とあり過ぎた。

とっくに頭の中がパンクしていたのか、家に帰るなり家事もせずに眠ってしまった。

 

 

……ばあちゃん。こんなだけど、俺は元気にやってるよ……




何気に本編に登場済みのキャラも何人か出ていたり。
明日香姉さんとか氷上巡査とか。
超特捜課はまだ発足していないので氷上巡査もただの人間もとい巡査です。

ちなみにセージが彼女に告白したのはこのもう少し後の時間軸。
いずれにせよ、まだはっきりと悪魔や堕天使と言った連中と関わる前の
とっても平和な時期の話です。なお水面下

あと、「金座が権力でも動いているのか~」という件については
本編「Tragedy of juvenile crime」に答えの片鱗が……

時間軸的にこのセージには
紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)はおろか
記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)もありません。
後者はともかく、前者は使う必要皆無ですけどね。

>小ネタ

マイナスからのスタート
それをプラスに~

Double Action Strike formより。
ダブアクと派生曲は結構名曲ぞろいと思います。



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Nice to meet you?

セージと元浜が出会った後の日常。
今回は三人称視点です。

そう長くない(はず)なので適当にお付き合いくださいませ。


駒王学園・女子更衣室前。

 

ここに、三人の男子生徒がいる。

ここは女子更衣室、男子は用のないはずの場所である。

それなのにここにいると言う事は、即ちいかがわしい目的に他ならない。

 

「ど、どうなんだよ松田……」

 

「しっ! 押すなイッセー! バランスが崩れる!

 おおっ……こ、これはなかなか……」

 

この駒王学園に籍を置く一年生、松田某、元浜某。そして兵藤一誠。

彼らは元女学園であるここで、周囲の迷惑を顧みず下ネタを振っては悦に浸る

所謂「変態三人組」として悪名高い存在である。

その名の示す通りに、更衣室の窓から中を覗き込んでいる丸刈りが松田。

それを支える形で一誠、周囲を見張る元浜と歪ではあるが

チームワークは取れていた。

 

――――

 

さて、ここで彼らの悪行と言われる行いについて触れておこう。

 

学校へのセクシー系のDVDの持ち込みや公共の場での猥談に始まり

そもそも閲覧が法令で禁止されているはずの18歳未満お断りな本やDVD、ゲームでさえも

学校に持ち込んでいたりしているのだ。

 

勿論、そのような行いは元女学校であることを抜きにしても認められるはずがない。

教師に咎められ、没収の憂き目にあうのも日常茶飯事のレベルである。

その頻度には、生徒会や教師陣も頭を抱えており

近々水面下で警察にも動いてもらうプランさえも立っているほどだ。

 

表沙汰に警察を動かすと学校の名前に傷がつくと言う理由から

大々的に警察による巡視の強化が行われていないのは

公立以上に名前を気にする私立高校の弱点であるともいえよう。

 

それにもかかわらず、彼らの目的は「女子にもてたい」と言う

多感な男子にしてはありがちな、そして分不相応極まりないものであり

同じ一年でありながらそのルックスで女子を魅了している木場祐斗には

激しい嫉妬の念を向けている。

 

自らを高めるどころか貶め、それでいて他人を羨む輩の末路など、決まっていると言うのに。

 

――――

 

「ん? おい元浜、お前は来ないのか?

 見張ってくれる分には俺らは助かるけどよ」

 

「あ、ああ……いや、そろそろ『アイツ』が来る頃かな、って……。

 だ、だからそろそろ撤収したほうが……」

 

一誠の疑問に、元浜は少々声を震わせながら答える。

「アイツ」。それはこの駒王学園において、少々の異彩を放つ存在でもあった。

松田と一誠はその存在を僅かな噂でしか知らない。

 

「何言ってるんだよ! 今ちょうどいいところなんだから……」

 

「何っ!? お、おい松田! 俺にも見せろっ!」

 

しかし元浜は、その存在をよく知っている。

いつぞや、カツアゲに遭ったところを彼に助けてもらっているのだから。

そう、その人物は――

 

「よう皆の衆。そんなところで集まってどうしたんだ。

 何か面白いものでもあるのか、俺にも見せてもらおうか?」

 

その存在は、笑っていた。

しかし、その眼には松田と一誠とは別のぎらつきが見えている。

笑うという行為は、本来攻撃的な行為であるとは誰が言ったものだろうか。

その存在がたたえていた笑みは、平和的なものではなく

明らかに威圧的なものであった。

 

その存在を知っている元浜だけが、必死になって言い訳をしている。

 

「ま、まままま待ってくれセージ! 俺はやめようって言ったんだ!

 こんな、こんな女子の尊厳を汚す様な行為!

 モテる男のすることじゃないからやめようって!」

 

「あっ! 元浜てめぇ裏切ったな!」

 

「セージ……も、もしかしててめぇ! 『駒王番長』宮本成二か!?」

 

「……確かに俺は宮本成二だが、誰がそんな名前付けるんだよ。

 それより、こんなところで騒いでいていいのか?」

 

セージと呼ばれたその存在は、顎で更衣室のドアを指し示す。

すると、着替えも最低限に鬼のような形相で女子が次々に飛び出してきたのだ。

その様子を見るや、セージと呼ばれた存在はさっさと踵を返して立ち去ってしまう。

 

「俺も変なのに巻き込まれるのは御免なんでな。

 あ、因みに大声出させたのはわざとだから。こってり絞られて来い。

 よかったな、女子と話が出来て」

 

「「「よくねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

 

その後、当然のように変態三人組は絞られ、教師に呼び出され

生徒会長に嫌味を言われる結果になってしまう。

遠巻きにその様子を眺めているセージは、あんぱんを頬張りながら呆れた様な顔をしていた。

 

「……俺は確かに元浜の矯正を試みるというニュアンスの事は言ったが。

 思ったより重症じゃねぇか、これ」

 

――――

 

それから、元浜との約束のためにセージはバイトの無い日にはボディガードを受け持ち

時には勉強を教えてもらいながら、時には変態三人組のセクハラ行為を未遂に防ぎ

折檻を加えながら少しずつ、松田や一誠とも距離を縮めていた。

 

「……で、何で俺がお前らの買い物に付き合わないといけないんだよ」

 

「いやぁ、お前なら私服じゃ絶対高校生に見えなさそうだし?

 エロ本買うにはうってつけじゃねぇか、ってさ。

 いいじゃねぇか、お前の分も俺らが金出してやるからさ。

 じゃ、これ買ってきてほしいもののリストな。間違えるなよ?

 元浜はロリ系。イッセーと俺は巨乳モノ。」

 

「やれやれ。但し、条件が……」

 

「わーってるって。学校には持ち込むな、だろ?

 約束だもんな、ボディガードしてもらってる以上俺も迷惑はかけたくないし」

 

「……それがわかってるならいい。こういうのは秘めてこそ華だ。

 秘密の共有ってのも友達っぽくて悪くはないしな。

 ……それがこういう内容って事に、言いたいことが無くはないが。

 あと元浜。そう思ってるなら少しは学校でも自重しろ。そしてこいつら止めるの手伝え」

 

「何言ってるんだ! エロこそ男の生きる原動力! おっぱいこそ正義!

 お前だっていつか分かる時がくるさ、セージ!」

 

半ば丸め込まれるような形か、あるいは彼にも多少なりとも興味があったのか

学校の終わった後、三人組の買い物にセージは付き合わされることとなった。

平たく言えばパシリであるが、彼の外見は私服ならば大学生と見紛うものでもある。

それ故に、彼に白羽の矢が立ってしまったのだ。

 

正直に言えば、彼らとは別口でセージも好奇心から

こういういかがわしい本屋にこっそり入った経験はある。

あまりのカルチャーショックに何も買わずに逃げ出したが

こういう世界があることは知っているのだ。

それもあってか、買い物自体はそつなくこなすことが出来た。

 

(……やっぱマズいんじゃないかなぁ。俺まだ15なんだけど……)

 

……それと同時に、達成感と共に嫌悪感も生まれることになったが。

本当の事も言えないので、胸の内にしまっておくことになるだろう。

そして、買ってしまったものの保管場所も考えなければならない。

ベッドの下は定番すぎる。川辺に捨てるのも勿体ない。

いつか姉ともいうべき存在の憧れの人から聞いた

「プレゼントは相手がもらって喜ぶものを~」と言う言葉がなぜか過る。

それは、取り回し的な意味も含めての事なのだと

今更ながらに思い知らされた15の少年であった。

 

「お、帰って来たな」

 

「こんなところでたむろされても困るからな。ほらよ」

 

「おお、さすがセージ。しっかりリクエスト通りにやってくれてるぜ。

 だから言っただろ松田、イッセー。セージは頼りになるって……はっ!」

 

この企画は元浜が立てたものであった。

自分達では出来ないことを、セージならば出来る、やってくれる。

そう思ったが故に出来心で立ててしまったプランが

まさか実現するとは元浜自身思っていなかったのだ。

しかしそれは、セージにしてみれば「体よく利用された」と判断するには十分な失言でもあった。

 

「元浜……はぁ。まあそんな事だろうとは思ってたよ。

 最初に言ったよな? 俺はお前らの変態行為は積極的に邪魔するって。

 今は学校関係ないからって俺もちょっと甘くなってた部分もある。

 けれど、年がら年中その調子だといつか俺も庇いきれない事態が来るぞ。

 そうなったときは、俺は遠慮なく友人としての縁を切るからな」

 

「なっ、何もそこまで言う事はねぇじゃねぇかよ!!」

 

「兵藤。友情ってのは篤くあるべきだが、同時にとても脆いものだ。

 ふとした拍子でボロボロになってしまう事がある。

 俺にも俺の友人が一応いる。そんな彼らの顔に泥を塗るような真似は俺も出来ん。

 俺の顔に泥を塗るって事は、巡り巡って彼らにも泥を塗るって事だ。

 今はわからなくてもいい、けれど心のどこかには置いておいてくれ。

 

 ……あ、それからこれは誰か好きな奴貰ってけ。やっぱ要らんわ」

 

そう言ってセージが周囲の目を気にしながら出した四冊目の本は――姉弟モノだったが

珍しく元浜はもとより、松田も一誠も手を伸ばさなかった。

 

「いやいや、それこそ俺達の約束だって。セージ、貰ってくれよ」

 

「俺達との友情の証だと思ってよ!」

 

「なかなか見る目があるじゃないか、セージ!」

 

「友情の証ならもっと別のものが欲しかったが……お前らじゃ仕方ないか」

 

結局、その四冊目の本はセージが受け取ることになり

置き場に相当苦心することになったのはまた別の話。




セージも男の子でした。そんなお話。
元浜と比べ、松田やイッセーとのファーストコンタクトは
あまり友好的ではありませんね。

セージの好みが年上であることが露呈しているようなものですが
それなのにリアスや朱乃になびかない。

A:日頃の行い。あと年上ならだれでもいいってわけじゃないし。
 誰かさんとは違うんだよ。

このシリーズは多分次回で最後。
投稿時期は例によって未定。


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Before Soul Final. To be continued for 「同級生のゴースト」

何かが降って来たので勢いに任せて執筆。
スランプ脱出できたかどうかはわかりませんが
セージの過去編、ラストになります。


「てめぇらっ! また懲りずにっ!」

 

駒王町裏路地。元浜はここで戦利品を手に恍惚としていたところを

またしても金座(かねざ)高校の連中に捕まってしまったらしい。

往来で戦利品を眺めないのは褒めるべきなのだろうが

そもそもそれ以前にそういうモノを外で見るなと言いたい。

 

ともあれ、約束通りに俺は元浜の救援に駆け出る。

だが、そこには金座だけでなく出素戸炉井(ですとろい)高校の生徒もいた。

まずい。奴らはバカだが腕っぷしだけはいい。

元浜が俺を雇った(?)ように、奴らも用心棒を付けたって事か!

 

「あんたはいつぞやの! ……ねぇ、アイツ始末してくれたら

 今度デートしてあげるからさ、やっつけちゃってよ」

 

「マジ!? よーし、じゃあお前には恨みはねぇ……

 いやあるな。お前『駒王番長』宮本成二だろ。

 お前や大那美(だいなみ)の奴らには色々世話になってるからな。

 ここらでボコりたいとおもってたとこだ!」

 

わ、わかりやすい奴だ。どっかにもこんな奴がいた気がするが。

だから出素戸炉井はバカだって言われてるの、気づいてるのか?

とにかく、ちょっとマズい事になった。

 

出素戸炉井の奴らと(金座もだけど)物理的に対立するのは避けたい。

自慢じゃないが、俺は喧嘩が苦手だ。駒王番長などと言うあだ名も、一人歩きの結果に過ぎない。

多分に大那美のダチのせいなのだが、別に悪い奴らじゃないから俺も強く言えない。

その結果がこれである。さてどうやって切り抜ける?

 

「元浜、とりあえず今の内に逃げろ。とりあえず警察呼んでもらえると助かるけど」

 

「わ、わかったぜ」

 

元浜だけでも逃がし、俺はこの状況を打開すべく、思考を巡らせる。

だがそんなのはお構いなしとばかりに出素戸炉井のバカは殴りかかって来る。

当然俺は逃げる。避ける。全く、俺は面ドライバーでも無ければ

中の人ことOAX(大野・アクション・エクストリーム)の花形アクションスター

高岩哲也(たかいわてつや)でもねーんだぞ!

とにかく避ける。必死で逃げる。

 

「あっははははっ! だっさ!」

 

「マジ逃げしてやんの! うけるぅー!」

 

……これだから金座の連中は好きになれない。

人が必死になっているのを嘲笑う連中の多い事多い事。

とは言え逃げないとやば……っ! そうだ!

 

俺は逃げる途中でスマホを取り出し、金座の連中の顔を撮影する。

その後に続いて、出素戸炉井の奴の一連の動きも動画撮影する。

俺のこの一連の動きが理解できないのか、金座の連中も最初は首をかしげていた。

そしてそれに気づいた時には、俺はもう次の行動を起こしていた。

 

「……ま、まさか! アイツ!」

 

「お、気づいたか? だがもう遅い、『tsubuyaitar』にアップしといたぜ!」

 

そう。その証拠がこれである。

 

Chrono_Charisma

 

出素戸炉井に暴行うけてるなう

 

[動画]

 

               10秒前

 

Chrono_Charisma

 

唆した金座の連中の顔うp

 

[画像]

 

               たった今

 

自慢じゃないが、俺のアカウントは結構炎上している……風に見えて

実際俺がお礼参りを喰らったことはそれほどない。当事者以外には。

少なくとも、実家が割れたとかそう言う事は一切ない。

このハンドルネーム自体がありふれたもので、言わば名無しさんに近い状態で

個人情報も載せていない、載せたとしてもでたらめなメールアドレスだけだ。

 

そんな自分の防護は完璧に固めた状態で、こういう火種を投下する。

するとどうだ。

 

 

 

Issei_Oppai

 

また出素戸炉井や金座かよw

 

               たった今

 

Matsuda_Mobmob

 

暴行受けてるって大丈夫なのかよw

 

               たった今

 

Kiryu_Glasscouter

 

顔うpとかさすが黒のカリスマさんやでぇ

 

               たった今

 

Rias_RedDemon

 

また彼らなの? もういい加減にしてほしいわね

 

               たった今

 

 

 

……とまぁ、こんな感じに反応がつく。

これで後はどっかの暇人が暴れてくれる。それが狙いだ。

 

「……ちょっ! 顔うpしやがったわコイツ!」

 

「こ、こうなったら対策練るわよ! あんた! そいつの足止めしなさい!」

 

「え? あ、お、おう!」

 

アワレ。出素戸炉井の男子生徒は金座の女子生徒にうまい具合に乗せられただけみたいだ。

だが、俺に手を上げている時点で同罪なんだよなぁ。

さて、あとはこいつを撒けば全て解決だ。元浜ももう逃げただろうし。

出来れば警察が来るのを待ちたいところだけど、そこまで俺が持つかどうかもわからないし

怪我は避けたい。となれば逃げて撒く一択だ。

 

「お前のせいで報酬貰い損ねてるんだ! 一発殴らせろ!」

 

「やなこった! 俺の知り合いにもてめぇみたいな色ボケした奴がいるが

 そいつの方がよほどましだぜ! 誰かに暴力振るわない分な!」

 

……今自分で言って思った。それってつまり、兵藤の奴も誰かに暴力を振るうようになったら

出素戸炉井の連中と同レベルに下落するって事じゃね?

元浜と松田はまだ更生の可能性があるけど、兵藤はなかなか難しいのが実情だ。

だが、俺としては俺のダチのダチでもある奴がそんな状態なのは避けたい。

だから……って!

今考えていることじゃないと思っていたら、一発いいのをもらってしまった。

 

「へへっ、駒王番長も大したことねぇな」

 

「顔はやめろたぁ言わないが……痛ぇな」

 

口元を手の甲で拭うと、赤いものがついていた。

今貰った時に口の中切ったか。嫌いな血の味がする。

だが出素戸炉井の奴は手を休めることなく俺をさらに殴ろうと飛び掛かってきたその時。

 

「動くな! 警察だ!」

 

おお、なんてナイスタイミング。

その言葉と同時に出素戸炉井の奴はずっこける。ざまぁ。

 

「一部始終を見ていたぞ! そっちの今転んだ奴、ちょっと署まで来てもらおうか!

 傷害罪だ!」

 

「そこの君……って宮本君じゃないか。『また』ちょっと来てもらうよ」

 

――そう。

勿論、悪い意味ではない――と思いたい――が、俺が警察の世話になるのは

これが初めてではないのだ。大体が落とし物(万札!)を届けたり

認知症を患ったじいさんを交番に届けたりと言った内容だが。

ともあれこんなわけで、俺は警官――氷上(ひかみ)さんについていくことになった。

 

――――

 

元浜は見た目が弱弱しいからか、よく金座に狙われているそうなのだが

松田や兵藤はそれほど狙われていないらしい。まぁ、それならそれでいいんだが。

ああいう騒動は、起きないに越した事は無いんだ。

 

案の定、tsubuyaitarの俺の書き込みはあの後消されていたが。

実は、金座の悪行を知らしめるために顔うpをしたのはあれが初めてではない。

以前もまた、このように一日もすれば消されており魚拓すら残らない勢いだったそうな。

まとめwikiも出来ているらしいが、そっちもすぐに消されるとか。

まぁ、金座の悪行を蹴散らすのが俺の仕事じゃないし。

俺の仕事は学校と――バイトだ。

今日のシフトは――げっ。

 

――まさか、明日香(あすか)姉さんとバッティングしてるとは。

嬉しいような、息苦しいような。

 

元浜に会う前、俺は彼女――牧村(まきむら)明日香姉さんに自分の気持ちを伝えたのだ。

彼女と音信不通になったのは小学校の卒業式の日が最後。

それ以来、優に三年は何も知らない日々を過ごしていたのだ。

それなのに、このタイミングで突然の再開。

そして、これは俺が偶然見かけたのだが――

 

――子供まで、いた。

 

それでも、と俺は自分に言い聞かせ、何者も顧みずに俺は姉さんに告白をしたのだ。

鼻で笑ってくれても良い様なものなのに、姉さんは「百年先に咲く百合の花」と言ったのだ。

それ以来、俺はそこから先には踏み込んでいない。

――怖くて、踏み込めないのだ。意味が解らなかったわけじゃない。

 

だが、だからってバイトを辞めるわけにもいかない。それは母さんが困る。

幸か不幸か、互いの生活リズムの差からか

シフトが重なることもほとんど無かったのが功を奏したらしい。

 

だが今日はそういうわけにもいかない。

腹をくくって、おれはユニフォームに袖を通し、エプロンを付けた。

 

 

 

――結論から言おう。相手もぎくしゃくしているのが目に見えてしまい

ほとんど会話になってなかった。これでも、昔は一緒に遊んでくれたり

長い休みの時には色々な事もあったりしたんだけどな。

はぁ、思い出は遠くなりにけり、か。

こればかりはあの言葉を信じるより他ないのだろうか。

下手に動いても解決する問題でもない。時間薬って奴なのか? そうなのか?

一応、仕事の方はきっちりと出来たのでそこは問題ないのだけど。

 

――――

 

ともかく、そんなこんなで駒王学園での生活はそれなりにうまくやっていけており

俺はともかく、元浜も成績だけは良かったので進級。

松田や兵藤にしても半ばギリギリと言う形だが進級。

素行を見ればこいつらが進級できたのは驚き半分なんだが。

 

そして二年生を迎え、春先に突然兵藤がとんでもないことを言い出したのだ。

 

「ふっふっふ。聞け彼女ナシの諸君。ついに俺、兵藤一誠にも彼女ができましたっ!

 じゃーん、この子が俺の彼女、天野夕麻ちゃんでぇーす!!」

 

得意げにスマホの写真を松田と元浜に見せびらかすイッセー。

俺は目線がこいつらより少しばかり高いから後ろにつっ立っているだけで見えてしまう。

 

……が、こいつらほど親しくないとは言え一応クラスメートだ。

そんな奴の彼女を、あまり悪し様に言うのも気が引ける。

思ったことを飲み込み、兵藤に精一杯のイヤミを言ってやる。

これぐらいはいいだろう。人のことを勝手に彼女ナシだなどと言いやがって。

そりゃあいるとは一言も言ってない。

 

……いないとも言ってないが。

 

「兵藤、今朝のニュースじゃ明日は晴れって言ってたが

 明日のデートに雨具とヘルメットは用意しとけよ。

 お前さんに彼女が出来るなんざ、嵐か災害の前触れだからな」

 

松田と元浜が俺のイヤミに反応して大笑いしている。

……言いたかないが、そんなんだからお前ら彼女できないんだぞ。

言われた兵藤本人は、どこ吹く風と言わんばかりに自信のある態度をとっている。

これはこれでムカつくな。奴がデートを控えていなければ

生傷の一つくらい付けてやったかもしれない。

 

まあ、スケベ根性さえなければ兵藤もそんなに悪い奴じゃなし、うまくいけばいいんだが。

 

……しかし俺には、どうしても嫌な予感が拭いきれなかった。

その天野夕麻とかいう彼女が、美人局か何かではないか。

ここまでこの駒王学園の中だけとは言え、エロガキで通ってる兵藤に

いきなり付き合ってくれだなどと。

 

聞けば、そう言う彼女いない歴=年齢を狙った美人局は多いらしい。

こういうのは中年のおっさんが引っかかるのが昔の相場だったが

犯罪ってのは金座の例を見る限りでもわかる通り低年齢化してる。

兵藤が狙われたって不思議じゃない。件の彼女が、世間知らずって風にも見えなかった。

まあ、スマホの写真越しの人相なんざあてにならないが。

兵藤に聞こえないように、元浜にそっと耳打ちする。

 

が、結論から言おう。聞いた俺がバカだった。

 

「おい、このあたりで女子高生が絡んだ美人局的な犯罪はあったか?」

 

「知るわけないじゃん。

 と言うか、カツアゲされてたのを助けてくれたのお前だろ?

 お前が知らないことをどうして俺が知ってるんだよ。

 駒王番長の耳に入らないんなら、そんなに悪い子じゃないんだろ」

 

その時の俺は思いもしなかった。

この彼女こそが、俺を、俺達をとんでもない事件に巻き込んでくれた元凶であることを。

 

……そして、俺にとっての最大最悪の悪夢の始まりであったと言う事を。




解説の所との矛盾点を解決するためのエピソードでもあったり。
何気に悪魔化する前のセージは喧嘩苦手です。
駈紋戒斗と小林豊みたいなものです。

>OAX
名前の由来は大野剣友会とJAE。
高岩哲也も高岩成二と大屋敷哲也の二大ミスター仮面ライダーより。
エクストリームのスペル? 仮面ライダーW形式だよ言わせんな恥ずかしい

>tsubuyaitar

ちらりと出たtwitter的アプリ。セージも活用してます。

>Chrono_Charisma

クロノ・カリスマ
黒の・カリスマ
黒のカリスマ

スーパーロボット大戦Zより。用途が用途なので後に名乗ったハンドルネームは
ここでは使ってません。この世界でも名無しの代名詞ですが
ジ・エーデルが絡んでるかどうかは……多分絡んでない。

>牧村明日香
憧れのお姉ちゃんに告白したのに相手に子供がいるとか
それなのに告白したセージとか色々ツッコミどころはありますが。
この当時のセージはともかく、現在のセージにとっては
間違いなく家族同様「守るべき対象」です。

>最大最悪の悪夢
本編参照。
この平和な時間を再び取り戻すため、セージは今日も戦い続けるのだ!

……と昭和特撮チックな〆をしたところで
セージの過去編、閉幕とさせていただきます。


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単発ネタとか
偽プロモ カイガン! 編


いつかはやろうと思った。
機会が無かったので逃したけれど。

時系列的にはセージは「紫紅帝の龍魂」獲得後です。
その後色々大変だったのでいつこんなことが起きたのか!?

……な事になりますので、第一期平成ライダーの映画版よろしくパラレルって方向で。

※セージの過去編は作者のスランプに伴いネタが枯渇気味です。
 結末ははっきりしているのですが、そこに至る道筋が完成しません。
 誠に恐れ入りますが、もうしばらくお待ちください。


俺は天空寺タケル。

18歳の誕生日に襲ってきた眼魔(ガンマ)に殺され

生き返るために仮面ライダーゴーストとなって、英雄の眼魂(アイコン)を集めている。

 

ある日、俺達がやっている不可思議現象研究所(ふかしぎげんしょうけんきゅうじょ)

駒王町と言う聞きなれない場所から依頼が飛んでくる。

 

ところが、そこへ向かう途中巨大な輪のようなものに吸い込まれて……

 

 

――――

 

 

◇◆◇

 

 

――――

 

 

俺は宮本成二。

クラスメート、兵藤一誠のデートに不審なものを感じた俺は

後をつけるが、その先で堕天使レイナーレに瀕死の重傷を負わされる。

目覚めた俺は、リアス・グレモリーに歩藤誠二と言う名を与えられ

霊体になっていることを知ることになる。

 

ある日、霊体で駒王町を彷徨っていた時

ゲートから何かが吐き出されるのを目撃する。

 

アインストではない「それ」は、俺と同じくらいの人間に思えたが

何かしらの違和感を覚えて……

 

 

――――

 

 

「しかし参ったな。いや確かに白金龍(プラチナム・ドラゴン)

 『ゲートは様々な世界を結ぶ』って事を言ってたけど……

 人間が出てくるなんて……おい、大丈夫か?」

 

紺色に花柄と言う少々派手めな服装の俺と同じぐらいの男に俺は呼びかける。

ゲートから人間が出てくると言う予想だにしない事態に、俺は思わず霊体のまま

声をかけてしまっていたのだが。

 

「う……ん……?」

 

「おっ、気が付いたか。大丈夫か? どこか痛むところはないか?」

 

「ああ、平気……って!?

 き、き、君、俺が見えるの!?」

 

へ? 何を言ってるんだこいつは。

見えるも何も、目の前にいるじゃないか。そこに何の不思議があるんだよ。

と、思った瞬間に俺も肝心なことを思い出した。

 

――霊体のままだった。

 

「お、おおおお前こそ俺が見えるのか!?

 霊感か!? 霊感少年ってやつか!?」

 

二人して驚く様に、俺のよく知っている幽霊少女がツッコミを入れてきた。

見るに見かねたって奴か? そうなのか?

 

「セージさん。彼も幽霊みたいよ。どうしてそうなったのかまでは知らないけど」

 

黒の帽子に三日月の飾りを付け、これまた黒を基調としたシックな雰囲気の――

虹川瑠奈(にじかわるな)が、俺に指摘してくる。

その指摘に驚いたのは、俺だけじゃなくて……

 

「え!? き、君もゴーストなの!?」

 

「ゴーストが死人の霊、ってんなら少々間違いだけど。

 体のない、魂だけの存在、ってんなら間違ってない」

 

「……セージさん、死んでないものね」

 

きょとんとしている目の前の幽霊に対し、俺は一部始終を話すことになった。

そう威張れることじゃないし、肝心のアイツは……な所があるので

あまりほいほい人に話したくないんだけど、まぁ仕方がない。

 

――――

 

「……そっか。俺も悪魔とか、堕天使じゃないけど……

 眼魔って怪物に殺されて、それで……」

 

「話だけ聞くと、セージさんに身の上似てるわね」

 

「……またとんでもないお客さんだ。

 瑠奈、ちょっと彼と話がしたい。また家を貸してもらっていいか?」

 

 

俺の問いかけに、瑠奈は頷き俺達を案内してくれた。

こういう時は、忌むべき悪魔の力とは言え助かる。

これが無ければ、彼女たちとも出会えなかったのだから。

今は、あまり彼女たちへの協力で悪魔の力は使ってないが。

 

「そうだ。俺は天空寺タケル。君は?」

 

「セージ。ふど……いや、宮本成二だ」

 

「そして私は虹川瑠奈。姉妹で幽霊楽団をやっているわ。

 機会があったら、是非聞いていって」

 

――――

 

 

◇◆◇

 

 

――――

 

 

――それは、自身の、他人の命のためにに英雄の、人々の心を繋ぎ

  命を燃やした幽霊と――

 

 

――人ならざる存在にされながらも、友の、家族の、想い人のために

  人間に戻ろうと、抗い戦う霊魂の邂逅――

 

 

――――

 

「別の世界!?」

 

「ああ。俺が浅学なだけかもしれないが、少なくとも大天空寺と言う寺は

 聞いたことが無い。ついでに言うと実家とは宗派が違う。

 で、そう思ってこの――記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べてもみたが

 何も出なかった。何も出ないってのは、俺もこれを使い始めて数か月だが初めてだ」

 

天空寺タケルが迷い込んだのは別の世界。

しかし、そんな別の世界にも悪の手は容赦なく迫る――

 

「セージさん! ライブ会場に変な奴が……!」

 

「あれは……眼魔!?」

 

霊魂となった者達の、知られざる戦いがここに幕を開ける――

 

「変身!」

 

カイガン! オレ!

レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!

 

「異世界でも……命、燃やすぜ!」

 

一度死んで甦ったヒーローと――

 

「フリッケン!」

 

『ああ、大体わかった。

 ……にしてもコイツ、どっかで見たか……? まあいいか』

 

BOOST!!

 

SOLID-LIGHT SWORD!!

 

――死の運命に抗う通りすがる魂。

 

その二つが交錯するとき、新たなる力が目覚める。

 

「天空寺さん! 俺の……俺の力を!」

 

「……わかった! 俺と……セージの力で!」

 

カイガン! セージ!

(こころ)リアライズ! 知識(ちから)メモライズ!

 

 

ハイスクールD×D 同級生のゴースト

feat.仮面ライダーゴースト

 

 

公開決定!

 

 

――――

 

 

「ほ、本物の面ドライバーだ……」

 

「いや、俺達の世界じゃ仮面ライダーだからね?」

 

『仮面ライダー……不思議と懐かしい響きだな』




※嘘です。
 公開しません(2016/10/1現在)。後悔もしてません。

なお執筆時点ではガンマイザーを出す予定でしたが
流石にヤバすぎるだろうと言う事で普通の眼魔に。

>フリッケンは某世界の破壊者じゃ……
なので、「会ったことあるかも」的な発言をしてます。
実際組ませられるのはゲームだけなんですけどね。


本当のことを言うとセージ眼魂がやりたかっただけの壮大なネタ。
ディケイド眼魂との違い? 倍加半減も出来るよ?
これだけ書くと上位互換に見えるけど、特別篇のアイテムって
大体何かの上位互換だし……

セージ眼魂の変身音の元ネタはDouble-Actionと記録再生大図鑑。

10/1追記

Q:原作なんだっけ?
A:あっ……


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If. カミサマ

突如として降臨したネタ
本編の更新が遅れているのに何でこんなものが出来るのか


時はコカビエルとの戦いまで遡る。

 

「う……嘘よ……神様が……主が……そんな……」

 

「つまらん……一人、脱落した奴がいるな。

 おい、誰でもいいから片付けておけ。その目障りな塵を」

 

「い、いかん! イリナ、しっかりしろ!

 くっ、コカビエル! 根拠のない詭弁はやめてもらおうか!」

 

一際信仰心が強い――思い込みが激しいとも言うが――紫藤イリナが

真っ先にコカビエルの言葉を真に受けてしまう。

ゼノヴィアも動揺しており、詭弁と強がっているがその言葉には焦りが見え隠れしていた。

 

「詭弁……か。お前達と違い、俺は先の大戦を実際に戦い生き抜いてきたんだがな?

 いわば、俺は現場にいたわけだ。たとえ俺の証言が嘘だとしても

 お前達にそれを証明する術はあるまい? 悪魔の証明と言うやつだ。

 それより俺は塵を片付けろ、と言ったんだ。気が利かない連中だな。

 お前達がやらないのならば、俺がやってやろう」

 

「くっ、イリナ! 目を覚ませ、イリナ!!」

 

戦意を失ったイリナをコカビエルは容赦なく狙っている。

ところが、コカビエルの右手に収束するはずのエネルギーは、全く集まらずに霧散している。

聖書の神の影武者――薮田直人がその力でコカビエルの力を封じていたのだ。

 

「……ただ事ではないことは分かります。彼女は私が連れて逃げます。

 私の伝手を通じて、自衛隊をこの場に派兵してもらいます。

 皆さんも、早くここから逃げなさい。いいですね?」

 

「えっ、逃げるって……」

 

有無を言わせぬ態度で、薮田はイリナを逃がすために動き出す。

そして周囲で戦っているメンバーに、退避を促し自身はイリナを連れて逃げ出す。

 

その後、紆余曲折を経て薮田直人の手から駒王警察署(当時)超常事件特命捜査課

(通称:超特捜課)所属の氷上涼巡査によって紫藤イリナは保護された……

 

 

……はずだった。

 

「くっ……悪魔!? この町を統括する悪魔か!?」

 

「私をあのようなものと一緒くたにするな人間風情が!

 あなたのようなただの人間には興味はありません!

 そこに抱えている聖剣使いの少女を置いていきなさい。そうすれば、見逃して差し上げます」

 

悪魔の女性――カテレア・レヴィアタンの提言に対し、氷上は職務上の理由から首を横に振る。

カテレアにしてみれば、下に見ている人間に反抗されたことが酷く腹立たしかった。

その腹いせとばかりに、再び魔力を帯びた黒いオーラが氷上を襲う。

 

「うわああああっ!!」

 

「ふん、所詮は人間。悪魔――それも魔王である私に歯向かうからこうなるのです。

 さて……そこの聖剣使いの人間。いつまで寝ているのかしら?」

 

当時氷上は知らない事であったが、カテレアは禍の団・旧魔王派に所属していた。

そしてコカビエルも、禍の団との繋がりがあったと噂されていた。

あの戦いの一部始終を眺めていたカテレアが、自暴自棄になったイリナを引き抜きにかかったのだ。

 

結果として、人間の氷上に魔王の血筋を引くカテレアと戦えるはずもなく

イリナはカテレアの手に落ちてしまい、そこで神の不在が真実であることを知らされることとなったのだ。

 

――――

 

(神はいない……じゃあ、今まで私がしてきたことは何だったの?

 パパは、私に嘘をついていたの?

 ねぇ……誰か、教えてよ……わかんないよ……)

 

黄昏時の公園の土管に腰掛け、頬杖を突き項垂れているイリナ。

ふと、言葉が漏れる。「神はいない」……と。

 

 

その時であった。

イリナが腰かけている土管から、スーツ姿の男性が奇妙な笑い声とともに現れたのは。

 

「ヴェハハハハハハハッ!! 神はここにいるぞぉ!!」

 

何故か、ファンファーレと共に現れた――様な気がした――その男は

異様なハイテンションで、自らを神と公言して憚らない。

普通であれば、近寄りたくない種類の人間であると言えるのだが。

 

「私の才能が恐ろしい……迷える少女に道を指し示すのも神の役割だからなぁ!

 さぁ迷える少女よ、神の恵みを受けとれぇ!」

 

壮大な言葉と共に取り出されたのは、何の変哲もないぺろぺろキャンディ。

茫然としながらも、イリナはそれを受け取ってなめ始める。

 

「え? あ、あの……ありがとう、ございます……?

 わ、私は紫藤イリナ、あなたは……?」

 

「私か。ある時は幻夢コーポレーション元社長、またある時は仮面ライダーゲンム。

 しかしてその実態は……檀黎斗改め新檀黎斗……いや、この名前ももう古い。

 そう、私は……檀黎斗『神』だ!」

 

呆気に取られているイリナであったが、何故か目の前の人物が本当に神であるような気がしてきた。

 

「あ、あのクロトさん」

 

「檀黎斗神だァ!!」

 

「し、失礼しました! あなたは本当に神様なんですか……?」

 

恐る恐る、黎斗に尋ねるイリナ。それに対する黎斗の反応もまた、変わらぬものであった。

 

「そうだぁ……私こそが神! 神の才能を生まれ持ってきた者だァ!!」

 

イリナの言っている神と、黎斗の言う神に齟齬は確かにあるのだが

目の前で神と公言して憚らない存在に、イリナは何故か心が安らぐものを感じていた。

 

――神はここにいた、と。

 

「イリナ。こんなとこで油売ってないで……って何だこのイカレタおっさん」

 

しかしそこに、イリナを探しにやって来たフリード・セルゼンが現れる。

フリードもまた、普段と変わらぬ態度で黎斗に接したのだが

それは黎斗に対して喧嘩を吹っ掛けているような態度でもあった。

実際、喧嘩を吹っ掛けていたのかもしれないが。

 

「神に対して何たる口の利き方だ! 私はおっさんではなく檀黎斗神だぁぁぁぁぁ!!」

 

「うるせぇ」

 

黎斗に対し、フリードは有無を言わせず持っていた拳銃で撃ち抜く。

これは悪魔用ではなく、警官から強奪した本物、つまり盗品で対人殺傷能力が普通にある代物だ。

そんなもので撃たれれば黎斗のみならずフリードやイリナも普通にダメージを受けるどころか

最悪死に至る。当然、撃たれた黎斗もそのまま地に伏してしまう。

 

「ちょっとフリード!? あなたただの人に対して……」

 

「……おいちょっと待て。これがただの人かよ」

 

何処からともなく響く「GAME OVER」の音声。

そしてどこからともなく現れるカラフルに「CONTINUE」と書かれた紫色の土管。

そこから何事も無かったかのように最初にイリナの前に現れたのと同様のファンファーレを流しながら

黎斗が土管の中から現れたのだ。

 

「神に対して何たる仕打ち……許し難い!」

 

しかし、今度の黎斗の腰には蛍光グリーンのゲーム機のようなバックルに

一昔前のゲームカセットを彷彿とさせるような白と黒の2つの端末らしきものを持っている。

 

「グレードX-0……変身!」

 

ガッチョーン! レベルアァーップ!!

マイティジャンプ! マイティキック! マイティアクショォン……エェーックス!!

 

アガッチャ!

デンジャー! デンジャー! デス・ザ・クライシス! デンジャラスゾンビィ!!

 

「え……!?」

 

「な……!? 神器(セイクリッド・ギア)持ちだとでもいうのかよ!?」

 

「神器? なんだそれは。これは私が開発したゲーマドライバーにライダーガシャット。

 そしてこの姿は仮面ライダーゲンム・ゾンビアクションゲーマー……レベルはX-0。

 神に歯向かったことを後悔させてやるぅ!」

 

「へっ、こいつはイライラがスッキリしそうな相手が来てくれたな!

 来いよ菫色の猛毒蛇(パーピュア・サイドワインダー)! この訳わかんねぇ奴をぶっ潰しちまえ!」

 

フリードは自身の従える魔獣を召喚し、黎斗はゲーマドライバーを用いて仮面ライダーゲンムに変身。

イリナは、現状が把握しきれずにただ茫然としていた。

 

(しかしおかしい。私のライフは残り1だったはず。リセットの出来るクロノスはもう存在しないはず。

 それなのに私のライフが99に戻っていた……どういう事だ?)

 

――これは、ありえたかもしれない

神を自称する男と神に縋る少女の出会いの物語……

 

「コンティニューしてでも、クリアする!」




神降臨。

ミカエルに鞍替えするのと檀黎斗神に鞍替えするのとどっちがいい?(ゲス顔

流石に本編に持ち込めないネタなのでこっちで。
感想へのレス書いていたらふと閃いてしまったので。

檀黎斗神がこっちに来た理由?
クロスゲートがどうにかしたんでしょう(適当

当たり前ですが、二人は檀黎斗神がバグスターだって事を知りませんし
バグスターってもの自体を知りません。

……あれ? 原作でいかれてたフリードがまともに見えるぞ……?


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If. 皆殺しのスペクター

SINSOU氏のifからインスピレーションを受けて。
最近やけに筆のノリがいい、躁状態? 怖いなぁ。

(あの赤頭巾の正体があの人だってことを今更知った……)


「何故だ……どうして、どうしてこんな事――」

 

言い終える前に、光が少年の身体を貫く。

その光は、悪魔祓いが使う光の剣と同じものだった。

しかし、その力は強化されている。

とても、一介の転生悪魔で耐えられる代物ではない。

 

少年は聖魔剣を取り落とし、無数に現れた光の剣に貫かれ

血まみれになって倒れている。

 

駒王学園・旧校舎。

人払いの結界が張られたここは、吐き気を催す様な錆びた鉄の匂いが漂っていた。

金髪の華奢な半吸血鬼の少年は、両目から血を流し地に伏し。

 

 

同じく小柄な銀髪の少女は、両手足に物凄い痣を作り

トレードマークともいえる黒猫の髪飾りは無残にも砕け散っている。

 

 

かつては紅髪の少女の腹心として働いていた巫女装束の黒髪の少女は

その腹部を巨大な槍で貫かれ、そこに雷が落ちたかのように

元の美貌が残らないほど黒焦げに炭化していた。

 

 

……地獄絵図。

それこそが、この情景に相応しい言葉であった。

 

 

「木場! ギャスパー! 小猫ちゃん! 朱乃さん!!

 なんだよ……何なんだよ貴様ぁぁぁぁ!!

 

 俺達は、俺達は仲間じゃ――」

 

「……五月蠅い」

 

左手に赤い籠手を填めた少年の顔面に、マゼンタ色の右ストレートが綺麗に入る。

そこに一切の手加減は無く、吹っ飛ばされた少年は背中から勢いよく結界にぶつかり

背中に火傷を負う。

 

「イッセー! あ、あなた……これは一体何のつもりなの!?」

 

「俺が求めているものとお前達が与えるものが一切合切噛み合ってない。

 俺は悪魔には疎いが、こういうやり方をするのが悪魔なのか?

 

 だったら、俺は俺のために悪魔を倒す。目の前の悪魔をな。

 その上で俺は俺の目的を果たす。力に溺れたというならそうだろう。

 

 ……だがな、俺は一度はお前を信じて待ったんだ。

 それを最初に裏切ったのは……誰だろうな?」

 

左手に翳したデバイスからカードを引き抜くと、右手には巨大なカタールらしき武器が顕現する。

そこには聖なるオーラが含まれており、聖剣に類する武器の一種であると類推される。

 

「フッ、デュランダルの偽物を使ったところで、私には――」

 

「偽物? 本物も偽物もあるかよ。悪魔祓いが悪魔になるとか何の冗談だよ。

 何に釣られたんだよ? 物欲か? 色欲か? 権力か?

 まぁそんなのはどうでもいい。俺の邪魔をするなら……

 

 ……押せよ、『ディフェンダー』!!」

 

ディフェンダーと呼ばれた幅広のカタールと

青髪に緑のメッシュが入った少女の持つデュランダル(巨大な剣)がぶつかり合うが

カタールはデュランダルを弾き飛ばし、そのまま少女の身体を横薙ぎにする。

 

一閃。少女は崩れ落ち、そのまま立ち上がらなくなってしまう。

 

「ゼノヴィアぁぁぁっ!!」

 

神の消滅を知り、自暴自棄となって悪魔に下った少女は呆気なく地に伏した。

デュランダルの偽物とは言え、ディフェンダーにも聖なる力はあったのだ。

それで斬られれば、悪魔がタダで済むわけがない。

 

「……アーシアを真っ先にやられたのは痛いわね。

 向こうは回復持ち、これではじり貧よ」

 

「大丈夫っす部長! まだ俺が居ます!

 やられたみんなのためにも……俺は……俺はあいつを……

 

 ……ぶっ殺してやる!!」

 

赤い籠手の少年は赤い鎧に身を包み、真っ向から突っ込んでくるが

その目前で、修道服の少女が立ちはだかるように進路を阻害する。

 

「!? あ、アーシア……」

 

「隙だらけだ」

 

その隙を突き、カードから新しい武器を召喚していた少年は

鎧の隙間に特殊な銃弾を撃ち込む。刹那、赤い鎧の関節部分からは血が噴き出し

鎧は内側から砕け散るように爆散してしまう。

 

立ちはだかった修道女も、瞳孔は開いており額からは赤い筋が縦に流れ落ちている。

当然、何も言うことなく笑いかけることも無く、物言わぬ骸となって

赤い鎧を纏っていた少年の傍らに崩れ落ちる。

修道女は、少年が生やした触手を使って生きて動いているように錯覚させる形で

骸を利用されたのだ。

 

「ああああああああああああああああああ!!」

 

「五月蠅い、って言った」

 

修道服の少女と同じ位置に赤い筋が垂れるように銃弾を撃ち込まれたのは

彼の情けかどうかは図り知ることは出来ないが

少年もまた、物言わぬ骸となってしまう。

 

地獄絵図を彩る死体は、一つ、また一つと増えていく。

 

「……どうして、どうしてこんな事をするの!?

 私を狙えばよかったものを、他のみんなは関係ないでしょう!?」

 

「無いわけがないだろう。ここに転がっているのは皆お前の駒だ。

 言うなればお前の一部。俺の意見を分からせるためには必要な事だった。

 

 ……どいつもこいつも『部長は正しい』『部長は信用できる』『部長さんなら大丈夫です』

 壊れたスピーカーみたいな事しか言わなかったけどな」

 

腹立たしそうに少年は硝煙立ち込める銃を握りながら言う。

その言葉は、ただ一人意見を異にする彼にしてみれば耳障りな事この上なかったのだ。

 

「たった、たったそれだけのためにみんなを殺したの!?

 あなたも、あなたも同じ私の眷属なのよ!?」

 

「それだ。その物言いが気に入らん。俺は俺だ。

 いつお前の所有物になった。誰が所有物にしてくれと言った?

 そうしなければ助からなかった? 試したのか? え?」

 

紅髪の少女と少年の言い合いは平行線だ。

今のままでは何も手に入らないから、自由を求め旅立とうとした少年。

自分が何とかする、自分に出来る精一杯をと考えはしたものの力及ばず

彼の求めないものを与え続けようとした少女。

 

そう。契約は成り立たなかったのだ。

 

「契約不履行? 不信任? なんだっていい。

 今の俺に必要なものは、俺の本当の身体と、自由だ。

 それを阻むものはたとえ神だろうと、悪魔だろうと逆らってみせる」

 

「分かったわ。なら私も全力であなたに応えてみせる。

 紅髪の滅殺姫と呼ばれた、このリア――」

 

次の瞬間、少女の頭が破裂した。

少年が、少女の口に銃口を突っ込み、銀弾を発射したのだ。

次の瞬間、少年の身体から何かが抜け出ていくのが見える。

 

そして、そこに転がっていた数々の骸からも、チェスの駒らしきものが抜け出て、砕け散る。

 

――――

 

数週間後。

 

「おはよう! セージ!」

 

「ああ、おはよう……って昼だけどな。

 ったく、俺も早く学校に行きたいぜ……ってお前ら、悪さしてないよな?」

 

駒王総合病院の病室。そこにあるベッドには駒王学園の旧校舎前で少女を銃で射殺した少年がいた。

あの後、彼の身体はこうして病院で目覚め、何事も無かったかのように

目を覚まし、今は検査入院の真っ最中だ。

 

そこに、クラスメートである松田と元浜がやってきた形だ。

 

「悪さはしてねぇけど……」

 

「イッセーの奴が、最近学校に来ないんだ。あと木場に小猫ちゃん、朱乃先輩にリアス先輩……

 それからアーシアちゃん、ゼノヴィアさん……要するに、オカ研の面子がこぞって来ないんだ」

 

「……祟りにでもあったか?」

 

少年が冗談めいて言うが、オカルト研究部と言うその名前が

それを冗談には聞こえなくさせているらしく、二人は震え上がる。

 

「じょっ、冗談言うなよ!」

 

「あーあ、でもイッセーや木場はともかく女の子がこぞって来なくなったもんだから

 火が消えたみたいでさ……平和って言えば、平和なんだけどよ」

 

「良いじゃないか。平和こそが一番だ」

 

しみじみと、とても少年には思えないような貫禄を持たせて少年がベッドの上で語る。

 

 

駒王町。それは悪魔に支配されていた町。

 

しかしある日、その支配者は謎の失踪。謎の変死事件は相次いでいるものの

駒王警察署超特捜課の活躍により縮小傾向にある。

 

時を同じくして、駒王学園における性犯罪がぱたりと無くなったとも言うが

その件に関する関連性は、未だ謎に包まれている。

 

――――

 

一方、冥界。

 

「……人間風情が。このままでは済まさん……!!」

 

「ちょ、ちょっとサーゼクスちゃん。ソーナちゃんもいるんだからあんまり早まった真似は……」

 

「うるさいっ! こっちはリアスとその眷属を軒並み失っているんだ!

 一人の元はぐれ悪魔の仕業でな! この恨み、はらさでおくべきか……!!」

 

冥界に、紅髪の暴君が誕生した瞬間でもあった。

人類と悪魔の共存の日は、まだまだ遠い……




彼の場合、冷静に、本気で殺すときはあっさりです。
あと、使えるものは何でも使います。それこそ死体でさえも。
え? レイナーレ? あれは……カッとなってやったって事で……

本編見た後だと意外と別の道を歩んでいる人多いなぁ、とか思っていたり。


時系列的にはディケイドもといフリッケンが加入した直後……
……つまり、レーティングゲームに乗っからず、ガチで反逆したもしもの世界。
因みにこの世界は割と原作準拠。ゼノヴィアが眷属だったり
木場や小猫との条約が締結されてなかったり。


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If. アクマ召喚プログラム

もしもセージの神器がアレだったら。


「セージ、起きなさい。学校に遅刻するわよ」

 

母さんの呼ぶ声に起こされ、俺は体を起こす。

そのまま部屋を出て朝食を摂り、支度して学校に向かう。

俺、宮本成二の変わらぬ日常だ。

 

だがその日、その日常が大きく変わる出来事があった。

 

ピコーン!

 

「ん? メール? STEVEN……? 悪戯か?」

 

学校で原付を降りるなり、スマホにメールが入っていた。

 

――――

 

件名:このメールを受け取った全ての人へ

 

現在我々人間に深刻な危機が迫っている

伝説の悪魔達が人々の生活を脅かしている

怪奇殺人事件も悪魔の仕業だろう

 

悪魔と戦うために

悪魔の力を利用することだ

このアプリがあればできるだろう

 

勇気あるものが受け取ってくれることを祈る……

悪魔と戦い、人々を救うために

 

http://www.dds.net/summon/

 

――――

 

いつもなら悪戯メールと一笑に付してしまうところだが

このメールには何故か嘘が書いてない気がした。

というか、手元がくるってついURLをタッチしてしまったのだ。

ああっ! 俺のバカ!

 

――アクマ召喚アプリをダウンロードします...

 

慌てて操作を取り消そうとするも後の祭り。

仕方なく、話の種としてこれを受け入れることにした。

スマホ……壊れなきゃいいけど。

 

――――

 

休み時間に俺はせっかくなので件のアプリを弄ってみることにした。

どうせ俺のスマホのアプリは庭先にご飯や玩具を置いてねこを集めたりするアプリや

ネット接続用のブラウザ程度しかないからいいんだけど。

 

アクマ召喚アプリ

 

機能は……悪魔召喚、悪魔合体、デビルアナライズ……なんか色々あるな。

ゲームか? これ?

デビルアナライズを試してみると……

人間、ばっかりだ。まぁそりゃそうだな。

 

「おっすセージ!」

 

「何だ兵藤、また美人局に引っかかったのか? お前も懲りない……な……」

 

スマホのデビルアナライズには、目の前の兵藤一誠と言う存在が

 

龍王 ヒョウドウイッセイ Lv1

 

と表示されていた。え? どういう事?

試しにその隣にいる松田と元浜にもデビルアナライズをかけてみるが

 

人間 マツダ Lv1

人間 モトハマ Lv1

 

としか表示されない。

 

「喜べ兵藤。お前は龍王らしいぞ」

 

「!!??」

 

「こいつが? エロ龍王間違いなしじゃね?」

 

「いや乳龍王かもしれないぞ」

 

ネットスラング的に言えばMAX大草原って勢いで松田と元浜が笑い転げている。

しかし当の兵藤は「何でお前がそれを知ってるんだよ!?」と言いたげな表情をしていた。

なんのこっちゃ。つかジョークアプリの言う事を真に受けるなっての。

そんな兵藤は青い顔をして同じクラスの好青年枠、木場のところに駆け寄って行った。

 

幻魔 キバユウト Lv8

 

……え? また違う情報が出た。どういうこっちゃ。

怪訝な顔をしていると、木場がこっちにやって来た。

 

「宮本君。ちょっと……部長に会って貰えないかい?」

 

「何でだよ。俺オカルトに興味がないって言えば嘘になるけど、今日バイトなんだけど」

 

「君の命にも関わるかもしれないんだ、頼むよ」

 

物凄い剣幕で言われてしまったので、俺は仕方なくバイトを休むことにして

オカルト研究部に顔を出す事にした。

なお、その埋め合わせとして今日の給料分を今度木場に奢らせることにした。

 

「それだけでいいのかい?」と言われたが、埋め合わせに知らない人を寄越すわけにも行かないし

それ以上を請求するのは俺の主義じゃない。それに今日バイト先に明日香姉さんがいるから

あまり顔を出したくなかったってのもあるし。まぁこれも結果オーライだ。

 

――――

 

――旧校舎、オカルト研究部部室。

 

流石にスマホを弄りながら入るのは憚られるので

俺は素直に入ることにした。

 

「部長、兵藤君と同じクラスの宮本君です」

 

「あら? 入部希望かしら? 残念だけど今は……」

 

そう言って、部長と言う紅い髪の矢鱈発育のいい……確かリアス・グレモリー先輩だったか。

に木場が耳打ちしている。俺入部するつもりないんだけど。バイトあるって言わなかったか?

何やら怪しい空気が漂い始めたため、俺はいつでも逃げられる準備だけはしておいた。

 

「……どうやってイッセーの秘密を知ったのかしら?」

 

「……はい?」

 

身構えていると、返って来たのは頓珍漢な返事だった。

兵藤の秘密? なんのこっちゃ? 言っちゃなんだがこいつは秘密だらけだと思うぞ。悪い意味で。

あれこれ考えていると、件のアクマ召喚アプリと言うジョークソフト――少なくとも俺はそう思ってる

の事を思い出し、その件について正直に話す事にした。

 

「ジョークアプリ? あなた、悪いのだけどそれをちょっともう一度立ち上げてもらってもいいかしら?」

 

「え? ええ。ただし用が済んだら帰りますよ」

 

俺は言われるがまま、アクマ召喚アプリのデビルアナライズを起動させてみることにした。

 

妖魔 リアス Lv24

堕天使 ヒメジマアケノ Lv20

魔獣 トウジョウコネコ Lv7

幻魔 キバユウト Lv8

龍王 ヒョウドウイッセイ Lv1

 

……一体全体どういう事なんだよ。

 

「どうやら、あなたには私達が悪魔であることは隠し通せないみたいね。

 どうかしら? あなたを守るためにもオカルト研究部に入部してもらいたいのだけど」

 

「嫌です。揃いも揃ってジョークアプリの言う事を真に受けんでください。

 ドッキリだとしても手が込み過ぎてます。勘弁しちゃもらえませんかグレモリー先輩」

 

結局、頼み込まれ俺はオカルト研究部に入部することになってしまった。

おい、だからバイトどうすればいいんだよ!

俺の小遣いどうすればいいんだよ!

 

――――

 

そんなこんなで家に帰ってくると家の中にいるうちの飼い猫と向かい合う形で

庭先に見慣れない黒猫がいた。

スマホで写真に取ろうと思ったら間違えてデビルアナライズを立ち上げてしまった。何やってんだ俺。

 

魔獣 クロカ Lv30

猫 ムツ Lv1

 

……またかよ、と思っていると黒猫が話しかけてきた気がした。

 

「お兄さん、ちょっとお腹空いたにゃん。齧らせてほしいにゃん。痛くしないから」

 

断ろうとしたら、有無を言わさずに黒猫に齧られてしまった。

何か力が抜ける感じがしたが、不思議と痛くは無かった。

 

「うん、これは美味にゃん。暫くお兄さんとこに匿って貰ってもいいかにゃん?」

 

「え? おい、匿うってどういう意味――」

 

「じゃ、コンゴトモヨロシク、にゃん」

 

またしても有無を言わさず、黒猫はじゃれてきた……と思ったら

スマホに吸い込まれるように消えていった。

 

……もうどうにでもなーれ。




ふと思いついたネタ。後悔はしてない。
時間軸的には一巻アーシアと出会う前。

尚作中のURLはコピペしても無駄です。無駄。つーかしないでください。
多分今後この世界のセージはデビルサマナーになる事でしょう。
ICBMが落ちてくる可能性も無きにしも非ずですが。

レベルは適当。
で、悪魔合体も出来るって事は……

「ぶ、部長と合体できるって事か!? おいセージ、早くしろ、早く!」

「え!? い、イッセー、待ってちょうだい! セージも早まった真似は……」



「……む? 予期せぬ悪魔が生まれたようだな」

「オデ ゲドウ スライム コンゴトモ ヨロシク……」


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If. 製菓会社に踊らされて

過ぎたけれどバレンタインネタで。
時系列は一応セージが身体を取り戻した(=デビルマン編突入後)ですが
バレンタインです。つまり「気にするな!」


肌寒かったり、やけに暖かい日が不定期にやって来る冬。

身体を壊しそうだが、辛うじて無事だ。

 

そんな2月のある日、着々と復興を遂げているここ駒王学園も

バレンタインという、製菓会社がでっち上げたイベントで盛り上がっていた。

 

……いや、起源は製菓会社のでっち上げじゃないんだが、何故だか日本ではこうなっている。

日本の宗教に寛容なところは美点だと思うが、行き過ぎた商業主義はあまり好きになれない。

その結果が自分らの神様や伝統を貶めているんじゃないかと思えてならない。

 

……まぁ、当の天照様とか全然気にして無さそうではあるけれど。

 

「セージ君、ちょっと匿って!」

 

「はぁ? 何だよ祐斗いきなり……って勝手に話を進めるな!」

 

駆け込んでくるなり、ロッカーに逃げ込む祐斗。

匿えったって、俺にいったい何をしろと。っつーか、何から逃げてるんだか。

 

……などと思っていたら、松田や元浜と言ったいつものグループがこっちに走ってくる。

おい、廊下は走るな。小学生でも常識として把握してるだろうが。

 

ふと見ると、松田と元浜以外にも何人かの男子生徒がいるのが見える。

これは……ははーん、なるほどな。

 

「おいセージ! 木場の奴見なかったか!?」

 

「や、見てないぞ?」

 

隠れている場所を喋っても良かったが、そこまで意地悪なつもりもない。

約束通り祐斗の事をはぐらかしつつ、何が起きているのかを松田に聞いてみた。

 

「つか、そんな団体でどうしたんだよ。それからもう一つ、廊下は走るな」

 

「風紀委員かよお前は……いや、今日バレンタインだろ?

 そこで、木場の奴を前もってボッコボコに……」

 

意味が分からない。なんでバレンタインで木場をボコボコにしなきゃならないんだ。

まあ、僻みだろうとは思うが、木場をボコしたってお前らチョコもらえないと思うが。

木場はチョコをドロップするレアモンスターか何かか。

そういうのはフィクションのゲームだけにしてくれ。ゲームもいつぞやの事件で、風当たり強くなっちまったが。

 

「まぁ仕方ない、チョコを山ほど貰うようなイケメンは俺らの敵だ!

 見つけ次第、ぶっ飛ばすぞ!」

 

「「「「おーっ!!」」」」

 

そんなんだからモテないんだって、前に松田と元浜には言った気がするが……

流石にくどくどいうのも面倒なので、この場では黙っておくことにした。

呆れながら男子生徒共を見送った後、祐斗をロッカーから引きずり出す。

 

「災難だったな」

 

「ほんと、困るよこの時期は……食べきれないほどのチョコは来るし

 彼らからは襲撃されるしさ……悪魔の力で抵抗するわけにもいかないだろう?」

 

当たり前だ。やるとは思ってないが、そんなことをした日には縁は切らないまでもぶっ飛ばす。

だが、平穏を過ごせないのには素直に同情する。そういう意味もあって、俺は祐斗を匿ったのだ。

 

「ところで、さも彼らの味方みたいなふりしてたけど、セージ君だって……」

 

「無いぞ」

 

「えっ?」

 

「無い」

 

そう。俺は前もってチョコお断りと言っておいたのだ。

いや、甘味が嫌いなわけじゃない。寧ろ好物だ。高級洋菓子店のケーキで釣られる程度には好きだ。

態々チョコを作るなり買うなりして寄越すエネルギーがあるんなら、そのエネルギーを他所に回せ、と。

そうでなくとも、チョコレートはまだ意外と貴重品だ。

疲労回復の他に子供の機嫌取りとかにも重宝している、俺が独占するわけにもいくまい。

一人でも多くの人に、チョコレートは回したい。

 

「……去年が平和だったから、つい忘れてたよ……」

 

「いや、気にするな。あくまでも俺の持論だし、それに返礼考えるのとか面倒だ。

 気持ちの贈り物にしてもな。寧ろこれが一番厄介だ。何と答えたらいいかわからん」

 

「それ、絶対くれた人の前で言っちゃだめだよ」

 

俺もそう思う。けれど思う分には勝手だろう?

そんな俺に祐斗はため息をついている。悪かったな。

 

「……君も存外……あ、でもそう言えば白音さんとか黒歌さんとかは?」

 

「彼女ら猫の妖怪だぞ? チョコは禁物だろうが。

 買ったもんを俺に一方的に寄越すとかならともかく」

 

「じゃあ、あの幽霊楽団の……」

 

「彼女らは物理的干渉が出来ないからプレゼントを報酬として俺が貰ってた形だぞ。

 そんな彼女らが食べ物をプレゼントするって出来ないだろ」

 

「じゃ、じゃあジャーナリストの……」

 

「自分が寄越すよりも、貰っているところを写真に撮りたい、とさ。

 で、自分が渡したら捏造になるからダメだって」

 

「……君の憧れの……」

 

「それ言ったら今ここで前を見えなくした上であいつらのところに連行するぞ」

 

祐斗が知り、かつ俺と親しい異性についてはこんな感じだ。

俺がチョコを貰っていないというのは、事実だ。

因みにアーシアさんとゼノヴィアさんだが、そもそもチョコをプレゼントするという

習慣そのものを知らなかったらしく、バオクゥと同じ理由で無い。

 

「ごめん、最後は失言だった」

 

「そうだな、じゃあ仕返しに聞くぞ。

 

 ……お前、本命は貰ったか?」

 

俺の言葉に、祐斗は言葉を詰まらせた。

こいつに本命がいるかどうか、俺はそこまで知らないし興味もない。

だが、言葉に詰まるという事は……

 

「……お互い、深く考えるのはやめないかい?」

 

「だな。

 ……やれやれ、チョコレート位普通に食べたいもんだ」

 

バレンタインデー。

日本ではこの時期が近くなると、俺みたいなシングルの男がチョコレートを買う事すら憚られる。

当然、ほぼ自分で食う用のチョコなのだが、それでも何か白い目で見られている気がしてならないのだ。

意識しすぎかもしれないが、せっかくのチョコがまずく感じてしまう。

 

世間では非モテ軍団が何か言っているようだが、俺はこの観点から物申したい。

 

――チョコレート位、普通に、平和に食べさせてくれ――

 

と。




デビルマン編突入後のネタを取り扱った事でタイトル変更してます。
仮題なので変更の可能性はありますが。

>猫姉妹
原作でチョコも普通に食ってる気がしますし某赤猫妖怪はチョコ好きにされてますが

「 猫 に チ ョ コ は 厳 禁 」です。

そもそも人間と猫とで体の構造も消化できるものも違うんですから
人間の食べ物与えていい理由は無いんですよ。
彼女ら妖怪なのでスルー出来るとは思いますが、やはり猫という事で。

繰り返しますが

「 猫 に チ ョ コ は 厳 禁 」です!

まあ、作中触れている通り「自分は食わずに買ったものを寄越す、或いは毒見をせずに渡す」ならワンチャンあるかもしれませんが。

>虹川姉妹
最初期に「幽霊だから食べ物食べられない」のでセージがフルーツを報酬として受け取ってます。
そんな彼女らだからチョコを買うも作るもできないでしょうと言う事で。

>バオクゥ
元ネタ的に「貰ってる所を写真に撮ろうとした」ので
自分が渡してそれを撮ったら一歩間違えたら捏造記事。
それはアウトだったのでしょう。元ネタの子は別件できちんと渡してますが。

>最後の人
本編ネタバレなので触れられませんが、セージの言動的に触れてほしくなかったとだけ。
これは木場も怒られても仕方ない。

>木場の本命
原作には一応いるらしいですが、彼も人間関係原作と変化してますので……
特に聖剣計画時代の関わりとか。


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課外授業のプルガトリオ
Case1. 転落 世界樹の根元に巣食う影!


さて、本編完結から間もない所ですが
これより不定期で番外編を更新してまいります。

名付けて「課外授業のプルガトリオ」
ご笑納くださいませ。

プルガトリオ:煉獄、の意。

場繋ぎに煉獄のタイトルを冠するあたりアレを意識してますけどね。


「これより、指定暴力団組織曲津組(まがつぐみ)の一斉検挙を行う!」

 

ディオドラ・アスタロトの死亡により、後ろ盾を失った曲津組。

アインストの影響からも解放され、自由になった彼らを待っていたのは

警察による逮捕であった。

 

「くそっ、一体全体何だって言うんだよ!」

 

「俺達捕まえてる暇があったら、この町を滅茶苦茶にした悪魔を捕まえろよ!」

 

団員の言う事にも耳を貸さず、警察官によって暴力団員は一掃される。

警視庁が行った、曲津組一掃作戦だ。

 

曲津組。

 

日本全国にその手を伸ばす、指定暴力団。

その実態は悪魔の力を借り、人外の力を使って社会を支配せんと目論む組織であった。

そんな彼らの目論見はうまく行っていた。

 

……彼らのバックについている悪魔、ディオドラ・アスタロトが討たれるまでは。

 

禍の団(カオス・ブリゲート)・英雄派――フューラー・アドルフによる攻撃によって

駒王町は焼け野原となった。

それに乗じ、曲津組は駒王町の一部地域を支配し

一時は駒王町そのものを支配しかねないほどにまで勢力を拡大していた。

 

ところが、その栄華もあっという間に幕を下ろす事になった。

ディオドラ・アスタロトが討たれたことで後ろ盾を失ったのだ。

しかも、ディオドラはアインストに支配されていた事で

末期はまともに後ろ盾として機能していなかったのだ。

アインストに変異してしまった組員も少なくない。

 

「あの悪魔め……俺達の組を滅茶苦茶にしやがって……!」

 

「こうなりゃ他所の地域のもんと合流するぞ、このまま終わってたまるかってんだ」

 

ディオドラに、悪魔に見切りをつけた曲津組の組員は

あるものは珠閒瑠市(すまるし)に、またあるものは沢芽市(ざわめし)に散らばって行った。

曲津組一掃作戦が行われる、少し前の出来事である。

 

この作戦の情報のリークを知らない警察官と、尻尾きりに使われた一部の組員による

大捕り物が演じられる中、あるものは珠閒瑠に潜伏しているという台湾マフィアと合流し。

またあるものは沢芽の大企業に身を潜め、再起の機会を窺うのだった。

 

こうなった以上、悪魔の力は借りられないし

もう悪魔とは手を切らざるを得ない状況に追い込まれていた。

フューラー演説で悪魔の脅威は民間にも広く知れ渡り、そんな悪魔と手を組んでいたと言う事が

明るみに出れば、いくら暴力団と言えど誹りは免れない。

その為、悪魔の力に頼らない再起を目論み駒王町を脱出する組員もいたのだった。

悪魔のお陰で甘い汁を吸っていた連中とは思えない言葉である。

 

そんな曲津組に追い打ちをかけるかのように、週刊誌やスポーツ新聞には

悪魔との関係をすっぱ抜かれている。

書いたのは人間界にやって来たリー・バーチ。

悪魔の側から悪魔と人間のスキャンダルを暴かれるというまさかの逆転現象が起きたのだ。

勿論リーに世論をどうこうしようという目論見は無い。

ただ、注目を集め人間界に自分の執筆能力と情報収集力を売り込もうという魂胆であった。

イェッツト・トイフェルと手を組みながらも

こうしたフリーの行動は欠かさずに行っているようだ。

 

こうして暴力団と言う組織の性質上、元々世論を敵に回していた曲津組だったが

人類の敵対者たる悪魔とのスキャンダルをすっぱ抜かれたことでますます世論が敵に回り

動きづらくなっていたのだ。

そのため、悪魔の影響の強い駒王町からの撤退を余儀なくされるのだった。

 

――こうして、警視庁の曲津組一掃作戦は駒王町においては効果を発揮したのだった。

 

 

――――

 

 

――沢芽市。

計画都市であるここは全国規模に展開する大企業、ユグドラシル・コーポレーションを擁する

企業城下町としての貌も併せ持っていた。

 

しかし、そうした都市にも曲津組の魔の手は伸びており沢芽市名物となっている

ストリートダンサー、ビートライダーズの抗争を裏で操っているのが曲津組とも噂されている程度には

沢芽市での曲津組の知名度もあった。

 

逆にあまり都市伝説程度の影響や知名度しかないのが悪魔の存在である。

かのフューラー演説でさえ、沢芽市では一笑に伏されるほどだったのだ。

それが故に、曲津組が逃亡を図った際に第一候補として挙げられる潜伏先にもなったのだ。

駒王で出版された週刊誌やスポーツ新聞も、こちらでは本当にただのゴシップとして

物笑いの種にしかなっていない。そう言う意味では、ここ沢芽市は平和だったと言える。

 

それゆえか、ここはフューラーによる攻撃の対象からは外れていた。

というより、ユグドラシルの私設軍で応対できる程度の戦力しか派遣されてなかったらしいのだ。

ユグドラシルの私設軍――アーマードライダー黒影。

黒い足軽兵のような鎧を身に纏い、長槍を装備した特殊な警備兵。

 

警視庁の目を巧みに欺き配備されたこれらの装備は、超特捜課に由来しない超常的な装備として

ユグドラシルにおいて運用されていた、謎多き私設軍。

一説には、ユグドラシルと曲津組の接点もあるのではないかとさえ言われている。

詳細は不明だが。

 

……しかし、その噂を裏付けるかのように、曲津組の組員とユグドラシルの社員が接触していた。

曲津組からはディオドラとの契約で手に入れた悪魔に関する資料。

ユグドラシルからはアーマードライダー黒影をはじめとする戦力。

スペック上では、黒影の力で下級悪魔は駆逐できると言うらしい。

そこに目を付けた曲津組が、ユグドラシルから譲り受けようと接触してきたのだろう。

 

一方、沢芽市で行われているストリートダンスによる抗争。

それを表向きに煽っているのがユグドラシルと言うのは

ランキングのネットラジオであるビートライダーズホットラインが

ユグドラシルの単一スポンサーによるものであるからという理由に他ならない。

 

沢芽市においては、その手合いのものは少なくないのだが、取り扱っている物が物だけに

「ビートライダーズの抗争をユグドラシルが煽っている」と読み取れてしまい

さらに先述の噂である「ビートライダーズの抗争を曲津組が操っている」と組み合わせれば

そこからもユグドラシルと曲津組の接点が浮かび上がってしまう。

当然、暴力団との絡みは企業イメージに関わるため

ユグドラシルはその件に関しては黙殺している。

 

一方。ビートライダーズのチームの一つ、チームレッドホットに関しては悪い噂が絶えない。

 

・暴力団と繋がっている

・怪しげな怪物を使役している

・悪魔の力を得ている

 

と言ったものであり、彼らの存在が「ビートライダーズの抗争を裏で操っているのが曲津組」

という噂の信憑性を上げているのは間違いのないものであり、それに対してユグドラシルも

ビートライダーズホットラインで特に取り上げることもしないどころか、煽っている始末だ。

 

――ハロォォォォォゥ、沢芽シティ!!

  今日はどのビートライダーズが活躍したか、早速チェックだ!!

 

「……なんだこれは」

 

「この辺で流行ってるガキどもの遊びっすよ」

 

沢芽市の曲津組組員の援助を受け、沢芽市に逃げ込んできた駒王町の曲津組の組員も

寄越された端末から「ビートライダーズホットライン」を眺めていた。

駒王を縄張りにしていた彼らにとってビートライダーズは物珍しいものであり

言うなればパイプ役ともいえるチームレッドホットはある意味で曲津組一押しのチームであった。

が、チーム鎧武、チームバロンと言った強豪チームの前には霞んでおり

曲津組にとっては面白くない結果であったが

あまり関わると自分たちの存在が表に出かねない。難しい所である。

 

そして、ここに曲津組の組員が持ち込んだものがある。それこそが……

 

「だったら、多少手荒な真似をしてでものし上がってやればいいだろ。

 その為の道具ならいくらでもある」

 

そう不敵に笑いながら呟く組員が持っているアタッシュケースの中には

ドラゴンアップルの果実が詰め込まれていた……




さてここで思い出していただきたいのは

「ドラゴンアップルの果実は拙作(同級生のゴースト)では何を意味していたか」

そう考えると原作(鎧武)とは少し違う経緯で彼らが沢芽市に侵入したことになります。
あれ? アレが無いのにアーマードライダーの開発に成功してるのは何で?
と思った方、鋭いですがその辺は追々……

>ビートライダーズ
鎧武原作とほぼ同じチームがいます。が
裕也はいるけど紘汰と舞、戒斗はここにはいません。
初瀬ちゃん? 安心してください、生きてますよ。

>アーマードライダー黒影
初瀬ちゃんではなく量産型です。
仮面ライダーはこのシリーズには出せない(出さない)ですが
「仮面ライダー」が出せないのであって「マスクドライダーシステム」とか
「アーマードライダー」とかそう言う屁理屈で出てしまった黒影さん。
扱いは特殊強化服程度。まぁ量産型だし仕方ないね。
他のライダーについては思案中。
あんまり出すとフリッケン(某通りすがり)との兼ね合いもあるし。

次回は珠閒瑠市に逃げ込んだ組員を追っていく予定です。


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Case2. 仁義なき共同戦線

今回の舞台は珠閒瑠市。
かなり昔の作品(と言ってもしばらく前にリメイクがPSPから発売されましたが)を取り扱っているので
人によっては今回かなり訳わからない事になっているかも。




珠閒瑠(すまる)市。

日本の某所にある政令指定都市。

ここには、他の町にはないある特色がある。それは――

 

噂が現実になる

 

鶏が先か、卵が先かと言った話だが荒唐無稽なものから質の悪いものまで

ありとあらゆる噂が伝搬し、さも真実であるかのように語られていることが

実は真実であった。こんなよくわからないような話だが

ここ珠閒瑠では噂はただの噂足りえないのだ。

 

曰く、ある学校の校章は魔よけの紋章である。

曰く、市内の航空博物館に展示されている飛行船は実際に空を飛ぶ。

 

曰く、自分の携帯に自分の携帯からかけることで任意の相手を殺せる(好きな願いが叶う)と。

 

とにかく、何が真実で何が虚偽であるのかなど、ここ珠閒瑠ではその境界が曖昧なのだ。

しかし、ある時を境にそうした事態は収束を迎える。

それからと言う物、珠閒瑠は何の変哲もないいち政令指定都市として

穏やかながらも発展を遂げていたのだ。

 

……それは、もう10年以上も前の話になる。

長野で謎の怪物による大量殺戮事件が起きた事と重なり、珠閒瑠の事件は

その特殊性から顧みられることなく風化していった……かに見えた。

 

しかし、事件の記憶は確かに存在していたのだ。

 

――――

 

――珠閒瑠市・港南区。

  港南警察署。

 

ここの資料室を訪ねているのはさる事情から駒王警察署から警視庁へ異動になった

テリー柳警視。禍の団や、悪魔・天使・堕天使と言った三大勢力による事件に対抗すべく

日本各地にある超常的な事件について調べて回っていたのだ。

 

「……長野の事件の影に隠れてしまっていたが

 この須藤竜也(すどうたつや)と言う連続殺人犯も相当な奴だったらしいな」

 

「ええ、当時その事件を担当していた人が全員異動になってしまったので

 今はこうしてここに資料としてしか残ってませんが……

 

 そう言えば、この資料には無い、あくまでも噂なんですけど

 須藤竜也は、悪魔を使役していたって言った当時の巡査部長がいたらしいんですよ。

 今にして思えば、その巡査は本当の事を言っていたのかもしれませんね。

 何せここは『噂が現実になる町』ですから」

 

資料課の職員の言葉に、柳が聞き返す。

ここに来る前に読んでいた資料に、珠閒瑠市は「噂が現実になる事件が起きていた」という

記述があったのだ。あまりにも荒唐無稽であるため、柳も話半分に聞いていたが

目の前の資料課の職員も同じことを言っている。

 

「この言葉自体が既に噂ですけどね。これじゃ鶏が先か卵が先か、ですけれど

 自分もその頃まだ学生だったもので……

 

 あ、でも学生で思い出しましたよ。さっき話した巡査部長の弟が、結構なワルでしてね。

 あちこちで怪しげな奴らと関わっているところを見たって噂があったんですよ

 ……ま、そんなワルもお兄さんと同じ警察の道に進んだみたいですけど。

 どこの管轄に行ったかまでは、さすがに知りませんけどね」

 

「噂ばかりだな」

 

「いやぁ、さっきも言った通り『噂が現実になる』って事件が起きて以来

 噂が真実か真実が噂になったのかわからないのでこういう言い方しかできないんですよ」

 

資料課の職員も困ったように零す。

まるで霧の中に隠されてしまった真実を追い求めるかのような話だ。

しかし、超常的な話と言うのであればこれ以上ない話である。

柳が担当している駒王町もまた、最近実しやかに噂されていることがある。

 

そのほとんどは三大勢力に関するものだが、曲津組(まがつぐみ)に関する噂もちらほらと聞こえていた。

ディオドラ・アスタロトと言う後ろ盾を失った曲津組は瓦解の一途を辿っていたが

残党が生き残り、復帰の機会を虎視眈々と伺っている、と。

 

「その『噂が現実になる』って現象は他の市町村でも確認されているのか?」

 

「そこは何とも、何分さっきもお話した通り鶏が先か卵が先かわかりませんので。

 ただ、誰が噂したかわかりませんが御影町(みかげちょう)の『セベク・スキャンダル』ってありましたよね?

 15年前後前に。その時と同じような現象が、この珠閒瑠市でも起きたんです。

 

 ……要は、外部と隔離されたことがあるんですよ、この町」

 

「なるほどな。それで珠閒瑠の情報については後手に回ってしまって

 長野の事件の陰に隠れてしまったような印象を受けてしまっているのか。

 『セベク・スキャンダル』は俺も詳しくは知らないが、あの規模となれば

 世論が黙っていないはずだからな。それなのに、珠閒瑠のその事件は全然触れられていない。

 事実は小説よりも奇なり……よく言ったものだな」

 

話しながら、資料を読み進める柳。

ふと、須藤竜也について気になる記述が目に飛び込んだ。

 

「この『JOKER呪い』ってのは一体なんだ?」

 

「ああ、ちょうどその事件が起きていた頃に流行った都市伝説ですよ。

 ただ、それには二つ展開がありましてね。

 自分の携帯から自分の携帯にかけると、ジョーカー様って言う怪人が出るらしいんです。

 

 ……そこからなんです。ある話だと『ジョーカー様は願いをかなえてくれる』らしいんですが

 またある話だと『ジョーカー様は気に入らない相手を殺してくれる』らしいんです。

 どっちにしても、物騒な話ですよ。ああ、前者は願いを言えないと詳しくは知りませんが

 死ぬより辛い目に遭うらしいですから。

 

 ……超特捜課(ちょうとくそうか)なんてのが発足したんで、民間企業にも協力いただいて

 慌てて集めた情報なんで、抜けとかあるかもしれませんが」

 

ここ港南警察署も、警視庁の超特捜課発足に当たりモデルケース候補に名前が挙がった所である。

しかし、その当時は既に一連の事件は沈静化していた事や

駒王町での損害があまりにも大きすぎる事から珠閒瑠市に超特捜課発足はならず

ただ過去の資料のサルベージが行われたにとどまっていたのだ。

 

しかし10年前後前である一連の事件のサルベージは時効になったものも含まれており

思うようにいかず、キスメット出版と言った民間の協力を得て

漸く形になった程度である。

 

「どうやら俺が思っていた以上に大量の資料が眠っているようだな……

 これはセージを連れてくればよかったかもしれん。

 『仮面党(かめんとう)』と『新世塾(しんせいじゅく)』の抗争は、まるで今の社会情勢を見ているみたいだな」

 

情報処理に定評のある神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を持つ

宮本成二を連れてこなかったことを後悔しながら柳は資料に目を通していた。

特に仮面党と新世塾の抗争は、現在の三大勢力対フューラー率いる禍の団(カオス・ブリゲート)英雄派の

抗争に連なるものがあると柳は見ていた。

 

仮面党。謎の怪人ジョーカー率いる組織で、ジョーカーに願いを叶えてもらった者は

入党させられると噂されている組織。しかし、先ほどの話が事実ならば

それを行ったのは一般人ばかり。悪魔が態々ジョーカー呪いをするとは思えない。

 

柳は一つの仮説を立てていた。ジョーカーとは、この珠閒瑠市に潜伏していた悪魔ないし

三大勢力のいずれかの勢力に属する者ではないのか、と。

願いを叶える代わりに自身の手駒とするやり口や、依頼一つで人を呆気なく殺す残虐性は

三大勢力のそれと似通っている。しかし、確たる証拠はない。仮説の域を出ないのだ。

 

「そう言えばこんな噂もありますよ。人を殺す方のジョーカーの正体は須藤竜也だって。

 それからその当時、これは本当にあった話なんですが

 ワンロン占いって占いがブームになったんですよ。

 ですがそこでテレビがえらい事を口走っちゃいましてね……」

 

「まだネットニュースも今ほど発達してない時代だからな。テレビで取沙汰されたとなると

 よほど大きな影響があっただろうな。で、何と言ってんだ?」

 

「『ジョーカーとはある一定の人物を指すものでは無い』って。

 そのせいで、ワンロン占いやジョーカーの正体に関しての資料は滅茶苦茶なんですよ。

 全く、ワンロン千鶴もとんだ置き土産を残してくれたもんですよ」

 

「ワンロン千鶴……資料で読んだな。本名石神千鶴(いしがみちづる)

 姫島や真羅をはじめとする五大宗家にも劣らぬ能力を誇ったが

 それが故に迫害を受けていたところ、当時の外務大臣須藤竜蔵(すどうたつぞう)に拾われ

 新世塾へと加入する……か。参ったな、やはりセージを連れてくるべきだった」

 

柳は愚痴をこぼしながらも資料を読み進めている。

全ては三大勢力や禍の団が起こす事件への対抗策を探るべく

各地の超常事件を当たるところから始めるという、凡そキャリアらしからぬ発想である。

それがテリー柳と言う警察官の人望にも繋がっているのだが。

 

「そう言えば警視。駒王町も大変なことになっているようですね」

 

「ああ、超特捜課が発足されただけはあるってところだな」

 

「もしまた噂が現実化する事態が起きていたら、とんでもない事になっていると思いますよ。

 何せ駒王町の騒動は全国ネットで発信されてますし

 仮面党や新世塾の暴れてた頃と違って今はネット全盛の時代ですからね……

 あっという間に全国区で噂なんて広がりますよ」

 

資料課の職員が懸念する通り、ネット全盛のこのご時世において噂は現実化の如何を問わず

強力な武器となるのだ。荒唐無稽なものでさえもある一定の信憑性を得さえしてしまえば

瞬く間に広まってしまう。最悪、信憑性なんてものが無くても広まる。

広まれば最後、沈静化するまでどれほどの時間がかかるか未知数だ。

 

そして、その後も柳は資料室に籠る形になりひたすら資料を読み漁っていたのだった。

 

――――

 

――港南区・廃工場。

 

ここは10年前から廃工場として存在している場所だが

再開発の目処が立たずに放置されており問題視されている場所だ。

そして、それを物語るかのようにここには暴力団が何かの取引をしているだの

台湾マフィアの生き残りが潜伏しているだのそう言った「噂」が飛び交っていた。

 

そして、その噂を裏付けるかのようにここにはかつて台湾でその名を轟かせた

天道連(ティエンタオレン)と言うマフィアと、駒王町から逃げおおせて来た曲津組がここで談合をしていたのだ。

 

「……メリットが無い。その話、乗れないね」

 

「俺達もタダで付き合ってくれって言ってるわけじゃない。

 お前の兄……云豹の遺志を継いで天道連を再興させるためには実績が必要だろ。

 その為にも俺達で悪魔をぶっ潰して新しい秩序を立てるんだよ」

 

「その悪魔の手借りてたの、どこの誰? 確かに私、兄さんの仇討ちたい。

 けれどもう竜蔵も死んだ。私達とお前達、無関係にも程があるね」

 

曲津組の幹部らしき男が、天道連のリーダー格のような男と話をしている。

曲津組は天道連と手を組もうとしているようだが、天道連は首を縦に振らないようだ。

 

「台湾でも三大勢力の悪事は轟いているんだろ? なら……」

 

「それは中国の話だよ。関係ないね。けれど曹操の名を穢した不届きものなら

 日本に逃げ込んだって話を聞いたよ。関聖帝君が大層怒ってるそうだよ。

 手を組むんなら、関聖帝君に交渉することを勧めるよ」

 

「俺達みたいな奴に関羽が力を貸すわけがないだろう。

 ん、悪いがちょっと待て。

 

 ……ああ、俺だ。なに? そうか、そいつは吉報だ……ああ、今すぐに伝える」

 

話の最中、沢芽(ざわめ)市へと向かった曲津組組員からの連絡が入る。

話の内容からそれは彼らにとって吉報であった。

彼らにとっては、ではあるが。

 

「……何と言ったね? あなたの仲間」

 

「お前達が要求していたアーマードライダーシステム、入手の目処が立ったぞ。

 お前も目の付け所が違うな」

 

吉報の内容。それは沢芽市、ユグドラシル・コーポレーションで運用されている

アーマードライダー黒影が曲津組の手に渡ったことを示していた。

そして、それは量産に成功しており遠からず天道連も

アーマードライダーシステムを使うであろう事を意味する事でもあった。

 

「日本のモノづくり優秀だって言うよ。けれど注意した方がいいね。

 そのシステム、竜蔵の組織と同じ匂いがするよ。

 もしかすると、悪魔の手が加えられているかもしれないね」

 

「だが使う事に変わりは無いんだろう?」

 

「これがあれば天道連再興も成せる筈ね。私、昔竜蔵に人質にされて悔しい思いしたよ。

 そのお陰で兄さんは殺され、天道連も散り散りね。

 だから、私の手で天道連をもう一度興す。これ、兄さんへの手向けね」

 

「……じゃ、交渉は成立だな。今日から俺達は同士だ」

 

朽ち果てようとしている廃工場の中で、日本の暴力団と台湾のマフィアが手を組んだのだった……




ペルソナ2自体が言っちゃなんですが(少なくともハイスクールD×Dと比べると)
古い作品ですのでこの辺の時代背景のすり合わせはかなり面倒だったりします。
自分でやった事だけど。

一応(西暦的に)後の時代であるペルソナ3でも
それとなくその後が取り上げられていたりしますけれど……
因みに(当時の)巡査部長とその弟はあの兄弟です、はい。

>須藤竜也
「ペルソナ2」を代表する(?)電波さん。
妄想癖と幻聴で放火や殺人をやったリアルの意味でやべーやつ。
拙作リゼヴィムのキャラ造詣はこの人がモデルになってます。

>須藤竜蔵
電波さんこと須藤竜也の父親。
電波で放火魔な息子を精神病院に押し込んで事件をもみ消そうとした
あくどい政治家。拙作では上記の息子共々故人ですので
「ああ、そう言うあくどい奴がいたのか」程度で。

>天道連
「罰」に出てくる台湾マフィア。読みはティエン・タオ・レン。
天道総司も天道寛も関係ありません。
拙作のリーダー格の男はかつてのボス云豹の弟と言う設定。
云豹の弟は上述の竜蔵に捕まっていたらしいのですが
生死不明のままフェードアウトした(wiki情報)ので今回ボスに抜擢。

>港南区廃工場
「罪」では色々お世話になる場所。あれからさらに10年以上経過しているのに
取り壊されていない辺り当時の珠閒瑠市の混乱っぷりが現れています。


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Case3. 束の間の平穏へ?

深夜テンションで筆が乗る。
そんな感じの連獄編第三話。


駒王町。

 

禍の団(カオス・ブリゲート)のテロ行為や覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)と化した兵藤一誠の暴走による被害も

着々と復興しつつあり、通常ではあり得ない速さでの復興から

「また悪魔が絡んでいるのではないか」と噂されていたが

その実情は超特捜課の新型重機「七四式外装装着型小型戦車」

――通称クローズスコーピオン・パワードによるものであり超科学的とはいえ

一応人間の力によるものである。

 

救助活動には超特捜課課員・安玖信吾(あんくしんご)神器(セイクリッド・ギア)欲望掴む右手(メダル・オブ・グリード)」が読み取った

「生きたいという欲望」の臭いがそのままレーダーの役割を果たしており

そこにクローズスコーピオン・パワードの装備による瓦礫の除去が加わる形となっている。

さらにそこにはアーシア・アルジェントも参加していた。

勿論、瓦礫を除去して助け出された人を神器「聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)」で

治療するための同行である。

 

「はっ、まさか俺の神器がこういう所で役に立つとはな」

 

「でも凄いですよ安玖さん! こう言うのを『痒い所に手が届く』って言うんですよね?」

 

「俺の手は孫の手かっつーの。俺の神器はな、欲望に敏感なだけだ。

 瓦礫に埋もれちまった奴らが生きたいって言うのも欲望だ。

 俺はそいつを利用してるに過ぎないんだよ」

 

「それでも今日も多くの人を助け出すことが出来ました!

 安玖さんに神器を授けてくださった主に感謝いた……いたたた」

 

悪ぶりながらアイスを食べている安玖。それでも人々を助け出せた事を素直に喜ぶアーシア。

喜びを表現するあまり、神に祈ってしまい頭痛に苛まれるのは

安玖がアイスを食べるのと同じくらいいつもの事であるが。

 

「……バカが。聞いてるぞ、お前が悪魔だってことくらい。

 お前みたいなお人よしはお人よしって言うよりも、バカって言う方がお似合いだ」

 

「……自分でもそう思います。でも、自分で決めた事ですから」

 

それでも自分のスタンスを曲げないアーシアに、安玖も毒気を抜かれたのか

「勝手に言ってろ」と返す事しか出来ないのだった。

 

「さ、もうひと頑張り行きましょう、安玖さん!」

 

「俺に指図すんな……ったく。手当は出るって言っても

 コイツを使うと俺も素寒貧になるのがな。俺も他人の事は言えねぇな」

 

欲望掴む右手の欠点、それは使うたびに所有者の財産が失われるという欠点。

便利なのは間違いないのだが、ノーリスクでは使えない。

欲望を司ると言う事はそう言う事なのだろう。

悪態をつきながら、安玖は救助活動に参加していた。

 

――――

 

アーシアが救助活動に参加している一方、オカルト研究部では

塔城小猫――白音の契約解除の儀式が行われようとしていた。

イッセーの再契約が完了するまで契約解除は待つ、という約束が交わされていたため

再契約が行われた現在、こうして白音の契約解除が行われることとなったのだ。

 

尤も、主であるリアス・グレモリーは全く乗り気でないのだが。

 

「……大損ね、私は」

 

「約束は約束だ。ぶつくさ言って無いでさっさとしてくれないか、グレモリー先輩」

 

白音の契約解除に立ち会った宮本成二。

現在では彼が――というより彼の母親が白音の、そして彼女の姉である黒歌を迎え入れた事により

セージにとって白音は家族同然の存在となっていたのだ。

その為、今回の契約解除にも白音側の希望もあって立ち会っている。

 

リアスが大損と言った理由。それはイッセーが逮捕されたことによる。

かねてから問題行動の多かったイッセーであったが、つい先日人間である

天野夕麻を殺害したことで、現行犯逮捕され現在は警視庁に拘留されているのだ。

そのため、イッセーはリアスの手を離れた状態になっており

その上白音まで自分の手を離れると言う事からリアスは大損と言っていたのだ。

 

魔法陣の上に白音を寝かせ、呪文を唱えるリアス。

すると悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が彼女の身体から抜け出て来て、リアスの手元に戻る。

白音の身体から、悪魔の駒は消え去ったのだ。

 

「……これで終わったわ。イッセーの時と同じ要領だけど、うまく行くものね。

 正直に言えば、失敗してほしかったけれど……」

 

「そうなったら、大日如来様か天照様のところに駆け込むさ。忘れたとは言わさんぞ。

 もう悪魔の駒による支配は、神仏同盟(しんぶつどうめい)の影響下では何の意味も無いって事を」

 

悪魔の駒による強引な悪魔への転生は、かねてから他神話勢力において問題視されていた。

そして神仏同盟はそれに異を唱える形で、悪魔の駒の摘出手術の技術を確立させたのだ。

その根幹となる情報こそ、悪魔社会から流出したものであるが

技術として確立させたのは神仏同盟が初であり、ギリシャが追従する形となっている。

 

「……私には理解できないわ。どうして悪魔としての生をそこまで拒絶するの?」

 

「そりゃ一生理解できないだろう。理解したければ人間について勉強し直すんだな。

 あと白音さんや黒歌さんについてなら猫魈(ねこしょう)について勉強。

 とどのつまり、棲む世界が違うのさ」

 

自分は人間に対して好意的だと思っていたリアスだったが

現実はセージにこれでもかと言う位に拒絶されている。

無理もない。人間を悪魔にしようとしたのだから。それは人間に対して好意的とは言えない。

 

「猫魈はどちらかと言えば私達に近い方じゃなくて?」

 

「……一緒にしないでください。猫魈にも猫魈としての誇りがあります。

 悪魔が悪いとかそういうお話の前に、一緒にされたくありません」

 

「あらあら、随分と嫌われてますわねぇ」

 

リアス側に付き添っていた姫島朱乃から気の抜けたような

それでいてどこか棘を含んだような、そんな声がかけられる。

リアスが不安定になっている昨今、今まで以上に女王としての役割を果たすことが多くなり

結果として悪魔としての思想に傾倒している節が見受けられる。

 

「……好きとか嫌いとかじゃないです」

 

「まぁいいわ。これだけは言っておくわ、セージ。

 小猫を……白音をよろしく頼むわよ」

 

「言われなくてもそのつもりだけどな」

 

儀式の影響か、少々ふらついている白音を背負いながらセージはオカ研の部室を後にする。

その様子を、リアスは複雑な心境で見送っていた。

 

「朱乃、この部室も広くなったわね……」

 

「イッセー君は逮捕、アーシアちゃんは警察のお手伝い。

 祐斗君も最近は部活に顔を出さないことが多いし、ギャスパー君は相変わらず……

 

 アーシアちゃんとギャスパー君以外は、彼のせいによるものが大きいかもしれませんわね」

 

「……セージね。私が欲しかったのはイッセー……赤龍帝だから

 あっちは殺せばよかったかもしれないと、今更ながらに思うわ……」

 

「あらあら。情愛のグレモリーらしからぬ言葉ですわよ」

 

「茶化さないでよ、朱乃」

 

二人きりになってしまった旧校舎の部室に、二人の話声だけが響いていた。

そんな時である。魔法陣から通信が入ったのは。

送り主はサーゼクス・ルシファー。リアスの兄であり四大魔王の一人である。

 

『やあ。調子は……ってあまりよさそうじゃないね』

 

「一体何用でございますか、魔王様?」

 

『これはプライベートだからお兄様でも構わないのだけど……っとそれはさておき。

 イッセー君だが、やはり釈放は難しいと言う事らしい。

 腕利きの弁護士だった転生悪魔がいると言う事で協力を仰いでみたんだが

 却下されてしまってね……私、魔王なんだけど……』

 

おちゃらけながらも、言葉からサーゼクスが気落ちしている様子が伺える。

そんなサーゼクスを宥めるかのように、朱乃が会話に参加する。

 

「あらあら。魔王様の命令に背くなんて、セージ君はもう人間だからわからなくも無いですけど

 転生悪魔でそんなことをする輩がいるなんて、驚きですわ」

 

『命令じゃ無いからね。あまり命令をすると怪しまれるからね。

 そうでなくとも最近は私達に対する風当たりが何やら強いみたいでね。

 あまり、リーアたん達の手伝いを今までみたいに出来なくなるかもしれない……

 と言う事は覚えておいてくれ』

 

「大丈夫ですわ。眷属は失いましたけれど、私は紅髪の滅殺姫(ルインプリンセス)

 魔王様の手を煩わすことなど、させませんわ」

 

『頼もしいなリーアたん、その意気で頑張っておくれ!

 イッセー君については、引き続き我々の方から何とかしてみるから心配しないでくれ』

 

妹であるリアスにエールを贈り、そのまま魔法陣を介した通信は途切れてしまった。

彼の性格上、部室にやって来てもおかしくは無いのだがそれが行われない辺り

魔王に対する監視も日増しに強くなってきている証左と言えるだろう。

 

「……ああは言ったけれど、お兄様も心配ね。

 全く、どこの誰なのかしら。魔王様に楯突こうなんて考えている輩は」

 

「……心当たりがありますわ。イェッツト・トイフェル……

 コカビエルと戦った時に現れた、あの特殊部隊ならあり得ますわ」

 

「そんな!? 彼らは魔王様直属の特殊部隊よ!

 そんな彼らが魔王様に牙を剥くなんて……」

 

朱乃の言葉に、リアスは耳を疑う。

イェッツト・トイフェル。現代の悪魔と称される彼らは魔王直属部隊でありながら

四大魔王の意向に完全に従っているわけではないどころか、真逆に近い思想を持っているのだ。

彼らの戦い方は、武力だけで現在の地位を手に入れた四大魔王とは異なり

世論を味方に付けるやり口を好んでいる。

それ故、四大魔王に対する風当たりが強くなっていたのだ。

サーゼクスがお忍びでオカ研の部室にやってこないのも、それが原因だ。

 

(冥界でクーデター……まるで旧魔王派じゃない!

 一体全体人間界で、冥界で何が起ころうとしているのよ……!)

 

リアスが幼き日を過ごした冥界と、今の冥界は明らかに違っている。

その違いを今更ながらに認識しながらも、リアスは何もできずにいた。

 

籠の中の鳥は外に飛び出しても、翼をもがれてしまったのだろうか。

リアスの運命もまた、本来あるべき所から大きく狂いだしていたのだ……

 

 

 

……だが、その「本来」を知るものが一体誰であるのか。

その「運命」は、這い寄る混沌に手繰り寄せられているかのようであった……




平成ジェネレーションFINALのアンクがあまりにも「泣けるで!」だったので
急遽こちらの安玖さんにも再登場願いました。
最近影薄かったからね。
アーシアが映司っぽくなってしまったのは気のせい……だと思いたい。

今回本編の設定資料編見て無いと分からない部分がいくつかありますが
そこは「本編もよろしく!」と言う事で一つ。

>セージ
この「課外授業のプルガトリオ」では取り上げられることもありますが
基本的には端役のつもりしてます。
じゃあ主役は? 声と元ネタを考えるとサーゼクスっぽいけど
あれは主役って柄じゃないし……
まぁ、覇龍騒動~セージが実体を取り戻した直後の情勢を描いている物語ですので。

本格参戦は学級崩壊のデビルマンまでお待ちください。
なお連れて行かなかったことを前話で柳課長に愚痴られている始末。

>リアス
いやね、原作でもありえたかもしれないIfだけどちょっと意地悪が過ぎるかな、と。
セージの神器は当時その性質上全く使い物にならなかったから
即座にポイしててもおかしくなさげなのが。
二天龍の片割れ・回復持ち・堕天使ハーフ・猫・時間停止・魔剣使い・聖剣使い・ヴァルキリー
能力だけで選んでる(風に見える)奴のどこが「情愛の悪魔」なのか
小一時間問い詰めたくなります。あちこちで言われてる事なんですけどね。
なのでセージは最序盤無茶苦茶雑魚設定でした。今は見る影もありませんが。

>弁護士紹介の件
レイヴェル配下のスーパー弁護士を頼ろうとして失敗。
交渉に出たのがサーゼクス以外だったらまだよかったかもしれないけれど
サーゼクスが交渉に出向いてしまったので大失敗。
それ以前に冥界の弁護士が今回の件に役に立てるかと言われると……


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Case4. セージは今、免許を取っている

凄く……凄くご無沙汰しております。

ドライブから始まった物語はゴースト、エグゼイドを経て
ビルド、果てはジオウに辿り着いてしまいましたが
更新再開です。

それでも、まだ定期更新とはいかない状況であることをお許しください。


駒王学園二年生にして警視庁超常事件特命捜査課(ちょうじょうじけんとくめいそうさか)の特別課員である宮本成二(みやもとせいじ)

様々な出来事を経て警視庁・超特捜課の所属になった……のはいいのだが

ここで一つ大きな問題が発生してしまった。

 

――――

 

それは数日前にさかのぼる。

超特捜課は駒王町にてテロ活動を行う禍の団(カオス・ブリゲート)を自衛隊らと協力して撃退する立場にある。

この日も、禍の団が動いていると言う通報を受け超特捜課は出動していたのだ。

いわば、超常事件や超常の存在に対する特殊捜査係ともいえるのが超特捜課であり

セージも神器(セイクリッド・ギア)を所有している事や紆余曲折を経て超特捜課と行動を共にしている。

 

『セージ、追撃するぞ!』

 

「分かった!」

 

PROMOTION-KNIGHT!!

 

禍の団の英雄派に所属するフューラー・アドルフが派兵した部隊の追撃のために

セージは昇格(プロモーション)のカードを使い騎士(ナイト)に昇格。

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)に宿る意識体、紫紅帝龍(ジェノシス・ドラゴン)フリッケンが変形したバイク

マシンキャバリアーを使い敵を追い詰めて勝利するのだった。

 

なお、紫紅帝の龍魂は神器ではないし紫紅帝龍フリッケンは

龍の名を冠しているがドラゴンではない。

これに関しては、これまた複雑な経緯を有している。

 

ともあれ、セージは自身にある力を活用して駒王町を

ひいては日本国を脅かすテロ組織の追撃を行いそれが勝利に繋がったのだ。

 

……ところが。

 

「セージ君。そのバイクは排気量どれだけです?」

 

「…………えっ」

 

同行していた巡査、氷上涼(ひかみりょう)が発した何気ない一言。

マシンキャバリアーはセージが持っている原付免許で運転できる代物ではない。

幾らフリッケンのサポートがあるとは言え、本来ならば運転すらできない代物なのだ。

 

『……すまんセージ、うっかりしていた』

 

「冥界と同じノリで扱った俺も迂闊だった……」

 

落ち込むセージに、追い打ちをかけるように交通課に所属していた事もある

氷川と同じく巡査の霧島詩子(きりしまうたこ)が声をかける。

 

「冥界ならともかく、ここは日本。確かあなたの免許は原付免許。

 そのバイクはどう見ても原付じゃなさそうだから……無免許ね。

 これは超特捜課のメンバーにあるまじき行為ね」

 

「そ、それは……」

 

『おい姉ちゃんよ! あそこはあのマシンを使わなきゃ追い付けなかった場面だろうが!

 これだから人間は面倒臭いんだよ、こういう時のルールがな』

 

霧島の容赦無い言葉に返す言葉を失うセージ。

ひょんなことからセージに憑依している冥界の勇者、悪魔アモンが庇いたてるが

霧島の言葉には説得力があり過ぎて唯々頷き返す事しか出来なかったのだ。

 

「……フリッケン、リミッターはかけられるか?」

 

『出来るがお前、原付のスピードでフューラーの部隊とかに太刀打ちできると思うか?

 二輪ならいざ知らず』

 

「出来ない」

 

原付で太刀打ちできるとは、セージどころかこの場にいる誰もが思っていないことだろう。

思わず即答したセージだったが、人間界で高機動力を誇るマシンでもある

マシンキャバリアーが使えないのは痛い。

しかしセージに二輪免許は無い。ならばどうするか。答えは一つであった。

 

――――

 

「……と言うわけで、今日から駒王運転免許試験場で各種試験を受けてください。これ書類です。

 バイクの免許と神器は関係ないって言えればいいんですけど、形だけでも必要ですからね。

 乗り物型だと車両登録とかそう言う事も含めて手続きいりますからね。

 あ、車両登録とかの諸々は免許さえ取ってもらえれば後は我々でやっておきますので」

 

「やっぱそうなりますよね」

 

駒王警察署から少し離れたところにある、駒王運転免許試験場。

ここでセージは免許取得に向けて試験を受けていた。

既に原付免許を取っているとはいえ、普通二輪とはまるで話が違う。

 

ところで実はこの試験、超特捜課の装備開発を行っているギルバート・マキ博士も協力している。

何故、とはセージも思ったがなんでも試作中の

「デーモンサーチャー」と呼ばれる装置の実験のためらしい。

デーモンサーチャー。その名の通り悪魔を探知する装置であり

市井に紛れ込んだ悪魔を探り当てるための装置らしい。

これは「悪魔憑き」に対しては悪魔の影響が強く出ているほど反応を強く示すため

今回の試験に際してセージがアモンの力を借りたドーピングをしないようにすると言う名目上

この装置のテストも兼ねているようだ。

 

『面倒臭いものを作りやがったものだな、人間も』

 

「俺に言わせればそうでもないさ。これが実用化されれば

 人間社会に紛れ込んだ悪魔を効率よく炙り出せる。

 そうすれば、誤認で無関係な人が巻き込まれることも無くなると俺は見ている。

 

 ……研究が進めば、天使だって炙り出せるかもな。前に薮田(やぶた)先生が話していたんだが

 『天使も悪魔も結局は同じ存在』だってな。

 グレモリー先輩辺りが聞いたら卒倒しそうだけどな」

 

『そっちはどうでもいいけどよ、何も今回テストしなくてもいいだろうがよ』

 

「……この試験、俺の将来のためも考えてるんだ。

 普通免許の方が就職には有利かもしれないけどな。

 お前が表に出ている状態で免許を取れるかどうかは

 後で打診してみるから少し大人しくしててくれ」

 

セージはセージで、今回の試験を将来のためと考えている節があった。

人間としてこれからもこの世界で生きていくからには、人間のルールに従わなければならない。

逆に言えば、そのルールさえ守れればアモンも人間界で生きていくことは可能なはずなのだ。

本人が首を縦に振るかどうかは別として。

セージは人間として、人間のルールを守るために

こうして今回の試験を受けることに名乗り出たのだ。

 

――――

 

自動二輪車の操縦は原付とはわけが違う。

セージも原付は通学やら何やらで乗り回していたが、自動二輪を誰のサポートも受けずに乗るのは

今回が初めてである。アモンはもとより、フリッケンもセージの意向に従い今回は静観だ。

 

『おい、ちょっとやべぇんじゃねぇのか』

 

『黙ってろアモン』

 

実際、力のかかり方が原付のそれとは比べ物にならない。

挙動自体は原付の応用で出来るものの、かかる力は原付よりもはるかに大きい。

そのせいか、セージも苦戦しているようである。

 

しかし今回の試験は、特別措置が取られていた。

セージは初めその特別措置を辞退しようとしたが、交通課と超特捜課の双方から

「日にちをかけてでも受かるまで繰り返す、ただしなるべく速やかに。

 経費はこっちで何とかするから」

と言われてしまったのだ。

 

事実、セージはすんなりと合格どころか、未だ合格ラインにすら立てていない。

ブレーキが間に合わなかったり、S字をうまく曲がり切れなかったりと

原付とは違う自動二輪の力に苦戦していたのだ。

 

「……少し休憩にしましょう」

 

試験官の言葉に従い、休息を取る事になる。

既に日は頂点を少し過ぎたところだが、状況は改善されていない。

セージはあの事件を迎える前から、運動神経はそこまで優れていたわけではない。

駒王番長などと呼ばれちょっとした有名人にはなっていたものの

それも腕っぷしではなく外見と機転のお陰である。

原付だって辛うじて運転出来た程度だ。

それなのにかつて兵藤一誠を原付の後ろに乗せて堕天使からの逃走劇を演じられたのは

単に火事場の何とやらのお陰であろう。

 

『おいセージ。こんなんで本当に大丈夫なのか?』

 

「やるしかないだろう。俺としても今回の話には乗り気なんだ」

 

アモンの言葉に、セージは嘆息しながら答える。

セージ自身としてもこの状況を改善したいとは思っている物の、どうにもならない状況なのだ。

今までの戦いのように神器やアモンの力を使うわけにはいかない。

と言うより、それが平和な人間社会での生き方だろう。

過ぎた力はそれ自体が脅威となる。肩身が狭い思いをしなければならないとは言っても

郷に入りては郷に従え、と言う言葉もあるのだ。守るべきものは守らなければならない。

 

『面倒な話だな。俺に代われば一発合格間違いなしだってのによ』

 

「それはズルだろう」

 

アモンの力を使えば、バイクの操縦も簡単に出来るだろう。

フリッケンもマシンキャバリアーの操縦の際にアシストしてもらっているが

今回はそう言う用途では使えない。

アモンと同じ理由では無く、フリッケンを憑依させると言う用途はそもそも出来ないのだ。

セージがそれによって不自由を感じた事は無いが。

そして試験に使っているバイクも当然マシンキャバリアーでは無いため

フリッケンのアシストはどちらにせよ出来ない形だ。

 

一息ついているところに、警報が鳴り響く。

禍の団による攻撃のようだ。

 

「すみません! すぐ戻ります!」

 

まだバイクの使えないセージは、原付に跨り現場へと急行するのだった。

 

――――

 

超特捜課で装備開発を行っているギルバート・マキ博士に託された

デーモンサーチャーを原付に装着、稼働させながらセージは原付で現場に向かって移動していた。

反応は悪魔が三体。それ以外の反応は無い。

と言うより、まだ試作品であるこれは悪魔にしか反応しない。

悪魔憑きであるセージを含めると四体だが、移動中はアモンの力を使っていないため

セージから発せられる悪魔の反応は弱い。よって、機械に出た反応は三体分である。

禍の団に所属している悪魔か、そうでないかまではわからない分

セージが元来持っている神器である記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)のRADARのカードよりは精度は劣る。

 

だがデーモンサーチャーの肝は量産化である。

一般流通させると言う意味ではコストを抑える必要がある。

その為にそう言った細かい精度までは犠牲になっている。

そう言う意味ではセージの能力との棲み分けは成されている。

決して必要のない発明ではないのだ。

それ故に、性能テストのためにセージも自前のレーダーではなく

デーモンサーチャーを使い悪魔の所在をモニターしているのだ。

 

(悪魔って事は、グレモリー眷属かはぐれ悪魔のインベス、あるいは旧魔王派ってところか。

 数的にグレモリー眷属っぽいな、これは。シトリー眷属は冥界待機状態だし

 インベスや旧魔王派は少数精鋭じゃない。

 魔王本人が出て来たんなら話は変わってくるだろうが……

 

 俺みたいに戦うためにデーモンサーチャーを活用する場合

 相手の所属とかが分からないのは不便だな。

 逃げるのに活用する場合は相手の位置が分かればいいから然程問題ないだろうが)

 

セージの読み通り、現場には既に木場祐斗や姫島朱乃、ギャスパー・ヴラディと言った

リアス・グレモリーの眷属がフューラーの部隊と交戦していた。

聖槍騎士団はいない。異能封じの聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の複製品を持つ彼女らが居たら

聖槍一本で封じられる神器や異能、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に頼って戦っている

リアス眷属がまともに戦えるはずがないのだから。

 

『雑魚の小競り合いって所だな。どうするセージ? 無視も出来なくは無いと思うが』

 

「いや、仕留める。戦火が飛び火したら折角復興しつつある町に被害が出るからな。

 それに、朱乃先輩やギャスパーは兎も角祐斗をスルー出来るほど薄情じゃない。

 

 と、言う訳で――狙い撃つ!」

 

DIVIDE!!

 

BOOST!!

 

DOUBLE-DRAW!!

 

 

 

GUN-RADAR!!

 

 

 

SOLID-SNIPER RIFLE!!

 

セージは離れた位置から、記録再生大図鑑と紫紅帝の龍魂を使いスナイパーライフルを実体化させ

一体ずつフューラーの兵士たちを撃ち抜いていった。

アモンの力を使うなりして自分が直接殴り込めば混戦状態に陥る。

そうなれば勝てたとしても周辺に出る被害が大きい。

その為、足止めを祐斗達にやらせる形にして

セージは一体ずつ確実に敵を潰していく手段を選んだのだ。

セージが加勢したことで、膠着状態だった戦況は一気に祐斗達に傾いた。

 

「これは……あらあらセージ君。ご無沙汰してますわね」

 

「どうも……って後ろだ!」

 

セージに振り向いて目の笑っていない愛想笑いを振りまいた朱乃の背後から

フューラーの兵士が銃剣を手に襲い掛かる。

そのまま朱乃を突き刺さんとしたが、その刃は居合わせた祐斗によって

届くことなく斬り捨てられた。

 

「Sieg... Rei... ch...」

 

「『帝国に勝利を』……か。今更だけど彼らはオーフィスでも他の英雄派でもなく

 フューラーにしか従っていないみたいだね。

 それよりセージ君。助けてもらっておいて言うのもなんだけどさ……

 

 ……腕、鈍ってない?」

 

「うっ……そ、そうか? そりゃ確かに最近は戦闘にはあまり出ずに

 免許の取得にかまけていたが」

 

祐斗の指摘もある意味的確であった。セージの参戦が原付での移動であったことを差し引いても

遅かったのもあるし、確実性を重視したとはいえ

フューラーの兵士を片付けるのに時間がかかっていたのも事実。

極めつけは、討ち漏らしによってあわや朱乃が致命傷を受けかねなかったことだ。

 

『言われてみれば、この所戦闘らしい戦闘には出ていなかったな。

 まぁ、俺は半分わざとだと思っていたが。

 戦闘なら、死者が出る事なんて珍しくもなんともない。

 それにかこつけて、あの口煩いグレモリーの女王を始末するつもりなのか、とな』

 

(……アモン。冗談が過ぎるぞ。俺は確かにグレモリー先輩や姫島先輩

 それに兵藤なんかとは関わり合いになりたくないが

 だからって「死んでいい」とまでは思ってない……それは兵藤も一応な。

 向こうの縄張りだけで大人しくしている分には、俺だって一々突っかかったりはしない)

 

『だが今回が禍の団を始めとした俺達の敵の中でも単純な戦闘力だけに特化していた

 フューラーの兵士で良かったぞ。これがアインストやインベスだったら

 戦火の飛び火による被害は二次関数的に広がるぞ』

 

自らの能力によって眷属や同類を増やす能力を持っている異界の怪物、アインスト。

そしてドラゴンアップルに巣食う害虫とも呼ばれる

異界の怪物でもあり小動物の妖怪が変異した存在でもあるインベス。

戦闘に巻き込まれることは即ち逃げ遅れた人々が

アインストないしインベスへと変異してしまう恐れがあるほか

地形もミルトカイル石やドラゴンアップルによって汚染されてしまい

除染の手間が増えてしまう。

ここ最近の駒王町は、ようやくそう言った汚染の除去が進んできたところなのだ。

 

(確かにな。そう言う意味でもこっちでもマシンキャバリアーを

 早く使えるようになりたいところだが……)

 

「ところでセージ君、免許の取得ってどういうことだい?」

 

祐斗の質問に対し、セージは今自分が置かれている状況を説明する。

これからの戦いのためにも、セージのマシンは役に立つ。

それを人間界でも活用できるようにするため、免許をとろうとしている最中なのだと。

 

因みに、ギャスパーはセージが怖いのか既に逃げ帰ってしまっている。

この辺り、セージが初めに会った頃よりも大幅に悪化しているようではあるが。

 

「なるほどね。それは確かに戦っているどころじゃないね。

 となると、暫くは僕らで町の防衛にあたるべきかな?」

 

「町の防衛なら、リアスも苦い顔はしないでしょうけれど……

 セージ君をこのまま野放しにしておくと言うのも、それもそれで問題がありますからねぇ」

 

(……信用されてないな。当たり前か)

 

過去、セージは幾度となくかつての主であるリアスに対し牙を剥いた。

今までは同じオカルト研究部と言う括りの中にいたためリアスもある程度

セージの動向を観察できていた部分はあるが、既にセージはオカ研を退部している。

その為、リアスは使い魔を通してセージを観察していたのだった。

尤も今回、朱乃達がセージに遭遇したのは全くの偶然なのだが。

 

『おい嬢ちゃん。野放しにしなかったらどうなんだ?

 言っとくが、お前達に一度勝っているのはセージを通じて知っているんだからな』

 

(煽るなアモン。勝ったって言ってもあれはレーティングゲームの会場だからできた戦法だ。

 町中で被害を出さずに姫島先輩らを倒す戦法なんざ立てられない。

 と言うか、関わり合いになりたくないって言ってるそばから戦うってどういう事なんだよ)

 

「……とにかくそう言う訳だ。今回も免許の試験を抜けてきた形なんだ。

 町の防衛は、免許が取れるまでそっちにも頼みたいんだが。

 

 ん? と言うか、クロスゲートの監視は兎も角町の防衛はそこまで躍起になる事なのか?

 ああいや、今回は……いや今回『も』、か。

 お陰で助かったからあまり悪し様に言う気も無いが

 超特捜課ともめ事だけは起こさないようにして欲しいとだけ、な」

 

「勿論、そっちも行いますわよ?

 けれど、過ごしてきた町をいいようにされて黙っていられるほど

 私達も薄情じゃありませんわ。セージ君ならわかっていただけると思ってましたのに。

 警察に対しては、私達、『善意の協力者』と言う事で通してありますもの」

 

「僕としても問題ないかな。超特捜課の人達も戦ってくれているみたいだし。

 セージ君の言わんとすることもわかるけれど、先輩の言う通りにやっている感じかな」

 

少々わざとらしく(と、セージには見えた)振る舞う朱乃をよそに、祐斗もセージの提案に乗る。

駒王協定の締結と共にリアスの駒王町に対する権限の一切は失われている。

その為、駒王町の庇護は既にリアスやその眷属らの職務とは一切関係ないことなのだが

理由をつけてリアス達は今なお町のパトロールを行っていた。

 

「知ってると思うけれど、今のオカ研は人手不足なのよ。誰かさんのせいで。

 それとも、リアスに頼んで免許……原付は持っているみたいですから二輪かしら。

 それを取得できるように頼んでみるのも一つの手ではないかしら?

 確かに駒王町の支配権は無くなったけれど、悪魔の力を使えばーー」

 

朱乃が喋り終えるより少し前に、セージが物凄い目つきで朱乃を睨んでいた。

朱乃が語っていた事は、セージの理想とは真逆のものであったからだ。

 

セージにとって、二輪免許の取得は将来も見据えた大事なもの。

決して戦いのためだけの取得ではないのだ。

そして、人間としてこの世界で生きるからには、人間の敷いたルールには従わなければならない。

そこに悪魔の力や権力を介在させるような事は

セージにとっては許しがたい人間への冒涜だったのだ。

セージの表情を見て察した祐斗が、朱乃にそっと耳打ちをしている。

 

「……い、言ってみただけですわ」

 

「口は禍の元、言わなくてもお判りでしょう姫島先輩。

 確かに俺は神器の力、フリッケンの力、アモンの力を使っちゃいますが

 バイク免許取得に関しては一切力を行使しておりませんので。

 それじゃ、俺は試験があるのでこれで」

 

一頻り話し終えると、セージは原付に跨って来た道を引き返していった。

その背中を、祐斗と朱乃は黙って見送っていた。

 

「……セージ君なりのけじめのつけ方なのかもしれませんね。

 今まで部長は、いや僕らは悪魔の力で好き放題やり過ぎた。

 今やそれはそれより強い力や悪意で押しつぶされ、それが罷り通らなくなった。

 

 いや、或いはそもそも間違っていたのかもしれませんね」

 

祐斗の言葉を、朱乃は黙って聞いているのだった……

 

――――

 

「お待たせしてすみません、試験を再開しましょう」

 

原付で試験場に戻ったセージは、再びバイクに跨り免許取得まで

試験場のコースで二輪の運転に明け暮れる。

その成果が出るのは、そう遠くない話であろう……

 

その間、痺れを切らしたアモンがあわや飛び出そうとしたり

うっかり紫紅帝の龍魂の力を使いそうになったのはまた別の話。




おまけ

セージが無事二輪免許を獲得して少し後

「はい駒王運転免許試験場……って宮本君、もう免許は取ったはずじゃ……」

『違う、俺だ』

名前:アモン
職業:ソロモン72柱序列7位
住所:駒王町○○-××

『これで俺も免許が取れる。そうなればセージにもでかい顔はさせねぇし
 人間社会でも動きやすくなるからな』

――――

タイトルと言いおまけと言い元ネタは仮面ライダードライブの
(後の展開を考えると笑えるけど涙ものの)チェイス免許取得回でした。

帝王切開どころか死産しかねないほどの難産(と言うかほぼ死産かもしれませんが)
で結局間が開いた部分をメタネタで埋めると言う反則技を使って形にしました。

Q:木場がセージに対して「腕がなまった」って言ってるけど
  そんなにセージ戦線離脱してた?

A:投稿日時がかなり空いたことに対するメタネタも含んでます……


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Case5. 珠閒瑠の悪魔とかつての噂屋

不定期掲載で申し訳ないです。
今回の舞台は珠閒瑠市。
一応、ハイスクールD×D要素は入っている……つもりですが。

さておき。
この「課外授業のプルガトリオ」ですが
少なくとも残り3話以上は入りそうな気配です。
そこで

「課外授業のプルガトリオ」を独立させるか否か

と言う点についてアンケートを取りたいと思います。

投稿が不定期なので、期限は次回投稿まで
反映は次々回投稿時とさせていただこうかと考えております。


政令指定都市、珠閒瑠(すまる)市。

ここも十年ほど前、悪魔の脅威にさらされた地域である。

 

しかし、禍の団(カオス・ブリゲート)と言った冥界の悪魔達によるものではなく

その悪魔の出現に関してはこの都市特有の現象である

 

噂が現実となる

 

というのが大きく反映されていたと言うのが、現在の見解だ。

その為、ここはフューラー演説よりも前から実しやかに悪魔の存在は語られていた。

しかし、それでも噂の域を出ておらず先の事件が沈静化したことで

悪魔の出没もぱたりと止んだため、過去の出来事となっていたのだ。

 

――フューラー演説が行われるまでは。

 

――――

 

珠閒瑠市の南西に位置する鳴海区。

十年ほど前は開発途上の区域だったが今は様々な施設が立ち並び

特に郊外型ショッピングモール、ジュネス珠閒瑠店が鳴海区に出店したことが大きい。

珠閒瑠は決して田舎では無いが、ジュネスの商業効果はそれなりに大きいものがあった。

 

しかし、このショッピングモールも立地がまずかった。

何故なら、十年前にここ鳴海区には南条コンツェルンが出資していた謎の理学研究所があり

そこでは悪魔に関わる研究が行われていたのだ。

その理学研究所は紆余曲折を経て今度は沢芽(ざわめ)市にも拠点を置く

ユグドラシル・コーポレーションが買収し、また新たな研究を行っており

その関連のトラブルがしばしば発生しているのである。

 

人間の師匠を尋ねにやって来た悪魔、バオクゥも久々に珠閒瑠市にやってきたら

早々にトラブルに巻き込まれてしまったのだ。

ジュネスの裏路地に、どこからか迷い込んだインベスが発生していたのだ。

 

「この灰色の甲殻……なんでインベスがこんなところに!?

 と、とにかくここで退治しちゃいましょう。敵はまだこちらに気付いてないですね!

 だったら突撃しちゃいます!」

 

自称・20.3cm連装砲をショルダーバッグのように担ぎ、インベスに狙いをつける。

奇襲だったこともあり、インベスの被害が出る前に倒す事が出来たが

砲撃音だけは誤魔化す事が出来なかったため、ちょっとした騒ぎになってしまったのだ。

 

「しまった! ここは冥界じゃないからサプレッサー付けとくべきでした!」

 

バオクゥは外見的にはセーラー服にキュロットを身に着けた女子高生程度の年齢の少女のため

彼女がここを歩いていること自体は大騒ぎになる事は無いが

構えているショルダーバッグのような砲が問題である。ファッションにしては前衛的過ぎるし

実弾が発射できるとなれば銃刀法違反である。

そして目の前にはインベスだった残骸が転がっている。警察に見つかれば、職質は免れない。

人が集まって来る前に、ここを離れなければならない。

しかし、彼女も鳴海区に来たのは結構前の話である。それも、ジュネスが出来る前。

土地鑑など、あって無しが如くであった。

 

慌てて離れようとするバオクゥを、さらに物陰に引っ張り込もうとする手が伸び

そのままバオクゥは引きずり込まれてしまった。

 

――――

 

「……随分と久しぶりだけど、こっちでそんなのぶっぱなしちゃまずいって

 パオに言われなかった?」

 

「た、助かりました……恐縮ですうららさん……」

 

バオクゥを引っ張り込んだうららと呼ばれた手の持ち主は、目元のほくろが特徴的な

赤い髪に濃いめの化粧をした女性。

緑色のツーピースを着ており、砲さえなければ女子高生で通るバオクゥと違い

色々な意味で目立つ女性であった。

年のほども、バオクゥの外見年齢よりは割と高い。

 

「……なんかディスられた気がするけどまあいいわ。

 それよりアオバちゃん、パオのアジトならここには無いわよ。

 わけあって引っ越したから。教えようと思ったんだけど

 アオバちゃんの連絡先が分からなくってね、ゴメンゴメン。

 で、こっちに来たって事はパオに用事あるんでしょ?

 ついてくる?」

 

「重ね重ね恐縮ですうららさん! ところで、うららさんは何でここに?」

 

「あ、アタシ? アタシはジュネス――ここのショッピングモールで買い物。

 その帰りにでっかい音が聞こえたから来てみたら

 アオバちゃんが砲担いでいるんだからびっくりしたわよ。

 一体何と戦ってたのよ? 悪魔なんて……あ、最近またぽつぽつ出るようになったか……

 まぁいいわ。車で新しい事務所まで送って行ってあげるから、早く乗りなさいよ」

 

こうして、ジュネスの駐車場に止めてあったうららの車に乗り込んだバオクゥは

そのまま新しいパオフゥの事務所へと向かう事になった。

 

――――

 

珠閒瑠市・青葉区。

野外音楽堂を擁する青葉公園や、出版社にTV局、洒落た料理店なども立ち並ぶ

珠閒瑠の東に位置する区域である。さながら、東京は港区青山のような街並みである。

青葉通りの商店街の裏、ここに新たなパオフゥのアジトが構えられている。

 

洒落た町並みには似合わないが、表には表で葛葉(くずのは)探偵事務所があり

またマスコミも多い町であるため、情報収集としては強みのある立地と言えよう。

……ただ、現在パオフゥとうららはマンサーチャーを営んでいる関係上

かつて珠閒瑠を巻き込んだ戦いで世話になっていた

葛葉探偵事務所がライバルとなってしまっているところはあるが。

 

駐車場に車を泊め、うららとバオクゥが降りて建物の中に入る。

現在はパオフゥとうららが寝泊まりし、マンサーチャー事務所にもなっている

大きめのアパートの一室だ。

表札には「嵯峨(さが)マンサーチャー事務所」と書かれている。

中では金色のスーツを着た長髪の男性がパソコンに向かって作業をしていた。

机の上には、吸い殻が山積みの灰皿が置かれている。

 

「遅ぇぞうらら。鳴海のジュネスまで買い物に行くだけでどんだけかかってんだ。

 そこに今回のクライアントの情報纏めといたから、目通しておけ」

 

「遅くなったのには訳があんのよぅ。アオバちゃん、ジュネスにいたから連れてきちゃった。

 あんたに用事があるんだって」

 

うららの言葉を聞いた瞬間、パオフゥは嘆息しながら

パソコンに向かっている身体を振り向かせる。

バオクゥを依頼人との面談室でもある客間に通すと、うららはお茶の用意を始める。

 

「ど、どもー……恐縮です、お師匠様」

 

「……ったく、お前かよ。相変わらず青二才が盗聴バスターの真似事なんざしてんのか?

 ……っつーか。俺はお前を弟子にした覚えなんざ全くねぇんだがよ」

 

そうなのだ。バオクゥはある時パオフゥの噂を聞きつけ、独自の情報網を辿って

独自にパオフゥに接触した経緯の持ち主なのだ。

そもそも、パオフゥという男は20年程前にある事件に遭遇して以来

台湾暮らしをしていたが、憔悴しきった状態であり

とても悪魔の弟子をとれるような状態でも無い。

 

その後、ある目的のために盗聴バスターを開くも孤高の戦いであり

これまた弟子をとれるような環境ではない。

バオクゥが接触したのは、一連の騒動に決着が付き

パオフゥが盗聴バスターの看板を下ろし

うららと共にマンサーチャー業を始めてからの事なのだ。

 

「……うらら。元はと言えばお前がいい加減なことを言うからだろうが」

 

「なによぅ。冥界からこっちがどれだけしんどいのかわかんないけど

 態々こっちまでやって来て、しかも仕事っぷりに打たれて上京……?

 して来た子を無碍に返すわけにもいかないじゃない」

 

そう。バオクゥがかつて鳴海区にあったアジトを見つけ出した時

初めに応対したのは他でもない、うららだったのだ。

それからパオフゥはバオクゥの弟子入り志願に決して首を縦に振らずにいたが

バオクゥは強引にでもパオフゥから技術を盗もうと

猛勉強に取り組んでいたのだ。

パオフゥからしてみれば追い返す事も出来たが、バオクゥとて悪魔。

彼の能力(ペルソナ)を行使すれば不可能ではないが、面倒な事この上ない。

その為、半ば根負けするような形でバオクゥの行動を黙認していた。

黙認だけで、正式に弟子入りを認めたわけではないのだが。

 

「そもそも、盗聴バスターなんざ金儲けにならんぞ。

 俺はそれ以上の目的があってやってたがお前のはただの趣味だろうが、アバオアクー。

 お前の身の上なら、もちっとマシな職業についたらどうだ。

 例えば……マスコミとか。お前の能力なら、余裕で出来ると思うがな」

 

「マスコミ? マスコミなら、アタシの親友が雑誌の編集長やってるからアポ取ってみる?」

 

煙草をふかしながら、サングラスの奥からバオクゥを見据えてパオフゥが零す。

バオクゥと言う名前もパオフゥに肖って付けた自称であり、本名はアバオアクー。

うららからは「可愛くない名前」としてアオバと呼ばれているが。

冥界においても悪魔ではあるものの、番外の悪魔ですらない

何処からやって来たのかもわからない、天涯孤独の悪魔だったのだ。

 

「と、盗聴バスターも似たようなもんですしぃ……

 そ、それに私皆さんが気付かないような視点から物を見るのが大好きなので……

 なんで、うららさんのお気持ちは嬉しいんですけど

 私としては昔のお師匠様みたくマスコミよりかは盗聴バスターかなぁ、と」

 

「マスコミと盗聴バスターは全然違うだろうが。

 それに大衆と違う視点から物が見たいんなら尚更マスコミに行け。

 まぁ、あん時の根性は認めてやるがよ。

 だからって俺と同じ道を歩く必要がどこにあるかってんだ。

 そもそも、俺が盗聴バスター始めたきっかけはだな……」

 

パオフゥの長話が始まろうと言うところでうららが話の腰を折る。

パオフゥが盗聴バスターを始めたきっかけは、壮絶なものでもあるため

あまり語りたくない、語られたくないと言ううららの気遣いが含まれているかどうかは

定かではないが。

 

「いいじゃんパオ。確かにパオが盗聴バスター始めたきっかけはアレかもしれないけどさ……

 別にこの子にはそう言うの無いわけじゃん?」

 

「まぁ、こいつの話した身の上話を信じるんならそうだがよ……と言うかだ。

 お前、わざわざ珠閒瑠(こっち)に来るなんざどういう風の吹きまわしだ?

 まさか、ただ単に飯をたかりに来たわけでもねぇだろ?」

 

このまま話していても世間話の延長線上にしかならないと判断したのか

パオフゥが来訪の目的を単刀直入にバオクゥに尋ねる。

彼女が珠閒瑠にやってきた理由。それは――

 

「……今、私の方でちょっと面倒なことが起きてましてね……」

 

「……だから言ったろうが。盗聴バスターなんざやめとけって。

 面倒が起きた時に自分で尻拭いできないような事なんざ、やるべきじゃねぇ。

 お前の周り……冥界絡みだな?

 昔ならともかく、俺もその手の噂はあまり扱わなくなったからな」

 

冥界の魔王直属部隊、イェッツト・トイフェルに脅迫じみた勢いで勧誘を受けている事。

それを受けてバオクゥはどう動くべきかパオフゥに相談しに来たのだ。

以前、珠閒瑠に悪魔が徘徊し噂が現実になる異変が起きた際には

パオフゥもそうした悪魔絡みの噂もある程度取り扱っていたが

それでもメインは人間の噂である。悪魔の、それも悪魔のホームグラウンドである

冥界の噂など、パオフゥにとっては門外漢もいいところだ。

 

「悪魔って言えばさ。最近この辺にも出るようになったのよね、悪魔。

 まぁ、あのフューラー……だっけ? あいつの演説。

 あれの後から、駒王が大変なことになったのはアタシらも知ってるけど

 こっちもこっちで悪魔がまた出るようになったのよ。

 まぁ、警察も悪魔対策で動いてるみたいだから駒王に比べれば平和だけどさ。

 

 ……本音を言えば、あん時にも警察に協力してほしかったわよ」

 

「してたろうが。周防の奴が」

 

そう言う意味じゃない、と訴えるうららをよそに、パオフゥは考え込む。

パオフゥもうららも、フューラー演説はテレビで見ていたのだ。

その時に映ったフューラーの貌。それはかのアドルフ・ヒトラーそっくりであったが

かつて珠閒瑠にもアドルフ・ヒトラーの末裔とされる存在が現れたことがある。

それこそ、「噂が現実になる」異変の真っただ中の事であったのだが。

その異変が終わった後、その存在もぱたりと見かけなくなり

結局は「見間違い」だの「でっち上げ」と言った説が色濃くなり

今では記憶の彼方に風化していた……フューラー演説が起きるまでは。

 

(……まさか……いや、まさかな)

 

かつて珠閒瑠に現れたとされるアドルフ・ヒトラーの末裔と今回演説を行ったフューラー。

この両者の接点に何か引っかかるものを感じる。しかしそれが何なのかまではわからない。

考え込んだ後、パオフゥはサングラスを直しながらバオクゥに向き直る。

 

「で、アバオアクー。面倒事ってのはまさかフューラーの事じゃねぇだろうな?」

 

「いえ。フューラーに関しては私の管轄外と言いますか、なんと言いますか。

 その、冥界の事なんですけどね……こっちを巻き込んだ戦争……と言いますか

 クーデターが起こりそうなものでして、私はどうしたらいいのかなー……と」

 

バオクゥの切り出した事に、パオフゥは嘆息してうららの用意したお茶に口をつける。

珠閒瑠では冥界――と言うよりも三大勢力による騒動はそれほど起きていない。

それほど起きていない、と言うだけで細かな事件は起きているのだが。

 

だが、それは嵯峨マンサーチャー事務所ではなく警察や葛葉探偵事務所の仕事である。

即ち、ここ珠閒瑠においても神器(セイクリッド・ギア)所有者を狙った悪魔転生と言う名の拉致や

堕天使による暗殺が行われている事を示していた。

 

「……こっちを巻き込んで戦争、ねぇ。駒王の方じゃ内戦規模の事が起きたらしいじゃねぇか。

 さっきも言ったが、俺も最近はそっち系の噂はさっぱりだ。

 ただ、人探しに絡んで駒王からの依頼もそれなりに来てる。

 俺としても、駒王の事情を把握しておきたい部分はあるな」

 

「お、お師匠様! それじゃ……」

 

「勘違いすんな。お前が青二才の盗聴バスターだってのは見ればわかる。

 だが、ただの青二才かそうでないかは仕事っぷりである程度分かるからな。

 弟子でも無ければ仕事仲間でも無い、目の前に駒王の事を知ってそうな

 青二才の盗聴バスターがいるから情報を仕入れたいだけだ」

 

冷たく言い放たれるが、パオフゥなりにバオクゥの事は認めているとも取れる言葉に

バオクゥは目を輝かせ、懐に仕舞いこんでいた手帳を取り出して

パオフゥに駒王町で起きた出来事――一部分ではあるが――を語り始める。

その語りっぷりは、自身もおしゃべりであると自認しているうららでさえも

舌を巻く勢いであった。

 

「新旧魔王の政争に、外交のゴタゴタ、異界からの怪物……

 へっ、こっちで昔起きた事件に通ずるものもあるし、一部分だけ見てみれば

 それよりひでぇのもあるじゃねぇか。

 

 ……そりゃあ、駒王からの依頼が絶えねぇわけだ」

 

「……ね、ねぇパオ。アタシらも駒王に手伝いに行かない?

 こっちは警察で対処できるレベルだしさ、駒王に行けば

 クライアントとも交流しやすくなるし……」

 

うららの提案に、パオフゥはサングラスの下の目を丸くする。

無理もない。彼女はかつて珠閒瑠で起きた事件において、死体を見つけては騒ぎ

マフィアとの抗争に巻き込まれれば悲鳴を上げ

注意を逸らすために火をつけようと言う意見に対しては

至極まっとうな意見から反対し

 

――因みに、火をつけようと言ったのはあくまでも火災報知機を作動させるためのダミーであり

  実際に建物に放火しようとしたわけではない――

 

そうした経緯から、荒事に慣れている人物から

「あなたの反応の方が正常だ」等と言われた経歴を持っていた。

 

そんな荒事とは縁遠い生活を送っていた彼女からは考えられない意見。

即ち、激戦区ともいえる駒王町への移動が提案されたのだ。

 

「……こいつぁ驚いた。あん時ぴーぴー言ってたお前がねぇ。

 だがよ、駒王は今自衛隊が封鎖しているはずだ。

 国家機関の許可でもあれば、通してもらえはするだろうがよ。

 

 あるいは……悪魔の移動方法を使うとかな。

 悪魔と契約する必要があるってんなら、そこは心配すんな。

 俺らも昔は悪魔と契約したりもしたからよ」

 

「……でも、駒王へ行くのは悪魔である私から言わせてもらうと、やめた方が良いです。

 いや、お師匠様やうららさんが昔ペルソナって力で悪魔と戦ったってのは

 うららさん自身から聞いたから知ってますけど……

 

 いや、いくら年を経たからと言ってもお二人の力を信じてないわけじゃ無いんですよ。

 ただ、規模が違い過ぎるんです。今駒王は、不発弾……

 それも、戦術級じゃなくて戦略級のものが埋まってるようなものですから」

 

「戦略級って……それマジ……!?」

 

バオクゥが言っているのは、二天龍の事である。

特に覇龍(ジャガーノート・ドラゴン)騒動など、結界のお陰で被害が駒王町だけで済んだようなものであり

結界が無かった場合の事を考えると、下手をすれば核弾頭クラスの被害を齎していただろう。

バオクゥもセージから話を聞いただけではあるが

実際に駒王町の被害を目の当たりにしているため

被害状況で言えばバオクゥは何ら間違ったことを言っていない。

 

しかも、二天龍の片割れ赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)を宿す兵藤一誠は駒王町を根城にしていた。

犯罪を犯した彼は万が一の事態に備え駒王町の超特捜課が滞在している

駒王警察署の留置場に入れられている。

それもあり、バオクゥは駒王町に戦略級の不発弾が埋まっているようなもの、と表現したのだ。

 

「まぁ、私は悪魔ですし? いざってなればいくらでも逃げ道は確保できますけど

 お二人の話を聞いた限りじゃ、ペルソナって力もそこまで痒い所に手が届くとか

 万能感のある力じゃないみたいですし、万が一が起きた事を考えると……」

 

「……なら、お前も珠閒瑠(こっち)で情報集めてろ。お前の話じゃ冥界に帰るにしたってキナ臭いし

 駒王も大変なことになってやがる。青二才には、ちょいとばかし荷が重い事件だと思うがな。

 自分を過信して突っ走って、痛い目見る時は大概自分が痛い目見るだけじゃねぇ。

 自分の周り、それも自分にとって大事なものを傷つけたり失ったりするもんだ。

 お前のこっちの寝床と働き先位は見繕ってやるからよ。暫くはこっちにいろ」

 

そう言ってパオフゥは鍵と書類をテーブルを挟んだ向かい側にいるバオクゥに寄越す。

そこにはかつてうららがルームメイトと共に生活し

今もたまに顔を出しているルナパレス港南の入居契約書と

そのルームメイトであり親友が編集長を務めているキスメット出版宛の履歴書が挟まれていた。

 

「そこに名前書いとけば、後はアタシが出しとくわよ。

 あ、履歴書は自分で持って行ってね。いくら能天気なマーヤ相手でも、そこは一応ね。

 あ、マーヤってのはさっき言ってた親友の編集長。

 さっき話通しておいたから、多分雇ってもらえると思うわよ」

 

「分かってると思うが、バオクゥなんてふざけた名前書いても通らねぇからな?

 俺だってまさかもう一度嵯峨薫(さがかおる)の名前を使う事になるとは思わなかったけどな……」

 

「わ、わかってますよお師匠様……えーっと……」

 

言われるがままに、バオクゥは書類に名前を書く。

そこに記された名前は「呉島(くれしま)アオバ」であった。

 

「ああ、お師匠様に会う前に一度広島の呉って所に行ったんですけどね。

 そこ、個人的に凄くジーンときたんですよ、ジーンと。

 だから、それに肖って呉島って……ダメですか?

 アオバってのは、うららさんがそう呼んでくれるから折角なので、って事で」

 

「……珠閒瑠ならダメじゃねぇが、沢芽じゃこの苗字は使えねぇっつーか、目立つぞ。

 沢芽を牛耳ってるユグドラシル・コーポレーションって大企業の重役の家族が

 呉島って名字なんだ。沢芽も行くんなら、違う名字にしな。

 行く予定が無いんなら、別にいいが……こっちでもさっき言った

 呉島の一族との関連を、突っ込まれる事だけは覚悟しとけよ」

 

仕事柄、パオフゥも沢芽市の情報は得ていた。

とは言っても、珠閒瑠のように昔事件が起きたわけでも無ければ

駒王のように現在進行形で危険なことが起きているわけでもない。

ただのいち企業城下町ではあるのだが

それでもそこからパオフゥに依頼するような事態は起きているらしい。

現時点で沢芽に行く予定のないバオクゥはここ珠閒瑠では呉島アオバとして

これから活動することになった。

 

そんな折、パオフゥが仕事に使っているパソコンに通知が入る。

そこに記されていたのは――

 

「台湾マフィア天道連(ティエン・タオ・レン)、復活の兆し!?」

 

と記された、ニュースサイトの情報だった……




結構原作(P2)との乖離が起きてます。時代が流れているからね。

・鳴海区
トリフネが浮上していないので、崩壊してません。
パオフゥのアジト転居はただ単に手狭になったのと
盗聴バスターとマンサーチャーでは仕事内容とかが色々変わるだろうから
そうした対策もあって。

あと、クロス先にP4がありませんがジュネスが出店してます。
駒王町のショッピングモールも拙作ではCMソングで有名、とあるので
実はジュネス駒王店です。
P3にパオフゥやうらららしき人が出てたから、P2世界観を継承している
拙作にジュネス出してもいいよね? って事で。

理学研究所はヤベーイ研究をしていましたが
(初プレイ時軽くトラウマになった悪魔人間とデビル杉本)
あの後閉鎖されたであろう事から、拙作ではユグドラシルと言うヤベーイ企業が
元々保有していた南条から買収してます。
別に南条の経営がヤベーイとかそう言う事情は無いです。
で、そんなここでインベスが現れたって事は……

・青葉区
アバオアクーにあらず。罰世界観を引き継いでいるので
ここに葛葉探偵事務所があります。
あれから10年程度たっているので轟のおっさんはガチのご老体。
一体キョウジは誰に憑依しているんだ……

・うらら
芹沢姓が旧姓なのかそうでないかはあえて触れてません。
あれだけ結婚願望のあった彼女ですから、なってるといいな程度には。

・パオフゥ
死亡しているはずの嵯峨薫名義を何気に使っていたり。
EDでもパオフゥじゃなくて薫名義でしたからね。

・バオクゥ
実は正式に師事したわけではなく押しかけでかつほぼ独学でやってた
学習能力のヤベーイ子。今後は珠閒瑠で呉島アオバ名義で活動する予定です。
セージとの連絡手段は生きているので、そう言う交流は可能です。

……で、呉島姓を名乗るにあたってパオフゥに突っ込まれたと言う事は
あの兄弟(と父親)はこの世界にいると言うわけで……

・キスメット出版編集長
今回名前だけの出演。
レッポジが口癖でカニ缶が大好きで巨乳で美人の編集長。
前編集長から方針が180度位変わってるけど気にしない。


-追記-
9/24修正。
ご指摘ありがとうございます。
……まぁ、ご指摘通りほぼ同一のものではあるのですが、一応。


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Case6. 来日! 世界樹が繋ぐ北欧の主神

筆が乗るぞ投下早い話進まねぇ
(タドルクエストLv2のリズムで)

今回は北欧と沢芽が舞台です。
大幅な(?)設定変更がありますのでご注意ください。
北欧が舞台、とある点でお察しかと思いますが
この「課外授業のプルガトリオ」は原作7巻からの時系列になります。


アンケートについて。
ご協力ありがとうございました。
開始から一週間も経っていない状況ですので
次回投稿分まで期限を延ばしたいと思います。
(実は今回少し長くなったので分割した事情もあったり)


沢芽(ざわめ)市。

世界をまたにかける医療・福祉系の大企業、ユグドラシル・コーポレーションの支社があり

さる風車の街の巨大風車タワーをも彷彿とさせる塔のようなオフィスビル

 

――実際ユグドラシルタワーと呼ばれる塔なのだが――

 

を構え、沢芽市の発展に多大な貢献を果たしたのだ。

 

――――

 

さて、このユグドラシルと言う名前であるが。

北欧神話に登場する世界樹と同一の名前であり

実際企業のロゴマークはスペルの「YGGDRASILL」のAの部分が巨大な広葉樹となっている。

明らかに、北欧神話のそれを意識していると言えよう。

 

ユグドラシル・コーポレーションの情報は、既に「実在する」北欧神話勢力にも届いていた。

当然、主神オーディンは興味津々で会社見学のために訪日のプランを立てていた……

 

のだが。

 

「……オーディンよ。『世界樹(ユグドラシル)』の名を冠しているとはいえ人間のやる事だろう。

 人間が我ら神々やその縁のものに肖って名をつけるなど今に始まった事でもあるまい。

 態々、御身自ら出向く必要は無いと思うのだがな。そうでなくとも貴殿は……」

 

「ほっほっほ、そうは言うがのロキよ。

 かの企業は既に地球規模に成長しておるそうではないか。

 同じ名を冠する樹を擁する者としては、ちょいと視察してみたくなったのじゃよ」

 

黒いローブを纏った美青年――ロキの進言に対し、隻眼の老人――オーディンは

国際規模にまで発展したユグドラシル・コーポレーションの実情や手腕をこの目で見たい、と

固く譲ろうとしなかった。傍から見れば、頑固爺のそれである。

 

と言うのも、このオーディンと言う神。途轍もなく知識に対し貪欲であり好奇心旺盛なのだ。

その為、興味深い事象が発生しようものなら様々な理由をつけて現地に赴いている。

本人曰く「フィールドワーク」との事なのだが、如何せんオーディンは北欧神話における主神。

主神自らが幾度となく地方に飛び出ては、他の神々や秘書官とも言うべき

専属のヴァルキリーを振り回しているのだ。

ロキと話している時でさえ、前回赴いたフィールドワークの成果を纏め編集

さらにその結果からあらゆる予想を立てては楽しんでいたのだ。

傍から見ればいい歳の老人であるため、とても元気な老人と言うよりほかない。

……神々に外見年齢の概念などあってないようなものではあるが。

 

「そうじゃロキ。お主『クロスゲート』と言うものに聞き覚えは無いか?

 昨今ギリシャや日本の神仏のトレンドらしいのじゃが。

 わしは……ううむ、聞いたことがあるような、無いような……年かのう……」

 

「ありませぬな。少なくともこの北欧に起源をもつ物に、そのような名前は……」

 

「ほっほっほ。ロキよ、名前だけに囚われていては大事なものを見落とすぞ?

 わしとてオーディンと呼ばれているが、ハールバルズ、グリームニル、そしてウォーダン。

 これら全て、わしを指す名前じゃ。つまりこの北欧の地にも

 『クロスゲート』と言う名前ではなく、他の名前で伝わっておるかもしれんしのう」

 

唐突にクロスゲートの話を始めたオーディンに、ロキは嘆息する。

このオーディンと言う神、度々フィールドワークに出ている事から類推されるように

奔放なのだ。

 

「まぁそれもあるのじゃよ。日本に赴けば、クロスゲートについて何かわかるかもしれんしのう。

 だからわしはユグドラシルの日本支社を見学してみたいのじゃよ。

 と言うわけで暫く留守にするぞい。ロスヴァイセ、ついてまいれ!」

 

「はっ!」

 

フィールドワークと言うには少々前衛的なファッションであるつばの広い帽子に

黒いローブを纏い、付き人として銀髪のヴァルキリー、ロスヴァイセが付くこととなった。

……彼女こそが、その「オーディンのフィールドワークに振り回されているヴァルキリー」

その人なのだが。

 

ヤルダバオトが薮田直人(やぶたなおと)として、大日如来が天道寛(てんどうひろ)として行っているような

人間としてお忍びで日本に向かう方法は、現在日本がテロの影響で

空路・海路共に封鎖されているため転移の術で直接沢芽市に飛ぶこととなった。

この転移の術、悪魔などが使う魔法陣転移と遜色のない移動方法であり

こうした超常の存在にとっては割とメジャーな移動方法である……のだが

術者が目的地について正しい知識が無かったり、術者の魔力や霊力と言った超常の力が無ければ

移動は正しく行われない。

 

今回の場合、沢芽市が元々巨大なご神木を有し霊的な力の強い場所……だったのだが

そのご神木のあった場所には事もあろうにユグドラシルタワーが建ってしまっており

現在の沢芽市は昔ほど霊力の強い場所ではなくなっている。

幾らオーディンと言えども、行った事のない、見た事のないものの知識は有していない。

つまり、移動が成功するかどうかは博打の要素が含まれている――と誰もが思っていた。

最初に気付いたロキは、わざと黙っていたようだが。

 

「オーディン様。その目的地である

 ユグドラシル・コーポレーションとやらの場所は御存じなのですか?」

 

「心配ないわい。きちんと受付にこの時間に見学訪問をすると言うアポを取っておる。

 後は目的地のある沢芽市という場所に出れば大丈夫じゃろ。

 聞けば、世界樹の如き一番でかい塔を擁しておるそうじゃからな」

 

そのどこかいい加減な方針に、ロスヴァイセは頭を抱える。

実際、オーディンの移動やフィールドワークには「行き当たりばったり」な部分が少なくない。

その為、周囲の神々や主な付き人であるロスヴァイセは苦労しているのだ。

 

(オーディン様の付き人って言うから出世コースかと思ったら……

 これじゃまるで地方巡業じゃない……ヴァルキリーってなんなのかしら……

 私、就職先間違えたかな……

 おばあちゃんみたいな立派なヴァルキリーになりたかったのに……)

 

付き人は付き人で、とても俗っぽい悩みを抱えながら転移の術は作動したのだった。

そんな様子を、面白くなさそうにロキは見やっていた。

 

「……やれやれ。じいさんの趣味にも困ったものだ。

 これでも噂に聞く三大勢力……特に冥界の醜聞よりはマシって言うんだから酷いものだな。

 にもかかわらず、アレらはさも世界が自分達を中心に回っていると錯覚している。

 オーディンもアレに毒されちゃいないとは思いたいが……」

 

吐き捨てながら、オーディンの机の上に無造作に置かれたレポートに目を向けるロキ。

そのレポートには、今までのフィールドワークで得た知識や実際に見て回ったもの

果ては欧州の神々との対話で得た知識も含まれていた。

その中には、ギリシャの冥府神ハーデスと対話した時の議事録もあった。

 

「この几帳面な議事録はラダマンティス……ハーデスか。

 あの苦労神も面倒な兄を持ったものだな。

 ヘルの奴が『ハーデスの愚痴が煩い』と零していたな。

 あれも三大勢力に苦汁をなめさせられているクチか。

 

 ふむ……なるほど、オーディンはここでクロスゲートの情報を得たのか……

 ……む? これは……」

 

ロキの目が留まった先には、クロスゲートから現れる怪物――アインストの生態と

ドラゴンアップルの果実によって変異した姿が記されていた。

ドラゴンアップルによるアインストの変異の情報は、恐らく日本神話から得た情報であろうが。

 

「アインスト……『かつて』を指す異界の怪物、か。

 それよりもこれは……ニブルヘイム――ヘルヘイムにある果実に似ているな。

 さしずめ『ヘルヘイムの果実』と言ったところか。しかし何故ヘルヘイムの果実が

 異界のアインストに変異を齎すのだ?

 

 ……これは、我もクロスゲートに赴いてみる必要があるやもしれんな」

 

ドラゴンアップル。地上では絶滅し、現在は冥界でのみ栽培されているとされる植物。

しかし、それはドラゴンアップルの害虫と呼ばれる存在――インベスによって

生態系が塗り替えられてしまった。

しかし、インベスはニブルヘイムには生息していない。

それなのに、ニブルヘイムにはドラゴンアップルとほぼ同一の形状の果実がなっている。

不可解なピースのつぎはぎを前に、ロキもクロスゲートに対する認識を改めざるを得なくなった。

 

――――

 

沢芽市。

 

何とか沢芽駅に転移成功したオーディンとロスヴァイセであったが

案の定、ここに来る前に何度か転移を繰り返していたのだ。

 

塔繋がりで誤ってユグドラシルタワーではなく風車のある街に転移してしまい

再転移を試みるまでオーディンが呑気に観光を始めてしまいロスヴァイセをやきもきさせ

 

その次に転移した先では外界と隔離された上に氷漬けにされ

3つの塔に囲まれた学園のど真ん中に飛んでしまう事態が発生し

さらに時間軸まで10年以上狂っていた事から

「クロスゲートの仕業じゃな」と納得するオーディンをよそに

ロスヴァイセは時間移動なんて転移術でも出来ない行為を目の当たりにして

発する言葉が暫く訛り続け

 

挙句の果てには時間軸は正常に戻り、塔のある場所に転移するも

塔は塔でも塔を中心に広大な壁で日本が三分割された世界に飛んでしまい

オーディンは「これもクロスゲートの影響かのう」と一人納得していたが

ロスヴァイセは事前情報で仕入れていた日本の有様と全く違う風景や立て続けの転移失敗に

「わざとやっとるべか!?」と興奮しっぱなしであった。

 

なお3つ目の転移先でオーディンはさる天才物理学者と意気投合したとかしなかったとか。

 

「いやぁ、いい収穫があったわい。あのウサギと戦車のボトルは

 今度わしらのところでも作ってみるとするかのう」

 

「オーディン様。ユグドラシル・コーポレーションに向かうのではなかったのですか!?」

 

「そうかっかするでないわロスヴァイセ。

 得られる時にはしっかりと得る。これは知識に限らずじゃ。

 それにわしがアポロンから聞いたクロスゲートの特徴では

 クロスゲートによる転移はかなり不安定らしいからのう。

 そもそも、他世界移動なんて貴重な経験じゃろ。

 神性を持つ者でもそうそうできる事では無いわい」

 

そんなつかみどころのない、飄々とした好々爺を演じているオーディンであったが

一つ気掛かりなことがあった。

 

(ロスヴァイセにはああ言ったが……

 日本の話ではクロスゲートは動いてないと言う事じゃったな。

 それに、わしらが転移術を展開した際に周囲にクロスゲートらしき建造物は無かったわい。

 勿論本当に転移失敗したとも考えられるが……

 だとすると2回目と3回目の転移の特徴が説明できん。

 2回目は時間移動、3回目はおそらく別次元の日本に飛んでしまったと見るべきじゃろうな。

 そして軌道修正に成功した4回目。何者かの意図を感じないわけでも無いがのう……)

 

転移術は基本的に同一の時間軸、同一の世界線の中でしか転移できない。

冥界や天界は特殊な交通手段ではあるものの、転移のみでしか移動できない場所では無い。

しかし、今しがたのオーディンたちの転移は時間移動に世界線移動まで行ってしまっているのだ。

それが可能になるのは、クロスゲートを置いて他にない。

或いは、レーティングゲームのフィールド展開の際の事故が可能性としては挙げられるが

それに関してオーディンに冥界からの説明は何もなされていない。

 

……それが起こり得るのが冥界の恐ろしい所なのだが。

 

「と・に・か・く! 先方に連絡したところ迎えを寄越してくれるとの事ですので

 こちらで待機していましょう! はい!」

 

「だからそうかっかするでないわ。力を抑えて人間にしか見えぬように偽装して居るとは言え

 大声を上げれば注目を浴びてしまうぞ?」

 

オーディンの指摘に、赤面し黙り込むロスヴァイセ。

沢芽市は過去の珠閒瑠(すまる)市や現在進行形の駒王町と異なり

超常の存在に免疫が無い。少なくとも一般市民は。

その為、背中から生えた翼などの悪目立ちするものが無ければ傍から見れば二人とも人間である。

恰好も、二人とも風車の街で仕入れたと思しきスーツにいつの間にか着替えている。

WINDSCALE、の刺繍がおしゃれなフォーマルな場に相応しい恰好である。

 

――――

 

駅の待合室で二人が待っていると、黒いスーツを着た青年が声をかける。

その後ろには何人かの人を連れており、中には高校生と思しき者もいた。

 

「本日我がユグドラシル・コーポレーションの会社見学をされると仰った方ですね?

 私、ユグドラシル・コーポレーション研究部門主任の呉島貴虎(くれしまたかとら)と申します。

 ノルウェーからの長旅、お疲れ様でした。ご案内いたしますので、こちらにどうぞ」

 

「ノルウェーの小企業、スカンディナビア社のハールバルズじゃ。

 これはわしの秘書を務めるロスヴァイセ。貴虎、よろしく頼むぞい」

 

握手を交わすオーディンと貴虎。

 

ハールバルズはオーディンの別名の一つだが

スカンディナビア社はオーディンがでっち上げた架空の企業である。

なにせ日本にある企業に「東アジア株式会社」などと名付ける様なものである。

オーディン、などとバカ正直に人間社会で本名を名乗っても相当浮いた名前ととられるし

ましてや北欧神話体系からやって来た、などと他神話体系相手ならばともかく

人間社会相手にバカ正直に話すのも信憑性に欠ける。

 

……と言うのが、フューラー演説までの定説だったのだが。

 

(オーディン様、よろしいのですか? こちらの人や先方を騙す様な物言いは……)

 

(わしらはあのフューラーでは無いんじゃ。神々は神々。人々は人々。

 ヴァルハラに誘うならばいざ知らず、既に大昔、彼らの先祖に知恵も授けた以上

 神々たるわしらが必要以上に干渉すべきでは無いし

 人の世の営みを学びこそすれ、営みに口を挟むのは違うと思うのじゃよ)

 

ヴァルハラに誘う、と言う単語にロスヴァイセが反応するが

ここにいるのは大企業とは言え平和な人間社会の中で生きる青年に

まだ高校生くらいの少年。ロスヴァイセの目に入った二人ではあったが

あまりにもヴァルハラには似つかわしくない。

 

(幾らなんでもないわよねー……いつになったらヴァルキリーらしい事ができるのかしら)

 

ため息を漏らすロスヴァイセに気付いた貴虎が、心配そうに声をかける。

 

「ロスヴァイセさん、でしたか。日本の空気はそちらのお体には合いませんか?」

 

「あ、い、いえ! そんなことはありません!」

 

ため息が漏れていた事に赤面し、慌てて取り繕うロスヴァイセ。

そんな様をオーディンは苦笑しながら眺めていた。

 

「すまんの貴虎。こやつ、真面目は真面目なんじゃが、肩肘を張り過ぎるきらいがあっての。

 ここに来るまでに根詰めておったようじゃから、その疲れが出たのじゃろうて」

 

(誰のせいでこうなったと思ってるのよ!!)

 

「そうでしたか。そちらのご都合さえ宜しければ、今日は宿泊施設を手配致しますので

 そちらでお休みいただいて、明日ゆっくりわが社の見学をされると言うのは如何でしょうか?」

 

オーディンの言っている事はある意味正しいが、ロスヴァイセが心の中で思っている

「誰のせいでこうなったか」もある意味正しい。

何せ、ここに来るまでに4回も転移しているのだ。

それだけでもいくらオーディン専属とは言え経験の浅いロスヴァイセには

心労がかかると言うものであった。その様子には気づいていなかったのか

あるいは早く話を進めて休んでもらおうと言う心づもりなのか

貴虎はてきぱきと話を進めていた。

 

「そうじゃの。わしらとて日帰りの旅のつもりでも無いし、そうさせてもらおうかの」

 

「畏まりました。光実(みつざね)。この近くの一番いいホテルの部屋が空いているかどうか

 すぐに確認するんだ」

 

「わかりました、兄さ――呉島主任」

 

距離を置き、タブレットを操作して検索を始める光実と呼ばれた少年。

「兄さん」、と言いかけた事から貴虎の弟であることは想像に難くない。

 

「弟かの? わしは気にせんから、兄と呼ばせてやってもいいと思うんじゃがの」

 

「……そうは参りません。光実も私も、ユグドラシル・コーポレーションを、そこにある人々を

 背負って立たなければならない者です。

 人の上に立つ者が、己が身内を感情だけで贔屓することなど、どうしてできましょう」

 

真っ直ぐな瞳でオーディンに語る貴虎を前に、オーディンは髭を撫でながら

ぽつりとつぶやいた。

 

「『ノブレス・オブリージュ』……か。志は認めるが、呑まれるでないぞ。

 

 ……おっとすまんすまん、年を取ると説教臭くなっていかんのう。忘れてくれ」

 

大笑いするオーディンをよそに、貴虎は静かに頷いている。

オーディン自身は「年寄りの戯言」と言っているが

貴虎にしてみれば、とても重い言葉なのであった。

 

ノブレス・オブリージュ。高貴なるものには義務が伴う、といった意味のフランス語。

貴虎はこれを幼いころから父である呉島天樹(あまぎ)に聞かされて育ち

言葉だけではなく振舞いもそうあるようにしてきた、つもりである。

今の弟である光実の言動にも、その片鱗が見え隠れしている。

 

「主任。ホテルの手配が出来ました」

 

「ご苦労。ではハールバルズ様、ロスヴァイセさん、こちらにどうぞ。

 光実、案内を」

 

貴虎の指示に従い、光実がオーディンとロスヴァイセをエスコートする。

向かった先は駅前の高級ホテル。フロントで手続きを済ませ

ロビーにいる二人に鍵が手渡される。

 

「ハールバルズ様はこちらの、ロスヴァイセさんはこちらのお部屋になります。

 では明日9時にこちらまでお迎えに参りますので

 どうかごゆっくり」

 

一礼し、貴虎は光実と配下を伴ってホテルを後にする。

緊張していたのか、ロスヴァイセがひときわ大きなため息を吐く。

 

「情けないぞいロスヴァイセ。その程度で音を上げるなどと」

 

「お言葉ですがオーディン様、4回も転移すればこうもなります。

 それに最初は兎も角、2回目は寒くて寒くて凍えそうなうえに

 原初の悪魔まで徘徊しているような場所でしたし

 3回目は戦乱の真っただ中、思わずヴァルハラにスカウトしようかと思ったくらいですよ。

 4人ほど不思議な鎧を纏って戦っている人たちが居ましたからね。

 祖母ならばヴァルハラにスカウトする契約を立てたのかもしれませんが」

 

「ふむ。たしかにちと強行軍がすぎたのう。じゃが本番は明日じゃぞ。

 じゃから今日は休んでおれ。わしは折角じゃからちと沢芽市を見て回る」

 

見た目こそ老齢であるが、その行動力は見た目に全くそぐわないものであった。

オーディンは「一人で大丈夫」と言わんばかりの行動だが

ロスヴァイセにしてみればそうもいかない。それに、こんな事は今に始まった事ではないのだ。

 

「……いえ、御相伴に与ります」

 

「そうか? ならばついてまいれ……と言いたい所じゃが

 お主も疲れておるようじゃしの。駅前をぶらりと回る程度にして

 そうじゃな……疲れているのならば甘いものじゃ。

 この辺りで有名な『シャルモン』と言う洋菓子店があるらしい。

 まずはそこへ参るとしようかの」

 

シャルモン、と聞いたロスヴァイセの目の色が変わった。

ここに来る前、同僚ヴァルキリーと他愛もない雑談を交わしていたロスヴァイセだったが

「沢芽のシャルモンと言う洋菓子店がおいしいらしい」とか

「シャルモンの店主は超一流のパティシエ、フランスで修行するためだけに

 フランス軍に従軍したと言う、どっちがメインだかわからない経歴の持ち主」だとか

そう言う噂が流れており

「会った事は無いけれど、ヴァルハラに誘ったらおいしいスイーツ食べられるかも」とか

俗っぽい意見も流れていた。

そうした経緯から、沢芽に来たらシャルモンだけは一度行きたいと思っていたのだ。

 

掌を返したようなロスヴァイセの態度に「現金な奴め」と苦笑しながらも

二人はシャルモンへ向けて歩き出すのだった。




オーディン。
今回かなり改変加えました。wiki読んでも、私の記憶の限りでも
HSDD原作のような「ドスケベ爺」と言った記述が無いんですよね。
(いや、それ相応に女性と関係を持った記述はあるけれどこの程度は……)
代わりに「知識欲の塊」と言った記述があったので
今回「アグレッシブなフィールドワーク大好きじいちゃん」になりました。


ロスヴァイセ
今回触れてませんが、20代前半設定にしてあります。
その根拠は以下の通り。フィクションに突っ込むのも野暮なんですけど。
・10代で教職ってどうなのよ。ギリギリで教職免許は持ってそうですけど。
・アルコール入った=未成年者飲酒(普通に犯罪です)。
この改変加えたのは警察との絡みが大きい拙作の都合でもあり
二輪取るのに苦心したセージに対する配慮であったり
彼女のキャラクター造詣に説得力を持たせるための改変であったり(主観)。

漸く出てこれたと思ったら原作とどっこいな残念(俗物)っぷり。
出世を気にしたりシャルモンのスイーツに釣られたり。
何気に異世界移動を体験した数少ない人物。
拙作では他にはセージ(「ゴースト」第4章後半部分参照)位なもの。

転移術
とりあえず拙作独自設定ではありますが。
詳しい転移の顛末は下記に。

最初の転移
仮面ライダーWより風都。
ちゃっかり風都タワー登ったりWINDSCALEで買い物したりしてました。

2回目の転移
女神異聞録ペルソナより聖エルミン学園(雪の女王編)。
隔離されたはずのエルミンに転移するあたり転移術自体は高性能。
因みに拙作時系列では雪の女王編と地続きであるセベク編である
「セベク・スキャンダル」が起きてる設定ですので、普通に過去に転移してます。
転移術でも時間移動は不可能です。

3回目の転移
仮面ライダービルドよりパンドラタワー。
時系列的にはマジヤベーイ時期に転移しちゃってます。
エボルト大活躍って時期に飛んじゃってますからね……
4人の不思議な鎧、は言わずもがな戦兎、万丈、カズミン、げんとくん。
拙作とてスカイウォールの惨劇は起きてないので普通に異世界に転移してます。

呉島家
貴虎は原作同様ユグドラシルの主任。
光実はそんな貴虎の秘書的存在。勉強も兼ねて貴虎自ら指導している形。
実は父親である天樹も存命です。


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Case7. 沢芽市の光と影

アンケートご協力ありがとうございました。
この投稿をもって締め切らさせていただきます。


パンドラボックスの強大な力を手に入れた地球外生命体エボルトの野望を阻止すべく
仮面ライダービルドの桐生戦兎は3人の仲間と共にエボルトの下に向かおうとするが
その途中不思議な老人と出会って……

ちょっと待てよ、何でお前があらすじ紹介してんだよ!
つーか、あの爺さん達俺らの世界と全然関係ないし!

迷子だろ。本人もそう言ってたし、そもそも前にパラドって奴が……

俺だってそん時にスカイウォールの無い世界は見て来たから知ってるよ!
でも今回は……えーっと何だっけあの……最上魁星が作ったあの
エ……エ……エゾヒグマ!

エニグマだろ。確かにもう俺達の世界にエニグマは無いし
エグゼイドの世界にもエニグマも最上魁星もいない。
だから不思議なんだよなぁ、あの爺さん達がどうやってやって来たのか。
まぁでもあの爺さんから色々面白い話も聞けたし? てぇんさぁい物理学者の話を
1から10まで理解してくれる人は貴重だし?

それで長々と話してたのかよ。
つーか、エボルト倒しに行かなきゃいけないのにこんな所で呑気にあらすじ紹介してていいのかよ?
それにそもそも前回俺ら台詞すらない端役だったじゃねーか!

だってこの作品のクロス先に仮面ライダービルドは無いわけだし?
台詞無しは仕方ないじゃん。

どれどれ……? あ、本当だ。仮面ライダー枠はディケイドと鎧武しか書いてねぇな。
仮面ライダークローズとも書いてねぇとかマジありえねぇし!

Vシネマじゃ無いんだからビルドは兎も角クローズは無いでしょ。
それにこうやってこの作品のクロス先に記されていないビルドに出演してる
俺らがあらすじ紹介が出来るだけでも……
ってもうこんな時間かよ! 早くエボルト倒しに行かないと!

さっきからそう言ってるじゃねーか!
そもそも前回のあらすじどころか俺らの身の上話にもなってねぇし!

まぁそう言うメタな事は置いておいて、爺さん達の戻った世界でどうなるCase. 7!
あ、因みに俺達の活躍は仮面ライダービルドをよろしく!

自分だってメタ発言しただろうがよ……
つか、これマズくないか……?


沢芽(ざわめ)市。

 

北欧神話の主神オーディンが従者のロスヴァイセを伴ってはるばるやって来た

日本に存在するいち企業城下町。

北欧からはるばるやって来たオーディンの目的は

沢芽市を代表する企業、ユグドラシル・コーポレーションの沢芽支社の見学である。

北欧神話の世界樹と同じ名を冠する企業に、オーディンが興味を示した事に加え

日本に存在すると言う「クロスゲート」の事を調べる腹積もりで沢芽市にやって来たのだ。

 

――最も、クロスゲートは沢芽市には存在しないため、そう言う意味では無駄足であったが。

 

そして現在は、長旅で疲れた心と体を癒すために沢芽市で知らない人はいないと言う

洋菓子店・シャルモンに来ていた……のだが。

 

「…………」

 

ショーケースのケーキを見て目を輝かせたロスヴァイセだったが

その下の値札を見て愕然とした。彼女の知るケーキの相場よりも

一回りから二回りほど高価なのであった。

上げて落とされる。そう言う表現が適切と言えるだろう。

 

このロスヴァイセと言う女性、倹約家でもあった。

そんな彼女ではあるが、同じ年代の女性と同様に色恋沙汰にも反応するし

仕事で成功を収めたいし、甘いものだって大好きだ。

だがそんな彼女にとって、シャルモンのスイーツはあまりにもハードルが高すぎた。

 

「どうしたんじゃロスヴァイセ。呆けた顔をしおって。中で食べるスペースもあるみたいじゃから

 ホテルで食わずともここで食べられるぞい。ほれ、何にするか決めんか」

 

「いや、いやいやいやいやオーディン様! ここのケーキ高いですって!」

 

「何かと思えばそんな事か。心配するでないわ、この位は経費で落ちるようにしておるわい。

 で、何が食べたいのじゃ?」

 

経費と言う単語を聞いた時、ロスヴァイセの目が一瞬泳いだがすぐに冷たい目に戻った。

倹約家である彼女は、経費でさえも――いや経費だからこそ倹約すべきと考えており

そう言う意味でシャルモンで食事をすることに二の足を踏んでいたのだ。

だが、その目はさっきからショーケースのケーキをちらちらと見ていた。

 

「そうですね、私はこのメロンの……って経費は余計にマズいですって!

 経費は元を質せば領地に住まう者の血税!それを贅のためだけに浪費するなど

 上に立つ者としてあってはならない事! 私、今回の件については……」

 

店先で口論を始めてしまったロスヴァイセとオーディンの前に、店の奥から

黒いターバンを頭に巻いた偉丈夫が姿を見せる。

……偉丈夫、ではあるのだがその顔にはメイクが施され、つけまつげも付けている事が

そのガタイ以上にある種のインパクトを与えていた。

 

Client(お客様)、申し訳ありませんが店内ではお静かにお願いできませんかしら?」

 

「おおっと、すまんのう。ほれロスヴァイセ、お主も謝らんか」

 

「す、すみません……」

 

男(?)に対し深々と頭を下げるオーディンとロスヴァイセ。

彼(?)こそこのシャルモンのパティシエであり店主の凰蓮(おうれん)・ピエール・アルフォンゾであった。

 

「ふむ。すまぬついでにこのメロンのケーキとガトーショコラ。

 それから飲み物としてぶどう酒と紅茶を頼む」

 

vieillard(お爺様)、お目が高いですわね。畏まりましたわ」

 

フランス語を交えながら流暢に接客をこなす凰蓮に、ロスヴァイセは舌を巻いていた。

その後結局オーディンが支払いを済ませ、店の奥の飲食スペースへと通される。

それから程なくしてケーキと飲み物が並び、二人は舌鼓を打っていた。

 

「こ、これは……何という美味! 有名になるのも頷けるわ!」

 

「確かに、これは極めた者の腕前じゃな」

 

「当然ですわ。あの価格もそれに似合った設定をしておりますの。

 ただのぼったくりで設定しているわけではありませんわ」

 

いつの間にかオーディン達のテーブルの隣に立っていた凰蓮が

シャルモンの価格の由来について話す。曰く――

 

「ワテクシはプロとしてパティシエの仕事に誇りを持っていますの。

 お菓子の値段はその誇りの表れ。私腹を肥やすためにやっているわけではありませんわ。

 お判りいただけたかしら、マドモワゼル・ヴァルキリー?」

 

「……す、すみませんでした……

 

 

 ……えっ? 今ヴァルキリーって……」

 

思わず平伏してしまうロスヴァイセ。彼(?)の腕前を体感した以上

返す言葉が出てこないのだった。ジャンルは違うが、ロスヴァイセも

仕事としてオーディンに仕えているし、そもそも彼女が籍を置くヴァルキリーとは

戦死した勇敢なる戦士の魂を導く者。そんな彼女が仕事の価値が分からないなんてことは

あり得ないしあってはならない事なのだ。

 

しかし、この凰蓮と言う男(?)。

一目でオーディンとロスヴァイセの正体を見抜いてしまっていたのだ。

 

「ワテクシを甘く見ないで貰いたいものですわ。先程そちらのvieillard(お爺様)

 『オーディン様』と呼ぶのが聞こえましたわ。聞き間違いでなければその名は北欧神話の主神。

 ワテクシ、これでもフランスに長いことおりましたのでそっちの方面にも明るいんですの。

 そして最近世間を騒がせている神や悪魔が実在するものであると言うフューラー演説。

 それらを組み合わせれば、そちらのvieillard(お爺様)が本物のオーディンだとしても

 何らおかしな事はありませんわ。となれば、貴女はさしずめマドモワゼル・ヴァルキリー。

 と言うのが、ワテクシの見立てですわ。違っていたらごめんなさいね?」

 

「ほっほっほ! 見事な推測だと感心するがどこもおかしくはないのう!

 いかにも。わしがオーディン、そしてこやつはわしのお供のロスヴァイセじゃ。

 ああ、ここには本当にただ単にケーキを食べに来ただけじゃ。

 まぁ、わしはケーキよりぶどう酒派じゃがの」

 

凰蓮の指摘にも動じるどころか笑い飛ばし、あっさりと素性を明かすオーディン。

お忍びでやってきたわけだが、バレたらバレたで仕方がないとも思っていたのだ。

その辺りは危機感が薄いとも取れるが、逆を言えば対処ができる自信の表れともいえる。

 

「ワテクシとこのシャルモンはルールさえ守っていただければ

 それが人ならざる者お客様でも歓迎いたしますわ。

 

 ……ですが、これだけは覚えておいてくださいまし。

 強い力を持つ者が下々の世界に何食わぬ顔で闊歩すると言う事は

 下々に不要な不安を与えることになりますわ。

 あなた方が北欧神話の主神と言う事は、Client(お客様)の個人情報保護の観点からも

 ワテクシの胸の中に秘めておきますわ。この沢芽は比較的平和ですけど

 他所ではフューラー演説のせいで、特にあなた方のような存在に

 過敏になっている節が見受けられますもの」

 

「だ、そうですよオーディン様。するなとは言いませんが、フィールドワークも

 節度を守ってください。ロキ様も恐らくはそうお考えです」

 

凰蓮の指摘と、ロスヴァイセの小言に思わず委縮してしまうオーディン。

こうして見ると、本当にただのフィールドワークの大好きな老人にしか見えない。

当然、その真なる力を揮えば沢芽市をあっという間に風化させることもできるのだろう。

そうなる理由が全くないだけで。

 

「けれど、オーディン様と言えば戦の神。ワテクシ、フランスでは外人特殊部隊におりましたの。

 その時にご加護があったのかもしれませんわね。あ、それと今日のケーキ代は別ですけれど」

 

「わかっておるわい。それにしても面白い経歴の持ち主じゃのう。

 今はパティシエを営んでおり、その昔はフランスで従軍とは……

 もしや、パティシエ修行のための国籍獲得の手段として従軍したのかの?」

 

オーディンの質問に対し、凰蓮はOui(そうよ)と首肯する。

凰蓮が従軍していた頃はフューラー演説など無かったので

仮にオーディンが視察していたとしてもただの変な爺さん止まりであっただろうが。

 

こうして凰蓮との歓談も交えながら

ケーキ(オーディンはぶどう酒の方がメインのようであったが)を平らげ

凰蓮の観察眼とパティシエとしての腕前に感嘆しつつ、オーディンとロスヴァイセは

シャルモンを後にするのだった。

 

――――

 

ホテルを出たのが遅かったためか、シャルモンを出た時には既に日が傾いてしまっていた。

ホテルへと戻ろうとするオーディンとロスヴァイセであったが

ホテルへと向かう途中の広場には、シャルモンに来る前には無かった人だかりが見えた。

 

足を止めて様子を見るオーディンに、ロスヴァイセは手元の資料を眺めながら

この人だかりの原因が「ビートライダーズ」なるダンス集団にある事を確認する。

 

「……思ったより格差の激しい都市ですね。

 手元の資料によりますと彼らはビートライダーズ。

 ドロップアウトした若者を中心に構成されたダンスグループで

 言うなればカラーギャングの大人しい版みたいなものだそうですよ。

 やっている事もカラーギャングの縄張り争いとほぼ同じ。

 まぁ、ダンスと言う芸術で競っている分暴力に訴えがちな

 カラーギャングよりはよほど平和的でしょうけど」

 

「カラーギャングのう……してロスヴァイセよ。

 そのカラーギャングは、妖怪や幽霊でもなれるものなのかのう?」

 

オーディンの発言に、ロスヴァイセは首を傾げる。

言われてみれば、観客もどことなくオカルトに造詣の深そうな人物ばかりだ。

しかもさっきから流れている音楽は、幽霊が発するものに波長が近い。

 

人混みをかき分けてオーディンとロスヴァイセがステージを眺めていると

そこには人間に擬態したであろう――出来はお粗末だが――若者らと

幽霊の4人の少女が何やら争っているようにも見えた。

 

「はっ! 余所者にくれてやるほどこの沢芽の土地は安くねぇんだよ!

 俺達を『チーム魍魎』と知って挑んでくるのかよ!」

 

「うっさいわね! あたしらは泣く子も笑ったり余計に泣いたりする虹川楽団(にじかわがくだん)――

 そうね、ここの流儀で言うなれば『チームプリズムリバー』よ!」

 

微妙にしまらない赤い服の幽霊の少女――莉々(りり)の啖呵に

チーム魍魎と呼ばれた妖怪達はゲラゲラと笑い出す。

オーディンとロスヴァイセは与り知らぬことだが

彼女らは駒王の方面ではそれなりに名が知れている。

 

しかし、悲しいかなここは沢芽市。彼女達にとってはアウェーもいい所なのだ。

だが、彼女達が対峙しているチーム魍魎もまた、ビートライダーズホットラインでは

ランキング最下位――上位ランキングだが――の名声を欲しいままにしているのだ。

 

「チーム魍魎。さっきホテルで聞いたビートライダーズホットラインと言うネットラジオでは

 ダンスチームとしてはランキング最下位の常連じゃな。片方の子らは……見たことがないのう。

 どうやら、彼奴等が言うように新参者らしいの。知らんから何とも言えんがの」

 

オーディンとロスヴァイセは、駒王町には赴いたことが無い。

その為、駒王町を根城にしていた彼女ら虹川姉妹の名前を知らなかったのだ。

尤も、彼女らがバンド活動を始めたのはここ数か月の事であり

沢芽市にやって来たのもつい最近なので

オーディンやチーム魍魎の言う「新参者かつ余所者」と言う評価は全く間違っていない。

 

険悪な雰囲気でこそあるものの、そこで繰り広げられるのは

ダンスパフォーマンスにバンドの演奏。

誰がどう見ても、平和そのものであるし観客もそれを見越して盛り上がっているように見える。

 

チーム魍魎はランキング最下位とは思えないほどの動きのキレを魅せ

チームプリズムリバーは駒王でも培った演奏技術を以て対抗する。

この二組が組めば、中々いいチームになるのではないか。オーディンは呑気にそう考えていた。

 

因みに全くの余談であるが、チームプリズムリバーがランキングに名を連ねていないのは

まだ名前も売れていない新参者であることに加え、彼女らが幽霊であることに起因する。

何せ、霊感のある者か霊魂による存在でもない限り視認できないのだ。

偶々、今日ここにいるのはオカルトマニアをこじらせたような観客であったり

神やその従者であるため、虹川姉妹の姿も問題なく視認されているのだが。

 

同様に、チーム魍魎も最下位常連であるのは

彼らの活動時間が夕方以降になっている事に起因している。

昼間に注目を集めることは妖怪である彼らには難しいし

夜に活動しても、夜はビートライダーズの本領発揮とばかりに

他の強豪チームが本気を出したパフォーマンスを繰り広げているのだ。

言うなれば、慣らし運転をしているところにフルスロットルの車に競争を挑まれた様なものだ。

そう。チーム魍魎のエンジンが温まってきたころは既に日付変更するかしないかの時間帯。

そうなれば、観客は帰ってしまっているのだ。

そうした境遇の悪さに起因しているためか、名前こそ売れてはいるが

それが評価とは直結していない何とも言えない事態になってしまっていた。

 

「そうでなくったってなぁ! 駒王なんぞからやって来た連中に好き勝手させるかよ!」

 

「ああ、俺達を属国どころか植民地みたいにしか考えてない

 悪魔の息のかかった地域の奴らになんか負けられねぇからな!」

 

突如放たれるチーム魍魎の駒王町へのヘイト。実際には駒王町を管理していた悪魔は

既にその職務を追われてしまい、今は混沌としているが悪魔一強の地域ではなくなっている。

だがそれでも、彼らには駒王町=悪魔の根城、と言う認識が強かったようだ。

 

これには実際駒王にいた虹川姉妹も目を丸くする。

彼女らもバンドを始めたきっかけこそ悪魔との契約だが

その悪魔は悪魔の駒による転生――実際は事故なのだが――で悪魔になった事を是とせず

結果として駒王町の元管理悪魔に牙を剥き、その辺りを有耶無耶にしてしまっているのだ。

バンド活動自体は虹川姉妹のやりたかったことではあるのだが

もうそこには悪魔の思惑は一切絡んでいない。

運営もその悪魔がさる事情から積極的に関われなくなっており

現在は有志の幽霊たちが彼女らの裏方サポートを行っている形だ。

 

「……私達、確かに駒王から来たけどもう悪魔は無関係……」

 

「名実ともに純正幽霊楽団よ!

 ……まぁ彼も幽霊みたいなもんだったけど、幽霊辞めちゃったしね」

 

「ダンスは兎も角、音楽なら負けないわよ!」

 

チーム魍魎の悪魔へのやっかみなどどこ吹く風とばかりに虹川姉妹は演奏を続けている。

しかし、彼女達はこのビートライダーズによる抗争について、大きな思い違いをしていた。

 

一つ。彼女達はこれをただの路上パフォーマンスの延長線上であると思っていた事。

実際そうなのだが、その根幹はやはりダンスパフォーマンスである。

ところが、虹川楽団にはボーカルはいてもダンサーがいない。

ボーカルである四女の(れい)がぎこちないながらも兼任していたり

他の楽器メンバーが幽霊楽団の特性であるエア楽器によるパフォーマンスを駆使して

何とかそれっぽく見せている形だ。

勿論、その動きたるやダンスの特訓を一応欠かさず続けていたチーム魍魎には今一歩、及ばない。

 

そして、もう一つが――

 

「おい、向こうの盛り上がり半端ないぜ!?」

 

「くそっ、こっちは真夜中じゃないと本領発揮出来ねぇからな……

 だったら仕方ねぇ、シドさんに貰った『アレ』、試してみるか!」

 

チーム魍魎のメンバーの一人が、ヒマワリの種を模した南京錠のようなものを懐から取り出す。

そして、ロックがされているそれを解錠すると、ファスナー状の裂け目が空間に出現。

中から、小さなドラゴンアップルの害虫――インベスが現れたのだ。

この光景には観客も、虹川姉妹も、そしてロスヴァイセも驚きを隠せなかった。

 

「オーディン様! あれは以前オリュンポスと交流した際に情報を得た

 ドラゴンアップルの害虫……確かインベスと言われていたはずですが……

 まさか、あれを使役する手段が確立されているのでしょうか!?」

 

「ふむ。ロスヴァイセ、一応いつでもアレを始末できるようにしておけ。

 こんなところでドラゴンアップルの生育などされてはかなわんからの」

 

ロキはインベスをヘルヘイム――ニブルヘイムに連なる要素があると見ていたが

オーディンはまだそこまで踏み込んではいなかった。

しかしそれでも、彼らが野放しにされていい存在ではない事は理解していた。

故に、ロスヴァイセに万が一に備えいつでも戦闘行為が出来るように命じる。

 

一方、取り乱しているのは虹川姉妹だ。

何せ、駒王を出てからとんと見なかった害をなす怪物が、突然目の前に現れたのだから。

 

「ちょっ、ちょっとなんでアイツがここに出てくるのよ!?」

 

「姉さん、莉々、お客さんの誘導をお願い! あれは幽霊の私らは兎も角

 観客のみんなを巻き込んだら大変なことになる!

 玲は下がってて! こいつの足止めは私がやるから!」

 

「……わかったわ。みなさん! あの怪物は毒を持っていて危険です!

 誘導しますから、私達についてきてください!」

 

気分を落ち着かせる音を奏でる長女の瑠奈(るな)と、音のチューニングを得意とする三女の莉々。

毒を持つと言う怪物の出現に困惑する観客らの精神面を顧みて、彼女らが率先して観客の避難を試みる。

この手際の良さは、以前に激戦区でライブを行ったことがある事に起因しているのだろう。

これには、思わずオーディンも感心する。

 

(ほう。さっきのシャルモンと言い、沢芽には骨のある者が多くいるようじゃのう。

 これでこそ、わしが赴いた甲斐があると言うものじゃ)

 

その一方で、面白くないのはチーム魍魎だ。

突然やって来た新参者が注目を集め、自分達が切り札を切ったら突然観客の避難誘導をされたのだ。

元々血気にはやるきらいのあった彼らだけに、この行いは虹川姉妹に対するヘイトを大きく高めたのだ。

そうなれば、やる事は一つ。

 

「散々俺らのシマ引っ掻き回しておいて、挙句の果てに客逃がすとか何考えてやがるんだ!

 もう我慢ならねぇ! おい、やっちまえ!」

 

インベスに芽留に対し攻撃を仕掛けるよう命令するチーム魍魎の妖怪の一人。

芽留もそんな状況にもかかわらずハイテンションで余裕ぶっているが

実際のところ彼女らのマネージャーでもあった宮本成二が対処していた異形の怪物との戦いなど

したことが無い。と言うか、いくら幽霊と言うオカルトじみた存在でも荒事とは縁遠い。

 

しかし彼女の幽霊と言う特性上、インベスの物理攻撃は芽留の身体をすり抜ける。

そうなれば、インベスの毒――ドラゴンアップルの寄生――に対して

芽留は絶対的なアドバンテージがある。

だが、芽留はインベスに攻撃する手段がない。まさか、トランペットをぶつけるわけにもいかない。

エア演奏ではあるが、楽器自体は本物なのだ。粗末に扱うわけにはいかない。

 

(躁状態にしちゃったら、被害が大きくなっちゃうもんね……

 あーもう! こんな時にセージがいてくれたらいいのに!)

 

心の中で悪態をつきながら、かつチーム魍魎やインベスを挑発しながら

観客の避難のための時間稼ぎを率先して行っている芽留。

マネージャーであり、彼女らにバンド活動を行う切っ掛けを与えた宮本成二。

彼をここに呼び出せば、インベスなど瞬く間に対処できることだろう。

 

だが、それは出来ない。

何故なら、虹川姉妹とセージは確かに悪魔の契約を交わしていた。

その際の連絡用の魔法陣は、セージが当初(事故とは言え)眷属となっていた

リアス・グレモリーをはじめとするグレモリー家のもの。

今のセージは、グレモリーとは何の関係もない。

セージがグレモリーの支配から脱したと同時に、虹川姉妹の持つ魔法陣の羊皮紙は

うんともすんとも言わなくなったのだ。アモンの魔法陣、それもアーキタイプがあれば

話は変わってくるのだろうが、そんなものを彼女らが持っているはずがないし

強引にグレモリーの魔法陣を使えば、誰が飛んでくるか予想もつかない。

一応、ライブの観客としてギャスパー以外は一度だけ顔を見たことがあるのだが

沢芽と言う管轄外の地域で活動することに肯定的では無いだろう。

 

そんな芽留の動きにしびれを切らしたチーム魍魎のメンバーは

インベスの召喚に使った錠前をさらに出してきた。

しかも今度はヒマワリの種ではなく、マツボックリの絵が描かれている。

 

「ただ召喚するだけじゃだめだ! こいつを奴に食わせてみようぜ!」

 

「シドさんがそうやってるのを見たことがある! 俺達だって!」

 

チーム魍魎の妖怪の一人がインベスの顔にある口(?)らしき部分めがけて錠前を投げつける。

それに気づいたインベスが、突如として背中の甲殻を開き

牙の並んだ大きな口を開いて投げ寄越された錠前を飲み込む。

その悍ましさに、芽留はもとより静観していたロスヴァイセも息を呑む。

オーディンもまた、現物を目の当たりにしたことで感嘆の声を上げていた。

 

だが、驚くのはそればかりでは無かった。芽留が視認できていなかったのか

さっきまでがむしゃらに攻撃していたインベスが

まるで芽留を狙うかのように攻撃してきたこと。

そしてさらに『インベスの爪が芽留の肌を掠めた』と言う衝撃の事実が発覚した。

 

(痛っ!? 幽霊の私を捉えたって言うの!? ちょっ、ちょっと洒落にならないわよこれ!

 しかも私に効果があるかどうかわからないけど、こいつらかなり強力な毒持ちじゃない!

 こ、これちょっと本格的にマズいかも!)

 

ふむ、と一人納得したように頷き一部始終を見ていたオーディンが、ようやく重い腰を上げる。

とは言っても、自分は動かずにロスヴァイセに始末を任せるようだが。

 

「ロスヴァイセよ。そろそろいいじゃろ。霊魂にも干渉するようになるといささかの。

 それと、あの少女は一応エイルに診てもらえ。

 あのインベスの毒、霊魂にも作用するようなら危険じゃ。エイルへの連絡はわしがやっておく」

 

「畏まりました。では……はっ!!」

 

ロスヴァイセが右手をかざすと、何も無い場所に炎が走る。

彼女が得意とする精霊魔法の一種で、炎の精霊の力を行使した魔法である。

インベスは植物を媒介とする生物。ならば炎に弱いとロスヴァイセは睨んだのだ。

その目論み通り、インベスはあっという間に焼き払われてしまった。

 

「た、助かった……ありがとお姉さん! 私ら一応アレがヤバい生き物だって知ってるけど……」

 

「私もそう言う生き物がいるってのは話程度には。さて、そうなると……」

 

芽留から礼を言われ、振り向いたロスヴァイセの冷たい視線の先にはチーム魍魎がいた。

頼みの綱のインベスは焼き払われ、さっきまでの虚勢は見る影もなく狼狽している。

 

「これはあなた方の問題でしょうけど、周囲に被害が出るような状況は看過できないので

 手を打たせていただきました。まだお続けになるようでしたら、それ相応の対応を取りますが」

 

「な、何なんだよ! 俺達は駒王で幅を利かせている悪魔が気に入らねぇし

 京都の大将は事もあろうに悪魔と、三大勢力とつるもうとしてやがる!

 だから俺達は逃げるように駒王を飛び出して、そんな中沢芽にやって来たんだ!

 それなのに、こっちでもこんな目に遭うんじゃやってられないぜ!」

 

逆切れを始めるチーム魍魎の妖怪の一人。それを聞いたロスヴァイセはため息をつき

冷たい目線を変えることなくさらに言い放つ。

 

「だったらやる事が違うでしょう。

 ダンスパフォーマンスで馴染もうとしていた姿は感心しました。

 ですが、インベスを用いて手荒な真似をするのはあなた方の言う悪魔と同じですよ。

 力で言う事を聞かせようとする者は、より大きな力にねじ伏せられる。

 力を行使したいのなら、その責任を常に抱える事です」

 

「そうそう。私はあんたたちのダンスパフォーマンス、これでも買ってるんだよ?

 だってうちらダンサーいないしさ。そこで相談なんだけど、うちらと組まない?

 あ、インベスは無しね。そういうの方向性とは違うから……うっ!」

 

さっきまでの事が嘘のようにあっけらかんとチーム魍魎をスカウトする芽留。

実際、ダンサーとしての腕はチーム魍魎に軍配が上がる。

そこを音楽の虹川姉妹が補う形で一つのユニットとして纏めようと、芽留はそう考えていた。

 

ところが、話し終えた途端に芽留の可愛らしい顔が苦痛に歪む。

インベスの爪が掠めた場所から、芽が生えてきたのだ。

 

「これは……オーディン様! 事態は一刻を争います!

 やはり、インベスの毒は相手が幽霊であろうとも感染するみたいです!」

 

「むう……これはエイルをこっちに呼んだ方が良さそうじゃな。

 ひとまず、この子をホテルまで運ぶぞい。ロスヴァイセ、頼めるな?」

 

力強く頷き、ロスヴァイセは芽留を抱え上げる。

毒が魂に作用しているためか、芽留の身体はいつもに増して薄くなっている。

避難誘導を終えた瑠奈と莉々。そして安全のために後ろに下がっていた玲が心配そうに見守る中

一同はオーディンの宿泊先のホテルへと向かうのだった。




ビルドネタを引っ張ったりしましたが、舞台は鎧武(沢芽市)です。
そして思ったより話が進んでない……ダラダラしてますね。すみません。

>シャルモン
あれだけの腕なら高くても文句言えないよね。
ケチのロスヴァイセをどうやって高級スイーツ店で食事させようか悩んだ結果がこれ。
ある意味凄い原作乖離。

>チーム魍魎
鎧武原作にも名前だけ登場したホットライン上位ランキング最下位常連。
拙作では実は妖怪のチームで、それゆえに活動時間帯的な意味で
評価が正しくされず、再開に甘んじていると言う設定に。
今回はダンスはいいんだけどやってる事がある意味原作のカラーギャングと同様に……
何気に、妖怪勢力の首脳陣は現時点では悪魔との同調体制には前向きだったり。
でもそれは、神仏同盟との間に軋轢を生みかねないわけで……

>虹川姉妹
プリズムリバーって言っちゃったよ……なセージのコミュ対象キャラ。
彼女らも何気に被災した駒王でライブしたり
コカビエルの脅威が迫ってる中で演奏したり
自分達が実際に戦うわけではないけれど非常事態には慣れている感じで。
弾幕ごっこ? あれはごっこであってガチバトルじゃないですしおすし。

>インベス
今回、霊魂(魂)だけの存在にも毒が有効なことが発覚。
ロックシードらしきアイテムでパワーアップしたが故の影響ですが
初級インベスでこれなんですから……
因みに、投げ寄越されたロックシードもマツボックリ(Cクラス)なので
進化はしていませんがパワーアップはしました。そんな感じで。

>ロックシード
チーム魍魎の手にもわたっていると言う事は既にある程度
量産体制が整っていると言うわけで。
前作「同級生のゴースト」3章でフリードが、最終章でレイナーレが
それぞれ召喚したインベスはその先行量産型のロックシードによるものでした。

>エイル
HSDD原作にはいませんが。北欧神話原典に名を連ねるヴァルキリーの一人。
彼女も医学に明るい存在です。悪魔の駒摘出手術(前作5章とか参照)の技術は
恐らく北欧では彼女に伝えられることになるでしょう。


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Case8. 天災発明家の邂逅

思った以上に長くなってしまった沢芽編。
次々回あたりで次の舞台に移りたいところなんですが……

艦これ
秋刀魚12匹目。
このペースなら今年は大漁旗取れる……か?




沢芽(ざわめ)市・オーディン達が宿泊しているホテル。

 

沢芽市のビートライダーズの一組、チーム魍魎と駒王町からやって来た

虹川楽団ことチームプリズムリバーのダンス(?)バトルは

チーム魍魎が途中でドラゴンアップルの害虫――インベスを召喚したことで有耶無耶となり

そのさなか、虹川姉妹の次女・芽留(める)がインベスの攻撃を受け毒に感染してしまう。

 

その治療のため、オーディンは本国から医療に長けたヴァルキリー・エイルを召喚。

芽留の治療にあたらせていた。

治療は無事に終了し、現在オーディン達の部屋を特別に虹川姉妹に貸し与え

オーディン達はホテルのロビーに集まっていた。

 

「峠は越えたようです。後は暫く安静にして様子を見ましょう。

 

 ……オーディン様、少し宜しいですか?」

 

芽留の治療にあたり、ドラゴンアップルの成分を分析し

それを基に解毒剤を精製したエイルだったが

そもそもドラゴンアップルは冥界にしか生息しないとされている物であったはずである。

それを、何故北欧のエイルが成分を知ることが出来たのか。

そこまでは、オーディンも踏み込んでいなかったのだ。

 

「ロキ様からお聞きになっておりませんか?

 ドラゴンアップルとは、我が領地ニブルヘイム

 ――ヘルヘイムに生息する果実に酷似した植物なのです。

 悪魔達はあれがあたかも自分達の特産品であると謳っている事もありますが……

 まぁ、あれで一儲けしようなどと言う輩はニブルヘイムにはいないようですが。

 

 副作用については私も前々から耳にはしていましたが、こうして現物を目の当たりにすると

 中々にえぐいものがありますね。だからこそ、血清を調合して持参してきましたが……

 幽霊に血清と言うのも、よくよく考えなくても変な話ですね」

 

エイルは、ロキから――より正しくは彼の娘ヘルからだが――ニブルヘイムに

ドラゴンアップル、ないしその亜種が生息していると言う話を聞いていた。

それは、植物の生育条件を無視してドラゴンアップルを生育させるインベスの毒に対して

抗体や血清を調合できると言う事を意味している。

そのお陰で、こうして芽留は一命を取り留めたのだった。

一命と言うか、既に死して幽霊の身ではあるが。

 

「今回の結果を受け止めた上で、一度ロキ様ともお話されてみてはいかがでしょうか。

 では、私は本国でやることがありますのでこれにて」

 

ロキとも対話をし、北欧神話としての意見をまとめ上げた上で

ひとまず対処法が見つかりそうなインベスに関しては情報を世界に発信できるのではないか。

エイルは今回の件からそれが可能だと考え、オーディンに意見具申をした。

その決断を下すのはオーディンではあるが、エイルの発言はインベスに悩まされている地域――

特に駒王町にとっては、吉報に他ならないものであろう。

仕事を終え、本国での内乱による傷病者への対応のために転移魔法陣を使い帰国するエイルを

オーディンは静かに見守っていた。

 

「……ぬかったの。灯台下暗しと言う奴か。まさかニブルヘイムとインベスに繋がりがあったとは

 思わなんだ……いや、待て。そもそも、インベスは何処からやって来たのじゃ?

 あんな感染力や行動範囲の広い生物が北欧に生息して居れば、わしとていくらなんでも気づく。

 それに、先ほどの妖怪の若造ども。彼らは錠前のようなものからインベスを呼び出しておった。

 

 ……ロスヴァイセ! ロスヴァイセはおるか!」

 

オーディンが自身の従者であるロスヴァイセを呼びつける。

彼女は先ほどまでインベスをけしかけた張本人、チーム魍魎の妖怪達から話を聞いていたのだ。

事情聴取も一段落していた事もあり、彼女はオーディンの招集に応じる。

 

「はっ。先程、インベスを召喚した妖怪から事情聴取を終えたところです。

 どうやら、一部のビートライダーズにはある程度のインベスを召喚する装置――

 彼らは『ロックシード』と呼んでいるそうですが。それが行き渡っているようです」

 

「なんじゃと? インベスの危険度を知らぬと見えるな。

 ……いや、この沢芽市が特別平和ボケしているだけかもしれんのう。

 聞けば、駒王町と言う町ではインベスによる被害も少なくないようじゃしの」

 

「……どうも、錠前ディーラーのシドと言う人物から購入ないし提供されたとの事でした。

 ただ、その者がどこからロックシードを調達したのか、までは分からないそうです」

 

若者たちに出回るロックシードと言うインベスを使役する危険物。

それはどう考えても、過ぎたる力である。

ビートライダーズの大半は、世間に対し不満を抱きそれをダンスで昇華させているに過ぎない。

そんな精神状態の者達が、インベスと言う過ぎた力を手に入れればどうなるか。

オーディンが最悪の想像をするのに、時間はかからなかった。

 

「ロスヴァイセよ。先刻の彼ら……ビートライダーズは

 カラーギャングのようなものじゃと言ったな?

 となれば、彼らは社会への欲求不満をダンスで発散させておるようなものじゃろ。

 彼らがダンスに打ち込む理由、わしにはそう聞こえたぞい……となれば、じゃ。

 

 ……ダンス以外に欲求不満をより直接的に発散できる手段があれば

 そっちに飛びつくのは道理ではないかの?」

 

「はぁ……まぁ確かにそうだと思いますが。

 

 ……ま、まさかオーディン様! ダンスと言う行動は欲望で言えば代償機制である昇華。

 それをインベスと言う力を手に入れた事で

 より直接的な暴力と言う攻撃機制に転換されてしまう……

 そう仰りたいのですか!?」

 

オーディンの危惧した事。

それは、ビートライダーズがインベスと言う力を手に入れて

ちょっとした暴徒になるのではないか、と言う懸念であった。

 

既にフューラー演説による不安の種は全世界に広がり、そこから内乱が始まっている。

禍の団のテロ活動など、それをちょっと後押しした程度のものだ。

結局、人間が人間同士で自分の首を絞めている。

海を超えた向こう側の国では、そんな光景が日常に混ざりつつある状態なのだ。

 

「……ロスヴァイセよ。わしはこの沢芽に来て良い事も悪い事も知ることが出来た。

 確かに、わしらの影響の及ぶ地域を蔑ろに……しているつもりは無いのじゃが

 おぬしやロキにはそう見えるのかもしれんの。

 じゃが、こうして北欧の国以外――それも比較的内乱と言う意味では平和なはずの日本でさえ

 暴動の種が蒔かれようとしておる。わしはその芽を刈り取りたい。

 その為にも、明日のユグドラシルの会社見学は何があっても決行するぞい。

 あの呉島貴虎と言う若者は兎も角、あのユグドラシルの成長とインベス……

 いや、もっと言えばロックシードには何らかの因果関係がある。わしはそう睨んでおる」

 

オーディンが明日の会社見学への決意表明をしたところで、さっきまでロスヴァイセに

事情聴取と言う名の説教を受け絞られていたチーム魍魎の妖怪達。

彼らが、オーディンに対し名乗りを上げたのだ。

 

「あの……異国の神様と知らず、無礼を働き申し訳ありませんでした!」

 

「謝る相手が違うぞい。謝るなら、あの娘に謝るべきじゃ。

 まぁ、今回はわしも非公式な訪問じゃからな。わしに対する礼儀で

 とやかく言うつもりは毛頭ないわい」

 

「今考えたんですけど、彼女たちの提案を受けることと

 もう一つ、知っておいて欲しいことがあるんです」

 

チーム魍魎の語る「知っておいて欲しい事」に、オーディンとロスヴァイセは耳を傾ける。

それは「全てのビートライダーズがロックシードを受け取ったわけではない」と言う事であった。

 

「『チーム鎧武(がいむ)』、『チームレイドワイルド』、『チームインヴィット』

 俺らが知ってる上位チームのうち、彼らはロックシードとインベスに

 否定的な立場をとっているんです」

 

「だから、俺らはさっきの彼女達――『チームプリズムリバー』と組んで

 さっき話したチームに働きかけてビートライダーズによるインベスゲーム

 ……ああ、俺らの間じゃインベス同士を戦わせたり、インベスをけしかけて

 相手チームからステージを奪ったりするインベスゲームってのを最近始めたんですけど……

 それを何とか抑止できないかな、とやってみるつもりです」

 

「まぁでも、あまり度の過ぎた奴らは『チームバロン』にぶちのめされるんですよ。

 ……彼らはインベスを使役してますが、完全に制御している感じですね。

 

 ……よく考えたら俺ら、よくぶちのめされなかったよな。

 あれでリーダーのシャプールは荒事とは無関係そうな性格してるんだからすげぇよな」

 

一応、ビートライダーズにはビートライダーズなりのルールなどは存在していたようだ。

だが、それさえもインベスの齎す毒の前には児戯に等しいものなのかもしれないが。

 

沢芽を覆おうとしている暗雲に、図らずも挑むこととなったオーディンとロスヴァイセ。

彼らの住まう世界に存在する世界樹と同じ名を冠する企業には

一体如何なる謎が隠されているのだろうか。

 

「成すべきことがわかっておるのならばわしからは何も言わんわい。

 じゃが、さっきも言ったがあの娘と家族にはきちんと謝るべきじゃな」

 

オーディンの言葉に頭を下げ、チーム魍魎はその日は一晩ロビーで待機し

オーディン達は沢芽市で連絡先を知り、かつこのホテルを紹介した呉島貴虎(くれしまたかとら)に事情を話し

部屋を余計に用意してもらい、次の日に備えたのだった。

 

――――

 

翌日。

 

ホテルまで迎えに来た呉島貴虎の車に乗り、オーディンとロスヴァイセは

早速ユグドラシルの沢芽支社に向かっていた。

その途中、オーディンは思い切って貴虎に昨日の事を問い質していた。

 

「貴虎よ。『ロックシード』と言うものに聞き覚えはあるかの?」

 

「……それはどういったものですか?

 わが社ではそのような『商品』は取り扱っておりませんが」

 

やはりな、と納得したような表情を浮かべるオーディン。

そもそも、いくらユグドラシルが多角経営を行っているとはいえ

根幹は医療・福祉系の会社だ。ロックシードとはどうしても結びつかない。

 

「それより、現在警視庁や自衛隊との協力で災害救助用の

 重機やドローンの開発を進めております。

 本日はその実演も行いますので、是非ご覧ください」

 

災害救助用の重機もドローンも、超特捜課(ちょうとくそうか)薮田直人(やぶたなおと)

ギルバート・マキが設計したものだ。

それらの実際の生産や調整は、ユグドラシルが警視庁や自衛隊

――すなわち、国からの依頼を受け行っていたのだ。

言うなれば、国の主導で生産した超特捜課の装備であるクローズスコーピオン・パワードも

ドローンドロイド、ひいてはプラズマフィストなども

ある意味ではユグドラシル謹製のアーマードライダーシステムの兄弟機にあたる事になる。

 

実際、被災地において災害救助用の重機や多目的ドローンは喉から手が出るほど欲しいものだ。

各地に行き渡るように、現在日本ではユグドラシルを始めとした

大企業がこれらの生産体制に入っている。

ユグドラシルは基本的には医療・福祉系の企業ではあるのだが

多角経営の賜物か製造ラインをも所持していたのだ。

 

……尤も、その製造ラインとは「アーマードライダーシステムを製造していた」ラインなのだが。

 

程なくして、オーディンらを乗せた車はユグドラシルタワーの前に到着する。

見た目の壮観さもさることながら、内部構造もかなり頑丈に作られている。

貴虎が言うように、内部で重機の実演を行っても問題ない位には。

 

「中はかなり広いので、私から離れないようにしてください」

 

貴虎の言葉に「これはある意味チャンスかのう」と考えるオーディン。

オーディンの考えは、見学中に迷子を装いユグドラシルの内部を隅から隅まで

貴虎と言うフィルターを通さない形でユグドラシルを見学する事であった。

 

貴虎と言うガイドが付けば、確かに安全にユグドラシルの内部を知ることができる。

だがそれは、ユグドラシルにとって都合のいい形でしかオーディンらに伝えられない情報だ。

そんな情報など、オーディンは欲していない。

 

(ロスヴァイセ。折を見てわしから離れ独自に行動するのじゃ。

 そして貴虎の語らぬ、ユグドラシルの裏の貌を調査しわしに伝えるのじゃ。

 この貴虎と言う男、悪人ではないがこのままではわしらの望む情報は絶対に提供せんぞ)

 

(……勅命であれば従いましょう。ですがオーディン様。

 日本国で勝手な事をして、日本神話……今は神仏同盟でしたか。

 彼らに怒られはしないのですか?)

 

貴虎に聞こえぬよう、小声でロスヴァイセにとんでもない事を指示するオーディン。

確かに、ロスヴァイセの言う通り日本である沢芽市で北欧神話の関係者が

勝手な事をすれば、日本神話――神仏同盟の反感を買いかねない。

三大勢力と言う、悪い見本をこれでもかと見せつけられている以上

彼らの真似だけは避けたいと考えての事であり

神仏同盟も三大勢力の所業の悪さにはほとほとあきれ返っている。

 

(……止むを得ん、事後報告じゃ。責任はわしがとる。

 具体的には、後日わしが直接天照の下にこの件の詫びに伺おう。

 昨日エイルが話したインベスの毒の血清を持参した上での)

 

(今回のようなプライベートではなく、正式な会談と言う事ですね。

 では本国に戻り次第、先方との段取りをつけておきましょう。

 

 ……あっ、オーディン様。会場についたようですよ)

 

貴虎にばれないように、神仏同盟との会談の段取りをつけていたところ

オーディン達はとうとう製造システムの実演場にやって来たのだ。

 

重い扉が開いた先には、無機質ながらも広大なフィールドが広がっており

フィールド上には実際の稼働を想定したかのように瓦礫が散乱している。

 

「うわぁ、結構本格的ですね」

 

「本番を想定して稼働させないと、実演とは言えませんからね。

 さて……では早速実演を始めましょうか。

 光実(みつざね)、クローズスコーピオン・パワードを作動させるんだ」

 

思わず感想を漏らしたロスヴァイセに貴虎が説明し

そのまま弟で秘書的役割の光実に重機――クローズスコーピオン・パワードの稼働を指示する。

光実がスイッチを入れると、目の前の蠍を思わせる鈍色の重機は駆動音を上げて動き出し

瓦礫を模した廃材を破壊・撤去するデモンストレーションを開始した。

 

「ほう、日本のモノづくりの技術は飛躍していると耳にはしていたが

 目の前で現物を見せられると納得せざるを得んのう」

 

「気に入っていただけましたか? 三大勢力の内乱や禍の団によるテロ活動

 さらにはフューラー演説による内乱で各国は混乱状態にあります。

 そこで、そうした災害から人々を守るべく我がユグドラシルは

 警視庁や自衛隊と共同でこれを開発しました。

 如何でしょう? 北欧においても導入されてみては?」

 

あくまでもビジネスとして、貴虎はオーディンにクローズスコーピオン・パワードを薦める。

実際、この重機の機動力・パワーはこのデモンストレーションを見る限りでは優秀だ。

だが、それにオーディンは考え込む仕草をする。

実際に導入するかどうかを考えていたわけではなく

ただのタイミングづくりの一芝居でもあったのだが。

 

「……おっと、私としたことが。耐久テストをご所望でしたか?

 光実、耐久テストの準備を始めてくれ」

 

「分かりました、主任」

 

「……あ、そ、その前に……お、お手洗いはどちらでしょう……?」

 

示し合わせたようにオーディンとロスヴァイセがアイコンタクトを取り、この場を離れるべく

トイレを口実に抜け出そうとする。光実がエスコートしようとするが

ロスヴァイセはそれを制し、場所だけ教えてくれるよう頼みこんだ。

勿論、この場を抜け出すための口実なのだが彼女にしてみれば

幾ら高校生でも男性にトイレのエスコートを頼むのは気恥ずかしいものがあったのかもしれない。

 

「……では、ロスヴァイセさんが戻って来てから実演を再開しますか?」

 

「いや、始めてくれて構わんぞい。ただ、出来れば動画は後で寄越してほしいかの」

 

部外秘でお願いします、と付け加えて貴虎は実演を再開する。

ここで露骨に時間を稼いでは怪しまれる。

ロスヴァイセは名目上トイレのためだけに席を立ったのだから。

貴虎やオーディンらの眼下では、クローズスコーピオン・パワードの耐久テストと称し

設定された過酷な環境下でどれほどの稼働力を見せるのかの

デモンストレーションが行われていた。

 

――――

 

(……全く、いくら情報集めとは言えオーディン様も無茶仰ってくれるわ……

 これは危険手当でも貰わないとやってられないわね)

 

道に迷った風を装いながら、ロスヴァイセはユグドラシルタワーの広大な廊下をうろついている。

しかし、見れども見れどもそこの風景は大企業のオフィスビルと大差ない。

この程度なら、ロスヴァイセも他の建物とは言え前情報で知っている。

 

(しかし、本当にこの建物にインベスに繋がる何かがあるのかしら……あら? あれは……)

 

ふと、ロスヴァイセが目をやった先には袋小路に入り込んでいく白衣の男性。

研究者だろうか。ロスヴァイセが彼の後を追うと

そこは何の扉もない本当に廊下の突き当りだった。

 

(……消えた? いえ、これは隠し通路的な何かがあるわね。

 そう言えば、昔おばあちゃんに忍者屋敷に連れて行ってもらったっけ……

 

 ……じゃない! 隠し通路があるって怪しさ満点よ! 調べてみましょう!)

 

何の変哲もない突き当りの壁に鎮座している観葉植物や、ランプを調べてみる。

すると、程なくして壁に突然通路が現れる。

もう少し苦戦するかと思っていたロスヴァイセも、これには驚いた。

 

(ラッキーね、あまり得意じゃない結界魔法なんて使う羽目になったら

 どうしようかと思ってたわ……)

 

最後の手段として、結界魔法を応用し隠し通路を割り出すつもりでいたのだ。

まさか、攻撃魔法で強引に通路を開けるわけにもいかないし

そんな事をすれば叩きだされるうえに本当に神仏同盟からお叱りを受けてしまうだろう。

 

深呼吸をした後、ロスヴァイセは現れた通路をくぐり、その先にあった長い階段を下る。

ある程度進んだところで、壁の雰囲気が変わり

現在地が地上から地下になった事を物語っていた。

それに伴い、照明も来客を迎えるものから外敵を威圧するものに変貌していた。

 

(あからさまに何かあるって言ってるようなものじゃない……

 

 ……っ、誰かくる!)

 

思わず身を潜めるロスヴァイセ。廊下を歩いて来たのは

僅かに口ひげを生やした人相の悪い男性と白メッシュの入った白衣の男性。

先刻ロスヴァイセが見た白衣の男性とは別人のようだ。

 

「どうだい? 展開しているロックシードは順調かい?」

 

「ああ。ガキどもはこぞって買いに来るから俺もウハウハだし

 プロフェッサーだって研究成果が見られてウハウハ。

 まったく、ぼろい商売もあったもんだなぁ?」

 

話の内容から、プロフェッサーと呼ばれた白衣の男はロックシードを開発し

人相の悪い男はロックシードの販売を行っている事が分かる。

この事から、ロスヴァイセは人相の悪い男こそがチーム魍魎の言っていた

錠前ディーラー・シドではないかとあたりをつけた。

尤も、他に錠前ディーラーがいないと言う前提付きだが。

 

「なぁ、そろそろ上位ランクのロックシードも流通させてもいいんじゃねぇか?

 あるんだろ? 呉島兄弟が使っているもの以外にもよ」

 

「確かに、貴虎と光実君にはそれぞれメロンとブドウのロックシードを渡してある。

 だが、あれは私が開発したドライバーとの同時使用を想定に入れているものだ。

 今君が売りさばいているような使い方は想定に入れてないし

 戦極ドライバーも市場流通できるほど数が確保できているわけじゃあない。

 

 ……だから、あまり勝手に持ち出してくれるなよ?」

 

何のことだ? と人相の悪い男はとぼけてみせ、白衣の男もそれ以上の追及はしなかった。

その理由を、人相の悪い男はすぐに知ることとなる。

 

「君に頼まれていたロックシードならもう完成している。

 これでも大変だったんだよ? 戦極ドライバーやロックシードだけでもいっぱいいっぱいなのに

 その上さらに政府からは警察や自衛隊用の重機を作れってお達しが来るんだから。

 ま、実際工場で作っているのは私じゃ無いんだけどね。アッハハハハハ!」

 

――そう。「自分が直接関わっていないからどうでもいい」のだ。

自分が作った発明品が誰の手に渡り、それがどういう働きをするのか。

彼はその一部始終さえ見られれば、それ以上は追及しなかったのだ。

 

「……それに言わせてもらうと、私としては政府が提示したあの重機、気に入らないんだ。

 何せ、私の発明ではないのだからね。悪魔と戦うだけならば、私が設計した

 ロックシードや戦極ドライバー――アーマードライダーシステムがあれば

 事足りるはずだからね。

 

 さ、私はこれから友人と話がある。君はロックシードを受け取って行き給え。

 ……そうそう、つい今しがた第四ラインの量産型戦極ドライバーと

 ロックシードも完成したそうだよ?」

 

「いいのかよ? 俺みたいな奴に情報漏らしちまってよ。

 『また』横流しされるかもしれねぇぜ?」

 

彼らの言い分では戦極ドライバーは怪異に立ち向かえる戦力を秘めている。

そしてそんな危険なものが、どこかしらに横流しされている事を示唆している。

しかも、開発者はその横流しを黙認しているのだ。

 

「ああ、私としては戦極ドライバーがインベスのみならず悪魔を始めとした三大勢力や

 アインストを蹴散らしてくれれば、それだけで私の発明の正しさが証明されるからね。

 誰がどのように使おうと、私としてはさしたる問題ではないね」

 

「……本当にいかれてやがるぜ。お前がアインシュタインでなくてよかったって思えるぜ」

 

「ああ、覚えておきたまえ。原爆の父はアインシュタインではなくオッペンハイマーだ」

 

現状を原爆に准えて白衣の男を皮肉ったつもりが、逆に言い返されてしまっている辺りは

白衣の男も戦極ドライバーやロックシードの設計が行える知識を持っている事を照明していた。

その事に人相の悪い男は舌打ちをしつつ、来た道を引き返していった。

 

(あまり……性質のいい人間ではなさそうね……)

 

その様子を、ロスヴァイセは謹製の魔術カメラで録画、録音している。

それは、まだ二人には気づかれていない。

そんなロスヴァイセをよそに、白衣の男は突き当りの大きな扉のロックを解除し

中に入ろうとする。

 

ロスヴァイセはそれを追って陰に隠れながら移動するが

その先にいたのはロスヴァイセも驚くほどの人物であった。

 

「さて……待たせたね、我が同志――

 

 

 ――アジュカ・ベルゼブブ」

 

白衣の男の前に現れたのは、緑髪の男にして、四大魔王の一人。

悪魔の駒の生みの親でもある、アジュカ・ベルゼブブ。

その他にも、研究室らしきところには老人が二人並んでいる。

 

「ああ、待ちわびていたよ我が友戦極凌馬(せんごくりょうま)

 今俺が進めているプロジェクトについて、君の意見を求めたくてね。

 協力者としては君もよく知っている、ユグドラシル・コーポレーションの

 専務取締役である呉島天樹(あまぎ)

 そして珠閒瑠(すまる)市出身の国会議員、須丸清蔵(すまるせいぞう)だ」

 

「『噂』はかねがね聞いておるよ。沢芽の発展を陰から支えた天才発明家、戦極凌馬君。

 我が珠閒瑠市もユグドラシルの子会社を誘致しているからな。

 そう言う縁でもこちらの呉島君にも良くしてもらっている。

 今日我々が出会えたのはよりよい未来を生み出す第一歩になるであろうからな」

 

「これはどうも、呉島専務に須丸先生。私の研究が、皆さんのお気に召せばいいのですが」

 

アジュカの立会いの下、須丸清蔵と名乗った老人は凌馬や天樹と握手を交わす。

ここだけ見れば、位の高い人物同士の会見の場であると錯覚しかねない。

 

(須丸清蔵……? だがあの風貌、サングラスで完全には窺い知ることはできないが

 十年前に行方不明になった須藤竜蔵(すどうたつぞう)のそれに似ているな。

 ……いや、あれから十年も経っているんだ。

 人間ならばとっくに第一線から身を引いているか……

 

 ……人間ならば、か。一度(みなと)君にも調べてもらう必要がありそうだな。

 ま、私の研究にはどうでもいい事だが……何だ、何かが引っ掛かる……)

 

凌馬は凌馬で目の前の須丸清蔵と言う人物を内心訝しんでいるが

その様子を陰から見ていたロスヴァイセは、この場にいるべきではない

魔王、アジュカ・ベルゼブブの存在に面喰っていた。

 

(あれは……な、なんでここに四大魔王の一人がいるのよ!?

 それに……あれは……ファスナー……?

 でも、あんな空間に出来る大きなファスナーなんて……

 それに、あの中から出て来てるのって……!!)

 

外から内部を覗き込んでいるロスヴァイセ。

だが、内部の情景に目を奪われているうちに

背後の気配に対する注意が完全にそれてしまっていたのだった――




対魔忍ロスヴァイセ……いや、ふと今回の話で頭に過ったフレーズ……

そして紘汰さんや戒斗いないのにヤベーイ状態になってる沢芽市。
因みにチーム鎧武は裕也が、チームバロンは劇中触れてる通りシャプール(そっくりさん)が
リーダー務めてます。

「同級生のゴースト」時代に「拙作の沢芽市でインベスゲームは流行ってない」
と書きましたが、「流行っている状態から話が始まったわけではない」だけで
「流行らない」訳ではないので今回こうなりました。
フューラー演説で直接的な害は被ってませんが経済に関する影響は出ていたため
その反発がインベスゲームを招いたような感じです。

>須丸清蔵
風貌は、ペルソナ2罰の神取を思い出していただければ。
その要素を須藤竜蔵に落とし込んだ感じです。
故に、プロフェッサーが須藤竜蔵との関連について訝しんでいます。
名前はペルソナ2で珠閒瑠の地を平定した御前様こと澄丸清忠とのかけ合わせ。
御前様の正体は「アレ」だったのでつまり……

そんなわけで、ここにいるのは「人体実験をものともしない」奴らに
「人の悪意の集合体に限りなく近い場所にいる」奴しかいないわけで……

>ファスナー
仮面ライダー鎧武のクロスゲートとも言うべき「アレ」です。
鎧武原作と違い、拙作ではかなりクロスゲートに性質を近くしてあります。


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Case9. 斬月変身! 開く地獄門

そう言えば、鎧武原作のユグドラシルのクラックルームってタワー最上階だったんですね。
雰囲気からてっきり地下かと思ってました。
云豹のボス誤認と言い結構原作設定ガバガバだなぁ……何とかしないと。

そんなわけで前回のあらすじ
対魔忍ロスヴァイセユグドラシルタワーで諜報任務(多分違う)


艦これ
秋刀魚もうちょっと……
缶詰もだけど刺身が食べたい今日この頃。
リアル秋刀魚祭りは赤土の地元でもやってましたが
あのザマでしたからね……


沢芽(ざわめ)市・ユグドラシルタワー地下。

 

ここには、ユグドラシル・コーポレーションの語られざる一面が露になっていた。

その最たるものが、今ロスヴァイセが覗き見している部屋に集まった人物。

ユグドラシルの専務取締役である呉島天樹(くれしまあまぎ)や、ユグドラシルお抱えの天才科学者である

戦極凌馬(せんごくりょうま)。この二人はまだ社内関係者であるからまだいい。

だが、それ以外にも珠閒瑠(すまる)市出身の現役の国会議員である須丸清蔵(すまるせいぞう)

冥界の技術顧問であり四大魔王の一人。そしてあのかの少年にとっては忌まわしき

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の生みの親であるアジュカ・ベルゼブブまでもが顔を連ねていたのだ。

 

須丸清蔵は人間界の重鎮であるからまだいいにしても、アジュカだけは説明がつかない。

悪魔の影響が色濃かった駒王町ならばいざ知らず

沢芽市は悪魔の影響をあまり受けていない地域なのだ。

そんな所に、何故悪魔が――それも四大魔王の一人がいるのだろうか。

 

「ところでアジュカ君。君の友人……サーゼクス君に頼まれていた事だがね、目途がつきそうだ。

 ……やれやれ、まさか警察の捜査に介入せざるを得ん状態に持ち込ませてくれるとは。

 しかも既に結果の出たものにだ。君の友人も老骨に鞭を打たせてくれるな。

 

 ……だが、今回の件であの煩い警視総監も暫く黙らせられそうだし

 そう言う意味では終わり良ければ総て良し、と言えるかな」

 

「そうですか、奴も喜びますよ。清蔵先生には我々冥界政府も世話になっていますからね。

 今回俺が進めるプロジェクトも、先生の後ろ盾あってのものですからね」

 

清蔵とアジュカは何かを話しているが、それは二人だけにしか通じないものであるらしく

天樹と凌馬は不思議そうな顔をしていた。

 

「ああ、何の話か分からないよな、凌馬。

 これは重要だがこちらの話で俺のプロジェクトとは別件だ。

 さて、これ以上二人をのけ者にするわけにもいかないしプロジェクトの話に移るか」

 

アジュカの一言に、一同は机に向き合う形で座り直す。

アジュカの従者が運んできたお茶を飲みながら、話が始まる。

口火を切ったのは、やはりと言うかプロジェクトを持ち込んだアジュカの一言だ。

 

「……今回のプロジェクトは、単刀直入に言えば人間界に俺の作ったゲームを広めたいんだ。

 ああ、今こっちが大変な情勢になっているのは当然知っている。

 でも、だからこそ心の支えとなるようなゲームを広めたい。

 そこで天樹専務。あなた方に、俺の作ったゲームの運営をしてもらいたいんだ」

 

「ゲームか……確かに我々ユグドラシルは沢芽市に限って言えば多角運営をしていると言えるが

 ゲーム運営で言うならばわが社より『マックスソフト』や『幻夢(げんむ)コーポレーション』の方が

 ノウハウがあるのではないかと思うがね?」

 

アジュカの発言に、天樹が疑問を呈する。何せユグドラシルは医療・福祉に長けた企業であり

ゲームは門外漢とまでは言わないにせよ――実質ビートライダーズで流行の兆しを見せている

インベスゲームを取り仕切っているのも彼らであるようなものなのだから――

天樹が名を上げた二つのゲーム会社に比べればノウハウとしては少ないと言えるだろう。

いずれも、ゲーム会社としては名の知れた企業である。

 

「いやいや専務、俺はこれをただのゲームを売り出したいわけじゃ無いんだ。

 『未知への体験』。これはあらゆるゲームに共通している事ではあると思う。

 だが俺は、そこへのアプローチとして『実体験』を織り交ぜたものを組み込んだんだ」

 

そう言って、企画書を凌馬に渡すアジュカ。目を通す凌馬を、アジュカは満足げに眺めている。

そこには、いわゆるVR技術やAR技術を交えた体験型ゲームの企画が書き連ねられていた。

タイトルには、こう記されていた。

 

――ベルゼビュート(仮)、と。

 

「なるほど、確かに私が作ったアーマードライダーシステムも『フィードバック』という意味では

 安全装置の範囲内で実現させているが……結論から言おう。

 アジュカ、これは中々面白い発想だよ。問題らしい問題は……

 

 ……フィードバックが高性能過ぎて、プレイヤーが脳処理しきれる限界を

 超える危険性があるって事くらいかな。ま、些細な事だがね」

 

凌馬が指摘する問題点。脳処理の限界を超える、とはつまり脳に強大な負荷がかかり

良くて廃人化、悪ければ死亡と言うゲームとしてあるまじき欠陥を抱えていたのだ。

尤も、指摘した本人は「些細な問題」として片づけてしまっており

アジュカも凌馬の意見には同意しているようだ。

 

「ああ、そこについては保険を設けているから問題ない」

 

「……まさかと思うが『悪魔の駒』かい? だとしたら気を付けたほうが良い。

 君も知っていると思うが、フューラー演説のお陰でこの町の……いや、大半の人々は

 君達悪魔と言うものに対しては忌避感が強いからね。

 今のご時世、残念ながら好き好んで悪魔になる人間はそう多くないと思うよ?」

 

凌馬の指摘に、アジュカは沈黙を返す。

指摘通り、悪魔の駒を生命維持装置として組み込むつもりだったのだ。

悪魔の駒は、そもそも神性を持つ者以外を対象者の意思意向を問わず

存在を悪魔に強制的に書き換えるシステム。

生命維持はその副産物なのだが、アジュカはその生命維持を主眼において

このゲームの命に関わる危険性に対抗しようとしていたのだ。

 

しかしそれは「命は助かるがプレイヤーは悪魔になる危険性を背負いゲームをプレイする」

事に他ならず、そんなゲームを一般流通させるのは極めて悪質であると言わざるを得ない。

そう、待ったがかかるのが普通――なのだが。

 

「ふむ、転生悪魔が増えると言う事か。それはこちらとしては好都合だな。

 プロフェッサー凌馬、『彼ら』を使った研究の進み具合はどうだね?」

 

「最近は誰かさんのお陰でロックシード開発や戦極ドライバー増産に追われてますからね。

 あまり芳しくはありませんが……もう少し、被検体が多ければ捗るかと思います」

 

アジュカの目論見を天樹は「好都合」と言ってのけ、凌馬は「被検体が多ければ」と言っている。

それが意味するところは――

 

(ククク……よもや、悪魔の意思ではなく人が自らの欲望で悪魔を増やそうとするとはな。

 やはり、人はその殻からは抜け出せぬ生き物か。

 そして何より、種の存続をする必要もないのにそれを謳い要らぬ反感を買うどころか

 それをさらに煽り、かつ自身にその自覚がない悪魔……面白い見世物だ。

 やはり、こやつと手を組みサーゼクスと契約を交わしたのは間違いでは無かったと言う事だな)

 

そのやり取りを、清蔵は内心ほくそ笑んで眺めていた。

彼の存在は、アジュカの――ひいては悪魔全体の人間界での活動における

後ろ盾そのものであった。

 

清蔵は国会議員。総理大臣では無いし、総理大臣であったとしても

日本国に対する強制力は持ち合わせていないが、それでも発言力は相当なものを持っている。

サーゼクスやアジュカはそれを利用して清蔵と契約したり手を組んだりしているのだ。

 

そんな文字通りの悪魔のやり取りを眺めていたのは、外にいるロスヴァイセ。

そのあまりの光景に、彼女は言葉を失っていた。

しかも、部屋の中には異空間の見えるファスナーが空中に開いており

そこからはインベスが紛れ込んできている。

 

おまけに、それを見越しているかのようにファスナーの出入り口には

物々しい機械が設置されており、出て来たインベスを捕獲しているのだ。

そのインベスの行く末は、この部屋では物語られていないが

彼らの話の内容から察するに、いいものでは無いだろう。

 

(これは……今の発言は何とか録音出来たわね。

 そろそろ、ここを引き上げないと――ッ!?)

 

振りむいたロスヴァイセの目の前には、スーツ姿の女性がいた。

しかも、明らかにロスヴァイセに対し敵意を向けている。

明らかに部外者であるロスヴァイセがこんなところにいれば社内関係者からすれば

敵意を向けない方がおかしな話だろう。暗部にも携わっているものであるとするなら、猶更だ。

 

「侵入者ね。大人しくなさい、プロフェッサーの下に突き出します!」

 

逃走を図ろうとするロスヴァイセだが、女性の鋭い蹴りがそれを阻む。

スーツと言う着こなしで、荒事の心得のあるロスヴァイセを追いつめる身のこなしは

既にただものでは無かった。

 

「その動き、ただものでは無いわね。ヴァルハラに導きたいところだけど

 今はそれどころでは無いわ。生身の相手に使うのは気が引けるけど、これで!」

 

仕方なく、ロスヴァイセは魔法を行使する。

彼女にも生身の人間相手に魔法を行使する事への抵抗感はあったが

最早そうは言っていられなくなったし、相手は悪魔やインベスの力を行使している企業だ。

神仏同盟の監督不行き届きに思うものを抱えつつもロスヴァイセは魔法でこの場を切り抜ける。

 

魔法の衝撃に乗じて逃げ出したロスヴァイセを追うべく

スーツの女性は懐からロックシードを取り出し、インベスを召喚する。

 

「さっきの侵入者を追いなさい。ただし、地上には出ない事。

 相手が地上に逃げたら、すぐ私の元に戻りなさい」

 

空間に開いたファスナーから飛び出したインベスは、女性の声に従うようにして

通路を走り出していったのだった。

 

――――

 

情報を得ることには成功したが、侵入がばれてしまったロスヴァイセ。

脇目も振らずに逃げ出そうとするが、その途中にいたのは

さっきまで戦極凌馬と話をしていた人相の悪い男。

話にあったロックシードを受け取り、今度はユグドラシルの警備員に配給されるはずの

戦極ドライバーの一部を掠め取るつもりで歩いていた……のだが。

 

「きゃっ!?」

 

「いてっ!? おい、誰だか知らねぇが何処見て歩いてやが……」

 

逃げていた途中のロスヴァイセと、正面衝突する形でぶつかってしまう。

その際に、男の持っていたロックシードが落ちてしまい、誤作動してしまう。

 

〈コネクティング〉

 

すると、壁が開き中から無人の逆関節の二足の脚を持った腕のない巨大なロボットが出現。

南京錠のようなシルエットも併せ持っている事から、ロックシードの亜種であると思われる。

その予想だにしない来訪者を前に、人相の悪い男は慌てた様子で

ロスヴァイセに目を配ることも無く、落としたロックシードを弄っている。

 

「おいおい、さっきの誤作動で暴走しやがったか?

 ……クソッ、うんともすんとも言いやしねぇ。

 こりゃプロフェッサーにもう一度見せるしかねぇな」

 

どの制御下にもない事を示すように、無差別に内蔵された二門の機関砲から

砲撃を繰り出すロボット。それに対し、人相の悪い男は悪態をつきながら

なんとロスヴァイセを盾にする形でこの場からの逃走を図ったのだ。

 

「てめぇが俺にぶつかったからこうなったんだ、あれはてめぇが何とかしろよ!」

 

「なっ……何て勝手な言い草なの!?

 し、仕方ないわね。これが地上に出たらとんでもない事になるわ……」

 

ロスヴァイセは逃げることも忘れて男を追おうとしたが、機関砲の砲撃がそれを阻む。

無差別攻撃から、これを地上に出すわけにはいかないと判断したロスヴァイセは

ロボットの破壊を決意。相手は機械である事から、電撃に弱いと睨んだロスヴァイセだが

相手の攻撃が素早く魔法力のチャージの暇が無いのだ。

何せ相手は通路を埋める程度の機体サイズにも関わらず機動性は高く

しかも発射される機関砲の威力は豆鉄砲ではない。

いくらロスヴァイセが半神たるヴァルキリーと言っても

対策も無しに喰らえばただでは済まないだろう。

 

攻撃をかわしている最中、ロスヴァイセはある事に気付く。機関砲の設置位置だ。

機体上部に左右対称の位置に内蔵されているため、懐――この場合は足元に

潜り込めさえすれば機関砲の攻撃を喰らう事は無いだろう。

そうロスヴァイセは睨み懐に潜り込もうとした。

 

ところが、ロボットは足元にロスヴァイセを感知すると足を巧みに使い

振り払いにかかったのだ。材質は不明だが、馬力は高い。

そんなものの一撃を喰らえば、やはりただでは済まないだろう。

 

(ただのロボットの割には手強いわね……

 単純な構造だからかえって強くなっているのかしら?)

 

実のところ、このロボットの武装はシンプルだ。遠くの敵に対しては機関砲。

懐に潜り込まれた場合は足を使い迎撃。

相手が遠くに逃げた場合には脚力を使い距離を詰める。

またここは屋内であり披露のしようがないが、ジャンプ力にも優れており

飛行能力がない、という欠点もある程度補えているのだ。

これだけ見ると、攻略の隙が無いように思えるが。

 

(だったら、足をもつれさせて転ばせれば、形勢逆転は狙えるわね!)

 

ロスヴァイセは足元で回避運動を取る事で、ロボットの足に負荷をかけようとしたのだ。

そうして転ばせることで、電撃魔法を使う隙を作ろうとしていたのだ。

だが、そんな彼女に思いがけぬ展開が訪れる。

先程スーツの女性が召喚したインベスが、ロスヴァイセを追ってやってきたのだ。

すると、ロボットはインベスの方を優先して攻撃し始める。

 

(同士討ち……? けれど、これはチャンスね!)

 

ロスヴァイセは知らない事だが、このロボットはチューリップホッパーと言い

ユグドラシルが運用している私設軍隊、黒影(くろかげ)トルーパー隊の装備でもあり

対インベス用に開発されたマシンなのだ。

暴走した状態ではあったが、元来の標的であるインベスを確認したことで

標的をそちらに変更、インベスの殲滅に移ったのだ。

 

それを好機とばかりに、ロスヴァイセは魔法力のチャージを再開。

インベスが壊滅したところを見計らって、雷撃魔法をチューリップホッパーに炸裂させる。

狙い通り、高圧電流を受けた事で内部機械を損傷。

チューリップホッパーは動かなくなってしまう。

その隙に、ロスヴァイセは逃走を再開するのだった。

 

隠し扉を抜け、地上に出た際ユグドラシルタワー内部は騒々しさに包まれていた。

ロスヴァイセは、それを訝しみながらもオーディンの下に合流。

喧噪の原因をすぐに知ることとなる。

 

――――

 

ロスヴァイセが地上に戻るよりも少し前。

 

クローズスコーピオン・パワードの実演を終えたユグドラシル・コーポレーションの開発主任

呉島貴虎(たかとら)はオーディンを送ろうとしていたが、ロスヴァイセがまだ戻ってきていないのだった。

 

「……ハールバルズ様、ロスヴァイセさん遅いですね……」

 

「ふむ……道に迷ってしまったのかのう……

 (何をしておるのじゃあ奴は。もう実演が終わってしまったぞい。

  これ以上はわしとて時間を稼げんわい……)」

 

「やはり迷ってしまったのかもしれないな。光実(みつざね)、ロスヴァイセさんを探しに――」

 

「呉島主任! そ、外に……外に……!!」

 

ロスヴァイセの捜索を弟の光実に指示しようとしたとき、ユグドラシルの社員の一人が

血相を変えて貴虎の下に報告にやってくる。

社員の言葉に従い、通路の窓から外を眺めてみると――

 

 

 

ユグドラシルタワーの上空に、リング状の建造物が浮かんでおり

その円の中心からは青い光が漏れているのだった……

 

 

 

「あれは……クラック!? いや、クラックにしては大きすぎるし何より形状が違う……

 いずれにせよ、あれからインベスが出てくる危険性が高い!

 周辺住民や非戦闘員の社員の避難を急がせろ!

 それから黒影(くろかげ)トルーパー隊を出動させるんだ!

 

 ……凌馬! 聞こえるか凌馬! 私だ、貴虎だ!!

 ……クッ、この非常時に奴は一体何をしていると言うんだ……!

 かくなる上は止むを得ん。光実、私は戦極ドライバーで事態の対処にあたる。

 お前はハールバルズ様を保護し、ロスヴァイセさんを探すんだ。

 ……万が一の時は、お前も戦極ドライバーを使っても構わん」

 

突如の出来事に対し、貴虎はユグドラシルの暗部でもある黒影トルーパー隊を出動させる。

人命重視の命令であったのだが、これは暗部は暗部としてひた隠しにしたい

戦極凌馬や父である呉島天樹とは異なる方針だ。

何せ、銃こそ所持していないが長槍を持ち作戦によっては火炎放射器を使用するため

司法のメスが入れば違法な組織でしかないのだ。

一応、黒影トルーパーは命令系統上はユグドラシルの子会社である

ユグドラシル民間警備会社(YGDPMSC)」所属と言う形をとっているが。

 

そして、貴虎もベルトのバックルらしきパーツ――戦極ドライバーを取り出し

率先してインベスに備えようと動き出していた。

 

「……待て。お主、この会社の中心人物じゃろ。軽率な行いは避けるべきじゃ」

 

「……お心遣い感謝します。ですが、あの穴やあの穴から出てくる怪物は

 私が、我々が処理しなければならない問題なのです。失礼!」

 

「待つのじゃ貴虎! あれは『クロスゲート』と言う危険な異世界への門じゃ!

 お主の言う『クラック』とやらが何かはわしには分らぬが

 あの穴は他の神々も手を焼く代物じゃ! 人の身でどうこうできる代物では無いわい!」

 

オーディンも思わず自身の正体を明かす言動を取ってしまっているが

目の前にクロスゲートと言う災いをもたらしかねない存在が現れた以上

保身のみに走る行いは避けなければならない。

その為には、知りえている情報の共有は欠かせない。

 

「クロスゲート……!?」

 

「主任! クラックからインベスが現れ……な、なんだあれは! インベスじゃない!?」

 

オーディンの言葉に立ち止まる貴虎。それと同時に、クロスゲートからは

インベスと、骨と触手の怪物――アインストが現れ始めたのだ。

貴虎が知る限り、クラックからはインベスしか現れず

それに伴ってドラゴンアップル――ヘルヘイムの実が繁殖するのみだ。

アインストが出現した時点で、これは最早貴虎の知るクラックではない。

 

「あれは……駒王町に出たと言うアインストとかいう奴か!」

 

「アインストまで現れるとは……これは拙い事になったのう……」

 

アインストを迎撃すべく、貴虎が戦極ドライバーを腰にセットし

メロンロックシードを解錠しようとした、その瞬間にロスヴァイセは合流を果たしたのだ。

 

「オーディン様! クロスゲートが……

 ってなんで貴虎さんがロックシードなんか持ってるんですか!?」

 

「丁度良かった。ロスヴァイセさんを探しに行く手間が省けたな。

 ならば、心置きなく外敵の対処にあたれる。

 相手がインベスだろうとそうでなかろうと、この町の外敵ならば排除するまでだ。

 

 ――変身」

 

〈メロン〉

 

〈ロック・オン!〉

 

貴虎がメロンロックシードを解錠し、上空に放り投げた後キャッチし

腕を大きく回しながら戦極ドライバーにセット。

鳴り響く法螺貝の音に合わせ戦極ドライバーの刀状のパーツ――カッティングブレードを倒すと

貴虎の頭上にクラックが開き、巨大なメロンが姿を現す。

 

「め、メロン!? なしてメロンさ出てくるだ!?」

 

狼狽するロスヴァイセをよそに、貴虎は涼しい顔で

この後何が起こるかを知り尽くしているように佇む。

その瞬間、頭上のメロンは彼に文字通り覆いかぶさった。

 

〈メロンアームズ! 天・下・御・免!〉

 

光と共に、貴虎の身体は白いライドウェアに包まれ

その上を覆いかぶさったメロンが展開した鎧が覆い

左手にはメロンの切り身のような刃の付いた白い盾――

メロンディフェンダーが装備されていた。

 

(インベスはともかく、アインスト相手は初陣か。

 凌馬の作ったこれが後れを取るとは思えんが、油断は出来んな)

 

「め、メロンさ被って切り身になって鎧になっただ!? これ一体どうなっとるだか!?」

 

(人間のモノづくりの力、よもやこれほどとはの。

 ユグドラシルにとって先程は前座で、本命はこちらかもしれんのう……)

 

量産型の廉価版モデルとも言うべき黒影とは一線を画す

戦極凌馬謹製の白いアーマードライダー・斬月(ざんげつ)

その威力が、クロスゲートから現れた怪物を相手に

北欧の主神と戦乙女の前に証明されようとしていた――




今回終わらせるつもりがまだ続いてしまいました……
でも主任はプルガトリオの段階で変身させたかったんです……
ちなみにミッチもロックシードとドライバー持っているので変身できます。

なお今回アーマードライダーの変身に対するリアクション担当は
ロスヴァイセにやってもらいました。
平成ライダー(特に二期)の初見インパクトは絶大ですからね。

>マックスソフト、幻夢コーポレーション
今回ゲーム会社の一例として名前を上げただけ。
マックスソフトのある風都は存在が示唆されてますが
幻夢についてはマジで単なるお遊び
(兼番外編のIf. カミサマのネタ回収)以上の意味はありません。
ゲームプレイ用のガシャットが市場流通している程度はあるとは思いますが。

……ただし、アジュカが提示しているゲームの性質を考えると……

>ベルゼビュート(仮)
カッコカリまでがタイトルじゃなくて文字通り仮題と言う意味です。
勿論HSDD原作のベルゼビュートを意識してますが
そのゲーム内容はほぼ別物。製作者の狙い(神滅具の確保とか)はそのままですが
今回「あるゲーム」を意識した露骨な改悪ともいえる改変を加えてます。
拙作の三大勢力回りの設定は大体露骨な改悪加えてますが。

>スーツの女性
プロフェッサー、シドと来たのでもう一人のゲネシスライダーにも
来ていただきました。
尤もまだエナジーロックシードもゲネシスドライバーも未完成なので
マリカには変身しません。インベス召喚したのはその代用。
デュークみたくピーチロックシードねつ造しても良かったんですけどね。
結果ヴァルキリーのロスヴァイセと生身で渡り合っているけど
彼女ならこれ位出来るかな、と。JAE出身だし(関係ない)。

>クロスゲートからインベス
理屈としてはOG2nd最終話のヴォルクルスみたく
「全く別の歴史をたどった世界からやって来たインベス」と言った感じです。
つまり当人にしてみれば「ここは何処?」状態。
……或いは、鎧武原作のインベスと言う解釈も出来なくはないかもしれません。


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Case10. 世界樹が告げる凶報

このところネタはともかく体調管理が杜撰気味です……

ジオウ
あれ? 檀黎斗(王)こんなにアレな奴だったっけ?
あいや、悪いって意味じゃなく……
檀黎斗→新檀黎斗→檀黎斗神→檀黎斗→檀黎斗II→檀黎斗王←今ここ
個人的にはIIのあたりで何かあった気がしないでもない
そんな自分は未だマイティノベル未チェック。

……深く考えたら馬に蹴っ飛ばされそうですけどね(ジオウ的な意味で)


〈ソイヤッ!〉

 

〈メロンアームズ! 天・下・御・免!〉

 

沢芽(ざわめ)市・ユグドラシルタワー前。

 

タワー上空に突如現れたクロスゲートから、インベスとアインストが現れる。

二つの異なる人類の外敵を前に、ユグドラシル・コーポレーション開発主任である

呉島貴虎(くれしまたかとら)は、ユグドラシルが開発した戦極(せんごく)ドライバーとロックシードを使い

アーマードライダー・斬月(ざんげつ)へと変身したのだ。

 

「トルーパー隊は社員と周辺住民の避難を急がせろ!

 光実(みつざね)はハールバルズ様とロスヴァイセさんの保護にあたるんだ!」

 

ユグドラシルが抱える私設軍隊、アーマードライダー・黒影(くろかげ)で武装した

黒影トルーパー隊と、弟である光実に指示を出しながら、斬月へと変身した貴虎は

インベスとアインストの軍団へと切り込んでいく。

 

メロンの切り身をあしらった片手盾・メロンディフェンダーを構えながらインベスの爪や

アインスト――アインストクノッヘンの爪の攻撃をいなしながら

左腰に下げた刀――無双セイバーが斬月と切り結んだインベスやアインストを斬り捨てていった。

その様子を、オーディンは感心した様子で見守っている。

 

(ふむ。あの鎧、完全に白兵戦に特化しておるようじゃな。

 となると……飛び道具持ちの相手には、不利になるやもしれんのう。

 ロスヴァイセ、いつでも出られるようにしておけ)

 

(畏まりました。相手がインベスやアインストとなれば

 我々が戦わない理由がありませんからね。

 一つ問題があるとすれば、神仏同盟にこの件をどう説明すれば……)

 

斬月や黒影トルーパー隊は神仏同盟が認知しているかどうかはともかくとして

日本国で生み出された兵装であり、人材である。日本国でその威力が行使されることは

非常時であることを差し引いても、何らおかしなことではない。

 

だが、北欧出身のオーディンやロスヴァイセとなれば話は別だ。

当たり前であるが、沢芽市は日本国に位置しており、表向きは日本政府。

裏の側では日本神話と強いて言うなれば仏教――即ち、神仏同盟の庇護下にある。

 

そんな沢芽市で、北欧の神話体系に連なる者がその力を行使したとなればどうなるか。

勿論今回の場合は正当な理由があるのだが、そうでなかった場合や

最悪、言いがかりをつけられて不当な処遇を受けてしまう事もあり得る。

それもあって、本来ならば率先して戦うべきヴァルキリーたるロスヴァイセも

その力を発揮できずにいたのだ。

先日のように、人(?)命救助のために適切な人材がおらず、止む無く力を行使したわけではない。

善きサマリア人の法ではないが、戦える人材――

この場合は斬月や黒影トルーパー隊――がいる以上

下手に日本国外に籍を置くロスヴァイセが関与するのは内政干渉にもなりかねないのだ。

 

そんなロスヴァイセの懸念をよそに先ほどから斬月はその得物――

無双セイバー――の名に相応しい無双っぷりを披露している。

 

(骨のアインストは確かクノッヘンタイプと呼ばれていたな。

 一撃の威力は初級インベスとそう変わらない程度か。メロンディフェンダーで十分凌げるな。

 触手の方はグリートタイプ。ビームはこれもメロンディフェンダーで防げるが……

 一度撃たれると触手も合わさって距離が詰めにくいな。幸い連射は出来ないようだから

 隙をついて懐に飛び込めば、対処出来んことも無いか。

 

 ……問題は、インベスもアインストも際限なく沸いてくると言う点か)

 

戦況分析をしつつ、貴虎はインベスやアインストの数を確実に減らしていた……はずだった。

しかし、クロスゲートからはインベスやアインストの増援が現れている。

インベスが現れることでドラゴンアップル――ヘルヘイムの実が繁殖し

ユグドラシルタワー前を異界化させようとしている。

そんなヘルヘイムの実は黒影トルーパー隊が火炎放射器で焼却処分しており

今のところ果実の摂取による二次災害には至っていない。

 

「……おい、主任押されてないか?」

 

「バカ! 俺達は俺達のやる事をしっかりやるんだ! 主任は大丈夫だ!

 なんたって呉島主任なんだからな!」

 

際限なく現れるインベス・アインスト連合軍を前に孤軍奮闘する斬月を目の当たりにして

ヘルヘイムの実の焼却処分を行っている黒影トルーパー隊の一部から弱音が漏れるが

隊長らしき人物から檄が飛ぶ。

そんな黒影トルーパー隊の声援を知ってか知らずか、増援に一度は押された斬月だったが

すぐに巻き返し、再び戦場は斬月の独壇場に戻ったのだった。

 

――次なる増援、かつての堕天使の騎士・アインストリッターが現れるまでは。

 

――――

 

ユグドラシルタワー内部・地下研究室。

 

ユグドラシル専務取締役・呉島天樹(あまぎ)、ユグドラシルお抱えの若き天才発明家・戦極凌馬(せんごくりょうま)

そして珠閒瑠(すまる)市出身の国会議員・須丸清蔵(すまるせいぞう)といった重役に加え

冥界の四大魔王の一人アジュカ・ベルゼブブまでもが滞在している

クラックと呼ばれる次元の裂け目の存在する研究室。

ここで、彼らはさっきまで会談を行っていた。

 

「……ふむ。タワー上空にクロスゲートが、ね。

 そしてさっきまでいた侵入者、か。

 湊君、悪いけどそっちは――」

 

「構わんよ。情報が公開されたところでもみ消す位は造作もない。

 気にする事は無いし、寧ろ泳がせておいて、大々的に宣伝してもらうのもいいかもしれんな」

 

戦極凌馬の秘書・湊耀子(みなとようこ)の侵入者の報告に対し凌馬は手を打とうとするが

それを清蔵が制止する。実際、彼の権力ならばユグドラシルと言う会社にとっての

悪評を握りつぶす事くらいは造作もない事である。彼は政財界・警察・防衛省と

国を動かす多彩な場所にパイプを繋いでいるのだ。

勿論、ユグドラシルそのものの隠蔽工作の精度も侮れない。

 

「そうだな。『ユグドラシルが贈る、未知への体験。新作ゲーム、近日発表』

 とでも銘打っておけばマスコミが嗅ぎつけてくるかもしれんな。

 俗物にはちょうどいい餌だと思うがね」

 

呉島天樹。彼の信条は「ノブレス・オブリージュ」なのだが

それは「自身とその一族が頂点に立ち、他者を管理する」と言うゆがんだ形でのそれであった。

確かに「高貴なる者には高貴なる責任が伴う」と言う言葉は

そう解釈できないことも無いのだが。

 

「……畏まりました。では、我々は後処理の方に回ります」

 

侵入者を報告したが、一切意に介さない上層部。

耀子はその態度に不安を覚えるものの、彼女の権限を超えている以上何も言う事は出来ない。

彼女に出来るのは、タワー周辺に大量発生したインベスとアインスト、それに対する対応――

 

――と言うよりは、隠蔽工作などの後処理が彼女の主な役割になっているのだが。

 

彼女も貴虎に匹敵するほどに腕はあるのだが、命令系統が違う。

開発主任であり、自ら率先してインベスなどの脅威に立ち向かう貴虎に対し

耀子は原則的に凌馬の秘書でありボディガードも兼任している。

その為、基本的には凌馬の指示以上の事はしないのだ。

結果的に取り逃がしてしまったロスヴァイセに関しても、凌馬からの追撃命令がない限り

自発的に追撃する事は無いし、それに今はそれどころではない。

重役たちに一礼した後、耀子は部屋を後にする。

 

「……さて。プロフェッサー、直ちに空間偽装装置を作動させたまえ」

 

耀子が去った後、天樹の指示で空間偽装装置――平たく言えば光学迷彩が展開される。

通常はユグドラシルタワー上部に設置されている武装を視認できなくするためのものであるが

今回は上空のクロスゲートに対して使用された。

尤も、クロスゲートそのものを偽装することは出来なかったため

タワー上空の空を偽装すると言う強引なやり方で一般市民からタワー上空のクロスゲートを

視認できなくするのが精いっぱいの様子ではあるが。

 

「流石だね、凌馬。冥界ではこんなのは魔法でちょちょいのちょいだけど

 人間もここまで出来るとは俺もちょっと読みが甘かったかな?」

 

「ハッハッハ、冗談は程々にしてくれよアジュカ?

 このタワーの設計を誰がやったと思っているんだい?

 まぁ、私としても上空のアレは予想外ではあるが……

 なぁに、私のドライバーが完成すればインベスはおろか、アインストもクロスゲートも

 制御することができるようになるさ。そのための発明なのだからね」

 

自信満々に答える凌馬に、アジュカは首を傾げた。

確かに凌馬の開発した戦極ドライバーのポテンシャルは高いものがあるが

それはロックシードありきの性能による部分も少なくない。

それにロックシードで補ったとしても、クロスゲートと言う三大勢力や神仏同盟でさえも

解析に骨を折っているものが、幾ら天才とは言え人間である凌馬に出来るはずがない。

そうアジュカは考えていたのだ。

 

「凌馬、言っては何だが戦極ドライバーでクロスゲートやアインストに対処するのは……」

 

「フッフッフ、それは見通しが甘いと言うものだよアジュカ。

 戦極ドライバーなんて私にしてみれば試作品もいい所だ。すぐに次世代のドライバー……

 名付けて『ゲネシスドライバー』が陽の目を見ることになると思うよ。

 それに対応したロックシードの完成についても、ほぼ目処が立っているからね」

 

――そう、そのためにも貴虎や光実君、それに天道連(ティエンタオレン)の連中には

  私のドライバーをどんどん使って貰わないとね……

 

外では大変なことになっていると言うのに、凌馬は無邪気な笑顔を浮かべていた。

その心の内には、無邪気と言う言葉では済まされないものを抱えながら。

 

「……さて、貴虎の様子はどうかな……っと。

 インベスはともかく、アインストが相手となると戦極ドライバー……

 メロンロックシードじゃ相性の悪い相手もいるだろうからね」

 

「友達思いなのだな、凌馬は。

 それとも、アインストとアーマードライダーの戦闘データが欲しいだけなのか?」

 

アジュカの指摘に対しても、凌馬は悪びれることなく笑い飛ばす。後者と言う意味だ。

そう、凌馬にとって貴虎は確かに友人なのかもしれないが

凌馬にとっての友情は、世間一般でいう所の友情とは違うのかもしれない。

そもそも、彼は天才であり世間一般とものの感性が異なっていても何ら不思議ではない。

それは、指摘したアジュカにも言える事なのだが。

 

(……それにしても、天樹専務も須丸先生もアインスト、クロスゲートが上空にあると言うのに

 全く動じないな。ま、それ位肝が据わっててもらわないと俺が提案を振ったところで

 肝心なところで足を引っ張ってくれるかもしれないしな)

 

アジュカもまた、自身が展開しようとしているゲームの事を最優先で考えていた。

目の前にはインベス、アインスト、そしてクロスゲートと言う

未曽有の危機があるにもかかわらず。

 

――――

 

ユグドラシルタワー前。

斬月とインベス・アインスト連合軍の攻防は相変わらず一進一退の様相を呈していた。

だが、その力の均衡が崩されようとしていた。空からの砲撃によって。

 

(上空からの攻撃だと!? インベスに空を飛ぶ個体は稀だったが

 アインストはその限りでは無かったな……クッ!)

 

上空から飛来した蝙蝠の翼を持った灰色の鎧騎士のようなアインスト――アインストリッター。

彼らの得物であるシュペーアカノーネから放たれたビームや弾丸が、斬月を狙い撃ってきたのだ。

メロンディフェンダーで攻撃を防ぎながら、アインストリッターに対し反撃を試みるが

斬月に搭載された飛び道具は無双セイバーの鍔に試製拳銃付軍刀よろしく仕込まれた

ムソウマズルからの銃撃しかない。しかも、それも装弾数が少ないために多用が出来ない。

それ以前に、貴虎は銃の扱いがあまり得意ではない。

勿論、斬月として多用している刀と比較しての話ではあるが。

 

(……旗色が悪くなって来たのう。ロスヴァイセよ)

 

オーディンの命に従い、ロスヴァイセが前に躍り出ようとするが

貴虎の弟である光実がそれを制止する。

 

「光実君!?」

 

「客人に戦わせては、兄さんに……主任に怒られますから。

 僕だって、兄さんほどでは無いですがアーマードライダーとしての経験はあるんですよ

 

 ――変身!」

 

光実もまた、貴虎同様戦極ドライバーを装着しブドウの意匠が象られたロックシードを解錠する。

 

〈ブドウ〉

 

〈ロック・オン!〉

 

ブドウロックシードを手にしながら構えを取り

その動きでロックシードを戦極ドライバーにセットする。

鳴り響くのは法螺貝ではなく二胡と銅鑼の音色。しかし後の流れは斬月の時と同様

カッティングブレードを倒しロックシードを開く。貴虎――斬月はメロンを装着したが

彼の場合は持っていたロックシード同様、空からブドウが降ってくる。勿論、装着するために。

 

〈ブドウアームズ! 龍・砲! ハッハッハッ!〉

 

「って、今度はブドウだか!?」

 

(……先ほども思ったが、随分と独創的じゃな。一度開発者の顔を見てみたいものじゃが)

 

斬月とは対照的に、光実の身体を包んだ黒とのライドウェアの上をブドウの鎧が覆い

右手にはブドウの房が描かれた銃――ブドウ龍砲が握られている。

 

「この姿はアーマードライダー・龍玄(りゅうげん)

 お二人は下がっていてください。空の敵は僕が引き受けます!」

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

力強く宣言した後、龍玄は再びカッティングブレードを一回倒し

チャージしたブドウ龍砲をアインストリッターに向け連射する。

地上からの増援の攻撃に、アインストリッターは対処が遅れ

そのまま撃墜されてしまった。

 

「光実か! ならば空の敵はお前に任せる!」

 

斬月の言葉に頷き返す龍玄。アインストリッターが動きを止めたところに

襲撃を仕掛けようとしていた新たに現れた赤いアインスト――アインストアイゼンは

攻撃の相方であるアインストリッターが斃されたことで

斬月の思わぬ反撃を受けることとなり、攻撃が完全に失敗した形になった。

 

〈メロンスカッシュ!〉

 

斬月もまたカッティングブレードを一回倒し、無双セイバーにエネルギーを集める。

エネルギーを纏った無双セイバーで固まっていたインベスとアインストを同時に薙ぎ払う。

 

「よし、これでこちらの流れに持って来れ……ん?」

 

「――敵群捕捉、全主砲……薙ぎ払え!」

 

龍玄の参戦により、戦況は一気に斬月・龍玄側へと傾く。

そこに追い打ちをかけるかのように、残ったインベスやアインストの群れに砲撃が加えられる。

龍玄のブドウ龍砲によるものではなく、戦艦の砲撃と言った方が正しいだろう。

それを受けた事で、残っていたインベスやアインストは跡形もなく粉砕されることとなった。

砲撃が飛んできた方角を見ると、そこには艤装を纏った天照大神が両手で番傘を差しながら

陸地すれすれを浮くような形で立っていた。

 

「天照か、久しいの。やはり……『アレ』で動いたのかの?」

 

「お久しぶりです、オーディン様。ええ、そのつもりで伺ったのですが……」

 

クロスゲートと言う単語で、状況を思い出したのか一同は空を見上げる。

しかし、ユグドラシルタワー上空には何も変わらぬ青空が浮かぶだけであった。

勿論、空間偽装装置によるものであるため天照やオーディンにはお見通しなのであるが。

今の空の状態に納得した様子を見せ、天照は斬月と龍玄を一瞥し声をかける。

天照の発するオーラに、思わず片膝立ちになってしまう斬月と

それを見て慌てて斬月と同じ姿勢を取る龍玄。

 

「面を上げてください。あなた方はこの地を守るべく奮戦した方です。

 私はこの国の主神を務めさせていただいている天照大神です。

 呉島の兄弟ですね。先程の戦いぶり、お見事でした。

 これから先、あのような怪異がますます増えることになると思いますが、我々日本神話……

 いえ、神仏同盟としましても対処させていただく所存です。

 あなた方の今後の働きにも、期待させていただきます」

 

「……はっ」

 

天照がどこまでユグドラシルの事を知っているかは定かではないが

斬月と龍玄に対しては、先ほどの戦いから好意的な目を向けていた。

 

「……ふむ。ここにお主が来てくれたのは却って好都合じゃな。

 天照よ、早速で悪いのじゃが近々我ら北欧と正式に会談を行っては貰えぬか?

 勿論、仏教の同席は認める。わしらとしては、ヘルヘイムの実……

 いや、ドラゴンアップルの果実に関する新たな事が判明したからの」

 

「それについては、先ほどそちらのロキ様からも同様の申し出がありました。

 クロスゲートについて教えていただきたい、との事でしたが……

 

 一つ、いえ二つ大きな問題が起こりました。」

 

天照の次に発した言葉に、一同は――特にオーディンとロスヴァイセは

大きな衝撃を受けたのだった。その内容は、ロキが自らが属する神話体系のトップである

オーディンを差し置いて他神話体系のトップたる天照と対話を試みたことなど

些末な事でしか無かった。

 

「一つは、世界各地にクロスゲートが確認された事。これは冥界にも確認されました。

 サーゼクス様やアザゼル様からの証言もあります。もう一つは……

 

 ……天界との連絡が、途絶した事です」

 

三大勢力の一翼を担う天界との連絡の途絶。

その事実を前に、オーディンは驚愕しロスヴァイセは得た情報をオーディンに伝えるのも忘れ

斬月と龍玄はその仮面の下で呆気にとられていたのだった。

 

――――

 

ユグドラシルタワー・地下研究室。

 

斬月や龍玄、途中参戦した天照によってアインストとインベスの群れは駆逐され

上空のクロスゲートも空間偽装装置によって肉眼で視認する事は出来なくなっている。

元々3Dスキャンにも映らないクロスゲートであり、現代のレーダー技術で

それを確認することは不可能であるため、クロスゲートの確認には

目視と言う原始的な方法を取らざるを得ないのが実情であった。

その為、予想以上に空間偽装装置によるクロスゲートの隠蔽は

少なくとも一般市民に対しては有効に働いていた。

そんな中、アジュカの下に連絡が入る。

 

「俺だ……ああ、何だそんな事か。実際、彼らで倒せるだろう?

 ならば俺らがやる事は何も無い。魔王は魔王らしくどっしり構えていればいいのさ。

 ……民衆が煩い? 全く、最近の民衆は要らない知恵をつけて来たな。

 あのマスゴミ、やはり始末しておくべきだったか……

 ああ、いずれにせよ一度話し合う必要はあるか。

 わかった、こっちも吉報があるからそれを土産に帰るとするよ」

 

通話を終えたアジュカに、清蔵が声をかける。

 

「……サーゼクス君からかね?」

 

「ええ、ちょっと急用が入ってしまったのでお呼び立てして申し訳ありませんが

 今日のところはこれにて失礼させていただきます」

 

「構わんよ。魔王と言うのも忙しいものだろう?

 それは上に立つ者として当然の責務だ。そちらでも、頑張ってくれたまえ」

 

天樹の声援を受け、三人に一礼し魔法陣で研究室を去ろうとするアジュカを

清蔵が再び呼び止めた。

 

「ああ、アジュカ君。サーゼクス君に伝えてくれたまえ。

 彼の身元引受人……と言うか、後見人も用意させてもらった。

 名前は……布袋芙(ほていふ)ナイア、と言ったな。きっとかの少年も気に入ると思うよ」

 

「ありがとうございます、では」

 

アジュカが魔法陣で去った後、研究室には静寂が戻る。

それぞれ、己の責務を果たそうと帰路につこうとしていたのだ。

 

「さて。では私も失礼させていただこうかな。

 彼の話したゲームの件、私も楽しみにさせてもらうよ。

 まぁ最も、この歳ではゲームに興じるのもしんどいものがあるがね」

 

清蔵が立ち去ろうとすると、外から待機していた黒影トルーパー隊が現れる。

「外までお送りします」と言わんばかりの姿勢に、清蔵達は頷きエスコートに従う。

 

 

ユグドラシルタワーの上空は澄み切った青空に見える。

しかし、それはまやかしの青空であり実際にはそこには暗雲が立ち込め

さらにその中には地獄門が口を開いているのであった――




ようやく沢芽編も終わりが見えてきました。
と言うか、実質終わりみたいなもんですけど。

>龍玄
言い当てた方正解です。
鎧武やバロンが現時点で登場フラグが立ってないので
出せるライダーは出しておきたいと欲をかいてしまったのが実情ですが。
戦術的にも飛び道具が根本的に弱い斬月のサポートに
飛び道具の強い龍玄は間違って無い筈なんですよね。
お陰でロスヴァイセの出番が無くなりましたが。

>クロスゲート
クロスゲートバーストは起きてませんが(でもラマリスは一度発生した、不思議!)
全世界に顕現と言うある意味本家以上にヤベーイ事態発生。
これにより鎖国による封鎖が意味を為さなくなりました。
それでも魔王は平常運転。原作魔王ならちったぁ仕事するかもしれませんけど。

>清蔵が紹介したかの少年の後見人
名前で嫌な予感がした方は正解……だと思います。
拙作の黒幕枠で、かつ「アイツ」が食いつきそうな餌となれば……ねぇ?
魔を断つ剣は……シャルモンのオッサンの伝手がそこまであるかどうか。


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Case11. 天界に築かれし閉楽園

筆がえらい乗ります。
次回は再び未定ですが……
「ゴースト」の時みたく定時(予約)投稿にした方が良いですかね……?

今回は沢芽から離れて天界に舞台が移ります。
前回天照様が「天界との通信が途絶した」と語った
その理由について触れます。

※警告!※
ミカエルのキャラ崩壊が酷い事になっています!(今更感ありますが……)


天界・第七天。

 

天界の最上部に位置し、かつては聖書の神――YHVHが存在していたとされる場所。

YHVHは人が神の手を離れた事を確信した後、天界からも人間界からも姿を消し

今なお、その姿は影武者を除き観測されていない。

故に、ここに存在するのはYHVHが生み出した神器(セイクリッド・ギア)を管理する「システム」のみだ。

 

しかし、そんな第七天に異変が生じようとしていた。

 

――――

 

話は五大勢力会談の少し後にまで遡る。

紫藤イリナによって負わされた傷の手当てのために天界へと強制送還されたミカエル。

傷の方は一命を取り留めたが、その心の中には人間やYHVHに対する憎悪が生まれていたのだ。

 

(何故だ……何故イリナが私を殺そうとしたんだ!?

 主の不在を相方共々知っていたとはいえ、所詮は末端の信徒に過ぎない筈……

 そんな人間が、天使の、それも熾天使たる私に刃を向けるなどと……!)

 

ミカエルの心には、イリナによって傷つけられたと言う事実が重くのしかかっていた。

しかしそれは、イリナと言う人間――自分達が道を示し導くべき存在――

すなわち、下に見ていた存在――下等生物に傷つけられたと言う事実が

ミカエルの心にも傷を負わせていたのだ。

 

(……そうだ、背教者だ。紫藤イリナは背教者だ。あの女は赦すわけにはいかない。

 アスカロンを持ち去り、エクスカリバーの欠片も占有し、あまつさえ私に刃を向けた。

 断罪だ。断罪だ。断罪しなければならない。神の使徒たる私に刃を向けるなどと。

 そうだ、それがいい。これを機に一度人間の信仰心を試すのもいいだろう。

 信者で主の不在を知る者は追放ないし断罪だ。あの魔女はもはや悪魔であり

 我が信徒ではない。悪魔として丁重に持て成すのが我らが流儀だ。

 

 ……そうだ、それがいい。一度人間を裁くべきだ。

 紫藤イリナは断罪だ。ゼノヴィアも背教者だ。アーシアは悪魔だ。

 背教者は断罪だ。悪魔は駆逐だ。人間は背教者だ。背教者は駆逐だ……)

 

そして、そんな邪な心を抱いたミカエルに、堕天を司るシステムが反応しないはずがない。

ミカエルの金色の翼は、見る見るうちに黒くなりつつあった。

そうなれば、ミカエルがとる行動は一つだ。

 

(わ、私の翼が黒く!? い、いや、私は間違っていない!

 堕天などするものか、してたまるものか!

 私が間違うはずがない! 間違っているのは主だ! いや、システムだ!

 

 ……こんなもの、私の手でいくらでも書き換えられるはずだ!)

 

主を再現したともいえるシステムの改竄。

それは当然、堕天するほどの重罪にあたるはずである。

少なくとも、独断で行えば他の熾天使からの誹りは免れない。

そんな時、システムの管理のために第七天に入ろうとした熾天使がいた。

神を見張る者(グリゴリ)とも浅からぬ因縁のあるメタトロンである。

 

「ミカエル、お前何をして……そ、その翼は!?

 それにシステムが!? ミカエル、これは一体どういうことだ!?」

 

「……見ましたねメタトロン。見られたからにはただでは済ませません」

 

黒くなりかけた翼のミカエルを見て、メタトロンは事の重大さを把握する。

しかし、相手は熾天使のリーダー格であるミカエル。

そんな彼が堕天したなどと知れ渡れば、神の不在で不安定になっている天界は

更なる混乱に包まれることになるだろう。

しかしそれでも、メタトロンはミカエルを追及せざるを得なかった。

何せ、彼が行ったのはシステムの改竄。

言うなれば、遠回しに神を、YHVHを否定しているのだ。

それも他ならぬ、天使の頂点に立つ者が。

 

「タダでは済まさない? それはこちらの台詞だミカエル!

 システムは主が我らに残してくださった遺産なのだぞ!

 それに独断で触れ、尚且つそれを改竄しようとするなど……気でも違えたか!?」

 

「正気じゃないのは人間の方ですよメタトロン。

 信徒であった紫藤イリナはアスカロンで私に刃を向け

 ゼノヴィアは主の不在を知り忌々しい多神教に改宗。

 アーシア・アルジェントは悪魔へと堕落。私が直接知る末端の信徒でさえこの有様。

 そして地上に蔓延る『天使は人間を欺いたペテン師』などと言う風潮。

 

 ……これを狂っていると言わずしてなんと言いますか!?」

 

焦点のあっていない目でミカエルは怒鳴り散らす。

そう。地上ではちょうどフューラー演説によって

「悪魔・堕天使のみならず天使も人類の敵たりうる存在」と言う風潮が蔓延り始めた頃だ。

 

「……ペテン師は言い過ぎにせよ、我らが主の不在を隠蔽したのは事実だ。

 人間がそう言う結論を出したのならば、我らはそれを受け入れた上で

 新たな関係を築き上げ……」

 

「それが甘いと言うのですよメタトロン!

 そうやって甘やかした結果人間はどうなりましたか!?

 同胞殺したる戦争や住処を穢す環境破壊に飽き足らず

 神の使いたる我らにまで牙を剥く始末!

 これは人間の増長に他なりません!

 もはや主のシステムをそのまま行使する時代は終わったのです!

 人には裁きを与えねばなりません!

 

 ……いえ。違いますね。我らは天界のみならず人間界も管理するべきなのです。

 あのように腐敗した人間ごときに蔓延られては、主の愛した世界が腐ってしまう!

 その為には……」

 

メタトロンに目を向けることも無く、ミカエルはシステムを操作する。

この第七天に入る事が出来ると言う事は、すなわちシステムに触れることができると言う事だが

よりにもよって、それがリーダー格たるミカエル自らの手で改竄が行われることになろうとは

YHVHも思いもしなかったであろう。そして、これこそがYHVHの影武者たる

ヤルダバオトが危惧した「人造神とも言えるシステムの弊害」であった。

 

「ミカエル! バカなことはやめるんだ!」

 

「……改竄完了。『ミカエルは天使として絶対の存在であり、決して堕天しない』

 そして……この不文律があると言う事は……

 

 私に逆らった、貴方が堕天すると言う事ですよ!!」

 

システムに「ミカエルこそが絶対の天使である」と言う不文律が刻まれた。

そして、それによってその絶対たる天使に歯向かったメタトロンは

必然的に堕天することになってしまう。

 

ミカエルの堕天は、ミカエル自身が基準――絶対の天使に据えられたことで

堕天の条件を満たさなくなり、成立しなくなったのだ。

 

「……お別れですメタトロン。いえ――『エノク』。

 私に逆らってくれてありがとうございます。あなたは目の上の瘤でしたからね。

 始末する口実が出来て助かりましたよ」

 

「ミカエル……それが天使の……人を導き、神の言葉を伝える者のやる事かぁぁぁぁぁ!!」

 

翼が黒く染まり、堕ちていくメタトロン。

見上げた先にいるミカエルを見据え、断末魔の叫びをあげ第七天から

いや、天界から追放されるメタトロン。

 

(……すまぬサンダルフォン……先に堕ちゆく私を許してくれ……)

 

下賤な存在を見下すような目で、メタトロンの散り際を見遣っていたミカエル。

メタトロンの木霊が聞こえなくなり、静寂が戻ったと同時に、ふと彼から笑いがこみあげてくる。

 

「……ふ、ふふふ……ふふふふふ……ふははははははははっ!!

 今、少しだけ私を刺したイリナの気持ちが分かった気がしますよ……

 ですが、それと断罪は話が別です……まずは手始めに……ん?」

 

システムの供えてあった祭壇が、少し欠けていた。

その奥には、何やら空間があるように見える。

邪魔者が居なくなったことで、気をよくしたミカエルはシステム周りの事を

少しでも多く把握する意味合いも込めて祭壇を少しずらし

奥の空間へと繋がる道を見つけるのだった。

 

「これは……ここにあるのは、システムだけだと思っていたのですが……

 ちょうどいいですね。ここはこれから私だけが立ち入る事の出来る場所になりますし

 そんな所に私の知らない場所があるのは単純に不愉快です。調べてみるとしましょう」

 

絶対に堕天しない、それゆえか欲望が肥大したような性質を持ち合わせるようになったミカエル。

そんな彼が、第七天の総てを掌握するために未開の地に足を踏み入れるのはある意味必然だった。

 

第七天の未開の地。それは、熾天使でさえその存在を知らされていない場所。

即ち、総てを知っているのは文字通り全能の神のみ。

ヤルダバオトがこの空間の事を知っているかどうかは、本人のみぞ知ると言ったところか。

 

厳粛な神殿の最深部を思わせる通路と、その先の間。

そこは途轍もなく広大で、神秘性に満ちた空間であった。

 

……唯一つ、その中心に建立していた巨人像を除いては。

 

(こ、これは……! これこそ……我らが主を象った御神体……!!

 そうか、だからここにシステムの中枢があり

 ここに立ち入るのは熾天使のみと定められていたのか!

 

 ……な、ならば……!)

 

しかしこの時、ミカエルはさらに周囲に気を配る事を怠っていた。

神の像と思しき巨大な像を見れば無理からぬことではあるのだが、それでもそれは致命的だった。

 

 

 

――その神の像は四本の腕を持ち、背後に光輪と思しきものを背負い、翼のような衣を纏い。

 

  そして、この空間の下には、あの地獄門(クロスゲート)が口を開けていた事を――

 

 

――――

 

それから暫く経ち。

 

ミカエルが絶対的な天使のリーダーに立ったことにより

天界はある一定の秩序を保てるまでに復旧していた。

しかし、そこにはどこか歪なものがあった。

 

悪魔・堕天使との和平路線が途絶したことも後押ししてか、軍備強化に走る政策。

今なお繰り返される謎の実験に、鎖国とも取れる他勢力との交流断絶。

そして――天使の失踪事件。

 

天界は冥界や人間界に比べ、居住者の精神が成熟――

悪い言い方をすれば、感情の起伏に乏しいためか、娯楽の類が他の世界に比べて少ない。

それは即ち、マスメディアもそれほど発達していないことを意味していた。

そのため、発信される情報は天界の上層部――今となってはミカエルが発する唯一つのみである。

一歩間違えば、共産主義とも揶揄されかねない。或いは、片足を突っ込んでいるのかもしれない。

 

そんな管理された世界であるがゆえに、異変に気付くものはほとんどいなかった。

辛うじて、熾天使の一人ラファエルがミカエルに異を唱えたが

熾天使の同僚も、上級天使もそれ以降ラファエルを見ていないと言う。

 

(ラファエルの連絡が途絶して一週間程度か……

 あの日、ミカエルが第七天から戻って来たと同時に伝えられた

 メタトロンの堕天。これも腑に落ちぬものがあるが

 何より腑に落ちないのは昨今の天界の情勢だ。これではまるで戦争の準備ではないか……)

 

次に天界の異変に気付いたのは熾天使の一人、ウリエル。

ミカエルが熾天使の頂点に立って以来、ラファエルとは同じ男性天使として情報共有をしながら

職務に当たる一方、不自然な点が無いかどうかの調査をしていたのだ。

しかし、その相方であるラファエルが連絡を絶ったためウリエルも気が気でなかった。

 

(ガブリエルは地上にいる主の影武者と連絡を取っているようだが……

 私も合流したほうが良いか? 今の天界の在り方が正しいとは、諸手を上げては言えんぞ……

 主よ、私はどうしたらよいのですか……)

 

考え込むウリエルに、不意に声がかけられる。

声のした方向を振り向くと、そこにはミカエルが佇んでいた。

 

「お悩みのようですね、ウリエル」

 

「み、ミカエルか……ラファエルは未だ見つからないのか……?」

 

ウリエルの問いに、ミカエルは黙って首を振った。

ラファエルとて熾天使であり、簡単に討ち取られるような存在ではない。

それ故に、ラファエルが音信不通に陥っている事は異常事態だ。

 

「ま、まさかメタトロンのように堕天したのでは……」

 

「……それはありませんよ。それ『は』、ね」

 

ミカエルの物言いに、引っ掛かりを覚えるウリエル。

堕天せずに、音信不通になるとは一体どういうことなのだろうか?

ウリエルには、想像が出来なかった。

 

「……ところでウリエル。主は何故、『神器』を人々に授けたのだと思います?」

 

「主の思し召しであろう? 主自らが選びし者に、力を授ける。

 主の在り方として、別段疑問に思う所は無いと思うが……」

 

ウリエルは主の行いに対して、疑問を抱く事は無かった。

それが天使の在り方として当然と言えば当然なのだが

悪く言えば、盲信的であると言えた。

 

「ええそうです。主の思し召しです。今更言う事でも無いですよね。

 ……では、主はおわしますか?」

 

「……は? 何を言っているんだ。主は姿を消されたではないか?

 いるとするならば影武者を騙る人間が地上にいる位だな」

 

ミカエルの発言に、ウリエルは要領を得なかった。

主は既にいないものである。それが少なくとも熾天使の共通認識であったから。

影武者の存在も、熾天使ならば知っている――尤もこれは会談後に初めて知りえた事実だが。

だがその存在は、ミカエルにとっては忌々しいものであった。

 

「……あんなものは神の名を騙る逆賊以下の存在です。ユダ以下です。

 ……そう、たとえ本物の神の影武者であったとしても、もはや何の意味も無い肩書ですよ」

 

ミカエルの発言は、さらにウリエルを混乱させた。

YHVHの影武者ともなれば、それ相応の立場や対応を取らざるを得ないはずだ。

まして、今はそのYHVHが不在なのだ。彼自身にYHVHの代理を務める気がないとはいえ

彼の者はYHVHに最も近しい存在であることに変わりはない、はずなのだ。

 

「み……ミカエル、お前、一体何を言って……?」

 

「……私は見つけたんですよ。システムを掌握した時に。

 第七天に眠る、本当のシステム……

 

 

 ……いえ、主を!」

 

見開いたミカエルの目は、妙に濁っていた。

焦点が合っているのかいないのか、ウリエルには読み取れなかった。

そしてさらに、ミカエルはとんでもない事を口走っていた。

本当の主。即ち、今までの主――YHVHは偽者だと言わんばかりの事を。

それは、間違いなく主に対する反逆であり、堕天に繋がりかねない感情。

 

「『本当の主』……? ば、バカなことを言うなミカエル!

 たとえ消えたとて、我らが主が偽物であろうはずがない!

 そんな事を口走ればミカエル! お前とて『堕ちて』しまうぞ!」

 

ウリエルの忠告に対し、ミカエルはただただ笑うのみであった。

 

「いいですかウリエル? 私はね、『堕ちない』んですよ。何があろうともね。

 そう、熾天使のリーダー格、すなわち天使の頂点に立つ私が『堕ちる』など

 あってはならない事なんです。そして今や主はいない。天使をまとめ上げるのは私です。

 私の言葉こそが、主の言葉なのですよ」

 

「ミカエル、それは……!」

 

今のミカエルの言葉を要約すると、権力欲に支配された者の言葉である。

天使は、この世界において欲を抱いてはならない。抱けば、即座に堕天してしまうから。

しかし、ミカエルは過日行われた五大勢力会談で主の影武者たる

ヤルダバオトの言葉を否定するような言葉を言い

そして今、権力欲にとりつかれた言葉を放っている。

にも拘らず、ミカエルは堕天しない。それには、ウリエルも疑問を抱いた。

 

「ま、まさかミカエル! 貴様、『システム』を改竄したな!

 それも神器関連ではなく、我ら天使の堕天に関することを!」

 

「ええ、ですがそれが何だと言うんです? 主無き今、天使をまとめ上げる存在が必要でしょう?

 そしてそれは、私でなければならない。もっと言えば……

 

 ……新たな主を奉るために、私が天使を纏め上げる頂点である必要があるのですよ!」

 

激昂したミカエルの背後に、光輪を背に抱いた白い巨人が現れる。

体中に散りばめられた青い宝玉、瞳のない赤い目、翼の如き衣。

四本の腕と相まって、巨人とは言っても人間をそのまま大きくしたようなティターン族や

北欧の巨人族とは似ても似つかない。

 

――抗拒(こうきょ)ハ、認メズ。

  我ガ教化(きょうか)ヲ享受セヨ。

 

巨人の赤い目が光ったと同時に、ウリエルは脱力したかのようにその場に立ち尽くす。

そのまま、巨人の発する光を何の抵抗もせずに受け入れるのだった。

 

「……さて。これでウリエルもラファエル共々我らが同志。メタトロンは既に堕天。

 残る熾天使の一人はガブリエルですが……」

 

――彼ノ者、我ガ否定セシ偽神ニ連ナリシ者。

  死災ヲ齎シ、湮滅(いんめつ)セヨ。

 

「……ガブリエルが、あの偽神と癒着していたと言う事ですか。

 畏まりました。あの偽神共々、我が神の裁きを下しましょう」

 

――我ハコノ地ニ於イテ、剛力剛念ノ知的生命体ヲ今一度育成セン。

  故ニ、汝ラニ我ガ力ト叡智ヲ授ケン。

  総テハ、迫リ来ル試練ニ打チ克タンガ為ニ。

 

「必ずや、主がお望みになる存在となるよう、我ら天使が人間を教化し

 悪魔や堕ちた者は根絶やしにして御覧に入れましょう……ウリエル!」

 

「……はっ。総ては我らが新たな主のために……

 ……旧き神を棄て、新たな主をあまねく大地に顕現させんがために……」

 

新たな主。それこそが、第七天の最深部で眠っていた巨人像に他ならない。

それは、ミカエルら天使を使い、再び動き出すための力を蓄えているのだろうか。

 

(そうだ……最初からこうすればよかったんです。

 第七天の最深部に眠っていた巨人像――いえ、我らが新たな主。

 では何故あんな偽物ではなく、このお方を中心に置かなかったのでしょう?

 ……その判断もまともに出来ぬほど、末期は耄碌していたのかもしれませんね。

 

 フッ……フフフフフフ……YHVH……老いたり!)

 

かつての主、YHVHに対する不敬を思い描きながらも堕天しない。

それこそが、ミカエルがシステムに新たに施した改竄。

 

 

――新たな主「カドゥム・ハーカーム」の教化を受けたものは

  如何なる天使であろうとも、教化に従う限りは決して堕天しない――




……やりすぎかもしれません。
HSDDの世界を何だと思ってるんだと言われても返す言葉もありません。
ですが、HSDD原作のあの甘ったるい敵さんとかを見ていると
こう言う意地悪をしたくなってしまうんです。

ここで本編にはまだ名前しか出ていない方の言葉を借りますと
「ただ僕にはこんな愛し方しかできない」
これに尽きます。

……あ、念のため言っておきますが彼女も本人じゃないですよ?
「ある意味」本人かもしれませんが。
何せデモンベインはクロス先にないものでして……
(「学級崩壊のデビルマン」での登場予定も現時点ではありません、悪しからず)

>ミカエル
イリナのヤンデレが移ったかもしれません。
今回のイベントコンセプトは
「メガテンよろしく調子こいた天使が人間にやられて火病る様の再現」でした。
戦争や環境破壊に関しては正当性があるかもしれないけれど
根本的にブーメラン。故に教化。

>メタトロン
忍者について知るイベントがないので、ござる口調なんてありません。
こんな事で堕天してしまい、今後どうなるのやら。
因みに堕天後の名前「エノク」については逆説的に天に昇る前の名前が
エノクであった事から。
ギリシャでオルフェウスと合体したりはしません。多分(スタンディンバーイ)。

>ウリエル
手元に資料がないのでそれっぽい描写しか……
そして大して活躍する間もなく教化されてしまうと言う。
描写もされずに教化されたラファエルよりマシかもしれませんが。

>カドゥム・ハーカーム
出典:魔装機神F・スパロボOGMD

アインストに引き続きスパロボからヤベーイ奴参戦です。
オーフィスレジセイアとの決着も付いてないのに出していいのかどうかって
気はしてますが、まぁHSDD原作のインフレ具合考えると
これ位敵強くしてもいいよね、と。
(どうせ腕っぷしだけじゃ勝てない敵が控えてるし……誰とは言わんが)
ミカエルが一目見て聖書の神(YHVH)と思い込んでいますが
これについては……さて、どうなんでしょうね。
因みにイリナの凶行が復活させる遠因になってますが、これも隠蔽工作が原因なので
結局天界の管理体制次第でどこかでこの世界では復活してたと思います。

因みに足元のクロスゲートについては大量発生時に生じたものではなく
魔装機神Fの最終話よろしく存在していたもののつもりをしています。
……となると、薮田先生はこの部屋に入った事が無いって事に……?

あ、因みにラ・ギアスの個体でもフューレイムでもXN-Lでもありません。


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Case12. 地の底、喪われつつあるアイデンティティ

前回は天界。
ならば今回は冥界。
どんな因果関係があるのかわかりませんが。

毎度の事ですが、後書きは長いです。


フューラー演説。

聖書の神の不在を暴露し、悪魔の、天使の、そしてその他神々の秘密を人の世の下に暴いた

20世紀最悪とも称される独裁者を象ったナニモノカによる演説。

通常ならば、オカルトだのトンデモだの陰謀論だのと一笑に伏される内容。

 

……だが、そこには動かぬ証拠が伴っていた。

 

日本の某所にある駒王町と言う町。

そこには、既に絶滅し、化石にその存在を証明するのみとなった存在と

ほぼ同等の体躯の大きさを誇り、頭が二つもある巨大な獣が目撃され

音質こそ悪いものの、「神は消滅した」と言う旨の事を語っている動画が流出していたり。

 

通常ではありえない頻度で失踪事件や殺人事件が起きていたり。

 

それらを一括りに人外の存在の仕業によるものと断定するには少々暴論が過ぎる。

しかし、それらを納得させるほどにフューラー演説は説得力を持たされていた。

……それには、匿名掲示板のオカルト関連の板等で実しやかに囁かれていた「噂」が絡んでいた。

 

 

――駒王町は、悪魔が人間界に進出するため、或いは悪魔が人間の生活を模倣するために

情報収集のために設立させたモデル都市である――と。

 

 

仮にその噂が、かつての珠閒瑠(すまる)市の事件のように現実になったとしよう。

では、その悪魔による人間界進出のプラン、ないし人間社会の模倣は成功したと言えるだろうか。

その答えは――

 

――――

 

冥界・悪魔領。

天使・悪魔・堕天使の聖書の三大勢力の中でも、ひときわ混沌を極めている勢力であると言える。

 

幹部が異形となり果て、叛逆者を生み出し勢力は一番弱いながらも

一応トップを中心にまとまりを見せている堕天使。

 

新たな絶対的トップが君臨する兆しを見せながらもキナ臭い噂の絶えない天使。

 

これらに比べれば、悪魔は身内から叛逆者を出し

前政権がテロ組織と繋がっていたりするなどその体制は瓦解寸前にも程があった。

 

勿論、そんな現状に政府も手をこまねいているわけではない……はずである。

しかし、その政府の身内から叛逆者が生まれ、そもそも四大魔王自体は

政治的能力は決して高くなかった。ただ求心力のみを大王派に利用されていただけだ。

そしてその求心力も、度重なる身内の失態やそれを庇いたてる身内贔屓体質が

民衆の反感を買い、求心力は新政権樹立時よりも遥かに下がっていた。

寿命の関係で代替わりのほとんどない悪魔であるにもかかわらず、だ。

 

 

悪魔向けの番組を多数放送しているテレビ局。

昨今の情勢の悪さに比例するように、連日報道特別番組が組まれていたり

レポーターやカメラマン、ディレクターがひっきりなしに走り回っている辺りは

上っ面だけとは言え、人間社会の模倣を成していると言えよう。

 

ある日、このテレビ局に番組企画の持ち込みが行われた。

内容は、赤いドラゴンの戦士が悪魔に仇成す存在と

巨乳のヒロインの力(セクシャルハラスメント的な意味で)を借りて戦う

題して「乳龍帝おっぱいドラゴン」と言う特撮番組だった。

 

この企画書を持ち込んだのはサーゼクス眷属の女王(クイーン)であるグレイフィア・ルキフグス。

主であり、夫でもあるサーゼクス自ら精魂込めて立ち上げた企画――なのだが。

 

「……ふざけているんですか。この非常事態にジャリ番なんか組むスケジュールはありませんよ。

 そもそも、この主人公……あの赤龍帝がモデルじゃないですか。

 大した戦果も挙げてないどころか、厄介事ばかり持ち込んでるグレモリーの眷属なんて

 こんなのスポンサー付きませんよ。アモンなら話題性はあるかもしれませんけど。

 そうでなくとも今の冥界にとってグレモリーは疫病神みたいな存在なんですよ」

 

「課長、この方は……」

 

企画書と、その内容のあまりのしょうもなさに頭を抱えた課長と呼ばれた中年悪魔は

思わず激昂し、グレイフィアに当たり散らしていた。

グレモリーに嫁いだ彼女の前でグレモリーを悪し様に罵る言葉が出る位には

テレビ局はてんやわんやになっていると言えるのかもしれない。

 

「……失礼。グレモリーに嫁いだ方の前で言うべきことではありませんでしたな。

 しかしながら、魔王様直々に企画されたと言う事で目を通させていただきましたが

 我々も慈善事業でテレビ局の運営を行っているわけではないのです」

 

「……重々承知しております。その辺りは実家も経済流通を司っている家系ですので……」

 

グレイフィアの実家であるルキフグスは、現在に至るまでの冥界・悪魔領の

経済流通の礎を作り上げたと言っても過言ではないと言える。

現在冥界で流通している「魔ッ貨(まっか)」と呼ばれる貨幣は

当時のルキフグス領主が作り上げたものである。

 

「……で・し・た・ら! 魔王様にはこう伝えていただきたい!

 『こんなクソくだらないジャリ番作ってる暇があるなら、アインストの討伐や

  先日のリリスでの爆発事故の真相について国民に情報を公開しろ』と!」

 

先日、冥界・悪魔領の首都リリスの中央広場にて爆発事故が発生。

その余波でリリスは一部都市機能がマヒしており旧都ルシファードと

首都機能を分散して対応している現状である。

 

爆発事故、としてあるがこれは政府公表によるもので、実際には中央広場を占有する形で

クロスゲートが現出したのだ。

このクロスゲートの出現は、地上の沢芽(ざわめ)市でも確認されたクロスゲートの出現

並びに全世界で発生したクロスゲート発生と時期が重なっていた。

沢芽市のものとの違いは、現在冥界のクロスロードは休眠状態にある事くらいだ。

 

そして、現出したクロスゲートに対して政府がとった対策は

「一般市民への情報の隠蔽」であった。混乱を防ぐ意味では

一概に間違っているとは言えないのだが

既にアングラを介して爆発事故の真相は漏れているし

そもそも、クロスゲートは三大勢力や各世界と敵対しているテロ組織、禍の団(カオス・ブリゲート)

首魁とも言える立場にあるアインストが通って来た道でもあり、力の源でもある。

その点を考慮すれば、禍の団が混乱を起こすために

わざと情報をリークした可能性もあり得るのだ。

 

「……ごほんっ、失礼。こちらもその爆発事故でスタッフが何人か殉職しているものでして……

 『フェニックスの涙』の一般流通を行っている現状でもこのザマなのですから

 国防には本当に気を使っていただきたいものですな」

 

「……我々も、本当ならば国民を守るために戦うべきなのでしょうが……」

 

出来ないのだ。グレイフィアをはじめとしたサーゼクスや他の四大魔王眷属には

総て監視がつけられている。今回彼女がテレビ局を訪ねているが

近くのオフィスビルには監視役である魔王直属部隊

イェッツト・トイフェルの隊員が監視についている。

国民を守るための出撃ならば問題ないと思われがちではあるが

そうやって出撃した結果、アインスト化したサーゼクス眷属・ベオウルフと言う前例があるため

四大魔王の眷属に関しては監視がつけられ、国防にはイェッツト・トイフェルが当たると言う

少々歪な状態が生まれてしまったのだ。

 

「イェッツト・トイフェル……でしたか。世間では彼らに政権を渡すべきと言う声も

 僅かではありますが上がっているようですしね。いえ、あなた方が仕事をしていないとは

 我々としても思いたくないのです。我々世代はあなた方が新政権を樹立したその光景を

 よく知っている物でしてな。それ故に、現状を憂いているのですよ、我々なりに」

 

課長はそう言ってグレイフィアを宥めると同時に、咳払いをして続けざまに語る。

 

「……ですが、それと今回の企画書は全く話が違います。

 御存じとは思いますが、今の冥界は情勢が非常に不安定です。

 少しでも多く、国民に正確な情報を伝える必要がある。

 これはメディアに携わる我々の使命であると考えています。

 そんな中で、言っては何ですがジャリ番に割くリソースは無いのですよ。

 

 ……いえ、ジャリ番はジャリ番で子供たちの心の支えになると言う

 一面があるのはわかりますが……それをこの企画書の番組や

 『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』に務まるかと言うと、私には疑問に思えますね」

 

そうなのだ。「魔法少女マジカル☆レヴィアたん」これはその名の通り

セラフォルー・レヴィアタンが主役を務める番組なのだが

その内容たるや魔法少女となったセラフォルーが冥界の敵と戦う番組であり

それこそが大きな問題なのだ。何せ、敵として出てくるのは天使や他神話の神々

並びにそれに準ずる者達。それを外務大臣とも言うべきセラフォルーが

悪魔の正義の名のもとに斃すのだ。これだけでも独善的と言える。

 

会談の後、相互不干渉の立場をとった堕天使や天使はこれについて知ることは

噂レベルでしかなかったが、神仏同盟は「相手の文化を知る為」と言う名目で

冥界の文化に触れる機会があったのだ。その際にセラフォルー自ら推した

「魔法少女マジカル☆レヴィアたん」。そして内容は悪魔至上主義ともいえる内容。

問題が起こらないわけがない。

 

――――

 

ここで当時の文化交流会の様子を振り返ってみよう。

実際に件の番組を一通り視聴した大日如来に曰く

 

「お釈迦さまは言っていた……

 『生き物を自ら害すべからず。また他人をして殺さしめてはいけない。

  また、他の人々が殺害するのを容認してはならない』……ってな。

 

 お前は要するに俺達を貶め、自分より下のものに持て囃されたいだけか。

 そして、自分がしたように下々にも自分のように俺達や他の神々を

 貶めさせようとする。教師でもあるヤルダバオトに言わせれば

 『これは立派ないじめの温床になる』……だろうな」

 

と辛らつな評価を下し、天照は

 

「私も……その、ひっそりとではありますが……所謂ヒーロー番組は見たことがあります……

 その上で意見を申し上げますと……それの上っ面だけを真似たように思えてならないのです。

 私の見た『面ドライバー』シリーズや『不死鳥戦隊フェザーマン』。

 そして半世紀近くの長い歴史を持ち、ある意味では私達に肩を並べるほどの信仰を得た

 『アルテルマン』。他にもさまざまありますが代表として挙げました。

 今述べたこれらには皆見た者の『心』に訴えかけるメッセージがありました。

 故に少なく見積もって面ドライバーも四十年、フェザーマンも二十年

 そして先程述べた通りアルテマンも五十年近くと長く愛されました。

 

 ですが件の作品には込められたメッセージが無い……とまでは言いませんが

 あったとしてもただ暴力だけを訴えるようなものを感じました。

 それはヒーロー番組としてはあるまじき事です。

 かつて私が出会った人伝手に聞いた話ですが『ヒーロー番組は教育番組』だそうです。

 その言葉の真意は語った人のみぞ知ると言ったところですが……

 そうですね、長くなりましたが今回はこの一言に集約されると思います。

 

 ――『あなた方は、情操教育と言うものについてどうお考えですか?』」

 

と、自身の意外な趣味を暴露しながら作品が持つメッセージ性と

その可能性と危険性について指摘。

自分の推した作品が評価されなかった事にセラフォルーは腹を立てたため

その場はそれでお開きとなってしまい、以後散発的に文化交流会が行われようとしているが

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)と言う前例や、この件からも神仏同盟も冥界との文化交流に関しては

後ろ向きになっていたのだ。

 

――――

 

そうした神仏同盟からの政治問題になりかねないクレームが入りかけた背景があり

メディアも「魔法少女マジカル☆レヴィアたん」の国外展開を諦念せざるを得ないどころか

昨今の四大魔王に対する懐疑心の強さから、国内展開にも黒雲を呼び込む形になっていたのだ。

その情報は、一応セラフォルー本人の耳にも届いているはずなのだが

本人は頑なに認めようとしていないため、理想と現実との間で乖離が生じているのが現状だ。

 

「……そんなわけです。折角御足労頂きましたが、ご期待に添えることは出来かねます」

 

「……わかりました。そのようにサーゼクス様にお伝え致します」

 

深々と頭を下げ、グレイフィアは面談室を後にする。

見送った後、課長からは深いため息が漏れた。

 

「……寿命がン万年単位で縮んだぞ。魔王は余程暇なのだな。

 今一体どれほどの民衆が彼奴等の政策に疑問を抱いているのか、危機感はあるのか?

 ……いや、無いからこそあんな企画をこちらに寄越してくるのだろうが」

 

さっきまでのグレイフィアの態度が嘘のように、一転し魔王批判を行う課長。

これには部屋にいる社員も目を丸くしていた。

 

「か、課長。言ってる事が……」

 

「あ? 当たり前だろうが、お前も社会人なら本音と建前位使い分けておけ。

 俺が新政権樹立世代ってのは本当だが、俺はあのころから

 サーゼクスってのが気に入らなかったんだ。

 ……ああ、旧魔王派支持者って訳じゃ無いぞ? テロ行為に賛同するほど俺も腐っちゃいない。

 だがな、サーゼクスの……あいつらの理想論が何かいけ好かねぇ。

 現実が見えてないのに夢想ばかりで物事を語り、進めようとする。

 俺はそう言う奴が嫌いでな、夢ばかり追ってないで現実もきちんと見ろ。

 そう思って俺はこの仕事始めたんだ。さ、無駄話は終わりだ。

 これから別のお客さんが来るからな、お前も準備しておけよ?」

 

課長に促され、次の仕事に取り掛かる社員。

テレビ局の前には、封筒を抱えたフリージャーナリストであり

現在はイェッツト・トイフェルお抱えの記者と言う肩書も持っている

リー・バーチが佇んでいるのだった。

 

――――

 

社会情勢が不安定になれば、荒唐無稽な噂話が飛び交う。

それは人間界に限った話ではなく、冥界でも同じことが言えた。

その中でも、下級から中級の悪魔にかけて流行っているのが――

 

――JOKER呪い。

 

同名のものが珠閒瑠市において流行した事はあったが

ここ冥界においても、形を変えて流行り始めていたのだ。

いつ、だれが、何のために流行らせたのかはわからない。

だが、流行などそう言うものであると言う先入観が

JOKER呪いを普通に浸透させる要素の一つでもあった。

 

これは珠閒瑠市で流行った際には自分の携帯電話に自分の携帯電話から電話をかけることで

現れる怪人・ジョーカーに願いを叶えてもらうと言った旨のものである。

その中には「誰かを殺してほしい」と言った物騒な願いも少なくは無いと言うより

その方が多いとさえ噂される程であった。

 

そんなJOKER呪いが、十年の時を経て冥界・悪魔領で流行の兆しを見せていた。

悪魔は契約行動で端末を利用することはあるが

通話ツールとして携帯電話を持ち歩くことは稀であるため

こちらでは「自分の属する魔法陣を描き、そこに自分を召喚する儀式を行う」事で

JOKERを召喚、願いを叶えてもらうステップに進む形で話は伝わっていた。

 

JOKER召喚に伴うデメリットも、JOKER化ではなく生きる力を失い

周囲から徐々に認知されなくなっていき、最終的には存在そのものが消失してしまう

「無気力症」と言う形でオリジナル通り――影人間化――のまま伝わっていた。

 

……ところで。

力のない人間ならばともかく、悪魔にJOKERを召喚するメリットなどあるのだろうか。

答えは是である。悪魔は元来人間の願いを叶えて代価を貰っている存在なのだが

ではその悪魔の願いは誰が叶えると言うのか。問題はここに帰結する。

そして、悪魔社会は悪い意味での縦社会、貴族社会であり

中世ヨーロッパの悪しき慣習が今なお息づいている領地も少なくない。

そんな中、鬱憤の溜まった悪魔がJOKER呪いに走る事は容易に想像できる。

そもそも、JOKER呪いが流行ったのだって鬱憤の溜まった人間によるものである。

 

悪魔が叶える自身の願いと言えば「契約者を増やしたい」「眷属を増やしたい」と言ったものや

「奴を殺して自身がその座に就きたい」と、その実人間とそう変わらない。

中には「ハーレムを作りたい」なんてのもあるが。

 

だが、このJOKER呪い。呼び出してもすべての願いが叶うと言うわけではないらしく。

「JOKER呪いに成功しても、失敗しても召喚者からJOKERに関する記憶は抜け落ちる」

らしく、願いがかなったものは訳も分からず齎される幸福を享受し。

叶わなければそのまま影人間ならぬ影悪魔である。

 

このJOKER呪いが大きく取り上げられるようになったのには二つ理由があった。

一つは、珠閒瑠市に行った悪魔が土産話としてJOKER呪いに関することを持ち帰り

それを悪魔向けにローカライズした上で広まった事。

もう一つは、その珠閒瑠市において「JOKERが復活した」と言う噂が流れていた事だ。

 

珠閒瑠市で流れた件の噂は

「JOKERは駒王町に現れ、連続殺人事件はJOKERの仕業」と言う噂だ。

勿論、これはほぼフリード・セルゼンが犯人であり警察もフリードを全国指名手配しているが

珠閒瑠市において、JOKERの正体など些末な事に過ぎない。

何せ「JOKERは特定の一人を指すものではない」のだから。

フリードもJOKERの一人と言うのが珠閒瑠市民の見解だろう。

それが、人間界の情報収集については杜撰な冥界にもそのまま伝わってしまい

冥界におけるJOKER顕現の下地となってしまったのだ。

 

そして、今日もまたJOKERの毒牙にかかる悪魔が一人――

 

「な、なんなんだよ!? 俺が何をしたって言うんだよ!?」

 

「関係ねぇなぁ。『噂』で決まってるんだ。俺は願いを叶えるJOKERなんだってな。

 そしてその願いってのが……

 

 てめぇの首なんだよ! ヒャーッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

灰色の学ランに、赤と黒の仮面に同配色の道化師を思わせる靴。

JOKERは二種類いるとも噂されている。願いを叶える白JOKERと

こうして命を奪う、黒JOKER。

 

JOKERから放たれた光が、悪魔の男を貫く。

光を受けた悪魔は、そのまま炭化してしまい、見る影もない。

 

「ヒャハ? ……ああ、脆い。脆いなぁ悪魔ってのは。

 それに願いを叶えるのは俺だって噂で決まっているけどよ。

 自分達だって人間の願いを叶える存在じゃ無かったっけか? ま、どうでもいいんだけどよ。

 

 ……っと、また呼び出しか。悪魔も余程他力本願なんだな。

 俺に頼ってまで、何を願うんだろうなぁ……ま、知ってこっちゃないけどな。

 

 ……ヒ、ィハ……ヒャハ……ヒャーッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

だが、願いを叶える存在である彼らがこうして冥界に存在すると言う事は。

 

 

人間社会を模倣することで、曲がりなりにも願いを叶える存在であると言う

悪魔のアイデンティティを、悪魔自らが放棄しようとしている事の現れであるかもしれない。

 

即ち、人間社会の、文化の模倣は悪魔自らのアイデンティティの喪失という形で――

 

 

――失敗に終わったのかもしれない。




グレイフィアさんの胃に穴が開いて
電波が観測される回でした。

>おっぱいドラゴン
イッセーが活躍してないので展開しようったってそうはいきません。
拙作ではサーゼクスがごり押しで展開させようと試みましたが
結果はご覧の有様。動くたびに敵作ってないかこの魔王?

……まぁ、そのイッセーに変なフラグが立っているので
イッセーの活躍自体はワンチャンあるかもしれませんが
それとこの作品の解禁は全然関係ありません。

つーか、本音を言うと「特撮やヒーローをバカにしているとしか思えない」
これらを拙作で出すなんて余程の事がない限りあり得ません。
東映、円谷、東宝とかもだけどJAEや大野剣友会とかその辺に土下座しろって
声を大にして言いたいですね、本当に。

>レヴィアたん
上記と並んで冥界の情操教育を本気で疑いたくなる代物。
露骨に仮想敵ともいえる実在勢力を敵(のモチーフ)に据えるなんて
某隣国のアニメか、戦時中のプロパガンダ作品位しかないと思います。
そしてそんなのが(一応平時の)お茶の間に流れるんですから
それが悪魔の悪魔たる所以かもしれませんが
そんなんで人間や他勢力とまっとうな関係を築けるかと問われれば、答えは一つです。
監督(とプロデューサーと主演)さっさと更迭しろよ。

……ちと感情的になってますが、一応赤土の言いたい事は
神仏同盟のお二方に代弁させてしまいました。
今度赤土が祟られるかもしれない……
なお、上記共々結構マジなので反論等あればできればメールの方でお願いします。

気を取り直して
>マッカ
HSDD原作の冥界のお金の単位についての資料が手元にないので
勝手にマッカを指定。悪魔契約だと割と物々交換が少なくない
(リアスのケースを見る限り)ですが、金で取引を試みる奴はいるだろうから
冥界で換金しないとただの鉄屑や紙切れにしかなりませんからね。
別にリアスらだけが悪魔契約やってるわけじゃない(そもそも本人が言及してる)
から、こういう(人間世界の貨幣で対価を払おうとする)事態は容易に想像できますし。
つーか、自分が契約担当だったら貨幣を受け入れ可にして
冥界でそれを冥界で価値のある物に換金する制度を導入するし。

>天照様
モチーフキャラが変なところで子供っぽいので
実はこういう趣味があってもおかしくないかも、と言うどうでもいいギャップ狙い。
フェザーマンはペルソナ2以降流行った恒例のアレ。P3時代ではRになってたり
P4でも放送されていたりするあたり毎年モチーフや名前の変わる
現実世界のスーパー戦隊と違ってフェザーマン、って言うフォーマットは
強固なものになっているのかも。
でもアレのモチーフって鳥人戦隊だから……あんなトレンディが毎年は流石にヤダ。

>アルテルマン
Ultimate+Ultraと言うどこかで聞いたようなミックス。
そしてこの名前を冠し、半世紀近く(作中年代で。現実世界ではもう半世紀)
語り継がれたヒーローと言えば……そして何の因果かクロスゲート……

????「光の巨人が現れたと聞いて」

>JOKER
声がリゼ……あいつですが、あいつかどうかは不明。
珠閒瑠市ではあんな事件が起きただけに沈静化してましたが
喉元過ぎれば~って感じで、しかも今回は駒王町に擦り付けてます。
あ、噂で触れられたフリードのJOKER化は予定してません。
そもそもあいつJOKER呪いやってませんし。
冥界で流行ったのは、都市伝説のローカライズと言う事で。
……あったでしょう? エスタークを仲間にするのに
要求されるターン制限のずれとか。

そして社会情勢が不安定かつ上級悪魔に下級悪魔が鬱憤貯め込んでないわけがないので
こう言う発散方法は割と早く伝播するかな、と。


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Case13. 胎動を始めた「影」

アナザー鎧武が何気にヤバい能力を有している(ヘルヘイムの生成とか……)
スパロボにデビルマン参戦(しかもタイトルがDD……)
ディケイドがジオウでバージョンアップ
「同級生のゴースト」編完結から早いもので一年
あれこれ拙作にとっても重大事件が起きてますがこのペースです。

スパロボにも出たデビルマンはともかく、バージョンアップしたディケイドは
「デビルマン」編にて何らかの形で出したいとは思っています。


珠閒瑠(すまる)市・青葉区

バー・パラベラム

 

青葉区にある小洒落たバー。

かつては噂で「ここで武器が販売されている」等と言われたこともあったが

現在は普通にバーとして営業している。もしかしたら、まだどこかに武器があるかもしれないが。

 

かつての盗聴バスター、パオフゥは相棒のうららを伴い

昔珠閒瑠市で起きた事件の際に行動を共にしており

現在はキスメット出版編集長になった天野舞耶(あまのまや)

情報交換のためにここで落ち合う事となった。

 

「チャーオ、マーヤ。悪いわね、仕事忙しい時に呼び出しちゃって」

 

「ああ、いいのようらら。こうしてうららやパオフゥと話せるのも久しぶりだし。

 それにしても変なものよね、お互い珠閒瑠市……しかも同じ青葉区で働いてるのに

 顔会わす機会が全然ないなんて」

 

「ま、働いている以上はそんなもんだろ。活躍は耳にしているぜ?

 それより今日お前を呼んだのは他でもない、ちょいと聞きたいことがあってな。

 そっちの雑誌……ああ、お前が担当している雑誌だけでいい。

 それに『JOKER呪い』に関する投稿は来てないか?」

 

話の内容は世間話……ではなく、かつて珠閒瑠市を震撼させた

殺人鬼・JOKERを生み出す切欠になった、JOKER呪いと言う都市伝説についてだ。

それは都市伝説に過ぎなかったが、実際にJOKERが現れ、目撃情報まで出た以上

単なる都市伝説として片づけられなくなったのだ。

一連の事件の終息に伴い、JOKER呪いも珠閒瑠市ではぱたりと語られなくなったが

ここに来て、パオフゥはその語られなくなった都市伝説について雑誌編集長を尋ねたのだ。

 

「JOKER呪い……って、いきなり懐かしいと言うか物騒な話題ね。

 『クーレスト』にも『メー』にもJOKER呪いに関する投稿は来てないわよ?」

 

若者向け情報誌――クーレストに、長い歴史を持つオカルト雑誌――メー。

いずれも、JOKER呪いには食いつきそうなものだ。

かつて舞耶は、クーレストの記者を勤めていたが現在は出世し、クーレストとメーと言う

キスメット出版を代表する二大雑誌の編集長を勤める、やり手の編集長にまで上り詰めたのだ。

そんな彼女の情報網を頼り、パオフゥは舞耶を訪ねた。

……落ち合う場所がバーと言うのは、彼らの年齢層もさることながら

話の内容的に「酒の席でも無ければ語れない」話でもあったという点も少なからずある。

 

――JOKER呪いに端を発する一連の事件は、彼らに過去と向き合う切欠を与えたが

それは同時に、小さくない心の傷を与えるものでもあったから――

 

「……ああ、その通りだ。だがな、俺の情報網で厄介な噂をキャッチしたんだ。

 『駒王町にJOKERがいて、殺しをやっている』ってな。

 唯の噂なら、それに越したことはねぇ。けれど、俺達は良く知ってる筈だぜ。

 

 ――『噂が現実になる』って事をよ」

 

「まさか。もうあの事件は解決したじゃない。仮に駒王町にJOKERが出たとしても

 そのJOKERがやったって言う殺人は全国指名手配犯のフリード・セルゼン……だっけ?

 彼の仕業じゃない。まぁ、彼がJOKER呪いをしていた……何て言ったらお手上げだけれど」

 

JOKER呪いをしていた、と言う言葉にうららが思わず目を伏せる。

過去、彼女は酒の勢いで親友である舞耶を殺すためのJOKER呪いを行ってしまい

そのせいで舞耶がJOKERに付け狙われる羽目になり、ある意味では発端ともいえる。

もう十年も前の話だが、うららにとっては笑い飛ばすには少々重い話だ。

肝心の舞耶は全く気にも留めていないが。

 

「もう、うららの事じゃないってば。ほらほら、レッツ・ポジティブ・シンキング!」

 

「あんがとマーヤ。久々にそれ聞けて安心したわ」

 

「……話を戻すぞ。俺もアバオアクー――呉島(くれしま)アオバから駒王町の情報は仕入れているが

 そこにJOKERらしき奴が出没したって情報は聞いてねぇ。

 だから、『噂が現実になる』って話については

 もう起きてないと思っていいかもしれねぇが……」

 

JOKERはいない。そう結論付けるパオフゥだったが

そう言いきれないものも同時に感じていた。

それは先日確認した「天道連(ティエンタオレン)の再興」という噂だ。

天道連は、JOKER呪いに端を発する数々の事件の裏に潜んでいた

秘密結社「新世塾」の音頭を執る須藤竜蔵が秘密裏に手を組んだ台湾マフィア。

竜蔵の目論見がほぼ達成された時点で、用済みとして天道連の主だった殺し屋の

云豹(ユンパオ)とその配下を殺害。

その後、日本での天道連の活動は一切なくなったのだ。

 

JOKER呪いに端を発する事件の終息と共に新世塾(しんせいじゅく)は解散。

音頭を執っていた須藤竜蔵(すどうたつぞう)も消息不明。

天道連に繋がる線はぷっつりと切れていた――筈なのだ。

それが、不確定ながらも「噂」として天道連の再興やJOKERの影が見え隠れしている。

パオフゥは、これにただならぬものを感じていたのだ。

舞耶を呼び出したのも、そこに起因している。

 

「……けどな。最近世間を騒がせてる悪魔の発生源である

 『冥界』に関して言えばその限りじゃねぇ。

 アバオアクーが仕入れた情報によると、あっちじゃ以前の珠閒瑠市みたいな事件が

 ちらほら起きているらしい。そっちで起きた事件が

 こっちに飛び火しかねない……ってのはあるな。

 実際、又聞きレベルだが冥界じゃJOKER呪いが流行ってるそうだ」

 

「冥界って……アオバちゃんの実家だよね?」

 

「こっちで流行ったものが、時間差で他所の国で流行る……なんてのはよくある事よね。

 実際、国内で流行ったものが海外で流行るのには若干のタイムラグがあるし逆もまた然り、よ。

 そして、その流行は自分達にとってより良いものになろうと

 その姿を変えることも珍しくないわ。

 

 ……とは言っても、最近はSNSの台頭で

 昔ほどそのタイムラグも少なくなってるみたいだけど」

 

流行を追っている雑誌編集長の見立てから、人間界で流行ったJOKER呪いが

時間を経て冥界で流行り出したのではないか、と舞耶は見ていた。

 

他国の文化や自国に古くからあるものを取り入れ、自分流、現代流にアレンジする。

実際、JOKER呪いも携帯電話を使用するオリジナルから

悪魔らしく召喚用の魔法陣を利用するという形で流行しているのだ。

 

しかしそれ以上に、駒王町が、珠閒瑠市が属する日本と言う国はそれが異様に発達している。

冥界もサーゼクスらが音頭を執る現政権になってからは

積極的に人間社会の文化を取り入れようとする動きがあった。

チェスのルールを適用したレーティングゲームなど、その最たるものだ。

 

「ま、何にせよわかったわ。あんなことがあった以上

 こっちでもJOKER呪いについては調べてみるわね。

 幸い、私もその当時を知っているしね。

 こんな時、克哉(かつや)サンか達哉(たつや)クンがいれば楽なんだけどなぁ……」

 

「警察がそう簡単に情報漏らすかってんだ。それにあいつらだって今頃は超特捜課(ちょうとくそうか)って部署で

 やってるんだろうよ。ペルソナ持ってるあいつらなら悪魔の相手なんざ訳無いしな」

 

今この場にいないかつての戦友に思いを馳せながら、パオフゥは煙草をふかす。

彼の言わんとすることを察したのか、舞耶もうららも気持ちを切り替えて

目の前のカクテルに意識を切り替えたのだ。

 

「それもそうね。さて、それじゃ折角パラベラムに来たんだし飲むわよー!」

 

「っとと、そうね。情報収集もだけど、お酒も飲まなきゃ。

 アタシ、これおかわりすっかな~?」

 

「……やれやれ。おめぇら明日も仕事なんだから程々にしとけよ?

 それにここは赤提灯しらいしじゃねぇんだからな?」

 

酒を煽りながら、ある時は核心を突いた話を

またある時は昔話に花を咲かせながら

大人たちの夜は過ぎていくのだった。

 

――――

 

パオフゥ達がバーで飲んだくれた翌日の日中。

 

珠閒瑠市は青葉区に事務所を構える大手出版社・キスメット出版を

人間界における情報収集源とした呉島アオバ――バオクゥことアバオアクー。

彼女はかつて(半ば強引に)師事したパオフゥの紹介で

ここにバイトとして勤め、人間界を活動の拠点としていた。

しかし、そんな彼女にも騒動は構わず襲い掛かって来るのだった。

 

折しも、その日は沢芽市を始めとして世界各地でクロスゲートの発生が確認された日。

沢芽のクロスゲートは即座に隠蔽されたため

世間一般では沢芽市にはクロスゲートが出現しなかったことになっている。

では、ここ珠閒瑠市ではどうだろうか。

 

青葉区から少し移動した蓮華台。ここは珠閒瑠市の中心部に位置する。

珠閒瑠市を代表する私立高校、七姉妹学園を中心に

かつてこの地を治めた武将、澄丸清忠(すまるきよただ)の居城である珠閒瑠城の跡地に作られた本丸公園。

何処からどう見てもアメリカ人なのだが、その佇まいは

昔ながらの純日本人もかくやと言わんばかりのシルバーマン氏の豪邸や

商店街LOTUS。

 

そして、御影町にも同名の神社が存在する……アラヤ神社。

このアラヤ神社の裏手には、人の心を映し出すと言われている岩戸山があるとされ

ある種のパワースポット的な存在となっており

実際、かつて珠閒瑠で起きた事件の際にはここが重要な場所となっていた。

そんな場所を、バオクゥは調査しようとしていたのだが……

 

「うっ……そう言えば私悪魔だからここに入るのはリスキーなんですよね……

 恐縮どころの話じゃないですよね、これ」

 

そうなのだ。かつての駒王町と違い、珠閒瑠市はまだ神社の信仰はその効力を失っていない。

その為、魔を祓う神社としての効能は普通に効いているのだ。

よって、バオクゥがここに入るのはかなり無謀と言えた。

 

「けれど何でしょうね……この誰かに見られているような感覚は……

 境内に入ってすらいないのに、ここの神がこっちを見ている……?」

 

バオクゥはアラヤ神社の鳥居すらくぐっていない。遠巻きに境内や拝殿を眺めるのみだ。

それなのに、拝殿から誰かに見られているような気配を感じるのだ。

ここにある神が、バオクゥを見つめているのだろうか。

 

さて。ここには何の神がいるのかと言うと。

厳密に言えば、ここは神社ではなく寺院に近いと言える。

ここの建立に携わった人物は比麗文上人(ひれもんじょうにん)なる高僧で

ここの他にも比麗文として御影町にもその名を残し

没後人神としてアラヤ神社の祭神となったらしい。

神仏同盟(しんぶつどうめい)が結成されるよりもはるかに昔の出来事ではあるが、こうした形での

神仏習合は行われていたとも言えよう。今のバオクゥには割とどうでもいい情報だが。

つまり、今バオクゥを見ているのはその比麗文上人、であるかもしれないのだ。

 

「うーっ、ここの神も見ているんなら私を入れてくださいよー!

 ……って、言うだけ無駄だと思いますけどね……」

 

たまりかねたバオクゥが吠えると、神社境内を覆っていた気が弱まった風に見えた。

比麗文上人が気を利かせてくれたのか、あるいは別の要因かはわからないが

これでバオクゥも神社境内に入る事が出来るようになったのだ。

……ところが。

 

 

――バオクゥが鳥居をくぐった瞬間、激しい地震が発生した。

 

 

「わわっ!? じ、地震ですか!?

 わ、私が強引に境内に入ったからやっぱり良くないことが起きたんじゃ……」

 

バオクゥの心配をよそに、大地は激しく揺れ動く。

境内の木々はざわめき、神社前の通りを走っていたバイクはその足を止め。

その激震は、アラヤ神社の参道に大きな異変を齎したのだ。

 

地割れが起き、崩落する参道。

鳥居も、拝殿も、石段も無事な中参道のみが崩落し、崩落した下からは――

 

 

――地獄門(クロスゲート)が、その姿を現したのだ。

 

 

(こ……これはクロスゲート!

 この事を編集長やお師匠様……い、いえここはセージさんや

 気は進みませんがリーさんに先に話すべきかもしれませんね。

 と、とにかく証拠映像を収めてマンションに戻って情報を整理しましょう)

 

――――

 

その大地震は、かなり局地的なものであった。

駒王町では多少の揺れは観測されたものの大事には至っておらず

沢芽市ではそもそも地震そのものが発生していない。

市の中心部に位置するユグドラシルタワーでは地震とはまた別の災厄が齎されてはいたが。

 

この珠閒瑠市においては、クロスゲートは現出こそしたものの休眠状態である。

アインストも、その姿を見せていない。

だが、それはそこにあるだけで人々を不安と恐怖に陥れるには十分すぎる代物であった。何せ――

 

 

――クロスゲートが、かつて珠閒瑠市の地下に埋まっていると「噂」されていた

  シバルバー、或いはアメノトリフネと酷似していたからだ。

 

 

「お、おいあれって……」

 

「KEGAREがどうとか、イデアリアンがどうとか、もう終わった話じゃないのかよ!?」

 

「や、やっぱり駒王町にJOKERがいたって噂、本当だったのよ!

 でなきゃ、ここにあんなのが出てくるはずが無いわ!

 駒王町でやってた殺しも、あれを再び呼び出す事って考えも出来るわ!」

 

「じゃ、じゃあ駒王町に出たって言うあの建造物もシバルバー……トリフネだって事!?」

 

アラヤ神社の中心に現れたクロスゲートを前に、周辺住民は口々に騒ぎ立てる。

それは十年ほど前、珠閒瑠市で起きた事件に端を発する。

折しも時は世紀末。終末思想が蔓延る中、珠閒瑠市もそれは例外では無かった。

 

人々の関心は、どのように世界が滅びるか。

そして自分達は滅びを乗り越えられるかと言う事に集約していた。

とは言え、関心が集約していただけで実際に何か行動を起こしたわけではない。

ただ、無責任に発せられた流言飛語が世を席巻し、ありもしないことが現実になってしまう魔境。

それが、当時の珠閒瑠市であったのだ。

 

しかし、その発端はJOKER呪いと言う都市伝説。

それを追う一部の高校生やそれを支援する大人たちによって、一連の事件は終息を迎えた。

つまり、これらの事件は人間が引き起こし、人間によって解決を見たのだ。

悪魔を始めとした三大勢力が介在する余地など、初めから無かった。

その時目撃された悪魔や天使も、三大勢力とはほぼ無関係の位置にあった。

 

 

――総ては、人の心の海より出でしもの――

 

 

――――

 

珠閒瑠市だけでなく、全国規模に現れたクロスゲート。

ある一部の地域ではその存在が隠蔽されるなど対応が行われているが

そこまで速やかに手を打てた所の方が少ない。

特に泣きっ面に蜂と言えるのは、キリスト教圏の国家だ。

 

フューラー演説により神の不在や天使の本性が暴かれ

天界陣営が主導で行っていた人体実験などの暗部の行いが明るみに出た事で

自由と正義を愛するキリスト教圏国家は自分達が信じたものに疑問を抱くまでに至り

その対応に司教枢機卿をはじめトップが駆り出されていた……のだが

教会のトップがこぞって戦士、即ち武力を以ての解決を尊ぶ人種であることが

さらに問題をややこしくしたのだ。

 

――彼らは、フューラー・アドルフが演説で訴えた問題の本質を理解していなかったのだ。

 

そもそも、フューラー演説で取り上げられたのは強者による弱者の搾取が大多数であり

それが三大勢力の抱える問題に集約されることなのだが

それに対し、悪魔陣営も堕天使陣営も、果ては天使陣営も具体的な対策を挙げていなかった。

それがここに来て、人間同士の諍いと言う形で結実することになったのだ。

そんな所に、クロスゲートと言う争いの種がばら撒かれればどうなるか。

 

クロスゲートからアインストやインベス、ラマリスと言った

人間に危害を加える怪物が現れることに加え

それに対抗するはずの神や天使は不在ないし自分達も人間をいいように扱っているのだ。

悪魔や堕天使に至っては、最早言わずもがなである。

そう、今地球圏を取り巻いている状況は一言に集約される。

 

 

――人類に逃げ場なし――

 

 

それが、今の国際社会を物語っていた。

幸いにして、クロスゲートに関しての現時点での見解は

「怪物を生み出す、正体不明の門」でしかなく

そこから生み出されるエネルギーなどに関しては、見向きもされていない。

ただし、一部の識者や学者は研究を始めており、その結果として

「自国の資源として活用する」国家が現れる可能性は今後非常に高いと言えよう。

そこから生み出されるのは人類の危機に対し立ち向かう剣か。

それとも、己の首を刈り取る鎌か。

そんな慌ただしく動く国際情勢を記した新聞を眺めながら、一人の妖艶な女性が笑みを浮かべる。

 

(フューラーはいい仕事をしているね。ここまでの危機に人が立ち向かうには

 超常に縋るばかりじゃやっていけない。人の未来は人自身の手で

 つかみ取るからこそ意義があるんだ。

 

 ……ま、それは悪魔にも言えることかもしれないけどね。ねぇ、一誠君?)

 

女性――布袋芙(ほていふ)ナイアが新聞から目を離し、見上げた先には駒王警察署が構えていたのだった。




ゴールは見えてるんですが、中々そこまでもっていけないもどかしさ。
拙作の珠閒瑠市は、「罪」と「罰」の事件がごちゃ混ぜになっており
それに伴いシバルバーとトリフネも名称の統一がなされておりません。
噂を広める上では、これは致命的なはずなんですが……

ちなみに珠閒瑠市の現状のコンセプトは「喉元過ぎれば熱さを忘れる」。

>周防兄弟
兄弟でペルソナ使いの警察官。
勿論P2以前仕様なので、アポロやヒューペリオン以外も使える……筈です。
超特捜課に配属になっている事が言及されてますが、配属先は駒王町以外なので
テリー警視や氷上巡査らとは面識はありません。

罰メンバーと言う事で、南条やエリーに言及する予定もありましたが
敢え無く没。でもいますよ?

>アラヤ神社
調べたんですが、この神社の祭神が分からなかったので
比麗文上人ことフィレモン(?)をあてがいました。
P2はともかく、P1ではこの神社に大体フィレモンいますし。
上人、と記されているのでどちらかと言うと大日如来側の管轄ですが
ここは今でいう神仏同盟に連なる形での力業で繋げました。

ちなみに今回神社を調査しようとしたバオクゥはかなりのうっかりさん。
(史実の青葉も洒落にならないうっかりやらかしてますしね……)

>ナイア
この姿なら、イッセーの篭絡は簡単だと思うんです。
イッセーは試合中にストリップにうつつを抜かせる位ですし
ナイア(の本性)も相手を泥沼に堕とすのは十八番でしょうし。

>イッセー
おっぱいフラグが最大仰角で立ちましたが、それは同時に……


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Case14. 地獄への道を舗装するもの

色々法律問題ぶち込んでますが、逐一wikiでチェック入れて書いてますが
やはり限度はあると思います。その辺はご容赦を。
なるべく現実に即したものにするつもりではありますが。

……この手の原作だとそれって禁じ手って気がすっごいするんですけどね。


駒王警察署。

 

駒王町方面を担当している超特捜課の拠点であり

駒王町の最たる拠点として機能している建造物。

昨今はテロ活動やアインスト等の怪異による被害も沈静化しつつあるものの

帰宅困難者は今も少なくない。それ故に、未だ警察署の敷地内は避難場所として機能していた。

 

それと同時に、警察署としての機能は維持しており

情勢と相俟って生活安全課や地域課はもとより、警備課はめまぐるしく動いていた。

 

その駒王警察署に、一人の女性が向かっていた。

パンツルックのスーツ姿に、眼鏡をかけた豊満で妖艶な雰囲気の女性。

 

女性は駒王警察署の入口前に来ると、携えていたバッグの中に仕舞われていた書類に目を通す。

そこには、兵藤一誠の経歴などが書かれていた。

一誠はその所持している神器と人格面の危険性から

対怪異の戦力の充実している駒王警察署に留置されていた。

そして今やって来た女性は一誠との面会のため、駒王警察署にやって来たのだ。

 

「お勤めご苦労様。今日兵藤君の面会でやって来た布袋芙(ほていふ)ナイアだ」

 

「面会の方ですね。こちらにどうぞ」

 

入口で見張りをしている警察官と挨拶を交わし、警察署の中に入る。

女性――ナイアが通された先には、項垂れた様子の一誠がいた。

ナイアとの対話で判明する事なのだが、彼が項垂れている理由は

単に「ここに巨乳の女性がいない」事であり、そこにナイアがやってきたことは

一誠にとっては「砂漠でオアシスを見つけたに等しい」喜びであった。

 

「だ、誰だ!?」

 

「いきなり僕が来てビックリしたかもしれないけど、今日は君に良い報せがあるんだ。

 ……君は、これから釈放される。君の逮捕は誤認だ。『世間ではそう言う事になった』からね」

 

喜びと衝撃から、一誠はただただ驚愕のリアクションしかとる事が出来なかった。

見張りの警察官も、ナイアの言葉には面喰ったが彼は既に事情を知っていたのか

驚きこそすれ、取り乱すほどにまではなっていなかった。

 

「俺が……釈放? け、けれど俺はこれから……

 父さんも母さんも、面会に来なかったし……」

 

「君のご両親が来ない理由は単純さ。君は勘当されたんだ。

 だからこれから君は僕のところに来たまえ。少なくとも人間界に行く宛は無いだろう?

 こう見えて最近駒王町でも営業開始した『時間城(じかんじょう)』と言う骨董品店を営んでいてね。

 君一人養う位は訳ないさ。それに、君には赤龍帝の――いや、君自身の力を

 コントロールできるようになってほしい。

 気に入らないことがあるたびに無辜(むこ)の――罪のない人を殺されてはたまらないからね」

 

「お、俺が罪もない人を殺しただって!?」

 

ナイアの言葉に、思わず一誠は逆上した。

彼は何の罪もない人を殺した、ナイアはある意味でそう言ってのけていたのだから。

その言葉は、限りなく的を射ているのだが。

 

また、一誠が勘当されたと言うナイアの言葉だが、これも本当である。

彼女が実際に二人に会って言質を取ったわけではないのだが

殺人事件に加え、先立っての覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)騒動があり

そこに至るまでの様々な軽犯罪もある。

兵藤一誠と言う個人がしでかした事を踏まえると

最早両親で庇い立てが出来るレベルを優に超えていたのだ。

 

「父さんと母さんが俺を勘当って……う、嘘だ! そんな事があるわけがない!

 そ、それにどうして俺の事を……!?」

 

「君の事を知っているのは当然さ。これから君は当分の間僕と過ごす事になるんだから。

 寝食を共にする相手の事を理解するのは当然の事だと思うけどな?

 君は人間界では勘当された身なんだから、君の事をよく知っている

 僕のところに来る方が賢明だよ?

 ああ、君の事を知っているってのは、当然君が悪魔であり

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持ち、リアス・グレモリーの眷属であることは知っているよ?」

 

ナイアの言葉に、一誠は感情的な反論しか出来なかった。

そもそも彼は言葉を用いての争いに関しては感情的な物言いを優先しがちではあるのだが

それを差し引いても、ナイアの言葉に反論できる材料が無かったのだ。

さらに畳みかけるように、ナイアは一誠の背景をズバリと言い当てていく。

 

「な、何でそこまで……お姉さんは一体……?」

 

「……時間も無いし話を戻すよ。君は釈放される。だけど家には帰れない。

 だから僕のところに来て欲しいんだ」

 

留置所での面会時間には限りがある。ナイアも弁護士では無いため、そこは守る必要があるのだ。

限られた時間の中で、ナイアは一誠に必要な事を伝える必要があったのだ。

 

「……そこは分かったよ。じゃあ、何で急に釈放されることになったんだ?

 も、もしかしてサーゼクス様が……」

 

「……それは君が知る必要のない事だ。だけど、君が天野夕麻を殺したのは紛れもない事実だ。

 その事実だけはどう足掻いても覆しようがない。

 都合よく『無かった事』になんてできないからね」

 

「やっぱり、そいつは堕天使と契約して俺を殺そうとした奴だから

 正当防衛が認められたんだな!」

 

一誠の中には、未だに堕天使は人に仇成す存在であると言う先入観が根強く残っていた。

確かに、上級堕天使のコカビエルが駒王町を悪魔との戦争のための狼煙代わりにしようとした。

これは一誠でなくとも、駒王町に住む人々にしてみれば悪行に他ならない。

それに、歴史が歴史ならば堕天使であるレイナーレの手によって一誠の心は深く傷ついただろう。

その当時の一誠にとっては実感の沸かぬものの存在を免罪符にして。

 

「……残念ながら外れだよ。堕天使と契約しているからと言って殺していいって法律は

 生憎とまだ日本国には制定されていない。これはフリード・セルゼンにも言える事さ。

 彼の言う理屈――悪魔と契約しているからその契約者も殺す――

 君の言っている事は、フリードと大差ないように聞こえるけどな?」

 

「悪魔と堕天使は違う! 俺が、俺があんな奴の同類だなんて!」

 

暗にフリードと同類扱いされたことに、思わず一誠はナイアに食って掛かろうとするが

硝子越しの面談である上にここで騒げば外にいる立ち合いの警官がどういう行動をとるか。

その答えは明白であった。

 

「兵藤! 静かにしろ!」

 

「ああ、大丈夫だよ……まぁ、そうだろうね。僕もちょっと言葉が過ぎたよ。悪かった。

 ……尤も、僕に言わせば悪魔も堕天使もそう変わらないけど。

 レイナーレを皮切りに、君は堕天使には恨みがある口だろうからね。

 コカビエルは未遂とは言えここを破壊しようとしたし、アザゼルは君を利用しようとしている。

 この分だと姫島朱乃も……おっと、これは君が知るべきことじゃないな。忘れてくれ」

 

朱乃の名前を出しながら、おどけた様子をみせるナイア。

何故ここでその名前が出るのか疑問に思う一誠だったが、その答えは出なかった。

 

「おっと、また脱線してしまったね。話を戻そう。君の釈放には、幾らかの条件があるんだ。

 まず、僕が君の後見人になる。これは君が勘当されたことに伴う対応だ。

 次に、君の駒王学園への復学は認められない」

 

「な……それじゃ、部長やみんなと会えなくなるって事じゃ……!」

 

「最後まで聞いておくれよ。駒王学園は無理でも、冥界の学校には通えるように

 サーゼクス・ルシファーが手配してくれたんだ。冥界での活動拠点はグレモリー家。

 こっちでは、僕が最近始めたアンティークショップ『時間城』。

 どうだい? 悪い話じゃないと思うけどな?」

 

ナイアが言うには、駒王学園への通学こそ不可能であるが

それ以外の活動に関しては何ら不自由がないと言う事である。

集合場所をグレモリー家に指定すれば、表面上は今まで通りのオカルト研究部なのだ。

 

「じゃ、じゃあ俺は本当にこれから外に出られ……」

 

「そうなるね。ただ、悪いけど2~3日は僕に付き合ってくれ。

 なに、簡単なリハビリと言うか、戦闘のコツの伝授みたいなものさ。

 

 ……知っての通り、今やはぐれ悪魔や堕天使、君達に仇成す悪魔祓いだけでなく

 アインストやインベス、それにフューラーの軍団もいるからね。

 彼らと戦うためにも、僕が君に力を貸してあげようって話なんだ」

 

「……なあ、何でそこまで俺に協力してくれるんだ?

 協力してくれるのはありがたいけど、行ったらなんかの実験台にされた、なんて考えると

 ちょっとなぁ……」

 

裏があるんじゃないか、って位に至れり尽くせりである。

流石に一誠もここまでの待遇には裏があるのではないかと訝しんだが

それは次の瞬間に崩れ去る事となる。

 

……警官の目を掻い潜り、ナイアはシャツの胸元のボタンを緩めてみせ

そのまま上目遣いでしなを作り、一誠を熱く見つめたのだ。

 

「これでも……僕の言う事を聞いてくれないのかい?

 聞いてくれたら……続きも用意してあるよ?

 自慢じゃないが、スタイルに関してはリアス・グレモリーにも負けないと自負しているよ?」

 

「……や、やる! やります!」

 

「ふふっ、素直な子は大好きだよ? これから手続きとかあると思うから

 先に戻って、指示に従って待っていてくれ。

 

 ……それじゃ、そろそろ時間だからまた後で、ね」

 

禁欲生活を余儀なくされていた一誠にとって、ナイアはオアシスであり、劇薬だった。

程なくして面会時間は終わってしまったが、その後ナイアの言葉通り

一誠は留置所から出ることとなった……

 

――――

 

セージの部屋。

寝転がっているセージの下に、同居している黒歌が血相を変えて飛んできた。

 

「セージ、大変なことが起きたわ! 今すぐ降りて来てテレビ確認して!」

 

「な、何だってんだ、一体?」

 

黒歌の語尾に「にゃん」が付いていない事でただ事ではないと感じたセージは

二階の自室から駆け下りて一階のテレビを確認する。

そこには、報道番組が映し出されていた。

 

――繰り返しお伝えします。

  警視庁は、今月に起きた女子生徒殺害事件について、犯人として逮捕された少年について

  警察の誤認逮捕であることを認めました。

 

「誤認逮捕だって!? バカな、俺はこの目で確かに

 兵藤が天野さんを殺したのを目撃したんだぞ!?」

 

「私は知らないけど……その点に関してセージが嘘を吐くメリットが無いわよ……

 あのエロガキをはめて、セージが何か得するの?」

 

「……あいつは数多くの女子生徒と一部男子生徒から恨みを買っているから

 その関係で逮捕ないし補導されることはいずれあるとは思っていたが

 殺人に関しては俺だって今でも信じられん部分がある。

 だけど今の俺は一応警察関係者でもあるし、警察に嘘は吐けない。

 だから、俺は見たままを(やなぎ)課長に報告したんだが……」

 

天野夕麻殺害事件の犯人として、兵藤一誠が逮捕されたが

それは誤認逮捕である、と報道されたのだ。

この報道の裏には、国会議員である須丸清蔵(すまるせいぞう)が糸を引いていた。

そしてそれは、須丸清蔵と契約しているサーゼクスによるセージへの

ひいてはアモンへの意趣返しともいえる話でもあった。

 

――誤認逮捕の責任を取り、現場指揮を執っていた警視庁超特捜課(ちょうとくそうか)課長の

  テリー柳警視は超特捜課課長を本日付で辞任、異動が行われることとなりました。

  後任には奈良県警の蔵王丸漸貴(ざおうまるざんき)警部が就任することとなり――

 

『要は左遷か。セージ、これは一度警察署に行ってみたほうが良いかもしれないな』

 

「言われるまでもない! 黒歌さん、警察署に行ってくる!

 フリッケン、マシンキャバリアーの準備をしてくれ!」

 

「あ、私も行くわ! 白音、あんたは?」

 

「……行きます、ただ事ではない気がしますし」

 

テリー柳異動の報せを聞いたセージは、すぐさま家を飛び出して

フリッケンを召喚、マシンキャバリアーに変形させた上で

猫に化けた黒歌や白音を伴って駒王警察署へと急いだのだった。

 

テリー柳警視の左遷。

これは、超特捜課にとって思わぬ打撃となった。

 

そもそも、何故彼が左遷されたことになったかと言うと

セージにも本人の意図に関わらず責任の一端がある。

確かに一誠は天野夕麻を殺害したが、その瞬間を目撃していたのはセージの他には

リアス・グレモリーしかいなかったのだ。

他にはアーシア・アルジェントが天野夕麻の最期を看取っているが

彼女は一誠が手を上げる瞬間を見ていたわけではない。

 

さらに、そのリアスの兄であり自らも須丸清蔵と悪魔としての契約を交わす

魔王、サーゼクス・ルシファーは一誠の持つ赤龍帝の力を欲し

彼を守ると同時に、今回の事件を現冥界の裏切り者であるアモンを擁し

妹に仇成す妹の元眷属であるセージを人間社会から社会的に抹殺する好機と見たのだ。

 

その結果、リアスの証言を無かったこととして扱うどころか

その証言は歪められてしまい、結果としてセージの証言の有効性が無くなってしまったのだ。

動画の一つでもあれば、動かぬ証拠になっていたかもしれないが

既にセージに取り付けた発信機が取り払われてしまった事で

かねてからセージに目をつけていたイェッツト・トイフェルによる監視も機能していなかった。

 

そう。最初の矛先はテリー柳ではなく確かに宮本成二に向けられていたのだ。

彼に向けられた悪意から庇い立てる形で、テリー柳は超特捜課課長の座から

追われる事となってしまったのだ。

 

セージがマシンキャバリアーで駆けつけた時、超特捜課は既にその話で持ち切りだった。

人間の姿になった黒歌と白音を伴いながら、セージは超特捜課に割り当てられていた部屋に急行する。

 

「柳課長! 異動ってどういうことですか!?」

 

「……狼狽えるなセージ、俺に質問をするな」

 

「んな事言ってる場合かよ……圧力かけられたんだよ。

 あのクソガキ、いつの間に国会議員のコネ取り付けやがったんだ……クソッ!」

 

異動と言う扱いにも関わらず、いつも通りの調子を崩さないテリー柳に

部下でもある安玖信吾が悪態をつく。

実際、安玖でなくとも一誠がいつ警察の捜査に圧力をかけられるような存在になったのか

皆目見当が付かなかったのだ。

 

「天野夕麻殺害に関してもですが、これで今までの犯罪についても訴訟が難しくなりましたね」

 

「ちょっ……それって犯罪者を野放しにするって事じゃない!?

 人間の警察って、そんなことが罷り通るわけ!?

 ……いや、冥界の警察も似たような部分はあるけれど」

 

超特捜課をもってしても犯罪者一人の立件が出来ない有様に

冥界の警察組織を引き合いに出して黒歌が吠える。

彼女の言う事は、この場にいる署員全員にとって耳の痛い話だった。

 

「姉様、おさえてください。あの……圧力がかけられた、って

 一誠先輩が逮捕されると不都合がある人がいるって事ですよね……?

 人間の国会議員に、そんな人がいるとは思えませんけど……」

 

「……須丸清蔵。珠閒瑠(すまる)市から出馬した、ここ2~3年で急激に発言力を増したジジイだ。

 『噂』じゃ、悪魔と契約してるとかなんとかいう話だな。

 もしかすると、お前らの言う魔王サーゼクス・ルシファーってのがその須丸清蔵と契約している

 悪魔かもしれねぇな。魔王が人間と契約しない、なんて不文律は無いんだろ?」

 

「私はそんな話は聞いたことないけど、言われてみればしててもおかしくないわね……

 まして、色々な意味で人間に歩み寄ってる現政権の筆頭格たるサーゼクスが

 一番人間と関われるチャンスである悪魔契約を見逃すとは思えないわ」

 

黒歌は、須丸清蔵こそサーゼクスと契約した人間であり、彼を通して

サーゼクスが捜査に介入したと睨んでいるようだ。

その一方で、須丸清蔵の名前を聞いたセージは、すぐさま神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を展開。

かの人物について調べようとするが……

 

「……どういう事だ? 記録再生大図鑑に記載されていない?

 代わりに『澄丸清忠(すまるきよただ)』や『須藤竜蔵(すどうたつぞう)』って人物なら照合できたが……

 須藤竜蔵は十年前の珠閒瑠市の事件の後行方不明になった元外務大臣。

 澄丸清忠は活躍したのはもう何百年も前だし、そもそも十年位前に

 本人と思しきミイラが出土されてるレベルだ……一体どうなってるんだ?」

 

『聞いた話じゃ、それは神や他世界の存在は読み取れないんだったよな?

 なら、禁手(バランスブレイカー)を使ってみたらどうだ?』

 

アモンに促される形で、セージが禁手である無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)を展開し

須丸清蔵について調べようとする。

 

「…………見えた。須丸清蔵、現在日本においてもいち国会議員に過ぎないながらも

 その発言力は各省庁の大臣クラスに匹敵している、有力な議員の一人。

 その発言力の背景には……魔王……サー……ゼクス・ルシ……ファー……の……」

 

無限大百科事典を展開したセージだったが、情報の開示と同時に

その顔には物凄い汗が流れており顔色も優れない。

 

「ちょっ!? セージ、大丈夫!?」

 

「けい……やく……に……加え……て……

 

 這い……寄……る……こん……と……ッ!?」

 

言い終える前に、突如としてセージは倒れてしまう。

慌てて黒歌と白音が駆け寄り、仙術を用いた治療を施そうとしていた。

 

「……気の流れに異常は見られない。気の流れを正して治療を施す

 仙術はこうなったら使えないわ」

 

「姉様、とにかくベッドまで運びましょう」

 

「わかった、俺達に任せろ」

 

「こっちです、着いてきてください」

 

超特捜課のメンバーによって、セージは警察署の仮眠室まで運ばれることとなった。

セージをベッドに寝かしつけた時、セージの右手から声が発せられる。

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)に宿るフリッケンが、口を開いたのだ。

 

『……聞こえるか? 俺はフリッケン。セージに力を貸している通りすがりだ。

 今セージが倒れた理由だが、どうも神器を介して身体――脳にに過負荷がかかったらしい』

 

「神器由来の不具合? それって……」

 

『推測だが、調べた情報がまずかったんだろう。クロスゲートを調べた時も問題なかったし

 異世界の存在と言い切っていいものかどうかわからないが、ラマリスを調べた時も異常は無かった。

 それなのに、須丸清蔵を調べた時に異常を吐いた理由は俺にも分からんが……

 暫く、無限大百科事典による検索や情報収集はやめさせた方が良いかもしれないな。

 他の機能についてはわからんが、検索情報の閲覧だけでここまでの過負荷がかかった事態は

 俺の知る限りでは無い。俺が憑く前の事は知らんがな』

 

黒歌の疑問に対し、フリッケンが自分の見解を述べる。

無限大百科事典は、記録再生大図鑑で解析できなかった異世界の存在に対しても

解析を行う事が出来る。それによって戦局を優位に運べたケースはあったが

こうしたデメリットについては、今発覚した形だ。

 

「……無かったと思います。セージ先輩の神器には、色々助けられましたけど

 本人から話を聞く限りでは、発現してから今まで『読めなかった』事はあっても

 『読もうとして倒れた』事は無かったはずです。

 ……逆に聞きますが、あなたがわざとセージ先輩を昏倒させたって事はありませんか?」

 

フリッケンが憑く前から、セージと行動を共にしたことのある白音が口を開く。

彼女の言う通り、記録再生大図鑑に由来する昏倒は、今回より前には発生しなかった事態だ。

 

『……俺のせい、って言いたいのか? まぁ言いたい事はわかるけどな。

 確かに、俺はセージの行動にブレーキをかける際に力を一時的に奪う事はある。

 だが、昏倒させるまで力を奪うって事はしないし、出来ない。

 それが起きうるとしたら……』

 

「……神器自体のブレーカーが落ちる前に、宮本君が倒れてしまったようですね。

 ああ、話し声が聞こえたものですから。それにしても面倒なことになりましたね……」

 

外から、超特捜課に協力している薮田直人が入って来る。

神器を作った聖書の神の影武者でもある彼ならば、セージに起きた異変は見当がついたらしく

「過負荷でブレーカーが落ちるようなもの」と言う表現を用いたのだ。

ただし、ブレーカーが落ちるだけならば考え得る結果としては

神器が応答しなくなるだけで済むのだが、今回はそれが間に合わなかったのか

セージに影響が出る形になってしまったようだ。

 

「これは推測ですが、恐らく並大抵ではない量の情報の閲覧をしようとしたのでしょう。

 幾ら神器が高性能でも、扱う人間の脳には限度があります。

 今の宮本君は、そうして脳がパンクしたような状態と推測できますね」

 

「……ぐ……こ、ここは……?」

 

薮田による解説の最中、セージが目を覚ます。

よろめきながらも起き上がろうとするセージを、白音が制止する。

 

「……寝ててください、セージ先輩。

 神器を……禁手を使ったと思ったら、突然倒れたんですから」

 

「禁手……? そ、そうだ。須丸清蔵についてだが……

 ……あ、あれ? 呼び出せないな。閲覧には成功したんだが、物凄い量の情報が流れ込んできて

 それを開示するのに必死になっているうちに……」

 

頭の中を整理しているうちに、セージは今置かれている状況と

須丸清蔵についての検索結果について纏めようとしていた。

痛む頭を抱えながら。

 

「……あー、フリッケンじゃないが大体わかった。

 どうやら、須丸清蔵は俺の無限大百科事典でも読めない相手、って事になるか。

 いや、須丸清蔵ではなく、正しくは……」

 

――這い寄る混沌。

 

それが、須丸清蔵を検索して唯一つ得ることが出来た情報であった。




【速報】兵藤一誠、釈放

今回は犯罪を犯し、逮捕されたと言う事実がある上で
一誠を普通に行動させるために必要な措置でした。
その為に法に則り正義を執行したはずの警察官が一人実害を被りました。
因みに動きとしては

サーゼクス「なんとかイッセー君を自由にできないかい?
      あとイッセー君を逮捕するに至った証言した奴にも制裁加えてくれ。
      あいつだろうし」

須丸清蔵「わかった、警視総監にいちゃもんつけてくる」

本郷警視総監「ぐっ……あの議員に睨まれては全国の警察官の活動に影響が出る……
       許してくれ……宮本君……!」

テリー柳「セージはまだ未成年だ、超特捜課トップの俺が責任を取る」←左遷

と言うわけで、犯罪者の庇い立てなんて歪みが生まれても仕方ないよねって
お話でした。
柳課長は左遷されましたが、別にクランクアップの予定はありません。
ヒント:某監察医

なお清蔵が実行しましたが、上記の通り裏で依頼したのはサーゼクス。
いや、ハーデスに行った仕打ち考えるとこういう事してもおかしくないよね、と。

>一誠
レイナーレの件で懲りてない(ハニトラ的な意味で)。
この一言に集約されます。
強化フラグも兼ねてますが、力だけ原作仕様という有様になりそうで。
(そもそも原作における精神的成長フラグが立ってないし、そこまで話進んでないし)
そして何気にとうとう勘当されました。
原作は極端な話「彼にとって都合の悪い人物は要らない」作風なので
両親による彼の勘当は、それを逆説的に物語っているのかもしれません。

>ナイア
リアスから一誠寝取る気満々かもしれません。
そう言う意味ではリアスもニャルに目つけられている……かも。
「きれいなナイア」なら一誠の矯正に一役買いそうですが
多分そうはならない。

>セージ
地味に二輪免許取得が効いてます。
そして折角得た禁手に制約がかかりそうな予感。
原作主人公には強化フラグ(悪い意味で)が立つ一方で
拙作主人公はまさかの弱体化フラグ。
「ゴースト」終盤が無双だったからね、仕方ないね。

>須丸清蔵
今回名前だけしか出ていないのに正体の片鱗が既に明かされていたり。
「アイツ」だとするとサーゼクスやアジュカ(あとプロフェッサーと呉島父)が
とんでもない道化に……


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Case15. 虚ろな憶え、呼び覚まされる憶え

長らくお待たせしました。
活動報告で新年のご挨拶はさせていただきましたが
その後については完全に怠慢でした。
(提督業とか言い訳にならんですよね。Johnstonと日進は無事来ましたが)

さて。今回は少々反則技とかなり際どい描写を入れてます。
(R-18的な意味で)


珠閒瑠(すまる)市・アラヤ神社。

 

クロスゲートが顕現した関係で、一般人の立ち入りは禁止されていた。

しかし、裏手である岩戸山(いわとやま)については封鎖されていなかった。

その岩戸山に、二つの影が向かっていた。

 

「なあ、ナイアさん。どうして俺がこんなところに来なきゃいけないんだ?」

 

「言ったろ。君には力を正しく行使してもらわないといけない、って。

 その為の手掛かりが、この先の岩戸山の洞窟にあるんだ。

 さあ、僕についてきてくれ。

 ……ああ、心配しなくともここは僕にとっても縁の地さ。道は良く知っているよ」

 

誤認逮捕と言う事で釈放となった兵藤一誠を連れ、勘当された彼の後見人になった

布袋芙(ほていふ)ナイアと言う女性は、一誠の手を引きながら岩戸山の洞窟へと足を進める。

 

「唯一つ、注意点と言うか知っておいてもらいたいのは……

 

 ……この洞窟の泉、鏡の泉と言うんだけどね。

 この泉は、人の心を映し出す、なんて『噂』があるんだ。まぁ、噂だけどね。

 君がするべきは、まずは力もだけど自分の心に正しく向き合うべきだと思ってね。

 少なくとも、そうでもしないとあの彼には絶対に勝てないと思うよ。心意気の差でね」

 

「彼……? ま、まさかセージ!? な、なんでナイアさんがあいつの事を……!?」

 

イッセーの問いに答えることなく、ナイアは足早に岩戸山の洞窟の奥へと向かっていく。

ここでナイアとはぐれるわけにもいかず、一誠もまた岩戸山の洞窟へと入っていくのだった。

 

――――

 

「さ、着いたよ。今から映し出されるはずだから、心して見るんだね」

 

「俺の心……」

 

岩戸山の洞窟。

ここにあると言う鏡の泉は、人の心を映し出す。

それは、どんなものであろうとも。

心の奥底に、封じ込めたものであろうとも。

 

この期に及んでも、一誠はリアス・グレモリーの――特に乳房を強く念じていた。

ナイアの話を聞いた上で、そうすることでリアスの乳房が

映し出されるのではないかと思ったからだ。

 

しかし、今回映し出されたそれは泉が過去映し出した心の映像や

一誠が思い描いていたものとは少し趣が違っていた。

 

堕天使によって命を奪われた少女を救うために、左手の赤い籠手で戦う少年。

本人の望まぬ婚姻に引きずり出された少女を救うために火の鳥と戦う、赤い鎧を纏った少年。

光と闇、双方の力を纏った剣を振るう少年を援護するように戦う、赤い籠手の少年。

白い鎧と戦う、赤い鎧。

ショッピングモールで激闘を繰り広げる少年少女。

囚われた少女を救おうとし、力を暴走させる少年。

 

……等々。

 

「な……なんだよこれ……な、ナイアさん……これ……俺の心の中には、こんなものが……!?

 映ってるのはアーシアに木場、朱乃さんに小猫ちゃん……

 戦ってるのはレイナーレ、ライザー、コカビエル、ヴァーリ、匙、ディオドラ……

 それに……どの映像にも部長の姿が……これは……!?」

 

「……なるほど。やはりリアス・グレモリーって存在が

 君の虚憶(きょおく)を確固たるものにしているようだね」

 

一誠の目の前に映し出されたのは、今まで体験したことと似ているようで、全く違う出来事。

レイナーレとの戦い、木場を援護して戦ったコカビエルとの戦い、ヴァーリとの激闘。

これらは映し出されたものとは違いがあるものの、一誠も経験している。

 

だが、赤龍帝の鎧(ブーステッドギア・スケイルメイル)を纏ってライザーとは戦っていないし

匙――並びにソーナ・シトリーの一派とはレーティングゲームも含め戦ったことがない。

そして、確かにディオドラを前に力を暴走させたことはあるが

その周囲の状況が大きく違っている。

 

「きょ……おく……?」

 

「虚ろなる憶え、って書いて虚憶さ。君はリアス・グレモリーを初めて見た時

 既視感を感じなかったかい?」

 

ナイアの言葉に、一誠は心当たりがあった。

死の間際、リアスの持つ赤い髪を目の当たりにしている。

それが人間としての兵藤一誠の最期の光景だったのだが

それが虚憶と何の関係があると言うのだろうか。

 

「……確かに感じた。けれどそれは、俺が死ぬ間際にどこか……

 そう、あれは学校で遠目に見たのが印象に残ったからで……」

 

「少し違うね。君とリアス・グレモリーは前世……

 ……いや、或いはこことは極めて近く、限りなく遠い世界で出会い、深い関係になった。

 だから、君は初めて彼女を見た時に既視感を感じたんだ」

 

深い関係。その言葉が意味したことを理解した一誠の顔がにやけるが、ナイアはそんな彼を

窘める事もせず、そのまま話しを続ける。

 

「本題はここからだよ。そのリアス・グレモリーと出会った世界――

 まぁ、時間とも言えるか。とにかく、そこで君は魔王として大成する。

 数多くの敵もいたかもしれないが、そんなものは覚醒した赤龍帝の前では有象無象さ。

 そして、正妻たるリアス・グレモリーの他にも多くの妾を抱えていたね」

 

(……フン。こいつの正体が全く読めないのが気に入らんが

 俺の力については正しく認識しているようだな……

 だが、なぜこうも俺に……いや、『兵藤一誠という存在』に執着する?

 俺が言うのもなんだが、得体が知れず、気味の悪いものを感じるな……

 

 あの魔王どもにしてもそうだ。俺ではなく、何故宿主の方に働きかける?

 俺を直接操るのは無理だから、御しやすい宿主を利用するつもりか?

 

 だとしたら……俺もなめられたものだな)

 

一誠に宿りつつも、宿主の有様に宿主に対し愛想の尽きかけていたドライグだが

ナイアが自分について触れたことには、反応を示していた。

しかし一誠はそれに気づくことなく、次にナイアが挙げる名前に耳を疑うのみだった。

それほどまでに、ナイアの挙げていった名前は衝撃的だったのだ。何故なら――

 

アーシア・アルジェント

姫島朱乃

塔城白音

レイヴェル・フェニックス

ゼノヴィア・クァルタ

紫藤イリナ

塔城黒歌

オーフィス

 

――等々。

既に一誠が何らかの形で一度は耳にしている名前だ。

ナイアが挙げた名前……即ち、一誠の虚憶に存在するという彼のハーレムの構成員。

 

この世界では、既に彼から心の離れてしまった者。

あるいは、敵対するより他のない者。

今はまだ、面識すらない者。

そもそも、出会い方が大きく異なった者。

 

様々であるが、ナイアは彼女らを一誠のハーレムの一員として挙げているのだ。

 

「他にも、判定が難しいけれどグレイフィア・ルキフグスなんてのもいたね。

 ……あっと。この名前じゃなかったっけか? いや、そんなことはどうでもいいか」

 

「な……グレイフィアさんって言えば、サーゼクス様の嫁さんじゃないですか!?

 そ、そんな人がどうして俺のハーレムに……!?」

 

「それを君が知る必要は無いし、そもそもそれ以前に

 今のままじゃどう足掻いても君はハーレムを作れない。

 それは君が一番よく知っていると思うけどな」

 

今なお、ハーレムを作ると言うのは一誠の夢であった。

世情が読めていないにも程がある彼の夢だが、それについてもナイアは咎めるでもなく

「何も言わなかった」のだ。ただ、現状では無理と言いはしたが。

 

「な、なあナイアさん……こんなものを俺に見せて、どうしろって言うんだよ?」

 

「分からないのかい? ここは心を映し出す泉。その泉がこの光景を映し出したと言うのは

 君の記憶……いや、虚憶と言うべきか。その中に、その光景があると言う事。

 君にその実感はなくとも、君ではない君が確かに実現させた事さ。

 だけど、その時と同じ方法じゃ今回実現させることはできない。

 もう一度、君がその願いを叶えるために僕はこうして君に力を貸しに来たんだ。

 

 ……おかしいだろう? 悪魔になり、赤龍帝の力に目覚め、リアス・グレモリーとも邂逅した。

 それなのに、ここまで大きく歴史が変わってしまっている。

 君が歩むべき道は、大きく狂ってしまっているんだ。

 だから、僕はそれを正すために君に力を貸す。

 何らおかしい事は無いと思うけどな?」

 

悪びれる様子もなく、ただ一誠に協力を誓おうと言うナイア。

しかし、会って間もないナイアが自分に対してここまでしてくれる理由が

一誠にはわからなかった。

 

「君も存外いけずだな。こんなことまで言わせるなんて。

 

 ……そう、僕は君に一目惚れしてしまったのさ。

 惚れた相手のために尽くすのは、何らおかしなことではないだろう?」

 

「な……え……!? け、けれど……俺は……っ!?」

 

ナイアの告白に、驚きの色を隠せない一誠。

それもそのはず、過去に一度天野夕麻――レイナーレという汚点が存在している。

そのため、こうしたストレートな異性からの告白に対して、一誠は正常な判断ができないのだ。

勿論、そこに思春期真っ盛り――彼の場合は殊更――な

男子高校生特有の性があるのも事実だが。

 

しかし、そんな一誠に思考はおろか戸惑いという行為さえも許されるものではなかった。

ナイアの唇が、一誠の唇を塞ぎ、その口の中にはナイアの舌が侵入してきたのだ。

 

「む……むぐ……っ……!?」

 

「……ふぅ……っ……

 

 ふふっ、これでも僕の事を信じられないかい?

 確かに君は、レイナーレに騙されて痛い目にあった。

 だが彼女は、ここまではしなかっただろう?

 端から騙し討ちする相手にそこまでする酔狂はいないからね。

 だから僕は彼女とは違うということを示すために、行動という形で想いを示したんだ。

 

 ふふっ……女性にここまでさせておいて

 かつその相手を信じないなんて甲斐性なしでもないだろう?」

 

キスという形で、ナイアは一誠の信頼を得ようとしたのだ。

明らかに色仕掛けとしては度を越した行為である。

一誠も、まさか出会って間もない女性にキスを、それも口づけをされるとは思ってもいなかった。

それでも、今の行為が一般的にどういう意図のものでなされるものかは理解していた。

 

「な、ナイアさん……け、けど俺……」

 

「……ああ。もしかしてファーストキスはリアス・グレモリーに取っておきたかったのかい?

 だとしたら、それは悪いことをしてしまったね。

 だけど、奪っておいて言うのもなんだけどこうは考えられないかい?

 

 ……『僕を練習台にして、リアス・グレモリーを相手に本番をする』ってね。

 ハーレムを目指す以上は、女性に対して完全にイニシアチブを握らないと話にならないよ?

 君が思っている以上に、女性というものは独占欲が強いものだからね?

 行動をもって、君の意見を通さなければいけないよ? 勿論、暴力以外の方法でね」

 

言葉を紡ぎながら、自分のシャツのボタンを緩めていくナイア。

そこから存在を主張するものに、一誠の目は釘付けになり

先ほどの接吻と相俟って、さらに一誠から正常な思考を奪っていく。

 

場所は薄暗い洞窟の中、淡く光る泉の前。

勿論、こんなところに人がいるはずもなく。

 

 

そうなれば、二人を止めるものなど、阻むものなど何も存在しなかった。

 

「さあ、レクチャーの時間だ。君は王になるために様々な力を、知恵を手にする必要がある。

 それを知ってもらうために、僕はこの身も君に差し出そう。

 君が王になってくれるのなら、これ位の事は容易いことさ。

 

 ……ただ一つ、君にとっては僕が『初めてじゃない』ことは不服かもしれないけれどね。

 そこは君に教えるためだ、悪く思わないでおくれよ」

 

一誠に近づき、ゆっくりと服を脱がせていくナイア。

されるがままになりながらも、一誠の目はナイアから離せずにいた。

 

 

 

――その後、洞窟の奥深くでは淡い光が、二つの影を映し出していた。

 

 

――――

 

 

警視庁で起きた捜査ミス。

しかしそれは、真実を歪められた結果起きたものであった。

歪んだ真実は、また新たな歪みを生み出そうとしていた。

しかし、人もそれに対し手をこまねいているわけではない。

左遷となったテリー(やなぎ)警視の後任となる超特捜課(ちょうとくそうか)

新課長がやってくる手筈になっていたのだ。

 

「……まだ駒王町周辺の交通網は完全に復旧してはいないようだな」

 

「ええ、こうして車を回しても一般道での移動になりますから時間がかかりますね」

 

一般道を走らせる車を運転しているのは、珠閒瑠市出身の警部、周防克哉(すおうかつや)

十年前の珠閒瑠市で起きた事件において、捜査から外されながらも事件を解決に導いた……

 

……と、『噂』されている人物である。今は彼が持つ『ペルソナ能力』を買われ

京都府警の超特捜課ともいうべき対超常現象事件対策課に配属となっていた。

 

「本当は新幹線でも使えれば早いんだろうが、禍の団(カオス・ブリゲート)のテロ活動の影響で

 特急は軒並み運休しているからな。本当にテロなどという行為は碌な結果を招かん。

 今回も、わざわざ俺の移動のためにお前ら二人に京都府警から来てもらってるしな。

 

 ……大変なんだろ? 今の京都は」

 

「……ええ。情報筋によると、神仏同盟(しんぶつどうめい)を快く思わない妖怪勢力が

 当てつけのように三大勢力と歩調を合わせ、そのおかげで妖怪勢力そのものが分裂を始め

 三大勢力との同盟に懐疑的な妖怪勢力の重鎮、八坂(やさか)を丸め込むために

 八坂の娘の九重(ここのえ)を三大勢力との同盟に前向きな勢力が押さえた……とかいう噂ですね。

 いずれにせよ、今裏の京都の情勢は混乱しています」

 

克哉が運転する車に同乗している人物こそ、テリー柳警視の後任である蔵王丸慚愧(ざおうまるざんき)警部。

奈良県警では『鬼警部』とも呼ばれており、本当に鬼の力を持っているとも噂されているが

その実は『蒼穹会(そうきゅうかい)』にコネを持った、少しオカルトに精通しただけの普通の人間である。

神器(セイクリッド・ギア)も持っていないが、そもそも蒼穹会はオカルトじみた存在に対する

対抗策を所持した集団である。

 

そうした存在は姫島を始めとした五大宗家などが挙げられるが

蒼穹会はNPO法人としての貌も持っており、そうした方向から神器や聖剣などといった

特異能力の所有者の保護などを行っている。

蔵王丸警部は、その蒼穹会の出身でもあるのだ。

 

「八坂? 俺の聞いた話じゃ妖怪のトップは八雲って名前だった気がしたが……

 ま、あいつらも人間ほど頻繁じゃないにせよ代替わりとかするんだろ。

 蒼穹会にいたころは、そうした話もそれなりに聞いていたしな」

 

蔵王丸は運転手である克哉と程々の雑談を交えつつ

駒王町へと向かう車の助手席でただ座っていた。

信号待ちに差し掛かった頃合いを見計らい、克哉が車内の無線に手を伸ばす。

 

達哉(たつや)。周辺の様子はどうだ?」

 

『問題ない。兄貴こそ、蔵王丸警部をきちんと送り届けろよ』

 

無線で話した相手は、車の後方で白バイに乗り護衛をしている、克哉の弟の周防達哉。

彼もまた、ペルソナ能力を持ち珠閒瑠市から他地方の県警へと異動になった警察官だ。

ただ、彼の左手首には正体不明の黒い痣があり、それを隠すために

制服の下にリストバンドを着用している状態だ。

 

(……どういうことだ? 駒王町が近づいたと同時に、痣が痛み出した……

 まさかとは思うが……またあいつの仕業だとでもいうのか?

 もしそうだとしたら、今度は奴らは何を企んでいるんだ?)

 

黒い痣。それは達哉も深く関わった十年前の珠閒瑠市の事件に端を発する。

当時学生だった達哉の運命を大きく変えるほどの出来事だったそれは

今警察官になった達哉にとっては、黒い痣が浮かぶ以外には

今の彼の人生を縛るものではないはずだった。

 

想いを馳せながらも、信号が変わったため克哉の運転する車に続く形で白バイを発進させる。

しかし、ある程度進んだところで目の前に仮面の女性が並んでいるのを目撃。

走っていた車や白バイが止まる。

女性の右手に握られているのは槍。背負っているのは艦船の艤装。

そして、同じ格好の存在が2人。

 

――聖槍騎士団(ロンギヌス13)。禍の団に所属する、フューラー・アドルフ直属の部隊である。

既に5人程が撃退されているが、それでもその脅威は変わらない。

 

「……久しぶり、と言っておくべきかしら?」

 

「俺はお前達に見覚えがない」

 

「そうね、私達を知らないのは承知の上よ。けれど、この槍には見覚えがないかしら?」

 

バイクから降りた達哉の眼前に突き出された聖槍。

それは、達哉にとっては十年前に戦ったとある機械兵士が持っていた槍と酷似していたのだ。

 

「聖槍……!? 同じものを持っているということはコピー……

 まさか、お前達は……!!」

 

「気付くのが遅かったようね。昔戦った時とは一味違う

 聖槍騎士団の力を受けてみるがいいわ!」

 

艤装のSKC34が達哉を狙う。狙いが大雑把ながらも、そこから繰り出される一撃は

かつて達哉が戦った相手のMG34とは比べ物にならない。

達哉自身は白バイから飛び降り回避に成功するが

乗っていた白バイは砲撃の余波で転倒してしまっている。

 

「……ただで駒王町に入れるとは思わなかったけどな。移動中に襲撃とは

 テロ組織もそれなりに頭が回るらしいな」

 

「ここにいたら巻き込まれます、警部は安全な場所へ。自分は達哉の援護に入ります」

 

一方、戦闘に巻き込まれる形になった克哉と蔵王丸。

達哉が聖槍騎士団を引き受けている隙に車を降り、蔵王丸は物陰に

克哉は達哉の援護のために聖槍騎士団と対峙する。

 

「兄貴、気をつけろ。奴らの槍は俺達のペルソナを封じてくる」

 

「それは……十年前の事件で奴らが使った物と同じじゃないか!

 奴ら、十年前の亡霊だとでも言いたいのか?」

 

超特捜課で支給され始めた神経断裂弾(しんけいだんれつだん)を装填した拳銃を構えて克哉が後方から

達哉は長めの電磁警棒を手に前に立ち聖槍騎士団と対峙する。

 

「おしゃべりはそこまでよ。仮面を封じる聖槍の力、忘れたのなら思い出させてあげるわ!」

 

「お前に言っても仕方ないだろうが、俺も何度でも言ってやる。

 俺は、己の影から目を背けたりしない。

 影が立ちはだかるのなら、その度に俺は影と向き合う!」

 

「混乱に乗じて人心を惑わすつもりかもしれないが……そんな真似は僕が止めてみせる!」

 

聖槍騎士団に対峙する達哉と克哉の足元から、青白いオーラが遡る。

そして、それぞれの背後から仮面を被った人影が顕現する。

 

これこそが「ペルソナ」である。

 

――我は陽と月と曙光の父ヒューペリオン……

  乾坤から初めに生まれしティタンの業……

  天象揺るがすものと知れ……!

 

克哉から現れた白い日輪を頂に象った仮面に、黒のストライプの服装の人型の影。

ヒューペリオン。ギリシャ神話・ティターンの神で、太陽神とも語られている。

 

――我は汝、汝は我。

  我は汝の心の海より出でし者。

  烈日と蒼穹の支配者アポロなり……!

 

同じく、達哉から現れたのは赤い炎のような仮面に、赤のストライプの服装の人型の影。

アポロ。こちらもギリシャ神話・オリュンポスの神で、太陽神だ。

 

「あれがペルソナって力か……初めて見たぜ……

 っと、こうしちゃいられないな。駒王の超特捜課に連絡入れねぇと」

 

物陰から、蔵王丸が駒王町の超特捜課に連絡を入れる。

トップの左遷から混乱はあるものの、応援を派遣する程度の余裕はあったようだ。

 

 

……ただ、その応援が外部協力者の高校生というのが蔵王丸には引っかかるところではあったが。




具体的な描写は避けているとはいえ、ちょっとビビってます。

さて、今回クロスゲートを出した以上触れなければならない点でもあった
「虚憶」について触れてますが……

ぶっちゃけ、私自身が完全に把握しきれてないほどややこしいと思います、これ。
今回に限って言えば

・イッセーの虚憶=原作イッセーの行動をなぞったもの

という認識で問題ありません。
つまり、「この世界ではない別の世界の自分自身が体験したこと」が
虚憶であると私は認識しています。

なので、拙作で初めて具体的に虚憶の兆候を見せたのはゼノヴィアなんですよね。
(特別編におけるある人物に対する記憶)
逆に、第2次OGにおけるイングのように虚憶を持ちようがない存在もいます。

ナイアが何気にン我が魔王(救世主)とか言っちゃいそうなポジションにいますが……
あのタイプに振り回されるとご愁傷様な事態しか見えないわけです。
(特に白ウォズのヤベーイ雰囲気は……)

P2組。
周防兄弟は以前少しふれたとおり警察官です。
本当、この作品警察関係者多いなぁ……
そりゃ性犯罪者が主人公の原作とは水と油ですわ。
怪盗だって警察とはそれほど悪くない関係を築いてる(はず)なのに。

ゆきのさん方式で初期ペルソナ(ヴォルカヌス、ぬこもといヘリオス)にしようかとも
思いましたが、ここから先最初から終盤な展開が続きそうなのでこうなりました。


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Case16. 太陽は再び昇る

今回、ほぼほぼペルソナ2~総統閣下と艦これを添えて~なお話です。
今更感漂ってますが。


Feuer(斉射)!!」

 

聖槍騎士団の艤装から放たれるSKC34の砲弾。

その一撃は、アスファルトを抉り周囲に少なくない打撃を与える。

しかしその分、狙いは大味であった。

それ故、彼女らと対峙している周防達哉(すおうたつや)克哉(かつや)の兄弟は

スピードを活かしながら彼らの力――ペルソナを用いて戦っていた。

 

「ヒューペリオン!」

 

「アポロ!」

 

克哉の呼び出したペルソナ、ヒューペリオンの手に銃が現れ、聖槍騎士団を狙い撃つ。

しかし、いくらペルソナの銃撃と言っても相手は戦艦の艤装。決定打にはなっておらず

精々動きを鈍らせた程度だ。しかし、そこに達哉の呼び出したペルソナ、アポロの鉄拳が入る。

こちらはペルソナの霊的な力を合わせた質量攻撃のため

ヒューペリオンの銃撃よりもダメージを与える結果となった。

 

「やるわね……腕は鈍ってないということかしら」

 

「けれどこれはどう!?」

 

居合わせたもう一人の聖槍騎士団が、魚雷を地面に放り投げる。

そのままアスファルトの下に潜り込み、達哉と克哉めがけて直進し、足元で爆発を起こす。

その衝撃で二人は吹き飛ばされ、ひび割れたアスファルトの上に叩きつけられる。

 

「まるで魚雷だ……だが、地面を進む魚雷なんて……!」

 

「戦艦の砲撃の射程に威力、それに魚雷の爆発力か。

 単純に十年前の戦闘機をモチーフにした奴らよりも、火力では比べ物にならないな」

 

実際のところ、戦艦の運用と魚雷の運用は相性が良くない。

何せ戦艦の主武装である主砲の射程と魚雷の射程は噛み合っていない。

おまけに戦艦はその巨体ゆえに小回りが利かず

魚雷の運用に適しているとは言い難いものがある。

 

……のだが、目の前の存在にそれは適用されない。

何せ人間の女性が戦艦の装備を背負っているだけと言っても過言ではないし

立ち回りもホバー移動とはいえ人間のそれだ。

そうなれば、小回りが利かないという戦艦の欠点など存在しない。

 

大味ながらも絶大な威力の砲撃で吹き飛ばした先に魚雷を叩き込むという

ただの戦艦ならばできないであろう戦法で達哉と克哉を追い詰めていく

そしてさらに――

 

「もらったわよ、Gute Nacht(眠りなさい).」

 

「くっ、しまった!」

 

克哉が聖槍のコピーの一突きを受けてしまい、ヒューペリオンが消失する。

オリジナルには傷を与えればその傷は決して癒えないという恐ろしい力があるのだが

コピーにはこうした異能を封じる力が込められているに過ぎない。

しかしそれでも、その異能を頼りに超常の存在と戦う彼らにとっては痛手であった。

 

「形勢逆転ね。コピーとはいえこの聖槍の力、忘れたとは言わせないわよ」

 

「いくらそのペルソナが強いとは言っても、貴方一人でどうにかできると思っているのかしら?」

 

「くっ……!」

 

電磁警棒を構えながら、達哉が聖槍騎士団の二人を睨みつける。

達哉のペルソナ・アポロはまだ健在だが、ペルソナを行使するには相応の力が必要になる。

つまり、常時使おうものならば即座にガス欠を起こすのだ。

克哉と分担してペルソナの力を行使していたが、克哉のペルソナが封じられたため

達哉に全ての負担がかかる形になってしまったのだ。

 

「すまん達哉、油断した……!」

 

「いや、兄貴が気にすることじゃない。だが……」

 

ならば、ペルソナを使わなければいいという問題でもない。

克哉の拳銃には神経断裂弾(しんけいだんれつだん)が装填されているが、当たらなければ意味がないし

艤装部分には神経断裂弾はさほど効果を発揮しない。

艤装を盾にされれば、達哉と克哉の装備は効力を発揮しないも同然なのだ。

そうなれば、主砲や魚雷、そして電撃という決定打を持った聖槍騎士団のワンサイドゲームだ。

 

「……ま、昔のよしみで苦しまないように一撃で葬ってあげるわ。Feuer(斉射)!!」

 

艤装のSKC34砲が、達哉と克哉を狙う。

しかし、そこから撃たれた砲弾は直撃するどころか

明らかに「着弾する前に爆発した」のだ。

 

その理由は簡単だ。外部から、電撃が飛んできたのだ。

その電撃の発生源は、髪を蝙蝠の翼のように逆立てた駒王学園の制服を着た少年

――少年というには、やや大人びた印象を受けるが――

 

宮本成二。否、彼に取り憑いている悪魔、アモンの仕業であった。

 

「だいぶ力が戻ってきたな。使える技が増えてきたぜ。

 それにあいつらは空から叩けば格好の獲物だ。スパーリングの相手には少し温い位だぜ」

 

『油断するなよ、アモン。今戦っているのが聖槍騎士団ということでお前に交代したんだ。

 この状態じゃ神器(セイクリッド・ギア)は使えないが、後ろに目をつけるくらいは出来る。

 状況によっては、無理やりにでも代わるからな』

 

そう、今セージはアモンに戦いを任せ、彼の人格は引っ込んでいる。

実際にはここに来るまでにマシンキャバリアーを走らせてここまで来ており

そのためには神器、すなわちセージ本人の人格が必要なためそれだけセージが担当し

到着するなりアモンと交代した形だ。

 

「わーってるよ、さっさと終わらせるぜ!」

 

「お前は……アモン! 厄介な相手が来たわね……!」

 

斧のような赤い翼を展開し、アモンは空から再び電撃を放つ。

その威力は、かつて彼が放った超音波の矢よりも強く

彼が得意とする熱光線よりも連射力に優れている。

そしてさらに、電撃であるということで艤装の内部にもダメージを与える形になったのだ。

そのため、艤装の稼働が少しぎこちなくなった。

 

「動きが鈍ったな、さぁて、とどめの……」

 

『待てアモン、何か来る! あれは……ドローン? いや、戦闘機……

 あの大きさは……模型……?』

 

突如、空の向こうから飛行機の模型らしきものがアモンめがけて飛んでくる。

しかもそれは物凄いスピードで飛来しており、即座にアモンの頭上を抑えにかかったのだ。

飛行機はアモン――セージの頭上を掠めると同時に、爆弾を落としてくる。

それは直前の動作であったため、アモンも、セージも対応が遅れる形となった。

 

「ぐわっ!?」

 

『まずい! あれはこっちを攻撃してくる!

 伏兵がいるかもしれない、アモン、代われ!』

 

爆撃を受けたことで、慌ててセージの人格が表に出る。

それと同時に、広げていた赤い翼も、逆立っていた髪の毛も元に戻る。

そしてその右手にはマゼンタ色の籠手、左手には辞書を模した籠手が装備されていた。

 

対する飛行機は旋回し、太陽を背にする形で再度突入、爆撃を仕掛けてくる。

相手の視認が逆光に遮られる形となり、セージはガードして防ぐより他ない形になってしまった。

しかし、ガードしながらもセージは左手の神器――記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)

攻撃を敢行してくる飛行機のデータ収集を行っていた。

 

COMMON-SCANNING!!

 

「飛行機……いや、こいつは爆撃機か。

 それも……前大戦でドイツが使っていたJu87……スツーカ……

 そしてこの戦闘データ……

 トンデモ装備積んだBismarck級っぽい何かと言い

 こいつら本当にただのナチスかぶれじゃないな!」

 

悪態をつきながら、爆撃の合間を縫って体勢を立て直すセージ。

縦横無尽に飛び回る爆撃機に対し、セージが持つ飛び道具は若干、相性が悪い。

 

まず銃。単純に狙いを定めるのが困難だ。まして、相手は太陽を背にしている。

次に柔軟な動きをする触手から放たれる触手砲。

これは相手を追尾する際に触手が絡まってしまうのがオチだ。

 

ならばアモンに交代し、アモンの力で撃墜すればいいかというと、そうでもない。

そもそも初手は空中にいるはずのアモンを相手に爆撃を敢行してきたのだ。

このことからも、相手の爆撃機の操縦者(いれば、の話だが)はとんでもない技量を持っている。

そうなれば、空中戦は全くアドバンテージにならない。

 

唯一、爆撃機に応対できそうな攻撃といえば――

 

SOLID-SWING EDGE!!

 

刃のついた触手を振り回し、それをもって接近してくる爆撃機を迎撃する形だ。

複数振り回せば絡まってしまうことは過去の使用から実例があるため、できない。

そのため、一本の触手で迎撃しなければならない。

薙ぎ払い、落とす形でJu87に対抗を試みたのだ。

 

「どうだ!」

 

しなる触手が、Ju87の特徴とも言える逆ガル翼に叩きつけられる。

そのまま制御を失ったJu87は高度を落としていき、好機と見たセージは追撃をかけようとするが

さらに飛来した小型の戦闘機の攻撃によって、触手が切り落とされてしまう。

飛来した戦闘機はFw190。これもまたJu87同様、高い機動力で

セージが振り回していた触手と競り合ったのだ。

触手を切り落とされたセージは、すぐさま飛来した戦闘機の情報収集に努める。

 

「Fw190……これもドイツの戦闘機……さっき飛んできたJu87との共通点……

 くっ、もしそうだとしたらあんなのと同時に相手できるか!

 速攻で聖槍騎士団の方を片付けないと!」

 

SOLID-DEFENDER!!

 

Fw190とすれ違うようにして、振り向きもせずまっすぐに

聖槍騎士団のうちの一人に突っ込んでいくセージ。

聖剣デュランダルを変化させ、自分でも扱えるようにしたディフェンダーを実体化させ

聖槍を跳ね飛ばしながらタックルを見舞う。

その流れで、セージは達哉や克哉と合流を果たす。

 

「その力……お前は?」

 

「警視庁超特捜課(ちょうとくそうか)特別課員、宮本成二。応援要請を受け参りました。

 増援を呼ばれる前に、この二人を無力化させましょう」

 

特別課員になったことで、一頻りの警察の挨拶の仕方は教わっていたセージ。

達哉と克哉に敬礼をした後、聖槍騎士団に向き直る。

 

克哉の胸には、十年前の事件が去来する。

ちょうど、その頃の達哉と今のセージがほぼ変わらない年齢なのだ。

その頃の達哉も、ペルソナを用いて事件に立ち向かっていた。

そういう意味では、用いている得物の違いこそあれど

克哉にとってはセージは達哉の再来と言えた。

 

「聞いたことがある。君のその力、神器と呼ばれるものだろう?

 テリー(やなぎ)警視もその力を行使していたと聞く。

 君の年齢について言いたいことが無いわけでもないが

 今は君のその力を頼りにさせてもらうよ」

 

警察組織内においても、神器という力は認知されている。

少なくともペルソナと同等か、それよりかは。

それは超特捜課の実績によるものも少なくないが、率先していた柳警視は今、左遷されている。

それ故に白眼視する者も現れ始めているが、そもそも柳警視の左遷と神器の間に因果関係はない。

 

「早速だが、僕は今奴の攻撃でペルソナ――特異能力を使えない。

 使える攻撃は神経断裂弾だが、これも奴の生身の部分を狙わないと効果はないだろう。

 逆に言えば、そこを狙えば勝機はある。君には達哉と協力して、その隙を作ってほしい」

 

「了解しました」

 

「兄貴こそ、ペルソナが使えないんだから無理するなよ」

 

散開し、聖槍騎士団の主砲に狙われないように突撃する達哉とセージ。

生物に対し極めて有効な神経断裂弾を持ち

ペルソナが使えず自衛がままならない克哉を狙われないようにすべく立ち回っている。

SKC34の砲撃を掻い潜りながら突撃を敢行するセージと達哉。

さらに飛来するJu87とFw190の攻撃に対してはアポロの魔法――マハラギダインで弾幕を張り

セージは触手で聖槍騎士団の動きを封じようとしている。

 

DIVIDE!!

 

その際、触手で縛り上げた時に相手の力を弱らせることも忘れない。

この能力はフリッケンに付与された、「白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)」の欠片から行使されている能力。

元来の白龍皇は「相手の力を半減させ、それを己の力とする」という能力を持つが

フリッケンにもそれに近い能力が備わっている。

オリジナルとの違いは、際限なく行えるオリジナルに対し

フリッケンのものは一回しか行使できないという違いだけだ。だが、一回でも発動すれば

相手との力量差があればあるほど、それを容易く埋めることが出来る。

今回は力量差を埋めるというよりは単純にデバフを狙った行動だが。

 

「相変わらず他人の力で戦うのね。それがいつまで通用するかしら?」

 

「……減らず口を!」

 

聖槍騎士団に指摘されたことは、セージにとっては極めて限りなく図星に近い。

何せ記録再生大図鑑に記録された能力も、フリッケンの有している能力も

本をただせば他人の力や技だ。

セージはそれをある時はそのまま、ある時はアレンジを加えて行使しているに過ぎない。

後天的に力を貸しているフリッケンはともかく、先天的にセージが保有している記録再生大図鑑は

そもそもそういう神器だから仕方のない部分もあるが。

 

SOLID-GYASPANISHER!!

 

フリフリのついた棺桶のような鎚、ギャスパニッシャーを実体化させ

聖槍騎士団の艤装に叩きつける。艤装はその見た目通り、強固な構造をしているため

正面から破壊するとなるとこうした力に秀でた攻撃でなければならない。

これが出来る攻撃手段は限られており、達哉はJu87――スツーカやFw190――ビルガーといった

爆撃機や戦闘機――勿論、大きさはBismarck級の艤装同様ダウンサイジングされているが

それが却って攻撃が当たりにくくなっている――の足止めを行っているため

艤装の破壊には参加できない。

克哉はまだペルソナを封じられている上に神経断裂弾でのフィニッシャーも担っているため

結局セージが一人で艤装の破壊を担当することになったのだ。

 

EFFECT-CHARGEUP!!

 

セージは身体能力を強化し、艤装にギャスパニッシャーを叩きつける。

先ほどのアモンの電撃で傷んだところを、物理的に衝撃を与えることで機能不全にするのが狙いだ。

これが昔のテレビならば下手をすれば治ったかもしれないが、そもそもあれは接触の問題だ。

精密機械も内蔵している艤装に衝撃を与えれば、壊れるのは自明の理だ。

 

「くっ、舵が……!」

 

「今です、神経断裂弾を!」

 

艤装が破壊されたことで、聖槍騎士団の一人はその動きを止める。

動かない相手ならば、克哉が神経断裂弾で狙いをつけるのは容易い。

 

「――撃つぞ!」

 

克哉の拳銃から放たれた神経断裂弾は、聖槍騎士団の腹部を撃ち抜く。

神経断裂弾は着弾後、相手の体内に侵入し弾丸が炸裂することで

相手の体内の神経組織を破壊する、対生物においてはきわめて強力な弾丸なのだ。

 

「くっ……何も……知らずに……!」

 

着弾点から血を吹き出し、艤装の爆発に合わせて聖槍騎士団の一人は消失する。

辞世の句は、かつてセージが倒した個体と同一のものであった。

勢いよく噴出した血飛沫に一瞬目を背けたセージだが

即座に標的をもう一人の聖槍騎士団に変更。

先手を打つべくギャスパニッシャーをフルスイングでぶん投げる。

 

「ぬうっ……うおおおおおおっ!!」

 

「そんな大雑把な狙いで私を倒すつもりなのかしら? 甘いわね、Feuer(斉射)!!」

 

ギャスパニッシャーには、モデルになった人物の神器と同じ理屈で

相手の動きを封じる機能が備わっている。しかし神器に由来する能力であるため

相手に聖槍がある以上、それは無効化される恐れがあり

実際無効化された経験もあるため、セージはこのような原始的な方法で

相手の動きを封じる手に出たのだ。

 

勿論、セージとてこれが直撃するなどとは思っていない。

今投げたギャスパニッシャーは、いわば囮である。迎撃される形で撃ち落とされたが

セージは意に介していない。

 

これが記録再生大図鑑から生み出した「模造品」だからこそできる芸当であり

一番最初に生成した「オリジナル」では人道的に憚られる行為だ。

何せ、オリジナルのギャスパニッシャーはリアス・グレモリーの眷属の一人である

ギャスパー・ヴラディそのものを彼の入っていた棺桶ごとモーフィングして生み出したのだから。

 

ともあれ、迎撃のためにSKC34を発射したのは聖槍騎士団にとっては悪手であった。

その隙をついて、達哉のペルソナが必殺の一撃を仕掛ける準備をしていた。

 

「甘いな――ノヴァサイザー!!」

 

「しまっ……!」

 

掛け声とともに達哉がアポロを召喚したその一瞬、時が止まる。

その中を、アポロの腕から放たれた超新星のエネルギーが聖槍騎士団に叩きつけられる。

艤装の防御は、あくまでも物理的なものに対するものだ。

魔法などの超常的な力に対しては、特筆して強固であるというわけではない。

そこにアポロの超エネルギーが叩きつけられれば、どうなるか。

 

「その力……あの時と……

 フフッ……ならば覚えておくことね……

 まだ私達は健在だし……総統閣下もその力を殺がれたわけではないわ……

 精々……あの時と同じように足掻いて見せなさい……!」

 

動き出した時と共に、艤装は爆発を起こす。

許容できるエネルギーを超えたのか、そのまま聖槍騎士団は消失してしまった。

 

「……レーダーに反応なし。どうやら、増援は来ないみたいです。

 さっきの爆撃機や戦闘機も、聖槍騎士団がやられたことで逃げたみたいですね」

 

「そうか……達哉、宮本君、よくやってくれた」

 

セージがレーダーで周囲の敵影がないことを確認し、克哉の指示で戦闘態勢を解く。

それと同時に、克哉のペルソナ能力も戻っていた。

 

「よう、終わったみてぇだな」

 

蔵王丸(ざおうまる)警部! お怪我はありませんか?」

 

戦闘から避難していた蔵王丸警部が、克哉達に合流する。

いくら超特捜課の関係者と言っても、神器やペルソナといった特異能力がなく

かつ装備もない状態では、普通の人間と変わらない。

そうなれば、やはり人間が怪異に力で太刀打ちするのは不可能だろうと言える。

 

「ああ、おかげさまでな。それと……お前が柳んとこにいるって言う特別課員か。

 俺は蔵王丸慚愧(ざんき)。柳――テリー柳警視の後任で、超特捜課の課長を拝命した。

 ……って、ニュースやらなんやらで言ってるから知ってるだろうけどよ」

 

「宮本成二です。警部が奈良県警からお越しいただいたというところまでは聞いております」

 

「……ああ、そう堅っ苦しい喋りはしなくていい。

 どのみち駒王町についたらまた堅っ苦しい事言わなきゃいけねぇんだからよ」

 

セージの言葉を制止する形で、蔵王丸警部は話を続ける。

自分がテリー柳の後任で来たこと。周防兄弟はそんな自分の護衛であること。そして――

 

「それと、詳しいことは駒王町に着いてから話すが……

 超特捜課に、ある重大な要人……いや、要『神』警護の指令が下った。

 こいつは警視庁と各地方警察……特に沢芽(ざわめ)の警察と協力して事に当たることになる」

 

「沢芽……沢芽市ですか?」

 

沢芽市。ユグドラシルタワーを擁し、今は北欧神話のオーディンが

お忍びで訪れている日本の都市。

そこで、要「神」警護を行うというのだ。

今は蔵王丸警部は詳しいことは話さなかったが、セージには何となく察しがついていた。

 

――沢芽市で、神仏同盟(しんぶつどうめい)とどこかの神話体系が会談を行う、と。




これで原作7巻への因子がそろいました。
なんか風雲急を告げる状態なのにまだ7巻時点のお話ってことに内心ビビってます。
gdgdな未来しか見えないので真DxDまでなぞる気は毛頭ありませんが。
そして、原作の流れに合流するということはこの連獄編ともいうべき
課外授業のプルガトリオもようやく最終回が近づいてます。

原作では(仏教勢力の事考えるともう出てこなくていいよとも思ってます)な日本神話勢と
北欧神話勢の会談……という名のロキ一味フルボッコと
乳神とかいうデウスエクスマキナが行われた7巻ですが
拙作では当然ガチで両神話体系の会談が行われます。
乳神もある意味それに相当するクロスゲートが既に存在しているので
今更そんなもん出しても仕方ないですしね。

要人警護も戦力以外はほぼほぼ何のコネもないオカ研に要請した原作と違い
拙作では警視庁が動いているのでその辺説得力はかなり増してる……と思いたいです。
逆にオカ研がこの事件に首突っ込めない可能性が出てきましたが
そこはまぁ、いくらでもやりようはあります。
来なくていい、と言われると返す言葉がないのですが……
そこはまぁ、一応拙作もHSDDが骨子って扱いですし……

>聖槍騎士団
・初戦でセージ達に倒された3体
・アモンに「俺なら空から攻めるね」と倒された2体
・今回周防兄弟(とセージ)に倒された2体

ちょくちょく出てきてる印象ですが、数え間違えでなければ残り6体。
こういうのって別に主人公達が全部倒さなきゃいけないわけでもないので
全部出す必要はないんですけどね(出典元はゲームだからそういう形なだけだろうし)。
盛り上げ的にもずっとBismarckっぽい人だけで回すってのもアレですし
今回ちょっとリョナった描写入れちゃいましたし……
(うちのBismarckにはそうしたことはしてません、断じて!)

さて、今回航空支援を行った機体。
機体にはある共通点があります。セージは気付きましたが。
総統閣下と同じく「本人ではありません」が、フィクションでこの人出したら
とんでもない強キャラなのは間違いないです。

因みに、Fw190が地の文でビルガーと言われてますが
これはスツーカ同様愛称からとっただけのお話。
ビルトビルガー参戦フラグじゃないです。
何せフォッケウルフはメーカー名なので……
(この命名方式だとスツーカはユンカースJu87にしないといけなくなる)

>周防兄弟
ヒューペリオンはちと残念なことになってしまいましたが
克哉さんが神経断裂弾で白星をあげるという展開に。
そしてちょっと気が早い気がしますが、ノヴァサイザーもここで公開。
さすがに周防兄弟をこのまま本格参戦させると強すぎだと思いましたので
彼らは今回スポット参戦ということで……

名前だけなら、アザゼルどころかサタン、ルシファークラスも使役しかねないので……


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Case17. 新超特捜課発足

今回久々にちと長いです。


「……それでは、我々はこれで。警部のご活躍に期待しております」

 

「言われなくとも、(やなぎ)の顔に泥塗る真似はしねぇつもりだよ。

 それに……この人事は警視総監直々のものだからな。

 逆に言えば、警視総監クラスが動くほどの事態が起きてるって事だ。

 

 ……そっちも気をつけろよ。まだ俺の憶測にすぎねぇが、柳の左遷と言い

 どうも超特捜課(ちょうとくそうか)絡みのみならず、警察全体できな臭い臭いを感じやがるからな」

 

駒王警察署。先の戦闘を終えたセージと周防(すおう)兄弟は

当初の予定通り、蔵王丸警部をここまで護衛して来たのだ。

克哉が運転する車を、達哉とセージがバイクで護衛する形でやって来た。

そして今、その役目を終えた周防兄弟は元来の持ち場である京都府警に戻ろうとしていた。

そんな中、達哉(たつや)がセージを呼び止める。

 

「……宮本成二、だったな。少し、いいか?」

 

「何ですか? 周防巡査」

 

呼ばれる形で、セージは達哉の下へと歩み寄る。

 

「兄貴――いや、周防警部が手続している間に、俺はこっちの署員と情報交換していたんだ。

 そこで……少し気になることを耳に挟んでな」

 

神妙な面持ちで、語りだす達哉。

彼が語った内容は、十年前に珠閒瑠(すまる)市で起きた事件。

その一部始終の顛末と……黒幕の名前。

 

「以前、須丸清蔵(すまるせいぞう)って国会議員についてお前の神器(セイクリッド・ギア)で調べた時に

 『這い寄る混沌』って単語が出たそうだな。

 

 ……それが本当だとしたら、事態は俺達にとっても黙って見過ごせる事態じゃない。

 何せ、十年前に這い寄る混沌と対峙したのは俺……いや、俺達だからな」

 

達哉の発言に、セージは目を丸くする。

セージにとって十年前については長野の大量殺人事件こそ認知しておれども

珠閒瑠で起きた事件については情報が少なかったのだ。

 

「這い寄る混沌……ニャルラトホテプ。

 奴は人間の心の闇そのもので、俺たち人類のダークサイドともいうべき存在だ。

 だから、アインストやインベスなんかと違って滅ぼすことはできない。

 ……現に、奴の差し金としか思えない連中と戦ったしな」

 

人の心から、闇を完全に拭い去るのは不可能だ。

それを成した時点で、人は人でなくなってしまう。

故に、人類のダークサイドたるニャルラトホテプを滅ぼすことは不可能である。

達哉は、かつて戦った自分の経験を基にそう結論付けていた。

 

「滅ぼすことはできない……では、一度は周防巡査らに敗れながらも

 この混沌とした世情を好機とみて、再び表舞台に出てきたというのですか?」

 

「いや……奴は表舞台で姿をさらすなんてことはしないし

 俺たちが過去戦った時も真の姿と嘯いていたがあれがそうだという保証はない。そういう奴だ。

 奴のいいように踊らされている連中や、自分の尖兵を送り込んで

 今の人間がどう動いているかを観察するのが常套手段だ。今回もそうだろう。

 おそらくだが、あのフューラー・アドルフやその配下、聖槍騎士団あたりは

 ニャルラトホテプの化身と考えていいだろう。奴らは、俺の事を知っていたみたいだしな」

 

「……そして、須丸清蔵もそのニャ……ニャルなんとかに踊らされている、あるいは

 そのニャーなんとかの化身だと?」

 

実際、クトゥルフ神話には同名の神がいるとされている。

しかし、セージもそこまで博識ではないらしく、ニャルラトホテプの名前にはピンとこなかった。

記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)で調べることも可能だが、相手が人類のダークサイドというべき存在であることと

須丸清蔵の件で痛い目にあって以来、迂闊に記録再生大図鑑を開くことを躊躇っていたのだ。

 

「……ニャルラトホテプ、だ。まぁ、それはさておきそう考えていいだろうな。

 行方不明扱いになっている須藤竜蔵も、ニャルラトホテプのいいように扱われていた。

 そして……セベク・スキャンダル。この主犯である神取鷹久(かんどりたかひさ)も、ニャルラトホテプに魅入られた存在だ。

 十年前の事件では、『噂』って形で神条久鷹(しんじょうひさたか)って名前で神取鷹久が復活した。

 その前例を考えると、須丸清蔵ってのは復活した須藤竜蔵(すどうたつぞう)……

 あるいは、ニャルラトホテプが須藤竜蔵を模して生み出した存在だってのが、俺の見立てだ」

 

達哉の見立ては、セージにとって妙に納得できた。

しかしそうなると、須丸清蔵の働きかけで兵藤一誠は釈放されている。

その後の彼の顛末についてはセージの知るところではないが

須丸清蔵とニャルラトホテプにつながりがある以上

ニャルラトホテプは兵藤一誠――あるいは赤龍帝を使って何かをしようとしているのではないか。

セージには、その懸念が生まれたのだ。

 

(……うん? そういえば、あの時聖槍騎士団は兵藤の奴にドラゴンアップルを寄越していたな。

 そして、今度は須丸清蔵が兵藤を釈放させた。この両者の関連は、周防巡査が言うなら

 そのニャルラトホテプって存在になる。ニャルラトホテプ……兵藤を強化して何がしたい……

 いや、『何をさせたい』んだ?)

 

「達哉! そろそろ出発するぞ……ぐすっ」

 

セージが達哉に質問をしようとしたところ、遠くから用事を済ませた克哉(かつや)の呼ぶ声が聞こえる。

心なしか、鼻声であるが……

 

「分かった、今行く……って兄貴、どうしたんだ?」

 

「あ、ああ……実は今しがたそこで白猫と黒猫に遭遇してな……

 すり寄ってくるものだから、つい撫でてしまったんだ……

 あれは妙に人慣れしていたから、誰かの飼い猫かもしれないな……ぐすっ」

 

セージはその二匹の猫に心当たりがあったが、克哉のただならぬ状態を見て

直ちに「猫アレルギー」であると見抜いた。

知らない以上は仕方のないことなのだが、二匹の猫――白音と黒歌の迂闊さのみならず

克哉にも心の中でツッコミを入れていた。

 

「(猫アレルギーなのに猫触るんかい!)

 す、すみません克哉警部……その猫、多分俺が面倒見てる猫だと思います……

 いつ入り込んできたんだか……すぐに連れ出しますので」

 

「そうなのか? かわいい猫じゃないか。何て名前なんだい?

 ……ぐすっ」

 

つい話し込みそうになる克哉を、呆れながら達哉が制止する。

名残惜しそうにしながらも、克哉は鼻をすすりながらその場を後にするのだった。

 

「兄貴。もう出発するんじゃないのか? ほら行くぞ」

 

「あっ、待て達哉! せめてあの子らともう一度……ぐすっ

 宮本君にあの猫の名前も聞いてないし……ぐすっ」

 

「……白音と黒歌、です」

 

セージの言葉を聞いて、満足そうに克哉は離れていった。

達哉もまた、克哉を引きずるようにして駒王警察署を後にする――その間際。

 

「……成二」

 

「なんです?」

 

「帰る前に、お前にこれを渡そうと思ってな。

 十年前に俺達がペルソナを召喚するのに使っていたものと同じものだ。

 今度は俺じゃなくてお前の番……そんな気がするんだ。

 ここに来る前、フィレモン……いや、ある人物から聞いたんだが

 『神器もペルソナもその本質は同じ』だそうだ。

 お前なら、これをうまく使えるかと思ってな」

 

そう言って、達哉が渡したのは無地のタロットカード数枚。

かつて、達哉らが戦った際にペルソナの触媒となった「フリータロット」と呼ばれるものである。

 

「本当なら、青い部屋……ベルベットルームにいる悪魔絵師に頼んで絵を描いてもらって

 それを基にペルソナを召喚するんだが……お前、ベルベットルームは知っているか?」

 

達哉の問いに、セージは首を横に振る。

セージが持っているのはあくまでも神器であり、ペルソナではない。

そのため、ペルソナ使いの初歩とも言える情報は、完全に欠如していたのだ。

 

「そうか……いや、もし行ったとしても最後に俺がベルベットルームを訪ねた時

 フリータロットに絵を描ける悪魔絵師は旅に出ていたからな。

 だから、ちょっとしたお守り程度に持っておいてくれ」

 

それじゃゴミを寄越したのとあまり変わらないじゃないか、とセージは一瞬毒づきかけるが

改めてフリータロットを調べてみると、そこには確かに何かの力の残滓らしきものが感じられた。

達哉の言う通り、セージはフリータロットを記録再生大図鑑のデッキに収納することにした。

偶然の一致かそれ以外の要因かはわからないが、セージが能力発動に用いているカードと

フリータロットは規格が一致したので、すんなりとデッキに収まったのだった。

 

しかし、デッキに装填されたからと言って何か変化があるわけでもない。

達哉曰く「タロットカードを触媒にしてペルソナを召喚する」だそうなので

ペルソナのないセージには、ペルソナ以外の力として発現するのではないか。

曰く「ペルソナと神器は同質のもの」らしいので

そう考えることにし、ひとまずは置いておくことにしたのだ。

 

「それでは、我々はこれで失礼します」

 

「俺達が共に戦う日も来るかもしれない。

 だがそれは今じゃない、先の話になるだろうな。

 ……まぁ、俺達が共に戦うってのはそれだけの事態が起きていることだろうから

 そうそう起きてほしくないことでもあるけどな」

 

警察署の入り口に立ち、敬礼で達哉と克哉を見送る超特捜課の面々。

その傍らには、白猫と黒猫もいたが彼女らは二人を見送った後程なくして

セージによって返される運びとなってしまった。

 

――――

 

周防兄弟の任務――蔵王丸警部を駒王町まで護衛する――は、無事に終えることが出来た。

駒王町に待機している超特捜課は、蔵王丸という新たな司令塔の下活動を再開することとなったのだ。

 

「……というわけで、既に知っている奴もいると思うが

 俺が今日からお前たちの上司になる、蔵王丸慚愧(ざんき)だ。よろしく頼む。

 

 ……早速だが、俺達超特捜課に重大な指令が下った。

 二週間後、沢芽(ざわめ)市にあるユグドラシルタワーで神仏同盟(しんぶつどうめい)と北欧神話の会談が行われる。

 俺達は、それに伴う警備を行うこととなった。

 これは本郷(ほんごう)警視総監からの正式な指令だ。今日からそれを見越した活動を行う、いいな?」

 

就任するや否や、蔵王丸警部は本郷警視総監から下された指令を読み上げる。

それによれば、沢芽市で神仏同盟と北欧神話の会談が行われるため

超特捜課は現地のセキュリティポリスと協力し両勢力の神仏の警護を行われたし、とのことだ。

警護対象が警護対象なため、超特捜課が動かざるを得なかったのだ。

 

一応、覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)騒動を境に駒王町における禍の団(カオス・ブリゲート)の活動や

アインストやインベスといった怪異の被害は根絶こそしてないものの減少傾向にあり

超特捜課が出動せずとも済む状態には落ち着きつつある。

その現状を顧みた上での今回の指令であった。

 

「了解しました。ですが、こちらを留守にするわけにもいかないのでは?」

 

「ああ。だから、沢芽市に行くメンバーは書類選考という形だが俺の方で選抜させてもらった。

 まずは現場指揮として氷上涼(ひかみりょう)巡査。次に補佐として霧島詩子(きりしまうたこ)巡査。それから……

 これは警護対象からの直々のご指名だそうだ。宮本成二特別課員」

 

「……えっ?」

 

蔵王丸警部の言葉に、セージは耳を疑う。

警察の手伝いということで今までやってきていたのだが

今回はある意味それよりも重要な要人警護だ。

しかも、警護対象――おそらくは天照か大日如来だろう――からの指名だという。

 

「待ってください、警部。セージ君の実力は私も知ってますが

 よその国のVIPの応対も要求される今回の指令は

 セージ君には少し荷が重いのではないでしょうか?」

 

「そ、そうですよ。今まで幾度か顔を合わせた大日如来様や天照様ならいざ知らず

 よその国の神様の警護なんて……いや、面識という意味での前例はあるにはありますが」

 

「俺もここに来るまでと来てからも報告書を読ませてもらったが

 こいつ、ギリシャの神の一柱と面識があるそうじゃないか。

 その辺も踏まえての人選だし、そもそも先方から指名されてるんだ。無碍にできるかよ」

 

霧島の指摘通り、セージも紆余曲折を経てとんでもない人脈を築き上げているが

その本質はただの高校生である。そんな彼に外国のVIPの対応は厳しいものがある。

故に、セージも辞退しようとするが「先方の指名」という真っ当な理由ゆえに却下された。

 

「なら仕方ないですね。いい機会ですから、社会勉強ということで」

 

「……めっちゃプレッシャーかかる社会勉強なんですけど」

 

護衛対象からの指名では断れない。そのために氷上はセージに対し

「社会勉強」の体で引き受けるように促す。セージ自身、困惑しているが

話の流れは理解しているため、引き受けざるを得なかったのだ。

 

「わかりました……ところで、護衛の人手は大丈夫です?

 足りないようでしたら、俺の方から黒歌さんにも手伝ってもらうように……」

 

「そうだな、と言いたいとこだが今回は無しだ。

 そもそも、俺がその黒歌ってやつのことを詳しく知らない。

 いや、経歴は書類に目を通したから知ってるんだけどな。

 だから、いくらお前の知り合いだからってよく知らない奴を警護に回すわけにはいかねぇな。」

 

蔵王丸警部の説明に、セージは納得する。

よく考えてみれば、宮本家に居候している猫魈(ねこしょう)姉妹は

超常の存在を相手にした公の場に出すには向かない。

 

まず黒歌。彼女は悪魔政府においては死亡扱いとなったものの

凶悪なはぐれ悪魔として名を馳せていた。

その関係からか、性格もざっくばらん過ぎてVIPの応対には向かない。

精々、今セージの母親がやっている介護の手伝いに際してセクハラジジイをおちょくる位だろう。

場を和ませるのならばありかもしれないが、国と国との公の会談の場で

和気藹々という単語が過ぎる様な環境は、些か不真面目と取られかねない。

 

次に白音。彼女は黒歌から本気で心配される程度には体が弱いし

身体的な意味のみならず猫魈としても未熟だ。

未熟さという点では指名の入ったセージでさえぎりぎりどころかアウトと言わざるを得ないのに

指名も入っていない彼女は今回の場においては相応しくないだろうし

場の空気――プレッシャーに押し潰される危険性も大いにある。

 

自分でさえ危ういというのに、先方に失礼があってはならない。

そう考え、セージは護衛の増員を断念せざるを得なかった。

 

「わかりました、では二人には留守番を依頼しておきましょう。

 俺達が抜けている間の町の警備は必要ですからね」

 

「そのことなんだが……これは須丸清蔵からの差し金でな。

 お前ら三人が抜けている間、駒王学園の生徒会――ソーナ・シトリーと

 その眷属どもも町の警護に就かせるとかぬかしてきやがったんだ」

 

その名前が出た途端、ざわめく会議室。

静粛を促し、蔵王丸は話を続ける。

 

「……くどいようだが、俺も報告書は読んでいるから

 この件について首を縦には振りたくないんだがな。

 だが、須丸清蔵の発言力は柳警視の左遷の一件からもわかっているとは思うだろうし

 それを差し置いても、町の警護に当たれる人材が減っているのは痛い。

 神仏同盟や町民との折り合いって意味で仕事が増えるかもしれねぇが、そこはよろしく頼む。

 俺も慣れないながらは何とかするからよ」

 

「……うん? ちょっと待ってください。オカ研……リアス先輩ではなく

 生徒会のソーナ会長を?」

 

「ああ、そういうことらしい。確かな筋からの情報だ」

 

蔵王丸の挙げた名前に、セージは訝しむ。

こういう場合、率先して出てくるのはオカ研――リアスの方だ。

だがある意味でオカ研の、リアス眷属の中核と言える一誠は釈放されたとはいえ

駒王学園は退学処分となっている。

それが故に、フットワークが鈍っている面もあるのかもしれないが

それだけで片付けるには、リアスが大人しすぎるとも思えてならなかった。

 

「ま、そいつは冥界以外だとこの駒王町が縄張りなんだろ?

 今回護衛に就くのは沢芽市。縄張りの外にはそうそう出られないってだけの話じゃねぇのか?」

 

厳密には、リアスに駒王町の統治権は既にない。

だが安玖の言う通り、駒王町の外でリアスらが活動したという話を、セージは聞いていない。

故に、安玖の意見は理にかなっておりそういう方向でセージも納得することにしたのだ。

 

「他にないか? ないなら、これから氷上、霧島巡査と宮本は本番に備えた訓練。

 それ以外……っつても俺と安玖巡査か。俺達は通常業務だ。いいな?」

 

就任の挨拶からそのまま流れで沢芽市の要人警護のミーティング的な要素も含んだ

蔵王丸警部の挨拶が終わろうとする辺りで

一人の警官が金髪の小柄な少女を連れて駆け込んでくる。

 

「どうしたんだ?」

 

「警部殿。実はこの子が……」

 

息を多少切らした様子で、少女は蔵王丸に訴えてくる。

 

「お願いです! 兄を……兄をテロリストから連れ出してください!」

 

「テロリスト……禍の団ですか?」

 

テロリスト、という少女に霧島は禍の団の存在を感じ取り少女に尋ねる。

首肯した少女は、さらに畳みかけるように話を続ける。

 

「兄が所属した組織がまさかあのヒトラーの意を酌んだ組織だなんて思いもしませんでした!

 兄――アーサー・ペンドラゴンは曹操という男に騙され

 禍の団の英雄派という組織に入り浸ってます!」

 

少女の話を統合すると、若干だが齟齬が生まれる。

まず、「禍の団の英雄派」という組織を統括しているのはフューラー・アドルフであるはずだ。

それは実際に演説で語られたことだし、超特捜課も彼が率いるナチス由来の軍隊や装備と

幾度となく刃を交えている。これは否定のしようがない。

しかし、少女の話では「兄が曹操という男に唆され入ったのは

『禍の団の英雄派』というテロ組織」である。

フューラーの配下に、曹操という男がいるのだろうか。

 

「まず落ち着いてください。我々の持つ情報とあなたが持つ情報に齟齬が生じてます。

 とりあえず……お名前をお伺いしてもよろしいですか?

 私は警視庁超特捜課所属、霧島詩子巡査です」

 

「あ、ごめんなさい。私はルフェイ……ルフェイ・ペンドラゴンです」

 

――――

 

英国から来た少女、ルフェイの話が本当ならば、英雄派という組織は二つ存在し

ナチスを彷彿とさせる軍事組織で成り立っているフューラー率いる英雄派。

そして、世界各地から英雄もしくはそれにまつわるものを片っ端から集めている

曹操率いる英雄派。

 

その二つが存在したため、ルフェイは兄が入った組織を「ネオナチ」の一種だと勘違いしたのだ。

ヨーロッパ方面では、ヒトラーや彼にまつわるものは日本以上に蛇蝎の如く嫌われている。

それはアーシアが「ハーケンクロイツ(鍵十字)」を遠目に見た際に戦慄するほどだ。

 

「……どうやら、私の勘違いだったようですね」

 

「それでもてめぇの兄貴がテロ組織に入ったって事実は変わらねぇだろうが。

 まさか、兄貴を連れ戻すためにわざわざ日本くんだりまで来たってのか?」

 

そう、ルフェイは日本の超特捜課の活躍をネットで知り

彼らならば禍の団に入ってしまった兄を連れ戻せるのではないか。

そう考え、日本語を学びパスポートを取り日本まで来たのだ。

……多少、彼女の持つ魔術でズルはしたが。

 

「ですからお願いです! 兄を……兄を連れ戻すのに協力してください!」

 

ルフェイの涙ながらの訴えに、困ったように顔を突き合わせる超特捜課課員達。

最初に入って来た警官が困惑していた様子だったのはこれか、と蔵王丸は納得していたが。

 

「……お嬢ちゃん。すまないが、我々超特捜課も暇じゃないんだ。

 だが、情報が入り次第君に伝えることを約束しよう」

 

「……そう、ですか……」

 

落胆した様子で俯くルフェイ。だがこればかりは仕方がない。

既に超特捜課には任務が入っているし、そうでなくとも手掛かりがないに等しい人物――

それもテロ組織関係者を捕まえるのは通常の捜査でも困難を極める。

そのため、現状でできるのは通常の尋ね人探し程度であり

それは超特捜課でなくともできる業務だ。

 

「……いや。ちょっと待ってください。

 俺の神器なら、捕まえるのは出来なくても手掛かりの一つや二つは見つかるかもしれません」

 

『待てセージ。無限大百科事典(インフィニティ・アーカイブス)の使用は許可できないな。

 須丸清蔵を調べてえらい目にあったのをもう忘れたのか?

 そうでなくとも、お前は再来週の会談の警護で重要な役割になりかねないんだ。

 ここでぶっ倒れたら、後が困るだろうが』

 

禁手(バランスブレイカー)でアーサー・ペンドラゴンについて調べようとするセージだったが

フリッケンに待ったをかけられてしまい、発動することが出来ない。

仕方なく、記録再生大図鑑の能力だけで調べることにしたのだが。

 

COMMON-LIBRARY!!

 

「アーサー・ペンドラゴン。フューラー・アドルフによって発掘された

 エクスカリバーの一本『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』を持つ。

 力を求め、禍の団の英雄派に転がり込み現地の精霊や妖精を手にかけ

 現在は『人間の力を知らしめる』曹操の思想に共感し、曹操と行動を共にしている。

 その行動が故に、エクスカリバーの製造者の一人であるヴィヴィアンからは

 非常に強い敵意を持たれており英国政府からも指名手配されている……そうだ」

 

セージのその言葉のすぐあと、一人の警官が国際指名手配者リストを持って入って来た。

その中にはフューラー・アドルフ、フリード・セルゼンをはじめとした

既に超特捜課がよく知っている人物のほかにもアジア系の顔つきをした曹操

フリードに雰囲気が似ているジークフリートといった人相写真の中に――

 

「こ……これです! これが兄です!

 ああ……国際指名手配犯にまで……」

 

眼鏡をかけた精悍な青年、アーサー・ペンドラゴンの写真も写っていた。

しかしここで、腑に落ちない点が挙がる。

「曹操はフューラーと違い、声明を発表していない」のだ。

ここにいるのはセージとルフェイを除けば公務員であり

国を脅かすような情報は率先して入ってくるような環境だ。

 

もし英国で声明が出されたのならば、ルフェイは英国の組織に転がり込んだだろう。

それをせず日本の超特捜課に来たということは、英国でも曹操は声明を出していないことになる。

つまり、曹操率いる側の英雄派は、テロリストとしてすら認められていない。

精々、フューラーが声明発表したおかげで認知されるようになった

禍の団の一組織に過ぎない扱いだろう。

暴力団――曲津組(まがつぐみ)でさえ、指定暴力団組織として国に認知されていた。

曹操の英雄派には、それすらないのだ。

つまり、暴力団以下――下手すればカラーギャング程度の存在だ。

 

「……こういう意味で予言したくはなかったけど。

 けれどこれで、一応お兄さんを探す口実は出来た。

 だけど、それにばかり人材や戦力を割けないという点は理解してほしい」

 

「セージの言う通りだ。連れ戻すんならそれなりのチャンスがあるってこった。

 それより……今空路は閉鎖されているはずなんだがな?

 お前、どうやってここに来たんだよ」

 

安玖の指摘に、ルフェイは「しまった!」という顔をする。

空路封鎖は解かれていない。

そのため、英国のルフェイが日本であるここに来られるわけがないのだ。

……通常の方法ならば。

 

「……あなた方なら話しても平気ですね。私、魔法が使えるんです。

 悪魔のそれとは違う、人間の魔術として。

 それで、ここまでやって来たんですけど……た、大変でした……」

 

曰く

「魔法使いということで変な指輪を填めさせられそうになる」

 

曰く

「魔法使いということで変な儀式の最中に飛ばされたが

 空を飛んだライオンが儀式を滅茶苦茶にした」

 

曰く

「英国出身ということで何故か大根とおろし金がお土産に渡された」

 

ここにいる面々は知らないことだが、オーディンらが体験した「転移トラブル」を

ルフェイも体験したことになる。

疲労を押して慣れない土地の警察組織にやって来たのだから

現在のルフェイは相当疲労困憊しているだろう。

 

「その魔法で……こっちに……来て……」

 

言い終える前に、ルフェイは倒れてしまった。

仕方なく、セージの時と同様ベッドに運ぶこととなった。

 

「……身分証確認。兄貴以外の親族への連絡。それと入国管理局に連絡。

 暫くこいつは英国大使館預かりになるかもしれねぇな」

 

突然やって来た問題に蔵王丸は頭を抱えながら、警官らに指示を出していた。




終わり間際のこのタイミングでルフェイ参戦。
ヴァーリチームが存在しない関係上、アーサーは曹操英雄派のまま
ルフェイはフリーになってしまいました。
原作では兄を追ってテロ組織入り……なんですが
ちょっとここで「ん?」と思ったので方針転換。
英雄派、という括りで見れば拙作世界では
ルフェイがネオナチと勘違いするのもさもありなんですが
禍の団という括りで見ると……アインストが手ぐすね引いてるわけですので……
ルフェイ兄の後を追って入らなくてよかったねとしか。

因みに、当初の予定ではバオクゥに協力を仰ぐも手が回らないという理由で
却下されたり、超特捜課を取り巻く国民感情に変化が生まれているという
描写を入れる予定でした。

>周防兄弟
当初の予定通りここで退場。強キャラはゲスト参戦、はっきりわかんだね。
因みに達哉がセージにフリータロットを渡す件は
異聞録におけるたまきちゃんと主人公(ピアス)のやり取りのオマージュ。
あの後も達哉はフィレモンに会ったり、ベルベットルームに行ったりしていますが
別段大きな事件が起きたとかそういうわけではないです。多分。
今更ですがセベク・スキャンダルが起きてるってことは十数年前に
この世界次元転移装置っぽいもの作ってるんですよね……

フリータロットはちょっとアレンジ加えてます。
原作ではン十枚ン百枚消費しますが、さすがにそのまま流用できないので
これ一枚がそのままペルソナカードになるというイメージで。
でもセージにはペルソナ能力がない。これは何のフラグ?

>会談の護衛役
少なすぎる位ですが、この超特捜課からはこれだけしか出せません。
左遷された柳警視とか、周防兄弟とか参戦させる手もあるにはあるのですが。
まぁ、ユグドラシルには黒影トルーパーや最悪斬月龍玄いますし……
因みに安玖巡査が外されたのは「勤務態度」が原因。元ネタアンクちゃんだしねぇ。

>ルフェイが飛ばされた世界
仮面ライダーウィザードより。
他の魔法使いネタも引っ張ってくるべきだったかもしれませんがとりあえず。
因みに英国出身だから大根とおろし金を寄越されたエピソードは
「すりおろし声優」で検索をば(元ネタの声優さんは豪州出身だけど……)。
ちなみに拙作世界の英国王室でも「日本食ブーム」で「大根おろし」が流行って
世界情勢で「大根の輸入」が出来なくなったのが最近の悩みの種だとか。

※2019/03/05訂正
いや、違和感はあったんです……
けれど兄弟で同じ組織に属しているのでわかりやすくした方がいいかと思いましたが
よく考えたら階級違うから読み取れますよね……


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Case Final. To be continued for 「学級崩壊のデビルマン」

筆が乗った、ただそれだけです。

そして、唐突ではありますが
「課外授業のプルガトリオ」はこの投稿をもって完結とさせていただきます。

……これ以上、だらだら続けていても仕方ないですからね。


後書きや解説については、後ほど活動報告で行わせていただきます。


人間界とも、冥界とも違う場所にあるとされるアインスト空間。

赤と青のミルトカイル石やストーンサークルが宙に浮かび

一般的に黒や青とされる宇宙空間と異なり赤みを帯びた空間が広がる、静寂に満ちた空間。

 

ここには、かつてのオーフィス――ウンエントリヒレジセイアが鎮座しており

その他にもこの空間で様々なアインストが生まれていた。

アインストへと変貌したサーゼクスの眷属、ベオウルフや

かつて堕天使を裏切った、バラキエルだった存在もここにいた。

 

「ククク……よもやサーゼクスの眷属がこちら側に来ようとはなぁ?

 そこのカラスにしても同じだ。お前達に、オーフィスの何が理解できるというのだ?」

 

「過去に意味はない……あるのか……ないのか……

 そして……奴らは純粋な生命体には成り得ん……

 そう……お前達……悪魔は……望まれぬ……存在……」

 

「我らが……望むは……純粋なる……存在……

 それこそが……新たな世界に……必要な生命……

 悪魔も……堕天使も……新たな世界には……不要……」

 

ベオウルフやバラキエルを詰るようなシャルバの物言いに、彼らはかつて変異した時と

同じような調子で喋る。言葉を交わすというよりは、唯々己の意見を述べているに過ぎない。

少なくとも、二人にシャルバと交流しようという意図は全く読み取れない。

それは、シャルバも同じであるのだが。

 

「……純粋たる悪魔を愚弄するか、成り損ないの悪魔に

 負け犬のカラス如きが!」

 

ベオウルフは神器(セイクリッド・ギア)を持たない

ただ己の力だけでサーゼクスに見初められ悪魔となった人間……だった。

彼に限らず、サーゼクス眷属は皆神器を持たないが、それには一応の理由がある。

その理由――目的を果たす事が叶わない今となっては、最早形骸化しつつあるが。

 

バラキエルにしても、彼は神を見張るもの(グリゴリ)の中核を担う存在として

アザゼルや彼と対立しがちなコカビエルの仲を取り持つなど

シェムハザと並んで、縁の下の力持ち的な存在であり

常に妻や娘を気にかけていた、心優しき堕天使であった。

しかし、かつて出現したアインストと対峙した際、彼らの手に落ちてしまい

ミルトカイル石を埋め込まれ、こうしてアインストの尖兵へとなり下がってしまった背景がある。

この事実は、アザゼルやシェムハザ、コカビエル辺りしか知らないことだ。

 

「……静まれ……

 いよいよ……時が……満ちようとしている……」

 

「……はっ?」

 

ふと、言葉を漏らすウンエントリヒレジセイア。

その言葉に、傍に居た禍の団・旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブが反応する。

 

「混沌が……かの世界を……覆わんとしている……

 我らは……混沌が……世界を覆う前に……

 世界を……静寂で……包まねば……ならない……」

 

「おお……では、ついに……!」

 

「既に……『門』は……世界と繋がった……

 静寂なる世界……それこそが……世界の……正しい在り方……」

 

融合を繰り返し、強化を重ねていくアインスト軍団。

それに呼応するように、ミルトカイル石も赤から青、青から黒へとその色を変化させていく。

そして、シャルバへと渡された「石」を埋め込まれた腕輪の石の色も

黒水晶のように変色していく。

その影響からか、シャルバの身体にも赤い水晶のような物体――アインストのコアらしきものが現れ始める。

 

「おおおおおおお!! こ……これは……! この力さえあれば……!

 最早サーゼクスも……アジュカも……超越者などどうでもいい……

 冥界に静寂を……我らが望む……新たな世界を……!」

 

シャルバ・ベルゼブブ……否、アインストベルゼブブはその身を醜悪な蠅の怪物へと変え

さらに生み出した半身は彼らアインストの中でも上位種にあたる

「アインストレジセイア」の風貌を強く持っていた。

その様は、かつて同様の変異を遂げたカテレア・レヴィアタンを彷彿とさせるものだった。

 

(こ……これは……こんなもの、オーフィスの力ではない……もっと別の……

 だから俺はこれ以上オーフィスに関わるべきではないとシャルバに言ったんだ!

 カテレアは、あいつのせいでおかしくなったんだぞ!

 

 ……ま、まさか……俺にも寄越されたこの腕輪……ッ!?)

 

シャルバの変貌を陰で見ていたクルゼレイ・アスモデウス。

オーフィスの本質を今更ながらに知るも、時既に遅し。

枷は、彼らが禍の団として行動を起こし、オーフィスを祭り上げた時に

既に嵌められていたのだ。

 

(ぐああああああっ!? い、嫌だ! 俺は由緒正しきアスモデウスの末裔だ!

 あんな得体の知れぬバケモノなどではない!

 数多の世界を支配する悪魔の、その王となるべき存在だ!

 

 数多の……世界の……支配を……俺が……

 

 

 ……数多の……世界を……静寂に……支配……)

 

クルゼレイの心などお構いなしに、腕輪にはめられた「石」はクルゼレイに力を与え

その心を侵食する。そこにいたのは、最早かつての魔王などではない。

 

――いや、「かつて(アインスト)」の魔王という意味で

彼らは正しく旧魔王派として存在することが出来たのだ。

 

ここに、この場にいないリゼヴィムを除き、先代の四大魔王の血族という意味での旧魔王は

そのすべてがアインストと化した。

アインストによる冥界の侵食は、とどまるところを知らない……

 

――――

 

「……いよいよ、潮時かもなぁ」

 

そうぼやくリー・バーチが眺めているのは冥界の国会中継。

今回の議題は「増加傾向にあるアインストに対する国防」であった。

相変わらずファルビウムは寝ており、セラフォルーは例の衣装できゃぴきゃぴしていた。

平常運転で国民に余計な心労を与えないためだろう、と好意的解釈ができないこともないが

それが却って国民の感情を逆なでしているのではないか、とリーは見ていた。

 

現状、イェッツト・トイフェルだけではアインストの侵攻を賄いきれなくなりつつあった。

そのため、各地の戦う力を持った悪魔にも自衛を依頼しているが

それに伴う手当などは支払われていない。故に、サイラオーグが率先してアインストと戦っている

バアル家や、これを機に冥界での発言力を強化しようと目論んでいるフェニックス家は

現状の政治方針に対して不満を抱いていたのだった。

 

……その政治方針をイェッツト・トイフェルが情報操作の名目でリーに

「現政府は国家予算を着服し、私腹を肥やしている」などと書かせているため

その情報に踊らされている貴族悪魔も少なくはないが。

 

勿論、そのような事実はないし、あればグレモリー家は困窮していない。

幸か不幸か、グレモリー家を襲撃したアインストは軒並み返り討ちにあっている。

戦力だけならば、グレモリー家は優秀なのだ。本当に、戦力だけだが。

 

人間界では活動に不自由している兵藤一誠も、ここでは罪に問われることもない。

故に、赤龍帝の力を何ら制約を受けることなく発揮できているのだ。

そのため、現在グレモリー家は戦力だけは突出しているのだ。

それを正しく運用できているかどうかと問われると、別の問題だが。

 

そのため、国会では時折

「グレモリー家の戦力を接収し、国防に当たらせるべきだ」という意見が出る。

その意見はリアスを前線に立たせることをよしとしないサーゼクスによって封殺されている事と

現魔王政権に対しクーデターを企てているイェッツト・トイフェル司令ギレーズマでさえ

 

「命令系統の違う者を派遣されても運用に困る。

 我々には彼女らが我々の命令に従うとは思えない」

 

という観点から、ギレーズマはこの意見には反対していた。

観点は全く逆だが、現政権とイェッツト・トイフェルの意見が一致した珍しい例である。

 

ともかく、そういった理由から戦力を結集させてアインストを叩く、という作戦が取れないのだ。

それに、アインストのアジトも無ければ司令塔たるシャルバやクルゼレイ

そしてベオウルフは現れていない。

完全に、アインスト側の戦法は尖兵を多数送り込んでくる物量戦なのだ。

 

実のところ、物量戦というのは現在の悪魔が最も苦手とする戦法である。

現在の悪魔は個人の力は突出しているが、平均値で見ると凡百と言わざるを得ない。

精々、正式に軍隊として訓練を受けているイェッツト・トイフェルが平均以上だが

それは軍隊なのだから当然の話。

下手をすれば、神経断裂弾や特殊強化スーツ等の対怪異用の装備に身を包んだ

自衛隊一個中隊にも負けかねない。これは純正悪魔、転生悪魔問わず悪魔全体の問題だ。

 

いくらリアス・グレモリーの滅びの力が強くとも、いくら兵藤一誠の神器が強くとも

彼らとて疲弊する。対してアインストはクロスゲートから無尽蔵に沸き続けるし

空間転移も可能なので、進軍にかかる時間は悪魔のそれよりも遥かに速い。

個の力ばかりに突出している現在の悪魔は、多角的な侵攻に弱い。

 

数にものを言わせるその傾向はアインストばかりではない。インベスもだ。

ドラゴンアップルの果実あるところインベスあり。

インベスを減らすために、ドラゴンアップルを全て処分――絶滅させるという意見も出たが

これにはドラゴンアップルを必要とするタンニーンが当然のことながら反対したことと

インベスそのものにドラゴンアップルの生育能力があるため

意味をなさないという理由で却下された。

 

また、昨今ではドラゴンアップルを摂取したアインストも確認されている。

彼らは通常のアインストよりも強化される傾向があり

イェッツト・トイフェルも手を焼いていた。

現在、冥界では主にバアル家、アガレス家、フェニックス家、シトリー家

そしてグレモリー家の五家が、国の命令に拠らない

各々の意思でアインストやインベスといった冥界を脅かす脅威と戦っている。

しかし、彼らとて協力体制にあるわけではない。

現に次期当主の婚姻問題で揉めに揉めたグレモリー家とフェニックス家の溝は

修復の見込みがなく、アガレス家も他の家系とは距離を置いているため

彼らの足並みは全くと言っていいほど揃っていない。

一応、バアル家が音頭を執ろうとはしているようではあるが。

 

そのため、彼らの活動は「国民の善意」レベルにとどまっており

そういう意味でもイェッツト・トイフェルと肩を並べて戦えるレベルではないのだ。

一人一人の力が強くとも、集団行動が出来ないようでは軍隊としては致命的である。

そういう面では、特にグレモリー家とシトリー家は足を引っ張っていたのだ。

 

しかも、シトリー家の戦力の中核を担うソーナ・シトリーとその眷属は

駒王町の警護任務に就かなければならない。そのため、シトリー家は今後暫く

戦力として計上することが出来ないのだ。

 

「……と言うわけで、以上のプランが提案されております」

 

サーゼクスが会議の中で出た意見をまとめ上げ、述べたプラン。それは――

 

・魔王眷属の封印を解く

・人間に頭を下げ、対アインスト用の装備を工面してもらう

・音信不通の天使はともかく、堕天使と協力体制を取る

 

結論から言おう。どれも理由をつけて却下された。

 

まず一つ目。これはイェッツト・トイフェルが反対したのかと思えば

貴族悪魔の議員から反対の声が上がったのだ。

 

実のところ、イェッツト・トイフェルにしてみれば

ここまでアインストやインベスの戦力が上がった以上

魔王眷属にも動いてもらい、共倒れを狙うプランも立てていた。

ところが、ベオウルフの顛末を知る一部の議員が、ほかの魔王眷属も同様の事が起こらないか

不安を抱いたため、頑なに首を縦に振らなかったのだ。

 

ベオウルフの顛末は、イェッツト・トイフェルによる多少の情報操作はあったものの

それほど嘘はついていない。ついていないが、それ以上に不可解な点が多すぎる――

というのがイェッツト・トイフェルによる調査結果だったのだ。

ベオウルフがアインスト化した原因は全くの不明。

故に、ほかの魔王眷属にも同様の事が起きないか

議員である貴族悪魔は気が気でならなかったのだ。

 

二つ目。これも議員から反対の声が上がった。

特に大王派と呼ばれる派閥だ。確かに先の覇龍騒動におけるアインストとの戦いで

人間が作ったナイトファウルという武器や、アルギュロス、アントラクスという弾丸は

アインストに対して有効打となり得た。

これが人間がアインストに勝てた最大の理由とさえ言える。

サーゼクスが人間界の国会議員・須丸清蔵(すまるせいぞう)から持ち得た情報だ。

 

ところが、ここにきて悪魔のプライドが邪魔をする。

特にバアル家の先代当主ゼクラム・バアルは「ここで人間に借りを作っては悪魔が嘗められる」

と言わんばかりに頑なに人間の技術の導入を拒否したのだ。

既にある程度人間の技術は冥界に流入しているが、軍事技術はその限りでもない。

軍事技術について人間を頼るということは

自分たちの軍事技術が遅れていることの証左になる、と。

自分たちはおろか天使や堕天使の足元にも及ばないと見做している

人間に技術面で遅れを取っていると認めることは

彼にとって耐え難いものであったのだ。

 

これについては、イェッツト・トイフェルは賛成していたが

(後日自分たちの運用している兵器の技術に応用するという意味も含め)

意外なことにサーゼクスら四大魔王が全員一致で反対したため、却下となった。

それが彼らを魔王に任命したゼクラムの息によるものなのか

あるいは別の何かまでは定かではないが。

 

最後に三つ目。これは現状を口実に和平を結ぼうとする四大魔王の意向によるものだ。

だが、これは「仮想敵の禍の団(カオス・ブリゲート)がアインストに変わっただけではないか」だの

「どういう理由で和平が結べなかったのか四大魔王は何も理解していないのか」だの

議員の貴族悪魔とイェッツト・トイフェルから反対の声が上がり、却下となった。

 

このように、余裕のない現状では仕方のないことかもしれないが

誰もが自分の意見ばかりを押し通そうとし、足を引っ張りあう。

人間の国会では珍しくもない光景だが、それを悪魔の国会で見ることになろうとは。

そういう意味でも、リーは現政府に失望していた。

 

「……ま、今の俺はイェッツト・トイフェルお付きだけどな。

 それもヤバくなったら人間社会にでも亡命するか……神仏同盟でもいいな。

 コネは一応できてることだし」

 

吐き捨てながら、リーは国会中継を映し出していたテレビの前から去っていく。

悪魔の未来には、暗雲が立ち込めたままだ。

 

――――

 

――某所、フューラーの基地

 

ハーケンクロイツの描かれた旗が下げられた、フューラーの執務室ともいうべき場所。

そこで、フューラーは部下から報告を受けていた。

 

「……閣下、作戦結果の報告がございます」

 

「うむ。

 ……ふ、フフフ……ククク……そうか、やはりそうか。

 あのJunge(若者)に聖剣を持たせたのは、正解だった。

 私の求めていたものを、炙り出してくれたのだからな」

 

「……と言うことは、ついに『聖槍』を……!?」

 

白を基調とした軍服に、ケルト結びの模様が入ったケープを纏った存在。

白い肌に長く美しい金髪、丸みを帯びたボディラインが

その存在を女性であると認識させるが

顔には「顔が描かれていない」仮面をつけている。

 

――つまり、彼女もまた聖槍騎士団の一人であると言える。

 

その彼女が、フューラーに対し報告を行い、フューラーはその報告を受け

ついに己の探し求めていたもの――聖槍の手掛かりを掴んだのだ。

 

「では、直ちに部隊を派遣して……」

 

「フッ、慌てずともよい。

 這い寄る混沌からは何者も逃れられんのだ。

 ならば、我々が戦いやすい場所に来たところを奪い取ればよい。

 

 それに……聖槍を持った彼には我々の『同志』になってもらおうじゃないか。

 彼も私と同じ『英雄』なのだからな」

 

己を英雄と嘯くここにいるフューラーと、かのヒトラーの関連性は不明である。

影武者、部下、同一人物……今わかっているのは禍の団という組織に属し

この世界の神や悪魔の存在を公に広め、彼らと戦い

そのためにはテロ行為も辞さないという、ちょっとした過激派であるという事実。

 

しかしそれは、曹操が掲げている「怪異は人間によって倒されるべきである」という思想と

何ら変わりはない。フューラーはそれを有言実行し、曹操はまだその実績がないだけ。

そういう意味では、フューラーは曹操と組むことに前向きである。

 

……ただし、フューラーが語る「英雄」と曹操が語る「英雄」

この両者には大きな隔たりがあるであろうことは、想像に難くない。

 

「閣下。もし彼が我らに賛同しない場合は……」

 

「その場合は当然始末する……いや、『させる』事になるだろう。

 大衆を殺すのは怪物、怪物を殺すのは英雄、ではその英雄を殺すのは……

 

 ……大衆なのだからな。そして大衆は容易く流される。

 わかるか? 英雄とは、かくも脆いものなのだよ」

 

半数が倒された聖槍騎士団だが、持っている聖槍のコピーは

特に神器持ちの人間に対して大きな一撃となる。

さらに、まだ聖槍騎士団以外にもナチスがかつて開発したとされる兵器の数々や

聖槍騎士団には及ばないながらも、武装したナチス兵を思わせる軍隊。

彼らはいまだ健在なのだ。

 

だが、フューラーの最大の武器は「演説」でもある。

この演説によって三大勢力が致命的な打撃を受けたのは記憶に新しい。

神や天使、悪魔も捉え方によっては英雄である。

彼は、大衆を扇動し英雄を殺させたに過ぎないのだ。

 

「大衆は、全てを決してくれる指導者を欲するのが常よ……

 先を煩い決を下すのは、苦痛だからな」

 

その物言いは、確かにかつてドイツの民衆を言葉巧みに操ったヒトラーそのものであった……

 

――――

 

――沢芽(ざわめ)市・港湾倉庫。

 

マフィアや暴力団の取引場所の定番ともいえるこの場所に

錠前ディーラー・シドと台湾マフィア・天道連(ティエンタオレン)のメンバーが取引をしていた。

 

「約束の品だ。受け取れ」

 

シドが寄越したケースの中には、戦極ドライバーとマツボックリのロックシードが入っていた。

つまり、すぐにでも黒影トルーパーとして運用できる完成品だ。

中身を確認し、札束をシドに寄越す天道連のメンバー。

取引を終え、立ち去ろうとするシドをリーダーが呼び止める。

 

「……待て。前に言ってたロックシード、入って無いね」

 

「……チッ。製造過程にトラブルがあってな。ロールアウトは延期なんだとよ。

 代わりにロックビークルが入っているだろうが。新型よりもいいものなんだぞ、それ」

 

天道連の言う新型のロックシードとは、Aランクのロックシードを指しているのか

シドがユグドラシルタワーの地下で破損させてしまった者を指しているのか定かではないが

内容物を詰られたことに腹を立てたシドは、吐き捨てるようにロックビークルの存在を指し示す。

 

中に入っているのはダンデライナー。

タンポポを模した大型ロックシードから変形するロックビークルで

高機動かつ飛行可能で、機首部分にガンバレルユニットが搭載されている他

タンポポの花を模した部分からは高出力のビームも撃てる。

これの量産に成功しているというのだから

もはやユグドラシル驚異のメカニズムと言わざるを得ない。

強いて欠点をあげるとすれば、出力が高すぎるがために小回りが利かないことくらいか。

 

「さて……今回はもう一つ、頼みたいことがあってな」

 

改めて、シドが口を開く。それと同時に、シドの後ろから黒服の男達が現れる。

曲津組(まがつぐみ)の後継組織、八十曲津組(やそまがつぐみ)の組員だ。

八十曲津組と、天道連は協力関係にある。

よって、シドを介さずとも足並みはそろっているのだが――

 

「近々、ユグドラシルタワーでバケモノどもがいっちょ前に会談をやるらしくてな。

 そいつらにちょっとちょっかいを出してほしいんだよ。

 インベス使おうが、戦極ドライバー使おうがどっちだっていい。

 だが、これは『製造元』きっての願いだってことも、頭に入れておいてくれや」

 

ユグドラシルタワーで会談を予定しているのは、北欧の神々と日本の神仏だ。

彼らを指してバケモノとは、シドも罰当たりではあるが

神も悪魔も、人から見れば大差ないという意味ではシドの言葉はさほど間違ってない。

 

警察が警護を行う裏で、マフィアと暴力団が襲撃予定を立てている。

人間界も、平和とは程遠い現状であった――

 

 

――だが、後に思い知ることになる。

 

  覇龍騒動も、ユグドラシルタワーでの出来事も、まだ始まりに過ぎないということを。




蔵王丸警部という新たな司令塔の下活動を再開した超特捜課。
その初めの大きな任務は、沢芽市で行われる神仏同盟と北欧神話の会談の護衛だった。

しかし、それを快く思わない存在は、確かに存在していた。

追い詰められた悪魔、道を誤った天使、風前の灯の堕天使。
そして……暴走を始めようとしている人間。


次回
ハイスクールD×D 学級崩壊のデビルマン

第一章「社会見学のユグドラシル」

……この世界は、誰がために。


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選ばれなかった可能性達
Will35.4~41 if. 弾丸の行方 Aパート


半年ほどお待たせしました。
以前アンケート頂いた「セージをイッセーが撃つか撃たないか」の
結果において、選ばれなかった差分の投稿となります。


※注意事項
あくまでも「選ばれなかった可能性」の話であり
本編の時間軸はイッセーがセージを「撃った」ものとして今後も進んで行きます。


――ようこそ、普遍的無意識の世界へ。

 

この世界の物語を垣間見ている諸君は既に私を知っているかもしれないが

改めて、名乗らせていただこう。私の名はフィレモン。意識と無意識の狭間に住まうもの。

 

今回は諸君の名を問うためではなく……

「選ばれなかった可能性」をご覧いただこうかと思い、ここにお越し願った。

 

世界は人の心の、選択の数だけ存在する。

ここでこうして諸君に話しかけている私と、諸君のよく知る私もまた、違う存在かもしれない。

この両者はいずれも私であり、私ではない。これについて語るのは長くなるし

今回の本題からは逸れるため、ここまでとさせていただこう。

 

 

今回諸君にご覧いただくのは……

 

「撃たなかった選択と、別のものを撃とうとした選択」だ。

 

赤龍帝を身に宿す少年・兵藤一誠は宮本成二に対し銃を向け、その引鉄を引いた。

だが、この「選択」にも例外なく「選ばれなかった可能性」と言うものが存在する。

これから、諸君にはその「選ばれなかった可能性」をご覧いただこう……

 

 

 

――――

 

 

 

「まだ決めかねているのなら、はっきりと言ってやろう。

 こいつを撃たなければ、お前は未来永劫ハーレム王にはなれないぞ!!」

 

岩戸山(いわとやま)の最奥、鏡の泉。

そこで白音を人質に待ち構えていた宮本成二のダークサイド

即ち心の影が形を成した存在――シャドウ成二。

彼はイッセーに対し、セージに散々苦汁を舐めさせられた

その仕返しをしろとばかりに拳銃を投げ寄越す。

投げ寄越された拳銃にはかつてドライグを止めるために発砲したとはいえ

人体――イッセーは悪魔だが――には過剰火力とも言うべき神経断裂弾(しんけいだんれつだん)

その時と同じように一発だけ込められていた。

 

逡巡していたイッセーではあったが、「撃たなければ、ハーレム王にはなれない」。

その言葉が、イッセーの中でぐるぐると回っている。

 

(俺は今までハーレム王になるためにいろいろやって来たんだ……

 ナイア先生のお陰で、朱乃さんやイリナが俺のところに来てくれた!

 セージは邪魔ばかりしてるけど……セージが邪魔しようが、ナイア先生がいてくれたから

 俺のハーレムはようやく成立を始めたんだ! いつかリアスだって必ず……!

 だ、だから……何を迷う事があるんだ、俺は!!)

 

イッセーの瞳には、迷いの色が色濃く浮かび上がっている。

確かに目の前の存在――セージに対する恨みはある。

だが、それでもイッセーは発砲に踏み切れずにいた。

そんな様子を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)――ドライグは内側から白けた目で眺めていた。

 

(……バカが。やるならやる、やらないならやらないではっきりさせろ。

 以前ならともかく、もう霊魂のを殺したところでお前に悪影響はないだろうが。

 しかし、このやり口はたかだか人間一人の悪意のみで為せる業ではないな。

 後ろにもっと大きな……得体の知れない悪意の塊でもあるというのならば話は別だが……

 

 ……やはりこいつもガキか。たかが人間の悪意如きで殺意を植え付けられおったからに)

 

ドライグの思っている通り、シャドウ成二はセージに銃口を向けるイッセーを眺めており

その表情には、邪悪さがこれでもかと込められていた。

対照的に、銃を向けられているセージは膝をつき、項垂れたまま顔を上げようともしない。

 

そんなセージに対し、イッセーは一向に引鉄を引こうとはしない。

寧ろ、その手は未だに震えているのだ。

そんな様子に、シャドウ成二もいよいよ痺れが切れ始めていた。

 

「…………殺す気があるのかないのか。この程度で迷うってのは

 お前のハーレムに対する情熱は、その程度のものだったのか?」

 

「そ、そんなわけが……っ!!」

 

シャドウ成二に言われてもなお、イッセーは引鉄を引かなかった。

そうこうしている間に、項垂れていたセージが頭を起こし始める。

頭の上で騒いでいる己の影とイッセーに、ただならぬものを感じたのだ。

 

 

「…………もういい。時間切れだ。

 その程度の覚悟しかなかったお前を処刑人に選んだ俺の人選ミスだ。

 夢を追うのに人を殺める気概も無いとか……ガッカリだよ。

 一人殺すも二人殺すも変わらないだろうが。それとも、一人殺して日和ったか?」

 

「バカ言うなよ! 俺はハーレムの夢をあきらめてなんか……!!」

 

「邪魔者一人殺せないくせに口だけは一人前だな……もういいよ。

 お前がやろうがやるまいが、どの道俺の不始末は俺が付けなきゃならないんだからな。

 

 ――消え失せろっ、意志薄弱で腰抜けのサルが!!」

 

EFFECT-FEELER!!

 

シャドウ成二が反転(リバース)()記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)から実体化させた触手は

イッセーに何の加減もなく叩きつけられる。

その衝撃でイッセーが持っていたニューナンブは曲がってしまい

使い物にならなくなってしまった。

 

イッセーを弾き飛ばした触手はそのままセージの手首・足首・首の五か所に巻き付き

ミシミシと締め上げていく。

 

「あぐ……く……っ……!!」

 

「予定とは少し違ったが、お前を処分するという当初の予定からは何も変わらない。

 ここで死ね。死んで詫びろ。これ以上、生きて害悪を撒き散らさないようにな」

 

 

 

「――そうはさせない!」

 

〈ブドウスカッシュ!〉

 

 

セージを締め上げる触手は、光実(みつざね)――龍玄(りゅうげん)のブドウ龍砲の攻撃で千切れ飛び

セージは触手の拘束から解放され、再びへたり込みせき込んでいる。

すかさず白音がそこに駆け寄り、その背を擦る。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……二人とも、ありがとう」

 

起き上がったセージは、シャドウ成二に対し身構える。

それは誰に言われるでもない無意識の生存本能からくる行動であり

そこには自罰感情など微塵も無かった。

 

「生き残る」。ただそれだけのシンプルな、そして生きとし生けるものにとっては

当たり前の感情を以て、セージはシャドウと対峙していたのだ。

 

 

「……クハハハハハッ! そう来るか!

 確かに俺とお前は切っても切れない間柄だ。だがそれだけに互いに対する憎悪も深い!

 生きたくばかかって来い! 俺は、俺ごとお前を滅ぼす存在だ!」

 

「……悪霊に呑まれたのもあるだろうが、俺にそういう感情が無いとは言わない。

 だがここまでしておいて、やることが自殺は無いだろう!

 他人に迷惑かけた落とし前は、俺の手できっちりと付ける!」

 

 

二人の宮本成二の鬨の声が、洞窟に木霊する。

程なくして、激しい戦いが始まり。その戦いは、立会人としてその場にいた

通りすがりの仮面ライダー――ディエンドの手でさらに混沌を極めることとなるのだった。

 

 

――――

 

 

傀儡(KAMENRIDE)仮面戦士(仮面ライダー)を、悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)を、そして「僧侶(ビショップ)」の力で召喚された

異界の死の神の雛型(アナザータナトス)を退け、辛くもシャドウ成二を下すことが出来たセージ達。

 

しかし勝負に負けたにも関わらず、シャドウ成二は不敵な笑みを崩さない。

それどころか、精神面での優位性はある程度保ったまま、その姿を黒い靄と共に消してしまう。

 

 

――影は常に傍にいる。いつも……『お前のとなり』にな。

 

 

そう言い残し、高笑いと共に消え去ったのだ。

 

明確な殺意を持ち、手を変え品を変え苛烈な攻撃を繰り出してきたシャドウ成二。

その攻撃に、一度は全滅寸前まで追い込まれながらも辛うじて勝つことが出来たのは

セージ自身の「影を受容し、なお諦めずに立ち上がる」意志の強さと

そんな彼の心の支え――絆を紡いだ結果であった。

紫紅帝の龍魂(ディバイディング・ブースター)でも、悪魔の勇者(アモン)の力でもなく、ただの人間の心の強さ。

それが決定打となったのだ。

 

 

激戦を制し、傷を癒すセージ達。その最中、ふとセージはイッセーに尋ねる。

 

「……お前、何故あの時俺を撃たなかった?」

 

それは銃口を向けられたセージからすれば当然の疑問だった。

ある程度以上の信頼関係があれば、こう結論付けられる。

「撃つはずがない、仮に撃ったとしてもそれは相応の理由がある」、と。

 

しかし、今のセージとイッセーに、そこまでの信頼関係は無かった。

いや、崩れ去ったと言うべきなのかもしれないが。

つまり、セージは「こいつは俺を撃つかもしれない」。そういう風にイッセーを見ていたのだ。

しかし、実際にはこうして撃たれずに済んでいる。そう言う意味でも、単純に疑問だったのだ。

 

「そ、それは……」

 

「ハーレム王になれたお前の虚憶(きょおく)との誤差を修正する上では

 確かにお前の虚憶に存在しない俺を消すのが手っ取り早いだろう。

 そして、そこを自死も選択肢に入るほど膨れ上がった俺の心の影に付け込まれた。

 言っちゃなんだが、俺の心の影とお前の目的。利害が一致していたと見るのが自然なんだよ。

 

 それなのに、お前は俺を撃たなかった。それは何故だ? すまんが俺には皆目見当がつかない。

 単に俺が気になっただけだから、言いたくないなら言わなくともいい。

 寧ろそれ位わかれと言いたいのなら……それは察しが悪くてすまなんだ」

 

しかし、そんなセージの質問にもイッセーは答えることは無かった。

応答はしどろもどろで、要領を得ない。

 

「……そうか。変なこと聞いて悪かったな」

 

「いや……」

 

いつもならば嫌味を言うセージに、イッセーが突っかかるケースが多いのだが

今回はセージもシャドウにばらされた悪行もありイッセーに強く出られないこと。

イッセーの側も殺意が有耶無耶になってしまったことでセージに対し困惑した感情を抱いている。

 

イッセーがセージに向けていた殺意は、本物であったのだろうか。

引鉄を引くことを躊躇わせたのは、ハーレム王の夢への覚悟の足りなさの表れなのだろうか。

或いは、イッセーの心の奥底に残っていた…………

 

イッセーがセージを終ぞ撃たなかったその理由。

それを知るものは、誰もいない。

そう、当事者であるイッセー自身でさえも。

 

 

 

その後、セージらは自称盗聴バスターの弟子である悪魔の少女や

オカルト研究部らを加え、警視庁公安部の一部を巻き込む形で

突如として顕現したクロスゲートによって何処かへと飛ばされることとなる――




「能動的に撃たなかった」と言うよりは
「迷った挙句撃つのに踏み切れなかった」感じですね、これ。

「友情を理由に攻撃の手を緩める」って兵藤一誠のキャラクターからすると
実はあまり想像つかない行動、だと思ってます。
いやだって言うほど友人を大事にしてるムーブ無いですし
松田元浜は割と「上から目線」で接してる風潮ありますし
木場も言うほど友人として接してるかと言うと……?
イッセーの友人って、言うなれば「悪友」って存在が多い風に思えて。
松田元浜は実際そうですし(自分の事棚に上げて)、木場は太鼓持ち。
匙も悪魔社会として見ると悪友にカテゴライズしてもよさそうな。
ヴァーリや曹操は……友人カテゴリじゃないですし。


戦闘シーンカットは凡そ本編の流れと同じなため。
白音は新必殺技出しましたし、ライリィには進化しましたし
強いて言うならシャドウ成二倒すのにイッセーがあまり協力しなかったり
クローズマグマがノーマルクローズになった程度。
その分セージの気力が開幕から高いのでその分でバランス取っちゃった感じ。

※03/03
章管理に伴いタイトル変更。


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Will35.4~41 if. 弾丸の行方 Bパート

――如何だっただろうか。

 

この選択が正解だったか、或いは選んだ選択こそが正解だったか。

その回答の合否を決めるのは、私ではない。君達自身だ。

そしてそれは、今こうして物語を紡いでいる彼ら自身にも言えることだ。

 

 

ではもう一度、今度は「もう一つの選ばれなかった可能性」をご覧いただこう――

 

 

――――

 

 

 

「まだ決めかねているのなら、はっきりと言ってやろう。

 こいつを撃たなければ、お前は未来永劫ハーレム王にはなれないぞ!!」

 

岩戸山の最奥、鏡の泉。

そこで白音を人質に待ち構えていた宮本成二のダークサイド。

即ち心の影が形を成した存在――シャドウ成二。

彼はイッセーに対し、セージに散々苦汁を舐めさせられた

その仕返しをしろとばかりに拳銃を投げ寄越す。

拳銃にはかつてドライグを止めるために発砲したとはいえ、人体――イッセーは悪魔だが――には

過剰火力とも言うべき神経断裂弾(しんけいだんれつだん)が、その時と同じように一発だけ込められていた。

 

逡巡していたイッセーではあったが、「撃たなければ、ハーレム王にはなれない」。

その言葉が、イッセーの中でぐるぐると回っている。

 

(そ……そうだ! 何をためらう必要があるんだ!

 こいつのせいで部長は……リアスは辛い思いをさせられて!

 三大勢力の和平だって果たされずに、悪魔は今なお滅びに瀕してるじゃないか!

 それなのにこいつは、そんな悪魔に手を差し伸べるどころか

 その手を踏みにじるようなことばかりしてるじゃないか!

 

 そうだ……俺が、俺がやらなきゃ、こいつを……悪魔の敵であるこいつを!)

 

迷っていたイッセーの瞳に、セージに対する個人的な憎悪と

悪魔を救わんとする義憤が入り混じった炎が宿る。

そんな様子を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)――ドライグは内側から白けた目で眺めていた……のだが。

 

次の瞬間、ドライグは己の宿主の思わぬ行動に目を丸くすることとなる。

 

 

静まり返った洞窟内に響き渡る、火薬の破裂する音。

静寂の空気を切り裂く形で、イッセーの構えたニューナンブからは煙が立ち上がっていた。

 

 

(……こいつは驚いた。まさか、こうも躊躇いなく引鉄を引けるとはな。

 仮にも、こいつは一年前は普通に交友のあった相手じゃないか。

 一人殺したことでタガが外れたか、或いは元々……まあ、俺の知った事では無いがな)

 

 

何の躊躇もなく引鉄を引いたイッセーの行動に、流石のドライグも舌を巻いたのだ。

しかも、相手は同じクラスだったはずの宮本成二。

まるで、自らの行いの結果など考えていないかのように。

 

その行動は、対象となったセージや、唆したシャドウ成二はもとより

その場にいた他の者達にも少なくない衝撃を与えたのだった。

 

 

「そ、そんな……!?」

 

「まさか!? 何のためらいもなく……!?」

 

ギャスパーと光実(みつざね)は、目の前で行われた凶行にその目を疑い。

 

「……せ、セージさん!!」

 

絶句する白音に、治療のためセージに駆け寄らんと飛び出すアーシア。

それほどまでに、周囲に与えた衝撃は大きかった。

その衝撃を与えた張本人のイッセーは、興奮からか肩で息をしているが

努めて冷静に、飛び出そうとしたアーシアを制止する。

 

「だ、大丈夫だアーシア。俺が撃ったのは……」

 

イッセーはそう言って、シャドウ成二が立っていた方角を指差す。

その先には、シャドウ成二が崩れ落ち…………

 

 

 

…………て、いなかった。

 

 

「な……!? そ、そんな……!?」

 

「クッククククク……どうした? 何を驚く必要がある?」

 

今度はセージを撃つと見せかけて、シャドウ成二を撃ったはずのイッセーが衝撃を受け

シャドウ成二はわかりきった事とばかりに、不敵な笑みを崩していなかった。

 

「そ、そんな……俺は確かに、お前を狙ったはずだ……!!」

 

「ククク……大方、セージを狙うと見せかけて俺を撃つ腹積もりだったんだろうが。

 お前……俺の名前、もう一度言ってみろよ」

 

未だに不敵な笑みを崩さないシャドウ成二は、ここぞとばかりにイッセーを挑発する。

イッセーに問いかけるその問い。「俺の名前を言ってみろ」。

彼は間違いなく宮本成二である。その事は、再三彼自身が言っており

セージ自身もシャドウ成二の事をまた、宮本成二であると表面上は認めている。

 

……つまり、シャドウ成二とは宮本成二である。

 

「み、宮本……成二……」

 

「そうだ。俺は宮本成二だ。お前は粗方『宮本成二は宮本成二でも、俺を撃てばいい』。

 などと考えて、俺を狙ったのかもしれんが……

 

 

 ……残念だったなあ! お前の後ろを、振り返ってみたらどうだ?」

 

シャドウ成二は邪悪な笑みを浮かべたまま、イッセーに振り向いてみるように促す。

確かにイッセーはシャドウ成二を狙ったはずだ。しかし、シャドウ成二には傷一つない。

そして「後ろを見ろ」と促すシャドウ成二。それらが意味するところは――

 

 

「……ぐ……くっ……!!」

 

 

イッセーが振り向き、つられてイッセーの向いた方角に目線を向ける一同。

そこには、突っ伏して地面を赤く染めるセージの姿があった。

 

「せ、セージさんっ!!」

 

そのただならぬ様子を見たアーシアは、目もくれずにセージの下に駆け寄る。

いくらセージが自前で回復が出来ると言っても、深い傷を負った状態のセージを無視できるほど

アーシアは冷淡ではなかったのだ。

しかも、これは人体には過剰威力ともいえる神経断裂弾。

イッセーに向けられた際でも身体に直接撃ち込まれたわけではない。

それが、今はマグネタイト保有量以外は普通の人間であるセージに撃ち込まれたのだ。

何処をどう見なくとも、致命傷である。

 

「な……なんで……!?」

 

「言ったよな? 俺は宮本成二、だと。

 つまりだ。俺を撃つという事は、そいつを撃つ事だ。

 お前が銃を向けた、憎しみを向けたのは間違いなく『宮本成二』なんだよ。

 俺を倒せば解決する? そりゃあ無理だな。

 お前は、人の心の影の何たるかを全く理解しちゃいない。

 ま、お前に理解してほしくも無いがな。

 

 わかるか? お前の作戦は他でもない『浅知恵』に過ぎなかったんだよ」

 

シャドウ成二の手には、REFLECT(反射)のカードが握られていた。

何のことは無い、シャドウ成二はイッセーが自分を狙うであろうことも見越したうえで

このカードをあらかじめ仕込んでおいたのだ。

弾道さえも計算に入れていたのか、反射された神経断裂弾はイッセーではなく

セージに直撃するコースになるように、シャドウ成二は位置を決めていたのだ。

 

イッセーがセージではなく自分を狙う事さえも、シャドウ成二は見越していたのだ。

それはセージ自身が「イッセーの事だから、自分に危害を加えるかもしれない」。

そう考えていたのだ。

 

その考えは当然シャドウ成二も持ち合わせており

それを見越したうえで尚、シャドウ成二はイッセーに神経断裂弾入りの拳銃を寄越したのだ。

 

「当てが外れて残念だったなあ? そしてお前の気持ちはよくわかったよ。

 『俺を殺したいほど憎んでいる』、そう言う確信は持てたのだからな。

 不確かな妄想に縋って、周りに憎しみをばら撒き続ける。

 それがお前の夢の代償だよ。夢を追うのはいいがな、代償はきっちり払え」

 

「お、俺は……そんな、八つ当たりみたいな真似はしてねえ!

 俺が戦った相手は、みんなそいつが悪いからだ!

 悪事を働いた奴を倒すのは、当たり前だろうが!

 代償も何も、そうなって当たり前だからだ!」

 

イッセーの主張。それは、今まで戦った相手は世界を脅かす相手である。

故に、自分達の行いは正義である。そう言う事であった。

しかしそれは、妄信的な正義である。そもそも、イッセーが属している悪魔と言うものは

人間にとって、必ずしも益の存在であるとは言えない。

と言うよりも、イッセー自身が益を齎す存在であるとは言えない部分も少なくないのだ。

にもかかわらず正義を語るのは、きわめて独善的であると言える。

 

「悪行の塊であるお前がそれを言うか……まあ、いいがな。

 だが、都合が良かったな。お前が憎くて憎くてたまらない奴を生贄に捧げたんだ。

 夢ってのはな、周りの連中の屍の上に立ってるんだ。

 それはお前のハーレム王の夢だって例外じゃない。

 血塗られた夢に溺れて、間違った世界と共に沈めばいいさ。

 ククク……クハハハハハハッ!!」

 

高笑いと共に、シャドウ成二はセージにとどめを刺さんと武器を構える。

神経断裂弾を撃ち込まれたことで、セージは戦う力を失っている。

アーシアが必死に治療を試み、白音も気を送り込むことで延命をしているが

神経断裂弾のダメージは人体には大きすぎた。

 

シャドウ成二の攻撃がセージに突き刺さろうとした瞬間。

何処からともなく砲撃が敢行される。砲撃で巻き起こった土煙に乗じて

白音がセージを抱え上げ、体勢を立て直すことに成功したのだ。

 

「……い、今の聞いていたら、ちょっと急いででも駆けつけなきゃ、って気がしまして……ね」

 

砲撃を行ったのは、満身創痍のバオクゥだった。

火花が散っている砲台からは、煙が上がっている。

その様子を見たセージは、自分の治療もそこそこに

アーシアにバオクゥの治療を行うように依頼する。

 

「……あ、あとは自分の回復で何とかする……

 アーシアさん、バオクゥの方を……頼む」

 

セージの依頼通り、手早くアーシアがバオクゥの治療を行う。

本来白音の負傷対策で同伴したのだが、こうしてそれ以外の者達の治療が行われている。

こうして激戦区になったのだから、無理からぬことではあるのだが。

 

しかし、セージの言葉は彼なりの強がりであった。

そもそもアーシアの神器(セイクリッド・ギア)に比べれば、セージの持つ回復手段の回復能力は高くない。

しかも受けた傷は神経断裂弾によるものだ。

内部から破壊されているため、ちょっとやそっとでは治らない。

そのため、セージが戦闘に参加するのはこの状況では無理であると言える。

 

 

「……チッ。どいつもこいつも邪魔をする!」

 

一方で、面白くないのはシャドウ成二だ。

イッセーの銃撃を反射したことでセージに致命傷を負わせたが

そのセージを守ろうと怪我人まで出てくる始末。

それに対する怒りの感情が、彼が従えていた悪霊を強化してしまったのだ。

 

「死にぞこないがウロチョロと……俺は邪魔をする奴には容赦しない主義でな!

 半端に生かす理由も無いのだから、こうなったらここで全員始末してやる!

 お前達を全員悪霊にして、輪廻の輪から外してやるのさ!!」

 

そう言うや、シャドウ成二は彼が持つディス・レヴを稼働させて悪霊達の機動部隊(ガン・レギオン)を召喚するが

その攻撃も光実が変身した龍玄の砲撃や、無数の蝙蝠になったギャスパーの攻撃で

制空権は拮抗状態になっていた。

そしてさらに、彼らにとって追い風になる出来事があった。

 

「……成る程。彼は既に『絆の力』をある程度紡いでいたわけだ。

 なら僕からはこれ以上手出しをすることもないな。

 その力の何たるかがわかっているのなら、(つかさ)の力を悪いようには使わないだろうしね。

 それに強大な敵を数を以て打ち倒す。珍しい事でもないしね」

 

「あ、あなたは……一体……!?」

 

ディエンドが参戦拒否を示したのだ。今さっき足止めをされたバオクゥにしてみれば

ここで自分達の妨害に打って出てこないディエンドの行動は不可解であった。

しかし、その問いに対する彼の答えは決まっていた。

 

「僕かい? 言わなかったかな、『通りすがりの仮面ライダー』だって。

 僕が気にかけていた彼も士の力を行使するのに最低限の条件は満たしているみたいだし

 もうこれ以上僕がここに居座る理由は無いかな。

 お宝をダメにしてくれた奴に対する制裁も、ある意味果たされてるようなものだしね。

 ここで彼や彼の仲間がこの試練に打ち勝てば、僕の意趣返しにもなる」

 

「……クッ、この期に及んで裏切るか、お前は!!」

 

そうなると一度は組んでいたシャドウ成二としても面白くない。

呼び寄せた悪霊が乗り移ったかのような怨嗟の声を上げるが

ディエンドは飄々とした態度で歯牙にもかけていない。

 

「裏切るも何も、僕は君の仲間になった覚えは一度も無いんだけどね。

 君風に言うなら利害の一致って奴さ。君だってそいつをいいように利用したんだろ?」

 

そう。シャドウ成二だって、イッセーを利用するだけしておいて諸共に始末しようとしたのだ。

裏切り云々については、決してディエンドの事を言えた義理ではない。

 

「……ククク、確かにそうだ。まあ、これ以上敵が増えるというのでなければ

 別に俺はお前がどう動こうが知った事ではないさ。

 お前の言うお宝とやらにも、俺は興味がない。

 人の世の法や平和を犯すのでなければ、どう動こうが知った事か」

 

「警察官から拳銃を奪っておいて法や平和を語るとはよく言うよ。

 ま、それこそ僕には関係ないけどね。

 じゃあお言葉に甘えて、今回はお先に上がらせてもらおうかな。それじゃあね」

 

 

ATTACKRIDE-INVISIBLE!!

 

 

そう言うや否や、ディエンドは姿を消して何処かへと去ってしまった。

 

しかし、ディエンドの抜けた穴をものともせずにシャドウ成二は悪霊達の機動部隊や

僧侶(ビショップ)」の力で召喚された異界の死の神の雛型(アナザータナトス)を次々と繰り出し

数の不利を感じさせない戦いを繰り広げることとなる。

 

その戦いを辛うじて制したのは、セージを欠きながらもシャドウ成二を倒さんと戦い続けた

白音、アーシア、ギャスパー、光実、バオクゥ、そしてイッセー。

しかし本来、この戦いはセージとシャドウ成二の戦いであったはずなのである。

それなのに、セージはいの一番に脱落し、肝心のシャドウ成二との戦いに関与できなかった。

言わば、セージ不在のままセージは己との戦いに臨むという

不可思議な構図が生まれてしまったのだ。

 

その事に気づいていたのか、シャドウ成二も負けは認めたものの

セージ自身の戦いに終わりはない、どころか

 

「意味のない戦いとは言えお前達の勝利は勝利。精々、感傷に浸っているんだな。

 だが覚えておけ。宮本成二は『殺されてもおかしくない程の憎悪を実際に向けられている』。

 そして『己との戦いの場に出てきてすらいない』という事だ。

 ディエンドは納得したようだが、お前達はどうだろうな。

 俺を『宮本成二』じゃないと思っているのだとしたら……ククク……

 

 ……そう言う思いやりは本当に『絆の力』と言えるのかな……?

 本人がどう思おうが、お前達にとって『宮本成二』と言う存在がどういうものか……

 全く、いい仲間を持ったものだ。

 

 精々、お前達も『理想の宮本成二』とやらに縋るんだな」

 

シャドウ成二は負けたにもかかわらず、不敵な笑みを崩すことなく

高笑いをあげながら黒い靄と共にその姿を消していく。

 

その後、ダメージで気絶していたセージが目を覚まさないまま

リアスらが警視庁公安部に追われる形で合流。

突如顕現したクロスゲートによってまた別の場所へと飛ばされることとなったのだ――




と言う訳で
Aパートが「撃たない」
Bパートが「シャドウ成二を撃つ」

と言う選択肢の結果でした。

今回も戦闘シーンほぼカットですがご容赦を。
今回は正史とは戦闘内容結構異なっちゃいますが……


実はこの選択肢が一番の罠回答。
カメンライドのライダー達との戦闘が回避できるので
はなっから6対1でシャドウ成二を攻略できますが……

この戦いで一番肝心なセージが抜けているので「意味のない戦い」になってしまいました。
シャドウを出し抜こうったってそうはいかない。
しかもその相手が頭脳戦では勝てたためしの無い相手のシャドウとなれば。

相変わらずイッセーアレですけど、如何せん原作からして「反省」が無いとしか……
反省だけならサルでもできるとは平成の時代よく言われましたけど
だからって反省しない理由にはならないでしょう。

そしてさらに意地が悪いのが
「セージを助けるためにシャドウ成二と対峙するが、そのシャドウ成二もセージである」点。
勿論皆(約一名除く)善意で戦闘に参加している訳なんですが
本来向き合うべきである本人が不在のまま当事者の影と戦ったところで……
だからシャドウは「意味のない戦い」と吐き捨ててます。

しかも言外にシャドウ成二を「お前なんかセージじゃない」って周りが物語ってしまっている状態。
シャドウ成二のその後次第では、下手すりゃセージが廃人化することも……
(参考:ペルソナ2罪でのシャドウゆきの戦後)

シャドウはセージを殺すつもりで行動していて、それをいざ周囲が守ろうとすると
こう言う罠に陥るとかちょっと意地悪過ぎませんかね……


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物語の結末を決めるもの
Will Final A. 人類「は」平和になりました


Will36. ほんとの私はどれでしょう?
https://syosetu.org/novel/185653/102.html

今回本編を読まれる前に、最低限こちらをお読みください。


突如として、シャドウから提案された

 

――兵藤一誠の殺害。

 

いくら俺が兵藤に撃たれたからと言って、俺がこいつを殺す理由には…………

 

 

…………理由には…………

 

 

「どうした? 即断しないという事は、お前自身がこいつの死を望んでいるという事だぞ?

 こいつを消せば、後顧の憂いは断てる。人類に敵対する要素の一つを消し去れるという事だ。

 サーゼクスは、こんな奴に希望を見出しているんだ。

 その希望を断てば、脆弱な悪魔など瓦解する……

 いや、不平が噴出して内側から崩れ去るだろう。その時こそ、冥界は今以上の地獄になる」

 

『……俺が手を下すまでもないって事かよ』

 

シャドウの物言いに、アモンはどこか腑に落ちない様子で呟く。

アモンは、サーゼクスへの意趣返しが出来ればよいと言った部分もあった。

それが、自ら手を下すまでもなく悪魔は滅びるという可能性を突き付けられたのだ。

複雑な心境なのだろう。俺も悪魔を人間に置き換えて考えれば、複雑だ。

 

……そこまで悪魔は脆弱なのか、と疑問に思いもしたが

そもそも奴ら悪魔がモデルケースと称している人間が……だ。

人間を模倣すれば、結末も人間に準えることになったって、然程おかしな話でもない。

 

「順番が前後するだけだ。片づけられるものから片づけていく。

 何もおかしなことはあるまい?

 

 …………さあ、どうする?」

 

シャドウの言う事は、確かに尤もらしく聞こえる。

今は、少しでも人類を脅かす要因は取り除かなければならない。

 

それに、そもそもこいつは法の裁きを下そうとしても通じなかったじゃないか。

こいつが裁かれない選択肢など、あるはずがない。

だとしたら…………

 

……今のこいつが、そこまで大きな存在だとは思えない。

だが、ゆくゆく大きな存在になるのだとしたら

根を張り巡らせていないうちに間引くことも必要なのかもしれない。

 

 

 

……俺の心の揺れ動きは、一向に止まることを知らない。

未来を考えれば確かにこいつを殺すことは一つの解決策だろう。

だが、本当にそれでいいのか?

サーゼクスならまだしも、まだ何の影響も及ぼしていないこいつを、か?

 

……しかし、この敵だらけの現状。敵を減らすことが出来るのならば……

 

 

 

――人類を守るために、何をしてもいいのか?

 

――そこまでしなければ、人類は守れないのか?

 

 

アモンも、フリッケンもこのことに関しては何も言わない。

 

…………俺の、答えは…………

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

..

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

…………あれから、もう一週間が過ぎた。

 

あの時兵藤を抱えたシャドウは突如として岩戸山の洞窟を飛び出し

それを追った俺の前には、クロスゲートの淵に立つ兵藤の姿があった。

 

その時の兵藤の言葉が、たった一週間とは言え俺の胸に深く刻み込まれていた。

 

 

「お前の選択は確かに聞いたさ。これで人類は平和になるんだろ?

 だが忘れるなよ、お前は人類の平和と引き換えに

 たった一人の夢を奪い去ったんだ!」

 

 

そう言い残し、金色の瞳の邪悪な笑みと共に兵藤はクロスゲートへと落ちて行った。

そこから先の記憶はない。聞いた話では、クロスゲートは今までにない反応を示し

それに伴う影響で各地のアインストやラマリスが活動を停止したらしいこと。

 

そしてそれ以降一週間しか経っていないが、クロスゲートは再び休止状態に陥ったことだ。

 

 

アインストが活動を停止したという事は

必然的にアインストが首魁である禍の団(カオス・ブリゲート)の活動も止まる。

アインストと戦っていたフューラーの部隊も、突如として姿を消す。

アインストが活動を停止したことで、これ以上関与するつもりは無いと言わんばかりだった。

 

 

兵藤がクロスゲートに落ちて以降、暫くは混乱が続いていたが

災害と呼べるほどの被害は、意外なほどに起きていなかった。

珠閒瑠(すまる)市のJOKERや、沢芽(ざわめ)市に発生したインベスに関してはまだいくらか残っているようだが

意外なことに、駒王町を始めとして悪魔や堕天使の行動が一切見られなくなったのだ。

 

何が起きたのか、俺にはわからない。検索しても出ないのだ。

まるで、悪魔の――三大勢力の存在そのものが、この世界から消え失せてしまったかのように。

当然、オカルト研究部の面々も必然的にいなくなった。

 

火が消えたようだと表現するのが適切なほどに、駒王町は平和になったのだ。

 

 

 

――――

 

 

 

…………三大勢力も、アインストも現れなくなった事で世界は平和になった。

それはつまり、超特捜課の解散も意味していた。

 

元々、あの時すでに公安絡みで指揮系統が滅茶苦茶になっていたが

あの後公安のお偉いさんに汚職が発覚して、公安による超特捜課の接収の話そのものが

宙に浮いてしまっていた。それ以降、なし崩し的にその話は無くなったようだ。

 

蔵王丸(ざおうまる)警部も奈良県警に戻り、テリー警視も左遷先でとは言え警視に返り咲いたらしい。

氷上巡査は香川県警に、霧島巡査は交通課にそれぞれ異動。

安玖(あんく)巡査は警察を退職し、神器(セイクリッド・ギア)の封印に関して調べるべくどこかの財団が抱えている

調査団体に所属することになったようだ。

俺もそれについて行こうと思ったが、生憎まだ駒王学園を卒業していない。

そこに所属するには、タイミングが合わなかった。

 

 

……と言うかその駒王学園なのだが。

驚くべきことに、廃校となってしまったのだ。

俺達が三年に進級した、そのタイミングであった。

(俺の進級はかなり際どいものであったがそれは置いておく)

 

なんでも、理事長の不正献金疑惑が発覚したことで責任を取る形で辞職。

その後、誰も後釜が来ないまま……という事らしい。

なので俺は大那美(だいなみ)高校に転校することになったのだが……

 

……こっちに来た俺の知っている元駒王学園の生徒は、どうやら誰もいなかったようだ。

オカ研――リアス・グレモリー関係者はそもそも駒王学園廃校の前に既にいなくなっている。

松田も元浜も、進級と同時に別の高校に行ったらしい。出素斗炉異(ですとろい)金座(かねざ)で無い事を祈る。

まあ、超エリート校の金座は違う意味で無理だろうけれど。

 

甲次郎(こうじろう)らと久々にチームを組みながらも、どうにも心のどこかに隙間風を感じてならない。

そう思いながらも駒王学園の前を通りかかってみると、早いことに既に解体工事が行われていた。

 

建物は取り壊されているが、工事現場を目を凝らしてみるといつぞや出土した二つの石は

取り壊されること無く、未だ校庭にあったのだ。

 

ただ、どうも比麗文(ひれもん)石に関しては状態が悪かったのか、亀裂が入った事で

シートで覆われているとのことらしい。

この石に関しては、動かすこともできないのでこの場で石碑としてそのまま飾られるらしい。

その場合も鳴羅門(なるらと)石のみで、比麗文石に関してはその予定は無いようだ。

それ位、状態が悪いとのことだ。

 

 

そう言えば、俺はあの日以来フィレモンに会っていなければ

ベルベットルームにも入っていない。

まるで俺の、俺達の戦いなど無かったかのように、ここ最近は時が流れている。

少々うるさくも愛おしい、あの白猫と黒猫も……いつの間にか出て行ってしまったのだ。

 

 

…………これに関しては、一言言ってから行ってくれと本気で思っていたりする。

また、俺の知らない間に愛しい女性が姿を消したという事なのだ。

 

つまり、この感情が妹か姉のどちらに向いたものかは終ぞわからなかったが

姉さんの……お姉ちゃんに近いくらいには

あの猫どもの存在は俺の中で大きくなっていたって事だ。

 

……もう少し、まともな接し方を心がければよかったな。

結局、俺も何も変わっちゃいなかった。

 

 

 

俺は民俗学を専攻する大学に進むことにした。

民俗学の観点から、日本の妖怪や神仏について調べる魂胆だ。

あの日以来だんまりを決め込んでいるフリッケンとアモン。

こいつらの手掛かりが見つかるとは思えないが、それでも神仏同盟に関して調べることは

俺にとっていくらか有意義である気がしてならない。

 

……それに、もしかしたらあの猫どもに会えるかもしれないし。

あの時あれだけお姉ちゃんに拘っていた俺が、今は別の異性に執着している。

何も変わっていない自分に辟易とするが、同じ轍を踏まないように注意すればいい。

 

そしてわかった事なのだが、各地の神社仏閣の注連縄が不自然に千切れていたり

仏像が不自然に砕けていたりと言ったケースが各地の神社仏閣で起きており

社会問題になっているそうだ。

 

何かよくない気も感じられるので、パオフゥさんの紹介でその道に詳しい葛葉(くずのは)を訪ねてみると。

 

 

 

…………とんでもない事がわかったのだ。

 

 

 

――神仏同盟が、各地の神話体系と協力してその身を賭して全世界のクロスゲートを封印した。

 

 

 

そして、その封印の余波で人間界にいる怪異は表立って動くことは

一切できなくなった、とのことらしい。

それで俺の神器も動かなくなったし、アモンもフリッケンもだんまりを決め込んだのか。

この世界全体を覆った封印。それを施さなければならない程

あの時クロスゲートから発せられたエネルギーは膨大なものであったらしいのだ。

 

噂レベルではあるが、冥界ではクーデターが勃発。

悪魔の戦争に呼応する形で堕天使が自衛のために戦争に参加。

人間界から力を得られなくなった天界が

彼らにとっての脅威である冥界を滅ぼそうと狙っている。

 

人間界と言う油田を止められたことで、彼らは不毛な戦いを繰り広げていたのだ。

封印の影響で、その余波が人間界に来ることは無い。

 

 

 

…………人間界「は」、平和になったのだ。

 

 

 

確かに、俺は人間界の平和を望んだ。

これで明日も、明後日も、これから先も人間界はひとまず脅威にさらされることは無いだろう。

 

だが、そうであるとどうして言い切れる?

いくら脅威が去ったからって、また前と同じに戻ってはまた元の木阿弥ではないのか?

前は悪魔などの地下勢力ともいえる存在だったが、今度は宇宙から脅威が迫ったりしないのか?

あるいは、人間そのものが新たな脅威にならないと、どうして言い切れる?

 

それに備えるには、今の俺はあまりにも無力である。

そうならないことを祈るしか、今の封印を維持していくしか方法はないのかもしれない。

 

脅威を杞憂として生きていくのか、全てを忘れ安穏と生きるのか。

解決はしたが、解決はしていない。

 

 

 

 

帰り道、バイクを走らせながら眺める夕日は

どことなく翳って見えているような気がした…………




今までのご声援ありがとうございました。
「同級生のゴースト」から続く宮本成二の物語はここに完結いたしました。















嘘です。
最終話を番外地に載せている時点で嘘だとお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、嘘です。

今回は女神異聞録ペルソナや同4のバッドエンド意識してます。

こうなった理由は……
・兵藤一誠の全てを否定したこと
・一足飛びで問題を解決しようとした、つまり問題に対して横着な態度をとったこと
・自身も抱えている問題を棚上げしたこと

そしてこの世界の問題点は
・JOKERも、インベスもまだいくらか残っている
・臭いものにふたをしただけで、臭いものがまたいつあふれ出るかわからない
・そのふたが壊れかけている
・超特捜課絡みで起きたブレイクスルーが放置されてる(=人類同士の戦争にその技術が使われる可能性)
・同上、ユグドラシルの研究もストップしてない(ディアボロス×クロニクルェ……)
・セージ自身も散々露呈させた問題を解決してないどころか、また同じことしてる

悪魔とか人外勢力がいなくなったってだけで、世界そのものは何も変わってないので
ふとした拍子に悪魔とかが流れ込んできたり、人間が悪魔化するような事件が起きたら
その時こそこの世界滅ぶんじゃね……?


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