シェリー・ポッター (Mic)
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シェリーと手紙

 未熟者ですので、誤字脱字等ありましたら是非お願いします。
 感想・評価をいただけたらとても嬉しいのですが、誹謗中傷・コメントなしはお控えください。


 とある高級住宅街の物置で暮らす一人の少女は、自らの叔父・叔母への悪戯の計画を練っていた。

 悪戯の理由は、今週一週間、朝夕の食事が食パン一枚であったこと。これに抗議し、クーデターを起こすことにしたのだ。

 

 早朝、彼女は起き出してダイニングルームへ向かった。その手に握るのはノコギリ。叔父の椅子座面の裏に小さく切れ込みを入れる。そして、彼女の痩せ細った体ではあるが、座面に体重を掛け、ミシミシ言わせる。

 もう一度切れ込みを入れ、再び確かめる。

 何度も繰り返し、満足出来る程になると、彼女は自室である物置に戻っていった。

 

 数時間後、再び深い眠りについていた彼女が聞いた第一声は、甲高い声だった。

 

「起きなさい! 早く! それじゃないと、ご飯抜きですからね!」

「はいはい、すぐ行くわ、叔母さん。だから朝食はちょうだいね」

 

 若干声に笑いを含ませながら彼女は答え、テキパキと着替えてダイニングルームへ向かう。

 食パンを叔母から受け取り、自分の椅子に座って咀嚼する。いつもは半分しか食べず、夕飯に半分を取っておくのだが、今日は全て食べてしまった。

 

「おはよう」

「おはよう、あなた」

「おはよ、叔父さん」

「黙れ小娘、朝からお前の声を聞くなんて最悪だ」

 

 一家の大黒柱である叔父が、踏ん反り返ってダイニングルームへ入ってくる。少女は決定的瞬間を見逃さないように、しっかり彼に注目する。

 叔父はいつも通り椅子にどかりと座った。だが、早朝に限界まで切り込みを入れられた座面は、彼の膨大な体重に耐え切れず、椅子としての役目を放棄した。

 

 バキッ!!!

 

 座面が粉々に砕け散り、叔父は床に尻餅をつく。

 ちょうどダイニングルームに入ってきた従兄弟は間抜けな顔を晒し、皿を並べていた叔母は甲高い声をあげ、キッチンに立っていた少女の姉はため息をつく。そして少女は大爆笑。

 叔父は、一瞬で状況を理解すると、半径一キロメートル以内に居たら絶対に聞こえるであろう怒鳴り声を上げた。

 

「シェリィィィイイイイイポッタァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 シェリー・ポッター。これが、少女の名前である。

 

「バーノン叔父さん、血圧上がっちゃうよ?」

「誰のせいだぁぁぁあああああ!!!」

「うーんと。叔父さんと叔母さんのせいかな? だってご飯少な過ぎるんだもん。まともじゃないよ」

「小娘、掃除の罰だ!!!」

「きゃあ酷い、奴隷労働だぁ!」

 

 ふざけて言いながらも、シェリーはホウキとチリトリで座面の破片を片付け、椅子の座面を除いた部分をテキパキと解体していく。

 それを終わらせたあとは、夫婦の寝室、ダドリーの部屋から順番に、掃除道具を総動員してピカピカに磨き上げていく。次は廊下、そのあとは階段。物置も綺麗にし、一階の廊下も掃除し、リビング・ダイニングルームも光るまで磨く。

 掃除道具を外用に持ち替えて、剪定はさみや芝生はさみを駆使して庭を整え、花に水をやる。

 漸く終わったと思ったら、大工道具を押し付けられ、従兄弟のダドリーが友人達に自慢するために、椅子の残骸で精巧なバイクの模型を作った。

 開始時間朝七時半、現在八時半。一時間程で家中の大掃除が終わった。

 それを叔母のペチュニアに伝えると、今度は買い物へ連れ出され、スーパーで大量の買い出し。荷物は全てシェリーが持ち、三時間後、漸く解放された時には既にクタクタだった。

 

「キャリー、もう私駄目……」

「自業自得とも言えるけど、代わりに朝昼晩のご飯は食べていいって」

「食パンを?」

「残り物を」

「っしゃぁ!!!」

「けど、バーノン叔父さんは凄く怒って出社していったよ」

「そうしたら、もう一度反撃をするまで」

「物騒なんだから」

 

 シェリーの双子の姉、キャリーは呆れた顔をしながら家を出て行った。

 キャリーはおとなしい賢い子であったので、食事は簡素であったものの、ある程度ちゃんと扱われ、学校にも行って友人を作っていた。

 対して、シェリーは元気いっぱいな天真爛漫な子であったため、バーノンとペチュニアは持て余していた。容姿は整っているものの、勝ち気な性格は扱いにくかった。だから、彼女が悪戯をすると百万ボルトほどの雷を落とし、罰を与えていた。おかげで、学校に行けなかったり遅刻していったりで、友人は多いものの、夏休みも一緒に遊ぶ程ではなかった。

 

「暇だぁ……」

「暇なら手伝ってくれてもいいのよ?」

「遠慮しとくわ、叔母さん」

 

 手伝いという名の奴隷労働だとシェリーは解釈している。

 パスタと野菜サラダという昼食を食べ、ぼんやりしているうちに、いつの間にか夜になっていた。

 夜ご飯を食べたあと、朝の悪戯をしこたま怒られ、そのまま物置へ。そしてそのまま眠った。

 

 翌朝。

 ダーズリー一家が朝食をとっている最中、シェリーは郵便物を確認した。

 マージおばさんから……新聞……広告……キャリー・ポッター宛……私宛……ん?

 シェリーは一番最後の封筒をもう一度確認した。

 

 ——————

 プリベット通り四番地

   シェリー・ポッター様

 ——————

 

 キャリーならまだわかる。けど何故私に?

 シェリーは心当たりを考える。

 

 ———学校の成績? なら直接話すはず。この前の悪戯? それはもう怒られた。退学の通知? それはないはず。

 

 シェリーは封筒を裏返した。

 

 ——————

 ホグワーツ魔法魔術学校副校長

   ミネルバ・マクゴナガル

 ——————

 

 シェリーは閉口した。ただの悪戯だった。

 ダイニングルームに入り、バーノンに封筒を渡す。

 

「魔法魔術学校から、悪戯の手紙が届いてたわよ」

「ま、魔法魔術学校!?!?」

 

 バーノンが飛び上がったおかげで、朝食のスクランブルエッグがダドリーの顔に命中した。

 

「アツぃぃぃいいイいい!!!」

 

 息子が悲鳴をあげているが、ダーズリー夫妻は無視だ。

 キャリー宛とシェリー宛、二つの封筒を穴が開くほど見つめている。

 

「どうしたの、叔父さん、叔母さん。ただの悪戯でしょ?」

「悪戯じゃない……あのジジイ……絶対に行かせんぞ……!」

「悪戯じゃないの? じゃあ見せてよ。私の人生初の手紙なんだから」

「いいいいかん! 絶対にいかん! これは焼却だ!!」

「ちょっと酷い!! 見せてくれたっていいじゃん!!」

 

 バーノンは暖炉に手紙を突っ込み、掃除道具をシェリーに押し付けた。

 

「廊下をピカピカに磨き上げて来い。一時間後には手紙は完全に灰だろう、それまでずっとだ」

「……私何もしてないのに……」

 

 二時間後。

 家族全員が何処かへ出掛けたあと、シェリーは行動を開始した。

 行動は至って単純。

 一、暖炉の灰をかき集めて袋に入れ、それを夫妻のシーツの上にばらまき、上に布団をかぶせる。

 二、家中の壁に「手紙返せ!」と書いた紙を貼る。

 単純だが迷惑・目障りな悪戯の準備を終え、シェリーは庭に出た。外から見える植木の枝を剪定はさみでテンポよく切っていき、ペガサスを仕上げる。いいのか悪いのか区別がつかない気晴らしだった。

 

 バーノンが帰宅後、しこたま怒られて少し褒められたあと就寝となり、翌朝もう一つの悪戯に気がついたバーノンは、灰だらけのパジャマでシェリーに罰を与えた。

 それは、一週間の食事抜き。

 本当は一日だったのだが、灰だらけであることをシェリーがからかったため七倍の罰になってしまった。反省も後悔もしていないゆえの行いだ。

 

 自分の運命が変わりつつあることに、シェリーは気がついていなかった。



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