東方憑寄妖~Farewell no sorrow (tora@812)
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歌で人を惑わす
───いらっしゃい
───見たことない顔ですけどご来店初めてですか?
───ふふふ
───いえ、新しいお客さんを見ると、とてもわくわくするんです。私
───美味しいですか?ありがとうございます!
───えっ?やっぱりそれは嬉しいですよ。
───勘定ですか?分かりました。締めて……
───はい!またのご来店お待ちしてます!
昨日、猟をして帰る途中に赤提灯の屋台を見かけた。何となく飲みたい気分だったので暖簾をくぐることにした。最初店員の少女が鳥の翼を付けていることに驚いたが、来店客を喜ぶ様子や料理の美味しさで警戒心は和らいでいった。本当に美味しい店だった。今日もまた行こうかな?
───いらっしゃい。あれ?あなた昨日のかた?
───それはリピーターさんは嬉しいですよ。
───またおいで下さいね
「お前、最近調子良さそうだな?何か良いことあったのか?」
家の近くの店で買い物をしていると、猟仲間が声をかけてきた。
「あぁ、最近いい飲み屋を見つけてな。店員でちょっと驚くけど雰囲気も味もいいぞ」
「へぇ、それは興味あるな。今度連れてってくれよ」
「あぁ、今度一緒に行こう」
───いらっしゃい。あっ、一週間ぶりですね
───今度お友達を?えぇ、是非来て下さい
───また来て下さいね
「なぁ、今日空いてるって言ってたよな?こないだ言ってた店行かないか?」
「あぁ、そうだな行こうか」
「しかしお前、本当に調子良さそうだなぁ」
「あぁ、何だかあの店行くように成ってから毎日楽しくてな。念の為言っとくが毎日言ってる訳じゃないぞ!アル中じゃ無いからな」
「ははは、分かってるって。でもまあ、『病は気から』なんて言うからなぁ。しかし、お前そんなに何度も行くなんて本当に飯だけが目当てか?」
「バレたか。実は店員の娘が可愛くてな~。特に嬉しそうな笑顔がさ~」
「おいおい、お前男子高校生じゃあるまいし」
「いや、本当に可愛いんだよ。まぁ、今晩楽しみにしとけよ」
「あいよ、じゃあまたな」
───いらっしゃい。あぁ、こないだ言ってたお友達?
───へぇ、ならお二人は猟をしてて知り合ったんですね
───へ?そんな誉めても何にもでませんよ。でも少しだけサービスしようかな?
───またのご来店お待ちしてます。
───いらっしゃい。あぁ、いつもどうも。あの後お友達もリピーターさんに成ってくれましたよ!
───う~ん、一緒でも良いですけどやっぱり私は一人ずつを相手にする方が向いてるかな?それにアナタと話すの楽しいしね
───また来てね
「いらっしゃい。あ、また来てくれたの?嬉しい」
あれからずいぶんたったが、すっかり常連になってしまった。
「ずいぶん長いつきあいに成りましたね」
「そうですね。もう3カ月ですよ」
「もうそんなに経ちますか。まぁ、ここって飽きが来ないんですよね」
「ありがとう。やっぱり何度も来てくれないとって思ってるから」
「若いのに本当にしっかりしてるね」
「いえいえ、そんな事無いですよ」
「そういえばさ」
「ん?なぁに?」
何となく打ち解けてきて何でも聞けるように成ってきたので気になっていた事を聞いてみることにした。
「何で翼付けてるの?」
まぁ、最近の若い子のファッション何だろうけど会ったときからすごく興味があったので聞いてみることにした。
「あぁ、これ?これは、はえてるの」
「ははは、面白い冗談だね」
「面白いなら良かった。なぁ、冗談じゃ無いんだけどね」
「ははは、分かった分かった。そういうことにすればいいんだね?」
最近の子はやっぱり変わった子が多いって聞くけどそうなんだね~。
「そうそう、これは生えてるの」
「触っていい?」
「だ~め、くすぐったいから」
「ははは、そうかい。ならいいよ」
「代わりに歌でも歌いましょうか?こう見えても昔少しだけ音楽活動してたことあるんですよ」
「あぁ、だから声もいいのかな?」
「まぁ、そうは言っても音楽やめる頃には歌じゃ無くて楽器やってたんだけどね。なら、歌いますね」
そういって店員の少女は歌い出した。声はとても綺麗で歌っている姿もとても綺麗だ。
もっとしっかりみたい。そう思って目を凝らしていたが、次第に視界が見えづらく成ってきた。
「泣いてるのかな?何だか見えにくく成ってきた」
「違いますよ。私の歌を聴くとみんなこうなるんです」
「バカ言ったら駄目だよ。そんな人間いてたまるか」
「そんな人間は居るかもしれないけど、私は人間じゃ無いから」
この娘、意外と不思議ちゃんだったのか。まぁ、そんな所もかわいいけど。
「でも参ったな。確かに涙じゃ無いみたいだけどもう見えなくなった。どうやって帰ろう?」
「帰らなくていいですよ」
「えっ!?」
見えなくて気が付かなかったが、少女はすぐ隣まで来ていた。
「帰らなくてもいいって!」
「3カ月もならいい頃じゃないかな?」
「帰らなくてもいいって!!」
え?それってそういう誘いなのか?
「………せっかくなら目が見えてれば良かったな」
「見えてない方がいいよ。その方が良いもん」
「そうなのか?いや、実はそういうの初めてだから」
「そうだと思うよ」
見てて分かるもんなのか!?なんか恥ずかしいな。
肩に手を置かれる。顔に少女の吐息を息を感じる。
「いい?」
「ここで?」
「ダメ?我慢できないの」
「……分かった」
仕方ない。腹を括ろう。
「なら……」
今、人生で一番幸せかも。
身体が押し倒される感覚があった。
なのに……
まだ椅子に座っている感じがした。まるで感覚と身体が別々に動いたような感覚だった。
そして……
「いただきます」
感覚の方の耳元で本当に嬉しそうな少女の声が聞こえた気がした。
「あ~、美味しかった。やっぱり3カ月かけて魂を肥育した甲斐あったなぁ~」
『下準備の一つさえ、手を抜いては味が落ちる』みたいなことを外の世界に住み始めてしばらくしたときに人間がそんな事を言っていたのを聞いた気がする。もちろん幻想郷で屋台を出していた時も準備には心掛けていたけど、こうなってみて改めて実感できる言葉だと思う。あぁ、今『外の世界』っていうのはおかしな話だった。だって、幻想郷はもう無いんだから。だから質のいいご飯を食べるかバカみたいに食べ続けないと消えちゃうんだよね。私は昔のルーミアみたいに沢山食べれるタイプじゃないから質を重視する事にしたんだけど、まさか幻想郷で屋台やっていたのがこんな所で役立つとは思わなかった。
それにしても今回の人間は美味しかった。魂は精神だから不快が無いほど更に美味しくなる。だから襲われる瞬間が見えないように鳥目にするし、和やかな会話を心掛けてる。でも、『そういうの初めて』って変なこと言う人間だったなぁ。食べられるなんて何度も経験するのは出来ることには出来るだろうけど、そうそう無いのが普通だと思うのだけど……。
考え事をしていると、脚をつつかれたので正気に戻る。
「あぁ、ごめんごめん。うん、その人間の身体。中身は食べたし魂をよくしておいたから体の方も綺麗に成っていると思うから使っていいよ」
そう鳥の幽霊に告げると、嬉しそうに鳴いて人間の身体に飛び込んだ。すると人間の身体は動き出した。あれはこの人間に撃たれた鴉の霊。外の世界では食べるわけでもないのに定期的に鴉を撃ち殺しているそうだから腹が立つ。これから人間として楽しんで生きるだろう。身体はあの子が、魂は私が、それぞれ役に立てて人間も嬉しいだろう。私は食べられるのはごめんだけども。
鴉の霊は身体の動かし方を確かめた後、慣れない感じで人間の頭の中に記録されているだろう家の方に歩き出した。
「さてと」
私は屋台に戻って本を取り出してめくる。
「このあたりの猟友会の人間はだいたい食べたから次は鶏を育ててる人間でも食べようかな~。ふふふ、食べてもいい人類がこんなに沢山」
ふと、人間が近づく気配がしたので『猟友会会員名簿』を閉じてそっちを見る。あぁ、さっき食べた人間の友人か。うん、口直しにちょっとサッパリした魂を食べたい気分だったからちょうどいいや。
───いらっしゃい。また来てくれたの?
───あぁ、友人さんとすれ違ったの?そう、酔ってて足取りが悪いみたい
───大丈夫そうなら何よりかな?
───ねぇ、私の歌を聴いてくれない?きっと今まで感じたこと無い感覚にしてあげるから
初めて書くタイプの文章でしたが、いかがだったでしょうか?一応最初の方での猟の帰りというところで『いつも』と書かないことで『猟は専門職ではない』という感じを出したり、友人に連れて行ってくれるよう言われた時を電話っぽくしたりしたつもりなのですがね。
一応『主役は誰?』と聞かれたら『今回はミスティア』です。短編小説として投稿しているので次回があるか分かりませんが、次回がもしあればまた違うキャラに成ると思います。
深夜のテンションで書いたので粗悪品に成っていたらすいません。
本当は丑三つ時に投稿したかったけど、気付かれない可能性が高かったので止めました。今回は試しに投稿したので次があるか分かりませんが、次回投稿する事があれば丑三つ時にしようと思います。
感想、批評、評価、誤字報告等々お待ちしています。
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