江戸のお姫様はふつくしい!? (匿名)
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はじめに:キャラクタ―一覧

(※少しネタバレもあるのでそこら辺はご了承下さい。)


雪平松治(ゆきひらしょうじ)

年齢:17歳 高校2年生

誕生日:5月17日

特技:般若心経を暗唱できる

好物:天ぷら

容姿:濃い茶髪、ルックスは可もなく不可もなく。

 

本作の主人公で、姉と二人暮らし。

平々凡々な高校生だが、ときどき昔の人の事を考えてボーっとしているという変わった一面を持つ。ご先祖様の加護(?)により目立ったトラブルもなく生活していたが、居候してきた築山さんに振り回される事がしばしばある。

いつも姉がグ―タラしているため家事全般は一通りこなせるが、本人に取ってはあまり嬉しくない。

 

 

築山朝日(つきやまあさひ)

年齢:18歳(正確には不明) 高校3年生

誕生日:弥生の上巳(3月3日)

趣味:落語鑑賞・現代日本の技術を知ること

好物:和食・抹茶

容姿:さらっとした漆黒の髪、和服、洋服どちらを着ても似合う。

 

本作のヒロインで、松治らのご先祖様でもある。江戸時代からやって来て、徳川家康の元妻でお姫様だったらしい。

雪平家に居候し、現代の技術や文化に興味を持ち、堪能している。

活発な性格でノリがいいが、全く姫らしく振る舞っておらず、たまに涼華とゴロゴロしていたりする。あと江戸人の割に胸がでかい。

事情を知らない人々にはちょっとおかしい歴女だと思われている。

 

 

雪平涼華(ゆきひられいか)

年齢:24歳 職業:デザイナー

誕生日:2月7日

趣味:TVを見ながらゴロゴロする

好物:弟の手料理

容姿:松治と同じように茶髪、少し服を着崩している事も。胸は築山さんほど大きくない。

 

松治の姉で、仕事意外でも部屋に籠りデザインしている事もある。職場では隠れファンも多いらしい。家では家事全般を松治に任せてゴロゴロしており、築山が来てからその事に更に拍車がかかった。

ときどき胸が小さい事を気にしている。

 

 

生駒和也(いこまかずや)

年齢:17歳 高校2年生

誕生日:9月22日

趣味・特技:鉄道巡り・うどん打ち

好物:うどん・オリーブ

容姿:黒髪で、少しくせっ毛。中肉中背でネコのような目をしている。

 

松治の友人で、同じ高校に通っている。香川県の出身。引っ越して来て3年程経っていて、未だに讃岐弁が抜けていないが本人は気にしていない。関西弁だと思われると怒る。

所属している部活に3年生が1人しかいなかった為、副部長をやっている。

実は鉄オタの気があり、たまに駅に繰り出しては電車に乗ったりしている事がある。

 

 

藤井桃代(ふじいももよ)

年齢:18歳 高校3年生

誕生日:6月10日

趣味:ゲーム、メール

好物:甘い物・ココア

容姿:藍色の髪をサイドテ―ルに纏めており見た目は美しいが、他人と目を合わせようとせずいつも少し下を向いている。

 

松治や和也が所属している「現代技術研究部」(通称技研)の部長。

表舞台に立つのが苦手で物凄く引っ込み思案、声も小さく、部活の進行は殆ど副部長である和也に任せてしまっている。自身の仕事は活動の許可を出すのみ。

家ではビデオゲームを好んでおり、腕前もなかなかの物。

 

 

仁科日和(にしなひより)

年齢:16歳 高校1年生

誕生日:11月3日

趣味:音楽を聴く

好物:たこ焼き

容姿:黒髪ショ―トボブで、髪飾りなどの類いは一切付けていない。まさに優等生と言った感じ。

藤井が部長を務める「現代技術研究部」に所属する1年生の部員。上下関係を重んじ、誰にでも礼儀正しく接する。個性的な面子が多い技研(ご先祖好き・鉄オタ・引っ込み思案)の中では常識人でツッコミ役。

家が家電屋を営んでいるらしく、最新の家電の情報には事欠かない。

 

 



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松治、自分の先祖に出会す。

今回は新たにオリジナル作品に挑戦してみました。至らない所は沢山あるかと思いますが、是非最後まで読んで頂けたら幸いです。


彼女は扇風機をまじまじと眺めながら、こう呟いた。

 

「ねぇねぇ、これって何?江戸には無かったよ?あ、回った。なにこれ風が出るよ!涼しい!」

「いちいち騒がないで下さいよ…見ての通り、扇風機ですけど何か?」

「あ~~~~……こんな声も出せるんだねぇ…ん?何か言った?」

「人の話聞いて下さいよ人の!」

「あぁゴメンゴメン。私、お姫様だからさっ!」

 

 

俺は天井を仰ぎ、こう考えた。何でこんな人があの徳川家康の妻で、俺のご先祖様なのだろう…と。

事の発端は3時間程前まで遡る…

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

8月13日。今日はお盆である。なので俺、雪平松治(ゆきひらしょうじ)は友達を呼び、自宅の庭先で迎え火を焚いていた。もちろん、キュウリのウマも添えて。

 

「まさかホンマに俺と火ぃ焚くとは…思っとらんかったわ」

 

この讃岐弁使ってる奴は俺の友達、生駒和也(いこまかずや)。高校に入ってから知り合ったが、今ではすっかり仲良しだ。

 

「お前って、毎年こういうんやるんか?俺は疲れるからせんけど。」

「こうやって、先祖は供養しとくモンだよ?いい運が付くんだって…」

「お前、試験とか毎回運任せやもんな…」

 

そう、先祖をずっと敬ってきたせいか知らないが、俺は試験等では毎回必ずいい感じの成績、日常生活も何かと上手く行ってる。「そんなちっぽけな…」と思うかも知れないが今の自分にはこんな感じが丁度良い。

 

「日頃供養したり敬う価値があるから、ご先祖様もいい運を授けて下さってるんだよ…言うなれば加護?」

「そんなんでツキが回るんやったら全員そうしとるわ。お前ん家だけ先祖が大者やったんやない?」

「そんな訳ないじゃん。『雪平』なんて大名いないだろ?」

「そうやな―。考えすぎかもな。」

「あ、火消えてきたな…」

 

 

その後は家に上がり和也と少し談笑したりしたが、もう遅いと言っていたので暫くしたら帰って行った。

 

和也を見送ると同時に、上から降りてくる足音が聞こえる。

 

「あれ、誰か来てた?」

「友達だよ。今帰った」

「友達来てたのね…言ってくれれば何か振る舞ったのに…」

 

この女性は俺の姉、雪平涼華(ゆきひられいか)。一応成人しており、今はデザイナーの仕事に就いている。俺と同じ濃い茶髪で、ルックスは良いんだけど…仕事以外は超グ―タラして何もしないんだよな…

 

「姉ちゃん、料理出来たっけ…」

「冗談冗談。私に出来る訳ないじゃん。あ、今日の夜食は野菜炒めでお願いね―。そんじゃ、おやすみ~」

 

姉はそう言い残すと仕事をしに自分の部屋へ戻って行った。

 

「結局夜食のメニュー注文しに来ただけかよ…」

 

とはいえ遅くまで働いている姉の頼みを無下にする訳にもいかないので、とりあえずキッチンに立つ。冷蔵庫という食材を腐らせる事なく保存して置ける文明の利器の扉を開け、野菜炒めの為の材料を取り出す。こんな物は昔無かったんだよな…

そう思うと、今程便利な時代は無いと思う。昔の先祖はこんなちっぽけなキャベツでも保存方法を工夫していただろうに…

 

「って、また昔の事を考えちまった…」

 

俺はたま―に現代と昔を比較し、その物がない昔はどうしていたのだろうと思い耽る事がある。ハッキリ言って時間の無駄であるので、この癖は直したいのだが。

 

「さ―て調理開始するか…あっ!?」

 

俺は調理器具の引き出しの中を見て絶句した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ったく、あの姉っ…フライパン全部使用中ってどういう事だよ…」

 

俺は今、近くのコンビニでフライパンを買って帰路に就いている途中だった。

そう、野菜炒めを作ろうと調理器具を出そうとしたのは良いのだが、何故か引き出しの中にあった筈のフライパン類がごっそり消え失せていたのだ。

原因は姉である。フライパンを知らないかと問うと、案の定…

 

『ゴメンね~。今全部私が使ってて、返却明日になりそうだから~』

 

と言っていた。大方デザインの参考にでもしているのだろうが、その作業するんなら野菜炒めなんぞ要求すんな。

 

「は~、深夜にコンビニとか疲れたな…」

 

最近あのコンビニ周辺ではヤンキーなる者がうろついているという。今日は出会さなかったから良かったが、またいつか会うとも分からん。早い所収束して欲しいと思った。

 

「ただいま~…」

 

そう言い玄関のドアを開く。家には姉と俺以外おらず、もちろん誰からの応答も無…

 

「おかえり~」

「!?」

 

おかしいな。何か居間の方から声が聞こえたような。

多分幻聴だろう。齢17して幻聴なぞ聴きたくも無かったが、きっと疲れているのだ。今日はさっさと野菜炒め作って寝よう。

そう思い、居間に足を踏み入れた瞬間。

 

「お―おかえりぃ、主君。帰った来た途端悪いけど、これどうやって使うの?」

 

そこには、自分と同じぐらいの歳の美少女が和服を着こなし、ソファに座って俺の音楽プレイヤーをイジっていた。

 

「あぁ幻覚もなのか…今日はもう寝よう。」

 

そう呟き、俺は膝から崩れ落ちた。




どうだったでしょうか?
この一話だけでは何が何だか分からないかと思いますが、これからどんどん細かい設定を追加していく予定です。


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主君と姫と、愛の気持ち。

第二話では、前回の冒頭で出てきた謎の少女がどういった存在なのかを掘り下げて行きま―す。
それでは、どうぞ。


「ん…」

 

目を覚ますと、そこには見慣れた居間の天井が広がっていた。

回りを見渡すといつも通りの居間の風景。しかしキッチンの電気が点けっぱなしであった。ソファで寝落ちしてしまったのかと思いつつ、時計を見やる。時刻は23時半頃を指していた。

 

「ふぁ~あ…ちょっと寝たから野菜炒め作ろう…」

「あれ、私の存在は~…?」

 

…さっきからチラチラ視界に入ってはいたのだが、それだけなら幻覚と割り切る事が出来た。しかし喋られてしまうともう観念するしかない。俺は先程からリビングをうろついている謎の人物に向かってため息をつき声を掛けた。

 

「はぁ…っていうか、あなた何者ですか。夜中に勝手に人ん家にずけずけ入り込んで挙げ句の果てに俺の音楽プレイヤーまでイジって…」

「よくぞ聞いて下さった!ふっふっふ、私は征夷大将軍にして徳川家康公の妻、築山(つきやま)であ―る!」

「・・・・・・・・・・・・・は?」

 

何だか訳の分からない言葉を口走った目の前の少女に、氷が張れそうな程冷ややかな視線を投げ掛ける。まさかそういった反応をされるとは思わなかったか、少女…改め築山さんはばつが悪そうに向かいの椅子に正座で座る。勝手に座んな。

 

「あ、あの…私、家康の妻なんですが…」

「…いい精神科紹介しようか…?」

「至って健康体だよ!」

 

ちょっと、いやかなり引き気味に築山さんに今すぐ病院を受診する事を促すと、心外だと言わんばかりに身を乗り出してくる。

 

「いやいきなりそんな意味不明な事言われましても…」

「ムムム…信じられないようだねぇ…ならハイ証拠!お伊勢さんのお札!」

 

築山さんが証拠として突き出してきたのは伊勢神宮のお札だった。そこにはすんげー達筆で『伊勢神宮※§£¢…』と書かれていた。伊勢神宮より下は達筆過ぎて読めん。

 

「どう!?信じてくれた!?」

 

……いや、まだ俺は信じない。もしかすると凄い歴史好きで頭のネジが7本ぐらい緩んでいる歴女なのかもしれない。そう思い否定的な言葉を述べてやると築山さんはがっくりと肩を落とした。

しかし築山さんはめげずにまだ証拠を差し出す。もうどう足掻いても無駄だ、精神科行けと言おうとしたその時。

俺の目は、彼女が手に持っている物に釘付けになった。

 

「なっ、それは…!?」

 

彼女が持っていたのは今や数十万の値打ちが付くであろう、一両小判を十枚程。もちろん現代では製造されていないし、レア物で殆ど入手ができない筈なのに。それによ―く見てみると年号が江戸時代のそれだ。信じられないが、これは嫌が応にも信じざるを得ないだろう。

 

「まさか本当に江戸時代から…!?」

「だからさっきからそう言ってたでしょ―!もう!」

「マ、マジでか…」

「まじだよ…」

「あ、そういや『マジ』って江戸時代から使われてたらしいのな」

「私が生まれた頃には既にちらほら使われて…って、話逸らしてどうするの…」

「あ、ゴメンっす。で、江戸時代からの使者ってのはまぁ、信じるけど…どうして俺ん家なんかに?家系、多分徳川と全然関係ないかと?」

「それが関係大アリなのー。外来語で言うとビッグアント。その徳川の末裔のうちの一家が…貴方の家なんですよ…!」

 

今度こそ、俺は完全に思考停止する。

…え?

…今、この人は何と言った。

俺ん家が徳川の…末裔?

 

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「えええええええええええええっっ!?」

「うひゃぁっ、いきなり叫ばれた…ビックリした…」

「えっ、ちょっおま、末裔って…はぁ!?」

「ちょっと驚き過ぎじゃ…?この広い日ノ本、私達の末裔の一人や二人いると思うよ?」

「いや、それでもいきなり言われたら驚きますって!」

 

そりゃー先日まで普通の生活を送っていた所にいきなり先祖(らしきもの)がやって来て、「アナタ徳川の末裔ですよ」と言われたのなら驚かない方が難しいだろうが。名字も違ってるんだし尚更だ。

 

「えーっと…、ということは、あなたここに来た理由は俺ん家が子孫だから…?」

 

とりあえずこの場にいる理由を訊いてみる。

 

「私がここに来た理由は2つあります…1つは…」

「1つは…?」

「家康様に愛想を尽かして出てきちゃった…」

「家康さんに…?」

「あの人、結婚したはいいけど全然私を見てくれなくて…愛してくれなくて…」

 

確かにかの将軍なら結婚したとしても妻を愛する暇なんてないだろう。実際冷たそうだし。

 

「それでも、私変わろうとしたよ?一生懸命努力して、生け花とかお茶とかも練習して、頑張ったんだよ?なのに…」

「なのに…?」

「私が朝食の時に畳の縁に引っ掛かって転んで、家康様の顔に納豆ぶち撒けたぐらいで私の事を『貴様の事なぞ嫌いである!余の前から失せろ』って言ったの!酷くない!?」

「うん、酷いのはどう考えても築山さんだよね。家康さん悪くないよね。」

「そんなぁ!?」

「いや、『そんなぁ!?』じゃねぇだろ!?ブチ撒いたんなら謝れよ!」

 

しまった、つい敬語を忘れていた。というかそんな些細な理由で愛想尽かすとかどんだけだよ。時の権力者の顔に納豆撒けてよく「失せろ」だけで済んだな…

 

「まぁ、主君の言った通り悪いのは私だって事に気が付いた訳だよ。」

「気付くまでも無いだろそれ…」

「そして一日中江戸を歩いて、夕刻に帰ろうとしたら…」

「結局帰るんですね…」

「ここに私が来た理由の2つ目が。」

「まぁだいたい見当は付きますけど…何だったんですか?」

「あのね、1人で夜道を歩いてたらね、提灯が消えちゃって、道に迷っちゃったの。暗くて怖かったけど、先の方に光りが見えてたから、そこに向かって歩いてたら…ここの庭にいました…」

「あなたもう江戸に帰った方がいいんじゃないですか?」

 

…それは俺ん家の庭で焚いていた迎え火の光に導かれて本当にご先祖様迎え入れちゃったってコトだよな。

 

「何てこった…そんな理由なんかで俺ん家に…

というか、さっきから主君主君って、俺の事ですか?」

「そうだよ。私は『主君』と呼んだ相手には、一生添い遂げると決めてるの…」

 

築山さんが少し頬を染めながら呟く。

…それって?

 

「俺に惚れちゃったって事…?」

「…ぽっ」

「口で言うなあざとい」

 

え、えぇ~…惚れられたら惚れられたで色々困るんですが…特に姉とか姉とか友人とか。

改めて、築山さんを見る。整った顔立ちの中に少しの凛々しさと無邪気さが見え、なかなか可愛らしい。腰の辺りまで伸ばした長い黒髪は絹のように美しく、まさに可憐な姫君のようである。実際姫らしいけど。

そして年頃の男子高校生なら嫌が応でも目を惹きつけてしまう胸元。巨乳…とまではいかないが世間一般の感覚からすると大きい部類に入るだろう。「和服は胸が小さい方が似合う」という考え方を根底から覆す感じである。どうなってんだ江戸時代の着付け方。

 

「何をまじまじと見てるの…?もしかして、主君もう惚れちゃった!?」

「いっ、いきなり何を…!」

「ありゃ、照れちゃってる?か~わいいねぇ~…」

 

スパアーンッ

 

俺は先程買ってきたフライパンを躊躇なく彼女の頭に叩きつけた。

 

「…調子に乗り過ぎると叩きますよ…?」

「た、叩いてから言わないでよぉ~…」

「返事は?」

「うう、はい…」

「って、フライパンで思い出したけど野菜炒め作るの忘れてた!」

「え?何かマズいの?」

「マズいですって!姉ちゃんが痺れを切らして降りてくる前に作らないと、バレますよ!?」

「バレるって何がなのかな…それより主君って姉上いたの?そりゃ挨拶しなくちゃね!降ろしてくる!」

「話を聞け話をぉ!出て行こうとするな!」

 

というか部屋の場所知らないだろ。呼びに行こうとする築山さんを止めようと、居間の出入り口に目を向けた瞬間。

 

「ちょっと松ちゃ~ん、野菜炒め遅いよ~…って、えぇ?」

「なっ…」

「うん?」

 

まさに噂をすれば影が差す。姉、襲来である。

 




どうでしたか?最後に姉がチラッと出てきましたが…それはまた次回に。
感想をお待ちしています。


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邂逅、説明、夏の部活。

前回姉と築山さんが出会いましたが、果たして姉はどうするのでしょうか。

そして今回は松治くんが所属している部活の事も最後辺りにチラっと書きました。是非最後まで読んで頂ければ嬉しいです。
それでは、どうぞ。


「…やっちまった。」

 

俺は突然開かれた居間の扉にビックリしている築山さんと、その築山さんに面食らっている姉、雪平涼華を交互に見ながら呟いた。夜のうちに築山さんを問い詰めて状況を整理し、姉には明日の朝にでも説明しようと思っていたのだが、こうなってしまっては意味がない。俺はこの事態を説明しようと口を開こうしたのだが、今まで棒立ちしていた姉が先に言葉を発し、それに遮られた。

 

「え、何松ちゃんこの子。和服着てるし。コンビニ帰りにでも会ったの?」

「そ、そうなんだよ……」

「違いますよ!私はあなた方のご先祖…って事なのかな?まぁ、そんな感じの存在です!」

「っておい!?」

「先祖…って?まぁ何かよく分かんないけど、ひょっとして松ちゃんの彼女?」

「え、あ、はい!まぁ付き合ってる間柄でもあります!」

「へぇ~松ちゃんいつからこんな綺麗な女の子と付き合ってたの?私にも言えよぉ~」

「いやどっちも違ぇよ姉ちゃん!彼女説の方は特にな!」

「え!?違うの主君!?酷い!」

「違うに決まってますよ!だいたい出会って数時間で親しい間柄とかどういう物の考え方なんですか!」

「うえ~ん、フラれたよぉ~…」

「あーあ松ちゃん彼女泣かしたー」

「だからぁ…話を…」

 

俺は先程も築山さんを殴ったフライパンを手に取り。

 

「聞けぇぇーーー!!」

 

未だに会話を続ける二人の頭にそれを振り下ろした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「…落ち着いたか?」

「はい…」

「うう、痛いよー…」

 

アホな会話をしていた二人を制し、ソファに正座させる。やっぱり穏便に事を収めるには対話が一番だ。(もっと)も、それはフライパンによる肉弾の対話だが。

 

「とりあえず、姉ちゃん。俺の話を聞いてくれ。この人…築山さんは彼女でも何でもなく俺達のご先祖様みたいなんだ。それも江戸時代からやって来た。俺も初めは信じられなかったけど、一両小判を持ってたあたり本当にその可能性が高い。」

「いや先祖って時点で何でもある気がするんだけど…まぁ超ウブの松ちゃんに彼女が居るなんて始めから思ってないけどねぇ~」

「…それは俺をバカにしてんのかな?まぁとりあえずそういう事だから…」

「はーい、分かったよ。」

「んで築山さん、俺の事を勝手に彼氏とするのは控えてくれませんかねぇ?ちょっと迷惑を被る時が多いので…」

「えー何で?別にいいじゃん…」

「…何か言いましたか?」

「ハイ、ナンデモゴザイマセン…」

 

俺が笑顔でフライパンを持ち威圧してやると、築山さんは引き下がる。聞き分けの良い人は好きだ。勿論、LOVEじゃなくてlikeの意味で。

 

「というか姉ちゃん、遅くなったけど野菜炒め作る?」

「ん~…もうすぐで仕事終わりそうだし、今日はもういいや。貴方たちも早く寝なよ。おやすみ~…」

「おう、おやすみ…」

「もうお休みですか姉上?疲れてるようでしたら寝つけるように弾き語りしますよ?」

「姉上って…いや、また今度でいいよ。築山ちゃん、だっけ?まぁ、慣れないと思うけどしっかり休みなよ?」

「お気使い感謝致します!では、おやすみです。」

 

…何と言うか、姉の適応早すぎるだろ。まぁ、小さい頃から姉はあまり動じない性格だったし、自由そうな仕事柄こういうのは慣れっこなのだろう。俺もご先祖様ならば来る者は拒まず、去る者は追わずだ。

 

「じゃあする事も無くなったし、俺も寝るかな…おやすみ~」

「え!?主君も寝ちゃうの?」

「いや、もう遅いですし…」

 

俺は時計を指差す。時刻は0時を回っていた。

 

「え…丑の刻まで怪談しようよ~…」

「誰がするか!もう部屋行きますけど、寝るときはソファで寝て下さいよ。」

 

両手をダランと垂らし幽霊の真似をして近寄ってくる築山さんを押し退け、俺は電気を消し居間を出る。

 

階段を上って自室に入り、早めに寝る準備を整え、布団に入った。目を瞑り、今日1日であった事を考える。

…今日は何か物凄い事が短時間であったな。いきなりご先祖様が襲来して、それが徳川家康の妻で、自分ん家も徳川の末裔で…。

しかも、その人が俺に好意を抱いているという…

 

「…改めて考えると、何か恥ずかしいな…」

 

あの時は冷静に受け流していたが、あんな美少女に好かていれるとは結構凄いことなのではないだろうか。まぁ、恋愛なぞした事ないから分からんが。

まぁいろいろ考えていても意識を呑み込んで行く眠気には勝てず、俺は次第に意識を手放していった…

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ ピピピピッ

 

「ん…」

 

部屋に鳴り響いた目覚まし時計のベルの音で目を覚ます。音を止めて時刻を確認すると、針は午前8を指していた。どこぞのラノベみたく居候が布団に入り込んで来ていないかを確認し、部屋の扉を開ける。

 

「何で休み中なのに目覚まし掛けたんだ?」

 

そんな事を思いながら階段を下り、居間へと入る。床を踏みしめた途端、それまで座布団に座っていた人影が騒ぎ出した。

 

「主君~お早う~!私、昨日はよく寝れたよ―!」

「…はいはい、おはようございます。朝から元気ですね。」

「あ、お茶点てたんだけど飲む?」

「ん、頂きます…」

 

差し出された茶碗を受け取り、中身を一気に煽る。

そして吹き出した。

 

「苦っ!?コレ抹茶じゃないですか!」

「あれ、抹茶苦手だった?」

「いや、苦手ではないですけど…寝起きにはキツいですね…」

「あっはは、朝から仲良いねぇ、お二人さん?」

 

そんなやり取りを聞き、さっきまでソファで寝転んでいた姉が声を掛けてくる。

 

「からかわないでよ姉ちゃん。今日はゆっくりしたいから、あんまちょっかい出さないでよ?」

「え、松ちゃん今日グ―タラしてる暇無いと思うけど?」

「…ダラけてる暇が無いのは姉ちゃんの方でしょうが。それで、何で今日ゆっくり出来ないのさ。」

「だって今日、部活でしょ?」

「………あ。」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「ったく、休み中なのに何で部活あるんだよ…」

「まぁ、顧問が決めた事やけんな…今更何を言ってもしょうがないやん。」

 

今、俺は友達である生駒和也と共に夏休み中に行われる部活へと参加する為、もう気温が上がってきた通学路を歩いていた。俺は部活の事をすっかり忘れており、それが一層不満を増幅させた。

 

「それでもさ、副部長の権限で何とかならなかったのかよ?」

「副部長って言われてもなぁ…俺2年やし、部長会での決定権は殆ど無いも同然やけんな?」

「だよなぁ…かと言ってあの部長に任せっきりにするともっとマズい事になりそうだもんな…」

「ま、腹括って頑張って活動せなな。お、着いたで。」

 

話しているうちに学校に着いたようだ。俺達二人は一応事務室に顔を出し部室に向かう。夏なので物凄く熱い訳だが、幸い部室はこの学校の中でも一、二を争う日当たりが悪い場所にあるので幾らか涼しい。冬は冷凍庫並みに寒いが。

 

校舎内に入り部室を目指す。中には殆ど人がおらず、居るとすれば職員や文化祭の準備の為に来ている生徒会の人々だ。俺達はそんな物にも目をくれず、立ち並ぶ特別教室を横切り一階の一番突き当たりに位置する部室、技術室の前までやって来た。

扉の横には既に鞄が2つ置いてあり、どうやら俺達が最後に着いたようだ。引き戸を開き、中に入る。

 

「あ、雪平センパイ、生駒センパイ、おはようございます。」

「……………………おはよう。」

 

中にいたのは予想通り、1年生の後輩、仁科日和(にしなひより)ちゃんと3年生の先輩であり、我らが「現代技術研究部」部長の、藤井桃代(ふじいももよ)さんがそれぞれの夏休みの課題を広げて待っていた。




いかがでしたか?
部活のメンバー、何か個性的な雰囲気でしたね…次回は部活回です。新キャラ2人を少し掘り下げて行きます。
あと、松治くんのように実際にフライパンで人を殴る事は危ないので絶対にしないで下さいね。(笑)
感想をお待ちしております。


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文化祭の出し物を決める時期になりました。

今回はご先祖様からちょっと離れて松治君の部活回。現代技術研究部、一体どんな部活なんでしょうか。

それでは、どうぞ。


「あれ、二人とも課題なんかやってていいんですか?部長はともかく、いつも真面目な仁科ちゃんまで…」

 

俺は二人にそう問い掛け部屋の中に足を踏み入れる。廊下とは違う、清涼感がある空気が俺達を包み込んだ。

 

「今年はいとこの課題を手伝っていて自分のがあまり進まなかったもので…でも、もう部活開始ですよね。すぐに止めます。」

「私も、以後気を付ける…」

 

仁科ちゃんは理由を述べて手を止め、藤井部長はすんげ―聞き取りにくい小声で呟いた。まぁ二人共切羽詰まるのも分からなくはない。俺だって現に課題に追われているし、何より夏休みの期間が短い事が最大の原因だ。他の地域は8月一杯夏休みがあるのに、何故かうちの学校は8月の20日前後で終わってしまうのだ。何故だ。マジ勘弁してくれ。

そんな事を考えている間に副部長である和也は前の教壇に立ち、部活の進行を始める。俺は椅子に腰掛け、それに耳を傾けた。

 

「え―っと、今日集まってもらった理由は分かるな?文化祭の出し物が俺ら技研だけ何ちゃ決まっとらんからや。それで夏休みを返上してまで出し物を決める訳だが…何か案はあるか?」

 

出会った時と変わらない讃岐弁バリバリの口調で部活を執り進める和也…否、副部長。俺も始めの頃は何て言ってるかの解読に悩んだものだ。今は全員慣れているが。

 

「はい、生駒センパイ。」

「ん、仁科。何かあるんか?」

 

授業を受けているかのように律儀に挙手し、仁科ちゃんが喋り出す。彼女は入部してきた時から真面目な性格で、俺達が奇行をした際には的確にツッコミを入れてくる。髪型はショ―トボブで、まさに優等生といった出で立ち。結構前に所属委員会を聞いてみたら、案の定校風委員だった。

 

「案としては、技研の名にあるように技術関係の発表をしてはどうかと考えています。具体的には、文化祭のある秋辺りに合わせて、これからの季節に使われそうな家電の特集などをしてはどうかと…」

「仁科、商売熱心なのは是非褒めたいが…そういうんは文化祭にそぐわんから却下で…」

 

和也がそう言うと仁科ちゃんは顔を赤面させながら椅子に座る。どうやら家が家電用品店を経営しているらしく、出し物と銘打ってウチの家電を売り込む…そういうつもりだったらしい。真面目の中にこんな感じの抜けている所があるから可愛らしいのだが。

 

「他は何かあるか?え―っと、じゃあ松冶。勿論考えてあるよなぁ…?」

 

いやらしい笑みを浮かべながら当ててきやがってコノヤロウ。しかし指名された所で当然案なぞあるはずもなく、俺は狼狽えた。

 

「いや、いきなり当てられて出てくると思ってんのかお前は。ちょっと考えさせてくれないと無いよ。次回ぐらいまで」

「そんなんやったら二学期始まってまうわ!今出せよ?」

「だからある訳ねぇだろが!」

 

俺達が二人でギャーギャー騒いでいると意を決したように手を挙げる人が1人いた。それは超引っ込み思案で有名な藤井部長だ。あの人から挙げるなんて珍しい。俺と和也は小競り合いを止め、意見を聞くべく部長の言葉に耳を澄ます。

 

「あの…その…… ダム、行きたい…」

『だ、ダム?』

 

俺達は声を揃えてオウム返しする。今、部長はダムに行きたいと言った。何故ダムをチョイスしたのかさっぱり分からないが、その理由を確認すべく再び部長が言葉を発するのを待つ。

 

「別に、私がダムに興味あるとかじゃなくて、その…ダムがあって…そこに行って…」

 

今、部長は頑張って自分なりに説明しようとしている。その努力は認められて然るべきだが、ちょっと俺達が低脳すぎて理解出来ない為仁科ちゃんに意訳してもらう。

 

「えっと、『折角の文化祭の発表だから、ここら辺の地域でも有数の大きいダムに夏休みを利用して出向き、そこでの出来事や学んだ事を纏めたらどうか』です。」 

「ダムねぇ…、俺はいいと思うけど、お前はどう思う?和也」

「うーん…俺も妙案やと思うけどなぁ…部費で足りるんか?」

「去年は主立った活動をしていないから部費が繰り越されて余っているので問題無いらしいですよ?」

 

確かにこの人数で行くとなるとそれなりにお金は掛かるだろうが、部費が余っているなら仁科ちゃんの代弁通り問題無いだろう。というか去年の部費が使えるほど余ってるってどれだけ活動してないんだこの部活。支給してくれた生徒会が可哀想である。

 

「しかし、ダム行くって言ってもここから近いダムって何処なん?」

「ここら辺ダムって割と多くありますよね。小滝ダムとか、八倉ダムとか…」

「まぁ、発表のネタになる所っつったら、白沢ダムしかないよな…」

「白沢ダム…あぁ、ここら辺そんなんあったな。」

「確かにあそこなら標高が高いですから、避暑もできますね。」

 

白沢ダム。それは、この街から程近い渓谷に位置する日本でも有数の大型ア―チ式ダムである。稼働し始めた当時は純粋に発電用として使われていたようだが、近年そこまで行く為の道が整備され観光地としても注目されているという。最近では何かのアニメの聖地にもなっているようだが…何はともあれ、完成までかなりの労力と資金を費やしたと言われているし、発表のネタとしても夏休み最後の思い出としてももってこいだろう。

 

「じゃあ、そこに行くか…」

 

と和也が言おうとした時、俺の背後、部室の入り口の方から声が聞こえて来た。

何か物凄く聞き覚えがある声がし、まさかと思い振り向くと、そこには。

 

「ちょっ、築山ちゃん押さないで…胸当たってるよ…」

「でもこうしないと中が見えない…ん?」

 

俺は声の主の元に寄っていき、扉を一気に開け放った。寄りかかっていた壁がいきなり無くなった事により、対象はバランスを崩し部室の中へなだれ込んで来る。そして俺は驚き怒りとを込めてこう言った。

 

「な・ん・で~…あんたらが部室にいるんだよ!築山さん!姉ちゃん!」

「し、主君~…そんなに怒らないで…」

「い、いや~…だって築山ちゃんが『主君出掛けちゃったの?私も一緒に付いていきたい!』って言ったから。」

「だからってマジで連れてくる事があるかバカ姉貴!こっちは学友の手前なんだぞ!?」

「わ、悪かったよ…でも、さっきのダムの話、どういう事?」

「話を逸らさないでよ……部活の皆で夏休み中に白沢ダムに行く事になった訳なんだけど、それがどうかした?」

「あ、それだったら私も付き合おうか?保護者はいた方がいいと思うよ。」

 

…何故だろう、この人が保護者と言ったら不安な響きしか残らない。

 

「ダムって何?私も行きたい!」

 

築山さんは築山さんで部活動の事に食い付いてきた。そんな様子を、和也と仁科ちゃんはどうしたら良いか分からないと言う目で見つめており、部長に至っては部屋の隅で膝を抱えていた。皆面食らっているので、取り敢えずこの状況を説明する。

 

「あ―っと…この和服着てる人は俺のいとこの築山さんで、こっちの人がうちのバカ姉。」

「ちょっ、そんな紹介しないでよ―。責めて名前だけでも… あ、私は松ちゃ…松治の姉の雪平涼華です。宜しくね。」

「私は主君のいとこ…なのかな?築山です。宜しくね!」

 

自己紹介が不服だったか、自分で付け足す姉。築山さんも倣って自己紹介し、二人は状況を飲み込み始めた。

 

「雪平さんに築山さん、ですか…私は仁科日和です。宜しくお願いします。」

「俺は生駒和也です。宜しくお願いしますー。」

「うんうん、和也君の方は何度か会った事あると思うけど、部活の人は初めてだね。…で、そこの隅っこでじっとしている人は?」

「あ、この人はうちの部長の藤井桃代さん。人と関わるのが苦手だから、そっとしといてあげて?」

「へ―、桃代さんって言うんだ?何か私達の時代みたいな名前だけど、宜しくねっ!」

「ひ、ひぃっ…」

 

話を全く聞いていないバカご先祖様は放っておき、姉に問い掛ける。

 

「ところで姉ちゃん、保護者って言ったね?という事は…付いてくるつもり?」

「当たり前じゃん。勿論、築山ちゃんもね。」

「だよなぁ……二人はそれでもいいのか…?」

「俺はそれでもええぞ。こういう行事は人が多い方が楽しいからな。」

「私も賛成です。夏休みの思い出は出来るだけ皆で共有した方が良いかと思います。」

「…だとさ。ウチの部員の厚意に感謝しろよ?」

「はいはい。んじゃ参加も決定した所で、我々は帰るかねぇ。これ以上居座ると松ちゃんは迷惑だろうし。」

「引き際は良いのな。まぁ早めに退散してくれ…。」

 

そう言い築山さんと姉を部室から出させる。築山さんはまだ居たそうだったけど、これ以上居座られると本当に堪った物ではないのでお引き取り願った。

 

「さて、予想外のメンバーが増えた訳だが…顧問の先生は許可してくれるのか?」

「正直分からんけど…まぁ出来るだけ粘ってみるわ。色々計画とか練らなあかんし。」

「そうですね。想定外の事態ではありましたが、行動の時間割等は私と部長の二人で製作しますんで、ご心配無く。」

「サンキュウな仁科。さ―て松治、まずは俺と一緒に交渉してもらおか?」

「……やっぱ俺なのな。」

 

こうして、今日の部活で決まった文化祭の発表ネタ探し兼夏休み最後の思い出作りは、予想外の2人を交えて進行していくのだった。 




いかがでしたか?どうやら夏休みを返上してダムに観光(とネタ集め)に皆で行くらしいですね。作者も交ぜてくれぇ―!(笑)。
次回より白沢ダム巡り編、スタートです。

感想をお待ちしております。


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お姫様とダム巡り ~準備から決行まで~

今回から技研一行は白沢ダム巡りをします。この話はその最終段階の準備の模様です。

それでは、どうぞ。


 

 

『そんでな、俺が文化祭の事チラつかせたら、二つ返事でOKしてくれたわ~』

「まぁ、先生も焦ったたろうしね…んじゃあ、後は各々の準備だけなのか?」

『あぁ。今さっき仁科から連絡もらったけん、メ―ルで送るわ。後は実行に移すだけやな』

「ありがとうな。そんじゃ、おやすみ。」

『おう。しっかり寝とけよ?』

「遠足の前日かっての。じゃな」

 

俺はそう言い、電話を切った。何の電話だったかと言うと、「顧問の許可も得られて、大方の計画も完成したから明日にでもダム巡りは決行しよう」という内容の和也からの電話だった。

白沢ダム巡りが行われると決まったのが3日前の部活。そこから俺達技研は着々と準備を進め計画を立て、何とか夏休みが終わる前までに余裕を持ってダム巡りを決行出来そうだった。

 

「主君、何を独り言をブツブツ言ってたの?」

「いや独り言じゃないですよ。これは『電話』って言って、遠くの人と話が出来る機械なんです。」

「へえ、そんな凄い機械があるんだ!私も持ってたら、お柴ちゃんと話せたのにな…」

「お柴ちゃんって誰ですか…」

「ん?京の都に居る友達。私が都に行った時に仲良くなったんだけど、今行ったら会えるかな?」

「今から京都って…そんな所に行くより、ほら。ダム巡りの計画が出ましたからしっかり目を通しておいて下さいね。」

 

そう言い、仁科ちゃんらが製作した計画が表示されたスマホの画面を築山さんに見せた。築山さんはそれに相槌を打ちながら読んでいき、最後まで読んだ所でだいたい理解したらしく大きく頷く。

 

「ふむふむ…うん、この通りに動けばいいんだね?了解したよっ!」

「頼みますよ。もしはぐれたりしたら大変ですから。」

「ふっふっふ、私はそんなに安易に死亡旗を立てたりはしないよ!」

 

…この人なら本当にその死亡旗とやらを回収しに来そうで怖い。なので当日はしっかり行動を監視して置こう。別に変な意味ではなく。

 

「お、ダムの計画来たの?何々…『夜分遅くに申し訳ないです。ダム巡りは明日決行致します。行動細案は以下に記した通りです…』って、この子すっげ―律儀じゃん。履歴書とか一発で通るよ絶対。」

 

そう言いながら先程まで寝転んでいた姉もスマホの画面を覗いてくる。この人は今の職場に就く際に、履歴書を20回程度書き直させられた偉業ならぬ異業がある。どうしたらそんな書き直しを食らうのかと問い質したいが、俺もそうならないように気を付けないと。

 

「まぁ、今見てもらった通り、明日はそういう日程だから。今日は俺も早めに寝るとするよ。」

 

俺はスマホの電源を切り二人にそう言う。姉はいつも通り「おやすみ~」と言いTVに向き直ったが、築山さんは何故か物足りなさそうに俺が二階に上がるのを引き留める。

 

「え―、まだ酉の刻(22時)だよ?もうちょい起きてようよ~…」

「そんな事言ってたら明日寝不足で楽しめる物も楽しめませんよ?今日は築山さんも早く寝て下さい。姉ちゃんもね!」

「は―い…」

「へ―い」

 

そう2人の返事が返って来たのを確認してから居間を出る。階段を上る途中で、俺は自分も明日のダム巡りを楽しみにしていたという事に気づいたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピピッ ピピピピッ

 

俺はいつも通り鳴り響く目覚まし時計の音で目を覚ました。アラ―ムを止めるべく時計に手を伸ばすと、時刻は6時きっかりを指し示していた。

今日は朝食を作る必要がないのでゆっくり服装を整えていると、自室の扉がガチャリと鳴る。しかし扉は開かず、少しすると外から「開けてよぉ~」という声が聞こえて来た。

 

「はいはい、今開けますよ…」

 

半ば飽きれ気味に扉を内側に引く。その向こうにはやはり築山さんが立っていた。

 

「いや―、(ふすま)みたいに開くかと思ってたけどまさか押すとはね…一本取られたよ~」

「…まぁ、今は和室以外は大体こんな感じで開きますから気を付けて下さいね。」

「は―い。ところで主君、今のこの格好、どうかな?」

 

築山さんはそう言うとクルリと1回転して見せる。彼女はいつもの和服を着ているのではなく、姉の物であろう薄い桃色をしたパーカ―にシックなジ―ンズを穿いていた。身に付けている物が洋服になっただけでいつもの清楚な印象が違って見え、少し可愛いと思ってしまう。

 

「その、いつもと違って、良いと思いますよ…」

「えへへー、私こういう服着るのは初めてだけど、似合ってるようで良かった…」

 

そう言って築山さんははにかむ。姉が着ても何の魅力も感じない服を着こなすとは、やはり根本的に何かが違うのだろうか。主に胸の大きさとか。

 

「な~にを考えていたのかな~松ちゃん?」

「うぉっ、姉ちゃんか。ビックリした…」

 

廊下を通りかかった姉にいきなり話し掛けられ驚いてしまう。声色が少し不機嫌そうだったが、胸についての考えを読まれたのだろうか。あれでも結構気にしてるみたいだし。

 

「はぁ、二人共準備できた?そろそろ和也君が来る時間じゃないかな?」

「そういえばそうだな。下行くか。」

 

姉はそれ以上問うてくる事はなく話題を切り替える。和也の事だが、どうやら俺達と合流するらしく、今朝家に来る予定なのだ。連絡された時間が迫っていたので居間で待っていると、案の定時間ピッタリに玄関の扉が開いた。俺達3人は揃って出迎える。

 

「おはよう、和也。」

「おう、おはよう松治。雪平さん、今日は宜しくお願いしますわ。」

「うん、こちらこそ宜しくね。じゃあこれで全員揃ったみたいだし、そろそろ出るかな。」

「あれ、あの二人はどうしたの?まだ居ないよ。」

「あぁ、仁科ちゃん達だったら鹿島沢 (かしまざわ)駅で待ち合わせてますよ。ちゃんと付いて来ますって。」

「その待ち合わせも昨日の『電話』とやらで済ませたの?便利だねぇ…」

 

まぁ確かに、電話の登場により遠方の人との連絡の取り合いは簡単に出来るようになった。俺達も毎日のように使っているが、昔は情報伝達は飛脚で人の脚とかだったからなぁ…そう思うと、今という時代はつくづく便利だと痛感する。

 

「って、松治何ボ―っとしとるん。もう雪平さんが車出してくれたで?早く乗ろや」

「え?あぁ、ゴメン。」

 

また考え事をしてしまっていた。ダムでは俺も迷子にならないように気を付けないとな…

って、姉が車を…?

 

「姉ちゃん?いつの間に免許取ってたの…」

「ん?今年の5月頃に取ったよ?まだ若葉だけどね」

 

暫く車庫にしまいっぱなしだった軽自動車の後ろを見やると、予想通り黄色と緑色のツ―トンカラーのマ―クが貼り付いていた。

…大丈夫なのか?こんなのに3人も乗って。

 

「あ、松ちゃん今大丈夫かなとか思ったでしょ?心配はない、私はこれでも教習所で豆腐屋と言われたんだからね!さ―乗って乗って~」

 

この人に心配無いと言われる程心配がこみ上げてくる。てか何だよ豆腐屋って。

まぁ乗らなければ目的地にも着かないので、一応後部座席に腰掛ける。すると隣に築山さんが乗り込んで、不思議そうに狭い社内を見回す。

 

「こんなのに乗って、何をするの?」

「う―ん…江戸時代で言う駕籠(かご)みたいに、移動に使われる道具ですよ。」

「そっか―、変わった駕籠なんだねぇ!」

 

まぁ構造は全く違うが。百聞は一見に如かず。実際に見てもらった方が早いだろう。

 

「よ―し、ベルトは締めたかな?じゃあ発車しま―す」

 

姉がそう告げると車はゆっくりと動きだし、公道に出てどんどん加速していく。良かった、運転の腕は普通のようだ。

 

「な、何コレ…速すぎじゃん!」

 

築山さんはそう言いながら目を輝かせて窓から外を眺める。まぁ今まで見たことのない速度で景色が過ぎ去って行くのだから、驚くのも無理はない。

 

「あれ、築山さん車乗った事ないんすか?」

 

和也が助手席から不思議そうな口調で聞いてくるが、それはできればツッコんで欲しくない所だった。 

 

「あ―、築山さん田舎から出てきたから、こういうのにあまり触れたことがないんだよね…」

「へぇ、そうなんや。」

「ちょっ、私田舎者じゃないよ?ちゃんと江戸に居たんだから…」

「今はそういう事にしといて下さい。ボロが出るとマズいんですよ…」

「何をコソコソと…まぁええわ。」

 

そんな会話をしている間にも辺りの景色は山道に変わり、俺等は仁科ちゃん達が待つ鹿島沢駅へと向かうのだった。




いかがでしたか?
今回は向かう所までで終わってしまいましたが、次回からは本格的に回っていきます。作者も本腰入れて書きますよぉ。
次回は和也くんの趣味も分かる…かも。

感想をお待ちしております。


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お姫様とダム巡り ~鹿島沢駅→ダム~

松治君達はやっと仁科ちゃんらと合流。部員+2人のダム巡り、開始です。 


「よ―っし、着いたぞ駅に―!」

「駐車場で走ると危ないですよ。あ、方向反対ですって!」

「うぅ~久々に運転したから肩がちょっと…」

「何かここ涼しいのぉ。標高高いからなんかな?」

 

鹿島沢駅に着き、車を降りた途端思い思いの言葉を発する俺達。これだけでも十分騒がしいのにこれから他の部員とも合流するのだ。さぞかし賑やかな観光になるだろう。

 

「え―っと仁科達は…おったおった。みんな、行くぞ―」

 

和也が全員に声を掛け仁科ちゃん達が居る駅の方向へと向かって行く。俺はすぐ何処かに行こうとする築山さんを引っ張ってそれに続いた。

 

「皆さん、おはようございます。」

「その、今日は宜しく、お願いします……」

 

向こうも俺達の姿を見つけたらしく、走り寄って挨拶をしてくる。律儀にお辞儀を添えるのが仁科ちゃんで、少し俯きながらボソッと呟いたのが藤井部長だ。普段二人の制服姿しか見ていないせいか、私服はちょっと新鮮に感じた。

 

仁科ちゃんは紺色のポロシャツとその上にジャンパーを着こなしボ―イッシュな感じの出で立ちで、いつもの髪型はそのままに、前髪を少しヘアピンで留めている。

対して藤井部長は白いブラウスを着て、長めのスカートを穿いている。おまけにスト―ルまで巻いているので、何か清楚な感じである。

 

「雪平センパイ、何をジロジロ見てるんですか―?」

「あぁいや、二人の私服姿って、何か新鮮で可愛いな―って…」

「まぁ、似合ってると思ってくれてるなら良いですが…。」

 

そう言うと仁科ちゃんは顔を少し赤らめながら笑う。部長は無反応だったが、確かこういう事は軽々しく口にしてはいけなかったのだろうか。

気まずい空気が流れかけたが、築山さんがそれを壊すように話し出す。うん、今回は良い仕事してくれました。

 

「ところでさ、ダムまでどうやって行くの?私、食料とか持ってきたよ?」

「…登山にでも行くつもりですかアナタは。普通に乗って行けますよ。」

「あれ、やっぱ駅って付いてる言う事は、もしかして電車なんか!?」

 

それまで服装などには無関心だった和也が目を輝かせながら問うてくる。そういやこいつは少々鉄道オタクの気があるのだった。しかし残念ながら和也の思ってる通りにはならない。

 

「う―ん、電車っていえば電車だけどな…トロリーバスってのに乗ってくんだけど、知ってる?」

「何やその溶けそうな名前のバス。電車やないんやな…」

 

う―む、やっぱり知らないか…

 

「いや、正式には『無軌条電車』って言って、平たく言うと電気で動くバスだから電車みたいなモンだよ。」

「え、何やその面白そうなバス…やっぱカメラ持ってきといて良かったわ!」

 

あ、和也の機嫌が上がった。まぁ電車なんて幾らでも乗れるし、たまにはこういった違う感じの乗り物もいいか。

 

「それで、切符とかはどうしてあるの?これから買ったりする?」

 

姉が大して入っていなさそうな財布を出しながら疑問を呈してくる。確かにバスとかの搭乗券はどうなったのか気になってはいたが、ここで仁科ちゃんは思い出したように自分の鞄の中を探る。暫くすると、数枚束になった紙が出てきた。

 

「切符は皆さんが来る前に買っておきました。はい、一人一枚です。」

「いいの?仁科ちゃんのお金じゃ…」

「あ、全部部費から出しているので問題ありません。部活の金庫番は私に任されていますので…」

「仁科ちゃんは1年なのにそんな役を任せられて偉いね―。どっかの人も見習って欲しいけどねぇ…」

 

そう言いながら姉が俺を横目で見て来やがる。何だよ、俺だってなりたくて何の役職にも就いていないワケじゃね―やい。

俺が目線でそう言い返してやると、姉は「分かってるよ」といった眼差しを向けてくる。分かってるならからかわないでくれ。

 

「というより、もう中に行った方がいいんじゃないか?朝食もまだ買っていないし…」

「そうやな。まだ時間はあっても、余裕は持って行動したいしな。」

 

和也も俺の提案に便乗してくれる。しかし団体行動をこの駅構内でするのはどうかと言う事になり、男子組と女子組に別れて時間まで駅を散策したり、食べ物を買ったりする事となった。ちなみに待ち合わせはバスの発着ホ―ム。

女子4人が去った直後、残された俺達2人は、

 

「んじゃ、朝飯でも買いに行くか。」

「俺はうどん。無かったら幕の内で宜しくな」

「…何で俺が買いに行かなきゃならねぇんだよパシリか!」

 

こんな感じだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「う―ん、二人分は少し重いな…ったく、アイツ(和也)も手伝えよ…」

 

俺は文句をブツブツ呟きながら二人分の弁当とお茶を買いバスの発着ホ―ムへと向かっていた。

まぁ和也に注文された「うどん」などという代物があるハズもなく、指示通り幕の内弁当と俺の分の鶏めしを買った。お茶は当初はかさばるから買おうとしなかったのだが、売店にいためっちゃ喋って来るに―ちゃんに見事に丸め込まれお茶を買わされたのだ。あのに―ちゃん、一体何者なのだろうか。

そんな事を考えながらホ―ムへと続く階段を上ると、そこには和也の他に女子組も一緒に待っていた。どうやら俺が最後だったようだ。

 

「おぉ松治、サンキュウな。って俺お茶まで頼んだっけか?」

「いや、売店のに―ちゃんに買わされただけだよ。別に水分は持っといて損はないだろ?」

「まぁな。あ、それよりバスがもうすぐ来るやん!ちょっと写真撮って来るけん、待っとってな!」

 

和也はそう言い残すと猛ダッシュで駆け出し、ホ―ムに入ってこようとしているバスにカメラを向けていた。ちなみに機種はちゃっかり一眼レフ。俺の財布もそんな額の物を買える余裕が欲しいものだ。

 

写真を撮っている和也をしばらく眺めていたが、満足したのかバスがホ―ムに入って来るのと同時にホクホク顔で戻ってきた。そんなに良かったか、トロリーバスが。

 

「いや―満足満足…もう帰ってもええぐらいやな。」

「ダメですよ生駒センパイ。ちゃんと発表のネタは集めませんと。」

「冗談や冗談。さ、乗ろか―」

 

和也の冗談にもきっちりとツッコミを入れる仁科ちゃん。そんな二人を見ながら俺達もバスに乗り込む。車内は早朝だというのにク―ラ―が付いていたが、不快感は感じなかった。普段はかなり人が乗っているのだろうが、まばらにしか人が乗っていない環境も手伝って心地よく過ごせそうだ。

 

「主君主君、これ凄い!椅子が倒れるよ―!」

 

…いや、早計だった。ウチには現代の技術にいちいち感心を示してくるご先祖様がいるのだった。しかも俺の隣の席に座ってきたし。まぁ適当に説明をして納得させ、引き下がってもらおう。

 

築山さんがリクライニングシ―トをバコンバコン起こしたり倒したりしている事に俺が一喝入れている合間に、トロリーバスは静かに白沢ダムへ向けて発車した。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「へぇ、トンネルの中に駅があるんですね…」

「まぁここはまだ山の中だし、もう少し歩いたらダムに着くと思うよ。私も久々に来たから忘れちゃってたけど…」

「てか、少し涼しくないか?松治、上着貸してくれ―」

「ったく、標高あるんだから上着ぐらい持ってこいよ?え、いや、部長の事じゃないですって!」

「…あの、必要ないかと思ったから上着忘れた…だからって責めないで…」

「私はまだ平気だよ!さぁ皆、どんどん行こ―う!」

 

俺達は予定通り白沢ダムに到着し、また駅構内を歩いていた。しかし駅はトンネルの横に造られている構造上、圧迫感がありあまり広くはない。早く地上に出よう。

 

「あっ、そうだ。どうせダムまで行くなら、先に展望台から見てく?」

 

ふと姉がそんな事を言い出す。確かに展望台…と、そこに隣接しているレストハウスにも行く予定ではあったが、駅から行けたのか。

 

「展望台って、駅から行けるんですか?」

「うん。ネットに書いてあった。元は工員専用の通路だった物が、今は階段が付けられて直接行けるようになったみたいだよ?」

 

そう言って姉は今歩いている通路の少し向こうにある階段を指差す。そこには「展望台 こちら↑」と書いてあった。

俺達は姉の先導で階段を上る。作業用の通路だったらしいが、拡張工事が施されておりそこまで狭くはなかった。

 

そして階段を上り切ると、目の前には絶景が待っていた。

 

「わぁ…」

「え―!?主君主君、これ何なの!?何なのこれ!?」

「うわっ、想像しとったんと全然違う…綺麗やな…」

「……凄い…。」

 

眼下に渓谷、奥に山脈を臨み、朝焼けを背に放水を続ける白沢ダム。

技術と努力の結晶が、そこにはあった。




ちょっと中途半端な所で終ってしまい申し訳ありません…(笑)。
次回は……ネタが今思い付かないので何か一行にしてもらいたい事があれば感想欄にて意見をお聞かせ下さい。


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お姫様とダム巡り ~白沢ダムの魅力を知る~

忘れ去られているかも知れません。佐渡山創です。
更新が滅茶苦茶遅れて、申し訳ございませんっ!



「お―い主君、早く早く!」

「元気ですねぇ…そんなに急がなくたってダムは逃げませんよ。」

 

俺は今、築山さんと二人でレストハウスから繋がる外階段を下っていた。ちなみに目的地は展望広場だ。

え、何で俺が築山さんと二人で行動しているのかって?

事の発端は、朝食の時和也に「これからどのように行動するのか」と聞いた所、

 

『うーん、適当に二人とかで組んで散策したらええんやない?』

 

と言っていたからだ。まぁ、二人で行動するとなると当然彼女が着いてくる訳で、俺は築山さんとダムを散策する事になった。

別に嫌ではないが、トラブルが起きないかと少し心配ではある。

 

「主君、何をボーッとしてるの?私先に行っちゃうよ―」

 

築山さんが手を差し出しながら呼び掛けてくる。

 

「え、あぁすいません。別に先に行ってて貰っても構わなかったんですけどね?」

「…どうして主君は私との手繋ぎフラグ(旗)を立つ前からへし折ろうとするの?折角二人きりになれたのに…」

「俺は状況に惑わされはしませんよ。さ、行くんならさっさと行きましょう。」

「…剣山のようにツンツンだねぇ。ま、そこがいい所でもあるんだけどね―。」

 

しかし、こういう事をサラッと言われると俺も多少はドキッとする。もう少し自重して欲しい物だが。

俺はそういった気持ちを悟られないように気をつけつつ、築山さんの先を行くのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「おぉ……こんな場所だなんて、知らなかったよ―!」

「確かに、近くで見ると凄い迫力だな…」

「す、涼しい―!」

 

俺達は、白沢ダムが誇る観光放水に圧倒されていた。展望広場は、ダムの堰堤(えんてい)がよく見渡せるように造られており、間近で迫力満天の放水を鑑賞できる。ここは高地なので涼しいが、飛んでくる水しぶきが更に清涼感を引き立てていた。

 

「こんなに綺麗な景色なら、絵師を連れてくれば良かったねぇ…」

「え、絵師?何でですか…」

「いやー、この美しい景色を絵に描いて残して置けば良かったなぁって思ってさ。」

「…要するに記念撮影みたいな物ですか?今はカメラがありますよ。」

「へぇ、写真機(カメラ)って皆持ってるんだねぇ。じゃあ早速撮ろうよ!」

 

何故江戸時代前期の人がカメラを知っているのか。確かカメラが国内に入ってきたのは幕末だった筈だが。

まぁ、分からん事は後で質問するとして、とりあえず写真を撮ろう。俺はスマホの撮影機能をONにし、放水をバックに満面の笑みを浮かべている築山さんの写真を撮った。

しかし彼女は撮影が終わったのに一向に動こうとせず、笑顔のまま固まっている。ひょっとして昔のカメラと同じで、撮影には数分掛かるとでも思っているのだろうか。

 

「…あの、何で動かないんですか。撮影はもう終わりましたよ?」

「………。え、もう終わったの早すぎない!?どういう仕掛けなのソレ!?ねぇねぇちょっと見せてよ!」

「いや知りませんよ!そんなに知りたいならキャ◯ンにでも行ってきたらどうですか!」

 

矢継ぎ早に繰り出される質問に答えるのが面倒臭くなったので、答えはカメラ会社に聞いてもらいたい物だが。あ、この場合ケータイ会社のa◯とかソ◯トバンクとかか。違うか。

 

「むー、主君のケチ!」

「んな事言わないで、いつかケータイ買ってあげますから落ち着いて下さいよ!」

「……え、ソレ、買ってくれるの…?っていうか売ってるモンなの…?」

 

…今、俺はしてはいけない約束を交わしてしまったのではないだろうか。まぁ、生活して行く上でいずれ必用になるだろうから良いか。姉にそこまでの稼ぎがあるかは謎だが。

 

「まぁ、そのうちですが……」

「ホントに!?えへへ、主君ありがとう!」

 

築山さんはそう言い、何故かいきなり俺の腕に抱きついて来た。服越しだが彼女の胸の感触がふにゅん、と伝わってきて、顔が一瞬にして熱を帯びるのが分かる。

 

「っ!?ちょっ、いきなり何するんですか!?」

「へへ…さっきは手繋ぎを拒否されたけど、こうして私から近づけばいいよねぇ。攻める時は敵の懐に!ってね!」

「公衆の面前で、こんなっ…」

 

こうやって抱き着かれるという体験を殆どした事がない俺にとっては不可抗力だ。どうしようもない。小さい頃に姉にされた事はあったがまな板だし。

 

「あ、あっちの建物なんだろう?ちょっと行ってみよーう!」

 

俺はそのまま築山さんにズルズル引きずられて次のスポットへと向かう。

着いた先は特設の会場のような建物で、自由に出入りができるようだった。パンフレットを見て確認すると。

 

「ここは…記念館みたいな所ですね。ダムの歴史とかが分かるみたいですよ。」

「へぇ~、どんな風にここが出来たのか気になってたんだよね。」

「それは丁度良かったじゃないですか…って、そろそろ腕を離してくれません?周囲の視線が…」

 

俺はやっと左腕に力が入ったので、築山さんのホールドをふり(ほど)く。さっきから密着されっぱなしなので周りの視線が痛いのだ。主に男性からの。

 

「え―、もうちょっとくっ付いていたかったのにぃ。私は周りとか気になんないよ?」

「俺が気になるんですよ!…ほら、中入りましょう。」

 

建物内は少し暗く、壁にはパネルが掛けられ、奥ではドキュメンタリーと思しき映像が流れている。特設にしては良く出来ているな、ここ。

 

「ふんふん…こ、こんな事があったんだ…」

 

築山さんは先程とは打って変わってパネルに興味津々だった。俺もなんとなく資料を眺めていよう。

しかし、俺は文化祭の発表のネタ探しをする為にダムに来ていた事を思い出した。これは学習した体にしとかないと怒られそうだな…和也ではなく仁科ちゃんに。

築山さんが集中している内に、俺は役に立ちそうな部分を適当に抜粋して纏めた。

 

「よし、こんなもんかな。」

「主君~、だいたい読めたからもう行かない?結構苦労したんだねぇ、ここ建てるの…」

「まぁ、江戸城の建設に比べたら易しい物じゃないですか?」

「江戸城、か…」

 

築山さんはそう呟くと少し寂しそうな表情を浮かべる。何か良くない琴線に触れてしまっただろうか。

 

「あ…なんかすいません、寂しいですよね?」

「え、ううん、全然そんな事ないよ!私は、この時代で主君と出会えた事が幸せだからね!」

 

いきなりラブコメチックな台詞をブチ込んできた築山さん。油断するとすぐこういう事を言ってくる…

そのまま調子に乗ってくっ付いて来ようとする築山さんをグイッと退け、俺は足早に特設会場を後にした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

俺達二人は見れる所は全部回ったので、とりあえずレストハウスの前まで戻って来ていた。

築山さんとダムに関する問答を繰り広げていると、聞き慣れた讃岐弁が俺の耳に届いた。

 

「あ、おったおった。おーい、松治ー!」

「おっ、和也も来たのか。もう一人は…仁科ちゃんか?」

 

あの二人だけという事に俺は少し驚いた。てっきり俺ら二人以外はまとまって行動していると思ったが。

 

「ふー、色々見て回ってきたけん、少し疲れたわ。」

「私はまだ動けますけど…あ、松治センパイ達は何かメモして来ましたか?」

「あーうん、一応ね。」

 

言えない。途中まで忘れていたなんて。それに比べて仁科ちゃんは始めから忘れずにしっかり調べているようだった。ノートを見せて貰うと、文字が多すぎて吐き気がしてきた。どんだけ書いたんだよ。

 

「よくこんなに書けたね…」

「途中で細谷センパイに会いまして、いろいろ訊きましたから。」

「細谷?あいつも来てたのか…」

「おう、おったでアイツ。また取材やと思うけど。」

 

細谷はうちのクラスにいる、所謂情報通みたいな奴だ。まぁ特筆には値しないので紹介は割愛する。

細谷、モブキャラ。以上。

 

「それよりさ…皆、お腹空かない?」

 

築山さんが自分の腹に手を当てながら言う。もうそんな時間か。小腹空いたなぁ。

 

「確かにそうやなー。うどんあるかな?」

「私も、頭を使ったら少しお腹が空きました…」

「じゃあ昼飯にするか。姉ちゃん達にも連絡しとこう。」

「やった―!ご飯だ!」

 

前から思っていたが、俺はここに来たからには食べたい物がある。それを皆にも食べて貰いたいと思い、こんな提案をした。

 

「なぁ皆、カレー食べたくないか?」

「カレー?うどん食いたいけど、まぁええぞ。」

「カレーって何?」

「別に良いですけど、なんか微妙ですね…」

 

俺は只のカレ―ではないぞとアピールする。

 

「そうかぁ…皆も食べたくない?『白沢ダムカレー』。」

 




出ましたダムカレー。あれは美味しいですよ、多分。
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