Japanese in THE ゾルザル (連邦士官)
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プロローグ

-あぁ、俺は死ぬのか……。-

 

近年まれに見る熱波に襲われ、観測史上最高気温を更新しつづける灼熱の日本。

 

50代位に見える男はそこにいた。

かの男は渇きと空腹にさいなまれていた。

昔は土地と株でならした豪傑だったのだが、男は30代の時に通勤中の電車で痴漢容疑で逮捕され、自白を強要されたのだ。

 

冤罪と認められたものの一度犯罪とマスコミに報じられた者は芸能人などの一部を除き社会復帰出来ないのが日本という国である。

 

男の名前もマスコミに出されてしまった。

だが、冤罪だとわかってもマスコミはそれを報じなかった。

 

いや、週刊誌のみだけは報じた。

週刊誌の最後のページに老眼なら虫眼鏡を使わなければならないほどの大きさで。

 

以上の理由で男には職業が無かった。

男は親の脛をかじりながら生き長らえるしかなかった。

 

アルバイトといったことを始めようにも男の名前と写真はマスコミに大々的に報じられ過ぎてたのである。

 

当時の風潮では、宴会などではセクハラはまだ許容されていたが、流石に電車での痴漢は許されていなかったし、いつの時代も歪んだ正義感の持ち主はいるものだ。

 

そう言った連中が、彼のごく一部の少ない勤めれた先を襲撃した。

その行いが彼を就職できない男にした。

 

彼はニートという言葉が生まれる前からニートになっていた。

 

いや、語弊があるかもしれない彼は働く気がないのではなく、働く気はあるが働けないのだから。

 

雀の涙程度の賠償金はすぐに無くなり、親からの仕送りで暮らす日々である。

一応、若いときはいけいけどんどんと土地と株式で儲けはしたがそれも昔の話である。

 

ITバブルの時は売り抜けてかなりの額を儲けたのだが、それすらもリーマンショックにより弾けとんだ。

 

なぜだか邪気が抜けたように男は隠居生活に入った。

 

家は両親の持ち家だから金はかからないし電気代を払わなくても水道と木炭で暮らしている男には関係なかった。

 

晴耕雨読の毎日を送り、最寄りの図書館に自転車で通い続けた。

 

しかし、そんな毎日はいきなり崩壊した。

 

男の両親が大雨による土砂崩れで死んだのだ。

 

男の他に相続人がいないので、両親の土地や財産が来たのだがほぼ全て土地であったのが悪かった。

 

相続税により二束三文で土地を手放す羽目になり、男の生活は一変した。

 

始めの3年間はなんとかなったが男は金が無くなり飢えと渇きの最中で熱波による熱中症で死亡した。

 

男の死亡は一カ月後に異臭騒ぎにより市の職員が立ち入ったことで判明した。

 

孤独死だった。

 

そう男は孤独だったのだ。




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その男、大地に立つ

男は気がつくと白人の様な赤毛の女性に叩かれていた。

 

「何故だ!?」

男は訳がらからずに声を出した。

 

「何故か分からないのですか!兄上がしてきたことですよ。」

男の発言が女性の怒りに触れたようだった。

 

「兄上?妹が俺には居たのか?」

男はなぜこの女が兄上と名乗るのかは謎だが早々に女性から離れようとした。

 

「ここにきて、それでごまかせるとでも?兄上は果物より甘い考えをお持ちの様で。」

女性は激昂した。

 

「話しても無駄なようだ。失礼させていただく。」

男は逃げようとした。

 

しかし、女性に回り込まれてしまった。

 

「逃げるつもりですか!ゾルザル・エル・カエサル!」

怒られたが男は女性の後ろに更に回り込んで逃げた。

 

逃げ際に男は捨て台詞を吐いた

「ゾルザルなんて奴は知らない。」

直ぐ様、部屋の外に逃げ出すと無我夢中で走った。

 

部屋に残った女性が一人「あくまで自分はゾルザルではないと言い張るのか。」と呟いていた。

 

一方、男は逃げ出した廊下で途方にくれていた。

石造りの高級そうな廊下に、気品のある中世ヨーロッパ風の調度品が備え付けられていた。

 

(昔、フランスにいった奴が古城を改装したホテルに泊まったと言うがそれみたいな事か?)

 

何にせよ、いきなり死にかけの所を拉致され古城の様なホテルに連れてこられるわけがない。

荒唐無稽とはこの事だと思った。

 

(テロにしたとして、何故、俺を拐う?さっきの女性は?何なんだ一体。)

男はとりあえず庭に出て噴水の前に来ていた。

 

噴水の脇に座った。

(中東では無いようだが、ヨーロッパぽい。ヨーロッパで日本と敵対している国……もしかしてソ連か?北朝鮮から連れてこられたのか?)

 

男はソ連に拉致されたかと思ったがふと噴水に目をやると愕然とした。

 

男の見慣れたほりの浅い彫りの醤油顔ではなく、彫りが深いヨーロッパ風の顔であった。

 

(俺は拉致されて整形手術を受けたのか?そういえば前に比べて身長が高くなったような?)

月を見つめていると後ろから声をかけられた。

 

男の容姿が変わっていたのが、ここで映えた。

月を見ていることで銀髪が月の光に晒され、風が男の長い髪を撫で、憂いを帯びたその表情はとても普段のゾルザルとは思えず魅力的に見えた。

 

ゆっくりと振り替えるゾルザルに目を奪われつつも

「不敬にあたるやもしれませんが、たとえゾルザル様でもここは姫様の近くです。用件は何ですかか?」

 

その女の声に振り替えるとゆっくりと男は振り向いた。

 

いつものゾルザルとは違う反応に相手は驚いた様子だったがそれ以上に男が驚いた。

 

(鎧に剣?何だこいつは?)

見回りをしていた女性兵士に驚いたのだった。

 

「なんだその格好は?」

男は思ったことを口にしてしまった。

 

「はっ。失礼しました。」

見回りはゾルザルから立っていることが失礼と言われたと思い片膝をすぐに着いた。

 

「何故、そんなことをする?」

男は更に困惑した。

「ハッ。ただいま姿勢を改めました。」

軽くゾルザルの考えが分からず困惑したが無事答えれた。

 

「そんなことはしなくていい。」

男は断ったが

 

「いえ、そういう訳にはまいりません。」

二人が押し問答をしていると更に空が暗くなっていった。

 

「もういい。眠いから部屋まで連れていけよ。」

男はとりあえず割り当てられた部屋に連れていって貰おうとしたのだった。

 

「部屋……つまり、私と部屋に入るのですか?」

驚いた顔をした女性兵士になんだと思いつつ男は首を縦に振った。

 

「監視役が居ないと駄目ではないのか?」

怪訝な顔を浮かべて男が言った。

 

「そう言う事ですか。」

若干の怒気を言葉に込めた女性兵士がそう言うと部屋に男を案内した。

 

途中、メイドなどに遭遇したがメイドなどが下がって礼をしたためこの女性兵士は階級が高いと男は判断した。

 

「ここです。」

女性兵士がそう答えると帰ってしまった。

 

「中までは案内をしてくれないのか……。」

男は部屋に入っていった。




ゾルザルの容姿は小説(アルファポリス)版を基準にしてます。

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一人だけの戦争

男が案内された部屋は大きく豪奢で装飾品がきらびやかに、整列されていた。

 

成金趣味が目立つ部屋で、唯一地味なのは机ぐらいだった。

 

「何なんだよ……この部屋は。」

男が軽く部屋の装飾に顔をしかめると先ほどから違和感を覚えていた事が少しずつ明らかになった。

 

(もしかして、さっきのメイドとかは俺に対して頭を下げていたのか?)

豪奢過ぎる部屋に気押され居心地が悪かったが、比較的豪華ではない机に座っていた。

 

机の引き出しを何気なしに引いて見てみるとそこには古びた本(羊皮紙をまとめたもの)があった。

 

中身は見たこともない字だが、なぜか男には読めた。

 

弟と妹に対する不満が書きこまれてあった。

更に自分に対しての不満や悲惨さ、無能さを嘆いていた。

 

書き込まれていたのは、ほとんど自分の無能さについてである。

これの筆者はよっぽど自身を憎んでいたのだろう。

 

同時に悲しんでいたのだろう、字を通してその感情がありありと伝わってくるようだった。

 

世の中を悲観した憂鬱にふける詩なども大量に書き込まれていた。

書かれた内容は深く男を突き動かすものだった。

 

(まるで、痴漢疑惑をかけられた時の俺のようだ。)

世の中に絶望し、ただただ嘆いているだけだった時の自分を見ているようで何処かで共感と嫌悪感を懐いた。

 

ただ1つこの日記を読んでわかったのはこれを書いたのはこの体の真の持ち主と心で悟ったのである。

 

手が止まらずに次のページをめくる。

彼を突き動かすのは身体の記憶だった。

 

ある日、突然書いてある内容が変わっていた。

自身を認めない世界が間違っていると。

 

繰り返し、間違っているいう単語のみ書かれた日記は狂気に染まっていた。

間違っている、間違っている、間違っている繰り返し繰り返しインクが霞んでいてもひたすら書き込んであった。

 

心なしか机が叩かれていて歪んでいるように見えた。

辺りの調度品を見てみると部屋にあった甲冑などすら叩かれたあとがあった。

 

引き出しの奥を探ってみるとハンマーがあった。

所謂、中世の武器であるメイスと呼ばれるものだった。

 

それにはかなり使用感があった。

削れたり、潰れた部分がこれは使ってあると証明していた。

 

蝋燭の光が包む部屋では、不思議と男は落ち着いていた。

 

(これは天命かもしれないな。)

男にはもはや、日本に対しての未練は無かった。

 

なにより、マスコミの事が嫌いだったし正義感に駆られて冤罪だった痴漢事件を掘り返してくる人達も嫌いだったのだ。

 

良いと思って彼らは被害を与えてきた。

それは許されないものだった。

 

法は自身を守ってくれずに、警察も自分に恥をかかせたとばかりに男を無視した。

 

中には良識ある記者や警察官、弁護士も居たが大多数が自身の身勝手な正義感などを振りかざした。

 

男が両親と助けてくれた記者や弁護士以外に心を閉ざしたのは当然と言えた。

 

だからこそ、これは良い機会に思えたのだ。

 

新たな世界に昔の事をしる者は居ない。

うまくやる自信は無いが、日本に居たときの晴耕雨讀の毎日から得られた知識はあった。

 

男は歴史が科学が好きだった……漫画もなんでも読み、男は自身を誤魔化すためにひたすら本の世界にのめり込んでいた毎日が役に立つと考えたのだ。

 

日記に書いてあった名前〝ゾルザル〟は、突拍子もないことをやる男だった様で割りと自由に出来そうだと男は考えた。

 

今日ここに、男は日本の名前を捨てて〝ゾルザル〟となった。

 

まずは英気を養う為に寝ることにした。

入ったときは気になった成金趣味の居心地の悪さも不思議と無くなっていた。

 

何故か〝ゾルザル〟の心は晴れやかだった。

その晴れやかな気持ちのままにゾルザルは眠りの世界に旅立った。




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始まりまでは何マイル?

ゾルザルは目を覚ました。

 

それは朝を過ぎて昼になる頃だった。

 

昨日の日記から分かったのは、自分が成り変わった男はどうやら<帝国>の皇子という立場だったようだ。

 

ゾルザルは周りから無能と見られていたし、不満から来る英雄への憧れから〝前のゾルザル〟は伝統を軽視していたために最近は朝の儀礼にすら呼ばれなくなっていた。

 

「朝か……。」

ゾルザルは眠い頭を振り、起き上がると体を伸ばし着替えようとした。

 

なかなか一人で着替えるのは難しかったものの着替え終わると部屋を出て散策する事とした。

 

部屋を出るとメイドが顔を青くして挨拶をしてから、何処かに消えていった。

しばらく辺りを散策していると後ろに男を従えた、優男にあった。

 

「これはこれは、兄上ご機嫌はいかがですかな?私は朝の礼帰りですのでいささか疲れておりますが。」

暗にゾルザルに皮肉を言っているようだった。

 

「あぁ、元気だよ。ところで君の名前は?寝起きで頭が回らなくてね。」

ゾルザルの発言は皮肉に対してお前を知らないと皮肉で返しているようにとれた。

 

「兄上、お忘れですか?ディアボですよ。ディアボ。」

明らかにイラついた様子をディアボは見せた。

 

ディアボとしては皮肉を返されると思っていなかったからである。

 

「ディアボ、悪かったな。それで何かあったか?」

飄々とした様子を見せているゾルザルにディアボは半ば呆れを見せた。

 

「いえ、これから用事がありますので帰ります。」

軽くそういうと去っていた。

 

後ろに居た男が丁寧な挨拶をするとディアボに着いていった。

 

しばらくすると何処からか走ってきた様子で、一目見ただけでは美少女に見える男がゾルザルに会いに来た。

 

「殿下、失礼を承知で質問いたします。何故私を呼んでくださらなかったのです?」

年頃は若めの男である。

 

「誰だ?」

ゾルザルは瞬時に名前を聞いていた。

 

「貴方の侍従のキールです。キール・カーディナルです。殿下。」

着飾った美少年は慣れた様子でそう答えた。

 

ゾルザルは一瞬、驚いたが冷静に返した。

「そうか。悪かったな。」

 

「閣下。毎日の事では無いですか。」

キールは気にした様子はなく、いつもの様子と変わらないと判断したようだった。

 

「そうだったか。」

ゾルザルの発言にキールは「はい。」と返事をしてから別の話を始めた。

 

「殿下何故、私を毎日遠ざけるのですか?呼鈴を鳴らせば何時でも駆けつけますのに。」

更に「今日は一人で着替えた様ですし」と言った所でゾルザルには何故、〝ゾルザル〟がキールを突き放していたか理解した。

 

妙にキールの目が熱ぽく矢鱈と所作の節々に女性らしさが出ていたからである。

キールの災難は美少年だがゾルザルにも〝ゾルザル〟にもそういう趣味はなかった事であろう。

 

〝ゾルザル〟とキールの関係は一部の特殊な趣味を持つ貴族や女性騎士や皇女を除いては、誰にも得をもたらさなかった。

 

それは勿論ゾルザル自身にもであるが。

 

気まずさと何処と無く感じた悪寒にゾルザルはここのまま同じ話題を続けていると良くないことが起こると感じた。

 

「最近、何か特別なことは無かったのかキール?」

この発言が仇になるとゾルザルは考えていなかった。

 

「殿下のご命令通り、殿下からお金を貰って旅に行った時に全ての神殿巡りも終わりました。学問のロンデルで魔法を覚えまして見識が深まりました。それと同時に離れれば、離れれるほどこの素晴らしい旅を殿下への敬愛は深まりました。」

そして、ゾルザルは聞き漏らさなかったがキールは小さくキールと呼んでくれたとしっとりと艶のある声で呟いていた。

 

(なんだコイツは……〝ゾルザル〟は遠ざけてたみたいだが危ないやつじゃないか。)

何だか危ない雰囲気を漂わせるキールに悪寒が走りながらもゾルザルはとりあえずまた話題をそらした。

 

「お前は何が出来るんだ?教えてくれ。」

キールと呼ぶのを危険と感じたゾルザルはキールと呼ばないこととした。

 

「殿下のご指示によって、魔法や武術や商業農業全てが出来ます。」

そう言う姿は可愛らしかったが、時折見せる潤んだ眼でゾルザルを畏縮させた。

 

「そうか。」

ゾルザルは部屋に逃げた。

 

その様子を茂みで見ていた者が居た。

「素晴らしいですね。」

「そうね。素晴らしいわ。」

二人の若い女性が見ていた。

 

今日も薔薇騎士団は平和だった。




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手柄強奪 Fame RISING

ゾルザルとして過ごしてから数日、キールに押されて忘れていたのだが魔法についてそれとなしにキールに聞いてみた。

 

だが、キールの説明は解り辛かった。

しかし、分かったが魔法は有用ということだった。

 

魔法は自身が思い描いていたような便利なものではなく凄く複雑な学問によりなりたっていると知った。

 

(魔法はなぜこちらで使えるか気になるな。)

等と考えながらも自らの立ち位置について確認していた。

 

ゾルザルは皇太子であるが、有能すぎても今の皇帝に殺されると判明した。

それが分かったが記憶が薄れたら、自分が持っている皇帝から助かる術が無くなるように思えたのである。

 

記憶を元に膨大な数の書籍を一心不乱に記憶を頼りに書き出した。

 

幸い馬鹿な皇太子と評判になっているので、多少の無茶は何とかなると考えた。

 

それに加えて恐怖対象だがキールは信用出来る部下で有能だと考えた。

キールはゾルザルに言われたことならば何でもするようで硫黄と木炭と硝石について話すと僅か三日で火薬の配合比を見事作ってみせた。

 

火薬を量産出来ないかと聞いてみると硝石が足りないと言うことで、硝石丘と培養法と古土法やについて話した。

 

すると一週間ほどでキールが無茶をして古土法で硝石を作ってみせた。

 

更にはキールは職人を連れてきて硝石丘の小屋を別々の形で作って、ロンデルから錬金について研究している学者などを配置したのだった。

 

たまにゾルザルがこぼす、数式や公式などや元素表に学者達が食い付きゾルザルはそれを説明してそれに新たな構想を得た学者が研究室を吹き飛ばす毎日を送っていた。

 

数ヶ月の後に、宮中のゾルザルの評判は馬鹿皇太子から狂った学者の仲間と言う扱いになった。

それは〝ゾルザル〟が信仰していたエルランがよりその評判を広めていた。

 

集まった学者達はゾルザルから聞いた公式などを元に様々な論文を完成させ様々な数式や物理法則についてゾルザルの発見とそれの証明として学会に提出された。

 

学会ではゾルザルの招致を依頼したがゾルザルは拒否して、ゾルザルの知識を求めて逆にゾルザルの学者団が増えていった。

 

学会で論文が発表される度にゾルザルの元に学者が増えていき、どうしようも無いので使われていない帝都の外側にある施設を借り受けることになった。

 

簡単な話で、妹のピニャ・コ・ラーダの騎士団遊びと同じ扱いを受けたのだ。

しかし、妹よりも嫌がられていた。

 

硝石丘に使う材料の臭いや学者達が爆発したりする音など迷惑だったからである。

 

昔はさぞや美しかったであろう薔薇の様な植物の蔦が絡まり残念な光景になっていた。

ゾルザルがイバラと呼んだので、そこはイバラの園と呼ばれることとなった。

 

学者達は要塞が与えられたのに喜んでいた。

はっきり言って上流階級の市街地や宮殿や城の近くでは本格的な危ない実験が出来ないからである。

 

場所が移動するという言い訳が出来たことで、学者達は危険と思ってなくともはっきり言って常人からしたら理解が出来ない危険な実験から、実験をする為に雇った人達は危険と言うことで続々と辞めてしまっていた。

 

その噂は街に広まり、募集はしたが人間では全く集まらなかった。

 

人材難を解決するために亜人などが積極的に雇われた。

学者達は亜人かどうかは気にしないし、ゾルザルはめずらしがって見ていたいし、キールは旅の経験から彼らをそれほど警戒していなかった。

 

雇ったは良いが読み書きがあまり出来ないものも多く、学者達とゾルザルで文字を徹底的に教えた。

 

学者もゾルザルもキールも相場を知らなかった為、宮殿時代の給与で募集した。

その結果、亜人が多く集まってきた。

 

最初こそは皇太子が、亜人に対しては高額な給与を払うと言うことで、若い女性しか集まらなかったが徐々に雇った女性の仲間等が集まり男女比率は男2:女8と言う形になっていた。

 

ゾルザルは住居をこのイバラの園に移し学者と研究に走ったのである。

 

しかし、妹とは違い支援者は少なく、資金繰りは厳しく規模が大きくなるにつれて算盤と複式簿記によるゾルザル一人の会計では厳しくなり、仕方がないので算盤と複式簿記を獣人の中からそこそこ勉強出来る者に任せることにした。

 

任せられた獣人は驚嘆し喜んだ。

端から見れば皇太子の家臣団に入れたようなものだったからである。

 

ゾルザルは前世同様に金に苦しむのだった。

 




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黒い学者

資金繰りが悪化してしばらくたった時だった。

会計の部門になっていた亜人を集めて何か良いアイディアがないかゾルザルは聞くこととした。

 

要塞の本来ならば作戦を考えるべき場所で会議は行われていた。

「金が無いから金になりそうな案は無いか?」

ゾルザルが聞いてもなかなか答えてくれなかったので

 

「ここに報酬がある。一番良い答えを出したものにやる。」

ゾルザルは自身が身に付けていた剣を差し出すことにした。

 

皇太子から直々に剣を下賜されるのは、名誉な事でありキールすら受けた事がない為に次期の要職候補になれると皆が考えて案を出した。

 

しかし、皆似たような案で金が稼げそうに無かった。

ゾルザルやキールが唸っていると一人の学者が入ってきた。

 

「殿下、この数式について教えていただきたく来ました。」

この若い学者は数式について聞きに来たのだがあることに気が付いた。

 

「この板は何ですか?」

学者は算盤を片手に聞いた。

 

「確かに何時でも聞きに来いとは言ったが今は駄目だ。」

ゾルザルは学者を追い出そうとした。

「学問とは探求に今があるのです。今は何をしてましたか?」

学者は平然としていた。

ゾルザルとの暮らしの中でゾルザルは何をしても大して怒らないことが分かっていたからだ。

 

「今は資金集めに忙しい。その手に持っているのは計算に使う道具だ。その道具があれば、投石機の計算は楽に出来る。その数式は円周率と言って円についてのものだ。」

早く帰ってくれとばかりにゾルザルは答えたのだが、この学者はある事に気が付いた。

 

「殿下、この計算器と計算法を売り出しては?」

学者の言葉にその場は静かになった。

 

「……売れるのか?」

ゾルザルは聞いてみた。

 

「売れます。これを商人に作らせて専売しましょう。幸い、教えられるのはここにいる者だけです。つまり、売れれば売れるほど教えるのは我々だけで算盤を買うのは免許制にして一人原則ひとつまでにしましょう。」

学者の発言にキールが反論した。

 

「しかし、直ぐに真似されてしまい我々は売れなくなる。」

そうだよな等のキールに対しての賛同の声に学者は答えた。

 

「カーディナル卿、それは至って簡単な事で解決します。殿下が紋章を作りそれを算盤に印として刻み、更に作った分だけ数字を入れておけば管理できます。真似をすれば皇族侮辱罪として裁けばよろしいのではないでしょうか?」

学者に対して冷ややかな目をキールはぶつけた。

 

「それをしたとしても、紋章を刻まなければ真似をするのは簡単では?」

キールはそう言ったが学者は

 

「我々、学問の徒は外聞を気にしませんが商人は見栄、はったり、計算でなりたっているので殿下の算盤を持つのが一流だと考えさせてしまえば、皆こぞって買うことでしょう。」

学者は堂々とそう答えた。

 

「商人とは貴族と似たようなものなのだね。」

キールは感心したようで、ここには学者に反対する人は居なかった。

一つ、学者の意見で問題があるとすれば算盤にどう付加価値をつけるのかと言う事かであった。

 

「君の名前を教えてくれ。」

ゾルザルはこの活躍した学者に名前を聞いた。

 

「殿下、私の名前はホナーイ・エル・ドラードといいます。」

学者の名前が分かったところでゾルザルは

 

「そうか、ドラード。この剣を受け取ってくれ報酬だ。」

その申し出にドラードは

 

「殿下、有り難く受けとります。」

片膝をついて剣を受け取ると

 

「この案が成功した時には是非、私の研究費を増やしてください。」

と告げて頭を下げて去っていった。

 

「羨ましい。」

ボソリと呟きキールがゾルザルを見つめるのを見て、巻き込まれない為に亜人達はいつもの様に仕事に戻っていった。

 

キールと二人きりになるのに恐怖を感じ、ゾルザルは直ぐに用事があると城へ向かった。

キールは部屋に一人になるとゾルザルの座っていた席に座った。

 

(キールは怖すぎる。)

次第に道中の馬車で硬いクッションに揺れすぎる馬車、どうすれば馬車が良くなるか考えていた。




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プレリュード改革

馬車で揺られながら舗装が綺麗にされていない道に痛む尻を擦りながら城に向かっていた。

 

キールに目的の人物についてまとめて貰ったメモを片手に城に向かう途中街を眺めていた。

排泄物が投げられていた道も馬糞が捨てられてた道も硝石丘の為に回収され綺麗になり、街の衛生状態は良くなっていた。

 

見える街の道は大通り以外は狭く、城を中心に不規則に作られた道に浮浪者や浮浪児が住み着き、狭い道には地元の人間しか知らないゴロツキが街に溢れていた。

 

亜人は街の中心部には入れず、人間とは違い浮浪児や浮浪者やゴロツキすら城壁のそばに作られていた貧民窟に暮らしていた。

 

まだ、城壁の中に住める者は良かった街に入る税金すら払えずに、城壁の回りにも町が出来ていた。

 

彼らは戦の度に徴兵され、底辺の暮らしから抜け出すために戦うだけで戦が無ければ、畑を耕し餓えをしのぎ、たまに来た役人に蓄えさえも奪われる貧民窟を越えた暗黒街の住人だった。

 

帝都は一見、明るいが明るさの分だけ闇がある帝都の底辺は三段階に別れていたのだ。

彼ら底辺の階級は仲が悪いかと言えばそうではなかった。

 

帝都の中に密入させたり逆に密出させたり、密輸や密造酒を作る組織が出来ていた。

 

それはさておき、城の中に入り馬車から降りて軽く痛む尻を擦っていると後ろから声をかけられた。

 

「兄上、お久し振りです。」

始めてここに来たときにあった赤い髪の女性だった。

 

「急にどうした?ピニャ・コ・ラーダ?」

日記で予習したゾルザルにとっては名前は直ぐに分かったが

 

「兄上、ピニャ・コ・ラーダと私を呼ぶとは他人行儀ではありませんか?」

ちょっと不信感を出しながらも何かを期待する目付きでゾルザルを見ていた。

 

「ところで話は変わりますがキールはどうしましたか?」

兄上と一緒に居ないのは珍しいと付け加えながらゾルザルの後ろにある手で何かを察したようだった。

 

「あぁ、仕事があるからな。」

ゾルザルが無愛想に答えるとピニャは

 

「兄上、随分と激しかったみたいですね。」

何故かうっとりとした目付きでこちらに話してきた。

 

「そうだな。かなり揺れたからな。」

馬車の話を一通りするとピニャは

 

「兄上は亜人に文字を教えてるとか。」

ピニャの発言にゾルザルは

 

「あぁ、亜人は筆の扱いを覚えるのが早い。」

といった風に話題を変えて話していた。

 

暫し会話の後にゾルザルは去っていた。

 

「ボーゼス。これは皆と兄上の監視を強化しないとね。」

顔を緩ませながらピニャはそう言うと後ろにいた護衛とともに何処かに消えていった。

 

城に来たのはゾルザルが元老院のお歴々に会うためであった。

はっきり言ってゾルザルはこの世界よりも高度な文明社会で生きてきた男である。

 

根回しと〝実弾〟の力を信じている。

 

ゾルザルは上手く元老院に入ると暇そうな元老を捕まえた。

 

「何をしているんだ?」

ゾルザルの問いかけに元老は

 

「殿下、見ての通りです。全体をみるために一旦退出してました。」

元老の対応は最低限の敬意は払いながらもゾルザルを軽く扱っているようだった。

 

「元老、私と一緒に私の所の研究を見ませんか?」

馬車に案内しようとすると元老は

 

「私は暇では無いので、お引き取りいただきたい。」

とゾルザルに一言告げると背を向けて帰ろうとしていた。

 

「しかし、貴方は居場所が欲しいのでは?」

ゾルザルの問いに元老は動きを止めた。

 

「例え、そうだったとしても何かありますか?」

振り返った元老は石像のような表情を見せていた。

 

「私なら貴方の居場所を用意できるかもしれない。貴方は見るだけで良い。それから判断してくれ。」

ゾルザルの発言と共に元老の腕をとり何かを握らせた。

 

掌の中の物を見ると元老の表情は変わった。

「ここはお供いたしましょう。」

その言葉にゾルザルは笑みを見せると馬車に案内をした。

 

元老と共に研究物を見て、元老の協力を取り付けることを目指すのであった。

 

その頃ピニャはと言うと

「兄上がお尻を押さえて激しかったらしいわ。」

 

「殿下は、亜人に〝筆〟の扱いを教えているらしい。」

 

ピニャとボーゼスによってゾルザルの評判は薔薇騎士団内に広まり、幹部の女性騎士などがゾルザルの〝関係図〟について詳しく語り合う事が増えたために、男性騎士団員は平和を噛み締めていた。




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数ヵ月目の出発

ゾルザルはと言うと馬車の中で元老と一緒に居た。

 

「馬車は速いが揺れるな。」

ゾルザルは話題を振ったのだが

 

「確かに馬車は揺れますね。」

とだけ元老に返された。

 

二人とも窓の外を眺めながら沈黙が目的地に着くまで続くかと思われたがゾルザルがゲームを元老としようと提案した。

 

揺れる馬車の中でも出来る様に作られたそれはリバーシだった。

板に石を入れる部分に壁を付けて作られたそれは対キール用の品だ。

 

キールが話しかけてきたり、しなだれかかってくるのを阻止する為にゾルザルが自ら手彫りで作った。

そして、一人リバーシしていたのである。

 

他にも一人将棋や一人チェス用の物品がこの馬車には備え付けられていた。

 

「これはリバーシといって……」

軽く説明をしてリバーシを始めたのだった。

 

着く頃には勝敗は決まっていた。

「元老、角を取ったからと言っても必ずしも勝てるわけではありません。リバーシは奥深いものなのです。」

対人戦はゾルザルにとっては始めてだったが一人リバーシの経験と図書館での先人の知恵がゾルザルを勝たせていた。

 

「殿下はなかなか戦略の才がおありになるようだ。」

元老は少し考えている様子でそう言った。

 

ゾルザルは次にチェスを持ち出そうとするとイバラの園に馬車は到着していた。

 

「元老、研究をお見せします。」

ゾルザルの案内で最初に紹介されたのは、ガラスの瓶にに繋がれた管を手に持った二人の亜人がいた。

 

「始めてくれ。」

ゾルザルの合図で二人は管を口に合わせると呼吸をし始めた。

 

やがて二人の亜人は具合が悪そうになり、頭を押さえ始めた。

 

「よし、止めろ。連れていけ。」

ゾルザルの声で控えていた亜人が車輪付きの担架で運んでいった。

 

「あれは売れそうですね。これの意味は?」

元老は担架を見るのを止めてゾルザルに質問をした。

 

「簡単な話です。部屋に人が多くいると具合が悪くなった事が無いですか?」

ゾルザルの質問に元老は

 

「あります。」

だがそれがどうしたという態度だった。

 

「私が考えるにそれは空気が淀んで悪いからです。空気や水の中には他にも目に見えない寄生虫がいるとも考えています。私がそれが病の元だと。」

ゾルザルが「次を案内をしましょう。」と言っても元老は考えている様子だった。

 

「殿下、次の案内をお願いたします。」

元老をゾルザルが次に案内したのは倉だった。

 

「この倉に入る前に靴を履き替えて、ここにあるものに着替えて手を洗いましょう。」

ゾルザルの言葉に従っていた元老だが、ある事に気が付いた。

 

「これは何ですか?」

石鹸をつかみながらゾルザルに聞いた。

 

「それは石鹸ですよ。」

なんでそんな事を聞くのかゾルザルは気になったが、次の元老の言葉でそれが明らかになった。

 

「石鹸は柔らかくて臭う筈だ。」

こんな硬い石鹸はあるはずはないと元老がゾルザルに詰め寄ると

 

「この硬い石鹸は、石鹸作りが上手い亜人が居ましてね。石鹸作りを見ていた学者が素材が変わると石鹸を作れるかと研究した結果ですよ。」

ゾルザルはそれよりも早く中を見てくれとマスクを渡すと口に着けるのを見せながら中を案内し始めた。

 

倉の中は樽だらけだった。

そして、臭いがかなりのものだった。

 

「ここで、先ほどの石鹸を作っているのですか?」

その元老の質問にゾルザルはまさかと言って

 

「ここでは肉と野菜からガルムを作っているのですよ。」

と言い樽を一つ開けて見せた。

 

その中には野菜が入っていた。

日本で言うところの漬物だった。

 

「肉のガルムの方は臭いが少々するので見せられません。」

では、と倉から着替えて出ていった。

 

次に案内をされたのは会議室だった。

「それにしてもガルムにしては先ほどの物は臭いませんでしたね。」

「魚は臭いが強いので……。」

と元老とゾルザルが話しながら学者が次に見せるものを持ってくるまで待っていた。

 




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白い結果

学者が来る前に元老は、会議室の飾りに置いてあった鎧を見て、ゾルザルに興奮した様子で質問をした。

 

「殿下、あの鎧は!」

ゾルザルはその勢いに答えた。

 

「あれは、私の考えで作った鎧です。」

学者のドワーフ達と錬金術師を動員して、ゾルザルの作った鎧は当世具足を真似た鎧だった。

 

籠手と兜は当世具足を再現した様なものだったが違う部分があった。

 

鎧の胴は当世具足とラメラーアーマーとチェインメイルを組み合わせた様なものだった。

 

当世具足の胴の板金の端に穴を作り、竜鱗をラメラーアーマーの小片の様に使い前面に取り付けてあった。

草摺や佩楯等も竜鱗を使っていたが、予算の関係で金属の小片も使われていた。

 

関節部や稼働部にレザーを使ったり、チェインメイルを使っていた。

 

更にすね当ては、胴の様に板金に竜鱗や金属の小片を組み合わせたものだった。

 

予想よりは軽く出来上がった。

竜鱗は金属よりは軽く、動くのはと言うと当世具足とチェインメイルを合わせたものなので動きやすくなっていた。

 

「新しい鎧ですか。」

次に元老が見たのは壁に飾っていた武器だった。

 

サーベル、カットラス、シミターは元老の注目を集めなかったが、ロンパイアやグレイブや十文字槍などが元老の興味をそそったようだった。

 

「あれは試作の武器ですよ。」

ゾルザルがそう言うと元老は深く考え込んでから「なるほど。」と言った。

 

学者がやって来た。

その手には、算盤と火薬があった。

 

元老は何を始めるかと訝しげな表情を浮かべ、学者はゾルザルに算盤を渡した。

 

「これは算盤と言います。では、元老好きなように足し算と引き算を言ってください。」

ゾルザルは算盤を片手に話すとぎこちなく笑いかけた。

 

「わかりました。1580-280+690-2000+15-68+1369-152+563は?」

元老は勝ち誇った顔をしたが、ゾルザルは直ぐに

 

「1717ですね。」

と言うとゾルザルに対して対抗心を燃やしたのか、元老は次々に数字の式を言ったがそれを全てゾルザルは答えた。

 

「これは……。」

元老が黙った所で当初の予定よりも時間が過ぎていたので学者は、グラス(木の板に厚いガラスを嵌め込んだもの)を元老とゾルザルが目に当てたことを確認してから、黒色火薬の導火線に火を付けた。

 

「何がこれから起こるんですか?」

元老はグラスを目に当てながらゾルザルに聞いた。

 

「それはですね。」

とゾルザルが言いかけた所で火薬が爆発した。

 

「何だ!魔法か!誰だ、誰だ!殿下、早くこちらへ!」

元老は直ぐ様、窓から離れて机の下に潜り込んだ。

 

だが、ゾルザルと学者は動かなかった。

 

「殿下、早く!早く!何者かが狙っています。」

机の下で元老は、動かないゾルザルに自分の近くに避難してくれと急かしたが

 

「大丈夫だ。先ほどの爆発はこの〝火薬〟と呼ばれるものを使ったからだ。」

ゾルザルはもう一度と言って、学者がもう一度火薬を爆発させた。

 

「これは……。」

元老は固まり、ゾルザルを見つめた。

 

「それでだ。今までのものを見た結果、私に協力をするか?」

ゾルザルはただ一言だけ告げた。

 

「……。わかりました。このモンテ・エム・カルロが貴方にこの一生を捧げましょう。死と断罪と狂気と戦いを司る神エムロイに誓って!」

モンテは先ほどまでとの態度とは変わった。

 

「殿下もお人が悪い。思えばあの馬車内での机上演習から始まってたのではないか……そして、寄生虫の様なものに対する研究やあの車輪付き担架に携帯が簡単な石鹸、保存が出来る様々なガルムを作り、新たな武器や鎧と算盤、極めて有用な新兵器の火薬……。」

モンテは口元を吊り上げながら話を続けた。

 

「つまりは机上演習は自らの指揮能力を。医学研究は戦争の一番の敵である疫病対策。新たな保存食は言わずもがな。新たな武器や鎧と新兵器の火薬……これは戦争をする為の布石。算盤は戦争とその後の占領に伴う計算増加の対策。これらにより、皇太子としての箔を付ける為の遠征をすると言うことですね。」

モンテの余りの勢いにゾルザルは頷いた。

 

「さあ、死と断罪と狂気と戦いを司る神エムロイの為に戦争を!」

そう言ってるモンテをゾルザルと学者は冷たい視線を向けていた。

 

(キールの情報では豪商から元老に成り上がった一族と聞いていたのに何で戦いが好きなんだ!?)ゾルザルは前世での経験を忘れていた。

実物と評判は違うと言う事を……。

 

 

 

 

 

イバラの園の廊下……ここにも実物と評判が違うと言う事を知らない者が居た。

 

「何だ!魔法か!誰だ、誰だ!殿下、早くこちらへ!」

 

「殿下、早く!早く!……。」

 

「大丈夫だ。先ほどの爆発はこの……と呼ばれるものを使ったからだ。」

 

「これは……。」

 

「……だ。今まで……、私に……をするか?」

 

「……。このモンテ・エム・カルロが貴方にこの一生を捧げましょう。死と断罪と狂気と戦いを司る神エムロイに誓って!」

 

 

「所々聞き取れなかったが、これは騎士団に報告しなければ!」

見張りの兵士の振りをしていた若い女性騎士は帰っていった。

 

後日、美少年と美青年しか無理派と筋肉が付いている厳つい男同士もいける派と、むしろだるだるの中年が好物派と全てがいける派に分かれて激論が薔薇騎士団で勃発した。

姉妹関係を結んだ者達ですら、自らの好みによって分かれていた。

 

そんな趣味論争により訓練でも変な事になっていたが、老兵達が本気で立ち上がれないほどの厳しい訓練を開始してその対立は消えた。

 

対立後の姉妹関係はより強固になっていた。

怪しい関係すら匂わせるくらいに。

 

今回の一番の被害者はゾルザルではなく、訓練のとばっちりを食らった若い男の団員だった。




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本音は出ているか?

カルロの協力と研究品の商品化により、資金繰りは改善され赤字になりかけだった会計帳簿は黒字に変わった。

 

イバラの園に新たに定期的な資金収入が出来て、資金的な余裕が生まれたがある問題に直面していた。

 

それは「そろそろ、私兵でここの護衛団を作りましょう。王宮からの借り物の衛兵ではやる気が無いですし、このような研究機関は厳重に守られるべきです。殿下は私兵を持てないので名目上はカーディナル卿の私兵と言う形で。」

とカルロから提案され、他にも学者達やキールからも提案があった。

 

「研究する場所が狭くなって来たので、城壁の外にも研究場を作りましょう。」

と学者達から提案された。

 

キールは軍資金は多くあるべきとして貯蓄を提案したが却下された。

下手に貯蓄をすると皇帝から没収を食らいかねないのである。

 

ただの貴族なら別であろうが、ゾルザルは皇太子であり皇帝は兄を暗殺したと言われる男である。

反対者は元老や有力な豪商以外は切り捨ててきた男が、果たして息子であっても戦争でもっとも重要な資源である軍資金の貯蓄を許すであろうか?

 

いや、許さないとゾルザルは考えた。

皇帝は恐い男であるからして下手に刺激しないようにしていた。

 

(……皇帝に暗殺されそうだから、モンテの案を採用しよう。)

ゾルザルは直ぐ様、私兵を手配したが信用できそうなのは、今働いている亜人達だった。

 

ここで働いている亜人は身辺調査も済み、字も計算も出来れば、亜人故に裏切れない、裏切り者は直ぐに殺される貧民街で暮らしていた彼らは適任だった。

 

私兵達は主にキャットピープル、ワーウルフで構成されていた。

他にも竜人種やダークエルフ、エルフ、セイレーン、ヴォーリアバニー、六肢族、混血種など多種多様な人材が採用された。

 

ワーウルフ達は犬や狼を飼っていた為にゾルザルは連絡用として犬達にも給与(エサ代)を支払った。

 

マトモな軍事訓練を誰も知らなかった。

「誰か軍事訓練を知っているか?」

ゾルザルの問いに

 

「私は知っていますが指揮官の訓練のみです。」

キールが答えて遅れてきたモンテも「私は指揮官についてなら教えれますよ。」と答えた。

 

次に答えたのはキャットピープルのリリーだった。

「ワーウルフやキャットピープルには傭兵の経験があるのがいるにゃ。呼んでくるにゃ。」

リリーの答えに口々におお!と感嘆の声が漏れたが……

 

「あのー皆さん。衛兵の人達て一般的な訓練を受けてますよね。」

ドラードの発言で問題は解決した。

 

ゾルザルは亜人達が女性が多いことを考慮して条件に合う衛兵を探すことにした。

 

たまたまいつも近くに居た女性衛兵を発見して捕まえた。

「私に何をするつもりなんですか?」等と女性衛兵が言った。

 

「俺には今、君が必要なんだ。何よりも君の力が必要なんだ。」

ゾルザルが頼み込み女性衛兵は「フンッ!」と言っては居たが顔は何故か赤かった。

 

しかし、次のゾルザルの言葉で態度が変わった。

 

「君を信用している。いつも君は俺の近くに居るだろ?だから分かってるんだ。」

ゾルザルの発言で女性衛兵は顔を青くした。

 

「何時から?」

女性衛兵はゾルザルに恐る恐る聞いた。

 

「イバラの園に移る前から居たじゃないか。」

何をバカなと迄に態度に示すと女性衛兵は更に顔を青くして

 

「殿下、何をすればいいんですか?まさか、夜の方は始めてなので優しくして……。」

と言いかけた所でゾルザルに

 

「何を勘違いしているか知らないが、君の知る兵士として必要な訓練を兵士達に教えて欲しい。」

と言われて、女性衛兵は何故か怒った様子になり「わかりました。教えます。」と告げると何処かに消えていった。

 

この日のピニャに送られた報告書には

「私は殿下に、監視役としての役割を見抜かれながら『俺には今、君が必要なんだ。何よりも君の力が必要なんだ。』」と迫られたと書かれていた。




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作戦開始! 帝都に落ちた火蓋

私兵となった亜人達の朝は早い。

まず、夜明けと同時に女性の教官に起こされる。

 

教官となった彼女が槌を持って部屋を周り、丸太の枕を横から殴りたたき起こして行った。

亜人達はゾルザルの当世具足を真似た鎧を簡略化したものに着替えた。

 

水時計で予定時刻を調べ、予定時刻よりも遅かった者には、罰として鎧と武器の武装に重りとして大きな水瓶を背負いながら、他の全員の訓練が終わるまで立たされていた。

 

武器を持ち、綺麗に整列させた亜人達の前に教官はいた。

 

「お前達は何だ!」

教官に亜人達は怒鳴られる。

 

「私たちは兵士です!」

亜人達は答える。

 

「声が小さい!」

教官は兵士達の前を歩きながら怒鳴った。

 

「私たちは兵士です!」

全員が叫び終わると教官は「私はお前らの何だ!」と叫び、「教官です!」と兵士達は答た。

 

「私の名前は!」

と教官は聞いた。

 

「パナシュ教官です!」

そうか、よし!とパナシュは言うと馬に乗った。

 

今日最初の訓練は土嚢を持ちながら城壁の周りを全ての武装を装備し走っていた。

馬に乗った教官に追いかけながら二周し、それが終わった所で朝食が始まった。

 

朝食が終わると整列と行進、手に持つ武器はパイクかロンパイア、クト・ド・ブレシェ、フォシャール、クレイモアで予備の武器にファルシオン、サーベル、ファルカタ、バスタード・ソード、トマホーク、ダガーなどを持ち全員で形の練習をした。

 

一通り形の練習を終えると夕食まで他種族間で試合を始めた。

 

その間にパナシュは、ピニャに送るための書類を書き上げていた。

 

そうしていると夕食が始まり、パナシュの一言により一日が終わるのだった。

初めての教官と言う事でパナシュはやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

ゾルザルは亜人達に特別視されていた。

明らかに片耳だろうが、逃げてきた奴隷みたいだろうが雇うからである。

 

ここに逃げてきた奴隷を取り戻そうとするものは少なかった。

奴隷商が逃げてきた奴隷を取り戻そうとゾルザルに交渉したがそれは無駄だった。

 

まず、ゾルザルは自分を必要とする人を守る人だったし、イバラの園の秘密に触れてるかもしれない人材を外に出すわけにもいかなかった。

 

それに、逃げてきた多くの亜人達は戦争奴隷や自ら奴隷になった者や親が奴隷なので子供も奴隷、犯罪奴隷、税金が払えなくて奴隷になった者はほぼ居なく、拉致されて奴隷になったものが大多数だった。

 

「それで君はルルドだったが先ほどの奴隷商の兵士に襲われて奴隷になったと。」

ゾルザルの声に片耳のキャットピープルの女性は

 

「そうです。いきなり襲われて……。」

泣いているようだった。

 

「法律違反ですね。帝国では戦争時等を除いて奴隷狩りは禁止されています。しかも、ルルドとは言え居住権を持っていたのでしょう?」

優しく話しかけるキールの問いに

 

「そうです。」

キャットピープルの女性が答えてキールは顔をしかめた。

 

「殿下、かの奴隷商は取り締まらなければならないようです。帝国の居住権を持つ帝国臣民を奴隷として狩っているのならば動くべきです。」

ゾルザルを早く、早くと急かすキールをなだめながらゾルザルは

 

「その証拠はあるのか?」

と淡々とキャットピープルの女性に聞いた。

 

「奴隷商の館にあるはずです。」

とキャットピープルの女性が言った。

 

「そうか……では、帝国兵は動かせないな。」

今日はモンテもいないからなと続けざまに言った。

 

「まさか、見捨てるのですか!」

キールが驚いた顔をし、キャットピープルの女性は所詮貴族かといったような顔をした。

 

「いや、私兵を動かす。」

ゾルザルはそう言うと立ち上がろうとしながら

 

「しかし、それにはキールお前が重要なんだ。」

と言いキールに手を伸ばした。

 

イバラの園から帝国の閉塞感を無くす何かが始まろうとしていた。




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※居住権を市民権と誤っておりました。訂正いたしました。


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誰かが見た流星

軽装(スケイルアーマーとチェインメイルにグリーブ)に身を包んだ亜人達はその日、イバラの園の外で待機していた。

「まだか……。」

 

ある報告を今か今かと……。

 

 

キールは奴隷商の館の前に居た。

「これは貴族の屋敷並みだな。」

ワーウルフの女性のスプリッツァの呟きにキールは

 

「帝都の中心にある別宅は大体がこれぐらいの大きさだが、貴族の本宅はこれより大きいのが多い。」

と告げてスプリッツァが「貴族て凄いな。」と言った。

 

完全に武装をしていたキールとワーウルフの存在は奴隷商の館がある、中の上が住んでいる街ではかなりういていた。

 

「それにしても居心地が悪いですね。」

スプリッツァの尻尾が丸まっていた。

 

「それは普通だ。よくあることだ。」

キールは貴族であり人目を余り気にしないのだった。

 

それにキールは気にしなかったし、周りの住人もそんな格好をしているので近づかなかった。

 

奴隷商を監視していたワーウルフ達の報告を犬達を介してキール達は手に入れていた。

犬達は首からカーディナル家の紋章が描いてある貫頭衣を着ていた為に誰も止めなかった。

 

奴隷商が奴隷に引かせた人力車に乗り、自身の逞しいケンタウロスの奴隷を見せ財産を誇示する事に彼は満足を得るのだろう、遠回りをしてやっと館に戻ってきた。

 

「犬は便利だな。」

キールがそう言うと

 

「犬達はみんな殿下から名前を貰いました。今、来た子はワラビと言います。」

スプリッツァがワラビを撫でながらそう言った。

 

「なんて羨ましいのだ。」

キールの呟きをスプリッツァは無視した。

館に入る前にキールは挨拶をしたが奴隷商は無視をした。

キールは着ていたものにカーディナル家の紋章をしていなかったので傭兵と勘違いされたのだった。

 

「ここにいるキール・カーディナル卿に挨拶をしないとは!」

スプリッツァは持っていた棍を構えた。

 

「これは失礼致しました!」

奴隷商は人力車から降りて来たがキールは手袋を投げつけた。

 

隣に居た用心棒の傭兵が手袋を拾った。

 

「許しはしない。決闘だ!」

キールは怒鳴り、観客が集まってきた。

 

「決闘は同じ身分じゃないと成立しませんのでは?」

奴隷商はそう言うと自身の屋敷に入ろうとしたが

 

「いえ、この場合は不敬としてカーディナル卿が貴方を切り捨てる権利があります。それをカーディナル卿は決闘にしてくれてるのですよ。私が立会人になりましょう。」

群衆からパナシュが出てきた。

 

「私に武器を構えろと!」

奴隷商は驚いた様だったがキールが

 

「では仕方ないです。団体の代闘士戦で決着をつけましょう。」

この提案に奴隷商は

 

「なんで私が決闘を受けると思ってるんですか?」

奴隷商は粘ったがキールが

 

「カーディナル家と戦争をする気ですか?」

とにこやかに伝えて奴隷商はうなだれた。

 

「ならば、受けましょう。」

奴隷商が答えると集まっていた群衆が騒ぎ立てた。

 

やがて城の外の広場にキールが率いる亜人イバラ軍団と奴隷商が率いる奴隷と傭兵の混合軍団が睨み合っていた。

双方が刃を潰した武器を構えた。

 

「なんだあの鎧は……。」「それよりもあの武器は……。」「何故、亜人が貴族の正規兵に?」「なぜカーディナル卿の私兵はあんなに外見が良いのだ?」「見かけ倒しだ。」

様々な話が飛び交う中、一人のキャットピープルが賭けを始めた。

 

「どちらが勝つか賭ける人は!?」「カーディナル卿の兵士は弱そうな装備だから、勝つのは奴隷商だな。」「俺は奴隷商に賭ける。」

続々と奴隷商に賭ける人々だったが、最初に賭けたのがサクラだとは気付いていなかった。

 

貴族達や帝都の一般住人や帝都の悪所街の住人、旅の商人、旅人など様々な見物人が集まっていた。

 

「では!始め!」

声と同時にイバラ軍団の持つ手管付きのパルチザンによる打撃がはじまった。

 

「セイ!」

一糸乱れぬパルチザンの風を切る音が相手を怖がらせた。

 

「正規兵が相手とは聞いてないぞ。」

傭兵達が本気になった様だったが、亜人の身体能力は敵わなかった。

 

「退くな!退くな!退くな!退くな!退くな!」

奴隷商が食い止めようとするが無駄だった。

 

「私に指揮をお任せください。」

傭兵の一人が奴隷商に指揮を許可された。

 

パルチザンの鋭い連続の突きにより傭兵達は後退した。

 

「退けよ。亜人は血が頭に上りやすい。相手は勢いが強いだけだ。我々は勝てる。退いて一気に叩くぞ。」

傭兵達は奴隷兵を真ん中に左右は自分達傭兵を多くして、いわゆる鶴翼の陣を完成させた。

 

「包囲されるぞ退け。退くんだ。」

キールの号令には亜人達は従わなかった。

亜人を率いるのには、指揮の経験は足りなかった。

 

兵士と武装の質で勝るイバラ軍が優勢かと思いきや直ぐ様半包囲されてしまった。

 

「退路は開けておけ。後は包囲された敵と消耗が少ない我ら。どちらが勝つかな?」

傭兵の巧みな指揮により、徐々にイバラ軍から脱落する者が増えた。

 

「勝てるか?」

キールの呟きにスプリッツァは「我々にお任せください。」とだけ言った。

 

戦いは始まったばかりだった。




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理不尽に吠える

傭兵の見事な指揮によりイバラ軍は崩れかけたていた。

「総攻撃開始。急ぐなよ。」

 

総攻撃により、イバラ軍は完全に崩れた様に見えた。

「続け!続け!」

奴隷兵が急ぐなと言う言葉を無視して突撃を開始した。

 

「今だ!崩れた中心部に突撃!」

スプリッツァの秘策とは崩れた振りをして反転して正面突破だった。

 

奴隷兵は次々に敗れていった。

 

「予想通りだな。よし、突撃開始。」

傭兵達が突撃しているイバラ軍の横腹に突撃をして見事なまでに叩き潰しにかかった。

 

両者共に敵味方が判断が出来ないほどの激しいぶつかり合いのさなかその乱戦の合間に体の小ささを利用してキールは奴隷商に食いついたのだ。

 

「君の敗けだから早くそれを引け!」

奴隷商は勝ち誇ったが

 

「戦いは指揮官を倒した方が勝ちでしょう?」

キールのロンパイアの横薙ぎが決まりかけた時に

 

「あぁそうだな。」

指揮官として動いていた筈の傭兵の姿があった。

 

「なっ!?」

振り向き様に見えたのは振りふりかぶった槍。

 

「君の敗けだ。」

そう言うと傭兵は槍を下に叩きつけたがキールは転がり避けた。

 

「急ぎすぎると失敗しますよ。今みたくね。」

キールが苦笑いしながら言うと

 

「事を急ぎすぎたのは君たちの方だよ。」

槍で突きの動きをすると避けたキールに合わせて無理矢理、体を動かし横を薙いだ。

 

「大きすぎる。」

キールが前転をするように低く鋭く前に転がり傭兵の槍の間合いから逃げたと思ったが

 

「それが甘いんだよ。」

槍を手放した傭兵がキールの首を脇で捕まえるとそのまま投げ飛ばした。

拍子にキールのロンパイアが何処かに飛んでいった。

 

「戦いは綺麗じゃないんだよ。」

薄れてゆく意識の中でキールが広場で聞いた最後の言葉だった同時に旗が取り換えられていた。

 

それから時間は日本で言うと数時間の後にゾルザルに対して登城命令が出ていた。

 

「行くか。」

どの事で呼び出されたかわからないゾルザルだったが呼び出されたなら城に行かないといけなかった。

 

リーフ式サスペンションに切り変えたが乗り心地は大きくは改善しない馬車に乗り、前回よりは多少は良くなった程度で尻を城に着く頃にはまた痛めていた。

 

「殿下、こちらへ。」

ゾルザルを案内したのはパナシュだった。

 

「あぁ。」

余りの事態に混乱していたゾルザルはパナシュに案内されるままに謁見の間の前にゾルザルは連れていかれた。

 

「ゾルザル殿下、ご到着。」と言うと目の前の豪華で大きな門が開かれゾルザルは中に入ったがどういった姿勢をとったら良いか分からず、小説や絵で見たことあるような片膝をついて頭を下げる姿勢をした。

 

「面をあげよ。ゾルザル。」

皇帝……モルトは少し機嫌の悪そうな声が響いた。

 

ゾルザルは緊張で頭を上げれなかったが

「その覚悟で今回の出来事に向かったのか。」

とモルトの機嫌が良くなった。

 

「陛下、申し訳ありませんでした。」

会社人時代と冤罪により培われたゾルザルの謝罪は完璧だった。

それが何か分からなくともゾルザルにはお手のものだった。

 

〝ゾルザル〟は元来謝罪をしない傲慢な男であったからして、モルトはゾルザルの完璧な謝罪を見て感心し、同時に警戒した。

 

「事を話す前にお前に問いたい。お前が目指すものは? 」

モルトに問われるままにゾルザルは淀みなく答えた

 

「水です。」

経験上、何を問われてるかわからない質問には抽象的な答えがよいとゾルザルは知っていた。

 

「水とはなんだ?」

モルトがゾルザルの抽象的な発言に食いついてきたのだった。

 

「水は、生き物ならば誰もが使っております。しかし、水が無いところには生き物はいません。」

そして、ゾルザル「そういうことです。」と告げた。

 

「なるほどな。」

皇帝はゆっくりと噛み締めるようにそう言うと

 

「水ならば器にあわせて形を変えるだろう。それはそなたもか?」

と言いゾルザルに探りを入れた。

 

「それは器次第でしょう。」

ゾルザルがそう言うと皇帝は

 

「そうかそうか。ならば、此度の戯れ無罪放免だ。」

皇帝がそう言った。

不思議な雰囲気が場を占拠した。

 




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偽りの皇子

皇帝の発言により場の雰囲気は変わった。

「今の無罪放免はお前に対してのみだ。従って、懲罰はせんとならん。」

 

先ほどから横に控えていたマルクス伯が前に出てきた。

 

「此度の一件に対してモンテ・カルロ一派は反逆罪で死刑。キール・カーディナル、ロワイヤル・カーディナルの私兵の武器は没収。

更に、カーディナル両名とパナシュ・フレ・カルギーに東伐の先鋒を命じ、指揮官はゾルザル・エル・カエサルとする。戦費の2割はゾルザル・エル・カエサル、カーディナル家、カルギー家が出すものとする。

しかし、戦費の比率は三者で決めても良い。」

マルクス伯が言い終わると皇帝は下がれとだけ言い、ゾルザルが何も言うことは出来無く帰らされた。

 

帰りの馬車にはキールが乗っていた。

 

「キールこれはどういう事だ?」

ゾルザルが聞くと

 

「簡単なことです。モンテ・カルロが殿下を陥れようとして逆に策を逆手にとられて自滅しただけです。」

 

キールから告げられた内容はこう言う事だった。

 

カルロはゾルザルを利用するつもりだった。

だからこそ、それを逆手にとる為と監視する目的で仲間にした。

 

しかし、ゾルザルを担ぎ上げるだけに飽きたらず第二皇子ディアボ派に鞍替えしゾルザルを陥れる為に亜人の奴隷をわざと寄越して結託した奴隷商人と共にゾルザル派の亜人人気を失墜させるのと同時に人間側の人気も消し去ろうとした。

 

モンテが亜人の奴隷が居たときになぜ姿を現さなかったのかと何故逃亡奴隷が無事にイバラの園に着いたのかは、ここに理由があったらしい。

それに、キールが気付いて奴隷商人の決闘と同時にモンテ・カルロ邸を強襲し、証拠を集めたという事だった。

 

更に、言えば奴隷商に雇われていた傭兵はロワイヤル・カーディナルと言いキールの叔父と私兵だったらしく単なる町の街道で叔父と甥が喧嘩しただけと処理された。

 

それには決闘の際に周りにいた貴族達や帝都の一般住人や帝都の悪所街の住人、旅の商人、旅人など様々な見物人は大半はカーディナル家が募集した目撃者だったらしい。

 

「ゾルザル殿下、これでディアボ殿下の派閥は大打撃を受けましたよ。ゾルザル殿下の派閥に入ろうと中小貴族が明日から来る筈です。」

ニッコリと輝く様な笑顔を浮かべるキールにゾルザルは背筋に寒気がした。

 

「キール、それより大臣から東伐について言われたが……。」

ゾルザルは話題を変えるように動いた。

 

「大臣は、何と言っておられましたか?」

キールの質問にゾルザルはマルクス伯に言われた内容を答えた。

 

「殿下、期限に関して何も言われてないのなら今すぐで無くても良いと言うことです。」

キールはそれにと続けて

「戦費の2割が負担ならば、戦費の2割分は確実に占領地をもらえると言う事ですよ。」

キールの説明を受けていた。

 

同時刻、皇帝の部屋

 

机の上にはいわゆる、チェスがあった。

 

「よろしかったので?」

駒を進めつつ大臣が皇帝に質問した。

 

「どのことだ?」

皇帝はぶっきらぼうに答え、盤上を見つめ大臣の駒を取った。

 

「決まってるでしょう。ゾルザル殿下の……いや、〝何者か〟の話ですよ。」

大臣が皇帝に苦々しげな顔を見せながら駒を切り返した。

 

「……調査結果ではハリョが変わってるらしいな。」

皇帝が少しづつ話始めた。

 

「あれが〝何に〟せよ、帝国に利益をもたらしてる間は帝国に必要な人材だ。それに、何らかの大きな力が働いている気がするのだ。それを見極めない限り選択は難しい事だ。」

それに変わろうが周りには〝息子〟は息子と見られていると呟き守勢に落ちた自陣を見ていた。

 

「ですが、モンテ・カルロを消し去れたのは大きいですな。」

あれは良くも悪くも敵でしたからと大臣は言った。

 

「惜しむらくはモンテ・カルロは未だに兄を信奉していたという点か。」

皇帝は強い一手を打ち込んだ。

 

「そうですな。神の戯れか何かでああなったのかは知りませんが元よりは良いですな。キールからはかなりの情報があがっていますし利益は出てますな。」

大臣は笑みを浮かべた。

 

「何にせよ、次の遠征は亜人とかならず戦う事になりましょう。亜人と戦わなければ決定的な亜人側として扱われ貴族からの人気は失墜します。また、戦って負けたら人気が失墜、戦って勝っても人気は失墜するでしょう。」

大臣は上がっていた口角をより上げ駒を置いた。

 

「亜人どもに優しいのは不満の解消になるし、貴族や元老達の力の低下に繋がるからな。それにだ明確な理由がなければ、皇太子は廃嫡できん。」

皇帝は今はまだ、恩を売ると言うと駒をある点に進め攻勢に移った。

 

「なっ!ディアボ殿下は考えすぎ、かといって次に有能なのはピニャ殿下……しかし、ピニャ殿下はある程度事情は察していても確信が無いから動かない。」

大臣の一手は皇帝をまた守勢に押し戻した。

 

「何にせよ、あの二人はゾルザル殿下の元からの奇行を見ていた訳ですから今更、奇行見ても何とも思わないのでしょう。」

そして、皇帝の苦し紛れの守勢は大臣に崩された。

 

「あぁ、敗けだ。」

皇帝はそう言うとリバーシを取り出した。

 

「次はこれだ。」

皇帝の発言に大臣は困り顔だった。

 

突然、部屋の空気が揺れた気がした。

 

「何の話をしていたんだ?」

皇帝は首を傾げた。

 

「たしか、ゾルザル殿下は素晴らしい皇太子候補だと話してたんですよ。」

大臣は明るい表情で答えた。

 

「そうだったな。あやつは素晴らしい皇太子候補だったな。遠征の資金も秘密裏に渡しておけ。」

皇帝がそう言うと大臣と笑いあった。

皇帝の机の上の水差しに影がさしたような気がした。




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そして、終末へ

長い間お読みいただきありがとうございました。


ゾルザルはベッドの上で横になって考えていた。

 

(何もかもが上手く行きすぎてる。何故か失敗しない。)

ゾルザルは急速な改革や技術革新を推し進めていた。

 

この時からゾルザルは頭痛がしていた。

 

経済面ではケインズ経済は貴族の子弟に語り、文化面においても様々な音楽や小説やおとぎ話を思い出せるままに書き受け入れた。

 

それはおかしいのだった。

違う価値観をゾルザルがもたらしても自然と受け入れられていったのだから。

 

物事はゾルザルの思い通りに行った。

 

東伐で出会ったテューレと言う王女と友好を掴んだし、様々な点から上手くいき、運命の日が来た。

 

異世界へのゲートが開かれる事になったのである。

最近、頭痛が頻繁になってきたゾルザルは何なのかと頭を抑えていた。

 

ゲートへの偵察を早々に終えた部隊を見るためにアルヌスの丘に向かっていた。

 

何故か、頭痛がするたびに何か嫌な予感をゾルザルは感じていた。

それは何なのだろうか分からないがゾルザルはただアルヌスの丘に向かって急いでいた。

 

そして、アルヌスの丘に着いた時にはじめて気が付いた。

自分はこの光景等を知っていると。

 

偵察隊が捕まえたと言う奴隷を解放するために動いたが奴隷を解放したことでゲートが認知され、自衛隊が派遣されたそこで視界が光に包まれ輪郭が無くなった。

 

ただ、彼は憎悪と怨念を叫びながら……。

 

 

とある地中

 

「あ~あ。気付いちゃった。」

女性、所謂この世界の神である存在は覗き込んでいた夢を壊した。

 

「何をされてるのです?ハーディ様。」

神官の格好をした亜人がハーディと呼ばれた女神に聞くと

 

「自分にも異世界の力があれば、かの【日本】に負けなかったとゾルザルが思っていたから、私がその願いを叶えてあげたの。それにしてもジゼルは上品な話し方になったわね。地球と繋がったからかしら?」

ハーディはフフッと笑った。

 

「地球と繋がってから数百年はたってますよ。ゾルザルにはこの間は偉人と呼ぶに相応しい政治家や軍人等々の記憶を与えてたじゃないですか。」

神官の格好をした亜人―ジゼルは困惑した顔を浮かべた。

 

「何をしてもゾルザルが本質的にゾルザルだから、力を貸しても負けるのよね。それに、やることがこの間繋がったインターネットに出ていた凡人が書く小説そっくりなのよ。実際に自身がやったことないと出来るわけ無いのにね。」

ハーディは清々しい顔でそう言った。

 

「しかし、なぜその様な顔をなさるのですか?」

ジゼルは気になってハーディに聞いてみた。

 

「簡単な話よ。神の力をもってしても数百年もゾルザルは負け続けてるのよ。これはすごい娯楽じゃない。凡人が天才の力や加護を貰っても凡人は凡人ね。」

ハーディはゾルザルの人形―魂を見ながらそう言った。

 

「次はどうするんです?」

とジゼルが聞いた時だった、ハーディとジゼルがゾルザルの魂から目をそらした瞬間にゾルザルの魂が砕け散った。

 

その粉末を吸った神官は病気になり、信者達も次々に病気になった。

次第にハーディを信奉するものは居なくなり、ハーディのコレクションすら信仰を得られなくなったハーディが管理出来なくなった。

 

かつての神殿は荒れて、ジゼルは新に神になり立ち寄らなくなった。

 

そして、ハーディはゾルザルの様に一人になったのだった。

辛く長い時間の中でゾルザルの様に苦しみ続けるのだ。

 

 

 

 

ハーディがそこにはいた。

「今、ゾルザルが望んだ夢を見せてやったよ。」

 

「どのような夢ですか?」

ジゼルが聞いた。

 

「つまらない夢だよ。まだまだ、ゾルザルには楽しまされそうよ。」

笑顔を浮かべたハーディはゾルザルの魂を撫でた。

 




かくしてこの話は終わりです。


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