依存度の高い彼女 (はるや・H)
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01 告白

いやあ書いちゃいましたよ。ヤンデレ物。


俺はなんの変哲もない、特別頭がいいわけでもなければスポーツができるわけでもない。

 

イケメンでもなければ周りを笑わせる話術があるわけでもない。

 

つまりは、どう考えてもモテない人種なのである。

 

そんな俺には、何故か彼女がいた。つまり、世間一般でいう、リア充だった。

 

どうしてそうなったかというと、それは成り行きというものだ。

 

まあ、こんなことを言うと世の中の非リア充の方々に怒りを買うかもしれないが、

 

リア充だからといって本当にリアルでの生活が充実しているわけではない。

 

それは何故か。原因は俺の彼女にあった。

 

「ねえ、どうして私より早く歩くの?」

 

一緒にバイト先へ向かう時の彼女の口癖だ。俺と彼女の身長は10cmくらい違うので、

 

歩幅も違う。だから歩く速さが違うのは仕方がない。

 

それなのに、なぜか向こうの基準に合わせることを強要する。

 

なんでそんな事をさせるのかと一度問いただしてみた。

 

すると答えはこうだ。

 

「貴方が男なんだから女の子に合わせてあげるのは当たり前でしょう。

それが礼儀。私と付き合ってるんだから、貴方は私の彼氏なんだから、

それくらいの気遣いはしてくれるよね?だって私と付き合うって、

私と一緒に生きるって言ったでしょう?まさか約束を破るつもり?

そんな酷いことはしないわよね。だって貴方は私だけの...」

 

俺は途中で話をさえぎった。

 

「分かった、もういい、俺が悪かったよ。これからは君に合わせるよ。」

 

そういうと彼女は機嫌を直した。

 

「ふふ、そうね、貴方ならそういう気遣い出来るわよね。」

 

そういって微笑んだ彼女。でも、俺はその微笑みに安心することはできなかった。

 

とまあこんな感じである。

 

俺の彼女は要求が多かった。そのうち多くは、

 

まあ彼氏なんだからこれくらいはしてやるべきかなというものだったのだが、

 

とにかく要求が多く、気が休まらない。

 

しかも、これは付き合ってから始まった事ではない。

 

俺と彼女が付き合う前から、これらの要求はあったのである。

 

では、どうしてそんな彼女と俺が付き合う事になったのか、

 

その経緯を話そう。

 

 

俺と彼女は、高校の同級生だ。始めは互いに面識もなかったんだが、

 

俺がバイトを始めた書店で、偶然その彼女も働くようになったのだ。

 

「同じクラスの人がいて助かる!」

 

と彼女も言っていたし、俺もそう思ったのだ。

 

実際彼女は割と可愛い方だったし、

 

こんな俺にとって滅多にない女子と親密になる機会だったので、最初は歓迎した。

 

そして、バイトを始めて1か月がたった頃には、よく一緒にクラスの事など会話したり、

 

最近の愚痴を俺が聞かされたりする、友達のような関係になった。

 

俺はその高校では成績はやや高い方だったので、

 

成績の少し悪い彼女によく勉強を教えたりもした。

 

とこんな風に、どこか一方的に俺が彼女を助けているような、そんな気もしたが、

 

俺と彼女はしだいに仲良くなっていった。

 

しかしその一方で、彼女の俺に対する要求は増えていった。

 

たとえば、である。

 

バイトは放課後にやるんだが、

 

その日は俺と彼女が一緒に歩いて学校からバイト先へ向かう。

 

本来俺は一人で先へ行きたいのだが、彼女が、

 

「一緒に行こう。」

 

というので仕方なく付き合う事にした。

 

普通だったらこれは、男にとっては願ってもないシチュエーションだろう。

 

ましてはそれが向こうからお願いされるのだから断る理由がない。

 

しかし、である。

 

彼女はいつも帰りの準備が遅かった。何故そんなに持ってくる必要があるという

 

多めの荷物(学業道具の他に化粧品とかが入っている)を鞄に詰め、

 

さらには友人と5分は話してからバイト先へ向かう。要は準備が遅いのだ。

 

俺は対照的にすぐに帰りの準備を終え、話すような友人もいない。

 

だから俺はいつも、バイトへ行くのに5~10分は待たされる。

 

この間、俺はすることなしに教室にたたずんでいるのだから空しい。

 

それに不満を思って、一回、

 

「そんなに準備が遅いのなら先行ってるよ俺。そもそも一緒に行く必要ないでしょ。」

 

といったのである。そうすると、彼女は、

 

「ねえお願い一緒に行って。私寂しいから。」

 

と、上目遣いで懇願してきた。

 

俺はもともと女子のこういう目線とか、懇願するような仕草は苦手なので、

 

そんな事をされたら断る事が出来なかった。

 

その時、彼女が、

 

「よかった。女子の武器って効くんだね。」

 

とかなんとか言っていたが聞き流した。

 

思えばそれは間違いだったのかもしれない。

 

その時から、彼女の要求は次第に増えていった。

 

先程言ったように歩くペースを合わせろと、そして一緒に帰ろうと、

 

他にも、本を運ぶのに疲れたから仕事を代わってとか。

 

それ一つ一つは小さな要求だったのだが、それを繰り返し、毎日されるとしだいに

 

精神面の負担も増えていく。けれど、そんな不満を彼女にぶつければ怖い目に遭うか、

 

それとも彼女が傷ついてしまうか。どちらにせよそれはまずい。

 

だから俺はあえて不満をぶつけたりはしなかった。

 

思えば、こんな遠慮深い態度も、彼女の依存的な態度を増長させたのだろう。

 

でも実際、俺がそんな不満を口に出せないほど、彼女はいつも心に悩みを抱えていて、

 

そんな悩みを、疲れを癒す対象として俺に対してそんな要求をしていた。

 

それを突き放せるほど冷酷な人間なら、俺は今こんなことにはなっていない。

 

しかし、それでも恋人同士でもないのに、彼女はまるでそうであるかのように平然と

 

要求をしていた。けど、それが何故か理解は出来なかった。

 

そしてである。彼女とそういった風に行動を共にするようになってから、

 

何故か俺が周りから、特に女子から避けられているような気がした。

 

俺にはまったく身に覚えがないのにだ。

 

もともとそんな積極的に他人と関わるタイプではないので実害は少ないが、

 

気にはなったのでわりと親しい男子にそれとなく訊いてみると、

 

「いや、それはお前のせいじゃなくお前の彼女が...

 

やっぱ何でもない。」

 

と答えが返ってきた。それも怯えたような顔で。俺に彼女はいなかったのにである。

 

もしかして、一緒にバイト先へ行ってるのが、一緒に帰ってるのと思われて、

 

彼女だと勘違いされてるのかもしれない。

 

当時はその程度の認識で済ませていた。

 

しかし、その友人が翌日やつれたような顔をしていた事だけは覚えている。

 

そんな風に日々を過ごしたわけだ。その日常はさほど変化がなく過ぎて行ったように

 

見えたのだが、ある日、突然転機はやってきた。

 

それはいつもと同じようなバイトの日。彼女の無駄に多い要求を今日も聞き入れた

 

俺だが、バイトも終わり、近くに住んでいる俺は歩いて、ここから3駅程度の隣町に

 

住んでいる彼女は電車で帰ろうとしたのだが、本屋を出ると、外は雨が降っていた。

 

「あちゃー、傘持ってきてないや。」

 

俺は傘を持っていなかった。

 

だがいい。多少濡れる程度、あとで髪でも乾かせば何とかなる。

 

でも、隣の彼女はそうはいかなそうだった。

 

傘を持ってるのかなと期待を抱いたのだが、

 

「どうしよう...、私、傘、持ってない...」

 

彼女は傘を持っていなかった。そして雨は次第に強くなっている。

 

「と、とりあえず駅まで行けば?話はそれからだ。後そこのコンビニで傘でも...」

 

と俺が提案すると、

 

「うん、わかった。」

 

と彼女は納得したようだ。

 

「じゃあ俺は帰るよ。」

 

と言って帰ろうとしたのだが...、俺は彼女に呼び止められた。

 

「待って。」

 

「...え?」

 

「お願いだから、一緒に行って...。せめて、駅まででいいから...。」

 

彼女は、今度は涙目で懇願した。流石に断らなかった。

 

今回ばかりは無茶な要求とは思わない。雨は急に強くなっていた。

 

彼女が不安がるのも無理はないだろう。俺は同意した。

 

「それじゃあ近くのコンビニで傘買おう。」

 

そういって俺はコンビニに向かう。そこで傘を買った。

 

そして急いで駅へ向かうが、

 

「待って、そんなに早く走れない...疲れちゃう...」

 

と言われ、仕方なくペースを緩める。

 

そしてまたも問題は起きる。今度は強風が吹き始めた。

 

「きゃあ!」

 

彼女の傘が突風により変形する。コンビニの折り畳み傘だから仕方がない、けれど今は

 

「もしかして、壊れちゃった...?」

 

彼女は不安そうな顔でそう言う。

 

俺はあわてて傘を確認する。

 

「良かった、壊れてはいない。すぐ直る。でも、この強風で傘を差したらまた...」

 

つまりもう傘は使えない。俺と彼女はかなり濡れながら駅へ向かう。

 

そして数分後、ようやく駅へ着いた。そこで別れようとするのだが、

 

アクシデントとは重なるものである。今度は雷だ。

 

ドカン!

 

と大きな音がすると、驚いた彼女は慌てて俺にしがみつく。相当怯えていたようだ。

 

駅構内に入ると、アナウンスが聞こえていた。

 

「ただいま、大雨と強風と落雷の影響により、電車にかなり遅れが出ています。

 

繰り返します...」

 

「仕方ない、遅れているけど待ってれば必ず着くよ。じゃあこれで..」

 

俺は帰ろうとする。しかし、ホームをよく見ると人でごった返していた。

 

「あれじゃあ帰れないな...。どうする...。」

 

彼女は答えない。顔を見てみると涙目で震えていた。よほど怖いのだろう。

 

こうなったら、手段は一つしかない。

 

「俺の家でひとまず雨宿りしよう。そこで体とか乾かして。雨がおさまって電車とかも

 

動き出したら帰ればいい。今夜は親もいないし大丈夫だ...」

 

できればこの手段は避けたかったが仕方がない。

 

こんな怖がり震え、帰る術すら失った彼女を見捨てるなどできなかった。

 

思えばタクシー等帰る手段はいくらでもあったわけだが、

 

その時俺はその手段を思いつけなかった。

 

そして彼女は黙って頷く。

 

俺と彼女は急いで家へ向かう。今度ばかりは彼女もかなり速く走っていた。

 

そして家に到着し、リビングへ入る。

 

「まあ、とりあえずシャワーを浴びた方がいいよ。大分濡れてるし、

 

君から先に入っていいよ。」

 

そう言ってシャワーを浴びるよう促す。

 

彼女はまたも黙って頷いた。そしてシャワーを浴びる彼女。

 

俺はその間に脱衣所へ服を置いておく。

 

そしてリビングで漫画でも読みながら暇を潰していると、

 

髪がまだ濡れている彼女が、シャワーを終えて出てきた。

 

その濡れた長い髪は、水滴が滴り、彼女の寂しげな表情とともに儚い雰囲気を出す。

 

思わず見とれてしまいそうだ。

 

でも今はそれどころではない、現に、また雷が鳴った。

 

「ひゃああっ!」

 

彼女がまた怯えた声を出す、さらに、あたりが真っ暗になった。停電だ。

 

そして彼女は今度はあろうことか俺に抱き着いてきた。

 

「...え?」

 

俺は声も出ない。

 

「お願い、離れないで、私怖いの、すっごく...。」

 

そう彼女は涙目で懇願する。俺はまたも断れずに、彼女はずっと俺に抱き着いている。

 

だがそんな状態をいつまでも続ける訳にはいかない。

 

「そろそろ...、離れてくれない?こっちも動きづらい...」

 

と頼むが...

 

「ごめん、もうちょっとだけこうさせて...ねえお願い、私寂しいの、それに怖い。

こんな雷の中、しかも真っ暗だし...。私最近不安なの、仲の良い親友とか、友達とか、

そういうのがみんな私を見捨てるような、私から離れていくような、そんな気がするの。そんな夢をよく見るの。それですっごく怖い。ねえ、お願い、約束して。私がどんなに辛い目に遭っても、

みんなが私を見捨てても、見放しても、貴方だけは私の味方でいて、何があっても。

私とずっと一緒に寄り添って。そうじゃないと、私独りで、孤独で、もう生きていけなくなりそう...、私また思い切り泣いちゃいそう...」

 

彼女はそう言った。人間独りでもどうにか生きていける。俺はそう思っているが、

 

彼女はそうは思わないらしい。現に彼女は泣いていた。

 

泣いちゃいそうとか言っているがすでに思い切り涙を流して俺に抱き着いている。

 

その時俺は初めて自覚した。きっと彼女は俺の事が好きなんだと。

 

そうでもなきゃ、こんな姿を見せたりはしない。

 

そして彼女は俺を見上げる。

 

「ねえお願い...、助けて...」

 

そう言って唇を出す彼女。俺は断れなかった。

 

これは告白で、きっとこのキスを受けたらそれは告白を認め、付き合う事と同じだと。

 

そうわかっていても。俺はこんな不安そうな彼女を見捨てられなかったから。

 

そして、彼女をどうしても嫌いになれなかったから。

 

「分かったよ、君のことは俺が助ける、俺が味方でいるよ。」

 

ーそして暗闇の中、二人の唇が重なった




ヤンデレ要素が少ないかもしれませんが、本来ヤンデレってこれくらいがちょうどいいんじゃ...

とりあえず、「デレ」というか愛情が多くないと。

まあ次話は思いっきり振り切りますよ。病んでる方向に。


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02 運命

続きを書いたので、再投稿しました。
ぜひ最後まで読んでください。


人生に分岐点(ターニングポイント)は存在する。

 

そこでの選択は、その後の人生を大きく変えてしまう。

 

失敗すれば取り返しのつかない事態を招いてしまう。

 

そう、俺は見誤ってしまったのだ。人生の分岐点での選択を。

 

あの夜、俺は不安と孤独に悩まされていた彼女を慰めようとキスを受けた。

 

その後の記憶はない。だから何をしたかは、されたかはわからない。

 

けれど一つだけはっきりしている事がある。

 

ー俺はもう、この運命からは、彼女からは逃れられない。

 

そしてその次の日から、彼女はますます俺にくっついて離れなくなった。

 

流石に学校内では落ち着いていたが、俺への要求も多くなっていった。

 

それから、当然の事だが、俺は彼女と付き合う事になったらしい。正式に。

 

俺は悔いた。自分の行動を。別に、彼女と付き合う事を後悔したわけではない。

 

彼女が嫌いなわけではないからだ。

 

それにリア充になる気分は悪くなかった。中学で彼女の出来なかった俺にとっては。

 

けれど、それも最初だけだった。

 

よくよく考えてみれば、今までの生活より、束縛が強くなっただけである。

 

しかも、彼女と彼氏という正式な関係になり、逃れる事も出来なくなった。

 

そう、決してリア充=幸せではない。

 

俺みたいに、束縛されて依存されるようなこともあるのだ。

 

そう、たとえば。

 

「ねえ、この宿題教えて。」

 

「え?俺その宿題まだやっていないんだけど...」

 

「じゃあ私の分先に教えて。」

 

という具合である。

 

そして、俺が彼女と一緒にバイトをしている本屋へ向かう時も、

 

彼女は俺の腕を掴んできて、体をこちらへ引き寄せ、密着させる。

 

「おい、ちょっと離して...」

 

「嫌よ。だって貴方は私の彼氏よ。ずっと離さないわ。」

 

そう言って微笑む彼女。

 

俺は無理やり引きはがすことも可能だったが、それをしなかった。

 

またある時。

 

俺と彼女がデートをした時である。

 

俺がふと携帯をいじっていたら、

 

彼女は突然俺の携帯を取り上げた。

 

「デート中は私だけを見て、携帯なんか触らないで。

 

ね、だってせっかく二人きりなんだもの。もし次触ったりしたら、

 

分かってるわよね。」

 

そして彼女は携帯を俺に返した。

 

その日、デートが終わるまで俺は携帯に触れすらしなかった。

 

しかもである、何回か彼女は俺の携帯をチェックして、逐一スケジュールを確認していた。

 

SNSの会話履歴もである。

 

何故かと聞くと、

 

「貴方が他の女と浮気していないか確認するため。」

 

と言ってきた彼女。

 

俺はそんな事しない、と言っても聞かなかった。

 

正確には、束縛されているからそんな事する暇ない、であるが。

 

さらにである。

 

彼女はひっきりなしにメッセージを送ってくる。そんなに暇なのかと思いもしたが、

 

彼女がいつも疲れているように見えたのでそれは否定した。

 

けれど大変だった。通知音が頻繁になり、夜も眠れない。

 

かといって通知をオフにしたり無視をしたら、

 

翌日、大量のメッセージが来ていた。

 

中身を見てみると思わずぞっとした。

 

「なんで私を無視するの?私の事が嫌いなの?

 

貴方は私を愛してるって言ってくれたのに。

 

あの言葉は嘘だったの?酷い、私をだましたのね。

 

それか、貴方他の女にたぶらかされているの?

 

だったらいいわ。そんな泥棒猫私が叩き潰してやるわ。貴方を正気に戻して。」

 

激しい被害妄想と勝手な論理の飛躍。翌日、俺は彼女に必死に弁明した。

 

そんな事はないと。ただ俺は疲れて眠っていただけなんだと。

 

彼女はそれで許してくれたので事なきを得たが、

 

彼女にこう言われた。

 

「あなたが疲れてる以上に、私は一人寂しく過ごしているのよ。

 

ねえ、だから私を優先して。ねえお願い。じゃないと一人ぼっちだから...」

 

そう言われ、俺はハイというほかなかった。

 

そんな気の弱さもまた、この事態を作り出した一因なんだろう。

 

俺はわかっていた。もっとはっきりNOと言える性格なら、

 

俺はこんな束縛を受けてはいないんだろう。

 

そう後悔してももう遅い。だって、既成事実は取り消せないのだから。

 

既成事実といえば、彼女はただ俺に依存しているだけではなかった。

 

いつの間にか、どうやったかは知らないが、俺と彼女が付き合っているという

 

既成事実を作り上げ、周りに恋人関係だと思わせたのだ。

 

だから俺は、周囲の目があるところで彼女を無碍にすることも出来なかった。

 

俺の彼女は意外と計算高い。

 

さらに一番参ったのはこれである。

 

俺が、ある時学校の女子の一人に話しかけられた。

 

俺は周りに彼女がいない事を確認してから、それに返事した。

 

内容はまあ、委員会がどうとかいう普通の話だった、

 

それがいつの間にか他愛もない趣味の話になったりして、会話に花を咲かせていると、

 

後ろから物凄い殺気を感じた。

 

俺は慌てて、

 

「あ、ごめん、俺そろそろ帰らないと。」

 

と言ってその場を去る。要は逃亡だ。

 

しかし、慌てて校舎の下駄箱に向かうと、彼女が待ち構えていた。

 

彼女は凍るように冷たい声で俺に尋問した。

 

「ねえ、あの女誰?貴方に馴れ馴れしく話しかけて。」

 

「ああ、部活の後輩だよ。ただの...」

 

そう言って俺は弁明する。

 

「じゃあどういう会話をしていたの?」

 

「ただの世間話だよ...」

 

「世間話ね、貴方からすればそうかもしれないけれど、

 

相手からしたら違うかもしれないわ。貴方は見てくれが良いんだから、

 

貴方を誑かそうとする泥棒猫がいてもおかしくない。

 

もしかしたらあの女だって貴方に言い寄ろうとしたのかもしれないわ。

 

良い?わかったら二度と軽々しく他の女と会話なんてしないで。

 

私が耐え切れない、貴方を他の女がたぶらかそうとするなんて。

 

貴方は私の物なのに...。

 

もし今度貴方に言い寄る女がいたら、校舎の屋上から突き落としてやるわ。」

 

俺はもう何も言えなかった。

 

その日の帰りは、恐ろしいオーラを放つ彼女に怯えていた。

 

そして、俺が日ごとに多くなっていく束縛に頭を悩ませているある日。

 

俺の友人が、俺の席を通る際、それとなくつぶやいた。

 

「次の休み時間トイレに来い。」

 

極端に低いその声が、俺以外に聞かれてはならないほど重要な話だと俺に理解させた。

 

そして次の休み時間。俺は友人の言伝通りにトイレへ行った。

 

そこには友人がいた。

 

「んで、そんなに重要な話とは何だ?」

 

俺はそう聞く。それに対して友人が言った言葉とは...

 

「お前に忠告しておく。あの彼女と、別れた方がいいぞ。」

 

え、嘘だろ...

 

「ちょっと待て、いきなりそんな事言われてもだな...」

 

「お前ならわかっているだろう?彼女の危険性。

 

お前の顔、最近疲れているように見える。理由は一つしかない。

 

 

お前が、彼女に束縛されてるからだよ...」

 

そう告げた友人。俺は言葉を失い、その場に立ち尽くしていた。

 

***

 

言われてみればそうかもしれない。いや、言われなくてもわかっていた事を

 

再確認させられただけだ。俺は彼女に束縛されていた。

 

時間を。身体を。そして、心までも。

 

どうだろう、本当に、別れるべきなんだろうか。

 

でも、別れるなんて言ったら、彼女はなんて反応するんだろうか...

 

考えれば考えるほどわからない。やはり、俺は決断ができずにいた。

 

そもそも、付き合い始めたのが間違いだったんだろうか...

 

そう悩んでいたある日。

 

「ねえ、今日家に遊びに行っていい?」

 

そう彼女は俺に聞いてきた。

 

「いいよ。」

 

今日は親も夜遅くまで帰ってこない。

 

それに、これは結論を出すチャンスかもしれない。

 

そう思って、俺は意を決して同意した。

 

 

その時空は、まるで俺が付き合うきっかけとなったあの日のように、

 

雨がパラパラと降り始めた。

 

今度は、俺はどんな運命をたどるのだろうか...

 

あの時のように、俺はドアを開け、二人で家に帰る。

 

「ふう。」

 

電気をつけた俺。

 

彼女は遠慮なくリビングに入り、ソファーに座る。

 

「はあ疲れた。まったく、数学難しすぎるのよ。

 

あんなん訳分かんないって。連立不等式って何よ...」

 

彼女が愚痴を言い始める。俺も数学は得意ではないので気持ちはわかるが、

 

俺に言ってどうなるものなのだろうか。

 

やはり理解できない。

 

その後も彼女の愚痴は続いた。

 

「それでさあ、こないだ女子会行ったんだけど、ねえ聞いてる?」

 

「ハイ。」

 

いつの間にか行っていたらしい。そういえば通知のやけに少ない日があったような

 

その日俺はほとんど寝ていたので気づきはしなかったが....

 

そんなことを考えていると彼女はなおも続けた。

 

「それでさ、鍋をみんなで食べたの。」

 

「うんうん。」

 

適当に相槌を打っておく。

 

「そしたらね、酷いの。○○がね、私の前にね、私の嫌いな玉ねぎ入れたの。」

 

玉ねぎが嫌いなのか...

 

じゃなくて。

 

「へえ、それは災難だったね。」

 

普段の俺なら、たとえば男友達相手だったら、

 

「だから何?」

 

で済ませていたものだ。

 

でも今日はそういう訳にはいかなかった。

 

「女子の争いは仲裁するのは大変だ、男子ならお前がどうこうしたから

 

責任がある。だから謝れと事実関係を明確にして解決できる。

 

けど女子はそうはいかない。私だって○○なのにと拗ね、時には泣き出す。

 

だから慰めたりせないかん。」

 

そう愚痴っていたのは(もちろん男子だけの前で)中学時代の先生。

 

今分かったような気がした。その先生の苦労を。

 

俺がそんな昔話を思いだしているとは知らずに彼女は語り続ける。

 

「ねえ、酷いよね、だって私の嫌いなもの私の目の前に置いたんだよ。

そんなん嫌がらせでしょ。絶対あの子私の事嫌いなんだよ。

いつもそう、最近誰も私に話しかけてくれない。

○○と○○が会話しててね、私が話しかけても二人とも無視する。

どうしてみんな私を無視するの?皆私の事が嫌いなの?

私、何も悪い事してないのに...」

 

そう言って泣き出す彼女。慌ててなだめようとするが、

 

本当にこれでいいのかと思えてきた。

 

(お前は彼女に束縛されている)

 

その言葉が脳裏に浮かぶ。

 

やるしかない。俺は決意した、この鎖を解き放とうと、

 

この現実を、変えようと、

 

「一つ、言いたい事があるんだけど。」

 

「何?」

 

「それってさ、ただの被害妄想だよね。」

 

俺は、耐えきれなかった、毎日のように束縛を続ける彼女に。

 

自己中心的な愛を押し付け、俺に対して常に同意を求める。

 

俺は精神的に限界だったのかもしれない、いや、きっとそうだった。

 

彼女を愛していないわけじゃない、そして独占したいという気持ちも理解できる。

 

だが限度と言うものがある。

 

だから、あの時と同じように雨の降っている日、

 

俺は彼女にこう告げた。

 

「それって、ただの被害妄想だよね。」

 

分からない、その選択が正しいのかどうかは、最悪の選択だったかもしれない。

 

けど、ああしていれば、と後悔はしなかった。

 

歴史にifはありえない。

 

俺の人生は歴史なんてたいそうな物じゃないけれど、それでも、後悔は出来ないから。

 

***

 

「え...」

 

彼女は言葉も出ないようだった。それもそうだ。

 

自分の悩みを真っ向から否定されたんだから。

 

「だから、それってただの被害妄想でしょ。

 

『私の嫌いな物置いた』なんて言うけど、

 

それ置いた人が君の嫌いな物知ってたとは限らないでしょ。

 

悪気があったわけじゃないと思うよ。

 

私が話しかけたのに無視するっていうのもさ、

 

会話に熱中してると話しかけても気付かないなんてよくある話だよ。

 

全部君の勘違いってわけ。わかったらそんなくだらない話で俺を束縛しな...」

 

俺は全てを率直に言った。いつもなら心の中に留めておく愚痴だったが、

 

今ばかりは言うべきだと思った。

 

一度は本音を伝えるべきだ。そう思ったから。

 

そうしないと何も変えられない。けれど、俺の言葉は途中で遮られた。

 

「何ですって...」

 

彼女は目の色を変える。

 

「私が、間違っているっていうの?」

 

「そうは言ってない。ただ相手には悪気があるわけじゃないんだし、そんな気にしなくても。」

 

俺はそう言って宥める。しかしそれは焼石に水だった。

 

「貴方はそうやって私の事を否定するのね。私の事を愛していないから?

そう、きっとそうよ。じゃないと私に被害妄想だなんていうはずがないわ。

あの時愛してるって言ってくれたのに...

そうやって私を見捨てるの?貴方まで、そうやって皆私を否定する。

私何も悪い事していないのに。酷いわ。」

 

俺はどうやら大きな過ちを犯したようだ。俺には、必死で彼女をなだめるほかなかった。

 

けれど...

 

「そう、貴方は私を愛していないのね、裏切ったのね、じゃあもう一度、

私を心の底から愛するようにしてあげるわ。

そのためには、カラダに教え込まないとダメみたいね...」

 

ヤバい。俺は直感した。さっきまでと目が違う、明らかに死んで光が失せてる。

 

どうすれば、いいんだ...

 

考えをめぐらせても答えは出てこない。

 

そうする間にも、彼女は何やら取り出したようだ。

 

「ちょっと痛い目みるけど、当然の事よね。だって私の事否定したんだもの。

これくらいの罰を与えなきゃ...」

 

そう言って彼女が取り出したのはカッターナイフ。

 

俺の脳内はもう恐怖でいっぱいだった。

 

「な、何でカッターナイフなんか持ってるの!」

 

「ふふ、ちょっとストレスが多いからさあ、時々リスカしてるの。

ほら、これがその跡。いまから貴方にも同じキズを付けてあげようか?」

 

そう言って彼女はどんどん俺に近づいてくる。

 

俺は恐怖で足がすくんで動けない。

 

「貴方は私のカラダの中で、存分に恐怖を味わってもらうわ。

そうすれば、私に二度と文句なんて言わなくなるわ...」

 

そもそも俺は文句を言ったわけでも彼女を否定したわけでもない。

他にも食い違う所は山ほどある。でもそれどころではなかった。

 

俺の身体が、色んな意味で危険にさらされている。

 

すると彼女は俺を押し倒した。

 

そして彼女は顔を突き出し、俺の眼前に迫る。

 

彼女は俺の体を撫で、恍惚とした表情でこうつぶやいた。

 

「貴方の感触、声、姿、優しさ、その全てを独占したい、

私がアナタにとって全てでありたい。そのためには、

まずは貴方が私を深く愛してくれないと。

貴方のキレイな肌に傷がついちゃうのは残念だけど、

それも貴方が私のモノだという証よ。だから...」

 

「落ち着くんだ、や、やめてくれ!」

 

俺の叫びも空しく、彼女の手が止まることはなかった。

 

 




ヤバい所で切るのはお約束。


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03 終幕

ようやく完結しました。しかし、これ解決してないだろ…


最初は、ただ孤独だった、それだけだった。

 

それを紛らわすための相手として、彼を選んだ。

 

けど、私の周囲との繋がりは、気付いた時にはもう切れていた。

 

誰も私を見てくれない。どうして皆、私を避けるの?

 

それが理解できなかった。そして気付いた時には、取り返しのつかない所まで、事態は動いていた。

 

「お願い、1人にしないで……」

 

願いはただ、それだけだったのに…

 

***

 

気付けば、朝になっていた。

 

「あれ?一体あの後何があったんだ……?」

 

俺は状況がさっぱり理解できなかった。周りを見回すと、確かにここは俺の家だ。

 

そして、俺は自分の身体を見る。どこにも傷はないし、どこも痛まない。

 

俺は自分の胸に手を当て、思わずこう呟いた。

 

「生きてる…?」

 

あれから記憶がない。あの時、彼女が俺の眼前に刃物を突き出して迫り、俺を押し倒した時から。

 

どうやら俺は無傷のようだ。色んな意味で。

 

どうして彼女があんな行動に走ったかは分からない。

 

おそらく、彼女は追い詰められて気が動転してしまったのだろう。

 

さて、肝心の彼女はというと、俺の足元でぐっすりと眠っていた。

 

幸せそうに寝息を立てて、すやすやと。

 

さて、どうしたものか、と俺は考える。

 

非常に幸運な事に、俺の両親は仕事が忙しく、当分は帰ってこないだろう。

 

俺は風邪を引かないよう彼女に毛布をかける。

 

…このままぐっすりと眠ってもらおう、という事だ。

 

そして俺は今後のことを考える。

 

どうやら、俺は大変な彼女を持ってしまったらしい、

 

目の前ですやすやと眠っている彼女を見て、俺はそう思う。

 

じゃあ別れるか?そんな答えは、今の俺は持ち合わせていない。

 

彼女を見捨てることなど出来なかったし、そんな事をしたら彼女は一体どうなってしまうのか…

 

考えるだけでも恐ろしい。

 

それに、俺はようやく気付いた。なんだかんだ言って、俺も彼女が好きなのだ。

 

そして数分後。

 

彼女が起き上がる。

 

「ふぁ…、あれ、もう朝?え…」

 

彼女は、目の前にいる俺の顔を見て、まるで死人が蘇って出てきたかのように驚く。

 

そして、その目に涙が浮かぶ。

 

「…良かった、無事で…、ぐすっ…」

 

そのまま泣き出してしまう彼女。

 

「まあまあ落ち着いて。」

 

俺は彼女を宥めるが、彼女はなかなか泣き止まない。

 

「ごめんね…、本当に。」

 

泣きながら彼女は謝る。

 

彼女の話を聞く所によると、俺はあの後気絶してしまったらしい。

 

そして目を覚まさなかった俺のことが心配だったが、気付いたら寝てしまったらしい。

 

「…もし死んじゃったらどうしようかと…」

 

そして彼女はひとしきり泣いた後、顔を上げて、俺を見つめながらこう言った。

 

「ごめんね。約束する、もう二度貴方を傷付けたりしないって。

 

だから、お願い…、1人にしないで。」

 

「…勿論だよ。俺はずっと君のそばにいるよ。」

 

俺はそう言って微笑む。あまりかっこよくは無いが、俺が出来るのはこれくらいだ。

 

すると、

 

「本当?ありがとう…。私達、ずっと一緒にいようね。これからも。」

 

そう言って、彼女はとびっきりの笑顔を見せ、俺に抱きついた。

 

俺はそっと彼女の頭を撫でながら思う。

 

…根本的に、彼女の心の闇を解決出来たわけでは無い。

 

けれど、少なくとも、今は俺が彼女の心の支えとなってあげられる。

 

多分、彼女は一生俺から離れないし、俺は彼女から一生逃れられない。

 

でも、それすらも、今の俺は受け入れられるような気がした。

 

人は言う。女とは麻薬のようなものだと。

 

一時の愛だけのつもりでも、気付けば虜になってしまう。

 

俺にとっても、彼女は無くてはならない存在になってしまった。

 

 

本当に…、

 

俺の彼女は依存度が高い。

 

 




ヤンデレって、書いてる方がゾクゾクするんですよね。快感を得られる。
初めは怖いと思っても、気付けば虜になっている。
これを読んでいるのだから、きっと貴方もその気持ち、共感できるはず。


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