もしも、百夜優一郎が子供のとき(孤児院に入る前)に吸血鬼に会っていたら (ブラッディー・メアリー)
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少年は女性に会う

はじめまして!
ブラッディー・メアリーと申します♪( ´▽`)
楽しんでいただけたら幸いです(〃ω〃)

文章の編集をしました。内容はあまり変わりません(2019/03/27)

最近、大幅に文章の変更をしています。
「少年は」「クレアは」等から始まるサブタイトルの話は変更済みです。
ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。


白い雪が降り続ける中、小さな少年が眼下に広がる街並みを見下ろしていた。

彼の顔や体には多数の暴力の痕跡があり、親からの暴力を伺わせる。

 

「あの、クソ親父! ってぇ! 何が悪魔の子だ! ふざけんな!」

 

ひとしきり叫んで疲れたのか、彼はそのまま座り込んだ。彼は裸足で何も履いていなかった。

 

「ハックション!」

 

まだ雪も降り続ける真冬だ。彼は寒さで震えていた。このままでは凍傷になるのも時間の問題だろう。その時

彼の背後から、突然声がした。

 

「こんな所で何してるの?」

 

若い、女性の声だった。心底、大人に嫌気がさしていた彼は、振り返ることなく返した。

 

「何だっていいだろ。うるせぇよ!」

 

彼女は、困った様な顔をして答えた。

 

「でも、そのままだと君、指とか腐って落ちるよ?人間は脆い生き物なんだから」

 

今まで他人から気遣われることの無かった彼は、その言葉に驚いた。

まるで、自分は人間ではないかのような言葉に、不審に思いながらも返した。

 

「何で、あんたがそんな心配するんだよ」

 

彼女は少し目を丸くして、自問するようにうつむいた。

 

「ふむ?なんでだろ?そんなこと、考えたこともないなぁ。それで、君はどうしてこんな所にいるのかな?」

 

彼女はまるで、心でも読めるかのようにそう言った。

答える様子のない彼に、困ったような顔をした彼女は、じゃあ、と彼の名前を聞いた。

 

「ねぇ、君の名前は?」

「何であんたに言わなきゃならない」

 

彼女は微笑んでダメ? と聞いて来た。

 

「……。天音優一郎だ」

「天音優一郎君だね。私の名前はクレア。クレア・バートン」

「クレア……。」

「そ、クレア。いい名前でしょ?」

 

おちゃらけたようにそう言う彼女に聞こえていないように、無言で返した優一朗は、ふと気になったように、クレアに問いかけた。

 

「あんたは、帰らなくていいのかよ?」

「え?あー、いーのいーの♪ちゃーんと置き手紙も残して来たし」

 

優一郎は眉にシワを寄せて、暫く考えていた。

 

「あっそ」

「……で、最初の質問に戻るけど、此処で何してるの?」

「あんた、しつけぇな。……はぁ、家から出てきたんだ」

 

なかなか去らないクレアを追い払うのを諦めたのか、優一郎は投げやりに答えた。

 

「どうして? 喧嘩でもした?」

「そんなんじゃねぇよ」

 

諦めたような表情で優一朗はそう答えた。

そんな表情の優一朗にクレアは何か思うところがあったのか、心配そうな顔で優一朗に尋ねた。

 

「……そう。……大丈夫?」

「まあな。いつもの事だし」

 

その事にまた驚きつつも、クレアは優一郎に変わらず声をかけた。

 

「そうなの……。良かったら傷口見せてくれる? 簡単な手当ぐらいならできるから」

「いい。どうせまた、すぐ新しいのができる」

「まあ、そうかもしれないけどね。してもしなくても、同じなら、してもいいよね! ほら、手、だして」

 

ぐいぐいと、引っ張る力を振り払った。

 

「いいって、いってんだ……ろ……」

 

その拍子に優一郎は初めてクレアの顔を見た。

長い銀色の髪を自由にたなびかせ、赤い瞳をした、この世のものとは思えないほど美しく整った顔の女性。いきなり目に飛び込んで来た光景に優一朗はみとれるように呆然とした。

クレアはこの隙にちゃっちゃと手当てをすませた。

やっと優一郎の脳が動き出した時には、全てが終わった後だった。

 

 




初めて書きました。二次創作です。基本、これ位の長さで、短いです。まだまだ、若輩者ゆえ読みにくいかと思いますが、暖かい目で見守って頂ければ幸いですm(_ _)m
誤字、脱字、感想やアドバイスなど頂ければ嬉しいです!


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クレアはいらん心配をする

お気に入り7人ありがとうございます!
ぶっちゃけ、誰にも読まれないかも、と思っていたのでとても嬉しいですm(_ _)m

さて、前回の本編の修正をしました。
百夜優一郎→天音優一郎
よく、考えてみると、まだ百夜孤児院に入っていませんね(笑)すいません。

サブタイトルも変えました。

まだまだ、拙い文章ですが、楽しんで頂ければ幸いです!
これからもよろしくお願いします(≧∇≦)



やっと、脳が働き出した優一郎は、開口一番

 

「あんた、本当に人間か?」

 

と言った。特に考えてした発言では無かったのだろう。クレアは、そう思ったが何となく気になって優一郎に聞いた。

 

「何で、そう思うの?」

「と、特に理由はない。何となくだ。」

 

目線を逸らし、何故かしどろもどろになる優一郎にクレアは、訊き返さなかったら良かったかなと思いつつも、そっか、と応えた。

 

しばらく特に、何を話すでもなく、二人は静かに眼下に広がる街並みを見ていた。すると、突然優一郎がクレアに話しかけてきた。

 

「なあ、あんたは俺が悪魔の子だと思うか?」

 

いきなりの質問に驚いたが、クレアは慎重に答えた。

 

「思わないよ。けど、もし優一朗君が自分の事を悪魔だと思っているなら、まあ、そうなんだろうね。世の中には中二病なる病も存在するらしいから、うん、否定はしないよ」

 

なんだか、よく分からん気遣いをされた気がする、優一朗はそんなんじゃねえよ、とふて腐れたようにそっぽを向いた。

 

「え、や、ご、ごめんね?こっちを向いて??」

 

よく分からんがなんか間違えたと理解したクレアは、そっぽを向いてしまった優一朗に謝ろうとあわあわする。

こうなったら、最終手段と日本の伝統的謝罪奥義DOGEZAを敢行しようと思い始めていたクレアに、優一朗がぽつりと呟いた。

 

「悪魔の子って何なんだろな」

 

それまであたふたとしていたクレアは、その言葉に静かに応えた。

 

「さぁなんだろう?私にも分からないな・・・けど、私はね、気持ち次第で人は悪魔にでも天使にでもなれると思うんだ。難しいかな?例えるなら、そうだな・・・もし、天音優一郎君が人間を殴ったとしよう。それは悪い事だ。此処までは、わかるね?」

 

優一郎はクレアが、何を言いたいのかが分からなくて、困惑していたが、人を殴るのはいけない事だと分かっていたから頷いた。

 

「けどね、例えば天音優一郎君が、大切な人間を守る為に相手を殴ったとしよう。じゃあ、これは、悪い事なのかな?・・・・逆に天音優一郎君が意味もなく相手を殴ったとしよう。それは、いい事なのかな?」

「でも、俺が守ったやつが、前にそいつを殴っていたとしたら。」

「そうだね。大切なのはそこだよ。そう考え始めたら、結局何が良くて何が悪い事なのか分からなくなるんだ。だからね、結局のところ気持ちの持ちようだよ。自分が間違っていないと思うならそうすれば良いし、間違っていると思うならしなければ良い。」

「じゃあ、殺すのもか?」

「殺す方はそれが正しいと思っているんだろう。けど殺される方はそれは違うと思っているんだろう。だからね、やっぱり人間それぞれで、考え方は違うんだ。・・・・天音優一郎君、君はまだ若い。これから、色々なことに、巡り会うだろう。苦しくて、悲しくて、どうしようもならなくなる事があるだろう。けどね、そういう時こそよく考えて。自分にとって何が正しくて何が間違っているのか。後悔しない方を選んで」

 

中二病患者予備軍かもしれないといらん心配をしているクレアの言葉は、どうやら本人の意図していない形で優一朗の心に響いたようだ。

優一郎は暫く黙って何か考えるようにしてから、フッと笑って言った。

 

「あんた、お節介だってよく言われないか?」

「自由に生きすぎだ。周りの事も考えろ、はよく言われるけどね」

「ほどほどにしてやれよ」

「考えとく」

 

真剣に考え込んでいるクレアをみて、笑いながら優一郎は礼を言った。

 

「ありがとう。あんたのお陰で気が楽になった」

「そう?ならよかった。・・・さあ、そろそろ帰りな」

「そう、だな」

 

表情を暗くしながら、優一郎は応えた。それを見てクレアはこう言った。

 

「大丈夫だよ。君はまだ死なない」

 

まるで予言のようにそう言うクレアにどういう事だ?と優一郎が聞く前にクレアは姿を消していた。

 

「幽霊か?」

 

そう思わせるほどに、クレアは一瞬のうちに消えていた。

 

 

 




ここまで、読んで下さってありがとうございます。

お気に入り10人を目指して頑張ってまいります!


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クレアは女王陛下に呼び出される

お気に入り件数17件、ありがとうございます!
まさか、二桁になるとは思ってもみませんでした。念願の夢が叶ってとても幸せです(涙)

まだまだ、拙い文章ですが今後とも宜しくお願いします!


さっきまで二人で立っていた丘の後ろの林から、クレアは優一郎が帰るのを見届けていた。

 

「頑張りなよ。天音優一郎君。取り敢えず中二病はいかんぞぉ~、黒歴史になるぞぉ~」

 

否、検討違いのことを念じていた。

全く、解っているのかいないのか、分からん奴である。

 

「こんな所で何をしていらっしゃるのですか?クレア様」

 

むむぅ~と念じるクレアの背後から突然、男性の声がした。

いや、確かに声は突然だったがクレアは気配で気付いていた。何だかんだ言って、吸血鬼しているクレアは振り返らずに応えた。

 

「何か用?ラクス、レーネ」

 

一人は黒髪、もう一人は紫の髪をした男だった。どちらも目は赤い色をしていた。

 

「第3位始祖、クルル・ツェペシ女王陛下がお呼びです。至急、サングィネム王城にお戻り下さい」

 

黒髪の堅苦しそうな男がそう応えた。

 

「あーあ、私のヴァカンスがぁ~!……レーネ、要件はそれだけ?」

 

心底いやそうな顔をして、項垂れていたクレアは、暫しの沈黙の後にやりとして、そう尋ねた。

黒髪の男、レーネがクレアのその様子に、いやな予感がしつつ答えた。

 

「はい」

「そう。じゃ、もう帰って」

 

レーネの返答にさらに笑みを深くしたクレアは、あくまでも素っ気なくそう返した。

そんなクレアに対して紫の髪の男、ラクスはヘラヘラとした様子で慇懃に答えた。

 

「そう言う訳にはいきませんよ〜。女王陛下から、首根っこひっつかんででも連れ戻せって、言われてるんですから」

「おい、こらラクス。そういう言い方は!」

「え?でも、本当の事でしょ?」

「まあ、そうだが」

 

ラクスの言い方を注意したレーネが、ラクスにそう言われていると、クスリと笑い声が聞こえた。二人は訳もなく悪寒を覚えた。

楽しそうな顔をプリントした顔でクレアがニコリと尋ねた。

 

「ふーん、貴方達が私を無理矢理連れて行くの?そんな事、できるのかな?」

「「絶対に無理ですね。」」

 

二人は同時に否定した。

そんな、二人の様子にさらに笑みを深めながら、クレアは玩具で遊ぶように無邪気に笑った。

 

「しかし、我々も女王陛下から命令されていますので。」

「でも、わたしはまだ帰りたくないなぁ。さてどうする?力ずく、かな?」

 

二人の反応を楽しんでいるクレアは、あえて好戦的な構えをみせた。

 

「「いえ、それは遠慮させて頂きます。」」

「あら、残念。じゃあ、どうするの?」

 

ぶんぶんと首を振る二人に心底面白そうな、顔をしながらクレアは二人に聞いた。

 

「女王陛下から、もし駄々をこねる様ならこのように言えと言われてます( ̄▽ ̄)」

「おい、コラ、ラクス!だから、そういう言い方は」

 

顔を青くしながらレーネが言い終わるより前にクレアが、

 

「へぇ、何て?」

 

と不敵な表情を浮かべながら、クレアはラクスに聞いた。

 

「別に帰ってこなくても良いけど、帰って来ないならクレア様の大切にしている本を、全て焼きますよ、と」

 

そう、ラクスが言うと見る間にクレアの表情が変わり、苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「うわぁ、腹黒だな、クルルは。分かった分かった、帰りますよ。帰りますとも、はい。・・・・はぁ。もうちょっと遊びたかったのに」

 

イタズラが不発に終わったことと、帰らなければならない物足りなさに、盛大なため息を吐きながら、クレアはラクスとレーネと共にサングィネムへの帰路につくのであった。




今回は少し短いです。
誤字、脱字、感想、アドバイスなどありましたらお願いしますm(_ _)m

さて、次の話では、クルルが出てきます。そして今、猛烈に悩んでいます。クルルって、敬語は話すのかな?と


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クレアはクルルに怒られる

どうも、お久しぶりです。ブラッディー・メアリーです。
夏休みの宿題はもう諦めました、はい(笑)
長らくお待たせして、申し訳ありませんm(_ _)m

前回の後書きなどで、書かせていただきましたクルルが敬語を話すのか、は話すことにさせて頂きました(^O^)

また、少々分かりにくくなりますので、少し補足させて頂きます。ネタバレ等含みますので、次の話で書かせて頂きます*\(^o^)/*


ラクスとレーネに呼ばれて(脅されて?)クレアはサングィネム王城の女王の間の前に来ていた。

 

「ラクス・ウェルトとレーネ・シムです。クレア・バートンを連れて参りました」

 

レーネがそう言うと大きな扉が音を立てて開いた。クレアは、その中へ入り暫く歩くと

 

「クレア・バートンただいま戻りました。女王陛下」

 

騎士のように膝をつき、頭を垂れながらそう言った。

 

「ご苦労であった。ついては、事の詳細を聞きたい。お前たちは退がれ」

 

女王陛下と呼ばれた、見た目幼女の彼女はそう言い周囲の者を下がらせた。

クレア以外の全ての者が居なくなると、女王陛下と呼ばれた女の子は、仰々しい王座から降り、クレアの元に歩み寄った。その時には既にクレアは、顔を上げ立ち上がっていた。

 

「お帰りを、今か今かと心待ちにしておりました。クレア様」

 

そう言って、女王陛下と呼ばれた女の子はクレアに膝をついた。さながら、先ほどのクレアの様に。

 

「ああ、クルルも変わりないようで、何より」

 

クレアは女王陛下のことをクルルと呼んだ。それは、クルルよりも、クレアの方が立場が上である事を示していた。

 

「色々とお話ししたいことが御座いますので宜しければ、会議室にでも参りませんか?」

 

張り付いたような、笑みでクルルはそう言った。

 

「そうだね。ずっと、立ちっぱなしと言うのも疲れる。防音性に優れた部屋を頼むよ」

 

そんなクルルの様子に、クレアは引きつった笑みでそう言った。

 

「心得ております。では、お先に失礼致します」

「ああ」

 

クルルは女王の間から出て行き使用人に会議室の用意をさせた。クレアは、そのまま城内の浄化室に行き貴族服に着替えた。何故、今まで貴族服で無かったかというと、ラクスとレーネにそのまま、連れて行かれたからだ。どうやら、一刻も早く連れ帰れとクルルの命令だったらしい。丁度、着替え終えた頃に放送で

 

「クレア・バートン様、女王陛下がお呼びです。至急、第1会議室まで、お越し下さい」

 

と、呼び出された。

 

(さてと、いきますか。今回はどんな、小言を言われるのやら)

 

そう、思いながらクレアは浄化室を後にした。

 

☆☆☆☆☆☆

 

「失礼します。クレア・バートン参りました」

 

ドアをノックして、中にいるであろうクルルに言った。敬語なのは、周りに他の者達がいるからだ。少しすると、扉が開き使用人によって、なかに招き入れられた。中は、何層もの扉により仕切られており、完璧な防音体制が築かれていた。10程だろうか、扉を超えたところにクルルはいた。

 

「案内ご苦労。お前達は退がれ。この区画には立ち入るな」

 

そうクルルか厳命すると使用人達は下がり、周囲は静寂に包まれた。

 

「さて、クレア様……色々と申し上げたいことはあるのですが」

「う、うん」

「今回はそうもいかなくなりました」

 

何時もなら、「少しは私の仕事、いえ、元はクレア様の仕事をして下さっても宜しいのでは!」とか、「自由に過ごされるのは構いませんが、周りのことも考えてください!」等等怒涛の勢いで言って来るのに、今回は無かったことに嫌な感じがして、クレアは珍しく真面目な顔になった。

 

「どうした?」

「人間共の中に潜伏している、兵からの情報です。百夜教の人間共が終わりのセラフの第一段階目の実験を成功させた、と。」

「へぇ……それは、確かな情報?」

「はい。同じ様な報告があと3件ほどございます」

「そう……なら、こちらも急がないとね」

「そうですね。……全く人間共は厄介なことをしてくれる」

「まあ、そう言いなさんな。彼らはそれが正しいと思っているんだろう。人間の欲望とは私たちの血への欲求と同じかそれ以上に、それこそ果てのないものなんだから」

「そうですね。だからこそ、禁忌にまで手を出す」

「............」

「............」

「まあ、ここで言っていても仕方ない。早々に準備をするか」

「そうですね。すでに、採血施設は8割がた、完了しています」

「そう。貴族の者達には?」

「まだ、知らせておりません。クレア様に報告してからと思いまして」

「ふむ、では明日にでも貴族会議を開くか」

「分かりました。では、そのように」

「ああ、頼んだよ。報告は以上?」

「はい」

 

話がひと段落したところで、クルルはクレアに、さて、と言い、何時もの様に語り始めた。

 

「全く、今回はどこをほっつき歩いてらっしゃったのですか。この様なことが、あったにもかかわらず10日も行方を眩まされるなんて!」

 

いつも通りガミガミと言い始めたクルルに耳を押さえながら、クレアは困ったような顔をする。

 

「いや、まず、そのこと自体しらなかったし」

「知らなかったではありません。この国、いえ、我々吸血鬼の頂点に立つお方がその様でどうします!」

 

クレアがむむぅと唸りながら、ぼそりと呟くと、クルルから怒濤のような返しが来る。

 

「いや、この国の女王陛下はクルルでしょ」

「それは、建前の話です。実際はクレア様でございましょう!」

「いや、だから、それはクルルに一任しているし」

「そこは、関係ありません。序列の問題です!第一位始祖ともあろうお方がそのように、フラフラと!もっと、御自覚下さい」

 

クレアは勉強しなさいと母に言われた子供のような顔をして、そっぽを向いた。

 

「面倒くさい」

「クレア様!」

「ハァァァァァ・・・はいはい、分かったよ。これからは自重します」

「その、長い溜息は何ですか!本当に分かってらっしゃるのですか⁉︎だいたい、クレア様は・・・・・・

 

 

クルルの小言はその後3日3晩続いたという。

お前ら、仕事しろよ!というツッコミは無しでお願いしますm(_ _)m

 

 

 




今回は、いつもより長くいきました。
クルルのキャラが崩壊している。
クルルファンの方々すいませんm(_ _)m

感想等ございましたら、お寄せ下さい。
これからも、宜しくお願い致します*\(^o^)/*


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補足 *ネタバレ含む*

この作品を読んでわかりにくい所が多々あると思います。
これは、私の技量不足の上、無駄に設定を付けたためです、すいませんm(_ _)m

つきましては、こちらでそれらの補足をさせて頂きました。何度も、申し上げるようですが、ネタバレ含みます。
ご注意下さい!

☆9月7日に一部内容を変更しました。


クルル・ツェペシ

・第三位始祖

・日本の吸血鬼の女王(表向き)

・見た目は幼女だが、歳はかなり(1000歳以上)

・クレアの力は尊敬しているが、放浪癖を何とかしてほしいと、思っている。

・かなりの、苦労人。

・フェリド・バートリーはウザイと思っている

・ミカエラには、何だかんだ言っても甘い

・クレアの子供的存在

「あのお方は、第一位始祖と言う立場を何だと思っておられるのだ!、、、、、ん?なんだ?キャラ崩壊?元からこんな感じだ!そんな気がするだけだ!」

 

天音優一郎(百夜優一郎)

・5歳の時にクレアに出会う

・両親からの虐待により、6歳から7歳まで百夜孤児院で暮らす

・12歳の時に吸血鬼に家族を殺され復讐を誓う

・人間の国に戻り始めて見た景色に既視感を覚える(クレアと会った所)

・新しい家族がシノア隊になる

・百夜孤児院でクレアに会う(クレアには気づかない)

・渋谷でミカエラに会う

「なーんか、俺の出番少ねえな!早く出せよ、作者!」

「すいません、暫く出ません、、、」

 

進藤ミカエラ(百夜ミカエラ)

・優一郎と同じく

・フェリドに殺されかけるもクルルによって吸血鬼にされて助かる

・クレアの孫的存在

・吸血鬼になってから、暫くしてクレアが第一位始祖であることを知る

・クレアの事はおかしな奴と思っている

・クレアの事は信用出来ると思っている

・渋谷での戦いで優一郎と再会する

・優一郎が、終わりのセラフとして実験されてた事に怒る

「優ちゃんなんて、まだいい方だよ。僕なんて一回も出てないんだから!原作なら1話から出てくるのにさ!」

「ほんと、すいませんm(_ _)m」

 

☆オリジナルキャラクター

クレア・バートン(クレア・イーレクス・バートン)

・第一位始祖

・クレアが第一位始祖であることを知っているのは一部の貴族のみ(クルル、ラクス、レーネ、フェリド、多分クローリーも)

・面倒くさいからクルルに女王陛下をしてもらっている

・11年前に天音優一郎と「出口」で出会う

・人間に対する激しい感情は特になし

・無益な殺生は好まない

・基本チート

・優一郎には好意を抱く

・基本、自由民。面倒くさい事は嫌い

・ミカエラが、吸血鬼にされた時近くにいた

・ミカエラには、信用されていないと思っている

・ミカエラは、面白い奴っと思っている。

・歳は正確には数えていないが2000歳位だと思っている(サバ読みの可能性大)

・百夜孤児院で優一郎と再会するも記憶にないようでショックガーン!

「初めましてー!クレアでーす!人間の皆さん、仲良くして下さいねー!キャハッ!」

「.....................」

「あれ?おーい?聞いてるー?」

 

 

 

今の所、こんな感じです。わかりにくい、分からない所があればご連絡下さいm(_ _)m

 




これからもよろしくお願いしますm(_ _)m


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クルルは苦労人

どうもー、ブラッディー・メアリーです。
更新、遅くなってすいませんm(_ _)m

いきなりですが、今回から2年後に飛びます。前回、優ちゃんに早く出せや、と脅されましたので(汗)

また、今回はクルルがかなり壊れます。お気をつけて!


ー2年後ー

世界は未知のウイルスが蔓延し、人口は激減。

子供達は吸血鬼に連れて行かれた。

 

ーサングィネム城内ー

「女王陛下、人間共を連れて参りました」

「うむ。予定通り人間共は居住区角に収容しなさい」

「かしこまりました」

 

サングィネム城内では、兵達が慌ただしく動き、当初予定していた通りに、人間をサングィネムに収容していた。

その頃、クレアはというと地上で人間の回収をしていた。彼女が向かったのは百夜孤児院だった。

毅然とした表情でクルルは兵に答えていたが、一人になったときに2ヶ月前のクレアとの会話を回想していた。

 

ー2ヶ月前、サングィネム城内、第1会議室ー

いつかも使っていた第1会議室でクルルはクレアにいつも通り報告をしていた。

いつも通りクレアの仕事をクルルがして、それをクルルがクレアに報告する。そして当然のことながら、この後にいつも通りクルルの小言が来るはずだった。

 

「さて、報告も終わりましたので・・・クレア様」

 

しかし、今回はクレアから待ったがかけられた。

 

「クルル、少し言っておきたい事があるんだけど」

「何ですか?」

 

珍しく、真面目な顔をして話してくるクレアに驚きつつクルルは応えた。

 

「近々、我々は人間共に侵攻する」

「はい」

「その際、大人は死に、子供は生き残る。そうだね?」

「はい。正確には13歳以上の人間が死に、それ以外の人間が生き残ります」

「うん。で、その生き残った、子供達は我々が捕らえサングィネムで管理する。間違いないね?」

「はい。その通りでございます」

「では、そろそろ本題に移ろう。私は地上での子供達の捕獲をしようと思っている」

「はい。・・・・って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!!!!!!!」

「‥‥…うるさいよ」

「す、すいません。しかし、尊き御身がその様な雑事をなさる必要は!」

 

あ、これは長くなるやつだ、と思ったクレアは機先を制した。

 

「私がしたいのだから構わないでしょう?」

 

もわっと第一位始祖っぽいオーラ的な何かを漂わせて、クスリと笑うようにクレアは言った。

しかしそれは、火に油を注ぐ発言だった様で

 

「っ〜〜〜クレア様は御自分の立場を分かっておられるのですか⁉︎」

 

あ、これ失敗した、と思ったクレアは戯ける事にした。

 

「ふむ。さしずめ、流離の吸血鬼と言ったところかな?」

 

しかしそれは、火に油を注ぎまくる発言だったようで

 

「そうではありません!というか、それは困ります!治して下さい!良いですか?貴方様は此処サングィネム城の真の王であり、全ての吸血鬼の頂点に立たれる第1位始祖様であらせられます。その様なお方が、たかが人間の為にその様な雑事をなさるのは如何なものかと。第一、そこらの兵と共に行動なさる時点で、クレア様のお名前に傷がつき、…うんぬんかんぬん」

 

むぅ~と思いつつ初めは真面目に聞いてはいたクレアだが、うんぬんかんぬんの辺りから面倒くさくなってきた。

ちょっとばかし、拗ね始めたクレアはブーブーとクルルに文句を言った。

 

「別にいいじゃん!私が、第一位始祖であることを兵は知らないのだから。それどころか、貴族さえ知っている者は少ないし、知ってるのは、クルル、フェリド、あと成り行きでラクス、レーネぐらいじゃない?クローリーも知っていたかもしれないけど」

 

しかし、それも意味をなさなかったようだ。

というか、囂々と燃えさかる油を注がれまくった火に、さらに水をぶっかける発言だったようで

 

「そう言う問題ではありません!」

「そうなの?じゃあ、何が問題?ちゃんと一般兵の格好をしていくよ?」

 

そう言って、クレアは何処からか黒色のローブを取り出した。

 

「な!第一位始祖ともあられるお方が一般兵の格好を!あぁぁぁぁぁ‥‥‥‥…」

 

そう言ってクルルは撃沈した。

そんなクルルを上からのぞき込みながら、笑ってクレアは言った。

 

「大袈裟だなぁ、クルルは。そんな気にすることないでしょ。一位だ二位だと言ったところで外見が変わるわけでもないし。ばれない、ばれない」

「そう言う問題ではありません!、何度も申しますが少しは第一位始祖としての自覚をお持ち下さい!」

 

クレアの冗談に真剣に返して、涙目になっているクルルを可愛いなぁと思いながら、クスクスと笑っていると、またプンプンとクルルが怒りだした。

 

「何を笑っていらっしゃるのですか!」

「え~?いやぁ、クルルは可愛いなぁって」

 

つい本音を漏らしたクレアの言葉に、クルルの顔は見る間に赤くなっていく。

 

「そ、そんな言葉では騙されませんからね!」

 

クレアの言葉に必死にそう返すクルルは端から見ても普通に可愛いのだが、本人にその自覚はないのだろうか。

吸血鬼は基本的に嗜虐的な者が多いので、クレアからするとそんなクルルを心配するとともに、何やらもっとからかいたいという思いにもなる。

全く困ったものだ。

 

 

「やれやれ、本当なんだけどなぁ」

 

ぼそりと呟いた言葉は、クルルに聞こえたのか、聞こえなかったのか。

 

「クレア様なんてもう知りません!」

 

そう言ったクルルは会議室から逃げるように去って行った。

外からは、いかがなさいましたか?女王陛下、といったような声が聞こえてくるが、クルルが戻ってくる気配はない。

 

「あーあ、ちょっとやり過ぎたかなぁ」

 

クルルが去って行ったドアを眺めながら、クレアはぼそりと呟いた。

ビミョーに後悔の念が籠もっているものの、大半は可愛い猫に逃げられて残念といったような、楽しげな感情だった。

なかなかにひどい奴である。

 

ーそして時は進みサングィネム場内ー

「クレア様のたらしめ……」

 

呪うように呟くも、顔が赤面していては怖くもない。

 

報告のために訪れた兵は、顔を赤くし悶える王を見、珍しく空気をよんでその場を後にしたという。

 




クルルが不憫に思えてきました(泣)

みそっかすな、文章ですが楽しんで頂けてると嬉しいです。

感想やアドバイスなど、御座いましたらお願いしますm(_ _)m

これからも、よろしくお願い致します!

謝罪
始祖が全て真祖になっていました。すいませんでした。


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クレアは侵攻する

はい!やっと、何となく知ってる感じの所まで来ました。いやぁ、遅かったですね!すいませんm(_ _)m

それでは、どうぞ!


ー地上ー

クレアはクルルに言った通り、地上に出ていた。しかし、その服装は兵の着る様な黒のローブではなく、白の貴族服だった。

クレアが第一位始祖である事を知っている者はとても少ないが、だからと言って貴族であることを知らないかというと、そういうわけでもないのだ。

クレアからすれば、クルルに言った"兵の格好"というのは冗談だったのだが思いの外、間に受けられて困ってしまったというのが事実だったりする。

そんな事をクレアが思っていると後ろから声をかけられた。

 

「そろそろ参りましょう、第五位始祖様」

 

声をかけて来たのはレーネだった。此処では第一位始祖であるという事は隠しているので、第五位始祖という事になっている。

 

「そうだね、行こうか」

 

第五位始祖といえど、順位は日本の中ではクルルに次ぐ2番手ということになる。

よって、今回の侵攻もクレアが取り仕切る事になる。

何だかんだ言って、クレアが地上で作業することを許可している辺り、クルルはクレアに甘い。

 

「隊列を組んで、5分後に出発しよう」

「了解です」

 

そう応えたのはラクスだ。

 

(相変わらずこの二人は何時も一緒にいるなぁ)

 

そんな事を思いながらクレアは、時計を見た。

 

(あと、2分。あと2分で世界が変わる)

 

人間の中にいる兵の調査ではあと2分後に終わりのセラフの実験が始まり、そして恐らく、失敗する。ウイルスが発生して、多くの人間が死ぬ。これは、事前に調べた情報から容易に予想がつく。

 

そして、世界は変わる。

 

 

 

ー2分後ー

1人の若者が倒れたのをかわぎりに、爆発音が辺り一帯から響いた。

その音に混じる様にして、子供の泣き声や叫び声が聞こえる。一瞬にして辺りは赤く染まり地獄絵図と化した。その光景をクレアが静観していると

 

「準備が整いました」

 

と、レーネから報告が来た。クレアは振り返ると総勢100の兵に向かい、こう発言した。

 

「ウイルスによって、13歳以上の人間共は死んでいるはずだけど、人間共が何か対策をしているとの報告もあるから皆、気を引き締めて行こう。この程度の作戦で消滅することはないように。もし、消滅なんぞしたら泣いちゃうゾ♪……コホン、この作戦は、皆も知っている通り人間共の家畜化なので、できるだけ多くの人間共をサングィネムに連れ帰りましょう。それが、女王陛下の望んでおられる事。それぞれ、振り分けられた地域の人間を一匹残らず連れてくるつもりで。さて、これより我らは、人間共へ侵攻する!皆、私の後ろについてきなさい!」

「「「は!」」」

 

なーんだか、皆暗くて堅いなぁと思ったクレアは、緊張をほぐそうと、お茶目をしてみたが、白い目?いや、無反応を返されて、なんだか恥ずかしくなった。

そんなクレアは置いとくとしても、100の吸血鬼が一気に動く様は異様で見ているだけで恐怖を感じさせるほどだった。

 

ー東京ー

「警告しまーす!愚かな人間共の手により、致死性のウイウイルスが蔓延しました!残念ながら人類は滅びます!しかし、ウイルスは13歳以下の人間には感染しない事が分かっています!よって、我々第三位始祖クルル・ツェペシ直下部隊はこの地区の人間達の保護を始めます。‥…我々の指示に従いなさい!!!!!」

 

心底楽しそうにそう声高に話しながら

 

(柄じゃ無いんだよなぁ)

 

と、クレアは思っていた。どうにも、しっくりとこない。

人間を威圧し、吸血鬼を鼓舞するためにそう、言っていたが元来この性格なのでスッキリとしない。訳もなく精神をすり減らし疲れながら、クレアは兵に命令した。

 

「さあ、ゆけ!我が同胞たちよ!」

「は!」

 

そう言って、兵は散り散りに去っていった。

それを見送ったクレアはいつも仲良し二人組のラクスとレーネに声をかけた。

 

「ああ、それからレーネ」

「はい?」

「君はラクスと一緒に行動するように」

「ええ、元よりそのつもりですが」

「え?クレア様、それって僕の事を信用してないって事ですかぁ?ひどいですよ〜」

 

クレアに信用されてないと感じたラクスはそう、クレアに抗議した。

 

「いや、そういうわけじゃないけど、君はどうにも、羽目を外しすぎるしね」

「それは、信用されてないのと同じなんじゃぁ?」

「レーネ、ラクスの事を頼んだよ!目を離さないようにね!」

「はい」

「ラクスも、珍しい物があったからって、勝手にレーネから離れないようにね」

「いや、僕、子供じゃないんだけど?」

 

ラクスの抗議?は二人によって黙殺された。

それから、程なくしてラクスとレーネも街に出て行った。

クレアの周りに誰もいなくなったところで、クレアは動き出した。

 

「さて、そろそろ私も行こうかな」

 

クレアは百夜孤児院に向かって歩き始めた。




拙い文章ですが、これからもよろしくお願い致します!


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クレアは百夜孤児院へ行く

更新、遅くなってすいません。バシバシ出していきたいとは思っていますが、なかなかできません(>_<)凄く、すごーく、遅いですが見捨てないで下さったら嬉しいです。

あ、それから補足の話を一部変更しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願い致します。


ー百夜孤児院前ー

(思っていたより小さいな)

 

それが、クレアの百夜孤児院を見た率直な感想だった。

 

≪百夜孤児院≫

・終わりのセラフの実験場

・肉体的精神的な苦痛を伴う実験が多数あり。

・天音優一朗、他多数の身寄りのない子供たちが入院している。

・現在、天音優一朗は実験当時の記憶をなくしている。(本人が記憶をなくしていることに気づいているかは不明)

・天音優一朗は本日入院

 

このような、報告を受けていたのでクレアはもっと大きな施設であると考えていた。

やっぱり、実際に見ないとダメだなあと改めて感じた。

現場重視、これ絶対。

 

 

 

 

この辺りには、クレア以外の吸血鬼は一人もいない。クレアがその様に割り振ったからだ。

ガラガラと何かが崩れる音や、子供の泣き声など以外には、パトカーや救急車のサイレンの音なども何も聞こえない。

そんな中、クレアが外から孤児院を眺めていると孤児院の中から声が聞こえてきた。

 

「優ちゃんは子供たちを頼む。僕は院長先生を」

「あ、ああ。・・・・・・・大丈夫だ。俺がお前らを守ってやるからな」

 

二人の男の子の声と、小さな子供たちの泣き声が聞こえた。その内の一人の声にクレアは聞き覚えがあった。

 

(天音優一朗君。懐かしいなあ)

 

その声は、クレアが二年前雪の丘の上で出会った、天音優一朗だった。

初めて会った時よりも大人びているような感じがしたが、意志の強そうな声は当時のままだった。

 

(さて、どうやって中に入るか・・・)

 

クレアが此処に来たのは何も優一朗を見る為ではない。サングィネムに連れていくためだ。別に、必ずしも連れて行かなければならないという訳ではないが、まあ、そっちの方がクレアにとっても都合がいい。

子供たちの声が聞こえるのは庭に面した壁一面がガラス張りの部屋だった。

 

(さて、どうしよっか?真正面からいって逃げられでもしたら面倒くさいし・・・・・。やっぱり庭から行った方が良いかな?)

 

そう思ってクレアが庭に回ると小さな子供たちと、倒れた一人の大人がいた。子供たちは周りより大きな黒髪の少年の方に集まっていて、もう一人の同じくらいの金髪の少年は倒れた大人に声を掛けながら揺すっていた。子供たちを落ち着かせている黒髪の少年が天音優一朗だった。

 

(随分と子供たちに懐かれているんだね。天音優一朗君。・・・・・・・あれ?でも報告じゃあ今日来たばかりじゃなかったけ?)

 

兵からの報告と相違する点がありクレアは疑問に思った。

 

(ま、いっか)

 

特に気にする必要もないかと思い、クレアはそのままガラス窓に近づいた。

 

 

☆優一朗side☆

俺は今日からこの百夜孤児院で暮らすことになった。別にそれはどうでもいい。ただ、ミカエラと言った俺と同じ年の奴が親し気に話しかけてきたのには、何だか腹が立った。何が家族だ!俺がそういうとあいつは訳の分からない事を言って、俺に喧嘩を吹っかけてきやがった。もちろん、俺は買ったがあっさりと負けてしまった。その様子を見て院長先生が

 

「仲良くなれそうね」

 

と言っていた。どこがだ!と言おうと思ったが突然院長先生の鼻と口から血が出てきて倒れた。突然のことにパニックを起こすガキどもの声が聞こえる。すると、さっきまで飄々としていたあいつが俺に

 

「優ちゃんは子供たちを頼む」

 

と言ってきた。いきなりで驚いたが何となく本能的にこれはマズいと思ったので俺はその言葉に従い子供たちを抱きしめ何とか落ち着かせようとした。外からは沢山の爆音と悲鳴が聞こえる。

そのすぐ後、いきなり外からの光が遮られた。なんだろうと思って、俺たちは外を見た。そこには、そこらの大人とは違う雰囲気を纏う何処か既視感を感じる白い服を着た銀髪赤眼の女性がいた。本能的な恐怖に震えると同時に、落ち着きかけていた子供たちが再び泣き出した。

 

外にいるそいつは驚いた様な顔をしながら俺をみていた。




いかがでしたでしょうか?優ちゃんsideの話を入れてみました。なんだか日記の様になってしまった気がします

感想、お待ちしております!(^^)!


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クレアちゃんショック!

2か月以上空けてしまった…。読者の皆様申訳ありません<(_ _)>


クレアが近づくと優一朗たちがクレアに気づいた。子供たちは泣き出し、優一朗は恐怖しているようだった。

 

(どうしてそんなに怖がるの?)

 

クレアは驚いていた。2年前とはいえ、自分は優一朗に会っている。だから、忘れられているとは思っていなかったのだ。

吸血鬼として生を受け幾年月、人間の子供の2年がどれほど長いのかクレアには分からなかったのだ。

しかし優一朗のその姿を見て、自分の事を忘れていると想像することは簡単だった。

 

(忘れている・・のか…残念だな。まあ、忘れてても私のすることに変わりはないけど・・・)

 

そう思い、クレアはさらに歩を進めた。

 

「ひ!」

 

子供たちから悲鳴が漏れた。クレアは落ち着かせようと微笑んで扉に手をかけた。

 

(?)

 

鍵が閉まっていた。当然だ。

 

(どうしよう?)

 

一瞬の逡巡の末クレアは窓を破壊することにした。コンコンと窓をたたくと、意外とあっけなく割れた。

 

(あれれ?強度を調べるつもりだったんだけど・・・。脆いな)

 

元から強度の高いサングィネムのガラスと日本のガラスを比べるのは酷というものだ。

日本のガラスも強化ガラスやらなんやら、割れにくいものは多数存在するが、「吸血鬼が喧嘩して暴れても大丈夫!」が触れ込みの、サングィネム製には敵わない。

クレアが面食らっている間に子供たちの悲鳴は大きくなっていた。

 

「いやああああ!!ミカ兄、優兄!!」

 

自分とクレアの間にガラスがあった為、かろうじてふんばっていた緊張の糸が切れたようだ。最年長のミカエラと優一朗に泣きついていた。

 

(あんなに怖がられたら流石に傷つくなあ)

 

化け物の様に(てか化け物なんだけど)怖がられてクレアは少しばかり傷ついた。

 

(にしても・・・どうしよう?このままじゃ連れて行きにくいなあ。)

 

仕方ない、あきらめよう、と言う思いがないわけではないが、ここまで出張ってきた手前、連れて行かないとクルルにまた何を言われるか分かったもんじゃない、という思いがクレアを諦めさせなかった。

 

「えっと・・・そんなに怖がらなくても別に捕って食いやしないよ。」

 

とりあえず落ち着かせようと思い言ってみたのだが

 

「食う?食うって、食べちゃうの⁉」

「いやああああああ!!!」

「優兄いいいい!!!ミカ兄!!!」

 

逆に怖がらせてしまったみたいだ。

 

「いや、食べないって言ったんだけど⁉」

 

そう言っても後の祭り、収まることはなかった。

 

「こ、困ったなあ………」

 

そう言いながらクレアがちらりと優一朗を見ると目が合った。その眼には先ほどと同じく恐怖が浮かんでいたがその他にも困惑、疑問、動揺がうかがえた。

 

(もしかして覚えているのかな?)

 

そう思ったクレアは恐がられるの覚悟で優一朗に声を掛けた。




今回の内容を要約すると、、
・優一朗君に忘れられていてショック!
・子供たちに怖がられてショック!!
・話を聞いてもらえなくてショック!!!
です。ドンマイ!!!

吸血鬼の都市のガラスの強度とかは独自設定です。


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クレアは期待する

気づいたら前回から一年以上が経過しておりました
もう、何というか、申し訳も御座いません


「やぁ、天音、じゃなくて、百夜 優一郎くん」

 

取り敢えず友好的な雰囲気で切り出すかと考えたクレアはそう言って優一郎に手を振った。

その間も子供達は得体の知れないクレアに怯え身を寄せ合って震えていたが、優一郎ともう1人の男の子、百夜 ミカエラだけは他の子供達を庇うようにいた。

腰が抜け立つこともできないくらい恐怖に襲われているのにもかかわらず他の子供達を守ろうとするその瞳には小さくとも強い意志が感じられた。

 

「な、何で俺の名前を知っているんだ?」

 

震える声を出しながらも、そう、気丈に返した優一郎は自分がそう答えると同時にクレアの瞳に映った失望のような色を見落とさなかった。

 

「やっぱり、覚えてない、かな?」

「••••••」

 

何とも答えることができずにいる優一郎はただただクレアの瞳から目をそらさないでいることしか出来なかった。

それを、肯定と取ったクレアは少しの悲しみとともに人の記憶力の低さを改めて痛感していた。

 

「あははは、はは、は。覚えて、ない、か。そう、だよ、ね。もう、2年も、たっているもんね。覚えているわけない、か」

 

いや、そうじゃない。2年も、じゃない。2年だけしか経ってない!と、そう、心の中で叫びつつも、何を言っても詮無いこととクレアは悲しみとともに納得した。

否、納得しようとした。

 

「あんた、何処かで•••••」

 

優一郎の言葉は蚊の羽音のように小さく、普通の人間であったならば聞き取ることなど不可能であっただろう。しかし、クレアは曲がりなりにも第一位始祖。その身体能力と諸々は他の吸血鬼を凌ぎ、当然のことながら人間の能力など遥かに凌駕していた。

つまり、何を言いたいのかというと優一郎の発した小さなつぶやきはクレアの耳にはしっかりと届き、諦めようとしていたその心を引き止めるに十分であったということだ。

 

「優一郎、くん?」

 

そう返したクレアの声も小さく、言い知れぬ緊張感を孕んでいた。

クレアの声を聞いてか、優一郎は1人思案するように呟いた。

 

「何処かで、聞いた気がする」

 

その呟きはクレアにははっきりと聞こえ、少しなれども優一郎が覚えていることに喜びを感じていた。

 

「やっぱり、君は優しいね」

 

人間には聞こえないほどの声で1人呟くクレアの顔には先ほどのような悲しさは見受けられず、吹っ切れたようなすっきりとした顔をしていた。

スッキリとしたことで本来の目的を思い出したクレアは今更遅いと思いつつも子供達をサングィネムに連れて行くために少しばかりの威圧感を持って行動を開始した。

 

「ゴホン。・・・あー、なんだ。そろそろ要件をいうとしよう。君たちもわかっているとは思うが、現在この地上ではウイルスが蔓延して大人がいない状況になっている。見たところここは孤児院のようだし、君達は大人の保護が必要だろう。よって、私について来てほしい。君たちを保護しよう」

 

それは、ただの建前。だが、クレアの言葉には僅かばかりの本音も含まれていた。その言葉は意外と本質を見抜くことの多い子供達には建前よりもすんなりと理解できた。



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小さき復讐の鬼

そろそろ、春休み♪


まだまだ名残惜しかったが、次の仕事をしなければならなかったクレアは優一郎たちをサングィネムに送り届けると、再び地上に戻って来ていた。

至る所から子供の悲鳴や物の壊れるような音がする。

 

「まったく。もう少し穏便に事を運ぶように言っとくべきだったかなぁ。これじゃあ、吸血鬼の品位が疑われるよ」

 

ぶつくさと言いつつ目的地に向かう。

向かう道すがら、子供を引き連れた兵にも何度か会い、その度に礼を受ける。

 

「第5位始祖様。お疲れ様です」

「お疲れ、その人間たちは何処の?」

「北側Y区域のです」

「ありゃ?もうそこまでいっていたか。じゃあ、そろそろ終わりかな」

「そうですね。ラクス様とレーネ様が確か次だったはずですので」

「ん、じゃ、滞り無きように」

「はっ!」

 

作業の円滑化を図るために今回の保護活動(笑)では収容の順番が細かく決められている。東西南北の順でその中でもAからZ区域にまで分けられている。ちなみに百夜孤児院は東側F区域で結構早かったりする。

兵と別れたクレアは事前情報により把握していたある少年の家へ向かう。

 

「にしても、うるさいなぁ。まだ、集めきっていないのかな?ラクスやレーネにしては珍しい。・・・ん?これは・・・・」

 

周囲の喧騒に紛れるようにして、目的の少年の家の方から血の匂いが漂って来た。

クレアは第1位始祖という特性から嗅覚や聴覚、視力が並みの吸血鬼を超えているので、ある程度の距離があって、さらに他の音や匂いが混じっていても目的のものを感じ取ることができるのだ。

 

「ん〜、これはこれは。ちょっと急いだ方がいいかなぁ?」

 

微かな香りから強い香りへと変わる血臭に急ぐことに決めたクレアは顔を上に向けて目を閉じ音と匂いに集中した。

 

「・・・・・・こっち、だね。ちょっと目立つけど、まあ、いっか」

 

方角を正確に掴んだクレアは、最短で目的地につくために持ち前の脚力とスピードを活かして、家の屋根を伝って駆けた。途中、辺りを巡回していた兵から何かしら声をかけられたりしたが全て無視をしたクレアは3キロの距離を、ものの3秒で完走した。

 

「ここか・・・・・ん?あちゃー」

 

目的の家の前に着いたクレアは、どう見ても力任せに壊された扉と、中から聞こえてくる耳慣れたラクスとレーネの声に少しばかり後悔した。

 

「しまった。あいつらの担当は此処だったのか・・・。うあ〜めんどくさ!しかも、この匂い。どー考えてもラクスだよねぇ・・・・レーネにはラクスを見張るようにって言ったのになぁ・・・・はぁ。まあ、あいつらの管轄内だから仕方ない、か?」

 

過ぎたことは仕方ないと開き直ったクレアは、取り敢えず目的の少年を殺されてはかなわないと、家の中へ入った。

声が聞こえてくるのは家の二階。血をすする音と小さくなる鼓動から吸血中であると悟る。もし、少年を吸血しているなら困ると思ったクレアは、早々に二階へ行って吸血中のラクスの腕を掴んで言った。

 

「まったく。つまみ食いも程々にしてよね。ラクス?」

 

普段穏やかな始祖から感じる微量の殺気にラクスは固まり、レーネも驚愕に目を見開いていた。

 

「・・・・・ク、クレア様。なぜ、こちらに?」

 

なんとかそう絞り出したレーネはその瞳が自分に向けられると同時に和らいだことに安堵ではなく、恐怖を覚えた。

 

「なに、別に大したことじゃないよ?ただ、この家の少年に用があってね?あー、勘違いしないでくれ。別につまみ食いを怒っているわけじゃないんだよ?貴重な食料を早々に1つダメにしやがってなんて、これっぽっちも思ってないからさ?」

 

((怒ってらっしゃる。これは間違いなく怒ってらっしゃる))

 

普段本気で怒ることのないクレアが起こればどうなるのか、2人は知らない。だが、これまでにない危機感から2人はそう確信した。

 

「「すいませんでした!!!」」

 

だから、下手な言い訳はせずに首が外れる勢いで頭を下げた。

 

「あはは、だから、別に怒ってないってば〜。やめてよ、私がいじめてるみたいじゃない」

そういうクレアであったがラクスやレーネからすると、さらに責められているような心地しかしなかった。

 

「「本当に、反省してます!もうしません!!」」

 

ので、再び謝罪の言葉を繰り返した。

一方、クレアはというと本当に怒っているわけではなく、レーネが恐怖した微笑みも、死んだ人間が目的の少年ではなかったことに対する安堵から浮かんだものであって特に他意はなかった。だから、そんなに謝られても本当に困るんだけどなぁと思いつつ、どっちかというと早々に此処から立ち去ってくれる方が良いなぁと思ったクレアは2人のクレアへの誤解を利用することにした。

 

「あー、はいはい。分かった分かった。もー良いから、さっさと人間集めてサングィネムに連れてってよ。タダでさえ時間も押してるんだし」

「「は、はい!失礼しまっす!!!!」」

 

呆れと苛立ちのこもった目をつくり、ラクスとレーネに向けると面白いぐらいに2人はさっさと立ち去った。

 

「やれやれ。・・・・・・さて」

 

2人の足音が完全に聞こえなくなるまで聞き耳を立てていたクレアは近くにあったベッドへと向き直った。

 

「で?君はいつまでそうしているつもりなのかな?」

 

側から見たらクレアが虚空に向かって話しかけているように見えただろう。

だが、一瞬ののち答えはその、ベッドの下から嗚咽となって聞こえた。

 

「うっ、ううっ・・・・」

 

耐えきれなくなったように漏れたその嗚咽は、小さな男の子のものだった。

 

「はぁ。まあ、君だけでも生きていてよかったよ。早乙女与一君」

 

早乙女与一、そう呼ばれたその男の子はその言葉が聞こえていないかのように泣き続けるだけだった。

 

「うっ、ううっ、おねぇちゃん、おねぇちゃん、ううっ」

 

死んだ姉を思いただ泣き続けるだけの与一を見たクレアは少しの同情と呆れた目をベッドの下に向けた。

 

「はぁ。・・・・ねぇ、いつまでそうしているつもりなの?そうやって、泣いていて、何かが変わるの?」

 

姉を、家族を亡くしたばかりの子供には酷な言葉。それを分かっていながら発破をかけるようにクレアは与一に言った。

 

「おねぇちゃん、おねぇちゃん」

 

だが、その言葉は与一に届かなかったのか、ただ虚ろな瞳で姉の名を呼び続けるだけだった。

 

「そうやって、ずっと泣いて何もせずに終わるつもりなの?」

 

せっかく間に合ったのにもかかわらず、このままでは与一の心が壊れて、自殺し兼ないと感じたクレアは与一の頭を掴んでベッドの下から引きずり出しながらそう言った。

 

「むり、だよ。ボクには、何も、むり、だよ」

 

だが、元来気弱な性格なのかクレアの挑発に対しても覇気のない返事しかしなかった。

あまりの軟弱さに早々に面倒になってきたクレアはほとんど投げやりな気持ちで吐き捨てた。

 

「そう。ならもういい。姉の死を嘆いて、悲しんで、此処に閉じこもっているといい。そうしていれば、誰かが助けてくれるかもしれない。誰かが姉の仇を討ってくれるかもしれないしね?全てが終わるまで、姉の亡骸を抱えて目を塞いでいるといい」

 

そう言ったクレアの言葉の何が、与一の琴線に触れたのだろうか?

身を翻して部屋を出ようとするクレアの裾を与一は力強く握って叫んだ。

 

「ふざ、けるな!」

 

与一の瞳は恐怖と怒りと悲しみがない混ぜになった様な色で、でも確かな意志を持って恐ろしいであろうに、クレアの瞳を見て睨みつけていた。その様子に少しの期待を込めながら更なる挑発を返す。

 

「別にふざけてないよ。君は何も、姉の敵討ちすら、するつもりはないんだろう?」

 

そう言ったクレアの言葉に、一瞬虚をつかれた様な顔をした与一は、クレアの目を見据えながらかすかに答えた。

 

「敵討ち。。。する」

「ん?聞こえないなぁ」

「敵討ちする!ボクのおねぇちゃんを殺したあいつに、お前たちに!ぜったい!」

 

憎悪に燃える瞳がクレアを貫いた。長らく見ることのなかった、その瞳に、捕食者の様な期待を持って、

 

「へぇ?君にできるの?」

 

訪ねたクレアに

 

「ぜったいする!」

 

与一はクレアの瞳を燃やす様に力強く答えた。

 

「そう。なら、いいよ。君が大きくなって私達を討つ日を楽しみにしておくとしよう。ラクスにも伝えておかないと」

 

期待に満ちた瞳でクレアは与一を見、憎悪に満ちた瞳で与一はクレアを吸血鬼を見た。

 

 

この日、小さな復讐の鬼が誕生した

 

 

 




与一くん、案外男気ある設定です。
クレアちゃんは何やってるの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、一応意味があるので答え合わせまで妄想して見てください(笑)


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帰還

場所が動きます。ご注意ください。。。


「もし、生き残りたいならここから出ない方がいいよ」

 

復讐をするなら下手にこちらが保護するより、置いておいた方がいいと考えたクレアは、そう言い残して、家を出て次の目的地に向かおうとしていた。

 

「次の場所は・・・ここからだと結構遠いなぁ」

 

大抵のことは力技でどうにかなってしまうクレアは、計画性というものが結構欠けていた。クレア自身がそんなんであるから、クルルのような慎重で思慮の深いものを困らせるのだ。

 

クレアがボヤきながら、それなりの速さで移動していると、遠方から召集の声がした。

 

「人間どもの捕獲は終了しました!これより、帰還します!全ての吸血鬼は至急門まで集合してください!繰り返します!全てのーーー」

 

人間であれば、通信機やら伝令やらが必要なところだが、並外れた聴覚を持つ吸血鬼にはそんなものは必要なかった。

ある意味では、非常に効率のいい伝達方法だとも言える。

 

「ありゃりゃ?時間切れか。まぁ、ラクスとレーネが最後なんだからそうなるか」

 

自分でラクス達を追い払っておきながら、召集がかかるまで思いつきもしない。結構なアホゥ・・・ドジっ子である。

 

「うーん、一度顔を見ておきたかったけど・・・仕方ないか」

 

そう結論づけたクレアは門へと急いだ。

 

 

 

ーーーーサングィネム城内例の談話室ーーーー

 

扉で何重にも隔離された部屋の中。もっとも上位の吸血鬼と、この国だ最も高貴とされる吸血鬼が向かい合うようにして座っていた。

静かな沈黙の中、初めに口を開いたのはクルルだった。

 

「で?楽しかったですか?地上は」

 

少しばかり棘を感じる言い方である。

 

「ん?まぁね。1人、顔を見れなかったのは残念だけど」

 

とうの昔に思いやりやら同情やら空気を読む力やらをなくしたクレアは、クルルの発言に対してフォローするでもなく、簡潔に返した。

 

「はぁ。左様でございますか」

 

クレアの性格に関してはある程度理解している、クルルは早々に鬱憤をぶつけるのは諦めた。

言う時には言うが、マジで理解していないクレアになにを言っても無駄だと分かっているからだ。

なんとも不憫な女王さまである。

 

「で、捕獲した人間どもの様子はどうだ?」

 

そんな、クルルの心労などいざ知らず、クレアはそう問うた。

相変わらずのクレアの様子にかすかにため息をつきつつも、クルルは簡潔に答えた。

 

「はぁ。。特に問題は御座いません。特に争いも起こっていませんし。多少泣き喚いているのもありますが、まぁ、子供ですし、こんなものでしょう」

 

逃げようとすることも想定内だし、泣かれるのもある程度想定内であった、クルルは飽きたような目でそう答えた。

 

「そうかそうか、流石クルルだなぁ」

 

特に気負うでも無く、そうするのが当たり前かのように、クレアはクルルの頭を撫でた。

 

「ななななにを!」

 

頭などついぞ撫でられたことのないクルルは、クレアの行為に、顔を真っ赤にして後ずさった。

それを見たクレアは苦笑しながら、ゆでダコみたいだぞ、とからかった。

そのまま話はクルルが怒って、たわいない世間話になって終了した。

 

 



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ミカと優と吸血鬼

一気に四年飛びます。
やっと原作の本番あたりに入ってきました


ーー4年後ーー

 

採血場に向かって人間の子供達が列をなして歩いている。

最前列では代表の子供と吸血鬼によって、一人一人名前をチェックされて、採血場の中へ入っていく。

その中には四年前、クレアが連れてきた百夜孤児院の優一郎とミカエラ達の姿もあった。

 

「百夜優一郎」

「・・・・よし、入れ。次」

「百夜ミカエラ」

「・・・・よし、入れ。次」

 

採血場の中は広大で大量の採血用のベッドがあり、チューブが張り巡らされていた。

子供達はそこに寝転がると、吸血鬼によって首へ針を刺されフラフラになるまで血を抜かれ、まずい血液造成剤を渡される。

採血場の外では貧血気味になった子供が、寝転んでいたり、まだまだ、元気な有り余っている子供達がはしゃいでいたり、お絵描きしていたりした。

そんな中、優一郎は不機嫌を隠そうともしないで、渡された血液造成剤を握りつぶした。

 

「あぁ!もう、腹立つ!!」

「また飲まないの?優ちゃん。体壊すよ?」

「こんなマジィもん、飲めるかよ!」

 

怒れる優一郎を宥めているのかいないのか分からない合いの手を入れる金髪の美少年、ミカエラは小さくため息をつきつつ、近くに吸血鬼もいることから、目をつけられないように、フォローをいれた。

 

「はぁ。別にここでの生活も悪くないと思うけどね」

「はぁ?それ、マジで言ってんのか⁉︎」

 

が、そんなミカエラのフォローには全く気づかない優一郎は逆にミカエラにキレていた。

その後のミカエラの必死のフォローも甲斐無く、優一郎はミカエラに掴みがからとしたため、結構他の人間や、吸血鬼の目線を集めてしまっていた。

 

ミカエラが、さて、どうやって優ちゃんを宥めようかと思案していると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

 

「やぁ、ミカくんじゃないか」

「フェリドさま!」

 

普段であれば、優一郎や孤児院の家族以上に何かを優先したりはしないミカエラだが、ここから脱出するために利用しているフェリドには、それなりの愛想を振りまいておく必要があった。

だが、そのミカエラの行動が更に優一郎の癇に障ったのか、どう見ても貴族であるフェリドに突っかかっていこうとしていた。

 

「ぁん?んだよ、お前?」

 

これは幾ら何でもまずい、と考えたミカエラは早口で優一郎をフォローしようとした。

 

「す、すいません!この子、バカで、だから、その、」

「あぁ⁉︎バカってなん!むぐぐ」

 

未だことの大事さを理解していない、優一郎の口を塞いでいると、独特の笑い声が聞こえた。

 

「あはぁ?元気な子だね。その子も今度、僕の屋敷に来るのかなぁ?」

「むぐぐぐぐ!ふぐぐ、ふんぐぐぐ!!」

 

優ちゃんの口を塞いでおいてよかった。きっと、今頃とんでもない罵詈雑言をはいていたことだろう、と思いながらそんな心配はおくびにも出さず、ヘラリと笑って、フェリドに話しかけた。

 

「いえ、すいません。この子、見ての通りバカなんで、また、今度」

「あはぁ?そう?残念。あぁ、そういえば今日も僕の屋敷に来るのかい?」

「はい!よろしくお願いします!」

 

何とか優一郎からフェリドの興味を反らせたミカエラはホッとしつつ、さらりと付け足されたお誘いに乗った。

ミカエラの返事を聞くと、楽しみにしてるよ、と言い残してフェリドは去っていった。

フェリドの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、ミカエラは優一郎の口から手を離した。

途端に優一郎から抗議の声が上がった。

 

「ミカ!何すんだよ!ってか、お前あいつに、血吸わせてんのかよ⁉︎」

「フェリドさまは貴族なんだ。血を渡せば、何でもくれるんだよ」

 

本当の目的を言ってしまえば、優一郎は自分もすると言いかねないので、ミカエラは建前を言った。

予想通り、優一郎は怒ったが、自分もすると言い出さなかったのでミカエラはホッとした。

 

しばらくその場で優一郎がミカエラに突っかかっていると、二人組の一般吸血鬼が通りかかった。

吸血鬼のすぐ前の足元では、人間の子どもがお絵描きをして遊んでいて、吸血鬼に気付いていなかった。

 

「あ、おい!」

 

危ないと思った優一郎はミカエラに起こっていたことも忘れて、咄嗟に子供達にそう、声をかけたが子ども達は顔を上げただけで、そのまま手を踏まれてしまった。

ボキリと嫌な音が聞こえる。

 

そのまま通り過ぎようとする吸血鬼に腹を立てた優一郎は、吸血鬼の進路を塞ぐようにして抗議した。

 

「あやまれ!」

 

チラリと優一郎を見た吸血鬼は、優一郎の胸ぐらを掴むと、そのまま渡り廊下から優一郎を下へ落とそうとした。

それにあわてたミカエラは、本日2度目、いや、3度目となる優一郎のフォローに向かった。

 

「ご、ごめんなさい!その子バカで、自分がしたことも分かってないんです!だから、許して上げてください!」

 

言っていることは全力で優一郎を貶しているが、必死にフォローしようとするミカエラを必要ないとばかりに、優一郎はなおも吸血鬼に言い募ろうとした。

 

「ミカ、何謝ってんだよ!俺は」

「何をしている?」

 

その、言葉を遮るようにして、涼やかな女性の声が聞こえた。優一郎達にとっては忘れたくても忘れられないあの日、彼らを連れ去った吸血鬼の声だった。

 



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ミカと優とクレア

「なにをしている?」

 

そう言いながら階段を降りてくるクレアは、美しい微笑をたたえていた。

優一郎やミカエラ、吸血鬼達はその姿に硬直し、一瞬ののち、吸血鬼は優一郎から手を離した。

その拍子に、優一郎は尻を地面に強かに打ち付けた。

 

「って!」

「ゆ、優ちゃん!大丈夫⁉︎」

「あ、ああ」

 

その光景を横目に見ながら、クレアは優一郎を捕まえていた吸血鬼の元へ歩いた。

目の前にやって来たクレアを見、その顔から微量の怒気でも感じたのだろうか。吸血鬼はすぐさま、クレアの前に跪いた。

その様子を無言で見るクレアは、見る人がみれば何とも思わないのだが、普段クレアと接することの少ない一般吸血鬼からすれば、非常にお怒りである様に見えた。

 

「失礼を」

 

口数が少ないのは一般吸血鬼全般に言えることだが、それでも、ここまでカチコチに固まった状態で話すことはまずない。だが、第5位始祖とされているクレアの怒りを買ったかもしれないという、焦りから普段よりも更に言葉数が少なくなっていた。

 

その吸血鬼の様子を見たクレアは、一瞬ののちため息を吐くと、優一郎とミカエラの方へ向いて話しかけた。

 

「何があった?」

 

優一郎とミカエラは突然話しかけられた事に驚きつつも、優一郎が話してまた吸血鬼の気分を損ねてはいけないと考えたミカエラが、答えた。

 

「えと、その。優ちゃんが、その吸血鬼に文句を言って」

「へぇ?何で?」

「その、吸血鬼がそこの、子供達の手を踏んで‥…」

 

そう指し示すミカエラの指の先には、手を抑えて蹲り声もなく泣いている2人の子供の姿があった。

大方、吸血鬼が子供の手を踏んで、それを無視した事に優一郎君がキレたってところか、と当たりをつけたクレアはその子供達の元へ歩きながら答えた。

 

「ふぅん?よく分かった。では、この子達の手当ては私がするとしよう」

 

その言葉に驚いた優一郎とミカエラは、え?という言葉を発した後、しばらく硬直してしまった。

そんな優一郎達に御構い無しに、クレアはさっさと状況を片付けていった。

 

「ジェームズ、ハンス、お前達は暫く謹慎だ。ここ、サングィネムで人間の血を吸ってはならない、という掟を忘れたわけではあるまい?それ即ち、この地で人間を殺してはならない、ということもお前達なら理解できるであろう?」

 

どうやら、2人組の吸血鬼はそれぞれ、ジェームズとハンスというらしい。

それなりの論理の飛躍を見せながらも、持ち前の貴族オーラというか、始祖オーラというかで、謎の説得感を見せつつ、二人に去るように命じた。

虚ろな目をしつつも、自室へ戻っていく2人に後でフォローしとくか?と考えながら、クレアは優一郎達に振り返った。

 

「まったく。あまり危険な事はするものじゃないよ」

 

先程の少し怖い様子から打って変わり、まるで手のかかる子供を見るような目でそう言ったクレアに一瞬、息を飲んだ優一郎は、しかし慌てたように目をそらすと早口でまくし立てた。

 

「べ、別に俺は何もしてねぇし!あいつらが悪いんだし!」

「ちょ、優ちゃん!」

 

そんな、優一郎の態度にミカエラが、慌てながらまたしてもフォローをしようと試みるが。

 

「あはは!うん、そうだね。君たちは悪くない。ははは」

 

上機嫌にそう返したクレアに、フォローの必要はなかった。

何となく、クレアも他の吸血鬼も同じだと思っていた優一郎は、その様子に驚いた。

まさか、全肯定をしてくるとは思わなかったのだ。

 

「でもね」

 

しかし、そう笑った一瞬ののち、クレアは目を細め睨むような、心配するような顔をして続けた。

 

「無謀と勇敢は似て否なるものだよ。勝てるはずもない相手に、無謀に突っかかるべきではない」

 

全肯定した後の全否定とも取れる言葉。優一郎はなんとなく裏切られた感じがして、クレアに言い返した。

 

「うるせぇ!オレは吸血鬼をぶっ殺すんだ!」

 

そう返した優一郎を困ったなぁ、とも言いたげな顔をしてクレアは返した。

 

「うんうん。そうだね。君はいずれ私達を殺せるまでに、強くなるのかもしれない。でもね、それは今じゃないんだよ?今の君じゃあ、私どころか、1番弱い吸血鬼にすら勝てない。それは、君も分かっているんじゃないかな?」

 

反論のしようもない、完璧な事実。

吸血鬼にただの人間は勝てない。

その言葉に言い返すかのような顔をしつつも、やはり、優一郎も分かってはいるのか、俯いて悔しさに歯噛みしていた。

でも、やっぱり、言葉とはいえ吸血鬼に負けるのは腹がたつのか

 

「うるせぇよ‥‥‥…」

 

そう、小さく一言返して優一郎は走っていった。

 

「あ!待ってよ優ちゃん!」

 

置いてけぼりになったミカエラは、急いで優一郎を追いかけようとした。が、そんなミカエラをクレアが呼び止めた。

 

「ミカエラくん」

「なんですか?ボク急いでるんですけど」

 

吸血鬼の怒りを買ってはならない。それは、ミカエラの中でのこの地下で生きていくための、絶対に守らなければならないルールのようなものであった。

しかし、先程の優一郎の暴言を受けても笑って流していたことから、多少の事なら大丈夫だと思ったミカエラはいつもより少し強気で返した。

そんな、ミカエラに少し嬉しそうな顔をしたクレアは、一瞬ののち心配げな顔をして続けた。

 

「フェリド・バートリーには近づかない方がいい。アレは私たち吸血鬼の中でも危険なやつだ。家族が大切なら、深入りをしてはいけないよ」

「‥‥‥…分かっています」

 

予言めいたような、それでいて確信に満ちたクレアの言葉に思うところがあったのか。いつもの少しヘラヘラとした顔を引き締めて、ミカエラはそう答えた。

 

「分かってるなら、いいよ。でも、本当に気をつけて」

 

クレアはそう言うと、先程の負傷した子供達を介抱すべく、歩いていった。

 

その後ろ姿をしばらく見つめたミカエラは、悪い想像を振り切るように頭を振ると、優一郎の後を追いかけた。



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女王陛下の憂鬱

今回はクルル・ツェペシ女王陛下視線で行きます。
キャラ崩壊ものです。ご注意を


私は第一位始祖クレア・バートン様にこの日本の統治を任されているクルル・ツェペシだ。

いと尊きお力をお持ちで、才覚溢れる、我が愛しの君は現在、

 

「はぁ」

 

いつもと変わらぬ美しい顔に、少しばかりの憂いを含み、色気を孕んだ顔で、頬杖をついていらっしゃった。

普通であれば、色恋にでも悩んでいらっしゃるのだろうかと思うところではあるが、幸か不幸か、このお方はとうの昔に恋愛など諦めていらっしゃるので、そう言うわけではないのだろう。

しかし、色気を含んだ顔は同性の私でさえ、なにやら怪しい気分になる。

これでは、下々のものどもへの示しがつかぬので、原因を伺うことにする。

 

「どうかなさいましたか?クレア様」

 

私が声をかけるとふと、顔を上げて私の顔を見る。ぽやぁ、としたその顔は可愛いとも取れるのだろうが、そんな可愛い性格でないことは長い時を共に過ごしたものとして、知っている。

クレア様は、少し迷うような素振りをなさると、またも憂いを含んだ顔をなさって、おっしゃられた。

 

「優一郎君たちなんだけどね‥‥‥」

 

優一郎‥‥…百夜優一郎のことだろう。

確か、その子供はクレア様が自ら迎えにお出向きになられた人間だった、と記憶している。

また、終わりのセラフの実験体であったことも。

 

その子供がどうしたのだろうか?

もしや、クレア様に何か失礼な事を⁉︎

もしそうであるならば、注意しておかねばなるまい。そう、懇切丁寧に、じっくりと‥‥…フフフ

と、いかんいかん!まだ、なにも聞いておらぬのにそのような事を考えては!

続きを聞かねば!

 

「百夜優一郎ですか。そのものがどうかなさいましたか?」

 

私が知っていることに驚かれたのだろうか?

少し瞳を大きくなさったクレア様の顔は驚きに彩られていた。

吸血鬼の象徴とも言える赤い瞳。クレア様のその瞳は他のどの吸血鬼よりも、輝いておられるように見える。

と、いかん!また、思考が脱線した!

 

「いや。優一郎君がどうって話ではないんだけど。優一郎の友達がね、ちょぉっと厄介な事になってるぽくって‥‥…‥」

 

美しいお顔に暗い陰りを落とされたクレア様は、こんな事を言っては不敬かもしれないが、酷く嗜虐心を唆られるお顔をされている。少し泣いている顔が見てみたい気もする。きっとすごく、お美しく、えもいえぬ色香をお出しになるのだろう。

いかんいかん!また思考がそれた!

 

「厄介なこと、ですか?」

 

私が抱いた、不敬な想いなど、この鈍感なクレア様はお気づきになられていないのだろう。私の方を向いていた瞳は、また少し迷うようにして机に向けられ、そして、何もない虚空をまるで仇がいるかのように、睨みつつ仰られた。

 

「フェリド・バートリーの奴に血を吸わせているらしい」

 

あぁ。と、その言葉を聞いた私も自分の眼光が鋭くなるのを自覚した。

フェリド・バートリー、クレア様に敬意を払っているのか払っていないのか分からない態度をとり、また、怪しげな言動の多い厄介者。おまけに性格も悪く、嗜虐心旺盛。

私もはっきり言って関わり合いになりたくない奴だ。

それに、ここ最近の人間の子供の逃亡未遂事件の際、必ずと言っていいほど奴がいる。非常に怪しい。

なるほど。クレア様が苦慮されるのもわかる。

 

「よりにもよって、フェリドですか」

 

この地下の国では人間の食べれるものは少ない。

必然的に人間の子供への配当物も最低限だ。ゆえに、貴族に血を売って、少しでも良いものを食べようとする人間は、恐怖心もあるからだろう、決して多くはない、が、少なくもない。それを、私達が黙認しているのも事実だ。

本来であれば、これまで通り知らぬ存ぜぬを通すものの、相手はフェリド。

十中八九何かしら企んでいるのは確定だ。それを分かっていらっしゃるからこそ、クレア様もここまで気にしておいでなのだろう。

 

「また何か企んでいるのでしょうか」

 

人間の1人や2人、どうなろうと知ったことではない。が、終わりのセラフ実験体の人間が死ぬのは、クレア様の意に反する行為。まして、クレア様はどういうことか、かの優一郎とやらを殊更、大事にしておられる様子。

なれば、死力を尽くして守らねばなるまい。

 

「まぁ、フェリド君のことだからねぇ‥‥何かしら企んでるのは間違いないだろう。問題は、一体何をしようとしているのか、だ」

「ええ。もしこれまで通りであるなら、嗜虐趣味の発言による人間の殺傷、でしょうが‥‥…‥」

 

この可能性は高くはないと思う。

奴も貴族ゆえ、この国での事はほとんど把握しているだろう。なればこそ、クレア様が優一郎とやらを大事にしているのはご存知のはず。

たかが、人間1人のために自らの命を危険に晒すとは到底思えぬ。そこら辺の損得勘定は奴の得意とするところだ。

 

「いや、違うな」

 

当然クレア様もその辺りはお考えになられたようで、思案するように目を伏せられた。

暫しの黙考の後、あぁ、と、呟いたクレア様は独り言のように話し始められた。

 

「優一郎君じゃないのかもしれない。考えてみれば、あの時話してたのは優一郎君の友達。たしか、ミカエラといったか。その子が目当てだとするなら、合点がいく」

「と、いいますと?」

 

確かにクレア様ははじめ、「優一郎君の友達」と、いっておられた。つい、優一郎の名が出たため忘れてしまっていたが、普通に考えるならばそうなるだろう。

だが、何故合点がいくのだろうか?

そのミカエラとやらが優一郎の友達だという事は、フェリドも知っている事だろう。

クレア様がお聞きになられている事実からも、優一郎と共にミカエラがいたのは明白。

ミカエラを害する事がすなわち、優一郎を害する事になるなどという事は、簡単に想像がつく。

故に、何故ミカエラならば合点がいくのか。

 

「あぁ。クルルは知らなかったっけ?」

「何をですか?」

 

あら意外、とでもいいたげな顔でクレア様は聞いてきた。

そして、何か大きな秘密を教えるような、それでいて、なんだか面白いような、恥ずかしいような顔をしておっしゃった。

 

「フェリド君はね、びしょーねんに目がないんだよ」

 

は?

 

目が点になったことを責められる者など誰もいるまい。

ここまで、シリアスに話をしていたのに、いきなりの謎の性癖暴露。

感情と表情がついていかないといったものだ。

そんな私の様子が面白かったのだろうか、クレア様は口元に笑みを浮かべると言い募った。

 

「優一郎君もまぁ、びしょーねんなんだろうけど、綺麗系というよりは可愛い、小動物?みたいな、それがキャンキャン吠えてるみたいな感じなんだよ。で、ミカエラ君は金髪碧眼な見た目に、作り物ではあるが笑みを浮かべるびしょーねん。これは、風の噂で聞いたんだけど、彼のことを微笑みの天使、なんぞと呼んでる吸血鬼もいるらしい」

 

なんか、いろいろと、あれだ。

え〜と、あほ?ばか?へんたい?なんていうんだこれ。

あぁ!残念美女というやつだな!

フェリドなんぞの性癖を、面白そうに語るクレア様はその美しい顔も相まって、話す内容が内容だけに、なかなかに残念な絵になっていた。

もちろん、クレア様自身がびしょーねん趣味だとか、わけのわからぬ、呼び名を使っていることなどないのだろうが、それとこれとは話が別レベルで、うん、残念。

 

私のジト目にお気づきになられたのだろうクレア様は、コホンと咳払いをして本題に戻られた。

 

「あー、まあそれは置いといて、であるからして、フェリド君はミカエラ君を狙っているようだ。ふむ、由々しき事態だな!」

 

なんか、それっぽくまとめていらっしゃるが、残念美女説に拍車がかかっている。

まあ、こういうところも含めて私の愛しき敬愛する君ではあるのだがな!




シリアスにしようと思ったんですけどね、、、、。


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