優しき死神 (桜竜)
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一話「死神」

不定期に更新します、原作設定は投げ捨てていますので気軽に読んでください。


 白い壁、白い天井、色がついているのは私達だけ。

 

 広いこの部屋に私を含めた数人の子供たちが遊んでいた。

 あの子も、その子も私は初めて見た子だった、私は長い間この部屋にいるが名前を顔も覚える必要が無い。

 だってあの時間になると帰ってこないと思うから。

 

「君はまだいるんだ」

 

 一人の男の子が話しかけてきた、この子は私より後に来たけどそこそこ長くいるから知っている、名前は知らないけれど。

 

「何か用?」

「いや、特にそれと言った用は無いけれど、君と話したくてね」

「私は話したくないわ」

「つれないね、少しくらい話そうよ」

「いやよ」

 

 仲良くなると別れが辛くなる初めのころ不安しかなかった頃は同期の子達と遊び、気を紛らわしていた、だけど一人、また一人とこの部屋を去っていった、そして私は戯れることをやめてしまった。

 

 不定期にやってくるあの時間、終わったとき良くて一人か二人、悪くて半分以上の子達がこの部屋に帰ってこなかった。

 

「貴方か私、どちらがいつかは帰ってこないのだから、話しても意味なんてないわ」

「話すのにいちいち意味なんて考えていると疲れるよ、もっと今を楽しく生きなきゃ」

「私たちは早かれ遅かれ帰ってこれないわ、今に意味なんてないのよ」

「だからいちいち意味なんて無いんだって、君はもう少し明るくした方がいいよ、その方がもっとかわいいし」

「……」

 

 そのあとも彼は一方的に話していて私は相槌を打ちながら聞いていた。

 

 そして時間が来た。

 

「時間だね」

「そうね」

 

 いつも施錠されている扉が電子音を響かせ開く、私たちを含め子供たちは重い足取りでドアを出ていく。

 

「ねえ、僕は君の事を忘れないから君は僕の事を忘れないでくれる?」

「……分かったわ」

「よかった、僕という存在を覚えていてくれる人がいてくれて僕は満足だよ」

「意味が分からないわ」

「とにかく覚えてくれたらうれしいって事だよ」

 

 ドアを抜けて真っすぐに廊下を抜ける、たどり着いたのはもう見慣れた番号が書かれた板がつるされた人数分のベット、各自自分の番号のベットに寝る。

 全員がベットに寝ると白い服装に身を包みマスクをしている人たちが入ってきて、私たちに「何か」を注射する、体に異物が入り込み体を喰らう痛み、初めのころは痛みで泣き叫んだがもう慣れてしまった。

 

 そのあといつも通り一人ずつ個別の部屋に入りそのなかで待機する、その部屋はガラス張りで一人が待機する部屋にしては広すぎる作りだった。

 

 時間が経ちドアがが開く、今回も何も無かった。

 帰ってこない子たちの部屋で何が起こっているかは分からないが帰ってこないということはそういう事だ、決して自由になるということは無い。

 

「42番」

 

 42番私の番号だ、今回はいつもと違うらしく私の番号を読んだ男についていった。

 

「入りなさい」

 

 私が来たことがない部屋に案内されそこにはさっきの彼がいた。

 

「やあ、また会えたね」

「そうね」

「今回も生き残れたんだ明るくいこうよ」

 

 今回生き残っても私たちはいつか終わる、希望なんてない。

 

「42番、66番、聞こえているか」

 

 どこかにスピーカーがあるのか部屋全体に声が響く。

 

「君たちは他と違ってとても優秀だった、だからこの実験を終えたらあの部屋から出してあげよう」

「本当に!?」

「……これが終わったらあの部屋で過ごさなくてもいいの?」

「そうだ、家も親もいない君たちだが不自由無い生活を約束しよう」

 

 出れる、急にかけらさえ無かった希望が見えた。

 

「最後の実験だ、その机にある薬を筋肉注射するんだやり方は分かるね」

 

 広い部屋に置かれた注射器を私と彼は手に取る。

 

「これが終わったら君と一緒にいたいな、もっと気にの事が知りたいんだよ」

「…ええいいわよ」

 

 私たちは同時に肩に注射器を刺し、「何か」を体に流し込む。

 

「さあ、神と人間の合成体、新人類の誕生だ」

 

 手が震え注射器が手から落ち割れる。

 

 「なに……これ体が壊れるっ!?」

 

 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 体が分かれる、壊れる、分解される、「何か」が体の中で暴れまわり喰らい尽す、私を、私という存在を。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 私と彼の悲鳴が絶叫が部屋に響き部屋を揺らす。

 

 私と彼の目が合った。

 

「「美味しそう」」

 

 この状況でありえない言葉が被る。

 

喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ

   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   

喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ

   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   

喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ

   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   喰らえ   

 

 それを屠り、胃に入れ、糧とせよ、それは私にとって最高の食事だ。

 

「人間の体を持ちながらのアラガミ化、自分の種族を喰らうその特性は今極めて不安定だ、だがそこに自分と限りなく近い別の種族を取り込むことで自分のオラクル細胞を自分の制御下に置くことができる、人間の知性とアラガミの身体能力なによりも全てに適応する力を得ることができる、まさに新人類だ」

 

 何かを言っているがそんなもの耳に入らないただ喰らうという一つの感情ともいえない本能だけだ。

 

「さあ、喰らい合え」

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める、最悪の目覚めだ。

 よりによって見た夢があの時の記憶だった、おそらく人生もっとも最悪の目覚めだろう。

 

 人が住まなくなったビルの一室にあった古ぼけたベットから起き上がり、シャワーを浴びる、数日ぶりのシャワーだった、この時代シャワーがでることは珍しい、移住区や神器使いの支部には設備がそろっているが崩壊した世界に水が出ることはまれな事だ、お湯はでないけど。

 

 一着しかない服を身にまとい、拾った神器を担ぎ、ビルの窓から飛び降りて着地する、昔の人体実験の副産物として人間離れした身体能力を身に着けた私にとって数十メートル落ちたところで何の問題は無い。

 

私の体は特別な体だ、異常な身体能力、治癒力、どんなオラクル細胞にも適応する細胞、本来アラガミに喰われなくなる予定だったがそれは叶わなかったけど、実験によって変化した事は私は化け物を身に宿したということだ、いや私自身が化け物になったと言うべきか、今は制御出来ているが化け物は私の中に潜んでいる。

 

 

 

「さてさて、今回の任務は~♪」

 

 鼻歌交じりに人がいない町を歩く、手に持った端末にはある人からの任務が表示されている。

 

「今回の場所は極東か~、ここがユーラシア大陸のどこかだから結構足を用意しないとね」

 

 確か近くに軍事基地があったはずだからそこでヘリを貸してもらうとしよう。

 

「もしもし、この近くの軍事基地でヘリを貸してもらいたいんだけど何とかできる?」

 

 あの人直轄の組織に電話をかける、大体の事はここに電話をすれば解決できる。

 

「うん、分かったそれを回収すれば手を回してくれるのね、りょーかい、それじゃあよろしくね」

 

 電話を切る、どうにもこの辺で行方不明になった神器使いがいるらしいその神器使いの回収または死んでいた場合神器の回収をしろとの命令だ。

 

「ちゃちゃとやりますか」

 

 黒いフードを頭にかぶり見渡しがいいビルの頂上に駆け上る、どこもかしこも人類の英知の残骸ばかりだ。

 

「うーんどこかなー、いた!!」

 

 数キロ先に倒れている人がいた、こんなところに一般人が来るはずがないから神器使いだろう。

 

 さすがに高すぎたから飛び降りはしなかったが地面におり目標に駆ける。

 

「最悪の結果になっていませんよーに」

 

 最悪の結果とは死んでいることでは無くて微妙な場合の事だ。

 

 そしてその願いは届かず最悪の場合だった。

 

「助けに来てくれたのか?」

「……」

 

 私が倒れている神器使いの下に駆けよると相手も私に気付いたようで希望に満ちた顔をしていたが今から私はその希望を喰らうこととなる。

 

「ごめんね君を助けることはできないよ」

「え、なんで……」

 

 彼の目が絶望に染まる。

 

 私は裏で動く神器使いだ、普通の神器使いが行わない秘密裏の任務を受け持っている、具体的にはどんな神器に触れても捕食されない体での持ち主のいない神器の回収、それと彼みたいに半アラガミ化した人間の駆除だ。

 人間がアラガミになるなんてことは一般的に知られていないし知られるわけにはいかない、知られないために私はいる。

 

「目を瞑って、痛みは感じさせない」

「その黒のフード、お、お前は噂の死神!?」

 

 神器を仰向けになっている彼の首に向ける。

 

「い、嫌だ、死にたくない」

「ごめんね」

 

 逃げる彼の首を神器で跳ねる、その顔はまさに絶望した顔をしていた。

 

「フィシャス(救済を)」

 

 死体をどうすればきれいに処理できるか、埋める、焼く、溶かすなどいろいろあるが何も道具を使わず処理する方法は食べることだ。

 もちろん私自身は人を食べるなんて嫌だ、だけど体が肉を、人間を、アラガミを、全てを喰らえと訴えている、自分の体と気持ちが矛盾しているのだ。

 

 しかしこれも任務だ、あの人のあの計画が完遂されるまで私は何でもやると決めた、それが私の存在理由だから。

 

 私は体の化け物に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリに乗って数十時間やっと極東についた、そこには私を救ってくれた人が待っていた。

 

「久々だねクロウ」

「お久しぶりですシックザール支部長」

 

 




冒頭の実験の記憶は十年前の出来事です。


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