Fate/Diplomat (rainバレルーk )
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召喚




Fate/ZEROの良作を読んで思いついた・・・・・いや、思い立った!



 

 

 

―――――『聖杯』―――――

 

それはあらゆる願いを叶えるとされる『万能の願望機』。

その所有をめぐり一定のルールを設けて争いを繰り広げる争い、それが『聖杯戦争』である。

 

 

「『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公』」

 

『遠坂』・『間桐』・『アインツベルン』の「始まりの御三家」によって開始された、とある『魔術儀式』を基にした戦争。

 

 

「『告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に』」

 

霊地の管理者だった遠坂が『土地』を、呪術に優れていた間桐が『サーヴァントの技術』を、そして錬金術と第三魔法を司るアインツベルンが『聖杯』を提供し、行われてきた。

 

 

「『聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ』」

 

戦争にはいくつかの基本ルールがあり、以下のようになっている。

 

1・聖杯によって選ばれた『魔術師(マスター)』とそのサーヴァントが生き残りを懸けて戦う。

 

2・参加条件は聖杯に選ばれ令呪を宿し、サーヴァントを召喚すること。

 

3・マスターは令呪を使うことで、サーヴァントに対して3回までどんな内容でも命令を強制できる。

 

4・サーヴァントとして『英霊』が召喚され、その能力に応じてクラスが割り当てられる。

 

5・クラスは『剣士(セイバー)』『弓兵(アーチャー)』『槍兵(ランサー)』『騎乗兵(ライダー)』『魔術師(キャスター)』『暗殺者(アサシン)』『狂戦士(バーサーカー)』の7騎。

 

6・クラスにはそれぞれ『対魔力』『騎乗』『単独行動』などといった固有スキルが存在する。

 

7・サーヴァントは必殺の武器である宝具を1つは所持している。

 

8・聖杯にて望みを叶える事が出来るのは、最後まで勝ち残った1組のみ。

 

 

「『誓いを此処に。我は常世全ての善と成る者、我は常世全ての悪を敷く者』・・・ガはッ!」

 

現在、『始まりの御三家』の一つである『間桐』家の屋敷の地下では聖杯戦争に参加する為の英霊召喚が行われており、そこには二つの人影があった。

 

一人は黒いパーカーを着た白髪で体調の男。もう一人は和服を着用し化け物染みた雰囲気を纏った老人。

白髪の男は魔法陣に手をかざしながら呪文のようなものを詠唱している。しかし、呪文の言葉を詠唱する度に白髪の男の体に激痛が走り、口から鼻から目からは血が滴り落ちる。

 

 

「『されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者』・・・・・グふッ・・・!」

 

そして、とうとう白髪の男『間桐雁夜』はコップ一杯の血を吐きその場に倒れた。魔法陣には彼の血がぶちまけられている。

 

 

「カッカッカ・・・どうした雁夜よ? もう終わりか?」

 

雁夜の後ろに鎮座している老人『間桐臓硯』が嫌な笑みをニタニタと浮かべる。

 

 

「な・・・なめる、なよ・・・! これぐらい・・・どうってこと、ない!」

 

雁夜には果たさなければならない誓いがあった。叶わなければならない願いがあった。

 

 

「助けるんだ・・・俺が・・・・・救うんだ・・・!」

 

守ると心に誓った大切な・・・たった一人の少女の為に・・・

 

その思いが、その覚悟が、今にもくたばりそうな彼を支えた。

血だまりに沈んだ頭を起こし、魔術に蝕まれた体を起こす。そして雁夜は今一度魔法陣に手をかざし、最後の呪文を詠唱する。

 

 

「『汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ』ッッ!」

 

詠唱し終えたと同時に雁夜はまた血を吹き出し、膝をつく。視界はぼやけ、呼吸は今にも止まりそうだ。だが、そんな彼の眼に魔法陣からの強い光が立ち上ってきた。その光は先程に雁夜が吐いた血のように『紅』かった。

魔法陣の光が収まるとそこには黒のシャツとズボンを穿き、真っ赤なジャケットを羽織った黒髪の東洋人の青年が立っていた。左腕には現代風の服に似合ってない銀色の手甲がはめられている。

雁夜と臓硯は想像していた姿とは程遠いことに目を丸くしている。すると、青年は辺りを一通り見まわすと口を開いた。

 

 

「・・・オイオイオイオイオイ・・・・・なんだこの状況はァ?」

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

 

『季節はずれの連休で『IS学園』から『ヴァレンティーノファミリー』のアジトに帰省した俺は皆と久々の再会を喜び、飲めや歌えの宴会をした後に自室に戻った俺はクラスメイト『簪』から貸してもらった『Fate/stay night』のDVDを『シェルス』と一緒に酒を飲みながら見ていたと思ったらサーヴァントとして召喚されていた』

 

な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか転移魔法だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 

そんな風に俺が焦っていると頭にドカンと情報が流れてきた。

『聖杯戦争』の基本情報だとか、俺が『バーサーカー』のクラスで召喚されたとか、俺の目の前で今にもクタばりそうな男が『マスター』ていう事がわかる内容だった。

だが、そんな事よりも気がかりな事がある!

 

 

「カッカッカ。期待はしておらんかったが中々に面白いモノを引き当てたのぉ雁夜」

 

俺に気味の悪い視線を送ってくる老人から漂ってくるこの『臭い』! この『臭い』を俺は知っている!

俺はドンからのお願いでIS学園に入学する前はマフィア家業に勤めていた。そこで俺は色々な人間、または化物に会ってきた。

その時に身に着けた特技の一つに『良いヤツと悪いヤツを『臭い』で選別』ってのがある。これで俺は沢山の良いヤツともっと沢山の悪いヤツに会ってきた。だからこそ分かる!

 

臭ぇッ! コイツは臭ぇ―――ッ! ゲロ以下の臭いがプンプンするゼェッ!!

 

俺は確かめる為に足元のマスター(仮)が吐いたであろう血をすくって飲み、マスター(仮)の記憶をたどった。俺の予想は1+1=2ぐらい簡単に的中した。

 

この老いぼれは『人間』じゃあねぇ! 『吐き気をもよおす『邪悪』だ!

 

吐き気をもよおす『邪悪』とはッ! なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ!! 自分の利益だけのために利用する事だ。父親が実の息子と義理の孫をテメェ―だけの都合でッ・・・! 許さねぇ!

 

ドドドドドドドドドドドドドドド・・・

 

俺は怒りでどうにかなりそうな思考を抑え、目の前のマスター(仮)に声をかける。

 

 

「問う・・・・・アンタが俺の『(マスター)』か?」

 

「そ・・・うだ・・・俺が・・・お前の・・・マスターだ・・・!」

 

よく生きている。体は老いぼれからの『刻印蟲』によってボロボロだろうに、息をするのも苦しかろうに、意識を保つのも難しかろうに・・・・・

 

 

「何故・・・俺をここに呼んだんだ?」

 

俺はなおもマスター(仮)に問う。

 

 

「俺が・・・俺が、勝ち残るん・・・だ・・・」

 

問いに答えるマスター(仮)の眼が虚ろで生気もなく、発する言葉も小さく弱弱しい。血から読み取った人格も矛盾があり、嫉妬に狂っていると言っていい。

それでも・・・・・!

 

 

「助け、るんだ・・・あの娘を・・・・・『桜』ちゃんを・・・助けるんだ・・・!」

 

たった一人の少女を助けるという『覚悟』は本物だ。

 

 

「いいだろう・・・いいだろう! アンタを・・・いや、貴様を『(マスター)』と認めよう。貴様と契約してやろう」

 

「ほん・・・とう・・・か?」

 

「ああ、本当だ、本当だとも・・・だがその前に・・・!」

 

俺はマスターの眼を覗いた後に老いぼれの化物に目線を移す。

 

 

「『命令(オーダー)』、命令を寄越せ」

 

「・・・え・・・?」

 

「私は殺せる。微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺できる。何故なら俺は化物だからだ。では貴様はどうだよマスター? 剣は俺が鞘から抜こう。剣を構えよう。肉を引き裂き、骨を断とう。だが殺すのはお前の殺意だ。さぁどうする? 命令をマスター・・・!」

 

マスターは俺の言う事と俺のやろうとしている事に戸惑う。

 

 

「なに? おぬし、サーヴァントの分際でワシを殺すと? カッカッカ、舐められたものだ・・・貴様のようなどこの馬の骨とも知れんヤツにワシが殺せると思うなよッ!」

 

「さぁ・・・マスター決めろ・・・!」

 

殺気を向けてくる糞フリークスなどお構いなく、俺はマスターに、間桐雁夜に迫る。

 

 

「・・・本当に」

 

「おん?」

 

「本当に・・・本当に殺せるんだな・・・あの化物を・・・?!」

 

「もちろんだ。何を隠そう! 俺は『化物退治』の達人ッ!」

 

「なら・・・『令呪』をもって命じる! 宝具を用いて、あの化物を・・・間桐臓硯を殺せ!!!」

 

漸く・・・漸くか・・・!

 

 

「了解。認識した『我が主(マイマスター)』」

 

俺はほくそ笑むようにいつの間にか装着されている左腕の『臣下』に命令する。

 

 

「聞いてたよな『朧』? 行くぞ!」

 

『御意に我が王よ!』

 

「『武装錬金』ッ!」

 

叫びと共に朧が光り、俺の体に赤い鎧が装着されていく。

 

 

「WRYYYYYYYYYッ!」

 

ヤギの印が入った鎧を纏った俺は太刀を引き抜き、老いぼれフリークスに『瞬時加速』で迫ると斜め一線に太刀を振るう。だが!

 

 

「なッ!?」

 

斬った手ごたえが感じず、オマケに斬った傷はどこからか現れた蟲が集まり、傷を修復しやがった。

 

 

「効かぬなぁ、貴様程度では殺せぬよ!」

 

この糞野郎はケラケラと馬鹿にするように笑った。しかも斬れば斬る程に蟲がわき出てきて、俺に食らいつこうとしてくる。これにスンゲぇぇえムカついたので・・・・・

 

 

「なら死ぬまで殺すだけだ」

 

保有スキル使いまーす。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

パキパキと氷が割れるような音と共にバーサーカーがジジイを斬ったと思ったら・・・

 

 

「うぎゃぁあぁぁあぁぁあああッッ!!?」

 

ジジイの・・・いや、間桐臓硯の断末魔が上がった。

 

 

「き、貴様! い、一体なにをした?!」

 

臓硯は狼に睨まれた手負いの兎のように怯え、驚愕の目でバーサーカーを見る。

 

 

「なに・・・簡単な事だ。テメェの細胞組織の水分を急速冷凍したんだよ」

 

「れ、冷凍だとぉ・・・!?」

 

バーサーカーは刀を肩にかけ、意気揚々とシタリ顔をしている。

 

 

「どうやらテメェは体を構成している糞蟲がつぶれるとそのつぶれた糞蟲を代えることで生きながらえてきたようだな? でも、残念だな冷凍することで構成している糞蟲を強制的に『休眠』させれば、テメェは動けなくなるし、再生もできない」

 

「くぅッ! 舐めおって!」

 

バーサーカーの話に臓硯は悔しがっていたが突然笑い出した。

 

 

「カッカッカ! 残念だったな!」

 

「おん?」

 

「貴様のマスター、雁夜にはワシの体の一部である刻印蟲が巣くっておる!」

 

し、しまった!

 

 

「・・・なるほど。これ以上俺がテメェに危害を加えれば、刻印蟲を暴走させてマスターの命を奪うか」

 

「そうじゃ、物分かりがよくて助かるわ」

 

やはり・・・ダメなのか・・・500年も生きた間桐家の闇を葬る事はできないのか・・・

 

そんな諦めムードが漂う俺の耳に・・・

 

 

「わかったのなら、早く―――「やってみろよ」―――なにッ!!?」

 

「えッ!?」

 

バーサーカーの声が聞こえた。

 

 

「き、貴様、今なんと?!」

 

「聞こえなかったのかフーリークス? やってみろっていったんだよ」

 

「バーサーカー・・・」

 

「俺はよフリークス・・・あそこでクタばりかけてるマスターに『令呪』をもってテメェをぶちのめせと命ぜられたんだ。そのマスターが『覚悟』をしてない訳ないだろう? それにだ、もしやったとしても・・・朧?」

 

『はい、王よ。『輻射波動機構』のエネルギーは充填できております』

 

「ありがとよ朧。やったらすぐに輻射波動で瞬時に焼き尽くす」

 

・・・そうだ、そうだ、そうだとも。何を弱気になっている間桐雁夜! バーサーカーは殺せると言ったんだ。あの化物を殺せると言ったんだ! サーヴァントの言葉を信じないで何がマスターだ!

 

 

「バーサーカー!」

 

「おん?」

 

「俺に構うな! 命令を果たせ!」

 

「・・・って言ってるぜ。どうするよ化物?」

 

その時の臓硯の顔は絵具の青よりも青ざめていた。

 

 

「た・・・頼む!」

 

「次にテメェは「お前に望む物をやる、だから助けてくれ!」と言う」

 

「お前に望む物をやる、だから助けてくれ!―――ッハ!?」

 

こ・・・コノヤロウ、怖気づきやがった! 臓硯は恥も矜持もなく命乞いをしやっがった!

・・・俺は何を恐れていたんだろう・・・こんな、こんな野郎の為に・・・桜ちゃんは・・・!

 

 

「わ、ワシはまだ死ぬ訳にはいかんのじゃ! 『魔法』を得る為に! 『不老不死』に!」

 

「・・・ヤレヤレ・・・テメェ、史上最低最悪の糞野郎だな・・・・・」

 

・・・生かしちゃおけない・・・

 

 

「やってくれ・・・バーサーカー・・・」

 

俺の声を聞き届けたバーサーカーは左手を大きなカギ爪に形を変え、呟いた。

 

 

「『光差す世界。汝ら暗黒住まう場所なし』」

 

「あ・・・ああ・・・あ゛あ”あ”あ”あ”! 助け、助けて!」

 

臓硯は逃げようとするが足はすでにバーサーカーに凍らされ逃げれない。蟲をバーサーカーにけしかけるが、バーサーカーはお構いなしに臓硯の頭を右手で固定した。

 

 

「『渇かず、餓えず。無に還れ』」

 

「ワシは! ワシはぁあぁぁあああッッ!!!」

 

バーサーカーは悲痛な叫びをあげる臓硯の胸にカギ爪を押し当て、カチリとスイッチを押す。

 

 

「地獄でやってろ」

 

バヂイイィィィィィイッ!

 

弾ける音と共に臓硯は断末魔も上げる事なく、四散爆発木端微塵。体を構成していた蟲は肉片も残らず消し炭と化した。

命令を遂行したバーサーカーは臓硯の消滅を確認すると俺の方を振り向いた。

 

 

「な? 倒せたろ? カカカ♪」

 

子供のように悪戯っぽく笑うバーサーカーの顔を見て、俺は意識を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 

 



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召喚後


Zero・・・やっぱり面白い!



 

 

 

・・・俺は何故か空に浮いていた。奇妙な感覚を不思議に思いながら俺はふと足元の地上を覗き込んだ。

 

 

『カははは♪ カハハハハハ♪』

 

・・・燃えている。森が、街が、人が、人ならざる者が燃えている。

 

 

『どうした! どうした?! 来いよ、来なよ!』

 

その渦中に一人・・・赤い武者鎧を着こんだ男が立っていた。

男は笑っていた。三日月に歪んだ口が耳まで裂けるように。口元からは牙が見え、眼は赤く染まり、耳は鋭く尖っている。

 

 

『『『Vああaaaaaッ!』』』

 

その男に何十、何百、何千もの人の形をした化物が襲い掛かる。そいつらは手に様々を武器持っていた。剣、槍、斧、弓矢、棍棒、銃、爆弾。それらの武器を使い、化物達は男に襲い掛かっていく。

 

 

『カカカカカ♪・・・そう来なくっちゃなあぁッフリークス共! 『武装錬金』ッ!!!』

 

男は朗らかに楽しそうに笑うと何処からともなく取り出した『山吹色』に光る『銀の槍』を構え、化物達の軍勢へと飛び込んでいった・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『あろー、あろー。起きるであろー。朝であろー』

 

「・・・あ・・・・・え・・・? 痛ッ!?」

 

枕元の珍妙奇天烈な二足歩行ヤギの目覚まし時計の音と顔面の鋭く鈍い痛みで雁夜は目を覚ました。ベッドの辺りには見慣れない医療器具がわんさか置いてある。

 

 

「ここは・・・・・俺の部屋? 確か・・・昨日、俺は・・・・・桜ちゃん?!」

 

雁夜は昨日の出来事を思い出し、腕に刺されている点滴を引き抜くとベッドから飛び出た。

 

 

「桜ちゃん・・・桜ちゃん・・・!」

 

雁夜はふらつきながらももたつきながらも一歩一歩、桜がいるであろう屋敷のリビングへと向かっていく。

・・・・・だがこの時、彼は気づいていなかった。フローリングになっている筈の廊下が『畳』になっている事に・・・

 

そんな大きな変化も気づかない程に雁夜は焦っていた。

昨日の出来事はすべて自分が思い描いた妄想なのではないか? そうだとすればまだあの娘は蟲共の餌食に、あの間桐家の闇の餌食になっているのではないか?

 

 

「嫌だ・・・そんなの・・・そんなのまっぴらごめんだ!」

 

色々な思いが、感情が雁夜から溢れた。まるで関を切ったダムのように・・・

 

 

「さ、桜ちゃんッ!―――ッ!?」

 

漸くたどり着いたリビングの扉を開けて雁夜は息を飲んだ。彼がそこで見たものとは・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

時間はマスターが起きる『3日前』のあの日、あの時間に遡る。

 

 

「お、おいマスター!?」

 

俺は糞蟲フリークスの老いぼれを輻射波動で塵も残さず爆散させて、マスターに向けてサムズアップしたらマスターがぶっ倒れた。

 

 

『王よ大丈夫です。生体反応は弱いですが正常です』

 

心配してマスターに近寄った俺に朧が欲しい答えをくれる。

 

 

『しかし・・・』

 

「どうかしたのか?」

 

『いえ・・・このマスターなる人物をスキャンしたところ、人体内部はズタボロで生命維持機能が働いていることに理解できません』

 

マジかよ・・・生きているのが不思議なレベルて・・・・・まがいなりにも魔術師なんだろうが、一体どんな精神を持っているというんだ。

 

 

「ま、とりあえず・・・とりあえずだ。この死にかけマスターの中に巣くっていやがる『刻印蟲』を取り除いてやらないと・・・」

 

俺は名前も知らない・・・・・いや、知ってる。血を飲んだ時に記憶を読み取ったからマスターの名前以外も知ってる。

俺はマスター(間桐 雁夜)の人体に巣くっていやがる蟲野郎を駆除すべく、体に触ろうとした・・・瞬間!

 

ガシィッ!

 

「おんッ!?」

 

俺の手をマスターが突然掴んだ!

 

 

「バ、バーサーカー・・・た、頼む・・・蟲蔵にいるさく―――「ビックリするだろうが、ボケッッ!」バキィ!―――げボラぁッ!?」

 

俺はあまりのノーモーション動作に驚いてマスターの顔面にグーパンを叩きこんだ。

 

 

『・・・王よ・・・この御人は王に何かを伝えたかったのでは? あと、先ほどのパンチで生命力が著しく低下しました』

 

「し、しまっったぁぁあ! 突然だったから条件反射で殴っちゃた! 生きてる? 生きてるよね?! マスター返事しろぉぉお!」

 

ガクガクとマスターの肩を掴んで前後左右に揺する。しかし、マスターは白目を開けて泡をくうばかりで反応がない。

 

 

『返事がない。ただの屍のようだ』

 

「朧ォオ! 今言って良い事と悪い事があるぞ!」

 

『すいません。噛みました』

 

「いいや! ワザとだ!」

 

『かみまみた』

 

「ワザとじゃない!?」

 

『そんな事よりどうにかしないと』

 

「そりゃごもっとも!」

 

朧との無駄話はさておき・・・俺の保有スキル『吸血鬼』で体内に潜んでいた蟲を取り出し、手当をした。取り出された蟲はウネウネと暴れて襲い掛かって来たのでナイフで串刺しにした。

 

 

「・・・なぁ朧?」

 

『なんでしょう王よ?』

 

「コイツって食ったら美味いんだろうか?」

 

『・・・・・それより、このマスターなる御人が伝えたかった事とは何でしょう?』

 

朧のスルースキルが上がっている・・・だと?!

・・・ま、そんな事は置いといて。

 

 

「『蟲蔵』とか言ってたな・・・また、記憶を読み取ってみるか」

 

『お願いします』

 

俺はまたマスター、間桐 雁夜の記憶を今度は深く読み込んでみた。

 

 

「ッ!?」

 

『どうしましたか王よ?』

 

「オイオイオイオイオイ・・・!」

 

その記憶から読み取った映像に俺は激しい嫌悪感と行き場のない怒りを覚えた。

俺達は急いで今いる地下室よりも下の階層にある蔵へと急いで駆け下り、蔵の扉を蹴破った。扉の先にあったのは・・・・・

 

 

『なるほど、これが『吐き気をもよおす気持ち悪さ』ですね。記憶しました』

 

「言ってる場合か・・・ッ!」

 

モザイクをかけないとヤバい姿形をした蟲の池が眼下に溜まっていたのだ。しかも、その糞蟲共の掃溜め池から小さな子供の手が見え隠れする。

残念だ・・・残念な事にその手が・・・

 

 

『あの手の持ち主がマスターなる御人が言っていた『桜』でしょう』

 

「糞が・・・・・こんな事ならあの糞蟲老いぼれをもうちょっと丁寧に丁寧にゆっくりとグチャグチャにしてりゃあよかった!」

 

『『『!』』』

 

俺は腰に差していた刀を抜いて掃溜め池に近づく。蟲共が俺達に気づくと餌食にしている獲物を奪われまいと一斉に襲い掛かってきた。

 

 

「この・・・便所の鼠の糞にも劣る外道どもが・・・気持ちの悪い音をギチギチ鳴らしやがって・・・・・ッ!」

 

『『『KIsyaAAA―――ッ!』』』

 

コイツらは生かしちゃおけねぇ・・・確実に確実に滅してやる。

 

 

「『拘束術式(クロムウェル)』第参号、第弐号・・・解放・・・!」

 

『『『!?』』』

 

俺の異様な雰囲気を感じ取ったのか、糞蟲共は反転逃げようとする。

 

 

「もう遅い・・・一匹たりとも脱出不可能よ!」

 

俺の体から黒くも赤く形容し難い獣であって獣でない『何か』が溢れ出る。『何か』は逃げ惑う蟲共に齧り付き、砕き、引きちぎり、吐き捨て、また喰らう。そうして全ての蟲共を貪り喰らった『何か』達は大きくゲップをすると大人しく俺の体内へと戻って行く。

水たまりのような蟲共の体液あとに残されたのは、生まれたままの姿でうずくまる幼い少女であった。

俺は朧に体のスキャンをやってもらう為に少女に近づき、抱き起した。

その時だ。

 

 

「・・・・・おん?」

 

抱き起した彼女の顔を見て、俺は何だか一つの『違和感』を感じた。

 

 

『どうかされましたか王よ?』

 

「いや・・・・・なんかこの子・・・どっかで見たことある・・・どこだっけ・・・?」

 

そうなのだ。この蟲共の餌食にされていた子と俺は何処かで『会った』事があるのだ。この『紫色の髪』で将来有望な顔立ちでマスターが大切に・・・・・ん・・・?

 

 

「『間桐 雁夜(マスター)』が大切に・・・・・え・・・?」

 

え、ちょっと待って・・・・・確かマスターの名字って『間桐』・・・だよ、な・・・

 

 

『・・・王?』

 

つまり・・・あの糞老いぼれの『義理の孫』で・・・マスターの・・・!

 

 

「・・・オイオイオイオイオイ・・・マジか・・・マジなのか・・・!」

 

俺の頭の中で色々な『(キーワード)』と『(キーワード)』が結んである『答』にたどり着いた。

 

 

「この子は・・・『間桐 桜』なのか・・・」

 

そう。この子の名は『間桐 桜』。俺が召喚される前に見ていたアニメ『Fate/Stay night』のヒロインの一人である。

 

 

「どうして・・・どうして気がつかなかった?!」

 

『王!?』

 

『聖杯戦争』とか、クラス『バーサーカー』とか、気づくべき『キーワード』がわんさかあったじゃん! なんで気がつかなかったんだよ俺! うっかりどころじゃ済まないよ! いくら召喚時にあんな気持ちの悪い糞蟲に対して、殺意を抱いていたとはいえ! こんな・・・こんな事あるのかよ!?

 

いや、それよりも! それよりもだ!

 

 

「ここアニメの世界かよ?!」

 

俺は空いた手で床を殴り、幾つもの亀裂をつくる。

 

 

『王よ! なにがなんだかわかりませぬが、落ち着きくだされ!』

 

「―――ッハ!」

 

そうだ・・・そうだよな。イカンいかん、俺とした事が・・・素数を数えて落ち着くんだ。

 

 

「2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37―――――」

 

そんな片腕で全裸の幼女を抱きながら素数を数えるという変態じみた行動をしていると・・・

 

 

「ん・・・んあ・・・・・?」

 

「・・・おん?」

 

幼女が目を覚まし、ハイライトのない眼で俺の姿を確認した。

 

 

「あなた・・・・・だぁれ・・・?」

 

そうだよね! 起きて目の前に赤い鎧を着た人相の凶悪な男がいたらそりゃ怖いよね! 俺だって怖いもん!

 

 

「・・・・・・・・」

 

あぁ・・・やめて、そんなハイライト零の眼で俺を見ないで! 警察に捕まっちゃう、クニハル・ミソジ・オギノ警部に捕まっちゃう!

 

そんな見つめ合う無言の時間が10秒ぐらい続いた。その10秒が俺には1時間に感じた。取りあえず黙っているのも何なので俺から喋りかけてみることにした。

 

 

「えと・・・・・桜・・・ちゃん?」

 

「・・・・・はい・・・」

 

「えと・・・あの・・・寒いから・・・服着ない?」

 

これが俺と俺が知っているFateキャラ(幼女)との初会合であった。

 

 

『王よ・・・ナンセンスです』

 

・・・・・うるせぇよ朧。

 

 

 

 

 

 

 

それから俺は桜・・・ちゃんに着ていた服を着せ、ぶっ倒れているマスターの元へと連れて行った。桜ちゃんは倒れたマスターを見ると「あなたが・・・雁夜おじさんを・・・やったの・・・?」とハイライトのない眼で睨んできた。どことなく『スゴ味』があった。やだ、幼女コワい。コワいからおじさんをベットに寝かしとく。

 

俺は雁夜おじさんが無事な事と自分がおじさんに召喚されたサーヴァントだという事を子供でもわかるように説明した。

 

 

「そう・・・」

 

と・・・彼女はまるで無関心に答えた。まるで肉のついたロボットのような反応だった。当然かもしれない。

これはマスターの記憶から読み取ったのだが、桜ちゃんは『一年』もの間、あの吐き気がする程に気持ちの悪い蟲蔵に放り込まれていたそうだ。その影響で感情を心を閉ざしている。だが、改善方法はある。

 

俺は少し変わった吸血鬼の技能を持っている。その技能は『記憶の閲覧と改編』というモノだ。上手く説明できないがいわゆる記憶を見たり、記憶が操作ができる。ただし、これは対象者の頭の中に指を突っ込んで行う為に対象者の負担が大きく、幼女形態の桜ちゃんに行うのは危険だ。・・・『例外』はあるが・・・

 

それに悪い知らせがある・・・・・あの糞蟲野郎が生きていた。

どうやら俺が輻射波動で蒸発させたのは所謂『入れ物』というヤツで『中身』である本体はあろうことか桜ちゃんの『心臓』と一体化しているというのが朧の人体スキャンでわかった。・・・『解決方法』はあるが・・・

 

 

 

 

 

『さっきから「『例外』とか『解決方法』がある」とか言ってんならさっさとやれよ』と思ったそこの君ィ!!

確かにできるにはできる。だが、この『例外』や『解決方法』を行うには俺一人では到底不可能だ。

『聖杯を手に入れれば良い』という考えもあるだろう。でも聖杯戦争を勝ち残る保証はどこにもない。だからこそ、俺は一番確実な方法をとる事にした。

 

この世界に召喚された翌日。桜ちゃんとの交流もそこそこに俺はまた地下室に来ていた。まだ焦げ臭さが残る地下室に自らの血で召喚陣を描く。

なぜ地下室に来ているのかというと『召喚』を行う為だ。召喚と言ってもサーヴァントの召喚じゃあない。

昨日、桜ちゃんを救出した後、『一番確実な方法』を思いついた。ただし、この方法を行う為には俺の『愉快で痛快で頼もしい家族』と『我が愛する吸血姫』がいなくちゃダメだ。だから『召喚』する事にした。

ホントに召喚できるかどうかはわからない。朧の計算でも確率は未知数だ。

 

 

「『我は呼ぶ』」

 

それでもやる。というか必ず成功する。

 

 

「『我が心の拠所を。我が帰る場所を』」

 

何故、わかるって? 簡単な事だ。

 

 

「『我、『暁 アキト』の名の元に来たれ』!」

 

だって・・・・・狂おしい程信頼して愛しているから。

 

 

「『我が愛しくも気高い吸血姫(シェルス・ヴィクトリア)』! 『血は違えど我が一族(ヴァレンティーノファミリー)』!」

 

圧縮された空気の嵐と眩い程の光が地下室を包む。

 

 

「・・・カカ♪ カカカ♪」

 

そして、だんだんと召喚陣の中央に俺がよく知る気配が現れた。

 

 

「え、え!? 何この状況?!」

 

「首―――領ッ!! ご無事ですか―――ッ!!!」

 

「大丈夫であろ―――ッ!」

 

「なんだ敵襲か!?」

 

「なんやねん! この状況はぁ!!?」

 

・・・内心、召喚に成功してかなりホッとしている俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 



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別視点


どうやら俺は魅かれるようだ。一つの…いや、一人の『ロリ』を全力で救おうとする『紳士』に!



 

 

 

ここで一旦時を雁夜が目覚める前に遡る。

 

まだ武家屋敷に改造される前の洋館のお屋敷の広間に紫の髪と輝きを失った眼を持った人間の少女と黒い髪に紅い眼を輝かせる人外の男が向き合っていた。

 

 

「『アーカード』…私と契約しなさい…」

 

「・・・・・カカカ♪ もちろんだとも」

 

少女の言葉に男は耳まで裂ける笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『一年前』、私の姓は『遠坂』から『間桐』に変わった。

あの時の私はお父様・・・・・いえ・・・『遠坂 時臣』の言いつけにただ黙って従う事しかできませんでした。

 

できる限り覚えているあの温かな『家庭』から、間桐の人間になったあの日から私は・・・一つの『人形』になった。

 

暗い、光も通らない暗い部屋の中で・・・たくさんの蟲に体を貪られ作り変えられていく。

黒かった髪は紫に変わり、蟲に心を壊され狂わされていく。

 

どんなに叫んでも、どんなに泣いても誰も助けてはくれない。代わりに聞こえてくるのは最早人間とは思えぬ姿になっても生にしがみつく虫を操り人を弄ぶ老人『間桐 臓硯』の引きつるような静かな笑い声と蟲が体を這いずる音だけ。

 

私は一度だけ間桐の家から逃げ出した事があります。

誰もいない頃を見計らって私は家を飛び出しました。

 

そして、走って走って走って・・・私の生家、遠坂のお屋敷にたどりつきました。

・・・・・でも、そこに私の居場所はもうありませんでした。

 

お屋敷の庭先でお母様『遠坂 葵』と楽しそうに遊ぶお姉様『遠坂 凛』。それを離れた位置から紅茶をすすって見ているお父様『遠坂 時臣』。

 

どこから見ても誰もが見てもわかる幸せな家庭。そんな場所は体を貪られ、心を汚された私にとって、もう・・・帰れる場所ではなかったのです。その時に私の中の大事な何かが音をたてて壊れました。

 

それから心が壊れてしまった私は間桐の家の傀儡人形になりました。蟲に体を蝕まれても痛みも悲しみも怒りも何もかも感じなくなりました。

 

・・・そんな時です。『彼』が来たのは・・・・・

 

彼は私の為に悲しみ、怒り、臓硯に歯向かった。

 

 

『私の事なんか放っておいて欲しいのに、馬鹿な人』

『あの人に逆らって生きていられるわけがないのに』

 

最初は気に留めてもなかった。でも彼は私の為に自らを傷つけ、私を救おうとした。

 

 

『どうして私を助けようとするの?』

『身も心も汚された私を?』

『恋していた・・・いえ、今でも恋している『遠坂 葵』の為?』

『だとしたらなんて愚かな人・・・』

 

傷ついていく彼を見て段々と疑問を浮かび、侮蔑した。

それでも彼は血を吐き、体をボロボロにしながらも私を救おうとする。

 

 

『・・・もうやめてよ』

『私なんかの為に傷つかないでよ・・・!』

 

忘れかけていた感情が彼を見ていく内に甦って来る。

 

 

『やめてよ・・・やめてよ・・・!』

『もう私は人形でいいの・・・間桐の人形でいいの!』

 

私は張り裂けそうな声にならない声をあげる。何度も何度も。

 

 

『あなたは結局『あの人(遠坂葵)』の為に・・・自分の為にやっているんでしょう!』

『この偽善者!』

 

蔑むように彼を声にならない声で罵倒する。

 

 

『だからお願い・・・お願いだから・・・!』

 

彼は刻印蟲の影響でボロボロになったか細い腕で私の頭を撫でる。撫でられる度に私の壊れた心が少しずつ形を取り戻していく。

 

 

「大丈夫・・・大丈夫だよ・・・きっと大丈夫だからね『桜』ちゃん・・・」

 

そう・・・ボロボロになった顔で笑いかける彼に・・・表情を失った私は泣く事も怒る事も・・・ましてや笑って答える事も出来ない。ただ、輝きを失った眼で彼を見つめるだけ。

 

 

『私なんかの為に・・・これ以上傷つかないで・・・・・『雁夜』おじさん・・・ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「改めてご紹介させていただこう『お嬢さん(フロイライン)』」

 

私の目の前にいるまるで童話の中に出てくる『吸血鬼』のような風貌をした男の人が私の顔を覗く。

 

 

「私は『暁 アキト』。君のおじさん『間桐 雁夜』にバーサーカークラスとして召喚されたサーヴァントだ。よろしく『間桐 桜』ちゃん」

 

バーサーカー、アキトは丁寧にお辞儀をした。

 

雁夜おじさんに召喚され、蟲蔵の中にいた私を救い上げてくれたアキトは色々な『現状説明』というお話しをしてくれた。

あの臓硯の器を殺した事、私の心臓に臓硯の本体がとりついている事、そして・・・・・

 

 

「雁夜おじさんは・・・・・」

 

「あともって『一か月』の命だ」

 

そのお話に私はひどく気分が悪くなりました。

 

私の為に傷ついた雁夜おじさんがもうすぐ死んでしまう。そんな内容に私はいつからか忘れていた『怖い』という感情が内に甦り、体が震えた。

 

 

「でも・・・大丈夫・・・大丈夫だ・・・」

 

「え・・・?」

 

アキトはソファに座った私の前に跪くと震える私の手を優しく握る。彼の手の冷たい体温が伝わる。

 

 

「君の心臓の糞蟲も君を守る騎士の余命も・・・俺が・・・『私達』がどうにかする」

 

彼は眼を紅く光らせて、私に笑いかける。

 

 

「その為と言ってはなんだが・・・・・君の血をくれないか?」

 

「え?」

 

「俺はサーヴァントだが、どういう訳か『霊体化』ができない。それと良い事に『宝具』使用の為の魔力供給が俺の保有スキルの影響で極力少なくて済む。しかし、これから君達を救う為の宝具になった仲間を召喚するにはちと魔力が足りない」

 

アキトは握っていた手を私の首筋に当てる。そして、紅く光る眼で見つめる。

 

 

「・・・いいです。あげます・・・私の血を」

 

「・・・本当かい?」

 

アキトは再度確認するように私の顔を覗き込む。

 

 

「雁夜おじさんの・・・・・彼の為になるなら・・・私は・・・!」

 

そう強い口調で答える私にアキトは少し目を見開いた後に口を大きく歪めた。

 

 

ベネ(良い)・・・ディ・モールト・ベネ(すごく良い)! なら『契約』だ。契約をしよう」

 

アキトはケラケラと愉快に笑うと私の手を握りしめる。

 

 

「桜ちゃん、俺はアキトという名前の他に『アーカード』という名前で呼ばれている。これからはそう呼んでくれ」

 

「なら・・・アーカード・・・私と契約しなさい・・・・・彼を助ける為に」

 

「カカカ♪ もちろんだとも。必ず君達を助ける」

 

私はアキトに貸してもらったナイフで小さく指に傷をいれ、そこから流れる血を彼に与えた。

 

こうして私は『私の『雁夜さん』を助ける』為に愉快な吸血鬼と契約した。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 



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現状と自己紹介


外伝はパソコン入力でお送りします。

アキト「スマホはどうした?」

・・・最近、調子が悪いでござる。




 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!

 

「これは一体どういう事だ・・・バーサーカー・・・ッ?!」

 

ダイニングキッチンに改造されたリビングでは三日間の睡眠から起きた雁夜が正面に座る自身のサーヴァントであるバーサーカーに詰め寄っていた。

 

 

「まぁ、落ち着けってマスターさんよ? 起き抜けに茶なんてどうだい? 良い玉露が手に入ったんだよ。『シェルス』、湯は沸いてるよなぁ?」

 

「ええ、今淹れてるから待ってて頂戴」

 

飄々と雁夜の言葉を流すバーサーカーはキッチンで玉露を淹れるを『赤い髪の女性』に声をかける。

 

 

「飲んどる場合かぁあ!! どういう事か説明しろと言っているんだッ!」

 

「おん? 何が?」

 

「「何が?」じゃなくて! この部屋にいる『ソイツら』は誰なんだと聞いているんだ! 特に桜ちゃんと人形で遊んでいる『ヤギ』と『袋』は何だぁあ―――?!」

 

「あろ?」

 

雁夜は現在進行形で混乱していた。『サーヴァント召喚』から三日経っている事にも驚きなのに桜が心配でリビングに飛び込んでみたら・・・

 

 

「五月蠅い男であろー。なあ、『ロレンツォ』」

 

「そうですね。とても余命一か月の重病人には見えませんね『首領(ドン)』」

 

「二人ともそんな事言わないの。ごめんなさいねウチのドン達が。はい、お茶」

 

「おん。ありがとうよシェルス」

 

「あ・・・ありがとうございます・・・・・って違う!」

 

見知らぬ紅い髪の女性が黒髪を後ろで束ねた男、バーサーカーと一緒に食事の用意をし、二足歩行で黒いマントを纏ったヤギと和服に袴姿で頭に麻袋を被った謎すぎる人物が日本人形で桜と遊んでいたのだから。オマケに洋館だった間桐家の屋敷は武家屋敷に改造されていた。

最初は眼前の状況が頭が追いつかず、無意識に桜の安全を確保しようと桜とドン達の距離をとった。しかし桜が「ヤギさん達と遊びたい」と言ったので、雁夜は渋々諦めた。

 

 

「バ、バーサーカー・・・本当にコイツら誰なんだ・・・?」

 

「オイオイオイ、マスター。『コイツ』らってのは少しばっか・・・いや、かなり失礼だぜ?」

 

バーサーカーは湯飲みの茶を飲みながら怪訝な顔で答える。

 

 

「そ・・・それはすまん。だが、この女性はともかく、桜ちゃんと遊んでいるヤギと袋は怪しすぎるぞ? 特にヤギが」

 

確かに怪しい。麻服を被った人物はまだ『変人』として処理できるが、二足歩行のヤギはスルー出来ない。しかも流暢に日本語まで喋っているのだから。

 

 

「お主、カリヤと言ったか・・・さっきからゴチャゴチャと五月蠅いであろー」

 

「な、なんだと・・・!(このヤギ、俺の名前を?!)」

 

雁夜の態度が気に入らぬのか、ドンはロレンツォに桜を任せると異様な覇気を纏って椅子に座る雁夜の前に立った。

 

 

「見下ろすでなかろー!」

 

「えぇっ!?」

 

「ドン・・・そりゃ無理がある」

 

気を取り直して・・・ドンはバーサーカーの膝の上に立ち、自己紹介をする。

 

 

「ワシの名前は『ドン・ヴァレンティーノ』! 眉目秀麗、極悪非道のマフィアの『首領(ドン)』であろー!!」

 

「マ、マフィア?!」

 

ヤギの正体に驚く雁夜。そんな事お構いなしに自己紹介は続く。

 

 

「私は愛しの首領の右腕! 『ロレンツォ』です!」

 

「えぇ!? その恰好で幹部なの?!」

 

「失礼な!」

 

驚愕する雁夜に袋、ロレンツォはプンスコと怒る。

 

 

「まぁまぁ、怒らないの。初めまして、私は『シェルス・ヴィクトリア』よ。よろしくね、アキトのマスターさん」

 

「は、はい・・・よろしく」

 

雁夜はロレンツォをなだめた赤髪の女性、シェルスと握手を交わす。

 

 

「・・・ん?」

 

「どうかした?」

 

「い、いや・・・なんでもない・・・(なんかこの感じ・・・この人、人間か?)」

 

シェルスと握手を交わした雁夜は彼女のなんとも言えぬ『違和感』を不思議に思った。しかし、すぐに掻き消えた。

 

 

「さて・・・他にもあと『二人』いるんだが、先に自己紹介をさせてもらう」

 

「あ、あぁ・・・」

 

三人の自己紹介を終えるとバーサーカーは膝のドンを床に降ろして、椅子から立ち上がった。

 

 

「俺の名は『暁 アキト』。今回の聖杯戦争でクラス、バーサーカーとして召喚されたアンタのサーヴァントだ。改めてよろしくなマスター」

 

彼が握手を求めると雁夜はそれに応じて、掌を出した。

 

 

「俺はマスターの『間桐 雁夜』だ。あっちで袋・・・ロレンツォと遊んでいるのは『桜』ちゃんだ。・・・というかバーサーカー?」

 

「アキトで構わんよ」

 

「ならアキト? お前・・・何処の『英雄』なんだ?」

 

『『『・・・は?』』』

 

雁夜の質問にその場にいた全員が疑問符を浮かべた。だが、雁夜の言う事はさも当然の事だった。

 

 

「いや、聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは歴史上の英雄が召喚されるんだ。俺は一年間、文字通り死に物狂いで魔術師になり、知識もそれなりにあるつもりだ。・・・でも『アカツキ・アキト』なんて言う英雄は知らないぞ。それにヤギ・・・ドン達の本当の正体はなんだ?」

 

「え・・・あ、そうだな~・・・」

 

ヤバい! とバーサーカーことアキトは焦った。焦っていると隣にいたシェルスが耳打ちする。

 

 

「(どうするのよアキト? 正体を明かした以上、こっちには説明責任があるわよ。それにドンや私達はどう説明するの?」

 

「(そうだな・・・ここは『Stay night』の『アーチャー』みたく『未来の英雄』って事で通す・・・シェルスやドン達は・・・・・う~ん・・・」

 

ドン達をどう説明したものかとアキトは思考をめぐらすが良い説明が思いつかない。

そんな時だ。

 

 

「おい、カリヤよ」

 

「「ドン・・・?」」

 

ドンが悩むアキトの目の前に立ち、雁夜に問いかける。

 

 

「な、なんだよドン?」

 

「お主、アキトが何処の英雄だと言ったな? 別にそんな事どうでもよかろー」

 

「え・・・ッ?」

 

「ドン?」

 

ドンの言う事に雁夜やアキト達は怪訝な顔をする。

 

 

「お主はアキトを召喚した時に化物に襲われておったらしいの?」

 

「あ、うん・・・」

 

「そんなお主をアキトは事情も聞かず助けた。これを英雄、ヒーローと言わずにしてなんと言うであろー!!」ババーンッ!

 

「ッ!?」

 

ドンの言葉がドンの持つスキル『カリスマ』で強化されて、雁夜の耳に・・・いや、心に届く。

 

 

「(ホントは糞蟲老いぼれに直感的にムカついただけなんだけど・・・)」

 

「そうなのアキト?!」

 

「(ドンが良い事言ってくれたから・・・それで良いや)ウン、ソウダヨー」

 

アキトはこの波に乗る事にした。

 

 

「流石はアキトです! それでこそのヴァレンティーノファミリーの男子です!」

 

「アキト・・・カッコいいわ///」

 

ロレンツォは感激して袋の目の部分をハンカチで拭き、シェルスは頬を少し紅に染めて、称賛した。

 

 

「いやぁ、照れますんなぁ~///」

 

「・・・バーサーカー・・・!」

 

「おん? なんだよマス―――「バーサーカー! いや、アキト!」ガシィッ!―――な、なんだよマスター?!」

 

照れ顔のアキトの手を雁夜は重病人とは思えぬ力で掴んだ。

 

 

「ありがとう! お前のおかげで桜ちゃんはあの闇から救われた! なんて礼を言っていいのかわからない。ありがとう・・・ありがとう・・・!」

 

「マスター・・・」

 

雁夜は人目も気にせずに泣いた。まるで子供のように。

 

 

「おじさん・・・」

 

「ヒグッ・・・桜・・・ちゃん・・・?」

 

「どうして・・・泣いてるの?・・・アーカード、おじさんをいじめないで・・・!」

 

ロレンツォと遊んでいた桜が雁夜の涙を流す姿に気づき、雁夜がアキトにいじめられていると感じた桜は彼を睨んだ。

 

 

「いやいやいや、いじめてないよ!」

 

「アキトがカリヤを泣かせたであろー」

 

「アキトひど~い」

 

「コラそこ! 誤解を招く事いうんじゃあない!」

 

ニヤニヤとドンとロレンツォが言っていると雁夜がアキトを睨む桜を抱きしめた。

 

 

「おじさん・・・?」

 

「大丈夫・・・大丈夫だよ桜ちゃん・・・おじさんはね、嬉しいんだ。たまらなく・・・嬉しいんだよ桜ちゃん・・・君が・・・君がやっと・・・グスッ」

 

「カリヤ・・・」

 

「あぁぁろぉお! 感動であろーッ!」

 

「おじさん・・・よしよし・・・」

 

むせび泣く雁夜を桜はまるで子供をあやす母親のように頭を撫でる。近くにいたドン達も感化されて目元が光る。しかし・・・

 

 

「え、えと・・・マスター・・・その話なんだが・・・」

 

「あぁ・・・これで、これであとは・・・桜ちゃんをこんな目にあわせた『あの男』を・・・!」

 

申訳なさそうに頬を掻くアキトを気づかないのか、泣き顔から一転、フツフツと凶悪な顔になっていく雁夜。

その時である!

 

バンッッ!

 

『『『ッ!?』』』

 

リビングに通ずる扉が乱暴に開け放たれ・・・

 

 

「アキト大変や!『患者(実験素体)』が逃げた! ってここにおるやんか!!」

 

慌てた陽気な関西弁が部屋に響いた。

 

 

「な、なんてタイミング・・・」

 

「え・・・?!」

 

あんぐりと口を開けて呆ける雁夜は指をさして、関西弁の主であるラベンダー色の髪の人物の正体を聞いた。

 

 

「『ノア』お姉ちゃん!」

 

「さ、桜ちゃん?!」

 

雁夜の傍にいた桜は彼女を見ると撫でるのをやめ、ラベンダー髪色で白衣姿の少女に抱き着いた。

 

 

「お~桜、アンタは大人しゅうてエエ子やな~」

 

「えへへ・・・///」

 

「え・・・え・・・?」

 

白衣の少女も桜を抱きしめる。

雁夜は目の前で起きている状況についていけないのか、目をパチクリさせている。そんな心情をアキトは悟ったのか、事情を説明する。

 

 

「あの桜ちゃんが懐いている白衣の子は『ノア』。ヴァレンティーノファミリーが誇る最高の天才科学者兼闇医者だ」

 

「あんな小さな子が・・・彼女も魔術の被害に―――「因みに髪は地毛であの色だからな」―――・・・そうなのか・・・え、そうなの?!」

 

間桐の魔術の影響で髪が紫になった桜とは違い、生まれついての髪の毛が紫のノアに雁夜は内心ビックリしていた。

 

 

「あの娘には感謝してくれよ? ノアの腕のおかげでマスターの体の治療と桜ちゃんの手術が出来るんだからな」

 

「そうなのか。・・・・・・・・ん?」

 

「あ・・・」

 

マズイッ! とアキトは口を閉じるがすでに時遅し。雁夜の疑惑の眼がギギギと彼に移って行く。

 

 

「おい・・・アキト・・・『手術』って・・・なんだ?」

 

「・・・ん? 俺、そんな事言ったっけ?」

 

「・・・バーサーカー・・・一体何を隠している?!」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・と雁夜からの『スゴ味』がアキトを包み、詰め寄る。

 

 

「おい」

 

「え?」

 

しかし、このアキトのピンチを知ってか知らずか。ノアが雁夜に声をかける。すると鬼の形相をしたノアが雁夜に・・・

 

 

「このド阿呆ッ!!」ゴチンッ

「あだっ!?」

 

フルスイングでアッパーカットをかました。

最初、雁夜はなにをされたかわからなかったが顎を打ち抜かれた為に脳がゆれ、そのまま意識を消失した。

 

 

「おじさん!」

 

桜が心配そうに駆け寄り、体を揺らすが応答がない。

 

 

「大丈夫やで桜。雁夜おじさんは気絶しただけやから」

 

「・・・ほんとに?」

 

「ホンマや。ちゃんとウチが責任もって雁夜おじさんを元気にさせるけん、心配すんなや桜」

 

「うん・・・わかった・・・」

 

ノアは心配する桜の頭を撫でると指をパッチンと鳴らした。すると扉からドカドカとUMA、チュパカブラがナース服を着た生物『カイゴハザード』が入って来て、雁夜を担架に乗せてどこかへと運んで行った。

 

 

「すまん、助かったよノア」

 

「この阿保アキト! 勝手に患者を起こすなや! まだ治療中なんやで!」

 

「いや、あれは勝手に―――「問答無用や!」―――えぇッ!?」

 

ノアはアキトに対して烈火の如く怒り、頭を叩く。

 

 

「エエか! まだあの患者は余命が一か月から三か月に延びただけや! あんまり動かしたら死んでしまうで!」

 

「えぇッ!? だったら聖杯戦争はどうするんだ?!」

 

「それまでには必ずエエようにしといちゃるわ!」

 

「あぁ、なら良かった。ところでノア・・・『心臓』はどれくらいできた?」

 

ホッとしたアキトの顔は一転、真剣な顔へと変わった。

 

 

「あぁアレか。アレなら心臓の細胞組織片がアキトの『血』で活性化されて、7割位に形づくられたで」

 

「そっか」

 

「「そっか」やあらへん。その『心臓』を完璧な形にするのにサーヴァントの『血』が必要なんや。だからアキト・・・必ず聖杯戦争で英霊の『血』をとってくるんやで」

 

「カカカ♪ 任せとけ、何を隠そう俺は血液採取の達人!!」

 

「なら頼んだで」とノアはそのままカイゴハザード達と共に行ってしまった。

 

 

「アキト」

 

「おん?」

 

「彼に話すの? 『計画』のこと?」

 

シェルスが心配そうにアキトに尋ねる。するとアキトはあっけらかんと笑って答えた。

 

 

「大丈夫だ。あのマスターならわかってくれるさ」

 

「なにを根拠に?」

 

「根拠? そうだな、それを言われると苦しいが・・・しいて言うなら、あの『殺人貴』に近しい臭いがするからかな? カカカ♪」

 

そう笑って答えるアキトは実に嬉しそうで楽しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

後日、その『計画』とやらをヴァレンティーノファミリー並びに間桐家家族会議で話したところ一悶着あったのは別の話・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 



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開戦・上


やっとこさ・・・やっとこさ・・・来れた。

アキト「・・・頭、大丈夫か?」

・・・・・バグりそう・・・



 

 

カァーン、カァーンと音が鳴る。

雲一つない晴れた夜空に鉄と鉄が、鋼と鋼が、力と技が、技と力がぶつかり合う心地の良い音が小刻みにされど大きく倉庫街に響く。

何度か刃を重ねると二つの人影は距離をとる。

 

 

「流石だな『セイバー』。最優のサーヴァントの名に違わぬ見事な力だ」

 

先に口を開いたのは黒髪で泣き黒子がある男。その両手には長さの異なる名槍が握られている。

 

 

「貴殿の槍捌きこそ称賛に値する。貴方のような騎士との勝負に名乗りすら許されないことが悔やまれる」

 

男の言葉に答えるのは金髪で可憐な雰囲気を纏う少女。手には一本の透明な名剣が握られている。その後ろには白髪の女性がセイバーを心配そうに見ている。

 

 

「それは光栄だなセイバー」

 

二人はお互いの力と技を称賛し合い、楽しそうに笑うとまた距離を詰めて互いの刃で打合う。まさに一進一退、互角である。

 

 

 

「おぉ~スゲぇ・・・生の青セイバーだ~」

 

「向こうの男は・・・『ランサー』? それに青セイバーの後ろにいるのはセイバーのマスターかしら? どことなく誰かに似ている・・・?」

 

「・・・なにやってんの?」

 

そんな二人の戦いを倉庫街の後方から眺める人影が3つ。その内の二人は双眼鏡を覗きながら感嘆の声と推測の声を出していた。

 

 

「いや見てみろよマスター。スゲェぞ、マジで」

 

「お、おう」

 

双眼鏡を覗いていたバーサーカー『暁 アキト』は自身のマスターである『間桐 雁夜』に双眼鏡を渡す。

 

 

「スゴい・・・・・あれがサーヴァント同士の戦いか・・・」

 

「ホント、化物染みてる。あれで様子見たぁ・・・怖いねぇ。カカカ♪」

 

「!。あれで様子見の戦いなのか・・・」

 

サーヴァント同士の戦いに圧倒される雁夜の横でアキトはケラケラと笑っていた。

 

 

「セイバーの方はともかく・・・ランサーっぽいヤツの方の正体はわかるかい、『シェルス』?」

 

ひとしきり笑顔を浮かべたアキトは隣で双眼鏡を覗く赤髪の同族『シェルス・ヴィクトリア』に質問する。

 

 

「ええ、黒い髪に泣き黒子・・・それにイケメン・・・ケルトの英雄ね」

 

「この距離でよくわかるなシェルスさん・・・」

 

彼女の返答に雁夜は感心を示す。が、アキトは何故か眉間に皺をよせていた。

 

 

「う~ん・・・」

 

「どうしたのアキト?」

 

「いやな・・・どうも引っかかってよ」

 

「引っかかるって何が?」

 

「マスター、『開戦』の日ってのは今日なんだよな?」

 

「あぁ・・・そうだけど」

 

「そっか・・・」

 

アキトには気がかりな事があった。

 

 

「(今日が開戦なのだとすれば、どうしてその数日前に『アーチャー』によって『アサシン』が殺されているんだ? 勝利を焦ったアサシンのマスターがアーチャーに仕掛けて、逆にやられた。そう考えるのが一般的だ。でも・・・)」

 

「バーサーカー?」

 

「いんや、やっぱなんでもねぇわ」

 

「・・・なんかそう言われると気になるな・・・」

 

「・・・カカカ♪ 気にすんな!」

 

雁夜に怪訝な目で見られたアキトは取りあえず笑って誤魔化した。二人がそんなやり取りをしていると双眼鏡を覗いていたシェルスが口を開いた。

 

 

「それよりアキト・・・そろそろ?」

 

「そうさなぁ、そろそろ行きますか・・・『朧』?」

 

『御意に我が王よ』

 

アキトが左腕の『臣下』に命じるとその体を赤いプレートアーマーと黒いタイツが覆う。

 

 

「あら、鎧のデザイン変えたのね?」

 

「まぁね、ノアに頼んで槍ニキっぽくしてもらったぜ。カッピョ良いだろう?」

 

チャキーン☆とポーズをとるアキト。

 

 

「・・・それで私はどうすればいいの?」

 

「Oh! 見事なスルースキル! そんなところも素敵!」

 

「・・・照れるわ///」

 

「え~・・・」

 

二人の変なコントが行われた後、アキトがポケットから地図を出して広げる。

 

 

「俺達がいるのがここ、青セイバー達がいるのがここだ。俺がご挨拶に行ってる間にシェルスはマスターの護衛を頼む」

 

「え~」

 

「ブーブー言わない。マスターは万全じゃないし、初恋こじらせてるんだからしょうがないの」

 

「「初恋こじらせている」のは余計だよな!?」

 

「そうね・・・ならしょうがないわね」

 

「だろ・・・」

 

「やめてくれぇ! そんな優しい目で見ないで二人とも!!」

 

優しい目で自分を見る二人に雁夜は体調が悪化しそうな程のツッコミをいれる。

 

 

「よぅし、それじゃあ行ってくるぜ! 突撃ラブハート!」

 

「頑張ってアキト!」

 

「・・・大丈夫かなぁ・・・」

 

心配する雁夜をよそにアキトは疾風の如く走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

アキトが戦場に突撃して行った時、セイバーとランサーの戦いに変化が起きていた。

 

 

『じゃれあいはそこまでだランサー』

 

どこからか如何にも偉そうな声が聞こえて来る。どうやらランサーのマスターのようだ。

 

 

『これ以上勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ。宝具の開帳を許す』

 

「了解した我が主よ」

 

その声を聞いたランサーは持っていた短い方の槍を置き、長い槍を両手で構える。そうすると槍に巻き付いていた布が発かれ、鮮やかな紅の槍身が顔を出した。

 

 

「そういうわけだ。ここから先は獲りに行かせてもらう。セイバー、お前は束ねた風の魔力で剣を隠したままか?」

 

それを聞くと剣を握るセイバーの手に力が入る。

 

 

「なるほど・・・剣を覆い隠しておきたい理由がお前にはあるということか。お前の真名、その剣にあるとみた」

 

「残念だなランサー・・・貴殿が我が宝剣の正体を知ることはない。その前に勝負を決めて見せる」

 

セイバーは剣を構え直すと同時にランサーが迫る。

 

 

「それはどうかな? 見えない剣を暴かせて貰うぞ、セイバー!」

 

ランサーは身体の重心を落とすと一瞬で距離を詰めてセイバーに槍を突き出す。爆音と共に透明だった剣から黄金の光が溢れ、刀身が現れる。

 

 

「晒したな、秘蔵の剣を・・・!」

 

「『風王結界(インヴィジブル・エア)』が解かれた・・・ッ!?」

 

ランサーは攻撃の手を緩める事なく、次々と攻撃を繰り出す。セイバーはそれを寸での間合いでかわし、最小限の力で弾く。

コンテナ側に追い詰められたセイバーはコンテナを駆け上がり反転すると二人の立ち位置は先程までとは正反対となる。

 

 

「刃渡りも確かに見て取った。これで見えぬ間合いに惑わされることはない」

 

槍を構え直したランサーは走り出す。一方、セイバーは動かないばかりか、目を閉じている。そして、目を開けると剣を頭の上で構えて走り出す。そうして二人は互いに交差して走り抜けた。

 

 

「ッ!?」

 

どうやらセイバーは脇腹辺りを刺されたようだ。掠っただけのようだが、血が滲んでいる。

 

 

「セイバー!!」

 

するとセイバーの後ろにいた白髪の女性が声を上げる。すると攻撃を受けた部分が光り、傷を塞いでいく。

 

 

「ありがとうアイリスフィール。大丈夫、治癒は効いています」

 

「やはり・・・やすやすと勝ちを獲らせてはくれんか・・・」

 

そう呟くランサーにセイバーは少し焦りの表情を見せる。

 

 

「・・・そうか。その槍の秘密が見えてきたぞランサー」

 

突にセイバーが刺突された部分の鎧に手を当てて喋る。ランサーは興味深そうに声を漏らす。

 

 

「その紅い槍は魔力を断つのだな?」

 

セイバーの言葉を聞くとランサーは少し口角を上げる。

 

 

「その甲冑は魔力で生成されたもの。それを頼みにしていたのなら諦めるのだな、セイバー。俺の槍の前では丸裸も同然だ・・・!」

 

「・・・たかだか鎧を剥いだぐらいで得意になってもらっては困る・・・」

 

そう言ってセイバーは鎧を脱ぎ捨て、剣を構える。

 

 

「防ぎ得ぬ槍ならば、防ぐより先に斬るまでの事・・・覚悟してもらおう、ランサー!」

 

「思い切ったものだな、乾坤一擲ときたか・・・・・鎧を奪われた不利を鎧を捨てることの利点で覆す・・・か。その勇敢さ、潔い決断・・・決して嫌いでは無いがな。この場に言わせてもらえばそれは失策だったぞ、セイバー・・・!」

 

「さてどうだか・・・甘言は次の打ち込みを受けてからにしてもらおうか!」

 

セイバーは剣に纏わせた風を利用して跳躍する。迫りくるセイバーを嘲笑うかの様にランサーは足元にあった槍を足で蹴り上げ、握りしめるとセイバーの手首を切り裂いた。しかし、同時にセイバーも短い槍を持っていたランサーの手首を裂いた。

 

 

「つくづくすんなりとは勝たせてくれんのか・・・良いがなその不屈ぶりは・・・!」

 

手首を斬られ、槍を落としたランサーだったが、その表情は満足そうである。

 

 

『何を悠長な事を言っている馬鹿め。仕留め損ねおって!』

 

「痛み入る。我が主よ」

 

偉そうな怒り声と共にランサーの手首の裂傷が癒えていく。

 

 

「アイリスフィール、私にも治癒を」

 

セイバーも治療をしてもらうように白髪の女性『アイリスフィール』に声をかけるが・・・

 

 

「・・・かけたわ・・・かけたのに・・・そんなッ!? 治癒は間違いなく効いているはずよ。セイバー貴方は今の状態で『完治』しているはずなのッ!」

 

「ッ!」

 

セイバーの傷は治癒出来ないものであったのだ。

 

 

「我が『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を前にして鎧が無意だと悟ったまでは良かったな。だが、鎧を捨てたのは早計だった」

 

ランサーは地面に落ちた黄の短槍を拾い上げ、シタリ顔でセイバーを見つめる。

 

 

「そうでなければ『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』は防げていたものを・・・」

 

ランサーの宝具名を聞いて、セイバーはある人物を思い浮かべた。

 

 

「・・・なるほど・・・一度穿てばその傷を決してい癒やさぬという呪いの槍。もっと早くに気づくべきだった。魔を断つ赤槍、呪いの黄槍。加えて、乙女を惑わす右目の泣き黒子・・・・・『フィオナ騎士団』随一の戦士。『輝く猊のディルムッド』。まさか手合わせの栄に預かるとは思いませんでした」

 

そう言葉を紡ぐセイバーの表情はどことなく嬉々としている。

 

 

「それがこの聖杯戦争の冥であろうな。だがな、誉高いのは俺の方だ。時空を超えて英霊の座に招かれたものならばその黄金の宝剣を見違えはせん。かの名高き『騎士王』と鍔迫り合って一矢報いるまで至ったとは・・・・・ふふん、どうやらこの俺も捨てたものではないらしい」

 

対するランサーも楽しそうに口を歪める。二人の間にはただならぬ雰囲気が漂う。

 

 

「さて・・・互いの名も知れた所で、ようやく騎士として尋常なる勝負に挑めるわけだが・・・・・それとも、片腕を奪われたままでは不満かなセイバー?」

 

挑発するランサーにセイバーは脱いだ甲冑を纏うと剣を正面に構え、ランサーを鋭い眼光で睨む。

 

 

「戯言を・・・・・この程度の手傷に気兼ねされたのではむしろ屈辱だ・・・!」

 

ランサーも槍を交互に構えて眼を鋭くする。

 

 

「覚悟しろセイバー・・・次こそは獲るッ!」

 

「それは私に獲られなかった時の話だぞランサー!」

 

互いに一歩も引かない硬直状態とかし、得物を握る手は汗ばむ。

 

 

ドオォォッッンン!!!

 

『『『ッ!?』』』

 

しかし、こんな場面に突如として稲妻が轟いた。

 

 

「A―――――Lalalalala―――――Iiiiiiッッッ!!!」

 

轟音と雷の中、二頭の牛が引く戦車にのった身の丈2mはあるかという大男がセイバーとランサーの間に入った。

男は赤いマントに身を包み、赤い髪に赤い髭を生やしており、全身は重装鎧のような筋肉で覆われている。男は両手を大きく広げて叫ぶ。

 

 

「双方、剣を収めよ! 王の御前であるぞッ!」

 

セイバーとランサーは呆気に取られながらも突如現れた乱入者に警戒を露わにした。すると大男は両手を大きく広げて、盛大に自己紹介を始めた。

 

 

「我が名は『征服王イスカンダル』!! 此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した!」

 

その場にいた全員が呆気にとられた。警戒し、武器を構えてセイバーとランサーも戦いを見ていたマスター達も全員の思考が停止していた。

 

クラス名はともかくとして、正体の露見が即敗北につながりかねない聖杯戦争で自分の名前をバラすというのは自殺行為以外の何ものでもない。そして、当然の事ながらライダーのマスターであろう一緒に戦車に乗っているオカッパ頭の少年は「何してやがりますか!」と叫ぶがライダーのデコピンによって沈黙させられる。

 

自分のマスターをデコピンで黙らせたライダーはまた堂々と叫ぶ。

 

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが、まずは問うておくことがある。うぬら・・・・・一つ我が軍門に下り聖杯を余に譲る気はないか!!さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かちあう所存でおる」

 

ライダーからの唐突な勧誘にサーヴァント二人は呆れた後に激昂した。

 

 

「俺が聖杯を捧げると決めたマスターはただ一人・・・それは断じて貴様ではないぞライダー!」

 

「そもそも・・・そんな戯言を並び立てるために貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと言うのか? 騎士として許しがたい侮辱だ!!」

 

ライダーの勧誘にセイバーとランサーは怒りと共にそれを断る。

 

 

「待遇は応相談だが?」

 

ライダーは指でお金の形を作り、再度勧誘するが・・・

 

 

「「くどいッッ!!」」

 

セイバーとランサーの言葉が重なりあう。

その時である。

 

 

「カカカ♪ なんだか面白い話をしてるじゃあないの!」

 

『『『ッ!!?』』』

 

その場にいた全員の意識が笑い声に反応し、その方向をみる。そこには倉庫に背を預け立っている耳まで裂ける笑顔を浮かべる男が一人。

 

 

「これはこれは・・・皆様、お揃いで♪」

 

黒い髪を後ろで結び、服装は赤いプレートアーマーに黒いタイツ。肩には六尺(180cm)程の紅い槍を担いでいる。

 

 

「貴様・・・何者だ!?」

 

「カカカ♪ 真名を言う訳にはいかんが・・・バーサーカークラスとして召喚されたものだ。どうぞ、よしなに」

 

『『『!』』』

 

セイバーの問いかけに答えた男の正体に全員が警戒する。

 

 

「バーサーカーだと・・・!?」

 

「『狂化』のランクが低いのかしら?」

 

「『紅い槍』・・・まさか・・・!」

 

様々な思考が各個人で巡らせ、バーサーカーを見る。

 

 

「な・・・なんだアイツ・・・?」

 

ライダーのマスターであるウェイバーは気が付けばそう呟いていた。なぜなら、バーサーカーが普通に喋ってる事もそうだがバーサーカーから感じる『異様』さに無意識に反応していたからだ。

 

 

「・・・なあ征服王? アイツには誘いを―――」

 

ランサーが思わずライダーに話題を振るが・・・

 

 

「ほぅ! 理性のあるバーサーカーとはなんと珍しい! どうだ、余の配下にならぬか?」

 

話題を振る前にライダーは、バーサーカーに配下にならないかと誘いを出していた。

 

 

「さっき、総スカン食らったばっかりだろ! 少しは懲りろよ!」

 

「馬鹿もん、試しもせんうちに諦める奴があるか!」

 

ライダーのマスターはライダーにへばり付き抗議を醸し出すがライダーはどこ吹く風である。

 

 

「あぁ、盟友なら別にかまわんぜ?」

 

「ほら見ろ。断られ―――ッテ、何ぃい!?」

 

『『『!?』』』

 

対するライダーからの勧誘にバーサーカーはケラケラと笑って了承した。これにはライダーのマスターだけでなく、他の全員が驚いた。

遠くの方でこれを見ていたバーサーカーのマスターもひっくり返り、隣では「ヤレヤレ」とバーサーカーの仲間がため息を吐いている。

 

 

「おお! ほら見ろ小僧! 話のわかるヤツもおるではないか!」

 

ライダーはバーサーカーからの了承に笑顔を見せ、豪快に笑う。だが、バーサーカーの話はまだ終わっていなかった。

 

 

「一ついいかライダー?」

 

「なんだ申してみよバーサーカー?」

 

「俺にもマスターがいる。そのマスターを説得してからでも遅くはあるまいか?」

 

なにぶんサーヴァントの一個人の思惑で同盟を申し込むのは忍びないとの考えであった。

 

 

「あいや分かった! そういうことなら問題ない、余の盟友となれ!」

 

「ありがとう。いい返事を期待してくれ、大王!」

 

この言い分にライダーは快活に返事をした。しかし、このやり取りが気に食わない人物が一人。

 

 

「ちょ、ちょっと待てよライダー! こんな奴を仲間にしていいのかよ!?」

 

「どうした坊主、何が不満だ?」

 

「不満だらけだ―――ッ!!」

 

さっきから大きく変わる状況に漸くツッコミを入れられたのはライダーのマスターであった。

なんせ戦いに横やりを刺さしたと思ったら、自分のサーヴァントがいきなり勧誘を始めて、その勧誘に乗ったサーヴァントが現れ、挙句の果てにそのサーヴァントがバーサーカーなくせに意思疎通をしてくるという、常識はずれにもほどがある展開なのだから。

 

 

『いったい何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば・・・・・よりにもよって君自身が聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ。『ウェイバー・ベルベット君』・・・!』

 

「ケ、『ケイネス』先生・・・」

 

そのライダーのマスターによって、ようやく調子が戻ったのか、ランサーのマスターの声が倉庫街に響く。どうやらウェイバーというのがライダーのマスターの名前らしい。その声の主はウェイバーにとって出会いたくなかった人間であることが青ざめた顔から判断できる。

 

 

『致し方ないなぁ・・・ウェイバー君。君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺し合うという本当の意味・・・・・その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげるよ。光栄に思いたまえ』

 

どうやらランサーのマスター『ケイネス』とウェイバーは師弟関係にあり、弟子であったウェイバーがイスカンダル召喚の為の聖遺物を盗んで聖杯戦争に参加したというらしい。

明らかに見下されている物言いにウェイバーは言い返そうとする。しかし、恐怖がその口を閉ざしてしまう。だが、そんな彼の代わりに口を開いたのは意外にもライダーであった。

 

 

「おう魔術師よ! 察するに貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぉ! 余のマスターたるべき男は余とともに戦場を馳せる勇者でなければならぬ! 姿を晒す度胸さえ無い臆病者など役者不足も甚だしいぞ!!」

 

ライダー本人が言ってるようにそれは本心なのだろう。本心から共に肩を並べないものはマスターの資格なしと思っているのだろう。

バーサーカーもライダーの言葉に続けとばかりに言う。

 

 

「カカカ♪ ざまぁないなケイネスとやら。しかし、良かったんじゃあないのか? もし盗まれずに召喚が成功していたら、間違いなくアンタはライダーとギクシャクしていただろうさ。いや待てよ・・・もしかしたら今のサーヴァントでも関係はギクシャクしているんじゃあないのかい? そこんとこどーなのよランサーくぅうん?」

 

「えッ!? そ、それは・・・!」

 

唐突なバーサーカーからの問いかけにランサーはシドロモドロになり、黙ってしまう。

 

 

「・・・沈黙は肯定と受け取る。アンタも苦労してんのねランサー・・・」

 

「い、いや違!」

 

「大丈夫、何も言わなくていい。そのクラスは大変だもんな。『マスターに恵まれない』という点で・・・うん、頑張れ」

 

「ランサー・・・」

 

「うぬ・・・苦労しておるのだな」

 

「だ、だから違う!!」

 

バーサーカーは皮肉混じりの話から『ランサークラスって不憫だよな』的な話に持ち込んでランサーの話も聞かずに納得してしまった。話や彼の反応を見て、セイバーやライダーは同情の視線を送る。

 

 

『・・・・・貴様まで私を馬鹿にするつもりか?』

 

バーサーカーの話を聞いて、ケイネスが漸く口を開いた。口調は冷静であったが、ところどころの節に怒気が織り込んである。

 

 

「『馬鹿にしてる』? 馬鹿にしてるだって?! オイオイオイオイオイオイ! 俺がアンタを馬鹿にしてるだって?」

 

『・・・そう聞こえるが?』

 

 

「んな事する訳ないだろう?・・・・・・・・『小馬鹿』にしてるんだよ。っと俺は決め顔でそう言った」

 

『―――ッ!? き、貴様ッ!!』

 

ケイネスはブ千切れる寸前まで切れた。もしここでケイネスの持つ冷静さがなければ、真っ先に令呪でランサーをけしかけていただろう。

 

 

「おお、よく言ったバーサーカー! 全く! この戦争には腰抜けばかりが多くて困るのう。おいコラ! 他にもまだおるだろうが、闇にまぎれて覗き見をしている連中は!」

 

「オイオイオイ、まだいるのかよライダー?」

 

そう聞き返すバーサーカーにライダーは鼻息荒く言い放つ。

 

 

「セイバー、そしてランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、真に見事であった。あれほどの清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人ということはあるまいて・・・聖杯に招かれし英霊は今! ここに集うがいい! なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れッ!」

 

ビリビリと雷のようなライダーの声が倉庫街に鳴り響く。

その声に導かれるような形で街灯の上に一騎のサーヴァントが現れた。

 

 

「おん!?」

 

バーサーカーはそのサーヴァントを見て思った。

 

 

「(そりゃあ、いるわな。青セイバーがいるなら、そりゃあいるわ)」

 

そう納得してしまった。バーサーカーを納得させてしまったサーヴァントは不機嫌そうに口を開けた。

 

 

「我を差し置いて『王』を称する不埒者が一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

そのサーヴァントは、もはや目が痛くなるほどに眩い黄金の鎧を身にまとっており、一目でわかってしまうほどの傲岸不遜さを漂わせていた。

 

 

「難癖着けられたところでなぁ・・・・・イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王にほかならぬのだが」

 

豪胆を売りにしているライダーでさえ、自分以上に突飛な性格をしているサーヴァントがいることに呆気に取られた。だが、誰よりも先にこのサーヴァントに反応するところは流石といったところか。

 

 

「戯け。真の英雄たる王は天上天下に我ただ一人。後は有象無象の雑種にすぎん」

 

「そこまで言うならまずは名乗りをあげたらどうだ? 貴様も王たるものならばまさか己の偉名を憚りはすまい」

 

「いやライダー・・・それはちと失礼だぞ」

 

「なに?」

 

「ほう・・・」

 

黄金のサーヴァントに問いかけるライダーにバーサーカーは注意すると持っていた槍を置き、深々と頭を下げた。

バーサーカーのそんな礼儀正しい姿に全員がまた驚かされた。

 

 

「雑種。貴様、我を知っているというのか?」

 

「もちろんでございます。このバーサーカー、貴方様を一目見た瞬間から存じ上げてございます」

 

「面白い、ならば申してみよ。この場にいる不遜な雑種共にな!」

 

黄金のサーヴァントの許しを得たバーサーカーは頭を上げると全員に向き直り、大声で叫んだ。

 

 

「この金ぴか装飾ゴテゴテ野郎をどなたと心得る! かのウルクは王『英雄王ギルガメッシュ』であるぞ!」

 

『『『!』』』

 

黄金のサーヴァントの正体を聞いて、この場にいる全員と遠隔から様子をみていたギルガメッシュのマスターはひどく驚いた。

 

 

「え・・・(『金ぴか装飾ゴテゴテ野郎ってなんだ?』)」

 

ただ一人、ウェイバーだけはバーサーカーの一節に疑問を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 



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開戦・下




某動画でFateの戦闘シーン見てますが・・・

アキト「俺・・・戦えるのか?」

・・・・・そこは心配いらない・・・?



 

 

 

ここで時間はライダーの勧誘の所まで巻き戻る。

 

その日、『アサシン』のマスターである『言峰 綺礼』はアーチャーとの戦闘で死んだはずのアサシン『達』を使い、マスターやサーヴァント達を監視していた。

そして、それを自らの『師』にして『アーチャー』のマスターである『遠坂 時臣』に報告していた。

しかし、事態の急変と監視結果にどう報告したものかと悩んでいた。

 

 

『師よ。ご報告したい事があります』

 

90年代製の通信兵が持つような通信機からノイズ混じりの綺礼の冷淡な声が聞こえてくる。

 

 

「どうしたんだい綺礼? セイバーとランサーが相打ちにでもなったかい?」

 

それに遠坂 時臣はワイングラスを傾けながら会話を始めた。

 

 

『いえ・・・ライダーが現れた後にバーサーカーも現れました。それとバーサーカーのマスターである『間桐 雁夜』も確認できました・・・・・それに関しては、なんと報告をすればよいのか図りかねる所なのですが・・・』

 

「?。綺礼・・・・・キミにしてはなんとも歯切れの悪い話し方だね?」

 

綺礼の迷い声に時臣はワイングラスを回しながら疑問符を浮かべる。

 

 

『バーサーカーは意思疎通できる程の理性を持っております。それにライダーからの同盟の勧誘を受けました』

 

「ほう・・・それは面妖な。ランサーやセイバー、キャスターと同盟を結ぶのはわかるが、よりによってバーサーカーとは・・・・・間桐家も面白いサーヴァントを召喚したものだな」

 

クツクツと時臣は笑うと空になったグラスにワインを注ぐ。

 

 

『それで師よ、聞きたい事があるのですが』

 

「なんだい綺礼?」

 

『師はバーサーカーのマスター、間桐 雁夜と面識がおありなのですか?』

 

綺礼の質問に時臣は考え込むと一口ワインを飲んで口を開く。

 

 

「いや、妻の幼なじみだという話は聞いている。実際に目にしたことは数度だけで、会話もない。魔術を嫌って逃げ出した凡愚螺だと、間桐のご老人から聞いていたのだがね」

 

『・・・そうですか』

 

時臣からの返答を聞いて、綺礼は納得いかないような声を漏らす。。

 

 

「君にしては珍しい、他人に興味を持つなんて。その間桐家の者がどうかしたのかね?」

 

『はい。そのバーサーカーのマスター、間桐 雁夜の傍らにもう一体の『サーヴァント』がいます』

 

「・・・・・・・・なんだと?」

 

綺礼からの思わぬ報告に時臣は耳を疑う。本来なら急造の程度の低い魔術師など気にも止めないが、その魔術師が『二体』のサーヴァントを有しているなら話は別だ。

 

 

「そのサーヴァントは『キャスター』なのか?」

 

動揺を隠しながら時臣は綺礼に疑問を投げかける。

 

 

『遠目からではなんとも・・・』

 

「そうか・・・・・綺礼、間桐雁夜の監視を続けてくれ」

 

『了解しました。我が師よ』

 

綺礼に監視の続行を命じると通信機の電源を切る。

 

 

「凡愚螺だと聞いていたが・・・・・油断ならんのかもしれないな」

 

時臣の呟きに誰も答える事はなかったが、通信を切られた綺礼もまた雁夜に興味を抱き始めていた。

この後、時臣はバーサーカーに驚かされるはめとなる。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「この方はまさにゲスプロの中のゲスプロ、王の中の王! 世界最古のジャイアニズムを持つ我が侭暴君。古代国家ウルクが国家元首『英雄王 ギルガメッシュ』で在らせられるぞ!」

 

『『『ッ!?』』』

 

時間軸と場面は戻り。バーサーカー、アキトは黄金のサーヴァントに変わって他己紹介をしていた。

 

 

「う、ウソ・・・」

 

「英雄王・・・だと・・・!?」

 

「ガッははは! それはスゴイな!」

 

黄金のサーヴァント『ギルガメッシュ』。その正体に驚く者、動揺する者、手を叩いて称賛する者とに分かれた。

 

 

「・・・アイツ・・・褒めてんのか、貶してるのか?」

 

しかし、ウェイバーだけは驚きも動揺もせず、ましてや喜びもせずにバーサーカーの言葉を疑問に思っていた。

 

 

「ワァ―ッハッハッハ! 良い、良いぞ。褒めて遣わすぞ雑種」

 

「ハイ。カンシャノキワミー(棒)」

 

ウェイバーの思いとは裏腹にアーチャーは不機嫌から一転、上機嫌でアキトを褒めていた。何故だがアキトは棒読みでアーチャーに答える。

 

 

「良い。こんなに気分が良いのは久方ぶりだ。おい雑種、名乗る事を許す。名を名のれい」

 

「申訳ありませぬ英雄王。私は自身のマスターに令呪を使われており、名乗りを上げる事が出来ませぬ。どうぞお許しを」

 

『やってないよ!!』と遠くの方から死にかけマスターの声が聞こえるが、気にせずに彼は深々と頭を下げる。

 

 

「フン、ならば仕方あるまい。おい狂犬、貴様先程そこの王を語る不遜な輩につくと言っていたな」

 

「はい、確かに」

 

「どうだ狂犬、我の臣下になる事を許そう」

 

『『『!』』』

 

「おん!」

 

なんとアーチャーはアキトに誘いをかけて来たのだ。これにはこの場にいた全員だけでなく、アキト本人までもが驚いた。彼はニヤリと口を歪める。

 

 

「それは良いお話しだ。かの英雄王に仕えたとあらば、末代までの功となりましょう」

 

「ちょ、ちょっと待てよお前!」

 

「おん?」

 

「小僧?」

 

アキトとアーチャーの会話に入って来たのはウェイバーであった。彼は青筋を浮かべ、アキトを睨む。

 

 

「お前、さっきライダーにつくって言ったよな! なんだよそれ! ふざけ―――「小僧!」―――わっぷ!?」

 

喚くウェイバーの口ををライダーの大きな手が塞ぐ。ウェイバーは苦しそうにジタバタともがく。

 

 

「ぷ、プハ―ッ! なにするんだよライダー! このままじゃあアイツが取られちまうぞ! いいのかよ!」

 

「別に構わん」

 

「な、なにぃい―――ッ!?」

 

ライダーの意外な返答にウェイバーはひどく驚愕する。

 

 

「あやつが我らの勧誘を破棄し英雄王の陣営につくと言うのなら、余もそれだけの男と言う訳だ」

 

「で、でも・・・!」

 

「心配するな小僧」

 

ライダーはウェイバーの頭に大きな自身の手をのせて、撫でる。アキトはそんな光景を見て、またニヤリとほくそ笑む。

 

 

「・・・いらぬ邪魔が入ったな。それで狂犬よ、どうするつもりか?」

 

会話の邪魔をされたアーチャーは少し不機嫌そうに話す。アキトはそんなアーチャーの方に向き直り、口を開く。

 

 

「先程も言ったように貴方様に仕えたとあれば、子々孫々まで自慢出来ましょう」

 

「そうだな」とアーチャーは気分よく答える。が、アキトは垂れていた頭を起こし、アーチャーを睨んだのだ。

 

 

「だからこそ、あえて・・・・・英雄王、アンタの敵になろう」

 

「なにぃ・・・?!」

 

アキトは紅い槍を構え、街灯の上に立つアーチャーに矛先を向けた。アーチャーはまさか断られるとは思わなかったのか、呆気にとられる。

 

 

「確かにアンタの下につけば、この聖杯戦争、楽に勝ち抜けるだろうさ。でもなぁ、かの名高き『征服王 アレキサンダー大王』と共に英雄王を打倒したとあれば、俺は子々孫々、末代の末代まで自慢できる。それにライダーの方がアンタよりも早かったしね」

 

「バーサーカー!」

 

「やはりうぬは面白い男よのぉ!」

 

「イエェ~♪」

 

笑うライダーと叫ぶウェイバーにアキトはピースサインを送る。

一方、誘いを断られたアーチャーはビキビキと顔に青筋を立てていた。

 

 

「貴様ァ・・・我、自らの誘いを無にするとは・・・!」

 

怒気の声と共にアーチャーの背後が揺らぎ、黄金の波紋が広がるとそこから幾つもの宝剣、宝槍、宝斧が現れた。

 

 

「来たな・・・『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』・・・!」

 

「ほう、我が宝具の名を知っておるか・・・」

 

「もちろんだとも・・・それは世界一有名な宝具だからな」

 

アキトは楽しそうに笑って槍を握る力を強める。

 

 

「ウソだろ・・・!」

 

「どうした小僧?」

 

「あれ、一つ一つが宝具だ!」

 

「らしいな・・・」

 

剣や槍の正体を知ってウェイバーは驚き、ライダーは身構える。

 

 

「せめてもの手向けだ。一思いに散れ狂犬」

 

ドシュシュ! と幾本もの剣、槍、斧がアキトに向けて発射された。

アキトはそれを恐怖を帯びた訳でも無く笑みを浮かべると『自らの血で造形した』紅い槍を前に突き出す。その瞬間にアーチャーの宝具である剣と槍が迫り直撃し、倉庫街に爆音を鳴り響かせる。

爆風と共に砂塵が辺りに舞う。

 

 

「・・・やはり信じられん。奴は、本当にバーサーカーか?」

 

「ガっはっはっは! 見事なり、さすがは我が盟友だ。しかし、えらく面白い事ができる奴よのぅ」

 

「なんて・・・奴だ」

 

サーヴァント達は今のアキトの行為が見えたらしく。セイバー、ライダー、ランサーの順にコメントを零す。

 

 

「な、何が起きたんだ・・・」

 

「見えなかったか? バーサーカーは構えた槍で宝剣と宝槍を打ち払ったのだ」

 

ウェイバーの呟きにライダーが解説をする。

ライダーの言葉通り、アキトは自らの保有スキル『血液造形魔法』で作り出した槍で放たれた剣と槍を打ち払い、地面に叩きつけたのだ。

 

 

「カカカ♪ あっブネ~! しっかし、カッピョ良い剣だな、おい」

 

「ッちイ! 狂犬風情が我の攻撃を防ぐだとッ!?」

 

舌打ちをするアーチャーに構う事なく、アキトは地面に突き刺さった宝剣を引き抜くと品定めをしながらアーチャーに語り掛ける。ニヤニヤと笑うアキトにアーチャーは頭に青筋を走らせながら舌打ちをした。

 

 

「その手で、我が宝物に触れるとは・・・・・そこまで死に急ぐか、狂犬ッ!」

 

怒り狂ったは自身の背後に、一斉に輝く大量の宝具を出現させる。その剣、刀、槍、斧、矢、様々な宝具が出し惜しみなく晒され、その全てが掛け地なしの世界の至宝、最高級の宝具である。

 

 

「その小癪な手癖の悪さでもって、どこまで凌ぎきれるか・・・・・この我に見せてみよ!」

 

空気を震わせる怒声をと共に宝具の群れがアキトに向かって放たれる。

 

 

「WRYYYYYYYYYYYッ!!」

 

本来なら有り得ないアーチャーの連続宝具攻撃に晒されたアキトも襲い来る宝具を紅い槍で笑みと奇声を発しながら、いとも簡単に切り払い、弾き落とす。

それにより弾かれた宝具が周囲のコンクリートやコンテナを破壊し続け、それを見ていたマスター達やサーヴァント達を驚愕させた。

 

 

「・・・あれでは駄目だ・・・あの男に傷一つ付けられんのでは、数を撃つだけでは意味が無い」

 

アキトとアーチャーの戦いにライダーは呟く。そのライダーにウェイバーが意見を溢す。

 

 

「いやだけど、撃ち続ければ一発位弾き損ねることだってあるんじゃないか?」

 

「・・・仮にバーサーカーは迎撃するのが精一杯であり、この状況が長引くとしたらその可能性もあるだろうが・・・・・おそらくそうはなるまい」

 

「え?」

 

「奴の笑みだ。あれは死力を尽くしている者がする笑みではない・・・むしろ逆、いまだ余裕を持っている者がする笑みだ」

 

「ッ!?」

 

アキトの現在の状況を『余裕』と判断したライダー。それを聞いたウェイバーは両目を見開いて驚愕する。

 

 

「ま、まだアイツ何か隠し持てるっていうのか!?」

 

「さあのぅ・・・さすがにそこまでは分からんが、奴も大人しく今の状況を続ける気はなかろう。そろそろ動くぞ」

 

この戦いをふむふむと冷静に分析しているライダーの台詞にその場に居た者達が耳を傾けていると、アキトが自らに向けて発射された宝具を小脇に挟んだ状態で叫ぶ。

 

 

「どうした英雄王?! もっとくれ!」

 

「んなッ!?」

 

『『『えぇ―――!?』』』

 

アキトは両手でジェスチャーをして、アーチャーを挑発する。

 

 

「き、貴様!」

 

「おいバーサーカー?!」

 

ウェイバーはたまらずツッコミを入れる。

 

 

「お前、反撃しないのかよ?!!」

 

「んなもんするか!」

 

「えぇッ!?」

 

「向こうが勝手にプレゼントしてくれるんだ。受け取らない義理はない!」

 

決め顔をしながら答えるアキトに呆れ顔をするウェイバー。これにはライダーも苦笑する。

 

 

「痴れ者が・・・・・天に仰ぎ見るべきこの我の宝具を強奪するとは・・・・・その不敬は万死に値する! そこな狂犬よ、もはや肉片一つ残さぬぞ!!」

 

「奪っていません。飛んで来たから拾いました」

 

「それを奪うというのだ! 痴れ者がぁあ!!」

 

アーチャーの怒号と共にその場にいる全員が息を呑む。アーチャーの背後に50を軽く超える大量の宝具が出現したからである。

先程から余裕を持ち、戦いを眺めていたライダーですら目を見張るほどの有り得ない光景だ。しかし、アキトは笑いながら、手をワキワキさせている。

ところが・・・

 

 

「・・・・・貴様ごときの諌言で、王たる我の怒りを鎮めろと? 大きく出たな、時臣・・・」

 

「おん?」

 

アーチャーは空を仰ぐと一人言を呟く、それにアキトが疑問符を浮かべる。

ギリリッとアーチャーは納得いかないと歯を鳴らすがパチンと指を鳴らし、宝具の解放を止めた。怒り冷めらやぬアーチャーは忌々しそうにフンと鼻を鳴らして踵を返す。

 

 

「なんだよ英雄王、もう終わりかよ~? もっとくれよ宝具~!」

 

「やかましい!!!・・・・・雑種ども、次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」

 

心底偉そうに言い放つと、アーチャーは一度言葉を区切るとアキトをキッと睨みつける

 

 

「命拾いしたな狂犬・・・・・次こそはその首捻じ切ってくれる」

 

「おん。期待しないで待ってるよAUO」

 

「こ、この・・・・・! フンッ!」

 

まだ言いたそうな意識を殺して、アーチャーは霊体化してこの場を後にした。

 

「ふむぅ・・・どうやらあれのマスターはアーチャー自身ほど豪気な質では無かったようだな」

 

終わったとばかりにニヤニヤしながら顎を撫でるライダー。この場において余裕を保っているのは彼のみで、他のマスターやサーヴァント達は目の前で繰り広げられた激闘に息をする事すら忘れており、辺りは先程とは一転、静まり返っている。

 

 

「WRrry。大量大量♪」

 

アキトだけはホクホク顔でアーチャーからの贈り物? を纏めていた。

 

アーチャーが去った後は微妙な空気が漂う。

セイバー、ランサー、バーサーカー&ライダーの三竦みになっている状況で迂闊に動けば集中的に狙われるかもしれない。

そんな思いの中、セイバーとランサーは動けずに居たが、真っ先に動いたのはやはりこの男だった。

 

 

「ところで英雄王がいなくなった訳だけれども・・・アンタらはどうするつもりだい?」

 

アキトはセイバーとランサーの二人に問いかける。元々はこの二人の一騎打ちのはずだったのだが、場が荒らされまくってそんな空気は霧散していた。二人は気まずそうに顔を向かい合わせる。

 

 

「一応口合わせ程度ではあるけど、俺と大王は仲間ってことになってるし・・・・・もしアンタらが大王を攻撃するなら、俺は即座に大王に加勢するぜ?」

 

「「ッ!・・・・・」」

 

この時、アキトはさりげなく選択肢を狭めていた。明確にライダーと共闘することを宣言しておけば、セイバーたちはどちらと戦うことを選んでも、少なくとも二人が敵に回ると捉えてしまう。

ライダーは真名から分かるように超有名な英霊であり、正体不明のバーサーカーは宝具も使わずにアーチャーを嘲笑い、追い返した。そんな二人を同時に相手にしたくはないと考えるのが普通だ。

・・・かといって、それで元のように互いに勝負をすれば、二人が傍で見ている中で行わなければいけない。こちらからみすみす情報を渡すばかりか、ヘマをすれば漁夫の利を取られるかもしれない。つまり、二人は誰と戦うことを選んでも損しかしないのである。

 

 

「それで提案なんだがよ~・・・・・ここは一旦全員引くってことにしないかい? 俺としてはそこの騎士王と刃を交えたいが、そんな気分じゃあなくなったしよ」

 

セイバーやランサーにとってそれは願ってもないことだった。確かに目の前の騎士とは決着をつけたい。だが、そこに横から茶々は入れられたくはない。

それに、ここで見逃してくれるというなら、この正体不明のバーサーカーの情報を得られるかもしれないのだから。

 

 

「・・・・・俺の主も引けと言っている。その提案に乗らせてもらおう」

 

「私も同じ意見だ。ランサー、ここは一旦勝負を預けるぞ」

 

「ああ、次に会った時に決着をつけよう」

 

どうやら二人ともこの場は引くようだ。

ランサーは霊体化し、セイバーはアイリスフィールを連れてどこかへ消えてしまった。激闘の爪痕のこる倉庫街にはライダー達とアキトが残される。

 

 

「・・・おうバーサーカー、あの二人は退散したようだぞ? お前さんはどうするつもりだ?」

 

「おん? ああ、それなんだが―――」

 

「な、なあバーサーカー?」

 

「おん?」

 

ライダーが声をかけてきたので、アキトが本題に入ろうとした。しかし、ウェイバーが横から口を突っ込んできた。出鼻をくじかれた形になるが、これくらいで頭に来るほどアキトは狭量ではないので、なんとも思わずウェイバーの方に顔を向ける。

 

 

「どうしたんだい・・・ライダーのマスターさんや?」

 

「『ウェイバー・ベルベット』だ。お前って・・・その・・・本当に僕達と組むつもりなのか?」

 

ウェイバーからアキトへの質問に目を丸くしたあと、ケラケラと笑った。

 

 

「な、なにがおかしいんだよ?!」

 

「いやいや、随分と上手く話が運ぶなぁと思ったんだよ」

 

「はぁ?」

 

その質問はアキトが今まさに聞こうとしたことだ。あの二人を撤退させた最も大きな理由は、ライダーとの同盟関係を盤石にするためだ。だからこそ、あのまま全員で殴り合って、有耶無耶のままに全員撤退という流れにはしたくなかった。そのまま相手に引いてもらう必要があった。

あの場でどちらか一騎を『落とす』よりも、強力な味方を『作る』方が勝ち残る確率が高くなる。というのも、アキトはこの戦いに『楽に勝ちたい』。

何故なら、変に自分が動いて一騎のまま敵と戦う事になれば自分のマスターである雁夜と助けると約束した桜を危険な目に合わせるかもしれないからだ。

その点を考慮して、彼らと同格以上の味方がほしい。だからアキトはライダーの誘いに乗ったのだ。

 

 

「ああ・・・別に俺は冗談で言ったつもりはねぇよ。こっちは色々と特殊な案件を背負っているんでね。こっちにマイナスが無ければ、ライダーへの協力を惜しむつもりはない」

 

「それで・・・なんで僕たちの仲間になろうと?」

 

「大王が呼びかけてたからだよ。正直、味方になってくれんなら誰でも良かったっていうのが本音だ」

 

「な、お前っ!?」

 

「ほう・・・余の目の前でそれを堂々と言うか?」

 

「かの征服王、アレキサンダー大王だったらそれくらいお見通しだろ? そして、アンタはそれがお見通しだったとしても、俺達と同盟を結んでくれるほど懐が広いはずだ」

 

ライダーは色々とあれではあるが、間違いなく人を見る目と才はある。そんなライダー相手に自分の腹の中を隠していたところで意味がない。だったらさっさと正直に話してしまった方が、アキトとしても気が楽だ。

 

 

「ガっはっはっは! 言うのうお主! まさか、余の器を試すような物言いをする者がいるとは思わなんだわ!!」

 

そのアキトの言動はライダーのお気に召したようだ。アキトはライダーを信用しているのだ。『征服王イスカンダルなら、腹に何か抱えているものでも受け入れる度量がある』。

そんな評価されているのだから、ライダーの機嫌が悪くなるはずがない。

 

 

「そう言われると前言を覆すわけにはいかんな。その胆力、先ほどの芸当と言い、我が盟友として申し分ない!」

 

「俺はお眼鏡にかなった・・・そう受け取ってもいいんだよな?」

 

「おう! この聖杯戦争を勝ち抜いた暁には、余と世界を制する快悦を共に分かち合おうではないか!!」

 

「あ、それはいいよ。終わったらさっさと帰りたいし」

 

「ぬ! そう連れない亊をいうな!」

 

快活に笑うライダーにアキトは征服王たる所以をライダーに感じた。

 

 

「そんじゃあ今後は同盟を組んで行動しようぜ? それについて、俺のマスターとも色々と互いに話しておきたいんだけど・・・今日はもう遅いし、明日の朝にでもどこかで集合しねぇか?」

 

「そうだのう・・・・・そうだ! せっかくの新しい盟友なのだから、我らがそちらの拠点に向かおうではないか! 何、気遣いは無用、歓迎の用意はせんでもいいぞ!!」

 

「おい待てよライダー!? 相手の陣地に入るだなんて自殺行為だぞ!!」

 

「坊主、何を抜かすか!我が盟友を侮辱するでないわッ!!」

 

「カカカカカ♪」

 

すっかり主従が逆転しているライダー陣営にアキトは面白可笑しく笑う。

 

 

「構わんさ。こっちの家は広いし魔術的と近代的な防衛システムもあるから他の陣営から干渉されることもない。住所を書いて渡すから、これを見てきてくれ」

 

「・・・本当に罠とかじゃないよな?」

 

「ウェイバー少年、時に人間は疑わない亊がいい事もある」

 

「・・・ん、ん~・・・」

 

アキトの何だかよくわからない言葉に納得してしまうのは、彼の持つ保有スキルの影響なのだろうか。そんな事は今、この場ではわからなかった。

 

 

「俺は敵には容赦するつもりはないがマスターの身が危なければ、その時は助けるのは難しいかもしれない。だが俺は仲間になったら裏切りはしない」

 

「・・・分かったよ。でもっ、裏切ったら本当に怖いからな! ライダーだけじゃなくて僕だって怒るからなッ!」

 

「カカカ♪ そうかそうか」

 

精一杯の虚勢を張るウェイバーにアキトは何だか親しみを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「おいバーサーカー・・・ホントにやるつもりか?」

 

ライダー達と別れたアキトは隠れていた雁夜達と近くの深夜営業の喫茶店で合流していた。

 

 

「マグマグ・・・ぉん? わうぃが?」

 

「アキト、口の中なくしてから喋りなさい。お行儀悪い。」

 

「おうぇんおうぇん・・・ゴクリ・・・で、何が?」

 

カツサンドを口一杯ほうばって喋るアキトに隣でコーヒーを飲むシェルスが注意する。アキトは頼んでいたモカで流し込むと正面に座る雁夜の方を向いた。

 

 

「『同盟』だ。いくらライダーがあのアレキサンダー大王でもマスターが幼すぎやあしないか? 同盟を組むのなら三騎士の中のと」

 

「そりゃ無理だ」

 

「どうして?」

 

「セイバーは最優のサーヴァントだが、清すぎる。ランサーもこれに当てはまる。清すぎるってのは後々友好な関係を気づいていくのに邪魔になる。アーチャーは論外、あんな傍若無人と同盟なんてまず無理だ」

 

「傍若無人なのはライダーだって一緒のはずだろう?」

 

「ッチッチッチ。ちょっと違う。いや、かなり違う」

 

「え?」

 

疑問符を浮かべる雁夜にアキトは次のカツサンドに手を伸ばしながら答える。

 

 

「ライダーは一見傍若無人に見えるが、仲間と認めた者の意見に耳を傾ける。するのとしないのとでは大きく同盟関係に影響が出る。それに・・・」

 

「それに?」

 

「あのアーチャーのマスターは『遠坂 時臣』だろう」

 

「な・・・なに・・・!」

 

その名前を聞いて、雁夜の顔が痛々しく大きく歪む。

 

 

「オイオイオイ、あんまし変に表情を大きく崩すなよマスター。ノアの形成外科手術は一流だが、皮膚がまだ安定してないんだから」

 

「ご、ごめん・・・気をつけるよバーサーカー・・・」

 

雁夜は手術で直してもらった顔を触る。アキトは話を元に戻す。

 

 

「それにしても流れるように上手く行ったな。こんなに早く味方ができるなんてよ」

 

「ええ、見た感じのマスターも表裏のなさそうな子だったわね」

 

「心配するなってマスター、必ず上手くいく。それよりカツサンド食わないかマスター?」

 

「ありがとうバーサーカー、心配してくれて・・・・・あと、カツサンドはいいよ。俺、まだ固形物は食べれないから・・・」

 

雁夜は体調の影響でアキトの勧めを断る。すると、アキトは少しムキになったようで彼の頭をスゴイ力で固定する。

 

 

「うっせい! イイから食えコノヤロウ!」

 

「え、ちょっ、待ッ!?」

 

そして、無理矢理に雁夜の口にカツサンドをねじ込もうとした。

 

 

「マスターお前、今朝、桜が作った大豆粥を残したそうだな?!」

 

「へぇ・・・それは聞き捨てならないわね、カリヤ?」

 

「え、ちょ、シェルスさんまで!?」

 

「いいから食えマスターッッ!」

 

「ギャ―――ッ!!!」

 

この数分後、店の店員に怒られ、雁夜がある期間カツサンド恐怖症を患うのは、また別の話・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





長い・・・6連続は長い。


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同盟杯上




FateのNLって・・・・・幅広いよね・・・

アキト「新たな扉が開いたな」

てな訳で・・・・・どうぞよろしくお願いします。



 

 

 

「すぅ・・・すぅ・・・・・」

 

「・・・・・・・・え・・・?」

 

あ・・・ありのまま今、目の前の状況を話す・・・!

 

昨夜、サーヴァント同士の会合から深夜営業の喫茶店に場所を移した俺こと『間桐 雁夜』は、その喫茶店でバーサーカーにカツサンドを無理矢理口にねじ込まれて意識を失ったと思ったら『目の前、8cm付近で寝息をたてて眠っている桜ちゃんがいた』。というか添い寝していた。

 

な、何を言っているのか分からないと思うが、俺も今の状況が読み込めない。頭がどうにかなりそうだ。

 

・・・・・・でも、こうして間近で桜ちゃんの顔を見てみると感慨深いものがある。

白磁のように透き通った肌に整った顔立ち。睫毛は長く、唇は幼いながらに艶やかに湿っている。

俺はその美しい彼女の頬を優しく撫でる。

 

流石は『葵さん』の子だ。『あの男』に似なくて・・・本当に良かった・・・・・

 

 

「お~いマスタ~? 朝飯食おうぜ~・・・・・へ?」

 

俺が桜ちゃんに見惚れているとガチャリと扉を開けて入って来たバーサーカーと目が合った。

 

 

「あ・・・え・・・バ、バーサーカー、これは違―――!」

 

予想だにしていない事態に慌てる俺を見ながらバーサーカーは自分の唇に人差し指を当てながら小声で呟く。

 

 

「(シ―――・・・・・静かにしろよマスター。桜が起きちまうだろう?」

 

「(あ、あぁ・・・すまない・・・・・」

 

小声で謝る俺にバーサーカーは口を三日月に大きく歪めてカラカラと渇いたように笑う。

 

 

「(まったく俺も無粋な野郎だ。マスターのお楽しみを邪魔しちまうとわよ・・・」

 

「なッ!?」

 

「(大丈夫だマスター。また起こしに来る・・・・・それまでユックリと彼女を味わうといいさ・・・」

 

「(だから違うって!!///」

 

弁解する俺にバーサーカーは「冗談だ。カカカ♪」と笑って部屋から出ていった。何だか顔が焼石のように熱い。

 

 

「ん・・・んみゅ・・・・・雁夜おじ・・・さん・・・・・?」

 

ベッドから体を起こすと隣で寝ていた桜ちゃんが目を覚ました。小さな両手で目をこする動作が実に愛らしい。

 

 

「お・・・おはよう桜ちゃん。朝ごはんが出来たみたいだから食べに行こう?」

 

「うん」

 

俺は桜ちゃんの小さな手を繋いで和室に改造されたリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・向かったんだが・・・・・

 

 

 

「ガーはっはっは!」

 

「シャーシャッシャシャ!」

 

リビングの扉を開けると最初に目に入ったのは、縁側でマグカップを持って高笑いするドンと大ジョッキを持って豪快に笑う身の丈2mはある赤髪の大男。

服装はジーパンに『大戦略』とロゴが入ったピッチピッチの白いTシャツを着ている。

 

 

「なに和んでんだよ『ライダー』?!!」

 

「む、良いではないか坊主。この喋るヤギは存外に面白いぞ! なぁヤギよ?」

 

「そうであろー。それはそうとお主もアキトの特製ココアを飲むであろー」

 

「わわわ! 本当になんでこのヤギは喋ってんだよー?!」

 

次に目に入ったのは大男をライダーと呼ぶおかっぱ頭の少年。少年はドンから別のマグカップを押し付けられる。

 

 

「首―――領・・・」

 

・・・なんか後ろでロレンツォさんが血涙を流して、ハンカチを噛んでいる。

 

 

「おん? 案外早かったなマスター」

 

「おはようサクラ。朝ごはんを食べる前に髪を梳かしてあげるからね」

 

「はい、シェルスさん」

 

最後に目に入ったのは俺のサーヴァントであるバーサーカーと彼が召喚したという仲間の一人、シェルスさんだ。

彼女は寝癖がたった桜ちゃんの髪を櫛で丁寧にすいてゆく。気持ちが良いのか、桜ちゃんは目を細めて身を任せている。

 

 

「―――って・・・なんだコノ状況ッ!?」

 

「あ、マスター? 朝飯はパンか米のどっちが良い?」

 

「あ、ならご飯で・・・・・って違う!!」

 

「おん?」

 

なんともとぼけた声で反応する俺のサーヴァント『バーサーカー』。その手にはフライパンとお玉を握っている。

そして、リビングの中央にある堀炬燵の上には豪勢な食事が並べられていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

状況は雁夜が起きる数刻前に遡る。

 

昨夜の一件から間桐邸に戻ったバーサーカーこと『暁 アキト』と『シェルス・ヴィクトリア』は喫茶店で気絶した雁夜をベットに寝かせるとサーヴァント集結で起こった事をヴァレンティーノファミリー全員に報告した。

 

ファミリーの長である『ドン・ヴァレンティーノ』には、アキト自身がライダー陣営と同盟を結んだ事を報告。

ファミリーの母ポジション・・・じゃなくて、ドンの右腕『ロレンツォ』にはサーヴァントのマスターを彼の保有スキルで調べて貰うように頼んだ。

ファミリーの天才頭脳『ノア』にはサーヴァントの観察データを渡した。

そして、『もう一人』のファミリーにはノア特製の通信機で連絡を済ませる。

 

それらを済ませると二人は朝食の準備を始めた。

何故、朝食の準備をはじめたのかというとサーヴァントである二人が睡眠を必要とせず、なぜか霊体化もできないので朝までの暇潰しの為である。

 

・・・だが、単なる暇潰しではない。『歓迎』の準備でもある。

 

同盟を結んだライダーはアキトに対してこう言い放っていた。

『我らがそちらの拠点に向かおうではないか! 何気遣いは無用、歓迎の用意はせんでもいいぞ!!』と・・・

 

要するに『歓迎してくれ』という裏の意味である。

それに加え、あのライダーの性格からして朝一でこの邸宅に訪れるだろうと予想した彼は、歓迎してやろうと思い料理に腕を振るったのであった。

 

それから数時間後・・・・・アキトの予想どうり、日の出と共に彼はやって来た。

 

 

「バーサーカー!! 約束通り訪問してやったぞ! 早くここを開けるがよい!!!」

 

「・・・はぁ・・・」

 

門の前で大声を張り上げる彼の隣で、ライダーのマスターである『ウェイバー・ベルベット』がため息を漏らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





よくよく考えていると・・・ネタが使えるなコレ・・・


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同盟杯下




Q:Fateを見ると歴史の勉強になりますか?

A:然り! 然り!!

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・




 

 

 

ライダーのマスターこと彼、ウェイバー・ベルベットがこの聖杯戦争に参加した経緯を説明しよう。

 

彼の家は、祖母から数えて三代目と魔術師としての歴史が浅い家柄の出身である。そのため魔術刻印の数は少ない。

魔術の世界において家の歴史の深さは魔術師個人の能力に比例する。しかし、彼はそんなハンデなど努力と才能でいくらでも補えると信じている。

 

されど、魔術師たちの総本山ともいえるロンドンの時計塔は、名門と呼ばれる家に生まれただけの優等生達が幅を利かせ、自分たちのような血統の浅いものがまともな評価をされることはほとんどあり得ないという、ウェイバーが忌み嫌っていた時代遅れの権威主義の塊ともいえる世界であった。

そんな主義に立ち向かうように彼は4年の歳月をかけ、一つの論文を作り上げた。

 

『新世紀に問う魔導の道』

 

この論文を発表する事で権威がはびこる時計塔に影響を与えるものだと信じていた。

 

・・・・・目の前で、その論文を自らの講師である『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』に破り捨てられるまでは・・・

 

自分の集大成を破り捨てられたという事実に呆然としているウェイバーに追い打ちをかけるようにケイネスは『こんなのは妄想にすぎない』とバカにしたセリフを吐き、嘲笑を浮かべた。

 

この屈辱を機に彼は自らの論文の正しさを証明する為に偶然にも手に入ったケイネスの聖遺物を奪い、この戦争に参加したのだ。

 

 

 

「美味いッ! なんだこれは?! 美味すぎる!!」

 

「また腕を上げたであろー。流石はアキトであろー」

 

「カカカ♪ 照れますなー///」

 

しかし、目の前で豪快に朝飯を食らう自分のサーヴァントと人語を喋る得体の知れない山羊を見ていると自分が何をしにこの極東へ来たのかわからなくなっていた。

 

 

「おん? どうしたんだよ大王のマスター? 食欲ないのか?」

 

そう言って肩を落とすウェイバーに声をかける黒髪に紅い眼の男。その手にはドンブリ茶碗と箸を持ち、日本昔話に出てくるような山盛りの白米を食べている。

 

 

「いや・・・そういう訳じゃないけど・・・・・」

 

「そうか。なら早めに食った方がいいぞ。何分、予想を大きく上回って大王が大食らいだからな」

 

「う・・・うん・・・」

 

ウェイバーに声をかけたこの男の名は『暁 アキト』。今回の聖杯戦争でバーサーカークラスとして何故か呼ばれてしまった男である。

 

ウェイバーはこの男、アキトを警戒していた。何故ならサーヴァント集結時にアキトはバーサーカーでありながらライダーの突拍子もない同盟話に乗って来たのだ。

しかも、その後に現れた金色に輝くサーヴァント『ギルガメシュ』の真名を言い当て、あまつさえ自身の少量の力で追い返したのだから。そして何より・・・・・

 

 

「やはり諭吉の冷ややっこは格別であろー」

 

「あぁ、ドン。口元が汚れていますよ」

 

「すまないであろー、ロレンツォ」

 

「ウフフ♥ 構いませんよドン♥」

 

彼の目の前で気持ちの悪いやり取りをする『喋る山羊』と『麻袋を被った男』・・・

 

 

「アキト、おかわりは?」

 

「おん。そうだな、もらおうかなシェルス」

 

「フフ♪ サーヴァントになっても食いしん坊ねアキトは」

 

「まったくだ、カカカ♪」

 

アキトと仲睦まじいやり取りをする『赤毛に紅い眼の女』・・・その全員が『サーヴァント』であったのだ。

 

 

「ありえない・・・!」

 

これはウェイバーが彼らを最初見た時に無意識に出た言葉だ。

彼は魔術師としての自分の眼を疑い、自分の頭がライダーの召喚の影響でおかしくなったのかと自分の目を何度も何度もこすり、愛用の目薬を何滴もさす。だが、彼の眼球は彼らをサーヴァントとして認識した。

 

驚いたウェイバーは朝食を用意しているアキトの胸倉を掴み迫った。「これは一体どういう事だ?!!」と。

彼の鬼気迫る表情にアキトは驚くが、すぐに答えた。「俺が召喚した」と。

 

アキトの答えにウェイバーはますます困惑した。バーサーカーが意思疎通できるだけでもおかしい事なのに他のサーヴァントを召喚するなんて、どんな偉大な魔術師でも困難極まりないのだ。

 

それからウェイバーは何度もアキトにどうしてそんな事ができたのかを問いただしたが、アキトはあっけらかんとしてこう答えるだけであった。

 

 

「さあ?」

 

「さ、さあって・・・・・それじゃあ答えになってない!!」

 

「んな事言われてもよ~・・・出来たんだから仕方ないだろう。ま、言うなれば・・・単衣に『愛』・・・かな?」

 

そう決め顔で答えるアキトにウェイバーはその内、考える事をやめた。

 

 

「大丈夫かい・・・え~と、ウェイバー君・・・で良かったよね?」

 

アキトの事で疲労したウェイバーに声をかけたのは、白髪にオッドアイの『間桐 雁夜』であった。その隣ではハイライトの無い眼で朝粥を食べる『間桐 桜』がいる。

 

 

「え・・・ああ、大丈夫です。ミスター間桐」

 

「そうかい? それならいいんだが。あ・・・あと名字で呼ばなくていいよ」

 

「え・・・は、はい。わかりました・・・カリヤさん?」

 

「うん。それでいいよ」

 

ウェイバーが雁夜を見て最初に思ったのは、まさに屍のような人間だという物であった。それにあの規格外のマスターであるという事にまた驚く。しかし、どことなく人のよさそうな雰囲気があって、聖杯戦争に参加するような魔術師とは到底思えない。

 

 

「あ・・・桜ちゃん、お粥は熱くないかい?」

 

「うん・・・だいじょうぶ。おいしいね、おじさん」

 

「あぁ・・・美味しいね、桜ちゃん」

 

それどころか優しいお兄ちゃんにしか、ウェイバーには見えなかった。

 

 

「んん? どうした坊主、食べないのか? 食べないのなら、その『だし巻き』なる卵料理を余に差し出せ」

 

「あ!? ちょっとお前! それは僕のだぞ、返せ!!」

 

いっこうに料理に手をつけないウェイバーのだし巻き卵を奪おうとするライダーに彼は急いでそれを奪い返した。

 

 

「オイオイオイオイオイ、そんなに慌てるなよ大王。おかわりなら、まだあるからよ」

 

「そうか! なら『豆腐』なるものを持ってまいれ!!」

 

「はいはい。醤油は?」

 

「タップリと!」

 

「・・・なんか、征服王のイメージが崩れるわね・・・」

 

こんな騒がしい朝食は初めてだと感じながらウェイバーは奪い返しただし巻き卵を口に放り込んだ。

 

 

「!。お・・・美味しい・・・・・ッ!」

 

「カカカ♪ だろう?」

 

初めて食べただし巻き卵にウェイバーは目を丸くした。

 

 

 

それから数刻後・・・

たらふく豪勢な朝食を食べ終えたバーサーカー陣営とライダー陣営はロレンツォが淹れた玄米茶で一服し、部屋はほのぼのとした空気に包まれた。

 

 

「あ~・・・あ・・・なあ、大王に大王のマスターのウェイバー?」

 

「長い。ウェイバーでいいよ、もう・・・それで何?」

 

「そろそろ本題に入っていいか?」

 

「本題?・・・・・あ・・・!」

 

「忘れておったわ」

 

ここで漸く間桐邸に来た理由を思い出したウェイバーとライダーは炬燵にうずめた体を起こす。

 

 

「それじゃあ・・・俺が大王と同盟を締結する事に異存はないよな?」

 

「もちろんであろー」

 

「無論、余もないぞ」

 

「・・・僕もだ」

 

アキトの決定にドンは賛成の意を示す。かの征服王イスカンダルと共に戦える事にドンも割と喜んでいる。

ライダー達も前向きであった。ライダーはドンやアキトを気に入り、ウェイバーはある程度接していて、アキト達は悪いやつらではないと確信できたからだ。しかも、アキトはウェイバーが敵視しているケイネスに言い返してもくれた。それに歓迎で出してくれた料理も美味しかったので、ウェイバーからしてもアキトは好印象なイメージがある。

 

 

「・・・なら、コイツを用意していて良かったよ」

 

「「?」」

 

疑問符を浮かべる二人の前にアキトは赤い漆塗りの杯を置いた。

 

 

「バーサーカーよ・・・なんだこの小さな皿は?」

 

「おん。この国では同盟とかを結ぶ時にはこういう杯に酒を入れて、互いに飲み交わすのが礼節なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

「それは面白い!」

 

「どこのヤのつく職業の人だよ・・・」と雁夜は思ったが、ここで水を差せばアキトとライダーの機嫌を損ねると考え、心にとどめた。

 

並べられた漆喰の杯にシェルスが並々と清酒を注ぐ。その杯をアキトが最初に煽り、次にライダーが杯の清酒を煽る。

 

 

「クは―――ッ!」

 

「カカカ♪ これで同盟は正式に締結だな」

 

笑顔を浮かべるアキトだが、ライダーは何故か眉間に皺を寄せている。

 

 

「なんだよライダー、そんなしかめっ面して? 不服なのか?」

 

「いや、そうではないのだが・・・・・」

 

『『『?』』』

 

皆が疑問符を浮かべる中でライダーは持っていた杯を炬燵の上に置く。

 

 

「・・・バーサーカーよ」

 

「おん?」

 

「その・・・なんだ・・・量がちと少なくはないか?」

 

『『『・・・はい?』』』

 

ライダーの何とも言えない言葉にその場にいた全員が固まった。確かに大柄のライダーには漆喰の杯はミニチュアサイズに小さい。

 

 

「な、なに言ってんだよライダー?!」

 

「しょうがなかろう! 余は現界して、今日初めて酒を飲んだのだ。この量では到底足りぬわ!」

 

「だからってお前なぁ~~~!」

 

ライダーの言動にあきれ果てるウェイバー。

 

 

「・・・ククク・・・」

 

「フフフ・・・」

 

「シャーシャッシャッシャ♪」

 

『『『ハッハッハッハッハ♪』』』

 

「ん? 何だか知らぬが愉快よのぉ!」

 

「そういう事じゃないんだよバカ! あぁ、もう!!///」

 

二人のやり取りに皆は笑い合った。一人キョトンとしていた桜でさえ、薄ら笑みを浮かべる。そんな愉快に笑う皆にライダーもつられて笑い、ウェイバーはなんだか恥ずかしいのか顔を赤く染めた。

 

そうして皆で笑い合っているとアキトの耳に炸裂音が響いた。

 

 

「ッ!?」

 

「なにこの音・・・ッ?」

 

「なにやらただ亊ではなさそうだのぉ・・・」

 

全員がどこから聞こえたのかとキョロキョロしている。すると窓から煙が上がっているのが見えた。

 

 

「アレって・・・確か冬木教会の方向だよな?」

 

「聖杯戦争をする上で何か不具合でもあったんじゃあないか?」

 

恐らく魔術的な措置がされているあの煙も魔術師たちの目にしか映らないはずだ。それが冬木教会から打ち上げられたと言うことは、監督役がマスター達に伝えることがあることを意味する。

 

 

「でも、まともにサーヴァント同士で交戦したのは昨日が初めてだってのに気が早いんじゃないか?」

 

ウェイバーの疑問は勿論だ。聖杯戦争中に監督役が参加者たちを召集するのは異例中の異例。可能性として挙げられるのは、聖杯戦争のルールの追加か変更。

もしくは聖杯戦争そのものが破綻するような事態が発生したときくらいだ。

 

 

「ヤレヤレ・・・・・取りあえず酒盛りは中止だ。まったく、なんてナンセンスなタイミングだ」

 

一升瓶を持ちながら、アキトは首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





Fateで歴史を学ぶと世界史に強くなる!


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見解




とりあえずは聖杯問答の所までいくで候。

後、今回は会話が少ないで候。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

ヒュウゥ~と木枯らしが吹く冬木の寒空の下、一人の男がビルの屋上に立っている。

男は全身を真っ黒な衣服に身を包み、煙草を咥えている。

それに加えて男は不気味な雰囲気を漂わせている。その大きな特徴が男の『眼』であった。

男の眼は夜空のように淀みなく、泥のように澱んでいた。とても常人がしている眼ではない。

 

男の名は『衛宮 切嗣』。

今回の聖杯戦争において、御三家の一つであるアインツベルンから雇われた『魔術師』である。

彼はその道では名の知れた者であり、『魔術師殺し』なんて言う物騒な二つ名まで持っている『殺し屋』だ。

切嗣がそう呼ばれる所以は、彼の固有魔術が関係するのだが・・・・・今回は話しておくまい・・・

彼は吸って短くなった煙草を携帯灰皿に押し込めると新しい煙草に火を灯し、煙状になったニコチンとタールを飲み込んだ。そして、先日あった衝撃的な光景を顧みる。

 

 

 

 

 

自身のサーヴァントである金髪の騎士王と黒髪の一番槍との激しい斬り合い。そこに突如として現れた緋色の征服王。そして全てを見下し、底知れぬ力を持つ黄金の英雄王。

 

・・・だが、そんな逸脱した力を持つサーヴァントの中で切嗣が最も警戒しているサーヴァントがいる。

 

 

「カカカカカ♪」

 

突然現れた征服王の同盟の話に乗り、最初は正体も分からなかった英雄王の真名をいとも容易く明らかにするだけでなく、自らの最低限の力で撃退した正体不明(アンノウン)のサーヴァント『狂戦士(バーサーカー)』。

 

最初、切嗣は英雄王を撃退させた力と得物である『紅い槍』から槍のサーヴァントと同郷の『あの』英雄かと推測した。しかし・・・その推測はまんまと外れた。

聖杯戦争に参加し、サーヴァントのマスターとなった魔術師は他のサーヴァントの『保有スキル』を確認できる。・・・まぁ、個人差や魔術師としての熟練度の度合いはあるが・・・・・

 

そんな能力を使い切嗣は彼をスナイパーライフルのスコープ越しに見た。するとどうだろう・・・黒い靄が覆ったスキル欄の中に『吸血』という言葉がハッキリと確認できたのだ。

彼は驚いた。それもその筈だ、この『吸血』というスキルを持つ者は全てにおいて例外なく『死徒』と呼ばれる『吸血鬼』なのだから・・・・・

 

切嗣はすぐさまこのバーサーカーのマスターを探した。

この世界でも吸血鬼という存在は人に害を為す災厄にして最強の存在。まさに人類種の天敵中の天敵。

そんなサーヴァントを野放しにすると後々厄介な事になると切嗣は考え、手っ取り早く倒してしまう為にマスターを探す。

 

・・・・・案外早く見つかった。

バーサーカーのいる地点から300m離れたクレーンの物陰でマスターを見つけた。

そのマスターは見るからに重病人で、血反吐を吐きながら何かを叫んでいる。だが、切嗣はお構いなしにそのマスターの側頭部に十字を合わせる。そして、手慣れたように安全装置を外し、引き金に指をかける。

後は簡単。いつもの様に引き金を引き、雷管を発火させ、弾丸を銃口から発射し、標的の頭を腐った果実の様に吹き飛ばすだけ・・・・・・・・『だった』。

 

 

「ッ・・・!?」

 

そんな簡単で慣れた動作が、その時の切嗣には出来なかった。体が硬直し、息が乱れたのだ。こんな事は彼の殺し屋人生の中で『あの日』を除いて、初めてであった。まるで何者かに睨まれて、体を鎖でつながれた感覚である。

 

戸惑いを感じながら切嗣はゆっくりとスコープを横にずらした。

 

 

「・・・・・」

 

そこには無言のまま此方をギロリと見つめる赤毛の女がいたのだ。

 

ゴクリッ・・・と切嗣は息を飲んだ。

バーサーカーのマスターと切嗣がいる位置では800m近くも離れている。しかも夜である為に視界が悪い。にも関わらず、赤毛の女は此方を確実に目視している。認識している。

そして、驚くべき事にこの人物を彼の眼は『サーヴァント』と認識したのだ。

今まで数々の標的を沈黙させてきた切嗣の能面のような面にも少々焦りの色が出て来た。・・・・・が、そんな両者の緊張状態も英雄王の撤退で幕を閉じる。

 

英雄王が撤退した後、切嗣はその場を早々に離脱した。

離脱した切嗣はまず、自身の部下兼愛人である『久宇 舞弥』に通信をいれる。

 

 

「・・・舞弥・・・少し調べ直さないといけないことが出てきた」

 

『・・・どうかしたのですか?』

 

通信機から聞こえてくる冷淡な口調。しかし、どことなく焦燥感を漂わせる切嗣の声に舞弥は驚きつつも答える。

 

 

「あのバーサーカーとそのマスター・・・『間桐 雁夜』についてだ。付け焼刃の魔術師だと甘く見ていたが、どうやら違うらしい・・・」

 

「はい。了解しました」

 

切嗣は今後の方針を伝えるとインカムの電源を落とす。

 

バーサーカーのマスターが間桐雁夜であろうことは予想がついていた。即席のインスタント魔術師ならば、クラス別スキル『狂化』でステータスアップが出来るバーサーカーのクラスを選ぶであろうことも予想の内だ。

しかし、予想外だったのは召喚されたサーヴァントとその数だ。

 

『吸血鬼』の伝承を持つ英雄はいるにはいるが、その英雄とは全く違う能力を隠し持つバーサーカー。そもそも狂化のステータスを持つバーサーカーに会話が成り立つ事と二体ものサーヴァントを召喚できる魔術師なんて有り得ない。

 

あのサーヴァント達は一体何者なのか、そしてそのサーヴァント達を従えるマスター『間桐 雁夜』とは一体どんな人物なのだろうか?

 

 

「おっと・・・僕とした事が・・・・・」

 

切嗣はそんな思いを潰すように吸い終わった煙草をまた携帯灰皿に押し込め、今はまず目の前の仕事に従事しようと彼は鞄から重そうな電子基盤を取り出す。

基盤には沢山のスイッチがあり、それを次々と押していく。

最後に他のとは違う色をしたスイッチの蓋を開け、カチリと何の躊躇いもなくスイッチを押した。

 

 

 

・・・数秒後・・・

ランサーのマスター『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』の宿泊するホテル『冬木ハイアットホテル』が轟音と共に爆発し、倒壊した。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





Fateを見ると武器の知識が何故か身に付く!


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仮説と行動




Fateでは、あまり知られてない偉人も出るから知識が増える。

特に世界史からが多い。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・




 

 

 

グツグツグツ・・・・・

 

「『キャスター』の討伐・・・ねぇ・・・」

 

聖杯戦争の監督側から使い魔越しに伝えられた聖杯戦争のルール変更。

その内容を口ずさみながら作務衣姿のバーサーカーことアキトは鍋の準備をしている。土鍋の中身はトマトをふんだんに使ったトマト鍋だ。

 

 

「な~に悩んでるの?」

 

「おん?」

 

悩ましい顔で調理している彼に声をかけたのはシェルスだ。その手には中身が半分減ったビール瓶を持っている。

 

 

「悩んでる? 俺が悩んでるって?」

 

「あら、違うの?」

 

「・・・Si、その通りだよ。君は何でもわかるね」

 

「フフ♪ 何でもはわからないわ、わかる事だけよ」

 

そうして彼女はアキトに薄紅色の笑顔をむけた。

・・・・・こんなイチャつく二人は放っておいて、ルール変更の概要を説明しよう。

 

今回、討伐対象となったサーヴァントの名は『ジル・ド・レェ』。

かのヨーロッパ中世の『百年戦争』において、聖女『ジャンヌ・ダルク』と共に祖国フランスを救った英雄だ。

だが、救国の英雄であると同時に晩年は錬金術や魔術にのめり込み、何百人もの子供を惨殺した殺人鬼でもある。

そんな常軌を逸した状態で召喚された者が大人しくしている筈もなく、召喚されたと思われる日から連続児童誘拐殺人事件が多数発生していたのだ。

 

監督側が提示したルールは互いの陣営は一時休戦し、キャスターを一丸となって討伐せよという内容だった。

そして、見事キャスターを討ち取った時には、単独で成し遂げたなら達成者に。他者と共闘しての成果であれば事に当たった者達に全員集合時に一つずつ寄贈するとの事だ。

 

 

「そのルールなら私達は有利ね。もともと共闘してるんだから、私達の陣営に二画ずつ手に入ることになるわ」

 

「そうなんだけど・・・疑問があるんだ」

 

「え?」

 

アキトの疑問というのは『何故、監督側がキャスターの正体を知っているのか』だ。

『戦争の監督だからキャスターの正体を知っている』と言われれば、そこでおしまいだ。しかし、それに対してこの男は・・・・・

 

 

「それが引っかかる。ど~にもこ~にも引っかかる。例えれば、鯵の干物を食った時に小骨が喉に引っかかるみたいによぉ~」

 

納得していなかった。

 

 

「でもそんな事言ったって、どうしようもないじゃあないの」

 

「そこで、俺は自分を『納得』させる為に一つの『仮説』を立てた。聞きたい?」

 

「まあね」

 

シェルスの返事を聞くとアキトは口を三日月に歪めて意気揚々と答える。

 

 

「『アサシン』は実は生きていて、そのマスターが監督側にいる』」

 

「・・・Was(なんですって)?」

 

突拍子もないアキトの仮説にシェルスはつい母国語(ドイツ語)で反応した。

 

 

「・・・なんだよその反応・・・ちょっと傷ついちまうぜ」

 

「あ・・・ごめんごめん。でもアサシンはあの金ぴか王に倒されて、『脱落』したんじゃあないの?」

 

シェルスの言う通り、アサシンはあのサーヴァント集結戦前にアーチャーによって倒されている。ウェイバーもその状況を使い魔を通して見ていたという証言をアキトは聞いていた。

 

 

「それでもアサシンでないとキャスターの真名なんてわかりゃあしないだろう」

 

「そうだけど・・・」

 

アサシンはその名に相応しく、ステータスが他のサーヴァントに比べて低い代わりに『暗殺』や『偵察』を得意としている。その為にやろうと思えば、キャスターの真名を明らかにする事など造作もない。

 

 

「それに・・・それにだ」

 

「まだあるの?」

 

彼がこの『アサシン存命説』を確固たる物として決定づけた内容を彼女に話す。

 

 

「俺達にルール変更を伝えた監督側の責任者の名は・・・『言峰 璃正』だ」

 

「『言峰 璃正』?・・・・・え! 『言峰』・・・?!」

 

その責任者の名前を聞いて、シェルスの脳内で一人の人物が浮かび上がった。

 

 

「俺の推理が正しければ、『あの男』がアサシンのマスターだろう」

 

「アキト・・・それは・・・!」

 

「有り得ない話じゃあないぜ。実際に俺達はこの眼で、『青セイバー』や『AUO』を見ているんだからよぉ~・・・もし、この世界が『Stay night』の10年前の世界だとしたら・・・・・『いる』んじゃあないか?」

 

ニヤリとほくそ笑むアキトの言葉にシェルスのビールでのほろ酔い気分は月までぶっ飛んだように醒めた。

・・・・・しかし、ここで新たな疑問が浮かんだ。

 

 

「アキト・・・ならどうしてただでさえ表に出られないアサシンが、他の陣営に有利になるようなことをするの?」

 

「おん、それはな・・・・・あ・・・!」

 

アキトは問いかけの答えを切って、鍋を見つめた。

 

 

「ど、どうしたのアキト?」

 

「話に夢中で鍋が沸騰して来ちまった。これ以上、火を通したら美味しくなくなっちまうよ」

 

「あららッ!?」

 

シリアスから一変、あっけらかんとしたアキトにシェルスは体制を崩す。

そうしていると居間の方から雁夜がやって来た。

 

 

「美味そうな匂いだなバーサーカー」

 

「おん、マスター。鍋が出来たから持っていくよ。ライダー達はどうしてる?」

 

「あぁ・・・それなんだが・・・」

 

ルール変更を聞いた後、ライダー達はそのまま間桐家に泊まる流れとなり、居間でドン達と飲んでいた。

ライダーは現界後初めての酒を大いに喜び、馬のあったドンと大騒ぎしているのであった。

 

 

「酒を飲んでご機嫌になったライダーとドン達で収集がつかなくなっているよ」

 

「オイオイオイ・・・隣でウェイバーがため息つきながら怒鳴り散らしている光景が浮かぶぜ」

 

「まさにその通りだよ・・・フッ、こんなに騒がしのは初めてだ・・・」

 

困ったようにされど、どこか嬉しそうに雁夜は鼻息をたてる。

 

 

「そういえばカリヤ、桜はどうしたの? さっき部屋に呼びに行ったのだけれど?」

 

「桜ちゃんなら居間でロレンツォさんと遊んでいるよ。」

 

「そう。ホント、ロレンツォは手慣れてるわよね・・・」

 

「伊達に麻袋を被っている人じゃあないからな」

 

「それ・・・関係あるのか?」

 

「さて、飯にしようぜ。シェルス、ちゃっちゃとそのビール飲み干して、取り皿を頼む」

 

「Jaー。了解了解っと」

 

「あ・・・流した・・・」

 

雁夜の素朴な疑問をスルーした二人は完成した土鍋を持って居間へと運んで行った。

 

居間には一升瓶を持ち、ほろ酔い気分で高笑いをするライダー。彼と共に独特な声で笑うヤギ、もといドン。そんな彼らを眉間に皺を寄せてウェイバーは怒鳴るが、ライダーのデコピンで沈黙させられる。

その様子を炬燵にあたって見ながら、桜とロレンツォは折り紙を折っていた。

 

 

「馬鹿騒ぎもそこまでだ、野郎共!」

 

『『『!』』』

 

居間にいる全員が美味そうな匂いをたてる土鍋を持ったアキトに釘づけとなる。

 

 

「ちゃっちゃと片付けて、晩飯にするぞ!」

 

その声に皆が反応し、いそいそと酒瓶やら画用紙やらを片付けていく。どうやら、この男の作る料理に皆の胃袋は鷲掴みされているようだ。

あのライダーでさえ、アキトの料理にウキウキしている。

 

それから「いただきます!」の号令から始まった夕飯で、ライダーの「美味い、美味すぎるッ!」の歓声が響く。最初は鍋を警戒していたウェイバーも雁夜からの勧めで口に運び、ニンマリと頬を崩した。

眼にハイライトがない桜も料理を食べる事で、どこか表情が柔らかい。

 

土鍋の中身はドンドン無くなっていき、最後は汁だけになってしまう。

しかし、これで終わりではない。ここから『鍋の〆戦争』がはじまるのだ。

 

アキトは鍋の〆は『おじや』を考えていた。しかし、ドンは『うどん』だった。

最初、両者は牽制しあうように探りを入れていた。だが、ドンにそそのかされたライダーが『うどん派』陣営に加わった事で事態は急転する。

 

互いに互い『おじや』が良いか、『うどん』が良いかで言い争いになり、一歩も引かなくなってしまったのだ。

ドドド・・・と不穏な空気が立ち込めてくる。

雁夜とウェイバーがアワアワとしていると今までの様子を見ていた意外な人物が口を開けた。

 

 

「・・・おもちが良い」

 

『『『!?』』』

 

ゴゴゴ・・・と『スゴ味』を出して、発言したのは桜であった。

普通ならここで『おじや派』vs『うどん派』vs『おもち派』に別れるが、桜が言うならしょうがないとアキト達は諦め、ライダーは幼いながらも自分に意見した事を気に入り、このしょうもない戦いの勝者は桜となった。

 

それと・・・〆のモチは結構な好評であった。

 

 

 

「WRYyy・・・食った食った」

 

「うむ。実に美味なる料理であったぞ、バーサーカー」

 

夕飯が済むと皆にロレンツォ特製の昆布茶が振る舞われ、団欒とした時が流れる。

桜はお腹が一杯になったのか、シェルスの腕の中で寝息をたてている。

 

 

「くぅ・・・くぅ・・・」

 

「URyy、温いわ。炬燵と子供体温・・・・・あ! アキト、さっきの話なんだけど・・・」

 

「おん?」

 

「なんだなんだ?」

 

その団欒の時間にシェルスが話の続きを求める。

話の内容が気になったのか、ライダーやウェイバー、雁夜が話に食い付いて来る。そんな彼らにアキトは自分の立てた仮設『アサシン存命説』等を最初から聞かせた。

そして、話の続きである『何故、他の陣営に有利になるようなことをするのか?』という議題に入る。

 

 

「まぁ、これも俺の推測の域を出ない机上の空論なんだが・・・」

 

「勿体ぶらずにいうであろー」

 

「その通りだバーサーカー」

 

勿体ぶるアキトにドンとライダーがブーイングする。

 

 

「わかったわかった、言うよ。・・・・・恐らくだが、アサシンは他の陣営と裏で手を組んでいるんじゃあないのかな? そして、手を組んでいる陣営は・・・アーチャーだろう」

 

「「なんだって?!」」

 

彼の言葉にウェイバーは驚愕の色を、雁夜は憎しみの色を露わにする。

 

 

「なるほどのぉ・・・確かにアーチャーがアサシンと手を組んでおれば、アサシン脱落を偽装し、情報収集の斥候に使えるものな。いやはや、アーチャーのマスターは何と頭の回るヤツよのぉ!」

 

「バカ! 感心してる場合かよ! バーサーカーの言う事が本当なら、聖杯戦争の監督役とこの土地の管理者が協力し合ってるってことになるんだぞッ!」

 

ウェイバーの言う通り、アキトの仮説が立証されれば、この戦争は一種の出来レースに近い。監督役とは、言うなれば聖杯戦争の審判役のようなものだ。そんな監督役が味方にいるなんて、アーチャー陣営が有利にも程があるのだ。

 

 

「しかも、アサシンが生きてるって事はキャスターの工房の場所やそのマスターの顔と名前も知っているって事になるだろうよ」

 

「そんな・・・」

 

自分達が戦っている間にアサシンは気兼ねなく情報収集ができるのだ。もうキャスターの情報はほとんどすべて割り出していると考えた方がいい。そしてそれは、自分たちがアサシンに監視されているということにもなる。

キャスター討伐に目がいって、背後から暗殺されたって不思議ではない。

 

 

「・・・バーサーカー・・・?」

 

「おん?」

 

「カリヤさん・・・?」

 

アキトに声をかけたのは苦虫を噛み潰したような顔をする雁夜であった。顔にはヒビが入って来ている。

 

 

「お前の話で、時臣が俺達よりも有利な事はわかった・・・でもどうして・・・・・そこまで分かってるんだったら時臣のヤツはなんで静観なんてしてるんだよ? 何の関係もない子供たちが殺されてるんだぞ。アサシンでも差し向ければやれるだろ?」

 

静かな怒りを顕にしながら、アキトに問いを投げかける。

 

 

「んなもん決まってるだろう。隠していたアサシンを出したら、他のヤツらにバレちまうからだよ」

 

「それでも・・・アイツは冬木の管理者なんだぞ・・・!」

 

フツフツと湧き上がる苛立ちに拳を振るわせる雁夜に対して、アキトは真剣な面持ちで答える。

 

 

「なぁマスター。アンタが敵視している遠坂 時臣ってヤツは・・・目的の為なら手段を択ばない『魔術師』なんだぜ?」

 

「・・・ッ・・・・・糞・・・!」

 

「カリヤさん・・・」

 

雁夜は魔術師のこういうところが気に食わない。魔術のためなら一般人に犠牲が出ようと構わないとするその精神が理解できない。

 

 

「だが、最初に言ったようにこれはあくまで仮説だ。気にするような事じゃあない」

 

「でも・・・」

 

「カリヤよ」

 

苛立ちを隠せない雁夜にドンが声をかけた。ドンは真っすぐに雁夜を見つめる。

 

 

「ドン・・・?」

 

「お主が不安や怒りに駆られる心中はわかる。だからこそ、その力でキャスターとやらを倒すであろー」

 

「ドン・・・!」

 

「フッ、お主にはこの『ドン・ヴァレンティーノ』が率いるヴァレンティーノファミリーがついているであろーッ!」

 

「ドンっ!」

 

ドンに手を握られた雁夜は不思議と落ち着いていく。

これもドンが持つスキルのおかげなのか、それとも単に雁夜がドンにキャラを染められているだけなのか・・・そんな事は今はどうでもいい。

 

 

「うむ、そうと決まればキャスターに対しての戦略を練ろうではないか。案がある者はおるか?」

 

「それなんだけど・・・僕からいいかな?」

 

「おん?」

 

ライダーの言葉にウェイバーが躊躇いがちに手を上げた。

 

 

「どうした小僧? 貴様から何か言いだすとは珍しいではないか」

 

皆は珍しそうにウェイバーの声に耳を傾ける。

 

 

「もしかしたら・・・キャスターの工房がどこにあるのか分かるかもしれない」

 

『『『・・・なにィイッ!!?』』』

 

「うわッ!?」

 

彼の言葉に皆が体を前のめりにする。アキトやライダーはウェイバーの眼前まで顔を突き出し、肩を掴む。

 

 

「本当か小僧!?」

 

「ホントにマジでtruly?!!」

 

「本当だよ! だから顔を近づけるな! 怖いからッ!!」

 

キャスターの根城が分かるのなら、それはもう大金星どころの話ではない。だから全員が驚いたのだが、そこまで反応されるとは思っていなかったウェイバーは居心地が悪そうに話を続ける。

 

 

「監督役が言っていただろ、『キャスターは魔術の痕跡を平然と残している』ってさ。だからその魔術の痕跡をたどっていけば、キャスターの工房に繋がってるはずだ」

 

『『『おお~~~!』』』

 

「い、いや・・・そこまで・・・・・///」

 

ウェイバーの話に感嘆の声を上げると彼は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

「それで、どうやって探すんですか?」

 

「一番簡単なのは川の水を調べることかな。この街はど真ん中に流水があるんだし、本当に何も細工していないならそれを調べるだけで大まかな場所は特定できる」

 

『『『おおぉ~~~!』』』

 

「ま、魔術としては基礎的なことだよ。褒められるようなことじゃない///」

 

慣れない素直な称賛の声にウェイバーの顔は益々赤みを帯びていく。

 

 

「ならば善は急げだ。『朧』!」

 

『御意に』

 

「え、ちょッ、バーサーカー?! てか、その声はどこから・・・?」

 

炬燵から立ち上がり、アキトは作務衣からIS『朧』を纏う。

 

 

「そうだなバーサーカーよ! 兵は迅速を尊ぶと言うしのお!!」

 

ライダーも呼応するように緋色の礼装に身を包む。

 

 

「これから夜へ繰り出すぜッ! 行くぞ、マスターにウェイバー!!」

 

「えぇッ!? ぼ、僕もなのか?!!」

 

「やれやれ・・・こうなったら止まらないな・・・」

 

ウェイバーは驚くが、雁夜はため息を漏らしながら頷く。

 

 

「大王、足の方は頼んだぜ!」

 

「任せおけ!」

 

ライダーは居間に通じる縁側先の庭に出ると腰に差していた『キュプリオトの剣』で空間を斬る。その斬られた空間の裂けめから猛々しい二頭の牛に牽かれた戦車が現れた。

 

 

「『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』ッッ!!!」

 

「それじゃあ・・・行ってきまぁ―――す!!」

 

ライダーとアキトはそれぞれ担いだ雁夜とウェイバー共に戦車に乗ると夜空へと駆けて行った。

 

 

 

「うわぁあぁあああああ――――――ッ!!!」

 

ウェイバーの絶叫が夜空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





Fateで知識を深めよう!


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相対




魔術師と魔導士の違いがわからないでござる。

どちらが優れているであろうか。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「お・・・ヴぉえぉぇえッ!」

 

「おーい、大丈夫かマスター?」

 

夜もトップリとふけた空の下、パーカーを着た白髪の男がゲロを地面にぶちまけていた。その背中を鎧を着た男がさする。

 

 

「なんだだらしない。この程度で根を上げるとは肝が小さいのぅ・・・」

 

吐く男の横で緋色のマントを纏った大男がため息を漏らす。

 

 

「あのなぁライダー! カリヤさんはバーサーカーの話だと重病人なんだぞ! そんな人があんな速度で上下左右に振り回されたら、あんな状態になるだろうさ!」

 

大男の隣ではおかっぱ頭の少年が怒鳴っている。

ライダーと呼ばれた男は「ヤレヤレ」とため息をついて、首を横に振る。その態度が気に入らないのか、少年はさらに声を張り上げる。

 

 

「お、俺なら・・・もう大丈夫だよウェイバー君・・・」

 

「でもカリヤさん!」

 

「いやはや・・・まさか、大王があそこまで飛ばすとは思いもしなかったぜ」

 

「元はと言えばお前のせいだからなバーサーカー!」

 

「おん?」

 

少年『ウェイバー』の矛先は吐く男『雁夜』の背中をさする男『アキト』に移った。

 

同盟締結の祝を兼ねた夕食後、ウェイバーの発言でキャスターの居場所を追う事となった四人はまず、河口からすくい上げた水を調べた。

 

そこからわかったキャスターの魔力を辿り、冬木市にある森へと進んだのだが・・・

 

 

「・・・なるほど・・・ウェイバー君はこの速度をいつも耐えていたのか。すごいね」

 

「い、いや・・・それほどでも」

 

夕食時に飲酒をしてすぐだった為にライダーはいつも以上に戦車を飛ばした。ライダーの操る戦車の速度に多少は慣れているウェイバーでも少し気分が悪くなる。

そんな戦車に初めて乗った『耐久:E』の雁夜に耐えられる訳もなく。案の定、目的地についた瞬間、地面に胃の内容物をぶちまけた。

 

 

「いや~、スマンスマン。でも結構楽しかったぜ? ジェットコースターみたいでよ~」

 

「お前は自分のマスターを何だと思っているんだ、バカッ!!」

 

歯止めが利かずに怒るウェイバーにアキトはケラケラと笑って雁夜に謝った。

 

 

「俺の事はいいから・・・・・それより本当にキャスターはこの森に入って行ったのか?」

 

口をパーカーの袖で拭いながら、雁夜は疑問を投げかける。彼らの目の前にはRPGゲームに出てくるような異様な雰囲気を漂わせる真っ暗な森が存在感を放っている。

 

 

「間違いなく入っていったろうよ。何せ、野郎の魔力が尾を引いて垂れているからな」

 

キャスターはもう森に入って行ったと断言するアキトの言葉に雁夜は身構える。

 

 

「しかし、妙よなぁ」

 

「何がだよライダー?」

 

ライダーが顎に蓄えた髭を撫でながら考え込む。

 

 

「ここはアインツベルンの森、つまりはセイバーの陣営のすぐそばだ。何故、キャスターはそんな場所に入っていったのであろうかのぉ?」

 

ライダーの疑問は勿論である。

ここは始まりの御三家が一つ『アインツベルン家』の所有する森の入り口なのだから。そんな場所にセイバーよりもステータスの劣るキャスターが侵入した事にライダーは疑問を持つ。

 

 

「そんなのキャスター自身でないとわかる訳ないだろう」

 

「う~む、それもそうよなぁ・・・」

 

ウェイバーのそっけない返答にライダーは疑問を心底に沈め、気を引き締めた。

 

 

「ここからは歩いていくぞ。大王の戦車じゃ移動速度が速すぎて、キャスターを見失いかねないからな」

 

「あい判った。さあ行くぞ坊主にカリヤ、へばっている暇はないぞ」

 

「うわっ!? コラ! 僕を担ぎ上げるな! 降ろせッテ!」

 

「手を貸そうかマスター?」

 

「いや、大丈夫だ・・・・・おぇ・・・」

 

言うや否やライダーはウェイバーを肩に担ぎながら森へと直進していく。そのあまりの扱いにウェイバーも抗議するがどこ吹く風と豪快に笑いながら歩みを止めないライダー。

そんな二人の後をアキトと雁夜はついていく。

 

 

 

しばらく進んで行くと何やらアキトが感づき、上に向かって臭いを嗅ぎ始めた。

 

 

「・・・?。なにやってんだバーサーカー?」

 

「大王・・・!」

 

「応、バーサーカー。何やら不穏な予感がする。急ぐぞ」

 

自身のスキルと長年の勘に何かを感じ取った一団は走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

アキト達がアインツベルンの森に入った同時刻・・・

 

謎の一団が真夜中の森を歩いていた。

先頭を歩くのはどうしようもない異常さを漂わせるカエルのような顔をしたギョロ目男。

その後ろを10歳にも満たない子供達が夢遊病患者の様にフラフラと追従して行く。

 

暫く歩くと男は立ち止まり、ある方向にニンマリと下卑た笑顔を浮かべる。目線の先にはセイバーの本拠であるアインツベルン城があった。

その方向を見つめながら、男は丁寧に跪くように一礼すると大きく歪めた口を開く。

 

 

「昨夜の約定どおり、このジル・ド・レェ罷り越してございます。我が麗しの聖処女『ジャンヌ』に今一度お目通りを願いたい」

 

どうやらこの男がキャスター『ジル・ド・レェ』で間違いない。が、何故キャスターはセイバーを『ジャンヌ』と呼ぶのだろうか。

それはキャスターはここに来る前日、セイバーと会合していたのだ。

その時、キャスターはセイバーに生前共に戦った麗しの聖女『ジャンヌ・ダルク』の面影を見る。

別にセイバーがジャンヌ・ダルクの生まれ変わりだとか、前世からの因縁だとか、そんなのではなく、セイバーとジャンヌ・ダルクは全くの別人だ。

しかし、キャスターの記憶の中にあるジャンヌ・ダルクの顔とセイバーの顔は『似ていた』。たったそれだけの事で『精神を病んだ』状態で召喚されたキャスターは歓喜した。

『また彼女に会えた。恋に焦がれ、愛に愛した自分の聖女に再会できた。これこそ運命である』と自らに都合の良いように認識した。ある意味『狂っている』。

 

だが勿論、自身がキャスターの喜ぶジャンヌではない事をセイバーは一字一句間違いなく、冷静に懇切丁寧に説明し、自分がかの名高きブリテンの王『アーサー王』である事を明かした。

されど、そんな事を重度の精神異常者であるキャスターが認める筈もなく、セイバーをジャンヌ・ダルクだと認識したまま現在に至る。

 

 

「あやつ・・・・・!」

 

そんな事があった翌日に訪ねて来たら、普通は罠を警戒して出てこない。というか会いたくない。

しかし、それはキャスター単体で来た場合のみだ。

 

 

「・・・まぁ取次ぎはごゆるりと・・・・・私も気長に待たせていただくつもりで、それなりの準備をして参りましたからね。何、他愛もない遊戯なのですが・・・少々庭の隅をお借りしますよ」

 

どのクラスよりも精神は狂ってはいても元々は祖国を救い、元帥までのぼりつめた英雄だ。セイバーを引きずり出す策がある。

それが魔術で連れて来た子供達だ。

 

パチンとキザに指を鳴らすキャスター。その音と共に子供たちの虚ろな目が見開かれた。魔術が解けた子供たちは、何が起こっているのか分からない様子であたりを見回し始める。

そんな困惑している子供たちにニッコリと笑い、キャスターは告げる。

 

 

「さあさあ子供達? 鬼ごっこを始めますよ。ルールは簡単です。この私から逃げ切れば良いのです。さもなくば・・・・・」

 

キャスターは近くにいた子供の頭に軽く手を置いた。

 

 

「クふふ・・・」

 

これから起こる楽しい楽しい自分の『惨劇(趣味)』を思うと抑えきれそうにない狂笑を浮かべ、その手に魔力を込める。

あとは、自分の手に収まった幼子の頭を豆腐の様に潰すだけ・・・『だった』。

 

 

「無駄ァッ!」

 

「!」

 

短い雄叫びと同時に刃渡り15cmのナイフがキャスターの腕に突き刺さった!

 

 

「ッッ!?? ギャぁあアアァ―――ッ!!!」

 

鮮血が噴き出、物静かな森にキャスターの悲痛な叫びが響きわたる。

 

 

「か、彼は・・・!」

 

千里眼でキャスターを見ていたアイリスフィールは、後ろにいた『彼』を認識して驚いた。別の場所から見ていたセイバーも驚く。

 

 

「だ、誰だ?!」

 

キャスターは血が滴り落ちる腕を押さえながら、闇夜の森を睨む。

 

┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"┣"・・・

 

「オイ・・・テメェ・・・!」

 

闇夜から現れたのは眼を真っ赤にギラつかせ、歯をギリギリと噛み締め・・・

 

 

「今・・・子供に何しようとしやがった? ア゛ぁ゛んン?!!」

 

キャスターを射殺す様に睨むアキトであった。

 

 

「バ、バーサーカー・・・?」

 

「ど、どうしたんだよバーサーカー?」

 

「ほう・・・」

 

後ろについていた雁夜とウェイバーが彼の変貌ぶりに表情を強張せた。ライダーだけはアキトの発する濃厚な殺気に感心する。

 

 

「な、なんなのだ貴様は!?」

 

「イカれた魔術師に我が名を教える必要なしッ!!」

 

突然の乱入者に戸惑うキャスターだが、お構いなしにアキトは突っ込んでいく。

 

 

「ひィッ!?」

 

キャスターは怯みながらも自分の近くで尻餅をついた二人の子供を人質にする為に両手を伸ばす。

 

 

「させるかボケェエ!」

 

「グべぽッッ!!!」

 

だがその前にグシャリとキャスターの頬にアキトの拳骨がクリーンヒットする。

キャスターは殴られた衝撃でくるくると宙を舞い、2~3m吹き飛ぶ。

 

 

「・・・大丈夫かい?」

 

殴った後に彼は子供達に顔を向ける。

子供達は脅えきった目で見るが、彼らを安心させてやる時間もないと感じたアキトは、自らのスキル『魔眼;D+』をかける。

 

 

「いいかい? 俺は君達の味方だ。これから君達を逃がすから、あの白い頭のお兄ちゃんの所へ走るんだ。いいね?」

 

子供達は一斉に頷き、雁夜の方へと駆けていく。

 

 

「マスター! その子達を頼めるかい?」

 

「頼むって・・・」

 

「お前はどうするつもりなんだよバーサーカー?!」

 

戸惑う雁夜とウェイバーにアキトはニヤリと口を歪める。

 

 

「俺はこのペドフィリア野郎の脳髄を刺し潰す。大王、ここは一応敵陣だ。ここまで乗って来た戦車で撤退しちゃあくれないかい?」

 

「しょうがないのぉ。ならば、帰ったらあの出汁巻き卵を作れよ」

 

「了解、了解!」

 

ライダーが彼の言葉を了承する。そうしていると・・・

 

 

「き・・・貴゛ざまぁあ―――!」

 

殴られて吹き飛んだキャスターが怨嗟の叫びを上げながらゆっくりと立ち上がった。

 

 

「おやおや・・・ヤッコさん、もうお目覚めかい?」

 

「バーサーカー! 絶対に勝てよ!!」

 

「おん。わかってるよマスター」

 

雁夜の声援に振り向かずに答えるとライダー達は戦車に子供達を乗せると轟雷と共に空の彼方へと消えていった。

 

 

「・・・さてと・・・」

 

アキトは目の前で殴られた頬を魔術で治癒するキャスターを再度睨む。

一方のキャスターは殴られた事よりも供物である子供達を奪われた事に激昂し、ギリギリと歯軋りをたてながら叫ぶ。

 

 

 

「貴様ァ・・・一体何者だ?! 我が愛しの聖女を呼び出す儀式を無きものにするとはァア!!」

 

「テンメェ、頭脳がマヌケかぁ? さっきも言ったろ『イカれた魔術師に我が名を教える必要なし』・・・とな!」

 

「言わせておけば・・・・・この凡夫がぁあ―――ッ!!!」

 

静かな森は一変して、殺気に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





Fateだと魔法>魔導>魔術なんだろうか?


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対魔術師




『とある魔術』だと『魔導士>魔術師』なんだよな~・・・

今回、吸血描写がありますが・・・お気になさらず。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「WRYyy―――ッ!」

 

「ぬぅうう!!」

 

アインツベルンの森の中、アキトとキャスターはしのぎを削っていた。

 

最初、アキトは自身の得意とする近接戦闘に持っていこうと距離を詰めよう近づく。しかし、キャスターは先程頬を殴られている為に彼から距離を取る。

アキトが一歩寄れば、キャスターは二歩下がる。アキトが三歩寄れば、キャスターは六歩下がる。

これでは収拾がつかず、逃げられてしまうと感じたアキトは近距離戦闘から中距離戦闘であるナイフ投擲に移行した。

 

まず彼は、キャスターの足を止めようと足に向かって力一杯、されど精確にナイフを投げる。手から放れたナイフはおおよそ人の目では確認できない速度で飛び、キャスターの左くるぶしに突き刺さる。

 

 

「うギャぁあ―――ッ!!」

 

またしても悲痛な叫びを上げるキャスターに気を良くしたアキトは、次々とナイフを投げていく。

 

 

「この凡夫風情が、よくもぉお――!」

 

だが、キャスターとてこのままやられる人物ではない。

キャスターはくるぶしから流れる血を周りにまき散らし、懐から人の皮で表紙作られた本を取り出す。その本を開き、一節の呪文を唱えると地面に散らされた血の一滴一滴が何倍も膨れ上がり、形を作っていく。

形作られたモノは、イカのようなタコのような触手が何本も生えており、触手の根元にはイソギンチャクのような不揃いな歯の生えた口がパックリと開いている。その得体の知れない生物が遮蔽物となり、キャスターにナイフが届かない。

 

 

「オイオイオイオイオイ・・・気持ち悪い代物が出て来たなぁ、おい!」

 

『『名状し難き者』・・・ですね。『海魔』なんて名はいかがでしょう?』

 

「『這いよれ』なんとかじゃあないんだからよ・・・」

 

朧の言葉にため息混じりの返答をしながらアキトはナイフを仕舞い、太刀を鞘から抜いて構える。

 

 

「これは我が盟友により託された私の宝具。プレラーティの遺したこの魔道書により、私はこのように魔の軍団を従えることができるようになったのです。凡夫風情には少々、お高いですがね・・・!」

 

アキトに刺された傷口を治癒すると一斉に海魔をけしかけると彼に向って人間の腕ほどの太さのそれが、拘束しようと襲い掛かる。

 

 

「その凡夫風情に手負ったのは、どこのどいつだよ糞ッタレのギョロ目野郎ッ!」

 

アキトは放送禁止ギリギリの用語を並べた悪態をつきながら、自らに襲い掛かる海魔を切断し断裁する。

二体、三体と斬り伏せていくが、倒された先からそれ以上の数の海魔が次々と召喚されていく。

 

 

『GisAyaAッ!』

 

「畜生ッ、これじゃあキリがねぇぞ!」

 

『王よ、私から進言したい事が』

 

「おん?!」

 

不意に朧が喋り始める。アキトはそれを無下にはせずに聞いていく。

 

 

『私の予想と算出データだと海魔は、伯の持っている本がある限り無限に湧き続けると仮定。しかもあれほどに海魔を無尽蔵に召喚できるという事は・・・』

 

「あの本自体が魔力の発生源つー訳だな」

 

『Si。そうです』

 

朧の言う通り、この異形の怪物の群れはあの本がある限り無限に湧き続けることだろう。それにあれほどの海魔を召喚できるという事は、あの書物そのものが魔力炉としての機能を持っていると考えた方が自然だ。

悪い事につまりそれは―――

 

 

「あのギョロ目野郎には『魔力切れ』ってモノが存在しない訳ね、朧ちゃん?」

 

『・・・Si』

 

「OH・・・ド畜生が・・・!」

 

あの怪物を何十、何百と殺したとしても、その残骸から新たな海魔をすぐさま呼び出すだろう。戦力として一人のアキトには圧倒的に不利である。

 

 

「(打開策はあるにはあるが・・・『アレ』、魔力消費が激しいんだよな~。ッチ、こんな事になんなら『血液パック』の一つでも飲んでくるべきだった!)」

 

「さあ、貴方に勝ち目はありません。大人しく我が魔術の供物となりなさい!」

 

心の中で舌打ちするアキトにキャスターは勝ち誇ったように宣告を告げる。

その宣告を聞いたアキトは構えていた刀の刃を下に向けた。

 

 

『王ッ!?』

 

「ほほう・・・」

 

傍から見れば、彼は諦めたようにみえ、キャスターは勝利を確信したように嫌な笑みを浮かべる。

 

 

「なぁ・・・ジル・ド・レェ伯?」

 

アキトがキャスターの真名を呼ぶ。キャスターは笑いを堪えながら「なんですか」と答える。

 

 

「アンタを完全に舐めていた。『キャスター』なんていう看板だけで、アンタを過小評価していたよ。いやはや、申訳ない」

 

彼は深々と首を垂れる。

まさか、先程まで戦っていた敵が自分に頭を下げるとは思っていなっかったキャスターは、少し驚く。しかしキャスターは命乞いの為に自分に謝っているのかと思い、さらに口を歪めた。

 

 

「クふふ・・・良いでしょう。では、貴方が地面に頭をこすりつけながら泣いて『助けてください』と言ったのなら・・・今までの事は水に流してあげましょう。そして、私と共にこの聖杯戦争に挑みましょう」

 

勿論、キャスターに助けるつもりなんてさらさらない。地面に頭をこすりつけた瞬間に海魔をけしかけるつもりだ。

それを聞いたアキトは頭を上げ、口を開く。

 

 

「キャスター・・・頭に乗るんじゃあないッ!!」

 

「!?」

 

その眼は、到底諦めた人物がする目ではなかった。

地面に向けていた刃を突きの型で平行に向け、睨みをきかせる。

 

 

「さっき謝ったのは、俺がアンタにふざけた気持ちで刃を向けていたからだ。それで謝ったんだ。自分のふざけた気持ちを改める為によ~。だから決して・・・決して勝負を諦めた訳じゃあないぞ!」

 

「ならば、勝てるというのですか? この圧倒的に不利な状況を覆せるとでも?!」

 

そう疑問を投げかけるキャスターにアキトはニヤリとほくそ笑む。なんとも悪戯っぽい笑みである。

 

 

「俺は今から『とっておきの策』を使う」

 

「『とっておきの策』?」

 

この状況を覆せる策とは、いかほどのものなのか。キャスターはゴクリと唾を飲む。

 

 

「その『とっておき』にはこの足を使う」

 

「な、なにを・・・・・なにをしようというのですか・・・!?」

 

アキトは自分の足を叩くと再度キャスターを睨みつける。

両者の間に沈黙が流れる。海魔達も周りに流れはじめたシリアスな雰囲気に体を強張せる。

 

そして・・・・・

 

 

「逃げるんだよォオ!!!」

 

「な、なに―――ッ!?」

 

アキトは短く息を吸い込むと体を急反転。そのまま走り出した!

 

 

「しかし、逃げ場はもう塞いであります! 貴方に逃げ場は!」

 

キャスターはこんな事もあろうかと森の外側への道に海魔の軍勢を配置して、防壁を築いていた。

 

 

「カカッ! なら一枚俺の方が上手だったか・・・な―――ッ!」

 

「なッ!?」

 

だがアキトは森の『外』ではなく、さらに森の『中』へと走り出したのだ。

その事に気づいたキャスターは慌てて海魔達を襲い掛からせるが、もう遅い。彼はキャスターに背を向け、全力で森の奥へと駆け出していく。

 

 

『やはりこうなりましたか・・・ヤレヤレ』

 

「うっせい朧! 戦略的撤退だ、戦略的! 命あっての物種よ~!」

 

AIなのに人間臭くため息を漏らす朧にアキトは軽快に喋って走る。

背後から彼を捕らえようとする海魔達が迫りくる。

それをナイフで撃退したり、刀で斬り裂く。左腕の『輻射波動』を使いたいが、エネルギーがまだ溜まっていない。

そうこうしている内にどんどん森の奥へと突き進む。

 

 

「森の反対側から逃げ出そうとしても、我が軍勢はこうしている間に数を増やして森の周りを取り囲んでいっている! 奥に行けば行くほど貴方は追い詰められているですぞ! 何が狙いなのですか貴方は?!」

 

キャスターの言う通り、すでに化け物たちはその数をどんどん増やしていっている。まさに多勢に無勢、しかも中心に行く程にアキトを包囲する数は少なく済む。

だというのに、窮地に立たされていくにも拘らず、彼はなおも森の奥へと駆け抜けていく。

このままいけば、数の暴力で押しつぶせるキャスターの方が有利だというのに、どうして彼は愚直にも奥の方へと駆け抜けていくのか。何か他の策があるのか?

 

 

『!。王よ、前方に障壁を確認!』

 

「やっとかよ・・・広すぎるだろ、この森・・・」

 

アキトの前に突如として壁が現れた。それ以上先へと進むことのできない彼はは立ち止まる。立ち止まるしかなくなる。

やっとアキトを追い詰められたキャスターは、その姿を見て余裕綽綽と嘲りをかける。

 

 

「さあ、どうしますか? これで正真正銘『袋の鼠』と言うやつです。私の軍勢が包囲するまでもなく、このような障害物に退路を阻まれるとは運がないですねぇ」

 

キャスターはクツクツと笑うが、アキトは「ふぅ」と息を吐いて壁に体をよからせる。

 

 

「・・・貴方、自分の状況がわかっているのですか? 今の貴方の状況は正真正銘『袋の鼠』と言うやつです。私の軍勢が包囲するまでもなく、このような障害物に退路を阻まれています。・・・なのに・・・なのに何故・・・そんな『余裕』そうな顔をしているのですか?!!」

 

アキトは不利な状況にも関わらず、ニタニタとキャスターに向けて笑みをこぼしているのだ。

キャスターは、この笑みが気に入らなかった。「まだ、俺はお前より上」だと言わんばかりのこの笑みが気に入らなかった。

だからこそ忘れてはならなかった。目の前の笑う男に気を取られ、最初の目的をキャスターはすっかり忘れていた。『何のためにこの森に来たのか』を。

 

 

「まあ、良いでしょう・・・これで貴方との鬼ごっこも終わりです!」

 

キャスターは宝具である本を開き、臨戦態勢をとる。それを待ってましたとばかりにこの男は口を歪めた。

 

 

「キャスター、次のお前の台詞は・・・『思い知ったか、この凡夫風情が』・・・だ」

 

「思い知ったか、この凡夫風情がッ!!―――はぁッ?」

 

斬ッッッ!

 

その瞬間、二人を取り囲んでいた海魔達が、一瞬で斬り倒されてしまった。

 

 

「―――えっ?」

 

「あ~ヒヤヒヤした。ちっとばっか、出てくるのが遅いんじゃあないのか?」

 

「む・・・感心しませんね。助けてあげたというのに」

 

「悪い悪い。助かったよ」

 

海魔の吹き飛んだ跡に一人の少女が立っていた。金の髪を後ろで束ね、青と銀をベースにした甲冑を纏い、見えざる剣を構えた少女が。

彼女はキャスターから視線をそらさずにアキトに話しかける。

 

 

「あの無垢なる子供たちを救ってくれたことには感謝しますが、先程の貴方の物言いは釈然としませんね」

 

「それは悪かったて言ってるだろう? それに俺はこんなのでも感謝しているんだぜ? 『セイバー』」

 

海魔達ををその一太刀で屠ったのは、目の前の壁であるアインツベルン城から飛び出してきたセイバーだった。

あのまま城から離れた場所で戦っていてもこうしてセイバーが助けに来る事はなかっただろう。

いや、セイバーならば助けに来てくれたかもしれない。しかし、そのマスターがセイバーのような高潔な精神をしているとは限らない。

マスターからすれば、面倒な陣営が勝手につぶれ合ってくれているのだ。共倒れを待つに違いない。誰だってそうする。彼だってそうする。

 

だが、その脅威が自分の傍で起こったらどうなるか。

キャスターは見てのとおり、本があれば無限に異形の怪物を呼び出せる。セイバーの剣ならば敵ではないが、マスターはあくまでただの人間だ。この数の暴力には勝てるわけがない。

今やキャスターは、誰かさんのせいでこの城を中心に海魔で包囲網を作っている。白兵戦に優れたセイバーと言えど、片手だけでマスターをかばいながら戦うのは不可能だ。

 

 

「またまた、やらせて頂きましたァア~ん!」

 

だからこそ、このタイミングならばセイバーはアキトの援軍として来てくれる。彼女のマスターにとっても、キャスターをこのままのさばらせるわけにはいかないのだから。

 

 

「おぉぉジャンヌ! なんと気高いなんと雄々しい聖処女よ! 我が愛にて穢れよっ!我が愛にて堕ちよっ!聖なる乙女よっ!」

 

セイバーの威圧にあてられたキャスターは恐怖も動揺もなく、ただひたすら恍惚の笑みを浮かべて涙を流す。相変わらず感情の起伏の差が激しいサーヴァントだ。

それに呼応してか海魔達がセイバーらに殺到する。

 

 

「はぁああッ!!」

 

「WRYYYYYッ!」

 

その海魔達を次々にバッタバッタと蹴散らしていく。まさにセイバー無双という感じで。

 

 

「く・・・分かってはいたのですが、なんとも不毛な戦いですね・・・ッ!」

 

「アンタの彼氏、強すぎだろ」

 

「なッ!? 違います!!」

 

「おお! ジャンヌぅう―――ッ!」

 

されど倒しても倒してもキリはない。

無双と言ってもあのゲームの様にはいかない。相手の兵力は桁が違う。千でも万でも召喚できる無限の軍勢では、いずれはこちら側が飲まれてしまう。

だが、明らかに先ほどよりはこちらが優勢ではある。ただ、優勢と言うだけで相手を倒すには至らない。

しかもその優劣も一時的なもの、時間が経つにつれてひっくり返されてしまうのは目に見えている。

 

 

「セイバー! あの野郎はあの本がある限りこの魍魎達を召喚し続けられる。このままだとか~な~りマズイ」

 

背中合わせにアキトはセイバーに語り掛ける。

 

 

「ええ・・・実際にその厄介さが身にしみて分かります。バーサーカー、貴方に勝算の策はありますか?」

 

「あるにはある」

 

「! ならそれを!」

 

「だが使えない」

 

「どういう事ですか?」

 

この海魔共に囲まれた状況だからこそ覆せる宝具をアキトは持っている。しかし、それには魔力がいる。

 

 

「でも、ただの偵察気分で来たものだから魔力をそんなに持ってない!」

 

「バカですか貴方は?! 英霊たるもの常に不足の事態に―――」

 

「わかってるよ! 嫌と言う程な! でも今そんな事言ってもしょうがないだろう!!」

 

喚く二人に海魔の猛攻が続く。徐々に徐々にだが、二人は追い詰められていく。このままでは惨劇はまぬがれない。

 

 

「ハァ、ハァ・・・しょうがありませんね・・・バーサーカー!」

 

「おん、どうしたよセイバー?」

 

「私から魔力を受け取りなさい」

 

「・・・・・ハぁあアアァ?!!」

 

セイバーからの提案にアキトは心底驚嘆する。

 

 

「アンタ、正気かよセイバー?!!」

 

「無論です」

 

セイバーはこの時、ある事を思い出していた。

あのコミュニケーションをとってくれない自分のマスターからアイリスフィールを通して、アキトのスキルを聞いていたのだ。

 

 

「『吸血』と言いましたね、貴方のスキルは。それで私から魔力を―――」

 

「バカ言ってんじゃあないぞ! 今は一緒に戦っているが、俺とアンタは敵同士なんだぞ! わかってんのか?!」

 

「わかっています!」

 

「ッ!」

 

セイバーはアキトの眼を見通す。

その彼女の蒼い眼からは確かな『覚悟』があった。

 

 

「このままでは私達は共倒れです。ならば、ここはバーサーカー。貴方の勝算の策に賭けます!」

 

「なんで・・・」

 

「はい?」

 

「なんでそんな事言えるんだよ?」

 

アキトの当たり前な疑問にセイバーはキョトンと首を傾げると理由を述べた。

 

 

「いえ、自分の身の危険も顧みず、子供たちを救うような人物が信用に足らない人には到底思えないと。ただのそれだけです。言うなれば、『王の勘』というヤツでしょうか」

 

「・・・・・カカカ♪」

 

セイバーの理由を聞いて、彼は少し沈黙したが、すぐにケラケラと笑い出した。

 

 

「な、なにがおかしいのですか?!」

 

「いや、なに。そうだった・・・そうだったよ・・・・・アンタにはそんな天然な所があったんだよな~・・・すっかり忘れていたよ」

 

「・・・え?」

 

セイバーはアキトの言ったことを聞き返そうとしたが、その前に彼はセイバーの後ろに回った。

 

 

「な、なにを・・・!?」

 

海魔をけしかけていたキャスターがアキトの行動を不審に思い、攻撃の手を緩めた。

 

 

「バ、バーサーカー・・・?!」

 

アキトはセイバーの首に手を回し、軽く抱きしめた体勢になる。

 

 

「―――!? や、やめろぉお―――ッ!!」

 

アキトの意図に気づいたキャスターは制止の声を上げながら海魔をけしかける。だが、もう遅い。

 

 

「恨むなよ・・・セイバー!」

 

「勿論です」

 

確認の言質が取れたのか。アキトはセイバーの白い柔肌に指を当て、それを頸動脈に向かって深く突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





・・・どうしてこうなった・・・?



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一時終結




アキト「なんか、最初考えた物より・・・」

大丈夫だ。問題ない。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「おぉ、ジャンヌ! 私の聖女よッ!」

 

キャスターは身を捩らせながら涙を流していた。目の前には、海魔が団子のように積み固まっている。

 

 

「あのような下賤な凡夫風情に貴女の身が傷つけられるのならいっそ私の手で・・・・・と思っておりましたが・・・何という虚無感! 何という喪失感! 私はまた、貴女を救えなかった!!」

 

そのギョロ目から大粒の雫をボロボロとキャスターは流す。

 

アキトがセイバーに対して不審な動きをした瞬間にキャスターは本能的に危機を感じ、海魔を襲い掛からせた。

襲い掛からせたまでは良かったが、焦りのあまりか、セイバーまでを海魔はその巨体で覆い尽くしてしまったのだ。

自らの気の動転により、愛する者までも自らの手で壊してしまったキャスターは深い深い悲しみに体を落とす。

 

 

「あぁ、そんな・・・セイバー・・・ッ!」

 

「奥さまッ!」

 

千里眼で一部始終を見ていたアイリスフィールは余りにもショッキングな出来事によろめき、近くにいた舞弥に体を受け止められる。

 

 

「ああ!・・・ジャンヌ、ジャンヌよ・・・どうして・・・一体どうして、また私を置いて行ってしまわれたのですか!!?」

 

「・・・―――!」

 

未だ嘆き悲しむキャスターの耳に自分の声とは違う声が聞こえて来た。

キャスターはハッと我に返って、辺りを見回す。しかし、どんなに辺りを見回しても声の正体は何処にも見当たらない。

 

 

「―――!」

 

だが、よくよく耳を澄ませてみるとその声は、あの積もり固まった団子状態の海魔の中から聞こえて来たのだ。

 

 

「い、一体・・・なんなのですッ・・・?」

 

海魔から身を一歩引いたキャスターに今度はハッキリと声が聞こえた。

 

 

「『拘束術式(クロムウェル)』第参号、第弐号、第壱号・・・・・連続解放・・・ッ!」

 

ドグウォオッ―ンン!!!

 

「ッッ!!?」

 

氷のように冷たい低音ヴォイスが聞こえたと思ったら、なんと団子のように固まっていた海魔達が轟音と共に四散爆裂木端微塵となったのだ。

辺りには爆裂した海魔の残骸や体液がボタリボタリと降って来る。

 

 

「・・・Ryyy~・・・」

 

そして、土煙の中から『彼』は現れた。

 

白亜紀に生息していた翼竜のような『赤黒い翼』を背中に生やし。

ギラギラと油ぎり、鋭い水晶のような『紅い眼』を輝かし。

奥から前のすべてがナイフのように尖った『牙』を嚙み合わせている。

 

キャスターは知っていた、『彼』が何者なのか知っていた。記憶の底の幼い頃に呼んだ昔話や物語に出て来た恐ろしい『怪物』。化物の中の化物。

 

 

「ヴ・・・ヴぁ・・・ッ!!」

 

その彼の腕の中には薄紅色に顔を染めた金髪蒼眼の少女が気絶したように眠っている。

『彼』は少女を丁寧に優しく地面に寝かせると何処からともなく出した紅い槍を構え、先程少女に刺して指に付いたであろう血を一滴残らず舐めとった。

 

 

「さぁキャスター・・・第二ラウンドだ。覚悟は良いか? 俺はできてる・・・!」

 

「『吸血鬼(ヴァンピール)』!!?」

 

覚醒した狂戦士は、狂った魔術師に牙を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

その日、ランサー『ディルムッド・オディナ』は自身のマスターである『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』に命じられて、キャスターの散策をしていた。

彼も川の水からキャスターの魔力を辿って、このアインツベルンの森へと赴く。

 

・・・因みに彼のマスターであるケイネスは昨日、市内のホテル内に作っていた自分の魔術工房を破壊した、セイバーのマスター『衛宮 切嗣』に対して単身で決闘に向かっていた。

 

そんな事はさて置き、ランサーが森の中を駆けて行くにつれてキャスターの気配が強くなっていく。

そうして、森の中心部の開けた場所に出た時。ランサーは目を疑った。

 

 

「KUAAAaa―――!」

 

「くキヒィい―――ッ!」

 

血だまりのような結界を地面に刻み、そこから血のように赤い槍やら剣やらを全力で投げつける凶悪な顔をした人物。

その人物からの攻撃を見たこともない醜悪な生物で、奇声を上げながら防御するカエル顔の人物。

 

この二人ともが尋常ではないオーラを纏っており、二本の槍をどちらに向ければ良いのか迷う。

 

 

「あ・・・あれはッ?!」

 

しかし、ランサーは凶悪な顔をした人物の足元に目がいった。

そこには先日、倉庫街でお互いの武功を称え合ったセイバーが苦しそうに吐息を漏らし、倒れていたのだ。

 

 

「おんンン?! なんでお前さんがいるんだよ、ランサー!?」

 

「えッ? ま、まさかその声はバーサーカーか?!」

 

なんと凶悪な顔をした人物は、倉庫街に突如として現れた変わり種のバーサーカーだったのだ。

 

 

「あぁ、そうだよ! バーサーカーだよ! わかったんなら、ボサッと見てないでとっとと手伝いやがれってんだいッ、色男!!」

 

「おっ、おう。承知した! ッテやァア―――ッ!」

 

ランサーは凶悪顔で捲し立てるアキトの威圧に押され、彼の傍に近づこうと目の前の海魔を赤と黄の己の宝具で薙ぎ払った。

 

 

「バーサーカー! これは一体どういう状況なんだ?! 目の前の男がキャスターで良いのか? それになんでセイバーが倒れているッ?!」

 

「喧しい! 一遍に喋るんじゃあねぇよッ」

 

「また現れましたね吸血鬼の匹夫がぁあ! 貴様らを散滅し、私は聖女を我が物とすぅう!!」

 

「あぁもう! 来るぞランサー!」

 

「なんなんだ一体っ!?」

 

現れたランサーを新たな敵だと認識したキャスターは、先程の倍の海魔を次々と召喚してきた。

なんとも奇運な巡り合わせだ。倉庫街で睨み合っていた二人が、セイバーを後ろにこうして力を合わせて戦っているのだから。

 

 

「説明して貰うぞバーサーカー! タァアッ!」

 

「最初に目の前で奇声を上げてるのが、キャスターだ! 無駄ァ!」

 

二人は襲い来る海魔を斬り伏せ、突き伏せながら会話をはじめた。

 

 

「それはわかった。なら何故、セイバーが倒れている? 毒でも煽られたか、顔を熱で染めて汗ばみ、苦しそうだぞ!」

 

「それは~・・・アレだ!」

 

「アレとはなんだ?!」

 

「あのギョロ目野郎のキャスターが、騎士王に毒をブッカケたんだ!」

 

「なんだとッ?!!」

 

なんとこの男、自分がセイバーにやった事をキャスターに擦り付けやがった。

 

 

「多勢に無勢で為す術もなくセイバーは・・・・・っく!」

 

「己ぇ・・・許すまじキャスター!!」

 

素直なランサーはまんまとアキトの言葉を鵜呑みにし、怒りに振るえた。

 

 

「バーサーカー、手を貸してくれッ。キャスターを打倒す!」

 

「元よりそのつもりでいッ、美丈夫の旦那ァ!」

 

ランサーとアキトは行動に移った。

まずは猛攻を仕掛けてくる海魔の群れを二人で粉砕する。

 

 

「行くぞ『ニコ』!」

 

『ガウッ』

 

アキトは自らの体内に潜ませている巨大な狗の使い魔『ニコ』を呼ぶとニコに跨り突き駆けて行く。

 

 

「そらそらそら~~~!」

 

「小癪なぁあッ―――!」

 

キャスターは自らに向かって来るアキト目掛けて海魔を放つ。

 

 

「この瞬間を待っていた! ニコ、急速反転ッ!」

 

『ワフッ!』

 

ニコはアキトの言いつけ通り、横に反転する。

 

 

「おおぉおぉぉ―――ッ!」

 

「何っ!?」

 

反転の反動でニコの尻尾に捕まっていたランサーは、キャスターに向かって一直線に飛んで行く。

ランサーの構える手には、魔力の顕現を断ち切る彼の宝具『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』が握られている。

 

 

「獲ったり、キャスターっ! 抉れ『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』ッ!」

 

「ひいぃっ!?」

 

その宝槍でキャスターの宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』に傷をつける。

傷つけられた事で魔力供給は切られ、召喚された異形の化け物達を元の血肉へと戻した。

 

 

「貴様ッ! キサマ貴様キサマ貴様キサマキサマキサマァァァ―――ッ!!」

 

「・・・・・覚悟はいいな、外道・・・!」

 

最後のあがきなのか、ただ逆上するだけのキャスターにランサーは冷たい眼差しで返す。破魔の魔槍を振りかざし、今まさにキャスターを討たんとした・・・・・その時ッッ!

 

 

「なッッ!?」

 

突如として、槍を振りかざしたランサーの腕が硬直した。

そして、彼の目線は真っすぐにアインツベルン城に向けられる。

 

 

「あッ!? バッ―――!」

 

「クキくゥう―――ッ!!」

 

何かに気を取られたランサーにこれ幸いとキャスターは、自らの宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』に今一度魔力を込め始める。アキトはキャスターが何かする前に斬り伏せようとニコから飛び降り、一瞬で間合いを詰めようと駆ける。だが、幾ばくかキャスターの方が速かった。

彼は召喚魔術では間に合わないと理解しているがゆえに。魔術を完成させる前にわざと失敗させることで辺りの血肉を煙幕代わりに拡散させた。

 

 

「ここは退かせて頂く。ですが、次こそはジャンヌを我が手に・・・!」

 

キャスターは血の煙幕で姿を隠すとそのまま霊体化してしまった。こうされては、探そうにも迂闊な行動がとれず、立ち止まるしかなくなる。そのまま霧が収まるころにはキャスターの姿が消え、追跡が不可能な程に遠くまで逃げてしまっていた。

こうなってしまったら、どうすることもできない

 

 

「このスカタンッ! 何やってんだランサー!!?」

 

「ぐッ!」

 

アキトは青筋を立てて、ランサーの胸倉を掴む。ランサーは申し訳なさそうに顔を歪めた。

 

 

「折角のチャンスを・・・どうして!?」

 

「済まぬ・・・しかし、我が主殿が!」

 

「おぉん?」

 

ランサーは胸倉を掴まれたままに事情を彼に話した。

マスターのケイネスが自分とは別行動で、セイバーのマスターに挑みに行った事。

先程キャスターに止めを刺す際に手を止めたのは、ケイネスが危険な状態に陥った事を感じて動揺した為である亊。それらをランサーは歯噛みをしながら語る。

 

 

「・・・ッチ・・・」

 

「バ、バーサーカー・・・?!」

 

事情を聞いたアキトは舌打ちをするとランサーを離すと驚くべき事を言い放った。『早く行ってやれ』と。

 

 

「貴殿は正気か?!!」

 

ランサーはあのまま殴られても良かった。キャスターに逃げる隙を与えてしまったのは、自身の責任だ。それにアキトの威圧に押されたとはいえ、自分のマスターが危機に瀕している事を話してしまったのだ。普通なら救出を阻止しようと刃を向けてくる筈だ。それなのにこの男は・・・・・

 

 

「正気? 『狂戦士(バーサーカー)』にそれを聞いちゃうのかアンタ?」

 

「・・・もしや、同情か? それならば―――「違う」―――ッ・・・!」

 

自らの失態に同情したと感じたランサーに彼はハッキリと口に出して否定した。

 

 

「ランサー・・・確かに俺とアンタは、本来なら敵同士だ。が、今この時だけは共にキャスターに立ち向かった『仲間』だ」

 

「!」

 

「仲間なら見逃す、見逃さないの話はしないだろう?」

 

「バーサーカー・・・貴殿は・・・」

 

ランサーには、アキトの言葉が嘘だとは思えなかった。流石は妖精に育てられた逸話を持つ英雄か、彼の言葉にランサーは一片の虚偽を感じなかった。

 

 

「それにアンタが偶然来なけりゃ、あのままキャスターと朝まで膠着状態が続いていたかもしれないからよ~。ま・・・そんな事は置いといてだ。良いからとっとと行きやがれ! あと、ぶっ倒れているセイバーの亊なら気にすんな。俺も倒れた相手に刀を突き刺す程、落ちぶれちゃあいないからよ」

 

「・・・わかった・・・かたじけない。だが、最後に」

 

「おん?」

 

「貴殿の名前を伺いたい」

 

本来なら、このような質問をサーヴァント相手に尋ねること自体が間違っている。真名を知られるということは、そのまま弱点を知られるようなモノ。彼の問いかけにアキトは一瞬迷ったが、名乗る亊にした。

 

 

「さすれば名乗らせて頂く、ディルムッド・オディナよ・・・・・我が名は『暁 アキト』。バーサーカークラスとして召喚された者だ」

 

「ならばアカツキよ、また逢いまみえる時まで・・・さらば!」

 

ランサーは短く一礼するとすぐさまアインツベルン城に疾風迅雷の如く侵入していった。

 

 

 

『存外に王も甘いですね』

 

ランサーが行ってしまった後に朧が人間臭い言葉を吐いた。それに対してアキトは「ヤレヤレ」とため息を漏らす。

 

 

「さてと・・・」

 

ランサーを見送ったアキトは地面に横たわる少女、もといセイバーに近づくと肩を軽く揺する。

 

 

「ノックしてもしも~し? 生きてるか~? そんなに血は取ってない・・・筈だぞ~」

 

「ん・・・んン・・・ッ」

 

肩を揺らすと少しだけ反応したセイバーに安心すると彼女を抱えて壁際まで移動させる。

セイバーを城壁によからせるとアキトはあらぬ方向に紅い眼を向けた。

 

 

「見ているんだろう、アインツベルンのお嬢さん? セイバーなら見ての通り無事だ」

 

彼の声に一時は倒れそうになりながらも千里眼で事の始終を見ていたアイリスフィールは、安堵に口を手で覆う。

 

 

「このままセイバーは寝かせて置くから、なるべく早く回収頼むぞ~!・・・・・って、これで良いか。なら帰ろうかニコ?」

 

『わフ!』

 

アキトはそれだけ言うと大きな黒い巨体のニコに跨って、アインツベルンの森を後にする。

森にはまた、静寂な雰囲気が舞い戻った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





フラグが・・・・・建ったかな?


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翌日




アキト「R-15っぽい部分がありますが、お気になさらず・・・」

『大丈夫だ。問題ない』という人はそのままどうぞ。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

最近まで曇りの日が続き、今日は久しぶりに空の青さが戻ったある晴れた日の朝。

『冬木ハイアットホテル爆破事件』等の物騒な事件が起きる冬木市に嬉しい一報が届いた。

 

『誘拐事件で行方不明となっていた子供達、無事に発見』

 

巷をにぎわせていた『連続殺人および連続誘拐事件』で誘拐されていた子供達十数名が無事に発見されたのだ。

 

発見に繋がったのは昨夜、11時過ぎに警察に届いた匿名の通報であった。通報を頼りに指名されたコンテナ倉庫に警察が突入したところ、行方不明届けが出されていた子供達が毛布に包まり、スウスウと寝息をたてていたのだ。

発見された子供達に目立った外傷はなく、心身共に健康状態であった。

 

安心したのも束の間、警察は子供達から犯人の特徴を聞く。しかし、多くの子供達が犯人の顔どころか、自分が何時何処で誘拐されたかもわからないと証言したのだ。

 

 

「こわい顔をしたお兄ちゃんがね、悪い人をやっつけたの!」

 

ただ一人、『コトネ』という少女は自分達を救った人物を朧気ながら覚えていた。

子供達を助けた『こわい顔のお兄ちゃん』なる人物の話をコトネから聞いていくと他にも『赤いおじさん』と『病気のおじさん』、『緑のお姉ちゃん』がいる事もわかった。

警察はもっと詳しい話を彼女から聞こうとしたが、ドクターストップがかかり、敢え無く断念した。

 

その後、自分の子供が発見され、無事に生きていると聞いてすっ飛んで来た両親達にコトネを含めた子供達は再会出来た。

近年稀に見る感動シーンだったと関係者は後に語る。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

所変わって、間桐の屋敷にて。

連続誘拐犯から子供達を無事に助け出した噂の『こわい顔のお兄ちゃん』ことアキトは・・・

 

 

「このバカッ! なんでアンタは、いつもいつもいつもいつもいつも無茶ばっかりするのッ?!!」

 

「・・・ご、ごめんなさい・・・」

 

正座をさせられて、怒られていた。

 

 

「偵察のつもりがなんで、キャスターと本格的な戦闘をしてんのよ! しかも、セイバーから『吸血』した・・・・・『吸血』したですッテ―――ッ!!?」

 

「いふぁいいふぁい! いふぁいよふぇるふ!!」

 

「むキ~~~ッ!」

 

シェルスは激怒しながらアキトの両頬を思いっきり、出し惜しみなく抓る。

彼の頬は横に大幅に伸び、あんなに鋭かった眼からは涙がホロリと出ている。

 

 

「おじさん・・・なんで二人はケンカしてるの?」

 

「さ、さあ・・・なんでだろうね~? それより桜ちゃん? あっちの部屋で絵本でも読もうか? ね、そうしよう?」

 

「?・・・うん、わかった」

 

二人の喧嘩に興味深々な桜の目を覆いながら『病気のおじさん』こと雁夜は、彼女を連れて部屋を後にする。

 

 

「おいおい・・・アレが昨日、あんなに怖い顔してたバーサーカーかよ・・・」

 

「ダーはっはっはっ! やはりあの赤髪の女子はバーサーカーの良い人であったか、これは愉快!」

 

アキトの情けない姿にため息を漏らす『緑のお姉ちゃん』ことウェイバーと二人の喧嘩をゲラゲラと笑いながら見る『赤いおじさん』ことライダー。その横ではドンとロレンツォが少々呆れながら共に笑って見ている。

 

ところで何故、男のウェイバーが『緑のお姉ちゃん』と子供達に呼ばれたのかは、勘のいい人ならわかると思う・・・・・が、今は捨て置こう。

 

何故こんな事になったのかは、3時間前に遡る。キャスター戦から朝帰りして来たアキトは眠っている屋敷の皆を起こさない様に入ったのだが、彼の気配を感じ取ったシェルスと鉢合わせた。それから先に屋敷に戻っていた三人とも合流し、シェルスの作った朝ご飯を皆で、昨夜の出来事を交えながら食べたまでは良かったのだが・・・

 

 

「そういえばアキト・・・私に何か話す事はないかしらぁ?」

 

「おんッッ!?」

 

『直感:A-』を所持しているシェルスは、いつもと違う雰囲気を持ったアキトに『威圧:B-』で迫る。

隠して通すのは不可能だと直感した彼は彼女に昨夜の事を洗いざらい吐いた。

 

 

「この野郎~~~!」

 

「ギェエエ! 首がぁ~! ギブギブ!!」

 

吐いた後がこの様である。

シェルスは、アキトが自分の身を返り見ずに子供達を助けた事には賞賛したが、彼がそのまま無茶をしてキャスターと戦い、傷ついた事。それと仕方がなかったとは言え、セイバーを吸血した事に憤怒した。

 

 

「ガブリッ!」

 

「アイエェエ―――ッ!!?」

 

アキトの頬を抓り、プロレス技をかけ、今度は彼の頸動脈に彼女の長い『牙』が突き立つ。突き立てた箇所から赤い鮮血が噴き出し、肌をつたう。

 

 

「おい、そろそろ止めた方がいいんじゃないか・・・?!」

 

事前にアキトから自分達の『正体』を聞かされていたウェイバーは、恐る恐るライダーに声をかける。

だが、ライダーは「本人達の好きにさせるがよかろう」と面白可笑しそうに述べ、ドンやロレンツォも彼の言葉に同意した。

 

 

「シェルス!」

 

「ムグッ!?」

 

アキトは、自分の首にシェルスを噛み付かせたまま彼女を抱きしめた。

 

 

「そのまま聞いてくれシェルス・・・」

 

「・・・」

 

自分の血を啜る彼女の耳に囁きながらアキトは語る。

 

 

「確かに仕方なかったとはいえ、俺はセイバーを吸血した。でもそれは『指』からの吸血だ。それはわかってくれ・・・!」

 

「・・・」

 

押し黙る彼女にアキトは懇願するように尚も囁く。

 

 

「俺が口からの吸血、つまりは『牙』から血を啜るのは、君だけだと俺は決めているんだ・・・・・それでも君の気が治まらないのなら・・・どうぞ俺を喰っても構わん」

 

アキトの許しを請う囁きにシェルスは首から牙を引き抜き、目線を合わせる。紅潮した彼女の眼と彼の紅い眼が重なり合う。

 

 

「・・・なら・・・私に深い痕を突けて・・・貴方の牙で深い痕を、あの娘につけた痕よりも深く深く・・・!」

 

「Si、喜んで」

 

ズキュウゥゥゥウ―――ッンン!

 

 

「おおっ!」

 

「うわわッ!?///」

 

アキトはシェルスの唇に吸い付いた。舌先を口内に押し込め、歯茎を蹂躙する。

 

 

「ン、んンン!///」

 

そしてそのまま彼女の舌に己の舌を絡ませ、愛おしむ様に弄ぶ。何度も何度も吸い付くし、貪る。ついには互いの牙で舌を切るが、それでも求め合う。

 

 

「ぷハァ~・・・///」

 

「ハァ・・・ハァ・・・///」

 

ようやくお互いの唇を離した時には、交換し合っていた唾液は赤く色づいてしまっていた。

 

 

「アキトぉ・・・///」

 

「おおっと、ちょい待ちシェルス」

 

蕩けた顔のシェルスにアキトは待ったをかけるとライダー達の方を見る。そこには興味深そうに二人を見るライダーと二人の営みに顔を真っ赤にしたウェイバーが硬直していた。

そんな彼らに向けて、彼は口パクで言い放った。

 

『この娘は俺のだからな』

 

二人が見たこともない獰猛な笑みでそう言い放つと彼は彼女を抱えて、居間を後にした。

 

 

「まったく、ヤレヤレ・・・」

 

「あの二人は、いつも仲が良かろー」

 

「『いつも』!? いつもなのか? いつもあんななのかあの二人はッ!?///」

 

ため息を吐きながらニヨニヨと笑うドンとロレンツォにウェイバーは顔を赤く染めて、喚く。

 

 

「別段、不思議な事ではなかろぉ。初めて会った時から余は、二人が親密だと気付いておったわ」

 

「そ、それは僕だって気づいてたけど・・・・・まさか、あんな人前で・・・///」

 

「なんだぁ、坊主? まさかお主――「言うなよ!!///」――そうかそうか! 坊主は、まだ生息子であったか!」

 

「ッ! 言うなって言っただろぉ~~~!///」

 

ライダーのデリカシーのない発言にウェイバーは先程よりも顔を赤くして、彼の大きな体躯にポカポカと拳を入れる。それに対してライダーは、快活に笑いながらウェイバーの額にデコピンを入れた。

 

 

数十分後・・・

アキトが居間に戻って来た。その顔は先程までとは打って変わり、実に艶やかでハリのある質感をしている。あと、騒ぎが終わったのを聞きつけた雁夜も居間に戻って来た。

 

 

「さて・・・さっきは見苦しい所を見せちまったな」

 

「いんや、構わぬ。実に良いものを見せて貰ったぞ」

 

「・・・あれから何があったんだ?」

 

「聞かない方がいいです、カリヤさん・・・」

 

二人の情事を見る前に居間を立ち去った雁夜は頭を傾げる。教えてやろうかとシタリ顔で問うライダーに雁夜は引き気味に遠慮した。

 

 

「カカカ♪ まぁ、さっきの事は置いといて・・・本題に入ろう」

 

ここに来て漸く、マジメな話に移っていく。

 

 

「朝飯の最中に話したように・・・大王達が子供達を救出した後に俺はキャスターと戦った」

 

「でも逃走を許してしまった。そうだろう?」

 

「・・・痛い所を突くねマスター?」

 

雁夜の指摘に苦笑いをしながら、アキトは続けていく。

キャスターがセイバーに執着している事やランサーのマスターが、セイバーのマスターに傷を負わされた事を。

後者の話を聞いてウェイバーは少し驚くが、何が起こるかわからない戦争では当然の事だとライダーは諭した。

 

 

「俺の推測だとキャスターは、もう一度大胆な行動を起こすだろう。今回のよりもっと大規模なやつをよ」

 

「そうなったら・・・」

 

「あぁ、甚大な被害が出るだろうな。桁が大幅に違う、被害がな」

 

アキトは、あのキャスターがもう一度どこかで仕掛けて来るだろうと断言する。あそこまでセイバーに執着した男が、高々一度の失敗で諦める筈がないと。

 

 

「そんな事をさせない為に僕はあれからカリヤさんと一緒に子供達を安全な場所に隠した後、キャスターの根城を探した」

 

「おお~!」

 

アキトがキャスターと戦っている間。彼らは子供達をコンテナ倉庫に隠して暗示をかけ、警察に匿名の通報を入れていた。そして、そのままキャスターの魔術工房を散策していたのだ。

 

 

「それで居所は掴めたのか?」

 

「あぁ。でもその前に・・・バーサーカー?」

 

「おん?」

 

「お前は・・・『死徒』・・・なのか?」

 

ウェイバーは恐る恐る聞いた。

最初、アキトとシェルスの正体を聞いた時は食べていた朝飯が器官に入り、大きく咳き込んだ。

『死徒』という存在は即ち『吸血鬼』である。下位クラスに位置する者でも並の魔術師では手に負えない存在である。

 

 

「ああ、そうだよ」

 

「ッ!」

 

あっけらかんと答えるアキトにウェイバーは戦々恐々とした。

今までウェイバーは、彼の強さを間近で見ていた。最初はコンテナ倉庫街でのアーチャーとの戦闘。二度目は短時間であったが、キャスターとの戦闘である。

たった二回しか見てはいないが、戦闘の素人であるウェイバーの目から見ても彼は上位種の吸血鬼である事は明白であった。『こんな者が敵となれば、魔術師の卵である自分はすぐに殺されているであろう』と彼は危惧している。

 

 

「そう脅えるなよウェイバー」

 

「お・・・脅えてなんか・・・!!」

 

強張るウェイバーにアキトは優しい口調で語り掛ける。

 

 

「倉庫街でも同じ事を言ったと思うが・・・俺は大王を裏切るつもりはない。無論、大王のマスターであるお前もな」

 

「そんな裏切らないなんて保証がどこにあるって言うんだよ!」

 

「あるぞ坊主」

 

この期に及んで疑心暗鬼となったウェイバーに対するアキトの言葉を肯定したのは、意外にもライダーであった。何故だと問いかけるウェイバーにライダーは語る。

 

 

「もしコヤツが最初から裏切るつもりなら何故、我らをもてなした? 裏切るつもりなら食事に毒でも盛れば良かったであろう?」

 

「そ、それは・・・」

 

「他にも坊主を闇夜に紛れて殺す隙も多くあった筈だ。バーサーカーのマスターであるこの男もそれをしておらん。現に余も生きておるしな」

 

「何気なく俺も入っている・・・」

 

確かにアキトや雁夜がウェイバーを殺せる場面は数多くあった。

 

 

「で、でも・・・」

 

「あぁもう! 煮えん者よのぉ! 然らば、お主が一番安心する言葉で言ってやろうではないか」

 

「え・・・?」

 

それでも納得しないウェイバーに業を煮やしたライダーは大きな声で言い放った。

 

 

「この男、バーサーカーはこの征服王イスカンダルたる余が認めた盟友なのだ。信用にたらん者ではないと断言してやろう!」

 

「はぁ・・・?」

 

「なんだそりゃ・・・」

 

ライダーの発言にウェイバーは、ポカンとする。周りにいた雁夜までも呆気にとられるが、ドンやロレンツォは笑いを堪えている。

 

 

「余は幾万もの益荒男を束ねて来た王。その余の審美眼に間違いなどない!」

 

「カカッ♪ 何だかそう言われちまうと照れるなぁ///」

 

ライダーの言葉に場は静まり返る。が、程なくしてウェイバーはため息混じりに口を開いた。

 

 

「あぁもう・・・わかったよ! 僕が悪かったよ!」

 

「うむ。わかれば良いのだ」

 

無理矢理な言動に納得させられたウェイバーにライダーはほくそ笑む。

 

 

「わ・・・悪かったな、バーサーカー・・・変に疑ってしまって」

 

「いいさ、疑われるのは慣れてるからよ」

 

「アキトは顔が怖いからの~」

 

「顔関係ないよねドン?」

 

「プフッ・・・なんだよそれ・・・」

 

ドンとアキトのやり取りにウェイバーは少し吹き出し笑った。

 

 

「さて、疑いも晴れた事だし・・・本題に戻ろう。ウェイバー君」

 

「はい、カリヤさん」

 

雁夜の声にウェイバーは机の上に冬木市の地図を広げて、説明する。

 

 

「昨日、僕達はキャスターの残存魔力を追ってあの森にたどり着いた。けど、他にもルートがあった。それが未遠川へのルートだ」

 

「僕はその未遠川へと流される用水路が怪しいと思う。魔力もそこから垂れ流されているからね」

 

「スゴイじゃあないか。たった一晩でもう見つけたのか」

 

「当然さ。これくらい朝飯前だよ」

 

「ならば、これからすぐに向かおうではないか!」

 

「えッ?!」

 

ライダーの言葉にウェイバーは「またかよ」といった反応をする。だが、ライダーの言う通り早めに向かった方が良い。あのキャスターのことだ、昨晩の事で自分の魔力の跡を追って来た事に遅かれ早かれ気づくのだから。

 

 

「(それにあのアーチャーが大人しくしているとは思えないからな・・・)」

 

監督役にとって一番いいのはアーチャーが令呪を手に入れることだ。

それをされるとアキトの旗色が一気に悪くなる。ただでさえ勝利にはあまり影響のない令呪の使い方をしてしまったのだから、そう考えてしまうのは仕方がない。

 

 

「そうと決まれば、急いで準備しようじゃあないか!」

 

彼等はさそっく準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





また、何処かでネタを入れようかなぁ?


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突撃




宝具の基準を独自に判断している今日この頃。

宝具の種別に悩んでおります。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

「AAALALALA―――Iie!!」

 

アキト達『キャスター絶対殺すマンチーム』は現在、未遠川近辺にある用水路内部をライダーの宝具『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』で爆走していた。

 

 

「本当にいい加減にしろよライダァア―――――ッ!!」

 

ウェイバーがライダーに捕まりながらギャアギャア喚いている。

こうなる前・・・彼らはウェイバーと雁夜が昨晩探してくれたキャスターの魔術工房目掛けていざ行かんと下水道の入口に立っていた。

その時、ライダーが宝具の戦車を出す。

 

「これで行った方が華があろう?」

 

ライダーの提案にウェイバー以外の全員が賛成し、戦車で突撃する事になった。

突撃部隊のメンバーはライダー、アキト、ウェイバー、そして・・・

 

 

「結構速いわね、コレ!」

 

「無理すんなよ、『シェルス』?」

 

「嘗めないでよアキト!」

 

赤い髪の『ガンナークラス』のサーヴァント『シェルス』であった。

彼女は、最初のメンバーである『耐久:E-』の雁夜の代わりにこの突撃部隊に入ったのである。

 

そんなこんなで用水路内に入って行くと予想通りか、昨晩の異形の怪物『海魔』がうじゃうじゃと通路にへばり付いていた。

それをライダーは車輪に備え付けた剣で切り裂き。アキトはナイフで串刺し。シェルスは宝具の銃で撃ち抜く。そうして海魔達の絶叫をBGMにボコスカ進んで行く。

 

 

「お・・・おふぅ・・・」

 

「大丈夫、ウェイバー?」

 

ただ一人、ウェイバーだけは気分が悪くなっていた。別に車酔いをしている訳ではない。目の前で繰り広げられるグロテスクな情景に気分を悪くしているのだ。

彼の救いとしては、辺りに充満する海魔達の腐臭を自身の魔術で事なきを得ている点であろう。

 

 

「なんだ情けない。この見事な蹂躙劇を前に何が不服なことがある?」

 

「ああ確かに効率的だろうさ! 時間をかけずに確実な方法で工房に行くには間違いない手法だろうよ! でも、だからと言ってこんな無茶苦茶な作戦があるかッ!」

 

ヤレヤレと手綱を持って、呆れるライダーにウェイバーが噛み付く。

 

 

「だったら、お前さんは何か別の方法でも考え付いたとでも言うのか?」

 

「考え付いたとかそれ以前に魔術師の拠点だってのに無策に突撃するバカがどこにいるってんだよっ!? こうして結果的に良かった物の・・・奥にとんでもないトラップが仕掛けられていたら・・・」

 

「そうさなぁ・・・そこが余も気になっておったところなのだがな? こんなにも魔術師の工房攻めっていうのは他愛もないものだったのか?」

 

ライダーの言う事は一理ある。こんな有象無象の駒を並べたところで、対軍宝具を持ったライダーにとっては突破するのにさほど問題がない。

昨日ライダーの姿を見ているキャスターが、ライダーのことを意識せずにこの布陣にしたとは思えない。

・・・ということはつまり、キャスターは敢えてこのように単調な守りにしたわけではなく、ライダーに対する防備を『作りたくても作れない』ということなのだろう。

 

 

「それは単にキャスターの力じゃあ大王の宝具を防ぐことができないって話だろう。あのジル・ド・レェってのは、元々は軍人で正式な魔術師ではないから、大した魔術も使えないって事だろう」

 

「なんだそりゃあ? であれば、余のこの方法は何ら間違ってはいなかったというわけではないのか坊主?」

 

「・・・どうやら何とも癪だけど、その通りだよ。心の底から癪に思うけど」

 

ライダーこと『イスカンダル』強い。

流石は世界史の教科書に載る程の出来事を引き起こした英雄か、その強さは計り知れない。

手先に頼るは、軟弱と言わんばかりに正面突破をしてくる。しかも、それでいて目的を達成するだけの能力があるのだから手に負えない。

こういう手合いが、あらゆる敵の中で最も厄介だということをアキトは身に染みて理解している。

 

『バカ程怖い者はない』

其れ程までに単純な能力程対処するのが難しい。

『柔よく剛を制す』などと言う言葉はライダーには通用しないのではないのだろう。

何故ならライダーの戦い方自体が『剛よく柔を断つ』を体現しているような物なのだ。

 

 

「おい! そろそろ終着点につくぞ。坊主もバーサーカー達も構えよ・・・」

 

ライダーの言葉の通り、あれだけ通路に満ち溢れていた異形の怪物達の数が格段に減少し、今しがた通路のどこにも肉塊と思しきものも無くなっていた。

もしも工房にキャスターが待ち構えているのなら、即座に戦闘に入ることになる。その為にもアキトは目の前を見据えナイフから血の槍を構え、シェルスは宝具の回転式拳銃に弾丸を込める。

 

 

「・・・キャスター・・・」

 

「いないじゃない・・・って、アキト・・・!」

 

「あぁ・・・」

 

だが、キャスターの拠点であろう開けた場所に出た時。キャスターが不在と言うことが確認できた為、その準備は無駄になった。

けれども吸血鬼二人とライダーには、暗闇の中なんてのは昼間のように視界が良好だ。だからこそ目の前の凄惨な場景を目の当たりにする。

 

 

「どうしたんだよ三人共? 真っ暗で何も見えないけど・・・貯水槽か何かか、ここ?」

 

「・・・あ~・・・坊主・・・こりゃあ見ないでおいた方がいいと思うぞ?」

 

そんなライダーの言葉にウェイバーは、ムッと眉間に皺を寄せる。

 

 

「何言ってんだよ! キャスターがいないなら、せめて何か奴らについての手がかりでも探さなきゃいけないだろ!」

 

「ウェイバー・・・ここは大王の言う通りだ。それに関しては俺達でやるから・・・そのまま二人と一緒にそこで待っててくれ。俺がやる」

 

今度はアキトが忠告するが、ムキになったウェイバーは聞かずにそのまま目に暗視の魔術を発動させる。

この時ウェイバーは『自分も何かしなくては』と言う強迫観念のようなものを内に抱いていた。

彼のサーヴァントであるライダーはもちろんのこと、同盟相手であるアキトでさえも戦果を挙げてきたというのに、自分の名誉のために参戦したはずのウェイバー自身が疑心暗鬼になるばかりで何もできていないと思い込んでいる。

実際にはこの工房の場所を探り当てたという功績があるのだが、ウェイバーは当然な亊思っており、功績だと理解できていない。

 

 

「―――ッ!!? お、おエェエッ!」

 

そして眼に飛び込んできた光景によって、なぜ二人が自分を止めたのかを嫌と言うほど理解した。

 

彼、ウェイバー・ベルベットは聖杯戦争に参加するにあたり、様々な覚悟をしていたつもり・・・『だった』。

その中でも人間の『生き死に』はどうしても逃れることのできない現象として、自らの前に映し出される事は承知していた。

だというのに・・・そんな彼の覚悟など矮小な物だと嘲笑うかの如く、目の前の惨劇がウェイバーにリアルな衝撃を与えてきたのだった。

 

 

「コイツは最低で最悪だ。最も理解したくない部類だ・・・!」

 

ここにいるウェイバーを除いた人物は、『屍』という存在を多かれ少なかれ見ている。自分の軍団を率いていたライダーや軍人だったシェルスは戦場で、裏家業に勤めていたアキトは仕事場で見た事がある。そのどれもが『破壊』された人体の成れの果てであった。

 

 

「吐き気がするわ・・・!」

 

だが、これは違う。明らかに違う。この薄暗く陰気な空間に鎮座しているこれらは明らかに常軌を逸している。

恐らく、皆の眼前に存在するこの『オブジェ』達は其々で様々な雑貨として丹念に構築されていったのだろう。

これ程の情熱をかけて製作できるのであれば、この光景を作り出した人間は職人として一流だと感じさせる程だ。

それほどまでにこの空間には製作者の愛があふれていた。

その材料が『人間』であるという一点に目をつむればの話ではあるが・・・

 

ここには『壊された』人間など、一人もいない。ただひたすらに『作り変えられた』人間がいるだけだ

 

 

「糞ッ、ふざけやがって! 畜生めッ!!」

 

胃の内容物を逆流させながらウェイバーが叫ぶ。そんな彼を、ため息とともにライダーが諫める。

 

 

「意地の張りどころが違うわ馬鹿者。こんなものを見せられて眉一つ動かないやつがいたら、余がぶん殴っておるわい」

 

「私も大王の意見に賛成よ。功に焦る気持ちは分かるけど・・・もう少し落ち着いた方がいいわ」

 

ライダーは静かに呟き、シェルスは彼の背中を擦りながら周りに話すかのように落ち着いて語る。

その様子がウェイバーには、自分だけこの状況に適応できていない未熟者だと言外に言われているような気がして腹立たしくなる。

 

 

「そんなこと言ってお前らなんか平気そうじゃないかッ! こんなの僕だけが無様じゃないか!!」

 

嘔吐し自らの感情の激流に溺れそうになりながらも、なけなしのプライドを振り絞って少年はサーヴァントらにそう噛み付く。

 

 

「・・・ウェイバー・・・そんなナーバスな事言ってる場合じゃあなくなったぞ」

 

「そうさな・・・何せ、余のマスターが殺されるかもしれん瀬戸際にいるんだからのぉ。ガンナー、坊主を頼む」

 

「任せて・・・!」

 

「・・・はッ?」

 

ライダーが何を言ったのか理解できないままでいるウェイバーを余所に、何かがこの空間から飛び出していくような気配がした。しかも一人ではなく、複数の影だ。

その何者かに向けてアキトはナイフを投擲、シェルスは銃を発砲するが当たらない。

 

 

「野郎・・・逃げたか・・・」

 

たった今、飛び出して行ったのは、キャスターの陣地を見張っていた『アサシン』達だ。

キャスターの工房と言うことで慎重に探りを入れている中、ライダー達が突入するのを見て追跡していたのだ。

そして、ライダーが呆気ない蹂躙劇を披露し、それに便乗する形ではあるが易々と工房内に侵入を果たせたアサシン達は、目の前にいる無防備なウェイバーを見て、さらなる成果を上げようかと手ぐすねを引いていたわけだ。

 

しかし、いざ実行しようとしたところに彼らの声がアサシン達の逸る気持ちを一気に沈静化させてしまった。

あのセリフは自分たちに向けられたものだと感づけないほど愚鈍な彼らではない。

向こうは明らかにこちらに気づいていて、ウェイバーの周りにはサーヴァントが3人。防御陣形をとっている。このような状況下で暗殺が成功できると自惚れる程アサシン達は愚かではない。不可能と判断した彼らはとっさに逃げるかの如く、この場から脱出したのであった。

 

 

「ふむぅ・・・やはりアサシンの奴ら目生きておったか。バーサーカーの推理通りだのぉ」

 

感慨深くライダーは頷いているが、今はそれどころではない。アサシンたちは逃げ出したように見えたが、もしかすると再び奇襲をかけてくるかもしれない。

そんな場所で調査なんか続けていたら、サーヴァントであるアキト達はともかく、ウェイバーの命が危ない。

彼等は一刻も早く離脱する為、戦車に乗り込んだ。

 

 

「生き残った人は・・・?」

 

戦車に乗り込んだウェイバーが、青い顔して尋ねる。だが、ここには彼の言う『生き残った人』はおらず。代わりに『殺してくれた方がマシの状態』の生きた人間『だった』ものがいるばかりだ。

 

 

「こうなれば、殺してやった方が情けってもんだ。安心しろ・・・一瞬で楽にはしてやる」

 

そう言ってライダーが手綱を握ると、猛牛達は主の感情を代弁するかのようにけたたましく啼いて雷を辺りに散らし始める。

 

 

「念入りに頼むぞ・・・灰も残さず焼き尽くせ!」

 

叱咤を受け、猛牛達は醜悪な工房の中を踏み荒らす。海魔共でも一撃たりとて耐えられない破壊力をもってして、邪悪な造形物を一掃していく。

何度か戦車が踏みつぶしていった後には、そこに何かあったと判別できるものが鼻につく悪臭以外残されなかった。

その光景を眺める事しかできないウェイバーは、やるせない気持ちでいっぱいになる。

生存者を助けられなかったという罪悪感とここを破壊しても結局はキャスター達を止めることはできないという無力感で、見えない鎖に縛られているかのように少年は体に力を入れることができないでいた。

そんなウェイバーの憂いを吹っ飛ばすように、ライダーが彼の頭を乱暴に掴み撫でる。

 

 

「こうして根城をブッ潰しておれば、キャスターらは隠れることもできん。あとはそれを追い詰めていけばいいだけの事よ。彼奴らに引導を渡す日もそう遠くはない」

 

「・・・わかったよ。わかったからもう離せって!」

 

その屈辱的かつ、かなり物理的に痛い扱いにウェイバーの暗鬱とした感情よりも激昂が勝ったのか、元の調子に戻ってライダーを怒鳴り散らす。

しかし、ライダーがウェイバーを撫でているとふと気づく。御者台の後ろに座っているアキトが何かを口に含んで、黙々と食べている事に。

 

 

「なに食べてるのアキト?」

 

「おん? これだよ、コレ」

 

彼がそう言って取り出したのは、あの海魔の触手であった。

 

 

「ッ!!? おお、お前!!」

 

「お主・・・なんつーモンを食うておるんだ・・・」

 

彼が食べていた物の正体を知って、二人はドン引いた。

 

 

「いやな、キャスターとの戦闘から目を付けていたんだが・・・魔力が豊富で、意外と美味いぞ。食ってみるか?」

 

「んなモン食えるかぁあ―――ッ!!」

 

アキトは吸血鬼だからなのか、『食欲』に関してのベクトルがあらぬ方向を向いている。

この海魔の触手は、元々ノアの研究材料として頼まれていたものであった。が、あんまりにも食欲をそそられたので彼は食べたのであった。

 

 

「ま・・・まさか・・・」

 

アキトの一面に驚きを隠せないウェイバーは、その隣に座っていたシェルスを見る。彼女も吸血鬼だと聞いていたので、もしやと思う。しかし、シェルスはアキトから勧められる触手を拒否していた。

その反応にウェイバーは、少しだけホッと胸を撫でおろした。

 

 

「とはいえ、事実辛気臭いところだったわい。今夜は一つ盛大に飲み明かして鬱憤を晴らしたいのぅ」

 

「・・・言っとくけど、ボクはお前の酒には付き合わないからな」

 

「いいなそれ。肴は任せとけよ大王」

 

「でも、その触手は出さないでよアキト? 酒がまずくなるわ」

 

「なんだよそれ~・・・」

 

ライダーの一人酒を見ているだけで気分が悪くなるウェイバーだが、他の三人のサーヴァントはザルを通り越してワクの酒飲みである。ライダーの提案にノリノリである。

 

 

「どこかに余を心地よく酔わせる河岸はおらんかのぉ・・・」

 

「ん~・・・あ! なら、良い場所があるぞ大王」

 

「おお。どこだそれは?」

 

アキトが、良い事を思いついたと誰が見ても分かる表情で手を打ち鳴らす。

その顔を見て、ウェイバーは嫌な予感に駆られる。しかし、その彼の肩をシェルスが叩いて、語る。

 

 

「こういう時は諦めた方がいいわよ」

 

「そ、そんな~・・・」

 

ウェイバーは年相応の反応をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





『対界』と『対城』と『対軍』・・・とかとかとか。


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騎士王心中




閑話みたいな物でござるが、内容によってはアキトがピンチです。

アキト「どゆことッ!!?」

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

城と庭。正確に言えば庭園なのだろうが、それらに縁がある事をこれまでの人類史が証明していると言っても良い。

 

その城の庭園には、日本ではまず他にお目にかかれない動植物が当たり前のように庭園は植えられている。

静寂の織りなす美がこの四方を城の柱に囲まれた、まるで箱庭のような庭園を堪能するにはこの時期の夜は最高だと言えた。

月に照らし出される造形的な緑と、元々この城が放つ厳粛な雰囲気が魅惑的な空気を醸し出す。

 

そんな美しい庭園を一望できる出窓に金の髪を持った少女が立っていた。

男物のブラックスーツに身を包み、どこか物寂しげな眼で晴れた夜空に浮かぶ月を見ている。

彼女はセイバー。真名を『アルトリア・ペンドラゴン』という。

イギリスの聖剣伝説の主人公であり、最も偉大な騎士と言われた人物である。

 

何故、そんな彼女がこんな冷たい夜更け過ぎに庭を見ているのであろう。それは昨晩の出来事が関係している。

 

昨日の晩、勘違い系ストーカーのであるキャスターがこのアインツベルンの城へと押しかけて来た。普通ならそんな手合いは無視するのだが、キャスターは幼い子供達を人質にしていたのだ。

騎士の性分か、セイバーはすぐさま助けに向かいたかった。しかし、自分のあのコミュニケーションをとってくれないマスターから止められ、手をこまねいていた。

するとキャスターは子供の一人の頭に手を乗せ、あろうことかその頭を砕こうとする。

このまま、その子供の命は潰えるのかと思われた瞬間。ヤツの腕にナイフが刺さったのだ。

セイバーはハッとなり、ナイフが飛んで来た方向を見る。

そこには、いつか倉庫街で見た変わり種のバーサーカーがギリギリと睨みを利かせながらキャスターに近づいていた。

 

『まさか』とセイバーは思った。

倉庫街であれ程おチャラけた雰囲気を持ち、ふざけた態度をとっていた男が子供達を助ける為に自らの危険を顧みずに狂戦士よりも狂ったキャスターに戦いを挑んだのだ。

セイバーは、バーサーカーへの評価を改める事にした。

 

それからキャスターとバーサーカーの戦闘が始まった。

先制はバーサーカーが取った。だが、そこから巻き返す様にキャスターは宝具で海魔を召喚し、苛烈にバーサーカーを攻める。

 

バーサーカーは一時窮地に追い込まれるが、『逃げる』といった騎士では考えられないような戦術で危機を脱する。

しかしこの男、森の外へと逃げようとせず、なんとセイバーのいる城目掛けて走って来るではないか。

これには、あのコミュニケーションをとってくれないマスターも焦ったらしく、すぐにセイバーに攻撃の許可を出した。

 

漸くかとセイバーは駆けた。

速さではランサーに劣るがその速さ、流石は最優のサーヴァントと言った者か。城から飛び出したセイバーは着地と同時にバーサーカーを取り囲んでいた海魔を斬殺すると風に隠された刃の血を振り払うと剣をキャスターへと向ける。

そこからはセイバーとバーサーカー対キャスターの戦闘がはじまった。

 

ニ対一と傍から見れば、セイバー達の方が有利に見える戦いであったが、キャスターの宝具で実際には、二対幾百、幾千の圧倒的不利な状況に立たされる。

セイバーもバーサーカーも力の限り、海魔をぶった斬り、ブッ刺した。

それでも一向に減らない怪物共にウンザリしたセイバーは、バーサーカーに『起死回生の策はあるか』と聞く。するとこの狂戦士『ある』と答えた。だが、それには魔力が足りないとぬかしやがる。

その時、セイバーはあの無視無視マスターからアイリスフィールを通じて聞いていたバーサーカーの保有スキルを思い出す。

 

『吸血』。それは人類種最大の天敵『吸血鬼』が持つ特殊スキル。

このスキルを持つ者から吸血されれば、どんな事が起こり得るのか予想できない彼女ではない。しかし、迷っている時間はなかった。このままでは数の暴力に飲まれてしまう。それに自らの危険を顧みず、果敢に子供達を助け出したこの男が悪い輩だとは到底思えなかったのである。

 

『この者になら吸血されても構わない』

 

そうセイバーの直感が、彼女に語り掛けたようだった。

 

このセイバーの提案に最初はバーサーカーも難色を示した。しかし、セイバーの言い分を彼に伝えると呆気にとられた表情をした後に朗らかに笑い・・・

 

 

「いや、なに。そうだった・・・そうだったよ・・・・・アンタにはそんな天然な所があったんだよな~・・・すっかり忘れていたよ」

 

・・・と言ったのだ。まるで自分の性格を元々知っていたかのような、そんな口調で。

セイバーは聞き返したかった。

『自分を知っている。様々な文献にも書かれていない自分の素の本心を知っている、お前は誰だ?』と。されどそれは叶わなかった。

 

聞き返す前に彼の冷たい吐息が彼女の頬を撫でる。そして、今まで感じた事のない『痛み』と『快楽』が全身に走った。

耳に口に出したことのない甘い自らの『喘ぎ声』に驚きつつ、セイバーは意識を心底深く沈めた。

再び眼を開いた時に真っ先に見たのは、彼女が生きている事に嬉し涙を流すアイリスフィールと生きている事を確認して、早々に引き払うマスター『衛宮 切嗣』であった。

それからセイバーはキャスターに誘拐されていた子供達が無事に親元に返された事とキャスターがあの後、逃亡した事を聞いた。

 

また、あのイカレ魔術師は自分を狙うだろう。そして、また関係のない大勢の人が巻き込まれるだろう・・・自分のせいで・・・

そう悲嘆するセイバーを慰めるアイリスフィールであったが、近くにいた舞弥は愛おしむように首の小さな刺し傷を撫でる彼女の手を見逃しはしなかった。

 

 

「はぁ・・・」

 

彼女はまた一つため息を吐く。

何故だろうか、あの戦いをあのふざけた狂戦士を思い出すと心臓の鼓動が強く響く様に鳴る。ドクリドクリと心の臓腑が高鳴り、顔は熱にうなされたように紅潮する。

大方、あの狂戦士に血を啜られたからであろう。吸血の後遺症であろう。

しかし、吸血された後がこんなに苦しいとは聞いていない。こんなにもどかしいとは聞いていない。

 

 

『恨むなよ・・・セイバー』

 

あの男が自分の血を啜る前に言った言葉にこんな意味があったとは、あの時は露とも知らなかった。

 

 

「バー・・・サー・・・カー・・・」

 

今では、暇さえあればヤツの事を考えている。

多くの名のある騎士を束ね、名声を欲しい儘としたあの名高き騎士王が、吸血鬼風情に心を惑わせられている。穢れも知らぬ乙女のように。

とんだ悲劇だ。とんだ喜劇だ。

 

・・・だからこそ・・・

この気持ちは殺さねばならない。この思いは封印しなければならない。聖杯を勝ち取る為に。自らの願いの為に。

 

 

「バーサーカー・・・!」

 

その為にはあの男にもう一度会わなければならない。ケジメを即ける為に。

 

ドゴォオ―――ッンッ!!!

 

「ッ、何事ッ!?」

 

その願いが通じたか、静かな夜に城壁を破壊する爆発音が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回はやっとこさ・・・アレです。


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酒杯問答:上




今回は文字が9000を突破しました!

長いですが、お構いなく。

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

間桐 雁夜は困惑していた。

屋敷で桜やドン達と花札なんてして遊んでいたのに、今自分はどこにいる?

 

雁夜は、世界征服という馬鹿げた夢に人類史において一番近づいた男の肩に担がれ、セイバー陣営の城の入り口にいる。

彼らは、轟音共に響き渡らせた雷で魔術結界や城壁を破壊した入口に立っている。何故、そんなところに自分がいるのか?

それは、雁夜がバーサーカーのマスターであるからに他ならない。

サーヴァントのマスターであるから、その行動には取りあえず付いて来なければならないという彼のサーヴァントの暴論のもと、雁夜はここにいる。

 

 

「おぉい、騎士王! わざわざ出向いてやったぞぉ。さっさと顔を出さぬか、あん?」

 

ホールから堂々と呼びかけてくる声は案の定、征服王イスカンダルこと『ライダー』のそれに違いなかった。

間延びして聞こえる声はおおよそ、これより戦闘に臨む者の語調とは思えない。

 

 

「なあ大王、中々に良い場所だろう?」

 

「そうかぁ? 余としては、こんなシケたところではのぅ」

 

「ん~? 俺としては、静かで良いとこだと思うんだけどなぁ~」

 

「Barで酒を飲む気分なら、静かな方がいいけどね」

 

ライダーの隣で同じく間延びした声を出すのは、召喚した当時の服装に身を包んだ雁夜のサーヴァントこと『アキト』と彼が召喚したという仲間の『シェルス』である。

他のドンやロレンツォは、近代兵器と魔術結界に守られた屋敷で桜を守る為に留守番している。

彼等なら、例えアサシンやキャスターが侵入してきても過剰防衛で撃退するとの考えである。

 

 

「どうしてこうなった・・・」

 

別の肩に担がれているウェイバーは、シクシクと涙する。

そうしていると奥のテラスから白銀の甲冑を実体化させ、戦闘態勢に入っているセイバーとアイリスフィールが何とも言えない視線を送って来る。

 

 

「いよぉ、セイバー。昨日、来た時から思っておったんだが・・・何ともシケたところに城を構えておるのぅ」

 

それに対してライダーは、相も変わらず快活にライダーは失礼なセリフと共に呼びかける。アキトもライダー同様にセイバーらを見上げ、「夜分遅くにすまないな」と声をかけた。

 

 

「・・・バーサーカー・・・これはいったいどういうことなんでしょうか? ラフな服装にワイン樽を持っていて、ライダーの出で立ちがまるで酒盛りでもしに来たかのようなのですが。それにその隣のご婦人は・・・?」

 

ライダーの出で立ちや来た事にも驚くが、それより昨晩自分に吸血した人物が昨日の今日でここに来た事に対して驚いたのがセイバーの本音だ。しかも、その気になる彼の隣には、無視無視マスターからアイリスフィールを通して聞いていた『8騎目のサーヴァント』がいたのだから。

 

 

「ああ、これは―――「今日は互いの武功を称え合って、酒盛りがしたいと思ってね」

 

アキトが事情を話そうと口を開けた。が、その前にシェルスが彼の口に手をやりながら代わりに答える。

 

 

「貴女は・・・?」

 

「お初にお目にかかるわセイバー・・・いえ、騎士王アルトリア。私は『ガンナー』。どうぞよろしくね?」

 

シェルスはニコやかに自己紹介をするが、明らかに目の奥が笑っていない。

二人の間に見えない電流が走っているようにウェイバーは感じた。

 

 

「あ、あのー・・・セイバーのマスターさん?」

 

「は、はい?」

 

現代の作法を知ってか知らずかわからないサーヴァントに変わって、ライダーの肩から下りた雁夜が、アイリスフィールに語り掛ける。

 

 

「いやー、こんな夜分遅くにすみませんマスターさん。お詫びと言っては何ですが、どうぞ」

 

純朴そうな笑顔をしながら雁夜がアイリスフィールに小さな包みを差し出してくる。包みの中身は、ライダーが酒を選んでいる間に雁夜が買っておいた高級菓子の詰め合わせである。

 

 

「あ、これはどうもご丁寧に・・・」

 

「それでなんですが・・・あの森の惨劇は聖杯戦争中の破壊活動と思って諦めてもらえないでしょうか? その代わりこちらもウチのバーサーカーとガンナーの真名をお教えいたしますので」

 

「・・・ええ、構わないわ」

 

「寛大な処置に感謝いたします、セイバーのマスターさん」

 

しかし、まさか破壊活動を行いながらの訪問とは露ほどにも思っていなかった雁夜の背中は、少しばかり冷や汗で湿っていた。

それでもライダーの行動の報復に来られることを恐れた雁夜は、こちらにとってはそれほどの痛手ではないが、相手からするとどうしても手に入れたい情報を取引材料に使って沈静化を試みる。

相手に動揺を悟られず、最善の行動をとる。アッパレ、雁夜は良くできた社会人であった。

 

こうして彼らは城の外にある庭園に移っていく。

そして、宴の場所として選ばれた城の中庭にある花壇にアキト達が持って来た携行式の卓袱台を置き、酒の肴の入った重箱を並べた。

この酒宴の提案者であるライダーは持ち込んだ酒樽を真ん中に挟んで、セイバーと差し向かいにどっかりとあぐらをかき、悠然たる居住まいで対峙している。アキトとシェルスは、その両者の間に座る。

サーヴァント達の後ろにはウェイバーと雁夜、そしてアイリスフィールが並んで立つと共に先の読めない展開に気を揉みながら、まずは成り行きを見守ることに徹していた。

 

ライダーがどうしてこのような行動に移ったかには、理由がある。それは『酒を飲みつつ問答をもって勝負する』というモノであった。

その勝負内容は『王としてどちらが優れているか』と言うものである。

だが、ただの飲み会だと思っている部分がある自分が近くにいてもいいものなのかとアキトは、ライダーに聞いてみた。

 

 

「何、宴の客を遇する態度でも王としての格は問われるというもの。何よりお前さんの料理は美味であるがゆえにな」

 

ここまで共に戦って来た者をないがしろにするほどライダーは小さくなく、アキトの料理で酒が飲めるのならこれ幸いと思っていたのだ。

 

 

「そして騎士王よ、今宵は貴様の王の器を問いただしてやるから覚悟しろ」

 

「面白い。受けて立つ」

 

先程までライダーの襲撃に眉をひそめていたセイバーが、毅然とした面持ちで応じている。

王としての戦いを全くアキトは知らないが、そこから漂うシリアスな雰囲気からようやく受け入れることができたことは口にしなかった。

 

 

 

 

 

「大皿のような形だが、これがこの国の由緒正しい酒器だそうだ」

 

まずはライダーが拳で樽を叩き割ると、そう言いながら漆喰の杯で中に詰まっているワインを掬い取り、一息に飲み干す。そして、アキトが持って来た重箱の肴を口に放りこんだ。

 

 

「聖杯はこの冬木による闘争によって見定められ、それにふさわしき者の手に渡る定めにあるという。そうであるなら・・・何も血を流す必要はない。英霊同士、お互いの格・に納得がいったのならそれでおのずと答えは出る」

 

そのまま差し出された杯をセイバーは毅然と受け取り、ライダーと同様に樽の中身を掬い取るとライダーに勝るとも劣らない程に剛胆に呷る。それを見届けたライダーが「ほう」と愉しげに微笑する。

 

 

「それで・・・まずは私と『格』を競おうというわけか? ライダー」

 

杯のワインを飲み干したセイバーの問いかけにライダーは「その通り」と言う。

 

 

「お互いに『王』を名乗って譲らぬとあっては捨て置けまい。いわばこれは『聖杯戦争』ならぬ『聖杯問答』・・・・・はたして騎士王と征服王・・・どちらがより、聖杯の王に相応しき器か? 酒杯に問えば、つまびらかになるというものよ」

 

そこまで厳しく語ってからライダーは悪戯っぽい笑いに口を歪めて、白々しく小馬鹿にした口調でどこへともなく言い捨てた。

そして、何かを思い出したようにライダーは口を開いた。

 

 

「ああ、そういえば我らの他にも一人ばかり・・・『王』だと言い張る輩がおったっけな~?」

 

「戯れはそこまでにしておけよ、雑種」

 

その声音、その輝きに見覚えのある声にセイバーやアイリスフィールは、ともに身体を硬くする。シェルスに至っては、宝具の銃を見えない様に引き抜く。だが、それにアキトは手を置いて制止する。

シェルスとしてはここで厄介なアーチャーを暗殺する事で戦を優位に進めたいが、そんな事をすれば『ライダーが黙っているはずがない』というアキトの訴えにやむなく銃をしまう。

 

 

「アーチャー、何故ここに・・・?」

 

気色ばんだセイバーに、答えたのはライダーだった。

 

 

「いやな。街の方でこいつの姿を見かけたんで、誘うだけ誘っておいたのさ。遅かったではないか、金ピカ。まぁ余と違って歩きなのだから無理もないか」

 

「よもや、こんな鬱陶しい場所を『王の宴』に選ぶとはな。それだけでも底が知れるというものだ。我にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる? それにどういう了見だ? この場に『王』ではない蝙蝠と『8騎』目がいるなど・・・」

 

アーチャーは、鋭く尖らせた眼でアキトとシェルスを見る。

あと、どうでもいいことなのだが・・・王と言うものは、招かれた宴の場所に対して文句を言わずにはいられない性質なのだろうか。そう本気で考え始めるほどに下手で見ていた雁夜は、王に対する評価が変化していきそうになる。

 

 

「まぁ固いことを言うでない。ほれ、駆けつけ一杯」

 

普通の人間なら怯え竦むほどの剣幕のアーチャーに対し、ライダーは朗らかな笑みを浮かべながらワインを汲んだ杯を渡す。

この雰囲気ではそのまま渡された杯を地面に叩きつけて、例の宝具でも展開するのではとアキトは警戒したが、意外にもアーチャーは素直にそれを飲み干した。

酒による王の勝負と言うものは、時代や場所が違っていても共通なのだろうか。

 

 

「なんだこの安酒は。こんなもので王としての器を量れると思っていたのか?」

 

「そうか? この土地で仕入れたものの中ではなかなかの逸品だぞ」

 

「そう思うのは、お前が本当の酒を知らぬからだ」

 

ライダーの言っていることは間違いではない。

この冬木で手に入れられるワインの中では大分上等なものであるのは間違いない。ライダー達も試飲したときには、かなり美味だと感じた。

だが、この金色の王様の口には合わなかったらしく、眉をひそめて言い捨てる。

 

 

「なら、こっちはどうだ?」

 

ライダーは重箱の肴をアーチャーに出す。しかし、アーチャーは怪訝な顔をしてフンッと鼻息をたてて断った。アキトは少し残念でしょぼんとしたが、代わりに肴に興味の湧いたセイバーが食べ、顔を少しほころばせた。

腹ペコ王の末端を垣間見た事に喜んでいるとアーチャーの傍らの空間が水面の様に歪んだ。

 

 

「見るがいい。そして思い知れ。これが『王の酒』というものだ」

 

アーチャーが傍らに呼び出したのは、武具の類ではなく、眩しい宝石で飾られた一揃いの酒器。重そうな黄金の瓶の中には、澄んだ色の液体が入っていた。

 

 

「おお。これは重畳」

 

ライダーはアーチャーの憎まれ口を軽くスルーして、それを五つの杯に酌み分けようとする。

 

 

「おおっと、待ってくれ大王。俺はそのお酒は断っておくぜ」

 

その時、アキトがライダーの手を止めた。

 

 

「なんだバーサーカー。一人だけ別の酒を飲むなどと言う水を差すようなことをするでないわ」

 

「いやいやだって、その瓶の中の酒ってどう見てもワインじゃあないか。俺はこっちのウィスキーで十分だからよ」

 

そう言って、彼は懐からウイスキーを出す。

何故、彼が酒を断ったのかというと実は、アキトはワインが苦手なのだ。実際、ライダーの持って来たワインの試飲も断っている。だが、そう言われたアーチャーには面白くなかったようで、先ほどのライダーへの剣幕をそのままアキトに向けてきた。

 

 

「おい、蝙蝠。よもや貴様、我の出す酒が飲めぬと抜かすつもりか?」

 

「・・・アンタは何を酔っぱらった上司みたいなことを言っているんだよ、英雄王・・・」

 

予想外のアーチャーの反応にアキトは、素の反応をする。

 

 

「我が寛大な慈悲の心で、万死に値する咎を背負った貴様に酒を下賜してやったというのに・・・それを断るとは何たる不敬かッ!」

 

「おおっと! この英雄王、かなりメンド臭いぞ!!?」

 

「なんだと貴様!?」

 

「あ~はいはい、喧嘩しないの! アキトも飲むのよ!」

 

「え~、でも俺はウィスキーの方が―――「いいから!」―――・・・はい・・・」

 

まさか飲まない事に憤怒して、あの規格外の宝具を出そうとするとは予想もできなかった。というより、このサーヴァントの行動を完全に予測出来る奴なんかいるのだろうか。予測できるとすれば、彼の友人だけであろう。

シェルスの機転で悪い事態は免れるが、目の前のアーチャーに押し出された黄金の杯を渋々受け取りながら心の中でアキトは愚痴を言う。

 

 

「むほォ、美味いっ!!」

 

先に杯を呷ったライダーが、目を丸くして喝采する。それによって警戒心を薄め、好奇心が先立ったセイバーもそれを飲み干すとおそらく無意識であろう感嘆の声を上げていた。

確かに注がれた酒からはとても芳醇な香りが漂ってくる。それでもアキトは依然として飲まないでいる。結局飲まないとアーチャーの逆鱗に触れることになるのは分かるが、なるべくならウイスキーの方が良い。

そうこう悩んでいる内に、隣のシェルスまでもが酒を何とも美味そうに飲んでしまい、もう飲んでいないサーヴァントはアキトだけになっていた。

 

 

「俺はよ~どうもワインってのが、気に喰わねぇ。なんであんな甘い葡萄をわざわざ渋くさせちまうんだ? 確かに果実酒ってのは、美味い。林檎とか、梅とかの酒は美味いよ。でも、どうにも葡萄を醸して作ったワインだけはどうにも―――」

 

「貴様・・・・・自らの分を弁えているのは良いが、度が過ぎると醜悪だぞ。この我が飲めと言ったのだから、素直に享受されておくのが礼儀であろうが、蝙蝠」

 

「つべこべ言わずに飲んでごらんなさいよアキト。コイツは素敵よ」

 

「む~・・・わかったよ、飲むよ。飲ませて頂きますよ英雄王ッ」

 

渋々妥協して、彼は杯を口に傾けた。

 

 

「ッッ!!!?」

 

喉に流し込んだ瞬間、まるで脳が倍に膨れ上がったような強烈な多幸感が襲う。舌が、この酒を味わおうとすべての神経を集中させているかのようだ。

まるで麻薬のような多幸感が体中にみなぎってくるが、それが過ぎた後の余韻すらも快感に思えるほどの味わい深さ。

 

 

「ゥンんまァア―――ッい!!」

 

あれほど暴れまわった味覚も、酒が喉を過ぎると非常に清らかな気分になれる。

今まで味わったどんな物よりも素晴らしい逸品。このような代物は人間が作り出せるものではない。もっと上位の存在が作り出した、酒の形をした全く別の物だ。

 

 

「なんだコイツはァアッ!? 脳に直接高圧電流を流された衝撃があるのに体中に穏やかに染み渡っていく、この感じ! ディ・モールト・・・ディ・モールト・ベネッ!!」

 

「でしょう?!」

 

最初に抱いていた警戒心はどこへやら、軽く飲むふりをしてやめておこうとしていたアキトは、酒を飲む事がやめられなくなっていた。その反応に満足したのか、アーチャーは微笑を浮かべる。

 

 

「当然であろう。酒も剣も、我が宝物庫には至高の財しかありえない。これで王としての格付けは決まったようなものだろう」

 

勝ち誇るアーチャーであったが、そんな彼に黙っていたセイバーが噛み付いた。

 

 

「ふざけるなアーチャー、酒造自慢で語る王道なぞ聞いてあきれる。戯言は王ではなく道化の役割だ」

 

どうやら馴れ合いめいてきた場の空気に、そろそろ苛立ち始めていたのだろう。性根が真面目なセイバーには、この浮ついた状況で聖杯問答をするのは許しがたい事らしい。

そんなセイバーを、先ほどのアキトへの物とは違う顔と共にアーチャーは鼻で笑う。

 

 

「さもしいな。宴席に酒も供せぬような輩こそ、王には程遠いではないか」

 

「こらこら。双方とも言い分がつまらんぞ」

 

なおも言い返そうとするセイバーをライダーが苦笑いしながら遮り、アーチャーに向けて先を続ける。

 

 

「アーチャーよ、貴様の極上の酒はまさしく至宝の杯に注ぐに相応しい。が、生憎聖杯と酒器は違う。これは聖杯を摑む正当さを問うべき聖杯問答。まずは貴様がどれ程の大望を聖杯に託すのか、それを聞かせてもらわなければ始まらん。さてアーチャー、いや英雄王『ギルガメシュ』。貴様はウルクの王として、ここにいる我ら四人をもろともに魅せる程の大言が吐けるのか?」

 

「仕切るな雑種。第一『聖杯を奪い合う』という前提からして理を外しているのだぞ」

 

「ん?」

 

「どうゆう事だ?」

 

アーチャーの発言にライダーのみならず、他のサーヴァントやマスター達も疑問符を浮かべた。

 

 

「そもそもにおいて、聖杯は我の所有物だ。世界の宝物は一つ残らず、その起源を我が蔵に遡る。いささか時が経ちすぎて散逸したきらいはあるが、それら全ての所有権は今もなお我にあるのだ」

 

「オイオイ・・・」

 

「なによそれ・・・」

 

呆れたようにアーチャーは言い放つが、それを聞いてアキト達の方が嘆息したくなった。このAUOが傍若無人な奴だと知ってはいたが、ここまでとは予想だに出来なかった。

 

 

「じゃあ貴様昔、聖杯を持っていたことがあるのか? どんなもんか正体も知ってると?」

 

「知らぬ」

 

「あららッ!?」

 

ライダーの追及を、アーチャーは平然と否定する。

 

 

「雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが、それが『宝』であるという時点で我が財であるのは明白だ。それを勝手に持ち去ろうなど、盗人猛々しいにも程がある」

 

「なによそれ、屁理屈にも程があるじゃあないの」

 

「ガンナーの言う通りだ。貴様の発言はキャスターの世迷い言と全く変わらない。錯乱したサーヴァントというのは奴一人だけではなかったらしいな」

 

女性陣二人はアーチャーの発言に納得がいかず、異論を唱える。

 

 

「いやいやわからんぞ、セイバーにガンナー。この金ピカが、バーサーカーの言うように英雄王というのなら、その見識は間違ってはおらんだろう。それにアーチャー、貴様の言い分からすると貴様は別に聖杯なんぞ欲していないということではないか。だったらあれだけある財のうちの一つくらい、くれたってええじゃないか」

 

「たわけが。我の恩情を賜うことができるのは我が配下のみ。お前らの如き雑種に、我が褒賞を賜わす理由は何処にもない」

 

「おん? じゃああの時、俺が臣下になってたら聖杯はくれたのか?」

 

思い出したようにアキトは倉庫街での言葉を浮かべる。

 

 

「それ相応の忠義を見せるというのであればな。今からでも以前我の言葉を否定した謝罪とそれ相応の態度を示せば、今一度臣下になる権利を与えてやろう。誇るがいい。この我が二度も誘いをかけるなど、そうあることではないのだぞ?」

 

「!」

 

思わぬ二度目の勧誘に引き気味にアキトは驚くが、後ろの方でおかっぱ頭が喚いているので断る事にした。

 

 

「いんや、やめとくよ。一度、刃を向けちまったんだもの・・・倒さずにいられないのが、蝙蝠の性分・・・なんでね」

 

「・・・もう次はないぞ?」

 

「おん。次に逢い見えた時が、俺達との決戦になるだろうよ」

 

彼の返答を聞いて、アーチャーはクツクツと笑う。

 

 

「良いだろう。貴様と隣に控えている蝙蝠女は我、自ら裁きを下す。もっとも、雑種如きでは貴様は手に余るだろうがな」

 

「カカッ♪ 言ってろ」

 

笑っている両者であったが、その眼には明らかな『闘争の火』があった。

 

 

「さて・・・ライダーよ。先も述べたが、お前が我の許に下ると言うのなら杯の一つや二つ、いつでも下賜してやって良い」

 

「・・・まぁ、そりゃ出来ん相談だわなぁ。でもなぁ、アーチャー。貴様、別段聖杯が惜しいってわけでもないんだろう? 何ぞ叶えたい望みがあって聖杯戦争に出てきたわけじゃないと。なら、それにはどんな道理がある? 何をもってお前は裁きを下す?」

 

「『法』だ。我が王として敷いた、我の『法』だ」

 

ライダーの問いに、アーチャーは即答する。

よほど自分の中にあるルールに自信があるようで、その様子にぶれはない。それもあってか、ライダーは観念したようにため息をついた。

 

 

「完璧だな。自らの法を貫いてこそ、王。だがなアーチャー、余は聖杯が欲しくて仕方がないんだよ。で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ。何せこのイスカンダルは―――」

 

ライダーは杯に入った酒を飲み干して、一つ置いた後、言い放つ。

 

 

「征服王であるが故」

 

「是非もなし。お前が犯し、俺が裁く。問答の余地などどこにもない」

 

「うむ。そうなると後は剣を交えるのみ・・・・・だが、その前にアーチャーよ。この酒は飲みきってしまわんか?殺しあうだけなら後でもできよう」

 

「無論。それとも貴様、まさかそこな蝙蝠のように我の振る舞った酒を蔑ろにしようとしていたのか?」

 

「冗談ではない。我が身可愛さに捨て置けるほど、この美酒は軽いものではない」

 

「悪かったな、すぐに飲まなくて」

 

「コラ、すねないの」

 

明らかに会話の内容は敵対することを明言しているのだが、その雰囲気はどこか親交を深めたようなものがある。

そんな様子を憮然と眺めていたセイバーだが、ここで漸くライダーに問いかけた。

 

 

「征服王よ。お前は聖杯の正しい所有権が他人にあると認めた上で、尚且つそれを力で奪うのか?」

 

「然り。当然であろう? 余の王道は『征服』なのだからな」

 

「そうまでして、聖杯に何を求める?」

 

セイバーの血を飲んだ影響からか、彼女が怒りをこらえていることに。セイバーの言葉の端々に怒気が込められていることを感づいてしまった。

騎士王としての王の在り方を鑑みても征服王の王道は許容出来たものではないからである。

今でこそ酒を飲んで言い合ってるだけだが、この聖杯問答に集まっているのは各国の名立たる英霊だ。誰かが武力に出れば、ここら一帯は無残な戦場と化すのだ。

そんな事などお構いなしで、セイバーの問いかけに軽く照れ笑いをしながらライダーは答えた。

 

 

「受肉だ」

 

『はぁッ?』

 

その答えを聞いて、場は騒然とした。

 

 

「おおお、お前! 望みは世界征服だったんじゃ―――「ええい、やかましいわ」―――ぎゃわぶッ!!」

 

ライダーに詰め寄ったウェイバーは、毎度おなじみのデコピンによって宙を舞う。

 

 

「馬鹿者。たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする?征服は己自身に託す夢。聖杯に託すのは、あくまでもその為の第一歩だ」

 

「雑種・・・よもやそのような瑣事のために、この我に挑もうというのか?」

 

「いよいよもって、予想外ね」

 

あのアーチャーでさえ呆れ顔にするあたり、ライダーはある意味とんでもない存在なのだ。

 

 

「いくら魔力で現界していても、所詮我等はサーヴァント。この世界においては奇跡に等しい。だがな、それでは余は不足なのだ。余は転生したこの世界に、一個の命として根を下ろしたい。身体一つの我を張って、天と地に向かい合う。それが征服という『行い』の総て・・・そのように開始し、推し進め、成し遂げてこその我が覇道なのだ」

 

ライダーのその答えに、アーチャーとセイバーは真逆の表情を浮かべていた。

これまで笑みと言えば嘲笑しか浮かべていなかったアーチャーが、それとは異なる笑みを浮かべている。『何かを企む』そんな笑顔を。

 

 

「決めたぞ。ライダー・・・貴様はこの我が手ずから殺す」

 

「フフ、今更念を押すような事ではあるまい。余もな、聖杯のみならず、貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ。これ程の名酒、征服王に教えたのは迂闊すぎであったなぁ」

 

アーチャーの言葉に笑うライダー。その様子は心底楽しそうではある。だが、二人のやり取りに入り込む余地などありはしないとばかりにセイバーは押し黙っていたままだった。

いや・・・押し黙るばかりか、敵意をむき出しにして二人を睨んでいたのだ。

 

 

「ところで、セイバーよ。そういえば、まだ貴様の懐の内を聞かせてもらってないが」

 

ライダーの問いかけを待ってましたと言わんばかりに、セイバーは毅然とした態度で二人の王達を見据えて、自らの望みを打ち明けた。

 

 

「私は・・・我が故郷の救済を願う。聖杯をもってして、ブリテンの滅びの運命を変える」

 

『あ゛ぁ?』

 

セイバーが毅然として放った宣言に和やかだった座は、しばし静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 




二部構成か、三部構成か・・・それが問題だ。


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酒杯問答:中




今度こそは短く纏めたい。

アキト「・・・できんのか?」

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「私は・・・我が故郷の救済を願う。聖杯をもってして、ブリテンの滅びの運命を変える」

 

ライダーに聞かれ、自らの聖杯への願いを語ったセイバーの宣言にしばし座は静まり返った。いや、静まり返るというよりは『白けている』と言うのが正しい。

 

その沈黙に驚いたのは、他でもないセイバー自身だった。

同意や反論があるものと身構えていたというのに、まるで理解できない言葉で語られたかのように反応がない。

 

 

「・・・・・なぁ、騎士王。もしかしで余の聞き間違いかもしれないが・・・今、貴様は『運命を変える』と言ったか? それは過去の歴史を覆すと?」

 

ようやく口を開いたライダーも、困惑した顔で尋ねている。自分の耳に聞こえた言葉をもう一度確認するように。

 

 

「そうだ。例え奇跡をもってしても叶わぬ願いであろうと、聖杯が真に万能であるならば、必ずや―――・・・?」

 

断言しようとしていたセイバーの言葉尻が浮く。ここに至って漸くセイバーは、場に横たわる微妙な空気に気づいたらしい。

 

 

「えぇと・・・セイバー? 確かめておくが、そのブリテンとかいう国が滅んだというのは貴様の時代の話であろう? 貴様の治世であったのだろう?」

 

「そうだ! だからこそ、私は許せない。だからこそ悔やむのだ。あの結末を変えたいのだ。他でもない、私の責であるが故に・・・」

 

「・・・ククク・・・!」

 

不意に、哄笑が轟いた。

まるで、お笑い番組の芸人を楽しむ子供のような笑い。そして、どうしようもなく尊厳など踏みにじるかのように何の遠慮もない笑いが。

 

 

「アーチャー、何がおかしい!?」

 

怒気に染まった表情で問いかけるセイバー。

しかし、アーチャーはその剣幕を意に介さず、ただただ笑い転げ、息切れまじりに言葉を漏らす。

 

 

「自ら王を名乗り・・・皆から王と讃えられて・・・そんな輩が、『悔やむ』だと? ハッ!これが笑わずにいられるか? 傑作だ!セイバー、お前は極上の道化だな!」

 

「ちょっと待て・・・ちょっと待っておれ騎士王。貴様、よりによって、自らが歴史に刻んだ行いを否定するというのか?」

 

 

そうやって笑い続けるアーチャーの横で、あからさまに不機嫌そうな様子でもう一度確認するようにライダーが口を開く。

 

 

「そうとも。何故訝る? 何故笑う? 王として身命を捧げた故国が滅んだのだ。それを悼むのがどうしておかしい?」

 

「おいおい、聞いたかライダー! この騎士王とか名乗る小娘は、よりにもよって! 『故国に身命を捧げた』・・・のだとさ!」

 

遂に我慢ならなくなり、爆笑するアーチャーに応じる事なく。ライダーは黙したまま、ますます憂いの面持ちを深めていく。アキトやシェルスも何か思うところがあるのか、黙ったままだ。

その沈黙はセイバーにとって、笑われるのと同じ屈辱なのだろう。彼らのそれは確実に、セイバーの願いを否定しているのと同義なのだから。

 

 

「笑われる筋合いが何処にある? 王たるものならば、身を挺して、治める国の繁栄を願う筈!」

 

「いいや違う。王が捧げるのではない。国が、民草が、その身命を王に捧げるのだ。断じてその逆はあり得ない」

 

沈黙していたライダーの言葉にセイバーは尚も言う。自らの宣言が正しいと弁論するように。

 

 

「何を・・・・・それでは暴君の治世ではないか! ライダー、アーチャー、貴様らこそ王の風上にも置けぬ外道だぞ!」

 

「そうだ。我らは『暴君』であるがゆえに英雄だ。だが、自らの行いをその結末を悔やむ王がいるとしたら・・・それはただの『暗君』だ。暴君よりもなお始末が悪い」

 

「(『暴君であるがゆえに英雄』・・・か、言い得て妙だな・・・)」

 

そこまで言って、セイバーは冷静さを取り戻す。

笑い転げているアーチャーとは違って、ライダーは問答の形でセイバーを否定しようとしている。それを知ってか、知らずか、セイバーは果敢にもそれに応じた。

 

 

「・・・では貴様は全く悔やまなかったと言うのか? 征服王イスカンダル、貴様とて、世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わった筈だ。その結末に貴様は、何の悔いもないというのか?」

 

「ない」

 

「ッ!?」

 

即答だった。

問いかけに対して、考える暇もない程に即行であった。

 

 

「余の決断、余に従った臣下たちの生き様の果てであるならば・・・その滅びは必定だ。悼みはしよう。涙も流そう。だが、決して悔やみはしない」

 

「そんな・・・!」

 

「ましてそれを覆すなど! そんな愚行は、余と共に時代を築いたすべての者達に対する侮辱であるッ!!」

 

「滅びを良しとするのは武人だけだ。力なき者を守らずしてどうする?! 正しき統制、正しき治世。それこそが王の本懐だろう!」

 

釈然と言い放つライダーにセイバーは自身の本心を、王としての在り方を負けじと言い放つ。

 

 

「・・・で? 王たる貴様は、正しさの下僕か?」

 

「それでいい・・・理想に殉じてこそ『王』だ」

 

ライダーは嘆息を吐露しながら金の杯を手に取り、中身を回す。

 

 

「・・・そんな生き方は『人』ではない」

 

「王として国を治めるのなら人の生き方など、望めない。」

 

セイバーは尚も持論を展開していく。それが、古代マケドニアの王の勘に触る事を知っていながらも。

 

 

「・・・征服王・・・高々、我が身の可愛さの余りに聖杯を求めるという貴様には、わかるまい。飽くなき欲望を満たす為だけに覇王となった貴様には!」

 

「無欲な王など飾り物にも劣るわい!!」

 

「ッ、何を言うか!」

 

その言葉で遂に冷静だったライダーが眉間に皺を寄せて、声を荒らげた。セイバーは、その怒号に一歩身を引きながらも歯向かう。

 

 

「セイバーよ」

 

「なんだ?!」

 

「『理想に殉じる』と言ったな? なるほど、往年の貴様は『清廉』にして、『潔白』な聖者であった事だろう。さぞや高貴で汚しがたい姿であったことだろう。だがな・・・『殉教』などという『棘の道』に一体誰が憧れる? 焦がれる程の夢を見る?!!」

 

「ッ!」

 

冷静にされど強い口調で言い放つライダーの眼差しは、セイバーの心の奥底まで射貫くような物であった。

ゴォオッと宴の場に風が吹き付ける。

 

 

「王とはな・・・誰よりも強欲に、誰よりも剛掌し、誰よりも激怒する。清濁含めて、人の臨界を極めたる者」

 

彼の言葉を肯定するように浅い雲に隠れていた満月が、その姿を現す。

 

 

「そうあるからこそ臣下は王を羨望し、王に魅せられる。一人一人の民草の心に『また、我も王たらん』と憧憬の火が灯る」

 

ここで言われているセイバーに変わって、今までを聞いていた。そして、血を啜った事で彼女の半生を読み取っていたアキトは、いつでもセイバーを擁護できた。

 

 

「騎士道の誉高き王よ。確かに貴様の掲げた『正義』と『理想』は国を救い、一度は臣民を救済したもやもしれん・・・」

 

しかし、それは出来なかった。

何故ならライダーの語る『王の在り方』というのは・・・まさに自らを救い、導いて来た、あの『首領』そのものであったのだから。

 

 

「だがなぁ・・・ただ救われてきた連中が、どういう末路を辿ったのか・・・知らない貴様ではあるまい」

 

「ッなんだと・・・?!」

 

また、雲が月を覆い隠す。骸に覆われた彼女の最後の記憶を隠す様に。

『あの場所』で、力なく剣を地面に刺す自身を思い出さない様に。

 

 

「貴様は臣下を救うばかりで、『導く』事をしなかった。王の欲の形を示す事もなく、導かれずに路頭に迷う民を顧みず、ただ一人で澄まし顔のまま、小奇麗な理想とやらを追い続けただけよ。故に貴様は、生粋の王ではない。己の為ではなく、人の為の・・・王と言う『偶像』に縛られていた・・・・・『小娘』にすぎん」

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

最も信頼していた臣下に裏切られ、子に裏切られ、守っていた国を滅ぼされたあの瞬間をセイバーは思い出していた。

『カムランの丘』の上で焦土とかし、血に染まった大地を見た・・・あの時を。

 

 

「わ・・・私は・・・・・私は・・・!」

 

騎士王という存在の否定とも言い換えられるこの言葉に返せないということは、セイバーの中で何かが折れたと言うことなのだろう。

それを見ながらアキトは何か、心苦しさのような気持ち悪さを覚えていた。

 

彼の知っている『Stay night』のセイバーの聖杯にかける願いは『王の選定のやり直し』。

その『願い』を余計に知っている為に後味の悪い『ナニか』が、彼の心を覆った。

 

 

「(『決まった』・・・わね・・・)」

 

もうセイバーに反論する気力は、雲散霧消のそれと化した。

『何も言えない・・・もう何も・・・』とセイバーは、力なく地面を見つめるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いや・・・・・そんな事はないんじゃあないかな」

 

「・・・え?」

 

ところが、ここでライダーの言葉に異論を唱える者が一人。

 

 

「マスター・・・!?」

 

この聖杯戦争で、最も警戒されている筈であろう。変わり種の狂戦士の主が、ボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 




次回・・・山羊と吸血鬼に触発されたインスタントが喋る。


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酒杯問答:下



難しいッ! やりたいからやったけど難しい!!

でも楽しいッ!

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「ちょっと、カリヤさん・・・!?」

 

ウェイバーは驚きを隠せなかった。

今まで、一緒にサーヴァント達の問答を聞いていた雁夜が突然、彼らの話に割り込んだのだ。

これにはウェイバーやアイリスフィールに加え、サーヴァント達も驚く。

 

 

「・・・いきなり我達の問答に割り込むとはどういう了見だ、雑種?」

 

ただ一人、アーチャーだけが雁夜を貫く様な眼で睨んでいた。

その行為に危険を感じたシェルスが、迎撃態勢に入ろうとする。

 

ガシッ

 

「ッ!!?」

 

しかし、彼女の肩に手を置き止めたのは、なんとアキトであった。

この男、自分のマスターが危険な目にあっているのにニタニタと笑みをこぼしていたのだ。

 

確信はなかった。

このままでは、雁夜はアーチャーによって殺される可能性もあった。だが、アキトの保有スキル『直感:B+』が彼に語り掛けたのだ。『おもしろいモノが見れる』・・・と。

 

 

「・・・俺はただ・・・セイバーの在り方もいいんじゃあないかと思っただけだ」

 

「ほう・・・おもしろい。カリヤよ、お前さんの意見を聞かせてはくれんかの?」

 

ライダーが顎に蓄えた髭を撫でながら雁夜を興味深そうに見た。

 

 

「・・・どういうつもりだ雑種?」

 

「良いではないか、アーチャー。あの男は、我らの話を聞いて何かしら思うところがあったのだろう。それに気になるではないか」

 

「何がだ?」

 

「我が盟友にして、貴様が気に掛ける蝙蝠の主の内とやらをのぉ?」

 

「・・・フンッ」

 

アーチャーは、不機嫌そうに鼻を鳴らすと杯の酒を呷った。セイバーも放心から一転。雁夜に興味の視線を送る。

 

 

「さて・・・カリヤ。その心中、余に見せてはくれぬか?」

 

「・・・わかった」

 

「カリヤさん・・・」

 

心配するウェイバーに大丈夫と笑顔を見せると真剣な面持ちでサーヴァント達の方を見据えた。

 

 

「ライダー。俺はさっき、セイバーの在り方も良いんじゃないかと言った。でも別にライダーの王道も間違ってるとは思わない」

 

「ほう」

 

「ライダーの言う、王の魅せる道。そこに灯る臣民の憧憬。例え、その結末が望む物ではなかったとしてもその道を信じて突き進んだ人達が見ることの出来る結末だ。だから、こうして世紀を超えても語り継がれる歴史となる」

 

「そうだ。それが余とともに駆け抜けた英雄への礼儀であり、結果だ」

 

「ああ。なら何故、セイバーを否定できる?」

 

「・・・何?」

 

雁夜の発言に、ライダーは少しばかり眉をひそめた。

 

 

「王であっても皆、人間だ。ライダーのように滅びを受け入れ、悼み、涙を流しても尚、悔やまない人間だっている。でも、決して滅びを肯定するヤツなんていない。救える道があるならそうしたいと願う人間がいてもおかしくない」

 

「だがなカリヤよ、それ自体が間違っているのだ。その行為は自分を信じ、付き従ってきた者への侮辱であろう」

 

先ほどと同じ言葉を繰り返すライダーだが、それを聞いて雁夜は困った様にクスリと笑った。

 

 

「確かにそうだろう。・・・それの何が悪いんだ?」

 

先程、セイバーの胸の内を聞かされたライダーのように理解できていないような顔をして、ライダーに問い返した。

 

 

「なんだと?」

 

「侮辱だなんだって言うならライダーの言う『受肉』だって、死者を侮辱している願いだと言えないか?」

 

雁夜はライダーが、なぜセイバーを否定しているのかが理解できていなかった。

二人の願いは似たようなものだとしか思えなかったからだ。

ライダーはセイバーの歴史を改変するという願いは当時の人々への侮辱だと言っていた。しかし、本来この世界に居てはいけないはずの死んだ人間が現世に復活することだって、あった筈の歴史を改変しているようなものだ。

 

 

「つまり、何が言いたいのは・・・・・セイバーの願いもライダーの願いも正しくないって事だ。正しくないが故にそれでいいんじゃないか? 自分の願いが肯定されるか否か、そこは問題じゃない。要は『どんなに否定されても、願いを貫けるか』そこに尽きる。誰にも理解されず、に否定されて尚・・・それを正しいと言い切れるならそれは正しく『願い』だ」

 

『・・・』

 

またしても座が沈黙に包まれる中、クツクツと面白可笑しそうに狂戦士が静かに笑いはじめた。

 

 

「いいねぇ、コイツはいい。アンタを連れてきて良かったよマスター。カカカ♪」

 

「・・・やっぱり・・・・・こうなる事を予想してやがったなバーサーカー・・・?」

 

「さ~て、なんの事やら?」

 

「この・・・ハァ・・・・・セイバー、君はどうする?」

 

眉間に皺を寄せて呆れる雁夜だったが、気を取り直してセイバーに語り掛ける。

 

 

「どうする・・・とは?」

 

「さっきあれだけライダーに言われたが・・・おめおめと引き下がるつもりか? 『かつての王にして、未来の王』、アーサー王よ?」

 

「!。・・・私は・・・」

 

セイバーはその言葉に驚く。やがて、クスリと笑うと足元にあった杯の中身を飲み干し、淡々と告げる。

 

 

「私は例え・・・民に否定され、国に否定され、誰にも理解されずとしても・・・それでもブリテンの救済を願う」

 

そこには先程の弱り切った表情はなく、信念を持った一人の人間が立っていた。

 

 

「例えそれが『棘の道』であったとしても・・・私の願いは、断じて間違いなどではない。征服王の王道が『征服』に基点するというのなら、私の王道は『理想』にある。全ての民の理想である事、理想に殉じる事が私の生きる道だ」

 

それを聞いたライダーは困ったような表情ではあるものの、憂いたようなものではなく、それこそ倉庫街の時のように楽しそうだった。

 

 

「・・・なれば、騎士王よ。お前もまた剣を交え、王道を示すまで・・・ということで構わぬな?」

 

「元よりそのつもりだ」

 

緊迫していた空気がある程度緩和した。

互いの道が相容れぬ事を確認し、闘志を燃やしていく二人。そのオーラといったら、先程まで能書きを垂れていた雁夜まで吹き飛ばされそうな勢いだ。

 

すると何を思ったのか、ライダーの視線がアキトに向いた。

 

 

「バーサーカー、お前さんの話も聞いてみたい。何を持って、何を望み、この聖杯戦争に参加したのかを」

 

「え、ここで?」

 

ライダーは知っていた。雁夜の『中身』がアキト達によって、変わり始めている事に。その為、雁夜はセイバーを擁護するような発言をしたのだ。

それに彼は、同盟を組んでも自分の本心をあまり語ろうとはしなかった。これはライダーにとって面白くない事であった。だから、それを知る事も含めての場でもあったのだ。

 

 

「聞かせるがいい、蝙蝠。貴様は『王』というわけではないが稀有な存在ではある。いいぞ、特別に赦す」

 

「私もです」

 

「・・・あんたらもか・・・」

 

アーチャーやセイバーまでもが、気になったように彼を見る。

対応に困ったアキトは隣のシェルスに助けを求めるが、ため息混じりに断られ、マスターである雁夜は「人を使った罰だ。ざまあみろ」と鼻で笑った。

 

 

「・・・ッチ・・・わかったよ、言うよ」

 

応答を伸ばしていくと段々と三人からプレッシャーがかかって来るので仕方なく答える事にした。

 

 

「ない」

 

『なにぃ!?』

 

「ほら、そういう反応する!!」

 

今回ばかりは全員が間の抜けた声を上げた。おまけに全員思った以上に驚いているらしく、セイバーやギルガメッシュすらも表情が崩れていた。

 

 

「こっちは、家でくつろいでたらゾンビのなりそこないみたいなマスターに召喚されたんだ。目的もへったくれもない」

 

「な・・・なんだそれは・・・?!!」

 

「誰がゾンビだッ!!」

 

「だったら何かぁ? 余が勧誘した時にホイホイついて来たのは、その為か?!」

 

「そうだよ。ま、おもしろそうだったのがあるな」

 

ライダーとしては予想外であった。この聖杯戦争に参加し本心を見せなかったのは、アキトの中に大きな望みがあると踏んでいたからだ。しかし、全くの的外れであった為に逆に笑えて来る。

 

 

「ならば、貴方はどうして戦うのです?」

 

「おん?」

 

セイバーの言葉に彼は、答えを渋る素振りを見せながら杯の酒を呷る。そして、一気に飲み干すと口を歪めて語った。

 

 

「そんな理由を探すくらいなら『戦わない方がいい』」

 

「ッ!?」

 

そうこの男は『戦いたいから戦っているのだ』。

本当は雁夜も知らない依頼を受けているのだ。だが、本質としては『闘争』がそれを占めていた。『戦ってみたい』『力をぶつけてみたい』。そんな感情が湧き上がる。

過去の偉人。常軌を逸した力を持つサーヴァント。どれもこれもが、彼には刺激的であったのだ。

 

 

 

「ククク・・・クハハハハハッ!」

 

「おん、なんだよ英雄王?」

 

またしてもアーチャーが愉快そうに笑う。今度は、クイズを解いて勝ち誇った様にゲラゲラと笑う。

 

 

「愉快だ。貴様はそのクラスらしからぬ行動を見せておったが・・・認めてやろう。貴様は、正真正銘の『狂戦士(バーサーカー)』だ」

 

「まったくよのぉ。人は見かけによらぬのぉ」

 

「ほっとけぇ!」

 

今度はライダーまでもが、愉快に笑い酒を飲む。

ただ、返答を聞いて浮かない顔になったのはセイバーであった。

 

 

「バーサーカー・・・あなたは・・・」

 

「おん? ―――ッ!?」

 

その時、不意に背筋に寒気が走る。彼らは、すぐさま視線を外側へと向ける。

サーヴァント達の視線の先には、白い髑髏の仮面を被った者達が彼らを囲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





これが『執筆ハイ』ってヤツなのか・・・!


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軍勢




長かった問答もここいらで仕舞いに。

さて、次は強化しますかな?

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「『アサシン』・・・!?」

 

セイバーが新たに問いかけようとした瞬間、不意に背筋に寒気が走りその場の人間すべてが顔を引き締める。

サーヴァント達を四方八方から囲むように白い髑髏の仮面を被った者達がいた。

その者達は蒼白の貌をし、その上に冷たく乾いた骨の色の仮面を被っている。さらには、その体躯を漆黒のローブに包んでおり、多種多様な体格をしている。

 

 

「オイオイオイオイオイ・・・大王、これもアンタが呼んだのか?」

 

「んな訳なかろうが」

 

「随分な団体さんだこと」

 

アキト達は雁夜とウェイバーを、セイバーはアイリスフィールを守るように身構える。

ただアーチャーとライダーは、焦りもせずに黙々と酒を呷る。

 

 

「時臣め・・・余計な真似を」

 

ボソリと呟くアーチャーであったが、彼の周囲に漂う空気からして、これを仕掛けた人間に対し怒りを覚えていることがわかる。

 

 

「これは貴様の謀らいか、金ぴか?」

 

「さてな。有象無象の雑種の考える事など、いちいち知った事ではない」

 

そんな彼の感情を感じ取ったのか、ライダーが尋ねる。

すると一変してアーチャーの怒りは終息していき、呆れたように応対した。怒りが一周回って、鎮火したようだ。

 

 

「どういうことだよ!? なんでアサシンばっかり、次から次へと・・・・・だいたい、どんなサーヴァントでも一つのクラスに一体分しか枠はないはずだろッ?! カリヤさんじゃあるまいし!!」

 

「ちょっとウェイバー君ッ、それどういう意味!?」

 

もはや『群れ』と言い換えてもいいくらいの数のアサシンを見て、ウェイバーが悲鳴に近い声で嘆く。

アサシンの能力は一人であって複数の存在になれるものと用水路で見た時にわかってはいたが、ここまで多いとは予想できていなかったのだ。

だが、そんな悪態をついている暇はない。獲物が狼狽する様を見届けて、群れなすアサシンが口々に忍び笑いを漏らしているからだ。

 

 

「・・・ヤレヤレ・・・また、アレを使うか」

 

これだけの物量に押されると雁夜達への攻撃を防ぎきることは不可能だと感じたアキトは、キャスター戦の時の様に自らの宝具を使おうと判断した。しかし・・・

 

 

「おう。待ってくれバーサーカー」

 

それをライダーが、樽からワインを杯で汲み上げながら制止したのだ。

 

 

「ら、ライダー・・・?!」

 

「おいコラ坊主、そう狼狽えるでない。宴の客を遇する度量でも、王の器は問われるのだぞ?」

 

「あれが客に見えるってのかぁ!?」

 

場違いな台詞を並べるライダーにウェイバーは悲鳴まじりで叫ぶ。

そんな様子にライダーは苦笑混じりの溜息をつくと周囲を包囲するアサシンに向けて、間抜けなほど和やかな表情でアサシンに呼びかける。

 

 

「皆の衆、その剣呑な雰囲気を出すのは止めてはくれんか? 見ての通り、連れが落ち着かなくて困る」

 

「ちょっと大王、アイツらまで持て成そうっての?!」

 

「当然だ。王の言葉は万民に向けて発するもの。わざわざ傾聴しに来た者ならば、敵も味方もありはせぬ。此度の問答には、王ではないものもおることだしな」

 

シェルスの問いかけに平然とそう嘯いて、汲み上げた杯をアサシン達に差し出すように掲げあげる。

 

 

「さあ、遠慮はいらぬ! 共に語ろうという者はここに来て杯を取れ。この酒は貴様らの血と共にある」

 

だがその返事は言葉で返されず、代わりに『短刀(ダーク)』が杯を切り裂いた。その投擲された刃で汲まれていたワインは無残に中庭の石畳に飛び散り、ライダーの衣服に赤いシミをつけた。

 

 

「あ・・・」

 

その瞬間。アキトはライダーの様子が変わった事をいち早く理解した。

 

 

「・・・・・余の言葉、聞き間違えたとは言わさんぞ?」

 

嘲るように笑うアサシンの声の中、殊の外静かなライダーの口調が響き渡る。

 

 

「『この酒』は『貴様らの血』と言った筈・・・・・そうか。敢えて地べたにぶちまけたいと言うのならば、是非もない・・・」

 

今やその目には、温かさというものが感じられない。

だが、その眼差しとは打って変わり、冷え切った冬の夜の空気にはありえない熱風が吹き込んできた。

夜の森のそれも城壁に囲まれた中庭で決して起こり得ない筈の灼熱の砂漠を吹き渡ってきたかのような熱風が吹き荒れる。

 

 

「セイバーにアーチャーよ、これが宴の最後の問いだ。『王とは孤高たるや否や』?

 

渦巻く熱風の中心に立ち、いつの間にやら緋色のマントを纏った戦装束の姿へと転じていたライダーが問う。

アーチャーは口元を歪めて失笑する。問われるまでもない、といった様子で。

セイバーも躊躇わず答える。雁夜の言ったように己が王道を疑わないなら王として過ごした彼女の日々こそ、偽らざるその解答だからだ。

 

 

「我が王道は常に理解されない棘の道であった。・・・・・だが、それを間違いだと思った事は一度たりとて無い。騎士王としての私の『王の在り方』は孤高であった」

 

凛々しい声で答えるセイバーに迷いも後悔も感じられない。

確かにライダーの言うように彼女の道は、解されないものだったのだろう。だが、それら全てを認めた上でセイバーは高らかに宣言する。

 

 

「故に・・・王ならば、孤高の道を突き進む他ないッ!!

 

そんなセイバーの宣言を聞いて、ライダーは満足そうに頷いた。

 

 

「そのような事を言われれば、余とて見せたくもなる・・・・・『征服王』たる余の姿をのぉッ!!」

 

豪快な笑いと共に叫ぶライダー。その時、より一層強い熱風が吹き寄せた。夜の森は別の世界に塗り替えられていく。

距離と位置が喪失し、そこには熱砂の乾いた風こそが吹き抜ける場所へと変容していく。

 

 

「スゲェ・・・アンタはどこまでも驚かせてくれるぜ、アレクサンダー大王ッ!!」

 

夜空は一変して太陽照りつける青空へと変貌し、庭園は灼熱の砂漠へと姿を変えた。

照りつける灼熱の太陽。晴れ渡る蒼穹の彼方。吹き荒れる砂塵に霞む地平線まで、視野を遮るものは何一つない。

サーヴァント達を囲んでいたアサシンは一群の塊となって、彼方に追いやられている。

 

 

「『固有結界』ですって・・・そんな馬鹿な! 心象風景の具現化だなんて・・・!?」

 

驚愕の声を発するアイリスフィールに気を良くしたライダーは、ニヤリと口を大きく歪める。

 

 

「ここはかつて我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色だ」

 

そう語るライダーの後ろから続々と蜃気楼のような影が現れる。

 

 

「この世界。この景観を形に出来るのは、これら我ら『全員』の心象であるからさ」

 

その数は一つや二つではなく甚大な数へと変わっていき、次第に色と厚みを備えていく。誰もが驚愕の眼差しで見守る中、続々と影達のそれは精悍な戦士へと実体化していく。

 

 

見よ、我が軍勢を!

 

人種も装備も多種多様。だが、その屈強な体躯と勇壮に飾り立てられた具足の輝きはまるで各々が競い合うかのように華々しい。

 

 

肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられて・・・それでも尚、余に忠義する伝説の勇者達

 

そんな騎兵、一騎一騎が掛け値無しの英雄であった。伝説であった。その全てが一介の戦士として『英霊』と呼ばれる者であった。

 

 

彼らとの絆こそ、我が至宝! 我が王道ッ! イスカンダルたる余が誇る最強宝具―――

 

まさに『征服王 イスカンダル』たる名前に相応しい軍勢。その名は・・・・・

 

 

「―――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なりィイッ!!

 

『『『ウオォヲオオオオオッッ!』』』

 

両腕を掲げるライダーに答えるように幾千、幾万もの戦士達が唸り声を轟かせる。

 

 

「コイツら・・・一騎一騎がサーヴァントだ!」

 

「見るも圧巻だ・・・!」

 

ウェイバー達、マスターは宝具によって召喚されたサーヴァントを眺めながら、感嘆の声を上げていた。

歴史はあまり詳しい方ではない者でも取り敢えず偉人だとわかる者ばかりが、目の前に勢揃いされていたのだから。

 

 

「久しいな、相棒」

 

戦友を懐かしむようにライダーは、軍勢から出て来た黒馬の首を撫でる。馬は、撫でられると嬉しそうに鼻を鳴らした。この馬こそ、馬でありながらサーヴァントとなった暴れ馬『ブケファラス』である。

ライダーはブケファラスの首を撫でると振り返り、軍勢に向かって語り掛ける。

 

 

「王とは! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる事を指すことだ!」

 

『『『然り、然り、然り!』』』

 

軍勢からの返答に満足するとライダーはブケファラスの背に跨る。

そして、また同胞達に語り掛ける。

 

 

「全ての勇者の羨望を束ね、その道しるべとして立つ者こそが王。故に王とは、孤独にあらず。その偉志は、すべての臣民の総算たるが故にッ!」

 

『『『然り、然り、然り!!』』』

 

まさに一同恫喝。その名に恥じぬ軍勢の大号令であった。まさに『王の軍勢』と呼ばれるだけの宝具である。

『凄まじい』という言葉でさえも足らない程の圧巻であった。

 

 

「さて・・・では始めるかアサシンよ」

 

兵達の号令に満足し、ライダーは後ろに控えていたアサシン達を見る。

ライダーの持つ王の威圧に圧倒され、アサシン達は一歩、また一歩と後ろに引き下がる。

 

 

「見ての通り我らが具現化した戦場は平野。生憎だが、数で勝るこちらに地の利はあるぞ?」

 

圧倒的であった。

群れといった部類に入るアサシン達でも遮蔽物の無い場所では、その真価を発揮することはできない。

逃げ出したり、立ち尽くしたりする烏合の衆と化した暗殺者達と統率のとれた指揮力EXの益荒男の軍団。この戦いは、戦う前から勝敗は決まっているようなものであった。

 

 

「蹂躙せよぉおッ!!!」

 

『『『ウォオオオオオオ―――ッ!!』』』

 

ライダーの雄叫びと共に歴戦の勇者の荒波が、アサシン達に襲い掛かる。

子供でもわかる圧倒的な蹂躙劇。反撃も悲鳴までもが益荒男達の雄叫びに掻き消える。

彼らが駆け抜けた後にはアサシンが存在した形跡など微塵もなくなり、戦場は砂埃が舞うだけと成り果てた。

 

 

「ウォオオーッ!」

 

『『『ウォオオオオオオ―――!!!』』』

 

アサシンを蹴散らした軍団は雄たけびを響かせる。

男達は剣を突き上げ、槍を掲げ、盾を打ち鳴らし、勝鬨の雄叫びを荒野の戦場に轟かせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

「幕切れは興ざめだったな」

 

あれだけの宝具を展開する前と何ら変わりない様子で、ライダーは樽からワインを汲み取ると一気に飲み干す。

固有結界世界を塗り替えた宝具は、アサシンを倒すと幻と思えるように解除される。蒼穹の空は夜空へと戻り、灼熱の大地は箱庭へと還った。

 

 

「お互い、言いたい事も言い尽くしたよな」

 

「言わなくても良い事までもな」

 

「ダハハ。ま、そう言うなバーサーカー。今宵は、もうここらでお開きとしようか」

 

アキトの皮肉にライダーは苦笑しながらもユックリとその巨体を起こすと去るように振り向いた。

 

 

「待てライダー! 私はまだ!」

 

「もうよい『騎士王』よ」

 

待ったをかけるセイバーにライダーは振り返らず答える。

 

 

「今宵は王が語る宴であった。セイバー、貴様の王としての在り方を聞かせてもらったが、どうも余は至上の酒を口にしたせいで多少気が早くなっておる」

 

「・・・どういう事だ?」

 

彼の返答にセイバーは疑問符を浮かべながら眉間に皺を寄せる。

ライダーは自分が酔っている事で、在り方が違いすぎるセイバーの言葉を理由もなく受け入れないであろうと自覚しての引き上げであった。

 

 

「貴様の在り方をいくら語られても、今の余では納得しないやもしれんのでな。それに・・・」

 

「それに?」

 

「え?」

 

そう言うとライダーは雁夜の方に視線を向ける。セイバーもそれにつられて彼を見つめる。

サーヴァント二人からジロジロと見られている雁夜としては、何だか落ち着かない。

 

 

「カリヤの言う通り、余は自らの固定概念に囚われておったのかもしれん。『王という者は、こうでなければならん』という固定概念にな」

 

「・・・」

 

「ならばセイバー。貴様の王道と余の王道、どちらが正しいか決めてみるのも一興ではないか」

 

漸くここでライダーは振り返り、悪戯っぽい笑みをセイバーに向けた。

雁夜の発言で『言葉』と『言葉』で王の格を競うのはライダーとして思う所があったのだろう。だから、次は『力』と『力』で見極めるという魂胆である。なんとも彼らしいやり方で。

 

 

「望むところです、征服王」

 

雁夜に肯定されて自らの思いに吹っ切れたとはいえ、未だセイバーの胸には迷いの感情が残っている。それをわかってか、彼女はライダーの言葉に頷く。

 

 

「うむ。無論、貴様もだ英雄王」

 

「フン」

 

セイバーの返答とアーチャーのぶっきらぼうの頷きに満足したようにライダーは再度頷き、キュリプトの剣を引き抜くと虚空を斬る。そして、現れた戦車に乗った。

 

 

「では引き揚げるとするか」

 

「その前にいいですか?」

 

戦車に同盟組が乗り、引き上げる万端が出来た時。不意にセイバーが声をかけた。

 

 

「なんだ騎士王? まだ、何かあんのか?」

 

「すみません。カリヤ・・・と言いましたね? ありがとう」

 

「え・・・?!」

 

まさか自分が呼ばれるとは思わなかった雁夜は、自分が想像している以上に驚いた。

ましてやお礼を言われるとは夢にも思わず、固まってしまう。

 

 

「貴方があのように言ってくださらなければ、私は自らを責めていたでしょう」

 

「ま、待ってくれ! 別に俺は・・・その・・・」

 

「オイオイオイ、なんだよマスター照れてんのか? そうなのか? そうなんだろ? 正直に言ってごらんよ、こじらせマスター?」

 

「ちょっと、アキト? 一人でいじらないの。私もイジりたいわ」

 

「ああッ! なんかウザい!!」

 

口ごもる雁夜にニヨニヨが止まらない吸血鬼二人組。そんな彼らを見て、不覚にもセイバーは笑みをこぼす。

 

 

「まったく、なんだか酔いも醒めて来たわい。こりゃあ帰って飲み直しだな。付き合えよカリヤに坊主」

 

「えぇッ!?」

 

「なんで僕まで・・・」

 

そう言うとライダーは手綱を大きく振り戦車を前進させると夜空へと駆けて行った。

 

こうして短いようで長い聖杯問答は幕を閉じた。

しかし、ここで気掛かりな事が一つ。

 

 

「フン・・・『騎士王』か・・・ククク・・・」

 

意味ありげに呟きながら霊体化するアーチャーに誰も気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





何度見ても・・・アレは滾りますな~。


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考察




筆が止まりそうで止まらない。

アキト「どっちだよ」

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

「・・・ライダーの宝具評価は?」

 

魔術書が多く並んだ燭台の灯る薄暗い部屋の中。

遠坂家当主『遠坂 時臣』は蓄音機型の通信機からアサシンのマスターだった『言峰 綺礼』と話している。

 

 

「『ギルガメッシュ』の『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と同格・・・つまり、評価規格外です」

 

「・・・ふむ・・・確かに目論んだ通りの結末ではある。もし予備知識のないままライダーと対決していたら、あの宝具に対処する術を見い出せなかっただろう・・・」

 

時臣はゆったりと前のめりに椅子に腰かけながらもその体躯に魔術師ならではのオーラを漂わせている。

ギシリと彼は背中を背もたれに預けると今まで閉じていた眼を開け、赤い宝石が埋め込まれた杖を掴んで立ち上がった。

 

 

「・・・ここから先は第二局面だ。アサシンが収集した情報を元にアーチャーを動員して、敵を駆逐していく。ライダーに対する対策もその中で自ずと見えてくるだろう」

 

「・・・はい」

 

「マスターとしての務め、ご苦労だった」

 

それだけいうと時臣は部屋から出ていく。

・・・だがこの時、綺礼はある事を伝えていなかった。バーサーカーの動向である。

この聖杯戦争がはじまった当初からあの狂戦士は、誰にも予測できない行動をしてきた。

 

まず第一に意思疎通ができる点。次にライダーとの同盟をすんなり決めた点。

しかも、その理由が『面白そうだったから』。なんとも自由である。

そして、最後に・・・・・

 

 

「『拘束術式(クロムウェル)』という宝具に・・・『ガンナー』のサーヴァント」

 

キャスターとの戦闘に使ったバーサーカーの宝具と問答の座にて、ついにその姿を現せた『8騎目』のサーヴァント『ガンナー』である。

綺礼は師である時臣からの命で、バーサーカー陣営の動向を確認していた。そこでわかったのは、命令をだした時臣に説明しづらい事柄ばかりであった。

 

バーサーカーとガンナーの本営である間桐家の屋敷に行ってみれば、時臣から聞いていたモノより数段分厚い魔術結界が施されており、それに加えて近代的なトラップが何重にも張られていた。

しかも、こちらの魔力を察知すると何処で作ったかサーヴァントにダメージを与える弾丸が飛んでくる。

いつの間にか間桐家の屋敷は稀に見る要塞と化していた。

他にも間桐には『8騎目』だけでなく、何故か二足歩行で人語を話す『山羊』や和装束に『麻袋』を頭に被った面妖な姿をしたサーヴァントが確認できたのだ。

 

異常である。

これが事実なら、時臣から落伍者のレッテルを張られたあのインスタント魔術師『間桐 雁夜』は、4体ものサーヴァントを所持しているのだ。

自分の眼がサーヴァントの召喚でおかしくなったのかと思う程の異常である。

 

この事を綺礼は、どうしたものかと頭を捻りながら時臣に説明しようとしていた。

しかし、それはライダーの展開した『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』によって無になった。

時臣は急造の魔術師が召喚したサーヴァントより、超弩級の宝具を持つライダーが危険だと判断したからである。これにより、アサシンが今まで収集していたバーサーカーの情報は必要なくなったのだ。

 

 

「師はあのように言っていたが・・・私としては、あのバーサーカーの方が危険だろう・・・」

 

アーチャーの真名や宝具を見破っただけでなく、倉庫街で見せた戦闘スキルにキャスターとの闘いで展開した宝具。それにバーサーカー自身が持つ異常な雰囲気と『吸血』というスキル。

どれをとってもバーサーカーが警戒すべき相手だと言えるには明白であった。

 

 

「・・・だが、それはもう過ぎた話だ」

 

綺礼は『令呪』の消え去った腕を見ながら呟く。そう、彼はもうアサシンのマスターではない。

ライダーの宝具展開により、アサシンは一人残らず討ち取られた。よって、綺礼は聖杯戦争から脱落し、偵察という責務を終えたのである。

しかし、この男には気掛かりな事があった。

 

 

「間桐・・・雁夜・・・」

 

あの問答の座で同盟相手のライダーならいざ知らず、アーチャーにまで啖呵をきってセイバーを擁護した噂のサーヴァントのマスター『間桐 雁夜』。

彼に綺礼は魅かれていた。

 

何故と問われれば、わからない。

だが、彼を調べていく内に自分の知らない自分が心の内をひたすらノックしているように感じるのだ。

彼を見ているだけで心が躍り、彼の声を聞くだけで心地良い気分に浸れる。

彼なら『もう一人の彼』と同じように自分の空っぽの胸の内を満たしてくれるのではなかろうかと。

 

 

「フッ・・・我ながら馬鹿馬鹿しい・・・」

 

そんな思いを一掃して、綺礼は自室へと還っていく。これからの予定をたてる為にだ。

・・・まさか、その部屋で待っていたアーチャーに自分の本性を自覚させられるとは微塵も思わずに。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

所変わって、冬木市にあるモーテルの一室。

ここでは、ランサーのマスター『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』を再起不能に追い込んだセイバーの無視無視マスターで魔術師殺しこと『衛宮 切嗣』が陣を構えていた。

 

彼はその部屋で、相棒の舞弥からのサーヴァント達の問答と新しい工房の報告を携帯で聞いている。

報告を聞き終えると切嗣は携帯を懐にしまい、紙袋の中から近くで買ったであろうチーズバーガーを手に取ると壁に貼り付けている冬木市の全体地図を見始めた。

地図には様々な情報が写し取られたメモや各サーヴァントのマスターの写真が貼られている。

それらを見ながら、彼はモシャモシャとチーズバーガーをほうばった。そして、現在の状況を振り返る。

 

 

「(遠坂邸に動きは無し。初日のアサシン撃退以来、時臣は穴熊を決め込んだまま、不気味なまでの沈黙・・・・・ロード・エルメロイは再起不能の筈だが、ランサーは脱落していない。新たなランサーのマスターが誰なのか、早急に確認する必要がある。キャスターの居所は依然として不明・・・だが、昨夜もまた市内で数名の児童が失踪した。ヤツ等はなんのはばかりもなく、狼藉を繰り返しているのだろう)」

 

クシャリと切嗣は食べ終わったチーズバーガーの包装紙を握りつぶし、ゴミ箱へと捨てる。

 

 

「(ライダーは常にマスター共々、飛行宝具で移動する為に追跡は困難。一見豪放に見えるが、隙の無い難敵だ。舞弥の報告にあった『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』という宝具も気になる・・・・・しかし、それよりも・・・)」

 

切嗣は食後の一服である煙草に火を着けるとある写真を食い入るように見つめる。

 

 

「(油断ならないのは、バーサーカーとそのマスターである『間桐 雁夜』に8騎目のサーヴァント『ガンナー』だ。傍から見るには、明らかに無防備で襲撃は容易に見える。だが、ここ数日で何故だか間桐邸は洋館から純和風の武家屋敷になり、周囲には高度な魔術結界と最新式の迎撃トラップが配備されている。おかげで監視に使っていたカメラは破壊された。・・・結構高かったのに・・・・・)」

 

そこには、隠し撮りで撮られたであろうパーカーを被った男が写っていた。

切嗣は、この聖杯戦争がはじまる前からバーサーカーのマスターが間桐の者である事を掴んでおり、間桐邸に監視の隠しカメラを仕込んでいた。しかし、ここ数日で仕込んでいたカメラは全て破壊されたのであった。

 

 

「(そして・・・そして、何より警戒しなくてはならないのは・・・『ヤツ』だ)」

 

切嗣の脳裏に浮かび上がったのはサーヴァントの中で最も警戒している『バーサーカー』であった。

 

 

「(この際、間桐の急造魔術師が複数のサーヴァントを所持している事に関しては目を瞑ろう。だが、なんだあの規格外さはッ? 特にバーサーカーだ。時臣のサーヴァントが最古の王『ギルガメッシュ』である事にも驚いたが、ヤツはそれを一目で見抜いた。加えて、ギルガメッシュとキャスターとの戦闘で見せたという不可解な特殊能力。真名がわかれば、対処の術が見つかるかと思ったが・・・・・)」

 

切嗣は上着のポケットからメモの切れ端を手に取る。

そこには、問答がはじまる前にアイリスフィールが雁夜から聞いたサーヴァント2体の真名がカタカナで書かれていた。

 

 

「(『アカツキ・アキト』と『シェルス・ヴィクトリア』・・・今まで聞いた事のない名前だ。後者であるガンナーの名前はヨーロッパ圏の英霊だろう。だが、前者であるバーサーカーの真名は一体何なんだ? まるで『日本人』のような名前じゃないか。聖杯戦争には日本の英霊は召喚されない筈なのに・・・一体どうして・・・?)」

 

切嗣が疑問を抱くのも無理はない。

聖杯戦争には、暗黙の了解の一つに『召喚できるサーヴァントは、基本的に西洋の英霊のみ』とあるからだ。なのにどうしてか、バーサーカーの真名は明らかに『日本名』であったのだ。

 

 

「(間桐がアイリに偽りの真名を教えた可能性もある。だが、偽りの真名だとしても実力の末端でアーチャーを退けたサーヴァントだ。いくら固有スキルの狂化でステータスを上げているとはいえ、並の能力を持っているとは考えにくい。それに『吸血』というスキル・・・これを持つ英霊として考えられるのは、吸血鬼ドラキュラのモデルになったルーマニアの英雄『ヴラド三世』ぐらいだろう。でも・・・)」

 

切嗣はアイリスフィールから聞いたセイバーの話を思い出した。

セイバーは、バーサーカーに血を啜られる前にまるで生前の彼女を知っている様な口ぶりをしたのだ。生前のセイバーを知っているという事は、バーサーカーはあの『円卓の騎士』の一人という事になる。

 

 

「(しかし、それがわかった所で、円卓の騎士は細かな逸話だけでも300人以上もいる。その中で吸血鬼になった騎士を調べるにしても今からでは時間が足りない・・・・・近道と言えば、セイバーから・・・いや、それは止そう・・・)」

 

切嗣はバーサーカー陣営については、これ以上の考察は不要と吸っていた煙草を消すと新たな煙草を咥える。

 

 

「(他にも危惧すべき点はある)」

 

彼は舞弥から報告を受けていた時に彼女の放った言葉を思い出す。『今度こそアサシンは、完全消滅したと思ってはいいのではないですか』という言葉だ。

 

 

「(では、そのアサシンのマスターは?)」

 

切嗣はその新たな煙草に火を着け、美味そうでも不味そうにもなく一服する。

 

 

「(遠坂と組んでアサシンに諜報活動をさせる作戦ならば、冬木教会からは一歩も出てはいけなかった筈だ。しかし、現実は違う。冬木ハイアットでの待ち伏せ、アインツベルンの森への侵入、どちらも不可解な行動だ。もっともヤツの目的が『(衛宮 切嗣)』であったのならば、筋は通る。だが、何故だ・・・何故、僕を狙う? 初めて会った段階なら僕がセイバーのマスターであるという情報は知り得なかった筈・・・)」

 

彼は煙草の灰を空き缶に注ぐと壁に貼ってある一枚の写真に目を落とす。

 

 

「(『言峰 綺礼』・・・貴様は何者だ?)」

 

そこには、自分と同じように眼にハイライトの無いアサシンのマスターであった男が写っていた。

こうして夜は更けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





中の人ネタを入れたいが、シリアス過ぎて入れられない・・・


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新たなる幕開け




今回、初めて文字が一万を超えました。

気が付くと夜て・・・

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・



 

 

 

ザザァンと波打つ水辺。そこには何処までも続く蒼が広がっていた。

そこに現れたのは、愛馬に跨り数多の益荒男を率いる緋色の男。彼は目の前に悠然と広がる海を端から端まで見渡す。

心地良い潮風が彼の頬を撫でる。

 

 

「『オケアノス』・・・」

 

彼は感慨深げに呟くと嬉しそうにいつまでも海を眺めた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「・・・あぁ・・・?」

 

寝ぼけ眼をこすりながらウェイバー・ベルベットは起きた。

 

 

「ッ!? 痛たたっ!」

 

頭に今まで感じた事の無い痛みを抱えて・・・

 

 

「なんだこれ・・・?」

 

辺りを見回すと空き瓶やら空き缶やらが散乱している。その全てが日本酒だったり、ビールだったり、ウイスキー等の酒類ばかりであった。

 

 

「ぐおぉお・・・ぐガぁあ・・・」

 

「?」

 

隣を見てみると猛獣のようなイビキをかきながら半裸のライダーが寝ていた。その体には生前、戦いでつけたであろう戦傷がついている。

ウェイバーは、そんな彼を見ながら、何か思うような鼻息を漏らした。

 

 

「・・・ウェイバーさん」

 

「うわぁッ!?」

 

ウェイバーは突然、声をかけられた事に驚き、身を駆けられていた毛布共々引く。しかし、声をかけたのは紫の髪を持った幼い少女であった。

 

 

「な、なんだ・・・サクラか・・・」

 

「・・・ごめんなさい・・・ビックリした?」

 

「いや、大丈夫―――って、痛たたッ!?」

 

ウェイバーにまたもや謎の頭痛が襲う。

彼の痛む様子を見て、桜は張り付けた様にオロオロとする。すると桜は何かを思い出したように自らの手をウェイバーの頭の上に置いた。

 

 

「さ・・・サクラ?」

 

「い・・・いたいのいたいのとんでいけぇ・・・」

 

「・・・へ?///」

 

彼女は、ウェイバーの頭を自分の手で撫でながら払う動作を数回繰り返す。そんな桜の動作にウェイバーは、ただ固まって大人しくそれを受けた。

 

 

「さ、サクラ・・・こ、これは一体?///」

 

「・・・シェルスさんが教えてくれたの・・・」

 

恐る恐るウェイバーが桜に聞くと彼女は、首をコテンと傾げながら答える。

 

 

「シェルス・・・あぁ、ガンナーの事か・・・」

 

「シェルスさんがね・・・いたかったら、こうするといいって教えてくれたの・・・」

 

ガンナーことシェルスは桜に親が子供にするような行為を教えており、これは雁夜が顔の形成外科を受けた時にもしてもらった行為である。

これをされた時に雁夜は、感動の余り泣いた。

 

 

「・・・なにをしておるのだ、坊主?」

 

「のわぁッ!? ら、ライダー?!」

 

続けて頭を撫でてもらっていると起きたのか、ライダーがあくびをしながら興味深そうに二人を見ていた。

 

 

「おはよう・・・ライダーさん」

 

「うむ。おはよう」

 

ライダーは桜の挨拶に答えるとゴキリと首を回して、また大あくびをする。さながら眠っていた獅子のように。

 

 

「ら、ライダー・・・いつから見てた?」

 

「んん? そうだのぉ、お主が嬉しそうにサクラに撫でてもらっておる所かの?」

 

「なッ!? あ、あれは!///」

 

「それよりもサクラ、起こしに来たという事はアレか?」

 

「うん・・・朝ごはん・・・」

 

「そうかそうか! では、参るとしよう」

 

ライダーは、肩に桜を乗せるとズカズカと食卓へと進んで行く。

 

 

「あ! 待てよライダー!!」

 

ウェイバーも遅ればせながらも後をついて行く。

食卓では、すでに朝食の用意がなされており、いつもの面子が料理を囲んでいた。

 

 

「おん。大王、おはようさん」

 

「おう、おはようバーサーカー」

 

「ウェイバー君もおはよう。よく眠れたかい?」

 

「おはようございます、カリヤさん。痛たた・・・」

 

ウェイバーは、またも原因不明の痛みに頭を抱える。

 

 

「おん? どうしたよ、ウェイバー?」

 

「いや・・・起きた時からどうにも頭が痛いんだよ。それになんだか気持ち悪い・・・」

 

そう言いながら彼は胸をおさえる。

頭痛の他にも胃から胃液が逆流しているような不快感もある。

ウェイバーは一瞬、昨夜あった問答でのアサシン襲撃時にアサシンから攻撃を受けたのではないかと焦る。

 

 

「ま、そりゃあな。あれだけ飲んだら『二日酔い』にでもなるだろうよ」

 

「・・・へ? な、なんだってバーサーカー?」

 

ウェイバーは、耳の遠い老人のような反応で聞き返す。するとアキトは「何を言ってるんだ、コイツは?」みたいなトーンで再度、発言する。

 

 

「二日酔いだよ、二日酔い。あれだけ人間がサーヴァントに釣られてガバガバ飲んだら二日酔いくらいなるだろうさ」

 

「ウェイバー。貴方、酒が入ると泣き上戸だったのね?」

 

「まさか・・・ウェイバー君、覚えてないのかい?」

 

「フフフ♪」と笑うシェルスと心配そうに見つめる雁夜を尻目にウェイバーは、昨夜の事を思い出す。

昨夜、問答から帰って来た一行は飲み直しというライダーの提案に乗っかり、間桐邸で二回目の酒宴を催した。騒がしい一行の酒盛りにドンやロレンツォ、そして、霊体化で研究に没頭していたノアに良い子は寝る時間な筈の桜までもが集まる大宴会となった。

そこでウェイバーはライダーに酒を飲まされて暴れるのだが・・・いかんせん、酒を飲んだ後の記憶がウェイバーの頭から削除されていた。

 

 

「え・・・あ~・・・」

 

ウェイバーは思い出そうとする。

自分が酒を飲んで、どんな醜態をさらしたのかを想像しながら思い出そうとする。しかし、思い出そうとすればするほどに想像力がそれを上回り、羞恥心が彼を襲うのであった。

 

 

「ま、坊主の事はさておき。バーサーカーよ、今日の朝餉はなんだ?」

 

「粥」

 

「・・・なんだと?」

 

「お粥だよ、お粥さん」

 

アキトから朝食の献立を聞いて、ライダーは露骨に残念がる。

 

 

「なんだよ大王、お粥はうまいぞ。飲み過ぎた次の朝にはピッタリだ」

 

「しかし粥とは・・・貧相な。もっと豪勢な物はないのか?」

 

「まぁ、そう言うでなかろー。アキトのお粥は絶品であろー」

 

「・・・私も・・・すき・・・」

 

「うぅむ・・・山羊が言うのなら、仕方あるまい」

 

ライダーはドンに促され、食卓につくと台所から鍋が運ばれて来た。それを炬燵の中央に置くと鍋蓋を外す。

 

 

「おお、これは・・・!」

 

「うわ~・・・」

 

鍋の中には雪の様に真っ白な粥がプツプツと湯気を立てていた。

 

 

「おい、バーサーカー・・・これが粥か? えらく白いが・・・」

 

「おん。まぁ、日本の白粥っていう極めてポピュラーなモンだ。茶粥も作りたかったが、焙じのお茶ッ葉がなかったんで作らなかった」

 

「リゾットとは違うのか?」

 

ウェイバーも興味深そうにまじまじと中身を見る。

 

 

「これは蕎麦とか麦やらを入れない米だけを使ったシンプルな物でな、下味は塩のみだ。味が足りないようなら・・・」

 

「はいはい、持って来ましたよ~と」

 

今度はロレンツォが台所から出て来る。その手の盆には梅肉やら漬物などの様々なおかずが乗っていた。

 

 

「これをお粥に混ぜるといいさ」

 

『お~』

 

「てなわけで・・・食べようぜ」

 

こうして漸くか、遅い朝食がはじまった。彼らは朝食を食べながら昨夜の事や今までの事柄を振り返る。

アーチャーが、アキトの言ったようにウルク第1王朝第5代の王『ギルガメッシュ』である事を問答内において確信した事やライダーの宝具で今度こそアサシンを打倒した事を話し合った。他にも・・・

 

 

「ふぁふはーフォふぁふは」

 

「・・・なんだよ、バーサーカー?」

 

「アキト、口の中」

 

「ふぉん? ああ、ゴクン・・・キャスターのやつはいつ仕掛けて来るだろうかね?」

 

「そう言えば、すっかり忘れておったのぉ」

 

アインツベルンの森での戦闘や工房破壊から舌の根も乾かぬ内にキャスターの犯行だと思われる誘拐事件が起きた。

 

 

「あのギョロ目、今度は何を仕掛けるであろうな」

 

「さてね。だが、次なにか仕掛けて来たら次こそは・・・あの顔に刃を突き立ててくれよう・・・!」

 

「うわ~・・・」

 

「アーカード・・・わるいかお・・・」

 

クククと不気味な笑みを浮かべる彼を余所に遅めの朝食は終息していった。

因みにお粥は結構な好評であったという。

 

 

 

―――――――

 

 

 

間桐邸での朝食が終わってから彼、ウェイバー・ベルベットは外へと赴いていた。何故、外に出たのかというと今朝方見た夢に気になる点があったからである。

そういう訳でウェイバーは、ライダーと共に街へと繰り出したのだが・・・・・

 

 

「・・・なんでドン達まで来るんだよッ!?」

 

「あろッ?」「はい?」

 

見るからに山羊のドンと怪しさ満載の麻袋を被ったロレンツォが彼について来たのだ。

アキトによって召喚されて数日、ドンとロレンツォは桜の護衛という事で間桐邸から外へは出なかった。別段、ドンとロレンツォもアキトから事情を聞かされていたので不満はなかった。だが、ファミリーの長と右腕たる二人が邸宅に閉じこもるばかりではいけないと思い、ウェイバーが街に行くと聞いたアキトがライダーに二人を頼んだのだ。

 

 

「良いではないか坊主。余はこの山羊を気に入っておるからの」

 

「うむ。イスカンダルは話の分かる者であろー」

 

「ライダー・・・」

 

「そうですよ。ドンと親交を深める事でドンの魅力に貴方も―――」

 

「それはない」

 

ライダーの言い分にウェイバーは仕方なく、それを承諾した。

余談だが、ドンやロレンツォには他人に不審がられない様にウェイバーが暗示をかけた。

 

 

「しかしまた・・・どういう風の吹き回しだ? 街に出ようとは」

 

ライダーは道中、ウェイバーに疑問を投げかける。

何故ならウェイバーは、今日まで自分から積極的に外へ赴こうとはしなかったからだ。

 

 

「・・・別に・・・ただの気分転換だよ。お前だって、盛り場を出歩きたいってゴネてたじゃないか」

 

「うむ。異郷の市場を冷やかす楽しみは、戦の興奮に勝るとも劣らぬからな」

 

ライダーは楽しそうに顎髭に手を添えて語るが、ウェイバーはため息でも吐きそうなくらいに眉をひそめる。

 

 

「・・・そんな理由で戦争を吹っ掛けられた国は、本当に気の毒だよな」

 

「なんだ坊主? その、まるで見て来たかのような言い草は?」

 

「・・・・・いいんだよ、こっちの話だ」

 

「んん?」

 

ウェイバーの含んだ言い方にライダーは首を傾げているとロレンツォが耳打って来る。

 

 

「気にしなくていいですよ、イスカンダル大王。あの年頃は、ああいう事が好きですから」

 

「そうなのか、袋?」

 

「ええ。アキトもそんな時期がありましたから」

 

「ほう、バーサーカーがのぉ・・・」

 

「何してんだよ、ライダーにロレさん! 置いてっちまうぞ!」

 

「早く来るであろー」

 

「はい、今行きますよ首領(ドン)!」

 

前から手を振るドンとウェイバーに二人は足を急がせた。

魔術師の卵にサーヴァントが三人というその手の者から見ればなんとも異常な一行は、冬木市にあるデパートへと入って行く。その中でウェイバーは調べたい事があると言い残すと一人、本屋に向かった。

本屋に着くと彼は真っすぐに歴史関連のコーナーへと向かった。

 

 

「あ・・・!」

 

そこから目当ての本を見つけるとパラパラとめくり、あるページを読みだした。本の題名は『ALEXANDER THE GREAT』。所謂、ライダーの伝記である。

 

 

「(『大王は勝ち取った占領地での支配も利権も全てを地元の豪族に放り投げ、自らは軍勢を引き連れて更に東へと去っていった』・・・夢で見た通りだ。アイツはただ、最果ての海に・・・・・『地の果て(オケアノス)』を目指して、遠征を続けたのか・・・)」

 

ウェイバーは今朝方見た夢と本の内容が合致した事に驚いたのか、目を見開いて本を読み進めていく。

すると・・・

 

 

「おおい坊主! どこだッ?!」

 

「ッ!?」

 

自分を呼ぶ野太い声が店内に響いた。彼は驚き、本を元あった場所に返そうとするが・・・

 

 

「イスカンダルよ。ウェイバーはここにいるであろー」

 

「おお! でかしたぞ山羊」

 

「いいッ!?」

 

返す前に見つかってしまった。

 

 

「そうチビっこいと本棚の間にいたんじゃ、全然見えんわ。山羊がおらねば、探すのに苦労する所だったわい」

 

「まったくであろう。ワシに感謝するであろう、ウェイバー」

 

「流石です、首領ッ!」

 

ドンはウェイバーよりも低い体躯で胸を張って、仰々しく言う。ロレンツォは相変わらず、そんなドンを褒め称える。

 

 

「全然感謝できないし、普通の人間は本棚より小さいんだ、バカ。で、何買って来たんだよ?」

 

「おう、これよコレ」

 

ライダーは紙袋から自身の目当ての物を取り出した。

 

 

「なんと『アドミラブル大戦略』は、本日より発売であったのだ。しかも、初回限定版だ」

 

ライダーのお目当ての品は、気になっていたゲームのカセットであった。間桐邸でテレビを見ていた時にCMで発売日が流れていた事をライダーは覚えていたのだ

 

 

「ダハハハッ。やはり余のラックは、伊達ではないな!」

 

「あのなぁ・・・そういうのはソフトだけ買ったって、肝心のゲーム機がないと・・・」

 

「抜かりはない」

 

「ワシらも買ったであろー。この『エフメガ5』とやらを」

 

「んん?」

 

3人のサーヴァントの買い物にウェイバーは、またもや眉間に皺を寄せて呆れる。

 

 

「さぁ坊主、帰ったら早速大戦プレイだ。コントローラーも二つ買っておるからな」

 

「はぁ・・・僕はな、そういう下賤で低俗な遊戯には・・・興味ないんだよ」

 

ウェイバーは呆れ果ててか、目線を彼等から逸らす。そんな態度にライダーが困った様に大きくため息を吐いた。

 

 

「もう。なんで貴様は、そうやって好き好んで自分の世界を狭めるかなぁ? ちったぁ楽しい事を探そうとは、思わんのか?」

 

「・・・うるさいな・・・余計な事に興味を裂くくらいなら真理の探究に専念するのが―――」

 

「なんだ、負けるのが怖いのであるか」

 

「・・・なに?」

 

呆れた表情から一変、ドンの言葉にウェイバーはムッとする。

 

 

「なんだとドン?!」

 

「シャシャシャ♪ やはり、良い子ぶっておるやつは負けるのが怖いか。結構、かわいい所があるではないか」

 

「~~~ッ! このヤギ!!」

 

ウェイバーはムキになり、ドンを睨む。ドンも負けじと睨み返す。両者は互いに一歩も引かずに睨み合う。

 

 

「で、そんな貴様が興味を持っていた本は・・・」

 

「へ? あッ!?」

 

そうしているとライダーが、ウェイバーの持っていた本を取り上げる。

 

 

「っておい、これは余の伝記ではないか」

 

「あ・・・うぅ・・・///」

 

「「ほほぅ・・・?」」

 

ウェイバーは、自分の顔がみるみるうちに熱を帯びるのがわかった。何かを察したのか、ドンとロレンツォはニヨニヨと笑みを浮かべる。

 

 

「おかしなヤツだ。当の本人が目の前にいるんだから、直に何なりと聞けば良いではないか?」

 

「ああ、もうッ! 聞いてやる! 聞いてやるよッ!!」

 

不思議がるライダーからウェイバーは本を奪い取るとパラパラとページをめくり、彼に見せつけた。

 

 

「お前・・・歴史だとスッゴいチビだったって、なってるぞ。それが、どうしてそんなに馬鹿デカい図体で現界してるんだよ?」

 

「んん、余が矮躯とな? やはり、どこの誰とも知れぬヤツが書き留めた物なんぞ、アテにならんもんだわい。ハハハハハッ!」

 

「えぇ・・・」

 

「んん、どうした?」

 

「違ってるなら違ってるで、怒らないのかよ?」

 

本の内容に気を悪くするのかと思ったウェイバーにライダーの反応は、意外なモノだったらしい。

 

 

「いや、別に気にする事もないが・・・変か?」

 

「いつの時代だって、権力者ってのは自分の名前を後世に残そうと思って躍起になるもんだろ?」

 

ウェイバーの一般論にライダーは顎髭に手をやり考える。そして、そのポーズのまま答えはじめた。

 

 

「そりゃまぁ・・・史実に名を刻むというのは、ある種の不死性はあろうがな」

 

「だろう?」

 

「でも、そんな風に本の中の名前ばっかり2000年も永らえるくらいなら、せめてその百分の一・・・現身の寿命が欲しかったわい」

 

「え・・・じゃあ30そこそこで死んだっていうのは・・・?」

 

「ほう、そりゃあ合っとるな」

 

「・・・・・」

 

ウェイバーは、またもや視線を彼から外した。だが、その表情は先程までの呆れ顔ではなく、何かを思い詰めるような顔をしていたのであった。

 

 

「ほほう・・・」

 

その顔にドン・ヴァレンティーノは見覚えがあった。ウェイバーのそんな表情を見て、ドンはニヤリと口を歪めた。

 

それから彼らは色々な所を見回ったり、話を弾ませた。

デパートやら商店街やらの彼方此方を往々にして見回った。昼には、アキトから持たされていた弁当を近くの公園で食べながらサーヴァント同士、そのマスターとの会話に華を咲かせる。食べ終わるとまた、子供の様に好奇心旺盛なライダーに引っ張られて、冬木市を見回る。そうしていく内に帰る頃には陽は大分傾いていた。

 

 

「中々に楽しかったであろー」

 

「ですね。この街の特性やら何まで大方知れましたし、良い収獲です」

 

カラカラと会話を弾ませるサーヴァント達の後ろで黙りこくったウェイバーがトボトボと歩いていた。チラチラとライダーに目線を送りながら。

 

 

「な~にを黙り込んどるのだ? んん?」

 

「あろ?」

 

その視線に気づいたのか、ライダーが笑みを浮かべて振り返った。つられて、ドン達も振り返る。

 

 

「・・・別に・・・お前の事、つまんないなって思っただけだ」

 

「なぁんだ。やっぱり、退屈しとるんじゃないか」

 

「なに? ワシらとの散歩はつまらなかったのか、ウェイバー?」

 

「・・・違う」

 

「だったら、意地張らずにこのゲームを―――」

 

「違うッ!!」

 

素っ気ない返答から一転、ウェイバーは吐き出すように強い口調で言い放つ。それから彼は、申し訳なさそうに視線を逸らした。

 

 

「・・・お前みたいな勝って当然のサーヴァントに聖杯を取らせたって・・・僕には、何の自慢にもならない。いっそアサシンと契約してた方が、まだやりがいがあったってもんだ!!」

 

「うぅむ。そりゃ無茶だったんじゃないかのぉ・・・多分死んでるぞ、貴様。それか、あのバーサーカーに喰われておるわい」

 

「・・・有り得ない話では無いですね」

 

「いいんだよぉッ!」

 

ライダーの言葉に尚もウェイバーは、虚勢を張った言葉を言い放つ。ただ、いつものように喚き散らすような物言いではない。本心を曝け出す様な物言いだ。

 

 

「僕が、僕の戦いで死ぬんなら文句ないッ! 例え、それがバーサーカーに喰われようとアーチャーに貫かれようと!・・・そう思って僕は聖杯戦争に加わったんだ。それが・・・・・」

 

それだけ言うとウェイバーは、しょんぼりと地面に視線を落とす。

元はと言えば、ウェイバーが師であるケイネスから聖遺物を盗んだ事でライダーが召喚されたのだ。しかし、先の聖杯問答にキャスターの工房破壊で見せた圧倒的過ぎる彼の宝具にウェイバーは分不相応だと感じたのだ。

 

 

「それに・・・僕はカリヤさんみたいに成ってないし・・・」

 

「そんな事言われてもな~・・・」

 

加えて、急造の魔術師という事で心のどこかで軽視していた雁夜が、昨夜の聖杯問答でセイバーを擁護する為に無謀にもサーヴァントに対して啖呵をきった事が彼には少なからずショックであった。

そんな弱気な言い分に対してライダーは、困り果てたように後ろ頭をかく。

 

 

「貴様の聖杯に託す願いが、余を魅せる程の大望であったのなら・・・この征服王とて、貴様の采配に従うのもやぶさかではなかったろう。だが・・・・・いかんせん『背丈を伸ばしたい』ってのが、悲願じゃなぁ・・・」

 

「~ッ! 勝手に決めるなよ、それぇッ!!」

 

自分自身の願いを茶化すライダーにウェイバーはいつもの通りに喚く。しかし、この後に来るデコピンの代わりにライダーの大きな掌が彼の頭に置かれた。

 

 

「そんなに焦らんでも良かろうて。なにもこの聖杯戦争が、坊主の人生最大の見せ場って訳じゃなかろう?」

 

「ッ、なにをッ・・・!?」

 

頭の上に置かれた手を振り払い、ウェイバーは再び地面を眺める。そんな、己の不甲斐無さを噛み締める彼にライダーは言い聞かせる様に語り掛けはじめた。

 

 

「いずれ貴様が真に尊いと誇れる『生き様』を見い出したら・・・その時には、嫌が応にも自分の為の戦いを挑まなくてはならなくなる。己の戦場を求めるのは、そうなってからでも遅くはない」

 

「この契約に納得出来ないのは・・・なにも僕だけじゃないだろ?」

 

「ん?」

 

漸く顔を上げたと思ったら、ウェイバーはいつもの様にライダーを睨みながら言う。

彼の発言の意味ががわからないのか、ライダーは首を捻った。

 

 

「お前だって不満なんなんだろうがぁ! こんな僕がマスターだなんて。ホントはもっと違うマスターと契約してれば、よっぽど簡単に勝てたんだろ?」

 

「ふぅむ、そうさなぁ~・・・」

 

「「・・・ごくり」」

 

返答に悩むライダーにウェイバーは、気が気でない面持ちで待つ。その緊迫感が伝わったか、二人のやり取りを見ていたドンやロレンツォにも緊張が走る。

 

 

「・・・うむ」

 

「のわッ!?」

 

そうしているとライダーはウェイバーの体躯を手繰り寄せ、彼の背負っていたリュックの中身を物色しだす。そこから目当ての本を取り出すとパラパラとページをめくり、それをウェイバーに見せた。

 

 

「ほれ坊主、見てみよ。余が立ち向かっている『敵』の姿を」

 

「んん?」

 

そこには、図解された世界のイラストが描かれていた。

 

 

「ここにえがかれた敵の隣に我らの姿を書き込んでみよ。余と貴様と二人並べて、比べられる様に」

 

「・・・そんなのは・・・」

 

「無理であろう? これより立ち向かう敵を前にしては貴様も余も同じ、極小の点でしかない。そんな二人の背比べなんぞに何の意味がある?」

 

「・・・ッ」

 

「だからこそッ、余は滾る! 枝雀極小、大いに結構! この芥子粒における身をもって、いつか世界を凌駕せんと大望を抱く・・・」

 

ドンッと自らの胸に拳を叩き、語るライダーの表情はとても良い顔であった。まるで、ゲームの発売日を今か今かと待ち焦がれる少年のように。

 

 

「この胸の高鳴り・・・これこそが征服王たる心臓の鼓動よぉ!」

 

「・・・要するに・・・マスターなんて、どうでもいいって言いたいんだな・・・? 僕がどんなに弱かろうとそもそもお前にとっては問題にもならないんだな・・・」

 

「そんな事―――「ロレンツォ」―――・・・ドン?」

 

「そんな事はない」と話を聞いていたロレンツォは、ウェイバーに語り掛けようとする。ウェイバーは、キャスターの工房を破壊するという事柄においての功績が大であったからだ。決して、弱くはないと伝えたかった。だが、それをドンが止めた。

何故と聞き返すロレンツォの返答にドンは眼で答える。「これは彼等の問題だと」・・・

 

 

「なんでそうなるんだ、おい?」

 

「うわッ!?」

 

俯くウェイバーにライダーは困った風に笑い、彼の背中を叩くと彼の耳元近くまで寄る。

 

 

「貴様のそういう『卑屈』さこそが、即ち『覇道』の兆しなのだぞぉ? 貴様は四の五の言いつつ虚勢を張るも、結局は己の小ささをわかっとる。それを知った上で尚、分を弁えぬ高みを目指そうと足掻いておるのだからのぉ」

 

「それ・・・褒めてないぞ。バカにしてるぞ」

 

「そうとも。坊主、貴様は筋金入りの馬鹿だ。貴様の欲望は、己の埒外を抜いておる。『彼方にこそ、栄えあり』と言ってな・・・余の生きた世界では、それが人生の基本則であったのだ」

 

「だから、バカみたいにひたすら東へ遠征を続けたのかよぉ?」

 

「ああ、そうだ。この眼で『オケアノス(地の果て)』を見たくてな。・・・だが結局、夢は叶わなかったわい」

 

「え・・・?!(あの海を見ていない・・・?)」

 

記憶にコべり付いたように浮かぶ、今朝見た夢。

史実では、その大海を見る前にイスカンダルは無念にも熱病で没している。それを知らないウェイバーは驚く。なにより、それを楽しそうに話す彼自身に。

 

 

「・・・オケアノスは今でも目指す場所・・・・・『見果てぬ夢』よ」

 

夢の中の大海原はライダーが胸に抱いて来た『心の景色』であった。

 

 

「笑うが良い。2000年の時が経ってなお、未だ同じ夢を見続けている余もまた・・・『大馬鹿者』だ。だからな坊主、馬鹿な貴様との契約がまっこと快いぞ!」

 

それを聞いて、ウェイバーは何も言えなくなった。自分が抱いていた気持ちがどんなに矮小なモノだと思い知らされるぐらいに。

するとここで、ドンが微笑ましく口をひらかせた。

 

 

「イスカンダル」

 

「おお、どうした山羊?」

 

するとここで、今まで黙っていたドンが口を開く。

 

 

「海を見に行くであろー」

 

「なに?」

 

「海だ。この聖杯戦争が一段落したらば、皆で海を見に行くであろー。お主の言うオケアノスには劣るであろうが・・・きっと美しい海であろー」

 

「ドン・・・」

 

現在、聖杯戦争が行われている場所は日本。この国が『極東』に位置する事をライダーはまだ知らない。

 

 

「おお、それは良いな! 余が聖杯を手にした祝宴として、この国の浜辺でやろうではないか! ハッハッハッ!」

 

「ウェイバーもそう思うであろう?」

 

「あ・・・ああ、そうだな・・・」

 

ウェイバーはドンの言葉に眉をひそめながらも返す。

この時、ウェイバーが一体どんな思いであったのかは・・・彼自身にしかわからなかった。

その時だ。

 

 

『ッ!!?』

 

彼らの体躯に粘り付くような気配が張り付いたのは。

 

 

「川・・・だな」

 

朗らかな顔から一転、ライダーは真剣な面持ちで気配が感じる方向を見通す。

純然たるドス黒い気配。彼はこの気配を知っていた。あのアインツベルンの森と用水路内部で感じた魔力の正体を。

 

 

~~~♪

 

「あろ?」

 

それと同時に着メロが、ドンの携帯から鳴る。電話の相手は間桐邸にいるアキトからであった。ドンは電話を受けるとすぐさま、それをスピーカーモードにする。

 

 

『大王、『ヤツ』だ』

 

電話の向こう側から聞こえる短くも鮮烈な報告。

その報告を待ってましたとばかりに場に一迅の風が吹き荒れる。吹き去った後には、緋色の戦装束で身を固めたライダーが構えていた。

 

 

「行くぞ、坊主ッ!」

 

「お、おう!」

 

ライダーはキュリプトの剣を引き抜き、虚空を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





意外にノリノリ。


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出現




PSVitaの調子が悪いぃい!

アキト「知らんがな」

てな訳で・・・・・今回もどうぞ・・・




 

 

 

陽もトップリと落ちた夜。

そんな静寂を打ち破るかのように一台の白い車種が猛スピードで住宅街を激走していた。

車は未遠川の防波堤付近にドリフト走行で駐車すると勢いよく車内からスーツ姿の金髪少女が飛び出る。セイバーだ。

彼女はそのまま堤を駆けあがり、川を見る。

 

 

「ッ!!」

 

そこには、冬木市で起こっている連続児童誘拐事件の主犯格であるギョロ目玉の男、キャスターが水面に立っていた。キャスターの手には禍々しい邪気を放つドス紫色の魔力が垂れ流されている。

 

 

「キャスター・・・!」

 

セイバーに追いついて堤に上がったアイリスフィールは、やはりかと思えるように眉をひそめて呟く。

 

 

「キャスターが何らかの大規模魔術を遂行中である事は、この尋常ならざる魔力の放射から疑う余地はありません」

 

セイバーは淡々とされど身構えながら状況をアイリスフィールに説明する。

そうしていると彼女達に気づいたのか、キャスターは閉じていた眼をこちらに向けて薄ら笑みを浮かべる。そして、そのまま丁寧にお辞儀をした。

 

 

「ようこそ! 聖女ジャンヌよ。再びお目にかかれたのは、恐悦の至り・・・!」

 

相変わらずセイバーを自分の想い人だと勘違いしているキャスターは、実に嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

 

「性懲りもなく・・・外道め! 今夜は、なにをしでかす気だ?!!」

 

「申訳ないがジャンヌ。今宵の主賓は貴女ではない・・・ですが、貴女もまた列席して頂けるというのなら、私としては至上の喜びですとも」

 

そんなキャスターに呆れを通り越した怒号をぶつけた。対してキャスターは体を起こすと悪びれもせずに返答をかえす。

 

 

「不肖、ジル・ド・レェめが擁する『死』と『退廃』の共演を・・・どうか心行くまで満喫されますよーうッ!」

 

劇場の役者のように手を広げるキャスター。

それが合図となったのか、足元でウネウネと動いていた触手がキャスターの体に絡みつく。これから起こるであろう惨劇にセイバーはより一層、身構えた。

 

 

「今再び・・・我らは救世の旗を掲げよ―――うッ!!」

 

ドジャァ―――アンと水面が盛り上がり、水中に隠れていた通常の何倍もある海魔が出現した。巨大海魔はさらに口から幾本もの触手を伸ばし、キャスターを己が体内へと吸収していく。

 

 

「見捨てられたる者は集うがいい! 私が率いる、私が統べる! 我ら貶めたれらる者達の怨嗟は必ずや天上へと届くッ!」

 

「こ・・・これは・・・!?」

 

キャスターを吸収した巨大海魔は川から起き上がり、その全貌を露わにする。その大きさは30mを優に越え、光の超人に出てくる怪物そのままであった。

セイバー達がキャスターの予想を上回る大規模魔術に驚愕しているとその後ろに雷を纏った戦車が着陸した。

 

 

「よう騎士王!」

 

「征服王・・・ッ!」

 

戦車に乗っていたライダーは、片手を上げて挨拶をする。まるで町中で知人に会ったように軽いノリだ。そんな彼にセイバーは、明らかな警戒心丸出しで対応する。

 

 

「止せ止せ、今夜ばかりは休戦だ」

 

警戒心丸出しの彼女にライダーは両掌を見せて、敵意がない事を表す。そのまま呆れたように川にそそり立つ巨大海魔を見た。

 

 

「あんなデカブツを放って置いたら、オチオチ死合いの一つも出来んわい。さっきからそう呼び掛けて回っておるのだ」

 

「なに?」

 

「ランサーは承諾した。直に追いついて来る筈だ」

 

「了解した、こちらも共闘に異存はない。征服王、しばしの間だが共に忠を誓おう」

 

彼の発言を聞いて、セイバーはアイリスフィールと無言で頷き合い、ライダーの提案を了承する。同じくして、セイバーはキョロキョロと辺りを見渡した。

 

 

「んん? どうした騎士王?」

 

「いえ・・・貴方方と常に一緒にいるバーサーカーの姿が見えないのですが。彼は?」

 

「ほほう? 騎士王、こんな時に貴様は自らの血を啜った男に現を抜かしておるのか? それともマスターのカリヤの方にかのぉ?」

 

「なッ!?」

 

ニヤニヤと笑むライダーにセイバーは、虚を突かれた様にうろたえた。

 

 

「き、貴様はッ、騎士を愚弄する気か?!!」

 

「はいはい、痴話喧嘩はそこまでだ」

 

「ち、ちわッ!?」

 

「アインツベルン、アンタ達に策は? キャスター本人と戦うのは、これが最初じゃないんだろう?」

 

激昂するセイバーを雑に処理したウェイバーは、アイリスフィールに問いかける。セイバーがキャスターと戦った事は、アキトからの話で聞いていたからだ。

 

 

「ともかく、速攻で倒すしかないわ。あの怪物はまだ、キャスターからの魔力供給で現界を保っているのだろうけど・・・あれが糧を得て、自給自足をはじめたら手に負えない。そうなる前にキャスターを止めなくては!」

 

「なぁるほどな・・・ヤツが川岸にあがって、食事をおっぱじめる前にケリをつけなきゃならん訳だ」

 

怪物は宿主からの魔力をあてにしてはいない。聞こえは悪いが、幸いにも騒ぎを聞きつけた近隣住民が集まりはじめた。その肉を目掛けて、怪物はゆっくりと進んで行く。

 

 

「しかし・・・当のキャスターは、あの分厚い肉の奥底ときた。さぁて、どうする?」

 

ライダーは、あの対軍宝具で対処する手立ても考えた。が、何分あの宝具は使うのに多量の魔力を有する。だから長時間使用には限りがあった。

 

 

「ならば、引きずり出す。それしかあるまいて」

 

『!』

 

皆の目線の先に現れたのは、霊体化を解除した二槍使いのランサーであった。

 

 

「ヤツの宝具さえ剥き出しに出来れば・・・俺の『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』は、一撃で術式を破壊できる!」

 

アインツベルンの森の戦闘でキャスターの宝具を破壊した事のある『朱槍』をランサーは自慢げに掲げる。

 

 

「ランサー、その槍の投擲で、岸からキャスターの宝具を狙えるか?」

 

「フッ・・・モノさえ見えてしまえば、造作もないさ」

 

「ならば先鋒は、私とライダーが務める。いいな、征服王?」

 

「構わんが、余の戦車に道はいらぬとしても・・・騎士王、貴様は川の中の敵をどう攻める気だ?」

 

ライダーの疑問は真っ当なものである。

ライダーの宝具である戦車は空中を走れるが、セイバーはそのような宝具を持ち合わせていないのではないかと。まさか、水面の上を歩くとでも言うのだろうか。

 

 

「この身は湖の乙女より加護を授かっている。水であろうとも我が歩みを阻む事はない」

 

実は、そのまさかである。

アーサー王伝説の中でアーサー王は湖の精霊から加護を受けており、水面を地面と同じように歩けるのだという。

 

 

「おぉ! それはまた稀有なヤツ。益々、我が配下に加えたくなったぞ」

 

「先程の妄言のツケは、いずれまた払ってもらう。今はまず、あの化物のハラワタからキャスターを暴き出すのが先決だ」

 

「ハハハッ、然り! ならば、一番槍は・・・頂くぞッ!」

 

一つ快活に笑声をたてたライダーは手綱を大きく振るった。それを合図に戦車は、青白い雷を纏うと空へと走り出す。

 

 

「え、え、うわぁぁあぁあ―――ッ!!?」

 

ウェイバーの叫び声というオプション付きで、戦車は怪物へと突撃していった。

 

 

「セイバー、武運を」

 

「はい」

 

アイリスフィールの言葉に頷くとセイバーもまた、怪物へと目掛けて走る。途中、ブラックスーツは青銀の戦装束へと変貌し、風に隠された剣を構えた。

水面を蹴り、尋常ならざる速さで迫っていくセイバー。怪物もその気配に気づいたか、自らの触手を大きくうねらせて襲い掛かる。

 

 

「決着をつけるぞ・・・キャスター!!」

 

セイバーは、水面を力強く蹴り浮くと襲い掛かる触手を切り裂いた。

斯くして、サーヴァント達のキャスター討伐の火蓋は切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

←続く

 





かくして一期は終わりを迎え、二期へと駒を進める。

アキト「その最後に俺が出てないって・・・」

う~む。まぁ、参考が参考だからね。


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血戦




本編の気分転換にこっちに手を入れる。

アキト「やっとこっちでも出られる」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

ヒュゴォオオオオオオオッ・・・

 

地上から高く見上げた空の上。ジェットエンジンをかき鳴らし、航空自衛隊所属の戦闘機、2機が目的地に向かって大空を羽ばたいていた。

 

 

『もし『怪獣』がいたら、交戦許可って下りるんですかねぇ?』

 

『これが怪獣映画なら、俺達きっとヤラレ役だぜ? 光の巨人が出てくる前のかませ犬だ』

 

『笑えませんよ、ソレ』

 

冗談交じりに戦闘機のパイロット達は無線を通して語り合う。

 

『未遠川に正体不明の巨大生物を発見。確認の為、現場へ急行せよ』。

これは今から数分前に入って来た冬木近くにある自衛隊基地からの指令である。近辺を哨戒中であった二人は、管制から送られてきたこの冗談のような指令に困惑しながらも向かった。

「イベントか何かだろう。最近は届け出もなく大規模な催し物をする輩がいるからな」とパイロットの一人、仰木はため息を漏らす。

 

 

「なんだ・・・アレは?」

 

しかし、指示された場所へと到着してみると未遠川は怪しげな紫の霧に包まれ、中央にはぼやけた巨大な何かとその頭上付近に浮かぶこれまた正体不明の金色に輝く飛行物体が目に入った。

 

 

『コントロールよりディアボロ1。状況を報告されたし』

 

「報告は・・・いや・・・その・・・」

 

管制からの通信にディアボロ1こと、仰木は言葉を飲んでしまう。報告しようにもどう表現して報告すればいいのか分からなかった。

明らかに異常性が高そうな紫色の煙に金色のUFO。普通に報告すれば、真っ先に脳を疑われる光景が広がっていたのだから。

 

 

『もう少し高度を下げて接近してみます!』

 

『あ、おい! 待て、小林!』

 

仰木が報告を躊躇っていると彼の部下で、ディアボロ2こと小林が高度を下げて紫の霧の中心へと向かう。

 

 

『戻って来い、ディアボロ2!』

 

彼は仰木の呼びかけを気にも留めずに霧の中へと飛び込む。中は気味の悪い紫とその全体を覆うように充満するガス群で構成されている。

 

 

「もっと間近からの視認なら、あれが何なのかが―――

 

シュバァアッ

 

―――・・・へッ?」

 

霧の奥へと進んだ小林が見たのは、通常なら日本の名川100選に選ばれる程の碧く雄大な景色ではなく、ヌラヌラと液をだす巨大な触手と異形の怪物であった。

 

 

「うワァアアああアアッ!!?」

 

まさか、さっきまで自分が言っていた怪獣が目の前に現れるなんて思いもしなかった小林は、すぐさま操縦桿を握りしめて脱出をはかろうとする。

 

バババシュゥウウッ!

 

だが、無警戒に近づいて来た得物を逃す程怪物は優しくはなく。川に隠していた何十本もの触手を戦闘機目掛けて放つ。

小林はこちらに気づいて伸びてくる触手をきりもみしながら避ける。

 

グパァ・・・

 

「なッ!?」

 

バギィイッ!

 

が、怪物は縦に開いた口のような器官からまた新たな触手を幾本も伸ばすと戦闘機を捕らえた。

 

 

「こ、このぉお!!」

 

ズガガガガガガガガッ!

 

彼は足掻くとばかりに機体に纏わり付いた触手に向かってトリガーを引く。20mm口径の鉛玉が毎分6000発の密度を持って射出される。しかし、弾丸によって断ち切られた触手を補うように新たな触手が機体に纏わりついた。そして、捕らえた得物を怪物はゆっくりと口へと運んでいく。

 

 

「糞ッ! クソぉおオオオ!!」

 

これから自分に起こるであろう結末を理解してしまった小林は、顔を硬直させて絶叫する。

メキメキと機体の軽装甲がひしゃげる音が耳に響き、無線からはノイズの入った自分を呼ぶ仰木の叫びが聞こえてくる。

 

その時であった。

 

 

「ヤレヤレ・・・流石の俺でも戦闘機は食えねぇよ。コイツはとんだ悪食じゃあないか?」

 

「・・・え・・・?」

 

自分が上げている断末魔の叫びに混じって、飄々とした気楽な声が小林の耳に聞こえて来た。

 

 

「あ・・・アァあッ!!?」

 

彼は声のする方を向くと体が凍り付いた。

座席の上。つまりはコックピットのハッチに人が立っているではないか。しかもヘルメットどころか命綱もつけていない。代わりに時代錯誤な甲冑を身に纏い、腰には刀を差している。

ありえない。自分の頭は死の恐怖で遂におかしくなったのかと小林は呆然自失となった。

 

 

「おん? おお、大丈夫か?」

 

「え・・・あ、ハイ」

 

陽気な声で語り掛けて来る目の前の人物に小林はただ空虚にそう答えるしかできず。朗らかに語り掛けるその人物の口元からは、長く伸びた白い()()()()が垣間見えた。

 

 

「そうか。なら―――」

 

バキィイン!

 

「は?」

 

「―――お達者で」

 

ドバシュゥウウウウウッ!

 

「のわァアアアッッ!!?」

 

彼が自分が無事な事を確認すると謎の人物はハッチを叩き割り、座席付近にある脱出装置を無理矢理に作動させて小林を霧の外へと飛ばした。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「おお・・・飛んでった、飛んでった」

 

『良かったのですか、王よ? 聖杯戦争に無関係な人間に姿を見られたのですが・・・』

 

脱出装置によって、霧の外へと射出されたパイロットを視認しながら男は飄々とした声を漏らしていると彼の装着している手甲から機械染みた音声が流れる。

 

 

「しょうがねぇだろ。無関係な堅気の人間をこんなファンタジーでメルヘンな戦いに巻き込めねぇよ」

 

『そうですか。あと王よ』

 

「おん? なんだよ『朧』ちゃん?」

 

『そろそろ喰われてしまいそうです』

 

ズルズル・・・

 

宝具のAI『朧』と無駄話をしている間にキャスターの造り上げた巨大海魔の触手が足に纏わりついてきた。

 

 

「朧ォ・・・そういう事は―――――」カチャ

 

彼は腰に差していた刀の柄を握りしめると―――

 

 

「―――早めに言って!!」

 

ズシャァアアン!!

 

 

 

いつ抜いたか知れない刀を振るっていた。すると機体に絡まり付いていた触手ごと自分の立っているコックピットが分離される。

 

 

『ッ!!?』

 

「今のうちにット!」

 

巨大海魔は先程のバルカン攻撃とは違う衝撃に怯んでいる隙に機体を蹴り上げて飛んだ。

 

 

『バーサーカー』ッ!!」

 

「応ともさ!!」

 

「のワぁあ!?」

 

飛んで行った先には、同盟関係を結んでいる『ライダー』が保有する戦車が空中を駆けていた。それにバーサーカーこと『アキト』は戦車の荷台へと着地しる。荷台にはちょうど緑髪におかっぱの頭の先客がおり、アキトの無茶な着地の為に戦車から振り落とされそうになった。

 

 

「バカ! 危ないじゃないか! もう少しで落ちるところだったんだぞ! このバカ!!」

 

「悪かったよッ、ウェイバー。だからそんなにバカバカ言うな!」

 

「無駄話をしている場合ではないぞ、小僧共! ッハ!!」

 

ライダーのマスターである『ウェイバー』とアキトが言い争っていると空を駆ける戦車に巨大海魔からの触手がミサイルのように降り注いでくる。

ライダーは握る戦車の手綱に力を込めて振るうとエースパイロットも真っ青なきりもみで避けていく。

 

 

「ヒュ~♪ 流石、大王! カッコいい!!」

 

「言ってる場合かッ! うわぁああ!!」

 

ウェイバーはツッコミをしながらも高速で駆ける戦車から振り落とされない様に掴まっている。そんな事などお構いなしにアキトは戦車を操るライダーの肩を叩いた。

 

 

「大王。今どんな状況? パーティーには遅れちまったが、メインディッシュが残っているという事はわかる」

 

「そのメインディッシュとやらの中にギョロ目のキャスターがおるのだ。ヤツをあの肉の壁から引きずり出さない限り、あのデカブツは止まらいとの事だ」

 

「そりゃあ難儀なこって」

 

「バーサーカー! お前、危機感がなさすぎるだろ!! さっきお前が助けたの自衛隊だろ、早くしないと色々とマズイんだよ!!」

 

ウェイバーの言う通り長期戦に持ち込めば、本格的に自衛隊が参戦する。それは隠匿されなければならない機密事項まみれのこの聖杯戦争が昼の世界に漏れ出すという魔術師なら即卒倒しかねない緊急事態なのだ。

 

 

「それに『雁夜』さんと『ガンナー』はどうしたんだよ?! 雁夜さんや物見遊山決め込んでるアーチャーはともかく、この状況だったら一人でもサーヴァントは多い方がいい!」

 

「ああ・・・それなんだがよ~・・・」

 

「?」

 

ズジャギィイッン!

 

「「「!?」」」

 

ウェイバーの問いかけにアキトは口ごもってしまう。申し訳なさそうに頬をかく彼の表情にウェイバーは疑問符を浮かべているとライダー達の進行方向に待ち構えていた触手が戦車を牽く牛を捕らえた。ミシミシと凄まじい力で締め付けていくために牛は苦しそうな鳴き声をあげる。

 

 

「ハァアッ!!」

 

ブシャリッ!

 

「かたじけない、『セイバー』!」

 

その牛を締め上げる触手を根本から斬り落としたのは、川の水面を一人駆ける金髪の少女『セイバー』。

彼女はライダーの言葉に頷くと自らに這い寄って来た触手を切断する。ところが、そんなセイバーの隙をつくように背後から新たな触手が迫って来た。

 

 

「WRYYYYYッ!」

 

ザンッ!

 

「!」

 

その迫りくる触手に対して、アキトの正確無比なナイフの投擲攻撃が突き刺さる。

背後の触手に気づき、後ろからナイフを放った彼へとセイバーの視線が移った時、アキトは彼女に向かって大声で語り掛ける。

 

 

「セイバーッ、()()は使えるか?!」

 

「・・・はァ?」

 

場違いな問いかけにセイバーはついポカンとした表情を浮かべるが、すぐにキリリとした表情に戻る。

 

 

「なにこんな状況で変な事聞いてんだよ、バーサーカー?!」

 

「重要な事なんだよ、ウェイバー! それで使えるのか?!」

 

隣で喚くウェイバーを黙らせて今一度セイバーに問いかけるアキト。そんな彼の鬼気迫る声色に何かを感じ取ったセイバーは言葉を紡いだ。

 

 

「倉庫街での一戦・・・ランサーのゲイ・ボウを受けた為に片腕が万全ではありません」

 

「・・・そうか、わかった!」

 

アキトはセイバーの言葉を聞くと戦車の外枠に足をかけ、飛び立つ姿勢をとる。

 

 

「ちょッ、どこ行くつもりだよバーサーカー?!」

 

「ちょっとあの飛んでる戦闘機、かっぱらって来る」

 

「はぁア!? 何言ってんの、お前?!」

 

「先程のセイバーへの問いといい。何か策があるのか、バーサーカー?」

 

彼のとんでもない発案にウェイバーは顔を歪める。ただライダーだけはアキトに何か考えがあるのかを直感的に感じ取った。

 

 

「ある。セイバーにはこの最低な状況をひっくり返す『最高の宝具』がある」

 

「最高の宝具? なんだよソレ?!」

 

「ウェイバー・ベルベット! お前、イギリス人なんだからわかるだろうが!」

 

「な、なにを!?」

 

「『騎士王』が携えている世界で最も有名な『聖剣』をよ~?」

 

「・・・ああ!!」

 

ウェイバーは思い出した。幼い頃に読んだアーサー王の物語に出て来る最強格の剣の名前を。

 

 

「その聖剣とやらがどうして、状況一変の刃となる?」

 

ライダーはアキトに疑問を問いかける。あんな小柄な少女の持つ剣がどうして切り札となり得るのかがわからなかった。

 

 

「あの剣は『対城宝具』だ」

 

「対城宝具?」

 

「今、キャスターは自分のマスター以外からも魔力を吸っている。そんな野郎にチマチマやっても次の攻撃の合間に傷を再生されちまう」

 

彼の言うようにセイバーやライダーがいくら巨大海魔の肉を斬り裂こうと斬った先から何事もなかったかのように傷が再生する。

 

 

「そこで一撃必殺の剣だ。あの剣なら川に溜まっている瘴気ごとアレを消滅できる」

 

「なんでそれで戦闘機が出て来るんだよ? まるで話が繋がらないぞ!」

 

「カカッ♪」

 

ウェイバーの当然たる疑問にしてやったりとアキトは笑みを浮かべる。耳まで口が裂ける程に獰猛な笑みを。

 

 

「かっぱらった戦闘機をあの野郎のドたまにぶちかます。そのダメージで野郎が怯んでる間にセイバーを両腕を万全にしてくれ」

 

「なッ!?」

 

ウェイバーは面を喰らった。眼前のこの何考えてんだがわからないサーヴァントは奪った戦闘機で特攻を仕掛けると言ったのだ。

 

 

「心配すんな。脱落するつもりは1μもねぇからよ」

 

「そうは言っても・・・」

 

「あ。あと大王。俺が野郎にそんなにダメージが与えれなかったら、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)で足止め頼むぜ?」

 

「ダハハ! お前さん、顔に見合わず王使いが荒いな。いいだろう、このイスカンダルに任せおけ!」

 

「応、任せた。・・・ウェイバー?」

 

「な・・・なんだよ?」

 

アキトはウェイバーの小柄な肩をしっかりと掴み、紅い眼を覗かせる。あんまりにも真剣な眼差しで見つめられるモノだから()()()()()がなくても妙にドキりとする。

 

 

「ランサーのゲイ・ボウ。ああ、黄色い方な。()()()()()()

 

「・・・・・ふァッ!!?」

 

彼はそのままニッコリとほほ笑むととんでもない事を言った。

 

 

「え・・・は、あ・・・え、なんで?!」

 

「だってセイバーがゲイ・ボウで負傷したんなら、その原因となっているゲイ・ボウを折らないと傷が治らないだろう」

 

「だ、だ、だからって僕にサーヴァントに挑めと!!?」

 

「Exactly!」

 

「うるさい!!」

 

もうウェイバーは心労で倒れそうになった。

この聖杯戦争がはじまって以来、自分のサーヴァントであるライダーにも苦労した。だが、なぜかそれと同等か以上に同盟関係を結んだこの色んな意味で規格外のバーサーカーに振り回されて来たのだから。

 

 

「大丈夫だって、英雄王ならともかくランサーは話のわかるヤツだと思うからよ~」

 

「なにを根拠に・・・ッ!」

 

「吸血鬼の勘ってヤツ~?」

 

「はァア?!」

 

「じゃあ頼んだぜ!」

 

「あ、おいッ!!」

 

ダッッ

 

呆れてモノが言えないウェイバーを余所にアキトは背中から翼を広げ、戦車を蹴って飛び出した。

放たれた赤い矢のように飛ぶ彼は巨大海魔を警戒しながら飛行する戦闘機に向かって、両掌を写真の形に囲んだ。

 

 

拘束術式(クロムウェル)第参号・第弐号・第壱号を目標の沈黙まで限定解除」

 

それから5分ともせぬ内に小林機と同じように仰木機の戦闘機をかっぱらった彼は、独特の奇声を雄叫びながら巨大海魔の口に突っ込んだ。

後に近くの住民に救助された小林と仰木は飛んでいる機体に張り付いた得体の知れない恐ろしい何かに『助けられた』『機体を奪われた』と述べている。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





ウェイバーが苦労人みたくなっている。


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覚悟




ここ何日か前に十代にサヨナラを告げました。

アキト「酒ッ! 飲まずにはいられない!」

そして、ここからおじさんの強化が行われます。

アキト「今回はその前フリみたいな!」

酒は程々にしますが、強化は自重はしない。では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「バーサーカー・・・俺に『魔術』を教えてくれ」

 

「・・・おん?」

 

カラン・・・

 

聖杯問答後に間桐家邸宅で始めた酒盛りが終わった頃。

皆が別室で眠る中。縁側で月を見ながらウイスキーを傾け、宴の余韻に浸るアキトに彼のマスターである雁夜が語り掛けて来た。

グラスに入った丸氷がピシりと音を発てて砕け散る。

 

 

「オイオイオイ・・・マスター。今、なんて言った? 俺の耳に入って来た言葉が確かなら・・・『魔術を教えてくれ』って聞こえたんだが?」

 

「そうだ。バーサーカー、お前の使っている魔術を・・・俺に教えてくれ」

 

「・・・ふむう・・・」

 

オイオイといつもの様に飄々とした口調で聞き返したアキトに雁夜は真剣な面持ちで言葉を返す。いつもとは違う雰囲気を漂わせる雁夜にアキトはウイスキーを全て呷るとそのグラスを彼に渡した。

 

 

「バーサーカー?」

 

「まぁ飲めよ、マスター」

 

彼は渡したグラスにボトルを傾け、半分まで注ぐ。

雁夜は困惑しながらもそれを舐めるように飲み干した。独特の余韻が鼻を抜け、息を吸い込むと口の中が熱くなる。

そして、空になったグラスをアキトに返すと彼はまたウイスキーを注ぎながらいつもとは違う冷淡な口調で口を開いた。

 

 

「よし、飲んだなマスター。ならさっきのは酔いどれの話として聞かなかった事にしてやるから、とっとと寝ろ。明日も早い」

 

「え!? ちょっと待ってくれ!」

 

「・・・」ギョロリ

 

「ッ!?」

 

話は始まってもいないと雁夜がアキトを呼び止めるが、帰って来たのはいつものお気楽な声ではなく、身も凍るような鋭い視線であった。

ゴクリと雁夜は息を飲み込む。今まで味わった事のないような恐怖が彼の身体を包み込んだからだ。

 

 

「聞こえなかったのか、マスター? 俺はとっとと寝ろって言ったんだぜ? それとも何か? 俺、呂律がまわってなくて上手く喋れてなかったかしらん?」

 

「い、いや・・・ちゃんと聞こえた・・・」

 

「なら―――「それでもだ!」―――・・・・・」

 

雁夜は屈しはしなかった。身体が硬直し、額から脂汗を噴き出そうとも彼は喰らい付いた。

アキトは何か考え込むように頬をかくと頑として譲らない眼をこちらに向ける雁夜に語り掛ける。『理由を聞こうか』と。

 

 

「今の俺は、お前に体から刻印蟲を取り除かれた為かどうかわからないけれど、間桐の魔術を行使できない」

 

「おん」

 

「こんなんじゃ、もしもの時に俺一人で桜ちゃんを守れない! だから・・・ッ!」

 

「・・・ふむ・・・」

 

雁夜は現在、魔術を行使する事ができない。理由としてはアキトが召喚されてすぐに彼の体の中に巣くっていた刻印蟲を取り除いたのもあるが、他にも屋敷内にいた全ての蟲を『拘束術式(クロムウェル)』発動で全て喰らってしまったのもあった。

なので、今の雁夜は魔力は人並み以上に持っているが魔術は行使できない半端者なのである。これではこちらの隙を突かれてマスター単体を狙われた時に対処しようがない。

だが・・・

 

 

「マスター・・・本当にそれだけか?

 

「え・・・ッ?」

 

アキトは雁夜の言葉に首を縦に振ろうとはしなかった。

 

 

「マスター。アンタは本当にただ桜の為という理由で俺から『力』を教えてもらいたいのか? 本当はもっと違う理由があるんじゃあないのか?」

 

「な、なにを・・・ッ!」

 

何故なら召喚された時。床に流れた彼の血を啜り、間桐 雁夜という男の『闇』を知ってしまっていたからだ。

『桜の為』というのは本当の事なんだろう。本当に彼女を心の底から大切に思っているんだろう。彼女の為ならば、どんな苦難にも耐え得る精神を持っているのだろう。

しかし、それとは別の『感情』が彼の中にある事をこの男は知っていた。

 

 

「『遠坂 時臣』への私怨」

 

「ッ!」

 

図星であった。

雁夜は遠坂家を、『遠坂 時臣』を心の底から憎悪し、怨んでいた。間桐の家に桜を養子に出し、彼女の身も心も汚染した原因を作った時臣を雁夜は憎んでいた。

 

 

「時臣を殺す為だけに魔術の教えを乞うならば、とんだお門違いだ。桜は・・・あの娘はアンタの免罪符じゃあないんだぜ?」

 

「ッ・・・!」

 

アキトの言葉に雁夜は表情を大きく歪める。哀しそうに苦しそうに顔を崩した。

そして、自らの思いの内を吐露し出していく。

 

 

「俺が・・・俺が間桐から逃げ出してしまったから・・・あの娘が、桜ちゃんがひどい目にあって・・・だから俺はそれを償わなきゃいけなくて・・・ッ!」

 

「・・・・・」

 

「だから、だから桜ちゃんを! よりにもよって間桐へやった時臣を俺は! 葵さんだって悲しませて! アイツが、アイツのせいで!!」

 

吐き出された感情は紛れもない時臣に対する『怒り』。初恋の幼馴染を悲しませ、その子供までを傷つけた男への圧倒的な憎悪。

ウイスキーを飲まされた影響もあってか、雁夜は思いの丈をアキトに吐き出すとここまで無言であった彼がゆっくりと口を開いた。

 

 

「・・・マスター・・・本当はわかっているんじゃあないのか? 時臣を・・・あの男を殺したところで誰も救われない事をよ」

 

「ッ!」

 

ガシッ!

 

雁夜はアキトの胸倉を掴んだ。

そんな事はわかっている。そんな事はとっくの昔に知っている。頭では理解している。

しかし、心がそれを拒んだ。理解しようとしなかった。自分勝手な一方的な怨みだという事は、嫌と言う程わかっている。

わかっているからこそ、胸倉を掴んだ自分のサーヴァントの言葉がグサリと内に突き刺さったのだ。

 

 

「うるさいッ! お前になにがわかる?!! 間桐の魔術を知らないサーヴァントのお前に何がッ!!」

 

わかるわけねぇだろうが! このスカタンッ!!

 

ガシリ!

 

「ッ!!?」

 

遂に冷淡な口調で喋っていたアキトが雁夜の襟に掴みかかって叫んだ。

 

 

「確かにッ、俺はぽっと出のサーヴァントさ。訳も分からずこの戦争に召喚されちまったヤツだよ。だから間桐の魔術なんて詳しい事はわかんねぇよ、アンタの血を啜って、概要を知ったところで本質はわかんねぇよ。でもなぁ、間桐 雁夜ッ! アンタが苦しんでるって事はわかるんだよ!!

 

「ッ!!」

 

アキトの紅い眼が雁夜の目を見通す。

 

 

「俺はこれでもマスターの事、気に入ってるんだぜ? 魔術を教えて欲しいなら強制力のある『令呪』を使やあいいのに一人の人として律儀に教えを乞う所とか、未だに幼馴染に一途な所とか、ドン達だって気に入ってるんだ! それがどうだ? 今のマスターは、ヒデェ顔してるぜ?・・・今のアンタは、足元が見えずに転がり落ちていく者の顔だ」

 

「・・・ッ・・・」

 

ここまでの数日間という短い間であるが、アキトはわかっていた。雁夜の中には負の感情の他にも高潔な魂が存在する事を。

 

 

「『悲しみ』『絶望』そして、『憎しみ』は優しいアンタを傷つけるだけだ。それに・・・・・」

 

「え・・・?」

 

彼は目線を雁夜から外し、前を見つめた。彼もその視線につられて振り向くとそこには、窓から注す月光に照らされた少女が立っていた。

 

 

「さ・・・桜ちゃん?」

 

「アーカード・・・雁夜おじさん・・・いじめちゃダメ・・・!」

 

「ごめんよ。いじめちゃあいないんだけどね」

 

幼いながらに桜は精一杯の眼光をアキトにぶつけ、雁夜へと近づいた。

雁夜は無意識のうちに彼女を抱きしめる。そんな彼にアキトは語り掛けていく。

 

 

「マスター。もうこの娘にはアンタしかいないんだぜ?」

 

「え・・・」

 

「間桐へやられて、一人ぼっちの悪夢の中で見つけた心の拠所がアンタなんだよ」

 

「!」

 

「マスターのワカメな兄貴はどっか行っちまうし。私怨の果てにマスターまでもいなくなったら桜は一人ぼっちだ」

 

「! おじさん、いなくなっちゃうの?」

 

「桜ちゃん・・・」

 

「やだ・・・そんなのやだ・・・・・桜を・・・私を一人にしないで・・・!」

 

彼女は瞳を潤ませ、雁夜の胸にすがりつく。抱きしめた小さな体躯が小刻みにプルプルと震えるのが触覚を伝わるのがわかった。

 

 

「大丈夫・・・大丈夫だよ、桜ちゃん。一人になんかしないよ」

 

「グスッ・・・ぜったい?」

 

「ああ・・・絶対だ。約束するよ」

 

「うん」

 

雁夜の言葉を聞いて安心したのか、桜はすぅすぅと寝息を彼の腕の中でたて始める。彼は彼女が眠ったのを確認するとアキトに対して語り掛けた。

 

 

「・・・バーサーカー・・・改めて言うよ。俺に魔術を教えてくれ」

 

「・・・・・理由は?」

 

雁夜はしっかりとした眼を向け、紅い眼を見通す。

 

 

「確かに俺はアイツを・・・時臣を怨んでいる。でも、もう違う。俺は・・・・・桜ちゃんの為に戦う。桜ちゃんの為に生きる。それが俺の理由だ」

 

その眼の奥底にアキトはジリジリと燃える『覚悟の炎』を見つけた。

 

 

良い(ベネ)とても良い(ディ・モールト・ベネ)。ならば、貴方を誘おう。最高級に最低で、摩訶不思議な夜へと。覚悟は良いかい?

 

「勿論・・・俺は出来てる!

 

 

 

―――――――

 

 

 

『WRYYYYYYYッ!!!』

 

ドグオォオオオオオ―――ッッンッ!!

 

「ッ!!!??」

 

場面はアキトが戦闘機で巨大海魔の口に突っ込んだ時に戻る。

アキトの攻撃の衝撃によって、巨大海魔がよろめき苦しそうに身悶える様子をビルの屋上から未遠川を望める位置で雁夜は立っていた。

相変わらず無茶な事をやっている彼にヤレヤレとため息を吐いていると後ろから人の気配を察知し、振り向く。

 

 

「・・・来たか・・・」

 

彼の前に現れたのは高級スーツに身を包み、赤い宝石が埋め込まれた杖を携える紳士。

この男こそ、今回の聖杯戦争におけるサーヴァント『アーチャー』のマスター―――

 

 

「―――『遠坂 時臣』・・・ッ!」

 

雁夜は自らの因縁の相手に拳を固く握った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





現れた因縁の相手! 彼はどう立ち向かうのか?!

そして、海魔に突っ込んだアキトはどうなったのか?!

次回ッ、『『強化』。それは中の人繋がり!』。では次回まで。


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正憤




これをこの作品を書くのに至って、おじさんをメインキャラとした他作品を閲覧してきましたが・・・

アキト「マスターって、『魔術師』というより『魔法使い』の素質があるんじゃあないのか?」

では、どうぞ・・・・・



 

 

ビルの屋上にて、『間桐 雁夜』と『遠坂 時臣』が対峙する少し前―――

 

 

「ほう・・・またしてもあの『蝙蝠』か・・・おもしろい!」

 

「・・・あれは・・・!」

 

宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』に貯蔵されていたから金に輝くヴィマーナより、下界の戦闘を英雄王ギルガメッシュことサーヴァント『アーチャー』は興味深そうに眺めていた。

 

最初はキャスターの膨大な魔力に誘われ、この未遠川に来た。しかし、そこにいたのはグロテスクな姿形をした巨大海魔である。彼のマスターである時臣はこれをアーチャーの最強の剣『乖離剣』で跡形もなく吹き飛ばすよう頼んだ。が、これがアーチャーの勘に触り、怒らせてしまう。

時臣としては倉庫街で戦闘で使った『令呪』を回復させる為に審判側の『言峰 璃正』と結託しての『キャスター討伐』である。だが、アーチャーの性格が災いしこのような結果となってしまった。

そして、今まさにアーチャーがヴィマーナを反転し遠坂邸に戻ろうとした時。奇妙な雄叫びが聞こえて来るではないか。

この雄叫びに聞き覚えのあったアーチャーは、下を覗くとそこにはアインツベルンの城で酒を酌み交わした蝙蝠ことアキトが自衛隊からかっぱらった戦闘機を操っていた。この時、時臣はそのマスターである雁夜を発見する。

そうしてこの戦いに少しの興味を覚えたアーチャーは下界の戦闘を続けて眺める事にし、時臣は発見した雁夜の相手をする為にヴィマーナを降りた。

 

―――こうして、場面はビル屋上へと戻る。

 

 

「変わり果てたな・・・間桐 雁夜」

 

ヴィマーナから魔術を使い、屋上へとふわりと着地した時臣は、侮蔑の目を突き刺しながら冷淡な口調で雁夜に語り掛ける。

 

 

「一度、魔道を諦めて置きながら聖杯に未練を残し、そんな姿になって舞い戻るとは・・・・・今の君の醜態だけでも間桐の家は堕落の誹りを免れんぞ」

 

「・・・・・御託はいい。遠坂 時臣、戦う前に俺のあるたった一つのシンプルな質問に答えろ」

 

小難しい中傷の言葉に眉一つピクリとも動かさずに雁夜は、絞り出されたかのようにか細い言葉を吐き出した。

 

 

「質問とは何かね?」

 

「時臣、何故・・・どうして貴様はあの娘を・・・『桜ちゃん』を臓硯の手にゆだねた?」

 

「・・・なに?」

 

雁夜の予想外の問いかけに時臣は、珍しく通常以上に目を開いて切り返す。まるで『理解できないのか』と言う風に。

 

 

「それは今、君がこの場で気にかけるべき事柄か?」

 

「質問を質問で返すんじゃあない。疑問文を疑問文で返すとテストは0点だって知ってるか? このマヌケ。それとも貴様はそんな事もわからない阿呆なのか?」

 

普段の雁夜としてはその切り返された言葉だけで、今すぐにでも顔に拳を叩きつけたい所である。が、今ここにいるこの雁夜はいつもとは違ったオーラを纏っていた。

 

 

「はぁ・・・問われるまでもない。愛娘の未来に幸あれと願ったまでのこと」

 

「ッ・・・!」

 

溜息混じりの時臣の言葉に雁夜の顔が一瞬、捻くれたように歪む。この男にそんな甲斐性があったのかと驚いたのも含めた歪みである。

 

 

「二子を設けた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。秘術を伝授しうるのは一人のみ。どちらかは『凡俗』に堕とさねばならないという、ジレンマにな」

 

「・・・・・は?」

 

歪みきった雁夜の眼が大きく見開かれた。それほどまでの衝撃を受けたのだ。

脳裏に浮かぶ温かい情景を。自らが諦め、誰もが羨み憧れる情景を眼前の男はただの『凡俗』と切り捨てた事に彼の思考回路は止まった。

 

 

「とりわけ我が妻は、葵は母として何処までも優秀だった。『凛』と『桜』、私達の間に産まれた子はどちらも稀代の才を兼ね備えていたのだ。。いずれか内一人の為にもう一人の才能を摘み取り、乏しめる。そのような悲劇を望む親などいるものか」

 

時臣の説明は今のところ理に適っている。それは魔道の知識に関して言えば素人レベルの雁夜にも理解できた。

『魔術の才能を滅ぼさぬ為』。そこまではまだ理解できる。魔術の才能などというものに価値など見出していない雁夜ではあるが、才能があるのに伸ばさないのは勿体ないという感覚はまだ理解できる。

 

 

「だからこそ、間桐翁の申し出は天恵に等しかった。同じ聖杯を知り、『根源』を望む一族の養子となれば、その才能を正しく伸ばし、根源に至る可能性も高くなる。仮に私が果たせずとも凛が、そして凛でも至らなければその時は桜が、遠坂の悲願を果たしてくれるだろう」

 

だが、時臣が平然と語る内容は雁夜の持つ一般的な概念を逸脱するモノでしかない。

『同じ聖杯を知り、『根源』を望む』。要するにそれは、血の絆で繋がった者同士が奪い合い、殺し合うと事を親が望むということだった。

 

 

「貴様は・・・血を分けた姉妹が相争うことが幸せだと・・・そう言いたいわけか?」

 

「勿論だ。共に己の秘術を磨き上げ、その果てにその全てをぶつけ合う相手が互いならば、2人にとってもそれ以上の幸せはあるまい。そして、その末裔もだ。勝てば栄光はその手に、負けても先祖の家名にもたらされる。かくも憂いなき対決はあるまい」

 

「・・・・・そうか・・・」

 

雁夜は歪んだ表情を抑え、頭を覆っていたフードを取る。露わになったのは、白く変色した髪と哀しそうな物憂げた表情であった。

 

 

「時臣・・・俺はお前に殺されても良かった」

 

「!・・・どういう意味だ?」

 

またしても時臣は、雁夜の言葉に通常以上に目を開く。

「この男は今何と言った?」「敵を目の前にしながら『殺されても良かった』といったのか?」「一体何を考えている?」という疑問が浮かんだ。

 

 

「お前が本当に桜ちゃんを愛しているのなら俺はもう必要ないと思っていた。温かなあの家に帰そうと思っていた。・・・・・だが、もうダメだ

 

「ッ!?」

 

ギロリと()()()()()()左眼が時臣を睨みつけた。血のように真っ赤な瞳が彼を映し出す。

時臣は無意識に一歩足を引いた。普通なら目の前の急造魔術師など恐るるに足らない筈だ。しかし、時臣の防衛本能が感じ取ったのだ、『何かが違う』と。

 

 

「親ってのはな、子供が大切なんだよ。血を分けた子供なら尚の事・・・・・でもお前は大切になんかしていない。あの娘の才能を愛しても、あの娘自身を愛していない」

 

雁夜は先程のやり取りで感じ取ったのだろう。

もし時臣が、臓硯がもういない事を知れば、彼は桜を取り返しに来るであろう。そして、また別の魔術師の家に彼女を養子に出す事を。

そうなれば、鼬ごっこだ。子の為にした親の行動が、桜に終わりもしない悪夢を見せる皮肉な結果となると。

 

 

「その時代遅れな価値観に凝り固まったそれを至上のものとして他者に押し付ける・・・ただの阿呆だ」

 

雁夜の中に芽生えたのは時臣への『憎悪』ではなく、桜を傷つけられる事への『怒り』。子供を傷つけられる親の『正しき憤り』であった。

 

 

「ッ・・・語り聞かせるだけ無駄な話だ。魔道の尊さを理解せず、一度は背を向けた『裏切者』にはな」

 

「いいさ、俺は裏切者で十分だ。あの娘を・・・桜ちゃんを守れるのなら・・・それで良い」

 

雁夜はそういうとポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、袖をまくり上げた腕を裂く。裂かれた皮膚からは血が溢れ、ポタリとポタリと腕を伝って流れ出る。

 

 

「・・・『血』は魂の通貨。意志の銀盤。それで描くは―――

 

「?!」

 

時臣は赤い宝石の埋め込まれた杖を振い、彼の得意とする炎の術式を構成する。

・・・だが!

 

 

―――『緋文字』ッ!!

 

ズギャァアアッン!

 

「がッ!!?」

 

短い詠唱と共に雁夜の血液が弾丸のように射出され、時臣の肩を障子紙のように貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





おじさんの声優さんを知ってる人ならわかる筈。

あと、対決の形になったはいいが・・・

どう決着をつけようかな~?


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能力




今回、独自解釈な点もございますので、悪しからず。

アキト「あと、マスターが強くなっていますが、気になさらず」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「(な・・・なんだ?! なんだこれはッ!?)」

 

右肩を障子紙のように貫かれた時臣は、血が流れ出る肩を押さえながら驚きと疑問符を頭に浮かべる。

眼前の男。雁夜は魔道から目を背けた裏切者だとしても、元々は『蟲』を魔術に使う間桐の家の人間。ならば、魔術の行使には当然、蟲を使うはずだ。

蟲は大群使役ができ、御三家の一角である間桐の得意とするモノである。しかし、この魔術は『火』に弱い。だから『火炎』魔術を得意とする時臣にはすこぶる相性が悪い・・・・・筈だった

 

ところが、時臣を負傷させたのはそんな蟲ではない。彼を負傷させたのは、先程地面にポタポタと雫に落ちた雁夜の『血液』であった。

雁夜が短い詠唱と共に左腕を振う。するとナイフで裂いた傷口から血液が高速で射出される。そのまま傷口という名の銃口から飛び出した血液の弾丸は、時臣の造り出した炎の障壁を食い破り、肩の肉を貫いた。

ジクジクと貫かれた肩から頭へ痛覚が伝わる。

 

 

「なんだッ・・・一体なにをした!?」

 

「・・・・・」

 

頭のどこかで目の前の男を侮っていた怒号にも似た時臣の声が屋上に響く。

だが、それに対して雁夜はやってやったと笑みを浮かべる訳でもなく、無言のまま時臣に視線を送る。『敵意』もなければ、『殺意』もない。ただ疲れたような、呆れた視線を。

 

 

「なにをしたのかと聞いているんだ! 間桐 雁夜ッ!!」

 

まるで道端に酔っぱらって倒れた泥酔者を流し目で見る通行人のような冷ややかな視線が時臣の中にあるプライドに酷く障った。

 

 

「やれやれ・・・道でスッ転んだ子供みたいに喚くんじゃあない。遠坂家の心情たる『常に優雅たれ』はどうしたよ、んん?」

 

「ッ! き、貴様・・・ッ!」

 

普段なら急造の魔術師なんぞに遅れを取る筈のない時臣であったが、予想外の雁夜からの攻撃と肩の痛みに動揺しているのであった。

 

 

「『我が敵の火葬は苛烈なるべし(Intensive Einascherung)』!!」

 

ボヒュッ!

 

動揺したままの時臣はステッキに更なる魔力を込め、詠唱と共に雁夜目掛けて炎を放つ。その炎は防護壁に使用したものとは比べ物にならない大きさと勢い、そして温度である。

 

 

「・・・・・『緋文字・血盾』!」

 

ドシュバッ!

 

「なッ!!?」

 

「終わりか? なら、今度はこっちの番だ」

 

だが、放たれた火球に対して雁夜は自分の前に血の盾を創造し、いとも簡単にそれを押し潰してしまう。後に残ったのは、焼け焦げた鉄の臭いとコンクリートに突き刺さった血の防護盾である。

雁夜はその盾を液体状へと戻し、新体操のリボンのように宙へと浮かせた。

 

 

「『緋文字・散弾式連突』ッ!」

 

ドバシュッ!

 

「っく!」

 

雁夜がそう詠唱すると先程時臣の肩を貫いた血の弾丸が今度は幾数発となって発射される。時臣はそれを新たに構成した防護壁で防ごうとした。しかし・・・

 

ザクザクザクッッ!

 

「ぐァアッ!?」

 

ドサッ

 

()()に進んだ流血弾は防護障壁の前で()()を描き、時臣の背中やわき腹へと突き刺さる。

まさか、防護壁の着弾寸前で進行方向を燕のように自由自在に変更するとは思っていなかった時臣は、着弾の衝撃で前へとのめり倒れた。

 

 

「ぐあァ・・・がフッ・・・!」

 

背中に撃ち込まれた数発の内一発は肋骨の間を抜け、肺に喰らい付く。少量だが気管に血が流れ込み、呼吸を阻害される。

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ッ!(な・・・なんだこの魔術は?! 一体何をした!? いや、()()()()()()()?!!)」

 

時臣は理解できなかった。何故、ここまで歯が立たないのかを。

 

『遠坂 時臣』という者は、魔術属性としては平凡な火属性でありながらも卓越した技能で、あの時計塔でも一目置かれている魔術師だ。しかも先代と共に商才に恵まれた人物でもあり、冬木市のセカンドオーナーとして霊脈の要衝として押さえていた土地を積極的に商業用地として貸し付け、行き届いた霊脈管理によって悪運・災難・霊障の類から守られた事業はことごとく成功し、莫大なテナント料を手にしている所謂勝ち組という者だ。

 

一方の『間桐 雁夜』という男はどうであろう。

聖杯戦争の御三家が一つ、間桐の人間でありながら魔術師の道に目を背け、逃げ出したと言ってもいい魔道の裏切者である。しかも禄に魔術の知識も殆どなく、ましてや素人に毛の生えた程度の魔術回路しか持っていない最下級の()()()()()()である。

 

ところが現状はどうだ。

世界中の優秀な魔道を志す者が集まる時計台から一目置かれる魔術師が、ついこの間まで一般人レベルの落伍者のレッテルを貼られた魔術師もどきに完膚なきまでにボコボコにされているではないか。

ありえない。全くもってありえない話である。

 

 

「こ・・・こんな・・・こんな馬鹿な事があるかァア・・・ッ!!」

 

血反吐を吐きながら時臣は、自分の魔術礼装である杖に掴まって漸う立ち上がった。

ガクガクと足が震え、気管から溢れる血に苦しんでいる。それでも尚、今し方起こっているこの惨劇を受け止め、飲み込めれずにいた。

 

そんなボロボロの時臣に対して、相変わらず雁夜は随分と冷めた眼で此方を睨む彼を見据えている。冷えに冷え切った氷の如き冷たい視線を送り続けている。

 

・・・しかし・・・

そんな眼は全くの偽りである。ただ時臣から、または第三者から見て雁夜の眼は養豚場の豚を見る目に見えるだけなのだ。

 

 

「・・・・・(・・・・・ヤバい・・・!)」

 

当の本人は落ち着いた雰囲気に見合わず、だいぶ・・・いや、かなり焦っていた。

能力使用上の為、表情に変化は見られないが、心中では体全体の毛穴から脂汗が噴き出るぐらいに焦っていた。

 

 

「(・・・力加減・・・わかんねぇ・・・!)」

 

 

 

―――――――

 

 

 

『血液造形』?」

 

「そ。俺がマスターに伝授するのは、俺やシェルスが使っているヤツだ」

 

真夜中の話のあと、雁夜の腕の中で眠ってしまった桜をシェルスに預けたアキトは、さっそく雁夜に『力』を伝授しはじめていた。

 

 

「その血液造形ってのは、どういうのなんだ?」

 

「おん? マスター見た事あるじゃんか」

 

「・・・どこで?」

 

「ほら、倉庫街で英雄王と刃を合わせた時に使った『槍』やキャスターに刺した『ナイフ』とかだよ」

 

「え・・・ああ! あれか」

 

『血液造形』。それは自らの血液を媒介に自分の創造したモノを作り出すものである。

 

 

「吸血鬼・・・ああ、()()()では『死徒』って言うんだっけか? そんな部類の者は大抵使えるだろう」

 

「(()()()?)へ~、そうなのか」

 

彼の話している言葉に引っかかりながらも雁夜は話を続けていく。

 

 

「でも、そんな事を俺なんかに出来るのか?」

 

「オイオイオイオイオイ。なにを弱気になってんだよ、マスター? 桜の為に生きるんだろう? 桜に相応しい男になるんだろう? なら、やってみないと」

 

「・・・そうだよな。俺の残りの人生、桜ちゃんの為に・・・・・ん? ちょっと待てバーサーカー、最後に変な事言わなかったか?」

 

「・・・さて、お喋りはここまでだ。本題に移るぞ」

 

「あ。流した」

 

そして、話は本題である『力の伝授』へと移行した。

 

 

「いいかい、マスター? 最初に言っておくが、この血液造形は基本・・・人間には使えん」

 

「・・・・・はァアアッ!!? どういう事だ、バーサーカー?!!」

 

ガシッ

 

雁夜は愕然となった。

人間に使えないという事は、雁夜に扱えないという事だ。それでは全くの無意味である。さっきまでの決意は何だったのかと彼はアキトの胸倉を掴んで前後に振った。

 

 

「あ~。待て待て、マスター。順番が違っていたよ。だから、離せ」

 

「・・・どういう事だ?」

 

一旦、雁夜は掴んでいた胸倉を離すが、アキトを睨みつけたままである。彼はヤレヤレとため息混じりに服の襟口を直し、口を開いた。

 

 

「端的に短絡的に言えば、血液造形は人間に伝授した場合。その名前から変わってしまうんだよ」

 

「つまりどういう事だ?」

 

「あ~・・・あれだ。イカを干したらスルメになるだろう? そんな感じだ」

 

「?・・・??」

 

解りやすいような判りにくいような例えに雁夜は頭を捻るが、アキトはそんな事お構いなしに続けていく。

 

 

「吸血鬼。またはそれに値する者が血液造形を人間に教えた場合の呼称は『滅血魔法』だ。この滅血魔法ってのはな―――

「ちょ、ちょっと待ってくれ! バーサーカー!」

―――・・・おん? なんだよ、マスター?」

 

「お、お前さっき・・・魔法って・・・」

 

「ああ、言ったよ。それがどうかしたのか?」

 

『それがどうかしたのか』。その言葉を聞いて、雁夜の顔面はおかしな方向に崩壊しそうになった。

 

『魔法』

それは同盟相手、ライダーのマスターであるウェイバーや他のマスター達が行使する『魔術』とは全く別ベクトルで異なるモノ。この世の魔術師達が必死になって、何世紀もの時間をかけても辿り着けたのは片手で数えるぐらいしかいないと言われる『最終到達地点』

それを眼前のサーヴァントは何と言ったのだろう。『伝授する』? 頭がイカレているのか、コイツは?

 

 

「カカッ♪ 『狂戦士(ベルセルク)』にそれ言っちゃう? これは『魂の通貨』である『血液』を物質化するんだ。この世界の魔法の基準である『魂の物質化』に当てはまっちまうんだからしょうがないだろうよ」

 

「「しょうがない」って・・・・・あと、さり気なく人の心を読むな! というか、そんな事できる訳ないだろうが!! 例えに出すのも胸糞悪いが、あの臓硯だって500年かけても到達出来なかった極地だぞッ!」

 

雁夜としては、もう記憶の片隅までもから抹消滅したい間桐家の闇『間桐 臓硯』。彼もまたこの『魔法』を求めすぎるあまり、悪い方向に人間から逸脱してしまった人物である。

その臓硯が500年もかけて至らなかった極地を今宵、この時、この瞬間から伝授してやろう等と自分のサーヴァントが言うものだからパニックになっているのだ。

 

この時、雁夜はアキトを召喚して初めて自覚した。『自分はとんでもないサーヴァントを召喚してしまった』のだと。

 

 

「・・・大丈夫・・・」

 

「ッ!?」

 

アキトの眼が一転した。先程、自分を説き伏せた真剣な眼へと変貌した。

 

 

「安心しろ・・・安心しろよ・・・・・『間桐 雁夜』」

 

「あ・・・・・あぁ・・・」

 

這いよるように甘い声が耳の鼓膜を触れる。勿論、雁夜としてはソッチの気はまったくといってない。が、ほんの少しの落ち着きを取り戻すには心地の良いものであった。

 

 

「あ・・・すまん。すこし、興奮し過ぎた・・・」

 

「良いって、良いって。・・・俺はマスターを信頼してるんだからよ、カカカッ♪」

 

「・・・バーサーカー・・・お前・・・」

 

アキトの言っている事は本心なのだろう。普段、何を考えているのか全くもって理解しがたいが、今の言葉は本当に心からの言葉なのだろうと雁夜は感じた。

 

 

「でも、バーサーカー? 魔法を伝授するって言ったって、どうするんだよ? 今から教わって、習得に100年200年かかるんじゃあ埒があかないぞ?」

 

「・・・カカカカカ♪」

 

「・・・・・え?」

 

雁夜の第六感が激しく反応した。

 

 

「大丈夫さ。言ったろ、マスター? 『貴方を誘おう。最高級に最低で、摩訶不思議な夜へ』ってな?」

 

何故なら、目の前のサーヴァントが目を見開き、耳まで裂けるくらいにニッコリと口を三日月に歪めて、片方の掌を鋭く異形に変化させていたのだから。

 

・・・ここから先、雁夜の記憶は朝までない。

それから何事もなかったかのように朝食をとり、ウェイバーとライダー達が街へ出かけたのを確認した後、アキトに力発動の確認と基礎能力を教わった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

それから数時間後にキャスターが現れた。

通信機でライダーに連絡を入れた後、キャスター討伐に出撃するバーサーカーからは『あとは習うより、慣れろ』という事を言われ、雁夜は時臣との決着の為にビルの屋上へと向かったのである。

 

そして、雁夜と時臣の問答がはじまる。

確かに雁夜は時臣との問答で、彼の桜に対する言葉に憤った。子供を傷つけられた親の正しい怒りが、彼の中にメラメラと燃え上がった。

雁夜としては、灼熱で煮えくり返った思いをホンのちょっぴりぶつけて時臣を懲らしめてやろうと思っていた。

相手は最上級の魔術師、仕留める気持ちで向かうと決めている。しかし、勿論のこと殺しはしない。時臣に対しての怨みは持っているが、そんな事をしても何も変わらないとアキトに諭されていたからだ。それに時臣を殺しでもしてしまったら、その奥方である想い人だった『遠坂 葵』を悲しませてしまう。

 

未だ終わっている初恋に縋ってはいるが、もう雁夜は桜の為に生きると決心している。桜の為に戦うという『覚悟』を持って、男は因縁の相手と対峙したのだ。

 

 

「貴様ァ・・・貴様、なんぞにィイ・・・!!」

 

しかし、どうだ。仕留める気持ちで魔道を行使したら、本当に仕留めてしまう一歩手前まで来てしまっているではないか。

雁夜本人としては、まだ全力の三分の一も出してはいない。小手調べの為に放った攻撃が時臣の肩を貫き、背中やわき腹を食い破ってしまったのは、全くの不可抗力なのである。

つい最近の雁夜であれば、こんな千載一遇の機会を逃す筈もなく。じっくりとこのまま能力で苦しめた後に確実なる止めを刺していたであろう。

 

 

「・・・・・」

 

だが、雁夜はヨロヨロと杖に縋り、血を吐く時臣に手を出そうとはしなかった。

ここで時臣を殺してしまえば、どんなにせいせいとした気分になるだろう。想い人の葵を悲しませ、桜を傷つける原因をつくった男を今この場で惨殺してしまえば、どんなに晴れやかな気分になるだろう。「今だ! 殺せッ!!」といつかの自分が語り掛けて来る。

 

 

「・・・時臣・・・もういい」

 

「ッ!?」

 

しかし、そんな事はできない。自分のエゴで時臣を亡き者にしてしまえば、『堕ちてしまう』だろう、同じ糞ッタレに。そんなのは御免被る。

雁夜は時臣に背を向けて、立ち去ろうとした・・・・・その時!

 

 

我が敵の火葬は苛烈なるべし(Intensive Einascherung)』ッ!

 

「!?」

 

ボジュゥウッ!!

 

雁夜が背を向けた隙をついて、時臣は火炎を放つ。傷を負っている為に少々落ちるが、人一人を焼き殺すくらいの威力は申し分なかった。

 

カランッ

 

「ハァ・・・! ハァ・・・! この私が・・・グフッ・・・・・貴様のような・・・落伍者に負ける筈が・・・ないッ!!」

 

時臣はそう言って、跪いた。コロコロと杖が手元に転がる。

たとえ満身創痍のボロボロであろうとも魔術師としての誇りが彼を突き動かした。

 

ゴォオオ・・・!

 

火柱が大きく立ち上り、人の形のままに炎があがる。

普通ならば、断末魔の叫びを轟かせ、ビルの屋上から転げ落ちるのが一般的なのであろう。

ところがそうはならなかった。

 

 

「・・・ヤレヤレ・・・」

 

「なッ!!?」

 

バシャァアンッ

 

断末魔の代わりに聞こえて来たのは、呆れ果てたような小声と炎を掻き消す液体の音であった。

 

 

「結構に熱かったが・・・まぁ、いいか・・・」

 

「まさか・・・そんなッ・・・!」

 

放たれた炎を血液で拭うとそこには火炎攻撃を受けても尚、ケロッとした表情の雁夜が立っているではないか。

 

 

「『緋文字』・・・・・『突装甲』」

 

彼は宙を漂う血液を左腕に纏わせる。腕に纏わせたそれは、例えるならば西洋の甲冑『ガントレット』を思わせる形をしており、握り拳の先には鋭利な突起物が節に合わせて並んでいた。

 

 

「行くぞ・・・遠坂 時臣・・・!」

 

ダンッ

 

雁夜は地面が割れる程の力で蹴り飛び、時臣の顔面向けてガントレットを差し向ける。時臣は防御しようと杖を握るが、あまりにも血が多く体外に出た為に意識が薄れ、力が入らなかった。

最早ここまでかと意識が落ちていく中で思った時である。

 

ガキャァアン!!

 

「ッ!」

 

「き・・・綺礼・・・」

 

突き出される雁夜のガントレットを投擲剣『黒鍵』で防いだのは、黒のカソックに身を包んだ聖杯戦争の監督側にして、元アサシンのマスター『言峰 綺礼』であった。

時臣はそんな綺礼を確認すると意識を失う。

 

 

「・・・なるほど、違う目線の正体はアンタか・・・一体いつから?」

 

「先程だ・・・この男は一応にも私の師であるからな・・・」

 

ギィイヤアンッ!

 

雁夜は綺礼の斬り払いを利用し、距離をとる。使っている魔法の影響からか、『コイツ・・・強い!』と本能的に彼は感じたのであった。

 

 

「・・・」

 

一方の綺礼は倒れた時臣を背にし、両手で黒鍵を構える。

ドドドドド・・・と先程とはまた違った雰囲気が二人の間を流れ始めてきた。

 

 

「・・・貴様。間桐 雁夜で相違ないな?」

 

「・・・ん?」

 

不意に綺礼が雁夜に語り掛けて来た。

雁夜は不審そうに耳を傾けるが、態勢はいつでも迎撃できる形をとっている。

 

 

「ああ、そうだが。・・・そういうお前は、もしかしなくてもアサシンのマスターだな?」

 

「! ほう。師から間桐のマスターは、凡愚螺だと聞いていたが・・・・・先程の魔術共々、中々に侮れん人物のようだ」

 

「そう褒めるなよ、ただの受け売りだ。それでどうする? 続けるのか?」

 

明らかに笑ってはない張り付けた無表情の顔と睨み顔が交差する。

綺礼は雁夜からの誘いにどうしようかと能面のような顔を後ろへと振り返させる。そこには背中、わき腹、肩から捻った蛇口のように血を垂らす時臣がいた。

息は浅いようだが、まだ死んではいない。彼が生きている事を確認すると綺礼は黒鍵の刃を降ろし、時臣の身体を抱えた。

 

 

「「・・・・・」」

 

ダンッ

 

両者無言のままであったが、綺礼が時臣を抱えた所で雁夜も戦闘態勢を解く。

彼が戦う意思がない事を認識した綺礼は貼り付けた無表情のままにビル屋上から時臣を抱えて消えた。

 

 

「・・・・・かッハァ!」

 

雁夜は綺礼の気配が無くなったのを確認するとまるで限界まで息を吐く事を止めていた者のように大きく息を吐き出す。

 

 

「な・・・なんだアイツは・・・!?」

 

雁夜が綺礼の眼を覗き込んだ時に感じたのは、コールタールで溺れるような重々しい閉塞感。臓硯とはまた違った純真無垢なドス黒い『悪』を彼の中に感じたのであった。

 

 

「あれがバーサーカーの言っていた、『言峰 綺礼』か・・・・・怖ッ!」

 

雁夜は綺礼との初会合の感想を述べながら、巨大海魔との戦いが続く未遠川へとあしを向けた。

 

真夜中の戦いは佳境へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





『雁夜』が『カリヤ』へと進化し、『KARIYA』への道を進んで行く。

アキト「ウチのマスターは『魔導士』の才能があるようだ」

さてと・・・では、次回の構想を練りましょうか。


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聖剣




今回の話は10000字をいつの間にか突破しました。

アキト「の割には俺の出番少ない」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

『魔術師もどき』から『魔導士』へとクラスアップした間桐雁夜が未遠川へ向かっている頃・・・。

 

 

「・・・・・」

 

御三家が一つ、アインツベルンに雇われた魔術師殺しこと『衛宮切嗣』は巨大海魔から少し離れたクルーザーの甲板におり、その手には大よそ平穏からかけ離れたスナイパーライフルが握られていた。

彼は、ライフルを三脚で固定すると未遠川の川岸へとスコープを覗かせる。

川岸には大勢の野次馬共が列をなし、なんだなんだと川を眺めている。切嗣はそんな野次馬共の中から巨大海魔を操っているキャスターのマスターを探す。

 

 

「くふふふふ・・・もう退屈なんてさよならだ。手間暇かけて人殺しなんてすることもねぇ・・・ほおっておいてもガンガン死ぬ。潰されて、千切られて、砕かれて、喰われて・・・死んで死んで死にまくる。まだ見たこともない腸も次から次へと見られるんだ。毎日、毎日、世界中、そこいら中で! 引っ切り無しの終わりなし!!」

 

彼は、戦闘機を利用したバーサーカーのとんでもない攻撃に身悶える巨大海魔を呆然として見ている観衆の中に狂ったように喚く若い男を魔術師かどうかを見分けるサーモグラフィーに捉えた。

この男こそ精神が歪んだキャスターのマスターであり、昨今冬木市を恐怖に陥れている連続殺人および連続誘拐事件の犯人、『雨生龍之介』だ。

この男は偶然にもキャスターを召喚してしまい。それがキッカケで、()()()()()()()()()()をより一層残虐的なものへと昇華させてしまった稀代の快楽殺人鬼である。

そんな危険人物を許す筈もない切嗣は、ライフルを三脚に固定してスコープを覗く。そして、銃弾を装填し、慣れたように引き金を絞った。

 

ダンッ!

 

「・・・え?」

 

 

サイレンサーによって、音を抑えられた銃撃はまず、龍之介の腹部を貫いた。

何が起こったのかわからない龍之介は自分の腹に手を伸ばすとヌルりとした感触が伝わる。手にはベットリと血が付いていた。

 

 

「龍之介ッ!?」

 

マスターの異変にキャスターは攻撃に身悶える巨体を向ける。目を向けたそこには感慨深そうに腹から湧き出る自らの血を愛おしそうに眺める龍之介の姿があった。

 

 

ズダァアッン!

 

切嗣は空の薬莢を銃身から吐き出すと新たな薬莢を装填し、とどめの一発を龍之介の頭部へと捻じ込ませる。

 

 

ドサ・・・

 

額を撃ち抜かれた雨生龍之介だったそれは何とも良い笑顔を浮かべ、地に伏せる。世間を賑わせた殺人鬼にしては、なんともあっけない最期であったろう。

 

切嗣は彼の右手に宿った令呪が掻き消えた事を確認すると上着のポケットに入っている携帯を取り出して、部下である『久宇 舞弥』に電話をかけようとする。

その時である。

 

 

「あらら、この距離から・・・良い腕ね」

 

「ッ!?」

 

ここにいる筈のない第二者の声に彼は酷く驚き、振り返った。

 

 

「驚かせてごめんなさいね」

 

切嗣の背後にいたのは怪しげな雰囲気を醸し出す赤毛の女性である。

切嗣はこの人物に見覚えがあった。倉庫街での会合時、見るからに重病人のバーサーカーのマスターを狙撃から守った8番目のサーヴァント―――

 

 

「―――『ガンナー』・・・!」

 

「ご名答。こうして顔を合わせるのは、倉庫街の時以来かしらね? 『魔術師殺し』さん?」

 

この聖杯戦争において全くの想定外とも言われるダークホース、間桐雁夜が保持する2体目のサーヴァントが朗らかに笑みを浮かべて、立っている。切嗣は何とも言いようのない恐怖を目の前のサーヴァントから感じていた。

彼の思考はまず、どのように逃走しようかという思考にすぐさま切り替わった。そう『闘争』ではなく『逃走』である。

 

魔道に乏しい貧弱なマスターが2体ものサーヴァントを保持しているのなら1体は攻撃に向かわせ、もう1体は自分を守るよう傍に置いておくのが定石だろう。だが、目の前にいるのはその2体の内の1体である。

雁夜は『魔術師殺し』として、その道の業界からは侮蔑され、恐れられている。されどそれは所詮、『人間』としてである。

人間としての域をでない彼に人智を逸脱した力を持っている『英霊』を打倒できようか? 答えは『否』。ましてや、人類種の最大の天敵『吸血鬼』なら尚の事である。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

切嗣は恥も外見もなく、どうやって逃げようかと思考を張り巡らす。が、次の彼女の一言によって、無へと変わる。

 

 

「ちょっとちょっと。死んだ腐乱死体のような目で動揺しないでよ。別にこっちは貴方を取って食おうなんてコレっぽちも思ってないのよ? こっちは、少しの話がしたいだけなの」

 

「!・・・話だと?」

 

「大丈夫よ。あのデカブツなら彼等で何とかしてくれるから」

 

「・・・・・」

 

自分に敵意がない事を空の掌を見せながら喋るガンナーに一抹の不安を覚えながらも切嗣は彼女の取引話に耳を傾ける事にした。

 

 

「さて、衛宮切嗣。『私達』となんの他愛もない話をしましょう?」

 

しかし、この時の切嗣は気づいてはいなかった。ニコリと笑うガンナーの眼の奥が怪しげに紅く光っている事を。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「龍之介・・・我がマスターよ・・・私を残して、先に逝くとは・・・」

 

自身のマスターが亡き者になった事を認識したキャスターは項垂れていた。生前と同じく自身の理解者をまたしても先に失ってしまったのだから。

 

 

「ですが、龍之介・・・ご心配なく。このジル・ド・レェ、貴方との約束は果たします故・・・」

 

失意のキャスターがそんな言葉を呟くと海魔を生み出す彼の宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』が鈍い光を放ち出す。

 

 

「龍之介よ、照覧したまえ! 私からの手向けを!! 最高の『COOL』をォォオッ!!」

 

胸に携えた禍々しくもかなり悪趣味なデザインが施された魔導書を前へと突き出すキャスター。するとアキトの攻撃で負った傷はみるみるうちに修復され、またしても巨大海魔は水を得た魚・・・いや、イソギンチャクのように元気に再び暴れ出した。

 

 

「ハァ! ハァ!」

 

金の髪を靡かせる少女、セイバーは見るからに疲労していた。苦悶に身悶える巨大海魔の肉を剣で引き千切るのも容易くはなかったのに、またしても元気に暴れ出しては手の施しようがない。

 

 

「アイツ! 折角バーサーカーが決死の攻撃をしたって言うのに、また元気になりやがった!!」

 

手をこまねいているのは、何もセイバーだけではない。それは上空から空を駆ける戦車を操るライダー達とて同じ事である。

 

 

「どうするんだよライダーッ?!!」

 

「・・・」

 

悲鳴にも近いウェイバーの叫びにライダーはその眼を鋭くさせて考え、あるバーサーカーからの言葉を脳内に浮かべた。

 

 

「やってみる価値はありそうだな・・・」

 

「へ? ウわァアア!!?」

 

ライダーは戦車を急降下させ、セイバーへと近づいて旋回する。

 

 

「おおいセイバー! このままでは埒があかん。一旦引けぇ!」

 

「馬鹿を言うな! ここで食い止めなければ!!」

 

セイバーの言う事はまったくのその通りであった。マスターからの魔力供給を失ったキャスターは新たな魔力を求めて、川岸へと上陸してしまうだろう。そうなれば、本当に手の施しようのない惨劇が待っている事は明白であった。

 

 

「いいから聞け! ここはヤツの策に乗ってみる価値がある!」

 

「『ヤツ』?」

 

ライダーのいう『ヤツ』が誰なのかをセイバーは知っている。この聖杯戦争においてどうしようもない程に理解しがたい思考と何を考えているのかサッパリわからない性格をしている異端のサーヴァント、バーサーカーであった。

その彼が考えた策なのだからセイバーとしては興味がある。というか彼女は、アインツベルンの森にてバーサーカーの策に少なからず助けられた事がある。

 

セイバーはライダーの言葉に乗る事にした。彼女は進行方向に待ち受ける海魔の巨大な触手を断ち切りながら元いた川岸へと上って行った。

川岸にはアイリスフィールと美形の騎士、ランサーが佇んでいる。

 

 

「いいか、皆の衆。この先バーサーカーの策を講じるにしろ、まずは時間稼ぎが必要だ」

 

川岸に集まった三騎士で真っ先に発言したのはライダーであった。彼はバーサーカーから策を聞かされており、先んじて彼が発言する事に疑問の余地はなかった。

 

 

「ひとまず余が『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』にヤツを引きずり込む。とはいえ、余の精鋭達でもアレを殺し尽くすのは無理であろう。精々、固有結界の中で足止めするのが関の山だ」

 

「その後はどうする?」

 

「あとは・・・・・坊主」

 

「わかった」

 

ライダーに変わって発言をしたのは、彼のマスターであるウェイバーであった。

ウェイバーは戦車から降りるとセイバーに視点を向ける。

 

 

「セイバー、君がこの戦いの鍵だ」

 

「どういう事ですか?」

 

セイバーは少女と見違える程の容姿を持つ彼に疑問符をぶつけた。

 

 

「僕は英国人だ。君は英国人なら誰でも知っている英霊の中の英霊。今でも僕は信じらないけれど、あの『アーサー王』だ」

 

「さよう。私はブリテンの王です」

 

「バーサーカーが言うには君の剣。名を明かすならば、『聖剣エクスカリバー』が勝利の要だと言っていた」

 

「「!?」」

 

ウェイバーの言葉にセイバーは勿論の事、アイリスフィールも驚いた。

アーサー王の携える剣が聖剣、名をエクスカリバーというのは『聖剣伝説』をしっている者なら至極当然の事である。しかし、それがこの戦いにおける『勝利の鍵』だというのならセイバー陣営には意味が違って聞こえる。

 

 

「どういう事だ、ライダーのマスターよ?」

 

「ヤツが言うには、セイバーの宝具は『対城宝具』だと言っていた。それならば、あのデカブツを微塵も残さず消滅させられるともな」

 

これにはアイリスフィールは再び驚かされた。あのバーサーカーは、何故にセイバーの宝具が対城宝具だと知っているのだろうか。

アインツベルンの森でもそうだ。あの得体の知れないサーヴァントは、まるで生前のセイバーを知っているかのような口ぶりであった。これが聖杯問答の時、バーサーカーのマスターである雁夜からの伝言に円卓の騎士の誰かの名前が書いてあったのなら、幾分か納得できたであろう。しかし、あのバーサーカーの真名は『アカツキ・アキト』。円卓の騎士どころか、ブリテン人でもない日本人(仮)であった。

こうなってくると本当にあのサーヴァントは何者であろうか。ここまで来ると得体の知れないどころか、不気味すぎる者である。

 

 

「ほう。そのような宝具をセイバーが持っていようとは・・・しかし、ならばどうしてセイバーはその宝具を開帳しないのだ?」

 

「お前のせいだよ!」という言葉をグッと堪えて、ウェイバーは冷静に淡々と話すように口を開いた。

 

 

「いいかランサー。セイバーが聖剣を使えないのは、お前の左手に握っている『必滅の黄薔薇 (ゲイ・ボウ )』が原因だ」

 

「!。なんだと?!」

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ )』。

それは妖精王マナマーン・マック・リールより贈られた黄槍である。この槍で付けられた傷は、槍を破壊するか使い手が死なない限り癒えることがない。短期決戦においてはただの槍である。が、長期に渡って同一の相手と複数回戦えば、じわじわと確実に効いてくるというなんともいやらしい効果を持っている槍である。

 

 

「倉庫街での決闘の時。その槍でセイバーの左腕を傷つけただろう? 聖剣を使うには、両手で持って使わなければならないんだよ」

 

「つまり・・・」

 

「ランサー、貴様の黄槍を折らない限りこの戦いには勝てんという事だ」

 

「・・・・・」

 

ランサーは申し訳なさそうに口をつぐんだ。まさか、あの決闘で自身の力を正々堂々と使ってしまった結果がこのような事になろうとは思わなかったからである。

この間にも巨大海魔は魔力を求めて、川岸へ上陸せんと動いていく。

 

 

「時間が無い。余の固有結界がヤツを閉じ込めても、もって数分が限度。その間までに話を着けて置け。よいな? それと坊主」

 

「なんだよ、ライダー?」

 

「いざ固有結界を展開したら、余には外の状況がわからなくなる。坊主、話が決まったら、強く念じて余を呼べ。伝令を差し遣わす」

 

「うん、わかった。・・・負けるなよ、ライダー」

 

「!。ダハハハ! 任せおけ! ッハ!!」

 

いつになく珍しいウェイバーからの言葉にライダーは短くも大きくほほ笑むと戦車の手綱をしっかりと握り、巨大海魔目掛けて突撃していった。

そのままライダーは襲い掛かる触手をなんとか躱し、海魔の胴体まで近づくと彼が誇りとする精鋭達の詰まった宝具を展開した。

 

 

「さて・・・」

 

ライダーを見送った後、ウェイバーはここからが正念場という心意気でランサーとセイバーの両者を見る。するとここまで申し訳なさそうに口をつぐんでいたランサーがセイバーに向かって、語り掛けた。

 

 

「セイバー。先程のライダーのマスターの言葉・・・相違ないのか?」

 

「ああ。だが、ランサー。我が剣の重さは誇りの重さだ。貴方と戦った結果の傷は、誉であっても枷ではない。この左手の大腿にディルムッド・オディナの助成を得るならば、それこそが万軍に値する」

 

「ちょっと!? 何言ってんだよ、セイバー!!」

 

セイバーは柔らかい表情で言っているが、つまりはランサーの助力があれば聖剣は使わないと言っているのである。これには当然の如く、ウェイバーが噛み付く。

 

 

「そんな悠長な事言っている場合じゃないんだぞッ!」

 

「しかし!」

 

「ちょっと、二人とも!」

 

「・・・ッフ・・・」

 

言い争いをはじめようとする二人とオロオロする一人に対して、ランサーは不敵に笑う。そんなランサーに対して、皆の視線が彼の方に向いた。

 

 

「セイバーよ」

 

「はい」

 

「俺はあのキャスターが許せぬ。ヤツは諸人の絶望を是とし、恐怖の伝播を悦とする。騎士の誓いに賭けて、あれは感化出来ぬ『悪』だ」

 

ザクッ

 

そう言うとランサーは、右手に持っていた赤槍『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』を地面に突き刺すと自然に必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ )を折る形で両手に携えたのだ。

 

 

「!?。ランサー、それはダメだ!」

 

「・・・今、勝たなくてはいけないのはセイバーか、ランサーか。否、どちらでもない。ここで勝利するべきは、我らが奉じた『騎士の道』。そうだろう? 英霊アルトリアよ」

 

バキィインッ

 

セイバーの制止も聞かず、ランサーは問答無用と必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ )をへし折る。槍が折られた事でランサーを中心に一迅の風が巻き起こり、施された呪いが塵へとかえった。

 

 

「ランサー・・・」

 

「我が勝利の悲願を騎士王の一刀に託す。頼んだぞ、セイバー」

 

「・・・はい! 請け合おうランサー。今こそ我が剣に勝利を誓う!!」

 

左手の傷が完治した事を認識したセイバーは風に隠された剣を両手で掴み、天高く掲げる。さすれば、剣全体を覆ていた風は解かれていき、黄金に輝く刀身が現れ出でる。

 

 

「おおッ・・・!」

 

「あれがアーサー王伝説の・・・!」

 

「なんて美しいの・・・・・」

 

闇夜に浮かぶ月のように美しいそれは、遥か彼方からも視認できる程に淡く力強い光であった。

 

Prrrrrrr

 

「ん?」

 

「あ、ごめん。僕だ」

 

そんな時、この場に似つかわしくない電子音がウェイバーのズボンのポケットから響く。それは未遠川に向かう前、ドンから渡された携帯電話である。彼はそれをいそいそと取り出して通話ボタンを押した。

 

 

『ああ、ウェイバーか? 俺、バーサーカー』

 

「バーサーカー?!」

 

「「「!」」」

 

かけて来た相手は戦闘機で特攻を仕掛けたバーサーカーこと、アキトであった。

 

 

「お前! 無事だったのか?! 今どこにいるんだ?!!」

 

『そう、いっぺんに喋らんでくれよ。なんだよ、泣いてんのか?』

 

「泣いてない!」

 

泣いてはいないが、ウェイバーはアキトを心配しているのは声色から伺える。彼は通話口のウェイバーの反応にカラカラと笑うと状況を聞いて来た。

とりあえずウェイバーは今の状況を大まかにアキトに伝える。

 

 

『そうか。ならウェイバー、固有結界は川の真ん中で解け。あと、セイバーに『聖剣は川沿いにむけてぶっ放せ』と。くれぐれも街の方に向けてぶっ放すなよ』

 

「わかった。それよりもバーサーカー、お前どこにいるんだよ?」

 

『おん。いやな、ちっとばっか傷を負ってな。動けれねぇんだよ』

 

「だ、大丈夫なのか!?」

 

『心配するな、すぐに再生して合流する。それよりもあのデカブツを!』

 

「(再生?)わ、わかった!」

 

バギンッッ!

 

「「「「ッ!?」」」」

 

ウェイバーが携帯をきると同時に何かが割れるような音が響き渡った。

 

 

「今の振動は・・・ッ?」

 

「ライダーの固有結界が限界に近付いている予兆だろう」

 

「ライダー・・・・・ッ!」

 

アイリスフィールは心配そうに振動を感じる方向を見る。こうはしていられないとウェイバーは、ライダーに言われたように強く彼に向かって念じると彼の真横に古代の甲冑を纏った兵士が現界した。

 

 

「軍勢が一人、ミトニリウス。王の身に成り代わり、馳せ参じてございます」

 

「こ、これから指示を出す。指示した場所にキャスターを放り出してほしい・・・・・出来るな?」

 

「可能ですが・・・事は一刻を争います。既に結界内の我らが軍勢は、あの怪物めを足止めするには敵いそうになく・・・」

 

「わかった。今まで耐えてくれてありがとう。川の中央に出現させてくれ」

 

「御意ッ!」

 

指示を確認した兵士はそのまま霊体化し、消える。ウェイバーは兵士が消えたのを合図にセイバーに目線を送ると彼女は一目散に指定された場所に向かう。

 

ズオォオオオーン

 

水面を地面のように蹴り進み、指定された場所に立ったセイバーの前に巨大な肉の塊のような海魔が現れ出でる。海魔は大飛沫をあげながら川へと着水した。

 

 

「ったく。何を手間取っているか・・・って、おおッ!?」

 

固有結界を展開していたライダーが悪態をつきながら海魔と共に出て来たが、すぐに直線状に佇んでいるセイバーの携える剣に身の危険を感じる。『ここにいては、巻き込まれる』という危険を。

すぐさま彼は戦車の進行方向を急転する。

 

 

「さぁ・・・セイバーよ、示すが良い。お前の英霊としての輝きの真価を。この我が見定めてやろう」

 

金のヴィマーナから絶好の位置で観戦できる鉄橋上へと場所を移した英雄王ことアーチャーは、クツクツと笑みを溢しながらこれから聖剣を放つであろうセイバーを舐めるように見た。

 

 

「・・・・・」

 

ザンッ

 

セイバーは剣を両手で天高く掲げると蒼い眼をゆっくりと閉じた。すると川や川岸の草花から蛍のような金色に輝く光の粒が、舞い上がる。

その光の粒たちは吸い込まれるように輝く剣をコーティングしていく。

 

 

「光が・・・」

 

輝ける、彼の剣こそは・・・

 

「え?」

 

幻想的な場景に心奪われながらもアイリスフィールは其の剣の口上を述べていく。美しくも気高い王と共に。

 

 

『過去』『現在』『未来』を通じ。戦場に散っていく、全ての兵達の・・・忌野の際に抱く、悲しくも尊き『夢』。その意志を誇りと掲げ。その信義を貫けと正し・・・・・今、常勝の王は高らかに 手に執る奇跡の真名を謳う。其は―――

 

「『約束された(エクス)―――――――勝利の剣(カリバー)』ァアアッ!!」

 

ズバシュゥウウ―――ッッン!!

 

一歩踏み出されたと共に振り下ろされた黄金に輝く剣は、先程よりも強い輝きを放ちながら一直線に巨大海魔へと飛んで行く。

 

 

「はッ!!?」

 

海魔の体内にいるキャスターからも判る程に強い輝きを放つ斬撃は、その巨体へと直撃する。そして、ジリジリと肉を焼き尽くしている。

 

 

「お・・・おおッ・・・! この光は・・・!!」

 

この身に迫る斬撃を視認しながらキャスターはいつか見た光を思い出し、前へ前へと両手を伸ばす。

 

 

「・・・間違いない・・・この光は・・・ジャンヌと共に歓喜の祝福を得た輝き・・・・・ッ!!」

 

生前の中で最も美しい記憶、自らの傍らでほほ笑むあどけないオルレアンの少女との記憶を。

 

 

「あぁ・・・おぉ・・・・・私は、一体・・・」

 

ドバシャァアアアアッッン!

 

光の斬撃によって醜悪な巨大海魔は見る影もなく、塵も残さず消滅した。墓標のようにキャスターを飲み込んだ光は、遥か高く空へと光の柱をつくる。

 

 

「・・・フッ・・・見届けたか、『征服王』? あれがセイバーの輝きだ」

 

セイバーの宝具に満足したように鼻を鳴らしたアーチャーの後ろには、どかりと鉄橋の骨組みに腰かけたライダーの姿があった。

 

 

「・・・確かに美しい、それは認めよう。だが・・・」

 

「ん?」

 

「時の民草の希望を一心に受けたが故のあの威光・・・眩しいが故に痛々しく感じるのは、余だけであろうか」

 

「いんや、大王・・・俺もだよ」

 

口をへの字に曲げるライダーの言葉に乗ったのは、背中に翼竜のような翼を生やして宙に浮くアキトであった。

 

 

「なんだ、蝙蝠。貴様、あれで生きていたのか」

 

「悪いね、英雄王。俺もあんなんでくたばる程、柔な身体はしてないんでな」

 

「フン」

 

今度はアーチャーの不機嫌そうな鼻息に気を留めずに彼は口を開く。

 

 

「あの娘はなんでも背負い過ぎなんだよ。自分のキャパも考えずに背負い込んでしまうから・・・最後には足元から崩れ落ちちまう」

 

「なればこそ愛いではないか。あれが抱いていた身に余る夢は、きっと抱いた当人をも焼き果たしたに違いない。その塵際の慟哭の涙・・・・・舐めれば、さぞ甘かったであろうなぁ?」

 

それを想像し、味わった時のアーチャーの顔は酷く朗らかに歪んでいた。

 

 

「・・・やっぱ、趣味悪ィよ。英雄王」

 

「バーサーカーの言う通り、貴様とは相容れぬな。バビロニアの王よ」

 

「ほう・・・ならば如何とするライダーにバーサーカー? その怒り・・・今、武を持って示すか?」

 

アーチャーの雰囲気が一気に変わった。

彼はまったくの物見雄山でいた為に全く疲労感というモノがない。一方のライダーは自らの最高の宝具を使用し、バーサーカーに至っては戦闘機で海魔に突っ込むという暴挙や『他の事』をやった為に万全ではない。

 

 

「それが出来れば痛快であろうが・・・・・貴様を相手の戦となると今宵のイスカンダルは、些か以上に消耗し過ぎとる。無論・・・見逃す手はないと突っかかって来るならば、相手にせん訳にもいかんがな?」

 

「右に同じく」

 

「構わぬ。逃亡を許すぞ、征服王。ついでに貴様もだ蝙蝠。お前達は十全の状態で潰さねば、俺の気が納まらぬ」

 

「ほう!」

 

「珍しい事もあるもんだ。あの傲慢不遜の王が情けとは・・・明日は雪か、嵐か?」

 

「・・・別に貴様はここで潰しても良いのだぞ? 蝙蝠」ギロリ

 

常人なら数秒で泡を喰う位の濃厚な殺気をアーチャーはアキトに対してぶつける。が、彼は動揺するどころかケラケラと口角を三日月に歪ませた。

 

 

「カカカ♪ そんな怖い顔しないでおくれよ。そんな事よりも英雄王、今宵は早めに帰った方が良いかもよ?」

 

「・・・なんだと?」

 

本気で宝具を開放するつもりであったアーチャーは、アキトのその言葉に武器を収める。

 

 

「俺の直感が言ってるんだよねぇ・・・・・『アーチャーのマスターは瀕死の重傷を負っている』・・・てな?」

 

「それは誠か、バーサーカー?」

 

「・・・貴様」

 

そういえば、アキトのマスター、雁夜を倒しに行ったはずの時臣から魔力供給が散り散りになっている事に今更ながらにアーチャーは気づいたのであった。

 

 

「なぁに・・・ただの直感だよ、直感。カカカカカ♪ それとも・・・・・本当に死合おうか、アーチャー?」ギョロリ

 

「・・・我は挑発には死をもって遇するぞ」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

アキトもアーチャーに尋常ならざる殺気をぶつける。ピり付いた空気が頬を掠め、突き刺さる。

 

 

「まぁ、その片にしておけバーサーカー」

 

「・・・あぁ。すまねぇ、大王」

 

「次に持ち込しだ、英雄王。我らが対決は、即ち聖杯戦争の覇者を決する大一番となる事だろう」

 

「じゃあな・・・英雄王」

 

ライダーとバーサーカーの二人はそれだけ言うと下を走る戦車に乗り込み、帰陣する。

 

 

「果たしてどうかな? 我が至宝を賜すのに値するのが一人のみだとは・・・まだ我は決めていないぞ、ライダー」

 

一人、鉄橋に残されたアーチャーは暗ある表情で走って行く二人を眺めた後に川の水面へ立ち尽くすセイバーへと視線を移した。

 

 

「人の領分を超えた悲願に手を伸ばす愚か者・・・・・その破滅を愛してやれるのは、天上天下唯一人・・・この『ギルガメッシュ』を置いて他にはない。ククク・・・儚くも眩しき者よ、我が腕に抱かれるが良い。それが我の決定だ」

 

含み笑いも混ぜつつアーチャーは霊体化し、その場を後にする。

 

 

「・・・・・そろそろ、あの蝙蝠の駆除も範囲に入れるか・・・」

 

アキトに対して、物騒な事も言い捨てて。

 

ライダーとバーサーカーはウェイバーを回収し、此方に向かっていた雁夜とも合流した彼等は、今後についての話を深めながらに間桐邸へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





書き上げた私。風呂に入って、寝酒して寝よう。


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登場と不穏




諸事情により、弐つの話を繋げます。

可笑しくはないように。

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ・・・どういう事だ、バーサーカー・・・!?」

 

「こ・・・この人は・・・!」

 

目の前でなんとも凶悪な笑みを浮かべるバーサーカーに向けて、俺は到底桜ちゃんに見せられない程に歪んだ顔で相対する。隣にいるウェイバー君なんて、今にも気絶してしまいそうだ。

 

 

「言った通りだよ、マスター。この『ご婦人』を餌にあの男・・・『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』には脱落してもらう」

 

バーサーカーはそう言って、ガンナーとはまた違った赤毛の薬で眠った女性を指差した。

 

 

 

―――――――

 

 

・・・事の発端は未遠川のキャスターとの決戦を終えた翌日の朝に遡る。

 

その日、昨日の出来事。ウェイバーとサーヴァント組はキャスターとの戦闘を。雁夜は遠坂時臣との闘いを互いに報告をした。

雁夜の方はアキトに自身の使う魔法を話さないように口止めされるが、大まかな事柄は全員に伝える。

雁夜があの時臣を不本意ながら再起不能にした事は、色んな意味で衝撃的であった。彼に魔法を伝授したアキトでさえもまさかここまでやるとは思いもしなかったと弁を振う位には。

そんな雁夜の報告も程々に報告会は、昨晩のキャスター戦へと移る。

そこで述べられたのは、キャスターの完全脱落とランサーが自分の宝具の一つを破壊した事。そして、セイバーのあの『聖剣』の事であった。

セイバーの宝具『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』に未だとんでもない宝具を持っているであろうアーチャー。これらにどう対処しようかと皆が悩んでいる時である。

 

ピンポーン

 

「ん? 誰だ?」

 

玄関のインターホンが突如として鳴った。雁夜はセールスか何かだと思い、玄関に向かおうとした時。

 

 

「おん。来たか」

 

「え?」

 

「扉なら開いてるぞ、『ガブ』さん」

 

ドゴォオッン!!

 

「「なッ!!?」」

 

アキトが声を扉の向こうの誰かに語り掛けると玄関が四散爆裂した。

 

 

「て、敵ッ!?」

 

「なんとも豪快な。まだ然様な者が残っていたか」

 

「バカ! そんな事言ってる場合かよ!」

 

雁夜は桜を守るように盾となり、ウェイバーとライダーも臨戦態勢をとる。だが・・・

 

 

「アキト、お茶のおかわりをくれであろー」

 

「おん」

 

「このお菓子美味しいわね、ロレンツォ」

 

「なんでもこの街の銘菓だそうですよ」

 

何事もなかったかのようにマフィア組はお茶をすすりながらまったりと過ごしていたのだ。

 

 

「ちょッ! 何やってんだよバーサーカー?!」

 

「ドン達まで! 敵が来たんだぞ! なにを悠長な!!」

 

焦るマスター二人であるが、ライダーは煙の中から来る者に敵意がない事を感じ取った。

そんな焦る二人にドンがなんとも緊張感のない声色で語り掛ける。

 

 

「落ち着くであろー。この気配はワシらの仲間であろー」

 

「は? 仲間?」

 

ズドンッ!

 

「あろッ!!?」

 

「「ドンッ!!?」」

 

声をかけた瞬間、ドンの額に銃弾がめり込んだ事で一気に二人の血の気が引いた。

 

 

「あ、悪い。つい撃っちまった」

 

「もう。その癖、なんとか直してください。『ガブリエラ』」

 

煙の中から現れたのは、眼鏡をかけたメッシュの女。その手には、拳銃と大きな袋が担がれている。

 

 

「時間通り、流石はガブさん」

 

「はんッ、当たり前だ。このバカ」

 

「余計な一言!?」

 

「よくもドンをッ!」

 

「ん?」

 

雁夜は反射的に左腕に時臣との戦いに使った魔導を行使し、勢いよく前へと飛び出した。

 

 

「オラァッ!」

 

ズドゴッ!

 

「げボラッ!!?」

 

「「雁夜さん(おじさん)!?」」

 

ところが、前へと吐出した雁夜にその女は情け容赦のない踵落としを決め、彼の頭を踏んづけたのだ。

 

 

「なんだこの死にぞこないは?」

 

「ちょっとガブさん! 加減しろよ! これでも俺のマスターなんだからよ~」

 

「そうであろー、ガブリエラ」

 

「「「ッ!!?」」」

 

また皆は驚愕した。アキトのまるで仲間のような物言いもそうだが、額を撃ち抜かれた筈のドンが何事もなかったかのようにその眼鏡に文句を言っていたのだから。

 

 

「ど、どういう事だ・・・バーサーカーッ・・・?」

 

踏んづけられながら雁夜はアキトに答えを求める。するとアキトは、ヤレヤレと言わんばかりの口調でこの人物の正体について口を開く。

 

 

「この人は我等ヴァレンティーノファミリー、暗殺部隊隊長の『ガブリエラ』だ」

 

「おう、よろしくな。死にぞこないのアキトのマスター」

 

「「え・・・え~・・・」」

 

こうしてアキトの宝具『血は違えど我が一族(ヴァレンティーノファミリー)』として召喚した最後のサーヴァントが今ここに揃ったのであった。

とりあえずはガブリエラについての情報共有が開始され、ついでに何故に額を撃ち抜かれてもドンが無事なのかという事も共有される。

 

 

「愉快なばかりだと思っていたが・・・お前さん、かなりすごいんではないか?」

 

「そうであろー! ワシはすごいんであろー、イスカンダル!」

 

事情を知ったライダーは今まで喋るだけが取り柄だと思っていたドンを見直し、ドンはエヘンと威張った。

それもその筈。額を鉛玉でぶち抜かれたというのにまるで豆鉄砲を喰らったように平気な顔して、またお茶をすすっているのだから。ウェイバーは益々、このヤギが何者なのかサッパリわからなくなった。

 

 

「まぁ、ドンの事は一旦置いといて・・・・・ガブさん、来たって事は『捕獲』したのかい?」

 

「まぁな。というかアキト・・・なんでこのガキ、私を睨んでんだ?」

 

「・・・・・」キッ

 

ガブリエラの前には、雁夜を守るように彼女を睨みつける桜が座っている。その隣には先程、ガブリエラに踏んづけられた雁夜が恐々しながらも二人の様子を見守っている。

 

 

「この子が前に言った護衛対象の桜だ。睨んでんのは、ガブさんがマスターを踏んづけただからだろう」

 

「なんだそれ? それはコイツが・・・・・あぁ、そうか。なるほどな」

 

「ッ!」

 

ガブリエラは眼鏡の奥をキラリと光らせてニタニタと嫌な笑みを浮かべた。その顔が子供ながらに怖かったのか、彼女は雁夜へとしがみつく。

 

 

「コラ、ガブリエラ。怖がらせないの」

 

「ま、そう言うなシェルス。このガキんちょ、結構育てれば『化ける』かもしれないぞ?」

 

「Was?」

 

「どういう事だ?」

 

ガブリエラは此方を睨んだ桜の瞳から何かを感じ取ったのだろうか、いやに良い気分とばかりにケラケラと朗らかに笑う。

 

 

「それよりもそのサーヴァントが持って来た袋はなんなんだよ?」

 

彼女の言葉にポカンとする者達も一旦は放って置き、ウェイバーはガブリエラが持って来た袋が気になったようだ。その袋はサンドバックのような形と人一人入るくらいの大きさである。

 

 

「案外、人が入っておるかもしれんぞ坊主?」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「驚いた。大正解だぞ坊主。ご褒美に私の下僕にしてやろう」

 

「・・・へ?」

 

「は?」

 

ジーッという音と共にバックのジッパーが開かれると中にはスゥスゥと寝息をたてて眠る、赤毛の一人の女性が入っていたのであった。

 

 

「待ってたぜ? 大魚を釣り上げる、ご立派な『餌』をよ~?」

 

こうして、冒頭に戻って行くのである。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「こ・・・この人は・・・ッ!?」

 

ウェイバーはガブリエラの連れて来た、眠れる赤髪の女性に見覚えがあった。

 

『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』。

魔導を志す優秀な魔術師が集まるロンドン協会は時計塔。

その降霊科学部長の地位を歴任するソフィアリ家の息女にして、ウェイバーの恩師である時計塔の名門魔術師『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』の婚約者である。

時計台でもその品位と理知は広がっており。ウェイバー自身、ケイネスと一緒にいる所を一目見ただけで強く印象に残っていた。

そんな彼女が今まさに人並みの大きさの袋に詰められて目の前にいる。

 

キャスターからの戦いから1日も経っていないというのに、このとんでもない展開にただウェイバーは頭がどうにかなりそうだった。しかも、その彼女の隣にいるサーヴァント、バーサーカーことアキトは何と言ったか?

 

「この『ご婦人』を餌にあの男・・・『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』には脱落してもらう」、だと?!

増々ウェイバーはこのサーヴァントが何を考えているのか、わからなくなった。

 

 

「バーサーカー、この女は人質というやつか?」

 

混乱するマスター二人を差し置いて、ライダーは彼に何か考えがあるのかと問いを投げ掛ける。

 

 

「おん。大王の言うように人質ちゃあ人質みたいなモノだが、俺としちゃあ取引の交渉材料だな」

 

「ほう、取引とな? 先程、お前さんの言ったランサーのマスターを脱落させる為のか?」

 

「それもあるが、そのランサーとの取引ってのに―――

「ちょっとアキト、これ!」

―――・・・おん、なんだよシェルス? 今大王に説明を―――って、WRYYYッ!?」

 

「なッ!?」

 

「おいおい、バーサーカー・・・それって・・・?!」

 

アキトがライダーに自分の考えた内容を話そうとした時、シェルスが袋に詰め込まれたソラウの右手の甲に注目した。その手の甲にあったものにその場にいた全員が注目する。

 

 

「これって・・・『令呪』よね?」

 

「え・・・え、え~!!?」

 

「ば、バーサーカー! これって大手柄じゃないか!!」

 

「ランサーのマスターを生け捕りにするとは・・・見事ではないか!」

 

そう。ソラウの右手の甲には赤い紋章『令呪』が刻み込まれていたのだから。

令呪を持っているという事は、即ちマスターであるという証明にもなり得る。そのマスターを生け捕りにしたのだから、雁夜の言うように大手柄だ。

 

 

「アイえぇッ!? なんで?! ランサーのマスターって、ケイネスじゃあなかったのかよ?!!」

 

「は?! 何言ってんだよ、バーサーカー!!?」

 

しかし、そんな大手柄を獲ったというにアキトの顔は優れない。それどころか、なんだこれはと驚愕していたのだ。

それもその筈。アキトはケイネスがランサーのマスターであろうから、このソラウを捕まえて取引の交渉材料にしようとしていた。なので、まさかその交渉材料がランサーのマスターになっている事など露にも知らなかったのである。

 

 

「オイオイオイオイオイ! なんでランサーのマスターがケイネスじゃあなくて、この人になってるんだよ?! どういうこったウェイバー?! ケイネスがランサーのマスターじゃあなかったのかよ?!!」

 

「そんなの僕が知る訳ないだろ! というか、それを知ってて捕まえたんじゃないのかよ?!」

 

「んなもん知るかァアッ! まさかの餌だと思ったら本命だったなんて俺も予想外だよ、スットコドッコイッ!!」

 

「ああん? んじゃ、なにか? お前さんはこの女が、ランサーのマスターである事を知らなかったという訳か?」

 

「そういう事になるな!!」

 

「「え・・・え~・・・」」

 

雁夜とウェイバーは何も言えない。まさか、全くの誤算でランサーのマスターを捕まえて来た事になんて言っていいやらわからなくなった。

 

 

「ちょっと、ガブリエラどういう事?!」

 

「あ? んなもん知るか。お前らがあの気色の悪い化物と戦っている間にその女を見つけて拉致って来いって言ったのは、そこのバカなんだから」

 

「流石はガブリエラであろー。蝦で鯛を釣る筈が・・・蝦を釣る前に鯛を釣り上げたであろー!」

 

「流石です、ガブリエラ!」

 

「す・・・すごーい・・・」

 

「まぁ、当然だな! ハッハッハ!」

 

予想していなかったとんでもない状況にアキト達がプチパニックを起こす一方でドン達はガブリエラを褒め称えた。状況がわからない桜までも小さな手で賞賛の拍手を送っている。

 

 

「ダハハハ! バーサーカーよ、お前さんのラックも中々のモノではないか!! しかし、それにしても良き仕事だ。どうだ、ガブリエラとやら? 余の臣下にはならぬか?」

 

「誰がなるか! 私より目線の高いヤツは跪け!!」

 

「なに身の内で喧嘩しようとしてんだ!!」

 

「兎に角、バーサーカーもウェイバー君も落ち着け! バーサーカー、この状況は一旦置いておいて・・・お前が最初に考えた取引とやらを教えてくれ」

 

「お、おん・・・わ、わかった。ちょっと待ってくれ、落ち着く為に素数を数えてから・・・」

 

アキトは雁夜に促され、落ち着くために素数を数えると今回の自分の取引の内容を順を追って話し始めた。

 

 

「まぁ最初の俺の考えでは、この人を餌にケイネスを誘い込んで、ランサーの令呪と『交換』するつもりだったんだよ」

 

「交換?」

 

「そうだ。俺としてはこんな人の精神に脅しをかける胸糞悪い行為はしたくはなかったんが・・・生憎とセイバー陣営に取られる前にな」

 

「いや待てよ、バーサーカー。お前の言ったセイバー陣営の事も気になるけれど・・・ランサーの令呪とこの人を交換した所で、誰がランサーの新しいマスターになるんだよ? まさか、お前がなるのか?」

 

語尾に「なーんてな」と冗談交じりに雁夜が言うとアキトはキョトンとした顔になり・・・

 

 

「そうだよ」

 

「・・・え?」

 

「なにィイ!!?」

 

彼の言葉を肯定した。

そんな事が出来るのかと雁夜がアキトに対して聞くと「わからん」等という無責任な発言が返って来る。だが、アキトは自信があった。

何故なら、これから10年後に行われるであろう第五次聖杯戦争『Stay night』でもキャスターがアサシンを有していたからだ。それで『血液造形魔法』を使える自分にもキャスター適正があると履んだアキトは、自分でもできるだろうと根拠のない自信を持っているのであった。

 

 

「ほう、益々稀有なヤツ。そんな頓智来な事を考えるのはお前さんぐらいだぞ、バーサーカー」

 

「いや~、それほどでも」

 

「褒めてない。というか、どうしてランサーを?」

 

「頭数が必要なんだよ・・・『アーチャーを倒す』為のな」

 

『『『!』』』

 

「ほう・・・ッ!」

 

彼の言葉にライダーは感慨深そうに髭を撫でる。

 

聖杯戦争の御三家が一つ、遠坂が保有する三騎士の一人『アーチャー』。その力は初戦である倉庫街で確認した末端でも、他のサーヴァントとは格の違いが歴然とわかる程であろう。そんなアーチャーの真名は『ギルガメッシュ』。古代バビロニアの国家ウルクの伝説的な王である。

 

 

「あのサーヴァントは倉庫街で見せた宝具以上のモノをまだ使っていない」

 

「そんな宝具がアーチャーにあるのかよ?!」

 

「ある。大王やセイバーの宝具を上回るモノをあの男は持っている」

 

『『『!?』』』

 

「・・・・・」

 

皆がアキトの言葉に驚く中、何故かライダーが鋭い視線を彼に突き刺す。それを気づきかアキトは間髪入れずに尚も語る。

 

 

「そんなサーヴァントと対峙するんだ。頭数は多い方がいいだろう、ウェイバーに大王?」

 

「えッ? あ、ああ! そうだな!!」

 

「・・・・・」

 

「どうしたんだよライダー?」

 

「いや・・・何でもない。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「貴様のような者が生前の余の下に居れば、征服も容易かったろうとな」

 

「な、なんだよソレ・・・」

 

「ぷふ・・・フフフ・・・」

 

「はは・・・ハハハ!」

 

『『『ハッハッハッ!!』』』

 

呆れ顔のウェイバーにつられて、他の皆は笑い出す。当の本人も呆れ顔を不器用だが笑顔に浮かべる。

 

 

「カカカカカ♪」

 

「ダハハハハ!」

 

だが、今まで主先頭を担って来たアキトとライダーの眼は他とは違う、『笑っていない不穏な眼』であった。

こうして、誤算はあれどアキトが最初に考えた通りの策に打って出る事と相成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





こっちのほのぼのも書きたい・・・


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取引




映画『ドラキュラzero』の原主題歌がとてもいい。

アキト「ダークな感じが堪らなく良い」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

月光が照らす冬木市内のある廃墟。そこには痛々しい傷を負い、車椅子に腰かけた男とその前に跪く男が一人。

 

 

「この無能めがッ! 口先だけの役立たずが!!」

 

「・・・・・ッ!」

 

車椅子に腰かけた男は自らの前に跪く男に向かって侮蔑の言葉を吐く。

 

車椅子に乗った男の名前は『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』。この聖杯戦争において、ランサーのサーヴァントを有する時計台きっての名門魔術師である。

だが、彼はアインツベルンに雇われた『衛宮 切嗣』に拠点としていた魔術工房を破壊されるだけでなく、切嗣の切り札である『起源弾』によって自分の身体・魔術回路をズタボロにされるという魔術師にとっては致命傷となる傷を負った。

 

唯の人間がここまでのダメージを負ったのなら普通、自分の命欲しさに逃げるであろう。しかし、ケイネスは命よりも名を惜しむ生粋の魔術師であった為に自分の婚約者であるソラウにランサーの令呪を貸し与え、キャスター討伐に向かわせた。

 

ランサーは自らの宝具の一つを失う事になりはしたが、見事キャスターを討ち取る事に成功する。

ケイネスも成功報酬を監督側の言峰璃正から受け取り、他のマスターにその報酬が行渡らない様に璃正を携帯していた拳銃で殺害。

そして、これから反撃に移ろうと根城にしていた廃墟に戻ったのだが・・・

 

 

「女一人の身も守る事がままならぬとは! フン、騎士道が聞いて呆れるわッ!!」

 

「・・・面目次第もありません・・・ッ」

 

令呪を貸し与え、ランサーと共にキャスター討伐に向かったソラウが何者かによって連れ去られたのである。

 

 

「一時の代替とは言え、己のマスターを守り遂せぬ事すら叶わんで! 一体何の為のサーヴァントかッ!! それをよくも一人でおめおめと帰って来られたなぁア?!!」

 

ケイネスは自らが召喚したと言えど、ランサーが気に入らなかった。

元々、召喚する筈だったライダーの聖遺物をウェイバーに奪われてしまった事で、その代替として召喚されたランサー。

そんな彼の無償の奉仕を捧げんとする騎士道は、魔術師故に等価交換を物事の原則として捉えるケイネスには到底受け入れられるものではなく、相性は最悪。また、彼の呪いとも言えるスキル『愛の黒子』によってソラウを魅了してしまった為に二人の間には深刻な確執があった。

それでもギクシャクする二人の間にソラウがいる事でギリギリ調和はとれていた。が、ケイネス最愛のソラウが連れ去られた現在。遂に彼しの不満が露わとなったのである。

 

 

「恐れながら主よ・・・正規の契約関係になかった私とソラウ殿では、互いに気配を察知する事もままならず―――」

 

「なればこそ、細心の注意をはらって然るべきだろうがッ!!」

 

「されど主よ、ソラウ殿はまだ生きておられます。私への魔力供給は澱みなく―――」

 

「そんな事! わかった所で正規のサーヴァントではないお前に居場所が察知できなければ無意味であろうがァッ!! あぁ・・・ソラウ! やはり令呪を彼女に貸し与えるべきではなかった・・・ッ!」

 

ケイネスは自分の顔を両手で覆い隠し、ソラウに令呪を預けた事を後悔する。

彼女は政略的な婚約者であったものの。ケイネスは出会った瞬間に一目惚れしており、ソラウを本心から惚れこんでいたのだから。

そんな愛すべき人が気に喰わないサーヴァントの落ち度のせいで捕まった事を知れば、誰だって怒り狂う。

 

 

「お諫めしきれなかった、このディルムッドの責でもあります」

 

「・・・よくもまあ、ぬけぬけと言えたものだな・・・恍けるなよランサー、どうせ貴様がソラウを焚きつけたのであろうが・・・ッ」

 

「ッ!? 断じてそのような事はッ!」

 

ランサーの言うようにそんな事はしていない。黒子によって惑わされたソラウの強引な捲し立てによって、仕方なくランサーは従ったのだ。しかし、嫉妬の激情に駆られているケイネスにそんな言葉は届いてはくれない。

 

 

「まさに伝説通り・・・貴様は主君の許嫁とあっては、色目を使わずにはいられないさがなのか?」

 

「・・・我が主よ・・・どうか今のお言葉だけは、撤回を・・・ッ!」

 

「フッ、勘に触ったか? 無償の忠誠を誓うなどと綺麗事を抜かして置きながら、所詮は劣情に駆られた獣風情がッ!」

 

「ケイネス殿・・・・・何故・・・何故、わかって下さらない! 私はただ単衣に誇りを全うし、貴方と共に誉ある戦いに出向きたかっただけの事」

 

「聞いた風な口をきくなッ!! 身の程を知れ、サーヴァント! 所詮、魔術によって現身を得た亡者が!」

 

「ッ・・・!」

 

「そのような者が主に対して、説法するなど・・・おこがましいにも程がある!!」

 

「え・・・俺がマスターにした事って、そんなおこがましい事だったの?!」

 

「「!!?」」

 

ケイネスからの侮蔑と苦悶の声を放つランサーとは対照的な飄々とした声が、二人の鼓膜を振動させた。

 

 

「誰だ!!?」

 

「そう警戒しなさんな、俺よ俺」

 

宝具である槍を構え、ケイネスの盾となったランサーの前にいたのは、濃い何かが固まった存在を持たぬ靄。その靄が漸う晴れていくとその声の主が現れた。

 

 

「よぉ、流石はフィオナ騎士団の一番槍。対応が早い」

 

「き、貴様は!」

 

「貴殿は・・・・・バーサーカー!」

 

声の主は今回の聖杯戦争において異常な風格を漂わせる謎のサーヴァント、バーサーカーことアキトである。

ただ、ランサー陣営の前に現れた彼は倉庫街やキャスターと戦った時の戦装束を身に纏ってはおらず。ブラックスーツにレッドジャケットを着こなし、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 

「俺が気配を察知するまでにここまで来るとは・・・侮れんヤツ!」

 

「感心している場合か! ランサー、早く私を連れて―――」

 

「おっと。それはちょいと待っておくれよ、ケイネスの旦那。アンタにちょいとばかし、取引を持って来ただけだからよ~」

 

「なにッ、取引だと・・・?!」

 

「一体何ようか?!」

 

ニッコリと笑みを浮かべる彼にケイネスは怯み、ランサーは警戒をとかない。此れでは中々話に入れないなと感じたアキトはさっさと例の『者』を()()()()取り出す。

 

ズルリッ

 

「なッ!!?」

 

「そ、『ソラウ』ッ!!」

 

突如としてアキトの左半身が流動体になったと思ったら、そこから意識を失ったケイネスの想い人が顔を覗かせたのだ。彼はそんな身体に収納していた彼女を地面に寝転がせる。

 

 

「何故に・・・貴殿がソラウ殿を?!」

 

「何、ちょいとこのご婦人がライフルで狙われてたんで俺の仲間が助けたんだよ。正確に言えば、ライフルで狙っていたのはケイネスの旦那をそんな身体にした吾人の仲間かね」

 

「ッ!」

 

彼の言葉を聞いてケイネスの脳裏に浮かび上がったのは、魔術回路を暴走させ、自分の身体をズタボロにした『魔術師殺し』こと衛宮切嗣。彼を思い出しただけでもケイネスの青筋はビキリと音を発てた。

しかしてケイネスは冷静を装い、アキトに語り掛ける。

 

 

「ソラウをあの男から助けてくれたのは感謝する・・・・・だが、ただ単にそれだけの為に来たのではあるまい・・・!」

 

「なんですと・・・ッ? 主、それは!」

 

「カカカカカ♪ 流石は時計台の君主(ロード)様って言った所かい? ご明察だ、こういう時の勘のいいヤツは話が早くて助かるよ」

 

ケイネスは実戦経験が少なくともこういう駆け引きのようなモノは長年魔術師をやっていれば、幾度となく経験してきた。だからこそ、目の前のサーヴァントが何かを考えていようと考察するには刹那もかからなかった。

 

 

「アーチボルト卿・・・このご婦人とランサーの令呪をどうか交換しては貰えませんかな?」

 

「なんだと!?」

 

「ソラウと令呪をか?!」

 

彼の言葉にケイネスは耳を疑った。「同盟を結ぶのならともかくとして、令呪を寄越せとはどういう事だ」と。質の悪い冗談とも捉えられる。

 

 

「なにぶんとアーチボルト卿、冗談なんかじゃあない。こっちは本気で、ランサーの令呪が欲しいんだ」

 

「馬鹿な! 例え令呪を受け取ったとして、一体誰がランサーの新たなマスターになるというのだ?!」

 

「心配せんでもいい。それなら問題ないからよ」

 

「ッッ!」

 

ケイネスはゾクリと肝を冷やす。眼前のニッコリと笑うサーヴァントは伊達や酔狂でランサーの令呪を求めてはいないと本能で確信した。加えて、自分を見据えるその視線が得体の知れない恐ろしさを身の内に溢れ出させる。

 

 

「見損なったぞ、バーサーカー!!」

 

「おん?」

 

「ランサーッ?」

 

そんな彼を庇うようにアキトに向けて怒号を放ったのは、ランサーだった。

 

 

「その申し出は、いつかライダーがした申し出と同じ事。そのような文言は俺が主への忠義を疑う事と道理だ!」

 

「ふむう・・・なぁランサーよ、その忠義はアーチボルト卿に対してでなくてはならんのかい? その忠義は他の誰に対してでも良くはないか?」

 

「な、何を言っている?」

 

ランサーは怪訝な顔で答える。アキトの言っている事がまるでよくわからないという風に。

 

 

「そこにいる吾人はアンタの事をちっとも理解してはいない。理解しているのならば、さっきの立ち聞きした話の中に「亡者」なんて言葉は入らない筈だからよぉ」

 

「そ・・・それは・・・ッ!」

 

ランサーの身体が魅入られたように強張っていく。

彼は保有スキルの中に『対魔力:B』を持っている。だが、これは魔術的なモノではない。『吸血鬼』という種族ならではの『能力』なのだ。

 

 

「ランサー・・・・・いや、輝く貌の『ディルムッド・オディナ』よ。『私』の下へ来い。私ならば君を理解しよう・・・君の忠義を称えよう・・・」

 

「あ・・・あぁ・・・・・!」

 

なんともその声は甘美なるものであった。蜂蜜のようにドロリとした感覚が心を満たしていく心地がし、自分を見つめる『紅い眼』に吸い込まれそうになっていく。

 

 

「ランサー、耳を貸してはならぬ!! ヤツの言葉に―――ッがフ!!?」

 

ケイネスはランサーに警告を発しようとするが、何故か声が途端に出なくなっってしまった。それどころか、呼吸もままならなくなる。

 

 

「ぐフッ・・・!(息が?! どうなっている?!!)」

 

ケイネスの呼吸器官はアキトの出す瘴気によって、痙攣していたのだ。そんな喉を押さえる彼にアキトはニッコリ笑顔のまま人差し指を口の前に出した。狂喜の表情がくっきりとわかる。

そのまま彼は止めとばかりにランサーに語り掛ける。

 

 

「さぁおいで、ディルムッド。君に永遠の安心感を与えよう」

 

「お・・・俺は・・・ッ!!」

 

ランサーが構えた槍を力なく降ろし、決意に満ちた言葉を吐こうとする・・・その時。

 

 

「そこまでだ、バーサーカー・・・」

 

「がハッ! ハァ! ハァ!!」

 

「・・・はッ!?」

 

アキトの背に赤髪の男が霊体化を解き、剣の刃を向けた。

霊体化を解いた風圧か、周囲に漂っていた瘴気は吹き散らされる。おかげで痙攣していたケイネスの呼吸器官は正常に戻り、ランサーも正気を取り戻す事が出来た。

 

 

「・・・なんだよ、大王?」

 

赤髪の男の名は『イスカンダル』。此度の聖杯戦争にライダークラスとして召喚されたサーヴァントである。

 

 

「大王、あと少し・・・あと少しで『堕ちた』んだ・・・それにこの策は俺に一任されていた筈だが?」

 

「・・・貴様のそのようなやり方ではダメだ、控えろ。それにそんなにも瘴気を垂れ流しではランサーのマスターが耐えられん・・・雁夜や坊主の意に添わぬわ」

 

「「・・・」」

 

ギロリと両者の視線がぶつかり合う。例えるならば、ライダーからは赤い稲妻が、アキトからは黒い雷がぶつかり合っている様であった。

そんな二人の気魄にランサーとケイネスは物言えぬぐらいである。このまま戦いが始まるのかとランサーは再び、降ろした槍を構えた。

 

 

「・・・おん、わかったよ大王。少々、功を焦り過ぎた」

 

「・・・え・・・?」

 

「わかれば良いのだ。それと外で待っておる雁夜が此方に近づく気配を察知したそうだ」

 

「お・・・おい・・・」

 

「・・・それ先に言ってくんないか? しっかし、マスターやるな。この短期間で長距離の気配察知能力まで会得しちまうとわよ~」

 

ところが威圧的な雰囲気がなかったかのように二人はなんともフランクに話し始めたではないか。この状況変化にケイネスとランサーはどうしていいか戸惑う。

 

 

「して、どうする? 応戦するか?」

 

「別に構わんが、無傷ではすまねぇぜ?」

 

「なれば・・・・・?」

 

「あれしかなかろうて・・・!」

 

またしてもアキトの口角が引き上がる。同じようにライダーの口角もだ。

 

シュバッ!!

 

「「・・・は?」」

 

アキトは呆ける二人の車椅子と身体を『影』で固定し、ライダーはソラウを担ぎ上げる。

 

 

「逃ィイげぇるンだよ―――ッ!!」

 

「「なァアアッ!!?」」

 

そのままアキトとライダーは廃墟の二階から外へと飛び出す。着地地点には、ここまで来た『気配遮断』の施された戦車が置かれていた。

 

ドォオンッ!

 

「なんだよ突然!―――って、ケイネス先生?!!」

 

「ウェイバー・ベルベット! 何故に貴様がここに?!」

 

「また予定変更か、バーサーカー?」

 

最初から戦車に乗っていたウェイバーは降って来た自分の恩師に驚き、雁夜はヤレヤレと溜息でも吐くようなセリフでアキトに語り掛ける。

 

 

「そういうこったマスター。話の続きは屋敷でだ。今はそれよりもズラカるぜい、大王!」

 

「ッハ!」

 

掛け声と共にライダーが手綱を振うと戦車が勢い良く空へ駆け出していく。

 

 

「主よ・・・これは一体・・・ッ!?」

 

「わからん・・・一体何が起こっているというのだ!!?」

 

「スピー・・・」

 

まるで状況が一転二転もする初めての経験にケイネスは目を回し、それをウェイバーはなんとも生温かい目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





ネタを絡めていきたいでござるよ。


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朱と紅と翡翠




マケドニアと日本とケルト。

ドン「こうしてみると、アキトが一番若いであろー」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「な、な・・・なんだ・・・・・これはッ・・・!!?」

 

「あろー?」

 

眼を血走らせ、一流と自賛する頭をフル回転させながらケイネスは、目の前に立つ二足歩行の人語を返する『山羊』に言葉を詰まらせる。

 

・・・事の始まりは30分前に遡る。

拠点としていた廃墟から何が何だか解らぬ内に、同盟側の拠点である間桐邸に連れ去られたケイネスはド肝を抜かれた。

 

屋敷全体に何十にも張り巡らされた極めて高度な魔術結界。それを補強する様に固められた素人でもわかる近代兵器のオンパレード。それは正に要塞と言っても過言ではない。そして・・・・・

 

 

「あ。皆さん、お帰りなさい」

 

「結構早く帰って来たな~って、なんだそのズタボロの怪我人と黒子の野郎は?!」

 

「アキト~・・・貴方、またとんでもない事やちゃったの?」

 

ここまでの聖杯戦争で確認されていないサーヴァント達であった。しかも、その全てがバーサーカーと同じ魔力を有していたのだ。

 

 

「こ、これはッ・・・?」

 

此れには彼等と同じサーヴァントであるランサーも驚きの色を隠せない。いや、それ以上に・・・

 

 

「い・・・一体、これは何の冗談だ・・・!?」

 

ケイネスは顔が絵具の青よりも真っ青に顔を染めていた。

『マスター一人に対して、サーヴァントは一人』。それがこの聖杯戦争における基本原則。

 

 

「いやな、途中でマスターがお邪魔虫を察知してな。ほっといたら面倒なんで、こうして交渉相手を連れて来たという訳なのよん」

 

「というか、最初からこのようにしておけば良かったのではないか? バーサーカー」

 

「それもそうだ」

 

「大変だ! ここにバカだ、バカがいるぞ!! アッハッハッハ!」

 

「笑い過ぎです、ガブリエラ」

 

「ロレの言う通りよ。ヤレヤレお疲れ様、雁夜にウェイバー」

 

にも関わらず目の前には、バーサーカーとライダーの他にもサーヴァントが三体いるではないか。

「遂に自分の眼までもが魔術回路の暴走でおかしくなったのか、おのれ衛宮切嗣ッ!!」とケイネスは見当違いの私怨を焚き付かせる。

 

彼がここまで混乱するのも無理はない。何故ならバーサーカーのマスターが、御三家が一つとはいえ、魔道から逃げ出したとされていた『間桐雁夜』であったからだ。

そのような人物が聖杯戦争に参加できたのも奇跡のようなモノなのに、固有クラス以外のサーヴァントを有している等、天文学的のようなモノだ。

 

されどケイネスとて名門の出。受け入れがたい目の前の現実を周囲に悟られない様に飲み込もうとする。

 

 

「声がするかと思えば、帰って来たのかアキト」

 

「・・・な、なに?」

 

しかし、冷静を装う彼の顔面をぶち壊す存在が奥の間から現れた。

 

 

「あ・・・主・・・ッ!!?」

 

其の者は『山羊の頭』に『山羊の身体』を持ち、黒いマントを靡かせ、横長の黒目を輝かせる山羊の中の山羊。

 

 

「おん。ただいま、『ドン』」

 

「うむ、お帰りであろー」

 

首領(ドン)・ヴァレンティーノ』が紙幣で出来た煎餅をむしゃむしゃ食べながら出て来たのだ。

 

 

「・・・・・ッファッ!!?」

 

時にウェイバーは、後にも先にもこんなに驚愕したケイネスの顔を見た事がなかったと語ったという。そんな事もあってか、冒頭へ戻る。

 

とりあえず、ドンの存在に言葉を詰まらせるケイネスは雁夜とウェイバーのマスター組とドンとロレンツォに任せる。

あとの借りて来た猫のように大人しくなったランサーを炬燵をどかせた居間の真ん中に置いて、周囲を残りのアキト達で取り囲んだ。

勿論というか、当然ながらランサーの宝具の槍は連れて来たどさくさに紛れて回収してある為にランサーは丸腰である。

 

 

「我が主をどうするつもりか?!」

 

そんな虜囚の身と同等となれど、ランサーは鋭い眼を周囲に散らして威嚇した。

 

 

「うむ。このような状況であっても自らの身より、主の事を案じるとは・・・益々、我が配下に加えとうなるな」

 

「止せって大王、また断られんぞ。心配すんなランサー、別にアーチボルト卿をどうこうしようとは考えちゃあいないよ。彼の首を捻じ切るんだったら、あの時とっくにやってるしな」

 

「・・・・・」

 

未だにランサーを自らの配下にしようと企むライダーを諫めるアキトであるが、ランサーは彼に鋭い眼差しを送る。

廃墟でアキトから受けた、あの甘美なる誘惑。自身が持つ『愛の黒子』なんていう呪い染みた保有スキル以上にランサーは危険だと思っていた。

そんな彼にため息を吐きそうになるが、一旦それを飲み込んで続きへと移る。

 

 

「それで話の続きなんだが―――

「断るッ!」

―――・・・まだ、何にも言ってないんだけれども・・・」

 

「何度、言われても同じ事。俺の忠義をささげるは、主ただ一人だけだ!」

 

こんな状況でもランサーは頑なに彼等の言葉を拒む。

アキトも頭を甲羅に埋めた亀のようなランサーにどうしたらいいかと悩んだ。

 

 

「さっきからゴチャゴチャと五月蠅い」

 

「おん?」

 

「ガブリエラ?」

 

そんな時、傍から彼等のやり取りを眺めていたガブリエラが呆れたような台詞を紡ぐ。

 

 

「もういいだろアキト。そんな忠義忠義なんていう、はた迷惑な文言ほざいてるヤツなんか宛にするな」

 

「なッ!? 俺の忠義をはた迷惑だと?!」

 

何気ない彼女の言葉にランサーは激昂し、立ち上がる。その眼にはいつにない気魄が籠っていた。

 

 

「だってそうだろう? 滅私奉公する事が生きがいなんですってみたいな暑苦しいヤツが隣にいたら、気がめいっちまう」

 

「騎士が主君に忠義を捧げる事は、さも当然の事だ! 私の願いはただ純粋な武と忠義を貫く事、それの何がいけないというか!!」

 

「なるほどな。だがお前は、あのケイネスってヤツ本人を理解してんのか?」

 

「ッ・・・な、なんだと・・・?」

 

ランサーの口がクッとしぼんだ。

 

 

「お前は、()()()()()()()()()()としか見ていないんじゃないのか? そんなんじゃ、あの見るからに偏屈な野郎と信頼関係が築けるなんて到底思えないがな」

 

「ッ・・・」

 

ガブリエラの言ったことは、ランサーの的を射ていた。

確かにランサーは、生前叶わなかった願いの為にケイネスの召喚に応じ、ここまで戦って来た。しかし、自らの忠義が主に認められる事を願ってはいても、一度としてその主であるケイネス個人を自分から理解しようとしたか? いや、ない。

だからこそガブリエラの言葉は彼の心を揺さぶり、言葉を詰まらせた。

 

 

「・・・ランサー、廃墟でアンタに言った『俺ならば、君を理解してあげよう』ってのは、あながち間違いなんかじゃあないんだぜ?」

 

「なんだと?」

 

そう言うとアキトは自分の上唇を引っ張り、鋭く突き出た『牙』を彼に見せる。ランサーは少し驚いたが、その牙が何を意味するのかを直ぐに理解した。

 

 

「牙を見てもらったように俺は『吸血鬼』だ。だからこそ、俺は血を啜った相手の感情を汲み取れる。俺はなランサー・・・ケイネスとの取引が成功したら、俺がアンタの新しいマスターになる腹積もりだったんだ」

 

「!」

 

サーヴァントがサーヴァントのマスターになる事など可能なのかという疑問はさて置き、ランサーはアキトの話に耳を傾ける。

 

 

「そして、俺がアンタのマスターになる事が出来たのなら・・・真っ先にアンタの血を啜って全てではないが、ディルムッド・オディナを理解しようと思った・・・・・だが!」

 

「・・・だが?」

 

「ガブさん・・・悪い癖だぜ、こんな時に相手に響かせるような言葉を言うなんて。()()予定変更だ」

 

「ッケ、んなもん知るか・・・」

 

そう、そっぽを向くガブリエラに語り掛けるアキトは、何処か楽しそうで嬉しそうでもあった。

 

 

「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。貴公が差支えがなければ、我らが陣営と『同盟』を結んでは貰えぬかな?」

 

「ッ・・・それは・・・!」

 

「ほう・・・」

 

ライダーは感心した。

先程のガブリエラの言葉で、ランサーの身の内に何らかの変化があった事をライダー自身も勘付いた。あのまま令呪交換の交渉を続けていれば、確実にランサーとの関係は悪くなる事は明白。

ここで上下の交渉を、対等な交渉に。

 

 

「勿論、ただとは言わん。此方には、あと一人サーヴァントがいる。其の者は、アーチボルト卿の魔術回路を正しく直すことができるかもしれん」

 

「それは誠か!!?」

 

「ああ、勿論だとも」

 

次に相手が喉から手が出る程に欲しいモノを目の前に垂らす。

 

 

「ランサー・・・俺が貴公を同盟に誘ったのは、アーチャーを打倒する為だ」

 

「アーチャーをか?」

 

「そうだ。ヤツを打倒するには、我等三人が力を合わせなければならぬ。それにアーチャーの狙いは・・・セイバーだ」

 

「なんだと・・・どうしてセイバーが出て来る!?」

 

そして、最後に・・・騎士として・・・男としての本能を揺さぶる。

 

 

「アーチャーは、あのキャスターとの戦から彼女に目を付けた。このままだとセイバーに危険が迫るだろう。あのサーヴァントはどんな手を使ってでも彼女を手に入れようとするだろう」

 

「それは・・・!」

 

「取られたくはないだろう? 最良の好敵手を、最高の騎士を!」

 

ここでアキトは、廃墟でも発した瘴気を口から出す言葉に纏わせる。拡散ではない、ここぞという時の一点集中に、あの甘美なる言葉を耳に流す。

 

 

「頼む、ランサー・・・・・アーチャーを倒す時まででも構わない。『私達と同盟を結んではくれまいか?』

 

「ああ、わかった・・・このディルムッド・オディナ。貴殿らの同盟に参加しよう」

 

ガシィッ

 

その言葉に乗せられて、ランサーはニヤリと微笑む吸血鬼の差し出された掌を硬く握りしめた。

 

 

「(コヤツ・・・廃墟で見せた顔と今の顔・・・・・一体どちらが本性か? これが吸血鬼などという物の怪か? それともコヤツには、余にはない才覚を持っておるのか? 如何様にしても・・・フフ・・・面白い! 余の臣下にはいなかったタイプ。増々、盟友にしておくのが惜しい者だ)」

 

目の前で繰り広げられた心理戦にライダーは上々にアキトへの興味を昂らせる。

 

 

「そうと決まれば話は早い! 早速、マスターとアーチボルト卿に事情を話して正式なものにしよう!」

 

「ああ!」

 

二人は意気揚々と別室にいるケイネス達の部屋に行き、襖を勢い良く開けるとそこには・・・

 

 

「私は・・・私はただソラウに・・・!!」

 

「わかる、わかるぞケイネス!! その気持ち!!」

 

「あろぉおお! なんと健気であろー、ケイネス!!」

 

「私の首領への愛は永久に不滅です、ドォオオオオオッン!!!」

 

酒でぐでんぐでんに出来上がってしまっていた雁夜とケイネスが熱く語り合い、ケイネスのソラウへの思いに感動したドンが感涙の涙を流し、ロレンツォはいつものようにドンへの愛を叫んでいるというなんともカオスな空間が広がっていた。

 

 

「うッ、うう・・・なんでこうなるんだ・・・」

 

その隅でただ一人、ウェイバーが眼を潤ませながらこの惨状に涙している。

 

事の発端は、アキト達とランサーが交渉を始めた同時進行で起こった。

ドンの存在に一時思考をストップさせたケイネスであったが、ロレンツォが気づけ薬と持って来たウイスキーを動揺のあまり誤まってイッキしてしまったのだ。それを止めようとした雁夜も急にアルコールを摂取したことで酒乱と化したケイネスに飲まされてしまう。

そこからケイネスはソラウを、雁夜は桜と想い人だった遠坂葵の事を呂律が正常じゃない状態で語り合った。二人には何かとそちら方面で共通点が多い事もあり、馬が合ってしまったのである。

その二人を止められなかった事にウェイバーは隅で悔やんでいたのであった。

 

 

「あ、主!? こ、これは・・・」

 

「な?! きやがったなこの色男!! ぎざまのせいでソラウは・・・ソラウわぁあ!!」

 

「やいやい! おれっちのケイネスを泣かせる不届き者め!! そこになおりやがれッ!」

 

「え、ちょっ!?」

 

かなり面倒くさい酔っ払いに絡まれたランサーは、そのままマスター二人の餌食となる。

 

 

「ちょっと・・・どうするのよアキト・・・」

 

「あ~・・・どうしましょうかね大王?」

 

「うむ。飲むしかあるまい!」

 

「私はもう寝るぞー」

 

こうして結果的にランサーを味方につけれたアキト達の夜は、最初から最後まで混沌としたような空気で過ぎ去って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





テテーン♪ 雁夜とケイネスが飲み友になった。

テテーン♪ ついでにランサーがパーティーに加入した。

コンテニュー?


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思惑




アキト「そう言えばドン? ノアお手製の『アレ』・・・街中にばら撒いてくれた?」

ドン「勿論であろー!」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「う・・・うぅ・・・・・あ?」

 

窓辺から差し込む朝陽の光の温かさに『遠坂時臣』はゆっくりと瞼を開ける。

 

 

「こ・・・ここは、寝室? 一体、私はどうし―――がァアアッ!!?」

 

見知った我が家の天井に疑問符を浮かべて起き上がろうとした瞬間、今まで感じた事のないような激痛が上半身を襲った。

痛みに足掻き、包帯にまかれ横たわった彼の四方には、輸血用の血液パックが並べられている。

 

ガチャッ

 

「師よ、お目覚めになられましたか?」

 

叫び声を聞き部屋に入って来るのは、濁った眼に愛想も糞もない無表情を張り付けた時臣の弟子『言峰綺礼』であった。

 

 

「き、綺礼! これは一体!?」

 

「覚えておられないのですか師よ、昨夜の事を?」

 

「昨夜・・・? ッハ!」

 

時臣は思い出す。キャスターと他陣営が行う戦闘を物見雄山で見物するアーチャーと別行動した自分が、格下だと思っていたバーサーカーのマスター『間桐雁夜』に敗する姿を。

 

 

「糞ッ! なんなのだ、一体何だと言うんだ!! 私があのようなァ・・・・・!!」

 

「師よ、お身体に触ります。お控えください」

 

「く・・・ッ!」

 

ギリリと歯噛みする時臣を綺礼が諫めていると金砂のような粒子がベッドの横へ形を現す。アーチャーだ。

 

 

「起きたか時臣」

 

「!。王よ、これはお見苦しき所を・・・ぐぅ!」

 

時臣は痛む身体を漸う起こし、アーチャーへ首を垂れる。その姿にアーチャーは、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

 

「時臣・・・貴様、あれ程余裕ぶって置きながらこの体たらくとは・・・」

 

「誠に申し訳ありません王よ、この償いは必ず!」

 

「フン・・・それよりも綺礼、時臣にあれを伝えたか?」

 

「あれ? あれとは何だね綺礼?」

 

自分が眠っている間に一体何が起こったのかと気になった時臣は、すぐさま綺礼の方を向く。すると綺礼は、顔色一つ変えずに語る。自分の父親にして聖杯戦争の監督である『言峰璃正』が、何者かによって殺害された事を。

 

 

「まさか!? そんな・・・何故?!」

 

時臣は狼狽える。まさか、裏で手を組んでいた監督側の人間が殺される事など思ってもみなかったからだ。

そんな狼狽え顔をへの字に歪める時臣に対して、アーチャーはニヤリと嫌なに口角を引きつらせる。

 

 

「こうなったのなら・・・綺礼、例の件を早急に・・・!」

 

「はい」

 

時臣の意味深な託を賜った綺礼は一礼し、部屋をあとにした。

 

カチャン・・・

 

「・・・」

 

「何故、時臣に言わなかった?」

 

部屋をあとにし、屋敷の長い廊下を鳴らして進む綺礼。その途中で、いつの間にか霊体化で移動したであろうアーチャーが声をかける。

 

 

「・・・何のことだ?」

 

「哀れな父親だ・・・息子を聖人と信じて逝ったのだからなァ。いいや・・・寧ろそれが『救い』か・・・」

 

「・・・」

 

微笑む様な薄ら笑みを浮かべてアーチャーは問う。対して綺礼は、相も変わらずの無表情面で黙したままだ。

 

 

「父親の死に何の感情も抱かぬのか? 殺されたのだぞ、少しは悲しそうな顔でもしたらどうだ?」

 

「・・・・・ああ、悔しくてならない・・・」

 

「『悔しい』・・・か。それは・・・()()()()()()()()()()()()()からか?」

 

「ッ・・・!?」

 

綺礼はそんなアーチャーの見透かした様な言葉に反応し、振り返る。しかし、つい先程まで後ろにいた彼の姿はなく、代わりに金の粒子が空気中に舞っていた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「遠坂から・・・ッ?」

 

一方、新しい魔術拠点に身を移したセイバーのマスターを()()()アイリスフィールは、アーチャー陣営からの伝書を受け取った舞弥の言葉に声を張る。

 

 

「はい、マダム。遠坂時臣からの共闘の申込です」

 

「同盟ですか・・・今になって?」

 

「残るランサーとライダー・・・それにあのバーサーカーの対処に遠坂は、不安を持っているんでしょうね。そこで、一番組しやすいとみえた私達に誘いをかけて来た・・・要するに他の陣営に比べて、嘗められてるって事」

 

時臣からの伝書に目を通しながら、アイリスフィールはセイバーと舞弥に説明した。

 

 

「遠坂は今夜、冬木教会で会見の場を設けたいと言ってきました。遠坂時臣は今回の聖杯戦争において、かなり初期の段階から周到な準備を進めています。それに・・・・・遠坂はアサシンのマスター、言峰綺礼を裏で操っていたという節がある。遠坂が言峰綺礼に対して、影響力を及ぼしえるなら・・・彼の誘いは、我々にとっても無視できないかと」

 

「・・・そうね」

 

「言峰・・・綺礼・・・?」

 

セイバーは舞弥の話の中にあった、聞き慣れない名前に疑問をおとす。今までそんな名前は聞いた事がなかったからである。

 

 

「覚えて置いてセイバー・・・今回の聖杯戦争で、もし切嗣を負かして聖杯を獲る者がいるとしたら・・・それが言峰綺礼という男よ」

 

「ほう・・・!」

 

そんな男が未だいる事にセイバーは関心の声を漏らす。

セイバーとしては、好敵手である『ランサー』。自らを吸血した訳の解らない力を持っている『バーサーカー』。そして、自分の聖杯にかける願いを肯定してくれた『雁夜』。この三人と同じ位の印象を持つ者かと予想した。

 

 

「この話・・・受けましょう」

 

「はい!」

 

ハッキリとしたアイリスフィールの言葉にセイバーは肯定する。

 

・・・だが、そんなやり取りを天井裏から観察する小さい者が一匹・・・

 

 

『・・・メェー・・・』

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





貴様見ているなッ!?

?『あろッ!?』

一体どこのファミリーの者なんだ?!


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回想




嘲笑う吸血鬼・・・

アキト「なんか俺、イヤなヤツみたいじゃんかよ・・・」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「・・・」

 

陽もとっぷりと落ちた月が輝く夜の事。

電灯の光もない薄暗いモーテルの一室で『魔術師殺し』こと衛宮切嗣は、今夜行われるアーチャー陣営との会談を前に昨夜の出来事を思い返す。

 

 

 

 

 

「あらら、この距離から・・・良い腕ね」

 

「ッ!?」

 

切嗣は困惑する。

最初は彼の思惑通り、キャスターのマスター『雨生龍之介』をサーモグラフィーで発見し、その腹部と頭部にスナイパーライフルから発射された鉛玉をめり込ませる事に成功した。しかし、いざそこから立ち去ろうとした時。背後を『8体目』のサーヴァントである『ガンナー』に取られてしまう。

彼はどうにかして逃走しようと画策したが、対するガンナーに敵意はない。その代わり・・・

 

 

「さて、衛宮切嗣。『私達』となんの他愛もない話をしましょう?」

 

ガンナーは切嗣に対して、話し合いをしたいと申し込んできたのだ。

此れには彼自身も一抹の戸惑いを感じるが、相手はサーヴァントである為に大人しく静かに頷く。

 

 

「・・・それで、話とは? 君達のマスター、間桐雁夜からの託か?」

 

「いいえ、違うわ。正確に言うと・・・私は使者であって、貴方は今ここで『彼』と話してもらうわ」

 

「・・・なんだと?」

 

切嗣は表情を少し僻めた。

彼等のマスター、間桐雁夜ではないのなら一体誰が自分と話がしたいのだろうか。と他にも様々な考えが彼の頭を覆ている時、ガンナーの上着の内ポケットからクラシック音楽が奏でられ始める。「噂をすれば・・・」とガンナーが内ポケットから取り出したそれは、この時代ではまだそれ程に普及していない携帯電話であった。

彼女はそれを慣れた手付きで操作し、電話の相手と少し話をすると端末のスピーカーボタンを押す。

 

 

『一仕事終わりに失礼するぜ、魔法使いさん?』

 

スピーカーから聞こえて来たのは、なんともフランクな男の声。切嗣はこの声の主を知っている。

 

 

「『バーサーカー』・・・!?」

 

『Exactly! 今回の聖杯戦争でバーサーカークラスとして召喚されちった・・・名前は言わなくてもわかるか。アインツベルンのお嬢さんを通して、もう知っている筈だしよ。カカカ♪』

 

通話口から聞こえて来るのは此度の聖杯戦争に置いて、全マスターと他のサーヴァントの想定外を突っ走る異端のバーサーカー『暁アキト』だ。その彼から通話とはいえ、直々に話をするのだから切嗣自身、少々身構える。

 

 

「・・・それで話とはなんだ? よもや、僕と世間話を楽しむ為に来たのか?」

 

『まさか。ちょっとアンタに話したい事があってな・・・『正義の味方』になりたいと願うアンタによォ~』

 

「ッ!?」

 

似たような機械音で構成された声色でも、その声は見透かしたように嫌にベットリと鼓膜に張り付いた。

加えて、まるで自分を知っている様な口ぶり。切嗣は増々、行き場のない不審感を募らせる。

 

 

『カカ♪ そんな不審がるんじゃあない。こっちはただ、話がしたいだけなんだからよ』

 

「・・・」

 

「アキト、前置きが長い。彼、不審がってこっちを睨むだけよ」

 

『わーってるって。まぁ、前置きはこれぐらいにしてと・・・・・さて衛宮さんや、『聖杯の器』の調子はどうだい?

 

「!?」

 

アキトの言葉に切嗣は息を飲む。

まるで聖杯が此方の手元にあるような、まるで聖杯が()()()()()ような物言いであったからだ。

 

 

「何の・・・話だ・・・?」

 

『とぼけなくていいさ、衛宮さんや。あのお嬢さん・・・『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』・・・彼女が『聖杯の器』なんでございやしょう?』

 

切嗣の思考は凍り付いた。

アインツベルンの中でもごく少数しか知り得ない事を、このサーヴァントはさも当たり前のように知っていたからである。

 

 

『あの糞ッタレのキャスターをセイバーの聖剣で消滅させれば、アサシンに次いで二体目のサーヴァントが聖杯に注がれる。今の所、聖杯出現は順調に進んでるんじゃあないかな~?』

 

「なにを知っているんだ、貴様は・・・ッ?!」

 

軽薄な彼の声色に切嗣は今までとは少し違う音量で声を張り上げた。が、アキトは相も変わらず嘲笑うかのように軽薄な口を叩く。

 

 

『俺もそんなに詳しい訳ではないのだけれど。そうだな~、アンタが知らない事でいうと・・・・・その聖杯の器を造ったアインツベルンのせいで、聖杯が汚染されているって事ぐらいかな?』

 

「!。なんだと、一体どういう意味だ!!?」

 

「聖杯が汚染されている」とはどういう事なのか。それも聖杯の器を造り上げたアインツベルンのせいでとは。増々切嗣の頭は混乱する。

一体このサーヴァントは聖杯戦争のなにを・・・いや、()()()()()知っているのか。そして、このサーヴァントが一体何者なのか。そんな事がグルグルと頭の中を駆け巡る。

 

 

バシャァアンッ!

 

「?!」

 

「わッ!?」

 

その時である。自身のマスターを殺された事で、キャスターがまた暴れ始めた。その動きによって、強いうねり波が切嗣達の乗っているクルーザーを大きく揺らした。

 

 

『あの野郎~・・・シェルス、退却だ。気をつけろよ』

 

「Ja-!」

 

「くッ! 待て、まだ話は!!」

 

『最後に衛宮さんや、アンタに二つ言っておく』

 

「二つッ?」

 

『アンタにとって本当に大切なモノはなんなのか。そして・・・俺は『聖杯』には興味がないけれど・・・『聖杯の器』には興味があるんだぜ?』

 

その声を切嗣に聞かせるとシェルスは背中に血飛沫のような翼を広げ、夜空へと飛翔する。その速さたるや、放たれた矢の様だ。

 

 

「・・・ヤツは・・・ヤツは一体、なんだ・・・?!!」

 

空を駆け行く紅の矢を眺めながら切嗣はただ、そう呟くだけであった。

 

 

 

『魔術師の落ちこぼれと言われた間桐雁夜が有するサーヴァント、バーサーカー。

その力は余りにも未知数であり、加えてまるで何もかもを知っているかのような口ぶりで他陣営を嘲笑う。例えそれがマスターである間桐雁夜でさえもバーサーカーの本性は知り得はしない。』

 

 

「馬鹿馬鹿しい・・・なにが・・・なにが『本当に大切なモノはなんなのか』だ・・・!」

 

アキトを改めて考察した切嗣は、吐き捨てるように拳を固く握りしめる。

彼の聖杯に託す願いは『恒久的な平和の実現』。その願いを叶える為に彼はどんなモノであっても犠牲にする覚悟を持ってここに来ている。それが例え愛する人を犠牲にしてであっても。

 

そうして衛宮切嗣はアーチャーのマスター、遠坂時臣が設けた会談を舞弥の腕時計に施された盗聴器で聞く為の準備へと移った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





『覚悟』とは?


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会談




アキト「カッコ良くビシッと!」

ドン「ビシッとであろー!」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

夜も更けた月光が窓辺から注す冬木市の教会。

そこには4人の男女と2体のサーヴァントが対になるように向かい合っている。

 

 

「不肖、この遠坂時臣の招待に応じて頂き、先ずは感謝の言葉もない」

 

最初に言葉を綴ったのは、アーチャー陣営が筆頭である時臣。そんな彼のありふれた文言により、アーチャー陣営とセイバー陣営の会談が始まった。

 

 

「紹介しよう・・・『言峰綺礼』。私の直弟子であり、一時は聖杯を狙って互いに競い合った相手であったが・・・今となっては過ぎた話だ」

 

「・・・」

 

自分の後ろに控えていた男、綺礼をセイバー陣営に紹介する時臣。師に紹介されようと黙したまま此方を見つめる綺礼に対して、セイバー陣営は警戒の意を隠さず露わにする。

 

 

「彼はサーヴァントを失い、既にマスター権を手放して久しい。此度の聖杯戦争もいよいよ大詰めの局面となって来た。残っているのは・・・案の定、始まりの御三家であるマスター達と外様が二人。さて・・・この戦局をどうお考えか? 外様の手に聖杯が渡る事は、万に一つも許せない。そこの所は、お互い合意出来る筈だ」

 

「同盟など笑止千万! 正し、敵の対処に順列を付けて欲しいと言うのなら・・・其方の誠意次第では一考しても良いでしょう」

 

「・・・つまり?」

 

「遠坂を敵対者と見なすのは、他のマスターを倒した後・・・そういう約定なら、応じる容易もあります」

 

「条件付きの休戦協定か・・・落としどころとしては妥当だな」

 

休戦協定。

それは妥当とは言え、アーチャー陣営やセイバー陣営としても評価規格外の宝具を持つライダーとサーヴァントの中で最速を誇るランサー。そして、聖杯戦争始まって以来の異端のサーヴァント、バーサーカーを対処するには最善の策と言えた。

 

アイリスフィールの後ろに控えるセイバーとしては、信用にかけるアーチャーとの協定を不審する。が、彼女も聖杯に託す願いの為にそれを心の奥底へと沈める。

 

 

「此方の要求は二つ。先ず第一にライダーとそのマスター・・・そしてあのバーサーカーについて、其方が掴んでいる情報を全て開示する事」

 

「良いだろう」

 

両方の陣営然り、ライダーと同盟を結んでいるバーサーカーの情報は少しでも貴重。一体何所の、どの時代の英雄なのかを知る事で、バーサーカーの対処に動こうという魂胆である。

 

 

「二つ目の要求は・・・・・言峰綺礼を聖杯戦争から排除するという事」

 

「・・・なに?」

 

「・・・」

 

アイリスフィールからの二つ目の要求に時臣は綺礼の方を振り向きながら、疑問符を浮かべた。

 

 

「・・・理由を説明して貰えるかね?」

 

時臣としては、その要求に疑問を持つことは当然であった。

今し方紹介したばかりの自分の弟子がこれから休戦協定を結ぼうとしている陣営から最大の警戒心で当たられているのだから。

 

 

「そこの代行者は、我々アインツベルンと少なからず遺恨があります。遠坂の陣営が彼を擁護するのであれば・・・我々は金輪際、其方を信用する事は出来ない!」

 

「!。どういう事かね、綺礼?」

 

「・・・・・」

 

ゆっくりと閉じていた重い瞼を開いた綺礼は、師である時臣に事の顛末を余すところなく話す。その話は、綺礼がセイバー陣営と接触しているという内容だった。

まさか、自分の預かり知らぬ所で弟子がそんな事を行っていたとは露にも知らなかった時臣は顔には出さなかったが、酷く動揺する。そんな事で、この休戦協定が破綻してしまえば、自身に大きな支障が出るからだ。

 

 

「ッ・・・この気配・・・!」

 

「?。どうしたのセイバー?」

 

「・・・ほう・・・」

 

その時、セイバーは教会の窓辺から何者かの気配を察知する。アーチャーもその気配を感じ取ったのか、興味深そうに口角を歪めた。

 

 

「何者だ?! 姿を見せろ!!」

 

セイバーの声に反応するように教会の窓が勢いよく開け放たれ、強い風が室内に吹き曝される。

 

 

「見学するだけだったが・・・気配を見つけられたのなら致し方ない・・・か」

 

『『『!?』』』

 

全員が窓とは反対方向を振り向く。

ここに元々いた人物とは明らかに違う男の声が、開かれた窓の向かい側から聞こえて来たからだ。

 

 

「き・・・貴様は・・・ッ!!」

 

「貴方は!」

 

そこに佇む人物に対して時臣は酷く顔を歪め、アイリスフィールは顔を驚きに染める。

 

その男は闇夜に紛れるブラックスーツに身を包み、白い山羊のシルエットが入った青緑のネクタイを締めた噂のサーヴァント、バーサーカーのマスター『間桐雁夜』であった。

 

 

「これはどういう事かしら? どうして、ここにバーサーカーのマスターが・・・?」

 

「え・・・そ、それは・・・」

 

アイリスフィールの疑問に時臣は言葉を詰まらせる。いや、アイリスフィールの言葉ではなく、雁夜の姿に彼は言葉を詰まらせたのだ。

ジクジクと昨夜付けられた傷が疼く。

 

 

「まぁ、そんな剣呑な雰囲気を出さないで下さいよセイバーのマスターさん」

 

「ッ!」

 

動揺が走る皆を差し置いて、雁夜はなんとも落ち着いた雰囲気を醸し出している。その風格たるや、前回見えた時以上のモノを漂わせていた。

 

 

「風の噂で、アーチャーとセイバーの両陣営が会談をするって小耳にはさんだので、どんなものかと思って来てみたんですよ」

 

「そ・・・そうなの・・・」

 

「それにしても・・・時臣?」

 

「な、なんだねッ?」

 

不意に名前を呼ばれた時臣の身体が一瞬だが硬直する。此方を見据える紅く染まった左眼が、嫌に目に付く。

 

 

「どうだよ傷の調子は?」

 

「な、なに!?」

 

「手加減してやったとはいえ、昨日の今日だ。身体に障るんじゃあないのか? お前に何かあったら・・・俺は葵さんに顔向けが出来なくなるからさぁ」

 

「こ、この・・・ッ!」

 

雁夜の言葉は自分を嘲笑っているようにしか、時臣には聞こえなかった。

栄誉ある魔術師の家系に生まれながらも、魔道から逃げた間桐雁夜。一方、非凡な魔術属性でありながらも、今では優秀な魔術師が集まる時計台から一目置かれる存在となった時臣。

同じ始まりの御三家に生まれても魔術師としての才は、天と地のように歴然。しかし昨夜、優秀である筈の時臣は、格下である筈の雁夜に惨敗した。その時に雁夜自身が時臣に負わせた傷の心配をされるなんて、彼自身として最大の屈辱であったのだ。

 

 

「して、我のいない間に時臣に傷を負わせた雑種が一体なんのようだ?」

 

「お、王・・・!」

 

そんな打ち震える時臣を擁護したのは、意外にもアーチャーだった。

軽く見ているとはいえ、自分のマスターが陥れる様を見ていて何か思う所があったのだろうか。

 

 

「貴様、今になって時臣に止めを刺しに来たのか?」

 

「まさか、誤解するな英雄王。時臣の命如き、いつでも刈り取れるさ。それに言ったろアーチャー? ただの見学に来ただけだって」

 

「き、貴様ッ!!」

 

「・・・ほう」

 

いや違う。もうアーチャーは時臣に対しての関心は無に等しい。それよりも目の前の太々しい態度をとる雁夜に興味の矛先が移っていたのだ。

一方の時臣は雁夜の発言に歯を喰いしばり、への字に口を歪めている。

 

 

「だが貴様・・・雑種の分際で、許可もなく見物するとは無礼なヤツ」

 

『『『なッ!?』』』

 

アーチャーは太々しい彼の態度を確かめる為か。空間に金の波をたたせ、一本の宝剣を雁夜に向けて射出しようとしていた。

いつもならこんなピンチには雁夜のサーヴァントであるバーサーカーが現れるのだが、そんな感じは一向にない。

 

 

「カリヤッ、逃げてください!!」

 

バーサーカーの守りがない雁夜に何らかの防御魔術があったとしても、アーチャーからの攻撃を受け止めきれる訳がないと感じたセイバーは彼に逃げるように促し、自らの武器である聖剣を取り出そうとする。

雁夜はセイバーにとって聖杯問答の時に自らの在り方を否定するサーヴァントが相手でも自分の在り方とその聖杯に託す願いを肯定してくれた恩人である。そんな人の命を目の前で散らされてなるものかとの行動であった。

 

 

「・・・」

 

「え・・・?!」

 

だが、雁夜は止めに入ろうとするセイバーに向けて掌を見せ、問題ないと言わんばかりに微笑んだ。

 

バシュッ!

 

彼が微笑んだと同時に剣が勢いよく射出される。なんの防御のないままだと左胸を貫くコースで飛んで来た。

誰もが、目の前で起こるであろう惨劇に身を引く。

 

 

『緋文字・不破血十字盾』ッ!!

 

しかし、雁夜は自分に飛んで来る剣に左手の掌を向ける。掌には何か特殊な器具が填められており、彼の言葉を合図にそこから血が噴き出し、彼の前に人並みの大きさの十字架を造り上げた。

 

 

ザギィイインッ!!

 

『『『ッ!?』』』

 

発射された剣が十字架に突き刺さり、酷い金切り声を響き渡らせる。その衝撃波は、辺りの空気を強くふるわせた。

 

カランッ

 

そして、刃を受け止めた事で推進力のなくなった剣はそのまま床へと落ちる。

 

 

「う・・・嘘・・・ッ!?」

 

「王の・・・サーヴァントからの攻撃を防ぎ切った・・・だと?!!」

 

『サーヴァントからの攻撃を生身の人間が防ぐ』。これがどういう事なのか、魔術に携わる人間にわからない筈がなかった。

人智を超える力を有するのがサーヴァント。そのサーヴァントからの攻撃を防ぐというのは、木の盾でミサイルを受け切る行為と同等。そんな行為が今、目の前で行われたのである。

此れには、無表情を装っていた舞弥と綺礼も目を見開いた。

 

 

「ほう。手を抜いていたとはいえ、我の一撃を受け止め切ったか・・・貴様、一体どこの者だ?」

 

「・・・雁夜・・・間桐雁夜だ」

 

宝剣を防いだ十字架を液状にし、左掌へと戻しながら雁夜はアーチャーに鋭い眼光を放つ。

 

 

「ククク・・・飼い犬は飼い主に似るというが、これは逆だな。飼い主が飼い犬に似ておるわ。ならば、これならどうか!」

 

「!」

 

今度は10を軽く超える宝具を背後に出現させる。

 

 

「王よ! お納めください!!」

 

「黙れ時臣ッ!」

 

「アイリスフィール、舞弥! 私の後ろへ!!」

 

この量の宝具が同時発射されれば雁夜ならず、会談場所となっている教会其の物が破壊されてしまう。

自分に屈辱を与えた雁夜が木端微塵になる事は良い。が、これでは騒ぎが起きてしまう。下手をすれば、秘匿されていた魔術が露見するかもしれない。

 

 

「ッく・・・!」

 

楽しそうな表情を浮かべるアーチャーに対し、時臣はこれ以上は好きにさせてはいけないと手の甲に刻まれた令呪を確認する。が、残り二つとなった大切な令呪を使ってもいいのかという彼の魔術師としての理性が働いた。

この令呪は、()()()()()()()()()()使()()算段なのだから。

 

 

「さぁ! この俺を興じさせてみろ!!」

 

「糞ッ・・・・・!」

 

遂に上げた腕を振り下ろそうとするアーチャーに時臣は、親指の爪を剥がす思いで令呪を使おうとした・・・・・刹那。

 

 

「それは承諾しかねるな、英雄王」

 

「なに・・・?!」

 

「ッ!?。貴方は!!」

 

粒子の結晶が雁夜の前で舞ったかと思うとその光の粒子は人型に形造られ、一体のサーヴァントの姿を現す。そのサーヴァントの正体を知る者は、表情を驚愕に染め上げた。

 

 

「サーヴァント、ランサー。我が盟友の危機に参上せりッ!!」

 

紅の呪槍を携えた緑の騎士が雁夜を守るために駆けつけたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





和装も良いが、スーツも良い!


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会談前




何故にこんな状況になったのか。

アキト「それは会談前の別視点に遡る」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「なんだって・・・!?」

 

「アーチャー陣営とセイバー陣営が会見する?!」

 

「?」

 

ランサーとの同盟を取り付けた翌日。

突然のアキトからの報告に雁夜とウェイバーは、暇潰しに桜と作っていた折り紙を放り投げた。なにをそんなに吃驚しているのか解らない桜は、コテンと首を傾げる。

 

 

「ほう。それは誠か、バーサーカー? ALalaaaIii!」

 

「おん。今夜、冬木教会でするそうな。大方、同盟か休戦協定の話し合いだろうよ。KUAAAAAッ!」

 

カチャカチャ・・・

 

驚く自分達のマスターを放っておいて、なんとも冷静にアキトとライダーの二人はドンが買って来た暇潰しのレーシングゲーム『エフメガ』にシェルス共々躍起になっていた。

 

 

「でも、どうして今になって? WANABEEE!!」

 

「なんでもセイバー陣営のお嬢さん、アインツベルンの話だと俺達対策だとよ。あ!? インコース入られた!!」

 

「なんでそんな事をバーサーカーが知っているんだよ?! というか、お前らゲームを止めろ!!」

 

「「え・・・あ!」」

 

「ダハハハ! 余の勝利だッ!」

 

「なにゲーム如きで勝ち誇ってんだ、バカ!」

 

ウェイバーの声に気を取られたアキトとシェルスの隙を見逃さず、ゴール手前でライダーがターボボタンを連打して勝敗が決まった。

自分が勝った事にライダーはガッツポーズをとり、ウェイバーに頭を叩かれる。

 

 

「ウェイバー君の言う通り、なんでそんな大事な事を知っているんだ? 普通ならバレないように秘密裏で行われるものだろう? 一体どうやって?」

 

「カカカ♪ マスター、ウチにはファミリーきっての天才頭脳の持ち主がいるんだぜい」

 

「え?」

 

バタンッ!

 

ニヤリとほくそ笑む彼の言葉に雁夜が疑問を語ると突如、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

 

「た、助けてくれッ!!」

 

慌てて入って来たのは、なんとも魅惑的な容姿をした泣き黒子のある男、ランサーだ。その彼の頭には、何だかよくわからない医療器具が填められている。

 

 

「ど・・・どうしたんだよ、ランサーッ? そんな青い顔して」

 

「助けてくれウェイバー殿に雁夜殿ッ! 追われているのだ!!」

 

「追われている? 一体誰に?」

 

ウェイバーの経験上見た事もない位に顔を青くして、彼の後ろに隠れるランサー。その姿は、まるで震える小鹿のようだ。

フィン騎士団が一番槍『輝く貌のディルムッド』をここまで怯えさせる者とは一体どんな者なのか。

 

 

「・・・ランサァアア・・・」

 

「ひッ!?」

 

「の・・・『ノア』ッ?」

 

ランサーの飛び込んで来た扉の奥からゆっくりと現れたのはラベンダー色の髪を三つ編みにし、白衣を身に纏ったヴァレンティーノファミリー随一の頭脳を誇る天才科学者『ノア』であった。

 

 

「逃がしゃあへんでランサー・・・!」

 

「なんでノアちゃんが、ランサーを・・・・・あ、『黒子』の影響か」

 

雁夜はノアがランサーを追う理由は、彼の呪いとも言える保有スキル『愛の黒子』によるものだと推測する。この黒子は無作為に異性を惚れさせてしまう効果を持ち、並の魔力耐性を持たない者にはとんでもない効果を発揮する。しかし、どうやら彼女は違うようだ。

 

 

「アンタのマスター、ケイネスの為にも・・・その健康的な身体を色々と検査せなアカン。そして、あわよくば・・・フフフ・・・」

 

「「なんか不穏な事言ってる!?」」

 

「ヒィイッ!」

 

ノアはランサーのような逞しい健康体が、動かず冷たくなる所に萌えを見出すという究極のギャップ萌えの所持者であった。

そんな今まで言い寄って来た異性とは違う彼女の迫り方に身の危険を感じたランサーは、こうしてノアのとんでも検査から逃げ出したのだ。

 

 

「怖がらんでもいいんやでランサー。ちょっと、ほんのちょっとだけ・・・薬漬けにするだけやから」

 

「充分恐ろしいわ!!」

 

「ノアちゃん、ちょっと落ち着いて・・・」

 

後ろで震えるランサーを庇いながら、雁夜とウェイバーがノアを諫める。

 

 

「・・・別に代わりにアンタらがなってもいいんやで?」

 

「「どうぞノアさんのご自由に」」

 

「えぇぇッ!?」

 

「今や! 行けッ、介護ハザード!!」

 

「「ハザァアアド!」」

 

「うわァアアアアアアアッ!!?」

 

だが、絶対零度の眼と見も凍る恐ろしい言葉にすぐさま二人はランサーを差し出す。差し出されたランサーを彼女の一声で現れたチュパカブラが看護服を着たような人造医療福祉生物『介護ハザード』が、えっちらおっちらと彼を研究室まで運び去っていった。

 

 

「なんとも騒がしいが・・・何かあったのかね?」

 

「まぁ、ウチではいつもの事ですよケイネスさん」

 

「げッ!?」

 

「げッ・・・って、ウェイバー君・・・」

 

なんとも間の抜けた断末魔と入れ替わり立ち代わりで部屋に入って来たのは、ドンの右腕ロレンツォに車椅子を押されるケイネスだ。

彼が入って来たことで、今度はウェイバーが雁夜の背に隠れた。同盟を結んだとはいえ、ウェイバーとケイネスのわだかまりは融けていなかったのである。

 

 

「おん。ドンとの話はもういいのかい、アーチボルト卿?」

 

「ああ、実に有意義な時間を過ごさせてもらったよ」

 

同盟を結んだあれから、ケイネスはドンやロレンツォと共に語り合っていたのだ。

何故、山羊なのに人語を返せるのか。どうして、袋を被っているのか。そして、どうやってサーヴァントとして召喚されたのか。等々、ケイネスが気になる事全部をドン達に聞いた。

 

 

「あのような素晴らしい吾人がまだ世界にいたとは・・・私もまだまだ未熟であるな。それにロレンツォ殿のドン殿へのあの並々ならぬ愛・・・・・私も見習わなくては・・・!」

 

「これは照れますね。ケイネスさんのソラウさんに対する愛も中々のモノです」

 

「いやはや、お恥ずかしい」

 

「「ハッハッハッ!」」

 

「え・・・ケイネス先生・・・?」

 

「ろ、ロレンツォさん・・・?」

 

その話し合う中で、ロレンツォの暑苦しい程のドンに対する愛に共感を覚えたケイネスは負けじとソラウに対する愛も語った。それがキッカケで二人は何故か意気投合してしまったのである。

そんな二人のやり取りに雁夜とウェイバーは若干引く。

 

 

「しかし・・・こんな立派な方々がどうしてあのような三流の魔術師と同盟を結んでいるのか、不思議でならないな・・・」ギロリ

 

「ぐ・・・ッ」

 

朗らかな表情から一転、ケイネスの鋭い眼光が雁夜の後ろに隠れるウェイバーを貫いた。

 

 

「まぁまぁ、ケイネスさん。折角同盟を結んでいるんですから、物騒な事は止しましょうよ」

 

「甘い! 甘いぞ、ミスタ雁夜! 貴君がそのような態度をとるから、この小童めが調子に乗るのだ!」

 

「し、しかしですねぇ・・・」

 

「おじさんをいじめないで・・・ッ!」

 

ケイネスは雁夜に対してガミガミと注意するが、二人の間に桜が入る。彼女はケイネスに対して大よそ幼女とは思えぬ念の籠った眼を注す。

 

 

「ほう・・・(中々、肝の据わった娘だ。それに・・・)」

 

「ちょっと桜ちゃん!? すいません、ケイネスさん」

 

「いえ、構わんよミスタ雁夜。申し訳ないね、小さな騎士さん。君の姫様をいじめて。許してくれるかね?」

 

「・・・うん」

 

桜の瞳に何かを感じたのか、ケイネスは何とも紳士的に対応した。

 

 

「・・・ケイネスさん・・・!」ジロリ

 

パンパンッ

 

「はいはい、言い争いはそこまでだ。いいな、雁夜姫さん?」

 

「な・・・ッ!? バーサーカー、お前まで!」

 

「ロレさん、ドンは?」

 

「聞けよッ!!」

 

喚く雁夜をスルーして、アキトはここにはいないドンの事をロレンツォに聞く。彼から聞くところによるとドンは、研究室に向かったという。多分というか、絶対にランサーの検査、もとい実験を見る為であろう。因みにここにはいないもう二人、ソラウとガブリエラは、ソラウをランサーから隔離する為に別の部屋にいる。

 

 

「さて、お茶羅毛話はここまでだ。先日、ドン達が街に出回った時に街中にばら撒いてくれたノア特製の超高性能小型ロボット、通称『ミニ首領』からアーチャー陣営とセイバー陣営が会合するという内容が報告された」

 

『あろー!』

 

アキトの掌の上には、小さな土方作業着に身を包んだドンそっくりのロボットが元気に叫んでいた。

 

 

「気づかれずに相手の行動を把握するとは・・・それにその技術力!」

 

「ノアの技術力は目を見張る物があるなぁ」

 

「・・・あ・・・ッ」

 

偵察行動に感心するケイネスとウェイバーを余所に一人雁夜は、アキトの表情から何かを読み取る。何とも言い表せない『嫌な予感』を。

何故なら、それを説明する彼の口角が耳まで裂ける位に引きつり上がっていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





雁夜「我が身が危険な予感!」

アキト「ビシッと決めて来い、マスターッ!」

こうして、『会談』に繋がるのであった。


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申込




中々、自分の変化に気づけないもの。

アキト「急になら尚の事」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「フッ・・・(あ・・・危ねぇ~・・・ッ! 本当にランサーが間に合って良かった!)」

 

アーチャーからの攻撃を何とか自分の最大の防御法で防いだ雁夜は、駆けつけてくれたランサーの背中に安堵を漏らす。

 

 

「(なにが簡単な偵察作戦だ! バーサーカーの野郎、最初からこれを見越していやがったな?! 帰ったらアイツ、殴るッ!!)」

 

内心の雁夜は、脳内で屈託のない笑顔を浮かべるアキトを殴る事に決意した。

 

そんな雁夜の言う彼の偵察作戦とは、まずアーチャー陣営とセイバー陣営の会談を偵察する事。どちらかの陣営に最後まで見つからずに済んだ場合は、そのまま直帰コース。

だが、見つかった場合は自ら進んで姿を現し、そのまま会談に割り込むというモノであったのである。

 

この策には見つかった時の事も考えてサーヴァントだけではなく、マスターも随伴しなければならない。

そのマスター役にケイネスが志願するも、魔術回路の修復手術も控えている為に容赦なく却下された。なので、必然的に雁夜かウェイバーの二人の内どちらかとなった。

 

当然、見つかった時には危険が待ち構えているので、それ相応の覚悟がいる。どっちにしても碌な予感しかしなかった二人は公平にジャンケン三回勝負をし、その結果として雁夜がマスター役となったのであった。

 

 

「無事か、雁夜殿ッ?」

 

「あ、あぁ・・・大丈夫だ(もうちょっと早く来てくれれば良かったんだけど・・・この力がどこまで通用するか確かめてみたかったしな・・・しょうがないか)」

 

それならば何故にそのマスターを守る役が、アキトではなくランサーなのか。此れにも理由がある。

なにぶん、ライダー・バーサーカー陣営とランサー陣営が同盟を組んだのは昨日の最近の事である為、それを他の陣営に知らしめる事を目的にランサーを雁夜の傍に付けたのだ。

 

 

「ど・・・どうしてランサーが・・・ッ?」

 

「ランサー・・・貴方がどうして、カリヤと・・・!」

 

案の定、好敵手のセイバーを含めた全員が二人の組み合わせに表情を引きつかせる。

それ程に驚くべきものであったからだ。

目の前で起こっている事が本当ならば、倉庫街で同盟を結んだライダーとバーサーカーにランサーが加わる事で、セイバーとアーチャーを除いた残りのサーヴァント全員が徒党を組んだ事になるのだから。

 

 

「何故に残りの雑種が蝙蝠のマスターとつるんでいる?」

 

「私は昨日、ここにおられる雁夜殿並びにライダーのマスターであるウェイバー殿と同盟を結んだのだ。無論、これは我が主も了承している事だ」

 

「なんだと!」

 

『(!。・・・なるほど・・・だからあの時、根城だった廃墟に誰もいなかった訳か・・・)』

 

ランサーの言葉に舞弥の腕時計盗聴器から会談を聞いていた切嗣も納得した。何故なら彼は秘密裏にソラウを誘拐し、それを餌にケイネスを謀殺しようと企んでいたからだ。

 

 

「まぁ、そういう訳だ。その事も含めて、この会談に割り込みたいんだが・・・構わないか、アーチャー?」

 

「フンッ・・・興が逸れたわ、好きにせい」

 

場の空気の変化を感じ取ったアーチャーは発射しようとしていた宝具を収め、壁に寄り掛かると瞼を閉じる。そんなアーチャーの行動を確認した雁夜は、ランサーの前へと歩き出す。

 

 

「両陣営の会談に割り込む形で申し訳ない。改めて、俺はバーサーカーのマスターをしている間桐雁夜だ。どうぞ良しなに・・・」

 

「ッ・・・」

 

「おお・・・ッ!」

 

両陣営の主要メンバーが視認出来る距離まで出て来た雁夜は、丁寧に作法を披露する。

その動作は洗練されており、アインツベルンの城を最初に訪れた時、アイリスフィールに対してペコペコしていた面影は全くと言っていい程に皆無であった。

ギロリと紅く光る左眼に艶やかな光沢を発する黒い右眼。ニコリと微笑む表情は白く変色した髪と相まって、不気味な程に印象深いモノである。まるで人間の皮を被った何かが佇んでいる様だ。

 

 

「(・・・ん? なんか、空気が重いぞ?)」

 

・・・勿論、本人にその気は一切ない。雁夜としては、いつも通りのただの自然体なだけなのである。なのに、お供で来たランサーまでもを含めた者が彼の言い得ぬ雰囲気に圧倒されていた。

其れ程までに雁夜の纏う雰囲気は逸脱していたのだ。

 

 

「・・・時臣」

 

「な、なんだねッ・・・?」

 

「貴様の方の話は終わったか? 俺もセイバー陣営と話がしたいんだが、構わん・・・よな?」

 

「あ、あぁ・・・」

 

己の変化に全くと言っていい程に気づいていない雁夜からの眼光にたじろぐ時臣を無意識の威圧で抑えつけるとセイバーの後ろにいるアイリスフィールの方へ顔を向ける。

 

 

「これはアインツベルンさん。聖杯問答の時は、庭を貸して頂きどうもありがとうございました」

 

「い・・・いえ(不気味だわ。本当にあの時の間桐と同一人物なのかしら? こんな男、初めて見るわ・・・!)」

 

まさか、お礼をされるとは思わなかったアイリスフィールは、此方に向けられる彼の笑顔が不気味でならない。そんな男からの話に余計に彼女は不審感を募らせる。

 

 

「(・・・あれ? なんかアインツベルンさん、顔が引きつってるけど・・・俺、なんかマズい事したかな? それになんか時臣の野郎も動揺している?・・・・・なんか知らんが、ザマァッ!)・・・ッフ・・・」

 

「ッ!(わ、笑った?)」

 

「(こんな状況で笑みを溢すとは・・・)」

 

「(流石は雁夜殿ッ。あのバーサーカーを手懐けている事はある!)」

 

自分の変化に全くと言っていい程に気づいていない雁夜は、因縁の相手である時臣が動揺する姿にニヤリと頬を緩める。その時の彼の表情を第三者から見ると余計に謎が深まるものであった。

 

 

「俺・・・いや、私達からの話というのも・・・遠坂と同じで、貴方方セイバー陣営と休戦協定を結びたいと思いまして。無論、遠坂か私達とのどちらか一方とですがね」

 

「ッ!?」

 

「なんですってッ・・・?!」

 

雁夜からの申し出に場は再び騒然となる。

聖杯戦争で残った五体の内、三体のサーヴァントが手を組んだ事で一大勢力となった同盟側。そんな彼らがセイバーと休戦協定を結んでしまったら、いくら英雄王をサーヴァントとして召喚したアーチャー陣営側としては不利になる事は明白だ。

 

 

「今更休戦協定など、どうしてッ?」

 

「それはお前もだろう時臣? というか、今はこっちが話しているんだ。邪魔するんじゃあない」

 

「なッ!?」

 

元はと言えば、雁夜が話に割り込んで来たのだが、完全に場は彼のペースに飲み込まれている。時臣が文句を言おうとしてもとても言える空気ではない。

 

 

「どうして貴方達も遠坂と同じように? 貴方達なら・・・」

 

「確かに、三体のサーヴァントが徒党を組んだ此方は一大勢力でしょう。ですが・・・()()決定打にかける。そうだろう・・・英雄王?」

 

「ククク・・・やはりか・・・」

 

雁夜が一転して語り掛けたのは、壁に寄り掛かるアーチャーであった。

二人のやり取りに訳が解らない時臣はアーチャーに聞く。どういう事だと。

 

 

「わからぬか時臣? 要するにコヤツらは、我に対しての包囲網を作ろうとしておるのだ」

 

「なんですと?!」

 

「雑種の集まりにしては、上出来な策だ。だが・・・貴様ら寄せ集め風情に、この我を倒せる等と本気で思ってはいまいな?」

 

ギロリと放たれる殺気と共にアーチャーの視線が雁夜に突き刺さる。並の者ならば、怯え縮んでしまう程だ。

 

 

「・・・ッフ。それはどうかな?」

 

『『『!?』』』

 

だが、雁夜は違った。アーチャーからの視線を返すように『笑った』のだ。

眼をしっかりと見開き、歯を見せて口角を限界まで吊り上げる。まるで、この空気を楽しむ『吸血鬼』のように。

 

 

「まぁ、そういう訳で・・・アインツベルンさん。私達との休戦協定、今この場で答えを出せとは言いません。『ご主人』と話あってからでも構いませんから」

 

「ッ!」

 

この言葉はアインツベルンに言った訳ではない。この場の会話を何処で潜んで聞いている本当のセイバーのマスター、切嗣に向けて言ったのだ。

 

 

「それじゃあ・・・私達はここいらでお暇いたしますので。ランサー」

 

「御意ッ」

 

それだけ言うと雁夜はランサーを連れて、何事もなかったかのように部屋から出ていく。彼の雰囲気に吞まれていた場は嫌に静かになった。

 

ガチャンッ

コツコツコツ・・・ザッ

 

「あァアアッ! 怖かったァア!!」

 

「か、雁夜殿ッ?」

 

一方、会談場所である教会の敷地内から出た雁夜は項垂れ、額からは大粒の汗がボタリと流れ出す。そんな彼の姿にランサーは戸惑いを覚える。

 

 

「(良かった。雁夜殿は人間味のあるお方だ)帰りましょう雁夜殿。桜殿が待っておられます故」

 

「あ・・・あぁ、すぐ帰ろう。当分こんなのはごめんだ・・・ッ!」

 

しかし、雁夜の人間臭い部分に安心したランサーは項垂れる雁夜を起こし、帰路へと進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





勘違いというのは、外と内のズレによって起こるモノである。


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契約




目覚めるは―――

アキト「どっちにしても穏やかじゃあない」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

ドゥルルルッ

 

闇夜に包まれた教会の駐車場にけたたましいエンジン音が轟く。

エンジン音の正体は大型バイクであり、座席には金色の髪を結ったサーヴァント、セイバーが跨っていた。

彼女の近くには、会談を共にしたアイリスフィールと舞弥がいる。

 

 

「どう、切嗣からの贈り物は?」

 

「車よりも、この騎馬に似た乗り物の方が私には性に合っているようです」

 

アイリスフィールの言葉にセイバーは満足そうに頷き、生前の時代にはなかった未知の乗り物に口角を緩めた。

 

 

「では・・・私が先行して、帰路の安全を確認して来ます」

 

ドゥルルルッン

 

 

そう言うとセイバーは初めてにしては慣れた手付きでアクセルを捻り、颯爽とバイクで駆けて行く。

 

 

「私達も行きましょう、舞弥さん」

 

「はい、マダム」

 

彼女が先に行ったのを確認した二人は、ここまで乗って来た車に乗り込む。

舞弥が車のエンジンを始動させ、これからアクセル履もうとした時であった。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

運転座席に座った舞弥の肩へ随分とやつれた顔をしたアイリスフィールが寄り掛かったのである。

 

 

「マダム?! どうしましたッ?」

 

「行って・・・舞弥さん・・・」

 

「しかし!」

 

「お願い・・・遠坂に不審がられるわ」

 

「ッ・・・はい」

 

驚きと心配に駆られた舞弥の声をアイリスフィールは諫め、車を発進させた。

 

 

「異常ではないのよ・・・舞弥さん。これは・・・予め決まっていた事なの。寧ろ、今まで()()()()機能できていた事が・・・私にとっては、奇跡みたいな幸運だったの・・・」

 

「・・・」

 

満月が煌々と照らす夜道を二人の乗った車が走り抜ける中、脂汗を額から一滴タラリと流しながらアイリスフィールが重々しい口を開く。

 

 

「私は・・・聖杯戦争の為に設計された『ホムンクルス』。それは貴女も知っているわね?」

 

「・・・はい」

 

「アハトの御爺様は、『器』其の物に生存本能を与え・・・あらゆる危険を自己回避して、聖杯の完成を成し遂げる為に・・・器に『アイリスフィール』という『儀装』を施したのよ・・・・・それが『私』・・・」

 

「ッ・・・そんな・・・!」

 

舞弥は切嗣からアイリスフィールがホムンクルスである事は知らされていた。しかし、彼女の人格其の物が造られた物であるという事は知り得はしなかった。

 

 

「では、貴女は・・・」

 

「これから先・・・私は、元の『物』に返っていくわ。次はきっと・・・こうして舞弥さんとお話しをする事も出来なくなるでしょう。だからこそ切嗣は、私にセイバーの『鞘』を預けたの・・・『アヴァロン』・・・その効果は知っている?」

 

「・・・はい。老衰の停滞と無制限の治癒能力・・・そう聞いています」

 

「その効果が・・・私の殻の崩壊を押し留めていてくれるの。最も・・・セイバーとの距離が離れてしまうと途端にボロが出てしまうんだけど・・・」

 

そう苦しそうに語り俯くアイリスフィールに舞弥はある疑問を投げ掛ける。何故にそんな事を自分のような者に教えてくれたのかと。

すると、彼女は少し微笑んで語った。

 

 

「『久宇 舞弥』・・・貴女なら決して、私を哀れんだりしない。きっと私を認めてくれる・・・そう思ったから・・・」

 

「ッ・・・マダム、私は・・・貴女という存在をもっと遠い存在だと思っていました」

 

「そんな事・・・ない。わかってくれた・・・?」

 

「はい。私がこの命に代えても・・・アイリスフィール、最後まで貴女を御守り致します。だから・・・だからどうか・・・・・衛宮切嗣の為に死んでください。あの人の夢を叶える為に・・・」

 

「ええ・・・・・ありがとう・・・」

 

舞弥の言葉にアイリスフィールは再び微笑んだ。この二人の間には、到底言葉に言い表す事のできない友情のような『絆』が結ばれていたのである。

そんな二人を乗せた車は、帰路を颯爽と駆け抜けて行った。

 

 

 

―――――――

 

 

 

一方、セイバー陣営と割り込んで来た雁夜との会談を終えたアーチャー陣営が筆頭である時臣は、会談が終わった教会で綺礼と共にいた。

 

 

「アインツベルンとの経緯・・・やはり私には一言欲しかった」

 

そう綺礼に語り掛ける彼の表情は、見た事もない程に苦々しいものであった。

それもその筈。折角秘密裏に行おうとした会談を何処から嗅ぎつけたか、自身に屈辱を与えた雁夜が割込み、あろう事かセイバー陣営との休戦協定を持ち込んで来たのだ。

加えて、自分の弟子が知らぬ所でセイバー陣営に喧嘩を吹っ掛けて因縁をつけているのだから。

 

 

「残念ながら・・・致し方あるまい。この戦いから身を引いてくれ・・・綺礼」

 

「・・・・・」

 

自分の弟子よりも聖杯戦争の勝負に拘った時臣は、同盟陣営よりも先にセイバー陣営との休戦協定を締結する為に綺礼を追放する事にした。

そのまま綺礼は自分の自室へと戻り、街を発つ準備を始める。

 

 

「ん?」

 

そんな彼が荷物を纏めている時、ある写真が目に入った。

写真には隠し撮りされた『ある男』が写っており、綺礼はその人物を食い入るように見詰める。その男の名は―――

 

 

「(―――『衛宮切嗣』・・・お前は何者だ?)」

 

綺礼は、この男に異様なまでの興味と執着心を持っていた。それが原因でセイバー陣営と深い溝を生む事になったのである。

しかし、冬木市を去る事になった彼にもうそんな事は関係ないと再び荷物仕度をしていた時であった。

 

 

「この期に及んでまだ思案か・・・鈍重にも程があるぞ、綺礼?」

 

「ッ・・・『アーチャー』・・・」

 

部屋の家具にいつの間にやら腰かけていたのは、自らの師のサーヴァント『アーチャー』。彼は、呆れた口調で綺礼に語り掛ける。

 

 

「今尚、聖杯はお前を招いている。そして、お前自身もまた・・・尚、戦い続ける事を望んでいる」

 

「・・・物心ついた時から、私はただ一つの探索に生きて来た。ただひたすらに時を費やし、痛みに耐え、その全てが・・・徒労に終わった。なのに・・・なのに今、私はかつてない程に問いただして来た答えを間近に感じている」

 

「フッ・・・そこまで自制しておきながら、一体なにをまだ迷う?」

 

「予感があるからだ。全ての答えを知った時・・・私は破滅する事になるのだと」

 

ジリリリッン

 

片手で顔を覆う彼に答える様に机の上の古めかしい電話が鳴る。彼は受話器を取り、相手の話を聞くと「わかった」と言って受話器を置いた。

 

 

「何か・・・余程、心浮き立つ知らせでも受けたのか?」

 

電話の内容が気になったのか、アーチャーは綺礼の肩へと顔を近づける。何とも邪悪な笑みを浮かべて。

 

 

「アインツベルンの連中が隠れ潜んでいる拠点の調べがついた」

 

「!。ハッハッハッハッハ!」

 

彼の言葉を聞いて、アーチャーは快闊な笑い声を上げながらソファへと寝転ぶ。

 

 

「なんだ、綺礼! お前というヤツはッ! ハッハッ、元より続ける覚悟なのではないか」

 

「迷いはしたさ。やめる手もあった・・・だが、結局の所・・・英雄王、お前の言う通り・・・私という人間は、ただ問い続ける事の他に正法を知らない」

 

ソファに寝そべったアーチャーに見せたのは、連なる鎖の紋様をした『令呪』であった。

 

 

「それは?」

 

「父からの贈り物だ」

 

その『令呪』は、教会内で銃によって射殺された聖杯戦争の監督である『言峰 璃正』から受け継いだものであったのだ。

彼の返答に満足したかのようにアーチャーは再び、快闊な笑い声を上げる。

 

 

「しかしな綺礼・・・それには忌々しき問題があるぞ?」

 

「問題?」

 

「お前が自らの意志で聖杯戦争に参ずるならば・・・いよいよもって、お前の師である遠坂時臣は敵であろうが。つまりお前は何の備えもないまま、敵対するサーヴァントと同室しているのだ。これは大層な窮地ではないか?」

 

彼の言う通り、綺礼が自らの意志で聖杯戦争に参加するのならば、目の前に寛ぐアーチャーに殺されても文句は言えないのだ。

 

 

「そうでもない。命乞いの算段くらいはついている」

 

「ほう?」

 

だが、そんな危機的状況にも関わらず。綺礼は思いのほか落ち着いていた。

 

 

「アーチャー・・・いや、ギルガメッシュ。お前が知らない聖杯戦争の真実を教えてやろう」

 

「真実だと?」

 

綺礼はソファに腰かけるアーチャーの右側の椅子に座ると魔術師達の聖杯戦争にかける思惑を話し始める。

聖杯戦争が召喚された7体のサーヴァントの魂を贄とする事で、『根源』と言われる物へ到達する大掛かりな儀式である事。何故に時臣が令呪の消費を渋っていた本当の理由を。

その真実を聞いたアーチャーは、瞼を閉じると俯いた。

 

 

「・・・時臣が我に示した忠義は、全て偽りであったという訳か?」

 

「結局の所・・・我が師は、骨の髄まで『魔術師』だったという事だけの事だ。英霊は崇拝しても、その偶像に幻想は抱かない」

 

「時臣め・・・最後に漸く見所を示したな。あの退屈な男もこれでやっと我を楽しませる事が出来そうだ」

 

騙されたというのにアーチャーの顔は、酷く可笑しく歪む。道端の石ッコロにも同じであった時臣への関心が、皮肉な事に漸く興味が向けられるようになったのだ。

 

 

「さて・・・どうする英雄王? それでも尚、お前は我が師に忠義建てして、この私の本意を咎めるか?」

 

「さぁ、どうしたものかな? 如何に不忠者とはいえ・・・時臣は今尚、我に魔力を貢いでいる。完全にマスターを見限ったのでは、現界に支障をきたすしなぁ・・・あぁ!」

 

「どうした?」

 

何かを思い出したようにアーチャーは、わざとらしい声を発すると自分の右側に座っている者を見る。

 

 

「そう言えば一人・・・令呪を得たものの相方がおらず、契約から外れたサーヴァントを求めるマスターがいた筈だったなぁ?」

 

「そう言えばそうであったな。だが・・・果たしてその男、英雄王の眼がねに叶うかどうか・・・」

 

「問題あるまい。堅物すぎるのが傷だが・・・前途はそれなりに有望だ。ゆくゆくは、この我を存分に楽しませてくれるやもしれん」

 

「フフフ・・・」

 

綺礼は今までの無とは違う表情をする。それは、底なし沼のように淀み切った眼のまま浮かべる人生で最初の心の底からの笑みであった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「待っていたよ、綺礼」

 

「冬木を退去する前に・・・一言、ご挨拶に伺いました」

 

朝陽もまだ顔を出さぬ翌朝。綺礼の姿は時臣の私室にあった。

時臣は訪ねて来た綺礼に日課となっている朝の紅茶を勧め、彼を自分の座っているソファの向かい側へと招き入れる。

 

 

「私は君に対して感謝と誇りを持っている。もし・・・あの時君がいなければ、私はあの卑劣な魔道の恥さらしに亡き者にされていたかもしれない。そんな命の恩人とも言える君を聖杯戦争から外すのは、私としても心苦しい。どうか今後とも、亡き御父上のように遠坂との縁甲を保っていって欲しいものだが・・・・・どうだろう?」

 

「はい。願ってもないお言葉です」

 

綺礼の返答に時臣は安堵の表情を浮かべた。

それもその筈。こうして話をつけていれば、例え今回の聖杯戦争で聖杯が得られなくても次回の聖杯戦争でまた、監督側の助力が得られるのだから。

 

 

「今回の聖杯戦争が終わった後も・・・綺礼。君には兄弟子として我が子、凛の指導にあたって欲しいのだ」

 

そう言って時臣が綺礼に渡したのは、一通の封筒。

 

 

「まぁ、簡略ではあるが・・・遺言状のようなものだ。万が一・・・という事も踏まえておくべきだと思ってね。内容は、凛に遠坂の家督を譲る旨の署名と成人するまでの後継人として・・・綺礼、君を指名しておいた」

 

「・・・お任せを。ご息女については、責任を持って見届けさせて頂きます」

 

「ありがとう、綺礼」

 

『万が一』の確認を終えると時臣は、ある木箱を綺礼に差し出す。箱を開けてみるば、中には一本の剣が丁寧に納められていた。

 

 

「これは?」

 

「『アゾッド剣』だ。君が遠坂の魔道を納め、見習いの過程を終えた事を証明する品だ」

 

「至らぬこの身に重ね重ねの御厚情・・・感謝の言葉もありません、我が師よ」

 

「君にこそ感謝だ。我が弟子、言峰綺礼。これで私は、最後の戦いに望む事が出来る。」

 

「・・・・・」

 

障害を排除し、絶大なるアーチャーの力と共に自らの戦場へと赴く事を決意した時臣。・・・だが、時臣は気づいてはいなかった。渡された品を吟味する淀み切った眼を。

 

 

「もうこんな時間か。飛行機の時間に間に合うと良いのだが・・・」

 

「いえ・・・心配は無用です・・・我が師よ」

 

ザクリッ!!

 

自室の時計を確認し、綺礼を送り出そうとする彼の背中に衝撃が走った。

 

 

「あ・・・が・・・ッ!!?」

 

衝撃のはしる背中からはポタリポタリと鮮血が流れ落ちる。彼の背中に刺さっていたのは、先程自分の弟子に送った筈のアゾッド剣。そして、その剣を握る歪み切った表情の人物は・・・

 

 

「き・・・綺礼・・・?!!」

 

「元より飛行機の予約などしておりませんので・・・」

 

ザクッ!

 

綺礼はそのまま心臓を抉る。

肉塊と成り果てた遠坂時臣だったものは、短い断末魔を発して床に崩れ落ちた。

 

 

「師よ・・・貴方も我が父と同じ。最後の最期まで、私という人間を理解できなかったのですよ」

 

人を・・・ましてや自分の師を殺したというのに、綺礼の顔は朗らかだ。生まれて初めて感じる、満ち足りた『充実感』が心の底から溢れ出るのだから。

 

 

「何とも興ざめであったな。見よ、この間抜けた死に顔を」

 

物言わぬ肉塊の隣に現界したのは、綺礼を『其方側』へと誘ったアーチャー。彼は、つまらなさそうに横たわる屍の顔を踏みつけた。

 

 

「すぐ傍に霊体化したサーヴァントを侍らせていたのだ。油断したのも無理はあるまいて」

 

「早くも『諧謔』を身に付けたか・・・その進歩ぶりは褒めてやろう。どうだ綺礼、父親を殺められなかった悔しさが、少しは晴れたか?」

 

「・・・フッ・・・」

 

アーチャーの言葉に笑みで答えを返した綺礼は、彼に対して語り掛ける。「異存はないのか」と。

するとアーチャーは、ばかに嫌な笑みで答える。

 

「お前が我を飽きさせぬようにおいてはな。さもなくば綺礼・・・・・覚悟を問われるべきは、寧ろお前だぞ」

 

・・・と。

彼の言葉に綺礼は再びほくそ笑むと令呪が刻まれた右腕を彼に差し向け、詠唱していく。

 

 

「『汝の身は我がもとに。我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、今宵この理に従うのなら』」

 

綺礼の詠唱に続けて、アーチャーもまた詠唱する。

 

 

「『誓おう。汝の供物を我が血肉と為す』・・・言峰綺礼、新たなるマスターよ」

 

キィイイッン

 

彼の言葉を確認したように令呪が赤い光を放つ。

 

 

「さぁ、綺礼・・・始めるとしようか。お前の采配で見事、この喜劇に幕を引くがいい。褒美に聖杯を賜そう」

 

「異存はない。英雄王ギルガメッシュ、お前も精々楽しむ事だ。望む答えを得る其の時まで・・・この身は、道化に甘んじるとも」

 

両者ともこれまでにない笑みを浮かべる。

結果として、遠坂時臣は最後の戦いに赴く前に皮肉にも恩人である自らの弟子によって最期を迎え。弟子である言峰綺礼は、自らの望む答えの為にアーチャーと新たなる契約を結んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 







―――現在の簡易状況情報―――

間桐雁夜:バーサーカーを含め、計6体保有。『魔術師もどき』から『魔導士』へ昇格。

ウェイバー・ベルベット:ライダーを保有。様々な人物と関わり、心境変化中。

ケイネス・エルメロイ・アーチボルト:ランサーを保有。重傷患者。

衛宮切嗣:セイバーを保有。バーサーカーに惑わさせながらも望みの為に健闘中。

言峰綺礼:アーチャーを保有。自らの師からサーヴァントを奪い、外道スキルが覚醒。


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招かれざる者




雁夜おじさんの耐久が『E-』から『E+』にアップ。

アキト「そんなに変わってない」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「むゥ・・・」

 

「WRY~・・・」

 

セイバー・アーチャー陣営の会談に割り込んだ翌朝。

武家屋敷に改造された間桐邸の庭にて、白髪オッドアイの雁夜が黒髪紅眼のサーヴァント、アキトを睨んでいた。

 

 

「・・・」

 

「雁夜さん・・・」

 

「見ものであろー」

 

「まったくよのォ」

 

そんな二人を心配そうに見詰める桜とウェイバー。二人の後ろの縁側には、雁夜とアキトの雰囲気を興味深そうに見つめているドンとライダーが鎮座している。

 

 

「それでは両者・・・準備は良い?」

 

「・・・あぁ・・・」

 

「おん、いつでも良いぜい」

 

睨み合う二人の間には燃える様な赤い髪のシェルスがおり、両者の具合を聞くと両手を蒼空へと上げた。

 

 

「それじゃあ・・・・・始めッ!」

 

「『緋文字・十文字殲滅槍』ッ!!」

 

ドバシュッ!

 

彼女の掛け声と同時に雁夜は自らの有する滅血魔法の内、最大の威力を誇るものを特殊な器具がはめ込まれた左掌から発射する。発射されたそれは、十字型の巨大な槍であった。

 

 

「『血液造形魔法(ブラッドメイク)(シールド)』」

 

バギャァアッッン!!

 

「WRYッ!?」

 

アキトはその攻撃を造り出した盾で防御する。すると十文字槍はそのまま血飛沫となって弾け、彼の目の前を覆う。

 

 

「何だこりゃッ? あ、なんか口に入った・・・病人の味がする」

 

「オオヲオォォッ!」

 

雁夜は、目くらましの血飛沫が口に入った事を気にしているアキト目掛けて武装した左腕を突き上げ突進する。

その速度たるや正しく電光石火の如くであり、当たれば鋼鉄さえもブチ破る威力を有していた。

だが・・・

 

 

「無駄」

 

ガン!

 

「たわばッ!?」

 

「「雁夜(おじ)さんッ!!」」

 

颯爽と此方に駆け抜けて来た雁夜の頭にアキトは容赦なく拳骨を落す。動作こそ単純ではあるが、彼の筋力がAな為に拳骨の衝撃で彼の頭は庭にめり込んでしまう。

そんな雁夜を心配して、桜とウェイバーが駆けつけた。

 

何故に如何してどうしてこうなったのかと言うと・・・それは昨夜に遡る。

 

昨夜のセイバー陣営とアーチャー陣営の会談に割込み。命かながら屋敷に帰って来た雁夜は、帰って来るなりアキトの顔面目掛けて拳を放った。

割り込んだ時、アーチャーに半ば殺されそうになったのだ。それをそうなるだろうと解っていたアキトに対する文句の一発だったのであろう。しかし、拳は空を掠め、逆に額に鋭いライダー直伝のデコピンを喰らい床にキスをしてしまう。

「カカカ♪」と独特な声色で嘲笑うアキトに無性に腹が立った雁夜はそれから何度も殴りかかる。だが、異常な反射神経を持った彼にあたる筈もなく、雁夜は体力切れで倒れた。これでは埒があかないと判断したドンは雁夜の気持ちを汲み取り、翌日に二人の決闘をする事にしたのであった。

こうして冒頭に戻る。

 

 

「大丈夫ですか雁夜さん?! バーサーカー! お前、自分のマスターなんだから手加減しろよバカッ!」

 

「おん? 勿論手加減したよ。手加減してなきゃ、マスターの頭がザクロになってたぜ」

 

「お前なァア!!」

 

「アーカードのばか・・・」

 

ぺシ

 

「・・・おう」ガク

 

文句を言うウェイバーを押しのけ、桜が小さな手でアキトの頬を叩いた。

無論、彼女の叩き攻撃など今まで銃撃やら剣撃やら爆撃やら毒撃やらを受けて来た彼には蚊に刺される以下である。が、『幼女』に叩かれるという行為が精神的にクルものであった為、その場に膝をついたのだった。

 

 

「はい。この勝負、桜の勝ち~」

 

「おお~」

 

そんなやり取りを間近で見ていたシェルスはしゃがみ込み、桜の腕を高らかに持ち上げる。

そうして、この決闘は乱入して来た桜の勝利で幕を引いたのだ。

 

 

「いや、それよりも! 雁夜さん大丈夫ですか?!!」

 

「・・・あ・・・もうダメ・・・」ガク

 

「か、雁夜さァアアんッ!!」

 

 

 

―――――――

 

 

 

「・・・てな事があったであろー」

 

「ほう、そんな事があったのですか。検査が無ければ、私も見てみたかったですな」

 

「主、紅茶のお代わりは?」

 

決闘後、ドンは朝の精密検査を終えたケイネスに彼等の事の詳細をアテに紅茶を啜っていた。

ケイネスの傍には執事服に身を包んだランサーが控えており、空になったケイネスのティーカップに紅茶を勧める。

 

 

「いや、いらぬ。私はこれからソラウの所へ行く、貴様はついて来るな。それではドン、失礼」

 

「あろー」

 

「・・・・・」

 

ランサーの勧めを冷たくあしらったケイネスは、ソラウが隔離されている部屋へと車椅子を自力で進めていった。

そんな彼の後ろ姿をランサーは名残惜しそうに見ている。

 

 

「ランサー、お主も大変であるな。ケイネスも根は悪いヤツではないのであろうが」

 

「いえ、構いはしません。それよりも・・・あれは大丈夫なのですか?」

 

「あろ?」

 

二人の目線の先には、アキトと桜に団扇で扇がれ、顔面にアキトの気化冷凍法で凍ったビニール袋を乗せられた雁夜がソファに寝転んでいた。その隣にはライダーとウェイバーがアドミラブル大戦略を協力プレイし、キッチンではロレンツォとシェルスが決闘前に食べた朝食の食器を洗っていた。

 

 

「構わんであろー。雁夜は軽い脳震盪、アキトも反省しているから大丈夫であろー」

 

「は、はぁ・・・」

 

目の前の場景に今まさに聖杯戦争が行われている事が嘘のようだとランサーは感じた。それ程までに和やかな雰囲気が辺りに立ち込められていたからである。

 

ピンポーン

 

「おん? なんだ、この朝っぱらから?」

 

そんな時である。玄関から甲高いインターホンの音が響き渡って来た。

アキトは誰だろうと新たに設置したカメラホンで玄関先にいる訪問者の顔を確認する。

 

 

「なッ!? テメェは!!」

 

『・・・・・』

 

カメラの先にはカソックに身を包んだ聖杯戦争の監督側にして、元アサシンのマスターである冬木教会の・・・

 

 

「『言峰綺礼』・・・ッ!」

 

この日、聖杯戦争において最も危険視するべき招かれざる者が、聖杯戦争史上類を見ない異常マスターの本拠地を尋ねて来た。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 







ここで雁夜おじさんのステータス変化。

【名前】間桐雁夜

【クラス】魔術師もどき⇒魔導士

【ステータス】

■筋力:E⇒D
■耐久:E-⇒E+
■敏捷:D-⇒C
■魔力:D⇒A

【保有スキル】

■滅血魔法:A
魂の通貨である血を具現化できる魔法。

■スルースキル:A
目の前に人語を理解する二足歩行の山羊がいてもパニックにならない。

■無自覚:B
自分の変化に疎い。朴念仁化する一歩前。

■覚悟:B+
目的の為に自らに立てた強い意志。
ランクが高ければ高い程、身体能力全般が大きくランクアップする。


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面倒事




今回は独自解釈があります。

ドン「あと今回のアキトは口が悪かろー」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

ゴクッ・・・

 

「うむ・・・美味い水だ」

 

「そりゃあ世界に誇る日本の水道水だもの。美味くて当然だ、この野郎」

 

「コラ、バーサーカー。喧嘩腰過ぎるぞ」

 

玄関から客間へと通されたアーチャー陣営である言峰綺礼は、雁夜と対する形でソファに座っている。そんな綺礼に雁夜の横にいるアキトが今にも飛びかかって来そうな血走った眼で睨み抜いていた。

 

 

「すまない、言峰。ウチのバーサーカーが」

 

「いえ、構わない。アーチャー陣営の者である私を警戒するのは当然だ」

 

「WRYYY・・・」

 

アキトが敵意剥き出しなのは、彼がただのアーチャー陣営の者だけではないのだけれど・・・ここでは割愛する。

 

 

「それで言峰・・・時臣からの伝言とは?」

 

「時臣師からの伝言というのは其方、間桐の家へ養子に出した師のご息女、桜さんに関する事だ」

 

「良し。コイツ殺そうぜマスター」

 

時臣からの言伝というものが綺礼の口から発せられた瞬間。アキトは当然のように懐からナイフを取り出し、人間が認識できない速度で彼の喉元へと押し当てた。

 

 

「!?」

 

「なッ!? お前、何やってんだよバーサーカー?!!」

 

「止めるなよマスター。どうせあのネグレクト野郎事だ。優雅なんてほざく時代遅れの粗末な感性で、桜をまた道具に使うんだろうよ。んな事させるかボケェ! ここは古今東西由緒正しき宣戦布告に倣い、この首をちょんぱし、丁寧に包装梱包して送りつけてやるわッ!! 大丈夫。首ちょんぱした後の胴体は、俺が美味しく食して証拠隠滅するからッ!」

 

「なにを怖い事言っているんだ、バカ! そんな事する訳いかないだろうが!! 良いから言峰を離せバーサーカーッ!!」

 

「限界だ! 殺るねッ!!」

 

加減無しの彼がこのままナイフを引けば、頸動脈どころか骨までをも巻き藁のように切断してしまう。そうなれば、だいぶクリーニング代が高くつく。

 

 

「令呪を持って命じる! 『バーサーカーよ、控えろ』!!」

 

ドタッン!

 

「ゲばッ!!?」

 

間一髪。首筋に刃が当たる寸前に雁夜は令呪を使い、アキトを床に叩きつけた。

 

 

「ま、マスターッ・・・テメェ、この野郎・・・ッ!!」

 

「そこで控えておけバーサーカー!」

 

「・・・ッ・・・」

 

まさか、話の開始早々に首を切断しようとしてくるとは思わなかった綺礼は、自分の頭と首が未だ胴体にくっ付いている事を確認する。

そうしていると雁夜が彼に対して、深々と頭を下げた。

 

 

「大丈夫か、言峰?!! 本ッッ当にすまない、ウチのバーサーカーがッ!!」

 

「は・・・はぁ・・・」

 

バーサーカーの行動への素早い対応と物凄い勢いの謝罪。

流石は聖杯戦争史上類を見ない異常バーサーカーの手綱を握るマスターかと綺礼にしては珍しく呆気に取られる。

 

 

「マスター、そんなヤツに謝ってるんじゃあねぇ・・・ッ!」

 

「喧しい!! お前はそこで大人しくしてろ! 頼むからッ!・・・ゴホンッ・・・それで言峰、桜ちゃんに関する事ってなんだ?」

 

「え? あぁ、はい・・・時臣師は、桜さんを遠坂家に戻したいとの託だ」

 

「やっぱりかこの野郎! そんな大事な事は、菓子折りの一つや二つ持って本人自身が出向くのが筋じゃあないのかこの野郎ッ! 嘗めてるだろッ、ウチのマスター嘗めてるだろう糞ッタレの✖✖✖✖✖ッ!!」

 

「黙ってろって言ってるだろうが!! だが・・・バーサーカーの言う通り、自分の娘の事なんだから、時臣自身が来るのが当然じゃあないのか?」

 

「それはごもっとも・・・しかし、時臣師は間桐雁夜・・・貴殿から受けた傷が昨日の会談後に開いてしまい、現在は安静にしている。なので、私がこうして伺ったという訳だ」

 

「なるほどな・・・」

 

雁夜は綺礼の言葉に納得してしまう。

実際、時臣は会談の時に平静を装ってはいたが、どこか具合の悪そうな顔をしていた事を覚えていたからだ。

だが・・・彼は知らない。その時臣は既に・・・・・

 

 

「つまり、今度は時臣が用意した場所で詳しい話をしようっていう算段か?」

 

「話が早くて助かる。今夜12時、冬木教会で話したいとの事だ。勿論、一人で」

 

「・・・・・」

 

雁夜は押し黙る。

サーヴァントを引きつれずに一人で教会に来いというのは、明らかにその場所に『罠がありますよ』と言っているようなものだ。例え、そこに罠がなかったとしても警戒するのは当然であった。

 

 

「ハッ! 驚いた、ここまで見え見えなフラグを言っちまうヤツがいるなんてよ~。トンだマヌケだ! 言葉に乗るなよマスター、明らかに騙し討ちをしようっていう罠だからよ~!」

 

「確かにそう思うのは自然だ。だが、間桐雁夜? 我が師がその様な卑怯千万な振る舞いをすると思っているのか?」

 

「それは・・・ッ」

 

雁夜自身、罠だとは疑っている。しかし、時臣がその様な事をするとは到底思えなかった。何故なら遠坂時臣という人物は、コテコテの『魔術師』であるからだ。

 

確かに時臣は時代遅れで魔道に毒された思考を持ってはいる。だが、彼が『常に優雅たれ』を家訓とし、正々堂々を基本とする性格であるという事を雁夜は知っている。

どこぞの『魔術師殺し』でもない限り、騙し討ちはしてこないだろう。

 

 

「それでも疑うのならば仕方はあるまい。だが、これだけは渡して置くぞ」

 

「え?」

 

シュゥウッン

 

呆ける雁夜の手の甲に綺礼が自分の掌を重ねると赤い光が放たれた。すると雁夜の手の甲に刻まれた令呪が二画回復したのだ。

 

 

「これはッ!?」

 

「時臣師からの贈り物だ」

 

「・・・・・ッ」

 

「それでは、私はこれで失礼する。確かに伝えたぞ、間桐雁夜」

 

ガチャリッ

 

「おわッ!?」

 

「ウェイバー君ッ?」

 

綺礼がソファから立ち上がり、扉を引き開けると何故か、ウェイバーが倒れ込んで来た。

何故、彼がここにいるのかというと中の会話を聞いていたからだ。そこへ綺礼が扉を開けたものだから倒れてしまったのである。

 

 

「君は・・・あぁ、ライダーのマスターであるウェイバー・ベルベットだったかな?」

 

「!?。どうして、僕の名前を・・・?!」

 

「私は元とはいえ、アサシンのマスターであったからな。聖杯戦争に参加しているマスターの顔くらいは知っている」

 

「ッ・・・」

 

「この後も私は用があってね。そこを通してくれないかね?」

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

ウェイバーの身体を押しのけ、客間から玄関へと移動する綺礼。その後ろを雁夜とウェイバーがついていく。

 

 

「・・・そうだ・・・」

 

「「え?」」

 

玄関で靴を履いた所で、綺礼が何かを思い出したように振り返った。

 

 

「先々日。教会内で私の父、言峰璃正の亡骸が発見されたのだが・・・何か知らないかね?」

 

「「ッ!!」」

 

知っているもなにもその人物は先日、同盟を結んだランサーのマスター、ケイネスなのだ。

それを馬鹿正直に伝える訳もなく、出来る限りのポーカーフェイスで「知らない」と単調にあしらう。対して、彼等の返答を聞いた綺礼は、そのまま間桐邸を後にしたのだった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「ダメだからな」

 

「ちょッ、まだ何も言ってない!」

 

綺礼が帰った数刻後。

ドン達やライダーとお人形遊びをする桜を奥にアキトがキッパリとなにか言いたげな雁夜へ言い切った。

 

 

「どうせ、今夜の12時きっかりに冬木教会へ行こうって算段だろう? やめとけ、やめとけ。碌な事になんねぇよ。ていうか罠だから、絶対罠だから。2万円賭けてもいい」

 

「だが・・・もし時臣のヤツがあれで心を入れ替えてくれたなら、桜ちゃんを葵さんの元へ返せるかもしれないんだぞ?」

 

「そういう事なら私は反対よ」

 

雁夜の言葉に否を唱えたのは、意外にもシェルスであった。

まさか彼女が発言するとは思っていなかった二人は自然と其方へ顔を向ける。

 

 

「ど、どうしてだよガンナー?」

 

「私は雁夜のいう遠坂葵がどういう人間か知らないわ。でも、これだけは言える・・・その女は、自分の子供を容易く『捨てた』のよ」

 

「なッ!?」

 

そんなシェルスの言葉に雁夜は言いようのない拒絶感を覚えた。

自分の想い人である人を貶されたのもあるが、何よりもそれは雁夜にとって受け入れ難い言葉であったからだ。

 

 

「それは違うぞ、ガンナー! 葵さんだって、何も簡単に間桐へ養子に出したんじゃあない!! 大方、時臣に言われて・・・」

 

「その糞ッタレの時臣に言われて、異を唱えずにノコノコ簡単に桜を手放したの?・・・フザけるんじゃあないッ・・・!!」

 

「!」

 

シェルスはキレた。眼を紅く光らせ、牙を剥き出しにし、酷く恐ろしい形相で静かに唸りを上げたのだ。

 

 

「いい雁夜? 子供は親を裏切っても良いの。でも、親が子供を裏切っては絶対にいけない。ましてや、子供を一番大切にしなくてはならない母親なら尚の事。それなのに・・・」

 

「違う! 葵さんは・・・葵さんはそんな人じゃあない!! 彼女にだって何か事情があった筈だッ!」

 

「自分の子供を平然と地獄のような場所へと遅れる。そんな事情があるのなら聞いてみたいものだわ! その事情とやらのせいで、桜は糞以下の悪夢にとり憑かれたのよ!!」

 

「ッ!!」

 

シェルスのそれは所謂『正しき怒り』であった。子供を傷つけられた親のさも真っ当な『憎悪』であった。

雁夜はどうしても彼女の言葉を否定したい。自分の想い人というだけではなく、桜の実の母親としての遠坂葵という人間を信頼していた、期待をしていた。

だが・・・

 

 

「そんなんじゃ・・・そんなじゃない・・・・・くッ・・・!」

 

言葉が出なかった。

一昔の自分なら考えられない、自分でも解らない感情がシェルスの言葉をしっかりと受け止めていたからだ。

そんな訳の解らない感情に飲み込まれ、遂に雁夜はその場を後にした。

 

 

「あ~あ・・・どうしたよシェルス? いつになく感情的だったけど?」

 

「・・・ごめんなさい。桜の事を思っていたら・・・なんだか・・・」

 

「いんや、謝ることじゃあないよ。マスターも薄々勘付いていたけれど、考えない様にしていたんだろうな。・・・・・おん?」

 

ここでアキトは何かに気づく。自らの保有スキル『直感』が反応したからである。

 

 

「(もしかして、さっきのやり取りで焚きつけられて)・・・な訳ないよな~?」

 

ガチャ

 

「おい、バーサーカー。なにか雁夜さんがスゴイ勢いで、玄関から出て行ったんだが良かったのか?」

 

「・・・こういう時ぐらい外れろよ・・・畜生め!」

 

「ごめん、アキト」

 

「ど、どうしたッ?」

 

部屋に入って来たウェイバーに自らのスキルが調子が良い事を改めて確認したアキトは顔を掌で覆った。

 

 

「(ああ・・・追いかけないと・・・)なんでもない。大丈夫だ」

 

「そ、そうか。あとバーサーカー」

 

「おん、なんだよ?」

 

「ノアから伝言だ。『ミニ首領32号機の反応がロストした』だってよ。あのロボット、まだあったんだな」

 

「・・・あ”?」

 

ウェイバーを通してのノアからの伝言を聞いて、今度こそアキトは愕然とした。

そう、またしても『面倒事』である。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





どこへ行くのだ雁夜おじさん(強化)?!

そして、新たな面倒事とは?!

アキト「全ては外道スキルを持ったあの野郎のおかげ」


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理由




悩める彼は、思い出の場所である人物に出会う。

ドン「意外な人物であろー」

今回も独自解釈があります。では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「・・・・・」

 

空が青から朱に染まる頃。

間桐邸を飛び出した雁夜は一人、ある公園に来ていた。

その公園は昔、間桐桜がまだ『遠坂桜』だった頃、彼女の母親と姉である遠坂葵と遠坂凛と共に遊びに来ていた思い出の場所であった。

 

当時、雁夜はフリーのルポライターの仕事で日本に帰っていた。

悪夢のような忌々しい思い出しかなかったこの国にたった一つの美しい場景と記憶に残っているのならば、それはこの公園で一緒に葵や凛、そして桜達の写真を撮りためた事であろう。

その撮りためた写真一枚一枚が、自分では到底手に出来そうにない『温かさ』があった。

 

だからこそ桜が間桐の養子に出された事を知った時、全身からこれでもかと云う位に嫌な汗が噴き出した。間桐臓硯という闇に支配された家に幼い身体が預けられた事に恐怖し、怒りが込み上げたのだ。

しかし・・・その感情は()()()()()向けられたものだったのだろうか。

 

勿論『恐怖』という感情は臓硯に向けられたモノである。

500年という年月をかけ、不老不死の為に人間をゴミのように扱って来た『化物』に対するものであった。

ならば、『怒り』は誰に対して向けられたものなのか。

 

実子である桜を間桐の養子に出す事を決めた遠坂時臣に対してか? 自身の欲望の為だけに桜の身体を汚し、心を壊した間桐臓硯に対してか?

それとも・・・そんな事など何も知らず、自分が魔道から逃げたせいで幼い桜に地獄の悪夢を背負わせた間桐雁夜(自分自身)に対してなのか?

 

『仕方がないの。これも魔術師の家に生まれた運命なの』

 

これは間桐の家に桜が養子に出された事を初めて知った雁夜に葵が言った言葉だ。

その時は時臣に対する怒りで流してしまっていたが、今思い返してみると、その言葉はおかしいものだった。

一家の長である時臣からの言葉とはいえ、自分の子供を簡単に手放すだろうか。其れ程までに『魔術』という代物は崇高で立派なものなのだろうか。

 

『否』だ。

大昔の封建制度の残る時代ならいざ知らず、今は基本的人権が叫ばれる現代だ。人の命、ましてや子供の命が危険に晒される事などあってはならない。

 

『アンタが戦う理由はなんだ、マスター?』

 

勿論決まっている。

桜を泥の様な悪夢から救い出す事だ。が、同時に雁夜は葵に認められたいという下心を持ってもいた。

自分が幼い頃から憧れと好意を持った想い人である葵にただ認められる事が出来れば、雁夜はそれだけで良かった。それが、想いを伝えられない彼に出来る精一杯の行為であったからだ。

そこへシェルスのあの言葉だ。

知ったかのように葵を語る彼女に憤りを覚えたのは、想い人を貶された事に対する怒りであった。しかし、シェルスの言葉は的を射ているのも事実であった。

 

間桐へ桜を養子に出すという時臣の方針を葵は突っぱねる事が出来た筈だ。それなのに彼女は二つ返事でそれを了承してしまい、こんな状況になってしまった。

自分があの場にいなかった時、あの時臣の暴挙を止める事が出来たのは葵だけだったのだから。

 

 

「違う・・・そんな事はない・・・・・そんな事はない筈だ・・・ッ!」

 

雁夜とて大人だ。頭では理解している。だが、彼の心がそれを拒んだ。

淡い幻想だとしても自分の想い人が、桜の心を壊した事への原因をつくっているとは思いたくない。だが、思えば思う程に嫌な坩堝へとはまっていった。

 

 

「カリヤ・・・カリヤではないですか?」

 

「・・・え?」

 

そんな夕焼けに染まる公園のベンチで一人思い悩む彼に声をかけたのは、ブラックスーツに身を包んだ金砂のような髪を持つサーヴァント『セイバー』であった。

 

 

「せ、セイバー?! どうしてここにッ?」

 

「あ、落ち着いてください。私はただ偵察で・・・」

 

「・・・ッ」

 

雁夜は思わず距離をとり、警戒態勢を露わにする。

魔法を行使できる雁夜といえど、最良のサーヴァントにして最上級の宝具を持つセイバーには分が悪い。それに彼女の本当のマスターはケイネスの魔術回路をズタボロにした衛宮切嗣だ。その彼が何処かで自分を狙っているかもしれない。

雁夜はどうにかこの状況を打破しようと思考回路をフル回転した。

 

 

「・・・隣、いいですか?」

 

「え・・・」

 

「大丈夫です。切嗣は、私とは別行動をしていますので」

 

「・・・」

 

そんな焦る雁夜を横目にセイバーはベンチへと腰かける。雁夜も敵意のない彼女の行動に恐る恐る隣に座った。

 

同盟や休戦協定もしていない敵対する陣営、しかも力関係が大きく違うマスターとサーヴァントが同じベンチに座っている。

傍から見れば、一組のカップルがベンチを利用している様だ。しかし魔術師サイドからみれば、いつ圧倒的力を持つサーヴァントに殺されてもおかしくない状況に変わりはない。にも拘らず、雁夜は警戒心をゆっくりと解いていった。

何故かはわからないが、雁夜はセイバーを心のどこかで信用していたのだ。

 

 

「こうして、ゆっくりと話すのは初めてですね」

 

「そ・・・そうか?」

 

「はい。箱庭の時はそれどころではありませんでしたし、教会では顔を合わせるだけでした。だから、こうして話をするのは初めてです」

 

「・・・そうか・・・そうだよな・・・・・」

 

「?」

 

セイバーは項垂れる雁夜に違和感を感じる。

それもその筈。彼女が今まで見て来た彼の姿は、どれもあの異常なサーヴァントの手綱を持つに相応しい風格を漂わせていた。ところが、今セイバーの隣にいる雁夜は別人のように弱々しい姿をしていた。

 

 

「カリヤ・・・その・・・何かあったのですか?」

 

「え・・・それは・・・」

 

「君には関係ない」とこの時の雁夜は言えただろう。

敵に弱さを見せればそこに付け込まれる聖杯戦争において、弱い自分を敵サーヴァントに話すなど致命的なものだ。

 

 

「・・・わからなくなったんだ・・・自分が一体何の為に戦っているのかが・・・」

 

「え・・・」

 

しかし、雁夜は自分の内をセイバーに話す事にした。

誉を良しとしている騎士達を束ねる王であった彼女ならば、人の弱みに付け入るような卑怯な行いはしないと直感的に感じ取ったからだ。

 

そこから雁夜は自分の思いをツラツラとセイバーに話し始める。

魔道の落伍者だった自分がどうして聖杯戦争に参加を決意をしたのか。大切な者を守る為と言いながら、殺す力を得ようとした事を。そして・・・覚悟した今になって、戦う理由を見失いかけている事を。

 

 

「俺は聖杯にかける願いなんてない。・・・ただあの娘を・・・桜ちゃんを家族の元へ帰したかっただけなんだ。・・・でも、それさえも解らなくなった・・・」

 

口から放たれる言葉一つ一つが重度の病人のように弱々しく、咎人のように懺悔するものだった。

 

 

「バーサーカーから力を得ても・・・俺は結局、弱いままだ。あの時の・・・無力な自分のままだ」

 

「それは違います」

 

「どうして・・・? バーサーカーから力を得た時に覚悟を決めた筈なのに・・・俺は・・・・・」

 

「いいえ。カリヤ、貴方は強いです。恐らく、この聖杯戦争に参加しているマスターの誰よりも」

 

「!」

 

セイバーはハッキリとそう言い放った。

あんまりにもハッキリというものだから、雁夜は少々呆気に取られる。

 

 

「確かに貴方の話を聞く限り、最初はアーチャーのマスターに対しての私怨があったでしょう。しかし根底には、サクラというたった一人の少女を救う思いがあった筈です」

 

「!。それは・・・」

 

「その思いをあの男は・・・バーサーカーは感じたのではないでしょうか。だから貴方に力を与えた。貴方の『覚悟』を讃えた」

 

「・・・・・ッ」

 

「誇ってください。貴方は『高潔な魂』を持った御人です」

 

セイバーは先程の弱々しい雁夜の言葉を聞いて納得した。彼が何故に強大な力を持ったサーヴァントと渡り合えるのか、どうしてあんな風格を纏う事が出来るのか。それは間桐雁夜という者が、『大切な人々を思いやる優しさの心』と『目の前の恐怖に屈しない勇気』を持っている人間であるからだ。

 

 

「だから、自分をそう卑下しないでください。それに弱い弱いという貴方に助けられた私は一体何だというのです。それは騎士王たる私への侮辱だ」

 

「・・・ハ・・・ハハハ・・・ッ」

 

「な、なにが可笑しいのですか?!」

 

「いや、すまない・・・随分と堅苦しい励ましかただと思ってね」

 

「むぅ・・・それは・・・」

 

「・・・・・」

 

雁夜は思い出す。桜が傷つけられている事を知った時に湧き上がった最初の『怒り』を。

それは固定の人物に対して向けられる感情ではなかった。言うなれば、『桜を傷つける全ての人間』に対して向けられた『怒り』であった。

 

 

「礼を言うよ、セイバー」

 

「はい?」

 

「俺が戦う理由は、とっくに決まっている。君のおかげで改めてそれが認識できたよ。だから、ありがとう・・・君が敵じゃあなかったら良かったのに」

 

「え・・・」

 

『桜の為に生きる』。それが『魔導士・間桐雁夜』の戦う理由。彼の中で消えかかっていた『覚悟の炎』が、再び燃え上がった。

 

 

「そうと決まれば・・・行くか」

 

「どこへ?」

 

「『けじめ』とやらを着けにね」

 

そう言って雁夜はベンチから立ち上がり、思い出の公園を後にする。

 

 

「・・・雁夜、それは私も同じ事です。・・・貴方が私のマスターならば、良かったのに・・・・・」

 

そんな立ち去っていく雁夜の背中を眺めながら、セイバーは一人呟いた。

 

 

「・・・・・ッ」

 

雁夜は進んで行く。自らの因縁にけじめを着ける為に。

・・・だが・・・彼は知らなかった。けじめを着けるどころか、その場所には自分の『覚悟』を試される『最大の(試練)』がある事を。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





精神的に強くなっているかも。


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会話




最近、デモベを参考に詠唱を考えています。

ドン「魔を断つ刃であろー」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「ハグッハグッ・・・ムグムグ・・・」

 

雁夜が夕焼けに染まる公園で『覚悟』を再確認する数刻前。

ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは一人、冬木市内にある林の開けた場所でアキトに持たされた弁当を勢い良くほうばっていた。

 

 

『美味いか、坊主?』

 

「んグッ・・・ああ、憎たらしいくらいな・・・本当にアイツ、バーサーカーかよ・・・」

 

いや、『一人』ではない。

彼の近くには、霊体化しているライダーが目視は出来ないけれども存在している。

 

 

『お! 坊主、それは余の好物である揚げ出し豆腐ではないか!』

 

「・・・言っとくけれど、やらないからな。霊体化を解いたら、何の為にここに来たのか解らないじゃないか」

 

『ん? そう言えば、何の為にこんな場所へ来たのだ?』

 

ライダーの疑問を聞き流しながら、ついにウェイバーは特製弁当を平らげると話し始めた。

 

 

「ここが何処かわかっているよな?」

 

『?』

 

「お前を召喚した場所だよ。お前にとって、冬木で一番相性の良い地脈はここだろう? バーサーカーの作る食事よりも回復の効率が捗る筈だ。僕はお前が回復するまでここにいる・・・何もしないで寝てるから、死なない程度でいくらでも魔力を持っていけばいい。そうすれば、お前も幾分かマシになるだろうさ」

 

『!。ダハハハッ!』

 

ウェイバーの言い分を聞いて、ライダーは実に気分の良い笑い声を張り上げる。

雁夜が屋敷を飛び出した後、ウェイバーはドンに事の事情を大まかに説明してここへやって来ていたのだ。

 

 

『気づいたのなら、気づいた時にそう言えよ。余は雁夜を探しに行くのかと思っておったぞ。それにその様にされると後になって見透かされたと解ったのなら、なんだぁ?・・・些か面痒いぞ』

 

「バカッ、雁夜さんを探すのに寝袋なんか持って来るかよ! ・・・まぁ、これが終わったら探すけど・・・そんな事より、お前こそさっさと言えよ! いざって時にお前が動けないようじゃ、危ないのは僕の方なんだからなァ!!・・・・・なんで黙ってたんだよ? ずっと・・・」

 

『・・・・・』

 

ここに来る途中に買った栄養剤をイッキ飲みしたウェイバーは、何やら神妙な面持ちでライダーに語り掛ける。その声色にライダーもおふざけなしに返していく。

 

 

『もう少し、踏ん張りが効くかと思ったのだがな・・・川での戦闘が思いの外、堪えてなな』

 

「結局、お前の切り札って実はとんでもなく魔力を食潰すんだろ? 最初は見過ごしてたよ。僕には全然皺寄せが来ないから、あのバーサーカーみたいに並外れて効率の良い宝具なのかと思ってた」

 

ウェイバーはライダーに魔力を効率よく伝達する為にシートを敷いた地べたへ持って来た寝袋を置き、それに包まった。

 

 

「・・・ライダー、本当はお前・・・僕が負担すべき魔力まで自前の貯蔵魔力で賄って来たんだろう? その上で二度もあんな無茶やらかして・・・」

 

『だぁってなぁ・・・全開の魔力消費に坊主を巻き込めば、その時は命が危うくしかねんからな』

 

「・・・僕はそれで良かったんだ。これは僕が始めた戦いだ。バーサーカー達や雁夜さんもいるけど、僕自身が血を流して犠牲を払って・・・その上で勝ち上がらないと意味がないんだ」

 

『その割には、新しく同盟に加わったあのケイネスとかいうランサーのマスターにはビクついておったではないか』

 

「う、うるさい! それは今いいんだよッ! ライダー、僕はな・・・ただ『証明』したいだけだ。この僕が・・・こんな僕にだって、この手で掴み取れる物があるんだって事を!」

 

『だが坊主・・・そいつは聖杯が本当にあった場合の話だよな。いや、それどころか・・・その聖杯が()()()使()()()()()()()だよな?』

 

「え?」

 

ライダーの放った言葉にウェイバーは驚きと疑問を浮かべた。あれ程欲しがっていた聖杯に彼は疑問を抱いたのだ。

それに・・・

 

 

『余はな、以前にもその様なあるかないかも解らぬモノの為に戦った事がある』

 

「・・・『最果ての海(オケアノス)』・・・」

 

『そうだ。この世の最果てを見せてやると口上を撒き散らし、余の口車に乗って疑いもせずに付いて来たお調子者を・・・随分と死なせた』

 

「・・・ッ・・・」

 

『皆、最期まで余の語った最果てを夢見ておった。この時代の知識を得た時は、それはもう結構堪えたわい。まさか、大地が丸く閉じているなんて悪い冗談にも程がある。・・・・・だがそれでも・・・地図を見れば納得するしかなかった』

 

ウェイバーは、ライダーを召喚した時の事を思い出す。

召喚した当初のライダーは今よりもウェイバーの言う事も聞かず、現代への興味から図書館へ侵入し、何冊かの本を強奪するという暴挙を行っていたのだ。

其の時、強奪した本の中に世界地図が載った地理の書物が一冊。その中の世界地図を使い、ウェイバーに自分の祖国であるマケドニアを教えてもらったおり、冷静を装いながら愕然とする表情をしたライダーを覚えていた。

 

 

『余はな・・・もうその手の与太話で誰かを死なせるのは嫌なんだ。聖杯の在処が確かなら、命を賭けようとする貴様の意気込みに報いてやる事も出来よう・・・だが、生憎とそうとは言い切れなくなった』

 

「それでも・・・・・それでも僕は・・・お前のマスターなんだぞッ!」

 

寝転んだ先に見据えた蒼穹の空に向かって、ハッキリと叫んだ。傍からみればなんとも珍妙な格好である。が、その言葉は実に胸がすくようなものであった。

 

 

『ククク・・・ダハハハッ! 坊主、貴様も言うようになったではないか! これもあの訳の解らぬバーサーカー達や雁夜のおかげか? 確かに魔術回路の方も威勢良く回っておる。日中を休息に費やせば、夜には一暴れ出来そうだ』

 

「で? 一暴れって・・・今度は何をやらかすつもりだよ、お前?」

 

『んん~そうさなぁ・・・山羊やバーサーカー達の方は家出小僧の雁夜を探すのに手がかかりそうだから・・・今夜はセイバーのヤツでも相手にしてやるか』

 

「お前、程々にしとけよ? 彼女はランサーが相手をするっていう同盟契約なんだからな」

 

『ダハハハ・・・・・考えて置こう』

 

「(絶対、考えてないなコイツ・・・。というか、サーヴァントの追跡から逃げられた雁夜さんは凄いな・・・)」

 

ヤレヤレと溜息混じりに呆れるウェイバー。

ライダーは最近、アキトとつるみだしてから悪ノリが多いような気がすると彼は内心感じる。

 

 

「ま、そんな事より・・・お前、この調子で夜までにどの程度回復出来そうだ?」

 

『『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』の使用は・・・飛ばすだけなら問題なかろう。だが・・・『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』は、恐らくあと一回の展開が限度だな』

 

「ふワァ~・・・・・そうか・・・」

 

『使いどころとしては、対アーチャー戦だな。其の時にアヤツも面白い宝具を見せてやると言っておったしな』

 

「バーサーカーの話も気になるけど・・・ライダー・・・なんで態々セイバーと戦うんだ?」

 

『セイバーのヤツはな・・・余の王道を持ってして、倒さねばならん。それが英霊たる余の務めだ』

 

「なんだ・・・それ・・・?」

 

いつになく真剣な声色のライダーに耳を傾けるウェイバーであるが、魔力を吸われている為なのか、段々と眠気に襲われていく。

 

 

『セイバーを庇った雁夜には悪いが・・・あの娘は余が正さねば、永遠に道を踏み外したままだろうて・・・・・それでは余りにも不憫すぎる』

 

「まぁ・・・好きにすればいいさ・・・・・あぁ・・・あとライダー?」

 

『なんだ坊主?』

 

「聖杯が・・・本当に使えるかどうかって・・・どういう・・・・・・・・・・」

 

『・・・坊主?』

 

「・・・ス~・・・スピ~・・・」

 

ライダーへ疑問を投げ掛ける前にウェイバーに意識は睡魔に刈り取られ、その意識を深く根底へと沈めていくのであった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「・・・お前さんは、()()()()()()()()()()()()のだ?」

 

ランサーが同盟に加わった夜の事だ。

歓迎会と称された愚痴の言い合い大会がマスター達の泥酔で終わった頃。酔いつぶれたマスター達の事をランサーに任せた酔い足りないライダーは、アキトを付き合わせて縁側で酒を酌み交わしていた。

最初はライダー本人から直接語られる武勇伝や当時の世相とアキトの作った夜食を肴に酒を平らげていく二人。しかしその内に酔いが回り、夜食も尽きかけて行った。其の時にライダーが発した言葉が上記のものである。

 

 

「おん? 何をだよ大王?」

 

「なに、貴様と同盟を結んでからというもの・・・余は貴様が一体どこの英霊なのかと考えておった」

 

「・・・へぇ?」

 

ライダーからの突然の言葉にアキトは興味深そうにニヒるな笑みを浮かべて琥珀に満たされた杯を呷った。

 

 

「小僧やランサーのマスターが言うように、貴様はこの聖杯戦争始まって以来の逸脱したサーヴァントであろう」

 

「そのようだなぁ~」

 

「だが、余はそれよりも気になった事がる。あの金ぴかの真名を初見で見透かし、セイバーのあの宝具を開帳前に知っていた・・・まるで()()()()()かのような・・・そんな所にだ」

 

「・・・」

 

「それにバーサーカー、お前さんは『吸血鬼』という人外の存在。言うなれば、『反英霊』の身だ。お前さんの真名が偽りだとしたらば、余は一人だけ・・・お前さんの正体であろう暴虐の反英霊にして、護国の英霊を知っておる。お前さんが吸血鬼と聞かされた時は、余も最初はお前さんをその英霊だと思っておったわ」

 

「『思っておった』・・・過去形だなぁ」

 

「ああ・・・()()は違う。余の知っておる『護国の鬼将』よりも異質で、異常だ。その腹の内には、そやつ以上の力が隠されておると見た」

 

「カカ・・・カハハハッ♪」

 

ライダーの考えを聞いて、静かであったアキトが朗らかで奇妙な笑い声を響かせた。

 

 

「嬉しいねぇ、嬉しいねぇ。かの名高き征服王から、そのような評価を頂けるとは恐悦至極・・・ってか?」

 

「まぁ、待て。まだ続きがある」

 

「続き? 結構、腹一杯なんだけどよ~」

 

「そう言うでない。貴様がその英霊でなければ、一体貴様は何処のどの時代の者であるのか・・・余なりに考えてみた。アーチャーやセイバーと面識でもあるような口ぶりからして、同時代の者だろうか・・・いや違う。吸血鬼という人外ならば考えられぬ事でもないが、さっきも言ったように貴様の力は逸脱している。そのような者が歴史に名を残さぬようにできようか。いやぁ、できまいて・・・しかし、貴様の存在は今まで書き記されて来た歴史書にも・・・ましてや聖杯から流れ込んでくる知識の中にも一片もない。ならば、そこから導き出される答え・・・・・それは―――」

 

「―――俺がこの時代よりも後の時代から来た、()()()()()だから・・・か?」

 

観念したような台詞を吐いたアキトは、空になった杯にボトルに詰められた琥珀色の命の水を波一杯に注いだ。

 

 

「その口ぶりからすると・・・やはりか?」

 

「おん・・・大王の言う通り、俺はこの時代よりも後の時代から来た。・・・御見事。豪胆でありながら切れ者だねぇ~大王」

 

「フんッ、当然よ」

 

彼の返答に満足したのか、ライダーは自分の杯の中身を飲み干す。すかさずアキトは彼の空になった杯に琥珀を注いでいく。

 

グビリッ

 

「それで本題だ。・・・貴様、一体どこまでを知っている? 未来から来た英雄ならば、この戦いの結末ぐらいは知っているであろう? 自分のマスターである雁夜にさえ、話していない事をのぉ・・・」

 

「・・・・・そうさなぁ・・・」

 

ライダーに注いだボトルをアキトはそのままラッパ飲みし、中に残った全ての液体を胃に流し込んだ。

焼ける感覚を口から喉元を駆け抜け、芳醇な香りが鼻を抜ける。

 

 

「実を言うと・・・この戦いの結末は知らん。・・・だが、この『次』の戦いの結末は知っている」

 

「んん? 次だと?」

 

「ああ、この次・・・言うなれば、『第五次聖杯戦争』の結末だな」

 

そこからアキトは、この第四次聖杯戦争から10年後に行われる魔術師達とサーヴァント達の闘争、『Fate/Stay night』をライダーに語っていく。登場するサーヴァントやそのマスター達との闘い。そして・・・『聖杯』についてを。

 

 

「・・・・・」

 

話は聞く者から見れば、彼の話はなんともとんでもない荒唐無稽なものであった。

だが・・・ライダーはその話を、彼の言葉を信じる事にした。何故ならば眼前にいるこの化物は、これまでの戦いを通して信用に足る者であったからだ。

そんなアキトにライダーは今度は違う問いを投げ掛ける。

 

 

「バーサーカー、貴様の言う10年後の未来が本当だとして・・・貴様は過去()を変えようとするのか? それが貴様の知る未来を壊す事になったとしてもか?」

 

イレギュラーの彼がこの時代でで何かを為せば未来を、彼の知っている時代を変えるという事になる。それはセイバーの聖杯に託す願いに似ていた。

だからこそライダーは問いたかった。未来を変えるというとんでもない行いをしようとしている化物へ。

 

 

「・・・その次の戦いに参加する少年がここに居れば、こう言うだろうよ・・・『俺は今、ここに居る。ここに居る俺が、今の俺だ。未来を捨てる気は毛頭ない。けれど・・・例え未来が変わってしまっても、それを理由に今を捨てる事を・・・俺は出来ない』」

 

「!」

 

「俺も同じだ。それに・・・弱っちいマスターにあんな強い覚悟を見せられたら・・・・・黙っていられなくなったのよ」

 

「・・・ククク・・・ダ―――ッハッハッハッハッハ!!」

 

答えを聞いたライダーは、実に愉快な笑い声を張り上げた。朗らかな笑いではなく、肉食獣のような獰猛な笑い声を。

 

 

「貴様、わかっているのか? その思いは『傲慢』と『強欲』だ! 清濁含め、貴様は全てを喰らおうというのか?!!」

 

「カカカッ♪ 応ともよ! それがこの俺だ、ドン・ヴァレンティーノの息子にして、間桐雁夜のサーヴァント『暁アキト』よ!!」

 

「気に入った! 実に気に入ったぞ、バーサーカー『暁アキト』よ!! 貴様は王たる素質を持っている!! だからこそ惜しいッ! 貴様が余と同時代におれば・・・カァーッ! なんと心躍った事かッ!!」

 

なんとも言い難い嬉しそうで悔しそうな表情をするライダー。そんな彼にアキトはほくそ笑みを浮かべながら語る。「今でも俺と同じように十分心躍っているだろう」と。

最初、その言葉にポカンとしたライダー。しかし、すぐさま理解する。アキトが自分のマスターである雁夜に充てられたようにライダーもまた、自分より小さい体躯を持ちながら自分と同等の思いを持つウェイバーに心躍っていたのだから。

 

 

 

―――――――

 

 

『・・・ん?・・・おお、眠っておったか・・・』

 

ライダーはアキトと語り合った時の事を思い出しながら眠っていた。身体を回してみるとどことなく軽い。眠った事で、少なくなっていた魔力が身体に溢れているからだろう。

 

 

『むぅ?』

 

「くゥ~・・・クかァ~・・・」

 

隣を見てみるとそこには何とも気持ち良さそうにマヌケな表情で涎を垂らしながら眠るウェイバーがいた。

 

 

『フンッ、気持ち良さそうに寝おって・・・(・・・バーサーカー、貴様の言う通りだ。余はこの小僧に心躍っておる。己の小ささをわかった上で、分を弁えぬ高みを足掻きながら目指すこの男に・・・)』

 

喚きながら弱音を吐き出しながらも己の足で立って進む筋金入りの大馬鹿者をライダーは気に入っている。だからこそ・・・

 

 

『(しかし・・・バーサーカーの言う聖杯とその正体、そして・・・・・)・・・実に難解な、余好みの戦ではないか』

 

陽が西の彼方へ沈みゆき、夜が街へと訪れる。戦乱の臭いが・・・どこからか漂い始めて来た。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





近々出す予定。


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九つ時




今月から就職するので、不定期がもっと不定期になるかもしれません。

ドン「それでもよろしくお願いであろー」

では、どうぞ・・・・・



 

 

 

良い子はスヤスヤと眠っている頃であろう真夜中。

時計の長針と短針が文字盤の12を指し示す頃。

月明かりに照らされた冬木教会の表前に酷く異質な雰囲気を漂わせるフードを被った男がいた。

 

 

「・・・・・」

 

男は被ったフードをパサリと脱ぎ去れば、白く透き通った髪と肌が月光に晒され、紅い左眼が暗闇に鈍く光っていた。

なりは不格好なれども、その風格たるや研ぎ澄まされた刀剣のように鋭く洗練されている。

 

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

男にサーヴァントの召喚時に外法の魔術に蝕まれ、今にも肉塊へと成り果てる寸前だった『魔術師もどき』だった頃の面影はない。

『覚悟』と『決意』を持った魔導士『間桐雁夜』がそこにはいた。

 

バタンッ

 

重厚な教会の扉を開け放てば、そこから外の淡い月明かりが入り込む。

月光に照らされた薄暗い室内に並べられた長椅子の最前列に一つの人影が鎮座している。

 

 

「・・・遠坂・・・時臣・・・ッ」

 

雁夜は後ろ姿ではあるものの、そこに座る人物の名前を静かに呟いて近づく。

 

 

「来てやったぞ、時臣。態々、自分の弟子を使ってるんじゃあない。用があるのならば、自分で来い。その用が桜ちゃんに関する事なら猶更だッ!」

 

「・・・・・」

 

「・・・あッ?」

 

不自然だ、余りにも『静か過ぎる』。雁夜は自然とそう思った。

雁夜が会談に割り込んだ時は、苦虫でも嚙み潰したような表情とトラウマを抱えたような声を出していたというのに・・・今現在、そのような様子は感じられない。それどころか、自分が来た事にも反応していないようであった。

 

 

「貴様・・・時臣ッ、聞いているのか?!」

 

不審に思いながらも雁夜は時臣に近づき、その肩を掴んだ。

 

ポスン・・・

 

「・・・・・へ?」

 

普通、人間は後ろから肩を掴まれると反射的に掴まれた方へと振り向く。

しかし、雁夜が時臣の肩を掴むと彼の身体はバランスを失った蝋人形のように近づいた雁夜の身体へ倒れ込んできたのだ。

 

 

「なッ・・・なに・・・・・ッ!!?」

 

自分に倒れ込んで来た時臣の表情は、実に酷く歪んでいた。

そんな驚愕と負の感情を無理矢理混ぜ込んだような顔をする時臣()()()肉塊が自分に倒れ込んで来たのだから、驚くのも無理はない。

 

だが、いつまでも驚いている場合ではない。これは確実に『罠』だ。理由は解らないが、時臣からの託だと自分に近づいて来たアサシンのマスターだった男、『言峰綺礼』が仕掛けて来た罠だろうと瞬時に頭を回す。

すぐさまここを離れなければならない。何故ならば、ここは教会。言峰綺礼の本拠地のようなものなのだから。

 

 

「・・・雁夜くん?」

 

「ッ!?」

 

その今すぐにでも逃げなければいけない状況で、彼の名前を呼ぶ声が一つ。声のする方を見てみると教会の入口に一人の人物が立っていた。

 

 

「あ・・・『葵』さん・・・!!」

 

その人物はあろう事か。長年の想い人にして自分の方へ倒れた時臣の伴侶、そして桜の母親である『遠坂葵』だったのだ。

 

ドタリッ

 

「ッ!」

 

「!?」

 

どうして彼女がここに居るのかと動揺してしまった雁夜は、つい身体を葵の方へと向けてしまう。

当然、遮る者が居なくなった為に肉塊(時臣)は教会の廊下へと倒れ、生気の無い眼を葵に向けたのだった。

 

 

「・・・・・」

 

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

目の前で自分の伴侶の屍が転がっているというのに葵はその場で叫び声も上げず、ゆっくりと時臣だったモノに近づき、膝を折る。そして、状況が飲み込めずに泡を喰らう雁夜に向かって一言・・・

 

 

「満足してる・・・雁夜くん?」

 

凍った鉄のような冷たい声が雁夜の鼓膜を震わせた。

 

状況は最悪の一言に尽きる。この場面を一般人が見れば、間違いなく時臣を殺害したのは雁夜であると誤解される。ただ、この現場を目撃したのが聖杯戦争とは何ら関係のない一般人であったのならば、まだ覚えたての魔法で何とかなったろう。

 

 

「あ・・・あぁ・・・ッ!!」

 

だが、その目撃者が遠坂葵ならば話は違う。

 

 

「これで聖杯は・・・間桐の手に渡ったも同然ね・・・」

 

明らかに聖杯戦争始まって以来の多大なるダメージを雁夜は受けている。長年の想い人である葵の最愛の人である時臣を殺したと誤解された。それがどういう事なのか、雁夜が一番解っている。

 

 

「あ、葵さん! 俺はッ・・・お、俺・・・!!」

 

雁夜は「違う」と声を張り上げたかった。しかし思うように口が回らず、顔半分が痙攣を引き起こすといった脳梗塞の前兆のような症状が彼を襲う。そこまで雁夜は動揺していた。

いくら魔法の力を得、覚悟を決めようと精神がまだそれに追いついていなかったのだ。

 

 

「どうして・・・どうしてよ・・・! 桜を奪っただけじゃ、物足りないっていうの? よりにもよって、この人を・・・・・私の目の前で殺すなんて・・・どうして?!!」

 

「そッ、そいつが! そいつのせいでッ!! その男さえいなければ、誰も不幸にならずにすんだ!! 葵さんだって、桜ちゃんだって!! 幸せになれたはずなのに!!」

 

漸く雁夜が張り上げた言葉。だが皮肉にもその言葉は、いつかの自分が間違っていると気付かされた言葉だった。

 

 

「ふざけないでよ!!」

 

「ッ!?」

 

「アンタなんかに・・・アンタに何が分かるって言うのよ!! 誰かを好きになった事さえ無いくせにッ!!

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

・・・『好きな人』がいた・・・

 

・・・温かくて、優しくて・・・誰よりも幸せになって欲しくて・・・

 

・・・貴女の為なら命だって惜しくない。そう思ったから・・・

 

今日まで痛みに耐えて・・・・・耐えて・・・耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えてッ・・・耐えて来たのだから!!

 

否定されて言い訳がない!

 

許せる訳がないッ!

 

嘘だッ・・・・・嘘だ・・・嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘ウソウソウソウソウソウソウソうそうそうそうそうそうそうそ・・・嘘だッ!!

 

俺には好きな人が、間違いなく確かに好きな人がいるのだから!!

 

俺は・・・何の・・・何の為にッ・・・俺は一体何の為に!? 誰のせいでッ?! 一体誰の為に!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・雁夜おじさん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

―――一体()のせいで?―――

 

間桐から逃げ出した『俺』のせいで・・・

 

 

―――一体()の為に?―――

 

俺の代わりになった『あの娘』を救う為に・・・

 

 

―――一体()の為に?―――

 

 

 

 

 

 

 

「私を一人にしないで・・・!」

 

 

 

―――――――

 

 

 

「・・・俺にも好きな人が()()・・・」

 

「え・・・」

 

「温かくて、優しくて・・・誰よりも幸せになって欲しくて・・・・・だけど・・・」

 

雁夜は泣き崩れる葵の額を自らの人差し指で押す。

 

 

「今は・・・その人よりも大切な人が・・・()()

 

サクッ

 

「あッ・・・!」

 

すると人差し指はスルリと額に数mm入った。

 

 

「俺は・・・・・貴女が好きだったよ・・・葵さん・・・」

 

雁夜は吐き終えた言葉と同時に刺し込んだ指を額から引き抜くと彼女はそのまま意識を失ってしまった。

不思議な事に刺した指には一滴の血も付いてはおらず、指を刺した筈の葵の額にも傷がついていない。

 

 

「フンッ・・・下らぬ」

 

ヒュンッ

 

吐いた言葉の次に訪れた無音の時を破るかのように一本の剣が傲慢な声と共に雁夜に迫る。

 

カァッン!

 

「・・・・・」

 

雁夜は自身に飛んで来た剣を容易く能力で振り払い、傲慢不遜の声が聞こえた方向へと真紅に輝く視線を突き刺す。その視線の先にいたのは、足元に転がる時臣のサーヴァントだった『アーチャー』。

そして・・・

 

 

「『言峰綺礼』ェエッ!」

 

彼は忌々しく、憎しみと憤怒を織り交ぜて叫ぶ。

自らの奥底に長年押し留めていた『本性』をついに露わした『堕ちた者』の名を。

 

 

「『間桐雁夜』・・・」

 

彼は興味深そうに呟く。

此方を射殺す『吸血鬼』のような眼を持った者の名を。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





闘争心と平静心は紙一重。


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衝突




久々の投稿でキャラ崩壊が起きていますが、悪しからず。

ドン「アキトの言葉使いが雁夜にうつっている節があろー」

では、どうぞ・・・・・


 

 

 

「言峰ぇええッッ!」

 

『間桐雁夜』は此方を上から臨む『言峰綺礼』の顔を見て、激怒を露わにする。

 

シャッシャッシャッシャッシャッ!

 

雁夜は左掌からビー玉サイズの血液で出来た球を出すとその球を鋭い杭の形へ変形させ、綺礼に向けて矢のように射出した。

 

ジャンッ

 

射出された血は飛びながらに形を変え、三又の槍へと変貌する。

このまま行けば、綺礼の澄ました顔面と鍛えられた腹筋の筋肉をバターのように穿つ事が出来よう。

 

バキィイッン!

 

「!?」

 

しかし、血槍は進行方向の真横から飛び出して来た金に輝く剣によって、弾き飛ばされてしまった。

 

 

「・・・貴様・・・この我を無視するとは良い度胸だ・・・」

 

「ッ!」

 

雁夜の攻撃を邪魔したのは、足元に転がる亡骸と成り果てたうっかり魔術師の元サーヴァント『アーチャー』。雁夜は頭に血が上り過ぎて、彼の存在をすっかり忘れていたのだ。

 

 

「その度胸に免じて・・・・・肉片にしてくれよう!!」バーンッ

 

自分がまるで空気のように扱われた事への不満か。それとも、又しても自らの攻撃を跳ね返された事へのイラつきか。背面に宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を展開する。その数たるや、対サーヴァントとして初めて戦った倉庫街での時よりも多かった。

大人げない、実に大人げないサーヴァントである。

 

ドシュバッ

 

「イぃッ!?」

 

魔導士になって日が浅い雁夜へ放たれたその宝具全てが、掛け地なしの世界の至宝とも言える宝剣・宝槍ばかり。それが一寸の隙間もなく、生身の人間に向かって来るのだ。

 

 

「くッ!」

 

この時、雁夜はアーチャーからの攻撃を魔法によって向上した反射神経で容易く躱す事が出来た。しかし、そんな並のサーヴァントでも対処が難しい攻撃にも関わらず、彼は攻撃を受ける態勢をとる。

何故ならば、雁夜の背後に気を失った嘗ての想い人『遠坂葵』がいたからだ。

 

 

「時臣の亡骸ごと葬ってくれるわッ! 散れ、雑種!!」

 

人間は真正面から攻撃を受けた時、咄嗟に防御態勢(ガード)をとる。後ろに守る者がいるなら尚の事だ。

 

 

「ウオオヲォォオッ!!」

 

だが、雁夜は逆に―――

 

 

『緋文字・旋回式連突』ッ!!

 

飛んで向かって来る宝具に自らの攻撃をぶつけたのだ。

 

 

「無駄だ! 我の宝具が貴様の脆弱な術なぞにッ!」

 

勿論、魔法といえど練度の低い雁夜の攻撃では最上級の宝具を撃ち落とす事は叶わぬだろう。

 

 

「それは・・・どうかな?」

 

ズドゴォオッッン!!

 

彼の不敵な笑みと不気味な言動の次に訪れたのは、真夏の轟雷のような破壊音だった。

 

 

「フン・・・他愛もない。先の三文芝居の方がまだマシだったぞ」

 

粉塵が立ち込める光景と轟音を目の当たりにしたアーチャーは仕留めたと確信する。それを近くで見ていた綺礼も雁夜が時臣や葵共々細切れにされたと思考した。

それもその筈。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)のランクは、これ以上ない『EX』ランク。今までこれを無効にされていた事自体がおかしい事なのだ。

 

 

「・・・・・」

 

雁夜を消した事で、自動的にあの聖杯戦争始まって以来の異常サーヴァント『バーサーカー』もこのまま何もなければ、魔力切れで消える。

これで漸く最大の厄介者が消えたと綺礼が思った。

・・・・・その時!

 

ビシュッ!

 

「!?」

 

「なに!?」

 

教会内に漂う塵に紛れ、ナイフの刺突のような鋭い一撃が綺礼の頬を斬り裂いたのだ。

 

 

「ッく・・・!」

 

綺礼は咄嗟に身を引く。

頬の裂傷は肉を完全に断ち切っており、深い部分だと下奥歯まで到達していた。

 

 

『緋文字・狙撃式単突』・・・ッチ、皮膚の薄い首に当てるつもりが、だいぶ逸れちまったな・・・」

 

「間桐・・・雁夜ッ!!」

 

粉塵から姿を露わにしたのは、此方に左腕を突き付ける雁夜であった。

 

 

「貴様、どうやって?!」

 

頬を斬り裂かれた綺礼以上に彼が無事な事に驚いたのは、苦々しく表情を歪ませたアーチャーだ。何故なら、先程の攻撃は、仕留めるつもりで撃ち放ったものであったからだ。

それなのに・・・それなのに!

 

 

「なぁ~に、簡単な事さ」

 

「なんだと?!」

 

アーチャーの瞳に映っていたのは、上着に付いた粉埃を手で振り払う()()の男。

聖杯戦争始まって以来の異常サーヴァント『バーサーカー』の手綱を握るマスター『間桐雁夜』が、不敵な笑みを浮かべて立っていたのだから。

 

 

「俺は最初から、お前の宝具を撃ち落とそうなんて考えちゃあいない。ただ『軌道』を変えただけの事だ」

 

「軌道・・・だと?」

 

「そうだ。お前が此方に撃ち放って来る剣や槍の軌道を俺の攻撃で外の方へと変えてやれば、この通り・・・・・」

 

雁夜の言葉通り、彼の周りの床は円を描くように無事であった。

 

 

「ところでアーチャー・・・前にお前が俺に言った事を覚えているか?」

 

「なに?」

 

「『飼い主が飼い犬に似る』・・・まったくもってその通りだ。今の俺は結構、『イカレて』いるよ。イカレていなきゃあ・・・生身でサーヴァントに立向うなんて無理な話だよッ!!」

 

ドドシュッ!

 

雁夜は再び血の刃を生成し、攻撃を繰り出す。

今度の攻撃は直線的な軌道ではなく。いつかの生きている時臣の背中を貫いた曲線的な飛行するハチドリのように滑らかな軌道を描きながら、幾本もの刃がアーチャーを襲う。

 

 

「雑種の分際で・・・この痴れ者がァアッ!!」

 

ガキガキガキィインッ!!

 

アーチャーは迫りくる刃を宝具で弾く。

金の刃に貫かれた紅の刃は、衝撃に耐えられずに形を個体から液体へと変化させ、飛沫を上げる。

 

 

「クタばりやがれ言峰ェエッ!!」

 

ジャキッン

 

其れこそが雁夜の狙いであった。

彼はアーチャーによって胡散した血液の一滴一滴を針のような形に変え、それを一斉に綺礼へと放ったのである。

 

 

「ッ!?」

 

最初から雁夜の標的は綺礼のみ。態とアーチャーに刃を放ったのは、彼の注意をマスターである綺礼から逸らせる為であったのだ。

マスターである綺礼を再起不能にしてしまえば、自動的にアーチャーは脱落するだろう。

例え、アーチャー自身の固有スキル『単独行動』があったとしても、彼が自身の魔力をなくして消滅するまで逃げるか、籠城すればいいのだから。

 

 

「フンッ!」

 

カカァアッン!

ガシャァアンッ

 

しかして事はそう巧くはいかないもの。

自身に攻撃が迫る瞬間。綺礼は代行者用の武器『黒鍵』を引き抜き、雁夜の攻撃を振り払う。振り払われた血針は教会の窓に衝突し、ガラスを粉々に砕いた。

 

 

「ッチィイ! 振り払ってんじゃあないぞ、この外道!! 大人しく串刺しになりやがれッ!」

 

「無茶を言うな・・・」

 

眉間に酷く皺を寄せ、ギリギリと歯を鳴らして綺礼を鋭く睨みつける雁夜の姿は、どこか()()サーヴァントを彷彿とさせる『スゴ味』を洟っている。

 

ゴゴゴゴゴ・・・

 

「・・・貴様ァ・・・」

 

「む?」

 

「あ?」

 

だが、そのスゴ味以上の嫌悪感を放つ男が一人。

 

 

「またしてもこの我を無視するとは・・・・・ッ!」

 

「あ・・・ヤベ」

 

「コケにしおってェエエッ!!」

 

ドジャアァ―――ン

 

一度ならず二度までも存在を無視され、自身が全く雁夜の眼中にない事にアーチャーの怒りは怒髪天をついた。

寸時にアーチャーはラフな格好から臨戦態勢である黄金の甲冑を身に纏い、先程の倍はあろうかという宝具を展開する。

 

 

「もういい! 貴様のような愉悦の材にもならぬ、便所の鼠の糞以下の痴れ者共はここで肉塊に変われ!!」

 

「ま、待て! アーチャー!!」

 

「あ”ァ”?!」

 

青筋浮き立たせる彼に雁夜は待ったをかけた。

こういう場合、目の前で展開されたサーヴァントでも顔を青くする場景に雁夜が命乞いをするのだろうと考えるのが一般的だ。

勿論、許す気などさらさらないアーチャーもそう考えた。とっとと自分を二度もコケにしやがった野郎の身体にズバズバと自慢の宝具で欧米アニメのチーズのように風通しが良いようにしてやりたい。が、自分の行いを反省し、尚且つ泣き喚きながら無様に許しを請う姿を瞳に映した後で殺すのも乙なものなのではないかとアーチャーは雁夜の次に発せられる言葉に耳を傾けた。

 

 

「アーチャー・・・いや、英雄王・・・」

 

「んん?」

 

「お前・・・・・攻撃がワンパターン過ぎじゃあないか?」

 

ブチッ

 

馬鹿に嫌な音が響いた気がした。

弓道部の新入部員が苦労して限界まで張り上げた弓の絃を意気地の悪い先輩部員によって容易く剃刀で絃を断ち切ったようなそんな音が。

 

 

「ッ・・・!」

 

その音を一番間近で聞いていたのは他ならぬ綺礼。

音のする方を向いた彼が亥の一番に思ったのは、『本気でキレた者は押し黙る』という事だった。

 

 

「・・・」

 

ビシュゥッ!

 

「なッ!?」

 

どこかの星の戦闘民族のように金の髪を逆立てる無言のアーチャーの初撃は、まず雁夜の頬を斜め下に斬り裂いた。とてもじゃないが、常人の眼には反応できない速度で。

 

シュバッ

 

「くッ!」

 

キィッイン!

 

次に放たれたアーチャーの攻撃を雁夜はなんとか造形した刃で弾く。しかし、刃は宝剣を弾いたと同時に飴細工のように砕け散ってしまった。

明らかに先程の攻撃とは威力も速度も大きく違う。加減無しの本気で雁夜を殺しにかかっている。

 

シャッシャッシャッシャッシャッ!!

 

「げッッ!?」

 

さながらゲリラ豪雨のように世界最上級のオンパレードが雁夜に降り注ぐ。

 

 

「このッ!」

 

「・・・」

 

ギャギャァアッッン!!

 

雁夜は頭をフル回転させながら跳ねのけようとするが、如何せん先程とは打って変わって威力が違い過ぎる為か、苦戦を強いられてしまう。

しかも・・・

 

ギュイィイッン

 

「ッ!? 葵さん!!」

 

射出された砲撃はあろう事か、雁夜の後ろに倒れる葵までをも標的にしていたのだ。

意識を失っている葵には避けようのない攻撃がこれでもかと迫りくる。

 

 

『緋文字・絶対不破血十字盾』!!

 

カァアッッン!

 

雁夜はそんな無防備な彼女を守るために自身最強の防御魔法を発動する。巨大な十字盾が葵の周りを囲み、飛んで来た宝具から彼女の身を守った。

 

 

「フン・・・このマヌケめが!」

 

ヒュン

 

しかし、其れこそがアーチャーの狙いであった。

人という生物は、自分よりも大切な人が危険な状態に陥れば、真っ先に行動を起こす。そこをアーチャーは漬け込んだのである。

 

ザクゥ!

 

「ウぐァアアッ!?」

 

意識を逸らされた雁夜の右足に狙いすまされた宝槍が突き刺さる。突き刺さった剣は肉のみならず、骨までをも砕き、そのあまりの激痛に雁夜は膝から崩れ落ちた。

 

 

「う・・・ググ・・・ッ!!」

 

「手ごずらせたな・・・・・雑種の分際でこの我をコケにしおって! この痴れ者がぁあ!」

 

ザシュッ!

 

「ガぁあアアあ―――ッ!!」

 

今度は腹部に射出された宝剣が突き刺さる。宝剣はやせ細った雁夜の皮膚と筋肉を食い破り、肝臓に喰らい付いた。その痛みと言ったら、足に受けた攻撃の数段上はいくだろう。

 

 

「・・・ククク・・・フハハハハハッ!」

 

痛みに悶える雁夜を眺めながら、アーチャーは高笑いを響かせる。

この時、アーチャーは雁夜に完璧なる止めを刺す事が出来る状況にいた。しかし、その止めを刺す事を敢えてせずにいた。何故ならば、不敬者の雁夜が身悶える姿に少しではあるが『愉悦』を感じていたからである。

 

 

「どうだ綺礼? 先程の頬の傷の事もある、貴様もやらぬか?」

 

「・・・いいや、やめておこう。私はこれから用があるのでな・・・あとは好きにしろアーチャー」

 

雁夜につけられた頬の傷を押さえながら綺礼は立ち去ろうした時だった。

 

 

「こ・・・」

 

「ん?」

 

「言峰・・・綺礼ィイ・・・・・ッ!!」

 

立ち去ろうとする彼を呼び止めたのは腹と足からはドクドクと血が湧き出、今にも意識を手放してしまいそうな雁夜であった。

彼はなんとか上体を持ち上げ、左掌を前へと差し向ける。

 

 

「逃がすか・・・逃がしてなるモノか・・・ッ!!」

 

殆ど気力で体を支えているようなものだった。構えた腕は大きく震え、視界は先が見えない程に霞む。それでもあの者を、あの男を逃してはならない。だが、逃がさない為の力が出てこない。アーチャーの攻撃で血液を多く失い過ぎたのだ。このままでは失血死してしまう。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!!」

 

「・・・フン・・・雑種、いや間桐雁夜。その諦めの悪さ認めてやろう、貴様は良く戦った。だがその姿・・・些か見苦しいにも程があるぞ?」

 

シャキンッ

 

アーチャーは息も絶え絶えな雁夜に対してまたしても宝具を展開する。宝具の刃の切先一つ一つが半球を囲むように配列され、急所を確実に刺す為に乱立されていた。

 

 

「ハァ・・・! ハァ・・・!(ここまでなのか? 俺はなにも果たせぬままに終わるのか? あの娘を助けられぬままに終わってしまうのか?!!)」

 

「もう貴様には飽いた・・・死ね」

 

冷徹な声色と共に並べられた剣や槍が一斉に雁夜へと飛びかかる。

 

 

「クッソォオオオオオッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

『嘆く気力があるのなら、とっとと防御壁を築きやがれ』

 

「!?」

 

迫りくる刃と慟哭の次に吐かれた声を雁夜は知っていた。酷く滑稽なこの悲劇を終わらせる為に召喚した意味不明で予測不可能な異常でイカレた者の声を。

 

 

『緋文字・絶対不破血十字盾』ッ!

 

雁夜は残った気力全てを捻り出し、床に広がった自分の血で最大限の防護壁を構築した。

 

 

血液創造(ブラッドメイク)機関銃(マシンガン)』!!

 

ズガガガガガガガガガガガガガガッッ!!

 

「何ィイイッ!!?」

 

酷く重い赤色の盾が雁夜達を覆ったと同時に教会の天井が紅い弾丸と共に木端微塵に噴き出したのである。

電動ノコギリのようなけたたましい音と共に銃口から飛び出した弾丸は雁夜へと迫る刃を次々と撃ち落としていき、床やら椅子やら柱やらを破壊し尽くす。銃撃が止んだ後に残ったのは、木片と砕けた大理石のみであった。

 

シュタッ

 

「ったくよ~・・・やっぱり罠じゃあねぇか! だから俺は言ったんだよ、このスカタンマスターッ! しかも死にかけてるじゃあねぇか!! 痕跡辿らせない様に魔力に細工なんぞするからこんな状態になんだバカ野郎!! 俺達でいくら探し回ったと思ってるんですかコノヤローッ!!」ぺシぺシぺシ!

 

「わ・・・悪い・・・・・『バーサーカー』・・・」

 

銃撃を放った主、バーサーカーことアキトは床に着地すると瀕死の雁夜のデコッパちにデコピンの連打を喰らわせる。デコピンに気が済むと目にも止まらぬ速さで雁夜に止血と椹木を済ませた。

 

 

「貴様・・・だいぶ来るのが遅かったようだな。ええ、蝙蝠?」

 

「なにぶんとウチの家出マスターが、追跡されない様に痕跡を小細工で消したりしやがったんでなぁ・・・お楽しみの邪魔しちまったかな? ええ、金ぴか野郎?」

 

アーチャーは雁夜の傍に立つアキトをなんとも忌々しい視線で見つめる。対するアキトも敵意剥き出しの度し難い殺気をアーチャーに当てる。

 

 

「事情はよくわかんねぇけどよ~・・・どうやらウチのマスターを唆した野郎と一緒に自分のマスターを裏切ったようだな~、おい?」

 

「裏切る? 馬鹿を申せ、我を利用しようという不敬をしていた臣下を見限っただけの事よ。そのような事も解らぬのか?」

 

「その臣下を許してやるのも王の務めじゃあないのか? 傲慢不遜のそんなんだから、自分の国を滅ぼしちまったんじゃあないのか・・・ナァーッ? カカカカカッ・・・」

 

「・・・クククッ・・・」

 

「カハハハハハハハッ!」

 

「くハハハハハハハッ!」

 

二人は言葉を交わすと互いに笑った。なんとも可笑しそうに、なんとも楽しそうに腹を抱えて笑った。

その光景は第三者から見ればなんとも不気味である。先程まで殺気をぶつけ合っていた両者がなんとも楽しそうに笑っているのだから。

しかし、次の瞬間・・・

 

 

野郎―――

貴様―――

 

「「―――ぶっ殺すッ!!!」」

 

お互いの刃をほぼ同時に引き抜いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





最後の掛け合いは、わかる人にはわかります。


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闘争


加筆・改変うえの再投稿です。では、どうぞ・・・・・



 

 

 

「WRYYYYYYYYッ!」

 

「ハァアアアアッ!」

 

ガカキャアッン!!

 

意識が朦朧とする中、その戦いは堰を切った濁流のように始まった。

感覚で認識出来ない程の速度で俺の足と腹を抉り抜いたアーチャーの射出攻撃をバーサーカーは腰に携えた刀を引き抜いて斬り払う。正に一進一退、漫画や映画のようなとんでもない戦闘が目の前で繰り広げられている。

 

 

「KUAAAAA!!」

 

ダンッ

 

そうこうしている内にある一程度の攻撃を振り払ったバーサーカーは、床の大理石が粉々になる程に踏ん張るとその反動でアーチャーのいる上まで、これまた目にも止まらぬ速さで跳躍する。

 

 

「ッ!」

 

アーチャーの近くまで跳躍したバーサーカーは何故か引き抜いていた刀を一旦鞘へと戻し、そのまま大きく身体を捻った。

 

 

「花鳥風月流居合『天✖』ッ!」

 

シャギァアッン

 

大きく捻った反動で滑らかに鞘から引き抜かれた刀は、ジェット噴射なんて目じゃないスピードと破壊力を乗せたままアーチャーに迫っていく。

この時、俺はこの一撃がアーチャーの首を融けかけのバターのように寸断できると思った。

 

 

「無駄だァ!!」

 

カキィイン!!

 

しかし、そんな人間が認識できない速度で放たれた攻撃にも関わらず、アーチャーは宝具から取り出した宝剣でバーサーカーの攻撃を防ぎやがった。

 

 

「この不敬者がッ!」

 

ズギャアアォッ

 

「ッチィ!」

 

カキャキャァッアン!

 

そのままアーチャーはバーサーカーに伝説級の宝剣・宝槍を次々と打ち出していく。

バーサーカーはそれを忌々しそうな舌打ちと共に刀で跳ねのけ、アーチャーとの距離を置いた。

 

 

「ヤレヤレ、全く俺の距離に近づけちゃあくれないね。もしかして近距離での打ち合いは自身がないのかな? ええ、王サマよ~?」

 

「フン。何故に貴様のような蝙蝠風情の壇上に我自ら上がらなければならぬのだ。貴様が我の壇上に上がって来い」

 

「あ~ヤレヤレだ。一々言う事がムカつくじゃあないか。ホント()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね・・・こりゃあよ~・・・」

 

「? 何を訳の解らぬ事を言っている、ついに頭の方まで狂ったか蝙蝠?」

 

「OK OK・・・もう無駄話は無しだ。そっちがその気ならこっちも遠距離使ってやらァ!」

 

バーサーカーはそう言うと両方の懐から掌一杯のナイフを取り上げた。

これからバーサーカーがアーチャーに対してどんな攻撃を行うのかと自分自身興味が湧いた。サーヴァント相手にただのナイフでは攻撃しないだろう、ただのナイフ投擲ではないだろうと俺は考えた。

でも・・・そんな考えなんぞ一瞬で吹き飛ぶような光景が瞳に映り込んだのだ。

 

 

「・・・・・」

 

二人のサーヴァントが殺気を荒らげる中、時臣殺しの裏切り者にして現アーチャーのマスター『言峰綺礼』がそそくさとこの場を後にしようとしてやがったのだ。

 

時臣は確かに気に喰わない野郎だった。時代遅れの押しつけがましい典型的なクソ魔術師だった。

だが、あんなのでも桜ちゃんや凛ちゃんの父親だ、葵さんの想い人だ。こんな事を言っちまうとまたガンナーとかからどやされると思うが・・・言わせてもらう。

 

 

「言峰・・・綺礼ィイ・・・ッ!!」

 

野郎は葵さんを悲しませた。

そしてその罪をあろう事か、この俺に擦り付けやがった。

許せる訳がない! 野郎のような血も涙もねぇド外道にはこの俺が! この手でッ!

 

 

「『緋文字―――狙撃式単突』ッ!!」

 

ズシュゥウウッン!!

 

 

 

―――――――

 

 

 

ズギャァアアッン!

 

「ぐッアァ!?」

 

「綺礼?!!」

 

雁夜の人差し指から一点集中に集められ発射された血の弾丸は、綺礼の脇腹を食い破った。

ただ発射された弾丸の口径が雁夜の身体の疲労やダメージの為に一発で相手を再起不能に出来る程の威力は持っていなかった。しかし、能面のような貼り付けた綺礼の表情を大きく歪ませるには申し分なかったのである。

 

 

「貴様ァアッ!」

 

「・・・フヒヒ・・・」

 

アーチャーは激昂した。

そのアーチャーに対して、雁夜はニヤリとニヒルな笑みを浮かべる。『どうだ、やってやったぞ』とばかりに得意な笑みをだ。

 

 

「死にかけの分際でッ!!」

 

ズオォオッン

 

アーチャーはそんな雁夜目掛けてまたしても宝剣・宝槍のオンパレードを散弾のように射出する。

この攻撃で確実に風前の灯火と成り果てた雁夜の命を刈り取る事が出来たであろう。・・・そう、()()()までは。

 

 

ギャァアアッン!!

 

「なッ!?」

 

さっきまでと状況が違うのは、瀕死の雁夜の前に彼のサーヴァント、バーサーカーことアキトが眼光鋭く立ち塞がっているという事だ。

 

 

「・・・ッチッチッチ・・・オイオイオイオイオイ、何を余所見をしているんだよ。妬けちゃうじゃあないか」

 

「バーサーカァアア!!」

 

「っく・・・」

 

彼は雁夜に向かって射出された黄金の宝剣・宝槍をナイフで力任せに落としたのである。その隙に脇腹へ傷を負いながらも綺礼がこの場を早急に脱するのだった。

 

 

「ば・・・バーサーカー・・・ヤツが・・・ヤツを・・・ッ!」

 

「マスター、無理すんじゃあない。ここは一旦退いてくれや・・・ニコ!」

 

『ガウッ』

 

攻撃を放った事でただでさえ少ない血液を消費してしまった雁夜をアキトは体内から呼び出した身の丈3mはある大狗『ニコ』に意識を失った葵と時臣の亡骸共々担がせた。

 

 

「ニコ・・・とりあえず屋敷まで走って、ノアにマスターの治療を。葵とかいう女の方は、その屍と一緒に近くの病院に放置しとけ。あと、屍のほうは()()()()。大丈夫、あとで鰹節食わせてやるから」

 

『ワフッ!』

 

バンッ

 

ニコはアキトの言葉を聞くと到底その巨体からは想像できない素早さと跳躍で、アキトが入って来た天井の穴から教会を飛び出して行った。

 

 

「逃がすかッ!!」

 

「させると思う?」

 

ビュンッ

 

射出角度を調整するアーチャーにアキトはナイフを投擲する。しかもただ単の力任せではない。機械やコンピューターが計算したような正確無比な軌道を描いていたのだ。

 

 

「小癪なッ!!」

 

カァアッン!

 

アーチャーは飛んで来たナイフをいとも容易く薙ぎ払う。

が、それが彼の策であった。

 

ブシュゥウウッ

 

「なに!!?」

 

薙ぎ払ったナイフはガラス瓶のように砕け、そこから謎の赤い液体が霧状となって噴出したのだ。

 

 

「なんだ此れは?! って辛ッ!? 痒ッ!!」

 

アーチャーの口の中に入った其れはなんとも刺激的な味をしていた。口内に入ったたった数滴は舌の痛覚を刺激し、痺れる様な麻痺を引き起こす。目も同じくどうしようもない痒みを引き起こした。

 

 

「どうだ! この俺特製のジョロキア&ハバネロ入り麻辣ソースは!! 香辛料の発達していない古代から来たアンタには、お口に合わないかしらァン?」

 

「この! ゲほッゲッホ!!」

 

「ま、初体験の刺激的な味にたじろいでいる間にと・・・・・拘束制御術式(クロムウェル)』第参号・第弐号・第壱号連続開放ッ!!

 

調合された独特のスパイスの辛さで身を捩るアーチャーを横目にアキトは自らの宝具を開帳する。

すると彼の身体からドスの効いた赤黒い『ナニか』が溢れて身体に巻き付き、例え言いようのないオーラをその身に纏わせた。

 

 

「ゴほッ、ゲほ! この、がホッ! 下賤な蝙蝠風情がッ!」

 

ジャンッ

 

アーチャーは酷く凶悪な辛さに咽りながらも宝具をアキトに差し向ける。

 

 

「ッ!?」

 

だが、差し向けたその方向にアキトの姿は既になかった。

目を離したのはほんの僅か一瞬。秒数ではなく、零コンマ幾つかの時の間に彼はアーチャーの視界から消え失せたのだ。まるで『霧』のように。

 

 

空裂眼刺驚(スペースリパースティンギーアイズ)』ッ!!

 

「なッ!?」

 

ズギャァアッン

 

あたりを見回すアーチャーに合わせるように赤い光線のような攻撃が真下からのめり込んで来た。

赤色の光線はアーチャーのいる上の階の床を突き破り、彼の頬を数mm程斜め上に掠める。

 

 

「ッ! この下郎!!」

 

ジャガガガガガガ!

ドバジャァ―――アッン!!

 

アーチャーは空かさず宝具を足元に向けて放射する。当然床は穴だらけとなり、鎧を纏っているアーチャーの重みに耐えられずに自壊してしまう。

 

 

「おのれおのれオノレェエ! あの腐れ蝙蝠がァアアッ!!」

 

ドガガガガガッ!

 

自分で破壊したというのに下の階へ落ちた事に癇癪を起したアーチャーはそこいら中に宝具を撃って撃って撃ちまくる。

専門家やその筋の輩ならば喉から手が出る程に貴重な刀剣類を惜しみなく消費するアーチャーであったが、それだけの量を放出しているにも関わらず、一向に目標物に当たる手応えがない。

 

 

『・・・カカ・・・カカカ』

 

「!」

 

宝具の乱射で崩壊寸前と成り果てた月明かりの注し込む教会に不気味な笑い声が響く。朗らかでありながら、嘲笑うかのような声が。

 

 

『どうした、どうした英雄王? 俺はどこでしょね~?』

 

「この・・・出て来い! 痴れ者ッ!!」

 

『『出て来い』と言われて『はい、そうですか』なんていう程、馬鹿正直じゃないもんね僕チン』

 

シャン!

 

「な!?」

 

アーチャーの肩へナイフが突き刺さる。しかし刃先は金の鎧に拒まれ、表面にちょいと傷を付けただけである。

 

 

「この・・・畜生風情がァアア!!」

 

メギャン

 

だが、それがアーチャーの勘を大いに刺激したのであった。今までの戦いで傷一つ付かず、敵を屠って来たアーチャーへの侮辱であったからだ。

そこからアーチャーは先程の倍の宝具を湯水のように大盤振る舞いで撃ちまくる撃ちまくる。余りにも無尽蔵にあっちゃこっちゃに宝具を撃ちまくる為、建物自体からギシギシという嫌な音が聞こえ始めて来る。

 

 

『どうしたよ英雄王? 俺はこっちダヨ~ン』

                   『いんや、こっち』

                            『残念、コッチさ』

         『ブぶーッ! こっちでぇース!』

『コッチヲミロォ』

                        『こっちコッチ』

   『I'm here』

               『俺はここだぜイ?』

 

『『『さぁて、俺はどこでしょう?』』』

 

「煩わしいわッ!!」

 

ズドム!!

 

アーチャーは声のする方声のする方に向かって宝具を撃ちまくった。が、霧に物を投げても当たらない様に刃は空を切るばかりである。彼はもう半ばヤケクソ気味に宝具を開帳するようになってしまっていく。

ただ・・・

 

 

「(マズいな・・・どうしたモンかね~?)」

 

ヤケクソ気味のアーチャーを翻弄するアキト自身も焦燥を感じていたのである。

 

 

「(言峰の方は、野郎が邪魔するだろうからと放って置いたが・・・あっちを先にヤッちまった方が良かったなァおい。このままだと痺れを切らした野郎があの『奥の手』をブチかますかもしれないし・・・かと言って、あの最高級の宝具シャワーの合間を縫っていくのも大変だしな~・・・あんなんでも最上級のサーヴァントだしな~・・・・・あ~ヤレヤレだ・・・やるしかねぇナァおい!!)」

 

意を決したアキトはまたしても実体のない霧へと姿を変え、アーチャーに近づいて行く。水蒸気の芥子粒は宝具の射線上から外れた床に沿って這いずり、アーチャーの背後へと移動する。

 

ドドドドドドドドドドドド・・・

 

そして、そのまま音もなく実体化したアキトは懐からナイフを取り出し、アーチャーの延髄目掛けて腕を振り上げた。

 

 

「フン・・・やっと正体を現せたか、畜生」

 

ジャギンッ!

 

「WRY!?」

 

その瞬間を狙っていたかのように突如として空間から眩い光を放つ黄金の鎖がアキトの身体を拘束したのだ。

 

 

「『天の鎖(エルキドゥ)』・・・!」

 

「ほう、その名まで知っているとは・・・増々貴様がどこの英霊なのか解らなくなったぞ」

 

「ッケ、というかどうしたよ? 打って変わって冷静になり過ぎじゃあないか? 玩具を取られた子供のようにギャーギャー喧しかったのによ~」

 

拘束されたアキトの方を振り向いたアーチャーは、先程とは人が変わった様に冷静其の物であった。

 

 

「馬鹿を言え。貴様を油断させる為の演技よ、演技。その演技にまんまと引っ掛かるとは・・・貴様がマヌケなのか、それとも我の演技が一流であったのか」

 

「勿論、後者だろうぜ王サマ。ホント、アカデミー俳優も真っ青な名演技だったぜ」

 

「そうかそうか・・・ならば死ね」

 

ザクッ!!

 

「ぐガッ!!?」

 

アーチャーはアキトの心臓目掛けて一振りの透明な剣を突き刺した。

 

 

「な・・・なんだ此れはッ・・・!?」

 

アキトの防御宝具である『IS・朧』の絶対防御を容易く破り、剣は肺を貫いた。

それによって溢れる血が器官に入り込み、溺れる感覚が脳に伝わってくる。そんな苦悶で表情を歪める彼にアーチャーは満足した様な顔で語っていく。

 

 

「これは貴様のような畜生を散滅する為に造られた物だ。今まで使う用途がなかったが・・・フッ、喜べ。貴様がこの剣の最初の錆だ」

 

「や、野郎・・・ッ!!」

 

「クハハハッ! その悶絶する顔、実に愉快だぞ蝙蝠。最期にこの我の愉悦となった事を誇りに思いながら逝け!」

 

ググサァッ!

 

「がグぁアアアあッ!!」

 

アキトの胸に刺さった剣をアーチャーはもっと深くまで押し込める。押し込められた刃は肺組織をズタズタにしながらゆっくりと突き進み、遂に心臓まで到達した。吸血鬼の断末魔が崩壊寸前の教会に良く響く。

 

ザギッ!

 

「あ・・・アぁ・・・・・ッ!」

 

ガクリッ

 

アーチャーは止めとばかりに刃を縦から横に回転させ、心臓組織をグチャグチャに斬り刻む。これが決め手となったのか、アキトの頭は糸の切れた操り人形のように伏してしまった。

 

ドサリッ

 

「・・・ククク・・・クハハハ・・・アーハッハッハッハッハッ! ちょいとでもこの我に敵うとでも思ったか! この畜生風情がァーッ!」

 

鎖から解放され、こと切れたアキトを確認したアーチャーは高らかに笑い声を轟かせる。

この聖杯戦争始まってから、自分をコケにし続けた忌々しい糞ッタレのバーサーカーを葬り去る事が出来たのだから達成感も一入である。

 

 

「これで残るはライダーにランサー・・・そして、セイバー。・・・そういえば、ガンナーとかいう女もいたなぁ・・・あれも蝙蝠であったな・・・」

 

アーチャーは考え込みながら開けっ広げにされた扉に向かって歩き出す。外からはサイレンの音が近づいて来るのがわかった。

 

 

「まぁそれよりもだ・・・飼い犬と同じように偉大な英霊であるこの我をコケにした雁夜の息の根を完全に止めておこう。なにズタボロの雁夜を手にかけるなど―――

「次のお前の台詞は―――

 

―――赤子を殺すより楽な作業よ、だ!」―――ッ何?!」

 

自分の声とは違う声がハモった事にアーチャーは後ろを振り向く。そこで彼の見たものは―――

 

 

「WRYYYYYYY!!!」

 

「バーサーカー!?」

 

―――口から血を垂らしながらも向かって来るアキトと自らの顔面に勢い良く迫り来る拳であったのだ。

 

 

「フンッ」

 

アーチャーは反射的に拳の進行方向に腕を上げ、ガードを作る。

『死にぞこないの一発など対して力などない』『拳を受け止めた後は、ダメ押しの一撃を頭蓋に叩き込んでやろう』とアーチャーは余裕綽々だった。

 

ガギィイイッ!!

 

「な”ッ!!?」

 

だがしかし、アキトの拳はガードで上げたアーチャーの腕を黄金の手甲ごとひしゃげさせ―――

 

ドゴッ!!

 

「グべらァッ!!」

 

そのまま顔面をクッションのようにへこませて吹っ飛ばしたのだ。

 

バギャァオオン!

 

「ハァ! ハァ! 次のテメェーの台詞は、『馬鹿・・・な! 心臓を破壊した筈!』だッ」

 

「馬鹿・・・な! 心臓を破壊した筈!―――ッハ!?」

 

瓦礫の中から漸う身体を起こすアーチャーにアキトは指を差す。

口から胸から血を垂らす弱々しい筈の彼が、何故かアーチャーの瞳にはとても恐ろしく見えた。

 

 

「悪いがアーチャー・・・テメェが『最強のサーヴァント』を自負するように、俺も『最強のアンデッド』を自負せざるを得ない輩なモンでよ~。さっきのテメェの攻撃で、ちとパワーが弱っちくなったみてーだが・・・その様子じゃあ今のパワーでもテメェを『撲殺』出来るみてぇだなァ! ええ? 英雄王ギルガメッシュ!!」ビシィイッ

 

「き、貴様ァアアアッッ!!」

 

再び激昂したアーチャーは腕を振り上げ、宝具を展開しようとする。しかし・・・

 

 

「ッ!? な、なんだ此れは?! 腕が、腕が『凍っている』?!!」

 

振り上げた筈の腕はまるで氷漬けにされた魚のようにカチコチに凍っていたのだ。

 

 

「『気化冷凍法』。鎧を着けているから効かねぇと思っていたが・・・試してみるもんだ。その分だと『砕く』のは容易なんじゃあないかな」

 

「『冷凍』だと?! まだその様な小細工を・・・ッ! 己オノレおのれェエエッ!!」

 

ジャン

 

ブチ切れ状態のアーチャーは再び空間に黄金の波紋を浮き出させて宝具を射出しようとする。

 

ヒュンッ

 

「―――へ?」

 

だが、そのコンマ何秒かの間にアキトは氷上を滑るかのようにアーチャーとの距離を詰めた。アーチャーからすれば、それはコマ送りが大きく早められた瞬間移動のように感じられただろう。

其れほどまでに彼の感覚はアキトの速度について来れなかったのだ。

 

 

「W―――」

 

鞭のように後方へあり得ない動きで撓る腕。それと同時に上体を大幅に前へと傾ける。

 

 

「―――RYYYYYYYッ!!」

 

ゴォオン

 

宙に浮いた其の体勢でアーチャーの眼の前に背中から生えた翼で急ブレーキをかける事で反動がかかり、後方に撓った拳が前へと押し出される。

 

ボゲパァアッ!!

 

「ぐゲェエえええええッッ!!」

 

バキャァアアンッン!

 

岩をも粉砕する重い一撃は凍ったアーチャー腕を飴細工の様に粉々に砕き、そのまま頭蓋骨を叩く。

拳で叩きつけられた事でアーチャーの頭は体ごと更に前へと吹っ飛び、遂に教会の外へとその金ぴかの図体を押し出すこととなった。

 

ドタリッ

 

「ハァ! ハァ! げハァッ!!」

 

対するアキトも拳を放った体勢のまま前のめりに倒れ込み、大量の血を床へぶちまけた。

 

 

「ハァ・・・ガふッ・・・(やべぇ・・・・・もう立てねぇや・・・再生した筈の心臓が安定しねぇ。いつもならこのくらいのダメージなら瞬時に再生できんのに・・・しかもISの絶対防御を障子紙を破るように刺しやがった・・・・・糞タレがァ・・・! 流石は古代ロストギアの対化物武器かよ・・・ッ)げふ・・・ッ!!」

 

尋常ではない血と悪態を吐きながらもアキトはアーチャーが飛んで行った方向を見る。

彼の目線の先の壁はポッカリと人並み大の穴が開いており、土煙が黙々と立ち込めている。他にも土煙にぼかされた赤いランプがチカチカ光り、甲高い音が耳にこべりついた。

 

 

「(サツか? まぁ、あんだけ派手にやってりゃあ地元民の御近所様方が通報するか)ごフッ!・・・それよりもあの野郎は・・・ッ?」

 

朦朧とする意識を何とか保ちつつ霞んだ視界を良く凝らしながらアーチャーがいると思われる場所を見通す。

見通した先には、騒ぎを聞きつけた野次馬共とそれを抑える警官達。そして・・・

 

 

「ッ!!?」

 

風に舞い上がる砂金であった。

砂金を見るや否や、アキトはギリリッと砕ける程に歯を喰いしばる。

 

 

「野郎ッ・・・!!」

 

()()()()()()()()()()()()()』。彼は直感した。

そうアーチャーは教会の外へと吹っ飛ばされた瞬間に霊体化し、この場を脱したのである。

 

 

「ッチィ・・・!(なんてしぶとい野郎だ・・・・・しぶとさまで最上級かよッ。・・・だが、拳に手応えがある・・・・・野郎もかなり無事じゃあない。・・・かと言ってこっちも結構ヤバい・・・・・意識が遠のいちまうゼ・・・)」

 

アキトは下水の底よりも澱んだ眼のまま床をズルズルと這いずる。

這いずった跡のはベットリと血が尾を引いた。

 

 

「血が・・・血だ・・・血、血・・・血を・・・血が飲みてぇ・・・ッ・・・」

 

ドプンッ

 

澱んだ眼が鮮やかに紅く色付くとアキトの身体は泥に飲み込まれるように床へ沈んでいってしまう。

その数秒後、市内唯一の教会である冬木教会がその寿命を終えるが如く崩れ去った。

 

 

 

―――――――

 

 

 

一方その頃。

バーサーカー、ライダー及びランサーの拠点となっている間桐家邸宅では・・・

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

「URYYY・・・」チャキ

 

「ッ・・・!」カチャ

 

メラメラと燃える金の炎に包まれており、その炎を背に白銀の銃を構えたシェルスと聖なる剣を両手で構えたセイバーの両者が対峙していたのである。

 

 

 

―――――――

 

 

 

現状に移行する数分前。

其れは直下型地震のように突如として起こった。

 

ザバシュゥウウ―――ッッン!!

 

「あろォオオッ!!?」

 

「首領ッ!!」

 

「何事!?」

 

とっぷりと日が暮れ、夕食を終えた連合同盟が団欒する静けさに包まれた間桐邸宅に轟雷の如き斬撃が正面玄関を粉砕する。そのまま黄金を纏った斬撃は幾百にも張り巡らされた高度な魔術的・近代的ブービートラップを破壊し、ドン達のいる家屋に盛大な花火を咲き誇らせた。

その余りの衝撃ゆえに夕食の後片付けをしていたロレンツォとランサーの手から皿がこぼれ、地面に砕かれる。

 

バンッ

 

「なんやなんやなんや!!? 一体何が起こったんや?!!」

 

「大丈夫、桜?!」

 

「う・・・うん」

 

とてつもない衝撃に別室でケイネスの術式プランを考察していたノアも皆がいる居間へと飛び込んで来た。

突然の轟音と衝撃に結構ノンキしていた皆はアタフタと動揺する。

 

 

「皆落ち着くであろーッ!!」

 

「「「!!」」」

 

「先ずはここにいる皆は無事であるか?! 確認が出来次第、避難であろッ!!」

 

そこにドンの声が冴え渡った。

見た目から頓智来な姿から威厳ある(?)声が響いた事でその場にいた全員に冷静さが戻る。空かさずドンは各自に声を伝達した。

各人は互いに目視で安全を確認し合う。

 

 

「シェルスさん・・・」

 

「ん? どうしたの桜?」

 

「ケイネスおじさんが・・・いないよ」

 

「あッ!?」

 

シェルスは彼女の言葉でハッとした。同盟相手であるランサーのマスターケイネスがこの居間にはいなかったのだ。

 

どうしていないのかと言うと、彼はランサーの呪いとも言える黒子の効力から隔離されている婚約者ソラウに夕食を配達しに行っていたのだ。

二人の大切な時間を持ちたいというケイネスからの願いによって陣営内で許されていた行動でだったのだが・・・ここに来てそれが裏目になり、現在ケイネスはソラウと共に丸腰状態なのである。

 

 

「(『結界やらトラップやらで固めているから大丈夫!』なんていう隙に付け込まれた失態だわッ、畜生め!)ランサー! 早くケイネスのところに・・・って、ランサー?」

 

「・・・ッ」

 

事態を重く受け止めたシェルスはランサーに声をかけるが、彼は斬撃が来た方向に眼光を鋭く向け、戦闘用の礼装に身を包んで呪いの赤槍を携えていたのだ。

 

 

「なにをボケっと・・・―――ッ!? この気配は・・・ッ!!」

 

シェルスも此方に近づく気配に気づき、納得する。

屋敷全体へ高度に張り巡らされた防御結界を打ち破れる人物を彼女は知っていた。

 

 

「・・・」

 

バァ―――ッン

 

其の者は土煙から夜空の月明かりを全身に浴び、金色に光り輝かせる剣を携えた青銀の騎士であった。

 

 

「セイバー!!」

 

「待ちなさい!!」ガシッィ

 

「グべッ!?」

ドタン!

 

シェルスはセイバーの姿を確認した途端に飛び出そうとするランサーの首根っこを掴んで引き倒す。

突然の彼女の動作にランサーは呆気に取られるが、すぐさま体制を立て直して反論する。

 

 

「な、なにをするか?! ガンナー殿ッ?」

 

「自分の主が此処にいないのに見境なく飛び出すなッ!」

 

「されどセイバーは我が宿敵! 此度の同盟もそういう内容であった筈ッ」

 

「この阿呆が!!」

 

バキィイッ!

「そゲフッ!!?」

 

熱くなるランサーの頬にシェルスは渾身の十八番左フックを叩きつける。彼女の認識できない速度で放たれた拳の衝撃によって彼の身体は二転三転し、再び床へと倒れ伏した。

 

 

「ディルムッド・オディナ! 貴様は誰の騎士だ?!!」

 

「!?」

 

生前でも味わった事のない衝撃と現状に戸惑うランサーに向かってシェルスの怒号が差し向けられる。その威圧感たるや、まるで猛獣に睨まれるが如くである。

 

 

「今の貴様はフィオナ騎士団の一番槍ッ『輝く貌』の『ディルムッド・オディナ』か?! いいや違うッ!! 今の貴様は聖杯戦争によって召喚された『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』の騎士である筈だッ!! それとも何かッ? 貴様のケイネスへの忠義は、宿敵を一見するだけで崩れる程に脆弱であったか?!!」

 

「!!」

 

シェルスの言い放ったその言葉にランサーはハッとし、思い出した。自分が何故にこの聖杯戦争に参加したのかを。何故に宝具を開帳するかを。

 

 

「・・・すまぬガンナー殿・・・少々熱くなってしまっていた。これではまたガブリエラ殿に笑われてしまうな・・・ッ。然らば、御免!」

 

苦々しく自らの未熟さに微笑んだランサーは身体を霧状へと霊体化させ、主であるケイネスのもと急いだ。

彼が行った事を確認したシェルスは腰に提げた銀の回転拳銃(リボルバー)を掴むと弾倉を勢いよく回転させる。

 

 

「加勢しましょうか?」

 

「セイバーは最優のサーヴァント・・・大丈夫であろー?」

 

「大丈夫よお二人さん。それより桜とノアを頼んだわよ」

 

タンッ

 

彼女はドンとロレンツォに二人を任せるとセイバーに向かって跳躍する。それはなんとも人間には真似できない程に軽やかなステップであった。

 

 

「・・・ノアおねえちゃん」

 

「ん?」

 

「シェルスさん・・・だいじょうぶかなぁ・・・?」

 

シェルスの手からノアの手へと移った桜が不意に呟く。

彼女の表情は幼子とは到底思えない程、『無』であった。だが、幼い掌から自分の手に伝わってくる細かな振動に気づかない程、ノアは無関心ではない。

 

ぎゅ・・・

 

「大丈夫・・・大丈夫やで桜。シェルス姉はああ見えて・・・とっても()()()()()()()()』さんやからなぁ」

 

「・・・うん・・・」

 

優しく、されど力強くノアは繋がれた彼女の小さな手を握る。冷たく不安げな心を融かすように。

 

 

「なにわともあれッ、戦略的撤退であろーッ! 行くであろー! ロレェエンツォォオッ!!」

 

「お任せください首ォオオオオオッ領ッ!!」

 

ダンッ!!

 

 

 

―――――――

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ

 

セイバーの放った宝具は申し分のない十二分の威力であった。

アサシンや衛宮切嗣(マスター)が突破する事の出来なかった異常なトンデモ結界をカッターナイフで障子紙を破くように破壊しただけでなく、陣営本拠地である間桐邸宅に火を着ける事にも成功出来たのだ。

『奇襲』という騎士の道に外れる行為であるものの、敵の拠点を破壊できた事は戦略的にも多大な戦果である。あとは混乱に乗じて首を獲るも良し、逃げ惑う姿を嘲笑うも良し。

・・・なのだが・・・

 

 

「・・・・・」

ザンッ

 

黄金の炎につつまれる間桐邸を見据えながら、彼女は金に光る聖剣を構え直したのだ。

セイバーは直感していた。スキルや経験からではなく、『本能』で感じていた。眼の前の燃ゆる炎から只ならぬ気配が近づいて来るのを。

 

ダダァッン!

 

「!」

 

剣を構えたと同時に弐発の銃声。白煙を貫いた銃弾は一直線にセイバーの頭部と胸部へ飛んで来た。

常人のそれを優に超えるサーヴァントの動体視力は、飛んで来る弾丸のスピードなどスローモーションのように見える。彼女はそれをいつもの様に剣で弾こうとする。

 

 

「ッ!? ッく!!」

 

だがセイバーは飛んで来る弾丸を剣で受けるどころか後退した。反射角を調整して相手へ打ち返す事も出来た筈にも関わらず、わざわざ後ろへ飛んだのだ。

・・・・・この直感が正解である。

 

ドグオッン!!

「!!」

 

弾頭は地面にコツリと接触した途端、とても大きいとは言えないハンドガンサイズの弾頭が、周囲3mを照らす程の灯りをともしたと同時に弾殻自体に内包されていた硫化銀の欠片が炸裂したのだ。

鉄板の上で熱されたトウモロコシの粒のように弾け飛んだ銀片は、わずかだが緊急後退したセイバーの柔肌を裂いた。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

『もし、この弾を()()()()()()剣で弾いていたら・・・』

そんな考えがセイバーの脳裏をよぎる。それと同時にヒリヒリした痛みと血の雫が頬を伝わっていくのが理解できた。

 

 

「・・・強い・・・!!」

 

セイバーは再び柄を握り直し、構える。

真ん前から放たれたあの攻撃はまぐれでもなければ、武器の性能に頼ったものではない。裏打された経験と実力、そして才能を持った強者であるとセイバーは感じとったのだ。

 

コツン・・・コツン・・・

ジャラララッ

 

立ち込める白煙の向こう側から地面を踏み鳴らす音と何か回転する金属音が聞こえて来る。すると先程まで通り雲に覆われていた月が顔を覗かせ、その光を不気味な音の主へとアップした。

 

バッ―――ン

 

そこにいたのは、白銀の拳銃を携え、熟れたリンゴの様に真っ赤なコートに身を包んだ赤毛の吸血鬼であった。

 

 

URYyy・・・ッ!!

 

そのセイバーの碧眼を睨み貫く真紅に染められた彼女の眼光は、どこか『あの男』に()()()()

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





スランプを乗り越えたいッ・・・(切実なる思い!)


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剣士と銃士




年が明けましたね。
仕事納めが31で、仕事開きが2だった自分には実感が薄いです。

アキト「こういう人間の上に正月は成り立っているんだなぁ」

それでもやるよ、だって目標だもの。

アキト「俺の復活までくたばるなよ」

わかった。という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

「さて・・・聡明偉大なるブリテンの騎士王さま。こんな夜分に突然なんの用事かしら? 王様といえど、礼儀がなっていないのではなくて?」

 

ジャラジャラと白銀のリボルバーを回転させながら、ガンナー『シェルス・ヴィクトリア』は、セイバー『アルトリア・ペンドラゴン』に問いかける。

 

 

「・・・・・ッ」

チャキリ

 

だがセイバーは彼女の問いかけに答える事はなく、代わりに聖剣の切先を向けた。

シェルスはその切先から、アインツベルンの庭園では見せなかった彼女の濃厚な殺気を直に感じる。

 

 

「・・・・・そう。それが貴女の『答え』ってワケね。そう、なら・・・・・貴様は『私達の敵』だ!」

ズガンッ!

 

シェルスは正確無比な一発を射出する。

弾丸の速度は通常の其れであるが、彼女の早撃ちは普通の人間には感知できないものであった。

 

 

「ハァッ!!」

ダンッ

 

されど相手は最優のサーヴァント。

セイバーは難なくそれを回避し、一気にシェルスとの距離を詰めていく。

 

 

「直情的でなんの躊躇もない前進。良くも悪くも騎士らしいわね。なら、これは?」

ダダンッ!

 

「?!」

 

ボグォオン!!

 

此方へ迫るセイバーを冷静に観察したシェルスは、セイバーの進行方向に向かって発砲する。

銃口から飛び出した弾丸は地面に直撃した途端に爆発。大量の土を巻き上げ、セイバーの視界を覆った。

 

 

「ッく!」

 

セイバーは爆発の直撃を寸での所で回避するが、土煙に邪魔されて、シェルスの姿を見失ってしまった。

 

ズダン!

ダダンッ!!

 

「!」

 

そんな土煙に紛れ、何所からともなく銃弾の雨が降り出す。

 

ボグォオン!

ドグォオンッ!!

 

「ッ!!」

 

しかもセイバーがこの攻撃を避ければ、銃弾は独りでに破裂し、更に土煙をあたり一杯に撒き散らす。

流石にスキル『直感:A』を保有している彼女とて、この攻撃を何時までも躱しきる事は出来ない。

 

 

「ならばッ!」

 

セイバーは降り注がれる銃弾の雨の一瞬の隙をつき、聖剣に魔力を注ぐと剣は蒼白い光を放っていく。

 

 

「風よ、荒れ狂え! 風王鉄鎚(ストライク・エア)』ッ!!

ビュオオオオオオオオ―――ッ!!

 

その魔力が込められた聖剣をセイバーが一たび振えば、ハリケーンのような暴風が吹き荒れ、辺り一面の土煙を掃った。

 

 

「ッ!?」

 

しかし、土煙の先にいるであろうシェルスの姿は彼女の瞳には映らなかった。

 

 

「『血液造形(ブラッド・メイク)』―――」

 

「ッ!」

 

変わりに聞こえて来た声に釣られ、上を向くと―――

 

 

(ランス)』!!

ズザザザザザザッ!!

 

幾十、幾百もの血の槍がセイバー目掛けて襲って来るではないか。

シェルスは『風王鉄鎚(ストライク・エア)』が振るわれた直後に吹き荒れた暴風を巧みに使い、空へと飛んでいたのだ。

 

 

「ハァアアアアアアアッ!!」

ガキキキィイイ―――ッン!

 

迫りくる無数の槍を一太刀で斬り払っていくセイバー。されど斬り溢した刃は確りと彼女の頬や甲冑へ傷を付けていく。

 

 

「URYYYYYYYッ!!」

「ハアアアアアッ!!」

 

重力によって下降していくシェルスは、まるで吸い寄せられるかのようにセイバーとの距離を詰めていく。

其れと同時に剣戟の速さと衝撃波増していくばかり。

 

 

「『血液造形(ブラッド・メイク)細剣(レイピア)』!」

ガキィァアァアッン!

 

遂に手が届くような距離へと達した二人に火花が散り、到底一般人には知覚どころか認識さえ出来ない戦いは激しさを増していく。

 

 

「テアアアッ!!」

ブシュッ!

 

セイバーの一撃が刺突撃の合間を抜けて、シェルスの左胸を切り裂く。

防刃防弾を施されたヴァレンティーノファミリー特製のコートであろうとも彼女の聖剣には耐えられなかった。

致命傷とまではいかないが、鮮血が噴き出し、赤のコートをもっと赤く染める。

 

 

「WANABEEEEEッ!!」

「!?」

ギキキィイイン!

 

だが、シェルスは止まらない。

それどころか先程よりも剣速があがり、セイバーを徐々に追い詰めていく。

 

ガギィイッン!

 

幾度となく鍔迫り合いが起こり、得物がひしゃげそうな音を何度も響かせる。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」

 

「URYYy・・・ッ!」

 

二人は複数の打ち合いの後、距離をとった。

両者の力はほぼ互角。どちらかが自らの『とっておき』を出さない限り、戦いは平行線のままであろう。

 

 

「・・・ふぅ・・・」

 

「?」

 

するとシェルスが得物に使っていた細剣を仕舞い、右懐の内ポケットから掌大の『鉄塊』を取り出した。

鉄塊は六角形の形になっており、同じように六角形にへこんだ中央にはローマ数字が描かれている。

 

 

「すぅー・・・・・『我が敵に敬意と恩讐を』

 

「!」

 

一呼吸置いた彼女が詠唱の一節を唱えると辺りの空気がガラリと変貌した。

風が靡き、大気が歪んで月を雲で覆い魔力が彼女を中心に渦を巻いていく。

 

 

『我に憎悪と希望を織り込んだ刃を』

 

「させない!」

 

あれは宝具開帳の詠唱だとセイバーは気づき駆け出す。

だが、もう遅い。遅すぎた。

 

 

「顕現せよ、武装錬金ッ!!」

ドジャアアアアアッン

 

眩い光が暗闇を照らしていく。

徐々にその光が次第に落ち着いていき、雲に隠れた月が再び彼女を明るく照らす。

 

 

「『見敵必滅の処刑鎌(バルキリー・スカート)』」

 

月光に照らされたシェルスの両太腿には4本のマジックアームが取り付けられており。そのアームの先には鋭利な銀の刃があった。

 

ザンッ

「・・・・・」

 

彼女の変貌に警戒したのか。セイバーは動きを止め、彼女をよく観察しようとした。

 

パチリ

 

「・・・え?」

 

けれど彼女がまばたきをした次の瞬間、セイバーの視界からシェルスが消えた。

たった一度の瞬きだ。1秒にも、0.1秒にも満たない刹那の間に視界から消えた。

さっきまで直ぐそこにいた相手が霞のように消えた。

どこにいったのだろか?

 

 

「貴様の後ろさ」

「!?」

ザシュッ!

 

気づいた時にはもう遅い。

銀の刃は腹部の白銀の甲冑を抉った。

されど、セイバーは上体を前へと傾けて回避する事で肉体への直撃を防ぐことには成功した。

 

 

「ヤァアアアアアッッ!」

「おっと」

ギィイイッン!

 

セイバーはすぐさま態勢を立て直し、渾身の一撃を叩きつけるが、敢え無くも二本のアームに防がれ・・・

 

ジャキッ

 

「はい、チェックメイト」

 

「う・・・ッ」

 

もう二本のアームを経静脈と頸動脈部分に当てた。少しでも刃が横に動けば、確実に喉を掻き切れるだろう。

しかし、シェルスはそれをしようとはしなかった。

それは何故か。

 

 

「ねぇ・・・そろそろ教えてもらっても構わないかしら? 急になんでこんな事を?」

 

「・・・」

 

気になったからだ。

ここまで戦って来て、セイバーの動作や攻撃に疑問を持ったからである。

 

 

「さっきの攻撃もそうだけれど、ここまでの戦闘で貴女の攻撃は雑で粗削り。まるで冷静さを欠いたような・・・」

 

「ッ・・・!」

 

「・・・当たりね」

 

シェルスはセイバーの戦い方を知っている。倉庫街でのランサーとの闘いは勿論、キャスター討伐の武功も観ていた。

本来ならば清廉潔白で物怖じしない胆力に裏打ちされた戦闘技術。聖剣エクスカリバーを差し引いても、充分な戦士であろう格を持っている。そんな騎士と戦えば、負けはしないだろうが、苦戦は強いられるだろうと彼女は思っていたのだ。

だがどうだ。先の戦いではそれが感じられなかった。なんだか猪のようにただ敵を斬り結ぶ事しかないような初陣首のような危うさを感じたのだ。

 

 

「なにがあったの? 教えて・・・いや、この場合は・・・『答えろ、アルトリア・ペンドラゴン』かしら」

 

「・・・白々しい」

 

彼女の言葉にやっとセイバーが答えたと思ったら、紡がれたその言葉は、なんとも嫌悪感にまみれた忌々しそうな口調で放たれた。

 

 

「『白々しい』とは、とんだ言いようね」

 

「何を言うか! サーヴァントである私ならともかく、アイリスフィールを狙って謀るなど言語同断ッ!!」

 

「・・・・・は?」

 

シェルスはセイバーがちょっと何を言っているのか理解できなかった。

 

 

「バーサーカーなれど騎士道に通じた筋を持っていると思っていたが、まさかこのような卑劣な手を―――」

 

「ちょ、ちょっと待ってセイバー! どういう事? 私達がアイリスフィールを謀ったって・・・」

 

「それが白々しいと言っているのだ!」

 

それからセイバーはここに来た理由を喋り出した。

公園でセイバーが雁夜と別れた後、彼女の本当のマスターである『衛宮 切嗣』に令呪によって隠れ家としていた家に強制転移されるとそこには息も絶え絶えな『久宇 舞弥』が血を流して倒れていた。

抱き上げた舞弥から事情を聞くによるとあのバーサーカーがアイリスフィールを連れ去ったと言ったのだ。

だが・・・

 

 

「セイバー・・・私達はアイリスフィールを誘拐なんてしていないわ」

 

「ッ! なにを言うか!! 舞弥が倒れていた場には、確かにバーサーカーの魔力の残り香が!!」

 

「・・・ああ・・・そうか、そういう事だったのね・・・」

 

セイバーの話でシェルスはある疑問が払拭された。

アイリスフィールが連れ去られたという時間の前にセイバー陣営の監視に着けていた『ミニ首領32号機』の反応がロストしたのだ。

 

 

「糞ッタレ! 利用されたって事か!!」

 

「え・・・ッ?」

 

シェルスはセイバーに当てていた刃を降ろし、酷く忌々しい口調で悪態を放った。

反応が消えたミニ首領の一部動力には、聖杯戦争用にバーサーカーであるアキトの血が使われていたのだ。

それを何者かが作為的にアイリスフィール誘拐計画に使い、バーサーカー陣営に罪を着せたのである。

 

 

「本当に・・・違うのですか?」

 

「本当よ! 第一こっちは雁夜が行方不明でそんな暇ないっての!! あ~・・・まさかこんな事で拠点を襲撃されるなんて・・・・・」

 

「え・・・え~と・・・」

 

先程まであれ程途轍もない殺気を放っていた相手がとんでもなく動揺している様にセイバーはどうしていいか解らなくなってしまった。なにぶんと彼女にとってこんな事は初めてだ。

 

 

「とにかく! コッチはアイリスフィール誘拐に関しては完全ノータッチ! わかった?!」

 

「け、けれど・・・なら一体誰がアイリスフィールを!!」

 

「そんなの知らな・・・・・ッあ・・・」

 

いる。

セイバー陣営の者を誘拐し、それをバーサーカー陣営に擦り付けて得をする人物が。

 

 

「こ・・・言峰ェ~・・・ッ!!」

 

其の者はアーチャー陣営と密かに繋がり、各陣営の情報を集め、そして雁夜を誑し込んで家から飛び出させた人物。

そう。アサシンのマスターであった男、『言峰 綺礼』である。

 

 

「言峰・・・? 確か彼はアサシンが脱落した事で、聖杯戦争から抜けた筈では?」

 

「警戒していた筈なのに・・・糞ッ、まんまと嵌められた!!」

 

「えッ、ちょっとどこに?」

 

「帰るのよ! 消防車のサイレンも聞こえて来たし、貴女も退散しないと」

 

「え・・・え~・・・」

 

シェルスは悪態を吐きながら、燃える屋敷の方に向かって歩を進める。

彼女の行動に驚きつつも、セイバーが帰ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・その時。

 

 

「・・・え・・・ッ!?」

 

何とも言いようのない衝撃がセイバーの身体に伝わったのだ。

 

 

「ん? どうしたの―――って・・・ちょ、ちょっと!!?」

 

異変に気付いたシェルスが振り向くとそこには聖剣を天に振り上げるセイバーの姿があったのだ。

しかも辺りからは、キャスター討伐戦で見た金の粒子が舞い上がっている始末。

これはヤバい。

 

 

「セイバー!! 貴女、まさか!!」

 

「ち、違います! これは私の意志では有りません!! 切嗣ッ、やめてください!!」

 

『『令呪』による強制』。一度下されれば、もう後戻りは出来ない絶対なる命令。

例え、英霊といえどもマスターの使役するサーヴァント。逆らえる訳がなかった。

 

 

「この! って、うわッ!?」

 

シェルスは宝具の使用を止めようとセイバーに駆け寄るが、もう遅い。

発射シークエンスに入ったセイバーの周りは『風王鉄鎚』以上の暴風が壁になっていたのだ。

 

 

「やめろ・・・やめろォオオオオオッ!!」

 

シェルスの悲痛なな叫びが闇夜に轟く。

 

 

「すまない・・・もう遅い・・・」

 

だが、無情にも黄金の粒子を纏った聖剣はギロチンのように振り下ろされた。

ドンや桜達がいる屋敷に向かって・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





無情にも放たれた勝利の剣・・・
屋敷に残った彼等の命運はどっちだ?
果たして、次回はどうなる?!


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裏戦




今回は、八千字を超えて中々と長いです。

長い休みが欲しいでござる。

という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

時は第一波の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が放たれた直後に遡る。

 

ランサー『ディルムッド・オディナ』のマスターにして、由緒正しい魔術師の名門アーチボルト家の九代目が頭首『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』は現在、この聖杯戦争で『二度目』の危機に瀕していた。

 

 

「・・・」

ズガガガガガガッ!!

 

「ッ・・・く!」

 

「キャアァアアッ!」

 

一度目の危機は、アインツベルンの城での一戦であろう。

最初は相手方の陣中であろうと持ち前の魔術礼装の能力で優勢に立っていた。

だが、この相手というのが悪かった。

 

その相手とは、アインツベルンが聖杯獲得の為に雇い入れた魔術使い。名を『衛宮 切嗣』。

彼は魔術師やサーヴァントのマスターとしてはノーマルな位置にいるが、これまで敵対してきた多くの魔術師達を爆破テロや狙撃といった魔術師が忌避する戦術で葬って来た。

それ故に魔術師達からは、『魔術師殺し』の忌み名で呼ばれている。

 

そんな相手と戦ったケイネスは案の定、切嗣の奥の手の餌食にされ、魔術回路をズタズタにされてしまった。

もし。この時にランサーが駆けつけていなければ、哀れ無残な最期を遂げていただろう。

 

 

「このッ!」

ズダンッダンッ!

 

「・・・」

 

それから重傷を負ったケイネスは、紆余曲折あってバーサーカーとライダーの連合陣営である間桐邸宅に匿われ、ズタズタにされた魔術回路修復手術を待っていた。

 

そんな時にセイバーの襲撃である。

ケイネスは邸宅に貼られていた防御結界を容易く破壊し、あまつさえ邸宅を半壊させた聖剣の衝撃に驚きつつもドンの避難指示書に沿い、ソラウと共にドン達のもとに急いでいたのだが・・・

 

ガチン! ガチガチッ!

「ッ! 糞ッ、弾切れか!!」

 

何の因果か、自らの魔術回路を破滅に追いやった切嗣と鉢合わせてしまったのだ。

ケイネスは其れが当人だと解るや否や、激情に身を任せて隠し持っていた拳銃を発砲。

切嗣もなぜケイネスが間桐邸宅にいるのかと驚きつつも応戦し、部屋にあった家具をひっくり返しての銃撃戦がはじまった。

 

 

「ソラウ! 弾を!!」

 

「ケイネス、これで最後よ」

 

ケイネスはソラウから受け取ると回転マガジンに弾を装填する。

だが銃器に慣れていない為か、指がおぼつかずに弾丸を取りこぼしてしまう。

 

カランカランッ

 

「!? ケイネス!!」

 

「なッ!?」

 

もたつきに隙を突かれ、二人のすぐ横に掌大の『青いパイナップル』が放り込まれた。

 

ドォオオッン!

 

青いパインは床へ二回弾みをつけると中に溜まった果肉()果汁(火薬)を放出する。

その衝撃たるや、人二人程なら難なくあの世送りに出来よう。

 

 

「喰らえッ!!」

ズダンッ!

 

「!」

 

されど切嗣の相手はケイネスだけではない。

とっさにソラウが魔術で手榴弾の爆発を外へと逸らす事でケイネスの乗っていた車椅子は大破したが、二人は無傷で済んだのである。

けれど、粉塵に紛れて発射された銃弾は見当違いの方向に行ってしまった。

 

 

「糞ッ! 使えない銃め!!」

 

「ケイネス・・・」

 

突然、銃に八つ当たりする彼の袖をソラウが握る。その手は若干ではあるが、小刻みに震えていた。

 

 

「ソラウ・・・ッ!」

 

こんな危機的状況にもかかわらず、ケイネスは興奮してしまった。

今までランサーばかりに向けられていた彼女の潤んだ瞳が自分にだけ向いているのだから。

 

 

「ケイネス・・・」

 

「ソラウ・・・」

 

「ケイネス!」

 

「ソラウ!」

 

ケイネスはソラウの両手を包み込み、ジッと彼女の瞳を覗き込む。

場違いはあるが、中々に良いムードが二人の間に流れ・・・

 

 

「ランサーはまだ?」

 

「あがッ・・・!?」

 

ソラウがさも当然のように雰囲気をぶち壊しにした。

ケイネスは『グっ・・・!』と下唇を噛み締めながら、再び銃を構え直す。

 

 

「・・・ッフ・・・」

 

「ッ! このド畜生がァアアッ!!」

ズダダッン!!

 

ケイネスは土煙の外からの嘲笑に激昂し、所かまわず撃つ。

 

『わかってた』。

『どうせ、そうだろうと思っていた』。

・・・頭の中で嫌な言葉が反芻する。

 

 

「糞っオオオオオ!!」

ドォウンッ!

 

『いつも私はにのつぎ』

『いや、眼中にさえない』

『君の瞳はいつも『ランサー(ヤツ)』に向いている』

 

歴史ある血筋の名家に生まれ・・・。

多大なる魔術の才能に恵まれ・・・。

魔術師として名誉ある聖杯戦争への参加資格を獲得し、勝利するためのサーヴァント召喚に必須なモノも準備した。

しかし、蓋を開けてみれば、ご覧の通り・・・。

 

用意していた聖遺品は、愚か者の弟子に奪われるわ。

気を取り直して、母国でも有名なの英霊を召喚してみれば、そのサーヴァントの呪い(保有スキル)で一目ぼれの婚約者(ソラウ)がメロメロになるわ。

舐めてかかった傭兵崩れの魔術使いには、初見殺しの一発で魔術回路をボロボロにされるわ。

エリートコースを躓きもなくまっしぐらに突き進んで来たケイネスには、踏んだり蹴ったりのとても厳しい痛手だ。

それでも・・・・・

 

 

「どこだ?! 出て来い! 傭兵崩れめがッ!!」

 

今、隣で震える彼女を守れる男は自分しかいない。

例え、ランサーに心奪われていようとも。最愛の彼女『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』を守れるのは、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトしかいないのだ。

 

 

「・・・ッチ・・・」

 

一方の侵入者、衛宮 切嗣も若干焦っていた。

 

彼の目的は連合同盟に誘拐されたアイリスフィールの奪還。

本当はコソコソとバレずに潜入し、あわよくば同盟組のマスター連中の首を掻っ切るところなのだが・・・如何せん、同盟陣営の防御結界が()()()()

それはもうアサシン対策トラップが掃溜めのように張り巡らされており、セイバーの宝具で破壊するしか突破の手立てはなかったからだ。

 

聖剣の破壊力で開いた穴を通った切嗣はすぐさま間桐邸に侵入。

瀕死の舞弥からの情報をもとにアイリスフィール捜索を始めてみてはいいものの・・・侵入直後にケイネスと遭遇してしまい、現在の銃撃戦に至る。

 

そう。

切嗣にとってもケイネスとの遭遇は想定外の予想外であったのだ。

 

 

「(早くしないと色々と面倒だ・・・)」

 

あんなド派手に宝具を使ったのだ。ご近所の皆さまが警察やら消防に通報しているに違いない。

・・・というか通報する、誰だってそうする。

 

しかし、対峙しているケイネスの素人射撃が中々良いセンスで排除に手こずる。

 

ズダンッ! ダンッ!

 

「・・・・・」

 

こうしている間にも面倒事が差し迫って来ているというのに・・・何故か切嗣はコンテンダーに『起源弾』を装填しながら、目を閉じて耳を澄ませる。

 

ズダンッ!

 

「!」

 

6発目の発砲音が鳴り響くと同時に遮蔽物を飛び越え、ケイネス達が隠れている場所の後方へと移動する切嗣。

そんな事など露も知らないケイネスの姿を確認すると手に握っている得物を確認した。

 

 

「しまッ!?」

 

彼の予想通り、ケイネスの使っていた拳銃は一般的な護身用リボルバーアクションガン。

この手の品は、弾詰まりがない分装填数が少ない。だから切嗣は発砲音を数えて、隙を伺っていたのだ。

しかも弾切れと確認できる素振り。

 

 

「・・・」チャキッ

 

コンテンダーをケイネスへ、連射型キャリコをソラウへと構える切嗣。

あとは何時ものようにトリガーに人差し指をかけ、必要最低限の力を加えた。

 

ズダッン!

 

撃鉄が雷管を叩き、弾丸が発砲音と共に銃口から吐き出される。

 

 

「ッ、ソラウ!!」ドンッ

 

「え! きゃあッ!?」

 

ケイネスは無意識にソラウの身体をめいいっぱいの力で押し出す。

それによって、彼女は弾丸の射線上から外れるが・・・

 

ザズグシュシュッ!

「ガはァッッア!!」

 

ケイネスの身体には元々ソラウに当たる筈だったキャリコのパラベラム弾3発に加え、トンプソン・コンテンダーからの起源弾を喰らってしまう。

あらかじめ服の下に着ていた防弾チョッキの御蔭で、パラベラム弾を弾くことは出来た。

 

 

ズギンッ

「がぁあアアアアアッ!!?」

 

しかし、思い出したくもない起源弾の痛みが太腿から全身へと伝わる。

身体の魔術回路が再びグチャグチャにされ、気絶も出来ない程の激痛が全身を駆けまわっていく。

 

 

「ぐ・・・ガァア、ッあ・・・ッ! に、逃げろッ・・・逃げるんだ、ソラウ・・・!!」

 

「ケ、ケイネス・・・!!」

 

それでも彼は、痛みに悶えながらも怯えるソラウを気にかけた。

 

カツ・・・カツ・・・カツ・・・

 

「・・・・・」

 

しかし無情にも、魔術師殺しはワタヌキされた魚の目で二人との距離を詰めていく。

今度こそ確実なる止めを刺す為、コンテンダーへの装填も忘れない。

 

 

「ヒっ・・・!!」

 

「ソ・・・ソラウ・・・ッ!!」

 

一方のソラウはあまりの恐怖に腰が抜けてしまい、泡を喰うばかりで動く事も出来ない。

 

 

「・・・・・」

 

チャキリと無言の銃口が彼女を捉える。

もはやこれまでか・・・・・と思われた、其の時!!

 

 

ドーン・ヒップドロップ!!

 

ズべゴンッ!!

「ブべッ!?」

 

後方からなんとも間の抜けた声と柔らかくて重い一撃が切嗣を襲った。

そんな奇妙な一撃に動揺し、体勢を前へと傾けると同時に。

 

 

「セイヤァアッ!!」

 

ズビビシッ!

「グふッ!?」

 

今度は横っ腹に鋭い一撃が入った。

これが決まり手となったのか。遂に切嗣は膝を付き、四つ這いの状態になる。

 

 

「あ・・・あなたたちは・・・!!」

 

瀕死のケイネスの瞳に映ったのは、『白い山羊』と『麻袋』を被った変質者、もとい・・・

 

 

「ケイネス、大丈夫であろ?!!」

 

「マスターッ!!」

 

愉快なマフィア陣営の訳解らんサーヴァントの『ドン・ヴァレンティーノ』と『ロレンツォ』、そして遅れながらもランサーが来るのだった。

 

 

「マスターッ、なんという無惨なお姿・・・! セイバーに気を取られて、遅れるとはなんたる不覚!! 己、セイバーのマスター!! 一度ならず二度までもマスターを!!・・・って―――」

 

自分の不注意で再び、ケイネスを危険な目に合わせてしまった事への憤りと切嗣への怒りに駆られたランサーはギリリと彼の方を見るとそこには・・・

 

 

「ドンのふかふかの御尻にさわるなどと、よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもォオオ!!」

 

ズドドドドドドドッ!!

「げふッ! ぐフ! どふッ!!」

 

マウントをとり、切嗣にラッシュ攻撃を入れ続ける血の涙(?)を流すロレンツォの姿があった。

 

 

「お、落ち着くであろー、ロレンツォォオオ!! そヤツには、色々聞かなければならぬ事があろー!!!」

 

「やっと追いついた・・・って、なんやねんこの状況は?!!」

 

「おおー・・・」

 

ラッシュをし続けるロレンツォを必死に止めようとするドン。

その後ろから、桜を抱えて走って来たノアがこの現状を目の当たりにして、思わずツッコミを入れていた。

 

 

「ケイネス、無事か?!」

 

「あ・・・の、ノア殿か・・・」

 

「喋らんでええ! ソラウとか言うアンタもボさっとしとらんで、傷口を押さえてぇな!!」

 

「え、わ、私?!」

 

「早よせんかいボケェ! 出血多量になるやろぉが!!」

 

「は、はい!!」

 

突如として現れた急患に的確な診察と医療処置を施していくノア。

その鬼気迫る表情にソラウもたじたじである。

 

 

「ら・・・ランサー・・・!」

 

「はい! 何でしょうか、マスター?!」

 

魔術回路暴走のショックによる痙攣を引き起こす状態ながらもケイネスはランサーの手を力一杯握り、ランサーに語り掛けて来た。

 

 

「そ、ソラウを・・・ソラウを守れ・・・!!」

 

「え・・・ッ!?」

 

「ケイネス!?」

 

朦朧とする意識化の中、ケイネスはランサーにソラウを守るように命じたのだ。

これはもう自分がここまでだと悟ったようであった。

 

ランサーは戸惑った。

今ま、召喚された当初からあんなにも嫉妬に駆られた辛辣な言葉を浴びせられて来た分、自分を頼ってくれている言葉に動揺してしまったのである。

 

同時にソラウは驚きと興奮を感じた。

前者は、マスターらしく振舞っていたケイネスが弱気な事を言い出した為。そして後者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事であった。

 

 

「な、なにをおっしゃいますか我が主よ!! なにをそんな弱気な事をッ!」

 

「騒ぐな、愚・・・か者め・・・! 私の代わりに、ソ・・・・・ソラウを・・・!!」

 

「喋んな言うとるやろがッ!! って、ケイネスッ? ケイネェエス?!! アカン、意識レベルがもうない! ドン、緊急や!! 早よオペせんとマズいでッ!」

 

「なんと!! それはマズかろー! ロレンツォ、早くそヤツに拘束を施すであろーッ!」

 

「わかりました、ドン! ドンの御尻に無断で触るとはこの不埒な下郎め、観念しなさい!!」

 

ドンの命令を受け、どこからともなく麻縄を取り出すロレンツォ。

しかし、詰めが甘かった。

 

 

「・・・わ・・・!」

 

「ん?」

 

「あろ?」

 

ボコボコにされながらも切嗣は意識をまだ保っていたのである。

そして、叫ぶように言い放つ。

 

 

我が傀儡に命ずる! 宝具を持って、陣営を破壊せよ!!

 

・・・その十数秒後、第二波の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』が放たれた。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「あ・・・あぁ・・・ッ!!」

 

轟々と屋敷が金色の炎で燃え、砂金のような煙を上げて倒壊していく。

ただそれをシェルスは呆然と見るしかなかった。

 

 

「・・・ッく・・・!」

 

一方のセイバーも拭えないいたたまれなさに苛やまれた。

誤解とは言え、陣営を強襲したはおろか、こうして騙し討ちのような一撃を放ってしまったのだから。

 

 

「せ・・・セイバァアアアアアッ!!」ギャンッ

 

「ッ!?」

 

ガキャアァアアアアアッン!!

 

セイバーは瞬間移動のように距離を詰めて来たシェルスからの刃を受け止める。

刃同士が激しく打ち合う事で、火打石のように火花が飛び散った。

 

 

「そんなに、そんなにも貴様らは聖杯を望むか?! それでもかのブリテンの騎士を束ねた器か、貴様は!!」

 

「な、なにをッ!」

 

シェルスは激昂する。

それもその筈。あの邸宅には、いまだ幼い桜がいたからだ。

いくらドン達に守られていようとも、あの宝具の前では塵に同じであろう。

 

 

「URYyyyyyAAAッ!!」

ガキィイイッン!

 

『セイバーのせいではない』と彼女自身、頭ではわかってはいた。

されど、心はそれを理解しないでいた。

 

 

「AAAAAAAA―――ッ!!」

 

『こいつは桜を殺した』。

『何の罪もないあの子を殺した』。

『あの無垢な優しい娘を消し炭にした』。

 

『・・・てやる』。

『・・・してやる』。

『・・・ろしてやる』。

 

 

「『殺してやる』ッ!!」

 

ガキィイャァアッン!!

「ッぐゥ!!(な、なんて力!? それに先程よりも速い!)」

 

圧倒的な殺意を込めた四つの刃が次々とセイバーを襲う。

冷静さを取り戻し、いつもの剣技が出来る様になった彼女でも手こずった。

 

 

「(だが!)セヤァァアアアッ!!」

 

ザシュッ!

ズザクゥウ!!

 

力と速さが増した分、技術がそれに追いつかなかった。

その隙を逃す程、セイバーも甘くはない。

 

刃をすり抜け、聖剣の刃がシェルスの顔を切り裂き、切先は横っ腹を抉った。

 

 

「これで!」

 

確実なる致命傷だ。

一撃目は前頭葉まで達し、二撃目は肝臓と膵臓を完全に刺し潰した。

第三者から見れば、完全にセイバーの勝利であろう。

 

 

「WRYYAAAaa―――ッ!!」

 

「なッ!?」

バギィイッ!

 

だがセイバーが相手にしているのは、傷も痛みも気にも留めない『吸血鬼(バケモノ)』。

彼女の十八番、左フックがセイバーの右頬に炸裂し、五m程飛ばされてしまった。

 

ザンッ

 

「ぐ・・・ハぁ・・・はァ・・・うプッ・・・!」

 

地面に着地すると同時に立ち上がり、体勢を立て直すセイバー。

しかし、視界が不安定に歪んで揺れてしまい、酷い頭痛と吐き気が襲う。

 

 

「AAAAA・・・Altria・Pendragonンン―――ッン!!」

 

ジャギン

 

シェルスは牙を剥き出しにして、バルキリー・スカートを構え直す。

顔からは血が滴り落ち、腹部からは臓腑がズルリと顔を出している。

 

 

「WANABEEEEEッ!!」

 

「ッ!」

 

奇声を放ち、進撃態勢を整えるシェルス。

それを迎え撃とうとふらつきながらも切先を向けるセイバー。

そんな刹那。

 

 

 

「・・・シェルスさん」

 

「!?」

 

か細い声が後ろから聞こえて来た。

聞き覚えのある可愛らしい声であった。

振り返ると燃える邸宅をバックに筋骨隆々の赤毛の益荒男に抱きかかえられた幼い少女が目に映る。

 

 

「さ、桜ッ!! あッ」ドテッ

 

「シェルス姐さん!」

 

「ガンナー!」

 

正気を取り戻したシェルスが駆け寄ろうとしたが、身体がぐらついて倒れてしまう。

そんな彼女に紫髪の少女とおかっぱ頭の少年が駆け寄る。

 

 

「あ・・・あれは・・・ライダーと・・・?」

 

ドギュン!

 

揺れる視界の先にいる人物を確認しようとした矢先、セイバーの足元に鉛玉が撃ち込まれる。

 

 

「・・・失せるであろー、セイバー!」

 

「なに・・・!」

 

彼女の傾けた目先には、火縄銃を持った一匹の白い山羊がそそり立っていた。

山羊は続けて言葉を紡ぐ。

 

 

「今宵の戦はこれにて終りであろー。貴様のマスターも退いた。・・・されど・・・まだ、戦い足りないというのであれば―――」

 

『『『我等、全員を相手取ると思えッ!!』』』

 

そそり立つ山羊の後ろに次々と新たな影が現れる。

そこには彼女の見知った顔もいれば、新しく見る顔もいた。

 

 

「・・・委細承知した。今宵の戦いはこれまでとし、引き下がらせてもらおう」シャンッ

 

流石に負傷した状態で多勢を相手取るのは苦しいと踏んだセイバーは聖剣を収め、闇夜へと姿を紛れ込ませた。

 

 

「・・・ッフゥ・・・シェルス、無事であるか?!」

 

セイバーが撤退した事に安堵の溜息を漏らしたドンは、すぐさまシェルスへと駆け寄る。

 

 

「ええ・・・まぁね・・・。それよりも、桜・・・無事で良かった・・・」

 

「うん・・・!」

 

仰向けに寝かせられたシェルスは、短く返すとライダーの肩から降りて駆け寄って来た桜の頬を優しく撫でた。

 

 

「しかし、良く持ちこたえたなガンナー。その戦いぶり、実に見事であったぞ」

 

「というか・・・どうして貴方が、ライダー?」

 

「なに、野暮用の帰りにコイツと会ってな」

 

「え・・・」

 

漸くここで、ウェイバーと共に野暮用を済ませて来たであろうライダーに話を振った。

ライダーは振り向きざまに後ろへ親指を指す。

 

 

『クゥ~ン・・・』

 

そこには、簡易的な治療が施されたバーサーカーのマスター『間桐 雁夜』を担いだ黒い大狗『ニコ』がいた。

 

どうやらライダー達は野暮用の帰りにニコと偶然に出会い、ウェイバーによる魔術的治療をしながら間桐邸に帰還。

しかしその時には既に間桐邸は火に包まれており、事情を聞く為にドン達がいる場所へと着陸した。

その直後にあの聖剣が猛威を振るった。

 

 

「あわやこれまでという瞬間、余は戦車を盾にしたという訳だ。我ながら実に見事な機転であったわ」

 

「馬鹿! お前、そのせいで宝具を一つ失っちまったんたぞ!!」

 

「されど、そのおかげでこうして盟友達と坊主の師を救えたではないか」

 

「そ・・・そうだけど・・・・・もうちょっと、こう・・・手立てはあったんじゃないのか?!」

 

「喧嘩はそこまでや、でこぼこフレンズ! 早くオペせんとケイネスも雁夜もヤバいんや!!」

 

そうだ。喧嘩などしている場合ではない。

ケイネスも雁夜も意識レベルが大幅に低下し、命の危機が迫っているのだ。

 

 

「ウチの宝具を使えば一発で治るんやけど、なにぶんとそんな宝具を展開する条件の建物がないしな~・・・」

 

「・・・・・あッ、あるぞ!」

 

ノアの言葉にウェイバーが何かを思い出したかのように叫ぶ。

 

 

「なんやてウェイバー!? ウソやったら、次の薬品実験のサンプルにするで!!」

 

「怖い事いうなよ、バカ! 本当だって! ただ、まだ『暗示』が効いているかどうか・・・」

 

「何はともあれ、善は急げであろー! ニコッ、皆を乗せるであろー!!」

 

『ガフッ!』

 

ウェイバーの自信なさげな言葉に一抹の希望を託し、迫りくる警察消防やメディアから逃げる様にその場所を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回は果たしてどうなることやら・・・。


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醒夢と策議




思ったよりも長くなってしまった。
終盤戦にここから入っていくのだけれど・・・一番書きたいシーンまでにこれからまだかかりそう。
カンフル剤が欲しいでござる。
という訳でどうぞ・・・・・



 

 

 

『――ここに己を憂う力がある。欲しいか?――』

 

ジャシャァアアッ―――アアアッン!!

 

馬鹿に怪しく妖しい男の声が雪のように真っ新な空間に響いたと思ったら、酷く生臭い黒赤色の液体が、その空間をタップリと満たしてしまった。

 

 

「・・・化物め・・・!」

                  「バケモノめッ!!」

        「ばけもの!」

 

液体に満たされた空間のあらゆる方向から、忌々しそうで脅えた声が辺りに飛び交う。

 

 

              「・・・■■・・・」

 

                    「■■■・・!」

        「■■■■■ッ!」

 

そして、ズルリと音を立ててその『ナニカ』が何処からともなく現れた。

『ナニカ』は到底人では理解できぬ言語を呻きながら、『俺』に刃を向けて襲い掛かって来た。

 

・・・ガブリッ!

 

『俺』はなんの躊躇いもなく、その『ナニカ』達を食べた

 

首から。

足から。

手から。

腹から。

胸から。

頭から。

 

肉を切り裂いて。

骨を噛み潰して。

血を飲み干した。

 

 

「・・・ゲフっ」

 

傍から見れば、決して行儀のよくない喰い方で『ナニカ』達を食い散らかした『俺』は歩き出す。

 

 

「なんだ・・・なんなんだお前は?!」

 

「撃て! あの化物を殺せェエッ!!」

 

ズガガガガガッッン!

 

歩き出すと周りの背景が一歩ずつガラリと変わり、剣戟と銃撃と爆撃の騒音が鼓膜を震わせる。

 

 

「ひィッ!? や、やめろ!!」

 

「ギャアアアアアア―――ッ!!?」

 

ガブリッ!

 

だが、決まってその後には聞くに堪えない断末魔と咀嚼音が響く。

 

正直もうウンザリだ。

口はベトベトで手は黒いくらいに赤く染まってしまった。

 

それでもまだ腹は満たされないし、喉は掻き毟るくらいに渇く。

 

 

「・・・苦しい・・・・・苦しいなぁ・・・」

 

飢えと渇きに加え、途方もない孤独が全身に纏わり付く。

しかも身体は内から外まで氷のように冷たく、鈍い痛みが身体中に広がる。

 

 

「おい」

 

「・・・?」

 

不意に何処からか。いや、頭上から呼び声が聞こえて来た。

『俺』は、鈍く痛む首を漸う上へと傾けるとそこには・・・・・

 

 

「『俺』を見た気分はどうだよ、『雁夜』?」

 

「ぁアアッ!!?」

 

とても恐ろしい顔で笑う『(バーサーカー)』がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

「うワァアアッ―――ァアアア!!?」

 

「うっさいわ、阿呆!」

 

バシッ!

「うげッ!?」

 

ベッドの上から飛び起きた雁夜の顔をノアはカルテで引っ叩いた。

 

 

「ノ、ノアちゃん・・・ッ!? な、なんで―――って、ガぁあアア!!?」

 

引っ叩かれた事に加え、目の前に何故にノアがいるのかという疑問よりも先にとんでもない痛みが彼を襲う。

勿論その痛みの正体というのは、昨夜アーチャーから受けたダメージであった。

 

 

「そないに急に動いたら傷も痛むわ。待っとれ、今にモルヒネをうってやるわ」

 

ブスッ

「いでぇッエ! 雑だよ、ノアちゃん!!」

 

「贅沢言うな、アホ雁夜。それよりもアンタ、昨日は大変やったんやからな!」

 

「・・・へ?」

 

それから暫く痛み止めが効くまでに悶える雁夜にノアが昨日の顛末を話し出した。

 

セイバーの襲撃。

陣営基地であった間桐家邸宅の崩壊。

そして、ケイネスが再び重傷を負った事。

 

 

「もしあの時ライダーが来てなかったら、セイバーの聖剣ビームで全員お陀仏だったんやからな。ホンマ、タイミング良かったで。それにウェイバーもや。アイツがおらんかったらアンタのその足、斬り落としとるで」

 

「そ・・・そんな事が・・・あとでウェイバー君とライダーにお礼言っておかないと」

 

「・・・んで?」

 

「・・・え?」

 

「『・・・え?』じゃない! そんな大変な目にうち等が遭っている間にアンタは何をしとったんや!! それにこないな傷こさえて!!」

 

「そ・・・それは・・・ッ」

 

「私も聞きたいわね」

 

鬼の形相で言い迫るノアにたじたじの雁夜。

その時にギィというドアの開く音と共に彼女の声が聞こえて来た。

 

 

「!・・・ガ、ガンナー・・・!?」

 

部屋の入口の前にいたのは、酷く痛々しい左頭部と上半身に包帯を巻いたセイバー撃退の功労者の一人、ガンナークラスのシェルスだった。

 

 

「シェルス姐さん!? まだ安静にしとらんと!!」

 

「大丈夫。忘れた? 私は吸血鬼なのよ。あの人のようにはいかないけれど・・・もう戦えるまでには回復したわ」

 

「だけどッ・・・!」

 

彼女は、何か言いたげなノアの唇に優しく人差し指を添えて微笑む。するとノアはムッと頬を膨らませ、近くの丸椅子にドカリと腕組んで座る。

態度は兎も角、彼女が静かになるとシェルスも雁夜の前に座った。

 

 

「それで・・・何があったの?」

 

「・・・ああ、それは―――――」

 

雁夜は神妙な面持ちで話す。

言峰によって招き入れられた教会には、アーチャーの元マスター『遠坂 時臣』の遺体が転がっていた事。

転がる遺体を雁夜が発見したと同時、同じく言峰によって教会に呼ばれた雁夜の想い人で時臣の伴侶である『遠坂 葵』にその現場を見られた事。

 

 

「なんて外道なヤツや・・・! よりによってアンタの想い人にッ!」

 

「・・・いいさ・・・もう、いいんだ」

 

「え・・・?」

 

「・・・吹っ切れたみたいね」

 

言峰の卑劣な策略に激昂するノアに対し、彼は寂しそうな微笑みを浮かべてシェルスの言葉に頷いた。

 

 

「・・・とは言っても、あの時の俺は自分でもビックリするくらいに頭に来てね。あの野郎に仕掛けたんだけど・・・」

 

「・・・アーチャーが居たって訳ね」

 

「・・・え・・・え、え? え?! まさかアンタ、アーチャーと戦ったんかいな!!?」

 

「ああ・・・まぁね・・・」

 

「『まぁね』・・・って、アンタ・・・!」

 

『サーヴァントとの戦闘』。

それは圧倒的な戦力の差で、どこぞの投影魔術使いの少年でもない限りサーヴァントが勝利するだろう。

しかも相手はあの世界最古の英雄王。

ここに居るのが不思議なくらいだ。

 

 

「でも実際、俺はもうちょっとの所で死ぬところだった。今、こうして生きていられるのは・・・アイツがいたおかげだ」

 

「・・・・・『アキト』・・・」

 

雁夜がこうして生きていられるのは、絶体絶命の時に駆けつけたバーサーカークラスのアキトの御蔭であろう。

彼がいなければ、今頃雁夜は挽肉ミンチよりも酷い状態に違いない。

 

 

「でも・・・俺は自分の身勝手な行いで死にかけたどころか、皆を危険な目に合わせてしまった・・・! 俺は・・・俺はなんで・・・ッ!!」

 

雁夜は猛省した。

自分の浅はかな行動のせいで言峰の罠に嵌まるだけでなく、皆を危険な目に合わせてしまった事への不甲斐無さに落胆した。

 

 

「・・・雁夜・・・」

 

シェルスは、そんな俯く彼の肩に手を添え―――

 

バギィイッ!!

「ぶゲッぇえ!!?」

 

「あ、姐さん!?」

 

―――雁夜の顔面に拳をぶち込んだ。

勿論のこと力はセーブしてあるが、雁夜の鼻は折れて鼻血が飛ぶ。

 

 

「これは仲直りの握手の代わりよ。これくらいにしてあげるから、さっさと起きて桜に顔を見せてあげなさい」

 

「あ・・・ありがどう・・・ッ!」

 

「ヤレヤレやで、まったく・・・ほれ、治療してやるわ。あとコレはすぐに立てる様にするための薬や」

 

「・・・また注射?」

 

「そうや」

 

ブスッ

「ぎゃイッ!?」

 

二人のやり取りに呆れながら、ノアは雁夜の右太腿にぶっとい注射針を突き刺した。

 

 

「痛たたッ・・・ところでガンナー、ここはどこなんだ? 見た感じ、ホテルじゃなさそうだし・・・・・それにバーサーカーは?」

 

「あ~・・・それなんだけどね・・・・・」

 

「?」

 

口籠もるシェルスに雁夜が疑問符を浮かべていると、また部屋の扉が開いた。

 

 

「おや、起きたかね。どうかね、足の調子は?」

 

「え・・・(誰だ?)」

 

そこにいたのは、白髪に口顎髭を蓄えた老紳士。

見覚えのない第三者の登場に雁夜は呆気に取られる。

 

 

「はい、この通り大丈夫です『マッケンジー』さん。弟がご迷惑をおかけしました。」

 

「え・・・弟って・・・は?」

 

「良かった。なら、下に降りて来なさい。妻が朝食の支度してくれた」

 

「はい、すぐに向かいます」

 

呆気に取られる雁夜を余所に話は進み、老紳士は一階へと降りていった。

 

 

「え、ちょッ・・・ガンナー、さっきの人は・・・? それに弟って・・・」

 

「さっきのおじいさんは、この家の持ち主のマッケンジー氏。ウェイバーが間桐の家へ来る前に拠点にしてた家よ。それに弟ってのは・・・・・単なるノリよ」

 

「『ノリ』ッ!?」

 

「あとの事は歩きながら話すけど、かいつまんで話せば・・・アキトはまだ『帰還していない』わ」

 

「なッ!!?」

 

「詳しい話はあとや。ほんで、これはアンタの杖な」

 

驚嘆する雁夜に黒と紅色の装飾が施された杖を渡して、二人はさっさと一階に降りて行ってしまった。

雁夜も急いで立ち上がろうとするが、負傷した右足が中々いいように動いてくれない。

 

ガシッ

「よっと!」

 

漸く立ち上がって、下の階へと降りていく雁夜。

身体全体が鉛のように重く、一歩を踏み出すだけで大変な大仕事だ。

 

 

「おッ、やっと来たか。まずは第一関門突破やな」

 

「ノアちゃん」

 

下の階に降りるとそこにはノアが待ち構えていた。

さっさと降りてしまったのは、どうやら彼のリハビリの為だったようだ。

 

 

「おう、これは雁夜ではないか!」

 

「もう大丈夫なんですか?!」

 

「ライダーにウェイバー君。ああ、もう大丈夫だよ。それよりもウェイバーくん、昨日はありがとう。御蔭で足を失わずに済んだ」

 

「い、いやそんな大した事はやってないですよ!///」

 

「なんだ照れておるのか、坊主?」

 

「照れてない!!///」

 

「はははッ」

 

合流した二人がダイニングキッチンへと赴けば、相変わらず豪胆なライダーと華奢なウェイバーが出迎えた。

雁夜は二人に昨晩のお礼を言い、その奥の人物へと駆け寄る。

 

 

「桜ちゃん!」

 

「・・・!・・・」

 

自分の名前が呼ばれた事で振り返る幼い少女。

しかし、桜はすぐに顔をもとの位置に戻し、俯いてしまった。

 

 

「さ、桜ちゃん?」

 

「・・・・・」

 

雁夜は俯く彼女に対してどうしていいか解らず、オロオロと動揺していると彼の肩を叩く人物が現れた。

 

 

「ドン!」

 

「無事であったか雁夜。流石はノアのトンデモ医療であろー」

 

「ちょっと、どういう意味や! ドン!」

 

ノアに突っ込まれながら、ロレンツォに抱えられたドンは雁夜の無事をねぎらう。

因みにドンの姿はマッケンジー氏達には普通の人間に見えるように暗示が施されている。

 

 

「雁夜よ。昨晩の桜は涙を流さねど、とても悲しそうな顔でお前に付きっきりであった。シェルスが眠らせなければ、倒れるぐらいにやつれていたであろー」

 

「ッ・・・そんな・・・!」

 

改めて、雁夜は自分がいかに軽率な行動をとったのかを理解せざるをえなかった。

 

彼は、ただ彼女を救うためにこの戦いに参加した。

だが、いつしかそれは自分の欲を満たす行為に移り変わった。

 

 

「(・・・俺はいつもそうだ・・・大事だと思っている人をおざなりにしてしまう・・・後悔ばかりだ。でも・・・・・今度は・・・!)」

 

ギュッ

「!」

 

雁夜はただ黙って桜を後ろから抱きしめる。

小さな体を抱いたか細い腕から彼女の恐れが、悲しみが伝わるような気がした。

 

 

「・・・ごめん、ごめんよぉ・・・桜ちゃんッ・・・!」

 

「ッ・・・グすっ・・・う、うわぁあああっん!!」

 

彼女の思いが伝わるように、また彼の思いも彼女に伝わったのだろうか。桜の中で溜まっていた感情が遂に溢れる。

そして、おいおいと二人は涙を流して互いを抱きしめ合った。

 

 

「ドン、桜があんなにも感情を表に!」

 

「それほどまでに桜は雁夜を心配していたのであろー・・・なんて感動的であろー!!」

 

二人に釣られて、ドンとロレンツォもおいおいと涙を流す。

 

 

「うむ、僥倖であるな!」

 

「良かったな・・・桜ッ・・・!」

 

「なんだかよくわからないけれど・・・良かったわねぇ」

 

「ああそうだな、ばーさんや」

 

なんとも感動的なムードが二人から周りへと発生していき、やがてそれは家全体を包み込んだ。

ライダーやウェイバー、それに事情を知らないマッケンジー夫妻もこの雰囲気に流されて、感動の涙を流す始末である。

 

 

「はいはい、そこまでよ皆」

 

『『『!』』』

 

手を叩いて皆の注意を引いたシェルス。

彼女の前には、マッケンジー女史と共に作り上げた朝食が並べられていた。

 

 

「ぐすっ・・・ごはんたべよう、雁夜おじさん」

 

「ああ・・・勿論さ!」

 

雁夜と桜並びに連合陣営は、いつものように仲良く座って朝食を頂戴する事になった。

 

 

「・・・いやッ、こんなノンビリしている場合じゃないよ!!」

 

朝食を食べ終え、呑気に寛ぐ一行にウェイバーの焦燥感漂う大声がかけられる。

 

それもそうだ。

今の連合陣営は拠点を失ってしまっただけではない。

ケイネスはマッケンジー氏宅で行われたの緊急手術後にランサーの代理マスターとなったソラウの希望で、冬木市総合病院に入院。勿論、暗示付きで。

これにより実質上、ランサー陣営とは分裂した事になる。

それに加え、連合陣営の中心的人物であったアキトがアーチャーとの戦闘後に行方不明という始末。

 

 

「このままじゃあッ!」

 

「落ち着くであろー、ウェイバー」

 

焦りを隠せないウェイバーに落ち着き払ったドンがマッケンジー夫妻お手製のビスケットを片手間に声をかける。

人語を反す二足歩行の山羊がビスケットを食べている光景がなんともシュール極まりないが、そんな事に慣れてしまったウェイバーは反論する。

 

 

「僕は落ち着いてるよッ! お前らが呑気過ぎてるんだよ!!」

 

「だが、焦ったところでどうにもならぬではないか」

 

「しかし、山羊よ。お主の所のバーサーカーが行方不明だというに・・・その落ち着きっぷりようは、少々目に余るぞ?」

 

「そうだぞ! なんでそんなにも冷静でいられるんだよ?!」

 

ウェイバーと同様にライダーもまた、ドンに疑問を投げ掛けた。

これが一朝一夕で組んだ仲間なら、一人かけたくらいでもドライに済ませる。だが、彼等は仮にもアキトによって召喚された彼が絶対の信頼を置く仲間達だ。

それなのにドン達は余りにも冷静沈着過ぎた。

 

 

「・・・ッフ・・・」

 

「な、なにが可笑しいんだよドン!?・・・あッ・・・!」

 

不敵な笑みを浮かべるドンに突っかかるウェイバー。

しかし、彼が指示した先を見て、ウェイバーはドンが何を言いたいのか理解した。

その彼の目線の先にあったのは、雁夜の手の甲に刻まれた令呪だ。

 

 

「『令呪が消えていない』。これがどういう事か・・・わかるであろう?」

 

「そ・・・それは・・・」

 

『令呪の喪失』がサーヴァントの消滅を意味するのならば、その逆『令呪の残存』はサーヴァントの保有を意味する。

 

 

「つまりは・・・アキトは生きているであろー。というか、アヤツがそんな簡単にくたばる筈なかろー」

 

「はい」

 

「同感ね」

 

「まったくや」

 

「・・・・・ッ・・・!」

 

ドンを始めとしたバーサーカー陣営のサーヴァント達は口をそろえて彼の無事を確信する。

そんな彼等の姿が、ウェイバーにはとても眩しく見えた。

 

 

「・・・ウェイバーくん、俺もアイツを信じてる。マスターである俺がアイツを信じないでどうするってんだよ」

 

「わたしも・・・」

 

「・・・ッ、雁夜さん・・・桜・・・!」

 

「フフッ・・・ガーッッハッハッハ!!」

 

バンッ!

「いだぁアッ!?」

 

真剣な雰囲気の中でライダーの笑い声が大きく木魂し、ウェイバーの背中を一喝した。

 

 

「まったく、余の盟友は本当に信頼されておるのぉ! これほどの勇者、是非我が臣下に加えたい!!」

 

「お前コラ、コノヤロウ! なんで今、僕の背中を叩いた?! 叩く必要なかったよな、おい!!」

 

「んン? なんだ坊主? 所謂ノリだ」

 

「ノリかよッ!!?」

 

「シャァーシャッシャッ!・・・しかし、アキトからの連絡が未だないというのは心配であろー」

 

「やっぱり心配なんじゃあないか!! どっちなんだよ?!!」

 

腕組をし考え込むドンにウェイバーのツッコミが冴え渡る。

 

 

「うむ、これはワシらヴァレンティーノファミリーの問題であろー。アキトの捜索はワシ自ら行う! あとシェルスはお留守番であろー」

 

「え?! どうしてよ!!」

 

「当たり前やでシェルス姐さん! 昨日の今日なんやからな!」

 

「でも!」

 

「これは命令であろー。シェルスは今日一日は、桜の護衛に付いてもらう。それにワシも家の中ばかりいると体がなまるであろー!!」

 

「「外に行きたいだけだろうが!!」」

 

「首ォオオ領ッ!! このロレンツォも同行しまぁあアアッす!!」

 

ウェイバーとシェルスのダブルツッコミが冴え渡り、ロレンツォがドンに愛を叫ぶといういつもの相も変わらず騒がしいマフィア陣営に戻っていく最中、恐る恐る手を上げる人物が一人。

雁夜である。

 

 

「ドン! 俺もその捜索に付き合わせてくれ!」

 

「だめッ!」

 

「あろ!?」

 

ドンの返答を聞く前に聞こえて来た拒否の言葉は桜のものであった。

 

 

「だめ! ぜったいにだめ!! おじさんはさくらといっしょにいるの!!」

 

「桜ちゃん・・・」

 

雁夜の身体にしがみ付く桜。

その目元には涙を溜め、身体は小刻みに震えている。

 

 

「桜もこう言ってるし・・・雁夜、貴方は―――」

 

「頼む、桜ちゃん!」

 

雁夜はしがみ付く桜を振り切り、盛大に土下座を決めた。

彼の行動に皆が目を丸くする中、彼は頭を下げたままで続ける。

 

 

「頼む。こうなったのは、全部俺が悪いと言っても過言じゃあないんだ! だから、桜ちゃん・・・俺に責任をとらせてくれ・・・!」

 

「雁夜・・・」

 

これは雁夜の決意でもあった。

アキトのマスターである自分が動かずして、何がマスターかという決意だ。

ただ言い回しが、幼い桜には難しいんじゃあないかと全員が思っていると・・・

 

 

「・・・わかった」

 

『『『(えぇえええええええッ!!?)』』』

 

「ダーッッハッハッハッ!!」

 

彼女は二つ返事で了承してしまったのだ。

これには一同唖然。ライダーは爆笑。

 

 

「わかってた。とめてもむだだって・・・・・だって、雁夜おじさんばかだもん」

 

「うぐッ・・・!!?」

 

幼女の言葉が三十路手前野郎の心に突き刺さる。

 

 

「だから、これだけはやくそくして・・・・・ぜったい、ぜっったいにわたしのもとにかえってきてね!」

 

「桜ちゃん・・・!!」

 

「ゆびきりげんまん」

 

「ああ。ありがとう、桜ちゃん」

 

小さな手で涙を拭いながら、彼女は彼と小指を絡ませ、指切りをする。

この二人のやり取りに周りにいた知識人は、こう思った。

 

 

『『『(こいつ絶対、将来尻に敷かれるな・・・)』』』

 

「ゆびきりげんまん♪ ウソついたら~♪」

 

「・・・ぜんぶのゆびとつめのあいだに十本はりをつきさす♪」

 

「・・・・・地味にエグいよ、桜ちゃん・・・」

 

「さて、それでは決まったであろー!! ワシとロレンツォ、そして雁夜を含めた捜索チーム。シェルスとノア並びに寝ているガブリエラを含めたお留守番チームに別れるであろーッ!」

 

「イエス、ユアマジェスティィイッ!!」

 

「よし! ウェイバー、手伝うであろー!」

 

「なんで僕が手伝うんだよ?!」

 

「つべこべ言うな、もやしっ子!」

 

こうして二つのチームに別れる事が決定するとドン達はさっさとウェイバーを借り出して身支度をはじめる。

 

 

「あ、そうそう。ライダー?」

 

「ん? なんだ小娘」

 

「ほれ」

 

身支度をするドン達を尻目にノアがライダーへ小瓶を渡す。

中は何やら赤い液体で満たされており、ほのかに甘い香りが漂った。

 

 

「なんだこれは?」

 

「ドンに頼まれて、アンタ用に作った魔力回復ポーションや。一応予備に持っておき」

 

「ほう、これは良いものではないか! されど小娘、なぜもっと早くに出さなんだ? これがあれば、あんなまどろっこしい事などしなくても良かったではないか」

 

「阿保か。それが出来たのは昨日の夜やし、セイバーの襲撃でもうそれ一本しかないんやからな!!・・・それにその原材料はアキトの血や」

 

「なに!?・・・・・飲む気が失せるぞ、小娘・・・」

 

「あっはっはっは! まぁ、きばりや・・・・・アンタは金ぴかとの一戦が待ってるんやからな・・・」

 

「!・・・なんだ、あの山羊はそんな事までお見通しなのか?」

 

「ふんっ、ウチのドンをそこいらの山羊と一緒にしたらおえんでライダー」

 

「ガッハッハッハ、流石は我が盟友かッ! 珍妙な姿をしているくせにやるではないか!!」

 

「はいはい。ホント、アンタは人生が楽しそうで何よりやで」

 

「・・・ノアよ」

 

ノアの発明品とドンの思惑に上機嫌に笑うライダー。

そんな彼に呆れているノアに身支度を終えたドンが周りに気づかれない様に耳打ちしてきた。

 

 

「(例の件はどうであろー?」ボソッ

 

「(万事順調や。()()()()()()()()()()()()。カラは別のモン詰め込んで、ウチの宝具の中で寝てるわ。でも、()()()()()()()はどうするつもりやドン?」ボソッ

 

「(それも考え済みであろー」ボソッ

 

「(なら安心や。しっかし、ホンマ人間万事塞翁が馬やな。拠点が崩壊した時はどうしよー思うたけど・・・まさか、ガブリエラ姐さんが雁夜捜索であないなモノ持って帰るなんてな」ボソッ

 

「(流れは来ているであろー!!」ボソッ

 

「ん? おい、なに話してんだよドン? 準備出来たぞ」

 

「わかったであろー。では頼んだぞノア」

 

「合点やッ!」

 

「それでは行くであろーッ!」

 

ノアに何かを頼んだドンはロレンツォと雁夜を引き連れ、颯爽とアキト捜索に出かけて行った。

 

 

「・・・・・シェルスさん」

 

「なにかしら、桜?」

 

マッケンジー氏宅の二階にいる桜に向かって手を振った後、ドン達と共に歩いていく雁夜。

そんな彼を見えなくなるまで見送った彼女は、ふとシェルスの方へ駆け寄った。

 

 

「シェルスさん・・・私に―――――」

 

「!?」

 

桜の言葉に耳を疑うシェルス。

だがそれは、桜のある覚悟と決意を秘めたものであった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





なにかを企むドン・ヴァレンティーノ!
雁夜捜索で、ガブリエラが持って帰ってしまった『例のモノ』とは?!
山羊の謀略は既に行われていたのか!?
次回は何時かッ?
それが未定だ!

次回は果たしてどうなることやら・・・。


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苦悩




今回はある人物の『病んでる』部分を描写しました。
・・・野郎の描写は難しいですなぁ・・・
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

 

晴れた日の朝。

冬木市にある山、名を『円蔵山』。

その中腹にある寺院『柳洞寺』に一人の男がいた。

 

やつれ果てた顔と鮮魚コーナーに並べられた魚の目をし、階段へ木偶人形のように腰かけている男こそ、この聖杯戦争で最優のサーヴァントを有する魔術師『衛宮 切嗣』だ。

 

 

「(最後に睡眠をとってから、40時間・・・というところか・・・。戦いを勝ち抜き、聖杯を降臨させるには、冬木にある4つの霊脈の内のどこかで儀式を行わなければならない。その内の二か所・・・遠坂邸と崩壊した聖堂教会にも『言峰 綺礼』の姿はなかった・・・と、なれば・・・残りは二つ。ここ円蔵山か、冬木市市民会館。格から言って、円蔵山が最有力・・・万が一市民会館であっても、あそこならば正面から強襲をかければいい。・・・・・・・・舞弥が生きていれば・・・市民会館の方に回したんだがな・・・)」

 

間桐邸への襲撃後、難を逃れた切嗣はあれから不眠不休でアイリスフィール捜索を行っていた。

しかし、成果はなし。

わかった事と言えば、アイリスフィール誘拐の真犯人が言峰である事と自分達が彼の手の上で踊らされていた事ぐらいだ。

 

 

「(・・・そう言えば・・・・・『アレ』を頭数にいれていなかったな・・・)」

 

「・・・・・」

 

切嗣がハイライトのない眼で見た先には右頬に湿布をし、ブラックスーツに身を包んだ金髪の少女、『セイバー』が酷く澱んだ眼で立っていた。

 

 

「・・・ガンナーとの戦いの後、市内を隈なく巡ってアイリスフィールを探しています。・・・が、以前手掛かりもなく・・・・・・申し訳ありません・・・」

 

「・・・・・」

 

落ち込んだ様子で現在の状況を話すセイバーに対して、切嗣は労いの言葉処か、ウンともスンとも言わない。

『マスターはサーヴァントとのコミュニケーションは一切しない』。これがセイバー陣営のスタンスだ。

アイリスフィールがいた時は彼女が緩衝材の役割を担って、どうにかやって来れた。

だが今はいない。

 

一方的にサーヴァント・・・いや、『英雄』という存在に嫌悪している切嗣と余りにも真っ直過ぎるセイバーの仲は最悪なものとなってしまっていた。

 

 

「・・・・・では、何かあった時は以前のように令呪による召喚を・・・」

 

「・・・・・」

 

そう言って、セイバーは背を向けて山を下りていく。

雲一つない真っ青な空の下に胸糞悪い空気を残して・・・。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

「・・・・・ケイネス殿・・・」

 

そして、ここにもまた酷くやつれた顔をした男がいた。

ランサークラスで召喚されたサーヴァント、『ディルムッド・オディナ』である。

 

やつれながらも艶やかで美しいそのランサーの目線の先には、様々なチューブを全身に通され、心電図を付けられた満身創痍の男が横たわっている男が一人。

彼のマスターである『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』だ。

 

間桐邸襲撃事件後、バーサーカー陣営最高の医療回復宝具を持つノアによる緊急手術を受けたケイネスは、術後の絶対安静の為にこの冬木市総合病院に入院となった。

 

 

「・・・ッチィイ・・・!」

 

病院職員に暗示をかけた上で、即ICU行きになった彼をガラス越しから見守るランサーを交差通路から見守る赤毛の人物が一人。

ケイネスの婚約者にして、ランサーの保有スキルで色狂いになった『ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ』だ。

 

彼女はランサーの保有スキルによって魅了された看護師達を押しのけ、絶好のポジションで彼の姿を瞳に映していた。

 

しかし!

絶好のポジショニングでランサーを拝見しているというに、ソラウの心は晴れなかった。

何故ならば、今の彼の瞳にはケイネスの事しか映っていないからだ。

 

気絶する寸前にケイネスから『ソラウを守れ』と言われたのにも関わらず、ランサーの関心は彼に向きっぱなし。

どんなに言い寄ろうと情欲の眼を向けようともソラウの姿なんぞ塵芥の如く眼中にない。

 

 

「(どうして・・・どうしてなのランサー・・・! どうして私を見てくれないの?! なんでケイネスなのよぉおッ!!)」

 

彼女の嫉妬の炎に燃えた瞳がケイネスを捉える。

ケイネスはソラウ焦がれ、ソラウはランサーに焦がれ、ランサーはケイネスに忠節を誓うといった昼ドラのようなトリプルクロスが出来上がってしまった。

 

 

「ランサー!」

 

「・・・」

 

ついに堪らなくなったソラウはランサーに詰め寄る。

されどランサーはそんな彼女を気にも留めず、ケイネスを見つめ続けた。

 

 

「ランサー・・・ケイネスが傷ついて、悲しいのはわかるわ。でもこうしている間にも他のマスターが聖杯に手をかけているかもしれないのよ! 貴方は騎士、フィオナ騎士団の一番槍『輝く貌のディルムッド』でしょう?! こんな事で立ち止まっていてはダメよ!!」

 

「・・・なにが・・・・・」

 

「え?」

 

「なにが騎士だ!!」

ガンッ

 

詰め寄るソラウに対して、ランサーは悲痛にも似た叫びを上げてガラスを叩く。

あまりの彼らしからぬその姿に流石のソラウも動揺した。

 

 

「我が功を焦って主を放り、二度もその命を危険に晒してしまった俺が騎士?・・・ふざけるなッ・・・! こんな無様な姿を晒す男が騎士なものか・・・!!」

 

ランサーはウンザリしていた。

召喚されてからのソラウによるケイネスとの軋轢もだが、何よりも自分がケイネスに対して何の戦功と忠義を上げられていない事だ。

 

倉庫街での戦闘然り。

キャスターとの総力戦も然り。

間桐邸宅襲撃事件も然り。

大小問わず戦功を挙げられた筈だ。

にも関わらず、上記の好機をランサーはことごとく外している。

 

それでも『純粋な武と忠義に貫かれた戦士の生き様の完遂』の為に尽力した。

だが功を焦り、武を尽き過ぎるが故に自らの主を危険な目に合わせてしまった。

 

その罪悪感が真っ直ぐな性格の彼の心を蝕んだ。

 

 

「そ・・・そんな事はないわ! 貴方は懸命にケイネスの為に戦ったじゃない!」

 

「・・・・・元はと言えば、ソラウ殿・・・貴女が俺に・・・魅了されたからおかしくなったのでは・・・? 貴女が俺の黒子に惑わせなければ、この様な事にならなかったのでは?」

 

「え・・・!?」

 

ギョロリとハイライトのない氷柱のような目線がソラウを突き刺す。

 

 

「・・・いや・・・自らの失態をソラウ殿に当てつけるなど愚の骨頂・・・」

 

「そ・・・そうよ、ランサー! 貴方は―――ッえ・・・!?」

 

動揺しながらも彼を擁護しようとするソラウを尻目に何故かランサーは、自らの宝具である破魔の赤槍を手元に出現させ―――――

 

 

「元はと言えば・・・この黒子が!!」

ザクゥッ!

 

「!? キャぁあアアッ!!」

 

自らの泣き黒子にその刃を突き立てた。

ランサーのあまりに突然の行為にソラウは叫び声を上げる。

 

 

「なにが『輝く貌』だッ、なにが『魔貌』だ! この黒子のせいで俺がどれだけ苦労したか!! この黒子が無ければ、『グラニア』を惑わせる事もなかった! そして、我が『(フィン・マックール)』を裏切る事もなかった!!」

ザク、ザクッ、ザクゥッ!!

 

「イヤぁあアアッ! やめてランサー!!」

 

「なんですかこの叫び声は?!―――ッて、なにしてんだアンタ!!?」

 

ソラウは、自らの顔に刃を突き立てるランサーを止めようと腕を掴むが、筋力:Bの彼を止める事は出来ない。

加えて、この騒ぎを聞きつけた医師や看護師達が集まり、現場は騒然となった。

 

 

「ハァ・・・ハァッ・・・ハァ・・・」

 

「あ・・・あぁ・・・ッ!」

 

ランサーの顔からは血が滴り、足元には肉片と血が飛び散っている。

この凄惨な状況にソラウは勿論、周囲に集まった野次馬達も言葉を失った。

 

 

「・・・主・・・ケイネス・エルメロイ・アーチボルトよ。やはり、私は貴方のいうように『所詮は魔術によって現身を得た亡者』。亡者である俺に、生者であるソラウ殿を守る資格はありません・・・」

 

「な、なにを言っているの・・・?」

 

血まみれの表情で、ガラスの向こう側に横たわるケイネスにランサーは寂しそうに語り掛けていく。

 

 

「このディルムッド・オディナ・・・今より、離反させて頂く!!

 

「なッ!!?」

 

ランサーは大きくそう宣誓すると何事もなかったかのようにその場から立ち去ろうとする。

 

 

「待ちなさい、ランサーッ!!」

 

「・・・・・」

 

だが、そう簡単に事は進まない。

立ち去ろうとするランサーの背にソラウは手の甲を突き付ける。

その手の甲には、ケイネスから譲られた赤い令呪が一画。

 

 

「『離反』・・・ですって? ふざけないで頂戴!! 貴方は私と共にこの戦いに勝利するのよ! そして、聖杯を勝ち取るのッ!!」

 

「・・・すまない、ソラウ殿」

 

激昂する彼女にランサーは振り向きもせず言葉を返す。

 

 

「~~~――ッ!! 我がサーヴァント、ランサー!!」

 

彼の素っ気ない態度に自らの思いを踏みにじられたと感じたソラウは、令呪を赤く輝かせる。

今までの生きた中で初めて感じたランサーへの気持ちをぶつけるように。

 

 

「令呪をもって、めいじ―――ッ」

 

「当て身ッ」

 

ドスッ

「うッ!? ラン・・・サー・・・ッ・・・」

 

「おっと・・・」

 

倒れるソラウを優しく抱きかかえるランサー。

そのまま気絶した彼女を近くにいた医師に任せると集まって来た人混みを掻き分けていく。

 

途中、騒ぎを聞きつけた警備員が彼を取り押さえようと待ち構えていた。

 

 

「ご迷惑をお掛けした、失礼する」

 

しかし、彼は警備員達へ丁寧な詫びを入れると霊体化し、病院を後にするのであった。

 

後に『消えた血塗れイケメン』として、冬木市総合病院に語り継がれるのは、また別の話・・・。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





さぁ・・・書きたいシーンに刻々と近づいています。

保有スキル『インフル:B』なんかに負けない様に頑張るゼぇい!

・・・誰か、インフルを早く治す方法を教えてくだちい・・・


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影法師




病気の時って、心細くなりますよね。
自宅の部屋で隔離されていると尚の事・・・
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

「えっと・・・ニコ、本当にここ?」

 

『ガフッ』

 

サーヴァント捜索に意気揚々と向かった山羊と麻袋と死にぞこないのクレイジートリオは、アキトの使い魔である小型化した大狗『ニコ』の嗅覚に導かれたのだが・・・

 

 

「これはこれは・・・」

 

「酷い有様であろー・・・」

 

ニコが立ち止まって吠えた先には、今だ土煙が立ち込める()()()()()建物があった。

辺りには今だ野次馬がおり、それを取り締まる警官や現場を撮影するリポーターやカメラマン達もいる。

 

 

「ど・・・どうする、ドン? これじゃあ近づけないぞ」

 

「う、う~む・・・」

 

雁夜の言う通り、人混みの中を突っ切っていくのならまだしも。

捜索に出た面子が二足歩行の山羊に麻袋を被った和装の変質者、それに杖をついた今にも死にそうな三十路手前。

・・・絶対に捕まる。というか、もうすでに怪しまれている。

 

 

『ワフ!』

 

「ん? どうしたであろー、ニコ?」

 

そんな明らかに人選ミスの面々を尻目にニコがドンのマントを咥えて引っ張り、前足でスタンピングをする。

そのスタンピングした場所にはマンホールがあった。

 

 

「よし。地下から潜入するであろー。ロレンツォ」

 

「わかりました、首領ッ!!」

 

三人と一匹は早速マンホールを退かし、人目を避ける様に下水道へ入っていく。

捜索隊が入った下水道は案外広く、小型化していたニコは元の大きさに戻ると三人を背に乗せて走った。

 

 

『ッ!』

 

「あろッ!?」

バシッン!

 

しかし崩壊した聖堂教会の真下に差し掛かろうとしたその時、突如としてニコが立ち止まってしまった。

あんまりにも急に止まるものだから反動でドンの身体が前方に放り投げられ、壁に叩きつけられた。

 

 

「首ォォオオオオオッ領!!?」

 

「どうしたんだ、ニコ? 急に足りどまって」

 

壁に叩きつけられたドンに素早く駆け寄るロレンツォを横に雁夜がニコに疑問文を投げ掛ける。

 

 

『グルルルッ!!』

 

「え?」

 

するとニコは自らの目線の方向に向かって、牙を剥き出しにしてなんとも獰猛な威嚇を始めたのだ。

そんな行動に目を丸くした雁夜は、ニコと同じように前を向く。

 

 

「!? マズいッ! 逃げろドン、ロレンツォさん!!」

 

「「?」」

 

自分でも訳が分からなかった。けれど無意識に雁夜はそう叫んだ。

すると常人の目には到底認識できない『赤いナニカ』が壁からヌルりと這い出し、近くにいた二人の四肢を掴んだ。

 

 

「これは!」

 

「な、なんであろー!!?」

 

「ドン、ロレンツォさん! 今行くぞッ! 『緋文字』!!」

 

雁夜は能力で自らの足に力を溜めるとニコの背中からジャンプする。そして勢い良く跳躍した雁夜は、底なし沼のように形状変化した壁へと引きずり込まれるドンの手を掴もうとした。

 

ガンッ

「糞ッ!」

 

だが、それよりも早く赤いナニカは二人を壁の中に引きずり込んだ。

先程まで柔らかった壁は元の硬い強度へ戻り、飛びかかって来た雁夜の腕を拒否した。

 

 

「一体どうなってんだ?! なんなんださっきの名状し難きヤツはッ? というか、どこ連れて行かれたんだドン達は?!!」

 

色々とツッコむ部分はあるが、それどころではない。

正体不明の何かに二人がさらわれたのだ。こんな所で騒いでいる場合ではない。

雁夜は一旦神経を落ち着かせ、冷静に―――

 

 

『緋文字・散弾式連突』!!」

 

バゴォオオッン!

 

―――・・・なれず、そのまま壁に思いっきり能力をぶつける。

すると壁は飴細工の様にひび割れ、大きな空洞が顔を出す。その奥から微かにドンとロレンツォの魔力が感じられた。・・・同時に身の毛もよだつ冷気も。

 

 

「・・・行って見るしかない・・・よな」

 

『ガフッ』

 

彼等に迷っている時間はない。

雁夜は意を決して、空洞の中へと進んで行く。

 

 

「・・・臭ッ!!?」

 

空洞の中は酷く鮮度の落ちた生魚のような空気で満たされており、足元の床には小さな白い欠片が散漫していた。

 

 

「まったくなんなんだよこの臭い・・・・・って、なに喰っているんだニコ?」

 

『グゥ』

 

『なんだ、お前もいるのか?』という態度でニコが彼に出したのは、骨のような白い塊・・・というか『人の頭蓋骨』であった。

この謎の空間は、聖堂教会地下に併設されていた地下墳墓だったのだ。

 

『食べちゃダメ』と骨を取り上げようとする雁夜。『イヤイヤ』と骨を離さないニコ。

時と場所と状況が違えば、なんとも微笑ましい光景であろう。

しかし傍から見れば、教会の地下墳墓で人の頭蓋骨を取り合う死にかけ不審者と化物サイズの狗。

・・・出来の悪いホラー映画のワンシーンのようだ。

 

・・・ベキリッ

 

「!・・・ニコ、今の・・・」

 

「グルルルッ・・・!」

 

音がした。まるで骨でも砕くような音だ。

一人と一匹は、慎重にその音のした方へと歩む。

歩んでいく内に生臭い臭いが酷く濃くなり、ベトベトした液体が靴底にへばり付いた。

 

・・・ゴキリ

バキャリ

ガコリッ!

 

そして、歩みを進めていくたびに音も次第に大きくなっていく。

砕くような磨り潰す様な音・・・咀嚼音だ。

 

バキリッ

 

「ムグムグ・・・」

 

その内に地下墳墓の本堂に到達した彼等は、ある人物を目の当たりした。

その人物はイカ墨のように真黒な衣を身に纏い、ひっくり返した棺の中から積み上げた人骨の山の上にドッカリと腰を据え、なんとも旨そうに骨を砂糖菓子のように喰らっていた。

 

『バーサーカー!』・・・と雁夜は呼び掛けようとしたが、寸での所で口にするのを止め、代わりにこう口にした。

 

 

「ドンとロレンツォさんはどこだ?!」

 

「≪―――・・・ハハハ・・・―――≫」

 

そんな怒号にも似た雁夜からの問いかけにその人物は振り向きざまに笑った。

 

 

「≪―――質問に答える前に質問を質問で返すようで悪いが・・・どうして俺がアイツじゃあないとわかった? この身体はアイツのもので、顔もアイツなんだがなぁ―――≫」

 

黒衣の人物は不思議そうに彼へ語り掛ける。

そんな質問に対して、雁夜は理由を二つ述べた。

 

 

「第一に。確かにお前はバーサーカーの身体、人相、独特の魔力を持っている。・・・・・でも、『何かが違う』『なにかオカシイ』と俺の中の直感が言っている。けれど、これだけじゃあ貴様は納得しないだろう。そこで第二の理由だ」

 

『GALLLLLッ!!』

 

突き立てた親指の先にいたのは、普通の狗の頭の形状とは大きく懸け離れたものに変化してしまったニコが敵意を隠す事無く剥き出しにしていた。

 

 

「≪―――相変わらず、可愛くない狗畜生だ―――≫」

 

「今度はこっちの質問に答えろッ!! お前が何者であろうかなんて事じゃあないぞ、さっきの質問だ。ドンとロレンツォさんはどこだ?!」

 

「≪―――ふむ・・・ここに近づいて来た連中は適当に獲り込んで来たものでな。『搾り取った』ら返す―――≫」

 

「なにを言って・・・―――ッ!?」

 

雁夜はゾッとした。

辺りの環境に目が慣れ、黒衣の人物をよくよく見れば、その後ろには干からびた人間の身体が吊り上げられていたのだ。

 

 

「≪―――なにぶんとこの身体が酷くダメージを負ってしまっていてな。アイツの代わりに俺が栄養補給をしてやっているという訳だ―――≫」

 

「栄養・・・補給だと・・・!」

 

「≪―――なんだ、お前は見るのは初めてか? いや・・・化物の栄養補給など、良く知っているじゃあないのか? 『半吸血鬼(ダンピール)』―――≫」

 

「!」

 

再び雁夜はゾッとした。

いや、ゾッとどころではない。言いようのない凍りつくようなものを身体全体に感じた。

もし彼がなにも知らなければ、速攻で逃げていただろう。

 

 

「こ、この・・・ッ!」

 

だが、雁夜は逃げない。

この戦いに勝つために、そして生き残る為に。

されど、身体が動かない。恐怖のあまり声が出ない。

 

 

「『偉大なる山羊の威光(ドン・ヴァレンティーノ)』!!!」

 

「!?」

 

「≪―――ほう―――≫」

 

そんな時だった。山吹色の温かな閃光が地下墳墓全体を包み込んだのは。

 

 

『影』よ、貴様はここいらで帰るであろー!」

 

「ドン!!」

 

肉壁と化した壁から出て来たのは、光り輝くドンと彼を持ち上げる何故か白い翼を生やしたロレンツォだった。

ツッコミどころは多々あるが、雁夜はこれを今はスルーする事にした。

 

 

 

「≪―――まったく、空気の読めない山羊畜生め。ちょいとばかりの栄養補給もさせてくれないとはケチな畜生だ―――≫」

 

「喧しいであろー! カッコ良く宝具を決めたワシに免じて帰るであろー!!」

 

「≪まったく・・・ではなコイツのマスター。もう会う事もないだろう≫」

 

「え・・・」

 

そういうと黒衣の人物はばったりと骨山の上に倒れ、雁夜の前まで転がり落ちた。

 

 

「アキトッ、大丈夫であろー?!」

 

「バーサーカー!!」

 

転がり落ちた人物の身体をひっくり返すとそこには、彼らがよく知る奇妙でどうしようもない吸血鬼がいた。

しかし、どうやら意識が混濁している様で、白目を向いて血涙を流しながら人間には理解できない謎の言語を上擦っている。

 

 

「ここは一旦退却であろー!」

 

「ええ!? この惨状はどうすんだよ、ドン?!」

 

「我らの目的はアキトの捜索回収であろー! 干からびた人間どもも幸いに無事であろー」

 

「あんな状態で無事なのかよ!?」

 

「つべこべ言うな! ニコ!!」

 

『ガフッ!!』

 

こうして目的を達成したチームクレイジートリオは、瀕死のアキトをニコの背に乗せ、そそくさと現場を後にした。

当然、この地下墳墓の惨状は後日の冬木市ニュースで取り上げられる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





出ました、本編でもあんまり触れられない『謎の人物』。
一応は出しおこうと思って、前々から考えてました。
次回はどうしようかなぁ・・・


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駆除




今回は、最終決戦へ向かう導入部なので短めです。
あと、本編よりも先に『彼』が復活!
という訳で、どうぞ・・・・・


 

 

 

『間桐 臓硯』。本名を『マキリ・ゾォルケン』。

彼は今から五百年前のロシアでも名門のマキリ家の当主であり、現在の冬木市で行われている聖杯戦争の基盤を作り出した一人でもある。

 

日本に来た当初の彼は、正義と理想を抱く求道者であった。

しかし、度重なる延命術の末に『人間でありながら肉体が蟲』という苦痛と共に魂が摩耗すると同時にその意志と記憶さえも消え失せ、醜い姿へと変貌。

かつては渇望していた『悪の根絶』も自身が生き延びる事に固執する『不老不死』に変わり、虎視眈々と聖杯を狙う外道へとその身を堕とす事となる。

 

 

 

「・・・見つけたで~、この『悪性腫瘍(クソヤロウ)』!」

 

『!?』

 

・・・だが、そんな彼にも『終わり』の時が訪れた。

 

サーヴァント召喚によってバーサーカークラスで現界したアキトに外で活動する為の蟲を全て喰われてしまった彼は、もしもの為にと本体を桜の心臓に潜ませていた。

そして、復活の機会を狙っていた。

 

しかし、そんな機会はもう永遠に来ないだろう。

小さな幼い心臓に張り付いたモノ言えぬ虫ケラを切除しようと見た事もない紫髪のサーヴァントが彼を睨んでいるのだから。

 

 

 

―――――――

 

 

 

アキト捜索が行われているその裏で、紫髪のサーヴァントもといマフィア陣営医療班隊長であるノアは仮拠点としているマッケンジー氏宅の一室を借りて、桜に寄生している間桐 臓硯の切除手術を行っていた。

 

 

『!』

 

「こ、この~ッ!」

 

けれど、流石は五百年もの間、生にしがみ付いたケダモノか。モノ言えぬ蟲になっても間桐 臓硯は、切除されまいと高質化した触手を振るう事で抵抗する。

これでは切除はおろか、高質化した触手が桜の健康な臓器を傷つけてしまうかもしれない。

 

 

「どうする、ノア? 私がこの糞蟲を血液魔法で押さえ付けようか?」

 

第一助手に付いていたシェルスが自らの能力を使おうとするが、ノアが無言でそれを静止した。

 

 

「アカンで姐さん。無理に抑えつけると触手が更に喰い込んで切除しにくくなるし、手術時間が長くなって桜に負担をかけてしまうで」

 

「じゃあどうするのッ?」

 

「・・・姐さん、バックアップ頼むで!」

 

なにかを決心したノアは一旦心臓から手を引き、呼吸を整える。虫けらの方はこれを機にどんどん心臓へ触手の巻き付けをきつくしていく。

 

 

「『我が医術は有象無象の之を遍く全て蹴散らす術―――』」

 

『ッ!?』

 

だが、ノアの両手が詠唱と共に輝き出す。その光は虫けらが最も苦手とする『太陽の光』に似ていた。

これはマズいと焦る虫けらであるが、もう遅い。

 

 

「『―――全ての病魔よ、ウチにひれ伏せやッ!』病魔殲滅、いとをかし(ノアーズ・メディカルディッド)』!!

 

ズババババ―――ッァアッン!!

『!!??!』

 

ノアの光り輝く手が目にも止まらぬ速さで動き回り、切除・止血・縫合を無駄なく行う。気づいた時には、虫けらはピンセットで抓まれていたのであった。

 

 

『~~~ッ!!』

 

キーキー喚くゾォルケンは、桜の体内に戻ろうと暴れまわる。

 

ギチィイッ!

『!?』

 

「逃がしゃへんで~糞蟲ィイ! アンタはこれからウチの実験材料になってもらうんやからなぁ~! ゲェッヘッヘッヘッ!!」

 

もし、彼に口があれば人語で泣き叫んでいるであろう。それぐらいノアはあくどい表情をしていたのだ。

しかし・・・

 

 

「ゲッヘッヘッヘ―――・・・って、アレ?」

 

「ノア?!」

 

カランッカラン

 

ノアは宝具の使用による魔力不足からか足元から崩れ落ちてしまい、それによってピンセットも手から落ちる。

これ幸いとゾォルケンはピンセットから脱出し、扉に向かって逃げようとした。

 

ギィイッ

 

「ガンナーにノア、もう終わったのか?」

 

「「!?」」

 

『!』

 

調度其の時、なんともタイミング悪くウェイバーが部屋に入って来る。この状況をしめしめとゾォルケンは彼に向かって、飛びかかっていった。

 

 

「・・・ああ、こいつは良い。調度、腹が減ってたんだ」

「むぅうッン!!」

 

ズギャァアッン!

『ッ!!?』

 

そんなゾォルケンにどこからともなく銀の刃と紅の棘が現れ、その身を切り裂き、刺し潰した。

 

 

「大丈夫か小僧ッ?」

 

「う、うんッ。で、でもアレは・・・!?」

 

最初の銀の刃はライダーのキュリプトの剣。

ならば、二つ目の紅の棘は?

 

 

「よぉ、糞蟲野郎・・・会いたたたかナかったJeい・・・マキリ・ゾォルケン!」

 

『!!?』

 

切断されたゾォルケンの胴体を踏んじばりながら、低い声で語り掛ける赤衣の人物。

ゾォルケンの予定を全てぶち壊しにし、そして聖杯戦争までをも根底から覆そうとする異端のサーヴァント―――

 

 

「『アキト』ッ!!」

 

―――バーサーカーことアキトであった。

 

 

「おい、バーサーカー! 突然どうした―――って、なんじゃこりゃあ!!?」

 

あとから部屋の外に現れたのは、帰って来た捜索チーム。

マッケンジー氏宅にアキトを抱えて入って来た瞬間に突然起き上がり駆け抜けたのだ。

 

 

「やぁやぁ・・・これは、これは、みなみなさささまガがガ?」

 

「え・・・お、おい・・・バーサーカー?」

 

其れだと言うにアキトはまるで壊れたラジオのような言葉を喋り出した。

しかも眼からは血涙し、瞳孔は開きっぱなしの泳ぎまくり。明らかに普通ではない。

 

 

「DDDOUしたッテイうんダダダッWRYYY?」

 

「あまりのダメージに言語野が狂っているであろー、アキト!」

 

「! ほっほ、ホンとうDA・・・」

 

ここでドンに指摘されて初めて自分の異常性に気づいたアキトは、おもむろに手を見る。そこには、切断されながらも必死に暴れて彼から逃げようとする蟲が一匹。

 

 

「なラ、こいツで栄養ホきゅうしないとニャぁあ!」

 

『――――――ッ!!』

 

ガブリッ!!

 

なんの躊躇いもなくアキトはその蟲を頬張る。そして、肉をよく牙で噛み潰して、前歯で噛み千切って、奥歯で磨り潰した。

 

 

ゴクリッ・・・あぁ・・・味は糞不味いし、肉は筋張ってるし、良いとこ無しの肉だが・・・・・考えても褒めるとこねぇな、喰わなきゃ良かった」

 

『『『お・・・おぉ・・・』』』

 

アキトの捕食シーンに一同ドン引きしながら、こうして五百年生きた怪物マキリ・ゾォルケンこと間桐 臓硯は完全にその命を終わらせた。

なんともあっけなく、そして見せ場のない無様で無惨な最期であった。

 

 

「んッ、んん! どうだ、ドン? 俺の声の調子治った? あと、皆ただいま」

 

「オラァアッ!」

 

ズドゴンッ!

「タコスッ!!?」

 

とりあえず最初にシェルスの『心配したんだからね、このバカ!』的な右アッパーが彼の顎に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





アキト「諸君、私は帰って来た!」

外伝から先に復活って、どうなんだ?

次回はどうなるってか、もう考え付いているような気がする。


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入団




導入編も今回で最後。
次回で漸く書きたいシーンに移れる。
という訳で、どうぞ・・・



 

 

 

「あ~まったく・・・ムグムグ・・・ホントに・・・モグモグ・・・」

 

「もう、食べるか喋るかのどっちかにしなさい」

 

「んじゃあ食べる。あ、マッケンジーさんおかわり」

 

漸くマフィア陣営に帰還したアキトは夕時という事もあった為か、ガツガツと気持ちの良いぐらいに少し早い晩飯を喰らいに食らう。

 

 

「バーサーカー、人の家なんだから少しは遠慮しろよ!」

 

「すまないウェイバーくん・・・俺が弱いばかりに・・・」

 

文句を吐露するウェイバーに申し訳なさそうに雁夜が呟く。

 

けれど、雁夜の言葉は致し方ない。彼の身体は魔法で強化されたと言っても未だ紙装甲のもやし。

そんな状態でアキトから魔力回復の吸血をされれば、確実に干乾びてくたばる。

だから、少量でも着実に回復する食物の経口補給がこの大喰らいの狂戦士には一番なのだ。

 

 

「それでバーサーカー、余よりも先にヤツと死合うてみた感想はどうだ?」

 

「モグムシャぁッ・・・ゴクッン・・・ふむ・・・」

 

ライダーの言葉に周囲の耳がアキトに集中した。

 

マフィア陣営が標的とする世界最古にして最強格のサーヴァント、アーチャー。その力は倉庫街での戦闘で僅かしか見せなかったが、その力は強大だ。

 

 

「強かった・・・というよりは、強すぎた。俺が異常でなけりゃあ、ここにはいない位にな。本気にもなってなかったよ」

 

「・・・ッ・・・」

 

アキトの言葉に雁夜は押し黙り、脳裏にはあの黄金のサーヴァントとの闘いが思い浮かんだ。

そして、こう思う。『よくも自分は耐えられたな』と。

 

 

「しかも、ありゃあまだ虎の子の宝具を隠し持ってやがんな。俺の予想じゃあ『対界宝具』だろうよ」

 

「た、たた、『対界宝具』ゥウッ!!?」

 

彼の言葉に今度はウェイバーが狼狽えた。

対界とは、すなわち世界そのものを相手どれるという意味。間違いなく、どのサーヴァントよりも抜きん出た威力を持つ宝具であろう。

 

 

「おいおい、そんな狼狽える事ないじゃあないか。あくまでも予想だぜ?」

 

「これが赤の他人の予想なら、僕もこんなに狼狽える事はないさ。でもなぁバーサーカー、他ならぬお前が予想すると大抵の事は当たってしまうんだよ!!」

 

アキトの予想は、本当は予想ではなく知っている事実を述べているだけなのだが、ウェイバーを混乱させる余計な一言だったなと軽率に口に出した事を後悔し、弁明しようとする。・・・が。

 

 

「僥倖である! バーサーカー、今度のアーチャーとの戦い余に譲れッ!」

 

「はぁあッ!?」

 

ライダーがなんだか嬉しそうに声を上げた。

これに反論の声を上げるのは、勿論のことウェイバー。

 

 

「お前、自分がなに言っているのか解ってるのか?! アーチャーはお前よりも強力な宝具を持っているんだぞ! ここは協力して、アーチャーに当たるのが基本だろうが!!」

 

「構わないぜ、俺は」

 

「バーサーカーッ、お前!!?」

 

「大王には、俺とマスターがいない時にセイバーの聖剣から皆を守ってくれた恩がある・・・・・その代わり、セイバーは俺がやる」

 

「ほう・・・」

 

アキトの言葉にライダーの眉間が強張る。

だが、アキトにはセイバーと戦う明確な理由がある。それはシェルスの事だ。

自分がいない間、彼女は突然のセイバー襲撃に対処し、あまつさえ深手を負ってしまった。

 

 

「『落とし前』はつけさせてもらわないとな・・・」

 

「ッ!」

 

「・・・そう来なくてはな・・・よかろう、セイバーは貴様に任せる!」

 

眉一つ動かしはしないが、なんとも言い難い恐ろし気な雰囲気を放つアキト。

そのどす黒いオーラに圧倒され、無意識にウェイバーは頷き、ライダーは満足そうに手を叩く。

こうして、ライダー陣営はアーチャーを。バーサーカー陣営はセイバーに当たる事を決め、夕食は終息していった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「そこでセイバーと戦う為にもマスター、相談があるんだがいいかい?」

 

「え?」

 

夕食もそこそこにとっぷりと陽が沈んだ夜。

アキトはマッケンジー氏から拝借したブランデーを片手に雁夜に相談事を持ち掛ける。

相談事というのは、これからセイバーと戦う為に彼の魔力値を底上げするというものであった。

 

 

「でも、どうするんだ? また滅血魔法関連で底上げするのか?」

 

「いんや。『上乗せ』だ」

 

「?」

 

疑問符を頭に乗っける雁夜を余所に彼の周りをヴァレンティーノファミリーの面々が囲んでいく。

 

 

「え・・・なに? というか、ノアちゃん元気になったの? ガブさんも起きてるし」

 

「間桐 雁夜ッ!!」

 

「え、スルーッ!? は、はい!!」

 

「我がヴァレンティーノファミリーに入団にするであろー!」

 

「・・・はい?」

 

突然のファミリートップ、ドンからの勧誘に戸惑う雁夜。

けれど、周りの皆は朗らかに彼の返答を待っていた。

 

 

「どうして俺を・・・ファミリーに?」

 

「セイバーと戦う時に俺は、最上宝具で戦いたいんだけれども・・・アレじゃん。マスター魔力少ないから俺が宝具使えば、すぐにくたばるよ」

 

「ぐハッ!?」

 

戸惑う彼の疑問にアキトはまっすぐな正論で返した為、申し訳なさで吐血する雁夜。

確かにアキトの言う通り、現在の雁夜は魔術師もどきから魔導士にランクアップしたとはいえ、サーヴァントへの魔力補給をすれば生命力ごと持っていかれるモヤシ。

 

 

「だから、ここはドンの宝具で魔力諸々を上乗せしようってな。でもドンは、ファミリーでも何でもない野郎に宝具を使うのは嫌なんだってさ」

 

「そうなのか」

 

「それに雁夜ッ、お主には資格があるであろー!」

 

「・・・へ?」

 

「お主は自らの危険も顧みず、幼い桜を救おうとする高潔な魂を持っているであろー!」

 

「い・・・いや、それほどでも///」

 

「という訳で、ホレ」

 

照れる雁夜にグラスを渡すアキト。

そして、その中に自らの血を注いだ。

 

 

「まぁ、グイッと」

 

「え・・・飲むの、コレ?」

 

「おん。俺の血をベースにドンの宝具が発動すれば、ドン達の魔力全てがマスターに注がれるって訳だ」

 

「全ての魔力・・・って、それじゃあ!!」

 

『全ての魔力が注がれる』。

つまりそれは、現界しているドン達が座に帰るという意味でもあった。

 

 

「気にするでなかろー、雁夜。ワシらは元の場所に帰るだけであろー」

 

「で、でもッ!」

 

突然の事に雁夜は、これまでの事を思い出した。

突然現れた意味不明で奇妙な生物であるドン達に驚かされ、振り回された。

しかし、未熟な自分にこれ程味方してくれたのは彼等だけだった。

 

 

「俺、ドン達になにも・・・出来て・・・!」

 

「たわけ」

 

「え・・・?」

 

「ワシは、お主の親であろー。親が子供に対して、力を尽くすのは当然のことであろー」

 

「ドン・・・ッ!!」

 

「首ォオ領ッ・・・!!」

 

雁夜は、さも当然と語るドンの言葉に涙が止まらなかった。ついでにロレンツォも泣いた。

ここまで来るという事は、雁夜はロレンツォ並みにかなり毒されていると言ってもいい。

 

 

「それでも納得できないというならば、雁夜よ・・・・・必ず、桜を救え! 良いなッ!!」

 

「グすッ・・・あ”い”ッ、わ”がりま”じだ!!」

 

「シャッシャッシャ♪ 顔がぐちゃぐちゃであろー」

 

ついにドンのカリスマでひたひたに染まった雁夜は、涙と鼻水でグチャグチャになりながら、グラスを呷った。

 

 

「不ッッ味ッ!!?」

 

「うるせぇ。ほら、この陣の上に立って」

 

味の感想を述べた雁夜は、庭に描かれた魔法陣のようなものの中央に立たされると辺りが白い光に包まれていく。

 

 

「『我は高潔なる者。我が名の下にこの者を我が傘下と認めるか?』」

 

「「「「「『認める』」」」」」

 

ドジャァア―――ッン

 

そして、彼を囲んだドン達が声を上げるとドンの後ろに金色の光を輝き放つ巨大な雄山羊が現界し、大木のような腕を振り上げたのだ。

 

 

「『なれば、この者を息子とす我が名は―――』」

 

「え・・・ちょ、待っ―――――」

 

「―――『偉大なる山羊の加護(ドン・ヴァレンティーノ)』!!!」

 

ドッカァアア―――ッン!

「ギャァアアアアアッ!!」

 

そのまま金の山羊は拳を彼に向かって振り下ろす。

凄まじい轟音と『ぷちッ』という小さな音が木霊するが、誰も気にも留めなかった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「良かったのか?」

 

俺は人魚姫の泡のように消えていくシェルスに問いかける。

ドンの宝具が発動された事で、俺が召喚した者達は座に帰って行った。

そして、彼女が最後に残った。

 

 

「・・・ええ。『愛してる』って、あの子にはもう言ったから」

 

「・・・そうか」

 

「・・・ねぇ、アキト・・・必ず・・・ね?」

 

「ああ、わかってるよ・・・・・依頼は必ず成功させんのが、俺の流儀だ。特にロリからの依頼はな」

 

俺はそう言って、シェルスの首元に牙を刺した。

牙から喉を通して、五臓六腑に彼女の血液が染み渡るのがわかった。

 

その数時間後、冬木市の空に決戦を伝える狼煙が撃ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





ドンの宝具はスタンド的なモノです。


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狼煙




参考に/zeroを見たけれど、ウェイバーの主人公感パネェ。
あと、ライダーはやっぱりパネェ。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

・・・カッチ・・・カッチ・・・カッチ・・・

 

「んっ・・・んン・・・んあ?」

 

草木も眠る丑三つ時。

ウェイバーは寝返りをうって、目を覚ました。

 

 

「・・・?」

 

上体を起こし、未だ眠気眼のまなざしで横を見れば、自らのサーヴァントであるライダーがペラリペラリと熱心に読書をしている。

その姿は、あの普段の騒がしい性格からは想像も出来ない程、物静かなものであった。

 

 

「! おおっ、目が覚めたか坊主?」

 

「夜になったら、起こせって言っておいたのに・・・なにやってんだよ、お前?」

 

「ああ・・・すまんすまん」

 

起床の第一声から、文句を愚痴るウェイバーにライダーは平謝りをしながら立ち上がる。

ウェイバーはそんな彼の素直な態度に少し疑問を抱いたが、単なる気まぐれだろうとすぐに掻き消えた。

 

 

「だが、まぁ・・・今夜は何時も程焦らず、落ち着いて構えておこうと思ってな・・・」

 

「なんでさ?」

 

「・・・・・まぁ、なんとなくな・・・今夜あたりに決着がつきそうな予感がするのだ」

 

「え・・・?」

 

『決着がつく』。

つまりそれは、今夜誰かが聖杯を手にするという事だ。

しかし、現在まで残っている正規サーヴァントはマフィア陣営と離別したランサー陣営、そして敵対するアーチャー陣営とセイバー陣営を合わせて『五体』。

それが今夜決着がつくという彼の言葉にウェイバーは疑問符を浮かべたが、物言わぬライダーの背中に言い知れぬ風格を感じ、その事についてなにも言う事が出来なかった。

その代わり・・・。

 

 

「・・・夜の空気が静か過ぎる」

 

夜中だからと言って、窓から見える夜の冬木市の景色がいやに静かであった。

ここから先の今夜の戦いは、強者揃いであろうと無意識にウェイバーは感じるのであった。

 

バシュンッ!

 

「ッ!? 今のは!」

 

そんな物思いにふけっていると外から、発射音が聞こえて来る。

二人が音のする方に目を向けると赤と青の発炎弾が空を舞っているのであった。

 

 

「些か妙な魔力の波動だったな。以前にも似たようなのがあったが・・・」

 

「とりあえず、外に行こう!」

 

ウェイバーはすぐさま寝間着から外着に着替え、庭へと駆ける。

 

 

「あのパターンは・・・!」

 

「なんだ、なにかの符牒なのか?」

 

庭へと出たウェイバーは顎に手を添え、空に撃ち上がった赤と青の発煙弾に隠されたメッセージを読み解いていく。

 

 

「赤が四つに青が七つ・・・『達成』と『勝利』だよな? あんば狼煙を上げるってことは・・・まさか、聖杯戦争が決着したって意味なのか? でも、あっちは教会とは全然別の方角だ・・・というか、教会はアーチャーとバーサーカーのバカのせいで崩壊したって言ってたし・・・」

 

「要するに・・・誰か気の早いヤツが勝手に勝鬨を吠えとる訳だ。まぁ、大方あの金ぴかであろうがな」

 

「アーチャーか・・・」

 

監督側である教会の関係者がアーチャー陣営にいるという事が分かっている今、あの狼煙はアーチャーがやらせたものだとライダーは察していた。

 

 

「『文句があるなら、ここまで来い』との挑発であろうよ・・・余の予感通り、今夜は決戦の大一番となりそうだな!!」

 

「嬉しそうだな、お前・・・」

 

ウェイバーは何だか楽しそうにハツラツと笑うライダーに呆れるが、内心は何故だかしんみりと物寂しい気持ちになった。

 

 

「これが・・・最後になるかもしれないんだよな」

 

「応ともさッ!」

 

そんな感慨に浸る彼を横にライダーは戦装束に身を変え、スラリと腰に提げたキュリプトの刃を高らかに掲げる。

 

 

「さぁッ! 目指す戦場が定まったとあれば、余もまたライダーのクラスに恥じぬ姿で馳せ参じなくてはなるまいて!! 出でよッ、我が愛馬ッ!!」

 

ジャッジャァア―――アン!!

 

掲げた剣を勢いよく振り下ろせば、天より轟雷の音と共に一頭の黒馬が彼等の目の前に召喚された。

 

 

『ヒヒ―――ッン!!』

 

「さぁ、坊主。戦車と比べれば、ちと荒れる乗り心地だが・・・って、どうしたんだ坊主?」

 

戦場を共に駆け抜けた愛馬『ブケファラス』の背に慣れた手付きで跨るライダーであったが、なぜだか浮かない顔のウェイバーに疑問符を浮かべる。

 

 

「なにをグズグズしておる?」

 

「・・・・・ここからは先は、本当に強い者しか居てはいけないんだろう?」

 

「んん?」

 

彼は固く決心し、令呪が刻まれた手をライダーへ向けた。

 

 

我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが令呪をもって命ずる。『ライダーよ、最後までお前が勝ち抜け』!

 

手の甲に刻まれた赤い令呪の一画が消える。

 

 

重ねて令呪をもって命ずる。『ライダーよ、必ずお前が聖杯を掴め』!

 

次に第二の令呪が掻き消える。

 

 

更に重ねて令呪で命ずる。『ライダーよ、世界を掴め』!!・・・・・失敗なんて許さないぞ・・・」

 

「・・・」

 

そして、遂に第三の令呪までもが掻き消えた。

全ての令呪を使った事で、ライダーはマスターであるウェイバーのサーヴァントではなくなった。これで晴れて自由の身である。

 

 

「・・・さぁ、これで僕はもうお前のマスターでも何でもない。もう行けよ・・・どこへなりとも行っちまえ・・・お前なんか、もう・・・・・」

 

これは彼なりのケジメであろう。

未熟で弱い自分が傍に居ては、ライダーの足手まといになると思っての行動であった。

・・・だが・・・。

 

 

「ふん」

 

「うわぁッ!?」

 

ライダーは寂しく俯くウェイバーの首根っこを掴んだ。

馬上から持ち上げている為か、ウェイバーの華奢な身体が宙に浮く。

 

 

「勿論、すぐにでも行かせてもらうが・・・あれだけ口喧しく命じた以上は、当然貴様も見届ける覚悟であろう?」

 

「馬鹿馬鹿馬鹿ァッ! お前なぁ、僕は令呪がないんだぞ! マスター辞めたんだぞッ! なんでまだ僕を戦場に連れて行く?!! 僕は―――ッ!」

 

「・・・マスターじゃあないにせよ、余の『友』である事に違いはあるまい?」

 

「え・・・ッ!」

 

ブケファラスの背に無理矢理乗せられたウェイバーは、彼の言葉に目を丸くする。

驚く彼にライダーは屈託のない満面の笑みを向けた。

 

 

「ぼ・・・僕は・・・僕なんかで、本当に良いのか? お前の隣で・・・僕は・・・ッ!!」

 

ライダーの言葉に堪え切れなくなったウェイバーはボロボロと涙を流し、いじけたように人差し指同士を合わせる。

 

 

「あれだけ余と共に戦場を駆け抜けて置きながら何を今更言うか、馬鹿者!」

 

バシンッ!

「うげッ!?」

 

ウェイバーの態度にライダーは苦笑いをしながら、彼の背中に渇を入れる。

とても痛かったが、ウェイバーはこのやり取りが自然と心地良かった。

 

 

「貴様は今日まで、あのバーサーカーと共に余と同じ敵に立向って来た。ならば、友だ! 胸を張って、堂々と余に・・・比類せよ!!」

 

「ッ!! ライダァア・・・ッ!///」

 

朗らかに笑うライダーに感動の余り何も言えなくなってしまうウェイバー。

そんな彼等を見据える影が二人。

 

 

「カカカッ♪ 遂に堪え切れなくなったか、ウェイバー?」

 

「バーサーカー・・・笑ってやるなよ」

 

「!?」

 

聞き覚えのある第三者の声にウェイバーは驚き、声のする方を見る。

するとそこには、目の覚める紅色のジャケットに身を包んだ吸血鬼と群青色のジャケットを羽織った魔導士が立っていた。

 

 

「おおッ、噂をすればだな。『バーサーカー』!」

 

「か、『雁夜』さん!?」

 

突然、闇夜から同盟相手が出て来た為に咄嗟にライダーのマントで涙と鼻水を拭うウェイバー。

 

 

「狼煙が上がったんで、外に出てみれば・・・それよりも面白いモンが見れるとはよぉ~」

 

「・・・どこから見てた?」

 

「おん、教えて欲しいかい? 教えてやっても良いが・・・ウェイバー、お前羞恥で耐えられなくなるぜ?」

 

「こ、この野郎~~~ッ!!///」

 

「コラ、暴れるな坊主」

 

からかうアキトにウェイバーは顔を真っ赤にして怒鳴り散らすが、ライダーに頭を押さえ付けられてしまう。

 

 

「やめっろての、バーサーカー」

 

「カカカッ、悪い悪い『雁夜』」

 

「んん? おい、バーサーカー。貴様はいつの間に自身のマスターを真名で呼ぶようになった?」

 

「そう言えば・・・」

 

アキトは召喚されてからこれまで、雁夜の事を普段『マスター』としか呼んでいない。それが、今はまるで普段からつるむ仲間のように呼び合っている事にライダーは引っ掛かった。

 

 

「なァに、ついさっき雁夜はウチのファミリーに正式入団したからな。晴れて、俺の弟分って訳よ」

 

「えッ!? 雁夜さんが?!!」

 

「ああ。しかも、いきなりの幹部クラス。『ヴァレンティーノファミリー魔術部隊隊長・間桐 雁夜』だ」

 

「おおッ、随分と出世したものだな雁夜」

 

「いや・・・まあね///」

 

ライダーの言葉を素直に受け取り、照れくさそうにする雁夜。

あの征服王から賞賛の言葉をかけられたのだから、致し方ない事だが。

 

 

「それで・・・もう行くのかい、大王?」

 

「おう、今宵は勝負の大一番となるかもしれぬが故にな。あの山羊に宜しく言っておいてくれ」

 

「・・・あぁ、伝えておくよ・・・必ず」

 

「うむッ。ところでバーサーカー、いつか余に貴様のとっておきの宝具を披露するという事であったが・・・どうだ、今ここで見せてはくれぬか? 坊主も見たそうにしているのでな!」

 

「なッ!? 僕をダシにするんじゃあないぞ!!」

 

口ではこう言っているが、ウェイバーとてこの聖杯戦争で、数々の番狂わせを行って来たサーヴァントの宝具に興味津々であった。

 

 

「カハハハッ♪ ああ、構わぬさ。良いよな、雁夜?」

 

「ああ、実は俺も気になってたしな」

 

雁夜の了承を得たアキトは懐を探る素振りを見せ、右胸から『黒い鉄塊』を取り出した。

 

 

「なんだ、どんな物が出るかと思えば・・・・・随分とちっこい代物だのぉ」

 

「でも、わからないぞライダー。だって、コイツの宝具なんだから」

 

「言うようになったね、ウェイバーくん」

 

露骨に落胆するライダーにウェイバーは待ったをかける。

 

 

「そうだぜ、大王。小生意気なウェイバーの言う通り・・・嘗めちゃあいけねぇぜ?」

 

そう言うとアキトは鉄塊、『黒き核鉄』を高らかに上げ、『覚悟』を轟かせた。

 

 

「『武装錬金』ッ!!!」

ガシュン! バァアア―――ッ!!

 

轟かせた覚悟に呼応するように黒き核鉄は六方に眩い光を放って拡張し、その姿を変化させていく。さながらそれは、超変形機械生命体のように。

 

 

「・・・んで、これが俺のとっておき・・・ロストナンバーⅢ『サンライトハート』だ」

 

「おおッ・・・!!」

 

光が修まるとアキトの手に彼の身の丈を超える一本の突撃槍(ランス)が握られていた。

 

その形は突撃槍と言うよりも大剣の様な大きさ。

攻撃部位である穂先と握りである柄は白銀の月の様に輝き、柄の尻にある石突部分には山吹色の温かな光を放つ飾り布が付いていた。

 

 

「なんと美しく風格漂わせる得物ッ・・・! 確かに最上の宝具に相応しい大業物であるな!!」

 

「応ッ、セイバーの聖剣に負けず劣らずだろう?」

 

最上宝具の姿に言葉を失うウェイバーと雁夜の横でライダーは賞賛の声を上げ、対してアキトは胸を張って答えた。

 

 

「ガッハッハッハ!! 此度の聖杯戦争は、実に愉快である! 一つ残念なのは・・・盟友たる貴様と一戦交えぬのが傷だなッ!」

 

「カカカカカッ! 何だか、嬉しいような困るような言葉だな!」

 

二人は大いに笑い合う。

実に楽しそうに、嬉しそうに笑い声を轟かせる。

 

 

「では、バーサーカー! こうして笑い合えるのも今宵で最後になるやもしれぬ。だから・・・最後に真名を名乗り合うてから締めようではないか!!」

 

「良いねッ! なら、刃を合わせながらやろう! ニコ!!」

 

『ガウッ!』

 

アキトはニコを呼び寄せるとその背に慣れた手付きで跨り、突撃槍を掲げる。

その槍の刃にライダーは自身のキュリプトの剣の刃を合わせ、大きく名乗りを上げた。

 

 

「我はマケドニアがピリッポス王の子、『征服王イスカンダル』なりィイ!!」

 

負けじとアキトも豪放高らかに名乗りを上げる。

 

 

「我こそは、ヴァレンティーノファミリーが首領、ドン・ヴァレンティーノの子が一人・・・・・『暁 アキト』、またの名を『アーカード』なりィイッ!!」

 

「「ハッハッハッハッハッ!!」」

 

「・・・フッ、フフフ・・・ハハハハハ!」

 

「雁夜さんまで・・・まったく・・・フフフッ」

 

名乗りを上げた二人は、再び大いに笑い合う。

馬鹿笑いも甚だしいものだが、快闊な笑い声にその内雁夜とウェイバーも笑い出した。

 

 

「さて・・・戦の前の余興もここまで! 今宵の戦場へと躍り出ようかッ!!」

 

「応ッ! 負けるんじゃあないぜ、イスカンダル!!」

 

「貴様もだ、アーカード!! では坊主、参ろうかッ!」

 

「ああ! 行こう、ライダー!!」

 

『ヒヒーンッ!!』

 

ライダーはブケファラスの腹を鐙で突っつくと月が輝く冬木の夜空へと駆けだして行った。

 

 

 

「さてと・・・俺達も行くか」

 

「・・・・・アーカード」

 

「やめとけ、やめとけ」

 

「ッ!」

 

空へと駆けだして行ったライダー達を見上げながら、アキトは何かを決心した雁夜を聞きも見もせずに戒めた。

 

 

「ウェイバーのアレを見て、感化されたんだろうが・・・」

 

「でも・・・この令呪がある限り・・・お前は・・・」

 

「カカッ♪ 糞真面目だねぇ・・・『サーヴァントを信じて、令呪を全然使わなかったマスター』が居てもいいんじゃあないのかい?」

 

「・・・ッ・・・ったく、お前は本当に・・・・・ああ、そうだなアーカード・・・」

 

「そうだ、ノアが残した『秘密兵器』・・・忘れんなよ?」

 

「わかってるって」

 

二ヒリとアキトが笑えば、困った様にされど嬉しそうにニコリと雁夜は笑い返す。

二人の間には、到底一言では言えぬ『奇妙な絆』が結ばれていた。

 

 

「さぁ―――――」

 

「「行くぞッ!」」バ―――ッン

 

『アオォォオオオ―――ッン!!』

 

二人の掛け声に呼応して遠吠えをしたニコは、冬木の真っ暗な闇夜へと駆けだして行った。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

所変わって、別の場所。

()()()()()()()()()を見上げる影が二つあった。

 

一人は、冬木の闇夜に紛れるカソックに身を包んだ鮮魚コーナーに並べられた魚のような目をした黒髪の男。

もう一人は、金色の義手と顔半分な仮面を装着したラフな格好の金髪の男。

 

 

「フンッ・・・今宵はいつになく猛々しい面構えではないか、『綺礼』?」

 

金髪の男、『アーチャー』は相変わらずの傲慢な態度で立ち尽くす言峰に近づいて行く。

とても教会で行われた戦闘での疲労感は感じられない。

 

 

「さて、どうするのだ? 我はここで待ち構えていれば良いと?」

 

「お前の力を間近で解放されたら、教会が崩落した様に儀式そのものを危険に晒し兼ねん。存分にやりたいというならば、迎撃に出てもらおう」

 

「良かろう。だが、我の留守に『ここ』を襲われた場合は?」

 

「その時は、令呪による助けを借りるが・・・構わないな?」

 

「許す。正し、『聖杯』が無事かどうかは保証せんぞ? 今宵の我は手加減抜きでいく」

 

「『手加減抜き』・・・・・なれば、先の戦いは―――――」

 

「言うな・・・!!」

 

言葉を紡ごうとした言峰をアーチャーは、酷く低い声と凍てつくような眼で刺し貫かんとす。

そこら辺の一般人なら、卒倒する恐ろしさをアーチャーは放っているのだ。

 

 

「・・・綺礼よ、戦う意味については答えを得たようだが・・・あまり図に乗るなよ?」

 

「・・・肝に銘じよう」

 

「先にここへセイバーが現れたら、我を呼べ。良いな?」

 

「承知した」

 

言峰の返答を聞いたアーチャーは、金の義手を擦りながら己が敵が現れるであろう方向に歩いていく。

 

 

「ああ、セイバーと言えば・・・あれが後生大事にしていた『人形』はどうした? 聖杯の『器』とやらは、アレの中にあるのであろう?」

 

「・・・今だ動かぬままだ。人形の名に相応しく、()()()()()()()()()()()眠ったままだ」

 

「フン、そうか」

 

自分から聞いておいて、興味の素振りも見せずに霊体化し、その場を立ち去るアーチャー。

そんな彼を振り向きもせずに背で見送る言峰。

 

ここにも何とも言えない『奇妙な繋がり』があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(・・・そう言えば、あの人形・・・先程確認した時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・・)」

 

ふと・・・こんな事を思った言峰であったが、来るべき宿敵を迎える為にすぐにそんな考えは掻き消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





「敵は万夫不当の英雄王・・・相手にとって、不足なし!!」

「さぁ、騎士王! バケモノはここだぞ、来いよ来なよ!!」

次回も書きたかったシーン・・・書き上げて見せるぜッ!


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王と王

※前回の没台詞。

ライダー「我はギリシアの大英雄ヘラクレスとイーオスの大英雄アキレウスの血を受け継ぐマケドニアがピリッポス王の子、『征服王イスカンダル』なりィイ!!」

・・・征服王、血統良すぎィ・・・

今回も最後らヘンはネタに走る所もございますが、悪しからず。
あと、呼称が変わっております。

という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

タカッラタカッラタカッラッ

夜の冬木に蹄の疾走が響き渡る。

月明かりとネオンの光に照らされ、一頭の黒馬が街を疾風の如く駆け抜けていく。

 

その歴戦の名馬に跨るは、名高きマケドニアの征服王イスカンダルとその戦友ウェイバー・ベルベット。

マスターとサーヴァントではなく、同等の戦友となった彼等は最後の戦いに身を乗り出しているのである。

 

 

「ッ!・・・ライダー、アレ・・・!」

 

街の間を縫い、キャスターとの死闘が行われた未遠川に架かる橋に刺し迫ろうとした時。ウェイバーが何かに勘づき、前方を指差す。

 

バァ―――ッン
「・・・・・」

そこに立ちそびえていたのは、黄金の男

全身を煌びやかな金の鎧で身を固め、顔半分を宝石が散りばめられた黄金色の仮面で覆った王・・・英雄王ギルガメッシュその人である。

 

ゴクリッとその姿を目の当たりにしたウェイバーは固唾を飲む。

何故なら、倉庫街の戦闘やアインツベルンの城で行われた聖杯問答以上の風格と殺気が彼の王から放たれているからである。

 

 

「・・・怖いか、坊主?」

 

前方の強敵を目視で確認したイスカンダルは馬を止め、いつもより低いトーンでウェイバーに語り掛けた。

 

 

「ああ、怖いね・・・それともこう言うの? お前やあのバーサーカーのように言うなら・・・『心が躍る』ってヤツなのかな?」

 

「・・・フンッ、貴様も弁えて来たではないか」

 

怖い、確かに怖い。それでもウェイバーは口角を上に歪めた。

なぜ笑顔を浮かべたのかは、彼にもわからない。けれど・・・その言葉を聞いて、イスカンダルは嬉しそうにほくそ笑んだ。

 

 

「坊主、ちょっとここで待って居れ」

 

「え? あ、おい!」

 

イスカンダルはウェイバーにそう言うと、ブケファラスからその大柄な図体を降ろし、橋の中央へと歩を進める。

 

 

「・・・フンッ・・・」

 

対するギルガメッシュも鼻息を一つ漏らし、橋の中央へと進んで行く。

 

ガチャリガチャリと鎧が擦れる音が木霊し、遂に橋の中央へ二人が相対するとギルガメッシュは自らの宝物庫からいつかの酒を取り出すのだった。

 

 

「おいおい・・・ここで酒宴を始める気かよ」

 

酒を渡されたイスカンダルは、同じく宝物庫から取り出された黄金の杯に零れる程並々と紫色の液体を満たす。

芳醇な香りが鼻孔をくすぐり、匂いだけで酔ってしまいそうな極上の酒だ。

 

 

「あの自慢の戦車はどうした?」

 

「あ~・・・あれか・・・」

 

酒に口を付ける前にギルガメッシュが漸く言葉を発した。

その彼が聞いて来た文言にイスカンダルは言葉を少し濁してしまう。

 

 

「まぁ・・・え~・・・・・業腹ながら、セイバーのヤツにもっていかれてな・・・」

 

「貴様、俺の決定を忘れたか? 貴様は万全の状態で潰すと告げて置いた筈だが?」

 

言葉を濁すイスカンダルにギルガメッシュは明らかに不満気な態度をとる。

 

 

「そういう貴様とて・・・どうした、その顔と腕は?」

 

対するイスカンダルも言い返す。

杯を持つ手とは別の腕。いくら黄金の鎧で誤魔化そうともイスカンダルの眼を欺く事は出来なかったのだ。

 

 

「・・・ッチ・・・! なに、蝙蝠風情の最期の一発を甘んじて受けてやったまでの事」

 

「それにしては、随分な代償を払ったな」

 

「・・・」

 

ギョロリと言葉の代わりに睨みを突き刺すギルガメッシュ。

しかし、睨みつけられたイスカンダルはどことなく楽しそうな顔を浮かべる。

 

 

「確かに余は消耗しておる。だが・・・今宵の征服王イスカンダルは、完璧でないが故に完璧以上なのだ。・・・無論、貴様もであろう?」

 

「なるほど、確かに充溢するそのオーラ・・・いつになく躁狂だ。無論、我も」

 

機嫌を害してしまった事への謝りか、すかさずフォローを入れるイスカンダル。

彼の言葉にギルガメッシュは気を取り直し、睨み顔から薄ら笑みを溢す様になった。

 

 

「フン・・・どうやら侮りはないが、なんの勝算もなく我の前に立った訳でもないらしい」

 

「フンッ」

カチンッ・・・

互いに宿敵に対する笑みを浮かべた二人は、杯で乾杯をする。

 

 

「ハァッ・・・!」

 

なんとも美しい音色を響かせた後に杯の中身を呷ったイスカンダルは、極上の酒の余韻に浸る。

 

これ以上ない程美味なる酒に最高の宿敵。

此度の聖杯戦争は、勝敗の有無に関わらずイスカンダルにとっては本当に楽しいものだろう。

 

 

「・・・バビロニアの王、ギルガメッシュよ。最後に一つ、宴の締めの問答だ」

 

「許す。述べるが良い」

 

「例えばだが・・・余の軍勢を貴様の財で武装させれば、間違いなく最強の兵団が出来上がる。どうだッ、改めて余達の盟友にならんか?」

 

「ほう、それで?」

 

「我等が同盟を組めば、きっと星々の彼方まで征服できるぞ!!」

 

シリアスに決めた顔から一転。無邪気な子供のようにギルガメッシュに同盟を持ち掛けるイスカンダル。

なんとも彼らしいものだ。

 

 

「クッハハハハハハハッ!!」

 

それに対して、ギルガメッシュは大口を開けて大いに笑う。実に愉快に快活に笑い声を轟かせた。

 

 

「つくづく愉快なヤツ。道化でもない者の痴れ事で、ここまで笑ったのは久方ぶりだ。あぁ、愉快愉快」

 

「ふむう・・・」

 

「生憎だがな征服王・・・我が朋友は、後にも先にもただ一人のみ。そしてッ、王たるものも二人と必要ない!」

 

「・・・『孤高なる王道』か。・・・その揺るがぬ在り様に、余は敬服を持って挑むとしよう」

 

「良い。存分に己を示せよ、征服王・・・お前は我が直接審判に値する賊だ」

 

ヒュンッ・・・カラン!

二人は飲み干した杯を空高く放り投げ、もとの位置へと背合わせで戻っていく。

重力の作用で地に落ちた杯は、風に吹かれた金粉のように掻き消えた。

 

 

「・・・お前ら、本当は仲が良いのか?」

 

定位置に戻って来たイスカンダルにウェイバーは呆れた様な疑問を投げ掛ける。その疑問に対し、イスカンダルはいつもとは違う神妙な面持ちで答えていく。

 

 

「邪険に出来る筈もなかろうよ。余が最後に死線を交わす相手になるやもしれんのだ」

 

「・・・・・ふざけるなよ、ライダー・・・!」

 

「ううん?」

 

イスカンダルの言葉にウェイバーは、怒りの感情を織り交ぜて呟いた。

 

 

「馬鹿言うなよッ、お前が殺される訳ないだろう! 僕の令呪を忘れたかッ、征服王イスカンダル!!

 

「ッ!」

 

彼の言葉にハッとするイスカンダル。

いつも隣で泣き喚いてばかりいた小僧の姿はない。あるのは、共に戦場を駆け抜けようとする戦友の姿であった。

 

 

「フフッ・・・そうだな・・・ああ、その通りだとも!」

 

戦友の言葉にイスカンダルは口角を三日月に上げる。

今宵の戦いは正に総力戦。強者のみが集う兵共の大宴。

楽しまずにはいられないッ!!

 

慣れた手付きで愛馬に再び跨るイスカンダル。

そして、腰に提げたキュリプトの剣を引き抜き、空へと掲げる。

 

 

「集え我が同胞!」

 

刃の切先から周りの大気が大きく歪んでいく。

 

 

「今宵我らはッ、最強の伝説に雄姿を示す!!」

ドッバァアア―――ッン

征服王の咆哮に強い熱風が吹き付け、夜の冬木は別の世界に塗り替えられる。

距離と位置が喪失し、そこには熱砂の乾いた風こそが吹き抜ける場所へと変化していく。

 

 

「・・・・・」

ジャァア―――ッン

月のみが輝く夜空は一変。

照りつける灼熱の太陽と晴れ渡る蒼穹の彼方が世界を支配し、これからの戦いに心躍らせる王の後ろには幾千幾万もの戦士達が刃を構えていた。

 

 

「敵は万夫不当の英雄王・・・相手に取って不足なし! いざ、益荒男達よ・・・原初の英霊に我等が覇道を示そうぞォオオ!!

『『『オォオオオオオオ―――ッ!』』』

轟雷の如き益荒男達の咆哮が世界に響き渡る。

 

 

「AAALALalala―――Iiiッ!!」

 

『『『ワァアアアアアアア―――ッ!!』』』

 

緋色のマントを先頭に一騎当千の猛将達が大きくうねる大蛇のような一個の濁流となり、一気呵成にギルガメッシュへと迫っていく。

 

 

「来るが良い、覇軍の主よ。今こそお前は、真の王者の姿を知るのだ・・・」

 

しかし、こんな傍から見れば絶体絶命の中で、ギルガメッシュは余裕綽々の薄ら笑みを浮かべる。

まるで、『自らの前では全てが無駄』と言わんばかりの笑みだ。

 

 

「『夢を束ねて覇道を志す』・・・その意気込みは褒めてやろう。だが―――――」

 

迫りくる軍勢を前にギルガメッシュは静かに自身の宝物庫を開く。

 

 

「―――兵共よ、弁えていたか? 『夢』とはやがて尽く・・・()()()()()()()()()()』だと

 

宝物庫から取り出されたのは、一本の剣・・・・・いや、『』であった。

彼がその鍵をガチャリと右に回せば、宝物庫最深部の絡繰り仕掛けが動き、大木のような紅色の絡繰り細工が天高く立つ。

やがて、その大木は一つの輝く実をギルガメッシュの前に落として消えた。

 

 

「なればこそ・・・お前の征く手に我が立つのも必然であったな、征服王!」

 

彼はその輝く実から、赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なる独特の形状をした一本の剣を掴む。

いや、正確には剣ではない。それどころか、武器ですらない。

 

それは自分で覚えられぬ程に数多の宝具の原典を所持するギルガメッシュが唯一例外的に持つ、()()()()()()()()()()だ。

 

 

「さぁ・・・見果てぬ夢の結末を知るがいい。この我が手ずから理を持って示そう」

 

「ッ! 来るぞォオ!」

 

イスカンダルは後ろに続く兵達に注意を叫ぶ。

何かが来る・・・何かとんでもないものが来ると彼は自らの戦士の本能で理解した。

 

 

「さぁ、目覚めろ『エア』よッ! お前に相応しき舞台が整った!!

キィイイ―――ッン

 

『乖離剣・エア』は自らの担い手の言葉に連動し、回転する三つの円筒が膨大な魔力を織り込んだ暴風を巻き起こす。

 

 

「いざ仰げ―――天地乖離す開闢の星(エヌマエリシュ)』をッ!!!

ドッギャァアア―――アアアッン!!

エアによるギルガメッシュ最強の一撃がは放たれた。

その威力は大地を震わせ、天を軋ませながらイスカンダル達に迫っていく。

 

 

「ッ!! 坊主、掴まれ!!」

 

「!!?」

 

咄嗟にイスカンダルはブケファラスを操り、前へと飛びあがる。

その飛び上がった瞬間。二人が見たのは、大きくひび割れる大地と砕け散る天空であった。

 

 

「(ふざけるな・・・ふざけるなよバーサーカー!! なんでお前の予感はこうも見事に当たっちまうんだ?!! あの剣は本当に森羅万象全てを倒壊させる対界宝具じゃあないか!!)ッあ!!」

 

ウェイバーは、いつかのバーサーカーが言っていた予感に唾を吐きたくなるような気分になった。

だが、その後に彼は何かに気づいたように後ろを確認する。いや、確認してしまう。

 

 

「あ・・・ああ・・・ッ!!」

 

彼の瞳が写したものは、割れた大地から奈落の底へと落ちていく兵士達の姿であった。

 

 

「・・・・・」

 

「ラ、ライダー・・・!」

 

ウェイバーは馬を止めたイスカンダルを不安そうな眼で、心配した目で見る。

後ろから聞こえる同胞達の断末魔を聞きながら、自らの固有結界をたったの一撃で破壊された事に対する彼のその表情は、なんとも言えぬ物憂げなものであった。

 

 

「・・・そう言えば・・・一つ、貴様に聞いておかなければならない事があったのだ」

 

「・・・え・・・ッ?」

 

「・・・・・ウェイバー・ベルベットよ、臣として余に仕える気はあるか?

 

「ッ!? あ・・・ああ・・・ッ!」

 

真っすぐな眼でイスカンダルはウェイバーに尋ねる。

その言葉は、自分が待ち焦がれていた言葉だったかも知れない。

 

 

「貴方こそ・・・僕の王だ。貴方に仕える、貴方に尽くす・・・どうか僕を導いて欲しい! 同じ夢を見させて欲しいッ!」

 

ウェイバーは涙を流し答える。偉大なる王の臣下になる事を彼は選んだのだ。

 

 

「うむ、よかろう」

 

「お、おわ!?」

 

イスカンダルはウェイバーの言葉に笑顔を浮かべると彼の首根っこを掴み、ブケファラスから降ろす。

 

 

「夢を示すのが王たる余の勤め。ならば、王の示した夢を見極め・・・後世に語り継ぐのが臣たる貴様の務めである」

 

「ああ・・・ッ!」

 

生きろ、ウェイバー・・・臣下として生き長らえて語るのだ、貴様の王の有り方を。このイスカンダルの疾走を!・・・・・そして・・・」

 

イスカンダルは彼にあるモノを渡す。

それは彼のマントであった。燃える様な激情のような緋色のマントだ。

 

 

「こ・・・これは・・・?」

 

「それを貴様に預けておく。いつか貴様が己が夢を見つけ、その夢を掴んだ其の時・・・余のもとにそれを返しに参れ。余は・・・いつでも貴様が来るのを待って居るのでな

 

「・・・うぅ、うう・・・王よ・・・ッ!!」

 

ウェイバーは涙をボロボロと流しながら俯く。

こうして二人で話すのは最後なのだと、もう終わりなんだと悟った。

 

 

「フフフッ・・・ゴクリッ・・・ハぁ~ッ・・・さぁ、いざ征こうぞブケファラスよ!!」ガチャンッ

 

『ヒヒーンッ!』

 

イスカンダルは懐から取り出した紅い小瓶を飲み干し、それを叩き割ると愛馬の手綱を大きく振る。

そして、前に前にと疾走した。

敵は古代バビロニアの王、ギルガメッシュ唯一人!

 

 

「ライダー!!」

 

「(『彼方にこそ栄えあり』。届かぬからこそ挑むのだ! 覇道を謳い、覇道を示す・・・この背中を見守る臣下の為に!!)」

 

突き進む自らの王を見るウェイバー。

その目にもう涙はない。あるのは王の生き様を見守るという『覚悟』であった。

 

 

「AAALALaLalaaaaa―――Iii!!!」

 

こちらに向かって迫りくるイスカンダル。

彼の宝具は正に最強の名に相応しい。だが、それと同等にイスカンダルという戦士ただ一人でも強者なのだ。

それが愛馬に跨っている。正に鬼に金棒だ。

 

 

「・・・フンッ」

 

しかし、ギルガメッシュはその彼を鼻で笑い迎え撃つ。自らの宝具、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』で。

 

ドシュバババババッ!!

 

夜空に展開された黄金の波紋から、数多の刃が無尽蔵に射出されていく。

 

 

「ハァアッ! テヤァアアア!!」

 

ガキィイン! ガキャアン!!

 

迫りくるその刃達をキュリプトの剣で弾きに弾く。

だが、いくら歴戦の英雄たるイスカンダルとて、全ての刃を剣一本で防ぐ事は出来ない。

 

 

ズザシュゥウ!

『ヒヒーンッ!!』

 

「ブケファラス!」

 

弾き溢した刃がブケファラスの身体を抉った。

ブケファラスはそのまま前足から崩れ落ち、イスカンダルを地面に振り落としてしまう。

 

 

「ッく! ウオォオオオオオッ!!」

 

それでもイスカンダルはすぐさま立ち上がり、前進する。

 

 

「AAALALA―――Iii!!」

 

イスカンダルは自らの足で走る。

そして、徐々に徐々にギルガメッシュとの距離を詰めていく。

 

グサァアッ!

ズシュウゥッ!

 

途中、剣が腕を切り裂き、槍が腹を貫く。

けれど、イスカンダルは止まる事を知らない。生前の彼が最果ての海を目指して遠征を繰り返したように。

前に、ただひたすらに前へと駆けて行く。

 

彼の目に写っているのは、宿敵の姿のみ。

ただ眼前の目の前に薄ら笑みを浮かべて立つ、たった一人の王に刃を突き刺す為にイスカンダルは駆け抜けていくのみ。

 

 

ズグサァアア!!

「グがァあああッ!!?」ドサァッ

 

しかし、イスカンダルは足に宝斧の刃を受け、遂に膝を地へと埋めた。

 

 

「フンッ、あと一歩・・・いや、あと一振りであったなライダー」

 

「ハァー・・・ハァー・・・ハァー・・・貴様は実に・・・嫌味ったらしい男よなぁ・・・アーチャー・・・!」

 

もうギルガメッシュに手が届くところまでイスカンダルは駆けた。あと一振りの剣を振えば、仕留められるところまで。

されど、その一振りが届かない。

 

 

「貴様はよくやった。我を相手によくぞここまで戦い抜いたと褒めてやろう・・・だが・・・ここまでだ」

 

チャキリとギルガメッシュはエアを構え直し、イスカンダルの心臓に狙いをつける。

この戦いの勝者は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・と、このギルガメッシュはこの状況で確信した時であった。

 

 

ザクッ!

「ッ!?」

 

ギルガメッシュは痛みを感じた。

それは背中から感じる何かで刺されたような痛みだ。

 

 

「な・・・なんだッ?」

 

彼が背中を触り、痛みの正体を引き抜いてみれば、それは弓矢の矢であった。

だが、ただの矢ではない。ただの矢がギルガメッシュの黄金の鎧を貫く事など出来ない。

 

 

「こ・・・これは!!」

 

ギルガメッシュはその矢に見覚えがあった。正確には、その『鏃』に見覚えがあった。

それと『なんだよ英雄王、もう終わりかよ~? もっとくれよ宝具~!』という台詞も思い出した。

 

 

「バァアアサァアアカァアアッ!! あの腐れ蝙蝠がァアッ!!」

 

なんとこの鏃は、倉庫街であのバーサーカーことアキトによって奪われた宝物で出来ていたのだ。

 

 

「この雑種共めがァア!」

 

さらに後ろを振り向いてみれば・・・エアによって葬った筈のイスカンダルの兵団たちが弓を引き、投げ槍を構えていたのだ。

 

 

「フッハッハッハ・・・どうだ、アーチャー・・・王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の部分展開とやらは・・・!(アーカード・・・貴様の策は実に的を得たものであったぞ・・・ッ!)」

 

この軍勢の部分展開はアキトが考えたものであった。

イスカンダルは彼と酒を酌み交わしおり、、突撃部隊だけでなく弓矢や投げ槍部隊も自慢をした時にアキトからこの戦法を教えられた。

ぶっちゃけ、ぶっつけの本番の作戦であったが、ギルガメッシュの意表を突くには充分だった。

 

 

「・・・ッフン。だが、それがどうしたというのだ。あのような有象無象の集など、我が財宝で蹴散らすまでの事ッ!!」

ジャァア―――ンッ

 

確かに。

いくら奪った財宝で武装した所で、その何百倍もの財を射出できるギルガメッシュに勝てる訳がない。

・・・そう単純な『力の勝負』ならば!

 

ザクリッ!!

「ッ!? な・・・なにィイ・・・!!」

 

「フフハハハッ・・・やはり・・・やはり『慢心』したな・・・アーチャー・・・!」

 

この一瞬が、鏃と後ろに並べられた軍勢に気を取られた一瞬がギルガメッシュの命運を大きく分けた!

注意すれば、避けられた筈のイスカンダルの隠刃の一撃を背中に受けてしまった。

 

皮肉にもそれは、元マスターである『遠坂 時臣』がアゾッド剣で刺された部分と同じであった。

 

 

「おの、れッ! オノレ! らい・・・ライダーッ! き、貴様ァア・・・ッ!!」

 

ギルガメッシュは又しても同じ失敗をしてしまった。

聖堂教会では、死にかけと侮っていたアキトの攻撃で片腕と顔半分をもっていかれた。

なのにどうして・・・今回もまた同じ失敗をしてしまったのか。

 

 

『相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』・・・正に・・・貴様の為にあるような言葉だな・・・・・金ぴかァ・・・!」

 

そう。ギルガメッシュはその性質上、『慢心せずにはいられない』!

そこがこの最古にして最強の英霊、英雄王ギルガメッシュの弱点であったのだ!!

 

 

「おのれオノレおのれおのれ己おのれェエッ! 雑種の分際でェエエッ!!」

 

「・・・ッフ・・・」

 

怨嗟を喚き散らすギルガメッシュにイスカンダルは、一つ笑みを溢す。

 

 

「(此度の遠征も実に良いモノであったぞ・・・ウェイバー・・・)」

 

ザザザァアアアアア――ッン!!

雨が降った。

一粒一粒が最上級の刃で作られた金の雨が二人の王の上に降った。

 

 

「ライダー・・・ライダァアアアアアッ!!

 

冬木の夜空に征服王の最も新しき臣下の声が木霊した。

 

その声に返事を返す者は、もういない。

代わりに・・・金の粒子だけが空に舞った。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 




ライダー・征服王イスカンダル。
アーチャー・英雄王ギルガメッシュ。
同士討ちにより・・・再起不能(リタイア)。


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騎士と王




最近、某チューブで歴史や伝承を見る機会が多いのですが・・・
やっぱり・・・型月時空ってハチャメチャだなぁ・・・

今回は彼は出ずに、サブタイ通りの登場人物が出ます。
もう終わりに近づいて行っています。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

ブロンッブロロンッ

 

王と王の決戦が行われている同時刻。

狼煙が打ち上げられた冬木市市民会館に一台のバイクがやって来た。

 

 

「(敵は・・・中か・・・?)」

 

その夜の闇にも似た真っ黒な塗装が施されたバイクに跨っていたのは、砂金のように美しい金髪をもった少女、サーヴァント『セイバー』。

彼女は警戒しながら、地下駐車場へと駒を進めていく。

 

 

「・・・・・」

 

この場所は夜中という事もあってか、薄暗い蛍光灯しか点いておらず、辺りからは不気味な雰囲気が漂う。

セイバーはその中をバイクのライトと己がスキルを頼りに進む。

 

 

「ッ・・・!」

キィ・・・ッ

 

何かの気配に勘付いた彼女はバイクを止め、所持宝具である聖剣を取り出す。すると、ライトの灯りの注さない壁際の向こう側から足音が聞こえて来た。

 

 

「遅かったな・・・騎士王」

 

「あなたは・・・!」

 

壁際から出て来た人影にセイバーは見覚えがあった。

異性の誰もが出会えば、振り返るような眉目秀麗な顔立ち。何度も打ち鍛えられた鋼のように逞しい身体。

 

 

「『ランサー』・・・私が一番乗りかと思っていたが、其れよりも先にあなたが来ていたのか。流石はフィオナ騎士団の一番槍」

 

それはまごう事なき我が宿敵の姿。倉庫街で初めて刃を打ち付け合った時が、ついさっきのように感じる。

このところ、セイバーにとって良くない事が多く起きていたので、同じ騎士道を判つ者との再会に彼女は少し口をほころばせ、バイクを降りる。

 

 

「・・・・・」

 

「ラン、サー・・・?」

 

だと言うのに、ランサーの表情は優れない。なんだか彼からは、青い哀愁が漂うように感じられた。

そんな彼の雰囲気にセイバーは疑問符を浮かべるが、すぐに勘付く。何故なら、彼の手には既に真紅の槍が握られていたのだから。

 

 

「・・・ッ!」シャキンッ

 

「・・・」チャキリ

 

セイバーはすぐさま青銀の戦装束に身を変え、聖剣を上段に構える。対するランサーも赤槍を静かに構え、戦闘態勢を整えた。

 

 

「・・・ハァアアッ!!」ダンッ

 

「!」

 

シャキンッ

 

先に仕掛けたのは、ランサーだ。

槍兵(ランサー)というクラス属性に違わぬ跳躍力と俊敏さで、セイバーとの距離を瞬時に詰めると赤き刃の切先を前へ押し出す。

 

 

「タァアアッ!!」

 

キィイッン!

「テァアアッ!」

 

カキィイッン!

 

そこから始まったのは、とても常人には認識できない速度で繰り広げられる剣戟。

薄暗い地下駐車場にポツポツと火花の点滅が点いては消えるの連続だ。

 

カァアッン!

カキンッ!

キキャァアンッ!!

 

「・・・フフフ・・・」

 

キィイッン!

カキャァアンッ!!

ガギイッン!

 

「・・・ハハハ・・・ッ!」

 

鉄と鉄が、鋼と鋼が、力と技が、技と力がぶつかり合う心地の良い金属音と共に笑い声が木霊する。

 

 

「流石だ・・・流石は最優のサーヴァント、セイバー。いや・・・ブリテンの王、騎士王アーサー・ペンドラゴンよ!!」

 

ガキィッイン!

 

「其れは此方とて同じ事。その槍使い誠に見事だ。フィオナ騎士団が一番槍、輝く貌のディルムッド・オディナよ!!」

 

「ッ・・・!」

 

二人はお互いの力と技を称賛し合い、何度か壮絶とも言える鍔迫り合いを繰り返すと二人は距離をとる。

其の時、ランサーはセイバーの物言いが勘に触ったのか。再び、悲しそうな表情を晒した。

 

 

「セイバー・・・俺はもう騎士ではない」

 

「な、なにを言って・・・ッ!?」

 

突然の告白に狼狽えるセイバー。

だが、その告白が此方の動揺を誘う為や妄言でない事を男の眼は語る。

 

 

「俺はここに来る前・・・自らのマスターを見限り、こうしてここに参上した次第だ」

 

「な・・・なぜですッ、貴方程の勇者が何故?!」

 

セイバーは狼狽えた。

普段ならば、相対した敵の言葉に惑わされる事はない彼女であっても、ランサーの言葉には素直に驚いたのである。

 

 

「聖杯戦争が始まって以来、俺は主の為にと槍を振って来た」

 

「そうだ。貴方はその武勇を持って、私やキャスターと戦って来たではないか!」

 

「・・・ああ・・・お前はそう言ってくれるのだな・・・」

 

「え・・・?」

 

セイバーの言葉にランサーは切なく寂しそうな笑顔を浮かべる。

 

 

「だが・・・結局のところ俺は、主を主として見てはいなかった。ケイネス殿を人間としてではなく、ただ『仕えるべき主君』とだけしか見てはいなかったのだ」

 

ランサーは尚も続ける。

自らの未熟さを、落ち度をつらつらと述べていく。

 

 

「だから、俺はケイネス殿から離れた。こんな男がサーヴァントではケイネス殿もさぞや、迷惑であっただろう」

 

「・・・ならば・・・ランサーよ。何故に・・・何故に私の前に立ったのだ?!」

 

そうだ。

自らの有り方に絶望したのならば、とっととその槍で自らの心臓を穿てば良い。

そして、さっさと聖杯の供物となれば良いのだ。

 

 

「・・・お前がいたからだ、セイバー」

 

「・・・ッ!」

 

「騎士の矜持を捨てようと・・・あの夜の続きがしたいと思っていたのだ。純粋に俺が俺である事が出来た、あの夜の続きを!」ダンッ

 

ランサーはそう言って再び槍を構え、飛び出していく。

 

そう。いくら騎士としての矜持を捨てようとも、彼のセイバーに対する闘争本能は衰えてはいなかった。

彼は騎士としてではなく、ただ一人の戦士としてセイバーに挑みたいとここに参った次第なのだ。

 

 

ガギィイン!

「くッ!!」

 

「この胸の高鳴りッ! お前との戦いが、やはり俺を熱くする! この機会を用意した『アキト』殿には、感謝せねばなぁ!!」

 

ギィイイッン!

「ッ?! 待て、ランサー! どうしてそこでバーサーカーの名が出て来るのだ?!!」

 

火花散る鍔迫り合いの中、熱くなったランサーの口から不意に出た言葉にセイバーは疑問符を投げる。

 

 

ガァアッン!

 

「そう言えば、言っていなかったな。ここへ一番乗りでやって来たのは俺ではなく、バーサーカーだ」

 

「な、なんだと・・・!?」

 

実はランサーよりも先にアキトがこの冬木市市民会館に乗り込んでいたのだ。

そこで彼はランサーとある取引をし、どのサーヴァントよりも先に聖杯の器が置かれているであろうホールへと駒を進めていたのだ。

 

 

「おのれ、よくもバーサーカーッ!!」

 

「おっと、戦いの最中に他の男に気を逸らすとは・・・頂けぬな!!」

 

ブシュッ!

「うッ!!?」

 

破魔の紅薔薇の刃が彼女の肩を切り裂く。

鎧で覆っていた筈の部分から鮮血が噴き出し、鈍い痛みが襲ってくる。

 

 

「ウオォオオ―――ッ!!」

 

ズドドドドドッ!

「ぐゥッ・・・!!」

 

この隙を逃すまいとランサーは刺突の猛攻撃を仕掛ける。

その刺突一つ一つに途方もない殺気が込められ、セイバーの柔肌を確実に抉り切り裂いていく。

 

・・・ランサーは強敵である。

いくらクラス相性でセイバーの方に利があろうと、それを撥ね退ける強さが彼にはあった。

其れは騎士の矜持を捨てたからか、自らの在り方について開き直ったかどうかなのかは、彼にしか理解できない事だ。

 

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』!!

 

ズシャァアアン!

「ぐあぁアッ!!」

 

けれど・・・理解できる者が居れば、ランサーの強さの秘訣は彼の戦士としての『純粋な思い』であろう。

 

『強い者に勝ちたい』。

『自らの力を示したい』。

ただその純粋な気持ちだけが彼を突き動かしているのだ。

 

 

「グぐッ・・・! うわァアアアア!!」

 

ガキァアアッンッ!

「ぅおオッ!!?」

 

だが、セイバーとてそんな彼の戦士としての思い以上なものを持っていた。

その思いがセイバーに力を与える。

 

 

「テヤァアアア―――ッ!!」

 

カキィイイッ!!

「ぬオオオッ!」

 

それは『聖杯を必ず手にする事』。自らの国を再興する事。

そして・・・

 

 

「『風王鉄鎚(ストライク・エア)』ッ!!」

 

ザァシュゥウウッ!!

「ガッ、あア・・・っフ・・・!」

 

風の魔力を纏った聖剣の刃が、ランサーの槍ごと身体を斜めに切り裂く。

正に鉄鎚の名に恥じぬ必殺の一撃だ。

 

 

「あぁ・・・み・・・み、見事なり・・・セイバーッ・・・! あ”ぁ”・・・」

 

「・・・」

 

身体を斜め一線に斬られ、槍を真っ二つにされながらも、ランサーの息はまだあった。

そんな息も絶え絶えな彼の身体をセイバーは優しく抱き留める。

 

 

「クククッ・・・強い・・・やはり、強いなぁ・・・セイバー・・・・・ハハハッ、ゴふッ!」

 

「もういい・・・喋るなランサー・・・ッ・・・」

 

肺に血がたまり、徐々に徐々に男は意識をなくしていく。

彼が宿敵である彼女に抱き留められながら思った事は一体なんだったであろう。

 

 

「先に・・・座にて、待っているぞ・・・セイバー・・・」

 

そうしてランサーは、金の粒子へとその身を変える。

小さいが、確かに彼の望みは一つだけ叶った。

 

 

「・・・・・ランサー・・・私は次へ進む・・・聖杯を必ずや、この手に・・・!」

 

彼を抱き留めていたセイバーは、顔を上げる。そして、聖杯が待っているであろう場所へと歩んでいく。

ランサーの血がベットリと付いた聖剣を携えて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





・・・なんか、湿っぽくなっちまいやした。
もうこの物語もあと指折りぐらいになりました。
さぁさぁクライマックスが見えて来た!


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化物と騎士




も~う幾つすると~、最終話ァ~♪
・・・なんですけど、サブタイが中々思いつきません。

あと今回、アキトがめっちゃヒールやってます。ヴィランやってます。
おじさんは次話で出そうと思っています。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

・・・カツン・・・カツン・・・カツン・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・ッ」

 

中央ホールへと続いていく廊下に鎧の絣音が木霊する。

音を鳴らす主は、先程の戦いで上がった呼吸を一歩づつ歩むたびに整えていく。

 

 

『・・・~~♪』

 

「これは・・・?」

 

そんな時だ、通路の奥から何かが聞こえて来たのは。

それは中央ホールへ近づくたびに大きく、そしてハッキリと聞こえて来た『歌』であった。

 

 

ガチャ・・・ギィイッ・・・

 

「Come out ye Black and Tans, come out and fight me like a man♪」

 

中央ホールへ入る重々しいドアを開けば、ライトに照らされた舞台と座席から高らかに歌を唄いあげる男の後ろ姿を確認する。

 

 

「Show your wife how you won medals down in Flanders♪」

 

その男はまるで酒にでも酔っているかのように上機嫌で、肩に羽織った紅いジャケットが妖しく揺らめている。

 

 

「~♪・・・おん? おおッ、やっと来たか『セイバー』」

 

待ち人が漸く来た事に気づき、ギョロリと赤い三白眼と三日月に歪んだギザ歯を覗かせるバーサーカー、『暁 アキト』。

その手には、彼の身の丈を超える銀の突撃槍とボトルが握られていた。

 

 

「『バーサーカー』ッ・・・アイリスフィールは・・・・・『聖杯』はどこだッ!!」

 

そんな彼を忌々しそうに呼ぶセイバーこと『アルトリア・ペンドラゴン』は、風に隠された聖剣を構えて向ける。

 

 

「オイオイオイオイオイ・・・まぁ、そう殺気立つなよ。傍から見れば、餓えた獣とそう大差ないぜ? ホレッ、これでも飲んで落ち着けや」

 

「ッ!」

 

大いに殺気立つセイバーにアキトは持っていたボトルをヒョイと放ると、持ち前の反射神経で咄嗟にそのボトルを受け取ったセイバー。

ボトルの中は琥珀色の液体で半分まで満たされており、とても強いアルコールの匂いが漂った。

 

 

「・・・これは?」

 

「イギリスの・・・まぁ、君が生きていた時代から後に出来た酒だ。名をウィシュケ・ベァハ。今じゃあ訛って、ウィスキーって呼ばれている酒さ」

 

「ウィシュケ・ベァハ・・・『命の水』・・・随分と御大層な名だ」

 

「んだと? 俺の大好物にケチつけようってのか?」

 

先程まで、アイルランドの反英歌を唄っていたヤツが英国最高の王とも呼ばれるアーサー王に好物のスコッチウイスキーを勧めている。

・・・結構この男、無茶苦茶な事言ってる。

 

 

「・・・ッフン。ゴクリッ・・・グふッ!!?」

 

「あッ・・・あ~ぁ、もったいね・・・」

 

セイバーはウィスキーボトルを一気に呷ってしまい、吐いて咳き込む。

彼女が生前、そして聖杯問答の時に飲んだワインのアルコール度数は15度以下。だが、このウィスキーは蒸留酒である為、そのアルコール度数は40度以上。

それを一気に呷ってしまったものだから、喉の粘膜が焼ける焼ける。

 

 

「お~い、大丈夫か~?」

 

「ごッフ、ゴほッ! な、なんのこれしき・・・!」

 

「ほ~ん。あ、そおそう・・・そう言えば、テメェさっき・・・『聖杯がどーとか』言ってたなぁッ?」

 

「ッ!?」

 

ズドゴォオッン!

 

咽るセイバーに気を遣うアキトであったが、急に態度が豹変し、血の大槍を何発も撃ち込んだ。

 

 

「ッく!!」シュタッ

 

それを寸での所でなんとか躱すセイバー。

先程まで自分がいた場所は、まるで大砲でも撃ち込まれたかのように木端微塵の粉煙が発ち込めるていた。

 

 

「バーサーカー、貴様ッ!!」

 

「オイオイオイオイオイ、セイバー。テメェ、まさか・・・『この卑怯者!』とか言わねぇえだろうな?」

 

アキトは人差し指をさしながら、ギロリと赤い眼で睨みつける。

表情はニタニタとどこか嫌な笑みを浮かべるが、その目は激情に駆られている獣の眼其の物であった。

 

 

「オメェだって・・・俺が留守してる時、俺達の陣営を奇襲の強襲したんだろうが。しかもぉ、その理由が・・・『アイリスフィールちゃんを俺達が誘拐した』・・・って、オイオイオイオイオイ・・・」

 

「そ・・・それは・・・」

 

彼の言葉にセイバーは申し訳ない気持ちが湧いた。

アーチャーの新しきマスターとなった言峰にまんまと騙され、マフィア陣営本営の間桐家邸宅に二度も聖剣ビームを放ってしまったセイバー。

 

 

「セイバーよ、そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいって。だって・・・・・本当の事だからな」

 

ピキリッと主にセイバーの周りの空気が凍った様な気がした。

 

 

「・・・なんだと・・・?」

 

「聞こえなかったかな~? えぇ、アルトリアちゃん? なら、もう一度・・・アイリスフィールは、聖杯の器は俺達の手中だ。今もな」

 

眼を見開き、アキトは得意げに語る。まるで子供のような無邪気其の物で。

 

 

「いや~、こんな事になるとは思わなかったぜ。オメェとそのマスターが離れている隙にアイリちゃんをかどわかすまでは巧くいってたんだが・・・まさか、すぐにそれを突き止めて、エクスカリバーを家にぶち込むなんてよ~。流石はスキル『直感:A』ってヤツ? ホント、携帯で口裏合わせるの大変だったんだからなぁ。カハハハッ♪」

 

「・・・」

 

愉快に笑いながら事情を話すアキトにセイバーは俯き、肩を震わせる。

 

 

「・・・貴様は・・・聖杯に託す願いなどない・・・と言っていたが・・・」

 

「ああッ、それに関しては勿論ないさ。でもよぉ、どんな願いでも叶えちまう願望器なんだろう? ()()()()()()と思ってさぁ!」

 

牙を晒して彼はゲラゲラと笑う。

その表情は、見るに堪えない程に醜悪なものであった。

 

 

「・・・最後に、最後に一つ聞きたい・・・」

 

「ああ・・・構わんぜ、どうせ最後だ。イスカンダルもギルガメッシュも来ないようだし・・・ツーか、俺達が最後のサーヴァントみたいだしよぉ~。ああ、あぁ、まさかのシード権をもらっちまうとは・・・ツいてるね、俺も」

 

「黙れ、バーサーカー・・・私が聞きたいのは、たった一つだ。・・・・・雁夜は・・・雁夜はその事を知っているのか?」

 

「!」

 

最後の質問にアキトはポカンとした表情になる。

セイバーは『間桐 雁夜』という男が、どんな人間であるのかという事を自らの保有スキルで少しながらも理解していた。

 

彼はまさに騎士という存在に相応しい人間だと彼女は思っていた。

傷ついた少女を守る為、救う為に自らの命も顧みずにこの聖杯戦争に参加した高潔な人間だと。

 

 

「・・・カカカッ、カハハハッハッハッハ!!」

 

「・・・何がおかしいッ?」

 

アキトは笑う。笑い転げる勢いで笑う。

それは聖杯問答で、セイバーの在り方を尊厳など踏みにじるかのように何の遠慮もなく笑っていたアーチャーのようだ。

 

 

「カヒヒッ、なにを聞くかと思えば・・・・・あぁ、答えてやるよ。雁夜の野郎は知らねぇ、知りもしねぇッ! あんな甘ちゃんの御人好しが知る訳ねぇだろうがよぉッ!!」

 

「『風王鉄鎚(ストライク・エア)』ッ!!」

 

ブオォオオオッッン!!

 

セイバーはほぼ無意識の中、その聖剣を振った。

聖剣に溜まっていた風の魔力が、ハリケーンの暴風のように前方へと吐き出され、座席列をバターのように抉った。

 

 

「・・・ん~♪」

 

その爆風の斬撃を突撃槍を盾にする事で防いだアキト。しかし、防御態勢が一瞬遅れた為か、右頬に一筋の裂傷を負ってしまった。

彼は、傷から垂れる自らの血を手で拭うとそれを何とも美味そうに舐める。飴でも舐めるかのように。

 

 

「いいねぇ、そう来なくちゃあッ!! さぁ、騎士王! バケモノはここだぞ、来いよ来なよッ!WRYYYyyyyyッ!!

 

「貴様は・・・貴様だけはッ! 肉片すら残さず殺し尽くしてやるッ、このバケモノめッ!!

 

ダンッ

そうして両者は、自らの敵に飛び込んでいく。

 

一方は、依頼人の為に。

もう一方は、自らの願いの為に。

第四次聖杯戦争最後となるサーヴァント同士の死闘が今、幕を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





皆さんはご存知かもしれませんが、一応。
本当は心根の優しいキャラなんです!
次回は、はてさてどうなることやら。


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噴出




どーも、またインフルエンザになってしまった疑いのある作者です。
B型ではなく、A型かC型です。
皆さんも体調管理にはお気をつけて・・・

今回は雁夜おじさんが登場しますが、最後らへんにしか出ません。
あと、具合が悪いからなのか。酷い台詞がありますが、悪しからず。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

「『風王鉄鎚(ストライク・エア)』ッ!!」

「『陽炎炸裂(サンライト・スラッシャー)』ッ!!」

 

ドグォオオ―――ッオオン!!

 

膨大な魔力を含んだ斬撃が幾度となくぶつかり合い、静観だった中央ホールを戦場へと変えていく。

 

 

「ハァアアアアアッ!!」

 

セイバー『アルトリア・ペンドラゴン』は騎士道の己が誇りを込め、聖剣を振う。

 

 

「WRYYYyyyyyッ!」

 

バーサーカー『暁 アキト』は吸血鬼の戦闘本能を剥き出しにし、突撃槍を突く。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

そんな激戦が行われている中央ホール下の白に統一された空間で、二人の男が睨み合っていた。

 

 

「・・・・・」

 

一人は軍用ブラックコートに身を包み、打ち揚げられた魚のような澱んだ目をした男。

魔術師殺しの異名を持つ、上で戦うセイバーのマスターにして魔術使い『衛宮 切嗣』。

 

 

「・・・ッフ・・・」

 

もう一人は、黒いカソックに身を包んだドブ川のように淀んだ眼をし、薄ら笑みを浮かべる男。

自らの師を裏切った上で刺し殺し、アーチャーのマスターとなった『言峰 綺礼』。

 

 

「!」ダンッ

 

言峰は、自らの魔術礼装である投擲剣『黒鍵』を顕現させると勢いに任せて切嗣へと迫る。

その途中に得物を魔力で強化させ、刃を大剣のように厚く広げた。

 

 

「ッ・・・!」チャキリ

 

ズダンッ!

 

対する切嗣は落ち着いた様子で懐から愛銃のコンテンダーを引き抜き、一直線上に迫りくる言峰に向けて籠められた銃弾を発射。

勢い良く銃口から飛び出した弾丸は、バギィッン!という金属同士の衝突音を白い空間に響かせる。

 

 

「(『起源弾』・・・被弾者の魔力を暴走させ、自らの肉体を瞬時に死滅させる・・・)」

 

発射された弾丸は、切嗣が『魔術師殺し』と呼ばれる由縁其の物と言える初撃必殺の魔術起源。

この弾丸でこれまで数多くの魔術師達をあの世に送り、聖杯戦争ではケイネスを再起不能まで追い込んだ代物だ。

 

パキィイイッン

 

「なッ!?」

 

着弾した瞬間、魔術礼装である筈の黒鍵の刀身は飴細工の様にバラバラになる。

だが、起源弾のダメージは言峰自身へ何故か行かなかったのだ。

 

 

「ッ!!」

 

「っく!(固有時制御・二重加速(Time alter―double accel)』!)」

 

起源弾が効かなかった事への動揺で、岩をも砕く一撃を頂いてしまうその瞬間。

衛宮の家伝である『時間操作』の魔術を戦闘用に応用した『固有時制御(Time Alter)』を発動し、言峰からの蹴りをギリギリで避ける切嗣。

 

 

「ッ!」

ババババババババッ!

 

そのまま彼は言峰からの二撃目の蹴りを避けつつ、もう一つの愛銃であるキャリコで正確な応戦する。

毎分最大で750発の弾丸を発射できるこの銃ならば、仕留められるとの算段であった。

 

 

「フンッ!」

キキィキャアアアン!

 

しかし、言峰は発射されたキャリコの無数の銃弾を新たに顕現した黒鍵でいとも簡単に弾いてしまう。

流石は代行者か。近接戦闘では、明らかに切嗣以上の戦闘能力を持っている。

 

 

「(起源弾が効かない・・・いや、なるほど・・・)」

 

冷静さを取り戻した切嗣は、瞬時に言峰を観察し、起源弾無効化の真意を導き出す。

 

 

「(ヤツは『令呪』を魔力源としているのか・・・起源弾が効果を発揮した時には、既に魔力源たる令呪は喪失している。ヤツが自身の魔力回路を使用しない限り、起源弾の魔力は効かない・・・だが、命中さえすれば、屠るだけの威力はある!)」

 

言峰の右腕に宿った令呪から、そう考察する切嗣。

だが、起源弾を撃つ為に使用しているトンプソン・コンテンダーは、中折れ機構のシングルアクション単発式。ライフル並の攻撃力を持ってはいるが、その点次弾装填に時間がかかるのが欠点である。

その次弾装填を待ってくれる程、言峰 綺礼という人物は悠長だろうか?

 

 

「(次は逃げられると思うな。倍速で動くと解ったならば、それを弁えた上で間合いを見計るだけの事)」

 

いや、ない。ある筈がなかった。

彼は今度こそ確実に切嗣を仕留める為に黒鍵を捨て、得意の八極拳の構えをとったのだ。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

再び、二人の間に沈黙が訪れる。

その一瞬の刹那が、何秒にも何分にも何時間にも感じられる程に空気は硬直していた。

 

 

「・・・ッ!」

 

ジャキッ

 

先に動いたのは切嗣だ。

彼はコンテンダーに起源弾を装填しようとカートリッジに手をかけた。

 

 

「!」ダンッ

 

それを合図に言峰が切嗣目掛けて駆けだしていく。

いや、駆け出すというよりは超低空でジャンプしたと言う方が正しいだろう。

 

 

「ッ!!?(早い!!)」

 

切嗣にはそれが、瞬間移動でもしたかのように感じられただろう。防御態勢をとろうにも、言峰は既に右拳を後ろに踏み込んでいたのだから。

 

 

「!!」

 

バゴォッン!

「がッあ”!!?」

 

ドォオオッン!!

 

振り貫かれた拳は切嗣の胸部に衝突し、メキメキと骨をくだいて吹き飛ばす。そうして吹き飛ばされた切嗣の身体は、壁に大きなクレーターを残して止まる。

正確無比で圧倒的な一撃必殺の破壊力。胸骨を砕くどころか、その先にある心臓を熟れたトマトを金槌で叩くように潰した。

 

バタリッ・・・

 

「・・・」

 

血を吹き出し、虚空の彼方を見つめて倒れる肉塊と化したものに言峰は興味が無くなったのか。クルリと方向転換し、その場を後にしようとする。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

しかしこの時、そんな彼の後ろ姿に向けて銃を構える者が一人。切嗣である。

彼は自らの心臓が破裂した瞬間、アイリスフィールから受け取った『全て遠き理想郷(アヴァロン)』でダメージを回復したのだ。

 

 

「・・・ッ・・・ッ・・・!」

 

気づかれない様にキャリコを構える切嗣。

ダメージを回復したと言うよりは破壊された心臓を元に復元させ、意識を保つのが精一杯。気づかれれば、今度こそ確実に殺されるだろう。

 

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

「・・・?」

 

「!」

 

狙い定める標的が不意に立ち止まった。

切嗣は気づかれたのかと焦り、引き金にかけた指が力む。

 

 

「ッ!(な・・・なんだ・・・アレは・・・ッ?)」

 

ところが言峰が立ち止まった理由は、別にあった。

彼は視線の先にある『赤黒いシミ』に目を奪われたのである。

 

そのシミは言うならば、真っ新なシーツの上に新鮮な醤油でもぶちまけたかのようなシミ。やがてそれは、ゴポゴポという音を発てて水溜まりへと変化していった。

 

・・・・・・・・―――ッ・・・

 

「?」

 

・・・―――ッ・・・―――ぇええッ!」

 

何かが聞こえる。聞こえて来た。

その音は酷く低音で、怨嗟に塗れた絶叫のような男の声。

 

ジャッババァアア―――アアアッン!!

「言峰ぇえエェえええ!!」

 

「ッ!!?」

 

言峰は赤黒い水溜まりの中から泥水を被って現れ出でた男に見覚えがあった。教会に誘き出し、彼に彼自身が最も愛した女からの侮蔑で心を壊し損ねた男。

 

 

間桐・・・雁夜・・・ッ!!

 

「オオオォォォ―――ッ!」

 

雁夜は怨嗟の絶叫を轟かせながら、言峰の心の臓腑目掛けて腕を突き出す。そんな突き出した彼の掌に握られていたのは『』だ。

勿論、ただの釘ではない。呪殺などの呪い事に使われる『五寸釘』。しかも・・・

 

ドクン・・・ドクンッ・・・

 

その釘は脈打っていた。

まるで全身に血液を送る恒温動物のように脈打っていたのだ。

 

 

「ッ!!」

 

ガシィッ!

 

動物的危機察知能力でその釘がとんでもなくヤバい物だと勘付いた言峰は、咄嗟に突き出される雁夜の腕を掴んだ。

 

メキメキァャッ・・・!

「うギャあああああ!!」

 

そして、その腕をへし折らんと力を籠める。

ひ弱で脆弱な雁夜の腕は言峰からすれば、茹で上げる前のパスタ麺一本に等しいだろう。

 

 

「ぐぁあアアッッ!! やれェエ、ニコぉおお!」

 

「!?」

 

だがこの時、言峰はある小さなミスをしてしまった。

それはあまりにも咄嗟の行動であったので、両手で雁夜の腕を掴んだ事だ。

 

 

『GaaAッ!!』

 

ガブリッ!!

「ッッッ!!?」

 

だから、ここまで彼を運び、背後に潜んでいた大猟狗ニコの攻撃を防ぐ手立てはなかった。

 

ニコは大きな口で言峰の右腕に齧り付くと右腕諸共口を外へと振る。

肉を引き千切る動作で行われたそれは、防弾防刃態様のカソックであっても関節をバラバラに引き離す事は容易であった。

 

 

「うおおおおお―――ッオオオ!!」

 

グスゥウウッ!

「ぐァあアア―――ァア!!」

 

右腕の痛みに堪え兼ね左手の力が緩んだ瞬間、雁夜はカソックの生地を突き破り、言峰の心の臓腑へと黒き五寸釘を突き立てた!

これには流石の言峰もいつもの無表情を苦悶の表情に変える他ない。

 

ブシャァアアッ!!

 

「「ッ!!?」」

 

だが、ここで予期せぬ事態が起こった。

言峰の心臓を刺し潰した事で噴き出したのは、目が覚める様な鮮血の赤ではない。酷く腐ったドブ川のよりもドス黒いヘドロが噴水のように噴き出したのだ!

 

 

「ぐぐァ・・・ガッ・・・ぷギャッッ・・・!」

どザバァアアアアア―――ッン!!

 

「うわぁあああああッ!!?」

 

「くゥッ!!」

 

やがて心臓を刺し潰された言峰は水風船のように限界まで膨らみ、大爆発。酷く生臭いヘドロが津波のように雁夜と切嗣を飲み込んでしまう。

 

白く美しい空間は汚物のような泥に染められた。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





・・・ところで皆さん、『ゲゲゲの鬼太郎:六期』見ました?

最近・・・この作品に集中しているせいでFate/作品を見る機会が多いので、鬼太郎さんとモーさんが中の人ネタを含んで被ります。
これって、自分だけですかねぇ?

次回も構想上、彼が出るのは最後らヘンかもです。
はてさてどうなることやら。


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杯中問答:表




春の陽気が強まる中、皆様どうお過ごしでしょうか?
私事ですが・・・ここ何日間、体調が絶不調でしたが、自宅療養のおかげで回復致しました。
皆さん、体調管理にはお気をつけてお過ごしください。

前回の後書き通り、彼の登場は最後らヘンです。
『しかも短いし、少ない!こんなんでいいのかよ?!!』と言うぐらいに出番がちょっとです。

という訳で、どうぞ・・・・・



―――――――

サブタイトル変更。



 

 

 

・・・ザザァアアン・・・

 

「ぁッ!?・・・こ、ここは・・・!」

 

『魔術師殺し』の異名を持つ男、『衛宮 切嗣』はある場所に立っていた。

そこは散りばめられた宝石のように輝く星達が空を彩り、大地には南国特有の植物が生い茂る。

そして、彼が立つ砂浜の目の前には、どこまでも広く美しい夜の海原が広がっていた。

 

彼は知っている・・・ここがどこなのかを。

ここは衛宮 切嗣が『衛宮 切嗣』として始まった場所だ。

だが、何故そんな場所に自分が立っているのか、彼には理解できなかった。

 

それもその筈。

切嗣は冬木市市民会館の地下階層で『言峰 綺礼』と戦い、突如として乱入して来た『間桐 雁夜』のせいで正体不明の泥に飲み込まれた筈だ。

それなのに彼は今、忘れたくても忘れられない少年時代の思い出の場所に立っている。

降りしきる黒い雨をその身に受けながら・・・

 

 

「きっと・・・来てくれるって思ってた」

 

「ッ!」

 

ただ目の前の光景に呆然としている彼に後ろから声がかかる。

呼び声の主を忘れる筈がない切嗣が振り返れば、そこには純白のベーシックドレスに身を包んだ灼眼白髪の女性が控えていた。

 

 

「一時は、あのバーサーカーのせいでどうなるかと思ったけれど・・・・・あなたなら、ここに辿り着けると信じてた」

 

「『アイリ』・・・?」

 

『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』。

アインツベルンがこの第四次聖杯戦争の為に造り上げた小聖杯の外装にして、開戦以前に切嗣と夫婦の契りを交わした人物である。

 

そんな彼女が何故にこんな所にいるのか。

切嗣は大体の予想はつけていたが、ここぞという確信がない。

 

 

「ここは、あなたの願いが叶う場所・・・あなたが求めた聖杯の内側よ」

 

「ッ・・・!」

 

彼女の言葉に驚いた切嗣がふと夜空を見上げれば、満点の星が輝く空にポッカリと大きな大きな『』が開いていた。

実際それは穴ではないのだが、奈落の底まで続くようなドス黒い『それ』は穴のように見える。そして、かく言うドス黒いそれから、黒い雨が燦々と降りしきるのであった。

 

 

「あれが『聖杯』。まだ形を得てはいないけれど・・・もう器は十分に満たされているわ。あとは祈りを告げるだけでいい。そうする事で、あれは初めて外に出ていくことが出来るの。さぁ・・・だからお願い、早くあれに『かたち』を与えてあげて。・・・キリツグ・・・あなたこそ、あれの在り方を定義するに相応しい人間よ」

 

「・・・お前は・・・・・誰だッ?」

 

切嗣は遂に疑問の確信を得て問う。

自分の目の前にいる愛する女の皮を被った得体の知れない者に向かって。

 

 

「私は・・・アイリスフィール」

 

「違うッ! 聖杯の準備が整ったのなら、彼女は既に・・・!」

 

「・・・フフ」

 

「答えろ!」

 

「そうね・・・『これ』が『仮面』である事は否定しないわ」

 

絞り出した言葉に静かにほくそ笑んだ偽物へ切嗣はトンプソン・コンテンダーの銃口を向ける。

一般人が歴戦の殺し屋から銃を向けられれば普通はパニックに陥ると思うが、なにぶんと彼女は普通ではないようで、澄ました笑顔のまま話を続ける。

 

 

「私は既存の人格を被った上でなければ、他者との意思相通ができない。でもね・・・私が記録した『アイリスフィールの人格』は、紛れもない『本物』よ。だから私は・・・アイリスフィールの『最後の願望』を受け継いでいる

 

向けられた銃をやんわりと押しのけた彼女は切嗣の前へと進み、夜の海原に目を向ける。

 

 

「お前は・・・お前は『聖杯の意志』・・・なのか?」

 

「ええ、その解釈は間違ってはいない。私には意思がある、望みがある。『この世に生まれ出たい』という意思が」

 

「馬鹿なッ・・・! ならば問おうッ、僕の願望をどうやって叶えるつもりだ!

 

「・・・・・フフッ」

 

切嗣は強い口調で彼女に迫る。

すると彼女は微笑みながら振り返り、逆に彼へ問いかけた。『そんな事は、あなたが誰よりも理解できている筈じゃない?』・・・と。

 

 

「なんだと・・・ッ!?」

 

「『世界の救い方』なんて、あなたはとっくに理解してるじゃない」

 

動揺する切嗣に彼女は迫り、白雪のような美しい腕を彼の肩に回す。

 

 

「だから私はあなたが成して来た通り、あなたのやり方を受け継いで・・・あなたの祈りを遂げるの

 

「な・・・何を言っているんだ、お前は・・・?!」

 

「はぁ・・・・・仕方ないわね。ここから先は、あなた自身の内側に問いかけてもらうしかないわ・・・フフッ」

 

困惑する切嗣に彼女は少し呆れたような笑みを溢すと両手を顎へと運び、今度は大きく表情を歪めた。

 

 

 

「ハッ!?」

 

切嗣が気がつけば、目の前にいた彼女も周りの南国風景も消えていた。

 

 

「こ・・・ここは・・・?」

 

その代わりに眼前へ広がっていたのは、聖杯戦争に参加しているマスター達の情報収集を行う為に使っていた格安モーテルの一室であった。

 

パチッ

 

「!」

 

困惑の彼をよそに部屋に置かれたブラウン管テレビの電源がひとりでにつく。

その画面には、快晴の海原に浮かぶ二艘の大型客船が映し出されていた。

 

 

『問題』

「!」

 

『片方の船に三百人。もう一方の船に二百人・・・』

 

「・・・なんだ?」

 

テレビからはクイズ番組のように問題文を読んでいく声が聞こえて来る。えらく単調で冷淡な・・・『いつもの切嗣の声』で。

 

 

『総勢五百人の乗員乗客と・・・あとは『衛宮 切嗣』。
仮にこの五百一名を、人類最後の生き残りと設定しよう。
二隻の舟艇に同時に致命的な大穴があいた。船を修復するスキルを持つのは、衛宮 切嗣だけ。
さて・・・衛宮 切嗣はどちらの船を直す?』

 

「・・・当然、三百人の乗った船だ」

 

切嗣はなんの躊躇いもなく即答する。

そんな彼の言葉を受け取ったテレビは、尚も続けて問題文を読んでいく。

 

 

『君がそう決断すると、もう一方の船に乗った二百人が、君を捕らえてこう要求してきた。
『此方の船を先に直せ』と。
さぁ、どうする?』

 

「・・・それは・・・・・」

 

切嗣は少し考え込む。

 

ダダダダダダダッ!!

 

「!」

 

だが、そんな時間を与えないと言わんばかりに窓の外からけたたましい破裂音が聞こえて来た。

その音は、もう随分と慣れてしまった『銃撃音』。

 

 

「・・・ッ・・・!!」

 

彼は銃撃音が聞こえる外の様子を見ようと閉ざされたカーテンを開けば、モーテルの一室はいつの間にか甲板に様変わりし・・・辺りには、二百人の亡骸がゴロゴロと積み上げられていたのだった。

 

 

「あ・・・ぁぁ・・・ッ・・・!」

 

『『二百人全てを殺害する』。
正解。

それでこそ、衛宮 切嗣だ』

 

戸惑い困惑する切嗣に対し、テレビのアナウンスは満足したように喋る。まるで、自分自身がクイズに正解したかのような感じで。

 

ピリリリリリッ

 

「ッ!?」

 

今度は携帯の着信音がなる。

何時の間にか持っていた彼自身の携帯着信の音に気付いた頃には、再び場所はモーテルの一室に戻っていた。

 

 

「・・・」ピッ

 

『さて・・・

生き残った三百人は傷ついた船を捨て、新たに二隻の船に分譲して航海を続ける』

 

電話をとった切嗣は携帯から聞こえて来る声に耳を傾けながら、部屋を出ようと歩き出す。

 

『今度は、片方の船に二百人。もう片方の船に百人だ。

ところが・・・・・

この二隻の舟艇に又しても同時に大穴があいた』

「おい!」

 

電話の向こう側で問題文を読んでいるであろう人物に彼は声をかけるが、電話の向こう側の人物は構わずに問題文を読み続ける。

 

『君は小さい方の船に乗る百人の船に拉致され、こう要求される。

『先に此方の船を直せ』と強要される。

さぁ・・・どうする?』

 

勿論、これは先程の問題と何ら変わりがない。

変わったと言えば、船に乗船している人数と人類最後の人数が先程の問題よりも少ないくらいだ。

 

 

「そんなのはッ・・・だが!」

 

だから、答えは変わらない。

変わらない答えだからこそ、切嗣は答えるのを躊躇った。

 

ドグォオオオ―――ッン!!

 

「あ・・・ぁあッ・・・!」

 

しかし、答えを躊躇った切嗣の代わりに彼の目の前に答えが映し出された。

モーテルの一室を出れば、そこは冬木市内にある港。その港の先に『百人が乗った船』が爆発炎上していた。

 

『そう。

君は正しい

 

『答え』を見せられ、唖然とする切嗣に『声』は淡々と語り掛ける。

 

 

「馬鹿な・・・そんな馬鹿なッ! なにが正しいものか!!」

 

彼は吠えた。

これは違うと、この『答え』は間違っていると吠え立てる。

 

 

「生き残ったのが二百人。その為に死んだのが三百人。これでは天秤の針があべこべだ!!」

 

『いいや、計算は間違ってはいない。

確かに君は、多数の存命の為に少数の犠牲を選んでいる。

そうだろう・・・衛宮 切嗣?

君は常に天秤の針が傾かなかった方を葬って来た。

例え、それが原因でおびただしい屍が積み重なったとしても・・・

それで救われた命があるのならば、『守られた『数』こそが尊い筈だ』と』

 

「ッッ・・・!」

 

『声』は吠え立てる切嗣の言葉を否定した上で、彼のこれまでの事を立石に水のように述べていく。

その『声』の言葉に切嗣は何も言い返す事が出来なかった。

『声』の言う通り、今まで自分はそうして来たのだから。

 

 

「・・・これが・・・これが貴様の見せたかったものか?!」

 

『そうだ。

これが君の心理にして『真理』。

『衛宮 切嗣の解答』だ

即ち・・・願望器として聖杯が遂げるべき行いだ』

 

「違う!! こんなもの僕は望んじゃあいない! こうする以外の方法があって欲しいと・・・・・だから、僕は・・・『奇跡』に頼るしかないとッ!」

 

『君が知りもしない方法を、君の願望に含める訳にはいかない。

君が『世界の救済』を願うなら、それは君が知る手段によって成就されるしかない』

 

「ふざけるな! そんなもの・・・一体どこが奇跡だって言うんだッ!!」

 

『『奇跡』?

かつて君が志、ついには個人では成し得なかった行いを、決して人の域では及ばぬ規模で完遂する。

これが奇跡でなくて・・・なんなのだ?

 

「・・・ッ・・・」

 

なにも言えなかった。

もうなにも言えなかった。

結局・・・世界に平和をもたらすには、犠牲が必須なのだと痛感せざるを得なかった。

 

 

「・・・ッ!」

 

そんな落胆する切嗣だったが、背後に気配を感じ取り、銃を急いで構える。

 

 

「!?」

 

その自分の背後にいた人物の顔を見て、切嗣はゾッとした。

丸眼鏡をかけたその人物は、目元が切嗣ソックリだった。

 

 

「父さん・・・!」

 

ズダァッアン!

 

そう呟いた時には、その人物の左胸にはポッカリと大きな穴が開いた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()、銃口からは煙が発ち込める。

 

 

「ッ!」

 

またしても背後に気配を感じ、振り返る切嗣。

そこには、銀髪の美しい女が立っていた。

 

 

「『ナタリア』ッ・・・!!」

 

ズダンッ!

 

再び発砲音は響く。

彼が気づいた時には、彼の身体は海に浮かぶボートの上に崩れ落ちていたのだった。

 

横には、先程使ったばかりと思われる携帯型対空ミサイル砲が無造作に転がっている。

 

『衛宮 切嗣。

まさに君こそが・・・

この世全ての悪(アンリマユ)』を担うに相応しい人物だ

 

さぁ・・・最後の命題だ』

 

「ッ!」

 

俯き目を泳がせる彼が横に首を振れば、そこには三人の人物が立っていた。

一人は『久■ 舞■』。

一人は『■イリ■フィ■■・フォ■・アイ■■ベ■ン』。

一人は『イ■ヤス■■ール・■■■・ア■■ツ■ル■』。

 

『・・・残りは三人・・・』

 

「・・・・・」

 

眼前の三人を確認した切嗣は立ち上がる。

・・・サバイバルナイフを片手に。

 

『二人を救うか?

一人を選ぶか?』

「・・・・・ッ!!」

ブシュッッ!

切嗣は選び、そしてその冷たい刃を突き刺した。

鮮血が噴き出し、モノ言わぬ肉塊となった其れは、酷く無音に崩れ落ちた。

 

 

「おかえりなさい、キリツグ!!」

 

「!」

 

返り血で濡れた顔を少し起こせば、目の前には『二人』。

場所は彼等の元々の拠点。

 

 

「やっと帰って来てくれたのねッ。アハハハハハ♪」

 

『彼女』は切嗣の身体に抱き着き、嬉しそうに頬ずりをすると彼の頬に唇を落とす。

 

 

「ねぇ、わかったでしょう。これが聖杯によるあなたの祈りの成就・・・」

 

呆然と立ち尽くす彼に『彼女』は語り掛ける。

なんとも慈愛に満ちた笑顔のままで。

 

 

「あとはただ、それを祈るだけでいいの。『妻を蘇らせろ』と、『娘を取り戻せ』と」

 

「・・・・・もう・・・クルミの芽を探しに行くことも出来ないね・・・」

 

窓の先を見れば、外は暗闇で埋め尽くされていた。

 

 

「ううん、いいの! ■■ヤはね、キリツグとお母様さえいっしょにいてくれればいいの!」

 

「ありがとう・・・父さんも■■■が大好きだ。それだけは・・・其れだけは誓って本当だ・・・」

 

そこは彼が『祈った世界』。

文字通り・・・『争いのない世界』。『()()()()()平和な世界』。

彼の求めた世界がそこにはあった。

 

・・・チャキッ

 

「?・・・キリツグ?」

 

だが・・・彼は『正義の味方』だ。

大の為に小を、多数の為に少数を。

『守られた『数』こそが尊い筈』と信じて来た者だ。

 

こんな世界は認められない。

『認めてはならない』。

 

「さようなら・・・・・『イリヤ』」

ズダァアッン!

 

彼は引き上げた撃鉄を落とした。

幼子の脳漿目掛けて引き金を引いた。

 

 

「イリヤ!!? イリヤ、イリヤイリヤイリヤ、イリヤ・・・ッ!!」

 

「・・・・・」

 

床に転がった屍へ名前を連呼しながら縋りつく彼女に対して、彼は弾丸を再装填し銃口を向ける。

 

 

「どうしてッ?!! どうしてこんな!! あなた・・・私達のイリヤをッ!!―――ぁッ!!?」

 

「・・・・・」

 

泣き叫び詰め寄る彼女の首を握り絞める切嗣。

メキメキと生々しい音が部屋に木魂する。

 

 

「あ・・・なたッ・・・! どう、して!・・・? なぜ、聖杯を・・・・・私達二人を・・・拒むの・・・ッ!?」

 

「・・・・・六十億の人類と・・・家族二人・・・僕は・・・ッ・・・!」

 

首を絞める彼の眼には大きく、そして冷たい雫が溜まっていた。

とうの昔に生気を失った目から、久しく忘れていた水滴が流れる感覚が伝わるのが理解できた。

 

 

「僕は・・・君を殺して・・・世界を―――――ッ!!」

 

彼は終ぞと掌に力を籠める。

遂に彼は自らの祈りを―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このッ大馬鹿野郎が!!!」

ゴォオッン!
「ッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回予定。

『激突ッ! (vomic版)クラウスVSクラウス(アニメ版)』

・・・予定は未定。


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杯中問答:裏




前回、【次回予定『激突ッ! (vomic版)クラウスVSクラウス(アニメ版)』】
・・・と、書きましたが・・・
予定は未定の名の通り、延期です。
申し訳ございません。

次回はなんとかそれとなく投稿しますので、どうぞよろしくお願い致します。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

『自身の怨敵の胸に釘を刺さば、泥に飲み込まれ・・・』。

・・・なんていう言葉通り、『間桐 雁夜』は噴き出した泥に飲み込まれた。

視界は一瞬にして墨汁のような真っ暗闇に閉ざされ、一切の音も聞こえなくなった。

 

而して・・・決して彼が死の波に飲み込まれた訳ではない。

 

 

「ッ・・・!?」

 

暫くすると、視界を覆っていた闇から光が灯された。

あんまりにもその光が眩しかったので目を閉じてしまい、再び恐る恐る目を開けると目の前には映画館のような劇場が広がっていた。

そして、自身の身体もその劇場の座席の上にあった。

 

 

「ここは・・・?」

 

ジーッ・・・

 

「!」

 

雁夜は困惑しながらも辺りを見渡し、頭の中で状況を整理しようとしたその時。目の前にそびえる大型スクリーンにカウントダウンの映像が映し出されたのだ。

 

 

「なッ・・・なんだ・・・?」

 

警戒する雁夜を余所にカウントは0となり、映画が始まった。

 

その映画にタイトルはなく。

加えて其れは映画というよりもドキュメンタリーのような作品で、言うなれば・・・『ある男の半生(あらすじ)であった。

 

『男』はある魔術師家系の五代目継承者で、幼い頃は彼の父親が魔術協会から封印指定された事により、世界を転々と逃げ惑うといった苦労を重ねた。

しかしある時、魔術協会の目の届かぬ南の島に移り住んだ事で、一時の平穏を味わえる事となる。

 

幼いながらに逃亡生活を送って来た彼には、その南国での生活がどれ程幸福なモノであったか・・・境遇が似ている雁夜には、少し解るような気がした。

 

追跡者に脅えずにすむ温かな日々。

島の同年代との交遊に父親の助手を務める原住民の少女との初恋。

『普通』と何一つ変わらぬ穏やかな毎日がそこにはあった。

 

・・・だが・・・

 

 

「■■■・・・私を・・・私をッ・・・・・殺して・・・!!」

 

初恋の少女は父親が行っていた『根源に至る』為の実験の影響で、人を喰らう化物へと姿を変えてしまった。

男は『殺して欲しい』と懇願する彼女を殺す事が出来なかったが為、島は死徒と代行者と魔術師が跋扈して殺戮を繰り広げる惨劇の島となってしまう。

 

そんな混乱の中、魔術協会から雇われたある女殺し屋と出会う。

男は父親の研究を放っておけばいずれ新たな犠牲者が増えることになると考え、彼女と共に自らの手で父親を殺害する。

こうして男は魔術協会から封印指定された父親を自らの手で殺害した事で、皮肉にも自由の身となったのである。

 

その後、男は島で出会った殺し屋に師事を受ける事となる。

彼は彼女から『狩り』の技術を叩きこまれる等し、やがて彼女を母のように慕うようになった。

しかし、再び運命(Fate)は彼に残酷な決断を迫った。

 

ある時、殺し屋は長年追い続けていた死徒化の研究をしていた魔術師を旅客機内での戦闘に辛くも勝利する。

だが、機内にいた他の乗客乗員はすべて屍喰鬼(グール)とされ、空飛ぶ死都となった機内に一人取り残されてしまう。

彼女は生き延びるために飛行機を着陸させようとするが、彼女を海上でサポートしていた男は屍食鬼の上陸を防ぐ為に対空ミサイルで旅客機を撃墜。彼女を殺害した。

 

 

「ふざけるなふざけるなッ、バカヤロォオオ―――ッ!!」

 

噴煙を上げて墜落していく旅客機を見上げ、男は大粒の涙をボロボロ流して絶叫した。

 

そして、その後の彼は放浪の果てに聖杯によって自身の理想を成す為、始まりの御三家が一角である一族へ接触する事となる。

彼はそこで一族の令嬢と開戦前に夫婦となり、彼女との間に子供を一人もうけた。

家族との時間は、彼にとって人生最大の幸福であった事だろう。何気ない日常の一瞬一瞬の刹那を男は噛み締めていた事だろう。

 

けれど・・・男は自らの理想を突き詰める事を選んだ。

例えそれが、『最愛の人物を犠牲にする事となろう』ともだ。

 

 

「・・・どうして・・・こんなモノを俺に見せたんですか・・・・・アインツベルンさん?」

 

「・・・・・」

 

映画が終わり、雁夜が座席から立ち上がりながらそう呟くと・・・スゥッと彼の後ろに白きベールに身を包んだ『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』が現れる。

その彼女の表情は、なんとも物憂げで悲しいものであった。

 

 

「あの男の過去を見せて・・・俺の戦意でも削ごうっていう訳ですか?!」

 

「それは違うわ!! 私は・・・私はただ・・・ッ!」

 

表情を強張らせて声を荒らげる雁夜にアイリスフィールは悲壮感漂う表情で否定する。

 

 

「・・・フフ・・・フフフッ・・・フハハ・・・!」

 

「な・・・なにが可笑しいの間桐 雁夜ッ・・・?」

 

すると激昂した表情から一転、雁夜はほくそ笑みを漏らす。

その含み笑いは何所なく不気味で、いつかの会談で漏らした笑みに似ていた。

 

 

「いえ、すみません。貴女が心配しなくても・・・俺はご主人と戦う事はありませんよ、アインツベルンさん。・・・いや・・・ここは『聖杯の器』という方が正しいでしょうかね?」

 

「ッッ!? あ・・・あなたは一体・・・ッ?!!」

 

自らの正体を見透かされ、動揺するアイリスフィール。

だが意気揚々と話している雁夜でさえ、それは先程知った事であった。

 

 

「(ヴァレンティーノファミリーの入団儀式から、脳に無理矢理捻じ込まれた映像(ヴィジョン)で大体の事は解ったが・・・()()()()()()()()()()()? 大方、ここが『聖杯の中』なんだろうが・・・目の前にいる彼女は『聖杯の外殻』でもなければ、『聖杯の意志』でもない・・・・・『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』という人物自身の気配が感じられる。・・・何故だ?)」

 

あの野郎(バーサーカー)・・・まだ俺に言ってない事があるな』・・・と意外にも秘密主義の自分のサーヴァントの悪態を思い吐きながら、言葉を紡いでいく。

 

 

「アインツベルンさん・・・ハッキリ言って俺は、聖杯に祈る願望なんてないんですよ。まぁ、お宅の御主人が俺達の拠点に強襲をかけて来た事は正直腹立たしく思っていますが・・・」

 

「なら・・・どうしてバーサーカーは、セイバーと戦っているの?」

 

「あぁ・・・それはセイバーがガンナーに手酷い傷を負わせてくれた事に対する『落とし前』ってヤツです。俺はあの言峰 綺礼(クソ野郎)を葬る事が出来たから・・・それで良いんですよ」

 

「・・・それが全部、無駄になると言ったら?」

 

「・・・・・あ”ッ?」

 

アイリスフィールの一言で世辞笑いの柔らかい表情から一転、彼の顔は酷く大きく歪んだ。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「どこでどうやって知ったのかはわからないけれど・・・あなたの言うように私はホムンクルス・・・聖杯の外殻よ。そして、あなたがあの男の心臓に突き立てたのは、言うなれば私の心臓・・・『聖杯の核』・・・」

 

雁夜は彼女の言葉を聞いて、ある事を思い出す。それは『臓器も記憶を持つ』という事。それはつまり臓器移植を受けた患者が、臓器提供者の記憶を受け継ぐといった事である。

彼女の言う事が正しければ、ここにいる人物は正真正銘のアイリスフィール・フォン・アインツベルンであり、ここは彼女の記憶の残り香の中だという事だ。

 

 

「それが何だって言うんだ?」

 

「・・・『聖杯は汚染されている』」

 

「ッ!? そりゃあどういう意味だ・・・?!」

 

「どうしてあなたが私の心臓を持っていたのかは解らないけれど・・・あの男にかどわかされた私は、あのまま聖杯の一部となって消滅の時を待っていた。サーヴァントが聖杯に注ぎこまれた事で、『中身』が私を飲み込んで行ったわ。其の時・・・『アレ』がやって来たの・・・」

 

「『アレ』?」

 

自らの消滅を待っていた彼女を飲み込んで行ったのは、酷く鮮度の悪い血液のような赤黒い(ヘドロ)

その泥は明確な意思を持っており、そしてその意志は『邪悪』其の物であった。

 

 

「アレは自らの誕生を切嗣の願望によって成し得ようとしている。切嗣の知っている方法で、彼の願いを叶えようとしているのよ・・・」

 

「願望・・・?・・・って、オイオイオイ!!?」

 

雁夜は知っている。

衛宮 切嗣がこの聖杯戦争に望んだ理由を。

そして、アレが現界するという事は、多かれ少なかれ犠牲が出るという事だ。

 

 

「汚染されたとは言え・・・あれは願望を必ずや叶えるでしょう。切嗣の願望を・・・」

 

「・・・・・(だから・・・だから、どうしたってんだ・・・!)」

 

同時に雁夜は知っていた。

彼がこれまで大の為に小を、多数の為に少数を犠牲にして来た事を。

 

ならば彼は選ぶであろう。大を、多数を選ぶであろう。

例え、それが愛する家族を犠牲にする結果になったとしても、彼は見ず知らずの大多数の人間を選ぶであろう。

 

雁夜の願望は既に叶っている。

間桐の家に長年住み付いていた闇夜の怪物を消し去り、数世紀に及ぶ残酷なその闇に囚われていた桜を取り戻す事も出来た。

想い人への情も、未練があるからこそ未練がないと吹っ切った。

 

だから・・・もう知った事ではない。

魔術師専門の殺し屋が世界を救う為に家族を犠牲にしようと知った事ではない。

 

 

「(・・・だけど・・・だけどなぁ・・・ッ! なんで魔術師っていう連中はッ、いつもいつも・・・!!)」

 

しかし・・・しかし、雁夜は苛立ちを覚えた。

衛宮 切嗣が行うであろう選択に対して、怒りを沸騰させた。

 

 

「・・・なぁ・・・もう正直に言ってくれよ、変な勘繰りも策略もなく正直に言ってくれよ、聖杯の外殻・・・いや、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴女は・・・彼を救いたいのか?」

 

「!」

 

「衛宮 切嗣はきっと大多数の見ず知らずの人間を選ぶと貴女は解っている。だが、その選択で・・・どの選択肢を取っても、何より彼が一番傷つく事を貴女は知っている・・・違いますか?」

 

「・・・ッ・・・」

 

雁夜の言葉にアイリスフィールは苦虫でも噛み潰した様な悲痛な表情を浮かべる。

 

 

「そう・・・そうよ、間桐雁夜。私はあの人を愛しているわ・・・だから、私はあの人に聖杯を勝ち取って貰いたかった! 例え、それで自らの身を犠牲にしても悔いはなかった!! でも・・・ッ! あんなモノに成り下がってしまった杯に一体何の意味があると言うの?! どちらを選んでも耐え難く苦しい・・・また、彼にあんな思いをさせろと言うの?!! 家族を失う苦しみを三度与えろというのッ?!! ふざけないで頂戴ッ!!」

 

アイリスフィールは青筋を立てて、苛立ち憤る。

 

 

「あんなモノになる為に・・・切嗣を苦しませる為に・・・私は『器』になったのではないわッ!!

 

愛する男を苦しませる『自分自身』に激昂し、大きく叫ぶ。

そんな彼女の両目からは、もう流れる事もないと思っていた銀の雫が堰を切った様に流れ出た。

 

 

「でも・・・でも、でも・・・もう遅い・・・私にはどうする事も出来ないわ・・・ッ! だけどッ・・・だけどあなたなら・・・『間桐 雁夜』になら彼を救える!」

 

「・・・・・」

 

「お願いッ! こんな事を願うなんて、お門違いも甚だしい事は重々承知しているわ・・・けれど、あなたしか・・・あなたしかいないのよ! お願い、彼を・・・切嗣を救ってッ、お願い・・・お願いします・・・!!」

 

押し黙る雁夜にアイリスフィールは悲痛な声を咽び泣きながら頭を下げる。

 

アインツベルンと間桐。二つの家は、遠坂を入れた御三家で根源に至る為の儀式『聖杯戦争』を始めた。

だが、今やその両家は敵同士。命乞いなら兎も角、敵からの救助要請を聞くなんていう義理はない。

 

・・・しかし・・・

 

 

「・・・アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ、教会での事を覚えているか?」

 

「え・・・?」

 

『教会での事』。

それはアインツベルンと遠坂との休戦協定が話し合われる最中に雁夜が割り込んで来た時の事だ。

彼はそこで、セイバー陣営に遠坂と同じような休戦協定を申し込んだのだが・・・

 

 

「俺は・・・間桐 雁夜は、アイリスフィール・フォン・アインツベルンとの()()を申し込む

 

「ど・・・同盟ッ?」

 

突然の言葉にアイリスフィールは唖然とする。

雁夜はセイバー陣営でなく、もう何の力も残されていないアイリスフィール個人との同盟を申し込んだのだから。

 

 

「この同盟は、個人同士の対等な関係に成り立つものである。()()()()()()()()()()だ」

 

「!」

 

『人間が人間と結ぶ同盟』。

即ち彼は、アイリスフィールを『聖杯の器』という物ではなく、一人の人間として見ているのである。

 

 

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴女は・・・貴女はもうホムンクルスなんて言うモノじゃあない。貴女は人間だ。人を思う事が出来る・・・人を人として愛せる一人の人間だ」

 

「ぁァッッ・・・間桐・・・雁夜・・・!」

 

「さぁ・・・手を取れ、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。同盟相手からの救援依頼じゃあ、俺も無碍には出来ないだろう?」

 

「ッ・・・えぇ!」

 

アイリスフィールは涙を拭い、差し出された雁夜の掌を掴む。

 

もうそこに悲壮感に打ちひしがれたホムンクルス(つくりもの)の面影はない。

一人の凛々しい人間の姿がそこにはあった。

 

 

「同盟相手からの依頼・・・承った!」

 

パァ―――ッ

 

彼女の手を握り返した雁夜が朗らかに笑うと辺りを眩い光が包み込んだ。

なんとも温かな、陽だまりのような光が・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





キャラを紳士的な風格で描きたいでござる。


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結戦:上




最近、愛を叫ぶアニメが多いのは何故でしょう?
ダリフラの15話は滾りました・・・てか、最高。
ゴールデンカムイにもハマりました。正確には『杉リパ』に。

・・・世間話もそこそこに・・・
今回は長いです。自分の中で最長ランクに余裕で入ります。
あとネタが多いですし、おんじがメッチャ強くなりました。

・・・そんなつもりじゃなかったのに・・・

という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

「お・・・お前は・・・ッ!!

 

「・・・・・」

 

突如として脳天に降り注いだ拳骨によって、彼女から手を離した驚嘆と困惑の眼の切嗣が振り返れば、その後ろに立っていたのは酷く細身の白髪の男。

その男を拳骨を落とされた切嗣はよく知っていた。

 

此度の聖杯戦争に青天霹靂の如く現界した皆の予想斜め上を直走る尽く異常なサーヴァント、『バーサーカー』のマスター・・・・・

 

 

『間桐・・・雁夜』ッ!!

 

「オラァッ!!」

 

バキィイッ!

「グあッ!!?」

 

・・・と、驚く切嗣が名前を呼んだ瞬間に雁夜の右ストレートが頬を抉った。

細身の身体からは想像も出来ない拳撃の威力に切嗣の上半身が後方に反れる。

 

 

「っく!」チャキッ

 

身体を反らせながらも、弾丸を再装填したコンテンダーを突き付けようと構える切嗣。

彼が切嗣の集めたデータ通りの落ちこぼれの一般人クラスの魔術師ならば、この一発で再起不能であろう。

・・・だが・・・

 

 

「オラァア!」

 

ガン!

「ッ!?」

 

撃鉄が雷管を叩く前にすかさず雁夜は蹴りを入れる。

殴られた事で体重が後ろにかかった為、切嗣は足を掃われた事で尻餅をドスンとついた。

なんとも簡単に、幼い子供が何にもない所で転ぶように、切嗣は尻餅をついた。

 

 

「ッ!」

 

カァ―――ッン!

 

再びコンテンダーを構える切嗣であったが、これを雁夜は蹴り飛ばす。

蹴られた切嗣の腕は大きく上に伸び、握っていたコンテンダーは後方彼方へ飛んで行ってしまった。

 

 

「・・・・・」

 

ギロリッと彼を見下ろす二つの眼球。

赤く染まった艶やかな左目が白髪と相まって、酷く不気味に見えた。

 

互いに互いを知ってはいるが、こうして顔を合わせるのは初めてであるという。なんとも衝撃的な初対面(ファースト・コンタクト)であろう。

 

 

「・・・ッ・・・!」

 

これまでの切嗣がやって来た殺し屋家業でもこんな状況はザラにあった。

奪うか奪われるか、殺すか殺されるか、生死を賭けた命のやり取りを幾重にも行って来た筈だ。

その筈だ・・・その筈だった。

 

 

「・・・・・」

 

しかし、彼は目の前にいる男に恐怖した。畏怖の念を起こした。

人間ではない『ナニカ』が自分を見下ろしているように感じた。

 

灼眼白髪の風貌にビシリッと決まった群青色のジャケット。力なく緩んだ口元からは、普通よりも長い犬歯がチロリと先端を晒す。

その姿はまるで―――――

 

 

「・・・オォッラァア!!」

 

「!!」

 

ドゴンッ!と鈍く重々しい一撃が切嗣を襲う。

彼はその一撃を飛び上がる事で回避すると雁夜との距離を大きく拡げる。

 

ほぼ一方的な攻撃の交わし合いが行われている内に風景や背景は、いつの間にやら元のナイト・トロピカルな場所へと変貌していた。

 

 

「フゥー・・・フゥー・・・ッ・・・」

 

雁夜の予想以上の戦闘力に戸惑いながらも、呼吸を落ち着かせる切嗣。

『もう過去のデータは当てにならない。この男は強い』と雁夜の評価を見直し、腰ににぶら下げていたサバイバルナイフをスラリと引き抜く。

 

そして考える。

先程の攻撃で彼に実体がある事は身をもって確認できた。ならば、何故にこの男がこの空間にいるのか。

あの時、共に噴き出した泥に飲み込まれた事は理解できる。だが、ここはあの聖杯の意志によって選ばれた者しか入れない場所だ。

という事は、雁夜も聖杯の意志によって叶えられる願望を有しているという事になる。

 

其れだけは防がなくてはならない。

彼がどんな願いを持っているにせよ、その願望をあの意思は犠牲を持って叶えるであろう。

 

 

 

「・・・・・」

 

そんな接近戦闘の体勢を取る切嗣を余所に、雁夜は呆けたように空を見上げる。

彼の視線の先には、空いっぱいに煌めく満天の星空とポッカリあいた大きな奈落の底のようなドス黒いナニカ。

 

 

「・・・はぁー・・・なんだか、呆れてモノも言えねぇよ」

 

「・・・?」

 

溜息混じりに言葉を漏らす雁夜。

その口ぶりは、酷く疲労感に満ち満ちたものであった。

 

 

「お前ら魔術師は・・・あんなモノの為に戦っていたのか? あんなモノを手に入れる為にお前らは屍を築き上げて来たのか?」

 

「・・・」

 

『其れはお前もだろう』と言わんばかりの無言を返す切嗣に雁夜は先程見せられた映像の彼と目の前の彼とを重ね合わせる。

ほとんど強制的に切嗣の半生を見せられているものだから、雁夜なりに思う所があったのだろうか。

 

 

「むぅン・・・!」

 

「!(なんだ・・・この男?)」

 

睨みをきかせていた雁夜が戦闘態勢を構えるとその構えに切嗣は疑問を持つ。

何故なら、どう見ても構えが戦いのド素人のソレであったからだ。

 

けれども、雁夜に戦闘経験がないとは言えない。

未遠川のキャスター戦の裏で行われた時臣との一戦、聖堂教会でのアーチャーとの一戦と、戦いの経験はあった。

 

だが・・・最初の一戦は引き籠りの才能はあるが戦闘経験ほぼ皆無の魔術師、次の一戦は最強格のサーヴァント。

『ピンからキリ』ではなく、『ピンとキリ』という極端な相手にしか戦っていない。

しかも、相手は魔術師ではなく魔術使いの魔術師専門殺し屋。イレギュラーな存在だ。

 

 

「(此方を油断させる為か? どちらにしろ気が置けない・・・)」

 

しかし、切嗣はその経験と性格上深読みせずにはいられない質であった。

雁夜もまた、此度の聖杯戦争では彼のサーヴァントと同じくイレギュラーな存在であったからである。

 

まさに『イレギュラーVSイレギュラー』。

だが、実際の所は『ド素人VS殺し屋』。肉弾戦では、経験や技術の差で明らかに雁夜が不利だろう。

 

 

「オオオォオオ!!」ダンッ

 

「ッ!」

 

されど雁夜は切嗣に向かって駆けた。

大きく()()を後ろに降り抜き、砂浜の砂を巻き上げながら走って行った。

 

 

「フッ!!」

 

なんとも直線的で短絡的な突撃に相手が戦闘の素人と確信した切嗣はナイフを振う。あとは射線上に来た雁夜の身体をナイフの刃が切り裂いてくれるだけであった。

 

グオンッ

 

「ッ!?」

 

だが、射線上に来るはずだった雁夜の姿はそこにはなく、代わりに()()が切嗣の顔面目掛けて迫って来たのだ。

 

 

「っく!」

 

「無駄無駄ァア!」

 

ゴキィッ!

 

なんの前触れもなく、鏡に映った様に差し変わって来た拳を避けようとする切嗣。

しかし対応に遅れた影響からか拳に当たり、顔面には当たらずともナイフを叩き落とすには充分な威力であった。

 

 

「オラァアッ!」

 

「ッ!!」

 

ガッシィ!

 

続けざまに足蹴りを放つ雁夜。

切嗣はそれを拳打の痛みに堪えながら受け止める。

 

 

「瞬時に攻守を入れ替える事で蹴りを防ぐか。なるほど・・・流石は『ナタリア』さんに鍛えこまれた事はあるな」

 

「!? なぜその名前を・・・ッ?」

 

「なに、お前の過去を・・・いや・・・()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・」

 

すかした顔で話す雁夜に増々眉間に皺を寄せる切嗣。

その口調が、いかにも自分を知っているかのような喋り方が酷く不快に感じた。

 

 

「そうさ・・・俺はお前を知っている。こうして初めて顔を合わせるってのに、お前の事を子供の時から知っているかのような奇妙な感覚だ・・・衛宮 切嗣・・・」

 

「・・・なにを言っている・・・?」

 

ニヒルな薄ら笑みを浮かべた雁夜はまるで、どこかの教鞭を垂れるナルシシズムに満ちた教授のように人差し指を指揮しながら語り始めた。

 

 

「お前は殺し屋らしく射撃や爆発物の取り扱いが得意で、其れで何人もの魔術師どもを葬って来た・・・聞くだけじゃあ冷酷残忍な殺人鬼。・・・でも・・・本当のお前は家族や友人を愛する心優しい男。だから、己の信条を執行するたびに罪の意識と喪失の痛みに苦しみ続けて涙を流して来たんだろう、ロボットのフリをした人間?」

 

「・・・」

 

バンッ

 

『お前の話に付き合う気は無い』と言わんばかりに受け止めていた雁夜の足を押しのけ、不気味に灯る灼眼を抉らんと指を突き出す。

 

 

「ッ!」

バシッ!

 

雁夜がその指を跳ね除けたのを合図に両者の目まぐるしい格闘戦の火蓋がきって落とされた。

 

 

「オラオラオラァッ!!」

 

ドドドドドドドドドドッ!

 

「ッッ・・・!!」

 

拳と拳が、拳と手刀が、手刀と拳が一糸乱れぬ動きでぶつかり合う。

特に切嗣の拳撃には容赦の欠片もなく、受ければ熟練した兵士でも再起不能になるであろう威力を一撃一撃に込めていた。

 

 

「どうしたどうしたッ? まるでなっちゃあいないぞ! 今まで随分と生ッちょろい野郎を相手にして来たみたいだなぁッ!!」

 

・・・にも拘らず、雁夜は饒舌に切嗣を捲し立てる。

その表情はなんとも愉快に歪んでおり、どことなく自らのサーヴァントがよく浮かべる表情に酷似していた。

 

 

「その手で何人、何十人、何百人を葬って来たんだ? 自らの師を殺めたその手で誰を救う為に誰を殺したんだ? 正義の味方サマよぉ?」

 

「・・・・・」

 

「随分と気分が良かっただろう。随分と清々しかっただろう。そりゃあそうだ、少数の意見を持った人間を殺せば殺す程に大勢の人達を救う事が出来るんだ。やみ付きだろう? やめられないだろう?」

 

「・・・れ・・・ッ!」

 

「今のお前の姿を見れば、彼女はどんな顔をするだろうな? お前の死んだ魚みたいな目を覗けば、『シャーレイ』ちゃんはどんな反応をするんだろうな? えぇ、英雄サマ?」

 

「黙れッ・・・!」

 

ガシィイッ!!

 

拳打の交わりが漸く膠着し、ギリギリと目線で火花を散らす両者。

ただ・・・先程と違っていたのは、切嗣が感情を表に出し、捲し立てる雁夜をこれ以上ない憎悪の面持ちで睨みつけていた事であった。

 

 

「どうした、衛宮 切嗣? そう言えばお前は嫌いだったな・・・『英雄』という存在を!」

 

彼の言う通り、衛宮 切嗣という男は英雄を嫌悪していた。

 

英雄という存在は残酷無比なる戦場を美談として変質かし、其の生き地獄なる場所へと人々を誘う愚かなる存在だと彼は確信していた。

故に自らのサーヴァントであるセイバーと相容れることは無く、聖杯戦争中は別行動を取っていた。

 

 

「だけどな衛宮切嗣・・・お前が英雄という存在を嫌悪すれば嫌悪する程・・・俺にはお前がそういう存在に・・・『憧れている』ようにしか見えないぞ?

 

「黙れと言っている!!」

 

雁夜が煽る事で、切嗣の攻撃速度がドンドン上がる。

今にも泣き出してしまいそうな、悔しくも悲しそうな表情で拳撃を繰り出していく。

 

 

「いや、断言するよ! お前は英雄に憧れている、英雄になりたかったんだ! 弱きを助け強きを挫くヒーローに、誰をも救える英雄(ヒーロー)になりたかったんだろうがッ!!」

 

「黙れェエエッ!!」

バキィイッ!!

 

慟哭にも似た叫びと共に切嗣の拳が雁夜の顔面を捉えた。

なんとも言えない潰れた音が鈍く響く。

 

グググッ・・・

 

「!?」

 

だが、渾身の一撃を喰らった筈の雁夜は後ろに吹っ飛ぶどころか、動じようともしなかった。逆に顔面を捉えた切嗣の拳が、レンガでも殴ったかのように痛んだ。

 

 

「オオオッ、オラァアッ!」

 

バキィイッ!

「がハぁッ!!」

 

鼻血を噴きながら、雁夜は反撃の一発を切嗣の顔面にブチかます。

 

 

「お前自身、こうなる事は望んでいなかった筈だろう?! 愛する家族を犠牲にしてまで、この世界は救うに値するものなのか?!!」

 

メキャァ!

「ぐフッッ!」

 

続けざまに二発目を鳩尾に叩き込む。

軋んだ骨の音と感触が拳から直に伝わった。

 

 

「黙れ・・・黙れ黙れッ!!」

 

ボギャァアッ!

「ぐべラぁ!!」

 

だが、彼とて殴られてばかりではない。

今度は切嗣が激情のままに雁夜の頬を抉り抜いた。

 

 

「お前に・・・お前に何が解る?! お前に僕のなにがッ!!」

 

バキィイッ! ドゴォ!!

「ぐべェエッ!?」

 

そのまま切嗣はよろけた雁夜に拳撃の雨霰をお見舞いする。

右に左に抉り抜かれる戦闘の玄人の猛襲に口から鼻から血を噴き出す雁夜。一方の切嗣も、あまりにも力を籠める為に拳は返り血と合わせて血に染められる。

 

流石は殺し屋を生業としている人物か。雁夜の意識は徐々に失われていき、勝負が決まるかに思われた。

 

 

「オ・・・うおオオオ!!」

 

ガシリッ

「ッ!!?」

 

バッシャァアアッン!!

 

しかし、そんな猛攻に負けじと雁夜は切嗣の胸倉を掴むとそのまま海へ放り投げた。

水しぶきが大きくあがり、静かだった水面が大きくのたうち回った。

 

 

「はぁ・・・はァ・・・ハぁ・・・ッ!」

 

ザパァ・・・

「ふゥー・・・フぅー・・・フゥーッ・・・!」

 

息を切らす両者。

顔は拳の混じり合いで大きく腫れ、鼻と口からは血が垂れている。拳も激しい打ち合いの末にボロボロだ。

其れでも二人は殺気が籠った眼をギラつかせていた。

 

 

「ハァー、ハァー・・・わかるわけ・・・ないだろうがァア!!」ダンッ

バァン!

 

雁夜は切嗣との距離を詰めんと跳躍し、拳を叩きつける。

切嗣はこれをガードを挙げて防ぐが、雁夜はさらに拳を何度も何度も叩きつけた。

 

 

「ならッ!」

 

「でも、お前が苦しんでるって事はわかるんだよ!!

 

「!!」

 

雁夜は、いつか言われた台詞を思い出したように切嗣へぶつけた。

 

 

「お前のその思いは、最初は純粋で綺麗なモノだった筈だ! 人を助ける事は何よりも尊い事だった筈だ!! それがどうだ?! 今のお前は酷い顔だ・・・今のお前は、足元が見えずに転がり落ちていく者の顔だッ!!」

 

バチィイッ!

「―――ッッ!!?」

 

雁夜渾身のブローが切嗣のガードを崩し、素早く構えを調整する。

左脇を締め、力の分散を最小限減らした状態で振り抜く。

 

 

「オラァアッ!!」

 

ボグゥウウンッ!!

「ガっハァッッ!!」

 

そして、ガードを崩され、隙ができた右脇腹へ小さくも鋭く重いリバーブローを叩き込んだ!

 

 

「ガふぁ・・・アぁ・・・ッ!」

 

「オオオラァ!!」

 

ドゴォオオッ!!

 

さらに顔を起こした切嗣の顎に止めと言わんばかりの右アッパーが穿たれる。

彼の身体はパンチの衝撃で逆に反りあがり、再び浅瀬に大きな水飛沫をあげさせた。

 

 

「フぅーッ・・・ふゥッー・・・うェえ・・・!!」バシャッ

 

一方の切嗣をブチのめした雁夜も浅瀬に両膝を跪かせ、血反吐を吹いた。

口に溜まった血が器官に入り、呼吸がしづらい。まさに満身創痍の状態である。

 

 

「・・・な・・・なら・・・・・」

 

「・・・?」

 

「・・・なら・・・僕は・・・僕は、どうすれば良かったん・・・だ?」

 

浅瀬に仰向けで倒れる切嗣が、ぐらぐらと揺れる意識を保ちながら雁夜に問いかける。

頬には、海とは違った水滴が流れ落ちて行っていた。

 

 

「・・・俺には、世界の救い方なんてものは解らない。でも・・・!」

 

雁夜の脳内にある人物が思い描かれる。

自分を信じて送り出したあの子を、自分の帰りを待っているあの娘の事を思い浮かべる。

 

 

「俺には大切な人がいる・・・自分のこの身を犠牲にしても惜しくない大切な人が俺を待っていてくれている。衛宮 切嗣・・・世界を平和にする事なんて、実は簡単な事じゃあないのか? 自分の家族を精一杯愛してやる事が・・・何よりの近道なんじゃあないのか?」

 

「・・・・・」

 

絶望の淵に落とされた男は、なんの因果かわからずも、様々な人物と出会い助けられ、そして再び希望を見い出した。

 

絶望にしがみ付いた男(衛宮 切嗣)希望を手放さなかった男(間桐 雁夜)。結局のところ簡単な話であった。

 

―――絶望が希望に敵うはずなどない―――

 

 

「・・・確かに・・・簡単だな・・・・・」

ズブ・・・ズブブ・・・

 

「ッ!」

 

そう呟いた切嗣の身体が浅瀬にも関わらず、まるで底なし沼に飲み込まれるように沈んでいく。

そんな沈みゆく彼の表情はどこか柔らかく、安心感に満ちたものであった。

 

 

「・・・ッ・・・」

 

泥に飲み込まれた切嗣を見送った雁夜が無言のまま立ち上がると周りの景色は木漏れ日が温かな公園へと一変していた。

 

 

「ようこそ・・・真の聖杯戦争の勝利者、間桐 雁夜」

 

「・・・」

 

クルリと呼び声のした方を振り向けば、そこにはアイリスフィール・フォン・アインツベルンの仮面を被った聖杯の意志が控えていた。

 

 

「雁夜くん」

 

「「雁夜おじさん」」

 

しかも彼女のさらに後ろには長髪の女性と小さな二人の女の子が寄り添い、雁夜に笑顔で手を振っていた。

 

 

「ここはあなたの願いが叶う場所・・・あなたは遂に聖杯に手をかけた」

 

勿論、この風景も後ろの人物達も幻影である。

 

聖杯の意志は、もうこの際願望を吐露するならば誰でも良かった。自らが生れ落ちる為に手段を択ばなくなったのだ。

 

最初にここに来たあの男は最終的に自らを殺さんと首をへし折ろうとした。

だが、この目の前に立つ間桐 雁夜という男は後ろで手を振る人物を手に入れる為に聖杯戦争に参加したのだと石は推測した。

最初よりは自らの『供物』が減るが、これで漸く現界できると胸を撫でおろす。

 

 

オラァッ!

 

ズドゴォオッ!!

 

だから解らなかった。理解が出来なかった。

(カモ)が自分の顔を容赦のへったくれもなく、力一杯殴り穿った事を。

 

 

「ぶゲらァアッ!!?」

ドゴォオ―――ン!

 

ぶっ飛ばされた意思は踏んづけられたカエルのような叫びを上げて、公園の屋根のある休憩所に衝突した。

衝突の衝撃で建物は倒壊し、意思は屋根に押しつぶされてしまう。

しかも、殴られた顔は陶器を割った様に大きくひび割れ、中から泥が漏れた。

 

 

「ど・・・どうして・・・ッ?」

 

「『どうして?』、『どうして?』だって? オイオイオイオイオイ・・・なに勘違いしてんだ、お前?」

 

鼻血を拭い、悪態を吐きながら意思に近づいて行く雁夜。

その表情は怒気に満ち溢れ、凶暴な眼差しをギラつかせていた。

 

 

「俺は最初からお前をブチのめす事しか考えちゃあいないぞ、聖杯の意志・・・いや、『この世全ての悪(アンリマユ)』!!」バァ―――ッン

 

「!!」

 

なんとも奇妙な立ち方をする彼はいつも以上に『スゴ味』があり、『覚悟』に満ち溢れていた。

 

 

「やめてッ!」

 

「ん?」

 

下敷きになったアンリマユとの距離を詰めていく雁夜の前に手を振っていた人物が立ち塞がる。

その人物は、彼の想い人であった『遠坂 葵』である。

 

 

「雁夜くん、これで間桐家は長年の悲願を果たす事が出来るのよ。それに今なら、遠坂から私を取り返す事が―――――」

 

「偽物は消えろ」

 

バシュンッ

 

雁夜は聞く耳を持たんと言わんばかりに幻影(想い人)を片手で払いのける。

払いのけられた彼女は泥のように崩れ落ち、風に吹き消された。

 

 

「どうして・・・どうして?! あなたも、衛宮 切嗣も聖杯(わたし)を拒むの?!! 間桐雁夜、あなたに至っては間桐家の悲願を叶える絶好の機会の筈ッ!!」

 

「あぁ、確かにそうだろうな。『根源』ってもの触れる為の絶好のチャンスだろう・・・だが、生憎と俺はもう『間桐家』なんて言うカビの生えた家の人間じゃあない」

 

「な、なにを言って・・・ッ!?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド

 

倒れるアンリマユを見下ろす様に立った雁夜は、堂々と宣言する。自分がどこの誰なのかを改めてハッキリと認識するかのように。

 

 

俺は・・・・・ドン・ヴァレンティーノファミリーが魔術部隊が隊長『間桐 雁夜』だッ!!

ドジャァア―――ッン

 

もうそこにロクデナシの落ちこぼれ野郎の姿はなく、覚悟に満ちた男の姿がそこにはあった!

 

 

「ふ、ふざけ―――――」

 

『ふざけるな!』とでもアンリマユは言いたかったのだろうが、生憎とこの男は話どころか言葉も聞く気はないようで・・・

 

 

「オラァアッ!」

ズドォオッン!

 

その顎目掛けて、サッカーボールでも蹴るかのように蹴っ飛ばした。

 

 

「ぐギャぁああッ!!」

 

噴煙と絶叫をあげながら、建物の残骸諸共またもや吹っ飛ぶアンリマユ。

すると飛んで行った先がガラスのようにひび割れ、其れに合わせるかのように周りの風景は崩れ落ちてしまった。

 

 

「き・・・キキ・・・キ様ぁアAaaー・・・!』

 

ドシャリとゴミのように地面へ放り投げられたアンリマユの顔はアイリスフィールの仮面が完全に砕かれ、出来損ないの泥人形の姿を晒した。

 

 

「なるほど・・・ソレがお前の本当の姿か・・・」

 

『まトウかリヤァアアアアア!!』

 

ドシュシュッ―――ッ!!

 

激昂したアンリマユは泥に覆われた空間から酷く血色の悪い棘を幾本も発射する。

 

 

「オオオオオッ!!」

 

そんな確実に自分を殺しにかかって来る攻撃を迅速に対応し、最低限の力で回避しながら駆けて行く。そして、確実にアンリマユとの距離を詰めていった。

 

 

「いやだ、クルな・・・・・くるな・・・来るな、来るなクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナクルナァアアアッ!!」

 

恐れた・・・アンリマユは迫って来る雁夜を恐れた。自らの理解の範疇を超えた存在に恐怖した。

 

 

「・・・『憎みたまえ』・・・」

 

『ッッ!!』

 

距離を詰めながら、雁夜はボソボソと何かを呟く。

その呟きが、アンリマユには処刑宣告のように聞こえて仕方がない。

 

 

『諦めたまえ』・・・『許したまえ』・・・『あの子の未来の為に行う、我が蛮行をッ!!

 

ドンッ!

 

全ての攻撃をかわした雁夜は赤く染まった左手をアンリマユの左胸にめり込ませ、大きく自らの最大奥義を轟き叫んだ!

 

 

「『緋文字』改め・・・『ヴァレンティーノ流血戦術―――零式―――』―――」

 

『や、ヤメロォォオオオォオオオオオォッ!!』

 

「―――『零血(アイン・サングウェ)!!!

ドバシャァアアア―――ァアアッッン!!

 

雁夜の左拳から、まるで間欠泉のように紅き滅血の血潮が噴き出す。

暗い闇や断末魔さえをも掻き消す様に。

 

 

 

 

「―――運命(Fate)よ、そこを退け・・・

『俺達』が通る―――」

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





もうこの作品も残り少ないです・・・エピローグ的なものを考えようかねぇ~・・・


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結戦:中




カチリカチリと針はカウントを刻む。

久々にも関わらず、ヒーローなのにヒールでヴィランな彼が登場。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

WRYYYAAaaa―――ッ!!

 

刃と刃が打ち合わされる戦場へと変貌してしまった中央ホールに『狂戦士(バーサーカー)』の何とも奇妙な雄叫びが轟く。

 

彼の手に握られているのは、自信の身の丈を優に超える大剣と見間違う程の突撃槍(ランス)

その煌めく白銀の刃からは、山吹色の熱波が揺らめいていた。

 

 

でェヤァあアア―――ッ!!

 

膨大な魔力を含んだ斬撃が幾度となく叩きつけ、斬壊していく中央ホールに『剣士(セイバー)』の苛烈な鬨の声が響く。

 

彼女の手に握られているのは、風によって隠匿された両手剣(グレートソード)

その暴風を纏った透明の刃からは、微かに黄金の粒子が零れ落ちていた。

 

 

「ハァァアアア!!」

 

ザシュバッン!

 

セイバーの聖剣がアキトの左肩から右脇腹をバターのように抉り斬る。

剣身は彼の肋骨を寸断し、剣先は臓腑を切り裂いた。

 

 

「・・・WRYyy♪」

 

「!?」

 

だが・・・致命的外傷を受けたのにも関わらず、彼は口元を何とも楽しそうに三日月に歪めた。

 

 

血液造形(ブラッドメイク)猟狗(ハウンド)』!

 

ガチィイッ!

「ッ!」

 

斬裂され噴き出した血液が猟犬の形となり、セイバーの腕へと牙を突き立てる。

腕を覆っている手甲のおかげで牙が彼女の柔肌を傷つける事はなかったが、齧り付いたまま暴れまわる為に体勢がぐらついた。

 

 

「KUAAAAAッ!」

 

バキィイッ!

「ぐァあフッ!!」

 

そんな一瞬の隙を見逃さず、アキトは怪力無双の拳打を脇腹に叩き込んだ。

重く鋭い一撃にセイバーはそのまま殴り飛ばされ、ガシャァアーン!!と座席群に衝突した。

 

 

「カカカカカッ! 軽いッ、実に軽いぞセイバー! テメェのウェイトもさることながら、その剣戟さえも軽い軽い! カハハハハハッ!!」

 

ドバシュッッン!

 

ゲラゲラと煽り立てて笑うアキトに粉塵の先から、魔力を固めた鋭い暴風が襲い掛かる。

暴風は彼を確実に捉えると頭をむしり取る。

葡萄の様にむしり取られた頭はボデッとホールの床に落ち、腐った果実の様に中身(脳みそ)をぶちまけた。

 

 

「ハァ・・・ハァッ・・・ハァ・・・!」

 

粉塵の中から顔を出すセイバー。

纏った白銀の鎧は拳を打ち込まれた事で大きくへこみひび割れていた。

 

 

「うぐ・・・うぅッ・・・!」

 

胃液が逆流し、吐き気が込み上げて来る。

あまりの苦しさにセイバーは顔を俯かせた・・・其の時ッ!

 

ズオンッ

「なッッ!!?」

 

ドゴォオッン!!

 

頭のないアキトの身体がセイバーに襲い掛かって来たのである。

 

 

「ッく!!」

 

ズザァアッ

 

首無し狂戦士の攻撃を紙一重で躱したセイバーは、最悪な吐き気と困惑の中で再び聖剣を構えなおす。

 

 

「・・・」

 

そんなセイバーを余所に首無しは飛んで行った首まで後ろ飛びで跳躍すると、頭を拾い上げて切断された首の断面にはめた。

 

 

「なッ・・・なんだと・・・!!?」

 

すると・・・あら不思議!

切断された首と頭がギチギチと奇怪な音を発てて繋がったのである。まるで映像の早戻しのように元通りだ。

そして、何事もなかったかのようにコキリッと首を回した。

 

 

「―――・・・Aaー・・・あー? 良し、声帯も繋がった」

 

「な・・・なんだ・・・何なんだ貴様はッ?!!」

 

あっけらかんとするアキトに対し、セイバーは動揺し困惑した。

 

其れもそうだ。首をはねたと思ったら、その首を自らで拾って繋げたのだから。

誰だって驚く。誰だって動揺する。誰だって・・・・・

 

 

「・・・どうした? ()()()()()()、セイバー?」

 

「!」

 

だが、彼の言うようにセイバーは震えてはいない。所詮は世迷い言である。

ただ先程のリバーブローが今になって効きはじめたのか、ゆらりと身体が傾いた。

 

 

「なにを戯言をッ!!」

 

ダンッ

 

激昂したセイバーは聖剣を振り絞り、距離を詰める。

あの三日月に歪んだ表情を消し去る為にセイバーは駆け抜けて行った。

 

 

「セヤァアアアッ!!」

 

「無駄無駄ァッ!!」

 

幾度となく急所に向かって振るわれる聖剣を紙一重で躱すアキト。

其の表情はドンドン歪んで行き、最後には耳まで裂ける程に口を三日月に歪めた。

 

 

「どうしたどうした、どうしたってんだアルトリア・ペンドラゴン?! テメェの剣捌きはこんなもんだったのかッ? 此れじゃあ、『救国』なんて願いは夢のまた夢だなぁッ!!」

 

ゾゾォンッ

 

彼がまるでオーケストラの一流指揮者の様に指を振れば、其処ら中満遍なく飛び散った血液の一滴一滴が宙に浮かび、その一つ一つが『杭』の形に変貌した。

 

 

「俺の驕りの大盤振る舞いだッ、遠慮なく喰らいな!!」

 

ズザザザザザザッ!!

「ッ!!」

 

その幾千の杭の群れを一斉にセイバーへと差し向ければ、赤く染まった豪雨が降り注ぐ。さながら其れは、アーチャーの宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の様であった。

 

ガキガキカキキキィイイッン!

「くぅッ・・・!」

 

セイバーは其の攻撃を自らの得物一つで斬りはらう。

だがしかし、流石の名高き騎士王とて絶え間なく降り注ぐ杭の雨を完璧にはらう事は出来ない。斬り溢した鋭角が彼女の柔肌を裂き、肉を貫いた。

 

 

「はぁ・・・ハァッ・・・ぐゥッ・・・!!」

 

ようやく杭の雨が止むと、其処にはふらつきながらも風の剣を構える騎士が一人。

白き艶やかな肌から鮮血が流れ、青の戦装束は紫色に変色していた。

 

 

「HAa~・・・なんと・・・なんとなんとなんと、なんと美味そうな血潮だ!! 今のテメェは極上の美酒が入ったボトル・・・栓を抜けば、どんな味が楽しめるだろうかッ!! カハハハハハッ!!!」

 

「バアァ・・・サァア・・・カァアアッ・・・!!」

 

セイバーは忌々しくアキトを強く睨み貫く。

何故なら、先程の物量に言わせた攻撃は全て()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

目の前の人物は戦いを・・・いや、『虐殺』を楽しんでいた。相手をただ嬲り殺しにする事を悦にしていたのだ。

 

 

「カッハッハッハッ!・・・・・あぁ、そう言えば・・・そう言えばそう云えばそう謂えば・・・」

 

ひとしきりに腹を抱え込むようにゲラゲラ笑ったかと思うと、突然何かを思い出したか真顔になるアキト。

その血潮にのように赤く染まった瞳孔は開きに開いていた。

 

 

「お前の願い・・・聖杯に祈る願望・・・『故郷の救済』、『ブリテンの滅びの運命を変える』だったけか?・・・クククッ・・・カカカッ・・・!」

 

「なにが・・・可笑しい・・・ッ?!」

 

哄笑がホールに木魂する。

尊厳など踏みにじるかのように何の遠慮もない笑いが響く。

 

 

「あの宴席での事を思い出すと、愉快で愉快で堪らなくなる! アーチャーの、あの金ぴかが言ったようにセイバー・・・お前は『極上の道化』だ!!」

 

「・・・・・黙れッ・・・!」

 

「いいや、黙らぬさ! そして、お前はこうも言っていた。『王として国を治めるのなら人の生き方など、望めない』と・・・ならば、何故に悔いる必要がある? 国を動かすシステムに成り果てたと言うならば、その魂は国ごと滅び去っている筈だ。消え去っている筈だ。・・・だが・・・お前はここにいる、ここに立っている、俺の前に立っている! 結局のところ、お前は大義名分を傘に泣き喚く一介の小娘風情に過ぎないじゃあないかッ!!」

 

「黙れと言っているッ!!」

 

ズゾォオオオオオッッン!!

 

捲し立てるアキトにセイバーは膨大な風の魔力を籠めた刃『風王鉄鎚(ストライク・エア)』を放つ。

煌めく透明の刀身から放たれた暴風は辺りの瓦礫を撒き込みながら、一直線に突き進む。その威力たるや、今までの一刀一撃を優に超えるものであった。

 

 

「無駄無駄ぁ・・・無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアアッ!!」

 

ドパァアア―――ッアアアン!!

 

「―――――ッッ!!?」

 

だが、そんな一撃をアキトは自らの突撃槍で飛んでいる蠅を叩くように屠った。山吹色の熱波を纏わぬ唯の斬撃で打ち払ったのだ。

 

 

「・・・・・例え・・・お前がその願いを叶えた所でどうなる? また同じだ・・・また同じ繰り返しの糞ッタレだ」

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

「・・・ッ・・・」

 

「再び、お前はその剣を血で濡らすだろう。屍の山を天高く積み上げるだろう。貴様を見限った臣下はこう言う・・・『王に人の心はわからぬ』と」

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

「・・・・・めろっ・・・」

 

「最も信頼を置いていた騎士は貴様を裏切り・・・貴様は自らの手で自分の子を殺めるだろう。そして、再び貴様の国は滅びる・・・あのカムランの丘で、又しても慟哭を喘ぐ!!

コツ・・・コツ・・・コツンッ

 

「・・・やめろ・・・やめてくれッ!!」

 

距離を詰めながら、諭す様に語る彼の言葉にセイバーはあの場景を思い出す。あの情景を再び瞳に映し出す。

焦土とかし、血に染まった大地を見た・・・あの時を。

 

 

「わ・・・私は・・・・・私は・・・ッ!」

 

「・・・・・」

 

前へ突き出していた聖剣の切先はいつの間にやら地にひれ伏し、首を垂れて膝をついていた。

そんな彼女にアキトは手を差し伸べる。

 

 

「・・・もう・・・気に病む必要はないんだよ、アルトリア。君は君の人生を歩めばいいんだ。自らの道を選び、愛する人と出会い、子を産み育めばいい。君には年相応の普通の人生を歩む権利があるんだ。自由があるんだ。・・・さぁ、私と友達になろう・・・君に『永遠の安心感』を与えようではないか

 

「・・・ぁ・・・」

 

セイバーは聖剣の柄から手を離し、ゆっくりと差し伸べられた手に自らの手を伸ばしていく。紅くギラついて光る眼に吸い込まれるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――「・・・セイバー・・・君が敵じゃあなかったら良かったのに」―――――

 

「ッ!!!」

 

ズバシャァアアッン!!

「GAAAaaッァアアッ!!?」

 

声が聞こえた。

真っ暗闇の荒野に輝いた松明の様に声が聞こえた。

 

その声のおかげか、我に返ったセイバーは聖剣を振り上げた。黄金に輝く温かな光を顕現させた『聖剣エクスカリバー』を。

 

ドグシャァアアッ!!

「がッッハッ! こ・・・これは・・・ッ!!」

 

斬撃の衝撃で、後方へ吹き飛ばされてしまったアキト。その身体へ斜めに刻まれた斬傷は沸々とこんがり熱せられたチーズの様に焼き爛れていた。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ!」

 

「な、なぜだ・・・なぜだアルトリア・ペンドラゴンんん?!! 貴様にはもう何もない筈だ! お前はマスターにないがしろの傀儡として扱われた筈だ!! テメェにはなんの支えもない筈だ!!!・・・なのに・・・なのにィイイ、なのになのになのになのになのになのにどうして立つ?! 何故、その眼を見せるんだ?!! お前には、もうなにも―――――・・・・・あぁ・・・そうか・・・そうなのかッ・・・」

 

いや、あった。

古の偉大なる王に自らの在り方を否定されながらも・・・唯一人、彼女を肯定した男がいた。

無謀にも常軌を逸した力を持つ英霊に否を唱え、人間としてのアルトリア・ペンドラゴンを肯定した男がいた。

 

アキトはその男の面影を彼女の横に見た。セイバーを支える男の朧げな姿を瞳に映した。

 

 

「・・・カカカッ・・・カハハハッ・・・素晴らしい、なんと素晴らしい姿だ・・・!! そして・・・なんと皮肉な事か! 自らの足で立つ理由が、脅威に立向う理由が、その脅威たる化物の『主』とはッ・・・全く、罪作りな男だぜ・・・・・雁夜ァア・・・」

 

ゲホゲホと煙たい血潮を吐き散らしながら立ち上がるアキト。

しかし、その表情は戦傷の痛みで苦悶に歪んだものではなく。嬉しそうな楽しそうな喜びに満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

「フゥー・・・フゥーッ・・・バーサーカー、お前は言ったな・・・私には『自らの道を選ぶ権利がある』と!」

 

「おぉん?・・・あぁ、言った。確かに言ったさ」

 

「なれば・・・なればこそッ、私はこの道を選ぶ! 自らの『理想』に殉じる・・・貴様ら暴君が言った『棘の道』をッ!! 私を信じてくれる者が居る限り、私はこの剣を振う!!」

 

「素晴らしい! やはり貴様は度し難い程の『人間』だ!! 『諦め』を踏破し、前へと進もうとする『一介の権利人』だッ!」

 

吸血鬼は喜々とし、嬉々とし、鬼気として笑う。

何故なら、目の前にいるのは正しく自らと戦うに相応しい戦士。自らを殺し得るに相応しい人間が立っているのだから。

 

 

「さぁ、遊びはここまで! こっから先は己の最強を持って死合おうじゃあないか。

騎士王アルトリア・ペンドラゴン!!」

 

「望むところだッ、吸血鬼!!」

 

ドドドドドドドドドドドド

 

堰を切った様にとんでもなく膨大な魔力が二人を中心に渦巻く。その圧力たるや、立っている床がひび割れ沈む程である。

 

 

「『聖剣解放』ッ!!」

 

セイバーの鬨の声に呼応するかのように黄金の眩い煌めきが聖剣を覆う。

そして、自らの最上にして最強の宝具を天高く掲げ―――――

 

 

「『約束された(エクス)―――勝利の剣(カリバー)』ァアアッ!!」

ズバシュゥウウ―――ッッン!!

 

―――一歩踏み出すと共に聖剣を振り下ろす。

そして・・・強い輝きを放ちながら、散滅即滅の黄金色の焔は一直線に異端異常の狂戦士へと突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





光の英雄によって放たれた聖剣・・・迎え撃つは闇の英雄。
いや・・・彼は正確には『闇』の英雄ではなく―――――


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結戦:下




今回でセミファイナル。
勢いがあり過ぎるのは、たぶん気のせいじゃあないかもです。
という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

「『約束された(エクス)―――勝利の剣(カリバー)』ァアアッ!!」

ズバシュゥウウ―――ッッン!!

 

一歩踏み出すと共に振り下ろされた史上最も名高い聖剣『エクスカリバー』。

天から地へと振るわれる刀身から放たれた魔を滅する光の焔は、強い輝きを放って一直線に突き進んで行く。

 

このまま行けば、対面上にいる彼を光の焔は卵を飲む蛇の様に容易くたいらげてしまうだろう。

しかも、彼は闇に住まう者(ミディアン)の代表格とも言える『吸血鬼』。

そんな存在が天魔即滅の焔を喰らえば、例え異常な不死性を持っているとは言えども無事では済まない。

ここまま彼は確実に焔に身を焼かれ、消滅してしまうだろう。

 

ズキンッ

「っぐッ・・・!!」

 

しかし、この最強の宝具を放つにセイバーは些か深手を負い過ぎていた。

宝具開帳の反動からか。先程の戦闘で負った戦傷が大きく軋み、激痛の余りに身体の重心がよろける。

その影響で聖剣から放たれた黄金の焔は途中斜めに曲がってしまう。

 

ドバシャァアアアアッッン!

 

だからといって、流石は聖剣の中の聖剣。解き放たれた威力は凄まじいものであり、セイバーの目の前は黄金の光で覆われ轟音が響き渡る。

 

 

「・・・ハァ―――・・・ッ・・・!」

 

轟音を耳にしたセイバーは、安心した様に肺へ溜め込んでいた息を吐き切る。

それは、あの一撃に手応えはあったと確信したという意味でもあった。いくらあの男がとんでもない化物であろうと自らの剣の前では無力だと言う自信でもあった。

 

 

・・・・・・・・―――・・・」

 

「・・・?」

 

今だ黄金の焔が視界を覆い尽くす中、微かな音がセイバーの耳に届いた。

乾いた新聞紙が擦れるような掠れた音が。

 

 

「・・・・・―――ッ・・・!」

 

その音は徐々に段々と音量を上げていき、無機物な音から人の発する声へと変貌していく。

 

 

「な・・・なんだ・・・ッ?」

 

セイバーは燃え滾る黄金の焔の向こう側から何かが迫って来るように感じた。途轍もない大きな意思を持った者が迫りくるのを肌身に感じた。

 

ボッシュウゥウウ―――ッン!!

 

やがて、『ソレ』は現れた。

視界いっぱいを覆っていた黄金の焔を駆け抜けて来た山吹色の焔が彼女の瞳に映し出される。

 

 

『セイバー』ァアアッ!!

 

その山吹色の焔を操るのは、たった一匹の化物。

酷く燃える様な灼眼をギラつかせ、冷たい白磁の牙を剥き出しにして襲い掛かって来る一匹の吸血鬼。

 

 

『バーサーカー』ッ!!

 

彼はセイバーに蓄積されていたダメージのおかげからか。宝具の直撃を首の皮一枚で防いでいた。

されど半身は大きく焼け爛れ、熱せられたチーズの様に沸々と泡を吹いている。

確実なる致命傷だ。常人ならば、火傷と激痛でショック死しかねない。

 

 

「WRYYYYYYYYッ!!」

 

「ッ!!」

 

それでも彼はセイバーに手を伸ばす。焼け爛れ、もはや形さえも曖昧に成り果てた異形の手を伸ばす。

これをセイバーは防ごうと地に伏せていた剣を差し向ける。

だが・・・

 

ズブシュッッゥウウ!!

 

「なッ!?」

 

「GAAAAAaaッッ!!」

 

ガッッチィイ!

「ぐっァア”ア”ッ!!」

 

聖剣の切先を左胸に受けながらも、アキトは異形の手でセイバーの頭を掴んだ。

まるで林檎でも握りつぶすかのように力を籠めたのか、彼の指先はセイバーの頭皮を貫通し血が滴る。

 

 

「WRYAAAAAッ!!」

 

ドッゴォオ―――オオッン!!

「がっッッ・・・ハ・・・!!」

 

そのままセイバーをホールの壁際へと投げつけるアキト。

熟れたトマトを地面に叩きつけたような生々しい嫌な音と共に文字通り壁へ沈むセイバー。

両者の血が上質な劇場ホールの床を満遍なく濡らした。

 

 

「ヒュぅ・・・ヒュゥー・・・ガっふ・・・ッ!」

 

アキトは力尽きる様に膝をつく。

其れと同時にセイバーの頭を掴んだ腕が融けた蝋の様にドロリと焼け落ちた。

身体はのズタボロ。刺し潰された心臓の修復は魔力不足でかなわず、瓦解するのを待だけだ。

 

 

「あ・・・ぁあ”、あ”あ”ア”あ”ァアアッ!!?」

 

そんな満身創痍のアキトを余所に何故かセイバーの絶叫が轟いた。

其の絶叫は壁にめり込まされたダメージによる身体の痛みではないらしく。彼女は頭を抑えて悶える。

 

 

「な、なんだこの()()』はッ!!? ()()()()()?!! あ”ア”A"!!」

 

セイバーの脳内にはある映像がフラッシュバックのように駆け巡る。

それはある騎士と赤髪の少年の冒険譚。マスターとサーヴァントの物語。

そして、その騎士は・・・・・

 

 

「誰だッ? 誰なんだ?! 知らない、私はこんな事知らない!! 何を・・・私に一体なにをしたバーサーカーッ?!!」

 

「・・・いいや・・・それは君の記憶だ・・・ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だがな・・・」

 

悶え苦しむセイバーに血反吐を吐きながら語り掛けるアキト。

その表情は朗らかで、痛みを感じてさえもいない穏やかなものであった。

 

 

「未来・・・だと・・・!?」

 

「あぁ、そうだ・・・可愛い騎士王さま。君は救われる・・・君は吹っ切れる・・・ある男との出会いによって、君は救われる・・・・・だが、それは今日じゃない

 

・・・ゴポポ・・・ゴポ・・・

ドッパァアア―――ッン!!

 

不意に劇場ステージが大きく盛り上がったと思ったら、黒いヘドロのような液体が間欠泉みたく噴き出した。

ドロドロと垂れ流される黒いソレは瓦礫の木材に着火し、辺りはあっという間に火の海と化す。

 

 

「あ・・・あれは・・・ッ!!」

 

その泥が噴き出す口とも言える部分に不釣り合いな色が浮き出る。

其れは黄金に輝く一つの酒器。

・・・・・『聖杯』である。

 

 

「せ・・・聖杯・・・ッ! あれこそが・・・私の!!」

 

頭を抱え込みながら、浮き出た聖杯に向かってズルズルと這いずるセイバー。

遂に念願のモノを見つけ、願望を果たすためにこの手にしようとするさまは最早狂気の沙汰と言ってもいいものであった。

 

 

「あぁ、『ヘドロに鶴』ってやつだな・・・かフッ・・・!」

 

満身創痍のズタボロと成り果てたアキトの身体は徐々にその形を崩して行った。

霊核が砕かれた事で、霊基が保てなくなったのだ。

 

 

「(あぁ・・・・・血が止まらねぇし、片腕は使い物にならなくなっちまったし、魔力はスッカラカンだし・・・)・・・でも・・・」

 

朦朧とする意識の中でアキトは再び己が得物の柄を掴むが、手に力が入らない。

あれがセイバーの願望を受け入れてしまえば、ブリテンから後の歴史がひっくり返されてしまう。

即ちそれは、過去から現代至る多くの人間を死に至らしめるという事だ。

 

別次元から来た彼から言えば、『だから、どうした』と放って置く事も出来る事柄だろう。

・・・だが・・・

 

 

「・・・カカッ・・・ヤレヤレ・・・ホント、とんでもない依頼を引き受けちまった・・・!」

カチャン

 

意を決して、彼は突撃槍を杖に漸う立ち上がる。だが、水を吸った紙柱のようにグシャリと崩れ落ちて倒れ伏してしまう。

床に垂れた自分の血が粉埃と共に肺に入り、酷く咽た。

 

 

「ぐフッ・・・ゴッフ・・・!(こりゃあもうダメかね・・・どうすっかなぁ・・・? 足は棒みたいになっちまってるし・・・残った腕も禄に動かせねぇ・・・・・あ~ぁ、こうなるんならノアに回復剤の余分をもらうんだった・・・)」

 

万策は尽き果ていた。

今の彼に出来る事はただ伏せ尽くし、顕現された聖杯を上目で見つめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。()()()()()()()()

 

 

 

狂戦士(アーカード)ォオオッ!!

 

「!!?」

 

とんでもなく馬鹿に五月蠅い男の声がアキトの頭の中に響き渡る。その衝撃と言ったら、頭をツルハシで砕かれたような感覚だ。

 

 

「~~~ッ!!・・・カカッ・・・カハハハッ! そうか、そうかそうか、そうかい! まだ生きていやがったか・・・雁夜(きょうだい)!!」

 

心なしかアキトの声が弾む。

声の主は、自らの弟分にしてマスター『間桐 雁夜』。令呪が参画とある為にこうして意識をリンクして会話する事が出来ている。

 

彼はあの空間から抜け出し、中央ホールの下位階層で膝をついていた。

その姿は酷くボロボロで、傍から見れば泥人形の様に見える程である。

 

 

『なに馬鹿な事言っているんだ、この糞馬鹿吸血鬼ッ!!』

 

「んだとコラぁッ!? いきなり手酷ぇ文言じゃあないか!」

 

『喧しいッ!・・・お前・・・俺に言っていない事があるだろう、隠していた事があるだろうッ?』

 

「ッ・・・!」

 

雁夜の言葉にアキトは、『バレちまった』かと言っているなようなバツの悪い顔をする。

思えば、ちゃんと向かい合った時から彼には多くの隠し事をして来た。

最早、望みが叶った雁夜にとって自分は無用の長物。これを理由に令呪による自害命令を受けても良いと内心心構えていた。

 

 

『けど・・・もうそんな事どうだっていい!』

 

「・・・え・・・?」

 

『お前が隠し事をしていたのは、あの子を救う為だろう? あの子を守る為だろう? 高々、秘密の一つや二つで俺が怒鳴り散らすと思ってたのか?!』

 

『思ってた』と言葉を紡ぎそうになるが、なんとかそれを飲み込む。

 

 

『でも・・・お前に一つだけ言いたい事・・・いや、聞きたい事が一つある!』

 

「なんだい? 俺に答えられる事なら・・・なんでも言ってやるよ」

 

『なら――――――――

 

 

 

―――――――まだ戦えるよな、『相棒』ッ?!!

 

「―――ッ!!・・・カカ・・・カカカカカッ、カハハハハハッ!!」

 

この言葉にアキトはもう笑うしかなかった。

大方、彼は聖杯の真実に触れ、その元凶たる『アレ』に挑みかかったのだろう。

 

人智を外れ超えた存在と戦うなど、ヒノキの棒と皮の鎧で裏ラスボスに挑むような物。

 

 

「(そんな馬鹿みたいな事をやり抜いたか、この大馬鹿野郎は・・・・・カカカッ、いいね良いねぇ! その『最後のトドメ』を俺にやらせてくれるのかい? 嬉しいねぇッ!)」

 

ふらふらと吹けば飛ぶように立ち上がりながら、アキトは『お前は最高の『相棒(マスター)』だ』といつものように耳まで裂けた笑みをケラケラ浮かべる。

 

 

「さて、と・・・おい、雁夜! 今の俺には爪の先の之っぽっちも魔力がねぇ!! しかも、脱落寸前で体が溶けてきてやがる!!」

 

『わかってる。お前のそんな状態ぐらい俺が知らない訳ないだろうが!』

 

「ならどうする?! この不揃いな手札で勝負に挑むってか?」

 

『・・・手札ならあるだろうが!! この俺の『命』が!!』

 

最早、アキトの宝具を開帳するには雁夜の全魔力を回すしかない。しかしそんな事をすれば、ただでさえ風前の灯火である雁夜の生命活動が完全にストップする。

 

 

『俺の『命』はあの子の為にッ! 勝負を賭ける!!』

 

其れでもいいと言える『覚悟』が彼にはあった。

『アレ』を世界に解き放つ事を阻止できるのならば、あの子の未来を守る事が出来るのならば、こんな三十路間近の野郎の命など廃棄セール商品よりも安いと高を括っていた。

 

 

「馬鹿野郎ッ!!!」

 

『!!?』

 

だからこそ、アキトの感情のこもった怒号に仰天した。

いつもとは違う酷く感に極まる怒気の籠った言葉に酷く驚いた。

 

 

「『俺の命を賭ける』? ちゃんちゃら可笑しいッ、自惚れるんじゃあない!! テメェのちっぽけなHPで何が出来るってんだ、このスットコドッコイ!!」

 

『ならどうしろって言うんだ?! 他に魔力を回す手なんてッ!』

 

「あるだろう・・・『手』だけによ」

 

『え・・・?・・・あぁッ!!』

 

サーヴァントに対してマスターが絶対的な所以、『令呪』。その令呪が雁夜の手の甲にはまだ参画あった。

皮肉にも、その中の二画は雁夜が嫌悪憎する男から譲渡されたものであるが・・・・・そんな事言っている場合じゃあない!!

 

 

『令呪を使えばアレを・・・あの聖杯(アンリマユ)をぶち壊す事が出来るのか?! お前の宝具でやれるのか?!!』

 

「わからんッ。だが・・・やるしかあるめぇよ!!」

 

アキトの身体は乾いた紙粘土の様に崩れ落ちていく。それが自分の事の様に雁夜は肌身に感じた。

時間はない。タイムリミットはほぼ零を指し示している状態だ。

雁夜は決断した。

 

 

『・・・ッ・・・『さよなら』なんて言うんじゃあねぇぞ』

 

「あぁ・・・『またな』、兄弟」

 

『・・・すぅ・・・バーサーカー、間桐雁夜が令呪をもって命じる! 『立てッ、立って戦え』!!

 

お・・・オォオオオオオ!!

 

ボロボロの紙屑と化す身体に熱い魔力が回れば、アキトは雄叫びと共に漸う立ち上がる。

おが屑のように皮膚が剥がれ落ち、血が床に滴った。

 

 

アーカード、間桐雁夜が重ねて令呪をもって命じる! 『己が最強宝具を開帳せよ』!!

 

エネルギー全開ッ!!

 

彼の叫びに呼応するように銀の刃から、木漏れ日の眩しい山吹色の光が解き放たれる。

 

 

「な、なに・・・ッ!?」

 

その輝きは、辺りに充満した残留魔力を根こそぎ喰らうかのように鋼の突撃槍へと注入されていく。

其れは這いずるセイバーの魔力さえも喰らい尽くす勢いだ。

 

 

「やめろッ・・・やめてくれ、バーサーカー!!」

 

燦然たる輝きを放つ突撃槍にセイバーの直感スキルが危険アラートをガンガン響かせる。

 

 

「だが、断る」

 

「貴様ァアアアアアッ!!」ダンッ

 

セイバーは最後の気力を振り絞り、驚く速度で立ち上がり跳躍すると血みどろの聖剣を構えて迫る。

 

 

「あぁ、そうだ・・・来いよセイバー、聖杯に背を向けて俺に迫って来い・・・それが、ただそれだけが、お前に出来る事なんだからよぉ~・・・」

 

「ウワァアアアッ!!」

 

されど虚しくもアキトは投擲の形に身を構え、最後の言葉を待つ。

この長いようで短い戦争の中で友となった男の言葉を。

 

 

さぁ・・・遠からん者には音を聞け、近くば寄って御覧じろ御覧じろ!!

 

暁 アキト、間桐雁夜が・・・『最後の令呪』をもって命じる!

 

まさに正にマサニ、この一投は必殺即滅散滅の一撃なりッ!!

 

「バーサーカァアアアアアッ!!」

 

ズグシャァアアア―――ッ!!

 

聖剣が再びアキトの心臓を食い破る。

今度こその確実にその刃は心臓の細胞組織を修復不可能なまでに瓦解させた。

 

だが! この男は止まらない!!

泣く事も笑う事も出来ない程の絶望に打ちのめされた幼い少女の依頼を果たすために。

なんとも愚かで優しい男の希望を紡ぐために。

 

 

『『ぶち壊せ、『運命(Fate)』を』ッ!!』

 

お人好しのイカレた吸血鬼は、『暁の焔』を投げ放つ。

 

 

 

 

 

 

 

「喰らってクタバレッ!

闇が穿つは、太陽の槍(サンライトハート)』ォオオオオオッ!!!

 

ズドォゴォオオオオオオ―――ォオッン!!

 

 

 

 

 

 

 

←続く

 





次回ッ!

「じゃあな、兄弟・・・楽しかったぜ」

最終回『希望』。


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雨の冬木




『今まで楽しんで来た作品が完結する事はとてもとても嬉しく・・・そして、悲しいものだ』
この作品に付き合ってくださった男女の皆様方へ、心よりの感謝を込めて。

アキト「其れでは皆様拍手を。喜劇は大団円でございますれば・・・」

という訳で、どうぞ・・・・・



 

 

 

ヒュォオオオ・・・

 

輝き煌めく黄金の太陽を隠す様に厚ぼったい雲が空を覆い、乾いた風が荒野に吹き抜ける。

その空を覆う雲は地上の惨劇を映す様に赤黒く、吹き抜ける風は酷く鉄臭かった。

 

 

「・・・また・・・ここに来てしまったのか・・・私は・・・・・」

 

空虚とも言える空の眼下に坐していたのは一人の少女。

身に纏う星銀の鎧は血に塗れ、青の戦装束はどことなく焦げている。

 

そんな少女の足元には、何百何千何万とも数え切れぬ程の人間が無造作に転がっている。

そのどれもが、悲惨な最期を遂げたであろう一般兵や騎士の骸であった。

 

 

「皆・・・う・・・ぁッ、ああ・・・うわァアあアああッ!!」

 

少女は泣いた。咽び泣くように、喚き散らす様に、泣き叫ぶ。

綺麗な翡翠の眼からボロボロと大粒の雫が流れ落ち、赤に染まった大地を濡らした。

 

 

「ごめんなさい・・・ッ、ごめんなさい・・・ごめんなさいッ・・・!!」

 

そして、少女はひたすら謝った。

ひたすらひたすらひたすら・・・幼子が懇願する様に謝った。

その謝罪が誰に対するモノなのか、応える者はおらず・・・・・・ただ少女の悲痛な慟哭が響くばかりだ。

 

 

「ぅう・・・グすッ・・・・・ぁ・・・」

 

地に跪いた彼女が涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いながら、ふと思い出す。

古代の偉大なる二人の王に心を折られそうになった時、自らを奮い立たせ、心の拠所となった男の事を。

 

 

「・・・『雁夜』・・・私はあなたを・・・・ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

・・・サァ―――――ッ・・・

 

突如として起こった後に『冬木大火災』と呼ばれる未曾有の大災害から数日後・・・

 

 

「・・・・・」

 

しんしんと冬の雨が降りしきる早朝。

未だ警察関係者が立ち寄る冬木教会に隣接している墓地に人影が一つ。

その男は傘もささずにある墓標の前に立ち尽くしていた。

 

しかし、こんな天気にも関わらず・・・身に付けている如何にも高そうなスーツが雨粒を吸い込むことはなく、足元には()()()()()()()()()()()()

まるで、雨粒が彼に当たる事で凍るような感じだ。

 

 

「此れは之は・・・今日は生憎と雨ですね」

 

立ち尽くす人物に語り掛ける男が一人。

彼は蝙蝠のように真黒な傘を差し、同じく黒いカソックを身に纏う褐色肌の穏やかな微笑みを湛えた青少年。

その髪は肌の色と相容れぬ程に透き通った雪のような色をしていた。

 

 

「おや、これは失礼。初めまして、私は今回行われた聖杯戦争の戦後処理をする事となった『言峰 シロウ』です。どうぞ良しなに・・・『間桐 雁夜』殿」

 

「・・・『言峰』・・・?」

 

聞き覚えのある名字に男・・・雁夜はギロリと背後にいる彼を横目見る。

その眼はルビーのような輝きと静脈血のような艶やかさがあり、彼の白髪と相まって美しいと言えた。

 

 

「どういう事だ?」

 

「この第四次聖杯戦争の監督側である『言峰 璃正』は何者かの手によって殺害され、彼の実子である『言峰 綺礼』は行方不明。魔術の秘匿を行う者がいなくなった事で、近親者である私に白羽の矢が立ったという訳です」

 

「・・・そうかい、其れは良かった」

 

聞いておいてなんだが、雁夜は大して興味なさそうに墓標へと視線を戻す。

彼の目線の下に眠る者の名は、墓標に英単語でこう書かれていた・・・

『TOKIOMI TOOSAKA』と。

 

 

「間桐殿は・・・其処の御仁とは親しかったのですか?」

 

「・・・さぁ? 前は、殺したいほど憎んでたんだが・・・今じゃあどうだか。よくわからない・・・」

 

「『勝者の余裕』・・・というモノではありませんか? 私の引き継いだ記録では、あなたがこの聖杯戦争始まって以来の『勝者』というふうに書かれていましたが・・・」

 

「『勝者』・・・ね。悪いが俺は自分を勝者なんて思った事はない。俺は我武者羅にやってただけで・・・アンタら教会側が欲するような『根源』なんてものもなにも手に入れてない。・・・あんな惨劇を見ちまったら、余計にな」

 

彼が指を差す先の方向に見えたのは、今だ炎の熱さが残っているかのような焼け焦げた建物の残骸達が広がる光景であった。

 

雁夜のサーヴァント『バーサーカー』が最後に放った宝具は、漸く顕現した『聖杯』ごと冬木市市民会館を半壊・・・いや、半蒸発する事に成功した。

だが、サーヴァント達の魔力と共に溜めに溜め込まれた着火性のヘドロは堰を切った様に溢れ、近郊の建物群を焼きに焼き尽くす大災害へと発展してしまった。

 

 

「結局・・・俺は、俺が嫌ってた連中と同じように何の関係もない人を撒き込んでしまった・・・」

 

「そう、ですか・・・」

 

背を向けている為に表情は見えないが、声色からして落胆した様子を垣間見せる雁夜。

彼はそのまま時臣の墓前に腰を下ろした。

 

 

「・・・・・」

 

スチャリ・・・ッ

 

そんな彼のすぐ背後に立つ言峰は、懐に収められた刀身のない柄を握る。

其れは化物退治を専門とする代行者が扱う専用武器『黒鍵』。

都合の良い事に今、この場所を訪れている人は雁夜と言峰の二人だけ。『聖杯の真実』を知る者を暗殺するには、絶好の好機。

 

 

「・・・・・」

 

言峰は気づかれない様静かに雁夜の延髄目掛けて刃を――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・雁夜()()

 

「ッ!!?」

 

背後から突如として聞こえて来た声と尋常ではない殺気に取り出そうとした黒鍵をすぐさましまう言峰。

振り返れば、其処にはフリルのあしらわれた可愛らしい服を着た幼い紫髪の少女が一人傘をさして佇んでいた。

 

 

「(一体いつの間に()の背後へ・・・ッ?! それにこの殺気は・・・!!)」

 

「! どうしたんだい『』ちゃんッ?! あの野郎の家で待ってた筈じゃあッ・・・それにこんな寒い中一人で!」

 

驚嘆する言峰を余所にすぐさま彼女に駆け寄り抱きかかえる雁夜。

抱えた小さく幼い身体が凍えて冷えているのがわかった。

 

 

「・・・迎えに来たの。帰ろう、雁夜さん」

 

「あぁッ、すぐに帰ろう。途中で何か温かいものでも食べようか、肉まんとかおでんとかさ。ね、桜ちゃん」

 

「うん」

 

たどたどしく笑顔を作る桜に雁夜は欝々しい表情から一転、なんとも朗らかな笑顔を浮かべる。

まるで母親と話す子供のように安らいだ表情で・・・。

 

 

「・・・あぁッ・・・そうだそうだ、言峰?」

 

「な・・・なんでしょうか、間桐殿?」

 

「これ・・・あの子に渡しておいてくれないか?」

 

雁夜が懐から取り出したのは、一本の短剣であった。

 

 

「これは・・・?」

 

「其処の墓下に眠っているヤツの形見だ。俺からあの子に渡すには、少し忍びない・・・というか、もう()()()()()だろうからな」

 

「それは・・・どういう―――――」

 

言峰が疑問符を投げかけようとした瞬間。彼の肩を雁夜は軽く叩き、囁くようにこう言った。

 

 

「『あまり下手な真似をしようとするなよ』」

 

「ッ!!」

 

「そう・・・お仲間にも伝えておいてくれよ。じゃあな」

 

それだけ言うと雁夜はスタスタと雨に濡れた路を歩いていく。

大事そうに抱えられた桜の『紅い眼』が少しの間だけ、言峰を貫いていたが・・・。

 

 

「(やはり・・・先にこの街に潜入していた代行者三人と連絡がつかなくなったのは彼の仕業か。あの風格・・・あながち『魔法』を手に入れたという情報もガセではないのかもな。それに・・・・・)」

 

言峰が危惧したのは、先程こちらに鋭い視線を送って来た桜だ。

幼子の睨み眼など普段なら可愛いものだが、彼女の其れは常軌を逸脱していた。

加えて、あの殺気。

とてもただの幼女とは思えぬものであった。

 

 

「・・・・・止そう」

 

言峰は自らの思考回路をストップさせる。

どうやらあの時、殺されかけていたいたのは自分であるという事に少し動揺した様であった。

 

 

「(『間桐 雁夜』に『間桐 桜』か・・・・・覚えておくに損はないな・・・)・・・ッフ・・・」

 

そうやって、ほくそ笑んだ言峰はその場を立ち去った。

その後・・・上記の二人が時計塔や教会の監視下を掻い潜り、日本から出国したと聞かされるのは・・・また別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、第四次聖杯戦争と呼ばれる魔術師達の戦いは一旦幕を引く。

関わりのない人々にとっては、例年通りのいつもと変わりのない寒い冬であった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

【Fate/Diplomat】

~完~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴポ・・・ゴポポッ・・・・・

 

「・・・・・―――・・・m・・・ま・・・マt―――・・・・・か・・・リ、や・・・ッ・・・・・!」

 

・・・・・終わり()

 



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エピローグ
後日談





はい。取りあえず、エピローグエピソード第一弾です。
彼もちょっと出ますが、あしからず。
では、どうぞ・・・・・



 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・ッ・・・

 

崩れる。

世界が音を発てて・・・『彼女』が崩壊する。

『聖杯の器』という仕事を終え、自らが消え去るのを彼女はただ静かに待っていた。

 

一輪の白百合のように美しい彼女が佇んでいるのは思い出深い生家であり、短くも平穏だった時間を過ごしたアインツベルン城の寝室。

その手元には、穏やかな日々が映し出された一枚の家族写真。

 

 

「・・・・・」

 

彼女はただ、ただ黙する。

 

己が役目を全うした事を。

愛する人を守る為に行った事を。

彼女は全てが終わった事を悟り、自らの崩壊をただ静かに待っていた。

 

・・・なのに。

 

 

『ワフッ!』

 

「え・・・ッ・・・?」

 

ただ安らかなる時を待つだけの彼女の前に突如として一匹の・・・・・いや、一体の獣が現れた。

獣は彼女の身の丈を優に優に超え、黒い毛並みに良く映える六つの紅い眼を此方に向けて坐していた。

・・・『ヘッヘッヘッ』と舌を出し、尻尾を振りながら。

 

 

「あなたは・・・」

 

彼女はその獣に見覚えがあった。

 

獣の名前は『ニコ』

此度の英霊入り乱れての戦、『聖杯戦争』にこれまた突然現れた魔術師(マスター)達の予想の斜め上をひた走る異常サーヴァントの使い魔である。

 

その使い魔たる化狗ニコが何故ここに居るのか。

普段の彼女ならば、何ルートもの思考を張り巡らせ、仮にではあるが答えを導き出すだろう。

 

 

「良い子ね。こっちへいらっしゃい」

 

『ガウ!』

 

だが・・・自らの使命を全うし、愛する者を信頼できる人物に任せ、ただ崩壊を待つばかりの彼女には要らぬものであった。

 

 

「あら・・・あなた、意外にも気持ちの良い触り心地ね」

 

『グゥウ~』

 

近づいて来たニコの柔らかい毛並みを撫でながら、彼女は今までの事を振り返る。

十年にも満たない短すぎる走馬燈を瞼の裏に垣間見る。

 

自らを。

愛する人との日々を。

愛する我が子の笑顔を。

 

 

「・・・ぅ・・・ッ・・・」

 

自然と涙が零れ落ちる。

『わかっては』いても、『解っては』いても、『判っては』いても、『分かっては』いてもだ。

悲しくて、悔しくて、口惜しくてならない。

 

あぁ、『もう少し生きていたい』と。

あぁ、『あの人に会いたい』と。

あぁ、『あの子を抱きしめたい』と。

聖杯を宿す『人形』としてではない感情がさめざめと溢れ出す。

 

 

 

「オイオイオイオイオイ・・・綺麗な顔が台無しだぜェい、お嬢さん(フロイライン)?」

 

「ッ!!?」

 

そんな彼女に語り掛けて来る男の声が一つ。

居る筈のない、居てはいけない人物の声に彼女は驚嘆し、辺りを見回す。

 

そして、少しばかり彼女は恐怖した。

崩壊し、瓦解していく途中であっても彼女はその声の主を恐れた。

 

 

「カカカッ。そう怖がりなさんな、怯えなさんな」

 

「どこに・・・一体どこにいるの、『バーサーカー』!!」

 

「いや、ここだよ。ここ」

 

「・・・どこよ?!」

 

「・・・・・見下ぁげて~御覧~♪」

 

声の通りに視線を落とさば、其処には彼女の膝に頭を乗せるニコ。

そのニコのデコッパちに―――――

 

 

「よっす」

 

「・・・・・・・・え?」

 

―――――小さな小さなミニサイズでSDな姿で佇む男が一人。

彼こそ、此度の聖杯戦争で最も危険視されたサーヴァント、バーサーカーこと『暁 アキト』である。

 

 

「次に君は、『ど、どうしてあなたがここに・・・!? それにその姿はッ・・・』と言う」

 

 

「ど、どうしてあなたがここに・・・!? それにその姿はッ・・・―――ッハ!?」

 

「カカカカカッ」

 

動揺を隠せない彼女に対し、アキトはなんだか楽しそうにケラケラと笑う。

サイズが小さくなったとはいえ、彼独特の異様なオーラは健在で不気味だった。

 

 

「問いかけについての答えはこうだ。雁夜が泥に飲み込まれた時にニコも一緒に飲み込まれ、そのニコに俺本体から分離した俺がくっついていたという訳。これなら、たとえ本体が何らかの形で脱落しようと魔力が持つ限りは現界出来る。それに小さいのはエコだろう?」

 

「・・・・・それで、そんな可愛い姿になってまで・・・私に何の用なのかしら?」

 

「あぁ、『伝言』を頼みたいんだ」

 

「・・・は・・・?」

 

彼女は再びフリーズする。

『なに言ってんだ、オメェ』とばかりに眉間を寄せてだ。

 

 

「伝言の内容なんだが―――――」

 

「ちょ、ちょっと待って! あなた自分が何言っているのか、わかっているの?!」

 

「・・・WRY?」

 

再び動揺する彼女にアキトは『ハァ? なに言ってんだコイツ』とばかりにポカーンとする。

だが、彼女の言っている事はさも当然。

意識どころか肉体まで崩壊し始めている彼女に伝言という頼みごとをする方がおかしいのだ。

 

 

「わかってるよ。なぁ、ニコ」

 

『ワフッ』

 

「だったら!!」

 

「まぁまぁ落ち着けよ。もう『止まっている』んだからよぉ」

 

「なにを言ってッ!!・・・・・え・・・?」

 

激昂する彼女であったが、ふとある音が聞こえなくなっている事に気づいた。

 

 

「ど・・・どういう事・・・? 『崩壊』が、『止まっている』・・・!?」

 

其れは地鳴りのように響いていた倒壊音。

その音が止まると言う事は、自信の意識や肉体の崩壊が止まったという事であった。

 

 

「いや~・・・良かった良かった、巧くいって。練習も出来ないぶっつけ本番だったから心配だったんだけれど・・・流石はノア! 戻ったら、褒めてやんないとね。なぁ、ニコや」

 

『クゥ~ン』

 

「あなた一体・・・一体私に何をしたの?!!」

 

胸を撫でおろすアキトに対して、もう訳が分からない彼女はただそう言うしかなかった。

 

 

「説明しよう!! 君が言峰に連れ去られた後、俺達は密かに其れを横取りしていたのだ!」

 

「よ、横取りッ?」

 

そう。

彼女が隠れ家としていた屋敷から連れ去られた後、其れを偶然発見してしまったマフィア陣営の者が彼女を奪取していたのだ。

そして、彼女の中にあった聖杯をほとんど無理矢理で、無茶苦茶で、正確無比で、精密緻密な術式で取り出したのである。

しかし・・・そんな事をすれば、彼女の身体どころか聖杯も不完全なままに崩壊する可能性があった。

 

 

「其処で俺の吸血鬼ブレイン(単なる思いつき)とノアの天才(狂気)的技術で、君と聖杯に同一だと『錯覚』させる術式を施した。これのおかげでどちらかが・・・というか、君の肉体を無事に残すことが出来たという訳。後は、その身体(いれもの)に君という意識を注げ入れれば・・・・・ね?」

 

「・・・・・私・・・はッ・・・まだ・・・まだ生きていられるの? 生きてて・・・いいの・・・ッ?」

 

銀の雫がホロリと彼女の輪郭をなぞり、ニコの黒い毛並みにポタリと落ちる。

 

 

「あぁ、勿論。生きてていいのさ、生きなくちゃあならないのさ。人形としての君はもう終わった。人として、人間として生きて行けばいい・・・・・そうだろう? 『アイリスフィール』」

 

「えぇッ・・・!」

 

アイリスフィールが涙を流しながら力強く頷くと辺り一帯が何とも温かな山吹色(サンライトイエロー)の光に包み込まれていった。

『そろそろか・・・』と時機を読んだアキトは、手短にとばかりにアイリスフィールの耳元で伝言内容を囁いた。

『え・・・ッ』と彼女は意外そうな顔をしたが、悪戯っ子のように笑う彼の顔を見てはクスリと笑みを溢す。

 

 

「さて・・・じゃあ帰るかね、ニコさんや」

 

『ガウ!』

 

「待って、バーサーカー」

 

「おん、どうした?」

 

砂像が零れるようにその姿を陰らせるアキトにアイリスフィールは最後に聞いてみたい事があった。

もう会う事もないであろう奇妙奇天烈な吸血鬼に。

 

 

「どうして・・・どうして、私を助けてくれたの? 仮にもあなた達とは敵だった私達を・・・?」

 

「おん・・・あぁ、そうだなぁ・・・・・『―――――――』」

 

「ッ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ッ・・・・・イリ・・・・・アイリ!!」

 

「・・・・・キ・・・リツ・・・グ?」

 

眩い山吹色の光に照らされた瞬間の次にアイリスフィールが認識したのは、古い日本家屋の天井と浜に打ちあがった魚類の眼から涙をボロボロと流す男の姿。

 

 

「アイリッ!」

 

「きゃ!? ちょ、ちょっとキリツグ?!」

 

「良かった・・・良かった・・・本当に・・・ッ!!」

 

「キリツグ・・・・・キリツグ・・・ッ!」

 

キリツグ・・・『衛宮 切嗣』は彼女の身体をめい一杯抱きしめる。

そんな幼子のように静かに泣きじゃくる彼をアイリスフィールは母親のように頭を優しく何度も何度も撫でた。

 

 

「う・・・うぅん・・・!」

 

もう会えないと思っていた二人の感動の再会が行われている部屋の襖の前で唸りながら立ち尽くす男が一人。

今回の聖杯戦争で、各方面から何故か超A級危険人物の称号を持たされた元ド三流魔術師にして現魔導士『間桐 雁夜』である。

 

 

「(ヤバい・・・あの魚類眼野郎の分の朝ご飯を持って来たのはいいが・・・・・なんか途轍もなくストロベリってる。・・・なんか血ィ吐きそう・・・)・・・コフッ」

 

彼はなんか途轍もなく甘い空間へと変貌している部屋の前で縮こまっていた。

今・・・部屋の中に入れば、彼は確実に邪魔ものだろう。

どこかの快闊な無頼漢よろしく『間桐 雁夜はクールに去るゼ』と言いながら、その場を後にしようとした雁夜だったのだが・・・・・。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・なにやってんだよ、間桐のおじさん?」

 

「のわッ!?」

 

立ち去ろうと振り向いた方にいた『紫髪の少女』と『灼髪の少年』に驚き、声が上ずる。

勿論の事。そのなんともマヌケな声は部屋の中にいる二人の耳にも入り、切嗣は急いでアイリスフィールから離れようとした。

ここでの『離れようとした』という過去形は、『離れられなかった』と同意義である。

 

 

「あ、アイリ・・・ッ!?」

 

「キ~リ~ツ~グ~!!」

 

何故なら、逃すまいとアイリスフィールが彼の身体をしっかりとホールドしていたからである。

自分から抱き着いておいてなんだが、なんだか切嗣は恥ずかしい気持ちになった。久々の人間的な感情に戸惑いを感じながら。

 

 

「おいおい、衛宮・・・」ニヨニヨ

 

「「おぉ~・・・」」ニヨニヨ

 

「ッ!! 見るんじゃあない!!!」

 

そんな仲の良さげな二人を見てニヨニヨする三人に切嗣はつい声を荒らげる。

若干、魚類眼の下にあろう頬が薄紅色に紅潮していた。

 

そんな久しぶりの人間的感情に戸惑いを隠せない切嗣を何とか(ほぼ物理的に)なだめた雁夜達は、漸く起きたアイリスフィールに今のところの現状とこれからについてを話した。

先程いた少年についてや聖杯戦争の戦後処理に漁夫の理を狙う輩・・・そして―――――。

 

 

「それで・・・いつ助けに行くんだ? お前のところの・・・『イリヤスフィール』ちゃんだっけか?」

 

「え・・・」

 

「『え・・・』ってなんだよ? なに鳩が豆鉄砲を食ったような顔になってんだ、衛宮」

 

「ぼ、僕達の娘を・・・イリヤを一緒に助けてくれるのか・・・ッ?」

 

雁夜の言葉に切嗣は言葉を詰まらせた。

彼が驚くのも無理はない。この男は、敵対していた陣営の家族を救う算段に加わろうという話を持ち出したのだ。

それもさも当たり前のようにだ。

 

 

「間桐・・・どうして、どうして私達を助けようとしてくれるの? 敵だった私達を?」

 

アイリスフィールは再び似たような質問をしてしまう。あの異常サーヴァントに問いかけるように。

 

 

「え・・・? あぁ、其処のところだが・・・『俺にもよくわからん』

 

「ッ・・・!!? わ、わからないって・・・!!」

 

あっけらかんとした雁夜の答えに切嗣は再び顔を歪める。彼の経験が役に立たない返答であった為であろう。

だが、そんな彼を横目にアイリスフィールはキョトンとした顔からクスリと笑みを溢した。

 

―――「おん・・・あぁ、そうだなぁ・・・・・『そこのところだが、俺にもよくわからん』」―――

 

「フフッ・・・(あなたも同じことを言うのね」

 

「あ、アイリ?」

 

「いいわ、間桐 雁夜! あの同盟がまだ生きているのなら、私達のイリヤを御爺様から取り戻すために手を貸して頂戴!!」

 

「あぁ、勿論。・・・ついでになんだが、そのアハト翁だっけか? ボコボコにしようぜ。あいつらのせいで、何か聖杯がおかしくなったんだし」

 

「そうね! 私も一発叩き込んでやらないと気が済まないわ!! ねぇ、キリツグ!!」

 

「え、あ・・・うん、そうだね、アイリ」

 

なにかが吹っ切れたアイリスフィールに切嗣はたじろいでしまうが、もう止められそうにない事は彼の経験上理解するしかなかった。

 

 

「なんか・・・あぐれっしぶな人達だな、さくら」

 

「うん・・・」

 

「え・・・『さくら』?」

 

はしゃぐ大人たちを尻目に大人しくする子供達にアイリスフィールがすぐさま距離をつめる。

 

 

「あなた、『さくら』ってお名前なの?」

 

「え・・・は、はい・・・」

 

「可愛いわね! イリヤとおなじくらいかしら?」

 

「く・・・くるしい・・・」

 

戸惑う桜をホールドするアイリスフィール。

なんとも百合百合しい光景に野郎二人の口角がつい緩んでしまう。切嗣に至ってはキャラ崩壊の域だ。

 

 

「ちょっと、あいりさん! さくらが苦しがってるだろ! やめてやりなよ!!」

 

「も~、『しろう』にもやってあげるから待ってなさい!」

 

「え、ちょっ!!?」

 

「あ、そうだ・・・ねぇ、さくら。耳を貸してくれる?」

 

「・・・?」

 

止める少年に抱き着こうかという瞬間。アイリスフィールはあの吸血鬼からの伝言を思い出し、そっと桜の左耳に耳打ちした。

 

 

「あのバーサーカーからの伝言よ。『押してダメなら、押し倒してみれば?』ですって」

 

「!!」

 

「どういう意味かしら? まぁ、いいわ。それ~、しろう!」

 

「わわわッ!!?」

 

標的を変更し、今度は少年に襲い掛かるアイリスフィール。

切嗣の顔がなんだか大人げない表情になり、雁夜はなんだか苦笑いをし始めた。

・・・だからこそ、誰も気づかない。

 

 

「・・・フフフ・・・これで雁夜さんは、わたしの・・・わたしだけのもの・・・」

 

恍惚な表情を晒す一人の女の姿を・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに・・・。

この幾週間後。どこかのヨーロッパ諸国にある地域が、変な三人組によってクレーターのように抉られるという事件が起きるのは・・・また別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

チャンチャン♪

 





・・・なんか、伏線的なものが・・・まぁ、いいか!


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拝啓

 

 

 

拝啓、ヴァレンティーノファミリー御一行様。

 

美味しい秋の味覚に暑さで疲れた体が元気を取り戻すこの頃。

首領並びにファミリーの皆様におかれましては、ますますお元気でご活躍のこととお喜び申し上げます。

・・・と言っても、これをみんなが読むことはないだろう。

だから、これは勝手な近況報告だ。

 

魔術師とサーヴァント入り乱れて行われた”聖杯戦争”から、もう三年の月日が流れようとしている。

舞台となった冬木市は”大火災”の影響で、街の一部が一時帰宅困難区域に指定される程の被害を招いた。

けれど奇跡的な事に人的被害はほとんどなく、時間がその傷を埋めていった。

ただ心の傷という方面では、未だに生々しさが残る。

 

・・・バーサーカーの・・・いや、”俺達”の放った一撃がこんな形で残った事は、とても残念で心苦しい。鉛のように重い罪悪感が心を覆う時が今でも度々ある。

でも彼女を・・・”桜”を救えたことが、俺のたった一つの救いである事にも変わりはなかった。

 

話は変わるが・・・聖杯戦争終結後、俺と桜は聖堂教会やその他の魔術結社から付け狙われる事になってしまった。

あれもこれも、あの『言峰 シロウ』とかいう胡散臭い野郎が”魔法を手に入れた男”とかいうネタを触れ回ったせいだ。

・・・今度会ったら、あの綺麗な顔面に拳をプレゼントしてやる・・・!

 

・・・という訳で、俺達はその情報を本気にした外道どもから逃げ回る羽目になってしまった。

皮肉なことに家がセイバーの聖剣で木端微塵となったおかげ(?)で保険金がおりていたのと、バーサーカーがアーチャーからかっぱらった宝具をいつの間にか首領が高値で売っぱらっていた事が幸いし、逃亡資金は確保。その資金で俺達は、ヤツらの目を掻い潜って国外に逃亡した。

 

だが、どっから情報を得たのか。どこに行ってもゴキブリの如く魔術師どもが現れた。

其れは時に武力行使で、時にハニトラで、ついには可愛い可愛い桜を人質にしようとする下郎まで出て来る始末。・・・勿論、そんな野郎はスープになるまで殴った。

 

その襲撃に次ぐ襲撃のせいで幼い桜に負担をかけてしまい、彼女に不憫な思いをさせてしまった。

 

そんな時にある人物に出会う。

名を『覇道 鋼造』。後から知ったのだが、結構その筋では有名な御仁だったらしい。

最初は、他の魔術師ども同様に魔法の秘密を知りたがっているただのイカレぽんちの糞ジジィだと思っていた。

けれど・・・・・・・・

・・・この話は長くなるのでよそう・・・。

理由は省くが俺達は覇道さんの庇護下に入る事になり、俺と桜は”アーカムシティ”に移住する事になった。

 

俺達が移住したこのアーカムシティという街は、科学と魔術をバランスよく扱って発展した場所で、其れに関連した多くの魔術師どもも住んでいる。

普通なら警戒する所だが、『木を隠すなら、森へ』と言うように魔力がほぼ充満しているこの街なら目立つこともなくなり、俺達は他の一般人と同じような生活をするような休息を手に入れられた。

 

桜は普通に小学校に上がる事が出来たし、俺は覇道さんの仕事を手伝うという名目で彼の財団に就職する事も出来た。

今のところは万々歳。

紆余曲折あったが・・・余命一か月を宣告され、体内を這いずり回る蟲の苦痛に耐えていたあの頃に比べれば、正反対だ。

これも首領との縁の御蔭だと思っている。ありがとう、ドン・ヴァレンティーノ。

 

そして、もうこのまま天外魔境の揉め事とは御免被りたいと願っている次第。

それではまた何処かで。

 

ヴァレンティーノファミリー魔術部隊隊長 ”間桐 雁夜”より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追伸

 

今度、覇道財団の仕事でルーマニアに行くことになった。

20世紀を海外で終える事も、また縁なのかな。

 

 

 

チャンチャン・・・・・?

 



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