人間を憎む怪獣王と人間を守る守護神、そして時々アホの子 (木原@ウィング)
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怪獣王 孤高になろうも失敗する

他の小説の筆が進まない。
そこでゴジラを見ていたら唐突に書きたくなって始動した新作品です!!
もう少ししたら明久女体のR-18も書けるからチョットマッテテー(;'∀')


「……………」

 

 

「ねぇねぇ、今のこの状況をどう思う?」

 

 

「あ、はは。ち、ちょっとキツイかな~?」

 

 

「ふ~ん。それじゃあ護羅≪ゴジラ≫は?」

 

 

護羅「……んな下らねぇ事を一々聞く必要あるか?」

 

 

「え~でもせっかくここに来たんだよ? 何か一つくらいは有るでしょう?」

 

 

「……………」

 

 

「ほ、ほら! ゴモラ!? 護羅は今、とてつもなく機嫌が悪いみたいだから今はそっとしておこう?」

 

 

「む~!!」

 

 

「…………っち」

 

 

「わぷっ!? もう護羅! いきなり頭なでないでよ~!!」

 

 

「お前が一々五月蠅いからだ。これで少しは大人しくしておけ」

 

 

「えへへ~。やっぱり護羅は優しいから私は好きだな~」

 

 

「……ふふ、さすがの護羅もゴモラには敵わないかな?」

 

 

「バカ言え、こいつは面倒臭いからこうしただけだ」

 

 

「素直じゃないねぇ~?」

 

 

「お前もその馬鹿面をいい加減にしないとぶっ飛ばすぞ? 甲芽螺≪ガメラ≫」

 

 

「怖いね、分かったよ。黙るよ~」

 

 

「……ふん」

 

 

幼馴染からの面倒臭い絡みからようやく解放された護羅は不機嫌そうに前を向きなおす。

もうそろそろで授業とやらが始まるらしい。

 

 

(甲芽螺もゴモラも何やら楽しそうに準備をしているが、俺からしたらなんでそんな風にしていられるんだ?)

 

 

教室に居る生徒達のざわめきを耳障りだとばかりに無視して思考の海に入っていく護羅。

 

 

(人間たちと一緒なんて考えただけでも反吐が出る。……っち、そう言えばアイツ等はどっちかって言うと人間寄りだったな。……そのせいか)

 

そんな護羅達には先程から教室中から大量の視線を浴びていた

理由は、…………ここが女生徒しかいない筈の学校だからである。

現在護羅達がいる所は【IS学園】

それが、護羅達の通うことになったこの学園の名前だ。

 

 

あらゆる機関の干渉を受けず、完全に独立した機関として、ISに携わる能力を持つ者を育成する場所である。独自の法律も制定され、ここに通う者の安全を守っている。IS学園に籍を置いていれば、卒業するまでの向こう三年は面倒事はほぼゼロだと言われているまさに『難攻不落の学園』だと言われている。

 

 

(IS、か。人間共ってのはどうしてこうもくだらない物ばかり作るのか)

 

IS 通称、インフィニット・ストラトス

宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。開発当初は注目されなかったが、篠ノ之束が引き起こした「白騎士事件」によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の要がISに移っていった。

 

 

(……最も、あのクソ野郎が本当に宇宙なんてものを目指していたのかなんてどうでも良いがな)

 

 

ISはその攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器で特に防御機能は突出して優れており、シールドエネルギーによるバリアーや「絶対防御」などによってあらゆる攻撃に対処できる。そのため、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどないほか、搭乗者の生体維持機能もある。

 

 

(人間共はいつもそうだ!! こんなふざけた物を作って俺達に対して使い実験する!! お蔭で俺達はッ!!)

 

 

思考の海に深く入る余り、自分の中に有る憎しみの感情が段々と込み上げてきて止めることが難しくなっていく護羅。

その心は嵐のように荒れ始めていた。

 

「……ん、……くん?」

 

 

(あぁ、イライラする。そもそもなんで俺が! 俺達がこんな所に居なくちゃいけねぇんだ!?)

 

 

「あの、護羅くん!?」

 

 

「あ”ぁ”!?」

 

 

「っひ!?」

 

 

「さっきからうるせぇんだよ!? 人が考え事としている所でデケェ声出してんじゃねぇよ!!」

 

 

「ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!!」

 

 

「大体、なんで俺がッ!?」

 

 

ヒュ!! パシッ!!

 

 

「!?」

 

 

護羅はそこで自分に対する攻撃が飛んでくると自身の持つ直感によって飛んできた出席簿を掴んで止めて見せた。

 

逆に、不意をついたとはいえ自身の放った出席簿を片手で止められた事に内心で驚く織斑千冬は表面では少しだけ感心したように頷く。

 

 

「ほぉ? 中々の腕前だな」

 

 

「……テメェ等は、心底俺をイラつかせてぇのか?」

 

 

千冬の感心した言い草に眉間をひく付かせながら訪ねる護羅。

 

 

「っふ、威勢がいいな。だが、教師に対してその態度は頂けないな?」

 

 

「お褒めに預かり光栄だ。とでも言っておいたほうが良いのか? 織斑千冬(ブリュンヒルデ) 」

 

 

「ふん、良いからさっさと自己紹介でもしろ」

 

 

「……俺に命令するなんて、良い度胸」

 

 

「はいはい、ストップ!!」

 

 

「もう! 護羅!! やりすぎだよ!! 先生が泣いちゃったじゃん!!」

 

 

一触即発になりそうな雰囲気を察した横の席に座っていた甲芽螺が出て来たお蔭でその場の緊迫した空気は霧散した。

 

しかし、甲芽螺せいで目の前の女に言いたかったことが言えず終いだと感じた護羅は尚を口を開こうとするが、同じくそれを目ざとく察した後ろの席のゴモラに思いっきり頭を叩かれた。

 

 

「ってぇな!? ゴモラ!! 何しやがる!! 地味に痛いんだぞ!?」

 

 

「何しやがる!? じゃないよ!! 護羅、アンタ先生になにしてんの!?」

 

 

「人が考え事をしてイライラしている時にいきなり大声をあげるからだ!!」

 

 

「それって先生悪くないじゃん!! 反省しなさい!!」

 

 

「……っち」

 

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

 

 

「は、はぃ! だ、大丈夫ですぅ」

 

ゴモラに叱られ、少し気まずげに舌打ちをして視線を下に下げる護羅とそんな護羅に怒鳴られた山田を心配して声をかける甲芽螺。

 

 

甲芽螺の心配そうな声を聴いて気丈にも大丈夫だと言って返事をする山田。それを聞いて甲芽螺も安心したようにほっと胸をなでおろした。

 

 

「ほら! 護羅も謝って!!」

 

 

「……っち、悪かったよ。いきなり怒鳴ったりして」

 

 

「い、いえ! わ、私の方こそごめんなさい……声はかけていたつもりだったんだけど気づかれていなかったみたいで」

 

 

「山田先生、あなたが謝る必要はない。すべてはこいつが悪いんだからな」

 

 

「あ”?」

 

 

「事実だろう? まったく、まさかイレギュラーで入ってきた男性操縦者3人の内1人がこんなにも問題児だとはな……」

 

 

「……………」

 

 

「まぁ、そんな事はどうでも良い。早く自己紹介の続き「おい」を……何だ?」

 

 

「お前………舐めてんのか?」

 

 

「なに?」

 

 

「こっちが下手に出ていりゃ調子に乗りやがって……今、ここでお前を殺してやってもいいんだぞ?」

 

 

「ッ!?」

 

 

その瞬間、護羅の身体から物凄い殺気が千冬に向かって飛び出して来た。

 

 

(こんな量の殺気は今まで感じた事もない。まるで……巨大生物を前にして動けなくなるようだ!!)

 

 

その濃厚な殺意を受けて思わず膝をつきそうになるが何とか耐えて平静を装う千冬。

しかし、やはりその胸中はあまりの大きい殺気により遂に膝が折れかけていた。

 

(私に直接向けられているが余波を受けた他の生徒たちは息をすることも忘れて怯えている。まさか、これほどとはっ!!)

 

 

「いい加減にしろ! このバカ!!」

 

 

「入学早々に孤立する気か!!」

 

 

そんな時に横と後ろから強烈な一撃を受けて護羅の殺気が無くなった。

それでようやく、千冬達はは呼吸をすることができた。

 

 

「痛ぇな!? なにしやがる!!」

 

 

「こっちの台詞だよ!! 人がせっかく持ち直したのに台無しにしちゃって!!」

 

 

「お前をフォローするこっちの身にもなれ!! このバカ!!」

 

 

「んだとぉ!? よし、喧嘩だ!! 表出ろ!!」

 

 

「上等だよ!! そのままお灸をすえてあげるよ!!」

 

 

「僕も本気で怒ったからな!! 後悔するなよ!!」

 

 

それだけ言って護羅、甲芽螺、ゴモラの三人は教室から本当に出て行ってしまった。

それを千冬達はただ茫然と見送る事しか出来なかった。

 

 

廊下から聞こえる凄まじい咆哮が聞こえなくなって数分後にボロボロになった護羅を引きずって同じようにボロボロになったゴモラと甲芽螺が戻ってきた。

 

 

「この度は私の勝手な行動で皆様に多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

戻ってくるなりいきなり全員の前で土下座を披露した護羅を全員が驚きの表情で見ていた。

 

 

「えっと、この子の前に私と甲芽螺で自己紹介します!! 私の名前は柴葉ゴモラ≪さいばゴモラ≫です!! 好きな事は泳いだり食べたり眠ったりすることです!!」

 

 

「僕は真那 甲芽螺≪まな ガメラ≫です。世間で言う所の世界で3番目の男性操縦者です!! 好きな事は子供の面倒を見たり読書とかです!!」

 

 

さっき護羅をボコボコにしていた2人の自己紹介を聞いて千冬達は少しだけ安心した。

どうやらこの子達は護羅の良いストッパーになってくれるみたいだ。

 

 

「ほら! 最期に護羅の挨拶だよ!!」

 

 

「わーったから!! 引っ張るな!!」

 

 

さっきまでの恐ろしい雰囲気は無くなり、ちょっと目つきが悪いだけの青年に見える護羅。

しかし、千冬達はこの後の紹介を聞いてその考えを改めることになった

 

 

「……護羅≪ゴジラ≫だ。物凄く不服だが、お前ら風に言うと世界で2番目のIS操縦者だ。嫌いなものは光と……人間だ」

 

その発言をした時の護羅の目を見た千冬は思った。

 

(こいつは……簡単には言い表せない位の憎悪をやどしている)

 

 

―――――   ―――――

 

「で? 何の用だ?」

 

 

「用がなきゃ話かけちゃいけないのか?」

 

 

「……別に」

 

 

「なら良かった」

 

 

先程の衝撃的な自己紹介が終わり、すぐに始まった授業が終わってから次の授業に行くまでの休み時間の間に護羅は一人の青年に話かけられた。

名前は……織斑 一夏。先程、護羅と険悪な雰囲気になった千冬の弟である。

 

 

「で、さっきの自己紹介だけど……」

 

 

(やっぱりそれか……こいつ、確かアイツと同じ苗字だよな。家族に突っかかった俺に一体何を言いに来たんだ?)

 

 

軽蔑か? 侮蔑か? どっちでもいいし、そんな感情は向けられ慣れてきている。

なんせ……何十年、何百年と向けられ続けたんだからな。

 

 

「あの、人間が嫌いって言うのは……一体?」

 

 

「そのままの意味だ。俺は人間が嫌いってだけだ」

 

 

「それってどうして?」

 

 

「……なんで会ったばかりの奴に、そんなことを教えてやらないといけないんだよ?」

 

 

「だってこれからはクラスメイトだろ? だったら知っておいたほうが良いじゃねぇか!!」

 

 

「お前、バカか?」

 

 

「な、なんだよいきなり?」

 

 

「普通、自分の家族にあんな事を言われたら怒るもんだろ? なんで平然としてる?」

 

 

護羅のその一言で一瞬、動きを止める一夏。

それを見て、ため息をつく護羅。

 

 

「そうだって言うのに、何だってお前はこうも熱心に俺に関わろうとするんだ? さっきの自己紹介でそういう奴らが湧かない様にしたって言うのによ」

 

 

「確かに……さっきの言い草には腹も立った。でも、でもな?……それを除いて考えてみるとさ。なんか、護羅の事が放っておけない気がするんだ」

 

「……勝手にしろ」

 

 

(ふん、可笑しな奴だ。だが、かつてこんな風に俺に話かけて来た人間は何人かいたな)

 

 

あんな自己紹介を受けても物ともしない一夏を少し眩しそうに見つめ、その一夏の姿がかつて自分に歩み寄ろうとしたそいつらと重なって見えた

 

 

「おぉぉぉぉぉ!! おめでとう!!」

 

 

その時、突然と護羅の後ろの席から身を乗り出しながら自分の事の様に喜ぶゴモラ。

 

 

「護羅に私達以外の初めてのお友達が~!! 出来たよ~!!」

 

 

「何だって!? それは良い事だ!! よく頑張ったな!! 護羅!!」

 

 

「喧しい!! 誰が友達なんて……」

 

 

「なぁ、もしかして……護羅って今まで友達いなかった?」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「うんうん!! そうなんだよ~!!」

 

 

「だから俺達はいつもいつも心配していてな~!!」

 

 

「そ、そうだったのか! ……っは!! まさか、人間が嫌いって言うのも」

 

 

「違うからな!! そんな理由じゃねぇからな!?」

 

 

「なるほど、護羅君は友達が居なくてツンドラに?」

 

 

「あのワイルド系には実はそんな理由が?」

 

 

「でも、甲芽螺とゴモラちゃんたちとの関係は?」

 

 

「あれよ!! 護羅×甲芽螺よ!!」

 

 

「その間にゴモラちゃんが入るのね!!」

 

 

(何か他のクラスメイト共も騒がしくなってきたぞ!? どうしてこうなった!?)

 

教室のざわめきを呆然とした顔をしながら動かなくなる護羅。

そんな護羅の背後でハイタッチして喜ぶゴモラと甲芽螺

 

「ふっふっふ、みんなの中で護羅のキャラが定まっていくよ~」

 

 

「うん、これで護羅の事もみんなちゃんと理解してくれるね」

 

 

「「計画通り」」

 

 

「何が計画通りだ!! しかも理解は理解でも全然違う方に理解するじゃねぇか!!」

 

 

こんな風に物凄く可笑しな感じに護羅達のこの【IS学園】での生活がスタートした

そしてここでの生活が、護羅達のこれからを大きく変える分岐点だったことはこの時の彼等はまだ、知る由もなかった……



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怪獣王 喧嘩を買う

この作品の主人公、書きながらも自分でもうまく掴めていないです。
なので物凄くぶれぶれなキャラになっております(;'∀')
その辺り、ご容赦ください
固まっているのが
・怪獣は家族、もしくは喧嘩仲間
・慣れた人物には気さくに話しかける
・尊敬に値すると思った人物には敬語
・キライな人物にはとことん辛辣
この位しか固まっておりませんm(__)m


「……」

 

 

「と、現在のISの国家間での取り決めはこのようになっているんです。分かりましたか?」

 

 

(……この山田とか言う先生の授業は、中々に分かり易いな)

 

 

護羅は一時間目のIS基礎理論授業を受けてみて真耶に対する評価をそう改めた。

先程の休み時間で幼馴染(あのバカ共)のせいで自分に対する周りの評価が変な風に固定されてしまったのが気に食わなかったがその不機嫌な気分を少しは無くすぐらいにはこの真耶の授業は分かり易く、良い物だった。

 

 

(……コイツについては少し、認識を改めてみるか)

 

 

そう心に思いながらノートに書きとどめる。

すると授業終了のチャイムが鳴り、挨拶をして終了となった。

 

 

「ねぇねぇ! どうだった、さっきの授業?」

 

 

「僕は分かり易くて好きだったよ? 一夏と護羅は?」

 

 

「…………まぁ、分かり易くて悪くは無かった」

 

 

「「おぉ!!」」

 

 

「……なんだよ、その意外そうな反応は?」

 

 

「いやだって、あの護羅だよ? あの護羅が自分からこんな風に言うなんて事は無かったじゃん?」

 

 

「だからつい感動しちゃって……」

 

 

「ッチ」

 

 

「で、一夏はどうだった?」

 

 

「……お、おぅ。ば、バッチリだ」

 

 

ゴモラからの質問に目を物凄く泳がせて動揺する一夏。

そんな一夏の分かりやすい反応を見て三人は悟った

 

(((あぁ、こいつ分かっていないな)))

 

 

その考えが顔に出ていたのか一夏は弁解しようとした瞬間

 

 

「ちょっと良いか?」

 

 

そんな声が聞こえてきて全員がその声の方を向いたために弁解も出来ず終いだった。

声の主は黒髪をポニーテールに白いリボンで結んだ女子生徒だった。

 

 

「……箒?」

 

 

「ねぇねぇ、一夏の知り合い?」

 

 

「あ、あぁ。一夏に用があるのだが借りても良いか?」

 

 

「……好きにしろ」

 

 

「で、一夏? この人は?」

 

 

「あ、あぁ。こいつは篠ノ之箒って言って……俺の幼馴染みなんだ。会うのは久しぶりなんですけど……」

 

 

「なるほど幼馴染みか」

 

 

「私や護羅や甲芽螺と同じだね!!」

 

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

それを聞いたゴモラは二人に聞いて護羅と甲芽螺は軽く頷き、箒に向けていた視線をちらりと動かして教室に取り付けられた時計に向けると一夏に言う。

 

 

「まだ時間は十分あるし、僕達とは次の休み時間にでも話せばいいから、久しぶりにあった幼馴染みと話をしてきなよ」

 

 

「そうか! ありがとう!!」

 

 

一夏はそう言って箒と一緒に教室から出て行った。

その二人をゴモラと甲芽螺は微笑ましそうに見ていた。

が、護羅は興味が無さそうに腕を組んで目を閉じた

 

 

「また考え事?」

 

 

「そうだ、だから静かにしていろ」

 

 

「なになに? 何について考えているの?」

 

 

「お前、一秒前に俺が言った言葉聞いてたか? 静かにしろって言っただろう?」

 

 

「だって気になっちゃうじゃん」

 

 

「何だっていいだろう? 良いからお前らは次の授業の準備でもしてろ」

 

 

護羅に言われて少し不満そうな顔をする二人だったが護羅に言われ準備に取り掛かった。

 

――――  ――――

 

「……であるからして、ISの基本的な運用は現時点では……」

 

 

山田先生がすらすらと教科書を読んでいく。読みながらポイントなど教えてくれるので、とても分かりやすく、護羅達はノートを取るのも楽でいい。ちなみに織斑先生は教壇の下の壁に背中を預けて腕をくんで聞いている。

 

ちなみに、護羅は山田先生の評価を改めるのと同じ頃に織斑先生の事も評価を改めていた。

今朝の時点での印象は「身の程を知らない奴」だったが現在は「なかなかの好敵手」に変わっている。理由は「自分の殺気を受けてもあまり変わらなかったから」である。

 

 

(……宇宙に行く為のパワードスーツ、ね。宇宙と言えばあの野郎は倒すのに苦労したな)

 

 

護羅はかつての強敵との戦いを思い出しながらふと、織斑 一夏の席の方を見る。

するとそこには周りをキョロキョロ見ている織斑 一夏がいった。

 

 

(おいおいやっぱり分かっていなかったんだな。……ここって初歩の初歩だぜ?アイツこの先大丈夫か?)

 

 

この時、護羅は今朝まで自分が抱いていた思いがなりを潜めている事に気が付いているのだろうか? この現状に気が付くのは一体何時頃か……

 

 

「織斑君、何か分からないところがありますか?」

 

 

一夏のそのキョロキョロと周りを見る様子に気づいた山田先生が声をかける。

声をかけられた一夏はビクンと姿勢を正してカチコチになりながら山田先生を見やる。

 

 

「あ、いや、えーと。」

 

 

(うん、まさかこんな初歩的なところで分からないなんて言えないよな。しかも分かりやすいのに)

 

 

(さてさて~一夏はどんな風に答えるのかな~?)

 

 

「分からないところがあったら聞いて下さいね。なにせ私は先生ですから。」

 

 

えっへんと胸を張る山田先生。そしてそんな山田先生を前にした一夏を見てニヤニヤする護羅達。

 

 

「はい! 山田先生!!」

 

 

そんな中ついに言う決心をしたのか織斑 一夏が手を挙げた。

 

 

「はい、織斑君!」

 

 

「ほとんど全部分かりません!」

 

 

「え?」

 

 

「「「ぶふぅ!!」」」

 

 

一夏の堂々とした宣言に護羅達は思いっきり吹き出してしまう。

まぁ、予想は付いていたがまさかここまで堂々と宣言するとは

 

 

「え・・・・。ぜ、全部、ですか?」

 

 

山田先生の顔が引きつっている。

それを見て三人の心境は山田先生に対するご愁傷様という結構酷い物だった。

 

 

(そりゃあ、あんだけ分かり易い説明で分からないって言われればな)

 

 

「え、えーと今の段階で分からない人はどのくらいいますか?」

 

 

  シーン

 

山田先生のその質問に教室に居る生徒は誰も手をあげない。

護羅達も一切手を上げていないことに一夏は驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

(……そりゃそうだ。こいつらだって勉強して来ているんだ。分からない訳がない)

 

 

「護羅君達も分かりますか?」

 

 

「はい、とても分かりやすいので問題ありません。」

 

 

「……同じく」

 

 

「そうですか。良かったです。」

 

 

護羅達の解答に安堵する山田先生。大丈夫だ、貴女は悪く無い。

 

 

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

 

「古い電話帳と間違えて捨てました。」

 

 

ドンガラガッシャーン!!

 

 

一夏のそのお馬鹿発言を聞いたクラスの生徒達全員が椅子から崩れ落ちる。

 

 

(はぁ!? 捨てた!? あいつ、バカじゃねぇの!?)

 

 

パァン

 

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者。」

 

 

「す、すいません」

 

 

「後で再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな。」

 

 

「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと・・・」

 

 

「やれと言っている。」ギロッ

 

 

「はい・・。」

 

 

キーン コーン カーン コーン

 

 

一夏に対する死刑判決同然の処遇が決まったのと同じ時間で授業が終わった。

授業が終わるとすぐに一夏走るようには護羅達の所に来た。

 

 

「どうしよう?」

 

 

「知るか」

 

 

「う、う~ん。覚えるしかないんじゃない?」

 

 

「一夏って私よりも馬鹿だね~」

 

 

ゴモラの満面の笑みからの天然発言で一夏のHPがガリガリ減った。

それを見て甲芽螺が慰めてゴモラはそんな一夏を見て不思議そうに首をかしげて護羅は目を閉じて考え事をしていた。

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

 

そんな風に声をかけてくる奴が来るまでは

 

 

「……」

 

 

「ちょっと!聞いていますの!」ダンッ

 

 

「あ”?」

 

 

「っひ!?」

 

 

考え事を邪魔されて少し苛ついている護羅の返事を受けて思わずたじろぐ相手。

そしてそんな返事をした護羅の頭を叩くゴモラと甲芽螺

 

 

「痛ってぇな!? 何しやがる!!」

 

 

「だーかーら!! いつも言ってるでしょう!?」

 

 

「初対面の人には愛想よくしろってさぁ!!」

 

 

その様子を見た他のクラスメイト達はこう思った

 

 

((((((どんだけ人付き合い苦手なの? 護羅君は))))))

 

 

「ま、まあ!なんですのそのお返事は!わたくしに声をかけられるだけでも光栄なのだからそれ相応の態度があるのではなくて?」

 

 

((うわー、今時の人だこの人。めんどいからやんわりと追い返そう))

 

 

「ゴメンゴメン、この子君が誰だか知らないし。」

 

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生で、入試首席のこのわたくしを!?」

 

 

「知るか、さっさと目の前から消え失せろ」

 

 

「なっ!? あ、あなた何ですのその態度は!?」

 

 

「……テメェみたいなのに態度とか言われたくねぇんだよ」

 

 

「……っ! あなた、喧嘩を売っていますの?」

 

 

「テメェが先に売ってきたように思えたんだが? 」

 

 

「ふん! あなたの様な野蛮そうな人が私に話かけられることなんて無いのですから光栄に思いなさい」

 

 

「……だから、何なんだ? 別に俺はお前に話かけてもらいたいなんてこれっぽっちも思ってねぇよ 」

 

 

段々とセシリアに対する護羅のイラつきが上がっていく。

しかし、自分に酔っているのかそんな護羅の様子に全く気が付かないセシリアはなおも続ける。

 

 

「ふん、やはり頭の方も残念な様ですね。」

 

 

「……」

 

「まったく、そのような事も分からないなんてこれはもはや」

 

 

「はいはい! ストーップ!!」

 

 

いい加減にキレそうだった護羅の前にゴモラが立ってセシリアの発言を強制的にやめさせる。

 

 

「……一体何の真似ですの?」

 

 

「それはこっちの台詞だよ。わざわざ私たちの所に来たのは貶すためですか? あんまりそう言うの感心しないんですけど?」

 

 

セシリアの不満そうな声にゴモラは少しだけ怒ったような口調で応える。

見ると一夏と甲芽螺も少し怒ったような表情でセシリアを見ていた。

 

 

「ッまた後ほど来ますわ。逃げないでくださいね」

 

 

四人に強く睨まれていた事にようやく気が付いたため、セシリアはすごすごと自分の席に戻って行った

 

 

「何だったんだ? あれ?」

 

 

「…………どうだって良い」

 

 

「……本当に今時の子だね」

 

 

「やっぱりいると思ってたけどよりにもよって護羅に突っかかるなんて」

 

 

「あ、そうだ護羅」

 

 

「……なんだよ」

 

 

「さっきあいつ代表候補生って言っていたけど……代表候補生って何?」

 

 

一夏のその発言にその場に居た全員は再び椅子から滑り落ちた。

瞬間、三時限目の始業を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

 

「この時間は実践で使用する各種装備の特性についてだ。」

 

 

一、二時間目の授業とは違い山田先生ではなく千冬先生が教壇に立っている。そして山田先生は教室の脇でノートを手に持っている。

恐らく、今後の自分の授業の参考にする為だろう

 

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。本来は朝のSHRで決めるんだが護羅達の事でそんな時間はなかった。」

 

 

思い出したように千冬がいう。なんか護羅達のせいにしてるような気がするが。ふとゴモラが護羅の方を見ると、額に青筋を立てて千冬を見ていた。

 

 

(あ~あれは不味い。後でまたケアしないと……)

 

 

護羅の様子を見てこの後の行動を決めたゴモラは心の中で溜息を吐いた。

 

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会の出席・・まあ、クラス長のようなものだと思えばいい。クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力を測るものだ。今の段階でたいして差はないが競争は向上心を生む。あと一度決まると一年間変更はないからそのつもりでな。」

 

 

ざわ・・・ざわ・・・

 

 

千冬のその発言にクラスが騒がしくなる。

それはそうだ。これで今年一年のクラスの顔役が決まるのだから、騒がしくなるのも無理はない。

 

 

「はい、織斑くんを推薦します!」

 

 

そんな中、ショートカットの女子生徒が一夏を推薦した。

 

 

「私も織斑くんがいいと思います。」

 

 

それに釣られるようにどんどんと他の女子生徒も一夏を推薦し始める。

 

 

「それじゃあ私は甲芽螺君を推薦します!!」

 

 

「私はゴモラちゃんを!!」

 

 

「わ、私は護羅さんを……」

 

 

最期の女子生徒の推薦相手を聞いたクラスの全員は驚いた表情をしていたが……護羅は何の反応も示さなかった。

 

 

「では候補者は織斑 一夏に真那 甲芽螺、柴葉ゴモラに護羅……。他にいないか?自薦他薦は問わないぞ。」

 

 

「お、俺!?」

 

 

ようやく自分の置かれている状況を理解したのか、一夏がびっくりして立ち上がってしまった。早速、周りから視線を浴びる。

 

 

「ちょっと待ってください!僕はそんなのやらn」

 

 

「自薦他薦問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上覚悟しろ」

 

 

千冬にそう言われ絶句したような表情をする甲芽螺と一夏。

それを一瞥した千冬は改めて教室を見回して聞く。

 

 

「他に居ないのなら、この中で決める事になるが……」

 

 

「納得がいきませんわ!」

 

 

声の主はバンと机を叩いて立ち上がる。

 

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!このわたくし、セシリア オルコットにそのような恥辱を一年も味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 

立ち上がるなり中々の暴言を吐いたのはセシリアだ。

その発言に甲芽螺とゴモラ、一夏は嫌そうな顔をする。

 

 

「実力から行けばこのわたくしがクラス代表になるのは当然。それを物珍しいからという理由で極東の猿なんかにされては困ります!わたくしはISの技術の修練にこのような島国まで来ているのであって、サーカスをしに来たわけではありませんわ!」

 

 

(失礼な! 今は僕達だって人間だ!というかイギリスも島国じゃなかったっけ?)

 

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップのわたくしがなるべきですわ!大体文化として後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体、わたくしには耐え難い苦痛で・・」

 

 

(この国が後進的な国? ……言ってくれるね)

 

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ。」

 

 

「なっ・・・!?あ、あなたわたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 

「先に侮辱したのはそっちだろ!おい護羅達は何とも思わないのか!?」

 

 

「そりゃ思うけどさ……」

 

 

「わざわざこんな所で言う物じゃないし……」

 

 

「………………」

 

 

「ゆ、許せませんわ!! 決闘ですわ!」

 

 

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい。」

 

 

「もしわざと負けたりしたらわたくしの小間使い、いえ奴隷にしますわよ。」

 

 

「ストップ!! その発言はもはや人としてどうなの!?」

 

 

「はっ!勝負で手を抜くほど腐っちゃいない。」

 

 

「一夏もなにを乗り気になって言っているんだ!?」

 

 

「腰抜けさん達は黙っていてもらえません? そうですか。何にせよ、イギリス代表候補生の実力を示すまたとない機会ですわ!」

 

 

「こ、腰抜け?」

 

 

「あら? 違いますの?」

 

 

「……」

 

 

「それで? ハンデはどうする?」

 

 

「だから! なんで一夏もガンガン話を進めているんだよ!?」

 

 

「あら?早速お願いかしら?」

 

 

「いや、俺がどのくらいハンデをつければいいのかなと。」

 

 

アハハハハ!

一夏のその発言でクラスの皆が一斉に爆笑する。

 

 

「織斑くんそれ本気で言ってるの?」

 

 

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

 

 

「織斑くんはISを使えるかも知れないけどそれは言い過ぎだよ。」

 

 

「もし男と女が戦争したら3日持たないって話だよ。」

 

 

護羅達が存在していた地球ではISなどを超える超兵器などは沢山あったが、この世界では現時点ではISに対抗できる兵器がないため、ISは最強の兵器ということになっている。

 

 

「…じゃあハンデはいい。」

 

 

「賢明ですわね。むしろわたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、日本の男子はジョークセンスがありますわね。」

 

 

さっきまでの激昂はどこへいったのか、今のセシリアは嘲笑を浮かべていた。

 

 

「あなた達! いい加減にしなさい!!」

 

 

「さっきから五月蠅いですわよ! 身の程をわきまえなさいと言ったのが聞こえませんでしたか?」

 

 

「…………おい」

 

 

その時、教室の空気がビシリと音を立てた錯覚をその場の全員が感じた。

そして、教室の一点から有り得ないほどの殺気があふれ出した。

そこにいたのは…………言わずもがな護羅だった。

 

 

「……さっきから黙って聞いていれば、お前らは何なんだ?」

 

 

そう言いながらも護羅は席を立ちあがりセシリアの目の前まで歩いて行く。

 

 

(な、何ですの!? 何なんですの!? このただならぬ殺気は!?)

 

 

「なぁ? 俺が聞いているんだから答えて見せろよ。セシリア・オルコット(猿以下の存在が)?」

 

 

護羅の鋭い眼光を受けてセシリアは自分の呼吸する速度が物凄く早くなるのを感じた。

例えるならそう、今生身の状態で戦車の砲身を向けられている様な威圧感が全身に掛かっているのだ。

 

 

「さっきからお前の発言は、国際問題になっても可笑しくないものばかりだったんだけどよ? お前、自分の立場って言う物が分かっていないのか?」

 

 

「た、立場。ですの?」

 

 

「そうだ、お前はさっき自分の立場を高らかに言っていた筈だぞ? 「自分はイギリスの代表候補生」ってな?」

 

 

「そ、それが何か?」

 

 

「……代表候補生って事はその国の代表になるかもしれない、つまりそいつの発言はその国の「意思。もしくは発言」って事になるんだが? それを理解してのさっきの発言なんだよな?」

 

 

「いや、分かる訳無かったか。悪いな、そりゃあ猿より劣る奴にはこれはちょっと難しかったよな?」

 

 

「ここは猿じゃ理解が難しいだろうからよぉ、サーカスにでも行って芸でもやっていた方が良いぜ?」

 

 

護羅が懇切丁寧に説明したことでセシリアはようやく自分が先ほど犯したとんでもない失態に気が付いた。

尤も、護羅はそれを親切心で教えたのではない。

先程から目障りだったこの小娘を黙らさせる為である。

 

 

「あぁ、後はあれな? さっきの極東の猿って発言。これを聞いた瞬間、思わず吹きかけちまったよ」

 

 

「ど、どういう意味でしょうか?」

 

 

「おいおい? お前ってまさかISを作った奴の出身国も知らないのか?」

 

 

「ISを作った人の出身国……ッッ!?」

 

 

「まぁ、あのクソ野郎もとい篠ノ之 束なんだが……あいつの出身国はここ日本だ」

 

 

護羅が篠ノ之 束をクソ野郎と発言したことにクラスに居た人間全員が驚いていた。

まさか稀代の天災と呼ばれた人物をクソ野郎何て呼ぶ者は普通はいないからだ。

 

 

「そんな事良いんだよ。それよりも俺が今、なによりもテメェにキレているのは……テメェはあいつをバカにしやがった」

 

 

「あ、アイツ?」

 

 

「…………先に言っておく。俺の妹と友達をバカにする、手を出す奴は俺は容赦しねぇ」

 

 

その発言をした時、護羅はセシリアの瞳を覗き込みながら言った。

セシリアはその瞳を見て恐怖した。

その瞳にはとても言い表せない位の怒りと憎悪が込められていた。

 

 

(こ、この人は一体、な、何者なんですの!?)

 

 

「それに一夏。テメェもだ」

 

 

「お、俺も!?」

 

 

「甲芽螺とゴモラが止めていたのを無視して勝手に話を進めただろ? お前、殺されてぇのか?」

 

 

護羅は一夏にもセシリアと同じように殺気を向ける。

それを受けて一夏も恐怖してそのまま固まってしまった。

 

 

「それにISが最強の兵器って言っていた奴ら……正直に言うぜ。バカじゃねぇの?」

 

 

護羅のその発言はその場の全員を更に氷漬けさせるには十分すぎた。

 

 

「その最強の兵器を調整してるのは誰だ? 主に男がやってんだろ? 整備中に爆弾でも設置されたら空飛んでる時点でお陀仏だぞ? そんなのも分からねぇのか?」

 

 

「それに少なくとも、俺と甲芽螺は……微妙だがゴモラはISなんて物が目じゃない程の兵器を見て来た」

 

 

「あ~……まぁ、確かにそうだけどそれ言っちゃう?」

 

 

「そ、そんな物が……」

 

 

「まぁ、それもどうでも良い。で、何だっけ? お前がさっき一夏に向けて言っていた決闘ってやつ? 俺達も参加させてもらうぜ?」

 

 

「……えぇ、お好きにどうぞ」

 

 

「怖気づいて逃げ出すなよ? ……まぁ、逃がさねぇけどな」

 

 

護羅はそれだけ言うとゴモラの頭を撫でながら席に戻った。

その様子はもはや興味もないと言った感じだった。

 

 

キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪

どうやら授業が終わってしまったようだ。

 

 

「フム、チャイムが鳴ってしまったな。それでは勝負は一週間後の月曜の放課後。第三アリーナで行う。織斑とオルコット、柴葉に真那、それに護羅はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を終わる。」

 

 

護羅の殺気から立ち直った千冬がそう言ってその日の授業は終わりを告げた。

しかし、それからしばらくしてもゴモラ達以外では誰も席を立たなかったという……



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怪獣王 ルームメイトと初遭遇する

 放課後になって、一夏は机の上で項垂れて、頭から知恵熱で煙を出していた。

 

ゴモラ「だ…大丈夫?一夏」

 

一夏「大丈夫じゃねぇよ……マジで訳が分からん…。なんでこんなにもややこしいんだよ…?」

 

机に突っ伏して頭から煙の出ている一夏の頭をツンツン突きながら訊ねるゴモラに苦笑いしながら答える一夏

 

甲芽螺「まぁ…確かに一夏には難しいかもね」

 

護羅「……何であれで分からないのか不思議でしょうがねぇよ」

 

一夏「いやいや! 教科書の中はあんなにも専門用語のオンパレードなんだぞ!? 今まで普通の勉強しかしてこなかった俺にとってはこれはかなり厳しい」

 

護羅「……それってただの言い訳だろ?」

 

一夏「っぐ」

 

護羅「現に俺達だってここに来るまではこのIS(鉄くず)の勉強は一切していない」

 

甲芽螺「まぁ、護羅はこう言っているけど確かにその通りなんだよ一夏」

 

ゴモラ「だからがんばろ~! お~!!」

 

一夏「……おぉ!!」

 

護羅達からの叱咤激励を受けて少しは持ち直した一夏。

 

「護羅君って結構厳しいけど、案外優しい?」

「甲芽螺君のあのフォロー上手かったね!」

「やっぱりカッコいいなぁ~」

「ゴモラたん可愛いお はぁはぁ(*´Д`)」

 

周囲はそんな一夏を見て護羅達に対する評価を改めていた。

……ゴモラを見てはぁはぁ言っている奴は護羅が速攻で睨みつけていたが

そう言えば、昼休みも凄かった。

お昼は護羅と甲芽螺と一夏、箒にゴモラの五人で食べたのだが、何故かクラスの全員が後ろからついて来て、護羅達の周囲に座った。

世界で初めてISを動かした男性操縦者の三人の男子を物珍しく感じるのは分かるが、何故かゴモラの周囲に座った連中も妙に興奮していた。

その様子を箒が凄い形相で睨んでいたが……

 

まぁ…そんなこんなで放課後になったのだが、一日目からこれとは…先が思いやられる。

 

甲芽螺「一夏。とりあえず起きな。気持ちは分かるけど、だらしないよ」

 

一夏「うん…わかった…」

 

一夏はまるでゾンビのようにゆっくりと起き上がった。

本当に疲れてるんだな。

それを見ながら護羅達も席を立ち始める。

 

山田「あっ!織斑君達。まだ教室にいたんですね。入れ違いにならなくてよかった」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

護羅達が教室から出ようとしたのと同時に、教室に書類を持った山田先生が入ってきた。

何がよかったんだ?

 

山田「えっとですね。皆さんの寮の部屋が決定しました」

 

山田先生はポケットから部屋の番号の書かれた紙と鍵を四人分渡してきた。

基本的にIS学園は全寮制となっている。

生徒は全て寮で生活することが義務づけられていて、余程の例外が無い限りはこの規則は破られない。

前にも言ったが、今やこのIS学園に通っている生徒は一種の財産のような者であり、その生徒を守るためにわざわざ寮で暮らすようにさせているのである。

若い頃から生徒たちを勧誘しようとする輩も決して少なくはない。

実際に護羅達も色々と勧誘されたが、護羅の一睨みですぐにあっちが折れてくれた。

 

一夏「確か俺の部屋って決まってなかったんじゃ?以前に聞いた話だと、最低でも1週間は自宅から通学してもらうって話だったような気が…」

 

甲芽螺「確か、僕達もそう聞いていた筈なんですけど?」

 

山田「それなんですけどね…」

 

少し考えればわかりそうなモノだが…仕方がないなぁ…。

私は一夏の耳に顔を近づけて、小さな声で教えてあげた。

 

ゴモラ「もう! 男でISを動かせる一夏や甲芽螺に護羅は今や世界的な最重要人物なんだよ?そんな人間を一人でのこのこと外に出したらどうなるか…わかるでしょ?」

 

甲芽螺「ああ…そういう事ね。……確かにそうか、わかったよゴモラ」

 

どうやらわかってくれたようだ。

物分かりがいい幼馴染でゴモラちゃんは嬉しいです。

 

一夏がISを動かせるとわかった後、護羅達も検査を受けて適性が有ると判明した途端、政府の役人や明らかに怪しい研究所の人間がやって来て、護羅に協力してほしいと言ってきたのを覚えている。

当然、そう言われた護羅は物凄く恐ろしい形相で睨みつけて追い返していたが。

 

山田「ゴモラさんが言った通り、政府の特命もあって、とにかく今は織斑君達を寮に入れる事を優先したみたいなんです」

 

どうやら山田先生にも聞こえてたようだ。

普通にこっちの会話に入ってきた。

 

一夏「それは分かりましたけど、荷物とかはどうするんですか?まだほとんどが家にあるんですけど」

 

甲芽螺「あ、僕も……」

 

護羅「……右に同じくだ」

 

山田「それなら…」

 

千冬「私が既に手配しておいた」

 

…いつの間にか千冬さんが傍に来ていた。

いくら『人間』に生まれ変わった身であるとはいえ、気配すらも気付かせずに近づくなんて芸当が出来るのは、この人だけだよ。

 

甲芽螺「ど…どうもありがとうございます…」

 

千冬「と言っても、必要最低限の生活必需品だけだがな。数日分の着替えと携帯の充電器があれば充分だろう」

 

一夏「そ…それだけ?」

 

千冬「文句があるのか?」

 

護羅「あぁ!? 有るにき「「いえ…ありません!!」」おいゴラァ!?」

 

千冬さんに抗議しようとした護羅だが、一夏と甲芽螺によって遮られて何も言えなかった。

 

山田「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は18:00から19:00で、寮の1年生用の食堂で食べてくださいね。それから、各部屋にはシャワーがありますが、他にも大浴場もあります。学年ごとに使用できる時間帯が違いますから気を付けてくださいね。それと……織斑君は今のところはまだ使用できませんから」

 

一夏「え?なんでですか?」

 

護羅「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に入りたいのか?」

 

一夏「あー…」

 

そう、ここ女子しか居ないんだった。なら男子用の大浴場なんて必要ない…。

 

山田「おっ、織斑くんっ。女子とお風呂に入りたいんですか!?だっ、駄目ですよっ!」

 

一夏「い、いや入りたくないです」

 

どんな目に遭うか分かったものではない。そりゃ、男として興味は無いのかと聞かれれば当然あると答えるが、その代償が命となるとやはりNOと答える。一瞬の幸せのために今後の人生を使いきるなんて御免だ。

 

山田「ええっ?女の子に興味無いんですか!?そ、それはそれで問題の様な…」

 

どうしよう。この人結構他人の話を聞いてない。

ここは、俺は女の子が大好きだー!と大声で断言するべきか?…やめておこう。俺の社会的生命が終わってしまう。

 

ゴモラ「一夏はこれからは発言に気を付けようね~?」

 

一夏「……おぉ」

 

山田「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。織斑君達、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃ駄目ですよ」

 

校舎から寮まで50メートル位しかないと言うのにどう道草をくえというのだこの人は。確かに各種部活動、ISアリーナ、IS開発室など様々な施設・設備があるこの学園だが、今はもう日が暮れるしその辺りの施設や部活を見るのは明日で良いか。今は直ぐにでも休みたい気分だ。

 

一夏「そうだ、護羅達の部屋番号は?」

 

甲芽螺「あ、僕はね……1026だね」

 

ゴモラ「私は1233! 護羅は?」

 

護羅「……1225」

 

一夏「俺は1025だから……甲芽螺が隣の部屋か」

 

甲芽螺「というか、見事にバラバラになったね?」

 

ゴモラ「てっきり男性操縦者は誰か一緒になると思ったのに」

 

護羅「どうでも良い、さっさと行くぞ」

 

護羅は各自の部屋番号を確認するとそのままスタスタと学生寮に向かって行った。

 

ゴモラ「あ、待ってよ~!! もう、護羅! 待ってってば~!!」

 

甲芽螺「廊下を走るんじゃないよ~」

 

一夏「甲芽螺ってお兄さんって感じだな」

 

甲芽螺「うぇ!? そうかな?」

 

一夏「あぁ、あの三人の中じゃ一番お兄さんだと思うぞ」

 

甲芽螺「はっは~一夏。それは違うよ」

 

一夏「ん? 違うって?」

 

甲芽螺「僕らの中で一番お兄さんなのは護羅だよ」

 

一夏「えぇ!? 護羅が?」

 

甲芽螺「そう護羅が。あいつ、ああ見えて面倒見は僕達の中で一番いいんだよね~」

 

甲芽螺の意外な発言に目を丸くする一夏。

その一夏の様子を見て苦笑いする甲芽螺。

 

甲芽螺「まぁ、あんな護羅を見たらその反応もうなずけるんだけどね」

 

一夏「……なぁ、甲芽螺」

 

甲芽螺「何だい? 一夏」

 

一夏「……どうして護羅はあんな風に人を嫌っているんだ?」

 

一夏のその何気ない質問を受けた甲芽螺は一瞬固まってしまった。

 

一夏「甲芽螺?」

 

甲芽螺「え? あ、あぁ何だい?」

 

一夏「いや何だい?じゃなくて、護羅がなんであんなに人間をと言うか人を嫌っているんだって聞いたんだけど?」

 

甲芽螺「あ~えっと……」

 

甲芽螺は苦笑いしながら頬を掻いて一夏に頭を下げる

 

甲芽螺「……ごめん、それは今は言えないんだ」

 

一夏「ちょ!? 何も頭を下げなくても良いって!!」

 

甲芽螺の行動に驚いて慌てて頭を上げさせようとする一夏。

そんな一夏を見て真剣な顔をする甲芽螺

 

甲芽螺「だけど、いつの日か絶対に話す。それは約束する」

 

一夏「……分かった。その日が来るまで待っているよ」

 

甲芽螺「ありがとう、一夏」

 

それだけ話して二人も寮へと向かって行った。

 

――――――――   ―――――――――

 

ゴモラ「ここが私の部屋か~誰が一緒なのかな?」

 

ゴモラ「突撃! 私のお部屋!!」

 

ゴモラは護羅と別れた後、すぐに自分に割り振られた寮の部屋にやってきた。

彼女としてはルームメイトは同じクラスの人だと良いなぁ位しか考えていない。

 

ゴモラ「こんばんわ~!!」

 

「あ~ゴモたんだ~」

 

部屋の奥から何やら狐のような恰好をした人物が手を振りながらゴモラの前にやってくる。

 

ゴモラ「え~っとあなたは……」

 

本音「布仏本音だよ~みんなはのほほんさんって呼んでるんだ~」

 

ゴモラ「うん! それじゃあ私もそう呼ぶね!」

 

本音「うんうん、それで? ゴモたんが私のルームメイトなのかな?」

 

ゴモラ「そうみたいだよ~……でも、そのゴモたんって呼び方は何?」

 

本音「嫌だった?」

 

ゴモラ「ん~ん。そうじゃなくて、ここでもそう呼ばれるんだ~って思っただけ」

 

本音「前にもゴモたんって呼ばれていたの?」

 

ゴモラ「うん、何かそんな風に呼ばれていたよ~」

 

本音「そうなんだ、それじゃあこれからよろしくね~ゴモたん」

 

ゴモラ「うん! こちらこそよろしく!!」

 

 

甲芽螺「それじゃあ、僕はこっちだから」

 

一夏「おぅ! それじゃあまた明日な」

 

一夏は甲芽螺にそう挨拶してそのまま部屋に入っていく。

それを見て甲芽螺も部屋に入ろうとするが、そこでふと気が付いてノックする。

ノックせずに入って相手が着替え中などだった場合、こちらが全面的に悪いのでそうならないように対する処置である。

しばらくしても返事が無いのを見て甲芽螺は問題が無いと判断してそのまま部屋に入る。

 

甲芽螺「失礼します」

 

そう言って部屋に入るとベランダに誰かが立って居た。

甲芽螺はそれを見て、彼女こそが自分のルームメイトだと分かった。

ベランダにいる少女に声をかけるために甲芽螺はそのままベランダに出る。

 

甲芽螺「こんばんわ」

 

「…………」

 

声をかけられた女性は無言のまま甲芽螺に振り向いた。

まず甲芽螺が彼女を初めて見て印象に残ったのは腕に付いている大きな四角い箱だ。

真ん中には穴が開いているがそこには何もない。まるでサーベルなどが隠してあるのではないかと思えてしまう。

 

甲芽螺「僕は真那 甲芽螺って言うんだ。君が僕のルームメイトかな?」

 

「……多分、そう、だと思う」

 

甲芽螺の質問に少しぎこちなく答える少女

甲芽螺はそれを見て苦笑いする。

 

甲芽螺「それで、君の名前は?」

 

「わ、私の、な、名前は……」

 

沙妃 マグマ(さべる マグマ)です」

 

マグマはそう言って緊張からか目をグルグル回しながら返事をする。

その様子を見て甲芽螺は思った

 

甲芽螺(この子、コミュ障?)と

 

甲芽螺「それじゃあこれからよろしくね?」

 

マグマ「う、うん。よ、よろし「おい甲芽螺! 助けてくれ!!」く?」

 

ようやく挨拶をしようという時に部屋の前から男の悲痛な叫びが聞こえて来た。

 

甲芽螺「どうしたんだよ一夏の奴」

 

マグマ「あの、助けなくて、良いの?」

 

甲芽螺「あ~うん、そうだね。助けないとね」

 

マグマに恐る恐る聞かれ少し苦笑いしながら扉を開ける。

すると、転がり込んでくるように一夏が部屋に入ってくる。

 

一夏「うぉ!?」

 

マグマ「ひっ!?」

 

甲芽螺「おい! マグマさんが驚いちゃっただろ!?」

 

一夏「わ、悪い! 急いでいたから」

 

一夏の必死過ぎる行動で驚いてしまったマグマ。そしてそれを見て一夏を叱る甲芽螺。

 

甲芽螺「それで? 一体どうした訳?」

 

一夏「そ、それが……」

 

一夏曰く、甲芽螺と別れて部屋に入った後に奥側のベットに腰を掛けて今日まとめたノートを読んでいたらシャワールームの扉が開いてそこから幼馴染の篠ノ之箒が半裸の状態で出て来たらしい。

そして、その後に木刀を持った箒に襲われて甲芽螺の部屋に逃げ込んできたらしい。

 

甲芽螺「……本当に一夏って」

 

マグマ「ラッキー、スケベ?」

 

一夏「ラッキースケベって、好きで起こしたわけじゃないんだけど」

 

甲芽螺「いや、好きで起こせるんだったら凄いよ」

 

一夏「そんな事より、どうすれば良いと思う?」

 

甲芽螺「どうすれば良いって?」

 

一夏「箒だよ! だって今頃は……」

 

マグマ「落ち着いて、元に戻ってい、るかも」

 

甲芽螺「そうだよ、マグマさんの言う通りかもよ?」

 

一夏「……そうかな?」

 

甲芽螺「そうだよ、自信を持って」

 

マグマ「……そんなに、心配なら、一緒に行こう?」

 

一夏「良いのか?」

 

マグマ「う、うん」

 

一夏「ありがとう!」

 

マグマ「ひゃっ!?」

 

マグマの提案を受けて感動のあまり一夏はマグマの手を掴んで嬉しがる。

 

甲芽螺「はいはい、嬉しがるのは分かるけどマグマさんの手を離そうな?」

 

一夏「え? あ、悪い!」

 

マグマ「あ、い、いえ。気に、しないでく、ださい」

 

甲芽螺「……マグマさんが優しくて助かったな」

 

一夏「お、おぉ」

 

甲芽螺「ほら、さっさと行くぞ」

 

一夏「ちょ!? わ、分かったから引っ張んないで!?」

 

マグマ「……楽し、そうだなぁ」

 

甲芽螺はそう言って一夏の腕を引いて部屋を出て行った。

その時の二人の様子を見てマグマは一人寂しく呟いていた

 

 

護羅「……何だ? この部屋」

 

ドアを開けるとそこには、パンフレットで見たホテルの高級スイートルームのような部屋とは全然違っていた

天蓋付きのベッドをはじめ、すべての元々備え付けられていた家具は特注品に入れ替えられているし。

それがほとんど幅を取っているせいでもう一つの元々備え付けられているベッドは隅っこに追いやられている。さらには照明、壁紙までかえられている。

いくら改造し放題な学園とは言えここまでして良い物だろうか?

 

護羅「てか、誰だ? こんな部屋に改造しやがったバカは」

 

「あら、私のルームメイトは貴方でしたか」

 

護羅はそこであまり聞きたくない声を聴いた。

聞こえた声を無視して奥のベットに荷物を放り投げて出て行こうとする。

 

「ちょ、ちょっとお待ちなさいな!?」

 

護羅「……なんだよ、セシリア・オルコット」

 

セシリア「あなた、私が声をかけたのに返事をしないとはどういう事ですの!?」

 

護羅「別に、何で俺が好き好んでお前らの返事に答えなきゃいけないんだ?」

 

セシリア「なっ!? あ、貴方はッ!!」

 

護羅「……それより、この部屋は何だ?」

 

セシリア「は? なんだとは?」

 

護羅「とぼけるな、何だそのベットは。備え付けのベットを押しのけやがって」

 

セシリア「フッフッフ、実はこの家具一つ一つが祖国から取り寄せた最高級の一品でしてよ!元々備え付けられていたものは全て破棄しましたわ!わたくしのようなエリートがこれから3年間生活するのにあのような粗悪品を使用するのは耐えられませんもの!」

 

護羅「……」

 

セシリア「ですので、窓側はあなたに譲って差し上げますわ」

 

護羅「……あっそ」

 

セシリア「どちらへ?」

 

護羅「飯食いに行くんだよ、一々聞いて来るんじゃねぇ」

 

護羅はそれだけ言って部屋を出て行った。

これ以上あの場にいたら頭が痛くなっていただろう。

よりにもよって、ルームメイトが自分のクラスで喧嘩を売ってきた奴とは一体どんな冗談だ?

誰かの嫌がらせか?

 

「おやおや、これは懐かしい顔だねぇ」

 

食道に向かって暫く歩いていると、護羅はまたしても後ろから声をかけられた。

しかし、今度はため息をつくだけですぐに振り返った。

そこにいたのは護羅の予想通りの幼馴染が立って居た。

 

護羅「……よぉ、久しぶりだな? 最珠羅(モスラ)

 

最珠羅「うん、久しぶり」

 

護羅「何年ぶりだ?」

 

最珠羅「え~っと、2年ぶりぐらい?」

 

護羅「もうそんなにか」

 

最珠羅「それで? 甲芽螺君とゴモラちゃんは元気?」

 

護羅「元気過ぎてウザいくらいだ」

 

最珠羅「酷い言い草ね」

 

護羅「事実さ」

 

今の護羅の顔を1組の生徒達が見たら驚くだろう。

何て言ったって、今の護羅の顔は年相応の少年の顔をしていたのだから。

 

最珠羅「それで? ここでは上手くやっていけそう?」

 

護羅「聞くまでもないだろう」

 

その質問に対しては護羅は嫌そうな顔を隠そうともしなかった。

 

護羅「……俺から全てを奪ったISを学ぶところだぞ? 上手くやっていけるわけが無い」

 

最珠羅「……そっか」

 

その答えに少し残念そうに顔を伏せる最珠羅

護羅はそれを見て顔を背ける。

 

護羅「もう良いか? 俺も飯食いに行きたいんだ」

 

最珠羅「うん、それじゃあまたね」

 

護羅「あぁ、またな」

 

護羅はそれだけ言って食堂の方向に歩いて行った。

そんな護羅を見送っていると物陰から一人の人物が出てきて最珠羅に近づく。

 

「ふふっ、随分と嬉しそうだったわね? 最珠羅ちゃん」

 

最珠羅「盗み見は感心しないって何時も言っているわよね?」

 

「良いじゃない、あなたがいつも話していた人物が気になったんだから」

 

最珠羅「そうだったら普通に出てくればいいのに」

 

「人間を嫌っている子の前にこんな胡散臭い人が出てきたら余計に警戒されちゃうでしょう?」

 

最珠羅「胡散臭いって自覚はあるのね」

 

「うるさいわよ」

 

最珠羅「それで? 見ていてどう思ったの?」

 

「……あの子は、危ういわね」

 

最珠羅「まぁね、だから私達が助けてあげるのよ」

 

「そっか、それじゃあもしもの時はお願いね?」

 

最珠羅「任せなさい!」

 

最珠羅の満面の笑みでの返事にその人物は少し苦笑いしながらも自分の根城に戻って行った。

 

(……護羅君か、あの子について色々と調べる必要が有りそうね)

 

扇子で口元を隠しながら、彼女は真剣にそう考えていた。

 

(学園の平和を守るためにも、彼を良く知らないとね。この生徒会長、更識楯無がね)

 

こうして入学初日から生徒会長に目をつけられた護羅。

これから彼を待つのは、平穏か波乱万丈な日々か。

それを知るのは……誰もいない。




一夏は無神経に人の領域に入っていくイメージなので今回もずかずか入っていってもらいました
次回からも擬人化怪獣達がぞくぞく登場していきます!
お楽しみに!!( ・ω・)ノ


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主要人物 設定

この物語の中心をなす三人の怪獣達の設定です
一人別の人がいますが


護羅

・15歳で髪は黒の何処にでもいるような外見の青年

・子供の頃はなに不自由なく平和に暮らしていたが白騎士事件の時の対処しきれなかったミサイルにより家族を失う

・その後、親戚に預けられたが親戚の会社が経営難で家計を助けるためにバイトを始める

・ようやく立て直しが出来たと思った矢先にISの女性権利団体の過激派が起こしたテロ事件によりまたも家族を目の前で失う事になった

・この時に前世のゴジラとしての力に覚醒する

・覚醒と同時に暴走し、その場にいた過激派を全員殺害、路頭に迷う

・その後、数多によって保護され荒んでいた心を癒していく

・今までの経験上、ISとそれを盲信する者をこの世で最も憎んでいる

・人間嫌いと公言しているのは自分に関わると録な事がないと知っているために人を遠ざけるための物

・かつて自分の手で人を殺してしまった事を後悔している

・命をなんとも思わない者を殺す事は罪悪感も湧かない

・数多の養子として甲芽螺達の家族になる

・家族内のヒエラルキーは数多の次に偉い

・口では文句を言いつつ世話焼き(ゴモラの影響)

・信頼するに値するとした人物には柔らかい態度で接する(ただし、はたから見るとあんまり変わっていない)

・前世の記憶からか喧嘩早い

・子供のころから武術を行っており、その腕は千冬と互角レベル

・束の事は一時期は殺したいほど憎んでいたが現在はそこまで恨んでいない。(精々顔を出したら半殺しにするくらいである)

・本当は心優しい青年だがそれを知っているのは彼のクラスメイト達だけである

・自分と同じ境遇、科学の犠牲者などには比較的に甘い

 

専用機

ニュークリアス キング (核の王)

・姿はゴジラそのもので全身装甲(フル・スキン)

・戦闘スタイルは鋭い手での引き裂き、尻尾での攻撃など

・シールドエネルギーの貯蔵が桁違いに多くその為に無茶な戦法を良くする

・必殺技はシールドエネルギーを消費して放つ「ハイパースパイラル熱線」

・熱線は口からだけでなく背中、尻尾からも同時に発射可能

 

 

柴葉ゴモラ

・護羅の妹的存在

・荒んでいた護羅を慰めた存在で護羅の恩人でもある

・普段はお気楽でお馬鹿だが戦闘時はそんなものを微塵も感じさせない勇ましくも美しい戦乙女となる

・古代怪獣ゴモラが前世で能力も使用可能

・IS学園にファンクラブが出来るほどの人気もある

・護羅の過去を知っており、護羅が傷付くことを何よりも嫌う

・べムスターとのほほんさんはIS学園の中で一番の親友

・簪と刀奈の仲を直すほどに面倒見も良い(これは護羅も影響を受けている)

 

 

エンジェント モンスター (古代の怪獣)

・姿は擬人化したゴモラそのもの

・得意な戦法は空中で一回転して尻尾を相手の頭に叩き込む大回転打

・見た目と違い、スピーディーな戦闘をするが、一撃が重い

・感情が爆発すると【バーストモード】になり全身が真っ赤になり全機能が爆発的に上がる

しかし、この状態は言わば暴走状態であり、制御するのは容易ではない

・必殺技は角から発射するエネルギー光線【超振動波】 相手に突進の勢いで敵の体に角を突き刺し、そのまま体内に超振動波を流し込んだ後で投げ飛ばす「ゼロシュート」など

(ゼロシュートは能力としては零落白夜の強化版と言える性能だが、接近し尚且つエネルギーを叩き込んでいる間は身動きができないため実質は下位互換と言える)

 

 

真那 甲芽螺

・護羅の家族にして友人

・元は孤児で数多が保護した

・子供の面倒を見るのが好きで護羅とよくラウラ達の面倒を見ている

・怒ると物凄く怖い(千冬談)

・ゴモラ達に負けず劣らずの世話焼き

・数多の家では一番料理が上手い

 

 

ガーディアン ディエンディ (地球の守護神)

・姿はガメラで飛行時は高速で移動する

・技に回転して相手に突撃するダイナミックエントリー!(のほほんさん命名)が有る

・……が、甲芽螺としては自分で考えた技命を叫びたいがそのたびに何故か邪魔が入る

・必殺技はエネルギーを消費して放つプラズマ火球

・最終奥義にお腹からマナを消費して発射するウルティメイト・プラズマ

 

 

柴葉 数多

・護羅達の親にして束の師匠

・束の作ったISは数多が子供の頃に考えた物の改良版

・科学者としての研究は歴史を塗り替える物ばかりだがそんなものには興味がない

・護羅達のような子供を保護して自分の家族にしている

・護羅達が心配でIS学園の整備教員として入り込む

・護羅達のISは彼の手作り

・顔が怖いが優しく、料理も上手い

・一部の生徒から「お父さん」と呼ばれている



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怪獣王 幼馴染達に心配をかける

お久しぶりです。
いや~初めてテストで96点も取りました( `ー´)ノ
勉強に力入れてて全く書けていませんでしたが(;'∀')


「おはよう護羅」

 

「おぅ、おはよう」

 

「おっはよ~!!」

 

セシリア達が始めた喧嘩に参戦することを宣言した翌日、護羅は食道に向かう途中の廊下で甲芽螺とゴモラに遭遇した。

護羅を発見してとてとて走ってきて挨拶するゴモラ

 

「朝からテンション高いな、ゴモラ」

 

「朝から元気だったらその日はずっと元気でいられるんだよ? だったら元気で行かなくちゃ!!」

 

「はいはい、そうですか」

 

護羅は欠伸をしながらゴモラを軽くあしらう。

そんな態度を受けても嫌な顔をしないでゴモラは笑顔で護羅に話し続ける。

 

「そうだよ! だからほら!! 元気に笑顔で行こう!!」

 

「はいはい、ゴモラ。その辺にしようね~」

 

「むぅ、分かった」

 

段々と不機嫌な顔になっていく護羅を見て甲芽螺が慌ててゴモラを止める。

それを見て護羅はため息をつきながら歩く速度を少しだけ上げた。

 

「おい、さっさと食堂に行くぞ。時間が無くなっちまう」

 

「あ、そうだね。急がないと」

 

「あ、待って~」

 

護羅がさっさと行ってしまったので慌てて後を追いかける甲芽螺とゴモラ。

 

?「…………」

 

その後ろ姿をじっと見ている存在に気が付きながらも……

 

 

「なぁ、箒。いい加減機嫌を直してくれよ」

 

「……別に機嫌など悪くない」

 

「いや、どうみても機嫌が悪いじゃん」

 

「悪くないと言っている!!」

 

「……なんだ? あれ」

 

「さ、さぁ?」

 

「一夏が何かしたんじゃない?」

 

食堂に着くなり真ん中の机から元気な声が聞こえて来た。

そこを見てみると一夏が何やらポニーテイルの女子と一緒に話をしていた。

しかし、その女子は何やら怒っているようで不機嫌そうにしているが。

 

「ふん、面倒臭い事ばかり起こすよな、あいつは」

 

「それも有ってこその一夏じゃないかな?」

 

「そういう物なのかな?」

 

一夏の事で呆れて肩をすくめて護羅は自分たちが座る席を探す。

少し見回してみると開いている席が殆ど無かった。

 

「……どこも開いていないな」

 

「う~ん、どうする?」

 

「そうだね……うん?」

 

そこで甲芽螺は一か所を見つめる。

護羅とゴモラもそれに連られて甲芽螺が見つめている場所を見る。

視線の先には二人の少女が黙々と朝食を食べれいる場面が有った。

片方の人物は髪の色が水色で眼鏡をかけた内気そうな女の子と、もう一人は

 

「やぁ、マグマさん」

 

「あっ、甲芽螺、くん。……おはよう」

 

「おい、甲芽螺。この子は?」

 

「「ひっ!?」」

 

「おいッ 何で俺の顔を見た瞬間に悲鳴を上げた?」

 

「そんな怖い顔で話かければ誰だってそうなるよ」

 

「あ? 俺の何処が怖い顔だ?」

 

「ほら、そんな風に不機嫌そうに話すのも原因の一つだって気が付かないの?」

 

「お前は朝から喧嘩売ってんのか!?」

 

「もう、二人とも静かにして!! マグマさん達が怖がってるじゃん!!」

 

いきなり喧嘩を始めた護羅とゴモラを頭を掻きながら止める甲芽螺。

止められた護羅は不機嫌そうにそっぽを向き、ゴモラはハッとなって慌てて頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさい! いきなり御見苦しい物をお見せして……」

 

「べ、別に、気にして、ない」

 

「う、うん。大丈夫、だよ?」

 

「そ、そう? 良かった~」

 

安心したようにほっと胸をなでおろすゴモラと不機嫌そうに顔を背ける護羅。

そんなゴモラの様子を見て少し可愛くてクスリと笑う内気そうな女の子とマグマ。

 

「な、何で笑うの~!?」

 

「ご、ごめん。なんていうか……」

 

「か、可愛らしかったから、かな?」

 

「か、可愛らしいって私が?」

 

「「うん」」

 

「そ、そっか~可愛らしかったんだ。えへへ~」

 

可愛いと言われたゴモラはにへらっとだらしない顔で笑う。

 

「おい、顔がとんでもなくアホっぽくなってるぞ」

 

「うるさいよ護羅!!」

 

「……親切に教えてやっただけだろうが」

 

「いや、今のは護羅の言い方が悪かったでしょ?」

 

「あぁ!? どこがだよ!!」

 

「あの……、質問、しても良い?」

 

甲芽螺が呆れて護羅に教えたのに訳が分からない護羅は苛立ちが増す

そんな三人のやりとりを見て内気そうな女の子は質問する。

 

「ん? なんだい、え~っと」

 

「あ、ごめんなさい。まだ私の名前を言っていなかったね。私は更識簪って言うの」

 

「更識簪……それじゃあ更識さんって呼んだ方が良い?」

 

「……名字は、好きじゃない」

 

「あ、そうなんだ。ごめんね」

 

「あ、いや、気を悪くしたんだったらごめんなさい!」

 

「いや、悪いのは僕だし……」

 

「そうじゃなくて、えぇっと……」

 

「ねぇ、護羅~」

 

「……なんだよ」

 

「この二人の謝罪合戦っていつまで続くのかな?」

 

「知らん、俺に聞くな」

 

突然始まった簪と甲芽螺による謝罪合戦を呆れた様子で見つめる護羅とゴモラ。

そしてどうすれば良いのか分からずにオロオロしているマグマの三人、その様子は物凄くカオスだった。

 

「えっと……みんな、早く食べないと、遅れ、ちゃうよ?」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

マグマの発言で時計を見る一同。

時計の針は12を、短い針は8を指していた。

 

「やばいよ! 急がないと千冬さんの拳骨が!!」

 

「う、うん!! 急いで食べないと!!」

 

「……別に殴り返せば良いだけだろうが」

 

「「お前はそういう行動を慎めって!!」」

 

「……やっぱり、この人、怖い」

 

「う、うん……」

 

護羅の発言を聞いて顔を青くする簪とマグマ。

そして護羅の発言に対する弁解を開始した

 

 

 

「織斑、お前には政府から専用機が用意される」

 

 

「え?」

 

護羅達が慌てて朝食を食べてなんとか千冬からの制裁を受けずに済んだHRでそんな報告が舞い込んできた。

千冬の発言に当の一夏はポヤッとしていたが、クラスメイト達が騒ぎ出す

 

「一年生のこの時期に!?」

 

「良いなぁ~。私も専用機が欲しいなぁ~。」

 

「そりゃやっぱり政府も援助するよね」

 

クラスの女子達は一夏が専用機を貰えると聞いて羨ましそうに言っていた

 

「……結構早めに専用機が来たね」

 

「そうか~一夏に専用機かぁ」

 

「……」

 

色々な声が上がる中、甲芽螺は時期に関しての感想を言い、ゴモラは純粋に一夏の専用機に対しての興味で、護羅はそんな物には興味がなさそうに腕を組んで目をつぶっていた。

 

「専用機?」

 

「お前は……教科書の六ページを声に出して読め」

 

一夏は千冬が言った内容が全く理解できていないようで首をかしげていた。

そんな一夏に溜息を吐きながらも専用機についての項目が書かれているページの音読の指示を出す

 

「えっと……『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』……」

 

「つまりはそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解できたか?」

 

「お、おう。何とか……」

 

一夏の返事の仕方に少し怒りを覚えながらも千冬は堪えた。

そんな時、生徒の一人が千冬に質問する。

 

「先生、護羅君達には専用機は無いんですか?」

 

「いや、護羅達はすでに専用機を持っている」

 

「「「「「えぇ~!!」」」」」

 

(……なに暴露してくれてんだあのクソ教師!!)

 

千冬の暴露で騒がしくなった教室の中で、護羅は額に青筋立てて千冬を睨みつけていた。

しかし、そんな物を千冬は物ともせずに平然と構えていた。

 

「なんで護羅君達はもう持っているの!?」

 

「どんな専用機なの!?」

 

「これはセシリアとかヤバいんじゃ……」

 

千冬の暴露によって騒がしくなる教室。

そんな教室に居る事でどんどんイライラが募る護羅

 

「み、みんな! もう授業始まるし静かにした方が良いんじゃないかな?」

 

「そ、そうそう! ゴモラの言うとおりだよ!!」

 

護羅の怒りが溜まって行き不機嫌なオーラを醸し出し始めた様子を見て察したのかゴモラと甲芽螺が声をあげて注意する。

そして注意を受けた生徒達も千冬の体罰を思い出してピタリと静かになった。

 

「ふむ、ようやく静かになったか。それでは、授業を始める」

 

(えぇ!? ようやく静かになったって……)

 

(五月蠅くした原因って織斑先生だよね!?)

 

千冬の発言に内心驚愕しているゴモラと甲芽螺。

 

「……くっだらねぇ」

 

そう呟いて護羅は席を立ちあがった。

 

「……どこに行くつもりだ。護羅」

 

「気分が悪いから部屋に帰るんだよ」

 

「なに?」

 

護羅の発言を受けて少し怒りを込めて聞き返す千冬。

その一触即発の雰囲気にまたもクラスには緊張が走る。

 

「……認めないぞ、席に戻れ」

 

「あ? ふざけんなよクソ教師、誰のせいで気分が悪くなってると思ってんだ?」

 

「ちょ、護羅!! 落ち着きなって!!」

 

「そうだよ、ここで怒ったら……」

 

「怒ったら……何だってんだ?」

 

護羅を注意するゴモラと甲芽螺をギロッと睨みつける護羅。

その眼光に近くにいたクラスメイトは「ヒィッ!!」と悲鳴を上げてしまう

 

「あ、あの! 護羅君!!」

 

「あぁ?」

 

「ひっ! あ、あのあの、じゅ、授業は受けないとだ、駄目ですよ?」

 

護羅の眼光を受けて怯みながらも注意をする真耶

 

((((((山田先生、凄い!!))))))

 

クラスの人達はそんな真耶を心の中で称えていた。

 

「…………」

 

「だ、駄目、ですか?」

 

「…………」

 

「う、うぅ~~」

 

何を言わずにただジッと睨み続ける護羅と睨まれ続ける涙目の真耶というこの光景を他の人物が見たらカツアゲ現場の様に見えてしまうだろう。

しばらくそんな膠着状態が続いたが遂に護羅が折れて終結した。

この膠着状態を勝利した真耶をクラスメイト達は尊敬の眼差しで見ていたという

 

 

「もう護羅!! ダメじゃん、先生たちを困らせちゃ!!」

 

「うっせぇな」

 

「護羅が悪いんだよ!!」

 

午前の授業が終わり昼休み、護羅は甲芽螺とゴモラの二人に呼び出されてお説教を受けていた。

先程の先生たちに対する態度に怒り心頭なゴモラを面倒臭そうに見る護羅。

そんな二人を呆れた様子で宥める甲芽螺

 

「それで? 今日は何が気に食わなかったの?」

 

「……」

 

「黙ってないで、何か言いなさい!!」

 

「うるせぇよ、大声でキーキー喚くな」

 

「な、なんですってぇ!?」

 

「ゴモラも一々突っかからない! 護羅も挑発するな!!」

 

「だって護羅が!!」

 

「俺は挑発なんてしてねぇ」

 

「良いから、で? なんで今日はあんな態度を取ったの?」

 

イライラして二人を睨みつける護羅の鋭い視線を物ともしないで甲芽螺は目を合わせて聞く。

そんな態度の甲芽螺に舌打ちをして護羅は話し始める。

 

「……あいつ、本当に教師か?」

 

「突然なにを言っているの?」

 

「それって、織斑先生の事?」

 

「あいつ以外に誰かいたか?」

 

「いや、確認だよ」

 

「で? なんでそう思ったの?」

 

ゴモラも気になったのか護羅に続きを言うように促す。

 

「……教師ってのは、生徒の個人情報とかを勝手にばらしても良い奴か?」

 

「それは……違うけど」

 

「……なるほどね、今日怒ったのはそれが原因か」

 

二人は護羅がなぜあそこで怒ったのか理解した。

つまり護羅は、織斑先生が篠ノ之箒の個人情報と自分たちが専用機を持っているという情報をクラスに公開したことに怒っているのだと

 

「まぁ、護羅の言いたい事も分かるけど……」

 

「流石にやりすぎだ」

 

「やりすぎ? やりすぎだと?」

 

甲芽螺のその言葉に反応して護羅は不愉快そうな顔で更に睨みつける。

その様子は本気でキレていた。

 

「むしろ褒めてもらいたいな! あんな! 俺の……俺の全てを奪った元凶を前にして殺さないでいるのをよぉ!!」

 

「……護羅」

 

「お前……」

 

「……すまん、今日はもう戻る」

 

それだけ言うと護羅は教室にも戻らず寮の部屋に戻って行った。

 

「……甲芽螺」

 

「なにかな?」

 

「護羅……怒ってたね」

 

「あぁ、怒ってたな」

 

「まだ、あの事が許せないのかな?」

 

「そりゃ……あの感じを見れば許せないんだろうな。それよりも、前よりも憎しみが強くなってる」

 

「……それってやっぱり」

 

「あぁ。……アイツの中にある「ゴジラ」の力が大きくなってるからだろうな」

 

「初めて会った時よりは制御出来るようになっているみたいだけど……」

 

「それでも、まだ完全には制御出来ていない」

 

「嫌だなぁ……護羅がどんどん護羅じゃなくなっていくのは」

 

「それを止めるのが俺達だろ? 頑張らないとな」

 

少し俯いてしまったゴモラの頭をポンポンとたたいて元気づける甲芽螺

そんな二人の様子を見ていた一人の生徒に二人は気が付かなかった。

 

 

「……俺は何やってるんだ」

 

寮の部屋に戻っている途中で先程までのゴモラ達との会話を思い出して自己嫌悪にさいなまれている護羅。

いつもだったらあそこまで怒りが大きくなる事は有ってもゴモラ達にああいう風に当たる事は無かった。

 

「……まだ、完全には制御できるようにはなっていないから、か」

 

自分がこうなっている理由はあのクソ親父から教えてもらっているから分かっている。

ゴモラ達とは違って、俺の中にある「ゴジラ」は怪獣達の中でも最も凶悪で最も強い王の力。

これを制御するのは難しい、そう言われ続けてきて俺は制御する為に色々としてきたがまだ制御しきれていないのか。

 

「……情けないな」

 

「あら? そうでもないんじゃないの?」

 

独り言に突然返事が帰ってきて少し驚く護羅

声が聞こえたほうを振り向くと水色の髪をした女性が立って居た。

 

「はぁ~い、こんにちわ」

 

「……誰だ、お前は?」

 

「あら、挨拶したのに挨拶し返してくれないの?」

 

「質問に答えろ、お前は何だ?」

 

「そう慌てないでよ、せっかちさんは嫌われるわよ?」

 

「生憎と、嫌われるのには馴れっこだ」

 

「あら? そうなの? 聞いていたのと違うわね」

 

「聞いていたのと違う? 誰から聞いた」

 

「えぇ~? 誰からだと思う?」

 

「……お前と話していると物凄くイライラするな」

 

「そう怒らないでよ、話すから」

 

護羅のイライラした様子が伝わったのかようやく本題に入ろうとする水色の髪をした女性。

その顔から胡散臭い笑顔は消さないで護羅に自己紹介する

 

「私は更識楯無、この学園の生徒会長よ」

 

「……そうか」

 

「あら? もうちょっと驚いても良いんじゃないかしら?」

 

楯無は護羅の反応に不満そうに扇子をバッと広げる。そこには「落胆」と書かれていた。

そんな扇子を見ても眉一つ動かさない護羅。

 

「更識楯無……あぁ、更識簪の関係者か」

 

「あなた、簪ちゃんの知っているの!?」

 

護羅の一言に楯無の視線が鋭い物に変わっていく。

そんな楯無の視線を受けても物ともしない護羅。

 

「……今朝一緒に飯を食っただけだ。それを聞きたいがために俺を呼び止めたのか?」

 

「あ、いえ、そうじゃないけど……」

 

「……心配せずとも、簪には何もしねぇよ。する気もねぇ」

 

「そ、そう? だったら良いわ」

 

面倒臭そうに溜息をついて頭を掻く護羅を見て少し警戒を解く楯無

それを受けてその場を立ち去ろうとする護羅

 

「ちょ、ちょっと待った!!」

 

しかし、その護羅の行動に待ったをかける楯無

 

「……なんだよ、いい加減に部屋に戻りたいんだが?」

 

先程から脱線ばかりする楯無にうんざりして帰ろうとしたのにまたも呼び止められて正直、堪忍袋の緒が切れそうになっている護羅

そんな護羅に楯無は問いかける

 

「ごめんごめん、貴方と話しているとついついね~。……で、本題だけどあなたは何者?」

 

先程の簪の話題が出た時と同じくらいの真剣な顔で護羅に聞く楯無。

その顔は対暗部用暗部の当主としての【更識楯無】がいた。

 

「あなたがこの学園の生徒達に危害を加えるのなら、私は容赦しないであなたを排除します」

 

「……」

 

「それで、貴方は私達の「敵」なの? それとも「味方」なの?」

 

そんな楯無の質問に答える為に護羅は口を開いた



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怪獣王、生徒会長と初遭遇する

随分と久し振りにこの作品を投稿します。

前々から書いてはいたのですが色々と事情と書きたい作品やリアルでの学業での事などでやる事が多くなっており最近にメッセージを頂くまで制作の意欲が湧きませんでした。

わざわざメッセージを送っていただき、こんな作品を待っていると温かいお言葉をいただきました。

待たせてしまった分、普段より少しだけ多く書きました。

そして今回から少しだけ書き方を変えました、見やすければ今後もこのように書いて行こうかと思います。

ご期待に添えられるか分かりませんが最新話、どうぞお楽しみください


「くっだらねぇ」

 

 

「なんですって?」

 

 

「くだらねぇって、言ったんだよ。お前の言った内容に全然興味が無ぇしな」

 

 

楯無は護羅のその発言を受けて、護羅に向ける視線を鋭くした。

その目には少しばかり殺気が乗っている。

しかし、そんな殺気を受けても護羅は不快そうに顔をしかめて舌打ちするだけだった。

 

 

「……取りあえず、その程度の温い殺気を向けるんだったら止めろ。不快だ」

 

 

「悪いけど、出来ないわね」

 

 

「…………」

 

 

楯無が毅然とした態度で拒絶を示すと、護羅は視線を鋭くして面倒臭そうに頭を掻いた。

その様子は子供に何度もつっかかられてイライラしている、そんな感じだった。

 

 

「貴方が発言した今の言葉は、私が大切にしているこの学園の生徒達の安全を願った想いが込められていたの。それがくだらないなんて言われて『はい、そうですか。』なんて簡単に引き下がれないわ」

 

 

「……大切にしている生徒達、ねぇ」

 

 

楯無のその発言を聞いて護羅は暫く目を丸くして呆然としていた。

しかし、その内容を理解するととても可笑しそうに口を手で押さえながら笑い始める。

その様子を見て更に馬鹿にされたと感じた楯無は持っていた扇子を閉じて本気の殺意を滲ませ始める

 

 

「なにか可笑しいかしら?」

 

 

「いやいや、これが笑わずにいられるか? 何が可笑しい? 可笑しい事だらけなんじゃねぇの? お前……ここに居る奴らに守る価値なんて有ると本気で思っているのか?」

 

 

「……どうしてそう思うのかしら?」

 

 

ようやく笑いが引いたのか少しだけ不機嫌な顔に戻った護羅は先程の仕返しとばかりに視線にほんの少しだけ殺意を乗せて楯無を睨み返しながら、口を開いた。

 

 

「この学園に居る大多数の人間はよぉ、この腐り切った今の世界に染まりきった大バカ共ばっかだ。そんな奴らを守りたい? はっ、笑わせてくれる」

 

 

その発言を受けて楯無の眉が一瞬だけピクリと動くがそれを気にしないで護羅は自身の中に存在する怒りのままに胸の内を咆哮と共にぶちまける。

 

 

「俺はそんな奴らは全て滅べばいいと思っている。それどころか、俺自らの手で今すぐに殺してやりてぇよ!!」

 

 

護羅のその発言と同時に楯無が動く。

自身の専用機 霧纒の淑女の部分展開で蒼流旋を握り護羅の首元に突き付ける。

しかし

 

 

「なっ!?」

 

 

そんな楯無の動きよりも早く、護羅は部分展開した自分の専用機の鋭い爪を楯無の首元スレスレに突き付けていた。

楯無はその結果を信じられないと言った表情で見つめる。

ロシアの代表でもある自分が、年下の、しかもISに乗り始めたばかりの子より展開スピードが遅かった。否、この少年の展開スピードが異常に早いだけだった。

 

 

「この程度か……少しだけ期待してたが、期待して損したな」

 

 

それだけ言って護羅は楯無に対しての興味を無くしたかのように部分展開した右腕を収納し、楯無を避けて自分の部屋に戻ろうと歩き出す。

 

 

「俺は興味が無ぇ事に関してはとことん無関心なんだが……あんまりしつこいとどうなるか分からねぇぞ?」

 

 

「ま、待ちなさい!」

 

 

しかし、そこでようやく我に返った楯無が護羅の腕を咄嗟に掴む。

腕を掴まれた護羅は楯無に顔を向けずにその場に留まった。

顔を向けないで少しだけ面倒臭そうに溜息を吐くと、たった一言だけ呟いた。

 

 

「……離せ」

 

 

「いいえ、離さないわ。まだ私はッ!」

 

 

「もう一度言う」

 

 

離せ、俺がお前を殺してしまう前に

 

 

「ッッ!?」

 

 

その瞬間、楯無は久し振りに『死』を感じた。

こちらに顔を向けていない筈の、自分より年下の少年から発せられた本気の殺気を受け、『死』を感じたのだ。

 

 

普通に生きていたのでは有り得ないほどの殺気。それを一身に受けて楯無は思わず手を離した。

護羅はそれを一瞥もせずに、そのまま悠然と歩き出し、自分に割り当てられた部屋に戻って行った。

 

 

そして護羅を見送ることしか出来なかった楯無は廊下の壁に背中を預けてしばらく呆然としていた。

心に少しの安堵と護羅に対する罪悪感を宿しながら……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー       ------------------------

 

 

「なるほど。で、護羅に対するファーストコンタクトが貴方が思ったような感じに行かなくて私の所に来たわけね」

 

 

「そうなのよ! もうあの子本当に何なの!?」

 

 

護羅によって蛇に睨まれたカエル状態にされた楯無はそれから何とか元に戻り護羅に対する不満を自分の友人でもある最珠羅にぶつけていた。

 

 

最珠羅からすれば、それは楯無による自業自得でしかないと思いつつも話を聞き続ける。

そうしなければ楯無の今後の仕事に関わるからだ。

 

 

「まぁ、気が立っている状態の護羅にそんな胡散臭い雰囲気で近づいたのが悪いわね」

 

 

「何よ! 私が悪かったの!?」

 

 

「うん」

 

 

「わぁ! 即答!?」

 

 

楯無のオーバーリアクションな反応を見て、呆れたようにため息をつく最珠羅。

そんな彼女を見て、少しだけ反省の色を見せる楯無。

 

 

「良い? たっちゃん。貴方が前に見たように、彼は危ういの。なんでああなったのか貴方も彼の過去に関する資料は読んだでしょう?」

 

 

「……えぇ、読んだわ」

 

 

「読んでいたし、自分で彼が危ういって言って居たのに貴方の普段の胡散臭い感じに行けば、誰だってそんな風に拒絶するに決まっているじゃない?」

 

 

真剣に楯無に対して忠告と少しの怒りを込めて話す最珠羅。その様子は弟分に対する申し訳なさからか少し、いや、とても恐ろしかった。

 

 

「こうは言っては駄目なんだけど、彼は普通じゃない。私も、ゴモラも甲芽螺もそれに他にも居る子達も特別な遺伝子が入ってしまっているの」

 

 

「私達はなんとかそれを抑えられるようにはなってるけど、護羅は違う。彼は別格なの」

 

 

「別格?」

 

 

「えぇ、別格。だって彼の遺伝子は……『王の物』なんですから」

 

 

「王? 一体何の王よ」

 

 

「……怪獣達の王よ」

 

 

「全ての怪獣の頂点に立つ。そんな凄い力を、彼は未だに完全には扱え切れてはいないの」

 

 

最珠羅は何かに思いを馳せる様に目を細めてそう口にする。

その様子は自分の弟分の事を心配している姉、そのものだった。

 

 

「護羅は、そんな呪いとも思える力に悩んでる。それだけじゃない、過去の彼の罪にも苦しんでいる。そんな彼に貴方は一体何をしようとしてるのよ」

 

 

「うん……そこに関しては本当に申し訳ございません」

 

 

最珠羅の鋭い視線に体を小さくさせて肩を落とす楯無。

その楯無の様子に溜息をつく最珠羅

 

 

「私にじゃなくて、ちゃんと護羅に謝りなさい」

 

 

「はい……」

 

 

反省した楯無を見た最珠羅は楯無に近づいて頭を撫でて慰める。

その仕草は慈愛で満ち溢れていた。

 

 

「貴方が最初に護羅の資料見た時に周りに対して怒りを抱いてくれたから、私は貴方に好印象を得たのよ?」

 

 

「それだけで?」

 

 

「勿論、普通に貴方の人柄も好ましかったからだけどね? それでも誰かの不幸に怒れる貴方だから私は貴方に協力を願ったの」

 

 

「その見返りで私は貴方にあの子との仲介を頼んだものね」

 

 

少し可笑しそうに楯無は笑い、それに釣られたように最珠羅も少しだけ笑みを浮かべる。

 

 

「そうね……そっちの方は何とかなりそうだから貴方も貴方で頑張ってね?」

 

 

「えぇ……ありがとうね? 最珠羅」

 

 

最珠羅のナデナデで少しだけ気力が回復した楯無は笑顔でそれだけ言って自分の部屋に戻っていった。

そんな楯無に軽く手を振って見送った最珠羅は少しだけ物寂しそうに手を降ろした。

 

 

(明日、久し振りにゴモラ達に会いに行こうかな?)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー      ------------

 

「……それで? その生徒会長って人に絡まれてそんなに不機嫌なんだ?」

 

 

「一々確認するんじゃねぇよ」

 

 

「そうも言ってられないでしょ? 貴方は私と家族なんだから。家族の事を心配しての行動なんだからうっとおしい位が丁度良いのよ」

 

 

「ふん」

 

 

「もう! なんでそんな風に返事するかなぁ!!」

 

 

楯無に絡まれた日の夜、護羅の不機嫌すぎるオーラに恐怖したセシリアが涙目でゴモラに助けを求めて部屋に来て貰っていた。

その助けを求めたセシリア自身はというと、ゴモラにほとぼりが冷めるまでは代わりに自分の部屋にいるようにと言われてゴモラの部屋で自分の戦闘データを再チェックを行っていた。

 

 

「で? その楯無って人がどうしたの? 胡散臭くて嫌な事を思い出した?」

 

 

「…………」

 

 

「はぁ……しょうがないなぁ」

 

 

そう言ってゴモラは護羅の知覚によってその頭をぎゅっと抱きしめた。

普段だったらそれに抵抗するか嫌味を言う護羅だったが今はゴモラにされるがままになっていた。

 

 

「……何の真似だ?」

 

 

「貴方がそこまで弱るなんて相当でしょ? 偶にはお姉ちゃんの胸でも借りなさい」

 

 

「年は俺の方が上だろうが」

 

 

「私にとっては弟だよ?」

 

 

「……はぁ、もう勝手にしやがれ」

 

 

「うん、そうする」

 

 

それからゴモラは少しの間、護羅の頭をとても愛おしそうに撫で続けた。

撫でられながら、護羅は心の中でゴモラに対して感謝の念を抱いていた。

 

(最初は聞いて来ようとして……すぐに聞くのを辞めやがった)

 

 

(こういう時、貴方は誰であれ深く踏み込んで来て欲しくは無いんだよね。それが例え家族でも……)

 

 

(……ありがとうよ、姉貴)

 

 

(世話のかかる弟だね。護羅は)

 

 

普段の口ぶりからでは考えられない程に、心の中ではお互いがお互いの事を大切に思っていた。

こうして、最悪の接触をした2人の夜は更けて行った。

 

 

------------     -------------------

 

 

「なぁ、箒……」

 

 

「なんだ、一夏」

 

 

「護羅ってさ……何であんなに千冬姉に対して攻撃的なんだろうな?」

 

 

「突然どうしたのだ?」

 

 

一夏はその日の授業の復習と放課後の鍛錬を思い出しながらふとそう口にした。

それに首をかしげながら箒は眠る支度を一度止めて一夏に向き直り答える。

 

 

「いや、最初は気のせいかなって思っていたんだけどさ。でも、他の人に対する態度と比べると明らかに千冬姉を目の仇にしてるんだよ」

 

 

「……確かに、他の人間に対しても物凄く恐ろしい殺気を向けるが千冬さんに対しては他と比べ物にならない程の殺気を向けていたな」

 

 

「だろ? 俺もあれを受けたから分かるけど……護羅は普通じゃない」

 

 

「そんな殺気を受けた原因はお前とオルコットに有ったけどな」

 

 

箒からの鋭いツッコミに心当たりが有るのか、思わず口を紡ぐ一夏。

あの時、売り言葉に買い言葉で勝手に喧嘩を買ってそれを止めようとしたゴモラ達に酷い態度を取ってしまい護羅の怒りを買ったのだ。

 

 

「あ、あの時は俺も頭に血が上っていたし……」

 

 

「それを私に言われてもな……そう言うのは護羅達に言ったらどうだ?」

 

 

「あぁ、ちゃんと謝るよ。明日の試合が終わってからな」

 

 

「そうだ、お前は明日の試合の事をまず考えておけ。相手は国家代表候補生なのだぞ?」

 

 

「そうだな……よし! それじゃあ、明日に備えて今日はもう寝よう!!」

 

 

一夏はそれで納得するとそのままベットに入り、眠る体制になっていく。

その切り替えの速さに少しだけ呆れて箒もベットに入り部屋の電気を消した。

この時、二人は忘れていた……この一週間はずっと剣道の練習ばかりしていてISに一切触れていなかった事実に!!

 

 

 

「……それで? こんな深夜にお前から連絡を寄こすなんて一体どういう風の吹き回しだ?」

 

 

『いや~本当はもっと速くに連絡したかったんだけどね~。話題が話題だからね~』

 

 

IS学園の寮長室、そのベランダで千冬は自分の携帯に掛かってきた番号に少しだけ驚きながらも会話を進めていく。

相手側は普段の様におちゃらけた様なふざけた口調で電話を続けている。

 

 

「お前がそんな事を気にするなど、余程の事だな?」

 

 

『うん、だって試合するんでしょう? 護羅君達』

 

 

「……今更、学園で行われる試合について何故お前が知っているかなどは問わない。問わないが……」

 

 

『いっくん、護羅君達と戦うんでしょ?』

 

 

「そうだが……待て、束。お前は護羅達を認識しているのか?」

 

 

『何言っているのさ~そんなの当たり前じゃん』

 

 

束が自分達以外に認識している人物が居る事に千冬が驚愕しているとそんな事はどうでも良いと言った風に束は話の続きをし始める。

 

 

『気を付けてね~ゴーちゃんとガっくん相手だったら手加減してくれて大丈夫だろうけど護羅君は手加減とかしてくれないと思うからさ~。いっくんも死にはしないだろうけど死にかけはすると思うからさ~』

 

 

「なんだと?」

 

 

『いっくんとあの金髪が喧嘩を売った相手はそれ位ヤバいんだよ』

 

 

そこで普段のおちゃらけた雰囲気を完全に消して束は真剣にそう口にする。

束のその変化に千冬もようやく整理が付いたのか眉間にしわを作って聞く。

 

 

「奴等は確かに専用機を持っていると聞いているが……」

 

 

『どんな専用機までかは聞いていない、でしょ?』

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

『ここだけの話ね、彼等のISって私が作った物じゃないんだ』

 

 

「何を言って居る? そんなの当たり前だろう? 一体どこの企業が作った物か」

 

 

『ちーちゃん、違うよ。企業でもない、彼等のISはコアすらも私が作った物じゃないんだ』

 

 

「なっ!?」

 

 

束から伝えられた衝撃の事実に開いた口が塞がらない千冬。

この世に束以外にコアが制作出来る者が存在している、それを世界が知ればそれだけで混乱に陥ってしまう事態だ。

 

 

『彼等のISはそもそものコンセプトが違う。彼等のISは宇宙を目指すための物じゃない。彼等の力を最大限に引き出す事をコンセプトにしているんだよ』

 

 

「奴等の力を最大限に引き出す? 奴等の力とは何だ?」

 

 

『それに関してはまだ知らなくて良いんじゃない? どうせ近いうちに知る事になるんだしさ~』

 

 

「束、お前は一体何処まで知っているんだ?」

 

 

『ん~? 全部だよ。彼等みたいな存在が他にも居る事も、護羅君が何でちーちゃんや人間に対して凄まじい殺意を持っているのかも』

 

 

「アイツが……私に殺意を?」

 

 

『ちーちゃんだって気が付いてたでしょう? 護羅君から向けられる異常とも言える程の濃厚な殺意を』

 

 

「あぁ、初めて受けた時は巨大な怪物に睨まれている感覚だった」

 

 

『おぉ~強ち間違いではないね、それ』

 

 

「間違いでは無いだと?」

 

 

『あぁ~今日はおしゃべり楽しかったよ。ちーちゃん』

 

 

「おい待て! さっきの続きを話せ!!」

 

 

『え~ちーちゃんだって明日は速いでしょ? 早く寝たほうが良いよ~てか束さんも寝たいし』

 

 

「お前から電話をかけて来たんだろうが!!」

 

 

『あれ? そうだったっけ?』

 

 

そうだったんだよ!!

 

 

『あはは~、ちーちゃんや。過去を気にしていたら前に進めないぞ☆』

 

 

「お前、次会ったら覚えておけよ?」

 

 

割と本気で束に対して殺意を抱いた千冬はベランダの手すりを握り潰すほどの力を込めた。

すると石で出来ていた手すりにヒビが入り始めた。

それを電話越しで察したのか束もすぐに頭を下げまくり怒りを鎮める事にした。

 

 

『お、おおお落ち着いてちーちゃん!! 怒りを鎮めたまえ!!』

 

 

「現在進行形で怒らせている元凶がなにを言う!!」

 

 

『おっしゃる通りで!!』

 

 

「……はぁ、疲れた。今度、改めて詳しく聞くからな」

 

 

『い、YES、MAMU』

 

 

そう言って千冬は電話を切り、疲れたようにベットに倒れ込んでいった。

こうして、試合の前日の夜は更けて行ったのだった。



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