ソード・アート・オンライン withこはる (パニパニ)
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「どうしてこうなった……」

SAO×俺ガイルの二次創作です。基本短め、不定期更新でいきたいと思います。
それではどうぞ。


 

 

「どうしてこうなった……」

 

俺ーー比企谷八幡は、再び自問自答を始める。

きっかけは1週間前のこと……

 

 

 

ーーー1週間前ーーー

 

「小町ー。買い忘れないよな?」

 

「うん。大丈夫」

 

「……なら帰るか」

 

「あ、待ってお兄ちゃん」

 

「何だよ」

 

「じゃじゃーん!」

 

と、平塚先生みたく効果音をつけて取り出しますは、青い福引券3枚。幸せは運ばない。

 

「2枚で1回です」

 

「って、1つ余るじゃねえか」

 

「そうなんだよお兄ちゃん。だ、か、ら……」

 

小町がお願いのポーズをとる。『福引き券がもらえる何かを、自腹を切って買ってこい』と、我が天使はおっしゃっている。

 

「まあ、欲しい本もあったしな……」

 

「お兄ちゃんありがとう!」

 

書店に足を向けた俺を、小町が満面の笑みで送り出してくれる。ついてきてはくれないんですね。

すごすごと書店へ向かう。べ、別に悲しくなんかないんだからな!

嘘です。めっちゃ悲しい。

 

「あれ、八幡」

 

「へっ? ……なんだ、ルミルミか」

 

いきなり話しかけられて、思わずキョドってしまう。

 

「ルミルミ言うな。キモい」

 

驚かされたバツだ。

前から歩いてきた雪ノ下を幼くしたような少女は鶴見留美。千葉村で出会ってから紆余曲折を経て海浜総合高校との合同クリスマスイベントで関係を結んだ。……いや、別にいかがわしい意味じゃないよ。知り合い以上、友達未満の関係になった、って意味だからね。

 

「あれ。留美ちゃんだ」

 

「小町さん。お久しぶりです」

 

そういえばこいつらも知り合いだったっけ。

しかし留美は完全に雪ノ下(ミニver)だな。このまま普通にまっとうに育って、雪ノ下みたいな万能毒舌女(体力ナシ)にはならないでほしい。

 

「そういえば留美ちゃんはどうしてここに?」

 

「お母さんにお遣いを頼まれて来たんです。『福引きをやっているから券を使ってやっておいで』って。……けど」

 

「どうしたの?」

 

「券が3枚しかないんです」

 

「それじゃあ1回しかできないね……」

 

「はい……」

 

残念そうな留美。小町もまた残念そうだ。

って、それなら……

 

「小町。俺たちも券が3枚あったよな」

 

「あ、そっか! 留美ちゃん、私たちも福引券3枚持ってるんだ。よかったら一緒にやらない?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろん。だよね、お兄ちゃん」

 

「ああ」

 

小町が賛成する時点で俺に選択肢はない。

 

「八幡も、ありがと」

 

「気にするな。俺もできるからな。ギブアンドテイクってやつだ」

 

「それじゃあみんなで、レッツゴー!」

 

小町は元気に駆けだした。小学生以下の反応だな。そこが可愛いのだけど。

 

福引きをしているテントの前には長蛇の列ができていた。並んでいる人は男が多い。俺のような専業主夫希望者だろうか。うわーお仲間。

 

「人が多い鬱陶しい帰りたい」

 

「八幡なに言ってるの?」

 

「ぼっちの独り言だ」

 

「なにそれ。ばっかみたい」

 

「たぶんアレが目当てなんだよ」

 

「アレ?」

 

「ほら、特賞の」

 

小町に言われて見てみれば、そこには『ナーヴギアとSAOペアセット』と書かれていた。はーん。なるほどね。

 

「八幡。アレって何?」

 

「世界初のフルダイブ型VRMMORPGだ。ゲーマーにとって垂涎ものの逸品だな」

 

「へー。八幡も興味あるの?」

 

「俺は興味ない。そんなものいらないから、4等の図書券がほしい」

 

「あ、私も」

 

「小町は2等の型落ち高性能洗濯機で」

 

型落ちとか書く必要ないだろ……。主催者が正直すぎる。

 

「次の方ー」

 

「あっ、はーい!」

 

呼ばれて小町が腕をブンブン回してガラポンの前に立つ。ガラポンは3台あるから、小町と留美、俺が同時にできる。

 

「いっくよー」

 

小町のかけ声に合わせてガラポンを回す。

それを合図に俺たちもガラガラを回す。ガラガラポン、って具合に。

 

小町→白

 

「お嬢ちゃん残念。はい、参加賞のティッシュね」

 

「うわーん。小町の白物家電が〜」

 

欲を出すからだ。いわゆる物欲センサーというやつだな。

 

留美→青

 

「おめでとう、お嬢ちゃん。ほら、図書券3000円分だ」

 

「ありがとうございます」

 

留美は図書券ね。欲しかったみたいだしよかったな。

 

そして俺はーー

 

 

ご、ゴールデンボール、だと……?

 

「お、おめでとうございまーす! 特賞の『ナーヴギアとSAOのペアセット』、大当たりー!」

 

運営のおじさんがカラン、カランと鐘を高らかに鳴らす。周りにいる人たち(主に男)がどよめく。

 

「はいよ。ナーヴギアね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

おばちゃんがナーヴギアの入った箱を2箱渡してくる。

 

「まじか……」

 

「「お兄ちゃん(八幡)すごい」」

 

「そ、そうか……?」

 

「うん。もう一生分の運を使い果たしたんじゃない?」

 

「車とか宇宙人とか隕石とかにはくれぐれも気をつけてね」

 

「隕石に当たるとか、どんだけ運がないんだよ……」

 

まさかとは思いつつ留美に片方の箱を差し出した。

 

「ほれ」

 

「え……?」

 

「福引きができたのは留美のおかげだ。だから半分やる」

 

「いいの?」

 

「もちろん。な、小町」

 

「うん!」

 

「……ありがと」

 

目を若干逸らして箱を受け取る留美。うん、可愛い。

 

「ゲームで会おうぜ」

 

「うん! 楽しみにしてる」

 

「おう。じゃあまたな」

 

「またね、留美ちゃん!」

 

「はい。さようなら」

 

こうして留美と俺たちは別れた。

家に帰ると小町が親父を召喚。俺が福引きでナーヴギアを当てたことを話し、『小町、お兄ちゃんと一緒にSAOがしたいの。だからお父さん、ナーヴギア買ってきて』とおねだり。親父はこれに屈してネットや千葉のゲーム屋を巡った結果、ようやく潰れたようにしか見えないボロいゲーム屋で購入した。

 

 

 

ーーー現在ーーー

 

そしてサービス開始直後にログインした俺たちは始まりの街で合流。近郊で適当に狩りをしていると、突如として街の広場に転移させられ、茅場から唐突にデスゲームの開始を告げれた、というわけだ。

 

「ほんと、どうしてこうなった……」

 

そう呟く以外、俺にできる行動はなかった。



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「さて、これからどうするかだが……」

ここから話が進んでいきます。序盤はかなり省いて、短くちゃっちゃと投稿したいと思います。
ではどうぞ。


 

 

俺たちは何もしゃべらず広場から移動し、とりあえず宿に入った。部屋は薄暗く、ただ泊まることが目的といった宿だ。

 

「さて、これからどうするかだが……」

 

「お兄ちゃん。あの茅場っていう人が言ってたことって本当かな?」

 

「嘘をついたところで意味がないだろ。それにログアウトボタンがない以上は確かめる術もない」

 

俺は湧き上がる恐怖心をねじ伏せて、あくまでも平静を装う。年長者が激しく動揺したのでは、小町や留美が余計に動揺する。

小町は看破してしまうかもしれないが、我が賢妹ならその辺は察してくれるはずだ。

 

「死ぬのかな、私たち?」

 

「分からん」

 

留美が不安そうな声音で問いかけてくるが、俺は明確な答えを返せなかった。ここで『君は死なないよ』とでも言うのが物語の主人公なのだろうが、俺は生憎とそんな気の利いた言葉は言えない。彼女の命に俺は責任を持てない上、それは俺の最も嫌う欺瞞にほかならないからだ。

 

「ただ、ひとつだけ言えることがある。このまま何もしなければ、待っているのはホームレス生活だということだ」

 

ゲーム内通貨(コル)は限られている。どれだけ節約しても何もしなければ減っていき、やがてゼロになる。それを防ぐには冒険して金を稼がなければならない。それがネトゲ。

冒険の問題点は死ぬ可能性があることだ。HP0=死というこの世界で、冒険はかなりリスキーといえる。

 

「とにかく、今は情報収集だな。手持ちの情報が少なすぎる」

 

「うん。そうだね。このまま何もしないでいるのはいけないよ」

 

「私も、このままはイヤ」

 

「……決まりだな」

 

当面の方針が決まり、宿を出る。

 

「情報収集だが、手当たり次第に訊きまくるぞ。小町、よろしく」

 

「そこで妹を頼るのは、小町的にポイント低いよ」

 

「オレっちを雇わないカ?」

 

「「「わっ!?」」」

 

背後から声をかけられ、3人揃って飛び退る。

 

「そこまで驚かなくてもいいじゃないカ。オレっちの名前はアルゴ。忠告しておくと、この世界でリアルネームを呼ぶのはよくないナ」

 

「そういえばゲームの中だったな……」

 

「オレっちへの自己紹介のついでにいえばいいんじゃないカ?」

 

「だな。俺はハチだ。よろしく」

 

「よし、ハチ公だナ」

 

「な……」

 

初対面の相手にあだ名つけるとか、こいつコミュ力高すぎだろ。

そんな俺の心の叫びを無視して、自己紹介は進む。

 

「マチだよ」

 

「マチ子だナ」

 

「ルルです」

 

「よろしくナ、ルル」

 

「「最後だけ普通だ!」」

 

「情報を開示する前に契約ダ。『以後はオレっち以外の情報屋を雇わない』それだけを守ってもらウ。もちろん金も出してもらうけどナ」

 

「分かった」

 

「なら契約成立ダ」

 

合意を確認したアルゴは右手を差し出してくる。

 

「は?」

 

「契約成立の握手サ」

 

「お、おう……」

 

俺は手をぎこちなく差し出して、握手を交わす。めでたく契約成立というわけだ。

 

「なら、早速レクチャーを始めようカ」

 

そして、アルゴによるレクチャーが始まった。




投稿から間もないにもかかわらず11ものお気に入り登録が……。ありがとうございます。これからも頑張ります!


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「目的地はとりあえず次の村」

何も起こりません。


 

 

 

アルゴのレクチャーで、俺たちは武器の種類や各種システムといったSAOでの知識を仕入れることができた(代わりにコルはほとんどなくなってしまったが)。

互いにフレンド登録をしてアルゴとは別れた。人と会うらしい。

手持ちが不用意になった俺たちは始まりの街近郊で狩りに勤しんでいた。

 

「やあぁぁぁッ!」バシッ

 

「はっ!」シュパパッ

 

マチ(小町)が振るう大剣(両手剣)がイノシシ型モンスターの《フレンジーボア》を両断し、ルル(留美)の細剣による刺突が、ボアの体に無数の穴を穿った。

見た目の派手さならマチ、華麗さならルルに軍配が上がるだろう。どちらかというと、俺はルルの方が好みだ。芸術的だよね、ああいう剣技。

かくいう俺は片手剣を選択している。斬撃、打撃、刺突のすべてに対応した汎用武器……というのはアルゴの弁。そこに惹かれた。

郊外にいるプレイヤーは見える範囲内では、俺たち以外にいない。これもアルゴ情報だが、ゲーム開始後に各プレイヤーがとった行動は2通り。攻略のために次の村へ旅立った者と、現状が受け入れられずに始まりの街に留まった者。前者を占めるのは元βテスターだという。俺たちのように街近郊でレベリングに勤しむのは稀なケースらしい。

だが、HPがなくなれば死ぬのだから、慎重になってもいいだろう。3人で協議して、街を出る際のレベルは5と決めてある。それまではボアやハチなどのモンスターから手に入るわずかなコルで食いつなぐこととなる。

 

「ハチ。そっちにボアが行った」

 

「了解」

 

ルルの声で思考の海から意識が帰還し、目前に迫るボアを認識する。剣を構えてエフェクトを宿しーー

 

「すらっ!」スパッ

 

片手剣ソードスキル《スラント》でボアを叩き斬った。

 

 

 

ーーー数日後ーーー

 

低レベルのうちは面白いようにレベルが上がる。ゲームが始まってから数日しか経っていないのに、もうレベルは5になっていた。

そして今日は旅立ちの日。始まりの街とのお別れの日だ。

 

「目的地はとりあえず次の村。そこでアルゴが教えてくれたレアな片手剣……《アニールブレイド》をゲットする。間違いないな?」

 

「うん」

 

「そのあとは私の細剣《ウィンドフルーレ》のドロップを狙う」

 

「ああ。できれば他のプレイヤーと協力したい。安全マージンはとれるだけとりたいからな」

 

「分かった」

 

「了解であります」

 

こくりと頷くルルと、ビシッと敬礼するマチ。方針を確認した俺たちは街を出た。

モンスターを狩りながらの旅だ。コルやアイテムを稼いでいく。得られるものはほんのわずかだが、そこは塵も積もればなんとやらだ。

この世界での戦闘にもある程度慣れ、ボアといった近郊のモンスターなら楽々狩れるまでになっていた。HPが0になる恐れより、慢心して足元をすくわれることを恐れているまである。

慎重に慎重を期して、村に到着するまで半日を要した。村に着いて、それを聞いたアルゴは爆笑。日く、『時間がかかりすぎダ』という。

……慎重に過ぎたと反省している。



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「おや、帰り道にモンスターの大群が」

キリト登場です。


 

 

 

「よう。待ってたゾ、ハチ公」

 

そんな言葉で出迎えてくれたアルゴの紹介で、俺たちはとあるプレイヤーと会うことになっていた。彼もまた、レア武器のアニールブレイドを狙っているという。

古ぼけたバーに案内された。そこの一番奥に、黒い皮装備を纏ったプレイヤーが座っている。

 

「待たせたナ、キー坊」

 

「……アルゴか」

 

「悪かったな、オレっちで」

 

「別に悪いなんて言ってないだろ。……そっちが昨日言っていたプレイヤーか?」

 

「ああ」

 

「俺はキリトだ。よろしく」

 

「ハチだ」

 

「マチです。よろしくお願いします!」

 

「ルルです」

 

「さて、自己紹介が終わったところで、早速始めようゼ」

 

アルゴが話をたったかたー、と進めていく。目まぐるしいが嫌いじゃない。変に馴れ合わなくて済むからだ。

 

「じゃ、さっさと終わらせますか」

 

「だな」

 

相手ーーキリトも同意した。……あいつからは同類の匂いがする。

 

「アルゴからはアニールブレイドを得るクエストの相互補助だと聞いたんだが、合ってるか?」

 

「ああ。一応レベリングはしてあるが、仲間が多いに越したことはないからな。正直なところ、死にたくない」

 

「効率を捨ててでも、安全マージンを取るのか……」

 

「嫌いか?」

 

「ソロの身としてはあんまり賛成できない。心情は理解できるけど」

 

歯に衣きせない物言いだ。けれど不快感はない。人間はひとりひとり違う。双子だって、親子だって、いくら血の繋がりが深くたって、人間は違う。これはいくら同調する努力をしたところで覆ることのない、絶対の真理だ。

だから俺は他人を信頼しない。いや、できない。信を置けるのは本音を吐露する人間だけ。小町がその唯一の人間なのだが、キリトもまたそこには入れそうだ。

ーー少なくとも彼が言った言葉は虚飾でも欺瞞でもないような気がするから。

 

 

 

早速だが、俺たち一行は狩りにきていた。村でクエストを受注して、植物型モンスターを駆逐する。

まずは互いの力量を確かめるということで、それぞれにモンスターを狩っていくことになっていた。

 

「すらっ!」シュパン

 

「はぁぁっ!」スパン

 

2匹出てきたモンスターを、俺とキリトが叩き斬る。

俺は単発のソードスキル《スラント》で、キリトは同じく単発の《ホリゾンタル》で敵を仕留めた。

 

「ハチ、やるじゃないか」

 

「いやいや。お前の方が凄いから、絶対」

 

「「そうですよ」」

 

「そ、そうか……?」

 

困惑した様子のキリト。だが、実際奴は凄い。俺たちが3人がかりで倒した敵を、キリトはひとりで同じタイミングで倒したのだ。数は多くないが、これまで何人かのプレイヤーの戦いを見てきた。その誰よりも熟達している。動きがキレキレ。妬ましいレベル。

 

「上手いな」

 

「そ、そんなことないぞ……」

 

なぜ詰まる? 歯に衣きせないくせに、意外と慎ましやかなのか。そんなわけないだろ。我ながらバカなことを考えたものだ。

 

「よし。じゃあ、次は連携の確認にしようか」

 

「「「おう(うん)」」」

 

と、次の敵を探して辺りを見る。

 

「お兄ちゃん。あそこにいるよ」

 

マチがモンスターを目ざとく見つけて駆けだす。だがーー

 

「待て。あれは『実つき』だ」

 

俺はマチを制止する。このクエストで最も気をつけなければならないのが『実つき』だ。あいつを攻撃して実が弾けると、次々と仲間を呼び寄せるらしい。数は20や30。そうなると単独では抗し得ず、複数名でも苦戦を強いられる。だから攻撃はしない。それが暗黙のルールだ。

ところが次の瞬間、その『実つき』にソードスキルのエフェクトが走る。剣線が見えない程の高速剣技だ。実は見事に爆散し、モンスターがバーゲンセールに集う主婦のごとく殺到する。

 

「ルル……」

 

「え? 私何もしてないよ」

 

「え?」

 

確かにルルは横にいた。だがさっきのは確かに細剣のソードスキル《リニアー》だ。加えて視認困難な速度での剣技は、敏捷をメインに高めたルル以外に考えられないのだが……。

 

「やぁぁぁッ!」

 

喚声とともにエフェクト光が閃く。その主は綺麗な栗色の髪を持つ少女。細剣を片手に、モンスターの集団に挑みかかる。

当初は善戦するが、やはり多勢に無勢。モンスターのムチに打たれ、嬲られる。あのモンスターどもが人なら、ただの集団レイプだ。あらやだ卑猥。

御託はとりあえず、あのままではいずれHPが尽きる。

 

「っ! ハチ、加勢するぞ」

 

「嫌だ」

 

「えっ!?」

 

「ダルいしんどい。さっさと帰るぞ」

 

「ハチ……」

 

キリトは明らさまに落胆したという表情になる。そんな顔するなよ。人間、楽したいだろ?

 

「大丈夫ですよ、キリトさん。お兄ちゃん、いつもああいうことを言いますけどーー」

 

「……?」

 

「おや、帰り道にモンスターの大群が。邪魔だなー。回り道もめんどいしぶっ倒すかー」

 

適当ぶっこきながら腰の片手剣を抜く。ちなみにマチの言葉は全部聞こえていた。解説せんでいいだろ。

 

「キリト。右から殲滅するぞ。ルルはあの子のところへ飛び込んで救出。マチはその援護だ」

 

「「「ああ(うん)!」」」

 

ガラにもなく指示を出すと、嬉しそうで力強い返事を返してきた。それぞれの得物を構える。

何が嬉しいのか分からんが、まあとにかく邪魔者を倒すか。

 

 

 




話はあくまで原作メインですが、私の気まぐれであっちへこっちへ脱線したり、キャラが出てきます。希望なども受け付けます(実現するかは別の話)ので、どうぞよろしくお願いします。


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「どうして助けたの?」

 

 

「すらっ!」スパン

 

俺はまず、群れの端にいたモンスターを《スラント》で斬り伏せた。ディレイが解けると、今度はソードスキルではなく通常攻撃で、別のモンスターを斬りつけた。倒せはしないが、タゲは取れる。注意を1体でも多くこちらに向けさせられれば、マチやルルの負担軽減になる。少女が対処する敵の数を減らすことにも繋がるから、まさに一石二鳥。あれ、俺だけ損してないか? 気のせいじゃない。やっぱり人助けなんてしてもろくなことない。

 

「はぁぁっ!」スパパパパン

 

横ではキリトが鬼神のごとき働きをしていた。モンスターの群れのただ中に飛び込んでからの《ホリゾンタル》。単発とはいえど全方位範囲技。高レベルのキリトが放つそれは、1対多の戦闘における最大の武器だ。モンスターの耐久値が低いこともこちらに利している。

主にキリトが活躍して、モンスターの駆逐が完了した。少女も無事だ。よくやったな、マチ。さすが俺の妹。

 

「やったな」

 

「ん? おお」

 

突き出されたキリトの拳。そこに拳を当ててグータッチを交わす。

キリトの顔がやけに生き生きしている。……はっ! もしかして戦闘狂ですか。妹の成長に多大な害を及ぼしかねないので、半径1キロ以内に近づかないでください。ごめんなさい。

と、内心で一色風にまくし立てたが、それを声に出すことはない。ぼっちスキルのひとつ《噯気にも出さない》だ。

勝利をひと通り喜び終えると、その注意の矛先はルルたちが救い出した少女に向かう。

それにしても可愛い。俺がぼっちの中のぼっちーーマスターぼっちでなければ一目惚れして告白、振られるまである。

その美少女は開口一番、

 

「どうして助けたの?」

 

と、このデスゲームでは愚問でしかないことを訊ねてきた。

あー、もしかしてこの子は由比ヶ浜タイプだろうか。ルックスよくて中身はポンコツーーアホの子……どっちも変わんないか。そんなアホな質問をする美少女に贈る言葉はただひとつ。

 

「別に、死なれたら困るからだ。デスゲームだからな。死ねば終わりなんだよ」

 

「……死にたいの」ぼそっ

 

「へ?」

 

「死にたいのよ、私」

 

「そうか。勝手に死ねば?」

 

「え?」

 

目を丸くする少女。心底意外そうだ。いや、死にたいって言ったの自分でしょう? あるいはーー

 

「は? なにその意外そうな表情。もしかして引き留めて欲しかったの?」

 

「そんなわけないでしょう!」

 

「なら、死ねば?」

 

「だからそれはあなたたちが邪魔をしてーー」

 

「それが『実つき』を故意に攻撃した奴の言うことか?」

 

「?」

 

「……はぁ」

 

『実つき』という単語がどういう意味か分かっていなかったようなので、意味を説明する。

 

「知らなかったわ」

 

あっさり認めちゃったよこの子……。俺の中で、密かに彼女をアホの子認定した。

説教の続きをしようと口を開けようとすると、横からキリトが割り込んできた。

 

「『実つき』を攻撃したら、普通はそれを知らないと思うから助けるよ。それに、簡単に命を捨てないでくれ」

 

「それ、俺が最後に言おうと思ってたセリフ……」

 

「結局、最後まで説教するんだ」

 

「あはは……」

 

ルルの冷静なツッコミに、マチが苦笑いで追従した。いやだって、命は大切だからね。

 

「とにかく、お前はしばらくの間は俺たちと一緒に行動してもらう」

 

「嫌よ」

 

「拒否権はない」

 

「いいのかハチ?」

 

「ああ。見たところセンスは悪くない。それにあいつの武器は細剣だ。ルルの武器を手に入れる時に役立つ」

 

「このクエストはどうするんだ?」

 

「もう必要分は集まったぞ」

 

ウィンドウを可視化してキリトに見せる。そこには目的のアイテムが2つあった。

 

「い、いつの間に……」

 

「乱戦だったからな。俺も分からん」

 

そう言って俺は肩をすくめる。事実、これらがいつ入手できたのかは分からない。確かなのは、あの乱戦の最中で手に入ったということくらいだ。

村に戻り、まずキリトがクエストを依頼したおばあさんにアイテムを渡し、続いて俺が受注して即座にクリアした。

 

「これでハチたちの依頼も終わりだな。じゃあまた……」

 

「ちょっと待て。それで終わりなのか?」

 

「どういうことだ?」

 

「こいつのお守りしてもらわないと、俺ひとりじゃキャパが足りん」

 

「……」

 

俺の視線の先にはムスッとむくれている少女がいる。森からずっとこの調子だ。大丈夫かね?

 

「……仕方ないな」

 

「決まりだ」

 

渋々といった様子でキリトが同意し、ここに野良パーティーの存続が決定した。

 

 

 



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現実世界にいる奉仕部の2人を思い浮かべていると

更新遅れましたすみません。


 

 

俺たちの野良パーティーはその後も続き、無事にレア武器・ランベントライトをゲットした。

第1層の攻略会議が開かれたのは、このデスゲーム開始から1ケ月後のこと。その間におよそ2000人のプレイヤーが死んだ。

 

 

 

自称『ナイト』とほざくディアベルとかいうプレイヤーが音頭をとって行われた攻略会議。途中にキバオウなるプレイヤーがベータテスターを糾弾する発言をして一悶着あったが、エギルとかいうプレイヤーが鎮圧した。

ただその時、キリトはひとりそわそわしていた。呼吸する音が可聴域まで大きくなるという、普通では考えられない程の過剰な反応を見せた。それはなぜかと考えた時、答えは明白。彼がベータテスターであるからだ。

キバオウの言い分はメチャクチャなものだったが、だからといって何から何まで的はずれというわけではない。奴の言い分にも少なからず同意できるところはある。そのどれかが、キリトの過去の行動に当てはまったのだろう。

ーーと、ここまでが人づきあいが乏しい俺が頭を働かせて考え出した推論だ。俺はこれを深めるつもりはない。キリトの過去に何かがあったとして、それを俺が知ったところで価値はない。俺は過去を変えられないし、支えられるような人間でもない。頼られたって困る。

マチに言われるまでもなく、俺は手を出すつもりはなかった。いや、ホントだよ?

そんな俺たちは現在、迷宮区に入ってスイッチの練習をしていた。俺とマチ、ルルの連携は世界一ぃぃぃッ!!!なのだが、問題はアスナだった。なんと彼女、一度たりともパーティーを組んだことがないらしい。当然スイッチもできないーーというか、存在すら知らなかった。そのためこうして地道に練習しているわけだが……なんというか、雪ノ下を彷彿とさせる。髪色とか相違点は多々あるわけだが、圧倒的な才能に裏づけされた順応性は、雪ノ下だ。そういえばあいつ、どうしてるかなーー

 

「ハチくん、スイッチ!」

 

今や遠い存在となった現実世界にいる奉仕部の2人を思い浮かべていると、アスナの鋭い声が飛ぶ。交代の合図だ。

思考が明後日を向いていたことでいつもより遅れてしまった動きを、敏捷ステータスの力で速める。

それから数多のモンスターと剣を交え、俺たちは連携の確認に注力した。

 

 

 

その日の夜。

迷宮区に最も近い街に、俺たちは宿をとった。部屋割りは俺とキリト、女子は2人とひとりに分けられる。今日は確か、ルルがひとり部屋だったはずだ。俺には関係ないことだけどな。

正直、キリトとは別の部屋がよかった。リラックスする空間なのに、他人がいるとか八幡耐えられない。なんなら、このまま過労で死ぬまである。どこのブラック企業だよ。

ただキリトは妙に外出したがるため、寝る前まではひとりだったりする。日によっては寝るまで帰ってこないこもともあるのだ。いったい何をしているのやら……。

そのことはパーティーメンバーも知るところとなり、彼が何をしているのかという憶測が飛び交っている。それを話しに女子たちが俺たちの部屋に来ることもある。理由を訊くと『帰ってきたら尋問するため』らしい。これまでずっと根負けしてきたのだが。

そんなこともあって、この部屋の戸が叩かれることはなんら不思議はない。

 

ーーコンコン

 

今日も扉が叩かれる。またぞろ女性陣が訪ねてきたのだろう。騒がしい夜の幕開けに俺の気力はゴリゴリゴリゴリ。出たくないとも思うが、後が怖いので仕方なく扉を開けた。そしてそこにはーー

 

「ルル? どうした?」

 

リアルではまだまだ幼い現役js、こちらでは頼れるフェンサーのルルがいた。

 

 

 



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「明日、大丈夫……だよね?」

 

 

いよいよボス討伐が開始される。最寄りの街に集った精鋭たちは、迷宮区へ続く森を歩いていた。

俺たちの仕事はボスの取り巻きの始末。ボス本体はディアベル率いる主力部隊が叩く手筈になっている。他のパーティーが世間話に花を咲かせる中、俺たちは連携などの確認を念入りにしていた。

 

「マチは中衛として後衛を守ってくれ。最初は俺とハチが前衛に出る。後衛はルルとアスナ。あとは必要に応じてスイッチで交代。ーーそれでいいか?」

 

「ああ」

 

「もちろん!」

 

「はい」

 

「いいわよ」

 

全員が了承し、最後にキリトが頷く。

あくまで俺の主観でだが、どうもうちは他のパーティーと温度差がある。他のパーティーはマジメさというか、必死さが伝わってこない。人数の差なのだろうか。なんとなくだが危ない気がした。

そういえば昨日のルルもーー

 

 

 

ーーー昨夜ーーー

 

扉を開けるとルルがいた。そうとしか表現のしようがないので許してほしい。マチやアスナの姿はない。ということはひとりで来たのか。

 

「どした?」

 

とりあえず理由を訊いてみる。すんなり話してくれれば楽なんだけど、そういうわけにはーー

 

「明日」

 

「は?」

 

「明日、大丈夫……だよね?」

 

……なるほど。ボス戦を前にした緊張か。ルルはなまじ賢いから、マチのように適当な理由で誤魔化すことはできないだろう。聡明な子だがやはり子供なのだ。

ルルの子供らしい一面を見れたことに嬉しさを覚える。これが父性というものか。子供もいないくせに父性に目覚めてしまうとは……

 

「バカみたいなことを考えていないで真面目に答えて」

 

ルルにじと目で睨まれてしまった。ふざけていたわけではない。

それにしてもこのお子様、気落ちしていても口は減らないらしい。つくづく雪ノ下に似ている。

いや、リアルは忘れよう。頭をフルフルと振って雑念を追い出す。そして改めてルルの問いかけに向き合った。

頭の中でシュミレーションする。

 

[CASE1]

 

「大丈夫に決まってるだろ」

 

俺はルルを安心させるようになるだけ優しい声音で言った。

 

「……根拠は?」

 

「……」

 

はい、撃沈。

 

[CASE2]

 

「気にするな」

 

「気になるから相談してるんだけど」

 

はい、ダメー。

 

結論、俺にルルは説得できない。

 

俺のお兄ちゃんスキルをもってしてもルルは説得できなかった。マチのように誤魔化しが効かないのが敗因だった。……いや待て。誤魔化せないなら誤魔化さなければいいんだ。今まではルルの悩みを解決しようとしたために浮かんだ案だった。しかし、俺やルルのようなぼっちはそんなものを求めていない。他人に相談して解決しようなんてぼっちの対極にいる存在ーーリア充がとる行動だ。だからぼっちはぼっちらしく、

 

「分からん」

 

と、事実を突きつければいい。

 

「俺は未来予知なんてできないからな、未来のことは分からん」

 

「そっか……そう、だよね。うん、ありがとう八幡」

 

ルルは目を潤ませながらこちらに手を伸ばしーー引っ込めた。そして感謝の言葉を残して扉に手をかけた。

そう。それでいい。ぼっちは悩みは自分で抱え込み、自分ひとりで向き合って折り合いをつける。

ただ、そんなぼっちに贈る言葉はーー

 

「ま、なんとかなるだろ。知らんけど」

 

ルルは振り返って、

 

「バカ」

 

「ほっとけ」

 

「でも、ありがと」

 

笑みを残して部屋を出て行った。

 

 

ーーー現在ーーー

 

そして現在。

 

「やっ!」ズシャ

 

剣戟の最中の刹那のタイミングを掴んで単発のソードスキル《リニアー》を発動。ルルはMobを2体まとめて葬り去った。

結論から言えば、ルルは昨日の悩みなどなかったかのように絶好調だった。動きが冴え、アスナの剣速にも迫るものがある。

出会うモンスターのことごとくを、千切っては投げ、千切っては投げーーと殲滅。その戦いぶりは戦闘狂のキリトをも唸らせた。

ルルの活躍もあって、攻略メンバーはほとんど消耗せずにボス部屋前の門に辿りついた。

メンバーのリーダー的存在のディアベルを筆頭にボス部屋に入る。

 

ーーいよいよ、ボス戦の幕開けだ。

 

 

 



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