Fate of the ABYSS (黄昏翠玉)
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転換・逆行編
赤い弓兵たちの旅立ち


はい、やらかしました。
Fateの面子ならルーク救えるんじゃねーかって思ってしまった結果です。どっちも好きなんですもん。
作者は基本的にFate/stay nightの原作をプレイしてません。劇場版UBWを見たのとハーメルンや他のサイトさん回ってただけです。アビスの方はアニメ見てサイトさん回っただけです。原作知識とかもうほとんどないです、オリジナル展開もあります。

亀更新に決まってるのでゆっくりお付き合いください。
では、どうぞ。


世界が呼ぶ声がする。

 

そんな馬鹿なことがあってたまるか、と否定しようとして、私は気が付いた。

既にここが自分の座ではないことを。

 

「――何故“オレ”なんだ、アラヤ」

 

第五次聖杯戦争と呼ばれる聖杯戦争に参加していた分霊の記憶をなぞらせた分霊をわざわざ仕込むなど、らしくないことをする、と。

答えを見つけたらしいこの分霊は、アラヤから見れば邪魔なはずだ。何故それをわざわざ編み直す。私の疑問にアラヤは答えない。当たり前だ。アラヤはいつだって答えなど直接的にはくれなかった。

 

不満はないと言えば嘘にはなるが、だからといって特段気にもしていない。

いつも私が眺めていた赤い空。それはもうどこにもない。

剣の丘も見えない。

見えるのは、私が場違いすぎると一瞬で理解できる、自然の溢れた、煌く、命溢れた緑と青の世界。

そして私は視界に青い長髪の男を見つけて、ここが誰の座であるのかに思い当たる。

 

「よぉ、アーチャー」

 

男がこちらを振り返る。あの動き易いタイツ姿ではなく、もっとゆったりとした服装。一見してキャスターの如き姿に、ああ、そう言えばこの男はキャスターとしても呼ばれる可能性があったのだったかと一人で納得した。

 

「ああ、ランサー……」

 

かつて私は弓兵だった。そして今の私は弓兵だった私をなぞるモノ。ならばこの男は如何。

 

「いや、クー・フーリン」

「へっ、やっぱそっちで呼ぶのか? 第五次の記憶があるんだろ?」

「やはり君もか」

 

私の物言いに大体の状況は理解できたらしい男――クー・フーリンは、静かに息を吐いた。するりとその手に紅の槍が出現して、男は私の胸をその槍でゆっくりと小突いた。攻撃の意思がないと感じたからこそ私は動かずにそれを受けた。

彼は、私の憧れた、絶大な力を持った英雄。

いや、私は彼のような英雄になりたかったんじゃない。ただ、正義の味方になりたかったのだ。

ああ、こんなことを考えるということは、やはり私はあの答えを得た私をなぞっているのだろう。あの答えはあの分霊の中だけのもの。

私自身の答えではないのに。

 

「エミヤ」

「?」

 

クー・フーリンに呼ばれて顔を上げる、いつの間にか俯いていた。

彼の指で示す方を見ると、見知った顔が並んでいた。

 

なんだ、普段着は普通なんだな――ギルガメッシュ。

魔眼を隠す必要がないらしい――メドゥーサ。

青い明るい色のキトンを身に纏った女――メディア。

バーサーカーの姿のままなのは何故だ――ヘラクレス。

そして、女性としての姿でありながら、王としての威厳を持った――アルトリア。

 

「……ここはケルトの座ではなかったのかね?」

「気付いたら皆ここに。ガイアが招集をかけてきた」

「ガイアが?」

 

まさか、と私は思った。アラヤがこのメンツを揃えるために私を?

凜たちに何かあったのだろうか。いやでも凜に何かある前にあそこにいる私自身が何かしでかしそうだが。

そんなことを想っていたが、ふいに流れ込んできた世界の意思とやらに、私たちは皆で驚愕に目を見開くことになった。

 

「はぁ!? そんなのありかよ!! 別の世界に渡れだと!?」

 

クー・フーリンの声。ギルガメッシュも眉間にしわを寄せている。見ているのは愉悦、しかし巻き込まれるのは気に食わんといったところだろう。

気持ちはわからなくもない。

 

どうやら聖杯戦争をするためではないらしいのである。そのため以外に呼ばれることなどまずほぼあり得ない。そもそも、魔術師でなければ英霊の力を維持できない。

ともかくとして、私たちはどうやら何者かを助けたいので助力してくれと請われて、ガイアとアラヤはそれを請け負ったらしい。

その何者かを助けるために最もバランスがいいのがこのサーヴァントの組み合わせだったらしい。こら、アサシンはどうした。佐々木小次郎は? ハサンは?

 

「なんでギルガメッシュがいるんだ?」

「贋作者、それはどういう意味だ?」

「なぜ例外であった貴様がいて、アサシンがいないのか、と。まあ、アーチャーが二人なのだから私が抜けても問題はなさそうなものだが」

 

そこまで言ったらアラヤに意識をちょっと掻っ攫われて叱られた。

 

お前がいたら面倒ごとがいろいろ減るんだよ。その間は守護者の任解いてやるからその子の守護者やってこい。

 

と。

 

「……贋作者、何があった」

「アラヤが、私に誰かさんを教育しろと言っている。その誰かさんは実に私の神経を逆撫でするようになっていくようなのでな、そうさせないために傍で支えるのが我々サーヴァントの役目となるようだ」

 

アラヤに漠然と伝えられた事項を掻い摘んで説明すると、皆は顔を見合わせた。

この中から最大三人までその人物を守るためのサーヴァントを選び、他はサポートに徹するように、とのことである。おそらくその人物が持つ魔力量などの問題なのだろうが。

 

「坊主の神経逆撫でっつーことはあれだな? こいつの同族嫌悪に近いであろう感情を刺激しかねないタイプだな? そしてつまるところそれは俺がぶん殴りたくなっちまうようなやつってことだな?」

「ちょっと待て。何故私をあの出来損ないと同じ呼び方をする!?」

「今のテメーはアーチャーっていうよりも坊主に近い。他人の在り方にテメーは口を出すような奴じゃない」

 

クー・フーリンはそう言ってアルトリアを見る。アルトリアはうなずいた。

 

「アーチャーは、第五次聖杯戦争の際、答えを得た、と言っていたと、凜が。何故私が知っているか理解しかねますが、おそらく一方的な救済要請ではなく、こちらからも救済対象を出して来いということになっているのではないでしょうか」

 

そして全員がこちらを見る。なんでさ。

 

「なぜ私を見るのだ?」

「救済対象ってお前以外に誰がいるんだよ?」

「だからなぜ私なんだ」

「シロウはもっと報われるべきなのです」

「ちょっと待て、」

「同感ですね」

「おい、」

「まったくだな! あの固有結界の中に立っている状況はなんとしても打破せねばなるまい。守護者からは引きずり下ろせずとも、己が何だったかすら忘れては英霊として立ってきたその背が無かったことになる。それはすなわち死だ」

 

ギルガメッシュの言葉に私はギルガメッシュを見た。なんだこの気味の悪い英雄王は。

それは皆も思ったらしく今度は一斉にギルガメッシュに視線が集まった、が、私は思い当たった。

 

そもそもギルガメッシュは英霊としても最大出力を持っているといっても過言ではないのである。それが一体なぜそこまでの力を持ったのかという話で。

大体、ギルガメッシュは慢心王のはずで、という前提がおかしいのである。彼は、あの子ギルの姿も持っているのである。ということは、足して割ったら丁度いいというか、少し子ギルに勝ってほしいなあと思ってしまうのは致し方のないことである。

 

王になる者は王の器を持っている。

それ自体はアルトリアも何か感じたらしく、私と目が合うとうなずいた。

 

「先ほどの三名ですが、私は、アーチャー、ランサー、ギルガメッシュを推薦します」

 

アルトリアはそう言った。その顔は既にあの日の――アーサー・ペンドラゴン、そう、セイバーとしての表情。

凜としたその表情、決意が見て取れる。何があるというのだろう、私は絶対に入れられる運命にあるのだとかランサーが口走ったがこの際無視する。何故この三名なのか、である。

私は置いておかねばならないらしい、私が最も外れるべきだと思うのだが。

 

まず、ギルガメッシュ。

その子、という表現から見て、おそらく対象は子供なのだろう。ならば確かに、ギルガメッシュは子供好きなところがあるし、ちょっと慢心し過ぎになるかもしれんが、守るという点においては絶対の信頼すらおける男である。担い手でないとはいえ、すべての宝具を持つ男である。

 

次に、ランサー。

守ると言ったら、生き残ると言ったらこの男だ。リアルラックは確かにどん底だが、それでも十分すぎるほどにこの男は強いのだ。

そして何より、支えるというよりも、背中を押すという立場の者がいるのはいいかもしれない。

 

なんだ、この記憶は――?

まさか、私は分霊ではなく本体丸ごとで行こうとしているのではないか?

それならばこの状況に辻褄が合う。だって分霊一体助けたくらいで何も本体の英霊に影響はない、すべてはただの記録になり本を読むがごとく我々は知るだけなのだから。

 

様々な分霊の記憶を持ち寄って、そうしなければ救えない者がいるということなのだろうか。それとも、そちらの方が都合かいいということなのだろうか。

私にはわからない。

ただ、これから行くところにいる人物を救うこと――それが、正義の味方を目指す私の――いや、オレのやるべきことなのだ。

 

「では私も。やはり、アーチャー、ランサー、ギルガメッシュですね」

「そうね」

『同感だな』

 

ギリシャ勢はアルトリア――セイバーと同じことを言いだした。

そもそもセイバーのラックはBだったはず。ああ、彼女が言った時点で皆答えは決まってた。そのメンツで行ってきやがれと言わんばかりの視線。

アサシンがいないため七名しかいないサーヴァント。

四名に指名を受け、私たち三名は、その異世界へと赴くこととなったのだった。

 




え、何も始まってない?
しかもギルガメッシュが誰コレですね。
すみません。子供好きとか、オリジナル全部持ってるアーチャー・ギルガメッシュと全部贋作のアーチャー・エミヤシロウとか、もうアッシュとルークに見せてやりたいって思ったらこうなってました。
アサシンがいないのは仕様です。
ガイは今回はエミヤの指導の下で子育てになるので(本人も教育されますが)ルークはちゃんと時間と余裕をもってしっかり学びたいこと学んでいきます。

作者はFate/Zeroで見せたギルガメッシュの王の器を表現したい。だが表現力が足りない(´;ω;`)ウッ…


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逆行① ガイ編

短めです。なので2話いきます。
捏造満載ですよ(笑)
ガイ視点のお話です。


時折ふと、思い出すことがある。

俺が直接仕えた、唯一の、主君。朱金の髪を持つ、人から生まれた、人ならざるものと言われた存在。

聖なる焔の光。

キムラスカの王族に連なる者の複写人間。

 

彼は帰ってこなかった。

帰ってきたのは、オリジナルだった。

俺たちは手放しでは喜べなかった。ナタリアは喜んださ。でもティアは泣き崩れた。ジェイドが苦い顔をして、アニスは奥歯を噛み締めて。

 

最後の約束を、彼は破った。

あれは彼の最期の約束になってしまった。

俺はその後、結婚して、ガルディオス家の後継ぎをもうけて、ピオニー陛下に早々に家を出ることを伝え、子供たちに家を任せて、彼が救った世界を見て回った。

 

この青空が濁ることなんて許さない。

俺の親友を奪っていったこの世界が美しいのもイライラするが、それよりも、彼が守ろうとしたこの空が濁ることを俺は許さない。

 

もしやり直せるなら、もっともっといっぱいやってやりたいことがあるんだ。

もっといろんなことをやってやりたいんだ。

たった7年で、何ができる?

生まれて7年じゃ、人間だって何もできやしないのに、あいつは世界を救って死んでしまったんだ。

 

アッシュも時折錯乱したように叫ぶことがあるようだ。それは、自分のレプリカが馬鹿にされたときだったり、生き残っているレプリカたちが殺されたという知らせを聞いたときだったり。ナタリアからの手紙で俺たちはアッシュの近況を知る。でも、徐々にそれもなくなってきている。アッシュに話を聞いたら、“レプリカの記憶が消えて行っている”のだそうだ。

 

アニスとフローリアンが俺に合流して、フローリアンの兄弟も一緒に通った旅路を回っていく。エンゲーブで、ライガクイーンとアリエッタの話をアニスがつぶやいた。

ジェイドも時折姿を見せて、フリングス将軍と、俺のいとこでもある、セシル将軍の話になって。

 

イオンの話になって。

やり直しなんて利かないってわかっている。

大事なものを失ったときにしかそれを実感しないなんて、人間は愚かなものだ。

俺たちは物ではなく人を喪ったのだ。

帰ってくることはない。

 

音譜帯を見上げて、あそこにルークもイオンも、姉上のレプリカも、ヘンケンさんやキャシーさん、イエモンさん、タマラさんのレプリカがいるのかな、なんて、思って。

きっとフローリアンの他の兄弟、シンクもあそこにいるんじゃないかな、なんて。

 

ティアと合流して、ミュウをアッシュのとこから借りてきて、皆で旅路を回る。ナタリアとアッシュの子供が成長して、全員が集まったのは、アニスもすっかり大人になって、フローリアンの血中音素濃度が下がってきた時だった。

もうすぐフローリアンも消えちまう。そう思ったら、またイオンみたいに跡形もなく目の前で消えるのかもしれないと、思ってしまった。ルークもアニスも泣いたじゃないか。

 

アッシュはその記憶はまだ残っていたらしくて、どうして何も残さずに消えてしまうんだろうな、と呟いた。だから俺は、写真機を購入した。

 

「これなら残るぜ」

 

身につけたものまで音素の乖離に巻き込まれて一緒に消えてしまうレプリカは、本当に何も残さず光になって消える。無垢な彼らにふさわしい、美しい最期。

ルークの思い出は残っている。でももう俺は、ルークの顔を直視できそうにないんだ。

フローリアンとの思い出だけでも、残していこう。

皆で世界中を回っているうち、フローリアンは消えた。俺たちの目の前で。

 

「皆、ありがとう。僕は先に逝くね。ゆっくりおいでよ」

 

死んだ人間は星になるのだと、アニスが言っていたのを引っ張ってきたのだろう。彼はそんなことを言って消えていった。

世界は残酷だ。

レプリカたちはローレライが空に還ったことによって安定している。フローリアンは丈夫だったから、大人にさえなった。

 

俺たちは残されたレプリカたちを、ちょっとずつ助けていこう。

一度間違えた選択肢は二度と目の前には現れない。

もしやり直せるなら、何度人生の中で考えただろうか。

 

そして何より。

 

どうしてみんな俺より先に逝ってしまったんだよ。ジェイドとピオニー陛下はまだわかるよ。アッシュとナタリアも。そりゃあ、俺は長生きだよ。

でも。

アニス。

お前が先に逝っちまうなんて。

 

魔物との戦闘において人々を庇って致命傷を受けて、そのまま息を引き取った。

そしてそんな俺は、ティアを置いていく。

 

ガルディオス家に戻ってきて、ベッドの上で死ぬなんてなぁ。ペールは空にいるだろうか。皆、そこにいるだろうか。

俺は静かに目を閉じた。

 

もう、俺の、目は、覚めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

なぜ今俺が語っているかって?

そりゃ、生きているからさ。

俺も、目が覚めた時はびっくりしたものだ。意識が戻ったのはどうやら俺の3歳の誕生日のことらしく。日記帳を慌てて買って、拙い字でいろいろ書いてみて、頭の中を整理して。

 

まだ、ホドはあった。ヴァンデスデルカもまだ、健在。

それと、俺の手の甲に赤い入れ墨みたいなものがあった。これは何かと尋ねると、ペール曰く、生まれつきだそうである。

“前回”はなかった。これは確実だ。

とすれば、これはこのいわゆる逆行状態の引き金か何かではなかろうか。

 

この日、俺は就寝時に金髪の超の付く尊大野郎に出会った。ルークより酷い。そいつは俺が子供であることを見て何を思ったのか、背後から何か取り出して、それを使用。子供の姿になって、名乗った。

 

「僕はギルガメッシュといいます。さっきのでかい方も僕なので、ギルガメッシュでいいですよ」

「ガイラルディア・ガランです」

 

丁寧になっちゃったのは仕方ないだろう。金髪、赤目。見たことのない色彩だが、ジェイドよりもこの赤は、どぎつい感じがする。

彼から受けた説明によると、ギルガメッシュは“サーヴァント”と呼ばれるものだそうで、異世界の過去の住人なのだそうである。英雄、らしい。

 

「僕よりも大きい方の僕の方が強いので、戦闘時は彼と入れ替わりますが、どちらが表に出ているかは、マスター権限でガイラルディアが決めていいんですよ」

「そうなのか。あと、お前のことギルって呼ぶから俺もガイでいいぞ」

 

俺も、過去の記憶があることを伝えると、ギルは逆に驚いたようだった。

その日から、俺とギルは秘密の会議を重ねた。もし本当に過去にいるとすれば、まだルークを助けられるかもしれないからだ。

 

「預言なんて、くだらない、って大きい方が言ってる」

「俺だってあんな預言願い下げだ。この領土で起こる戦争も、詠まれているんだぞ」

「ムカつきますね。“前回”はよくルーク側につきましたね?」

「あの純真無垢さには毒気を抜かれてなー」

「光源氏にならないでくださいね?」

「なんだそれ?」

 

ともかく、このままいくとやっぱりホド戦争が起きるようだ。俺はギルにホドのどこかにあるという第七譜石の捜索を頼んで、ホド戦争を待ち受けた。

 




誤字脱字があれば、指摘してくださるとうれしいです。
感想お待ちしてます<(_ _)>


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逆行① ガイ編2

2話目です。


ホド戦争はやはり、俺の誕生日に起こった。あらかじめ決めていたのは、大きい方のギルが部屋に来るまでは姉上と共に隠れている、ということだけだった。

ギル曰く、何やら世界からの強制力が掛かっており、時が来るまで動けないのだそうだ。おそらく、世界を救うため、ではなく、ルークとアッシュを救うために呼ばれたせいらしい。つまり、彼に動いてほしいのに彼が動けないときは、ルークが生まれなくなるかどうかのターニングポイント。

 

ホド戦争は絶対に起きなければならないのだ。

歯痒い。くそっ、ルークに会いたいとはいえ、ホド戦争からかよ、と思うところはある。

 

「姉上、一緒に隠れましょう」

「私はいいのよ、ガイラルディア。あなただけでも隠れて」

 

姉上はやはり俺と一緒に隠れる気はないらしい。

俺は7枚の花弁の桃色のペンダントを姉上に渡している。投擲武器の方が防御力は上がるらしいが、何もないよりはましだ!

時間稼ぎくらいにはなってくれるはずだということで、身に着けてもらっている。

 

――これは、【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】の原典です。飛び道具に対しては無敵といって差し支えありません。ただ、僕は“真名解放”自体はできないので、城壁並み(そこそこ)の防御力しかありません。ないよりましですが、剣術相手だと破られる可能性も、無きにしも非ずです。時間稼ぎのアミュレットくらいの気持ちでお願いします。

 

ギルの台詞を思い出すと、ツッコミどころが多い。

まず、城壁並みと書いてそこそこと読むな。サーヴァントやばすぎるだろ。

ちなみに、ペールと姉上にしかギルのことは話していない。

 

俺は隠れず、姉上の後ろにいた。

メイドたちはお逃げください、と俺たちに言って、壁になるようにドアの前に立つ。

あの日の再来。俺が女性恐怖症になったあの日の再来だ。くそっ、なんで助けられないんだよ!

 

姉上だけでも。

これからここに踏み込んでくるキムラスカの兵は、これから俺の同僚になる人間だ。突っ込んでくる先頭の男は主人の父親で。ああそうさ、やっぱり俺はファブレの人間が嫌いなんだ。

ルークはそんな俺の心すら癒したというのか。

ルークに会いたい。

 

ドン!

 

ドアが開け放たれて、白光騎士団が踏み込んでくる。構えられる剣。メイドたちが切り裂かれていく。と、俺たちに声が掛かった。

 

「ガイ!! マリィベル!!」

 

振り返ると、ギルがいた。その手には黄金の剣。

脱出経路は、そこの暖炉からだ。ギルと俺で作った。途中でペールも参加して、姉上も参加して、作っていた、小さな、脱出口。

 

「姉上、あの通路から逃げよう」

「私は、」

 

と、剣撃が最後のメイドを切り殺した。ファブレ公爵だった。

その剣が姉上に振り下ろされた。が、突然、7枚の花弁みたいなものが展開した。

剣がそれに防がれる。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「……【熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)】」

 

真名解放できるなんて思ってないけれど、言うだけ言ってやる。

ギルが素早く通路への入り口の石を外した。第七譜石のある部屋の横を通るように組んであるのだ。俺は姉上の手を引いて素早く入り込んだ。あとは、ギルが上を破壊すればいい。

 

途中で緊急時に合流地点にしていたところまで来ていたペールと合流し、俺たちは第七譜石のある所まで一気に駆け下りた。

ギルが一部を蹴り壊して(笑)回収してきて、俺たちはそのままホドを脱出した。

ヴァンデスデルカはここから、復讐劇を始めるのだ。“前回”は俺もそうだった。でも、今回は違う。やっぱり白光騎士団もファブレ家も嫌いにはなったけれど、姉上はまだ生きている。

 

「姉上、ペール、ギル」

 

船で脱出して俺は、3人にこれからの予定を話した。

まず、ガルディオス家を一時貴族院から外してもらい、俺が成長したのち再興すること。

手続きが終わり次第ファブレ家へ乗り込むこと。この時、ペールと姉上にも使用人としての姿になってもらおうと思っていること。

そして、これから先の未来を俺が知っていること。

 

「そん、な……ホドの崩落が、預言通りに起こっただけだというの……?」

「……ええ。ND2002、栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名を、ホドと称す――これが、ホドの崩落に関する秘預言。俺は将来これを覆す旅に随伴するんです……」

 

その時、姉上が死んでいたことと、ギルがいなかったことを告げると、姉上は、俺が必死に姉上を助けようとしていた理由に理解が及んだらしく、俺を抱きしめてきた。

 

「ガイラルディア。ファブレ家へ乗り込む前に、ジョゼットのところへ行きましょう。彼女の家もちょっとまずいことになってるかもしれないけれど」

 

そういえば、ジョゼットはセシル家の再興を夢見ていたな。うん、俺だけ生き残ったのは苦い思い出だ。フリングス将軍も助けたいし――助けたい人が多すぎて困るな。

それだけ俺たちは間違って、いろんな人を見捨てて、それでも生きることを選んだ、その軌跡なのだ。この記憶は。

 

キムラスカに入るにはジョゼットを頼るのが一番手っ取り早いからな。

でもどうするかな。“前回”は不法入国だった気がする。うん。

 

「ペール、任せた」

「ちょっと行ってまいります」

 

早急に終わらせてくれることを願う。なぜかギルが大量の食糧を持ってきていたので、飢えることはなかった。

 

何とか手続きを終えて、逆に正式ルートでキムラスカへ入国する形になった。セシル家は大変なことになっているようだ。やばいジョゼットを止めなきゃ。いろんな意味でアレなことになる前に。って、まだ8歳なのにもう頑張ろうとしてるのかな。やばいな。いろんな意味で間に合いそうにないわ。

 

俺と姉上はガイ・セシル、マリー・セシルとして、平民身分でキムラスカへ入った。こっちへ来ることはすでにピオニー陛下には知らせてある。手紙が直接俺の許へ来ていた上にブウサギの足跡印が押されているのか謎だ。

 

数年後、俺たちは無事にファブレ家へ入り込み、ペールはやっぱり庭師に、俺は使用人に、姉上もメイドになった。

将来アッシュになるルークと、ナタリアと親しい関係を築いていきながら、俺は俺以外に俺のような状態の人間がいないかを探したのだった。

 




感想お待ちしております<(_ _)>


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ルークとナタリア

やらかしてます。
逆行してくる人を当ててみてくださいw


僕です、子ギルです。

無事に何とかガイ、マリィベルさん、ペールさんの3人を公爵家へ入れることに成功しました。

大きい方だったらたぶん無理だったろうなー。僕あんまり戦わないから、ペールさんいてほんとによかったなー。

 

しばらく働いていたから、それなりの常識はあの慢心王の方も持っている――いや、そもそも英霊本体が来ているからちょっと違うんだけれど。

まあ、この世界で過ごすのはとても楽しいのだけれど、デジカメないんですかね。分霊じゃないからいいけど、世界を渡っても大丈夫という確信はないし。ガイア、応えてくださいよ。

 

ルークとナタリアはガイの丁寧な対応に、何かが違う、と首を傾げていたのだけれど、それをガイに報告したら、その話をちょっと聞いてみたいなあ、とガイは言った。

その結果、設けられたのが、今日のお茶会なのだけれど。

 

「……ええと。ギルガメッシュ、です」

「初めまして、ギルガメッシュ。ギルとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「はい」

「……」

 

僕、これでも王様なんですよ。

慢心王だと確実にオールフォーワンとか言い出すから。

ナタリア、そしてルークと呼ぶようにと言われた。僕はギルと呼ばれることになった。

 

お茶会にはガイも出席しているのだけれど、ガイはルークとナタリアから何か相談を受けていたようだ。

 

「ルーク、ナタリア、あれから夢は変なのとか見たか?」

「そう、そのことについてのことなのですけれど、随分と生々しいものだったんですの」

「ルークもか?」

「……ああ」

 

彼らによると、ガイに最初相談していた夢は、今ぐらいの年齢の自分たちのことを夢に見ていたのだと言う。

 

僕も、ガイの記憶を夢として見ている。サーヴァント側の記憶をマスターが見ることはあるけれど、まさかサーヴァント側がマスター側の記憶を見るとは、なんて思っていたけれど、今ならわかる。

 

おそらく、彼らは英雄だったのだ。

しかも、それを認められない英雄だったのだ。

ガイの記憶に鮮烈に残る、朱と紅。短い朱の髪と、長い紅の髪。その内の片割れ、紅の髪の持ち主は、この、ルークだ。

でも、朱の髪の方をガイはルークと呼んだ。紅の方をアッシュと呼んだ。

 

アッシュは記憶で見るだけでもわかる、死んでいた。

そしてこの感覚を僕らはよく知っている。

そう――ルークは、帰ってこなかったんだ。

死んだのは、ルークの方だったのだ。

 

一瞬、大きい方の僕が、ざわめいた。エルキドゥが死んだときのことを思い出したのだろう。彼は半身とも呼べる親友を、神々の恨み辛みで亡くしてしまったのだから。

 

そのころ僕の意識はまだなかった。だって大きい方の僕は、宝具を使ってくれなかったんだもの。

 

「僕も実は、妙な夢をみます」

「まあ。ギルもでしたの?」

「……うん、僕は、この夢を、ガイの視点で見ているんだ」

 

僕側から言ってみる。ルークが目を細めた。

 

「俺は気味が悪かった。目の前に死んだ自分がいるんだからな」

「!」

 

まずいんじゃないか、とガイが心の内で叫ぶのが分かった。

 

「……私は、誰かを誰かと見送っている夢でした。ガイがいたのはよく覚えていますわ」

 

僕はガイから何も聞いていない。でも、ガイの表情は険しかった。それだけでよく分かった。ガイは“前回”から来ている。この2人は逆行はしていない。

けれど、2人は、夢として、最後の場面を見ているのだ。

 

「……ああ、そういえば、夢の中のガイは、女性恐怖症だったんですのよ」

「……あ、はは」

「そういやそうだったな。……ガイ、ここだけでの話として、聞き流せ」

 

ナタリアの言葉に、ガイは苦笑していた。そこでルークが少し声を潜めた。

 

「ガイ、お前、マルクトの貴族だったのか?」

「……まあな」

「「!!」」

 

ホド戦争のことはまだ記憶に新しい。2人は一気に身を強張らせた。けれど、問題はない。ガイがガルディオス家の人間であり、住む場所もないのであるからいとこのジョゼットのセシル家を頼ってきたが、セシル家もお取り潰しになってしまった、という事情を、公爵夫人の方に通してあるためだ。

 

「ルーク、ナタリア、黙ってて悪かったな。でも、ほら。ホド戦争、まだ記憶に新しいから」

「……ああ」

「ええ……」

 

ガイの言葉に事情を察したルークとナタリアは不器用にも、笑った。

 

「この夢、正夢みたいであんまり気分良くねえな」

「そう、ですわね。でも、本当だったら、私……この、赤いひよこさんみたいな方に、会っていませんわ」

 

それはこれから生まれるからな、って。

ガイは、言いたかったはずだ。

これから俺が育てなくちゃいけない、攫われたルークの代わりをさせられる、何も知らない幼い子。外見だけはいっちょ前で、中身はただの赤ん坊。

 

同じ夢を別の人視点で見るなんて、こんなおかしな夢があるだろうか。

でもナタリアとルークは、僕を見て、言った。

 

「でもきっと違うものになってくれるはずだ」

「ええ、きっとそうですわ。だって、夢の中では、ガイがそんな立場だってことは知らなくって、ギルは居もしなかったのですもの」

 

それと、マリーもな、といって、2人は笑った。ガイが冷めてしまった紅茶を淹れ直す。無茶言うなっていうかもしれないけど、エミヤの方が上手い。エミヤの紅茶飲み慣れすぎたかもしれないよ。まだ味を覚えているだなんて。

 

「でもそれだと、ヴァンって敵じゃないか」

「私、もしかしてお父様と血の繋がりが……」

「ヴァンは敵でいい。ナタリア、養子って親子じゃないのか?」

 

素早いガイのフォローに、ルークは納得、ナタリアは目を見開いた。

 

「ヴァンには懐かねえようにしとく……」

「……養子は、確かに親子ですわ。でも、王族が……」

「……じゃあ、ナタリア。娘として11年育ててくれたインゴベルト陛下は? 父親じゃないのか?」

「そんなことありませんわ!」

 

ナタリアのはっきりした言葉に、ガイは満足そうに笑った。

 

「なら大丈夫だろ。さっさと解決してこいよ。俺たちの知ってるナタリアは、ナタリアしかいないんだからさ」

 

 

 

 

 

「おい、ギル」

「なに、ルーク」

「……お前は、何者だ?」

 

ルークの問いかけに、僕は小さく笑って、宝具を解く。

 

「僕は、サーヴァント。ガイのサーヴァントだよ」

 

そして、大きい方の僕に入れ替わる。おや、エルキドゥもいるじゃないか。

 

――ふん。今更代わりおって。まあいい。あの雑種の夢で見たものはこちらとしても憤りを覚えるには十分すぎた。そして、彼奴が己をその上で英雄と称賛されることに甘んじたならば、そのようなマスターは願い下げ、殺してでも離れようとしたことだろう。

 

「我はギルガメッシュ。先ほどのものとは人格そのものが異なるが、同じ英霊だ。まあ、我が本体であるがな」

「その口調で納得した。ようは、周りに打ち解けやすい人格を出していた。そうだな?」

「頭が回るようだな、焔の灰」

「!」

 

アッシュ、未来ではそう呼ばれるらしいこいつに、ちょっとした意趣返しをしてやる。雑種とは呼ばん。だが道化でもない。我がルークと呼ぶのは、あの髪の短い、本物の英雄の方だ。奴ならば、やり方こそ違えども、贋作者と同じように、胸糞悪い、無我夢中で駆け抜ける人生であり、時間が圧倒的に足りなかったとしても、それでも英雄なのである。

 

英雄王と呼ばれた我の前に立つことを許せるのは、こやつではない。故に、我はこやつを灰と呼ぶ。燃えカスで十分である、夢に出てくるような、八つ当たりを年甲斐もなく生まれて10も数えぬ子供に押し付けた愚か者。我は今マスターとしているこの愚か者も嫌いだ。見限ったとしか言いようのない姿を晒し、簡単に手の平を返す下らぬ雑種だ。だが、憎しみを抱きながらもあの英雄を育てようとした、育てた、道化である。故に我はまだこの者を見限りはせん。

 

まあ、小さい方の我が、この2人を愚か者にせぬためにいろいろ頑張ってきたのだがな。

何より、焔の灰は時たまこの屋敷から出ていくことがある。ベルケンドとやらに行っているらしいが、人体実験か。下らん。

超振動?

サーヴァントの身体はどういうものなのだろうな?

もしかすると、超振動で崩壊させられても復活するやもしれんぞ?

 

ふむ。

一瞬あの青い駄犬を思い浮かべたが、奴は確か、ひどく人間の扱いが上手かった――正しくは、おそらく奴のこざっぱりした性格と物言いのためだろうが、参考にするには丁度よかろう。

 

「焔の灰よ、我が貴様を見捨てた時には貴様を雑種と呼んでやるわ。それと――」

「……?」

 

焔の灰は、眉間にしわを寄せていたが、我を見上げた。

 

「化け物が貴様だけであると思うでないわ。我は貴様らの“譜術”とやらは痛くも痒くもないと言っておいてやる。ふむ、貴様がこれくらい使えるようになったら相手してやろう」

 

我はずっと喋らずに待ってくれているエルキドゥを見た。エルキドゥはどうやら身体をこちらの世界に合わせて最適化されたらしく、譜術が使える。

 

「うん!」

 

エルキドゥが詠唱を始める。

 

「これはエルキドゥ。我が親友にして、神々に作られた土人形だったものだ」

 

たったその説明の言葉のあとに、放たれた。

 

「サンダーブレード」

 

的に一体何を使ったのやらと思っていたが、どこから来たのやら、鳥の羽を消し炭にしたらしかった。

 

「なっ……!」

「エルキドゥ、やり過ぎだ!」

「えー、でも威力見せるならこれでしょ?」

「そりゃそうだが!」

 

焔の灰は唖然としていた。ガイの叱責、その他音に慌てて駆け付けたシュザンヌやらその夫やら、白い雑種の集まりやら。だが、エルキドゥが出ているのを見て事情を理解したらしいシュザンヌが笑みを浮かべ、全員お咎め無しの上、きっちり詳しく話を聞かせよとのことだった。

 

シュザンヌに対して腰が低い?

ないない、我は英雄王ギルガメッシュであるぞ。

 

まあ、数日後、手紙を残して焔の灰は消えた。それを読んで、我は思った。

焔の光の横に立つことくらいは、許してやらんこともない、と。

 

 

 

『俺に片割れが生まれるというのなら、とりあえずあの夢を正夢にしないようにする。でも、会ってみたい。灰と呼ぶがいい、ギルガメッシュ。第六譜石の俺の関わる秘預言を知った。俺はまだ死にたくない。あいつを糾弾しない。あいつなら預言から外れることができるかもしれない。望みを託す。俺は表面上ヴァンの側に着く。ガイ、ナタリア、後は頼む。半身にはガーネットのペンダントを渡しておきます。

 

追伸

父上。人体実験に嫌気がさしたのでダアトに逃げます。俺の半身をないがしろにしたらファブレ家へ戻りませんからね。

ルーク・フォン・ファブレ 未来名 アッシュ』

 




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逆行② レプリカルーク編

キャラ崩壊が激しくなってまいりました。
ブックマークに入れてくださっている皆様、ありがとうございます!


ローレライの鍵を地面に刺して、かちりと回した。地殻へ向かうのは俺だけで、皆は先に脱出した。

途中、アッシュの身体が落ちてきて、それを抱きとめて。

冷たくなってしまったアッシュを抱えたまま俺は、声を聴いた。

 

『世界は滅びなかったのだな』

 

ローレライだ。

ようやく解放することができたな。

アッシュは俺との約束守ってくれなかったけど、俺は守れたよ。

 

大爆発現象が起きたらお前に記憶が流れ込んじゃうんだってジェイドが言ってた。

でも今は、アッシュの記憶も俺の元にちょっとあるくらいだ。

大丈夫、アッシュ、俺の記憶残っちゃうけど、帰るのはアッシュだ。

 

どうか、忘れないでいて。

身勝手な願いでごめんなさい。

でも、俺、それぐらいしか残らないから。

 

短かったけれど、皆との旅、とても楽しかった。

 

俺は、ローレライを見上げた。

 

『私が見た未来が僅かでも覆るとは、驚嘆に値する――』

 

そっか。

ローレライにとってもうれしいハプニングなんだな。

 

『――我が愛し子よ』

「?」

 

ローレライの暖かな炎のような姿は揺らめく。俺とアッシュを包み込んでくれる炎、温かい感じがする、もう、感覚なんてないのに。

 

『願いは、あるか――我の力の及ぶ範囲ならば、叶えよう』

 

そういわれた瞬間に、俺の中で必死に最後に諦めた願望が、鎌首をもたげた。

何で今頃そんなこと言うのさ、ローレライ。

俺。

俺、願ってしまうじゃないか。

 

生きていたい。

死にたくない。

皆とまた笑っていたい。

記憶だけになりたくない。

少しでもアッシュと笑っていたい。

 

頬を涙が伝い落ちる。

 

もう叶わないの、わかってるんだ。

だって完全同位体なんだもの。

俺が死ぬのが道理なんだろう。

 

――死にたくない

 

せっかくアッシュに認めてもらえたのに。

 

――約束してくれたのに、勝手に死んじゃった

 

皆とまた笑っていたいけど俺はもうここでアッシュに統合されちゃうんだよ?

 

――記憶の中にしか残らない

 

『……我が愛し子よ。もう一度、私を開放する覚悟はあるか』

「……?」

 

俺の手足が消えていく。俺はアッシュを落とさないようにそっと、足元の陣に横たえる。

 

「どういうことだよローレライ」

『もう一度、歩んだ道を遡る――正しくは、異なるやり方を試す、ということだ』

 

俺は頭が混乱した。

ローレライは続けて言う。

 

『つまり――ユリアが私の視た未来の中で最も長い歴史を読み取って残したように、私の見た未来は、いくつも存在する。その中の、ユリアの詠めなかった世界の可能性を、提示しよう』

 

ユリアが詠めなかった未来?

そんなものがあるのか?

 

『ユリアはあくまで、この世界の子だ。異なる世界のものの干渉を詠むことはできなかった』

 

まるで、異世界から誰かが来るかのような口ぶりだ。そう思ったけれど、それだったら、レプリカだけじゃない、預言から外れた存在がいるってことだろう?

俺はその可能性に縋った。

 

「行く、やるよ、ローレライ! ローレライの開放、頑張るから!」

『……うむ。ならば、行け』

 

俺はそこで完全に意識を失う。

直前のローレライの言葉は聞き取れなかった。

 

 

 

 

 

 

『なんでっ……どうして俺なんだ、答えろローレライっ!! なんで、なんであいつが――!! うああああああああっ!!』

 

誰かの絶叫を聞いて、俺は目を覚ました。

薄暗いそこは、すぐにわかった。コーラル城だ。

 

目の前には、ヴァンと、そして。

 

アッシュが、いた。

 

「これが、お前からすべてを奪うレプリカだ。憎みなさい」

「……」

 

ヴァン師匠の言葉にアッシュは答えず。ヴァン師匠に、俺とこいつだけにしろ、と言って、ヴァン師匠を叩き出して、俺と2人きりになった。

アッシュだ。

生きている。

 

「あーう……」

 

名前を呼びたかったけど、俺にはまだ無理らしい。悲しくなった。

ふと、アッシュの手が俺の頭にのせられた。

 

「?」

「……お前が、俺の、半身、なのか?」

「!」

 

俺は目を見開いてしまっただろう。アッシュがこんなことを言うなんてありえないと思った。そしてふと、何かの干渉を受けるのだということを思い出し、ふにゃっと笑った。

笑えた。

そう思ったけれど、アッシュが今度は驚愕に目を見開いた。

その手で俺の頬を包んでくれて、ああくそ、なんでこんな、と言う。

どんな顔をしてしまったのだろうか。

 

「なんでそんな顔、」

 

アッシュが表情を歪める。アッシュ、俺を、憎んでいないのだろうか。

“前回”は、俺は記憶があるのは生まれて半年くらい経ってからだからなぁ。

 

俺はアッシュに思い切って笑いかけた。

俺と同じ顔。

でも、俺の顔じゃない。

大切な、最後に喪ってしまった、大切な、本来いるべき場所を俺に奪われて、でも最後は俺を認めてくれた人。

 

「……ルーク。この名前は、お前にやる。お前はルークだ。ルーク・フォン・ファブレ」

「あ……?」

 

アッシュは俺の頭を撫でて、立ち上がる。もう、行っちゃうの。

アッシュは小さな紙を俺に渡してきた。中には硬いものがある。

 

「俺たちが立ち去ったら、中身を握っておけ。じゃあな、ルーク」

 

アッシュはそう言って立ち去った。ヴァンは近くにはいなかったらしい。

その後俺は、ファブレ家の人間たちに発見された。

 

ガイがいた。俺の完全同位体であるアッシュは俺のように記憶があるわけではなさそうだった。完全同位体でもないのに、ガイが覚えてるわけ、ない……な。

そう思って、やばい、と思った。

 

俺、もう、ガイのカースロット掛かった状態みたいなの嫌だよ。気付かずになんていられない。ガイとまた親友になれるかどうかわからない、怖い。

と、そこに、俺は見覚えのある顔の人を見つけた。

 

メイド姿だけれど、その金髪、青い目、ガイと同じカラーリングのその女性は、俺が、レムの塔で会った、ガイの、姉――。

そんな、ホド戦争が無かったなんてことはないだろうし、じゃあどうしてここに彼女がいるの。

 

俺のことをルークルークと呼ぶ周りの人たち、ガイとマリィベルさんは少し後ろで俺を見ている。その横に金髪赤目の珍しいカラーリングの少年がいた。

俺の視線が彼らで止まったことに気付いたのは、さらに後ろにいた母上だった。

 

「皆、下がりなさい。ガイ、マリー、ギル」

「「「はい」」」

 

俺の周りを囲んでしまっていた人たちを払って、3人が俺の目の前まで出てきた。

まず、ギル、と呼ばれた、まったく見覚えのない少年が俺の手を取った。俺の手の甲に、赤い模様があった。

 

「……間違いありませんね」

「俺のと似てるな」

「アーチャーの令呪です」

 

この赤い模様なんか知ってるのかな。レイジュ?何それ?

 

「ルーク。俺だよ。ほら」

 

とんとん、と俺はガイが揺らした剣に目を見開いた。

何でガイがそれを差しているんだ。

宝剣ガルディオス。

 

「が、い……」

「おう」

「がいー!」

 

俺はほっとして泣き出してしまった。泣いて泣いて、ガイに泣きついて、マリィベルさんとギルという少年は困ったように笑っていた。

泣き止んで、落ち着いたら、母上が近づいてきた。父上も一緒だ。

 

「ルーク……あなたが、ルークなのですね」

「……」

 

母上と呼ぶことができるほど、俺はまだ呂律が回らない。だからといって、シュザンヌ様と呼ぶこともできはしないのだけれど。

 

「ルーク……いえ、これからはアッシュだと言っていましたけれど……あなたの兄がね、あなたは半身なんだって言って、会うのが楽しみだって、手紙に書き連ねていたのですよ。ああ、言っても伝わってないのかしら……?」

「いいえシュザンヌ様。大丈夫です、ちゃんと伝わっています。呂律が回らず、何も言えずにいるだけですよ」

 

母上の言葉に、ガイが言う。母上はそっと俺の頬を両手で包み込んでくれた。

温かい。

 

「よかった……ルーク」

 

彼女は俺の知っている母上ではない。でも、同じものを感じる。だって、過去の母上の姿なのだから。

俺ははっとして、アッシュから渡された紙の中身を取り出した。中に入っていたのは、赤い宝石のペンダント。

 

「間違いなくなったな」

「そうですね」

「皆さん、ファブレ邸へ戻りますよ。さあルーク、行きましょう。これからあなたの家になるところへ」

 

俺はペンダントをガイの手で着けられて、ファブレ邸へと向かった。

 




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逆行② レプリカルーク編2

あルェー?
エミヤすら誰コレになってきたなあ。
やっとこエミヤ登場。

タグ修正しました。
この話はアクゼリュスまですっ飛ばしすっ飛ばしで行きます。そしていろいろ出張って来ます。

しばらく更新できそうにないので2話投稿します。


さて。

状況を整理しようと思う。

 

まず、俺の世話役にはガイが選ばれた。その補助としてマリィベルさん――今はマリーと名乗っているそうだ――がついた。

ギルはギルガメッシュといい、ガイの“サーヴァント”だそうである。本当は大きい方の姿だとか言っていたけれど、見せてもらったら昔の俺を思い出して泣きそうになった。うん。

 

誰か説明くれ。

何があって何がどうなってこうなった。

 

ローレライからの干渉はないし、ガイは宝剣ガルディオスまた飾ってあるところでよくマリーさんと一緒に礼してるし。ペールも一緒だったりする。

 

だから、ガイを呼び出した。

状況の説明が欲しいのだ。

 

「失礼します、ガイです」

「入れ」

 

ガイを室内に入れ、鍵を掛けさせた。

俺はなんとか会話は普通にできるようになった。歩けるし、走れる。もう剣を振っても大丈夫だけれど、流石にまだ、ちょっとね?

 

「ガイ……改めて聞くよ。ピオニー陛下のフルネーム、ペットは?」

「はっはっは。そう来たか。ピオニー・ウパラ・マルクト9世陛下、ペットはブウサギ、お気に入りはルークだ」

 

間違いない、ガイだ。俺の知ってるガイだった。

 

「ガイ~!」

「おーおー、どうしたんだよルーク」

「だって、なんか目ぇ覚めたらコーラル城だし、アッシュ変だしでもヴァン師匠変わってないし、母上変だしマリィベルさん生きてるし知らない奴いるしぃ」

 

矢継ぎ早に混乱した原因を話すと、ガイはにっと笑ってギル、と小さく彼の名を呼んだ。

 

「はい、来ましたよ」

「ルークに改めて状況の説明をしようと思う。手伝ってくれ」

「はい」

 

ギルはにっこりと笑って、椅子に座った。ガイが立ってるせいだけど。

 

「そうだな、ルーク、まず、何から聞きたい」

「……うーん、じゃあ、とりあえず、アッシュがおかしくなったのはなんでか知りたいな」

「そうだなー……」

 

ガイが説明してくれたのは、驚けばいいのか、喜べばいいのか、よくわからないことだった。

 

まず、ガイの状況説明からだった。

ガイは、俺がローレライを開放した後の世界を生きて、死んだのだそうだ。

子供や孫にも恵まれたとのことだった。ティアはさすがに独身のままとはいかず、子供は生まれたのだそうだ。

ちゃんとアッシュは帰ってきて、ナタリアと結婚したのだとか。子供にも恵まれたって。

 

アニスとかフローリアンとか、ジェイドとかミュウとか、皆各々の持ち場に戻って暮らしていたのだそうだが、子供が独り立ちするくらいになったころ、一番身軽になったガイがさっさと旅に出た。その後、皆ぞろぞろと集まったようだ。

アッシュの中にはやっぱり俺の記憶が残っていたようで、アッシュはずっと混乱していたようだ。すまなかったと思う。

 

ただ、皆で世界をまた巡って、旅が終わるころ、フローリアンが乖離した。兄弟たちのところで笑っていると良い、とアニスが言っていたようだ。

そののち、ガイとティアを残し、他のパーティメンバーはアッシュを含めて皆死んでしまったようだ。ちゃんと寿命だったんだぞ、アニス以外は、とガイが言った。

 

そして、ガイは、ガイ自身が死んだ、と思ったら、3歳の誕生日にまでぶっ飛んでいた、と。

おーけい理解した。

 

「ごめんガイ、俺のせいだそれ」

「やっぱローレライ絡みか?」

「うん、俺が、アッシュの横で、皆ともっと、生きてたいって願ったから」

「よし、ルークは生きていたいんだな?」

「うん」

 

生まれてすぐが生存本能が強いというけれど、まさしくそうだと思う。でも半分くらいはきっと、ガイがいるからだ。

たぶん、俺だけだったら、きっと、アッシュを死なせない、って考えて、孤独になる道を選んだ気がする。

 

結局、こちらに戻ってきたのは今のところガイだけで、でもアッシュやナタリアは何やら夢という形で“前回”のことが記憶にあるらしい。

理解できた。アッシュは俺とアッシュの記憶を混同してみているんだな。

 

「ところで、この令呪のサーヴァントは呼べるか?」

「どうやって呼ぶの?」

「アーチャー、と呼べば現界してくるはずです」

 

ギルの言葉に、俺はアーチャー、と呼んだ。赤い模様、令呪が光って、目の前に、色黒、白髪頭の、黒い鎧と赤い外套を身に着けた男が現れた。

 

「サーヴァントアーチャー、現界した」

 

おお、とガイが感嘆の声を漏らす。

アーチャー、は俺に問いかけた。

 

「君が私のマスターか?」

 

はい、と答えていた。

アーチャー、大きいなあ、ヴァン師匠くらいあるかも。

あれ、でもアーチャーって弓兵って意味じゃね。ギルガメッシュは名前なのにアーチャーはアーチャーなの?

 

「む……ギルガメッシュ、これは名を言った方が?」

「ええ、偽名は彼らにとって失礼にあたるでしょうね。そして、彼が我々の護衛対象の片割れですよ」

「うむ、了解した」

 

アーチャーはベッドに座っている俺に目線を合わせるために床に膝をついた。

 

「私は、エミヤという。エミヤシロウだ。エミヤと呼んでくれたまえ」

「ルーク。ルーク・フォン・ファブレだ」

 

恐らく、ローレライの言っていた、異なる世界の干渉者、なのだろう、彼らサーヴァント、とやらは。俺の手の甲にあるのと似たような模様が、ガイの手にもあった。これが令呪、サーヴァントへの強制命令権を持つモノで、3回しか使えない。

 

「エミヤ、俺はガイラルディア・ガラン・ガルディオス。今はガイ・セシルと名乗っている。マルクト人だ」

「ふむ……マルクトというと、この国の敵国ではないかね?」

「ああ、諸事情でこっちに親戚がいたから頼ってきたんだが、まあ。お取り潰しになっちゃったというか」

「ああ……貴族社会か」

 

何やらエミヤが遠い目をする。そして、ギルの方を見る。

 

「ランサーは?」

「わかりません。一番接近戦に向いているあの青いタイツのお兄さんにいてもらわないと困るのに」

 

なんだよそれ、青いタイツのお兄さんって。なんか急に会ってみたくなったぞ。しかも、この2人、どうやら中・後衛らしい。

 

「ルーク、今のランサーなんだがな、俺は、ピオニー陛下が怪しいと思う」

「え? ピオニー陛下? なんで?」

「実はな、俺たちがキムラスカへ行く、って時にちょっといろいろ手続きをしてきてるんだが、返信がブウサギの足型。たかが伯爵家の跡取り息子だった奴の手紙に対して」

「確かに、怪しい」

 

怪しすぎる。というか、その手紙よく届いたな。

 

「ランサーは占いも可能だろう、私たちが誰をマスターとするか占ってあらかじめ目星をつけ、それらの関わりのある事象があればその、ピオニー陛下、に報告するようにした、といったところではないだろうか」

「エミヤさんが仮定でモノを語るのは珍しいですね」

「あれと関わるとそれくらいせねば私ではついていけないのだよ」

 

まったくよくわからない俺に、エミヤさんは言った。

 

「マスター。本当は、私はランサーこそ君の許に来ると思っていたのだ。なのに、私が来てしまった」

「どうして……? なんでそんなこと、言うんだよ?」

「……私は、君が生まれて、この令呪が君に現れたその瞬間から、君の記憶を見ているのだ。そこで、君の力に私如きが成れるのか、そこに疑問すら抱いてしまった」

 

あ、この人卑屈だ。

類友になっちゃうのかな。

 

「エミヤさん、そりゃあそうかもしれませんけど、あなたまで卑屈にならないでください。こちらもこれから発揮されるであろうあなたのマスターの卑屈っぷりをガイの記憶から読み取って悶絶してるんですから」

「子ギルが悶絶だと……? なんでさ……」

 

エミヤさんは頭を抱えた。

 

「ルーク、とりあえず、俺たちのことをしっかり彼らに説明するぞ。彼らは俺たちのサーヴァント、基本的には裏切らずにいてくれるだろうからな」

「信用してください! 僕を! 大きい方が信用無いのはわかりますが!」

「子ギル、言うな。仕方がない、あの性格だ」

 

と、ふっと俺の意識の片隅に、“青いタイツのお兄さん”が出現した。

どうやら、この人か。

青い髪、赤い瞳。紅の槍を持って、すごく動きやすそうな姿。

憧れみたいな感覚もある。でも、その人は――

 

「マスター!」

「っ?」

「それ以上見るな、見ないでくれ」

 

エミヤさんが言った瞬間に、俺の中から青い髪、赤い瞳のその人は掻き消えた。何やらよろしくないことがあったらしい。

大きい方のギルだったら問答無用で話してくれたんだろうなあ。

 




やっと、やっとここまで来た……

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サーヴァント・エミヤ

シュザンヌ様最強説が自分の中で浮上してまいりました。
原作でのシュザンヌ様、強いなあ……。


私は息を吐いた。出会ってそうそうこの態度はさすがにまずいことをちゃんと理解はしている、だが、どうしても。

アラヤ。

私があなたの奴隷であることは自覚もあるが、なんだってこんな世界へと飛ばしたんだ。いや、それは構わない。構わないんだ。

 

私の答えではない、あの分霊の答えを私は知っている、そしてそれをなぞったものである。私の英霊としての身本体がこちらへ来ていると考えてよかろう。

そんな私に、この少年の手助けをせよというのだな。

 

しかし、なぜ私の側にマスターの記憶が流れ込んできていたのかが疑問ではあった。

理解するには情報が足りない。

 

「ガイ、といったかね」

「おう」

「マスター、ガイ。マスターは、一体何だ?」

「「!」」

 

その情報は行ってないんだな、とガイは言う。マスターはフッと笑った。

 

「俺、レプリカなんだ。レプリカっていうのは、フォミクリーっていう技術で作られる、複製品。俺は生体フォミクリーで作られた人間のレプリカ」

「なっ!? 人の命を何だとっ……!」

 

いかん、つい熱くなった。マスターが自嘲気味に笑った。

ん?

 

「エミヤ、それでも俺、生まれてよかったって思ってるんだ。エミヤは認められないかもしれないけれど」

「そんなことはない!」

 

私は慌ててマスターの言葉を否定する。

人工的に作られた命を認めないなんてそんなことはない、私にはそんなことはできないしそもそもする気がない!

 

「ルーク、大丈夫ですよ。エミヤさんの姉も、ホムンクルスという、人工生命体の一種なんです」

「へっ?」

「ああ、マスター。私はレプリカの命を否定したりしない。生まれた命は皆、否定などされてはならない」

 

いきなりのことで驚いたものの、我がマスターは人間ではなかった。

だがそんなこと今更だ。

イリヤスフィールや凛、桜を思い出した。

無論、あの出来損ないの私自身も。

 

「……あり、がと」

 

ああ、そんな顔をするな。

私が見たのが正しいならば、マスターはまだ7年しか生きていないのだ。そして、死んだのだ。世界を守って。

 

アラヤ。

私にどうせよというのだ。

私よりもよっぽど彼の方が。ああ、なんて情けない。だが、私の進んだ道よりも、世界が違うとはいえ、彼の方がいいと思ってしまった。だが私は自分が選んだ道を後悔などしていない。もう何も。

 

「マスター、大丈夫だ。私にはまだ何を手伝えるかはわからん。だが、できる限りの補助を行う」

「うん……あと、ルークでいいよ」

「マスター命令とあらば」

「うーん……命令っていうより、お願い」

「了解した」

 

凛との会話を思い出した。彼女ともこうだったな。

それからしばらく現状把握のためにギルガメッシュとも情報交換をして、話は終わった。

 

はずだった。

 

 

 

 

「まあ、あなたがルークのサーヴァント、なのですね」

「はい。エミヤと申します」

 

な ぜ こ う な っ た。

私は現在、ルークの母、シュザンヌという女性と面会しているのだが。

 

「ガイとともに、あなたをルークの世話係に任命します!」

「……謹んで拝命いたします」

 

な ん で さ。

王族相手ということでこちらが下手に出ているから、ではない。断じて違うのだ。

何かこの女性からは感じてしまうものがある。

そう、なんというか……とても懐かしい感覚だ。

 

「じゃあルーク、お部屋自由に使っていいからね」

「はーい」

 

なぜこう、微笑んでいるだけなのに私たちに対しての強制力が強いんだこの女性は。ギルガメッシュも似たような反応してたな、とガイが言っていた。

ラムダス殿と話し合った結果、私は執事服を着ることとなった。

 

「ぶはっ、エミヤお前執事服似合いすぎだろ!」

「ふむ。だがやはり着慣れている分やりやすそうだ。ルークの護衛は任せるぞ、ガイ」

「任せとけ。ついでだルーク、ヴァンをゆっくり弄り倒そうじゃないか」

「師匠に何するんだよ、ガイ……」

 

ルークの部屋へと戻り、着替え、小さなルークを見て思った。

私が始まったのも、これくらいの歳だった。

似たような道を進み、得たものが全く違った私とルーク。私の姿を見たら彼はなんというだろうか。

 

彼の記憶を見て知った。

私には居場所があった。それを自分の意思で捨てて進んだのだ。温かい帰って来るべき場所があったにもかかわらず、顧みず、突き進んで、死んでいったのだ。裏切られて死んだのだ、それ自体に悔いはない、だが、裏切られて、それでもその仲間に縋って進んでいって最後に死んでいった彼は?

 

世界に死ねと言われた彼は?

 

死に急ぎだの胸糞悪い自己犠牲精神の塊だの言われていた私ですらこの歳まで生きているのに。彼は幾つだった?

 

感傷的になるのは、彼がマスターであるせいか。

構わん、悩むな。

私は彼を守ろう。

手段は選ばない。

 

だからヴァンという人物は私の中では既に敵だ。だがまだ行動を起こしていないのだ。行動を起こした時、引導を渡してやろう。

彼の思念は私に流れ込んでいる。

 

「ルーク、今一つ問う」

「うん?」

「君は、ヴァンを殺す気はないのかね」

「……うん。俺は、ヴァン先生にも生きていてほしい。まだ、諦めたくは、ないんだ」

 

諦めが悪いのも、同じか。

ふっ、私と彼を重ねてみるなど失礼極まりないが、似ていると思ってしまった。

私は、私がそんな風に生きるのは別に構わない。

だが、彼にそんな表情をこの先させることを、私自身に許さない。

 

「ルーク、おかしなことを聞いてしまったようだな。ルークのやりたいことのために私を使ってくれ」

「うん、そうする」

 

ルークがようやく、笑った。

私はようやく、ほっと息を吐いた。

子供の扱いには慣れない。なんだってこんな役に立ちそうなときにはいないんだ、あの狗は。大馬鹿者、ホットドックでも持って行ってやろうか、嫌がらせに。

 

「一番役に立ちそうなサーヴァントがここにいなくて何がサーヴァントですか、青いタイツのお兄さん酷いですよね」

 

子ギルの辛辣な、かつ私も思っていたことを聞いて、私は答えた。

 

「そう言うな、子ギル。ガイの先ほどの話を鑑みるに、マルクト側にランサーがいる可能性は高い。ルークが最後に生まれるのだろう?」

「ああ」

「うん」

 

ガイとルークの答えは肯定だった。私は情報を改めて整理する。

 

「子ギル、少し寂しい思いをさせることになるが、英雄王に代わってくれないか」

「あ、はい」

 

子ギルにギルガメッシュに代わってもらい、用件を伝える。

 

「何の用だ、贋作者」

「英雄王、エルキドゥにマルクト側へ行ってもらうことはできるだろうか」

「……貴様、覚悟はあるか……?」

 

うむ、やはりキレられてしまったな。

 

「もしもマルクトにクー・フーリンがいる場合、エルキドゥならばしっかり探知もしてくれると思ったのだ。彼はかなりの霊力を持ち合わせているはずだからな」

「それだけか」

「……ルークの記憶にいた、魔物に育てられたという少女が気になった」

「! アリエッタか……」

 

ほう、あの桃色の髪の少女はアリエッタというのか。

小さなアリア、か。

 

「アリエッタのこと、どこまで……?」

「……ルークたちを、“ママの仇”と言っているところだ」

「……うん」

 

ルークとガイは彼女の話を皮切りにこれからすべてが動くという5年後の話をしてくれた。

まず、この世界にあるローレライ教団とその本拠地ダアトについての知識はサポートとして送られてきているので問題ない。

 

ダアトにいる、導師イオン。彼が5年後、亡くなる。まずそこが問題点らしい。

アリエッタは導師イオンの導師守護役ですぐ傍にずっと居たらしい。だが、5年後、アリエッタはイオンと別れることになる。イオンはその後、レプリカと入れ替わり、オリジナルイオンは死に、7番目のレプリカイオンがルークたちと冒険をし、最終決戦前に、亡くなった。アリエッタは最期までイオンがレプリカと入れ替わったことに気付かず、イオンの死を知らず、そして死んでしまった。

ルークの仲間が殺したらしい。

 

「ルークは、彼女も救いたいんだな?」

「うん……アリエッタだけじゃないんだ。イオンだって、オリジナルイオンだって、シンクだって! シンクは絶対に、なんとしても、生き延びたいって言わせてやるんだ」

 

ルークがそう言った時、私は息をのんだ。

ギルガメッシュが私の方をじっと見ていた。

 

 

 

救うことは、命を救うことと考えていた。

違うのだろうか。

ルークを見ていると、たった今会ったばかりだからということ以前に、ずっとずっと、遠くの存在のように思えてきた。

そして理解した。

 

ルーク、彼は、英雄なのだ。

私のような、正義の味方になりたいと理想を追い求め続けた者の慣れの果てが、思うのだ。

この世界を救った記憶を持つ、これからこの世界を救う者たち。

私は、遠い、煌く世界を見ているかのようだった。

 




正義の味方と英雄。
戻れなかった温かい居場所。
贋作品と複製品。
借り物の夢と押し付けられた責任。
背負ったのは世界。

結構エミヤとルークは似てるところがあると思います。

この主従、ちゃんと幸せになってくれるかな……
作者は槍弓コンビとアシュルクガイトリオが仲が良ければこいつらは救われると思っている。精神面だけの話。

肉体的に救われないからレプリカって怖いんですよね。


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逆行③ オリジナルイオン編

お久しぶりです。戻ってまいりました、黄昏翠玉です。
いろいろと非常に悩んでます。書き溜めはしたんですが。
話がぶっ飛びぶっ飛びになるかと思いますが、お付き合いください。

指摘を受けた分、修正しました。


結局大きい方の僕はエルキドゥをマルクトへ派遣した。エルキドゥが獣の言葉を理解できることをエミヤさんが言った途端、ルークさんが縋り付いてきたのだ。ソーサラーリングとかいうものを使うと、ちゃんと言葉が分かるらしいのだけれど、それでは間に合わない、と言っていた。

曰く、旅が始まるとライガクイーンとは話をして直後に戦闘になり、軍人のぶっ放した譜術で殺してしまうらしい。

 

それからエミヤがお菓子を作ったらルークが気に入ってしまったり、そのせいでお抱えコックが泣く羽目になったり、ナタリア姫が料理を教えろとエミヤさんに詰め寄ったり、ガイとマリィベルさんがいろいろとエミヤさんに教わっているのを見ていた。

 

「ガイ、ルークの記憶を見ていた限り、君の王族に対してのあるまじき態度はすべて矯正できたはずだ。これで、2年後、へまをしないことを祈るぞ。私は君を擁護したりしないからな」

「ああ、わかってる。もう大丈夫だ、むしろ今はティアとヴァンを見逃すことができるかどうか、あと、ジェイドの旦那も、アニスもな」

 

パーティに問題あり過ぎだろう。

それを助長してましたとガイは言っていたから、まあ、そもそも、復讐対象と考えていたのだろうから、まあ仕方なかったのだろう。

 

今日はルークから呼び出されている。

いったい何事かと思っていたのだけれど、どうやら、ダアトからイオンさんがバチカルへ来ているらしい。

イオンさんは謁見に来る。そのタイミングで僕たちとうまく仲良くする気らしい。

 

ということで、僕らは登城することになった。

 

「導師の予定をどうにか合わせられたらなぁ……」

 

などと言われてこっち見られたので、エミヤさんと一緒にインゴベルト陛下のところへ向かった。

エミヤさんの、予定を合わせるよりも、先に国王に話を通して、その場で手短に約束を取り付ける方が手っ取り早かろうという考えからだ。

 

結果的にはうまくいった。僕とエミヤさんが来たことでナタリア姫が事情を察してくれたのだ。レプリカイオンとの旅は彼女の夢にもあったらしい。

夢の話はガイ、オリジナルルークことアッシュ、ナタリアが僕も交えて王城で関係者に話を通している。夢で見た、とナタリア姫が言えば大体は通るようになっているのだ。いやあ、ここまで来るのに苦労しました。

 

「導師イオンとの会談の時間が欲しいのでしょう?」

「はい。夢でも見ておられるかと思いますが、すでに導師イオンは自身の預言を知っているはず。時間は、ありません」

 

リミットは、3年だ。

早く、会わなくちゃいけなかった。でも、ヴァンがルークを騙せていると感じるまでに、そこからルークに信頼されていることを確信するまでに、結構時間がかかった。

メイドたちにも、ガイたちにも、皆から少しよそよそしくされていて、ルークは疎外感を感じている、という演技を屋敷全体でやり続けたこの2年、本当に辛かった。

 

エミヤさんがそういう態度が得意なので(むしろ素だが)こちらは口調さえ変えて似たような態度をとればよかった。まあ、エミヤさんはきっちり叱るところは然り、わからんとルークが年相応に癇癪を起こせばしっかり手取り足取り教えるタイプなので問題はなかった。

 

ルーク曰く、「わからねー所をわからねーことを受け止めてくれるから皮肉は気にしない」だそうだ。“前回”がどれだけ辛かったかがわかるってものだ。家庭教師に対して、ルークは赤ん坊であり、夢で急によくわからない記憶を見ているということを伝え、一から教え始めてもらうのだった。

 

まあ、ルークはどちらかというと剣術と譜術と、そういったことの方を重点的にやっていた。理由を聞いた時エミヤさんがぶち切れてワーワー喚いて、ルークが泣いて、こんな重責は子供の背負うものじゃない、世界は、国は、何をやっていたんだとサーヴァントの力で地面に大穴を開けてしまったこともあったな。いや、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)を本気で王城に撃とうとしてた。

 

そうこうしていて、僕らは導師イオンの謁見の場に同席を許され、導師イオンとアリエッタなる少女を見ることになった。

王城内には連れてきていない、ということだけれど、フレスベルグとライガに乗っていたそうだ。

 

エルキドゥは何も言ってこないけれど、仕方ないとも思っている。

実は、どうやらギルガメッシュは英霊としての出力が巨大すぎて、うまくバックアップ・サポートを受けることができていないらしい。エルキドゥはギルガメッシュを介して呼んでいるとはいえ、長く現界しているのなら、どこかにマスターを得たと考えるべきだ。マルクト側にいるのだろうか。ともかく、ギルガメッシュに並ぶのだから、エルキドゥだってきちんとしたサポートは受けることができていないんだろう。

 

考え事をいろいろとしているうちに謁見は終わって、インゴベルト陛下の計らいでルークたちと導師イオン、アリエッタとのお茶会が開かれることになった。

導師イオンは首を傾げていた。

 

そして僕は見てしまった!

 

導師イオン――彼は笑顔でお茶会の誘いを受けた。

そして、現在。

 

 

 

 

「改めて、初めまして。イオンです」

「ルーク・フォン・ファブレです。初めまして、導師イオン」

「ガイ・セシルと申します。お初にお目にかかります、導師イオン」

「アリエッタ、です……」

 

イオン、ちっちゃい。導師になって1年だから、9歳かな?

エミヤさんが紅茶を淹れてイオン、アリエッタ、ガイ、ルークに出す。

エミヤさんもちゃんと気付いてはいるようだった。

 

「……導師イオン。会って早々、このような話で申し訳ないのですが……」

「畏まらなくていいですよ。僕は今、初めてのことが多くて驚いています」

 

イオン側から話題を振ってきた。なんか、貫禄ある。何故だ。そんな目は9歳の子供がしていい目じゃない気がするんですが。

 

「そちらの名乗らなかった2人は?」

「……彼らは俺たちのサーヴァントです」

「……彼の話は本当だった、ということですね」

「彼?」

 

イオンの言葉にルークが問い返す。

 

「はい、アンリマユと名乗りました。あなたがたにも、令呪が?」

「あ、はい」

「はい」

 

イオンが手の甲を見せると、ルークとガイも慌てて手の甲の令呪を見せる。

間違いない、赤い痣のようなそれ。

なぜエクストラクラスまで。

いや、アンリマユなら来てもおかしくはないんでしょうけれど。聖杯だし。

 

「どっちもアーチャーなんですね」

「金髪の方がギルガメッシュ、白髪の方がエミヤです」

「エミヤ、もしかしてアンリの兄弟か何かですか? そっくりなんですけど」

「そのような事実はないが、アンリが私に似ていたということは、おそらく一番ましな状態で会ったということですね。彼は本来決まった姿を持たないが、いつかどこかのかつての私を器にした時の姿でしょう」

 

驚愕。

なぜアンリマユまで来ているのだろうか?

3人だけじゃなかったのか?

いや、エクストラクラスであるが故のことというのもあるかもしれないけれど。

でも、そっか、そうだよな、衛宮士郎を殻として被っているアンリマユと僕らの分霊は面識がある。一番分かりやすい、あくまでも、アンリマユの中で分かりやすいタイプ、ということ。

 

「アンリ曰く、あなた方は夢を見ている、と。未来のことを夢に見る、と」

「……夢、と言っていいのかはわかりませんが、これから起こることを俺たちは“知って”ます」

「じゃあ、僕があとどれくらい保つかも知っていますね?」

「……はい」

 

イオンとルークの会話にアリエッタも混じることができずにいる。アリエッタは記憶がなくてよかったかもしれない。問答無用でルークに飛び掛かっていたかもしれない。

ガイは静観している。

 

「これで分かったことがあります」

「なんですか?」

「令呪を持っている人は、“逆行状態”にある、ということです」

 

ルークはそう言って、儚い笑みを浮かべた。

 

「あなたに会えて、本当によかった」

「……ルーク?」

「俺は、ルークのレプリカなんです。“前回”はえらく嫌われてました」

「……」

 

イオンが静かになる。レプリカ。その言葉を聞いたとたんに表情から笑みが消えた。

アリエッタは首を傾げている。

 

「アリエッタ、すまないけれど、席をはずしてくれないか」

「? はい、です……」

 

護衛のことは気にしなくていいよ、と付け足してアリエッタを追い出したイオンは、ルークに問う。

 

「僕のレプリカたちはどうだった?」

「とても優しかった。7番目のレプリカイオンは、とても純粋な人だった。シンクはひねくれてた。自分は空っぽだって、価値なんて無いんだって、世界に復讐してやるって言って死んでいった。フローリアンは、預言のない世界に行けたみたい。ごめん、そこはもう、俺も死んでたからわからないや」

「!」

 

イオンは眉根を寄せた。

 

「預言は、無くなったんだ?」

「うん。ヴァンもモースも倒したよ」

 

多くの犠牲の上に彼らは立っていた。ガイがうつむいた。思い出しているのだろう。

 

「……僕のレプリカ、3人も残ってたんだね」

「うん……」

「出来損ない、っていう考えはまだ僕の中では変わってないんだけど、君も出来損ないだったの?」

「……うん。超振動の力はちょっと劣化してたみたいだから」

『むしろそっちの方がよかったんじゃねーの?』

「!?」

 

ああ、やっぱりいたのか。

いや、少し考えればわかることだ。

彼もまた、世界の中核に近いところにいる存在なのだから。

つまり、アサシンと真アサシン、アヴェンジャー、彼らも含めて本来は10人あの場にいなければならなかったんだ。エルキドゥがいるから、11人いた方が良かったのかもなあ。

 

「アンリ、こちらに来ていたんだな」

『まあなー』

「出てきて」

『はいよー』

 

ふわ、と、黒い肌に赤と黒の文様の刻まれた、黒い髪、金色の目の、赤いバンダナと外套のみの半裸少年が出現。

 

投影開始(トレース・オン)

「魔力無駄じゃねえ?」

「半裸はだめだ」

 

アンリマユに適当なコートを投影して渡したエミヤさんは、ハッとなったようだった。

勢いで魔術を使ったのだ。

 

「譜術じゃねー……」

「それがお前らの言ってた魔術ってやつか。エミヤって魔術師だったんだな」

「い、いや、私は、その……出来損ないというか、魔術師には向かなかったというか」

 

ぽん、とアンリマユがエミヤさんの肩に手を置いた。

 

「そんだけ盛大に使っといて魔術師じゃないって、そりゃないでしょうよ」

 

――贋作者(フェイカー)、こっちへ来てからポカを踏むことが多くなったな。

アンタに言われたら相当だな、うん。

 




ブックマークが、増えている……だと。
ありがとうございます。


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イオンとこれから

ブックマーク50件突破。ありがとうございます。泣いて喜んでます。
ああ、彼らの日常をチマチマと書いて行きたいルークよ幸せになれ……



では、どうぞ。


ルークとガイとイオンによる話し合いの結果、やはりイオンはレプリカを作ることにしたようだった。不治の病であるイオンは、絶対に死んでしまうのだという。

 

人の救い方はさまざまであることは知っていた。

私はそれが戦うことだっただけだ。

医者には医者の救い方がある。

 

ルークは、シンクを救いたいと言った。多分あの子だな、とイオンが言っていたので、おそらく会ったことはあったのだろう。令呪を持つ3人は記憶がある。そこでイオンが恐るべきことを言った。

 

「ところで、火山に突き落とした僕のレプリカたちなんですが、音素乖離を起こしていたのは1体もいませんでした」

 

後に私はこの言葉の意味を知ることになるのだが、私は火山に突き落としたというフレーズの方で固まってしまった。何と非情なことか、と。だが、うなずける話である。彼はレプリカのことを“出来損ない”と呼んだのだから。

 

「これだけ預言にいないメンツがいるので、今回はいろいろと皆さんのサポートをして、できる限り7番目に引き継ぎたいと思います」

「……うん」

「……」

 

ガイが子ギルを見ていた。確かに、【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】ならば、あるかもしれない。薬の類。うん、あると信じよう。3年後までに探し出せばいいだけなのである。である。

ガイに令呪を消費してもらうことになるかもしれないが、まあ、子ギルが探せばいいんじゃないのかこれ。

 

「イオン、君は自分の死が預言に詠まれていると言っていたな」

「うん。預言によれば僕は12歳の時に死ぬ。3年後だよ。“前回”もその時に死んじゃったし」

「……他人の死に方にいろいろと言えるほど私はよい死に方をしたわけではないが、そっくりさんがいる状態で勘違いさせて死んでいくのはいかがなものかね」

「……アンリにも言われたよ、それ」

 

思考回路が似たのはどこかの分霊の記録で知っている。アンリマユも碌な死に方はしていなかったと思うのだが、まあいい。死なせなければいいのだ。

そこでふと、ルークの記憶にあるイオンとの会話を思い出した。

 

「ふむ、大体、居場所を奪われるの何のと言うのなら、最初から別の名前を付けてしまえばよかったものを」

「え?」

「シンク、フローリアン、イオンの3人がいたのだろう? そのイオンに別の名前を付けてしまえばよかったのだ。そうすればアリエッタはちゃんと受け入れただろうし、きっとレプリカイオンのイオンの方ももっとよく笑っていたかもしれない」

 

ルークの中にあるイオンの表情はいつもどこか困ったようなもの。もっと本当は別の表情をしていたのかもしれないが、これはおそらく自分をレプリカと知っているものの顔だったのだ。

 

「うーん……生まれてくることが分かっているのだから、全員名前考えておこうかな」

「それがよかろう」

 

アンリマユに目配せをする。アンリマユはガイとギルガメッシュを見て、うなずいた。

 

「アンリ、僕と彼らの間を取り持ってくれるかい」

「通信役ね、了解」

「3年後、ザレッホ火山へ向かって。きっとそこに皆いるはずだから」

「ああ」

 

イオンの立ち去る間際、イオンが我々にこう言った。

 

「エミヤ、ギル、ルーク、そしてガイ。君たちには、これからも会える気がする。僕のことは、イオンって呼んでいいよ」

 

こうして公式の場以外のところではイオンと呼ぶことを許可されたのだった。逆行しているとしても、年齢的にはまだ21歳くらいだろうか。

私は今日のために用意していたが残ってしまったお茶請けを袋に包んでアリエッタに持たせ、イオンや家族たちと食べるように言った。

 

残ったアンリマユをインゴベルト陛下に紹介し、イオンがルークとガイと同じようなものであったことを伝えると、アンリマユもカモフラージュのために公爵家の使用人に扮することになった。ちなみにアンリマユ曰く、人間を殺さない精神構造に最適化されて編まれたらしく、我々と同じく、特によくわからないが魔力で編まれたのではない、ということだけが分かっている状態となった。アンリマユによる人的被害は無くなったといっていいはずだ。

 

アンリマユは執事というよりもその辺で土いじりしてる方が性に合っている、とのことだったので、ペールにアンリマユを任せた。アンリマユは特に器用でもないからな、言ったら文句の一つでも言ってくるだろうか。

言ってこない気がするな。そのあたりが彼もぶっ壊れている気がする。真剣な表情でいろいろ言うのは、マスターがかかわった時だけだからな……主にバゼットか。

 

ペールとガイにご飯を作っているところを見たので、前言は撤回しておく。

 

ルークは帝王学等を学ぼうとはしない。意味がない、とルークは言っていた。

大爆発現象はどうしようもないと言われてしまった。

大爆発現象、つまりレプリカがオリジナルを補填し消えていく現象、と端的に表すそれは、7年後、アッシュと同調フォンスロットとやらを開くと急激に速度が上がっていくらしい。そのようなことしなければいいと進言してみたが、ルークはそちらの方が都合がいいので同調フォンスロットは開ける、とのことだった。閉めてやろう愚か者め。

 

まるで死にに行く準備を今からしているかのようだ、と呟いたら、子ギルが、そう思っているんでしょうね、と、悲しげな光を宿した目でルークを見て答えた。

 

あんな目はしてほしくないのだが、いかんせん専門知識まではサポートの範疇にないらしい。使えん聖杯だ。

だが、わかったことがある。

私の身体に解析をかけたところ、私の身体が音素のみで構成されていることが発覚した。

霊体化も問題なくできるため、やはり元素の構成を持つ肉体は持っていないようだ。

譜術で使用するのが音素だと言っていたので、魔力で構成している状態と変わらないのだろう。

 

しかし、驚きではある。

私たちはどうやら、レプリカとそう大差ないらしい。

まあ、これは仮物の肉体であることに変わりはないのでそんなものか、としか思わない。

このことは、そうだな。最後までレプリカであることを明かさなかったらしい7番目のイオンに倣って、しばらく隠しておくことにしよう。子ギルにも言い含めておいた。これでどちらかが離れていて“あの状態”を迎えても一人ではなくなるはずだ。

 

様々な要因が変化しているようなのでどこまで同じになるかはわからないが。

 




ほのぼのしたのを書きたい病です。
そしていよいよエミヤとアンリが誰こいつ状態になってきました。

誤字脱字、指摘、感想等、お待ちしています。


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逆行④ シンク編

お待たせしました(待っていただけていたのでしょうか?)
遅くなってすみません。2話投稿します。


目が、覚めた。

赤、赤、赤。

熱い。暑い。

ああ、ザレッホ火山かぁ。

 

って、ふざけんな。

何で僕ここにいるのさ。死んだはずでしょ。

 

辺りを見回すと、ここはやっぱりザレッホ火山で、僕と一緒に作られたレプリカたちがぼーっとしているのが見えた。

は、何それ?

2年前にこいつら死んだでしょ。突き落とされたでしょ。

 

辺りをいくら見回しても研究員の姿すら見つけられない。

まさか、置いていかれた?

いや別にどうでもいいけど、いたはずなのに。

現状が夢じゃない証拠に、僕は今ものすごく暑いと感じている。ああ、暑い、熱い。

 

ふと見た手の甲になんか変な模様みたいなものがあった。赤いそれ。

同じように、違う模様の描かれた手の奴がいた。

そいつは辺りを見回して、顔をしかめている。こいつ確か、3番目。

 

「ちょっと3番目」

「……3番目じゃなくて、フローリアンだもん。なーに?」

 

はあ?

何こいつ、“無垢な者”とか。あれ?

もしかしてもしかしなくてもこいつ、まさか??

 

「導師守護役の名前は?」

「アニスのこと? アニスがどうかしたの?」

 

やっぱり、こいつ最後まで残ってたレプリカだ!

って、音素帯から見てた記憶があるってことは、ローレライは解放されたのね。

 

「僕はシンク。お前、モースが飼ってたやつだろ?」

「糸目豚樽?」

「訳すなよ」

 

それで通じてる僕もどうかと思うけどさ。

 

「オリジナルが言ってた」

「え?」

 

僕は混乱した。

オリジナルが?

あの、レプリカを呪うように死んでいった被験者イオンが?

 

「皆の名前、考えたんだって言ってた。後で来てくれって言ってたよ」

 

これを見たらそう言い出した、と言って手の甲の模様を指すフローリアン。これに何か関係があるらしい。僕らのそれはちょっと似ているなあと思うところがあった。

モースもヴァンも、まだ来てはいない。

逃げるなら今の内だ。

 

「フローリアン」

「なあに、シンク」

「オリジナルのところへ行って、とっとと逃げよう。ところで、7番目にこれあったの?」

「ううん。なかったよ」

 

このマークはなかったのか。まあ、そっちの方が都合もいいけどさ。

 

まったく、音譜帯で僕を構成していた第七音素はすっかりルーク・フォン・ファブレの考え方が馴染んでしまっていて、フローリアンを置いてはいけないから死ぬのは却下で、しぶしぶオリジナルのところへ行くことになる。

 

と思っていたけれど、僕は気付いた、気付いてしまった、見ないようにしていたわけじゃなかったから余計に早く気づいてしまったのだ。

 

「うそ、でしょ」

 

消えかかっている。

名前を貰おうとしている4体のレプリカンイオンが、死のうとしている。嘘でしょ、待ってよ。なんで消えようとしてるのさ。何で何で何で。

 

「なんで乖離してるんだよ、そんな」

 

乖離が始まっていることを理解しているらしく、レプリカたちは震えていた。

 

どうしてこんなことに?

だって“前回”は消えなかったのに!!

消えなかったからザレッホ火山の火口から落とされたんだよ!?

 

そこで、答えに行きついた。

 

そうだ。

消えそうになっているんだ。

消えそうになっているから僕らはここに放置されているんだ。確かに、まだ僕らはうまく動けるほど体力もない。僕だけ強くてニューゲーム状態だけど。他の皆は奥の方に放置するだけで済むのだ。なんてことだ。

放置して、そのあとは見ていないっていうのが、ばからしいところだけれど。

 

彼らは消える。

だから、せめて。

 

「皆の名前、ちゃんと教えに行くからね」

 

消えてしまうまで彼らの傍にいなくちゃいけないと、そう思った。

フローリアンは泣いた。同じ顔で泣かないでよね。

 

その時、息切れ一つなく人間離れした速度で走り込んできた人影が2つあった。

一言で言うなら、金ぴかと、白くて黒くて赤い奴。

 

「間に合ったか!?」

「6人、話に聞いておったとおりだな」

 

金ぴかがそう言って、その姿を子供へと転じた。

なに、こいつら。

そいつらは近付いてくる。

 

「あんたら何者」

 

僕が鋭く声を発すると、赤い方が止まった。

 

「……ルーク・フォン・ファブレからの使いの者だ」

「ルーク……?」

 

フローリアンが反応した。

 

「ルークの知り合いなの?」

「ああ、ルークは私のマスターだ。……子ギル、頼む」

「はい」

 

子ギルと呼ばれた方(元金ぴか)は目を閉じた。

赤い方はゆっくりとフローリアンに近付いた。

 

「……君がフローリアンだな」

「うん。あっちがシンクだよ」

「そうか……」

 

そいつは僕の方を見て目を細めた。

と、僕はフローリアンが少し顔を引き攣らせたことに気付いた。

 

「フローリアン?」

 

赤い奴も気付いたらしい。

 

「……あれ?」

 

きら、きら。

緑色の光が、フローリアンの身体から。

嘘だろ、ふざけないでよね!!

なんなのさ次から次に!!

なんで消えそうになってるんだよ!!

 

「これ、は……?」

「僕、レプリカだから……」

「それは、知っている。そうではない。これは……乖離、というやつか?」

「……うん」

 

赤い奴が顔を引き攣らせる。聞いていない、って顔だ、そりゃそうだ、僕だってこのざまなのに!!

 

「ッ、くそ、アヴァロンを投影できればッ……!!」

 

何か打開策を過去には持っていたらしい赤い奴は子ギルとやらを見る。投影ってなに、アヴァロンって何。それは今はいい。

 

「あんたらのことは後だ。僕の兄弟を助けてよ」

 

僕にできることはない、まだ。

子ギルがまた金ぴかに戻って、何か酒瓶と杯をどこかから取り出した。何それ、どっから出したの。

 

「これを飲め」

 

少しずつ酒らしいそれを僕ら全員に飲ませた金ぴかと赤い奴は、それでも顔をしかめた。

 

「うまく馴染まんな」

「フローリアンとシンクは?」

「そちらは生き延びるだろう。だがあとの4人は諦めろ、贋作者(フェイカー)

「……ッ」

 

苦しげな顔をする赤い奴。贋作者(フェイカー)って。酷い名前だ。いや、名前じゃないんだろうけど。

 

「……」

 

僕は消えかかっている皆の手を握る。フローリアンも真似をする。

赤い奴と金ぴかも傍で見ていた。

どうせ、“前回”居なかった奴らのせいでこうなったに決まっている。つまり、兄弟を殺そうとしているのはこのデカブツ2人なのだろう。

 

別にいいよ。何も言わないよ。口には出さないよ、口にはね。

それに、恨めない。

憎めない。

 

赤い奴が、自分の家族が死ぬのかっていうような顔をしたから。

だから、ムカつくけど、いいよ。

あいつらとの思い出なんてないし……。

涙が零れて、これが悲しいってことか、なんて思った。

 

消えていった兄弟のために祈る赤い奴は、泣いていた。金ぴかの方は何も言わずに光の消えていった空を見上げていた。

 

「――行こう」

 

僕はフローリアンの手を取る。もう泣いてはいられない。オリジナルのところへ行かなくては。僕は3人を連れて、通り慣れたダアトの道を辿って、オリジナルの部屋へと向かった。

 



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イオンとシンクと

2話目です。
最近もう一つのF/snとTOAのクロスネタにうつつ抜かしてます。
サーヴァントに救われるのもいい、正義の味方に救ってほしくもある。

はい!
ちゃんと書けって話ですね!
頑張ります!

では、どうぞ。


贋作者(フェイカー)が解析結果を伝えてきたとき、レプリカと我たちの身体が何も変わらないことを知って、驚いた。そして同時に、納得もした。

我がただふんぞり返っているだけとでも思ったか?

図書室なる場所へ赴き、ジェイド・バルフォアなる者とサフィール・ワイヨン・ネイスなる者の本を調べてみたのだが、禁書扱いの物が多かった。マルクトから仕入れるのも大変だったのでは?

 

まあ、本を汚すかもしれんから寄越せと言われて贋作者(フェイカー)に渡したら投影しおった。我を馬鹿にしておるようだな。まあ、読めるものだったので問題はなかったが。

 

――持ち出し禁止の本だったことに気付かなかったから、エミヤさんが戻してきてくれたんでしょう、ちゃんと見なきゃダメじゃん。

 

黙っておれ。

 

それらのことから考えてみたが、やはりよくわからん。

ついでに、ルークとガイの記憶を頼りにワイヨン鏡窟とかいうところへ向かった。そこにフォニミンとかいうものがあったらしく、それを必要なのだとルークとガイが書状をしたためてダアトへ送り、どうぞと返ってきたので我と贋作者(フェイカー)で採りに行ったのだ。

ルーク曰く、“ローレライからの通信が入った”とのことで、フォニミンが必要なのだとか。

 

ちまちま採りに行っていた。

一気にやればどうかと問うたが、崩れたら元も子もない、のだという。最終的に崩しておきたいなら最初から崩せと言いたいところだったが、ルークが、“レプリカ1万人分”と言った瞬間に我も野暮だと判断した。

 

 

 

 

約束の3年後、我々はザレッホ火山へと向かった。

無論、先にオリジナルイオンの方を回るのだが、アリエッタが我たちを待っていた。

 

「こっち、です」

 

贋作者(フェイカー)とともにオリジナルイオンの許へ向かったのだが、なんということか!

 

「死人も同然ではないか」

「入って第一声がそれかい……?」

 

オリジナルイオンの様子に贋作者(フェイカー)が顔をしかめた。

ふむ。早めにやった方がよさそうである。

 

「イオン」

「なんだい……?」

「貴様にこれをくれてやろう」

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】――そこから、神酒を取り出し、盃も貸してやる。贋作者(フェイカー)に注がせ、イオンに飲ませる。

 

「これ、は……?」

「不治の病なぞ吹き飛べばいい。それくらいの力、この酒は持っておるわ」

 

贋作者(フェイカー)は、ネクタルなのかとか口走っておった気がするが。

とにかく飲め、とイオンに飲ませた。

 

アリエッタがここにいるということは、死ぬということを伝えようとしていたのかもしれない。が、吹っ飛べ、全て。

こやつがキレイと雰囲気が似ていたからとかそういう理由で助けようとしたのではない。断じて違う。

 

と、思う。

 

いや、確かに一緒に愉悦したいなあとか思ったりはしたのだが!

 

贋作者(フェイカー)よその目を止めよ!!

 

酒を飲んだイオンは横になり、少しすると顔色がよくなっていった。

回復が小康状態よりもよくなったのが分かったのか、イオンが言った。

 

「今すぐ僕の弟たちを迎えに行ってください。ザレッホ火山の火口付近にいるはずだから」

「了解した」

「うむ」

 

そこからはガイとルークの記憶を頼りにサーヴァントとして全力でザレッホ火山へ向かった。時間勝負だと言われたからだ。イオンはアリエッタに任せた。

 

贋作者(フェイカー)は表情を険しくしていたが、我も前方を見れば――ふむ、なるほどな。

贋作者(フェイカー)は鷹の目などという大層なものまで持っている。早い段階で何かが見えたのだろう。

 

「間に合ったか!?」

「6人、話に聞いておったとおりだな」

 

全員生きてはいたが、既に乖離が始まっているのが4……いや、5か。

我は子供の姿へ転じた。

 

 

 

近付いていくと、鋭い眼光を宿した人がこちらを睨みつけて問いかけてきた。

 

「あんたら何者」

「……ルーク・フォン・ファブレの使いの者だ」

 

エミヤさんが答える。

 

「ルーク……?」

 

乖離が始まっている中では一番乖離が遅そうな人が問う。

 

「ルークの知り合いなの?」

「ああ、ルークは私のマスターだ。……子ギル、頼む」

「はい」

 

打ち合わせ通り、僕はガイに連絡を取るために音機関を起動させた。

ガイが音機関いじりが好きで助かった、と思う。無線みたいなものだ。

これを持っていたから霊体化して来るとかできなかったんですけどね。

 

「ガイ」

『お。きたきた。どうだ、ギル』

『おおー』

 

ルークの声もする。

 

「それが、なんか。6人いるにはいるんですが、全員乖離が始まってて」

『えっ? 全員!? 嘘だろおい、フローリアンもシンクも安定してたはずだぞ』

 

世界の整合性を保つためにどこかで勝手にバランスをとっていてもおかしくはない、というのがエミヤさんの意見だった。

僕らの身体が音素だけで構成されているということは、レプリカと変わらないということだ。

レプリカがその分、消える可能性は、考えてはいた。

 

そして分かったことがある。

おそらく、まだ、レプリカは、この子達と、ルークしかいないのだ。

だから、“前回”消えなかったレプリカイオンが消えそうになっているのだと、僕はそう思った。

 

そういうことか、とルークの言葉が聞こえた。

 

『ギル、ありがとう。これからこっちで超振動を使うから、2人を見ていてくれ』

「わかりました」

 

エミヤさんとシンクの会話が終わったらしい。あーあ、エミヤさん泣いてるし。涙脆くなりましたか、正義の味方のお兄さん。

 

「行くよ」

 

僕たちはシンクについてオリジナルイオンの部屋へと向かった。

 

 

 

 

「なんで生き生きしてんのさ」

「いやあ、僕もびっくりだよー?」

 

まあ、そうですよね。

僕はほっとした。オリジナルイオンにお酒が効いたということだ。霊薬はまだ探し中なんだけれどね。大きい方は一緒に探すの手伝ってくれないんだもん!!

エミヤさんと僕と、2人で探しているんだから……。

 

「……皆は?」

「……死んだよ。乖離した」

「……そっか。つまらないなあ。せっかく皆の名前、考えたのに」

 

イオンの言葉尻は震えていた。ルークが泣かせたんですよ。ルークが、アッシュに認められたことあんなに嬉しそうにイオンに言うから。イオンも自分が変われたんだってことを皆に知ってほしくて頑張ったのに。

 

それもきっと、僕らが来たせいで彼らは死んだのだ。

それを僕らは何となくわかっている。

イオンも、手元にサフィール・ワイヨン・ネイス博士がいるようだから、いろいろ調べたりはしてたかもしれない。

 

「……あんたが泣くの?」

「……しかた、無いじゃんかっ……本当は、7番目にも会いたかったのにっ……」

 

もう7番目は連れていかれてしまった。

イオンはこのまま死ぬ、ことになる、はずだった。どうやって、脱出しようというんだろうか――僕は一瞬そう考えて、エミヤさんが唐突に干将・莫耶を投影したことに気付いた。

 

「エミヤさん……?」

「我々がここに不法に入ったことは知れたことだ。ヴァンやらモースやらが死んだイオンに墓を作るだろう。どこぞの漫画と同じ手を使うぞ」

 

そう言って、エミヤさんはいったいいつそんなもの作ったのか、クローゼットから気色の悪いダミー人形を出してきた。というか、にこにこしているアリエッタがいた。アリエッタ、知ってたのか。

 

「これで、どうする気?」

「フッ。私はこれからこの部屋に大爆発を起こす。この人形が人形だったのか、本当の人間だったのか、わからなくなるくらいのな」

 

僕はふと、外に懐かしい気を感じた。

まさかこれは、エルキドゥ?

 

「エミヤさん、いつの間にエルキドゥを呼んだんですか?」

「何、アリエッタに直接エルキドゥを寄越してくれという書状をしたためてもらい、イオンがサインをすればよかっただけだ。仕事がおざなりだぞ、導師」

「いつそんなもの紛れ込ませたのかな」

「それはアリエッタに任せたから私は知らん」

 

エミヤさん、最初っから大きい方を利用する気だったらしい。まあ、ルークが先に泣き落としに入っちゃったからエミヤさんはパンケーキ作るだけですんだみたいだったけど。

 

「アリエッタ、頑張った、です」

「ああ、アリエッタ。私の戯言に耳を傾けてくれてありがとう。本当に、君のおかげで人形も準備できたことだしな」

 

エミヤさんたちは何かやり遂げた的な顔を既にしている。まあ、もうほとんどやり遂げたようなものだしね。

というか、剣なのに消し炭って何言ってんのって顔をしているシンクとイオンとフローリアンだけれど、僕は知っている。

 

「エミヤさん、建物はくれぐれも破壊しないでくださいね?」

「フッ、この周辺の壁はすでに強化済みだ。抜かりはない」

「強化魔術の無駄ですよ」

 

ほんと、なんか。いい方向にぶっ壊れてきたなあ、この人。

お兄さん、セイバー、あかいあくまさん。英霊エミヤはいい方向にぶっ壊れてきましたよ。お兄さんのお姉さんは喜ぶかな?

 

シンクとフローリアンは結局、ダアトに残ることにしたらしい。ルークが逆行してることが分かったからみたいです。エミヤさんはオリジナルイオンをエルキドゥの許へ連れていくことに。

アリエッタにはオリジナルイオンから7番目のレプリカイオンへの引き継ぎたい仕事の書類を任せてある。

 

「シンクはダアトに残るんだね」

「前回通りに進めるってルークたちには伝えてよ。僕、前回と一言一句違わずに台詞言える自信あるよ」

 

シンクはまた烈風のシンクを目指すそうだ。というか、今の時点で既に。

ちなみに、シンクとフローリアンにあった令呪はやはりと言うべきなのか、兄弟だからなのか、イオンのものと似ていた。

 

彼らには別にサーヴァントは居ないらしい。というか、仮説が正しかった場合、これ以上増えるのはまずい。

 

そこで、ルークとガイから通信が来た。

 

『ギル』

「ルーク?」

『シンクとフローリアンの様子は? 乖離、止まった?』

「……」

 

僕はフローリアンを見る。まあ、わかるわけない。

 

「エミヤさん、シンクとフローリアンの乖離は止まっていますか?」

「む」

 

エミヤさんが断りを入れてからシンクとフローリアンを解析する。問題なし、と返ってきた。

 

「大丈夫です。乖離は止まったようです」

『よかったぁ……』

『お疲れさま、ルーク』

「ガイ、ルークを休ませろ。超振動などその身で何度も使ってはならない。早めに休んで体調を整えろ。私たちもすぐに戻る」

『了解。さあルーク、もう眠いだろ、お休み』

『ガイ、やめて。御姫様抱っこは俺にするべきものじゃない』

『エミヤはいいのに俺はだめなのか!』

 

通信音機関の向こうで繰り広げられるルークとガイの漫才を聞きつつ僕はそこにいる全員に目配せをした。

準備は整った。

 

僕らがその場を出て解散し、イオンを外で待っていたエルキドゥに託す。目立つから大きい方には今度会わせてあげる、ごめんねと言うと、大丈夫だよ、まだ待てるもん、あと3年頑張ろうね、とエルキドゥが言った。エミヤさんはそんなエルキドゥに頭を下げて、そっちにいるであろうクランの猛犬に、2年後のことを任せたい、と伝えてほしい、と願い出た。もう向こうに彼がいること確定なんだね。

 

僕らが建物からそこそこ離れた時、エミヤさんは小さくボソッと呟くように言った。

 

「【壊れた幻想(ブロークンファンタズム)】」

 

 

 

 

この後のダアトの反応は簡単な話、オリジナルは死んだと見たらしい。でもアリエッタには7番目のイオンを見せてイオンは無事だと伝えたみたい。イオンにちゃんと仕事の引き継ぎをして、解任されてアリエッタは悲しそうな顔を精一杯頑張った、らしい。

手紙に書いてちゃ意味ない気がしますけどね、アリエッタ!

 




よくもまあゲームどっちもやってないのに書き始めたなあと思います、はい。
子ギルの皆への呼称知らないんですよね。わかるようにあかいあくま呼びにしましたけど。


誤字脱字、指摘、感想等お待ちしてます。


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レプリカイオンの引継ぎ

お久しぶりです。お待たせしました。

お気に入りが70件超えた……だと←

2話投稿します。お楽しみください。
では。



作られて、刷り込みを施された僕は、病気で死ぬオリジナルの代わりにと作られたけれど、僕は、何か夢を見ていたんです。とても幸せで、悲しい夢。

夢の中のオリジナルはとても冷たい目で僕を見下ろしていました。

夢の中で言われた言葉と一言一句違わないその言葉に、僕は身震いしました。

オリジナルの目を見ると、そこには冷たさはなくて、驚いてしまいました。

その代わりそこには、明らかに苦痛の色が浮かんでいた。オリジナルは病気でしたから、痛みが体を襲っていたのだと思います。

 

僕以外のレプリカたちはザレッホ火山へと連れていかれてしまいました。夢の通りだったんです。

僕は夢を信じました。正夢だと思ったんです。

 

僕の中には知識以外の記憶はなくて、アリエッタのこともよくわからなかった。夢で出てきた彼女はとても寂しそうな顔をしていたけれど、僕の前に現れたアリエッタは笑顔で、僕に会わせたい人がいるからと言って、僕とオリジナルが入れ替わったことを隠蔽するために導師守護役が解任されていく中、ローブ姿の誰かに会わせてくれました。

 

「アリエッタ……?」

「イオン様、こっち、です」

 

嬉しそうなアリエッタに僕は驚いていました。アリエッタはまだ仕事の引き継ぎを任されているために今日中に解任が言い渡されることがないのはわかっていますが……。

 

ローブ姿の人は、僕から見ると背の高い人と一緒にいました。どうして彼らが導師の部屋に入っているのかは謎でしたが。

でもその人がローブのフードをとった時、僕は理解しました。

 

「会いたかったよ、導師」

「あなた、は……」

 

彼は――オリジナルイオンではありませんか。

僕は混乱しました。

オリジナルイオンは僕の肩を叩いて笑いかけてきました。

 

「導師、これから大変なことも多いけれど、頑張ってね」

 

彼は、どうしてここに?

 

「僕の預言を見ればどうして僕がここを出て行って、お前が僕の身代わりにされるのか、わかるはずだよ。でも大丈夫。身代わりなんて僕は思っていない。必ず迎えに行くからね」

 

顔に出ていたのだろうか。安心させるように彼は言う。

 

「迎え……?」

「会えるのはマルクトに来た時だけだけれど、たまに顔を出してよ。あと、ディスト抱き込んじゃえ。あれは役に立つ」

 

ますます混乱しました。けど、目がとても優しくて、だから分かったんです。

 

「わかり、ました。頑張ります、イオン。行ってらっしゃい」

「ふふ。それと、僕、今度からマリオンって名乗ることにしたから、マリオンって呼んでね! 行ってきます」

 

マリオン。マルクトのイオンで省略しただけですよね、それ。

彼らが姿を消してから、僕はアリエッタから引き継ぎの書類を貰い、目を通しました。

 

ディストの話とか、モースをどうこうとか、ヴァンが云々とか、ルークという人物はすべて知っているとか、シンクとフローリアンという兄弟がいるとか、アリエッタも解任しといてとかそんなことが書かれている秘文書扱いの物がたくさんありました。

 

ルークという人は僕と同じくレプリカで、なんだかよくわかりませんが、未来を見てきたような夢を見ているのだそうです。

僕は自分の夢を思い浮かべました。

 

ディストについては、ディストの技術力でマリオンとの通信機器を作ってほしいとのことでした。これから死にゆく人間がそんなもの作っちゃおかしいですよね、と思っていたらそうでもなくって。

走り書きが追加されていました。

 

『僕は驚いたよ、ギルのお酒で、医者が匙を投げた病が回復したんだ! でも僕は預言通り死ぬんだ。だからダアトを出なくっちゃね。どうしよ』

 

楽しかったんだろうなって、わかります。字が躍ってますから。

そして最後の紙に、こう書かれていました。

 

『生まれてきてくれてありがとう、僕の弟。お前の名前は“イオン”だ』

 

僕は泣きそうになりました。

こんなにやさしい言葉を残してお出かけしていったオリジナルに。

兄さんに。

 

「アリエッタ。お仕事、お疲れ様でした」

「はい、です。アリエッタ、マリオン様の、導師守護役、です。イオン様のじゃ、ない……です。アリエッタ、見守る、です」

「はい。お願いしますね、アリエッタ。――アリエッタ、これをもって、導師イオンの導師守護役を解任します」

「はい、です」

 

こうして僕は、アリエッタを導師守護役から解任し、シンクと顔合わせをして、解散しました。

 

シンクとアリエッタはそのうちヴァン・グランツ謡将によって六神将に任命され、同じ時期に、アッシュという方も任命されました。

 

ところでシンクが、アッシュの様子が変だと言っていましたが、なんなんでしょうか?

 




もう一つの案にしろこの案にしろなかなかうまくまとまらなくて←
こっちが終わったらきっともう一つの案も投稿し始めるのだと思います←


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閑休話題 ヴァンサイド①

この話は後々出てくるやつのネタバレが入ってます。
書いたのが後からだった感が半端じゃないです←

読んでいても問題はないです。あとギャグを淡々と突き進みます←
主要メンツみんなしなない!(←タグ付けますね)


忠実に命令をこなしてくれる手駒が手に入ったことで、私は上機嫌だった。

オリジナルイオンの部屋が爆発に見舞われて、出てきたのは消し炭の死体だった。まああの様子だと不法侵入者が2人ほどいたらしいがあれはオリジナルが呼んだものだろう。早く楽になりたかったのか、あえてあの方法をとったのか。後者ならば、オリジナルイオンは逃げたということだろうか。何のために?

あれだけモースを尻に敷いて給料削って自分の懐にため込んでいるというのに。

 

そういえば、レプリカルークをキムラスカに送り込んでからオリジナルイオンが行った後、様子が変わったな。

なんというか――腹黒さが増した。

 

レプリカイオンを拾った。モースがもう1人残った方は持って行ったようだ。私は拾ったレプリカイオンが世界を憎むというので、仲間に引き入れた。名は、シンク。

そして、イオンの導師守護役を解任されて困惑するアリエッタを引き入れ、2人を師団長として任命した。

 

「あの、ヴァン謡将」

「何でしょう、イオン様」

 

7番目のレプリカイオンは、アリエッタを遠ざけ、モースから宛がわれたタトリン響長を導師守護役として活動していた。だが、彼は私によく声を掛けてくる。内容は大体、ラルゴかシンクを呼べというものである。

 

「六神将を全員集めていただけませんか? ええ、今日じゃなくて構いません。皆さんの時間のある時でお願いします」

「……それは……?」

「お茶会をしようと、思いまして」

 

最近ラルゴが上機嫌なのはこれのせいか。おそらくラルゴとシンクと茶会のセッティングの話をしていたのだろう。あの2人はいろんな意味で要領がよく、早めに仕事が終わるタイプだ。

ディストにも声が掛かっているのだが、タトリン響長との方が交流があるらしい。

 

「分かりました、早めに全員の予定を確認してまいります」

「お願いしますね」

 

清らかな笑みを浮かべた導師は知っているだろうか。

現状、私の心の平穏が彼とリグレットによってのみ守られていることを。

 

まず、最初からシンクの腹黒さが全開だったこと。

シンクは私とモースとオリジナルイオンがシンクを作り、自分は利用価値があるから残されたに過ぎない、ということを正確に理解していた。それゆえなのか、私とモースへの悪戯の度が過ぎる。

 

いや、まだ生まれたてということとあのオリジナルであることを考えればおかしいことではないのだが、まさか同じ顔でここまでものが変わるとは。

 

アッシュも反抗期です。

脱走したと思ったらレプリカが可愛いとか言った。

いや確かに可愛いと思う。最初そう思ってなかったのに思わせるようなことしでかしたのはレプリカルークの横にいた白髪褐色肌の男である。

 

ルークがどうしても剣を握りたいと駄々をこねたらしく(もう言葉を覚えたのか、ガイラルディア様の教育すごい)、軽いし型が全く違うので良かろうということで、双剣を持たされたようだった。

そして、その白髪褐色肌の男は双剣を手元に持ってきて、舞ったのだ。

 

アレは舞ではないと、すぐに分かった。

どれほどの鍛錬を積んだのだろうか。

アレは武人の型の訓練に過ぎない。

 

そして金髪赤目の男が適当なロングソードを手に男と対峙した。態度がやたら上から目線なのが少し気になったものの、その男は、すさまじい剣撃を見せた。白髪褐色肌の男が防御に優れた型なのに対し、金髪赤目の男は攻撃に重きを置いている戦い方だった。

そしてどちらも、しまいにはどちらの剣も砕け散った。

 

どれだけの握力と腕力を備えているのか。譜術を一切使わずにあそこまで戦える者がいたら、私本当にルークへの指導必要でしょうか。

ルークが私に懐いている事だけが救いのような気がする。

屋敷内でのルークはあまりいい環境とは言えないようでもあったからな。

剣舞をしていた男たちと、もう1人。刺青だらけの執事。この3人はこちらの存在に気が付いていた。隠れおおせることはできないだろう。わかってはいた。

 

それ以来、私はこの3人から敵意を向けられ続け、ルークが懐くほど酷くなっていった。ルークは私以外この3人にも懐いているようなのだが、それにしても、ねえ、酷くありませんか。私が屋敷を後にすると同時にものすごく3人からの殺気が飛んでくるんですよ。

ルークだけがキムラスカでの私の味方になりました。そんな5年間。辛かった……。

 

教団内の廊下でシンクとアリエッタに会ったので導師から茶会の誘いがかかったことを伝えると、仕事終わらす!と叫んで2人は走って行ってしまった。

次に、ディストに会う。用件を伝えると、ああそうだ、と声を返され。

 

「どうした?」

「いえ実はですね。導師イオンが一番レプリカとして不安定になっているようなんです。なので、測定器もろもろの機能をつけた物を作ろうと考えているのですが、デザインはどうすればいいでしょうか」

 

そんなもの、と言いたいものの。彼はレプリカの大爆発現象を引き起こす方法ではなく、回避の方法を考えているらしい。曰く、レプリカ側に人格がある場合、生き残って受け皿になった方の人格が崩壊するだろうという結果を出したらしい。ディストの研究にこれは難敵だろう。

その一環というのもあってか、乗り気だったレプリカイオンの作成だが、まさか導師イオンが最も不安定とは。

導師がつけていてもおかしくない、もしくはわからない。髪留め?

ブレスレットなどでもいいだろう。ペンダントなら隠れて見えなくなるか。

 

「ペンダントか、ブレスレット、バングル、このあたりが無難だろうな」

「……そうですか。落ち着いた感じのがいいですねえ……。あ、茶会には出席できるように調節するので、時間が決まったら教えてくださいとお伝えください」

「分かった」

 

なんだかんだ小物が好きなディストだ。すぐにイオンが喜ぶようなものを作るに違いない。

ラルゴに会い、リグレットがやってきて、2人に茶会の件を伝えたら、ラルゴが喜々としてどこかへ去って行った。リグレットも、早急に終わらせねばならない用件が出来たとかで足早に去って行った。

 

アッシュは鍛錬を行っていた。

そういえば、カースロットを利用した音機関をスピノザに作らせてみたのだが、これ、なかなか扱いが難しい。ND2018の預言をアッシュに教えたとたん「レプリカを俺の代わりに殺す気かテメエ!!」と突っかかってきてこっちが殺されかけたのだが、その時にうっかり起動した。

アッシュはしばらく苦しんだが、“レプリカが憎い”という思考に誘導されたらしい。

 

キムラスカでの天使の命の危機を察知したぞ。

あれを今殺されては計画が達成できなくなるし、そもそもなんかあれがいなくなったらあの3人に狙い撃ちにされそうなのはなぜだ?ダアトに来ているのだろうか、背筋に悪寒が。

 

ちなみにこの時にオンオフのスイッチ部分が壊れてしまったのでさらにどうしようもなくなった。ディストに見せたらこれ直りませんねえって返ってきたし。どうすればいいのだ。

 

「アッシュ」

「なんだ、ヴァン」

「イオン様からお茶会の誘いが来たぞ」

「……下らん」

 

ああ、これこれ。愛想が無い。レプリカルークはもっと可愛げがある。

 

「招集されたのは六神将だ。必ず行きなさい」

「……チッ」

 

アッシュは鍛錬をやめてどこかへ行った。

私はこれからキムラスカへ行かねばならない。さあ、地獄へ行ってきます。

 




ヴァン虐めが好きです←
ギャグだったらこの人死ななくて済みそうなノリになってまいりました。倒す気満々だったのに。くそっ、私は素敵サイトさんたちの書く虐められるヴァンが好きです

誤字脱字等の指摘、感想等お待ちしております。

ではまた。



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ガイとアンリ

お気に入りが90件……だと……

ありがとうございます。
浮気してる場合じゃないですね。

今回ので分かるんですが……かなり、サーヴァントが強いです。
FGO始めたから余計エミヤが恋しくなって……来ない、うちのカルデアにはオカンが来ません

では、どうぞ



俺はこの日、全力でアンリと戦っていた。

 

「うわーんもうヤダー」

「ヤダとか言うなよ! つーかお前強いよ!?」

「最弱のサーヴァントアヴェンジャーでっす☆」

 

このノリだよこいつ。

アンリは最弱最弱と卑下しまくるが、それが嘘でないのは残念ながらルークと俺が1人で鍛錬しているエミヤを見て実感してしまったものだ。

 

アンリの武器はソードブレイカーであろういびつな双剣。初めて手合わせを願った時、俺が手持ちの剣でやろうとしたら、エミヤに止められた。

エミヤ曰く、アンリのあの双剣も“宝具”。よって、通常の武器では太刀打ちできるはずがないとのこと。

 

公爵がこれで試してみたら、と言って持ってきてくれた剣で皆でお試しを見ていた。アンリの剣が勝った、そう、それはもうあっさりと叩き折られた。

 

「う、わ」

「……エミヤ、これ、三流宝具なんですけど」

「ランクCでこれか……。それとアンリ、宝具の真命解放の性能については問題ではないと思うが」

 

宝具にはランクというものがあるらしい。エミヤは俺が使い慣れているであろう俺の剣を見せてくれ、と言ってきて、見せたら、

 

「――解析開始(トレース・オン)

 

全部トレース・オンって聞こえるんですけれども。

 

そして剣を、ね。

 

「――投影開始(トレース・オン)

 

青い光がほとばしり、俺の剣の、レプリカというべきものが、エミヤの手に。

 

「……すっげ……」

「フッ……私が唯一まともに扱うことのできる魔術だ。投影魔術という」

 

エミヤはそう言いつつ俺に剣を渡してきた。

 

「レプリカとどう違うんだろ……」

「ふむ……少々待て、解析開始」

 

少しその剣を見ていたエミヤは言った。

 

「魔力、というか、TPで構成しているようだな。音素ではない」

「エミヤ、先に調べとけよ、調べてない状態で【壊れた幻想(ブロークンファンタズム)】使っちまったのかよ?」

「ふむ、思慮が足りなかったな。まあ、これはもう以前通り使えるものと考えるべきだろうがな」

 

何をやらかしたのかと聞いたら、ブロークンファンタズムとやらは、宝具を破棄する際にその内に込められた魔力ことTPを爆散させるらしい。TP怖い。怖い。

 

そんなこんな、俺やルークは剣を持つ際はエミヤに投影してもらってやっているのだが、まあ、ルークはずっとヴァンの指導だけ、という風にしているため、体がなかなかついていかないようなのである。

 

その分俺が強くなるんだ、旅の間ルークを守るんだと意気込んだためなのか俺の方が生傷が絶えなくなってしまったが。

ペール?

ペールの方がアンリを吹っ飛ばすんだよ!!

 

「なんでペールは……!」

「ガイラルディア様の盾、ですので」

「エミヤあああああ、俺もうヤダああああ俺本当にサーヴァントなのかなああああああ??」

「案ずるなアンリ、お前の弱いのは今に始まったことではない。ペール殿はバゼットみたいな人なのだ」

「あー、うん、なんか納得」

 

アンリが微笑ましい。あいつの得意技はリンゴ剥きだ、飾り切りをやたらする、エミヤが手早くやってしまうので何かで勝とうとしてアンリが行きついたのが飾り切り……。なんだその妙な努力。ルーク喜ぶけど。俺の仕事マジでなくなった。護衛以外特にやってない。

 

エミヤが造る剣はすさまじい強度だ。

俺、宝剣ガルディオスと一緒になんか投影してもらって剣持って行こうかな。

 

おっと、考え事をしていたらいつまでたっても攻勢に転じることはできない。俺はアンリに集中した。

 

「あらら、思考の海から戻ってきちゃったか」

「アンリのおかげでだいぶ強くなってきた自覚あるんだぜ?」

「ま、こんな俺でも人間よりはパワーあるからさー、俺を吹っ飛ばせるならサイコー、みたいな?」

 

アンリと切り合う。俺はアンリよりもリーチは長い。

しかしアンリの双剣は大振りだ。

 

アンリとの勝負ではアンリが死んでしまわないようにということで(なんとも物騒な条件だ)アンリを傷つけた瞬間にアンリは宝具を使用するのだという。

それはペールを見てからのエミヤの判断だった。それだけペールって強いってことか。ちなみにファブレ公爵にも同じことが言い渡されたので、ぜひどっちが強いのか知りたいところだ。

 

切りつける際に弧を描くように振るのと、速度重視というのが大きいのか、アンリは防ぎきれずに俺の一太刀がガッツリ入った。

 

「あ」

 

その時にはもう俺は次のモーションに入っていた。

 

「アンリ!」

 

ルークが声を上げた。

 

「【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】」

 

次の瞬間、俺は。

腕が、動かなくなった。脚が、動かなくなった。動くのは左手だけだった。

 

「うお」

「あーくそ、深く入った」

 

ルークが口元を押さえる。

ああやばいな、と思った。アンリの身体から血が溢れだした。

 

「もー、タイミングが……あーもうマジクソッタレの三流宝具め」

 

見ていたメンバーが慌てて治癒術をアンリにかける。初めて俺、アンリの宝具を使わせた。

マジか、やった。

最弱とか本人は言ってたけど、それでも俺は、サーヴァントに、一撃。

 

「よっしゃあああああ!」

「俺痛いのに喜ぶのやめてくれよ~……」

「あ、悪い」

 

マジ動けねー、と言うと、当たり前だ、とエミヤが言う。ペールが俺を抱き起す。アンリはエミヤに抱えられる。血は即座にキラキラと輝く光として消えていった。

 

「うお、縁起でもない、はよ治せそれ」

「もうちょっと深かったら一撃だったわー」

「アンリ、そういうことを言うな。ガイがお前より強くないと、お前に前衛をさせることになるのだからこれくらいいい方だろう?」

「わかってるけどさぁ~」

 

俺の体の不自由はアンリの傷がほとんど治ると、ちゃんと動くようになった。ただ、もう少しだるい感じがした。

 

「ガイ、どうかね」

「まだちょっとだるいかな、」

「そうか。アンリ、ちょっと来い」

「あ、血ぃくれんの?」

「ああ、幸い私のマスターはすぐここにいるのでね、パスが寸断されている君よりも回復は早かろう」

 

エミヤとアンリが霊体化して姿を消し、俺たちはひとまず中庭の片付けをする。ルークはアンリの血を手で触れて、ぼんやりと眺めていた。

 

「音素乖離みたいだよな」

「ルーク」

「エミヤたちって、音素でできてるのかなあ?」

 

その可能性を考えなかったわけじゃない。肉体を持っているのなら、分解なんかできたらそれは生命体とは呼べない。だからと言ってサーヴァントが音素でできていると考えてしまったら、そこに類似点の多いレプリカは人間ではないのか?

 

まさに謎が謎を呼ぶ。

俺たちはすべて消えてしまうまでずっとアンリの血を眺めていた。

ちょっと素手で触ってみたアンリの血はすべて乖離したけれど、そこには確かに濡れている感覚があったので、やっぱりそこにあったことは変わらないのだと、そう、思った。

 

「ところで俺、もしかしてやっと前衛許可降りた?」

「だな。また頼むぜ、ガイ」

「お前は絶対戦うなよー」

「えー」

 

暗いことは考えるまい。

さあ、旅の始まりはもう、目の前だ。

 




アンリの宝具、ランクDなんですね。
FGOから持ってきてたのでCのままですが←

感想、指摘等お待ちしております


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ヴァン日記

お待たせしました(´・ω・`)
短いので2話いきます。


ルークに稽古をつけているとき、いつもすぐ傍にはガイラルディア様と、あの白髪褐色肌の男がいる。彼の名はエミヤ。シロウ・エミヤ。彼の親戚にシロウという者がいるらしく、苗字で呼ばれる方がしっくりくるとのことで、私もまた彼を苗字で呼ばせてもらうことになった。

 

ルークはオリジナルと遜色ないしっかりした体ではあったが、怪我をすることは避けた方がいい、特に、深く身体が傷付くのはよろしくないとディストから教えられていた。

レプリカであるない以前の問題で、深くから傷がつくと、治癒するのに時間がかかってしまうのだという。また、何故かは不明だが、治癒譜術の掛かりが悪い。よって、必然的に実践は無しということになっていた。

アッシュもそこまで深い怪我をしたことはなかったからいくらでもごまかせるだろうが。

 

そんな中、刺青だらけの執事――アンリマユと名乗った彼は、その歪な双剣でもって、私に手合わせ願うと、そう言ってきた。

形状からして扱いにくそうな刃だった。

 

「すげー、師匠とアンリが手合わせするのか」

「俺自身がどこまで使えるかっていう、ね?」

 

アンリ殿、と呼ぶことにした。

彼の戦闘スタイルは、異常、その一言だった。

いや、服装の話だ。

 

何故半裸なんだ。

その姿で出てきたときにエミヤ殿が世話をやく母親よろしく何か言っていたがアンリ殿はそれを気にすることなくそのままこちらへ来て、そのまま対峙。先にエミヤ殿から、大事な剣は使うなと言われて、いつもの剣ではない方を使う。

 

「んじゃ、始めっ!」

 

ルークの声で手合わせが始まった。

 

アンリ殿は、隙が多いが、不気味である。懐に入り込めばわかりやすくぶった切れる気がするのだが、なんというか。

懐に入りたくない。

そう、何かがやばい。

リグレットやラルゴならば相性がよさそうな雰囲気だ。

 

「……」

 

ルークですら何も言わない。いや、言ってはいるのか。

 

「すげえな、師匠……」

「ああ、流石はヴァン謡将。アンリの懐に入ってぶった切ることの危険性に本能的に勘付いていると見える」

 

エミヤ殿の言葉に私はやはり、と思った。

おそらく、アンリ殿は、これだけギャラリーがあるから嫌な感じがするのだろう。仕掛けてみればどうということはない、そんな気がする。

 

私は試しに大きく踏み込んで斬りかかってみる。アンリ殿は横に避けた。回り込んで斬りかかって来ようとする。動きが素直でわかりやすい。横薙ぎに剣を払うと、それをしゃがんで避け、こちらの懐へ潜り込んできた。とっさにそれに命の危険を感じ、後退する。間に合わない。剣を前に滑り込ませる。

 

ガキン、

 

ガキィン

 

「「あ」」

「ああ、言わんこっちゃない」

 

私の剣が。

折れた。

 

いや、家に伝わっている方ではない、大丈夫だ、いや高い剣だったのだけれども。

 

「あー、やっちゃった。すんません」

 

唖然としているのは私だけ。周りの皆はこうなるのが分かっていたような目だった。ガイラルディア様とペール殿とルークの苦笑い。エミヤ殿と横にいる金髪赤目の少年の苦笑い。

そして目の前の、アンリ殿の苦笑い。

 

「いえ、ああ、こういうことだったのですね」

 

剣が壊れる、とは。

なかなか恐ろしいソードブレイカーがあったものだ。叩き付けて壊すならばこれはもはやソードブレイカーではないが。

 

「怪我は?」

「――無いようだ」

 

アンリ殿は小さく笑い、直後、私の視界から一瞬で消えた。

が、動きは分かりやすいもので、後ろに回り込まれたと分かった。

すぐに防御に入り、アンリ殿の蹴りを受け止め、私が吹っ飛んだ。

 

筋力がおかしいからな!?

もうちょっとでペール殿の花壇が半壊するところだった!!

 

 




ギャグってこういうことですか(´・ω・`)

これにて本編前は終了です。
次話から本編開始になります。


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ルーク誘拐編
邂逅


ヴァンのダアト日記はこの話のネタバレである。
すみません<(_ _)>

視点は
ルーク

エミヤ
です


とうとうあの日ですよ。

栄光を掴む髭、ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデが今日は来ていた。たまーにシンクとかアリエッタ連れてきてくれたのは、エミヤが母上に、俺が同い年ぐらいの友達が欲しいのではないかと進言してくれたためだった。

 

いつの間にか俺の屋敷での認識が、“我がままひとつ言わない”ではなくて、“我がままひとつ言えない子”という風になっていた。そんなに我がままになれるかっての!

昔の自分を思い出して嫌になるんだから仕方ないだろ。

 

ガイが、もっといろんなこと言ってくれよ、って言っていた。ありがとうと返したけれど、でもほら。エミヤとギルに手伝ってもらって本をあさってジェイドとディストの論文を読んでみたけれど、難しいのと、それと、大爆発現象について、回避は不可能だという結論(あくまでも仮説のままらしいが)で締めくくられていたので、俺はどうしようもないなって思った。

 

ギルとエミヤがガイには言ってしまったらしくて、ガイがその日は暴れた。時間が欲しい、ディストのところに殴り込みに行ってやろうかと言い出してしまったので慌てて、シンクたちが来てくれた時にディストに大爆発を回避する方法を探してほしいとしたためた書状を渡してほしいと頼んでみた。

 

オリジナルイオンは無事に病気が完治したらしい。マリオンと名乗っているんだってね。シンクとフローリアン、どっちも令呪があって逆行していることが分かったのはよかったけれど、生きられたはずの兄弟が急に乖離してしまってシンクもフローリアンも混乱していたのだという。

 

ヴァンの冷たい視線に嫌でも気付いてしまって、俺はもうヴァンを師匠と呼べなくなってしまった。でもなんだかな、最近縋りつく子犬みたいな目をすることがあって、なんだろうかと思う節がある。

 

自分の部屋の窓から、青い空を見上げる。

今日、ここから、また、あの旅が始まるんだ。

 

――キィン……

 

来た。

ローレライ。

 

――我が愛し子よ。久方ぶりだな。

 

うん、久しぶり、ローレライ。

チャンスをくれて、ありがとう。

 

――ルーク。一つ、いいか。

 

え?

どうしたんだよ?

 

――アッシュが、最近私の声を聴いていないようなのだ。いやな予感がする。

 

……やっぱり、来ちゃったか。

エミヤとギルが言っていた。おそらく俺たちの記憶とは所々が変わってくるはずだ、って。

預言があるがゆえに、大筋は外れないけれど、預言に詠まれていること以外はころころ変わっていくはずだって。

シンクだってイオンだって預言からは外れているんだ、俺も外れているのだから、それでも存在しているのだから、他のことなどいくらでも変わればいいんだ。

 

そしてその変化は、目に見えないところで始まっているはずだとエミヤは言っていた。シンクには俺とガイからアッシュの対応が軟化しているはずだと伝えていたのだけれど、シンクが首を傾げていたから嫌な予感は俺だってしていたんだ。

 

――わかっているのならば、いい。気を付けて。

 

うん。行ってきます。

 

ローレライとの通信が切れた。

俺、体の音素の結合の強化をしてもらえた代わりに、武器とかそういう後付けの物は初期状態になってしまったんだ。それは別に構わない。

エミヤからは口を酸っぱくして、前衛の仕事をするなと言われてしまった。というのも、肉体を編み直してもらったせいで、戦闘慣れしていない状態になってしまったらしい。

ガイの動きについていけなくなったのがいい証拠だった。ガイにはすごく心配されたけれど、乖離を先延ばしにする手立てを行使してもらったらこうなってしまったと正直に伝えたら、戦うなってガイまで言い出した。

 

俺は記憶の通りに進む物事に苦笑をこぼしつつ、ガイが今回はあらかじめ窓から来て出ていく、というのをすることを皆に伝えていたので(どうかと思うが)ガイが来て、メイドが俺に声をかけていく流れはそのままだった。

 

「ルーク、何度も言ったが、絶対に前線に立つんじゃないぞ。今のお前は山歩きだって慣れてない状態だ。タタル渓谷は足場が悪い。すぐ迎えに行くからな」

「うん」

 

エミヤたちの方が来るのは早そうだけど、と言うと、それ言うなよ、と返ってきた。

そしてガイは窓から外へ、俺は応接間へ行き、精一杯の演技で(以前のようにはできなさそうだったので、リアクションをもっと大人しくした状態で精いっぱい残念そうに)ヴァンに縋ってみた。母上の目が怖い。

笑ってるけど目が笑ってない。

 

母上一体何があったんですか。

それとヴァンの目がなんだかすごく悲しそうなのはなんでだ。

 

ヴァンが先に行ってしまって、母上と父上のところへ行くと、俺は頭を撫でられた。全部伝えようと努力した結果、俺がレプリカであることはインゴベルト陛下まで知っている状態だ。メリル? そっちはそっちでもう解決したよ。ラルゴ宛ての手紙をナタリアに書かせてシンクに預けたの。家族写真送られてきたらしい。インゴベルト陛下と文通してるってアリエッタがラルゴの近況を語っていた。

 

「ルーク、そのリフレクター、これも重ねていきなさい」

 

父上がブレスレットを出してきた。俺はそれをつけてもらった。すでにブレスレットはつけているが、これは俺の心許無い動きの補助としてつけているアクセサリなのだ。売ってしまえば自衛のために逃げることすら難しくなる。だからと言ってティアの母親の形見を御者に渡してしまうのは嫌だ。

 

「これは売ってしまっても構わない」

「はい……」

 

父上から貰う物が、売るための物とか本当に悲しいんだけど。今度何かねだってみようかな。

 

俺は中庭に出て、記憶通りなぞって、ティアがやっぱりやってきて、ガイたちが動けなくなって、ヴァンを殺そうとして、俺はそれに割り込んで、一緒に飛ばされたのだった。

んじゃ、行ってきます。

 

 

 

 

「やれやれ……本当に庇わなくてもよかったのでは?」

「流石に賓客を守れなかったってなっちゃうんじゃ」

「それで王族が拉致られてたら話にならんではないか」

 

私とギルは譜歌の効きが悪かったので演技をする羽目になった。

ヴァンは真っ青になっていた。ふむ、セイバーオルタもかくやというべき肌の白さ。倒れるんじゃないか。

ガイがヴァンを問い詰め始めた。

 

「ヴァン謡将、今の女はいったい……?」

「……あれは、私の妹です」

 

身内であることを明かした瞬間にガイに捕まってたけど仕方ないだろうな。私だったら確認せずにとりあえず捕まえるだろう。ちなみにアンリマユだが、あの姉ちゃんメロンだったなあと言っていたので大人しく屋敷で待っていてもらうことにした。人相を覚えている、という意味でである。戦力外とかそういう意味ではない……たぶん。

 

ルークが帰ってきたらあの女性は裁かれることになるだろう。話によると16歳らしいから、ちょっと心が痛む。だが、王族の家に乗り込んできて攻撃を行ったのは目に余る罪ではなかろうか?

正義の味方目指してるからって罪人庇えるほど私はできてはいない。今彼女は私の中では切り捨てる方に入った。弁明のチャンスくらいはやっていいだろうと進言してみるつもりだが、これは公爵では話になるまい。シュザンヌ様に申し上げてみるか。

 

ヴァンを牢屋にぶち込んで早急にルークが飛ばされたであろうタタル渓谷、そこから最も近いマルクトのエンゲーブという村、そこからキムラスカへ向かう――カイツールかセントビナー。カイツール付近へ行くとガイがきっぱり言ったので旅券と薬品等その他の物を荷物にまとめて出発した。

 

馬車で行った方が早いからってガイに馬車が出された。金に糸目はつけない気らしい。

ルークは愛されている、うん。

多少過保護なところはあるが、まだかわいい範疇だろうと思う。

 

私と子ギルも馬車に乗せてもらった。私たちは音素の塊だ。ルークは第七音素の測定で引っかかってマルクト側の軍人に捕まったと言っていたので、霊体化はしない方が無難である。残念ながら私の構成要素がほとんど第七音素であるらしいのでな。

 

 

 

私たちがカイツール近くに来ていたタルタロスへ追いつくのは3日後のことだった。

 




ヴァン語りの話を飛ばしたらシリアスになり、入れて読むとギャグ化する( ´∀` )

読み方はお任せします。
ちゃんとギャグで終わるはず。

感想等お待ちしています。


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エンゲーブとチーグルの森

ブクマありがとうございます。
気付いたらこんなに……嬉しくて涙が出ます。


俺は真っ白な空間にいた。辺りを見渡すと、風景が加わっていった。

赤い空、そこに浮く巨大な歯車、剣の付き立った丘、そこに1人の男が立っている。エミヤだ、と思った瞬間、横から声を掛けられた。

 

「お前がアイツのマスター?」

「えっ?」

 

声の方を見たら、赤銅色の髪の、俺よりちょっと背が高い奴が立っていた。

 

「ああ、ごめん。俺、衛宮士郎。アイツの過去の姿なんだけど」

「……え?」

「うん、俺が悪かった。忘れてくれ」

 

いや、忘れないけどさ。エミヤと混ざっちゃうからシロウと呼ぼう。

 

「シロウ、って呼ぶぞ。俺はルーク」

「ルーク、か。いい名前だな」

「ありがとう」

 

シロウはエミヤの方を見る。

 

「ここはあいつの心象風景だ。俺の心象風景も似たようなもんだけどな」

「……つまり、心の中がこんなに殺風景、と」

「そうそう。俺はまだましだぞ? なんかよくわかんないうちに結婚までしちゃったもんで」

 

何やら幸せそうだな。

 

「俺がここに来たのは、アイツと俺の道が完全に分かれてしまったからだよ。詳しくはこの夢から覚めて、アイツ自身に聞いてみるといい」

「おう」

「ああそれと、ルーク」

 

シロウが小さく笑った。

 

「これ、持っていけ」

 

 

 

 

「……ク、ルー……」

 

うん……?

 

「ルーク!」

 

あ、目が覚めました。目の前にティアの顔がある。ほっとしたような表情のティアだ。

身体をゆっくりと起こした。辺りを見渡す。タタル渓谷だな。

無事に飛んでこれたみたいだ。

 

かつて言った言葉の大体の流れを思い出しつつ俺は問いかける。

 

「……お前、誰だよ?」

「私はティア。巻き込んでしまってごめんなさい」

「おー。ああ、そうだ! なんで師匠を狙ったんだよ!?」

「……それは、身内事よ。あなたには関係ないわ」

 

あ、この言い方ムカつく!

俺はまあいいか、と改めてあたりを見回した。おっと、魔物がいる。

前衛やるなって言われたんだよなあ。

 

「……私が責任を持ってバチカルへ送り届けるわ」

「ああ、頼むぜ? 母上たち、誘拐沙汰にはうるさいからさ、早く帰りたいんだ」

 

まあ、母上たちはアッシュがダアトにいるの知ってるんだけどさ。

 

川沿いに下っていくと、魔物に遭遇した。俺の装備品は木刀だ。

 

「魔物よ!」

「これが、魔物?」

 

知ってるけどまあそう返しておく。するとティアは、後ろに下がってナイトメアを歌い始めた。前衛を俺にやれって言外に言ってないか?

 

俺はとりあえず木刀を構える。やることは受け流しのみだ。アルバート流は結構飛んだり跳ねたりが多いから、その分攻撃をよけやすい節はある。でも、この体でどこまでできるか、俺は知らない。

 

正面から受けたらやられる。

俺はティアから離れつつ何とかヘイト管理を行う。

 

動きなれていないというのはわかっていた。

でも、やらかしてしまった。

足首を、ひねったのだ。

 

倒れる俺、突っ込んでくる魔物。

 

「ナイトメア!!」

 

間一髪でティアのナイトメアが魔物を倒した。俺はふうと息を吐いた。

マジかよ。ひりひりする。

 

「大丈夫?」

「ああ、ちょっとひねっちまったみたいだけど」

「ちょっと待ってちょうだい」

 

ティアが俺の捻挫を治癒してくれる。でもこれ、傍目から見ると優しさ、実際は盾役に引き続き俺を使うってことの現れなんだけど。まあいいや。

 

――よくないぞ。

 

シロウ居たんかい。

 

――俺眠ってる間こっちに意識来るみたいだ。

 

ぼっち感覚なくなっていいかもしれない。よろしくー。

 

――ああ。アーチャー来たらたぶん引っ込んじゃうけどな。

 

エミヤに会えるまでここにいてください……。割と本気で。

 

――なるべくいることにするよ。

 

シロウがいてくれることになった。姿は見えないけど、なんか安心感あるな、この人。

 

――いや、それアヴァロンのせい。

 

何それ。まあいいか。

気がついたら御者のところまで来ていた。俺たちは持ち合わせがないのだけれど、父上から貰ったブレスレットを御者に渡して、一番手前の町まで送ってもらうことになった。

 

 

 

 

ダイジェストでお伝えしよう。

タルタロスに遭いました。ローテルロー橋が落ちました。エンゲーブに着きました。

以上。

 

エンゲーブでリンゴを買って食べた。美味かった。

ローズ夫人宅に向かうことになって、向かおうとしたら俺また食料泥棒に間違われそうになっちゃった。リンゴ買った店のおっちゃんが弁明してくれたから助かったけど。

 

ローズ夫人宅に行ったら、ジェイドとローズ婦人に加えて、夢で見た青い人がいた。

なんか問われるままにまた名前言っちゃったけど、イオンが入ってきて食料泥棒見っけたって話になって、チーグルっぽいよって話になった。

 

――ランサー、マルクトにいたんだな。

 

あ、この人がランサーなんだ。

ランサーさんが俺に小さく手を振ってきた。

 

「クー、知り合いなのですか?」

「ちょろっと顔見ただけだし、こんなちっちぇ頃の話だけどな」

 

え? もしかしてエミヤに止められたあの時のことかな?

 

――サーヴァント何でもありになってきたな。

 

俺たちはとりあえず宿屋へと向かい、その日は“前回”通りに進んだのだった。

 

翌日俺はティアを放置して(置き手紙はしてきた)チーグルの森へ向かった。イオンにはなんと、ランサーさんがくっついてきていた!

ランサーさんはクー・フーリンというらしく、エルキドゥもランサーなのだと言った。だから、クーと呼ぶことにした。イオンもイオンって呼ぶことになった。

 

イオンの方はマジで名前イオンになったんだな。俺といっしょ。

 

「お。お前がアーチャー……エミヤのマスターかい」

「ああ。エミヤには本当にお世話になってます」

「ん。お? 坊主がいたな?」

「へ?」

 

どうやらシロウのことらしい。

アヴァロンって何、とついでに聞いてみたら回復と盾を同時にこなすとんでもない代物なのだという簡潔な答えが返ってきた。

 

「まあ、本体はもうセイバーのところに戻ってるはずだから、投影品だろうけどな」

「エミヤさん、僕も会ってみたいです」

「俺のこと迎えに来てくれてるはず。イオンはシンクから俺のこと聞いてたんじゃないか?」

「はい。外見の特徴しか知りませんでしたが、本当に赤くて綺麗な髪ですね」

 

イオンになぜか髪を褒められつつ、俺たちは先へ進んだ。

そこでティアが追い付いてきたんだけれどな。かんかんでした。

 

俺たちはチーグルのところへ向かい、ミュウとソーサラーリングを借り受けてライガクイーンとの交渉へ向かった。ミュウの奴、また森を燃やしたのかね。アリエッタ、今どこだろう。

 

「そのライガってのは、敵ってことでいいのか?」

「ダメ。ライガクイーンは俺の友達を育てたとても知能の高い魔物なんだ。ティアも、妖獣のアリエッタって聞いたことあるかな」

「ええ」

「彼女の育ての親なんだ、ライガクイーンは。アリエッタの名前出したら何とかなるはず」

 

クーはなるほどここのことだったか、とつぶやいていた。

ティアを先に牽制しておいて、俺たちはライガクイーンの許へたどり着いた。

そこに淡い緑色の髪の人がいて驚いたけど。

 

「「エルキドゥ!?」」

「やっほー、久しぶり、ルーク」

 

そしてはっとなった。エミヤが言ってたのはこれか、って。ギルを納得させた理由は、これだったのだ。そしてクーが言っていたのも。クーはなんだか満足そうだし。

エルキドゥとライガクイーンが何か話している。ミュウが通訳をくれた。

 

どうやら、もうすでに移住の話を先にエルキドゥがしてくれているらしい。後ろの方にジェイドがいるのが分かるけど、何もしてこなさそうなのはこれのせいだったようだ。

 

俺、へたり込んじゃった。

緊張してたんだ。

アリエッタの母親であるライガクイーンと戦うのは嫌だな、って、そう思っていたんだ。

クーとイオンが俺を撫でてくれた。

 

「移住するって言ってるですの……」

「ミュウ。ライガクイーンに謝って来い」

「ハイですの!」

 

ミュウはててて、とライガクイーンとエルキドゥの許へ向かい、謝罪を必死にやって、ライガクイーンに猫パンチならぬライガパンチを受けて俺のところへ戻ってきた。

ライガクイーンが一声吠えた。

もういい、許す。

ライガクイーンがそう言った気がした。

 

ティアが騒いだけれど、俺はスルーしてその後ジェイドと再会した。チーグルたちへ報告をして、森を抜けるために移動していくと、ジェイドがこちらを振り返った。タルタロス、アニス、マルクト兵。あ、この流れは。

 

「クー、ルークを任せます。丁重に扱うように」

「おう」

「この者を連行せよ!」

「ちょっ、何するの!?」

 

ティアだけ捕まった。うん。なんでだろうな。あとアニス、今回最初からいなかったよね。職務怠慢はんたーい。

 

「クー、これ、どういう……」

「俺のマスターが、ちょっとな」

 

ブウサギに名前でも付けたんだろうか。これマジでピオニー陛下じゃね?

 

「さ、行こうか、ルーク様?」

「……うん」

 

やっぱ、もうバレてるよなぁ。家名はとりあえず出してなかったんだけどさあ。イオンと俺はクーに守られながらタルタロスへと乗り込んだ。

そこで俺、一つ思い至ったんだよね。

 

これ、伯父上たちが、ダアトの制服着た女が襲撃してきて王族が拉致られちゃった、探してください、って言ったらこうなるくね?

ガイたちが先に手を打ってそうだよね。うん。もう3日目だしね?

 

ガイとエミヤとギルに今度何か作ろう、俺はエミヤより断然下手だけど。

 




オリジナルの物語を書いていて、こちらを読んで思ってしまったこと。

ダイジェスト過ぎね?

――精進します。


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ジェイドとタルタロス襲撃

またざっくり進みます。



俺は前回と同じ部屋に通されました。

 

「すみませんねえ、こんな粗末な部屋で」

「いえ、椅子があるだけでもありがたいです」

 

ジェイドが慇懃無礼じゃない方向に丁寧だああああ気持ち悪い。

俺はそんなことを思いながら椅子に座った。ここぐらいしか椅子のある部屋がなかったんだろうなあ、ジェイド。俺が髪の色を変える方法でも持っていればよかったのになあ。

まあ今は、ジェイドには気を遣ってもらう、ということで。

 

ティアは牢に放り込まれているのでここにはいないけれど、ジェイドからは俺だけに事情聴取という形になった。

 

「さて……改めて自己紹介をさせていただきます。私はジェイド・カーティスと申します。大佐の位を頂いております。あなたは、キムラスカの王族に連なる御方とお見受けしますが」

「ああ。ルーク・フォン・ファブレだ」

 

俺が答えるとジェイドはやはり、と小さくつぶやいた。

 

「キムラスカ王国が、神託の盾の制服を着た女によって王族が拉致されたと声明を出してきたのが昨日のことでして。御無事で何よりです」

「ああ」

 

ジェイドは俺の体調等を聞き、怪我とかそういうこともいろいろ聞いて来て、無傷であることを告げるとほっとしたようだった。

そして、ジェイドは俺に対して頭を下げて、俺に伯父上への取次ぎを丁寧に依頼してきた。俺は状況を詳しく尋ねて考える仕草をして、了承を伝えた。

 

アニスはまさかの俺への突撃が無かったので何かあったんかなと思ったのだが、金にがめつい感じは健在だったので、やっぱりモースの所からアニスの御両親を助けなくちゃいけないなと思った。だってこれたぶん同じ状況だろ。

 

そのうちマルクト兵がやってきて、ティアがうるさくて敵わないとジェイドに告げてきた。はっはっは。俺も同じこと思ってたよ。

なんか、アレだ。

“前回”の俺がいかに世間知らずであることに助けられていたかを知ることになってしまった。

 

よく考えたらティアだってユリアシティを出てきたばっかりで箱入りはお互い様だったのだ。彼女が常識を持っているわけがなかったのだ。うん、エミヤが一般人、平民の常識ってものを俺に教えてくれたおかげでティアのことを好きになれなくなってしまいそうだ。どうしよう、パッセージリング操作では彼女の協力が必要なのに。

 

そのうちやってきたらしい六神将が襲撃をかけてきた。ブリッジがやられちゃったみたいで、死人がいないといいなあ、シンク上手くやってくれ、と祈った。

 

「くっ……いたしかたありません。ルーク様、一度ティアを解放します。クー、ルーク様を。アニスはイオン様を」

「分かった」

「おうよ」

「はい!」

「ルーク、クー、気を付けて」

 

ジェイドは嫌そうにティアを解放しに向かおうとして、部屋を出て、ラルゴの大鎌を避けた。“前回”は俺があの位置だったんだよなー。

 

「ほう」

「おや……“黒獅子”ラルゴとお見受けしますが」

「そちらは“死霊使い”殿とお見受けする」

 

ラルゴがやっぱり来ていた。だが、これでできることがある。

 

「なんでラルゴさんがここにいるんだ!?」

「むっ!? 何故君がここに!?」

 

よっしゃあああ!

ラルゴの攻撃が止まったことで、ジェイドの方は槍をいつでも出せるように構えてはいるが、ひとまず手は止まっている。

あ、でもこのままだと六神将がいろいろ面倒なことするんだっけか。戦力増やしちゃうだけじゃね?

 

「ラルゴさん、俺、エンゲーブで彼らに保護されて」

「……そうだったのか……」

 

ラルゴの鎌が下ろされた。というか、この状況で、一番有利なクーさんはまだ油断なく構えてくれている。

 

「私は、導師イオンの保護を命じられてな。マルクトが拉致したという情報が入った」

「えー。それ絶対ヴァン師匠の命令じゃないでしょ」

「むぅ……まあ、そうなのだが」

 

後ろにいるイオンがそっと前に出てきた。

 

「ラルゴ。僕は自分の意思で彼らについてきたんです。和平の使者として。なので、邪魔をしないでください」

「……自分の意思で……ですか。しかし、こちらもやっていただきたいことがあるのです」

 

ダアト式封咒の解除のことだ。頼む、そこはマリオン連れていってほしい。これ言っちゃダメなのは分かっているんだけれども。

 

「ラルゴさん、そこを通して。お願いします」

「……君だと、自分を盾にしてでも通ろうとしそうで恐ろしいよ、そんな目をするな」

 

ラルゴがすっと道を開ける。よかった。

 

「まあ、確かに俺が盾になるんですけれどね。ジェイド、先に行ってくれ」

「……ええ、頼みます」

 

ジェイドは先にティアを解放しに向かった。俺はラルゴが鎌を振らないように体を皆の盾にしながら、殿として残った。

ラルゴさんが悲しげな眼をする。

ナタリアとの文通の中で、たまに会う俺の目がやたら据わっている、諦念の目だ、なんてのをナタリアに送っちゃってるらしくて、ナタリアにやたら心配されるのは慣れてきたところだ。

うん、この人、すごくいい父親だと思う。父性溢れるって感じで。

 

「ナタリア殿下が悲しむから怪我なんてしないでくれ」

「ガイと同じようなこと言いますね」

 

エミヤも同じようなこと言うけどさ。

クーだけが残ってくれて、と、クーが何か、宙に字を描いた。その瞬間、ラルゴの身体に茨が絡みついた。

 

「むっ!?」

「えっ!?」

「悪いな、お前さんがルークに危害を加えねえってのはわかってる。でも、ジェイドに鎌を振った分だ、それは。しばらく大人しくしててくれや」

「くっ……」

 

殺気なんてなかった。クーは俺の手を引いて皆の後を追った。その手になぜか小さな箱が……アンチフォンスロット、盗ってきたのね。

 

ジェイドがティアを解放して待っていた。

ティアの譜歌で神託の盾騎士団の兵たちは眠ってしまった。この辺は変わってないんだな。

クーはひたすら俺を守ってくれて、俺は実際エンゲーブで装備を整えはしたけれど、せいぜい刃物になりました程度のものだったから、ほんとに助かった。そして俺は、アッシュに遭う(誤字にあらず)甲板の所でクーには霊体化してもらった。クーは待ってろ、とか言ってブリッジに向かってすぐに霊体化して戻ってきたようだった。

 

ミュウはずっと俺たちの剣幕に押されて何も言わずにいたけれど、その時になって急にこう言ったのだ。

 

「ご主人様~」

「どうした、ミュウ」

「みゅう~。ご主人様、ご主人様ですの?」

「え?」

 

助けるとかいうイベント無かったのになんでかくっついてきたこいつである。クーがそういやちらっとこいつを見ていた気がするな。

俺はミュウを抱えてはっとした。

 

うっすらとだけど、毛の色が変色しているようなところがある。

しかもそれが、なんか模様みたいで。

 

「クー」

『なんだ?』

「これ、令呪か?」

『ああ。さて、誰かねえ? セイバー? キャスター? ライダー? バーサーカー?』

 

まさか、と思って、俺はミュウに、俺の嫌いな食べ物を聞いてみた。

ニンジン。はい、正解です。ミルク。当たってます。

やたら自信満々に答えてきたってことは、やっぱそういうことだよな。うん、こいつも逆行メンバーかよ!?

 

「ご主人様、ライガクイーンさんと戦わなくってよかったですの!」

「うん……ってかお前、なんで北の森焼いてんだ馬鹿!」

「みゅぅ~ごめんなさいですの~。ボクの友達が火を吹いたんですの~……」

 

本当に耳を垂れて悲しそうにしていたので、俺はそれ以上責めなかった。どうしようもないことだってある。友達のせいか、そりゃ辛いわな。逆行も、俺は生まれた時からだったけど、ガイは3歳の時からだったって話だし。

というか、こいつが剣幕に押されるなんてありえなかったのだ。おそらく、俺の様子からミュウの知っている俺なのかそうじゃないのかを見極めようとしていたのだろう。

 

近くの兵士を見ていたらやっぱり切りかかってこられて、でも俺はそれを避けた。さて、アッシュはどう来るか――なんて、悠長なこと考えていられなかった。

 

「人を殺すのが怖いなら、剣なんて捨てちまいな!!」

 

あの時と同じ台詞で、あの時以上の威力を持って、俺はアッシュに切りかかってこられたのだ。あ、やっべ、敵が2人になっただけだわこれ。

 

俺はアッシュを見て絶句した。

ぎらついた眼光。本気で構えているのが分かる。

なんで?

俺は一瞬フリーズした。

 

どうして、なんで?

なんでアッシュ、俺を憎んでいるっていう目をしているんだろう?

俺にルークって名前をくれたのは、アッシュなのに。

このペンダントをくれたのは、アッシュなのに。

俺は服の下にしまっているガーネットのペンダントを服の上から触る。

 

と、アッシュが斬りつけてくる。重たい。次の瞬間、クーが姿を現そうとして、――リグレットの声がした。

 

「何をしている、アッシュ! 閣下の命令を忘れたか!」

「チッ」

 

アッシュは舌打ちをして、俺の腹を蹴り飛ばした。いや、クーがクッション状に何かを張ってくれたおかげで気絶こそしなかったけれど、俺は悲しくて、そのままアッシュに背を向けて、気絶の振りをした。どうせ、牢に入れられるのはわかっている。

 

「ルーク!!」

 

ブリッジから戻ってきたジェイドが顔面蒼白で俺に駆け寄ってきた。

ティアが叫ぶ。

 

「リグレット教官!? なぜここにッ!」

 

もう、いい。うん。ジェイドに、大丈夫、と小さく言った。ジェイドは小さく安堵の息を吐いた。そして、アッシュと一言二言交わして、ティアだけエナジーブラスト喰らって気絶して、俺たちは牢屋へと連れていかれた。

 




タルタロスってよく考えたら来賓用の部屋ありそうだ。
でもこういうことにしておきます。

だってイオン様も同じ部屋じゃん!

というのが個人的な感想です。
身体弱い、国のトップと同等の地位であるて言うてるやん。

周りの描写が少なくてすみません。改善は試みます。


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ルークの守り人

今思えば、イオン軟禁されてたのに思いっきり逃亡してるんですよね。そんなんで和平の使者って、と思ってしまいますが、ストーリーはこれで進むのでいいじゃないとご都合主義になっております。

だって合法的にイオンが大佐たちに随伴する方法が他にないんだ……!
やってたらモース出てこないよ……!


牢屋に入って、俺は気絶の振りをやめた。アッシュが俺を運んでいたのが不思議で、アッシュを見た。

 

「……鮮血のアッシュ」

「……何だ」

「……なんで、そんな、目」

「ふんッ。てめえが俺の気に食わねえことばかりするからだ」

 

アッシュの様子が変だ。言葉は同じなのに剣幕が違うというか。

俺を認めてくれた状態でスタートしたはず、だったのに。

いや、それは別にいい。

ただ、俺がそれによって悲しくなるだけ。

 

構わない、耐えられる、覚えているから。覚えてるから大丈夫だよ。

クーが霊体化したまま俺の頭を撫でてくれた気がした。

 

誰も居なくなったところでジェイドが口を開く。

 

「……ルーク様」

「ん、何?」

「……これから、タルタロスを止めます。タルタロス停止後、荷物をとり外へ出て、徒歩でカイツールへ向かいましょう」

「うん」

 

ジェイドが眼鏡を少し上げて、眉根を潜めた。俺は笑った。大丈夫だよ、なんて、通じないって分かってるけどさ。

じきにティアが目を覚まして、俺たちはジェイドの“骸狩り”でタルタロスを停止させて、荷物とミュウを回収し、外に出る。

 

「ティアは譜歌で相手を止め、回復役を。クー、あなたに前衛を任せます」

「ジェイド、てめーはどうする」

「ルーク様を護衛します」

「よし」

 

俺は結局またクーに守られることになった。いや、そっちの方がいいのはわかってるんだけどさ。前は前衛やらされてたからさ。

 

「ルーク、あなたも戦うべきだわ。何のために剣を買ったの?」

「自衛のために決まってるだろ」

「なら、自分の身は自分で守ることね。甘ったれないで」

「ふざけんな、こっちは対人戦なんかやったことねえっての!!」

 

実際この身体はまだ対人戦について行けない。クーはティアの前ではずっと姿を現している。サーヴァントであることを隠している状態だ。

ジェイドが口を開いた。

 

「ティア、ルークは武器を持っていると言っても軍人ではないのです。彼は前線に立つことはありえない人物。我々が守るのが当たり前です」

「しかし、大佐! それでは大佐の負担が……!」

「私の負担? そのようなものはどうでもよろしい。あなたの迂闊な行動のせいでイオン様だけでは和平の使者としての役目を果たせるのかが不安な状態になっているのです。私の使命は和平の使者としてキムラスカへ向かうこと。そのためにルーク様の権力上の地位を借りることになるのですから、私は腕や脚の一本や二本覚悟の上ですよ」

 

ジェイドの腕や脚を吹き飛ばしたりさせないようにしてくれ、クー、と小さくつぶやくと、クーはわかった、と言ってくれた。

ガイがもうすぐそこに来ているはずだ。

ガイはエミヤとギルを連れてきてくれるはず。いや、ギルが居なくてもいい。エミヤだけでも俺を守ってくれるには十分すぎるほどの戦力のはずだから。

 

ジェイドの言葉でティアは押し黙って、俺を睨んだ。なんで俺の方がお前の中でジェイドより下に見られてるのかが非常に気になるよ、ティア。

 

俺たちは外に出た。その瞬間から、クーによる一瞬の殺戮が始まって、俺はたぶん、青ざめたと思う。

ちなみにリグレットがイオンを連れてきたとき、ティアがまた吠え出したけれど、ガイが華麗に参上してジェイドとクーでリグレットほか神託の盾騎士団の兵をタルタロスに押し込んだ。

あれ、アリエッタは?

あと、エミヤたちは?

 

「ルーク様っ!!」

「ガイ!」

 

ガイが俺に駆け寄ってきて、安否確認、怪我の確認、してくれて、そして横で紅の槍を持って立っていたクーに視線を移した。

 

「ランサーとお見受けする」

「おう。ランサー、クー・フーリンだ」

 

ジェイドはイオンの様子を見て、ガイの方を見た。

 

「ジェイド・カーティスと申します」

「ガイ・セシルと申します、カーティス殿。イオン様、初めまして」

「えっ」

 

イオンは驚いたようだったけれど、俺はわかった。手紙にガイはガイラルディアって書いちゃうからだ。マリオン宛の手紙をアリエッタに渡してわざと、以前から交流があったことはイオンに分かるようにしてあった。イオンにガイラルディアだよと耳打ちすると、イオンは表情をほころばせた。

 

「ガイ、初めまして」

 

そしてその後から、ティアが出てきた。

 

「私はティア・グランツよ」

「ほう。貴様がか」

 

ガイが腰の剣に手を掛けた。

 

「ガイ、よせ。彼女にはちゃんとキムラスカで罰を受けてもらおう」

「ですが、ルーク様」

「もう大丈夫だから。お前に会えたんだし」

 

俺はガイをなだめ、タルタロスの上を見た。そこに、エミヤがいた。

弓を構えている。

ティアに向けて、矢をつがえていた。

 

「エミヤ、降りてきてくれ」

 

エミヤが降りてくると、その手の弓が消えて、鎖に持ち替えられていた。

そして、一瞬でエミヤがティアを縛ってしまった。

 

「ちょ、えっ!?」

「罪人の身でありながら謝罪の一言もない、まあ使用人風情に謝罪などされようが関係ないが、ぬけぬけと名乗ったのだ、これくらいは当たり前だと思え」

 

イオンは暗い表情になった。

 

「エミヤさん、イオンと申します」

「ああ、マリオンから君の話は聞いている」

 

イオンがふらついた。俺はミュウをイオンに押し付けて、エミヤたち側に合流し、ティアを含めて、俺たちはセントビナーへ向かった。

六神将がいたから“前回”通りに進んでカイツールへ。

 

そこでヴァンと合流、アリエッタのフレスベルグに拉致られてコーラル城に連れていかれた。シンクとディストとアリエッタとちょっとくっちゃべって、アッシュが来たのでおとなしく同調フォンスロットを開けてもらった。

 

「随分大人しくしていますねえ」

「いや、六神将これだけ揃ってるのに暴れるとか自滅ものじゃんか」

「ま、そうだね」

「痛いとこ、ない、ですか……?」

 

アリエッタが気遣ってくれる。シンクは俺にこっそりと手紙をくれて、追いついてきたガイたちに俺は回収されて、アリエッタたちはそのまま解散していった。

 

ヴァンと再合流後、俺たちはバチカルへと帰還した。超振動騒ぎ?なかったよ。

 




超振動騒ぎはルークもサーヴァントたちも気を付けていたので起きてません。ルークを単独にしないで済むから霊体化って便利だと思うのです←


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