デート・ア・ペドー (ホワイト・ラム)
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ペドーバットエンド
俺の名は五河  士道!!


ついイラッとして書いたこの作品。
いろいろとおかしい部分が有るので、俺の士道はこんな性格じゃねぇ!!
となります。
其処がダメな人はブラウザバックしてください。


「お前も私を殺しに来たんだな?」

目の前の少女が、此方に剣を向ける。

瓦礫の廃墟の群れと成った町に立ち、空にはおかしなスーツを着込んだ別の少女たちが忙しく飛び回っている。

実に特殊な光景だった。

 

「なぁ、お前。名前はなんて言うんだ?」

少年、五河 士道が目の前の美しい少女に尋ねる。

一瞬考えた様子を見せ、再び少女が口を開いた。

 

「そんなものは無い!!」

 

「ないのか~。じゃ、攻略は無理だな~、琴里ー!!回収よろ!!」

自身の耳につけている、インカムに向かって話すと同時に妹の怒鳴り声が聞こえる!!

 

「バァカァヤロォオオオオオ!!!名前が無いくらいで諦めんな!!さっさと攻略しろぉおおおお!!」

士道の妹は大層お怒りの様だ!!

 

「えー?だってぇ、第一好みじゃないしー、俺巨乳とか見てると吐き気が……」

 

「うるさい!!例の約束守ってほしければ、落としなさい!!」

『約束』その一言で士道の態度が一気に変わる!!

 

「そうだよな……俺には約束が有るもんな。じゃぁ、俺の戦い(デート)を始めようか」

にやりと、士道が笑いかけた。

 

 

 

 

 

4月10日

朝の光が差し込む、五河家。

その長男の士道は幸福な惰眠を貪っていた。

 

「ふみゅ~ん……みんなかわい――」

 

「ファイナルアタックライド!!コトコトコトリ!!」

 

「ぐぇ!?」

突如、士道の腹部に強力な痛みが走る!!!

優しい眠りの世界から一瞬にして、士道は現実の世界へと引きずりこまれた!!

 

「おはよう、我が妹よ……」

 

「おはようだぞおにーちゃん!!」

士道の胸の上で熱くステップを踏む、この少女は五河 琴里。

兄に乗っかって、居るというのに悪びれる様子は全くない!!

そして、琴里の姿は中学の制服!!つまり、見えるのだ。

その、白と青のストライプが……

 

「…………そこ、のけ。あと座れ、胡坐な?」

 

「はーい、おにーちゃん」

琴里を自身の上から、どかせベットの上に胡坐で座らせる。

士道がすぅっと息を吸い込む。

 

「琴里ぃ!!お兄ちゃんは嬉しいぞ!!朝から、妹のパンチラとか最高じゃないか!!

白と青のストライプが俺の脳裏にしっかり刻まれたぞ!!

はぁはぁはぁ…………まったく……そんなパンツをお兄さんに見せびらかすなんて、琴里ははしたない子だねぇ?

はぁ、はぁはぁ……コレはオシオキが必要だねぇ?あと、他人を誘惑しない様にお兄ちゃんがそのパンツは没収します!!さぁ!!脱いで渡し――」

 

「お兄ちゃん学校遅刻するよ?」

息を切らす士道に対して、琴里が冷静の指で時計を指す。

その指摘の通りもうすでに、出掛けなくてはいけない時間だった!!

 

「くそ!!新学期そうそう、ロリ妹と背徳タイムだったのに!!くそ!!」

バタバタと士道が準備を始める。

この男!!ロリコンである!!

 

 

 

 

 

『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

学校で自身に親友、殿町に幼女の素晴らしさを語っておる最中に空間震の警報が鳴り響く!!

殿町はまるでゴングに救われた、レスラーの様に安堵した表情をする。

 

「ちッ!せっかく、良い所だったのに……仕方ない。幼女の良さはまた後で語ってやるからな」

 

「あ……ああ……アリガトな」

そう言うと、士道はシェルターとは別の方向へと走り出した!!

 

「ちょ、五河君!?何処にいくんですか!?」

士道たちの担任、通称タマちゃん先生が注意するが、士道は止まらない!!

 

「ウルセェ!!賞味期限切れ!!俺は……俺は、空間震で逃げる最中に母親とはぐれた幼女が居るかもしれないから探しに行くんだよ!!ぐへへへへっへへへ!!」

欲望一直線な顔をして士道が全力疾走する!!

クラスの大半の女子、というか一部を除いた男子もドン引きするが全く気にしない!!

 

「しょ、賞味期限切れ……私まだ……私まだぁ!!!」

それと同時にまた新しいカナシミが生れたが、今回は気にしないでおこう。

 

 

 

「どこだぁああ!!!幼女はどこだぁああああああ!!!」

人の少なくなりつつある、町を士道が全力で走り抜ける!!

欲望のみに、かられた男の姿がこれだ!!

 

「ハッ!?俺の幼女(80%が琴里)を収めた、お宝フォルダを入れた携帯は……あった!!良かった!!

こんなお宝、なくせないもんな!!」

安心して、自身の妹の居場所をGPSで探る。

安心してというのは士道だけで、おまわりさんに見せたら容赦なく犯罪者となってしまう単純所持禁止のアイテムなのだが……

 

「琴里ぃいいいい!!!なんで、ファミレスの所に居るんだぁ!?空間震鳴ってるだろぉ!?

はっ!?まさか……俺を待ってる!?俺をまってるんじゃないの~?」

そう思い込んだ、士道の行動は早かった近所の小学校付近(最近高校生の不審者の目撃情報が多発)から、割と良く行くファミレスへと足を向かわせる!!

 

 

 

 

 

「神無月、私の家族って呼びたくないけど、あのロリコン汚物は何処にいるか解るかしら?」

とある、艦の中で一人の少女が近くにいた白い髪の男に話しかける。

 

「何を思ったのか、避難していませんね……むしろこちらに向かっている様です」

 

「そう、なら話は早いわ。『フラクシナス』に回収して」

 

「は!了解しました」

男が部下に向かい部下が、機械のコンソールをポチポチ叩きだす。

すると……

 

 

 

「うわぁ!?体が突然宙に浮いた!?なぜ!?幼女が浮いたらとりあえず覗こうと考えてたが……こんなの計算外だ!!俺は、幼女のパンチラが――」

突然の浮遊感に士道が慌て、一瞬にして見える景色が変わっていく!!

次の瞬間、士道は機械の覆う銀色一色の一室に移動していた。

 

 

「俺は幼女のパンチラが見たいんだぁあああ!!」

 

「…………ふむ……」

士道の魂の叫びを聞いた目の前の女性が、目を合わせる。

眠そうな目を見てボソボソと話す。

 

「他人と親しくなるのに、自身の秘密を語るのはコミュニケーションとして非常に有効だ……

だが、初対面の異性に流石にそれは無いんじゃないか?」

目の前の女性がくまにおおわれた、顔をしかめる。

 

「異性?何処に異性が?」

*士道は幼女以外の性別の興味は無いため、目の前の女性の性別に気が付いていません。

当然だが、この時点でこの女性の士道に対する好感度が下に向かってカンストしている!!

 

「はぁ……付いて来たまえ。君に紹介したい人がいる」

 

「幼女?」

 

「あー……一応は……」

 

「イェス!!イェス!!ヘイ!!イェェェェェェス!!カモーン!!」

ドンドン下がる、女のテンションと反比例するように士道のテンションが上がる!!

脳内ではドーパミンとかが出過ぎてやばい!!

 

「一応、名前を言っておこうか。村雨 令音だ」

 

「へぇー、令音ちゃんっていうのかー!!名前かわいいなー」

 

「……そうか?そんなこと言われたのは初めてだ、少し照れて――」

 

「あ、なんだ。年増の名前か、期待させんな」

令音が目の前の女性の名と知って、一気に士道の機嫌が下がる。

それと同じくして、令音の中で何かが切れかかる!!

 

「……ここだ……此処に君に――」

 

「幼女カマァアアン!!今、遭いに行くよ!!マイハニー!!」

令音の説明を終わらせずに、士道が扉を開けて内部に入る!!

そこには二人の人物がいた。

一人は、小さな姿を椅子に座り士道を見て、もうひとりは男で直立不動の姿勢をしている。

士道はそのうちの、一人。座っている人物に見覚えがあった。

 

「ようこそ、士道。空中戦艦『フラクシナス』へ」

 

「琴里?どうして此処に!?ってうか……ああ、中学生だしな……」

高圧的な態度をとるのは間違いなく、士道の妹琴里だった。

士道の脳内で、勝手に中二病と決めつけ可哀想な人を見る目をする。

 

「ちょ!?中二病じゃないわよ!!むしろ、士道こそ中学の頃――」

 

「ん?俺の固有欲望能力『溺愛と衰弱の箱庭(ロリコニックガーデン)』の事か?」

自身の中学の頃の妄想を、何の悪びれも無く言い放つ!!

 

「少しは恥ずかしがりなさいよ……」

 

「我が人生に一片の恥じ無し!!」

 

「神無月!!こいつを、フラクシナスから放り捨てて!!こいつは思った以上にダメよ!!」

 

「司令!?落ち着いてください!!彼は、精霊との対話の切り札――」

隣の男が、必死に押さえつける。

 

「ん?軍服風の姿なのに精霊?ネーミングセンスねーな。世界観バラバラ……せめて錬魔とか奇戒精……」

 

「君も油を注がないで!!」

必死になって神無月と呼ばれた男が引き留める!!

 

 

 

 

 

「で?俺に精霊を具体的にどうしてほしいんだ?」

何とか椅子に座った、士道が琴里から説明を受ける。

 

「この世に精霊の力を封印する力が有るのは、現在士道だけ。

精霊とデートして、好感度を上げて力を封印するのよ!!

そして……

コレが、現在この町で確認されている精霊よ」

 

琴里の指示で、空中に鎧の様な姿をした美少女が表示される。

数人のおかしな服を来た、女性に囲まれているがその戦力は、圧倒的に鎧の姿の美少女に適わない様だった。

 

「コレが……精霊?」

士道が指さすと同時に、ビルが剣の一振りで砕け散った!!

 

「そう、コレが世界を殺す最悪の存在、見て。この子とても悲しい目をしてる……」

 

「琴里……帰っても良いか?」

 

「何でよ!?助けようとは思わないの!?」

琴里が、口に咥えた飴を手に持ちながら話す。

 

「いや、危ないし……」

 

「フラクシナスが全力で応援するから!!」

 

「第一、この精霊……見た目が好みじゃない!!見ろ!!結構な巨乳だ!!」

士道の言葉に、近くにいた男が憤り士道の首をひっつかむ!!

 

「貴様ぁ!!巨乳の何がいけない!?巨乳こそ人類の秘宝!!」

熱く語る、なぜかセーラー服を着た男の主張を士道は冷めた目で見ていた。

 

「黙れ三下」

 

「さ、三下!?20も生きてない小僧に、『萌』の一体何が――」

 

「その時点で貴様は三下なんだよ!!

いいか?『萌』とは、誰にでもある平等な感情!!年下が好きだ!!年上が好きだ!!幼馴染が好きだ!!転校生が好きだ!!未亡人が好きだ!!寝とりたい!!寝とられたい!!顔が好きだ!!髪が好きだい!!胸が好きだ!!手が好きだ!!腰が好きだ!!へそが好きだ!!尻が好きだ!!腿が好きだ!!足が好きだ!!足裏が好きだ!!Sなシチュが好きだ!!Mなシチュが好きだ!!

『萌』とは誰にでも、形は違えど確かにあるハズだ!!

それをなんだ?アンタは!!『小僧』だと!?『萌』に年齢は無いだろうが!!アンタはたった今、年功序列言う日本の呪われし概念で俺を、攻撃したな!?俺に巨乳の良さを認めさせたいなら、その良さを語らんかい!!『萌』を常識で縛るんじゃない!!

いいか?誰かの『萌』は誰かの『萎え』なんだ、お互いがお互いを攻撃してはならない……

それこそが『萌』に生きる者のルール!!出直して来い!!」

 

「す、すいませんだしたぁあああああ!!」

その男は士道に向かって、土下座を繰り出した!!

 

「おじさん……わかってくれたならいいんだ、今度俺と『ロリ巨乳』の良さに付いて語ろうぜ?」

 

「し、士道君……」

男と士道が固く、握手をした。

 

「さて、琴里?次はお前だ、恋心を利用して精霊を騙くらかして力を奪うのは良い。

だが――相手の子、好みじゃないんだけど?」

 

「うっさい!!ささっと攻略しなさいよ!!!あと、別に騙す訳じゃ――」

 

「あー、幼女に『お願いおにいたま。ことりんのお願い聞いてほしいニャー』とか、猫耳装備で言われれば考えなおすんだけどなー?」

そう言ってチラチラと目を琴里に向けて来る。

 

「(司令、やるしかありませんよ)」

コソコソと神無月が猫耳を指しだす。

なぜか持ってる、神無月。

 

「つ、つけなきゃダメ?」

 

「パンツにエプロンの方が良い?あ、パンツはクマさんプリント――」

 

「や、やるわよ!!やればいいんでしょ!?」

そう言って琴里が猫耳を装備する!!

 

「お、おねがい……おにいたま……こ、ことりんの……ことりんの……って――ッやってられるか変態アニキぃいいいい!!」

飛び上がった、琴里の蹴りが士道の顎を捉える!!

一瞬写った白青のストライプを記憶に焼き付けつつ、士道は意識を失った。

 




ノリと勢いで書いた作品。
いろいろとすいませんでした!!


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集合せよ、フラクシナスメンバー!!

ち、違うんです!!
この作品は作者の願望が出たとかじゃなくて……

私の趣味だ、良いだろう?


『や……ッ、な、何すんのよっ!』

 

『仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになちゃったんだから』

 

『!! いやッ!!やめて!いやぁあああああああ!!』

 

『いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか』

怪しく笑う男と泣き叫ぶ幼い容姿の少女。

突如二人の動きが止まり、突然空中にフレームが出現する。

 

「ほい、ロードっと」

カチカチと音をたてて、慣れた様子で士道が画面の矢印を動かす。

すると、またしても画面が変化する。

 

『や……ッ、な、何すんのよっ!』

 

『仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになちゃったんだから』

 

『!! いやッ!!やめて!いやぁあああああああ!!』

 

『いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか』

 

そして再び開かれる、別画面。

「ロード、ロード」

 

『や……ッ、な、何すんのよっ!』

 

『仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになちゃったんだから』

 

『!! いやッ!!やめて!いやぁあああああああ!!』

 

『いいじゃないかいいじゃないかい――――

 

 

 

「いい加減にしなさいよ馬鹿アニキぃいいい!!」

いつまでも同じ行動を繰り返す士道の頬に、琴里の渾身の右ストレートが叩き込まれる!!

ガシャン!!と音をたて士道が理科準備室の部屋に倒れる!!

 

「何するんだよ、琴里ぃ?」

頬をさすりながら、立ち上がった士道が再びゲームを再開しようとする。

 

「ロード、ロー……」

 

「止めなさいって言ってるの!!なに!?なんでさっきからおんなじミスばっかりしてるのよ!!?おかしいでしょ!?」

士道がやっていたのは、フラクシナスが開発した『対精霊用シミュレーション体感訓練用ソフト』大仰な名前が付いているが、簡単に言ってしまうと『ギャルゲー』だ。

 

「俺は、このシナリオに惚れたんだ……惚れたシナリオは何度も見たいだろ?」

 

「この子のエンディングはこれじゃないわ!!どう見たってバットエンドでしょ!?」

 

 

カチカチ……

『や……ッ、な、何すんのよっ!』

 

『仕方ないじゃないか。リリコの――

 

 

 

「止めろって言ったでしょ!?なんで平然とやり直してるのよ!?っていうか、このルートどう見たって犯罪者でしょ!!アナタ犯罪者になりたいの!?」

 

「愛する事が罪なら……俺が背負ってやる!!」

キリッと無駄にいい顔をして、士道がコントローラーを握る。

 

「だめだ、コイツ!!!もう手遅れよ!!」

 

「琴里、落ち着き給え」

 

「令音ぇ……お兄ちゃんが犯罪者に成っちゃうよ~

恋してよぉ……お願いだから恋してよ、マイリトルシドォ」

ぐずぐずと半泣きで琴里が、令音の白衣を掴む。

困った顔をする令音、彼女はもはや士道の事はあきらめていた。

 

『や……ッ、な、何――

 

「ふひひ……この怯えた声が……」

まぁ、たぶんもうすでに手遅れだろうが……

 

「はぁ、シン。今のうちにこのインカムを渡しておくよ。

これさえつければフラクシナスからの、アドバイスが聞けるハズだ。

精霊との攻略に必ず役に立つハズさ」

そう言って令音が、士道に小型のインカムを渡す。

 

「インカム?こんなに小さいのに、ちゃんと聞こえるのか?」

訝しがりながら、士道が右耳に装着する。

 

『マイクテス、マイクテス!!士道君聞こえるかな?』

インカムの向こうから、この前会った神無月の声が聞こえる。

非常にクリアではっきりと聞こえる。

 

「おお、しっかり聞こえる!!盗聴とかし放題だ!!」

 

『そこに気が付くとは……さすが士道君だね?』

神無月の楽しそうな声が聞こえる。

 

『では、士道君。せっかくだから我がフラクシナスの頼れるメンバーを、インカム越しに紹介しよう!!

まずは一人目!!五度の結婚を経験した恋愛マスター・早すぎた倦怠期(バットマリッジ)川越!!』

 

『金さえあれば、結婚くらい何度でも出来るわ!!』

川越の声が響く!!

 

「おカネのチカラってすげー!!」

 

『二人目!!夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る社長(シャッチョサン)三木元!!』

 

『会うたびにクスリくれって、言われますよ。ぐへへへ』

ゲスな声が聞こえた。

 

「女はちょい悪に弱いからな!!」

 

『恋のライバルの次々不幸が!!午前2時の女!!藁人形(ネイルノッカー)椎崎!!』

 

『証拠は残しません!!』

 

「藁人形打っちゃいけないって、法律は無いもんな!!」

 

『1000人の嫁を持つ男!!次元を超える者(ディメンジョンブレイカー)中津川!!』

 

『ちなみに娘は現在、男の娘含め4545人居ます!!』

 

「俺は妄想の中に、ひらがな46音、アルファベット26文字をそれぞれ頭文字にして名付けた、計72人の幼女がいます!!」

 

『さらに、深すぎる愛ゆえに――』

 

「もうやめなさい!!」

遂に切れた琴里が、強制的に回線を切る!!

このままでは、自身の兄だけではなくフラクシナスメンバーまで、信用できなくなると踏んだからだ。

 

「おい!!返せよ!!同士が出来たかもしれないんだぞ!?」

不機嫌な士道を無視して、琴里が令音を連れて部屋から出ていく。

一人残された、士道はインカムを机に置き再びゲームを起動させた。

 

「ふぅ、やっと本気を出せるぜ……ゲームキャラとはいえ、幼女が苦しむのは辛いもんな」

今まで見せたことの無い優しい表情でゲームを進めていく。

 

『おにいちゃーん!!』

 

カチカチ……

 

『リリコね?悪い子に成っちゃったかもしれないの……』

 

カチカチ……

 

『え……ううん……聞こえなかった訳じゃないの……ねぇ、もう一回……もう一回私の事好きって言って?

違う……もう一回じゃないね、飽きるまで、私がおばあちゃんになってお兄ちゃんがおじいちゃんに成っても……ずっと好きって言って……』

 

画面では、兄妹であるという周囲の目に耐え真実の愛と言える物にたどり着いた二人が抱き合っている。

どうやら、コレがトゥルーエンドの様だった。

 

「リリコ……ぐすッ……いい話だったなぁ」

スタッフロールが流れはじめ、断片的にだがその後がイラストで流れていく。

高校卒業、二人でのデート、結婚式……

その度に、士道の涙腺が緩んでいく。

 

そして最後にFINの文字が出る。

 

「はぁ……こういうゲームってやり終ると、独特の虚無感っていうのが有るんだよな。

さて、またリリコを襲うか」

 

台 無 し !!

 

カチカチ

 

『や……ッ、な、何すんのよっ!』

 

『仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになちゃったんだから』

 

『!! いやッ!!やめて!いやぁあああああああ!!』

 

『いいじゃないかいいじゃないかいい――ブチッ!!

 

「ああ!?」

リリコの悲鳴を聞いて心を豊かにしていると、突如画面が真っ黒に変わる!!

せっかくの良いシーン?に水が差される!!

 

「んだよ!?ぶっ壊れ――あれ?()()()()()()()()()?」

うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー

という独特な音がこの時初めて、士道に聞こえた。

ゲームに夢中の士道は気が付かなかったが周囲にはけたたましいサイレン音が鳴っていたのだった!!

 

「マジかよ!?せ、セーブしないとリリコが消え――」

グシャーン!!

士道が頭を抱えて、立った瞬間さっきまで座っていた椅子が壁ごと吹き飛ばされる!!

コォーンと、音をたてて鉄製の椅子が見るも無残な姿で床に転がった。

 

ダラダラダラと嫌な汗が噴き出る。

最悪な事に、すぐ近くから人の気配の様な物までし始める。

 

「うっとおしい奴らだ!!何度でも追い払ってやろうぞ!!」

黒い影がすぐ脇を通り抜け、今度は窓側の壁をたたき割り外に飛び出す!!

外からは斬撃音や、発砲音などリアルの世界では無縁のファンタジーな音が聞こえてきさえする!!

 

「こ、琴里!!精霊!!精霊目の前に居た!!」

慌ててインカムを取り、そのマイクに向かって叫びだす。

 

「あーあー、解ってるわよ……今こっちのモニターでも確認済みよ?

ってか、なんでアンタ逃げてないのよ?」

 

「ん?リリコと【しょうがないじゃないか】していたら逃げ遅れた」

最早インカムからは何も聞こえてこなかった。

ただ、自身の妹がすすり泣く様な声が僅かに聞こえた気がした。

 

「あれー?琴里ー?お兄ちゃんの声が聞こえてるか?」

 

「大丈夫……大丈夫よお兄ちゃん!!精霊に全裸で突っ込めばすべての問題は解決する――ちょっと!?令音!?何を――」

ブッツ!!

「すまないシン。最近琴里はストレスが溜まっている様で取り乱してしまったんだ。

私が変わった、もう大丈夫だ」

琴里の声が消え今度は令音の声に変った。

 

「さて、精霊は、少し近く……君の教室に居る様だ、早速接触を図ってくれないか?」

 

「令音さん……あの、ゲーム……壊れちゃったんです……

リリコが……リリコが!!俺が、俺が守らなきゃいけなかったのに!!」

 

「大丈夫だ、今続編作ってるから」

 

「ジ・デ・マ!?ち、因みに――」

 

「ああ、君のやる気が出る様に、R17,9仕様だ。存分に楽しみたまえ」

 

「いやっほう!!ほほほーい!!エークストリィイイイイイイム!!」

自らの心にウチにたぎる思いを全力で言葉にする!!

まさに魂の叫び!!大地がもっと幼女を!!と囁いてくる!!

 

「ただし、精霊を攻略出来ない君に、そのゲームは不要だ。私の言いたい事解るね?」

 

「チッ、リリコに会うために、巨乳――いや、胸部デブを攻略しなきゃならないのか……

だが!!俺は行く!!幼女とのイチャラブ性活の為に!!」

欲望にかられた、士道!!全速全身で精霊の元に向かう!!

果たして、士道は精霊を攻略できるのか!?

そして、琴里の胃腸は大丈夫なのか!?

 

波乱の展開を見逃すな!!

 

次回!!『士道死す!!かも?』

デュエルスタンバイ!!




どうしよう……キョウゾウさん行く前に、琴里が倒れそう……大丈夫かな?


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精・霊・交・渉!!

久しぶりの投稿作品。
なぜか皆さん、「胸部デブ」のフレーズがお気に入りの様で……


コト……コト……

まるで、処刑台に上がる死刑囚の様な気持ちで士道が教室への階段を上がる。

この先に、士道の目的の相手『精霊』がいる。

突如、謎の組織に懇願された美少女の攻略。

 

ガゴーン!!グシャーン!!

 

見慣れた学校から非常にSFチックな効果音が響く。

 

「あ~、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!

まだ俺にはやりたい事が沢山ある!!

25メートルプールいっぱいにスク水小学生を溜めて、そこに飛び込みたいし、少しッ背伸びした幼女に、大人な下着で『もう子供じゃないもん!!』って言って誘惑されたい!!」

 

『アンタの欲望最低ね……』

思わず漏れた士道の欲望に、インカムから聞こえる琴里の声が空しく響く。

遂に、目的地の扉の前に立つ。

 

「はぁ……はぁ……すぅー……はぁー」

深呼吸を済ませ、勢いよく扉を開く!!

 

「あ――」

士道は、目の前の光景に息を飲んだ。

不思議な輝きを放つ鎧を着た黒髪の少女が、何時も使っている士道の机の上で片膝を立てて座っていた。

 

(やべぇ……確かあの中って、俺のお気に入りの本条先生のロリ凌辱系本入りっぱなしだったわ……)

密かに士道が焦る、言葉の通りあの机の中には18禁本のエロ漫画が一冊入っていた。

士道の好む作者なのだが、なぜか5年ほど前から新刊を出しておらず、しかも人気は高まるばかりなので入手が非常に難しいのだ。

それが、あの危険な精霊の下に!!

救出せねば!!という心が士道の中に沸き起こる!!

そんなことを考えていてたら、相手の方が先に動き出した。

 

「む?」

 

「は、ハロー――」

ヒュン!!

 

士道の挨拶が終る前に、士道のすぐ横を何かがすさまじいスピードで駆け抜けていった!!

チラリと見ると、入って来た扉が跡形もなく破壊されてた。

 

「……は……はは……」

渇いた笑みが、士道からこぼれた。

 

「……………チィ……」

少女の手に、黒い輝きを持つ光弾が生成される!!

そしてゆっくりと、此方に腕をむけてくる。

 

「ちょ、ちょっとまっ乳首――じゃななかった。待ってくれ!!」

どうどうと手を上げ、敵意が無い事をアピールする。

 

「お前は、何者だ?」

 

「お、俺は――」

 

『士道待ちなさい!!』

口を開いた士道をインカムから聞こえる琴里の声が静する。

 

 

 

場所は変わり、フラクシナス艦。

スクリーンに、目の前の精霊と周囲に好感度などのメーターが表示されている。

更にギャルゲの様に、二人の会話がテキストとして出力されている。

 

『お前は、何者だ?』

精霊の言葉と同時にアラームが鳴り、画面に選択肢が表示されていく。

フラクシナスのよくわからんがすごいらしいコンピューターがはじき出した選択肢で正解を選べば相手に取り入れるらしい。仕組みは全くわからんが……

示された選択肢は以下に。

①「俺は五河 士道。君を救いに来た」

②「通りすがりの一般人だ。よーく覚えておけ!変身!!」『KAMEN・RIDE!!』

③「人に名を尋ねる時は自分から名乗れ」

④「これも全部、乾巧って奴の仕業なんだ」

 

「総員選択!!五秒以な――選択肢、一部おかしくない?」

琴里が、途中で言葉を止める。

 

「たぶん、ゴルゴムの仕業でしょう……」

 

「ユグドラシルぜってーゆるせねぇ!!」

ざわざわと乗組員が選択肢を選んでいる。

 

結果最も多いのは③だった。

④とか選ばれても困るし……

 

 

「人に名を尋ねる時は自分から名乗れ!!」

琴里からの指示で、士道が精霊に向かって選択肢どおりのセリフを放つ。

 

「不愉快だ!!」

士道の足元に、精霊の攻撃で穴が開く!!

2階下の教室まで貫通する大穴がひらく。

 

「まてまてまて!!お前って、この前の10日にこの町来たよな!?」

 

「ん?なんのことだ?……確かに前に来たが……

何が狙いだ?私を安心させ後ろから襲う気か?」

訝し気に精霊が、話す。

 

「俺は幼女以外襲わない!!」

堂々と、士道が精霊に言い放つ!!

え?お回りさんの前で同じこと言えるかって?無理だよ。

捕まるもん。

 

「では一体何が目的なんだ?」

カタカタとコンピューターが士道に話すべき、言葉を選んでいく。

 

「き、きみと愛し合うタメダヨー」

頬が引きつり、棒読みに成っていく。

士道にとって冗談でも言いたくない言葉だった。

精霊をハゲたデブの臭いオッサンに置き換えると、読者諸君にも士道君の味わう不快感が理解できるだろう。

 

その瞬間外から騒がしい喧騒が聞こえる!!

その音を聞いた瞬間精霊が露骨に機嫌を悪くした。

 

「チィ!!何時もの奴らか!!貴様!!!謀ったな!?」

びゅんびゅんと飛ぶ機械を着込んだ少女たちが舞う。

 

「い、いや……そんな訳では……あ!!クラスメイトの折紙だ!!オーイ!!」

空飛ぶ少女の中に自身のクラスメイトを見つけ、士道が手をふる。

 

フルフル……あ、返してくれた。

 

「お、お前絶対アイツらと繋がってるだろ!?やっぱり、お前も私を殺しに来たんだな?」

目の前の少女が、此方に剣を向ける。

瓦礫の廃墟の群れと成った町に立ち、空にはおかしなスーツを着込んだ別の少女たちが忙しく飛び回っている。

さらに、明らかな違法改造されたバイクまで乗りつけられ、刺の付いた肩パッドをしたモヒカンの半裸の男たちが武器を構える。

 

「ヒャッハー!!ASTだー!!ここは通さねぇぜ?」

 

「もう我慢出来ねぇ!!精霊は消毒だー!!」

隣の男が火炎放射器を空に向けて打つ。

実に特殊な光景だった。

 

(やっべ……話題そらさないと……)

 

「なぁ、お前。名前はなんて言うんだ?」

少年、五河 士道が目の前の美しい少女に尋ねる。

一瞬考えた様子を見せ、再び少女が口を開いた。

 

「そんなものは無い!!」

 

「ないのか~。じゃ、攻略は無理だな~、琴里ー!!回収よろ!!」

自身の耳につけている、インカムに向かって話すと同時に妹の怒鳴り声が聞こえる!!

今の最優先はとにかく脱出!!必死で琴里に呼びかける!!

 

「バァカァヤロォオオオオオ!!!名前が無いくらいで諦めんな!!さっさと攻略しろぉおおおお!!」

士道の妹は大層お怒りの様だ!!

 

「えー?だってぇ、第一好みじゃないしー、俺巨乳とか見てると吐き気が……」

 

「うるさい!!例の約束守ってほしければ、落としなさい!!」

『約束』その一言で士道の態度が一気に変わる!!

 

「そうだよな……俺には約束が有るもんな。じゃぁ、俺の戦い(デート)を始めようか」

にやりと、士道が笑いかけた。

非常に乾いた笑いだったが……

 

『士道!!早く会話を続けなさい!!どうやらSATは運よく様子見を選んでくれたみたい!!侵入される前に、攻略するのよ!!』

 

慌てる士道の琴里の激が飛んでくる。

 

「な、なぁ?俺の名前は、五河 士道って言うんだ……敵じゃない。

コレ本当、信じてくれないか?」

 

カチャ、カチャ……

士道が、自身のベルトに手を掛けながら優しくほほ笑みかけた。

 

「なぜ脱ぐ!?」

 

『何で脱いでるのよ!?』

精霊と琴里、両方からほぼ同時に、同じツッコミが入る。

 

「い、いや、ほら、武装解除的な?武器は有りませんよアピール?」

脱ぎッ!!脱ッ!!

廃墟で行われるキャストオフ!!

遂に士道は、自身に残されたシャツを脱ぎ捨てる!!

これで、士道の服は靴下とパンツオンリー!!

 

「さて……」

 

「解った!!わかったからもう脱ぐな!!」

パンツに手を掛けた瞬間精霊が必死になって止めに入る!!

チラリと窓を覗くと、折紙がカメラを向けていた。

 

グッ!!……サムズアップして帰っていった。

 

「本当か?」

士道が精霊に聞く。

 

「ほ、本当だ!!」

たじろぐ精霊が答える。

「本当に本当?」

 

「ほ、本当に本当だ!!」

 

「本当に本当なんだな!?よし、脱ぐのはやめてやろう、良いか?少しでも敵意を見せたら……即!!脱ぐからな?」

 

「わ、解った……」

士道の言葉に、精霊が頬を赤らめながら剣を下ろす。

 

「えっと……たしか……貴様、ペドーとか言ったか?このままでは不便だ。

私に名をくれ、お前は私を何と呼びたい?」

 

「胸部デブ」

反射体的の答えた瞬間!!

フラクシナスに大量の警告音が鳴り響く!!!

 

「し、指令!!大変です!!精霊の好感度が下がってます!!

現在の好感度は――――5です!!」

 

「好感度5!?カスめ!!総員、急いで名前の候補を送りなさい!!

一刻も早く!!」

琴里がそう叫んだ時、すでに何人かが名前の案を提出していた。

 

「ええと……川越!!美佐子って別かれた奥さんの名前じゃない!!」

 

「振られるのは僕じゃない……僕が振ったんだ……」

トラウマが再発したのか、川越はお気に入りの帽子を触りながら美容師様のハサミを触っている。

 

「……ったく、他は……未来来?ミクの誤字かしら?」

 

未来来(ミラクル)です!!」

 

「あなたは生涯子供を持つことを禁止するわ!!」

 

「一番上の子がもうすぐ、小学一年生です!!3兄弟です!!」

 

「……ちなみに名前は?」

 

露主王(ロシュオ)出夢祝(デムシュ)列頭得(レデュエ)です!!」

 

「遠くの森にでも引っ越しなさい!!」

 

 

 

 

 

「なぜか分からないが、馬鹿にされた気がした……」

精霊がどことなく落ち込んで、士道を見る。

 

「あー、じゃあ……10日……十香はどうだ?」

 

「ぬ?とーか?まぁ、さっきよりはマシだろう……ちなみにどういう字を書くんだ?」

 

「ほい、十香」

士道が、近くにあった黒板に名前を書く。

 

「ほう……コレが私の名……はじめて見た……」

 

「10は栄光のナンバーだ」

士道の言葉を無視して指で字を真似しながら十香が黒板を削る。

その時突如、校舎が爆音とともに揺れる!!

 

「な、なんだ!?」

 

『外からの攻撃ね……ASTが強硬策に出て来たか!!』

琴里の歯噛みする声が聞こえる。

 

「ペドー!!ここから逃げろ!!私と一緒に居ては、同胞に撃たれることになるぞ!!」

十香が、流れ弾を腕で払いながら言葉を発するが……

 

「ま、まぁ待て……此処は二人でお話しないか?……っていうか、逃げた所で誤射されて死ぬ未来以外見えんし……」

 

「仕方のない奴だな……こっちに来い」

ヒョイヒョイっと十香がこちらに手招きする。

 

(あ、コイツ、チョロインだわ……)

そんなことを考えながら、士道がほくそ笑む。

 

チューン!!

 

士道の目の前で、士道の机がハチの巣にされる!!

「あ……」

 

机が吹き飛び、中から出てきた本が紙クズに変わってゆく……

それは当然、教科書だけでなく……

 

「ふぅぁああああああああ!!!!」

発狂しそうな、士道の声が教室いっぱいに響いた!!

 

 

 

 




内容が遅々として進まない……
ビックリするほど、進まない!!
どうしよう?


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デートタイム

かなり遅れました。
待ってた人達すいませんね。


「ぐす……ヒグッ……」

銃弾飛び交う、教室の中。

士道が紙きれの束を抱えて、静かに涙を流す。

 

「な、なぁ?ペドー、どうしてお前はそんなに泣いてるのだ?たかが本が、一冊ダメに成っただけだろ?」

十香が、士道を見下ろし困惑気味に話す。その様子はどちらが攻略しに来たか分かりはしない。

十香の言葉を聞いた瞬間、士道の表情が険しくなる!!

 

「たかが、なんて言うな!!」

 

「うっ!?」

士道の言葉に、絶対的な力を持つ精霊である十香がひるんだ!!

 

「この本の中には、世界が有った……

幼女の『あへぇ、ひぎぃ、ぼこぉ』の三段活用が有った!!

ムラムラしたロリコンたちの、性欲の矛先を受け止める幼女が有った!!

愛い有る慈しみが有った!!ロリコン同士の友情が有った!!ボテ腹幼女が有った!!

どれも、素晴らしい物ばかりだった……!!

たとえ、2次元の虚構だろうと……

此処には確かにロリコン達の『夢』があったんだ!!」

教室の床に血が出るほど何度も自身の拳を叩きつける士道。

 

その様子は、フラクシナスのミニカメラを搭載した、昆虫型メカによりリアルタイムでメイン画面に表示されていた。

 

「うわぁ……キモイわー……鳥肌やばい……

ねぇ、神無月もそう思うでしょ?」

ピンとキャンアディを立てて、指摘する。

 

「ううっ……なんて、なんて悲しい別れ……なんて、辛い絵なんだ……」

ぐずぐずと涙をながし、ティッシュでそれをぬぐっていく。

 

「え――?」

予想外のリアクションに、琴里が慌て始める。

他のクルーに視線をやるが、皆同じようなリアクションばかりだった。

 

「失ったモノはもう戻らないんだよな……」

 

「あんなに、愛されていたのに……」

 

琴里の中にうすら寒い、感覚が走っていく。

 

「ちょ、タダの――むぐ!」

途中で琴里が言葉を飲み込んだ。

琴里の話す言葉の途中だというのに、クルーの8割近くから殺気のある気配がしたのだ。

 

この変態たちを突くのは危険だ。琴里はそう判断した。

 

 

 

 

 

「な、なぁ?ペドー?悲しいのはわかる、わかるぞ?

ならば、気晴らしに何処かへ行かないか?」

十香が気を利かせて、そんな提案を士道にする。

 

「それって……デートか?」

 

「そ、そうだ!!でぇとだ、でぇと!!明日私とでぇとしよう!!」

聞きなれない単語なのか、『でぇと』と少しズレたイントネーションで十香が話しをあわせた。

 

『やったわ、士道!!精霊とのデーとなんて、一気に進展したじゃない!!』

耳のインカムから、琴里の嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

「ところで、ペドー。私から誘っておいて、なんだがでぇととは、なんだ?」

やはり意味が解っていなかった十香が、士道に尋ねて来る。

 

「ああ、デートっていうのは……盛ったオスメス同氏が性欲を高め合ったあと、交尾し合う爛れた儀式だ」

 

パリーン!!

 

十香と士道の話している最中、教室の窓を突き破り折紙が侵入してくる!!

 

「わたしも、士道と、爛れた儀式に参加したい」

鼻血を流し、無駄に高そうなカメラを構えてこちらを荒い息使いで見て来る!!

 

「また――貴様、か!!来い!!鏖殺公(サンダルフォン)!!」

金の玉座が地面から、盛り上がり一本の剣が十香の手に出現する!!

 

「わわわわ!!」

士道が、慌てるが容赦なく十香が鏖殺公(サンダルフォン)をふるう!!

 

『ちぃ!!士道を回収するわ!!』

琴里の声が聞こえた瞬間、士道の体を浮遊感が襲い、一気に景色が変わった。

 

 

 

 

 

「マジか……」

瓦礫の山をみて、士道が思わずつぶやいた。

破壊された校舎、当たり前だがここで授業などできるハズは無かった。

 

『今日は休みだよーん!!間違って来た生徒ザマァ!!by校長』

と書かれた看板が、辛うじて形を残した校門に掛けられている。

 

イラッ――バキ!!

 

看板を叩き割って、士道は試案を始める。

 

(どうすっかなー、公園で幼女を観察してもいいけど。

あー、昨日燃えた、本条先生の本を探しにいっても良いかな?)

 

「おい!!おい、ペドー!!無視をするな!!」

目の前に現れた、十香が不機嫌に話しかけてくる。

 

「え?あ――胸部デブ……」

 

「十香だ!!間違えるな!!」

不愉快そうに、十香が眉をつりあげた。

 

「お前も、間違って学校――って、精霊は学校いかないか」

勝手に理解した、士道がうんうんと一人納得する。

 

「昨日の事だぞ?もう。忘れたのか?

今日はでぇとと約束ではないか」

キリリと眉を引き締め自慢げに十香が霊装を揺らす。

 

「わかった、わかった。

よし、んじゃ、どっか遊びに行くか?」

 

「む?でぇととやらはしないのか?」

手を差し出す、士道の言葉に十香が訝し気に聞いてくる。

 

「男女が、遊びに行くのはデートって言うんだよ」

 

「なるほど……」

士道の言葉に、納得した様に十香が何度も頷いた。

 

 

 

 

 

「よし、まずは着替えだ。正直言ってその恰好はかーなーり、目立つ!!

あと、一緒にいて恥ずかしいし……」

士道が十香の着る、光を纏ったかのようなドレスを指さした。

正直いって、かなりレベルの高いコスプレにしか見えない。

 

「な、我が霊装を馬鹿にするのか!?この服装こそ我が領地――」

 

「AST来るよ?」

 

「ぬ?」

士道の言葉に、十香が止まる。

 

「えー、えす、てぇー?とはなんだ?」

 

「いっつも空飛んでたり、ひゃっはーしてる奴ら入るだろ?あいつ等だよ。

来られると、うっとうしいだろ?」

 

「なるほど、確かにそうだな。私もペドーとのでぇとの邪魔はされたくない。

よし……ならば――」

フッと十香の服が、士道の学校の服に変わる。

少なくとも見た目だけは普通に成った。

 

「服を変えれるのか!?」

 

「ふふん、我が力をもってすればたやすい事だ!」

驚愕に目を見開く、士道に対して十香が自慢げに鼻を鳴らす。

 

すっと、士道が胸の内ポケットに手をのばす。

そこには……

 

(スク水ランドセル……いや、首輪エプロンも……)

士道お気に入りのフェチっぽい恰好をした幼女のイラストが入っている!!

*ロリコン末期の士道君は、定期的に幼女成分を取り込まないと禁断症状に襲われまともな生活ができないため、このようなイラストを所持しています。

 

「いや、そのスタイルでは無理か」

十香の胸部をみて、いずれの恰好も無理と決めつける。

 

「なんの話――うお!?なんだこの数は!?伏兵がこんなに!?」

目の前の、大量の人間達をみて十香が驚きの声を上げる。

空間震が起きている状況では、基本的に地下のシェルターに逃げ込む為、此処まで多くの人間がいるのは珍しいのだろう。

 

「ぺ、ペドー……こ、この数は流石に――」

 

「だいじょうぶだ、こいつ等は別にお前の命なんて狙ってなぞ?

ほら、基本スルーだ」

 

士道の言葉通り、十香の目の前を大体の者はスルーして居く。

中には十香の美貌をみて、思わず足を止めるがそれでも、敵意を向ける者はいなかった。

 

「腹減らないか?なんか食おうぜ?」

士道がそう言って一軒の店を指さした。

 

「あの店は?」

 

「パァン工場・アンペンメン」

 

 

 

 

 

「令音ー、それ一個頂戴?」

 

「雪見だいふくに対して、そのセリフが言えるとは……なかなかだな」

琴里のセリフに対して、令音がため息を付きながら自身の皿に有るアイスを差し出す。

 

「ん、アリガト」

二人がカフェでのんびりとお茶をしている。

今日は学校のハズだったが、昨日の精霊の影響で休校になっていた。

何度も起きている事なので、琴里はもう気にしない。

クラスメイトから「えー?五河さん昨日間違って学校来ちゃったのー?おかしいなー、連絡網回ってなかったのかなー?」

なんて白々しく言われても気にしない!!

 

「ぼっちじゃねーし……」

一人さみしく琴里が口に出す。

 

「さて、そんな事はどうでもいい。

彼について聞かせてくれないか?」

琴里の言葉を無視して、令音が尋ねて来る。

 

「ああ、前言った血がつながってないって奴でしょ?

ずいぶん昔の事よ、両親に捨てられたおにーちゃんが家に来たの、幼い子にとって両親、特に母親は絶対の存在――そんな、相手から捨てられた当時はすごく荒んでたみたい。

良く自殺しなかったな~って自分で言ってた。

人の絶望にそのせいか敏感なんだよ……傷を負った心を探して――近付くの」

 

「ふむ、その彼が今は――」

令音の脳裏に、幼女幼女言って走り回る士道の姿が思い浮かぶ。

 

「何処で間違った?」

 

「いや、それは――ぶぅうぅぅぅぅぅ!!」

琴里が会話の途中で口に含んでいた、紅茶を噴き出した!!

 

「どうしたんだね?」

令音が紅茶まみれになりながら、琴里に話す。

 

「う、うしろ!!おにーちゃんが精霊を連れてデートしてる!!」

 

「ほう、本当だ」

慌てふためく琴里とあくまで落ち着いて令音が反応する。

 

「どうして!?精霊が顕在する反応はなかったのに!!」

 

「そっくりさんの可能性は?」

令音が未だ落ち着きを取り戻さない琴里に尋ねる。

 

「いやいやいや、おにーちゃんの性癖的にありえない!!

大き目のカバンに、幼女をハイエースしていても不思議じゃないし、幼女相手に踏まれて恍惚の表情を上げてても、何とか受け入れれるけど――

巨 乳 は あ り え な い !!」

 

 

 

「な、なぁ……ペドー。

あの、粉はもうないのか!?この店に――あの粉はもうないのか!?」

息を荒くして十香が、士道に詰め寄る。

メニューを見ても無い、無いとばかり言っている。

 

「落ち着け、十香。たまにはそれ以外も食べようぜ?」

 

「だ、だめだ!!あの、常習性!体が、体があの粉を欲しているんだ!!」

 

「仕方ないなー?ほら、お前の欲しがってたヤツだ」

士道が懐から、黄色っぽい粉を取り出すと、ひったくる様にして十香が手に取って口に投げ込んだ!!

 

「うひゃひゃひゃひゃ!!やっぱりこれだ~~~~

あ~、あー……たまらない……うひひいひひひひひひ!!」

粉を摂取しながら十香がケタケタと笑い始める。

*黄な粉です。

 

「なんだ?もう、トリップしちまったのか?まったく、量は考えろよ?」

*黄な粉です。

 

「らってぇ……こにょ、こにゃ……たべりゅと……スッゴイ気持ちぃいぃぃぃ…………」

*何度も言いますが黄な粉です。

 

「しかた無いなぁ……なら、とっておきの最高の粉をご馳走してやるよ」

 

「本当か!?こなぁ……粉もっとほしいぃぃい……もっと、吸引したいぃぃぃぃ……」

*重ね重ね言いますが黄な粉です。

 

「よし、食べたら買いにいくか?」

 

「いくぅ……もっと粉……食べに行くぅ……」

呆然とする令音と琴里の前で二人は店を出て行った。

 

 

 

町を一望できる高台にて――

二人が夕焼けに色付く街並みを見下ろしていた。

 

「どうだ、この町は?みんな敵じゃないだろ?」

 

「ああ、そうだな――――みんな、優しかった。

私は、私はこの町を、壊していたのか……」

悲し気に十香の目が潤む。

 

「この世界は素晴らしい……だから、天才である俺が管理しなくては!!

それをわかっていない馬鹿が多すぎる!!」

 

「どうした士道?何があった?」

困惑気に十香が慌てる。

 

「ん?いや、高い所ってテンション上がんない?

それにさ。悲しそうな顔、消えただろ?」

さっきまで泣きそうだった十香の事を思っての言葉だった。

 

「な!?私を謀った!?」

 

「騙される方が悪いんだよ!!」

二人して笑い合う。

 

「なぁ、十香。この世界に住まないか?空間震さえ起きなきゃ、誰もお前を嫌った理なんかしない」

 

「だ、だが――」

 

「じれったいな!!好きな物が有るなら、大切にしろよ!!やりたいことが有るなら躊躇なんてスンナ!!」

ためらう、十香に対して士道が、手を指し伸ばす。

 

 

 

 

 

少し離れた場所にて――

 

「上の指示は?」

 

「待機だって――未だ会議中なんでしょ?」

折紙とその上司がASTの機械鎧を纏い、対精霊用ライフルを精霊である十香に向けている。

 

「ヒャッハァー!!差し入れだぁ!!」

 

「水に食料まであるぜー!!」

別の隊員たちが、差し入れを持ってきてくれた様だった。

 

「――少し、休もうか」

どうせ、待機だろうと折紙は、持ってきてもらった野菜サンドを口に含む。

 

「あー、精霊が少年と……ねぇ、待機か」

 

「そう、もどかしい」

コーヒー牛乳を飲みながら、折紙が先輩の問いに答える。

 

「ママー、あの人たちなにしてるのー?」

 

「しッ!見るんじゃありません!!」

母親が子供を連れて歩いていく。

こんな、平和な日常を守ろうと、ひそかに折紙が決意しなおす。

 

「ヒャハ!!もう我慢できねぇ!!0だぁ!!」

先輩が、ついにトリガーを引いた!!

 

「あ、やっべ……」

スコープの向こうでは、士道が血まみれで倒れるのが、見えた。




AST装備について。
*独自解釈含みます。

ASTはリアライザと呼ばれる装置によって、魔術に近い能力を発揮できる。
己のテリトリーを一定空間に作り出し、そこで通常では不可能な技を可能にする。
例としては、飛行、武器の生成、モノの解析等。
しかし、誰にでもできる訳ではなく、いかにうまく顕現装置を使うかによる。
上手くとは、筋力が優れている等などではなくいかに『その存在を信じれるか』である。
極端な話、妄想力=強さである。
しかし、頭脳のみでASTは武装は完全に使えない。
武装は補助という意味合いが強い。

より、強そうな物ほど高威力なのではないか?

ASTの女性隊員はレーザーブレード等の最新機器を使用。
対して、男性は鎖や刺バット、バイクなどの世紀末装備を使用している。

性別の違いで、使いやすい武装に違いがある様だ。


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目覚めよ!!その魂!!

しゃあ!!投稿だ!!

そして主人公が……!!


「グフッ!?」

ザクとは違うのだよ!!なんてセリフが自身の口から出そうになった。

正直言って何時もの悪ふざけ的な話だ。

 

「ぺ、ペドー!!!!」

 

余りに無垢で、あまりに純粋な幼子の様な十香――

この世界の常識に疎い十香をからかって、適当な事教え込んで……

そんな事を考えていた士道の視界に入って来た十香は今にも泣きそうな顔をしていた――

 

どうした?また黄な粉が欲しいのか?好きなだけやるからもう泣くな……

 

笑みを浮かべて、安心させようと思ったがもう口が動かなかった。

手を取って、ひょっとしたら友達に成れたかも、なんて考えたがもう差し出す手は動かなかった。

ただ、ただジクジクと響く様な『熱さ』だけが体を支配していた。

体が地面に倒れる。

 

十香が叫ぶがもう何も聞こえない――

十香を見たいがもう何も見えない――

 

死神の足音だけが、静かに、確かに……

 

 

 

 

 

「やっべ、また、やっちゃった。テヘペロ」

世紀末風のアーマーを来た男が、片目をつぶりウインクする。

その様子を見て、折紙はひどくいら立った今はそんな事言っている暇はない!!

 

自分たちに気が付いた『世界を殺す災い(精霊)』がこちらに向かっていた。

 

「お前らか」

凛とした声がその場にいたASTの全員の耳に届いた。

 

まさか、と思いつつもその声の方向を向いた。

 

「お前らが、ペドーをぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ギャッ……ハ?」

士道を誤射した、スズモトが精霊の剣によって叩き潰される!!

世紀末風、ワイヤリングスーツのお陰で即死は無いだろうが命にかかわる状況には変わりない。

 

「くッ!!」

その隙に他の隊員たちは、すぐに戦闘準備を終了させていた。

 

「かかってこい……私の、ペドーの思いを踏みにじった報いをその身に受けるがよい!!はぁああああああああ!!!」

圧倒的な光を纏った剣を精霊が振るう。

 

なぜだろうか、ASTのメンバーは無性にお母さんに会いたくなった。

 

 

 

 

 

「イェス!!」

胸に穴の開いた士道を見て、琴里がガッツポーズをする!!

妹が兄の死にざまを喜ぶという異様な光景に、クルーたちが冷めた目で琴里を眺め始める。

 

(ペドーさん、いろいろやってたから……)

ヒソヒソ……

(けど、兄なのよ?)

ヒソヒソ……

(兄だからこそ、これ以上の罪を重ねる前に――)

口々のクルーが、噂話を始める。

 

「始まったわね」

琴里の言葉に、依って画面を見たクルーが驚愕の声を上げた。

 

「あ!?」

 

「まさか!?」

 

死体となった、士道の傷を舐める様に炎が現れ傷をまるで逆再生映像の様に修復していく。

 

『ん?俺は……』

そして画面の士道が口をきいたのだった。

 

「ノーコンティニューでクリアは無理だったわね。

けど、此処まで出来たのは上出来よ。

さぁ、士道を回収して!!こんな茶番、終わらせましょう!!!」

ペッと飴の棒を吐き捨てた。

速やかに神無月が、それをひどく興奮した様子で回収したが、画面を見る琴里は気が付かなかった!!

 

 

 

 

 

「ん?俺は……」

倒れていた士道がその場で起き上がる。

制服の腹に大穴が開き、ネクタイは途中で切れ、なぜかズボンとパンツの股間部分がが消失しているが身体に一切のダメージは無かった。

 

「アレは……十香?」

視界の端、町の向こうで爆発音が聞こえてくる。

何が有ったのか、混乱気味の状況を整理する。

 

(急に弾丸が来て――そうだ、俺は当たったハズなのに!!)

バッと自身の体を見る、傷などどこにもなく服だけがダメージを受けていた。

 

「なんでだ……けど、今わかる事は――十香があそこにいる事と……

街中でズボンを脱ぐと思ったほか興奮する事位だな……」

 

おめでとう!!士道は新たな性癖『露出癖』を手に入れた!!

【今まで獲得した性癖】

ロリコン

露出癖←new!!

 

「はぁ……はぁ……この、己の内側からあふれ出るパトスを解放するには……

腰を激しく振ってダンスするしかない!!

セイセイセイセイセイセ!!!!フッフー!!!!」

己の本能の命じるままに士道は激しくダンシング!!

国境、性別、身分、差別、この激しい踊りにはそう言った世界のしがらみから解放された様な自由があった!!様な気がした、少なくとも士道には……

 

この踊りを世界のみんなが同時に踊ればきっと世界は平和になるのでは?とすら士道は思い始めた。

*実際にやると捕まります。

 

「俺の……俺の踊りを見てくれ!!」

 

 

 

「………………うわぁ……………」

 

「キッツいわー………………」

 

「ふっふ――――え?」

令音と琴里の声に気が付くと、そこはいつの間にかフラクシナス内部!!

メンバーが大急ぎで士道を回収したらしい。

 

「この変態、間違いなくレベルアップしてる……なんで!?死の淵から生還するとサイヤ人の戦闘力みたいに、変態度がアップするの!?」

 

「落ち着け、琴里……な?」

慌てて、琴里をなだめ始める士道(局部露出)!!

自身の分身を隠す事なく、自身の愛しい妹を落ち着かせようとする。

 

「う、うわぁああああんん!!やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!

こんな変態がお兄ちゃんなんてやだぁー!!!」

ボロボロと涙を流し、わがままを言う子供の様に泣きじゃくる!!

 

「琴里……覚えてるか?その黒いリボン……

実は俺が『琴里にもっと強くなってほしい』って願いを込めたリボンなんだ。

なぁ、そのリボンを付けている間だけで、良いから強い琴里に成ってくれよ?」

穏やかな顔を浮かべ、泣きじゃくる琴里を励ます。

甘さだけではない、兄として自身の妹が強く生きる様にと願いを込めた言葉だった。

 

「私が……強く?」

 

「そうだよ?」

一言一言、琴里が噛みしめる様に繰り返す。

 

「変態が言っても説得力無いのよ!!」

ブチ切れた琴里が立ち上がる!!

 

「琴里!?」

 

「今すぐ、下に降りて精霊にキスして霊力封印してきなさい!!好感度的に十分だから!!」

 

「え、き、き……ごにょ、ごにょ……するなんて……俺には――

だ、第一、そう言うのは、結婚する相手としか――」

士道が顔を赤らめて、琴里から目を逸らす。

 

「テメェは乙女か!?アンだけ、パンツ、幼女言っておいて実は奥手か!?

寧ろ、お前の生き方の方がずっと恥ずかしいからな!?

自覚あるか!?普通の人間と感性ずれまくっているんだよ!!」

青筋を立てながら、士道の半分に成ったネクタイを掴み上げ、士道を締め上げる!!

そして、自身のインカムを触って神無月に指示を出す!!

 

「神無月ぃ!!今すぐ、私の指定した場所にこの変態を送り届けて!!3秒以内に出来なかった場合、アンタも同じ目に会わせるから!!」

 

『は、はぃぃぃぃぃ!!』

 

「おら!!さっさと逝ってこい!!」

 

ゲシ!!

 

「ぺぷち!!」

琴里が士道、フラクシナスのワープ装置に蹴りこんだ!!

 

「GO!!」

琴里の合図で士道の姿が消えた!!

 

「ふむ、精霊の元に送ったんだね?」

 

「半分正解」

令音の言葉に琴里が肩で息をしながら答えた。

 

「半分?」

 

「上空、オゾンすれすれの場所に送ってやったわ……

酸素が無くて、一回くらい窒息するでしょうけど、まぁ、頭冷やすには丁度良いわね」

くくくと暗い笑いをしながら、琴里が笑った。

 

 

 

 

 

「うわぁあああああああ!!宇宙キター!!!」

フラクシナスから打ち上げられて、地球の丸さがわかる位置まで来た士道!!

あたふたと、慌てて手足を動かす(局部露出)!!

 

「あ?」

夢か幻か、宇宙を漂う人の形の様な物を見つける。

 

「ふむん?」

それは、確かに生きていた。

 

(う、宇宙人だ!!あ、挨拶しなきゃ!!)

 

「オッス、オラ、ペドー!!ムラムラすっぞ!!」

 

「ふむ、ん!・?ダグバ・【(ゼグヴァ)】!!」

挨拶をしたというのに、宇宙人(仮)は自分の胸に鍵の様な物を指して、究極の闇たる宇宙の何処かへ行ってしまった!!

 

「あーあ、宇宙ロリと友達に成りたかったなー」

そんな事を思いながら、士道は再び地球の重力に捕まり落下を始めた!!

 

「うわわわ!?コレ、やばいんじゃねーの!?我が魂は幼女と共にー!!!」

死の覚悟をした、士道がメテオと化しながら落下していく!!

 

「お、おお!?」

しかしフラクシナスの制御下にあるのか、ゆっくりと士道の町へと落下していった。

そして、目にするのは、巨大な剣を振り回す十香!!

 

「十香ぁああああああ!!!」

十香目指して、士道が落下していく!!

 

「ぬ……ぺ、ペドー!!お主、生きておったのか!?」

上空から迫る士道を見て十香が驚きの声を上げる!!

 

「あ!!ちょ!!ストップ!!ストップ!!当たる!!剣、当ぁあああああああああああああ!!!!?ぎゃぁあああああああああああああああああ??!?!?!???」

十香が驚き振り返った拍子に、士道が霊力を纏った十香の剣に触れてしまう!!

 

ボテン!!

 

そして十香の近くの落ちる士道だった物……

 

「あ、ああああ!!私がペドーを!!」

 

「だ、大丈夫だ……」

ボロボロになりながら、士道が何とか立ち上がる。

最早ズボンはすべて燃え尽きて、ブレザーを羽織った変態にしか見えないがとにかく生きていた!!

 

「お主不死身か?」

 

「いや、スゲー痛い……ってか、剣どうにかしろよ。

邪魔じゃん、デートの続きに不便だろ?」

 

「た、確かに――む?まだ、でぇとを続けるのか?」

 

「最終的にキスまで行くのが目的だって」

 

「キス?」

 

「こう、唇をくっつけて――」

尋ねる十香に士道が説明する。

制服の上着にあった、自身の『お気に入り』を十香に見せる。

そこには、目にハイライトの無い幼女にキモデブのおっさんがキスしているシーンが書かれていた。

 

「おお!!理解した!!イザ!!」

十香がそう言った瞬間、士道の唇に十香の唇が重なる!!

無理やりくっつけたので歯同士が当たり、口の中に血の味が広がった!!

初キスは血液の味!!

 

「むぐ!?」

その瞬間、士道の口に何か生暖かい物が流れ込んで切る。

気が付くと、十香の霊装が消え失せ半裸の状態となっていた。

下半身露出士道と半裸の十香、傍目からどう見ても露出プレーを楽しむカップルに成っていた!!

 

後に士道はこう語る。

「え?初めてのデート?最初にパン屋に行って、最終的に野外露出で終わったよ」

 

 

 

 

「な、なぜだ!?なぜ私の霊装が……!!」

 

「あー、それはたぶん……俺の責任だ。だが、俺は謝らない!!」

 

「この……!!痴れ者が!!」

十香のビンタによって、士道の意識はそこで刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――以上です」

フラクシナス内部、琴里しか入れない部屋で琴里が今回の事の顛末を説明していた。

琴里以外、4つのぬいぐるみがスピーカー越に話している。

 

「彼の力は本物だったか」

イカのぬいぐるみが小さくつぶやいた。

 

「ふふふ……楽しくなりそうだ」

その隣のガラガラ蛇のぬいぐるみが同じくつぶやいた。

 

「そうそう楽観的にも行かん……精霊の力を取り込んだのだ。

何か問題が――」

その反対側、なぜか金色の狼の人形が話す。

 

「士道なら問題ありません、実際調べてみましたがおかしな部分は現時点で全くありません」

琴里がが不機嫌そうに、説明した。

 

「まぁいい。今回の君たちの活躍は高く評価するよ」

最後のぬいぐるみ、赤いフードを着たぬいぐるみがしゃべった。

 

 

 

 

 

「ティッシュOK、栄養ドリンクOK……さぁ!!レッツプレー!」

士道は約束通り令音から渡された、R17、9のゲームをプレイしようとしていた!!

 

「さぁレッツプレ――」

 

「ペドー!!聞いてくれ!!私も明日から学校へ――」

 

「うるせぇ!!今幼女との蜜月なんだよ!!ここに居ていいのは、幼女だけだぁ!!」

バタンと勢いよく扉を閉めた!!

その日十香は空しく扉を叩き続けたという……




キャラクター紹介!!

スズモト・ユウキ。
十香につぶされたヒャッハー系AST。
服装は世紀末ルックに、黄色いモヒカン。

日常では、民間会社に勤めている商社マン。
幼い頃、空間震によって自身の母を失う。
一時期はそれが原因でグレ、中学高校と喧嘩に明け暮れる。
偶然、『空間震被害者の会』に参加して、空間震の後から発掘されていた母からの手紙を渡される。
そこには、母の自分の幸せを願うメッセージが有った。
その事から心を入れ替え、母に見せて恥ずかしくない立派な大人に成ろうと決意する。

大学時代で、恋人ができ幸せな家族が出来ると思った矢先、再び空間震で恋人を失う。
その後ASTに誘われ、自身の母と恋人を奪った真犯人である精霊について知る。

自然災害だから仕方ない、と心に押し込めていた怒りが真実を知り一気に爆発する。
しかし初めて精霊に会った時、見た目は普通の少女であり過去の恋人と重ねてしまう。
恋人はきっと復讐など望んでいない。母はきっと今の自分を見ても喜ばない事を理解してしまう。
しかし、心に焼き付いた復讐心は決して消えなかった。

彼は今日も、母と恋人の願いに背いて戦い続ける。
彼のヒャッハーは、己の悲しみと、自身の愛した者を裏切る事への後ろめたさから来ているのかもしれない。

士道が、霊力を封じた為、自身の目的を果たすチャンスを永遠に失ってしまう。
彼は今日も何処かで、いるハズの無い復讐相手を探してヒャッハーしているのかもしれない……


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四糸乃イグニッション
出会いは雨と共に……


さて、今回から2巻の内容に。
頑張って書いていきます。


鈍色の雲が空を覆い、雨が足元の地面を濡らす中、士道が一人下校時間を過ごしていた。

ポタリポタリと、鼻先を濡らすと同時に体が芯から冷えていくのがわかる。

 

「雨か……女が濡れてるから、男がさしました。さて、なーにをさした?」

なーんて事を呟いてもそのクイズの答えである傘は今、手元になかった。

その代り中学生の頃に流行った、答えが一瞬だけ、卑猥な物に成るクイズを一人何となく口に出した。

雨に降られるし、傘は忘れるし……

雨の日は何処かアンニュイな気持ちになる士道だった。

 

「ん?」

そんな中、士道のロリコンの本能が近くに幼女がいる事を告げた。

 

「女――の子?」

士道の目の前に、何かが跳ねている。

緑色のうさ耳付フードに、左手にコミカルなウサギのパペットを付けている。

一瞬チラリと、士道と目が合った気がした。

 

「へィ、そこのおぜう――」

 

「ひぅ!?」

ズル!ベッタァン!!

士道が声を掛けた瞬間、幼女の意識が一瞬ズレさらに不幸が重なり足元を雨で滑らせる!!

さっきまで地面を踏みしめていった足が、空しく空を切る!!

その瞬間!!士道に搭載されていたロリコンブレインが瞬時に幼女の倒れる軌道を計算する、そして欲望に忠実な筋肉がその計算を元に弾丸の様に疾走る!!

 

「見えたッ!!」

カッ!!と目を見開く!!

そして士道の脳裏に、白い三角が焼き付く!!

*助けろとか、言ってはいけない。

 

「大丈夫かい?」

その幼女に手を差し伸べながら、士道が様子を見る。

 

「ん?」

寒さか、恐怖か幼女がカタカタと小さく震える。

士道が落ち着かせようと手を伸ばした時、逃げるかの様に士道の近くから飛び出した。

 

「ええとだな……?」

幼女を落ち着かせようとする士道、怯える幼女の顔に士道の動悸がどんどん早くなっていくのがわかる。

 

(落ちつけ……落ち着け、マイサン、距離を、距離を詰めるんだ……警戒されたら終わりだぞ?)

はたから見れば通報待ったなしの顔をして、士道が距離をじりじりと詰めていく。

 

「……!  こ、来ないでくださ……いッ……いたく、しないで…………くださ……い」

 

「大丈夫だよ~、初めてでも気持ちよくしてあげるからね~」

八割がた理性を捨て去った、士道が道の真ん中に落ちているウサギのパペットを見つける。

そう言えば、つけてたなと考えそれを拾い上げる。

 

「コレ、君のだろ?」

手の先にパペットを持って、幼女に向かって差し出す。

 

パシッ

 

手早く、士道の手からパペットを奪い取った幼女が素早く自分の手にブッ!ピガン!!(装着)する。

その瞬間、腹話術か妙にかん高い声がパペットの口から放たれる。

 

『やっはー、悪いねおにーさん。たーすかったよ』

無口な本体と比べ、ペラペラとしゃべり始める。

 

『んでさぁ?助けてくれた時にぃ、よしのんのいろんな所触ってくれちゃったみたいだけど……正直どうよん?興奮した?』

 

「うーん、あの程度じゃイマイチかな?あ、けど、『触らせてくれんの?』って言う期待で今、絶賛前屈み中だけど?」

言葉の割に全く、屈む様子のない士道がすさまじくいい笑顔でサムズアップする。

 

『うわぁお……おにーさん、欲望に忠実すぎない?

けど、まぁ、いいや。んじゃ、助けてくれた分って事でそんだけサービスしておくヨン!』

そう言って、そのまま角を曲がり姿を消してしまった。

 

「あーあ、逃げられたか……あそこまでかわいい子はあんまりいなかったのになー」

残念がる士道だが、不思議な満足感が満ちていた。

制服がびしょ濡れだが、そんな事すら気にしなかった。

 

 

 

 

 

「あー、最悪だー……パンツまでびしょ濡れ……」

自宅にて、玄関で士道が自身の服すべてを脱ぎ捨てる。

流石に気持ち悪く成って来たのだ。

シャワーを浴びようとそのまま、歩いていく。

 

ガラッ!

 

脱衣所を開けると……

 

「十香?何してんだ?」

 

「――ッ!!で、出ていけ!!早く!!」

脱衣所で全裸になっていた十香が、慌てて士道を押し出して浴室に入り込んでいった。

 

「えー、俺も入りたいんだけど?ってか、人ん家でよく脱げるな……

まさか、露出系の趣味が?」

 

「ち、違う!!ナントカ訓練で、琴里に連れてこられたのだ!!」

扉越しに十香がそう叫ぶ。

本来なら喜んで飛びつきそうだが、士道が残念ながらぶよぶよとでかく成った胸部に興味はないし、ある程度成長した肢体にも興味がなかった!!

 

「ふーん、訓練で人ん家で脱ぐのか……

おーい、琴里ー」

そのまま、琴里のいるであろうリビングに向かっていく。

 

「琴里ー、どういう事だ?」

テレビを見ている赤髪の妹に言葉を投げかける。

 

「あ、おにーちゃん。おかえ――なんで全裸なのよ!?服はどうしたの!!!」

 

「お前が十香を連れて来たのか?訓練ってなんのことなんだ?」

琴里の事を無視して、自分の疑問をぶつけ続ける。

 

「なんで落ち着いてるのよ!!少しは隠しなさいよ!!」

 

「すまない、シン。砂糖は何処かな?」

琴里の言葉を遮るかのように、台所からひょっこりと令音はコーヒーカップを片手に姿を現す。

 

「あ、令音さん来てたんですね。すぐに砂糖を持って来ますから」

そんな令音をみて、士道が台所の奥からスティックシュガーを取り出す。

 

「ふむ、ありがとう」

受け取った令音がコーヒーカップにサラサラと砂糖を落としていく。

 

「何で令音も落ちついているの!?士道が全裸なのよ!!どう見てもおかしいでしょ!!」

叫ぶ琴里!!しかし令音は特に気にした様子はない!!

 

「別に家の中なら、構わないではないのか?私の友人に寝る時は裸のヤツもいるぞ?」

 

「うわぁあああああ!!なんでまともなヤツがいないのよ!!」

琴里の声が住宅街に広がった。

 

 

 

 

 

「で?十香の精神安定の為、しばらく家に住むことに成ったと?」

 

「ふむ、そうだ」

琴里と令音の話を聞いて、士道がそれを復唱した。

ストレスの緩和の為、士道の近くに住むべきだと考え出したらしい。

 

「まぁ、この世界で知ってるのは俺だけだし、縋りつきたくなるのはわかる。

食費とは、その他必要経費はフラクシナスが出してくれるんだろ?」

 

「ああ、そうなるな。永続的にではないぞ?精霊用のマンションを作っているから、完成次第そちらに住まわせる様にするよ。

精霊と触れ合うのは君の訓練になるしね」

最後の一文で士道の動きが止まった。

 

「訓練?まさか……」

 

「そう、察しが早くて助かるわ。この世には十香以外にも精霊がいる、そっちも攻略してほしいの」

横から投げかけられる、琴里のリボンは黒、俗にいう司令官モードの琴里だった。

 

「あら?もう、精霊をデレさせるのは嫌なのかしら?」

挑発的な琴里の態度に士道がかちんと来る。

一瞬心の電源をオフにする、今は幼女の事は忘れよう。ただ、確実に交渉を進めなくてはいけない。

 

「当たり前だ。いやに決まっている」

士道は小さく声を漏らした。

 

「あっそ、なら世界が精霊にボロボロにされるのを見ているのね。

それか、ASTが精霊を倒す奇跡を待つか――

精霊の力を封印出来るあなたが嫌って言うなら仕方ないわね」

懐からキャンディを取り出し、琴里が口に咥えた。

 

「琴里。お前、勘違いしてないか?」

 

「へ?」

 

「頼むべきは、そっちじゃないのか?

言ったよな?精霊を封印出来るのは俺一人だって、フラクシナスが何を考えてる組織化は知らないし、興味も無い。

だが、精霊を欲しがってるのはわかる。あんな力だ、欲しがるのもおかしくないさ。

だが!!制御できないんだよな?俺だけが、切り札なんだろ?」

士道の目が琴里を鋭く射抜いた、司令官モードにも関わらす琴里が僅かに動揺した。

 

「さて、研修期間を考えて――小学生のお前を司令官にする組織も馬鹿だが、それに祭り上げられたお前も馬鹿だな。

でだ、もう一つおまけに、デレさせるって方法もおかしくないか?

当然、このまま攻略していけばさらに親密な子が増えるだろう。

これって、浮気したことに成らない?

それとも『惚れたのはお前だろ?俺は知らん、キス位で恋人面するな』って十香に言うのか?」

フラクシナスの持つ矛盾を士道が痛烈に批判する。

 

「そ、それでも、封印が出来るのは士道しか――」

 

「おっと、勘違いするなよ~。

俺も鬼では無いんだ、かわいい妹がスク水エプロンで頼んできたらコロッと行っちゃうかもしれないな~?」

ワザとらしく、琴里に視線を投げる士道!!

コレは脅迫だ。

琴里は世界と精霊を盾に、士道に攻略を迫ったが士道は自身を盾に琴里に迫った!!

 

「さぁ!!語尾は『にゃん』だ!!敬語で『お兄ちゃん、琴里のお願い聞いてほしいにゃん』ってお願いするがいい!!特例として、スク水とエプロン、さらにサービスでニーソの着用を認めよう!!」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!?」

急に投げかけられた、要求に琴里が困惑して顔を赤くする。

 

「おいおい、自分だけが安全地帯で踏ん反り帰ってる気か?

さぁ、がんばれ。応援してやるから」

二ヤリと張り付く笑みで、士道がビデオカメラを装備している!!

 

「へい、『お願いにゃん』!『お願いにゃん』!『お願いにゃん』!」

 

「う、うう……うわぁ……」

琴里が泣きだしそうになるが、士道は止まらない!!

 

「此処はプライド捨てるべきじゃねーの?さぁ!!!レッツ『お願いにゃん』!!」

欲望にぎらつく士道!!もはやペドー兼ゲドー!!

 

「お、ねがい……にゃん……」

眼に涙を浮かべ、消え入りそうな顔で琴里が絞り出した。

 

「……まぁ、今回はこれで許してやるか……」

カメラを片した、士道が自身の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

深夜3時20分。

部屋で寝ていた琴里が目を覚ます。

 

「よくも今日はさんざんやってくれたわね……!!」

怒りに満ちた目をして、小さくインカムに声を掛ける。

 

『ターゲットは二階よ、そこに士道を運びこんで』

小さく琴里が含み笑いをする。

訓練の一環として、士道に十香を慣れさせるのが目的だがその心中は私怨が入りまくっていた!!

 

「扉を開けるぞ?」

 

「!! まて……音が……」

隊員の一人が、扉を開けようとした時に部屋の中から小さく声が聞こえた。

深夜だというのにまだ、起きているのだろうか?

 

「外部班!!部屋の内容は!!」

インカムに話しかける職員。

 

『パソコンに電気がついてますが、ベットに寝転ぶ影が有ります。

おそらくターゲットかと……』

 

「なるほど、ゲーム中に寝落ちしたか……よし、侵入する」

音もなく、工作員が入って行きベットに寝る人影を確認する。

 

「!?これは!!」

工作員が驚きの声を上げる!!

そこには……

 

『大変です、指令!!フェイクです!!ベットには服で作られた等身大の人形が寝ているだけデス!!部屋に誰もいません!!』

慌てて、報告される言葉に琴里が息を飲んだ。

 

「な!?あの、ロリコン何処へ……」

 

ぎしっ……

 

「はッ!?屋根裏……屋根裏よ!!士道の押し入れの天井から屋根裏に入れるわ!!!きっとそこから出て行ったのよ!!」

まさかの予想を聞いて、琴里が瞬時に指示を工作員たちに出す。

 

『屋根裏ですね!!了解!!』

再び音もなく、工作員たちが動き出す。

その時。

 

ジャー……

 

琴里の眠る一回のトイレから、水の音がした。

 

「まさか、十香が!?」

起きたのかと、別の工作員に確認を取るが未だに部屋で眠っている様だった。

 

「確認しなくちゃ……」

不安要素を取り除く為、琴里がトイレに向かっていく。

 

意を決して扉を開くと――

 

「携帯電話?」

琴里の目に留まったのは、士道の携帯電話。

メールの着信を示すランプが点灯していた。

水が流れた様子は無いし、携帯だけがタンクの上に鎮座していた。

 

「まさか!!」

手早く自身の携帯を使って、空メールを士道の携帯に送ると……

 

ジャー……

 

メールの着信音として、水を流す音が流れる!!

 

「やってくれたわね……こうなれば私が!!」

瞬時に琴里が次に変態がとるであろう行為を計算する。

 

部屋を脱出して、工作員を巻いて――

 

「私の部屋へ、来る気ね!!なら!!」

琴里がトイレを飛び出し、士道の部屋へと向かっていく。

 

「ココなら、安心」

既に士道によって破棄された部屋、持って来た隙間に差し込んで鍵を閉めるタイプの錠を使う。

これで、士道の部屋の扉は開かない。

 

「忘れる所だったわ」

最後に琴里は天井裏へ続く、押し入れに棒を差して開かなくする。

これで、天井裏、扉ともに厳重にロックされたことに成る。

 

「ふふふ……自分の部屋がまさか、私を守る最後の扉になるなんてね……!」

勝利を確信した、琴里がベット寝る等身大士道ぬいぐるみを見る。

へのへのもへじで顔が作られているが、本当に大きく確かにぱっと見わかりはしない。

 

「いったい、何時つくったのかしら?予測していた?」

 

「勿論。可愛い妹のことなら、ね?」

部屋に響く士道の声に、琴里が体をビクリと振るわせる!!

 

「し、士道!?何処に……!!」

 

「おにーちゃんを夜這いするなんて、悪い妹はオシオキがいるかな?」

 

「何処にいるかって聞いてるのよ!!」

恐怖にたまりかね、琴里が叫ぶ!!近所迷惑などもうすでに考えていない!!

 

「ここさぁ!!!」

琴里の目の前で、等身大士道人形が立ち上がる!!

 

「ひぃ!?」

 

「偽物の偽物は本物って事さ」

へのへのもへじの顔を取るとしたから出てきたのは、綿でなく士道本人!!

 

「さぁ、おにーちゃんと一緒に、寝ようか?」

 

「い、いやぁあああ!!」

ガチャガチャと、扉を押すが開かない!!

琴里が自分でつけた鍵だ!!

 

「うふうふふふふふふふふ……」

 

「うわぁあああああああ!!!!」

ガシャーン!!

 

琴里が窓を突き破って夜の闇に消えていく!!

 

「あーあ、逃がしたか」

残念そうに、士道がつぶやいた。




士道が少し強くなってる気がする。


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第二の精霊邂逅

さて、今回から本格的に動き出す物語。
ペドーは理性を保てるのか!?

たぶん無理。


「ふひっ……ふひひひ……あはは……あはははは!!」

自身の部屋で琴里が渇いた笑いを零す。

度重なる士道の変態行為に精神が遂に耐えきれなくなったのではない。

士道の部屋から、彼が昔書いたであろうポエムノートを発見したのだ。

 

「これをインターネットのサイトにアップして……

あの変態に逆襲してやるわ!!あははっはは!!!」

眼が完全に逝ってるが気にしない!!まだ心が壊れてないからノープロブレム!!

 

 

 

 

 

「士道!!これを見なさい!!このURLにはあなたの力作が書かれたサイトへのジャンプが――」

 

「何やってんだ。早く食えよ?朝食さめるだろ?」

平和な朝食時間に琴里が、携帯電話の画面を士道に見せつける。

一瞬十香と士道は驚いたような顔をするが、すぐにまた食事に戻る。

 

「ペドー!!この、赤いのはなんだ!?」

 

「ハムエッグ。十香のはハムを増やしてやったからな?」

 

「本当か!?流石ペドーだ!!」

朝食を食べながら、仲良く二人が話すしをする。

完璧の琴里のテンションが空回りしている形になっている。

 

「……アナタのポエムが世界中にアップされるのよ!?もう少し慌てなさいよ!!」

 

「えーと『色褪せた世界と、色彩放つ幼子』シリーズのほうか?

それとも、『ろりろりぱんぱん。ようじょをいっぱいぺ~ろぺ~ろ』の方?」

思い当たる作品のタイトルをペドーが上げていく。

 

「両方よ!!両方がアップされるのよ!!さっそく昨日から数人が見てくれて、感想をくれてるわよ!!アンタの友達の殿町にもみられてるわよ!!!

あははっははは!!」

自棄気味な琴里が、士道を指さして派手に笑い転げた。

その様子を士道は可愛そうな物を見る様な眼で眺めていた。

 

「あー、琴里?お楽しみ中悪いけど、俺自分の作品は全部ブログにアップしてるから……」

申し訳なさそうに士道が話した。

 

「はぁ!?士道あんた……ブログなんてやってたの!?」

 

「ほい、俺のブログ」

士道が手早く、携帯を操作してブログ画面を見せる。

そこにはピンクの髪をした、やたらファンシーな顔をしたかわいいのになぜか不健全な匂いのするキャラクターが描かれていた。

 

 

『ころりんの日記。~アナタと綴る思いで~』

 

ユーザーネーム 

 

ころりん。

少しおませな女の子。好奇心旺盛でなんにでも興味を示すよ!

やさしいお兄ちゃんとお友達に成りたいな!

趣味は甘いオヤツを食べる事、お散歩する事、お昼寝する事だよ!

 

ころりん親衛隊

 

親衛隊ナンバー0000001

ぺどー。

 

子供好きな、優しいお兄さん。料理が得意だよ!

勿論ころりんのことも大好きだよ!

 

 

 

まずここまで見て、琴里が頭が痛くなるのを感じた。

そして、それ以上に本能が叫んだ「見るな!!もう戻れなくなる!!」

しかし好奇心に動かされた指が、画面をスライドさせていく……

 

 

 

『ころりんぽえむ!』

そこをタップするとさっきUPした士道の作品が大量に乗っていた。

発見してない作品も多く乗っていた。

他にも……

 

『ころりんのオヤツ』

だの

 

『ころりん、ひ・み・つ・のお写真』

などが乗っていた。

 

 

 

 

 

「ナニコレ……」

 

「だから、俺が趣味でやってるブログだよ。

ころりんっていう架空のキャラが、ブログをやってるテイで、俺が運営してる。

結構人気有るんだぞ?ほら」

 

下の方を見ると、人気ブログサイトの98位にランクインしていた。

他には『萌えキャラ虐待ブログ』や『ピンポンダッシュ列伝』『無銭飲食万歳!!』など様々な、サイトへのURLが載っていた。

 

「もういい……返す……」

ナニカを諦めた様子で琴里が携帯を士道に返した。

さっきまでの熱はすっかり冷めてしまっている。

 

「え?もういいのか?ころりんのオヤツとか最高だぞ?

食べ物を写真でとって、食べてる最中の口の中を写真で取るんだよ。

とろろご飯が変に人気出て――」

 

「キモイのよ!!不快なのよ!!圧倒的に!!」

琴里がそう言い放ち、バタバタと部屋から出て行った。

 

「ペドー……コトリは……」

 

「大丈夫だ。十香、思春期って奴さ、なんにでも噛みつきたくなる年頃なんだよ。

何時かきっとわかってくれるはずだよ?」

まるで優しい兄の様に、ペドーが十香に話しかけた。

原因はコイツなのに……

 

 

 

 

 

そして時は進み……

「ペドー昼餉だ!!」

 

「私も。」

 

ガゴン!!とすさまじい衝撃を受けて士道が、寝ぼけかけていた目を覚ます。

気が付くと時間はお昼時間、脳内で幼女とキャッキャウフフイチャネチョしていたらすっかり時間が過ぎてしまった様だ。

 

目の前で右に十香、左に折紙が机をたたき合わさせていた。

士道の机に小さくヒビが入っているがまぁ、見なかったことにしよう。

 

「ぬ?またお前か、ペドーは私と昼餉を食うのだ」

 

「違う。私と」

二人の間に静かに火花が散っている気がするが、当の士道はと言うと……

 

「あー、ごめん。俺、親友の殿町と一緒に食う約束が――」

 

「士道。殿町は、朝のホームルームが終ったあと病院にいった。

だから、一緒に食事をとるのは不可能」

横から来た、折紙の言葉に士道がその事をすっかり失念していたのを思い出す。

 

「あー、そうだった。殿町に俺のブログを見せたらなぜか、教室の窓から飛び降りたんだよな。

どうしたんだろ?心配だよな」

 

「士道、そのブログの事を詳しく――」

折紙が食い下がろうとした時、何処からかサイレンが聞こえてきた。

 

『うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆うー☆』

*士道にはこう聞こえています。

 

水を打ったかのように静まる教室――空間震警報だった。

 

「みんな避難を!!」

 

「シェルターへ行くぞ!!」

もう何度目かのことなのでみんな落ち着いたものだ。

 

「十香、みんなについて言ってシェルターに避難してくれ」

その言葉を話した瞬間、士道の瞳に宿るものが変わった気がした。

何時もの様な、何処か気だるげな瞳とも違う。

幼女を見て興奮する、獣じみた光を宿す瞳とも違う。

まるで死地に赴く様な、それでいて己のサダメを受け入れ自らの天命に従うかのような潔さが有った。

この瞳だ。この瞳を見て十香は自らがこの男を信じようと決意したのを覚えている。

そんな瞳で見られたら十香はどんなに不安でも、静かに頷く事しか出来なくなった。

 

「ああ、私の事は大丈夫だ」

十香と別れ、士道がみなと違う方へと走り出す。

向かうのだ、彼の戦争へと……!

 

 

 

「よく来たわね、士道」

一瞬の浮遊感の後、目を開けると其処はフラクシナスの内部に立っていた。

 

「精霊が出たのか?」

 

「今から出る所よ、さて、何が来るか……!」

琴里がメインモニターを指さすと、画面が歪んだ――否、正確には画面に映る景色が歪んだのだ。

カッ――!!

まばゆい光が過ぎ去った後には、街中に大きな穴が開いていた。

まるで、スプーンでそこだけをくりぬいたかのように、すり鉢状の地面が見えた。

十香と出会った時もこんな感じだったな、と妙に冷静な部分の有る頭で士道はぼんやりと思っていた。

 

「精霊周波数、過去のデータと一致!!あっ……識別コード【ハーミット】!!」

 

ざわっ――!

 

観測官のセリフに小さく、フラクシナスメンバーがざわつく。

 

「何時か……何時か、こんな日が来るんじゃないかって思ってた……

ええ、データ上は()()のも知ってた」

飴を口に含んでいるというのに琴里は非常に苦々しい顔をする。

 

そんな中でも、容赦なく時と共に画面の土埃は晴れていく。

そしてポタリポタリと雨が降り始める。

 

クレーターの真ん中、緑のフードに左手のパペット。

蒼い髪にサファイアを思わせる瞳。

そして、13~14位の()()()姿()

 

 

 

 

「士道ー!!今回は――ハッ!!」

 

エクセレント(素晴らしい)ッ!!」

無駄にいい笑顔で士道が手を叩く。

その場に居た全員が今回の作戦に疑問を持った。

 

飢えたケダモノをオリから放っていいのか?

 

精霊を救うためこんな男を使っていいのか?

 

倫理、良心の呵責、そして助けた後の不安……

だが、肝心の士道は――

 

「ぐひ……ロリコンの体は止まらない……ロリコンの心は止められない!!

ロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリ!!」

 

よだれを垂らし到底まともとは思えない顔をした士道がドロリと嗤う。

 

「と、ともかく!!私たちの戦争(デート)を――」

 

「さぁ!!俺と!!幼女の!!戦争(プレイ)を始めようじゃないか!!」

宣誓した、士道がフラクシナスのワープ装置に飛び乗った!!

 

 

 

 

 

ハーミットは攻撃に来たASTを躱すかのように、屋内のデパートに侵入していった。

フラクシナスはその近くに士道を下ろし、インカムで指示を出す計画に出た。

 

「琴里、今回はどう思う?」

令音が琴里に尋ねる。いつもならサポートに徹する彼女が、このタイミングで話すのは珍しい事だった。

それだけ不安要素が多いということだろう。

 

「ASTが十香の時のように建物を破壊する心配は有る。けど、今回は大型のデパートよ?学校の校舎よりはるかに大きい。その心配はうすいわね、一番の心配は――

あのロリコンが暴走しないかよ!!

アイツならいきなり全裸で跳びかかってもおかしくないわ!!」

 

『おいおい、さんざんな言いぐさだな?少しは、俺を信用してもいいんじゃないか?』

インカムから士道の声が聞こえてきた。

 

「いま、何処にいるの?精霊との接触は?」

 

『まだだ、今、子供服売り場に居る――スク水はまだ売ってないか……』

インカムから、すさまじく残念そうな声が聞こえてくる!!

 

「まてまてまて!!アンタ何してるのよ!!精霊は!?精霊はどうしたのよ!!」

 

『なあ、琴里。ハロウィンってイベント有るじゃないか?かぼちゃを切ってランタンにするヤツ……小さい子のパンツってかぼちゃパンツって――』

 

「死ね!!氏ねでも、シネでもなくただ死ね!!腹きって死になさい!!」

琴里が怒鳴りつけて、インカムのマイクを地面に叩きつけた!!

そしてそこに何度も蹴りを叩きこむ!!

 

「ああもう!!なんでこいつは、こんなに頭がおかしいのよ!!ウジでも湧いてるの!?それとも幼女の力を凝縮したメダルでも入れられたの!?」

 

「指令がご乱心だ!!押さえろ!!」

数人のクルーが琴里を押さえに掛かる!!

神無月は、琴里の足元に自身を滑り込ませて恍惚の表情をする!!

 

「はぁー……はぁー……ごめんみんな、自分を抑えきれなかったわ……」

肩で息をしながら、琴里が謝罪をする。

 

「我々は指令を補佐する為に居るんです、こんな事気にしませんよ」

神無月が、胸を張って琴里に話すが――

 

「アンタ、蹴られてただけだろ!!」

 

「そうだ、そうだ!!」

他のクルーをごまかすことは出来なかった!!

 

「さて、士道はどうなったかしら?早く指示を送らなきゃ」

 

「琴里、言いにくいのだが……君がさっき蹴とばしたマイクがお釈迦に成った。

向こうの言葉は、聞こえるのだが――

此方の指示が出せない……」

 

「え」

 

「あ」

 

「くっ」

 

「ああ……」

数人のクルーが絶望の声を上げる。

それはつまり――野獣を止める最後の鎖が外れた事を意味していたからだ。

 

 

 

 

 

『――君もよしのんをいじめに来たのかなぁ?

ダメだよぉ?よしのんがあんまりにも優しいからって、おイタしちゃ。

ってんん?だれかと思ったら、ラッキースケベのおにぃさんじゃない?』

 

「やぁ、おぜうさん――」

バッ!!

士道が勢いよく制服を脱ぐ!!

その下から出てきたのは、仕立ての良い白いおしゃれな服!!

口に咥えるは真っ赤なバラ!!

 

「シャル・ウィー・デート?」

その言葉と共に、士道がバラを投げた。

 

 

 

 

 

カラン

琴里が床に、自身のキャンディを落とす。

 

「ナニコレ……」

皆の心を代弁するかのように、琴里が小さくつぶやいた。




氷系能力って結構好きなんですよ。
美しさもあるし、儚さもあるし、怖さもある……
基本氷系のキャラクターは好きです。

某死神漫画の天才(笑)は除きますが……


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二人の精霊

さて投稿だぁ……

いつの間にか、お気に入り登録が30に。

意外で自分でもビックリしました。


人っこ一人いない、さみしいデパートの中。

ただ二人だけそこに居た、精霊とガチ小児性愛者がお互い向き合う。

一瞬の静寂、そして――――

 

『ぷっ………あはははは!!あはははは!!

ど~したのおにーさん?なに?ひょうきん者?

今時……ひ、ひぃ、ひひひ!!

【シャル・ウィー・デート】って!!あはははははは!!あ~はははあは!!

ない、無いわ~』

ケタケタと大爆笑しながら、幼女が床に寝転びパペットが器用に床を叩いている。

 

 

 

 

 

「ふぅ、何とかなったわね……」

フラクシナスにて、琴里が額の汗をぬぐった。

あのガチ変態が、服を脱いだ瞬間本気で頭の中に「ゲームオーバー」の文字が躍ったが精霊が並外れて陽気な性格だった為事なきを得た。

 

「マイクの復旧急げ!!」

 

「予備のマイクが有ったハズだ!!」

他のメンバーたちが忙しく、琴里の壊したマイクの復旧を急いでいる。

アレが無いと、士道に指示を出すことが出来ない。

つまり、士道は孤立無援で精霊を攻略しなくてはいけなくなる(今回は大丈夫そうだが……)。

しかし、それと同時に士道を止める者が居なくなることも意味している為、暴走した士道を野放しにするしか無くなるのだ。

 

「何とか、成りそうだね?」

令音が画面を見ながら、琴里に話す。

見た目は警戒されていなく、会話も順調だ。

そして、何より懸念していた士道の暴走も起こっていない。

 

因みに、精霊のスカートがめくれ白い腿が見えていたので、士道が携帯で写真を撮り始めていた。

 

まぁ問題は無いだろう。

 

「はぁ、あせったわー。

士道の事だから、いきなり股間を露出させて『やぁ、久しぶり元気だったかい?僕は見た目通り元気だよ』とか……

『ラッキースケべってなんだ、ラッキースケベって!という訳でお嬢ちゃんスケベしようやぁ……』とか……

『ふっ、知らないね。俺は見ての通り、幼女専用変質者さ』とか言わないか心配したのよね」

 

冗談めかして琴里が言った瞬間、フラクシナスメンバーが固まった。

 

「こ、琴里?君はそんなことを、日常的に考え……て?」

令音の言葉を皮切りにひそひそとクルーたちが、噂を始めた。

 

「義理でも兄妹か……」

 

「ほら、一番彼の近くに居たから……」

 

「ロリコンって感染するのか……」

 

 

 

「違うわよ!?私が、そんな願望がある訳じゃないの!!

私は、士道とは違う!!違うの!!」

空しく琴里の声が艦内に響いた。

 

 

 

 

 

「へぇ、よしのんって名前なのか~、かわいい名前だな」

 

『そそッ!良い名前でしょ?おにーさんのお名前なぁに?』

 

「俺の名前は五河 士道っていうんだ、よろしくな?」

 

『へぇ、ペドー君か。いい名前じゃない?まぁ、よしのんには負けるけどねぇ?』

楽しそうに二人が会話する中――

 

「なぁ、因みにその『よしのん』って言うのは君の名前か?それともそのパペットの名前か?」

 

『……』

 

 

 

その一言を発した瞬間、フラクシナスの全アラームが同時に鳴り響き始める!!

 

「な、なにをしたの!?一気に好感度が下がってるわよ!!」

 

「あー、ついにやったかぁ……」

 

「ペドーさん、ついに犯罪者デビューか……」

慌てる琴里と、何処かあきらめたフラクシナスメンバーたち!!

マイクがつながっていないフラクシナス内部の不安は、士道にも確かに聞こえていた!!

 

 

 

 

 

『ペドー君の言ってる事わかんないなぁ……パペットって何のこと?』

表情が変わっていないハズのパペットから強烈なプレッシャーが掛かる!!

こころなしか、幼女の方も無表情だが不機嫌になっている様に見える。

 

(不味ったポイぞ!!早く、機嫌を直さないと――!!

ああ……けど、けど――よしのんに冷ややかな眼で見られるのが……快感だ!!

ああああ……、、半裸で四つん這いにさせられて「こんな小さい子にいじめらて興奮してるのかなぁ?ペドー君は救いようのない、変態さんだねぇ?

よしのんが他の子を襲わないにしっかり、管理してあげないとね?」

とか言われたい!!

はぁ、はぁ……もっと、もっと罵って欲し――おっと、イカンイカン!!今は機嫌をなおささなくちゃ)

妄想の中では完全アウトなプレイを繰り広げた士道がやっと現実へと戻ってきた。

すぐさま状況をおもいだし、フォローに回った!!

 

「そ、そうだよな?よしのんはよしのんだよな?」

 

『んもう、ペドー君ったらお茶目さんなんだからぁ』

機嫌を取り直させることに成功した、よしのんが元の様子に戻った。

士道はこれをチャンスと見た。

 

「よぅし、よしのん、俺とデートに行こうぜ?せっかくデパートに来たんだ。

お前に似合う下着を選んで――」

 

『ストォォォォォォプ!!アンタ何、言おうとしてるのよ!!』

回線が回復したインカムから、大音量の琴里の声が聞こえてきた。

咄嗟のことで、士道の耳に大きなダメージが入る。

 

『んあ?ペドー君って意外と大胆&エッチさんだねぇ!

まぁ?よしのんの魅力に抗えないなら仕方ないよねぇ?

いいよん!下着はダメだけど、デートくらいならしてあげるよん!』

すっかり機嫌を良くした、パペットが嬉しそうにスキップを始める。

 

「うっし!さぁ、お嬢さんお手を拝借」

恭しく手を差し出し、パペットの左手を掴む。

普通道では人は右側通行、そして車はその左を走っている。

その為、万が一のことがあって水などが跳ねた時の場合を想定して、男は女性の左側をあるくのが理想と言われている。

 

「ぐへっ、ぐへへへへ……!!念願の幼女とのデートだぜ!!さて、まずは大人のオモ――」

 

『ペドー君!!ホントビックリするくらい大胆だね!!』

よしのんが初めて、驚きの声を上げた。

というか若干引いてる気がする。

 

 

 

 

 

『ぺ、ペドー君!!アレは一体なに!?』

よしのんが目の前の子供用のジャングルジムをみて、はしゃぎ始める。

無理やり話題を変えた気がしないでもない……

士道が何か教える前に、もうすでに走り出しさらに器用にジャングルジムを登り始めていた。

それに士道もついていく。

ついでに携帯のカメラも準備!!

上るよしのん!!近づく士道!!

 

そして、スカートがふわりと揺れる!!

 

――見える、僕にも見えるぞ!!

 

まるでニュータイプになった様な感覚が士道を支配する!!

カメラを構え、スカートの中を――

 

パシャ、パシャ、パシャ!!

 

『見て見て、ペドー君!!かっこいい?』

一番うえまで上がった、よしのんが振り返る。

その時すでに、士道はカメラをポケットにしまっていた。

追跡!!盗撮!!撤収!!いずれもマッハ!!

 

「ああ……いい絵だったよ」

やり切った顔で、士道がつぶやいた――計画どおり。

 

『んんぅ?ペドー君?いったい、そのやり切った顔はなにか――――うわぁ!?』

よしのんが手を滑れらし、ジャングルジムから落下する!!

当然落下先は、下でスカートをのぞいていた、士道で!!

 

「むぎっ!?」

 

『…………!?』

謀らずとも、幼女と唇が触れあってしまった。

柔らかくて、気分が良くて、士道の中で幸福感が広がっていくのを強く感じた!!

 

『いてててぇ……ごめん、ペドー君。ケガはないかな?』

 

「ああ、俺は大丈夫だ、無理役得――」

 

バギィン!!

 

士道の後ろで、ナニカが破壊される用な音が超えた。

琴里が何か言っている様だったが、こんな音を聞いた後では気に成るはずが無い。

士道は錆びた機械の様に、ギギギと音をたてる様にゆっくり振り返った。

黒髪に意思の強そうな瞳。

士道が霊力を封印した精霊、十香が酷く機嫌を害したような面持ちで立っていた。

 

「ペドー、申し開きは有るか?用があると言って、出掛けたお前を心配して来てみれば――幼子といちゃつくとは何事だ!!」

 

「幼女とのイチャコラは命より重い!!」

 

「たわけ!!」

反射的に言った士道のことばを遮る様に地団太を踏む!!

その結果、感嘆のデパートの床がひび割れていく!!

 

「(琴里!!琴里!!十香が、十香がデートに乱入してきた!!どうなってんのコレ!!)」

小さく士道が琴里に、インカム越しに説明を求める。

 

『十香があんたのことを心配して、ついて行った……みたい』

申訳なさそうな、声が聞こえてくる。

琴里にも予想不能な事態だったらしい。

 

「(ばっか!お前!!精霊攻略中に他の精霊に遭わない様にするって大前提だろ!?なんだ、NTR属性でもあるのか?ん?)」

ロリNTRも悪くないなんて考えながら、士道が話す。

幼馴染のお兄ちゃんが好きだった幼女が、自分の手で――

うん。想像したら少し興奮した。

 

 

『しょうがないじゃない!!そっちを見るのに夢中だったんだから!!』

 

「攻略済みの精霊をしっかり見ろや!!毎回出て来られたら攻略所じゃないぞ!!」

思わず、小声で話すのを忘れ、大きな声を出してしまった。

十香とよしのん二人が同時に眼を見開いた。

片方は、喜びに、もう片方は悲しみに――

 

『おやおやぁ?ペドー君おねぇさんとの約束すっぽかしちゃったのぉ?

けど、仕方ないかな?よしのんの魅力があり過ぎるっていうの?

可愛い子に、ついて行くのが当たり前って言うか?

そういう意味では、ペドー君を責められないんだよね~』

何を思ったのか、よしのんが十香をあおり始める!!

 

「な、な、なななな!!貴様!!」

煽り耐性ほぼゼロの十香が、頭に血管を浮き上がらせる。

地団太を踏むたびに、床にクモの巣状のヒビが大量に走っていく。

 

「お、落ち着け、十香。こんな時は偶数を数えるんだ。

偶数は必ず2で割り切れる数字、その潔さは俺に勇気を与えて――」

 

「うるさい!!今私はこやつと話しておるのだ!!

訂正しろ!!士道は私を裏切ったりなどしない!!」

 

よしのんのパペットを締め上げ、ガクガクと何度も振るう!!

しかしその相手は只のぬいぐるみ無理な力を加えれば――

すぽっと、よしのんの手からパペットが抜けた!!

その瞬間、さっきまでほとんど感情を見せなかったよしのんが、明確に反応を見せた。

 

「か……かえして……ください……」

消え入りそうな、か細い、さっきまでハキハキ話していたよしのんとは大違いだと士道は思った。

 

「ぬ?なんだ、お主は?私は今コイツと話して居るのだ」

ギロリと効果音が付きそうな目でよしのんを十香が睨んだ。

 

「ひッ――」

十香の視線をみたよしのんが小さくノドを震わせる。

その怯えた様子に、士道の中の何かが切れた。

 

「おい十香!!やめろよ!!怖がってるじゃないか!!

それ、返してやれよ!!

幼女に手を出すとは、この五河 士道がゆ”る”さ”ん”!!」

意識していなかったが思ったよりも言葉尻が強くなってしまった。

 

「な、士道……やはりお前は、私よりこの幼女を――」

ショックを受けた様子の十香が呆然と、士道を光の無い目で見る。

 

『士道!!何をしてるの!!十香に続いて、よしのんまで精神状況が悪化してるわよ!!』

フラクシナスから、琴里の声が聞こえてくる。

 

「お前のせいだよ!!お前の!!しっかり十香を見てないからこうなったんだよ!!」

士道がイラつきながら、琴里へと返事を返す。

不意に、士道が足元に冷気を感じた。

 

「【氷結傀儡(ザドキエル)】……」

 

「な!?」

士道と十香の見る前で、地面からずんぐりしたウサギの様な、巨大なパペットが冷気を吐き出しながら現れた。




意外と琴里が無能な気がしてきた。
なぜだろう、出来る子ってイメージがあるのに……


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困った時は……

タイトルが思い浮かばない……
どうすればいいんだ……

無題だと、味気ないし……


『まさかののタイミングで()使()顕現!?』

インカムから琴里の焦った声が聞こえてくる。

 

「天使ぃ!?確かにこの目の前に天使(ゲロマブ幼女)は居るけど、そんな驚く事か?」

能天気な声で、士道が琴里に言い返した。

 

「違うわよ!!天使ってのは精霊の武器みたいなもんよ!!十香の時も見たでしょ!!ってか良くこんな状況で余裕の態度で居られるわね!!」

士道の目の前では、ずんぐりした巨大なパペットに手を突っ込んだ天使が、口から白い息を吐き、此方をその双峰で睨んでいた。

 

「ぐぅうううううぉおおおおおおおおお!!!!」

天使が咆哮すると、窓を突き破って雨がフロア内に入ってくる!!

水柱となり、近くにあった棚を破壊する!!

プテラ、トリケラ、ティラノ!!といったソフビが飛んでくる、もしあれが棚本体だったとしたら、と考えるとゾッとする。

更に水は凍結して士道、十香両名の足元が凍っていく!!

周囲の気温が一気に下がる!!

 

「ま、不味いんじゃないか……?」

流石の士道も自体を理解し始め、冷や汗をかき始める。

 

バギィン!!

 

十香の持っていた、パペットを拾い上げ、よしのんが窓から逃げていく。

 

 

 

 

 

「折紙決めろー!!」

 

「は・ず・せー!は・ず・せー!」

丁度その頃、ASTはハーミットが出て来るまでの暇つぶしに始めたゲートボールが佳境を迎えていた。

世紀末チームと花も恥じらう乙女チームに分かれ、偶然近くにあった老人会の残したゲートボールをやってみた所、思った以上に白熱してしまったのだ。

 

「決める」

折紙がスティックでボールを打つと、旗の部分まで向かって――

 

カチン……!

 

小さく、金属とボールの触れる音がした。

 

「わぁああ!!やったわ!!乙女チームの勝ちよ!!!!」

 

「ヒャハ!!負けちまったゼ!!しかたねー、今夜のファミレスの祝賀費用は俺たちもちだー!!」

女性隊員が歓声を上げ、一部男性隊員から悲鳴が上がった。

ASTは意外と和気あいあいとした職場です。

 

「あ、精霊だ」

 

「うてうてうて!!」

よしのんの存在に気が付いた、ASTが近くにあったミサイル兵器や、ビーム兵器、さらにゲートボールのボールを投げる!!

 

「ひゃぅ!?」

爆風をあげて、一瞬だけ精霊がひるんだ。

追撃しようとした瞬間、精霊の反応が消える。

 

「消失した様だな……」

 

「帰る――前にもう1試合しない?」

 

「良いわね!!」

ASTのメンバーは再びゲートボールを始めた。

 

「しまった!!さっきボール投げちまったんだ!!」

 

「探して来る」

折紙が手早く、さっきの精霊の消失した場所にボールを探しに行った。

 

 

 

 

 

翌日。

 

「さて、買い物でも行くか」

昨日のからずっと十香を見ていない士道、本来ならもっと何かすべきなのだろうが残念なことに、別に十香はどうでもいい士道は買い物に行くことにした。

因みに昨夜は、ブログの更新で忙しかったので十香の分を夕食をうっかりワザと作り忘れてしまった。

士道はこれから、交渉に有利だと思われる黄な粉をかいに行くつもりなのだ。

雨だというのに何処か士道は楽しそうだった。

 

「幼女~幼女♪幼女♪幼女る~る~る~る~るーるるー♪」

鼻歌を歌いながら、士道が道を歩いていく。

そのとき、士道の幼女センサーに幼女の反応が!!

 

「近いぞ!!――――――アレは!!」

緑のフードにうさ耳風のパーツを付けた幼女、よしのんがふらふらと街中を歩いていた。

咄嗟に、携帯で家にいる琴里に電話をかける。

 

ぴろろろろろろろろ!ぴろろろろろろろろろ!ブチ!!

 

「あ、切られた……」

一言も話す事なく切られた事に、微妙にショックを受けながらしかたなく神無月に電話をかける。

 

「どうしました、ペドー君?」

 

「神無月さん、昨日の幼女を見つけました。

今とりあえずストーキングしてます、因みに琴里は出れないみたいです」

 

「解りました、不肖この神無月がサポートします!!」

 

「流石、神無月さん!!頼りになります!!」

今ここに!!ガチ小児性愛者ロリコンとドMの変態マゾ男の(悪)夢のタッグが結成された!!

超進化変態と超進化変態同士二人による作戦が幕を開けた!!

え?嫌な予感しかしない?知らんな、それは私の管轄外だ。

 

 

 

フラクシナスのメインモニターに、精霊のバストアップ写真が映し出されている。

 

「さて、ファーストコンタクトは重要です。人は第一印象から、決まりますからね」

そんな事を言っているうちに、フラクシナスコンピュータが3つの選択肢を導き出した。

①肥をかけると同時に仰向けに転がり腹を見せ、敵意の無い事のアピール

②すぐさまぎゅっとハグして此方の愛を伝える

③こちらが丸腰である事を示す為、全裸で声をかける

 

ざわざわと、メンバーたちが騒ぎ出す。

 

「肥をかける?肥って、畑の近くにある肥だよな……ちょうどいい肥ってあるか?」

 

「いや、普通に声の誤変換だろ?」

 

「トリマ脱ごうか?そこからデショ?」

 

「愛を伝えるのはハグでしょ?」

騒めくメンバー、神無月と士道は同じ答えにたどり着いていた。

インカムを取る神無月。

『ペドー君、此処は――』

 

「ええ、解ってますよ。此処は――」

 

『「全部だ!!」』

そう、どれか一つに絞るから、困るのだ。

いっその事試せることは全て試すべきなのだ!!

 

「始めるか……」

真剣な面持ちで、士道が服を脱いでいく。これで丸腰であることが分かるハズだ。

次に、腹を見せる様な体制、つまりはブリッジをする。

少し前の映画のシーンでこの状況で階段を下りるシーンが有るがイメージはそれに近い。これで敵意の無い事が分かってもらえるはずだ。

最後にぎゅっとハグをする、コレが一番難しい。

 

だが、士道いや、ペドーに妥協はない。

 

「神無月さん、みんな、俺、行ってくるよ。

うぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉ!!!」

全裸のペドーが、ブリッジをしたままよしのんに向かっていく!!

ハグをして、愛を伝える為、全速前進する!!

 

「はぁああああああああ!!!」

 

「ひぐぅ!?」

ペドーの姿を見た、精霊が驚きの声を上げる!!

此方に向かう謎の生命体!!

全裸で!!ブリッジで!!そしてこちらに向かってくる!!

雨降る昼さがり!!すさまじい笑顔と共にこちらに突撃してくる!!

気弱な精霊が悲鳴をあげないハズも無かった!!

というか、近くにいた普通の人も涙目になっている、たぶん小学生くらいの子には一生もののトラウマだろう!!

 

「あっ……いて!」

ブリッジに不慣れなペドー、石に躓いて倒れてしまう。

 

「………………」

 

「………………」

恐怖によって涙目になる精霊と、痛みによって涙目になる小児性愛者の視線が雨の中交差する。

 

「どうしたんだい?小さなレディ?こんな雨の中、傘もささずに」

ダンディなセリフを言うペドー(全裸)。

 

『うまい!!渋くてダンディなセリフでごまかした!!』

フラクシナスメンバーが、ペドーに機転に歓声を上げる。

主人公がなぜか異様にヨイショされるのは良く有る事。

 

「…………」

しかし精霊は何も答えない。

 

「おや?その手、パペットが無い……探しているのか?」

さらに観察眼を見せ、頼れる男アピールをする。

 

「!!…………」

精霊がコクコクと何度も頷く。

どうやら、なくしたパペットを探している様だった。

 

「そうか、少し待ってな?」

立ち上がり服を着始めるペドー、最後にズボンのチャックを開ける。

 

「さ、俺がパペットになってやるよ。ほら、此処に手を入れるんだ」

チャック全開にペドーが精霊に近寄ってくる。

精霊を救う方法、それは俺自身がパペットになる事だ。と言わんばかりに近づいていく。

 

『さっすがペドーさん(ry』

主人公がなぜか異(ry

 

「違う……」

精霊がフルフルと頭を横に振る、どうやらペドーではパペットに成れないらしい。

 

「仕方ない。なら、一緒に探してやるよ。

お前の願いを言え、どんな願いも叶えてやる。お前の払う代償はたった一つだけだ」

 

「昨日、なくした……よしのんを探してください……」

今にも泣きそうな声で、精霊が縋りついてくる。

それほどまでにペドーの言葉は願っても無いものだったのだろう。

 

「よしのん?よしのんは君の名前じゃないのか?」

 

「よしのんは……わたしの……ともだち、です。

私は四糸乃……」

 

「そうか、改めてよろしくな。四糸乃!!」

 

「は、い……」

差し出された手を四糸乃が握った。

 

 

 

「神無月さん、フラクシナスで四糸乃のパペットを探せませんかね?」

 

『もうやってますよ、ペドー君。

落下する映像は見つけたので、燃えて消失という事はないでしょうが――』

こそこそとインカムで神無月と話すペドー、正直いってこれをかなりアテにしていただけその情報はペドーを大きく落胆させた。

 

「まぁいい。昨日のとこでまた探すか」

 

「は、い……」

ちゃっかり四糸乃と手を繋いで昨日のデパートの付近を探し出す。

ガラクタにまみれた一部、まだ崩壊した建物の残骸が転がり雨がペドーの体温を奪っていく。

 

「くっそ……どこに行ったんだ?」

視界の端に、ペドーの持たせた傘を持ちながら瓦礫をどかす。

手袋をしておらず瓦礫を触っているので、ペドーの手はボロボロだ、あちこち擦りむけホコリで汚れ、雨で汚く濡れている。

 

(大切な物、なんだよな……きっと)

態度を見ればあのパペットが、四糸乃にとってどれだけ大切かはなんとなくわかる。

それを、事情を知らないとはいえこちらの世界のASTが無くさせてしまったのだ。

余りいい気はしないだろう、こっちの世界に嫌な印象を持ってほしくない。それがペドーの正直な心中だった。

 

「さて、もうひと踏ん張り!」

雨で濡れる、額をぬぐって痛みを訴えだした腰を伸ばす。

 

ぐぅぅぅぅぅ――

 

小さく、ナニカの音がした。

 

「あ、あ、う……」

恥ずかしそうに、四糸乃が顔を赤らめる。

どうやらお腹が空いた様だった。

 

「少し、休憩しようか?」

 

フルフルと四糸乃が首を振って、反対する。

一刻も早くよしのんを見つけたいんだろう。

 

「急がば回れ、さ。お腹が空いたら力が出ないだろう?

一旦お腹を膨らませて、それからまた探せばいいんだ」

四糸乃を撫でようとして、手が汚れている事に気が付いた士道が止める。

しばらく、考えたあと四糸乃が小さく頷いた。

 

「よし、じゃあ、近いし家に来なよ?」

コクコクと頷いて、四糸乃がペドーについて行った。

 

 

 

 

 

「はぁ、ロリコンが居ないと静かでいいわね~」

テレビを見ながら、琴里がつぶやく。

今日は令音が十香の、ご機嫌を取るために一緒に出掛けていて正直言って暇なのだ。

友達を呼ばない時点で、察しなのだが兎に角琴里は暇だった。

 

ガチャ――

 

玄関の開く音がする。どうやらあの変態が帰ってきた様だ。

小さくため息を付く琴里。

 

「おかえりー」

リビングに入って来た影に向かって声を掛けた。

 

「よう、琴里!ただいま。

あ、四糸乃、コイツ俺の妹に琴里、変にプライド有るし、態度がころころ変わるから友達がいないんだ、もしよかったら友達になってくれる?」

 

「……い、や……です……」

 

「なら仕方ない、琴里?いつもみたいにぬいぐるみと仲良くお話しててねー」

非常に失礼な、言葉をほざきながらペドーが四糸乃を部屋へと連れ込んだ!!

 

琴里はすっかりフリーズ。

 

「はぁああああ!?」

やっと状況を読み込んだ琴里が大きな声を上げる!!

 

「おにーちゃんが幼女を家に連れ込んだ!!」

 



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守るられるべき者

すいません。
投稿遅れました。

べ、別にポケモンムーンをやりまくってるせいではないハズ……


僅かに機械音のする暗い部屋、そこに複数の気配がある。

何人くらいかはわからないが、確実に10人以上いる事が分かる。

 

中央にあるテーブルの椅子が引かれ一人の男が腰かける。

そしてゆっくりと口を開いた。

 

「さて、諸君。定例会議を始めようか……」

 

「おいおい!まだ全員集まってなじゃないか?」

別の男が口を開く。

落ち着いた最初の男とは違い幾分粗暴で乱暴な口調で話す。

 

「ごッメーン!!遅れちゃたー!!」

反対側の椅子が引かれ、別の人員が座った。

 

「ちッ……時間を守れない餓鬼はこれだから困る」

 

「へぇ?僕以外にもまだ来てない人もいるのに?」

 

「……………………」ボソ……

 

「「!?!?」」

いきなり現れた男に、両人の注意が一気に向いた。

まるで最初から居たように、悠然とその男は座っていた。

 

「待っていたよ。

ふむ……空席がまだ目立つが――まぁ、5人も居れば十分だ」

 

「5人?俺と、アンタと、餓鬼とソイツ、それ以外に居るのか?」

机に誰かが手を付く。

 

「あっれぇ……ふぅ~あ……寝てたんだけど……もう、始まってる?」

 

「ケッ!碌なメンバーが居ないじゃねーか!!」

 

「むむぅ!?僕じゃ不安なのかい?」

 

「あー……早く済ませて帰っていい?眠いんだよねぇ……」

 

「落ち着き給えよ。我々は同じ目的の元に集まった同士だ。

同じモノを望む同士、助け合うべきだ。

それに――――――」

男が口を開いた時、壁の扉が開いて一人の少女が顔を覗かせた。

 

「「「「「あ」」」」」

5人が同時に気まずそうな声を出す。

 

「何してるのよ!?精霊はどうしたのよ!!」

その少女、琴里は眉を吊り上げ男達を一括する!!

 

「いや、ペドーさんが頑張ってるし、その間に休憩を――」

神無月が慌てて、答える。

他のメンバーも大まかには同じだ。

 

「一体なにをやってたの?」

 

「悪の組織の会議ごっこです!!」

 

「結構盛り上がるよな!!」

 

「あ~ん、私、ショタキャラやっちゃった」

笑い合うメンバーを見て、琴里がプルプルと震える。

 

「さっさと、ペドーの支援に向かいなさいよ!!」

その一言と共に暗かった艦内はいつもの姿を取り戻した。

 

「全く!!」

ドカッと椅子に座って、琴里がイライラしながらモニターを目にする。

そこでは士道が楽しそうに精霊とお話してたのだ。

 

ことの始まりは僅か数分。

休日を楽しんでいたら、士道が精霊を家に連れて来た。

まるで友達を呼ぶようなフランクさに、琴里の方が一瞬事態を読み込めなかった。

そして、フラクシナス艦に連絡を取った所、士道がが町で精霊を見つけた事、精霊の無くしたパペットを探している事、空腹になったので家に連れ込んだ事が分かった。

因みに誰一人として琴里にメッセージを入れてはいなかった。

 

「さて、体制を立て直していくわよ!!

……あのロリコン変な事してないわよね?」

若干心配になった、琴里がメンバーに尋ねてみる。

 

「「「「「………………………………」」」」」

メンバーが思い出すのは数は数分前の、ペドーの全裸ブリッジ。

全裸で、ブリッジで、精霊に近寄るペドー……

 

「はい!!問題は有りません!!」

結果オーライだよね!!

と言わんばかりにメンバーが笑いかけ始める。

琴里の命令によって、フラクシナスメンバー達が、キリリとした視線を向けた。

嫌に返事だけは良い、メンバーを琴里は不安そうな目で見ていた。

 

 

 

 

 

「頼んだものが来るまで、私と話をしてくれないか?」

十香と出かけた街中、買い物前に食事でもと十香を誘った令音。

ファミレスで注文を済ませた後の十香に、成るべく波風を立てない様に聞く。

 

「何のことだ?」

 

「君がいらだっている事さ、もっと踏み込むなら……

ペドーについてだね」

令音の言葉に、十香が固まる。

せっかく、食事でごまかそうとしていたのに再び胸の中に嫌な感覚が戻ってくる。

途端に十香が少し不機嫌になった。

 

「ペドーは、関係が――」

 

「ないか?本当に、関係ないか?」

一瞬だけ引いた十香に、令音が言葉のナイフで入りこんで来る。

僅かに出来た隙を、この女は適格に突いて来た。

 

「ペドーが他の女に会っていたのが気に食わないのか?」

 

「……ああ、そうだ。なんだか嫌な感じがした。

私が咎める事はない、そのハズだが、胸が痛いのだ。

何度忘れようとしても!!胸が、苦しいのだ……」

一瞬だけ、十香の見せた激情に令音が静かに対応する。

 

「大丈夫だ。彼は君を見捨てはしない。

彼の一番は君だ、間違いはない」

令音が一言発する度に、十香の心が静まっていく。

簡単な話だ、十香は確証が欲しいのだ。

理由なんていらない、誰かに「君の事を思っている」と言われたいのだ。

 

極端な話、安心が欲しかっただけなのだ。

 

(もっとも、彼女は気が付いていない様だが……)

テーブルの水を飲み、冷水と共に自身の嘘を胸の奥に流し込んだ。

だが十香はそんな事を知らない。

令音の言葉通りすっかり気を良くして安心してしまった。

 

「おや、注文した料理が来たようだ。食べ終わったら、ペドーの元へ向かうのだろう?」

 

「なんだ、すっかりお見通しではないか。

すまない、買い物はまた今度だ。

腹を膨らませ次第、ペドーに謝らないとな」

笑顔に戻った、十香が運ばれて来た食事に手を付ける。

 

「そう、それでいいんだ。ペドーは君の笑顔が好きなハズだよ」

得てして笑みを浮かべ、令音は再び嘘を重ねた。

 

 

 

 

 

その頃……

「さぁ~て、お料理の時間だ。

幼女の胃袋を捉えるために必死で磨いた料理スキル、今こそ見せる時!!

えーと、ごはん、卵、鶏肉……親子丼……ケチャップもあるしオムライスも出来るな……

どうする……?」

四糸乃を見ながら、ペドーが試案する。

仮にオムライスを作ったとしよう、ケチャップライスにふわふわタマゴ、小さい子には人気の料理だ。ケチャップで控えめに『LOVE』とか書いてしまうのも悪くない……

 

ハッ――!?

 

瞬間ペドーの脳裏に電撃が走った!!

 

「ホワイト、ソース……」

クリームを使った白い、ソースをオムライスにかければ――――

口元を白いベタ付く液体で濡らした幼女が見れる!!

 

「オムライスに決定――ああ!?ホワイトソースの材料がない!?

ばかなぁ!?天は俺を見放したのか!?」

酷く絶望に打ちひしがれたペドー、ガクッと膝を両手をフローリングの床に付く。

 

「なんて、なんて、俺は無力なんだ…………

何がペドーだ、何がロリコンだ、幼女の口を白く粘つく液体で汚す事すらできないじゃないか!!」

 

「げん、き……出し、て、ください」

近寄ってきた四糸乃が優しくペドーの頭を撫でた。

優しさやいたわる気持ちが、触れられた部分からじんわりと染み込んでくる気がする。

 

「四糸乃……お前は優しいな……

よぅし、張り切って親子丼を作るか!!」

幼女の為に磨いた料理スキルをここぞと言わんばかりに見せつけ、数分後には金色に輝く親子丼が、テーブルに並んだ。

 

「箸、よりスプーンの方がいいよな」

士道が四糸乃に対してスプーンを渡した。

それを受け取った四糸乃は不安そうにしながらも、一口スプーンですくって口に含んだ。

 

その瞬間、カッと四糸乃が目を見開いた。

そしてバタバタとテーブルを手で叩く。

 

「おい、しい……です……」

親指をグット立ててペドーにサインを送る。

 

「コレクッテモイイぜ!」

更に作っておいた味噌汁を四糸乃に渡す。

ペドーに見ている前で、コクコクと味噌汁を飲んでいく四糸乃。

 

「あったまるだろ?女の子が体を冷やすのは良くないからな」

嬉しそうにスプーンを動かし続ける四糸乃をペドーは、今まで感じたことの無いくらいの幸福感に包まれてみて居た。

 

「ご機嫌な様で何よりだ」

食べ終わった四糸乃に対して、ペドーが質問を投げかけた。

 

「四糸乃、よしのんって何だ?お前にとって、よしのんは何だ?」

ペドーの言葉に、四糸乃が小さく話し始める。

 

「よしのん、はヒーロー、です。

わたしより、つよくて、なんでもできる、あこがれです」

ペドーに心を開き始めたのか、四糸乃の口調がだいぶほぐれて来た様だ。

長い言葉もしっかり話してくれるようになった。

 

「ふぅん、()()()()()

椅子に座りなおしながら、小さくペドーがつぶやく。

四糸乃とよしのんの性格の違い、よしのんを失った時の慌て様。

小さな破片はペドーの中にとある答えを導きだしかけていた。

 

「ヒーロー、ね」

その言葉を呟いて、ペドーは再び試案を始めようとした。

その時、四糸乃のほっぺに付いたご飯粒を見つける。

 

「おい、米ついてるぞ?」

 

「あ、はい……」

四糸乃が取ろうとする前に、ペドーが米粒を取り払う。

小さく四糸乃に笑いかけた。

 

「大丈夫だ、心配ない。よしのんは俺が必ず見つける。

それだけじゃない、この世界のすべての嫌な事からお前を守ってやるからな」

椅子から立ち上がり、四糸乃を優しく抱きしめる。

 

 

 

ガチャ――

 

 

扉の開く音がする、ペドーの視線の先には十香が呆然とした表情で立っていた。

最悪のタイミングでの登場である。

 

「なぜだ……?なぜお前がここに居る!!」

 

「ひッ!!」

十香と四糸乃の視線が絡まる。

刺すような殺気に震える四糸乃、小さくペドーの胸で震える。

 

「止めろ十香!!四糸乃が怖がっているじゃないか!!」

パペット、つまり自身を守るモノの無い四糸乃の不安をわかっているつもりのペドーが僅かに語気を荒げる。

四糸乃の物か、十香の物か分からないが、耳のインカムからすさまじい警告音がなり響いている。

 

「な、ぺ、ペドー!?ソイツの肩を持つのか?

もう、いい………もういいだろ!!

お前など――お前など知らん!!」

怒りの形相を浮かべた、十香が自身の部屋へと逃げ帰っていった。

 

「四糸乃?もう大丈夫――あれ?」

振り返った時、すでに四糸乃がその場に立っていなかった。

どうやら精霊の住む隣界へと、ロストした様だった。

 

「くそがぁああああ!!!」

一人きりになったリビングで士道が、壁を殴りつけた!!

家の中に、その衝撃が鳴り響く。

 

当然だが、士道はイライラしていた。

タイミングの悪い十香に、全くサポートの出来ていない司令官(笑)に。

そして、『守る』と約束してすぐに十香から守れなかった自分に。

 

『よしのん、はヒーロー、です。

わたしより、つよくて、なんでもできる、あこがれです』

四糸乃が語ってくれた言葉が、士道の中にリフレインする。

 

誰も彼もが自身を憎み銃を向ける世界。

 

その世界で、彼女――四糸乃は優しすぎたのだ。

ASTに攻撃されても反撃さえせずに、ひたすら悪意に、敵意に、害意に、殺意に耐え忍んだ四糸乃。そんな彼女が自身の心を守る為に、自身の憧れを形にしたものがよしのんだろう。

 

「そんなの、そんなのは可愛そうすぎる。

俺が、俺が守る!!次こそ絶対に!!!」

静かに、しかし確かに心を決めた士道がつぶやく。

ロリコンである彼は、幼女に悲しみを与えるものから四糸乃を守ると誓った。



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ライオンの檻の中

なぜか、お気に入りが40人に……
うーん、始めた当初は10人行けばいいよね程度だったのに……
予想外の事ってあるもんですね、っていうかエタれる空気じゃない……

どうやって完結させよう?


「さて、始めるか……」

まるで死地に向かう戦士の様な、ある種の諦観した様などちらとも取れる顔をしたペドーが一つのマンションを見上げる。

 

『さて、目的の物は――』

 

「あー、はいはい。お前はその辺でアメでも食べて大人しくしててね」

司令官(笑)を無視して、マンションに向かって歩き出す。

インカムの向こうでは『司令官がんばれ!!』だの『司令官まだやれる!!』だの『やーい、イボンコー』だの声が聞こえる。

 

 

 

 

 

事の始めは数日前。

フラクシナスメンバーの一人が、四糸乃のパぺットの行方を映像解析していた男が見つけた。

 

「ペドーさん、これを……」

 

「ッ――!!折紙か」

ペドーの目に映ったのはクラスメイトの折紙がパペットを持ち帰る姿だった。

 

「拾ったぬいぐるみ持ち帰んなよ……」

悪態を付きながらもジッと画面を見る。

幸いなのは、折紙の家を士道がしっているという点。所在が分かっているというのは大きなアドヴァンテージになる。

 

「コンタクトを取るのは出来るが……」

状態が好転したというのに士道の表情はすぐれない。

どことなくだが、分かるのだ。

彼女は――

 

 

 

その時目の前の扉が開かれ、折紙が現れる。

士道はその声に、現実に引き戻される。

「入って」

 

「お、おう……」

扉を開いた折紙がペドーを家に招きいれる。

高級マンションの為、正面に暗証番号を入れる機械が有るが住人が外に出たタイミングで一緒に中に入ってしまえば、その防犯機能は無力な物と化す。

その事を知っているのか、折紙は驚く表情すら見せない。

 

「所でその恰好は――」

 

「メイド」

 

「うん、知ってる」

メイド服を着て、家の中を案内する折紙をみて小さく士道が汗をかく。

まさかと思うが、私服がメイド服。という事はまずありえないだろう。

 

「お茶、飲んで。私は家事が得意」

士道の目の前に、どろどろした赤黒いタールの様な謎の液体がカップに出される。

ドロリと粘度のある液体が揺れると刺激臭が舞い、士道の鼻に突き刺さった。

これを出して「家事が得意」と言える精神を持っているらしい。

 

「エンッ――!?」

強烈な匂いに、士道の鼻がダメージを受けた。

刺激臭が目に染みる。

体が新鮮な空気を所望して、激しく肺を働かせる。

 

「お風呂に入ってくる。

大丈夫、この家は一人暮らし。

誰もいない」

そんな、士道の姿を知ってか知らずか、折紙が自身の用事を告げ部屋から出ていく。

お茶を前に躊躇した士道を他所に、浴場へと足を進める。

 

「うぇ、生臭……」

謎の液体を飲み干した士道が舌の上で、味を確かめ始める。

なぜ飲む、とかは言ってはいけない。

 

「うーん、先ずは『オンフレーレの黄昏』だな、効能は高いが匂いがキツイ……

んん?ざらつくこの味は……『精のエル』か……高い割合に飲みごたえはイマイチなんだよなー、効果ばかり目に行ってる……

他はわかる所で『フェルトケシュナー藻』『ヘルヘイムの果実』……

やべぇよ、飲む相手のこと考えずにグイグイ来てるよあの子……

なに?野獣なの?性に関して妥協しない姿勢なの?」

飲んでみて簡単にわかる、精力剤を上げていく。

どれもこれも、高級品で簡単に手を出せる代物ではない。

効果は絶大で、体の一部が半裸の幼女を目にしたときの様バリっと開いてズンと伸びてしまう位に元気になっている。

 

「さて、よしのんを回収しますか……」

ポケットから手袋を取り出すと両手にはめた。

さっきの行動で士道は理解していた、折紙は間違いなく自分や神無月と同じ『超進化変態』だ。

欲望に関して非常に高い能力を発揮する、困った人間達。

仲間の時は頼もしいが、敵に回すと非常に厄介だ。

 

「スン――スン、スン……向こうか」

空気の匂いを嗅ぎ、四糸乃の匂いのする道具を探す。

客間を抜け、キッチンに入る。

*ペドーさんには基本スキルです。

 

「うわぁ……」

キッチンのゴミ箱からあふれんばかりの精力剤ドリンクの空き瓶の山に、士道が声を漏らす。

何というか……いろいろキツイ……

例えるなら、体にバターとステーキソースを塗りたくてライオンの檻に入ったらこんな気持ちなんだろうか?

 

士道は急に自分が大変な状況に置かれてるのでは?と不安になった来た。

今にも扉を上げて、野獣と化した折紙に【お前がパパに成るンだよォ!!】されるんじゃないか心配に成って来た。

 

「早く見つけて帰ろう……」

台所を抜け、他の部屋へと向かっていく。

音もなく開けた部屋は、寝室の様だった。

様だったというのは生活感がほぼなく、大きなキングサイズベットが真ん中に鎮座していたから辛うじて『寝室』と分かった。

 

「見つけたぞ……!!」

ベットの、上二つ並んだ枕(イッテイイーヨ!!と刺繍されている)の奥にくたっと倒れるパペットが有った。

 

「遂に……手に入れた!!」

よしのんを手にして、ペドーがガッツポーズをする。

手に入れたらこんな野獣の檻にいる必要は無い、さっさと退散するべきだ。

 

「お待たせ」

 

「ハッ!?」

突然の声に驚くと、折紙がドアの間から此方を見ていた。

濡れた髪に体に巻く布はタオルのみ、しかもやたらと丈が短い気がする。

 

「理性にお別れ」

 

「ま、待て!!待つんだ折紙!!俺のロリコン頭脳をこの世から消してはならない!!待て、待つんだ!!待ってくれ折紙!!

()()()は幼女を二人以上侍らせてって13歳の頃から決めてるんだ!!」

動揺するペドー、二つある枕に腕が引っ掛かり折紙の方へと落ちていく。

二人の視線の先、枕が「イッテイイーヨ!!」の面を上にして落ちる。

 

「イって良いって」

最早理性を捨て去った折紙の毒牙が無力な少年を襲うその瞬間!!

 

「お、折紙って精霊が嫌いなんだよな!?

けど、精霊の中にもイイヤツっていると思わないか?」

咄嗟に思いついたペドーのアイディアは精霊を出して興味をずらす事だった。

その案が功を奏したのか、折紙の目に理性が戻ってくる。

 

「ありえない」

理性の代わりに宿るのは憎しみの炎だったが……

 

「5年前、この町の南甲町で大規模な火災が起きた。

アレは精霊の仕業。あの火事で私は家族を失った。

私は――精霊を許せない」

折紙の言葉を聞いて、士道は黙ってしまった。

四糸乃や十香と仲良くしてほしい、そんな事を考えていたがその瞳を見ると到底それは不可能だと理解した。

 

『復讐』それは人を狂わせる感情。

彼女はそれを支えにして生きて来た、5年もの間。

こうなってはやめろと言っても無駄な事はわかり切っている。

 

「そんなの無意味だ」「新しい幸せを見つけろ」「許してやれ」「お前がやる必要は無い」優しい言葉なら無限に浮かんだ。

だが、ああ、だがそのすべては折紙には届かないのが分かる。

 

『復讐』とはそんな感情なのだろう。

 

 

 

「そっか、仕方ないな……けど、俺は――」

それしか、士道はいう事が出来なかった。

 

「ぶぇっクション!!」

 

「うゲ!?キッタネ!!」

口開こうとする、士道の顔に折紙の鼻水が吐きかけられる!!

士道の顔と、折紙の鼻の間に銀色の橋が出来てすぐに切れた。

当然だが、いくらシリアスな話しをしていても折紙はズーットゼンラ!!

寒くなってくしゃみをしてしまうのも仕方ない!!

 

「あー、折紙……かえっていいか?流石に全裸で置いて置くのは俺の気が……

あと、このパペット貰っても良い?気に入ったんだよ」

よしのんを見せつける様に、パクパクを動かす。

 

「それはダメ。私のお気に入り」

 

「えー?頼むよぉ、お前の私物が欲しい的な?」

ペドーの放った言葉で、折紙が考え込む。

*ここから超進化変態同士の会話が始まります。

耐性の低い方、紳士レベルの低い方、ハイクラス変態以下の方は注意して閲覧してください。

 

 

 

「私の下着なら構わない」

 

「だめだ、脱ぎたてでない為鮮度が悪い。

下着は人肌程度が適温だ!!」

 

「なら、今から穿いて――」

 

「養殖下着に興味は無い!!偶然、必然予期せぬタイミングで脱げた下着にしか、神は宿らない!!」

 

「……その通り。なら代わりに交換条件」

 

「なんだ?」

 

「あなたの事をペドーと呼ぶ許可、それと今あなたの履いている下着を所望する」

 

「構わん!!持っていけ!!」

 

「交渉成立」

ペドーと折紙は高度に変態的な会話の末、お互い欲しい物を手に入れた。

本来交渉とは、相手と自分が最も良い形に落ち込む事であり、勝ち負けではなくお互いwinーwinの形になる事が好ましいのだ!!

 

 

 

うぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅ――――

 

「ッ!?空間震か!!」

 

「仕事だ」

折紙、士道両名がサイレンの音に反応して、マンションから出ていく。

士道は下着を失い、何処か解放された様な顔で。

折紙は履きなれないトランクスの感覚を味わいなながら――

対照的ながら、同じ精霊に向かって走り出す!!



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凍る世界/溶ける心

さて、第二部遂に完結。
あー、疲れた……


「ッ……」

気が付くとまたアノ世界に立っていた。

 

「ヤレェ!!」

 

「仕留めろォ!!」

出現した途端、身の覚えの無い敵意を向けられる。

 

降り注ぐ雨の様な、銃弾、レーザー、エネルギー弾、そして投擲武器。

霊装のお陰で痛みはない。

痛みはないが、霊装は人の殺意までは消してくれない。

 

「あッ……!」

 

――怖い――

 

「ヒャハ!!精霊は消毒だぁ!!」

 

「逃がすな!!」

 

「今日こそ仕留める!!」

 

――この世界は――怖い――

 

「や、めて、くだ――キャ!」

 

言葉を話そうとした瞬間、目の前で爆発が起こった。

炸裂弾か何かが、すぐ近くで破裂したのだろう。

 

 

 

『おおっと、よしのんにオイタとは、やるねぇ?』

 

「よ、しのん……」

助けを求めようと、自身の右手を見るがソコにはいつも彼女を守ってくれるパペットは存在していなかった。

 

――息がつまる――うまく呼吸ができない――怖い――

 

「ヒャハ!!」

 

「はぁ!!」

 

「始末する!!」

 

尚も敵意はその少女を苛み続ける。

守ってくれるものを、失った時。

 

自身の口が動くのが分かった。

 

氷結傀儡(ザドキエル)……」

 

ぐぅぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!

 

地面からせり出す様に、その心の無い守護天使は現れた。

 

「なにぃ!?」

 

「氷が!?」

 

「ひゃは!!薄着には辛いぜ!!」

 

「助け――」

 

「逃げ遅れ――」

 

数人の人の声が聞こえなくなる。

 

――ごめんなさい――ごめんなさい――

自分のした事に、震え始める。

寒さのせい等ではない、相手を傷付けた心苦しさからだ。

 

そんな四糸乃の心を無視するように、心の無い天使は町を氷の世界へと変えていく。

 

たった一体、たった一体のパペットによってさっきまで人の住んでいた平和な街並みが氷と冷気の覆われた生物の住むことのできない死と停滞の支配する世界へと変わっていった。

 

 

 

 

 

「なんだコレ……」

フラクシナスの艦内のメイン画面に映る、氷に覆われていく街並みに士道が小さく声を漏らした。

十香の時の破壊された街並みもそうだが、今回は明らかに街並みを残した姿で別物に変りつつある事が否応なしに異常性を感じさせた。

 

「精霊が無茶やってるのよ、雨に霊力を含ませてってのが何時ものパターンでしょうが今回は地下水路や水道水まで自身の能力として取り込んでいる。

なるほど、利用できる水は町ならいくらでも有る訳ね……

そして、その水を利用して――」

画面の中央、巨大な水と氷と風のドームが鎮座して居た。

このドームの中、この奥に四糸乃が居る。

 

「まるで全てを拒絶する、絶対の防御。

さぁ、お姫様はあの中よ。

そして、ASTもいつまでも手をこまねいて見ては居ないでしょうね」

琴里がチュッパタップスで画面をさすとASTが巨大な大砲を用意している様子が見えた。

 

「まさか、アレを――」

 

「撃つ気でしょうね。

それがASTの仕事でしょうし、動かない敵になら命中率を無視した威力の攻撃が出来るわ。

流石に、コレは危な――」

 

グラァ!

 

フラクシナスが、突如揺れる!!

それと同時に、艦内のアラームが鳴り響く!!

 

「まだ、遭っても居ないのに……!!

もう、不機嫌のサインか?」

 

「違うわペドー!!このアラームは!!」

 

「指令!!大変です!!

精霊の霊力を含んだ雨により艦内のシステムがダメージを!!」

船員の内の一人が、叫ぶように報告を入れた。

フラクシナスとて、所詮人工物の戦艦。

霊力を含んだ雨と霊力による冷気を影響を受けない訳では断じてない!!

 

「くッそぉ!!顕現装置の3分の2を残りの3分の1の補助に使いなさい!!

このまま、此処に居るのは危険よ。

最悪この艦を地面に落とすことに成りかねない……

最低限、ステルスと冷気に対するバリア、それと余った力を利用してこの空域を脱出するわ。

四糸乃は残念だけど、次回また顕現した時に攻略するわ!!」

 

士道を乗せたフラクシナスが、四糸乃の居る氷のドームから離れていく。

 

「あ……!」

士道が小さく声を漏らした、四糸乃の隠れるドームが爆風を上げた。

ASTの使った例の大砲だろう。

 

小さく、ドームの壁が崩れたがすぐに氷が修復していく。

 

「退避よ、士道。

今は耐える時よ、流石にASTの居る真っただ中にアンタを連れて行くことは出来ない。

次のチャンスを待つのも立派な作戦よ」

 

琴里が諭す様に話す。

一言一言かみしめる様に、言葉を紡ぐ。

 

「そうだよな、あ~焦った。

あの中行けって、言われるかと思ってビクビクしたよ。

前さ、十香の時俺撃たれたじゃん?あの時は精霊の力っぽい炎で何とか成ったけど、今回は流石にやばいなーって思ってたんだよ」

早口で、士道が琴里に話す。

どうやら、静かだったのはビビっていたから、らしい。

その様子に琴里は安心した様に息を吐く。

 

「ええ、あの力ね。

回復はするけど決して、過信してはいけない力ね。

アンデットモンスター張りに戦えるチート染みた力よ」

 

「そっか、便利な力だよな。

これで、()()()()()()

一転して、士道が真剣な表情へと変わった。

ふざけた態度から、凛々しささえ感じられるほどに。

 

「ちょっと、何をする気?

バカなことはするんじゃない――」

 

「お前は、耐えれるのか?」

 

「え?」

士道の言葉に琴里が固まった。

 

「幼女が泣いている、悲しんでいる!!

分かるか?公園で笑って遊んで友達とふざけ合って、笑顔がきらきら輝いてるのが幼女なんだよ!!

幼女とは無条件で幸福であるべきなんだ、その振りまいた笑顔に救われる誰か(ロリコン)もきっといる……!!

はっきり言おう!!俺は幼女が好きだ!!舌足らずなしゃべり方が好きだ!!未成熟な体が好きだ、締まりの無いぽっこりしたお腹が好きだ。

小さな足の指を見ただけで快感すら覚える!!

お手伝いに失敗して涙目になる様を想像するだけで、おかしくなりそうだ!!

俺はそれらの感情すべてを肯定する!!

幼女こそ正義!!幼女こそ真理!!

真剣にそう思える!!ならば!!悲しむ幼女に背中を見せる事は出来ない!!」

 

「ちょっと、何を――」

 

()()()()()()

士道が、フラクシナスのハッチを開けた。

非常時にしか開かない設計だが、現在は制御コンピューターまでも艦の維持に使っている状態。

力業で簡単に開くことが出来た!!

 

「あのバッカ!!」

 

 

 

 

 

「ひゃぁあああああほぉぉぉぉぉいいいい!!!」

冷気と雨の降りしきる中!!

パラシュートなしのバンジーをするペドー!!

その胸の内には確かな、計画があった。

 

「あの炎、たぶん精霊の力だよな!!

2個も3個もこの世に不思議テクノロジーなんて無いよな。

だったら、『俺の中の力』って考えるべきだよな!!

俺は、精霊の力が使えるハズだ!!

来いよ……」

胸の中から取り出すイメージで、十香の剣『鏖殺公(サンダルフォン)』を思い浮かべる!!

 

「来いよぉ!!サンダルフォン!!!」

 

カッ!!

 

ペドーの手の中、十香がかつて振り回していた。

破壊の象徴、悲しみを生み、苦しみの中で振るわれた剣が今!!

少年の思いに応え、守る為、救う為にその力を振るう!!

 

「だらぁ!!」

鏖殺公を近くのビルの壁に突き立てる!!

 

ガガガガッガガガ!!

 

けたたましい音をたてながら、凍り付いたビルに縦線を入れていく。

剣の抵抗分、ペドーの落下スピードが減速していく。

 

『何やってるのよ馬鹿!!

まさか、今の計算なしでやってないわよね?

なんどもシュミレーションした後にやったのよね!?

一歩、間違えば大惨事なんだけど!!』

 

インカムから琴里の声が漏れる。

どうやら小さな指令は相当お怒りの様だった。

 

「わり、許してちょんまげ」

 

『ふざけんな!!一歩間違えば死ぬって世界よ!?

戻りなさい!!早く!!今なら――』

 

「さーて、四糸乃救いに行くぞー」

 

『聞く気無し!?』

琴里の言葉を無視して、再びさっきの感覚を思い浮かべようとする。

自分の中には、世界を壊せる力が眠っている。

それは無く成ったりしてないハズだ、それを今から使う。

 

琴里にカマかけて見てわかった。

自分には、精霊の力を使う力が有る。

 

「ちょっとくすぐったいぞ?」

目の前に十香の座っていた、黄金の玉座が有る。

ペドーはそれに飛び乗って腰掛け部分を倒す。

玉座は少しずつ、形を変えて歪なサーフボードへと形を変える。

 

「さて、行きますかぁ!!」

地面を蹴って、黄金のボードによる氷世界の滑走が始まった!!!

 

「なぁ、琴里ぃ!!」

 

『何よ、馬鹿ロリコン』

 

「ごめんな?けど、逃げたくないんだよ」

 

『勝手に死になさいよ、馬鹿!!』

 

「たはは、帰ったらデラックスキッズプレート食わせてやるからな?

あ、フラグか?コレ?」

笑い飛ばしたあと、ペドーがボードを加速させる!!

もう止まらないし、止まれない。

 

 

 

 

 

「ヒャハ!!寒いぜ!!ホッカイロを買って来れば良かったぜ!!」

 

「紅茶、入りましたよ~」

ASTのメンバーが、現在新兵器の起動エネルギーチャージの時間を利用して休憩をはさんでいた。

世紀末ファッションの男性メンバーはやはり、寒い。

女性メンバーも入れて、お茶を楽しんでいた。

 

「ヒャハ!!暇だからクッキー焼いて来たぜ!!」

 

「うまっ!?女子力で負けた……」

 

「エネルギー充てん65%!!……携帯より遅い……

実践での使用はまず無理だな……」

 

そんな中、折紙が小さく口を開いた。

 

「私にいい考えが有る」

 

「ん?なんだ?」

 

「祝賀会は、焼肉」

 

「それだぁあああ!!」

 

「肉だぁああああ!!」

折紙の祝賀会の計画に、他のメンバーが狂喜乱舞する!!

 

シュバァ!!

 

そんなメンバーの横を、誰かが高速で走り抜けていった!!

 

「なんだ!?子供!?」

 

「ゴールド・サーファー?」

 

「シルバーじゃなくて?」

 

 

 

 

 

「うぉおおお!!」

氷と水が散弾の様に振りまく、ドームの中!!

ペドーが進んでいく!!

ボードに身を任せ、ひたすら目的の相手を探し向かう!!

 

全身が痛い、目が開けられない、まっぐす進んでいるかもわからない。

だが、何となくわかる。

俺の助けを待っている人が居る!!

 

そして――

 

遂に、氷と雨の止まった場所にでる。

ボードも服もボロボロだった。

だが、少し先に四糸乃が呆然とこちらを見ていた。

 

服の下にかくしたよしのんを取り出し、手に装着させようとして止める。

 

(よしのんって、四糸乃がいつも手を入れてたんだよな?

これに手を入れれば、間接握手――いや、もっとこう、触って欲しい場所に装着すれば――)

 

『変な事、考えてないわよね?』

インカムから、琴里の声が聞こえて来た。

 

今まさに、不埒な事を考えていたペドーが慌てる!!

 

「そ、そんなハズないだろ?

ほ、ほらー、四糸乃?よしのんだぞー?」

 

『はぁい、四糸乃!

一人で良く頑張ったねー。

ペドーさんが来たから、もう安心だよ?』

下手糞な、声真似でよしのんを演じる。さりげなく自分の依存する様なセリフを話させる。

 

「よ、よしのん……」

 

四糸乃がよしのんを受け取ると、素早く自分の手に装着する。

パクパクと動かす。

 

『たっだいまー!!恋しかった?恋しかった?んん?』

 

「あえて、よかった……」

ぬいぐるみと会話していると、「家族が増えるよ!」的なイメージが浮かぶがいろいろと台無しに成りそうだからやめた。

 

「ぺ、どー、さん」

 

「ちゃーんと、連れて来てやったぞ?

これで、もう怖くないな」

 

笑顔を作り、四糸乃の顔を覗き込む。

 

「あ、ありがとう、ございます。

よしのんを連れて来てくれて……」

 

「ご褒美はチューで、よろしく」

 

「ちゅー?」

訳が分からないという顔をする四糸乃に対してペドーが破れたポケットから、目のハイライトの消えた幼女が、同じく目のハイライトの消えた拘束された男に馬乗りに成って無理やりキスをしているイラストを見せる。

 

「これこれさぁ!!俺に馬乗りになった!!さぁ!!早く!!」

地面に寝転がって、四糸乃を呼びつける!!

インカム?うるさいから捨てたよ?

 

「は、はい……失礼、します……」

ペドーの唇と四糸乃の唇が触れる!!

容赦なく舌を入れたら、拒否られた……

 

だが、体に温かい物が流れ込み空が晴れ始める。

封印成功の合図だ。

 

「あ、ッ……」

 

「きゃ……」

ペドーと四糸乃が同時に浮かび上がり、フラクシナスの内部に転送される。

どうやら琴里が回収してくれた様だった。

 

「いろいろ言いたいけど……!!

いろいろ言いた過ぎて言葉が出ないわ!!

約束通り、デラックスキッズプレート!!奢りなさいよ!!」

 

「おう、分かった。

四糸乃も行こうぜ!

この世界はさ、本当は優しいんだ。

仮にもし、神の仏も、ヒーローも居なくても、お前を好きなロリコンは確実に居るんだぞ?」

 

「……? は、はい?」

イマイチ、意味が分からないと言った様子で四糸乃が頷く。

ペドーと四糸乃が仲良く手を繋いで歩く。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、うまかった。

四糸乃は満足か?」

 

「は、はい……」

ペドーの言葉に四糸乃が頷く。

満足そうに頷くペドー。

 

「まったく!!今回は特例なんだからね!?

普通はもっと検査をしてから――」

カリカリと怒りながら、琴里が家のドアを開ける。

 

「あ……」

玄関を開けたすぐ先、十香が呆然とした顔で帰ってきた3人を見る。

 

「と、十香!?コレは忘れてた訳じゃなくて――」

 

「十香じゃん、ごめーん。

存在自体すっかり忘れてたわ、じゃーなー。

俺、四糸乃と遊ぶ系の仕事が有るから」

ワザとらしく謝って、四糸乃を連れて2階へと上がっていく。

 

「と、十香?」

琴里の前で、プルプルと十香が震える。

拳を固く握る。

 

「私は、馬鹿だ。大馬鹿者だ……

部屋に居る間に、ペドーはあの幼子に夢中に成ってしまった……

もう、引きこもるのはやめだ!!もっと、もっと積極的に動かねば!!」

決意を新たに、十香が立ち上がる!!




次回予告!!

やってきたのは……季節外れの転校生!?

この転校生、ちょっと訳あり?

しかし!!

「興味ないわ」

感心0のペドー!!

更に緊急事態が!!

作者「やっべぇ、手元に3巻ねーわ……」

どうなる次回!?


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狂三ライアー
季節外れな転校生


投稿激しく遅れました。
反省してます。

やる事が重なったのと、ポケモンが楽しすぎた……
厳選作業って、なんであんなに楽しいんだろ?

色厳選、めざパ厳選は昔やったがきつすぎた……


時は6月の5日の月曜日。

季節外れなこの時期に、転校生が来禅高校にやってきた。

 

黒板に名前を書くと一言告げた。

 

「私精霊ですのよ」

その言葉に周囲の一部の生徒たちが騒めきだす。

あるモノはその突拍子の無い言葉に、あるモノは美しき姿に。

そして、我らがペドーは……

 

(精霊……?

今、この賞味期限切れそう言ったのか?

うわぁ、イッテェ……キッチィ……

この今日は6月の始め、そろそろ友達とか決まってくる頃なのに転校……

あー、こりゃ察しですわ。

変に構うと、なつかれそうだから止めとこ)

関わらない事を早々に決心した、ペドーが再びの脳内で幼女とのラブシーンの妄想に戻る。

 

「はぁい。ではもう一人紹介しますね」

教員の先生(消費期限切れ)が更に一人の生徒を呼ぶ。

 

ざわッ――

 

その生徒の容姿を見て、更にクラスが騒めきだす。

高いすらっとした身長に、灰色の髪、きらきらと輝く瞳は何処までも続く空を連想させる。明らかに日本人ではない。

その生徒が、黒板に名前を書いていく。

 

マイン・D・ヴォロス

 

「ハジメまーして!日本のみなサン!!

ワタチの名前は、マイン・D・ヴォロス、デース!!

ドイチュから転校してきまーシタ!

ワタチ、二ホンの事もっとしりたーい!!

仲良くしてくだサーイ!特に美人のレディが良いデーズ!

みんなカワイクーテ、ムネがドッキンコします!!」

 

ひょうきんな態度と、インチキ臭い日本語にクラスのメンバーの心を一気につかんだ。

朝の会の終わりに早速クラスの人気者になったマインは早速クラスのメンバーに囲まれて質問攻めを受けていた。

 

もう一人の方は、完全に「なんか、痛い子いたよね」で終わった。

 

「ね、ねぇ、ワタクシ精霊ですのよ?」

ペドーの前に、マインではない方。

確か時崎 狂三とか言っただろうか?それがペドーに話しかけて来た。

 

「へー、興味ないわ。

んじゃ、マインの所いくから、じゃーねー」

ペドーの視界に端の狂三は密かに泣いていた。

 

 

 

 

 

『ぐへぇ!?』

 

『ヒデブ!?』

 

『マソップ!?』

余り聞いたことの無い、断末魔を上げて数人の隊員が倒れる声が通信機から聞こえる。

『崇宮 真那』この状態を引き起こした主犯の名だ。

鳶一は今、彼女によって仲間と共に多対1の戦闘を行っている。

だが、数が多いハズのこちらは完全に刈られている最中である。

次々と、彼女によって精鋭を誇るASTのメンバーが倒れていく。

 

陸自のエース。精霊を殺した事のある女。顕現装置の扱いではトップ5に入る実力者。

数々の栄誉が彼女には付いていた。

 

だが、それよりも気になる事が有った。

それは、鳶一が戦闘ビデオを見返していた時の事だった。

 

「あ、ニーソマン――じゃなくて、兄様」

 

「ペドーと知り合い?」

 

「鳶一一曹は兄様とお知り合いなのでやがりますか!?」

 

「そう、できればその事を、詳しく知りたい」

 

「わ、分かりました。では、今度の演習に参加してくだせぇ。

そうしたらお教えいたします」

その言葉で、鳶一の心は決まった。

 

 

 

「さぁ、どうしやがりました?このまま時間切れになってしまいやがりますよ?」

挑発する様に、ぶらぶらと演習場を歩く真那がゆっくりと歩く。

 

「腹が決まった様で――」

 

「……」

真那と出合い頭に、手の中のビームブレイド〈ノーペイン〉を構えスラスターで肉薄しようとする。

 

「特攻!?嫌いじゃねーです、その心意気!!〈ムラクモ〉」

真那も同じ様なブレードを構えるが、折紙はその横を素通りした。

二人の影が交わる瞬間に、折紙はスラスターを捨て、同時に自爆させた。

 

「な!?」

突如湧く、爆炎に真那が驚きく。

それこそが折紙の狙い、真那に肉薄する今、ノーペインを構え彼女のアーマーに傷をつけようとする!!

しかし、ピタリと体が停止する。

彼女の、力だろう。

 

「くッ……」

 

「やりやがりますね、でもコレで『詰み』です」

真那が僅かに油断した、その瞬間!!

 

「ヒャハ!!〈GX-05ケルベロス〉掃射だぜ!!」

 

ダラララララ!!

 

野太い男の声と共に、マシンガンの弾丸が降り注いだ!!

 

「な!?このタイミングで!?」

 

ボシュ!!

 

何かがこちらに飛んでくるのが、分かる。

テリトリーに意識を集中させ、真那がそれが何か瞬時に理解する。

 

「!!?ぐ、グレネード!?」

 

「情けは無用なんだよな?ヒャハ!!」

更に3、6と空中に投げ出される、グレネードが増える!!

 

「コレで、仕舞だ!!」

真那の首筋に、鈍色のブレードが付きつけられる。

 

「参りました、降参しやす」

真那な両腕を上げる。

 

「ヒャハ……疲れたぜ……」

世紀末ファッションに身を包んでるハズの隊員が、珍しく弱気な事を言う。

そして、その体にはアーマーが最低限しかなかった。

 

「どういう事で、ありやがりますか?」

疑問に思った真那が、男に聞く。

 

「グレネードの弾、最初の一発以外は全部、アーマーを砕いたダミーだぜ!!

このスーツの身体強化以外を全部してただけだヒャハ!!

もっとも、仕留めきれないと無力だから、精霊には使えない戦法だ、ヒャハ!!

反則ギリギリだぜ!!という訳で、引き分けだ!!ヒャハハハハ!!」

笑いながら、男は帰って行った。

 

「やってくれやがりましたね……」

優秀な鳶一、そして、奇策を弄し自身の身に危険を顧みない男。

二人の名は真那の心に深く刻まれた。

 

 

 

10分後……

 

「で、何か弁明は有るのかしら?」

ASTの隊長 日下部 遼子が真那、折紙、ヒャッハーさん3名を見下ろしていた。

 

「模擬とはいえ戦い、全力を尽くすべきだと思った」

 

「私も同意見でありやがります」

 

「ヒャハ!!男のプライドだぜ!!どうしても一矢報いたかった!!反省はしてねーぜ!!ヒャハ!!」

 

「アホンダラ!!アンタ等のぶっ壊した装備いくらすると思うのよ!?

ブランドモノのバックが店一軒丸ごと買える値段よ!!

あと、反省しないならヒャッハーさんのモヒカンを刈り取るわよ」

 

「ヒャハ!?それはねーぜ!!」

 

「モヒカンに罪はない、許してあげて」

 

「モヒカンは守るべきでありやがります!!」

なぜか、モヒカンに優しい系女子二人の言葉に、日下部が小さく息を漏らす。

 

「わかったわ、ヒャッハーさんも反省してね?」

 

「ヒャハ!!反省するぜ!!」

結局この日は、反省分5枚で許してもらえた。

 

 

 

 

 

「祟宮 真那――約束通り、ペドーの事をおしえてほしい」

説教の終わった後、折紙が真那にペドーの情報を教える様に言う。

それこそがこの戦いの約束だったはずだ。

しかし真那は、小さく困った顔をする。

 

「あ、あのー、すまねーんですが……

実は、私もそこまで詳しく覚えている訳じゃねーんです……」

そう言って胸にかけてあった、ペンダントを開く。

そこには小さな男の子が女の子と一緒に映っていた。

 

「小さい時のペドー?」

 

「そうですか、兄さまの名はペドーですか……私の生き別れの兄妹です。

すいやせん、私昔の記憶がねーもんでして……

そうでやがりますか、兄さまの名は――」

気まずそうにしかし、嬉しそうに何度もペドーの名を口の中で転がす。

本当に士道の事を知らない様だ。

 

「あ、あの……ぶしつけで申し訳ねーんですが、兄さまの事、知ってるなら教えてほしいんでやがりますが……」

 

「分かった」

申訳なさそうに話す、真那に対して「いつの間にか立場が逆になったな」と考えながら自身の知るペドーの情報を話し始めた。

 

「名前は五河 士道といっても、この名が使われることはむしろ稀。彼の通称である『ペドー』の方が分かりやすい。

年齢は16歳、好きな年齢は10歳」

 

「は?」

一瞬聞こえた気がする、ヤバげな情報に真那が小さく声を出すが折紙は気にせず続ける。

 

「家族構成は父・母・妹。両親は海外出張中でご都合主義なエロゲ状態。特技は調理と幼女を料理する事。

さらに、幼女が絡むと異常な興奮状態と、驚異的な身体能力を発揮する。

過去の研究で、幼女の放出する『ロリコニウム』という物質が小児性愛者の一部が持つというG(ガチ)ロリコン酸と反応する事で似たような現象が起こるらしい為、それに類推されると思われる」

 

「え、い、え?」

 

「血液型はAB型。身長170センチ。体重58.5キロ。座高90センチ。上腕30.2センチ。前腕23.9センチ。バスト82.9センチ……」

 

「す、ストップ!!ストップです!!なんでそこまで詳しいデータを知っているんでやがりますか!?」

 

「この前、測らせてもらった。私の小学生の頃の写真と交換。

ペドーは私の過去を。私はペドーの現在の情報をもらった」

 

「何やってるんでやがりますか?あの、兄さまとの関係は?」

 

「恋人」

飽きれる真那に面と向かって、はっきりと言い放た。

 

 

 

 

 

「ちょっと何してるのよ?ペドー」

家の中、弁当箱と紙袋を持つペドーをみて琴里が口に咥えた飴の棒をピンと立たせる。

 

「なにって、この紙袋は幼女の誘拐に使えるか実験してたんだよ」

そういって、自身の頭に紙袋をかぶせる。

 

「うん!!色付きだから、外の色はしっかりシャットアウトするし、動くとガサガサいって集中力を欠かせる事も出来るな。

けどサイズが……うーん、おしいな」

そう言いながら。頭にかぶった紙袋を取り外す。

 

「マジでなにやってるのよ……」

ペドーのこだわりに、早速出鼻をくじかれた琴里。

 

「十香が隣に住んでるのよ?せっかくだから一緒に登校しようとは考えないの?」

 

「えー、嫌だよ。噂されたくないし。っていうか、アイツ出てくる時間遅いから一緒に登校しようがないんだよ。仕方なく弁当はポストに入れてあげてるけど……」

そう言って、左手に持つ弁当を掲げる。

 

「いい?精霊はまだいるのよ?その精霊を攻略するのはあなたなのよ?

前みたいに、十香が精神不安定に成ったらどうするのよ!?

今のうちに、好感度を稼ぎなさいよね!!」

ドンと小さく、フローリングを踏んで威嚇する様に音を出す。

 

「あー、確かに……

また、四糸乃の時みたいになったら厄介だな……

なぁ、琴里。なんか、かっこいい敏腕ホスト的な人、雇ってそっちに惚れる様にできないか?」

 

「はぁぁああああああ!?あんた、何言ってるのよ!?

十香にそんな事して良いと思ってるの!?」

 

「いや、だって。胸部デブに興味ないし……

これから攻略する相手が増えたとして、何人相手するんだよ?

5人?10人?絶対綻び出るぞ?『誠死ね』状態は絶対に嫌だからな?」

 

「うぐぐ……だからって、十香をほおっておいたら大変なことに成るわよ!!

少なくとも、十香はアンタを信用してるんだからそれには最低限応えなさいよね!!」

言いたい事だけ言い放つとペドーに何かを投げつけ、琴里はそのまま逃げる様に部屋から出て行ってしまった。

 

投げつけられた何かを見るとそれはインカムだった。

どうやら付けろという事らしい。

 

「まったく、かわいい妹の頼み位聞いてやるか……」

一人つぶやくと、インカムを耳に付け十香の住む隣のマンションにまで出かけた。

 

「ハッ――!」

 

マンションに近づくなか、ペドーの幼女サーチャーが幼女の反応をキャッチした!!

 

『やっほー、ペドー君』

コミカルなウサギが器用に手を振る。

その持ち主は間違いなく……

 

「四糸乃!?なぜ、四糸乃がここに?まさか自力で脱出を?」

 

『彼女は四糸乃でない』

軽い茶番を挟んで、ペドーが二人に向き直る。

 

「ぺ、ペドーさん、おはよう、ござい、ます……」

 

「おう、四糸乃。検査はもういいのか?」

四糸乃は昨日までフラクシナスで検査を受けていたらしい。

幼女を検査――なんとなく、ペドー的には外せない響きだが結局立ち合いは出来なかった。

 

『四糸乃!今こそ、特訓の成果を見せる時だよ!!』

 

「は、はい!!よしのん、行くよ?」

 

『モチロン!運転を変わろう』

 

『「タッチ!」』

四糸乃とよしのんが手を叩き合った。

変化はすぐに起きた。

 

「どぉ~う・ペドー君?よしのん、此処に参上!!」

突如として、四糸乃がニヤッとイタズラっぽく笑うと、ヒーローの様な変身ポーズを取った。

 

『よしのん、あんまり……動くのは……』

パクパクと今度はパペットが控えめにしゃべりだした。

 

「まさか……?

入れ替わり?」

 

「ふふん、ご明さーつ。自由に使いまわせるようになっちゃいましたー。

ドウよ、アグレッシブな四糸乃も良いでしょ?」

そういって、よしのんが入った四糸乃がくるりとその場で回る。

風が吹き、ひらりとスカートがめくれる。

 

『よ、よしのん、すかーとが……』

 

「おっと、失敬。ドウ?ペドー君?興奮した?した?」

 

「よしのんめ……下着を見せびらかすなんて、なんて破廉恥なんだ!!

これは、俺が検査しなくちゃな!!よし、部屋で検査だ!!」

そういって、四糸乃の腕を掴む。

 

「ああん、ペドー君ってはケ・ダ・モ・ノ・さん!」

 

 

 

一方その頃!!

 

「ペドーは、ペドーはまだ来ないのか!?」

一人ずっと玄関で立ち尽くす十香。

 

インカムから危険を察知した琴里が、四糸乃からペドーを引き離した事によってようやく迎えに来てもらえました。




キャラ紹介。

マイン・D・ヴォロス
突如やってきた転校生の美男子。
灰色の髪がきれいで女子に人気がある。

その正体は、疑似精霊。
もともとは何処か遠い国が出身で両親が紛争に巻き込まれ死んでしまう。
復讐の為に、現地のテロ組織に入り傭兵としての訓練を受ける。
そこで天才的な、才能を見せ『ディアボロス』の二つ名をもらい受ける。
特にスナイパーライフルの使用に高い実力を見せ、その技は『不可視の魔弾』と呼ばれた。

ある日、リアライザを使う会社にスカウトされ、そこでリアライザの技術を覚える。
その頃の名は『天災』
戦いと殺戮だけが、心のよりどころだったがある日、謎の存在に出くわし、人のやさしさを思い出す。
そして組織を裏切るが、他のメンバーにより致命傷を受けてしまう。
死にゆくところを再び謎の存在に助けられ、精霊の力で生きながらえる。
その時、疑似精霊になった様だ。

さらに、平和な国へ行きたいとして国籍、名前、過去を偽装して日本にやって来る。
自身の名などずっと前に捨てた為「マイネーム・イズ・ディアボロス」を略しマイン・D・ヴォロスと名乗っている。

天使――『暗鬱落城(タルタロス)
人の精神と体に作用する効果を持った天使。
身体強化や記憶の書き換えが可能となる。
正にも負にも使える。

後に、クラスメイトの亜衣、麻衣、美射と仲良く成る。
デートではないが4人でいるうちに、ほのかな恋心が出来るが、他人を消してきた過去に苦しみ、3人の前から消えようとする。
ある日麻衣が車に轢かれそうになり咄嗟に精霊の力を使ってしまう。

詰め寄る3人に、記憶を消そうとするが……
「マイン君のどんな過去でも受け入れる。
2人で背負えない過去なら4人で背負おう」の言葉に
遂に自身の過去を語る。語ったうえで動揺する3人の記憶を消して普通の生活に戻ろうとするが、3人の記憶は消えていなかった。
マインを思う3人の心が、精霊の力に打ち勝ったのだ。

4人は一緒になり、楽しく暮らすがマインがコンビニの中華まんを食べた所、食中毒で死亡。
彼の存在は世間から消えたが、3人の心の中にだけは残り続けた。

因みに本編では全く活躍しない。活躍しない。重要だから2回書いた。
コンセプトは「中二な設定を限界まで詰め込んだチートキャラを食中毒で殺すことにした」


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積極的な彼女

皆さん、新年おめでとうございます。
さて、今年も頑張って行きましょう。


「まさかこんな事が……」

ASTの頓所、そこの責任者である日下部 遼子が戦慄の余り声を漏らす。

他の解析官も同じ様な苦い顔だ。

 

「まさか、精霊が学校に転校してくるなんて……」

計測器の画面に写るその少女の名は、時崎 狂三。

昨日折紙のいる学校に転校してくるなり、いきなり自身を精霊と呼び周囲から早速距離を置かれているかまってちゃんだ。

だが、折紙がふざけて面白半分で計測した結果精霊であるとの結果が出た。

 

過去の精霊データと照合した結果データが出て来た。

 

「【ナイトメア】……遂に来やがりましたね……」

横からそのデータを見ていた真那が忌々し気に自身の親指の爪を噛む。

 

「知っているの?」

 

「私が追って来た精霊でやがります。

正真正銘の最悪の精霊と言えやがります。

分かってるだけで1万人以上の被害者が、明るみに出てないモノも含めるともっと――

コイツは一万人以上の人間を貪ってやがる、私の倒すべき精霊!!」

それだけ話すと踵を返し、訓練室へと向かっていった。

怒りを発散する方法がそれしか思い浮かばなかったのだろう。

 

 

 

 

 

心を無にするのだ――

 

自身を取り巻く人間関係、社会のルール、悩みや憂い。

 

そう言った感情は全て自身を縛り付ける楔でしかない……

 

心を無に――自分という個人を捨てるのだ――

 

自分は世界の一部――大いなるシステムの一部なのだ……

 

自己を薄く透過して、世界との境目を溶かしていく……

 

さぁ、今こそ帰ろう――この世界の中に――……

 

「ん!?ペドー、何をしているのだ?」

 

「おおわっと!?」

突然十香に揺り動かされ、士道が夢想の世界から呼び戻される。

時刻は最早3時過ぎ、帰りのホームルームの前だ。

 

「ペドー、お主急に動かなくなって、何をしておったのだ?」

 

「ん、いや。心を無にすれば大気中に有る幼女成分を感じれるのではないかと思ってだな……」

 

「ペドーは偶によくわからん事をするな」

全く理解できないと言った感じで十香が話す。

まぁ、人類の9割型が理解不能な事なのだろうが……

 

「はぁい、皆さん。帰りのホームルームが始まりますよぉ」

チャイムと共にタマちゃん教諭(消費期限切れ)が入ってくるてきぱきと連絡事項を済ませプリントなどを配っていく。

 

「――はい、コレで配布物は以上です。

あ!それと最近近隣で失踪事件が多発している様です。

皆さんなるべく大勢で帰ってくださいね、怪しい骨の戦闘員さんについて行ったちゃダメですよ。

他にも、小学生の女の子の靴下が盗まれる事件が起きてます、皆さん気を付けてくださいね」

先生の言葉にペドーがビクッと反応した。

 

「(どうしたペドー?寒いのか?)」

ヒソヒソと十香が耳打ちする。

 

「違う、違うぞ十香。俺は幼女を狙った犯行に腹を立てているんだ。

無垢な幼女から、その柔らかい足を包む靴下を盗むなんてなんて非道なんだ!!

しかも、ちょっと大人びた赤いバラのワンポイントが入ってて、その子お気に入りの靴下を盗むなんて外道でしかない!!」

 

「お、おう……そうだな……」

なぜか異様に事件に詳しいペドーの言葉に十香が小さく汗をかく。

ペドーの机の中に、小学生位の子が履く靴下が見えた様な気がするがきっと見間違いだ。

 

「おっと!?」

突然成りだした携帯電話を取り出し、ペドーが耳にあてる。

相手は琴里だった。

 

『ペドー、聞きなさい!!令音が観測した結果その転校生は本当に精霊みたいよ。

攻略まで行かなくても、接点くらいは作って――』

 

「あの、ペドーさんでよろしかったですか?」

琴里の電話の途中で、件の転校生が近付いてくる。

咄嗟に琴里は『チャンスよ!』と声を漏らす。

 

「ん、えっと……」

 

「お主、マインではない方の転校生だな?確か名前は――」

 

「あれだろ?来崎 時子」

名前を憶えているアピールをペドーがかます。

 

「違いますわ!!時崎!!時崎 狂三ですわ!!」

しかし間違った名前なのか、時子改め狂三が訂正する。

 

「ああ、はいはい。狂三さんね。

で?俺になんか用?」

ペドーが聞き返すと、抑揚を戻す様に小さく狂三が咳払いをする。

 

「あの、実は学校の案内をしてほし――」

 

「お・こ・と・わ・り」

 

『やれよぉぉぉぉ!!!なんでこんなイベント無視するのよ!!

行きなさいよ!!コレで行かないとか、どうなってんの!?』

携帯から漏れる大音量を予測して、ペドーが携帯を耳から離す。

 

「はぁ、行くか……仕方ない、適当に付いてこーい」

怠そうににて、ペドーが狂三の案内を始める。

 

「あら、嬉しい。まずは何処から案内してくれますの?」

嬉しそうな顔をして狂三がペドーの後を付いていく。

 

 

 

 

そこから空中1500メートル上空。

空中戦艦フラクシナスが浮遊していた。

艦長の座る座席に琴里が軍服を肩にかけ、狂三のバストアップ写真がメインコンピューターに映し出されていた。

 

「好感度45、5%変化ありません」

 

「精神状態オールグリーン。問題ありません」

 

「精霊周波数150、誤差015。誤差の範囲内です」

 

「クソ!コイツもすながくれかよ。さめはだガバイト全然でない」

各人が報告を上げて、琴里がそれを聞いていく。

 

『あら、嬉しい。まずは何処から案内してくれますの?』

狂三の言葉に反応して、フラクシナスのメインコンピューターが画面に何処に行くのかという候補を出す。

 

①屋上

②保健室

③食堂・購買

④いつもの採掘場

 

「総員、5秒以内に選択!!」

琴里の声に反応して、フラクシナスのメンバーが次々に票を入れていく。

一番人気は屋上だった。

 

「やっぱり王道かしらね」

 

「しかし、入れるのですか?私の学校は危険だからと言って侵入禁止だったのですか……」

 

「私の所は入れましたよ?不良の溜まり場でしたけど……」

不安そうなメンバーを琴里が咳払いして止める。

 

「大丈夫、すでに工作員は送り込んであるわ。

鍵を開けるのも、不良を蹴散らすのも余裕よ」

珍しく有能な琴里にメンバー達の中からちいさく安堵の声が漏れる。

 

「待ってくださいよ!!保健室は保健室はどうなんですか!!

合法的に置かれたベット、視界を遮るカーテン、コレはもう――」

 

「うっせ!いつも通りエロアニメでも見てろ!!

第一ペドーさんがそんな事する訳ないだろ!!」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!メグロコの差し押さえがウザすぎるんだよ!!」

3人のメンバー達がほぼ同時にブチ切れ、乱闘を始める!!

琴里はそれでも冷静だった。

 

「令音は何に入れたの?」

 

「私は3番だ、保健室は手を回すのが時間が掛かるのと、屋上は夕日がきれいに見える時間までまだ空白がある。

そこで時間潰しを兼ねて、食堂という訳だ」

令音が短く説明すると、他のメンバーも納得したのか小さく頷いた。

 

 

 

「よーし、購買行こう。しまってるけど、必要になるよな」

 

「ええ、お願いしますわ。

さ、参りましょ?」

 

「……うわぁ」

ピタリと狂三がペドーの隣に並び購買まで歩いていく。

何というか、パーソナルスペースを容赦なく犯す狂三の距離に小さくペドーがたじろいだ。

 

『ペドー、女の子と歩いているのよ?何か気を利かせて話しなさいよ』

再度小さく琴里はから指示が入る。

特に逆らう必要もないので、此処は大人しく従っておく。

 

「なぁ、狂三――おおぅ……」

 

「どうかしまして?」

狂三の方を向くと、その瞬間目が合う。

どうやらずっとペドーの方を向いていたらしい。

 

「えっと……前向かないと、危ないぞ?」

 

「あら、ペドーさんったら優しいんですのね。

思わず横顔に見惚れてしまっていたんですわ」

 

「うわぁ……」

まるでこちらを口説いている様な口調にペドーが露骨に嫌そうな顔をする。

相手が美少女だからうらやましいなんて言えるだろうが、コレがブスのキモイ自意識過剰系女だったらと考えるとペドーの気持ちが分かるだろう。

 

 

 

 

『まったく、見た事ないタイプの精霊よね。

人間界に溶け込んで、尚且つ向こうからアプローチしてくるなんて……』

そんな事を話していたら再び、メインモニターに選択肢が出て来た。

どうやら今度は質問が出て来たようで、情報の入手が目的の様だ。

 

①「朝言ってた精霊ってなんだ?」

②「狂三は今までどんな学校に居たんだ?」

③「はぁはぁ……ねぇ、君ぃ……はぁはぁ……今、どんなパンツ履いてるのかなぁ?」

 

「うわぁ……」

 

「なんだこれはぁ……」

 

「たまげたなぁ……」

メンバー全員が③の圧倒的な存在感に心打たれる。

と同時にこのメインコンピューター今更だが大丈夫なのかという心配が鎌首をもたげる。

 

「コレは③ですね。黒いストキング越のパンツには神が宿る。

丁度いいですから、しっかり見せてもらって――」

神無月が息を荒くして、興奮気に話す。

その様子を見て琴里が指を鳴らす。

 

「はッ――!?なんだね君たちは!!放したまえ!!」

後ろから屈強な男たちが、現れ神無月を連れていく!!

何処か遠い所で「ンアーッ!」とか聞こえたが気のせいだろう。

 

「さてと……改めて決めましょうか?一番多いのは①よね。

全く③なんて誰が――あ”」

小さく琴里が声を出す、偶然だが肘で③のスイッチを押してしまっていた。

つまりペドーには③が選択肢として聞こえた事になる。

 

 

 

「はぁはぁ……ねぇ、君ぃ……はぁはぁ……今、どんなパンツ履いてるのかなぁ?」

何を思ったのか、ペドーが馬鹿正直に狂三に聞く。

 

「まぁ……パンツですの?……私のパンツに興味がおありで?」

まさかの質問に、一瞬驚いたがすぐに表情を戻し、ビックリするほど妖艶な笑みを浮かべほほ笑んだ。

 

「ペドーさんも男の子ですものねぇ?そう言うのに興味があるのが普通ですわね。

今、何を穿いているの思います?白?黒?ひょっとしたら過激なデザインの赤かもしれませんわね?

もしかしたら……『履いていない』という可能性もありますわね?

……確かめてみます?」

 

「うげ!?」

階段の近く、少し物陰になる位置で狂三が自身のスカートに手を掛ける。

そしてゆっくりとたくし上げていく。

 

「さぁ、御開帳――」

 

「おえぇえええ!!」

舌なめずりをする狂三を前にして、ペドーがえづき始めた!!

正直もう限界だった!!

ただでさえ、早く帰って四糸乃とのイチャコラが待ってるこのタイミングで、興味のない賞味期限切れを相手にした時間ロス!!

そしてできればしたくなかった、卑猥な質問!!

そしてなぜか乗り気な、狂三!!

それらが圧倒的負荷をペドーのかけたのだ!!

 

「はぁ……うぇ!!」

トイレに駆け込んで、昼の弁当を全てリバースする。

 

『ぺ、ペドー大丈夫?』

インカムから、琴里の声が心配そうに聞こえてくる。

 

「はぁはぁ……やってやるよ……

あのふざけた、ですのー子を攻略すればいいんだよな!!

速攻で終わらせてやる!」

ペドーが何かを決心した目でそう言った。




積極的なブスを見て、コレで妥協するかは自由。
だけどそれって本当にいいの?自分を騙して本当にいいの?


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ProjectーPEDO

毎回だが、話が進まない……
ってか、寒い……
外は珍しく雪だらけです……


「あらあら、困りましたわ」

トイレを出て待っていたのは、狂三とそれに詰め寄る折紙、十香の二人だった。

 

「うわぁ、女子ってこわいなー。水面下で何やってるか分かったもんじゃないな」

詰め寄る二人をどけて、狂三に近づく。

 

「お前ら、今学校案内してるから、じゃますんな。な?

ついてくる位なら良いから」

 

「う、うむぅ……」

 

「了解した」

譲歩をしたペドーが3人を引き連れ、学校を案内する。

途中でインカム越しに、保健室で押し倒せだの、ストッキングを転んだ拍子に破けだの言って来たが、手にインカムを握って黒板を思いっきり引っかいたらそんな事も言わなくなった。

 

「ふぅ、あれだな。今俺は、普通の高校生をしてるな」

何処か満足そうにそう言うと、すべての説明をざっと終えた。

後ろで折紙が「このトイレがあなたが後に顔面を押し付けることに成るトイレ」だの、十香が「お前が呼ばれる事に成るであろう、人の来ない校舎の影」だの説明するのを聞いていた。

 

「女子ってホント仲イイよな~」

現実を忘れる様にペドーがつぶやいた。

 

 

 

「ありがとうございました。

ペドーさん、それではまた」

笑みを浮かべながら、後ろで尚も警戒を続ける二人を無視して狂三が家路につく。

 

「あの二人……ペドーさんに比べるとイマイチですが、まぁ食べる位は出来――キャ!?」

 

「何処見てんじゃオラ!!」

突如狂三がガラの悪い男に恫喝される、近くに数人まだほかに男がいる様だ。

 

「あら、ごめんなさい。よそ見をしていたので……」

謝るが男はゆるしてくれる気配はない。

 

「てぇめぇコラ!謝んのは俺じゃねーよ!!……って、結構きれいな目してるじゃねーか……」

 

「げへへ!アニキぃ、コイツ、ヤっちゃいまセン?」

ゲスな笑い方をする二人に、狂三が笑みを浮かべる。

 

「お兄様方――私と交わりたいんですの?」

その言葉に、男達に動揺が走る!!

 

「交わりたいって――うわぁ、露骨ー。

興奮通り越して引くわ……」

 

「分かる、こう、『自分がかわいい』前提で話進めてますよねー」

がやがやと男達が、話し始める。

 

「今時抜きゲでもこんな展開ないわー、萎える……」

 

「ってか、言動が完全にキモイ……3次はやっぱりクソだな」

 

「2次こそ至高!!」

 

「「2次こそ至高!!」」

リーダー格の男が叫びながら上着を脱ぎ捨てる!!

一瞬のラグを開けて、他の男も上着を捨てる!!

そこから現れたのは、アニメキャラのTシャツ!!

 

ピンクや青といった、現実ではありえないカラーの髪の毛の女の子たちがシャツの中でウインクしている!!

 

「ええ……」

その様を見て、狂三が頬を引きつらせた!!

 

「さて、欲求不満クソ女のせいで、中断された第45回『キューティア様のかわいさについて語る会』を再開するぞ!!」

 

「「おー!」」

そして再会される、アニメキャラの熱い語らい!!

犬を呼ぶシーンで、実際に画面まで走って行って仕舞った病気の人に、嫁の誕生日を盛大に祝うのが日常に成っているお兄さん、などなど……

狂三の前で、聞くに堪えない会話が繰り広げられる!!

 

「ん?なんだ、まだ居たのかよ……さっさと帰れよ」

 

「まぁまぁ、3次はクソだと改めて認識できたから、良いじゃないですか」

 

「さっさと帰れ、ですのー子!!」

三者三様の言いざまで狂三を馬鹿にする!!!

 

ブッチィ!

 

その時狂三の中で何かが弾けた!!

 

「あなた達ぃ~いい度胸ですわね!!私を此処まで侮辱するなんて……!!」

狂三が指を鳴らすと共に、男たちが狭い路地に無数の腕で連れていかれる。

 

「な、なんだ!?」

 

「こ、コレは!!」

 

「止めて!乱暴する気なんでしょ!!エロ同人みたいに!!!」

 

「「「エロ同人みたいに~~~~~」」」

 

グシャ!!めきゃ!!ブッチ!!

 

路地裏に、何かが潰れる様な音が響いた。

 

「はぁ、本っ当に!不愉快な男達です事……

ねぇ、そう思いません?()() ()()()()()?」

狂三の後ろに立つのは、レーザーブレードを構える真那だった。

 

「気安く私の名を呼ぶんじゃねーです。

反吐が出やがります!!」

 

「あら、私の事も名前で呼んでくださって結構ですのに?

私、正直言ってあなたの事がかなり気に入っているんですのよ?

友好の印として、寧ろフランクにニックネームで、そう狂るんとか――」

 

「ゼッテー呼んでやらねーです!!」

真那がブレードを振りかぶった。

 

 

 

 

 

「ペドー、今日の夕飯は何だ?ハンバーグか?」

十香が、ひき肉のパックを片手にペドーに尋ねる。

家に親が居ないというギャルゲ的ご都合主義を決めている五河家だが、その分料理はペドーが作らなくてはいけないというデメリットも存在している。

 

『あら、良いじゃない。私もそれに一票』

インカムから琴里の声が聞こえてくる。

どうやら二人とも、ハンバーグがご所望の様だ。

 

「ええー?大根の煮つけとか、そぼろ丼とかもいいんじゃないか?」

ちょっと意地悪するつもりで、ペドーがわざとらしく話す。

 

「私はハンバーグが良いのだ!!和風おろしのヤツだ」

 

『そうよ。小出しにするんじゃないわよ。みみっちぃ!』

インカムと目の前の胸部デブ二人からブーイングを受けてしまった。

 

「な、琴里。ちょっと思いついたんだが……」

ヒソヒソとインカムに向かってペドーが声を漏らした。

 

『何よ?』

 

「幼女と母親を同時にイタダクのは親子丼っていうだろ?

幼女姉妹の場合は、姉妹丼だ。

祖母とロリを一緒にイタダク場合は祖母ロ(そぼろ)丼って言えなくないか?」

 

『死ね!!氏ねでも、シねでもなく、ストレートに死ね!!』

怒れる琴里の声を受けて一方的に、通信を切られてしまった。

 

「あれー、どうしたんだ?ご機嫌ナナメだな……

年頃の女の子はそんなもんか……

喜べ十香、今日の夕飯はハンバーグだぞ」

 

「本当か!?ふふふ、楽しみにしているぞ」

 

(逆に十香は簡単に、機嫌がよく成るな……)

 

「あ……」

 

「ん?」

そんな事を考えていると、目の前を歩く少女と目が合った。

なぜかこちらを呆然とした顔で見てくる。

 

ナニカ、珍しいモノでもあるのかと気にして後ろを向くが、特になにもない。

ただの一般人の生活が広がっているだけだった。

 

「に、ニーソマン!!……じゃなかった、兄さま!!」

その少女は涙を浮かべ、ペドーに抱き着いた。

 

 

 

 

 

「いやー、まさか兄さまに逢えるとは……」

ペドーの家の前、崇宮 真那がウキウキ顔で話しかけている。

 

「なぁ、ペドーにはもう一人妹がいたのか?」

 

「いいや、記憶にはないが……」

十香とペドーがヒソヒソと耳打ちをし合う。

 

「兄さま!!そちらの方は一体誰でいやがりますか?義姉様という物がありながら……まさか浮気をしてるんじゃねーですよね?」

怪訝そうな目で十香を見る真那。

 

「真那……とか言ったか?別に俺は誰とも付き合ってねーぞ?」

 

「本当でいやがりますか?

十香さん、兄さまとデートした事は?キスした事は有りやがりますか?」

 

「む?もちろん有るぞ!!」

元気いっぱいといった様子で十香が真那に応えた。

 

「兄さま!!一体これはどういう事でやがりますか!!

まさか、複数の女性と関係を持つなどと――最後の方の回で刺されても知りませんからね!!」

 

「餅つけ……あ、違う、落ち着け。十香、お前は家に帰ってろ、話がややこしくなるからな……」

 

「む、むぅ……ペドーが言うならば……」

しぶしぶといった様子で、十香は隣のマンションへと帰って行った。

 

 

 

「いやー、此処が兄さまの家でやがりますかー」

 

「おう、狭いけどゆっくりしてけよ」

真那を連れ、ペドーが五河家の扉を開ける。

ソコにはもう一人の妹が、出会ったばかりの妹を()()()()べく鎮座していた。

 

「おかえり、()()()()()()

おにーちゃんの部分をヤケに強調して、琴里が二人を出迎える。

 

「おや、まさかもう一人妹が――」

 

「琴里ぃぃぃいいいい!!!マイスイィイイイイイト、シスタぁあああ!!!

うわぁあああああんんん!!琴里ぃぃぃいいいいいい!!ことりぃぃぃぃぃん!!

学校辛かったよぉぉおおおお!!人間関係、超こえぇええええよぉおおおおお!!

勉強嫌だよぉおおおおおおお!!はぁはぁ、はすはすはすはす!!!

うをぉおおおおおお!!!琴里うをおおおおおお!!!」

何かを話している、真那の隣をペドーが超高速で駆け抜け、その胸にダイブする!!

 

「!な?!?なんなの???」

 

「な、何が起きたんでやがりますか!?(超高速移動!?普通の人間が?私じゃなくちゃ見逃してやがりましたね……)」

二人のペドーの妹が、ほぼ同時に困惑の声を上げる。

しかし尚も。ペドーは琴里の平たい胸に頬を擦り付け続ける。

 

「な、何をしてるのよ!!この変た――ハッ!」

とりあえず、目の前の変態に蹴りを打ち込むべく構えるが!!

ペドーの後ろ、真那の存在に気が付き琴里がペドーへの攻撃を躊躇する。

そう、この妹の前で兄を折檻する訳にはいかない。

 

(計画通り)

琴里の胸の中、真那に見えず琴里にだけ見える角度でペドーが邪悪な笑みを浮かべる。

 

(この変態ッ!計算してたのか……!

私の態度、真那に対して取るであろう行動、そして――このチャンスを!!)

ギリリと歯ぎしりする琴里の前で、ペドーが尚もほおずりを続ける。

 

「どうしたんだ、琴里?()()()()()()()慰めてくれよぉ」

いつもみたいにを強調して、ペドーが話す。

 

「お、おにいちゃんったら……も、もう甘えんぼさ…んね……」

非常にぎこちない態度で琴里がペドーを撫でかえす。

 

「よし、元気でた。居間でゆっくり話そうぜ」

ペドーが、琴里と真那を居間に連れて行く。

 

(くそう……一体どうすれば……)

琴里が密かに、あせる。

このペド野郎は、このチャンスを逃しはしない。

ずっと、何かこんな機会が有るのか待っていた男だ。

そして、そのチャンスを一切の良心の呵責も無く、羞恥の躊躇もなく実行できる危険人物。

 

「気を引き締めないと……!」

頭の黒いリボンを琴里がキツク結び直した。

最早自身の敵は、兄を奪い取ろうとするパッと出の自称妹だけでない。

幼い肢体に興奮を催す危険な、自身の兄がいる。

 

「いきなりで悪いんだけど……貴女は本当にペドーの――」

 

「おい、琴里。立ってないで座れよ、行儀悪いだろう?」

琴里の言葉を無視して、机を挟んでペドーと真那が座る。

 

「兄さまの家族の話、私も興味がありやがります」

二人に促され座ろうとするが……

 

「恥ずかしがるなよ。()()()()()()()俺の膝の上、座れよ」

 

ニタァ

 

そう擬音の付きそうな顔でペドーが、自身の膝を叩く。

座れと言うのだ、このロリコンは。

初対面の女の前で!あたかもいつも座っているかの様な情報を与え!!

自身の膝の上に、琴里の肢体を乗せようとしてくる……!!

 

「お、おにーちゃん?」

 

「ん?なんだ、琴里」

味方はいない!!




知ってるかな?
子供は、普通の大人より体温が高いんだ。
つまり、抱きしめればカイロに成る!!

成るんだ!!しまかも、使い捨てじゃない!!環境にも優しい!!

問題点は、職質される所か……



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空白の感情

前回書いた作品。

内容よりも幼女カイロの方が反響あるってどうなの……
皆寒さに震えてるだけだよね?そうだよね?


3人の男女が、机を挟んで向き合う。

活発そうな表情の少女が、見た目に違わず元気な声を上げる。

 

「初めまして!にーさまの妹の崇宮 真那と申します!!」

初めて会った相手に妹と言われる不思議な体験。

しかし、ペドーの場合は真那を「妹ではない」と言い切ることは出来ない事情がある。

それは、ペドーが五河家に連れてこられた養子であるという事。

産みの親は別におり、その二人がまた新たに子供を授かっている、と言っても不思議ではない。

つまり、可能性的な面だけで言ってしまうと彼女が妹である事は()()()()()()()のである。

 

「兄さ――ン、ぺ、ペドーが、ッあ!

ペドーが兄さん……ねぇ?アッ!」

ペドーの膝の上に座る琴里が、小さく声を漏らす。

 

「妹か、覚えていないけど……

なぁ、真那。俺の生みの親って――」

 

「すいません、残念ながら覚えてねーんです。

昔の記憶がスポッと、抜け落ちいやがりまして……」

気まずそうに真那が話す。

そうか、と少しだけ残念そうにペドーが声を漏らした。

今の両親は良い親だ。しかしやはり自身のルーツという物にどうしても興味がある様だった。

 

「すまねーです……」

 

「ちょ、ちょっと。昔の記憶が――ンぁ、無いなら何でペドーが、ぁ、兄なんてわかるのよ?」

 

「兄妹の絆と、写真ですね」

そう言って服の内側にあったロケットを取り出して中を見せる。

その中には、幼い真那と同じく幼いペドーが居た。

ずいぶんと汚れて、くたびれた写真で何度も濡れたのか微妙に変色している。

 

「ペドーよね……」

ロケットの写真を見ると、ペドーに非常によく似ていた。

しかしおかしい、この年齢の時すでにペドーが五河家にいた。

写真のペドーとは年齢が合わないのだ。

だが、他人というには似すぎている。

 

「にしても、ずいぶん汚れてるな……」

ペドーの言葉に、真那が反応する。

 

「コレは、使う用の写真でやがりますから……

焼き増ししたのが家にまだ有りやがりますよ?

けど、良かったです。

この家の人たちは、兄さまに良くしてくれて……

妹との仲も問題ねー様です」

そう言って、ロケットを戻した。

真那の視界の前にはペドーの膝に座らされ、お腹に手を回され撫でられている琴里が居る。

うん、兄妹のスキンシップだ。問題ない。

 

「ふーん、因みに俺は実妹派だ。やっぱり背徳感が違うぜ!!

けど、琴里の方が容姿的に好きだ」

 

うん、仲良しだ。そう、仲良し(白目)

 

「ってか、お前家はどうしてるんだ?」

記憶も無い、家族もいない。そうなると今、真那の置かれている状況が気になった。

 

「あ、えーと……全寮制の職場で働いてる……的な?」

露骨に目を逸らし、下手な口笛でごまかす。

 

「ヤケに言葉を濁すな――ハッ!?まさか……

うわさに聞いていた、水商売の専門学校か!?

中学生の時から、会話術、客層から見る酒の選び方、場を盛り上げるゲーム、更にしつこい客の対応等々、様々な事を教えられるというあそこか?

俺も、行きたかったんだけど試験落ちたんだよなー」

 

「いや、ちげーますよ!?ってか、そんな学校有るんですかい!?」

 

「あるよ?」

 

「ま、まぁ、今日は此処までです、ちょいと用事があるので失礼しやす」

そう言って、逃げる様に走って行った。

 

「何だったんだ?アレ……」

 

「そんな事より……よくもさんざん私の体を触りまくってくれたわね?

覚悟はいいかしら?」

全身の怒りのオーラをにじませ、琴里がペドーの膝の上から立ち上がる。

今の今までずっと、真那の前でネコをかぶっていた様だ。

 

「顔を、顔を踏んでくれ!!なるべく強く!」

そんな琴里を見たペドーが、琴里の足元に仰向けに成って寝転ぶ!!

はぁはぁと、荒く息をたぎらせ尚も「顔を踏んで!!」とにじり寄ってくる!!

 

「うわぁ……ナニコレぇ……不快、っていうか。

どうしよう、私の語彙力では、この不快感は言い表せない!!」

まだ幼い琴里の語彙力ではペドーの持つ不快感を表現する事は出来なかった!!

というよりも、出来る人間の方が珍しいのかもしれないが……

 

「それよりも……あの、女は何者なの?」

一人考える琴里と尚も、その足元で「早く踏んでくれよぉぉおお!!」と叫ぶ変態がいた。

今日の教訓。

変態は相手をしないのが効率的な場合もある。

 

 

 

 

 

きーんコーンカーンコーン……

学校のチャイムが鳴る。

もうすでに登校時間だというのに、ペドーの近くの席は空っぽのままだ。

 

「あれ、どうしたんだろ?休みか?」

後ろの席は、ペドーの友人の殿町の席だ。

以前お仕置きと称して、琴里がペドーの力作のロリポエムを読ませた当たりから学校に来なくなっていた。

自分の部屋にこもって、ずっと「幼女……おぱんちゅ、ランドセル……スク水……リコーダー……ふひひ……」と暗い目をして虚空を見つめたままに成っているらしい。

まぁ、幼女好きに悪い人は居ないだろうからペドーは心配していない。

 

問題は逆側の席だ。

昨日絡んできた、時崎 狂三の席も同じく空っぽだった。

 

「こない、彼女はもう、来ない」

ペドーの言葉を聞きつけて、折紙がそう言った。

 

「殺ったのか!?まさか、秘密裏に!?」

恐ろしい事を場合によっては平然とやりそうな折紙にペドーが戦々恐々としている。

きっと、昨日帰ったたあと折紙は公園で、狂三と『お話』したんだろう。

 

「女子って怖いな……」

 

「遅れましたわ」

その時、扉を開いて現れたのは件の彼女、狂三。

息を切らせ、自身の椅子に座った。

 

「なんだ、来たんじゃないか。メンタル強えーな」

 

「うそだ。ありえない」

狂三を見て呆然とつぶやく折紙。

一体どんな脅しをしたんだよ。と思わずペドーが突っ込みそうになるが、そんな事を聞いたら大変な事に成りそうなので止めておいた。

 

 

 

「はぁい、連絡事項は終わりです。では皆さん、がんばって勉強してくださいね~」

ひらひらと手を振ってタマちゃん教諭(消費期限切れ)が教室を後にする。

それとほぼ同じ、タイミングでペドーの机から電話の着信音がなる。

 

『おにいちゃん……おまたがむずむずするの~、私病気? おにいちゃん……おまたがむずむ――』

 

ピッ!

 

「おう、どうした琴里?あと少し早ければアウトだったぞ?」

*違う意味でもうアウト。

 

『ペドー、よく聞きなさい。大変な事が起きたわ』

 

「ん?学校で漏らしたか?替えのパンツを今から持っていけばいいんだな!?」

 

『違うわよ!!真剣に聞きなさいよ!!』

ペドーの言葉に、琴里が大声を上げる。

どうやら相当切羽つまっている様だ。

 

「あら、ペドーさん。教室で携帯は禁止ですわよ?」

 

「んだよ、くっつくな!!」

鬱陶しそうに、ペドーが狂三を避ける。

 

『ちょっと、今、誰と話してたのよ?』

携帯の向こう。琴里が何かに気が付いたのか、ペドーに尋ねてくる。

 

「いや、普通に狂三だけど?」

 

『え?――ペドー、昼休み、物理準備室に行ってくれる?見せたいものが有るの』

 

「パンツ?」

 

『違う!!』

そう言って、琴里は電話をきってしまった。

どうやらご機嫌ナナメらしい、乙女心は複雑な様だ。

 

 

 

 

 

時刻は昼の12時半、十香が弁当を包みを持って歩いてくる。

 

「ペドー、昼餉にしよう!」

 

「ん、そうだな――っと、あー、ワリィ今日は先に食べててくれ。

やらなくちゃいけない事が有るんだよ」

小さく謝るとペドーが、席を立った。

 

「む、仕方ないか……」

残念そうにする、十香を後にしてペドーは物理準備室へ向かった。

 

 

 

「やぁ、よく来てくれたねシン」

待った居たのは、解析官であり、同時にペドーのクラスの教師の一人でもある女性、村雨 令音だった。

 

「令音さん、一体何を?」

 

「見て貰った方が早いね」

そう言って、カチカチをパソコンのキーボードをたたき始める。

そして浮かびあがるのは、何処かの監視カメラの映像。

 

「AST……」

そこに映し出されたのは、機械鎧を纏う女たちと、世紀末ファッションに身を包んだ数名の男達。

アンチ・スピリット・チーム。通称ASTその名の通り精霊の殲滅を目的としたチームだ。

といっても、戦績をまともに上げているところを見たことが無いのでペドーの中では、かませ犬または、遊んでばっかりのコスプレ集団というイメージしかない。

 

「ん?」

画面のなかで、昨日見た姿が有った。

白いワンピース姿の少女、昨日ペドーに妹と名乗った真那だった。

そして次の瞬間、真那の姿が青い色のワイヤリングスーツに包まれる。

 

そう、彼女もまたASTの一人だったのだ。

 

「此処からだ」

令音の言葉を聞き、更に画面を注目する。

因みに腹が減ってきたので、持っていた弁当の蓋も開ける。

 

「ふふみはぁ?(狂三か?)」

鮭を突きながら、画面の奥に佇む少女を見る。

 

ドン――

 

「あ……」

今起こった行動をみて、ペドーが箸を取り落とす。

狂三が黒と赤のドレス――霊装を纏った。別にここまでは良い。

確かに驚きはしたが、本当に精霊だったのかという驚きが有るだけだ。

問題は、この後だった。

 

真那の構えたブレードが狂三の腹をえぐった!!

二度、三度とブレードが振るわれ、周囲の世紀末系ヒャッハーの振るう鉈で狂三の形がだんだんと失われていく。

 

「グッロ……」

最後に、真那がブレードを狂三の首に突き立て、頭と胴体が分かれる所でやっと攻撃をやめた。

その時真那がこちらを見る。

その眼には、何の感情も無い。

 

戦いの余韻による興奮も、精霊を倒した達成感も、死を乗り越えた驚きも、何の、何の感情も無い空っぽの空虚な何もない空洞の感情。

 

「分かったかな?この映像を見る限り、時崎 狂三は死んでいる。

少なくとも一回はね」

令音が冷静に分析をする。

その言葉通り、どう見ても狂三は生きているハズは無かった。

だが、さっき教室を見た時は――

 

「一体どうなってるんだ?何かの能力?」

 

「可能性は十分ある。精霊とはひどく理不尽な存在だからね。

だが、不死の生命体などこの世には居ないハズだ、この蘇生が後何度使えるか分からない」

 

『つまり、さっさとデートしてデレさせろってこと。

今度、学校の創立記念日で休みよね?デートに誘いなさい!!』

突如画面が変わって、琴里が映し出される。

どうやらパソコンを使ったテレビ電話の様だった。

 

「今度のやすみは、ラブキュアの映画見る予定が有るんだけどな?」

 

『はぁ?ラブキュア?あんた、それ、子供用映画でしょ!?男が――それも高校生が恥ずかしくないの!?』

 

「バッカだなぁ、俺は映画だけを見る訳じゃないのさ。

映画だって、怖いシーンや悲しいシーンが有るだろ?

俺はそれをみて、悲しんだりする幼女を見に行くのさ!!

そう、俺は映画を見に行く幼女を見に行くのさ!!」

余りに力説するペドー、琴里は何も言わずテレビ電話をきった。

 

「シン……実はこんなものが有ってね?」

その様子を見ていた令音が、パソコンをカチカチといじる。

その瞬間、画面が大きく変わり楽し気な音楽が流れ始めた。

 

『ヒロインたちが帰ってくる!!

よりかわいく、より過激に、そしてエンディングの向こうに!

新システム、デュアルルートシステム搭載!!

主人公の性格を2種類から選べるよ!

優男モード、やさいしい言葉で幼女たちを騙そう。

鬼畜モード、外道、非道なプレイはこのモード、調教、洗脳、精神破壊をもってあなただけの奴隷幼女を制作しよう!

 

さぁ、貴方は純愛?それとも……

 

恋してマイリトル、シドーEX!』

 

「じゅ、18禁版……だと!?」

モザイクのかかったCGをみてペドーが慄く!!

そこにはヒロインたちのあられな姿が!!

 

「攻略の暁には、これを?」

 

「違う、先払いだ。もっとも、コレは18歳以上が対象。

イイ子の君はやらないだろう?」

含み笑いを浮かべ、一枚のDISCを差し出す。

 

「へぇ、信用してますね。いいですよ、この仕事うけましょ」

ペドーは懐にDISCを大切そうにしまった。




DISC……?……うっ!頭が!!

「ペドープラチナ!!」

「うをぉおおお!!
ロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリロリコンで悪ィか!!」

このディスクは危険すぎる……

偶に、何やってんだ俺と成る不思議。


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デート前日

さて、今回も投稿。
そしてラストには――



「――少し用がある」

 

「ええと、鳶一さんでしたわよね?」

お昼休みの時間、折紙が机で食事をしている狂三を睨みつける。

 

「来て」

そして有無を言わせずに、手を取り校舎裏まで連れて行く。

彼女は、昨日自身の同僚が()()()()()の相手だった。

こうして平然と、食事を取っているという行為ですら折紙にとってはありえない状況だった。

 

「あ、あの……なんの用ですの?」

 

「貴女は、何?」

射貫く様な折紙の視線。

一瞬きょとんとした狂三だが、ニターっとした笑みを浮かべ口角を吊り上げる。

 

「あらあら、貴女もあそこにいたんですわよね?」

 

「ッ!?コレは――」

突如として、無数の白い手によって折紙が拘束される!!

 

「私の正体を知っているのでしょう?少しばかり、警戒が甘すぎですわよ?」

動けない、折紙の足に無遠慮に自身の手を這わす狂三。

言われてみればそうだ、人の来ない校舎裏、そして相手は精霊。

折紙の行為は迂闊としか言いようがなかった。

 

「まだ、まぁだ貴女は殺しませんわよぉ?

とーっても美味しそうなのですけど……貴女は後、ですわ。

わたくし、好きな物は最後に食べるタイプなんですけど、今回はメインディッシュが先ですわ」

メインディッシュ。

その言葉と共に、狂三が舌舐めずりをした。

 

「何を、するつもり……なの?」

 

「士道いえ、ペドーさんと言うべきかしら?

私ね?貴女もだぁいすきなペドーさんを頂いちゃう積りですの。

うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

ひどく楽しそうに、まるで折紙の心を嬲って遊ぶ様に狂三は告げた。

 

「させ……ない!!」

折紙が抵抗した瞬間、更に手の数は増え地面に押し倒された。

狂三を見上げる様な形に成った。

 

「クヒ、クヒヒ……無様ですわねぇ?

そうだ!ペドーさんを食べる時は、貴女の目の前でこうして無力を噛みしめさせながら、頂きましょうかしら?」

 

「そんな事、ゆるさな――」

 

「はい、それでいいんですわよ?無力に打ちひしがれて、心にたぁっぷりと私に対する憎悪を持ったアナタをデザートに頂く……

ああッ!今から楽しみに成って来ましたわ。

そろそろ、お昼も終わりなので失礼しますわね」

二ヤリと笑い立ち去ろうとする狂三の折紙が言葉を投げた。

 

「ペドーは、年増になびかない!!」

 

「へぇ、参考にさせてもらいますわね、キヒ、キヒヒヒ」

笑いながら狂三はその場から去って行った。

 

 

 

 

 

くぅぅぅぅぅぅぅ……

十香のお腹が切なげに鳴る。

ペドーに先に昼食を食べていろと言われたが、どうしてもペドーと昼食を食べたい十香は空腹を必死で我慢してペドーの帰りを待っているのだった。

*ちなみにペドーが準備室でもう昼を食べています。

 

「あれ、どうしたの十香ちゃん?」

 

「ご飯食べて無いの?」

 

「もう授業始まっちゃうよ?」

 

「オーウ!ジャパンのガールはダイエットを気にしずぎデース!!

ミ~は少しポチャリンコしてる方が好きデース」

落ち込む十香に話しかける4つの影。

確か亜衣、麻衣、美衣、マインの四人が十香の前に現れる。

どうやらマインは3人と行動を共にする様だ。

 

「ペドーが、ペドーが帰ってこないのだ……

先に食べていいと言われたのだが、どうしてもそんな気に成れなくて……」

そう言うとまた十香のお腹が切なく鳴った。

 

「オオゥ……トーカ殿、YAMATONADESHIKOデスナ……

しかーし、待っているばかりデーワ、ダメデーズ」

 

「そうそう、マイン君の言う通りだよ!」

 

「作戦変更!!ガンガン行こうぜ!!」

 

「十香ちゃん、明日休みでしょ?コレ良かったら使って?」

次々話す仲間たち、その中の一人亜衣がカバンからチケットを2枚取り出した。

 

「あ、亜衣!?それは……」

 

「隣のクラスの黒崎君を誘うために――」

 

「いいのよ、私十香ちゃんが幸せになってくれれば」

 

「オオゥ!?まさか、コレは自己犠牲!?なんて美しきユウジョウ!!

乙女の麗しき友情デースね!!涙は恥ずかしくなんかナーイ、友情の証デース!!」

 

「マイン君、ウザいから」

キラリと流れる涙に、マインのボケと麻衣のツッコミがさえわたる。

 

「まぁ、念の為最後の策もあげましょうか」

 

「What?最後の策?」

 

「男なんて下半身でモノ考えてるのよ。

というか高校生とかヤりたい盛りで、性欲の塊でまともに制御できない棒と玉ぶら下げてるんだから、ちょっと誘惑すれば一発よ、一発」

 

「亜衣?なんでそこまで言うの?何かあったの?相談乗るよ?」

若干心配になる事を言いながら4人は去って行った。

十香の手には、2枚のチケットと秘策が書かれた紙が残った。

 

 

 

 

 

「さて、帰るか――の前に」

帰りの時間、ペドーが同じく帰りの用意をしていた狂三の所まで歩いていく。

 

「なぁ、狂三。明日ってひまか?

お前、こっち来たばっかだろ、俺、町案内するぜ?」

平然の言ってる様だが、内心ペドーの心の中はドキドキしっぱなしだった。

 

「まぁ!デートのお誘いですの?嬉しいですわ」

パァッと花が咲く様な笑顔を浮かべ、狂三が両手を合わせる。

見た目的には非常に上機嫌だ。

 

「じゃ、明日10時半に駅前の改札口集合で」

 

「ハイ、楽しみにしていますわね」

デートの約束を取り付けた狂三は鼻歌を歌いながら帰って行った。

 

「ふぅ、第一段階クリア」

 

「今、時崎 狂三と何を話していたの?」

ホッと一安心するペドーの後ろに折紙の鋭い言葉が投げかけられた。

 

「いや?別に?」

 

「うそ、何を話していたか言って。

コレは非常に重要な――」

 

「おおっと!家に予定があったんだ、十香ー、帰るぞ」

十香の手を取り走り出すペドー、流石に折紙に感付かれるのは不味いと思ったのだ。

まぁ、あの肉食獣が他の女とデートするなんて知ったら、一体どんな妨害を仕掛けてくるかは分からなかったというのも有るが。

兎に角ペドーが逃げる様に自分の家へと帰って行った。

 

 

 

「ふぅ、疲かれた……」

 

「ぺ、ペドー、その話が有るのだが……」

実家の扉を開け、カギをかけるペドー。

十香がおずおずと話し出した。

本来ならば十香は隣の精霊用マンションに帰るのだが、間違って連れてきてしまったのだ。

 

「ん?なんだ?」

 

「ちょ、ちょっとまて」

いそいそと十香が、ルーズリーフを取り出し内容を読み始めた。

ペドーの部屋のカーテンを閉めて深呼吸を始める。

しばらくして、顔を真っ赤にしながら自身のスカートに手を伸ばす。

 

くる、くるりとスカートの腰を丸め、丈を短くしていく。

次にブラウスに手を伸ばし、胸のボタンを1つ、2つ、更に3つそして4つ目を外し、その場でしゃがみ込む。いわゆる雌豹のポーズだ。

恥ずかしいのか顔はトマトの様に真っ赤に染まっている。

最後にチケットを口に咥えた。

 

「ぺ、ペドー!!私と明日水族館に――――」

 

「その不快な肉をしまえ!!」

ペドーの怒鳴り声で驚いた十香が口からチケットを落とす。

 

「ぺ、ペドー?」

 

「なんだ?俺を馬鹿にしてるのか?そんなもの誘惑にはならない!!

寧ろ不愉快なだけだ!!まぁ、話だけは聞いてやる。

何だ?」

怒りの形相を押さえたペドーが十香に聞く。

 

「明日私と水族館に行ってほしいのだ!」

そう言って見せるチケット、唾液で汚れててなんか汚い。

 

「ワリ、明日ラブキュア見るから無理」

 

「な!?だ、ダメなのか……?」

 

「ごめんなー、ラブキュア見終わった来週ならいいよ。

あー、ラブキュアさえなければなー、本当に残念だわー、けどラブキュアじゃしょうがないなー」

正直狂三とのデートなのだが、そんな事を言ったら十香がへそを曲げる事はわかり切っている、その為ペドーが嘘をついた。

まぁ、本来なら明日は実際にラブキュアを見る予定だったのだが……

 

「な、なら一緒に見ようではないか?実は私もらぶきゅあに興味が――」

 

「ダメだ。ラブキュアってのは只のアニメじゃないんだ。

ラブキュアってのは、もっとこう、自由で救われていなくちゃいけないんだ。

ああ、萌えて来た……うをぉぉぉんん!!俺はまるで人間発電所だ!!

という訳でじゃーね」

パタパタと十香にペドーが手を振ってさよならを言う。

 

「ぺ、ペドー!!」

十香の御機嫌度が一気に下がる!!

ペドーは知らないが、フラクシナスの中では警告を示すアラームが鳴り響いていた!!

 

だが!!

 

「あ、そうだ。黄な粉やるよ、昨日買ったんだ、ほら、お徳用」

そう言って、ペドーが棚から出して見せるのは徳用黄な粉一キロ!!

 

「おお!?まさか、これ全部……」

 

「黄な粉だ」

ペドーの言葉に十香の目がきらきらと光りだす。

さっきまでの不機嫌は何処かへ吹き飛び、一キロ物黄な粉の袋に釘付けだ。

 

「全部くっていいぞ」

 

「それは本当か!?」

スンスンスンスンスン!!

まるで重度の麻薬中毒者の様に、黄な粉の袋を破きひたすら肺に黄な粉の匂いを入れ続ける!!

 

「もう、全部黄な粉だけでいいんじゃないかな?」

黄な粉でトリップする十香を家に帰し、一人つぶやくペドー。

十香の落としていったルーズリーフを手にとる。

 

「えーと、なになに?

『ゲゲル

自分以外の生物を使役するリントを狙い、12日で342人』?

あ、コレ裏だ。

表はこっちだ。えーと?

 

①胸を開いて雌豹のポーズ

②おっぱいにチケット

③それでもだめなら押し倒しちゃえ!!

うわぁ……なんだこれは……」

見るだけで頭の痛くなる内容にペドーが頭を押さえる。

 

(たぶん、きっと俺に対する嫌がらせだよな……)

 

 

「ただいまーって、カーテン閉め切って一体どんなヤラシイ事してたのよ?」

帰ってくるなり、琴里がペドーに毒付く。

 

「ん?逆、逆、今からやるんだよ。

良かったら見てくか?」

そう言ってペドーはズボンを脱ぎ始めた。

 

「絶対に見ない!!」

バタン!

 

琴里は勢いよく扉を閉めて出て行った。

 

「ふぅ、恥ずかしがり屋だな……」

その時、ペドーの家の電話が鳴った。

 

「はいはい、今でますよー」

毎回思わず言ってしまうセリフを言いながらペドーが電話を取る。

 

『ペドー、こんにちは。今どんなパンツ履いてるの?』

 

「全裸だけど?何の用だ、折紙?」

 

『そう、私も同じような恰好。そんな事より、明日デートしよう。

むしろ家に来てほしい、しばらく泊まってくれて構わない』

どうやら、デートのお申込みらしい。

明日計3回のデートの誘いをしたことに成る。

 

自分が以外とモテる事に気が付いたペドーが小さく喜んだ。

コレが主人公補正。

 

「あー、ごめん明日ラブキュ(ry」

ペドーは十香と全く同じ方法で折紙の誘いを断った!!

 

「さて、ゲームでもするか……令音さんにもらったしな!!」

制服をポケットからdiscを取り出しパソコンに入れる。

ゲームが始まるこの瞬間の興奮!!ペドーはこれが大好きだった!!

 

『注意、このゲームのキャラクターは全員20以上です。

作中の「ユメしょー」とは、夢見学園商品開発クラスの略でけっして小学校ではありません。』

非常に言い訳がましい文字が流れていく。

ペドーは興奮しながらマイクを手に取った。

 

 

 

 

 

「さぁて、明日はデートですわね。けど、ペドーさんからくるなんて……

クヒヒヒ!!すこぉし、用心しておきましょうかね?」

自室で寛ぐ狂三の手に、一つの短銃が握られる。

それを自身の頭に、突きつけ――

 

パァン!!

 

小さく音が響いた。

 

 

 

 

 

翌日

「はぁ、狂三遅いな……全く、こんな時間が有るなら――」

 

「おまたせしましたわ!!」

 

「へ?」

突如ペドーに掛かる声を聴いて、振り返ったペドー。

ソコには10歳くらいの姿をしたミニ狂三が立っていた。

 

「さぁ、ぺどぉさん!でぇとにいきましょう!!」

 




ロリくるみ登場!!

彼女の正体は!?
ってか、大体の人は予想出来ていた展開。


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服屋デート?

お待たせしました。
遂に更新です。

いろいろ大丈夫かな?


ざわ……ざわ……

  ざわ……ざわ……

 

フラクシナス艦橋で画面に映った人物を見て、メンバー達がざわめきだす。

本日のデートの相手は時崎 狂三。

ペドーのクラスメイトとして転校してきた精霊だ。

当然ペドーと同じクラスである為、見た目の年齢はそう変わらない――()()()()()

 

「緊急事態発生!!!パターン青!!幼女です!!」

 

「ペドーさんの理性19%まで低下!!尚も下降してます!!」

 

「インカムに念仏を流して!!なんとしても公衆の面前で公開プレイは避けるのよ!!」

 

「壁が……心の理性という壁が消えていく……」

 

「コレが人類股間計画!?」

彼らが慌てる理由はたった一つ!!

目の前に現れた時崎 狂三が――

 

 

 

 

 

幼女に成っていたからだ!!

 

「ぺどぉさん、はやくでぇとにいきましょう?なにをみせてくれるのか、とってもたのしみですわ」

低い身長、短い手足、舌足らずな口調。

その姿は過去にペドーが攻略した幼い見た目の精霊である四糸乃よりもさらに幼い容姿!!

 

「こ、コレは――うっ!?」

狂三を見て、ペドーが鼻を押さえる!!

鼻の奥に熱い物が流れる感覚が有った!!

 

「ま、まさか、コレは『一桁幼女(シングルナンバー)』!?」

鼻血を噴き出しそうになるペドーが何とか堪える!!

一桁幼女(シングルナンバー)とはその名の通り年齢が一桁の幼女をさすペドーの造語である。

読者諸君の中には、「流石に一桁はやばいんじゃ……」などという理性のブレーキが有るだろう。

だが、しかし!!

かの有名な文学作品「光源氏」を思い出してほしい。

此処まで言うならば最早多くを語る必要は無いだろう、そう、これこそが答え。

幼女を育てる事が出来る!!自分好みに幼女を育成できる!!理想の幼女を生み出すことが出来るのだ!!

禁断にして黄金の卵!!それこそが一桁幼女(シングルナンバー)なのだ!!

 

 

「どうしましたの?ぺどぉさん?」

きょとんとしてこっちを見るロリ狂三。

ペドーが顔を覗き込むようにして、しゃがむ。

 

「えっと、狂三でいいんだよね?」

そう、今日のデート相手は高校生の狂三、断じて見た目一桁の幼女ではないハズだ。

 

「え、えっと……そうですわよ……わたくしがくるみおねーちゃ――じゃなくて!ときざき くるみですわ!!」

一瞬の躊躇、そして咄嗟の弁明。

その穴のあり過ぎる言葉が嘘である事は、一瞬にしてペドーには分かった。

 

「なんだぁ、ビックリしたぁ……女の子って制服と私服じゃガラッとイメージ変わるんだなー。

よしよし」

 

「あはっ!そうですわよ。おんなのこはうまれてからずっと、じょゆうなんですのよ?」

しかしあえて気が付かないフリをして、くるみの頭を撫でる。

 

『どう考えてもおかしいでしょ!?事情を聴きなさいよ!!』

インカム越しに琴里の怒鳴る声が聞こえる、しかしペドーは聞こえないフリをした。

だったそうだろ?目の前の幼女に声を無視するなんて出来る訳ない。

 

 

 

「指令!!驚くべき結果が出ました!!彼女は本当に狂三です!!」

 

「はぁ!?どう見ても違うデショ!?」

メンバーの一人が解析機の結果を持ってくる。

その結果によると霊力の固有波長が完璧の、以前の狂三と一致した。

つまりは、『精霊』として見れば彼女は正真正銘の『時崎 狂三』という事になる。

ギリリと歯を食いしばる琴里、チュッパチョップスが砕け棒を吐き捨てた。

 

「蘇生したと思ったら今度は、若返り!?

なんなのよ、この能力!!」

苛立たしげに琴里が椅子のひじ掛けを殴りつける!!

 

「落ち着き給え琴里。君が慌てても自体は好転しないよ?

寧ろシンの不安が伝わり事態を悪化させる一方だ。

なに、ありえない事は無いさ。

自然界には、自身が年を取ると自らを若返らせるクラゲが居る位だ、精霊の力の一部だろうね」

混乱する琴里に令音が優しく伝える。

 

「そうよね、そうだわ。最近余裕が無くてダメね。ペドーがもっとまともならこんな事は無いのにね」

無理をして、琴里が笑顔を作り令音に投げ返した。

 

ブゥン……

 

その時、フラクシナスメイン画面に選択肢が現れる。

どうやら会話の内容に対して、コンピューターが候補を出した様だった。

 

①ショッピングモールで(首輪や調教用鞭の)お買い物デート

②二人で甘い恋愛映画の皮をかぶった官能映画でドキドキ

③ランジェリーショップで彼女の下着を選んでやるぜ!!ぐへへへへ!!

「質問内容はなに?」

 

「デートの目的地です!!」

 

「そう、最近コンピューターが馬鹿に成って来てない?」

琴里がため息を付き、メンバーに選択肢を選ばせる。

ダントツで多いのは③、というかほぼ③この艦変態ばっかか。

 

「はぁ、一体どうして③を――」

 

「「「「セーの!!女児下着!!じょっじ下着!!ジョッジ下着!!女児下着!!!」」」」

艦橋のメンバーがそろって女児下着コールをする。

何というか、人の業というか、欲望の恐ろしさというか狂気染みた熱狂というか、恐ろしい力があった。

 

「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」

メンバーの姿をみた琴里が小刻みに震えだす。

艦を任されるだけあって、琴里は非常に高い能力を持ち、度胸、判断力、徒手空拳、人の心の機微にまで非常に多くの分野に精通している実力の非常に高い優秀な指揮官だった。

だがその琴里を以てしても目の前の惨状は理解できず、得体のしれないモノを見た恐怖で体が震え、更に目からは知らず知らずのうちに涙がこぼれていた。

 

「ペドーさん!!女児下着!!女児下着です!!」

 

『わかりました!!女児下着ですね!!』

メンバーの一人がマイクを奪い取り、勝手にペドーに指示を飛ばす。

琴里なら全く意味の分からない、言葉だがペドーにはしっかり伝わった様で意気揚々とくるみの手を握る。

琴里とは対照的に素晴らしくいい笑顔でペドーがくるみの手を握って歩き出した。

 

 

 

「ぺどぉさん、いったいどちらにむかうのですか?」

不思議そうに尋ねるくるみにペドーが優しく諭す様に答えた。

 

「それはね?くるみのパンツを買うためにランジェリーショップに行くんだよ?

セクシーなのと、かわいいのと、透けてる奴と、大事な所にチャックが付いてる奴を買おうね?」

 

「ひぃ!」

ペドーの顔を見たくるみが小さく悲鳴を零す。

仕方がなかった。

それだけ、ペドーの顔は異質だった。

まるで、小さな子供がサンタクロースに欲しいオモチャをねだる様な純粋さで下着を買うと言っているのだ。

キレイな笑顔と、醜い欲望のギャップに怯えてくるみが震えてしまったのだ。

 

「わ、わたしもう、ぱんつはもって――」

 

「あははは、何を言ってるんだい?くるみ。

高校生のデートは、皆パンツを買いに行く決まってるじゃないか?

水族館や、映画を見るデートなんて中学生のお子様までだよ?

くるみも高校生なら知ってるだろ?」

『高校生』の部分をやたら強調してくるみに話す。

一旦高校生のフリをしただけに、今更違うと言えないくるみは静かに頷くしかなかった。

何というか非常に犯罪チックな事をしている気がする。

だがペドーは気にしない!!

 

 

 

ピンポーン……

 

エレベータが開き、ペドーとくるみの目に色とりどりの下着が飛び込んでくる。

駅前のビルの3階。そこは本来なら男ならあまり立ち入らない女性用下着のコーナーだった。

くるみの手を取り、まるで姫をエスコートする王子の様な面持ちで中を進んでいく。

 

「あ、あう、あうあう……」

 

「かわいい下着がいっぱいだね?くるみはどんなのが好きかな?」

余りの異常事態に目を回してしまうくるみ。

そんなくるみに優しくペドーが話しかける。

女性の聖地の高校生に幼女というミスマッチ感に、ひそひそと周囲のマダムたちが噂を始める!!

小さく「警察呼んだ方が」とか「どういう関係なのかしら」などと聞こえてくる。

ペドーは「うっせぇ!!発情ババアがせっせと下着選んでるんじゃねーよ!!」と叫びたくなったが今はデート中なのでやめておいた。

*実際にやると捕まります、読者の皆さんはくれぐれも真似しないでください。

 

「あ、あれなんか、す、すてきですわね!!

ど、どどどどど、どちらがにやうんですかしら!?」

明かに無理をした様子で、くるみが壁に掛かった下着を指さす。

後半に至ってはほぼ聞き取りは不可能だ。

明かに、異常なやり取りにマダムの噂話はさらに加速する!!

 

 

 

 

 

艦橋のメインモニターに、再び選択肢が現れる。

①右手前、ピンク地にレースの妖艶なデザイン

②左手前、淡いブルーのさわやかなデザイン

③「露出が足りねぇ!!」後ろに掛かっている方の危険なデザイン

 

「③!!③③③!!」「③以外ありえねぇ!!」「③に決定じゃね!?」

「③でしょうね?可能性を求めなくては」「全裸が無いので消去法で③」「バッカ野郎!!!下着ってのはな!!全裸よりエロいんだよ!!」「そうだ、そうだ!!全裸より下着だぜ!!」「私の計算では③が良いと――」

まるで小学生低学年の様に、非常に元気に意見を言ってくれるメンバー達。

どうしてこんなタイミングばっかりで元気になるのだろうか?

琴里は頭痛を我慢しながら、マイクに手を伸ばした。

 

「ペドー、3だって……もう、逮捕されない程度に好きにやりなさい……」

最早突っ込む気力も起きなかった。

ただ琴里は眠りたかった。すべてが夢なら良かったのに……

朝起きたらフラクシナスも、精霊も居なくて、それでおにーちゃんが遅刻するぞって怒りながら私を起こして……そうしたら「レディの部屋に入るな」って私が怒るんだ。

きっとおにーちゃんは一瞬だけむっとするけど、きっとすぐに許してくれるよね。

「うふふふふふふふふふふふふふふ」

渇い笑いが琴里から漏れた。

 

 

 

「なぁ、くるみ。俺はコレがいいと思うなぁ?」

 

「え、それ、もうしたぎのいみが……」

ペドーが持ち出すのは、異様な露出度の下着!!

全体が透けている、横の部分が紐、前の部分が開く!!ets!!

とてもではないが、今のいや、高校生の狂三が着る様な物ではない!!

 

「さぁ、試着してみようか?大丈夫、最近の下着は、試着用に下に着る下着が有るらしいから。

お店では見えないよ?お店ではね?」

 

「き、きるんですの?ほんとうにこれを!?」

逮捕マッハな笑みを浮かべて、ペドーがくるみを試着室に連れて行く。

 

「着せてあげた方が良いかな?」

 

「だ、だいじょうぶですわ!!」

慌ててくるみは試着室へと駆け込んだ。

 

 

「アレ、士道君?なんでここに?」

 

「女装趣味があるの?」

 

「ってか十香ちゃんは?まさか誘いを断って?」

 

「オオーウ!ミ~以外のボーイにあえて安心しまーシタ!!

どうしても男が居ないと不安でーシタからーネ!!」

ペドーの後ろに立っていたのは、亜衣、麻衣、美衣、マインの四人組。

どうやら4人で遊んでいるらしい。

 

「十香?あー、帰ったら一緒に行くよ」

ペドーの言葉にマイン以外の女子3人の目が鋭くなる。

 

「本当でしょうね!?もし嘘だったら、私のお父さん黒魔術結社の偉い人だから、女に触れるたびに寿命が一年減る呪いをかけてもらうからね!!」

 

「そうよ。十香ちゃん泣かせたらただじゃすまいからね!!私のお母さんSMの女王だから、ペドー君を泣きながら「ありがとうございます!!」って言うまで調教してもらうからね!!」

 

「本気で骨も残らないと思いなさい!!私のおじさん外国でヒットマンしてるんだから!!その道では有名なのよ!!かの有名な『ディアボロス』と並び立つとさえ言われたんだから!!この前、誕生日にもらった一人殺すともう一人タダになるチケット使うわよ!!」

3人がペドーに詰め寄ってくる。

そしてタイミング悪く、後ろの試着室のカーテンが開いた。

 

「ふぅむ……このフィット感、素晴らしい!!」

そこから現れたのは太った初老の男性!!

ダンディな髭を蓄え、少し出て来た腹、きっちりと決めたオールバックの髪形。

そして一目で上質とわかるネクタイ。

最後に下半身を包むのは、ピンクの女性用下着のみ!!

 

くいッと尻の割れ目を下着に隠す!!

 

その姿!!まごう事なき変態!!

 

「う、うぎゃぁああああ!!!」

 

「い、いやぁあああああ!!!」

 

「変態!!変態よおおお!!!」

亜衣、麻衣、美衣が恐怖にひきり声を出す!!

 

「むむ、失敬な。私はこの店のオーナーですよ?

常にお客様の気持ちに成って、そして現場で実際に触れあってニーズに応える。

それこそが私の経営理念、いやはや、どれも素晴らしい履き心地ですなぁ。

これならお客様にお出ししても、問題は無いでしょう」

*問題のある別のモノをお出ししているのは内緒。

 

「オーウ!!変態デース!!流石ジャパン!!

ヘンタイ!ロリコン!エロドージンの国デース!!

へィ!ミスタ!!写真とってもOK?」

 

「はっはっは、構いませんよ?さ、そこの少年も一緒に」

 

「はい、失礼します」

 

「ヘイ、チーズ!!」

 

カシャ!!

 

この日マインの撮った写真には変態とロリコンと日本の文化を間違えまくった少年が写っていた。




嘗て此処まで女児下着を連呼した作品は無いと思う。
あったらあったで病気だと思う。

イコールすれば、私は病気なのだろうか?
いや、大丈夫。きっと大丈夫だ。
履いてる人が居なければ、パンツは只の布だ。
大丈夫、問題ない。


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自分の心を騙せるか?

祝!UA10000突破!!
いやー、自分でもびっくりです。

よくもまぁ、定期的に主人公がおかしくなるだけの作品で此処までいったなと。
クロスでも、憑依でもなくただの性癖変換なのに……

けど、ご愛読には感謝ばかりです。
コレからもよろしくお願いしますね。


皆さんこんにちは。

 

今週の『ド変態大陸』は一代で自らの城を築き上げた男の物語です。

 

 

 

今、ひそかにブームが増えているランジェリーショップが有る。

その名はランジェリーショップ『シタギリアン』。

気の良い小太りのダンディな店長がこの店の社長だ。

 

「なんだこのデザインは!!舐めてるのか!!」

会議室にて、社長の怒声が響き渡る。

本来は温厚な老紳士。しかしそれが下着の事となると一変する。

『好きだからこそ、妥協してはならない』

それが彼の信条だ。

 

下着に込められたギミックやデザイン、更には材質まで一切の妥協を許さない所に社長のこだわりが見える。

 

Q社長が下着に拘りる様になったきっかけは?

 

A実は私、高校生物の円光動画を見るのが大好きでしてね?

スカートの中にどんなパンツが有るか、ずっと気に成っていたんですよ。

けど、それが萎えるデザインだとどうしても気分が良くなくて……

だから、決めたんです。自分が絶対に萎えないデザインの下着を作るって。

それで、試行錯誤していたら気が付いた時にはこうなってました。

 

Q視聴者に対して何かメッセージを頂けませんか?

 

Aそうですね……なら、皆さん。スカートを捲る事を躊躇しないでください。

初めての事にはすごくドキドキするハズです。

私はそのドキドキを大切にしたいと思っています。

きっとあなたの目の前のスカートの下には、素敵な下着との出会いが待っているハズです。

大切なのは、わずかな勇気なんですよ。

 

 

 

 

 

数か月前に取材されたTVの内容が社長の中で、リフレインする。

その社長の前には――

 

「はい、じゃ名前に間違いはないね?」

 

君の名は何だったっけ?忘れたくないもの、忘れちゃいけないもの――

街中で青い服を見つけると体が震える。

 

「君の名は?」

にっこり笑う彼は青い制服に身を包んだ国家権力の狗!!ポリスメン!!

 

「はい、君もね」

そして同じく捕まるのはペドー!!

ランジェリーショップでの社長の騒ぎ。

当然良識のある一般市民は通報する。俺だってそうする。

その結果やって来るのは国家権力の狗ことポォォリスメェェェェン!!

社長を逮捕!!さらにくるみ(幼女)に下着を選んでいたペドーも逮捕!!

 

史上初!?デート中に逮捕される主人公!!

 

 

 

「社長、どうします?」

 

「いやー、君はまだ若いから厳重注意で済むよ。

私なんてもう、前前前科があるからねー、はははは」

流石社長!!逮捕されるのももう慣れた模様!!

たどり着いたパトカーの中で犯罪者二人が、にこやかに会話する。

 

「黙ってろ!!俺は力のない者への理不尽な暴力が一番許せないんだ!!

高校生だろうと関係ない!!絶対に二人とも豚箱にぶち込んでやるからな!!」

そんな二人を見るのは厳しい目をした警察官。

正義とは違う私怨すら感じさせる目をペドーに向ける。

 

 

「つかれましたわ……」

街中を一人歩くくるみ。

まさかの初デートでペドーが逮捕され連れていかれるとは思っていなかった!!

 

「お疲れ様でしたわ。ペドーさんにうまく取り入れましたわね?」

後ろから聞きなれた声がする。

くるみはそちらに振り返ると時崎 狂三、高校生の姿の自分が居た。

 

「♪~~♪」

上機嫌で鼻歌を歌いながら歩く狂三。

今日はなかなか楽しめた様だった。

 

「はぁ、ペドーさん。一体あなたは、本当の私の事を知った時どんな顔をするのでしょうね?

最後に私の物にした時、どんな顔をするんでしょう?

今からと~~~~っても楽しみですわぁ……」

ニタリと嫌な笑みを浮かべ、狂三が帰りの道を歩いていく。

 

「……?」

道を歩く狂三が不快な声を耳にする。

上機嫌だった彼女の顔が少しだけ曇り、そのまま路地裏へと足を進める。

 

「あら、あら……何をしてますの?」

 

「ッ!?なんだ、脅かすなよ……」

たどり着いたのは路地裏の袋小路。

そこに3人のモデルガンを持った男達が並んでいる。

そしてその奥には、一匹のネコが足を引きずっている。

 

男の手にはモデルガン、そして傷ついたネコ。

安易なストレス発散か、それとも銃の試し打ちか。

 

いずれにしても狂三の胸の中に嫌な物が沸く。

 

「サ”ヨ”コ”!?」

突然話かけられて驚いたのか、奥のダイヤの意匠が付いた赤い銃を持った男が驚く。

 

「なに?どうしたの?」

それに気が付いた、牛の形をした紋章が刻まれた緑の銃を持つ男が話す。

 

「悪いけど、此処は使用中だ。何処か他所に行ってくれないかな?」

手前の男、此方は青いバーコードの付いた銃を構えている。

 

「まぁ、まぁ。そんなつれない事、おっしゃらずにわたくしも仲間に入れてくれません事?」

狂三の言葉に男達が話し出す。

 

「急きょ作ったシステムのせいで、オデの体はボドボドだ!!」

赤い銃をもった男が、銃を差し出して来る。

どうやら疲れたから、変わる。と言ってるらしい。

 

「ああ、自前の有るので問題は有りませんわ。けど少しルールを変えましょう?

簡単な事ですわ。ちょっと狙う相手を変えるだけですわ」

3人に向かってゆっくり笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

 

「本当にそれでいいのか?」

 

「何!?」

パトカーの中、強面の警官がペドーと社長に対して鋭い眼光を向ける中、ゆっくりとペドーが口を開いた。

 

「本当は、幼女が好きなんじゃないのか?それをルールだからって閉じ込めてるんじゃないか?自分の心をさ」

優しく語り掛ける様に、ペドーが言う。

 

「ば、馬鹿にするな!!私は警官だ!!お前達犯罪者から、善良な市民を守るのが仕事だ!!貴様ら社会のクズと一緒にするな!!第一、子供に手を出すなど――」

 

「自分に嘘を吐くのか?」

 

「――ッ!」

底冷えする様な冷酷なペドーの言葉に、警官が動揺を見せた。

そこにペドーが畳みかける!!

 

「人は嘘をつくよ。絶対に嘘をつく、みんな嘘つきばっかりだ!!

他人を騙す為、自分を強く見せる為、ひょっとしたら相手を思いやる嘘もあるかもしれないな……けど!!けどなぁ!!

自分に嘘をついてどうするんだよ!!自分で自分を騙して、何に成るんだよ!!

自分にだけは嘘をつくなよ!!自分の好きな物に嘘を吐くんじゃねぇよ!!!」

何処までもまっすぐな声で、ペドーが警官に熱く語る。

そして、警官の心の奥。隠していた思い出が蘇る。

 

高校生の頃、近所の小学生の子に恋をした。

ヤバいと思いながらも本気で好きだった。

 

話しかけれず、見守るだけの毎日。鬱屈する性欲と歪む性癖。

社会のルールなど、他人の目など全てかなぐり捨ててしまいたい!!

だが、ダメだ、自分には夢が有る。社会的体勢がある。

 

ある日の帰宅時間、悪ガキのガキ大将がその子のスカートを捲っていた。

 

「いやぁ!!止めてぇ!!」

 

「うっせぇ!!パンツの中を見てやるぜ!!」

只の興味本位でやっているガキ大将のイタズラ。

良識ある一般人なら止めるべき。だが、その日は足が動かなかった。

 

千載一遇のチャンス!!ぐっと待ち、ひそかにガキ大将を応援しさえした。

 

「やれ!!そこだ!!!ひん剥け!!」何度も心の中で叫んだ!!

 

だが、遂に泣き出した幼女をみてガキ大将は帰って行ってしまった。

例えガキ大将が消えても、男の心に着いた火は消えない!!

 

だが、だが!!やはり手を出すことは出来なかった。

目の前のチャンスが消えるのをただひたすら見送ったのだった…………

 

「ああ、ダメだ……YesロリータNOタッチだろ……許されない……この気持ちは……」

ボロボロと泣きながら、警察官。いや、隠れロリコンが涙する。

壊れたレコードの様にYesロリータNOタッチを繰り返す。

 

「ポリスメェン……」

 

「今からでも遅くはないですよ?」

ペドー社長両人が、さっきより小さく成った気のする男の背中を撫でる。

社長が女児下着を取り出し警官の涙を拭いていく。

 

「ダメだ……YesロリータNOタッチ……YesロリータNOタッチ……」

ペドーが自身の胸ポケットからあられの無い姿の幼女のイラストを取り出す。

そして――

 

「その欲望、解放しろ!!」

イラストを、警官の顔に張り付ける。

 

「俺は……俺は、幼女の……幼女のスカートを捲りたい!!!捲りたいんだ!!

ウヒャひゃひゃひゃ!!」

狂った様に笑いながら、パトカーから走り出す!!

その顔にはすっきりした物、なにかから解放された表情が満ちていた。

 

「さて、行くか」

長い間、心の檻に閉ざされた男を解放したペドーはやり切った顔をする。

パトカーから降り、社長に軽く会釈してからペドーが何処へ行った仕舞ったくるみを探しに行く。

 

 

 

 

 

「う、うわぁああ!!!」

 

「もう嫌だぁ!!僕お家帰るぅ!!」

 

「恐怖心!!俺の心に恐怖心!!」

路地裏から、3人の男が死にそうになりながら走り抜けていった。

目の前の路地裏が気に成りペドーが顔を覗かせる。

 

「な、狂三!?」

そこに居たのは、高校生姿の狂三だった。

手に付いた赤い謎の液体を気にしていた。

反対の手には古式の短銃が握れられており、赤い液体が数滴かかっていた。

 

「あら、ペドーさん、ごきげんよう。おかしな所で会いますわね?」

何時もと同じ狂三。何時もと同じ笑顔。

そして、何時もと違う状況にペドーは恐怖を感じた。

 

『道!!逃げなさい!!士道!!』

はっと気が付くとインカムからは琴里の声。

一瞬遅れて、琴里が「逃げろ」と言ってるのが理解できた。

 

その言葉に従い足に力を入れようするが、固まってしまう!!

何時もの様に足が動かない!!まるで、重しでも付けられた様だった。

 

「ダァメ、ですわよ?」

次の瞬間、狂三の顔がペドーのすぐ近くに在った。

 

ガシィ!!と影から白い手が現れ、ペドーを拘束する!!

地面に押し付けられる様に、ペドーが倒れこむ!!

頭を打ったがそんな事、今感じている恐怖に比べたら些細な物でしかなかった。

 

「捕まえましたわぁ」

ニタリとした笑みを浮かべ、ペドーに覆いかぶさる様に狂三がしゃがむ。

 

喰われる本能がそう訴えた。

 

コレが、これこそが()()なのだ!!

人類を殺す災厄!!世界を壊す存在!!この世ならざる死を呼ぶ異物!!

狂三の牙がペドーの首筋に触れる瞬間!!

 

「ハイどーん!!」

 

「きゃ!?」

何者かの掛け声と共に、狂三が吹き飛んだ。

 

「真那……か?」

ペドーの視線の先、狂三を蹴り飛ばした真那が満足気に鼻を鳴らした。

 

「あ、どうも兄さま。実はこの恰好訳有りでして……」

真那の身に纏う服はASTが着ている様なワイヤリングスーツ。

寝転ぶペドーをまたぐ様に真那が体を動かす。

 

「コスプレか?レベルたけーな……」

 

「いえ、コスプレでは――って、なぜASTを――ああ、折紙殿ですね」

 

「あらあら……せっかくのペドーさんとの逢瀬を邪魔するなんて……少し野暮じゃありません事?」

さっきまでコンクリートに叩きつけられていた狂三が復活して、再びあの嫌な笑みを浮かべていた。

 

「ニーソマン……じゃなかった、にーさまに手を出そうなんて、どんな了見ですかい!?」

 

「あら、ペドーさんは御兄妹でしたの?」

 

「答える義理はねーです!!」

真那の着ているスーツの一部が可変して、レーザーを頬出する!!

狂三はそれをぎりぎりで回避して、装備した短銃で応戦する。

 

「うわぁ、すっげ」

目の前で、突如繰り広げられるSFチックな戦いにペドーが感心する。

尚も白い手に捕まれ、身動きできないペドーには出来る事が無いのだ。

 

ごそごそ……パッ!

 

「ん?ありがと」

腕の一本が、影の中からポップコーンを取り出す。

丁度退屈していたので、ありがたくもらう。

 

「背中痒い」

 

ポリポリ……

 

「あー、もうチョイ右……右……そう、そこそこ!!あー、きもちい……」

更に別の手が、背中の痒い部分を掻いてくれる。なかなかの好待遇だ。

 

 

 

「やりますわね!!さぁ!!何時もの様に私をその剣でズボズボしてくださいまし!!」

 

 

「てめーには、遅れは取らねぇです!!お望み通り、その顔面に穴開けてやります!!」

レーザーブレードと銃弾!!

二人の武器が、目の前で文字通り火花を散らす!!

 

「男子高校生舐めんなン!?」

 

グググ……

 

バンバン!!バンバン!!

 

退屈したペドーは腕の一本と腕相撲を始めた。

周りの腕が、地面を叩いて応援してくれている!!

そして遂に――

 

バタン!!

 

白い腕を地面に付かせる事に成功した!!

ペドーの勝利だ!!

 

「いいぇぇええええ!!ほっほう!!」

敗北した腕が、悔しそうに地面を叩いた。

周りの腕は応援してくれたらしく、拍手を送ってくれた。

その後腕が一斉に地面に引っ込んだ。

 

「何してるんですかい!?」

 

「いや、暇だったし……狂三は?」

そう尋ねる、ペドーの視界の向こう側に肉の塊が落ちていた。

おそらく狂三だろう。

 

「お前、慣れてるな。殺したの始めてじゃないだろ?」

ペドーの言葉に、真那が無言で肯定した。

 

「時崎 狂三は死なねーんです。だから私が殺さねーと……」

自分に言い聞かせる様に、自分自身を洗脳する様に、真那が淡々と言っていく。

 

「不毛だな……相手を始めて殺した時。どんな気分だ?嫌な気分じゃないか?

ずっと、これからも続ける気か?他人の為にって、自分の心を殺すのか?」

 

「にーさまにはわかんねーですよ……さ、今日はもう終いです」

真那の言葉と共に、ペドーは路地裏から締め出された。




その欲望、丁度いい!!


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過去の虚像

久しぶりの投稿になりました。
私生活でのトラブルがありまして――読者の皆様の中には
「最近アイツでないなー、ペドーさんみたいなことをして捕まったか……」
と考える人もいたでしょうが、大丈夫です。

捕まってませんよ?


「ふぅむ……」

 

「なぁ?ペドー?」

小さくうなりながら、ペドーがリビングでテレビを見ている。

隣にいる十香の言葉など聞こえないように、ボオッっとしている。

狂三とのデートの終わりに真那が狂三を殺害するところを見て以来この調子だ。

 

「ぺ、ペドー!!」

 

「なんだよ?何か用か?」

十香の声にやっと反応したペドーが首を動かす。

 

「一体どうしたと言うんだ?ずっと心ここに有らずではないか?」

 

「そんな事は無いぞ?ほら、お前の好きな『お母さんと一緒にいた男の人の事はお父さんにはナイショ』の時間だろ?」

そういって、テレビのチャンネルを変える。

そうすると軽快な音楽と共に、踊るキャラが現れる。

 

「お、今日はゲドーさんがメインの回みたいだな」

 

「おお。これが見たかったのだ!!」

一瞬何かを言いそうになったが、番組が始まると十香の意識は食い入る様にテレビを見始める。

テレビの中では、長身のどこか怪しい風貌をした男が子供たちにクイズを出している。

 

『いい子のみんな~、なぞなぞクイズの時間だよ~?

早速だけど、第一問!おしゃべりしないお野菜って、な~んだ?』

司会の出す問題に、十香がうなり始める。

 

「ぬ?しゃべらぬ野菜?むむ……?」

 

「カイワレ大根じゃないか?会話零で、カイワレ」

 

「おおさすがペドーだ!!」

ペドーの答えに十香が目を輝かせる。

 

『シンキングタイムしゅーりょー!!答えは――――カイワレ大根!!

とでも思ったか!?このガキどもが!!野菜がしゃべるわけねーだろバーカ!!!

かわい子ぶってんじゃねねーよ!!ゲード、ゲドゲドゲド!!!』

司会者が非常にゲスい顔をすると同時に、会場のライトが激しく点滅!!

赤や黄色など非常に目に悪いフラッシュが焚かれ、会場内にもけたたましい警告音が大音量で鳴り響く!!さらに止めと言わんばかりに、真っ白な蒸気が会場中に激しく吹き付ける!!

さっきまでぬるま湯の様なホンワカした会場は一瞬にしてヴァイオレンスに包まれた!!

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁん!!』

 

『おかあしゃぁあああああ!!』

 

『怖いよぉおおおおおお!!』

 

『びえぇええええええええ!!』

会場の子供の8割が泣き出す頃、ようやく仕掛けは元の会場に戻った。

 

『信じる者がすく(救/掬)われるのは足元だけゲド!!

信じれるのは己のみ!!それでは皆さんまた明日~ゲド!!』

 

「……んだこれ……毎回放送コードをぶっちぎってるよな……」

ペドーが隣で震える十香を見ながらひとり呟いた。

 

 

 

 

 

フラクシナス内部

「シンの様子は思った以上に安定しているな」

 

「あんなことが有ったのに……メンタルだけはトップクラスね」

令音と琴里がリビングの二人を確認(盗撮ともいう)しながら言葉を交わす。

 

「まぁ、彼ならなんとかしてくれるだろう。

それよりも琴里、頼まれていた例の検査結果出ているよ」

そういって、令音が数枚の紙を取り出す。

その紙には以前、真那がうちに来た時出したガラスコップから採取した唾液によるペドーとのDNAなどを比べたものだった。

 

「確かに、彼女はシンの妹と言えるようだ。

さらに彼女の遍歴も調査した結果DEM(デウス・エクス・マキナ)社からの出向社員だと分かった。

それだけじゃない――」

 

「これは――!」

令音に渡された資料。

その内の一枚を目にした琴里が驚愕に目を見開いた。

 

「そう、魔術師は基本的にリアライザの使用のために脳の一部を強化するが――

彼女は度が過ぎている、この異常なまでの数値……これではまるで精霊だ」

 

「当然こんなことしたら、寿命なんて……」

脳に無理な負荷がかかるとどうなるか、そんなことは考えれば誰にでもわかる事だった。

 

「ますます聞くことが増えたわね」

琴里が自身のポケットの中のインカムをにぎり、その場を後にした。

 

 

 

 

 

「なぁ十香。楽しいな」

震える十香に対してペドーが笑いかけた。

 

「何が楽しい物か!!あの男、私を脅かして喜んでいるに違いない。

全く、なんと恐ろしい物の怪か……!!」

十香はいまだにゲドーさんが怖いらしい。

 

「フフッ、楽しいってのはこういう日常がって事」

 

「ぬ?」

訳が分からないと言いたげな十香の顔をペドーが見る。

 

「何にもないこういう日が、すっごく楽しいって事」

 

「うむ、私は前まで殺そうとしてくるやつらがいたが、もうそんな事もなくなった。

楽しいぞ!ペドー、私はこんな『日常』が大好きだ!!」

一瞬考えた十香だったが、すぐに理解しはにかんだ笑顔をこちらに向ける。

 

「ああ、そうだな。なら、こんな日をプレゼントしてやらなきゃな」

殺意ではなく友愛を、銃弾ではなく手を、怒声ではなく挨拶を――

必ずあの子に届けよう。

 

ペドーが小さく心の中でつぶやく。

 

「できれば、買った下着も」

この前買った、過激なデザインの女児下着のことを考えペドーが破顔する。

 

「ふひひひひひひひひひひ……」

怪しい顔で笑いだすペドーを、十香が不気味なものを見る目で見た。

 

 

 

 

 

翌日。

 

「ちぃーす狂三!」

 

「あら、ペドーさん。おはようございます」

今日もまた、昨日真那に殺されたはずの狂三が自身の椅子に座っていた。

死者が生きているという異常事態。

しかし、それでもペドーは揺るがない。

 

「なぁ、狂三。今日は、こっちの姿なんだな?」

 

「……あら、ペドーさんは年下好みでしたわね?

また今度、デートに行くときはアッチに変わってあげますから」

お互いがお互いをけん制し合う用な口調で話す。

 

けど――

 

「今日の放課後を生き抜いたらですけど?」

狂三が酷く嗜虐的な顔をして、何かをたくらむ様なそぶりをして見せた。

 

 

 

 

 

同時刻とある廃ビルにて――

 

「ゲッホ、ゴッホ……埃っぽいわね……

レディを呼び出す所じゃないわよ……」

手に一枚のカードを持って琴里が小さくつぶやく。

その手のカードには、ここを示す地図と時間の指定があった。

今朝目覚めると、琴里の部屋のガラスに貼ってあったのだ。

 

(十中八九この手紙は、真那の書いたもの――

この前のデートの時、ペドーが落としたインカムを拾ったんでしょうね)

そう、以前のデート時不可解な質問がこのインカムから送られてきたのだ。

その後琴里が調査した結果、やはりペドーが実際に話したという事はなく、ペドーの声真似をした『誰か』が送ってきた物だと判明した。

 

(さて、予定より早いけど――ここが約束の場所!!)

階段の影に隠れ、指定された部屋に誰かがいるのを目視する。

背丈から見て、はやり真那の様だった。

琴里が来るのを待っているのか、熱心の窓の外を見ている。

 

(残念ながら私はこっち――)

足音を殺しながら、そっと真那に近づく。

だんだんと真那の声が聞こえ始める。

 

「フッ、ふぅ……ふっ……」

 

「一体何をしているのかしら?」

 

「!?何やつ!?」

琴里が声をかけた事に気が付き、真那が即座に後ろを振り返る!!

 

ペッ!!

 

その時真那の口から、以前大切そうに首から下げていたロケットがこぼれる。

なぜ口に含んでいたのかわからないが、よだれで怪しく光っている。

 

「何してんのよ……」

 

「まさか、私の一番のリラックスタイムを狙うとは、さすがでやがりますね!!」

その時、真那の手にビデオカメラが握られている事に気が付く!!

 

「え?」

 

「くくく……今回も良い絵でやがりますねぇ……」

そういってにやりと、カメラに記録された動画を再生させる。

そこには――

 

「小さな男の子の生命の輝きを感じますねぇ!!」

鼻息を荒くして、小学生の男の子の盗撮ビデオを見る真那!!

そう!!この廃ビルは小学校のグラウンドが見える位置に存在している!!

 

「ええ……こいつもなの……?」

非常に認めたくない部分でペドーとの兄妹説が真実みを帯びる!!

 

「べ、別にこれはいかがわしい気持ちがある訳じゃねーんです!!

純粋にな気持ち――そう、兄さまの唯一の手がかりのこの写真……

兄さまを毎日毎日見ている内に、この位の男の子に興味がわいただけやがります!!

はぁはぁ……ショタ兄さま……ふひひひ……真那が――真那が成長度合いを見てあげますからねぇ?怖がらなくても平気でやがりますよぉ、すぐに気持ちよくなりますから……」

よだれでべとべとになった写真を見ながら、怪しい目で興奮し始める!!

 

「純粋に邪な気持ちじゃない!?この兄妹どうなってるのよ!!」

あまり見たくない現実を振り切るように琴里が叫ぶ!!

 

「ふぅ、仕切り直しでやがります」

ふやけて使い物にならなくなったペドーの写真を丸めて、ロケットに別の写真に移し替える。

いやに手慣れた動きにさらに琴里が気を重くする。

 

「まさか、実際に精霊を懐柔する組織が存在していたのが驚きですが――

別に私はラタトクスの事を上に報告する気はねーんです。

兄さまの身の安全、そのためにこんなバカなことから手を引かせてくだせぇ」

 

「身の安全?安全な所から、どうやって精霊を攻略するのよ!?

第一こっちは、しっかりとサポートをしているわ!!

そんな事より、こっちもあんたのことを調べたわ。

DEM社からの出向社員だったんですってね?悪いことは言わないわ、今すぐその組織から抜けなさい!!」

 

「一体なんのつもり出やがりますか?DEMを悪く言うのは――」

 

『ピりりり!!』

 

『おねーちゃん、しゅきぃ……ボクをもっと気持ちよくしてぇ……』

ほぼ同時に、二人の携帯の音が鳴る。

一瞬だけ目を合わせたが、順次電話を取った。

奇しくも、二人の電話の内容は同じだった――

 

「な!?学校に!!?」

 

「精霊でやがりますか!!」

 

 

 

 

 

学校にて――

 

「ペドーさん……」

学校の屋上、ペドーとのデートで見せた幼い容姿の狂三が屋上を歩いていく。

何かを始めるような、怪しい雰囲気が伝わる。

 

 

 

「うわぁッ!?」

突如として体がだるくなる様な感覚が、ペドーを包む。

どんよりとした感覚で、うまく動けない。

 

「マジか……」

パタパタと、目前ので倒れていくほかの生徒を見る。

まるで映画やドラマの様な光景に目を丸くする。

急いでインカムを取り出し耳に装着する。

 

「令音さん!!」

 

『ああ、もうこちらでも記録しているよ、どうやら一定の空間の人間を衰弱させる結界が張られているようだ、おそらくは――』

 

「狂三か」

 

『いきなりで悪いが、攻略を頼めるか?こんな強硬策に出るとは思ってなかったんだ。

おそらくだが、高い場所――屋上が怪しいと私は踏んでいる』

令音の情報を聞きつけると、ペドーは勢い勇んで屋上への階段を上がり始めた。

 

 

 

 

 

「あら、ぺどーさん。きてくださいましたのね?」

幼女姿の狂三――くるみがエアコンの室外機に腰かけ足をぶらぶらしている。

 

「やぁ、小さなレディ?ちょっとイタズラが過ぎるんじゃないか?

それ以上やるんなら、お尻ぺんぺんの刑だぞ?」

カッコつけてペドーがいうがくるみは笑うばかりだった。

 

「またそれですの?しょうじきうんざりですわ。

わたくし、あなたのことがだいきらいでしたの!!

あなたもわたしのえさにして、さしあげたいくらいですわ」

くるみが髪をかき上げ、目を見せるその目は時計になっておりぐるぐると逆回転していた。

 

「それは?」

明らかに人体には無いであろう機関にペドーが意識を向ける。

 

「わたくしのてんしはきょうりょくなのですけど、ひどくねんぴがわるくて――」

 

「――他者から時間をいただいているんですわ」

 

「!?」

いつの間にか、後ろに高校生に成長した狂三が立っていた。

 

「私の天使は時間を操る、あなたがセコセコ口説いていたのは、過去の私。

能力でつくった、虚像にすぎませんわ」

再び振り返るペドーの前で、くるみが音もなく消滅した。

 

「あ……」

 

「あの子はあなたをその気にさせる餌ですわ。

さぁ、釣った魚をいただくとしましょうか?」

にやりといやな笑みを浮かべ、狂三が銃を構えた。




自分が虚像だと分かったとき、どんな気分なんだろう?


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決戦!!最悪の精霊VSガチロリコン

今回で、狂三編は終わりです。
次回以降は、別の章が始まります。
*4月27日一部、変更及び加筆修正。


「クヒ、クヒヒヒ……!!」

学校の屋上、その場所で()()の時崎 狂三と向き合うペドー。

足元は真っ黒な影に覆われ、学校を包んでいる。

この影からは、他者の生命を奪う力があるらしい。

その証拠に、現在ペドーは力が抜けるような感覚を味わっている。

 

「さぁて、ペドーさん?私の要求は――」

狂三が何か、要求を出そうとした瞬間ペドーが走り出す!!

有ろうことか、屋上のフェンスの向こうへ――虚空に向かって飛び出した!!

 

「アーイ、キャーン!フラーイ!!」

 

「はぁ!?」

あまりの事態に、待機していたロリ狂三、通称くるみが素っ頓狂な声をだして同じく飛び出す!!

 

「我魂はー幼女と共にー!!」

落下するペドーをくるみが何とかつかみ、校舎の壁を歩く様にして屋上まで連れ戻す。

 

「ちょっと、一体何をしてるんですの!?私が助けなきゃ、一体どうなっていたか」

高校生の方の狂三が困り顔で怒鳴る。

しかしペドーはしれっとした顔で言い放つ!!

 

「ふっふっふ、お前の目的は俺だろ!?つまり俺には死なれちゃ困るわけだ?

そうだろ!?」

まるで探偵漫画の主人公になり切ったかのような雰囲気で狂三に指を突き付ける!!

因みにくるみに助けられたままの姿、いわゆる幼女にお暇様抱っこをされた姿なのでカッコよさは全くない!!

 

「はぁ!?なら、私も別の人を人質にするだけですわ!!」

 

『うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ☆』

パチンと指を鳴らすと空間震警報が鳴り響く。

その瞬間狂三の顔が嗜虐的にゆがむ。

 

「どうです?わたくしは自由に空間震を起こせるのですわ。

あなたは助かっても、校舎の中の気絶した皆さんは――」

自慢げに語る狂三の端に、フェンスに向かうペドーが入った!!

まさか、また?――そんなことを考える前に――

 

「お空を飛んでるみたいー」

ペドーは説明が終わる前にまさかのセカンドフライ!!

 

「ちょっとぉぉぉおぉぉおぉ!?」

せっかくの悪人顔も捨て、再びペドーを走って抱き上げ、屋上に戻ってくる!!!

 

「あ、あなた!?一体何を考えてますの!?校舎のみんながどうなってもいいんですの!?」

慌てて救い出した、狂三がペドーに激しく詰め寄る!!

 

「ロリ以外逝って良し!!」

 

「外道ですわ!?」

 

「うるせー、邪魔すんな!!俺は屋上から飛び降りて、剣と魔法と幼女のいるファンタジー世界に転生するんだい!!」

 

「げ、現実を見なさい!!飛び降りても死ぬだけですわ!!」

 

「うふふ……俺、女の子の成長が10~14歳で止まる世界に行くんだ~

もちろん10歳で結婚しても、子供作っても合法で、しかも一夫多妻制の――」

 

「げ、現実がつらいのは分かりましたから!!けど、みんな折り合いをつけて生きてますのよ!?あと少しだけ、頑張ってくださいまし!!」

 

「ぺどーさん、しなないくでださいまし!!わたしさすがにそれはかなしいですわ」

なおも、フェンスに向かって走ろうとするペドーを背中から、狂三とくるみの二人がかりで必死に止める!!

 

 

 

数分後――

ペドーの要求を飲んで、影を回収した狂三とくるみが正座でペドーの前に座る。

 

「はぁはぁはぁ……仕方ない、今日はこれくらいにしてやる。

けど、もし今度へんな事したら、容赦なく全裸になって小学校に侵入して目についた子に片っ端から、練乳をぶかっけて回るからな!!社会的に死んでやるからな!!」

 

「マジでなんなんですの?」

 

「ろりこんっていうらしいですわ、いろいろとまっきですけど……」

二人の狂三が顔を見合わせる。

ペドーの全くうそのない本能のみで動く姿をみて、二人して小さく噴き出す。

 

「はぁ、ペドーさんにはかないませんわね」

 

「そうですわね」

その姿を見て、ペドーが小さく笑う。

 

ぴちゃ……

 

「え?」

その瞬間、ペドーの顔に何かがかかる。

ハッとすると、目の前で狂三が頭から血を流して前のめりに倒れる。

狂三の後ろにまた別の狂三が立っていた。

 

「はぁ、なに情に絆されてますの?ほんっとに使えませんわね」

わずかに動いた倒れた狂三に、容赦なくもう一人の狂三が銃弾を撃ち込む。

びくびくと数度動き、今度こそ倒れた狂三が完全に動かなくなった。

 

「え、え?」

状況の呑み込めないペドー。

()()()()()()()()()

 

「飛び降りられては困りますわね、まぁ、死なない程度に――」

無情の銃口を、今度はペドーに向ける狂三。

 

(銃口、狂三、死んだ、避けなきゃ、どうして、倒れた、まだ助かる)

思考がばらばらで、体が動かない。

 

パァン!パァン!!パァン!!!――――――――ドサッ

 

あまりにも、あまりにもあっけない音を立て、目の前にくるみが倒れた。

抱きつく様に、ペドーにのしかかる。

 

「くる、み?おい?」

なにが起きたのか、結局ペドーには分からなかった。

その次の狂三の言葉で、やっと理解し始めた。

 

「なに勝手な事してますの?『盾になれ』なんて言ってませんわよ?」

反射的にくるみの背中を抱く、ぬるりとした暖かい感触。

赤い、紅い、朱い――命の液体。

 

「あ、あああ……あああ……」

 

「ぺどー、さん、ぶじ、のようです、わね……」

無理して笑顔を作るくるみ。しかしなおも、命は零れ落ち続ける。

 

 

「ペドー!!助けに来たぞ!!」

限定的な、霊装をした十香が走ってくる。

 

「ペドー、無事?」

ワイヤリングスーツを着た、折紙が現れる。

 

「出やがったですね!!ナイトメア!!」

さらに真那までもが現れ、戦闘を始める。

狂三は影から、無数の自分を生み出し対処に当たる。

 

「た、助けて、くれ――」

真那のブレードが、狂三の腕を切り落とす。

狂三が時計型の天使を召喚して、自身の腕をくっつける。

 

「だれか、くるみを――」

真那が狂三の銃弾に倒れる。

狂ったように笑う狂三。

 

「な、なぁ!!」

折紙、十香が他の狂三と戦う。

 

「誰でもいい!!くるみを助けてくれ!!」

慟哭するようなペドーの声は、十香の振う剣の擦過音に、折紙の銃声に、狂三の笑い声にかき消されていった。

 

「なん、で、ないてますの?」

弱り切ったくるみが、小さく声を出す。

 

「しってる、でしょ?わたくしは、かこの、きょぞうですわ……

それが、きえるだえけ……」

 

「消えるんじゃない!!死ぬんだよ!!!死ぬのをさんざん止めたくせに、自分だけ死ぬなよ!!まだ、デートだって、いっぱい!!」

 

「あは、ばかなひと……わたしね、あのでーと、だいきらいでしたの。

へんなことばかりするし、わけがわからないし、ちっともたのしくなかったですわ!

わたし、ぺどーさんなんてだいきらいでしたの……ほんとうに、きらい……

だから、さいごに、こまらせてあげます……

ねぇ、キスしてくださいまし……」

だんだんと体温のなくなる体、そして足先からくるみが消えていく。

ペドーはそれがくるみの最期の願いだと理解した。

 

「ああ、いいぜ。なんどだって――」

覆いかぶさり、くるみ小さな唇に自身の唇を当てる。

やわらかい感覚には確かな『生』を感じた。

暖かい何かが、ペドーの中に流れ込んでくる。

そして、その『何か』が流れてくるたび、くるみの体が冷たくなっていく。

まるで、自身のすべてをペドーの中に流し込む様に。

 

しばらくして、くるみは完全に消え去った。

そこには何も残っていなかった。

まるで最初からいなかった様に――

 

「なんだよ、『大嫌い』なんて言って……嘘つくんじゃねーよ……」

以前令音が言っていた、精霊を封印するにはある程度の好感度が必要だと。

くるみの力が流れてきたという事は――

 

「クヒ!!無様ですわねぇ?」

ペドーの目の前、折紙、十香を抑えつけた狂三が歩いてくる。

 

「まったく、手間がかかりましたわね」

ペドーの眉間に、銃口を突き付ける狂三。

その顔は、捕食者の瞳。

 

「なぁ、お前の天使……時間を操れるんだよな?」

 

「?……そうですわよ、命乞いかしら?」

 

「そっか、なら、最後に一つ聞かせてくれ。その天使の名前は?」

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉ですわ。そんなの聞いて一体なにを?時間稼ぎなら無意味でしてよ?」

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉か、名前がわかんないと困るからな。

そして、俺はもうすでに未来をつかんでいる」

 

「は?――ッ!?」

ペドーがそう言った瞬間、狂三が後ろに飛びのく!!

気が付くと、ペドーの手に有るのは一つの短銃!!

 

「あ――し」

瞬時に狂三が理解する。失敗した。

この距離で回避を選んではいけなかった。

相手の目的は攻撃ではない!!

 

だが、時すでに遅し。

ペドーが自身のこめかみに、銃を突きつけ――

 

「おやめなさい!!」

 

「悪いな!幼女以外の頼みは聞かないことにしてるんだ」

 

パァン!!

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くるみの力は時を超え――ペドーを少しだけ、過去の時間へ送つける!!

 

 

 

「飛び降りられては困りますわね、まぁ、死なない程度に――」

無情の銃口を、今度はペドーに向ける狂三。

 

(銃口、狂三、死んだ、避けなきゃ、どうして、倒れた、まだ助かる)

思考がばらばらで、体が動かない。

 

パァン!パァン!!パァン!!!――――――――ドサッ

 

「な!?」

 

「ええ!?」

狂三とペドー両人が、同時に驚く。

片方には、盾となった幼女を抱きかかえる現在のペドー。

そして、その目の前には剣を掲げ、銃弾を薙ぎ払った未来からきたペドー!!

 

「ま、まさか!?わたくしの――」

 

「お、俺!?一体どうなって――」

 

「おい、俺。ちょっと、こっち来い。やることは分かるな?」

未来からきたペドーが、現在のペドーに話しかける。

それに、現在のペドーが頷く。

なんとなく、本人二人の考えが一致した。

 

「「今こそ!!」」

「過去と」

「未来が」

「「一つに!!」」

二人のペドーがタイムパラドックスによって一人のペドーに重なる!!

 

「な、なにが起きてますの!?」

完全に理解不能な、状況に狂三が混乱する!!

 

「未来と現在の俺の記憶が一つになった!!

狂三ぃ!!たとえ過去の自分でも幼女を傷つけるとはゆ”る”せ”ん”!!

制裁決定だ!!」

ペドーの手に十香の鏖殺皇(サンダルフォン)が召喚され、そこに精霊の力がまとわりつく!!

タイムパラドックスなしにはあり得ない、全く同じ力が融合し爆発的な力を生む!!

 

「わ、わたくしたちぃ!!」

無数の影から生み出された分身を盾に、狂三が自らを守る!!

突如現れた理解できない危険な存在、狂三は恐怖を感じていた。

 

全身を打つかのような衝撃が狂三を捉える!!

すさまじい衝撃の後に立っていたのはペドーだけだった。

 

「逃がしたか……」

剣を下ろしながら、ペドーがつぶやく。

そう、あの狂三が死ぬわけないと思った。

体から力が抜け始める。

首を横にすると、くるみが呆然と立っていた。

 

「ここで、狂三を倒したからくるみが無事になった。

くるみが無事だから、時を超える必要はなくなって――」

ペドーは自身の体から、未来から来た自分が消えるのを感じた。

どうやら、自分の時代に帰ったようだ。

 

「また、会おうぜ。俺」

そう呟て、無事なくるみを優しく抱き上げた。

 

 

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「はっ!」

気が付くと、ペドーは学校の屋上に立っていた。

狂三はいない。くるみが鳴きながらペドーに抱き着いている。

 

「くっ!?」

ペドーに頭痛が襲い来る。

記憶が流れてくるのだ。

 

自分は、未来に自分に助けられた。

狂三は逃げ、無事だったくるみに今、抱き着かれている。

 

(なるほど、矛盾をつぶしたのね)

そんなことを考えていると――

 

突然、空が紅に染まる!!

熱い!!炎にあぶられるような熱気がして、空を見上げると――

 

「ペドー。少しの間返してもらうわ――あれ?」

そこにいたのは炎をまとった琴里がいた。

その姿はまるで精霊で――

 

「あー、カッコつけてるトコ悪いけど……もう、おわったよ?」

 

「えー……うそ……私の出番は?」

 

「くそ!!スカートの中が見えそうで見えない!!鉄壁か!?

ねぇ、どんな気持ち?どんな気持ち?カッコつけて出てきたら終わってたってどんな気持ち?」

 

「うっさい!!――――焦がせ!!〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!!」

顔を真っ赤にして、琴里が炎をこっちに向けてきた!!

 

「やべ!?逃げるぞ、くるみ!!」

 

「は、はい!!」

ペドーがくるみを抱き上げ、自身の時間を加速させ高速で逃げていった!!




今回の話は、爆死用BGMを聴きながら読むとそれっぽくなります。


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琴理メモリアル
攻略計画第一手


さて、今回から新し章へ。
手ごわいあの精霊が相手です。
さて、どう攻めるか。


「さてと……どうすっかな?」

自室のリビング。

検査を終えたくるみを自身の膝にのせて、ペドーは試案にふけっていた。

あの後、真那も折紙をASTに回収され、十香をはじめペドーが見捨てた学校のみんなも全員無事が確認された。

 

唯一の心配は琴理だけ。

 

「アイツ精霊だったのか……」

緋色の和服に、鬼のような角の飾り。

まるでお姫様にも鬼にも見える炎を纏ったその姿――!

そして、ペドーに向かって振るったその力。あれはまさしく――

 

「中二病末期……ってわけじゃないよなー」

 

「ぺどーさん、なにをぶつぶついってますの?」

テレビを見ていたくるみが心配そうに聞いてくる。

 

「あー、大丈夫だよー?ちょっとした考え事だからねー?」

誤魔化すように、ペドーがテレビに視線を移す。

そこでは主人公のヒーローがピンチに陥っていた。

 

『ううっ……印籠が汚れて力が出ないよ……』

 

『印籠マン!!新しい印籠よ!!』

 

『権力100倍!!!印籠マン!!頭が高いぞ!!下々の者ども!!』

新しい印籠を手に入れ、権力を復活させた印籠マンがセコセコと計画を立ててきた悪党どもをぼっこぼこにする。

 

「ふぅ、やっぱり今の時代は『才能』『血筋』『権力』だよな~」

友情とか、努力とかがなくなってきた今の時代を嘆きながらペドーが立ち上がる。

 

「ぺどーさん、どこにいきますの?」

 

「ん~?幼女を襲いに行くだけだよ?」

 

「そうですの?おまわりさんにきをつけてくださいませ」

くるみを後にして、インカムを指先でつつく。

 

「令音さん、琴理に会えますか?」

 

『ああ、丁度今容体が安定した所さ。庭に出てくれるか?フラクシナスで回収する』

令音の声にペドーが小さく答えた。

 

 

 

 

 

空中艦フラクシナス。

その中でもペドーの行ったことのない部屋に琴理はいた。

 

「よぅ、元気そうだな」

 

「あら、いらっしゃい」

まるでシェルターの様な厚い壁に覆われたその部屋。

小さな、シンプルな部屋で琴理はミルクティをかき混ぜていた。

 

「お前、精霊だったんだな?」

 

「……私は、人間よ……少なくとも私は人間だと思ってる。

けど、数値上はそうじゃないみたい」

自嘲気味に笑う琴理。

優雅にティーカップを持ち上げるが――

 

グシャカン!!

 

「あ……」

力の扱いがうまくいかないのか、ティーカップを握りつぶしてしまった。

 

「ははッ……こりゃぁ、不便ね……」

悲しそうな顔をして、琴理が笑った。

 

「覚えてる?5年前の同時多発空間震事件」

琴理の言葉に、ペドーがわずかに頭痛を感じる。

その事件は有名だ、何せ自分の住んでいた町もその被害の一つだったからだ。

 

「あ、ああ……確か俺たちの町と、日本海の方――それもかなり本州に近い場所で大型の空間震が有った事件だろ?

海上の方に、多くの援助者が向かったせいで、こっちの町の救助がおろそかになったっていう――」

 

「そう、その日。その日私は――精霊になった」

 

「そして俺は――ロリコンに――」

 

「そっちはもっと前からでしょ!?」

ペドーの言葉に突っ込む琴理が、机を軽く蹴ると同時に勢いよく吹き飛び壁に当たりティーセットを粉々にした。

 

「力の制御ができない――壊したいのよ!!

叫んでるの……私の中の私が、壊せって!!殺せって!!」

自らの手を見て、琴理が不安そうに自分自身を抱く。

 

「大丈夫だ、絶対大丈夫だから――」

 

「来ないで!!」

近づくペドーを琴理が手で制す。

 

「今のペドーは簡単に死ぬわよ。私の力に触れたらそれこそ!!」

 

「そこまでだ!!」

半分叫ぶ琴理に対して、令音が部屋に入ってくる。

そして何かの薬を飲ませる。

 

「すまない、シン……今日は此処までだ」

令音に連れられ、ペドーが琴理の部屋から出る。

 

 

 

「さてと、今は薬を使っているが、何時まで持つかはわからないな……」

部屋を出た令音がペドーに話す。

 

「やはり――」

 

「ああ、そうだ。琴理を攻略して封印するしかない」

 

「マジか、義理の妹に手を出すとか……背徳感ですごい興奮する……!!」

鼻息を荒くするペドーをみて、令音が冷や汗を流す。

この男は事の重要性を全く理解していないのではないだろうか?そんな不安が来る。

 

「それにしても、俺の周りって精霊多くありません?

その内折紙が精霊になったり、令音さんも『第ゼロ精霊 零音』とかになったりしません?」

 

「何を言ってるんだペドー君。

そんな事より二日だ、期限は二日。それまでに琴理を攻略してくれ。

じゃないと、きっと君の知ってる琴理じゃなくなる」

 

「な、なんだって!?」

令音の言葉にペドーがショックを受ける。

 

(ふむ、兄妹がそうなると分かれば、仕方ないか……)

令音が落ち込むペドーを見下ろすが……

 

(俺の知ってる琴理じゃなくなる……つまり積極的でお兄ちゃん大好きな琴理になる可能性が!?

『おにーちゃんすきー、琴理とお風呂入ろー!!私の体でお兄ちゃんを洗ってあげるー!!』

無知シチュ幼女が俺のジャスティス!!いや、待てよ……逆に――すさまじくアグレッシブになる可能性も!?

『はぁい♥お・に・い・ちゃん♥ねぇ?ちっちゃい子が大好きなおにーちゃんはぁ?

私の事ぉ、どぉう思ってるのかな?キャハ☆ケダモノの目してるぅ、こわーい!私何されちゃうのぉ?』

これはコレでありだな!!)

 

そのイメージは煩悩10000%!!まず考えるのがそこだ!!

そんなペドーを野太い声たちが現実に戻す!!

 

「ペドーさん!!聞きましたよ!!」

 

「指令とデートするんですよね!?」

目の前に現れたのは、フラクシナスのメンバーたち。

すべての人員が琴理の為を思って、集まっている事はすぐに分かった。

 

「みんな……」

 

「我々は、指令の事を思っています。

その指令が困難に立ち向かっているのであれば、それを救うのが我々の務め!!」

 

「そうだー!!」

 

「やるぞー!!」

神無月をはじめ、メンバーたちとペドーが会議室に集まる。

議題は、琴理とのデートプランだ。

 

「指令のクラスメイトの加奈ちゃんからの情報です。指令は最近携帯アプリの――」

 

「え?友達を売ったのかよ?」

名も知らぬ子に、ペドーが嫌悪感を覚える。

 

「ああ、彼女は実はお母さんが知らないおじさんと浮気してまして、夫はそのことにまだ気が付いてないんですけど、その子自身がその男に、母親と別れる代わりに『母親の代理』をすることを持ちかけれれまして――家族と自分、どっちを取るか迷ってるみたいなんですよ……それを援助する約束で情報を貰いました」

 

「大至急その男の玉を2個ともここへ持ってこい!!」

数名のクルーが、暗殺者の様な恰好をして街中へ向かっていった。

 

「ペドーさん、何か指令が、以前行きたがっていた場所を知りませんか?

指令は、素直にではないので遠回しのいう事が多いんです。

何気ない日常にヒントが有る筈なんです」

神無月の言葉に、ペドーが数週間前の琴理の言葉を思い出す。

 

「そう言えば――

『あーあ、偶にはデラックスキッズプレートが食べたいわね』

って」

 

「普通の会話じゃないですか……」

 

「いや!!違う!!これは、琴理のメッセージだ!!」

あきれるメンバーに、ペドーが力説する!!

 

「デラックスキッズプレートが食べたい」→「キッズプレートは子供用、中学生の琴理は食べられない」→「子供なら食べられる」→「おにいちゃん、子作りしよ♥」

 

「これだぁあああああああ!!!」

 

「しれぇええええええええ!!なんて大胆なんだぁああ!!!」

 

「さすがだぁあああああああああ!!!」

ヒートアップする会議室!!

暴徒と化した、メンバーは止まらない!!

ロリコンの体は止まらない!!ロリコンの心は止められない!!

 

「早速攻略に行ってきます!!」

バッと上着を脱ぎ棄てたペドーが、走ってく!!

 

「行ってらっしゃいペドーさん!!」

 

「カメラの数を増やせ!!今すぐにだ!!」

 

「指令、おめでとうございます!!」

メンバーの声援をうけ、ペドーが走る!!

 

 

 

「琴理ぃ!!」

 

ビクッ!「ど、どうしたのよペドー!?」

扉を開け、勢いよく入ってきたペドーを見て琴理が固まる。

 

「琴理……琴理ぃ!!マイスイート、シスタァアア!!

お前の事をずっと愛していた!!!気丈な所も凛とした所もよかった……

けど、ここでは……ここでは俺を独り占めしていいんだぞ?」

 

「え。えっと!?どうしたの、きゅうに、どっか頭でも――」

 

「うぉおおおお!!!琴理ぃ!!お前の事……宇宙で誰よりも愛してる」

 

「ちょ、ちょっと――むぐ!?」

ペドーは琴理の前に、膝立ちになり琴理の頭に手をまわし――そっと自身の唇を彼女の唇に当てがった。

その瞬間、体に暖かいものが流れ込んでくるのがわかる。

もう何度も行ってきた精霊の封印だ。

 

「え、ちょ、うそでしょ!?」

封印されていることに気が付いた琴理が慌てる!!

 

「そ、そんな!?ま、まだデートも、してないのにぃいぃぃぃぃぃ!!!」

ペドーとデートに行く約束を楽しみにしてたのに。

封印されてしまえば、その必要はなくなる。

そんなことは琴理が一番よく知ってた。

 

「よし、封印完了だな」

 

「ま、待ちなさいよ!!あれくらいで封印できた訳ないでしょ!!

ちゃんと、ちゃんとデートして攻略しなさいよ!!!」

立ち去ろうとするペドーを琴理が必死になって止める。

 

「えー?もう終わったでしょ?行きたいのデート?」

 

「い、行きたいに決まっるでしょ!?どんだけ楽しみにしたと――ハッ!!」

自身の唇を抑える琴理。

どうやら自分が何を口走ったか、理解してしまったようだ。

耳まで顔が真っ赤になる。

 

「ふぅ~ん?琴理は俺とデート行きたいんだぁ?行きたいんだ?」

にやにやしながら、ペドーが笑う。

 

「い、行きたくないわよ!!そんなの興味なんて――」

ペドーを殴ろうと伸ばした手を、ペドーがつかむ。

 

「本当にいいの?ねぇ、本当に興味ないの?

チャンスだよ?これが最期かもしれないぜ?」

真剣な顔で、ペドーが琴理の瞳を覗き込む。

 

「うぐ……そ、そこまで行きたいってなら行ってあげても――」

 

「んん?そうじゃないだろ?お前はどうしたいかだ?そうだろ?」

 

「ちょ、調子に乗らないで!!別に封印の必要がないなら――」

最期のプライドとばかりに、琴理がペドーを突き放す。

 

「そっか、じゃあね?一人ボッチで楽しく過ごしてね?俺は四糸乃とくるみと遊んでくるから~」

手を振り、部屋から出ようとする。

この部屋のロックは琴理を出さない為のロック。

この後検査があるとして、今このタイミングを逃せばしばらくペドーとは会えない。

そのことを知ってか知らずか、ゆっくりゆっくりとペドーは歩いていく。

 

「ま、待ちなさいよ!!!待ってよ!!」

琴理の声に、扉を開け出ていこうとしたペドーが立ち止まる。

 

「なに?俺、幼女のイチャ付く系の仕事があって忙しいんだけど?」

 

「わ、私を……私をデートに連れて行ってください!!」

デートに行きたい!その思いが琴理のプライドをへし折った!!

 

「よし、じゃ。プランは俺に任しておけ!!」

 

「うん、デート楽しみにしてるから!!」

笑顔で琴理がペドーを見送った。

この時は年相応の無邪気な顔だった。

 

 

 

 

 

暗い部屋、一台のパソコンで折紙が何かを見る。

 

「……見つけた……炎の精霊……私の両親の……仇!!」

その目に宿るのは怨嗟の炎。折紙が復讐を胸に立ち上がる。




お前は5手で詰む。

1手……むむ?4手早かったな。


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Mi-zu-gi!!

少々調子が悪くて遅れました。
うん、健康管理は大切ですね。


夢か現実かそれとも過去の記憶かもわからぬひどく曖昧な世界……

その世界に一つだけ確かな物が有った。

 

身を焦がすような、心を抉るような、魂を締め付けるような、確かな『怒り』

 

燃える、家が、道が、友が、恋人が、すべてが炎に飲まれ消える。

 

「――――!!――――――!!」

何を叫んだか、わからない。

だた無力なだけだと分かっている。

 

自分にこの惨状を止める術は無い。

鳥の様に逃げる翼も、困難を切り裂く剣も、絶望を打ち抜く銃も無い。

ただただ、無様に逃げまどい居もしない神に祈るだけ。

 

何をされても、ただそれを受け入れるだけ――

 

無様に、不格好に、醜く、祈る。

自分の幸せを壊したその精霊に――

そして――

 

 

 

 

 

「はぁ!!はぁ……ハァ、はぁ……」

病院のベットで、折紙が飛び起きた。

体が酸素を求め激しく息を吸う。

 

何だったか?何か夢を見た気がしたが覚えていない。

ただ、寝汗にまみれた自分の姿を見て、良くない夢だったのが分かった。

 

「ッ――!」

動こうとして体に痛みが走った。

気が付くと体中に包帯が巻かれている。

それを見た瞬間、連鎖すように記憶が蘇ってくる。

 

精霊時崎 狂三。倒れ伏す学校の生徒。霊装を展開する胸部デブ。狂三の無数の分身体。銃声。屋上で慟哭するペドー。崇宮 真那。

そこまで記憶が連鎖して、大切なことに気が付く。

 

「生きている」

自身が生きているという事だ。

狂三を前に、自分は破れた。ならば彼女の狙っていたペドーは?

胸の内にうすら寒い何かが走った。

 

「確認……しなくては――ッぅ!」

起き上がると同時に、体に痛みが走った。

医療用リアライザで治療されたようだが、痛みはまだ残っている。

だが、そんな事気にしている時間はない。

 

「ぺ、ペドーは……」

 

「呼んだ?」

病室の入り口で、今考えていた人物が事なさげに立っていた。

 

 

 

 

 

「私の為に、来てるくれるなんて感動。結婚しよう」

折紙が感動に打ち震えながら、ペドーに話す。

 

「いやー、真那のお見舞いに来たんだけど病室へ入れてもらえなくてな……」

 

「仕方ない。リアライザは秘匿技術。それを見せる訳にはいかない」

折紙の言葉を聞いて、そんな物かと勝手に納得するペドー。

そんな時折紙のお腹がコロコロとかわいく鳴った。

 

「空腹、ペドー。リンゴをむいてほしい」

折紙がお見舞い品の籠に入ったリンゴを指さす。

 

「ナースさんに頼んだらどうだ?俺よりうまいんじゃ――」

 

「そのリンゴは、ASTの見た目が幼い子の持ってきた物。

言い換えれば幼女のリンゴ――」

 

「よし剥こう!!すっごい剥こう!!」

折紙の言葉に反応したペドーがリンゴを手にして、怪しい一人事をつぶやく。

 

「ふひひ……お兄ちゃんが、優しくむきむきしてあげるからね~

怖くないよ~うふふふふふふふふ……」

数分後、きれいに皮の剥かれたリンゴが数個並んだ。

因みにうさぎと、カニの形に剥かれた無駄にハイクオリティな物がある。

 

「体温も測って欲しい」

もくもくとリンゴを食べながら、折紙がペドーに懇願する。

 

「ああ、いいぜ。なら温度計を――」

 

「あ。しまった。手が滑った」

ペドーが折紙から体温計を受け取ろうとした時、折紙が突如窓を開けて全力で体温計を外に投げ捨ててしまった。

 

「仕方ない。おでこをくっつけて測ろう」

うっかりワザと体温計を捨ててしまった折紙が、急遽ペドーに代案を持ちかける。

 

「いいや。その必要はない。

俺は幼女が倒れていた場合をシュミレーションして、触った物の温度が分かる特技が有るのさ!!」

可笑しなポーズを取り、右手の指をくいくい動かす。

 

「キモ――すごい特技」

一瞬自が出そうになったが、折紙は何とかこらえてペドーの手を取る。

そして、服をはだけさせ自身の腋に挟んだ。

 

「うーん……36,2!平熱!!」

 

「素晴らしい」

簡単に出来た結果に折紙が驚嘆の声を漏らした。

 

「んじゃ、折紙早く元気に成れよ?」

お見舞い。と言って最後にプリンを置いて帰っていった。

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

「みんなに大事な話がある」

夕食の最中ペドーが厳かな顔で、皆を見回した。

ここで言う皆とは、ペドーの家族の琴理、遊びに来ていた四糸乃、最近影が薄い十香、最後にペドーがいつも連れているくるみだった。

 

「?」

一同が、全員ペドーの方に視線を向けた。

 

「今週の休みの日に『オーシャンズ・パーク』へ行こうと思っている。

けど、みんな水着って持ってないよな?だから明日俺と買いに行かないか?」

 

「ぬ?ペドー水着とはなんだ?」

 

「へぇ、私とのデートはそこなのね?」

 

「前、行きたいって言ってたろ?」

琴理の言葉に、ペドーが答えた。

 

「たくさんの水が有る所ですよね?」

 

『んん?よしのんのセクシー水着を見せる時が来たのかな~』

四糸乃とよしのんの二人もご機嫌だった。

 

「ぺどーさん、まさかまた、あのおみせに?」

 

「そうだよ?四糸乃とくるみの水着は俺が選んであげるからね~。

ぐふ、ぐふふふうふふふふふふふ……」

ペドーが邪悪な笑みを二人に対して向ける。

 

「なぁ!ペドー!!水着とは何なのだぁ~~!!」

十香の声がむなしく響き渡った。

 

 

 

 

 

翌日

 

「用意は出来てる」

朝一、自宅のドアを開けると折紙が立っていた。

ばっちりめかし込んで、今からデートですと言わんばかりの格好だ。

 

「な、ナンでここに……」

突然現れた、というか昨日の時点でボロボロだったのになぜか平然としている折紙にペドーが戦慄する。

 

盗聴器()の力」

 

「くッ!やはり昨日体温を測るときにつけられていたか!!」

一瞬にして、どこで情報が漏れたのか察したペドーは悔しそうに壁を叩く。

 

「まぁいい。せっかくだ、付いてこい」

 

「もちろん。墓の中だろうと、お風呂の中でも、トイレでもベットの中でも付いていく」

心なしかいつもより生き生きした顔をした、折紙をメンバーに加え駅前の店まで行くことになった。

留守番の琴理がどうにも心配そうに見ている。

 

「はぁ、幼女に踏まれながら『まさか、こんな小さな子に踏まれてきもちよくなってるの?』って言葉攻めされたいな~」

ポロリとペドーがこぼす。

その様子を見ていた、琴理があきれながら話す。

 

「まさか我兄から、こんな情けない言葉を聞くことになろうとはね……

願ってるだけじゃ、実現はしないわ。もっともそんな――」

 

「ぺどーさん、それはきのうやってあげたじゃありませんの」

 

「あ!そうだった!」

 

「やったの!?」

くるみのとペドーの言葉に琴理が突っ込みを入れる!!

仲が良いと思っていたが、そんなことまで……!!

 

「ストレスのせいで体が凝ってさ~。

くるみの足踏みマッサージ、重さ的に丁度いいんだよ」

ニコニコとしながら、自身の肩をまわす。

 

「ほっ、そういう事ね」

いかがわしい内容だと思った琴理が内心ほっとする。

 

「見ろ四糸乃、くるみ。あれがむっつりスケベって奴だぞ」

そんな琴理をペドーが指さして笑う。

 

「違うわよ!!そんなんじゃないわ!!」

バカにされた琴理がむきに成って、反論する。

 

「はははっ、悪いな。じゃ、俺たちは出かけるからあと頼んだぞ?」

琴理をその場において、ペドーたちは家を後にした。

 

 

 

 

 

「なぁ、ぺドー?水着とはなんだ?」

おずおずと十香が、ペドーに再び尋ねる。

昨日からずっと聞いていたのだ。

 

「水着って言うのは――」

 

「Mi-zu-giそれは小範囲滅却専用兵器。

分子構造その物を超高速で振動させ、内部崩壊に持ち込む。

本来は電子レンジと同じ構造だが、温めて爆発させるのではなく内部から崩すのが目的」

いけしゃあしゃあと言ってのける折紙に、十香四糸乃、両名が目を見開く。

因みにくるみは怯えた表情で、ペドーの袖をつかんできた。かわいい。

 

「ぺ、ペドーはなぜそんな物を――」

 

「対精霊用装備は精霊に向けるもの。ペドーはあなたたちを倒すつもり」

 

「な、なぃ!?ペドーがそんな事するわけ無いであろうが!!」

憤る十香、震える四糸乃。

くるみはあきれたような顔をしている。

 

『ふははー、そうだ。俺はすきをついてお前たちを倒すつもりだったのだー』

似てない物まねで、折紙が言う。

 

「ほら、付いたぞ。おまえたちそろそろやめろよ?」

十香をからかい続けるペドーの前に、水着の店が現れた。

 

「さぁて!幼女ちゃんたち~、お兄さんが楽しいい水着を選んであげるからね~」

嫌に、いやにいい笑顔を浮かべ、ペドーがそう笑った。

 

 

 

 

 

「店長。水にぬれると溶ける水着ってない?」

 

「ああ、少年君か……うーん、濡れて溶ける水着、ね。

悪いけどウチには無いね、代わりにすごくクリアに透ける奴なら有るよ?」

着ていたら痴女100%な水着を勧めるオーナー!!

 

「それ欲しい。」

すぐさま折紙がそこに食らいつく。

 

「なぁ、ぺドー水着とはコレの事か?なんというかやけに布地が少ないのだが……」

不安そうに、十香が水着を指さす。

確かに今まで水着を知らない人間には、少々露出が高すぎるかもしれない。

 

「え?ぺどーさんがくれたぱんつのほうがぬのじがすくなかったですわよ?」

くるみの言葉に、周囲にいた全員がピタリと固まる。

 

「ペドー、一体どんな下着を渡したの?場合によっては犯罪になる」

 

「ペドーさん……さすがにそれは可哀そうです……」

 

「ぬぬ?ペドーは露出の高い服の方が好きなのか?」

3者に囲まれたペドーが、苦笑いを浮かべた。




お気に入りがいつの間にか100人越え。
皆さんいつもありがとうございます。


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勝負!!デート権をゲットせよ!!

宣誓ー、えー、私は一作者として誰に見せても恥ずかしくない作品を目指しています。
今回はそんな気持ちで書いた話です。



水着!!それは人類の英知が生み出した至宝!!

水着!!それは乙女の柔肌を守る、布製の聖域!!

水着!!それは男を絶えず魅了し続ける魔性の装備品!!

 

そんな、水着!!を買うために、ペドー一行は駅前の服屋の水着コーナーに来ていた!!

 

「さて、どれがいいかな?」

四糸乃とくるみの両名を連れ、ペドーが様々なタイプの水着を見る。

 

(ふぅ、今更だけど、幼女に対して『俺の選んだ水着着ろよ』ってなかなかない状況だよな……)

改めて今の異常な事態を思い出し興奮するペドー!!

口元がにやりと三日月を描く!!

 

「ペドーさん、なんで笑って……?」

 

『何を着せるか考えてるんだよ。よしのんにはわかる!!くわしいんだ!!』

 

「りせいもなにも、あったもんじゃないですわね……」

さんざん様々な事をしまくっている二人+αからは非常に冷たい視線を感じる。

 

「おかしいな……スキンシップで一緒にお風呂に入ろうとしたこと位しか思い当たる節が――」

 

「その話、詳しく」

ペドーのつぶやきに何処かに言っていた折紙が、すさまじいスピードで戻ってくる。

まるでアサシンの様なスピードだが、こんなことにはもう慣れたペドーが涼しい顔だ。

 

「おお、ここに居たのか。

イザ!二人とも、私と勝負だ」

そう言って十香が、水着を掲げる。

 

「ん?勝負?」

少し気になった単語があった為、ペドーが小さく聞いてみる。

 

「実は昨日令音に言われて、試着した水着を見てもらってペドーをより喜ばせた方がデェト権を貰える勝負をすることに成ったのだ」

憂しそうに語る十香。

その様子に、こっそり付けてきた耳のインカムを指で叩く。

琴理を呼んだつもりだったが、代わりに令音がでてきた。

 

『すまない、まだ琴理は検査が完全に終わっていなくて、私が代わりにでるよ』

 

「(令音さん、なんであんな事言ったんですか?)」

小さく声を漏らすペドー、デート権と聞いて折紙が野獣の視線を絶えずこちらに向ける様になってきている。

ペドーの目の前で、ペロリと高速で折紙が舌なめずりした。

 

『ああ、勝負の事だね?問題があったかな?これから精霊を攻略するんだ。

これくらい耐性をつけてもらわないとね?

今回の事の様な事が有れば耐性が出来て、次回は動揺せずに済むだろ?』

零音言葉を聞きながら、十香をみると非常に楽しそうにしている。

そんなにデートしたければ、日曜に暇になったときに買い物位なら連れて行ってやるのにと思う。

 

「が、頑張ります……!!」

 

「まぁ、しょうぶごとにはこだわりたいですわね」

四糸乃は恥ずかしそうに、くるみは以外と好戦的に話す。

 

「ふふふ、デェト権は私の物だ!!」

 

「その勝負私も参加する」

十香、四糸乃、くるみと続き、折紙までもがその勝負に参加を表明してきた。

どうやらデート権と聞いて我慢できなくなったらしい。

 

(なんで、勝率0%なのに、わざわざ参加するんだ?)

そう思い不思議に思うペドー。

そう!!ペドーの中ではすでに勝敗を決めるメンバーは四糸乃とくるみの両名のみ!!

最初から、年増の二人には勝利の方法などありはしないのだ!!

 

「ペドー!!こっちを見ろ!!」

カーテンがシャッと開いて十香が姿を現す。

ピンクのかわいいワンピースの十香の豊満な肢体が包まれる。

一瞬だが、店内がどよめきに走る。

それもそうだ。十香は町を歩いていれば誰しもが目を止めてしまうほどの美少女だ。

そんな美少女が水着という露出の高い恰好をしているのだ。

これを見ない男はいないだろう。

この場に居る数人の男たちの今夜のオカズは決まった様な物だ。

 

「おー、美人だなー、かわいいぞ?」

全く褒めないと後が不機嫌になる事を知っているペドーがあたりさわりのない褒め方をする。

ぞんざいな褒め方なのにも関わらず、十香の顔がパァッと笑顔になる。

その顔からは褒められて本当にうれしいのだという事が如実にわかる。

ペドー以外のまともな性癖をもつ男なら、この笑顔一発でパーフェクトノックアウトだ!!

だが、そうならないのは彼女の不幸だ。

その時横から声が掛かった。

 

「ペドー、どう思う?」

カーテンの中から現れた折紙が黒いビキニを着ていた。

白い肌に黒い布地のコントラストが映える。

そして、水着に合わせるためか髪もアップにしてうなじをのぞかせている。

 

「悪くないな……」

 

「因みにこれは、水にぬれるとサイズがワンサイズ縮む奴。

プールサイドでなら、さらに効果的になる」

驚異の技術を折紙が紹介する。

要するに、ノーマルビキニが水場でへ露出痴女レベルまでの変化を持つというのだ。

 

「ジュニアサイズは無いのか?」

 

「ない」

その一言でペドーが目に見えて落ち込んだ。

 

「ぺどーさん、これはどうですか?」

くいくいっと、ペドーの袖がくるみに引かれる。

 

「ウッ!?」

その声に導かれ、くるみの方に目をやり一瞬びっくりした。

ぱっと見、くるみが何も着ていない様に見えたからだ。

 

「どうしましたの?」

だがよくよく見ると、ちゃんと白いワンピースタイプの水着を着ていた。

くるみの肌が白いというのもあるが、原因は水着の方にもあった。

微妙に色が付いてるのだ、肌色風の。

 

「なるほど、さすがここのオーナー……

ぱっと見全裸に見える水着とはやるな……」

職人の技術にペドーが頷くがまだ終わりではない!!

 

「ちがいますわよ、ぺどーさん。

このみずぎも、みずにぬれるとしんのちからをみせますの――!」

自慢げに、壁にかかった同タイプの水着を指さすくるみ、そこにはおどろきの機能が書いてあった!!

 

「ら、落書き風だと……!?」

そこにアップされたのは、まるで凌辱系エロ同人の様なワンシーン!!!

水着のボディ部分に、卑猥な言葉が並ぶ!!

『変態女』や『公衆便所』『一回10円』など明らかに使って良い言葉が並んでいない!!

それを、見た目だけなら9才程度のくるみが着ている!!

 

「ぬ、ぬれると……あの言葉が浮き出るのか……」

 

「そうですわよ?みずをかけられたらたいへんですわねぇ?」

挑発するように、笑って見せた。

 

『ふむ、決まったようだね』

令音の言葉すら、どこか遠くから聞こえる雑音へと変わっていった。

それだけ、くるみの姿は危ういかわいさを含んでいた。

 

「この勝負、くるみの――」

 

『おおっと!タンマだよ、ペドー君?判定は四糸乃の姿を見てからでも遅くはないんじゃない?』

ペドーが判定を言おうとした時、よしのんによって止められる。

たしかに、四糸乃の姿を見ないで決めるのはまだ早いだろう。

 

「わ、わたしは、これ、です……」

四糸乃の姿は、所謂スクール水着だ。

色は紺色で特に目立った、所は無い。

普通の、至って普通の水着、学生の水着姿だ。

 

「いいね、やっぱ幼女には王道にこれだよな」

にこっと笑って、ペドーが四糸乃の頭をなでる。

かわいいし、王道だが『非日常』感を出してきたくるみにははやり勝てない。

 

「あ、あう……」

 

『ほーら、四糸乃!まだ、終わりじゃないでしょ?』

 

「けど、はずかしい……」

 

『あーもう!!じれったい!!じゃ、運転を代わろうか?タッチ!』

 

「た、タッチ……」

四糸乃とパペットのよしのんが、手を叩いてバトンタッチする。

二人の得意技、主人格交代だ。

 

『いやー、おまたせ、おまたせ。真打登場だよ?』

 

「おおよしのん!お前まで出てくるとはな」

色々と話していてたのしいよしのんの本格手にな登場にペドーが喜ぶ。

何をするか分からないという点では、このメンバーの中でも上位の人物だ。

 

『ふふふ、ペドー君期待してくれていいよ?よしのんのナイスアイディアを見せてあげるからさ!!』

四糸乃の体を乗っ取ったよしのんがその場でくるりと一回転する。

思った以上に大きく開いてる背中が見えるが、まだ終わりではない。

 

『さぁ~て、よしのんも水着は――――これ!!』

何を思ったのか、あろうことかよしのんは自らのスク水の両肩紐を外し、胸の下どころかへその下まで、一気に何のためらいも無く水着をずり下げた!!

 

EXCELLENT(すばらしい)……」

その下に有るのは――絆創膏!!

四糸乃の大切な胸を守るのは左右計2枚の絆創膏のみ!!

下半身はだぼ付いた脱げかけのスク水、上半身は絆創膏!!

完全な非日常がここに完成したのだ!!

 

「勝者は、四糸乃だぁああああ!!!」

だれも文句は言わなかった。

言えるはずがない!!それほどまでに圧倒的だった。

 

 

 

 

 

その後ペドーたちは昼を取ってそれぞれ帰っていった。

ペドーは、明日のデートの細かな計画の見直しの為にフラクシナスへ。

折紙はASTの元へ帰っていった。

 

「ひゃは!!こりゃぁスゲェ!!!」

武器の格納庫の中で、ヒャッハーさん事スズモトが奇声を上げていた。

目の前には見たことも無い、黒いワイヤリングスーツとこれまた見たことのない、武装兵器の数々だった。

 

「これは――?」

 

「あら、折紙おかえり」

同僚の日下部 遼子が声をかけてくれる。

 

「すげーゼ折紙!!これはD・E・M社の新兵器だとよ!!」

 

「一個隊の戦力を一人に投入した、頭のおかしい兵器よ?

普通の社員が使ったら30分と立たずに、脳がオーバーヒートだそうよ?」

ヒャッハーさんと遼子が見上げる。

 

「これを使えば、精霊を殺せる?」

 

「話聞いてた?脳がぶっ壊れるのよ?

刺し違えたって、意味ないじゃない。それに貴女には使用権原が無いわ。

コレ、今入院してる崇宮 真那のための装備ですって」

カリカリと、なにかを書きながら遼子が話す。

 

「……」

だが、折紙は何かを話す遼子の事も、興奮するヒャッハーさんも気にならなかった。

ついこないだ、再び見た炎の精霊。

あの時は気絶していて気が付かなかったが、のちに監視カメラにわずかに映った姿は、まぎれもなく自身の両親の仇だ。

 

(仇を打ちたい)

そんな思いが、折紙の中を走る。

この兵器が有れば、次もしあの精霊が出た時自分は奴を殺せるだろうか?

そんな事をぼんやりと、折紙は考えていた。

 

 

 

 

 

「琴理ぃ!!お兄ちゃん水着をかって来たぞ!!好きなの着ろよ!!」

 

「誰が着るかそんなもん!!」

家の中、ペドーが琴理を追いかけまわして走る!!

 

「ワンピースに、ビキニに、セパレートのチューブトップにブラジルのスリングショット!!

ほら!!ぬれると卑猥な言葉が浮き出る水着もあるぞ!?」

 

「着る訳ないでしょ!?」

 

「なら、絆創膏だな……ほら!!!これで大事なトコ隠せよ!!」

 

「ついに水着ですらなくなったわ!?ってか、あんたも本性少しは隠しなさいよ!!」

 

「我体に一点の恥じなし!!」

そういって、ペドーがズボンを脱ぎ始めた。

 

「なんで脱ぐんだぁあああああ!!?!!!!」

琴理の声が、むなしく家にこだました。




水着だけで一話終わってしまった……
次はもっと進めなくては……
はぁー、ロリ系精霊書きたい……


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プールの決戦!!

さて、少し間が空いてしまいましたが、投稿です。
女子とプールとか、かなりうらやましいですねー


暑さを感じさせる夏の日差し。

町なかを琴理はプールバックを背負い歩いていた。

 

私は今日、ペドーとデートする。

 

そう考えた瞬間、胸が高鳴った。

 

「落ち着きましょう……これはただの訓練よ」

自身に言い聞かせるように、琴理が自身の胸に手を置く。

そうだ、もう自分の封印は終わっている。これはただの遊び。

そう、()()()()()()()

 

「っ……」

今更だが、やはり頬が緩む。

約束の場所まではもうすぐだ。

にやけた顔を見せる訳にはいかない。そう思い琴理は自分の頬を軽くたたき表情を戻した。

 

「さ、行くわよ」

待ち合わせ時間まで30分ほどあるが、デートなら男が早く来ているのは当然。

来てなかったら文句を言ってやろう。と自身を鼓舞して再び歩き出した。

 

 

駅口、東のパチ公前。

パチモンっぽい、いぬの銅像がある場所で待ち合わせの場所としては非常にポピュラーだ。

だが、今その場所が少し騒がしい。

 

「おー、琴理ー」

 

「っ!ペドー……え?」

人込みの中からペドーの琴理を呼ぶ声がする。

反射的に手を振り返そうとしたら、琴理の体が固まった。

 

「おーい、琴理ー」

銅像のパチ公の背中の上、一体何を考えたのか、その背中に乗ったペドーが手を振ってくる。

当然目立つ、というか人込みの正体は、ペドーを見に来たやじうまの集まりだった。

 

楽しそうに手を振るペドー!!

そして集まる周囲の視線!!

琴理はいたたまれない気分になって、思わず視線をそらした。

 

「ずいぶん早いなー、そんなにデートに行きたかったのかー?

といっても、俺の方が早かったな!!なんせ早朝の5時からパチ公の上でスタンバってたんだぜ?途中眠くて、この体制のまま寝落ちしたけどな!!」

誇らしげな顔をして、無駄な情報まで教えてくれる。

 

もうやめて!!琴理は思わずそう叫びそうになった。

しかし、今回の目的は果たしていない。

関係者と思われるのはいやだが――

 

「ペドー!早く降りてきなさいよ!!」

 

「はーい」

一喝して、ペドーをパチ公から退かす。

手を取って、無理やり人込みから引きずり出すが……

 

「みんないるか?」

琴理によって手を繋がれたペドー、反対側の手には幼女を連れていた。

くるみ、四糸乃が続き、最後に十香が付いてきた。

何処となくだがその姿はカルガモの親子を思い浮かべさせた。

 

「え、まさか……今日のデートに……」

 

「もちろんみんな連れてくぞ?

精霊たちが、お前『だけ』とデートして精神が不安定になったら困るもんな?」

わざとらしいペドーの言葉、琴理としてはそんなことを入れてたら大人しく「一緒に連れていく」としか言えない。

そう、琴理はひとりの女の子だが、やはりフラクシナスの司令官なのだ。

精霊たちの、ひいてはフラクシナスの不利になる事は出来ない。

 

「そ、そうよね。みんなで行った方が楽しいわよね」

ぎこちない、不安定な顔で琴理がそう話す。

 

「…………」

そんな琴理の様子をペドーはじっと見ていた。

 

 

 

 

 

「おお!ペドー!水だ!!水がいっぱいだ!!」

プールをみて、水着をきた十香が驚きの声を上げる。

そうだ、彼女はこんなものを見るのも初めてなのだ。

 

「ここで、泳ぐんだぞ?あ、ちゃんとほかの人の迷惑も考えてな?」

 

「ふふん、そんなことわかってますわ」

 

「は、い……気を付けますね」

ペドーの言葉に、ワンピースタイプの水着を着た(琴理の謁見によって、例の水着は取り上げられた)くるみと、スク水姿の四糸乃。

 

そしてその後に――

 

「な、なにか言いなさいよ……」

恥ずかしそうに胸を隠す琴理の水着は白のセパレートタイプだった。

上部のブラの部分で隠された胸に思わずドキリとしてしまう。

いや、ここでドキリとしない奴はロリコンじゃねぇ!!

 

「くっ……発育の化け物め……!」

忌々し気に、十香の胸を見る琴理。

ぎりっと音を立て、チュッパチョップスにひびが入る。

 

「琴理気にすることは無いぞ?今のお前の姿はとても魅力的だよ?」

キメ顔をして、自然を装って琴理の素肌の肩に手を置く。

その何気ない動作は熟練した、痴漢を思わせる何気ない動作だった。

 

「はっ、どーせ。インカムから、褒める様に指示でも来たんでしょ?

訓練の一環として、持ってきてるんでしょ?」

冷めた瞳で琴理が話す。

実は琴理の言うように、ペドーがインカムを耳につけていた。

 

「んなわけないだろ!!これは本心だ!!

すっごいかわいいと思ってるぞ!!

具合的には、成長途中のふくらみかけおっぱいとかな!!

っていうか、後ろに回って水着の中に手突っ込んで揉んでいい?」

手をワキワキさせながら、ペドーが近づく!!

 

「いい訳無いじゃない!!監視員呼ぶわよ!!

助けてって大声で叫ぶわよ!?」

胸を必死でガードしながら琴理が後退しする。

しかし、そんな姿はロリコンを興奮させる材料でしかない!!

 

「うわぁー足が滑ったー(棒読み)」

そういった瞬間、ペドーの姿が琴理の目の前から消えた!!

 

「どこに!?――――後ろか!!」

一瞬の気配を察知して、後ろに対して思いっきり手刀を振るうが数センチ先に立っていたペドーには当たらない。

直立不動で両手を組んで悠然と立ってる。

 

「はぁあああ!!」

一歩、また一歩と踏込手刀を振るう琴理。

しかしペドーが一体どうした仕組みなのか、その体勢のまま瞬間で消えたり後ろに出現する。

 

「無駄だ。何者も私に触れることはできない。13番目のロリコンである私にはな……」

 

「それはどうかしら!?」

 

「ぐふ!?」

攻撃を繰り出すと見せかけ、後ろを殴る。

ペドーの瞬間移動の癖を読んだのだろう。

 

「見事だ……だが」

次の瞬間再びペドーが消えた!

 

さわッ!

 

瞬時に琴理の背中は撫でられる!!

それだけではない、腕やお腹なども高速で出現するペドーになでられる!!

熟練ロリコンにのみ許された高速タッチに琴理が翻弄される!!

 

「くぅ!ああ!!」

余りの気持ち悪さに、琴理が悲鳴を上げる!!

 

「止めだ。エターナルカオス」

再度琴理の目の前に現れた、ペドーが自身の必殺技を発動する!!

琴理の目には、一瞬金色のフェニックスがペドーの背中に舞い降りた気がしたがきっと目の錯覚だろう。

 

 

 

 

そんな二人の様子を見る、十香たち。

 

「ぬぅ……ペドーたちは何をしてるのだ?」

 

「れべるのたかい、じゃれあいですわ。

わたしたちにはふかのうなじげんですわね。

はいりたいともおもいませんけど……」

十香の疑問に、くるみが冷や汗を垂らしながら話す。

 

「二人とも~、よしのんの四糸乃見なかった?」

そこに歩み寄ってくるのは、四糸乃の体を動かすよしのん。

しかし今は、四糸乃の意識が入ったハズのパペットが左手に付いていなかった。

 

「まぁ、無くなったら無くなったで良いんだけどさ?」

さらっと自分の本来の人格を乗っ取ったよしのんが笑う。

 

 

 

 

 

「ふぅ、準備運動はこれ位でいいかな?」

非常に疲れた様子の琴理を見ながら、ペドーが立ち上がる。

 

「――」

一瞬何か言いたそうだったが、琴理は口を閉じ、同じように立ち上がる。

 

「おーい、お前らー。ウォータースライダーで遊ぶぞ!!」

次は精霊たちの番だとでも言いたげに、ペドーがみんなの方へと走っていく。

それを琴理はつまらなそうに見る。

 

「なによ……もう、私は終わりって訳……?」

しかしすぐに頭を振って考え直す。

そうだ、自分は司令官だ。つまらない顔などできない。

そう思いなおして、ペドーの後を追った。

 

「(令音さん……琴理は――そうですか)」

インカムの令音に必要な情報を聞き、小さく顔を歪めるペドー。

 

 

 

 

 

その後のスライダーをすべり、一行は昼を取ることにした。

フードコートに、巨大なサンドイッチの皿が並ぶ。

 

「おお、これはうまいぞ!!」

十香が目を輝かせ、サンドイッチを食べる。

くるみ、四糸乃も同じように喜んでるが琴理だけは、少し表情がすぐれない。

なんというか空気が此処だけ重い。

 

「あー、すまん。ちょっと席を外す」

3人のそう告げペドーがトイレに立つようにして、インカムに話す。

 

「どうですか?琴理の数値は?」

 

『絶賛下がってるよ……やはり、ほかの精霊を連れてきたのが原因の様だ』

令音が答えるが、ここまでは実はペドーの計画通りだった。

以前から、精霊は不機嫌になるとペドーとのパスが狭まり精霊の力が戻ってくるらしい。

琴理は無理やりもどしたせいか、封印が不完全だという事が分かった。

そのため、今ペドーは必死になって琴理を不安定にしているのだ。

中途半端にしか封印できないのなら、あえて大きくパスを狭め精霊として完全に覚醒してから()()()()することにしたのだ。

 

『これだけ、開けば大丈夫だ。あとはもう一度封印すれば大丈夫だろう』

 

「令音さん、ありがとうございます」

ペドーはお礼の言葉を告げた。

そう、今回の事件で一番、琴理の事を考えていたのはペドーだった。

自分の危機を救うため、再び精霊となった妹。

不安定な琴理を心配して、すぐさま封印したがそれでも不安で、再度確認をしていたのだ。

 

「琴理……ふがいない兄ちゃんでごめんな……」

誰に聞かせるでもなく、ペドーがそこで深呼吸する。

心配事は多い、実はペドーは『5年前』というキーワードを聞いて少し気になることが有ったのだ。

今日、本当は5時に起きたのは昨日の夜、神無月に見せられたビデオの映像が気になり眠れなかったからだった。

 

「大丈夫だ、俺が、全部ちゃんと――」

 

ドぉおおおおん!!

 

突如として、爆音と振動が伝わる!!

そして一拍遅れて、悲鳴が広がる!!

 

「まさか――!!」

嫌な予感がしてペドーが走り出した。

 

 

 

 

 

AST詰所にて――

 

「なに!?一体どうして、アレが稼働してるの!?」

 

「隊長大変です!!緊急デバイスに反応があります!!」

隊員の言葉に、日下部が目を丸くする。

不安なのは、折紙の事。あの子はだれよりも復讐に燃えていた。

いや、憑りつかれていた。と表現すべきだろう。

 

「折紙――早まるんじゃ――」

 

「ッ!この反応!!折紙さんは、この基地内に居ます」

 

「はぁ!?じゃ、誰がアレを動かして――」

叫ぶような隊長の言葉が広がると、備品の影から折紙が姿を見せに来た。

頭にはたんこぶが出来ており、誰かに殴られた様だった。

 

「折紙!!一体何が――」

 

「復讐を考えるのは……私だけじゃなかった……スズモトが――」

そう言って、折紙が再び意識を失った。

 

 

 

 

 

「ひゃは!復讐だけを糧に今日まで生きてきたぜ!!だけど、その日々ももう終わる!!ひゃは!!ヒャッハー!!

もう、要らないんだ。俺の命は、奴らを壊す為に使う!!」

復讐に憑りつかれたのは折紙だけではなかった。

この男も、また復讐に捕らわれた囚人だった。

狂気を纏った武器が、今、琴理たちに振るわれる!!




ヒャッハーさん暴走開始!!


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殺意ある翼

実は、最近まで買うタイミングを逃して読んでいなかった作品、「デート・ア・バレット」読んでみたら、個人的にすごく好みの子がいた。

どうしよう、こっちにも出せないかな?
けど、あんまり大きく原作からはなれるのもな~と思う作者です。


熱い、体が熱い……

スズモト・ユウキは日常は会社勤めの商社マンである。

その精神はまじめで堅実、同僚とたまに酒を嗜み上司の理不尽な指示に対しての憤りを同僚とこぼし合う。

一人の時は、健康に悪いがたばこに手を伸ばす。

ASTに入っている以外なんのおかしなところの無い普通の男――――だった。そう、ついさっきまでは。

 

ASTの隊員のしてのスズモトには同じく同僚がいる。

その中の一人、折紙を特に気にかけていた。

なんというか、似ているのだ。目が自分に。

 

スズモトは過去に空間震で母親を亡くしている。

その後しばらくは、ひどく荒んだ生活をしていた。

 

気に入らないことが有れば、すぐに暴力に出た。

喧嘩をして、相手を殴るときだけが心の中のモヤモヤを忘れることが出来た。

酒にも、たばこにも逃げることが出来ない未成年の彼にできた唯一の逃避が喧嘩だった。

 

折紙もそのころの自分に似た目をしている。

彼女は聡明だ、自分の様に喧嘩に逃げたのではなく、復讐を選んだのだろう。

 

いまでも思い出す、母と恋人の事。

もう何年も前の事になるのに、未だにあの二人が死んだことを受け入れることが出来ない。

なんで死んだ?不幸な事故?違う。精霊だ。精霊が自分を愛してくれた者達を奪ったのだ。

そして今、自分と同じ方向へと向かっている。

 

復讐だ。バカなと多くの者は思うだろう。

無くなった人は喜ばないとも、忘れろとも。

だができない、出来る訳がないのだ。

復讐は自分がケリをつけるために、そして忘れて穏やかに生きることは自分が許しはしないと!!

 

数日前、折紙が過去の精霊出現データを見ているのを偶然しった。

別におかしい事ではない、傾向と対策。それを練ることで精霊に対する戦闘の質を向上させることが出来るからだ。

 

だが、折紙は映像を見て小さくつぶやいた「イツカ コトリ」と。

そしてそれに対してひどくショックを受けた顔を珍しくしていた。

この瞬間、スズモトの中に何かが動き出した。

 

過去のデータ、恋人が死んだ時期に一致する精霊。

そして、前回発見された精霊(ナイトメア)が、人間に擬態するという事実。

嫌な予感を抑え、スズモトは折紙の見ていたデータと、不意に漏らした「イツカ コトリ」を調べた。

そして見つけてしまったのだ。

 

彼女のクラスメイトの妹が、精霊だという事を――

 

 

 

 

 

「ACCESS――第1~8リアクターブースト」

 

『OK』

 

「GGGG……Gaia―guard―glory―gospel!!

臨界駆動だぁ!!ひゃは!!加減はいらねーゼ!!!

全部!全部!!全部!!!ぶっ壊しちまえ!!」

Gaia―guard―glory―gospel……通称4Gシステム。

意訳すれば「大地守る栄光の福音」

聞くだけなら、なんともないネーミングだが、装備内容を聞くと皮肉にしか聞こえなくなる。

DEM社が以前ホワイトリコリスより前に、設計段階でのみ製作した所謂プロトタイプだ。

時期でいうと、狭域殲滅兵装Mi―zi―giと同時期開発された装備で、あちらが罠を仕掛けその範囲に入った敵を確実に殲滅するなら、こちらは圧倒的なまでの火力を使用し続け正面から突破するという物である。

言い方は非常にシンプルだが、絶対的な精霊を殲滅するための装備である為その装備は肥大化し、複雑化し、異質化している。

要約すると、人間には使えない装備だ。

 

だが、ある学者はこう考えた。

 

「人に、武器を持たせるから弱いのだ。半自動で動く殲滅兵器に人間の脳の柔軟性を持たせれば良い」

 

精霊を殺す。その一点を狂気的に勤め上げた結果、4Gシステムは『人間の脳を自身のパーツとして使い潰す』人間の為ではなく、兵器の為に人間を搭載する武装となった。

風の噂では計六機作られ、内一基は性能実験で暴走を起こし破壊され。

内一基は使用途中に使用者が死に、使用者不在のまま動いたという曰くが付き、不気味がられ処分。

内三基は当時戦力が不足していた部隊に所属され、武器をはぎ取られて戦力の一部にされた。

そして最後の一基は行方不明らしい。

 

スズモトはの持つ機体は、そのうちの3基がたどった道の一つだ。

兵器庫に、ほぼすべての装備がはぎ取られ置かれていたのを拝借してきた。

勿論、その際基地に有ったほかの武器をありったけ積んでくるのも忘れていない。

折紙を気絶させ、女性隊員の持つ頭脳へのダメージを軽減する装備を使っている。

 

「ヒャハァ!!これは……つれーぜ!!」

スラスターを噴出して、目的地へと飛んでいく。

通常なら、ステルスを掛けるのだがそんな余裕は今のスズモトには無い。

今、この一瞬にも削られていく自分の命を糧にして、自らの仇を討たんと跳躍する。

 

 

 

「ひゃは……この日を……この日だけを待っていたぜ精霊さんよォ!!!」

プールサイドで、まるで自分が何をしたか覚えていないような、のほほんとした顔をした自らの仇――イフリート。

 

「挨拶変わりだぁ!!」

両肩後ろのミサイルポットから大量のミサイルを、プールサイドの赤髪の少女へ発射する。

 

もう、後には引けない。

スズモトは自身が死に向かっている事を実感しながら、乾いた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「琴理ぃ!!みんな、無事か!?」

少し離れた所にいた、ペドーが走って爆発音のした方へと走る。

そこはコンクリの床が抉れ、黒煙が舞いさっきまでの平和な部分はまるっきり消失してしまっていた。

 

 

『シン、黒煙に紛れて十香、四糸乃、くるみの3人は回収した。

とっさに、琴理が教えてくれたんだ。自らを囮にしてね……』

インカムから、令音の声が響いてくる。

どうやら小さな司令官様は、自分を犠牲にしてまで精霊を守った様だ。

 

「私は此処よ!!どうしたの!!」

建物の影から、琴理の声が聞こえる。

未だに自分を囮にしているのだ。

 

「ひゃははははは!!killtime!!」

ペドーの目に入ってきたのは、怪物だった。

なんといえば正確に表現できるのだろうか?

一人の人間の両肩に、横長の大型コンテナを左右に鳥の羽の様につけ、カヌーの様なボードに下半身を埋め込み、そのカヌーの下から空中に浮かぶ鉛筆を左右6本ずつ浮かべ、コンテナのしたからそれぞれ3本の剣を鳥類の爪の様につけ、カヌーの後ろが棍棒を接続長いワイヤーに成っている。

 

「ひゃはぁ……こんなかわいこちゃんが……俺の家族の仇かぁ!!

もっと下種な男なら、良かったのによォ!!」

ASTの男の最期の迷いを消すかのように、サメか肉食恐竜を思わせるマスクが顔を覆う。

 

「おい!?何やって――――ゴブ!?」

 

「邪魔だぁ!!」

カヌーの先端、ワイヤー付き棍棒がペドーの腹にぶち当たりプールの方まで投げ飛ばした!!水切りの様に水面を4、5回跳ねて、レーンを分けるコーンに引っかかって沈んだ。

 

「ペドーぉ!!」

その一撃は、さんざんペドーによって精神が不安定となっていた琴理の封印を解くのに十分だった。

そう、十分すぎたのだ。

 

「あんた何やってんのよォ!!」

琴理に霊装が出現した。着物の様な鬼の様な和服。

 

「てめぇを殺しに来たぜぜぜぜぜぜ!!」

 

「やってみなさいよ!!」

ミサイルが、空に向けて放たれた。

その攻撃は、ランダムに加速、減速、右折、左折、直進を繰り返し完全にタイミングの読めない攻撃と化す。

上を向いてミサイルを『見て』なら回避は余裕だ。

だが、その場合目の前の機械の悪魔に無防備なのどぼとけをさ晒すことに成る。

それを見越したかの様に、スズモトがコンテナ下のブレードを琴理に伸ばす!!

このブレード付きアームは、ブレードによる切断とアームのよる握りつぶしを目的にした多目的ウェポン!!

 

だが、琴理には余裕だ。

 

「焦がせ!!カマエル!!」

炎を纏った様な棍棒を同じく振り回し、ミサイルを空中で誘爆させる!!

そして振り下ろすと同時に、スズモトにたたきつける!!

 

「そうするしかねぇよな!!ひゃ!!」

左右のアーム、それを使ってカマエルをキャッチする!!

両方のアームから警告音が鳴るが、そんなこと今のスズモトには関係ない。

相手の武器を取ったのだ、その事実に一瞬のスキが出来る。

此方もワイヤー付き棍棒を伸ばし、精霊の胴体に巻き付ける!!

 

「な――」

 

「プールだったのは、予想外の幸運だぜ!!」

琴理を巻いたワイヤーはそのまま地面の琴理をたたきつけ、その反動で180度回転する。

そしてワイヤーに巻き付かれた琴理をプールに沈める!!

炎の精霊だ、水中では少しでも能力は下がる筈だ。

 

「ひゃは!?熱源!?」

ワイヤーの先端、そこが熱を感知する。

なるほど、蒸発か。炎は水で消せる、だが、その炎の温度があまりに高い時はその当たり前は覆される。

プールの一部が、ぼこぼこと泡を立てる。

 

「だが――」

ミサイルを再び上空へ、今度はぶつける為ではない!!

屋内プールの天井、それを破壊し無数の塊を精霊の居る場所へ落とす!!

水中では威力の落ちるミサイル。スズモトは質量で押し切ることを選択した。

 

「そこだぁ!!」

そして、マスクを後ろのカヌー部分を合体させ、高出力レーザーで打ち抜く!!

その刹那!!

 

横から飛んで来たレーザーが、右コンテナを打ち抜く!!

 

「がぁああああ!!なんだ!?一体!?」

スズモトの視界の先、折紙がホワイトリコリスを装備してスラスターを展開していた。

 

「やめて……それ以上は危険、今すぐ離脱を――」

頭痛に必死に耐え、折紙がホワイトリコリスを纏い飛ぶ!!

 

「じゃまするな……俺の、俺の命はこうやって『使う』んだ!!」

 

「させない、あなたは、ここでは死んではいけない人!!」

4Gとホワイトリコリスが、プールサイドで絡み合う!!

 

 

 

 

 

 




不幸な子ほど幸せにしたくなりますよね。
不幸なBBA?いや、まぁ、大人だし頑張れるよね?


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差し出す手

さて、今回で4巻分は終わりです。
次回より、5巻の内容ですね。

あの2人組が?


ザブン!!

 

堕ちる、水の中へ。

腹のワイヤーが締まり自分を絞め殺そうとする。

 

「あ、ああ……」

熱を持ったからだと対照的に、怖気がするほど腹に巻き付いたワイヤーが冷たい。

温度が低い訳ではない。

そう、この冷たさは殺意だ。敵意だ、憎悪だ、怒りだ、狂気だ。

琴理は生まれて初めて、ここまで明確な不の感情を受け取った。

それは到底、中学生の女の子に耐えられる物である筈がなく……

 

無意識に、兄のくれたリボンに手を伸ばすが――

 

「な、ない!!」

ハッとして周囲を見回すと、離れた所にリボンが有った。

水の飲まれた瞬間、自身の頭のリボンがほどけて流れていったのだろう。

 

「待って――待って!!」

自らの元にリボンが無い――たった、それだけの事実に琴理は急速に自分が過去の自分へと戻っていくのを感じた。

そう、泣き虫で弱虫で、士道が居ないと何もできない自分へと。

 

「やだ、やだよぉ!おねがい!!戻って、戻って来て!!」

動けない事など忘れ、必死になって届くはずもないリボンへと手を伸ばす。

無駄と分かっていても、悪あがきする様に自身の熱でワイヤーを引きちぎろうと暴れる!!

 

ガゴ!!ボゴッ!!

 

水中、そこへ無数の瓦礫が落ちてくる。

瓦礫のせいで視界から、リボンが消失する。

 

「やだ!やだ!やだぁ!!!」

口から酸素が抜ける事を全く考慮せず、バタバタと手足をまるで駄々っ子の様にバタつかせる。

 

 

 

 

 

「ヒャハ!!折紙ぃ!!じゃあすんじゃねーゼ?いま、俺の家族の仇をうってるところだぁ……

お前は、家でおとなしくしてな!!」

 

「嫌。私は、あなたを止める為にここに居るから」

 

「なんででででで、だぁ!?俺が精霊だ!!俺が倒すにをじゃまするな!!」

口の端から、泡を吹くスズモト。

会話もすこしづつおかしくなっている。

4Gの性能が、脳に過剰な負荷をかけているのは明白だった。

 

止めなくては――早く――

 

「はぁ!!」

 

「邪魔魔ままま!!!」

ホワイトリコリスのブレードと、4Gのブレードがお互いに火花を飛ばす!!

 

「んん!!」

コンテナの一部を、相手の頭上からたたきつける!!

武装は、ほぼ同じか4Gの方が多少上だ。

ジリ貧に成って、お互いの脳の負荷をかけ続ければ死人が2人になるだけだ。

此処はいかに早く、相手を行動不能にするかがカギだ。

 

「3、いや、2分で決める!!」

折紙が、全スラスターを点火して思い切りスズモトに体当たりした!!!

 

 

 

 

 

「あ……ああ……」

プールの奥、ワイヤーに締め付けられ瓦礫に潰されても尚琴理は生きていた。

だが、精霊の体とて酸素を必要としない訳ではない。

少しづつ、苦しくなってきた。

 

不意に、過去の士道の姿が蘇ってくる。

 

(あ、コレが噂の走馬燈……私も、もう終わり……ね)

そんな琴理の脳裏に不意に蘇る、姿が有った。

 

「!?」

全身にノイズが走る、存在。

男か女か、人間か精霊かはおろか真実か幻かさえも分からない。

 

【ふぅん、おとうさんおかあさん、お兄ちゃんもいないんだ。誕生日なのに寂しいね】

それは、琴理に話しかける。

 

(なに、この記憶……)

そして、ソレは赤い結晶を持ち出した。

宝石の様に紅く、美しく輝ている。

 

【もし、強くなりたいのなら、これにふれると良い。

そうすれば君はだれよりも強くなれる。強くなった君をお兄ちゃんもきっと君をすきになってくれるよ?】

 

(だめ、だめぇ!!)

琴理はこの後、どうなるか知っている。

無駄と分かっていたとしても、思わずそう叫ばずにはいられなかった。

 

暴れる、炎が町を思い出をすべて燃やしつくような炎で何もかもを燃やし尽くす!!

 

(あぁああああああああああ!!!!)

琴理は必死になって、記憶の中の自分を止めようとするが――

 

(あ……)

自らの記憶の中、見てしまった。

自らの炎で、自らのもっとと大切な兄を――

 

「い、いやだ……ペドー……」

水中の中、誰も聞こえないハズの声が消えて――

 

「ボゴ!がばおぼぼ?」

突如目の前の、ペドーが現れる。

記憶の中でも、幻でもない。本物が今琴理の目の前に。

 

「!?」

琴理は目を見開いた。

此処は水中だ、それもさっき自分が散々力を使いまくった場所。

周囲の水は熱湯と呼んでも差し支えない温度のハズだ。

 

だが、そんな状況の中ペドーが笑いゆっくり口を動かす。

 

た す け に き た ぞ 

 

お れ の い も う と を

 

差し出す手には、さっき流れた黒いリボン。

 

そう、あの日と同じ――!!

琴理の絶望の記憶の中で最愛の兄がくれた強さの証!!

 

黒いリボンを手に、琴理の頭に手を伸ばし、そっと唇を合わせる。

その瞬間、琴理の体から暖かいモノが流れる込む。

 

 

 

 

 

「ヒャハ!!ブチコロ!!」

スズモトが、左右3本、計6本のブレードで折紙のホワイトリコリスを捕まえる!!

ミシミシと嫌な音がして、折紙モニターに複数のアラームが鳴り響く!!

 

「おまえ、を、たおした……ら!!、せせせ精れいの番だ!!」

 

「オールウエポンパージ!!」

数舜の逡巡の後、折紙が息を飲む。

折紙がホワイリコリスを自爆させた!!

 

「ヒャハ!?何――」

超至近距離の爆発に、スズモトが一瞬だけ萎縮する。

 

そして――

 

「はぁ!!!」

すべての武器を捨てた折紙が両手に、小型のレーザーブレードを構えスズモトにとびかかる!!

そして、相手の首と腋に突き立てる!!!

 

「ぐぅ!?こ、この戦法は――」

スズモトはこの戦い方に覚えが有った。

 

「そう、あなたが崇宮 真那との訓練で見せた戦いかた。

あなたが教えてくれた、男の意地」

 

「くっそ……こんなことばっかりおぼえやが……て」

血を吐き、スズモトが悔しそうに笑った。

 

「テリトリーを展開して。普通なら致命傷でもウィザードなら応急処置できるはず」

折紙の言う通り、首も腋も大量出血間違いなしの場所だが、テリトリー内ならなんとかなる。

だが、それはぎりぎりでなんとか4Gを使っているスズモトには大きすぎる負荷で……

 

「自分を殺すか、精霊を殺すか選べってか……?」

スズモトの問に、折紙が頷く。

 

「……へッ、やめだ。やめ!!俺が死んだらお前が殺人犯に成っちまうからな……

俺の家族の仇、頼むわ……」

スズモトがわらい、4Gを破棄した。

 

「あなたは聡明なウィザード」

 

「ヒャハ!聡明な奴は、こんなことしねーよ!!」

破棄されてもなおも、勝手に動こうとする4Gにスズモトが銃でねらいをつける。

 

「もう、いい。もういいんだ」

 

パァン!!!

 

未練を断ち切る様に、4Gが動かなくなった。

 

「ちょっと、寝るわ……」

脳を酷使し続けた代償か、スズモトが倒れてそのまま動かなくなった。

 

 

 

 

 

「ぷはぁ……」

一体いつからいたのか、プールの中からペドーが琴理を連れて出てくる。

 

「あ!琴理を気絶させれば人工呼吸できたのに!!

しまった……

琴理、もう一回溺れない?」

 

「溺れてないし!!」

何時もの兄妹の様子がそこにあった。

 

「イフリート……!」

痛む頭を押さえ、折紙が琴理にブレードを向ける。

 

「人違いだ、イフリートは……俺だ」

ペドーが、折紙のブレードを握り手に傷を作る。

折紙の目の前で、その傷を炎が舐める様にはい回りペドーの怪我を全快させる。

 

「な、なぜ!?」

 

「悪い、折紙。今は詳しく言えない。けど、いつか絶対言うからな」

そういって、ペドーは琴理を連れて帰っていく。

最後に後ろから琴理の尻に手を伸ばし殴られた。

 

追いたかったが、折紙も脳の負荷が限界だ。

そのまま倒れる様に眠った。

 

 

 

 

数日後

「ふぅ、四糸乃とくるみと琴理の水着でしばらくオカズは大丈夫だな!!」

無駄にいい笑顔で、無駄に気持ち悪い事を言うペドー。

 

「ペドー、さんオカズって……なんですか?」

 

「おお?知りたい?しりたいん?」

おずおずと聞いてきた四糸乃の楽しそうに近づくペドー。

 

「やめなさいよ!」

琴理のけん制が飛び、ペドーが退散する。

 

「はぁ、もう……大変な時に」

カタカタと琴理がパソコンを叩く。

 

「ん?AV?」

 

「違うわよ!!レポートよ!!レポート!!

5年前に現れた、謎の存在。私を精霊にしてくれたアイツをまた記録を消されないうちに――」

 

「あー!!半裸で抱き着いてくれたんだよな!!

水着とか目じゃないわ!!脱ぎ掛けっすよ!!脱ぎ掛け!!

あー、思い……出した!!綴る!!幼女の纏いし、絹の感触よ、薫風に混ざりし幼気な芳香よ、臓腑に満ちて目で覚えよ、耳で覚えよ、感触で――」

 

「どこの詠唱よ!!邪魔よ!!じゃま!!」

怒り狂い、ペドーを部屋から追い出す琴理。

 

「なんだよ、ちぇー」

すねて、フラクシナス艦内を歩いていく。

 

「やぁシン。お疲れ」

令音が通りかかり、手を振る。

 

「あ、令音さん」

 

「今回は大変だったね。しかし上手くやってくれた君の力には驚嘆するばかりだよ」

 

「はは、ありがとうございます。

所で令音さん。()()()()()()()()()()()()しました?」

ペドーの言葉に、令音が止まる。

 

「何を言っているんだ?」

 

「いやぁ、実は神無月さんにその時の映像を見せてもらって、令音さんっポイ人が映っていたんですよ」

 

「馬鹿な、それはただのノイズの塊だよ」

 

「あれぇ?なんで、ノイズの塊って知ってるんです?

神無月さんですら、俺が指摘して初めて気が付いたのに――

なぜ、令音さんは『ノイズの塊』だと?」

 

「……ペドー君、君にはロリロリな女の子とイチャイチャできるゲームを10本やろう。

勿論18禁番だ。それと画面がクリアなパソコンと、音声がリアルになるヘッドフォンもつけよう。

その代わり、この話は忘れるんだ」

 

「俺がそんな条件で動くとも?」

 

「じゃ、20本」

令音が指を2本立てた。

 

「もう忘れましたーン!!」

 

「交渉成立だね」

ペドーが上機嫌で、その場を後にした。

 

「やれやれ、彼は有能だが……いろいろと問題がありすぎるな」

困った様に令音がため息をつく。




次回のデート・ア・ペドーは!?

「修学旅行来たー!!」

「すさまじいスピードのサイクロン!?」

「な、あの人がDEM社の、社長……?」

「二人で、一人の精霊?」

次回『邂逅のS/精霊は二人で一人』

コレで決まりだ!!


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八舞ストレンジャーズ
邂逅のS/精霊は二人で一人


さて、今回から新しい部に成ります。
すこしずつ原作から離れていくかもしれません。


「それでは処分を言い渡す――」

暗い部屋の中、ASTの重鎮たちが折紙を見る。

話題は先日のホワイトリコリスの無断使用の件だ。

 

「鳶一折紙一曹を懲戒処分とする――リアライザには今後触ることは無いと思いたまえ……」

議長が重々しい口調で、告げる。

その言葉に折紙は一瞬息を飲むが――

 

「待ってくださいよ!!確かに折紙はホワイトリコリスを無断使用しました。

けど、それは特殊隊員のスズモト氏を救うために……」

傍らに従事する、日下部 遼子が今ここに居ない『彼』の事を想いながら口にする。

 

「それで?スズモト氏の暴走もそちら、または個人の責任だ。

それを止めたのは立派だが、ほかの手段が有ったのかね?」

 

「な!?それには異論があります!!

もともと4Gシステムを止めるのには、隊員がいくらいても足りません!!

ただでさえ、人数不足のウチにそんな装備を止めるにはホワイトリコリスしか――」

 

「口を慎みたまえ。

いかなる理由が有ろうと、この事態は看過できん。

スズモト、折紙両名を懲戒することは――」

 

ガチャ――

 

その時、扉が開き長身の男が入ってきた。

技官たちは、その男の顔を見た瞬間口を噤んだ。

 

「サー・ウェスコット……」

漆黒のスーツに、アッシュブロンドの髪。

ナイフの傷跡の様に目は鋭く、30代だというのに老獪な得体の知れなさが有る男だった。

 

「やぁ、諸君。お取込み中だったかな?」

フランクな口調で話すこの男こそがリアライザを製作した会社の事実上のトップ。

その名も、サー・アイザック・レイ・ぺラム・ウェスコット。

 

「ホワイトリコリスをプレゼントしたというのに、マナはダウンしてしまっているようだね……

さて、風の噂で聞いたんだが……

マナ以外で、ホワイトリコリスと4Gを動かしたモノがいるようだね?」

ウェスコットの言葉に、そこにいる全員が息を飲む。

当たり前だが、どちらも秘匿技術の為、出向社員でない者が使用したというのかかなり不味い状況ではあるのだ。

 

「スズモト氏と……そちらのお嬢さんか」

ウェスコットの視線を受けた折紙にゾクリと嫌な悪寒が走った。

 

「両名とも、すぐさま処分を下すことに成っています。

具体的には記憶処分ですかな」

 

その言葉を聞き、ウェスコットは大仰な動きで頭に手を当てた。

 

「なんですって?『アレ』を使えるウィザードを二人も処分?

リコリスは、まだ調整が不完全なので詳しくは言えませんが――

4Gに関しては、私の知る限りまともに動かした人間は2人もいないというのに?」

 

「ええ、規律は規律ですので」

 

「ほう?()()()()()()()()()()?」

ウェスコットの瞳が細く狭まった気がした。

その視線にそこにいた者達が、一斉に息を飲む。

 

ASTをはじめ各国の主要施設には、すでにDEMのリアライザが配備されている。

コレが何かの形で、供給され無くなれば――

そう、遠回しだがこれは脅迫だ。

 

『自分の機嫌を損ねるとどうなるか、わかるだろう?』

ウェスコットはそう言いたいのだ。

 

「……なめるなよ……民間企業!!」

一瞬のためらいの後、議長が絞り出す様に言った。

軍は決して屈しない!!そんな鋼の意思の表れだった!!

 

「ふふふ……そうか……ここまで言ってもダメか……

なら、ソレなら仕方ない……」

くくくと、笑ってウェスコットが後ろに連れていた秘書に目くばせした。

 

「…………」コクン

秘書は小さく頷いた。

 

「ふぇ……ふぇ……ふぇぇえぇぇぇぇぇ!!!」

突然のウェスコットの鳴き声に、そこにいた全員が戦慄した!!

 

「やだやだぁ!!僕のいう事聞いてくれなきゃ嫌だい!!」

引き裂く様に、上着を脱ぎ棄てる!!

その下に有ったシャツにはデカデカと『バブみ!!』の文字!!

 

「エレンママ~!!みんなが僕のいう事きいてくれいなよ~!!

僕えらいのに~!!うわぁああああああんんん!!」

 

「はいはい~。うぇすちゃまは、いっぱい頑張ってますよ~

ママはちゃんとわかってますからね~」

そういって、エレンママと呼ばれた秘書が優しくウェスコットの頭を撫でる。

 

「これがDEM社の社長……」

全員が目の前で起きる異様な光景(赤ちゃんプレイ)に息を飲む。

正直な話、一刻も早くこの異物を除去したいのだが、相手は権力のある人間。

無下に扱ってどうなるかは分からなかった。

 

「うぇすちゃま~?ママに良い考えが有りますよ~」

 

「ウッ、ウッ……どうするの?エレンママ?」

こそこそとエレンママが、うぇすちゃまに耳打ちをする。

なんというか、いろいろとキツイ。

数秒後うぇすちゃまが、スマフォをエレンママに貸してもらい電話をし始めた。

 

「どうぞ、取ってください」

急に素面に戻ったウェスコットがスマフォを議長に渡した。

 

「?――はい、もしもし――!?佐伯官房長官!?

はい――はい――、ええ……しかし……

な!?処分を軽くしろと!?天下りの件も無しに!?

それは困ります――いえ、しかし――

はぁ!?ざっけんなよ!!ズラハゲ!!

おおッ!?ええ度胸しとるやないけ!!お偉方に尻尾振ってるだけのハゲのお前と違うんじゃボゲぇ!!

……いいですよ、そこまで言うなら!!

10年前の資料、私の所にありますよ?アナタはすっかり忘れた様ですけどね?

そう、そうです!!ABC計画です……

私がこの資料を公表して、アナタはまだその地位にいられますかね?

で?懲戒の件は?ええ、そうですか。では」

ウェスコットにスマフォを投げ返す。

周囲はさっきの言葉の応酬に気を取られ、気にしなかったが、携帯を落としたウェスコットの音で戻った。

 

「懲戒は変わりませんよ?()()()()()()?」

 

「うぐ……うえぇえええええええ!!!」

意趣返しを込めた言葉に、完全にウェスコットが泣き出す。

黙っていたエレンが、始めてウェスコット以外に口を開いた。

 

「議長。来週ザギンのキャバを貸し切りにしましょうか?

勿論奢りです、そして飲み放題です。

貸し切りという事は、ほかの男の目は無いという事で――」

 

「行くがな!!よし、折紙は謹慎2か月!スズモトはえーと、自主退社を願ってるから許可でー!閉廷!!解散!!」

大喜びで議長は、決定を覆した。

 

「…………」

大人の汚さ的な物を見まくった折紙は、結果として自分の都合がよくなったが釈然としない気分で帰っていった。

 

「君、なにかあったらここへ連絡をくれ。DEMは君への協力を惜しまないよ?」

ウェスコット(赤ちゃんプレイ野郎)が名刺をくれたが、折紙は何も考えない様にして帰っていった。

 

 

 

 

 

「さて、エレン。私たちがここに来たのは、もう一つある。

例の資料は?」

 

「はい、ここに」

ウェスコットの言葉にエレンが資料を見せる。

そこに有ったのは精霊〈プリンセス〉の情報と――

 

「高校生ね?」

制服に身を包んだ、夜刀神 十香だった。

 

「エレン。君の出番だ――世界最強ウィザードの力見せてくれるね?」

 

「はい、赤ちゃんプレイ野ろ――じゃなかった、ウェスコット」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。終わった……」

期末テストを終わらせたペドーが一息つく。

周囲を見るが、みんなどうやらお疲れの様だ。

 

「ペドー、出来たのか?」

十香が小さく耳打ちをしてくる。

 

「当然だ、追試なんて事に成ったら幼女との逢引の時間が無くなるからな!!

放課後の時間帯ってのは、学校が終わって遊んでる小学生と合法的に一緒に成れる時間だ!!

そんな大切な時間を勉強なんてしてられないよな!?

当然、赤点に成らない程度には勉強はしてるぜ!!

ちなみに、俺は将来――」

 

「はーい!みなさん!!まだ、帰っちゃダメですよー?

決めることが有るのでー」

ペドーが熱く語る中で、タマちゃん教諭(消費期限切れ)が手を叩く。

その音にクラスのみんなの視線が集まる。

 

「突然ですが――、修学旅行の行き先が変更になりました」

タマちゃん教諭の言葉に、クラスがざわめく。

それもそうだ。せっかくの旅行前それも一月もないハズのこのタイミングで急な変更だ。

おかしいと感じる生徒も多いハズだった。

 

「場所は或美島ですぅ。

他にもバードス島や、ヘルヘイムの森へハイキングというのも有ったんですが残念ですねー」

その言葉を聞いて、数人のクラスメイトが騒ぎ出す。

 

「ええ!?或美島って、確かその日――やっぱり!!

おい、みんな!!修学旅行の日程の日、倉科(クラナシ) 蒼空(ソラ)がロケするってよ!!」

 

「うっそー!?マジで!?超ファンなんですけど!!」

 

「けど、なんで或美島に?」

 

「なんか、5年前の同時多発空間震で記憶喪失のゲドーさんがたどり着いたのが、そこらしいぜ?」

 

「え?ゲドーさんって記憶喪失なの!?」

 

「知らないのかよ?荷物は『倉科 蒼空』あての封筒だけで、未だに自分の名前の思い出せないんだと、んでこの名前は仮に名乗ってるんだって」

 

「へ~」

思いがけない芸能人との、会えるかもしれない可能性に心を躍らせるクラスメイト。

一方ペドーは――

 

「修学旅行は2泊3日……その間幼女と触れ合いえない!?

くそ!!なんてことだ!!俺は、一体どうしたらいいんだ!!」

幼女分が不足することを考え、不安に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁッ!!」

 

「気合。ほっと!」

二人の少女が、水面に向かって石を投げる。

2度、3度と水面を石が渡り沈む。

 

「珂珂珂!!我が風の力をしかと焼き付けたか?」

 

「嘲笑。私の方が長く飛びました」

 

「なにぃ!?回数は私の方が多いじゃない!!」

 

「反論。ルールはよりすごい方です」

二人の見た目がそっくりな顔をした少女が喧嘩する。

しかし、場所がおかしい。

そこは海のど真ん中!!到底石切の出来る場所ではない!!

 

そして、二人とも()()()()()

 

「ち!仕方ないわね。この勝負、ドローよ。

次は――」

 

「提案。純粋にかけっこはどうでしょうか?」

 

「かまわんぞ!!我が最速であることを見せてやろう!!」

ほぼ同時に、二人の少女は空を走り出した。

 

巨大なサイクロンが起き、何処かへ走り去っていった。

二人は気が付かない。

 

自分たちの足元に、もう一人誰かがいたことを――

 

「う……ここは――」

激しい波と風の撃たれ、少女は海面を行ったり来たりする。

海の泡の様に、記憶が湧いては消えていく……

 

『後はえーと……殺した人数でも数える?』

 

『きっとボクは恋なんてしてるヒマがない国だったんだろうなぁ』

 

『今回は二人いたのね…………!?』

 

思い出すのは自分の言葉、そして最後に――

 

笑って(smile)!』

くすくす、くすくすくす、くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす――――――――。

自分を嘲笑う絶望の声。

 

 

 

「あ……ああ?」

無意識に浮かんでいた木材に捕まった。

その少女は、導かれる様にとある島へと流され始めた。

 

一瞬だけ、彼女の手に持っていた虫眼鏡が太陽の光を反射して光った。




次回のデート・ア・ペドーは!?

「精霊!?まさか、こんなところで?」

「まさかの、逆攻略!?」

「だいじょうぶー、こわくないよ~むふふふふふ……」

次回『邂逅のS/ペドーは彼女を我慢できない』

コレで決まりだ!!


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邂逅のS/ペドーは彼女を我慢できない

さて、更新です。
今回は前回で出たあの子が活躍します。



「修学旅行の行き先が変わった?」

フラクシナス艦内で、琴理が令音に話す。

 

「そうだ、本来泊まる予定だった旅館が地盤沈下でつぶれ、そこに偶々別の旅行会社の無料旅行チケットが学校に届いたらしい」

 

「……何よそれ、出来すぎでしょ?怪しいわね、その旅行会社調べて――」

 

「あるよ。親会社がDEMだった。どうする?」

令音の言葉に琴理が小さく舌打ちをする。

余りに出来すぎたタイミング、怪しくないといえば嘘になるが……

 

「ま、ほかの学生が多い中で手は出してこないでしょ。

念のため、フラクシナスは同行させましょうか」

 

「それが良いね、因みに旅行の日は『円卓会議()ラウンズ』と重なっているようだね」

 

「あー、そうなのよ。そこだけが心配……休んで行っちゃいましょうかね?」

 

「はぁ、君は――兄が心配なのはわかるが大切な会議だ。

そんな理由で休んではいけないよ?」

母親の様な令音の説得に、琴理がため息をつく。

 

「分かってるわよ。ちゃんとわかってる」

 

「……それならいい。まったく次から次へと問題が絶えなくて困るよ」

今度は令音がため息をついて見せた。

 

「ん?何か他に問題が有るの?」

 

「シンさ、修学旅行の間、『くるみや四糸乃に会えない』と言っていてね」

 

「はぁ?あのロリコンそこまで――」

頭に手を当て、やれやれと息を吐く。

 

「カバンに入れて持っていこうとしているんだよ」

 

ポチッ

 

令音が艦のボタンを押した瞬間画面が表示される。

 

『よぉ~し、まずはくるみだ。くすくす笑う幼女の笑いがないと生きていけないからな』

大きなリュックを前にして、くるみが顔を出している。

 

『ぺどーさんくるしいですわ……もうわんさいずおおきなかばんをよういしてくださらない?』

 

『リュックに入った幼女って見てると、拉致監禁の最中みたいで興奮するな!!』

くるみをカバンから出して、腕を組んで何かを考える。

 

『ペドー君!よしのんなら余裕で入るよ?』

よしのんが自分のパペットを外してカバンに入れる。

その言葉通り、かなり余裕がある。というかサイズ的にポケットに入れて持っていくことも可能なのだが……

 

「ああー、だめだぁ……幼女をカバンにしまえない!!」

 

「しまうんじゃないわよ!!」

フラクシナスから下りた琴理がうなだれるペドーの後頭部に蹴りを叩き込む!!!

 

「うう……なんだ、琴理か。

大丈夫だ。おまえもちゃんとカバンに――」

 

「入れなくていいわよ!!っていうか絶対空港で捕まるわ!!

二人とも、家に置いておきなさい!!」

琴理の言葉に、ペドーが絶望する!!

 

「そんな無茶な!!幼女は俺にとって必要な成分なんだよ?

魚は水の中でしか生きられない、鳥は空でしか生きられない、俺は幼女の隣でしか生きられないんだ!!!」

 

「なら死ね!!とっとと幼女不足で死ね!!」

言い切るペドー!!却下する琴理!!

波乱の準備が過ぎていく!!

 

 

 

 

 

7月17日修学旅行

飛行機内にて――

「見てペドー、雲がきれい」

 

「ぺ、ペドー!飛行機内の内装もきれいだぞ?」

折紙、十香の二人がペドーを挟むようににして、騒ぐ。

早朝出発という事もあり、ペドーが非常に眠いのだが両人に挟まれてなかなか眠れないのだ。

 

「うるせぇよ……」

行きの飛行機だというのに、すごく疲れるペドー。

そんな時は、むねポケットにこっそり持ってきた四糸乃の写真(ローアングルからの見下し)で心に潤いをもたらす。

そしてもう一枚、今度は唇を尖らせ拗ねたような顔をしたくるみの写真を取り出す。

そして――

 

「四糸乃さん!!くるみさん!!幼女の力!お借りします!!」

カッコよく写真を持ってポーズを決めたが――

 

「ッ!――敵襲だ!!」

突如十香がペドーをかばうようにして、覆いかぶさる。

その瞬間カシャっと音がしてフラッシュが炊かれる。

 

「あ?」

 

「あ、すいません。私がガイドのエレンメイザースです。

余りにもほほえましかったので、写真を撮ってしまいました」

北欧系のブロンド美人がカメラを手にして笑った。

さっきのは、この女のカメラだったようだ。

 

「おお、突如でびっくりしたではないか」

 

「うふふ、ごめんなさいね?けど滅多に見たことない位の仲良しさんだったので――」

 

「エレンママ」

 

「うぃ!?」

折紙がぼそりとその言葉を口にした瞬間、エレンが固まった。

まさか――と、エレンが勘繰るが――

 

「大変ですね」

折紙が非常に同情した視線を送ってきた。

その顔には何かを察してあえて深く突っ込でこなかった気使いが有った。

 

「え、ええ……」

なんだかいたたまれない気分になって、エレンがそこを後にした。

 

 

 

 

 

同時刻空港の見えるホテルにて――

 

「ふむ、なんだか天気が怪しいゲド。

まるで雲が見えない手でかき回されている様な……」

やせ型で長身の男が、ホテルの窓から遠くを目を細めて声を漏らす。

 

「雨……いや、もっと荒れるかもしれないゲドね。

はぁ、ムジカを連れ戻すべき……いや!

此処はあえてスルーゲド!!」

上質な黒いシャツをはためかせ、その男は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「やっべぇ……すっかりみんなとはぐれちまった……」

空港で可愛い幼女が、海辺で遊んでいたのを見つけたペドー。

そっちの方で幼女を見守っていた結果、すっかりみんなとはぐれてしまったのだ。

 

「令音さん、今は――」

 

『資料館だよ。早くこっちに来たまえ』

インカムをセットすると、令音が助け船を出してくれる。

いろんな意味でフラクシナス様様だ。

 

「ん?ペドー、空がおかしいぞ」

突如一緒に居た十香が空を指さす。

 

「な、んだコレ?」

その方向にペドーが目を向けるが、変化はすぐに分かった。

荒れているのだ。海が、空が、風がすべてがすさまじい勢いで荒れ狂っていくのだ!!!

 

「おいおいおい、天気予報じゃ晴れのハズだ――いや、ゲリラ豪雨ってレベルじゃないぞ。

ゲリラ嵐だな――うをッと!?」

目のまえを鉄のごみ箱が飛んできて、とっさにペドーが躱す。

 

「ぴぎゃぴ!?」

しかし後ろにいた十香の顔面にクリティカルヒットして十香が倒れた。

 

「うわぁ……痛そう……」

ゴミが顔に張り付いた十香をみてペドーが気の毒そうに話す。

その時ペドーの視界に、二人の人物が目に入った。

それは驚くべきことに、竜巻の中でぶつかり合いをしている様に見えた。

 

通常なら「あり得ない」と切り捨てるだろう。

そう、偶然ゴミが他の物の形に見えただけ、なんてありそうな理由を並べる。

だが、ペドーは知っている。

この世に、空を飛べる人型がいるのを知っている。

 

一つはASTのウィザード。

もう一つは――

 

「精霊……なのか?」

ペドーの目の前で、再び大きく人影がお互いを打ち付け合った。

 

「ん……ペドーここは――」

余りの風の衝撃に、十香が目を覚ました。

キョロキョロと辺りを見回す。

 

「十香、良かった。目が覚めたんだな」

ペドーが安心して、ため息を漏らす。

そして視界の端、こちらに向かってくるバケツを見て、十香を反射的に盾にした。

 

「ガードベント!!」

 

「む、何を――いぎゃ!?」

再び、十香の後頭部に吸い込まれる様にバケツがぶつかり、十香は意識を失った。

 

「……近くにいた、お前が悪い」

どこぞの悪役の様なセリフを言った後、ペドーがとあるものを発見して目を見開いた。

 

「あれは――!!」

 

 

 

「やるではないか。夕弦――さすが我が半身というだけある。

この我と25勝25敗49分けの実力はあるという訳か」

ペドーの目の前の竜巻の一つが、地面に降りてその中から少女が顔を出す。

オレンジの髪に、体に纏うのはマゾヒストが好むような拘束具。

気の強そうな瞳に、快活な印象を与える。

 

「反論。100戦目の覇者は耶倶矢ではなく、夕弦です」

此方は髪を三つ編みにした、少女で同じようなだが要所要所で違う拘束衣。

眠そうな顔が印象的だ。

 

「ふふふ、言いよるわ。だが我先読みの魔眼にて、其方の体が『颶風司りし漆黒の魔槍』に貫かれるのが見えておるわ!!」

 

「嘲笑。うわ、痛ってぇ」

 

「ば、馬鹿にするなー!!」

お互いが武器を持ち、ぶつかる瞬間――

 

「ハイ邪魔!!どいたどいた!!」

両人の間をペドーが走り抜けていった!!

 

「なに!?人間だと――?うわっぷ!?」

 

「驚愕。人間が我らの近くに来れるとは思えませ――が!?」

服を脱ぎ、精霊と思わしき少女にぶつける。

そして二人を無視してペドーが近くの荒れ狂う海に飛び込む!!

 

「一瞬だけど、確かにいた――確かに――見つけた!!」

ペドーが海面の漂う小さな手をつかみ、陸まで引き上げ始めた。

そう、突然の嵐だ。誰かが溺れていたとしても不思議ではない。

 

「はぁ――ハァ――……大丈夫か?」

 

「か……う…………」

ペドーが助けた子は、まだ幼い少女だった。

何処となくブラジル系を思わせる日に焼けた体。

口からは八重歯が覗き、ピンクのシャツとスパッツというラフな南国ファッションだ。

 

「まずいな。水を飲んだか――

だが!万が一の為に覚えておいてよかったぜ!!」

そう言うと躊躇なくペドーは目の前の幼女に自身の唇を押し当てた!!

先日琴理とプールに行く時、万が一億が一の可能性を考慮してペドーは人口呼吸を習得していた!!

 

「スー、はー、すーはー」

 

「ゲッホ!がっは――」

ペドーの尽力によって、その子が水を吐く。

呼吸を開始したので、もう大丈夫だろう。

 

「けど、念のためもう一度!!」

そして再びペドーが、その子に唇を付けた瞬間!!

件の子が目を覚ます!!

 

「!!?ンん~~~~~~!!」

そして、ペドーを思いっきり突き飛ばす!!

 

「ななな、なにしてるの!?いきなりボクに――ボ、ボクに!!

げ、ゲドーから聞いたぞ!お前ヘンタイだな!?ボクの始めてを奪ってどうする気だ!!」

唇を抑えつつ、その少女がペドーを責め立てる様に声を荒げる。

 

「いてて……唇八重歯で切ったか……

大丈夫。お兄さんは怪しい人じゃないよ?

君みたいな小さな女の子を見ると異様に興奮して、ムラムラハァハァしちゃうだけの普通のお兄さんだよ!!

だいじょうぶー、こわくないよ~むふふふふふ……」

やけにいい笑顔をして、ペドーがキメ顔をした。

唇から垂れる血をペロッと舐めて、不気味に笑う。

 

「や、やっぱりオマエ!ヘンタイだろー!?」

今まで見たことも無い人種に、少女――シェリ・ムジーカは久しぶりに声を荒げた。




今回、耶倶矢の名前を出すのに地味に苦労しました。
なかなか出てこない漢字ってつらいですね。
そして、個人的ドストライク幼女が出ました。
漢字ではなく、なるべくカタカナを使うとそれっぽくなります。多分!!

次回『Pが止まらない/奴の名は?』

コレで決まりだ!


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Pが止まらない/奴の名は?

少し、時間がかかりました。
さてと、あの子の名前が本格登場です。


「…………」

折紙が空港近くの資料館で、歯がゆげに外を見る。

今外は見たことも無い位の雨と風が吹きつけている。

チラリと、ほかの生徒たちに視線を向ける。

 

居ない――自身の愛するペドーが居ない。

 

少し前、空港を降りた時ペドーが波打ち際の幼女をひどく興奮した様子で視かn――もとい見守ていたのを知っている。

彼はいつも小さな女の子の事を第一に考える困っt――もとい素敵なお兄さんだ。

邪魔してはいけないと少し遠慮したのが運の尽き、雨と風に降られすっかりはぐれてしまった。

 

いけない。このままではいけない。

 

ペドーは十中八九あの幼女を助けているだろう。

ソコまでは良い。子供思いのナイスガイだ。

だが……

……

…………

………………

……………………

…………………………

「ハァハァ……雨に濡れて服がびしょびしょだねぇ……

風をひくといけないから、脱ぎ脱ぎしようねぇ……」

酷く興奮した様子で、幼女が濡れたペドーを壁際に追いつめる。

 

「い、いあやぁ……

服が無いとか風ひいちゃうよぉ……」

怯えるペドー、しかし女の子は容赦しない。

 

「ぐふ、ぐふふふ!!大丈夫だよ!!!

激しい、激しい運動をすればすぐに温かくなるよ?」

女の子の瞳に、怪しい光が宿る。

 

「いやぁ!!何するの!!」

ペドーを力ずくで、壁に押し付ける!!

この嵐だ、近くにペドーを助けてくれる人はいない!

 

「お兄ちゃん……おかーさんに言われなかったのかな?

怪しい幼女についていっちゃダメなんだよ?

お兄ちゃんみたいな素敵な、ロリコンは幼女に食べられちゃうんだよ!!」

 

「いやぁあああああん!!!」

…………………………

……………………

………………

…………

……

 

「いけない!!ペドーの貞操が幼女に!!」

肉食系幼女に襲われている可能性を考慮した折紙の血の気が引く!!

 

丁度周囲のメンバーが、雨が弱くなったことを伝えていたので、いてもたっても居られず資料館から飛び出した!!

 

 

 

「あ」

しかしそんな折紙の心配は杞憂に終わった。

目の前に居るのは――

 

「よう、折紙。どうした?トイレか?」

背中に胸部デブ(十香)を背負い、胸に

 

「放せ!!ボクをどうする気だ!?

ボクを攫ったって、ゲドーからは身代金は取れないぞ!!」

ペドー好みに日焼けした幼女。

ボクっ子口調で、健康的に日に焼け、ペドーの周囲に居ないタイプの元気な幼女だった。

ソコまではいい。胸部デブはほっておいて、抱いてる幼女は現地幼な妻だろう。

問題は――

 

「どうだペドー。夕弦などより我の方が魅力的であろ?

我を選んだのなら、我の体の好きな部分に契約の口付けをさせてやろう」

 

「罰ゲームじゃん」

 

「誘惑、夕弦を選んでください。いいことをしてあげます。もうすんごです。耶倶矢なんて目じゃあません」

 

「消えてくれると嬉しい」

 

華麗に誘惑する二人組をスルーしながらペドーが帰って来た。

 

 

 

 

 

時間は約10分前に戻る。

 

「どっか怪我はないか!?スパッツの中とか、胸とか大丈夫か!?」

 

「ヤメロ!!なにする気だ!?ヘンタイやろー!!」

歪んだ心配を見せるペドーと、突如現れたロリコンにシェリが必死に対抗する。

そんな二人の様子を見る精霊が二人――耶倶矢と夕弦だ。

 

「真の精霊・颶風の神子・八舞にはありとあらゆる力が必要だとは思わぬか?

むろん腕力や知力は勿論、神羅万象を魅了し虜にする美貌もな」

 

「要約。魅力で勝負しようと?」

 

「くくく、その通り。今までは第三者のない戦いばかりだったからな――

おい!お前、名は何という!!」

耶倶矢が、ペドーに話しかけるが――

 

「うわ、エッロ!シャツの袖の部分ちょっとめくると日焼けでの色の違いエッロ!!

ねぇ、ぺろぺろしていい?肌の色によって違いが無いかぺろぺろして確認しても良い!?」

完全無視!!完全にシェリの日焼け跡に夢中だ!!

 

「其方の名前を――」

 

 

 

「良い訳ないだろ!?た、助けて!!ボク、ヘンタイの慰み物にされちゃう!!」

 

「違う!!純粋な愛だよ。ピュアラブだよ!!」

後ずさりするシェリをペドーがジリジリと追いつめていく!!

 

 

 

「私、無視って人として最低だと思うんだけどな!?」

ペドーに縋りつき、耶倶矢が耳元で叫んだ。

芝居がかった口調はもはや消え失せている。

 

「あん?なんだよ……何か用か?」

めんどくさそうにペドーが耶倶矢の声にこたえる。

 

「お、お主の名前は――」

 

「幼女大好き、幼女丸です」

ペドーがサラッと、偽名をいう。

 

「ほう、幼女大好き――偽名じゃない!?

本名言いなさいよ!!本名!!」

当然、明らかのおかしい事に気が付いた耶倶矢が食って掛かる!!

 

「あー、五河 士道。これでいいか?」

 

「し、し?ぺ、ペドーか。くくく、貧弱な名前よの!」

再び戻った芝居がかった口調にペドーがキャラ作りって大変だなーと、一人思う。

 

「キサマを今から裁定役に任命する。

光栄に思うがいい」

 

「補足。二人の八舞のうちより美しい方を選ぶのです。

その選ばれた方が、今回の勝負の勝利者に――」

 

「年増に興味無し!!!よって両者敗北!!

んじゃーねー」

速攻で決着を決めたペドーが、シェリを抱きかかえ資料館へと向かっていく。

 

「ま、待ちなさいよ!!」

 

「制止。もっとしっかり、見て下さい。これでは到底納得できません」

 

二人は慌てて裁定役のペドーを追いかけた。

 

 

 

 

 

ざわざわ――ざわざわ――

資料館では、小さな騒ぎが起きていた。

 

居なくなったはずのペドーが3人の女の子を連れて戻ってきたのだ。

しかも、そのうち二人はペドーを誘惑しているという異常事態。

 

「オォオー!ペドー殿はモテモテですーな!

うらやましいでーす!」

マインがそういうが、いつも亜衣、麻衣、美衣を侍らせているお前が言うなと無言の視線が突き刺さった。

 

「ああ、待っていたよ。転入生の八舞の二人だね」

令音が眠たそうな顔をして、したり顔で周囲に説明する。

ペドーはこうなる事態をあらかじめ読んでおり、前もって令音にインカムを使って連絡と、八舞の二人に十香がしたように、制服を目視情報で作ってもらったのだ。

 

「ふぅ、前くるみに制服を着せてコスプレしたのが役に立ったぜ」

胸ポケットから、ぶかぶかの制服を着た初々しいくるみの写真をペドーが取り出す。

 

顔合わせはしないくせに、修学旅行に来る。この前狂三、さらには十香が転校してきたのに、再びこのクラスに配属など、明らかにおかしいトコロまみれなのだが、みんな割と簡単の受け入れていた。

ひょっとしたら気が付いていてあえて、気が付かないフリをしてるだけの可能性もあるが……

 

 

 

 

 

「助かりましたよ」

 

「いいや、かまわないさ」

資料館の奥の事務室。その中で、令音とペドーが話し合う。

気絶していた十香を介抱するという名目でここまで連れてきたのだ。

問題は――

 

「さぁ、ペドー我を選ぶがいい、この八舞耶倶矢に忠誠を誓い、身も心もささげて――」

 

「否定。ペドー私を選ぶべきです。耶倶矢のような残念ボディに興味はないハズです」

横からペドーにピッタリくっつく二人組の精霊。

 

「大変な事に成っているね……」

気の毒そうに令音が話す。

 

「いえ、ソレよりも……スパッツの感触がすげー……」

ペドーが目の前の、膝に置いたシェリのスパッツを撫でる。

 

「うひぃ!?触んな!!キモイ!!」

 

「萌の世界で、女子の運動着は基本ブルマだ。

スポコン物でも、ブルマが多いのは言うまでもない!!

しかし、俺はあえてこう言おう!!『これからはスパッツの時代だと!!』

分かるか!?ブルマの特異性は形が下着に近い『疑似下着』にあると思うんですよ!!

大胆の露出した太もも!!パンツとほぼ同じ部位しか隠せない隠密性!!

確かにブルマはレジェンド!しかし伝説は塗り替えるもの!!

スパッツの良さ!それは肌にぴっちりとくっつきラインを見せる『疑似全裸』に有る!!!ブルマとスパッツをそれぞれシルエットで見ると――

素晴らしい!!スパッツはまるで全裸じゃないか!?しかも上はそのままという非日常性!!下半身だけ露出するフェチズム!!そして、この手触り……

優しくなでても良いのよ?乱暴に破ってしまっても良いのよ?顔を押し付け高速でほおずりしても良い――」

 

「訳ないだろ!?無銘天使〈炎魔虚眼(セメクト)〉!!」

遂に耐えきれなくなった、シェリが虫眼鏡を取り出す。

そして、それに一瞬だけ光が収束し、発射される!!

 

ジュン!!

 

とっさにペドーが首を横にずらし、回避したが座っていたソファには10円玉大の穴が開いている。

 

「天使か?」

ひょっとしたら大変な事に成っていたかもしれないというのに、ペドーは涼しい顔をしてシェリから虫眼鏡を取り上げた。

 

「ほう、それは――」

 

「驚嘆。まさか、そんな物が此処で見れるとは」

八舞の二人が、驚いている。

どうやら、心当たりがあるようだ。

 

「知ってるのか?」

 

「くくく、無論よ。我らは全知全能の精霊、八舞であろるぞ?」

再び芝居がかった口調で、耶倶矢が話す。

 

「説明。これは無銘天使です。そしてこれを持っている彼女は『準精霊』精霊です」

夕弦の言葉に、全員その中でもシェリがひときわ大きく反応した。

 

「『準精霊』ってなんだ?精霊じゃない、のか?」

ペドーの言葉に、今度は耶倶矢が説明を始めた。

 

「こ奴らは、臨界と呼ばれる所に住む、我らに近きそして遠き者達よ。

我らは精霊、しかし我らほどの力も無い非力な、()()()()の存在よ。

此方の世界に出てくる方法があるとは、我とて知らんがな」

一言一言ごとに、シェリの体温が低くなっていく気がする。

活発な様子はすっかり消えて、今は無言で小さく震えるだけに成っている。

 

「まったく、運命の女神はよくわからぬことを好む」

 

「ある意味では、我々八舞も準精霊に近いのかもしれません」

 

「なに?」

今度は、八舞の方を向いてペドーが怪訝そうな顔をする。

 

「我ら、八舞は本来の姿は二人で一人の精霊。

しかしある時、顕現した時体が二つに分かれたのだ」

そういわれて、見るまでもなく二人はよく似ていた。

そうだ。双子ではなく、本来一人が二人に分かれたのだろう。

 

順当に2つに力が分かれても、あの嵐。

改めて、精霊が無茶苦茶な存在だと、ペドーは思いなおした。

 

「準精霊……か」

思いだしてみれば、くるみもそれに近いのかもしれない。

時崎 狂三の過去の虚像が形を持った存在。ある意味で精霊のから離れたカケラだ。

 

「さて――、話を戻すぞ?我ら八舞は、自らの運命を知っている。

我は二人はいつか――」

 

「ちょっと、ここからは立ち入り禁止――」

 

「知らんゲド!!!」

 

ドン――

 

突如扉をけ破る様に、一人の男が現れた。

やせ型で、長身墨の様な黒い服装だ。

 

「ゲドー!!」

 

「おー、シェリ。迎えにきてやったゲドよ~?

変な奴に襲われなかったゲド?」

 

「襲われたよ!!ロリコン超怖い!!」

ペドーの膝から飛び降り、ゲドーの胸に抱き着く。

 

「ゲドド!空気が悪くなったところで、さらばゲド!

忘れたころに、また来てやるゲドよ~」

ゲドーがシェリを抱きかかえそのまま何処かへ消えていった。

 

「なんで、毎回私の話は邪魔されるかな!?」

耶倶矢が怒りの言葉を漏らしながら立ち上がる。

 

「落ち着けって、どうせ、二人の精霊は一人に戻るから、二つに分かれた人格は片方は消滅するから、生き残る人格を勝負で決めているだけだろ?」

 

「なんで知ってるのよ!?」

 

「夕弦から聞いた」

 

「むっきー!!!なんなのよ!?なんで、みんな私を馬鹿にするのよ!!」

ストレスがたまりまくった、耶倶矢は自分の頭を掻きむしった!!




作者は半ズボン派です。

次回『Pが止まらない/精霊or準精霊』
コレで決まりだ!!


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Pが止まらない/精霊or準精霊

大変お待たせしました。
待っていてくださった読者の皆様、ありがとうございます。

人によっては、「逮捕されたか……」「ついに友人にバレて、社会から抹殺されたか……」なんて心配をした人もいるかもしれませんが、私は大丈夫です。



キュッ……キュ……

 

シャー……

 

とあるホテルの一等室。

シェリ・ムジーカがシャワーを浴びる。

 

「ふぅ……」

さっきまでの嵐、外にいたシェリは当然下着までびしょぬれだった。

温かい湯が、体で跳ね零れていく。

 

「……聞かれて、ないよね……」

シェリが不安げにつぶやいて、手を突き出す。

 

「〈炎魔虚目(セメクト)〉……」

その無銘天使は音もなく、シェリの手に現れた。

虫眼鏡型をした無銘天使はシェリの最強の武器、そして人ではない者の証。

この天使は、この世界に来る前の世界――『第10領域(マルクト)』を生き抜ぬ為の武器だった。

 

「……」

憂い気に自身の無銘天使を見る。

自身は、この道具で沢山のほかの準精霊を殺した。

 

分かるだろうか?この虫眼鏡のレーザーで火達磨にするのだ。

 

『いやぁあああああ!!』

 

「!?」

不意に悲鳴が聞こえた気がして、頭を両手で抑えつける!!

自分の殺した準精霊の声はまだ脳裏に焼き付いている。

自分が燃やした準精霊の肉の焦げる臭いが鼻の奥に残っている。

 

「はぁ……何をやってるんだか……」

自嘲気味にシェリが笑う。

 

何を否定することが有るのか?

他者の悲鳴?肉の焦げる臭い?大いに結構!!

 

第10領域(マルクト)』は戦いの世界。

飢えも疲れも無い世界のただ一つのルールはただ『戦って勝つ』事。

戦わなければ、消えるだけの世界。戦う事だけがシェリの生き残る唯一の方法だった。

そして、それはシェリの性格によく合ったルールだった。

それはこの世界でも変わらないハズだった。

 

「奪って逃げるだけでしょ……今回も……」

何が起きたのか、自分はこの世界にいた。

自分は人間よりは強い存在。力で支配する事は簡単なはずだ。

なんの積りか、自分を助けたあの男を殺し金を奪い、逃げるのは簡単だ。

 

この世界に精霊がたまに現れるのは、少し厄介だがおおむね問題はない。

どうせ、そう遭遇することは無いのだ。

あとはASTとか言うやつに気を付ければいい。

 

キュッ……キュ……

 

蛇口を閉めて、シェリが着替えてから部屋を歩く。

 

「ゲド?もういいのかゲド?」

パソコンで何かをしていた男が振り返った。

自分を拾ったこの男、特に何かをする訳でもない。

ただ、着替えを与え眠る所を与えた酔狂な男。

 

「うん、もう大丈夫……」

後ろ手に、シェリが〈炎魔虚目(セメクト)〉を構える。

 

「そうゲドか、風邪をひいたら大変だったゲドね」

そう言って、頭を撫でてくれる。

今がチャンスだ。〈炎魔虚目(セメクト)〉で――

 

「うん、ありがと……」

結局何もできず、隣を通り過ぎてしまう。

 

「……なんで……今更……」

やりきれないと言いたげな声で、シェリがベットに飛び込んだ。

この世界、この国は優しすぎた。

血を血で洗う、死と戦いと、絶望と悲鳴の中に身を浸しすぎたシェリには、あまりにも優しすぎたのだ。

 

 

 

 

 

時は過ぎ、時刻は18時50分。

旅館の中をペドーがだらりと歩いていた。

その表情は、ひどくけだるげだ。

せっかくの修学旅行だというのに、突然現れた精霊の勝負の審判役になってしまったのだ。

楽しい旅行の最中に、コレでは心労がたまるばかりである。

おまけにフラクシナスと連絡が取れず、現在頼りになるのは令音だけだという。

 

「はぁ……あのシェリって子を攻略したい……

というかスパッツの中に、顔突っ込みたい!!

寧ろあのスパッツをマスクにして一日中かぶっていたい!!」

事情を知らない人も、事情を知ってる人も速攻で通報しそうな独り言をつぶやきながら歩く。

なんの意味があるのか、なぜか女性下着が入ったクレーンゲームが有り、一部男子が熱心にそれを取ろうとしていた。

 

『手に入れるぞ!!俺たちの(パンツ)を!!』

 

『「「「「「「おー!!」」」」」」』

 

 

 

 

 

「はぁ……俺のクラス変態度高くないか……」

変態の筆頭ともいえるペドーが一人ため息をついた。

 

「んあ?」

ペドーの視界の中、二つのオレンジの髪が揺れていた。

間違いなく、あの年増精霊二人だろう。

というか、耶倶矢と目が有った。

 

「……かえるか」

ペドーが小さくそう呟いて、くるっと振り返って去っていこうと――

 

「なんで帰るのよ!?気が付いたわよね!!私と目が有ったわよね!!」

 

「追従。待ってください。なぜかえるのですか」

耶倶矢、さらには夕弦が走って追いかけてきた。

 

「めんどくさそうだからー」

 

「くくく……アレを見てもまだそう言えるかな?」

 

「提示。あれを見せられた男は我慢が出来なくなると言います」

二人の指さす方向。そこには『男』『女』と書かれた青赤2色の暖簾。

そして、夕弦の手にはタオルと着替えの浴衣が。

 

「温泉だったか?」

そういえば、旅館のパンフレットに天然露天温泉がどーのこーの掛かれていた気がする。

 

「なるほど、読めた。お約束のお風呂回というやつか……」

 

「何を言っておるのだ?(棒読み)」

 

「呆然。たまにペドーはよくわからないことを言います(視線そらし)」

二人して、口笛を吹いて誤魔化す。

恐らく、暖簾を入れ替えて一緒に入る等の策略を考えたのだろう。

 

「ふーん?ちょっと前、こっちに来た時と暖簾の位置が逆だな?」

確証を得ないペドーがカマをかけてみることにした。

 

「ぎくぅ!?」

 

「驚愕。そんなことはありません」

二人が激しく反応して見せる。

その態度で応えは十分見えた。

ペドーがため息をついて、そこから立ち去ろうとするが――

 

「あれは!?」

視界の端、ペドーが有る者を見つけクワッと目を見開く!!

 

「ふふふ、そうか……そういう事か!その案、ノッてやるぜ!!」

夕弦の持つ浴衣とタオルを受け取りペドーが風呂場に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

「ふぅ~……景色がいいな~」

シェリが露天風呂に入って、足を伸ばす。

ゲドーがサプライズをすると言って、近くの旅館に突撃することにしたらしい。

シェリもその連れとして連れてこられた。

だが、仕事は無いので許可をもらい風呂に入れてもらえることに成った。

本来まだ風呂に早い時間だ。自分以外の使用者は居ない。

 

「ゲドーのヤツ、ボクを心配しすぎなんだよねー。

ちょっと雨に濡れたくらいでシャワーを浴びさせたり、潮風に当たっただけでワザワザ風呂を貸し切ったり……」

そう言って少々下品だが、浴場の中で泳ぎ始めるシェリ。

少し熱い位のお湯が心地よい。なるほど、シャワーを浴びる以上に良いものがある。

 

がらら……

 

その時シェリの後ろで、扉が開く音がした。

貸し切りと言っていたが、我慢できずに入ってきた人が居るのだろか?

シェリがそちらに目を向けると――

 

「やぁ!確かシェリちゃんだったっけ?意外なトコで会うよね!」

 

「うわぁあああ!!??!?なんで、ここにお前が居るんだ!?」

湯煙の向こうから現れる全裸の男!!

キメ顔をしているが、それ以外は完全に無防備!!

不自然な湯煙と、不自然な逆光のせいで大切な部分は見えていないが、それでも危険!!

 

「なにって、ここ男湯だよ?男が居るのが普通。全裸なのが普通。

ドューユ~アンダースタァン?」

ペドーが八舞によって、暖簾の入れ替えられた女湯(実際は男湯)に入っていくシェリを目撃していた!!

このままでは危ない!!そう思ったペドーがシェリを助けるために、自ら男湯に飛び込んだのだった!!

 

「で、出るから!ボクもう出るから!!」

 

「まぁ、待ちたまえよ。裸の付き合いだよ?

お互いの夢を語り合おうぜ!!」

お湯から出ようとするシェリをガードする様に、ペドーが立ちふさがる!!

 

「んな!?こんなことが許される訳――」

 

「大丈夫、大丈夫。ちっちゃな子が性別の違うお風呂に入ってることってたまに有るからさ!」

 

「それでも――」

 

がららー

 

「オ~ウ!ペドー殿、先にニューヨークしてたんでス~ね!

残念デース、一番風呂入り損ねマーシタ!」

扉が開くと同時に、インチキッポイ日本語を話しながら、マインが風呂に入ってくる。

それと同じようにゾロゾロと3~5人のクラスメイトも入ってくる。

どうやら、言い争ている内に入浴可能時間になったらしい。

 

ざっぱーん!!

 

どんどん増える男の視線に耐えかね、シェリが風呂に飛び込んで身を隠した!!

 

「ヘェイ!そこのキッズ!ニューヨークは静かに!

他の人の事も考えるんデース!」

 

「あ、ごめんなさい……」

シェリがお湯の中に、顔を鼻下まで沈める。

 

「まぁまぁ、マイン。そう目くじら立てるなよ。

小さい時は誰でも間違いを犯すものさ。

さ、一緒に温まろうね?」

そう言ってペドーが湯舟に漬かり、シェリの肩を抱く。

 

「い――!?」

 

「(しーッ、静かに、さっきのみんなの反応……

キミの性別に気が付いていないみたいだな。

幸いお湯は白濁しているし、体のラインが分かんなければ、バレることは無いんじゃないか?

俺がバレない様に協力してやる)」

 

「……うん」

無理やりな感じではあるが、シェリはしぶしぶ了承した。

シェリとて羞恥心が無い訳ではない。

知らない男に体を見られたくないし、頼れるのは悲しい事にこの変態だけだ。

 

「俺の名は五河 士道よろしくな!」

まるで少年誌の主人公の様な、キラキラしたさわやかな顔で自己紹介する。

 

「え?さっきはペドーって――ああ!ペド野郎って事か!」

今更納得したシェリがポンと手を叩く。

わずかに水面で揺れた鍛えられた鍛えられた腕が見えた。

 

「ああ!そういう意味でみんな言ってたのか!」

同じくペドーも手を叩いて、納得の表情を見せる。

 

「気が付いてなかったの?

まぁいいや。ボクはシェリ・ムジーカ……よろしくね」

不承不承と言った感じのシェリとひどく興奮した顔のペドーが手を取り合う。

全裸同士の二人が手堅く握手をする。

 

「おう、よろしく!

さてと……脱出の方法だが、一番手堅いのは全員が風呂から出るのを待つことだな」

 

「それって、どれだけ時間かかる?」

 

「俺の予想ではザッと、2時間!!」

シェリは無言で頭に手を置いた。

 

「だ、大丈夫!俺が付き合ってやるから!お前を一人になんかしない!!」

 

「むしろ一人にしてほしいんだよ!!」

シェリの言葉がむなしく浴場に響き渡った。

 

 

 

隣の女湯にて……

 

『むしろ一人にしてほしいんだよ!!』

隣から聞こえてくるシェリの声に、耶倶矢、夕弦両名が顔を合わせる。

 

「くっそー、失敗じゃない……」

 

「羨望。あの準精霊の位置に夕弦が居れば確実に勝利でしたのに」

酷く落ち着いた感じで夕弦がつぶやく。

 

「ちょっと!あっち男湯よ!?行くつもりなの?」

 

「否定。行くわけありません。耶倶矢とは違い私は思慮深いので」

 

「はぁ!?何よ!く、くくく……まぁいい。ペドーとはいえ、我の色香の前に本来ならケダモノと化していたところよ。

むしろその危機を回避できたと思い、幸運に思うべきだな……」

 

「嘲笑。色香(わら)耶倶矢にそんな物が備わっていると初めて聞きました」

 

「はぁ!?無いわけないでしょ!?スレンダーでモデル体型で――」

 

ぎゃあ!ぎゃぁ!ぎゃあ!!

 

二人がはげしく言い争う。

 

 

 

 

 

「いやー、あの二人仲が良いなー」

 

「あづー……のぼせてきた……」

八舞の二人の声を聴きながら、ペドーがつぶやく。

 

「お?」

シェリの言葉通り、少し彼女は調子が悪いようだった。

仕方ないとペドーが立ち上がり……

 

「なぁ、知ってるか?この女湯、裏の崖からのぞけるらしいぜ?」

近くに居る男子数名に、声をかけた。

 

ざばぁ!

 

数人の男たちが一斉に立ち上がった。

 

「お前たち……男の本能を見せる時だ!!()ち上がれ!!

男たちよ!!エデンはすぐそこだ!!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

ペドーの掛け声に、いろいろ溜まっていた男子たちが一斉に旅館の宿のがけ下を目指す!!

 

「おい……簡単に追い払えるんじゃ……ない……か……」

シェリがふらつき、湯舟に倒れる。

 

 

 

 

 

「……ハッ!?ここは!!」

目の前には、ペドーの顔がドアップでこちらを覗き込んでいた!!

目の前わずか数ミリ先にペドー!!

 

「何をする気だ!?」

突発的に、シェリがペドーの鼻を殴る!!

 

「いでぇ!?」

鼻を抑えペドーが涙目になる。

 

「ここは、脱衣所?」

シェリがあたりを見回すと、確かに脱衣所だった。

そして、恐るべきことにさっきまで自分はペドーに膝枕をされていたらしい。

彼の濡れた浴衣の膝が、それを物語っている。

 

「湯あたりしたっぽいから、上がらせて着替えさせといたぞ?」

 

「え……うそ!?」

一瞬呆然とした後、シェリが自身の下半身を抑える!!

鏡で自分の姿を見ると、自身の持ってきていた浴衣だった。

きちんと()()()()()()いる。

その事実にシェリの顔が真っ赤になる!!

 

「ボ、ボクに何かしてないよな!?

ケダモノの本性を現してないよな!?

場合によってはコレだからな!!」

顔を真っ赤にして、微妙に涙目になりながら虫眼鏡を構える。

 

「大丈夫だ。全身を拭いて着替えさせただけだよ?」

 

「!?~~~~ッ」

シェリが体を震わす。

倒れたのは仕方ない、ペドーがわざとやった訳ではないのも分かっている。

だが、見ず知らずの男に自分の体を懇切丁寧に拭いてもらい、着替えまでさせられたのだ。素直に割り切れるハズが無い!!

 

「俺は、強姦魔じゃないんだ。意識を失った子にそんなひどい事はしない!!

幼女を傷つける様な事は絶対にしない!!」

酷くまっすぐした目で、ペドーがシェリの肩をつかんだ。

 

「ペドー……」

真剣なまなざしに、シェリが態度を改める。

 

「ところで、オマエの後ろのそのペットボトルと、何かを絞ったような形をしたタオルはなんだ?」

シェリがペドーの後ろの物を指摘する。

 

「ギクッ!……た、タダのスポーツドリンクだよ?」

 

「へぇ?」

ペドーの後ろのペットボトルの中身は、5分の2ほどの中身が残っている。

その液体は、微妙にだがうっすらと白濁しており何か小さな物が浮いている。

 

「そうだー、用事を思い出したー。俺帰んな――きゃ!?」

 

ジュン!!

 

ペドーの足元、歩こうとした先に10円玉サイズの焦げ跡が付く!!

シェリの〈炎魔虚目(セメクト)〉だ。

 

「ボクも喉が渇いたんだ。それを置いておけよ。

その『シェリ100%』って書かれたジュースをよ!!」

 

「断る!!これは、鑑賞用だ!!

け、決して『湯上りシェリちゃんの汗prpr』とか考えていた訳じゃ――」

 

「燃やせ!〈炎魔虚目(セメクト)〉!!」

 

ジュン!!

 

ペドーの持っていた怪しいペットボトルが、中身ごと焼失した!!

 

「ふふふ……この、このペド野郎は……一瞬でも、見直したボクがバカだったよ!!」

 

「うおー!こうなったら、直接prprしてくれるわ!!」

理性を失ったペドーが襲い掛かる瞬間!!

 

ジりりりりり!!

 

けたたましアラームと共に、スプリンクラーが作動する!!

 

「うわっぷ!?水!!なんで!」

当然ここは、屋内!!シェリの燃やしたペットボトルに反応してスプリンクラーが作動した!!

 

「うっひょ!シェリちゃんのぬれ浴衣サイコー!!

生きててよかったー!!」

 

「見るトコそこかい!!」

ペドーの歓喜とシェリの悲鳴が響き渡った。




シェリのメイン回。いつもよりも大分長くなりました。
サービス?いいえ、違います。作者が書いてて楽しくなりすぎた結果です……

八舞は犠牲となったのだ。幼女の犠牲にな……

次回『悪夢のB/ロリコンの憂鬱』

コレで決まりだ!!


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悪夢のB/ロリコンの憂鬱

さて、本日も投稿。
なかなか本編が進まない……

はぁ、早くほかの幼女精霊とキャッキャ、ウフフしたい……


世界の終わりって言うのは結構あっけなくやってくるみたいだ。

例えばそう、流行りの芸能人のちょっとしたトークショーをみた後、部屋で友人たちとくだらない談笑をしている時とか……

 

「くくく、下等な人間よ。我と寝所を共にする栄誉をその心に刻むと良い。

偉大なる我が名、八舞 耶倶矢の名と共にな!!」

扉が開き、その瞬間どんよりとした感覚が部屋を覆った。

思考がマヒして、体がゆっくりとしか動かなくなる。

 

「はぁ、また中二タイプか……」

 

「正直この間の転校生で、お腹いっぱいなんだよねー」

 

「あっちは絡んで来ないから、楽なんだけど……

ぐいぐい来られるタイプは……」

亜衣、麻衣、美衣の三人がため息をつく。

今回の修学旅行へ来ない&速攻不登校となったアンタッチャブル中二こと、時崎 狂三とは違う中二タイプに、辟易とした顔を浮かべる三人。

 

「あ、あんまり歓迎されてない……」

あんまりな態度に、耶倶矢が落ち込むがそこに希望の光が一筋。

 

「うむ。仲良くするぞ、よろしくだ!」

十香が耶倶矢に親し気に話しかけた。

 

「あ、十香ちゃん!」

 

「優しくすると、勝手に友達と思って付きまとう様になっちゃうよ?」

 

「優しいのは良い事さ。けどそれは何の意味もない生き方でもあるのよ?」

亜衣、麻衣、美衣の3人の適格すぎるアドヴァイスが飛ぶ!!

 

「なんで、こんなに厳しいの!?」

耶倶矢はもはや涙目!!

此処に泊めてくれと、令音に頼まれてきたのは良い。

しかし、ファーストコンタクトを大きく間違った!!

不幸なことに耶倶矢は知らなかったのだ……

学校、特に女子のグループ分けとは、一種の戦場!!

グループにハブられれば、一人寂しくスクールライフを送ることに成り、いじめっ子の友達になればその被害に巻き込まれる事もある!!

いかにして上位のグループに入り込み、そこで馬鹿にされない中間で目を付けられない場所にいるか、ソレこそが重要だというのに、ものの見事に失敗した!!

 

「ふ、ふふふ……我らが出でしは天の頂にして、冥府の底!!幽世の最果てにして現世の傍ら、貴様らの思考の範疇では想像もつかぬ場所よ!そう、我がおぬしらと相まみえる訳などーー」

 

「おお!耶倶矢は難しい言葉をいっぱい知っていてすごいな!」

 

「うは、やっ、そ、そうであろう?其方を我眷属にしてやろう。

我闇の加護を受け取るがいい!!」

素直な十香の褒める言葉に、耶倶矢が感動したようにまくし立てる。

その顔には、喜びからかわずかに涙が浮かんでいた。

 

「む?お主、ペドーと一緒に居た、十香とか言うやつではないか?」

 

「そうだ。ペドーの知り合いか?」

 

「なら、丁度いい。少し聞きたいことが有る。

その……ペドーについて」

 

「いいぞ!なんでも聞いてくれ」

耶倶矢の言葉に、十香が大きく頷いた。

 

 

 

 

 

「請願。今晩お世話になります。八舞 夕弦です。よろしくお願いします」

部屋を開けた時、夕弦が頭を下げた。

 

「いいえ、そんなにかしこまらないでください」

眼鏡をかけた少女が案じてくれる。

このグループは学校内でも大人しい女子の集まったグループだ。

夕弦の対応は正しいように見える。一見は……

 

「質問。実は、一つお聞きしたいことが有るのですが」

 

「ん、なに?なんでも聞いてくれて良いよ?」

リーダー格なのか、眼鏡をかけた子が読んでいた本から顔を上げる。

 

「請願。男性の気をひく方法を教えてほしいのですが、理性のクサビを解き放ってケダモノにしてしまいたいのですが」

 

「「……」」

あんまりな質問に、眼鏡の子以外の時が止まった。

二人して、本に目を落としパラパラとページをめくり始める。

 

「男の子の気をひく……ね?」

一通り本を見終わったのか、その子がパタンと本を閉じた。

 

「私、思うのよね。

男は男と仲良くするべきだと!!というか男同士の世界に女とか不用でしょ?

ベーコンとレタスが仲良くしてればいいのよ!!」

瞬時にその子の眼鏡が荒い鼻息で曇った!!

興奮げに掲げる本の表紙には、やたら服が乱れた男たちがベットで気怠そうにしていた!!

 

「恐怖。何か、あなたからは危険な物を感じます」

弓弦がその女子から、距離を取った!!

 

「う腐腐腐……大丈夫よ?こっちの世界にこればこれが快感に変わるわ!!

怪しくないわよ?ただの男の子たちの友情物語――」

一瞬眼鏡女子の背中に、四つ足の白い生き物が現れた様に見えた!

 

だが――

 

「うるさい」

 

「貴腐人!?」

後ろから現れた折紙の手刀の一撃でその眼鏡は倒れてしまった。

 

「こんなもの、生産性の欠片もないただの妄想。

男を手に入れる事をあきらめた、草食になるしかなかった敗者の結果」

異様に厳しい目で、折紙がその子を見下ろした。

 

「請願。ただ物ではありませんね。ご教授をお願いします」

 

「まず大事なのは――」

折紙がゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

「じゃーねー、シェリちゃーん!」

 

「うるさい!」

着替えを終わったシェリが、新しい浴衣で帰っていく。

小さなボヤかと思われた、機械の誤作動という事で収まった様だ。

 

「はーあ、結局ペットボトルは手に入れられなかったか……

ま、お風呂も一緒に入れたし、濡れ透け浴衣も見れたし良いか!」

ポジティブな気分で、シェリを見送るペドー。

その時、耳につけていたインカムから通信が入った。

 

『シン、すまないがすぐにこっちに来てくれないか?』

令音の指示にペドーが頷いた。

 

 

 

「まぁ、掛けてくれたまえ。

お茶を切らしてるんでね、水分補給用のスポーツドリンクで我慢してくれ」

令音が湯呑にスポーツドリンクを注ぐ。

なんというか、ついさっきこれと同じような色の液体を手に入れようとしたペドーにとっては、不思議な気分になった。

 

「フラクシナスとの通信は回復しました?」

 

「いいや、まだだね。だが、非常用のパソコンを持ち出しておいてよかったよ。

コレを見てくれるかな?」

令音が机のノートパソコンを手に取り、一つのビデオを再生する。

 

「コレ、あの二人ですかね?」

そこに写っていたのは、竜巻の中激しくぶつかり合う二人の女。

遠すぎて顔は分からないが、こんな存在2人しかいない。

 

「恐らくはね。実の事をいうと彼女たちは有名人なんだ。

識別コード〈ベルセルク〉……

風の中で、何度も戦う姿をみせその度に――」

 

「今日の昼みたいな天気を?」

ペドーがなおも風の強く吹く、外を指さす。

 

「ああ、そうだ。といっても今回はかなり控えめな方だ。

記録によると、森一つを吹き飛ばしたことも有るらしい。

分かるかな?彼女たちのじゃれ合いはその余波で、世界を十分壊せる物なんだ。

ちょっとしたニュースなのだが、太平洋沖で大きな台風が有ったらしい、おそらくその二人が原因だろうね、ここまで飛んで来たって事さ」

令音の言葉に、ペドーが慄く。

控えめに見ても惨状と呼べる、この天気。

じゃれ合っているだけで二人が、こんな事を簡単に起こしてしまえる存在――精霊だと再認識した。

 

「彼女たちにとってこの世界は、砂で出来たみたいに脆いんだろうね」

令音がパソコンを閉じながら言った。

 

「さてと――前置きは此処までにして、これはチャンスだよ?」

 

「チャンス?せっかくの修学旅行に精霊と出会ったことが?」

 

「そう棘を出さないでくれたまえ。

〈ベルセルク〉はコミニュニケーションが難しい精霊なんだ。

見つかっても追いつけず、さらに勝手に何処かへ行ってしまう」

 

「ゲームで言うと、出会ってもすぐ消える『レアキャラ』って事か……」

 

「だが、今回はチャンスだ。相手は君の気を引こうとしている。

これはまたとないチャンスなんだよ。

さぁ、このレアキャラを攻略しようか」

令音がペドーを見ながらそう言った。

 

「さて、うれしい事に彼女たちは君を攻略しようと画策している。

実は、ペドーを魅了するのに協力すると言って、二人の援助をすることに成ったんだ。

相手の手の内が、私の中にあるんだ。かなりの行幸だろ?」

悪い言い方をすればマッチポンプだが……

そんな事でひるむほど、令音もペドーも善人ではなかった!!

 

「けど、令音さん。この場合どうすればいいんですかね?

相手は二人ですよ?片方を選んだら……」

そう、今までと違う点は相手が二人という部分。

 

「二人同時にキスさせればいいんじゃないか?」

令音の言葉に、ペドーがぽかんとする。

二つが選べないなら両方!実にシンプルな理由だが……

 

「あの、ソレやばくないですか?いろいろと……」

倫理的な物が邪魔をするペドー。

しかし、二人が幼女なら速攻で手のひらを反すであろうペドー。

そしてもう一つ――

 

「令音さん、シェリはどうします?」

 

「ああ、準精霊の子か……

準精霊の情報が乏しすぎてね、下手に手出しできないんだ。

何が起こるか分からないんだよ。最悪封印した瞬間消える可能性もある。

いずれにせよ、フラクシナスの機器で精密検査をしてからさ。

兎に角今は〈ベルセルク〉の方が優先かな?」

 

「そうですか……」

令音の言葉を聞いて、露骨にペドーが残念がった。

 

「はぁ……シェリちゃん攻略したか――――えっきぃしょん!?」

急に出てきたくしゃみを令音に飛ばしてしまう。

 

「……風邪かい?」

顔面にぬらぬらした、微妙に白濁した粘度のある液体を掛けられた令音がつぶやいた。

運悪く、顔に派手にかかってしまったらしい。

 

「ですかね?さっきのぼせた幼女を全裸で介抱しましたから……

体中をしっかり拭いて、下着を含めて着せて、ドライヤーで髪を乾かすまでをずっと全裸でやってましたから」

シェリを介抱したことを思い出し、ペドーがにやにやと気持ち悪く笑い出す。

 

「……何をやっているんだ君は……?」

 

「あ、因みにシェリちゃん、下の毛は生えて――」

 

「それ以上はいけない!!」

何かを察した令音が急いでペドーの口をふさいだ。

正直言って、気道もふさぎたかったが、そういう訳には行かなかった!!

 

「大事になると、いけないから早く帰って休み――いや」

さっさとこの厄介者を帰らせようとするが、とある策を思いつきペドーを呼び止めた。

 

「私に良い考えが有る」

 

「うわー、そのセリフすっごく嫌な感じのフラグが立った気がする!!」

自らに走る悪寒を必死にシェリのカラダを思い出して、現実逃避ぎみにぬぐおうとした。

 




キャラ紹介。

伊草(イグサ) 多恵(タエ)
眼鏡をかけた少し腐った子。
ふつうは同じ、ような仲間と一緒に居るがその正体は若干11歳でロボット工学及び、プログラミングの博士号を取得した天才児。
解くに計算に優れ、非常に高い能力を持つが反面人の心の機微には疎い。
表情筋の動きで相手の心情を読み取っている。
例を挙げると、本の内容は理解できるが作中のキャラの心の動きが「なぜそうなるか」全く分からない。
だが、欲に密接に関係した本(ウ・ス=異本)ならわかる。

詳しくは伏せられているが、フラクシナスのメインコンピューター人格『アリス』及びその同時期に開発された『ベリー』『チャーリー』の生みの親でも有る。
しかしDEM社が犯人と目される、サイバー攻撃事件通称『ABC』事件よりAIの製作からは手を引いている。

久しぶりに出た、モブに無駄に凝ったキャラ付けをしてみようシリーズ。


次回『悪夢のB/熟女には向かないアプローチ』
コレで決まりだ!!


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悪夢のB/熟女には向かないアプローチ

さて、少し手違いがありましたが、コレが正式な形です。
心配かけてすいません。


令音に待つように言われた部屋で、ペドーを見下ろす二つの影。

 

「くくく、ペドーよ。令音から聞いたぞ、風邪の様だな?

ははは、人はかくも弱き生き物よ」

 

「宣誓。夕弦に任せて下さい。心のこもった看病で、明日までに全快です」

八舞の二人だった。

令音の作戦は、こうだ。

風邪となったペドーを看病するという名目で合法的に、個室を用意させ精霊二人のペドーの心的距離を縮めるのが目的の様だ。

実はこの部屋、こっそりと隠しカメラが仕掛けられており、逐一令音に情報が流れているのだ。

 

「二人ともありがとな。助かるよ……ぐぅ!?

ごほっ!!ごっふ……!!!

はぁ、ロリのナースに……はぁ、看病されたいだけの……ゲッホ!!

人生だったぜ……」

風邪をひいているイメージで少し、大げさにリアクションするペドー。

そんなペドーを二人が、挟むように座る。

 

「おお、哀れよの。ペドーよ……

くく……夕弦よ。我を今までの耶倶矢と思うと怪我をするぞ?

我は新たな眷属を手に生まれ変わったのだ!」

 

「驚嘆。そのようですね。しかし、それは夕弦も同じです。

私の新たな力見せてあげましょう」

ペドーの寝ている布団の上、二人の精霊が静かに火花を散らす。

 

(……完全に看病<勝負の図だな……大丈夫か?)

心配になりながら、ぺドーが冷や汗を垂らす。

 

 

 

バサッ……

耶倶矢が寝ているペドーの布団をめくり、自身の体を滑り込ませようとする。

それを慌ててペドーが制止する!!

 

「お、おい?耶倶矢さん?何を考えているのですか?」

 

「決まっておろう?知っておるぞ、お主はおなごと同衾するのが大好きな様ではないか?我が特別にその相手をしてやろうと思ってな」

十香からもらった情報を元に、耶倶矢が得意げに話す。

そう、この情報は間違いではない。ペドーは女の子と一緒に寝るのが大好きだ!!

しかし!!それには、『幼女の』と言う非常に重要な枕詞が付くのだが……

 

「ハッ!ありえねぇ……俺が一緒に寝たいのはロリロリな幼女だけだぜ!!

狭いお布団の中!!体がくっつきお互いの体温が同じになっていく!!

ちっちゃなお手手に触れればそこはまさにユートピア!!

地上の楽園はお布団の中に有った!!あったのだ!!!

だけど、BBAに興味無し!!言っておくぜ、俺と一緒に寝ようなんて、()()()()()んだよ!!」

ペドーの言葉に、露骨に耶倶矢がショックを受ける。

 

「わ、私じゃ……ダメ?」

 

「年増の賞味期限切れはおかえりください」

 

チーン……

 

「と、年増……しょ、賞味期限切れ……」

部屋の隅で、真っ白に燃え尽きた耶倶矢が力なくつぶやく。

 

「ふぅ、コレで一旦は――うぉ!?」

安心しかかったその時!ペドーの布団が一気にめくられる!!

そして、夕弦がペドーの首筋に手を這わす。

 

「確認。発汗が見られます。汗は、気化することにより体温を奪います。

気化冷凍法です。

汗を拭くことを推奨します」

そしてそのまま、ペドーに顔を近づけ舌を出す。

 

「待て待て待て!何をする気だ?」

 

「説明。舌でペドーの汗を舐めとります」

 

「バッカじゃねーの!?幼女にされるならまだしも、むしろ嫌がらせだぞ!!

ああ、ちっきしょう!なんで、発情した年増しかいねーんだよ!!

この国は変態しかいねーのか!?HENTAIジャパンか!?」

ペドーが布団から抜け出すが、壁際に追いつめられる。

なんというか、乱暴されるヒロインの様だ。

 

「暗笑。さぁ大人しく私の人肌で温まってください」

 

「な、わ、私だって!!」

夕弦が服をはだけさせると、それに気が付いた耶倶矢まで浴衣を脱ぎ始める!!

二人の半裸の精霊が、ペドーに滲み寄ってくる!!

 

「「さぁ、お前の体温を数えろ」」

一瞬の時間差を置いて、耶倶矢と夕弦がペドーに襲い掛かった!!

その時、後ろのドアが開く!!

 

ガチャ

 

「あ……」

 

「「あ……」」

 

「あ……」

ドアから、顔を出したのはシェリだった。

ゲドーに渡されたのか、3個入りのフルーツゼリーを持っている。

 

「な、何してんの?」

震えながら、シェリがペドーを指さす。

 

「分からんか?ペドーの調子が悪いから看病しているのだ!!」

 

「説明。今から人肌程度の温度でペドーを温めるのです」

精霊二人組はそう言うが……

 

「助けて、シェリちゃん!!痴女精霊に襲われる!!

無理やりパパにされちゃうよ~!!」

走って来て、シェリの背中にペドーが隠れる!!

 

 

 

 

 

「はぁ、なんでボクがこんなコトを……」

シェリが、布団で横になるペドーにスプーンですくったゼリーを食べさせる。

耶倶矢、夕弦の二人は第三者(シェリ)が入ってきたことで、自分がいかに異常な事をしていたか自覚したのか理解したのか、そそくさと逃げるように部屋から出ていってしまった。

 

「ああ……おいしいなぁ……」

枕に頭を置きながら、感動のあまりペドーが涙を流す。

 

「はぁ、精霊がどんなのか知らなかったけど……あんなのもいるのか」

あこがれでもあったのか、シェリが小さくため息をつく。

 

「それにしても、なんでまた此処に?」

 

「また、ゲドーだよ。

誰かから、ボクがお風呂で倒れて介抱してもらったって、聞いたみたいでさ。

『貸しを作りっぱなしにするな』っていって、コレを持たせたの」

そう言って、シェリはペドーに食べさせているゼリーを見せる。

 

「ふぅん。テレビでしか見たこと無かったけど、結構いい人じゃね?」

ペドーのイメージでは、高笑いをしてゲストでも容赦なく毒を吐く、いやな芸能人と言うイメージしかなかったが、良く聞くと違うみたいである。

 

「そうだよ!ゲドーはバカみたいにいい奴だよ!!

一週間位前かな?この島に流れ着いたボクを見つけたのが、ゲドーだったんだ。

その時は撮影の下見だったらしいけど、そんなのほっぽってボクの看病をしたくれたんだ……

知りもしないヤツの為にさ……

ほんっと、お人好しだよ」

シェリの脳裏に、ゲドーの姿が浮かぶ。

海水にまみれ、体の芯まで冷え切った自分はいつの間にか、温かいベットで寝かされていた。

敵と思い、瞬時に武器を構えたシェリを待っていたのは、怒号でも敵意でも卑劣な罠でもなかった。

 

「良かった……目が覚めたゲドね。

食欲は?ゼリーは食えるゲドか?半固形なら問題ないハズゲド」

暖かな言葉と、やさしさだった。

シェリのいた世界は血を血で洗う世界。弱った相手を見つけたのなら、即攻撃する。

ソレこそが当たり前で常識だった。

だが、今ゲドーによって向けられた感情は今までシェリが一度として向けられたことのない物だった。

 

 

 

「そっか、良かったじゃないか」

優しく微笑んで、ペドーがシェリの頭を撫でる。

 

「コラ!勝手になでるな!!」

 

「そんなことより、借りを返すなら返してくれよ!」

 

「は?ゼリー食わせてるじゃん」

シェリが嫌な予感と共に、スプーンを差し出す。

 

「足りないんだよ!!今、俺は風邪気味なんだよ?

看病するべきじゃない?ああくそ!ナースのコスプレ服を持ってこなかったのが致命的だな……

まぁいいか!さ、人肌で温めてくれ!!幼女特有の少し高い位の体温で冷め切った俺の体温を温めてくれよ!!ハリーハリー!ハリーアップ!!!」

布団に一人分のスペースを開け、ひどく興奮した様子でペドーがシェリを呼ぶ。

なんというか、美しい思い出の後に見るものとして非常に。非常に醜い!!

 

「あー、イイモノがあったぞー」

シェリが部屋の隅にあったものを見つけ、ペドーに近寄る。

 

 

 

「さぁ、温めてやろうなー?」

耶倶矢、弓弦の浴衣の帯で布団にす巻きにされたペドーをシェリが見下ろす。

 

「むーむー!!むーむ!!」

口までタオルを巻かれたペドーが()()()()にうごめく。

正直言って、かなりキモイ。

 

「出番だ――〈炎魔虚眼(セメクト)〉!

大丈夫、火力は抑えてるから、せいぜい()()()()()()だから。

さ、看病してあげようなー?」

シェリの熱線がペドーの顔面にヒットした!!

 

「むーむーむ!!あ、ありがとうございますぅ!!」

ペドーの感謝の言葉が、小さく部屋に響いた。

 

 

 

 

 

旅館の壁にくっつくように、様子を伺っていたエレンはターゲットである夜刀神 十香が部屋へ入っていくのを見て、右耳のインカムを小さく押さえた。

 

「こちらアデプタス1。ターゲットが部屋に入るのを目撃しました」

 

『アデプタス1?なんだそれ?そんな奴いたか?』

通信相手が、不審そうにこちらに聞き返す。

その言葉に、エレンが頭を押さえながら言い返した。

 

「はぁ……エレンママです」

 

『ああ!エレンママでしたか。これは失礼しました!!』

DEM社のウィザードにはコードネームが与えられている、エレンにも「アデプタス1」と言うネームが与えられているが、正直言って「エレンママ」の名の方が圧倒的に有名なのだ!!

 

「〈バンダースナッチ〉の配備を3体ほどお願いします。

まさかとは思いますが、折紙一槽も居るので、テリトリーの範囲には十分注意してください」

 

『了解。〈バンダースナッチ〉1号から3号まで配備します』

配備を聞き、エレンがさらに次の指示を出そうとした時――

 

「ヘヴン!?」

突如部屋が開き、何かがエレンの顔面にぶつかった!!

 

「い、一体何が――?」

鼻を抑えつつ、周囲を伺うと3つの影が自身の周囲をかこっていた。

 

「あ!カメラマンさんはっけーん!」

 

「確かエレンさんだっけ?」

 

「確保だぁ!!」

エレンは3つの影、亜衣、麻衣、美衣の腕によって部屋の中へと連れ去られた。

 

「カメラマンさんも参戦するって!」

言うや否や、エレンの顔に枕が飛んでくる。

 

「ぴ、ピロー?」

混乱しながらも、自分に飛んで来たものを改めて確認する。

 

「戦わなければ生き残れない!!」

亜衣の言葉に、部屋に集まっていた13人の枕所有者同士の戦いが始まった!!

 

「ちょ、ちょっと!?」

一人の女子が、全身に枕を装備した状態で立ち上がる!!

 

「こういう、ごちゃごちゃした戦いはスキじゃない……」

その言葉と共に、雨あられと全身の枕を投擲する!!

 

「ぐひぃん!?なにを……?」

突如誰かの盾にされたエレン。

 

「近くにいたお前が悪い……はぁ、本当に楽しいよな……マクラーってのはよ!!」

別の子が枕を手にして、直接相手を叩く!!

 

「ば、馬鹿な!?契約が……!」

 

「うぅぅぅぅ!!!」

協力関係にあったハズの仲間に裏切られるものたちも……

 

「ぐはぁ……き、君は……なぜ……」

 

「僕は、枕投げの英雄になるんです……そのためには、たとえ君でも倒さなきゃ……」

なぜかドラマチックに倒れるものも……

 

「うわぁぁぁ!……」

 

「おい!しっかりしろよ!!」

 

「これで、コレでいいんだ、本来俺の占いで次に当たるのはお前だった……

やっと、やっと俺の占いが外れる……」

 

「うあぁああああああ!!」

仲間の被弾を嘆くもの……

女子部屋はカオスを極めた!!

 

「だ、出して!!ここから出して!!

私は、行かなきゃいけない所があるんです!!

私は私はただ、仕事をこなしたかっただけなのに……」

エレンの無数の枕がヒットした!!




遅々として進まないなー
一部を省くべきなんでしょうが、出来れば削りたくないなー


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Sが求めたもの/精霊は傷ついて

少し遅れたが投稿です。
やっと、話が進めました、1~3話くらいで終わりかな?


「うあ……はぁ……」

空にきらめく太陽が容赦なく、ペドーを焼く。

太陽に照らされ、ぶつぶつと何かを言いながら砂場の砂を集め続ける。

 

「と!」

 

「ハッ!」

 

「ソォイ!!」

そんなペドーの目の前では八舞の2人と折紙、十香のコンビが2チームに分かれてビーチバレーを楽しむ。

 

「くッそ……!」

 

バシィ!

 

「やったぞ、夕弦!!」

 

「肯定。今のは我々の実力の勝利です」

 

「あー、はいはい。今のは八舞チームに点ね」

4人の視線を受けたペドーが、ジャッジを下す。

なんというか、非常におざなりな言い方だった。

 

 

 

「古代の神々は……土から人を作ったという……

俺にも、俺にもできるハズだ!!砂から、幼女を!!」

血走った眼をした、ペドーが砂で1分の1サイズの幼女土人形を作る!!

 

令音の計画に乗り、精霊八舞を攻略するためにプライベートビーチを借りそこで遊んで仲を深める計画だった。

だが!!ペドーはコレが()()()()()()を攻略する計画だったことを念頭に居れていなかった!!

その結果、八舞はペドーを攻略しようと、策を仕掛けてきた。

その一つが……

 

「ペドーよ。我体に、邪悪の衣を纏わす任を其方に与える。

闇に身を置く我には太陽の聖なる日差しは、ちと答えるのだ」

 

「請願。ペドー、私に日焼け止めを塗ってください」

八舞が、日焼け止めを塗る様に頼んできたのだ。

水着のトップを脱ぎ、こちらにジェル状の日焼け止めを渡す。

美人の二人だ、普通の男なら喜んで行うだろう。そう、()()()()()()

 

「……はぁ」

海よりも深い!!ため息をついて、ペドーが適当に日焼け止めをぶっかけて終わらせた。

なんとも言えないペドーの表情に、八舞が顔を見合わせる。

 

「び、ビーチバレーをしないか?」

耶倶矢が持って来ていた、ボールを見せる。

 

「賛成。ペドー、二人で耶倶矢を倒しましょう」

 

「はぁ!?ペドーと組むのは私だし!!」

勝負事という事で、火が付いたのか二人の間に火花が散る。

そんな中――

 

「ん?アレは?」

耶倶矢が、海の向こうからこちらに来る何者かの姿が見えた。

 

ザバァン!!

 

「おお、ここに居たのかペドー」

 

「十香ぁ!?」

なぜか現れた十香にペドーが驚く。

海岸は三日月状に成っている為、距離を置いた反対側にもビーチが有るが……

 

「うむ、ペドーの姿が見えたからやって来たぞ」

 

「うっそだろ……」

数キロ先から、こちらを目視して泳いできたというのだ。

控えめに言っても――異様だった。

 

「さすが、元精霊か……人間には不可能――」

 

ザバァ!!

 

「ペドー、見つけた。」

十香より少し遅れて、今度は折紙が海から姿を見せた。

 

「人間の可能性すげー!!」

人の可能性にペドーが戦慄した!!

 

 

 

「くそ!お前がサポートしないせいだぞ」

 

「違う。あなたが無能なだけ」

お互いを褒める八舞の二人とは対照的に、十香折紙の二人はお互いを罵り合う。

 

「ま、八舞の二人が仲が良いのは当たり前なんだけど……な」

尚も砂をいじりながら、ペドーがつぶやいた。

昨日の晩、シェリと触れ合ってから早12時間以上――

12時間、半日以上幼女と触れ合っていないペドーは限界が近かった!!

 

「枯れる……ロリコニウムが、枯渇してしまう……」

まだ見ぬ幼女を妄想しながら、地面に砂の幼女を描き続ける!!

 

「ふひ!ふひひ!!等価交換……等価交換で、幼女を人体錬成してやる……」

怪しい目をしたペドー!!

真理の門に自制心を「持っていかれた」ような危険な姿!!

 

「さぁ!立ち上がれ!!幼女を!!幼女を!!幼女を!!

オール・フォー・幼女!!ワン・フォー・幼女!!すべてを幼女に――」

ペドーが空に向かって謎の儀式をしている時に――

ガス!!

 

「ああ!?」

ビーチボールが砂で出来た幼女を破壊した!!

 

「ウッソだろ!?」

唯一のロリコニウムの供給源を絶たれペドーが音もなく静かに気絶した。

 

 

 

 

 

「大丈夫か、シン?」

令音の膝の上で目を覚ましたペドー、なんとか意識は戻った様だ。

のろのろと力なく立ち上がった。

 

「ちょっと、トイレで顔を洗ってくる」

どうにも調子が悪く、真水で顔を洗う事にしてトイレに向かう。

 

「はぁー……なんだかなぁ……」

2、3度顔を冷やすと大分思考もすっきりしてきた。

 

「なんか用か?」

視界の端、こちらを見ている精霊の片割れ、八舞 耶倶矢が顔をのぞかせた。

 

「くくく、なぁに。少し話が有るだけだ」

 

「そのしゃべり方疲れないか?俺はもう、疲れているんだが……」

げんなりしたペドーの言葉に、耶倶矢が必死になって否定する。

「んな!?精霊って偉大な存在だから、キャラ付けが必要なのよ!!」

 

「あーあ、ついにキャラ付けって言っちゃったよ……」

 

「い、言うなし!!突いて楽しいにゃか!!」

指摘されたくなかったのか、顔を真っ赤にして否定する耶倶矢。

さらに慌てたのか、言葉まで噛んでしまっている!!

 

「はぁ、で?要件は?」

 

「うぐ……」

ペドーに促され、ゆっくりと耶倶矢が口を開いた。

 

「はぁ、な~んか乗せられてるってか、自身を危険に置かない的な感じのアンタに追うのはシャクだけど……ま、いいか。

今私と夕弦はあんたをめぐってバトルしてるじゃない?

その結果を出すのはアンタ、でさ、頼みたい事あるんだよね」

耶倶矢の言葉に、ペドーが「おかしなことになったな」と思う。

だが、思ったのとは違う言葉が耶倶矢の喉から出た。

 

「明日のジャッジ、夕弦を選んでほしいの。

別にいいでしょ?あの子、ボーッとしてるけど従順で胸大きいし、男の夢が詰まったような超萌えキャラでしょ?」

 

「賞味期限は切れてるけどな」

 

「この、ロリ野郎……」

ペドーの言葉に、耶倶矢が歯ぎしりをする。

どんな高級食材も腐ってしまえば、興味はないのだ。

腐っても鯛ではな、腐ったらゴミなのだ。

 

「良いのか?俺が夕弦を選んだら……消滅するのは――」

 

「私だね。けどそれでいいんだ、私より夕弦の方が生き残る価値はあるから……

あの子にはさ、もっと世界を見て楽しんでほしいのよね」

まるで自身の消滅の運命を受け入れたような――いや、もはや実際受け入れているのだろう。

彼女は――夕弦の為に自身の死を恐れていない。

 

「本当は邪魔されなかったら、すぐに決着ついてたのよ?

私が100戦目でやられて終わり、ね?簡単でしょ?」

 

「…………」

あっけらかんという言葉に、ペドーが拳を握る。

 

「じゃ、私はもう行くから――あんたが、夕弦選ばなかったらこの島、私の力で吹っ飛ばしちゃうからね!」

脅すような言葉をかけ、周囲に突風が吹く。

そして、気が付いた時には遥か彼方に行ってしまっていた。

 

『ふむ、困ったね――これでは二人同時は不可能に近いか?』

話を聞いていたのか、インカム越しの令音の声が聞こえた。

 

「質問。耶倶矢と何を話していたのですか?」

 

「ッ!?」

突如後ろから姿を見せた、夕弦にペドーが驚く。

 

「推測――大方明日、自分を選ぶように言ってきたんでしょう」

眠そうな目で、夕弦が言う。

正確には全く逆なのだが……

 

「請願。そんなことよりお願いが有ります」

耶倶矢の続き、夕弦の頼み。

ペドーは何処となくその内容を予測できた。

 

「請願。明日は私ではなく、耶倶矢を選んでください」

 

(ああ、やっぱりか――)

そう、お願いの時点で言う事はもうわかっていたのかもしれない。

 

「説明。耶倶矢の方が夕弦よりはるかに優れています。

多少めんどくさい性格ですが、勝気な所は心をへし折って従順に調教する楽しみがありますし、一途で面倒見がいい為、結局何が起きてもあなたから離れられずに、ずるずるとだんだん大きくなる要求を受け入れ続け最終的にはもう身も心も完全に屈服させ、貴方だけの玩具に――」

 

「お前、メッチャ心歪んでんな!!?」

久しぶりの別の意味で精霊に戦慄させられたペドー!!

しかし容赦なく夕弦は言葉をつづける。

 

「念押。明日は必ず、耶倶矢を選んでください。

でなければあなたの周囲の人に不幸が訪れる事になります」

夕弦までもが、耶倶矢のような脅しを付けて去っていった。

 

「はぁー、どうしようもない二人だな……」

ペドーのため息を聞くものはいなかった。

 

 

 

 

 

『執行部長あの……』

エレンのインカムに、オペレーターの声が聞こえてくる。

 

「ハっ…………だ、大丈夫です。本命は夜ですし、何も問題はありません!ちゃんと捕まえます!!」

焦ったようなエレンの言葉がオペレーターを黙らせる。

 

「エレンさん?何か?」

 

「い、いいえ!大丈夫よ。殿町君」

心配そうにこちらを見る殿町にエレンが笑って帰す。

 

 

 

ミッションを開始した寸前、エレンは亜衣麻衣美衣の3人に捕まり砂場に埋められてしまった。

SMの女王様風に盛られた体の足元に埋まっていたのが殿町 宏人だった。

3人は誘いに来たマインとか言う外国人風の男に連れていかれ、エレンと殿町を放置した。

しかし、殿町は穴から自力で這い出して――

 

「お困りの様ですね、お嬢さん」

エレンを穴から掘りだし、恭しく手を伸ばしてきた。

その瞬間、エレンの胸が大きく跳ねた気がした。

 

「良かったら、僕とこの後遊びませんか?」

任務が有る、何より自分にはうぇすちゃまがいる。

ソレなのに――

 

「はい、殿町君……」

気が付いたら、殿町の手を握っていた。

心の底から、楽しいと思える時間が過ぎ、気が付けば夜近くに成っていた。

 

「そろそろ、行かなきゃ……エレンさん、ありがとうございました……」

殿町が宿に帰ろうとする、後ろを向き小さく手を振る。

その瞬間、エレンの胸に激しい痛みが走った!!

 

終わる――この時間が、殿町君との時間が――終わる。

 

「ま、まっ――」

待ってと言おうとして、エレンが口を紡ぐ。

ダメだ――自分には赤ちゃんプレイ野郎(ウェスコット)がいる。

だが、本当に自分は彼の恋人なのか?いや、違う自分は、違う。

なら、なんなのだろうか?

逡巡のあと、目の前に居たのは殿町の困ったような顔だった。

 

「どうしたんですか、エレンさん?何か困ったことが?」

2つの輝く瞳が、こちらを見る――ウェスコットとは違う、優しそうな瞳だ。

 

「いいえ、何でもないの、何でもないわ」

 

「嘘だ。少しの間だけでもわかります。あなたはもっと自由に笑えるハズでしょ?

何があなたの笑顔を曇らせるんですか?」

何も出来なハズの殿町が、心強く感じた。

年下の少年なのに――

 

「え、エレンさん!?」

突如抱き着いてきたエレンに、殿町が驚く。

 

「少しだけでいいから……もう少し、このまま……」

 

「分かりました……俺、これ位しか、出来なから」

殿町が優しくエレンを抱き返す。

そしてゆっくり背中を撫でる。

 

 

 

どれ位、撫でていたのか。空には月が昇り始め、辺りに人は消えてた。

ゆっくりと、エレンが殿町から離れる。

 

「ごめんね、殿町君……びっくりしちゃったでしょ?」

 

「良いんです、エレンさん。エレンさん、可愛いし美人だしむしろ役得ですよ。

エレンさんさえ良ければ――むぐ!?」

エレンが殿町の唇を指でふさぐ。

 

「エレンって……呼んでくれないかな?殿町君……」

 

「じゃ、俺の事も宏人って呼んでくれますか?」

その後は誰も知らない。エレンはインカムを捨てていたし、殿町は頑として語らない。

ただ、ペドーだけが見ていた。

 

「うわぁお……公共の場所でよくやるな……」

↑散歩に来ていたペドー

 

 

 

 

 

 

「明日、ステージか……」

砂浜に作られた仮設ステージでシェリが、夜の海を見る。

明日のゲドーの為に作られたステージ。

暇な時間DVDで、過去のゲドーのステージを見たことが有る。

何時ものキャラとは違うゲドーがステージで踊って笑って歌って、他のレギュラーやゲストをメタクソに貶していた。

あの顔が芸能人「倉科 蒼空」としての顔なのだろ。

ほとんどの客が楽しそうにしていたのが、ひどく印象的だ。

 

「ただの人間のくせに……」

シェリが自身の虫眼鏡を強く握る。これは殺しの道具だ。

この仮説ステージ位なら簡単に全焼させる力が有る。

無論、来た人間も全焼させれる――だが。

 

「この人数を笑顔には出来ないか……」

この世界に殺しは不要、不要な事は出来ても、本当に大切なことは何一つできない!!

 

「なんで、なんでだよ……

ゲドーみたいな奴、いい加減でひどい奴なのに、ボクより弱いくせに!!

なんで、人気なんだよ……なんで、なんでボクは何にも出来なんだよ!!」

シェリがひそかに涙する。

100人だろうと、1000人だろうと殺せる自分の天使。

だけど、たったの一人も笑顔にすることは出来ないのだ。

殺し、奪う為だけの力――他者の血を吸い続けた、忌むべき力――

だが、この力はなく成らない。自身の命が無くならなかった様に――

 

「なんで、ボクは生きてる?なんでボクは――」

優しさを知らなければ、こんなことにはならなかった。

自身は冷酷な準精霊で居れたはずなのに――

やさしさに触れ、笑顔をむけられ、かわいがられ――愛を知ってしまった。

愛を知った瞬間、シェリは自分の過去の罪を背負う意味をはじめて知った。

血、痙攣、怒号、悲鳴、零れた臓物、輝きを失う瞳、涙、見慣れた死――

 

自分は罪を重ねすぎた。

 

もう戻れない。戻れない状況で、愛を知り進むことも戻る事も出来なくなった。

 

ザっ――

 

「!? いるんだろ……出て来いよ、ペド野郎!!」

 

「あれ?ばれちゃんた?」

エレンと殿町から、姿を隠したペドーが柱の陰から舌を出しながら、姿をあらわす。




殿町を幸せにしてぇ……
NTRじゃないよ?多分……
アウトじゃないよね?
詳しい人教えてくれ……


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Sが求めたもの/サイクロンパニック

さて、久しぶり投稿です。
何とかテンポを戻していきますのでお願いしますね。


「やぁ、シェリちゃん。夜の海って不思議な感じがするよね!」

遠くにぼんやり明かりが見える夜の海、ステージに立ったシェリとペドーが対峙する。

 

「はぁ、ボクの行く先々に現れるのはなんで?

ストーカーなの?それとも、ボクに惚れた?」

諦め半分、からかい半分のシェリの言葉。

 

「うーん、惚れてるのは確かかな?幼女好きだし?シェリちゃんいい子だし?」

途端にシェリの顔が曇った。さっきまで浮かべていた、感情が一瞬にして消え失せる。

 

「……何も知らない癖に、ボクは悪人だよ?

この無銘天使で何人も殺してる!!今すぐ君も消し炭に出来るよ?」

シェリが自身の無銘天使を構えて見せる。

 

「撃てるのかい?その虫眼鏡、今は夜だよ?」

 

「撃てるさ、ボクを舐めるなよ?」

薄暗いステージ、闇の中、海の波の音だけが二人の耳をうつ。

シェリが構える中で一歩、ペドーがステージに足を掛ける。

 

「……チっ、読まれたか」

舌打ちをして、シェリが虫眼鏡を消す。

 

「?」

 

「正解だよ。僕の無銘天使は虫眼鏡。

夕方の弱い光や、室内の光でもいいけど、人を殺すには威力が足りない。

人工の光でもいいけど、流石にこの時間じゃ無理」

お手上げと言いたいように、シェリが手を上げる。

 

「さて、ボクをどうする気?」

尚も手を上げるシェリのすぐ近くに、ペドーが立つ。

二人の視線が絡み合う。

 

「ねぇ、何か――ヒャイ!?」

突如、シェリが飛び上がりお腹を押さえる。

その部分は少し濡れていた。

 

「サイダー買ってきた。一緒に飲もうぜ?」

今さっき、シェリのお腹にくっつけた方のサイダーをペドーが口を開けて飲み始めた。

 

 

 

 

 

「なんで、こんなにみんな優しいかな……」

ペドーに手渡された、サイダーをシェリが飲んでいく。

炭酸のさわやかさを以てしても、シェリの心のモヤモヤは消えなかった。

 

「優しい、ね?優しさって何だろう?他人も思いやれることか?」

ステージの端に腰かけ、二人並んで足をブラブラさせる。

 

「他人を思いやれる事?ハッ、耳障りだけは良い言葉だね」

サイダーを飲み干したシェリが缶を握りつぶす。

 

「思いやるか――そういえば、あの精霊ほら、年増の二人いるじゃない?」

ペドーが、昼間の事を話す。

お互いが勝負し、相手を生き残らせようとしている、二人の精霊の話を――

 

「は?自分を犠牲に相手を?」

あり得ない。そう言おうとした時二人の時間が止まる。

 

「は?夕弦が?そんなことを?」

一体いつからいたのか、耶倶矢が呆然とペドーの話を聞いてた。

 

しまった――と言おうとした時、さらにもう一方公からも声が。

 

「復唱――耶倶矢が、夕弦を選べと……そう言ったのですか?」

此方には夕弦。

二人の精霊が意図せず、並んでしまった!!

 

「ふ、二人とも話を――」

 

「「ふざけるな!!」」

ペドーがなだめようとした時、すさまじい風が両者の間に吹く!!

二人の姿が、霊装を纏った姿へと変わる。

耶倶矢は巨大なランスを、夕弦はペンデュラムに使うような鞭を、それぞれ手にする。

「ああ、ダメね。本当にダメ、私としたことが夕弦の馬鹿さ加減を忘れていたわ!!」

 

「肯定。それはこちらです。夕弦としたことが耶倶矢の無能加減を忘れていました」

二人が向き合って、武器を構える。

風に飛ばされたシェリをペドーが抱きしめながら必死で守る。

 

「なら、結局こうなるのよね!!」

 

「戦闘。戦いで勝者を決めるのみです!!」

爆発的な風と共に両者が激突する!!

再度吹いた風に、ペドーがシェリをぎゅっと抱きしめた。

 

「まって、ステージが!!ゲドーのステージが!!」

 

「危ないって!!下がって!!」

軋むステージの中、シェリが必死になって手を伸ばした。

 

 

 

 

 

「お、なんだ嵐か?」

旅館のクラスメイトたちが突如吹いた嵐に、反応をする。

暴風、雷、そして雨。

のんきな者が多かったが、折紙は別だ。

 

「ペドー、今いく」

つい先ほど、友人からペドーが「幼女の反応がする!」といって外に出ていったのを聞いた。

この嵐だ、雨で濡れ透けになったペドーと成り行きでお外で――ごほん、困って居るだろうから助けに行くことにした。

 

「ッ!?何者――!!」

旅館を出た瞬間、後ろからプレッシャーを感じ飛びのく!

その一瞬後に、地面に何かが降り立った。

 

「ワイヤリング……スーツ?」

一見してそれは、人間の様であった。

だが、骨格がおかしく異様に長い手に、ピストンシリンダー風の機構を採用した脚部パーツ。

明らかに人間ではないハズの存在がワイヤリングスーツを着込んでいた。

 

「これは一体?あなたは何者?」

人間でないロボットが、リアライザを使用するなどおかしなことだ。

折紙が警戒を強める。

 

『どーも!姉さん、ガンダムですぅー……』

 

「嘘やろ?」

まさか返答が来るとは思っていなかった、折紙が可笑しな声を上げた。

だが、ロボは口?を閉じたりはしない。

 

『おおきに姉さん、ノリいいな!

まいどー、正体不明のロボですー。

名前だけでも憶えて帰ってね?』

突如、ロボットがインチキ臭い関西弁を語りだす。

多分実際に使う人からしたら、憤怒必至物のお笑い芸人が扱うようなしゃべり方だった。

 

「くッ!?」

一瞬のスキを突き、ロボが拳を突き出してくる。

 

『避けんといてーな、気絶させるだけさかい!

嫁入り前の女の子、傷モンにせーへん様にするの大変なんやで?』

尚もインチキ関西弁で、ロボが攻撃をラッシュする。

ふざけた様子だが、その攻撃は確かで折紙の意識を刈り取ろうと攻撃を繰り出す。

その時、新な闖入者が有った――

 

「鳶一折紙、外は危険だ。早く宿の中に戻るんだ」

それはクラスの副担任の、令音だった。

ロボに気が付いたのか、そちらにも声を掛ける。

 

「あー、キミ。うちの生徒に――ロボ?」

 

『アカン!秘密保持優先や!!』

ロボのターゲットが令音に変わり、拳を付きだした。

 

「先生危ない!!私は死にまシェーン!!」

ロボの攻撃を腹に受けて、折紙はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

「副指令!!!或美島北部の海岸で、すさまじい勢いの風が発生中です!!

嫌な風が吹く!!これだからこの島は嫌いなんだ!!」

苛立たし気に、箕輪が吐き捨てると非常時を知らせるようなアラームが鳴り響く。

 

「風?村雨解析官からの連絡は?」

 

「それが――さっきから、試しているのですが……」

 

「連絡妨害ですか?こちらに知覚をさせないとは……

万が一の事を考え、こちらから接触を図ります。

高度を1000メートルまで下げて、この前ポーカーで負けたヤツを送ってください」

てきぱきと神無月が指令を出す。

そして、地上に連絡員を送るその一瞬、ほんの数秒だけ〈フラクシナス〉の不可視機能が薄れる――

 

 

 

同時刻。

 

「――!艦長!レーダーに反応です!!

これ――空中艦です!!」

その言葉に艦長パディントンが、目を細める。

 

「なに?」

その両手には、チンして温めて食べるタイプのチーズたっぷりクリームドリアが握られている。

 

「あのタイプは――DEMのヤツではないな。

不可視領域を展開できる艦など――俺の知る限りDEMの3機だけ――

ハッ!?まさか――Jアーク!?ついに再起動したのか、Jアーク!!」

 

「あの、フラクシナス機関では?」

 

「それだ!」

解析官の言葉で、パディントンがひらめいたようにコンソールを叩く。

スプーンに当たって、跳ねたチーズがパディントンの目を直撃する!!!

 

「ぐぅぁああああ!!あっちぃいいい!!!クソ!!

フラクシナスめ!!!許さんぞ!!

主砲用意!!目的、消失した正体不明艦!!」

顔面にチーズのクリーミーな臭いを漂わせ、パディントンが怒鳴る様に叫ぶ!!

 

「え、『エレンママ』に報告した方が良いのでは?」

 

「かまわん!!よくも儂のクリーミーチーズドリアを!!」

クリーミーチーズドリアの恨みに燃えるパディントンが、驚く程冷淡な声を出してこういった。

 

「――撃て(ファイア)

 

 

 

 

 

バァン!!バァン!!シュー……

 

「な、なになになに!?」

突如起きた衝撃に、椎崎 雛子は頭を押さえていた。

まさに、不意の衝撃そしてメインモニターに映るのは、こちら撃ったと思わしき空中戦艦。

 

「さ、左舷テリトリー20%低下!!」

誰かが、状況を報告した時やっと他のメンバーも、自身の仕事を思い出したように動き出す。

 

「リアライザ3号機の出力低下!!」

 

「損傷は軽微です!!」

少しずつ、情報が動き出すフラクシナス。

多くのメンバーは、混乱していた。

戦闘だ、空中艦同士の戦闘が始まってしまったのだ。

多くのモノは、まさかという『現実味の無い現実』に支配される。

だが――

 

「ふむ、反応がないという事は向こうも不可視領域の展開が可能になったのですね?

アレはウチだけの特権だと思っていましたが……

なるほど、技術は日々進化しているのですね」

神無月があごを触りながら、ぼそっとつぶやく。

その様子は、全く慌てた様子もなく()()()()()()()様子だった。

 

「おっと、ボーッとしてるヒマありませんよ。

第二波が来ます。自動回避と不可視を解除して防御結界を展開してください」

 

「は、はい――うわぁつ!?」

一人の作業員が、バリアを展開した瞬間再び艦を大きな揺れが襲った。

神無月が言った通り、第二波が来たのだ。

相手は徹底的にこの艦を落とす気らしい。

 

「ほう、バリア越しでもこの威力……

なるほど、性能に余程自信があるようだ。

なら、久しぶりに本気を少しだけ、出しましょうか!!」

コンソールの一部を蹴る神無月、そしてその中からはシリンダーと針のついた銃の様な物を取り出す。

 

「いい!?」

異様な物体の登場に、クルーの一部が可笑しな声を上げる。

それは銃型の注射器だった、怪しい緑の液体がタプンと揺れる。

 

「さぁ!!行きましすよぉ!!アドレナリン、ちうにう(注入)!」

注射器の中身を取り込んだ神無月が激しく目を動かす。

一瞬脱力して地面にたおれ、再度神無月が勢いよく起き上がる。

 

「ふふふ……鳴った……鳴ったぞぉ!!破滅のゴングがよぉ!!」

ゲタゲタとタガが外れた様に神無月が笑い狂った。

 

 

 

 

 

「なんで、なんでこんなことに成るんだよぉ!!

お前らどっか行けよ!!」

嵐の真ん中シェリが、喧嘩を続ける八舞の二人に声を張り上げる。

ゲドーのステージが風にあおられ、少しずつ嫌な音を立て始めている。

 

「まて、なんか――いる!!」

風と雨の雷の中――何かを見つけたペドーが再びシェリをかばう。

それは機械だった、ひと昔前のアニメに出てきそうな安っぽい見た目のロボがペドーの前に降り立つ。

 

「DD―007〈バンダースナッチ〉と言っても分からないでしょうね」

凛とした声が響く。

それは、随行カメラマンのエレンメイザースだった。

 

「まさか、こんな辺境の場所で〈ベルセルク〉に会えるとは、驚くべき行幸。

そして、アイクから聞いたことが有ります、準精霊までいるなんて……

数々の不運を覆す幸運ですね」

無遠慮な視線をシェリの這わすエレン。

 

「何者だよ――」

 

「さぁ?準精霊が手に入るのはかなりの幸運です。

精霊に近い存在、精霊とは違い()()()()()()()()()()ができますね」

エレンがワイヤリングスーツを纏おうとした時――

 

「さぁ、こちら――へッぷ!?」

後ろに控えていた〈バンダースナッチ〉が倒れてきた!!

その衝撃で、ワイヤリングスーツを召喚するデバイスが地面に落ちる。

 

「な、何をしているのです!?敵はあっち――」

なんだか可哀そうな顔をした、ペドーが倒れたバンダースナッチを見る。

 

「あ、made in China……あそこって、安いけど質が少しねー」

 

「んな!?少し完成図と違うからおかしいと思ったんです!!

けど、安かったし……大量に生産できるって!!」

 

「防水加工してなかったんだなー」

ペドーがエレンの落とした、デバイスを拾う。

そして大きく振りかぶり――

 

「ま、待ってください!!それを無くしたら、アイクになんて言えば――!!

お願いです、それを返してぇえええええええ!!」

 

「海にシュートぉおおおおおお!!」

ペドーが遠く遠くに投げ捨てた。

 

「ぐす……なんですか、コレ。

良いとこ全くないですよ!!」

エレンがグズグズと泣き出した。

 

「……ゲドーより、外道だな……オマエ」

 

「幼女以外のお願いは聞かないことにしてるんだ。

さてと、次はシェリちゃんのお願いを聞いてあげようかな?

ステージ、守りたいんだよな?守ろうぜ、年増の精霊ぶっ飛ばして、笑顔でステージに上ろうぜ!!」

ペドーがシェリと共に、精霊に嵐に向き合った。




作中の方言は完全に適当です。
実際に使う人からしたら違和感がバリバリでしょうが、許してください。


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Iにさようなら/この幼女に花束を

さて、八舞編はコレで終了です。
次回からはまた、新しい精霊が。

今更だけど、コレ八舞編と言うより……


嵐の渦巻く、或美島上空数千メートル。

2隻の艦隊が、まさかの空中戦を繰り広げる!!

 

「撃てぇ!!あの夢想家共の戦艦を鉄くずに変えてやるのだぁ!!」

DEM所属のパディントン率いる、空中戦艦〈アルバテル〉が砲門からエネルギー派を出せば、ラタトスク機関の神無月代理の率いる空中艦〈フラクシナス〉が迎え撃つ!!

 

「来ますか!?A―1からC―2まで狭域バリア!!」

 

「な、そんな範囲で!?」

 

「当たらなければどうという事はないのです!!」

神無月が椅子に座り不敵な笑みを浮かべ、ものの見事にビームに対する防御を決めて見せた。

まさに針の穴を通すがごとき神業に、敵味方関係なしに驚愕の表情を浮かべる。

 

「指令の船を傷物にする訳にはいきませんからね」

神無月が不敵な笑みで、啞然としているであろう〈アルバテル〉のクルーを想う。

 

 

 

 

 

「……て、敵艦、本艦の攻撃を完全防御しました……」

 

「え、エレンママに報告を、指示を仰ぎましょう!!」

メンバーの一人が、焦りだし島に降りたエレンママの指示を仰ごうとする。

船内のメンバーに不安が伝播する。

それもそうだ、神業的技術をみせられこちらの攻撃は、全くの無効化をされたのだ。

確かな自信が音をたてて、崩れていっているのだ。

その様をみて、パディントンが息をそっと吸った。

 

「諸君、私は相手を見誤った様だ。

我々は自身を獅子と思い、相手を無抵抗な兎だと思っていた。

だが!!違う!!相手は自らと同じ、嫌、自らよりも力ある龍だった様だ……

ならばどうする!?竜を前にした獅子はどうする!?

逃げるのか!?子猫の様に、母猫に守ってもらうのか!!

違う!!断じて違う!!我らはDEM社の栄誉ある社員!!空中戦艦〈アルバテル〉を任された戦士だ!!

戦士の心と獅子の牙を持ち、目の前の龍を駆逐せよ!!

命が惜しいものは1分の猶予をやる、今すぐこの艦から脱出せよ!!」

艦内全域に、音声を発した後、パディントンが自らの椅子に座りクリームドリアを食べ始める。すっかり冷めたドリアは米までぱさぱさ、チーズも固まったしまった。

 

一分後……

「旨いドリアだった……最後の晩餐に相応しいな」

ブリッジを見回すパディントン、そこにはさっきまで怯えていた臆病者はだれもいなかった。

皆が皆、百戦錬磨の戦士の様に、瞳に熱い輝きを持っていた。

 

「ふっ、素晴らしい……さぁ!!行こうか、戦士諸君!!!」

 

 

 

「おや、まだ、来ますか!!良いでしょう!!この神無月が相手をします!!

ユグドフォリュウム展開!!」

神無月の指示のもと、無数の葉っぱの様な小型リアライザ装備のビットの様な物が射出される。

 

「行きますよ、魔力回路接続!!反射角算出!!敵艦行動予測完了!!

〈ゲーティア〉ファイア!!」

神無月の指示によって、フラクシナスからエネルギー砲が発射される!!

それはユグドフォリュウムを経由して、ランダムにビームを曲げながら敵艦を撃つ!!

 

撃つ!!撃つ!!!撃つ!!!!

 

「!?回避してください!!」

とっさに何かに気が付いた、神無月が回避行動をさせる。

その瞬間、ブリッジのすぐ横をすさまじい勢いで、鉄の破片が通り過ぎた。

 

「あれは……」

モニターに映ったのは、大型装備を抱える一人のウィザード。

数世代前の装備で、〈アルバテル〉の上に立ちこちらを見てた。

スーツにつながる無数のコード、そして硝煙を上げる巨大な銃口。

この男が、こちらを撃ったのだ。エネルギーでは効果が薄いと感じたため、自身の戦艦の装甲の一部を引きはがして、巨大な針にして大型の銃の銃口に無理やり詰め込んで発射したのだろう。

この作戦、ムチャクチャだ。

自身の戦艦の装甲を無理やり剥がすのは、当然だが防御を捨てる事になるし、銃に無理やり鉄の針を仕込むのも一歩間違えれば暴発で自身が死ぬこともある。

そして何より、エネルギー波の中へワイヤリングスーツのみで身を晒したのだ。

 

「すさまじい執念です、あと、後一瞬回避が遅れていたら……

死ぬのは私たちでした」

神無月が初めて冷や汗をかいて言う。

ゆっくりゆっくり、〈アルバルテル〉が沈み始める。

 

「……ハッチを開けてください」

言うや否や、神無月がハッチを開けフラクシナスの上に立つ。

ウィザードが顔のマスクを剥がし神無月と目を合わせる。

 

すッ――

 

男が、神無月に中指を立てて見せる。

(よくもやりやがったな。だが、次は負けない)

 

びっ――!

 

神無月が男に親指を下げる。

(私の勝ちです。次も負けない)

 

それは、お互い命を懸けて戦った男同士の、淡い友情の様な物だった。

 

 

 

 

 

「さぁて!!俺と!!幼女の!!戦争(プレイ)を始めようじゃないか!!

幼女にはハッピーエンド以外は似合わない!!」

目の前には、風。地面を吹き飛ばし、木を引きちぎり、海を割る――

圧倒的な力を持ったタイフーン。

だが、だがそれでもなお、ペドーはシェリに笑いかけた。

こんな風、何でもない。そうとでも言いたげに。

 

「おい、どうするんだよ……精霊二人の攻撃なんて、とても止められない……

無理だ!!」

シェリの言葉に、ペドーがシェリの顔の涙を指で拭う。

 

「困った、ハンカチを忘れてしまった……

乾いた布が有れば、拭いてやれるんだが、仕方ない。

嵐を止める。おまえと、お前の守りたいものの為に!!」

ペドーが後ろを振り向く!!

そして、大剣を顕現させて嵐に向かって振るった!!

 

「うおぉおおおい!!こっち見ろ!!年増のブス共ォ!!

どっちもどっちなんだよてめーら!!

お互いが大事!?んなもん当たり前だろうが!!

お前ら、最初は一人だったんだろ!!!分かれた相手も、自分!!

要するにお前らは、自分大好きナルシスト精霊なんだよ!!」

がむしゃらな、ペドーの言葉が聞こえたのか空中で戦う二人の動きが止まる。

 

 

「質問。今、我々をだました男が、さらに我々を侮辱する声が聞こえませんでしたか?」

 

「ええ、聞こえたわ。我らの顔に泥を塗った罪、先にあ奴の命で贖わせるべき!!」

二つのタイフーンが、ペドーを襲う!!

 

風に煽られた、ペドーが木の葉の様に浮かぶ!!

 

「うわぁあああ!!」

 

「見つけたわよ!この……!!あんたさんざん言ってくれたわよね!!

夕弦の事を悪く!!」

 

「敵意。耶倶矢を馬鹿にしたあなたを決して許しはしません」

二つの風の中で、ペドーがきりもみ回転する。

 

「ぺ、ペドー!?」

シェリの声に、八舞の二人が気が付く。

 

「そう言えば、あの子のせいでこんなことに成ってるのよね。

責任の一端はあるわよね?」

 

「返答。その通りです、むしろ準精霊が居るせいでここまで拗れたのです」

 

「ならさ、こんな島。吹き飛ばしちゃおうか?」

 

「賛成。決着は後にして、先に嫌な思い出の清算をしましょう」

二人が飛び上がり、島の上を回りだす。

それに呼応するように、嵐がより強く大きくなる。

 

ドサッ……

 

風になぶられていた、ペドーが地面にぼろ雑巾の様に投げ捨てられた。

シェリはそのペドーに、必死で駆け寄った。

幸い息はある。だが、その息は今にも消えそうで非常に弱弱しい。

 

「そんな……ボクのせいで、みんなが、ゲドーがペドーが……」

絶望的な状況にシェリが呆然とする。

力だけで生きてきた自分が、さらに大きな力によって消されるのは分かる。

それは因果応報というやつだ。だが、それに大切な人を巻き込んでは成らない。

自身に優しくしてくれた人を巻き込んではいけない!!

 

「お願い!!ボクが憎いなら、ボクを!!!

ボクはどうなっても良い!!けど、みんなは!!」

シェリの叫ぶような声はもう届かない、神が罪人に裁きを与える様に、タダ空が渦巻いている。

 

「……ん?今……どうな……っても良……いって……言った……よね?」

気が付いたペドーが何とか立ち上がるが、すぐに膝をついてしまう。

空中できりもみ回転してのだ、三半規管がやられるどころか落下の衝撃で骨が折れていてもおかしくない。

 

「ペドー、無理しちゃダメだ!!」

 

「絶対絶命のピンチって奴……ん?」

その時、ペドーが自身のズボンから、漏れる音に気が付く。

それは今の今まで連絡一つなかった、フラクシナスからの通信だった。

 

『あ、やっとつながった!!ペドー君、今無事ですか!?

どうなってます?リアライザで、島の中は見えるんですけど、嵐のせいで近づけないんですよ』

神無月が必死で、声を掛ける。

切羽詰まった状況だが、それでもペドーは事態を伝える。

 

『最悪の状況ですか……一筋でも、光が有れば……』

明確に敵意を持った精霊、孤立したペドー、こちらに武器はない!!

 

「光……光、そうだ!!光だ!!」

ペドーが起き上がり、自身の腕をへし折った!!

そこから、傷を回復させるべく、炎がともる。

 

「シェリちゃんは、光が有れば……例の天使使えるんだよな?

部屋の中の明かりで、すっごく熱い程度……俺の炎を使って一人脱出させることは……」

 

「行かない!!ここには、ゲドーが居る!!ペドーが居る!!

ボクに優しくしてくれた人たちが居る!!ゲドーのステージだって、壊させない!!

みんな、みんなボクが守る!!」

この時、この時初めてシェリは他者を思いやる心を手にした。

やさしさに触れ、そして今度は自分が守る側に立とうとした!!

 

「ゲドゲド!!これは大変な状況ゲドね!!」

砂浜、そこにホテルに居るハズのゲドーが立っていた。

 

「なんで……」

 

「少し、散歩ゲド!!別に探しに来たわけではないゲドよ?」

そんな見え見えの嘘までついて見せる。

 

「精霊、とある筋から聞いたゲドが……まさか、シェリがそうだとは……」

ゲドーが大げさに驚いて見せる。

 

「ゲドーさん……なぁ、アンタ、()()使えるか?」

ステージに向かって、ペドーが指さす。

 

「何をするゲド?」

 

「神無月さん!!計算してもらいたいことが有ります……

上手く、行けば……うまくいけば!!」

ペドーがその場に居る全員に、自身のアイディアを話す。

 

『ペドー君!?それは、危険過ぎます!!キミの体が……』

 

「ゲドゲド、男の子が女の子の為に体を張るのは当たり前ゲド!!

大人はそれが行き過ぎない様にするのが仕事ゲドよ?」

着々と準備を進める面々、この作戦は到底うまくいかないであろう計画だ。

だが、それでも男たちは止まることが出来なかった。

 

 

 

 

「ん?何かやる気?いい加減なバカな事よね」

 

「肯定。所詮力のない人間のやる事です」

 

「「ならば、準精霊ごと、島ごと、吹き飛ばすのみ!!」」

空中、二人の手がひしっと合わさり、天使が融合していく。

耶倶矢のペンデュラムは弦に、夕弦の槍は矢に二人の機械的な天使が融合して巨大な弓矢へと変わる。

風を纏いすべてを、そう、思い出も、やさしさもすべてを吹き飛ばそうと構える!!

 

 

 

 

 

「さぁ、行くゲド、シェリ!!」

 

「シェリちゃん、準備はいい!?」

 

「二人とも、ボクを誰だと思ってるの?準精霊、シェリ・ムジーカ様だよ?」

三者三様にイタズラをするような、含み笑いをこぼし合う。

そして、合図としていた言葉を、口にする!!

 

「「「ここからは、俺(ボク)たちのステージだ(ゲド)!!!!」」」

最初に動いたのはゲドー!!

ステージの全部の照明をスイッチオン!!

そして近所迷惑も考えず、ボリュームMAXでマイクの電源をONにする!!

 

「御就寝中の皆様ぁああああ!!これから、ゲドー様の迷惑ライブを始めるゲド!!

ゆっくり寝れるとはもう思わないゲドね!!」

キぃイィィィィィぃィん!!

余りの音に、周囲の建物がどんどん明かりをつける!!

そう、『明かりをつける』!!

 

「神無月さん!!」

 

『ええ、すべて計算通りに!!』

 

「さぁ、俺!!根性の見せ時だぜ!!」

瞬時、ペドーの周囲に青と赤の2色がきらめく!!

ペドーの中に有る四糸乃の氷!!そして琴理の炎!!

相反する力が、たった一つの体から放出される!!

 

「うお、おおお!!」

四糸乃の力で、雨が氷に変わるそして琴理の炎でその氷をペドーがミリ単位で削る!!

何度も何度も、気の遠くなる作業を繰り返す!!

これはレンズ!!氷で作られ、炎で研磨された自然のレンズ!!

神無月がレンズの角度、厚さをペドーに指示する!!

 

「いっけぇえええええええ!!!」

ゲドーの作った光が、ペドーのレンズによって集まってくる!!

その先は?その先はもう決まっている!!!そう、このステージの最後の主人公!!

シェリ・ムジーカだ!!

 

「今は、今だけは、みんなの為にもう一度この力を!!

燃やせ!!〈炎魔虚眼(セメクト)〉!!」

島中の光が、シェリの中に集まる!!

 

そして、極大のレーザーが台風の中心、八舞の元へ!!

 

「な、なに!?あ――」

 

「驚愕。あれは――」

二人の手を離れる天使〈颶風騎士(ラファエル)〉!!

島を破壊する弓と、島を想う心の宿った熱線が空中で衝突する!!

風を引き裂き、過去の罪を振り切り、守るために振るわれた準精霊の力が、精霊の力を打ち破った!!

 

「がぁああああ!!」

 

「あぁああああ!!」

八舞の二人が、熱線に焼かれ海に落ちていく。

まるで呪縛を破壊する様に、島を覆っていた嵐が消えていく。

 

「やった……やったんだ……」

実感のわかないシェリがペタンと、その場で膝をつく。

周囲は明かりをつけたが、戦いを見ても新しい演出としか思わないのか、騒ぎに成らず再び眠りについていくようだった。

 

「ゲドゲド……少し、ホテルの様子を見てくるゲド。

二人はここで、おとなしく待つゲドよ?」

ゲドーがステージの明かりを消して、何処かへ走り去っていく。

色々と無茶をしたのは、ゲドーも同じ様だった。

 

「ペドー、オマエのおかげで――」

 

ドサッ――

 

シェリの目の前、ペドーが急に倒れて動かなくなる。

 

「お、おい!?一体どうした――ッ!?」

ペドーに触れたシェリが驚く。体が冷たい、死人の様に冷たい。

だが、同時にすさまじい量の汗をかいている。まるで真夏の熱中症患者の様に吐く息が熱い。

 

「なんで――!?

まさか、さっきのか!?」

思い当たるシェリ、氷と炎の力を使ったペドー。

アレは恐らく精霊の力、だが、相反する力でもあったハズだ。

その力を同時に使った為、体温の調節機能が異常をきたしているのだろう。

 

「どうすれば……」

温めればいいのか、覚ませば良いのかすら分からないシェリが困惑する。

ゲドーは居ない、いや、それどころかここには誰も居ない。

 

「ん……んぐ……」

シェリは息を飲んだ、そうだ。

此処には()()()()()のだ。

 

思い出すのは、さっき倒した精霊二人の言っていた言葉。

 

「風邪の時は人肌で温めるんだよな……?」

自身の体温、ソレなら暖かすぎず寒すぎないハズだ。

意を決したシェリはペドーの服に手を掛ける、脱がす。

 

数瞬のためらいの後、自分の服も脱ぎ捨てそっとペドーに抱き着く。

 

「オマエは、ヘンタイでロリコンでロクデナシなヤツだけど……

死んでほしくない絶対に――」

そこまで言って、シェリはやっと自身の心に気が付く。

ゲドーとも、他の誰とも違うくすぐったいような気持ち。

 

「そっか、コレが、恋……

コレがスキって気持ちなんだ」

シェリがペドーの唇に自分の唇を押し当てた。

 

「アナタの事を、誰よりも愛しています」

誰も聞くことのない告白、だがペドーの顔が少しだけ楽そうになった。

 

 

 

 

 

「あ”あ”-死ねる……リアルに死ねるぞ……」

帰りの飛行機の中、ペドーがマスクをしておでこに冷えポタを張っていた。

気が付いたら、ゲドーのホテルでものの見事に風邪をひいていた。

結局、シェリとはあの後合わずに、予定が進み、一つ予想外だったのは――

 

「フハハ、夕弦は流石だな」

 

「否定。耶倶矢ほどではありません」

八舞の二人だった。

あの後、海に落ちた二人はフラクシナスに回収され、ペドーの封印の事を聞いた。

封印すれば消えることは無いと知った二人の行動は早く……

 

「好きだぞ」

 

「告白、好きです」

の簡単な告白と共に、唇を二人同時に奪われ封印された。

なんというか、非常に適当だとペドーは思った。

 

「ああ、何か、何か大切な事を忘れている気がする!!

ぶぇっくそん!!」

ペドーの修学旅行は風邪だけが記憶に残った。

 

 

 

 

 

「行くゲド?」

 

「うん、ボクは行くよ。あの人のそばに居たいんだ」

シェリが飛行機の発着口で、ゲドーに別れを言う。

事の発端は簡単だ、ゲドーが察して準備をしたそれだけ。

 

「お嬢さんはしっかり守りますから」

神無月がゲドーに笑みを投げた。

 

「ふん、足り前ゲド!寧ろ、何かあったら慰謝料ふんだくってやるゲド!!」

 

「ゲドー……」

 

「シェリ、コレ携帯電話ゲド。

オマエにやるゲド、いつでも――とはいかないから、何かあったらメールするゲド。

気が向いたら返事するゲド……」

ゲドーから、シェリが携帯を受け取る。

大切そうに思い出を貰って、シェリは愛する人の元へ向かった。

 

 

 

数日後

ゲドーが、楽屋で仕事の準備を進める。

 

「あー、うるさいのが居なくなって、せいせいしたゲド!!

コレでまた自由ゲドよー!!

行くゲド、シェリ。何度でも償って、何度でも立ち上がって、そして永遠に愛する者と一緒に居るゲド……」

 

ぴろりろり~

その時、携帯が着信を知らせる。

 

文章は簡素、しかしとてもいい笑みを浮かべてペドーと共に映るシェリの写真が添付されていた。

ゲドーは微笑みそれを大切そうに、胸に抱いて楽屋を後にした。

 




エレンママは、殿町が救出してくれました。


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Gを継ぐもの/特殊性癖よりの使者

さて、今回は前回で漏らした説明の一部紹介です。
次回より、美九編が始まります。

今回悪ふざけ多めです。


琴理が広い廊下の中を軍服姿で歩いていく。

不安からか、琴理の小さな胸の中の心臓が早鐘の様に鳴り響いている。

 

スゥ――

 

小さく息を吸って、目の前の荘厳な扉をノックした。

 

「五河 琴理。参りました」

 

『入り給え』

失礼しますと小さく声を上げ扉を開いた。

その部屋は所謂書斎と呼べるような、四隅を本棚で囲まれた部屋だった。

そして中央に机と、椅子があり50代ほどの白髪の老人が座っていた。

多少若いが好々爺と呼べる姿をしている。

彼こそが円卓議会(ラウンズ)会長、エリオット・ウッドマンだ。

〈ラタトスク機関〉の創設者にして、琴理の恩人でもある。

 

「ご無沙汰しております、()()()()()卿」

 

「うぐ……」

琴理がナチュラルにウッドマンの名前を間違え、小さくうなった。

 

「ず、ずいぶんと活躍している様じゃないか。

円卓の連中も驚いていたよ」

 

「彼らは大仰に驚くのが仕事ですから」

琴理の言葉に、ウッドマンが面白そうに喉を鳴らした。

 

「まぁ、そういうな。彼らとて〈ラタトスク機関〉に必要な人材だ。

……それより五河司令。精霊の力を使ったと聞いたが、大事ないかね?」

 

「はい、ご心配おかけしました」

 

「そうか、それは良かった」

ウッドマンがあごひげを撫で、一瞬の時間を溜め再度口を開いた。

 

「そうそう、先ほど〈フラクシナス〉がDEM社制と思しき空中艦と戦ったらしい」

 

「!?――そうですか。しかし、あの艦には神無月が居ます問題は――」

 

「問題はもう一つの方だよ。

キミの兄が天使を顕現それも、2つ同時にだ」

 

「!」

ウッドマンの言葉に、琴理が目を見開いた。

 

「もしもの時は『適切な対応』をしてもらう事になるかもしれない」

ウッドマンの言葉に、琴理が泣きそうになるがグッとこらえて、無表情を作った。

 

「分かっています。もしもの時は、士道は()()()()()()

重くつらい、決意の言葉と共にその日のラウンズは終了した。

 

 

 

 

 

その日の夜、琴理は自身の家の前に来ていた。

会議を終え、ようやく自身の家へと帰ってくることが出来たのだ。

ぼんやりと暗い街の中でも、五河家は光にあふれていた。

修学旅行に行ったペドーが帰って来ているのだろう。

タダの家の明かり、しかしその光は琴理にとって、自身を歓迎してくれている様に思わせる物だった。

 

「ペドー、今帰ったわよ」

扉を開き、小さな話し声のするリビングへと足を運ぶ。

そのさなか、琴理は自身の兄と何を話そうかと夢想する。

司令官らしく『ベルセルク』を封印したことでも良い、家族らしく修学旅行のお土産についてでも良い、それとももっと身近に今夜の夕食について話しても良いだろう。

わくわくと弾む小さな胸の鼓動の命じるまま、琴理はリビングの部屋の扉を開ける。

 

 

 

「よし、サイズはピッタリだな」

ペドーが部屋の真ん中、もごもごと怪しく動くバックを目の前にして何度も頷く。

 

「ぺどーさん、あたらしいかばんをかってきたんですのね」

くるみが興味深そうに見る。

 

「あ、琴理、おかえりー」

琴理に気が付きペドーが声を掛けるが、なおも琴理は自身の頭に手を当てたまま反応しない。

 

「……なんでよ」

 

「ん?」

 

「なんで、まだあきらめていないのよ!!!

カバンに幼女を詰めて旅行しても逮捕されるだけでしょ!?

まったく、ほら、四糸乃も付き合ってないでかばんの中から――」

その時、台所の方から四糸乃がジュースを持ってやってくる!!

 

「琴理さん、おかえりなさ、い?」

不思議そうにコップの乗ったお盆をテーブルに置く。

コップの数は『4つ』

 

「ねぇ、四糸乃……このジュースって私の分ある?」

 

「あ、ご、ごめんなさい。すぐに注いできます」

パタパタと再度、キッチンの向かう四糸乃を前に琴理が口を大きく開いた!!

 

「おかしいでしょ!?どうして4つなのよ!!

ペドー、くるみ、四糸乃で3つでしょ!?

ねぇ、ねぇ!!!なんで4つなのよ!!なんでさっきからカバンが勝手に動いているのよ!?」

悲鳴のような琴理の声に、ペドーがカバンのチャックを開く。

 

「なにって、シェリちゃんの分だよ」

 

「入れなくないけど、スゴイせまい……」

カバンの中から、褐色肌の幼女が顔を見せる。

 

「ぺ、ペドー!!!あんた遂にヤッったわね!?

修学旅行先で攫ってきたの!?幼女を持っていくなとは言ったけど、持って帰ってくるのはもっとダメに決まってるじゃない!!」

ガクガクと震え、琴理が大量の汗をかきはじめる。

 

「あ、シェリちゃん。コイツが琴理。

すぐ叫ぶし、性格コロコロ変わるし、中二病だし、そのくせそこそこ可愛いから、学校の女子に友達が一人もいないボッチなんだけど、仲良くしてくれる?」

 

「うーん、内弁慶っぽいからヤダ!」

ペドーの言葉に、シェリが元気に答えた。

 

「じゃー、しょうがない。琴理、頑張って生きてね?」

 

「ちょっと!?いきなり何言ってるのよ!!

私別に友達いるし!!」

 

「相手はお前の事、友達とは思ってないよ」

 

「思ってるわよ!!う、うわぁあああああん!!」

きつい現実を突きつけられ、琴理が遂にその場でゴロゴロ転がって泣き出した。

 

 

 

 

 

数分後……

 

「ぐす、え、ぐす、で?島で、新しく見つけた準精霊を連れてきたの?」

涙をぬぐいながら、琴理が話しをきく。

島でのことは詳しくは令音に聞けば分かるだろうと、心の中で整理をつけていく。

 

「なんで、こういう精霊バッカ集めるのよ……」

涙声で琴理が尋ねる。

目の前のペドーは、膝にくるみを座らせ、右側に四糸乃、左にシェリとまるでハーレムものエロゲのワンシーンの様になっている。

 

「ふっふっふ、それはこの或美島で買ったこの『幼神様』の力さ」

そう言って自身満々に見せるのは、小学生くらいの女の子をかたどったフィギュアだ。

なぜかスク水にランドセル、そしてリコーダーを加えさせられ、大量のケフィアが掛かっている。

 

「どー見ても、コレ、なんかのエロゲ早期購入特典よね!?

なにを買って来ているの!?」

琴理がぶちぎれ、フィギュアをペドーから奪い取る!!

 

「ヤメロぉ!!幼神様の怒りに触れるぞ!!」

 

「知らないわよ!!こんなもん!!!」

琴理が幼神様を思いっきり地面にたたきつける!!

その瞬間!!

 

デンデンデンデン!!デ~ンデデン!!

 

呪いのBG永夢ゥ!!っぽい音楽が聞こえた。

 

「ああ、なんてことだ。幼神様の怒りに触れた……!!

あと24時間はそのままだぞ?」

ペドーがそう言うが、琴理は体になんの異常も感じていなかった。

 

「いったいにゃにがぁ、おこったにょ?

!?――にゃにこれぇ!?きょえが、きょとばが、ふちゅうにでにゃいのぉおおおお!!んほぉおおおおおおおお!!!」

なぜか琴理のセリフすべてが、エロゲボイスっぽくなっている!!

 

「ぺどーさん、これなんていってるんですの?」

くるみが不安そうに聞く。

 

「あ、えーっとね

『一体何が起こったの?

!?――なにこれ!?声が、言葉が普通に出ない!!』

かな?」

 

「ペドー、コイツ頭おかしいぞ!!」

シェリが琴理に向かって指をさす。

四糸乃は必死によしのんに頬をつねってもらって、笑うのを我慢している!!

 

「ま、明日には戻る筈……

そうだ!みんなで、お土産のチョコでも食べようぜ!!

琴理もチョコスキだろ?」

ペドーが話題を変えようとして、カバンから或美島チョコを取り出す。

タイアップ商品なのか、ゲドーの顔がでかでかと乗って。

『デブと虫歯のお友達ゲド!』の一文が載っている。

 

次々と、チョコをみんなに配っていくペドー。

拗ねていた琴理も遂に近づいてきて、手を差し出す。

此処によこせ、と言いたいらしい。

 

「まったく、別にみんな笑ったりしてないって。

ほら、せっかくのチョコだぞ?むすっとしてたら不味くなるぞ?

チョコスキだろ?」

ペドーの言葉に、琴理がようやく再度口を開いた。

 

「うん、しゅき、チ()コすきぃ……

()コ食べるのらいしゅきにゃのぉ!!

()コほしいのぉ!!」

言葉の一部に不自然にかかる規制音!!

 

「うわぁ……」

その言葉に、ペドーが慌ててくるみの耳をふさぐ。

なんというか、聞かせては成らない。

ペドーのなけなしの良心がそう叫んだ結果だった。

 

「さ、さぁーて、みんな、ええと……

きょ、今日は出前でも取ろうか?

シェリちゃん出前って初めてだろ?かつ丼とか食べたことある?」

ペドーが気を利かせ、あえて話題を別の事に振った。

他の皆も何も言わなかった。

その優しさがなぜか逆につらくて、琴理は小さく泣いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁああああん!!精霊ほしいよぉおおお!!

精霊、精霊!精霊!!精霊!!!」

部屋の中、おむつと涎掛けのみを身に着けた、ウェスコットこと、うぇすちゃまこと、赤ちゃんプレイ野郎が泣きわめく。

 

「うぇすちゃま、泣かないでねー。

うぇすちゃまは強い子、すごい子、DEMの代表ですよ~」

 

「ぐす、だってみんな、〈バンダースナッチ〉勝手に経費少なくするし、戦艦一騎堕ちたし、エレンママだってスーツ無くしてるしぃいいい!!

うわぁああああああん!!」

 

「はいはい、悲しかったでちゅねー」

エレンママが哺乳瓶に入れた、ミルクを赤ちゃんプレイ野郎に飲ませる。

 

 

 

約一時間後……

 

『エレンはんお疲れやでー』

 

「……バンダースナッチ……」

話しかけてきたロボに対して、エレンがため息をつく。

前までは楽しくてしょうがなかった、うぇすちゃまのお世話。

だが、なぜか今日はドッと疲れた。

 

「なんででしょう……」

エレンの胸に浮かぶのは、殿町の顔。

嵐に飲まれ、機能停止した鉄くずに潰されエレンは死の一歩手前だった。

だが、その瞬間殿町が駆け付け、鉄くずの下からエレンを助け出していた。

その後、防水加工されていたバンダースナッチのプロトタイプ(大量生産を度外視した設計なので、多くの機能がある)のおかげで無事雨宿りする所まで言った。

 

チーン!

 

『たこ焼きできたでー、冷めへんウチに食いー』

バンダースナッチの胸部が開かれ、タコ焼き機の上に沢山のたこ焼きが載って出てくる。

 

「〈プロトバンダースナッチ〉……なんのつもりですか?」

 

『何って、タコ焼き作ったねん。食いなはれや!』

 

「私一人では数が多すぎます……だから――」

 

『だから、食べたい人と一緒に食べ行けばええやん』

 

「え――ちょ!?」

バンダースナッチがエレンを抱きかかえ、建物の外へ行く。

 

『100年後、だぁれも生きてへんさかいな。

出来る事せぇへんと、後悔するでー』

バンダースナッチはそのまま遠くの空へ、エレンを連れて消えていった。

 

 

 

「はぁー、腹減ったなー。

両親が法事で居ないと、自由だけど不便だな」

自室で殿町が、ゴロゴロとゲームをする。

その時――

 

こん、こん

 

自室の窓を叩く音がする。

 

「へ?え、エレンさん?」

窓の外にいたのはエレンその人!!

なぞの巨大マシンに乗って、空を飛んでいる!!

少しのためらいの後、エレンが殿町に向かって口を開いた。

 

「ね、ねぇ、最新型のタコ焼き機買ったんだけど……一緒にたべない?」

 

「もちろんですよ!!」

殿町が嬉しそうに笑った。




作中キャラ紹介!!

幼神様(ようがみさま)幼女と幼女好きの為の神様。
実は或美島に古代から伝わる呪いの儀式が奔流。
子どもを守るために、生贄とされた子供が元になっており、自身を傷つける者を決して許さない。
その力は、もはや祟りの領域で昔の権力者は、幼神様を神様として奉る事で呪いを弱めることにした。
しかし島の人間だけで、呪いを受け止めきれず苦渋の選択として、幼神様のご神体を大量に作りお土産物として売る事にした。その結果、呪いは弱くなるが多くの地方へと飛び火することに成る。
ふつうは何の害も無いのだろうが、たまに『当たり』のご神体が混ざっているので注意。

プロトタイプバンダースナッチ。
量産型のバンダースナッチより前に作られた、バンダースナッチ。
『予算に糸目は付けない』の言葉を聞いた研究者グループの悪ふざけにより、無駄に昨日が充実している。
主な機能は、タコ焼き機、ラジオ、時計、ドライヤー、懐中電灯、CDプレイヤー、温度計、湿度計、高度計、爪切り。
冷却装置を使う事で、500ミリリットルのペットボトル2本までなら、冷やせる。

本来は、教育ビデオを見せて学習させる気だったが、職員が間違えてお笑いのビデオを見せた結果AIがこのように学習した。
仲間が容赦なくコストダウンの為に、機能が減らされ物言わぬ機械へと変わっていくのを悲しく思う。
雨に濡れて壊れた、鉄くずも彼にとっては大切な兄弟だったのだ。


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美九パラノーマル
学・際・襲・来!!


さて、今部からはあの精霊がメインになります。
はてさて、長編な話。
何話くらいかかるかな~


夏休みが終わった教室内。

ざわざわという空気が、生徒の浮足立った心を如実に表している。

 

教壇に亜衣が立ち、その両脇を麻衣と美衣が固める。

その後ろでマインがチョークを持って、神妙な顔で黒板に何かを書き始める。

 

「諸君……今年もこの季節がやってきた!

去年は我らは苦渋を飲まされ、地を舐めた!!

だが、あの日より我らは進化した!!さぁ、我らの力で奴らの(アギト)を食いちぎる時だ!!」

 

『『『おう!!』』』

クラス全体がカチドキを上げる!!

 

「ぺ、ペドー、戦争でも始まるのか?」

ペドーの横、胸部デブこと十香がペドーに耳打ちする。

 

「んあ?十香……なんか久しぶり?

えっと、文化祭?みたいなものが始まるんだよ」

酷く久しく十香を見ていなかった気のしたペドーが説明をする。

 

「文化祭……の様な物?」

 

「そそ、天央祭って言ってな?この町の学校全体でやるんだよ。

もともと、この区域って空間震が起きた影響で人が少なくてな、その時少ない学校同士が合同で始めたのが最初って言われてる。

その時の、名残りで毎回合同になっているのさ」

 

『今年こそ!!我らが栄冠を勝ち取るとき!!!』

ペドーの言葉を捕捉する様に、亜衣が名乗りを上げる。

栄冠の言葉通り、実は学校同士のちょっとした戦いがある。

模擬、展示、ステージのそれぞれの部門で、優秀を決める戦いでもあるのだ。

ギスギスした空気が流れるのは毎年の事である。

 

「くく、なるほどな。亜衣たちが何をたぎっているかようやく理解したわい」

 

「納得。そう言う訳なら負けるわけにはいきません」

ペドーの後ろ、そこには見た目がそっくりの2人の少女がいた。

八舞の二人だ。

 

「お前ら、隣のクラスだ――ハッ!(察した)

ハブられてるのか……」

ペドーの言うように二人は、隣の教室だ。

二人がそろっていれば、ある程度は精神が安定するとされ、別の教室へ配属されたのだ。

ペドーが気の毒そうな視線を送るが当人たちはきにしない。

 

「ふふ、まぁ。我ら八舞姉妹がいる以上、来禅の価値は揺らぐまいて……」

 

「同意。耶倶矢と夕弦のコンビは最強です。どんな敵が来ようとも恐るるに足らずです」

 

「「ふふふふふふ……」」

その内、付き合いたてのカップルの様に、キャッキャウフフし始める。

 

「こいつら、自分の事大好きだな」

八舞の二人は、双子ではない。正確には一つの精霊が分かれた存在。

要するに同じ人物の側面にすぎない。

二人がお互いを褒めるという事は、自分を褒めているという事で……

 

「ここまで来るとむしろスゲーわ……」

ペドーがあきれる。

 

「なあ、ペドー!!文化祭という事は、たくさん食べ物屋も来るんだろ!?」

目をキラキラさせながら十香が、ペドーに尋ねる。

 

「おっと、十香ちゃん。食べ物屋の情報をお望みかな?

俺が前もってリサーチした、情報見せてやるぜ!」

二人の間に割って入ってきた、殿町がリストを見せる。

 

「おお、本当か!?」

 

「どうして、こんなリストを?」

 

「いや、その……え、エレンさんを誘おうとおもって……

来てくれるかな?」

ペドーの疑問に、もじもじと殿町が恥ずかしがる。

欲望のみで動いてる彼にとって、このリアクションは非常に珍しい。

 

「去年、人気が出たのは、ノザマ製薬高校だったかな?

農業に力を入れてる高校で、去年でたフレッシュセットは、カットフルーツに水っていうけち臭いセットなんだけど、すげーうまいんだよ。

確か……ヘルヘイム産の果物と、アロマオゾンって会社の水だったかな?

飲んで余りのうまさに暴れだす奴らが大量にいたらしいぜ」

そう言えば、そんなことが有ったなーとペドーが思い出す。

 

「他は栄部西のブラックメンチカツだな、黒豚と黒毛和牛を贅沢に使用した逸品だぜ」

 

「なんと……」

十香が殿町の情報に対して戦慄したように、表情を鋭くする。

 

「栄部西は、確か家政科があって初等科から、調理に力を入れている学校だったな。

つまり!!しっかり者幼女がたくさんいるんだよな!!」

ペドーが栄部西に対して、思いをはせる。

 

「オマエは、何考えてるんだよ……

ほ、他は仙城大付属かな?あそこは付属だけあって――」

 

「エレベーター方式で行ける、お嬢様系幼女が居るんだよな!!」

 

「テメェ、幼女100%か!!?」

 

「ヒロポン、他の学校はどうなのだ?」

 

「ああ、十香ちゃんごめんよ、ついエキサイトしちゃったから……

まぁ、王者は竜胆女学院かな?」

 

「あー……」

ペドーは去年の優勝校を思い出した。

そうだ、確か完璧なお嬢様学校で、やたら距離を近くしてアイドルの握手会の様な手法で金を搾り取っていたらしい。

 

「ふぅ、アイツらな~んか、作られた感じで好きじゃないんだよな。

やっぱり幼女は自然体の中で生きていて欲しい……

ま、年増はそうでもしないと売れ残るサダメだしな!!」

 

「ば、馬鹿野郎!?ペドーお前、美九たんを知らないのか!?」

 

「あ?誰だ?」

聞きなれない名前に、ペドーが聞き返すと。

まさか!?と言いたげな顔をして、ゆっくりと聞き返す。

 

「美九たんだよ!!誘宵 美九たん!!

今年の4月に竜胆に転校してきた美少女で俺らの学年はみんな知って――ないか……」

ペドーがシャツの裏に「I love 幼女!!」の刺繍を見せた来たので、何かをあきらめた殿町が小さく言い淀んだ。

そんな時、周囲のざわつきに少しの変化が起きた。

 

『静粛に、諸君静粛に。諸君らの思いは十分受け止めた、しかしだ――

我らが同胞、霧崎生徒会長以下数名が、前日志半ばで英霊と成られた。

諸君らの中にその代わりを成さんとする勇者はおらぬか!?』

 

「要するに、代役募集って事か。

さてと、今年はどの学校の幼女を観察しようかな~」

ペドーが我関せずといった口調で見たいたが……

 

「くッ!幼女の平和は俺が守る!!

私殿町 弘人は、五河 士道を推薦します!!」

 

「あ、殿町てめぇ!?」

その瞬間周囲の人間が、突如現れた生贄に対して、速攻で食らいついた!!

 

「賛成!!」「賛成でーす!」「ペドー君しかいないと思います!!」

「ペド野郎をデュエルで拘束せよ!!」

ざわめく周囲、そして――

 

『では、他薦、さらには賛成多数で、五河 士道を天央祭実行委員に任命します!!』

無情な決定がペドーに下される!!

 

「くっそ!!これが、民主主義のすることか!?」

ペドーの声もむなしく、可決されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

とあるオフィス街の一室にて、一人の男が資料を見ている。

「なるほど、プリンセスはほぼ間違いなく精霊で、天使を使う青年――イツカ ペドーねぇ……」

男の名はアイザックウェスコット、社内の者からは赤ちゃんプレイ野郎と呼ばれる変態で変人で鼻つまみ者のベテラン赤ちゃんだが、その装いはいつもの涎掛けとおむつではなく、まっとうなスーツだった。

そして、その前にはその資料を作ったエレンママが控えていた。

 

「そして、現場には〈ラタトスク〉の空中戦艦が居たと来たもんだ――」

芝居がかった動きで、ウェスコットがエレンに尋ねた。

 

「くく、あの若造が私を出し抜くとは……少しだけ愉快になって来たよ」

 

「私はそうは思いません」

ウェスコットの不快そうな口調でエレンが答える。

 

「それで、あちらの方は?」

 

「完璧です、新品のおむつはすでに収取済みです、なんと羽がつき横漏れしない構造に成っています。

そして、こちらが新品の哺乳瓶。今までとはデザインを一新して先端の形が以前の物とは違い実際にお母さんのおっぱいの形に近く、咥えた感触そしてお乳の出る量も穴に工夫を加えることで改良が――」

 

「違う!!いや、素晴らしいけど違うよ!!

ウィザードについてだよ、ウィザードについて!」

ゾロゾロと赤ちゃん用品を取り出すエレンを、ウェスコットは違うとしかりつける。

 

「ああ、そちらなら〈アデプタス3〉以下10名本日付けで実働部隊に配属となりました」

 

「結構」

自分の手回しが上手くいっている、事を理解してウェスコットは愉快そうに座った。

 

 

 

 

 

日のくれた7時30分ごろ、ペドーはふらふらと街を歩いていた。

結局、役員に任命された後、引継ぎの情報だなんだを無理やり叩き込まれ、ペドーはすっかりふらふらだ。

なんだか、下半身がむかむかする気がする。

 

「はぁ、拘束されて無理やりお母さんにさせられる幼女って、あんな気分なんだろうな……」

逮捕間違いなしのセリフを吐きながら、ペドーが商店街を練り歩く。

この季節は、実は沢山の人がおまけをくれたりするので、意外とペドーの家計は助かっているのだ。

 

「ん?」

そんな中、ペドーの幼女レーダーに反応がある。

近くに幼女が居る!!そんな予感がして、ペドーが勢いよく走り出す!!

そしてその先に居る幼女に後ろから抱き着く!!

 

「だーれだ!!」

 

「ふみょうん!?」

 

『こんなことするロリコンはペドー君しかいないよ!!』

麦わら帽子に、白いワンピース。

手には動くうさぎのパペット、精霊の一人四糸乃だった。

 

「こんな所でどうしたのん?」

 

「えっと、ペドーさんをさがして、ました」

 

『帰りが遅いから心配したんだよー?』

二人の声を聴き、ペドーが一言電話を入れるべきだったと反省する。

 

「そうか、けどもう暗いから、もっとたくさんの――」

 

「ボクも居るよ!!」

突然、後ろからタックルを食らい、ペドーがよろめく。

 

「ああ、シェリちゃんも居たのね……」

そこにはピンクのシャツと黒いスパッツを履いた、褐色の肌を持つ幼女が居た。

最近隣に越してきた、準精霊のシェリ・ムジーカだ。

 

「けど、二人でも危ないよ。特にここは、路地裏が多いから連れ込まれたら大変だよ!

さ、特に危ない所を紹介するからついてきてね!!」

 

「ぺ、ペドーさん、痛いです……」

 

「やめろぉ!!なんで、路地裏へ引っ張ろうとするんだ!?」

 

『ああん!!ペドーくんったらケダモノ~』

 

「はぁはぁ……大丈夫だよ……はぁはぁ……お兄さんが、お兄さんが守ってあげるからね!!」

息を荒くして、路地裏へ連れ込もうとするペドー!!

 

『おおっと、オイタはそこまでよん?』

 

「このペドヤロー!!」

よしのんが四糸乃と運転を代わり、シェリが足のバネを利用して飛び上がった!!

よしのんの蹴りが鳩尾に!!そしてシェリの壁を蹴った反動を利用した蹴りがそれぞれペドーの顔面に突き刺さった!!

 

「俺の、業界では、ご褒美です……」

 

「表にゴミを置いておけないね」

 

『しょうがないな~』

シェリと四糸乃が顔を見合わせ、ペドーの路地裏まで運んでいった。




文化祭ってわくわくしますね。
毎年、何らかの形でステージに私は登っています。


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美・声・歌・姫!!

さてと、今回からは第6の精霊です。
ペドーさんとは仲良く……成れないだろうなー
暴言等が出てくるので注意です。


『でねー、でねー?』

夕焼けに染まる町の中、ペドーが四糸乃とシェリを連れ家路につく。

よしのんが楽しそうに、声を漏らせば四糸乃が優しく肯定する。

その少し前をシェリが、少し不機嫌そうに歩いている。

 

「いやー、帰るのが遅く成っちゃったな……」

玄関の前、3人がドアを見る。

 

「くるみがすっごく心配してたぞ?」

 

「本当か?」

 

『ペドー君を探しに行こうって、はじめに言い出したのはくるみんなんだよねー』

ペドーの疑問に、よしのんが答える。

 

「けど、暗く成ってきたから、お留守番してもらって……」

 

「なるほどね」

3人の会話を聞いて、ペドーが納得する。

最年少のくるみを置いての年上組の捜索、きっとこの町をあまり知らない四糸乃は不安だっただろう。

そして、四糸乃以上にこの町の知識が少ないシェリ、勝気な性格の彼女の事だ。

不安そうな四糸乃を連れ、自ら先行して探しに来たに違いない。

ペドーは自らの、不手際と浅慮を反省した。

 

「二人ともごめんな。忙しくてすっかり忘れてしまったんだ。

けど、迎えに来てくれてうれしいよ。ありがとな」

二人を抱きしめて、優しく話す。

 

「ぺ、ペドーさん、今度は気を付けてくださいね?」

 

『よしのんとのお約束だよ~?

破ったら針千本のーます!!』

 

「ま、まぁこれ位なら……」

素直に話す四糸乃とは対照的に、シェリが照れた様に自身の頬を指で掻く。

一方ペドーは――

 

「ハスハス……幼女の香りだ!!視界一面幼女!!

吸い込む空気が幼女の香り!!!」

 

「…………」

シェリは無言で膝をペドーの顔面目掛けて、引き上げた。

 

ガスッ!!

 

 

 

 

 

「あ、ぺどーさん、おかえりなさいまし!

かえりがおそいので、しんぱいしましたわ!」

玄関を開けると、目の前のくるみが待っていた。

どうやらずっと玄関先に居たらしい。

 

「あら?なんではなぢがでてますの?」

 

「ふっ、やんちゃな子猫ちゃんに、イタズラされたのさ」

無駄に凝ったキメ顔でペドーが微笑む。

 

「寂しい思いをさせたねー、ごめんねー!」

 

「きゃ!?ぺどーさん!?」

カバンと制服のブレザーを脱ぎ捨て、ペドーがくるみに飛びつく!!

ペドーの衝撃でくるみが床にぶつかる瞬間、ペドーがくるみと体の位置をひっくり返す。

 

「はぁ、幸せな重み……」

地面にあおむけで寝転がるペドーの上に、くるみが乗っかった状態に変わる。

そしてそのまま、足を動かし寝たまま地面を這いずる!!

 

 

 

 

 

『いいかね?君の兄上の不調を注目してみるんだ。

最悪の手段を取らない様にするのが、キミの仕事だ』

ソファーに座った琴理がフェザーマン(名前うろ覚え)に言われた言葉を自身の中で反芻する。

帰りが遅い、連絡も無しに何が起きているのか……まさか?

『最悪の場合』を想定して、何度も頭を振るう。

そうだ、大切なのはそうならない事、つまりは自分のサポートが重要だという事だ。

小さな変化、おかしな行動も見逃さない。

琴理が小さく自分の中で、誓いを立てる。

そう、私がいる。私がペドーを救――

 

ガチャ!

 

「ただいま琴理ー」

 

「ッ!ずいぶん遅――何してるの!?」

ドアを開けたペドーがまるで自らをサーフボードにしたようにくるみを乗せて部屋の中を這いずりまわる!!

琴理の座るソファーの周囲をぐるぐると回転する。

何かの映画で、サメがこんな風に遭難者を取り囲むシーンが有ったな。と琴理が思う。

 

「お、十香も来ていたのか」

 

「おお、ペドー、おかえりだぞ!」

ゲームをしていた十香がこちらを見る。

 

「よーし、遅くなったお詫びだ。今日は腕によりをかけてハンバーグを作っちゃうぞ!」

 

「ほんとうですの?」

ペドーの腹の上、くるみが喜び立ち上がる。

その結果くるみの体重が鳩尾に加わり……

 

「どうしたんですの?ぺどーさん?」

 

「ちょ、ちょっと、興奮しただけだよ!!」

誤魔化すようにペドーが笑う。

シェリと琴理は自体を理解したように「いたそー」とつぶやいていた。

その時――

 

うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううぅぅ☆

 

「むむ、空間震か!?みんなで夕食はまた今度だな」

 

「なんで死亡フラグっぽいこと言うの!?」

ペドーの言葉に、琴理が叫ぶ。

 

 

 

 

 

「鳶一 折紙。本日付けで謹慎は終了だ。

ASTへの復帰を認める……

次は無いと思えよ?」

厳つい顔をした男、日坂が厳しく釘をさす。

 

「は、了解――」

折紙が口を開いた瞬間、その部屋に侵入者が現れる。

 

「これは何ですか!?」

姿を現したのは、日下部 燎子だった。

 

「外国人の補充が10人!?しかも、特例によって独自行動の許可まで……!

一体どうなっているんですか!?」

仮にも国家の一部を担うAST、そこに好き勝手出来る権限を持った外国人部隊とは明らかにおかしい話である。

 

「いや、だって。お金貰ったし……」

 

「頭腐ってるんですか!?」

申し訳なさそうに、札束を取り出す日坂を燎子がしかりつける。

その時、再びドアが開く。

 

入ってきたのは、10名ほどの外国人たち。

先頭の赤髪の少女が、二人を視界に収めて声を出す。

 

「あ羅?死霊で見た顔ネ、確かトビイチ オリガミとASTの体調さんよね?」

なんだか文字化けと、誤字を盛大にしまくったような口調の女だった。

 

「京漬けで、配属されることになった、ジェシカ・ベイリーで酢。

夜露死苦ね!」

 

「何をしに来たのかは知らない……けど、ここの隊長は私、私の指示に従ってもらうわよ?」

 

「あなたに従えば、精霊を倒せると?ここ数ねん、精霊を大量に発見しながらも、今谷一帯も倒せていない、おままごとチームだってネ」

ジェシカの言葉に燎子が顔を歪ませる。

 

「おままごとはどっちよ!!あんたんトコの社長なんか赤ちゃんプレイ野郎じゃない!!」

 

「あ、赤ちゃんプレイ野郎!?べつに伊井でしょ!好みは人それぞれ……」

流石に厳しかったのか、ジェシカが苦し紛れに反論する。

 

「け、けど強さなら、私たちの方が上ヨ!

ホワイトリコリスと4Gなん手、欠陥品を使ったけど、結局勝てなかったンデショ?」

 

「…………」

ギリッと折紙が歯ぎしりする。

そして時間を置かずに、空間震警報が鳴りだす。

仕事だ。折紙は自身の中のスイッチを入れる。

 

「丁度良い話。私たちの強さ、見せてあげるワ」

ジェシカがニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「ここは――ステージ?」

フラクシナスにより、送りこまれた場所をペドーが確認する。

周囲にはスプーンでえぐり取られたような、クレーターが出来ており精霊の出現をいや応なしに感じさせる。

 

「これは……歌?」

ステージの中、かすかな歌がペドーに耳に届く。

まさかと思うが、ステージに顔をやると誰かがいた。

観客もスタッフも居ない、一人きりの孤独なステージ。

しかし、そんな中でも彼女は煌びやかで、神聖な雰囲気さえ出しながら歌っていた。

 

『アレはまさか……〈ディーヴァ〉?』

 

「デーブ?」

 

『違うわよ!!』

インカムから聞こえる琴理の怒鳴り声を予想して、ペドーがインカムを耳から外す。

 

「おい、説明」

 

『この……!

はぁ、〈ディーヴァ〉半年位前に、一回だけ出現が確認された精霊よ。

その一かいこっきりだから、正確能力いずれも不明。

接触するなら、気を付けてね……』

 

「うわ、スゲェデブ……帰って良い?」

胸部に目をやり、げんなりしたペドーが踵を返そうとする。

正直な話、幼女以外に興味なし!!

 

『帰んな!!攻略しなさいよ!!』

再び耳から外したインカムから、琴理の声が漏れる。

だが、今度反応したのはペドーだけではなかった。

 

「あら、誰かいるんですか?

丁度退屈していた所なんです、もしよかったらお話しませんか――」

優し気な声を響かせ、こちらを精霊が探す。

 

『どうやら、会話は可能な様ね……こっちでサポートするから、接触してみてくれる?』

 

「りょーかい」

しぶしぶと言いたげに、ペドーが歩き出す。

 

 

 

高度一万5000メートルにある、空中艦〈フラクシナス〉そこで琴理たちが画面に映る選択肢を見る。

 

「選択肢ね――、全員選択!」

今回の選択肢は4つ。

①「あまりにも君が綺麗だから、見惚れてしまったよ」

②「君の歌――すごくきれいだね」

③「下からの眺めは最高だったぜ、ぐへ!ぐふふふふ!!」

④「ここからは俺のステージだ!!」

 

ポチポチと、選択肢が集まってくる。

やはりと言うか、最も人気のあるのは②だった。

 

「さすがに④はいないわね……ん?

だれよ、③に入れたの?神無月?」

 

「違います!!私は①に入れました!!」

 

「え、じゃあ……」

 

「すいません、私です……」

琴理の言葉に、一人の職員が手を挙げた。

比較的まじめな、職員でなぜこんなモノを選んだ不明だ。

 

「その、歌に聞き覚えがあって……、手が滑って③を押してしまい……」

 

「間違いって事ね?けど、聞き覚えがある?」

少し納得いかない感情もあるが、琴理はペドーに②を言うように指示した。

 

 

 

 

 

ペドーは意を決して、ステージに足を掛ける。

その様子に精霊も気が付いた様だ。

 

「あら、わざわざ出来てくれ――」

 

「やぁ、君の歌――とても綺麗だ――」

ビーッ!ビーッ!!

その時、ペドーの耳にけたたましいアラームが鳴る!!

この音は、精霊が不機嫌な時のアラームだ!!

 

『ちょっと、何したのよ!?』

 

「え、いや……何も……してない、ハズ?」

しかし未だにアラームはとどまらない!!

 

『好感度が下がっています!!ま、まさにゴキブリレベルです!!!』

 

「え、ええ?」

混乱するペドーを他所に――

 

「わッ!!」

精霊が突然、声を荒げる!!

音の壁、ともいえる衝撃波がペドーをステージから押し出そうとする!!

 

「わわ、と、と!?」

ステージの端、落ちそうになり何とか上半身でくっつく。

結構な高さで、堕ちたら少し危なそうな位置だった。

そんなペドーに、精霊がゆっくり近づいてくる。

 

「なんでしがみついているんですかぁ?なんで落ちてないんですかぁ?なんで死んでくれないんですかぁ?可及的速やかに、ステージから落ちてこの次元から消え去ってくれませんかぁ?」

 

「は?いま、なんて?」

一瞬ペドーが何を言われたか分からず固まる。

 

「なんで、しゃべりかけているんですかぁ?止めてくださいよぉ、気持ち悪い人ですねぇ。

声を発さないでください。唾液を飛ばさないでください。息をしないでください。あなたが大気を汚染しているのがわからないんですかぁ?分からないですねぇ?」

余りにさんざんな言い草に、ペドーの中の何かがキレる。

 

「なにを見ているんですかぁ?気持ち悪いですねぇ、不快ですねぇ……視線を合わさないでください」

キョロキョロし始めるペドーを精霊が、不機嫌に話す。

 

「……豚がしゃべった!!」

そしてひどく驚いた様子で精霊を見る。

 

「はぁ?」

今度は精霊が固まる番だ。

 

「ステージの上で豚を飼っているのか?

豚は大人しく屠殺場へ行け!!」

 

「ああ、あああ貴方は!!黙っていたら――」

 

「吠えるな、豚。発情期か?」

 

「きぃいぃいいいいいいい!!」

遂に歯ぎしりを始める精霊、その時――

 

バゴン!!

 

アリーナの天井が破れ、ASTが現れる。

今回来た精霊を狩りに来たのだろう。

 

『隊長、アレを――』

 

『イツカ・シドー……これは行幸!!』

ジェシカがペドーを見つけた瞬間、精霊ではなくそちらに躍りかかった!!

 




今更ですけど、イツカ・シドーって書くとガンダムのパイロットっぽくないですか?


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精・霊・接・触!!

さてさて、美九ちゃん登場の部。
今回は彼女の、タァアアアアアアン!!
といわんばかりの、活躍です。


「あー、眠い……」

 

9月9日の朝、ペドーはあくびをかみ殺しながら横で小競り合いをする十香と折紙を連れ、文化祭の合同会議に出席するべく歩いていた。

因みに十香と折紙は亜衣麻衣美衣マインの4人組の代理らしい。

 

 

 

精霊と出会たのは昨日の話。

なぜか、ASTの一部がこちらに攻めて来たが突如――

 

『はぁう!?お、お腹が、居たい!?』

 

『おおう、やばいデース……』

 

『す、スーシーに合ったッタノーか!?』

外国人っぽいメンバーがほぼ全員、お腹を押さえて蹲り始めた。

会話の内容から読み取るに、寿司に当たった様だ。

確かに9月といえどまだ暑い、前日買った寿司などの生ものを、冷蔵庫に入れ忘れたらこうも成るだろう。

 

「えーと、トイレはあっちだってさ」

WCのマークを指さすペドーと、走っていく外国人たち。

 

「文化の違いって大変だなー」

フラクシナスに回収されながらペドーが小さく漏らす。

 

 

 

 

 

豪奢な門を抜け、学校の中に入っていく。

待ち合わせ場所の会議室に行くと、すでに数名の他の学校の実行委員が集まっていた。

 

あたりを見回すと、ペドーの後ろ。

入り口から声が聞こえてきた。

 

『失礼しまぁす』

そう言って入ってきたのは、濃紺な色をしたセーラー服の集団。

そして、その先頭に居る少女にペドーと折紙が目を見開いた。

 

「な」

 

「あ……」

 

「こんにちはー、皆さんよく来てくれましたね。

竜胆寺女学院、天央祭実行委員会長、誘宵 美九ですぅ」

その姿は、まぎれもなく昨日見た精霊だった。

 

 

 

 

 

「誘宵 美九ね。彼女が精霊だったなんて……」

フラクシナスのモニターに、美九が躍って歌う姿が流れている。

荒い映像、揺れる画面からそれが市販に販売された物で無い事が容易に想像できる。

 

「過去の経歴を見たわ。

半年くらい前から、彗星のごとく現れた大人気、アイドル……

その圧倒的な歌唱力は見る者を引き込み、『聞く麻薬』とさえ言われ――」

 

「幼女の方がその表現は合ってるな!!」

琴理の言葉を遮り、ペドーがニヤつく。

 

「……私の様に、〈ファントム〉に精霊化させられた人間の可能性が出てきたわね」

琴理があごに手を当て、試案する。

 

「ま、そこは追々考えましょう?

ソレより朗報よ、美九の好感度の上下から実はある仮説にたどり着いたのよ」

そこの言葉と共に、令音がフラグを見せる。

ペドーと会った時は好感度が下がっているが、逆に折紙と会った時はすさまじい勢いで上がっているのだ。

 

「これは……?」

 

「これは、美九さんが男嫌いで、女好きである可能性を現しているんですよ!!」

いつの間にか、後ろにいた神無月が女性ものを制服を持ちながら話す。

 

「……まさか……」

女性物の制服、そして男嫌い――まさか?

 

「頑張ってね、《《おねーちゃん》》」

ぐっと、琴理がサムズアップしたと同時に、ペドーがフラクシナスのメンバーの連れていかれた。

 

数時間後……

 

「ちょっとー、このウイッグ毛が跳ねてるじゃない!

ん、もう!髪は女の命なのよ?」

 

「誰だお前!?」

琴理が、鏡の前でポーズをするペドー似の女に声を荒げる。

 

「誰って、貴女のおにーちゃ、じゃなかった。

おねーちゃんじゃない?」

くねくねと鏡の前でポーズを取って見せる。

 

「な、慣れすぎじゃない!?」

 

「人って、変身願望があるものよ?」

モデルのようなピシッとした、姿勢でペドーが歩いてくる。

完璧な女性の立ち振る舞いに、逆に琴理が威圧される。

 

「あら!枝毛発見!だめよ~?

性別の上に胡坐をかいちゃ、すぐに年取ってババァよ?」

 

「あ、ふん?」

余りの変わりように、琴理が音もなく気絶した。

 

目覚めよ!!その魂!!

おめでとう!!ペドーは新しい性癖を獲得した!!

 

ロリコン

露出

女装癖←new!

 

「いやー、ペドー君?ちゃん?は可愛いなー。

どうです?一回5万で?」

 

「ウチの息子の嫁に来ない?」

 

「こんなかわいい子が、女の子のハズが無い!!」

フラクシナスのメンバーに、ペドーが囲まれる。

 

「げ、月曜日に、攻略をはじめるから……そのつもりで……」

必死に飛びそうになる意識を何とか保ち、琴理がペドーに言った。

 

 

 

 

 

月曜日。

放課後に成って、ペドーが大きめのカバンを持って席から立ち上がる。

 

「ペドー、天央祭の話し合いに行くのではないのか?」

帰ると思ったのか、十香がペドーを呼び止める。

 

「ちょっと、やることがな。

少し待っててくれ」

そう言って、ペドーが学校の校舎、理科準備室や視聴覚室、被服室などめったに使われない特殊教室が集合している。

という事は、この辺のトイレは滅多に使用されることがない。

 

「『滅多に人が来ないトイレ』とか、興奮してしまうわ!!」

躊躇する幼女を少し乱暴にトイレに連れ込む妄想を始める。

 

「おっと、今はこっちだな……」

秘密裏に持ってきた女子制服を見る。

誰も来ない、トイレに女子制服。

なんとなく犯罪っぽい、空気を感じながらペドーが服を着替える。

 

「ふー、トイレ、トイレ……」

 

「おっす、殿町!」

 

「おっす!……え!?え、ええ!?」

偶然通りかかった殿町が驚くが、まぁ問題はないだろう。

そのまま、いつもの4人組をさがす。

 

「あ、あの……!」

ペドーが例の4人組を見つけ、話しかける。

 

「ん?誰だっけ?」

 

「えっと?」

きょとんとした4人の態度に、ペドーは自身の正体がバレていないことを確信した。

 

「実は、士道君に代わりに会議に行って欲しい言って頼まれて――」

 

「あ”野郎逃げやがった!!」

 

「魔女狩りだ!!罪をでっち上げて拷問してやる!!」

 

「ネビュラガスの人体実験の被験体にしてやる!!」

3人がうるさく騒ぐ、どうやら彼女たちの中に、先日会議のドタキャンを決め込み、折紙と十香を代役にしたことは、記憶から抜けているらしい。

 

「ペドーは何処へ……」

 

「分からない、何かが……」

校門の前、十香と折紙が不安そうに話している。

恐らく未だに来ない、ペドーを心配しているのだろう……

 

その時、音もなく二人の視線が女装したペドーに注がれた。

 

「ん?ペドー似の……だれだ?」

 

「……良い」

十香が不思議そうな顔をして、折紙は無言でカメラを取り出し写真撮影を始めた。

 

「皆さん、よろしくお願いしますね?

私は士織。五河 士織です」

そう言って、まんまとペドーは学祭のメンバーとして会場へと潜り込んだのだった。

 

 

 

「どこへ行くんだよ……」

会議を適当な理由で抜けたペドーが、美九の後を付け回す。

今いるのは仮説ステージの裏、「立ち入り禁止」の看板を無視してずんずんと美九が入っていく。

それに倣って、ペドーも同じくステージの裏へ走る。

 

「!?」

仮設ステージの真ん中、美九が立っている。

その姿は、数日前のシチュエーションと酷似しており……

 

『話す前から、緊張してんじゃないわよ』

 

「馬鹿言うなよ。俺だって不安なんだぜ?

女装して、レズ女攻略って、冷静に考えたらバカすぎるだろ?」

インカムから聞こえてきた声に、ペドーが思わず悪態をつく。

 

「あらー?あなたは……」

 

「ッ――しまった!」

思わず漏れた悪態を、美九に聞かれてしまった。

こちらの存在に気が付いて様で、視線を投げかけてくる。

 

「あなたは?」

 

「俺は――」

 

「俺?」

美九に指摘されて、思わずペドーが再び舌打ちしかけた。

ミス、痛恨のミスだった。これでは男とバレて――

 

「変わった言葉使いですねー、けど個性としては全然ありですねー」

 

『機嫌度変化なし!!成功です!!』

クルーの誰かが言った言葉を聞き、ペドーが安心する。

男の様な言葉使いを個性と認識したらしい。

 

『さて、運がいい事に丁度選択肢も出たわ。

というか、もう選択自体終わってるから、お願い』

とんでもない言葉の指示が提示され、一瞬ペドーが固まる。

 

「い、今、履いてるパンツ……5万で売ってくれませんか?」

ペドーとしては、非常に、非常にきついセリフなのだが、指令なら仕方ないと自分を無理やり安心させる。

 

「うーん、お金は嫌ですけど……交換なら良いですよ?」

 

『良い訳ないだろ!このでぶぅ!!』

ペドーの口からそんな言葉が出そうになったが、必死になって押しとどめた。

その姿は美九には恥ずかしさを我慢している様み見えた様で――

 

「あははー、冗談ですよぉ。

それ、むしろ私のセリフじゃないですかぁ?」

 

「は、はは……」

美九の言葉にペドーは顔が引きつらない様に気を付け、笑みを浮かべた。

 

「本当はここ、入っちゃダメなとこなんですぅ。

二人とも、悪い子ですね。

だから、お互いないしょにしましょうね?」

優しい声音、そして優し気な動作。

コレがこの前会った精霊なのだろうか?

性別一つで、ここまで態度が変わるとは驚きだった。

それまでに、彼女は見た目しか気にしてないんだろう。

 

「その服、来禅さんですかぁ?

私は誘宵 美九。今回の天央祭、成功させましょうね?」

 

「あ、ああ。五河 士織だ。よろしく」

そういうと、美九がペドーの手を優しく握った。

 

「あれ、たくましい手。何かスポーツでも?」

 

「ば、バレーボールを少々?」

誤魔化すようにペドーが言う。

正直部活なんてやっていないし、どっちかというとバスケの方がスキだったが、ソレっぽいのでバレーと言っていた。

 

「ああ、道理で。背が高くてかっこいいと思いましたよ」

 

「あ、ありがとうございます……」

明らかにこっちを狙った、会話にペドーが手を払うようにひっこめたが――

 

「つぅ!?」

物が散乱するステージの裏、そこの機材の一部にひっこめた指を当ててしまったらしい。

確認すると、指から血が零れている。

 

「まぁ!大変。少し待ってくださいね?」

美九が自身のポケットからハンカチを取り出し、ペドーの指に巻く。

 

「そんな、良いのに……」

 

「スポーツ選手が、指先を労わらなくてどうするんですか?

もっと、自分を大切にしてくださいね?」

本気で心配する、美九の姿にペドーがもう何度目に成るか分からない、悪態を自身の中でついた。

 

『見事にエスコートされちゃってるわね』

インカムから、琴理のこちらを小ばかにした声が聞こえる。

結局その日は、それ以上の進展はなかった。

だが、美九がただの男嫌いだと分かっただけで十分だと、ペドーは自分を納得させる。

 

 

 

 

 

翌日、ペドーは再び、女物の制服を着て竜胆寺女学院の前にいた。

手に持っているのは昨日巻いてもらった、ハンカチ。

 

『せっかく、口実が出来たんだから、このチャンス生かしなさいよ?』

 

「……ああ」

何度目か分からない琴理の言葉、こっちが女装までして色々と戦っているのに、椅子でふんぞり返っていると思うとなんだかむかむかしてくる。

 

心の中で、ひそかに今日の夕飯は琴理の大好き()なグリーンピース尽くしにしてやろうと歪んだ笑みを浮かべる。

 

「あれぇ?士織さんじゃないですか?」

邪悪な想像をかき消すように優し気な声が響く。

その声の主はたった今、自分を困らせている美九の物で――

 

「あ、は、ハンカチを返しに来ました……」

 

「まぁ、うれしい。今時間あります?

良かったら、私のお家でお茶でもしません?」

 

『やったわ!これはチャンスよ!』

耳を震わす、不快な声。

 

「い、いいですねぇ……」

苦虫を噛み潰して、さらに追加で口いっぱいに頬張ったような顔をペドーがした。




非ロリの活躍になんの意味があるんだ……
幼女分が足りない……
ロリぃ……ロリは、どこ?

という感じの今回。
うーん、どうしよ?


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不・穏・茶・会!!

うわぁぁぁぁぁぁぁ!!
気が付いたら、40話突破していました!!
なんだコレ?主人公が幼女にセクハラし続ける作品だけで40話超え!!

どうなてるんだろう……


「さ、ゆっくりくつろいでくださいね?」

 

「は、はい……」

美九が笑顔で話し、士織の返事を聞いてから台所へと行く。

窓の外をみると、そこはまさに別世界。

 

竜胆寺女学院から、5分と経たない近場に美九の家はあった。

高級住宅を思わせる豪奢な門と、華が咲き乱れる優雅な庭。

まるでそこだけ、安っぽい小説に出てくるような、無駄に豪華な「私、お嬢様です」という露骨なアピールに凝り固まった家だった。

 

『まさか、こんなトントン拍子に事が進むなんてね。

ハンカチを返すって作戦は、予想以上の効果ね』

インカムから、琴理の自信に満ちた声が聞こえてくる。

どうやら小さな司令官様はご満悦の様だ。

だが、ペドーには小さな疑問が残る。

 

「なぁ、あの豚って男嫌いなんだろ?

封印した後、性別バレたらどうするんだ?」

 

『あ……』

インカムから、琴理の気まずそうな声が聞こえてくる。

恐ろしい事に、その後については全く考えていないようだ。

そのことを責め立ててやろうと思ったが、タイミング良く(悪く?)美九がお茶をトレイに戻ってくる。

 

「どうかしましたかー?」

 

「あ、いや。窓の外に幼女が居たから……」

 

「そうなんですかぁ?」

テーブルにトレイを置き、ごく自然な動作でペドーの隣に座る。

そして手慣れた動作で、紅茶をカップに注ぐ。

 

「なんか悪いな。何かなら何まで……」

 

「良いんですよぉ。いい茶葉が入ったし、士織さん一緒にお茶が出来るだけで十分ですから」

そう言って、ティーカップを差し出してくる。

一口飲むと、喉に紅茶の香りが広がる。

 

「うふ、ベルガモットの香りがするでしょ?

本当はミルクティーでも良いんですけどぉ、今日はレモンティーにしました」

 

「へぇ、詳しいんだな」

ペドーが再び口を付けるが、内心は穏やかではなかった。

 

(カップがぬるい、紅茶の茶葉の適正温度は92度か、91度。

最適な温度で淹れないと、香が出にくいのに――

コイツ、「優雅に紅茶を飲んでる自分」に酔ってるタイプか……)

ソレから数時間、お互いの心を探り合うかのような会話が続いた。

 

美九の話題にペドーが乗り、ペドーの言葉に美九が大げさに頷く。

そんな様子は何処かの心理学の本に書かれていた「相手を引き付ける話し方」によく似ていた。

 

しばらくして、不意に時計を見るとすでに時間は午後8時。

 

(なんてこった!!こんな豚の世話に、3時間だと!?

3時間っていたら、幼女相手ならナンパから仲良しになるまで十分な時間じゃねーか!?)

人生の貴重な時間を、自意識過剰デブに使われたと思ったペドーが愕然とする。

 

「あら、もうこんな時間ですかー」

 

「ずいぶん話し込んじゃったみたいだな」

 

「良いんですよー、私はたのしかったですしぃ。

それに……」

美九がペドーの前に立ちマジマジとその顔を見る。

 

「うん、やっぱり良いですね。

()()()()()()()

 

「?」

美九の言葉に可笑しな含みを感じ、ペドーの脳裏に疑問符が浮かぶ。

 

「士織さん。明日から竜胆寺に通ってください」

 

「は?」

美九の言葉が理解できずに、呆けた顔をペドーが晒す。

 

「竜胆寺女学院に転校して下さい」

さっきと同じ言葉を繰り返す。

 

『おかしな反応はないわ。

彼女、本気で言ってるみたいね』

琴理がインカム越しにそう教えるが、目の前の美九を見ると冗談を言ってる訳ではないのはペドーにも分かっていた。

 

「ああ、勿論学力やお金のことは気にしないでくださいねぇ。

私が『お願い』しておきますからぁ。

住所と採寸教えてくれますかぁ?今日中に作って遅らせますからぁ」

 

「ちょ、ちょっと待て、そんなすぐ――」

その時不意に、美九がペドーの耳元に口を近づけ――

 

()()()

 

「!?」

美九の声がペドーの耳に聞こえた瞬間、脳裏に幸福感に似た酩酊状況に成る。

アニメを見て、声優の声を聴き「耳が幸せ」なんて言葉を聞くがなるほど、今がそんな状況なのだろう。

 

思わず、その言葉に頷きそうになるが……

 

(BBAに屈する訳がねぇ!!)

 

「断る!」

必死の抵抗で、美九の頼みを断る。

 

「あ、え?」

ペドーの言葉に、美九が驚いた顔をする。

その表情からはまさか断られると思っていなかったという感情が見え隠れしている。

 

「士織さーん、【()()()()()()()()()】」

 

「絶対にノウ!!」

今度は完全に誘惑される事無く、美九の誘いを断った!!

 

「あなたもしかして――――――精霊さんです?」

 

「なに?」

美九の言葉、その言葉は今までのどんな言葉よりペドーを震わせた。

 

「な、なんのことだ?ゲームかアニメの……」

 

「あはは、とぼけなくていいんですよ?普通の人間が私の『お願い』を断れるハズありませんからねぇ。

あなたは精霊?それとも、ASTのウィザードさんです?」

体を近づけペドーの逃げ道をふさいでいく。

 

『誤魔化すのは無理そうね……』

インカムから聞こえてくる琴理の声に、ペドーが遂にあきらめる。

 

「俺は精霊でも、魔術師でもない。

タダの人間だ。だけど――霊力を封印する力を持ってる」

 

「霊力を封印?一体――」

 

「それは――」

ペドーが美九に対して説明を始める。

自身に精霊を封印する力がある事、封印さえすればASTに狙われることが無くなる事、そしてもうすでに数人の精霊が霊力を封印され普通の生活を送っている事。

 

美九はペドーの説明を静かにじっと聞いていた。

 

「――そうですかぁ、わかりましたぁ。

私に会ったのは作為的だったのは少し残念でしたけど……

ソレも私を慮っての事ですよね。

うれしですぅー。

他の精霊さんにも会えるんです?」

 

「ああ、みんな仲良くしてくれるさ」

 

『これは行幸ね。思ったよりうまく行きそうだわ』

インカムの中から、琴理の言葉が飛ぶ。

 

(あ、なんかコレ、フラグっぽいぞ?)

 

「けど、封印は結構ですぅ。私は霊力を宿した今でも十分幸せに暮らしています。

ワザワザこの力を差し出す必要はありませんよねぇ?」

これは今までにないパターン。

そう、自らの力を捨てる気も捨てる必要も無い、精霊。

 

「それは……」

一瞬言い淀むペドー。

だが、忘れてはいけない。美九は4日前空間震を起こしている。

それだけでは無い。その時ASTと顔を合わせている。

つまり、ASTに顔を知られた、観測から刺客が送られているまでは秒読み段階といえる。

 

「4日前――空間震を起こしたろ?このままじゃ、その力で大切なものまで――」

 

「ああ、あれですかー。

気にしないでくださいー、あれは()()()()()()モノですからぁ」

 

「!?」

今度はペドーが驚く番だ。

 

「あの近くって、天宮アリーナがありましたよねぇ?

私、天宮アリーナで歌ったことないなーっと思いましてぇ。

歌いたくなっちゃったんですよ~」

 

「そんな理由で――?」

 

「あは、そんななんて酷いですよぉ。

だってぇ、()()()()()()()()んですよぉ?」

ペドーの首筋のぞっとした寒気が這いまわる。

 

「と、友達が死ぬかもしれないのに……?」

 

「それは……困りますねー。

また新しいお気に入りを探す手間が掛かっちゃいますねぇ」

言葉通り、本当にお気に入りの店がつぶれた、少し困るがまあいいか。程度の労力だろう。

彼女には、ないのだ。『かけがえのない友人』というのがいない。

いくらでも変えの効く存在でしかないのだろう。

その考えは明らかに異物。そう、まさに人でない何かが人に「擬態」している様な違和感。

 

「けど、みんな私の事好きですよねぇ?

なら私の力で死ねるなら本望ですよねぇ?

みんな私のいう事を聞いてくれますしねー」

誰が死んでも構わない。そんな言葉にペドーが拳を握る。

 

『ペドー!!止めなさい!!短気を起こすんじゃ――』

 

「俺はお前の事――嫌いだけどな?」

 

「あら――?」

ペドーの言葉に、美九が渇いた笑みを浮かべる。

 

「正直な話、俺は誰が死のうと気にしない。

お前の友達が全員死に絶えようと毛ほども、心が痛まない。

けどなぁ!!間違って幼女が巻き込まれたらどうすんだ!?

おおっ!?年増のお遊戯で幼女消してんじゃねーよ!!

カラオケ引きこもって、一人歌ってろやぁあああ!!!ブース!!」

美九に対してえ、最大の暴言を中指を立てつつ投げつける!!

 

「ふ、ふぅん……そうですかぁ……

そんな事言われたら、なおのこと欲しくなっちゃいますねぇ……

貴女の事、ボロボロにして泣きながら『あなたの事が大好きです!!』って言わせたくなりますー。

何時までそんな生意気なことが言えますかねぇ?」

一瞬の驚きの後、美九が歪んだ笑みを浮かべペドーにそう言い放った。

 

「うっせぇブース!!」

 

「このッ……!

けど、貴女は私の事を封印したいんですよね?

けれど、私は霊力を手放すつもりはありません。

このまま行っても話は平行線ですよね?なら、勝負をしませんか?」

 

「勝負?」

美九に啖呵を切った以上ペドーは発砲ふさがりになる筈だが、美九の言葉で一筋の光明が見えた。

 

「内容は?」

 

「今度の天央祭、一日目のステージで来禅が優勝したら、私の力を封印させてあげます。

けど、もし勝てなかったら、貴女ともども精霊の子達は私の物に成ってもらいますよ?」

 

「なにぃ!?」

ペドーの脳裏に、精霊たちの顔が浮かぶ。

四糸乃、琴理、くるみ、シェリ…………あと、黄な粉好きなアイツと、えっと……あ、十香!!

それと……あの、ほら、えーっと、ナルシスト双子!!

 

「一日目は、歌のステージがありますねぇ」

 

「おい、それって――」

 

「はぁい、私が出ます。

本当は人前に出たくないんですが、仕方ないですねぇ」

この条件、ペドーは受けざるを得なかった。

此処で相手に引かれたら、美九を封印する術は無くなる。

だが、それは明らかに相手が有利すぎる条件だ。

 

「3人までなら、やっても良いんだがなぁ……」

幼女でない精霊は、必要無いためほぼメリットナシで出せるのだが――

しぶしぶと言った顔で、ペドーがその条件を飲んだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっちまったぜ!!」

フラクシナス艦のブリッジで士織ちゃんモードのペドーが座る。

 

「やっちまったじゃないわよ!!」

司令官様は非常におこの様で、さっきから激を飛ばしている。

 

「いやー、すまん!」

 

「好感度上げようって相手に、なんて事言うのよ!?

一気にご機嫌斜めなんだけど!?」

 

「あー、舞台のある一日目に美九を拉致監禁すれば良くない?」

 

「なんて事言うのよ!?ああもう!!

勝つしかないわよね……、確か一日目はバンドで、交渉はするとして……

ペドーギター確かひけたわよね?」

 

「あれ?なんで知って――」

琴理が無言で、艦橋の画面のスイッチを入れる。

そこには、古い映像で――

 

『♪~♪……違う、こうじゃないな……』

ギターを弾きながら、創意工夫を凝らすペドーが!!

 

「お、懐かしい!この頃、小学生バンドから歌を教えてくださいってお願いが何時か来るんじゃないかと思って、練習してたんだよな!!

作詞と作曲もしたよ……」

懐かしい映像に、ペドーが思い出を語る。

 

「え、そんな理由で?」

 

「同じような理由で、バスケも教えれるよ?」

しれっとした顔で、ペドーがエアバスケをして見せる。

 

「あんたって、なんでそんな無駄な事に才能を使うのよ……

けど、その頃の画像も――」

 

再び、画面が変わり――

 

『一緒にお茶が出来るだけで十分です』

 

『お願い』

そこには、士織と美九が近づいて話してる画像が流れる!!

なんというか、バックに百合の花が咲きそうな距離と会話だ。

 

「うわー、不快!!」

ペドーが顔をそむけるが――

 

「キマシタワー!!」

 

「しばらく、コレでお楽しみだな!!」

 

「男とか要らんのや!!」

一部のメンバーが酷く興奮した様子でそれを見る。

 

「なによ!!相手はペドーじゃない!!男よ、男!!」

琴理が怒声を流すが止まりはしない。

怪しげな言葉と異様な盛り上がりを見せる!!

 

「あーもう!!なんで、誰一人まともなヤツが居ないのよ!」

琴理の声がむなしく、ブリッジに響いた。




作中で美九はボロボロに言われていますが、別に作者は美九が嫌いとか、アンチ創作がしたわけではありません。
そうです。



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招・集・奏・者!!

今回は所謂つなぎの回。
大きく動くところの無い回ですが、ちょっとした要素を追加しておきました。


「バンドをやろう」

 

「む?」

 

「意図が分からない?」

美九との約束から一日たった、日の放課後。

再び士織ちゃんモードへと変身したペドーが、十香と折紙二人に告げる。

話は昨日の夜に戻る。

 

 

 

 

「プロのアーティストに、作曲の依頼をして。

ソレから敵勢調査としてスパイを3人、あくまで妨害は最終手段で基本ぎりぎりで勝つわよ」

フラクシナス艦の中、琴理が珍しく使える指令官として指示を出していく。

イライラしたペドーが美九に勝負をふかっけたため、勝つために多分の努力を始めたのだ。

大型戦艦の司令官が、文化祭に対してここまで手を出すとは思っていなかった。

 

「さ、あんたはバンドのメンバーを集めなさいよ。

コレで負けたら許さないんだから」

口調は厳しいが、こちらに対する信頼が聞き取れる表情だった。

 

「琴理……ありがとな。

お前だって文化祭楽しみに――あ、一緒に回る友達いないから大丈夫――」

 

「うっさいわよ!!」

申し訳なさそうな、顔をするペドーに琴理がしかりつけた。

 

 

 

 

 

「ま、はじめはバンドをする交渉からなんだが……」

ペドーが現在バンドの練習をしているメンバーのいる音楽室へ向かうが――

 

「む?どうしたのだペドー、入らないのか?」

音楽室の前、突如動きを止めたペドーを十香が不審がる。

 

「ん――ちょっとな……」

数歩だけそう言って、後ろに下がった瞬間!!

 

「やってらんないわよ!!」

 

「アンタたちだけでやりなさいよ!!」

罵声と共に二人の生徒が扉を勢いよく開けて出て居く。

扉を開けた衝撃を十香が受けるが、前もって離れていたペドーは無傷だった。

 

「お、タイミング良く喧嘩してるな」

ペドーが音楽室に入ると亜衣麻衣美衣の3人が楽器を手に騒いでいた。

 

「ん、士織ちゃんじゃない……」

 

「どーすんのよ!!もう私たち3人しかいないじゃない!!」

 

「マイン君は、ウルトラ不器用で楽器ダメだし……」

 

「オーウ、ひどいデース!!木魚なぁ~ら、ヒケます!!」

端に居たマインが、エア木魚をポンポン叩く。

 

「楽器じゃねーじゃん……」

士織ちゃんモードの口調すら忘れ、ペドーがつぶやいた。

尚もマインは楽しそうに、木魚を叩き続けている。

 

「むむ、なんだそれは?面白いではないか」

興味を持った十香がマインに近づいていく。

 

「やりまーすか?」

 

「うむ!」

二人が楽しそうに楽器を見る。

 

「で、3人追加でいいの?」

麻衣が十香と、ひそかに楽器を確認している折紙が見えた。

 

「あ、うん……3人追加でおねがい……」

 

事情を知らない3人に対して、手短にそしてうまくごまかせて竜胆寺に勝とうとしている事を説明する。

 

「よーし、んじゃ出来る楽器はなに?」

 

「ギターが少し……」

亜衣の言葉にペドーが答える。

正直小学生くらいの子に教える積りで覚えたのだがまぁ、良いだろう。

 

「一日経ったら覚えてくる」

 

「あ、うん……」

無駄に折紙の言葉に説得力を感じるペドー。

亜衣麻衣美衣の3人も同じにおもったのか、何も言わずに了承している。

 

「ねぇ十香ちゃんは――」

 

「いいですネ!木魚のリズム!来てマース!!」

 

「おお!木魚のパワーか!!」

ぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポクぽくぽくポクポク……

 

「うるせぇー!!静かだけど、うるせぇぞ!!」

ポクポク地獄に他のメンバーが突っ込みを入れる。

 

「とりあえず、十香ちゃんの楽器は決まったわね」

 

「さすが十香ちゃんにマイン君……

難解な楽器をこうもたやすく……!!」

 

「木魚……まさか、こんなすごい能力があるなんて……!!」

亜衣麻衣美衣の3人は非常に適当な事をいって十香をその気にさせていた。

 

「木魚があるバンド……?」

ドラムや、ベースやギターに混じって隅っこの方で木魚をポクポクしている様を想像するが、なんとも言えない気分になる。

 

「ミストマッチ……」

その後も誰がボーカルをするのか、どんな歌を歌うのかを相談しながら時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

同時刻――竜胆寺女学院会議室。

 

「ねぇ、皆さん、私一日目のステージの立つ事にしました」

美九の言葉に、会議室のみんなが騒然とする。

 

「本当ですか、お姉様!?あんなに人前に出る事を嫌がっていたのに!!」

 

「お姉さまの力があれば、優勝間違いなしです!!」

色めき立つ会議室、美九はそんな嬉しそうにしているみんなを微笑みながら見ていた。

 

「早速準備をお願いしますねー。

ああ、せっかくなら新しい衣装も欲しいですし、バックダンサーも生徒の中から選ばないと……」

嬉しそうに、指折り用事を数えていく。

しかしそんな中――

 

「ま、待ってください!!

そうなると、一日目に準備していた吹奏楽部の演奏はどうなるんですか!?」

美九の横に座ってた眼鏡の生徒が、恐々といった感じで立ち上がる。

 

「うーん、そうですねぇ。

気の毒ですけど、吹奏楽部の皆さんには今回はご遠慮してもらいましょうね。

私が出れば勝てるのは確実だから良いじゃないですかー」

なんの憐れみも無い、淡々とした口調で美九が言い放った。

 

「そんな!みんな、必死で練習してたんですよ!?」

その生徒の言葉に会議室の他の生徒がざわめきだす。

美九の歌はみんな聞きたい。それは確固として揺るがぬ意思なのだが、吹奏楽部の生徒の言い分も正しいと言えるのは分かっている。

 

「あの、非常に申し上げにくいのですが……

コレから新しい服を用意するとなると、予算がもう……」

物理的な壁、それが見え始め会議室全体にざわめきが広がっていく。

 

【いいから、私の言う通りにしてください】

美九の声に、一瞬にして会議室がシンと静まった。

 

「ではお願いしますねー」

水を打ったような会議室は美九の声で再び動き出した。

『はい、お姉さま』とひどく感情の無い声で言った。

 

 

 

 

 

9月22日。

駐屯地で、装備の整備をしていた折紙は小さな違和感を感じていた。

それは一言で言えば違和感。まるで精霊との決戦を前にしたかのような、張りつめた糸のような雰囲気。

 

「…………」

端末の情報で、大きな作戦でもあるのかと確認したがそのような情報は無い。

記憶を探ってみてもそれは同様だった。

 

ならば――

 

「ふみゅん!?」

折紙は自身の近くを通りかかった、ミルドレット――通称ミリィの白衣の襟をつかみ捕まえる。

若干おかしな声を出し、ミリィがこちらを恨めしそうな顔をする。

 

「一体いきなり何をするんですかー!!

ミリィの延髄に障害が出たらどうするんですか!!」

プンプンとミリィが起こって見せるが折紙がそんな事気にしない。

 

「何か大きな作戦でも近々有るの?トラロック?」

 

「ええ、そうですよ?知らないんですか?

まったく、リョウコは肝心な時に使えないんですからー。

いいですか?明日は――」

 

「ストップ。就任さン、それ異常は禁則事項ヨ」

海外部隊から配属された――確か寿司を食べてトイレに行っていた女がミリィの口をふさぐ。

 

「ごめんなさい、上からの命令でお教えする事は出来なんです……」

ミリィが悲しそうな声で告げる。

 

「なぜ……?」

 

「うふふ、上槽部の毛っ定よ?文句なら上に言うのネ」

勝ち誇った顔をして、トイレに行ったいた女が去っていく。

 

「ハウ!?ポンポンがエイク(痛い)!!

な~ぜ?テンプーラが当たったカ?それとも、デザートのスイカが?」

 

「食べ合わせですね」

ミリィの言葉を示す様に、トイレの女が再びトイレに向かって走っていく!!

 

「……アイツ、いつもトイレ行ってんな」

折紙が去っていく女を見てそう呟いた。

 

 

 

 

 

その日の夕方――

 

「はぁー、ちかれた……」

士道の恰好に戻ったペドーが、家路を急ぐ。

手には買い物袋、夕飯の買い出しなのだがその表情はすぐれない。

 

フラクシナスがバックアップしようにも、相手は声で他者を魅了する能力の持ち主だ。

たいしてこちらは、素人バンドと木魚ポクポク女。

戦力が大幅に負けている気がする。

 

「いてッ――!」

ギターの弦をはじきすぎたせいで、指が痛い。

小さく舌打ちして歩くが――

 

「あ、くるみ」

目の前にくるみがいつの間にか立っていた。

ペドーを視界に居れた瞬間――

 

「ぺ、ぺどーさん!!」

目に涙を溜めて抱き着いてきた。

 

「おお、どうしたどうした?」

優しく抱き返して、くるみの髪の臭いをクンカクンカする。

 

「ぺどーさん、やめてくださいまし」

若干不機嫌になって、くるみがぺどーから離れる。

 

「いったいどうしたんだ?迷子か?携帯を持たせたハズだけど――」

以前令音が、迷子に成らない様にと外出時に持っていく携帯を共用として用意していたのを覚えていた。

 

「つかいかたが、わかりませんの……」

罰が悪そうに、くるみがポケットから携帯を取り出す。

なるほど、確かにくるみにはすこし難解な道具かもしれない。

 

「よーし、ここはお兄さんがつかいかたを教えてあげようねぇ!!

このボタンをおして、この番号を選んで――」

 

ピポパと、

 

くるみの持つ電話を操作させる。

 

「こ、コレですの?」

 

ぷるるるるるる!!ぷるるるるる!!

 

「ひう!?」

自ら発したコール音にくるみが驚く。

そして――

 

ガチャ

 

『もしもし、くるみですかー?』

自身の持つ電話から聞こえてくるペドーの声に、ぱぁっと顔が明るくなる。

 

「ぺどーさん、きこえていまして?」

 

『もちろんだよー。今度はコッチから電話するぞ?』

目の前に居るのだが、あえて携帯で会話する二人。

くるみは携帯を切り、ペドーからくる着信を待つ。

 

ぴりりりり!!!ぴりりりり!!

 

『ぺどーさんですの?』

さっきと同じく、くるみが驚くが今度は笑って電話をとる。

 

「そうだよー」

ここでふととある事を想いつくペドー!!

さっそく、その思い付きを実行に移す。

 

 

 

「はぁ、今日も泊まりかしら……」

空中艦フラクシナスのなかで、琴理がため息を付く。

勝負の日まで時間がなく、様々な事を同時進行で行わなければならない。

幸い人員に不足はないので、致命的な事にはなっていないが――

 

「篠原、ライブで背景に流す用の映像は――」

 

「むっひょー!!!私個人の中で、美九×士織キマシタワー!!

男とかむさくるしいモノ要らんかったんや!!」

メンバーの一人が、この前のペドーと美九の二人が一緒にいる写真を加工して遊んでいた。

背景に怪しい百合の花を咲かせたり、合成で士織に首輪を装備させ、美九には乗馬鞭を装備させている。

 

『泣きながら『あなたの事が大好きです』って言わせたいで――』

 

「最高や……」

タイミング良く、微妙に加工した美九の声を混ぜれば少し特殊な指向向けの映像に変わる。

その姿を見て、琴理が怒り出す。

 

「何をやって――」

 

「何をやっているんですか!!ここは美九×士織じゃなくて、士織×美九でしょうが!!」

 

「なにぃ!?おねー様の方が上に決まってんだろうがJK(常識的に考えて)!!」

他のメンバーが喧嘩を始める。

 

「アンタら――」

 

ぶるるるるる!!

 

「うひゃ!?携帯……ペドーからね。

なによ?今どっかのペド野郎のおかげで忙しい――」

 

『くるみと携帯で会話したんだよ!!

電話かけると、振動でびくッっとするんだよな~

振動、つまりバイブ!!俺の操るバイブで驚くくるみちゃんくぁわい――』

 

ブッチ!!

 

「何なのよこいつら!!変態しかいないの!?

何なのよ!!」

携帯を思いっきり床にたたきつけて、琴理が激しく慟哭した。




ああ……禁断症状が……やばい……

マジキチアニメが見たい……日曜7時くらいの……頭空っぽで見れるアニメがみたい……
安心して見れる、馬鹿ばっかりやってるアニメの偉大さに最近気が付きました。


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学・祭・開・会!!

ずいぶん久しぶりな気がする今回。
実際少し時間が空いてしまいました。



『いえぇええええええええ!!!!これより、第25回バトルロワイヤル――じゃなかった。

天宮市高等学校、合同文化祭――天央祭を始めます』

一瞬だけ、テンションが抑えられなかった、運営の男子の声が会場中に張り巡らされたスピーカーから聞こえる。

要所要所にある大型スクリーンには、たった今宣誓した生徒の顔も写っている事だろう。

ともかく、この宣誓をもって開会の宣言だ。

実際に、ペドーが近くにあるスクリーンをみると、来賓の挨拶が続いている様だ。

 

「はぁ、まだ続くのか……」

若干げんなりしながら、半分聞き逃しながら話を聞いていく。

 

ざわッ!!

 

瞬間、周囲が一斉にざわめきだす!!

何事かと、ペドーがスクリーンに目をやると同じくギョッとする。

 

『天宮市の高等学校の生徒諸君!!お初にお目に掛かる。

私はここより遥か東方に存在する高校、志余束高校の理事長だ。

今回はお招き感謝する』

威厳のある声で話す男、男と呼ぶべきなのだろうが……

その姿は先がとがった真っ赤なローブを着ていて顔が一切見えないのだ。

まるで、ひと昔前の秘密組織の首領のような姿だ。

 

『我が、志余束の生徒の多くも体験として参加している。

お互いの学校に実に有益な体験ができる事を祈っているぞ』

そう言ってスクリーンに映る首領っぽい人は消えた。

 

「ペドー、今の者はなんだ!?」

 

「知らないよ、本人曰くどっかの学校の理事らしいけど……」

十香の疑問にペドーが珍しく、困ったように答える。

ペドーは必死になって「何処かの秘密結社の首領」という言葉を飲み干した。

 

「士織ちゃーん、そんな事より客引きが始まるからね!」

亜衣がポンと、肩に手を置く。

そう客引き――それもペドーがだ。

 

チラリと、横に飾られている鏡を見る。

そこに写るペドーが、長いフリルのついたエプロンドレスにカチューシャ。

その姿はまさにメイドさんだった。

 

「今回のポイントはいかに、メイド()()()を出しつつもマンネリな没個性的に成らないかですね。

以前私の読んだ同人――ゲフンゲフン!!本には、ナース服とチャイナ服を高次元で融合さてたものがありましたが、そのようなタイプを求め、ステレオタイプなメイドと偽物っぽいメイドをざっと30近く用意し、それぞれを何度も組み合わせて研究しました。

ラフ画での試作はおよそ50枚!!締め切り直前前夜レベルで頑張りました」

普段は大人しいクラスメイトの伊草が饒舌に話している。

どうやら、このメイド服相当の力が入ったものらしい。

 

カチッ!

 

ペドーが自身の心のスイッチを入れ替える。

 

(俺、いや――私は、五河 士織……この店のメイドさんよ!!)

 

「さぁ、みんな!お嬢様、ご主人様たちが帰ってくるわ。

いい?お客様じゃないわよ?ご主人様なの。

みんなの中には『所詮ごっこ』という考えが有るかもしれない。

けどそんな心の隙は相手に如実に伝わるわ!!

スキが出来た瞬間から、終わりよ!!緊張の糸をしっかりしめなさい!!」

 

「「「「かしこまりましたメイド長!!」」」」

士織メイド長の言葉に、他のメイドさんたちが一同に礼をした。

 

「え、なにこれ……いろいろ付いてけないんけど……」

 

「同意。いろいろと自体が飲み込めません……」

他のクラスメイトの様に、メイドに扮した耶倶矢、夕弦のコンビが呆然とする。

ペドーがメイドをやっていると、笑いに来たのだがそこにいるのは、女装した男子ではなく、異様な女子力の高さを見せるメイド長で――

 

「なんか、女として、負けた気分……」

 

「同意、全く持ってぐうの音も出ません……」

ナルシスト双子が、頭を垂れた。

 

 

 

「あー、はいはい。士織ちゃんたちは表で客寄せお願い」

 

「ホールスタッフはマイン君たちがやってくれてるからさ」

 

「長身系弱気娘に、天真爛漫娘、さらにタイプ別双子、コレだけいれば釣れない男は同性愛者か熟女好きか位なモンでしょ」

亜衣麻衣美衣の3人が口々に話す。

 

「ふぅん……あんまり興味ないわ」

そう呟くペドー!!同性愛者でも熟女好きでもないが興味の無い奴がここに居た!!

 

(あ、けど全部に幼女って付くと萌える……!)

体の大きな弱気幼女、天真爛漫な幼女、そして性格が違う双子の幼女!!

どれも萌る!!どれも素晴らしい!!

 

「いい……そんな子が、メイド服なんて来たら――そりゃもう……」

妄想の中にトリップしようとしていたペドーが急に現実へ戻される。

気が付くと、目の前にはお客さんの列。

そう、すでに決戦は始まっていたのだ。

 

「さ、みんな。こっからが勝負だ」

 

「「「かしこまりましたメイド長!!」」」

ペドーの言葉に、メイドさんたちが一斉にお辞儀をした。

 

 

 

人人人の人の群れ。

天央祭に来るのは、高校生だけではない。

生徒の家族、さらには近隣の大学生、そして高校を決めようとしている中学生の子達も居る。

それに気が付くとほぼ同時に客引きの大きな声が聞こえ始まる。

ペドーも出遅れる訳にはいかない。

 

「おっ!」

ペドーの前を、小柄な少女が通り過ぎる。

肩まである髪に、片方だけ目の隠れた顔。

そして夏場なのに長袖という一見ミスマッチな、線の細い儚げな少女が通りかかる。

 

(か、かわええ……多分中学だよな。

ちっちゃいから小学生にも見える……)

 

「そこのお嬢様!!どうです、ウチの店で一休みしていきませんかぁ?」

なるべく、親し気な声をかけるペドー。

そうだ、平常なら小さな子に声をかけると事案が起きるが、今は客引きの真っ最中!!

つまりどんな小さな子に声をかけても大丈夫なのだ!!

 

「…………私?」

その子は小さな声で、ペドーに反応していた。

 

「そうですよ?私は小さい子にはたっぷりサービスしてあげ――」

 

「小さい!?…………どこが?」

ペドーの言葉を聞いた瞬間、その子の瞳孔がキュッと狭まった様に見えた。

 

キチ……キチ、キチ……!

 

その子が手を突っ込んだスカートから、何か小さな音がする。

例えるなら、まるでカッターナイフの刃をゆっくりスライドさせて刃を伸ばしている様な――

 

「いい度胸…………!」

口角が怪しく吊り上がり、狂気の垣間見える目をして――

 

「ユウカちゃんストップ!!ストップ!!!」

その子が手をスカートから引き抜こうとした瞬間後ろから来た、見慣れない高校の制服を着た男に抑えられる。

 

「……タカミネ離して……!!」

じたばたと暴れる幼女、それを後ろから抑える高校生。

ぱっと見幼女を高校生が後ろから襲っている様にも見えて――

 

「あ、ユウカちゃん、ラーメン有るよ!!ラーメン!!

食べに行こうね!!俺奢るから!!」

 

「チッ……!」

半場無理やり幼女は高校生に連れていかれ、ペドーは小さく息をついた。

 

「あちゃー、今の子ヤバかったわ」

 

「同意です。完全に目がイッてました」

耶倶矢、夕弦の二人がひそひそと話す。

しかしペドーが気になったのは、男の方だった。

 

「はぁー、今の子、可愛かったな……

けど、彼氏持ちか」

残念そうにペドーが語る。

なぜ兄妹でも、親戚でもなく恋人と判断したかと言うと――

 

「あの人、俺と同じ(同族の)匂いがする。

近しいモノを感じる……」

その感覚を相手も感じたのか、ふっと去っていったハズの男がこちらを振り返った。

数舜の沈黙、絡み合う視線同士の無言の会話。

だが、どちらともなく視線を外し二人は人込みの中に消えていった。

 

「ずいぶん盛況の様だね」

そんな呆けたペドーを、良く知る声が現実に引き戻した。

 

「令音さん」

店の前、いつの間に来たのか令音が眠たそうな目をしながら立っていた。

それと同時に――

 

「あはははははははは、マジ?ペドー?そんな、なんでそんなカッコ!!

やば、お腹痛い、息できない!!あははっははっはっは!!あははあははは!!」

 

「ペドーさん、似合ってますよ?」

 

「ぺどーさんそんなしゅみが……?」

そこに連なる三つの影!!

シェリがペドーを指さし大笑いし、四糸乃がオズオズとしながらフォローを入れ、くるみが引いたように令音の影に身を隠す。

 

「はう!?お、お嬢様たち……」

此処に来てペドーの心臓が大きく脈動した。

女装、本来それは他人に知られてはいけない趣味のハズ。

他人にバレたら、即座に変態の烙印が押されてもおかしくない危険な趣味。

しかし!!目の前の3人(年増は除外)にしっかり見られてしまった。

シェリはこちらを馬鹿にしているし、四糸乃はあえて気使ってくれているし、くるみは嫌悪感すら抱いている!!

逃げる事の出来ないペドー!!しかし!!しかし!!

 

「みんな、ペドーはすべき必要があってこのような恰好をしているんだ。

到底信じられないだろうが、これは彼が自らの趣味を楽しんでいる訳では――」

 

「もっと!もっと女装する私を観てぇ!!」

危ない快感にペドーが興奮する!!

そう、それは危険な快楽!!コウノトリを信じてる幼女に無修正ポルノを見せるがごとき、背徳にして禁忌の快楽!!

その叫びは、令音のフォローを容赦なく一蹴する言葉!!

最早後戻りなどできない!!

 

「なんだよ、コレ……」

 

『うわぁ……』

 

「ペドーさん……」

 

「なにがおきてますの?」

動揺を見せる3人(+パペット)!!

しかしペドーは止まらない!!

 

「さぁ、お嬢さまたち……是非とも、私の働きぶりを見てくださいねぇ!!」

怯える幼女3人に対して、ペドーがゆっくりとにじり寄っていく。

その手にはいつの間にか、3人にピッタリ合うサイズのメイド服が!!

 

「昨日の晩作ったんだよぉ!!因みに実費ィ!!」

さっきの子よりも目が危ないペドー!!

 

 

 

「あら、ずいぶんご盛況の様ですわね」

人込みをかき分ける様に、紺色のセーラー服をきた少女。

この勝負の相手の精霊、誘宵 美九だった。

人込みのある様に、彼女の周りには多くの女生徒、さらにはTVカメラを持ったクルーまでいる。

その様は否応なく彼女が「アイドル」だという事を現し、改めて自身がこういった人気を集める事に特化した相手と敵対している事を意識させられた。

させられたのだが……

 

「さぁ、シェリちゃんから着ようね……はぁはぁ……

野生児気味の元気ボーイッシュが、使用人の服なんて……もう、俺はもう!!」

 

「あ、あの……士織さん?」

シェリを前に興奮して、こちらを無視する士織に再度声をかける。

 

「さぁ!四糸乃も着ようね。よしのんの分まで用意してあるからね!!

お揃いですっごくかわいいからね!!」

 

「士織さーん?私が来ましたよ?」

 

「くるみも着ようねー?ごっこ遊びをしているみたいで可愛い――」

 

「士織さん?いい加減こっちを――」

 

「うっせぇブス!!幼女の後に話せや!!」

美九を押しとどめ再度、幼女たちに向き直る。

周囲の萌え豚共が、その言葉にざわめく!!

 

「お、おねー様になんて口を……!」

 

「たとえおねー様のお気に入りでも、容赦はしません!!」

 

「ぶひぃいいい(憤慨)!!ぷぎぃいいいいい(憤り)!!」

今にも暴動の起きそうな空気の中で――

 

「皆さん、止めてください。

これ位気にしませんから」

美九の言葉を聞いた瞬間、まるで水を打った様に周囲からざわめきが消えた。

 

「んで?なんのようだ?客か?」

 

「うふふ、違いますよぉ。

ねぇ、士織さん少しデートしませんか?」

美九がペドーをさそう。

今は店の前、当然だが美九はワザワザ引き連れてきたファンを操る力がある。

その気に成ればペドーたちのメイド喫茶など――

 

「ふぅ、わかったよ。少し回ろうか」

非常に、非常に重い腰を上げペドーが美九の誘いに乗った。

3人の幼女たちはまるで救いの女神が来たかのような顔で、美九を見ていた。




メイド服。それは記号化された萌。
どんなタイプの女の子もメイド服さえあれば、すべて萌えキャラ。
ある意味メイド服は、やりつくされた感じがあります。
しかし、イイモノはテンプレに成る。テンプレに成っているという事はやはりメイド服は人気なのでしょう。


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三・者・離・反!!

ずいぶん長い間お待たせしました。
漸く、本作再会です。
お詫びという訳ではないのですが、今回はちょっとだけ長くなっています。


カチャ……キィィィィ……

 

「誰も居ない」

陸上自衛隊天央第二保管倉庫。

裏口のカギをかけ忘れたドアから折紙が侵入する。

 

事は今から、およそ2日ほど前。

嫌味でしょっちゅうトイレに行っている外国人たちが、天央祭で精霊及び、()()()を捕獲するという計画に出る事に成っている様だ。

以前ペドーはイフリートの力を顕現させている、それどころか他の力も多数見せている。それがDEM社に分かっていたのなら、貴重なサンプルとして回収指令が下っていても不思議ではない。

 

因みに『様だ』というのは実は折紙に対して()()かん口令が敷かれていたからだ。

以前の自分がホワイトリコリスで暴走した件と、ペドーが自身の恋人だという事を加味して仕方ないと言えるだろう。

だが――

 

「ペドーを渡しはしない!!」

強い意思を持ち折紙が、拳を握る。

 

「――――ん」

ワイヤリングスーツに伸ばす手が止まる。

リアライザの無断使用は当然だが厳禁だ。

今回の事は後々自分に必ずマイナスに成る。

そう、自身はこの戦いの後、記憶を消され精霊を知らない生活に戻るだろう。

それはつまり、自身の両親の仇である精霊を殺せなくなることを意味していた。

 

それは今まで復讐に捧げてきた自分を捨てる事に成る。

 

自身の過去と両親の仇、それと今を生きる自身の恋人。

それが天秤に掛かる。

 

「ううっ!」

ワイヤリングスーツに伸ばす手が震える。

揺れる自身の心。

今を救うために、過去を捨てる。

 

それは簡単に選べる物ではなく――

 

だが――

 

「私は、ペドーを守る」

確固たる意思を持って、折紙がワイヤリングスーツに手を掛けた。

 

 

 

 

 

「はい、士織さんはストロベリークリームでしたわね」

 

「あ、ああ……」

美九が可愛くデコレーションされた、クレープをペドーに差し出した。

 

『ちょっと、ちょっとは楽しそうにしなさいよ。

こんなチャンス滅多にないんだから』

インカムから、琴理の声が飛ぶが――不快な感情は全くなく成らない!!

 

分かるだろうか、この不快感!!

気に食わない、気に入らない、視界に居れたくない、年増を口説かなくてはいけない不快感!!

正直な話、今すぐにクレープを投げつけスタッフに落ちたクレープをおいしくいただかせ、さっきまでいた四糸乃とくるみとシェリを引き連れデートに繰り出したい!!

 

「んん~、たまらないですね~。

このままお店出せちゃいますぅ!」

 

「あっそ」

酷くこざっぱりした、感想を述べてペドーがクレープを全部胃袋へと押し込む。

 

「ああん、一口貰いたかったんですけどぉ……

けどいいです。

食いしん坊な士織さんに、私のを少し上げますわね。

さ、どうぞ」

口元へ、カスタードクリームのクレープを差し出す。

 

『ほら、がぶっと行きなさいよ』

 

「いや、要らない」

きっぱり断り、ペドーが離れる。

ギャンギャンとインカムから、琴理の声が聞こえるが気にしない。

残念そうな顔をする美九をしり目に背伸びする。

 

「けど、一体どうして急にこんなことを?」

今の自分と美九は所謂敵対状態。

笑みを浮かべて、会話する間柄ではないハズ。

――いや、正確にはこの後、デレさせてキスして霊力を封印しなくてはならない。

そうなれば、必然的にある程度の好感度が必要となる。

このデートも、無意味ではないのだが……

 

「なぜ、デートに誘ったかですかぁ?

簡単ですよぉ。この後の勝負が終わった後、士織さんが――」

 

「ええ!?迷子?友達とはぐれたの?」

 

「ぐす、えぇん……まどかどこぉ……」

キメ顔をしている美九を無視して、ペドーは近くに居た小さな女の子に掛かっていた。

ペドーの好きそうな中学生位の年で、驚くことに分相応な豊満なバストを誇っていた。

俗に言うとロリ巨乳と呼ばれるタイプである。

 

「だいじょーぶだよぉ?おにーさ、じゃなくておねーさんが探してあげるからね?」

 

「あの、士織さん?」

 

「あー、堕肉はそこで大人しくしててくれ。

俺、困った子は見逃せないんだ!!」

 

「絶対見た目でしょ!?」

あんまりな言い分に遂に美九がブチ切れる!!

 

「まぁ、いいですぅ。ステージの後の約束さえ――あら?」

美九が気が付くとすでに、ペドーの姿は無かった。

ただ一人、袖にされ立ち尽くす寂しい美九が一人。

 

 

 

「あ!いた!!おね、おに?、おにねーさんありがと!!」

 

「うん、じゃあ、気を付けてね」

ペドーが友達を見つけたその子を見送る。

 

「ふぅ、たまにはロリ巨乳も悪くない……」

一仕事終えた気持ちでペドーが一息つく。

 

「あ、ここに居たんですねぇ」

 

「げぇ、ダメな方の堕肉!!」

追ってきた美九に対して露骨に嫌な顔をするペドー

美九もその顔に気が付いた様で。

 

「もぅ!私をほおっておくなんて、なんなんですかぁ?

もうぷんすかですよぉ。

まぁ、私の物に成る前の最後の抵抗という事で、見逃してあげますぅ」

 

「ふぅん、ありがと」

せっかくの文化祭を何でこんなことに……

ペドーの機嫌が悪くなる。

正直言って、父兄に連れられた幼女と触れ合ったり、友達を誘って遊びに来た幼女と触れ合ったりしたかった。

 

「あ!士織さん、輪投げですって。

何か取ってあげますよ?何が良いですか?」

 

「うーん、じゃアレで!!」

そこに有ったのは、うさぎのぬいぐるみ。

このぬいぐるみ数年前に全国の女児に流行った、ニチアサアニメのキャラクター。

現在でも人気が強く、コレを持っていれば幼女に好かれる可能性が――

 

「わかりましたぁ。あれですね。

ほいやぁ!せいや、ほおっと!」

おかしな掛け声と共に、3つのプラスチックリングが投げられるが……

 

「全部ハズれー!!ざっこ、しょっぼ」

 

「ろ、露骨に煽りますね……」

指を指しゲラゲラ笑いだすペドー。

しかし――

 

【ぬいぐるみをください】

 

「は、はい、おねーさま……」

美九の言葉を聞いた瞬間、店員の女学生の目がトロンととろけ、ふらふらと歩きだし美九にぬいぐるみを差し出した。

 

「ええ……」

 

「私の【声】に掛かればこんなものですよ」

 

「良いのかよ。輪っかが入んなきゃ商品は貰えない。

それが人間のルールだぞ?」

ペドーが少しむっとしながら、注意をする。

 

「あはっ、何を言っているんですか?

それじゃ失敗したらもらえないじゃないですか?」

 

「自分が欲しくても、ちゃんとルールに――」

 

「何でですかぁ?私が欲しいって言ったんですよ?

私の声に従うべきなんですよぉ?私が幸せならば、周りの人間も幸せでしょ?」

その言葉は明らかに周囲とずれが生じていた。

美九の声を聴いた者は、自分を置いて逆らえなくなる。

全て彼女の思い通り、誰も彼もが彼女の言いなりになる。

 

「なんか、悲しいな。

人間としっかり話した事が無いんだな……」

それはここにきて、始めてペドーの見せた憐憫の感情だった。

傲慢で、自身ありげなむかつく豚がこの時初めて可哀そうに見えた。

 

「何を言っているんですかぁ?人間とはちゃんと話してあげてるでしょ?」

常に上から目線。

そう、彼女はそう言った能力を持ってしまったのだろう。

だから――

 

「人間はお前の駒やおもちゃじゃない。

今に足元救われるぞ?」

ペドーの言葉に美九が一瞬だけわずかにたじろいだ。

 

「何を言っているんですかねぇ?人間(アレ)にそんな感情は無意味ですよぉ?

どーせ、愛玩するくらいしか、価値が無いんですからぁ。

価値のあるのは、私が選んであげた数人だけ、お気に入りの子達だけですね。

けど、そこまで言うなら試してあげましょうかぁ。

ステージ楽しみにしていますね」

最後に意味深な言葉を残し美九が人込みへと帰っていく。

 

「――――――」

ぽつりとペドーが声を漏らす。

なんと言ったのか、自分でも分からない。

ただ、美九を心の底から哀れに思った言葉だったのは確かだ。

 

そうだろう。

誰しも本当に心からぶつかることが無かったのだ。

ただただ、一人自由に他者を操れる能力。

それはまさに――

 

「一人きりの理想郷か……」

なぜか去っていく背中に哀愁を感じたペドー。

しかし!!

 

「けど、声だけで他の子を言いなりに出来る……

はぁはぁ……言いなり、言いなりかぁ!!」

クヨクヨタイムは速攻終了!!

声だけで相手を自由に出来る!!

あまりにエロゲチックな能力にペドーが大興奮する!!

 

(え、ええ?だって、声でどんな命令も出来るんでしょ?

プライドの高いお嬢様系幼女をくっ殺させたり、オカタイ委員長系幼女にエロイ事を普通の事と思わせたり、無知シチュ系幼女を自分好みに調教――ふぅおおおおおお!!)

非常に、非常に危険な顔をしてペドーが鼻血をこぼして笑みを浮かべる。

その心!!非常にゲスな妄想を繰り広げる!!

その心にブレーキなどない!!

欲望のままに進み続けるのみぃ!!

 

「うふふ、俺の幼女のラブラブタイムの為に、是非とも封印しないとな!!」

相手の事など気にしない!!

と言うか幼女以外に興味のないペドー!!

怪しい笑みを浮かべたまま、去っていく。

 

 

 

 

 

(やばい……!非常にやばい!!)

出し物をするメンバーの控室の中、ペドーが小さく汗をかく。

 

「なぁ、ペドー他の奴らはどこに行ったのだ?」

ポクポクと木魚を叩き続ける十香しかメンバーが居ない!!

亜衣麻衣美衣の余分三年増はもとより、折紙までもが朝から居ない。

 

「呼び出すか……?」

折紙に電話を掛けたが電源が入っておらず、出てはくれない。

まぁ、彼女の仕事を加味するとそれは仕方ない事かもしれない。

恐らく、一番の実力者である折紙が居ないのは仕方ないが、ない物ねだりしていても事態は進展しない。

仕方なく、亜衣に電話を掛ける。

 

「あ、藤袴さん?一体今どこに?他の二人も居ないんですけど――」

 

『あ、士織ちゃんじゃーん』

 

『麻衣もー』

 

『美衣もー』

 

『こっちに居るよー?』

電話の向こう側、3人の声が聞こえてくる。

 

「早く戻ってきてください。ステージが始まりますから!!」

ペドーが急かすが――

 

『あー、ごめん。やっぱうち等ステージ止めるわ。

おねー様が出るなって言うからさー』

 

『おねー様なら、仕方ないよねー』

 

『お願いされちゃったしねー』

3人ののんびりした声が聞こえてくる。

 

「やりやがった……あの豚!!」

たたきつける様に電話を切る、ペドー。

その目前に、件の女性が姿を見せた。

 

「あらあらぁ?一体どうしましたぁ?

可愛い顔が台無しですよぉ?」

美九の言葉に、ペドーが掴みかかろうとすら思うが――

此処で問題を起こしても意味もないと、あきらめる。

 

「私のステージ、楽しみにしてくださいねぇ?」

心底バカにしたように、美九が部屋を去っていく。

 

「なぁ、ペドー一体何がどうしたのだ?」

尚もポクポクと、木魚を叩き続ける十香。

自体は全く理解できていない様だ。

 

その時、部屋で楽器の準備をしていたスタッフが近づいてくる。

 

「ペドーさん、指令から言葉を預かっています」

見るとそのスタッフにも、インカムがあり、彼がフラクシナスの工作員だと理解出来た。

 

『ペドー、大変な様ね。

少し前、さっきの3人と美九が接触していたから、まさかと思ったんだけど……

最悪が当たってしまったわね』

 

「琴理……」

ペドーが力なく、声を出す。

 

『情けない声出してんじゃないわよ。

音楽は楽しむ物よ?追加要因がそろそろそっちにつく頃だから――』

 

ガチャ

 

「くくく……ペドーよ。我力を頼る時が来たようだな!!」

 

「誇示。我ら八舞の力を見せる時です」

扉を開けて現れるのは、八舞の二人!!

 

『どう?備えあれば、憂いなしでしょ?

八舞の二人がある程度楽器が出来るのは、調査済みよ』

琴理が自信ありげに話す。

が――

 

「あー、ごめん琴理。

学校側の規則で他のクラスはダメなんだよ」

 

『え』

 

「え……」

 

「絶句。え」

 

「えーと、ほら、ここ見てみ?」

ペドーは3人に見える様に、年増3人衆からもらった、規定を見せる。

 

「ほら、ルールその5。『各クラスの出し物ステージは、他クラスの生徒、他高校の生徒の合同であってはならない。また、クラスや個人が支出してプロを雇っては成らない』ってあるだろ?」

八舞の二人は、ペアで行動させておけば問題ないと、琴理が判定したためペドーとはクラスが違うのだ。

そう、つまり八舞の2人とペドーが同じステージに立つ事は出来ない。

 

『く、一体どうすれば――』

 

ガチャ――

 

「やぁ、シン。この後ステージだろ?3人がどうしてもって言うから、無理を言って控室に入れてもらったんだ――ん?どうしたんだい?」

扉を開け、令音が姿を現す。

その後ろには、当然――四糸乃、くるみ、シェリの幼女3人衆が!!

 

「これだ!!ねぇ、みんなって、楽器なんかできない?

今、丁度メンバーが足りないんだよ。出て欲しい、って言うか幼女とステージ超立ちたいんだけど!!」

すさまじい勢いで、ペドーが3人の手をつかむ。

 

『ちょ、ちょっと!?なんで、この3人なのよ!!!

出れる訳ないじゃない!!さっきの、規則だって――』

 

「他のクラス、他の高校生はダメだけど、幼女はダメって書いてないぞ!!」

そう!!禁止しているのは、他クラス、他高校の生徒のみ、そしてプロのみ!!

まさか運営側も、幼女を連れてくるとは予想していなかった!!

まぁ、予想しようなどほぼ無理だが……

 

「しかし、楽器は出来るのか?」

令音の言葉通り、そこが一番のポイントだ。

楽器が出来なければ、ステージに立って勝つ事は不可能だ。

 

「ぺどーさん!わたし、ぴあのはひけますわよ?」

くるみが自信満々と言った顔で、手を上げる。

 

「なるほど、お嬢様っぽい見ためだから、幼少期にピアノを習っていても不思議ではないんだな!!」

多分現在持って幼少期だろうが、そこは気にしないペドー!!

キーボード役は決まった!!

 

「ふぅ、なるほどねー。ゲドーがやってるの見て、ボクもちょっとだけならイケるよ?戦いはリズムも大切!手と足を全部使うコレはボクの得意分野だ」

シェリがドラムを叩いて見せる!!!

重厚で、地面を響かせるようなヘヴィーなサウンドが流れる!!

ドラムも決まった!!

 

「あとは、ベース……四糸乃、出来るか?」

 

「ご、ごめんなさい……わたし」

びくっと肩を震わす、四糸乃。

目にはみるみるウチに涙がたまるが――

 

『よしのんならイケるよ~』

パクパクと左手のパペットが口を開く。

 

「え!?なんで!?」

 

『いや~、この前、TVでデスメタルバンドって言うの?

その人が、顔でベース弾いてるのみてさ~、ちょっとやってみたんだよね~。

四糸乃、あのベース取って?』

 

「う、うん……」

四糸乃がベースを取ると、よしのんを右手に持ち替え――

 

ギャルるるるん!!るるぅ~ン!!

すさまじい勢いで、四糸乃がベースをかき鳴らしす!!様に見える、実際はよしのんの顔面ベース。

 

「ま、まぁいいか!!

兎にも角にも、コレでメンバーは揃った!!

後は――服だな」

 

『ああ、それがあったわね。どっかで購入するか――』

 

「まぁ、昨日作ったメイド服でいっか!!」

ペドーが昨日の夜、自作した3種類のメイド服を取り出す。

 

「いいですわね」

 

「げー、それ着るのか?」

 

「か、可愛いと思いますよ?」

三者三様のリアクションを見せながらも、結局着替えは終わった。

 

「さー、行くぜみんな!!もう、負ける気はしない!!」

 

「「「おー!!」」」

3人の幼女が嬉しそうに手を挙げた。

 

 

 

「ペドー、私の役目はなんだ?」

 

「応援席で、木魚を叩いて応援してくれ!!」

 

 




八舞?出ないよ?
十香?出ないよ?
幼女じゃないと、出番ないなー

彼女たちが好きな人にはごめんなさい。


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幼・女・協・演!!

スピードがなかなかでない作者です。
うーん、寒くてキーを叩く指が動かない……

何とかモチベーションを取り戻したい作者です。


「♪~!!♪、~!~!!~、♪!!」

ステージの上、一人の歌姫が手を振るう。

人魚姫をイメージさせたような深いブルーの服に、貝殻のワンポイントアクセ。

徐々に明かるくなるステージをスッポットライトが照らす!!

 

『みなさーん!今日は私のステージを楽しんでいってくださいねぇ!!!』

 

「ぶひぃいいいい!!」「おねー様ー!!素敵ー」「美九ちゃん最高!!」「美九!!俺だ!!結婚してくれ!!」

美九の声に、ステージからファンが答えていく。

圧倒的美声、圧倒的ダンス、圧倒的求心力(カリスマ)

まるでそのステージすべてが美九の為だけに存在しているかのようにすら錯覚してしまう様な――

 

「すごい……です……」

ペドーの隣、じっと見ていた四糸乃が小さく声を漏らした。

四糸乃だけではない、シェリもくるみのそのステージの巨大さに圧倒されていた。

まぐれもなく誘宵 美九はアイドルだったのだが――

 

ブッツン!!

 

ステージの照明が消える。

音楽が止まる、おそらくは琴理の行ったのであろう妨害。

しかし――美九は止まらない。

 

「――〈神威霊装・九番(シャダイ・エル・カイ)〉!!」

一瞬の間を作り、すぐにステージの中央が輝く。

瞬時に美九が展開するのは、霊装。

その姿は武器というよりも、巨大なパイプオルガンだった。

美九の姿が青い光に包まれる。

そして、美九がパイプオルガンに指を這わせた瞬間――!

 

飲まれた――ステージが、観客が一瞬にして彼女という存在をたたえる信者へと変わる。

琴理のトラブルすらも、自身を輝かせる演出へと変化させたのだ。

 

琴理の妨害を難なく跳ねのけ、そんなことは些末な事と言わんばかりにステージの演出に取り込んでしまった。

突然のトラブルに瞬時に対応するなど、かなりの能力がある。

美九という精霊は様々な意味でアイドルとなるべく存在なのだろう。

 

 

 

「おおー、すごい歌だな!!」

十香が美九の歌を聞き、自身には関係ないと言わんばかりにのんびりとした口調で話している。

その言葉にすっかり見入っていたペドーが、現実に帰ってくる。

 

「まずいな……」

自身の右に座る四糸乃を見るとすっかり飲まれてしまっている。

左側に座るシェリは同じくすっかり取り込まれている様だった。

どちらもすっかり、美九という歌いなれた相手にすっかり引いてしまっているのだ。

かく言うペドーも、同じく圧倒されているのだが……

 

「ッ!」

ステージの上、美九がこっちに気が付き小さく口を歪める。

明らかな挑発、明らかな奢り、だがその態度を裏付ける実力をたった今嫌というほど見せつけられたばかりだ。

 

 

 

ザザーッ

 

「くっそ……どうすっかな……」

駆けこんだトイレの中、ペドーが顔を水でぬらす。

冷たい水を使い、気分を変えようとするがそう上手くは成らなかった。

自分は勿論、他の3人もだ。

 

「こんなの、勝てるモンも勝てなくなるよな……」

最後にもう一度、顔を水で流し顔を上げる。

だが、今更後には引けない。一度出した手を引っ込める訳にはいかないのだ。

 

「よぅしやるぞ!!

あ、殿町ハンカチありがとな?」

 

「なんで男子トイレ使ってるの君ぃいいいいい!???」

錯乱する殿町を置いて、ペドーがステージに向かった。

 

 

 

 

 

時刻14時55分。

 

「あと、5分で作戦開始ね――みんな準備は良い?」

 

『イェスマム!!』

天央祭の開かれている近く、ジェシカを始め数人のDEM社の派遣魔術師(ウィザード)が準備をする。

ジェシカ達、外人部隊(因みに日本のASTのメンバーには腹痛部隊とか言われて馬鹿にされている)が武器を構える。

部隊の人数は最新鋭の武器を持たされた10名、さらに〈バンダースナッチ〉が20機。

ターゲットである人間一人を捕獲するにはいささか大仰な装備ではあるが、備え有れば憂いなしという位だ、これ位で良いのかもしれない。

 

『隊長!暇なんでピザとか頼みません?』

 

「絶対にダメよ!!お腹壊したらどうするの!?」

メンバーの一人を叱りつけるジェシカ。

日本人たちの「おんやぁ、またトイレですかぁ?今度の会議の場所、トイレに変更した方が良いですかねぇ~?」なんて嫌味な顔が頭にこびりついている!!

この作戦は失敗する訳にはいかないのだ。

 

「さて……時間まで――アッツ!?建物の屋根アッツ!?フライパンみたいな温度!?」

 

『隊長大丈夫ですか!?アッツ!!ほんとだ、屋根すげー熱い!!』

 

『えー?マジで?マジで?アッツ!!やばい、マジ熱いわ!!』

人間とは退屈を嫌う者である。

既に1時間以上待機してるメンバーたちの中に露骨にヒマを持て余す者達が出てきた。

何人も屋根に触れては「アッツ!アッツ!!」と騒いでいる。

因みにこの声は通信で他のメンバーにも聞こえており……

 

「何やってんだろこのバカ外人ども……」

外で待機してた、日下部がバカにしたようにつぶやいた。

そんな中、通信の中に別のタイプの悲鳴が混じる。

 

『な、お前ハ!?――うわぁああ!?』

 

「へぇ……始まったんだ」

日下部は満足したように通信の電源を切った。

 

 

 

 

 

『うわぁああああ!!』

爆発音と共に一人の通信が切れる。

 

「何があっタノ!?」

『通信が切れる』それは何でもない事の様な気もするが、世界の中でもここのウィザード達の中では()()()()()のだ。

唯一有るとすれば、ウィザードを倒せる存在に邪魔された場合のみ。

つまり通信が切れたのと、自身を自分たちを倒せる存在が出たのはイコールに成っている。

 

「精霊が来た――」

 

「違う」

 

「!?」

自身の頭上。一機のマシンを駆る女をみて、ジェシカはポカンと口を開けた。

そのマシンはDEM社でも有名だった。

理論上精霊を個人で殺せる武装と呼ばれているソレは、作られたはいいがテスト段階でテストプレイヤーを30分で廃人に追い込んだらしい。

DEM社の科学力と、人間の脳の力が追いつけない事の皮肉った話になって有名になっている。

基本は置いておくだけしか意味のないオブジェと化していたが、今目の前で現実に動いているのを見ても未だに信じられない。

 

「なゼ?なぜ、ホワイトリコリスを動かせているノ!?」

 

「知らない――!」

折紙がホワイトリコリスを駆り、ジェシカ達に踊りかかる!!

 

「く!バンダースナッ――!?」

 

ゴォン!!

 

ジェシカの目の前、数体のバンダースナッチがまとめて鉄くずへと化した。

 

「ペドーに、ペドーに手はださせない」

ホワイトリコリスのミサイルポットが火を噴く!!

白い煙を上げて、広がるミサイルはまるで白い彼岸花の様に――

 

 

 

 

 

「いいか、自身の手に『幼女』ってかいて、10回飲み込むんだ。

明確に幼女をイメージして……

ほら、ちっちゃい爪のついた()()()が俺の舌に迎えられて、幼女ちゃんは足裏に感じるくすぐったさに一瞬身を震わせるんだ。

そして喉の奥に包まれる様に入っていって、舌のベットの上で少しだけ怖さに怯えるんだ……

だけど、喉の奥の温かさにお母さんの胸の中に似た体温を感じて、身を任せるんだ。

そして歯に体が当たらない様にすぅって喉の奥から胃に落ちてそれから――」

 

『キモイのよ!?何してるの!!』

インカムから琴理の怒声が聞こえる。

 

「なにって、手のひらに『幼女』ってかいて飲むと緊張しなくなるおまじないだよ?」

 

『そこは「人」でしょ!?』

って言うかイメージが無駄にリアルなのよ!!」

 

「そんな事言ってもな?」

ペドーがステージの袖で、自身の直前に出るメンバーたちの種目を見ている。

なんでも他校からのゲストで、バンドを組んだようであり、数人の男たちが演奏をしている。

 

「あ!この前みた、幼女連れてたやつだ!!」

バンドのメンバーの一人、この前の人形の幼女を連れていた男の姿を見る。

と言うかその幼女も一緒に参加している。

 

「うえぇーい!!ありがとうございました!!」

リーダーらしき肩に青いカラーひよこを乗せた男が、皆の前でお辞儀をする。

男の後ろにうっすらと青い着物を着た女が立っている気がするが恐らく見間違いだろう。

 

「さ、次は俺たちの番だよ?」

ペドーが3人を見るが……

 

「すーはーすーは……」

 

「で、できますわよ……」

 

「ゲドーに出来るんだから……」

明らかに動揺している3人。

精霊として人間に関わること自体少ないのだ、いきなりこの人数に緊張しない方が無理だろうなので――

 

「よし!!緊張をほぐすおまじないだ!!」

 

「え――きゃ!?」

ペドーがメイド服を着た四糸乃の服に手を突っ込む!!

 

「さぁ……お腹をなでなでしてあげようね!!

四糸乃ってすこし冷え性なのかな?すべすべして気持ちいいね!!」

 

「お、おおお腹を撫でないでください!!」

 

『よしのんロケット!!』

四糸乃がペドーをよしのんを装備した方の手で殴る!!

 

「くるみ……くるみも緊張しているんだろ?

集中力を上げるために、背中に指で言葉を書いて当てっこするゲームをしようねぇ!!

さぁ!!脱いで!!脱いで!!」

 

「こんなときになにをかんがえてますの!?」

くるみの蹴りがペドーを蹴飛ばし!!

 

「シェリちゃんは、足裏に有るリラックスするツボを押してあげようね!!

さぁ!!俺が横に成るから!!顔面に向けて足を!!さぁ!!足を!!」

 

「ドMじゃないか!?」

最後の最後にシェリに踏まれてご満悦なペドー!!

 

「ふっふっふ……どうだい?みんな、緊張がほぐれただろう?」

立ち上がりキメ顔でニヒルな笑みをペドーが浮かべるが……

 

『いやぁ、ペドー君は自分のしたい事をやっただけじゃない?』

よしのんの言葉に四糸乃が無言で頷き――

 

「ほんっとうにゆだんできないひとですわ!

こしたんたんとねらっていたんですのね?」

くるみが頬を膨らませ――

 

「なんかボクの時だけジャンルが少し違わない?」

シェリが靴下を履きなおしている。

 

「べ、別にそんな訳じゃ……

す、ステージ始まるよ!!!」

 

「あ!逃げた!!」

ステージに向かって走り出すペドー。

最後に振り返って――

 

「楽しまなきゃ勿体ないぜ!!

今日はフェスティバルなんだからさ!!」

3人の中に同じ感情が芽生える。

 

(あ……この顔……)

 

(わたくしは、わたくしたちはこのえがおが……)

 

(この笑顔に引っ張られて、今ここに居るんだよな!!)

 

「なら、楽しむだけだよな!!」

 

「「「わかってる!!」」」

4人は楽器を手にステージに向かって走る。

 

 

 

『さーて、次の演奏は来禅高校による有志のバンドです!!

バンド名は――』

 

「どーも皆さん!!即興幼女系バンド『LO(ラブ)×LO(ロリ)』です!!

幼女と幼女が大好きなメンバーで構成されています!!」

ペドーが円満の笑みで後ろを振り返る。

 

四糸乃がベースを手に顔を赤くしている。

よしのんは何時でも歯ギター出来る状態だ。

 

くるみが真剣な顔をしている。

10指はすでにキーボードに置かれ、今か今かと出番を待っている。

 

シェリが苦笑いを浮かべているが、その様子はうずうずして、早くドラムを叩きたくて仕方がないと云った風だ。

 

「一曲目!!行ってみますか!!」

ペドーの合図と共にライブが始まる!!

練習通りに指は動き、四糸乃がくるみがシェリがその後に続く!!!

ペドーのシャウトに寄り添う四糸乃のメロディ!!

曲調を軽やかに滑るくるみの鍵盤!!

響く音は、音楽に迫力を与えるシェリのドラム!!

 

楽しい――!!楽しい――!!!楽しい――!!!!

 

狂ったように感情が暴れだす!!

流れる汗が心地よい、会場を振るわす音が気持ちいい、後ろに3人が居るというだけでどんどん心臓が高鳴る!!

 

それは後ろの3人も同じ!!!

目の前に居る(ロリコン)の事は良く知っている。

どんな時も幼女の為ならどんな困難すら可能にしてきたハイスペックロリコンだ!!

そのペドーが前に居る!!ならば何も恐れるモノはない!!

そしてペドーに必要とされ、同じ舞台で共に立っている!!

ならば何も迷う事は無かった!!

 

 

 

わぁああああああ!!

 

会場いっぱいの溢れるばかりの歓声が4人を包む。

気がつけば演奏は終わっていた。

4人とも全員、プールに入ったかのような汗だらけだ。

 

「濡れ透け幼女興奮するわぁ……」

小さくペドーがつぶやいて、演奏はあっという間に終わった。

出し切るモノはすべて出し切った――

 

ペドーは満足気に息を吐いた。




個人的学祭の思い出。

ロシアンルーレット寿司。
参加者の一人がわさびの入った寿司を食べるという物。
4~5人の参加者で一個だけのあたりを見事に引きました。

上手くリアクション出来ない上に、実はわさびが苦手な私(回転ずしでは基本玉子とコーン)わさびの味を消すために、皿に合ったしょうゆを一気飲みしました。
そっちの方がびっくりされましたね。
危険らしいんでマネしないでね?


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勃・発・暴・動!!

ずいぶんお待たせしました!!
約一ヶ月ぶりの投稿です。

お待たせして申し話訳有りませんでした!!
べつに病気とかではないので、安心してくださいね?


天宮セントラルステージには、さっきまで舞台に上がっていたメンバーたちが総集結していた。

意図的に暗くされた、ホールにドラミングのだらららら……という、おなじみの曲が鳴る。

すべての出し物が終わった今、後は結果を残すばかり。

 

一世一代の美九との賭け。

 

ペドーが負ければ、四糸乃、くるみ、琴理、シェリ。

あと、胸部デブとナルシストな双子がとられてしまう。

だがそうしないと、美九を攻略できない。

攻略さえしてしまえば、霊力封印でどんな幼女も言いなりになる声が手に入り……

 

「ぐふ、ぐふふふふふ……」

心の中の邪な妄想が不気味な笑みとなって、ペドーからこぼれる。

その様子をすぐ隣で見る幼女精霊たち――

 

(なにか……良く無い事……考えてます、よね?)

 

(ぺどーさん、またよからぬことを……)

 

(うわー、キッモ!)

さっきまでは少しカッコよく見えたが、どうやらゲレンデの魔法ならぬステージの魔法だったようだ。

 

その瞬間、不意にドラムロールが止まり――

 

カァッ!!

 

『ステージ部門第3位は!!志余束高校、即席バンド《業速弓(カルマ・スピード)》の皆さんです!!』

 

照らされた位置にいた、男たちが歓声の包まれる!!

このメンバーはペドーたちの一歩先に出ていたグループで、同じく幼女を連れていたのを思い出した。

リーダーなのか、肩に青いカラーひよこを乗せた男が、手をゆっくり振るった。

 

(『志余束』ってたしか、怪しい男の言ってた飛び入りグループだよな?

飛び入りで賞取られたって、他の学校ブーイングだろうなー)

実際そこそこのレベルはあったと思うが、それでも飛び入りのグループに3位を取られたとなってはいい気はしないだろう。

 

(ま、飛び入りだからこそ印象に残ったっていう見方も出来るかな?)

そんな風に考えてる最中に再びドラムロールが始まった。

これは、運命の一瞬だ。

 

此処で美九の率いる竜胆寺の名が呼ばれれば、一位は他の学校へ。

しかしもし、ペドーのいる来禅の名が呼ばれれば――

 

『第二位は――惜しい!!僅差で敗北――来禅高校ォ!!』

聞こえた声の内容を理解した瞬間、ペドーがガクッと膝から崩れ落ちる。

 

『それでは栄光の一位は――』

聞こえてくる音が、遠い。

まるで耳に水が詰まってしまったようにボオッとした感覚。

何処か遠い所で音が鳴っている様に聞こえてくる。

 

「残念でしたね。けど、ちゃんと約束を守ってもらいますね?」

 

「豚……!」

打ちひしがれる、ペドーに追撃する様に美九が悠然と歩いてきた。

 

「では約束通り、士織さんと詩織さんの攻略した精霊の子はみんな――」

 

『という訳で!!天央祭一日目の総合優勝はぁ!!来禅高校だぁあああああああ!!!』

美九の声をかき消す様に、会場中に響くアナウンサーの声!!

その声に呆然とするのは――

 

「……あ、え……なん……で?」

さっきまで勝利を確信していた美九だった。

 

「ま、ステージにばかり予算出してたらこうなるよねー?

えっと、豚のクラスの出し物は……あ、ビデオ試写室か……部活とかのを編集したビデオを終始流すだけ?あー、これは勝てますわ。

ねぇねぇ、どんな気持ち?勝ったと思って煽りに来たら実は負けてたって、どんな気持ち?ねぇねぇ?D(どんな)K(気持ち)D(ですか)

へぇい!!DKD!!DKD!!DKD!!」

実はある程度予想していたペドー!!

仕返しとばかりに美九を全力で煽り返す!!

 

『いやー、今回はまさかの来禅高校の優勝でしたねー。

竜胆寺はやはりステージでは最高でしたが、今回は展示や出し物が振るわなかったようですねー。

それに比べ、来禅高校はメイド喫茶でした。いやー、これは行きますね!!

メイドのレベルも高くて、いやぁもう最高でしたね!!』

 

「おーおー、今回の優勝はうちの様だな!!

ヒャハハ!!!歌えない豚はただの豚だぁ!!大人しく豚舎に戻るんだなぁ!!

グッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

中指を立てて舌を出しキッタネェ笑顔で美九を煽るペドーを見て、四糸乃くるみシェリの3人が申し訳なさそうに美九をながめている。

彼女の怒りを示す様に、プルプルと肩が震える。

 

「なんですか――これ……?」

美九が自身の声を絞り出す。

 

「ん?」

 

「私は、私は誘宵 美九ですよ!!

負ける訳ないじゃないですか!!

現に私は勝った!!勝ったんです!!あのこが、あの子たちがしっかりしないから――」

 

「うるせぇ2位!!」

 

「あう、えうぅううう!!!

わ、私が負けるなんてありえないんですよぉおおお!!

来なさぁい!!〈破軍歌姫(ガブリエェエエエエエエル)〉!!」

美九が腕を上げた瞬間、ステージに地面から光があふれ出てくる!!

そして地面から、ゆっくりと数本の鉄の筒――最も近い道具と言えばパイプオルガンだろうか?

 

観客が、突然の出来事でざわめきだした。

目の前の異常事態に、頭が付いていけない。

騒ぐだけで、突っ立っているばかりだ。

 

「おい、約束は――」

 

「歌え!!詠え!!謡え!!〈破軍歌姫(ガブリエェエエエエエエル)〉!!」

美九が光る鍵盤に指を走らせた瞬間、音が爆発する。

巨大なパイプオルガンから、大きな音が響く――!!

 

〈ボエェエエエエエエエ―――――――――――――――――!!〉

 

巨大な音が会場中を包み込む。

 

 

 

 

 

「うお?」

数秒後ペドーが耳から手をどけ、周囲を見回す。

そして、とある異常に気が付きギョッとする。

 

「んだ、コレ……」

会場中の観客が皆、直立不動で立って美九を見ている。

あまりに秩序的な不動の体制をみて、ペドーは何処かの軍隊の式典の映像を思い出す。

 

「まさか――」

 

「あっははは!そうですよ、これですよ。

私の力に掛かれば、みんな思い通りになるんです。

私に逆らう存在なんてあってはいけないんですよぉ?」

 

「「「美九様万歳!!美九様万歳!!美九様万歳!!」」」

洗脳された兵士に様に皆、美九様と喝采をする。

ぞぞぞっと、背中に悪寒が走った。

 

(豚の力――『お願い』の効果が、此処まで大きくなるのか!?)

会場の観客は、一瞬にして美九の手下に変わった。

声援をくれた客は皆、ペドーの敵へと変わった!!

 

「捕まえてください」

 

「お、い、なに――を!?」

数人のスタッフがペドーを後ろから捕まえる!!

罪びとの様に、ペドーを捉え両腕を広げさせる!!

あっけなく拘束されたペドーに、怪しげな笑みを浮かべ美九が近づく。

 

「おい、約束はどうした!?」

 

「そう怒らないでください、もう約束も関係ありません。

初めから、こうすればよかったんですよねぇ?」

つつーっと、美九がペドーの太ももを指先でなぞる。

年増のデブになでられた事で、ペドーに鳥肌が立つ。

 

「うふふ、そう睨まないでください。

すぐにみんな、私のおもいどおり――に!?」

腿を撫でていた美九が、ペドーの足の間に触れた瞬間言葉が止まる。

 

「え、いや……まさか?

か、確認してください!!」

美九の声に、同じく洗脳されたであろうシェリが走って来て、ペドーのスカートを上げる!!

 

「やめろぉ!!スカートをめくるなぁ!!興奮してしまいます!!うっほ!!」

 

「うわぁ……」

シェリが非常に、非常に嫌な顔をしながら、ペドーのスカートをめくりさらに下着をずらしブツを確認する。

 

「……どうでした?」

美九の言葉に、シェリがコクンと頷く。

その瞬間、美九の顔が一気に血の気が引いていく!!

 

「士織さん!?あなた、おと、男ぉおおおお!?」

そう、美九が気にいていた士織は実際には美九がこの世で最も嫌う生き物の『男』だった!!

それだけではない!!さっき、自分は在ろうことかその男の――

 

「うわぁああああああああ!!」

喉が裂けんばかりの悲鳴!!

そして、美九のファンたちが同時に、ペドー目指し走り出す!!

 

「わ、ワタシを騙したことを後悔させてあげます!!」

その言葉に反応した、ファンの皆は同様に凶暴な光を瞳に宿していた。

多勢に無勢、しかも囲まれているとなってはペドーに出来る事は限られている。

 

「仕方ない――はぁ!!」

ペドーが自身の上着を脱ぐことで、拘束から逃れる!!

ペドーは何時、いかなる時も高速で脱衣する能力を持っているのだ!!

 

シェリに、下着を奪われさらに自ら上着を脱ぎ捨てたネイキッド・ペドーが美九にとびかかる!!

靴と靴下を履いているから全裸ではない!!恥ずかしくないモン!!

 

「いやぁあああああああ!!変態!!変態いいいいいい!!」

 

「変態ではない!!幼女を守る愛の戦士!!ロリコンだ!!」

美九にペドーが近づく瞬間、氷の壁が美九を守った!!

 

「これは――」

 

「お姉様に、手出しはさせません!!」

そこに立っていたのは、四糸乃だった。

何時も優しく、時には困惑しつつペドーの事を踏んでくれたり、頼めば罵倒してくれる四糸乃が明確な敵意を持ってこちらを睨んでいた。

 

「四糸乃……」

 

「ふん、お姉様に手出しはさせんぞ?」

 

「宣言。お姉様を騙した罪は重いです」

ペドーの後ろに、周り込むのはナルシスト精霊2人組。

正直いってこっちはどうでも良い。

良いのだが――

 

「あは、あっはは!なんですか、みんな精霊を連れてきてくれてたんですね。

しかもみんな私の好みの子ばっかり!

……なら、もう士織さんは要らないです――きえてください!!」

冷酷な命令が、ペドーに下された。

 

「なら、仕方ないな」

絶対絶命のペドー。

そんな彼がとった行動は――

 

「よしのんおいでー」

なんのためらいも無く、四糸乃から腕に装着されているよしのんを奪い取った。

 

「ひぐッ――!」

その瞬間、空気が凍った。

半分は比喩表現だが、もう半分は違う。

よしのんを取られた四糸乃は、その青い双眸に涙を溜め――

 

「びえぇええええええええええええええええんんんんん!!!」

大きな鳴き声と共に、会場全体に無数の氷が生まれる!!

その氷は容赦なく、美九のファンも足止めして――

 

『なぁ、琴理――美九って豚以外の愛称で呼ぼうと思うんだけど、良いアイディアない?

候補としては豚子(トンコ)とかなんだけど――』

 

『ふっざけるんじゃないわよ!!良くも()()()に向かってそんな口を――!!』

ペドーは内心、心の中でガッツポーズをした。

琴理は美九を他の洗脳された奴らと同じく『お姉様』と呼んだ。

琴理は安心の無能ぶりで、見事に洗脳されていたのだ。

本来は、ここは回避すべき事態だが今回のみ、今回のみは『これでいい』のだ。

 

『ブスの豚にかまってやれないし、脱出するぞ?』

 

『あっははは!!お姉様を裏切ったあんたを許す訳ないじゃない!!

リアライザ起動!!〈フラクシナス〉主砲――ミストルティン!!うてぇ!!』

数瞬の時間のあと、威力を抑えたであろうビームが放射される!!

それは四糸乃の氷にぶつかり、会場を砕けた氷と光線で蒸発した水蒸気が会場を覆う!!

 

「士織さんは!?」

美九が声を上げるが、すでにそこにペドーの姿はなく――

残ったのは、よしのんを奪われ涙する四糸乃だけだった。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……くっそ……」

路地裏、靴と靴下それ以外は右手に装備したよしのん()()を装備した逮捕されてもおかしくない、ペドーが息を潜める。

なんとか、脱出を起こしたが、足りない物だらけだった。

仲間も、装備もなく、服もない――これは、まぁいいか。

 

『いやぁ、ひどい目にあったねぇ!』

 

「あれ、よしのんって……孤立した存在だっけ?」

急にパクパクしゃべりだした、よしのんに疑問を持つのでさえ億劫だった。

その時、小さな笑みが聞こえた。

 

くすくす……くすくす……

 

「どうやら、お困りの様ですね――ペドーさん?」

ペドーの足元、そこからするりと一人の少女が姿を現す。

赤と黒のゴスロリ風の服に、時計盤の刻まれた左目――

ペドーはその姿に覚えがあった!!

 

「お前は――」

 

「くすくす……」

 

「誰だっけ!!」

 

「覚えてないんですの!?」

 

「いや、ほら、転校してきたやつだろ?

ちっとも学校来ないで……なに?学校行きたくないけど、文化祭は来るの?」

 

「いえ、そうじゃなくて――ああもう!!なんで――」

ペドーの指摘に、彼女は慌てる。

 

「あ!名前思い出してきたぞ!!あの、ほら……く、く、る?」

 

「そう!!くる?」

 

来崎(くるさき) 時子(ときこ)!!」

 

「違いますわ!!時崎!!時崎 狂三ですわ!!」

最悪の精霊、狂三がむなしく突っ込んだ!!




最悪の精霊、来崎 時子再登場!!
絶対絶命のペドーは!?
待て次回!!……なるべく、早く出る様にがんばります……


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魍・魎・跋・扈!!

さてさえ、長くなったこの章も大分クライマックスです。
最初からクライマックスのペドーさんも、ラストに向けて頑張ってくれています。


それはまるで、何時かTVで見た何処かの軍隊の行進の様であった。

ザッ!ザッ!ザッ!

多くの足音が、ほぼ同時に踏み出され隊列を成して歩いている。

だが、異様な点が一つ。それは彼らが従っているのは軍の軍師でも指導者でもなく()()()()()()()()()だという事だった。

 

「マズイな……あれ全部が、美九()の兵隊かよ……」

路地の裏、右手によしのんを装着したペドーがこっそりと様子を伺う。

 

「うーん、これは美九って子に近づくだけでも大変だよね~」

 

「ああっ、四糸乃ごめんよ……仕方ないとはいえ、泣かしてしまった……

そしてその泣き顔のぞくぞくしてしまう俺が居る……うん、興奮してきたゾイ!!」

パペットのよしのんが返事をして、ペドーが考え込む。考え込む?

圧倒的準備不足、圧倒的人数差、圧倒的戦力差。

一人で1000人2000人相手に、圧勝出来る勇者などいなく、今ここに居るのはなんかしゃべりだしたパペットと、真正小児性愛者(ガチロリコン)そして……

 

「あの、ペドーさん?そろそろ服を着ません?」

かつてペドーと戦った最悪の精霊!!

その名も――

「来崎 時子……」

 

「違いますわ!!狂三ですわ!!時崎 狂三!!」

全裸のペドーに対して、狂三が食って掛かる!!

 

「はぁ?何言ってるんだ、くるみならさっきまでステージに一緒に居ました!!

第一、家のくるみちゃんがお前の様な年増なハズないだろ!?

いいか?くるみはなぁ!!ちっちゃいけど、頑張り屋でそのくせ大人に成ろうって毎日一生懸命なんだよ!!お前みたいな、授業受けない癖に学祭だけ来る奴とは違うんだよ!!」

ペドーの言葉に、狂三が多大なショックを受ける!!

コッチを振り向いたペドーさんの股間は不自然な光さんがブロックしてくれたよ!!

 

「あの、貴方の所にいるわたくしは、過去のわたくしですわよ?

寧ろわたくしが本物で――」

 

「年を取った幼女に価値はなし!!」

圧倒的拒絶!!その態度に、狂三が自身の頭を抑える。

 

「ああもう……なんでこの人は、幼女以外眼中に有りませんの!?」

どうにか、自身の計画に賛同させようとした時、他の分身の狂三が走って来て耳打ちをした。

それは、たった今起こっていた事件で――

 

「ペドーさん、聞いてくださいまし。あなたの友人の十香さんがDEM社の執行部長エレンメイザースに捕まった様ですわ」

数人の精霊が残ったステージ、なぜかペドーを探しに行かず食べ物コーナーをうろついていた十香がエレンにさらわれたというのだ。

具体的には「お嬢さん、お菓子食べ放題の店がありますよ?」「よし、行こう」という非常に高度なエレンの計画により十香が攫われたというのだ。

 

「なに!?」

 

「さぁ、戦力も服も無いペドーさん?十香さんが大切じゃなくて?

無様に懇願すれば手を差し伸べてあげない事も無いですわよ?」

怪しい笑みを浮かべ、狂三が語る。

そう、これぞ最悪の精霊の姿、甘い誘惑で誘い込みその対象の躊躇する姿を――

 

「後で良くない?っていうか、ほっておいちゃダメなん?」

 

「ちょっと!?少しは心配したらどうですの!?DEM社ですわよ!!

精霊を殺す組織ですし、何をするとか、何が目的とか多少は考えて……

って言うか、それでも本当に主人公ですの!?」

 

「うわー、メタ発言!!けど、ヒロイン=攫われるってのも安直じゃない?

今のトレンドは『攫われたけど、自力で帰ってくる系』ヒロインだと思うなー」

取り付く島もないとはまさにこのこと!!

とうとう心折れた、狂三が地面の手をつき挫折のポーズを現した。

 

「もう!!なんなんですの!!なんで、この人は此処までわたくしの計画通りに動きませんの!?

ああもう!!ペドーさんを出汁にして、第2の精霊を探す作戦がパーですわ!!」

 

「第2の精霊?」

気になる単語があったのか、ペドーが狂三の言葉に反応した。

 

「ええ、DEM社に居るっていう史上2番目に出現した精霊ですわ……

出来る事なら、その精霊から情報を聞きたかったんですけど……」

 

「なぁ、第2の精霊ってどんな奴なんだよ?」

この時ペドーは、少し気がかりな部分があったのだ。

もしかしたら、万が一の可能性を考慮して――

 

「知りませんわ、情報はほぼゼロで容姿すらわかって――」

 

「それなら……助けに行くか!!」

ペドーが蹲る狂三を起こす。

狂三はペドーの言葉が理解できない。といった顔をした。

 

「なんで?なんで急に?」

 

「もしも、もしもの可能性だが……第2の精霊が幼女だったら……

しかも俺好みの幼女だったら、助け出すしかないだろ!?

幼女監禁とか、DEM許せねぇ!!二人でなんとしても第2の幼女を助け出すぞ!!」

さっきと一転!すさまじい闘志を燃やすペドー!!

 

「え、ええ……」

狂三は第2の精霊が必ずしも、幼女ではないだろうがそのことを口に出すのは止めておくことにした。

 

 

 

 

 

「では、現状を整理しますわよ?服を着ながらで良いので聞いてください」

腰に手を当て、適当なビルの一室で狂三が説明する。

自身の分身が適当な店で、買ってきた(盗んできた)服をペドーにわたす。

 

「ふむ……」

 

「正直って、ペドーさんのバックの組織は停止状態。そしてお気に入りの精霊たちはむしろ相手の戦力――つまり貴方を助ける人は誰も居ませんのよ?」

 

『よしのんが居るよ!!』

ペドーのパペット、よしのんが元気に自身をアピールした。

 

「ええ、そうでしたわね……」

一応、と言いながらよしのんを戦力に数える狂三。

そうしないと色々うるさそうだからだ、何をするか分からないという意味では他者所か精霊すら凌駕するロリコンの相手に狂三は疲れ果てていたというのもある。

 

「相手の精霊は、どんどん戦力を増強させています……あら、TVのヘリまでも……」

二人の頭上を非常に低い高度でヘリが飛ぶ。

機体の底に、TVの文字が見えたので恐らく取材で来ていたのを、【歌】で乗っ取ったのだろう。

 

「時間と共に……状態は悪くなる……か」

何処か疲れた様にペドーがため息を付く。

 

「あら?気力が先に折れましたの?なら、ここで貴方を頂いても――」

 

「幼女が足りない……ああ、いつでも近くにいたハズなのに……くぅ!!

禁断症状が!!ああ、幼女成分が足りない!!ロリコニウムが足りない!!

ハッ!?そうだ――!!」

何かを思いついたペドーが、よしのんをひっくり返しそのまま鼻を突っ込んだ!!

 

「すーはー……こーほー……ああぁ~生き返るぅ……四糸乃がずっとつけてたよしのんの匂い……純度100%幼女の香り……」

数回吸うとまるで危ないお薬の使用者の様にペドーの目がトロンとする。

 

(……もう帰りたい……)

流石の狂三もドン引きして、真剣に第二の精霊をあきらめようとすら考え始めてしまう。

 

そんな時――

 

「うお!?」

突如突如ペドーの携帯に着信が来て驚く。

 

「気を付けてくださいまし、見つかると事ですわよ?」

 

「多分だけど、大丈夫だ……」

狂三が注意を促すが、携帯の着信相手の名は神無月。

ある意味同じ同士にして、超進化変態の一人である為信用できる相手だった。

 

「ハイ、もしもし。ねぇねぇ……君の胸のサイズ幾つぅ?」

 

『はぁはぁ、きみぃ……今どんなパンツ履いて……』

 

「神無月さん!!無事だったんですね!!」

 

「最初の一言以降おかしくありません!?」

お互いの無事を喜ぶ変態二人。唯一の常識人である狂三はむなしく叫ぶばかりだ。

 

 

「神無月さん、琴理は――フラクシナスはどうなったんですか?!」

ペドーの心配はもっともだ。

会場からの脱出に琴理を利用したが、すでに琴理は洗脳されていることが確定している。

 

「それならご心配なく、司令官及び一部のクルーが反逆を起こしたんですが、すでに暴動は鎮圧しましたよ」

そう言って神無月が、メインルームの一部に目を向ける。

そこには――

 

「むーー!!むぅーーー!!」

手足を後ろ手に縛られ、縄を噛まされ目かくしをされた琴理と、普通に気絶させられた数名のクルーが居た。

 

 

 

 

 

「良かったぁ……神無月さんたちが居るならまだ希望はある……

それに、欲しいものも手に入ったし……えっと、時子頼みたいことが有るんだけど」

 

「もう時子で良いですわよ!」

頬を膨らませた狂三がペドーに乱暴に言い放った。

 

「ちょっと、『上』で作戦会議してくるから、適当によしのんとお話してて」

上空を指さしたペドーがその瞬間ふわりと浮かび上がる。

どうやらフラクシナスの一部機能が混乱から回復した様で、ペドーをクルーが回収した

のだろう。

それと同時に、ペドーがよしのんを外し狂三に投げる。

まるで素晴らしく精密なコントロールが成されたように、よしのんが狂三の手にすっぽり嵌まる。

 

「え、ちょ――きゃ!?」

 

『はぁい、時子おねーさん!ウチのくるみちゃんがおっきく成ったらこんなかんじなのかねぇ~』

 

「実際に大きくなった存在ですわよ!!っていうか、勝手に手が動いてパクパクしてますわ……

どういったトリックなのかしら?」

 

『いやーん、よしのんに興味深々!?』

様々な方角から、よしのんを見るが結局詳しい事は分からずじまいだ。

ペドーが去っていった、方角を見ながら狂三がため息を付いた。

 

「全く、この敵地の真ん中に私を置き去りにするなんて何を――」

愚痴をこぼそうとしたが、改めて手に嵌まるよしのんをみて狂三が止まる。

彼の大切な幼女、その大切な持ち物を自身に渡した。

それはひょっとしたら彼なりの、信用の証なのかもしれないと思うって狂三が小さく微笑んだ。

 

『あ、そうだ狂三おねーさん!ペドー君がイザっていうときの隠れ家に心辺りがあるみたいなんだけど……行ってみる?』

まさかのよしのんの問に一瞬狂三がキョトンとした顔をするが――

 

「へぇ、至れり尽くせりですのね」

何時もの様ににやりと笑った。

 

 

 

 

 

「神無月さん!?琴理は――」

 

「無事ですよ、ペドーさん」

神無月たちによって取り押さえられた、琴理がむなしく暴れる。

暴れる中で、微妙にスカートがめくれ下着が見えてくる。

縛られて!目かくしで!!猿轡で!!!脱ぎ掛け制服!!!!

 

「やっぱり、豚の歌を聞いたからですか?」

カシャ!カシャ!!

 

「ええ、あの歌は機械を通しても効果があるようで……

クルーの半分程度も同時に洗脳状態になった様です。あ、私は初めから無事でしたが……」

ジィィィィ……

お互いがカメラ、デジカメで琴理を撮影しながら、会話を続ける。

 

「何か、個人差が?けど、会場の人間のほとんどは洗脳されてたし……

洗脳されていない人は、どんな人ですか?」

 

「それなら、今ここにリストアップしてあります。

一回、誰が洗脳されたか確認に使いました」

神無月がリストをペドーに渡して、確認する。

 

早すぎた倦怠期(バッドマリッジ)〉川越。

社長(シャチョサン)〉幹本。

を始めとする以下数名が洗脳された様だ。

 

「あれ?まさか――」

そう思って、頭の中で該当人物を探し始める。

神無月は洗脳されていない、ぺらぺらと洗脳されていない人物を見てペドーがとある事に気が付く。

 

「コレ……無条件で洗脳できる訳じゃないんだ……いや、むしろ洗脳出来ない条件を持った人間が居るって考えるべきか」

そこからペドーは、自身の考えを神無月に話す。

他の無事なクルーにも、同じように自身の考えを聞いてもらい――

 

「あった!!例のデータ、ありましたよ!!」

一人のクルーがペドーの用意する様に頼んでいたデータを見つける。

そして、数人の工作員を町に落とし、僅かな時間だが天央祭の為に張り巡らされたスピーカーをジャックする。

フラクシナスのマイクと市内、美九によって洗脳された人間のひしめく場所に、自身の声を伝える。

雄々しく、そして自身に満ちた声で――

 

『この放送を聞く、自身の意思を持っている者、全員に告げる!!

今、この町は理性の箍が外れている!!町の中には、ふざけた巨乳に心奪われた者たちが我が物顔で闊歩している!!良いのか!!これで良いのか!!

否!!断じて否である!!立ち上がれ!!自身の性癖を誇る者達よ!!

今、世界の理性という封は解かれた!!!日陰に隠れた数奇者達よ!!

今こそ、己の性癖と共に立ち上がれ!!』

ペドーの声は町すべてへ聞こえる!!

そう、その声は震えるモノたちを呼び起こす声!!

 

とある場所で、一人の男が立ち上がる。

部屋の中は無数の抱き枕、外に干すにはアウトすぎる絵柄が大量に鎮座している。

ベットで横になる()に別れを告げ立ち上がった。

 

又別の場所では、一人の女が立ち上がる。

目の前には、原稿とペン。

そして白紙の中で広げられるのは男同士のめくるめくラブなロマンス。

彼女はペンを置いて立ち上がった。

 

とある留置所で男が顔を上げる。

色々と厳しいご時世、電車の中でおばあさんのたるんだ尻と胸をタッチした男はいつの間にか開いていた扉から歩いていく。

 

 

 

「おねぇ様!!タイヘンだ!!」

シェリが美九に向かって走ってくる。

 

「なんですかぁ?シェリちゃん?マイクジャックはもう終わったでしょう?」

精霊たちに囲まれ、フルーツを「あーん」してもらった美九が不機嫌そうに反応する。

 

「す、ステージの外に!!大量の変態が!!」

 

「なんですって!?」

美九が立ち上がるとステージの外方声がする!!

 

『巨乳は要らなーい!!』『マイノリティ(多数派)なんてくそだ!!』『2次こそ至高!!リアル堕肉に興味はない!!』

うじゃうじゃ、うじゃうじゃやってくるのはどう見ても変態たちの方々!!

美九の歌も気にせず歩いてくる!!ファンがそれを押しとどめるべく奔走する!!

 

「な、なんで……なんで私の歌が、効かないんですかぁ!!」

美九が悲鳴にも聞こえる声で、再び自身の精霊を動き出させる!!

その様子を離れた場所で、ペドーが見る。

 

「さぁ!!始まる!!熱狂的ファンを作る精霊と――自分の萌えに忠実な変態たちの戦いが……そして、俺も――!!」

最後の仕上げをするべくペドーがフラクシナスから降り立った。




美九の歌声は洗脳というより、自身を好きに成らせる力ととらえています。

所謂、メッシー、アッシー、ミツグ君を育てる力。
けどそんな存在に興味のない(愛する対象が2次元のみ、男同士にしか興味なし、小娘はNG)等々の人達には効かないのです。

要約すると、変態へ世界を救う!!素晴らしい!!

となります。


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英・雄・凱・旋!!

さえさて、今回の話はなかなか危ないモノになっています。
気分が悪く成ったら、ブラウザバック推奨です。

※お気に入り登録が200人を超えました。
マジですか……
幼女人気にびっくりですね。


「う、う……ペドー……」

瓦礫まみれのとある場所の一角で、折紙が倒れる。

周囲には無数の機械の残骸と、倒れたDEM社の派遣たち。

 

ペドーを狙う、DEM社のウィザード達にホワイトリコリスを引っ提げ、それはそれはすさまじい戦いを繰り広げた折紙。

ホワイトリコリスの負担を受けて、破壊されそうになり敵を倒したと思ったら、まさかの敵の増援。

しかし、仲間が咄嗟に駆け付け、それに救われ仲間の絆を力にしたがまさか相手が、ドーピング能力を使い暴走&強化。

倒れていく仲間を見て折紙は折紙でホワイトリコリスの暴走を抑え込み、隠されていた真の力を解放。

しかし、装備にガタが来て結局はパージ。

倒れた仲間の武器を拾って、それを使い戦闘を続行。

懐に潜り込み「この距離じゃバリアは張れないな!!」して、ひたすら腹パン。

「さっきの、砲撃は……攻撃ではなくトイレを破壊するために!?はぁう!?お腹いたい!!」

のセリフと共に、DEM社のバカ外人が人間の尊厳を破壊され敗北。

週刊誌の様に、内容を極限まで薄めて数か月引っ張っても良かったが、めんどくさいので割愛。

分かりやすく言うと、『折紙が勝った』『外人は漏らした』の二言である。

そんな事より大事なのは幼女だ!!

 

 

 

 

 

「うむ……んむ……んあ?」

自身の体に巻き付く拘束を感じながら、十香がとある場所で目を覚ます。

いつの間にか眠っていた様で、目覚め特有のだるさが体を襲う。

 

「ここは――?」

しかし目覚めた場所は、自身の知らない場所。

それどころか、服も寝間着ではなく制服のままだった。

 

「なぜ――ハッ!」

その時十香の頭が加速度的に覚醒して、何が有ったのかを思い出させる。

そう、自分は――

 

「確か、お菓子の食べ放題に行って眠ってしまったのだ!!

どこだ、まだお菓子を食べたりないというのに――!!」

その時、扉を開けて一人の女性が姿を見せる。

ブロンドの髪に碧眼の西洋風の美女だ。

 

「貴様は……エレンママではないか!!」

 

「ママは余計です!!」

それはエレンメイザース、通称エレンママだった。

 

「今すぐ放せ!!私はまだお菓子を食べたいのだ!!」

ガチャガチャと音を立てて、十香が立ち上がろうと暴れる。

 

「……まだ、お菓子がもらえると?なんとまぁ、おめでたいというか……

無駄ですよ。今の貴方の力でその拘束はどうする事も――」

 

バキッ!!

 

「よし、外れたな」

一瞬でフラグが回収され、十香が自由に成った手をゆっくりと振り回した。

 

「……黄な粉をあげるので、もう一回つかまってくれませんか?」

 

「む?捕まるだけで、黄な粉がもらえるのか!?

それなら喜んでつかまろう!!」

苦笑いを浮かべるエレンの非常に高度な作戦により十香は再び捕まってしまう!!

 

「はっ!?捕まっては黄な粉が食べれないではないか!?

貴様騙したな!!!」

 

「ふふふ、そうです。それですよ。

流石の貴方も抵抗は無駄だと理解できたでしょう?

それではいくつか質問をさせていただきましょうか?」

エレンが書類を持って、十香に質問を始めた。

 

 

 

「では、次の質問です〈ラタトスク機関〉その名に覚えは?」

 

「……知らん!!」

 

「五河 ペドーが天使を使える理由は?」

 

「それは確か、幼女への愛と言っていたな……」

 

「訳が分かりませんね……」

 

「それは私もだ」

淡々と質問をこなしていく十香、その時部屋の外がうるさくなった。

エレンがインカムに向かって通信を入れた。

 

「一体どうしたんですか?」

 

「それが、うぇすちゃまが部屋に入りたいと……」

 

「ウェスコットが?」

 

『うわぁん!!ママぁ!!エレンママぁ!!みんながボクのいう事聞いてくれないよぉ!!ボク偉いのにぃ!!』

通信機から聞こえてくる、駄々っ子の様な鳴き声。

最近ではエレンはこの声を聞いただけで、頭が痛くなるのだった。

 

「入れてあげてください……いつまでもうるさいので……」

ため息を付きつつそう言うと、すぐに扉が開いた。

その扉から姿を見せたのは――

 

「ママぁ!!エレンママぁ!!」

 

「うお!?」

うぇすちゃまの余りの異形に十香が声を上げる。

それは背の高いやせ型の男だった。鋭い眼光とくすんだグレーの髪、30代くらいなのだがその姿は、オムツと赤ちゃんのつける涎掛け、右手には哺乳瓶、左手にはガラガラ、そして口に咥えるのはおしゃぶりと何処にでもいる普通の赤ちゃんスタイルだった。

一つおかしいとすれば、成人男性がその恰好をしている事か……

 

「な、なんだ貴様は!?赤ちゃんなのか?大人なのか?」

 

「ふふふ、初めまして〈プリンセス〉。

僕は、DEM社のアイザック・ウェスコット以後お見知りおきを……」

ウェスコットが笑顔を浮かべ、優しく手を伸ばすが――

 

「ふん!」

十香がそっぽを向いてしまう。

 

「嫌われたかな?」

 

「好かれたいのでしたら、もっと直すべきところが有るのでは?」

ウェスコットの問に対して、エレンがオムツを見ながらそう、つぶやいた。

余りの男のキモさ、不快さに十香が吐きそうになりながら、鋭い視線を向けた。

 

「お主の目的は何なんだ!」

 

「君の精霊の力が欲しいのさ、世界をひっくり返すためにね」

赤ちゃんプレイ野郎の言葉に、十香が咄嗟に応える。

 

「私にそんな力はない!!」

 

「ふふふ、今の君は確かにそうだろうね?しかし、君には隠された力が有る……

そう、人類すら滅ぼす力――魔王の力がね!!

僕はね……君に、ボクのママになって欲しいのさ!!

魔王ママに優しくお世話してもらいたいのさ!!」

 

「!?!?!?!?!?!?!」

様々な意味で内容に理解をあきらめた十香が、目を白黒させる。

しかし、赤ちゃんプレイ野郎(ウェスコット)は止まらない!!

 

「くふふふ、さてどうして貰おうかな?

キミ、哺乳瓶でお乳をあげたことはあるかい?こっちの世界に結構いるから知ってるだろ?

ああ、おもらししたオムツを変えてもらうのも良いな……

心配はいらない、ベビーパウダーもオムツもこっちで用意するよ。

離乳食を口移しで食べさせても良い、いや、何なら一層、ホルモンバランスを調節して母乳を出せるようにして飲ませてもらっても――」

 

「何を言って……」

ペドーですら、しないであろう上級プレイを次々上げていく赤ちゃんプレイ野郎に十香の背中に寒いモノが走った。

 

 

 

 

 

『ねーねー、時子おねーさん、何してるの?下着ドロ?

あ!わかった!アイドルの私物と写真をセットにして売るんでしょ?

恥丘に優しいエロリサイクルの精神だねぇ~』

 

「違いますわ!!なんて事、言いますの!?」

美九の部屋で狂三がタンスを漁りながらよしのんの問に答える。

此処は美九の家、ペドーが心当たりがあると言ったのは以前連れていかれた美九の家その物だった。

 

「確かにあの人(美九)の兵士が、自らの女王の住処を荒らすとは思えませんものね……

ペドーさんは意外と考えてますのね」

 

ガシャン!!

 

「何事!?」

急に何かが壊れる音に、狂三が身構える。

何かがこっちに歩いてくる足音、そして――

 

「ちっす!やっぱ、此処に居たか」

扉を開けて入ってくるのは、手に金鎚を持ったペドー!!

 

「ちょ、金鎚?」

 

「窓割って、カギを開けただけだよ?」

プラプラと、手に持つ金鎚を振って見せる。

入り口のカギは狂三が掛けた、その為ペドーは窓から侵入するのに使ったのだろうが……

 

「一応犯罪なので、躊躇するとかは……」

 

「ナイナイ」

そう言って、ペドーが金鎚を投げすてた。

 

ガシャン!!

 

高級そうなティーセットを破壊して、金鎚が地面に落ちた。

 

「所でこんな所で何してるの?下着ドロ?写真と組み合わせると結構な値段で――」

 

「さっき聞きましたわ!!

全く!なんでほぼ同じ思考してますの!!」

 

「よしのんと俺の仲だもんねー?」

 

『ねー?』

二人して言い合うペドーとよしのん。

 

「はぁ、まぁいいですわ。埒があきませんし……

ペドーさん、これを見てくださいまし。

わたくしは自身の能力で、物に宿った過去を見れるんですの。

この古ぼけたCD……このCDから彼女の過去が取り出せましたわ」

狂三の手にあるCDを見ると、そこには美九の姿が有った。

今より少しだけ若く、しかし身に纏う雰囲気は大きく異なっていた。

そして違うものがもう一つ――

 

「『宵待 月乃』?何だこれ?」

それはCDに印刷されてた、名前だ。

美九はアイドルとしても自分の名前を使っている、ならばこれは『誰』なのか。

いや、誰ではない。

これは明確に美九の事を指している。

 

「突如現れたアイドルの、過去の姿か……」

試しにCDを聞いてみても流れるのは普通の歌。

今の様に相手の心を揺さぶる力などなかった。そう、それは『普通のアイドル』の歌だった。

 

「まさか、コイツも――」

思い出すのは、自身の妹。

謎の存在〈ファントム〉により精霊化させられた、自身の愛する妹。

 

「お前も、人間だったのか?」

写真に写る『彼女』に問いかけても、返事は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

「まだ、にらみ合いは続いているんですかぁ?」

美九が苛立たし気に、報告に来た少女に漏らす。

 

「こちらから責めるのは、少し酷かと……

拠点防衛をメインにして、なんとしてでもお姉様を守りますから」

慌てるような少女の声に美九が小さく爪を噛む。

 

不快――非常に不愉快だ。

あの男が放送を乗っ取ったあと、みるみる内に外に変態共が集まって来た。

今は、自身のファンがステージを守っているがそれでも、不安があった。

 

「一層、精霊さん達に頼んでみんなを懲らしめてもらいましょうか?」

風を操る双子に、熱線を武器にする少女、四糸乃とか言う子も居たが今は泣いてばかりで精神状態が非常に不安定だ、出すのは止めた方が良いだろう。

 

「それにしても、なんで私の歌が効かないんですか……!

ええい、腹立たしい……!」

ぎりりと美九が歯ぎしりをした。

自身に屈しない人間が居る――それだけで、美九には多大なストレスとなっていた。

 

 

 

「ごめん、遅れた」

ペドーが変態共の群れの奥、用意された萌えキャラがプリントされたテントへと入ってきた。

此処はそのままの意味でのキャンプ地。

湧き出た変態共は自然とより強い性癖を持つ変態をリーダーとするグループを作っていた。

あたかも野生動物が、新しい群れのリーダーを決めるがごとく。

 

「ああ、漸く来たね……これで全員かな?」

奥に座っていた少年が笑みを浮かべる。

肩に乗せた青いカラーひよこが小さく鳴いて見せる。

 

「あなたが……『ナンバー8』……」

平均よりは少し低いであろうその身長と、人懐こい笑み。

しかし変態界でその存在を知らぬモノは居ないほどの人材だった。

『ナンバー8』それは変態界の生ける伝説。

『一億7000万冊』『乳の先駆者(パイオニア)』『マスターオブエロス』等々様々な伝説を残す人物。

曰く――脳内に一億7000万冊のエロ本を所有する。

曰く――世界の乳のサイズと傾向をすべて知っている。

曰く――彼に『萎え』という感情が存在しなく、どんなニッチなジャンルとも語り合えるとも……

 

「全く、時間に遅れるなんて信用成らないわ!!」

隣の女――変態共の中に不釣り合いな眼鏡をかけた、いかにも「ザマス」とか言いそうなオカタイ雰囲気のアラフォー女性が居た。

 

「あんたは――『ミセス・メタファー』!?」

 

「そう呼ぶ人もいるかしら?正直いって迷惑だけど」

そう言ってミセス・メタファーが眼鏡をくいっと上げた。

彼女も一部界隈では有名だ。

有名私立小学校のPTA会長をやっている女だが、様々なドラマやアニメ、バラエティを見てクレームを入れる事で有名なのだ。

その一例は――

『このシーン!!女子生徒がリコーダーを吹いています!!

棒状の物に口を付ける……これはどう見ても男性器のメタファーよ!!』

『ちょっと!!このバラエティー、女性芸人の隣に電信柱が映ってるじゃない!!

どう見ても男性器のメタファーじゃない!!』

『いやぁあああ!!この机、足が4本ついてるじゃない!!

どう見ても男性器のメタファー!!』

彼女にとって棒状の物すべてが男性器のメタファーに見えるという非常に恐ろしいフィルターが掛かっているのだ!!

 

「しかしペドーは信用は出来るんじゃない?」

蝶ネクタイと眼鏡という某探偵を思わせる制服の男が口を開く。

ペドーは知っていた、彼の二つ名は『プライベートアイズ』。

その力は情報力にアリ、気配をほぼ完全に消して行動できるストーキング能力!!

本人は自身を探偵と主張して譲らないが、尾行(ストーキング)証拠品探し(ゴミ箱ガサガサ)証拠品探し2(盗聴器設置)張り込み(待ち伏せ)など非常に裏工作に向いている!!

 

「何でも良いわよ……ってか、二人とももっと近寄ってくれない?

もういっそキスしても良いから!新刊のアイディアが来る!!」

机の上で、一心不乱にペンを走らせる女が一人。

ノートの上には、ペドー(美化120%)と工河(美化150%)が熱く愛を当たり合うシーンがすさまじいスピードで製作されていく!!

 

「おおう……マザーサンドウィッチ……」

『マザーサンドウィッチ』これこそが彼女の通り名。

別名『無限の錬金術師』と呼ばれる彼女は、ボーイたちの愛を非常に熱心に応援してくれるかなり困った錬金術師!!

彼女の作品で多くの女子は腐敗し、さらには男子の一部までも取り込むという、何かをかけて物を生み出すことに対しては生粋の才能を持つ狂気の錬金術師だ!!

 

「ふふふ、いつもは日陰の存在である某たちが、まさか日の光の下に立てるとは感無量……!!

某の妻も喜んでいるでござる。

何時もは部屋干しで周囲の目もあったが、遂に日の下に彼女と共に歩む日が来た!!」

最後に口を開いた男は、抱き枕に跨っていた。

バンダナ、眼鏡、チェックのシャツにジーンズ、リュックとテンプレ過ぎて最早時代遅れの前時代のヲタクファッション!!

なまじ顔が整っているだけあって、逆に残念である。

彼は通称『ピローダイバー』。枕の中、無数にいる嫁を愛し誰よりもまっすぐに愛情を注ぐ。

世間は彼を悲しい一人の男というが、彼を知る人間は決してそうは思っていない。

彼と枕の中の彼女は純愛を貫き通した、誰よりもリア充なヲタクなのである。

「さぁ、ペドーどの、アイドルなどという我らの恋心を食い物にする豚めに鉄槌を下そうぞ!!」

『ピローダイバー』の言葉に、テントに居る全員が静かに立ち上がった。

彼らは決して仲良しではない。

寧ろ自身の道と敵対するモノすらいる、だがリアルアイドルという共通の敵の前に遂に手を組み立ち上がったのだ!!

 

無数のド変態&オタクを群れをかき分け、6人が歩んでいく。

ペドーの全身に力が湧いてくる!!

 

「今の俺は負ける気がしねぇ!!」

ペドーが自身の拳を討ち合わせた!!




『ナンバー8』
様々な分野に精通した、変態。おのれの体の中心の剣を振るい自らの性癖のため戦い続ける。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはセイバー。

赤ちゃんプレイ野郎(うぇすちゃま)
無数の道具を使い、様々な手で赤ちゃんプレイをさせてくる齢30過ぎの熟練赤ちゃん。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはアーチャー。

『ミセス・メタファー』
ありとあらゆる棒状の物が、『アレ』に見えるという非常に頭が湧いた婦人。
夫とは最近『夫婦生活』していない。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはランサー。

『ピローダイバー』
嫁である抱き枕と寝食を共にするこの世で最もニートに近い大学生。
上京を機に、隠していた性癖が発現。実家にはおけない為手に入らなかった抱き枕を購入。妻と一緒に眠るのが好きという愛妻家。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはライダー。

『プライベートアイ』
探偵を自称する、ストーカー。幼馴染と恋人の積りだったが彼女はクラスの男子全員と関係を持っていた。キスさえさせてもらえなかった彼は、女性不信となり相手の情報を調べる事に快楽を見出すように成る、相手の怯える表情も好き。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはアサシン。

『マザーサンドウィッチ』
数枚の紙とペンとアイディアで、多数の財を生み出す錬金術師。
彼女の作品で多くの健全な女子が腐っていった。
そう言う意味で彼女は魔女(ウィッチ)であり、多くの婦女子の(マザー)であり、彼女の愛するBL(ベーコンレタス)をけん引する存在である。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはキャスター。

『ペドー』
幼女と共にあり、幼女と共に歩む男。
幼女の為に自分を捨てる事さえ厭わない、幼女クレイジー。
某エロゲ風にクラス分けするなら、クラスはバーサーカー。


……べつに万能の性癖具――『性杯』を求めて、七騎で戦ったりはしません。


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楽・園・壊・滅!!

さて、今回は少し長く成りました。
&美九ファンの人はブチ切れ間違いない内容です。
ブラウザバック推奨です。

















本当にバックしました?後悔しませんね?


とあるステージの前、ステージのある施設を守る様に無数の男たちが立っていた。

そしてそれと睨み合う、異様な風体の変態たちがいた。

時刻は、午後16時59分。

秒まで時間の表示される、携帯を見ていたひとりの変態がつぶやく。

 

「歴史の動く時だ――」

 

カチッ――ボーン……ボーーン……

 

「うらぁああああああ!!」

 

「おうらぁあああああ!!」

 

「行くぞおれぁ!!!!!」

5時に成った瞬間、二つの軍団が激しくぶつかり合った!!

 

 

 

先陣を切る一番槍は「ピローダイバー」!!

愛する()と共に、美九の兵隊の群れをかき分け、一直線にステージへ向かう!!

 

「某の嫁の歩く道!!退かれよぉ!!」

 

「させるかっての!!」「邪魔をさせてもらう!!」「おねー様には近づけさせない!」

肥え太ったデブ3人衆(合計体重350キロ)が道をふさぐ!!

圧倒的な肉から、油ギッシュな汗がほとばしる!!

 

「くぅ――!」

ピローダイバーが一瞬躊躇する。

自身には嫁、それを盾にすれば汗は防げる。しかし――この世で最も愛するモノ()を盾にする事は出来ない!!

ピローダイバーは、嫁をかばうように汗の中に身を晒す。

 

(済まぬペドー殿……先陣を切った某がこんな所で――)

 

フォン!!キィン!!

 

「ぶひ!?」「なんだ!!」「物干し竿!?」

 

空中から飛んで来た、銀色の物干し竿がデブ共の汗を払いのけた。

 

「全く、若い子はこれだから……」

そこに立つのは、如何にもザマスとか言いそうな、オバサン!!

クイッと眼鏡を指で上げ、地面に落ちた物干し竿を拾う。

 

「ミセス・メタファー殿……」

嫁をかばいつつ、ピローダイバーが声を漏らす。

 

「愛する人を守るその心、良いわね。

愛よ、愛……あなたが敵陣を裂いたおかげで私の様な、オバサンでも此処までこれたわ」

ミセス・メタファーが物干し竿を持ってクルリと回転させる。

 

「お、オバサンが美九様の邪魔を?」「美九たんは僕が守る」「おねー様、見てて下さい」

デブ三人衆が鼻息を荒くするが。

 

「ところで、この物干し竿……どう思う?」

ミセス・メタファーの声に3人が黙る。

 

「この銀色の物干し竿……見て!!

先っぽが、先っぽが丸くてピンクなのよ!!

もう、丸くてピンクって……どう見ても男性器のメタファーよね!?

それだけじゃないわ……本体の部分が銀色、つまりギンギン!!ギンギンに成った棒って!!それってやっぱりアレよね!?

それだけジャないのよ!!物干し『竿』よ!!『竿』!!もう、もう隠す気すらないじゃない!!主婦は毎日、ギンギンに成った先っぽピンクの竿をお手入れしているのよ!!これって、これって、どう見てもアレよねぇえええええ!!」

酷く、ひどく興奮した様子でミセス・メタファーがキンギンに成った先っぽピンクの『竿』を振り回す!!

 

その周囲から、美九の親衛隊が逃げるように去っていく。

僅かに気の弱まった瞬間を変態共は逃がしはしない!!

 

「右ぃ!!相手が逃げる!追いつめろ!!

アイドルなんて、巨乳以外認めない世界に反乱するんだ!!」

変態共のカリスマ、ナンバー8が声を上げる。

全ての属性を兼ね備えた、究極の変態紳士。

様々な性癖を持つ変態紳士を取り持つ究極の指導者!!

彼の指示により、変態たちは一つの指名と己の性癖を守るための、性癖戦士へと生まれ変わるのだ!!

 

「囲むんだ!!数こそ最強の兵力!!

数で変態共を押し切れ――なんだ!?」

美九の兵隊の数人が、おもむろに地面に倒れる。

 

「くっそ、俺は……こんな……」

 

「お、おねー様が……けど……けど!!」

皆が、一様に地面に膝をつき何かを読んでいる。

 

「一対多数は実に賢い選択よ。兵力に差があればとても有効。

けど、数だけが戦力じゃないの。

兵器さえあれば、少人数で多くを抑えることは簡単なのよ?」

指にインクを付けた女が、悠然と歩いてくる。

何かをそばに寄って来た美九の兵士に投げるとその兵士は膝を折って地面に座った。

群衆をかき分け、まるで人々を操る魔女の様に『マザーサンドウィッチ』は現れた。

 

「な、何をした!?この――魔女め!!」

 

「アナタの新しい扉、開いてあげるわ!!」

男の前に突きつけられるのは、数枚の紙の漫画!!

非常に好みのキャラクターが不自然に顔の見えない男に、ベットに押し倒されている。

 

『お前……前から思ってたけど、可愛いよな?

肌とか、真っ白で……腰も細くて女子みたいだ……

今日……スカート履かせて、町でても誰も気がつかなかったよな?』

 

『ボク……ボク……なんだか、ドキドキしちゃう……

だってデートって始めてで……なんか、この格好(セーラー服)の方がしっくりくるていうか……

ダメ!!それ以上は……もう、戻れなくなるから……』

男が乱暴な手つきで、女子にしか見えない男の制服をつかむ。

そして、胸のすぐ下までめくりあげて、女装男子の抵抗が終わった。

ページは次で最後だが……

 

「はぁはぁ……なんだこの気持ちは!?

つ、次のページが見たい……だが!!お、男だぞ?

俺はノーマル、ノーマルなんだ!!美九おねー様に忠誠を誓って……

ダメだ!!止めろ!!止めるんだ!!」

男の意思に反して、右手は次のページを開こうとする。

このページを見ることは即ち、開けてはいけない扉を開く事で――

 

 

 

「さ、いこうか……」

マザーサンドウィッチは幸せそうな顔でページをめくる少年少女を背中にしてまた執筆作業を始めた。

この日多くの少年少女の性癖が歪んだのは言うまでも無かった。

 

 

 

そして、場が混乱した時に最後の男が現れる。

至高にして、頂点。

始まりにして、最高の変質者――『ナンバー8』

「その欲望解放しろぉ!!」

 

「おー!!」「おおーっ!!」

彼の存在は、日陰に隠れた変質者たちを、勇猛な性癖を誇る戦士へと変える!!

密かな趣味も、人には到底言えない様な性癖も、彼の前ではすべてを肯定してもらえる!!

美九が、その美しさと歌で他者を魅了する偶像(アイドル)ならば。

『ナンバー8』は他者にとって自身を肯定してもらえる、性癖の救世主(セイヴァー)だった。

 

「なぁ、ヤケ?……なんで、こんな事に成ってるんだ?」

 

「……頭……おかしい……」

ナンバー8に話しかける、男とその男に連れられる幼女の二人組が心配そうに口を開いた。

 

「さぁな?けど、せっかくの祭りだぜ?楽しまなきゃ損だろ!?」

完全に正気を失ったとしか思えない言葉で、ナンバー8は笑って見せた。

 

 

「――ッ!?あれは……」

ナンバー8の見る中で、二人の絶世の美女が空を駆けるようにして、目の前に現れた。

よく似た容姿で、体には拘束具を思わせる革ベルト。

鞭の様なペンデュラムを持つ耶倶矢と、槍の様な武器を持つ夕弦の精霊二人だった。

 

「珂珂珂、貴様が、敵の指揮官か。てっきり我反乱者が来ると思っていたが、なるほど……軍師が居ようとはな?」

 

「結論。要するに、敵のブレインにして、先導者の貴方を倒せば何とかなると結論しました――お覚悟を」

その瞬間、二人の間を一陣の風が吹き抜ける!!

そして、何かが胸を触る感触も――

 

「「ひゃん!?」」

 

「サイズはXXと○○か……」

 

「な!?」

 

「驚愕。まさか――」

さっきまで前に居たハズのナンバー8が後ろに手をワキワキさせて悠然と立っていた。

八舞二人は精霊である、それも風の精霊。

当然速さには自身がある。動体視力も人間に負ける気はしない。

だが、だが、この男は目の前の二人に気づかれる事無く移動し、そして自分たちの胸をサイズを正確に測った。

 

「貴様、人間ではないのか!?」

 

「質問。貴方は精霊ですか?」

二人の質問に、悠然とナンバー8が振り返った応える。

 

「違う――ただの変態さ」

 

 

 

 

 

「ああもう……なんで、なんでアイツは――!」

ステージの一部、美九の控室で美九はいら立って所在無さげに部屋をぐるぐる回っていた。

おかしい、何かがおかしかった。

 

士織が汚物同然の男だったのは良い――いや、良くないが起きてしまったものは過去のトラブルだ、仕方ないとしよう。

だが、許せないのは、その男が有ろうことか可笑しな変態共を連れて帰って来たことだった。

見るのも嫌な、不快な男女が自分の数で優っているファンたちを押している。

いう事を聞かない事も、見るのも不快なのとで、どうにもならなくなってきている。

前に、放送が乗っ取られ、兵士を増やせなくなったため、一部放送器具の死守に兵隊を向かわせたのが、あだとなった。

美九はアイドルであり、残念ながら戦局など分からない。

出来るのは、乗っ取り返した放送を利用して自身の【歌】で兵隊を増やす事。

 

「そろそろ、歌わないと……」

ステージに向かおうとした時、扉が開く。

美九は熱心なファンが、たまらずやって来たのだと思った。

しかし――

「今、向かう所――貴方は!?」

 

美九が、扉の向こうから現れた男に、顔を顰める。

その男は自身を騙した――

 

「よぉ、この部屋控室って書いてあったけど、豚舎の間違いか?」

一人の年増を伴って、五河 ペドーが姿を現した。

 

 

 

 

 

「よし、侵入者なーし!」

 

「お姉様直々のお願い、絶対成功させるよ!!」

 

「マジヤバい……」

亜衣、麻衣、美衣の3人が学校の中を歩く。

此処は来禅高校の一部。

美九の兵隊となった3人は、この学校に詳しいという事で放送器具の監視役となっているのだ。

学校どころか町全体に広がるTV放映、さらには放送音楽までもが集まっている。

そして、もっとも重要な美九のステージの映像を流すのも此処だ。

美九の姿、声を聞いた者達は洗脳されさらに、【美九のため】という名分を得て躊躇ない兵士へとなる。

 

「誰も近づけるんじゃないよ!!」

 

「おーうよ!!」

 

「マジヤバい!!」

そう言って、3人が分散していく。

そして無人になった廊下で――

 

カチャ、キィイイイ……

 

「行ったようだ、な」

静かに音を立てず、掃除道具入れからプライベートアイが姿を見せる。

彼は探偵スキルで、この町の学校の8割以上の中が分かっている。

当然『中』という、中には女性用トイレの便座の数や換気扇の位置なども記憶している。

なぜ、そんなことを知っているかと聞かれても――

 

『ま、ハワイでオヤジにちょっとな』

としか言わない為、完全に不明である。

 

パタパタ……!

 

「む、誰か来る!?」

瞬時にプライベートアイが、掃除用具入れを後にして、消火栓のホース入れの中に体を滑り込ませる!!

 

(軽い足取り……女子……いや、子供か?)

 

「おい、いるんだろ?オマエ」

 

「!?」

壁の向こう、そこから声が聞こえてくる。

足音からして、相手は一人。

独り言ではないのは容易に、分かる。

 

「ボクを舐めるなよ?気配を読むのは、得意なんだ」

そう言って、乱暴に消火栓がこじ開けられ、褐色肌のボーイッシュな幼女、シェリ・ムジーカがプライベートアイの前に姿を見せる。

 

 

 

 

 

「よくも、よくも私の前に姿を見せれましたねぇ!!」

ギリリっと音を立て、美九が歯ぎしりをする。

 

「時子、ファンは頼む」

 

「分かりましたわ」

小さく声を掛け合って、時子と呼ばれた少女が姿を消す。

どうやら卑怯な事に、ペドーはまだ精霊を温存していた様だった。

 

「美九、約束を守ってもらいに来たぞ」

 

「約束ぅ?なんのことですかぁ?私を女装までして騙したくせに……

何を今さら――」

ペドーの言葉に、美九がなじる様に声を出す。

 

「女装は趣味だ!!悪いか!!

第一な?俺は自分を女とは一言も言っていない!!」

ペドーの言葉に、美九が絶句する。

 

「この――!

これだから、男は、人間は――」

その時ペドーが、ズボンに手を入れる。

 

「な、なにを言ってるんだ?お前も、人間だろ?」

パッと、放る様に美九の足元にCDが投げられる。

その姿は美九で、だが名前だけが違った。

 

「お前も、()()()()()んだろ?」

 

「…………」

美九が黙り込む。

そう、それは美九が人間であった事の確かな証左だった。

 

「そうですか、全部知ってますか……

なら、話してあげます――――人間が、男が私に何をしたか……」

そう言って美九が、ゆっくりと語りだした。

 

 

 

何時だったか、もう分からない。

美九という少女は『歌』こそが、人生を生きる道だと理解していた。

容姿以外に自身がすぐれていると思えるものは、歌しかなかった。

だから、彼女がアイドルを目指すのは何らおかしい事は無かった。

寧ろ運命と言えただろう。

 

アイドル――宵待 月乃としてアイドルの仕事は順調に進んでいった。

ライブをした事もあり、少しずつ増えていくファン、そしてファンの優しい言葉が美九は大好きだった。

ある日、終わりがやって来た。

 

順調だった美九のアイドル生活。

とある事務者のプロデューサーが美九を気に入り『仲良く』すれば大きく取り立ててくれる事と成った。

それは、所謂『そういう』営業という事だった。

当然美九はそれを断り、地道に歩む方法を選んだ。

 

その時期から美九に良くない噂が立ち始めた。

曰く『その筋と関係がある』『赤ん坊を堕胎した』『豊胸である』『歌は口パク』

根も葉もない噂だが、ファンはあっさり掌を返した。

美九のためになら、何でもすると語っていたファンは、まるで噂に踊らされたように――

 

「あー、だるいから、もういいっすわ」

 

「は?」

ペドーが美九の過去をブチぎった。

 

「あー、どうせ()()()()不幸話じゃん。

いや、そう言うの良いから。

幼女たちを返してもらうのと、DEM社に居る第二の幼女を助けるのを邪魔してもらいたくないだけ、精霊が欲しいならナルシスト双子ならあげるよ?」

くだらなそうに話すペドーに殺意が湧いた。

 

「ふざけないでください!!私は、男の欲望のせいで声まで失たんですよ!?

あの魔法使いが居なきゃ今でも――」

 

「あー!!自分語りうっぜー!!

枕営業位でウジウジしてんじゃねーよ!!

お前はファンの信頼を勝ち取れなかった、ファンは噂を聞いて『お前ならしかねない』と思った。それだけだろ!?

ちやほやされてーんなら、AV行けや!!」

 

「殺します!!私、自らあなたを――!」

殺気立った美九をみて、ペドーが走り出す。

そして美九がそれを追う。

逃げて、逃げて、ペドーがステージに逃げ出した。

 

「ははは、良い場所ですね。あなたの死に場所には、相応しいです!!」

 

「どうだ、美九。今すぐファンを解散させて、幼女たちを返してくれるなら、ここらへんで許してやるぞ?」

余裕を見せるペドーだが、ステージには美九のファンがすし詰め状態。

仲間の、精霊は何処かへ行ってしまった。

絶体絶命のピンチなのは、分かっていた。

 

「アナタ、状況分かってますぅ?寧ろ、命乞いをする立場なのはアナタなんですよぉ?

まぁ、ぜっっっっっったいに、許しませんけど?

さぁ!!本日の目玉、ペドー解体ショーですよ!!」

美九が指を鳴らすと、TV画面にペドーと美九が映った。

どうやら、町中の放送を利用して、公開処刑をするらしい。

 

「そっか……止まらないんだな……」

諦めた様な顔をするペドー、美九がペドーに近づいた瞬間――

 

『士織さーん、服を脱いでください』

 

「は?」

美九が放送から聞こえてきた言葉に、固まる。

それと同時に、ファンがざわざわと騒ぎ出した。

 

『もう!私をほおっておくなんて、なんなんですかぁ?

もうぷんぷんですよぉ』

 

『ああん、一口貰いたかったんですけどぉ……

けど良いです。

食いしん坊な士織さんに、私のを少し上げますわね』

 

美九がさっきまで、ペドーの処刑を流そうとしていた画面に、二人のデートシーンが流れる!!

そう、これはフラクシナスの百合好きな男が持っていたものを回収した物!!

だが、ほんの少しだけ手が加わっている。

それは、士織姿のペドーを元のペドーの姿へ戻した事!!

化粧を落とす、アプリなんていう物はずいぶん前にあり、ペドーを元に戻すことは簡単だった。

その結果!!男とデートする美九が出来上がった!!

 

「ふざけないでください――こんな、こんなモノを――」

憤りを見せる美九だが――

 

「ふっざけんな!!」「はぁ!?ありえねー!!」「こんなの嘘よー!!」

ファンの怒号が飛ぶ!!

それも、()()()()()()

 

「な、なぜ!?」

アイドルとは、夢なのだ。

歌って笑顔を振りまく美少女。

ファンはそこに憧れる。

「ひょっとしたら、彼女も自分の事を………」なんてことは、ファンのみんなが思っている事だ。

一億、いや、一兆分の一程度の確率だが、『ひょっとしたら自分を……』なんて思ってしまうのが人の性。

ファンは、アイドルと付き合えるかもしれないなどという幻想を抱き、お互いに愛があると錯覚してゆく。

アイドルはそんなファンの夢を食らい無限に膨らんでいくのだ。

だが夢は、幻想はあっけない、たった一つの写真(現実)を受けた瞬間、シャボン玉が割れる様に消える!!

夢が失われたファンにあるのは、失望、絶望――そして、自身を裏切った相手への『憎悪』

 

「ああああああ!!」「こんの、くそビッチが!!」「なんかい、ヤッたんだ?この売女!!」「歌うな!!耳に白濁液掛かる!!」「処女膜から声が出てませんね~」「結局男に又開くんですね、ハイハイ」「あーあー、中古とか……マジねーわ……」

 

「ちがう、違う、ちがぁああああああうううう!!」

ステージの中心、戦場の女神はすべてを失い絶叫を上げた。

 

 

 

「やぁ、シェリちゃん、上手く行ったよ」

 

『オマエ、相当えげつないな……』

実は最初から、洗脳などされていなかったシェリにペドーが連絡を取る。

そう、あとはプレイベートアイに、加工した画像データを渡せばこの作戦は簡単に成功するのだ。

 

「嫌だなぁ、降参するチャンスはちゃんとあげたんだよ?」

ペドーが楽しそうに、ステージで絶叫する美九をみて笑う。

 

「うん、みんなから嫌われて、ブヒブヒ泣く姿は豚そっくりだね」

 




べつに美九が嫌いではないんですよ?
本当です……けど、もっと好きなキャラは……


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無・敵・到・着!!

さてさて、今回も更新。
もう50話かー……

この前、お気に入り200人とか言っていましたが、いつの間にか350人越えへ……
いやー、うれしい限りですね。
これからも頑張ります。


何処かの話でこういったものがある。

『罪を犯したことのない物だけが罪人に石を投げよ』と、またある場合ではこういう物もある『死者を生き返らせたければ、死者をだしたことのない家の暖炉の炭を貰え』と。

どちらも、極端な話だが、自身も他者も同じく間違いを起こすという事。

罪を犯さない者はいないし、死者を出したことのない家もない。

ありがたーいお話の一つ。

さて、ここで今起きている一種の魔女裁判はどうだろう?

 

 

「このクソビッチが!!」「男のブツを咥えた口で歌を歌うんじゃねーよ!!」「彼氏と週9でヤッたってマジかよ!!」「AVいけや!!AV!!」

 

ステージで震えるのは、ついさっきまで人気者だった美九。

今となっては震えて、ステージの端で暴動を起こす者達から逃げる事すら出来ずに静かに泣いているだけだが……

 

対するのはモテない男たち。

恋人を作った事を咎める者に、『恋を作った事の無い者』だけが石を投げれるなら、彼らはその条件に見合ったメンバーなのだろう。

まぁ、ぶっちゃけると「恋人いない歴=年齢」の男たち!!

アイドルの裏切りに怒り心頭である!!

 

「いいかー!!そこのお前!!国際条例で決まっている『非彼女三原則』を言ってみろ!!」

 

「はい隊長!!

一つ!!『恋人を持たない!!』

一つ!!『恋人を作らない!!』

一つ!!『恋人を持ち込ませない!!』

であります!!」

 

「よくやった!!あの女はどうだ!?」

 

「全部、裏切っています!!死刑を求刑します!!」

暴動は治まる所を知らない。

罵詈雑言を投げかけられ、美九がゆっくりと気を失った。

そして、皆が見る前で姿を消した。

 

 

 

 

 

「どうです、令音さん。豚の様子は?」

 

『ああ、シン……今の所、おとなしくしているよ……

にしても、君よくこんな非情な事を考えるものだね……』

 

「いや、降参する事はちゃんと勧めたんですよ?

それでも止めないから、仕方なく……」

ペドーからの連絡を受けて、ガラスの向こうに居る部屋でうなだれる美九を令音が見る。

この部屋は、以前暴走した琴理を封じ込めた部屋だった。

美九は正直な話、破壊力に乏しく能力で他人を操る力が脅威なのだ。

なので、完全防音の部屋に固い壁に囲まれた美九は、全ての能力が奪われたのと同じ状況なのだ。

もっとも、彼女がまだ外に出たがるとは到底思えなかったが……

 

令音は小さく「ちがう……違う……」とだけ、光の消えた目でつぶやく美九を眺めた。

 

 

 

 

 

深夜のオフィス街――そのビルの屋上に、ペドーが立っている。

まばらな明かりに照らされたビル群。

空の星よりも輝く都会の社畜たちの光……

 

「あの何処かに――第二の幼女が居るんだな?」

ペドーの隣。音もなく狂三が立っていた。

 

「ええ、そうですわ……にしても、ペドーさんやる事がえぐいですわよね?

なんと言うか、力を貸していいのか私大分不安に成って来たんですけど……

あと、ほぼ確実に忘れているんでしょうけど、十香さんも此処にいますわ」

 

「え、そうなの?」

すっかり忘れているペドーを見て、狂三が何ともいえない顔をする。

さっきまで、美九の能力から解放された四糸乃によしのんを返して、くるみをみて「うんやっぱりこっちの方が良いな」と狂三に可哀想な顔をして、シェリに抱き着こうとして蹴飛ばされていた。

 

「はぁ……もっと……幼女と、触れ合っていたかった……

むふふ、みんなともっと――」

寂しそうにしながら、ペドーが遠い目をする。

じっと見ている内に、どんどんペドーの妄想が加速していく!!

 

「さ、さぁ!!早く行きますよ!!」

コレ以上は危険だと判断して、狂三がペドーを急かした。

 

その瞬間――

 

うぅううううううう☆!!うぅううううううううう☆!!

 

その音は、ついこの間も聞いた空間震警報の音。

一瞬精霊が来るのかと、身構えてがひょっとしたらの可能性が、ペドーの脳裏をよぎる。

「このタイミングって事は、まさか?」

 

「ええ、おそらく本当の空間震ではなくDEM社の仕業でしょうね。

コンビニや、無関係の人をシェルターに避難させて地上から目を無くすのが目的でしょうね」

狂三の予測した通り、数人の人間がシェルターへと避難している。

恐らく、向こうにこちらの事はすでに分かっているのだろう。

 

それを表す様に、空に銀色のボディのマシンが数体浮かぶ。

バンダースナッチ。DEM社の作った機械仕掛けのウィザードだ。

そして、地上には装備を身に着けた人間のウィザード。

 

「まぁまぁ。皆さんお揃いの様です――わね!!」

狂三の合図と共に、彼女の影から大量の狂三が湧き出る!!

皆銃を構え、ウィザード達を攻撃する。

 

「ペドーさん、今からDEM社の第一支社に乗り込みますわ。

そこが一番第二の精霊が居る可能性が高いですわ。

しっかり捕まっててくださいましね?」

狂三がペドーを背負い、高速で走り出す!!

 

「狂三……さっきのヤツ……」

 

「ええ、わたくしの影ですわね」

 

「黒いし、ゴキブリみたいだよな!!」

 

「叩き落としますわよ!?――――っとぉ!?」

まさかの一言に、美九が背中のペドーを怒鳴りつける瞬間。

何者かが、狂三の足を引っかけた!!

狂三はバランスを崩し、空気中に放り出されたペドーは2本の細腕にお姫様抱っこの体制で捕まった!!

 

「ニーソマン――じゃなくて兄さま無事でいやがりますか!?」

その相手はまさかのペドーの実妹真那だった。

新型の見たことのないワイヤリングスーツを身に纏っている。

 

「真那!?どうして此処に……ハッ!?

そうか、お前もDEMの社員だったな……

仕方ない、幼女の為だ。お前だろうと戦う――」

 

「そっちに至っては大丈夫でやがります。

真那は今、フラクシナスに身をよせているんです。

それよりも気を付けてくだせぇ、コイツは兄さまを攫ってタイヘンなヘンタイプレイをさせようとしてたにちげぇありませんよ!!」

真那の言葉に、ペドーが自身の体をかばうように胸の前で手をクロスさせた。

 

「……しませんわよ!!」

 

「といった次の瞬間には、服を脱いで、物陰に連れ込んで……」

 

「ビデオカメラ召喚からの、撮影マニアックプレイを強要するにちげーねぇです」

スーパー変態プラザーズが、こそこそと耳打ちし合う。

余りに息の合った、まるで事前に打ち合わせでもしたかのような二人!!

 

「なんですの!?この二人は!!」

狂三が地団駄を踏んで暴れる。

 

「……ペドー……無事……で良かった」

 

「折紙!?」

真那の後ろから、包帯を巻いた折紙が出てくる。

 

「あー、姉様は此処に来る途中見つけたんで……

帰る様に言ったんですけど、聞かねーんですよ……」

 

「折紙、大丈夫か?なんか、俺に出来る事は無いか?

結婚以外で」

 

「なら、公開種付――」

 

「待て待て待て!なんなんです!?

此処敵地の真ん中ですわよ!?」

狂三が折紙の言葉を遮った。

 

「これで我慢してくれるか?」

そう言いながらペドーはズボンから器用に下着を脱ぐと折紙に渡した。

 

Excellent(すばらしい)。元気百倍……!」

いそいそと頭にペドーの下着を被った折紙が、鼻血を流す。

 

「この町には変態しかいませんの!?

うわぁああああ!!かかってらっしゃい!!私が相手ですわぁああああああ!!!」

驚異の変態率の前に狂三が、遂に作戦すら捨てて、一人第一支社に一人勝手に特攻をしていった!!

 

「最近の切れやすい若者はこえーな」

 

「同感でやがりますね」

 

「……下着のフィット感が……やばい」

三者三様の様子で、一人走り去っていった狂三を眺めた。

その時、ペドーの足もとで火花が散った!!

 

ババン!!ババンバァン!!

 

「うわぁつ!?」

ふと、視界をずらすと数人のウィザードに囲まれていた。

どうやら、ジリジリと距離を詰められた様だった。

 

「兄さま、先に――」

 

「行って」

二人がペドーをかばうように、武器を構える。

一瞬の躊躇の後、ペドーが二人に背を向けた。

 

「無理だけはすんなよ!!」

 

「はい、兄さま!」

真那が走るペドーに、インカムを投げ渡す。

 

「真那……」

 

「さぁ、義姉様も感じてるように、()()()()()来やがりますよ」

二人の目の前の壁を内部から叩き壊し、紅い機械の怪物が現れた。

人の身ほどの巨大な剣、大きすぎる2門の巨砲――ミサイルポッドと融合したスラスターを兼ねる、機動系。

そしてその怪物を動かす為の――

 

「ジェシカ……」

 

「ハぁ、い。マナぁ……まえ吾、また、あえて嬉しい、ワ……

おや、ソッチハ、おりがミじゃない?わ、わたしに恥をかかかかかっかセタ、罪は重いワ!!

けど、うれレレしいいいいいいワ、漸くあなたアチを壊せるからぁあああああ!!!」

真那は全身に血のにじんだ包帯を巻き、明らかに正気を失った嘗ての同僚を悲しそうな目で見た。

 

 

 

 

 

『ペドー君聞こえますか!!』

 

「神無月さん!!これは、心強いですね」

最後まで真那の助力を受けて、ペドーは一人DEM社の支部に走り込んでいった。

そこには数人のウィザードが倒れ、奥まで続いていた。

 

「神無月さん、突然ですけどDEM社の内部ってスキャン出来たりしません?

怪しげな場所を探して――」

インカムに、声を送るが――

 

『ザー、ザザードー君……ザー、ジャミン、ザーザー

強くてザザー、話がザザー、ザザザー……応援を……ザー、ザーたよ……』

殆ど内容は砂嵐。僅かに聞き取れた情報から整理すると恐らくだがジャミングか何かがされて、居るのだろう。

真那と折紙は外で、この場所に敵が入らない様にしてくれる。

狂三はこの内部で、敵を引き付けてくれている。

だが、ペドーは敵地の真ん中で素手のみで応援すらない状況だ。

 

「ここは慎重に、いかないとな……」

自身の中から、精霊の力を取り出し、小振りの〈サンダルフォン〉を呼び出す。

何時もの大きさでは、この閉鎖空間では大型武器は非常に使いづらい。

くるみの〈ザフキエル〉では近距離に入られた時、反応出来ない。

そして何より――

 

「お前が、ウワサのガキだぁな!?」

 

「捕縛する!!」

 

「止まれェ!!」

 

「うわっと!?いきなりか!?」

廊下を走って来た3人の職員が、ペドーに銃を向け発砲する。

ゲームや漫画とは違う、リアルな血の通った『同じ人間』が自身を敵と認識しているのだ。

なかなかに精神的にきついモノがある。

 

「四糸乃は、こんな気持ちだったのか?」

ヒュン!

一発の銃弾が、ペドーの頬をかすめる。

今まで味わったことのない、痛みだ。

 

「シェリちゃんは、こんな事ばかりの世界で生きて来たのか?」

気が付くと、小さなナイフが腹に刺さっている。

僅かに教えられていた、『戦いだけの世界』の話。

シェリはこんな痛みを味わっていたのだろうか?

 

「だが、折れる訳にはいかないんだぁああああ!!」

ペドーが剣を振るって、銃弾を交わしウィザードに肉薄する!!

だが、分かる。間に合わない。相手のナイフの方が先にペドーを……!

 

「くそ、せっかくここまで――」

 

「ガンバったなら、あきらめるなよ!!」

ウィザードが横から照射された、光線によって突き飛ばされた!!

さらに、空気中を飛んで来た銃弾が氷の盾に、寄って阻まれた。

 

「ぺどーさんだいじょうぶですか?」

この能力は見たことが有った!!

この声は聴いた事があった!!

 

「みんな……来てくれたのか」

ペドーの目の前には3つの小さな影!!

虫眼鏡を構える、褐色肌のボーイッシュな幼女!!

フードを被り、おずおずとしながらも気丈な目をするパペットを付けた幼女!!

そして最後に、黒いゴスロリに身を包んだ若干舌足らずな、一層幼い幼女!!

シェリ、四糸乃、くるみの3人が目の前に武器を構えていた!!

 

 

 

 

 

「ぐぁ!!」

 

「ああっ!!」

折紙、真那の両名が怪物――スカーレットリコリスによって、壁にたたきつけられた。

意図的なチューニングをされたと思われる、ジェシカはすさまじい力を誇っていた。

それは、新しい装備を支給されたとは言え、久しぶりの実戦、しかも怪我を負った折紙を庇ってでの戦闘は非常に厳しい物だった。

 

「マナぁ、おりがみぃぃぃぃぃ、遊びマショウよ?

ほら、ほらぁ!!コわれるまで、もっと、もっと!!」

ブレードを構え、二人の首めがけてスカーレットリコリスが飛び込む!!

 

『俺とも遊んでくれ!!』

 

「へ!?」

スカーレットリコリスの前に、何者かが入り込んだ!!

 

『相撲か!!悪くない!!』

ソレは両手を伸ばして、スカーレットリコリスと正面からぶつかった!!

凄まじい勢いで地面を踏んで減速していく!!

 

「あ、何者!?」

 

「おいおい、何やってんだぁ!!ささっと退けろぉ!!」

スカーレットリコリスの後ろ、何者かが機材をつかみ正面の者と二人でリコリスを横に退けた!!

 

『ふっ、俺の活躍を見たな!!』

二人の目の前のソレは、人間ではなかった。

シリンダーの見える逆関節の足に、サングラスの様なシルバーのカメラアイ。

それは何処かバンダースナッチを人間に近づけた様な姿だった。

 

『スズモト!!相撲で後ろから攻撃するのは反則ではないのか!?』

 

「ヒャッハ!!あれは相撲じゃねーって言ってるだろ!?」

そして、瓦礫を退かして歩いてくる男に二人は見覚えがあった。

世紀末風のスーツをメタリックにし、近未来風に。

世紀末なのに近未来という矛盾したコンテンツ、そして頭のヘルメットから突き出た巨大な『モヒカン』。

 

「「ヒャッハーさん!!」」

 

「ヒャハ!!二人とも久しぶり――」

 

『俺の活躍はどうだ!?最高だろう!!至高だろう!!』

 

「ひゃは!?邪魔すんな!!」

ヒャッハーさんの言葉を邪魔して二人の前に躍り出たバンダースナッチの様な機械をヒャッハーが再度退かす。

 

「バンダースナッチ?それにその装備は……?」

真那が不思議そうに、見る。

バンダースナッチの様な機械も、ヒャッハーさんの装備もフラクシナスでもDEM社でも、ASTでも見たことが無かった。

 

「ヒャハ!ちっと、他のとこで拾われな!!

相棒ももらっちまった!!」

 

『俺の名は、G―XS!!気軽にシーズで良いぞ!!』

バンダースナッチの様な機械、自称シーズはそう名乗った。

 

「何なのぉ!?じゃまは、ささあああああ瀬世させない!!」

スカーレットリコリスを操り、ジェシカがすさまじい勢いで走り込んでくる。

今度は遊びでは無い!!本気で4人を倒すべき、力を見せる!!

 

「ヒャハ!!いきなりだが、アレやってみるか!!シーズ!!」

 

『問題ない!!転送装置起動!!』

シーズがポーズを取ると、彼に向かって何かのパーツが転送され始まる。

それをみて、ヒャッハーがそのパーツの集合場所に飛び込んだ!!

シーズの体に、パーツを挟んでヒャッハーの持つスーツと合体する!!

 

『同調完了!!負担軽減!!システムオールグリーン!!

何時でもイケるぞスズモト!!』

 

「ヒャッハー!!行くぜ!!

Gaia―guard―gloria―gospel―eXtreme!!」

それはかつて、ヒャッハーが暴走させた、4Gによく似ていた。

だが、今度は違う!!黄金の白銀に飾られた、かつての戦闘マシンは今、真の意味で大地を守護する栄光の福音へ変わる!!

 

「さぁ!派手に暴れるゼ!!4G―X起動だぁ!!」

ヒャッハーは大きく飛び上がった!!




4G―X

以前問題に成った、4Gの改良作。
以前は人間の脳を戦闘コンピューターの補助に使ったが、今回は上級AIを外付けする事で人間の脳への負担を減らした。
しかし、AIというワンクッションが存在するため、一瞬の遅れが出る。
その解決策は、AIに高度な人格を与え、装着者と共に生活させ、行動を予測させる新たなアプローチ通称『バディシステム』に在る。
当然だが人間一人につきバディAIが必要となる。

人間一人一人に、高度なAIを持たせ、さらに意思疎通までの時間が短くするための『慣らし』の時間が必要であり、人間又はバディAIのどちらかが引退すると当然使用は不可能になるため、量産は不可能として見送られた。
なお、バディAIに人間らしい人格をプログラム出来るプログラマーが非常に少数な為もあり計画は、完全に見送られた。

G―xs
通称シーズ。
天才プログラマー伊草により制作されたバディAI。
4Gの戦闘計算と人間の戦闘計算を複合させ、その同時を人間の形に合うようにすり合わせるのが仕事。
本体でもそこそこの戦闘が可能。
なおネーミングはG―system supporterの意。


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悲・哀・決・戦!!

今回のメインは、前回出てきたあのモヒカンです。
ペドーさんの活躍は、少な目?

誤字報告、お気に入り、皆さんいつもありがとうございます。



「みんな……来てくれたのか……」

DEM社の内部、ペドーの目の前に3人の幼女たちが立つ。

四糸乃が珍しく鋭い顔をして、震えながらもよしのん、と小さくつぶやいた。

萌える。

くるみが、不安とわくわくが混ざったような顔をしている。

かわいい。

シェリが油断なく、周囲の様子を探っている。

 

3人は美九()に洗脳された挙句、ペドーと敵対したが美九が倒れた事で正気を取り戻していた。

 

「あの、ご迷惑、かけました……ごめんなさい……」

今にも泣きそうな顔をした四糸乃をペドーが優しく抱き留めた。

 

「許さない。絶対に許さ許さないからな?

お家に帰ってお菓子を食べながら反省会だ。いいね?」

 

「はい、ペドーさん……」

小さくぐずりながら、四糸乃が頷く。

 

「ごめいわくをかけたぶんは、はたらきますわ

さ、ここからは『わたくし』のじょうほうをつかいますわよ」

くるみが何かを考えるようにして、ペドーに抱き着く。

 

「シェリちゃん?ここ、空いてるよ?」

2人が抱きついた、小さなスペースをペドーが指さした。

 

「な!い、行くわけないだろ!?」

 

「えー、シェリちゃんのお日様の匂いがする、首筋クンカクンカしたいのに……」

 

「ゼッタイに行かないからな!!」

ペドーに向かってシェリが舌を出す。

 

「ま、なんにせよ、いつものメンバーがそろったな!!

危険だから帰れ、なんて言えない……みんな、俺の為に一緒に戦ってくれ!!

これだけいれば100人力だ!」

ペドーが腕をまくって見せる。

3人が静かに頷いて見せる。

ペドーはこの3人と一緒に居ると無敵に成った気がした。

4人が一斉に走り出した。

 

 

 

「なんか、しずかですわね」

DEM社の廊下を走るくるみが言う。

確かにさっきのウィザード以外にバンダースナッチすら出てこない。

 

「ああ、ウィザードの戦力を軒並み外に回しているんだろうね」

シェリが冷静に分析しながら言った。

フラクシナスで送ってもらった時、外で大量のウィザードが戦う様子を見たらしい。

 

「ま、そんなのもう関係ありませんわ」

 

「上機嫌だな?」

 

「それはそうですよ、ぺどーさんをたすけられるし、『わたくし』もがんばっていましたわ。

わたしもがんばらないといけませんわね」

時崎 狂三彼女は自身の時間を使い分身を作る、その分身の一体であるくるみにも当然他の狂三の集めた情報は共有されるらしい。

絶望的な状況を覆すべく集まった戦力、一筋の光明にペドーは頬を緩ませた。

 

「ああ、そうだな……俺たちが今まで積み上げた物は全部無駄じゃなかった。

これからも俺たちが立ち止まらない限り道は続く――」

その時、ペドーが視界の端にウィザードを見つける!!

彼らは銃を構え、その狙いを油断していたくるみに向け――

 

パン!!パン!パァン!!

 

反射的にペドーがくるみを抱きしめる!!

 

「ぺどーさん!?何をしているんですの!?ぺどーさん!!」

 

「ぐぅああああ!!!」

叫び声と共に、ペドーが刻々帝(ザフキエル)を召喚して、ウィザードに向けて放つ。

 

「くっ!?」

 

「撤退だ」

その攻撃に怯んだのか、ウィザード達はそのまま逃げていった。

 

「なんだ、結構当たるんじゃないか……」

ウィザード達に撃たれたまま、くるみの無事を確認するとペドーは立ち上がった。

余りの衝撃的な光景に、くるみも四糸乃の言葉を失っていた。

 

「そうだ……いままで俺たちが積み上げたモンは全部無駄じゃなかった……」

ゆっくりゆっくりと、ペドーが歩き出す。

 

「俺が止まんねぇ限り道は続く……俺は止まんねぇからよ!!

お前たちが止まんねぇ限り、その先に俺は居る――ぐぇ!?」

歩くペドーに思いっきりシェリがドロップキックを食らわせた!!

その衝撃で、ペドーが再度転ぶ!!

 

「ちょっと!?鼻打ったよ!?すごい痛いんだけど!!

謝ってね!!今すぐ『なんでもするから許してください』って言って謝ってね!!」

鼻を抑え、涙目のペドーがこちらを向く。

 

「何させる気だ!!そんな事より、なんでそんな芝居をしたんだ?」

シェリの言葉に、残りの二人が驚いた様な顔をする。

 

「あ、バレちゃった?」

確かに撃たれたハズなのに、なんともなかったかのようにペドーが立ち上がった。

 

「あーあ、服は破れちゃったか……」

ペドーの纏う服の下。

そこに、何かきらりと光る物があった。

それは――

 

「氷……ですか?」

 

「そ!流石四糸乃!せーかい」

よしよし~と頭を撫でるペドーが服の下から、砕けた氷の塊を取り出した。

それが合図だったかのように、無数の氷の破片がシャツから零れ落ちた。

 

「〈ザドキエル〉で召喚した氷をとっさに纏って、鎧にしたのさ。

全部防げた訳ではないけど、多少おったダメージは琴理の〈カマエル〉で、ね?」

ネタ晴らしと言わんばかりに、ペドーが舌を出して見せた。

 

「ま、血の出方がおかしいから、ボクはすぐにピンと来たけどね」

シェリが片眼をつぶって得意げに語った。

 

「なんで、こんな事、するんですか!」

 

「すごくふあんでしたのよ!?」

シェリが得意げに語る、横でさっきまで本当に信じていた二人はぷんすかと怒りをあらわにした。

 

「ああ、ごめん、やばかったのは本当だったけど……

ちょっと流行ってるっぽかったから、流行に乗ってみただけなんだよ。

なんでもするから許してね!!」

ごめんごめんと謝って、泣かしてしまった二人を優しく抱きしめた。

美九の卑怯な手によって奪われた、3人の幼女たちとの時間、あともうすぐでその大切な時間が戻ってくると思ったペドーは最後の仕上げとばかりに大きく息まいた。

 

「みんな。ここは俺たちのコンビネーションの見せ場だ。

はやく、『第二の幼女』見つけて、帰ろうぜ!!」

ペドーの言葉に、3人は微笑み合って頷いた。

 

 

 

 

 

「おち、おちろおろろおおおおっろおろろろろろ!!!堕ちろ!!」

魔力処理のなされたジェシカの、纏うスカーレットリコリスから大量のミサイルがばらまかれる。

それらすべてが、一撃必殺の高威力を誇る。

 

「切り裂いてやりわぁああああああ!!」

両手にレーザーブレードを構え、爆炎の中に飛び込みブレードで引き裂く!!

確かにそこに居たハズの敵――だが、斬った手ごたえが無い!!

正に煙のように消えてしまっていた!!

即座に体温を察知するサーモグラフを発動するが、ある反応は自分のモノだけだった。

 

「どこどこどこ!?」

 

『俺はここに居るぞ!!』

 

「ヒャハ!?シーズ!!自分の居場所を教えるバカが居るか!!」

 

「なんですってぇぇええええ!?」

その声の位置から、ジェシカが驚きの声を上げた。

それはジェシカの真下、僅かに出来たスカーレットリコリスの地面との間に限界まで、距離を縮めた4GXに身を包んだ、スズモトが居た。

 

「ふ――ザケないデ!!」

ジェシカがブレードを振り下ろしたが、そこにすでにターゲットはいなかった。

 

「今、私をコロセたでしォ?なんで、しないの!!」

 

「ヒャハ、ミサイルコンテナで誘爆するのはごめんだからだぜ!!」

明らかに外す距離ではないのに、そんな事を言って4GXが再度移動する。

龍の様に地をすれすれで飛び、鋭いクローをポキポキと爪の様に鳴らした。

 

『スズモト――見られているぞ!!俺が有名だからだな!!』

 

「ちげーよ、どうやら飼い主様の『GO』が漸く出たらしいゼ!!」

4GXのクローが背中に向かって発されたレーザーをシールドを発生させ防御する。

 

「どーも!エレンママ!お邪魔してマース!!ひゃははははは!!」

スズモトが声をかけるビルの尖塔――その先に、女神のようなボディスーツに身を包んでいるのはエレンメイザース通称エレンママその人。

 

「コレ以上アイクの城を土足で踏み荒らさせはしません!」

優雅な動きでブレードを引き抜き、エレンが空中を蹴った。

ブレードの残光が、ラインを残し素早くスズモトの首へと吸い込まれる様に向かっていく。

それと同時に、ジェシカの発したミサイルがスズモトを囲むように発射される。

ブレードによる近接攻撃、そしてその一瞬後に遅れてくる多量のミサイルの歓迎。

エレンに処置のなされたジェシカと、DEM社の悪夢のコラボ攻撃!!

 

『殺った』

 

両者の熟練の勘が、この勝負の終了を告げる。

スズモトはただの死体となり、黒焦げの首なし死体が地面を転がる――ハズだった。

 

「相棒――」

 

『もちろんだ』

瞬時に、4GXの姿が()()る。

攻撃のあった位置を抜け、ブレードをすり抜け、ミサイルの雨を最低限の攻撃で避けきる。

 

「なんですってぇえええ?」

 

「?」

 

『俺は戦闘用AI!!こんな素直な攻撃、学習済みだ!!』

 

「ひゃは、効率を重視しすぎて、機械と攻撃パターンが近くなりすぎたのさ。

こっちには100%マシンが居るんだ。そんなのデータで想定済みだぜ!!」

どちらの攻撃も全く同じ、要領で躱し両人の間を自由自在に通り抜ける。

 

「ちっ……まさかここまで練度の高い、AIが存在――ッ!?」

爆風を跳ねのけ、4GXがエレンに肉薄する。

あろうことか、道に生えていた標識を引き抜き武器として使用してジェシカに一瞬の隙を作り、熱によって白熱したクローをエレンに振り下ろす瞬間――!

 

「漸く、隙を見せた」

 

「アナタは――!?」

エレンの背後、そこに立っていたのは折紙。

ホワイトリコリスの負荷、それを押してでのバンダースナッチとの連戦。

真那に守られた、その弱り切った姿により、エレンの脳内で『終わった存在』として脳裏から姿を消していた。

 

「ヒャハ!!良いね、それでこそ折紙だぁ!!」

 

「こぉんのぉ――!!」

エレンが回避を選択できないと、一瞬で理解して防御を選択する。

久方ぶりにかかるエレンへのダメージ。

胸に刻まれた3本の線、背中に切り込まれた1本の線。

ガードに利用した、ブレードと役目を果たせなくなったアーマーの一部が崩れ落ちた。

浅くはない。だがリアライザで充分傷の止血は可能。

 

ギリリとエレンが歯ぎしりをする。

 

「私に傷をつけたのは、久方ぶりです……

褒めておきましょうか。しかし!あなた達に明日は無い!!」

エレンが指を鳴らすと、目の前にスカーレットリコリスが飛び込んできた。

 

「お、およ、およびですかぁかかかっかあか!!?」

 

「《最終司令(ファイナルオーダー)》です。この者達を、()()()()()

それが合図だったのだろう。

ジェシカの、中から完全にジェシカという人格が消えた。

嘗ての4Gの様に、人間の脳を戦闘マシンのパーツとして『消費』する、殺戮だけを目的とした機能が発動した。

 

「あ、あああああああ!!」

人格を失い、目の焦点がズレ、口から血の混じった泡を吐きながら二人に向かう。

その姿は恐ろしさよりも、哀れさ痛ましさの方がずっと強かった。

 

「あがぁあああああ!!!わ、私が!!ワタ、しが、なんバーワンなんんんんよォンん!!!」

心の底に残った最後の願い。それを口にしながらジェシカを取り込んだ殺戮兵器はビルをバックに、全身から火花を散らし痛いほどの願いをまき散らして跳んだ。

 

「シーズ……」

 

『了解!!俺のハイクオリティライフル起動!!』

パーツの一部が合体して、4GXの両手と胴体と一体化したライフルへと変形する。

 

「ああああああ!!あああああああ!!!!」

ジェシカが迫る!!ソードを、銃器を纏わせ10メートル!!

 

『バスター接続!!エネルギー回路問題無し!!

充填スタート!!!』

 

「あああああ!!あああ、あああああ、ああああああ!!!」

悲痛な叫びに喉が壊れたのか、声が枯れていくのが分かる。

その距離5メートル。

 

『ロック完了だ!!いつでも発射可能だ!!』

 

「ひゃは……了解だぁ」

覗き込むスコープの中、ジェシカの額にピッタリと照準を合わせる。

 

「あああ……あああ!!ああああ!!たす……け……て……」

 

「ああ、救ってやるよ」

スズモトがトリガーに指をかける。

ジェシカの血走った目から、一筋の涙が流れた。

距離僅か1メートル。

 

パァン!!

 

ジェシカの体が、一発のエネルギー弾で跳ねる。

 

「じゃあな、クズ鉄」

スズモトの目の前、ジェシカのほぼ真後ろにあるスカーレットリコリスのメインコンピューターをエネルギー弾と壁を跳弾させた実弾が綺麗に破壊してた。

スカーレットリコリスが機能を失い、ジェシカを解放する様にばらけた。

 

「今回は、一人だけ救えたな……あー!正義のヒーローみたいにいかないか!!」

 

『だが、この女に怪我はない。ぎりぎりだが生存しているぞ!!

やはり俺の能力のおかげだな!!』

スズモトとシーズが二人に別れ、シーズがジェシカの無事を確認する。

 

「みんなを救えるヒーローに成るのは、無理かもな」

 

『人間の人口はおよそ77億!!それを計算して、今回のかかった時間を入れると――』

 

「あーあーあー!!うっせぇ!!わかってら。

んで、コイツは連れてくぞ。ウチに使える人材かも知んねー」

 

『了解だ!!』

シーズがジェシカを抱きかかえると、丁度戦闘を終わらせた折紙と真那の方を向いた。

 

「ヒャハ!『DEM』に『フラクシナス』か、お互い商売敵になっちまったな!!

シーズのエネルギーがやばいから俺はトンズラするぜ!!じゃあな!

逃げたエレンママは任せたぜ!!ヒャッハ!!」

その時スズモトは音もなく、姿が消えた。

何処か、別のナニカがステルスで彼らを隠したのかもしれない。

 

「元気そうでよかった」

 

「すっかり見せ場奪っていきやがりましたね……」

二人は、懐かしくて衝撃的な再会を静かに喜んだ。

 

 

 

 

 

ドスン、ドスン、ドスン!!

DEM社のとあるフロアの一角で、何か大きなものが跳ねるような音がしていた。

 

「ん、なんの音だ?」

とある休憩室で、淹れたてコーヒーを飲んでいた残業終わりの二人が談笑していた。

 

「さぁ?また研究科のマッドな頭したドクター共がマッドいマッドい研究結果でもしてるんだろ?」

 

「あー、前回のチワワを強化するのはやばかったな……」

 

「ああ、しゃべるチワワは存外きもかった。

あー、にしてもコーヒーのアイスってなんで常備してないんだよ?」

 

「仕方ないだろ?冷蔵庫、昨日から壊れてるんだし――あれ、なんか寒く無いか?」

 

「いや、今夏だ――さむ!?」

突如、自身の吐く息が白く成りだしたことに驚きの声を上げるが――

 

ドスン!!バギィン!!

 

休憩室のドアが突如破壊される!!

 

「お!結構偉そうな人発見!!」

それは少年と数人の幼女だった。

 

巨大なぬいぐるみに跨った少女が、両手をぬいぐるみに突っ込み。

その後ろから少年が、こっちを見ている。

 

「ぺどーさん、ここはけっこうじゅうようなしせつですから、このひとたちならかーどきーをもっているかもしれないですわ」

 

「なにぃ!?良し!!四糸乃!!や~っておしまい!!」

 

『あらほらさっさ~!』

ぬいぐるみが話すと同時に、口から洩れた白銀の吐息が、二人の足を凍結させる。

そして、最後の幼女が虫眼鏡を持って近づいてきた。

 

「この施設の重要な部屋に入るカードキーを出せ」

ニコッと笑うと同時に、虫眼鏡からレーザー照射されネクタイだけが焼け焦げて地面に落ちる。

 

「高い出力を出せばこうなる。さて、次は――」

褐色肌の幼女が、目の前に虫眼鏡を近づける。

 

「虫眼鏡で太陽みるとどうなるんだけ?」

少しずつ、少しずつ虫眼鏡に光がたまり――

 

「お、おれのポケットの中です!!ど、どうか持って行ってください!」

あっさり陥没して、ポケットからカードキーを出して渡す。

 

「ちぇ、詰まんないの」

何処か退屈したような顔をして、褐色肌の少女が唇を尖らせた。

 

「さっすがシェリちゃん!!俺に出来たい事を簡単にやってのける!!

そこにしびれる!!憧れる!!割れる!!砕ける!!流れ出る!!

抱いて!!」

 

「うっせぇ!!抱くか!!」

シェリに蹴飛ばされたペドーが、幸せそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「カードキーを手にしたか、くくく、良いよ。来るがいいさ。

わざわざ精霊を届けてくれるなんて、なんでいい少年何だろうね?」

モニターを見ながら、自分でオムツを変えた赤ちゃん野郎が不敵に笑みをこぼした。




どうしよう、今回はリアルにヒャッハーさん回でした。
使い捨てる気だったのに、此処まで成長うれしいですね。
あと数話で、次の章ですかね?


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魔・王・君・臨!!

さてさて、遂に此処まで来た「豚パラノーマル」も大分佳境です。
遂に出てくるあの姿。
本編ではシリアスバリバリですが、このギャグ次元に通常のキャラで居られるのか!?


前回の振りかえり!!

 

「俺は……シドウ・イツカだぞ……コンくらい、何でもねぇ!」

↑本当に何でも無かった。

 

 

 

 

 

「お、コレっぽいよな?」

DEM社の一角、明らかに重要そうな、強固な鉄の扉の前にペドーが立つ。

フロアの案内板に有った案内では『第三実験室』と有った。

 

「ま、精霊を閉じ込めるなら、なるべく頑丈な方が良いのは当たり前だよね?」

コンコンとシェリが扉を手の甲で叩いて見せる。

 

『う~ん、流石にこれはよしのんでも手こずるかな?』

よしのんもパペットの手を扉に正拳突きの構えで叩く。

 

「じゃあ、かーどきーのでばんですわね」

くるみが横のコンソールにカードキーを指しこみ、おそらく他の狂三が得たであろうパスワードを打ち込む。

すると、頑丈な鉄の扉は音もなく、3人を迎え入れた。

 

「お邪魔しま~す……」

律儀に挨拶をして、ペドーが第三実験室へと入って行く。

そこは、薄暗く冷ややかな鉄で出来た壁や床が、無機質な冷たさを感じさせる部屋だった。

 

「あ”!?」

ペドーが目にしたのは、ガラスの向こうでうなだれる十香だった。

嘗てフラクシナスで琴理を閉じ込め、現在では美九()が閉じ込められているハズの隔離部屋に非常によく似ていた。

様々な機械が取り付けられた、椅子に十香が座りヘッドギアと複数のチューブがつながれている。

 

「うわぁお……気まずい……すさまじく気まずいぞ……目を覚ます前に帰る――おを!?」

 

ドシン!

 

暗い部屋の中、ペドーが何かを踏んで尻餅をつく。

 

「いてて……なんだ?」

 

「赤ちゃんの……」

 

「ガラガラか?」

シェリが拾って持ってきたのは、プラスチックの筒に取っ手が付いており、ピンクの色で蝶などのキャラクターが側面に踊っている。振ると優しい音色で音が聞こえる。

そう、所謂赤ん坊の玩具であるガラガラ。

 

「なんでガラガラが……?

ハッ!?まさか!!」

場違いなアイテムの登場にペドーの脳細胞が刺激される!!

 

「そうか……きっと、この部屋は人間を若返らせる実験の部屋なんだ!!

恐らくDEM社は、精霊を若返らせ無垢な状態……ロリ精霊にして力を無力化させる実験をしていたに違いない!!おそらく十香もすぐに、四糸乃位の幼女にされてしまうに違いない!!科学のチカラってスゲー!!」

一人エキサイトするペドーを諫める様に、部屋の中に知らない声が響いた。

 

ちゅぱっ!

 

「なるほど、それは良いアイディアだね――けど、この部屋はそんな実験の為の部屋ではないよ」

他に誰かいると思っていなかったペドーが、『誰か』の声に驚く。

暗い部屋の奥、そこから声は聞こえていた。

 

ちゅぱっ!

 

「――待っていたよ。〈プリンセス〉の友人でいいのかな?

私はDEM社、社長の――ちゅぱっ!」

アッシュブロンドの髪に、猛禽を思わせる鋭い眼光。

そして、明らかに幼児用のサイズの合っていない靴下と、ピンクの涎掛けそして白い紙おむつ!!

360度何処を見ても、完全完璧なヘンタイがそこに居た!!

 

「失礼――DEM社、社長のアイザック・ウェスコットだ」

哺乳瓶を口から外し、恭しく挨拶をした。

 

「うわぁあああああ!!!変態だぁあああああああ!!!」

ペドーが珍しく大声を上げて、非常に嫌そうな顔をする。

 

「さ、作戦ターイム!!」

手でアルファベットのTを形作り、ペドーが幼女3人と作戦タイムに入った。

 

「仕方ないな……早くしてくれよ?」

作戦タイムに入った4人を見て、ウェスコットは取り外した哺乳瓶を咥えると再びちゅぱちゅぱと吸い始めた。

 

 

 

「やばいぞ、やばいぞ、やばいぞ……ここは、ラスボス的な強いウィザードが出てくると思ってたけど、あれは想定外だぞ……?」

 

「ぐす、っ……ひぐっ……」

余りに異様なモノを見せられたショックか、元来気の弱い四糸乃はすっかり泣いてしまっている。

いや、四糸乃だけではない。

くるみはショックのあまり、全てがうわの空だし、シェリは何とも言えない苦笑いを浮かべている。

 

「な、なにかのまちがいかもしれませんよ?」

 

「赤ちゃんプレイを楽しんでいたら急に攫われてって?」

首だけを動かし、ペドーが赤ちゃんプレイ野郎を見る。

 

ちゅぱちゅぱちゅぱっ!

 

無表情で、ひたすらに哺乳瓶のミルクを吸い続けているその姿。

見るモノを圧倒するというか、出来れば見たくないというか……

だが、その潔いまでの赤ちゃんプレイスタイルには、赤ちゃんプレイと長い間向き合った存在のみが纏う、一種の悟りめいた『慣れ』が存在した。

 

「だめだ、どっから見ても正真正銘のベテラン赤ちゃんだぜ!!」

その時ウェスコットの視線が、ペドーの顔を捉えた。

 

「君は……君は何者だ?まさか、いや、そんなはずは――そうか!

君がイツカ・シドー……くははは、そうか、全てはアイツの思うがままという事か……」

 

「なにか語りだしたぞ?っていうか、知り合いか?やっぱりヘンタイ同士は惹かれ合うのか?」

ジト目でシェリがペドーを見る。

 

「違うよ!!俺はあんな変態野郎知らないよ!!」

必死になってペドーが否定する。

しかし、幼女精霊たちの脳裏には、いつもの奇行を見せるペドーの姿がものの見事に思い浮かび、それどころか赤ちゃんプレイ野郎とペドーが楽しそうに肩を組んで笑い合うイメージが簡単に湧いてくる!!

赤ちゃんプレイ!!ロリコン!!ベストマッチ!!

 

「ちゅぱちゅぱちゅぱ……君の目的は分かっているよ……ちゅぱちゅぱちゅぱ!!

〈プリンセス〉の奪還の為に来たのだろ?

本当に……ちゅぱちゅぱ……惜しいのだが、天使を操る少年に非力な赤ちゃんにすぎない私が……ちゅぱちゅぱ……勝てる訳がない……ちゅぱちゅぱ……仕方ない彼女は解放しよう……ちゅぱちゅぱちゅぱ!!!ちゅぱちゅぱちゅぱ!!ちゅぱっ!」

 

「ちゅぱちゅぱうるせーよ!!ああもう!!頭おかしくなるわ!!」

 

「ぺどーさんはもともとおかしくありません?」

 

「同感だ。ペド野郎はコイツレベルで頭オカシー」

 

『四糸乃もそう思う?』

 

「えっと、可哀想なので言えません……」

ペドーの言葉に、3人が苦笑いを浮かべる。

 

「味方はゼロか!?」

その時、十香の居る部屋のカギが外れる音がした。

ペドーは聞いていなかったが、うぇすちゃまがカギを外したのだろう。

それと同時に十香が目を覚ます。

 

「ぬ……ペドー?っ!!ペドー!!迎えに来てくれたのか!!!」

 

「ああ、あああ……目覚ましちゃったし……

見なかった事にする作戦は使えないな……」

ガチャガチャと金属製を腕輪や拘束具を引きちぎりながら、十香がこちらに嬉しそうに手を振る。

 

「ハぁ――仕方ないか、とりあえず十香を助けて俺のロリハーレム+十香で探索を――」

ため息を付いてペドーが、十香の居る部屋のガラスをたたき割ろうと歩いていく。

その時、再度赤ちゃんプレイ野郎が口をひらいた。

 

「ああ、そうだ少年。そこは危険だ――死んでしまうよ?」

 

「は?」

 

ずぶッ!

 

胸に突然の衝撃。自身の胸を見るとそこから綺麗なレーザーの刃が生えていた。

始めに感じたのは『熱さ』そして次に『痛み』。

 

「ぐぁ!?」

 

「アイクに向かう剣はすべて私が折ります」

ペドーの後ろ、そこに止血を済ませたエレンがレーザーブレードを構え立っていた。

冷酷な瞳で、ペドーからブレードを引き抜いた。

 

「ま、じ……か……よ……」

歩こうとして、ペドーが十香と自身を阻むガラスに寄り掛かる。

そして一瞬の後、力なく膝から崩れ落ちた。

赤い液体が、ガラスに汚れを残す。

 

「ペドーぉ!!」

十香の目の前で、ペドーが震える手でガラスに血で文字を書く。

 

キュっ――!

 

『幼女命』

 

パたッ!

 

「ペドーぉおおお!!!」

 

キュっ――!

 

『幼女prpr』

 

パたたッ!

 

「ペドォオオオオオオ!!!!」

 

キュっ――!

 

『幼女だけの世界に行きたい』

 

「ペドォオオオオオオぉ!!そろそろ死ねぇぇええええ!!!」

十香の言葉を受け次こそ完璧にペドーが倒れた。

 

「ハッ!?ペドーが!!」

何とか状況を整理した、十香が改めて目の前でペドーが死にそうな事態に気が付く。

 

「さて、ヤトガミ・トオカ。これから君の愛しの彼をむごたらしく殺そうと思う。

ブレードで内蔵を抉りだしても良いし、足から順番に全身の骨を砕いてもいい……

けど今日の気分はそうだな……うん、斬首が良い。エレン」

 

「はい、アイク」

エレンがブレードを構え振り上げる。

圧倒的なプレッシャー、嫌重圧だけではない。

エレンが恐らくテリトリーを発しているのだろう。

いっしょに来た、四糸乃もくるみもシェリも動けない。

だが、皆必死でペドーを見て――居ない。

 

(さっき、似たようなの、ありましたよね?)

 

(てんどんですわね、おわらいようごでいう)

 

(おーし、下ろせー!そのブレードをロリコン野郎に下ろせー!

ソイツは一回死ぬくらいで丁度いいから)

3人はさっき、似た様なモノを見たからか。

それとも、頭を落とされたくらいではペドーは死なないと思っているのか、意外と気楽だった。

だが、十香は別だった。

 

「ペドォ!!ペドォオオオオ!!」

ガチャガチャと、手足にまとわりつく拘束具を破壊してガラスの壁に向かって走っていく。

腕に自身の天使〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を召喚して、ガラスを破ろうとする。

だが、ガラスに傷は付くものの、決してひびは入らない。

何度打っても、ひびが大きくなるものの決してそのガラスは破れない。

 

(ダメだ――()()()()。天使では『足りない』)

もっと奥の、もっと『強大な力』が必要だ。

十香が自身の中の何か大きなものが胎動するのを感じた。

その『何か』がゆっくりと自身に混じっていく感覚がして――!

 

カッ――!!

 

光が瞬いた。黒い、漆黒の輝く矛盾をはらんだ光が十香を包み込む様に、爆発した。

 

それはすさまじく大きな光の、力の奔流!!!

天使をも超えた爆発的な巨大すぎる力がDEX社のビルを吹き飛ばした!!

 

 

 

 

 

「いてて……何が?」

数瞬の後ペドーが目を覚ます。

最初に目に入ってきた物は星だった。()()()()()

 

「なんだこれ……」

ペドーが周囲を見て絶句する。

さっきまでビルの一室だったのに、壁が屋根が無くなっていた。

まるで屋根を切って車を無理やりオープンカーにするごとく、力技でDEM社の一室は何とも言えない解放感溢れる空間になった。

 

「ペドーさん……無事です……か?」

 

『やっほー、よしのんは無事だよ?』

部屋の端にいた四糸乃が声をかけてくれる。

その隣には、くるみも居た。気を失っているがけがは無いようだった。

 

「シェリちゃんは!?何時かあのスパッツをマスクに加工する計画だったのに……!!」

 

「オマエー!!ボクのスパッツにナニする気だぁ!!」

 

「あ、生きてた!」

ゴロンと瓦礫の下からシェリが姿を現した。

鼻の頭を擦りむいた様で、小さな傷が出来ていた。

 

「まったく、油断も隙も無いロリコンだな……

そんな事より、アレどうする?」

シェリの指さした先、そこには十香の様な精霊とウェスコットが向き合ってた。

 

 

 

「ここは何処だ?貴様らはなんだ?」

十香本来の霊装とは違う漆黒のドレス、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉とも違う、黒い光を発する剣、そして冷酷な感情のこもっていない冷たい瞳。

 

「素晴らしい――!!エレン!!これが【反転】だ。

ふふふ、精霊は今、魔王となった!!控えろ人類!!魔王ママの凱旋だ!!」

酷くはしゃぐ様子のウェスコット。

エレンが、十香の前に剣を構え悠然と降り立った。

 

「さぁ、エレン。この魔王を屠ってしまおう。

いや、正確には、殺さない程度に屈服させて私のママにするんだ!!

うふふ、オムツを変えてもらって、ミルクを飲ませてもらって、お風呂に入れてもらうんだ!!」

 

「はい、うぇすちゃま」

 

「な、なんだお前は!?ひどく気持ち悪いぞ!!」

魔王はうぇすちゃまのいきなりのカミングアウトに、苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 

 

 

「なぁ、見なかった事にして帰っちゃダメかな?」

非常に、非常に真剣な顔をしてペドーが一人つぶやいた。




DEM社秘密装備

XP-01〈ダイダロス〉赤ちゃんの持つガラガラに偽装したビームブレード。
ガラガラを振る事で、内部のエネルギーが拡販されブレードの威力を変えることが可能。具体的にはよりガラガラすれば威力は上がる。
さらに、その特性上戦闘中に絶えず威力が上がり続ける。
問題点は、戦闘の始まりから終わりまで非常にガラガラとうるさい事。

XP-02〈イージス〉涎掛け型の防御アーマー。
胴体を守るのがメインだが、おしゃぶり型コントローラーで目の前にエネルギーシールドを張れる。
この盾は、展開するのも発動するのも保持するのも手を使わないという利点があり、戦いにおいては自由に出現させれて構える必要すらないという、革新的な性能を持つ。
問題点は、戦闘の始まりから終わりまで非常にちゅぱちゅぱうるさい事。

XPはいわば、ウェスコット専用装備を意味するコードである。
というか、新装備として涎掛けとおしゃぶりとガラガラ渡されたら、多分転職する。
そう言う意味でも、ウェスコットの専用装備。


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学・祭・閉・幕!!

さてさて、2巻分を合わせた美九パラノーマルも遂に完結です。
さぁ、ラストは一体どうなったんでしょうか?

美九ファンのみんな、ごめんなさい!!


未だ喧騒が続くDEM社の社内。

ペドーの居る場所は会社の中なのに、見上げれば満点の星空が広がっていた。

 

ヒュルルル……

 

「へっくし!」

一陣の風が吹き、舞い上がった埃に鼻を擽られペドーがくしゃみをする。

 

「まじやべーわ……」

語彙が少ないと馬鹿にされそうな、つぶやきをしてペドーは目の前にある光景を見た。

 

 

 

 

 

「小癪。人の子よ、貴様はなぜ我に剣を振るう?」

 

「知れた事!!我らには貴女のその力が必要なのです!!

だが必要なのは『力』のみ、その人格は不要――!

よってはぎ取らせて頂きます!!」

黒いドレスを纏った、十香。

夜の闇の中に埋もれずなおも、輝きと存在を纏うその姿は、ウェスコットの言葉を借りるなら確かに『魔王』だった。

 

そして、その魔王に立ち向かう一人の麗しき戦乙女(ヴァルキリー)――エレン・メイザース。

 

上下、左、フェイントを交えての再度の左。

闇夜を切り裂くようなレーザーブレードが、エレンの技の速さと相まっていくつもの残光を残しながら十香に巻き付いている様に見えた。

人でないモノと、人を超えた人間の戦い。

 

ペドーは此処に木て初めてエレンの実力と、精霊の恐ろしさを目にした。

ふと横に目をやると、四糸乃、くるみそしてシェリも同じ様な顔で、目の前の戦いを見ている。

呆然とした三人は、エレンの声で現実に引きもどされた。

 

「そこッ――! 〈ロンゴミアント〉!!」

 

「ほう?」

エレンの攻撃を捌いた十香に、一瞬の隙が出来る。

その一瞬の隙を付いて、エレンがレーザーを束ね巨大な槍の様に変化させた。

その槍を受け止めた十香だが、その一瞬後に槍が大きく輝き周囲の建物を巻き込んで吹き飛ばした!!

 

「十香!!」

 

「良いぞママ~!」

心配するペドー、無事を確認しようとするがその直後に聞こえてきた、気の抜ける声に足を止める。

 

「赤ちゃんプレイ野郎――」

 

「ふふふ、どうだい?エレンママの実力は?

くっふっふ、あの力。やはりママに必要なのは純粋な力さ」

こちらを逆なでするのが目的か、近くにあった冷蔵庫からわらび餅を取り出し悠然と食べ始める。

 

「くふふ、後でお口ふきふきしてもらわないとね……」

その勝利を確信した、非常にうっとおしい顔に不快感を見せたのはペドーだけでは無かった様で――

 

 

 

「…………」

エレンの攻撃を受けた十香が、煙の中から姿を見せる。

右手の手袋が破れ、腕にみみずばれの様な傷が出来ている。

 

「チッ――〈暴虐公(ナヘマー)〉!」

小さく舌打ちをした後、自身の持つ手にある大剣――〈暴虐公(ナヘマー)〉を笑いながら邪な妄想を浮かべるウェスコットに対して思い切り振り下ろした!!

当然、十香の位置から出は届くはずのない一撃。

しかし、剣からはすさまじいプレッシャーを含む光が放たれ、一直線にウェスコットへと向かった!!

 

「アイク!!」

それを見て、エレンは瞬時にスラスターを起動させ、ウェスコットの前に立ち己を盾にした。

再度の爆発!

今度はエレンが爆風に飲まれた。

 

「エレンママ!!」

その様子に流石のウェスコットも、装いを崩した。

 

 

 

「無事ですか?アイク?」

爆風からエレンが姿を見せる。

その口調には余裕があったのだが――

 

「エレン!?その傷は――」

 

「防御に気を取られ過ぎて、傷が開いた様ですね……」

ワイヤリングスーツからは、大量の血が滲み出ていた。

胸と腹の獣の爪痕の様な3本の傷、そして背中にある巨大な斜めの切り傷。

嘗て、スズモトとの闘いで折紙が言ったように、リアライザを回復に回せばその分他の部分がおろそかになる。

エレンはこれから開いた傷の止血用、威力と回避などの戦闘用、そして自身とウェスコットの防御用と3つの用途が出てくる。

 

「万全の状況なら、戦局は変わりますが――」

 

「うん、わかったよ。大丈夫、ママの体を優先させよう」

 

「ありがとう、うぇすちゃまは優しい子、よしよし」

ウェスコットを抱いて、エレンが飛び上がった。

どうやら本当に脱出する様だった。

 

「悪いが、今日は此処までにしよう!さらばだシドウ・イツカ!!

生き延びたのなら、また会おう!!」

エレンに抱きかかえられたままウェスコットが小さくなっていく。

 

「こらー!!厄介事押し付けんな!!謝罪と賠償を要求するぞー!!」

虚空に叫ぶが空しくも帰ってくる声は何もなかった。

 

いや、帰って来た。帰って来たのだ()()()()が。

 

「さて、次は貴様だ」

 

「ひぃいぃぃ!?」

ゆっくりと空から下りてきた十香。

その目は明らかに、こちらを敵とみなしていて――

 

「覚悟は良いか?」

 

「ひぃいい!!お、おれはただの幼女好きのお兄さんだよ!?

何も悪い事してないよ!!幼女にイタズラはするけど、BB――年上は手を出さないよ!!」

必死になって、ペドーが十香に誤解を伝える!!

だが、十香の目は鋭くなるばかり!!

 

「貴様――なぜ、このような所に童女が居るかと思えば貴様が連れてきたのか!?

あのような、童女たちに自身の醜く醜悪でおぞましい欲望を向けるとは――!

貴様の様な輩は世界の為に許しては置けぬ!!」

 

「えええぇええ?!なんで!?主人公!?」

まるで正義感に燃える主人公の様なセリフを吐いて、十香が〈暴虐公(ナヘマー)〉を構える。

 

「……っ」

 

「これはあいてのほうが、せいろんですわね」

 

「あーあー、何時かこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだよなー」

3人が何とも言えない顔をペドーを見る。

理性ではもちろんペドーの味方をしたいのだが、いつもやっている行動や言動を考えるとどうしても押されてしまうのが分かる。

 

「さぁ、覚悟は良いか?」

 

「――良い訳、無いだろ……良い訳、無いだろう!!

俺は今日も明日も、明後日も幼女と一緒に仲良く暮らすんだよ!!

現在過去未来、全ての幼女とキャッキャウフフするまでは死ねねぇんだよ!!」

ペドーの欲望に呼応する様に、十香の剣――〈鏖殺皇(サンダルフォン)〉が召喚される。

 

「それは……なぜ、貴様がその武器を持っている!?

分からん、なぜかは分からんがやはり貴様は生かしておけん!!」

十香が空中に浮遊したまま、複数の光線をペドーに向かって飛ばす!!

 

「わったったた!?」

ぴょんぴょんとジャンプし、場合によってはサンダルフォンでガードしつつ走って逃げまわる。

瓦礫の間を縫うように移動して、逃げ回っていく。

 

(うーん……こっちを狙ってくるのは良いとしよう。

うん、ロリが狙われるのは避けたいからな……)

ビルの中、適当な部屋に隠れて息を付くペドー。

 

シャッ!

 

「!?」

ドアの開く音に、ペドーが身構える。

 

「あらあら、ペドーさんずいぶん追い込まれてますわね?」

 

「んだよ、時子か……びっくりさせんな」

姿を見せた狂三にため息をこぼす。

 

「……もう、時子で良いですわ……

えっと、一応報告に来ましたの、ペドーさんがバカみたいに騒いだおかげで周囲の建物を全部探すことが出来ましたわ。

結果を申しますと、此処には第二の精霊はいませんでしたわ。

けど、もっと()()()()()はいる様ですわね?」

 

ドぉおおン……ぱらぱら……

 

ビル全体が振動して、僅かに埃が落ちてくる。

どうやら上の階で十香が暴れているらしい。

 

「さてと、困りましたわね。

今の十香さんが少しでも癇癪を起してその気になれば、ビルごとペドーさんを抹殺するのも簡単ですわよね?

さぁ、ペドーさんどうします?私が助けてあげても良いんですけど――

さて、代わりに何を頂こうかしら?」

狂三が妖艶な顔でこっちを見る。

そう、これは遠回しの誘いだ。

絶対的な優位性で、ゆっくりと狂三がペドーを篭絡しようと――

 

「お前って、数年前まで包帯にハマってたんだってな?」

 

「くぁwせdrftgyふじこl!?

な、なんで知ってますの!?」

そこまで行って、狂三が思い出す。

そうだ、今ペドーの陣営には自身の分身が一人いる。

未来の自分の事をなぜ知っているのか、おそらく他の分身体が教えたのか、包帯にハマっていた頃の自分と出会ったのか、そのいずれかだろう。

 

「そ、そのアレですわよ!?アレ、戦いの治療の延長でちょっと、多めに巻いてみただけで――べつにかっこいいとか、思ってませんわよ!?

と、兎に角コレ以上言わないでくださいまし!!」

 

「いいよ、止めてやるよ。けど代わりにちょっと用意してもらいたいモノが有るんだけど?」

 

「わ、分かりましたわよ!!」

悲鳴のような声を上げ、狂三が走って逃げていく。

 

 

 

数分後、実際の時間でしておよそ10分くらいで頼んでいたものは手に入った。

 

「ペドーさんの予想通りでしたわ……たしかにコレを」

 

「おう、んじゃ。十香を奪還しに行ってくるわ!」

受け取ったモノを手にしてペドーが破壊音のする場所へと向かっていく。

 

 

 

「む、遂に姿を見せたか……下郎め」

ビルを破壊していた、十香の前にペドーがニヤついた笑みをして立つ。

 

「むかつく奴だ。なにか言ってはどうだ?世事の句くらいなら聞いてやらんでもないぞ?」

 

だッ――!

 

帰って来たのは、言葉ではなく行動だった。

ペドーが走って十香へと飛び掛かる!!

その手に持つのは、先ほどと同じサンダルフォン!!

 

「結局は武器に頼るか!!」

 

(ンな訳ねーだろ!!魔王に勝てるハズない!!)

内心で悪態をついて、ペドーが素人の剣技で十香の持つナヘマーへとサンダルフォンをぶつける!!

 

「ふん――!これしきで、私に歯向かうとは――」

十香がナヘマーをずらし、ペドーのサンダルフォンの上を滑らせる。

そして、不意に手に掛かる力が抜ける。

 

「なにを――」

十香が目を見開く。

ペドーは自身の武器であるサンダルフォンを撃ち合いの途中で投げ捨てた!!

そして剣を乗り越え十香にさらに近づく!!

 

「!? コイツ、武器も無しに――!」

すぐ近く、そこにペドーが近づいて――

 

「だが、所詮は奇策!!」

十香がナヘマーをずらしてペドーの胴に食い込ませる。

力の入らない体制、それどころかこの近距離だ、威力はたかが知れている。

だが、タダの人間の胴を真っ二つにするのは容易い!!

 

ずぶッ!!

 

ペドーのシャツを破き、剣の刃が肉にめり込む――かに見えた。

 

「これは――!?」

十香が目を見開くと、そこに有ったのは氷。

ペドーの肌を剣は確かにとらえていた!!

だが、流れる血を凍らせ空気中の水分を凍結させて、体に十香のナヘマーを固定していた!!

 

「貴様!?正気か!!」

 

「ああ、正気――ぼぼっ!?」

至近距離で、ペドーが口をひらくと共に、何かの黄色い粉が口から洩れる。

さっきまで話さなかったのは、ずっとこの口に入れた黄色い粉を隠すためだったのだ!!

 

「な、なんだ、この、粉は――!?」

未知の粉に、十香が慌てると同時に、自身の唇が目の前の男に唇でふさがれた。

その瞬間、男の口から何かの味がする!!

十香はなぜか、その味がこの黄色い粉の味だと理解できた!!

 

(なにを考え「黄な粉……」ているんだ?この「黄な粉」男は、奇策にしても「黄な粉!」流石におか「黄な粉!!」しい。

この粉は「黄な粉!!」なんだ?自身に「黄な粉!!」だけ効果のある毒か?それとも「黄な粉!!」催眠作用のある「黄な粉!!」薬?

いや、そもそ「黄な粉!!」もなぜ「黄な粉!!」この男「黄な粉!!」は自身に接「黄な粉!!!」吻などを「黄な粉ではないか!!」しているん「黄な粉ォおおお!!」だ?)

十香の体が、心が反転する。

なにか、自身の奥にある存在が、こちら側へ出てくる様に。

その衝動は抑えきれず、ダムが決壊する様にあふれ出した!!

 

「む?ペドー……ここは、どこだ?」

 

「よぉ十香。いいか?知らない人に『お菓子あげるよー』って言われても付いて行っちゃダメなんだぞ?今回みたいに攫われる可能性があるからな!」

 

「むぅ?すまない……お菓子の食べ放題に引かれたのだ……」

ペドーに注意され、十香がシュンとうなだれる。

 

「ま、いいや。無事に帰って来たんだ。

さ、家に帰って黄な粉食おうぜ!」

そう言って取り出したのは、大量の黄な粉!!

さっきウェスコットがわらび餅を食べているのを見た、ペドーが周囲にあるスーパーになら黄な粉があると思いいたり、狂三の取りに行かせたのだ。

黄な粉ジャンキーの十香には当然、効果は抜群で。

霊力の再封印と並行して、元の人格へと戻すことが出来たのだ。

 

その時、太陽が昇り始めた。

どうやら夜明けの様だ。

 

「さてと、みんなで帰るか!」

ペドーが、こっちに向かって走って来た3人を見ながら笑い出した。

天央祭はまだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

「いやー、今回は楽しかったなぁ……おい、くっつくな!」

 

「ねぇ……いろいろ言いたいんだけど……ちょっといい?」

ペドーに対して琴理が、言葉を話す。

時間は丁度、天央祭の終わりの後打ち上げも終わり、一日分の振り替え休暇を楽しんでいる時だった。

結局美九の歌に操られた人間たちは、夢うつつの状態で確かな記憶がなく。

特殊な幻覚を起こすガスが工場から漏れたという事になった様だ。

その後遺症か知らないが、数名の人間の性癖が歪んだのはあまり知られていない。

 

「ん?何かな?あっけなく洗脳されて、縛られて放置されて、忘れられた挙句膀胱が決壊してパンツびちょびちょにしちゃったマイシスターよ!」

琴理の顔がカアッと真っ赤に染まった!!

 

「いろいろ……いろいろ説明しなさいよ!!

なんで、八舞の二人はあんな風になっているのよ!?」

琴理が部屋の隅を指さすと、がたがた震える夕弦と耶倶矢の二人がいた。

小さく「変態こわい。変態怖い」と抑揚のない声で呟いている。

 

「この二人は、本物の変態と出会って勝負を挑んだんだ。

命があって、性癖が歪んでいないのは奇跡だね……」

可哀想なモノを見るような、顔でペドーは見る。

 

「じゃ、じゃあ、ソッチは?ねぇ、何があったの!?」

琴理の興味は、ペドーの傍らに控える美九に向かった。

 

「だぁりぃん……だぁりん、すき、すきですぅ……美九はだぁりんの奴隷ですぅ……

どんな命令にも、絶対服従ですぅ……」

目の宿っている光は完全に消え去り、卑屈な媚びた、到底アイドルをやっていた美九と同一人物とは思えない様な姿の美九。

 

「なにって?攻略しただけだよ?」

 

「何した!?何をした!?」

琴理が椅子から勢いよく立ち上がり、ペドーに詰め寄る。

 

「美九――すこし席を外してくれ。

そうだな……コンビニでかき氷のアイスでも買って来てくれる?」

 

「はい、はい!美九はダーリンのお願いなら、何でもします!!」

凄まじい笑顔になり、美九は喜んで走っていった。

 

「で?一体、何をしたの!?まさか、やばいクスリでも使って――」

 

「いやいや、そんな事しないよ!

美九をフラクシナスに閉じ込めた後、元ファンの罵声を録音してすごい小さな声で、永遠に再生し続けたんだよ」

 

「は、え?ちょ……」

余りにえぐい手口に、琴理の口角があきれて歪んだ。

 

「んで、俺が話す時だけ、音を止めて、優しく美九を肯定してあげたんだよ。

『オマエは悪くないぞ』『俺だけは味方だ』『俺が居れば大丈夫だぞ?』って」

要するにペドーがやったのは、一人ボッチになった美九に優しい言葉をかけただけだ。

それが非常に規模が大きい事とすべてマッチポンプであることを覗けば……

その手法は場合によっては洗脳と呼ばれることもあるが……

 

「意外と封印はすんなりいったよ!」

嫌に良い顔を浮かべる外道を見ながら、琴理は胸の中で哀れな犠牲者(美九)に深く同情した。




次回予告!!
BBA!!それは年増の女!!

「分かってる、ペドー君分かってる!!」

BBA!!それはロリコンの天敵!!

「むりむりむりむり!!絶対加齢臭する!!加齢臭するぅ!!」

BBA!!それはどんなに若作りしてもバレる存在!!

「犯人はお前だ!!お前がBBAだ!!」

次章!!七罪トランサーズ!!


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七罪トランス
禁じられた言葉


さてさて、今回から七罪編へと入って行きます。
遂に出たあの精霊!!ペドーさんに勝ち目はあるのか!?

何時も誤字報告してくれる人たちありがとうございます!!
本当に助かってます!!


来禅高校の屋上にて一人の少年が、フェンスに体を預けるようにしてもたれ掛かっている。

両の手を頭の後ろへ回し、2つの手のひらを重ね枕の様にして目を細める。

だるそうな顔をしているのは、この学校の生徒五河 士道。通称ペドー。

その通り名の通り、様々な意味での子供好きな困った人物である意味では有名人である。

 

「……へぇ」

 

「――どうしたんだ?もう少し驚いたらどうだ?」

ペドーの視線の先、そこにももう1人同じ様な人物がいた。

ペドーと同じ髪型。

ペドーと同じ制服。

そしてペドーと()()()

 

「……一応聞いておいてやる。形式美って奴だ。()()()()()()

 

「あっはっは、見て分かんない?毎日鏡で見ているだろ?

俺は俺、五河 士道さ」

目の前に居たのはもう1人の士道!!

ニタリと笑みを浮かべ、ペドーに話しかける。

 

「いや、本人の前で本人に化けても無意味でしょ?

バカなの?死ぬの?更年期障害なの?()()()()()()?」

 

「こんのぉ……!!」

士道の顔が怒りに歪んだと同時に声が変わる。

少年の声から、妖艶な女性の声へと。

 

「事ある事に……!!

ぜぇええええったい!!許さないんだから!!

アンタなんてぎったぎたのボッコボッコに――」

 

「さて、教室帰るか」

 

「話を聞きなさいよ!!」

七罪を無視して、ペドーは屋上の入り口へと帰っていった。

 

「ほんと、本当に何なのよぉおおお!!」

地団駄を踏んで一人、士道の顔をした七罪の声が響いた。

 

 

 

 

 

「だーりん……だぁりぃん……わたし、おいしいパスタのお店見つけたんですよぉ……

ねぇ、こんど一緒に行きませんかぁ?もちろん送迎から全部私のお金で……

琴理様たちの分もちゃんと私が――」

とろけるような猫なで声で、媚に媚びまくった声で一人の少女が、床に突っ伏して椅子に座るご主人の足元に傅く。

 

「美九」

 

「は、はい!!」

媚に媚びた美九の声が、小さな言葉によって一瞬に止まる。

怯えたような縋るような目で、椅子に座るペドーの顔を見上げる。

 

「うるさいぞ。今は琴理の質問に応えろ」

 

「……!!」ぶんぶんぶん!!

ペドーの言葉に無言で必死に首を縦に振る美九。

これが嘗て、人々を洗脳しつづけた存在の末路だと考えると、少し可哀そうに思う人もいるだろう。

ペドーはそうは思わないが……

 

「うわぁ……」

少なくとも、ペドーの正面に座る琴理はそうではなかったらしい。

ここはフラクシナス艦の内部。

机などが置かれた簡易の会議室の様な場所だった。

今日は美九の事情聴取の為、琴理が呼んだのだが美九は艦内の内装を見た瞬間、ペドーに閉じ込められた部屋の事がフラッシュバックしたのか。

突然大声を出して、自身の体を掻きむしり暴れだしたかと思うと、今度は急に部屋の隅に座り込んでひたすら「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と濁った眼でうわごとの様に囁き始めたので、仕方なくペドーを精神安定剤替わりに呼んだのだった。

 

「え、えっと……質問に移るわよ?

先ずあなたの過去なんだけど――貴方は精霊になった元人間で間違いないわね?」

 

「……!」コクコクコク!!

琴理の質問に、必死に首を振って肯定の意を示す。

 

「はぁ……美九しゃべって良いぞ。琴理の質問に答える為なら」

 

「ぷはぁ!!あ、ありがとうございます、ありがとうございます、だぁーりん!!だぁりん大好き!!だぁりん愛しています!!」

 

「質問に答える為って言ったんだが?」

 

「は、はひぃ……ごめんなさい!!捨てないで!!お願いだから私を捨てないでぇ!!

なんでもします!!お金が欲しいなら、体も売ります!!だーりんの為なら何でもしますから!!どんな事をしても良いから私を捨てないで!!お願い!!お願いしますぅうううううう!!!」

涙と鼻水と、到底アイドルと思えない様な顔をして、ペドーの足に美九が縋りつく。

再び発作の始まった美九を見て、琴理は再びため息を付いた。

 

 

 

 

 

「ふぅーい……疲れたー。あーあ、アイドルなんて攻略するモンじゃないよなー

なんかさー、うっとうしいし、そのくせパパラッチとかは一応付いてくるんだよなー」

ベットに倒れ込み、布団に顔をうずめながらペドーがぼやく。

結局あの後、何とか話を聞き出し。過去の〈ファントム〉と思わしき存在と出会った事。

セフィラを入れられても、破壊衝動に飲まれなかった事など貴重な情報が分かった。

後はフラクシナス内の機械で細かい数値を取ったらしいがこちらはペドーにとってはちんぷんかんぷん(ポルトガル語)だった。

恐らく琴理が何とかしてくれるだろう。

というかしてくれなかったらあの指揮官は無能すぎる。某戦闘機に変形するロボではないがニューリーダー病を誰かが発病してもおかしくはない。

 

「あー、このまま寝ちゃいたい……」

ゆっくりと襲い来る眠気にペドーが意識を手放そうとした時――

 

「寝るなー!!」

顔面を蹴られる衝撃と共にベットから叩きだされる!!

 

「ひどい!!いきなり蹴るなんてヒドイよシェリちゃん!!

けどこれがお前の愛なら俺は受け入れるよ!!」

 

「ん、な訳ないだろ!?というか、どうして平然とボクの部屋で寝てるんだよ!!」

そう指摘するのはラテン系を思わせる褐色肌の元気っ娘、シェリ・ムジーカだった。

新しい綺麗な壁、新しい家具の数々……ここはペドーの家ではなくそのお隣としてラタトスクが作り出した精霊用マンション(ペドーは密に精霊ズマンションと呼んでいる)だった!!

 

「やぁ、シェリちゃん奇遇だね!」

 

「オマエが勝手に入って来たんだろ?プライバシー守れ!!

さぁ!!帰った帰った!!夕飯の時にはソッチ行くから待ってろ」

 

「けどシェリちゃんが一人寂しくて泣いてる気がしたから――」

 

「安心しろ、絶対そんな事無いから!!」

シッシ!と手を振り、ペドーを追い出すシェリ。

蹴飛ばして扉の外へと叩きだした。

 

「まったく!あのロリコンは本当に油断が――ハッ!?」

その時シェリの脳裏に、赤いコブラっぽい怪人の姿がよぎる。

 

『お前がペドーを追い出すのは勝手だ。

だが、追い出されたペドーは何処へ向かうと思う?

そう隣の四糸乃だ。四糸乃がお前の身代わりになって――』

 

「うわぁあああ!!ぺ、ペド野郎!!せっかく来たんだからお茶でも飲んでけよ!!」

己の過ちに気が付いたシェリは急いで扉を開け、お隣の四糸乃の部屋をノックしようとしていたペドーを部屋へと連れ戻した。

その後肝心のお茶を用意していなかったことで、シェリは別のピンチに襲われるが別の話。

 

 

 

10月15日――街中はすっかりハロウィンの活気に賑わっていた。

あちらこちらにカボチャの置物があって、可笑しくも不気味な笑みが浮かんでいる。

 

「…………?」

 

『ねぇ、ペドー君!あの人の顔にくりぬかれたカボチャって何?』

四糸乃の疑問を代用するかのように、よしのんでペドーに聞いてくる。

今ペドーたち一行は買い物の途中だった。

四糸乃、くるみ、シェリの3人を連れて仲良く買いものをしていく。

 

「あれは、じゃっくおらんたんですわ。がいこくのおまつりで、かざるんですわよね?」

 

「へぇー、んで、何時食べるんだ?」

くるみの言葉にシェリが尋ねる。

 

「うーん、あのカボチャは食べないな。まぁ、飾りだよ飾り。

そんな事よりハロウィンはみんな仮装していろんな人のお家を回るんだよ?

おばけの恰好をして『お菓子くれなきゃイタズラするぞー』って言って」

指を立てて、飾ってあるお菓子の袋を指さす。

 

あまりなじみがないシェリや四糸乃は興味深そうに聞いている。

 

「なんか、オマエが『お菓子くれなきゃイタズラするぞ』ってアブナイ意味に聞こえるんだが……」

 

『あ、わかるー!寧ろ家に来た子はもう返さない的な?』

 

「どうしましょう……あまりにしぜんすぎますわ……」

最早楽しいハズのハロウィンは3人の脳内ではペドーの欲望を満たす変態の祭典へと変わっていた!!

 

「やばい……考えたら興奮してき――いっだぁ!!?」

むらむらと湧き上がる妄想をするペドーに元へ、すさまじい勢いで車いすが突っ込んできた!!

 

「お、おお……少年よ、……す、すまない……」

ガクガクと震える老人が、車いすの上からペドーに話しかける。

ほりの深い外国の老人で、ナイスミドルや好々爺と呼べる容姿をした若い頃はたいそうモテたであろう老人だった。

 

「あたた……おじいさん?車いすでハッスルしすぎでは?」

 

「い、いや……坂の上から、転がってね……止まらなくて……隣車だし、死ぬかと思った……

うっ!?心臓が……!動悸が……!!」

まるで地獄でも見たようにひどく老人が衰弱して見えた。

 

「えっと、病院はアッチですよ?」

あくまで親切心を見せてペドーが病院の方を指さす。

 

「あ、ああ……済まない」

頬のこけた老人の車いすを引くために、坂の上からもう1人外国の美女が姿を見せた。

そして懐から煙草を取り出し、火をつける。

「どうも」スパッー……

 

「うえっふ!!えっふ、えっふ!!わ、私は、ボードウィン……こっちはカレンだ……うえっふ!!」

吐きかけられた煙に咽ながら、ボードウィンが話す。

 

「アッツゥイ!!!」

カレンと呼ばれた美女の吐く煙はすべてボードウィンに掛かり、たった今灰が彼の頭に落ちた。

 

「すみません。ドジっ子なので」

尚も煙草を吸いながらカレンがそう話す。

 

(うわぁ……これ絶対老人虐待だろ……)

さっきも坂の上から落ちたといったことを思い出し、ペドーが小さく身震いする。

 

その時――ううぅうううぅうううううぅうううううう☆!!

 

けたたましいサイレンの音が鳴り響く。

これは空間震のサイレンだった!!

 

「ボードウィンさん、此処は危険です!!!早くシェルターに避難を――」

 

「逃げましょう」すたすた

 

「カレン!?カレン!!なぜ私を置いていくのかね!?カレェエエエエエン!!」

ボードウィンを置いてダッシュするカレンに無常に手を伸ばす!!

 

「あ、すいません。ドジっ子なので」

 

「いつか君のドジに殺される気がするよ……」

二人を見送りペドーは目的地へと走り出した。

心の中でボードウィン老人が無事に寿命で死ねる事を祈りながら。

 

 

 

 

 

「なんだ、此処……」

フラクシナス艦に回収され、ロリ3人としばしの別れを告げたペドー。

精霊の反応があった場所は、寂れた遊園地だった。

朽ちたメリーゴーランドに、廃墟と化したミラーハウス、観覧車のゴンドラは空間震に飲まれ半分が綺麗に切り取られ前衛的なオブジェの様だった。

 

「うふっ、珍しいわね。こっちに引っ張られた時にAST以外のニンゲンに会うなんて」

 

「っ!?」

突如頭上から聞こえる声に、ペドーが弾かれたように顔を上げる。

アトラクションの教会の上、橙と緑で構成された霊装を纏う美女が足を組んでいた。

 

「そんなに怖がらなくても取って食べたりしないわよ?

どうしたのボク?こんな所へ来て?」

教会の上から、フワフワと空中をゆっくりと降りてくる。

魔女の様な帽子の下からのぞくエメラルドの瞳に、素晴らしスタイルを持つ20代半ばと思われる精霊だった。

 

「(琴理、お腹痛い。回収よろ)」

 

『ダメでしょ!!年上も攻略しなさいよ!!ほら!!選択し出たから!!!

あの精霊は、確か識別コード〈ウィッチ〉……確か……』

 

「え”ビッチ!?性欲強いBBAとか、ゴミじゃね?

寧ろ帰りたい!!お願い!!!帰して!!」

 

『止めなさいよ!!!そんな事絶対本人の前で言うんじゃないわよ!!!

ほら!笑顔で媚売りなさい!!社会人はみんなそうしてるわよ!!』

 

「ちょ、ちょっと君……?

大丈夫?」

突然叫びだしてペドーを見て、精霊が困惑する。

 

「は、はは……俺は、五河 士道……よろしくな……(B、BB……A)」ボソ……

酷く酷くぎこちない笑みでペドーが笑って見せた。

 

「ん?最後なんて言ったの?聞こえなかった……

えっと、し、し?ん?ぺ?ペドーくん!

私は七罪よ。とにかくよろしくね?」

苦い笑みを浮かべたペドーに七罪が、(普通の性癖を持つ)男なら一発でノックアウトしてしまいそうなウインクを投げる。

 

 

 




本編書いてるのに、小話書きたい……
アイディアプロットとしては――
①くるみSOS
お使いに行くくるみをペドーがビデオカメラ片手に追跡。
物陰に隠れてくるみの雄姿を余すことなく撮影しろ!!
気を付けろ!お巡りさんがこっちを睨んでる!!

②シェリショッピング
ひょんなことから、シェリのスパッツを破いてしまったペドーさん。
謝るのと一緒にスパッツを弁償する事に。
二人きりの買い物「俺の選んだ下着(スパッツ)履けよ」のシチュエーションに興奮!!気を付けろ!!警備員がこっちを睨んでる!!

③琴理ゲットバック
押入れの奥から発見された『パンドラボックス』。その中には、幼い琴理が兄に送った「何でも言う事聞くよ券」が!!
今兄妹のプライドをかけた絶対に負けられない戦いが始まる!!

④エレンイエーガー
育児につかれたエレンママ。殿町君と偶然町で出会いそのままデートへ!?
ちょっと大人なほろ苦いラブストリー?


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七罪作戦第一号

さてさて、今回も投稿!!
後の展開を考えると、あまりBBAに酷い事出来ないストレス。

我慢だ、我慢……


来禅高校の廊下をペドーが、あくびを噛み殺しながら歩いていく。

わずかによろける足取りに、わずかに出来た目の下の隈。

言われるでもなく、その様子は寝不足気味だった。

 

「ふぅあ……ねむい……幼女の膝で昼寝したい……」

帰ったら四糸乃辺りに頼んでみようかと、ペドーが一人脳裏で試案する。

ペドーがこのような事態になっているのは、昨日の七罪の一件が原因だった。

 

 

 

 

 

「うっふっふっふ!あら、可愛くおめかしして、みんなでお出かけかしら?」

廃墟の遊園地、七罪の能力なのかややファンシー寄りの世界に作り替えられつつある、アトラクションの一角では、おそらくASTだと思われる数人の男女が七罪と対じしていた。

なぜ、おそらくと言ったのか。

その理由は彼らの姿が、皆着ぐるみになっていたからだった!!

 

「た、隊長ーどこですか……?」

 

「こ、ここよー」

くぐもった声で、ロブスターをデフォルメしたキャラが手を振る。

ほかの人物も、やれワニだの、ムカデだの微妙にかわいくないキャラクターへと変貌していた。

 

「ぶ、武器さえ……」

悔しそうな声を出すASTたちの持つ武器はみな、水鉄砲やおもちゃの剣に代わってしまっている。

周囲の雰囲気と組み合わせると、まるで本当に遊園地のアトラクションに見えてくる。

 

「はぁい!ペドー君楽しんでる?」

ペドーの前に、先端に宝石を埋め込んだ箒にまたがる、七罪が降り立った。

さんざんASTで遊んだ後に、戻ってきたようだった。

 

「あ、えっと……」

 

「もう、怖がらなくていいわよ。おねーさん、かわいい子には優しいんだぞ?

けど、もしペドー君が悪い子なら……〈贋造魔女(ハニエル)〉でお仕置きしちゃうかも?」

加齢臭がしそうだな。と思わず身を半分ほど引くペドーを七罪は好意的に解釈してやや乱暴に腕を組んだ。

ぶにぃという不快な脂肪の塊が、ペドーの腕に押し当てられる。

サービスのつもりなのか、七罪は尚も笑みを浮かべ続ける。

 

その時、不意に風が吹き埃を舞い上げて――

 

「くッしゅん!!」

 

「うえ!?きったねぇ!?」

七罪がくしゃみをすると共に、不自然な煙とボン!とコミカルな音が響く。

 

「あれ――今……一瞬――」

幼女の気配がしたと言おうとした時、煙の向こうから現れた七罪の表情はさっきと様変わりしていた。

 

「……見たわね?」

 

「あ”?」

要領を得ない質問にペドーが若干不機嫌になる。

たとえ下着だろうと、全裸だろうとBBAで見たいものなどないと反論しようとするが、ペドーが口を開く前に七罪はふわりと箒にまたがり浮かび上がった。

 

「許さないんだから……私の秘密を知ったんなら絶対に許さない!!!

今に見てなさい!!あんたの人生、私の全力でぶっ壊して、めちゃくちゃにしてやんだから!!」

怒りの声を浮かべて、そのまま何処かへ消えていった。

その場はそれでよかった。そう賞味期限の切れたBBAの相手をしなくてよくなったのだが、最後に七罪はペドーに対して危害を加える旨を伝えており、その対策として夜遅くまでフラクシナスの中で会議となったのだ。

 

 

 

 

 

「あー、急に怒ったり機嫌良くしたり、マジ意味不明なBBAだったな……

今回はASTの皆さんに頑張ってもらうとして……」

内心ではすっかり攻略はあきらめているペドーが教室のドアを開ける。

 

「んあ?」

教室全体から、一気に集まるペドーへの視線。

それはただ遅れて登校したことへの、一過性の注目ではなく、困惑、心配、怒り、憤り、疑い様々な感情がないまぜになった視線だった。

 

「なん……だ?」

訝しがりつつ自身の席に着くと、亜衣、麻衣、美衣、そしてマインの4人組が集まってきた。

「ペドー君……あの……」

 

「見損ないましたゾ!!ペドー殿!!サムライは守るべきものためーに、イノチを掛ける物のハズデース!!」

困惑気味な亜衣の言葉をさえぎって、マインが若干慣れてきた日本語で、ペドーをしかりつける!!

 

「一体なんの事なんだ?」

全く心当たりがないペドーが、疑問を呈すがそこへ――

 

「む!ペドー此処にいたのか」

 

「ペドー探した」

黄な粉ジャンキー(十香)と折紙の二人組が姿を見せた。

この二人も、何時もと様子が違う気がした。

 

なぜかペドーにかかる複数の視線やプレッシャー。

混乱を極める脳裏に一つの可能性が浮かび上がる。

 

「まさかあの、BBA?」

そう思った時に、ペドーの背中に一発のこぶしが叩き込まれた。

 

「と、殿町?」

 

「ペドー……歯ぁ食いしばりやがれぇ!!」

殿町がペドーの制服のネクタイをひっつかんで、乱暴に机にたたきつける。

仲良しな二人の突然のバイオレンスに、教室がわずかに騒めいた。

 

「お前……お前一体どうしたんだよ!!なぁ!!ペドー!!」

尚も首筋を掴む殿町の目には涙がわずかに浮かんでいた。

 

「お、おい?」

困惑するペドーをかばうように、亜衣、麻衣、美衣の3人が駆け寄ってくる。

 

「ペドー君もさ、きっと何かの間違いとか、気の迷いって事もあるよね?」

 

「なんか、つらいこと有ったの?」

 

「相談くらいなら、乗れるよ?」

次々と心配されて、ペドーの頭がクエスチョンマークでいっぱいになる。

 

「な、なぁ、折紙、みんな何を心配しているんだ?」

そんなペドーに追い打ちをかけるように、教室のドアが開き水着姿の耶倶矢と夕弦の二人が姿を見せる。

 

「発見。ペドーを見つけました」

 

「あー、この……!

逃げてない度胸だけは褒めてあげるわ!!」

 

「なんで水着?痴女なの?見せたい側の人間なの?頭おかしいの?」

 

「憤慨。これはペドーがやったのです。

突如『俺、透けブラフェチなんだ』と言って水をかけてきたではありませんか」

 

「わ、私に至ってはパ、パパ、パパパ、パンツを無理やり盗んでいったんだからね!!」

顔を真っ赤にした耶倶矢が指をペドーに突き付けた。

 

「んな、訳――」

 

「ンなわけねーだろ!!ペドーだぞ!!幼女大好きペド野郎が同年代に興味示す訳ねーだろ!?

バカにすんじゃねーよ!!転校生のお前が、ペドーのロリコン具合も知らずに適当に言ってるんじゃねーよ!!」

ペドーの言葉を遮ったのは、殿町だった。

 

「そうよ、そうよ!!」

 

「きっとこれは何かの間違いよ!!!」

 

「何か、言えない理由があるんだよね?」

亜衣、麻衣、美衣の3人が空かさずペドーのフォローをする。

 

「ペドー、今日の貴方は朝からおかしかった。

クラスメイトに抱き着いたり、スカートをめくったり、耳元で囁いたりと常軌を逸していた。

当然ロリコンの貴方がこんなことをしないのは、皆知っている。

だから、皆貴方の事がとても心配」

 

「俺が……そんなことを?」

全く身の覚えの無い中傷を受け、ペドーは密かに胸の内におそらくこの騒ぎの下手人であろう七罪に怒りを燃やした。

そしてそれと同時に、自分を信じてくれるクラスメイトたちに、心の奥で感謝の意を伝えた。

 

「へぇ……ばれてーら」

 

「!?」

()()()()()()()()を聴いた気がして、ペドーが廊下へと走る。

 

「い、今……!

あそこだ!!」

廊下の向こう側、屋上へ続く階段へと自分が走っていくのをペドーが見つけ、こちらのペドーもその姿を追う。

階段を走って飛び、屋上へ続く扉を乱暴に開くと――

 

「よぉ、俺」

 

「よぉ、俺」

ペドーがもう一人の自分と顔を合わせてフランクに挨拶をする。

まるで鏡合わせの様な、同じ姿と同じ声の掛け合い。

 

「お前は――七罪か?」

 

「へぇ、思ったより理解が早いね」

にやりと笑うペドーがが七罪の声を発する。

 

「……目的はなんだ?」

 

「言ったでしょ?あなたの人生をめちゃくちゃにすること」

クルリと芝居がかった口調と、動きでバレリーナの様にゆっくりとそのばで回転して見せる。

後ろ姿まで、自分そっくりでペドーはなんだか怖くなってきた。

 

「私の秘密を知った者は誰であろうとも許さない!!」

突如七罪の化けるペドーの顔が怒りに歪んだ。

だがそれも一瞬の事、すぐに何時ものペドーの顔に戻りゆっくりと語り始める。

 

「だから私がペドー君()()()()()()()()()()()

 

「どういう意味だ?」

ゾクリとペドーの背筋に嫌な物が流れる。

久々に味わう人外と対面した感覚。言葉も通じるし、意思相通もできる。

しかし相手の持つ人間とは相容れない、感情。

何度味わっても、この感覚だけは好きになれそうになかった。

 

「私がペドー君になってあげる。さっきみたいな事はしない。

あなたの顔で、あなたの声で、あなたの代わりにあなたの人生を生きてあげる」

人生の乗っ取り、ペドーの今まで生きてきたすべてを横から来た七罪は乗っ取ろうと言うのだ。

 

「そんなことさせない――」

 

バァン!!

 

突如屋上のドアが開き、十香と折紙の二人が言い争いをしながら姿を見せる。

そして二人同時に息をのむ。

 

「な、ペドーが二人?」

 

「…………」

驚く十香、折紙も何時もの様に無表情だが、それでもペドーには少し困惑しているように見えた。

 

「聞いてくれ!!俺に化けていたずらしたのはコイツなんだ!!俺が本物の士道だ!!」

 

「あ!?このやろ!!違うぞ十香ー、折紙ー、俺が本物のペドーだぞ?」

こちらを見て、互いに自分が本物だと言い合う士道とペドー。

そんな姿を見た二人は――

 

「お前がペドーだ」

 

「貴方がペドー」

ほぼ同時にペドーのほうを指さした。

 

「な、なに言ってるんだよ!!俺が士道に決まって――」

狼狽えつつ士道が言葉を紡ぐが――

 

「貴方より、隣のペドーのほうが幼女に飢えている。二人並べば簡単にわかる。

さらに言うと私の発した『幼女』の単語に反応したのもあっち」

 

「あっちのペドーは何処となく犯罪をしているような……隠しようのない変態臭がするのだ!!あっちのほうが本物に決まっている!!」

ビシィっと指をさす二人を見て、七罪は変身を解いた。

 

「なんて、奴らなの……!?

っというか、わかった理由、理由がおかしいじゃない!!

このままじゃ絶対に済ませないんだから!」

捨て台詞をして、七罪が再度〈贋造魔女(ハニエル)〉に飛び乗り空の彼方へと姿を消した。

 

「精霊……なのか?」

 

「ペドーに化けるなんて」

二人が空の彼方へ飛んでいく七罪をみて、小さくつぶやいた。

 

「ペドー……よかった。まさか本当に――」

 

「私は信じていた。あのペドーは偽物に過ぎない」

二人がこちらを心配そうに見てくるが――

 

「……なぁ、俺って変態っぽいのか?常に幼女に飢えている感覚するか?」

地味に心にダメージを負ったペドーが二人に尋ねる。

 

「「当然」」

 

「ぐっは!?」

すさまじい速度での即答に、ペドーが再度ダメージを食らう。

その時――

 

「あ!ペドー君!!」「ペドー殿!!」「ペドーこのやろ!!」

クラスメイト達が屋上に流れ込んでくる。

どうやらずっとペドーを探していた様だった。

 

「みんな、安心するんだ。こっちのペドーは本物だ。

さっきのは偽物だったのだ!!」

十香が胸を張って、皆に報告する。

 

「な、なんだって!?」

 

「そう言えば……こっちのほうがロリコンっぽいな!!」

 

「そうよ!!こっちのほうが虎視眈々に幼女を暗がりに連れ込もうとしている感があるもの」

 

「いやー、やっぱり本物は幼女大好き感が違いますなー」

口々に皆がペドーを本物だと認めていく。

認めていくのだが……

 

「なんだろ……目から汗がでるぜ……」

ペドーは一人小さく泣いた。




自他ともに認める変態でもクラス全員からの変態コールはさすがにつらい……!
けど真実!!知らない方が良いけど真実!!


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化けたのは誰だ

お待たせしました。今回も更新です。
しかし、所謂回と回を繋ぐ回……

はてさて、七罪の恐ろしい作戦は!?


「ウェスコット?サー・ウェスコット聞いているのですか?」

DEM社のオフィスの一室、会議室の真ん中で哺乳瓶を咥えたウェスコットが、重役たちに糾弾されていた。

 

「何か、問題でも?」

涼しい顔をして、ウェスコットがおしゃぶりを置き、赤ちゃんが頭にかぶる様なピンクのフリフリの名前良く知らんアレを被る。

 

「~~~~~!!

何処が問題ないと言えるんですかな!?秘匿技術であるリアライザを大衆の目に晒すような作戦!!ASTへの過度の干渉!!さらに、一般市民への攻撃!!挙句の果てに日本支部をビルごと丸っと失ったんですよ!?損失はざっと見つもっても――」

 

「ばーぶー」

ウェスコットが興味ないとばかりに、おもちゃのガラガラで遊び始める。

 

「話をまじめに聞いてください!!」

ダァン!!と音を立てて、ウェスコットが起こした事件の概要書をデスクに叩きつける。

はぁはぁと荒い息を整え、男――マードックが深呼吸をする。

 

「諸君らにもこの際訪ねたい。君らはこのままでいいと思うのか!?

我らが汗水流して働いている間この男は、自身の部屋でおむつを宛がって哺乳瓶でミルクを飲んでいるんだぞ!?こんな奴に、会社を任せていたら、何時潰れてもおかしくない!!私は今、たった今、ここでウェスコット代表の辞任を要求する!!」

マードックの言葉に、会議室のほかのメンバーがうなづく。

それもそうだ、なんというか多くの役員はウェスコットが四六時中しているプレイに突き合わされ、中にはおむつを替えさせられた者もいる。

当然、彼らには鬱屈したストレスが溜まている。今回の事は単なるきっかけで、何時かはこうやって不満が爆発していただろう。

 

「いいですかな?サー・ウェスコット」

会議の議長であるラッセル老人(若い子のお尻大好きそう)が口を開く。

 

「構わない、これは皆に認められた正当な権利だ。ばぶー」

 

「では、ウェスコットの解任に賛成の者は手を挙手」

マードックが笑みを浮かべ、ほかの社員も次々と手を挙げる。

 

「では、挙手はゼロ。マードック氏の意見を棄却します」

 

「な、ななんですって!?皆、確かに手を……!?」

マードックは驚きのあまり、目を見開いた。

上げていたはずの右腕が――『ない』

 

「う、腕が!?」

 

「無様ですね」

ウェスコットの背後、エレンが生身の状態でレーザーブレードを構える。

どうやら瞬時に、レーザーブレードを伸ばし、役員たちの腕を切り落としたらしい。

 

「アイクに歯向かう者は――」

 

「う、うう………うう、おれの……俺の腕がぁああああああああ!!!

あああああ!!!!あぁあああああんまりだぁああああああああああ!!!!

あぁああああああ!!!あひぃあひぃあひぃ……うえぇえええええええええ!!!

えぇえええええ!!!へぇえええええええ……!!!!!

ふぅー、すっきりしたぜ。仕方ない、医療用リアライザでくっつけるか」

一瞬だけ大泣きしたマードックは、すぐに冷静さを取り戻し、地面に落ちた腕を拾って会議室を後にしようとする。

 

「ふはは……なぁに、心配はいらないさ。私の欲しいものが手に入ればこんな会社君たちにすぐに――」

 

ボトン!

 

勝ち誇るウェスコットの右手が、地面に()()()

 

「あれぇええええ!?どうして!!どうして私の腕も!?」

 

「あ、やべ。すいません、ミスしたようです」

狼狽えるウェスコットに対してあくまで冷静に、エレンが話す。

 

「いやいやいや!!どうして間違うかな!?だってほら、腕落ちて――」

 

べちょ

 

今度はウェスコットの左腕が落ちた。

 

「あ”そっちも間違ってましたか……」

失敗失敗とエレンがため息をつく。

 

「エレェンママぁあああああ!??」

相当のショックに本当にウェスコットが幼児退行を起こしてしまう!!

 

「大丈夫ですよ~、うぇすちゃま~ママが直してあげましょうね?」

エレンが優しい顔をして、落とした腕を宛がうが――

 

「ままぁ!?そっち腕の左右逆!!逆!!」

 

「ちッ、もう正気に戻ったか」

 

「エレン!?」

舌打ちをして、ウェスコットの声を無視して自身のリアライザで治療を始める。

 

「うぐ、ぐっす……ひどいや、ひどいや……」

ぐずぐずと泣き出すウェスコットをなだめながら治療をするエレン。

その姿は彼女の姉妹にとても良く似ていたそうな……

 

 

 

 

 

「あ”-……あ”-……あ”あ”……」

 

「……何やってんのよ」

今のソファーに顔面をくっつけ、布地に向かって意味もなく声を出すペドーと、その様子を見てあきれた顔をする琴里。

 

「いや……昨日の夜、四糸乃が座ってたソファーから四糸乃の残り香がしないかと思ったんだけど――」

 

「何やってるのよ!?」

ペドーのあまりに気持ち悪い行為に、琴里の背中に悪寒が走った!!

 

「だめだな……今更だけど、どのにおいが誰のか分かんないんだよね……」

 

「いやぁ……もう、二度とそのソファ座れないじゃない!!

っていうか、精霊に狙われているのよ!?もっと危機感を持ちなさい!!

いつ襲ってくるかすら分かんないんだから……」

 

「いや、もう、10日以上音沙汰無いし、良いんじゃない?

もう、第……えーと、なん部だっけ?ま、いいや。兎に角、完!!で良くない?」

 

「良い訳ないでしょ?それに、ようやく七罪が動き出したみたいだしね」

ポケットから、封筒を取り出すとペドーに投げつける様に渡す。

切手も差出人の名前もない、ただロリコン野郎へと書かれた少し厚みのある封筒だった。

 

「これは?」

 

「ラブレターよ、七罪からのね」

 

ポイ!

 

「捨てんな!!何も言わず、内容すら読まず捨てんな!!」

その場でごみ箱に、手紙を投げ入れたペドーが嫌そうな顔を向ける。

 

「え~?だって、なんか加齢臭とかしそうだし……っていうか、読みたくない……

琴里読んで!!読み聞かせして!!」

ソファーに寝転び、駄々っ子の様にいやいやをする。

 

「まったく……少し待ちなさい……えーと……

ん?写真かしら……?」

琴里が明けた封筒の中から数枚の写真が落ちてきた。

それは皆ペドーの近くにいる人物で、十香、折紙、四糸乃、くるみ、琴里、シェリ、耶倶矢、夕弦、美九、亜衣、麻衣、美衣、殿町の13枚の写真だった。

その写真はどれも正面から撮ったものではなく、視線の向きが違う、場所が遠いなどの盗撮したと思われるや写真だった。

 

「ん、もう一枚は?」

ペドーが写真の間に挟まっていたもう一枚のカードを見る。

 

『この中に、私がいる。

私が誰か当てれる?

みんなが消えてしまう前に』

 

「ふーん?」

ペドーがソファから起き上がり、カードをまじまじと見る。

 

「これは、七罪からのゲームね。

文面通り読み取るなら、この中の『誰か』に化けた七罪を見つけれるかってトコね」

 

「ああ、けど気になるのは最後の一文……『みんなが消える』?

俺の取って代わろうとしたように、ほかのみんなをどっかに閉じ込めるつもりなのか?」

否応なしに、人質を取られて始まったゲーム。

13の写真の中にいる容疑者をペドーは見つけられるのか!?

 

「なぁ、琴里……この双子って、どっちがどっちか区別付く?」

八舞の写真を見せて、ペドーが口を開く。

 

「は?え、ちょっと?耶倶矢と夕弦よ?え、わかるでしょ?」

 

「いやほら、双子?だし区別付かないよな?」

ふざけている様子ななどない、ペドーの言葉に琴里がひきつった笑みを浮かべる。

 

「普通にしていても区別付かないんかい!!」

琴里が突っ込みを入れる前にすでにペドーはそこに姿はなかった。

 

 

 

 

 

「で?私のところへ来たと?」

フラクシナス艦の内部、ラタトスクの観測官である令音のもとにペドーはいた。

 

「さっき話したのが、七罪のゲームの内容です。

もし七罪の話が本当なら、この写真の中にいない令音さんは白……セーフです」

 

「ふむ、自分で抱え込まず応援を呼ぶ、君は賢いね。

分かった、まずはこのメンバーを秘密裏に機械で調べてみよう……

おそらく尻尾を出すことは無いが……万が一の可能性もあり得る。

では君には、ほかのメンバーとデートをしてもらおうかな?」

 

「デート?」

令音の言葉に、ペドーが固まる。

 

「無論だ。彼女たちと付き合いが長いのは君だろう?

もしデートをして、違和感があれば七罪をあぶりだせるかもしれない。

無論、こちらで全力でサポートするよ。

なにか、小さなことでも良い。みんなとの絆が試される時だ」

令音の言葉を聞いて、ペドーが渋々だが了承した。

 

 

 

 

 

10月22日。ペドーが居間で十香と話している。

一番最初に、七罪を見分ける相手に選ばれたのは十香だった。

 

「ほら、お替りジャンジャンあるからな?」

 

「ぺどぉ……もっとぉ、きなこ……ちょうだい……きなこのためならなんでも、するぞぉ……」

居間の机の前、徳用5キロと書かれたきなこの袋が2~3袋散乱している。

顔や服をまっ黄色にした十香が、尚も焦点の合わない目できなこを体内に取り込み続ける。

その姿は危険な薬物を摂取しすぎた末期患者の様だが、きなこなので問題は無いだろう。

素早く、ペドーからきなこの袋を奪い、手ですくい顔にかける様子をじっと見る。

 

「十香、喉乾かないか?お茶とか……」

 

「いらん!!そんな物、黄な粉の味が誤魔化されてしまうではないか!!」

十香に追加で3袋のきなこを与え、ペドーは部屋を後にする。

常人ではとうに口の中の水分を奪われ切ってしまう量のきなこを摂取して、なおかつ飲み物を拒否する姿勢。

 

「あの黄な粉ジャンキーっぷりは、間違いなく本物だな」

容疑者が一人消えた事に安どしたペドーが、自室へ向かう。

 

 

 

 

 

ペドーがおしゃれをした格好で、家の前に立つ。

携帯を見ると約束の時間はもうすぐだった。

 

(さてと……普通に考えて、入れ替わる相手を、あらかじめどっかに閉じ込めたりしてばったり本人と会わない様にする程度の事はするよな……

もうすでに、誰かが七罪に入れ替わっているのか……

写真を見る限り、おかしいのは誰も居ない……強いて言うなら、よしのんがなんか偽物っぽい位か……けど、パペットに化ける事は無いだろうし……

さて、これから――)

 

「よぉ、ペド野郎」

考え事をしていて、すっかり反応が遅れたペドー。

一瞬だが、急に話しかけられ驚いてしまった。

 

「おっはよー!シェリちゃん。

今日は絶好のデート日和だな。脱がし甲斐のある下着履いてきてくれた?」

確認とばかりに、シェリの履いているズボンに手を伸ばすペドー。

 

「履く訳ないだろ!?」

しかしシェリはその手を払いのけて、こっちをにらみつけた。

 

「ボクはペド野郎がどーしても、デートしたいって言いうから、仕方なく付き合ってやってるだけなんだぞ!?それ以上ヘンなコトしたか帰るならな!!」

ビシィ!とシェリが指をペドーに突き付けた。




地味に描くのが楽しいのがウェスコット組。
ペドーのようなハイテンション変態ではなく、権力で自分のやりたいことを押し付ける静かな狂気とでも言える姿が好きですね。


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変身者を撃て

さてさて、やっとこさ投稿です。
今回ついに七罪の化けた相手が明らかに!!


「はひぃ……もうむりぃ……もう、足腰立たない……シェリちゃん激しすぎ……」

荒い息を吐きながら、額に汗を滲ませたペドーが吐息を吐く。

 

「……お前な、わざと誤解されそうな言葉を選んで使ってるだろ!?」

シェリが語気を荒くして話すその場所は、天宮市のレジャー施設の一角だった。

ここは、『町が誇れる総合レジャー』を合言葉に、制作された場所でレストランやデパートといった買い物系に映画館やカラオケ、最終的には屋上のスペースを使用した露天風呂など何でもありと言える場所だ。

その中でも、スポーツ用の施設を二人は使っていた。

 

「はぁはぁ……いや、けど……体力がヤバイのは、マジだから……」

スポーツ用の施設でまるで男の子と見紛うような元気っ娘なシェリには合っていた様で、様々な遊びに付き合ってるペドーのほうが先に体力が切れてしまった。

 

「んだよー。まだ、テニスとバスケと、フットサルとあと、キャッチボールしかやってないじゃないかー」

つまらなそうに唇を尖らせるシェリ。その様子をペドーが汗を垂らしながらひきつった笑みを浮かべる。

 

「いや、一応俺も高校生の健全な男子だし?シェリちゃんはまだちっちゃいから、加減する程度で良いと思ったけど……

ゴメンナサイ……正直舐めてました……」

年齢的な問題すら平然とシェリは覆し、逆にペドーがボロボロになっている。

明日辺り筋肉痛で大変だなーと、他人事の様にペドーが考える。

 

「全く、ペド野郎はだらしないなー。しょうがないなー、いったん休憩だな?」

いつもは散々やられているペドーに対して有利に立ったのがうれしいのか、シェリはニヤニヤとペドーをなじる。

 

「ありがとうございます……」

 

 

 

 

 

「ほら、飲め」

 

「ありがとう、シェリちゃん……」

休憩用のベンチで、息を整えていたペドーのシェリが買ってきたスポーツドリンクを渡す。

ごくごくと半分くらい一気に飲み込んで、ペドーがため息をつく。

今回のデートは、容疑者の誰かに化けていると思われる七罪の捜索だ。

シェリとのデートは楽しいが、全く持って捜索が進展していない。

 

「ふぅー……生き返ったぁ……」

ため息をついて、ペドーが笑みをシェリに向ける。

 

「はいはい、よかったな」

ペドーの笑みを受け流し、シェリが自分の分のドリンクに口をつけた。

 

「そういえばさ、こうやってちゃんとデートするのって久しぶりじゃない?」

 

「久しぶり?何言ってんのさ。むしろ初めてだろ?」

軽く探りを入れてみたが、シェリは平然と返す。

 

「ほら、あの……なんて言ったけ?あの島……そこでオマエが勝手に絡んできたんだぞ?」

 

「あー、或美島でしょ?

今思えば、こんな元気っ娘、男の子と間違わんばかりだよね!!」

 

「う、うるせー!どーせ、ボクは四糸乃やくるみ、みたいにカワイクないよーだ!!

男の子に見えても気にしませーんだ!」

若干気にしていたのか、シェリがにらむ様な目でこっちを見る。

その可愛いリアクションにペドーが思わず吹き出す。

 

「な、なんだよ!?笑うなよ!!」

 

「あー、ごめんごめん。別に女の子に見えない訳じゃないよ?

シェリちゃんはちゃんとかわいいよ。ペドーさん幼女にウソつかない!」

インチキ外国人っぽいイントネーションを最後にしながら、ペドーが話す。

 

「い、今更、おべっか使っても遅いからな!」

かぁっと、顔を赤くしながらシェリが顔をそむける。

 

「お世辞なんかじゃないんだけどな……あ!そうだ、シェリちゃん。ここお風呂もあるから入ってかない?タオルはレンタルできるし、汗かいたでしょ?」

 

「あー、露天風呂か……島で入った時は気持ちよかったなー……」

シェリが思いでを語って見せる。

 

「そういえばさ、温泉で思い出したけど……シェリちゃんって、内股のところに、ほくろが3つ並んであるよね!」

 

「お、おい!?なんで、それ知ってるんだ?」

シェリがさっきとは別の意味で顔を赤くしながらこっちを見る。

 

「ほら、一回お風呂一緒に入ったじゃない?シェリちゃんがのぼせた、あの時――」

 

「確認したのか!?のぼせたボクが知らないうちに確認したのか!?」

ペドーの襟をつかんでがくがくと前後に移動させる。

 

「そりゃあ、ちゃんと拭かないと着た服が濡れて風邪ひいちゃうでしょ?」

 

「こ、このやろー!?な、なんてことを……!!」

殺気のこもったシェリの視線がペドーを射抜く。

 

「ごめんよシェリちゃん……恥ずかしかったんだよね?

けど、それならハンムラビ法典に則って……『目には目を、歯には歯を』理論で……

俺の裸見放題で我慢してくれ!!」

ばッと、立ち上がると自身のベルトに手をかけるペドー!!

 

「や、やめろぉおおお!!脱ぐなぁあああ!!!」

 

「だいじょぉおおおおおぶ!!見せるだけじゃないよ!!ツンツンしたり、指でつまんだりしてもOKだよ!!」

 

「よくねぇええええよぉおおお!!!オマエが脱ぎたいだけだろぉおおおおお!!!」

 

「ぺろッ!この味はシェリちゃん!!!」

飛んだ汗をなめて、ペドーが某探偵の様にシェリが本人であることを確信する!!

 

「何ワケ分かんないこと言ってんだよ!?」

楽しいデートは一瞬にして、痴話喧嘩になってしまった。

その後シェリと肉体言語(意味深)を交わして、デートはお開きとなった。

 

 

「シェリちゃーん!今度は一緒にお風呂に入ろうねー」

 

「死ね!」

精霊ズマンションに向かって声をかけると、シェリがこっちに中指を突き付けてきた。

ペドーは照れ屋だなぁ。とつぶやくと家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

時刻は15時22分。結局露天風呂を堪能したペドーは、シェリと別れ自身の家に戻ってきていた。

今頃精霊ズマンションで悶えているだろうが、気にしないことにした。

 

『さてと――次の相手だが』

 

「もちろん、解ってますよ」

インカムから聞こえてくる令音の言葉に、ペドーが反応する。

その為にも、ペドーはあえて自分の部屋でスタンバイしていたのだ。

 

コンコン――ガチャ!

 

「ぺどーさん?います?」

控えめなノックの音と共に顔を見せたのは、黒いゴスロリ風の服をきた幼い幼女、くるみだった。

 

「もちろんさ。ちゃんと約束は忘れていないよ」

その言葉に、ぱぁっとくるみの顔が明るくなる。

 

「ぺどーさん、えへへ……じゃあ、でーとをはじめましょう?」

そそそと、急ぎ足で走ってくるといきなりペドーの膝の上にくるみが乗った。

 

「うん、けど外に遊びに行くんじゃなくて良かったのか?」

前もってくるみをデートに誘った時、意外にもくるみが行きたがったのは外ではなくペドーの部屋だった。

 

「なにをいっているんですの?おうちでふたりっきり!これはもう、でーとでしかありませんわ」

 

「ま、まぁそう言うなら……」

正直言って、シェリと予想以上に激しい運動をしてしまったペドーには、家で過ごすデートと言うのは体力的にも財布的にもとても助かるのだ。

 

「うふふ、じゃ、いつもはぺどーさんに、ごほうししてもらっているので、こんかいはわたしが、ごほうししますわね」

 

「へ?」

何かを企む様な顔をして、くるみがペドーの膝から立ち上がった。

そして正面に正座して、自身の膝を叩く。

 

「えっと、くるみさん?」

 

「このまえ、てれびでみましたのよ?わたしも、やってみたくて……」

くるみがスカートのポケットから取り出すのは一本の綿棒。

 

「さ、ここに――ひゃ!?すごいすぴーどで、ねころがりましたわね?」

 

「勿論さ!!合意の上なら問題ないからな!!」

瞬間移動染みたスピードでくるみの膝に頭を乗せるペドー。ちゃっかりインカムを外し手準備は万端である。

なんというか、くるみのにおいと体温が頭を通じて流れ込んでくる気がする。

 

「じゃ、はじめますわよ?

あぶないので――うごいちゃ、め!ですわ」

くるみがペドーの耳に綿棒の先を突っ込む。

 

「おうぅふ……」

 

こりこり……

 

「おおぅ……いぇぇす……」

 

カリカリ……

 

「はうわぁ……」

自身でするのとは違う、むず痒いような刺激にペドーが声を漏らす。

ペドーの言葉に対して何の反応もない位、くるみは真剣なんだろう。

 

「うふふ……ぺどーさん、かわいいこえがでてますわよ?」

小さく笑みを浮かべ、くるみが綿棒を動かしつづける。

 

「ねぇ、ぺどーさん。さっき、どうしていえがいいのかって、ききましたわよね?」

 

「え?うん……そうだねー」

あまりの気持ちよさに、半分くらい頭が回っていない自覚を持ちながらペドーが返事を何とか返す。

 

「そういえば、おもしろいってうわさのあにめを、びでおにとっておきましたのよ」

くるみがTVを操作すると、うさ耳を付けた青い髪をした女の子が姿を見せる。

OPに合わせて、友達との日常生活がながれていく。

 

「お、すこし前に流行ったアニメの『ごちゅじんたま♡だいすき!うさちゃん』……通称『ごちゅうさ』だな」

一部界隈で人気になり、話題をさらった萌えアニメだった。

主人公はウサギの女の子で、全編擬人化された状態で本編は進み飼い主『ごちゅじんたま』や友達の動物との日常を過ごす。前にも言ったように主人公たちは擬人化された動物で耳や尻尾を除いて完全に人間に見えるのが、あくまで『ごちゅじんたま』の言っている事は分からないらしい。

だがそれが敢えて良いらしい。

アニメはほのぼのと、日常が過ぎていく。

 

「わたしね、みんなみたいに、なにかができるわけじゃありませんの……

おりょうりもできないし、ほかのこみたいに、ひとりだちもできていませんわ」

くるみは他の精霊たちと比べて、もっとも幼い。

その為、一人での自立はまだ不可能という事で精霊ズマンションではなく、ペドーの家で寝泊まりしている。

 

「けど、ぺどーさんをひとりじめしたいきもちだけは、いちにんまえですわ!

ここなら、だれもじゃましないでしょ?」

くるみの言葉にペドーはハッとなった。

そうだ、確かにデートをして外に行けば、周囲に他人がいる。

しかし、この家は前もってデートという事でほかの精霊たちはいなくなっている。

特に最近はマンションという、自分の空間が出来たという理由もある。

くわえると、耳かきという行為上フラクシナスからも、ペドーは切り離され本当の意味で『二人きり』なのだ。

 

アニメでは、主人公の女の子が飼い主にご飯をもらって、優しくおなかを撫でられている。

 

『ごちゅじんたま~』

 

『なだ、んぶうゅじろそろそ』

意味をなさない言葉が、ごちゅじんたまの口から流れる。

そんなセリフをBGMにくるみはなおも言葉をつづける。

 

 

 

「このいえにはいま、ふたりきりですわよね?わたしとぺどーさんだけ」

 

「ふぅ、何時の間にか成長したって事かな?」

くるみの言葉にペドーが、関心して声をもらす。

くすくすと笑うくるみは、ペドーの頭をずらさせ反対側の耳を掃除させ始める。

 

「さぁ?どうでしょう?けど、もしいま、このめんぼうをぺどーさんのみみのおくにおしこめば、このみみがさいごにきくおとは、わたしのこえっていうことになりますわよね?」

 

「くるみ!?若干ヤンデレっぽくなってるよ!?やめてね!!」

まさかの発言にペドーが小さく慌てる。

 

「くすす、じょうだんですわ。ほら、あにめも、おそうじもちょうどおわりですわよ?」

 

『ごちゅじんたま、だーいすき!!』

 

『かるすについこ、はしめんばのうょき、したっとふんぶうゅじ』

飼い主に甘える、主人公が飼い主に笑いかけられ抱きあげられて、部屋の外に出ていく所で作品は終わった。

 

「さ、つぎはまたべつのひとのところへいくんでしょ?わたしをたすけたときみたいに?

けど、むりはしないでくださいまし。わたしかえりをちゃんとまっていますから」

さっきの恐ろしい空気は一転、今度は優しい空気を纏ったくるみ。

 

「分かったよ、んじゃ行ってくる。けど……その、また耳掃除頼んでいいか?

その、あれだ……癖になりそうで、さ?」

 

「うふふ、しかたないぺどーさんですわよね」

くるみと別れ、ペドーは隣の精霊ズマンションに移動した。

今日最後のデート相手四糸乃に合うためだ。

 

 

 

「ちぃーす!四糸乃!」

ペドーが無遠慮に四糸乃の部屋のドアを開ける。

奥からパタパタ走ってきたのは――

 

「うっほ!!四糸乃、魔女っ娘か?

可愛くてびっくりしたぞ?」

四糸乃の姿はペドーの言うように小さな魔女っ娘だった。

 

「お!よしのんはフランケンシュタインの怪物か?」

同じくよしのんは物騒なつぎはぎの姿の化け物姿だった。

 

『せーかい!ほらほら、四糸乃~』

 

「う、うん……ト、トリック、オア、トリート?」

恥ずかしそうにしながら、よしのん急かされ四糸乃がお決まりのフレーズを口にする。

フレーズ自体は正しい、正しいのだが……

 

「あの、四糸乃?それは、他人のお家へ遊びに行ったときに言う言葉で、自身の家に来てもらった時に言う言葉じゃないんだぞ?」

申し訳なさそに、話すペドーに四糸乃がショックを受けたような顔をする。

 

『けど、お菓子がないなら仕方ないなー、四糸乃!ペドー君にいたずらしちゃおうか?』

 

「え、けど……どんな?」

よしのんが四糸乃の耳に口をつけて、何かを話す。

何かをよしのんが囀るたびに、四糸乃の顔が赤くなっていく。

 

「いたずらなら、こんなアイディアがあるぞ?」

ペドーが今度は四糸乃の反対側に回り、耳打ちを始める。

すると今度は、四糸乃の顔がさらに赤くなったり青くなったりする。

最終的には、笑みを顔に張り付けたまま真っ赤な顔をして止まってしまった。

 

「あちゃ~、恥ずかしさのあまり意識が……」

 

『あーあー、ペドー君が鬼畜なアイディアばっかり出すから~』

その後、ペドーはお詫びとばかりにホットケーキをつくり、四糸乃の部屋に置いていった。結局、本物か確かめる前に終わってしまったといった感じだ。

 

 

 

 

その日の夕飯の後――

ペドーが片付けをしていると、琴里が話しかけてきた。

 

「で、今日一日終わったけど、4人の中に怪しい奴はいたの?」

琴里の言う、4人とは今日調査した十香、シェリ、くるみ、四糸乃の事だろう。

 

「ああ、それなら、問題ない――()()()()()

 

「えちょ!?」

ペドーが琴里を連れ、リビングへと走っていく!!

そこには丁度たまり場の様になっており、精霊たちの全員(と夕飯のオカズをお裾分けに来た折紙)が集まっていた。

 

バーン!!

 

「な、何事だ!?」

紙の上のきなこを棒状にした紙で、鼻から吸っていた十香が驚く。

 

「犯人はこの中にいる!!っていうか、むしろ犯人はよしのんだ!!」

ペドーがよしのんを指さし、辺りが騒然とする。

 

「疑問。犯人とは何のことですか?」

ナルシスト双子の眠そうな方(名前忘れた)が指摘する。

 

「ダーリン?今度はなんの遊びですかぁ?私も、私も誘ってくださいぃぃ……

どんな、どんな役でもしますから、わたしをを使って……使って……」

美九(豚)が足元にすり寄ってくるが、うっとおしいので無視してよしのんに顔を近づける。

 

『ぺ、ペドー君?、犯人って、一体何のことかな?』

よしのんはとぼけるが――

 

「馬鹿め!!隠しても今更無駄だ!!四糸乃はこの夏、ずっとよしのんを装着していたんだよ!!夏と言えば、部屋の中でも汗をかく……

よしのんの中は四糸乃のムレムレお手てのにおいで一杯のハズなんだよ!!

けど、さっき四糸乃に耳打ちしたとき、四糸乃のお手てのにおいがしなかった!!

姿を変えても、四糸乃のお手てのにおいは再現できなかった様だな!!」

 

『ぐ、ググぐぐ……においとか……ふつう、かぐか?幼女の手のにおい嗅ぐとか、可笑しいでしょうがーー!!』

よしのんがひび割れる様に、中から煙が噴き出る!!

 

「七罪!!逃がさないぞ!!――――――んな!?その姿は!!」

ペドーが煙の向こう――七罪の姿をみて驚愕に目を見開いた。




Q非幼女精霊たちのデートシーンは?

A無いよ。

Qよしのんは四糸乃のお手てのにおいで、むれむれなの?

Aペドー君は違いの分かるロリコンです。

Qペドーさんは次回自重――Aするわけないだろ!?


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消された時間

皆さん、雨の影響大丈夫ですか?
作者の場所は、浸水などは起きませんでしたが、同じ県内ではすごい被害が出ています。
携帯の警報が夜中に鳴って、かなり焦りましたね。
少なくとも私は、今は元気です。


「う……」

よしのんの声に、四糸乃が驚きの表情を浮かべる。

その声はいつも聞いている、よしのんとは全く違う人物の声だ。

 

「うがぁーーーー!」

よしのんにヒビが入り、光と煙がそのヒビからあふれ出た。

 

「七罪!逃がしはしないぞ!!」

ペドーはその煙の中に自ら飛び込むと、目の前の七罪のハズの人物を見て目を見開いた。

 

「……お前……七罪か?」

ペドーの疑問を呈す言葉と共に、部屋の光と煙が収まるとそこに居たのは見知らぬ少女。

彼女は決して、七罪の様な年上の女ではなかった。

目は憂鬱に歪み、眉は不機嫌さを見せ、小さな体を隠すような猫背で、ぼさぼさの手入れのされていない髪の毛、卑屈そうな表情をペドーに向けている。

セクシーさの塊だった七罪とは似ても似つかぬ、幼女の姿――

 

「み、見たな……!

わ、私の秘密を二度までも見た――ひぐぅ!?」

 

「やぁ、お嬢ちゃんかわいいね?お家は何処かな?どこから来たのかな?」

半場瞬間移動染みた、高速移動(後に八舞が「我で無くては見逃していたな」というレベル)で謎の少女の背後に回る。

そして容赦なく、小さな胸の部位に服の上から手を這わす。

 

「ふぅ、堕肉を見た後は、平たい胸で癒されるなー……」

 

「なるほど、七罪の力は変化させる力。どうやらその力で自分の姿すらも変えていた様ね」

ようやく合点がいったようで、琴里が考え込むように七罪のからくりを推理する。

 

「な、なんだって!?けど、このリアルなぺったん具合!このぺったん具合は決して偽物なんかじゃないはず!!」

七罪に当てる手のスピードを上げながらペドーが、戦慄する。

もっとも、周囲は突然始まった通報待ったなしのペドーの行為に戦慄しっぱなしなんだが……

 

「いや、待てよ……これは所詮、服の上から……リアルに触ってみないと本物かは――」

神妙な顔をして、七罪の上着に手を突っ込んだ時、ついに七罪が正気に戻った!!

 

「触るな!!まったくお前らは!!私に、私に二度までもこんな仕打ちを!!

許さない、ぜぇ~~~~~ッ対に許さないからな!!!」

七罪が飛び上がり〈贋造魔女(ハニエル)〉に跨る。

そして、全員に向かって謎の光を放ち、窓から外へと飛び出した!!

 

「へへーん!ざまぁ見なさい!!あんたらはずっとみじめな、チビすけのままでいればいいのよ!!」

捨て台詞を残し、七罪は逃げていく。

 

「いてて……一体、なに――――が?」

ペドーは家の中の惨状をみて、目を丸くした。

 

 

 

 

 

10月29日、ペドーは自身を呼ぶ声を聴きながら、ゆっくりと、しかし若干速足でリビングに向かっていた。

 

「ユートピア!」

小さく今の気持ちを述べて、ペドーはリビングへと身をひるがえした。

 

「ペドー、黄な粉がほしいぞ、ペドー!」

 

「ペドートイレに行きたい、連れて行ってほしい」

 

「ぺどやろー!サッカーがしたい!!」

 

「ペドーさん……」

 

「ちょっと、みんな静かに!ここはちゃんと、道順を――って、それ私のチュッパチョップスじゃない!かえしなさいよ!!」

 

「カカカ、我が領土に落ちた物はかんたんには返せんな」

 

「宣誓。取れるなら取ってみろ、という事です」

 

「ダーリン!ダーリン!!」

現在五河家のリビングには、複数の小さな子供たちの声があふれていた。

その子たちは、皆ペドーの良く知る子の面影を残した子で――

 

「ターゲットは9……敵に不足は無いな」

にやりと笑うと、ペドーが走り回る女の子(耶倶矢、夕弦、琴里)3人組の前に躍り出た。

 

「こら!耶倶矢。人の物を取ったらいけないんだぞ?それはドロボーのすることだ。

人間悪い心に負けそうになるが、それを制御してこそが人間だぞ?

ほら、琴里にごめんなさいは?」

 

「「……ごめんなさい……」」

耶倶矢、夕弦が顔を向き合わせて、数秒の沈黙の後に琴里に謝った。

 

「……いいのよ、私も、分けてあげなかったのがいけないんだし……」

琴里も琴里でばつが悪そうに、謝罪を受け入れた。

 

「さてと……十香はきなこを食べ過ぎです!お夕飯まで待ちなさい!

きなこは一日、5キロまでの約束でしょ?」

 

「む……そうだが……わかった」

小さくなった十香が、諦める。

 

「シェリちゃーん?お部屋の中でサッカーはダメって言ったでしょ?

悪い子はお尻ぺんぺんですよ?」

 

「ひぃ!?」

ペドーの脅し文句に、シェリが自身の尻を押さえて青い顔をする。

先日されたお仕置きの記憶はまだ新しく、シェリには効果は覿面だった。

 

「ボールが誰かに当たったら困るでしょ?」

 

「う、うん……」

ペドーが言い聞かせるようにシェリに話していく。

 

「さ、シェリちゃんゴメンなさいは?

将来はペドーさんのお嫁さんになります、旦那様の赤ちゃんたくさん産みますは?」

 

「ご、ごめんさい……将来はペドーのお嫁さんに――――あれ?

な、なに言わせようとしてるんだ!?」

あと少しで大変なことになりそうだったことに気が付いたシェリが慌てて、ペドーから逃げる。

 

「ちっ!うまく言質が取れると思ったのに……」

ボイスレコーダーをしまいながらペドーが小さく舌打ちをする。

 

「だーりん、わたしならお嫁さんになっても――」

 

「ペドー、トイレ……もう我慢できな――」

美九と折紙がペドーを呼ぼうとした時、横から声がかかる。

 

「みなさん、まだまだおこさまですわね。わたしなんてひとりでおふろにもはいれますのよ?」

 

『美九ちゃーん、心配しなくてもペドー君はちゃんと今の君を虎視眈々と狙ってくれてるよ?』

子供たちの中で比較的大人びた、そのしゃべり方。

その二人がこっちに歩いてくる。

 

「ぺどーさん、ここはわたしにまかせてほしいですわ。

こんなちゃんす――ではなくて、こんなときこそわたしがちからになりますわ」

 

『おおー、くるみちゃんは、お姉さんぶりたい年頃なんだねー』

ひとりはくるみ。七罪のあの光線を受けても唯一くるみだけは年齢が変わっていなかった。

今現在のくるみ位の年頃が、今のみんなとおおよそ同じであるあるため、変化が無かったのか、それとも七罪がくるみを基準にそろえたのか分からないが、それでもこのパニック一歩手前の空間において、少し大人びたくるみの存在はありがたかった。

 

もう一人はよしのん。七罪から解放されて何時の間にか四糸乃の手に収まっていた。

よしのんには影響がなく、年齢の変化が無かった。今は四糸乃と体の主導権を交代して皆をまとめるリーダー各となってる。

 

「二人は、心強いな……んじゃ、俺は令音さんと対策を練ってくるから、なんかあったら携帯に連絡よろしく」

手短に挨拶をして、ペドーが去っていく。

 

 

 

 

 

一機のプライベートジェット機が、空港の滑走路に止まる。

そのジェットに乗っているのはDEM社の社長にして天下無用の赤ちゃんプレイ野郎、アイザック・ウェスコットだった。

 

「エレンママー、ミルクほちいでちゅ~」

おむつに、哺乳瓶というもはや彼の正装ともいえる姿で、隣の女性エレン・M・メイザースに甘える。

ジェット機の内装はまさに異様の一言で、子供部屋の様なピンクや黄色のパステルカラーの壁紙に、ベビーベットの上にある回る道具や、備え付けの哺乳瓶など明らかに幼児を対象にした道具が並んでいる。

エレンママの手には哺乳瓶が握られ、このジェットがプレイベートジェットであると同時に、プレイ用ジェットであることが分かる。

 

「アイク……あんなことが起きたというのに、また来日ですか?」

エレンは真剣な話をしようとあえて、アイクと呼ぶが――

 

「ばぶー、ママは心配性でちゅー。

本社の奴らは、しばらく自由で良いでちゅー。

それよりも、大事なのは『イツカ・ペドー』だよ……家族や周囲に大量の精霊と思われる存在をかこっているんだ。嫌でも目に付くからね」

エレンが自身の持つ資料に目を通す。

そこには、調査部から送られてきた件の少年のデータが乗っている。

 

「〈プリンセス〉〈ハーミット〉〈イフリート〉〈ベルセルク〉〈ディーヴァ〉……

そしておそらく精霊またはそれに近しい者が二人……良く集めたといえますね」

 

「ああ、そうさ。ふふふ、フラクシナスは相当有能な人物を引き入れた様だ。

だが――前回の〈プリンセス〉の反転は彼の死がカギになった……

つまり、彼という存在は、我々にとっても重要な意味があるんバブー!

ちゅぱちゅぱ……」

 

「な、なるほど……」

5分とシリアスが持たなかったと、エレンが思いながら哺乳瓶でミルクを与える。

現実逃避気味に窓の外を見て――

 

(そう言えば、この国には……殿町君がいるんだった……)

なぜかその事を意識すると、胸がはねた気がした。

しかし、頭を振り関係ない事だと、自身に言い聞かせ、まだ消失反応が出ていない精霊――〈ウィッチ〉を狩ることを意図的に考えることにした。

 

 

 

 

 

「ふぅー!いい目覚めだぜ!」

顔面に傷を作りまくったペドーが、ベットから勢いよく目を覚ます。

気分はJOE・JOE(ジョー・ジョー)でメラメラと活力があふれてくる。

 

「うーん……ねむい……」

ペドーの隣で眠るシェリが目を覚まし、反対側の布団は空っぽだ。

寝乱れ、可愛いおへそが見えている。

 

「朝チュン……今思えば、朝チュンじゃないか!?

ふぅおおおおおおおお!!興奮する!!幼女と朝チュン!!!」

その場でひどく興奮したぺドーを置いてシェリが、下のリビングへと降りる。

 

「おはよー」

シェリが声をかけると、先客たちが挨拶を返してくれた。

 

「おはよう」

 

「……おはよう、ございます」

 

「あ!おはようございます」

そこに居たのは、琴里、四糸乃、美九の3人だった。

 

「ねぇ、結局昨日のあれ、どうなったの?」

琴里の言葉にシェリが、ため息をつく。

 

「いや、大変だったよ……ペド野郎が、ボクたちと寝たいって言いだすのは分かったけど、さすがに全員とは無理だったよね?」

昨日の晩、寝ることになったペドーは当然皆と添い寝したがる。

幼女との添い寝を見逃すほど、彼はおろかでもないし、欲望を押さえれる人物でも無かった。

その結果、くじを引いて添い寝するグループを制作したのだった。

折紙が仕方なく帰って、残るメンバーは十香、琴里、四糸乃、くるみ、シェリ、耶倶矢、夕弦、美九の8人。

その中で、ペドーと同室になったのは十香、四糸乃、シェリ、夕弦だった。

 

「まったく、大変だったよ!ボクたちの布団に入り込むわ、十香の寝相は悪いわで……

アイツの顔ぼこぼこに成ってたよ」

小さく笑いながら、シェリが話す。

 

「やぁみんな。朝ごはんを食べようか!」

顔はボロボロだが、妙につやつやした顔のペドーが未だに半分眠りの世界に居る夕弦を脇に抱えて姿を見せた。

 

「あ、ふーん……」

 

「あー……楽しそうですね……」

琴里が、嫌にいい顔をしたペドーを見て、昨日の興奮をわずかに悟った。

そしてそれとほぼ同じタイミングで、美九の目のハイライトが消えた。

 

「ダーリン……だーりん……私も、私も仲間に入れてくださいぃぃぃぃ……

昨日は、ちらちらと何度も私を見てくれたじゃないですかぁ?

獣の様に、生肉を目にした飢えた野獣の様に私をなんども、視線で撫でまわしたじゃないですかぁ……

もっと、もっと、昨日みたいに……昨日みたいに欲望をぶつけてください!!

私を、ダーリンの……ご主人の欲求を満たす道具にしてくださ――」

 

「やめなさい!!」

危険領域の突入しかけた美九を慌てて、琴里が押さえる。

幸いペドーは朝食を作るため、キッチンに立っているので聞こえはしていないだろうがもしも聞こえていたとしたら、()()()()()()()()が起きたに違いない。

 

「まったく、早くこの状況を脱さないと……あのロリコンが自分の理性にお別れする前に……!」

琴里は自身に、大変な事態が刻一刻と迫っているのを感じながら冷や汗を流した。

 

「あー!幸せだなぁ!!こんな日々がずっと続けばいいなぁ!!

さぁ!!みんな、ペドーさんのお膝においで!!食べさせて……食べさせてあげようねぇ!!」

いつもよりハイテンションなロリコンをみて、琴里の背中に悪寒が走った。




いつもは、舌足らずで幼いイメージのくるみですが、こんな風に周囲の子と年がそろうと比較的大人びたイメージ。

逆に耶倶矢、夕弦は一気にバカになる気がします。
そんなおバカな小さな子に、卑猥なことを教え込んで――
なんて風にペドーさんは考えています。


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超兵器P一号

最近熱くなってきて、ペースが落ちてきた作者です。
そろそろ熱中症でやばいですね……

皆さん気をつけて!
こまめな水分補給と塩分、そして幼女を!


2年4組の教室の中、一日中幼女を愛でようとしたが、琴里に追い出され仕方なく学生生活をエンジョイする事になったペドーに、殿町が語り掛ける。

 

「なぁ、ペドー聞いてくれよ。俺、すげー不思議体験しちまったんだぜ!

少し目をつぶったら、瞬間移動してて、橋の下に倒れてて……

なんか、エレンさんの残り香がしたんだ……近くにいたのかな?」

 

「あー、きっとそれは火星からきた侵略者ですね。

ほら、最近星々を滅ぼして回ってるやつに、寄生されたんだよ。

きっとそのせいで、記憶が無いんだな。

多分本人が知らない間に、謎の組織を作ったり、ボトルで変身したり、眼鏡の科学者に忠誠を誓われたりしているぞ?」

 

「いや、ありえねーって」

非常におざなりな言い方で、ペドーが話を流す。

正直言って殿町が何をしようと気にしない。

家に居る幼女塗れの五河家に居る方がずっと重要だった。

 

「くそう……本来学校とか休んで一日中幼女軍団と、きゃっきゃうふふする気だったのによぉ……」

目の前のごちそうを奪われた様な気分のペドーがうなだれるが――

 

「ハッ!!この感覚は――幼女が近くに!?」

ペドーの幼女センサーが、幼女の接近を知らせる。

なんかこれ、もう普通に出てる謎異能だよね。

 

「あ、ちょっと!?」

扉の前に居たのか、タマちゃん先生(賞味期限切れ)が驚いた声を上げ、そして小さな影が走りこんできた。

 

「ぺどー!」

 

「ぺどー!」

 

「ぺどー!」

ぞろぞろと入ってくるのは、小学生くらいの少女たち。

教室のメンバーはこの珍しい闖入者に対して、一瞬黄色い声援を上げ、そのすぐ後に()()()()()()()()()()()()()()、クラスメイトを思い出し一様に視線を泳がせる。

 

「なんだー、みんな来ていたのかー」

ここ数年、クラスメイトでさえ見た事の無い位のいい笑顔を見せたペドーが、少女たちを抱きしめる。

ほんのり汗をかいた体のにおいをかぎ、酷く興奮した様子を見せる。

当然――

 

周囲からは「いつものペドー」「もはや、お約束」「漢字一文字で表すなら『常』」などと言われている。

 

「あ、あの……五河君?その子たちは?」

タマちゃん先生(賞味期限切れ)がおずおずと聞いてくる。

 

その横をトテトテと小さな影が通り過ぎる。

新たな幼女の登場だ。

その子は、クラスの全員の視線を集めると――

 

「はじめまして。いつか ちよがみです。いつもちちがせわになっています。

ははのなまえは、いつか おりがみです。わたしはあいしあうふたりのよくぼうといきすぎた、わかさのけっかです」

 

「え?」

 

「折紙さんとの……」

 

どよッとした空気が渦巻く。

そして一瞬だけ、黒い笑みを浮かべるのは幼女化した折紙だった。

 

クラス中にくべられた特大の爆薬。その炎が噴き出す前に――

ペドーは疾走(はし)った!!

 

「ちよちゃ~ん!ダメじゃないかぁ!ちゃんとママとお家でお留守番する約束だろ?

さみしくなっちゃったのかな?」

 

「うん、さみしくなった……ごめいわく、かけてごめんね?パパ……」

 

「いいんだよ~、ちよちゃんのかわいい所が見れたから、特別に許す!」

千代紙を抱き上げ、顔を近づけるペドー!

そのあまりに成れた手つきは、本当の父娘の日常で――

 

「ま、こんなこともあるよね?」

 

「そうそう、色眼鏡でみちゃダメよね」

 

「くぅ~!ペドーには、娘までいるのか!俺は恋人すらいないのに……!」

ざわざわとにぎわうクラスの中では、まぁ仕方なよね?的な雰囲気が醸し出され寸前のところで爆発は収まった様だった。

 

「ま、本当は親戚の子なんだけどね」

最後にペドーが『オチ』をつければ、クラスの炎は完全に沈下したも同然だった。

 

(にしても……パパ呼びは良いな!!

こう……なんだか、新しい扉が開きそうだぜ!!)

 

目覚めよ!!その魂!!

 

おめでとう!ペドーは新しい性癖を入手した!!

ペドーが獲得した性癖

 

ロリコン

ドM

露出

女装

パパ←New!!

 

 

 

「さー、みんな、お家に帰ろうねー。

帰ったらおやつを――!?

危ない!!」

突如ペドーが目の前に居た十香をかばうように、体を広げる!!

体を大の字に大きく開き、身を挺して窓から入ってきた()()()を自身の身で遮った。

 

「ぺ、ぺどー!」

十香が声を出す瞬間、ペドーの服が音もなくはじけ飛んだ!!

 

「うを!?」

まさかの瞬間全裸!!

爆誕のネイキッドペドー!!

 

幼い十香の前に、小さな子に見せてはいけないような物が、一瞬ブラブラとしたような気がしたが、不自然な逆光で遮られて見えない!!

 

「服を布に戻したのか……!

七罪の仕業だな?危なかった……あと少しで、幼女の柔肌がケダモノだらけの教室でさらされる所だったぜ……

俺がいなくちゃ、やばかったな……」

何度もうなづくペドーと、教室内でいきなり始まったストリップショーに、ついていけないクラスメイト達の混乱熱が再発火して、周囲ざわつく!!

 

「む!?第二波来るか――!」

攻撃を予測したペドーが近くに居た亜衣の手から、手鏡を奪い取ると窓から飛んできた光を反射した!!

 

ぎゃーと、遠方で七罪の声がしたから反射に成功したのだろう。

これ以上ここにいるのは危険だと、ペドーが判断する。

 

「さ、みんな、今日は帰ろうか?」

全裸のまま、複数の幼女を侍らしながらペドーが、異様な空気に満ちた教室を後にする。

 

 

 

 

 

11月1日

十指に宝石、首にはゴールドのネックレス、素肌の上半身に纏うのはシルクの上等なガウン、ズボンは幅広で金色の糸で細かい刺繍のなされたズボン。そして手に持つのは、乗馬用の鞭が一つ。

イメージとしてみるのなら、中世大を舞台にした奴隷商人の様な恰好。

そんな、コスプレとしか思えない格好をしたペドーが、複数の鉄檻とその中にいる動物の耳とバニーガール風のレオタードを着せられた幼女たちを好色な目で見下ろす。

 

「ああ!()()なの!?ペドー!さっさとここを開けなさい!!!」

琴里が羞恥半分怒り半分と言った表情で、檻を内側から蹴飛ばした。

 

「くっくっくっく……俺に反抗とは、ずいぶん調教しがいのある猫が来たな」

椅子に座り、ぶどうジュースの注がれたワイングラスをクイッと飲み干せば、気分はまさに悪のご主人様だ。

 

「ああ!!もう!!」

すっかりトリップしたペドーをしり目に、何度目になるか分からない怒声を飲み込み、琴里が地団太を踏んだ。

 

 

 

七罪によって、みんなが幼女にされて以来七罪の『嫌がらせ』は次々と続いていた。

道を歩くペドーが突如、ぴちぴちのレザーパンツと網のタンクトップにサングラスという変態ルックにされたり、ペドーの周囲にいる何の関係もない女性が突如全裸の幼女に成ったり、家その物がピンクのネオンに彩られて風俗店に成ったり。

 

そして、そのたびにペドーがテンションを上げまくり、フラクシナスはその事後処理に追われていた。

 

七罪は社会的な死をペドーに与えようとしているのだろうが――

 

「マッポが怖くてロリコンが出来るかよ!」

と無駄にいい笑顔で、サムズアップをしてきてペドーにダメージはゼロ!!

結局琴里が一番、割が悪い状況に置かれているのだ。

 

 

 

『琴里、七罪の霊力の反応をキャッチした。ここから北西に一キロ!!』

インカムから聞こえる令音の声に琴里が反応する。

 

「ペドー!捕獲するわよ!!」

今日こそは、こんな不毛な繰り返しを終わらせようと思った琴里が、ペドーのほうを振り返ると――

 

カチャ!

 

琴里に巻かれた首輪に、犬の散歩用のリールが付けられる。

 

「は?」

 

「首輪よしっと!みんな~!

お散歩の時間だよ~!」

ペドーが握るのは、無数のリードの束。

一つ目は十香の首、犬耳をつけているだけあって似合っている。

2つ目の四糸乃はうさみみ、3つ目はくるみで狐、4つ目はシェリでトラ、5つ目と6つ目はサルで八舞姉妹にそれぞれ、7つ目は美九で牛の耳が付いている。

そして最後に琴里の猫耳。

 

「はぁはぁ……おさんぽ……ケモミミ幼女たちと白昼堂々おさんぽしちゃうんだ……

むふふ……むふ、ぐふ、ぐふふふふふふ……」

いろいろとお見せできる姿でない表情のペドー。

誰が見ても完全にアウトなその姿の中、かろうじてシェリが声を絞り出した。

 

「あ、ダメな奴だ。これ……」

 

「おさぁんポォウ!!散歩の時間だよぉ!!」

もはや、こいつがラスボスじゃね?的なオーラを全身からこぼして、ペドーが咆哮した。

それは、この世界に生まれ落ちた欲望の獣の産声か。幼女のすべてを食らう無限の捕食者の勝鬨か。

いずれにせよ、『コレ』をほおっておくことは出来ないと、その場にいる全員が直感的に感じた。

 

『シン――聞こえるか?シン』

令音がインカムから、精いっぱいの声を出す。

ペドーのオーラに押されて、誰も口を開けないリビングの中で、ソレは大きな存在感を放った。

 

「れい、ねさ、ん?」

 

『ああ、よかった。私の話を聞く位の余裕はあるようだね。

ここから西北に一キロ、そこに七罪の反応がある。

ほら、君好みの幼女な精霊の七罪だ』

 

「幼女!?幼女!!どこ?」

 

『落ち着き給え、七罪はきっと君と遊びたいんだよ。

君にも覚えがあるだろ?自身の心と違うことをしてしまう……

ツンデレ……だったかな?七罪はツンツンしながら、君が来てくれるのを待っているんだよ。

だからいたずらした。さ、迎えに行ってあげてくれないか?』

 

「うん……いく……七罪、迎えに行く!!」

令音との通信を切ると、すさまじい勢いでペドーが家を飛び出した!!

一瞬、本当に一瞬で消える様にペドーが走り出した!!

 

 

 

「時速、18キロ……時速22キロ……もはや人間技ではないな……

体内の霊力と、幼女に対する過度な興奮が体のリミッターを外したのか?

それともシンが幾度となく言っていた、幼女から生成されるというロリコニウムが実在して何らかの影響を……?」

弾丸の様に走るぺドーの反応を見ながら、令音が冷や汗をかく。

 

 

 

 

 

「ふぅ……そろそろね」

十分いたずらを楽しんだ七罪が、〈贋造魔女(ハニエル)〉に跨り移動を開始する。

自身の正体を知ったペドーを七罪は決して許すことは出来ない。

このまま、自身の能力を使いじっくりとペドーをなぶって、社会的な死を与える気でいた。

 

「くくく……さぁて、次は――!?」

いたずらのアイディアを出していた時、鋭い刃物のような殺気を感じた。

次の瞬間――!

 

ザッシュ!!

 

「え?あれ?」

何か、何かが一瞬自分の前を通り過ぎた気がする。

その『何か』が通った後、七罪の体から力が抜けて倒れ伏した。

 

「能力は厄介ですが、戦闘自体は大したこと無い様ですね」

 

「なにが――!?」

ここにきて、初めて七罪は自身が()()()()と認識した。

 

「いたい、いたい、いたい!?いたい!!いたい!!」

あふれ出る血と、感じた事の無い痛みが全身を支配していた!!

 

「急所は外しました。殺すだけなら、今からでも出来るので。

さて……研究の為に生け捕りが好ましいですが……

逃げないように、手足を落とす処理をしなくてはいけませんね。

では、死なないでくださいね?」

 

「い”や、だ、じに、だく、ない……じにたく……」

エレンがゆっくり近づいてきて――その更に後ろから、黒い影が飛んできた!!

 

「何奴!?」

とっさに気配を感じたエレンがブレードを振るう!!

正直この距離に来るまで知覚できないはずは無いのだが……

 

キィン!

 

「何!?」

それは、どこぞの王族や貴族の様な服装をしていた。

素肌の上半身に直接纏ったローブに、10指の指輪。

兎に角異様な風体の男が、怪しい光を放つ大剣を背負い、獣の様な理性を全く感じさせない目でエレンを見ていた。

 

「まさか、貴方……イツカ・ペドー……?」

 

「幼女を傷つけるなど!!絶対にゆ”る”さ”ん”!!」

 

その時不思議なことが起こった!!!

ペドーの持つサンダルフォンが、持ち手から折れて、更に剣自体が二つに開き真ん中に銃口が現れた、銃の様な形に変化した!!

そして、精霊たちを思わせる色の宝玉が光始める!!

 

「オール・スピリットコンバイン!!」

 

「ちょ、ちょっと!?」

もはや精霊どころじゃない、エネルギー量にエレンがたじろぐ!!

 

「ハイパーマキシマム・タイフーン!!」

サンダルフォンだったものから放出される、霊力の光線!!

エレンはすさまじい勢いで、その場から離脱した!!

 

「くそ、アイクに……教えないと……!

あのロリコンは危険……!」

 

 

 

 

 

「ふぅ……すげーいっぱい(霊力)出たわ……

あー、なんかすっきりした……

うん!賢者タイム的なすっきりだぜ!!」

 

「な、なんでよ……」

すさまじく気持ち悪いことを言っていたペドーを七罪は見たが、体が訴える痛みが無情にも意識を刈り取っていった。




ロリコニウムを過剰摂取するとこうなります。
特に体内に精霊の霊力を保持している人は、注意してくださいね!!
適度な補給も必要ですが、取りすぎ注意ですよ?


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扉より来る者

ずいぶん時間が空いてしまってすいません。
ゆっくりゆっくりと書いていくので「お、更新来てるラッキー」程度の期待度でお読みください。
ペースは遅くなっていますが、エタリは無いので安心してください。


「――どうぞ」

そう言って、ガラス製のテーブルに紅茶が置かれる。

一つのテーブルを囲んで座っている、二人の人物の視線が一瞬だけ絡み合う。

 

一人は折紙。この家の家主である彼女は突然の来客にも、真摯に対応してる。

子供になっても、いつも通りで、ペドーが何らかの対応をしたのか体が急に戻ってもいつも通りな鉄面皮な彼女。

だが、僅か――ほんの僅かに、その顔には緊張が見て取れた。

 

「いただきます」

もう一人の人物が、紅茶を受け取り香りを楽しんだ。

だが、決して口をつけようとはしなかった。

 

「何の用?」

折紙の言葉に警戒が混ざる。

それもそのはず、目の前に居る人物は――

 

「エレンママ……」

 

「ママは余計です!」

僅かに鉄面皮が崩れるその人は、DXM社の執行部長エレンメイザース、またの名をエレンママだった。

折紙が彼女に対して、警戒を持つのは仕方のない事だった。

僅か数週間前、彼女はペドーの為エレンと剣を交えている。

ゲームでも、遊びでもない、人間相手の本気の殺し合いをした相手だ。

それが、何のしこりもなく、テーブルを挟んで紅茶を啜れるはずがなかった。

 

「ん、んんッ!では、初めに要件です。

トビイチ オリガミ。私の下で働く気はありませんか?」

 

「赤ちゃんの世話などしたことは無い」

 

「違います!!エリックの世話は私の仕事です!!

働くというのは、戦闘要員としてです!!」

折紙に言い返すと共に、エレンが持ち込んでいたパッドを触りだす。

 

「貴女……ずいぶん勝手をした様ね。

イツカ シドウの為でしょうけど、もう、ASTで働くのは無理ね」

経歴を読み上げながら、エレンはそう語る。

当然だが、ASTの実績はすべて民間には、秘匿である。当然民間企業であるDEM社が知る由もない『ハズ』だが知っている。

場合によっては圧力をかけて、折紙に二度と戦うチャンスを奪う事も可能だろう。

 

「……ッ」

小さく歯を噛む折紙。

 

「さて、今までがムチなら此処からはアメです。

私の下につくなら、ASTよりももっと上位の装備を与えても良いですよ?

そして、とある秘匿情報も」

 

「秘匿情報?」

こっちをスカウトする為に、餌としてエレンが差し出した情報。

一体何なのか、折紙はわずかに興味を持った。

 

「貴女が両親を失った、事件……あの現場には、別の精霊の霊力が観測されています」

 

「――!?」

折紙がエレンの言葉に、目を見開いた。

 

「復讐、どう?それを果たす力が欲しくない?」

それは誘惑、今の自分を捨ててでも果たしたい、目標――

 

「分かった、貴方の下につく」

折紙は、非情な選択を下した。

 

 

 

 

 

「ん――ここ、何処……痛ッ!?いっだぁ……」

真っ白な部屋の中、七罪が目を覚ました。そして胸に走る痛みに体を震わせた。

七罪は知る由もない事だが、ここは町の地下にフラクシナスが建設した秘密施設の一つで、対精霊用の様々な施設があるが、その中の一つだった。

 

七罪はいつの間にか自分が知らない場所で寝ていた事、自分が大けがを負っている事に混乱したが、その前後の記憶が一拍置いて、次々とフラッシュバックする。

 

「そうだ……私、エレンとかいうウィザードに襲われて……!?」

その時急に記憶にノイズが掛かる!!

まるで、自身の体がこの先は思い出してはいけない。とロックをかけている様に。

 

「そうよ……あの、あと……あの、あとに…………」

 

「俺が助けたんだよ!!」

 

「うわぁ!?痛っだぁ!?」

突如耳元で聞こえた声に飛び上がり、同時に胸の斬られた傷が痛み七罪は悶えた。

 

「そうよ……思い出したわ……執行部の化け物の後、本物の怪物が来たのよ……!!」

傷を負った胸を抑えながら、部屋の中をきょろきょろと見回す。

マジックミラーと思われる、鏡の置かれた窓。簡素なテーブルと2つの椅子。

さっき、自分が寝ていたベットにクローゼット、そして部屋の隅に置かれた()()飲み物が置かれた冷蔵庫。

 

「そこにいるのは分かっているわ!!出てきなさい!!」

七罪が、冷蔵庫に向かって指を突き付けるが反応は無い。

 

「とぼける気ね……!

引きずりだして、やるわ!!」

七罪が、恐る恐る冷蔵庫の扉を開けると――!!

 

「誰もいない……?」

中は普通の冷蔵庫だった。

飲み物は、単純に入れ忘れただけらしい。

 

「残念はーずれ!」

再度聞こえるペドーの声に、七罪が怯える!!

 

「!? ならクローゼット!クローゼットよ!!」

クローゼットを開くがそこにも、ペドーの姿はない。

くくくと、ペドーの小さな笑い声が聞こえてくる。

 

「べ、ベットの下に――と見せかけて、天井に張り付いてる!!」

七罪がやけくそ気味に、天井を見たり、ベットの下を覗くがどちらもペドーはいない。

 

「な、なによ!!バカにして!!」

枕を掴んだ瞬間、指に何か固いものが当たる。

 

「ん?」

その中にあったのは、小さなスピーカーだった。

そう、最初に聞こえた声はベットの上、当然七罪は枕の上に頭を乗せていて――

 

「はいはい、最初からいなかったって訳ね!!

お疲れさまでした!!ばーか!!ばーか!!」

結局スピーカーを使ったいたずらにまんまとハメられた、七罪が枕を床に叩きつけると、露骨に不機嫌になった。

 

「まぁ、アイツがいないってわかったし――」

 

「俺は、ここだぁああああ!!!」

七罪が油断した瞬間!!ベットのマットレスが跳ねる!!

 

びりッ!びりぃ~~!!

 

マットレスの一部が破れると、そこからペドーが顔を出す!!

 

「うわぁあああああああ!!!」

 

「ふぅ……七罪の体の重さを全身で感じられた……いい『圧』だったぜ?」

恐怖の悲鳴を上げる七罪を放置して、マットレスからゆっくりと身を出すペドー。

 

「いやぁああああああああ!!!何時からいたのよぉおおおおお!!」

 

「七罪が、運び込まれてから、ずぅうううううううううううううううっと、マットレスの中で、待ってたよ!!」

嫌にいい笑顔を見せるペドー!!

グッと、サムズアップしてみせる!!

 

「うわぁああああああああ!!!キモイぃいいいいいいいいい!!

ぐぅえ!?傷が……!叫んだせいで傷が開いて……!」

エレンに負わされて決して軽いとは言えない傷が、暴れまわったり怒鳴ったりしたことで一気に開いたようで、七罪が胸を押さえる。

 

「ああ、可愛そうに……傷跡をなでなでしてあげるからね……むふふふふふふふふ……」

 

「あ、ちょ――!?」

怪しい笑みを浮かべて、服の上から七罪の胸(の傷)を優しくなでる。

 

「さ、さわった!!今、今私の胸さわ――」

 

()()()()訳ないだろ!?目の前のちっぱいとのコミュニケーションをしないなんて失礼だろ!?現代人はケータイばっかりで、生身のコミュニケーションをしないからダメだよね!」

完全に開き直ったペドーの、言葉に七罪が一気に顔を赤くする!!

 

「もぉおおおやだぁああああああ!!」

 

「そこまでだ!!」

七罪の声が響くと同時に扉が開いて、姿を見せた屈強な男たちがペドーを拘束する。

「ペドーがいたぞ!!確保ォおおおお!!」

 

「はなせぇ!!七罪には、七罪には俺がいてやらないと……!!」

バタバタとペドーが暴れて、何とか七罪に近づこうとする。

 

「ひぃ!?」

肝心の七罪が怯える表情を見せている為、ペドーが無垢な子に襲い掛かろうとしているようにしか見えないが……

 

「くっそ!?なんて力だ!!男子高校生の力じゃないぞ!?」

 

「これが、幼女とイチャイチャしたいがために、DEM社に単身で乗り込んだロリコンの力か!?」

 

「仕方ない、最後の手段だ!!ペドーさん、司令がお話したいことが有るって、ほほを赤く染めながら、恥ずかしそうに言っていましたよ?」

一人の男の言葉を聞いた瞬間、ペドーがピタリと動きを止める。

 

「行くしかねぇな……かわいい妹の為に。

七罪?悪いけど、ちょっと待っててね?」

 

「ひゅ!?」

ペドーが視線を向けると同時に、七罪が震えあがった。

しかしペドーはそんなことを気にせず、部屋からスキップをしながら出て行った。

一人残された七罪は、助かったとばかりに胸をなでおろした。

 

「今更だけど、あの子、ペドーさんが近づいてきた時の方が怯えてね?」

 

「言うなよ……いろいろ台無しになるから……」

二人の男もかわいそうな物を見るような目で七罪を見て帰っていった。

 

 

 

 

 

「さて……なにか申し開きはあるかしら?」

部屋の中、顔に笑みを張り付けた琴里が司令の椅子に座って引きつりながら口角をあげる。

 

「ん?あれ、琴里なんか老けた?」

 

「七罪の能力が解除されただけよ!!」

 

ドンッ――!

 

と大きく、足を地面に叩きつける。

 

「はぁ、前のほうがよかったなぁ……すぎた過去はもう帰らない、か」

しみじみと成長してしまった琴里を眺める。

 

「あ・ん・た・ね!!自分が何をしたか、解ってるの!?

自分がどんだけのチャンスをつぶしたか……!」

 

「チャンス?」

怒れる琴里の言葉にクエスチョンマークを返すペドー。

 

「そうよ、あんたは七罪のヒーローだったのよ。

エレンに襲われて、そこに駆け付けたヒーロー。

これはあの頑なな七罪の心を解きほぐすチャンスだったのよ?」

琴里がモニターを付けると、部屋の隅で布団を被って怯える七罪を見せる。

 

「あの様子を見る限り、天使は使えない……

言い方は悪いけど、付け入るチャンスだった訳ね」

 

「お、美九の時と言い、精霊の封印さえすればどんな手段を使っても良いや感が強くなってきたな。

けど、安心しろよ。俺が、一人で怖がっている幼女を一人で放っておく訳ないだろ?

さてと、んじゃ行きますかね」

真剣な顔つきになって、ペドーは部屋を出ていく。

大人に化けた七罪、真の姿を見られることを嫌った七罪、そして姿の違いで大きく態度の変わった七罪。

ペドーの中で、とある仮説がゆっくりと形作られていく。

 

 

 

「やぁ、七罪!傷の具合はどうだい?」

 

「ひぃ!?こ……こっち、くんな……!」

部屋のドアを開けた瞬間、七罪の体が露骨にこわばった。

怯えるような視線で、枕を振りかぶるが――

 

「おいおい、そんなの、投げんなよ」

 

「ど、どうやって!?」

僅か数センチとなりに、突如現れ姿を見せたペドーに七罪が怯える。

布団をはぎ取り、じりじりと部屋の隅に七罪を追い詰めていく姿は、完全に幼子に乱暴しようとする性犯罪者だが、様子を確認する職員たちは必死になって抑える。

 

「なぁ、七罪。お前、どうして俺に化けたり、ほかのみんなを困らせるような事したんだ?」

ポンとペドーが七罪の肩に手を置いた瞬間、ビクッと七罪の体がこわばった。

 

「そ、それは、あ、あんたが……わたしの、本当の姿を、みたからよ……」

 

「今の姿のことだな?なんで、この姿はダメなんだ?」

ゆっくりと、ペドーが七罪に問いただしていく。

まるで尋問の様で興奮するな、とペドーが勝手に思う。

 

「それは……それは、私がみ、みすぼらしいから、です……」

眼に涙を溜めて涙す一瞬前の顔のまま七罪が、絞り出すように言った。

 

「だって、この姿じゃ誰も相手してくれなかったんだもん!!

『あっちの姿』の時はみんな違った!!ちやほやしてくれて!!優しくしてくれて!!何でも出来るつもりだった!!」

ついにぽろぽろと泣き出す七罪。

 

(やっぱり自分の姿に、コンプレックスがあったのか……)

嫌な予想が当たってしまったと、内心少し困るペドー。

 

「こんなブスがお姉さんの姿とか、キモイとか思ってるんでしょ!?

優しい言葉の影で、私を笑っているんでしょ!?みんなそうよ!!見るのは外見だけ!!

誰も、誰もこの私なんか、好きじゃな――ふぶぅ!?」

ペドーが七罪のほほを両手で押さえつける。

圧力がかかった七罪の顔はひょっとこの様な唇を尖らせるような形になる。

 

「はーい、ストップ。ネガティブタイムは一時終了。

やることは決まった。さてと、準備に時間が掛かるな……

えーと、アレとアレと、アレと……」

何かを考えるような口調で、ペドーが無意識に視線を上に向ける。

 

「ふぶ……ふぶ!ふぶぶ!!」

七罪が、必死な顔でペドーの手をタップする。

 

「よおし!!んじゃ、続きはまた明日!!ばいば~い。

あ!最後に一つ!!俺はBBAの姿より、今のロリロリな七罪のほうが好きだぜ!!

今度こそ、じゃあな!!」

手を振りながら、ペドーがその部屋を後にする。

 

「なんなのよ……マジでアイツ何なのよぉおおおおお!!!」

まるで嵐のようなロリコンの言動に振り回された七罪の、魂の叫びが響いた。




ロリ精霊には、なんというか、見ていたくなる表情がある気がする。

四糸乃は、小さく驚いたようなきょとんとした顔。
くるみには自信ありげな、ドヤ顔。
琴里は、あせるような、慌てるような表情が。
シェリにはぷんすか怒ったような顔が好きですね。

個人的には七罪はガチ泣きにならない程度、少し泣かせたいです。


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第三惑星の奇跡と悪夢

最近涼しくなってきましたね。
秋の夜が近いのを感じますが、それでも熱さの戻りには要注意です。

秋の夜長には、まだ早いですが……
月でも見ながら、涼みましょうかね?

おや?あれは月では無くて……

???「このロリコンどもめ!!」


ちゅん、ちゅん……ちゅん、ちゅん……

 

「ん、ん~?」

ラタトスクの七罪を収容している部屋で、七罪がゆっくりと身を起こす。

窓など無い部屋だが、天井にあるスピーカーから鳥の囀る声と、朝を知らせるモーニングコール代わりの音楽が流れてくるのだ。

 

「そっか、ここ、よね……」

七罪が鼻を鳴らせば、壁の一部がテーブルに変形して、その上についさっき出来たことを匂わせる朝食が一式出来ていた。

 

「ここ……引き篭もるには、最適の空間よね。

3食おやつ付きで、ベッドもあるし……まぁ、問題はあのロリコ――」

 

「やぁ、ナッツみん。おはよう……昨日は、その、すごかったね……」

七罪が視界の端、噂をしていたロリコン野郎を目にする!!

 

「うぇえええええ!?」

七罪は奇声を上げながら、胸の傷が開くことを気にせずベッドから逃げ出す!!

 

「な、ななな、なんで、あんたが、ここに!?いったい、何をしてたのよ!?」

 

「何って……朝チュン?」

ペドーが体を隠す布団から見えるのは、素肌の両肩!!

 

「ま、まさか!?」

万が一を思い、自身の服装を確認するが、ちゃんとパジャマのままだった。

 

「あー……あせった……」

七罪が自身の額に浮かんだ汗をぬぐう。

 

「あーあ、バレちゃったか。実はさっきのはうそなんだ。

朝ごはんを持ってきた後、すやすやしている七罪を見ていて、つい我慢出来なくなって、お布団に入っちゃったんだ。てへ、ペロ!」

拳を頭に当てて、ウインクしつつ舌をだすペドー。

 

「すっごいむかつく!!っていうか、さっさと布団から出なさ――あ、いややっぱ出なくていいわ!!」

布団から出る様に言おうとした七罪が、部屋の隅に脱ぎ捨てられた男物の下着や服を見つけて断る。

 

(くっそ~、コイツ完璧に、今までの仕返しに来てるじゃない……)

七罪が心の中で、爪を噛む。

ペドーを気にしても始まらないと思った七罪は、現実逃避気味にテーブルの朝食に手を伸ばした。

 

「さ~、七罪。それが終わったらお出かけしような~」

 

「お出かけ?」

スープを飲みながら、七罪がペドーに視線を投げる。

 

「そ!デートだよ!!」

そう言ってベッドの下から取り出すのは、大きな麻袋!!

人間一人、もっと言えば七罪一人位を入れるのにちょうどいいサイズ!!

 

「それ。デートの為の道具じゃ……」

怯える七罪が、カップを落とす。

しかしペドーは止まらない!!

 

「ふふふ……さぁ……俺と!!幼女(七罪)の!!戦争(プレイ)を始めようじゃないか!!

ふはははは、ははははは!!!はぁはははははっはっはっはっは!!」

 

「い、いや、いやぁぁあああああ!!!」

ペドーが麻袋を広げ、七罪に被せると勢いよく部屋から逃げ出した!!

 

 

 

「……これ、普通に犯罪じゃないかしら?」

別室でモニターを見ていた琴里が小さくつぶやいた。

なんだか最近ラタトスクがペドーの変態行為をバックアップする組織に変わってきている事を感じながらつぶやいた。

 

 

 

 

 

「だせー!!だせぇ!!私なんか、食べたっておいしくないわよ!!」

七罪の中では何処へ連れていかれるか分からない、恐怖で一杯だった。

煮えたぎる鍋の前か、それともミンチにされてハンバーグにされるのか、気が気でなかった。

麻袋の中で必死に七罪が抵抗するがペドーは止まらない、人間とは思えない力で七罪一人を抱えて走って何処かへ向かっている。

 

「食べる!?性的に!?あ、いや、今はそうじゃないぞー。

七罪、今日俺がお前を変身させてやるよ……ビューティーでかわいいBBAとは違う幼女の魅力たっぷりに変身させてやるのさぁ!!ぐっへっへっへっへ!!」

 

「せ、性的!?変身!?」

今度のペドーの言葉で、七罪のイメージがさらに変わる。

煮えたぎる鍋が置かれた部屋は、薄暗いそれでいてムーディで怪しいアダルティな部屋へ、そして七罪をミンチにする料理人は際どいボンテージに身を包んだ怪しい男に。

 

(へ、変身させられる……!

男どもの欲望を満たす精霊に……いや、むしろ使い捨ての道具に!?)

七罪の脳裏には、不自然に腹が膨らみ、なぞの白い液体が掛かって、全裸に首輪をされて目にハイライトの無くなった自分が豚小屋に放置される、凌辱系エロゲのワンシーンの様な物が想像される。

そうこうしているウチに、ペドーは目的の場所に七罪を置く。

そしてドアを開けて、その場から逃げていった。

 

「こ、ここは……?」

もぞもぞと、麻袋から抜け出した七罪の目に飛び込んできたのは、煮える釜でも、ミンチの機械でも、怪しい部屋でもなく、調教師でもない清潔感にあふれた部屋。

隅に置かれたアロマキャンドルが揺れ、中央にはベッドが置かれている。

想像していたよりもずっと、普通な部屋だった。

 

 

 

「はぁい、お・ま・た・せ♡

サロン・ド・ペドフィリアの出張で~す!」

七罪が来たと思われるドアから、身長の高い長髪の女の子が出てきた。

何処となくキラキラした瞳と、すらっとしたスレンダーな体系が妬ましい。

 

「あ、あんた誰よ!?」

 

「うふ、紹介が遅れたわね。私は五河 詩織よ。

気軽にしおりんって呼んでね?」

七罪の安心させるように、しゃがんで目を合わせきて、肩をポンポンと優しく叩いた。

 

「あ、えっと……よ、よろしく、お願い、いたします……」

七罪はそのあまりに、気さくな態度にすっかり毒気を抜かれてしまった。

 

「それじゃ、さっそく服を脱いであのベッドの上に横になって?」

 

「はぁ!?」

詩織から発せられた言葉に、七罪が素っ頓狂な声をだす。

 

「あら、聞いてなかったの?今日は貴女を変身させちゃうのよ?

第一段階目は、この通りエステでーす!」

じゃじゃーんと自慢げに、高級そうなアロマオイルを持ち出す詩織。

 

「はっ!なるほどね、私みたいな勘違いブスが喜んでる様を見て、あざ笑おうって――」

 

「教育的指導!」

 

「あだ!?なに、すんのよぉ……」

ネガティブな七罪の言葉を遮る様に、詩織の軽いチョップが七罪の頭に当たる。

 

「良い?七罪ちゃん。この世には確かに豚そっくりのBBAがいるわ。

けど、それと同じように天使の様な幼女たちも居るの。

生まれ持った違いは確かにある。けどね、なんの努力もしないで諦めるのは早いわよ?

とりあえず、あなたは『女』という性別に胡坐をかきすぎね。努力なさい!努力を!!ひがむのはそれからだって遅くないんだから」

詩織の言葉に、七罪が息を飲む。

 

「と、いう訳で――エステ、はじめちゃうわよ?」

 

「あ、えっと、心の準備ががががががががががが」

あっという間に七罪は服を脱がされ、ベッドの上に置かれ、エステを受けさせられてしまった。

必死に抵抗しようとしたが、「もう、むりでしゅ……」の言葉と共に気を失ってしまった。

 

数分後……

 

「ふぅおおお……なんという赤ちゃんクオリティ……」

七罪が自身の両手の指を見て、感動のあまり声を出していた。

すべすべつやつや、まさにその手は卵肌、いや、それどころか生まれたての赤ん坊の様な手だった。

 

「どう?びっくりした?エステでも、こんなに変わることもあるのよ?

じゃ、次のお部屋行ってみましょうか?」

七罪に服を着替えさせて、次の部屋へと誘う詩織。

 

「は、はい……」

この時珍しく(七罪本人でも驚いた)素直に答えることが出来た。

 

 

 

「次のお部屋は~~~~散髪のお部屋で~す」

そう言って詩織が見せるのは、まるで床屋の一室を借りてきたかのように精巧に作られた床屋さんにある椅子と、流し台だった。

トレイにはよく手入れされた、ハサミやブラシ、櫛などが置かれている。

 

「切るの?」

不安げに七罪が詩織を見上げる。

自身の髪はぼさぼさで愛着など無いが、切るとなれば話は別だ。

七罪は拒絶の意を詩織に示す。

 

「怖い?そうよね。けど安心してね?切るのは枝毛だけだから。

その前にシャンプーとリンス、トリートメントをして……

大丈夫よ。髪は女の命、ぞんざいになんかしないわ」

詩織の真剣なまなざしに、七罪が小さくうなづいた。

 

 

 

「ねー、七罪ちゃん。七罪ちゃんって、週にどれくらい髪に櫛通してる?」

シャンプーを流しながら、詩織が七罪に尋ねた。

 

「き、きほん……やらない……」

 

「あーら、ダメじゃない。さっきも言ったように髪は女の命!

手間をかけてもかけすぎなんて、事は無いんだからね?」

ほら出来た。の声と共に七罪が鏡に映る自分をみて、再度声を上げた。

 

「これ、私……?」

 

「うふ、素材が良いのよ。素材が。

んじゃ、次の部屋に行きましょうか」

にっこりと笑うと詩織は七罪の手を引いて、次の部屋へと進む。

この時すでに七罪の抵抗はほとんどなくなっていた。

 

 

 

次の部屋は、もはや部屋というより店内と呼ぶ方がふさわしい場所だった。

ハンガーやマネキンが並び、みなそれぞれおしゃれな服を身に纏っている。

 

「ここは……ブティック?」

 

「そう、七罪ちゃん専用のブティックよ?

七罪ちゃん変身作戦第三段!キュートな服で変身よ?」

美容、頭髪に続き服と来た。

だが、七罪は店の発する『リア充オーラ』とでもいう独特の雰囲気にすっかり気おされてしまっている。

 

「わ、私に何を着せる気よ?」

 

「うーん、こればっかりは好みだし……私一人が決めて言い訳じゃないでしょ?

だから、アドバイスをくれる人を呼んじゃいました~

みんなカモンカモン!」

ぱちぱちと手を叩くと、部屋の奥から数人の女の子が出てくる。

青い髪のパペットを付けた少女、赤い髪の軍服を肩にかけた少女、ひときわ幼いゴスロリに身を包んだ幼女、そして最後に褐色肌で元気いっぱいと一目でわかるボーイッシュな少女。

 

「いい!?」

突然の他人の登場で、七罪が小さく嫌がった。

 

「大丈夫よ、怖くないわ。さ、服を選びましょうね?」

詩織が優しく七罪の背を押す。

 

「お前、そのしゃべり方……」

褐色肌の子が何か言いたげだが、すぐに口を閉じてしまった。

 

「?」

小さな疑問は残る物の、みんながそれぞれの服を差し出して次から次へと、着せ替え人形の様にされる七罪。

 

「やっぱり、もっとふりるがいりますわ」

 

「うげー!ボクはそんな動きにくそうなの、ゼッタイ着ないぞー?」

 

『おややん?シェリちゃんももっと、可愛い服着るべきじゃないかな?』

 

「七罪ちゃんコレ着ない?大切な部分にチャックが付いたレザーの服……」

 

「あんたは!なんてもの持ってくるのよ!?」

詩織の冗談に赤髪の子が、蹴りを叩き込んだ。

てんやわんやで、3時間ほど過ぎた時、ついに七罪の服が決まった。

そして次は最後の部屋だった。

 

 

 

「それじゃ、七罪ちゃん。最後の相手は私よ?」

部屋の中、椅子に座った詩織が手招きをしている。

肌をエステされ、髪も手入れされ、新しい服も用意された。

なら最後に来るのは?

 

「うすうす、気づいてるわよね?最後はメイクよ」

詩織がウインクして、化粧品のセットを差し出してきた。

 

「…………メイク?」

 

「そう、七罪ちゃんを生かす為のメイク。

取り繕って、誤魔化すんじゃない、貴女本人を生かす為の『変身』」

もはや七罪は嫌がることは無かった。

ただ素直に、詩織の前に座って彼女の化粧を受け入れた。

 

「ねぇ、七罪ちゃん。ちょっとした勝負をしない?」

 

「勝負?」

手を動かしながら、詩織がそんなことを言ってきた。

このタイミングで、若干不穏な単語にわずかに身構える七罪。

 

「その姿は、自分はダメだダメだって思ってる、七罪ちゃんをちゃんとカワイク出来たら私の勝ち。

もし、私の手で変身させられなかったら、七罪ちゃんの勝ち。

そうね……ここを出して自由にしてあげても良いわ」

 

「!?」

あまりに簡単な勝負に、七罪が声を上げそうになる。

 

「さ、出来たわ。後ろに鏡があるわ。

見て見て?」

すぐに終わった化粧。七罪は詩織に背を向けて、後方にあった姿見に映る自分を見て驚いた。

 

「これ、私……?」

鏡に映るのは、やぼったい自分ではなかった。

かわいらしい少女が、こちらを向いて驚いた顔をしている。

 

「うそ、うそよ……こんなの、何かの間違い……だって、アレだけで……

私がこんなにかわいいなんて、おかしいわよ……!」

否定の声を上げる、七罪の後ろで詩織が立ち上がるのが鏡に映った。

 

「そうかしら?変身は、意外と簡単に出来るのよ?

()()()()()ね?」

詩織が自身の長い髪を掴んだ時、するりと髪が落ちた。

 

「え……詩、織……さん?」

鏡の中、詩織が髪――ウイッグを外し、メイク落としで顔の化粧を取る。

そして男の声で――

 

「詩織?誰それ、俺ペドー!!

じゃんじゃじゃ~ん!今明かされる衝撃の真実ゥ!!

俺は、幼女の味方!ペドーさんだぜ!!」

勢いよく、女性ものの服を脱ぎ捨てる!!

それの姿は間違いなく、今朝のロリコンで――!!

 

「うわぁああああ!!!!」

 

「いやー、楽しかったぜ。お前を変身させるのはよ!!

すっかりカワイクなって……うんうん、ペドーさんはうれしいぞ!!」

 

「あ、いえ、あ?」

思い出すのは詩織との記憶!!

サロンでマッサージされ、シャンプーされて、服を着替えさせられて、そして化粧までさせられた相手は!!ロリコン!!

 

「い、いやぁああああ!!!」

自分がかわいくなったことと、同じくらい衝撃の真実を知った七罪は、情報を処理しきれなくなり走って部屋から逃げ出した!!

 

「七罪!?七罪何処行く――あ、転んだ」

手を伸ばした先、サロンの場所で気絶した七罪を、ペドーは優しく抱き上げた。

 

「ふぅ、変身の反動が大きすぎたかな?」

すっかり可愛くなった、七罪をペドーが満足気に連れていく。




いや、違うんだ……真ゲスじゃなくて、真ペド……そう!これは真ペドなんだ!!
決してパクリではない……オマージュ、オマージュです!!


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逃げる心

この前、再びランキングに乗りました。
やっぱりお気に入り数がグン!と、増えますね。

惜しむべきは、私が親や友人に「この作品俺が書いたんだぜ!!」
といえない事ですね。その後の相手の態度を考えるともうね……

けど、皆さんのおかげでここまで来れました。
お気に入り、感想、評価、誤字指摘、そして読んでくれるだけでもうれしいです。
皆さん、本当にありがとうございます。


「ふむ……作業効率を考えて、あと――」

DEM社の社員の一人、マードックがディスプレイに現れる報告を見る。

 

「ミスター……一体なにを?」

同じ役員の一人がおずおずと、声をかける。

その声は、人間を見るとは思えないような恐怖を含んでいた。

いや、その男だけではない。

この会議室には、先日ウェスコットに反旗を翻そうとしてエレンに腕を切り落とされた役員たちが集まって会議をしている最中だ。

 

「いや、なに。気にする事は無いよ。ただの暗殺の準備さ――

聞き分けの無い赤ん坊に社長の座を譲ってもらおうとしているだけだ」

 

ざわ――!

 

一瞬で会議室がざわめきだす。

それもそうだ、ここに居るほぼ全員が先日のウェスコットの『制裁』を受けている。

リアライザのおかげで腕はくっついたが、心は皆砕けたままだ。

 

それなのに、相手を暗殺?なにを考えているのか。

 

「大気圏外に、我がDEM社の使用していない、人工衛星が多数あります。

使用していないだけで、使用できない訳ではないんですよ。

まぁ、今回の使い方はそれを集めて地上に――」

 

「落下させようというのかね!?」

マードックの意思を読み取った男が、立ち上がった。

 

「ご名答。哀れにも赤ちゃんプレイ野郎は、お星さまになってしまうのですよ」

 

「一体、どれだけの――」

今度はアイザックが相手の言葉を先読みした。

 

「被害が出るのかって?まぁまぁまぁ、仕方ないですよ。

けどね?わがままな赤ちゃんがこの世から消えるんですよ?

それで十分じゃないですか」

再びざわざわと、会議室にざわめきが広がる。

 

「それに、こんなチャンス滅多にないですよ?」

アイザックがパワーポインターで、会議室の壁に一枚の設計図を映し出す。

役員たちが、一瞬止まりその設計図に書かれたサインを見て騒めく。

 

「こ、これは!?」「まさか!!」

 

「そう、これはかつてDEM社と提携していた軍事開発組織の担当が開発し、危険性から封印した禁断の兵器です。

本人はすべてのデータを捨て去ったと言いましたが、実はデータは残っていたんですよ。

彼の研究室に保管された、真珠に偽装されたオブジェの中にね!!」

それは禁忌とされる兵器の設計図。

あまたの武器を生み出した製作者さえ、己の良心の呵責に耐えられず秘匿した悪魔の兵器。

それが今、マードックという狂った男の手の中にあった。

 

 

 

 

 

「それで、何か申し開きは?」

部屋の中、ペドーを床に正座させた琴里が司令の椅子に座り、苛立たしそうにチュッパチャップスをかみ砕いた。

 

「ふぅ、楽しかったぜ!」

一仕事終えた企業戦士のような顔で、ペドーが自身の額に浮いた汗をぬぐう。

その姿を見て、琴里の怒りのヴォルテージは上がっていく!!

 

「あんたの楽しみの為にやったんじゃないのよ!!

分かる?私、これはチャンスって言ったわよね?

頑なな七罪の心を解きほぐして――なによ、そのムッカツク顔は!?」

 

「いや、位置的に琴里のパンツが見えて……うん、スプライトか」

 

「ストライプよ!!」

ペドーの顔面に蹴りを叩き込みながら、琴里が怒気を荒くする。

 

「まぁまて、琴里。さっきの行為は完全に無駄という意味ではなかった様だ。

データ上では七罪は確実に少しづつだが、心を開いてきている。

自身の『変身』について驚きはあったが、決して嫌悪感があったわけではない様だ」

令音が手に持った媒体を触りながら、データを読み上げる。

 

「ほらぁ~やっぱあれで良かったんじゃん!」

 

「いや、最後の行為で確実に数値は下がった。

理想を述べるなら、最後の正体バラしはいらなかったね」

ペドーの言葉にぴしゃりと令音が釘を刺した。

 

「ほらぁ~やっぱりだめじゃない!」

今度は琴里がペドーに言い放った。

 

「……さて、兄妹のじゃれ合いはそこまでにして……今回の出来事はかなりデータ上有用だったことを報告しておこうか」

令音の言葉に、ペドーと琴里の二人が同時に頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「さっきも言ったように、最後のシンの行為で好感度が下がったのなら、逆に上がった部分もあるという事さ。

それは、ずばり精霊たちに服を選んでもらった直後。そして、その服をほめてもらった時。このことから予想されるのは、彼女は褒められることに飢えている」

 

「ふぅ~ん?やっぱり俺たちの変身に意味はあったし、褒められるのは好きって事か。

問題は本来の姿で褒められる事で自信を持たせる必要があるな」

ペドーが床に座ったまま、考えをまとめる。

 

「よぉし!次の一手が決まったぞ!」

ペドーが手を叩いて、立ち上がった。

 

 

 

 

 

「な、なんなのよ……今度は……」

七罪はジャズの響く雰囲気の良い喫茶店の様な場所にいた。

店員が目の前にオレンジジュースとショートケーキを置いてくれたが、どうにも最近人間不信気味になっている七罪は、それに手を付けようとは思えなかった。

急にここまで連れてこられて以来、ずっと放置のままだ。

 

「今度は何を考えているのよ……」

小さく悪態をついて、気分の悪さを押し流そうとオレンジジュースに手を伸ばそうとしてやめる。

何が入っているか分かりはしない。

 

「お、おおっ?これは?」

 

「な、なに?」

うつむく七罪の顔を覗きながら、サングラスに肩掛けカーディガンを羽織った長身の男が近づいてくる。

あまりに怪しい姿に七罪が、露骨にひく。

 

「い――やぁ!君すごくかわいいねぇ!!とってもグットだよ!!

あっと、私こういう者です」

そう言って怪しい男が、一枚の名刺を差し出してくる。

 

「……ラタトスクプロダクション、チーフプロデューサ、神無月 恭平?」

 

「そう!座右の銘は『世界中の幼女にI LOVE YOU』」

キランと、男が輝く歯を見せた。

 

 

 

「神無月さん……!

頑張ってくれ!!」

別室でモニターを見ながらペドーが手に汗握る。

このカフェの様な空間は、フラクシナスが制作した部屋で店員はもちろん、その辺にいる客人、老人から若いカップルまで全員がフラクシナスのメンバーだというのだ。

 

「あんただけが頼りなんだ……!」

神無月は七罪に面識があまりないと理由で選ばれた。

四糸乃やくるみは顔が割れてしまっている為、七罪に怪しまれるという理由から神無月がチョイスされた。

余談だが、最初は殿町に白羽の矢が立ったのだが……

 

『へっへっへ……殿町ぃ……かわいい女の子、紹介してやるよぉ』

 

『い、いやだ……俺はエレンさ――じゃない!と、年上が好きなんだ!!』

 

『安心しろよぉ……すぐにそんな考えなくなるぜぇ……?』

 

『うわぁああああああああ!!!幼女以外愛せない体にされるぅううううううう!!』

といった風に、学校の3階の窓からガラスを突き破って外に逃げた為、今回のチョイスに変わったのだ。

そんなことを思い出してる中、神無月は気が付かぬまま、エスカレートしていた。

 

 

 

「いえいえ!!成長だなんてとんでもない!!今の、今のちっちゃい、幼い、未成熟な貴方が素敵なんです!!

そう、成長してダルダルになった体に興味なんて一切ありません!!

さぁ、おじさんの事務所で……七罪ちゃんの一瞬の輝きをビデオに一生保存しようね?

一瞬の姿を永遠にしようね?

おじさんのカメラで、世界の人気者にしてあげるからね?今日のテーマは……」

非常に、非常にキモイ顔で神無月が迫る!!

 

「わ、私がかわいいなんて――ハッ!?」

その時、七罪の脳裏に走るひらめき!!

 

未成熟な君が好き→その姿を永遠にしようね→お前の体に防腐処理をして、俺の玩具にしてやるぜ!!

 

「ひ、人ごろしぃいいいいいいい!!!いやぁあああああああ!!!」

最悪の想像をしてしまい、七罪が悲鳴を上げて逃げる。

 

 

 

「いやー、失敗してしまいましたね……」

頬に真っ赤な紅葉を付けながら、神無月が力なく笑った。

 

「いーなー、いーなー!幼女との肉体的接触いーなー!」

隣でペドーがうらやましそうに、神無月をみる。

 

「あんた、本当に見境ないわね……

んで、次の作戦だけど、褒める事はいったん諦めて、普通の会話が出来る所からスタートしましょう」

 

「具体的には?」

琴里の言葉に、ペドーが疑問を投げかける。

 

「普通に買い物……ハンバーガーショップとかで……?」

自分で言っていてなんだか、簡単すぎる様に思えてきたのか、だんだん琴里の声が小さくなっていく。

なんだか作戦も適当になってきたなーと、考えながらペドーがうなづいた。

 

 

 

「ご一緒にポテトはいかがでしょうか?」

店員が営業スマイルで七罪の注文を聞いていく。

 

「あ、あっと、えっと……お、おねがいします……」

 

「今の時間ですと、100円多く払っていただければポテトの塩の量を倍に出来るサービスがありますが?」

 

「じゃ、じゃあ、それも……」

店員の進める商品をつぎからつぎへと足していく七罪。

コミュ障気味の七罪は『断る』という事が出来ない様だ。

 

「ジュースを3杯以上頼まれるなら、カップを一つにまとめて3つの値段で5個分のジュースが入ったメガジュースがおすすめですが……」

 

「そ、それも、おねがい……します」

七罪が消え入りそうな声で、更にうなづく。

 

「ではお会計が――」

店員がレジを叩きながら、値段を読み上げる。

 

(お金足りるかしら……)

一瞬だけ不安が七罪の胸をよぎった。

その時再度、七罪のネガティブな妄想が脳裏をよぎる!!

 

 

 

「――以上お会計が100万になります」

 

「え、そんなに……お金、ない……」

七罪の言葉を聞いた店員の笑みが消えた。

 

「ああん!?お客さん、金がねーなら、体で払ってもらおうか!!」

一瞬で恐ろしくなった店員が、七罪を無理やりカンターへと連れていく。

無理やり制服を着せられ、カウンターの隣に並ばされる。

そこへやってくるのは、見知った影。

 

「店員さん、犯バーガー一つ下さい」

やってきたのは、例のペド野郎!!

 

「はい、犯バーガーと一緒に、食い逃げ幼女はいかかですか?」

店員が七罪をペド野郎へと勧める。

体で返せとは、そう言う意味だったのだ!!

 

「ぐっへっへっへ!良いな、んじゃ。その幼女も一つ」

好色な笑みを浮かべたペド野郎は七罪を買ってしまった。

あまりに出来すぎたタイミング、おそらくこの店員のペド野郎は結託した仲間なのであろう。

 

「この幼女は、こちらで(性的に)お召し上がりですか?」

 

「はい。この、買い物帰りの主婦や、帰宅途中でたくさんの学生が見ている公衆の面前で(性的に)食べていきます!!」

最悪な宣言をして、ペドーが自身の服に手をかける!!

そして――!!

 

 

 

「騙されてたまるかぁああああああ!!

あんたたちの玩具にされてたまるもんですかぁあああ!!」

現実に戻ってきた七罪は、お金をレジに叩きつけると一目散に逃げていった。

 

「あ!七罪が逃げる!!捕まえた拍子に胸とかお尻とか触っちゃっても、この際事故だよね!!おをおおおおおお!!!胸とか尻を触らせろぉおおお!!!」

 

「ペドー!?やめなさい!!公衆の面前よ!!

買い物帰りの主婦や、帰宅途中でたくさんの学生が見ているのよ!!」

欲望を迸らせながら、ペドーが七罪を追いかける。

 

 

 

 

 

「ぐすッ……ぐす……アイツら……っていうかアイツ(ペドー)は何なのよ!!」

戻された部屋、七罪がベッドの上で布団をかぶってしくしくと泣いていた。

正しい表現かどうかは分からないが心のキャパシティを超えて、自身の感情が自分でも理解できていないのだ。

 

「なんで、アイツら私にやさしいのよ……」

優しい。それは七罪のとって『特別な存在』であることの証明だった。

贋造魔女(ハニエル)〉を使って自身を美人のお姉さんに化けさせた時は、誰しも皆優しかった。

男はデレデレとしながら寄ってくるし、女は羨望と嫉妬のまなざしを向けてくる。

いずれにせよ七罪は偽りの容姿で、皆から『特別』扱いされていた。

だが、あのメンバー(ロリコンの印象が強すぎて、他人の印象はいまいち)は七罪にひどく優しかった。

暴言を投げる事も、暴力を加える事もなかった。

 

「こっちの姿でも優しいなんて、ゼッタイおかしいわよ……

贋造魔女(ハニエル)〉……」

小さな声で、自身の『天使』を呼び出す七罪。

胸の傷は痛むが、能力の行使ができないほどではない。

 

手のひらサイズの鏡の様な天使をベッドへ向け、『普通のマットレス』を『人の入れるくらいの穴の開いたベッド』へ変えて――

 

「やぁ、ナッツみん!!奇遇だね!!」

ベッドの下から、ひょこッとペドーが顔を見せた。

 

「もう、このネタ何度目だぁああああああああ!!!」

ベッドの下から顔を出したペドーに七罪が大声を上げる!!

 

「いや、初めてだよ?一回目はマットレスの中、二回目は普通にベッドイン、今回はベッドの下。

ほら、パターン違うでしょ?」

 

「もう、いい……疲れた……」

度重なるペドーの奇行を見た七罪の脳裏には、ペドー=制御不能の法則が出来上がっていた。

敗北の法則は決まった!!

 

「まったくー、そこまで信じられないなら、実際聞きに行けば良いのに……

ハイ、オープン!」

ペドーがリモコンの様な物を扉に向けてスイッチを押すと、扉のロックが外れる音がした。

 

「は?」

突拍子もない行動に、七罪の口から間の抜けた声が出た。

 

「さっきー、天使使ったじゃん?

そこの扉から出て、本音聞いてくればいいじゃん?

多分みんな、霊力を封印して~位しか言わないと思うよ?」

 

「…………本当に出て行っていいの?」

扉から出ようとする七罪が、ペドーの方へと振り返る。

 

「出来れば30分後位には戻ってきてほしい。

見張りが七罪がいないのに気が付くと、俺が怒られるから。

あ!天使で俺の姿を七罪に変えるなら、OKよ?むしろして!!

時間稼げるし!おかしなことはしないからさ!!」

嫌な笑みを浮かべながら、自身の胸を触りだすペドー。

どうやら変身後に、おかしなことをする事以外考えていないらしい。

 

これが無ければ、もう少しこいつを信じても良いのに。と思いながら七罪はドアを開けた。

 

 




前書きを読んで、『え?オチ無いの?』と思った人。
すいません!!オチは無いんです……

けど、そう思った人はだいぶ私に毒されているかもしれませんね……
という事で、ロリコン小説書こ?ね?(下水ピエロ風に)


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激ファイト!!エレンママVSペドー!!

少し時間のかかった今回。
あと1、2回ほどで、七罪編も終わりですかね?


「だ、大丈夫……よね?おかしくないわよね?」

謎の施設の廊下の一角、赤いツインテールの少女、琴里が不安そうな足取りで歩く。

急にハッとしかと思えば、ボタンを一個むしり、一瞬の内にそれをチュッパタップスに変え、咥える。

そう、何時も琴里が口にしていた物だ。

 

「ええと……」

そう、この怯えた不安げな琴里は実は本物の琴里ではない。

彼女は七罪が姿を変えた存在だったのだ。

 

思い出す事数分前。

 

「どうしても気になるなら、直接本音を聞けばいいんじゃないかな?

天使使って、化ければ一発だぜ!」

制御不能系ロリコンこと、ペドーが七罪にそう教える。

それどころか、ここ数日七罪を監禁していた部屋の扉まで開けてしまった。

そして、トドメとばかりにペドーは懐から、琴里の写真を取り出した。

 

「あ、七罪。コイツ俺の妹の琴里。中途半端にかわいくて、男子に対してそっけないくせに、ツインテールとかいうあざとい髪形をしているから、女子に超不人気で友達いなんだよね。良かったら友達になってくれない?」

 

「は?絶対嫌だけど?」

 

「だよねー。なら仕方ない。姿だけ無断で借りな?」

と言って、化ける様の写真までくれたのだ。

七罪は手の中に残った、明らかに盗撮したであろう写真をみて何とも言えない苦い顔をした。

 

 

 

 

 

「あ、司令、フラクシナスに帰ったはずでは?」

 

「ひぃあ!?」

突如後ろからかけられる声に、七罪が飛び上がる。

相手はフラクシナスの職員であり、不思議そうに琴里に化けた七罪の顔を覗き見た。

 

「あ、ちょーっと、ペド野郎に話す事が有って……」

 

「そうですか、例の七罪ってこの霊力の封印、上手くいくといいですね」

『封印』の単語を聞いて七罪が再度驚く。そう言えば、あのロリコンが言っていたが正確な意味までは聞いていなかった。

だが、今はそれよりも大切な事がある。

 

「え、ええ……そうね。十香たちを探してるんだけど……

どこにいるか分かる?」

 

「それなら向こうの休憩室に……あ!残念ですけど、十香ちゃんは『粉がきれた』って言って痙攣したので、地上に返しましたよ」

 

「そ、そう……ありがと」

一体どんな粉なのかと、七罪は聞きたいと思ったが、どう考えても危険な粉だろうと判断してこれ以上聞くのをやめた。

 

(このまま、私くすり漬けにされないかしら?)

七罪の脳裏に、探索よりも先に逃げるべきだという意見が湧くが、それより先に件の休憩スペースに出るのが早かったようだった。

廊下の先の空間が広がると同時に、椅子やテーブル、自販機の置かれた場所にでた。

そして、そこにいた3人の幼女たちが同時に、七罪(琴里)を見る。

 

「ぷはぁ!ペド野郎の相手はほんとうに疲れるよ……」

炭酸飲料を飲み干した褐色肌のボーイッシュ幼女が口を腕でふく。

 

「ふぅ、やさいせいぶんがほきゅうされますわね……」

ゴスロリ幼女が野菜ジュースを飲み、もう一人はパペット片手にフローズンドリンクを飲んでいる様だった。

 

『あんれぇ?琴里ちゃんも休憩?ジュースのむ?

今なら、よしのんの幻の左で押してあげるよぉ?』

ウサギをイメージさせるパペットがしゅっしゅと、シャドーボクシングをし始める。

その瞬間、穏やかな空気を纏っていた3人に剣呑な空気が走った!!

 

「よしのん……それは、ダメ……」

 

「そうですわ!のこまえぺどーさんにくらわせたら、きりもみかいてんしながらいえのかべにめりこんだのをわすれたんですの?」

 

「そうだぞー!ボクを助ける為とは言え、走ってきたトラックを全壊させるのはダメって言っただろ?

あのあと、すごい大変だったって言われたじゃないか!」

 

「あ、え?『幻の左』殺意高すぎじゃない?」

七罪の目の前で、いまだにシャドーボクシングをやめないよしのんをみる。

だたのぬいぐるみなのだろうが、その目にはどこか狂気にも近い物が宿っている様な気がしてくる。

 

七罪の中に様々な疑問が浮かんでは消えるが、そこはぐっとこらえてどうしても聞きたい疑問を口にだした。

 

「ねぇ、みんなあの七罪っていう精霊どう思う?なんだかさ、気持ち悪くない?

美人に化けて、自分を偽ってさ。

そのくせ、少しおだてたら調子に乗って……ほんっと、勘違いブスってむかつくよね?」

聞きたいのは、自身への罵詈雑言を持った本性。

七罪の前では何のない様にふるまっているだろうが、きっと心の中ではこちらをひどく馬鹿にしているに違いない。

自身の口で、悪口の火ぶたは切った。ここからは此奴らが自身の心の中の醜い部分を――

 

「なにをいってるんですの?こうりゃくがうまくいかなくて、いらいらするのはわかりますけど、そんなこといっちゃだめですわ!」

 

「そうだぞ?第一この前、あったばっかりの奴だし、お互い良く知らないじゃないか」

 

『けどー、服を選ぶのは楽しかったよねぇ』

 

「とっても、にあってました……」

 

「あー、ペド野郎が変な服着せようとして、止めるのやばかったけどな」

3人とパペットは悪口など言わず談笑を続ける。

それは、七罪が想像していた内容とは、180度異なる物で……

 

「うそよ……こんなの、嘘よ!!

あのペド野郎は私をハメようとしてるだけよ!!」

凝りに凝り固まった『七罪(自分)はブスで皆、陰口をたたいている』という、彼女の中の絶対のアイデンティティにヒビが入った気がした。

だから、七罪はそこから逃げ出す事を選択した。

 

 

 

 

 

琴里が何も言わずに、七罪の部屋へ帰ってくる。

その様子をベッドの中で暴れまわっているペドーが気が付く。

 

「うっす!七罪。どうだ、みんなの様子は?

姿を変えて本音を聞きだせ……あれ?」

その時、ペドーが目の前の琴里がプルプルと震えている事に気が付く。

そして一瞬遅れて、更に重要な事を理解する。

 

「あ、やっべぇ……()()じゃん」

 

「ねぇ?ちょーっと、聞きたいことが有るんだけど、いいかしら?()()()()()()?」

しまったな。と思った時には琴里の怒りが落ちていた。

 

 

 

「で?私たちの本音を調べるのは、まぁ1万歩譲って作戦としましょうか?

けどねぇ!!私に化けた七罪が他の誰かに化けて、逃げる可能性は考えなかったのかしら?」

お怒りの司令官。だがペドーは自信ありげだ。

 

「ふん!この俺が策を講じない訳ないだろ?

七罪のにおいは覚えた!!すぐに追えるぜ!!」

そう言いながらペドーは廊下に出て、床のにおいをかぎ始めた。

 

「くんくん……こっちだな……」

 

「出来る訳ないでしょ!!」

においをかぐペドーを思いっきり琴里は蹴飛ばした。

 

 

 

 

 

「くそぉ……今回はしくじったな……」

家路につきながらペドーが、胸ポケットからチュッパタップスを取り出す。

結局あの後、廊下を七罪のにおいを追ったが手に入れたのは、琴里の落としたと思われるアメのみ。

琴里の心配を他所に、ペドーの臭いで七罪を追跡する作戦はうまくいっていたのだ。

だが……

 

 

 

「あーあ、休憩室でにおいがシャッフルされるのは予想外だったぁ!!

あの時、3人が大人しく足の裏の臭い(匂いではない)をかがせてくれればっ!!」

たどり着いたのは七罪も行ったと思われる休憩室。

そこでは四糸乃、くるみ、シェリの3人がくつろいでおり、においが判別できなくなってしまったのだ。

 

『みんな!!七罪を、七罪を見つける為に、足の臭いを嗅がせてくれ!!』

 

「いやです」「いやですわ」「ゼッタイにイヤだ!!」

仕方ないと、覚悟を決めたペドーは3人の土下座を慣行した。だが3人からの反応は薄く……

あっさりと、協力を拒まれてしまったのだ。

 

 

 

「ま、しかたないか……けど、においは覚えたから、近づけば……」

ぶつぶつと失敗のリカバリーを考えつつ、『どうすれば』よかったとか『ああすれば』なんて今さら意味のない後悔が脳裏を駆けていく。

 

そんな折、ペドーが自身の顔を平手でバシバシと叩く。

 

「うっし!考えるのは一先ず終わりだ。

まずは、リフレッシュして次の作戦を考える!!

下手な考え休みに似たり。だ!」

何処かで聞いた、意味があっているか分からない諺を使って半場無理やり自分を納得させる。

 

「ただいまー」

自身の家を扉を開けて、家の中へ入ってくる。

そう、止まってはいけない。常に前に進み続ける。

それがペドーに出した答えだ。

気持ちを新たに、新しい一歩を。そう思いペドーがリビングのドアを開けると――

 

「え?」

 

「失礼。お邪魔していますよ?」

リビングには先客がいた。

ブルーの瞳に、プラチナブロンドなヘアー。

それは間違いなく、うぇすちゃまのエレンママだった!!

 

「エレンママ!?どうしてここに!!」

 

「なぜって、我々が貴方の家を知らない訳――きゃぁああああああ!!!」

こちらを振り返ったエレンが急に大声を上げる!!

その瞬間、エレンの持つリアライザの効力が発揮され、ペドーの体が動かなくなる。

 

「イツカ・ペドー!?なぜ、ズボンと下着を履いていないんですか!?」

 

「え?いや、ちょっとムラムラしたから……誰も居ない内にって……」

ちょっとバツが悪そうに、ペドーが答える。

 

「~~~~~~ッ!!

すこしの間、エリアを解いてあげます。その間に服を何とかしなさい」

エレンが目をつぶると、ペドーの体が自由になる。

 

「言っておきますが、携帯で助けを呼ぼうとしても無駄ですよ?

この家すべてが私の力の有効範囲、貴方は逃げられ……なんでさらに脱いでるんですか!?どうして、この局面でさらに脱ぐことを選択したんですか!?」

ついには上着まで脱ぎ捨てたペドーにエレンが声を荒げる!!

今やペドーの装備は靴下のみ!!胸の先端や股間部分に不自然な光が差し込んでいる状態!!

 

「ふっ……エレンママ。あんたは分かっちゃいねぇよ……

ああ、『ママ』だなんて言っても、男の子の気持ちがちっともわかってんぇよ。

『なぜ』とか、『どうして』なんて、理由は必要ないんだ。

ムラムラしたらぶっこく!!それだけなんだよ!!目の前にBBAがいても関係ねぇ!!」

 

「な、何なんですか!?」

一瞬だけ、脳裏にうぇすちゃまがよぎるエレン。

制御できない変態という意味で、エレンは彼らに近い物を感じたのかもしれない。

 

 

 

「え、えっと……一応私、貴方の生殺与奪権を持ってるのよね?

動けないでしょ?だからね?あの、武器とかで貴方を殺せるのよ?

うん、そう、殺せるの。あの、交換条件でだけど〈ウィッチ〉の居場所を教えてくれたりなんかしたら……自由にしてあげるんだけど……どうですか?」

 

「断る!!俺が幼女を売る訳ないだろ!!」

 

「うっく~~~!!」

恐々としながら交渉を重ねるエレンだが、そのたびにペドーはその条件を蹴ってしまう。

圧倒的にこちらが有利な状況、本来ならペドーが涙して希う立場だが、エレンはどうにも強気になり切れないでいた。

いや、全裸でここまで強気なペドーの方がおかしいのだが……

 

「こ、これ以上ごねるなら、耳の片方も覚悟してもらう必要がありますよ!?」

 

「いや、耳位〈カマエル〉と〈ザフキエル〉とフラクシナスのリアライザでどうにかなるだろ?

いや、待てよ……そのケガが原因で入院……ロリ精霊たちがお見舞いに……フルーツ剥きますね……体ふきふきしますね……溜まってるって奴、なのかな?しょうがないにゃ~……

イエス!!ロリロリサキュバスナースが俺を待ってる!!

カモン!!レーザーブレードカモォおおおおおおん!!」

 

「もぉやだぁ!!!」

脅してもけろっとしているペドーに、ついにエレンが切れて床にレーザーエッジを叩きつけた!!

 

その時!!

 

「オマエ、なにしてんだぁ!」

部屋に響くのはシェリの声!!

後ろを見ると、四糸乃、くるみと続き皆驚いたような顔をしている。

 

「シェリちゃん助けてぇ!!年増のBBAが『うふふ、偶には若い燕も良いわね。ジュルリ……』とか言って、襲ってきたんだぁ!!服まではぎ取られて、無理やりパパにされる5秒前だよ!!」

 

「はぁ!?貴女が、勝手に脱いだんでしょ!?

第一、私には殿町君――じゃなかった!うぇすちゃまが――」

まさかのペドーの裏切りに、エレンが驚愕に顔をゆがませる。

 

「コイツー!!少し、借りるぞ!」

 

「は、はい……どうぞ!」

シェリが一言、断ってから四糸乃の手からよしのんを引き抜いた。

 

「よしのん!!幻の左を見せてやれ!!」

 

『よしのんにおっまかせー!!』

 

「え、ちょ……ぐぇ!?」

シェリの投げたよしのんの左パンチが、エレンの腹に突き刺さった一瞬。

エレンが消えた。

そして、けたたましい音と共に部屋の窓が吹き飛び、大穴が開く。

ペドーは一瞬遅れて、エレンがよしのんの手によって殴り飛ばされたのだと理解した。

 

『ふぅ……今日はちょっと本気出しちゃたかな?』

 

「よしのん、超こえぇぇぇ……」

ペドーの腕に装着され、再度シャドーボクシングを始めるよしのんをみて、格闘技にパペット持ち込みありのルールがない事を始めて残念に思った。

 

 

 

 

 

「ミスターマードック。例の機構が完成しました」

宇宙からの通信をDEM社の一室でマードックが聞く。

今は失われた、超兵器の完成図。悪魔と呼ばれた科学者すら自らの手で『無かった事』にした、最悪の兵器の起動準備が完了した。

 

「よし、起動開始」

DME社の重役室で、マードックが小さく声をかけた。

その瞬間、部屋の中の人間がどよめいた。

マードックには、一切の躊躇が無かった。

死刑執行人ですら、死刑者に刑を執行するのはためらう。

殺処分所の職員も、ガス室のスイッチを押すには良心の呵責がある。

だが、マードックにはそれが無かった。たった一人の人間を殺す為数万単位の人間が暮らす街に、兵器を落とそうというのだ。

 

「さぁ、諸君。うぇすちゃま亡き後のDEMの今後を考えようじゃないか」

まるで、日常の会話の様にマードックが笑った。




よしのんの幻の左の威力は、家の壁をぶち抜き、走ってきたトラックを叩き壊し、エレンママを一撃で沈める力があります。
弱点は、短すぎるリーチ。

ペドーさんの全裸+不自然な光は、お隣に心の壁を作られ、子供が走って逃げだし、エレンを一撃で沈める不快感があります。


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PEEDの証

諸注意。
今回は、超展開のラッシュです。
繰り返します、超展開のラッシュです。

あれ?原作ってデート・ア・ライブだよな?
レベルの事が平然と起きます。

良いですね?本当に、良いですね?


うぅうううううううううううううう☆!!!

 

 

 

「うっ、く……」

大音量で鳴り響く、空間震警報の音でエレンが目を覚ました。

自身の状況を確認しようと、周囲を見るとそこは何処かの家の庭の木の上。

どうやら、〈ハーミット〉のパペットの一撃でここまで殴り飛ばされたらしい。

油断してたことにより、リアライザの使用をしなかった事も原因だろうが、それでも好ましい状況ではない。いや、100人中100人がパペットの攻撃を防御する為に、バリアを張る事は無いのだろうが……

痛む体(場所によっては骨折している部分もあるかもしれない)をなんとか木の上で動かす。

 

「精霊……ですか、こん、な、時に……」

空間震警報という事はそうなのだろうと、強引に自身の心の仕事スイッチを入れる。

〈ウィッチ〉もそうだが、これから出現するであろう精霊の対処も必要だ。

木から降りた時、体に痛みが走ると同時にポケットの携帯が鳴る。

 

ピりりりりりり!

 

「こんな、時に?」

 

『エレンママ!大変です!!今、そっちにマードック一派が送った人工衛星が落下を始めています!!』

 

「はぁ?」

エレンは一瞬相手が何を言っているか分からなかった。

しどろもどろになる、電話の相手からゆっくりと情報を引き出していく。

要約すると――

①マードック達、幹部数人が前回の一件を根に持ち、今回クーデターを決行した。

②クーデターの内容は、DEM社が廃棄した人工衛星を改造した物を直接この町に落とすという計画。

 

「な、んて、事を――!!」

湧き上がる怒りはエレンから、一瞬全身の痛みを忘れさせるほどだった。

こんな事はしてられない。一刻も早く、うぇすちゃまを迎えに行ってここからなるべく遠くに逃げなくてはいけない。

 

「早く――」

 

「エレンさん!?」

体を引きずり、ワイヤリングスーツを展開しようとするとき、聞きなれた声がエレンの鼓膜を揺らす。

その声の主は――

 

「と、殿町君!?」

 

「一体どうしたんですか!?ボロボロじゃないですか!!

ああ、もう……こんな土壇場で、事故にでも?

ええい、話はあとにしましょう。俺、近くのシェルターまで負ぶってきますから!!

ほら、背中に乗ってください!!」

殿町が、エレンを背負おうと体をしゃがめる。

 

「殿町君……その足……は?」

殿町の右足には包帯が巻かれ、ギプスで固定されていた。

傍らには松葉杖が見える。おそらく殆ど人が避難した状態でここにいたのも、逃げ遅れたからなのだろう。

 

「ちょっと、校舎から飛び降りただけです。

日本の医者は大げさなんですよ。こんなの、ただの飾りです――っ!」

エレンの見ている前で、殿町はギプスを外し、松葉杖すら捨てて見せた。

 

「さ、おぶさってください」

明らかな強がりに、エレンが固まった。

 

正直な話、殿町のしている事は無謀だった。

足を骨折した殿町がエレンを背負ってシェルターに行けるかどうかすら怪しいし、エレン本人は体の痛みをリアライザで誤魔化して、ワイヤリングスーツを使えば避難など簡単に出来る。

何よりこの警報はDEMの重役たちが、人々に落下する人工衛星に気づかせない為に偽装した物だ。

巨大な重量の前に地下のシェルターが耐えきれる可能性は限りなく低いだろう。

要するに、彼の行為は何一つ意味をなさないのだ。

ここで、エレンがと取るべき最も正しい行為は、殿町を見捨てて自力でウェスコットを回収してなるべく遠くまで避難する。それが、ベストな答えだ。

 

「さ、エレンさん早く」

急かす殿町の後ろで、エレンがワイヤリングスーツを身に纏う。

スラスターを使ってこのまま、ウェスコットを迎えに行く。

無論、通りすがりの少年など無視して。

 

(さよなら、殿町くん)

心の中で、別れを告げる。

今日、この後この少年は死ぬだろう。

ウェスコットを狙う、計画の犠牲になって。

この町を再度襲った、悲劇の大勢いる犠牲者の中の一人になるのだろう。

まぁ、慰霊碑が立った暁には、線香の一つも出してあげてもいいだろう。

そんなことを考えて、エレンが脱出しようとするが、体がうごかない。

 

なぜ?

〈ハーミット〉のダメージが体に残ってる?

あまりの痛みに、体がリアライザを使えるほど回復していない?

それともマードック派の人間がエレンの知らない間に、細工をしたのか。

 

どうしようかと、悩んだ時、自然に()()()()()()()

 

「殿町君にげて!!ここは、もうすぐ大変なことになるわ!!」

突如エレンの体が動き、殿町を抱き上げる。

ウェスコットは?状況の説明は?非難のタイムリミットは?

そんな疑問が一瞬だけ湧くが、そんな物すべてが消えてしまった。

さっきまでの硬直が嘘の様に、エレンは殿町を抱いて空を駆ける。

 

「エレンさん……?」

 

「ごめん、殿町君……今は、今だけは何も聞かないで……おねがいだから……」

殿町が当然の疑問を投げかける。いろいろ聞きたいことが有るだろう。

だが、今はそんな時間すら惜しいのだ。

 

「困ったな……エレンさんほどの美人にお願いされたちゃ……何も聞けないや」

絶望が迫る中、ほんのりと明るい未来を夢見て二人は飛び出した。

殿町は、華奢なエレンの体が震えているのが分かると、安心させるように抱きしめた。

 

 

 

 

 

最早聞きなれ、日常の一部となった空間震警報がペドーの耳にも届いた。

だが、そんな事実さえ、気にならないほどペドーの心の内を満たす、()()()な知らせがあった。

 

「落ちてくるのか?この町に……」

フラクシナスもほぼ同時期に、人工衛星の落下の知らせを受けていた。

周囲の人間がシェルターへと逃げる中、絶望が落ちてくるであろう空を見上げた。

そして、一瞬呆けた後、すべきことを思い出し走り始めた。

 

 

 

 

「チぃ!!一体どうなってるのよ!?なんなのこれは……!!

常軌を逸してるとか、イカレてるなんて言葉じゃ足りないレベルよ!!」

苛立たし気に、椅子を殴る琴里は〈フラクシナス〉のメインモニターに出たあり得ない画像を見る。

 

「距離およそ200!速度尚も加速しています!!」

メンバーの言葉が示す様に、今この町に向かって、廃棄された人工衛星を改造したものがこちらに向かっているのだ。

巨大な人工物に、どこかバンダースナッチを思わせる装置がドッキングしてこちらに向かっている。

 

「……フラクシナスのリアライザ2~4番までを臨界点まで回して!!

全エネルギーを持ってして、あの人工衛星を――」

 

「司令、お待ちください」

琴里の命令を珍しく神無月が止めうる。

苛立たし気に琴里が口を開く前に、再度神無月が口を開いた。

 

「あの装置、おそらく巨大なバンダースナッチでしょう。

奴の特性として、『リアライザを扱う』というものがあります。

そして、人工衛星が普通は大気圏突入のショックで殆どが燃え尽きる物。

あの、バンダースナッチ()()()には、あらゆる衝撃から自身を防御する目的が有るんでしょう……

無駄、とまでは言えませんがあまり、攻撃は賢い手段では……」

 

「だったらどうするって――」

半場やけになる、琴里を遮る様に一人にオペレーターが立ち上がった。

 

「し、司令!!その、人工衛星が……」

 

「なによ?いきなり、自然消滅でもした?」

 

「え、いえ……あの、なんといえば良いのか……」

言い淀む彼女のうしろで、メインモニターは他の人工衛星までが一斉に一つの場所に向けて集まりだした光景を映し出した。

 

 

 

「おーい!!七罪!!七罪ぃ!!聞こえるかぁ!!

聞こえたら今すぐ避難しろぉ!!人工衛星が降ってくるらしいぞぉ!!」

殆ど人のいなくなった町をペドーが走る。

この危険な土壇場で、ペドーが思ったのはやはり七罪の事だった。

まだ傷は完治してないし、この攻撃はシェルターに居てもダメらしい。

ならば、彼女本人に逃げてもらうしかなかった。

 

なんども、なんども声が枯れるほど七罪に呼びかける。

その時、何かを思い出したのか、ペドーがインカムに通信を入れる。

 

「なぁ、琴里、四糸乃達は無事なんだよな?」

 

『ええ、無事よ。フラクシナスが回収したわ……

ねぇ、貴方まさか今、外に居ないわよね?』

ペドーはギクリとした。ペドーが七罪を探しているのは琴里達には秘密だった。

もし、知られれば半分強制的に回収されることになるのは目にみえていたからだ。

 

「い、いる訳ないじゃないかー。琴里はバカだなぁ……あは、あはははは」

 

『インカムばっちりレーダーに映ってるわよ?

帰ってきなさい、回収するから。

幼女が好きなのはわかるけど、一番大事なのはあなたの命よ』

 

「うーん、けどさー、もし幼女がいたら大変じゃない?

人工衛星そ衝撃に地下のシェルター耐えれるかわかんないし……

少なくとも、シェルターには幼女居るよね?

じゃあさ。

なんとか、しないとダメじゃない?」

 

『――ッ!バカ!!あんたね!!自分の命の順序が低すぎるのよ!!

避難しなさい!!助かる命だけでも――』

琴里の言葉を聞きながら、ペドーがインカムを耳から外す。

 

「琴里、聞いてくれ。愛してる」

 

『!!――!!――、――!』

何かを言ってるが、残念ながら耳から外したせいで分かりはしない。

収音マイクで、こちらの声だけは聞こえているだろうが……

 

「四糸乃や、くるみ、シェリちゃんに伝えてくれ。

俺が明日を連れてくるって」

そこまで言って、ペドーはインカムを投げすてた。

そして、フラクシナスに回収されない様に、屋根のある商店街の中へと入りこんだ。

 

 

 

そう、人工衛星が落ちてくると決まった時から、ペドーの心の内は決まっていた。

自身の持つ力を使って、衛星を壊すのだ。

琴里の言う様に、自身の命はもちろん惜しい。

だが、シェルターの中にも、たくさんの幼女がいる。

まだ見ぬ幼女の為、ここでじっとしてる訳にはいかなかった。

 

「ジーっとしてても、ドーにもならねぇ!!」

 

 

 

 

ペドーが決意を固める中、遠く離れたDEM社の重役室では、マードックがとある機械を触っていた。

複数のボタンやメーター、そして手の中には銃の持ち手を思わせるスイッチがあった。

スイッチの頂点、そこのクリアのパーツが開き、中にあった如何にも『危険』と言いたげな赤いボタンが現れる。

 

「諸君、見たまへ。これが、わが社を去った伝説の兵器製造者の最高傑作を目覚めさせるボタンだ。今から、これを使って――

()()を始めようじゃないか」

役員たちはもはや何も言わなかった。

すでに計画は始まている。

もう戻ることのできる地点はとうに過ぎている。

 

「目覚めよ――機々械々重機(キキカイ・カイジュウキ)『キングカタストロォ』!!」

そう言って、絶望が始まった。

 

 

 

 

 

「司令!!人工衛星が……」

 

「なによ、コレ……」

フラクシナスメンバー全員の目の前で、地上に落下しようとしていた人工衛星が突如変形した。

バンダースナッチもどきの顔を中心に、足が構築されていく。

バランスを取るための尻尾に、遅れてきた第2期が胴体へ、第3期組は頭と両腕へと。

シルバーの体に、怪獣の様な尻尾、だが背中に背負うのは、丸鋸やハンマーなど明らかな人工物。生物を機械でうまく表現しようとした結果、失敗した芸術作品みたいだ。

まるで怪獣映画の様な光景だった。

 

巨大ロボ、いや、機械の獣だろうか?

兎に角目の前に、あり得ない物が立っていた。

 

『キシャぁあああああ!!』

 

「し、司令!!」

 

「こんなの、想定できるわけないじゃない!!

だ、脱出よ!!」

琴里の言葉によって、フラクシナスが脱出しようとする時――

怪獣の口から閃光が走った!

その光線はビルをなぎ倒し、周囲を火の海に変えた。

 

「な、何なのよ……何なのよぉ!!」

琴里が、絶望に打ちひしがれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよ……えー、ナニコレふざけて設定だけ作った的な奴……

なぁ?おかしいと思うよな、()()

ペドーが、七罪の名を呼びながら、胸ポケットのチュッパタップスを撫でる。

 

「いや、最初は逃げられたと思ったんだけどさ?

アメからずーっと、七罪のにおいするのもおかしいじゃん?

っていうか、琴里が落とす訳ないし、更に言うと七罪が触るタイミングもなかったしな?」

そう言って、ペドーがポケットからチュッパタップスを取り出す。

 

「…………」

当然だが、アメは何も答えはしない。

当たり前だろう。

すると、ペドーは

 

「お?だんまりかな?

あ!いや、急に自信が無くなってきたな~、こわいな~、困ったな~。

とりあえず、アメをぺろぺろして落ち着くかな?

ひっひっひ、全身をペドーさんのベロでぺろぺろしてあげようねぇ……

少しづつ舐めて、溶かして俺の体の一部にしてあげようねぇ……

いっただきまー……」

 

「やめんかい!!」

突如アメが、ボンとコミカルに爆ぜて七罪が姿を見せた。

ペドーの確信通り、化けていた様だ。

 

「ナッツミン!ちぃ~っす!」

 

「あんたねぇ!!わかってたんなら、逃げれば――」

 

「助けてくれ。俺じゃ、シェルターのみんなを救えない。

この通りだ」

怒る七罪に対して、ペドーが土下座を慣行する。

全くの躊躇もない、ただの懇願だった。

 

「あ、あんた!?いや、私なんかに……」

 

「協力してくれ。今回協力してくれれば、それで良いんだ」

しどろもどろになる、七罪を説得するように、ペドーが顔を上げる。

 

「わ、分かったわよ……あなたに、協力するわ……

その……この町、無くなると困るし……」

七罪が、絞り出すように言った。

 

 

 

「は~な~せ~よ!!コレ、俺のだぞ!!」

 

「うるさい!!変われよ!!」

 

「年功序列だろ!!俺にやらせろ!!」

DEM社の重役室はてんやわんやだった。

巨大ロボという、子供心をくすぐれれるアイテムに、すっかり童心に帰った重役たちがコントローラーを取り合っている。

それはまさに、新発売のゲームを取り合う子供の様だった。

 

そんな、中で――

 

「「「「は?」」」」

全員が、目の前の光景に同じ言葉を発した。

それは遠く離れた、日本で敵対組織である、フラクシナスのメンバーも同じで――

 

「は?」

 

「え?」

 

「なに?」

違う場所で、皆が同じ様な言葉を発して、固まる。

それは、それほどまでに衝撃的な光景だった。

神無月だけが、なぜか冷静に……

 

「ほう、光の巨人……ペドトラマンとでも言いましょうか……」

 

 

遡ること、30秒。

 

「七罪さん!!幼女の力!!!お借りします!!!」

ペドーが、七罪の変化した天使を掲げる。

そして、天使は光を放ち、ペドーを巨大化させる。

体は赤と銀色の肌で、目は大きく複眼の様に、そして胸にはお約束のカラータイマー。

 

『ペドォア!!』

光の巨人が、怪獣の目の前に立ち上がった。

 

『キシャぁあああ!?』

 

『トォア!!』

怪獣の頭に手をつき、アクロバティックな動きで、攻撃を回避する。

 

『ロリャ!!』

頭に、手をつくとそこから、半円上のピンクの光が出て怪獣が火花を上げる。

 

『きやぁあああ!!』

負けじと怪獣は、口から再度光線を吐く!!

だが、ペドトラマンはピンクのバリヤーを張って、ガードする。

しかし、怪獣の攻撃は止まらない!!ついには、バリヤーが破られペドトラマンがビルを壊す。

 

ぺドーン!ぺドーン!ぺドーン!

 

突如ペドトラマンの胸のタイマーが鳴る。

ペドトラマンは、ペドーの中にある幼女成分によって戦っている。

しかし、巨大な姿では幼女と触れ合えず、さみしくなってしまう為、ペドトラマンが巨大な姿で戦えるのは、3分が限度なのだ。

制限時間を過ぎると約8時間程度、幼女と触れ合ってからしか再度の変身は出来ないのだ!!

 

(くそぉ!!幼女をぺろぺろしたくなってきた!!はやく、怪獣倒さなアカン!!)

ペドトラマンの中で、ペドーが幼女不足に苦しみだした。

 

『ロリャぁアアああああ……』

ペドトラマンの両腕に、エネルギーが迸る!!

右手を地面の垂直のLの字に立てる。そして、左手はその肘に指先が付くように添える。

右手には、幼女と穏やかに楽しく見守って過ごしたいという、正の欲求を。

左手には、無垢な幼女を多少強引に襲ってしまいたいという、負の欲求を。

 

『ペドォ!!』

その二つの、欲求をショートさせる!

この光線は072万度にも達する、エネルギー!!通称「LO-prpr光線」だ!!

右手から発される、エネルギーが怪物に直撃する!!!

 

『きっしゃぁ……ああああ!!』

怪物は断末魔を上げて、爆発四散した。

 

『ロリィ!!』

ペドトラマンはその様子を見て、空の彼方へ飛んでいった。

 

 

 

「……え?なにこれ……」

琴里が目の前の、現実が未だに理解できずに、固まる。

 

「司令……ペドーさんを発見しまし……た」

メンバーの言葉通り、フラクシナスの下にはペドーがやり切った顔をして、七罪を連れて手を振っていた。




キャラ紹介!!

謎のヒーロー ペドトラマン。
遥か銀河の彼方、LO―10星雲からやってきた正義の宇宙人。
幼女の笑顔のために、侵略者と戦ってくれる。
弱点は地上では3分の制限時間が有る事。

仲間に「ペドい露出魔」の通り名を持つ『ペッドマン』がいる。
『ペッドファイト!!』の掛け声が聞こえたら、逃げるべし。

決して、正体を探ってはいけない。


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終わりが終わった日

ずいぶん時間が掛かりました。すいません。
今回で、七罪トランスは終わりです。
次回から、新しい章が始まりますよ


空中艦〈フラクシナス〉の艦内では、琴里が精霊たちに向き合っている。

十香、四糸乃、くるみ、シェリ、耶倶矢、夕弦、美九と皆が集合している。

「本来なら、貴女たちを戦わせるのは〈ラタトスク〉の基本理念に反する物なんだけど……

ここは敢えて、司令官じゃなくておにーちゃんの妹の『五河 琴里』としてお願いするわ。

みんな、おにーちゃんを助けて」

何時もの自信にあふれた琴里らしからぬ、弱気な発言。

なるほど。確かにこの言葉は指揮官の琴里ではなく、先ほど自分で言った通りのペドーの妹としての頼みなのだろう。

 

「勿論だ!」

間一髪入れずに十香がうなづく。

彼女も琴里と同じくらいペドーが好きなのだ。この頼みを断わるなど考えもしなかった。

まぁ、助ければ黄な粉が貰えるかもしれないという、下心はわずかにあったのだが……

 

「くくく……ようやく、颶風の御子である我ら八舞の実力を見せる時が来たか」

 

「肯定。夕弦たちの力が有れば、どんな敵も楽勝です」

 

「ダーリン……ダーリンに頼られる……ダーリンに、もっと必要としてもらえる!!」

皆が力強くうなづく中、十香をはじめ八舞の二人と美九は気合の入りようが違った。

今まで良い所が無かった為、ようやくやってきたチャンスに気合を入れているのだろう。今こそ、影の薄い精霊脱却を目指す!もう、いらない子なんて言わせない!

 

だが――

 

『ペオォア!!』

画面に現れたのは、光の巨人。

何処となく、日向を歩けない良く見知った人物を思わせる顔立ちをした巨人が、怪物と大立ち回りを繰り広げた。

まるで現実感のない、それこそ、まるでモニターで特撮の怪獣映画を見ているような気分だった。

 

『きっっっしゃー!!』

フラクシナスのモニター画面上で、機械の怪物が謎の巨人の放ったビームによって、爆散四散した。

怪物の最期の抵抗とばかりに、その体を構成していた機械のパーツが雨の様に町に落ちていく。

 

「怪物、沈黙しました」

 

「ん?」「え?」「は?」「え?」

クルーの言葉に、皆が固まる。

気合を入れた物たちには、びっくりするくらいあっけない結末。

例えるなら、振り上げたこぶしをどこに振り下ろせばよいのか分からなくなった様な感覚。

だが、そんな非幼女精霊たちの気持ちなど知らない、と言わんばかりの笑顔でペドーが地上でこっちに手を振る。

 

「ぬ、ぬぅ……」

 

「うぐッ……」

 

「はぁ……」

助かって良かったという気持ちと、今回も出番はないのかという、悲しみが精霊たちの中でないまぜになって、口から弱弱しいため息となってこぼれた。

 

 

 

 

 

「ん、あー、無事無事。俺と七罪に怪我はないよ。え?あ、うん。七罪は一緒にいるぞ?え、ああ、うん、わかった」

ペドーが耳に手を当て、何か通信をしているのが七罪には分かった。

 

「あ、七罪?悪いけど機体トラブルと、破片が危ないからって、回収はもう少し後になりそ――を!?」

インカムから聞き取った情報を話しているペドーの腰に、七罪が体当たりをする。

まさかの衝撃に足元がふらつくが、何とか耐えきるペドー。

 

「えっと……ナッツミン?」

 

「ご…………ん………さ……」

ペドーの服に顔を埋めたまま、七罪が話す。

 

「えと、何って?」

聞き取れない言葉に、悪いがペドーが聞き返す。

何かをつぶやく七罪と、結局聞こえずに何度も聞き返すペドー。

こんな会話が数回繰り返された。

そして、何度か目にようやく七罪が顔をあげた。

 

「あんたたち……って、ほんとうにバカよね……

私を探して、逃げ遅れて……私、私、酷い事いっぱいしたのに……

いっぱいイジワルして……憎まれ口ばっかり叩いて……散々困らせたのに……」

少しづつ、七罪の言葉に嗚咽が混じっていく。

そしてついに目じりから、涙がこぼれ落ちる。

 

「うぐっ、ぐすぅ……いじわるしてごめ”ん”な”ざい”~~~!!

やさしぐじてぐれたどに……いたずらじて、ごめんなざい”~~」

ペドーのシャツを分泌液でドロドロにしながら、七罪が謝罪する。

そしてようやく上げた顔を再び、服に押し付けて隠してしまう。

 

「よぉ~し、よしよし。

大丈夫だぞ?俺はもう怒ってないからな?」

ペドーが優しく七罪を抱きしめる。

視線を合わせる様に、ズボンが汚れるのも気にせず膝立ちになる。

 

「ほんとう?マッサージ、うれしかったし、髪を切ってくれたのもうれしかった、服を選んでくれたり、メイクをしてくれたり、またしてくれる?」

恐る恐ると言った顔で七罪が聞いてくる。

 

「勿論さ。さ、友達に成ろう?

他のみんなも怒ってないハズだぞ?」

顔面をドロドロにした、七罪が顔を上げる。

 

「うん、うん……けど、そろそろ私のお尻から手を放して欲しい」

七罪の声で、ずっと尻を撫で続けていたペドーの手が止まる。

 

「ぎくっ!?……これは、ほら、位置的に触っちゃっただけだし……

『うっほ!七罪のすべすべプリティお尻、超かわえ~むふふ』とか思ってないし……」

言い訳がましく弁明するペドーをみて、そう言えばコイツロリコンだったなと、七罪が友達になるべきか一瞬躊躇した。

 

だが、同時に思いたる部分も一つ。

 

「ねぇ、私ってかわいい?その……さっきみたいな事って、ブスにはしないでしょ?」

顔を真っ赤にして、七罪がペドーに尋ねる。

ペドーの数々のセクハラ。それは言い返せば七罪は「セクハラをするに値する」という意味でもあり……

 

「すっごいかわいいぞ!」

一瞬のラグもなく、ペドーが答えた。

まるでクイズの早押しの様なスピードに七罪が圧倒される。

 

「……ちょっと、こっち、顔よこしなさいよ……」

 

「ん?なに、なに?なんな――――ん?」

ペドーが顔を近づけた時に、七罪が顔を近づけ二つの唇が触れた。

その瞬間、ペドーの体に温かいものが流れる感覚がやってくる。

霊力の封印の合図だ。

 

「っ……初めて、何だから……」

顔を外すと、七罪が顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 

「七罪……隠した方が良いぞ?」

 

「え?……きょ!?」

霊力が封印されて、一瞬で崩れた服をペドーが指摘する。

七罪は急いで体を隠した。

 

「み、み、みた!?見た!?」

 

「見てない、見てない、見てない。

そんな事より、俺の服を貸してやろうな?」

ペドーが慌てて、手を振って自身の無実を主張する。

ナチュラルに服を脱ぎ捨て、全裸になる。

今回も不自然な光が差し込み、ペドーの足の間と胸を隠す。

「さ、服をどうぞ?」

イヤに紳士的な態度で、服を差し出すペドー(羽織った上着以外全裸)

「まず先にポケットの携帯を見せなさいよ!!」

 

「あ、ちが、これは偶然ムービーに成ってただけだし!!

決して封印後のあられな姿を盗撮する物じゃないんだよ?」

そう言って、大事そうにペドーが携帯をポケットにしまう。

 

「とりあえず出せ!!まずは、そっちからでしょ!!」

 

「やべ、逃げる!!」

無人の町、ロリコンと半裸の幼女が追いかけっこを始める。

空中にいるフラクシナスのメンバーはある者は笑い、またある者は怒声を放ち、またあるものはうらやましがった。

その、騒がしい声はペドーに危機がさり、日常が戻ってくるのを実感させた。

 

 

 

 

 

「しっぱいした……だと?」

重役室にしつらえられた画面を見ながら。マードックが茫然と声を漏らす。

 

「一体どうする気だ!?」

 

「主犯はマードックであり、我々は関与してない!!そうだろ?」

 

「ああ、そうだ。これはマードックの独断と暴走の結果だ!!」

さっきまで子供が騒いでいる様な重役室は、今度は保身を図る汚い男たちの悲痛な声で満ちていた。

マードック以外の者は皆、今回の件は「マードックの独断であり、自身は関係ない」というスタンスを取りたがっている。

まぁ、それも無理はないだろう。

なぜなら、こんな大がかりな事をすれば、必ず犯行はバレる。

そしてこんな事が明るみに出れば、当然命を狙われた本人はいい気はしない。必ず報復に来る。今回の件でマードックは無事に生活し続ける事は困難だろう。

始末されるのか、それとも死んだ方がましと思うような拷問が始まるのか、家族友人恋人ごとごっそりと存在をなかった事にされるかもしれない。

今回マードック達が殺し損ねた人物は、それが可能でなおかつ実行しうる人物だ。

 

「まだだ……まだ、終わっていない!!

あの町に派遣した〈へプタメロン〉がある……最終手段だ」

 

『ミスターマードック。サードエッグの準備できてます』

通信の先から聞こえるのは、マードックの残した最後の切り札。

2つの人工衛星を合体させた怪獣が本命なら、『サードエッグ』は万が一の保険だった。

 

「ウェスコットの居場所は分かるか?」

 

『反応によりますと、ホテルから動いていない様子。

エレンママの反応はありますが……なぜか、遠くに行ってしまい今から間に合う可能性はゼロです』

マードックはその情報を聞いて口角を上げた。

あの厄介な魔術師はいない。いつも張り付いていたうるさいあの女がいないのは、朗報だった。彼女がいなければウェスコットの暗殺もより簡単になるだろう。

見せつけられた余裕は、マードックのプライドを痛く傷つけたが今回ばかりは、助かったと言えるだろう。

なお、実際は――

 

「ぐすっ、ひっく……まま、きてぇ……ぼく、こわいよぉ……」

イザとなればエレンママに頼めばいいや。と高をくくっていたウェスコットは見事に見捨てられ、いくら連絡しても助けの来ないうぇすちゃまは恐怖のあまり腰が抜けて、赤ちゃんプレイ以外でのお漏らしを久しぶりにしてしまっていた。

勿論マードックが知れば腹を抱えて、爆笑する情けない姿なのは変わりないが……

 

 

 

「くっ……余裕ぶって、動かなかったのが仇になったな!!

やれぇい!!」

マードックの命令が〈へプタメロン〉に伝えられた。

 

 

 

 

 

無限の闇が広がる世界宇宙――

その中で最も、人間に見られたであろう衛星に一機の機械が降り立った。

 

『ぺんぺん、ぺたぺた、ぺんぺたぺた!俺も餅つきの大会に参加させてくれ!!

何処だ!?餅つき大会の会場は何処だ!?』

シルバーのボディをした、バンダースナッチの様なマシンが手に持った杵を掲げる。

一瞬だけ、ノイズが走り通信がつながった。

 

「シーズ!!月になんでそんなもん持ってきているんだ!?」

通信の相手は、地球にいる彼の相棒 元ヒャッハー!系ASTのスズモトだった。

そして、その通信に応答するのは相棒のシーズだった。

 

『おお、スズモトか。月ではウサギが不眠不休で永遠と餅をつき続けているのだろう?ぜひとも俺も参加してみたくてな。

来年のお正月が俺に任せろ!!』

 

「馬鹿野郎!月でウサギが餅をついてるのは、伝説だ!!

そんな昔話があるだけだ!!」

 

『なにぃ!?それでは……俺の、「お餅つきたい」欲求は何処へ!?』

機械の為、決してシーズの表情は変わりはしないが、なぜかとても感情的に見えるのは、彼が優れたAIを持っているからだろうか?

 

「ヒャッハー!!こいつすっかり自分の仕事を忘れてやがる!!」

対してスズモトは、通信先の地球の何処かで、おかしなことをする相棒に頭を痛めた。

 

『安心しろ、スズモト!ちゃんと、計画通りに俺が出向いて、DEM社の衛星の一個に保存されているプログラムを回収すればいんだろう?』

スズモトの言葉に、自身がなぜここにいるかを思い出す、シーズ。

 

「ああ、イザコザで混乱している今がチャンスだ」

 

『無論、了解して――ん?』

その時、シーズが何かに気が付く。

「どうした、シーズ?」

 

『俺の野生の勘が言っている!

なにか、地球でエライ事が起きているぞ』

 

「てめぇはロボだろ!?野生だったことなんてねーだろ!!」

 

 

 

 

 

皮肉な事に、シーズの野生の勘は当たっていた。

 

「なんだ、あれ?」

ペドーが気が付くと同時に、見た事の無い空中戦艦が、ビームの光を溜めていた。

それは、攻撃の発射の寸前であることは容易に想像でき――

 

「不味――」

ペドーがとっさに、七罪に覆いかぶさると同時に、その空中戦艦が爆発四散した。

 

「え?」

 

「無事でよかった。ペドー」

爆発音の中、見た事もない装備を身に着けた折紙が立つ。

その装備はASTよりも、DEM社のスーツに近い様に感じた。

 

「折紙……それ……かっこいいな!?触って良い?」

 

「だめ。これは企業秘密がいっぱい。変わりに――私の体なら好きなだけ触って構わない。

さぁ、胸でも、腿でも、XXX(自主規制)でも!!」

 

「うわぁ……変態だ」

突如始まった変態同氏の会話に、七罪が露骨にひいて見せた。




因みに今回のトランスは、変身のトランスフォームではなく、精神に異常のあるトランス状態のトランスです。

では、次回予告、行ってみよう!!

「十香たちは、普通に生きたいだけなんだ!!
あと、幼女精霊たちとハーレムで俺はくらしたい!!」

「私が殺すのは、精霊だでではない。情にほだされた私じしん……
それより、縛られる貴方を見てると興奮する。襲っていい?」

「そんな、折紙が……」

「ひゃっほう!!ロリ紙最高やないか!!
これはメインヒロイン確定ですわ!!けど、現代じゃ賞味期限が……」

『ペドーさん!?目的忘れてますわよ!?』

次回!!折紙パラドクス編、開始!!


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折紙パラドクス
「昏睡プレイみたいで、ひどく興奮する」「わかるー……」


さてさて、今回から新しい章『折紙パラドクス』が始まります。
矛盾を抱えた彼女の闇が、ついに見えますね。

ペドーは折紙を救えるのか!?


カチャ――キィ……

 

小さな音を立てて、ペドーの部屋の扉が開く。

音を立てない様に静かに姿を見せたのは七罪。

だが、彼女の正体である幼い姿ではなく、グラマラスな美女(ペドー視点では消費期限が切れているどころか、近づいた瞬間加齢臭で『エンッ――!』とか言って白目をむいてしまいそうな姿だった)

 

「うふふ」

七罪はメンタルが弱い。

精霊は精神的に不安定になることで、ペドーとの封印のパスが開き、一時的に霊力が戻ってくる。

七罪は、その特性を悪用して自分で自分を追い込み、自発的に霊力を使う術を見つけたのだ。

 

いつも余裕たっぷりのペドーを、びっくりさせてやろうという七罪のいたずら心だった。

 

思い切って変身後の姿は下着姿だ。

これにはあのロリコン野郎も一撃ノックアウトだろう。

早速、布団にくるまる相手に手を伸ばした。

 

「ぺ・ど・うく~ん。おき――うぇぃ!?」

 

「う~ん……もう、あさ……ですの?」

素っ頓狂な声を上げる七罪。その衝撃で変身が解けるが本人はそんなことを気にしては居ない。

それほどまでに、目の前の存在は、驚きに満ちていた。

 

「ふぅあ……お、七罪じゃないか……どうしたんだ?」

目を覚ましたペドーが、あくびをながら話す。

 

「ちょっと!!なんで、『その子』と()()()()()()のよ!?」

七罪が声を上げて、指をさす相手はペドーのベッドからこちらを見ているのは、精霊たちの中でも最も幼い、くるみだった。

 

「ま、まさか、そんな幼い子に、いかがわしい事を!?」

 

「あー、ちがうちがう。昨日くるみの好きなアニメ『ごちゅじんたま、だいすきうさたん』通称『ごちゅうさ』の最終回だったんだ。

特別に、夜更かしして二人でリアルタイム視聴したんだけど……」

ちらりと、ペドーがくるみを見る。

 

「ぐすっ……うさたん……あんなのってないですわ……ひどすぎます……」

 

「あーよしよし。そうだよな。ひどいよな……」

見る見るうちに涙ぐむくるみをペドーが肩を抱いて慰める。

 

なるほど、昨日好きなアニメがショッキングな最終回を迎えて、悲しむくるみをペドーが慰めたのだろうと七罪は理解した。

 

「なんか、あんたが『慰める』っていうと、とたんにうさん臭く感じるのはなんでかしら?」

七罪が言葉を濁した。

 

その時――

 

「一体朝から何をしているのかしら?」

一体いつからいたのか、ペドーの部屋のドアの向こう。

琴里が、静かに怒りをみなぎらせて立っていた。

 

「やぁ、琴里」

 

「ねぇ、おにーちゃん?一体どうして、同じベッドでくるみと寝てるのかしら?

そして、なぜ七罪まで部屋に連れ込んでいるのかしら?」

小さな司令官は相当お怒りの様だった。

その背後から流れるプレッシャーに、七罪がわずかにたじろぐ。

 

「ふっ、一緒に寝てくるみを慰めていたのさ。

そして、七罪は何か知らんけど、下着姿で部屋入ってきただけ。

くるみが見てなかったら、今ごろチョメチョメしてたぜ!!」

 

「ちょ、あんた起きて!?」

 

「起きてたよ?今度は、その姿で、あの恰好をしてほしいぜ!」

 

「この――ロリ兄!!」

グッとサムズアップするペドーに向かって、琴里が飛び蹴りを放つ!!

 

「む?薄ピンク……!」

 

「覗くなぁああああ!!!」

琴里の下着を覗きこんで、ペドーはまるで罰を受け入れる聖者の様な趣すら放ちながら蹴りを受け入れた。

 

 

 

 

 

「――でな?こう、すぐ横にくるみの寝顔が有る訳ですよ!!

小さなお鼻が動いて、睫毛が震えて、時折アニメの悲しいラストを思い出して、僅かに涙を滲ませて『うさたん、だめ……ですわ……ついて、いっちゃ……』なんて言うんだよ!!

これは抱きしめるしかなくね!?優しくハグして、優しく撫でて、よしよしすべきじゃね!?

もうね!!俺はもうねぇ!!ちっさいからだが震えて、なおかつ涙目なのよ!!

普通だったら、胸とかお尻とかお腹と触っちゃうけど、そん時ばっかりはそうは成らなかったわ……純粋に抱きしめて――殿町?聞いてるか?」

 

「大丈夫……おれは、ノーマル……俺はロリコンじゃない……おれは、まだ……エレンさんがいる……きっとエレンさんがすぐに……助けに来てくれる……大丈夫……大丈夫………」

今朝有った事を殿町と楽しく談笑(ペドー視点)しながら、学校での時間をつぶす。

その時、扉が開きタマちゃん先生(消費期限切れ)が浮かない顔をして入ってくる。

 

「あれー?タマちゃんなんか浮かない顔してる?」

 

「ほら、きっと昨日の『ごちゅうさ』の最終回が……」

 

「ああ、あれか……監督曰く『昨今の売れたら取りえず2部商法をさせないため、絶対に続きが無い終わりにした』らしいから……」

ざわざわと騒ぐ教室の中で、尚もうつむくタマちゃん(消費期限切れ)が、事態の重さを物語っていた。

静寂はその事を如実に語り、だんだんと教室内に伝播していく。

そして、皆は自然に自身の席に座り、次の言葉を待ち始めた。

 

「今日は皆さんに悲しいお知らせが2つあります……

まずは鳶一さんです、彼女はお仕事の都合でイギリスの学校に転校することになりました……必要書類は後程送るそうですが……もう一つは……

一部の人は知っているでしょうが、昨日お友達のマイン君が亡くなりました……」

 

「え?」

その言葉に、衝撃を受けたのはペドーだけではなかった。

その言葉の真意を確かめる様に、マインの席を見るがそこには誰も座っていなかった。

その机を囲む様に亜衣、麻衣、美衣の3人がうつむく。

亜衣は唇を固く結んで無言。麻衣はまるで魂の抜け殻の様な光の無い瞳。麻衣に至っては机に突っ伏し「まじ……やばいし……」という言葉と共に嗚咽が聞こえる。

 

クラスの中はあのオモシロ外国人がいなくなったことで落ち込みに落ち込んだ。

 

「このクラスもだいぶさみしくなったな……」

休み時間にペドーが一人つぶやく。

 

「結局、時子とマインのどっちも居なくなっちまったし、折紙まで……

それに遂には殿町まで錯乱して、また窓を突き破って飛び降りちまったし……なんで、俺の大切な友達は居なくなってしまうんだ!!

あと、殿町が飛び降りるのにクラスメイトが慣れててクッソ草生えた……」

ドォん!!と、机に自身の両腕を叩きつける。

 

 

 

 

 

ドォん!!と、ベッドに自身の両腕を七罪が叩きつける。

思い出すのは、今朝の事。

いたずら心のままに精霊ズマンションを抜け出したのは良い。

上手く家の中に入り込んでペドーの部屋に来れたのは良い。

だが、そこから七罪のネガティブが発動して、思い留まってしまった。

此処で帰ればよかったのだが……

 

「仕方ないじゃない~~」

誰に弁明するでもなく、七罪がベッドを殴りつける。

突然霊力が逆流して、大人の姿になった七罪はみるみるウチに自分に自信が湧いてきた。そしてその勢いのまま、あろうことかランジェリー姿で突入してしまったのだった。

 

「う、う……どう考えても痴女じゃない……100%痴女よ!!」

七罪の脳裏では、全裸のペドーがナカーマと言いながら、無駄にいい笑顔で握手を求めて来ていた。

 

「うわぁあああ!!私は、変態じゃないぃいいいいい!!」

再度ベッドを攻撃する仕事に戻った七罪。

だが、不意に聞こえたチャイムの音でピタリと動きを止める。

 

「だ、だれ?」

怯えながらも、走って玄関ののぞき穴から、来客の顔を確認する。

それは――

 

「オイ、引きこもり!!」

 

「ちょっと!?なんでいきなりけんかごしなんですの?

ぺどーさんとふたりでねたのが、そんなにきにくわないんですの?」

 

「ンな!?そ、そんなワケ無いだろ!?」

 

『おやおや~?シェリちゃんは意外とやきもち焼きなんだね~

これは、四糸乃もうかうかしてられないよ?』

 

「よ、よしのん……?」

漢字の通り姦しい3人組の幼女たち。

この前紹介された、ペドーが嘗て霊力を封印したという3人が立っていた。

待たせてはいけない!という強迫観念染みた動きで、反射的に七罪は玄関のドアを開けていた。

 

「あ、え……と」

しかし、この後どう言葉を繋げばいいのか分からなくて、七罪は言葉をつぐんでしまった。

 

「こんにちは、なつみさん。わたしたちとおちゃしませんか?

いいちゃばがあるんですのよ?」

くるみが一目で高いと分かる紅茶の缶をこっちに見せた。

 

『四糸乃たちの手作りお菓子もあるよん!』

パペットのよしのんが、小さな手で四糸乃が持つバスケットを差した。

 

 

 

「えっと……」

困ったような顔をして、七罪は自身の部屋のテーブルの表面を凝視する。

ちらりと視線を上げると――

 

「ん?」

シェリと目が合い、慌てて再度テーブルを凝視する作業に戻る。

部屋に3人を上げ後、くるみはお茶を入れる旨を伝え台所へ、四糸乃もお菓子を盛り付けるお皿を借りると言って奥へ行ってしまった。

結果、褐色系ボーイッシュロリに、引きこもり系ネガティブロリが対峙することとなった。

 

「あの……えっと、ごめんなさい……」

さっき表で3人が話していた内容から、逆算して七罪が謝罪を述べた。

 

「ん?さっきの話なら、気にしなくていいからボクだって、アイツとはそんなカンケーじゃないし……」

以前鋭い眼光を向けたまま、シェリがそう話す。

 

『けどけど~気にしてないって、お顔じゃないね~』

 

「みなさん、おちゃがはいりましたよ」

救いの手を差しのべたのは、お茶の準備をしに行っていた二人とパペットだった。

テーブルの上に、くるみがおちゃを並べる。

何処か良家のお嬢さんを思わせる優雅さ、それさえある動きだった。

 

「ゐ、イタダキます……」

一人だけの空間にまかさの客人に、七罪は自身の声が裏返るのを感じる。

 

「なにか、こまったことはありませんか?」

 

「あ、え?ん?」

四糸乃の言葉に、七罪がしどろもどろに反応する。

 

「何か困ったコトは無いかって聞いたんだよ」

言い淀む七罪の言葉をシェリは聞こえなかったと判断した様で、再度聞き直してくれた。

 

「とくには……」

 

「まだ、なれませんわよね。けど、ゆっくりならしていけばいいんですのよ?

それより、おちゃのかんそうをきかせてくれませんか?

ぺどーさんはなにをいってもおいしいしかいってくれませんの」

くるみがティーカップを傾けながら話す。

 

「あ、あの……そう言えばだけど、みんな前はごめん!!

散々いたずらして、困らせてごめん!!」

七罪の行動で、皆が目を見開く。

そう、この前まで七罪はペドーをはじめ、彼女たちにも散々嫌がらせをしていたのだ。

 

「ま、あれくらいイイじゃないか?」

 

「もう、やらないでくださいね?」

 

『よしのんは寛大だから許す!』

 

「まぁ、ぺどーさんにくらべれば……」

 

「え、みんな良いの?」

あっさり許す、3人に対して七罪はあっけにとられる。

 

「ああ、あのペド野郎と比べるとな……」

シェリがくるみの言葉に続いて賛同する。

 

「ペドーさん……は、すこし……」

 

『あんだか、一番人間離れしてるからなー』

皆が次々と『ペドーにくらべれば』と比較して許してくれる。

 

「いや、アイツなにしてるの!?」

許してくれたことよりも、皆が話すペドーの行動が気になる七罪。

 

「へぇ?知りたいか?」

 

「そうですわよね……なつみさんも、これからぺどーさんの()()()()()になるわけですし……」

 

「だ、だいじょうぶです……すこし、愛情表現が特殊なだけですから……」

 

「ひ、被害者!?アイツそんなに……あ、いや、今でも十分やばいけど!!」

ペドーという共通の相手を話のネタにして、七罪たちのお茶会が始まった。

 

 

 

 

 

「べぇっくしょん!!えう~」

道の真ん中で、ペドーが大きなくしゃみをする。鼻をすすり、歩みを止める。

 

「これは……きっと、家でロリたちが俺の噂をしているに違いない!!」

最早超人的な勘の良さで、速攻でペドーがくしゃみの原因を探る。

 

『ペドーさん、早く帰ってきてくださ……』

涙目の四糸乃がペドーと離れ離れになった悲しみに耐える様によしのんを抱きしめる(妄想)

 

『ぺどーさん、はやくかえってきてくださいまし……』

くるみが家の前で、帰ってくるペドーを今か今かと待っている(妄想)。

 

『ペド野郎……ボクを待たせるなんて、ナニ考えてんだぁ……』

さみしくなったシェリがペドーのベッドに顔を埋める(妄想)。

 

『七罪……七罪ぃ!!!』

七罪が、鏡の前でペドーに変身して、自身を求める姿を映す(妄想)。

 

 

 

「みんな!!待っててくれ!!今、帰る!!!」

ペドーが走り出した時、後ろから何者かに押さえつけられ、布を口に宛がわれる!!

意識を失う瞬間、ペドーが見た下手人の顔は――

 

「おり……がみ……」

 

「昏睡プレイみたいで、ひどく興奮する」

 

「わかるー……」

変態同士が、同調してペドーは意識を失った。

 

「…………とりあえず上着をぬがす……いや、全部……!!」

にたぁっとした笑みを張り付け、折紙がペドーをハイエースしていった。




皆さん、過去のロリ紙にペドーを合わせるのは危険だと判断した様で……
まぁ、その通りなんですがね?

さぁ、遂に時を超える変態の、物語スタートです!!


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「あ、誤魔化そうとしてるぞ!?」

なんだか、結構時間が空いてしまったようですね。
ごめんなさい。別に怪我とか病気ではないので、ご安心を――

けど、最近温度差が激しいので、室内と外を行き来する人は気を付けてくださいね。


「これで貴方を世界の人気者にしてあげる」

折紙が一目で『高い』と分かるビデオカメラを持って、ペドーと対峙する。

小さく操作するたびに、カメラのレンズがズームを繰り返す。

 

「お、お断りします……」

ペドーが身じろぎする度に、ギシギシと縄が軋む。

 

「冗談。貴方の姿を他人になんか見せはしない」

 

「ですよねー!!!」

やけくそ気味に、ペドーが答える。

目の前にある姿見には、自身の顔が映っている。

だが、もっとも気になるのは今のペドーの状態その物だった。

今のペドーの状態。それは椅子に縛り付けられていた!!

鋲か何かで床に完全固定された椅子!!その椅子の足に縛り付けられ、更にガムテープでぐるぐる巻きにされたペドーの足!!両腕は椅子の後ろに回され手錠でがっちりと固定されている。

文字通り手も足も出ない状況だった。

 

「喉が渇いたはず、飲んで」

 

「え、うっぷ!?」

折紙がペドーの口にペットボトルを突っ込む。

最初はゆっくり、次第に急こう配にペットボトルを傾けていく――

その結果。

 

バシャ!

 

「つめた!?」

 

「失敗した」

折紙が無表情で、ペドーを見下ろす。

ペドーの服には水がかかってすっかり濡れてしまった。

 

「問題ない。すぐに着替えを持ってくる――いや、もう少しこのままでいたい」

折紙が、再度ペドーを見下ろす。

身動き一つまともに出来ない、愛しいあの人。

 

今のペドーは逃げられない。学校にも、家族にも、時間にも、常識にすら縛られない折紙(自分)によって縛られた(ペドー)

ご飯を上げるのも、お風呂に入れるのも、自分ではできないペドー。

そう、今のペドーの命を握っているのは自分であり、ペドーは自分無しではもう生きていけない。折紙に文字通りすべてを依存するしかない。

 

無理やりキスしようが、服を脱いで彼に跨ろうが抵抗は出来ない。

その様は、ああ、その様は――

 

「ごふっ、興奮する……」

 

「おおぅ……」

興奮のあまり、鼻血を噴き出した折紙。

突然の流血沙汰に、ペドーが何かを察した。

 

「いけない。目的を間違う所だった」

 

「目的?」

そう、折紙がペドーを攫った理由は、このまま拉致監禁同棲生活をするためではない。

いや、事が終わったらスムーズに彼の了承のもと拉致監禁ラブラブ同棲生活に入る気だが先に済ませる事が有るのだ。

 

「私はDEM社に入った。精霊を殺す力を手にする為に」

 

「ッ!?折紙、転校はそのためか?けど分かってんのかDEM社がどんな会社か!!」

 

「分かっている。けど、リスクは承知の上」

 

「社長は赤ちゃんプレイ野郎だぞ!?」

 

「……………………………………………………………………………………………私はどうしても精霊に対して復讐しなくてはいけない」

 

「あ!悩んだ!!今のかなり長い間は、悩んだろ!?」

鬼の首を取ったようにペドーが指摘する。

 

「私の日常はゆっくりと変わっていった……」

折紙がゆっくりと語り始めた。

 

「あ、誤魔化そうとしてるぞ!?ペドーさんは誤魔化せないぞ!!」

ペドーの言葉を再度無視して折紙は語りだした。

 

「人間に擬態し、日常生活を送る『夜刀神 十香』をはじめ『八舞姉妹』、竜胆寺の『誘宵 美九』。

私はいつの間にか絆され、彼女たちを普通人間の様に思い始めたいた。

それが間違いだった!!私は、精霊を絶対に許さない。すべてを殺しつくすまで私は止まりはしない。私は彼女たちを()()。けどあなたは絶対に止めに来る。

だから、ここに攫った」

いつも通り一切の冗談や感情を殺した声。

ペドーは折紙が真剣に、考えていることが分かった。

 

「折紙……そこまでして、十香たちを殺したいのか?

殺さなきゃダメなのか!?」

 

「…………」

折紙は無言でうなづいた。

そして、振り返ることもなく部屋を後にした。

止めたかった、引き留め無理やりにでもやめさせたかった。

けれど、ペドーはそれすらできず、縛られたままだった。

 

 

 

 

 

「はぁ~い!ウェすちゃま、ごはんですよ~」

 

「ううん、マンマァ……」

DEM社の分社の一室で、ウェスコットがエレンに哺乳瓶でミクルを貰っていた。

ちゅぱちゅぱと不快な音を立てて、ミルクを飲んでいく。

 

「エレンママぁ、あの子の様子はどうでちゅか?」

 

「装備を渡し、調整を済ませた様です。一人で先に行動を始めた様ですね」

『あの子』とは無論折紙の事を指す。

ウェスコットを膝に抱いたまま、エレンがパッドを滑らし情報を読む。

 

「いいね、彼女の精霊に対する復讐心は使えると思っていた。

最近、戦力の補充もしたかったし丁度いい。

それにまずは彼女の能力も知りたいしね」

 

「私としては、彼女に与えた装備の性能も気になります」

折紙には、エレンの持つ装備と同じタイプが与えられている。

嘗てホワイトリコリスを使用した彼女ならば、と与えられていた。

独断行動の事実上の黙認、最高クラスの装備の配給、更には代表自らの引き抜きと折紙の待遇は文句なしの最高クラスだった。

 

「さて――ではエレンママにはもう一方の方をお願いしまちゅ!」

 

「もう一方?」

 

「そうでちゅ!折紙が動き出せば絶対にラタトスクが邪魔するでちゅ!」

 

「なるほど、理解しました。では、例の物を私も使用してみるとしましょう」

エレンは一瞬で、仕事の顔になりその部屋を後にした。

一人残されたウェスコットはゆっくりと立ち上がり、窓の方へと歩んでいく。

そして外の景色に目を向ける。

 

折紙という新たなカードを切り、エレンをフラクシナスに向かわせた。

二人には考えうる最高の装備を与えている。

 

うぅぅぅぅぅぅ――――!!!うぅううううううう!!!!

 

空間震を知らせるサイレンが鳴り始めた。

これは精霊を感知した為なっているのではない事をウェスコットは知っている。

これは他でもない折紙からの要望だった。

 

「さて、少年達よ。審判の鐘が鳴った。君は精霊たちを守り切れるか?」

ウェスコットがおむつだけの恰好で、笑って見せた。

 

 

 

 

 

「折……紙?」

空間震警報の鳴る中で、帰宅途中の十香は今日転校したと知らされた人物を目にしていた。

 

「まぁ!ダーリンのお友達さんですね?」

 

「マスター折紙?」

 

「どうした?何かあったのか?」

美九、耶倶矢 夕弦の3人と共に、件の人物を見る。

住人たちがみな逃げる中で、4人は時間が止まったように立ちすくんでいた。

そして、誰も居なくなった町で折紙がゆっくりと口を開いた。

 

「私は貴方たちを――()()

一瞬で、折紙の体にアーマーが形成され一切の容赦なく十香に切りかかった。

誰も居ない町で、折紙の復讐が始まる!!

 

 

 

 

 

空中艦、フラクシナス。その艦長である琴里は目の前のモニターを見て声を上げた。

地上は現在空間震警報の真っ最中。

新たな精霊か、と皆身構えたが、精霊の反応は無い。

その代わり、フラクシナスに備え付けられた外部を観察するモニターに信じられない人物が浮かび上がったのだ。

 

「ッ――!?あなたは!?」

 

『初めまして、五河 琴里さん。そしてフラクシナスの皆さん』

目の前に現れるのは、世界最強のウィザード、エレン・M・メイザース。

そんな彼女が、まるで隣の友人の家に遊びに来るような気やすさで、フラクシナスの扉をノックしたのだ。

 

「この空間震――まさか貴女が?」

外部に向けての通信を琴里が試みる。

 

『おおむね正解ですね。今、地上でも面白い事が起きていますよ?』

エレンの言葉とほぼ同時に、艦のメンバーの一人が叫ぶ様に報告する。

 

「!? 艦長!!地上で、十香ちゃんたちが折紙と交戦中です!!

相手の折紙の能力が異常です!!これじゃ……まるで……

異常な強さで十香ちゃんを襲っています!!」

 

「なるほどね……精霊たちを救出できない様に手を回したって訳ね?」

琴里が歯ぎしりをして、現状を整理する。

 

『さてと……アイクの命令により私は今からその戦艦を落とさなければいけません。

命が惜しい者、家族、友人、恋人が待っている者は皆、その艦を降りてください』

 

「へぇ、お優しい事ね……けど――」

 

「司令!!私たちは、司令にずっとついていきますからね!!」

 

「最強のウィザード?今ここで倒せば、俺たちが最強だな!!」

 

「ここで降りるなんて、女が廃るわ!」

メンバーが次々と、語気を荒げる。

その様子は、人類最強と対峙しても一向に恐れる様子はなかった。

 

「だそうよ?覚悟は良いかしら?人類最強さん?」

琴里は通信を使ってそう、エレンに言い放った。

 

『――馬鹿なことを……いいでしょう。

その愚かな夢を抱え、愚かな行為の結果、愚かに滅びなさい。

この〈ゲーティア〉が黄泉路へと案内してあげましょう!!』

エレンがスラスターを噴射して、飛び上がると空中が歪んだ。

 

皆が息を飲む。この能力は知っている。フラクシナスにも搭載されているステルス機能だ。

そして、ステルスが解除され悠然と姿を見せたもう一隻の空中戦艦。

まるで、式典に使われるような高貴な見た目。金の装飾と流麗なデザインは貴族の馬車を思わせるような美しさがあった。

だが、決して油断してはいけない。

どんな見てくれをしていようとも、エレン折紙の同時作戦の大一番にエレンが選んだ戦艦だ。

そのすさまじい力は、想像に難くないだろう。

 

「神無月――」

 

「は!〈ミストルティン〉いつでも発射可能です!!」

琴里の言葉に、神無月が静かに答える。

通常〈ミストルティン〉はチャージに時間が掛かるが、どうやらエレンの姿を見た時から、こうなることを予測して準備をしていたらしい。

 

「先手必勝よ!!一発かましてやりなさい!!」

 

「ハイ!!」

フラクシナスの発したエネルギーの束が、相手の戦艦へと向かっていく。

だが〈ゲーティア〉はそれを、何事もなかったかのように、真横にスライドして回避する。

 

「な!?」

琴里が驚愕の声を上げる。

相手は戦艦だ。当然だが、物理法則が存在する為、映画やアニメの様な動きは当然リアライザを以てしても簡単には無視できない。

だが、エレンはその『無理』をあっけなくこなしてしまった。

それだけで、相手がどれだけの力を持つか分かるだろう。

まだ、戦いは始まってすらいないが、それでも〈ゲーティア〉はその能力の一部を悠然と見せつけて来た。

 

「へぇ――流石は最新式の戦艦に、世界最強のウィザードね……

面白くなってきたじゃない!!」

強大な力の片りんを前にして、小さな司令官は尚も不敵に微笑んだ。

 

 

 

 

 

夕弦が血を流しながら、ふらつき、その一瞬の隙を折紙の蹴りが捉えた。

その一撃で夕弦の体は吹き飛び、民家のブロック塀を壊し派手な音共に倒れた。

 

「ぐふっ!?――マスタ、折、紙……」

 

「夕弦!!」

倒れる夕弦を見て、耶倶矢が怒りをあらわにする。

 

「みんな、下がって!!私が援護しますから、距離を――」

美九が光の鍵盤を生み出し、指で奏でる。

『声』を使い皆を援護しようとする。

だが――

 

「がはっ?!」

 

「貴女の能力は厄介。だが、貴女本人を叩くのは容易い」

折紙は瞬時に二人の間をすり抜け、美九の首に手をかけていた。

そして、レーザーブレードを掲げて――

 

「やめろぉおおおおお!!!」

十香の声が、町の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

空中で行われる2隻の艦隊の戦い――

地上で行われるウィザードと精霊の戦い――

そしてもう一人、たった一人で戦っている男がいた。

 

「はぐぅぅぅぅぅぅ!!!は、はやくうぅうううう!!」

ガタガタと、椅子を揺らすが折紙の施したロックは一向に外れない!!

歯を食いしばり、全身に力を入れるが尚も椅子の縄は外れはしない!!

 

「ああ、あああ、あああ!!漏れる!!漏れるぅううううう!!!」

折紙の完璧と思える計画にも実は穴があった!!

それは、ペドーの当然の欲求の解消方法を想定していなかった。

つまりは!!トイレの準備を一切していなかったのだ!!

 

「はひぃ、らめぇ!!漏れる!!漏っちゃう!!ペドーさん、高校生なのにお漏らししちゃう!!誰か、誰かヘルプ!!」

その時、天の助けか、ペドーの監禁された部屋のドアが開いた。

そして、そこから姿を見せるのは見慣れたあの子たち――

 

「オマエ、何してるんだ?」

 

「うわぁ……ものの見事に……」

シェリ、七罪と続き、四糸乃、くるみと皆が姿をみせる。

 

「う、嬉ションして良い?」

 

「良い訳ないだろ!?」

シェリの言葉が響いた。




バトルシーンは苦手ですね……
緊迫感を表現したのですが、難しいです。



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「私がもっとも忌むべき力。私がもっとも呪った力」

皆さん、新年おめでとうございます。

さて、お待たせしましたこの作品。
今年もこんな感じでやっていくのでお願いします。


「はぁ、はぁ……我慢、我慢、我慢だ……!!」

必死になって尿意をこらえるペドーの前。

4人の幼女がひどく真剣な面持ちをしていた。

 

「恨みっこなしだからな?」

 

「わ、わかって……ます」

 

「なんでこんな事に成ってるのよ……」

 

「いや、ですわ……」

シェリの言葉に皆うなづく。そして『最初はグー』の掛け声で一斉に手を引っ込めた。

四糸乃は怯え、七罪は困惑して、くるみは今にも泣き出しそうな顔をしている。

これは選別。あるいは試練。

 

「早くしないとペドーさん漏っちゃうよ~~!!」

ガタガタを椅子を鳴らし、ペドーが拘束されたまま暴れる!!

 

このペドーはもはや限界!!

しかしそれでも拘束は解かなくてはいけない!!

だが、十中八九、いやほぼ確実にペドーが紐を解いている間に漏らしてしまうだろう。

そうなれば当然ペドーの拘束を解いている者も無事ではいられない!!

決してやりたくない状況!!だが誰かが汚れ役を受けなくてはいけない!!

ならば――こういう時に後腐れなく出来る、決定方法は一つしかない!!

 

「あぁあぁぁああああ~~~~~!!!」

こうしている間にも、決着がついた様だった。

 

興奮した様子で、お互いに喜びを分かち合う四糸乃とくるみ。なんとかやりきった顔をするシェリ。

そして――絶望的な表情で、自らのチョキを見る七罪。

 

「ね、ねぇ、3回勝負に――」

 

「しないからな」

 

「いや、です」

 

「いやですわ!」

3人が即座に、七罪の提案を蹴る。

 

「うっぐ……なんで、なんで私が……」

 

「ナッツミン早く、早くぅ!!ペドーさんね、ペドーさんの膀胱もう限界なんだよぉ!!」

ガタガタとペドーが暴れる。

 

「う、うう……なんで、私が知り合って、ひと月も経たないけど、ちょっと良いかな~って思った奴のトイレの世話をしなくちゃダメなのよ……

もう、マジでいや……

うわぁ、ロープ固いしぃ……」

震えながら、ペドーのロープに手をかけるが、そこは流石の信頼と実績の折紙クオリティ。

堅結びした後に、接着材でガチガチに固めている、超強力ロックプレイである。

 

「も、もうだめ……ぺドーさん、膀胱もうらめぇ!!

うえっへっへっへ……俺、俺今日で人権にさよならするんだ……

今日から幼女の前で、おもらししたペドーさんとして生きていくんだ……」

 

「ちょ、ちょっと待て!?もうちょっとだけで良いから、ちょっと待て!!」

遂にペドーが諦めモードに入る!!

七罪が必死になって手を動かすが――

 

「も、もうだめぇ~~~!!!」

 

「ち、ちくしょぉおおおおおお!!」

ペドーの声と、七罪の怒号が重なった。

その時!!

 

ピカァ!!

 

部屋が一瞬にして、光に包まれた。

七罪が目を開けるとそこには……

 

「へ、ナニコレ……」

 

じょろろろろろろろろろろろろろろ……

 

白い少年の石膏の像が、水を局部から出していた。

有名な作品の『小便小僧』だ。

一分の一サイズとなった『小便ペドー』が水を出す。

 

「ぺどーさんが、どうぞうになりましたわ!!」

事態の読めない一同の心の声を代弁するように、くるみが声を上げる。

 

「なんで、ですか?」

 

「これって、精霊の力だよな?」

四糸乃シェリが続き、今になってようやく七罪も事態が読み込めた様だ。

 

「私の力よね?一時的に力が逆流した……?」

七罪が自身の両手を見ながら、未だに信じられないと言いたげにつぶやいた。

 

「ま、まぁ、最悪の事態は回避したと言えるわよね?」

七罪が、確認する様に皆に話す。

水は尿では無い様だが、いろいろと判定に困る現状に変わりはない。

だが、だが辛うじてアウトではないと言えないことは無いかもしれない、と思う。多分。

 

「……ところでこれ、どうやってもどすんですの?」

 

「あ”」

皆が再度同じ声を出した。

小便小僧となったペドーは、尚も水をこぼし続けていた。

 

 

 

 

 

「う、う~ん?」

十香が全身の訴える痛みに反応して、目を開ける。

一瞬なぜ、こんな所で眠っているのか分からなかったが――

 

「痛っ!?たぁ~~……!!」

耳に届くのは耶倶矢の声。

耶倶矢、夕弦、美九、帰り道、折紙、戦い……

それにより、十香は連鎖的に今までの事を思い出した。

 

「み、みんなは!?」

急いで跳び起きた時、自身のすぐ横に美九が倒れこんできた。

服はボロボロに裂け、体の至るところから血が滲んでいる。

 

「美九……?」

十香が声をかけるより先に、瓦礫が蹴飛ばされる音がした。

そして――

 

「うわぁあああ!!」

 

「ぐ、くぅうう!!」

折紙のレーザーブレードが、八舞の二人をなぎ倒した。

二人の体が舞い、斬られた体からは血が飛び散っている。

 

「…………」

瓦礫の上に倒れる二人。

折紙は何も言わず、夕弦に近づきレーザーブレードを突き立てる様に逆手に持ち変える。

そして、何の感慨も持たず、少なくとも十香から見て決して仲の悪くなかったハズの夕弦にブレードを振り下ろそうとした。

 

「鳶一、折紙ぃいいいいいいい!!!」

その瞬間、十香が走っていく。

 

なぜ、折紙がこんな事をしたのか?なぜ、仲の良かったハズの夕弦すら殺そうとするのか?、そしてなぜ、今になってこんな嫌な戦いをしているのか?

そんな疑問が次々湧いたが、十香はそれを黙らせる。

今、自分が折紙を止めなくてはいけない気がした。

今、自分が折紙を止めなければ、きっと折紙の大切な何かが、壊れてしまう気ががした。

だから、走った。夕弦を救う為、自分たちの日常を守る為、そして折紙に超えてはいけない線を越えさせない為――

 

一歩、進むごとに自分の中に在った封印が外れていく。

一歩、歩むごとに自分の中のナニカが形を持っていく。

一歩、跳ぶごとに自分の中の眠らせたハズの力が帰ってくる!!

 

「折紙!!!」

 

「それは――」

折紙が驚愕に目を見開く。

そこに居たのは、十香――いや、十香が『十香』になる前の姿。

黒髪、水晶の瞳。身に纏う鎧は紫紺、翻すスカートは不思議な光を放ち、そして手にする大剣は全てをなぎ倒す力の象徴!!

 

「精霊……〈プリンセス〉……」

 

「折紙、私は、私はお前の事が嫌いだ。

だが、今のお前はもっと嫌いだ。だから、だから私はお前を、前の嫌いだったお前に戻す!!

――死ぬなよ?折紙」

嘗て、この世界を襲った形を持つ災厄。

一人の少年と組織によって封印され、この世から消失したハズの精霊〈プリンセス〉が戻って来た!!

 

「――そう、それならそれで良い。今の私は精霊を殺せる。

いや――()()()()()()()()()

問題は――ない!!」

多くのASTが震え、決して一対一では戦おうとしなかった相手。

その相手に向かって折紙はレーザーブレードを振るう!!

 

「はぁあああ!!」

 

「狭域テリトリー展開」

十香サンダルフォンをテリトリーで無理やり、いなしつつ接近する。

相手の武器は巨大な剣。対して折紙のブレードは多少小さいが問題は無い。

武器の大きさが戦力の大きさという訳ではない。

 

滑る様に折紙が近づき十香の胸元を狙う!!

 

「させん!!」

だが十香はバックステップを行い、サンダルフォンを自身の前で振りかぶる。

踏み込むとしていた折紙より、更に後ろへ下がったのだ。

そして、振り上げたサンダルフォンを折紙に向ける。

 

回避か、鍔迫り合いか、一瞬だけ二つの選択肢に折紙が頭を悩ませるが結果として彼女が選んだのは鍔迫り合いだった。

距離を開ければ開けるだけ不利になると判断した。

今は、他の精霊が倒れている間に確実に〈プリンセス〉を仕留めたかった。

今の装備ならば、勝ち目は十分にあると折紙は踏んでいた。

 

「なに!?」

そしてその、予想は当たっていた。

折紙はテリトリーと出力を増大させたブレードによってサンダルフォンを見事に受け止めたのだ。

絶対の武器、サンダルフォン。それを受け止められた十香は驚きの感情を見せた。

その隙を折紙は決して逃しはしなかった。

 

「ファイア」

 

「ぐぁあああ!!」

折紙の言葉と共に、レーザーブレードから光弾が発射される。

このブレードは可変式の武器であり、モードを変えることで光弾を放つ銃撃用の武器としても使用できるのだ。

 

「折紙ぃ……!!」

煙の中、僅かにダメージを負った〈プリンセス〉が姿を見せる。

 

(勝てる)

 

折紙の中で、その確信が存在感を増す。

 

(勝てる。精霊に――勝てる!)

 

自身の両親を奪った精霊。今、折紙は自らの手でその精霊の一体を消せる寸前まで来ている。

彼女を乗り越えれば、折紙は自身の目標に大きな一歩を踏み出せる事に成る。

あと一歩でたどり着ける、復讐の一区切りに折紙は笑みを浮かべそうになった。

逸る心を無理やり押さえつけ、冷静に、冷酷に、冷淡にこの精霊を『処理』しようとした瞬間――

 

「づぅ!?」

突然の痛みに折紙が、頭を押さえる。

ガンガン響く痛み、ドンドン大きくなる痛み!!

不意に熱くなった鼻からは、赤い液体がこぼれだした。

ホワイトリコリスの時も感じた。脳の酷使による疲労だ。

 

「折紙!?」

突然の行動に、十香が露骨に心配する。

そのあまりに普通な、敵対した人物に絶対しないであろう、『心配した姿』を見た折紙は自身の無力を悟った。

 

(私は――貴方の敵にすら成れていない……)

そう、折紙は自身の身を削っている事すら気が付かなかった。

訓練で身を削り、血反吐を吐いて努力し、覚悟を決めて、心を消して剣を振るってもなお、なお、()()()()()()()()

あまりにも残酷な真実が折紙に知らされた。

ながい、長い、永い、研鑽と努力の末、出された答えそれは決して、折紙が認めたくない物だった。

 

「わ、たし……は……」

 

【ねぇ、君。力が欲しくないかい?】

折紙の耳に、酷く歪な声が響いた。

男か?女か?それすらも分からない、強いて言うならノイズが掛ったような声が聞こえた。

 

【君はとっても力を欲しているようだね?

ならば、私があげよう。人間を超える力を、精霊を始末出来る力を君に】

痛みと悔しさの中、【ソレ】が差し出す。

 

「やめろ!!折紙!!それに手を――」

十香の言葉を最後まで聞く前に、折紙はそれに手を伸ばしていた。

 

ドクン――!

 

その瞬間、折紙の心臓が跳ね上がるのを感じた。

 

 

 

 

 

「いてて……夕弦、生きてる?」

 

「返、答。耶倶矢……こそ……」

 

「私はぁ……な、んと、か……」

耶倶矢、夕弦、そして美九の3人が声を出す。

その時、目の前に十香が降り立った。

 

「あれ、その恰好――」

 

「驚愕。霊装が……」

 

「皆、逃げてくれ。守りながらでは戦えない」

皆が一様に、その言葉の疑問を持った。

戦えない。まだ、戦いは続いているという事。

ならば、その相手は?

 

「来た!!くッ!!」

瞬時に十香はサンダルフォンを構え、3人の盾にする。

その瞬間、何かがそこを通り過ぎた。

 

「なに、今の?」

 

「光?けど、これは、リアライザなんかじゃなく――」

 

茫然とする皆の前にソレは降り立った。

日輪を背負うかのような、白い服装。

ウエディングドレスにも見える純白の、決してASTやDEM社が作り出さないであろう恰好をして『折紙』は降り立った。

 

「この力は……私がもっとも忌むべき力。私がもっとも呪った力。

けど、今はこの力を使おう。この世界のすべての精霊を消すために。

何時か、最後の一人である(精霊)を消すまで――」

そして折紙は『天使』の名を呼んだ。

 

「〈絶滅天使(メタトロン)〉」

 

「精霊?折紙が?……()()?」

耶倶矢が今見た、現実を受け入れられずにそう言った。

 

 

 

 

 

「どうします?ぺどーさんがどうぞう……せっこう?に、なってしまいましたわ!」

 

「時間が経てば、もどりませんか?」

 

「とりあえず持って帰って――」

 

「わ、私が悪いの?まさか、死……」

4人が話合う中で……

 

『ペドータイム!!』

 

「ん?」「え?」「あ?」「へ?」

何処かから聞こえるペドーの声。

そして――

 

「ろりーんライダー!ペドォ!!」

当人の掛け声と共に、銅像の表面が崩れる!!

そして中からはペドーが蘇る!!

 

「やぁみんな!!ペドーさんの復活だぜ!!

ふぅ!この解放感!!サイコー!!」

 

「いやぁあああああ!!」

 

「うわぁあああああ!!」

 

「いやだぁああああ!!」

 

「なんでだぁあああ!!」

銅像は全裸!!ならば、その中から出てくるペドーも当然全裸!!

不自然な光さん、今日もよろしくお願いします!!

 

「さぁ!折紙を止めに行こうぜ!!」

いろいろと最悪な復活をした、ペドーの言葉は幼女たちの悲鳴にかき消された。




戦闘は苦手ですね。
戦闘シーン頑張ったし、その分ペドーさんのシーンも頑張りました。
温度差?うん、酷いね。


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「……最後、自身の欲求入りましたわよね?」

お待たせしました、今回も投稿です。
2月まるまる休んでしまった……

すいませんでした!


「うお、まぶしい……」

折紙によって監禁されていたペドー。

ロリ精霊たちにより、救出されたが目の前に広がるのは変わり果てた町だった。

 

「なんだ、これ?」

ペドーが力なくつぶやく。

 

「さっきまで、こんなんじゃなかったぞ?」

シェリの言葉に続くように四糸乃、くるみ、七罪もうなづく。

 

「空間震じゃないよな?

よしんば、監禁されてて気が付かなかったとしても、町がこんな風に壊れるなんて……」

ペドーは目の前に突き刺さった、何処かから飛んできたと思われる一時停止の看板を見る。

 

真っ二つになったビルに、車輪が残っていることでかろうじて車だったと分かるスクラップ、えぐれたアスファルトに、まるでお菓子の様にへし折られた電柱の数々。

まるで特撮映画の様に、廃墟になりつつある町を見る。

空間を削り取る空間震ではあり得ない壊れ方だ。

だが、町をこんな風に壊せる存在にペドーは思い当たるフシが有った。

 

「まさか、折紙――!?

みんな、ごめん!ちょっと俺行ってくる!!

ここで待っててくれ」

 

「ぺどーさん?」

 

「ちょっと、まさかあそこへ行くつもりじゃ……」

くるみ、七罪が不満そうに声を上げる

 

「シェリちゃん、よしのん、みんなを任せるぞ!」

縋りつきそうな二人を、しっかり者の二人に任せて先に行く。

シェリとよしのんは瞬時に、ペドーの意思を読み取り頷いてくれた。

 

『ペドー君、帰ってきたらしっかり話してもらうからね!』

 

「分かってるよ!」

ペドーはそう叫ぶと、(楽園)に別れを告げ死地(分からず屋)へと走り出した。

 

 

 

 

 

分かる。力の使い方が。分かる。どう動かすべきか、まるでずっと使い続けた相棒の様に、たった今手にいれた力を折紙が振るう。

精霊と化した折紙が、その霊装を展開する。

機械の様な幾何学的な印象を与える羽は、折紙の周りを舞躍る。

そして、丸く円を描くと――

 

「『殲滅天使(メタトロン)』――【日輪(シェメッシュ)】」

 

「く――!サン、ダル――フォン!!」

迸る光の輪を、同じく霊装を纏った十香の『鏖殺公(サンダルフォン)』の一撃を弾き飛ばし、見慣れた町を破壊する。

建物が、道路が、車が、ビルが、目の前に居る十香以外の様々な物があまりにあっけなく壊されていく。

その様は、まるで精霊が暴れた様だった。

いや、()()()ではない。自分はもはや……

 

「私は――」

そのあまりの威力に、折紙は自身に恐怖を覚えた。

 

「そこ――だぁ!!」

僅か、僅か、一瞬の隙。

茫然とした折紙の頭上に、十香の『鏖殺公(サンダルフォン)』が振り下ろされた。

 

「…………」

 

「なに!?」

十香の攻撃を折紙は避けようとすらしなかった。

その姿は光の粒に形を変え、その場から数メートル離れた場所で再度人の形を結んだ。

到底人間では出来ない御業。人ならざる『モノ』のみが可能とする所業。

 

「私は――化物(精霊)……」

 

化物なら、化物で構わない。自分は身も心もバケモノに成ろう。

この世にいる精霊すべてを屠るバケモノに変わろう。

 

折紙は自ら人の心を捨てる事にした。

 

ならば、バケモノの最初の仕事は、この精霊を殺す事だ。

 

折紙は自身にそう言い聞かせ、再度力を振るう。

 

「【光剣(カドウール)】」

殲滅天使(メタトロン)』が再度変形する。

今度はより鋭角を持った、剣の様に、鋭く鋭利になる。

そして、その無数のパーツが十香目指して飛んだ。

光の帯を残し、まるで光のリボンが結ばれる様に、あるいは光の牢獄へ閉じ込められる様に十香へ向かっていく。

 

「うぁああああああ!!!」

だが十香も止まりはしない。

自身の最強の武器、『鏖殺公(サンダルフォン)』を構えたまま、光の剣へと走っていく。

それは彼女の直情的な性格故か、それとも包囲される前に突破する事を目的とした、戦略的行為かはわからない。

だが、十香は折紙から逃げることなく、全力で真正面から立ち向かう事を選んだ。

しかし、それは折紙も同じ事。避けることなく真正面から追撃を選んだ!!

 

「『鏖殺公(サンダルフォン)』――【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】!!」

 

「『絶滅天使(メタトロン)』――【砲冠(アーティリフ)】!!」

暴力的な力を纏う剣と、崩壊を予兆させる光を称える王冠がぶつかるその刹那!!

 

「ハニエル!!ちちんぷいぷいパンツになーれ!!」

二人のとって、聞き覚えのある声がした。

そして、横から飛んできたピンクの光によって、二人の力が一瞬にして無数の女児下着へと変化した!!

 

「うわっぷ!?なんなのだ!?」

 

「これは……」

道路に転がる、無数の女児下着。

ピンクだったり、フリフリだったり、キャラクターが書かれて居たり……

まるで桜の花びらの様に、女児下着が降り注ぐ。

 

「貴方は……」

 

「ペドー!!」

降り注ぐパンツの中、ペドーがゆっくりと姿を見せる。

 

「ついに見つけたぞ、折紙」

ペドーが精霊となった折紙を見つける。

彼の瞳の中に、自分が映っている。

 

「おり――」

 

「いや……いやぁあああ!!」

ペドーが口を開いた瞬間、折紙が飛び出した。

まるで光の矢の様に、その場から逃げ出したのだ。

 

 

 

「いや、いやぁ……」

空を猛スピードで駆ける折紙。

ついさっき『バケモノ』に成ろうと決めた心は経った一人の少年の姿を見ただけで、人間の心へと戻ってしまった。

 

見せたくなかった。彼だけには、ペドーだけには。

醜い怪物へと変貌を遂げ、彼の友人たる精霊たちに手を下し命を奪う瞬間は見せたくなかった。

だが、彼は来てしまった。

本当は、何処となく予想がしていた。彼はおとなしく捕まっている性格ではない。

きっと何らかの手段を駆使して、ここにやってくる。

そんな嫌な、当たってほしくない予感がしていた。

 

「…………」

最悪の状況を迎えた折紙は、なんの意味もないと分かりながらも逃げ出してしまった。

 

 

 

 

 

「よし、応急処置完了だ」

やり切った顔をしたペドーが額の汗をぬぐう。

場所は近くにあった、デパートの適当な家具売り場。

売り物のベットの上に八舞の二人を寝かし、体についた傷はさっきペドーが折紙十香の二人の攻撃を変化させた女児下着で治療している。

「むぐぅ……いたいって!」

 

「困惑。むふぅ……息が出来ません……」

 

そのため、八舞の二人は全身に女児下着を装備しているという、お巡りさん通報コース待ったなしの恰好!!

 

「きなこぉ……もっと、きな、こ……」

一番損傷の激しかった十香は、きなこをキメる事により痛みを誤魔化している。

こちらも応急処置をしたが、麻酔薬の代わりが有って助かったみたいだ。

 

「だぁりんがわたしを、たすけてくれたぁ……だあぁりんがぁわたしを……」

比較的傷の浅かった美九は、おざなりにペドーが巻いた女児下着を大切そうに抱きしめている。

体より明らかに心をやられているが、まぁ何時もの事のなので問題は無いだろう。

 

「くそっ!琴里は毎度のことながら、肝心な時に繋がらないし……」

最早お家芸となった、肝心な時に琴里に繋がらない現象。

半場予測していたペドーは、次に取るべき行動を考え始める。

だが、考え始めてしまうとやはり、最初に思考がいたるのは、今後の事ではなく『精霊化』した折紙の事だ。

琴里、美九の前例があるため『絶対にありえない』とは言い難いが――

 

「まさか、折紙がな……」

何処となく困惑したように、ペドーがため息を漏らす。

 

 

 

 

 

「よく、ここがわかりましたわね」

夜の闇の中、一人の少女がビルの屋上にたたずみながら声を漏らす。

闇夜に合って尚も黒い髪に、迸る鮮血の様な激しい赤。

そして、無機質に時を刻む時計の様な左目

 

最悪の精霊 時崎 狂三がそこに居た。

そして、空からゆっくりと降りてくる純白の精霊、折紙。

その姿を見て狂三は目を細めた。

 

「その姿……そうですか、貴女もですか……」

 

「無駄話をしに来た訳ではない。ずいぶん探した」

 

「そうでしょうね。こう見えても、周囲に注意を払って――」

 

「アネキ!いやしたぜ!!」

 

「……ご苦労。帰って構わない」

折紙はそう言って、自身の足元から姿を見せた狂三に、別れを告げる。

そして、その狂三の分身体は闇に消えていく。

 

「……え?今の、私の分身……え?わたくし、また自分に裏切られましたの……?」

 

「貴方は、自分の分身から人望が驚くほど無い」

微妙にショックを受ける狂三に折紙が冷たく言い放つ。

 

「べ、別に気にしませんわ!!

そんなことより、私に一体なんの用事ですの!?

精霊になった、折紙さん?」

敢えて精霊の部分を強調して、狂三が挑発する。

 

「貴女の『天使』に用がある」

 

「わたくしの『刻々帝(ザフキエル)』に?」

狂三の天使、それは時を操る天使。

折紙はそのうちの『とある能力』に目を付けていた。

 

「貴女の『天使』の中にある、時を遡る力を使わせて欲しい。

無いとは言わせない。以前ペドーは貴方の分身の力を使い、おおよそ1分前の過去に戻るという事を実際に行った。

貴方の『天使』には必ず、過去への遡行を可能にする力が有るはず」

確信めいた物言を折紙は狂三に投げかけた。

その言葉に、一瞬狂三の頬が歪む。

それは躊躇か、喜びか、それとも哀れみか。

数瞬の時を開けて再度狂三が口を開いた。

 

「貴女も変えたい過去がありますのね?」

敢えて感情を殺し、狂三は話す。

 

「私の能力の一つに確かにあります。時間遡行を可能にする能力。

一二の弾(ユッド・ベート)】が。

けど、何をする気ですの?」

僅かに湧いた興味から、狂三が尋ねる。

人間誰しも変えたい過去はある。

この才女と呼ばれていた精霊は一体なにを、『変えたい』のか興味がわいた。

 

「5年前のこの町。私の両親が殺された時間にいき、両親を殺した精霊を――

私が殺す」

 

「へぇ……」

純白の霊装とは正反対の黒く濁った瞳を、折紙が向ける。

 

「どんな条件でも飲む。土下座しろと言うならする。四肢をもげと言うならもぐ。貴女の奴隷に成れと言うならば成る。

ペドーを連れてきて、貴女の目の前で性的に襲ってパパにしろと言うなら、喜んでする」

 

「……最後、自身の欲求入りましたわよね?」

狂三が(そう言えば、この人はペドーさんと同類でしたわね)と思い直す。

 

「だが、それでもダメなら()()()()を使う」

別の手段。

それが何なのか、折紙は言っていないが、今の彼女は精霊だ。

人間にはない圧倒的な力を使い、無理やり力で従わせるという手段もとれる。

これは、懇願にして脅迫だった。

 

「何時も冷静な貴方がそんな手まで使うなんて……

良いでしょう。私としても一回【一二の弾(ユッド・ベート)】がどのような物か試してみたかったですし。

けど、当然使うのには霊力を消費します。そこは、貴女にあがなってもらいますわよ?」

 

「構わない。私を五年前の8月3日」

折紙が即答する。

その眼には一切の迷いも躊躇もない。

霊力を渡す。それは何でもない事に聞こえるが、相手が狂三の時に限っては別だ。

『最悪の精霊』それが、狂三の通り名だ。約束を反故にする可能性はいくらでもある。

無論折紙とて、狂三の性格を知らない訳ではない、以前ペドーを騙し学校の住人全員を人質に取り、DEM社の機密データを奪い、美九の事件の裏で暗躍していた。

この経歴をもって、信じることが出来る存在など稀だ。だが――

『狂三は万が一、億が一にも自分を騙す事など考えていない』

と断じて、折紙はあっさりとこの誘いに乗った。

 

「そうですか」

『やる』と決めてからの、狂三の行動は早かった。

手早く天使を呼び出し、相手から『時間』を奪う『時喰みの城』を使う。

濃縮された影が、折紙から霊力を奪っていく。

 

「うっ……く……」

体から力が抜ける虚脱感に、折紙が声を漏らす。

 

「過去に戻るには膨大な霊力が必要ですわ。

ペドーさんが以前やった、1分前の過去に30秒程度に戻るだけならそこまで霊力は必要ありませんわ……

けど、今回はちがいますわ。5年前、それも数時間長くて1時間程度ですかね?

ならば……」

時計形の天使から、狂三の短銃に影が込められた。

この掌に収まる短銃に、この世の絶対の理を壊す力が溜まっている。

 

「……行ってくる」

 

「……ご武運を――!」

 

パァン!とひどく乾いた音がして折紙はその場から消え去った。

 

「折紙さん……私にみせてくださいまし……人が時間という絶対の壁を崩し、己が運命を変える瞬間を――」

この時、狂三は珍しく純粋に、願うような気持ちで声を発していた。

 

「チっす!時子!!げんきー?」

 

「違いますわ!!――って、この挨拶は……!」

しみじみした空気を壊すロリコンヴォイス!!

この男の狂気はとても忘れることが出来ない!!

そして、その男とは――

 

「やっぱりペドーさん!!」

へらへらとしながら、ペドーが手を振る。

 

「なぁ時子。時間旅行行かない?具体的には()()()()()()()()に。

報酬は――――――――――女児下着1000枚だ!!」

ペドーがカバンから大量の女児下着をばらまく!!

 

「ゼッタイにやりませんわ!!」

狂三の声がむなしく響いた。




デート・ア・ペドーの原作がアニメをやってるぞ!
ロリコンじゃない士道クンが見れる!!
苦労人じゃない時子が見れる!!
そして、冷遇されない非幼女精霊たち!!

アニメって素晴らしいですね。


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「旅の恥はかき捨ててって言うもんな!!」

今回はすこし、早めに投稿出来た様ですね。
この調子でもっと投稿時間を早めたいですね。


何処とも知れない、屋上の上。

狂三とペドーが向き合う。

 

「『過去に行きたい』……ずいぶん、大それた事を言いますのね?」

狂三は探りを入れる。

自分はたった今、精霊と化した鳶一 折紙を5年前の8月3日に送り届けたばかりだ。

このタイミングで、彼が彼女と全く同じ『時間』に送り届けて欲しいというのはなんだか作為的な物がある気がした。

 

「いやさ、推理に推理を重ねた推測を域を出ない仮説なんだけどさ?

折紙なら過去に行って、やり直しをしようとするんじゃないかと思ってさ。

唯一出来る可能性があるなら、お前だろ?」

 

「なぜ、わたくしが折紙さんを過去に送ったと思うんですの?」

 

「おいおい。無駄なこと言うなよ。こっちにはくるみがいる。

そっちが大規模な力を使えば分かるさ。

んで、さっきも言ったように、その何らかの大規模な力の使い道を考えた結果、折紙にたどり着いたってワケだ」

探りを入れる狂三の言葉を簡単に、あしらいペドーが説明する。

ペドーは折紙の考える事を模倣して、狂三に行きついたのではなく、狂三が何か大きな力を使ったという事実から折紙にたどり着いた様だ。

 

「チぃ、『あの子』がアナタたちの陣営に居るのは思った以上に厄介ですわね……」

舌打ちをして、狂三が内心で爪を噛む。

だが、それも一瞬の事。すぐに考えを改め次善策を探す。

 

「良いですわ。ペドーさんが望むなら、折紙さんを送ったのと同じ過去に送ってあげますわ。

けれど、交通料はきちんと頂きますわよ?」

 

「……え!?まさか……俺の体が目当てか!?

そうだよな、そんな行き遅れのお前が唯一、何らかの伴侶を得る手段と言えば、無理やりにでも肉体関係を結んで、相手の同情を得てそのままズルズルと――」

ペドーが自身の胸の前で、両腕をクロスさせる。

体は嫌がっているが、その瞳には諦めがちらついている。

 

「違いますわ!!いや、体が目当てという意味では遠くないと言うか、ああもう!!なんでペドーさんと居るとこんなにも話が進まないんですの!?

通行料と言うのは、ペドーさんの中にある霊力ですわ」

 

「ああ、その程度か。良いぞ。もともと俺のじゃないし。

使い道がなんにも無いからな」

それなら構わないと、ペドーが今度は無防備に手を広げる。

 

「わたくしが欲しくて仕方ない物を、そんな風に言えますのね」

 

「ま、今この瞬間、必要だったのは嘘じゃないか」

ペドーがくるみの天使、『刻々帝(ザフキエル)』の短銃を呼び出す。

そしてそれを狂三に渡した。

 

「不思議な気分ですわね。わたくし以外の『刻々帝』を見るのは――

さぁて、おしゃべりはこれ位にして、始めましょうか」

狂三の影がうごめき、ペドーの足元を包み込む。

彼女の能力の一つ、相手の時間を奪う『時喰みの城』だ。

 

「くっ……」

ペドーの体から、力が抜ける。

なるほど、これが霊力を吸われるという事なのだろう。

顔を上げると、狂三の瞳の時計の針が右回転――本来と逆方向へと回っていた。

そして数瞬の時が過ぎた後――

 

「お疲れ様、ペドーさん。準備が出来ましたわ」

そう言って、狂三がペドーから渡された短銃を帰す。

 

「これが……世界()を超える力……!」

ペドーの手に、短銃が握られている。

それはさっきまでとは明らかに違う『力』を秘めていた。

明確なまでに『違った』物だと思えた。

 

「ふぅん、流石ですわね。複数の精霊を封印しただけありますわね。

すごい霊力ですわ。けど、やはり『刻々帝(ザフキエル)』の使い方は下手ですわね。

このまま撃っては、()()()的外れな時代に飛ばされますわよ?

滞在時間も、1分も無い。この力を目的の『時間』に合わせて、なおかつその『時間』で――」

狂三が長々と説明を始めるが――

 

「あ!手が滑った!!」

 

「ちょ!?何やってますの!!」

ペドーの手から短銃が、こぼれ落ちる。

その短銃にペドー、狂三の両名が手を伸ばす。

そして二人の手が、それぞれ銃口とトリガーを掴んだ。

 

「あ、そこは――」

狂三が銃口を掴み、ペドーがトリガーを握った。

その結果、『刻々帝(ザフキエル)』は暴発した。

 

 

 

 

 

「う、う……ここは……?」

目を覚ますと狂三は知らない場所にいた。

ここが過去なのか、未来なのかはわからないだが――

 

「ひどい世界ですわね……あたり一面、土と砂……ばかり……」

大地は枯れ果て、草木も無い。

見る限り、何かの建物の廃墟と、砕けた岩ばかり。

そして無数の――

 

「戦いの跡……?」

銃痕や、切り傷が廃墟に残されている。

ここ数年過去に、こんな戦いがあった記録は無い。

つまりここは――

 

「未来の世界……こんな、荒廃し尽くした死の世界が……」

狂三はショックを受けた。

自身の大切な者たちは何処へ行ったのだろう?

もしや自身が折紙を過去に送ったことが原因なのだろうか?

そして、これが未来であるならばどうすれば、この未来を回避できるのか?

ぐるぐると狂三の頭で考える。

 

その時――

 

「誰かの、声?生存者がいますの!?」

小さく声が聞こえた気がして、狂三が走り出す。

走り、廃墟を抜けた先に――

 

「うぉおおお!!ガチペドオーを倒せ!!」

 

「ロリコン以外も優遇される世界を!!」

 

「15歳以上の女の子は、賞味期限切れなんかじゃない!!」

ボロボロの服を着た、男女が武器を持って走っている。

そして、その向かう先には――

 

『幼女こそ至高――幼女こそ全て!!

全ての幼女は、我、『ガチペドオー』の元に集え!!』

黄金と黒の鎧を着た男が、他の男たちと戦っていた。

武装した相手に対し、ガチペドオーは一歩も引かない。

 

「え、いや、まさかあの声……違いますわよね?

けど、え?あのロリコンヴォイスは……え?」

 

『さて、今日は気分が良い。特別に、この子たちの力を見せてやろう』

指を鳴らすと、3人の幼女が背後に降り立つ。

 

「流石、ガチペドオー殿!私が仕えるべきお人!」

 

「ウン、素晴らしい。疑問を持つ部分もない」

 

「素晴らしい力です。私の計算では現時点で勝率は98%を超えます」

忍者のような幼女、モノクルを付けた知的な幼女、そして何処か機械的な印象を与える幼女が並ぶ。

 

『さぁ、非幼女を駆逐し、ロリコンを導く英雄奇譚の始まりだ!!

はっはっはっは!!はぁっはっはっはっは!!』

 

「うわぁああああああ!!」

 

「あぁあああああああ!!」

 

「ぐぅおおおおおおお!!」

ガチペドオーの放つ技で、人々は簡単に倒されてしまった。

一瞬にして、消えていくレジスタンス。最後に立っていたのはロリコンと幼女だけだった。

それを見届けた狂三の体が、ゆっくりと過去へ戻される。

 

 

 

「時子?どしたん?」

 

「はっ!?」

気が付くと目の前には、ペドーの姿があった。

周囲には荒廃した大地も、レジスタンスも、ガチペドオーも居なかった。

ただ、コイツ大丈夫か?と言いたげなペドーの姿があった。

 

「あ、わたくしは……?」

手を見ると、霊力を装填された銃を握っている。

未だ十分力を蓄えたそれは、使われた形跡がなかった。

 

「夢……ですの?それとも、戻って……?」

一瞬の混乱が脳裏を占める。

あの頬で感じた風の感覚は嘘ではない。

だが、『刻々帝』は使われた形跡がない。

 

「おーい?もしもーし?…………もしかして、ボケが始まったか?」

 

「違いますわ!

……とにかくアナタを過去に送って差し上げます」

狂三は頭を振るい、考えをぬぐった。

あの世界が未来だろうと、そうでなかろうと、『今』から出来る事をするしかないと狂三は考え直した。

 

(……できれば、あの世界は回避してほしいですわね……)

 

「じゃー、行きますわよ?」

 

「あれ?なんか、適当じゃ――」

 

パァン!!

 

狼狽えるペドーを他所に、狂三の影の銃弾がペドーを撃ちぬいた。

 

「さぁ、未来をその力で、変えてくださいまし!

――出来るなら、ディストピアじゃない方に……」

切なる願いを込めて、狂三はペドーを過去へと送り込んだ。

 

 

 

 

 

みーん、ミンミン じーく。じーく、じーく

 

セミだ。セミの鳴き声が聞こえる。

汗ばむ熱気に、熱されたアスファルトの香り……

その後ペドーの意識が明確に、覚醒する。

 

「来たのか……過去へ?」

見慣れた町の中、ペドーが目を開く。

破壊されたハズの町並みは元に戻っており、頬を撫でる風は熱を帯びている。

この気温は8月と言われても十分納得がいく。

 

「えーと、日付はちゃんと合ってるかな?

携帯とかで、確認……あ、けど未来から来た携帯だし意味は――」

意外なタイミングで『今』が分からずに、ペドーが少し困る。

 

『ご安心なさってください。ちゃーんと、時間は合っていますわよ?』

 

「……どうしよ……頭がおかしくなったかもしれん……時子の声がする……」

突如聞こえた狂三の声にペドーが、困惑する。

 

「あれか?脳内で女児を制作しようとして、間違って時子が出来た……いや、どんな合体事故だよ」

 

『人の善意をトコトン馬鹿にしますわね!!』

 

「え、コレ現実?」

再度響く狂三の声に、ペドーが『コレ』が現実だと理解した。

 

『『刻々帝(ザフキエル)』、【九の弾(テッド)】ですわ。

ペドーさんを過去に飛ばしたのが【一二の弾(ユッド・ベート)】が過去に送る能力なら、こっちは時間の異なる相手に意識を繋げる力ですわ』

 

「プライバシーも何も有ったモンじゃないな……」

自身の行動が筒抜けなのは、気分の良い物ではない。

 

『そうですわね。ですからあまりここでは、他人にお見せできない事は――』

 

「そこの君!俺は実は未来から来た、君の彼氏なんだ!!

訳あって過去の時代に来たんだ!!

頼む、未来の彼氏のお願いだ!!今すぐ君のパンツを確認する必要が――」

ペドーが話しかけるのは、近場の幼女!!

未来の彼氏と名乗るペドーの言葉に、幼女は困惑し始める。

 

「ふえ!?ご、ごめんなさーい、未来の旦那様にしか、見せれなんですぅ!!

お、お使いの途中なので、失礼します」

そう言ってその幼女は急いで走っていってしまった。

 

『私の言葉聞いてました?ねぇ、聞いてました!?』

狂三の言葉が脳内でペドーを責め立てる。

 

「ふっふっふ、我が生き方に恥などはないわ!!」

 

『少しは持ってくださいまし!!いいですか?

ペドーさんは恥ずかしい生き方をしていますわよ?

道行く幼女に、誰から構わずセクハラをして――』

 

「よぉうし!今度は公園で、キャッキャウフフしてる幼女を観察に行くか!!

旅の恥はかき捨ててって言うもんな!!」

狂三の説教など関係ない!とばかりにペドーが自身の記憶をたどり走り始める!!

 

『もう嫌ですわ!!このロリコンを誰か何とかしてくださいまし!!』

 

「うっひっひっひ!!お兄ちゃんが今行くよ!!」

暴走を始めるペドーが走り出す!!

 

『ぺどーさん!なにをしていますの!』

 

「はっ!?この声は――」

 

『わたくし!?』

突如聞こえてきた、くるみの声にペドーだけではなく、狂三までもが驚く。

 

「そうか、意識を繋げる力を持つのは、『今』の時子だけじゃないっていう事か……」

すぐに納得をしたペドーが落ち着き払う。

 

『ぺどーさん!わたくしたちにないしょで、かこにいくなんてなにをかんがえてますの!?』

どうやら小さなくるみは大層お怒りの様だった。

 

「あ、え……だって、折紙なら多分過去に行くだろうと思って……

それには時子に会う必要があって……けど、危ないから絶対に、止められると思って……」

 

『あたりまえですわ!!』

さっきまでの勢いは何処へやら。

ペドーは脳内のくるみに叱られ、すっかい萎縮してしまっている。

 

『わたくしに、折紙さんを過去に連れて行ったと言ったのは嘘なんですわね?』

 

「うぐ……ブラフでした……」

 

『けど、おおきなちからのいどうがあって、『なにかおおがかりなのうりょく』をつかったのはわかりましたわ』

ペドーの脳内で、3人が会話をしていく。

それは、過去という()()()()()()()()()()を歩むペドーを安心させた。

 

 

 

『まったく、仕方な――わたくし!見えていますか!?』

 

『え?いったい――あれは!?』

脳内の狂三が声を荒げる。

 

「おい、どうした?おい?」

ペドーが起きた異常に対して声を上げる。

 

 

 

現代――

 

()()は突如現れた。

雲を、空を、空間を壊して。

漆黒の波動を纏った怪物はゆっくりと降り立った。

荒廃した大地を、まるでリセットする様に、真っ黒な悪魔は降り立った。

狂三の分身の一人が、ソレの顔を見る。

その顔は――

 

「折紙さん?」

精気もなく、希望もなく、ただただ闇を称えた黒い瞳が僅かに動いた瞬間、彼女の力が爆発する。

大地は抉れ、空は軋み、まるで世界に致命傷を与えんばかりに力を振るう。

 

「精霊じゃない――あれは『魔王』」

狂三の脳裏に、垣間見た未来の荒れ果てた姿がフラッシュバックした。




タイムパラドックスが怖いくて、時間モノはなかなか手を出せませんね。
逆に上手く書けるならそれは、作者としてかなりの腕前なのでは?

え?私?幼女幼女言ってる、変質者ばかり書いてるので……
最早一流、二流も関係ないんですねぇ!!


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「……ロリな頃の折紙……!?つまりロリ紙!!」

さぁーて、今回やっとメインのロリ紙ちゃんが出ますね。
いやー、すんばらしい!!

皆さん熱くなってきたので、体調には気を付けてくださいね。


現代の天宮市の空中に突如、()()は姿を音もなく姿を見せた

『胎児のまま成長した存在』狂三は()()を見た時、反射的にそう思った。

さっきまで存在しなかったハズのそれは、両足を抱え込み、母親の中で誕生の時を待つ胎児のような恰好をしていた。

そして、狂三は初めて見るハズのそれに確信めいた予感が有った。

 

 

 

あれは『良くない物』だ。あれは『厄災』だ。

あれは絶望の果てに生まれた、さらなる絶望を呼ぶ存在だ。

そしてその顔は狂三にとって見覚えのある姿をしていた。

 

「なんですの、アレは――」

狂三の視界の先、ついさっき過去へと送り込んだハズの鳶一 折紙が精霊、それも反転した『魔王』として目の前に存在していた。

 

フォン――フォン――フォン……

 

折紙の周りを霊装の破片、黒い羽が回りだす。

なおも折紙は何の感情も見せない。だが、そんな彼女など知った事かとばかりに、羽が宙を舞う。

それだけはタダの羽、なんでも無さそうな存在に見えるが――

 

「っ!」

ASTと何度も戦った狂三には分かる。

今すぐ逃げるべき、今すぐ一歩でも遠くへ!!

 

きぃいいいいいいい!!!

 

羽が黒い光をほとばしらせた時、町は一瞬にして『輝く闇』に消し飛ばされた。

 

「…………」

ふわりと浮かぶ魔王は、折紙の顔をしてこちらをぼおっと、見ていた。

破壊行為をしたのに何の感慨もなく、ただただ空虚な心を以て何の理由もないタダの破壊を続ける。

 

そんな『魔王』に立ち向かう物が一つ。

一体いつから居たのか、最初からかそれとも急いで駆け付けたのか。

所々船体に傷のあるフラクシナスが『魔王』に対峙する。

 

だが結果は見えている。

 

黒い光が走った瞬間、フラクシナスが僅かに揺れ炎上し、あっけなく燃える町に落ちた。まるで焚火にまきを投げ入れたかの様に、一瞬だけ炎が立ち上った。

あの様子では生存者も居ないだろう。

 

悲鳴も、一矢報いる事も、何の感慨もなく、多数の精霊を救って来た希望の舩は闇に沈んだ。

 

勝てない。アレにはエレン・メイザースだろうと、世界中のASTの武装を合わせた物でも、どんな精霊でも、たとえ五河 士道だろうと近づくことも出来ないだろう。

 

詰み(チェック)ですわね」

何も、何も、何であろうと届かない深い絶望を抱えた魔王にこの世は蹂躙される。

何物も、何者も、何もかもあの魔王に消されてしまうだろう。

 

この世界は、あの魔王がやって来た時点で滅びが確約されたのだ。

唯一、たった一筋の希望があるとすれば――

 

「お願いしますわ。ペドーさん、こんなクソッたれな世界、壊して(救って)くださいませ」

燃える町を尚も破壊する『魔王』を見ながら、狂三はつぶやいた。

 

 

 

 

 

『ねぇ、力が欲しくない?』

ノイズの様な、酷くおぼろげな存在。後にフラクシナスから『ファントム』と呼ばれる存在が公園で一人の少女に話しかけていた。

その少女の名は五河 琴里。五河 士道の妹にして、もしペドーが知る通りの運命を進むならこの日、この場所で精霊に()()ハズだ。

 

『ファントム』の掌の赤い結晶が、ゆっくりと怪し気に光を放つ。

その光の導かれるように、幼い琴里が手を伸ばす。

が――

 

「いらない。わたしにはおにーちゃんがいる!

パパもママも、おにーちゃんもわたしのことをぜったい、わすれたりしない!!」

強い意思を以てして、琴里は『ファントム』の誘惑を跳ね除けた。

 

『そう……か、なら仕方ないね。他の子を探し――』

 

「ひやっほぉほほぉう!!リアルマイリトルシスターかわえぇええええ!!!

今すぐ嫁にしたいわ!!っていうかしよう!!すぐしよう!!

純粋幼女こそが俺のジャスティース!!」

 

「えう!?だ、誰――」

後ろから飛びかかって来た怪しげな男に突き飛ばされ、琴里の手が『ファントム』が今しがたひっ込めようとしていた赤い結晶に触れる。

 

その刹那――!!

 

「あ、ああ、ああああああ!!!!おにーちゃぁああああああああああ!!!」

結晶が琴里の体に吸い込まれ、琴里の姿が精霊へと変わっていく。

体からあふれ出した炎は無数の火柱となり、町を襲う!!

一瞬にして、平和な町は地獄へと変わった。

 

「あ、やっべ……くそぉう!ファントム!!俺の可愛いい妹によくも!!」

そう言って、琴里に飛び掛かった少年は『ファントム』に向き直った。

 

『え、ええ……』

ペドーの怒りに困惑気味に『ファントム』のノイズが揺れた。

 

 

 

 

 

「まぁ、飲めよ。おごりだ」

 

『あ、ありがと……』

現代ではもう潰れてしまった駄菓子屋で、ペドーが2本のラムネを手に表の椅子に腰かける。

夏の暑い日差しの中、氷水の中で冷やされたラムネの炭酸とすっきりした甘さが喉を潤す。

周囲の人間は逃げ惑っているが、ペドーは未来から来たのでこの駄菓子屋が奇跡的に無傷で燃え残る事を知っている。

 

『あの、いろいろ聞きたいんだけど……まずは妹さんいいの?』

 

「あー、これは仕方ない事だからな。アイツが精霊にならんとこっちもいろいろ困る」

ファントムの言葉にペドーが答える。

もし今、琴里が精霊に成らなければラタトスクに見いだされる事も無かっただろうし、それにより精霊をの霊力を封印出来るペドーが発見される事も無かっただろう。

しかし、流石にかわいそうだったので、燃える琴里に【ザドキエル()】+【カマエル()】で水を作り、消火はしておいた。

 

「あ!けど、こんな事したのは許して無いからな!?」

 

『………………え?何割かは君のせいじゃない?』

ファントムは琴里の拒絶された時、正直な話すでに諦めていた。

結果として精霊にはなっかたが……

 

『しかし、その姿、そして能力――君は未来から来たんだね?

心当たりはある、時を超える【天使】も存在しているからね』

 

ぷしゅ!

 

「よっしゃ!ラムネ開けるの成功」

たまーに失敗するんだよなー、なんて言いながら口を付けるペドー。

 

『……君は人の話を聞かないね』

 

「ぷはぁー!うまい!」

 

『まさか、この時代に来たのはラムネを飲むためと言う訳ではないだろう?』

ファントムが再度口を開く。

 

「うん、もうすぐこの辺にもう一人の精霊がやってくる」

空を見上げて、件の精霊を思い出しながらその姿を探す。

 

『未来で生まれた、精霊だね?』

思い当たるところがあるのか、ファントムが話す。

 

「そいつは多分お前を狙ってくる。帰ってくれ、隣界に。

お前の為を思ってじゃない。俺は、今から来るそいつに、人殺しをさせたくないんだ」

 

『そっか』

ペドーの言葉を聞き、ファントムがラムネに口を付けた。

 

『やっぱり君はやさしいね。私が見込んだ通りだ』

 

「俺の事、知ってたんだな?」

やっぱりの言葉を聞いて、ペドーが視線を鋭くする。

このノイズの向こうにいる人物は、ペドーが知っている人物の可能性が出てきた。

無論、さっき精霊の力を使っても驚かなかった点から、ペドーが精霊の力を()()()使()()()()()()()()という事を知っていたという事だ。

 

『おっと、しまった。君は抜けている様で、その実すごく鋭いのだね。

さてと、君のご厚意はうれしいが、残念ながらそうはいかないんだよ。

私にもまだやることはある。

さ、たかみや君。君は元の時代に帰りなさい?』

それだけ話すと、ファントムはふわりと浮かび上がった。

そして、ゆっくりと空へ昇っていくと――

 

シュン!シュ、シュン!!

 

数本のレーザーがファントムの体をかすった!!

 

「折紙!?」

ペドーの視界の先、遂にこの時代にやって来た折紙とファントムが戦いを始める。

折紙は自身の両親を殺した精霊を、始末する気だ。

その第一候補として、ファントムに目を付けたのだろう。

 

「けど、おかしいぞ……さっき話した感じじゃ、ファントムは折紙の両親を殺したりする様には思えない。

琴里も多分この時間の俺に霊力を封印されているハズ――ハッ!?」

非常にシリアスな状況で、ペドーは自身の視界の端に幼女を見つける。

だが、その幼女にはすさまじく見覚えがある姿で――

 

「折紙……ロリな頃の折紙……!?

つまりロリ紙!!か、かわええぇ!!

なんだ、あのかわいい子は!!お家に連れて帰りたい!!」

さっきまでの思考を捨て去り、走るロリ紙に夢中になる。

 

「きゃぁあああ!!」

その時、レーザーが降りかかり、ロリ紙の後ろの道が抉れる。

間違いない、精霊となった折紙の攻撃だ。

 

「ちぃ!折紙め、怒りで周囲が見えていないのか!!」

ペドーが話す様に、折紙は周囲の被害などお構いなしに、周囲にレーザーを撃ちまくっている。

そのレーザーは『誰』に当たってもおかしくはない。

 

折紙の両親を殺した精霊。殺しなどしなさそうなファントム。両親の元へ走るロリ紙。そして『精霊』となり『無差別』に『周囲を攻撃する』折紙。

 

「そういう、事かよ……そういうカラクリかよ!!」

ペドーの脳内で複数のキーワードが一つに結ばれた。

このままでは、最悪の事態を迎えるかもしれない。

そうだ、もし、もしこの想像が正しければ、折紙の両親を殺したのは、琴里でもファントムでも、まだ見ぬ精霊でもなく――――――()()()()

 

「ふっざけんな!!そんな、そんなことが有ってたまるかよ!!」

ペドーが勢いよく走り出した。

自身の先を行くロリ紙を追いかけ走る。

抉れた地面を蹴り、燃える壁を越えて、折紙の両親と思われる人物を探す。

 

「おとうさーん!おかあさ――」

角を曲がったペドーの視界に飛び込んできたのは、ロリ紙の目線の先に居る夫婦だった。

そして当人たちは気づかないが、その頭上のに精霊となった折紙がファントムをにらみながら浮かぶ。

折紙が手を前に伸ばすと、白い羽のビットが周囲を回転し始める。

そのうちの一発が、ペドーの目の前の地面を吹き飛ばす。

煙が上がり、ロリ紙の足がもつれる。

 

「お、かーさ、おとー……」

ロリ紙の見上げる空の上。『天使』がレーザーに光を蓄える。

 

「ま、に、あえぇ!!」

ペドーが足元の瓦礫を【ハニエル】で発条(スプリング)へ変える。

体重をかけて飛び上がる。

その瞬間、今度は自身の体重を軽くする為にロリ紙のほどの年齢へと変える。

ロリ紙をの頭上を飛び越える。

だが、まだ両親には届かない。

そして今しがた、ゆっくりとレーザーが放たれた。

 

「まだだ、まだ終わらない!!」

自分の体にはまだ【カマエル】の回復がある。最悪自分を盾に、折紙の両親をつき飛ばせばよい。

死ななければ、何とかなるだろう。

 

「けど、もう一個切札があったりして!!」

空中でペドーが自身の背中を服ごと凍らせる。水分が一瞬にして氷塊をつくり上げる。

そして――

 

「熱いんだろうなぁ……」

次の瞬間、氷塊を炎が勢いよく包んだ!!

これはさっき琴里にもやった、【ザドキエル()】+【カマエル()】のコンボだ。

だが、今回は水を作りたいのではない。固体()液体()ではなく水蒸気へ。

水は、液体から気体に変わるとき体積が増える。

氷の冷たさ、そしてそれを焼く炎の熱にペドーが顔をしかめる。

だが――

 

「うおりゃぁああああ!!!」

空中で体重がゼロになったペドー!!

背中からスチームを噴出させ、その勢いを使い加速!!

そのままペドーが折紙の両親を突き飛ばし、地面に転がる。

ペドーのすぐ後ろを光が通過して、地面をえぐった。

その光は突き飛ばしたペドーと折紙の両親を飲み込んだ。

 

「あ、ああ……」

クレーターを見て、ロリ紙が膝をつく。

家が無くなった。これでは自分の両親も――

 

「痛ってぇ……まじ、死ぬ……」

クレーターの一部が盛り上がり、一人の少年が這い出る。

光の直撃を免れたのか、彼の下で自分の両親の姿が見えた。

 

「あ、貴方は……」

ロリ紙が茫然とする中で、見ず知らずの少年は立ち上がり笑みを見せた。

 

「よお、折紙。お前の両親は無事だぜ?

だから、だから絶望するんじゃない……

お前(幼女)が困ってるなら、俺が何度でも助けてやるからよ」

折紙の知らない、その少年はボロボロの姿で笑みを浮かべ、消えた。

 

 

 

 

 

「は――っ!?」

自身のベットでペドーが目を覚ます。

時計を見ると、日付は折紙に監禁された翌日となっていた。

手足に縛られた痕跡はない。

 

「戻って来たのか……未来に?

あっ!バック・トゥ・ザ・フューチャー!!

スマフォもある!!ロリ画像を集めたパソコンもある!!

たった五年でも、進歩はすごいな!!

スゴイ!!ジダイ!!ミライ!!」

 

ガチャ――

 

「アンタ朝から何やってるのよ……」

自室で騒ぐペドーを見かねて、琴里が姿を現す。

 

「あ、琴里……琴里……か……」

 

「何よ?なにいきなり残念そうな顔してる訳?

残念なのはアンタの頭だけにしてよね、あ、残念じゃなくておめでたいの間違いか。

私としたことが、ミスしちゃったわ」

相も変わらず毒を飛ばしてくる。

 

「ふぅー……劣化したな」

 

「はぁ!?ちょっと!!今一体なにを言ったのかしら!?

誰が!!誰が劣化よ!!」

琴里が憤りをペドーに見せつける。

 

「はぁ、やっぱり過去からお持ち帰りすればよかったな~」

妹の怒号を聞きながら、ペドーは朝食の準備をすべくキッチンへ向かった。




さて、次回からは現代へ!
世界はどう変わったのか?

そして、ガチペドオーは?
多分もう出ない!!


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「露出だけが正義じゃねーよ!!」

さて、今回も投稿です。
最近デアラの小説が豊作でうれしい……
いろいろ読んじゃいますね。

そして嫉妬するのもありますね。
いずれにせよ、刺激を貰えるのは良いですね。
この作品を読んで、誰かが小説を書くエネルギーに成ればうれしいですね。



ま!主人公がロリコンで、幼女にセクハラをし続けなければもっといい感じなんですけどね!!


11月8日の朝。

 

それは、ペドーが過去を改変した次の日の朝だった。

 

「ぐぅうううううど!!モーにん!!エブリワン!!!」

非常に高いテンションでペドーが食卓に集うロリ精霊たちに向き直る。

 

「ペドーさん、どうしたんですか?」

ペドーのテンションに、四糸乃が困惑しながら訪ねる。

 

「なんか、さっきから世界を改変したーとか言ってるらしい」

シェリが琴里から伝聞した情報を伝えながら、その噂の大本の琴里を見る。

 

「いや、本当なのよ。突然ペドーがそんな事を言いだして……その……」

弁明する途中で、自分がいかにおかしなことを言い放ったか、理解し始めた琴里の言葉が尻すぼみになっていく。

 

「きいたことがありますわ!ちゅうにびょうってやつですわね!!」

 

「うぐ!?その言葉は、私にも微妙に刺さる……」

くるみの言葉の流れ弾で、七罪がダメージを受けた。

 

「よぉし!今日は張り切って朝ごはん作っちゃうぞ~」

ペドーが腕まくりをして、数秒考えてから自身の制服のボタンに指を掛ける。

精霊たちの心配など、本人は全く気にしていない様だった。

 

「ペドーさ……!?」

最初に事態に気が付いた、四糸乃が声を詰まらせる。

 

「な、なんで脱いでるのよ!?」

 

「え、いや。料理作るときに気合を入れる為?」

琴里に指摘されたペドーがエプロン以外の衣服を全て脱ぎ捨てる。

 

「さ、レッツメイキング!!」

 

「な、なんでよ!?おかしいでしょ!!」

七罪が声を上げるが、シェリが肩に手を置いて無言で首を横に振った。

 

「ぺどーさんに、じょうしきはつうようしませんわ……」

 

『嵐が去るのを待つしかないんだよねー』

よしのんの言葉を聞いて、七罪が再度言葉を失った。

 

 

 

 

 

「ん、町並みは普通だな」

食事を終えて、通学するペドーは町並みを見ていく。

ここは自分が改変した世界、つまりは自身の居た世界とは『何か』が少しづつ違うハズなのだ。

バタフライエフェクトのいうSFでよく聞く用語を信じるならば、過去の時間へ飛んだ蝶の羽ばたきが、巡り巡って大きな違いを呼ぶように何らかの変化があるハズなのだ。

いや、折紙を変化させるために起こした行為であるため、変化していなくてはむしろ困るのだが。

とりあえず、町は焦土となっていない時点で変化が有ったのは分かる。

 

「へほぉう、ふぉ。ほぉふふぃふぁのふぁ?(ペドー?どうしたのだ?)」

隣を歩くきなこの塊、いや十香がペドーのそわそわしている姿に疑問を抱く。

口いっぱいに詰め込んだきなこのせいで、非常にわかりづらいがなんとかペドーが理解を示す。

 

「いや、なんでもない。なんとなーく、そわそわしてな?」

その時、十香に声が掛けられた。

 

「オォウ!十香殿!今日モ、ゴキゲン、ウルワシュー!!」

 

「え!?」

その姿をみて、ペドーは学生カバンを手から落とした。

 

「あれ、どうしたのそんな驚いて?」

 

「さては、私らに見られたら困る事をする気だったんでしょ~?」

 

「まじひくわー」

亜衣、麻衣、美衣の3人組が顔を見せる。

いつも一緒にいる3人。そして、その3人に今年の春から合流した――

 

「お、おまえは、マイン・D・ウォーロス!!」

 

「yes!Iam!!」

反射的にマインが応答して見せる。

 

「生きてる……!!

マイン君が生きてる!!!」

ペドーが友人の帰還に、驚き涙を流す。

 

「お、おおう……?

どうしたのデースか?ミーは健康優良児デーズよ?」

困惑した様子でマインが答える。

 

「ああ、いや、いやいいんだ……元気でいてくれれば……

あ、食中毒には気を付けてくれよ?寒くなって来ても危ないんだからな?」

ペドーが前の世界での、マインの死因を注意する。

 

「いや、解ってるけど……」

 

「ちょっと、どうしたわけ?急に泣き出したり?」

 

「マジ引くわー……」

4人が困惑する。

だが、そんな事など今のペドーには気にもならなかった。

マインが生きているというのは、明確なまでの世界の変化だ。

いわば彼こそが、この世界が改変された物理的証拠という事だ。

 

「あー、よかったぁ……折紙はどうなったかな?」

 

「オリガミ?せんばヅールでも作るのデースか?」

 

「千羽鶴とか、被災地の人にとっては迷惑らしいぞ?

捨てるに捨てれないし、即物的に募金や食料の方が――って、そうじゃない。

折紙だよ。鳶一 折紙。ちょっとそいつに用があって――」

 

「フゥム?一体どなたナノーカ、興味が湧きマース!」

 

「え、いや、折紙だぞ?鳶一、折紙な?」

この時、ペドーがやけに自身の心臓が大きく鼓動を刻んだのが分かった。

そして祈るような気持ちで、亜衣、麻衣、美衣の方へ顔を向けるが――

 

「えっと、誰?」

 

「パソコンのなかの彼女?」

 

「まじひくわー」

背筋に走る嫌な悪寒。

ジワリジワリと嫌な予感が形を得始めた。

 

「……お、おれ、先、学校行くわ!!」

ペドーはそこから逃げ出すかの様に、走り出した。

 

(まさか、まさか、まさか、折紙が居ない!?)

そんなはずはないと、ペドーは学校へ向かって走り出した。

職員室へ行き、担任のタマちゃん(消費期限切れ)に折紙の所在を聞くのだ。

どんな結果であれ、このままなどという事はペドーには耐えきれなかった。

 

 

 

「な、ない、ない、ない!?」

クラスの中、ペドーが折紙の机の在った場所を見る。

そこに机は無く、ペドーの隣の席は他の人が座っている事になっている。

 

ざわざわと、クラスがペドーの奇行に騒めく。

 

「はぁい、皆さんおはよう――きゃ!?」

教室へ入ってきたタマちゃん(消費期限切れ)にペドーがつかみかかる。

 

「五河君!?どうしたんですか、まさか、思春期特有の大きすぎるムラムラを抑えきれずに?

ダメですよ、そんなのは先生のお仕事じゃないです!

けど、旦那様に求められたら妻としては――」

タマちゃん(消費期限切れ)の名簿を開き、クラスのメンバーの名前を見る。

そこに「鳶一 折紙」の名は無かった。

 

「はっ……そうか、いないのか……」

今になって考えれば、折紙の生活が最も時間改変の影響を受けたハズだ。

家族構成も変わり、ASTやDEMとの関係も変わっているハズだ。

そうなれば、学校が変わっているくらい、可能性としてはいくらでもありえたハズだ。

 

「居ない……のか」

何も問題は無いハズだ。

家族は失われず、命を脅かす生活を送らず、何処か別の場所で平和に過ごしているハズだ。

それでいいのだ。

復讐に駆られた少女は、その記憶すら忘れて家族と幸せに暮らしましたとさ。

これこそが大団円だ。

ならば、なんの問題もない。

 

 

 

そのはずだ。

 

そのはずなのに……

 

「ペドー、何処か痛いのか?」

十香がペドーに尋ねた。

 

「え、なんでだよ?」

 

「すごく、つらそうな顔をしているぞ?」

 

「そう……かな?

いや、そう……かもな、友達を、とても大事な友達を……なくしてしまったんだ」

ペドーが悲しそうに答えた。

十香はペドーの表情から深い悲しみを読み取った。

だが、そんなペドーになんといえば良いのか分かりはしなかった。

結局その日の授業の事は殆ど覚えていない、気が付けば家路についていた状態だ。

 

 

 

 

 

「なぁ、どうしたんだよ?」

 

「なにが?」

ゲーム機のコントローラーを握りながらシェリがペドーに尋ねる。

TVの画面では、シェリとペドーの操るそれぞれのキャラクターがモンスターと戦っている。

だが、ペドーの使用キャラクターの動きが明らかにぎこちなかった。

隣のペドーの顔を覗き込んでも、心ここに在らずだ。

 

ピチューン!

 

『GAME OVER!』

 

「あっ!?」

シェリまでもが、意識を離したせいであっさりと二人のキャラクターがやられてしまった。

 

「あー、ごめんシェリちゃん……

なんな気分が乗って来なくてさ。

悪いけど、一人でやってくれる?俺、ここで見てるから」

 

「あ、ああ。オマエがそういうなら……」

ペドーの言葉を受け、シェリが一人ゲームを再開する。

 

かちゃかちゃ、かちゃ、かちゃん

 

部屋の中で、コントローラーのキーが叩かれる規則的な音が繰り返される。

そんな中で――

 

「なぁ、ペド野郎」

 

「なに、シェリちゃん?」

ゲーム画面に向かったまま、シェリがペドーに尋ねた。

 

「つらい事。なんかあったか?」

 

「え?ないよ、なにも、ない……」

一瞬だけ動揺したが、ペドーが何とか誤魔化す。

 

「ボクはさ、他のみんなみたいに優しくもないし、気も利かないし、カンも良くないからさ。

直接聞くことしか出来ないんだよ。

ウソをつかれたら多分わかんない。けど、今のは分かるぞ?

寂しい時、さみしいって言えないのか?

そんなんじゃ、何時か一人に成っちゃうぞ」

ゲーム画面を見ているシェリの表情は分からない。

けど、ペドーには彼女が不器用なりに励ましてくれているのが、理解出来た。

 

 

 

同時刻。キッチンにて――

 

「アレ、絶対なんかあったわよね?」

琴里が四糸乃、くるみ、七罪の3人に声を掛ける。

 

「あさのてんしょんにたいしての、このらくさ。

なにもなかった、というほうがむりがありますわ!」

 

『いやー、ペドー君のあんな姿、初めて見たよー

レアだけど、見てられるモンでもないよねー?』

よしのん茶化すが、肝心の四糸乃は唇を固く結び、沈黙してしまっている。

 

「あれは、絶対に女関係ね」

 

「ひぅ!?」

ぼそりとつぶやいた七罪の言葉に、四糸乃が身を震わせる。

 

「いや、そうと決まった訳じゃ――」

 

「けど、ペドーがあんなテンション、幼女関連以外で見た事あるの?」

琴里が訂正をしようとするが、再度七罪が声を上げる。

 

「うぐ!?まさか……」

 

「ワタシの見立てでは、何処かで幼女と仲良くなったけど、フラれたって言うのが一番シンプルかしら?

昨日の放課後当たりに、告白して、イチャラブ恋人生活しようとしたら、『やっぱり無し』って感じで」

 

「ぺどーさんかわいそうですわ」

くるみが目を伏せる。

 

「な、なら、わ、わたしが、はげまし、ます」

四糸乃が意を決した表情で、立ち上がる。

その眼には、彼女には珍しく強い決心が宿っていた。

 

「ああ、いい子だなぁ……」

四糸乃のまっすぐな瞳をみて、七罪がほろりとする。

だがそれも一瞬の話。すぐにすさまじく下世話な顔に成る。

 

「まぁ、男は下半身に脳がある生き物だから?

フラれたんなら、別の女を宛がえば良いのよ。

ここには、丁度アイツ好みに子がいるし?

すこし、エロい恰好で抱き着けば、そっこー元気だって!」

 

「えろいかっこうってなんです――むぐぅ!?」

 

「はいはい、貴女にはまだ少し早いからねー?」

琴里がくるみの口と耳をふさぐ。

 

「けど、現実問題、あのままにはしておけないわよね?

別に、ペドーが心配な訳じゃないのよ!?

精霊の攻略に居ないと困るだけ!勘違いしないでよね!!」

 

「いや、誰に向けたツンデレなのよ……」

琴里の言葉に、七罪が冷静に返す。

 

「さぁて!とりあえず、アイツの趣味と言えばコレよね!!」

七罪が自らの天使を顕現させる。

そして、部屋の中が一瞬で、煙に包まれる。

 

精神的に不安定な七罪は、こうして小規模ながらも力を使う事が出来るのだ。

 

「げっほ、げっほ!いきなり、びっくりするじゃな――何よこれ!?」

 

「みずぎですわね。それとえぷろんですわ!」

琴里、くるみ、四糸乃は自身の恰好が、水着とエプロンを合わせた格好になっているのに気が付いた。

水着の上にエプロン。

ミスマッチ、非日常感、故に怪しい魅力が詰まっている。

 

「その恰好で、お手伝いしますとか言えば、流石にイチコロよ!」

最後に煙の中から、メイド服姿の七罪が姿を現す。

 

「……なんで、アンタはその恰好なのよ?」

 

「……いや、考案したはいいけど、思った以上に恥ずかしくて……」

気まずそうに、七罪が自身の頬を指で掻く。

 

「こいつ!!恥ずかしい恰好をしようって言ったのは、アンタでしょ!!

脱がす!!脱がして、ひん剥いて、同じ恰好にしてやる!!」

琴里が七罪に飛びつき、メイド服を脱がしにかかった!!

 

「ちょ、やめて!!乱暴しないで!!エロ同人みたいになる!!エロ同人みたいに!!」

 

「うっさい!!」

メイド服のエプロンドレスが脱がされ、ドアノブに引っ掛かりドアが開く。

そのドアの先に居たのは――

 

「ペドー!?なんで、ここに!?だって、あの子(シェリ)とゲームしてたんじゃないの!?」

まさかの本人登場で、琴里が焦る。

 

「いや、なんというか……シェリちゃんに一喝されて、目が覚めたっていうか……

ちょっと気になる事があって、過去の精霊攻略データを見せてもらいに来たんだけど……え……なにこれ……なに?まさか、二人はそう言う関係だった?

……いや、まぁ、世間には同性カップルだってあり得ない訳じゃないし……

けど、まさか、家で……

ごめんな?ちょっと驚いただけなんだよ。俺は優しく見守るぞ?」

自身の家で、水着エプロン姿の妹が同じ幼女を脱がしながら襲っていたら、誰だってこのようなリアクションに成るであろう。

 

「ち、ちがうから!!」

 

「わ、わたし達はペドーさんを、励まそうと……!」

慌てて否定する琴里を背に、四糸乃が告げた。

 

「え、その恰好で『励ます』とか、いろいろ理性的にやばいんだけど!?

マジありがとうございます!!興奮してしまいます!!」

四糸乃の言葉に、ペドーが鼻息を荒くする。

そんなペドーに向かって四糸乃が歩み寄る。

 

「ペドーさん!!」

 

「は、はい?」

思った以上に大きな声を上げた、四糸乃にペドーが若干いつもより礼儀正しく、返答する。

 

「わ、私に、甘えてくださいね?」

恐々と言った感じで、四糸乃が両腕を広げる。

そこには微かに、深い愛を感じて――

 

「ハッ!?こ、これが、『ばぶみ』!?赤ちゃんプレイ野郎じゃないが、無償で愛してくれる存在に甘えたいこの感情が……!!」

ペドーがふらふらと誘蛾灯の様に、四糸乃におびき寄せられていく。

四糸乃に触れる瞬間、ペドーは自身の腕をもう片方の腕で掴んだ!!

 

「ペドーさん?」

 

「あ、危ない、危ない。このまま四糸乃に甘えたら赤ちゃんに成ってしまう。

そうなればきっと俺はもう、二度と赤ちゃんからもとに戻れなくなる……!

俺には……俺には、他の幼女も居るんだぁあああああ!!」

ペドーは四糸乃の胸に抱かれるのではなく、四糸乃を若干乱暴ともいえる力で逆に抱きしめた。

 

「ぺ、ペドーさん!?」

 

『おおう、ペドー君も四糸乃も大胆だねー』

四糸乃が目を白黒させて、よしのんがそれを茶化した。

ペドーは四糸乃を一度放して、肩を持ったまま、まっすぐに紺碧の瞳を見据えた。

 

「ごめんな、みんな。俺、すこし落ち込みすぎてたみたいだ。

そんな俺を見たら、みんな心配するよな?

ごめんな。弱いトコ見せて。

けど、みんなが心配してくれたうれしかった。ありがとな」

礼を告げると、四糸乃をペドーは強く抱きしめた。

 

「ぺ、どーさん、つらい事があったら、私達にも、い、いってください……

私でダメなら、琴里さんも、七罪さんもいます……くるみちゃんだって、力に成ってくれます」

今度ばかりはよしのんも茶化しはしない。

ただ小さな体で、全力でペドーに為に何かをしようと思っていた。

そんな気持ちが伝わってくる。

 

「すまない。心配かけたな……

さっきシェリちゃんにも、言われたんだよな……よぉい!くよくよタイムはこれにて終了だ!!

あとは……

えっと、妹が同性を愛してもお兄ちゃんは味方だからな?」

 

「違う!!絶対に違うから!!」

必至になって琴里が否定した。

 

 

 

 

 

「ところで、なんでみんなこんな格好を?」

ペドーが携帯のカメラで姿を撮りながら、皆に質問する。

 

「いや、こういう恰好なら、アンタ喜ぶと思って……」

乱れたメイド服姿の七罪が、ペドーに答えた。

この騒ぎの責任の一端が大いにある事を気にしているのだろう。

 

「ろ、ろしゅつの高さイコール正義でしょ!?あんたにとっては!!」

若干噛みながら七罪がやけになる。

 

「ナッツミン……露出だけが正義じゃねーよ!!

フェチズムが大切なんだよ!!ちょっと着てる方がエロいんだよ!!

分かってませんね!?七罪君はそんなんじゃエロス(笑)とか言われちゃうんだよ!?

さぁ、暴れたからお洋服が汚れたよね?

いっしょにお風呂に入りながら、熱く語り合おうね!!」

 

「ちょ――放せ!?力つよ!!

た、助けて!!ねぇ、みんな助けてええええ!!」

すっかり調子を取り戻したペドーが七罪を引っ張っていく。

なんども、必死に助けを求める七罪。

しかし――

さっきは無理やり服装を変えられたうえに、自分だけ逃げた七罪を助けようとする者は誰も居なかった。

 

「さぁ!ナッツミン、ペドーさんを慰めてねー」

 

「いやぁああああ犯されるぅううううううう!!

いやじゃ~!ロリコンの子など孕みとうない!!」

 

「大丈夫だよ!!そこまではしないよ!!ペドーさん紳士だからね!!

よいではないか、よいではないか、よいではないか~」

七罪の悲鳴とペドーの楽しそうな声が、お風呂場から聞こえて来た。

 

 

 

『ぺどー君、元気になって良かったねー』

 

「わたし、これしってますわ!いんがおうほうってやつですわね!」

よしのんとくるみが、静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

「はぁい、皆さん。今日は新しい転校生が来ますよぉ」

タマちゃん(消費期限切れ)がそう言った瞬間、どよめきがクラス中に流れる。

今年の初めにマイン君と時子、そして隣のクラスには八舞姉妹と、転校がラッシュで行われ、最早何かの陰謀ではと冗談交じりに話しているのだ。

だが、新しいクラスメイトと言う存在には、否応なしに浮足立ってしまうのは仕方ない事である。

 

扉が開いた瞬間、クラスにどよめきが走った。

そして、入って来た人物の顔をして、ペドーが驚いた。

 

「始めまして。私は――」

 

「折紙……」

 

「鳶一 折紙です」

折紙の姿をペドーが見据えた。




全裸って逆にエロさが下がる気がする(鉄の意思)!!


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「絶対にその運命を変えて見せる」

今回はなんか、シリアスです。
シリアス……シリアスなんです。


「鳶一 折紙です。よろしくお願いします」

快活そうな表情をした少女が黒板に自身の名前を書き、頭を下げる。

クラスメイト達は新たな仲間、それも美少女の登場に特に男子が色めき立つ。

 

折紙は新しく入った学校のクラスメイト達の名前と顔を、早く一致させるべく教壇の上から今日からクラスメイト達となる者たちを見回した。

 

黄色い声援、親し気な表情、こちらに対して好意を持っていると思われる男子たち。クラスメイト達の反応は概ね良好と思えた。

そんな中で、一人の男子生徒に折紙は気が付いた。

 

「ぁ」

小さく声を漏らす。

一瞬、時が止まった気がした。

 

「えーと、では、空いてる席は……あ、五河君の隣が空いてますね。

では、そこへ座ってください」

教員の先生が、折紙がたった今気にしていた少年の隣にある空席を指さした。

一瞬ドキリと心臓が跳ねたが、顔に出さないようにしてその少年の隣の席に向かう。

 

「よろしくね」

 

「…………ああ、そうだな」

小さく折紙が会釈をすると、件の少年はノートの切れ端を破ったと思われる小さな紙の破片を渡してきた。

 

「??!」

折紙はその少年に渡された紙を開いて、その紙に書かれていた内容に目を見開いた。

たった今、紙を渡してきた少年に折紙が向き直るが、肝心の少年は引き出しの中から取り出した、小さな女の子が沢山出てくる肌色面積の多い本に夢中になって、気づいてくれなかった。

 

 

 

 

 

遡ること一日前。

ペドーはフラクシナス内部にある、記録の保管庫でデータを見ていた。

嘗て神無月と一緒にデータを見たのが、もうずいぶん過去の事に成る。

 

「えーと、『フラクシナス備品編纂履歴』っと……えーと、パスワードは『ハザード・トリガー』っと!」

その瞬間、画面にペドーが姿を現す。

 

『おめでとう!その検索結果にたどり着いたという事は、遂に俺の琴里+幼女たちの秘蔵写真の存在に気が付いたという事だね?

安心して欲しい、このビデオが終了すれば無事再生されるよ』

画面の中のペドーが消えると同時に、こちらにお辞儀するデフォルメされた幼女のキャラクターが現れた。

 

『でぃす、びでお、はずびーん、でりーてっど、です!』

一部の人間が、悲鳴を上げる言葉を幼女はのたまった。

まぁ、要約すれば「データが消えた」という事なのだが……

 

「これはフェイクだ。本当に消されたなら、こんな幼女自体出てこない。

つまり――」

 

カチっ、カチッ

 

『あんっ!くしゅぐったーい!』

マウスのカーソルを動かし、幼女にタッチする。

 

カチ、カチ、カチカチ、カチカチっ!

 

『やぁ!らめぇ!あう!やらぁ!もう、らめぇ!』

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

『あぁ~~~ん!!!』

その瞬間画面が変わって、琴里や幼女系精霊たちの写真がアップされた。

一枚一枚、順番に見ていく。

 

「ふむふむ……きちんと保存されている様だな。

小さな違いはあるが、大まかに同じ結果だ。

ってか、折紙が居なくてもほぼ同じ結果に成るなんてびっくりだ。

これがSFなんかでよく言う『時の修正力』って奴か」

折紙は消えたが、その穴は偶然や他の人間によって、非常に都合よく埋められていた。

うすら寒い物を感じながら、ペドーがデータを閉じる。

そして、パソコンをシャットダウンしようとした時、とある事に思い至る。

 

「一応、他の精霊共も見ておくか。

十香や時子、えっとナルシスト双子と……あの、ほら、アイドルやってた奴とか……

まぁ、見といて損は無いか。

出来れば、年下の妹とか出来てないかな?」

下心と今後の生活で周囲に違和感を抱かせないために、ペドーはこちらも見ておく事にした。

 

「ん、あ!?」

その中のページ、確認はされているがまだ攻略が完了していない精霊の項目に『ソレ』は居た。

 

「識別名称――【デビル】……?」

元の世界では聞いた事すらない名前。

ペドーはその項目をクリックする。

 

「正体不明の精霊にして、反転体と思われる個体……精霊の出現に引き寄せられる様に現れ……精霊を攻撃……その目的、スタンスは共に不明でタダ精霊をひどく憎んでいる事が推察される……?」

それはやはり、改変される前にはいなかった精霊の情報。

いや、正直な話をするとこうして精霊のデータを見た事が前の世界では無かったから絶対にいなかったとは言い切れないが、いくら抜けている司令官様でもこんな危険な精霊の事を教えないという事は流石に無いだろうから、やはりこの精霊は新しく出来た精霊と考えるべきだろう。

 

「ほぉーーん……やばいのが居たな~

心強い味方が居なくなって代わりに敵か……

んな!?」

ぼーっとしていたペドーがとある映像を見て止まる。

それは、遠距離カメラで撮影されたというその【デビル】の画像だった。

 

明確に見えた訳ではない。

戦闘の余波か空間震の影響か、その画像には土煙や【デビル】本体が吹きだしたであろう闇が覆っていた。

だが、その中でかろうじて人型と分かる『ソレ』の正体がペドーには分かった。

そう、【デビル】をペドーは()()()()()()()のだ。

 

「ウソだろ……?」

【デビル】の正体、それは精霊でなくなったハズの鳶一折紙だった。

まだ終わっていなかった。まだ、幸せな世界は訪れてはいなかった。

未だに世界は、折紙に過酷な運命を背負わせたままだったのだ。

 

「いいぜ――やってやるよ。オマエ(世界)がどうしても、折紙を追い込みたいなら――

俺が何度でもその運命を壊す!!」

ペドーがこの世界その物に向けて、握りこぶしを作った。

 

 

 

 

 

そして現在――

 

「ここ……だよね?」

折紙がペドーにより呼びだされた校舎の裏、階段の影にやってくる。

活気のあるクラス内とは打って変わって静かだ。

木が有り、その影になっており階段の上からも見難くなっている。

手紙で詳細に説明されたから来れたモノの、言われなければ気づく事すらなく3年間を過ごしていただろう。

 

「ペドー……君?」

クラスメイトが呼んでいた彼のあだ名を口に出す。

彼の本名は有るのだろうが、クラス全体がその名で呼んでいるので、本名で呼ぶのは逆に不自然らしい。

 

「よぉ、折紙。来てくれたか!」

 

「ペドーく……ん?」

先についたのかと、後ろを振り向くが居ない。

空耳だったのだろうか?

 

「こっちこっち!」

 

「わぁ」

ペドーは木の上に登ってこっちを見下ろしていた。

そして、そのままサルの様にするすると降りて来た。

 

「よ!折紙!」

 

「あ、えっと……どうも……」

折紙の態度を見て、ペドーはしまったと心の中で思った。

そうだ、今の自分は折紙とほぼショタいめん――じゃなかった、初対面だ。

そんな奴が、なれなれしく下の名前よ呼び捨てにしたとなればこの反応も無理はない。

 

(やりにくいな……少し、集中しないと)

話す予定の言葉に、矛盾やおかしいことは無いかと、ペドーは瞬時に確認し始める。

今後はより、今の自分の状況を理解しなくてはいけないと、気を引き締めた。

そして、聞こうと思っていた質問を口に出した。

 

「なんかさ、クラスに入って来た時、俺の事見てなんかびっくりしていた気がしてさ。

そんで、俺『あれ~どっかで会ったかな~?』なんて思っちゃったりしてさ」

おどけて話すペドー。

ペドーの言葉に、折紙が一瞬息を飲むのが分かった。

 

「ああ、ごめんなさい。実はペドー君が私の昔、会った事のある人に似てて……

あ!けど、完全に人違いだからね?その人と会ったのは5年も前の話。

それなのに、今のペドー君に似てるんだから、時間経過を考えたら完全に別人だよ」

 

「あー、5年前……それって、俺の兄ちゃんかもしれん」

 

「へ?お兄さん……?」

ペドーは瞬時に折紙が過去に出会った自分の、言い訳を考えた。

 

「うん、5年前の火災の時……家を飛び出たまま、どっかで死んじまった。

あんな時に、なーにしてたんだか……」

 

「ご、ごめんなさい……」

ペドーの言葉に折紙が小さく嗚咽を漏らす。

 

「その人、多分私の家族を助けてくれた人、だと思う……

5年前の火災の時ね?ペドー君そっくりな人が、私の家族を助けてくれたの。

その人が、自分の命を犠牲にして、私の両親を助けてくれた……」

折紙が語る。

ペドーは嘘を語った。

 

「そっか、兄さんの死は無駄死にじゃ無かったなんだな……

ご両親にもお話し聞かせてもらっていいか?」

ペドーの言葉に、折紙は固まった。

 

「両親は助けられてから一年後に事故で……

けど、その一年はペドー君のお兄さんがくれた大切な時間だった。

私、短い間だったけど、その一年は生きる事をかみしめながら生きたよ。

本当に、なんどお礼を言っても足りないくらい」

真剣な眼差しがペドーを捉える。

ここまでウソを並べて、情報を取り出したペドーの中に罪悪感が溜まる。

 

「じゃあ、今度はもう少し、踏み込んで良いか?」

ペドーは息を飲む。

事前の調べで、折紙がこの世界でもASTに入っている事は調査済みだ。

もっと言うと折紙の両親が存命で無い事も、調べて知っていた。

本当に知りたいのは、ここからだ。

 

「折紙って精霊を倒す、組織のメンバーだよな?」

ペドーの言葉に、折紙が目を見開く。

 

「知っていたんです……ね?」

『精霊』とそれを淘汰する『組織』一般人では消して知らないであろう、情報をペドーは容赦なく投げ込んだ。

折紙が大きな動揺を見せた。

 

「兄さんの死がどうしても気に成った俺は、空間震警報の時に外に出た。

そして、人類を襲う脅威である『存在』とそれを倒そうとする『組織』を知った」

嘗て折紙が辿ったのと同じ道を、ペドーが語って見せた。

 

「危険です。今すぐやめてください!

そう言えば、なんどか情報に在りました。

空間震警報の中に外に出ている一般人がいると、あれはペドー君だったんですね?」

 

「なぁ、俺もそのチームに入れるか?」

折紙の言葉を無視してペドーが再度口を開く。

 

「ダメです!私は、もうペドー君のお兄さんみたいな犠牲者を出さないためにASTに入ったんです!!

ペドー君の気持ちは分かります。けど、復讐なんてお兄さんも望んではいません。

だから、精いっぱい普通の生活をしてください。

それが私の望みなんです」

言い聞かせる様に折紙が話す。

 

「そっか、うん。そうだよな……」

両親の死ではなく、自分の死がトリガーにすり替わった。

やはり気持ち悪い位、上手く出来た筋書きにペドーが内心歯噛みする。

 

「分かってくれればいいんです。これからは外には出ないで下さいね?」

ペドーの言葉を、反省の言葉と勘違いした折紙が注意を促した。

 

(折紙の経歴は分かった……だが、妙だ。

肝心の【デビル】とのつながりは見えない……)

折紙の両親の死、他人の死をトリガーにしてのASTへの入隊、やはり見えない力の様な物で同じ様な運命に連れていかれているのを感じる。

 

(前の世界で折紙が【デビル】に成ったのなら、こっちでもなっているハズ……)

少しだけ変わった運命を再度変える為、ペドーは――

 

「鳶一!……さん。

こんど、どっか二人で出かけないか?」

 

「え?……え、え?」

その言葉はデートの誘い。

元の世界でなら、決してしなかった行為。

 

「返事は後で良いから」

そう言ってペドーは前もって用意していた、折紙に自身のメールアドレスを書いた紙を渡した。

そして、午後の授業をサボるべく屋上へと走り出した。

 

 

 

 

 

「もしもし、琴里ー?」

 

『何よ、学校終わり次第いきなり、電話してくるなんて。

まさか妹の声が聴きたくなったなんて、おセンチ言うつもりじゃないでしょうね?

ってか、まだ高校は授業中じゃないの?

まさか、サボり?』

携帯を耳に押し当て、屋上でペドーが寝転がりながら話す。

 

「おーおー、よくしゃべるね。

愛しのおにいタマからの電話がそんなにうれしいか?ん?ん?」

軽く煽って来た、琴里を軽く逆なでて相手の言葉を無視して本題に入る。

 

『ンなわけ無いでしょ!!アンタね!!

すこし、自分の評価が高すぎるんじゃ――』

 

「今週の土曜。【デビル】とデートするわ。

バックアップ、ヨロ~」

 

『は!?一体何を言ってるの?

遂に妄想――ピッ!』

伝える要件を済ませてペドーが目をつぶる。

なんの残酷さも知らないような青い空を、気ままな雲が流れていく。

寝転がったまま、大きく息を吸いこむ。

そして、今度はゆっくりと息を吐きだし、眼を開いた。

 

「俺が絶対にその運命を変えて見せるからな?」

そう言って、ペドーが取り出した携帯の画面には一見の見慣れないメールアドレスからメールが有った。

それはついさっき、送られてきたものだった。

 

『今度の土曜日なら開いています』

と書かれた折紙からのメールが来ていた。

ペドーはそれを見て、琴里に連絡を入れていた。

 

「さぁ、俺と折紙の戦争(プレイ)を始めようじゃないか」

ペドーは決意を込めて、静かに言った。




なーんか、シリアスって苦手ですね。
過酷な運命を悪乗りしながら乗り超えていくのがペドー君だと思っています。


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「シャベッタぁああああぁあぁあああぁああぁああ!!!」

少し遅れて投稿です。
今気が付くともう70越えなんですね。

継続はなんとやらと言いますが、自分でびっくりしている面があります。


「はぁーん……空が青いなー」

高校の屋上、寝転がり畳んだブレザーを枕にしながら、小さくアンニュイにため息をつく。

さっきまでのペドーは、ペドー本人にとっての一世一代の賭けに出たのだ。

それは、今日初めて会った女の子をデートに誘い、尚且つOKを貰うというミッション。

びっくりするほどのリア充ムーブを決め、結果は成功。

その緊張から解き放たれたペドーが一息ついているのだ。

だが――その表情はすぐれない。

到底、美人の女の子とデートの約束を取り付けたラッキーボーイには見えない。

 

「まさか折紙が、迷うなんて……」

ペドーのイマイチ煮え切れないアンニュイな原因はソコだった。

以前の世界の折紙はペドーの知る限りでは『性欲のモンスター』だった。

 

『デート、構わない。むしろ、こちらからお願いしたい。

当日の服装は何がイイ?全裸でもスク水首輪犬耳でも切り刻んだ制服でもボンテージでも雌奴隷服でも構わない。

むろん下着の指定もしてくれて構わない。

なるべく脱がせがいのあるセクシーなのを選んでおく。

個人的には駅前のラブホ街に行きたい。特に【天魔の宿】は一番高い部屋なら牛乳風呂が――』

などという風に、凄まじい勢いでグイグイ来るはずなのだ。

マジで、ぐいぐい来るはずだったのだ。

それはもう

ビックリするくらい、ぐいぐいと。

だが、そうでは無かった。

 

同じ特殊な服装のプレイに関して、萌えとは、あるいはエロスとは何かをアツく語り合った仲だ。

過去の折紙、通称ロリ紙のお風呂上りの写真と、現在のペドーのお風呂上りの写真を交換し合った仲だ。

彼女は変態を超えた進化した変態。

名づけるなら『超進化変態』だった。

 

「俺に、神無月さん、そしてウェスちゃま……たった四人しかいなかった仲間が消えちまったよ……」

明らかに変わってしまった折紙の様子を胸に、ペドーはゴロンと転がった。

 

「あらペドーさん、こんな時間まで居残り――と言う訳ではなさそうですわね?」

瞬時に響く誰かの声――

ペドーはその聞き覚えのある声を耳にし、瞬時に飛び起きた!

 

「お前は…………時子!!」

ペドーの視線の先には、学校の制服に身を包んだ時崎 狂三がいた。

 

「うん、最早その呼び名は固定なんですのね……」

狂三が諦めた様にため息をつく。

 

「全く、酷いですわね。二人で協力して世界を変えた仲ですわよ?」

 

「え?世界を変えた?どゆこと?」

ペドーの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「わぁお……すっかり綺麗に私の事忘れていますのね……」

がっくりと狂三がうなだれる。

手助けしたというのに、ここまでこの男は綺麗に忘れたのだろうか?

 

「あ!レジスタンスに紛れてたやつか!!」

 

「いや、レジスタンスは未来の話で――なんで知ってますの!?」

ペドーの言葉に狂三が驚く。

 

「ロリ紙助けた後、時の狭間に落ちて、未来の世界へ行ってガチペドオー大王に助けられて、パラレル世界を20個くらい旅して、パラレルの俺やこの次元に存在しない精霊たちと交流してって……

いやー、いろいろあったから大変だったよー」

やれやらとペドーがため息をついた。

 

「あれですわよね!?何時もの出鱈目ですわよね?

別の次元のペドーさんとか考えるだけで、頭痛が痛いですわ……

ガチロリコンが21人とか世界壊れる……」

出来ればただの出まかせ、デタラメであって欲しいと思いながら狂三は自身の頭を押さえた。

 

「はっ!?コラボ……コラボが書きたいんですの!?」

 

「おい、一体どうした?中二病極めてすぎて頭おかしくなったのか?」

よく分からない事を口走る狂三をペドーが冷ややかな目で見た。

 

 

 

「兎に角!!このすっかりみんなが変わった世界で、ペドーさんが不安になっていそうだから顔を見に来て上げたんですわ!」

 

「よし、このエロ画像がちゃんとある……むむ!このイラストは前の世界では無かったハズ……

だが、くぅ!この蔑む様なドSロリ様の表情はグッド!!」

 

「何をしていますの!?」

ゴロゴロと寝転がって、怪しげなイラストの鑑賞会を始めるペドーを狂三が怒鳴りつけた。

 

「いや、だって……世界が変わったって言うから、俺のお宝コレクションは無事かなって……」

 

「……マジですの?ここまでくると逆にすごいですわ……」

狂三は絶句した。この男は世界が変わって一番困る事が、自身の集めたエロ画像が無くなっていないかという心配をしているのだ。

呆れ9割尊敬1割で狂三がため息をついた。

そんな時――

 

「あ”!!」

 

「なんですの?大事な小さな子の画像が足りませんの?」

うんざりと言いたげな様子で狂三が反応するが――

 

「レーザーだ」

なんでもない事の様に、ペドーが狂三の後ろを指さした。

 

次の瞬間――!

 

「へ――ぎゅあああああああああ!!????」

突如背後から放たれた光線によって、一瞬にして狂三が精霊から辛うじて人の形に見える焼死体へと変貌する。

屋上に人の焼ける嫌臭いが充満した。

 

「時子ー、おーい?生きてる?……あ、死んでるわ。かわいそ。

なむなむ、チーン……」

消し炭になった狂三に対して形だけの弔いを捧げる。

 

「あれ?ペドー君……?こんな所で何してるの?

それにその、炭は?」

手を合わせるペドーに、声がかかった。

この声の主は――

 

「よぉ、折紙!実はすごく腹ペド――じゃなくて、腹ペコになった俺は屋上で一人バーベキューをしていたんだ。

けど、ついウトウトしちゃってな?野菜もお肉もお魚も全部、炭にしちゃったんだよ……

あーあ、生産者さんごめんなさい!」

折紙に対して、困ったように話した。

 

「へぇ、そうなんだ……ペドー君って少し変わってるね……」

若干引きながら折紙が愛想笑いをする。

 

「ところで折紙こそ、屋上に来るなんてなんかあったのか?」

今度はペドーが質問を投げかける番だ。

 

「え、ここ屋上?あ――ごめんなさい、実は少し前から記憶が偶に飛ぶ時があって……」

驚くべきことに、折紙本人は自分がなぜここにいるのか自体、記憶していなかった。

 

「記憶が?うーん?貧血か、キングクリムゾンか?」

 

「キング……なに?」

 

「あ、いや、結構です……」

せっかくの冗談を華麗にスルーされ、ペドーが若干落落ち込んだ。

 

「あ、折紙。今度の土曜、ヨロシクな」

 

「え、土曜――っ、う、うん!こちらこそよろしくお願いします!!」

デートの予定を口に出すと、折紙は顔を真っ赤にして走っていってしまった。

なんというか、非常に『普通な』女の子らしい反応だった。

 

「あーあ、恐ろしいですわね……性格の変わった折紙さんにもう対処しているんですのね?貴方が手玉に取るのは幼女だけではないのですわね……」

さっき焼き焦げたハズの狂三がペドーの背後、折紙から見えない場所から姿を見せた。

 

「焦げた肉がシャベッタぁああああぁあぁあああぁああぁああ!!!!」

 

「何度もこの技見せてるでしょ!?なんで今更驚いているんですの!!」

驚くペドーに狂三がため息をついた。

 

「ふぅ、ボケを拾ってくれる子って良いわ~」

ペドーがしみじみとする。

やっぱり、せっかくのジョークにはツッコミが居ないと始まらないな。なんて言いたげにうなづく。

 

「それで、私が死んだ時――何が起きましたの?」

狂三の言葉にペドーの顔から笑みが消えた。

 

「最初は普通の折紙だった――目的は分かんない。

けど、屋上の入口に立ってお前(精霊)を見た時、一瞬で服装が変わった。

当然だけど、普通の服じゃない。あれはASTのワイヤリングスーツでもない。

あれは――」

 

 

 

つい先ほど、折紙の姿は普通の学生服を身に纏っていた。

だが、狂三を見た瞬間――

弾けるような闇が一瞬にして彼女に絡みつき、そして一切の感情を切り捨てた折紙の口が開き【魔王】の名を綴った。

 

「『救世魔王(サタン)』」

折紙の唇が紡いだ瞬間、黒い羽が瞬き、その一瞬後には狂三はレーザーで打ち抜かれていた。

ペドーは昨夜、フラクシナスのデータで見た()()()()()()()()()()()()()()の名前を口に出す。

 

「あれは『精霊狩り』の【デビル】だ。

やっぱり折紙が【デビル】だったんだ」

 

「【デビル】。あの子には、そんな名が付いたんですのね……

やはり、世界を変えても追ってくるんですわね。

本当に忌々しいですわね『運命』と言う物は」

何処か諦める様に、沈痛な面持ちで狂三がつぶやいた。

 

「けど、前の世界の折紙とは違うんだろ?

それどころか、本人は精霊になってお前を殺した記憶が無かった。

やっぱり、全く同じとは言えないんだろうな」

前の世界の折紙の反転した姿。

ペドーは直接見ていないが、狂三はその姿を見ている。

全てに絶望し、死人の様になり、ただひたすら破壊と恐怖と痛みをばらまくだけの存在へとなった『最悪の精霊(デビル)』の姿を――

 

「ええ、違いますわね……まだ、まだ希望はあるんですのね……

小さな、とても小さな、吹けば今にも消えてしまいそうな、希望が……」

 

「あ、折紙だ!」

 

「いえぇ!?」

ペドーの言葉を聞いて狂三がびくりと体を震わせる。

しかし、背後に折紙の姿は無かった。

 

「いえーい、時子ビビってる!ヘェイ!へいへいへい!!」

パンパンと手を叩き、奇妙なダンスをペドーが躍る。

 

「ふっざけんなですわよ!?撃ち殺しますわよ!!」

狂三が苛立ちながら、銃を構えて見せる。

しかし、それも一瞬。これ以上彼に構うのが得策ではないと思い直したのか、ペドーに背を向ける。

 

「……後の事は、お願いしますわ。折紙さんの事を救って見せてくださいませ――」

後ろを振り返りペドーの顔を見ようとするが、そこには誰も居ない。

 

「こ、このタイミングで帰りますの!?」

一人寂しく狂三の声が誰も居ない屋上に響いた。

 

 

 

 

 

五河家リビングにて――

我らが司令官、琴里は友人の村雨 令音とちょっとしたお茶を楽しんでいた。

 

「待ったく、ペドーったらどうしちゃったのかしら?

急に『自分が世界を変えて来たー』だなんて、中二病が再発したのかしら?」

ツインテールに、口に咥えるチュッパトップス。

それを外し紅茶に入れて、かき混ぜる。

 

「ふむ、琴里。その中二病と言うのが現実では信じられないモノ全般を指すのなら、我々だってその仲間だろう?」

令音がシュガーポッドから大量の角砂糖をティーカップに入れる。

彼女の言葉は精霊を指しているのだろう。

当事者である琴里にはすぐに分かった。

 

「けど精霊は実際にいるし、助けを求めているわ。

まぁ、私が知らない=存在しないなんてあまりにも幼稚すぎる理論なのはわかってるけどね?」

 

「確かに、にわかには信じれないよな~。

けど、全部本当の事なんだ。可愛い妹に俺は嘘はつかない!

あ、俺もソレ使いたいから貸してくれ」

 

「はいはい、分かった――ペドー!!何時の間に!?」

 

「うんうまい!このアメ、ほんのりマイシスターの味がする!」

いつの間にか横に座っていたペドーが琴里から渡されてアメを口に咥える。

 

「このッ――ペドフィリア!」

 

「キャンディ!?」

琴里のアッパーカットが口内のアメごとペドーを顎を粉砕する。

 

 

 

「――それで?一体どういう事か説明してもらえるかしら?」

ソファの上で琴里が足を組む。

目の前には床で座るペドーが居た。

 

「パンツ見えそう……あとすこし、あとす――ごほ!?」

 

「覗くな変態!!」

顔を真っ赤にして琴里がスカートを押える。

ペドーはそのまま床に倒れた。

 

「まぁ、話を戻すと俺は時子の能力で過去へ行った」

 

「過去ぉ!?」

訝し気に話す琴里にペドーは懇切丁寧に説明を始めた。

前の世界の折紙が精霊になった事。彼女を追い、時子の能力で過去に行った事。そして、その結果微妙に変わったこの世界へたどり着いた事。

 

「一体何を言って……」

 

「だが、一応筋は通っている。矛盾した部分も存在しない。

絶対にウソだとは言い切れない」

ペドー言葉を信じられない琴里に、令音が話す。

どうやら令音は琴里と比較してはだが、ある程度信じられると思ってくれたようだ。

 

「けど、時間を超えて……だなんて……」

 

「なら琴里。お前を後ろ手で縛って良いか?

【ザフキエル】で1分後のお前を召喚してやろう。

ただし!1分間、動けないお前が俺の前に晒される事になるがな!!

俺は40秒でラ●ュタに行く支度が出来る男だからな、60秒もあれば……むっふっふっふ……」

気持ち悪い顔でペドーが良からぬ事を考える。

 

「いぃいい!!」

ゾゾゾっと、琴里の背中に寒い物を感じる。

と言うか、ペドーの目には躊躇と言う物が無かった。

『やって良い』とさえ言ってしまえばおそらく彼は容赦なく――

 

「わ、分かったわよ!!信じる、信じるわ。

それに、私たちはペドーが本気で『信じてくれ』って言えば結局信じてあげるわよ。

それくらい当たり前でしょ?何のための私たちだと思ってるの?

それともペドーはそんなに私たちが頼りなく思えるのかしら?」

挑発的に琴里が、口角を上げる。

 

「信じてくれるかどうかは置いておいて、割と無能じゃないか?お前」

 

「は?」

ピしりッ!と空気が凍る。

 

「最初は十香の静粛現界を見逃したり、四糸乃の能力で凍って町に落ちそうになったり、時子の能力に混乱しっぱなしだったり……

えーと、数えると他にもいっぱい……」

1、2、3とペドーが指を折りながら数えていく。

 

「例えるならアレ。ホラー物の携帯電話。

肝心な時に繋がらない、肝心な時に電池切れる、肝心な時に落とす、あるいは逆に相手に利用される的な?」

 

「ふむ、悔しいがその通りかもしれない」

ペドーの言葉に令音までもが同意する。

 

「う、だ、黙りなさいよ!!

ふ、ふーんだ!

いいかしら?今回はこっちは大手柄を立てているのよ?

こっちだって、超重要な物的証拠が有るのよ!」

 

「物的証拠?」

琴里の言葉をペドーが繰り返す。

 

「実は、なんか朝からペドーがおかしかったから、その、フラクシナスの小型カメラをいくつか飛ばしてたのよ」

気まずそうに琴里が話し出す。

因みに小型カメラとは、小さな昆虫型のカメラでペドーのデートをリアルタイムでバックアップするために、相手に気づかれない様にフラクシナスが飛ばしている物だ。

 

「令音」

 

「了承した」

琴里が一言声をかけると、令音は部屋を出ていった。

そして数分立った後、小さなパッドを持って帰って来た。

おそらくだが、上空に浮かぶフラクシナスから持ってきたのだろう。

 

「これを見てくれ」

令音がパッドを立ち上げ、一つのファイルを開いた。

そして、画面に動画が流れ始める。

 

「放課後のペドーの様子よ、折紙に何か渡したことも、屋上でサボった事も、もちろん時崎 狂三と出会ったことも知ってる。

そして、今回問題なのはその後よ」

動画が屋上を映しペドーを捉える。

そして、その近くに現れる黒い影(狂三)とその影を打ち抜くレーザー光線。

そのレーザーに巻き込まれて動画が砂嵐だけになる。

 

「はっきりと映っては無いけど、誰かが精霊になって狂三を倒したのも分かってる。

もっとも、その時カメラはレーザーに巻き込まれて、お釈迦に成っちゃったけど」

どうやら、ペドーの言葉で曖昧な情報は最後の1ピースが埋まった様だった。

 

「やるわよペドー、あの折紙を攻略して、前の世界から追ってきた悪縁なんて壊しちゃいなさい!」

 

「ねぇ、令音さん。これって、琴里の私生活もこれで観察できます?

あと、四糸乃やシェリちゃんとか、他の子も……」

 

「無論可能だ。倫理さえ気にしなければ彼女たちのプライベートは丸裸さ」

令音のそのセリフを聞いた瞬間、ペドーの目に光がともる!

 

「イェス!こういうの欲しかったんだ~

胸に差してるカメラペンじゃうまく撮れなくて……

精霊攻略の結果如何によっては、しばらくレンタルとか……出来ないですかね?」

 

「ちょっと令音!?」

とんでもない契約が交わされそうになっている事に気が付いた琴里が、全力で止めようとする。

 

「大丈夫!紳士なペドーさんはのぞきなんてしないよ!!

ただ、空を飛んでる蟲の視点が気になってぇ。

おうちの中を飛んでみようとぉ――」

 

「どう考えても嘘じゃない!!

あと、その胸のペンも渡しなさい!!」

 

「断る!!」

どったんばったんと兄妹の争いが始まった。

 

「やれやれ、【魔王】が相手でも彼はブレないな……」

そんな二人を令音が感情の読めない声で、つぶやいた。

 




コラボは募集しません。
書いて!と言われてもマジで無理です……
貸して!ならまだ何とか……

けど、ひと様の世界にガチロリコンを送り込んだら大変な事になる気しかしない。
まさに、世界の破壊者。


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「私は一体何を見せられているの……?」

ご無沙汰しております。
遂に帰ってきました。

待っていた人、エタったと思った人。
遂に帰ってきましたよ!

申すこし、ペースを上げなくては……


11月11日の午前10時。

 

ペドーは服を着替えて、街中を歩いていた。

今日は折紙とのデートの日である。

 

『なんか早すぎるんじゃない?約束の時間は11時でしょ?

それに昨日は寝る前から全部支度して、すぐにでも出かけられる様にしたから寝たそうじゃない?

本当に前の世界でタダのクラスメイトだったのかしら?』

インカムから聞こえてくる琴里の声を聴きながらペドーがあくびをする。

琴里は空中1500メートル上空で、こちらをモニターしている。

無論、折紙とペドーのデートをこっそり助けるのが目的だ。

 

「ダメだな琴里、全然ダメです!

折紙の心がわかってな~い!」

その場で両手をクロスしてバッテンを作った。

突如はなたれるペドーの動きと言葉によって、何も知らず通りかかった男がビクリと身を震わせる。

 

「いいか?相手は折紙さんだぞ?

常にこちらの予測の範囲外の動きをする前提で動くんだ。

どんな状況が起きても対処できる心構えをするんだよ!

第一俺がすぐに出かけられる恰好をしたのも、今日0時に成った瞬間俺の部屋の何処かに隠れていた折紙が飛び出してきて『今日はデートの約束。間違って速く来てしまった』という状況に対応する為だ」

 

『どーいう状況よ!?おかしいでしょ!!』

インカム越しに琴里の言葉が響く。

 

「いや、前の世界の折紙が相手なら、準備はいくらしても足りない位だし……

いきなり怪しいお薬を嗅がされて、気が付けばホテルで……『名前、何にする?パパ』とかあり得る訳で……」

ペドーがそんな事を話ながら歩くと目的地が見えて来た。

以前くるみとデートの集合場所に使った噴水だ。

水中にもぐって相手を待とうと思ったが最近寒くなって来たのでペドーはやむなくそのアイディアを諦めた場所だ。

そして――

 

『うっそでしょ……?』

琴里の驚いた声がインカム越しに聞こえて来た。

約束の時間までおよそ一時間。

それなのに、それなのに――

 

「ちぃーす折紙!元気ーぃ?」

既に来ていた折紙に向かってペドーが手を振りながら話しかける。

 

「あ、ペドー君!?なんか、早いね……っていうか、私ちょっと早めに眼が覚めて二度寝すると今度は完全に遅れそうだから、ちょっと早めに来ちゃって――」

あわあわと聞かれてい事まで、慌てて折紙が話し出す。

 

「いやー、俺もなんだよ。

変な所で気が合うな!」

あははと笑うペドーを見て、折紙は内心「自由すぎる人だなー」と考えた。

だが、そんな部分に惹かれる自分がいるのでなおさら不思議な気分だ。

 

「あ、それより今、折紙って……」

今更だが折紙がペドーに名前呼びされた事を意識し始めた様だ。

 

「え、あ、その、なーんか、呼びやすくってな?

すまない。すこし、気安すぎたか?」

前の世界ではむしろ自分から、名前で呼ぶことを求めてきた折紙だが、確かによくよく考えると殆ど繋がりのない年頃の女の子をいきなり下の名前で呼ぶのは、呼ばれた側からしてもハードルが高いのかもしれない。

 

「う、ううん。大丈夫。

この名前お父さんとお母さんが付けてくれた大切なモノだから……

むしろもっと呼んで欲しい……かな?」

小さくうつむいて折紙がそう話す。

 

「分かった。なら今まで通り『折紙』で統一な?

んじゃ、俺の事は今まで通り『ペドー』で良いから、ってか最近は『五河』じゃ逆に収まりが悪いというか……

あと、敬語もやめないか?

もっと、こう、腹を見せて話そうぜ。

せっかくの休みだしさ!」

 

「うん、そうだね。士道く……じゃなくて。

分かった、ぺど……くん……」

折紙が顔を上げ、つぶやいた。

そのセリフにペドーは前の世界の折紙が無意識に重なった。

 

「さ、さぁ!早速行こうぜ、時間は有限だからな」

フラッシュバックを遮ってペドーは街中に進んで歩き出した。

 

 

 

ピコーン!

空中艦フラクシナスのメインモニターに、選択肢が現れた。

精霊とのデートの状況を読み取り行動を決定するこの装置は、すっかり忘れているだろうがフラクシナスの誇る高度なAIによって選出されるシステムなのだ。

 

①「そう言えば俺、見たい映画有るんだよな……」二人で映画を見に行く。平成の集大成にして一本の映画で収まらないほど豊満で潤沢なキャラクターたちが活躍する様を見に行く。

 

②「よし、二人で買い物に行こうぜ」二人で買い物に出かける。

 

③「君の話はとても興味深い。ホテルで朝まで語り合わないか?」大人なホテルにいきなり誘い込み「ホテル提案ロリコン」の称号をゲットする。

 

「総員選択!!って、何よ③ってAIにウイルスでも侵入しているのかしら?」

琴里が指示を出し、メンバーたちが続々と自らの考えを投票していく。

どうやら②最も人気であり次点が①、まぁ当たり前だが③には票が入ってはいない。

 

「やはり最良は②の買い物でしょう。やや無難すぎる気がしますが、無難こそ最も失敗が少ない物です」

 

「①もデートの定番と言えど、映画と言うのは実はなかなかリスキーです。

まず何を見るか。そして映画の印象がお互いに違った場合はどうするか。まぁ、2時間近く全く会話が無くなるというのが一番の問題ですね」

続々と意見が集まっていくのを琴里が聴く。

そして、それらの意見を集め自身の中で吟味した結果――

 

「ペドー、ここは②よ!二人で買い物よ!」

琴里がマイクに向かって話す。

 

 

 

「よぉし!なら心当たりがるぜ!」

 

「ペドーくん!?一体どうしたの?」

突然のペドーの言葉に折紙が驚く。

インカムを付けている事は秘密なので、折紙が驚くのも無理は無いだろう。

 

「いや、実は買い物に誘おうと思ってだな?

買いたいモノを売ってる店を脳内で思い出していたんだよ」

慌てて誤魔化して、ペドーが折紙を誘う。

 

「買いたい物?ペドー君は何を買いたいの?」

折紙の言葉を聴き、ペドーは静かに微笑んだ。

そして……

 

 

 

「あの……ここは?」

折紙が小さく声を発して、ペドーに尋ねる。

 

「え、行きつけの店だけど?」

そう話すペドーと折紙が居る店は様々な意味で異様だった。

瓶漬けにされたハブに、どぎつい色をした謎の赤黒い液体。

壁や棚に掛かる商品のセールス用の言葉として「赤マムシ」「今夜は3回戦」「バリっと開いてズンと伸びる」「ヤリすぎ!ツエすぎ!カマしすぎ!」など怪しい言葉が躍る。

 

「え、これ……」

折紙が店の怪しい内装を気にしながら、怯えた様子で歩いていく。

 

 

 

 

 

「ぺどぉおおおおおおおお!!何やってるのよアイツは!?

遂にやったわ!!ついにここまでおかしくなったのね!!」

琴里がインカムを床に叩きつけ、地団駄を踏んだ。

 

「感情値不安定化!!乱高下を繰り返しています!!」

 

「当り前よ!!あのロリコンはぁあああ!!!」

報告を受けて琴里が頭を掻きむしる。

一時とは言え、自分がペドーの言葉を信じたのは間違いだったと、激しく後悔する。

だが、そんなことを今更言ってもどうしようもない。

あのロリコンのせいで精霊攻略は失敗に――

 

「し、しかし、好感度は下がっていません!

それどころか、僅かづつですが上昇して……?」

データに不備があるのでは、と読み上げたメンバーが訝しがる。

 

「はぁ!?」

思いがけない状況に琴里が声を上げる。

完全に終わったと思った直後、まだ何とか続いているの理解する。

 

『ふむ、やっぱりか』

モニターにペドーの声が響いた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、ペドー君このお店……

悪いんだけど私にはちょっと――」

折紙が申し訳なさそうに、口を開く。

 

「お、それ行っちゃう?やるねぇ!」

おずおずと話しかける折紙に、ペドーがその手に持つカゴを指さす。

 

「え、あ!?」

何時の間にか折紙の腕には買い物カゴが下げられ、その中には複数の精力剤や媚薬の数々がセットに成っていた。

大人のお買い得セット(玄人向け)だ。

 

「ち、ちが!な、なんで?何時の間に!?」

慌てて折紙がその大人のお買い得セット(蔵人向け)を返しに行く。

 

「……やはり、ホテルはやめておいたのは正解だったようだな。

喰われる所だったぜ……」

折紙の背中を見ながらペドーが冷や汗をかく。

そして、それと同時にある一つの仮説がペドーの中に沸いた。

 

 

 

「折紙、すまない。今度は服を見に行かないか?

一着プレゼントさせてくれよ」

 

「あ、そんな、悪いし……」

必死になってさっきの事を誤魔化しながら折紙が話す。

だが、やはりこの店に居たくないというのは折紙も同じ様で、結局は折れてペドーの案内する服屋に向かった。

 

 

 

服屋にて――

「お、コレとかかわいいじゃないか?」

ペドーが適当な服を見せて笑みを浮かべる。

 

「あ、本当だ。ペドー君センス良いんだね」

2人はまるで本当のカップルの様に、楽し気に服を見て回る。

 

「あ、コレ良いかも」

何かの服を見つけた折紙がソレを持ち上げる。

 

「お、気に入ったの在ったか?せっかくなら試着してみたらどうだ?

俺もさ、折紙がどんな趣味してるか知りたいしさ」

 

「え、それって……ちょっと待って!

せっかく見せるなら、もっといいやつ探して……

ペドー君が気に入りそうなの、着るから!」

ペドーの言葉に折紙が頬を赤らめながら、いくつか服を持って試着室へと向かっていく。

そして、数分後――

 

「ペドー君、この恰好どうかな?」

カーテンが開き折紙が姿を見せる。

その姿は所謂スクール水着とランドセルだった。

 

「惜しい!もう少し若ければ……」

 

「え、そう……って、きゃぁああああああ!?

なんで!?なんで私こんな格好してるの!?」

突如折紙が悲鳴を上げる。

まるで、さっきまで見えない力に操られ意識を奪われていた者が正気に戻ったようなリアクションだった。

今の今まで、自分がどんな格好か客観的に見れていなかった様だ。

 

「折紙、俺が気に入りそうな服って……」

 

「ちが、私こんな、変態な子じゃ……!」

はっとして必死になって折紙が弁明する。

だが、その恰好はどう見ても小学生コスプレをする変態JKでしかなく……

 

 

 

 

 

「すまん、すこしトイレに行ってくる」

ペドーがそう言って席を立つ。

場所は服屋から少し離れたファミレス。

あの後混乱する折紙をペドーは優しく諭し、服を購入して昼食を取れる店にやってきたのだった。

注文した品を口にし、さっきの事に触れないような雑談をして一息ついた。

 

「はぁ……一体どうしたのよ、私……」

机に突っ伏して折紙がため息をつく。

いや、ため息どころか今すぐにでも、自室のベットの上で枕を抱いてじたばた暴れたい衝動を必死に抑える。

振り返ってみるとどう考えても今日の自分はおかしい。

 

(どうしちゃったの私?なんだか今日は、ヘンだわ)

なぜか今日という日に限って自分の中の衝動が押さえきれない。

本当の事を言うと、今日のデート時間を間違えたという事で深夜0時に自宅に侵入して「デートの時間を間違えた、仕方ないから今から行こう」と24時間に渡ってデートを楽しもうという衝動が襲ってきた。

その他にも「せっかくのデートだから下着は着ない方が良いのでは?」と真剣に迷ったり、ペドーに連れていかれた店では何処に何があるのかなぜか自分で分かっており、気が付けばドリンクセットを購入しようとしていたし、彼に喜んでもらおうと考えた結果おかしな服装を無意識に選び着ていたり……

 

(はぁ、こんなんじゃ絶対変な目で見られる……

いや、ペドー君も変わり者だし……大丈夫なハズ……

緊張して、疲れているのかな私?

ペドー君を連れて、ホテルで()()()しないと……)

そう思いながら、折紙が非常にナチュラルな動作で、ペドーの食べかけのパスタのフォークを口に含んで舐め始めた。

 

 

 

「うわ……ついにフォークまで舐め始めたわ……何よアレ」

琴里がドン引きしながら折紙の奇行をモニターする。

 

「おや、次はペドー君飲んだコップに手を伸ばしましたよ。

む、見事なイッキですね」

神無月が指摘する。

 

『折紙……安心したぜ。やっぱり折紙は世界が変わっても折紙なんだな』

インカムからは隠れて折紙の奇行を見て涙するペドーの声が聞こえてくる。

尚もフォークをぺろぺろする折紙をみて、ペドーが感動の涙を流す。

 

「私は一体何を見せられているの……?」

変態行為を繰り返す折紙と、その行動を見て感動する兄。

未だかつてない理解不能な現実に琴里の口から、乾いた笑みがこぼれた。




お互い相手の事を探る変態カップルみたいで楽しい……


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「出来るならで良いんだけど……逃げた方が良いぞ」

うぅおおおおおお!!投稿だぁ!!
投稿だぁあああ!!

待ってた皆さんすいませんでしたぁあああ!!


街中を歩くペドーと折紙の二人、目的地へ向かわせるべくペドーが僅かに先に歩もうと、折紙の前に出た。

その瞬間、折紙がタイミング悪く転んでしまう

 

「きゃっ!」

 

「折紙大丈夫か!?」

ペドーはとっさに折紙を抱きかかえ、自身の身で受け止めた。

 

「あ、ペドー君ごめん、すーっ、私。すーっ、ついうっかり、すーっ、してて、すーっ」

ごめんと謝りながら、折紙は自身の鼻をペドーにくっつけ何度も深呼吸を始める。

 

「あ、ああ、気にするなよ……」

 

「っはっふはっふはっふ……」

最早言葉も無く、ペドーの匂いを嗅ぎ続ける折紙。

理解できるか?コレ、初デートなんだぜ?

 

 

 

事の始まりは、もうずっと最初からだったのかもしれない。

怪しい薬の店、服屋、レストラン。

様々な出来事の中で見ていた折紙の奇行……

その奇行のタガがダンダンと外れかかっている様な。

 

(良い事……なのか?前の折紙に近づくって事は、俺に対しての好感度が上がるって事だけど……)

ちらりと折紙を見ると、紙コップで出るタイプの自販機でジュースを買い、そのジュースの中に怪しげな白い粉を混ぜるのが見えた。

 

「食われそう……」

ペドーが冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

秋の空に星が浮かぶ頃。

ペドーは折紙を連れて町の高台に来ていた。

この高台はペドー達の住む町が一望でき、更には星まで見えるとう絶好のデートスポットだった。

何時もはいちゃつくカップルがいるが、フラクシナスのメンバーがあらかじめ人払いをしてくれたのか、二人以外に誰も人がいなかった。

 

「わぁ、綺麗……だけど、少し寒いかも……はぁー、はぁー……」

折紙の吐く息が白く染まり、指先に吹きかける。

 

「まぁ、秋だしな。夜近くになると肌寒いのも分かるよ」

ペドーも息を吐くが、その息は白濁することなく空へ消えていく。

 

「なんか、指先が寒いなぁ」

ちらちらと折紙がペドーを見る。

 

「…………」

周囲を見回すと、自動販売機なんてものは無い。

当然「温かい飲み物を用意したよ」なんて回避手段は使用出来ない。

吐き出す白い折紙の息は興奮し体温が上がっている証拠。

周囲に人はいない。そんなタイミングでもし折紙の手を掴もうものなら、暗がりに引きずり込まれて(性的に)食べられてしまう可能性は十分に想像できる。

 

「指先寒いなぁ……」

ここでまさかの、追撃!

 

『ペドー何しているのよ?女の子が寒いって言ってるんだからやる事は一つでしょ?』

インカムから琴里の指示が飛ぶ。

こっちの司令官は、やる事をしたら逆に折紙にヤられてしまう可能性に、気が付いていないのだろうか?

 

『シン、彼女の好感度は十分なのだが、まだ封印には一押し足りないんだ。

この計器の波長からして、彼女は何か不安を抱えているのかもしれない。

その解消のためにも、してくれないだろうか?』

更に繰り返される追撃に、ペドーはついに折れた。

 

「ん」

無言で折紙の両手を自身の手で包む。

 

「んふ、ペドー君は優しいね」

折紙は満足したように、笑みを浮かべた。

その笑みは本当に、不安を抱えているのが疑問になるほどすっきりした物だった。

 

「私ね、ペドー君に言わなくちゃいけない事が有るんだ」

 

「言わなくちゃいけない事?」

ペドーは折紙が「子供の名前何にする?」なんて言いながらケダモノに変身するのではと身構えた。

 

「ペドー君は私がASTにいた事知ってるでしょ?

それでね、私少し前から、貧血で意識を失う様になって――

あ、いや、これも原因の一つなんだけど、なんだかんだあってASTやめちゃったんだよね……」

誤魔化すように折紙が視線を外して見せた。

 

「懲戒処分じゃなくて?」

 

「もう!ひどいなぁ、そんなワケ無いじゃない」

前の世界でのASTをやめる理由を知っているペドーが思わず漏らした。

だが折紙はそれを笑って、否定した。

だが、その笑みも一瞬。

折紙は再度まじめな顔を作り口を開いた。

 

「私ね、私、なんで精霊を殺さなくちゃいけないか、わからなくなっちゃったの……

勿論、町に被害を及ぼすのは分かってる。

危険な生き物なのも知ってる。

それに、ペドー君にとってはお兄さんの仇でもあるんだよね?

けど、それでも精霊を殺す事に疑問を持っちゃったんだ……

それからかな、なんだか精霊を殺そうと思えなくなって……」

不安そうに折紙が震える。

 

「良いんじゃないか、それでも。

確かに兄貴は死んだ(死んでない)けど、やりたいことをやった結果だ。

折紙はの考え方は自分のやりたいことなんだろ?じゃあ、それを貫けばいい」

いろんな意味で自身のやりたいことをやりまくっているペドーが、その言葉を吐く。

 

「うん、そうだね……ペドー君ありがとう」

折紙が再度笑うと同時に、インカムからファンファーレが響いてくる。

どうやら、封印条件が解放された様だった。

 

『さぁ、ペドー封印よ!』

琴里の声が聞こえてくる。

そうだ、今回の目的はデートではない。

デートの先にある最悪の精霊『デビル』の封印だった。

 

「くゅん!」

折紙が小さくくしゃみをした。

それと同時に、冷えた風が吹いてきた。

 

「あー、思ったより冷えて来たな……よし!焚火で暖を取ろう」

 

「焚火?」

ペドーの言葉に折紙が首をひねる。

折紙の視線の先、ペドーは適当に足で落ち葉を集め……

 

「ほい!〈カマエル〉!」

指先から炎を出して、落ち葉を燃やし始めた。

 

「あ、え、ペドー君が炎?トリック……トリックだよね?」

折紙が苦々しい顔をする。

 

「ん?延焼が不安か?ダイジョウブ。

ペドーさん消火もキチンと出来るから。

はぁ~い〈ザドキエル〉~」

今度は手から氷を出してお手玉する。

なるほど、確かに火の中に氷を投げ込めば消火は可能だ。

可能、可能なのだが……

問題はそれよりも――

 

「――――精霊…………?」

 

「え、そうだけど?」

折紙がつぶやくと同時に、ペドーの耳につけるインカムから大音量の音が流れた。

さっきのファンファーレとは違う。それは危険を知らせる警告音だった。

 

『バカ!!なんて事するのよ!相手を誰だと思ってるの!?

相手は()()()()のデビルなのよ!』

琴里の声を聴いて思い出した。

そうだ、この世界における精霊折紙の与えられた二つ名は『精霊狩り』だ。

精霊の力を見せたのなら、デビルは容赦なくこちらを狩ろうとする。

そんな当たり前の事を、ペドーは折紙から発された衝撃波を受けながら、今更思い出した。

だが、今更思い出しても事態が最悪の方向へ向かったのは変わらなかった。

 

 

 

 

 

それとほぼ同時期。

ペドー達のいる高台から離れた場所、精霊ズマンションの部屋で、一人の少女が身震いをする。

 

「んな!?この感覚……!」

少女、シェリ・ムジーカが飲もうとしたスポーツドリンクを手から取りこぼした。

 

「どうしたんですか?」

 

『なにかあったのかなぁ~?』

四糸乃、よしのんの両名がシェリの異変に気が付く。

 

「ボクの勘違い……」

 

「というわけではありませんわ。わたくしも、かんじましたもの……

すごく、こわい、このかんじを……」

シェリの言葉をくるみが遮る。

 

「え、なに、みんなして『今の気は何だ?』的な事を言っちゃう実力者ごっこ?

そういうの、私も誘って欲しい言っていうか……」

七罪が疎外感を受けながら話す。

だが、シェリもくるみもその表情は真剣そのものだった。

 

「ちがいますわ!なにか……」

 

「良くないモノが動きだした感じだ……

多分、他の精霊も強弱あると思うけど、みんな感じてるハズだ!

ボクちょっと見てくる!!」

シェリが窓を開けると、夜の暗闇に向かって身を投げ出した。

そして、マンションを伝い、他の3人を置いて走り出した。

 

「ちょっと、ここ5階――うわぁ、すげぇ……」

マンションを抜け出し、身軽に走るシェリを見て七罪が、驚き3割引き6割羨望1割の視線を向ける。

 

「わ、私もい、行きます!」

四糸乃もベランダから出ようとして、下を向いて顔を青くして飛び降りるのを諦め、玄関に向かって走り出した。

 

「あ、あ~私も行った方が良い空気?」

 

「せんとうのうりょくがひくいのならのう、やめたほうがいいですわね。

おそらくたたかいになりますわ、あしでまといになりかのうせいがたかいなら……

それにきっとほかのせいれいたちも、むかっているかもしれませんわ」

 

「そ、そうだよね?黄な粉ジャンキーとか、血気盛んな双子は絶対向かうよね?」

七罪が同意を得る様に聞いた。

 

 

 

 

 

一方その頃の十香は――

 

「すーっ、すーっ……ふぅあ……キモチいい……」

鼻から丸めた紙を使い、きなこを吸引してトリップしていた。

 

「みんな、はやく、育つ、のだ、ぞ?」

なんだか歪んでくる視界の先、トロンとした目で押入れで隠す様に栽培しているきなこの植木鉢をぼおっと見ていた。

 

十香――きなこによるトリップで気が付かず!!

 

 

 

一方隣の部屋。耶倶矢、夕弦二人は同じ部屋で、ゲームに熱中していた。

「フン!!ふんっ!あーっ!なんで、当たんないのよ!!当たり判定おかしいじゃない!!」

がちゃがちゃとコントローラーを壊さんばかりに、ガチャガチャと動かす。

 

「嘲笑。それは耶倶矢のコントロールが悪いからです」

耶倶矢の攻撃を余裕で躱しながら、夕弦が勝ち誇る。

 

「むっきーぃいいい!!もう本気なんだから!リミッター解除!!解除!!」

 

「疑問。リミッターを2回解除しました。2度目は逆にかけた事に成りませんか?」

ぷぷぷと笑いながら尚も耶倶矢を煽る夕弦。

 

耶倶矢&夕弦――ゲームに夢中で気が付かず!!

 

 

 

更に隣の部屋。

無人だと間違ってしまいそうな位、部屋が暗い。

小さな電気スタンドに辛うじて灯がともり、部屋を照らしている。

部屋の中には殆ど何もない。

化粧棚と、衣装ケース。

そして、壁一面のペドーの写真。

 

「だーりん、だーりんすき……だーりん好き……愛して、私を愛して……

オナホの代わりで良いから、お金目あてでもいいです、私を利用してください……

私に存在意義を下さい……だーりん、だーりん好き……だーりん……」

 

美九――精神崩壊中につき、気が付かず!!

 

結果!!非幼女精霊全滅!!

 

 

 

 

 

更に時を同じくして、空中艦〈フラクシナス〉内部ではけたたましいアラームの音が鳴り響いていた。

 

『霊力値カテゴリーE!精霊鳶一折紙の「反転」を確認!』

 

『くっ、精霊を見た瞬間に反転するなんて……令音の予想は当たっていたって事ね……』

苦々しい顔をして、琴里がチュッパトップスをかみ砕く。

途中まで上手くいっていたデートは、自身の兄が精霊を力を見せた瞬間、崩れ去った。

正気をなくしたのか、折紙はついさっきまで自分が好きだった人間を殺しにかかっている。

 

『ペドー!こっちで回収するから、すぐに逃げなさ――ペドー!?』

メインモニターに映ったペドーを見て、琴里が素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

 

 

「あー、琴里?悪いけど、また、後にして、くれる、かな!?っと、と、と」

モニターの中のペドーは折紙の攻撃を躱している最中だった。

インカムから来る音に時折返信しつつ、折紙に近づこうとしている。

思い出しているのは、前の世界で出会った〈魔王〉となった十香の事。

 

(あの時の十香は、霊力の再封印で元の状態にまで戻せた……

そんで、今回の折紙は一応、封印可能レベルまで攻略は出来てる!

なら、イチかバチか!封印してみる他ないよな!!)

そんな事を考えつつ、今しがた自分を殺そうとする少女の前に、身を躍らせる。

 

 

 

「折紙!俺だ!!正気を取りもどせ!!」

ペドーが折紙に話しかけるが、反応と言える反応は無い。

ただ、目の前の『(精霊)』を倒すべく攻撃を加えていく。

 

「…………」

折紙が幾重に重なるレーザーを発射するが、ペドーはそれをすれすれで回避していく。

数発のレーザーが肩に当たり、激しい痛みと共に焦げる嫌な臭いがする。

どれもこれも辛うじて致命傷ではない。だが、致命傷でないだけで痛みは無視できる物ではない。

 

「けど、止まってやらねーよ!」

脇腹、腿、手のひら等々。

致命傷にならない部分にペドーはレーザーを受ける。

跳びそうになる意識を、キズの痛みで無理やり覚醒させ、負った傷は〈カマエル〉を使い修復する。

 

「運が悪かったな折紙!!俺は……俺は日常的にシェリちゃんにセクハラしまくってて、そのお仕置きレーザーを食らってるから、レーザーの軌道を読むのには慣れているんだよん!!ギャオ!?」

最後は受け損ない、ペドーが割と大きなダメージを股間に頭に食らう。

 

「何すんだ!?将来ハゲたらどうすんだ!!」

ペドーの言葉に折紙はひたすら無反応だった。

そこが失敗だった。頭部に受けた傷を気にしてペドーに一瞬の隙が出来た。

その瞬間、折紙が数本のレーザーを束ねてペドーに向かって射出した。

 

(やば、コレ逃げられ……死んだ――)

 

『その心意気だけは認めてあげましょうか、バカロリコン!!』

ペドーに向かっていたレーザーは上空から放たれる、極太の別のレーザーによってかき消された!

 

「琴里……か?」

 

『そうよ、まさかこんな事に成るなんて……けどね、安心しなさい。

手加減してあげるから、思う存分当たりなさい!!』

空を割り、巨大な影がその姿を現す。

空中艦〈フラクシナス〉がレーザーの光を讃え、悠然と姿を見せる。

先ほどの折紙の攻撃を消したのは、フラクシナスの超精密攻撃に寄るものだった様だ。

 

『ペドー!デビルに今から攻撃を加えるわ!さっきも言ったように威力は調整するからデビルがひるんだ隙に懐に入って――』

琴里の説明を聞いている最中、折紙が『羽』の様な物を〈フラクシナス〉に向かって飛ばす。

そしてそれは音もなく、〈フラクシナス〉を囲み――

 

「あー、琴里……?

出来るならで良いんだけど……逃げた方が良いぞ?」

 

『へ?ぎゃぁあああああああ!!!』

ペドーの言葉が終わるか終わらないかの内に、折紙の放った『羽』が瞬き〈フラクシナス〉を打ち据えた。

響く琴里の声、バックで聞こえるのはクルーの騒ぎ声、曰くメイン動力炉損傷、飛行機能72%低下、非常用動力炉作動など等だ。

 

「うーん……速攻やられたな……この無駄の無い無駄な登場……あ、いや、一発レーザー防御してくれたけど……

まぁ、神無月さんが居れば脱出位は出来るだろるから、心配は要らないけど……」

内心もう少し、働いてほしかったななんて思いながらペドーがため息をつく。

 

「…………」

折紙はそんなペドーの思いなど関係ない。

自身の羽に命令をす。

それ命令を受けた羽は、忠実に仕事をこなす。

 

「はっ!!がっ!?」

再度放たれる一条のレーザー。

それは今度こそ、何物にも邪魔されず目標の口の中に吸い込まれていった。

 

ドさっ!

 

僅かな土埃を立てて、目の前の男が倒れる。

びくんびくんと数度痙攣する。

そしてその痙攣も弱くなっていき、最後には――()()()()()()()()()()

 

「アレ!?なんかこれ甘い……甘い?甘……千歳飴だコレ!!」

ぽきんと咥えていた千歳飴を割る。

 

「うンまい!?ナニコレ?」

驚き更に、2口、3口と食べるペドー。

その目前に小さな影たちが踊りだした。

 

「ナニコレじゃないわよ!!こっちがそう言いたいわよ!!!」

七罪が怒りながら、

 

「オマエ!!いきなり死にかけてたんだぞ!!」

シェリが怒号を飛ばし、

 

「ぺドーさん、大丈夫……ですか?」

 

『いんやぁ~、すごい人がいるねぇ』

四糸乃、よしのんが心配する。

 

「みんな!来てくれたのか!」

 

「わたしもわすれちゃだめですわ」

ペドーに後ろから姿を現したくるみが声をかける。

 

「うっ……」

折紙の脳裏に頭痛が走った。

目の前には新手。

男にくわえて、4人の幼い少女。

男と4人の幼女。到底強力な戦力とは言えないハズのこの布陣。

だが、『折紙』はこのメンバーが揃うと何か大きな事が起きる気がしていた。

 

「よぉし!みんなが来てくれたなら……俺はムラム――じゃなくて勇気100倍だぜ!!」

ペドーがガッツポーズを取る。

 

(うわぁ……今『ムラムラする』って言いそうになってた……)

 

(コイツ、こんな状況でもかよ……マジに死なないかな?)

 

(ペドーさん……)

 

(ぺどーさん、ゆがみねぇなってやつですわ)

力あふれるロリコンと、ドン引きした目で見る幼女たちがそこに居た。




幼女が出て来た瞬間このザマ……伝統と安定のロリコンクオリティ。
やっぱりデートするなら幼女だよね!!


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「無駄かもしれないが、助けてやるか……」

さーて、さてさて、のんびり書いていた折紙パラドクスもいよいよ、フィニッシュです。
何だかんだ言って、折紙に振り回されましたね……


「ここは……どこ?」

鳶一折紙が目を覚ましたのは、暗闇の中だった。

『目を覚ました』という表現が正しいのかは分かりはしないが、意識を持ったという意味では『覚めた』と言えるのかもしれない。

だが、まるで夢の現実の合間で微睡むように、すべてがひどく曖昧で不確かな感覚だった。

 

「そうだ、私は……ペドー君と……」

ペドーとのデートの最中。

楽しいデートの中、自身はペドーの『何か』を見た。

その『何か』を見た瞬間、自身の意識はこの暗闇の中に引きずりこまれたのだと、思い出す。

 

「あ……」

視線を投げた闇の中、そこに暗闇の中にも関わらずはっきりと見える姿があった。

理解が一瞬遅れ、それが上下逆さまに座った少女であると折紙は理解した。

闇の中でも尚も暗いドレスに膝を抱えて、まるでまるで精気が無かった。

暗闇であることも助け、その少女は折紙に死体を思い浮かべさせた。

だが、次の瞬間その膝を抱えた少女が顔を上げた。

 

「ひっ!?」

最初は死体だと思っていた物が動いた驚きで声を上げる。

そしてその次に、その少女の顔を見て折紙が黙り込む。

その顔は非常に良く見知った物だった。

毎日、毎日鏡で見て来た自身の顔その物。

天地が逆転している事、服が違う事を覗けば、鏡だと思ったかもしれない。

 

「…………」

その黒い少女と折紙の目が合う。

暗い、暗く濁った何処までも落ちるような暗い目が折紙に向けられる。

 

「……痛っ!?」

目が合った瞬間、折紙の脳内に記憶が流れこんでくる。

それが目の前の『自分』の記憶であると、折紙は理解した。

 

自身の愛する両親を殺した精霊――

 

自身の無力さに打ちひしがれ、徹底的に自分を苛め抜いた日々――

 

ASTに入り精霊を殺す力を手にし、必死にあがき続けた事――

 

さらなる力を手にする為、DEM社の門をたたいた事――

 

しかし、尚も自分は無力で謎の存在にすら力を求めた――

 

新たな力を使い、自身を過去に飛ばし両親の仇を自身の手で取ろうとする――

 

だが、その両親を殺した仇が自分自身であると『折紙』は知ってしまった――

 

最早すべてがどうでもよかった――

 

残ったのは自身が最も憎んだ精霊になったという事実だけ――

 

壊そう。こんな世界。こんな命に意味は無い――

 

車を壊して、家を壊して、町壊して、人を壊して、壊して壊して、壊して壊して壊して壊して、壊して壊した――

 

最後に残るは壊れた心。

 

行きつくのは誰も居ない暗闇の中。

 

そこでただ一人、膝を抱えただ存在し続ける。

 

永遠の続く『黒』の世界。

 

だが、そこに一筋の光が見えた。

 

「?」

折紙はその光に手を伸ばす。

 

自身の両親を殺そうとする精霊の攻撃をかばう少年を見た記憶。

そして、それをトリガーにして、続く新たな記憶。

 

『折紙』が折紙の見た、壮絶な記憶に息を飲む。

折紙が『折紙』の見た、幸福な日常に焦がれる。

 

そして、二人の折紙がゆっくりと溶け合っていく。

 

 

 

 

 

「いえーい!!今日も俺は大ハッスル!!

幼女のお陰で元気100倍だぜ!!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

冷たい視線を流す、幼女を無視してペドーが自分ではかっこいいと思っているポーズを決める。

目の前には【魔王】。

それに立ち向かうのが幼女を連れた【ロリコン】。

 

「よぉーし、みんなの前でカッコいいトコ見せちゃうぞ!」

ペドーが自身に気合を入れて右腕を振り回す。

 

「…………」

ペドーのその動きに反応し、【デビル】が右腕を感情の無いままペドーに向ける。

それと同時に、複数の羽が出現しその先端に光を讃え始める。

明らかな敵意に【デビル】はペドーを敵と判断した様だった。

 

(よし、折紙の注意がこっちに向いたな)

今も墜落寸前のフラクシナスに、折紙の追撃が加われば本当に破壊されてしまう。

フラクシナス――ひいては琴里達を守るためにも折紙にはペドーの『敵』と判断してもらうしかなかったのである。

だが――

 

シュン!

 

チュン!

 

「わぁっととと!?」

襲い来るレーザーを必死に躱しながら、ペドーが逃げる!

 

「正直キッツイ!!マジでキツ――あ、アツゥイ!!」

折紙のレーザーがペドーの尻をかする。

ズボンと下着が焼焦げ〈カマエル〉で治療される。

そして夜近くだというのに、不自然な光が差してペドーの局部を隠す。

 

「なんでアイツは毎回狙いすましたかのように、脱げるんだ?」

 

「おやくそくというやつですわね」

シェリの言葉にくるみが答える。

 

「毎回このパターンやってるの……?」

 

「……はい」

七罪が尋ねると、困ったように四糸乃が答える。

 

「みんなー!天使はなるべく使わないようにねー!

折紙は天使見せると襲ってくるからー

アッツぃ!!熱い!!」

ビームを尚もすれすれで受けながら、ペドーが回避していく。

何だかんだ言って、精霊よりもペドーの方が不思議生物なのかもしれない……

 

 

 

「よぅし分かった!天使を使えば敵認定されるってなら――ボクの出番だな!」

シェリが折紙に見せつける様に、|虫眼鏡型の天使〈セメクト〉を顕現させる。

折紙が新たな精霊()の出現に反応し、羽をいくらか差し向ける。

 

「シェリちゃん!?流石に無謀じゃ……」

そう言うペドーの横を、一条の光線が通り過ぎて行った。

それは折紙の羽の黒い光線では無く、久方ぶりに見たシェリの【天使】の攻撃だった。

だが、シェリは準精霊の上に力も封印状態。

とてもではないが、反転した精霊であるデビルに太刀打ちできるハズは無いと思われた――が

 

「戦いは戦力だけじゃないんだよ」

シェリの攻撃は、今しがた攻撃を撃とうとしていた羽に当たる。

そして、その羽の照準を外し、別の羽に攻撃を当てさせ落とす。

 

「マジか!?シェリちゃん凄すぎない!?惚れた!!結婚して!!」

 

「別に、戦略的に考えればどの羽が攻撃するか分かるよ。

まぁ、羽の攻撃が別の羽に当たったのは流石に予想外だったけど……

あ、あと!ボクはロリコンとは結婚しないからな!!

そんな事より、チャンスは今しかないだろ!!行け!!ロリコン!!」

シェリの言葉でペドーが気が付く。

折紙は今、新たに出現した精霊に意識が向いた。

それはわずかではあるが、ペドーへの注意が逸れたという事である。

折紙を封印するには近づくしかない……

シェリはペドーへの活路を見出す為に、あえて一番最初に折紙を引き付ける役を買って出てくれたのだ。

 

「シェリちゃん……行ってくるよ」

シェリに一言だけ、言ってペドーが折紙に向かって走り出す。

危険な行為をペドーは怒らなかった。シェリは自身を信用しこのチャンスを作ってくれたのだと分かったからだ。

ならば、後は自分が成功させるだけ!

 

ペドーが羽の隙間を通り抜け走る!

だがまだ数が多い。

数枚の羽がペドーの行方を阻み、黒い光を溜める。

 

「邪魔――スンナ!!」

ペドーが自身の中の〈ラファエル〉の力を使う。

その瞬間、羽が狙いをそらし、その間をペドーが走る。

 

「なに!?」

羽の横を通り過ぎたと思ったペドーが驚愕に目を見開く。

ペドーとシェリが羽の照準をずらしたその後、羽の影に隠れる様に数枚の羽が更に隠れていた。

おそらく、吹き飛ばされ照準が狂う事を計算し、あえて羽を盾にして本命の羽を隠したのだろう。

折紙がASTで戦略を学んだためか、他の精霊よりもずっと戦略的に天使を使う事に成れていた。

 

「しまった……」

この羽を突っ切れば、折紙は目の前。

そう思っていたペドーは防御の事など考えていなかった。

走馬灯か、それとも興奮状態でゾーンにでも入ったのか。

ペドーには、そのレーザーの動きがひどくゆっくりに見えた。

だが、体はそれを回避出来ない。

そしてそのレーザーがゆっくりペドーに当たり――()()()

 

「おっと、これは千歳飴……前回からどうもな!七罪!」

そう、この能力は物質を別の物に変えてしまう天使〈贋作魔女(ハニエル)〉の能力だ。

 

「うっさい!速く攻略してこい!!じゃないと、レーザーがこっち来るだろ!」

 

「よぉし、ナッツミン!終わったらペドーさん特製千歳飴(意味深)を食べさせてあげるからな!」

 

「やめろ!無駄に(意味深)とかつけるなー!」

七罪の悲鳴を横にペドーが走る。

折紙の作り出した羽は全て通り過ぎた。

これならば――

 

シュ!シュン!!

 

「え、ぐぅぁああ!!」

一瞬だけ油断したペドーに響く風切り音。次の瞬間、ペドーの背中に羽が突き刺さる。

他の移動砲台の様な羽ではない。

威力は低いが、相手の体に突き刺さるナイフの様な鋭い羽だ。

どうやら、こんな物まで隠していた様だ。

 

「こん――のぉ!!」

ペドーが羽を掴む。羽に触れた事より、手のひらに傷が出来るがペドーが気にはしない。

引き抜いて、地面に落とした。

だが、そんなペドーに向けて更に羽が迫る!

 

「!? まず――」

ペドーが身構える瞬間、小さな影が転がりこんできた。

それは四糸乃だった。

 

「〈氷結傀儡(ザドキエル)〉!」

ペドーを守る様に、氷結の盾を作り出し羽を受け止める。

 

「ペドーさん、大丈夫、ですか?」

 

「四糸乃!グッジョブ!危うく刺身になるところだったぜ!!

終わったら、回らない方のすし屋にご飯デート行こうぜ!」

 

「そ、それは、お高いのでは?」

 

「フラクシナスに付けとくから問題ないぜ!」

四糸乃の声援を受けたペドーが再び走り出す。

折紙のはもう目の前、後2メートルも離れていない。

だが、そこに最後の関門が立ちふさがる。

 

「な!?壁だと……!」

夕焼けを僅かに反射させ見える壁、そこに在るのは僅かにのみ視認出来る壁があった。

折紙の作り出す羽はお互いを結び、障壁ともいえるバリアを作り出していた。

 

「攻撃だけじゃ、無かったのか!!」

ここに来ての誤算。

あと一歩で折紙い到達できるというのに、最後の最後で邪魔が入った。

 

「ペドー、さん!」

それを見た四糸乃が自身の左腕をパペットを外す。

そして、それは見事なコントロールでペドーの腕に装着される。

 

「よしのん!」

 

『はぁい!ペドー君。今回もお・た・す・け♡よしのんの出番だね!』

そう言ってよしのんは左腕を引く。

それは一見ただパペットが、手を動かしただけにしか見えないが――

 

「よぉし、よしのん頼むぜ!!」

 

『よしのん幻の左!』

よしのんの左手がバリアに突き刺さる!

そして、一点からヒビが入って割れていく。

 

「ナイスだよしのん!」

ペドーがガッツポーズを取ると同時に、バリアが砕けペドーがその隙間に入り込んだ。

バリアが修復されていくが、その前にペドーがよしのんを四糸乃へと投げ返した。

これ以上よしのんを借りるのは四糸乃の精神状態によろしくないからだ。

 

「お、りっ、がっ、みぃぃいいいいいい!!!」

 

「ペドーさん、いそいでくださいまし!」

ペドーが今にも飛び立とうとする折紙に向かって飛びつく。

そうだ、折紙は精霊。

幾ら近づこうにも、距離を取られてはペドー自身でも近づくことすら困難。

 

「行かせない!みんなが繋いだこのチャンス――絶対に生かして見せる!!」

ペドーが折紙に手を伸ばす――――

 

 

 

 

 

時は遥か先に延びる。

荒廃した街を見渡す一人の男がいた。

未来の世界で、狂三が出会ったというガチペドオー大王だった。

大王は、古びた階段を降りその先に有る石化した友人に会いに来ていた。

 

「久しいな。我が友よ……

貴様が希望を失い、この世界を壊した。

そして私が、貴様を倒し荒廃した世界に君臨した――王として……

だが、今、再度歴史は分岐点に立とうとしている様だ。

無駄かもしれないが、助けてやるか……若き日の私の世界を」

ガチペドオー大王は花嫁の様な服装をした、石化した嘗ての友人を見ながらつぶやいた。

 

 

 

パァン!!

 

「なんですの!?」

響く、発砲音。

気が付くと、なぜかくるみの〈刻々帝(ザフキエル)〉が暴発していた。

くるみはトリガーに指を掛けていないし、それどころか力を使おうという意識すら持っていなかった。

勝手に発動し、勝手に能力を込め、勝手に引き金が引かれていた。

その放たれた弾丸はまっすぐ折紙飛んでいき、彼女の体に当たった。

 

「う、あ……」

飛び立とうとしていた折紙は、その能力により体が動かなくなる。

 

「まに、あったぁあああ!!」

そんな折紙に、ペドーが抱き着いた。

 

「おり、がみぃ!」

 

 

 

 

 

折紙の心はまだ暗い闇の中にいた。

『前』の折紙と『今』の折紙、二人の記憶が複雑に混ざり合う。

 

自身の両親を殺した絶望の記憶。

それと

自身の両親を助けた希望の記憶。

 

実際に起こった悲劇を嘆く折紙の絶望の声を、両親との愛の記憶を持った折紙が諭す。

希望を生きる折紙の言葉を、大罪に手を染めた折紙の声がかき消す。

どちらでもない、決着などない。

お互いがお互いを否定し合う、折紙。

 

そんな中に、侵入者が現れた――

 

『貴方は誰?』

侵入者に二人の折紙が問いかける。

だが、その侵入者は応えてくれない。

しかし、その侵入者は一歩進み、折紙に問いかけた。

 

――いつまでここにいる?誰がここにいる事を望んだ?お前は言われたハズだ『生きろ』と――

 

侵入者の声に、二人の折紙が顔を上げる。

 

――悪夢は終わりだ。目を覚ます時が来た。迎えの使者が来たのだ。お前たちは未来へ生きなくてはならない――

 

侵入者が両腕を真横に振り上げた。

その瞬間、闇が砕けた。

 

 

 

「おり、がみぃ!」

闇の向うで、ペドーが折紙の名を呼び飛びついてくる。

愛する人の顔と声に、『折紙』の動きが自然とシンクロする。

そして――

 

「ペドー!」

 

「へ!?」

突如折紙がペドーに抱き着いてきた。

まさかの反射的な動きにペドーが目を点にして、姿勢を崩して転ぶ。

 

「ペドー、ペドー、ペドー……」

転んだペドーに馬乗りになって、折紙が怪し顔でペドーの名を連呼する。

 

「あれ、折紙なんか雰囲気ちが――むぐ!?」

折紙がペドーに無理やりにキスをする。

その瞬間、封印条件を満たし折紙も服が虚空に溶けて消える。

 

「むぐぅー!!むぐぅー!!」

必死に地面をタップするが、折紙は容赦しない。

ペドーの口を貪り、自らの欲望を加速させる。

 

びりぃ!

 

「ひぃ!?」

ただでさえボロボロだったペドーの服を、折紙が破る。

その瞳は完全に、獲物を捕食するケダモノだった。

 

「お、折紙落ち着け?な、な?小さい子も見て――」

 

「保険体育を始める」

 

「始めないでー!!」

夜の帳がおりつつある、公園でペドーの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

三日後……

 

「うえー、気持ち悪い……」

琴里が不愉快な感情をあらわにしながら、頭を押さえる。

折紙を封印し、彼女とペドーの間にパスが経由されたのだがその影響なのか、パスでつながっている他の精霊にも不思議な事に、前の世界の記憶が流れこんできたのだった。

 

改変される前の世界の記憶。

 

その処理を巡って、数人の精霊たちは何とも言えない感情を示した。

特に顕著だったのが琴里だ。

 

「うそでょ……私、前の世界でこんな事されてたの……?」

ペドーの過去にしてきたセクハラのフラッシュバックを食らって、大ダメージを受けていた。

今でも時々思い出すのか、突如叫びだしたりと、メンタルでの不安が見え隠れしている。

 

 

 

 

「おっす折紙!学校行くぞ!」

 

「了解。すぐに向かう……きなこジャンキーは?」

 

「きなこでトリップしてる。

だから、先行くぞ」

ペドーの言葉を受けて、折紙が笑顔を作る。

あの後、検査をして3日が立った。

体調も無事回復して、今日から学校へも登校が許された。

二人の折紙の記憶が統合されたの、前よりも幾分態度が柔らかくなり、十香も苗字ではなく半場ニックネーム化しているきなこジャンキーなどと柔らかい呼び方へと変わっていった。

だが――

 

「ペドー、疲れた。何処かのホテルでご休憩していこう。

学校などもう一日休んで、人生にもっと必要な勉強をすべき」

 

「やめようね?やめような!!」

 

「ペドー、ペドー、ペドー」

キスをしたせいか、リミッターが効かなくなり始めた折紙から、ペドーが逃げる様に登校を始めた。

 

「ペドー、本当は楽しかったりする?」

 

「さあ!!どうだろうな!!」

折紙の問いに、ペドーが笑いながら答えた。




ペドーが出会ったのは、行き倒れの女。

「あー、死ぬ……空腹で死ぬ……」

「さて、帰るか」

「帰るの!?うを!養豚場の豚を見る目!!」

その正体は封印された第2の精霊にして――

「ここは戦場だ!!中途半端な、覚悟じゃ死ぬぞ!!」

「はぁ!?戦場な訳無いでしょ?ここはただの同人誌即売所――」

「だから戦場なんだよ!!年に2回!!日本中のオタクがエロ同人を求めて、集まる戦場だ!!
エロスを求めて、エロ同人を奪い合う欲望の坩堝なんだよ!!」

売れっ子エロ同人作家!!

「いいか、俺たちが彼女に勝てるチャンスは限りなくゼロだが――
人の欲望は無限!!さぁ!!エロ同人作るんだよ!!」

ペドー達がエロ同人を制作!?

「錯覚?空想?思い込み?いや違う!断じて違う!!
紙とインク。たったそれだけの材料で彼女は紙面上に最高にムラムラする幼女を生み出すんだよ!!
あああ、もう、もう……崇拝しかない!!ここに神殿を立てよう!!」

挑むのは圧倒的、実力を持つエロ同人作家!!

「やぁ、久しぶりだね?イツカ・ペドー」

「お前は、赤ちゃんプレイ野郎!!ママ系同人を買いに来たのか!!
サークルA34さんの『ばぶみーべいびー』が良さそうだぞ?」

「ふっ、もう買ったさ!3冊な!」

更にウェすちゃまも混ざり、事態は混とんを極めていく……



「……あの、ニ亜先生?この原稿持ってトイレ行って来て良いですか?家まで我慢できないんで……」

「え、少年流石にそれは引く……」

デート・ア・ペドー新章!!
『ニ亜ファナティック』

お楽しみに!
※内容は変わることが有ります。
※五河ディザスターはやりません。非幼女精霊で詰む。非幼女精霊で詰む!!


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二亜ファナティック
ペドの奇妙な冒険~ファントム・ロリータ~


戻って来た!私は戻って来たぞ!!
誰やコイツ?的な視線にも耐えて戻って来た!!戻ってきましたよ。

本当に待ってた人、ごめんなさい!!


太平洋上空にて、一機の飛行機が飛んでいた。

その機体にはDEMのマーク。その中で銃声が響いた。

それとほぼ同時のタイミングで薄いバリアの様な物を飛行機が通過した。

 

「……この感覚は……ステルスの内の一つを抜けましたわね?」

飛行機の内部で、黒い霊装を纏った最悪の精霊『時崎 狂三』が顔を上げる。

その周囲には飛行機の乗組員と思われる男たちが倒れている。

 

この飛行機の向かう先はDEM社の所有する無人島。

本来太平洋の上に出来た小さな島に、ステルスをする為のテリトリーなど存在する訳がない。それだけでその島が『普通』ではないのが推察される。

その時、再び体に掛かる違和感。

 

「2つ目のステルスを通過……どうやら、噂は現実味を帯びてきましたわね」

自らの緊張を緩和する様に唇を舐める狂三。

その目的はDEM社が確保しているという『第2の精霊』との接触である。

以前ペドーと共に、ここではない施設を探しに行ったが結局件の彼女と会う事は出来なかった。

だが、幾重にも重なる重要なセキュリティーに期待が高まっていく。

ステルスの影響か、先ほどよりも外が暗くなった気がする。

どうやら、ステルス機能は外部からの光すら弱めてしまう様だった。

 

「3つ目のステルスを通過。

さぁ、この島には何が――」

狂三が飛行機の窓から外を見た。

そこには――

 

 

 

「なぜだぁ!なぜ私が押される!?

この身には人類最高峰の頭脳がある!!

この体には世界最高峰のリアライザがある!!

そして我が手には、精霊たちの力すらあるというのに!!

頭脳!!科学!!霊力!!すべてが世界最高峰!!

私は、私は人間を超えたんだ!!

私は……私は神に成ったんだぁ!!!」

白い生地に赤いひび割れの様なラインが全身に走ったワイヤリングスーツを着た髪の長い女が空中で叫ぶ。

自身の体と同程度の十字架の様な物を背負い、その十字架を丸い円が囲み、その縁から上下左右に緑のエネルギー体が迸っており、さながら奇跡で形作られた十字架にも見える。

 

「っはぁ!ダッサいの~

神だなんだって言っても超ザコじゃ~ん?」

神を名乗る女を煽る様に、陸にいた幼女が舌を出す。

黄色いツインテールにボロボロのホットパンツにキャミソール。

幼い容姿に不釣り合いなほどの過激に露出した格好をしていた。

 

「ぬぅぅぅ!!この、この人形風情が!!!

私が命を与えられなければ、ただの肉の塊でしかないハズの実験材料が!!

神を侮辱するな!!死ねェ!!」

女の背負うエネルギー体の十字架の内、上部が蛇の様に形を変えて口を開く。

両手に2メートルをゆうに超えるだろう緑のブレードを出現させて急降下してくる!!

 

「うおぉおおおおおおおお!!!その身に罰を受けろぉおおおおおおおお!!!」

 

「罰?罰だって?それを受けるのは、幼女に武器を向けたお前だろ!!」

幼女の後ろからボロボロのペドーが飛び出してくる!!

 

「な、貴様!?」

女がペドーの姿に驚愕する。

 

「いっけぇ少年!!鳩尾が弱点だぁ!!

そこが制御部分であり、同時にもっとも衝撃に弱い部分だ!!」

更に後ろから姿を見せた本を携え緑のシスターの様な恰好をした精霊がエールを送る。

 

「食らいやがれ!!」

 

「この――私ガァ!!」

ペドーの霊力を纏った蹴りが、女の鳩尾の丸い機械を蹴り壊す。

 

「あ、ああ……あああ、ああああ!!」

機械からエネルギーがあふれ、光に包まれる。

 

「パッパ!危ない!!」

爆発の瞬間、黄色い髪の幼女がペドーをかばう。

 

 

 

否名(イナ)ちゃん!?否名ちゃん!!」

爆風に飲まれ、ペドーが声を上げる。

地面にはさっき倒れた精霊。

 

「あっは……クソザコ、神様気取りに……一発かまして……やったわ……へっ……

ザッコ……ほんと、ザッコ……」

否名と呼ばれた幼女が笑う。

 

「イナはさ……所詮作られた、精霊だけど……最後に、自分の意志で……アイツに反抗してやったし……イナは、もう……籠の鳥じゃ……ない……ただの……肉塊じゃ……ない……イナは……虚構(imaginary)精霊(Number)なんかじゃないんだ……」

その時、島を囲うステルス機能が破壊され青い空と太陽が広がる。

 

「あ……そら、始めてみた……青くて……キレイ……」

否名は一滴の涙を残して、光の粒子になって空に消えていった。

 

「否名ちゃん……そっか、やっと解放されたんだね……

この狭い島からやっと……自由に……」

ペドーが涙をこらえる。

その背後から来たシスターの様な精霊は涙をこぼす。

 

 

 

「な~んちゃって~!どうどう?びっくりした?したぁ?

ぷぷっ!泣きそうじゃ~ん!ざっこ!ざっこ~」

否名と呼ばれた精霊が後ろに再度出現する。

 

「な、否名ちゃん!?消滅したんじゃ……」

 

「はぁ~?するワケないじゃ~ん!

パッパ頭よわよわなんだから~」

否名が挑発する様に舌をだす。

 

「この……ッ!イナガキ!!

メスガキ分からせペドーさん棒の出番か!?」

 

 

 

「え?なんですの、これ?」

狂三がきょとんとして、指さす。

なんというか、劇場版的なストーリーの最終決戦の最後だけを見せられた様な気分に狂三がなる。

 

「……あ!時子!奇遇だな!」

こちらに気が付いたペドーが挨拶をする。

 

「いえいえいえいえいえいえ……なんというか、全く理解できませんけど!?

一体なにが起きたんですの?何起きですの!?」

 

「話すと長くなるけど良い?」

 

「じゃ、結構ですわ!」

狂三はめんどくさくなるであろう空気を感じて、断った。

 

「あー疲れた、久しぶりに家に帰るかな……じゃあね!少年!」

ペドーの横で事態を見守っていたシスターの様な精霊が、空を飛び島の外に飛んでいった。

 

「あ、イナも、イナも!ばいびー!パッパ、運が有ればまたねー!」

同時に逆方向に否名も飛んでいく。

 

「全く……達者で生きろよ……世界は広いんだからな……」

ペドーが目を細めて、否名を見送る。

 

「……あれ、多分『第2の精霊』ですわよね……」

一応目的は達成できたのか?と狂三が疑問符を浮かべる。

全てが全て終わった事を何となく狂三は理解した。

 

「……私も帰りますわ」

 

「待って!お金貸して!帰れんから!!ってか、ここ日本?日本だよね?」

ペドーの困惑する表情を見て、狂三が静かにため息をついた。

 

 

 

 

 

「や~っと帰って来たぜこの町へ!

いや~、連絡も出来ずに一週間以上……みんな心配してるよな」

ペドーが久しぶりに感じる家路を急ぐ。

自宅が見えたきたその時――

 

「ミンナ、カイモノノ、オテツダイ、アリガトウ、ペド」

 

「こんなのただの気分転換よ。気分転換」

 

「ペドーさんとのお買い物楽しいです……」

ロボットが精霊たちに囲まれていた。

 

「ペド、キョウノユウハンハ、カレーペ――ド!?」

 

「おらぁ!!」

ペドーが走り、そのロボットを全力で殴り破壊する!

 

「え!?おにーちゃんが二人!?」

琴里が突如現れたもう一人のペドーに驚く。

 

「どう見てもロボでしょ!?なんで間違えるの!?」

ペドーがペドーロボを指さす。

 

「いや、だってペドーだし……突然ロボになる位しそうだし……」

シェリが困ったように視線をずらす。

 

「ペドーさんは、突然ロボに成ったりしません!」

 

『けど、けど~、語尾が「ペド」だったから、ペドー君だと思ったんだよ』

四糸乃が目をそらすが、よしのんが説明する。

 

「ペドーさんは、語尾に『ペド』を付けたりしません!!」

ペドーが必死になって説明する。

 

 

 

 

 

巨大な機械がペドーを飲み込んでいく。

此処は〈ラタトクス〉の所有する設備の一角で、とあるビルの地下にある。

先日の折紙との戦闘で〈フラクシナス〉は大きく傷つき修理が急がれている状況だった。

その為、ここはそれ以外でも対処できるようにと複数用意されている、隠れ家の一つらしい。

 

「いやー、大変だったぜ。冬休み突入と同時に急に拉致されてさー

訳わかんない島に連れてかれて……琴里聞いてる?」

 

「聞いてるわよ!聞いてるから、万が一の為に検査してるんじゃない!」

機械の中から聞こえてくる声に琴里が苛立たし気に返答する。

 

「第一な?あんな偽ロボで騙されるなよ。

さっさと気が付いて探して欲しかったなぁ~」

 

「はい、検査終わり!帰れ!帰れ!」

乱暴に琴里が言い放つと、そのまま帰っていってしまった。

 

「……あーあ、機嫌損ねちゃった……ま、今夜は琴里の好物でも作りますかね」

検査用の服から、普通の服に着替えてペドーが更衣室を出る。

 

「フンふ、ふ~ん……あ!中津川さん!」

ペドーが視界に40代くらいの男を捉える。

 

「おや、ペドー君じゃないですか。

検査は終わりですか?」

中津川が手にコンビニ袋を下げながら話す。

 

「ええ、おかげで……まぁ、念のためと言った意味合いの方が強いんですけど――あ、それって!?」

 

「お、気が付きましたぺドー君?

そうなんですよ、コレ「週姦 マニアックス」の最新号なんですよ。

しかも、ほら!」

中津川がモザイク必死の雑誌の一部を指さす。

 

「「行く先々でなぜか仲良し(意味深)されちゃう娘」が乗ってる!?」

 

「そうなんですよ。学校へ行く途中で不良に絡まれ仲良し(意味深)、最近気になっている先輩に空き教室に呼び出されて仲良し(意味深)家族旅行へ行けば両親とはぐれて地元の優しい少年と仲良し(意味深)」

 

「よっしゃぁ!!俺も買いに行かんと!!」

ペドーは雑誌欲しさに一目散に走り出した。

 

 

 

 

 

「ふぅー……ふぅー……買った、買ってしまったぜ……」

露骨なまでにヤバイ顔をしながらペドーが歩く。

気が付けばクリスマスも終わり正月の準備で商店街は忙しい様を見せていた。

だがペドーには関係ない!

今大切なのは、この手の中にあるロリロリな女の子の痴態をその眼に収める事だけだった!

 

「ロリコンに盆も正月も関係ねーんだよ!!」

 

「う、うう……たすけて……」

 

「ん?」

突如聞こえた助けを求める声にペドーが反応する。

声のした方へ顔を向けると、そこは人気のない路地の入口。

うつ伏せで倒れる女性が、弱弱しく手を伸ばしてきた。

その顔には疲労の色が濃く見て取れた。

 

「さーて、帰るか」

 

「ちょっと!!見捨てるの!?」

再度踵を返したペドーの言葉に倒れる女性が再度顔を上げる。

 

「うわっ!?養豚場の豚を見るような目!!」

明日には出荷されてお肉になるんだな。なんて言うような冷酷な目に女性がたじろぐ。

 

「知らない人についていっちゃダメって言われてるから……」

 

「この前会ったよ!?否名ちゃんと同じ島にいたじゃない!!」

 

「いたっけ?あれ、なら精霊なの?」

 

「……!?」

倒れた女性は露骨に『しまった!』という顔をした。

 

 

 

 

 

「ほら、着いたぞ。帰るからな?」

 

「少年!?なんでそんなに帰りたがるの!?」

数分後、ペドーは仕方なく女性を介抱し、仕方なく女性の家であるマンションまでやってくる。

あのまま倒れられたら、流石のペドーも寝ざめが悪い。

ペドーはロリコンではあるがサイコパスでは無いのだ。

 

「ほら、お礼するから、入って入って」

女性がドアを開けてペドーを招く。

 

「異臭がしそ――」

 

「しません!!絶対……多分しません!!!」

言い直した事に若干の不安をペドーが覚える

 

「ってかさー、少年なんでそんなに厳しいの!?

女の人の部屋だよ?さっきから一応『当てて』いるのよ?

最悪『カギ取るー』とか言って、お尻まさぐられる程度は覚悟――」

 

「さて、帰るか」

 

「少ねーん!!なんでやぁ!!」

女性を置いて再度ペドーが帰ろうとする。

 

「ほら、賞味期限が切れれば高級食材だってゴミだろ?」

 

「爽やかな笑顔で、びっくりするほど外道な事いうね!?

ほら、入って入って!はーい、オープン!」

女性が扉を開き、半場無理やりペドーを引き込む。

引き込んだ先は――

 

「うわぁ……」

部屋中に広がる本、本、本の山。

そして、食べ散らかされたインスタント食品の空き箱の山。

物とゴミにあふれた、所謂『汚部屋』だった。

 

「……夏場なら、異臭間違いなしか」

げんなりしながら、足元の紙に目をやる。

その瞬間――!

 

「はっ?……え?あ?え?」

ペドーが理解できないと言った様子で硬直する。

 

「ん~どうした少年?まさか、私の使用済み下着というお宝を見つけてテンションが――」

 

「これは!?そんな!!」

ペドーが拾うのは一枚の紙、コマ割り、セリフ、ペン入れが終わった漫画の原稿だった。

だが、そのマンガのキャラクターにペドーは見覚えがあった。

おどけない姿で男の欲望を受け止める幼女。

快楽に怯えつつもその快楽を貪ることを覚え始めた雌の顔。

それらが躍るこの作品は――

 

「イクナカ!?」

 

「お、そうそう。『行く先々でなぜか仲良し(意味深)されちゃう娘』は私の作品ですよ~

読者さん?いけ、一応これは18歳以上向けだから少年には――」

 

「本条先生!!」

突然、ペドーが女性の手を握る。

 

「うえ、少年!?急に積極的に……」

 

「先生の大ファンです!!」

ペドーが感動と言わんばかりに、握手をする。

 

「うっわ!うっわ!宝の山か~うわぁ!マジで!?」

ペドーが本棚に進み、そこに並べられた本を手に取る。

 

「ああ~、コレコレ!初めて先生の作品読んだのコレだったなぁ!

ああ!こっちはお気に入りだったんだけど、十香が破った奴だ!

絶版本だし、もう二度と会えないと思ってた……感動の再会だ……

スゲぇ、ここは聖書の集まりか!?もはや崇拝しかない!!ここに神殿を立てよう!!」

ペドーが涙を流し、喜びを全身で表現する。

 

「…………なんか、想定から大分違うけど。

改めて自己紹介しようか?私はニ亜(にあ)

本条 ニ亜。

漫画家にして――()()()()()です」

 

「!?」

この女性が何なのか。

ペドーが身構える。

精霊ならば、向こうから接触してきた目的はなんなのか?

全ての精霊がこちらに友好的とは限らない。

ならば、彼女の目的はなんなのか?

 

「さて、少年私は……お腹が、空いて、死にそうです……おねがい、何か作って……?」

そう言うや否や、ニ亜はベットに倒れ伏した。

 




キャラクター紹介

人造疑似精霊『i』
作中でペドーが『否名』ちゃんと読んでいた少女。
4月にASTの一人がペドーを誤射した際に回収された細胞を、DEM社の天才と呼ばれた女性が圧力をかけて入手。
ペドーの持つ『精霊の霊力を封印する』という性質に目を付け細胞を培養。
遺伝子的に改造を繰り返し、当時捕まっていたニ亜の霊力をモデルにした人造霊力を注ぎ込むことで完成した一種の人工生命体。

太平洋の島でDEM社本社にも秘密で研究がおこなわれていた。
制作者はリアライザの科学力と精霊の力を取り込み、自身を人間を超えた存在=神へと変わろうとしていた。
『i』はその研究の過程で生まれた副産物。
名前すら与えられずに『机上の空論の精霊』という意味を込めて虚数(imaginary Number)と呼ばれていた。
拉致されたペドーに名を聞かれた時咄嗟にそう名乗ったが、聞き間違いによって「イナ」と呼ばれる事になる。
そして、島の『外』にあこがれペドーと一緒に脱出する事を決意する。
自身の創造者に逆らい、自由を手にする。
だが、人造霊力によって生命維持をしている彼女にとって、創造者に逆らう事は死を意味する。
最後は体の霊力を全て消費して消滅した。

かに見えたが、ペドーによって封印された事によりパスがつながり、ペドーを通じて霊力が送られることで生き延びる。
彼女は世界を見るべく旅だった。

名前の無い記号の「i」を捨て、精霊「否名」として。
ペドーの細胞を培養したという意味では娘ともいえるかもしれない。
そして実年齢は余裕の一桁。
両人はそのことを全く知らないが、否名がペドーを『パッパ』と呼ぶのは見えない絆がそうさせるのかもしれない。

作者がメスガキが書きたいんだよぉ!
となり、作った。
彼女とペドーの脱出の話は多分書かない。


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ニ亜ノート

さてさて、今回も投稿です。
タイムも少しは縮んだかな?
後はクオリティ……


一人のロリコンがキッチンを進んでいく。

やや埃の積もったシンクを通り過ぎ、目指すは冷蔵庫の中。

 

「さて、今日は冷蔵庫の中にあるあまりもの食材で出来る、簡単ロリコン料理で逮捕していくわね……」

 

がちゃ――

 

「あら、やだぁ!やだ、冷蔵庫の中――マジで、何も無いな!!」

ペドーが演技っぽいしゃべり方をやめて、何時もの調子に戻る。

冷蔵庫の中にあるのは、ビールの缶、ビールの缶、そしてアルコール依存症御用達と一部界隈で有名な「エクストリーム・ゼロ」。ちなみにアルコール度数9%なり。

 

ガラッ!

 

一縷の望みをかけて、開いた野菜室には焼酎たち。

 

「…………」

 

「しょうねーん、まだー?簡単な物でいいから早くー」

絶句していた所に、リビングからニ亜の呼ぶ声が聞こえる。

そしてペドーは……

 

 

 

「本条先生、お待たせしました。どうぞ、たくさん食べてくださいね」

 

「わーい、少年ありが――なぁにこれぇ?」

 

「シェフの気まぐれ、ソルト・スープでございます」

ニ亜の前に出されるのは、ホカホカと湯気を立てるお湯!

 

「簡単な物で良いって言ったけど、簡単すぎない!?

お湯わかしただけだよね!?」

 

「塩も入ってますよ?」

笑みを崩さすペドーが言い返す。

 

「塩だけに、塩対応ってか?

上手い事言った積りか、しょうねーん!!!」

 

「ドリンクの、ソイジュースです」

 

「あ、無視した!?完全に無視した!!

これに至ってはただの醤油やないかーい!!」

弱ってるとは、一体何なのかと言わんばかりのニ亜の叫びが、マンションに響いた。

 

「あ、ああ……もうまじむり……死ぬ……」

 

「ミッションはコンプリートしたし、帰るか」

ペドーが踵を返そうとした時――

 

「このままじゃ、今年の本が間に合わない……」

 

「な……んだ、と?」

 

「せっかく、久しぶりに本を出そうとしたけど、お腹が空いて力が出ないんじゃ仕方ない……」

ニ亜が後悔たっぷりと言った様子でわざとらしく、口を開く。

ピクリとペドー体を震わせる。

 

「本条先生の新刊……数年単位で、供給が止まっていたのに、新刊が?」

 

「あー『行く先々でなぜか【仲良し】されちゃう娘』の新刊も書く予定があったのに……これは延期するしかない……か……」

 

「仕方ないな。ここは俺が料理の腕を見せる時だな!

お腹を空かせた人を放ってはおけないぜ!」

某食品ヒーローみたいな事を言いながら、ペドーが入口に置いていた買い物袋を取りに行く。

 

(彼は、ビックリするほど欲望に素直なのね……)

ニ亜は予想以上の食いつきに若干引きながらペドーの背中を見送った。

 

数分後……

 

「げっぷぅ、うまかったぁ……生き返ったぁ!」

土鍋を空にしたニ亜が、背伸びをする。

しおれていた雰囲気がなんというか、ハリを取り戻した様だ。

 

「いやぁ、先生が元気になって良かったですよ。

原稿頑張ってくださいね」

最後の部分にペドーが強めのイントネーションをくわえる。

 

「あー、それなんだけどさぁ。

割とマジで原稿ヤバイ。少年、お手伝いプリーズ」

 

「え”!?」

まさかの要望に流石のペドーが動揺する。

 

 

 

「先生!ゴムかけ全部終了しました。

7ページから10ページまでの、ベタ始めます!」

 

「了解少年、インクはそこの棚の使ってよ」

丁寧に下書きが消された原稿をペドーが渡す。

ニ亜が確認を終わらせた時には、背景を黒く塗る仕事にペドーが取り掛かっていた。

 

「いや、少年すごいね。

これは、手先が器用とか気が利くタイプじゃなくて――()()()()()()タイプだね?」

 

「さ、さて、何の事やら……」

ニ亜の言葉を軽く流しながら、ペドーが新しいページの作業へ移る。

 

「しょうねーん。普通の人間は『ゴムかけ』とか『ベタ』とか言わないんだよ?

これは中学の時にハマって、少し調べた系でしょ?

いや、多分数枚は書いた事ある動きかな?やるな少年!」

 

「あー、忙しいいんで後にしてもらえます?」

細ペンを手に、ペドーが細かな部分のベタを始める。

その様子を見て、ニ亜はその部屋を後にした。

 

 

 

「ふぅ……先生。ベタ全部終わりまし――た!?」

 

「おお、少年やるじゃない。上手い上手い」

原稿を渡した時、ニ亜の恰好を見てペドーが固まった。

 

「お、おぉ?少年、早速気が付いたね?」

ニ亜はいつの間にか部屋着から妙に露出の高いメイド服へと変化していた。

短すぎるスカートに肩や胸を容赦なく露出させ、挙句の果てにへそ出しという、メイド服というよりも『メイド風』の男を悦ばせる為の恰好と言っても過言ではない服装になっていた。

 

「どーよ、これぇ?資料様に買ってあったのを着てましたぁ!

ムラムラする?おっきしちゃう?ベタ用のインクでおへその下に淫紋書いたり、内股のトコに「肉●器」とか「●ませ済み」とか書いちゃう?それとも、もっと過激に――」

 

「すいません、今痴女に襲われて――」

ペドーが素早く、携帯でおまわりさんに助けを求める。

 

「しょうねーん!!何通報してるの!!

ジョーク!イッツ、ジョーク!サービスの積もりだったの!!」

ニ亜がペドーから携帯を取り上げる。

 

「いや、どう見ても男を呼びつける痴女だし……」

 

「あの、これはイタズラ心というか……

えっと、ほら、はい、コレお給料ね?」

誤魔化すようにニ亜が給料袋を渡してくる。

 

「いただきます」

 

「おー、給料もらうのに躊躇ないね。

自身の仕事がお金をもらうに値するっていう自信かな?」

 

「給料というより、迷惑料の積もりですね。

さっきの行為を含めると、口止め料も込みの」

封筒の中身を数えながらペドーが答えた。

 

「ふざけただけじゃん、しょーねんー」

 

「んじゃ、帰りますんで。原稿頑張ってくださーい」

今度こそペドーが帰ろうと、踵を返した。

 

「待った待った!

本当に帰る積り?キミのやるべき事はここからじゃない?

五河 ペドー君?」

 

「あれ、俺の名前――」

名乗った記憶など無いと言おうとした瞬間ニ亜の姿が変わった。

メイド服から、シスターを思わせる十字のデザインされた服装へと。

その姿は――

 

「精霊?」

 

「ちょっとー、本気で忘れてるの?

否名ちゃんと一緒に島で遭ったじゃない」

その言葉で、ペドーは漸く目の前のニ亜が精霊であるという事実にイコールで結びついた。

 

「ああ、あの時の!」

ペドーがポンと、手を叩く。

 

「うわぁ……マジで幼女以外記憶から削除するタイプかぁ……」

明るいペドーの顔とは対照的にニ亜が困ったような顔をする。

そして虚空に手を伸ばし口を開いた。

 

「〈囁告篇帙(ラジエル)〉」

ニ亜の手に現れたのは一冊の本。

不思議な素材で包まれた、十字のデザインがなされた古書だった。

 

「ッ!?天使か!」

 

「いや、前も見せたし……けど、あー、能力は見せて無いか。

いいよ。見せてあげる全知の天使〈囁告篇帙(ラジエル)〉の能力を」

 

「全知……だって?」

 

「そうだよ。この〈囁告篇帙(ラジエル)〉は全てを見通す天使。

この世界ありとあらゆる事象が、この中に現れるって訳。

当然、君があの時あの場所を通るなんて事も簡単にわかっちゃうんだなぁ~。

本当に偶然だと思った?偶然倒れている相手が、偶然に精霊だったなんて?」

にやにやしながらニ亜が〈囁告篇帙(ラジエル)〉の表面を撫でる。

 

「まぁ、割とありますね。そういう偶然」

ペドーの脳裏には、偶然自分の通っている学校に現れた十香や、偶然帰り道で出会った四糸乃、偶然修学旅行先で出会ったシェリなどの事を思い浮かべた。

後、他に何人か偶然出会った精霊が居た気がするけど忘れた。

 

「……キミほんと、予想通りのリアクションしてくれないね?

ほんのちょっとだけ、また会えるの期待してあんだけどなぁ」

がっくりとニ亜がうなだれた。

 

「また会える?」

 

「んー、一応お礼……のつもり……

私この前DEM社の保有する島に捕まってたじゃん?」

名もなき島で起こった救出劇。

否名と一緒に成り行きで、仕方なく助けた精霊が居たなーと、ペドーが思い出す。

 

「お礼というより迷惑しかかけてないな……

それより天使の能力持て余してない?」

 

「うぐっ……確かに〈囁告篇帙(ラジエル)〉は全知の天使。

なんでも教えてくれるけど、調べないと何も出来ない……」

 

「ふぅーん、要するに便利な検索エンジンみたいなもんか」

身近にある道具でペドーが〈囁告篇帙(ラジエル)〉を例える。

 

「そういうと、ショボく思えるからやめて!

けど、それだけが〈囁告篇帙(ラジエル)〉じゃないんだからね!」

ニ亜が頭の装飾を引き抜く。

それは先がペンの様になっており〈囁告篇帙(ラジエル)〉に何かを書き始めた。

 

「???」

 

「〈囁告篇帙(ラジエル)〉にはこの世の真実だけが書かれている……

つまり、逆説的にこの本に書かれた事は真実となるのよ!」

 

「な、ナンダッテー」

この世の理を乱す力をニ亜は持っていた。

この力を使えば、ニ亜は世界の全てを変えられるのだ!

だが……

 

カリカリ……

 

「まだ?」

 

「もう、ちょい……」

 

カリカリカリカリ……

 

「長くない?」

 

「後ちょいだから!」

 

カリカリカリカリカリカリカリカリカリ……

 

「あ!!絶版になった上回収された『がいやぁめもりぃず』がある!読も読も……」

 

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……

 

「先生ー、コレの2巻どこに――」

 

「出来たアァ!!」

資料用の本を読んでいたペドーに、ニ亜が〈囁告篇帙(ラジエル)〉を掲げる。

次の瞬間、ペドーの体に異変が起こった。

 

「ぬ!?からだが、勝手に!?」

何か強い力が働きペドーの体を動かす!

手足が勝手に動いて、ダンスを始めてしまう!

 

「うぐっ!?日曜朝の特撮のエンディングダンスを踊ってしまう!?」

 

「そう、これが未来記載。未来をあらかじめ書き加える事が出来るの」

 

「くそう……ぺドーンダンスを一曲踊っちまった……

けど、すごい能力だ……直接的な事は不可能だけど、使い方によっては最強の天使か……」

ペドーが額の汗をぬぐう。

 

「うんうん、ようやくこの〈囁告篇帙(ラジエル)〉の恐ろしさが分かった?

けどさ、このせいで狙われてるのも嘘じゃないんだよね……」

ニ亜は実際、ついこの間までDEM社の保有する島に監禁されていた。

天使を持つことは大きなメリットもあれば、それと同じ位DEM社に狙われるというデメリットも抱える事に成るのだ。

 

「て、事でさ?少年にもう一個だけお願い!」

 

「封印……ってことですか?」

 

囁告篇帙(ラジエル)〉の能力でペドーのバックなど既に調べがついているだろう。

そして、このタイミングでの自分に対する『お願い』と言えばある程度の予想は出来る。

 

「その通りだよ少年。場所はアキバで時は、なるはやで!

いやー、監禁生活長かったから2次元求めててさー

新刊、続巻、最終巻全部見なきゃ収まんないのよ!

それに、年末にはコミフェの新刊出さなきゃだしー」

 

「コミフェ新刊出るんですか!?」

ペドーが即座に反応する。

 

「おうよ!偶然急病で空いたトコが有ったから滑り込みさせてもらいましたー!」

 

「うぉおおおお!!!!本条先生の新刊きたぁああああああああああ!!!!!」

ペドーが肘をついて、全力で喜びをアピールする。

 

「おーおー、少年大喜びだねぇ?

けど、本命はデートなんじゃないの?」

 

「あ、いえ。新刊の方が大事なんで」

きっぱり言うペドーの言葉に、ニ亜は内心不安を覚えた。

 

 

 

 

 

「そんな事より……〈囁告篇帙(ラジエル)〉すげーっす!少し貸してもらっていいですか?」

 

「お、おう、少年。いきなりキラキラした目をしてどうした?

貸して欲しいってなら、すこしだけだぞ?」

少年の様なキラキラした目でペドーがニ亜から〈囁告篇帙(ラジエル)〉を受け取る。

 

「漫画は時間が掛かるから文字にしてみるか」

サラサラとペドーが書き込んでいく。

 

 

 

 

 

「あのロリコン一体どうしたのかしら?帰りが遅いわね」

家の居間で琴里が何気なしにつぶやく。

同じ部屋には遊びに来た四糸乃と七罪、部屋の端ではシェリがゲームに勤しんでいる。

 

「まったく、仕方ないわね」

琴里はそう言って部屋を出た。

そして数分後――

 

「あー、誰でも良いから私のカメラで、動画を撮影してくれない?」

 

「え!?」「あ!!」「ん!?」

戻って来た琴里の姿を見て全員が絶句した。

琴里は真冬で、部屋の中だというのにスク水の姿になっていた。

 

「お前アタマおかしーのか!?」

シェリが琴里を指さす。

他のみんなは声すら出ない様だ。

 

「はぁ?別にペドーに動画を送るだけよ。

こんなの普通、普通」

シェリに自身の携帯を持たせそして――

 

 

 

「お、来た来た!

おー、すげー!ひゃほほほぉい!!」

ペドーが送られてきた動画を見て大興奮する!!

 

「あ、コレ不味い奴だ……」

即座に事態を察したニ亜が〈囁告篇帙(ラジエル)〉を消す。

 

「ふっ、計画通り」

 

「少年が凄く悪い顔してる!!」




あんまり、話すすまねーなぁ……
ペドーさんが脱線させまくるからなぁ。


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絶体絶命!でんじゃらすにあ

さて、今回も投稿です。
コロナが未だに流行っていて、嫌な時期ですね。
そんな時こそ、くだらない作品で笑ってくれたらうれしいです。


「ふふふぅ~ん、ふふんふぅー」

ペドーの鼻歌と包丁がリズミカルに食材を刻む音が、リビングに流れる。

ソファーの上では琴里がチュッパタップスを口に咥え、シェリたちがTVゲームに勤しんでいる。

 

「あ、そうだ琴里。今日新しい精霊に会ったぞ」

 

「へぇ……へぇ?精霊!?なん――むぐぅあ!?ぐぅえ!!かはっ、かはぁ!」

一瞬スルーしかけた琴里が、内容を把握して飛び起きる。

その先、チュッパタップスが変な所に入ったのか、胸を押えてえづいた。

 

「けっほ……あー、あー……なんで、そんな大事なコトあっさり言う訳?」

何とか飴を吐き出し、死の淵から生還した琴里がペドーをにらむ。

涙目になってて可愛い。

 

「ごめ、忘れてた。ゆるしてちょんまげ」

 

「…………」

一瞬なにか琴里が言いかけたが、無駄だと思ったのか結局は黙った。

 

「で?現段階で分かってる事は?相手の名前くらい知ってるんでしょうね?」

琴里の言葉に、ペドーが今日在った事を説明し始めた。

 

 

 

「全知の精霊〈囁告篇帙(ラジエル)〉ね……またずいぶん厄介な〈天使〉が現れたモノね……

どんな機密も筒抜け、事実上この世のセキュリティすべてが無意味になる。

この世界で情報がどれくらい危ないか……」

琴里が直接的な力は無いが、今まで天使でも特に厄介だとつぶやいた。

 

「はっ!?俺のお宝ファイルが危ない!」

 

「いや、もっと恐れるべき事態があるでしょ……」

最早分かり切っていたという顔で、琴里が突っ込む。

 

「あ!しかもそれだけじゃないぞ!!書いた事を逆説的に未来に確定できるらしいんだよ。

ほら、因果の逆転って言うのか?

ぶっちゃけると、何でも出来るデスノート的なヤツ!」

 

「なるほど、そんな使い方も……」

その時!琴里の脳裏に電撃が走る!!

今まで、点と点であった物が、一つの線として繋がる衝撃!!

 

「『アレ』お前か!!」

琴里が何かに気が付き、語気を荒げた。

 

「え、あ、ヤベ!……な、なんのことかな!?」

 

「今更誤魔化すな!!自身の胸に手を当てて聞いてみろ!!」

琴里がペドーが帰ってくる前に行ってしまった、恥ずかしい行為を思い出し顔を真っ赤にする。

しどろもどろになってペドーが誤魔化すが、もう遅い!

 

「くだらない事するなら、ファントムの事とか調べればいいでしょ!!」

怒りにまかせて琴里がその辺の物を投げてくる。

 

「へ?ファントムってなんだっけ!?」

ひょいひょいと琴里が投げる投擲物を回避しながらペドーが尋ねる。

 

「完全に忘れてる!?」

 

「とりあえず、来週はデートに行ってくるわ!!

天使の能力さえ手に出来れば、みんなの3サイズが日々成長していく様が、手に取る様に分かる様になる――何をする!?」

ペドーの言葉に、今までじっと聞いていた七罪や四糸乃が飛び出しペドーの手足を押さえつける!

 

「な、なぜだ!?なで動かんP・ド!!」

 

「廃棄した幼女画像と同じ所へ行け!!」

シェリの言葉に琴里がうなづき、ペドーの顔面にスイカの形の置物を叩き込んだ!!

 

 

 

2日後、ペドーは天下御免のアニメの聖地、秋葉原通称アキバに来ていた。

人がごった返し、人口密度がヤバイ事に成っている。

さらに、その中の人物も。

 

「でゅふふふ、拙者、女の子以上に可愛い寧ろもう女のでは?系男の娘大好き侍に候」

 

「これはこれは丁寧に、拙者、付き合うか付き合わないか位の幼馴染がチャラ男の彼女にされているの大好き侍に候」

 

「貴様!?NTR流派の者か!?」

 

「貴様こそ!BL流派か!!」

 

「ええい!!男の娘はBLではないとあれほど!!」

少し視界をずらせば、己の性癖を語る侍たちがあふれていた。

 

「この町、濃いな~」

ペドーも幼女大好き侍として参戦したかったが、この後の攻略の事を考えやめておくことにした。

 

『ペドー君、目標きました!』

 

「了解です」

インカムから聞こえた箕輪の声に、瞬時にペドーが頭を切り替える。

そう、この攻略さえうまく行けば、この世界のありとあらゆる幼女の秘密が自身の手の内になるのだ。

こんなチャンス逃がす訳にはいかないとペドーが、拳に力を入れる。

 

 

 

「……すっごい、気持ち悪い顔してるわね」

フラクシナスが仕えない為、とある施設の地下からモニターしている琴里が顔をゆがめる。

 

「まぁ、ペドーさんが考えそうなことと言えば……」

それに同調した数人のメンバーが、仕方ないとため息を漏らす。

 

 

 

「あれ?本条先生居なくないか?」

駅の改札口で、電車から降りてくる無数の人間達に視線を投げかけるが、約束の相手を見つけるのに非常に苦労する。

 

「やっほー、少年!」

 

「あ、本条先生!」

真横から声を掛けられて、ペドーが反応する。

どうやら、うまい具合に視界から外れてしまった様だった。

 

「おっと、少年。ここでその名前を出すのはNGだよ?

呼ぶなら名前の二亜でお願い、他の精霊もそうでしょ?」

 

「え、あ、すいません……」

そうだ、ここはオタクの町。何処に本条先生の熱狂的なファンが居てもおかしくない。

しかも長らく作品を書いていない人気の作家だ。

その中で同人誌作家の名前など出そうものなら、デート所で無くなる可能性も十分ある。

 

それにしても……

ちらりとペドーが二亜の服装を見る。

よれたデニムに、くたびれたジャケット、口を覆うほどのマフラー。

そして何より目を引くのは海外旅行にでも行くのかと、聞きたくなるほどの巨大なキャリーケースだった。

この恰好は色気と言う物を完全に取っ払い、何かを運ぶという事に特化した格好だった。

 

「あ、しょうねーん。今『コイツ色気ないな……』とか思ったでしょ?

だいじょーぶ、ちゃんと下着は勝負仕様になって――」

 

「へぇ、そう」

 

「あー、興味なさげ!!」

冷たいペドーのリアションに、二亜が大げさにリアクションする。

その時、ペドーの耳にピコんと軽快な音が聞こえた。

どうやらフラクシナスの中で、選択肢が表示された様だ。

 

 

 

ペドーの予想通り、フラクシナスのメインモニターにはいくつかの選択肢が表示されていた。

 

①『その服かわいいな。似合ってるよ』

②『ダサい服着てるな。俺がもっと良いの選んであげるよ』

③『へぇ、脱がし甲斐のある服着てるじゃないか』

④『悪意に満ちた人間は滅亡するべし』

 

「総員、選択!」

琴里の掛け声に合わせて、皆がそれぞれの選択肢に投票を始める。

カタカタと、キーを叩く音はペドーのインカムにも伝わって来ていた。

 

 

 

「『へぇ、脱がし甲斐のある服着ているじゃないか』」

 

「は?」

 

「うん?少年は次にそう言うのさ」

突如、二亜がつぶやいた言葉が理解出来ずに、ペドーが一瞬困惑した。

だが次の瞬間――

 

『ペドー、集計が出たわ③番の――』

 

「へぇ、脱がし甲斐のある服着てるじゃないか、か?」

 

『!?』

ペドーの言葉に、琴里が衝撃を受けるのがインカム越しでも分かった。

 

「やっほー、琴里ちゃん見てるー?

血の繋がらない兄妹って、超ギャルゲ設定だよねー!」

二亜が虚空に向けてピースサインをした。

 

『なるほど、コレが全知の〈天使〉の力ね』

インカムから琴里の苦々しい声が聞こえてくる。

そうだ、考えてみれば二亜相手に隠し事は不可能だ。

二亜はこちらが、何をしようとしているかなど既に知っているのだ。

無論、調べさえすれば、初めての選択肢がいつどこで出るのかという事や、その選択肢の答えが何になるかなども当然の様に分かるのだ。

 

「んじゃー、妹ちゃんや他のみんなも今日はよろくねー」

二亜がカメラのある方に手を振って見せた。

 

「さー、懐かしのアキバへいざ!いえーい!」

一人テンション高く歩いていく。

 

 

 

 

 

「おーおー、しばらく来てないと結構変わってるんだねー。

日曜朝のメンツなんて、全員変わってるし……」

二亜がアキバを歩きながら、感慨深げに話す。

 

「〈囁告篇帙(ラジエル)〉使えば、来期の追加戦士の設定ですら分かるんじゃないんですかね?」

 

「ん~分かるちゃ分かるよ?けどソレ、ガチモンのネタバレじゃん?

私、フラゲ情報とかも見ない系でさ~

敢えて、どうしても必要な事以外〈天使〉は使わない様にしてるんだよね」

ネタバレは好まない。ペドーは何処となく分かる気がして、小さくうなづいた。

 

「おっと、まず本屋の前にここ寄りますか」

 

「ここは?」

二亜が指さすのは、なんだか派手な服ばかり置いている服屋。

服という服が、明らかに現実離れしている。

 

「コスプレショップ、来たこと無い?ほら、コスプレものAVとか――」

 

「BBAがスク水着て、ツインテしてれば幼く見えると思ってるレーベルは滅亡して欲しい!!むしろ俺がさせたくなるわ!!」

 

「うわ、地雷踏んだ」

突如ペドーの押てはいけないボタンを踏み抜いた二亜が、その気迫に押される。

 

「と、とにかく、行こうよー、ね?楽しいから?」

笑顔で誤魔化し二亜がペドーを見せの中に連れ込む。

 

 

 

「お、おおぅ……」

店内に並ぶのは、様々な派手な衣装たち。

ナースにメイドに、巫女に何か良く分からない服。

コスプレしている人を見た事はあるが、実際に売っている店に来たのは初めてだった。

オタク向けの店が放つ特有の雰囲気に気おされ、まるで初めてアネメイトに来た中学生男子の様な気分に成ってしまう。

 

「少年!少年!」

あっけにとられているウチに、二亜が3着の服を持って走ってくる。

 

「いきなりですが少年にラッキーチャーンス!パフパフ~

なんと少年はこの3つのコスプレ衣装のなかから、私がするコスプレを自由に決められちゃいます!

①ナース服

②なんか久しぶりに出てきたら雰囲気が一気に変わったロボット服(約42万)

③『ワルキューレ・ミスティ』のミッドナイトファイナルフォーム

さて、どれどれ!」

二亜が目をキラキラさせながらペドーに尋ねる。

 

「俺は、今の恰好が一番好きですよ」

ペドーは瞬時に、何かを選択した後の→実際に着てみる→着た姿を見せられる→感想を言わされるの流れを予測した!

 

「興味ないだけでしょ!?

もういいもーん!そんな少年に選択肢なんて上げません!

勝手に着ちゃうもんね!」

そう言って二亜は全部の服を持って試着室に入っていった。

 

(絶対アレ着たかっただけだよな……)

明らかに押していた③を持って部屋に入っていく二亜を見て、ペドーは密かに思った。

だが、二亜が試着室で手を伸ばした服はナース服だった。

正直な話、二亜はせっかくだから全て着てやろうと思っていたのだ。

 

「あ!少年見て見て!脱ぎ掛けのナース服超エロい!

なんか、凄まじい劣情を催す恰好!!ほらコレ!!」

イタズラ心の導くまま、二亜がカーテンを開ける。

服のボタンは全て取れ下着がモロに見え、半分脱げたストッキングは一部のフェチズムを持つ人間を容赦なく誘惑するだろう。

だが――

 

「あれ、少年は!?」

カーテンの向うに、ペドーの姿は無かった。

その代わりに……

 

「あの、お客様。うちは試着は自由ですが、そのような恰好で出歩かれますと……」

 

「あ、す、すいません……で、出禁は勘弁してください……」

現れた店員にニ亜が釘を刺される。

久しぶりの店で興奮しすぎた様だ。

 

因みに、その頃ペドーは……

 

『カオスライザー……』

怪しい万力の様なパーツが付いたベルトを巻いていた。

手に持っているのは、四角いプラスチックの道具。

それをベルトに押し込んだ。

 

「変身……」

その掛け声と共に、ベルトのレバーを引くと万力が開いた。

 

『ロリコニックライズ……ブレイクダウン……』

 

「やべー、買おっかなコレ?」

こっそり楽しんでいた。

 

 

 

「もー大変だったんだから!あやうく出禁よ?最悪痴女で警察沙汰よ?」

コスプレショップの前で、二亜がいかにあの後大変だったか語る。

 

「いや、10割悪いのそっちじゃないですか……」

今回は珍しく何もしていないペドーが、ニ亜に応える。

なんというか、これほど疲れるデートは今まで無かった気がする。

 

「はぁ、ま、いいや。次、次はメインの目的の本屋行こうか。

少年行きつけの本屋とかある?」

 

「行きつけって言うよりも、今回は何を買いたいかですよね?」

ペドーの言葉に二亜が眼鏡の弦を触る。

 

「へぇ、やっぱり分かる系なんだね」

騒がしい雰囲気から一転、二亜が静かに語りだす。

 

「先生が欲しいのが新刊なら、やはり大型書店がよろしいかと。

しかし、もし同人誌が欲しいなら『ロリのアナ』『メロンエナジーブックス』などの店に、一店舗しかおろさない作家さんも居るので、おそらくその2店舗は確実に回りますよね?」

ペドーが携帯のマップを確認しながら、周辺の本屋を探す。

 

「いいね。少年。基本を押さえてる。なら、最早いう事はあるまい……

私が知ってるアキバの店を全部紹介してやろう!

付いて来るがいい!共に行こう!!」

 

「ハイ、先生!」

ペドーが返事をしてついていく。

その様はまるで何かの師弟の様にも見えた。

 

 

 

「……ナニコレ……」

なんだか濃すぎるデートの内容に、モニターを見ていた琴里がげんなりした。




ペドーさんは幼女好き好き侍です!


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進撃の業人

まさかまさかの、3ヵ月遅れ。
皆さま大変お待たせしました。
待っていてくれた方々には、深くお詫びと感謝を述べさせていただきます。


「さぁ選べ!選ぶんだ少年!」

 

「ふ、ふぐぐぐ……!」

とある店の中、二亜が派手派手なパッケージの並ぶコーナーでで、ペドーにとあるものを選ばせる。

ペドーもペドーで、真剣に棚の商品に目を凝らす。

唸っては手を伸ばし、パッケージの裏に目を通し棚に戻す。

その作業をなんども、なんども繰り返す。

彼の姿は何かの熟練の職人の様にさえ思える真剣な眼差し。

そして、その瞳はとあるパッケージを見つけ強く見開いた!

 

 

 

 

 

コスプレショップを堪能した二人が次に向かったのは本屋だった。

監禁されていた二亜はその時間を取り戻す様に、新刊の発売の本を買いあさった。

 

「先生!コレ、半年くらい前からスゴイ人気なんですよ!

もうね、イキりキッズがうるさいのなんのって!」

 

「あー、コレ、聞いたー鬼殺すヤツでしょ?炭太郎!」

ワイワイガヤガヤと書店を巡りマンガをとりあえず片っ端から買い込み……

 

「ふぅぁおおおおおお!!!クオリティたけーぇえええ!!」

 

「キャストオフ機能もありますよ、先生ぇええええええ!!」

かと思えば、フィギアの新作を舐める様に見つめ、買っていく。

二亜の空っぽのキャリーバッグはすぐさま、いっぱいになった。

 

 

 

「ふぅ……買った、買った……ああ、魂が潤う……」

心なしか顔がテカテカしている二亜が、満足気に通りを歩く。

 

「いやー、たくさん買いましたね。

目新しい作品はこれ位ですかね?」

ペドーがスマフォでここ一年の人気タイトルを見ながら、横をついていく。

 

「うんうん、久しぶりに楽しい買い物だったよ少年。

よぉし!んじゃ、お礼もかねて一本おごっちゃおう!」

上機嫌となった二亜が指をピンと一本立てる。

 

「一本?おごる?」

ゆっくりと笑みを作り、二亜が背後のパソコンショップを親指で示した。

 

 

 

 

 

「少年の好みはど~れだ!」

二亜に連れられやって来たのは秘密の場所。

18と書かれた暖簾をくぐるとそこはびっくりするほどユートピア!!

その名もパソコンショップのエロゲの棚。

カラフルな髪色をしたキャラクターたちが、様々な箱の中で踊っている。

 

「基本はロリ系なら何でもOKですね」

 

「お、凌辱系の行っちゃう感じ?少年、鬼ッ畜ぅー!」

 

「あ、いえ。何でもって言っても可愛そうなのはNGで……

あー、けどメスガキ分からせ系はむしろ大好物っていうか……」

今までのどのデートより真剣な眼差しで、ペドーがエロゲを探す。

読者の諸はお忘れかもしれないが、このデートの様子は多数の人間に見られており、更に言うと自身の妹にも見られている!

だがペドーも二亜も一切気にしない!!

 

「せっかく奢ってもらうんだし、妥協はしたくない……ならば――」

 

「うんうん、少年真剣だねー。

それでこそ、奢りがいがあるってもんだよ」

二亜が真剣な眼差しのペドーを見ながら、うんうんと何度もうなづく。

その時、二亜の肩が叩かれた。

 

「ん?」

 

「あの、お客様……ここは18歳以下の方は立ち入り禁止でとなっておりまして……

お連れ様の年齢確認をさせてよろしいでしょうか?」

にっこりと店員が年齢確認を求めてくる。

 

      強

ジ   終   了

エ     制

ド 

・ユートピア!

 

二亜の中に、おかしなカットインが流れた気がした。

 

(あ、私終わった?)

 

 

 

 

 

「すまねぇ!少年マジすまねぇ!」

道路の真ん中、二亜が土下座をペドーに慣行する。

 

「そんな、先生顔を上げてくださいよ……!」

 

「今日日まさか、高校生がエロゲをやっちゃいけないルールを律儀に守ってる店があるなんて……」

※個人の感想です。

 

「いえ、気にしないで下さいよ。

あの店がおかしいんです。中学生がエロサイトで18歳以上のでYESをクリックしちゃうのが当たり前の世界であの店は前時代すぎるんですよ!!」

※個人の感想です。

 

「うっ、うう……少年の優しい言葉が心にしみるぜ……

エロゲは奢れなかったが、ランチくらいは奢らせてくれ!

私の顔を立てると思ってさ、ね?ね?」

 

「あ、じゃあ、お願いします」

二亜の提案した落としどころにペドーが賛同をした。

 

 

 

 

 

「はい、少年ドンドン食べてね!いや~すまなかった。

今回はさ、気の済むまで食ってって!」

ペドーの前に大量のファストフードが置かれる。

 

「いえいえ……いただきます」

二亜のあまりに謝りすぎる姿に、若干の居心地の悪さを感じながらペドーが手を合わせる。

 

「ちゃんといただきます出来るのか……良く躾けられてるなぁ……

少年は調教済か……」

 

「なんで食事中にそういう事、言っちゃうんですかね?」

 

「あ、ごめーん。ついつい話を脱線させる癖があって……

私、上のお口は早ろ……」

 

「ストップストップ!出禁食らいますよ!?」

 

「え、あ、そうだ……」

若干遠い目をしながら二亜がポテトを口に含む。

どちらからともなく笑みがこぼれた。

 

 

 

「会話の内容はアレな部分も多いけど、今までのどのデートよりも順調ね」

琴里が画面に浮かぶ二亜を見ながらチュッパタップスの棒を指ではじく。

精霊が過度に警戒する事も、ペドーが相手に暴走する事も、露骨に興味を示さないなどの状態も無い、琴里の言う通り非常に順調に行っている……()()()()()

 

「し、司令!好感度メーターをご覧ください!!これは……」

 

「ダメです!好感度は確かに上がっていますが、いくら頑張っても友達レベル!

このレベルでは封印は不可能です!」

 

「なんですって!?」

琴里が慌てて好感度メーターを確認するも、決して高い数値とは言えなかった。

いや、決して低くは無いが所詮友人に向ける物と言ってレベルを出ていなかった。

 

『そういや、私って二次元にしか恋出来ないタイプなのよね~』

突如二亜がカメラに向かってそう言い放った。

その行動は何処にカメラがあるのか、そしてフラクシナスがどのような事態に直面しているかを見透かした行動だった。

 

 

 

「えっと、先生?」

突然の告白にペドーが困惑する。

 

「ん?ああ、実はなんとな~くなんだけど、このデート上手くいかない気がしててさ」

ふざけた様子はそのままだが、二亜が姿勢を若干だけ正す。

その様にペドーはなにか重要な事を話すのだと、何となく理解した。

 

『ペドー作戦タイムよ、自然な感じでトイレに立って』

ペドーの予感を裏付ける様に、インカムに琴里からの指令が入った。

 

「先生、すいません。少しトイレ――」

 

「お、少年若いねー、抜いてくるの?オカズ要る?」

二亜がフライング気味に、キャリーバッグから本を取り出す。

 

「い、いえ……普通に……用を足しに――」

 

「あ、やべぇ!コレ『エレサー』の最新刊じゃん!?

これは渡せませんなぁ」

一人ほくそ笑む二亜を後にペドーがトイレに向かった。

 

「良い作戦思いつくといいねー」

二亜がペドーの背中に、声をかけて行った。

 

 

 

 

 

「いやー、まさかリアルで2次元に恋するタイプとは……」

トイレの個室でペドーが両手を組む。

 

『2次元は美男美女ぞろいですからな、そっちに行ったきり戻ってこないパターンも居るのですよ』

メンバーの一人の意見が聞こえた。

 

「どうする琴里?先生の封印はあきらめて、フラクシナスで何処か安全に隠れれる場所を用意するとか……」

ペドーが珍しく前向きな意見を述べてくるが……

 

 

 

フラクシナスの中の琴里がチュッパタップスの棒をピンと立てる。

 

「ハン!そんな消極的意見は却下よ、却下!

こうなったらペドーをアニメキャラに近づけるのよ!!

2次元の方から3次元に近づけさせるのよ!

そうすれば、相手の方から寄ってくるって寸法よ!」

自信満々の琴里が無茶な命令を下す。

 

『おい、待て琴里!そんな作戦成功する訳が――』

トイレのペドーがインカム越しに話かけてくる。

 

「それ以外、有効な手段があるの?」

琴里が再度作戦を推し進めようとするが……

 

「しかし、その作戦はあまりに無謀です!」

 

「安易な実写化は反感を買います!」

 

「どうあがいてもアニメのコスプレ感がぬぐえない残念な事に……」

フラクシナスのクルーたちの反応も良くはない。

 

「安心しなさい。ハリウッドも真っ青な変身技術でペドーをキャラになり切らせるわ!

この作戦は簡単には失敗しない!

この私の意見が信じられないっていうの?」

 

『んじゃ、失敗したら琴里は二亜の攻略が終わるまで水着エプロンな』

 

「ん、な!?」

ペドーの言葉に、琴里が一瞬固まる。

 

『いや、矢面に立つのは俺だし?攻略しようってのに適当な作戦立てられちゃ困るんだよな。ならさ、そっちにも相応のリスクを背負ってもらおうってワケ。

な?止めようぜ?本当は分かってるんだろ?無謀な作戦だって――』

ペドーの穏やかに言い聞かせるような言葉が、返って琴里をムキにさせた!

 

「っ~~~~~~!か、構わないわよ!!行きなさい特殊工作班!!

水着でもエプロンでも、着てやるわよ!!

ただしねぇ!アンタの落ち度で失敗した場合は責任を取らないんだからね!!」

琴里がマイク越しに、ペドーに啖呵を切って見せた。

 

 

 

20分後……

 

 

 

「あっれぇ?少年遅いな……まさか、本当のトイレで一人プレイを楽しんでいるんじゃ……

そう言えば高校生の少年と言えば発情期真っ盛り、脳内は女の乳、尻、腿にしか行かないピンク真っ盛りのお年頃……

股間の間に溜まったムラムラを発散させなくては、女性とまともに話せないのでは!?

つまり、今トイレに向かえば少年は――え!?」

良からぬ妄想を始める二亜の前を誰かが通りかかった。

 

「あ、貴方は!?私の初恋の紅冷(クレイ)!!」

荒野を旅する旅人に、水色のマントを着せ腰にリボルバーの銃と剣を融合させたような武器を携えた痩躯の少年。

二亜が愛してやまない作品『エレサー』こと『エレメント13(サーティーン)』の主人公の紅冷(クレイ)だった。

 

「お、おお……おお、クオリティたけーぇ!!!!

けど、ちがぁああああああう!!!!!

安易な実写化はダメ!!でしょうが!!!

なんで、しちゃうのかなぁ!?100歩、いや10000歩、譲って特撮はOKよ?だってあれCGとかふんだんに使ってるし!!!実際かっこいいし!!

けど、アニメを実写化しちゃダメっていつもいつも言ってるでしょ!?

どうせねぇ!!原作の人気にあやかった作品の名前に胡坐をかいた作品が殆どなのよ!!

どーせ、ヘンなアイドル役者に主役級をやらせて違和感バリバリにしちゃったり、挙句の果てに原作の設定を変えちゃったりするのよ!!!

そんなの物ね!個人的には地雷でしかないのよ!!!」

二亜がドンとテーブルを叩く。

どうやら、過去に良くない思い出があった様だ。

 

 

 

「で、琴里司令官ー、この後どうする?」

散々暴れ回った二亜を見送ってペドーがインカムに尋ねる。

インカムからは、けたたましいほどの不機嫌を示すアラートがひっきりなしに聞こえてくる。

どうやら、ペドーの言葉にも気づいていないほどの慌てようの様だ。

 

「んじゃ、水着でも買って帰りますか!」

原作のキャラが絶対しないような、欲望に満ちた笑みを浮かべてペドーはコスプレスタイルのまま再度町へ繰り出した。




安易な実写化はダメですよねぇ……


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ペドマン!

約4か月……遅れてしまいました。
長い間、放置にも関わらず、励ましのお言葉、ありがとうございます。
読者の皆様には大変ご迷惑をお掛けしています。
すいませんでした!


「まったく……何なのよ、もうぉー」

自室のベッドの上、二亜が唇を尖らせ手にしていた漫画を閉じる。

数秒の後、再度漫画を手に取り開いてはまた数秒して閉じて、虚空に独り言を投げる。

アキバから帰って以来、二亜はその不毛なサイクルを繰り返している。

 

思い出すのは、さっきまで一緒だったペドー少年。

自身の霊力を封印する為の作戦を取るのは構わない。

寧ろ二亜が自身で望んだ面すらある。

だが、その手段が頂けなかった!

 

「安易な実写化はダメでしょ!ダメ!!」

脳裏に数々のズッコケ実写化映画が浮かんでいく。

 

「芸人を出すな、オリキャラを出すな、設定を改変するな……」

恨み言の様につぶやくが、あのペドー自身の事は嫌いではない。

 

「はぁー、流石にこれは大人げなかったよなぁ」

実写化への怒り、ペドーへの好感がないまぜになってせっかくの漫画に集中できない。

その時――

 

ぴんぽーん

 

「ちわーす、アルファオメガ宅配社でーす」

 

「んあ?……郵便?

なんか頼んだっけ?」

郵便屋の名前を聞いて、二亜がゆっくりと起き上がる。

 

「どうもー、サインお願いしますー」

 

「あー、どうも……ここ、ですね……」

 

「ありあとやしたー」

二亜からサインを受け取り、てきぱきと仕事をこなし、郵便配達員は荷物を渡して帰っていく。

二亜の手に残ったのは、片手で持てるくらいの小さな包み。

 

「なんだろ、コレ?」

 

 

 

 

 

フラクシナス内部にて――

 

「そーれ!みっずぎ!エープロン!みっずぎ!エープロン!」

ペドーが右手にエプロン、左手に水着を装備し琴里の周囲を練り歩く。

事の始まりは、琴里の提案した『アニメキャラコスプレ作戦』。

ペドーを含む他のメンバーからの、無謀という声を無視した結果、事態は二亜を怒らせるという最悪の結果へと進んでしまった。

 

だが、問題はそこじゃない。少なくともペドーにとっては……

 

「作戦が失敗したら、二亜攻略まで水着エプロンの約束だよなぁ?

お兄ちゃん、しっかり聞きましたからね!!」

凄まじくうれしそうな顔をして、デート帰りに買ってきた2着を持ってペドーが決め顔をする。

 

「ま、まだよ……まだ、私の作戦は終わってないわ!!」

琴里がペドーを跳ね除け、勢いよく椅子から立ち上がる。

 

「こんな事も有ろうかと、もう一つのとっておきの作戦を進行中なんだから!」

 

「こういう場合、ロクな結果になった事は無いけど、とりあえず驚いておくか。

ナ、ナンダッテー!?お兄ちゃんびっくりんこー」

 

「…………」

琴里はペドーの視線を受けながら、露骨に視線をそらした。

 

 

 

 

 

「ふむふむ……この度、新作ゲームの体験版をお送りさせていただきます?」

二亜は送られてきた荷物に入っていたカラフルな髪形の少年達の踊る箱と、それに付属していた手紙を確認する。

 

「ほへぇ~、こんな事ってあるんだ!」

通常なら怪しくて仕方ない展開だが、二亜はそんなこと気にせずワクワクさせてディスクを取り出しパソコンに読み込ませる。

 

『恋してマイリトルペドー ~逮捕寸前72時間~編!』

パソコンから、そこそこイケボな声が聞こえ、二亜の期待は否応に高まる。

オープニングが始まり、様々なキャラがボイス付きで紹介されていく。

 

「名前は物騒だけど、キャラはイケメンだし良いんじゃない?

ああ~イケメン成分が補充されていく、イケメンがホイホイ惚れてくれる世界はすばらしいわぁ~」

ゲームを起動させ、名前入力で手早く自身の名前カタカナ入力で打ち込み、カチカチとマウスをクリックしていく。

 

「ほほぉ。デフォネームは無しで入力タイプか……」

 

『よっ!ニア。ようやく退屈な授業の終わりだな!

今日は散々だったぜ。どの先生もどの先生もみんな俺を授業で当てるんだからよ。

「藤道 五樹」って今日だけで、10回くらい聞いた気がするぜ。

こんな日はぱーっと、どっかへ遊びに行かないか?』

 

「ほほぉ、コレが体験版の攻略対象ですか……

今の所、オーソドックスな恋愛ゲームタイプですが、名前の合成がすさまじく滑らか!

技術って、すごいスピードで進化するのねぇ……え”!?」

しみじみとした瞬間、二亜の動きが再度止まった。

 

「マジで?」

画面に広がるのは「何処に行く?」というメッセージウィンドウ。

そして、その先を自由に書き込める空白欄。

()()()()()()()()空白欄。

 

「マジか、マジだ、マジで?

フツー、選択肢から選べません?

え、え?自由に選べるの?何処でもOKとかそんなゴッド仕様じゃないでしょ?」

二亜が腕を組んで考える。

 

「もう、適当に『大阪ナニーワたこ焼きランド』とか『北海道ビゲストパーク』とか『名古屋エビふりゃー味噌ダレ城』とか打ち込んでやろうか?!」

遊び心が疼き、アリもしない適当な観光地っぽい名前を考える。

だが――

 

『お、アキバかー。ニアも好きだなー』

選ばれたのはアキバでした。

 

「やっちまったー!!数時間前に行ってきたばっかりですー!!

あー、結局何時もの場所に落ち着くオタクの悲しきサガ!!」

二亜が自身の頭を押え、じたばたする。

その後急に真顔になって立ち上がる。

 

「ふぅー……まさか自由に選べるとか。

産業革命ってレベルじゃねーよ。

これは真剣に、やらなくては……」

使命感に燃える顔をした二亜が立ち上がる。

一部のオタクにありがちな、ゲームに対して真剣になる現象である。

 

そして二亜が居なくなった画面の向うで五樹が――

 

『ふぅー、疲れ……あ、ヤベ!』

独り言を言った。

 

 

 

 

 

「ちょっと、しくじったらどうするのよ!」

ペドーの背後から琴里の怒声が響く。

フラクシナス内部にある巨大モニターに浮かぶのは、二亜の部屋の映像。

 

「いや、つい緊張しちゃって……」

ペドーがマイクを切ったのを確認して琴里に向き直る。

 

「私の一発逆転の作戦、台無しにしたら許さないんだからね!」

そう、二亜に送り付けられたゲームは〈ラタトスク〉謹製のゲーム。

パソコン画面を通じ、リアルタイムで二亜がプレイするゲームとフラクシナスがリンクし、作中のキャラクターとしてペドーが声を付けているのだ。

 

「3次元に惚れられないなら、ペドーを2次元化させればいいのよ!

そう、二亜が恋したのは少し形をかえたペドー!

これなら絶対に成功するわ!現に好感度も変化しているし、封印まであと少しよ!」

 

「失敗したら、水着エプロンだもんな~

この季節には厳しい恰好……はっ!?

マイクロビキニに前のボタンを閉じないモコモココートもアリかもしれない!

ビキニを着た裸体がコートの熱でしっとり汗をかいて……むわっとコートから琴里の汗の香りが……

アリかもしれない!!」

 

「絶対にゲームで口走るんじゃないわよ……」

始まったペドーの妄想にドン引きしながら、琴里がようやく言葉を紡いだ。

その時、画面外から二亜が戻って来た。

 

 

 

『さーて、いっちょ本格的にやりますか。

このクオリティ、舐めて掛かる訳にはいきませんねぇ……

所で、正式発売はいつなんだろ?』

二亜が虚空から自身の〈天使〉囁告篇帙(ラジエル)を呼び出した。

 

「あ”」「あっ」「あ……」

クルーの声から次々に落胆の声がする。

そして最後に――

 

『あーあ、やっちまった』

画面の五樹が声を漏らした。

 

 

 

 

 

「どんだけ人の純情を弄べば気が済むのよ!!」

ドンと音を立て、二亜がパソコンの開いてあるデスクを殴りつける。

その怒りの目はしっかりと画面向うの、こちらを認知していた。

 

「攻略の為とは言え勝手にカメラ飛ばさないでくれます!?

ニンゲンとしてあり得ないでしょ!!

アンタらの組織、おかしいわよ!!今回だけは我慢してあげるけど、今度やったら接待許さないからね!!

あと、ゲームをしっかり完成させて送りなさいよね!!」

二亜はまくしたてる様に言い放つと、パソコンの電源を切った。

残ったのは、クルーたちの沈黙とペドーの

 

「マイクロビキニコートか水着エプロンか……どうする?」

という問いかけだけだった。

 

 

 

 

 

「みんな……大変な事態になったわ」

五河のリビングで琴里が重々しい空気で尋ねる。

集まったのはペドーと、彼が今まで攻略した精霊たち。

 

「全員呼んだんだけど、何人か居ないわね?

十香はきなこの禁断症状が起きたみたいだから、呼んでないわ」

此処にいない精霊の一人である十香の事を琴里がつぶやく。

 

「あの風の二人なら、無限耐久鬼ごっこ対決とかで疲労と筋肉痛で倒れて動けないって。

たったあれだけなのに、情けないな~」

シェリが手を上げ八舞の二人について言及する。

 

「ッ~~~~あの二人は……!」

 

「美九はアイドルのツアーで来れないってさ」

ペドーが携帯を見ながら告げる。

 

「けっきょくいつものめんばー、ですのね」

くるみが椅子に座り、足をブラブラさせながら話す。

 

「そうなる」

今まで口を閉ざしてた折紙つぶやく。

 

「……まぁいいわ。いないモノはどうしようもないもの。

改めて作戦会議を――へっぷち!!」

琴里がくしゃみをする。

 

「エアコンの温度上げるか?」

ペドーがリモコンを手にして、手早く操作する。

 

「アンタのせいでしょうか!!」

ドンと机に拳を振り下ろし、琴里が立ち上がる。

その恰好は、水着にエプロンという、日常を送るには不便すぎる恰好だった。

 

「っていうか、なんでみんな何も言わないのよ!?おかしいでしょ!!」

琴里が周囲のメンバーに声をかけるが、皆視線をすぐさま逸らす。

 

『いやぁ~、琴里ちゃんの趣味に口出すのも悪いかなって~』

四糸乃の腕に装着されたよしのんがパクパクと口を動かす。

 

「私が!!趣味でこんな格好な訳無いでしょ!!

ペドーよ!!ペドーのせいよ!!」

 

「まぁ、そんな気もしてた」

 

「うんうん」「うんうんですわ」

シェリの言葉に七罪、くるみが同意する。

 

『あやっぱりぃ?うすうすよしのんもそう思ってたんだよねー』

遂にはよしのんまでもが、同意する。

 

「詰まるトコいつも通りって事だな。

よし、作戦会議を続けるぞ」

ペドーが仕切り直しをし、琴里が何か言いたそうな顔をするが大人しく椅子に座る。

 

「ペドーさんは、二亜さんのこと……嫌いじゃないんですよね?

なら、ゆっくり時間をかけてお友達から始めれば……」

 

『ペドー君との相性は悪くないんでしょー?』

 

「うーん、二人の意見は最もなんだけど、DEM社がいつまた先生を捕まえるか分からないんだよな?

ならば、なるべく早めに攻略しておきたいんだよ」

二人の質問にペドーが答える。

 

「あら、珍しく前向きじゃない」

琴里が飴の棒を立たせながら、口を挟む。

 

「ふん、そうだろ?決して先生の新作が楽しみだから、DEMに奪われる訳にはいかないとか、そういう訳じゃないんだからね!」

その言葉に、全員が「あ、やっぱり」という顔をした。

 

「さて、問題は山積みだけど、攻略の切っ掛けが無い訳じゃないわ」

琴里の言葉に、全員が注目する。

 

「ペドーをゲームキャラを演じさせる作戦だけど、データ上で見れば好感度は確実に上がっていたわ」

 

「結局バレたけどな?」

 

「失敗はどうでも良いのよ。この話の肝は――」

 

「2次元の投影された、ペドーなら問題ないという事?」

琴里の言わんとする事に、折紙が先んじて気が付いた様だ。

 

「にじげんに、とーえー、ですの?」

よく分からないと言ったように、くるみが聞き返す。

 

「ペドーのゲーム化は失敗ならば、もっと手軽な映像媒体を使うのよ」

 

「それって、つまり……ペドーを漫画かなんかにするって事?」

七罪がおどおどしながら、答える。

 

「そうよ!ペドー漫画化計画よ!」

パチンと琴里が手を叩く。

 

「おおー、ゲーム化の次は漫画化かぁ。

順序普通は逆なんだけどな!」

 

「今までのペドーの雄姿を漫画にして、二亜に読んでもらうわ!

そして、キャラクターとして紹介され事で、実際のペドーを好きになって貰うのよ!」

琴里の作戦に全員の顔が一気に明るくなる。

 

「なら、ボクたちとの出会いの話とかを……とかを……を?を?」

興奮のあまり立ち上がった、シェリがすぐさま顔を曇らせる。

 

「マンガにした場合、コイツは魅力的か?」

シェリの言葉に、ペドー以外の全員が頬を引きつらせる。

 

『ペドー君との出会いは、雨の中で……全裸ブリッジしてるトコだったよ?』

よしのんの言葉に、事情を知らない組が一斉に戦慄する。

 

「わたしのばあいは、でーとでしたわ。したぎをかうって、あやしいおみせにつれていかれましたわ」

くるみが顔を赤くしながら、もじもじと答える。

 

「ボクの場合は嵐の中でいきなりナンパしてきて、雨でぬれる体を舐める様に見られたかな……」

シェリまでもが、所在なさげに視線を泳がす。

 

「わ、私の場合は、本当の姿を見た瞬間、態度を変えて来たっていうか……まぁ、その、いろいろあったし……」

七罪は後ろめたいのか、ばつの悪そうに話す。

 

「ああ、懐かしいなぁ……どれもこれも素敵な思い出だな!」

肝心のペドーは悪びれる様もなく言い放った。

 

「現段階のストーリーを統合した結果、予測されるのは変態の変態行為を集めた作品になる」

折紙が冷徹に言い放つ。

 

「お、いいやん!」

 

「ンなモノ、漫画に出来るか!!

変態の奇行集めた本で、攻略出来るかぁああああああああ!!!!」

琴里が頭を押さえて叫びだした。




今までを振り返ると、良く攻略出来たよなコイツ……


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貴女の名は

一年の沈黙を破り、再び帰ってきました。
もう、すっかり忘れられているだろうなという不安……


「よーし、そんじゃ俺の半生を漫画にするぞー!

タイトルはまぁ、『レジェンドオブロリコン』とかにするか……

まぁ、タイトルは今はどうでも良い!!

兎に角やるぞ!!おー!」

ニ亜を攻略する作戦の最中、遂に決まった今後の方針についてペドーが気合を入れて立ち上がる。

 

「どうしよ……」

ペドー本人はヤル気いっぱいだが周囲のメンバー、特に琴里はまるでお通夜に来たかのように、うなだれていた。

 

虚ろな目で「勝ちようないじゃない……勝利の展望が一切見えない……」なんて呟いてる。

 

「よぉーし、じゃ早速準備に……ん?」

不意に鳴った自身の携帯をペドーが取り出す。

見たこと無い番号に何か思い当たるフシが有るのか、ドライブモードにして机の真ん中に置いた。

 

『もしもし少年ー?企んでるねー?二亜おねーさんだよー』

携帯電話から流れるのはたった今、攻略方法を考えている精霊、二亜本人だった。

 

「ニ亜!?なんでペドーの携帯の番号を――ハッ!」

琴里は自身の言葉を自ら噤んだ。

そう、相手の持つ〈囁告篇帙(ラジエル)〉は全知の〈天使〉しれない事などありはしない。

たとえば、ロリコンの携帯番号など簡単に分かってしまう。

 

「すげぇ……天才漫画家が俺の携帯に電話を……

くぅ~~~感動!!」

 

『もう少し驚いてくれてもいいんじゃないかな?』

何処か拗ねた様に二亜が声を出す。

 

『さてと、実際に話すのは初めてになるかな?

フラクシナスの艦長さんで、ペドー君の妹さんの五河 琴里ちゃん?』

その言葉に、うなだれていた琴里の気配が一瞬にしてピィンと張り詰めた。

 

「ええ、『初めまして』になるのかしらね?

実際に話すのは――」

 

『えええええ!!!なんで、部屋で水着にエプロン!?

エッロ!!部屋で水着とかシチュ、エッロ!!

水の無い場所でこれほどの水着とか、それもう交尾特化型服以外何者でもないのでは?』

琴里の言葉を遮って、携帯から放たれる言葉に琴里がどんどん真っ赤になる。

 

「ふふふ……気が付きましたか、本条先生」

此処で琴里がこんな格好をするハメになった直接的原因を持つ男が口を開く。

部屋にいる全員がペドーに視線を投げる。

特に琴里は親の仇でも見るかのような、射殺さんばかりの視線を投げるが当人は気づかぬ振りか、反応すらしない。

 

「水着エプロンの最たる部分は、エプロンで水着が隠れる事にあると思うんですよぉ!!

『せっかくの水着をなぜ隠す?』多くの初心者は皆そう思うでしょう。

しかし!!

水着がエプロンで隠れる事により、一瞬全裸っぽく見える現象!!

云わば疑似裸エプロンが、水着エプロンにより完成するのですよ!!

視界の端には常に、新婚夫婦のあこがれ裸エプロンに近しい存在がある!!

これほどの幸福はまずありえないのでは!?」

ペドーが熱く、ひたすら熱く語り続ける!!

そして、その言葉を聴くたび、その周囲の熱は真冬の野外よりも冷え込んでいく!!

 

『くぅ~少年は天才じゃったか……』

染み入る様な声を出し、静かに携帯の電話が切られた。

 

「……あれ?何しにかかって来たんだ?」

 

ピリリリリリ

 

「あ、また先生だ。

なんだろ?」

ついさっきかかって来たばかりの見知った非通知の番号を確認し、再度ドライブモードで机の上に置く。

 

『ヤッホー、少年君。何度も御免ね?

いやー、つい満足して電話切っちゃったわ。

本筋話すの忘れてた』

許して、と軽いノリで二亜が話す。

 

『さーてと、少年を漫画化して私に読ませる作戦考えてるんだって?』

二亜の言葉に、琴里が歯嚙みする。

そうだ、何度も言う様に〈囁告篇帙(ラジエル)〉は全知の〈天使〉だ。

琴里達が今どんな作戦を、どの様に立て、どの様に計画しているかなど、その気になれば直ぐに分かってしまうのだ。

当然、自身の今、実行しようとしている作戦も簡単に分かってしまう。

 

『悪いんだけどさぁ。君たちが幾ら頑張って作ったってその本、読む気無いから』

 

「な……」

こちらの計画を根本から崩す二亜の一言に琴里が固まる。

 

『だってそうでしょ?私がDEM社に監禁されてた間に、世間のブームはすっかり変わっちゃってるんだもん。

お気に入りの漫画の完結までの一気見に、話題になってるアニメの視聴、そんでもって今度のフェスに向けて漫画の執筆まで有るんだからね?』

 

「ああ、分かる分かる。数話見逃しただけでも取り返すのって大変だから。

ってか、年取るとアニメを複数追いかける体力無くなるらしいし……」

 

『もう、そうなのよぉ!全部が全部、神作なら別に良いのよ?けど、最終話近くで一気に駄作になったり、逆にそこまで評価してなかったけど、ラストでドチャクソ株上げる作品とかあるじゃない?

その判別が難しくて難しくて……

って、少年!!遠まわしに、私の事を年取ってるって言ってる!?』

携帯電話の向うで本条先生は大層お怒りの様だ。

 

『ん、んん!で話を戻すと、私は今すっご~~く忙しいの。

見たい作品が山ほど有るのに、キミたちみたいなズブの素人の漫画を読む気には成れないよのね~。

んじゃ、本件はこれで終わりで……』

 

「待って!待ってください!!」

さっきと変わって真剣なトーンでペドー口を開いた。

 

『ん~、どうしたのよ?少年?』

 

「俺、先生に俺達の本読んで欲しいです。

今までの俺たちの絆で作った物語、絶対面白い物のハズなんです!!

まだ見ぬ神作なんです!!先生だってたった今、言ったじゃないですか。

最後まで読んでみないと傑作かどうかは分からないって。

だから、絶対に読んでもらいます!」

 

『お、おう……?』

ペドーの迫力に二亜がたじろぐ。

 

「さっき言った今度のフェス……年末の『アレ』のことですよね?

俺、今から作る本を引っ提げて、参加します!!

そんで、そんで先生の本より売り上げを叩きだして見せます!!」

 

『へぇ?それって、このプロの作家である私に挑戦状を叩きつけてるってワケ?

良いよ。私よりも売り上げが上ならその本は十分に「面白い本」の範疇を満たしてる。

読んであげても良い』

二亜の口調から、ふざけた面が消えた。

作家としての矜持に火が灯ったのを電話越しでも分かる。

 

「では、今度のフェスどちらのサークルが売り上げがあるか、勝負です!!」

 

『うん、良いよペドー君。

()()()()待ってる』

その言葉と同時に、電話は切れた。

 

 

 

「琴里すまん。勝負に乗せるためとは言え無謀に近い条件つけちまった」

 

「最低――って言いたいけど、私もきっと同じ事言ってたと思うわ」

琴里が短く答えた。

 

「なー、ペドヤロー」

 

「なんだいシェリちゃん?」

 

「さっき絆って言ったけど、ボクたちにそんなの有るのか?」

 

「あ、あるよ!!あるに決まってるだろ!?」

褐色のボーイッシュ系幼女のシェリの言葉にペドーが狼狽えた。

後ろを見ると、他の幼女組も同じような感情を顔に浮かばせている。

 

「さ、さぁーて、みんな。

聴いての通り大変な事に成ったぞ。

と、言う訳で、みんなで頑張って漫画を作るぞ!」

ペドーが皆と自身を鼓舞する様に、右手を突き上げた。

 

「負けたら、琴里は一生水着エプロンだからな」

 

「ちょっと待ちなさいよ?

まさか、負けても良いとか思ってさっきの条件飲んだんじゃないわよね!?」

 

「ソ、ソンナコト、ナイヨ~」

 

「コッチの眼みて、もう一回言ってみなさいよ!!」

琴里の声が、真冬の部屋にこだました。

 

 

 

 

 

本の溢れるマンションの一角で、二亜は手に持っていた本を静かに閉じて床に置いた。

ここ数日で集めに集めた大量の小説や漫画やゲームが所狭しと並んでいた。

見たくて仕方なかったハズのサブカル系娯楽アイテムに囲まれているが、ベットの中央で寝転がる二亜の表情はつまらなそうなそうに、ため息をついた。

 

「あー、なーんな萎えちゃった……」

そう言って、他の本を手にするが一分も経たずに、再度床に戻すという作業を繰り返す。

そこには、ペドーに見せた明るい本条二亜の姿は無かった。

 

「……」

虚空に手を伸ばし、自身の心の中で〈囁告篇帙(ラジエル)〉を呼びだす。

それは全てを知れる全知の〈天使〉。

『知る』その禁断の力を手に入れた人間はその誘惑に勝つことが出来るだろうか?

何でも分かる。何でも知れる。何でも情報なら手に入る。

宝くじの当選番号も、嫌なアイツの弱みも、100年後の天気も、愛すべき人の隠しておきたがった本性さえも……

 

「私、何時からこんなウソが上手くなったのかね……?」

人は『知る』という快楽に抗えない。

人は『興味』という嗜好に抗えない。

ありとあらゆる人を検索し、検索し、検索し、検索し続けた。

二亜は知ってしまった。

人の心の奥の醜さを、悍ましさを、恐ろしさを。

そして、精霊たちのその生まれを――

 

「んで?私になにか尋ねごと?」

二亜の言葉と同時に、部屋の中にクスクス笑いが聞こえだす。

 

「あらあら、隠れていたつもりでしたのにもう見つかってしまうなんて……

素晴らしいですわね。

流石全てを知る〈天使〉〈囁告篇帙(ラジエル)〉。

私の事などお見通しという訳ですわね」

部屋の影が人型に盛り上がり、黒と赤のドレスを纏った一人の少女の姿を取る。

 

「一応今日誰か来るかどうかは予め調べておく事にしてるの。

前にソレでひどい目にあったから。

貴女もよ~く知ってるでしょ?

最悪の精霊――()() ()()ちゃん?

……え、どうしたの!?」

二亜の言葉に、狂三が目を閉じ口を高く結び、拳を強く握る。

 

「味わっていましたの……この、久しく感じていなかったこの感動を……」

 

「????」

狂三の言葉と態度に〈囁告篇帙(ラジエル)〉を使う事も忘れ二亜が茫然とする。

 

「もう一回言ってくださいまし!!」

 

「えっと……『一応今日誰か来るかどうかは予め――」

 

「違いますわ!!そっちじゃありません!!」

突如狂三が感動顔から声を荒げる!!

 

「え、じゃあどれ???」

 

「名前ですわ。私の名前」

 

「時崎狂三?」

 

「はっふ!!はっふ!!そう、そうですわ!!!」

酷く痛み入った顔をして狂三が涙を流す。

 

「え、ナニコレ……?」

余の感動様に二亜が再度〈囁告篇帙(ラジエル)〉を呼び出し、狂三を調べる。

 

「ふむふむ……天使は時間を操る能力……分身、逆行、加速、停止etc……

うっわ、クソチートじゃん。

こちとら直接戦闘能力ほぼゼロなんですけど……

んで、名前の件は……あー……ペドー君がらみか……」

何かを察した二亜が黙って本を閉じる。

 

「そうですわ!!そうですわよ!!

ペドーさんったら、何度も何度でも訂正しても、私の事を『時子』呼びなんですもの!!

それだけじゃ、ありませんわ!!ペドーさんに影響されてか、周囲の人までも私を『時子』呼びして!!

挙句の果てに私の分身にすら……!

分身にすらぁ……

すっかり、時子よびが定着して……くるみの名は奪われて……」

自身の名を呼んでもらったのはかなり久々なのだろう。

次から次へと涙する狂三に、二亜はいったん彼女が何を聞きに来たかは忘れて、先に慰める事に専念する事に成った。




時子が本名で呼ばれるのかなり久々な気がするなぁ


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ペドの奇妙な冒険~ガチロリコンは砕けない~

今回は作中で不快に思える表現が出てきます。
食欲を失っても、一切の責任は負いませんのでご注意ください。
食事の前後の方は、十分に注意してください。



ホワイトボードに、ペドーがマジックを手に取り『まんが描くよ!』の文字を走らせる。

 

「おっしゃ、集まってくれたなみんな!

今日の作戦は漫画を描く事だ。

本条先生攻略の為にも、べらぼうに面白い漫画を描くんじゃい!!」

ペドーがばしん!と無意味にホワイトボードを叩く。

その衝撃でボードの表裏が回転し、ペドーの右腕が挟まった。

 

「いでぇ!?」

 

「「「「「……………」」」」」

皆の、無言の呆れた視線がペドーを射抜く。

 

「えっと……はじめます……」

恥ずかしそうに挟んだ右手を隠しながらペドーがつぶやいた。

 

 

 

此処は〈フラクシナス〉の用意した、マンションの一室。

椅子で入れるタイプのこたつと、ストーブで温められた部屋の中に、数人の少女とロリコンが集まってる。

罰ゲームで未だに水着エプロンから脱出出来ていない琴里、いまだに右腕を押えるペドーを見る四糸乃、退屈そうに欠伸をするシェリ、興味深そうに漫画の道具を見ているのはくるみだ、七罪は痛がるペドーになんと声を掛けようか、おろおろとしている。

 

「さっそくだけど、みんなの画力を見せて欲しいわ。

内容をおろそかにする訳じゃないけど、絵柄の上手さは売上に直結する。

一番最初に、メインで作画をする人を決めるわ」

琴里が、ペドーの代わりに言葉を紡いだ。

 

「道具は自由に使って良いから、題材はええと……ペドーよ」

一瞬迷った末、ペドーを指さし皆がうなづく。

それぞれが思い思いの、場所に座りペンを走らせ始める。

 

 

 

「できましたわ!」

最初に声を上げたのはくるみ。

その手には小学生にしては上手い程度の絵が握られている。

残念だが、漫画としては使えない。

 

「え、コレ、俺?

嬉しい……一生の宝物にするからな!!」

お手本の様な親ばかムーブでペドーがくるみの絵を抱きしめる。

 

「シェリちゃんは?」

 

「ほい」

ペドーに向けて、シェリが自身の紙を差し出す。

 

「……次行こか?」

ペドーが視線をそらした。

 

「なんか言えよ!!上手くないのは、分かってるけど!

せめて何か言えよ!!」

 

「絵なんて出来なくても良い!

シェリちゃんは元気が一番だぞ!!」

 

「わー。体よく誤魔化した」

シェリが不服そうに口を尖らせた。

 

「四糸乃とよしのんはどうだ?

実の事いうと、よしのんには特に期待してるんだよね。

大体のこと、やっちゃうイメージあるし?」

机に突っ伏すよしのんが顔(体全体)を上げる。

 

『その期待、添えない訳ないじゃな~い?』

四糸乃が持ち上げたのは、非常に完成度の高い一枚絵だった。

立っているだけのペドーに、なぜか何処となく『オーラ』の様な物さえ感じてしまう。

 

「おお!こりゃスゴイ!作画のメインは決まったかな?」

 

『うふふ、そうでしょペドー君。

よしのんの超画力能力を見て、おどろい――』

 

「ぴぃ!」

その時、四糸乃が小さく悲鳴を上げる。

マンガを描く際、よしのんは全身を使う。

全身を使うという事は、体の前面がインクの垂れた紙の上を動くという事で――

 

「あ、よしのん、まっくろ!」

 

「ぴぇえええええええええ!!!」

四糸乃の鳴き声と共に、部屋が凍りついた。

約30分後、ようやく人間の活動出来る様な温度に成るまで作業は一時中断された。

※よしのんは洗濯&乾燥済。

 

 

 

 

 

「ふっふっふっふっふ……みんなまだまだだなぁ?

此処は、あ!此処はぁ!ペドーさんの超絶スキルを見せてやりますかねぇ!!」

キメ顔をしたペドーが、テーブルの中央に置かれた漫画用のペン――通称Gペンを手にする。

くるりと手の中で、一回転させてすさまじい勢いで紙に向かう。

 

「――どうだぁ!!」

ペドーが皆にたった今書き終わったイラストを見せる。

 

「上手いじゃない……けど、なんか……()()()()()()がするわ」

渋面を見せる琴里が、つぶやく。

具体的な特徴を上げるのは難しいが、ともかく可愛いハズのイラストなのだが、兎に角不健全な香りが拭えない。

だが、今もっともイラストが上手いのは現状で、ペドーだ。

悔しい事に……

 

「はぁ……仕方ないわ……これで行くわよ。

何枚か、他の角度とキャラクターも書いてくれる?」

琴里の言葉に、ペドーがうなづきペンをクルクル回す。

 

「こんなのちょちょいの――あ……」

紙にペンを走らせた瞬間、ペドーの動きが止まる。

 

「ん?どうしたんだよ?」

シェリの言葉に賛同する様に、周囲の皆も動きの止まったペドーを不思議そうに見る。

 

「腕痛い……捻ったっぽい?

数枚は行けるけど、本一冊分は無理かな?」

全員の脳裏にさっき、ペドーが無意味に叩いたホワイトボードの事を思い出す。

 

「オマエ、自爆してんじゃねーよ!!」

 

「シェリちゃん、ごめんなさーい!!」

ペンを投げ捨てて、ペドーがその場に土下座をする。

 

「どーすんだよ、オマエ!!」

 

「こ、こんなことも有ろうかと、助っ人を呼んであるのさ!

連絡したから、そろそろつく頃……」

 

ピンポーン!

 

「ほら、来たぁ!」

呼び鈴を聴き、起き上がったペドーが、部屋を出て誰かを迎えに行く。

明らかに自分のミスを誤魔化す様な動きに皆がため息を着く。

 

『このタイミングでペドー君が泣きつく相手は基本一人だよね』

 

「ああ、アイツか」

よしのんの言葉に七罪が声を漏らす。

 

「こまったときは、いつもあのひとですわ」

皆が皆、同じ人物を想像する。

そして――

 

「じゃんじゃじゃーん!スペシャルゲストの折紙先生だ!」

ペドーが連れて来たのは凡その予想通り、鳶一 折紙その人だった。

 

「ペドーのピンチに駆け付けた」

 

「折紙イラスト、イケるか?」

 

「無論」

ペドーからペンを受けとると、一瞬だけ舐めてから机に向かう。

カリカリとすさまじいスピードで、イラストが出来上がっていく。

 

「完成」

およそ5分程度だろうか?

折紙が完成した、イラストをペドーに渡す。

 

「うまい!うまいけど……」

ペドーに渡されたイラストは、写実的(リアル)に書かれてたペドーのイラスト。

しかし、なぜか全裸になっており、同じく全裸の折紙と情熱的な()()()をしていた。

 

「ペドーと思いを遂げた私。

その初夜をイメージした」

 

「うーん、いいけど、今回はノーエロスの方面なので……

けど、個人的にはこの画力欲しい。

出来れば、ロリ系の子との絡みも――」

 

「直ぐに描く。題材としては幼い私に鬼畜調教を行い、愛と性欲の狭間を曖昧にされ壊される私を愉しむペドー」

 

「折紙先生最高!!」

スケベェェェェ!な効果音が付きそうな、幼女たちには決して見せてはいけないイラストが目の前で完成していく。

 

「よっしゃこのまま――ハッ!?」

ペドーが皆の、冷たい視線に気が付き正気を取り戻す。

 

「い、今はやめとこうか?

な、普通のイラストも描けるよな?」

 

「……やってみる」

一瞬の躊躇いを見せて、折紙が再度ペンを走らせるが……

 

「……なんで、服着てないの?なんで肌色面積デカいの?」

 

「なぜか、露出が増えてしまう」

二人の中に、再度沈黙が満ちる。

 

「あれ?コレ、積んだんじゃね?」

熱いくらいの部屋の温度だが、ペドーが冷や汗をかく。

啖呵切ったは良いが、こんな所で終わってしまうのだろうか?

冷ややかな絶望が、静かに満ち初めていた。

 

「ん……」

その時、ペドーに一枚の原稿が渡される。

非常に良く出来た絵で、漫画にするにはもってこいだった。

そのイラストの製作者は――

 

「ナッツミン!!」

 

「いや、その……一応描ける程度だから、そんな期待は……」

七罪が自信なさげに、自分の頬を指先で掻く。

 

「いや、最高!!決定!メイン作画決定!!」

ペドーが七罪の原稿を、聖遺物の様に掲げる。

ポケットには、折紙の書いた原稿を大切そうにしまった。

折紙以外の皆の視線は、さっきの部屋の温度より冷たかった。

 

 

 

漫画の作画は決まった。

だが、本当の地獄はここからだった。

まずは問題のストーリー。

ロリコンの奇行を、如何に魅力的なキャラに変えるという不可能に近い挑戦。

だが、意外にもというか、やはりというか折紙の最早、盲目的あるいは狂信的ともいえるペドーへの過剰すぎる美化がストーリーを()()()()()()することに成功した。

作画のMVPが七罪ならば、ストーリー面のMVPは間違いなく折紙だった。

 

 

 

カリカリ……カリカリ……

 

七罪が原稿を始める。

漫画の骨芯であるネーム、下書き、そして表紙の制作、そのほぼ全ての作業が七罪にのしかかってくる。

 

「七罪、俺も多少は手伝えるから、ちょっと休め」

右腕に湿布を貼ったペドーが作画を続ける七罪に声を掛けるが、首を振るだけで手を休めはしない。

一日以上ぶっ続けで作業を進めている。

心配にならない訳が無かった。

 

「……倒れるなよ?お前が、俺達の最後の希望なんだからな」

冷蔵庫から、カフェイン多めのコーラを持ちだし、ストローを刺して七罪に差し出す。

冗談の一つでも言いたかったが、今はそんな事は出来そうにない。

限界へのチキンレースをしているのは、七罪だけではない。

神経を削る作業をしているのは、他の皆もまた同じだった。

 

「あー!もー!またズレた!!」

 

「…………」

 

『…………』

 

「修正をする」

シェリが癇癪を起し、四糸乃の視線が泳ぎ、よしのんさえも無言で作業を続け、折紙がその補助に回ってくれている。

そしてくるみは……

 

「すー……すー」

疲れたのか端で毛布を掛けられて眠っていた。

 

「なんだかんだ言って、コレが一番癒される気がする」

ペドーがくるみを眺めて、ほっと一息つく。

 

ピンポーン!

 

「来客か?」

インターフォンの音と共に、琴里が姿を見せた。

 

「みんなー、差し入れ持って来たわよー」

 

「さしいれ、ですの?」

琴里の声にくるみが目を覚ます。

他のメンバーも同じく、顔を上げ精気が戻ってくる。

重く暑苦しい空気が少しだけ、風が吹いた気がした。

 

「隣のキッチンで休憩にしましょ?」

琴里の言葉に、皆がゾンビの様にもたついた緩慢な動きで歩き出す。

 

「俺も、休憩にするかな」

隣の部屋へと皆が去った後、ペドーがこたつの布団を持ちあげる。

そして――

 

「か、完成だ!!『幼女まん』の完成だ!!」

ペドーが取り出したのは、こたつの中で蒸された肉まんとあんまん。

この部屋は気温が暑めにされている!

ストーブに、こたつに長時間の作業!

当然だが、こたつの中は幼女たちの足から発される汗で密閉され蒸れに蒸れている!!

 

「う、うまい……肉まんのジューシーさにみんなのほのかな香りが染み付いている……

そ、そうか、これは一種の温泉饅頭に近いのか……!

つぎは、つぎはあんまんを――」

 

「ペドー何して……あー……」

歓喜に震えるペドーと、その手に持った肉まんでおおよその事を琴里が理解して、諦めに近いため息をこぼす。

 

「あれ?今日、水着じゃないの?」

 

「し、下着の代わりに付けてるわよ……」

ペドーの言葉に、さっきとは違う意味で諦めたように声を出す。

 

「はふ、はっふ、うめぇ……うめぇ……

妹オカズにして喰う肉まん……うめぇ……」

 

「……あんたたちが作業してる間に、二亜について調べて来たわ」

琴里の言葉にペドーが、その手を止める。

 

「一応資料も作ったけど、読んでも時間も無さそうだから、口頭で伝えるわ。

『本条 二亜』の人間、特に漫画家として経歴を調べたわ。

調べた相手は数人、みんな漫画家仲間というべき間柄よ。

気さくでフレンドリーな彼女にも友人は少なからずいたハズだけど、皆が皆、口をそろえて『ある日急に疎遠になった』って言ってたわ。

それと、漫画家になる以前の事は話したがらない、友人関係は露骨に口を濁したそうよ」

簡素にだが、琴里がペドーに情報を伝える。

 

「調べちゃったんだろうな……相手の事」

天井を向いてぽつりとペドーがつぶやく、再度あんまんを口にする。

 

「聖人じゃないんだから、誰しも人に見せられない汚い部分が存在するわよね……

どんなに信用した人間にも、どんなに高潔に見える人間にも『影』は絶対存在するわ。

絶対に裏切らない理想だけの存在。

そんな物、二次元にしな無いわよね……」

琴里が頭を抱える。

ふざけた二亜の態度とは裏腹に、彼女の抱えている物はずっと根が深いのかもしれなかった。

 

「けど、対話の場所に引きずり出さなきゃ、話も始まんないよな?

せっかく本条先生が復帰するのに、DEMとかに邪魔されちゃかなわないからな!

そこんトコロも含めて、攻略するしか無いよな?」

最期の一口を口に放りこんでペドーが掌の骨を鳴らす。

 

「描く、そんで勝って読んでもらう。

いろいろ考えるのは、その後だ」

それだけ言うと、ペドーは黙って席に戻った。

疲れの滲むその姿とは裏腹に、眼には強い決意が宿っていた。

 

 

 

カリカリカリカリ……

6つの筆が机の上を走る音がしていた。

やがて、それは5つになり、4つになり、長い間3つの音と小さな寝息たちがその部屋を包んでいた。

気が付けば、その音ももう2つ。

 

「で、き……」

小さなうめき声をあげて、七罪が原稿を完成させ意識を手放す。

数分の後残った最後の音も止まる。

 

「みんな、良く頑張ってくれた……」

ペドーが皆の机の上にある原稿回収して、携帯でフラクシナスに電話を入れる。

それが合図だったのか、何も話さない内に扉が開かれ数人のスタッフが入ってくる。

 

「印刷所まで、お願いします……」

かすれた声でペドーが歩く。

 

「ペドー君、もう休んでください。

何時倒れてもおかしくないレベルの疲労です。

締めきりまで、半日あります。

もう、休んで良いんですよ」

 

「たはは……幼女たちの汗のにおいで、無理やり覚醒させてたツケがそろそろ来るかな?

けど、俺が最期までやりたいんです。

みんなが手伝ってくれた作品、俺が印刷所まで待っていきます」

ペドーは車に乗せられ、フラクシナスが用意していた印刷所に、用意していた原稿を渡すとその場で倒れる様に眠りに就いた。

 

「ふっ……手怪我してるのに、なんでこんなに頑張ってるんだか」

琴里が眠るペドーを見てつぶやいた。

 

と、思ったが!!突如ペドーが目を覚ます!!

 

「――ハッ!?そう言えば、この後即売回じゃん?

当然売り子には琴里も参加するよな?

書いてない分、売って働くよな?

即売会の会場ってコスプレOKだよな?

つまり――!!

水着エプロンJCが売り子のお店来たんじゃね!?

ふ、ふぅおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

ふぅおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!

寝てる暇なんてねーぜ!!!

いざゆかん!!俺達のエデンへ!!!!」

徹夜テンション&欲望全開でペドーが起き上がった!!

 

「寝ろ!!今すぐ、寝ろ!!そして目覚めんな!!」

 

「まそっぷ!?」

琴里のボディブローがペドーの意識を刈り取った。




今年コミケやるみたいやん?
無駄にタイムリーですね。


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薄本買戦

12月の投稿遅れました。
なんとか、なんとか1月には間に合った……


「すぅーはぁー、すぅーはぁー」

刺し貫く様な寒さの中、ペドーが口から白く曇る息を吐く。

時刻は7時を少し過ぎた頃。

 

背後にあるフラクシナスの用意したの小型バスには、幼女精霊たちが昨晩の疲れからまだ抜け出せないで眠っている。

 

「人の欲望ってのは凄いねぇ……」

しみじみとつぶやくここは、コミックフェスの会場のスタッフ用駐車場。

少し離れて見える会場ドームには、早くも長蛇の列が出来ている。

ある者は防寒具を着込み、ある者は徹夜したのか隈が顔に出来、その中には簡易テントまで用意している者までいる。

 

「アレ、全部マンガを買いに来たのか?

ボクのマンガはキライじゃないけど、こんな朝早くから並ぶ気は起きないな」

バスの中から姿を見せたシェリが列を指さす。

なるほど、元気っ娘のシェリは他の子より体力の回復が早かったらしい。

 

「おはようシェリちゃん。

そうだよ。

この年末のクソ忙しいタイミングで、全国からオタクどもが自分の性欲を満たすために集まった狂気の欲望の3日間がこのコミフェスさ!

さぁ、欲望の坩堝に飛び込む覚悟は良いかい?」

 

「…………ボク帰ってイイ?」

 

「よぉーし、スタッフ入場の時間だよ~!

ちょっと早めに行って搬入スタッフさんと合流して、サークルの準備するぞーい!」

 

「あ、ちょ、離せ――どこ触ってるんだ!?」

ペドーがシェリを抱きかかえると有無を言わせず会場へと走り出した。

 

 

 

「ハェー……スゴイ人だな」

早朝だというのに、かなり多くの人が会場の至る所でブルーシートを引いたり簡易机の上に本を並べたり、自作キャラクターのポスターを掲げている。

 

「これでも、まだまだだよ。

こっからお客さんがやって来て、何十倍にも人口密度がハネ上がるんだよ」

ペドーの言葉にシェリが目を丸くした。

 

「ペドー、待っていた」

その声に振り返ると折紙がこちらに駆け寄ってくる。

 

「折紙!先に来ていたのか!」

 

「現場の確認に来ていた。

荷物はもう来ている」

折紙の背後を見ると、フラクシナスのスタッフたちが準備を進めていてくれた。

 

「荷物の搬入終わりました」

 

「はい、確認します」

テキパキとフラクシナスのメンバーが作業をしている。

 

「あの、この膨大な数の箱って……」

ペドーが目の前にうずたかく積まれている箱を恐る恐る指さす。

 

「今回の作品なんですけど……」

スタッフが居心地、悪そうに言葉を濁す。

そしてペドーが震えながら箱の数を指さしで数える。

 

「500冊入りサイズの箱が……10個!?

うわぁああああああああああああああ!!!」

ペドーが雄たけびを上げ頭を抱える。

 

「ど、どうしたんだよ!?」

突然のアクションにシェリが慄く。

 

「シェリちゃん聞いてくれよ……

俺達は頑張って本を作った。

けど、それはあくまで初心者クオリティ、そして事前の告知も、初めてだかからリピーターも当然無し、そんでもって複数買ってくれる人がいても所詮は3冊が良いトコ……

ぶっちゃけ、売れる訳ねぇんだよ!!

超大手サークルでも無けりゃこんな数売れる訳ねーって!!」

ペドーのシャウトと他のスタッフの気の毒そうな顔がこの数の無謀さを物語っている。

 

「う、売れ残ったら、次また売れば良くないか?」

 

「倉庫代って結構行くって知ってた?

しかも、2度目で全部売れる訳じゃないし……」

ペドーが合計5000冊の本を見て、乾いた笑みを零す。

 

 

 

 

 

「やっほ、少年!やっぱり来たね」

 

「本条先生……!」

ペドーがいつの間にか目の前に立っていた二亜に気が付く。

 

「いやー、パンフに載って無いサークルが有るから、ちょっと興味湧いてね。

『もしかしたら』って思ったけど、やっぱり君たちだったのね。

ふぅーん……君たちの〈組織〉の力使えば無理やりサークルの一角を用意出来るんだ。

毎回選別に落ちて涙するサークル(トコ)もあること考えると、なんかズルくない?」

ワザとらしく腕を組んで不満を表現する。

 

「コレが『権力』です」

 

「うわぁ……」

サラッと流すペドーの言葉に二亜が今度はワザとではない、引き顔を見せる。

 

「そして、この惨状が『権力』を物を知らない奴に与えた結果です……」

ペドーが本の山を指さす。

 

「うわぁ……妹ちゃんまたやらかしたの……?

5000ってウチの総数と一緒じゃない……」

今度は引き顔ですらなく、純粋に哀れむ様な顔を見せた。

 

「多分数をそっちに合わせてんでしょうね……」

ペドーが力なくつぶやく。

 

「あ、そうだ!ペドーくんチョット待ってて!」

何かを思いついた二亜が小走りで走り出す。

かと思えば、すぐに、ペドーの隣のサークルで立ち止まり、段ボールの中から一冊の本を取り出す。

 

「あ、お隣だったんですね」

 

「そうだよ。多分そっちも妹ちゃんが手配したんでしょ。

〈本条堂〉の本条 二亜です。はい、新刊一冊上げる。

隣同士に成ったサークルはこうやって一部ずつ交換するってのが、挨拶みたいなもんだから」

 

「んじゃ、コッチからも……〈フラクシナス〉の五河 士道です」

ペド―がダンボールから新刊を一冊取り出す。

ぷぅんと鼻を付くインクのにおいが、今更になってペドーに新刊を書き上げたという実感を与える。

 

「さて、んじゃ次は本条先生とは反対側のサークルにも――あ」

 

「あ……」

ペドーが反対側のサークルの人間を見つけて小さく声を上げる。

 

「中津川さん!?最近見ないと思ってたら!!」

彼はフラクシナスのメンバーの一人中津川だった。

 

「な、なんの事でしょう?私はサークル〈妹々(マイマイ)かぶり〉の代表MUNECHIKAです」

 

「あ、ああ!?5年前、年下妹からの敬称問題で空中分解した伝説のサークルの!?

うっそ!!中津川さんが伝説のMUNECHIKAさん!?マジで!?

本めっちゃ集めてます!!」

突如敬語になり、ペドーがビシッと姿勢を正す。

 

「あ、どうも……その、これは実は……

前々から3週間くらいから休暇の申請はしてまして……

言い訳をすると、まさかこの日と攻略が重なるとは思っていなくて……」

申し訳なさそうに中津川がどもる。

 

「休みの申請通ってるなら、何も言いませんよ。

ってか、同人書くなら一緒に協力して……あー、けど、新刊読めないと困るし……」

ペドーが欲望と欲求の狭間で悩む。

 

「とりあえず、挨拶の一冊です」

 

「うっひょう!!5年ぶりの新刊だぁ!!」

ペドーがテンションを上げる。

 

「まさか、攻略がこの日に重なるとは、思いもしませんでしたな。

永い眠りから目覚めた〈本条堂〉に我がサークル〈妹々かぶり〉。

ばぶみの殿堂〈ばぶみ館〉。鬼畜系ロリコンサークル〈SM(ロリ)〉さらには、

新進気鋭のサークル〈ぺどふぃり屋〉も、新刊が間に合ったとついさっきSNSで告知しておりましたし。

今回のコミフェスは荒れますぞ?」

中津川がくいっと眼鏡を指先で直す。

ペドーはその言葉を黙って聞いていた。

 

 

 

「フェスの売り上げは前評判で決まるのよ。

出来ればSNSでもっと早く手を打ちたかったんだけど、まぁ、仕方ないわね」

琴里がペドーの後ろに立っていた。

一瞬だけ中津川を見て何かを言いそうになったが、結局やめた。

 

「さて、遂にこの日が来たわ。

今回は注目のサークルの横に、突如姿を見せた幻のサークルっていう付加価値も付けた。

そして、切札をここでもう一枚斬るわ。

みんな、準備は良い?」

琴里の連れて来た非幼女精霊たちが皆姿を見せる。

その恰好は皆、バニーガール衣装に身を包んでいた。

 

「容姿は整ってる子が多いからね。

使えるモノは使わせてもらうわよ」

 

「ペドー、この恰好はかわいいか?

琴里がきなこをたくさんくれるというのだ」

純粋無垢な目をした十香が語る。

 

「ああ、かわいいよ……」

可愛そうな物を見るような目で、ペドーが十香を褒める。

琴里に視線をやるが、無言で琴里はスルーした。

 

「だぁりぃん……見てください……美九は、美九はだぁりんの為なら、どんな格好でもどんなセリフでも出来るんですよぉ……」

何時もの様に、死んだ眼の美九がペドーに寄りかかる。

他のメンバーよりも露出が多いのは彼女がアイドルだからなのか?

 

「ああ、まぁ、頑張れ」

 

「は、はぁいぃい!!応援してくれるなんて、感動、感動ですぅ!!」

感極まった様子で美九が涙を流す。

 

「くくく、まさかこの様な宴に我が参加する事になろうとはな」

 

「訂正。『我』ではなく『私達』です」

 

「え、誰?」

見たことが有る気のする双子にペドーが首を傾げた。

 

「ふふふ、理想的な設置場所に客受けの良さそうな売り子、そして話題性!

これだけあれば、5000部なんて余裕よ!」

 

「無い胸張ってるトコ悪いけど、そんな簡単じゃないぞ?

無論コレが最良の布陣ってのは分かるけど、少なくとも『余裕』ってのは無い」

重い口調でペドーが言う。

そうだ、相手は本物の作家だし、数年ぶりの復活。

実績という物が圧倒的にペドー達には足りていない。

 

「ま、無いもんねだっても仕方ないよな?

やれるだけやろうぜ。

悩むのは、それからだ。

約束の水着エプロン忘れるなよ?

ほら、着替えて来い」

ペドーが水着とエプロンを取り出す。

 

「この……着るわよ!!着ればいいんでしょ!!」

数分後バニーの集団に、水着エプロンの琴里が売り子として加わった。

どうでも良いバニーの中に琴里が加わりペドーは満足した。

 

「さて、マイシスターも加わった所で……

地獄の釜が開く時間だな」

ペドーが携帯で時間を確認しながら、つぶやく。

 

その瞬間――『只今より、コミックフェスが開場いたします』――

 

ド ド ド ド ド ド ド ド ド

 

「うぬ!?地震か?」

アナウンスをかき消さんばかりの、突如響いた地響きに十香驚きの声を上げる。

 

「違うぞ十香!これはオタクの群れが本を買いに走ってくる音だ!

一瞬でも気を抜くと流れに飲み込まれるぞ!!

恥をかくなよ……」

ペドーのセリフが終わりもしない内に、二亜のサークルの前には続々と列が出来ていく。

 

「行くぞみんな!!」

ペドーの掛け声に年増バニー+水着エプロンがうなづいた。

 

 

 

「新刊三冊ください!!」

 

「はい、1500円です、おつりの500円です」

慣れた手つきで二亜のサークルのメンバーが本を売っていく。

他人を信用しない彼女のだ、おそらくだがバイトを雇ったのだろう。

 

「どうだ、そこの者?一冊500円だぞ」

 

「え、ぼ、ぼぼぼく?」

十香が本の表紙を見ていた、如何にのチーズ牛丼の温玉乗せを頼みそうな陰キャに声をかける。

 

「あ、あの、じゃ一冊……ください……」

 

(よしっ!)

ペドーは内心ガッツポーズをした。

陰キャは女子への耐性が極端に低い。

アニメ、マンガ以外のリアルバニーなど初めて見たハズ。

そんな男に、面と向かって断る度胸などありはしないのだ。

 

「はい、おつり500円です」

ペドーが本を渡す。

見てみると、僅かだがサークル〈フラクシナス〉にも列ができ始めてた。

売り子による効果は、思った以上に効力を上げているらしかった。

だが――

 

「あっちのが圧倒的だよな……」

当然といえば当然だが、二亜のサークルにはペドー達の数倍の長さの列が出来ていた。

 

「〈本条堂〉と〈妹々かぶり〉の人気サークルの間に居あるだけあって、流れてこっちに来てくれるが万全とは言えないか……」

ペドーが渋面を作るが、琴里が笑みを浮かべる。

 

「けど、そろそろ来るハズなのよね」

 

「来る?」

大手2大サークルの列をかき分け、ちらほらとペドー達のサークルへと人が集まり始めた。

明らかに不自然な集まり方である。

その中に、何処かで見た事のあるメンバーがいる事にペドーが気づく。

 

「琴里、オマエまさか――」

 

「『友達』をちょーっと呼んだだけよ。

フツー、フツー」

言ってしまえば、これは所謂『サクラ』という奴だ。

悲しい事に人は話題になっている店を見ると、つい寄ってしまうモノ。

両隣の本を買った人間が、コッチに流れてくるようになりつつあった。

話題性、売り子、サクラ様々な要素がペドーの売り上げを二亜の本への売り気へ肉薄される!!

ペドーが裁き切れるハズ無いと嘆いた、段ボールも既に半分を切っている!!

 

「行ける、イケるわ!!私達だって決して負けない!!」

琴里が強く宣言した。

 

 

 

約30分後――

 

「〈本条堂〉新刊販売終了しましたー、ありがとうございました」

 

「〈妹々かぶり〉これにて完売御礼です」

 

「う、売り上げの速さじゃないわ……金額で勝つのが勝負の条件よ!!」

売り切れた二つのサークルを見ながら琴里が力なくうなだれる。

 

「まだ、3箱手付かずだぞ?」

シェリが困ったような目で、ペドーを見る。

 

「まぁ、当然っちゃ当然か……」

 

「まだ、まだ終わってないわ!!コミックフェスの時間はまだある物!!

見てなさい二亜!!見事に売り切って――」

 

「あ、ごめーん、私他のサークル見てくるから。

バイトの子たちに、新刊買うの任せたけど、自分でも見たいから。

いやー、労働関係って素晴らしいねー

今更だけど、そっちのMUNECHIKAさんの本を数に加えるのは無しだからね?

条件は『ペドー君たちが作った本の売り上げで戦う』なんだから」

半場帰り支度をしながら、二亜がその場を後にした。

 

「ぐぬぬぬぬぬ……!!」

琴里が悔しそうに歯噛みするが、それでも一向に〈フラクシナス〉の前に列は出来なかった。

 

そして――

 

『今回のコミックフェスはこれにて終了に成ります』

非常なアナウンスが会場に響いた。

 

 

 

会場の裏手の公園に、二亜とペドー達が集まっていた。

十香、双子、美九は着替えを終え、眼を覚ました幼女精霊たちも並んでいた。

 

「結局売れ残りはほぼ3箱分か……」

ペドーが残念そうにつぶやく。

 

「正直言ってスゴイ頑張ったのは分かるよ。

〈囁告篇帙〉を使わなくても、十分伝わってくる。

ペドー君の事、嫌いじゃないから読んであげてもいいくらいだけど――勝負は勝負だからね」

二亜が言葉を紡ぐ。

不思議な事に、二亜自身が何処か()()()()()()()事を残念だと思っているニュアンスが混ざっていた。

その場から去ろうと、二亜が背を向けた。

 

「本条先生……」

 

「何、ペドー君?」

二亜が足を止める。

 

「この勝負、俺の勝ちです」

 

「は?悪いけど、〈妹々かぶり〉の売り上げは条件に入れない約束でしょ?

ペドー君が作った訳じゃないんだから。

幾らウソついたって〈囁告篇帙〉で知れべれば直ぐに分かるんだからね?」

 

「ええ、ですから。俺達が作った『もう一冊』は含めていいハズですよね?」

 

「もう一冊!?」

琴里がペドーの言葉に驚愕する。

その時、いつの間にか姿を見せなくなっていた折紙が現れる。

 

「ペドー、片付けが終わった。

500冊ダンボール10箱、全て完売した」

 

「い、一体何時作ったのよ!!ペドーはコレを書く時ですら、手を怪我して、今も少し腫れてるくらいでしょ?

第一、時間が圧倒的に足りないわ!

どうやっても無理よ!!」

琴里が信じられないという様に否定する。

 

「一体、どういうトリックなのかな?」

漫画を作る大変さを誰よりも知っている二亜も尋ねる。

 

「いや、気づけば簡単ですよ。そーれ!〈ハニエル〉!!へんしーん!!」

ペドーが飛び上がると同時に一枚の原稿に姿を変える。

それを折紙が空中で受け取る。

 

「これで、漫画原稿一枚分。

後はこのページをコピー機でコピーする」

 

「んで、次のページに変身して、またコピー。

それを繰り返せば……感動超巨編の出来上がりです!!」

ペドーが折紙の持って来た、商業誌レベルの分厚さの本を見せる。

 

「そ、そんな方法で……?」

二亜が愕然とする。

 

「キチンと俺達が作りましたよ?

条件ちゃんと満たしてますよね?」

 

「ちょっと待って……この本、この本のサークル名って――!!!」

二亜がサークル名を指さし、慄いた。

 

「どうも初めまして、全方位幼女プレイオンリーサークル〈ぺどふぃり屋〉の代表〈ドロリゴン〉事、五河 ペドーです」

ペドーが自身のサークルの本を二亜に渡した。




そろそろ、コッチも終わりですかね。
一応下手なりに、前々から伏線は入れておいた積り……


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それ逝け!!ヘンタイマン!!

ゴールデンウィークで時間がようやく出来たので、GO!


僅か3度の本の発表で『伝説』となったサークルが有った。

切っ掛けは何処にでもある、一つの小説投稿サイトだった。

その中の18歳以上用のページに、一つの小説が投稿された。

幼女好きな平凡なサラリーマンがひょんなことから、近所の小学生と懇意の中になり、そして――というありがちな作品だった。

一つ違うのがその作品のクオリティの高さ、『ありきたり』がその作品では『王道』となっていた。

その作品は一部のロリコンたちに支持され、濃密な投稿スペースも有って人気を博していた。

作者は決して多くを語らない。

アンチにもファンにも作品で応えるとばかりに無口だった。

だがある日、投稿小説のあとがきに一文乗った。

 

『書き溜めした小説を挿絵付きでフェスで売ります』

その宣言の通り、当時のマンガのフェスで一部の追記と作者本人が描いた挿絵が足され、製本されて100部だけ売られたらしい。

とあるサークルのメンバーが気に入り、作者にアポをとり自身のサークルで売ることを打診した結果だ。

噂では、出版社から専属で書いてくれと契約の話もあるらしいが、作者はきっぱり断ったとの話だ。

その後、自身のサークルを立ち上げ、年に2回欠かさずフェスに、薄い本を売りに来ているのだ。

 

和姦から鬼畜プレイ、イチャラブから分からせまで、ありとあらゆるプレイを網羅するそのサークルの名は〈ぺどふぃり屋〉。

 

そして――――

 

「俺が〈ぺどふぃり屋〉の代表、五河 士道です」

ペドーが自身の手に持った本を二亜に見せつけた。

 

「あー、はいはい……そう来ましたか……」

何処か呆れた様な口調で、二亜がため息を吐く。

 

「うん、勝利条件は『自分たちが作った本をたくさん売った方』だったよね。

本の種類は入れてないし、サークルを複数またいじゃいけないってルールも無いね。

けど――」

 

「こんなの、正直言って反則スレスレです」

まるで、知っているかのようにペドーが二亜の言うとしていた言葉に先回りした。

 

「…………」

不機嫌そうに二亜が黙り、ペドーを睨む。

 

「本当は、みんなの本で勝ちたかったんですよ!!

けど、けどですね?

実力の差はどうしても埋められなくて……

けど、先生には絶対に『みんな』と描いた本を読んで欲しかったんです!!

その為なら、俺はどんな手でも使います!!

さぁ!!俺と俺達の本を読みたいなら、負けを認めてください!!」

掲げるモザイク必須の本の横に、みんなで描いた本を掲げる。

 

「くっ……守備範囲外だったから、その本は手に入れてない……

しょ、正直言って読みたい!!

けど、けど……っ~~~~!!!

分かったわよ!!アナタたちの本、読んであげるわよ!!」

二亜が2冊の本をひったくると、まじまじと表紙を見る。

 

「はい、散った散った!!じっと見られたら、楽しめるモンも楽しめないでしょ!!」

大切そうに本を抱いて、反対側の手でシッシッ!と追い払うジェスチャーをする。

 

「そ、そうですね……はい、みんな少し向うで時間つぶし――ぅお!?」

振り返ったペドーを貫く、複数の冷ややかな冷めた瞳。

四糸乃、シェリ、琴里と皆が皆、今まで見た事の無い様な凍てつく視線を放っていた。

作業を手伝わされた中でも、メインの作画をした七罪は今にも泣きそうな、悔しそうな目をしていたのがひどく印象的だった……

 

「み、みんなごめん!!マジで、出来る限りの事はするから許して!!」

申し訳なさを隠す様にペドーがスライディング土下座を慣行した。

 

 

 

「なるほど、カッコいいじゃん」

精霊たちの描いた本を読みながら二亜が小さくうなづく。

2次元キャラライズされた、ペドーが面白おかしく、しかし必要な要所要所ではキッチリと決めるキャラとなっている。

正直に言って、なかなかに好感が持てる。

 

「カッコいいだけじゃないってのは、良いんじゃない?

けど――」

絵のクオリティはそこそこだが、やはりそれは初心者に()()()というだけだ。

本のページは足りず、それゆえ物語が駆け足になってしまっている。

主人公の2面性を見せるには、致命的だ。

これでは、ただの情緒不安定とも取れてしまう。

 

「ま、厳しいけど不合格ってほどじゃない……って所かな!」

二亜が本を閉じ、立ち上がる。

幾度となく本を作って来た二亜には〈囁告篇帙(ラジエル)〉を使わなくても分かっていた。

この本のクオリティを出すため、彼らがすさまじい修羅場を潜ったという事を。

きっと鬼気迫る文字通り魂を削って描いたのであろう本の表紙を撫でる。

フレンドリーに笑う主人公を描くため、どの様な努力が有ったのか……

 

「先輩漫画家として、無碍にするのはな~んか、気が進まないんだよね」

自身に良い訳するかの様に二亜が本を閉じ歩き出した。

 

 

 

 

 

「先生!!」

少し離れた位置で、幼女精霊に土下座をしていたペドーが気配を感じて頭を上げる。

 

「はろー少年、なんていうか、あの本の主人公とは煮て似つかない恰好だよね」

なんだかなぁといいながら二亜が額に手を当てる。

 

「先生、本は……俺達の本はどうでしたか!?」

土下座のスタイルのままペドーが二亜を見上げる。

 

「あー、可もなく不可もなく?

だけど、一応は『可』寄り的な?」

頬を掻きながら、二亜が視線を泳がす。

 

「お?日本人特有のお茶を濁す表現?」

 

「もう一回チャンス位はあげる。

デートもう一回し――あ」

二亜の言葉にペドーが希望を持ったその時、その『異常』は起きた。

 

「おやおや、こんな所に精霊とは……

そして我らが宿敵『イツカ ペドー』までいるじゃないか。

なんという偶然だろうね?」

若く精悍な顔つきに、鈍色の瞳、アッシュブロンドの髪に、一目で上等と分かる黒いスーツ。

そしてそれらを台無しにするオムツとおしゃぶりを装備した男。

ウェすちゃまがその姿を見せた。

 

「てめぇ!!赤ちゃんプレイ野郎!!どしてこんな所に!!

日本の警察はなんで、オマエをほおっておくんだろうな!?」

 

「くくく……『イツカ ペドー』知らないのか?

今日は近くでコミックフェスが有ったのさ。

私も勿論さんかして、この恰好コスプレで押し切ったのさ」

自慢げにウェすちゃまが自身の姿を見せる。

 

「ええ……お前もかよ……

いや、そんなことより――」

ペドーが言葉をつづけようとした瞬間、その声が二亜の声によってかき消される。

 

「ああ、ああああ!!ああああああああ!!!!!ああああああああああああああ!!!!あああああ!!!!あああ!!!あああああ!!!あああああ!!!」

耳をつんざく二亜の声、その様子は尋常ではないのはすぐに分かった。

それとほぼ同時に、ペドーの耳のインカムがアラームを鳴らし始める。

 

「な、なんだ一体!?」

混乱するペドーの前で、二亜が真っ黒な血の様にも漏れ出たインクの様にも見える黒い光を全身からこぼし始める。

ペドーはここに来て、ようやくこのアラームの意味を思い出した。

 

「反転?先生が反転しようとしてる、のか?」

 

「ああ!!ああああああ!!!」

黒い霊力を迸らせ、二亜が乱雑に腕を上部に構える。

そして――

 

「〈神蝕篇帙(ベルゼバブ)〉!!!」

漏れた霊力が一瞬だけ、本の形を取る。

その瞬間、一瞬だけ姿を見せた『怪物』がペドーとウェすちゃまの間を通り抜ける。

地面に切り傷、頬を撫でる風には明確なまでの『死』の香りが染み付いていた。

 

神蝕篇帙(ベルゼバブ)と名乗った本から、闇を固めた紙吹雪が漏れ出し、怪物へと姿を変えていく。

アレもまた十香や折紙の時と同じく――『魔王』なのだろう。

 

【ぶるぅあああああ!!!】

 

【げぇっげっげっげ!!!】

怪物がペドーに襲い掛かる。

 

「ホワッチャ!?このっ!!みんな、先に逃げろホォーイ!!」

〈サンダルフォン〉を呼び出し怪物たちをあしらうペドーが、幼女精霊たちに声をかける。

 

「くくく、この状況でも幼女優先とは、恐れ入ったよ」

ウェすちゃまの声が視界の端から聞こえてくる。

その声に、ペドーが二亜が反転する寸前に、この男が姿を見せた事を思い出す。

 

「ウェすちゃま!!お前、先生に何か細工をしたんじゃないのか?

拷問しまくって、記憶消してたった今思い出させたとか、やったんじゃないのか?」

 

「そんな事する訳無いじゃないか。

思った以上に残酷な事考えるな、君は!!

あと、助けて!!お願い!!」

ペドーが視線を向けるとウェすちゃまは怪物に頭を齧られていた。

 

「イタイイタイ!!死んじゃう、死んじゃう!!」

 

「なぁーにやってんだ!!」

ペドーがサンダルフォンの一撃で怪物を薙ぎ払う。

助ける義理など無いが、求められると反射的にやってしまう。

 

「え、なに?この状況お前がやったんじゃないの?」

 

「いや、私は知らない。なんで反転してるの?

エレンいないから、事実上お手上げなんだけど……」

 

「うあぁああああ!!!お前は!!お前らはァ!!」

反転途中の二亜が怪物を二人の元に放ってくる。

よくよく考えてみれば、さっきから怪物たちは二人しか狙っていない。

この魔王はあまりに作為的だった。

 

「ほぉーら!!露骨にコッチ狙ってるじゃない!!」

 

「ええー!?なんかしたかなぁ?研究途中で裏切り者に拉致られたから、そこまでプレイもして無いんだけど……」

二人が同じポーズで怪物から逃げる。

 

「裏切り?ああ、例の島に引きこもっていたアイツか……

ってか、プレイってなんだよ?」

逃げながらペドーがウェすちゃまに問いかける。

 

「え?お漏らししたからオムツ変えて貰ったり、お風呂入れて貰ったり、薬品でホルモンバランス変えて母乳を出させて飲んだりしただけだけど……」

 

「犯人オメーじゃねーか!!

おま、おま!!赤ちゃんプレイ強要させ過ぎて反転してるんじゃねーか!!」

 

「えええ!?私のプレイが原因だと!?

いい加減な事を言うな!まだやりたいプレイの半分も――

ああそうだ!!君が何かしたんじゃないのかね?」

 

神蝕篇帙(ベルゼバブ)から生み出された怪物から必死に逃げながら二人が言い合う。

 

【ゼンカイ!!セカイ!!ゼンカイ!!セカイ!!】

銃身の様な体をした怪物が、霊力の砲撃をウェすちゃまに放つ。

 

「ふぃ!!ママ助け――」

霊力がウェすちゃまの全身を焼く寸前、天空から影が下りてその流れを断ち切った!

その姿にペドーが驚愕する。

 

「何者だ!?」

広がる両の掌が、赤いエネルギーで盾の様な物を展開して攻撃を防いでいた。

 

『…………』

ソレの第一印象は『黒い騎士』だった。

装甲は非常にシンプルで、飾りも最低限。

目立つとしたら、背中に装備された小さな4つの角の様な装置だろうか?

決して凝った装飾はしていないが、不思議とその黒い人型は、中世の騎士を思わせた。

掌を下ろすとエネルギーの盾が消える。

 

「おお、完成したか」

 

「何者だよ!?」

 

「紹介しよう、我がDEM社の期待の大型新人。

名前は便宜上【フォース】と呼んでくれたまえ」

 

「フォース?」

新人とウェすちゃまは言った。

この騎士の形をした奴は少なくとも、バンダースナッチとは違うらしい。

 

『…………』

僅かな機械音を鳴らしフォースは尚も暴走する二亜とその魔王へ向かう。

 

【ブルン!!ブルン!!ブルン!!】

 

【ヌヌヌヌヌヌヌヌ!!!】

怪物2体がフォースに向かう、その瞬間――

 

「くッ!?」

突如ペドーの全身に圧力が襲う。

ナニカ見えない手で押さえつけられた様な、凄まじい力だ。

それは怪物たちも同じ様で、動きが遅く成っていく。

フォースの背中の装置の一つが、白い光を発している。

さっきの攻撃を無力化した赤い光とは別物の様だった。

 

【ガァオーン……ぎぃ!?】

僅かに動けた獣の様な異形をフォースが黒い刃状のエネルギーで刺し貫く。

刺された瞬間その異形の体が霧散しフォースに吸収される。

 

「な、何者なんだ……アイツ……」

 

「彼は精霊を研究して作り出した、対魔王捕獲用の兵器さ。

ようやく実用段階まで、こぎつけた様だね……」

白いフィールドの中なせいか、ペドーと同じく動きを制限されたウェすちゃまが話す。

 

「お前も、喰らうんかい!!」

 

「ははは……まだ、完璧ではない……みたいだね……」

ペドーとウェすちゃまが床に縫い付けられた状態で視線を躱す。

 

『…………』

フォースが黒い刃で次々と異形を切り裂いていく。

そして遂に――

 

「先生!!逃げろ!!逃げてくれ!!」

暴走する二亜の前にフォースが立ちふさがる。

ペドーが必死に声を漏らすが、二亜は反応しない。

目の前の、怪しげな存在に向かって本を振り上げた時――

 

ザッシュ――!

 

「かっ!?」

二亜の腹に赤い刃が突き刺さった。

そしてフォースが左手を二亜の前に掲げる。

 

「やめろぉおおおお!!」

ペドーが声を上げるが、フォースは止まらない。

 

赤い刃、白いテリトリー、黒い刃に続き今度は青白い波動がその手から発された。

その波動は二亜を中心にする様に、波紋の様に覆いながら収束していく。

そして、一瞬後には――

 

「お、おお!!素晴らしい!!それが!!それこそが!!反霊結晶(クリフォ)か!!」

ウェすちゃまが興奮気味に見るフォースの手に宿るのは、何時ぞや【ファントム】が持っていたセフィラに酷似していた。

 

「はっはっはっは!!これは思わぬ収穫だよ。

まさか、こんな所で私の目標の一端が叶うなど――痛い痛い痛い!!」

フォースがグリグリと反霊結晶をウェすちゃまに押し付ける。

 

「ちょ、すと、ストップ!!今、今取り込むから!!」

数秒の後、ウェすちゃまの中に反霊結晶が取り込まれていく。

 

「な!?何が」

混乱する、ペドーの前でウェすちゃまがゆっくりと立ち上がる。

 

「吸収した、のか?あの結晶を?」

 

「おや、別にあり得ない事じゃないだろ?()()()()?」

そうだ、あり得ない事ではない。

なぜなら、ペドー自身がその現象をなんども起こしてきている張本人だからだ。

 

「さて、と、今日は気分も良い。

ついでに他の精霊たちの分も――」

 

「はい、君、ちょっとお話良いかな?」

ドヤ顔するウェすちゃまに青い服の国家公務員のお兄さんが話しかける。

 

「近隣の人から、通報が有ってねー?

公園でオムツ姿の怪しい男が暴れてるって。

ちょっと、署の方でお話お願い出来るかな?」

 

「は、はぁい!?

フォース!?フォースは!!」

ウェすちゃまの声がどもり裏返る。

必死になって味方を探すが、自身の仕事を終えたと判断したのか、そこにはもういなかった。

 

 

 

 

 

「くくく、イツカ ペドー!!今は、今はこの平穏を愉しんでおくんだね!!

はっはっはっは!!!さらばだ!!はぁっはははははは!!!」

数分後、パトカーに連れられてウェすちゃまが去って行った。

 

 

 

「ふぅ、国家権力万歳だぜ……」

ペドーがついさっき通報したスマフォをポケットに戻す。

 

「っと、そんな事より――先生!!」

ペドーが慌てて二亜の方へと走る。

腹から流れる血、口からの吐血、そして先ほどの話が本当ならセフィラさえ……

 

「と、とりあえず〈ハニエル〉!!」

二亜の腹の傷を、ケガをしていない状態に戻す。

 

「げっほ……少年……」

 

「先生!?」

吐血しながら、二亜が口を開く。

 

「ん?どすたんですか?」

何かを言おうとしている事を察して、ペドーが二亜に耳を近づける。

 

「…………」

 

「え?」

微かに動く唇、ペドーは言葉を聴きとろうと更に、耳を近づけると――

 

「掛ったな!!アホが!!」

その言葉と共に、二亜がペドーにキスした。

何時もの様にペドーの中に、温かい何かが流れこんでくる。

 

「先生!?一体何を???」

突然の行為にペドーが目を白黒させる。

混乱するペドーは琴里がこちらに走ってくるのを茫然と眺めていた。

 

 

 

 

数日後、ペドーと琴里はラタトスクの基地の一角に来ていた。

 

「うぃーす、少年……今日も元気にオトコノコしてるー?」

病院着を身に着けた二亜が手を上げて挨拶する。

 

「先生、そんな無理しないで。

かなりの傷なんですからね?」

 

「そうよ!まさか、あのタイミングで()()()()()()()()()()()とは思わなかったわ」

ペドーの隣で琴里が、攻める様に声を上げた。

 

「いやー、一応〈囁告篇帙〉で封印後どうなるか知ってたし?

霊力無いなら、ペドー君の力使って霊力循環させただけだしー」

バツが悪そうな顔で二亜がそっぽを向く。

 

「ってか、封印出来た以上好感度そこそこあったんですね……」

 

「あたぼうよ!少年!こーんな、良いロリ漫画かける人、速攻で好感度爆アガリよ!!」

二亜は傍らに置かれた本を手の甲で叩く。

 

「あー、みんなと描いた方の本のおかげって、事にしといてもらえますか?」

ペドーの抱える事情を何となく読み取って、二亜は苦笑した。

皆がはははと、小さく笑う。

そして――

 

「んで?何が知りたいの?

覚えてる限りの事なら、私話すよ?」

二亜はまるで悪戯をする子供の様な表情で笑った。

 

「んじゃ、琴里が脳内で俺にさせてるプレイを――ぐぅへ!?」

琴里が笑顔のまま、ペドーの顔面に拳を叩き込んだ。




次回予告!!

ちゃーらーらーらーらー、らーらーらーらー!

大気圏外で発見された ロリ巨乳(パンドラボックス)の引き起こした『ロリ巨乳の惨劇』から早10分……
ペドーの脳内は東都(幼女ならOK)・西都(巨乳は無い)・北都(人格次第じゃね?)に別れ混迷を極めていた……!!

対峙するは宇宙の精霊!!
「ふむん?ぬしらは何者じゃ?」

「ぐっへっへっへ!!お前のご主人様になる男さ!!
その堕肉で存分にご奉仕してもらおうか?」

「アイツ宇宙に捨てちゃダメ?」

「知的生命体の居る惑星にたどり着いたら、戦争起きないかい?」

「宇宙の精霊だと!?そいや、昔会ったわ(第一章参照)」

そして、物語の世界に紛れ込む一同!!
「なるほど、私がマッチ売りの少女で……」

「むふふ、おじさんマッチどころか君自体を買っても――ぎゃふん!!」

「ああもう!!本物のペドーは何処よ!!」

「お、お前たちは!?」

新章開幕――六喰メイズ

「むくは、心を閉じておるのだ、何も感じぬ」

「お、お、お?エロ同人で快楽堕ちするフラグかな?」

※予告は報告なしに変わる事があります。ご了承ください。


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六喰アンビバレンツ
邂逅Ⅰ:物語の予兆


さあさあ、今回も投稿ですよ。
と、言っても一年以上前の作品ですからね……
ダレも覚えて居ない&話数がそれなりにあるから、新規さん来ないで埋もれる予感。
こんなんですが、細々とやっていきたいです。

数少ない、待っていてくれた奇特な方々。
ほんっとうに、すいませんでした!!


ファアー、チャンチャチャン……

 

具体的な音を口にだして形容するのは難しいが、なんか神聖っぽい雅楽の音が流れる神社の境内の中をペドーは幼女精霊ズを引きつれ歩いていた。

時は新年始まりの日、元日元旦、ニューイヤー。

 

「はぁあ……ねむい……」

むにゃむちゃと口を動かし、若干足元が覚束ないのは真冬でもスパッツ&薄着スタイルを崩さない褐色元気っ娘シェリ・ムジーカその人だった。

 

スーッ……

 

「ちょっと日本人離れしてるシェリちゃんには分かんないと思うけど、お正月は日本人にとってはかなりのビッグイベントなんだよ?」

 

「いっしゅうかんまえくらいまで、クリスマスでしたのに?」

隣を歩くゴス趣味でひと際小さいくるみが口を開く。

 

ススーッ!

 

『まぁまぁ、賑やかなのは良い事じゃない?よしのんはイベント大好きだから嬉しいよ~』

 

「ペドーさんと、遊ぶの好き……です」

 

ススス―ッ!!

 

「琴里とナッツミンは先行ってるけど、焦る必要は無いからな?

新年、早々はしゃいで怪我しちゃ最悪だからな。

俺たちはゆっくり行こうな?」

何処か高揚した表情でペドーが笑みを零す。

 

スス―っ!!ススススーッ!!

 

そして、口にタバコの如く加えていたストローから息を吸う。

 

「……なんで、ストロー咥えてるんだよ?正月の風習か?」

 

「いやー、最近ストローが紙制になってるやん?

改めてペドーさん思ったのよ、ストローはやっぱプラに限るってね。

紙だとね?どうにもトイレットペーパーの芯のちっちゃいのを思い浮かべちゃって……」

シェリの言葉にペドーが誤魔化すように、そっぽを向く。

 

「はーっ、おしょうがつはすきですが、さむいのはいただけませんわね」

くるみが小さくため息を着いた瞬間、ペドーがすさまじい勢いでその身を翻す。

そして――――!!!!

 

スーゥ!!

 

空中に放たれた白濁した息をペドーがストローで吸い込んだ!!

 

「吐いた息をストローで吸ってるんじゃない!!」

 

「グリン!?」

シェリの蹴りがペドーの腹に突き刺さり、ストローが吐き出される。

そのストローは風に舞い、放物線を描き何処かへ消えていった。

 

「ふぁぁああああ!!!シェリちゃんなんて事を!?

ポイ捨てはペドーさん許しませんよ!!何時からそんな悪い子に成ったんです!!

ペドーさん悲しいぞ!!」

 

「ポイ捨てよりもっと守るべき社会正義が有るだろ!!」

 

「その通り。ポイ捨ては社会生活を営む上で好ましくない」

その言葉と共に、着物でバッチりめかし込んだ折紙が姿を見せる。

何時もの様に淡々とした機械の様な口調、しかし僅かにほの頬が上気しているのは気のせいでは無いだろう。

 

「コレは私が処分しておく」

そう話す折紙の口には、さっき消えたハズのストローが咥えられていた。

 

「おっす折紙!あけおめことよろー」

 

「新年おめでとう。お年玉が欲しい、子種でも構わない。

というか、新年のイベントとして帰ったら早速()()()をすべき」

 

「お、初っ端からアクセル吹かしてるな!流石折紙だぜ」

 

「着物は下着を着ないのが正装。当然私もそれを分かっている。

なんなら、近くの誰も来ないような茂みでも始められる」

 

「下着と言えば、正月は毎年おろしたてのパンツを履く事にしてるんだけど、今回忙しかっただろ?

新しいパンツが買えなくてさ、仕方なくパンツ無しで来たんだけど、これはこれで解放感あるよな」

 

「おそろい」

 

「ああ!そうだな!!」

新年そうそう初っ端から始まる二人のヘヴィすぎる会話に、今年もコイツと過ごす事になるのかと、胸やけにも似た感情をシェリは感じていた。

 

 

 

チャリん、パンパン

 

二礼二拍手一礼の最早日本人には形式と化した動きをして四糸乃とくるみがお参りをすます。

不慣れなシェリをペドーが助け、なんとかお参りを終える。

 

「ふぅいー、ミッションコンプリート……先に琴里達が来てるハズだけど、先に帰ったかな?」

キョロキョロと初詣の出店の前まで歩いてくる。

お参りが終わったのなら、来るのは此処だろうとペドーが呟く。

 

「ペドーさん、あっちじゃないですか?」

四糸乃がペドーのジャンパーの袖を引っ張った。

その先は、出店では無く長机が置かれた神社の端のエリアだった。

数人集まっている中に、見覚えのある髪がいくつか見えた。

 

「四糸乃な~いす!後でたい焼き奢ってやるからな」

 

『よしのんはチョコね~』

 

「わたしはかすたーどがいいですわ」

 

「んじゃ、ボクはツナマヨかな?」

 

「ツナマヨ!?それは流石に無いんじゃないかな?」

皆の言葉にペドーが言葉を返す。

 

 

 

「よっす!琴里!何してんの?」

件の長机、そこは絵馬を書く場所になっていた。

新年という事も有り、書くスペースも需要が高まっているのだろう。

限定的にこの場所が用意されている様だった。

 

「ペド野郎、コレなんだよ?」

シェリが興味深そうに、何も書かれていない絵馬の紐を指でつまむ。

 

「これは『えま』ですわ。おねがいごとをかいて、かみさまにみてもらうんですわ!!」

くるみが瞳をキラキラさせながら絵馬をみる。

どうやらこのイベントに興味がある様だった。

 

「ま、絶対に叶う訳じゃないから、期待しすぎないで頂戴」

 

「そう言う割には、結構気合い入れてかいてるじゃないかよ?」

皮肉っぽく言う琴里の絵馬をペドーが覗き込んだ。

 

「馬鹿!変態!覗くんじゃないわよ!!!

それに、あの子たちほど本気じゃないわよ」

琴里が指をさす先、十香と二亜そして七罪が黙々と絵馬にペンを走らせていた。

 

「ヤッホー少年!あけおめー」

二亜がペンをクルリと回してペドーに挨拶をした。

 

「先生!?お体は無事なんですか!!昨日まで確か車椅子に……」

まさかの人物にペドーが驚く。

彼女は本条 二亜。ペドーが敬愛する漫画家でありまた精霊の一人でもある。

そして、ついこの間まで()()()()()いた人物でもある。

 

「いやー、一時はヤバヤバのヤバだったけどさ、オタクらの神秘の必殺回復マシーンで見事この通りよ?」

元気元気と両手に力こぶを作るポーズをする。

残念ながら貧相よりの腕にそんな物、出来はしないのだが……

 

「先生……無理だけは本当にしないで下さいね。

先生の腕は誇張でも比喩でもなく、本当の意味で宝なんですから」

ペドーが二亜の手を握った。

 

「お、おう、少年……いきなりのガチ恋距離に、ビックリなんだけど……」

 

「さぁーて、みんなは何を書いてるのかなぁ?」

ペドーが話題を逸らす様に、十香たちの絵馬を見る。

 

「十香は何を……」

エリアの一角、絵馬に向けてブツブツと何かを呟きながら十香がペンを走らす。

その背中には鬼気迫る、一種のオーラに近しい物すら宿っていた。

 

「きなこ、きなこ、きなこ……きなこが足りない……きなこ、きなこ……」

掌に乗ってしまうような小さなサイズの絵馬。

そこに十香がペンで何度も何度も何度もきなこ、と書き続けている。

元は木目が見えていた絵馬は、びっちりと書き続けられた『きなこ』の文字で真っ黒になっている。

その姿勢に宿るのは最早、執念あるいは情念。

兎も角すさまじい『念』が宿ているのが読み取れた。

 

「と、特級呪物……」

近づいてはいけない。そう判断したペドーがその場を静かに離れる。

 

「うんうん、四糸乃の絵馬はかわいいなぁ……くるみの絵馬も良いねぇ……」

当てられてはいけないと、ペドーが安全パイ二人の絵馬を見て心を癒した。

 

「……」

 

「勿論、七罪も忘れてないぞ?」

小さく視線を送って来た、七罪の絵馬をペドーが読みに行く。

 

「いや、別に見せる物じゃないし……」

自身の描いていた絵馬をその小さな手で隠す。

 

「いやー、ナッツン絵うまいのよー、オジサンびっくりしちゃったんだから」

七罪の丁度正面に座っていた二亜が再度ペンをクルリと回す。

 

「そりゃあ、何を隠そう前回のコミコのメイン作画はナッツミンだからな!!

その画力はありまくりですよ!!」

 

「ふぇー、ナッツンすごーい!どうどう?おねーさんのアシスタントやらない?

勿論お賃金とか上げるからさ!あと少年も家事的な意味でもアシスタントもやらない?」

 

「すごいぞ!ナッツミン!プロの先生から、しかも作画の実力を認められてのお誘いなんて滅多にないぞ!?」

 

「そーだよ、ナッツン。アシスタントしちゃいなよー」

 

「ナッツミン、ここはチャレンジしてみるのも悪くないんじゃないか?」

 

「ナッツ、ナッツ、ナッツ、ナッツうるせー!!

せめて呼び方位統一しろ!!」

わぁっと浴びせられる、言葉の奔流に七罪が声を上げた。

 

「ペドー、私も描いた。見て」

折紙が自身の描いた絵馬を持ってくる。

その絵馬を不自然な光が遮った。

 

「わぁお!!とってもエッチぃ!!よぉし!俺も描くぜ!!

俺もこのデザイアグランプリにエントリーだ!!」

今度はペドーが描き始めた絵馬を不自然な光が覆い隠した。

 

「おおっと!そう言う空気なら、アタシも負けてらんないね!」

二亜が絵馬を新しく絵馬を受け取ると、何かを書き込んでいく。

三者三様、正月からはお見せ出来ない内容と挿絵の絵馬が作られていく。

そんな三人を神社の神主が、肩に手を置き小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

「いやー、少年怒られちゃったねぇ……」

 

「そうですねぇ……」

 

「怒られてしまった」

二亜、ペドー、折紙の三人がトボトボと帰りを歩く。

他のみんなは暫く、出店を愉しんでから帰る予定らしい。

 

「そーいえばさ、折紙ちゃんって精霊になった時の記憶って有るんだよね。

他の子はどうなの?」

 

「十香、くるみ、シェリちゃんは無いんじゃない、ですかね……四糸乃は……どうなんだろ?」

顎に手を当て、ペドーが試案する。

 

「さっきの四糸乃、神社の作法とか絵馬とか知ってたんですよね。

七罪みたいに人間の分化に触れてたってワケじゃ無さそうなのに……

調べた……のかな?それとも……」

ペドーの中にある仮説が思い浮かぶ。

 

「元から知っていた可能性」

 

「多分、そうだね」

折紙の言葉を二亜が肯定する。

 

「もう、妹ちゃんには話してるんだけど……

精霊ってみーんな改造人間見たいなんだよね。

〈セフィラ〉埋め込んで隣界に放置、んで適当なタイミングで放逐ってかんじ」

ひっどいよねー、人権無視じゃん。なんて二亜が話す。

 

「貴女の〈天使〉で詳しく調べる事は?」

 

「ああ、無理無理。〈囁告篇帙(ラジエル)〉はセフィラ持ってかれて大分、能力ダウンしちゃってるし……とりあえず、適当な未来確定をさせまくってもう一向の魔王?だっけ?アレの妨害をとりましといたぜ!」

重い真実をかき消す様に二亜がワザと明るい口調で告げる。

 

「…………そうですか」

ペドーが小さく呟いた。

その瞳に何の感情が宿ているのかは分かりはしない。

改造するファントムへの怒りか、犠牲となった精霊たちへの悲しみか、はたまた全く違う事か……

 

「俺だけ……絵馬完成させてねぇじゃん……幼女とハッピーラブラブデザイヤー」

どうやら、一番最後だった様だ。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

DEM社の一角、その階段の中でエレンは息を切らしていた。

日々のストレスを社内のフィットネス施設で発散していたのは良い。

胸の中のモンモンとした感情を体を動かすことで、ほんの少しの間忘れる事が出来る。

ただ少し、今回は自身を追い込みすぎてしまった様だ。

 

そこに、この胸中の不快感の理由の大多数を占める男からの呼び出しが有った。

体力が少ない状態で、更に不運な事にエレベーターの故障まで重なってしまった。

つくづく不運とは重なる物である。

 

「これで、もし無意味な話でしたら……」

ギリっと歯を食いしばり、エレンが足に再度力を入れる。

そして後ろを振り返り――

 

「あなたは先に行ったらどうなんです?

十分先を追い越していくスペースはあるでしょう!?」

苛立たし気に背後の存在に怒声を投げつけた。

 

『シュー……シュー……』

低い呼吸音を放つガラス玉の様なノッペりした黒いフルフェイスマスク。

同じく黒いアンダースーツには肩や腹筋、膝などに僅かに金属が付けられている。

ワイヤリングスーツにも見えるが、少し型が違う様にも見える。

 

「また、だんまりですか」

後ろの存在は『フォース』と呼ばれている新入りだ。

以前までの経歴は一切不明。

年齢国籍はおろか、男なのか女なのかすらも分かっていない。

と突拍子もない話だが中身は機械だという噂すらある。

以前、ウェすちゃまがフォースを差して『彼』と呼んでいるのを聴いた事が一度だけあるので、おそらくは男なのだろう。とりあえずエレンはそう思っている。

 

一つ確かに言えるのは彼のその全てが謎に包まれた存在だという事。

彼は初陣でウェすちゃまの危機を救い更には精霊から〈セフィラ〉を奪い取ったという。

その功績を認められ、エレンと同じくウェすちゃまに重用される存在へと成りつつある。

何もかもがパッと出の癖に自分に並ぶ、その事もまたエレンがフォースを好きになれない理由の一つだった。

 

カシャん、カシャん……

 

機械音がしてフォースがエレンを追い抜いていく。

そして数歩進んだ時に――

 

「な、なんですか?」

フォースが立ち止まって、エレンに手を差し伸べて来た。

その様はまるで「こちらに掴まってください」と紳士的な態度を取っている様だった。

 

「っ~~~!!結構です!!アナタの手を借りるまでもありません」

エレンがフォースの手を払いのけた。

 

『シュー……』

小さくフォースの呼吸音。

一瞬の間、フォースが自身のこめかみに指を当てた。

そして数秒の後、指を離した。

 

「何をしているのです?」

不思議に思うエレンを前に、フォースが階段の上を指さした。

そのとき、上階の扉からオートマトンが姿を見せる。

 

『あんれまぁ!エレンはん、バテバテやないですか!

ここはスナッチ印のエレベーターの出番でっしゃろ!

お安くしときまっせー』

無機質な見た目から発せられる、お笑い芸人の様なインチキ関西弁を操るプロトバンダースナッチがエレンを抱きかかえる。

 

「え、あ、ちょっと!?」

突然の状況にエレンが理解できず、眼を白黒させる。

 

『それじゃ、いきまっせー』

そんなエレンを抱きかかえたまま、プロトバンダースナッチが足のジェットを発進させた。

 

「フォース!!アナタの差し金ですね!?このような、身勝手私は許しませんからねー!!」

エレンが連れられて行くのを見て、フォースは再度階段を上り始めた。

 

 

 

 

 

「やぁ、待っていたよ。二人とも」

最上階の部屋、アッシュブロンドの髪をした男が机越しに声を上げる。

上半身は涎掛けだけで、見えはしないが下半身はオムツを履いているのだろう。

この恰好だけでも異常は異常だが、今回はそれとは違う『異常』が見て取れた。

 

「それが『魔王』ですか?」

フォースが回収した〈セフィラ〉を奪い取ったウェスコットが手に入れた存在。

一冊の古ぼけた本が闇を放ちながら、彼の手の上で浮かんでいた。

 

「この世の全てを知る全知の力……だけど、どうやら精霊に邪魔されてしまったみたいでね。

せっかくの情報を手に入れるのも、ずいぶん時間が掛かってしまう。

だが、昨日の晩、漸く私の知りたかった情報が手に入ったよ」

 

「……美味しい粉ミルクの売ってる店ですか?」

 

「違う!!いや、確かにプレイには美味しい粉ミルクは欠かせないが……

精霊だよ、精霊。

まだ、イツカ・ペドーに見つかっていない精霊の居場所をついに見つける事に成功したんだ」

ほめてほめてと言わんばかりの表情でウェすちゃまがアピールする。

 

「その精霊の居場所は?」

 

「此処さ」

ウェすちゃまが空を指さした。

 

 

 

 

 

青い星を見下ろす場所、月と地球、蒼穹(ソラ)宇宙(ソラ)の狭間に『彼女』はいた。

命有る者は無い、音も無い、空気も、温度さえ無い場所で彼女は胎児の様に膝を抱えて眠っていた。

その瞳が今、ゆっくりと開かれる。

 

「ふむ?久方ぶり――いや、初めての来訪者か」

彼女の目の前、異形の機械がこちらに向かってくる。

機械ゆえ感情は読み取れない。

だが、不思議と良い気分はしない。

ならば、やることは一つだ。

 

彼女は〈天使〉をその手に呼んだ。

そして――

 

()ね」

 

 

 

 

 

「ん?」

ペドーが不意に立ち止まり空を見上げる。

 

「どした少年?なんかあった?」

 

「疲れたのなら、休憩にいい場所を知っている」

二亜、折紙の両名がそんなペドーの様子に気づく。

 

「いや、なんでも無いよ。空から幼女が降って来ないかなーなんて思ってさ?」

二人にそう話し、誤魔化すように笑いペドーが再び歩き出した。




新章なのに、肝心にヒロインの名前出せてない……
他のメンバーの紹介みたいになってる……
はやく、はやく次を書かねば!


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邂逅Ⅱ:遥か空へ

さてさて、今回も投稿ですよ。
10月は逃しましたが、なんとか11月の序盤には間に合いましたかね。
今年中にあと2話位は……


1月9日。ペドーの通う高校、来禅高校に3学期がやってきた。

約2週間ぶりに顔を見合わせる友人同士の挨拶に新年を祝う挨拶の言葉が混じる。

 

ひさしぶりー。

 

おはよう。

 

あけおめー。

 

学校ダリ―。

 

もう1週間くらい休んでたいわー。

 

はぁー、寒、寒い……。

 

そんな、内容は無くとも温かさ差を感じさせる挨拶が交わされて僅か1時間足らす――

教室は極寒の空気を醸していた。

 

「皆さーん、明けましておめでとうございます。

去年の宿題は全部済ませましたか?

後悔の無い、一年にしましょうね~。

すこし、話題が変わりますが先生、良い事があったんですよー?

先生の高校時代の友達が、今度結婚するそうですー。

いやー、おめでたいですねー。

お相手は医者の息子で本人も外科の先生をしているみたいなんですよー

『世界で一番のドクターに成る人』って先生の友達の口癖みたいになっちゃってるんですよー、いやー、友達の結婚はすごくめでたい事ですねー」

眼の死んだタマちゃん(賞味期限切れ)が祝いの言葉を吐く。

表面上は祝っているハズなのだが、内面からはどす黒い呪いの言葉に聞こえてならない。

延々長々と呪詛の言葉を吐き出し続けたタマちゃん(賞味期限切れ)は不意に正気に戻ると何時もの笑顔を取り戻した。

残念ながら、その身に纏う負のオーラは一切衰えてはいなかったが……

 

「じゃー、皆さん。宿題の回収をしますねー。

持ってきてくださーい」

タマちゃん(賞味期限切れ)の言葉に、生徒たちがまるで刑務所の囚人の様に静かに従う。

表面張力、まさに並々とコップの水が注がれた状態での精神的拮抗。

誰かがほんの僅かでも刺激を与えると、タマちゃんの中の水があふれてしまう。

そんな感覚がクラスメイト全員の心の中を支配していた。

一人一人、皆極力刺激しない様に順番に宿題の教壇に提出しに行く。

そんな生徒の中で、ペドーが不意に――

 

「あ、先生、明けましておめでとうございます!

3学期と言えば、先生もう少しで誕生日ですよね?

忘れちゃうといけないから、今の内に言っておきますね。

誕生日おめでとうございます」

 

提出ついでの、余計な一言。

 

「ぴ!?」

ペドーのお祝いの言葉。

悪意など在りはしない本人の、心からの祝福の言の葉に教室が音を失う。

何か、脳の回路に異常を来したのか、タマちゃん(賞味期限切れ)の上げた小さな奇声がやけにクリアに聞こえた。

 

永遠にも思える一瞬の沈黙が流れ――

 

「い、五河君!?あ、ありがとうございますね!!!

けどぉ!!!まだ、まだ、先生、タンジョウビじゃ、ナイから!!

もうすこし、後で、おイワイしてくれれれれれれるかナ?」

壊れた。タマちゃん(賞味期限切れ)が壊れた。

 

「あれ?俺またなにか、やっちゃいました?」

 

「うわぁああああん!!!!私の次の誕生日来る前に、地球滅べー!!!」

 

――っドォん!!

 

タマちゃん(賞味期限切れ)の声と共に、凄まじい揺れと衝撃波が校舎を襲う。

 

「え、なになになに!?

悪しき願いが神様に届いてしまったのか!?

ラグナロク始めましたなのか!?」

空間震ともウィザード達の攻撃とも違う、揺れにペドーが混乱する。

 

教室の内外からも混乱の声が聞こえる。

さっきまで騒いでいた、タマちゃん(賞味期限切れ)本人はこの衝撃で気絶してしまっている。

一体誰が言いだしたのか、隕石、隕石と声がし始める。

確認してみると、確かに校庭のド真ん中にクレーターが出来上がっていた。

 

「まじか……」

目の前で起きた信じがたい出来事に、ペドーが冷や汗を流す。

こんな、奇跡起きるハズが無い。

これはつまり――

 

案の定というべきか。

ポケットの携帯が琴里からの着信を知らせ、ペドーが無言でインカムを付ける。

 

『ペドー、精霊よ。新たな精霊が現れたわ』

 

「知ってるよ、琴里。

タマちゃん(賞味期限切れ)が精霊だったんだろ!?」

 

『いや、違うけど?』

 

「っはぁ~~~まじ?今年始まって一番安心したわ……」

ペドーが深く、深くため息を着いた。

 

 

 

 

 

「いや~新年早々に隕石が落ちて休校になるとか、マジ意味わかんないよな?」

隕石騒動から約30分後、ペドーは〈フラクシナス〉の車に揺られていた。

 

「非常に貴重な体験」

隣に座る折紙が呟く。

彼女にも精霊出現の一報は届いており、というよりも半場、勘ついてはいたのだが。

 

「したいかしたくないかで言えば、したいより?」

 

「私とシたい?意外と積極的」

二人の何時ものじゃれ合いを得て、二人がビルの前に降りる。

 

「じゃーな、折紙また後でなー」

 

「了解した」

ペドーがビルの地下へ歩を進める。

タイルを踏み体重チェック、扉ののぞき穴に見立てた網膜チェック。

 

「おっすオラ、ペドー!ムラムラすっぞ!」

 

ピピーッ

 

『音声認識確認』

 

ガチャ

 

機械音を聞いたペドーがドアノブに手を掛けた。

 

ピピーッ

 

『指紋認証確認』

 

「コレ、トイレ我慢してる時、不便だよなー」

くだらない呟きをしながら〈フラクシナス〉の緊急時地下作戦室にペドーがはいっていく。

 

「よく来たわね、ペドー」

既にその中央の椅子の上で琴里がチュッパチョップス片手に、ペドーを待っていた。

 

「さっそくだけど見てくれないかしら?」

琴里が背後のモニターを親指で指さす

 

「どれどれ……」

ペドーが琴里のスカートの前にしゃがみ――

 

「モニターよ!!バカ!!」

琴里の蹴りがペドーの顎にフルスイングされる。

 

「主語言えよ、主語ぉ」

それをペドーが華麗に回避する。

残念ながら、パンツは見えなかった。

 

「~~~っ!!説明を始めるは、今から約38分前。

この地球に計48発の『攻撃』が有ったわ。

場所はまぁ、言ってしまえば『世界中』。

ぼほ同時タイミングで隕石がASTやDEM社の拠点に打ち込まれたわ」

 

「おいおい、48個の隕石?一発じゃ無かったのかよ……」

ペドーが戦慄した。

町を破壊する精霊たちは何度も見て来た、だが隕石を落とすとは今までとは明らかにスケールが違う。

 

「で、世界中を攻撃した『精霊』はドコにいるんだよ?」

 

「上よ」

 

「うえ?」

琴里が空を指さした。

 

「隕石の攻撃ルートを計算した結果が、コレ」

パチンと指を鳴らすと共に、メインモニターの画面が切り替わる。

 

黒い空に瞬く星々、そして無残に散らかされた何かの機械のパーツ、その破片にペドーは僅かに既視感を覚えた。

 

「DEM社のバンダースナッチか?」

その事に気が付いた瞬間、ペドーの脳裏に瞬発的にイメージが連鎖的に繋がる。

 

「そうか、ウェすちゃまの野郎が精霊の場所を調べて、バンダースナッチを送り込んだのか。

そんで、速攻で失敗して逆に『精霊』を怒らせたって事だな。

行動力のある変態は何をするか分からんから、マジ困るぜ。

普通、精霊に会いに宇宙まで行くか?」

ペドーが納得しながらも、うんうん唸る。

 

「精霊、姿出ます!」

クルーの言葉通り、大量の残骸が突如開いた『穴』に吸い込まれて消える。

そしてきれいさっぱり残骸の無くなった宇宙の『ソレ』はいた。

黒と白の宇宙を彩る様に大量の金糸の髪が豊かにたなびいていた、そしてくるりとその子はこちらを見た。

身に纏う星座の様な物が描かれたドレス、手にする鍵の様な形の錫杖。

そして、()()()()()()()

 

「イェス!!イェェス!!いぇえああああああ!!!

琴里!!宇宙!!宇宙行こうぜ!!宇宙幼女に会いに宇宙行こ!!」

その場でペドーが激しく興奮する。

先ほどのウェすちゃまへの批判も何のその、ペドーは既に画面に映る幼女精霊にしか興味が無い様だった。

 

「「「「「…………」」」」」

琴里を含め、メンバーが何時ものペドーの発作を見守る。

最早見慣れた光景、何時もの日常。

なにも可笑しくない。

 

「や、やる気をだしてくれたみたいで嬉しいわね……

分かってる事はあの『鍵』みたいなので、ブラックホールみたいな空間を『開ける』能力ね。多分、あの残骸を能力で地球に送り込んだのよ。

データベースにも無い精霊だから、便宜上〈ゾディアック〉って私たちは呼んでるわ」

琴里が苦笑いを浮かべ若干早口で精霊の情報を伝える。

 

「いぇぇ――アレ?」

突如、ペドーの動きが止まる。

先ほどまで、あれほど荒ぶっていたペドーの豹変に皆が気が付く。

 

「あれ、あれ、あれれ?」

画面の向う、宇宙を漂う〈ゾディアック〉。

大量の髪が広がり、画像が引きで全体像が見えた時ペドーが固まる。

 

鮮やかな黄金色の長い髪――Good(良い)

 

薄桃色の星座の踊る中華風ドレス――Good(良い)

 

少し眠そうに見えるロリフェイス――Very good!!(すっげー好き)

 

だが、その胸部。

ドレスを持ち上げる巨大な二つの存在が多大な自己主張をしていた。

 

「う、うわぁああああああああ!!!」

ペドーが頭を抱え、その場でうずくまる!!

 

 

 

大気圏外よりもたらされた『ロリ巨乳』が引き起こした『宇宙堕肉(スカイウォール)』の惨劇から10秒!!

ペドーの脳内は『ロリならOK(東都)』『巨乳は無理(西都)』『人格次第じゃね?(北都)』に別れ、混迷を極めていた――!

 

 

 

「えっと……ペドー君、大丈夫ですか?」

一体何時から居たのか、神無月が心配そうにこちらを覗きこんでいた。

そしてその手にはヘッドギアの様な物を持っていた。

 

「い、いや、大丈夫です……一応保留ではありますが、ともかく前向きに検討という事で脳内会議は決定しましたから……」

良いとも言えない。しかし、駄目とも言えない。

そんなアンビバレンツな状況にペドーは酷く困惑していた。

 

「何を迷ってるかは知らないけど、とりあえず指を加えているだけじゃ始まらないわ。

第一に接触を持つことね」

琴里がチュッパチョップスの棒をピンと立たせる。

 

「精霊との接触に今回はコレを使います」

神無月がそう言いながら、さっきから手に持っていた機械を見せる。

 

「VRゴーグルですか?」

 

「確かに似ているかもしれないですが、ちょっと違います。

これを使ってペドー君の視界のこの映像を撮っているカメラとリンクさせます」

 

「あ、そっか……映像が有るって事はコレを撮ってる機械が有るって事ですよね?」

今更だが相手は宇宙の映像だ。超望遠レンズか何かで撮っていると言う訳ではないらしい。

 

「こうなる事を予測して、小型のリアライアを積んだカメラを近辺の宙域に送り込んでいたのよ」

 

「へぇ、宇宙って意外と簡単に行けるんだ……」

当たり前の様にやって見せる〈フラクシナス〉にペドーが声を漏らした。

 

「ではとりあえず……」

ペドーの頭に機械を乗せた、神無月が合図を送ると他のメンバーたちがコンソールを操作する。

 

トウエイ!!

 

妙にテンションの高い音声の後、ペドーの目の前にもう一人のペドーが映し出された。

 

「うぉ、すっげー」

 

『うぉ、すっげー』

一瞬遅れてのもう一人のペドーが声を発する。

 

「いえーい!やっほー」

 

『いえーい!やっほー』

 

「俺はもう、鏡の中の虚像なんかじゃない」

 

『俺はもう、鏡の中の虚像なんかじゃない』

 

「あそぶな!!うっとおしい!!」

調子に乗り出したペドーを琴里が叱り飛ばす。

 

「なるほど、このトウエイ!装置で、宇宙の精霊に声をかけるって事ですよね!

あれ、けど宇宙って空気が振動しないから音とか無いんじゃ――」

 

「五月蝿いわね!精霊のいる宇宙ではあるのよ!

呼吸するのに必要でしょうが、穴から空気だけ送ってるのよ!」

ペドーの指摘に琴里が乱暴に声を荒げる。

そのようすから、ペドーはこの話題はあまりつついてはいけないと理解した。

 

「話が一向に進まないから、急ぐわよ。

あの〈精霊〉がこれ以上何かをしないとは限らないんだから」

琴里の言葉に、メンバーが再度機械を操作し始める。

 

「ペドー君、これを。

映像のペドー君とほぼ同じ位置にいるドローンのカメラと視界を共有できるVRゴーグルです。

さっきの奴と合わせれば、まるで実際に会ってるかの様な形になります」

 

「ありがとうございます。神無月さん。

俺、行ってきます」

ゴーグルをかけたペドーの視界に飛び込んできたのは星々の瞬き。

 

「手元のリモコンで、カメラの位置を操作できます」

神無月の言葉に促されペドーが動かしてみると青く浮かぶ水の惑星が遥か眼下に見えた。

 

「すっげ……地球だ……本物は初めて見た……」

若干矛盾した表現と分かりつつも感嘆の声を漏らす。

そして背後に広がるのは無限の闇と光の世界。

 

「スッゲ!!宇宙だ!!リアル宇宙!!初めてきた!!

テンション上がるなー、まるでテーマパークに来たみたいだぜ!!」

実際には投影されてるだけなので、ペドーは宇宙には行っていないがテンションを上げるなという方が無理であろうことは想像に難くないだろう。

 

「ちょっと、目的忘れてないでしょうね?」

小さ指揮官様にせっつかれ、再度ペドーがカメラを動かす。

そして見つけた。

 

宇宙に浮かぶ、一人の少女――

 

「よ!」

 

「…………」

その少女がペドーの存在を認知した瞬間――!

 

シュッバッ!!

 

一条の光線がペドーの頭の有った場所を貫いた。

 

「ファッツ!?初手でヘッドショット!?マジか!!殺意クッソ高けぇ!!」

映像のペドーは当然、ダメージなど入りはしない。

だが、反射的に身を構えてしまうのはどうしようも無い。

 

余談だが、ヘッドショットされたペドーを見て琴里が小さくガッツポーズするのを神無月は見逃さなかった。

 

「いきなりDEM社に攻撃されたから、気が立ってるのよ。

まずは此方に敵意が無い事を証め――――あああああああああ!!!!

なんで、脱いでるのよ!!なんで、自分の下着に手を掛けてるのよ!!!」

 

「ふっ、敵意が無い事をを証明するには、まずはコレだろ」

手早く服を脱ぎ始めたペドーが琴里に言い返す。

その姿は上はシャツで下はズボンが半脱ぎという変態スタイルだった。

 

ロリコン・イン・ザ・スペース!!

 

『落ち着いてくれ、君を攻撃する意思は無いんだ』

コンソールに映ったペドーが精霊に向けて半脱ぎのままキメ顔をする。

そして、それを見た精霊は――

 

『ムチャクチャ攻撃してくるやん……』

立体のペドーの胸や首、顔面など明らかに致命傷になる位置を狙って金属片を飛ばしてくる。

まぁ、服装的に仕方ない。

むしろ当然の行為である。

 

「ペドー、変質者のままじゃ話てもらえる訳ないじゃない。

そろそろ学習しなさいよね。

全くあなたは!ちょっと、幼い系の子をみるとすぐに脱ぎだすんだから。

そのアクションを取って基本物事が好転しない事は分かってるでしょ?」

 

「……はい、反省します」

久々のガチ説教にペドーがシュンと項垂れる。

脱ぎ捨てた服を着なおしてその場で正座して反省を示す。

なお、いまだに映像は宇宙に飛ばされており、精霊の目の前ではシュンとしたペドーが宇宙空間で正座するという非常にシュールな絵が流れている。

 

「えっと……そろそろ、話聞いてくれない?」

次に精霊に話しかけた時、ペドーの股間を重点的に焼いていた極太ビームが消える。

 

「不思議じゃ、ヌシはなぜ死なぬのじゃ?」

眠そうな眼をペドーに向けて、初めて攻撃以外のリアクションを取る。

 

「うっほ、のじゃロリ!!」

 

「…………」

精霊がペドーの首を掴む。

 

ゴギッ(首の折れる音)

 

「死なぬなぁ……」

精霊は目の前の摩訶不思議な生物を眺めて改めて呟いた。




宇宙って声しないらしいですね。
びっくりです。


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