武偵の王子様 (石田金)
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genius1

Q.空から女の子が降ってくると思うか?

 

A.なるほど。SUNDAYじゃねーの

 

 

俺は遠山キンジ。ちょっとした事情があって東京武偵高校に嫌々ながら通っている高校生だ。何で嫌々なのかというとそれはそれは辛い過去があるからである。

 

身内関係の不幸って言えば分かってもらえるだろうか。誰よりも尊敬していた兄が亡くなったのだ。一年前に。武偵であったことが原因で。しかも命がけで戦ったはずの兄さんは何故か世間から無能の烙印を押された。・・・・・・その時のことはあまり思い出したくない。当時小学生だった俺の『弟』はワンワンひたすら泣くし、俺自身は悲しみと空虚感のせいで顔から表情が消えていた。

 

嫌にもなるだろう。家族が死んだんだぞ。自分の兄を殺された元凶である高校に通える人間っていると思うか? 中には兄を殺した犯人をこの手で捕まえてやるとか考える奴もいるかもしれない。だが生憎と俺はそこまで強い人間ではない。生きなくてはいけないんだ。死んだ兄の分まで。守らなくてはいけないんだ。残された弟を。

 

だから俺はとっとと武偵高校なんか辞めて一般校に転校するのだ。こんなクレイジーな奴らしかいない学校になんていつまでもいてられない。

 

普通の高校生になるんだ。友達と遊んだり、受験勉強に励んだりする普通の高校生に。

 

好きな部活をやるんだ。武偵校みたいに変なテニス部じゃなくて普通のテニス部に入ろう。『普通の』テニスプレイヤーになるんだ。分身したり、オーラを出したり、相手をスタンドに叩き込むような普通のテニスプレイヤーに。

 

そう思ってたんだけどなぁ・・・・・・。

 

「どうしてこうなった」

 

思わず呟いてしまったのは仕方ないと思う。俺は何か悪いことでもしたっけ。最近はバチが当たるようなことなんてしてないよな。春休みの間は平々凡々な暮らしをしていた。今日から弟の母校になる四天宝寺中学のテニス部員をKOしたくらいだ。楽しかったなあ。

 

だから俺は何も悪いことはしていない。幼なじみと色々あったりしてバスに乗り遅れただけなんだ。なのに俺は今、何かに追われていた。後ろを振り向く。

 

『この チャリ には爆弾 が 仕掛けられて ありやがります』

「へえ、セグウェイなんて風流だな」

 

俺も一度は乗ってみたいものだ。・・・・・・ってそんなことを言っている場合ではない。はあ、爆弾だと!? なんて物騒な物が仕込まれてるんだ。これが最近世間を騒がしている噂の『武偵殺し』の模倣犯か。本当にいるとは思わなかった。くそ、チャリジャックなんてありえないだろ。色々と無理があるぞ。だがもし本当に爆発なんてしたら何ヵ月入院コースになるかわからない。骨折くらいなら一週間あれば治るけどな。

 

『チャリを 降りやがったり 減速しやがったり したら 爆発しやがります』

「マジかよ!?」

 

ど、どうすれば良いんだ。スピードならいくらでも上げ続けられる自信はある。だがそれは足で走っている場合だけだ。自転車では車体の耐久的に出せる速度の限界があるぞ。このままじゃ本当に。ああ、誰か助けてくれ。あ、そうだ。警察とか武偵とか携帯で助けを呼べば良いんだ。こういう時のために携帯を買ったんだからな。なんて客観的に見たらとんでもなくアホなことを俺は考えていた。

 

『助け を 求めては いけません。ケータイを 使用した場合も 爆発しやがります』

「ははっ、だよなあ。・・・・・・ちくしょう!」

 

こうなってしまったら今の俺に出来ることは何もない。強いていうなら後方のセグウェイ。あれに知り合いの師範直伝『波動球』をぶちかますくらいだ。でも、仮にそれをやっても爆弾の方がどうにもならないので意味がない。今はただひたすらに自転車を漕ぐ。

 

さて、どうしたものか。とりあえず俺は人気のない場所に向かう。俺も武偵だ。爆発で多くの人を巻き込む、なんてことはあってはならない。最悪の事態だけは避けなくては。俺は始業式のため誰も使ってない第二グラウンドに向かう。全速力で。リズムに乗るくらい速く。

 

『追えないので 少し スピードを 落としやがって ください。あなたは 人間 やめて いやがりますか?』

「あ、はい。・・・・・・え?」

『大丈夫 もう限界値は 越えていやがります』

 

スピード落としたら爆発するんじゃなかったのか? 疑問に思いながらも僅かに足を緩める。爆発はしない。どうやらセグウェイの言っていることは本当だったようだ。しかし、俺はそんなに早く自転車を漕いでいただろうか。乗用車くらいのスピードしか出してないのだが。ま、いいか。

 

「さて、どうしたものか」

 

人気のないグラウンド。ここなら爆弾を爆発させても大丈夫だ。問題はどうやって俺がこの自転車から脱出するか、そこにある。無難にアクロバティックなバク宙で着地すれば良いか。無難に。でも、それをやったら後ろのセグウェイに蜂の巣にされるな。ならまずは波動球でセグウェイを破壊するか。出来ればこんなことにテニスは使いたくないんだが背に腹は代えられない。『普通』の俺ではベレッタの弾丸をセグウェイに当てられる自信はないからな。

 

「────!?」

 

この窮地を乗り越える算段を立てた俺の目にあるものが写った。一人の少女。グラウンド近くのマンションの屋上に一人の少女を見つけた。彼女はセグウェイに追われている俺の姿を確認すると屋上から飛び降りた。って飛び降りただと!?

 

「聞いたことがある・・・・・・。あれが噂のスカイダイビングで登校する中学生か」

 

都市伝説で聞いてはいたが本当にいるとは。度々関東圏で目撃されていたらしいがまさかこの学校にもそんな変人がいるとは思ってもいなかった。しかも、相手は女の子。肝が据わっているな。

 

「おい、遅刻しそうで急いでるのは分かるが離れろ。この自転車には爆弾が────」

「何も分かってないでしょ!? そこのバカ、さっさと頭を下げなさい!」

 

初対面で中学生にバカ呼ばわりされてしまった。確かに武偵にはバカも多いけど。来年には一般校に転校する俺 がその括りに入れられるのはショックだ。

 

というか俺が頭を下げるより早く銃撃するこの娘もかなりのバカじゃないか。危うく当たるところだったぞ。まあ当たったのはセグウェイだから良かったけど。しかし、飛びながらセグウェイを射撃するって凄いな。射程は通常の倍で飛んでいるからとんでもなく不安定な態勢のはずなのに。常人なら絶対に出来るはずのない所業を成し遂げるなんてこの少女は────

 

────いわゆる天才(genius)というヤツだな。

 

「助かった! おい、ここから離れろ! 後は自分で何とかする!」

「はあ? 何言ってるの!? どうやって脱出する気!? 引き上げるわよ!」

「必要ない! さっさと離れろ!」

「どうなっても知らないからねっ!」

 

女の子が離れたことを確認すると俺は自転車の速度を更に上げる。ある程度勢いをつけなくては自転車と距離をとることが出来ない。出来る限りの最高速度を出した瞬間、俺は後方に勢いよくバク宙した。

 

「上手くいったか?」

 

綺麗に着地した俺は全速力で走って自転車から離れる。乗り手をなくした自転車は転倒し、そして・・・・・・。

 

爆発した。

 

「うわっ!」

 

激しい爆風に俺は吹き飛ばされる。くっ、やはり本物の爆弾だったのか。師範の二拾壱式波動球を生身で食らった時にも匹敵するのは衝撃だ。俺は失速することなくゴロゴロと転がり、そのままグラウンドの片隅にある体育倉庫に激突した。

 

「いてて!」

 

俺は痛みで腰を押さえた。

 

「そうだ、あの女の子は?」

 

さっき俺が吹き飛ばされた時に女の子も一緒に飛ばされていた。途中までしか目で終えなかったがこの体育倉庫の中に突っ込んでいったな。無事だと良いんだが。

 

俺が恐る恐る倉庫の中に入ると女の子がぐったりと倒れていた。跳び箱の中で。

 

「おい! しっかりしろ!」

 

俺は慌てて彼女を揺さぶる。大丈夫だとは思うが万が一のこともある。しばらく揺さぶっていると女の子は瞼をパチリと開けた。良かった、無事みたいだな。

 

「ん、うう。あ、あんた無事だったの?」

「まあな。テニスやってるからな。あれくらい余裕だ」

「はあ?」

 

女の子の残念そうな視線が俺を射抜く。あれ、俺は今何か変なことを言っただろうか。どこもおかしいところはないと思うんだが。

「っ! 来なさい!」

「わっ、何すんだ!?」

 

女の子は俺を跳び箱の中に引っ張った。不意を打たれた俺は抵抗することも出来ずに引きずりこまれる。俺が抗議をしようとした瞬間跳び箱が激しく揺さぶられた。な、なんなんだ?

 

「まだ追っ手が残ってたのよ!」

「追っ手ってなんだよ?」

「あの変な二輪! 『武偵殺し』のオモチャよ!」

 

二輪ってことはさっきのセグウェイか・・・・・・。ってま、まさか銃撃されてたのか。女の子に引っ張っられてなかったら俺は死んでたかもしれない。俺は冷や汗を流れるのを感じた。

 

しかし武偵殺しだと? 武偵殺しはとっくに捕まっているはずだ。これは最近世間を騒がしている模倣犯ではないのか。この女の子は訳ありそうだし少し気になるな。特に武偵殺しは俺にとっても因縁がある相手だからな。

 

「助かった。ありがとう」

「礼はいいわよ! あんたも戦いなさい!」

「無茶を言わないでくれ。この狭い場所で二人で戦うのは無理だ」

「何とかしなさいよ! このままじゃあ火力負けする! 向こうは七台いるわ!」

 

嘘だろ。七台も銃が向けられてるっていうのか!?

 

「くそ、何とか追い払え! そしたら俺が前衛に出る!」

「言われなくても分かってるわよ! あんた頭を下げなさい!」

 

射撃がさして得意ではない俺はこんな所では戦えない。女の子は俺を強引に押し付けて射撃を開始した。あれ、ナニか柔らかい物が頭に当たっている。これってもしかして・・・・・・胸、か?

 

「おい、当たってる俺の頭に当たってる!?」

 

それを理解した瞬間頭の中に血液が上っていく感覚を覚えた。ヤバい。このままだと『アレ』になってしまう。それたけは避けなくては。俺は強引に女の子を押し退けた。

 

「っ!!? 何してんのよ!? 離れなさい! ヘンタイ! ヘンタイ!」

「お前が押し付けたんだろ!? いてて! 蹴るな!」

 

女の子は俺の頭をゲシゲシと蹴りまくる。ちょっと待った。この中学生本当に何者だよ。華奢な女の子とは思えない蹴りの威力だ。滅茶苦茶痛い。しかも、俺に蹴りを入れながらも正確にその銃はセグウェイを狙っているのだから恐ろしい。とんでもなく器用な女の子である。

 

「・・・・・・音が止んだな。倒した、って訳ではないよな」

「注文通り追い払ってやったわ! すぐに戻ってくるからさっさと行きなさい、この強猥魔!」

「待て待て待て待て! その呼び方は止めろ! こら、押し出すな!」

 

女の子に押し出される形で俺は跳び箱から追い出された。確かに胸に頭は当てたけど悪いの俺じゃないよな。なんで強猥魔扱いされてんだろう。完全に不可抗力なのに。あまりの理不尽さに自然とため息を吐いてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! あんた銃は!?」

 

背中のラケットケースに手を掛けた俺に女の子は目を見開く。彼女は知らないだろうが『今』の俺は銃よりこっちで戦った方が強いんだ。

 

「まあ見てろ。・・・・・・流石は体育倉庫だ。よし、これならいける!」

 

俺は目の前にあったテニスボールの山から7球をラケットの上に乗せる。

 

「7球同時打ち出来るか?」

 

不安に思いながらも体育倉庫から出た俺をセグウェイが取り囲む。7台のサブマシンガンの照準が俺に向けられる。その銃口から無数の銃撃が放たれた。

 

「当たるかよ!」

 

その瞬間、俺は7人に分身した。と言っても本当に7人いる訳ではない。実際に分身している忍者と違って原理は簡単だ。7人に見えるくらいに高速で移動しているだけ。これくらいテニスをやっていれば中学生でも出来るだろう。セグウェイは分身した俺に照準を合わすことが出来なくなり、棒立ちになった。

 

「『七式波動球』!」

 

俺の腕から必殺のパワーショットが放たれた。

 

ドゴォォォォォォォン!

 

打球は吸い寄せられるように7つのセグウェイに向かう。それに当たったセグウェイは跡形もなく粉々になる。流石は師範の必殺技。俺が打ってもセグウェイくらいなら簡単に破壊出来る威力だ。波動球。四天宝寺中学に通う石田銀の開発した必殺技。その威力は凄まじくセグウェイだろうと照明だろうと容易く砕く国内最高峰のパワーショットだ。これを打ち返せる中学生は全国区でも一握りだろうな。

 

「な、何今の!?」

 

女の子は波動球の威力に驚いている。

 

「ただのサーブだよ。あれくらいは中学生でも出来るぞ」

「はあ!? 中学生があんなの出来るの!?」

「筋力がある程度あればな」

 

そんなに驚くほどのことなのだろうか。波動球なんてただ威力がある技なだけで全然普通だ。所詮は中学生が生み出した技だからな。高校生なんてもっとえげつない技を使うぞ。

 

「ワケわかんない。最近の中学生はどうなってるの?」

「そんなに驚くことなのか?」

「驚くことよ。普通の中学生があんな芸当出来るなんて信じられないわ。本当はAランクの超偵なんじゃないの?」

「超能力なんて使ってない。何度も言わせんな。あれくらい中学生でも出来る。現に今日から中学生になる俺の弟はあれより威力ある技を打てるぞ。まだテニスを始めて数ヶ月でな」

「・・・・・・本当にワケわかんない」

 

女の子は混乱からか頭を押さえている。

 

「君だって中学生であんなとんでもない射撃をやってのけたじゃないか。それに比べれば波動球なんてただのテニスの技だぞ」

 

俺からしたら空を飛びながら正確な射撃が出来るこの女の子のが化け物だ。とてもじゃないが俺が中学生の頃に同じことを出来たとは思えない。中学生の俺が出来たのはせいぜい相手のガットを突き破るスマッシュを放つことくらいだ。大したことはない。今だって他人の真似事の技を使うくらいしか出来ないし。我が弟もそうだが最近の中学生は本当に天才のバーゲンセールだな。

 

「今なんて言った?」

「えっ? 波動球なんて『その前!』・・・・・・君だって中学生であんなとんでもない射撃をやってのけたじゃないか」

「はあ!?」

 

俺は一歩後ろに下がった。女の子から殺気が溢れだしている。

 

「あ! もしかして小学生だったのか!? ご、ごめんな。勝手に中学生とか言って悪かった。いや、弟と同じくらいだから勘違いしちまっ、たよ?」

「あんたみたいな無礼者・・・・・・助けるんじゃなかった・・・・・・!」

 

俺は女の子から背を向けて走り出した。殺気が溢れるどころか殺気そのものになった彼女にただならぬ雰囲気を感じたからだ。

 

バキュン!

 

その直感は当たる。女の子は俺に向けて発砲を始めた。

 

「何だよ!? 俺は何か悪いこと言ったか!?」

「あ た し は 高 二 だ !」

「はあ!? 高二!? まじで!?」

 

何という衝撃の事実。俺は思わず目を見開いて振り返る。女の子は顔を真っ赤にして激怒していた。

 

「見れば分かるでしょ!? この強猥魔!!」

 

銃撃の勢いは増す一方。分身してなければあっという間に鉛玉を背中にぶち込まれているだろう。というか何発かは既に身体を掠めている。やべえ、俺とんでもない娘を怒らせたみたいだ。

 

「ほんとごめん! ほんとに悪かった!! 許してくれ!」

「謝ったって許さないんだから! あたしはあんたをぼこぼこにして警察に突き出してやる!」

「やめろ! それは冤罪だ!」

 

もはや女の子は俺を完全に強猥魔として扱っているようだ。このままでは新学期早々前科持ちになってしまう。仕方ない。誤解は解きたいところだがここは逃げるしかないな。

 

「どっかであったら詫びは入れる。じゃあな」

「逃がさないわ! あたしは逃走した犯人を逃がしたことは! 一度も! ない!」

 

それが本当ならこの女の子はSランク武偵なのだろう。だとしたら『普通』の俺なんかじゃあ絶対に逃げ切れないな。だが今の俺でも逃げる手段がない訳ではない。アレを使えばいい。

 

「────なら俺が第一号だ」

 

俺は足に力を込める。『アイツ』の技なら例えFBIが百人いようと鷲に追いかけ回されようと逃げ切れる。その技の名を俺は叫ぶ。

 

「『疾きこと風の如しっ!』」

 

俺はみるみる女の子から離れていく。今の俺は文字通り風のように素早いからな。どれだけ強くても彼女が普通の人間である内は絶対に追うことが出来ないだろうな。そう思いながら俺は彼女の捨て台詞を聞き流す。

 

「卑怯者! でっかい風穴───あけてやるんだからぁ!」

 

それが俺と女の子『神崎・H・アリア』との世にも奇妙な出会い。後の戦いへの序曲だったのだ。だが俺はまだこれがとんでもない戦いの始まりとなることに気づいていなかった。俺がこの時に気づいていたのはある一つの驚愕の真実だけ。

 

 

 

 

 

 

 

神崎・H・アリア 『十六歳』

 

真田弦一郎 『十四歳』

 

 

俺はただその事実に驚愕するしかなかったのである。

 



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genius2

ストーリーは基本的に本筋以外はカットします


例の女の子を振り切って安心したのもつかの間。俺を待ち受けていたのはなんと例の女の子だった。あー・・・・・・なんか我ながらとんでもなくバカなことを言っている気がする。俺はどうしてこうなったか考え直す。

 

あれから頑張って走ったが俺は結局始業式には間に合わなかった。普通に登校していてもギリギリなタイミングだったしそれは仕方がないものとして割りきっておこう。事件の事後報告を済ました俺はトボトボとした足取りで教室に向かった。

 

それにしても、だ。わざわざ起こしに来てくれた幼なじみの白雪に悪いことをしてしまったな。一緒に行こうという誘いを断った結果がこれだもんなあ。何としても今回の事件については隠さないとならかいな。あいつは間違いなく自分のせいで俺がチャリジャックに巻き込まれたと思うだろう。こんなことなら一緒にバスに乗れば良かったな。そうしたら悲しむ顔の変わりに笑顔が見れたのに。ちょっとした罪悪感が俺の足を更に重くさせた。

 

教室に入った俺を待っていたのは更なる追い討ちだった。

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

真田よりも年上だという見た目は中学生の女の子────神崎・H・アリアが俺を指差して言った。おい、よりにもよって何で同じクラスなんだ。

 

「先生、あの娘の隣に座らせてください。・・・・・・武藤を」

「俺かよ!?」

 

俺は咄嗟に悪友である武藤を身代わりにしようとした。日頃から散々迷惑をかけられてるんだ。たまには迷惑をかけても文句は言うまい。

 

「あ、ならちょうど良いわ。ねえ、武藤。あたしの席とあんたの席交換しましょう」

 

逆効果だった。なんだか自然と席を交換する流れになってしまった気がする。え、ちょっと待ってくれ。俺はこれからずっとアリアを隣において授業をしないといけないのか。冗談はよしてくれよ。こんな初対面の人間を強猥魔扱いして発砲する女と隣になるなんて俺は嫌だぞ。俺は視線で武藤に助けを求める。友よ、俺と同調(シンクロ)するんだ。お前ならきっと俺の考えが分かるはずだ。一緒にダブルスやってる仲だろ。武藤は俺の視線に気づいたのかニカリと笑みを浮かべる。流石は俺の友人だ。

 

「いいよいいよ。全然いいよ! 良かったな、キンジ!なんか知らねえけどお前にも春が来たみたいだな! 先生、俺席代わります!」

「ちっ!」

 

何をノリノリで席を譲ろうとしているんだ、このアホは。嫌がっているのが分からないのか。いくらなんでも理解力がなさすぎる。所詮はただの知り合いか。

 

「おい、今明らかに舌打ちしたよな」

「してねえよ、シネ」

「今度はシネって言ったな」

「武藤コロス────いや、言ってねえよ」

「先生ー。遠山くんが僕を脅迫しまーす。俺、こんな人の隣にいたくないでーす」

「さあ神崎、俺の隣に来い! 一緒にこれから頑張ろうな!」

 

持つべき者は友達だな。こんな美少女の隣に座れるなんて俺は幸せだ。百八式波動球を腹に受けて不幸になる予定の武藤に比べたら本当に幸せ者である。

 

さて昼行灯のキンジだのなんだのとクラスメートの間でアダ名がついている俺と天才美少女帰国子女でSランク武偵のアリアが隣になったからには大変だ。バカの集まりである武偵校の生徒たちはバカのバカによ バカのための実にバカな大騒ぎを始める。俺はため息を吐く。あーあ、恐れていた通りの展開になってしまったな。だから嫌だったんだ。女の子と隣になるなんて。こうなったのも全部武藤が悪い。百八式波動球じゃなくてベレッタの弾丸をお見舞いしてやる。あれ、どっちのが威力あるんだろう?

「キ、キンジがこんは可愛い子といつの間に!?」

「テニスするしか脳のない奴だと思っていたのに!?」

 

案の定男どもは嫉妬(勘違い)でやかましい。

 

「そ、そんな!? 遠山くんが好きなのは白雪さんじゃないの!?」

「私はレキさんって聞いたよ!?」

「理子はクーくんって聞いたよ!?」

「私も白石くんだと良いなって思う!」

 

ちょっと待て。おかしいこと言ってるのが二人いるぞ。いや、全員おかしいこと言ってるけど。最後二つはおかしさのベクトル違うよな。何で俺が好きな人間の中に男が混ざってんの? 俺は色々あって女が苦手だけどノーマルだよ。プロフィールの好みのタイプにおとなしい女の子って書いてるんだよ。なのに何で白石が混ざってんだよ!? おかしいだろ! 特に推測じゃなくて願望の奴っ!

 

「私は弟の金太郎くんかな」

「それなら武藤くんでしょ。ダブルス組むなんて夫婦みたいなものだよ。これは完全にデキてるでしょ」

何なんだ、これは。お前らどこで俺の弟の存在を知った。あれか、去年の全国大会で財前を応援しに東京へ来た時か。流石は武偵。きっと探偵科の仕業だな。流石は探偵だ。情報が早いぜ。・・・・・・はあ、本当にこいつらイカれてるよ。俺はため息を吐く。

 

「俺はキンジとそんな仲じゃねえよ・・・・・・」

 

ああ、誰か助けてくれ。このままでは気が狂いそうだ。宇宙的な恐怖を感じた俺は頭を抱える。あ、アリアの席に移った武藤も頭抱えてるな。しかもちょっと泣きそうになってる。可哀想だし波動球はなしにしてやろう。ああ、誰でも良いから理子を筆頭に組み合わせで盛り上がってるそこの女性陣を何とかしてくれ。俺も内心で祈りを捧げていた。

 

ずきゅんずきゅん!

 

「恋愛だなんて・・・・・・くっだらない!」

 

俺たちを救ったのはアリアの発砲だった。

 

「全員覚えておきなさい! そういうバカなことを言う奴は・・・・・・風穴あけるわよ!」

 

この日、武藤の好みのタイプに気の強い女の子が新たに加わった、らしい。ところであれって恋愛についての会話だったのだろうか。俺にはクッソ汚い会話にしか聞こえなかったんだが。

 

 

夕方。

 

部活を終えて家に帰った俺は昼間のことを思い出す。

 

女子の噂話をこっそり聞いて分かったことだがアリアはどうやら俺のことを探っているらしい。しかも、朝から。つまりチャリジャックの事件の直後から彼女に俺はストーキングされているということだ。

 

勘弁してくれ。何が彼女のお眼鏡に叶ったというのだ。俺はただセグウェイをサーブで破壊しただけじゃないか。そんなのパワーテニスが得意な奴なら誰にだって出来るのに。我が弟や石田なら枕でもあんなオモチャ余裕で破壊出来るよ。

 

もしや本当に一目惚れとかのパターンか。いや、それはないか。白石みたいなイケメンならともかく俺だし。遠山三兄弟唯一の父親似である遠山キンジが一目惚れされることなんてあるはずがない。兄や弟と比べると俺かなり浮いてるからな。ならアリアはどうして俺を追いかけているんだ。目的は何か、気になるな。

 

気になると言えばチャリジャックの方も気になる『例』の事件の関係者である俺の自転車にわざわざ爆弾を設置するなんて偶然とは思えない。どうしても意図的な何かを感じてしまう。だがあの事件の犯人は捕まったはず。

単なる模倣犯だと良いのだが。

 

もしも、遺族として俺を狙ったとしたなら。これは少し不味いかもしれないな。じいちゃんやばあちゃん、それに金太郎が心配だ。後で連絡しよう。金太郎以外に。やられたらやり返せが座右の銘のあいつなら犯人を探す、とか言って首を突っ込みかねない。金太郎の代わりに白石か財前、それと顧問のオサムさんに気をつけるようにメールを送っておこう。

 

ピンポーン

 

あれこれ考えているとチャイムが鳴った。はて、こんな時間に誰だろう。新聞の勧誘か何かか。それとも後輩か。首を捻りながら俺は玄関に向かう。

 

「はい、どちら様ですか」

「遅い! あたしがチャイムを鳴らしたら5秒以内に出ること!」

「か、神崎? 何の用だ?」

「アリアでいいわよ」

 

疑問に答えは返ってこない。アリアは俺が呆然としていると部屋に荷物を置いてトイレに行ってしまった。

 

「ここ、男子寮なんだが」

 

誰か、誰か俺を助けてください。俺は静かにテニスをしたいだけなんです。

 

「あんたここ一人部屋なの?」

「ああ、だから一人にさせてくれ」

「まあ、いいわ」

 

俺が頭を抱えているとトイレから出てきたアリアが窓際へと向かう。なんなんだよ。本当にこの子は何がしたいんだ。誰か教えてくれ。意味が分からない。

 

「────キンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」

 

だから意味が分からないんだよ!

 




キンちゃんはテニスの実力は通常時で毛利寿三郎くらいです


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genius3

この作品のキンジは座右の銘が『雨が降ったら雨を楽しめ』となっております。

その内テニスの王子様風にキンジのプロフィールを作りたいと思っています。


翌日。

 

「言っとくけど俺は強襲科に戻る気はねえぞ。協力するのはともかくな」

 

朝食は幼なじみの白雪が作ってくれたタケノコごはんだ。俺はそれを食べながらアリアに言う。彼女が我が家に来襲したのはどうやら俺を仲間に引き入れたいからだと言う。それも探偵科から強襲科に戻らないといけないらしい。最も危険な強襲科に、だ。

 

無論断った。一般人を目指す俺は自ら死地に戻ったりはしない。それ以前に大会だって控えているのだ。怪我のリスクが高まる強襲科に戻るなんて馬鹿らしいにも程がある。

 

しかし、この天才のアリア様がそんな理由で納得してくれる訳がない。こいつは俺を家から追い出しやがった。なんだよ、頭を冷やせって。来客にそんなこと言われた時点で俺の頭の中はひえっひえだよ。

 

天才の考えることは訳が分からん。同じ天才でも常識人の財前とは大違いだ。おかげで俺は町内一周マラソンをすることになったぞ。良いトレーニングになったから良いけど。

 

結局アリアはそのまま俺の部屋に泊まった。強襲科に戻ってパーティーに入るまで意地でもここにいるらしい。うーん、それにしても男の部屋に女の子一人で泊まり込みとかそんな危険なことよく出来るな。女性が苦手な俺じゃなかったら何をするか分からないぞ。彼女の両親は怒らないのだろうか。

 

親も親で破天荒の可能性が高いな、これは。まあ世の中にはタバコ吸って他校の生徒の財布盗んでバイクに乗る中学生もいるし、それに比べればまだアリアはマシなのかもな。五十歩百歩だけど。

 

・・・・・・それにしてもこのタケノコごはん美味いな。白雪は本当に料理上手だ。昨日ランニングの途中に街中でばったりと再会した時は案の定凄く心配されたっけ。色々と弁明するのは大変だったけどこれが食えたならそれも悪くなかったかもな。

 

「ダメよ! あたしが強襲科って言ってるんだからあんたは強襲科に決まってるでしょ!」

 

美味かったはずのタケノコごはんが不味くなった。

 

 

アリアを何とかする作戦を練るために俺は依頼を引き受けた。

 

武偵校は単位の取り方が一般校と少し違う。この学校では通常授業だけで単位をとることは難しい。犯罪者を追う、要人警護をするなど長期的に出かけることになる生徒に配慮するためにそれらの任務達成と同時に単位をもらうことが出来る。

 

情けないがテニスバカである俺は頭もバカで成績が悪い。どれくらい悪いかというと授業時間=睡眠時間になってるくらいの頭の悪さである。遠山三兄弟は長男を除いて二人とも頭が悪い。なんと二人揃って苦手な教科が主要五教科だ。

 

そんなバカな俺みたいな生徒にはこの制度はとてもありがたい限りである。勉強しないでテニスしまくってても無事に進級出来るなんて素晴らしい。・・・・・・あれ? 俺はこの学校から転校して本当に大丈夫なのだろうか。

 

まあ良いや。という訳で俺は猫探しの依頼を引き受けたのだ。それにしても猫を見つけて捕まえるだけで単位がもらえるなんて楽だな。『ほぁらー』と特徴的な鳴き声をしている猫なんて限られているし。

 

「キーンジ」

 

何故か専門棟の外で待ち構えていたアリアに俺は肩を落とした。あー、もう出会い頭に波動球ぶちかます作戦で良いかな? 考えるの面倒だ。待ち伏せされていた俺は投げやり気味にそう思った。

 

「なんでここにいるんだよ」

「あんたがここにいるからよ」

「答えになってねーよ。なんで授業サボってんだよ」

「あたしはもう卒業出来るだけの単位を揃えてるもんね」

「へー」

 

舌を出してあかんべーとやったアリアに俺は気の抜けた返事をした。別にこの女の単位事情なんて知ったこっちゃない。こちとら毎年数多くの補修を乗り越えてきてるんだ。優等生の自慢なんか本気でどうでもいいんだよ。

 

「ほら、さっさと依頼を教えなさい。行くわよ、このバカキンジ!」

 

俺があまりに無反応だったことに機嫌を悪くしたのかアリアは足を蹴って言った。どうでもいいがすぐに人に暴力を振るう癖は治さないと他人に嫌われるぞ。もう手遅れかもしれんが。

 

「え、手伝ってくれんの?」

「そんな訳ないでしょ! あんたの腕を確かめんのよ!」

「猫探しで何の腕を確かめるんだよ」

 

テニスを武力と勘違いしたりおかしいぞ。今さらだけとこの子もしかしてバカなんじゃないか。俺は適当な会話をアリアとしながら猫探しへと向かう。

 

「あんたどういう推理で猫を探すの?」

「猫の気持ちになって探す予定だ。公園や路地裏が特に怪しいと思う」

「ただ単に猫の行きそうな場所をぶらぶら行くだけじゃないの。推理が苦手なあたしでも出来るわ」

 

逆に推理が得意な奴はどうやって迷子の猫を探すのだろうか。疑問である。

 

「お前推理は出来ないんだな」

「そうなの。一番の特徴は遺伝しなかったのよねえ」

「ふーん、お前の家系って探偵だったのか」

 

どの探偵だろう。ハーフっぽいし案外著名な探偵とかだったりして。あ、ちなみに俺は侍の家系である。今でこそ遠山家に生まれたことを少し後悔してるけど小学校の頃はこれだけでヒーローになれて嬉しかったな。パイロットのお父さんとかの系列に近いよな、侍の家系って。子どもの憧れってヤツ。中学校ではその家系のせいで最悪な目にあったけど。

 

「それよりお腹すいたんだけど」

「マジで。実は俺も飯食ってないんだよ」

「あたしは食べたけど減ったー。なんかおごって♪」

「おいおい。・・・・・・たく、しょうがねえなあ」

 

その辺でハンバーガーでも買うか。こうしてアリアを見ているとまるで妹が出来たみたいだ。弟の金太郎は大食いでワガママだから昔はよくお菓子とか買ってやったっけ。ほんの少しだけ高校生のアリアに小学生の頃の金太郎を重ねた俺は財布を開けるのであった。

 

「ほら買ってきたぞ」

「ありがとっ!」

「落ち着いて食べろよ。喉に詰まるぞ」

 

上機嫌でせっせとハンバーガーを食べるアリアに俺はますます金太郎の姿を重ねる。もしかしたら似ているのかもな、アリアと金太郎は。

 

「さ、食ったらまた猫探しだ」

「ん、分かった。・・・・・・やっぱりちょっとだけ手伝うわ」

「サンキュー」

 

それにしても猫は何処に行ったのだろうか。公園にいると思ったんだけどな。街中にいるとしたら常に動き回ってるのだろう。楽な依頼かと思ったが骨が折れそうだな、これは。まあ、アリアが手伝ってくれるというならきっと早く見つかるさ。俺は気楽に構えることにした。

 

夕方。

 

あれから数時間の間、迷子の猫を探し回った。

 

わざわざ街中に行く必要はなかった。迷子の猫は昼を食べた公園の端、ドブというか運河というかの水辺にいたのだ。

 

『ほぁらー』

 

資料にあった鳴き声だな。タヌキっぽい見た目も一致している。これは間違いなく依頼人の猫『カルピン』だ。

 

「か、可愛い」

 

アリアはカルピンの見た目が気にいったのか目を輝かす。意外と可愛いもの好きなんだな。拳銃を持ってる時とは大違いだ。

 

「ほーら、カルピン。こっちにおいでー」

 

俺は出来る限りの作り笑顔でカルピンに近づく。カルピンは人懐っこいのか喜んで俺の腕の中に飛び込んだ。結構警戒されると思ったんだけどな。武偵って火薬のニオイとかするし。それだけ人に慣れているってことか。

 

「ちょ、ちょっとキンジ! あたしに抱かせなさい!」

「あ、おいおい。俺が依頼主に届けるんだぞ」

「届ける時だけあんたが抱いてればいいでしょ」

 

アリアは俺からカルピンを引ったくると上機嫌で依頼人の家へと足を進めた。

 

 

「おー、でっけえ家だな」

 

依頼主の家はかなりの大きさの屋敷だった。一目で裕福家庭なのだと分かるレベルだ。

 

「そう? これくらい普通でしょ。むしろ少し小さいくらいよ」

「これで小さいって。お前どんな家で暮らしてるんだよ?」

「武偵ならそれくらい自分で調べなさいよ」

 

自分で調べたらそれは法律を守らなければならない武偵として失格ではないか。俺は少し疑問に思う。

 

「お前、絶対に依頼主に失礼な態度とるなよ」

「言われなくても分かってるわよ」

 

本当に分かっているのだろうか。俺がその場にいるかはさておきいつか絶対にこいつ依頼主に失礼な態度とるよ。間違いなく。その姿が余裕で予想つくな。名残惜しそうにカルピンを見つめるアリアを横目に俺は呼び鈴を鳴らす。暫く待つと「はーい」という女性の声が聞こえた。

「あら、あなたたちは?」

 

依頼人と思われる女性が玄関の前にやって来る。ちょっと白雪に似た雰囲気のある美人な女性が俺たちを迎え入れる。俺、こういうタイプの女の人が結構好みなんだよな。

 

「武偵です。ご依頼のカルピンさんを見つけて参りました」

「それはお疲れ様です。少し待っていてください。リョーマさーん」

 

依頼人はこの女性ではないのか。彼女は家の中へと入っていった。暫く待っているとドタドタと慌ただしい足音が聞こえる。

 

「カルピン!」

 

俺の弟くらいの少年『越前リョーマ』くんが血相を変えて玄関にやって来た。

 

『ほぁらー!』

 

カルピンは嬉しそうな笑顔を浮かべて越前くんの腕に飛び込んだ。越前くんも嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「ありがとう」

「どういたしまして。これくらいお安い御用ですから。もう飼い主に迷惑をかけちゃダメよ、カルピン」

『ほぁらー』

 

アリアはカルピンの頭を撫でると越前くんに笑顔を浮かべる。誰だ、こいつ。俺と依頼人との落差が激しすぎるぞ。いや、きちんと約束を守っただけなんだけどな。

 

「あ、そうだ。越前くんもテニスやってるのか?」

「まあね」

 

庭にテニスコートがあると思ったらやっぱりか。関係ないけどこの越前くんもアリアに負けず劣らずの失礼な奴だな。パッと見同い年のアリアにため口なのはまだ分かるけど俺は明らかに年上だよな。まあ生意気盛りな年頃だから可愛いもんか。金太郎もやたらと年上にため口訊いてるし。敬語なんて大人になる内に自然と身に付けるもんだからな。

 

「あんたもテニスやってんの?」

「ああ、結構腕に自信はあるぞ。一昨年の中学生テニス全国大会で優勝した選手にも勝ったことがある」

 

俺はそれまで全てストレート勝ちだったあの常勝立海大付属に唯一土を付けた男なのだ。まあ、あの時の俺は『アレ』になっていたから普通に戦ってたらどうなっていたか分からないけど。あの力は正直反則だ。アレになれば俺は無敗記録保持者の幸村精一ですらおそらく倒せるだろう。

 

「ふーん」

 

越前くんは興味深そうに俺を見る。なんか嫌な予感がするな。俺は僅かに後ずさる。

 

「ねえ、あんた俺と勝負してよ」

「・・・・・・え?」

 

何言ってんの、この子?

 

 




※キンちゃんはテニヌ使いなのでまだ普通のテニスしていた頃のリョーマくんでは絶対に勝てません。つまり次回は思いっきりダイジェストになります。

一応ヒステリアモードは最大時で天衣無縫の極みと同じくらいの強さを想定しています。金太郎はヒステリアがあるので原作より遥かに強化されてます。はっきり言ってチートです。キンジ以上のバランスブレイカーになっています


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