平和な世界での守護者の投影 (ケリー)
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無銘の英雄

――― 体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death.)

 

ただの一度も理解されない(Nor known to Life.)

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons.)

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything.)

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.)

 

 

背中が見える。

 

薄暗い荒野の丘の上に・・・・・そのものはいた。

180を超える長身に鍛え抜かれた身体。

灰のように枯れた白髪に黒いボディーアーマー。

上下で分かれている真紅の外套。

背中には無数の剣が突き刺さって__否、突き出ていた。柄もなくただ見えるのはその刀身のみ。

 

その様はまるで生えているかのよう。

 

背中から生えている刀身のみと思われていたが柄のある剣が二つ、その両の手にはあった。

大極図が描かれた白と黒の中国刀。

表裏一体のようなその剣だけはその背中から生えているのではなく握られていた。

 

 

血液が身体全体を覆い、両手の中国刀から一滴、一摘一定のリズムで重力に従い流れ落ちていた。

かなりの血液を失って見えるそのものはそれでもなお、その両足を地面に縫い付けてるように立っている。

 

まるで決して倒れないと、

 

決して落ちないと

 

決して諦めないと言わんばかりの気迫がその背中から伝わってくる。

 

死んでもおかしくないような重症なのに、

立つことさえ辛いのにその赤い背中は崩れ落ちることはなかった。

 

時間が流れる感覚さえも忘れてしまいそうなほどの光景の奥__そのものの対角線上には巨大な歯車がまるでそこにあるのが当然とばかりに空に浮かんでいた。

それだけではなく、周りには幾つもの剣が荒野に突き刺さっていた。

十や百ではなく、千でもない。

 

数えるのが馬鹿になるくらいの大小様々な剣がまるで墓標のようにそこにあった。

地平線のかなたまで続いていくその光景は、いったいどこまで続くのか。

例えるのならそれは無限。

 

無限とも言える剣たちが淡々と荒野の至る所に突き刺さっていた。

 

しかし、目に映るのは剣だけではなかった。

 

剣の下。

 

目に見える範囲には何千もの死。

剣の下敷きにされるように、人間のようなものが地に身体を伏せていた。

面積すべてを覆うほどの刀剣が身体に突き刺さっている。

あたり一面は血の海。

炎のように赤く、薄暗い世界では、目に見える範囲すべてに死が充満していた。

 

脈があるように見えるものは一人もいない。

 

丘の上にいるもの以外に生き物の気配はなく、あるのは操り師をなくした人形のように倒れ付す人のようなもの。

 

そのような世界にいるのにただ一人立っているそのものは、堂々と、まるで王のように一番高いところにたたずんでいた。

 

そのものが勝者であるかのように

まるでこの世界が自分のもののように、独り、そこに存在していた。

 

残酷な光景の中にいるのに、その背中を見ていると不思議と恐怖はわいてこない。

しかし、安心とは別に、その背中からは痛いほどに悲しみを感じられた。

 

この場にいることが苦痛であるかのように。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

世界には、色々な伝説や神話がある。

アーサー王伝説、

アルスター伝説、

伝説の剣客、

ギリシア神話などとそのような話は数知れず、世界の様々な場所で語り継がれている。

 

伝説の中には様々な人物が登場し、大抵の者では成し得ない偉業をこなしてきた。

そのように通常では困難な出来事を乗り越えてきたものを人はこう呼ぶ。

 

 

『英雄』と。

 

 

伝説に登場する人物はそれぞれ自分の名前が未来へと語り継がれていた。

その身はもうこの世にはなかろうと、その名は今でもこの世界を生き続けている。

 

しかし、

 

名が当たり前のように出てくる伝説の中ではその名が定まらないものもいた、そもそも名すら明記されないものもある。

 

その中でも、特に謎に包まれている伝説が一つ・・・・・世界の至る所にあった。

 

 

 

そのものは遥か昔、人類が絶望を味わった時代にふと、なんの前触れもなく現れた。

 

人類が人ならざる者によって襲われていた時に救世主が姿を見せた。

 

ある時代、死人(しびと)が急に現れ、その数を殖やしていった。

その繁殖速度は異常で、人々にはそれを防ぐ方法が皆無であった。

 

その死人は人よりも身体能力が高く、攻撃は当たることが殆どない。

たとえ当たったとしてもその傷口はすぐに塞がり返り討ちにされてしまう。

もうなすすべもなく人類は滅んでいくのかと思われたその時。

 

ある一人の男が舞い降りた。

 

漆黒のボディーアーマーに、上下に分かれた真っ赤な外套、手には黒塗りの巨大な弓と細長い剣のような矢。

髪は人のものではなさそうな白髪であったとされている。

 

顔や肌の色は誰も覚えてはおらず。語られる場所によってその容姿は様々であった。

 

唯一覚えていたのは獲物を狙う鷹のようなその双眼のみ。

 

見た目の情報はそれしかなく、話によっては差異が激しかった。

 

しかし、容姿での異なりはあるが、そのものが残した伝説はどれも同じであった。

 

曰く、彼のものは驚異的に増えてきた死人が人類を滅ぼそうとした時に風のように現れ、たった一人でその全てを殲滅したらしい。

 

彼のものが使う武器は数知れず、それはまるで無限のように浮かび上がり、雨のように降らせていたとか。さらにはそのものが矢を弓につがえれば矢は外れることなく吸い込まれるように全ての敵を射殺し、従えるようにある剣を使って死なぬはずの死人たちを次々と葬っていった。

 

様々な武器を使う彼であったがその中でも多く目にされていた武器がその身長を超えるような大きな弓と両の手で振るう黒と白の陰陽剣であった。

 

無限の武器を手にして、その身を焦がしながらもそのものは生き残り、全てを殺しつくした。

 

その姿は様々な国で目撃され、どのように大陸をこえていたのかは不明。

故に、どこのものなのかも不明。

 

まるで瞬間移動のように新たなる絶望の地へと足を踏みしめ、その全てを消し去っていった。

人々にとってはその姿はまさに救世主であった。

 

しかし、名前も出身国も容姿さえも一切不明であり。

その全てが謎につつまれていた。

 

彼のものがどのように姿を消していったのかも分からず、残るのは命が終わった死人のみ。

 

だが正体は不明でも彼が残していった功績は多く、人々は彼を英雄として祭り上げ、未来へと語り継ぐのであった。

 

名も分からぬその英雄は『錬鉄の英雄』、『無銘の英雄』、『無限の剣の担い手』、『紅い弓兵』、『不死殺しの救世主』、そして

 

 

『正義の味方』として今もなお語られるのであった。

 




いつかになるかは分かりませんが、キャラ設定も書きます。



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夢じゃない夢

夢を見た。

 

 

 

 

最初に見えたのは真っ黒な太陽とあたり一面を覆う炎と死。

建物だったものは崩れ落ち、文字通りこの一帯は火の海と化していた。

肌で感じるチリチリとした針でつつかれるような熱と異様に鼻につく何かが焼ける臭いがする。

臭いの源をみるとそこには真っ黒焦げになった人だったもの。

血と肉が焼けるような激臭が鼻を通り、腹のそこからくる嘔吐感を必死にこらえる。

息をしようにも炎で酸素が消え去り、くるのは喉を焼くような鋭い痛みのみ。

呼吸も満足にできない状況で目眩が襲い掛かり、歩くのを中断されそうになった。

痛みと熱と目眩により歩く速度はだんだんと遅くなる。

 

 

周りからは人々の悲鳴や助けを呼ぶ声などが聞こえるが、まるで聞こえないとばかりに歩き続ける。

何を考えてるいるのかも自分では分からずただただ、歩き続けていた。

どこかを目指しているわけでもなく、誰かを探しているわけでもない。

 

 

頭の中は空っぽであり、自分でも何をしているのかは分からない。

ただ、歩かねばと身体が勝手に前へと進み続ける。

 

 

色々な物を失い、色々な者も失い、色々なモノさえも失った。

 

 

置き去りにした人は数えてすらいない、

いたのかさえ分からない。

 

 

ただ歩くのみだった。

 

しかし、この小さな身はこの環境でそう長くは続かずついには崩れ落ちてしまった。

痛かった身体はさらに悲鳴を上げるが痛がる体力もない。

 

体感的には長いこと横になっていたが、実際にはそう長い時間経っていないのだろう。

しばらく仰向けになっていると雨が降り出していた。

 

これで少しは火がおさまるだろうと考えながら、幾分か戻ってきた酸素のおかげで多少呼吸が楽になった。

 

酸素がもどったからと言ってもこの身に残った傷が癒えるわけでもないし体力も戻るわけでもない。このままだといつか命の灯火も一緒に消えてしまうだろう。

 

火傷と怪我のせいで身体に降り注ぐ雨はあまり感じない。ろくに回らない頭はただただ現実を焼き付けるだけであった。

 

 

幼い身でも分かった。

 

 

このままだと死ぬと・・・・しかし、恐怖はなかった。否、感じることができなかった。この地獄がこの身を襲ってからは感情なんてものは消え、頭も心も空っぽになっていた。

 

しかし、何を思ったのかこの手は空へと伸ばされていた。まるで生を掴み取るように、希望を捨てないように、星々をつかむように。

 

だが、もとより限界であった体力であげた手はそう長く上がらなかった。力尽きるように落ちていくその手をみながら自分は助からないだろうと思った。するとガシッと誰かが自分の手を掴んだ感覚がした。落ちていく瞼を再び開けてみるとそこには心底うれしそうに、グシャグシャな顔で自分の顔を覗き込む表情が見えた。

 

「よかった・・・・・・」

 

っと小さく聞こえた。思わず聞き逃しそうなほど小さな声、まるでつぶやくようなその声は雨の音の中からかろうじて聞こえた。

 

「よかった。」

 

今度ははっきりと自分の手を両手で包みながら誰にむかってか言った。

自分を見ながら言っているのだから自分に言っているのだろうと思うはずだがなぜかそれ以外の誰かにも言っているように聞こえてしまった。

 

「生きている。」

 

虚ろな視界からは大人気なく泣くよく知る人物の顔が見える。

自分がまだ生きていると分かると確認するかのように生きていると呟き続ける。

 

「ありがとう・・・・・・」

 

自分の両手を掴んだままその人(爺さん)はさらに顔を歪めて泣きながら感謝する。助けられているのは自分のほうなのになぜかその人はしきりに ありがとう ありがとう っとお礼の言葉を言い続ける。

救われているのは自分のほうなのに・・・・・・彼はなおも自分に感謝していた。

確かに自分は彼に救われているのだろう。

しかし・・・・・なぜか“オレ”は彼こそが救われているように感じた。

 

「生きててくれて・・・・・本当にありがとう」

 

オレが救われることで自分が救われた。

 

そのように、オレは思えてしかたなかった。

 

その救われたような表情を最後に、オレの意識は闇へと沈むのであった。

 




伏線ってほどでもないけど ちょっとした何かが混ざってますね。当てれるかな?


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守護者の記憶と自分の記憶

目覚めは最悪と言ってもよかった。

 

目覚めたばかりだというのに意識ははっきりしており、眠気もなく、心臓も運動後のようにバクバクと忙しなく鼓動している。少しでも身じろぐと汗で湿った寝巻きが身体に張り付いて気持ち悪い。よく見ると布団のシーツや枕にも水でも吹っかけられたかと思うほどに湿っていた。これが全て自分の汗だとすると脱水症状がおきてもおかしくない。

 

その証拠というように、身体は水分を求めている。しかし欲しているのも分かっているのに自分はすぐに起きて水を取りに入ったりはしない。今はそのことよりも別のことに頭がいっているらしい。それというのもつい先ほどまで見ていたであろう夢の仕業(せい)であった。

 

まず、夢だというのにやけにはっきりと覚えている、まるで映画でも見終わった後のように鮮明に夢の内容が浮かび上がる。これほどまでに夢を記憶しているというのもおかしいがそれよりも信じられないようなことがあった。

 

夢であるはずなのにその時に感じた痛み、熱、苦しみ、臭いや感触まで残っている。残っているよりも夢を見ている間にそのような感覚があるほうがおかしい。あれは夢のはずだ、現に自分は布団の上に寝巻きのまま起き上がっている。自身の寝巻き姿も部屋の置物や部屋自体も昨晩自分が眠る前の記憶と合致している。なので先ほどまでの出来事が全て夢であったのは確実である。

 

しかしそれだとやはり夢の内容と感じた感覚に疑問をもたずにはいられない。夢の中であるはずなのに痛みなどを感じたことに数秒思考を張り巡らせていると_ふと思う。

 

夢の内容に見覚えがありすぎる。

 

はっきりと覚えている夢の内容をもう一度振り返る。

その刹那にまた痛みや苦しみを思い出したりして顔をしかめたりもしたが構わずに夢の内容を一つ一つたどっていく。

映像を巻き戻すようにはじめから思い出してみるとやはりと言うか、その内容に覚えがある自分がいる。地獄のような光景に経験_無我夢中になって思考を空にしならがら歩き続けた自分_助けを呼ぶ声も悲痛の叫びも振り切りただただ歩き続ける自分_そして仕舞いには救われたような顔をした自分の義父。

 

 

そこで ハッと思考の海から這い上がる。

 

 

目覚める前に見た最後の光景をもう一度ゆっくりと確実に思い出す。雨が降る中、炎によって破壊しつくしされた建物を必死に掻き分け、手を伸ばす少年へと駆け寄るその身を黒に染めた男性。自分の手が汚れるのも気にせずに少年の煤だらけの手を握り、顔をグシャグシャに歪めながら少年に感謝する自分の義父。

 

「っいや、違う!あの時は確かアイリさんも__」

 

__あの時、確か隣には義母のアイリスフィールもっ

 

「あの時?」

 

その瞬間、金槌にでも殴られたかのような衝撃が自分の頭を襲う。実際に何かが衝突したわけではないが自分の中で何かがはじけとんだような感覚が残る。突然襲い掛かる頭痛に両手で頭を押さえるが、頭痛は治まるどころかさらに加速するように襲い掛かる。

 

『よか_た!生きて__』

『ほん_うに!』

『あ_!ア_リ、ちゃんと息が_』

『でも、このままじゃ_』

『仕方が__い、さ__う__』

 

「グァっ!!」

 

より一層に凄まじい頭痛と共に脳裏に様々な映像が流れこんでくる。しかしその映像にはなんの疑問などわいてこなかった、まるで元に戻るようにスッとなんの違和感もなく自分の記憶へと刻み込まれるその映像。しかし流れてくるのはそれだけではなかった。

 

並び立つ二人の影。一人は黒一色のコートにそれと同色の目と髪、もう一人は鮮やかな銀色の長髪に値が張りそうなドレス。お互いに必死に炎の災害地を走り回り、誰かいないかを探している。その先には自分がいて__いやそれと同時に違う映像が流れ込む。夢と同じように一人で炎の道を痛む身体に鞭打って歩き続ける自分、助けを呼ぶ声を無視する自分、足りない酸素に咳き込む自分、人だったものを跨ぐ自分。

 

その内容は先ほど見た夢と瓜二つに見えるが所々違う箇所がいくつか存在する。

 

一気になだれ込むように入ってくる情報と平行して続く頭痛。体中からあふれ出る汗など気にもせずにもがきだすが本人にも自分が何をしているかは分かっていないのだろう。痛みと苦しみによってもれ出る苦痛の声が部屋へと鳴り響く。それと同時に聞こえるドアを開ける小さな音。実際には苦痛により本人には聞こえてなどいなかった。

 

「シロウ?__シロウ!!!」

 

長い銀色の髪を一つにまとめ、エプロン姿で現れたのはこの家の家政婦である女性。なかなか起きて来ない長男を不思議に思い、部屋まで起しに来てみればドアの向こうから聞こえるかみ殺したような声にさらに首をかしげいざ入ってみると長男の様子に驚愕する。

 

両手で頭を押さえながら苦しむ長男を見てみると、尋常ではないほどの汗を流しているのが額と肌に張り付いている寝巻きを見れば分かる。よく見てみると布団までもぐっしょりと長男を中心に円を描くように湿っていた。その状態を見てどれほどの量の汗を流してきたのかが分かり、顔を青くする。

 

本気で苦しみだす長男を目にした後、何が原因かは分からないが家政婦である女性、セラはすぐに少年を持ち上げる。持ち上げる際にまるでずぶぬれのタオルを抱いているような感覚に再度彼の状況に驚愕し、急いで彼を下の階まで運ぶ。その際に乾いたタオルや着替えなどを手にすることを忘れずに迅速に行動する。進む間に本人に原因を探るセラだが。

 

「大丈夫ですかシロウ!いったい何があったのですか!」

 

しかしその問いには予想はしていたが帰ってくるのは悲痛による声のみ。運ばれている間も彼は頭を抑え痛みを振り払うように頭を振り続ける。

すぐに下の階へと降り立つと先ほどのセラの叫びに何かを察したのか彼女の双子の片割れであるこの家のもう一人の家政婦であるリーゼリットがセラの下へと近寄る。

 

「セラ、いったい何が・・・」

 

セラの腕の中で苦しむシロウを見つめながら問うがセラは分かりませんと返す。

 

「原因は分かりませんがこのままでは危険です。まずかなりの水分を失っているはずなので、すぐにでも水分補給を、さらにぬれたままでは風邪をひいてしまうので身体を拭いてすぐに着替えさせなければ」

 

腕の中のシロウをリーゼリットに渡し、セラは家の中の電話機へと急ぐ。

 

(あの苦しみ様は尋常ではない、何が原因かは分かりませんがこのままではよくないことは確かです。まずは奥様達にこのことを一刻も早く連絡し、その間まではこちらでできるだけのことをやるしかありません。)

 

苦い顔をしながら電話機へと急ぐセラであったがその前に小さな少女が現れる。

 

セラのように綺麗できめ細かい銀髪に緋色の瞳、小さいながらも整った顔立ちに十人が十人全員が美少女と答えるであろう容姿の彼女、年は5、6歳ほどの長女のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは心配そうな顔でセラの前に立つ。

 

「セラ、何かあったの?」

 

舌足らずながらもその声は透き通るように聞こえる。まだ幼い彼女ではあるがセラの切羽詰った表情から何かを察したのかその声は若干震えていた。

そんな少女は彼女の義理の兄であるシロウによく懐いている。それこそ仲がよすぎると思われるほどに。そんな兄が大好きな彼女にこの状況を言うべきか一瞬迷うセラであったがここで誤魔化してもいずれバレた時にかえって問題を起しかねない。瞬時にその答えを思い浮かべたセラはイリヤを余計に心配させないようにできるだけ落ち着いた声色で目線を合わせるようにしゃがみこんで言う。

 

「原因は分かりませんがシロウが大変なのです。私は奥様達にこのことを連絡しなければいけないのでイリヤ様は彼のお側にいてあげてください。今はリズが面倒を見ているはずです。」

 

そうセラが言うとイリヤは青ざめた顔ですぐさまシロウの元へと走り出す。本来ならその行為を注意しなければいけないが今はそんなことを一々注意している場合ではないと頭を振り、すぐさま受話器へと手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロウの義父である衛宮切嗣と義母のアイリスフィール・フォン・アインツベルンに連絡を終えた後、セラはすぐさまシロウの元へと戻った。

 

居間へとつながる扉を開けるとセラがまず目にしたのはソファに横になりいまだに苦しみによって顔をしかめているシロウとその兄の手を瞳に涙を浮かべながら握る妹のイリヤの姿だった。

 

シロウの姿を見てみるとどうやらリズはセラと別れる前に口にしたことを一通りやってくれたらしく彼は寝巻きから着替えさせられていた。リズはと言うと今は台所からコップに水を入れているところであった。

 

セラもすぐさまシロウの元へと足を進めて再度シロウの状態を確かめる。体は熱いが病気などの熱であるわけではなく、風邪があるわけでもない。かといって外傷なども見当たらずやはり原因は分からないの一言。

 

どうするかと考え込んでいると背後からリズが水の入ったコップを手渡してきた。

 

「ありがとうございますリズ。一応聞きますがこのことに何か心当たりなどはありますか?」

 

そのセラの言葉にリズはフルフルと首を振って答える。予想はしていたが何か分かるかもと少しばかり期待していたその思いもあっさり砕け散る。

 

このまま思考を重ねていてもすぐに答えが出るわけでもないのでまずは手に持った水をシロウに飲ませようとする。

 

「シロウ、つらいかも知れませんが水を飲まないとさらに良からぬことが起こる可能性があるので飲んでください。」

 

そう言ってシロウの後頭部を手で支えながら彼の喉の奥へと水を流し込む。どうやらちゃんとこちらの言葉は聞こえていたようで少しずつだが飲んでくれた。

しかし簡単には飲めないらしくいくらかは吐き出して咳き込んでしまった。

 

だが、水分補給はできたのでとりあえずコップを横へと置き、改めてシロウにたずねる。

 

「シロウ、この状態に何か心当たりがあったりしますか?」

 

尋ねては見たがシロウは苦痛の声を漏らしながら痛みに耐えるので必死で何も答えは返ってこなかった。

 

答えられないほどの状態だということしか分からずセラ達は困った表情と共にあせる。シロウの手を握るイリヤはその兄の苦しむ姿にさらに瞳に涙をためて兄を呼ぶが反応はない。

 

このままでは駄目なので彼を病院へ連れて行くことにし、セラはリズに準備をするように指示し自分も用意しようとしたその時。

 

 

「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁぁ!!」

 

 

っとより一層大きな苦痛の咆哮と共にシロウの動きは止まった。

 

「シロウ!」

「シロウ!!」

「お兄ちゃん!!!!」

 

その叫びと急に動きを止めた彼にセラ達はバッと振り返り顔を青ざめながらシロウの元へと再び近寄る。まるで糸が切れた人形のように先ほどまで苦しんでいた姿は消え、ピクリとも動かなくなった。しかし息をしていることからまだ生きていることに安堵するがだからと言って焦らないわけでもなくセラ達はより一層準備を急ぎ、シロウを病院へと連れて行くのであった。

 




区切りのいいところで終わらせようとすると短くなってしまいますね。
次のはもうちょっと長くできるようにしてみます。


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全ての始まり

イリヤの年齢から士郎が幼いことに気づいている人はいると思いますが一応報告しておきます。


この士郎は引き取られてから2-4年しか経っていません。


 

意識が戻ったと思うとそこは病院だった。

部屋に漂う消毒液のようなツンとした臭いが鼻を刺激し、視界には真っ白なベッドに同色の枕。後ろに見える様々な機械類とさらに自身が身に着けている病衣から自分が病院にいることが容易に予想できた。

 

周りを見ればオレとは別に数人いるようでいまだに深い眠りについているようだった。

 

ぼんやりとする思考の中でオレは今の状況を確認する。

 

(確かオレは自分の部屋で_)

 

何故自分がここにいるのかが分からないので記憶の中から探ろうとする。

最後に残っている記憶は自分に水を飲ませるセラの姿。その後のことははっきりとは覚えていない。恐らくあまりの頭痛に気を失い、慌てた家族が自分を病院へと送り出したのだろう。そうだとしたら自分が何故病院にいるのかは説明がつく。

 

(迷惑かけちゃったかな・・・とりあえず、誰かを呼んで安心させないと)

 

思い立ったらすぐ行動っというように身を動かそうとしたその時、違和感を感じた。

 

(身体が・・動かない!)

 

いや、そんなはずはない。何故ならつい先ほども意識が戻ったときには身を上げていたのだから。

 

もう一度と身体を捻ろうとするとやはりと言うべきか身体は言うことを聞いてくれない。何度やっても身体は動かず視線すらも動かせない。意識してみれば呼吸すらも自分の思うとおりにできていない。

 

 

しかしこの身体はちゃんと呼吸をしている。

 

 

だがそれは自分の思うタイミングとまったく会わず、今まで感じたことのないような違和感と気持ち悪さがある。意識はあるのにまるで身体までには意識が行っていないようなそんなありえないような体験を自分はしているようだ。

 

時間が経つにつれ疑問はさらに増える。腕や手のひらなどが一人でに動き出し、自分の身体を確認するようにペタペタと触り始めた。

 

動かそうと思ってもいなかったのにこの身体はまるで『操り人形』のように勝手に動き出す。

 

声を上げようとしてもでず、目をつぶろうとしてもしない。まるで別の意思があるようにオレの意思とは無関係に動き続ける。

 

それと驚くことにどうやら感覚器官は正常のようで自分で自分を触っていることなども感じられる。思えば意識が戻った時に臭いなどが分かった時点で嗅覚は正常なのは分かっていたはずだが、思考がそこまで回っていなかった。だけどこれは呼吸同様に気味が悪い。身体は勝手に動くのに感触はちゃんと感じるなど変な気分にならないはずがない。まるで自分で触っているのに他人(・・)が触れているかのような感覚だ。

 

 

 

しばらくオレ(・・)の身体を確かめているとあることに気づく。身体中に巻かれている包帯やガーゼ。その量は身体の半分を覆いそうなほどでまるでこの身に起きた事態の大きさを物語るよう。

 

しかしオレには怪我をしたなどの記憶はない。確かに信じられないほどの頭痛は感じたが血など出ていなかったしそもそも身体にも傷なんて一つもなかったはずだ。それによく見れば身体が一回り小さくなったような気がする。立ち上がって確認したいところだがいかんせん身体の主導権はない。

 

そんなことを思っていると病室の扉が開いて一人の男性が姿を現した。

 

よれよれのスーツにボサボサの頭。服装は黒一式で手には小さめのアタッシュケース。まるで生気の宿っていそうにない瞳に穏やかな表情でその男はオレの元まで静かにやってきた。

 

その姿を確認して、俺は驚く。

 

 

オレはこの人を知っている。

このように姿を見るのは久しぶりだ。何故ならこの人は仕事で一年の大半を海外ですごしているのだから。帰ってくるのなんて滅多にないし会うことも普通の家族と比べて少ない。だらしのない格好は相変わらずのようだが、表情からはすこしばかり疲れが見て取れる。また仕事が大変だったのかな?それともいつものようにジャンクフードばかり食べて体調でも崩したのか。だからいつもそればかり食べるのはやめろといっているのに。

 

 

 

そんな親父(・・)の姿に溜息を吐きながら_実際には吐けない_オレ(・・)は切嗣を見つめる。久しぶりの再開だというのに親父は何も言わずにオレの隣にパイプ椅子を持ってきて腰掛ける。

 

座ったと思ったら唐突に親父は口を開く。

 

 

『こんにちは、君が士郎だね?』

 

 

_え?

 

 

『率直に聞くけど、孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな?』

 

 

_なにを・・・言っている?

 

 

数秒、考えるようにうつむくと、オレ(・・)はゆっくりと親父を指さす。

その瞬間、親父は目に見えて喜び、せかすように身支度を始める。

 

新しい家に一刻でも早くなれるように次の日からオレは親父の家に移り住むらしい。だがその前に言い忘れたと言わんばかりに親父はまたもオレに向き直り、その口を開いた。

 

『―――うん。初めに言っておくとね、僕は_』

 

その表情は、どこか悲しくそして痛々しく、けれどもやりきれないような・・・そんな表現しようのない顔だった。今まで見たこともないようなそんな親父の表情に、どこか自嘲気味に言うその表情に・・・・オレは言葉を失った。

 

そして親父は、子供であるオレに夢でも見せるかのように。

その続きを言った。

 

 

_魔法使いなんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで初めて会ったかのような会話に胸を締め付けられるような気がした。

本当の家族のことなんて記憶にない。だからこそ、今いる家族がオレはなによりも大好きだし、大切にしたかった。

 

本当の家族が誰なのかも分からず、恐らく亡くなっているだろうと教えられたとき、オレは恐ろしいほどに何も思わなかった。

 

悲しめたらよかった、苦しめればよかった、泣ければよかった、膝から崩れ落ちることができればよかった。

 

だけど_オレは何も思わなかった。

ただただ、事実を知るように。教科書の情報を脳裏に刻むようになにも思わずにその言葉を受け止めただけ。

 

 

記憶がないから悲しむこともできず、記憶がないから泣くこともできない。

 

 

そんな自分が気持ち悪くて、悔しくて、許せなくて_

 

 

 

なによりも嫌いだった。

 

 

だからこそ、イリヤや切嗣やセラやリズやアイリさんを大切に思いたいと思った。記憶が失っても魂が覚えれるくらい、心に残るくらいに愛そうと思った。

 

オレは俺を受け入れてくれたみんなが好きだ。血なんて一滴もつながっていないのに、どこの誰かも分からない俺なのに、昔の名前すら分からない俺なのに、なにもかも失い士郎という名前しか持っていない俺なのに、俺を大切に思ってくれて家族として接してくれて、愛してくれるみんなが好きだ。

 

そんな大好きな家族に・・・・父親にまるで知らない人のように接せられてショックを受けた。

 

 

しかし同時に何かに気づく。

 

 

_これはあの時と酷く似ている。

 

 

 

目覚めた病室に現れる二人。

だらしない格好の親父に息を呑むような美しさを持つ銀髪の女性。

微笑むように俺の容態を気にする女性とそれをやさしそうに見つめる親父。

 

『あのね士郎君、率直に聞くけど・・・孤児院に預けられるのと、初めて会った夫婦に引き取られるの、君はどっちがいいかな?』

 

さきほど聞いたものとそっくりな言葉で俺に問う女性。

それに俺はなんと答えたのかはわかっているし覚えている。

 

 

 

これが俺の持つ原初の記憶で最古の記憶。

 

これより前のことなど一切___

 

 

 

 

___知らない・・・はずだった。

 

 

あれが衛宮士郎になる前の■■■士郎だった頃に持っていた最後の記憶のはずだったが今は違う。すべてはあの夢から始まる。

 

 

 

あの夢の地獄を、俺は知っている。

あれとそっくりな体験を俺はしている。

忘れるはずのないことなのに何故か俺はそのことを記憶から失っていた。

 

 

しかし、今は違う。

 

 

きっかけはあの夢だった。

その後から襲う頭痛に俺は今まで持っていた最古の記憶とは別の新たな記憶がよみがえるのを感じた。

 

あの地獄こそが俺の知る最古の記憶であり、俺の始まりだった。

 

■■■士郎の最後の記憶であり、衛宮士郎の最初の記憶。

 

 

だが、疑問はいまだに尽きない。

何故忘れていたのか。

何故いまさらになって夢にでたのか。

何故夢なのに痛みがあったのか。

何故いまさらになって思い出したのか。

そして、

 

 

 

何故記憶と今経験しているこれはわずかに違うのか。

 

今の状況がまったくと言っていいほどに分からなかった。

 

時間はどうやら戻っているらしい。オレ(・・)が確認したから分かる。

だけど、この出来事をオレは知らない。こんな記憶なんてない。まるで巻き戻しのように始まった夢でのことから、オレは過去をもう一度経験する。

 

だけどオレは動けない。身体は一人でに動くし、口も勝手に言葉を口にする。

これは俺の記憶じゃないし俺の人生ではない。

 

オレであるけど俺でない他人の過去をなぞるようにこの物語は進み続ける。

 

 

 

そして5年の月日が流れた。

 

 

 

思えば色々なことがあった。

俺の知らない新しい親父の一面なども見れたし、藤村先生とも仲良くなれた。

初めて住む大きな武家屋敷にも慣れてきたしそこで過ごす時間も悪いものではなかった。

 

切嗣は俺の知っている切嗣らしくよく海外に行くしジャンクフードが好きだった。このままでは駄目だと家事を始め、切嗣によりよい食事を取らせるために料理も始めた。そこに藤村先生が乱入し、三人で楽しく食卓を囲んだのもいい思い出だ。だけどたまに帰ってくる親父の姿は会う度に元気をなくしていた。疲れが顔にでるようになったし、どこか辛そうだったのを覚えている。それは今でも変わらず、むしろ悪化していた。その姿を見ていられず声をかけようとしたがこの身体はやはり動かない。ただできるのは見ることと感じることだけ。

 

 

特に驚くこともあった。

あの時言っていた言葉の意味が始めて分かったときだった。

 

切嗣は本当に魔法使いだったのだ。

切嗣が言うには正確には魔術師、より詳しく言うなら魔術使いらしいがそれを知ったオレは好奇心から魔術を教えてくれと頼み込む。

 

しかし、切嗣はその頼みを断った。

その時の表情を今でも覚えている。まるで必死に力強く駄目だと言う切嗣に恐怖を感じたのを覚えている。

 

しかしオレも諦めが悪かったらしく、来る日も来る日も頼み続けた。

 

そうしてようやく、切嗣は渋々ながらもオレに魔術を教えてくれた。

 

どうやら魔術を使うには生まれつきできる人とできない人がいるらしい。

それを確認するために切嗣はオレの身体を調べたが、結果はというとできるらしい。

 

その時のオレは喜びにはしゃいでいたがそれとは逆に切嗣は苦い顔を浮かべていた。

 

 

 

そこからオレは切嗣に従い魔術の基礎と修行法を学んだ。

 

それは想像を絶する痛みではあったが始めて感じる感覚からと魔術を扱えるという希望からオレはその痛みを耐えて魔術の鍛錬を続けていた。

 

そんなある日、切嗣にオレは新たな魔術を学んだ。

 

今まで教えてもらっていたことは、基礎中の基礎である強化と解析の魔術だけであった。

しかし強化の成功率はまったくの皆無というほどに低くとても使えるようなものではなかった。逆に解析の魔術は強化の魔術よりはうまく扱えていたがそれでも三流程度だった。

 

あたらしく教えてもらった魔術の名は投影というらしく魔力で物質をつくりだす魔術らしい。その説明を聞いて、オレはさらに好奇心を膨れ上がらせた。物質をポンっと作り出すなどそれこそ子供の思い描く魔法使いのようで興奮していたのを覚えている。

 

さっそくやってみたところ、あっさりと成功してしまった。

 

そのことにさらに興奮するオレであったが、切嗣はそれを見て顔を驚きで染めていた。最初はあっさりできたことにびっくりしたかと思ったがそれは違ったらしく。

 

切嗣曰く、それは使わないほうがいいっとのことらしい。

 

せっかく成功したと思った魔術は失敗だといわれむくれるオレであったが仕方がないと切嗣の言うことを聞いていた。

 

聞いてはいたのだが切嗣の見ていない間にたまに投影魔術を行うこともあった。やはりというかこれは強化と違い、すぐに形になる。失敗だと分かっているが、しかし形になっているものが目の前にあることがオレのつらい魔術の鍛錬を続けさせていた。

 

 

しかし、切嗣から教わる魔術はそう長くは続かなかった。

 

 

ある月がきれいな日のこと、オレと切嗣は縁側で月を眺めていた。

そんな爺さんは、やはり悪化しているのか酷く弱弱しかった。

 

このままでは眠りそうだったので風邪を引いてしまうからと布団に入れというオレ。

 

しかし切嗣は相槌を打ち静かに語り始めた。

 

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

いきなり語りだす切嗣の夢にオレは眉をひそめる

 

『なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ』

 

自分を救ってくれた切嗣のそんな言葉に少しムッときてしまった。

 

『うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ』

 

そんなことを言う切嗣にオレは静かにうつむき腕を組んで考える。

 

『そんなコト、もっと早くに気付けば良かった』

 

まるで悔いるように言う切嗣を数秒見て、オレは切嗣と同じように大きな、それでいて綺麗な月を見上げる。どこか遠くを見るような視線を追うようにオレはその月から目を離さない。

 

『そっか。それじゃしょうがないな』

 

なんでもないように言うオレ

 

『そうだね。本当に、しょうがない』

 

言葉の通りに心底しょうがないと言う切嗣。

そんな姿を見て、オレは自身の思ったことを言う。

 

『うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ。

爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。』

 

そんなことを言うオレに、切嗣は驚いたようにオレを見る。

 

 

オレにとっては切嗣はオレの正義の味方(ヒーロー)だった。

あのまま死に向かっていくオレを助け出し、もう感じることもできなかったであろう幸せを再度感じさせてくれた。

オレに未来をくれた。

 

オレを救い出すことで自分が救われているその姿が美しいと思った。

 

心底あこがれた。

自分もそうなりたいと思った。

しかしそれは切嗣の役目だと思っていた。

 

だけどそんな彼が諦めたといっている。その事が気に食わなかった。

だからオレは言う。彼のようになるために。

彼の夢を継ぐように。

 

諦めることで切られた(・   )彼の夢はオレがもう一度継ぐ(・ )

 

だからオレは言う、

 

『まかせろって、爺さんの夢は――――俺が、ちゃんと形にしてやっから』

 

笑顔を浮かべながら言うオレに切嗣は数秒息を呑み、その表情をやわらかくする。

 

『ああ――――安心した』

 

という言葉と共に、親父はピクリとも動かなくなった。

 

 

 

一向に動く気配がない親父を不思議に思ったオレは、親父に近づく。

全身からいやな予感を感じ、ありえないと、そんなまさかと彼に近づく。

しかし、現実は非情であの言葉を最後に親父は息を引き取った。

 

あの地獄が脳裏によみがえる。

 

多くの人の死を見た。

だからか、親父の状態がすぐに分かってしまった。

 

受け入れがたい現実

しかしそれは現実。

否定なんてしたくてもできない、うそであってほしいと思ったがそれも無理。

 

そのことに気づいてから、オレは瞳に大粒の涙を流しながら親父との最後の夜を過ごした。

 

 

 

そして亡くなった親父の表情は・・・・・死んでいるのに、どこまでも柔らかくて、静かで、とても安心しているような顔だった。




このまま 次にいきたいが駄目だ、区切るところがなくなってしまう・・・・・・。
ごめんよ。



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The Fate between us

オレと俺の使い分けにこだわってみたり。




エミヤの生前は詳しく分からないけど セイバールートが一番可能性高いですよね。


いつか、エミヤの生前のお話が出る時を私は待っています。
約束された鬱展開でしょうけど。



この話は別に読まなくても後々入るプリヤ編でも大丈夫(?)かな。
でも読んでくれたらうれしいかな。


元々広かった屋敷が更に広くなった気がした。

そんなことを・・・・・切嗣の葬式の後に思った。

 

 

 

この大きな武家屋敷にはオレと切嗣しか住んでいなかった。

良く藤ねぇが訪れることもあるけど住んでいるのはオレと切嗣・・・・だけだった。

 

この広い武家屋敷に二人しかいない時点で確かに広くは感じてはいた、

ここに藤ねぇを足しても大して変わるわけでもなかった、

さらに言えば切嗣は良く家を出て行くので一人でこの大きな屋敷に残ることも多々あった、

それを心配して藤ねぇがさらに訪れることもあった、

そして帰ってきた切嗣と一緒に久しぶりだからと言う事で夕食を豪華にして三人で食卓を囲むこともあった。

 

 

エミヤシロウになってからオレがすごした日々であった。

それは長いようで短く・・・時間にして5年。

切嗣が空けていた時間も考えればもっとすくないだろう時間。

しかし、それでもその時間は記憶のなかったオレにとってはどれも新鮮で楽しい日々だったのだろう。

 

 

 

 

思えばその時がエミヤシロウにとって一番楽しくて幸せだったのだろうか?

 

 

 

 

だけど 三人で一緒にいることはもう二度とない。

 

 

 

衛宮切嗣は死んだ。

 

 

 

 

この事実は変わらない。

 

オレを救ってくれた正義の味方は、

魔術を教えてくれたオレの師は、

一緒に過ごしてくれた彼は、

自分を育ててくれた義父は、

月のしたで約束した男は_

 

 

 

 

_もういない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から数年が過ぎた。

 

切嗣が亡くなってからは藤ねぇは一人で家に住むオレを心配してうちで過ごす時間が増えていた。その事が支えになっていたのだろう、オレは別段引きこもるわけでもなく前向きに日々を生活していた。学校にも行くし、勉強もする、部活にも入っているし、遊びもたまにだがしていた。

 

家事も欠かさずやっているし料理の腕も藤ねぇが食べたいからと磨いた。

 

 

魔術の事はと言うとオレは毎日欠かさずに魔術の鍛錬を行い続けていた。

苦痛の連続である魔術の鍛錬であるが、それをやめようと思う気持ちは一つもなかった。拷問のようなことかもしれないがこれがオレの日課になっていたし何一つ疑問に思わずに続けていた。

 

 

しかし、毎日続けてはいるが魔術の腕は一向に向上しない。強化の魔術は相変わらず1%にも満たない成功率だ。解析の魔術は多少マシにはなったが特別変わったことはない。投影もまた同じで形だけのものしか作れずに修行場の片隅に転がっている。

 

切嗣にはやめさせられてはいたが息抜き程度の感覚でたまに投影したりもする。だからって何かが変わっているわけではないがやはり目に見える魔術は少なからずオレの魔術の鍛錬を続けさせる理由の一つになっているのかもしれない。

 

魔術の鍛錬と平行して身体も鍛えるようにした。

やはり土台となる身体がしっかりしていないと出来る事も出来なくなるしいざとなった時に無茶が出来なくなってしまうのでこれも毎日欠かさず続けていた。

 

たまに藤ねぇから剣道を教わるときもあったがまったくと言っていいほど歯が立たなかった。確かに段もちの藤ねぇから一本とるのは至難ではあるがあぁも完膚なきまでにやられるのは面白くなかった。

 

いつかギャフンと言わせてやるっと子供ながらに反抗してはいたが心の奥底ではそれも無理なのかもしれないと思ってはいた。

 

 

 

 

 

家事をして、学校に行って、帰ってきて、ご飯を作って、藤ねぇが来て、一緒に食べて、鍛錬をして、寝る

 

 

 

 

これがオレの日常でオレの毎日であった。

 

 

 

 

 

 

 

春がきて、夏がきて、秋がきて、冬が来て、また春がくる。

 

 

 

 

 

時間が過ぎていくにつれてオレも成長していった。

藤ねぇは英語の教師になりオレも学生生活を日々過ごしていた。

 

 

変わることのない日々が続くと思っていたがある日、オレに後輩が出来た。

間桐桜というとてもおとなしいオレの親友の妹。

やさしくていつもオレのことを気にかけていてくれたオレの大切な後輩。

 

始めは話すことはあまりなかったが何度か会うにつれて打ち解けていった。

料理も教えたりもした。

始めはおにぎりも満足に作れなかった彼女だがメキメキと成長していき、今じゃぁオレと並ぶほどにもなった。和食じゃまだ負けるつもりはないが洋食では完全に追い越されていた。

 

ちょっと悔しかったのを覚えている。

 

しかし同時にここまで成長している姿を見てうれしくも思った。

 

 

 

桜は頻繁にうちに訪れては朝食などを作ってくれて夕食は一緒に作ることも珍しくはなかった。朝と夜は藤ねぇも入れてまた三人で食卓を囲むことになっていた。

 

 

いつかの日のようにまたこの机を三人で囲む日が来たことに少なからずオレは感傷深い気になったこともある。

 

 

 

 

 

桜が加わりこの家にもまた賑やかさが戻っていた。

 

桜が朝食を作りに来て、藤ねぇとくだらない話をして一緒に食事をする

学校では慎二や一成と過ごし

放課後は部活で矢を射る。

そこそこ長いことやっていた部活ではあるが怪我を理由にやめてしまった。

確かに楽しい時間を過ごせたが、弓道に戻る気はあまりしなかった。

しかしやめたからと言ってオレの毎日が変わるわけでもない。

朝練と放課後の時間があいたくらいの違いである。

冷蔵庫の在庫がなかったら買い物に行き、夕飯を作ってみんなで食べる。

夜には鍛錬をしてまた明日に備える。

 

 

この日常がオレは大好きだった。

 

崩したいとも思わなかったし守りたいと思った。

 

 

 

 

 

 

しかし、その日常はある出来事を境に劇的に変わってしまい、崩れてしまった。

 

 

 

 

 

ある日の放課後であった。

慎二に弓道部の後片付けを頼まれ、オレは一人、暗くなるまで弓道部を掃除し続けていた。興が乗ってしまったのかいつもの癖が出たのかオレは必要以上に弓道部を掃除してしまい、校舎を出たときはもうすでに空からは日の明かりが消えていた。

 

 

_今思えばこのときにオレの運命は決まっていたのかもしれない_

 

 

急いで帰らねばとオレは校舎を後にしようとした時、オレは甲高い金属音とのしかかる威圧感により足を止めてしまった。

 

空耳や気のせいとはとても思えず、オレは校舎の中から様子を見ようとした。

 

音の発信源へと近づくとオレは信じられないものをみた。

はっきりとは見えないがしかしそこに何かがいるのは分かった。

目で追いきれないほどの速度でぶつかり合う二つの色があることしかオレは分からず、ただその光景をみていた。

 

何合かにも渡る金属のぶつかり合いからしばらくして、肉眼では見えなかったその青と赤の色はやがて距離を置き、姿を現した。

 

片方は全身を青色のタイツで覆い、手には毒々しいほどに真っ赤に染まった異質な長槍を構える男に、もう片方は黒色のボディアーマーにこれまた紅い外套を纏った白髪の男で手には黒と白の表裏一体の短剣を構えていた。

 

 

両者を見た瞬間、オレは息をすることすら忘れてその二人を見続けていた。

二人の格好に驚いたわけではない、

日本ではまず見ない武器に驚いていたわけでもない、

ただ、二人の姿を見た瞬間に思った。

 

あれは自分とは違うと。

人間ではないと直感で気づいた。

 

ここに止まっていては危険だとは分かっているはずなのにオレは二人の戦いを見続けていた。

音速を超えると思われる槍と短剣のぶつかり合い。

接触するたびにその箇所から火花が舞い、送れて耳をふさぎたくなるほどの音が周囲を響かせる。そんな化け物染みた戦闘を_オレは映画でも見るように凝視していた。

 

 

この状況にいるというのに場違いなことにオレはその二人の戦いが綺麗だと、美しいと思ってしまった。

 

 

人のみでは到達できないであろうその神業とも言える乱舞をみて、オレはただただその場から動けずに戦闘を凝視していた。

 

 

両者の打ち合いは互角かと思われたがどうやら槍使いの男のほうがすこしばかり分があるらしい。しかし、双剣つかいの男もたくみにその短剣で槍使いの高速の攻撃をそらし、時には反撃していた。ずっと続くかと思われた打ち合いではあったが両者はもう一度距離をとった。

 

 

何回かの言葉の交換と共に槍の男は口角を吊り上げその槍を深く構える。

 

 

その瞬間、あたり一面の空気が凍った。

尋常にならないほどの殺気がオレに向けられてもいないのに感じられた。しかし、その殺気を向けられているにもかかわらず赤い男は怯みもせずに青い男を見続ける。

 

ここら一体の魔力を食らい尽くすように次々と魔力が槍へと注がれていきその切っ先は赤い男を狙う。そこから感じる力は未熟なオレからしても異常であり異質であった。

 

 

そしてそれを見て思った。

 

 

あれが放たれれば紅い男は死ぬと。

 

放つ前から分かるほどの強大な大技がくることが見ているだけで感じられた。

 

そのおかげか仕業(せい)か、オレは正気に戻り一刻もはやくここから気づかれないように逃げようとしたが_

 

 

 

 

_どうやらオレは相当運が悪かったらしい。

後ずさるときに物音を立ててしまった。

 

 

 

『誰だ!』

 

 

その小さな音にすら青い男は反応して、こちらのほうへと向き直る。

放とうとした大技を中断して男はすぐさま意識をこちらへと向けた。

 

 

 

気づかれた。

 

 

 

そう思った瞬間、オレはすぐさま全速力でその場から離れた。

廊下を必死で走り続け、心臓が異常なほどに脈を打つ。

体中からいやな汗が流れ続け、足が悲鳴を上げるほどだったがオレは我武者羅に校舎の中を走り続けた。

 

緊張と恐怖からそれほど長い間走っていないのにまるでフルマラソンを終えたときのような感覚があった。

 

 

頭の中でうるさいくらいに警告がなり続け、息も切れ切れになりつつも走り続けた。

 

しかし、それも長いこと続かなかった。

 

オレが走る進路上にいきなりさきほどの青い男が現れる。

手にはもちろん槍を持ち切っ先は今度はオレへと向けられる。

 

 

何かを言ってはいたが何を言っていたのかは覚えてはいない。

ただ分かるのはオレはこいつに殺されるということだけ。

 

 

 

 

一瞬だった。

 

 

 

 

気づけば心臓のあたりから紅い槍が生えていた。

槍が心臓を貫いたと分かるのに数秒はかかっただろう。

その事実に気づくと遅れて内側から痛みと熱が伝わってきた。

 

欠陥や心臓が破裂し通るはずのない箇所にまで暖かい血液が流れ、内側から熱が伝わる。心臓付近が異様に暑く感じ、それとともに痛みも神経をつうじて頭へと警告を鳴らす。

 

時間がゆっくりと過ごす感覚と共にオレはただただ身体の中にある槍へと意識を向けていた。槍の冷たさが身体の内側へと触れて血液がその冷たさを覆うように熱へとかえる。

 

口からは喉を通してあふれ出るように血を吐いた、心臓と共に肺も一緒にやられたのか呼吸もろくに出来ない。聞こえるはずの心音もだんだんと小さくなり、この身体は少しずつ死へと向かっていた。

 

何を思ったのかオレは死よりも槍にしか意識を向けていなかった。

 

突き出ている槍は血を浴び続けたかのように全体を赤に染めており、オレの血でさらに真っ赤になっていた。感じる魔力は異質でその神秘も絶大。

 

このような物がこの世にあった事にオレは驚いていた。

 

しかし、その槍はすぐに俺の体から抜け、持ち主の手の元へと戻っていった。

 

その後のことは覚えていない。

まるで槍が身体を支えていたように抜かれた瞬間、オレは廊下へと静かに倒れこんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしなことにオレは目が覚めた。

 

 

ゆっくりと頭が覚醒するにつれて上体を起す。

呆然とする中、オレは静かに恐る恐ると貫かれた心臓へと手と視線を向ける。開いていたはずの箇所はまるで何事もなかったように塞がれてあった。

 

奪われたはずの心臓は確かにそこにあった。鈍い痛みもまだあるし吐き気もする。破かれた服の跡と周りに見える血溜まりから先ほどのことが現実だったと裏付けている。ならどうして自分は生きている。

 

まるでこの身が巻き戻ったように、修復されたようにオレの体は元通りになっていた。感じたはずの痛みや熱は今でも覚えている。身体を抉った槍の冷たさも覚えている。

しかしオレは生きている。

 

謎ばかりが増える中、オレは再度自分の周りを確認する。

そこは死にいく前に見た光景と一緒の廊下で、下にたまっている血も自分の物だとすぐに分かる。だが一つだけ、記憶にあったものと異なるものがあった。

 

オレが横たわっていた場所のすぐ隣に、大粒で巨大な宝石が埋め込まれたペンダントがあった。オレが貫かれた槍よりも鮮やかなほどに紅く、オレの血のように真っ赤なルビーと思われる宝石がそこにはあった。

 

こんなものは落ちていなかったはずだ。

逃げる途中に足をとられないように進行方向にある障害物は注意していた。いくら宝石が小さくてもこれほど大きなものはすぐに気づくはずだ。

 

 

ならば考えられることは一つ。

 

 

これはオレが倒れた後、つまりは心臓を貫かれた後に何者かがこれを置いていったのだろう。

 

 

 

誰かが来た。

 

 

 

その事実がこの現状を説明してくれている。

その事でオレは自分が何故生きているのかが大体予想できた。

 

誰かがオレを助けてくれたのだろう。

そしてその際にこのペンダントを落として行ったのだろう。

予想にすぎないだろうがこれは確信に近かった。

 

何故なら血溜まりのオレを見つけたのがただの一般人だったらオレはまず死んでいるだろうしここは大騒ぎになっているだろう。

 

しかしオレは生きている。

っということはオレを助けた何者かは一般人ではなく魔術師なのだろう。

切嗣以外の魔術師など知らないが魔術は本来隠匿するもので魔術師もあまり横とのつながりがないらしい、なのでオレが知らないのもおかしなことではないだろう。

 

 

何故オレを助けてくれたのかは分からないが、その親切な恩人には感謝しなければならないしいつか恩を返さなければならない。

 

いつか会えることを信じて、オレはペンダントをポケットに入れ、痛む胸を押さえながらこの場を掃除するために掃除道具を持ってきた。

 

 

 

 

『ったく、何をやっているんだ俺は・・・・』

 

 

 

そんな言葉がつい漏れてしまう。

つい先ほどに異常な光景をみて死に掛けたというのにオレは律儀にもその後片付けをしていた。

 

自分の身体から流れ出た大量の血をふき取りながらこんな時でもこのようなことをしてしまう自分に呆れてしまう。

 

しかし、この血溜まりをこのままにして騒ぎを起してもいけないのでこうすることは別に間違いではないのだろう。

 

ないのだが普通は恐怖や混乱でこの場を去ってしまうはずなのに不思議と自分にそれはない。

 

 

 

_そんなオレを見て、俺は得体の知れない感覚が身体を通る_

 

 

 

その場を掃除した後、オレは本調子ではない身体を引きずりながら家へと足を進める。

 

家につき、緊張がとけたのかオレは居間で脱力した。

異常なことの連続に頭がまだ整理できていないのだろう。

 

 

しばらく身体を休めているとカラカラカラと音が家全体を反響する。

 

 

その音に気づきオレはすぐさま立ち上がって周りに武器になりそうなものを探す。

しかし、そう都合よく武器が転がっているわけがなく仕方なく一番近くにあった丸めてあるポスターを手にして強化の魔術をかけることにした。

 

成功率がとてつもなく低い強化の魔術であったがどうやらこの緊急事態で運よく成功してくれたようだ。

 

 

 

さきほど聞こえた音だが、あれは切嗣が残していった防犯用の結界だ。

この家に敵意を持って訪れると、結界はこのように音をならしてオレへと伝えてくれる。

 

 

一体誰が、っと思う前にすぐに答えは浮かび上がった。

 

 

自分は確信している、恐らくオレを殺したと思った先ほどの青い男がオレが生きていると知り再び狙いにきたのだろう。

 

せっかく救ってもらった命だ、無駄にするわけにはいかない。

 

 

 

丸めたポスターを構え、オレは意識を集中させる。

敵の規格外さはあの紅い男との戦闘と貫かれた経験で嫌というほどにわかった。

すぐにでも反応できるように、オレは意識を家全体に向け、敵の現れる方向を探る。

 

 

そして、ゾクッと全身が震えるような感覚がした瞬間、オレはその場を離れて前へと転がる。

 

 

転がった瞬間つい先ほど俺がいた場所から爆音が聞こえる。

 

『ほう、今のをよけるか。いい反応してるじゃねぇか坊主。』

 

パラパラと落ちる木片と埃の中からそんな声がした。

確認するとその声の主は予想通り青い男だった。恐らく天井を突き破ってそのままオレを狙ったのだろう。

 

相手がきたのが分かるとオレはすぐさまその場から離れ逃げ出す。

真っ向から戦闘を行えば必ず自分は負ける。

 

負けることはすなわち、死につながる。

 

たとえ真っ向からの戦闘でなくても恐らく自分はあいつに勝てないだろう。

しかし、今は勝つことが目的ではなく生き残ることが目的だ。

 

逃げることは難しいかもしれないがこれ以外に自分が生き残る術はなく、長い事住んでいた家の中を疾走する。

 

逃げる途中も何度か襲われたりしたがなんとか手に持つポスターでそらし、最後には広げて盾代わりにする。

 

しかし、いくら強化しているとはいえ、ただのポスターごときがあの槍相手にかなうはずもなく、オレはそのまま土蔵へと吹き飛ばされていった。

 

武器を失い痛む身体を起そうと思うとその男はいつの間にか目の前にいた。

 

瞬きする間もなく現れた男を視覚したとき、オレは今度こそ終わりだと悟った。目の前に再度せまる槍を目に焼きつけこの身を構えたとき。切嗣が残していった魔法陣が淡い光を浮かべた。

 

 

 

いつまで経ってもこない痛みに頬に感じる吹き荒れる魔力の風。

そして一つの人影が目の前にはあった。

 

月明かりに照らされた美しい金色の髪に青を基調とした銀のよろい、力強い瞳は何者よりも綺麗でそして吸い込まれそうで、その容姿は美少女といえるほどに美しく綺麗だった。月に照らされるその少女にオレは息をするのも忘れてただただ見惚れていた。

 

いきなり現れたことに疑問など感じず、

否、感じることも出来ずにオレはその姿を目に焼き付ける

 

 

 

先ほどまで自分を殺そうとした青い男はこの場には居ず、この土蔵にいるのはボロボロのオレに目の前の少女だけ。

 

いつまで経っても口を開かないオレに、少女は座り込むオレを見つめながら透き通った声で言う

 

 

 

『問おう、貴方が私のマスターか』

 

 

そう、耳に残る綺麗な声でいった。

 

 

 

 

この出会いを・・・きっとオレは忘れないだろう。

たとえ何年経とうとも、

この身が滅びようとも、

記憶をなくしそうになっても、

地獄に落ちたとしても。

 

俺はこの少女との出会いを忘れることがない。

 

 

 

この少女との出会いはエミヤシロウにとっては運命(Fate)だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シロウ_自分の血を掃除中


言峰「代わりにやってくれて助かるわー」

言峰「だって事後処理とか面倒くさいもん」







このまま エミヤの記憶編終わらそうと思いましたけど長くなりそうなのでやめておきます。

セイバーとの出会いまでは出来るだけ細かく、かつ、簡単に説明できたらなぁっと思いましたが難しいですね。


この続きはここまで細かくするつもりはないのでご安心を、聖杯戦争に巻き込まれる瞬間とセイバーとの出会いを細かく書きたかっただけなので。そのほかはわりとポンポンポーンっと進めていくつもりです。紙芝居みたいに。

自分も早くプリヤ編に行きたいし。



それとこのままエミヤ記憶編終わらせるつもりだったので次回はわりと早めにだします。予定が狂わない限り。

たぶん早くて明日だします。でなければ明後日。

それでもだめなら活動報告にて報告します。


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トレース

やっぱ変だと思うのは自分だけだろうか?
でも、一応かけたので 投稿します。


それと長くないといったな、あれは嘘だ。





忘れてはいけないけどこの士郎はプリヤ士郎ですよ。なので考え方もSNのような壊れた考えの持ち主ではありません。(まぁちょっと正義感は強いけどSNほどではありません)。なので普通より精神力の強いだけの持ち主がエミヤの経験をトレースしたことを想像し、どのような考えになるのかをちょっと考えてみてくれたらこの話も読みやすくなる・・・・・・と思います・・・たぶん。


それとこの次か次の次で本遍へと突入します。


全身を黒に染めたヨレヨレの服装にボサボサの頭の人物、衛宮切嗣はしつこく鳴り響く心音を抑えられずに急いで病院へと駆けつけていた。

 

その隣には最愛の人で妻である女性のアイリスフィール・フォン・アインツベルンがそんな夫を心配そうに眺めつつも冷静さを失いそうなままその美しい銀の髪をなびかせている。

 

互いに切羽詰ったような表情を浮かべながら夫婦は先日家政婦から聞かされた内容を頭の中で整理していた。

 

家政婦曰く長男である士郎が突然倒れたらしい。

雨にでも打たれたかのようなほどの汗を流し、気絶してしまうほどの頭痛が彼を襲ったことしか家政婦にも分からなかったらしく。そのまま何もしないわけにもいかず、セラは迅速に士郎を近くの病院へと送り届けたようだ。

 

そんな義理の息子の事を知らされたのは三日ほど前、電話の向こうでセラが申し訳なさそうに、それでいて心配そうに言ってくれたのを覚えている。その時にセラはそうなってしまったのは自分の責任だの、子供を預かっている身でこのような失態などメイド失格だと言って家を去る勢いで謝罪していたのも記憶に新しい。

 

なんとか娘のイリヤも含めた士郎以外の家族全員で落ち着かせることは出来たもののいくつか問題があった。

 

まず一つに、切嗣とアイリスフィールの仕事が中々終わらなかったこと。家族の平穏を守るためにその身を魔術の世界に置き続ける夫婦は、その日も裏の世界で暗躍する魔術師などの討伐や聖杯戦争の証拠の隠滅、または抹消のために活動していた。途中で投げ出すことも出来ずに苦渋の決断ではあったが士郎の元へは行かずに夫婦は出来るだけ素早く(すばやく)かつ的確に仕事を終わらせていた。

 

そんな仕事も昨日で終わり、夫婦は休む暇も入れずに日本へと急いだ。

 

そして二つ目、士郎の容態が分からないこと、そして彼が三日経った今でも目を覚まさないこと。セラが言うには士郎が何故倒れたのかも気を失ったかも医者にも分からないらしい。どこを調べても、何も調べても原因不明。魔術的にも解析してみたらしいがそれでも原因が分からないらしい。

 

医者が言うには全てが謎過ぎて最悪の場合、一生目が覚めない可能性もあるかもしれないという。だがその判断も早計なので今は原因の判明と士郎の目が覚めることを祈るしかないらしい。

 

そんなことを聞かされたら急がないわけにもいかず、飛行機を降りた後、二人は荷物を自宅へと送りつけ、帰宅もせずに真っ先に士郎の下へと急いでいた。

 

タクシーを降りて運転手に代金を投げつけ、病院の者に有無を言わさず士郎の病室を聞き出した二人は怒られない程度に足早に目的地へと向かった。

 

扉の前へと到着した二人は互いに視線を交換してからゆっくりと中にいるはずの士郎を刺激しないように扉を開けた。情報通りなら士郎は寝ているはずなので刺激もなにもないはずなのにもかかわらずだ。

それはきっと信じたくもない現実が扉の向こうにあるからだろう。

 

まるで扉の向こうにある現実を恐れるように切嗣は扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

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「今日もシロウは目を覚まさなかったね。」

 

珍しく、寝転がるでもなくきちんとソファに座っているリズからそんな声が聞こえた。

 

その言葉につい先ほど士郎の病室から様子を見に戻ってきたセラは落ち込む。

 

自分が仕える主人達が日本に戻ってから数日、士郎が倒れてから一週間と少ししても未だに士郎は目を覚まさない。日に日に家族全員の顔からは不安の色が増え、妹のイリヤは笑わなくなってしまった。

 

あれだけ慕っていた兄が倒れて目が覚めないと知ればその反応も当然なのかもしれない。

 

海外から戻ってきた切嗣とアイリスフィールはそんなイリヤを出来るだけ宥め、励まそうとするがあまり効果はないらしい。当然、家政婦であるセラとリズもなんとかしようと加わるがやはり結果は変わらなかった。

 

切嗣とアイリスフィールが戻ってきた当日、二人は落ち込んだ様子で家へと帰ってきた。

その様子からしてセラとリズは思う、士郎はやはり眠ったままだったのだろうと。

家柄と二人の存在によって何かと裏の社会に狙われやすい衛宮家は今回の異変は魔術師による物なのかと思っていたがセラが調べてみてもなにも分からなかった。

なので自分と同じく魔術に詳しいアイリスフィールや家の誰よりも長く魔術と関わっている切嗣ならあるいは自分でも気づけなかった何かに気づき、それで解決できると期待はしてみたがどうやらそれも駄目だったらしい。

 

あの二人でも気づけないほどの物なのかあるいは本当に医者の言う通り、謎の病気なのかもしれない。

自分達が出来ることは出来るだけイリヤを元気付けることと士郎の目覚めを祈るのみ。

 

そんな事実がセラを襲い、日が経つ度に、士郎が眠る度に己の無力さに嫌悪する。そんな自分が顔や言動に表れていたのかアイリスフィールはやさしい笑顔で大丈夫と言ってくれていた。

 

リズは分かっているが何も言わずに暇さえあればイリヤのそばへと近づき彼女なりに元気付けようとしていた。

 

 

 

切嗣とアイリスフィールはというとどうやらしばらくの間は日本で過ごすらしい。普段であれば喜ぶイリヤであったがこの状況だからかあまり喜ぶことはしなかった。しかし、まったく意味がないというわけではなく兄がいない今は二人の存在は大きく、心の支えになっているのだろう。そのことに少しだが安心しつつ同時に不安もある。

 

もしもこのまま士郎が目を覚まさずに二人がまた海外へ飛び立ってしまえばどうなるのか。

 

この家の平穏を保つために子供との時間を削ってまで活動する二人である、このまま活動を停止させることは出来ず、士郎が眠ったままでもいづれこの家を去って行くだろう。

 

その時の対応を自分はどうすればいいのかとセラはこの頃考えていた。

 

理想はもちろん士郎が一刻も早く目覚めることではあるがその可能性ははっきりいって誰にも分からない。今の状態なら目を覚まさないことのほうが可能性としては高いかもしれない。なので最悪の場合も考慮して、セラはその時の対処法を考える。

 

その中で一番の問題はイリヤである。彼女をどのようにして精神的な負担を減らすかが難題でありそのことで頭を悩ませる。

 

 

そのような状況を想像しなければいけないことに嫌気がさすが、時間が経てばちゃんと克服できるだろうなどとそんな甘いことは言ってはいられないだろう。

 

そんなことを思いながらセラは今日も空気の重い衛宮家をすこしでも改善できるようにと料理にいつもよりも腕によりをかける。

 

 

 

 

 

 

 

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メルセデス・ベンツ300SLクーペのエンジン音を耳にしながら、今日も切嗣とアイリスフィールは士郎の眠る病院へと車を走らせる。

 

数日前から行っているこれはこのまま日課になってほしくはないなと思いながら切嗣はアイリスフィールに声をかける。

 

「今日も_」

「きっと目を覚ましてくれるわ。」

 

えっ、と言葉を詰まらせる切嗣にアイリスフィールは優しく微笑みながら言葉を続ける。

 

「だから大丈夫。そんな顔をしないで。彼は目を覚ましてくれるから」

 

どこにもそのような根拠もないのに自信満々に言う妻。

何故と問いたくなるはずがそんな気はおきず、逆に何故かその言葉が自分の中では不思議と戯言だとは思えない。

 

「君にそう言われると、不思議とそうなりそうだね。」

 

「ふふ、何故だとは聞かないのね?」

 

「うん、どうしてかな。誰でもない、アイリが言えば本当に現実になってしまうような・・・そんな気がするんだ。」

 

悪い方向へと考えてしまうのは自分の悪い癖だ、っと自嘲するように小さく笑い、切嗣は先ほどよりも幾分か晴れた表情で車を運転する。

 

「あら、そう?でもね、今日は本当にそんな感じがするの。あなたを元気付けようとは思っていた事もあるけど、今日はシロウが目を覚ます。そんな気がするの。理由をあげるならそうね・・・母親の勘って言うやつかしら?」

 

すこし照れるようにそんなことを言うアイリに切嗣はさらに気分が晴れた気がした。そして、士郎に対して自分を母親と評した事にさらに嬉しくなる。養子である士郎のことをちゃんと息子だと思ってくれていることが分かり、安心したのだろう。

 

先ほどとは違う気持ちと共に切嗣は車を病院へと急がせる。

 

 

 

 

 

 

 

士郎の病室への道もすっかり覚え、慣れた様子で二人は歩く。

衛宮士郎と書かれた表札のある部屋の前で二人は揃って立ち止まり、その扉を開ける。

 

いつものように、この扉を開けたら目が覚めている士郎がいる、とすこし期待しつつ切嗣は部屋の中へと入っていった。

 

だが、やはりと言うかそこには今も眠り続けている息子がいた。その事実に小さく落胆の息をつき隣ではアイリスフィールが同じように肩を落としていた。

 

切嗣は近くのパイプ椅子へと座り、アイリスフィールはセラが毎日手入れをしている花の水を換えに士郎の隣の台に近づく。

 

静かに士郎の顔を眺め、その顔色と規則正しい呼吸のリズムから今日も異常がなしと確認する。できれば起きているという違いがあればよかったがそんなことを言っても何かが変わるわけでもないだろう。

 

確認を終えると水を換え終えたアイリスフィールが切嗣の隣へとやってくる。そのことを確認すると切嗣は閉じていた口を開け、士郎へと語りかける。

 

「今日は近状報告と一緒に別れの挨拶にきたんだ」

 

近状報告、切嗣達が戻ってきてからいつもやっていることである。意味があることかは分からないがアイリスフィールの提案で家族の誰かが訪れたら士郎に最近起こったことやこれからやることなどを報告しようと決まったことだ。

 

「明日になったら僕達はまた日本を発たなければいけないんだ。このままずっとここにいるわけにも行かなくてね。出来れば士郎が目を覚ますまでここに居たいんだけどそうもいかなくてね。」

 

「でも大丈夫よ、また絶対にここに・・・私達の家へと帰ってくるから。」

 

「うん、だからね。その時には元気な士郎の姿を見せてほしいな。士郎はお兄ちゃんなんだし、イリヤを一人にしておくわけにもいかないだろう?もちろんセラやリズもいるけどお兄ちゃんは士郎しかいないんだから。またいつものようにイリヤのことをお願いできないかな?そしていつもみたいに僕達の土産話を聞いてほしいんだ。」

 

切嗣達が帰ってきてからすでに一ヶ月が経った。一ヶ月・・・それは士郎が眠っている時間を意味することでもある。これ以上の活動停止は厳しく、明日にでもまた仕事に戻らなければならない。だから、このように毎日様子を見ることは叶わないだろう。なのでせめて、本人が寝ていて勝手かもしれないが切嗣は自分達が帰ってくる前に士郎に起きてくれと頼む。

 

「あなた達が平和に、そして平穏に暮らせるように私達は頑張るわ、だからシロウも早く目を覚ましてイリヤちゃんのことをお願いね。まだ子供だけど私達がいなくなれば男の子はあなただけなんだから。男の子なら、ちゃんとお家のことを守ってもらわないとね。だからシロウも頑張ってね。外のことは私達に任せて、その代わりシロウにはうちのことを任せたわ。お母さんと約束よ。」

 

そう約束をして

最後に、その小さな額へと口付けをしたその時。

 

 

 

 

 

士郎の目がゆっくりと開いたのであった。

 

 

 

 

 

士郎とアイリスフィールの視線が交差し、

その事にアイリスフィールは離していた顔を止め、笑顔を浮かべながら切嗣へと振り返り、また士郎へと振り返って勢い良く抱きついた。まるで御伽のような展開と突然の事に切嗣は固まったままで、士郎自身も目が覚めたばかりだからか寝ぼけたまま、そしてまともに身体に力が入らないのでアイリスフィールにされるがままの状態で無言で周囲を観察していた。

 

「目が覚めたわ!キリツグ!シロウの目が覚めたわ!言った通りでしょキリツグ!やっぱり私の予感は当たっていたのよ!」

 

ただ一人この状況で動けていたのは士郎に抱きついたままのアイリスフィールだけだった。そんな彼女は自分の予想が的中したことと何より士郎が目覚めたことに喜びを士郎に抱きつくことで(あらわ)している。切嗣はと言うと自分も士郎に抱きつきたい衝動を抑え、妻にその役目を譲り、急いで医者に士郎が目覚めたことを伝えようとする。しかし、その行動は士郎によって遮られるのであった。

 

「爺さんと・・・・イリ・・・・・・?」

 

アイリスフィールをイリヤと間違えたのだろう。それは起きたばかりで寝ぼけている頭では仕方のないことなのかもしれない。夫である切嗣からしても娘のイリヤスフィールと妻は瓜二つと言ってもいいほどに似ている。普段の娘は髪を結んでいるので間違えることはないし体格もまだ小さい子供だが髪を解いて顔だけを見ればアイリスフィールととても良く似ている。違いをあげるとすればその体格と小さな違いだが髪の分け目だけであろう。

 

発育のことはイリヤはまだ子供なので違いには含まれない。母親があんなのだからイリヤもいづれアイリに似て美人なモデル体系になるだろうと切嗣は思っていたりする。

 

 

 

それはさておき、医者に連絡を入れる事よりも切嗣が違和感を覚えたのは士郎がイリヤとアイリスフィールを間違えたことではなく、士郎が彼女を見てどこか首をかしげるように、顎に手を添えながら見つめていることだ。そう、まるで目の前の人物が誰だか分からないというように。いつまで経ってもアイリスフィールの名を呼ばない士郎。

 

「どうしたのシロウ、そんな困ったような顔をして?まだ寝ぼけているの?」

 

アイリスフィールもその様子がおかしいことに気づいたのだろう。そしてどこか焦るように不安げな様子で士郎に問いかける。だが士郎はなにも言わず、苦い顔を浮かべながらアイリの顔を見つめ続けるだけであった。

時間が経つにつれて士郎の顔は険しくなる一方でアイリスフィールも徐々にその瞳を潤ませる。

 

切嗣は何も言わずにただその様子を眺めるだけであった。

 

様々な人と出会い、裏の世界での経験から切嗣は人の表情や声、仕草などからその者の内側を推測することに長けていた。その能力とも言えることから分かったのは、士郎は恐らくアイリスフィールの名前を忘れているということであった。

 

すくなくともまったく分からないということはないだろうが、その様子から名前が出てこないのが分かる。ここで切嗣がさりげなくアイリスフィールの名前を呼べばいいのだろうが何故かそれをしようとは思わなかった。

 

「シロウ、あなた・・・・記憶が・・」

 

涙声でアイリスフィールは恐る恐る言う。下唇を噛むようにして今にも号泣しそうな勢いだ。切嗣はそんな妻を見ていられず、すぐにでも彼女をこの場から放そうとしたその時_

アイリスフィールの様子に一瞬固まっていた士郎はゆっくりとその口を開けた。

 

「アイリさん・・・」

 

やっと出てきたその名に、アイリスフィールは今度こそ泣き出し、もう一度士郎に抱きつくのであった。切嗣も士郎がちゃんとアイリスフィールの名を思い出したことに安堵し、妻の肩に手を置く。子供のように泣く彼女を見て、士郎はそんな子をあやすように優しい手つきで彼女の頭を撫で、語りかける。

 

「すみません、大切な・・・・大切な家族の名前を一瞬だとは言え忘れてしまって。本当にごめんなさい」

 

心の底からの謝罪と悲しみの含んだその言葉には一体どれほどの想いがこめられているのか。まるで自分自身に言い聞かせるように士郎はごめんなさいと自分は最低だと繰り返していた。

 

 

 

 

 

ほどなくしてアイリスフィールはその謝罪を受け入れ、自分も病み上がりの士郎に泣きついた事を謝罪し士郎が目覚めたことに感謝した後、切嗣は遅れてしまった連絡を医者に伝えた。

 

軽い検査と士郎にいくつかの質問を聞いた医者は調査と検査の結果、問題なしと判断し、面会時間が終わるまでも一緒にいてもいいと言う許しが出て、夫婦二人に配慮して部屋を去っていった。

 

未だに士郎が倒れた理由は不明ではあるが今まで寝たきりで体力が落ちたこと以外は今のところ健康だとのこと。その結果に夫婦は安堵し、面会時間ぎりぎりまで士郎の元にいようと決めた。

 

「士郎も無事に起きたことだし、家で待ってるみんなにも教えてあげないとね。」

 

「そうね、イリヤちゃんもきっと、いえ絶対に泣いて喜ぶわ。」

 

検査が終了してからも上機嫌の二人はいそいそと携帯を取り出そうとするがここが病室だということを思い出し部屋を後にしようとする。

 

最近の病院では精密機械が置いてある部屋以外は携帯の使用は許されるのだが嬉しさでそのことさえも二人は忘れているらしい。機械にあまり詳しくないアイリスフィールはともかく、様々な文明の利器を使いこなしている切嗣までも忘れるということはそれほど喜んでいるということか?

 

だが、そんな二人を見ていた士郎は待ったをかける。

 

「爺さん、連絡は後でもいいかな?」

 

そんなお願いを聞いてくる士郎に二人は揃って首を傾げ理由を問いかけてみると、士郎は落ち着いた様子でしかし強張った表情で言う。

 

「爺さんに・・・・聞きたいことがあるんだ」

 

見たこともなく真剣な表情でこれまた感じたこともない雰囲気で言う士郎に、二人はまるで士郎が別人に見えてしまった。

 

 

 

 

 

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聞きたいことがある、

その事に切嗣は何かいやな予感がしてしまった。

裏の世界で過ごし、幾たびの戦場を経験した彼だから身についたその予感がハズれた事はない。一体まだ子供の、しかも先ほど起きたばかりの士郎に何故違和感を感じなければいけないのか。

 

何故自分は息子が持つ疑問に恐れなければいけないのか?

 

 

「聞きたいこと?それって何シロウ?」

 

内心焦っている切嗣とは違いアイリスフィールは自分の知っている士郎との違和感が残ったままだが素直に聞き返す。そんな妻の問いかけに切嗣は更に焦り、思わず止めようとするがもう遅い。

士郎は決心したように頷くと初めて会ったときと同じような空虚な瞳で切嗣を見つめた。

その瞳が自分を咎めるような攻めるような視線のようで切嗣は更に居心地が悪くなり、金縛りにあったように両足は地面に縫い付けられていた。

 

「今更かもしれないし、突然だとも思うけど。爺さんはさ・・・・・なんで_____俺を引き取ったの?」

 

その問いに切嗣だけではなくアイリスフィールも固まる。

何故このタイミングでしかも目覚めた後に問うのか、

何故今になってそのような疑問がわいてきたのか、

 

疑問は色々あるが切嗣はとりあえず答えることにした。

 

「なんでって、そりゃぁ士郎を家族にしたかったからさ」

 

まだ幼い士郎にはこれくらいの答えがいいだろうと、切嗣は思った。もちろん嘘だというわけでもなくちゃんとした本心である。だが、その答えは士郎が聞きたかった答えとは違っているとは切嗣はまだ知らない。

 

「アイリさんも?」

 

自分にも聞かれるとは思わなかったアイリスフィールだったがすぐさま切嗣同様に答える。

 

「えぇそうよ、あなたを息子にしたいと思ったから、イリヤのお兄ちゃんになってほしかったからあなたを引き取ったのよ」

 

いつものような雪原に反射する太陽のような優しい微笑で言うアイリスフィール。そんな二人の様子を見て、士郎はそれが嘘ではないことが分かった。

 

しかし、それが全てではないとも同時に思った。

 

「そう・・か。うん、そうみたいだけど。ねぇ爺さん?」

 

「なんだい士郎?」

 

「もしかして・・・だけどっさ、自分の罪悪感から逃れるために、俺を引き取ったんじゃないの?」

 

「っ!?」

 

その瞬間、病室を支配したのは不気味なほど静かな間であった。

まるでこの部屋一帯の時が止まったかのような感覚。

切嗣は驚いた様子で士郎を見つめており、アイリスフィールも夫同様に驚愕していた。

 

「そっそれは一体どういう_」

 

「俺が覚えている最古の記憶は数年前に起こった大火災での光景なんだ。」

 

切嗣の言葉を遮って、士郎は己の記憶を語り始める。

その内容に切嗣だけではなくアイリスフィールも表情を驚きの色で染める。

切嗣たちの記憶が正しければ士郎は大火災での記憶を_いや、病室で初めて会ったとき以前の記憶をまったく持っていなかったはずだ。最初にそのことを聞いた時に切嗣たちはよかったと思ってしまった。そんなことを思ってしまった自分達に嫌気がさすが、まだ小さい士郎にトラウマなど抱えてほしくなかったし、何より自分達の罪を覚えていないというのは少なくともそれを語られることがなくそれによってこちらが傷つくことはなかったと言う事だ。自分達の罪をなかったことにしようなどとは思わなかったが、覚えていない事実は切嗣達にとっては幾分か心にダメージを負わずにすんだはずだったが_

 

しかし、目の前の息子はそれ以前の記憶になるであろう大火災でのことを覚えているといっている。そのことがどうしたというかもしれないが、もしも自分達が知られて欲しくないようなことを知っていたらと思うと切嗣達はゾッとする。

 

「苦痛と息が出来なかったことは覚えているし、見渡す限りに広がるのは誰かの死と炎だけ。」

 

やめてと、これ以上言わないでくれと思う二人であったが、そんなことを言ってはいけないのは分かっていた。これは今まで先延ばしにしていたことのつけが回ってきたのだろうと、そう思った。

 

「その中でも覚えているのは地獄の中で伸ばした俺の手を握った二人の顔なんだ。」

 

「救われてるのは俺のほうなのに、まるで俺が救われることで自分が救われたような表情を浮かべる人が二人いてな。」

 

「その顔がさ、どうしようもなく美しく思ったんだ。」

 

「でもさ__」

 

 

 

 

__なんで二人は救われたような顔をしなければいけなかったの?

 

 

 

またしても空気が凍るような感覚が二人を襲う。

その答えは自分達が一番良く分かっている、

 

なぜ、救っているはずの自分達が逆に救われたような表情を浮かべたのか。

 

なぜ、士郎を引き取ろうと思ったのか。

 

答えはある、だがそのことを自ら暴露しようとはどうしてもできなかったししようとも思わなかった。言ってしまえば何かが壊れてしまうような気がしたから。

 

しかし、現実は非情であり士郎は言葉を続ける。

自分達が恐れていたことが現実になってしまっていた。

 

 

「あの事件ってもしかして・・・・・切嗣達も関わっていたりするの?」

 

 

その言葉が発せられると、切嗣とアイリスフィールは息をするのも忘れて顔を青ざめる。

それが答えを表す事だと言うことも忘れて二人は取り乱す。

 

これ以上続けても二人を傷つけるだけだろうと言うことは分かっているが士郎はこの後にどうしても聞きたいことがあった。確かに二人が本当に関わっているのかは知りたいことではあるが二人が関わっていようがなかろうが士郎にはあまり大きな問題ではなかった。

 

聞きたいのはそのことではない。

 

「自分達が助けることが出来た俺を、その成果を・・・手元に置いておきたかっただけなのか?」

 

ついに耐えられなくなったのかアイリスフィールが声を荒げながら否定するように言う。

 

「いいえ違うわ!違うの!違うのよシロウ!切嗣は、私達は決してそんな・・・そんな理由であなたを引き取ったわけじゃないの!あなたを成果だなんて思って、物のように扱ったなんてそんなことあるはずが・・・あるはずがないのに。違うの・・・・違うのよ・・・・」

 

後半になるにつれて、アイリスフィールの声から力が抜け、両の瞳からは涙がぽろぽろと流れ落ちる。自分で口にすることで今まで気づかなかった、気づきたくなかった己の内側をしってしまったアイリスフィールはゆっくりと力なく崩れ落ちるのであった。

 

そんなアイリスフィールの隣で、切嗣はアイリスフィールの言葉を聞いて己に自問自答を繰り返す。

 

アイリスフィールが先に声をあげなかったら自分がそうなっていたであろう事は容易に想像できた。しかし、アイリスフィールが先に言ってしまったこともあり切嗣は彼女ほど取り乱すことはなく幾分か冷静なまま士郎に言う答えを探し出す。

 

嘘や誤魔化しは何も解決しない、ただ状況を悪化させるだけ。ならば今の自分が出せる心からの本音で答えるしかない。その結果が最悪の結果になる恐れもあるがこうするほかには今の切嗣には思い浮かばなかった。

 

「士郎」

 

 

 

「そう・・・なのかもしれない。いや、きっとそうなんだろうね。士郎の言う通りだ。せめてもの罪滅ぼしと、自分達の罪悪感をすこしでも和らげるために士郎を引き取る事にした。」

 

自白する切嗣の隣では、アイリスフィールが今もなお泣き続けている。切嗣の告白を聞き、さらに泣き出しているのかもしれない。

 

「でもね士郎、確かにその通りではあるけど、さっき言った答えも嘘じゃないんだよ。信じてくれるかは分からないけど、僕は、アイリは君と家族になりたいと思ったんだよ。」

 

「士郎のことも本当の息子のように思っているしイリヤと同じくらいに愛してもいるよ。」

 

「えぇ、私もキリツグと同じよ。もう誤魔化そうとは思わないわ。ごめんなさいシロウ・・・確かに罪悪感から始まったかもしれないけど、私は・・私達は今でもあなたを家族と思っているし愛しているわ!」

 

切嗣の言葉を聞き、少しは回復したらしいアイリスフィールはその顔を涙でぬらしたまま力強く断言した。

 

そんな二人の答えを聞いた士郎は無言で二人を見つめたままであった。

 

 

 

しばらくしてから士郎は小さく微笑み、突然二人に頭を下げた。

 

 

 

突然の行動に意味が分からなく夫婦二人は互いに視線を交換する。

そんな二人に目もくれず、今もなお頭を下げる士郎は言う。

 

「意地悪なことを言ってごめん。だけどどうしても二人の本音が聞きたかったんだ。二人が罪悪感から俺を引き取ったとしても、俺は二人には感謝しているし愛していると胸を張っていえる。二人を傷つけたことは分かっている。だけどやっぱり気になって仕方なかったんだ。それに、二人にはずっと逃げていて欲しくなかった。俺も家族が大好きだからさ、二人には逃げていて欲しくなかったし、俺ともなんの後ろめたさもなく接して欲しかったんだ。二人に愛してるといってもらえて俺は嬉しいよ。だからさ爺さん、アイリさん、俺からも言わせてくれ。」

 

そう区切り、士郎は顔を上げる。

その顔には滅多に目にすることはなかった_いや、恐らく今まで見たこともないような_士郎の笑顔が浮かべられていた。

 

「ごめん、そしてありがとう。」

 

その言葉に、今度は切嗣とアイリスフィールの両方が士郎に抱きつき、瞳から涙を流していた。その事に士郎はいい大人がなにやってるんだよと照れ気味に言うがそんなことは知ったことかと二人は士郎を抱きしめ続けた。

 

 

 

 

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そんな互いの心のうちをさらけ出した3人は、今は落ち着いた様子で別れの挨拶を告げようとしていた。面会時間ももうそろそろで終わり、窓から見える光はオレンジ色へと変色していた。

 

「じゃぁね士郎、目が覚めて、本当の事が言えて本当によかったよ。」

 

「私もよシロウ。それとあなたが息子で本当に嬉しいわ。明日には私達はいないけどイリヤちゃんの事、お願いね。」

 

「あぁ、俺もよかったと思ってるよ。イリヤや家の事は任せてくれ。」

 

お互いに満足な、それでいて晴れた気分で別れられるとおもったが_

 

「あっそうだ爺さん、最後に聞いてもいいか?あっいや、そんな身構えないでくれよ今度のはさっきみたいな質問じゃないからさ。たださ、爺さんの()の夢って・・・・一体なんなの?」

 

いきなりの質問に切嗣は疑問を浮かべるが、その質問に切嗣は小さく微笑んで即答する。

 

「僕の夢はね、家族の味方になることさ。そして、家族の平穏を保つこと。」

 

なんの恥ずかしげもなく切嗣はそう答えた。その答えを聞いた士郎もまた、小さく微笑み、満足そうな笑みを浮かべながら切嗣に言う。

 

「そっか、なら大丈夫(・・・)だな。だったら安心してくれよ爺さん。ここを離れることになる爺さんには家を守ることは難しいだろ?仕方のない事だってのは分かってるさ、あぁ仕方ないな、本当に。だから安心してくれ」

 

 

 

 

「爺さんの夢は、俺が一緒に手伝ってやるからさ」

 

 

 

 

そう答えた士郎にアイリスフィールは嬉しそうに微笑み、切嗣は驚いた表情から少ししてアイリスフィール同様に微笑む。そして、どこか満足そうな顔でかつての別の世界の自分と同じようにしかし、その者とは違い、元気に、力強くそれでいて安心したように言う。

 

 

「あぁ、安心した。」

 

 

 




この後、無事に退院した士郎を迎えたのは泣きじゃくり、抱きついてくる妹と照れくさいがしかしやっぱり我慢できなくなった家政婦が抱きついてくるという大変なものであった。

だが、更に大変なことに妹が数週間は兄の元を離れることはなかった。どこに行くにしても士郎にべったりになり、まるでコバンザメのように四六時中士郎と共に過ごしていた。その事に多少苦笑いを浮かべる士郎であったが別にやめさせることはしなかった。さすがにトイレまでついていこうとしたときは止めたが。



次に、学校に復帰してみればクラス全員の名前を忘れてしまったことで大変な目にもあったりする。だが何故か藤村大河の扱いが完璧になって戻ってきていたことに周りのみんなは首を傾げていた。


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覚悟

わりと早く出来ましたね。
しかしあまり長くはありません。




だがしかし!!!次からはお待ちかねの本遍!
やっとですよ、ていうか遅すぎますね。うん。









最後のルビで士郎の違和感に気づく人はいるかな?


士郎が目を覚ました日、魔術の存在など切嗣達が魔術師かどうかの確認をしたかったがどうやらその日が切嗣たちが日本にいる最後の日だったようだ。しかも目が覚めた直後で聞きたいことや知りたいことなどがありすぎてどの順に聞き、またはどれを聞かないことにするかなど士郎には咄嗟に判断することはできなかった。そもそもの話、士郎は何故自分が病院にいたのかすらも分からないでいた。

 

後になってセラに聞いてみれば覚えていないのかと驚いたもののそれも仕方のないことなのかもとあまり気にすることはなかった。

 

セラによるとどうやら自分は謎の頭痛により一ヶ月以上も意識がなかったらしい。そんな事があったなんて記憶にないし、仮にあったとしても謎である以上調べることも出来ない。そもそも自分が倒れる以前の記憶も酷く曖昧で、覚えているのなんて自分の家族くらいのものだ。しかし覚えていると言ってもはっきりと覚えていたのは妹であるイリヤスフィールと義父である切嗣だけだ。他の家族たちには悪いと思っているが思い出そうとしなければ名前すら出なかったであろう。忘れてしまった事に心の中で謝罪し、もうこのような事がないように自分の大切な者達の名前は地獄に落ちたとしても忘れないようにしようと、士郎は固く心に誓った。

 

 

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目覚めたばかりではあるが、士郎には確認しなければならないことが色々あった。不本意ではあるが裏の社会の事だけではなく人には軽く言えないようなことを山ほど知ってしまったのだ、このまま確認しないことなんて衛宮士郎にはできるわけがないし無視するなんてもってのほかだ。なので、まず第一に確認することにしたのは魔術の存在だが、これは先日した切嗣達の会話からほぼあると見ていいだろう。切嗣達の反応から二人ともが何かしらの形であの大火災に関わっていたのは判明した。あれほどの災害なのだ、普通に生活していてその事件に関わってしまうなどあるわけがない、それこそ偶然に偶然が重なるような奇跡でもない限りだ。普通ではまず関わらない、ということは逆に彼らは普通ではないとも言える。士郎の知る限りで、普通と普通ではないことの区別は魔術に関わっているか否かだ。切嗣達が普通ではないのならこの世界でも彼らは魔術師であると見てほぼ間違いないだろう。

 

そのことも含めて問うたわけではないが運よくここまで推測できることが出来たのだ、あのときの質問は士郎にとっては結果的にかなりの収穫になっていた。

 

だがしかし、確定になったわけではない。なので士郎は遊びに出かけるという建前で己の疑問を明確にするべく小さく戻っていて慣れない足取りで人気のない学校付近の森へと足を勧めていた。

 

はやく身体に慣れることもかねて、士郎は走りながら目的の地へと駆けていった。道中、何回か覚えのない人達に挨拶をされたが無難にこちらも挨拶を返すことでなんとかなった。うまく誤魔化せたとは思うが、このままでは何れボロがでそうなので出来るだけ早く自分の交友関係や知り合いを覚えなおそうと決めた。

 

 

 

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目的の場所へ付き、士郎は肩で息をしながら呼吸を整えるために近くの木に身を預ける。

目的地にも着いたことで、士郎はこれからの事を考えることにした。その中でやはり優先するのは魔術が存在するか否かである。

 

 

魔術の存在を確定させる事はいくつかあるがその中でどれを行うかは士郎の悩むところであった。その方法というのが、自身の魔術回路の有無、この地を管理しているはずの遠坂家とそのバックアップを勤めているはずの言峰教会の結界の存在、冬木市の霊地の調査などである。

 

遠坂家と言峰教会に結界が存在するのであれば魔術は存在することになるし、それは霊地の調査によっても同じである。だが霊地が存在していても魔術の存在が知られてないという可能性はあるにはあるがその場合でも魔術は存在『できる』と言う事になるので結果は変わらないであろう。

 

最後に自身の魔術回路の存在だが、今のところこの方法が一番楽で手っ取り早いだろう。すぐにでも魔術回路を開いてみたいところではあるが本当にそうしてもいいのかが士郎の判断を食い止めている。

 

仮に魔術回路を開いたとして魔術の存在を確定したとしよう。その場合、切嗣達が魔術の世界にいることも確定するし数年前の災害の真相も明らかになるが・・・・・問題はその後である。

 

 

 

 

 

考えをまとめようとしているとどうやら呼吸も正常に戻ったようで気づけば肩で息をすることもなくなっていた。

その事に気づき一つ大きく息を吸って吐くと、士郎は静かに木々の隙間から見える晴天の空を見た。

 

 

 

 

 

 

 

この世界は平和だ。

 

 

 

 

 

 

 

エミヤシロウがいた世界とは違い、衛宮切嗣は愛娘であるイリヤスフィールと再会することが許されており、最愛の人であるアイリスフィールも存命している。セラやリーゼリットも加わり、衛宮家は今も平和に日常を過ごしている。

 

 

もし、魔術が存在しているのなら___

あの災害の真相が明確になる___

あの戦争が存在していたと言う事にもなる___

今もなおアイリスフィールが生きているということは___

衛宮切嗣はエミヤシロウの知るエミヤキリツグとは別の選択をした事になる___

 

 

この切嗣は言っていた・・・・家族の平穏を守るのが今の夢であると。

 

 

ならば息子と娘を魔術の世界に関わらせるようなことは避けるであろう。血生臭い平和とは真逆の世界にある魔術師の世界なんて知られたいはずがない。その証拠に、士郎はエミヤシロウの記憶を体験する前は魔術の事など何一つとして知ってはいなかった。

 

 

 

他にも予想できることはある。

 

 

 

 

度々行われる海外での仕事

 

 

 

恐らくあの夫婦は自分達に降りかかる火の粉を防ぐために日夜戦っているのだろう。家族との時間を削ってまでやっていることだ、もしも士郎が魔術回路を開きその存在を知ってしまったとなれば、あの二人の苦労をなかったことにしていることに近い。

 

 

 

もしも魔術回路を開いてしまえば一流の魔術師であるアイリスフィールやセラなどにすぐにでもバレてしまう。あの二人を欺けるほど衛宮士郎には魔術の才などないし魔力殺しの礼装もない。

仮に魔術が使えるのであればその時は家族の誰にも自分が魔術を使えることを知られたくない。いづれ告白するつもりではあるがそれは魔術回路が覚醒した後ではなく、修行を積み、その力を己の物にしたあとだ。未熟な時点で告白してしまえば余計に両親達を心配させてしまうので真相を打ち明けるのはまだまだ先になるであろう。

 

 

魔術回路の作成に成功したとして、魔術回路が開ければ士郎は絶対に力をつける。両親が関わらないことを願っているのは分かっていても士郎は関わることを選ぶであろう。

 

 

それは後悔しないため__

 

 

エミヤシロウの記憶から、世界は理不尽の連続であることは理解している。ならばその時に自身が出来ることはそれを事前に防ぐこと、もしもそれが叶わないのであれば被害を最小にまで防ぎ、自身が持つ全ての力を持ってその理不尽に立ち向かうまでである。そのためには力が必要だ。なんの力もなければ出来ることも当然ない、なので自分の願いをかなえるために、自身の夢を実現させるためには力が必要になる。その機会が・・・・手段があるのだ、迷うことはしない、誰かを守れるのであればその力をものにしてみせよう。

 

覚悟は出来ている、しかし今は誰かにバレるわけには行かないので魔術回路を開くのを戸惑ってしまう。第一まだ魔術が存在するかどうかも明らかにはなっていない。だが確認しないわけにも行かないのでどちらかを選ばなければいけないだろう。

 

他の二つの案も魔術回路がなければ調査はできない。

よって選択肢は実質一つ・・・・・いや選択の余地などない。

 

 

 

 

 

 

さてどうするか、っと一人腕を組みながら背を木に預けて考えているとふと思い出す。

 

魔術回路を開くかどうかで思い出したのはエミヤシロウが長年続けていた間違った修行方法だ。たしかあの時は一度でいい事を何度も何度も、それこそ毎日やめることもなく数年間も続けていた。魔術の師である彼女からも無駄なことと言われていた。当時は文字通り死ぬほどの思いをして続けていた事が無駄だと言われて落ち込んだものの、後から考えてみればあれは決して無駄なことではなかったのだ。たしかに、魔術を扱うだけならばあの修行法は無駄で無意味なことであろう。

 

 

しかしだ

 

 

死ぬほどの思いを何年も続けたおかげで、己の魔術回路は普通の魔術師の魔術回路よりも頑丈になり、魔術回路が焼けきってもおかしくないほどの無茶を行っても数日経てばなんの支障もなく使えていた。痛みを経験しすぎた事からも打たれづよくなり、集中力も規格外までに成長した。

 

彼女は無駄だと言っていたがシロウはそれが無駄だったとは思ったことがなかった。無駄ではなかったのだ。

 

小さなことでもあるが魔術回路を正常に開いてなかったこともあり、一流の魔術師であったはずの彼女の目でさえも欺くことができていた。

 

その事に気づき、士郎は長らく沈んでいた思考の海から上がり、組んでいた腕を解き、身体を預けていた木から離れていく。

 

 

 

 

「決まりだな」

 

 

 

 

 

答えは得た。己のやることはすでに決まったいる。

痛みなどは慣れっこだ、何度もやっていたことでもあるし今更怖がることでもない。

それにやる理由も十分にあるのだ、ならばやらないわけにはいかない。

 

イメージも自分の能力の方も問題ないはず、何故ならこれも何度も経験し一度は自分のものとしたことがあるのだから。

問題があるとするならば今の自分の身体だろう。

 

残念なことに今の自分の身体は耐えられていたあの頃の身体とは違い、未熟も未熟、なにもされていなく鍛えてさえもいないのだから。

入れ物がこのままでは出来ることも出来なくなってしまう。

 

なので平行して身体作りもしなければいけない。それも魔術回路を開ければの話ではあるが・・・

 

 

 

 

今から自分がやろうとしていることは、親の願いとは真逆のことであろう、切嗣の願いを壊すようなことではあるが同時に守ることでもある。

 

 

「約束したからな・・・・・」

 

 

士郎は近くに誰もいないことを確認し、己の胸に手をかざす。

 

 

「切嗣達がいない間は俺が家族を守るって」

 

 

目を瞑り、エミヤシロウの生涯を表し、その魂に刻まれた一節を唱える。

 

 

――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

 




衛宮家のある一日



士郎「それじゃぁ、遊びに行って来るよ」

セラ「夕飯前には帰ってくるんですよ」

士郎「分かってるって、んじゃ」

イリヤ「お兄ちゃん!」トテテっ

士郎「ん?どうしたんだイリヤ?」

イリヤ「どこに行くの?」

士郎「ちょっと遊びに行くだけさ」

イリヤ「危ないところじゃない?」

士郎「危ないって・・・ただ公園に行くだけだぞ?」

イリヤ「本当に危なくないの?頭うったりしない?」

士郎「(なんで頭?)__あぁ危ないところじゃないぞ」

イリヤ「ならいいよ。ちゃんと帰ってきてね」

士郎「あぁ分かってるよ。イリヤもいい子にしてるんだぞ」

イリヤ「うん!」

士郎「いい返事だ。んじゃそろそろ行かなきゃ」

イリヤ「うん、行ってらっしゃいお兄ちゃん」

士郎「うん、行かなきゃなんだ・・・だからさイリヤ」





士郎「そろそろ離してくれない?」苦笑





セラ(イリヤさん口ではああ行ってますがまだシロウと一緒にいたいのですね。しっかりとシロウのシャツの先を掴んでいます。しかしあの日からと言うもののイリヤさんはシロウにべったりですね・・・・。あんな事があったので仕方のないことだとは思ってましたがこれはすこし・・・いえ、かなり危ういのでは?)

イリヤ「・・・・・やっぱ家にいて一緒に遊ぼうよ。」

士郎「えぇー・・・・」セラをちらり。

セラ「イリヤさん、シロウも用事があるのでここは離していただけますか?」

イリヤ「・・・・・・・・・・・イヤ」



「「・・・・・・・・・」」



士郎「仕方ないか。しょうがないから今回『も』諦めることにするよ。」

セラ(シロウもイリヤさんに甘すぎると言うか、これで一体何度目でしょうか?)

イリヤ「本当!やったー。それじゃ一緒にお絵かきしよう!」

士郎「絵か、別にいいぞ。何を描くんだ?」

イリヤ「お兄ちゃん!」

士郎「はは、嬉しいな。それじゃ俺はイリヤを描くことにするよ」

イリヤ「わーい!出来たらお兄ちゃんにあげるね!」

士郎「うん楽しみにしてるよ」


セラ「シロウ、夕食の準備が出来たら呼びますのでそれまでイリヤさんをお願いしますね。」


士郎「あぁ、任せてくれ」

イリヤ「ほらお兄ちゃん はやくはやく!」

士郎「っと引っ張らないでくれイリヤ、すぐ行くからさ」


セラ(このような事が続いてイリヤさんかシロウが兄妹の壁を越えないか心配ですね。)










リズ「セラはまだ知らない・・・いづれそうなる運命であることを。」

クロ「そして私も加わることも知らない」
美遊「同じく」
虎「同じk「「「SSF」」」・・・・・まだ何も言ってないのに。」




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始まり

自分で言ったことも守れないとは情けない・・・・

もう言い訳はしません。すいませんでした。


ではでは続きをどうぞ。


覚悟を決めたその日から衛宮士郎はかつてのエミヤシロウと同じように自殺まがいの修行法を続けていた。

エミヤシロウは魔力が高まる深夜の時刻に毎日土蔵にて魔術の鍛錬を行っていたが士郎はそうはしなかった。

確かに魔術の鍛錬は魔力が高まる夜に行うのが一番なのであろう、しかし魔術回路すらもまともに開けてない状態では魔力の高まりなどないに等しい。

よって、エミヤシロウのあの間違った修行法はべつに夜でなくてもいいのだ。

 

その事に気づいた士郎はエミヤシロウとは違い、毎日深夜に_だけではなく(・・・・・・)_周りに誰もいなく、かつ時間がある時にどこでも行っていた。何年も続けていたことなので耐えることなどわけもなかったし、集中力を切らすことなどはなかった。規格外なまでの精神力によって士郎は多いときは一日に3回も魔術回路を作り出していた。一日に行う回数が増えたためエミヤシロウよりも断然に早い段階で魔術回路は神経と同化してしまった。3回以上もやろうと思えば出来ていたはずだが、さすがに生存が保障できるほどには気力がなかったのでちゃんと安全ラインを考慮して魔術回路を作り出していた。作り出そうとした魔術回路によって体内がズタズタに引き裂かれるような感覚が襲う毎日、まるで背骨が通常ではありえないところにズレるような痛みと内側から何度も串刺しにされるような激痛。常人ならば発狂し、ショック死してもおかしくないような痛み。魔術師であっても命を落とす危機さえあるこの作業(・・)を士郎は何度も、それこそ年単位で続けていた。無事に生き残れたことを実感した後は、鳴り響く心臓を落ち着かせるべく精神統一と同じ要領でイメージトレーニングも行っていた。実際に投影するわけではないが投影するつもりである英霊が好んで投影し、もっとも長くその者と戦場を駆けた二振りの剣をイメージする。創造理念を鑑定し、基本骨子を想定、蓄積された年月を計算し、経験を読み取り、その手に幻想を再現する。

 

魔術回路の鍛錬も大事ではあるが恐らく衛宮士郎にとってはこれがもっとも重要な修行なのであろう。

 

何故なら衛宮士郎は戦うものではないから。

 

できるのはただ生み出すことだけ_

 

忘れるな、いつだって自分は作ることしかできない。

衛宮士郎に出来ることは作ることだけだ。相手より強くなろうとは思うな。

想像(創造)するのは自分より強い自分だけでいい。

 

修行する度に思い浮かべる自身に向けた言葉。

 

士郎はその言葉を忘れず、また迷走しないようにと呪文のように己の内で繰り返し唱えるのであった。

 

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

 

「ったく、まさか一年で帰ってくる破目になるとはね」

 

『あらら、せっかくの帰郷ですのに随分な言い草ですね。』

 

「これくらい良いじゃない、覚悟を決めて本格的に魔術の世界に足を踏み入れると決めて日本を発ったのにまさかのたったの一年で帰されたのよ。とんだ肩透かしよ。」

 

空港の場に、真っ赤な服を着た一人の少女が荷物を片手に口を開ける。独り言のつもりで言ったその言葉に、どこからか肉声とは違った声が返ってきた。機械といわれてもそうではなく、かと言って人の声とも言えないその声の根源はどうやら彼女の持つ荷物かららしい、数秒とたたない内に声の主はニョキッと姿を現した。その姿はステッキのようで先のほうには円がありその中心には五角星が描かれている。更にその円からは白い羽が左右に三枚、計六枚生えていた。取っ手の部分は赤く染められておりその姿はまるで魔法少女が使う魔法のステッキのようであった。そんな子供のおもちゃのようなステッキに向かって話す見た目高校生の少女ははたから見たらイタイとしか言えないだろう。それよりも驚くべきことはそのステッキが独りでに動き、更には喋っているということだ。まるで生きているようなそのステッキに少女はまるで当たり前とも言わんばかりの態度で会話し続けている。

 

『しかしですねぇ~、ブツブツと文句を言ってますがこれも立派な任務で私達の製作者()の弟子になる最大のチャンスだって事忘れてませんかぁ~?』

 

「その通りですわ、そんなにイヤなら負け犬らしくこの任務から降りて全て(・・)(ワタクシ)に任せてもらおうかしら。(ワタクシ)もあなたという足手まといがいないほうが素早く任務を達成できて助かりますわ。」

 

「勿論忘れてないわルビー、私も本来はここまで文句を言うつもりはなかったわ、なんたって大師父からの条件なんですもの。えぇ、文句は言わないわ____こいつさえいなければね!」

 

ルビーっと呼ばれたステッキが赤い少女に問いかけるとふとその背後からもう一人、金色の髪に青いドレスを着こなす同年代の少女が現れた。髪の色からして外国人の彼女は流暢な日本語と共に現れ、ドリル状に編まれたロングヘアーをなびかせながら見ただけで高価だと分かるほどの青いドレスを着ていた。全身から溢れる高貴なオーラは一般人からは近寄りがたい雰囲気を漂わせておりその一つ一つの仕草はまさにどこかのお嬢様のようなそれであった。

 

そんな二人が横に並んで歩みを進めていると急に取っ組み合いの喧嘩を始める。二人の目立つ容姿からもだが公衆の場でいきなり始まった喧嘩に周囲の人達は驚き、目を向けては見るが二人の迫力からすぐにその場をそそくさと離れていってしまう。そんな二人を眺めながらルビーはその羽を人の腕のように動かしやれやれと言ったように言う

 

『まったく、またいつもの奴ですか?いつまで経っても変わらない人達ですねぇ~。』

 

『公衆の場での喧嘩は控えるようにしてくださいマスター。』

 

徐々にエスカレートする二人の喧嘩の最中にルビーと良く似た、しかしどこか違うステッキがもう一機金髪少女の所持していたカバンの中から唐突に現れた。

ルビーとそっくりなそのステッキはルビーとは違い蝶のような羽を生やし、中心の星は五角星ではなく六角星で全体的に赤いルビーとは違いその色は青かった。更にはルビーとは違いその声はどこか冷静でどちらかというと機械のそれに近かった。

 

偶然かその二機の色は所有者である二人の少女が着ている服と同色である。

 

幾ら止めてもやめない二人の喧嘩を二機は静かに見守りながら溜息を吐く勢いで呆れるのであった。

 

『この調子だと任務達成は厳しいかも知れませんねぇ~』

 

 

 

 

___________________________________________

 

 

 

 

「さてっと」

 

「ん?早いな衛宮、部活はいいのか?」

 

「あぁ、今日は俺が夕食当番だからさ」

 

放課後の校門前で自転車にまたがろうとしていた士郎は、彼の親友であり学園の生徒会長でもある柳洞一成(りゅうどういっせい)により行動を一時停止し声のした方へと首を向ける。聞かれた質問に簡単に答えると一成はなるほどっと小さく頷いた。するとその瞬間何かに気づいたように軽く別れの挨拶を述べて足早にその場を去ってしまった。どうやら生徒会の仕事中だったらしくあまり長く話すつもりは最初からなかったらしいが士郎の後ろから確認した誰かの接近により思っていたよりも早く会話を切り上げ、士郎に背を向け、軽く手を振り、そのまま校門へと足を戻すのであった。

 

「お兄ちゃん!」

 

すると入れ替わるようにやって来た何者かによる声が士郎の耳に届いた。

士郎が知る限り、自身を兄と呼ぶ者は一人しかおらず、振り返ってみると案の定接近していたのは妹のイリヤスフィールであり。普段部活で一緒に帰宅することが出来ないことが多いからか嬉しそうに小走りに近寄ってくるのが目に見えた。

 

そんな嬉しそうな妹の笑顔に心が温まり、士郎は軽く口元を吊り上げて近寄ってくる妹を迎える。

 

「イリヤも今帰りか?」

 

「うん!一緒に帰ろうお兄ちゃん!」

 

「いいけど・・・友達はいいのか?」

 

ふとイリヤの後方を見ると見知ったイリヤの友人達が揃ってイリヤの後を追ってきていた。どうやら友人達を置いて真っ先に士郎の元に来たらしい。不思議そうな顔をしながら友人達はイリヤに追いかけ、その視線をイリヤの向かうほうへと向けると納得したように呆れるのであった。

 

「イリヤ兄の言う通りだぞ、勝手に走り出してどうしたのかと思えば___なるほど、理解した」

「まぁ大体予想は出来てたけどねー」

「イリヤちゃんはお兄さんが大好きだもんね」

「おっす!イリヤの兄ちゃん!」

 

呆れるように言うメガネのかけた少女。

語尾を延ばし、のほほんとした糸目の少女。

苦笑気味に言うこの中では一番おとなしそうな少女。

元気よく男口調で挨拶する少女。

 

それぞれが登場と共に別々の言葉を口にし、イリヤと合流を果たすのであった。その声に反応して振り返ったイリヤは苦笑気味にそれでいて申し訳なさそうに謝罪し、友人達の事は頭のなかから抜けていたのか士郎の質問に答えられず、『えーと、えーと』っとオロオロしながら頭を悩ませていた。

 

そんな妹の姿に士郎も苦笑する。自分と帰ろうと誘ってもらったのは嬉しいが、それで友人を置いていくのは士郎の望むことではない。かといって、住んでいる家も同じでせっかくの誘いを断る理由もなく友人達と帰らせることもできない。なので困ってるイリヤに士郎はある提案をする。

 

「みんなも途中まで道は同じだし小学生だけで帰すのも心配だから一緒に帰るのはどうだ?」

 

その提案にイリヤは首を縦にふり、友人達もイリヤ同様文句もなく同意してくれた。

士郎一人だけが自転車に乗り、小学生五人を歩かせることにも行かないので士郎は自転車を横に並走させながらイリヤ達の歩幅に合わせつつかつ歩道の内側を歩いていた。そんな小さな気遣いにおとなしそうな少女、桂美々(かつらみみ)は気づき、やはりイリヤの兄は優しいのだと再確認するのであった。

他の少女達はと言うと男口調の少女、嶽間沢龍子(がくまざわたつこ)が騒ぐのを落ち着かせるのに気をとられていて気づくことはなかった。メガネの少女、栗原雀花(くりはらすずか)が言葉で落ち着かせようとし、それでも収まらないところを糸目の少女、森山那奈亀(もりやまななき)が物理的に静める(沈める)のであった。そんなコントのような出来事に士郎とイリヤの兄妹は苦笑気味に眺めるのであった。

 

 

しばらくすると徐々に友人達はそれぞれの家へと向かうべく分かれ道で別れ、最終的には士郎とイリヤの二人だけになっていた。二人だけになった途端、さきほどまでの賑やかな空気はなくなりあたりも打って変わって静かなものへとなっていた。

 

「相変わらずタツコちゃんは元気だね」

 

「うーん、元気というか・・・元気すぎるというか・・・今日だって__」

 

士郎がそういうとイリヤも続くように感想を言い、そこから思い出すように今日起こった出来事を語り始めた。楽しそうに今日の出来事を語るイリヤを眺め、士郎はこんな日常を守りたいと何度目かも分からない思いを浮かべる。このような普通の平穏を士郎は大事にしようと思い、そのための努力も惜しまないつもりでいる。今夜も時間が空けばいつも通りに鍛錬を行い、いづれくるかもしれない脅威からこの日常を守れるように今出来る全てをもって対策を続けるのであった。

 

 

隣で笑顔を浮かべる妹によく似た少女の最期のようにはすまいと思い、その歩を愛する者達の住む我が家へと向けるのであった。

 

 

 

 

____________________________________

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさいイリヤさん、士郎も一緒ですか。」

 

玄関を通ると洗濯中だったのかセラが洗濯籠を抱えながら出迎えてくれた。

 

普段は部活で帰宅時間が違う士郎がイリヤと一緒に帰宅した所をみてそういえば今日は士郎が夕食当番だということを思い出し、同時にその事に少しばかり腹が立った。

 

困ったことに必要ないと言っても衛宮家の長男は進んで家事をやりたがる、それも完璧といっても良いほどの手際でだ。家政婦としてもメイドとしてもまるで仕事が奪われるようで納得がいかないことばかりである。これが母親であれば助かったり感謝したりもするのだろうがセラはアインツベルンのメイドでありそんな自分の仕事に誇りを持っている。なのでそんな自分の仕事を横取りされるのは許せないしそれよりも許しがたい事にこの男、料理に関してはセラよりも上であるということである。そこいらのシェフですら負かすような腕を持つセラであったとしても士郎には勝ったことが一度もない。一体どこでどのようにそのようなスキルを身につけたのかは未だに謎だがそれはセラのプライドをズタズタに引き裂いていた。何度勝負を挑んでもあまり乗り気ではないしたとえ乗り気でなかったとしてもやはり士郎には勝てたためしがない。ならば家事はどうかと言えば負けたことはないが勝てたこともない。つまりは互角なのであった。

 

もう一人のメイドであるリズに至っては居間でゴロゴロしてばかりで士郎が家事をしてくれるのを良いことに好き勝手やっている。最近では士郎の夕食当番を楽しみにしていたりする。一度、メイドが長男に料理をやらせてあまつさえは楽しみにしているなどとはどう言う事だと強く言ってみたら_『だって士郎のほうがおいしいし』_などと言われてセラは膝から崩れ落ちたのを覚えている。

 

そんな士郎に対抗するためにセラは暇さえあれば士郎がこれ以上家事を出来なくするために手をつけられる家事を全て終わらし、料理の勉強を始めていた。何百と言う本を読んでは料理の腕を上げ、しかしそれでも士郎にはかなわなかった。一度士郎に迫るほどの料理を完成させ後一歩のところで勝利を収められそうだった時、次の日には士郎は更に腕を上げてきてそれを見てセラが頭を抱えて暴走しそうだったことも覚えている。

 

リズやイリヤは料理勝負の日にはいつも以上に豪勢な夕食を毎回楽しみにしていたり、更においしくなるのであれば止める理由もなくむしろ望むところでもあるのでそんな二人の小さな争いを止める気などサラサラなかったりする。

 

一度セラが士郎に台所侵入禁止令を出したことがあったがそんなセラに対して士郎ではなくイリヤとリズが強く反対したためすぐに撤回された。リズならともかくイリヤにまで言われてはセラは何も言い返すことができず渋々反対意見を聞き入れた。しかしこのまま好き勝手やらせるわけにも行かないので士郎を制限させるべく料理は当番制に落ち着いた。最初は週に一回にする計画であったがまたも反対意見がでたので週に二回に落ち着いた。不満の声もあったがこれ以上はセラが譲る気がなかったので反対派の二人(イリヤとリズ)も渋々従った。本人の意見もなしに決められたことに士郎は溜息を吐くしかなかったのである。

 

なのでリズとイリヤは今日を楽しみにいていたりする。当然セラはこの日が嫌いである。夕食の時間にはどうしても自分との差を感じてしまうからである。なのでこのまま大人しくするつもりは毛頭ないので士郎が料理中は後ろでジッと観察して盗める技術を盗むつもりでいる。そんな視線を浴びることになる士郎はあまりいい気はしないし今でもまだ慣れていなかったりする。

 

そのような理由からセラはとりあえず玄関を通る士郎に鋭い視線を浴びせておく。

本人は苦笑するだけで余り効いている気配はないが。

 

イリヤはと言うと夕食を楽しみにしており上機嫌で部屋へと上がろうとしていた。

 

「あっそういえばイリヤさん」

 

部屋へと上がる途中にかけられた声にイリヤは振り返る。

 

「先ほどイリヤさん宛てに宅配便が届きましたよ、確か品名は・・・・DVDだったと思います」

 

「DVD?あっもう届いたんだ!」

 

品名から何か心当たりがあったのかイリヤは部屋へと上がるのを中断して早足に居間へと駆け込んだ。

そんなイリヤの様子に士郎とセラはなんだろうとイリヤの後を追ってみる。

その途中、士郎がセラの隣に並んだ瞬間、未だに抱えている洗濯籠を見て士郎が「やっておこうか?」などと言ったが当然セラは不機嫌気味に「結構です!」と断った。

 

イリヤの後を追っていると居間からイリヤの大声が聞こえてきた。

 

『あぁ~!リズお姉ちゃん先に見てる!』

『おっイリヤお帰り。』

『なんで勝手に見ちゃうのさ!』

『払ったの、わたし』

『そうだけどさ~!』

 

居間に入ってみるとリズがいつも通りお菓子を片手にアニメを見ていた。机の上に詰まれたパッケージを見るにどうやらこれが件のDVDらしい。先ほどの会話とこの状況から察するにイリヤが帰ってくる前にリズが見てしまったらしい。そんな二人が争っているのを背景に士郎は苦笑し、セラは額を抑えていた。

 

「何事かと思えば・・・」

 

「アニメのDVDか」

 

「あぁ、すっかりイリヤさんも俗世に染まってしまって。これでは奥様たちに顔向けできません」

 

「俗世って・・・いやまぁ、こういうのは個人の趣味だし。なによりイリヤの年齢だとこれが普通なんじゃないか?」

 

「普通って!何を言っているのですか!このままエスカレートしてしまえばどうなるか分かっているのですか!大体、義理とはいえ兄であるあなたがしっかりしていないからこういうことになるのです!」

 

「なんでさ・・・・」

 

「いいですか貴方は長男なんですから__」

 

 

___________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~・・・・」

 

セラからのありがたい説教から開放され、士郎は自室で着替えた後夕食作りに取り掛かった。

後ろでは相変わらずセラが熱い(鋭い)視線を送っている。

その更に後ろにはイリヤとリズが帰ってきてからずっとアニメを見ていた。いつもならこれほど長い間の視聴はセラに止められるのだが今日は士郎を観察するのに夢中でそれどころではなかった。

 

そうこうして夕食は終わった。

いつも通りイリヤとリズが幸せそうな顔をしてセラが悔しそうな顔をしたのは言うまでもない。

夕食の後はリズとイリヤのアニメ視聴はセラにより終了しリズは部屋へ、イリヤは風呂へと向かった。

士郎は夕飯の後片付けを始め、セラが居間の掃除を始めていた。

 

半分ほどの食器を洗い終わると士郎は何かを察知したようにピタリと動きを止めた。

一瞬ほどだったが士郎は止めていた動きをもう一度動かすように急いで残りの食器を片付けていった。

 

その後は急いでエプロンを外して台所を出て行った。

当然、慌てている士郎に疑問を思ったのかセラは尋ねる。

 

「どうしたのですか急に慌てたりして?」

 

「いや、ちょっとやらなきゃいけないことを思い出してな。悪いセラ、部屋の掃除は手伝えそうにないや」

 

悟らせないように士郎は至って普通どおりを装ってそう答えると玄関を出た。

夜になって気温が下がったことで肌寒く感じるが士郎は急いである場所を目指す。

 

「ここ最近感じていた微力な魔力とは違う明らかに大きな魔力・・・・場所は・・・・・空!?」

 

最近になって判明した七つの小さな魔力。それは日に日に膨れ上がるように大きくなり、場所もそれぞれ違う。しかし、七つの内の二つはつい数週間前にある知人から解決したという報告があった。

その時の事は最近の出来事なのでよく覚えている、一瞬妙な空間のズレを感じ取って現場に向かってみればそこにはその知人が一人で虚空を見つめていた。

何があったのか聞いてみれば大丈夫といい、自分で調べてみても違和感がある程度しか分からなかった。

その後はこちらの仕事だからと家に帰れと言われ仕方なく帰った。

一体どのように処理し、また魔力の正体は一体なんだったのかと問えば気にするなの一点張り。

 

問い詰めても何れ分かるとしか教えてくれなかった。

 

色々なもので釣ってみても教えてはくれなかった。一度本気で自分を餌に使おうかとも思ったが不幸な未来が確定するのでやめておいた。

 

何度聞いても無駄だったので一人で未だに調査は続けているが分かったことはまだ何もない。ただ分かるのはなにか良くないことが起こると言うことだけだ。

理由はただの勘だが膨れ上がる魔力を放って置いていいことが起こるとは思えない。

しかし今回察知したのはそんな魔力とは違う明らかに大きな魔力。

一瞬残りの五つのうちの一つが急激に増えたとも思ったがそのどれもは前に調査した時と変化なし。

よって考えられるのは何かしらのイレギュラーかもしくは__

 

 

「外からの何者かか!」

 

 

空を見上げてみるとすぐに魔力の元凶は見つかった。

思っていた通りそれは昨日まではいなかった何者かの仕業であった。

しかし_

 

「へっ?」

 

数キロ先でもはっきりと視覚できる士郎だからこそ空の上にあるものもはっきりと見えることができた。

見えてはいる__

 

 

 

__見えてはいるのだが自身の目に飛び込んできたそれに頭が追いつかないだけであった。

 

空の上に舞っているのは二人の人物、それもどちらも顔見知りである。

しかし身に纏っているその装束は先ほどイリヤが見ていたものに酷似している。つまりは魔法少女が着るようなフリッフリな服装であった。

知り合いがそのような格好をしているのを見てしまってどのような反応をすればいいのだろうか・・・・

 

それだけではなく片方は狐耳に狐の尻尾、もう片方はなんと猫耳に猫の尻尾が生えている。もはやどこかのコスプレにしか見えない。

だがコスプレだったらどれほど良かったか。

その二人は、格好はともかく、空を飛んでおり高密度の魔力の塊をぶつけ合っていた。並みの魔術師では、それこそ魔法の域だと思われる飛行能力を駆使しこれまた通常では困難な純粋な魔力の塊を、それも超高密度で連発していた。

 

しかし・・・

 

「あんな目立つ格好で、しかもあんな目立つ魔術を連発していたらいずれ誰かにバレるとか思わないのか?」

 

士郎はがっくりと肩を落とし空に舞う二人の人物の名を口にする。

 

 

 

 

「一体何をやっているんだ・・・遠坂とルヴィアお嬢様は・・・」

 

 

 

 




セラと士郎の絡み大好きです。

後士郎の精神力は超強化されてます。


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足枷

まず皆様方。

お久しぶりです!そしてあけましておめでとうございます!


いやぁー一ヶ月くらい音沙汰なしでしたね。
一応そこらへんの事情は明日くらいに活動報告に投稿します。

でもおかしいな?
普通本遍投稿前に活動報告が先だよね?





それといつも誤字報告をしてくださる方へ、
いつもありがとうございます!
細かいミスにも気づいてくれてとても助かっております!




 

 

 

 

知人の気まずい場面に遭遇した場合、人はどのように対応するのが正解なのだろうか?

見てみぬふりをするのが相手にとっては助かるのかも知れないが相手の事を思うのなら今のうちに直してあげるのも優しさではないだろうか?

 

 

しかし、ルヴィアならともかく、凛の場合はまず間違いなく記憶を消してくるだろう_勿論物理的に。

 

 

そんな事を思いながらもう一度視線を今も尚喧嘩し続けている二人に向けるとふと何かが引っかかった。

 

 

「魔法少女・・・猫耳・・・遠坂・・・ステッキ・・・記憶?」

 

 

その言葉を呟くと同時に、エミヤ士郎の脳内で古く閉ざされた扉が開かれるような音がした。

あのような姿の遠坂凛と彼女が手にしているステッキに見覚えがあるのだ。

 

そう、それは遥か昔、彼女の弟子として行動を共にしていた時期の事だ。どのように行き着いたのかは不明だが、それ(・・)は彼女の屋敷にあったのだ。

 

父の死後、危険であることと面倒と言う理由で放置気味であった様々な書類や遺品を(都合の良い)弟子を手に入れた遠坂凛は丁度良いという理由で衛宮士郎に手伝わせていた。

 

弟子になったとはいえ、赤の他人を魔術師の家に招待してもいいものなのかと尋ねてみた所、『あんたなら大丈夫』というまったくもって説明になっていない返答をもらった。これは信用されているから大丈夫と解釈していいのか、もしくは自分程度の魔術師ならどうせ悪用することや理解することすら出来ないということなのかは疑問ではあるが当時は前者であればいいなと思っていた。

 

紅茶やちょっとした食事を間に挟みつつも(勿論作ったのも淹れたのも士郎)作業は少しずつだが着実と進んでいった。

そんなときであった。

 

 

アレ(・・)を見つけてしまったのは・・・・・

 

 

__________________________________

 

 

 

そもそもアレを見つけてしまったのがいけなかったのだろう。

 

厳重に封印が施されていた箱を見つけたりすれば遠坂凛なら黙っているはずがない。この時から金銭的な意味で苦い思いをしていた遠坂はその箱の中身がもしかしたら金目のものなのではないかとまっさきに思った。それほどまでに厳重に保管されているものなのだ、きっとお父様がいざという時に取っておいた資金なのだろう。そうでなくてもきっとこれからの研究に役立つようなすごい魔術礼装なのだろうと当たりをつけていた。

 

 

結果的に言えばそれは当たってはいた。

 

 

 

封印を解いて出てきたソレは確かに超がつくほどの魔術礼装であった。

 

 

持ち主に無限ともいえる魔力を与え、更にはAランクの障壁を常時展開すると言う優れものだ。

 

だがしかし、いくら最高のカタログスペックであろうともソレには唯一つ、ソレの持つプラス要素を全てマイナスにしてしまいかねないようなマイナス要素があった。どうやらその礼装にはある精霊が憑いているらしく、その件の精霊は一言で言えばろくでもなかった。

 

 

封印を解き、蓋を開けてみれば元気な声(?)と共に登場し、まっさきに遠坂凛へとソレは突進していった。色々と失礼な文句を垂れつつも、ソレは遠坂凛に取り憑き瞬きをする間に転身してしまった。

 

そう、フリッフリなドレスに猫耳と猫の尾を取り付けた本人曰く他人に見られれば自殺物の格好にだ。

 

黒歴史確実な格好をさせられた遠坂凛は、持ち前の根性でギリギリの所で踏ん張り、衛宮士郎の協力もあり強引に引っぺがすことに成功し、素早く元の箱へと封印したのであった。

 

 

 

しかし、問題はその後で__

 

 

 

『えーみーやーくぅ~ん?ちょぉ~っと来てほしいんだけど。』

 

 

 

あのような格好を見られたからにはなんらかの事は言われるだろうと思ってはいたがまさか彼女が衛宮士郎の記憶を無理やり(物理的に)封印するとは思ってもいなかったのだった。

 

 

________________________________

 

 

 

「思い出したくないものを思い出してしまった・・・・」

 

 

 

同じ格好を見たのをきっかけに衛宮士郎の心に深く沈んでいたその記憶は再び浮上してしまっていた。彼女のためにも忘れたままのほうがいいのだろうが、思い出してしまったのなら仕方がない。しかし、エミヤシロウの師匠の黒歴史よりも士郎が思い出したくなかったのは記憶を消す際に行われた数々の暴行であった。

 

 

 

「やばい・・・震えだしてきた。」

 

 

 

呼吸が乱れ、足元が震えだしてきたのに気づいて自分がPTSDに陥るほどにあの時の処置(・・)が堪えたのがわかった。かつてのエミヤシロウがつけた赤い悪魔と言うあだ名がいかにぴったりかを今になってもう一度確認できたことで彼はもう一度空を見上げる。

 

 

二人の喧嘩はエスカレートしており恐らくこのまま収まることはないだろう。

かと言ってここで自分が現れるのも賢い選択ではない。ルヴィアはともかく、凛でさえ士郎が魔術師であることを知らない。二人の喧嘩を止めにいったりすれば問い詰められるのは明らかである。

 

 

「しかもあんな格好を見られたとあればまた(・・)遠坂に何をさせられるか分かったもんじゃないからな。」

 

 

触らぬ神に祟りなし、自ら藪をつついて蛇を出すわけにも行かないのでここは見てみぬふりをするのが正解だろう。本音を言えば今すぐにでも割って入って二人の喧嘩を静めたいのだがそれはできるだけ避けねばいけない。それにあの二人ほどの魔術師だ神秘の秘匿もしっかりしているはずだと士郎は結論づける。

 

 

「いやしかし、だとすれば俺が気づくのもおかしいな・・・・・・」

 

 

まさかとは思うがあの二人・・・互いに頭に血が上って魔術師の基本すらも忘れているのではないか?

 

 

そんな信じがたい考えが浮かんだが士郎は勢い良く頭を振った。そんなことはないはずだ、なにせあの二人は自分の知る中でも一流の魔術師である。そんな二人がただ頭に血が上ったと言う理由で魔術師の第一義である神秘の秘匿を怠るわけが___

 

 

 

そう考えもう一度空に舞う二人とそこから発せられる魔力を感じると、士郎は片手で額を抑えながら一人呟いた。

 

 

「__ないと信じたい。」

 

 

____________________________________________

 

 

あのまま放置と言うわけにも行かず、士郎はセラに少し出かけてくると伝えた後、足早にある場所へと急いでいた。

 

 

二人の喧嘩の件もだが士郎の中の疑問を解くべく彼は走り続ける。

 

 

(遠坂ならともかくお嬢様までいるのは何かがあるに違いない。)

 

冬木が故郷である凛ならこの突然の帰郷にもあまり疑問には思わないがルヴィアも一緒だとあれば話は別である。さらにはあのカレイドステッキも一緒ときた、これはもう何かがあるに違いない。しかしだからと言って二人に直接事情を聞くことも出来ないので、士郎は彼の知り合いの中で一番事情を知ってそうな人物の場所へと急いでいた。

 

 

 

 

 

「このような時間に息を荒げながら尋ねてくるなんてついに理性でも爆発して私を襲いに来たのかしら?この発情犬」

 

 

第一声がこれである。

 

さすがの士郎も先ほどまでの焦りを忘れてうなだれてしまった。

 

訪れたのは近くの教会、そして今まさに暴言と共に現れたこの少女の名は折手死亜華憐(おるてしあ かれん)。教会にいることからシスターであることは確かなのだが、その言動から士郎はいつも彼女が本当にシスターなのか疑ってしまう。それだけではなくシスターであるにも関わらず大変な毒舌家でサディストである。もうシスターを名乗らないほうがいいのではと思うほどに。

 

そんなキャラの濃い彼女ではあるがその正体は聖堂教会に所属する者であり本名はカレン・オルテンシアというこの地の監視役だったりする。

 

 

数年前、士郎がこの世界でも聖杯戦争が存在したことに気づいた後、ならば監視役もいるはずだと急いでかつての監視役がいたこの教会を訪れたのであった。

 

 

しかし、そこにいたのは彼の黒幕であった言峰綺礼ではなかった。

 

 

どうやら彼は前回の聖杯戦争が原因で命を落としたらしくもうこの世にはいないらしい。その事にすこし安堵の息を吐いてしまったが幾ら相手が言峰だからと言って人の死を喜んでいいわけにはならないので彼の墓の前で礼儀として祈っておいた。

 

一応教会の中も調べては見たが別段怪しいものなどもなく至って普通の教会であった。

 

特別監視などをしておく必要もないと分かり士郎はその場を去ったが、彼女が現れたのはその数年後であった。

 

どうやら言峰の代役として配属されたらしく、教会に住むことになったらしい。しかし、代役と言われて士郎は即座に問い詰めることにしたのであった。聖杯戦争がなければ監視役は必要ないはずである、なのにこの地にもう一度監視役が現れるのなんて一つしか理由が思い当たらなかった。

 

あの争いをもう一度起させるわけにもいかないので自分の持つ全ての技術と知識を駆使し彼女を問い詰めてみた所、どうやら彼女は聖杯戦争とは別の理由でここにいるらしい。問い詰めていた士郎ではあったがそれ以上の事は口を割らなかった。それも当然だ、あちらからすれば士郎は急に何かに感づいた得たいの知れない人物であるのだ、そう簡単に任務や目的を白状するわけがない。

 

その事に気づいた士郎はカレンに一度謝罪し、仕方ないと腹を括り自分のことを簡単に話すことにした。英霊の記憶があるなどとは言わず自分が魔術使いであることと聖杯戦争に巻き込まれた者だと説明した。それと同時に聖杯戦争で誰かが傷つくことは納得できないので異変があるのであれば出来るだけ知りたいと言う。

 

するとどうか、そんな士郎にカレンはあっさりと事情を話し始めた。士郎自身もまさかこれほどあっさり口を開いたことに驚き本当によかったのかと聞いてしまうほどであった。

 

そんな士郎にカレンは『あなたなら大丈夫そうだったから、それに良い遊び相手になりそうだし』っと説明にもなってない答えをもらった。それと同時に背筋が凍るような感じがしたことは言うまでもない。

 

先ほどまで真剣に問い詰めていた空気も嘘のように拡散し、カレンはまるで世間話でもするようにおおまかに説明を始めたのであった。

 

 

 

 

 

それからと言うもののカレンはこの世界で唯一士郎が魔術使いであることを知っている人物であり、士郎の貴重な魔術の話し相手だったりする。

元々の人の良さからか、知り合いに変人が多いからか、悪い意味で個性的かつ強力な性格の持ち主であるカレン相手に士郎はうまく付き合えていた。

お互いに頼り頼られる関係に似た間柄になり

 

 

ある時は教会の地下で言峰の残した肉弾戦の極意が書き記された書物から鍛錬をしたり

ある時はカレンの暇つぶしに付き合わされたり

ある時は魔術の世界での出来事を知るためのパイプになってもらったり

ある時はカレンに雑用を頼まれたり

ある時はカレンの代わりに部屋を掃除したり

ある時は礼装の整理を頼まれたり

またある時は食事を作りに来たこともあった。

 

 

頼り頼られる関係と言ってもその比率は2:8だったりする。もちろん8が頼られるほうである。

うまいこと利用されている事には気づいていたりするがそこそこ良好な関係を築けているのではと士郎は思っていたりする。

しかし、たまに頼まれる遊び相手は全力で拒否したい所ではある。

結局不思議な布で拘束されてなすすべもなく遊び相手になるのはここでは割愛しよう。

 

 

 

 

 

 

「カレン、悪いけどいつもみたいに性質の悪い冗談に付き合う気はないんだ。俺の質問に答えてほしい」

 

「別に冗談ではなく本気で言ったつもりだったのだけど」

 

「お前はそんなに俺を変態にしたいのか!?」

 

付き合う気はなかったはずなのに悲しいかな、割と長い付き合いなので反射的にツッコンでしまった。当の相手はと言うと、わざとであるにも関わらずまるで純粋な態度を装ってコテンと可愛らしく首を傾げながら言うのだから余計に腹が立ったりする。

 

「って違う違う!こんな漫才をしている場合じゃない。カレン!冬木に遠坂とおじょ・・ルヴィアが来た事は知ってるか?ていうか知ってるよな!そこでだ、正直に答えてほしい。あの二人が何を目的としてこの地に足を踏み入れたか教えてくれ。」

 

先ほどまでクスクスと浮かべていた笑みは失せ、カレンはいつもの無表情で士郎を見つめる。

 

対する士郎はカレンと同じくまっすぐに彼女の瞳を見続けていた。ひと時の静寂の中、冷たい夜の風が二人の間を通り抜ける。

 

真剣な士郎を前にして、カレンは諦めたかのようにかつ面倒くさそうに肩を落とし、口を開き始めた。

 

「簡単に言いますとあの二人はある任務のために再びこの地へと戻ってきたのです。」

 

「その任務とやらは俺が前から気になっていた複数の魔力と関係があるんだな?」

 

「えぇ」

 

「ん?」

 

まさか返事が戻ってくるとは思わず士郎も間抜けな声が出てしまった。

 

「なんですかその驚いた表情は」

 

「いや、前みたいに誤魔化されると思ったからさ。まさかちゃんとした答えが帰ってくるとは思わなかったんだ」

 

そんな士郎の声に、カレンは小さくあくびをすると眠たそうに眼をこすりながら答える。

 

「前にも言ったと思いますがわたしは何れ時が来れば分かるでしょうと答えました。」

 

「それが今と言うことか。」

 

「違います。」

 

 

「はぁ~????」

 

 

 

意味が分からんとばかりに士郎は顔をしかめながらカレンを見る。

まさかこの話の流れで違うなんて言われるとは思わなかった。

 

「本当はこのまま放って置いても貴方は何れ分かるのでしょうが今夜は気分がいいので特別に全て教えてあげましょう。ありがたく思いなさい・・・ふわぁ~___」

 

「違うだろ!絶対違うだろ!ただ単に面倒なのと早く寝たいだけではないか貴様!」

 

「私と早く寝たいなどとは、せっかちですね。これだから早漏は。」

 

「意味が分からん!話しがまったく噛み合ってないぞカレン!」

 

「今度は絡み合いたいと来ましたか、とんだ発情犬ですね貴方は。このままではそこらへんの罪なき少女をも襲いかねませんね。仕方ないのでわたしが発散させてあげましょう。感謝しなさい。」

 

「ワタシの話しを聞かんか戯け!えぇぇい腕を掴むな!離したまえ!」

 

掴まれた腕を強引に解いた士郎は焦った様子で5、6歩カレンとの距離をあけて再びカレンと目を合わせる。

 

 

「話しが脱線してしまったな。それで?一体何が起きていて、何が起ころうとしているんだ?」

 

(ふむ、先ほどの口調。アレは本気で焦っていましたね。)仕方ないですね。今晩はここまでにしておいてあげましょう。」

 

カレンのほうもこれ以上士郎をからかうのをやめ、離れてしまった士郎との距離を再度縮める。

近づいてきたカレンに一瞬身構えてしまった士郎は別に悪くはないはずだ。

 

「まず今まで黙っていたことですが、先ほどの答えは嘘ではありません。あなたなら何れ、私がなにもしなくても分かることになっていたはずですから。」

 

「その事はわかった。カレンが言うんだからそうなんだろう。だけどだからって異常があるのを知っていて俺に教えないにしては少し理由としては弱いんじゃないか?もし手遅れになったらどうするんだよ。」

 

「それ以外にも理由はありますよ。貴方の事です、事情を知れば自分から異変に飛び込むでしょう。」

 

ねっ?と確認するように言うカレンに士郎は表情を固くして腕を組みながら頷く。

 

「確かにそうだな。しかしそれの何が悪い?」

 

まるで分かっていない士郎にカレンはあくびと共にジト目で士郎を睨むとあきれたように答える。

 

「わたしから見ても貴方にはこの事態を解決するほどの力があるようには見えません。万が一、解決できたとしても貴方はその身に数多の傷跡を作って帰ってくる未来しか見えません。」

 

カレンは更に士郎との距離を縮めると、人差し指で士郎の胸をトンとつつく。

 

「自分で言っていたではないですか、誰にもバレたくないと。一体あなたはどのようにして傷跡を家族に誤魔化すのですか?」

 

そんなカレンの言葉に、士郎は下を向く。

下を向いて見えたのは自分を無表情で見上げるカレンの顔。

その人差し指は未だに士郎の胸においてあり、自分を咎めるように心臓の位置を指していた。

 

 

 

 

そんなカレンは、下を向いた士郎の顔を見る。

この男の事だ、悔しさで顔を歪めているところだろう。

 

馬鹿みたいに正義感の強い男だ。ここまで言われて黙っていられるはずがない。

 

そんな事を思って彼の顔を見てみるとカレンは唖然とする__

 

 

 

 

 

__微笑んでいた

 

 

 

 

まったくの予想外の表情にカレンも普段は見せないような間抜けな顔を晒すことになってしまった。

 

「ありがとうカレン。心配してくれてるのか?まったくらしくないな」

 

そう言うと士郎はカレンの頭に手を置き、ほんの少し、一瞬とも言える短さではあるが頭を撫でる。

 

「俺の力不足__確かにそうだな。()の俺じゃぁ全然だめだな。未熟者以前に半人前ですらない。だから___」

 

カレンの両肩に手を置きその身体を自分から離すと、士郎はゆっくりと目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

___長年の修行(自殺行為)ともおさらばだ

 

 

 

 

 

 

投影(トレース)__開始(オン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うわぁお 何故こうなった。
カレンをここまでおいしいポジションにつかせつもりはなかったのに・・・・・


しかも何故かイチャイチャしてるし!?

それはセラの役目のはずなのに!
何故だ!
何故カレンになった!

おかしいぞ!



まぁカレンも好きだけどね


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メイドの心情

一巻読んでて思いましたが。
プリズマイリヤに登場するアニメ。
魔法少女マジカル☆ブシドームサシって言うのがあるんですが・・・・・



__FGO・・・・ここから武蔵の女体化思いついてないよな・・・・・・



まぁアホみたいな予想は置いておいて次話投稿です。


登場するであろう村正士郎・・・もし本当ならマジでほしい。
海外の魔法のカード使えたらいいのに・・・・。


 

 

 

「ただいま」

 

教会を後にした士郎は時間も時間なので出来るだけ早く帰宅することにした。

帰ろうとしたときにカレンから『もう遅いのだし泊まってけ』などと言う提案も出たりしたせいで

帰ろうと決めた後もそれなりに時間がかかってしまった。

確かに外はもう暗くなっており、就寝するには少々早いかもしれないが人によってはもう寝ているかもしれない時間だ、現にカレンはすでに眠そうである。

しかし、士郎の家まではそこまで遠いわけでもないし彼が女性ならともかく士郎は男性だ。

この時間に帰ったとしても対した問題ではないはず。

にも関わらずカレンはしつこく士郎を帰らせようとはしなかった。

 

なんとか理由をつけて帰ろうとした所。

 

 

『あなたのせいで目が覚めてしまったわ、責任とって私の遊び相手(道具)になりなさい。』

 

などと言われてしまい士郎は帰ることが出来なかった。

確かにこのような時間にいきなり訪れた自分に非があるのは事実だ。

カレンの仕草を見るに本当に眠たそうだったのは分かる(急に元気になって毒を吐いたりはしたが)。

 

そしてお人よしである士郎は、そんな事を言われては簡単に帰ることはできず、帰宅しようとした足を止めてしまった。

それに気づいているカレンは追い討ちをかけるように士郎の非を次々と毒を混ぜるのも忘れずに吐いていったのであった。

 

たじろぐ士郎ではあったが急に泊まるということには納得できず、家になんて連絡すればいいかと理由を挙げては見るがそれも

するりとかわされてしまった。このままでは埒があかないと思った士郎は

 

『お前も女の子なんだからそう簡単に男を泊めようとするな!お前が人を揶揄うのが好きなのは分かるがほどほどにしておけよ。とにかくもっと自分を大切にだな__』

 

っと少し説教気味に言ってみたところ

 

カレンはムッと顔を顰め、身体が触れそうなほど士郎に近づき、至近距離から士郎の顔を覗き込んだ。

しかし近づけようとも身長差のせいでそこまで近づけず爪先立ちになりつつも士郎を正面から睨みつける。

 

いきなり近づいてきたカレンに驚きつつも士郎は謎の威圧感によりその場を動こうとは思わなかった。

ふと記憶を振り返るとこのような経験をいくつかした事に気づき、そこからこの状況を打破する方法が見つかるかもしれないと

思うものの記憶が古いせいか正確には思い出すことが出来ずにいた。

 

何をされるのかと再びたじろぐ士郎ではあったがそれと同時に自分の視力がいい事から癖になってしまった観察を無意識にしてしまった。

 

前から思っていたことだがカレンは見た目(・・・)は良いな_など

自分のよりも明るい綺麗な琥珀色の瞳だな_など

肌も白いな_など

イリヤとは違う綺麗な色の髪だな_など

風呂に入った後なのかいい香りがするな_など

 

と色々余計な考えが頭をよぎっていた。最後のはもはや匂いに関するものだが・・・

 

 

一体何をされるのかと身構えていたらその口が小さく開かれるのが見えた。恐らく何かを呟いたのだろう、しかしその声量はあまりに小さく至近距離にいる士郎でさえも聞くことが困難であった。もう一度確認をしようにも先ほど自分を見つめていた顔はいつのまにか伏せられていた。

 

「えっ?」

 

・・・・さい

 

「悪い、なんて言ったんだ?」

 

・・・し・に・・なさい

 

「しっ死になさい!?」

 

「明日! 昼ごろ! 保健室に来なさい!!」

 

ビリビリと鼓膜に響く音量に士郎はびくつきながらも、その内容に目を見開いた。

カレンには珍しい大声にも驚くが、その内容には更に驚いていた。

 

てっきり何かよからぬ事(主に士郎に)をされるか、もしくはとんでもない事を約束されるのでは

と思っていた士郎はまさかそのような回りくどく且つ分かりにくい要求をされるとはおもいもしなかった。

要求の意味自体は分かるのだがわざわざ保健室に招く意味が分からなかった。

よくも悪くも物事をはっきりと言うカレンにしてはこの様な要求は珍しいとも言える、

逆に分からなくて恐ろしくも思うのだが。

 

「えっ・・・と、それは一体_「返事は?」_はい!

 

反射的に返事をしてしまったがこの時ばかりは素直に言うことを聞くべきだと士郎の本能が訴えていた。

 

その後は特に何も言われず、カレンは小さく息を吐いてから今度こそ寝ると欠伸を漏らしながら中に入ってしまった。

 

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

 

「明日・・・俺は一体何をされるんだ?」

 

色々予想してみようとするも

カレンの場合、なまじ付き合いが長いからか逆に案が多すぎて何をされるのか分からないでいた。

きっと碌でもないことなのはうすうす分かってしまうのは不幸なのかそうでないのか。

しかしこれ以上考えても埒があかず、この事はさっさと覚悟を決めて来る日になるようになれと

半場投げやりになりながら士郎は自室へと向かうべく廊下を通っているとセラが不機嫌気味に出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいシロウ、随分と遅い帰りでしたが一体何をしに出て行ったのですか?」

 

ややきつめの眼差しで問う家政婦に苦い顔を浮かべそうになるが士郎は普通を装い簡潔に答える。

 

「あぁ、ここまで時間がかかるとは思わなかったけど教会に用事があったのを思い出してな。」

 

「教会にですか?しかしこのような時間に行かなくても・・・・・何度も言いますけど、人助けは確かにすばらしい事です__しかし、それもほどほどにしておかないとどこかで躓いたりしますよ?」

 

頻繁に教会に足を運ぶことになるので前々から家族には教会と繋がりがあるボランティア活動をしていると報告してある。

なので無宗教の士郎が教会に通っていると知ってもなにもおかしいことはないのであった。

いきなりボランティア活動を始めるのは少々怪しいかとも思われたが家族全員、士郎がドが付くほどのお人よしであることを知っているからか余り驚かれたりはしなかった。

 

約一名、切嗣だけはボランティア活動と言うよりも教会自体に足を運ぶことを余りよろしく思っていなかった。

理由は言わなかったが士郎はその理由を容易に予想できていたりする。

 

「あぁ、ちゃんと分かってるさ___うん、その事は・・・・誰よりも分かってるつもりだよ。」

 

セラはおそらく学業や士郎の健康を思って言ったのであろうが、士郎は別の意味で答えていた。士郎自身もセラがどのような意味を含んで言ったのかは分かっているが自分に再確認するように頷いた。

 

 

 

躓くなんてものではない、人助けを只管行い、それこそ生涯の全てを他人の為に浪費するような奴を士郎は知っている。

そいつは何かに取り憑かれた用に目的を果たすべく前へと進んでいった。

だがそれに夢中になる余り、そいつは大切なものを見失い、最終的には失ってしまった。

 

 

 

そのようなことにならぬよう、士郎は己だけ(・・)の信念に従い、毎日を生きている。

 

 

 

士郎のそんな答えに安心したのかセラは『そうですか』と小さく呟いた。

この話はもうお仕舞いとばかりに士郎は残りの家事を終わらせるべく居間へと入る。

夕食の後片付けは家を出る前に終わらせたし部屋の掃除はセラに任せてあるはずなので後は明日の弁当などの仕込みを始めるだけなのだがいざ台所へ足を運ぶとそこには自分がやるはずであった弁当の仕込みが完成されていた。

 

驚きを表情に浮かべながらすぐにこれをやったであろう親切な人(犯人)に振り返るとその者は腕を組みながら勝ち誇った顔を浮かべていた。

 

完成されていた仕込みは士郎から見てもどれも丁寧で完璧であった。

リズはまずメイドの癖に料理などしないし

イリヤはまだ小学生であるしこれほどの仕込みを出来るとは思えない。

よって士郎の代わりに仕込みを終わらせてくれた親切な人(犯人)はセラしかいない__と言うかその表情を見れば一発である。

 

「セラ?これはどういうことかな?」

 

引きつった表情で問いかける士郎にセラはドヤ顔を貼り付けたまま口を開く。

 

「どう・・・とはどういうことですか?」

 

なるほど、とぼけるつもりらしい。

 

「ははは、言わなくても分かってるはずだろう?この目の前にある俺がやるはずだったこれ(・・)は一体なにかな?」

 

「私はただ急に用事を思い出して出て行った貴方に代わって親切心で終わらせてあげたまでですよ。そうですね言うならば、貴方が好きな人助けのようなものです____いえ、違いますね。私の本来の仕事を終わらしたまでですが?」

 

「そうか、わざわざありがとうなセラ。仕込みも文句のつけ様がないくらいに完璧だけど___おかしいな?今日の当番はのはずだったんだが?」

 

「えぇそうですね今日(・・)の当番はあなたです。ですが私がやったのは明日(・・)の弁当なのでどこにも問題はないと思いますが?」

 

「ほう__しかしセラ、時計を見てもらえば分かるが今はまだ今日(・・)のはずだ。まさか日付が分からなくなったわけではあるまい。それにいままでもオレが次の日の弁当を手掛けていたはずだが、そこの所はどのように説明する気かね?」

 

士郎も腕を組みつつ片目を閉じ、問いかけるように反論する。

だんだんと重くなる空気。

いつの間にか台所は殺伐とした空気が支配しており、二人の間にはバチバチと火花が散っていると錯覚してしまうほどであった。

 

「先ほども仰ったではありませんかシロウ様。これは私の親切心です、まさか私の厚意を否定するわけではありませんよね?それに何度も言うように家事全般はメイドである私の仕事です。わざわざシロウ様自らが奪う事ではありません。」

 

「別にワタシはセラの厚意を否定したりはしないさ。現に先ほどもお礼の言葉を口にしたばかりだが?それに奪うなどとは人聞きの悪い、日々ワタシ達のために働いてくれている君達が少しでも楽が出来るように手伝っているだけではないか。」

 

「シロウ様、手伝うと言う言葉の意味を一度辞書で調べてみてはいかがですか?手伝うと言うのは全てを引き受けることではありませんよ?」

 

「なに、ワタシも全てを終わらせるつもりはないのだがな。セラが来る前に全てが終わってしまうのだよ。」

 

「それは私の仕事が遅い__と?そういいたいのですかシロウ様?」

 

「そんなつもりは一切ないのだがね。結果的にそうなってしまうのだから説明のしようがない。」

 

段々と反論する士郎にセラは怒りのボルテージが上がっていき、士郎も士郎で彼の数少ない趣味を取り上げられるのは納得がいかなく。

こちらもセラ同様に少しずつだが辛口になってしまっている。

お互い冷静を装ってはいるが、その内側では表に出していない熱がふつふつと溜まっている。

勿論、そんなものをずっと溜めていることは出来ず、いづれどちらかが限界を超えて爆発するであろう。

 

しかし、このような状況に陥った時、決まって先に爆発するのが__

 

「つべこべ言わずに私の仕事を取らないでください!あなたがそんな風だからリズは余計にだらけるし私の料理の腕が上がらないし、なにより一日やることがなくなって暇になってしまうのです!私が!!」

 

__セラである。

 

「リズの件は確かにそうだけど後二つは関係なくないか!?」

 

「まったく、なんなんですかあなたは!幼い頃に急に家事をするようになって_まぁ、教育にもいいしやらせて見ましょうか_と思っていたら驚くほど洗練されたような動きで次々と家事をこなしていき、仕舞いには仕事の半分以上を掻っ攫っていって!!!!あの時にでも家事は私の仕事だと強く言っておいたらこんなことには!!っ~~!!」

 

鬼の形相でズンズンと近づいてきたセラは咎めるように士郎に言い放つとそのまま頭を抱えて悶え始めてしまった。

このままでは地団駄すら踏みそうな勢いのまま、セラは至近距離で士郎の顔を見つめる。しかし身長差からどうしても見上げる形になってしまう。

そのことが地味に気に食わなかったりもする。

 

怒鳴っている自分のほうが見下ろされるのはやはり良い気分はしない。

 

「あなたに分かりますか!何かをするわけでもなくソファに座って適当にテレビを聞き流しながらボケッとする日々を!なんという時間の無駄!なんというリズらしさ!このままではリーゼリットのようになってしまわないかと恐怖すら感じます!」

 

色々ボロクソに言われているリズではあるが当の本人は今もソファの上でまるで珍しい格闘ショーでも見るかのようにお菓子片手に観戦している。

 

「だったら何か趣味でも見つければいいじゃないか!もしも思いつかないって言うなら俺が裁縫とか小物作りとか教えるぞ。」

 

「あなたにだけは教えてもらいたくありません!!というよりいつの間にそのようなスキルを身につけたのですか!!」

 

その言葉が燃料になってしまった事など士郎には気づくはずもなくセラはついに暴れだしてしまった。居間からは『おぉ~』っと言うリズの声が聞こえ、そんな声を耳にした士郎はすこしイラっときたものの

今はセラをどうにかするほうが先決だとすぐさまセラを羽交い絞めする。

 

「放しなさいシロウ!」

 

「バカ!こんな狭い台所(ところ)で暴れるな!」

 

「私の聖域をこんなところですって!それとバカとはなんですかこのバカ!」

 

「レディ~!!ファイト!!」

 

「野次飛ばしてないでリズもなんとかしろ!」

 

このままでは本格的に暴れだしてしまいかねないのでリズも持ち前の怪力で士郎に代わってセラを羽交い絞めする。

本音を言えばこのまま観戦していたいのだがそれは(リズにとってはリスクが大きかった)。

何故ならこのような状況を放って置くことなどを士郎は許さないからだ、だらけていたり士郎に面倒ごとを色々任せたりしても士郎は苦笑しつつも余り気にすることはない。

しかし、揉め事や他人に迷惑や危機が起こる場合は別なのである。

もしもここで士郎に逆らえば彼の機嫌を損ねかねないのでここは言うことを聞くことにする。

機嫌を損ねることなどは滅多にないが損ねてしまえば何が起こるか分からない。

よく言われる、『普段怒らない奴が怒ると怖い』というものだろう。

実際に彼が激怒したところなどは見たことがないリズではあるが、彼が怒るところを想像するとリズは寒気がする。

 

想像するだけでもイヤだ。

普段は優しい士郎が一見、満面の笑みを浮かべて見える表情だがその実はまったく笑っていない眼差しと一緒に放たれるその死刑にも等しい宣告を__

 

 

『リズ・・・・・・今日は俺のご飯抜きな___代わりにアイリさんが作ってくれたのを食べるといい』

 

『いやあああああああああああああぁぁぁ

 

リズの想像の中ではどうやら士郎を怒らせると彼の手料理を食す権利をなくすと思っているらしい。

実際のところは分からないが、彼女の想像の中で引き合いに出されるアイリスフィールが酷い。

想像の中とは言え雇い主の奥様の扱いが酷いことになっているのはどうであろう?

これでもメイドだと言うのだから不思議である。

 

 

 

____________________________________________________

 

 

 

リズがセラを捕らえたところを確認した士郎は疲れと共に溜息をこぼすとそそくさと居間から離れようとする。

 

「それじゃぁ、俺は風呂に入ってくるよ。弁当の件だけど今回はいいとしてこれからの事はまたいつか詳しく話しあおう。」

 

「確か今はイリヤが入っているはず。でも入ってから結構経ってるし、心配だからチェックよろしく。」

 

「了解」

 

「待ちなさいシロウ!まだ話はっ__イタッ、リズ、痛い!ちょっ!!!どこ触っているんですか!」

 

「えっ私どこかおかしい所触ってる?」

 

「よろしい、ならば戦争だ」

 

 

二人の会話をBGMに士郎はその場から離れ、風呂場へと足を進めた。

風呂場へと歩みを進める途中で先ほどリズから聞いたことを思い出す。

確かに家に帰ってから妹であるイリヤにはまだ会っていない。

普段ならあの騒ぎに気づいてリズと一緒に見物したりするのだがそれが今回はなかった。

時間的にもそうだが彼女が風呂に入っていたからなのだろう。

よくよく思い出してもみると家に入る前に彼女の部屋は明かりがついていなかった。

 

 

しかしリズ曰くイリヤが入ってからそれなりの時間が経っているらしい。

衛宮家の風呂場はそこまで大きくないはずだから溺れていると言うことはないはずである。

だが、彼女はまだ小学生でもあるしまったくないというわけでもない。

もしもと言うこともありえるのだしここは早めに確認しに行こうと士郎は足早に脱衣所へと向かう。

 

脱衣所についてみると明かりがついているしやはりイリヤは風呂場にいるのであろう。

相変わらず何故かあいている脱衣所に入った士郎は風呂場の扉の目の前で足を止めた。

やや気まずくもあるが士郎はノックを軽くすると中にいるであろうイリヤに声をかける。

 

「イリヤぁ~?まだ入ってるのか?」

 

その士郎の問いに答えは返ってこなかった。

 

 

 





小ネタ


『あなたのせいで目が覚めてしまったわ、責任とって私の遊び相手(道具)になりなさい。』

などと言われてしまい士郎は帰ることが出来なかった。


決して遊び相手と言う言葉に興味があってその場を離れなかったわけではないことをここに記しておく

捉え方によっては士郎がドMに聞こえてしまう描写だな____




『お前も女の子なんだからそう簡単に男を泊めようとするな!お前が人を揶揄うのが好きなのは分かるがほどほどにしておけよ。とにかくもっと自分を大切にだな__』

兄ちゃん兄ちゃん!ブーメランサーと一緒にゲイボルク刺さってますよ!




『相変わらず何故かあいている脱衣所』

セラのダイエット事件や一巻みると分かるのですが脱衣所って何故かあけっぱですよね。





後ちょっとした伏線やヒントなどがちょくちょく混ぜられたりしてあります。
ちょっと出しすぎた感はありますがなかったらなかったで自分的にはおかしかったのでこのままで。特殊タグも慣れるためと実験ついでに色々使ってみました。ルビも便利ですがこれもいいですね。活動報告でカレンが士郎に行う悪戯をちょっと募集してみたいと思います。自分でも色々と_カレンがああいうキャラだからか_結構な案が浮かんではいるのですがそのイベントが本遍に深く関わるわけでもないしせっかくですので皆さんが書いてほしい出来事を聞いてみたいと思います。




後、変な終わり方だと思われるかもしれませんがわざとです。
区切りもちょっと変ですが。


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少女はその日、運命に会う

コマンドカードを選ぶ時にキャラクターが会話するとクスってなりますよね。
例:

マーリン『王の話をするとしよう』
ラーマ『いいだろう』
エウリュアレ『いやよ』

など。

後フレンドとか見ると武蔵にリミゼロつける人が多いんですけどよく考えてみると二人とも和服だし刀だしで結構お似合い。後ネタになりそう。



それと前回はあのように区切りましたが

これは士郎が家を出て行ったときに起こった出来事である。

この話はいらないと思う方もいるかもしれませんが、プリヤを知らずに読んでる方がもしかしたらいるかもしれませんので出来るだけこういう細かい場面も入れてみたいと思います。

後前回の皆さんの反応から小さい文字や大文字は控えるようにしました。
感想ありがとうございました!


 

「今日もおいしかったな~」

 

お風呂に身体を沈めると同時にそのような声が漏れてしまった。

 

週に二回、いつも食事を作ってくれるセラに代わってお兄ちゃんがご飯を作ってくれる日。

その日が私の一週間での楽しみになっている。

別にセラのご飯がまずいとかそういうわけではなく、セラのご飯も他の人に自慢できるほどのクオリティーを誇っている。

他の人には家政婦って言ってあるけど本当はママの家のメイドさんだとか。本人も家政婦って言われるのを余り好んでないっぽい。

あれかな?メイドのプライド的な?

 

それはともかくメイドと言われると確かに私に対しての接し方とか普段の振る舞いを見るとそれは本当なのだろうと分かる。

ただリズお姉ちゃんもメイドらしいけどセラと違って全然そうは見えない。

 

余り実感は湧かないけどママの家、つまりはアインツベルン家はドイツが誇る屈強の名家であったらしい。

 

らしいと言うのは昔ママに聞いたことがある程度だから。どういうわけか両親は余り家の話はしたくないらしい。というのも前に説明されたことだが二人はアインツベルン家__というよりパパ、衛宮切嗣、と仲が非常に悪いらしい。

 

なので二人の結婚も半場駆け落ちのようであり、パパも婿養子扱いなんだとか。

そういうわけで私の苗字はアインツベルンだけど、お兄ちゃん、衛宮士郎、はパパの苗字を受け継いでいる。

 

 

お兄ちゃんは私が物心つく前から既にそばにいた。

子供の頃はずっと一緒にいたことからか余り考えたことはなかったが、年齢が上がるにつれて色々と賢くなり、私たちが本当の兄妹でないことが分かってしまった。

 

当時は少しばかり落ち込んだりしたものの色々考えてみた結果、お兄ちゃんは義理でも血がつながっていなくても私のお兄ちゃんであることに変わりはない。

 

それから更に考えてみたら逆に血が繋がってなくてよかったと思ってしま___

 

「いやいや、何考えてるの私!」

 

なんだか体中が熱いけどこれはきっとお風呂のせいだよね!

ちょっと半身浴にしておこう。うんきっとお風呂のせいだ。

ぶんぶんと頭を振りながら思い浮かべた考えを消し去る。

何故か上昇している心拍数だがこれもきっとお風呂のせいだろう。

とりあえず色々な意味で自分を冷やすべく、私は上半身を湯船からだす。

落ち着いてきた所でふと思う。

 

 

 

 

__なんでお兄ちゃんがいるんだろう?

別にいてほしくないわけでははない。お兄ちゃんがいてくれることはとても嬉しいけど。

なんで普段家にいない両親はお兄ちゃんを引き取ったのだろうか?

私がいる時点で子供に恵まれてないわけではないし、きっと子供がほしかったからと言う理由ではないはず。

ということはお兄ちゃん本人に何かしらの理由があるのだろう。

 

気にはなる。

だけどこの事を聞いてしまって今までの関係が崩れてしまうのがすこし__いや、とても怖い。

お兄ちゃんとの幸せの日々がなくなってしまうのはイヤだ。

だから、この事は聞かない。

好奇心は猫を殺すとも言われてるし、ここは何もしないほうがいいんだと思う。

 

 

心身ともに沈んでいた身体を上げ、溜息を吐きながら体勢を変える。

暗くなりそうだった気持ちも溜息と一緒に吐き出し、この事は忘れることにした。

 

 

そういえば_

 

 

「なんの事考えてたっけ?」

 

 

お兄ちゃんのこと?

 

じゃなくて!

そう!今日のご飯のことだった。

お兄ちゃんのことを考えるとそれにばかり集中してしまうのは私の悪い癖だ__

・・・・・悪い癖なのかな?

 

 

 

とにかく

セラは名家のメイドであるのだから料理がうまいのも当たり前。

事実、セラのご飯はプロの料理人が作ったものよりもおいしい。

だけど、そんなセラですらも超えるのがお兄ちゃんである。

 

私は小さかったからあまり覚えてないけど、セラ曰くお兄ちゃんは小さい頃から既に料理が上手だったらしい。

 

そしていつの間にか追いつかれ、更には追い越されたことに腹を立てていたことを覚えている。

 

プロすら負かすセラよりも、それも短時間でうまくなるなんてこれはもう才能ではないのか?

 

才能で思い出したけど、お兄ちゃんは料理以外にも色々出来る。

炊事は勿論掃除などと言った基本的なものから専門的な家事に関するあらゆることが出来てしまう。

 

一度、疑問に思って聞いてみた事がある。

一体どうやってそんな技術が身についたのかと。

 

そしたらお兄ちゃんは引きつった表情で頬をかきながら『興味があって執事の本を読んで試してみたらなんか身についた』と言っていた。

 

読んだだけでそこまで出来る何てこれはもはや才能としか言えない。

お兄ちゃんにはどうやら執事さんの才能があるらしい。

 

その事が分かり私がお嬢様でお兄ちゃんが私の専属執事の妄想なんてしたことなんてない。ないったらない。ベッドでゴロゴロと悶えながら妄想したことなんて私にはない!

 

「と言うことは家には執事さんとメイドさんが3人もいるって事?」

 

そうは見えないけどリズお姉ちゃんもメイドらしいし、セラは言わずもがな、お兄ちゃんはそんなセラよりもすごいし。

 

「もしかして(うち)ってすごいんじゃない?」

 

しかも今(うち)にはパパもママもいないし、私はそんな二人の娘だし、もしかして私って今その三人の中で一番の権力者!

 

「てことはお兄ちゃんにあ~んしてもらったり、お兄ちゃんに添い寝してもらったり、お兄ちゃんに膝枕してもらったり、お兄ちゃんにご飯作ってもらったり_あっこれはよくあるか。後はお兄ちゃんと・・・・おっお風呂なんかも!?」

 

そこまで考えてはたと気づく。今?自分はどんな妄想をしたか?

 

「なしなし!恥ずかしい妄想禁止!というよりそんな事があるわけないよね!でも頼んだらお風呂以外全部やってくれそう。じゃなくて!ないない。お兄ちゃんが執事なんてそれこそアニメの魔法でもない限り__」

 

ピタっと私の動きが止まる。

先ほど騒がしくしてたのが嘘のように風呂場は一瞬で静かになった。

 

魔法といって思い出す。

そういえば今日は届いたアニメのDVDを見たばかりである。

作り話だって言うのは分かるけど魔法があったらなと思ってしまうのは別に悪いことでもないよね。

 

「魔法かぁ~」

 

魔法があったら何ができるだろう?

自分だったら何がしたいだろうか。

 

宿題を終わらせたり、

空を飛んだり、

ママたちの仕事が早く終わるようにしたり、

後は__

 

「恋の魔法・・・とか」

 

そう呟いて浮かび上がる一人の人物、

なんでも出来て、

強くて、

かっこよくて、

優しくて、

頼りになる大好きな___

 

「って恥ずかしい妄想禁止なんだってば!!」

 

先ほどと同じように一人で騒いでしまう私。

何度かバシャバシャと動きまわると疲れて段々と落ち着いていく。

疲れてくると自然に頭も冷静になり自分がしていた色々な妄想がどれほど馬鹿げているのかが分かってしまう。それと同時にそんな恥ずかしい考えに陥った自分が恥ずかしかったりする。

 

「はぁ~、虚しい」

 

今一度湯に深く浸かると目の端にキラキラと光る何かが映った。

何だろうと振り向いてみるとそれは窓から見える空からであった。

 

「飛行機?じゃないよね」

 

それでは花火なのか?っと言っても花火特有の大きさと派手さも音もないので違う。

じゃぁ何かと色々と考えてみても分からない。

窓越しだから見にくいのかと思い、窓を開けて見てみてもやはり分からない。

 

「ピカピカと光ってるけど一体なんだろう?まさかUFO?」

 

何度か繰り返されるその光を凝視し、本当にUFOなのかと観察していると突然その光の勢いが止んでしまった。

光自体が消えたわけではなく、ただ先ほどまでの目が痛くなるような点滅が消えたにすぎない。

 

ポゥっと淡い光が夜空にたたずんでいる姿は不気味としか思えない。

とりあえず、幾ら考えても分からないので少し身を乗り出してみることにした。

でもよくよく考えてみるとたかが数センチ近づいたからって見えるわけがなかった。

 

窓を開けてからそれなりに時間が経ったせいで夜の冷たい風が私の身体を撫でる。

濡れた身体に夜風はさすがに寒いので気にはなるが光の正体は諦めることにしよう。

風呂から出たら物知りなお兄ちゃんやセラにでも聞いてみようと窓を閉めようとしたその時だった。

 

「あれ?光がどんどん大きくなっ___こっちにきてるぅぅぅ!?」

 

ものすごいスピードで迫ってきている謎の光をギリギリのところでしゃがむことに成功し避ける。頭上を過ぎる謎の物体から生じる風でもしも自分がしゃがんでいなかったら大変なことになっていたことに恐怖し、目の前に映るその謎の物体の正体を確認すべく正面を向く。

だけど当然このようなことが突然起こって普通の小学生である私が冷静でいられるはずがなく__

 

「なになに!?隕石!宇宙人!ルーラ!?ドラゴンボール?」

 

軽くパニックになってしまうのは仕方がないと思う。

色々余裕がありそうにも聞こえるけどこの突然の出来事がちょっと怖く、お風呂で身体を隠すように覗き込む形になってしまう。

 

『あちゃぁ~、避けられましたね。ぱぱっと終わらせようと意識を刈り取るつもりでしたが失敗しちゃいましたね。まさか避けられるとは思いませんでした。いい直感をお持ちで』

 

その時の出来事を、私は一生忘れることはないだろう。

ここまででも十分に衝撃的な状況であるのにそれに和をかけるように現れた謎の物体。

声がすることから人だとは思ったけど人にしてはまるで機械のような特徴的な音(?)。しかしその形は人とはかけ離れておりロボットと言われてもそうではない。

 

天使の翼のような者が左右対称に生えていてその中心には星が描かれたソレ、

まるで吊るされているかのように宙を舞う姿はどこか生き物のようで

剣の柄のように伸びるその下部分は一体何で出来ているのかクネクネとこれまた生き物のように動いている。

 

しかしその姿はつい数時間前に見たあるものに酷似していて_

 

「魔法の・・・ステッキ?」

 

まるで魔法少女が使うステッキそのものであった。

 

『おぉ~!ワタシの正体を一発で見破るとは!やはりワタシの目に狂いはありませんでしたね!そうと分かれば話もはやい!あんな年増ツインテールの所有権はさっさと削除しますとして。どうでしょう?あなた魔法少女になってみません?』

 

杖が喋ってる。

いや、喋っているだけではなく先ほどよりも激しくクネクネと動き、喜びを全身で表そうとするその動きは正直言って気持ち悪く、気味が悪かった。

無機物で生き物ではない杖が唐突に現れて喋って更には動き回ると来たらどんな人でも固まると思う。

 

実際に私はこの状況についていけず数秒か、それとも数分は固まってしまっていた。

するとそんな私に気づいたのかそのステッキは器用にその翼で頭(?)をかきながら困ったように喋り始めた。

 

『おやおや?さすがに今のは駄目でしたかね?ならばここは王道に!』

 

そう言うとソレはコホンと人間くさい仕草で一度佇まいをただし。

先ほどよりも明るい声で語り始めた。

 

『ワタシは愛と正義のマジカルステッキ!名前はカレイドルビー!貴方の願いを叶える代わりに近くにいる(ワタシにとっての)悪を討ち滅ぼすべく、僕と契約して魔法少女になってよ!』

 

「なんでさ」

 

ついお兄ちゃんの口癖が出てしまったが今ほどこの台詞がこの状況にあう時もそうないであろう。

そんな私の返答が不思議だったのかそのステッキはこれまた翼を器用に折り曲げて腕を組むように悩んでいた。

 

『あらら~?おかしいですね?この国の魔法少女はこうやって契約まで焚きつけるはずですのに?』

 

「いやいや今焚きつけるって言ったよね!怪しいよね!しかもその台詞は色々とアウトだし逆になる気なくなるから!それよりいきなり出てきてなんなの!ていうか意識がどうのこうのってどういう意味!」

 

ついに限界が訪れ、私は勢いよく自称魔法のステッキにツッコム。

 

『だからワタシは貴方が言うように魔法のステッキでカレイドルビーっていいます。あっ、これから相棒にもなるので気軽にルビーって呼んで貰っていいですよ!なんならルビーちゃまでもいいです!むしろお願いします!』

 

(これは・・・・・面倒くさい)

 

空気が読めてないのか分かっていてあえて読もうとしないのかは分からないがこのステッキはどうやら自分の好きなように色々と話始めるらしい。言動からも分かるけどコレはかなり落ち着きがないし人の話を聞こうとしないし答えようともしない。現に先ほど聞こえた物騒な独り言の件には答えてくれなかった。

 

『あぁ~いまなんかいやぁ~な顔しましたね。酷いです!ショックです!ルビーちゃんショッキン!』

 

「えっ、うんそうだけど。」

 

『なんともまぁ正直な方ですね。しかし、現代ではもう魔法少女に憧れる(都合のいい)少女はいないのでしょうか?』

 

今なんか言葉の裏に何かを感じたような気がしたけど。

 

「いや、憧れてないわけではないしなれるんだったらなりたいけど_」

 

『今!なりたいって言いましたね!ちゃんとワタシに内臓されている機能の一つで録音しましたからね!言質確保!』

 

「はぁ!いや違うから今の言葉には続きがあるんだから!なれるものならなってみたいけど貴方みたいのはどうもうさんくさすぎるんだもん!」

 

『うさんくさって!わたしのどこが胡散臭いんですか!』

 

「全部だよ!喋り方とか動きとか存在自体とか!」

 

『ガーン!いまわたし存在そのもを否定されました!されましたね!』

 

「いきなり出てきていきなり悪徳商人みたいなこと言われたらそれは疑うよ!」

 

『いいじゃないですか~、やってみたいんでしょう?お試し期間と思ってここは一つ試してみてはいかがですか?』

 

「その言い方モロ悪徳商人じゃない!」

 

『魔法少女いいですよ~、空を飛んだり、魔法使ってヒーローみたいになれたり、恋の魔法でラブラブになったり_』

 

恋の魔法ですこし反応してしまった。

数分の付き合いだけどこんな反応してしまえばこの怪しいステッキは傷口をえぐるようにグイグイとつけ込んでくるだろう。

だけどルビーはそんな私を無視して魔法少女のメリットなどを述べ続けていた。

 

『さきほどあなたがしていた妄想なんかも実現できたりしますよぉ~』

 

「ちょっと待った!!えっえっ!なんで知ってるの!?ていうか私口に出してた!」

 

『そりゃぁもう、だからこそ、そんな妄想をするような貴方だったから次なる魔法少女にふさわしいと思ったわけで_』

 

「聞かれてた!なにそれ恥ずかしい!ちょっと待って!あそこから一体何キロあると思ってるの!」

 

『わたしをなめないで貰いたいですね。なんたってルビーちゃんは超が付くほどの魔術礼装。遠くの声を聞くこと何ざわけねぇですよ』

 

「あぁぁぁぁ忘れて!今すぐ聞いたこと全て忘れてぇぇ!」

 

『それは出来ませんねぇ。っというわけで誰かにばらされたくなければ魔法少女になってくださいよぉ~』

 

「それもう悪役の台詞だよね!どこらへんが愛と正義なの!」

 

『へっへっへ、こうなったらもう意地でも契約してもらいますよ!』

 

悪魔だ!悪魔がいる!

テレビで見るような悪役のような台詞をはきながらルビーは少しずつ私に近づいてくる。後ずさろうとするけど私は今お風呂の中にいるわけですぐに追い詰められてしまう。

 

『さきほども言いましたが、魔法少女になればあのような(はずかしい)妄想も実現できるんですよ?それだけではなく空も飛べますし強力な魔法(魔術)だって使えます。さぁ、想像(妄想)してみてください。召使いに囲まれている貴方の姿を__』

 

そういわれて思い浮かぶは先ほどの続き、

執事服を着たお兄ちゃんがいて。

お兄ちゃんの膝の上に座りながらお兄ちゃんが作ってくれたお料理を口に運んでもらってる私。

それから__

 

『はいイリヤ。あ~ん。っと口元に米粒ついてるぞ』

『えっ?どこどこ』

『はは、ほら、動かない』

 

そう言うとお兄ちゃんは私を振り向かせて顎を抑えて口元についていた米粒をぺロリとなめとる。

 

『おおおお兄ちゃん!?いきなりそんなことされると_』

『あれ?イヤだったか?』

『えっと、イヤじゃないけど__』

『なるほど、イリヤはちゃんとしたのがいいんだね?』

『えっ?ちゃんとしたのって__』

 

優しく微笑んだお兄ちゃんは再度私の顎を抑えるとその唇をゆっくりと私の唇に・・・・

 

 

 

「えへ、えへへ~」

 

『おやおや、どっぷり自分の世界に沈んでいますね。まさかここまで効果覿面だとは思いませんでしたが。おっと、ヨダレがでてますよ。認証、完了

 

「はっ!私は何を!」

 

口元に触れられた感覚で正気に戻った私はすぐさまその原因に目を移す。

どうやら妄想によって出てしまったヨダレを拭いてくれたらしい。

あの羽、作り物だと思ったけど普通に軟らかくてくすぐったかった。

 

『しかしアレですね。先ほどの恋の魔法にも反応していたこともそうですが。貴方の妄想に何度も出てくるそのお兄ちゃんとやら。さては貴方がフォーリンラヴってるのはその件のお兄ちゃんですね!いやぁ~それにしても妄想の内容からしても随分とまぁ、惚れ込んでいますねぇ。兄妹同士の禁断の愛!とってもおいしいです!』

 

「なっ!」

 

何をいきなり言ってるのかなこのステッキは!!

私がお兄ちゃんに恋!

ははは!面白いことを言うステッキだね。

そんな事__

そんな事__

あるわけがなななななな

 

 

「ないんだからこのバカーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えばあの時、なんで私はこの怪しいステッキを掴んでぶん投げようとしたんだろう。

他にも色々_物を投げたり、お湯をかけたり、無視したり_と方法はあっただろうに何故私はこんなモノに触れようと思ったのか。

 

あぁ、一時の感情に身を任せるとこんなことになるんだね。

色々と勉強になったよ。

だけどね__

 

 

「命じるわ―― 貴女はわたしの、奴隷(サーヴァント)になりなさい。異論や反論もなし、恨むならルビーを恨みなさい」

 

 

__こんな事に巻き込まれるとは思ってもいなかったよ。

だから一つ言わせてほしい。

反論もだめ、異論もだめ、

トントン拍子に運ばれたこの事態。

恨み言も言いたいけどまずは

 

「なんでさ」

 

お兄ちゃんの口癖を言わせてほしい。

 

 




美遊はアレですね。
次か次の次で出ます。

プリヤ原作の士郎がどのような理由で引き取られたのかがすごく気になります。
スピンオフとか言ってるけどかなり凝ってる作品なのでひろやまひろしさんならきっと触れてくれるはず!



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学校

やばいよ
最近リミゼロを和服キャラにつけちゃうよ・・・・
清姫とか
性能的にも似合うから更に困る。

そういえばイマジナリも和服ですね・・・
フォーマルは・・・・・違いますね。

前回の前書きでいいましたけど武蔵って士郎となんか合うね。
和服
二刀流
日本人

あぁ、私って和が好きなんだ~って思いましたよ。
日本にいないと和のものが好きになると思う。

それとこんなこと言ったからFGOで青王でたよ・・・きっと私を殺しにき__なにをするやめっ!!


それはともかく今回も戦闘はないですね。戦闘シーンもまだです。
いよいよ色々と話が動きだすのでその前の日常っということで。


「イリヤ?」

 

返事がない。ただそれだけで士郎は言いようのない不安に襲われる。

しかし相手が聞こえてないだけかもしれないと思い、反射的に開け放ちそうだった風呂場の扉から手を離す。

もしも、勘違いで入浴中の妹に鉢合わせしたらとんでもないことが置きかねないのでここは再度扉をノックしつつ先ほどよりも大きな声をかける。

 

「イリヤ~?いるのか?」

 

・・・・・・・・・

 

数秒経っても返事は未だにない。

今度こそ士郎は焦り、風呂場へと突入していく。

まさかリズが危惧していたことが現実のものになっていたら洒落にならない。

溺れているのなら早急に対処する必要がある。手遅れになる前に一刻も早くその足を湯気の支配する空間へと踏み入れる。

 

「_っ!?」

 

 

風呂場には誰もいなかった。

 

溺れていると思われていた妹の姿もなくそこには誰もいなかった。

閉じられていない湯船、使ったと思われるシャンプーやボディーソープ、開けられている窓。

 

 

__開けられている窓

 

 

 

「ッまさか!」

 

 

この瞬間、士郎にはある出来事が浮かんでいた。

物言わぬ空間の中でいるはずの者がいない、しかし窓は開けられている。

この状況から推測できたこと。

 

 

 

__誘拐

 

 

 

早計ではあるがその可能性がないとも言い切れない。

妹のイリヤは兄である自分から見ても可愛い。幻想的とすら言えるその白銀の髪に真紅の瞳、まるで作り物のようなその容姿は全ての人を魅了さえできよう。

それだけではない(・・・・・・・・)__彼女の中にはある物が宿っている。

 

今夜現れた二人の魔術師に加えてこの出来事から士郎は自身の持つ記憶と知識を繋ぎ合わせてそんな最悪の出来事を想像してしまった。

 

あぁ・・・・そんな彼女を狙う輩がいてもおかしくはない。

そう思った士郎はすぐさま顔を窓から出し、あたりを見渡す。

 

そして目にしたものに目を疑う。

視覚からの情報以外にも彼の嗅覚は別のものを捕らえていた。

 

 

その惨事を目にした士郎は内からあふれ出るドス黒い感情を抑えられずにいた。

 

 

鼻で察するのは焦げた匂い、目に見えるのは荒らされたであろう庭の一部。

煙が上がっていることから荒らされてからさほど時間が経っていないのであろう。

すなわちコレをやった犯人はそれほど遠くには言っていないことになる。

 

「__シメる」

 

ただ一言、そう発する。

その瞳には色が消え、まるで機械のようにゆったりと、出していた顔を室内へ戻す。

 

イリヤを攫うだけではなく、彼の大切にしていた物さえも奪っていったその犯人を士郎は許すわけがなかった。

 

足早に居間へと戻った彼を待っていたのは大人しくなったセラと若干疲れたような表情をしたリズであった。しかし士郎の纏う雰囲気とその表情を見た瞬間、セラとリズは驚愕する。

 

明らかに不機嫌な_否、不機嫌を通り越して冷静に見えるその姿は現しようのない恐怖さえ抱かざるを得なかった。こんな士郎を二人は知らない。

 

確かに不機嫌になる事はある。彼だって人間だ、感情がないわけではない。人より怒ることがない彼ではあるが怒る時は怒る。

 

しかし__

 

今にも人を殺しそうなその姿を二人は見たことがなかった。

そんな士郎に冷や汗をかきつつ、先ほどまでの小さな喧嘩を忘れてリズは恐る恐る士郎に問う。

 

「シ、シロウ__イリヤはどうだったの?」

 

何故不機嫌なのかは聞かない、聞くことで更に刺激しかねないからである。

しかし、リズは知らない。そのイリヤが原因でこのような状態になっていることを。

 

「溺れてはいなかった__いや、そもそも居なかった。」

 

更に空気が重くなるのを感じた。

先ほどよりも士郎から放たれる重圧が増したともいえる。

光の消えた瞳で淡々と語るその様はとにかく怖かった。

しかし、今しがた聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたのにセラは気づく。

 

「居なかった・・・・ですか?」

 

そう、居なかったと言うことだ。

溺れていないのならもうすでに出ていたと思うのは別に不思議ではなかった。

しかし、だとしたら彼の状態に疑問を抱く。

つい先ほどまで普通だった彼が帰ってきたらこのような状態になっていたのだ。

恐らくイリヤを確認する際に何かがあったのだろうとセラは推測する。

 

そこで考える、イリヤが何かをしたのかと。

だがしかしそれは恐らくないであろう。

何故なら士郎は極端までにイリヤに甘いからだ。何を言われようが、されようが士郎は彼女を許してしまう。注意などで叱る時はあるものの、セラは彼がイリヤが原因で怒る所を見たことがない。そもそも怒る事自体が稀ではあるが。

 

セラからしても士郎のイリヤに対しての態度は甘すぎるとしか言えない。

なので彼の怒りの原因がイリヤ本人からの物でないことは分かった。

ならば何か?

 

それは____

 

 

「あぁ、居なかった。誰もいなかった。ただ分かっているのは窓が開いてたこととイリヤが居なかっただけだ。」

 

「なんですって!!」

 

つまりそういうことであろう。状況証拠しかないがその考えにたどり着いたとしても不思議ではない。それにそうであったのなら士郎が怒る理由も頷ける。

イリヤに対して甘いということはそれだけイリヤを大切に思っていることと彼女を溺愛しているのと同位。

 

「こんなことをしている場合ではありません!リーゼリット警察に電話を!それとシロウは私と一緒に犯人の息の根を止めに行きましょう!」

 

「そのつもりだ。」

 

セラの指示にリズはすぐさま電話へと急ぎ、叫ぶセラとは反対に士郎は静かに答える。

しかし全員が行動に移すその瞬間、居間の扉が開かれた。

 

「わー!わー!!待って待って皆落ち着いて!」

 

件の少女、イリヤであった。

その姿を目にした一同はすぐさま彼女に近づく。

 

「イリヤ!」

「イリヤさん!無事だったんですか!」

「なにもなかったの?」

 

兄に肩を掴まれ、家政婦二人に問い詰められるイリヤは焦りつつも全員の誤解(ともいえないが)を解くべく一つずつ彼らの質問に答えることにした。

 

「うっうん!大丈夫大丈夫!なにもなかったよ、ていうか攫われてないから!」

 

その言葉に一同はホッと胸を撫で下ろし、では何故風呂場に居なかったのか?それと何故窓が開いていたのかと問いかけると__

 

「えっと__そう、誰かが居た気がしてね!窓から見てみたの、結局なにも見えなかったけど気になって急いでお風呂からでて、見に行こうと部屋に着替えに行ってたの!」

 

苦しいかと思われる作り話ではあるが小5の彼女にしては上出来ともいえる言い訳であろう。しかし、三人の内二人。正確にはセラと士郎はイリヤのある言葉に反応していた。

 

「誰かが?」

「居た?」

 

その瞬間、またしても二人から表情が消えた。

ついでにあたり一面を冷たい空気が支配した。

 

「えっ?」

 

そんな二人の様子にイリヤは混乱し、オロオロと二人の表情を見ていた。

当の二人は無表情ではあったが何故か怖く感じた。

 

「つまりは覗きですね?」

「そうかもしれないな、しかし犯人は庭を荒らしていた。恐らく悪戯か覗きのどちらか・・・いや、両方という可能性もある。」

「なんですって?」

「あぁ、事実だ。後で庭を見に行くといい。しかし___命知らずもいたものだ」

 

段々と増す重たい空気にイリヤは自分が何か失言をしてしまったことに気づいた。

今まで見たこともない兄の雰囲気に若干涙目になりそうになるがこの状況で口を開く勇気はイリヤにはなかった。

 

「__俺の家庭菜園(にわ)を滅ぼすだけではなく覗きを企むとはな」

 

(そうだったーー!!!!)

 

その瞬間、イリヤは色々なことがありすぎて気づいていなかった出来事に気づく。

ルビーに騙されて彼女を振った時に出てきた謎のビーム。

それにより激怒した凛が連射してきた黒い塊。

ルビーが防いだから自分には傷一つ付かなかったもののその周りはそうでもない。

 

そうだ

 

確かあの時の流れ弾は兄が大切にしていた家庭菜園に直撃した気がする。

その事実に行き着いた瞬間、イリヤの顔から血の気が引いた。

 

 

イリヤは知っている。

そこから作られる様々なものがいかに美味であるか、どれほどの手間をかけてそれを作り上げたのか、兄がどれほど収穫を楽しみにしていたか、そして兄がどれほどそれを大事にしているのかを

 

「覗きに器物損害ですか、それはそれは__犯人を捕まえて挽肉にしてグラム98円で出荷してあげなければいけませんね」

 

(怖いよ、怖いよセラ!!誰か!だれかツッコンで!)

 

「何を言うセラ」

 

「お兄ちゃん!」

 

「それでは生ぬるい」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「捕まえて口に麻婆豆腐をぶち込んでヤマアラシにして17分割するのが基本であろう、その後に挽肉にするといい。」

 

「なななな何を言っているのかなお兄ちゃん!」

 

こんな兄をイリヤは見たことがなかった。

コレほどまでに怒る兄を見たことないイリヤは彼がどのように怒るかは知らないでいた。どうやら兄は静かに怒るタイプであるらしい。

それが更に恐怖を増すのだが・・・・

 

今の兄はとにかく近づくのさえ恐ろしかった。

この場に犯人がいたのならば本当に有言実行しかねない。

自分が直接手を下したわけではないが、その出来事に少なからず関わっているイリヤは心臓をバクバクと鳴らしながら大量の冷や汗をかくのであった。

髪の中にいるルビーが大人しくしていることを願うばかりであった。

 

 

_____________________

 

 

 

「はぁ・・・」

 

自室に入ると共にそんな溜息が出てしまった。

 

リズと共に二人を落ち着かせるのに随分と時間と気力を使ってしまった。

だけどやっぱり犯人を許しているわけじゃなくてとりあえず落ち着いている程度のものだった。犯人を見つけたと思うと何が起こるかは考えたくもない。

 

「どう?うまく誤魔化せた?」

 

すると自然と家に入り込んでベッドに座っている(犯人)に話しかけられる。

 

「なんとか・・・咄嗟にだったけど覗きと悪戯って事にしておいたよ。」

 

その後の事は余り思い出したくはなかった。

 

『それにしてもヒステリックなお母さんとお父さんでしたね~、心配性とも言えますけど。』

 

「セラはお母さんじゃないんだけど。っていうかお父さんってだれ!お兄ちゃんだからね!そう呼んでたじゃん!知ってて言ってるでしょ!」

 

『おやおやというとあの方が__うふふふ』

 

「何その意味深な笑い方!」

 

『それにしても恐ろしいですねぇ。犯人を捕まえて挽肉にしてグラム98円で出荷してやると言ってましたよ。お兄様なんか口に麻婆豆腐をぶち込んでヤマアラシにして17分割にするとか言っていましたし。』

 

「ああそう、出来ることなら今すぐ犯人を突き出してやりたいわね」

 

「いや、ルビーも原因だけど凛さんも同じくらい二人の__特にお兄ちゃんの怒りを買っていたり・・・」

 

ルビーを握り潰しそうだった凛さんは私の発言に疑問の顔を浮かべる。

 

「どういうこと?私なにかしたっけ?」

 

「うん、凛さんが撃ったあの黒い塊あるでしょ?」

 

「ガンドね、一種の呪いの一撃なんだけど極めれば物理的にも威力を発揮するわ。それがどうかしたの?」

 

「それなんだけど、その一撃が家のというよりもお兄ちゃんが大事にしていた家庭菜園に直撃していてですね。」

 

私がそう言った瞬間、凛さんはしまったとばかりに顔をしかめる。

私が育てたわけじゃないけどお兄ちゃんもかわいそうだし何よりあんな美味しいお兄ちゃんの野菜やお茶の葉を台無しにされちゃ、私もちょっと思うところがあるわけでつい追い討ちをかけるように言ってしまう。

 

「色々時間と手間をかけていたし、設備や種とか肥料にもそれなりのお金も使っていたからお兄ちゃん、今にも犯人を襲いかねない勢いで怒ってたよ。」

 

私の言葉に更に顔を青くする凛さん。

お金という部分にかなり反応していたようにも見えたけど気のせいかな?

 

「そっそうね、確かに私にも非はあるわね。だけどこの事を話せるわけでもないから遺憾だけど、本当に遺憾だけどこのまま知らんフリをするしかないわね。」

 

そんな事を言う凛さんをジトーっとした目で睨んでみると居心地が悪くなったのか顔を合わせないで話を流してしまった。

 

「まっ、それは置いておいて。あんたには色々と説明しなきゃね」

 

凛さんは優雅に佇まいを正し、先ほどのことがなかったかのように今後の事と自身のことを語り始めた。

流されたことにちょっとイラっときたけどとりあえず聞くことにした。

 

 

話の内容はというと。

 

色々とちんぷんかんぷんなこともあったけど簡単に言うと私が魔法少女になって町にあるといわれる危険な何かと戦わなければいけないらしい。

 

 

まるで漫画のお話みたい

 

 

_______________________

 

 

 

 

士郎は珍しく疲れていた。

それも全ての原因は昨夜起こった様々な出来事である。

 

よく知った二人の突然の登場に毒舌シスター、仕舞いには丹精こめて作り上げた己の庭さえも何者かによってめちゃめちゃにされたときた。庭の修復に時間をかけてしまい風呂に入る時間も遅れ、それが原因で毎日行う鍛錬を始める時間も遅れてしまった。正常に開いた魔術回路をいち早く慣れるためにもいつもより長い時間を鍛錬に使ってしまったのもあるだろう。それで睡眠時間が削られたのは士郎自身仕方ないとは思っている。

 

というよりも夜更かしは慣れている。しかし肉体的(それ)よりも精神的な負担のほうが原因で士郎は普段よりも疲れてしまっているのである。

 

疲れが表情に出てしまったのだろう。今朝もイリヤに心配されてしまった。

 

(イリヤに気づかれるほどとは俺も修行不足だな。このままじゃぁ学校でも気づかれかねないしちゃんとしておかないと。)

 

よし!っと気合を入れては見るもののそういえば昼にあの毒舌シスターに呼ばれている事を思い出し、せっかく入れた気合が消えていくのを感じたのであった。

 

 

 

 

弓道部に付くと士郎は携帯に通知があることに気づく。

こんな早朝に一体誰だろうと思いながら携帯を覗いてみると士郎は目に見えて顔をしかめる。

 

そこには『カレン様』と登録されている番号からのメールであった。

つい先日までは表の名前である折手死亜華憐と登録してあったはずなのにいつの間にか変更されている。一体いつ、どうやって登録名を変えたのかは未だに謎である。

 

そう、未だにである。

実はコレが始めてではなかったりする。

過去に『あなたのカレン』だったり

『ご主人様』だったり

『下僕』だったりと変えられていたこともあったりするがそれはここでは割愛する。

 

あまり見る気はしなかったが見なかったら見なかったで後々面倒なことになりかねないので士郎は意を決してメールの内容を確認する。

 

 

 

―言い忘れていたけれど、弁当は食べずに来なさいこちらで用意するから。

 

 

 

簡単にそう書かれていた。

命令口調であることはこの際気にしない。いつもの事である。

しかし、困った。昨日の内に言ってくれていたらなんとか出来たかもしれないが弁当の処理に困ってしまう。部活の後に食べるという手もあるがそれだとせっかくの弁当の味が落ちてしまうかもしれない。それに夕飯も入らなくなったら困る。

 

さてどうしようと士郎が首をかしげている時だった。

 

「おーい、衛宮ーそんなところで考え込んでどうしたんだー?」

 

声の主に振り返るとそこには弓道部主将の美綴綾子がいた。

 

幼い頃から色々な武道関係の場で相対したことのある士郎にとってのこの世界での唯一の幼馴染である。家族以外の人物では恐らく一番付き合いが長いだろう。示し合わせたわけでもないがあらゆる道場や武道の場で何度も顔を合わせる内に友人になった腐れ縁でもある。様々な武道に精通しており心得があるなど武道に関しては才能のあるすごい人だったりする。

 

士郎はそんな彼女の才能を羨ましく思っているのだがそんな事を美綴に言ってしまえば一度も彼に勝利したことのない彼女の怒りを買いかねない。士郎自身が口にできないことではあるが彼には反則的な経験と知識があるために彼が彼女に負けることはほぼないのである。しかし士郎はそんな彼に対しても遅れをとらない彼女を評価していたりする。

 

しかし美綴はそんな士郎の心の内を知るわけがなく一方的にライバル視している。

 

「美綴か、いやちょっと____」

 

いいかけてふと思い出す、そういえば何回か彼女が学食を食べていた所を目撃していたことに。

というか何度か一緒にも食べたりしていた。

 

「そうだ美綴、今日は弁当か?」

 

「何だいきなり?あたしは殆ど学食だけど。それがどうかしたのか?」

 

「なら丁度いいや、今日弁当を持ってくる必要がなかったことを思い出してな。美綴が良ければだけど、俺の弁当貰ってくれるか?」

 

士郎がそういうと美綴は目に見えて顔を輝かせて士郎にもの凄い勢いで近づいてきた。

 

「まっマジで!衛宮の弁当くれるのか!?」

 

やや気圧されるが下がりそうだった足をなんとか押しとめて美綴の言葉に頷くと彼女は更に表情を輝かせながら喜ぶ。

 

急変する幼馴染の様に少しぎこちなくなりつつもお弁当を取り出すと美綴は丁寧に弁当箱を受け取って大事そうに抱える。

 

「ありがとうな衛宮!確か昨日は衛宮が当番のはずだよな、いやぁ~今日はついているなぁ。」

 

当然のように士郎の当番の日を知っていることはさすが幼馴染というべきかなんというか。

 

「あぁ、確かに昨日は俺の当番だったけどその弁当を作ったのはセラだからな。ちょっと見てない内にやられてさ。」

 

まったく、と溜息を吐く。

 

「そうなのか。まぁ衛宮が手掛けてないのは残念だけどセラさんの料理も最高だからね。それでも嬉しいよ。」

 

「セラもそういって貰えて嬉しいと思うぞ。でもまぁ、残念がってくれるのはこちらとしても嬉しいし今度なにか差し入れするよ」

 

「やった!!んじゃこれちょっと置いてくるから、じゃね。」

 

そういって美綴はルンルン気分で弁当箱を抱くように持って更衣室へと足を進めていった。そんな彼女を見送った士郎は自分も着替えるために更衣室を目指して今日の分の朝練を始めることにした。

 

 

どこから聞きつけた(嗅ぎつけた)のか顧問である冬木の虎に士郎が美綴に弁当を渡したことがバレて暴れてしまい、騒いでしまったせいで部員全員にもそのことが伝わりちょっとした騒動にもなったりしたがそれはまた別のお話。

 

 

____________________________________

 

 

 

「衛宮、先に職員室へ用事があるので生徒会室へは少し遅れて行くが構わんか?」

 

「あっ、悪い一成今日は生徒会室では食べないんだ。」

 

「そうか、それは残念だな。しかし衛宮にも都合というものがあるのだろう。気にせず行って来るといい」

 

「サンキュウな。」

 

いつも昼食を共にする一成に謝りつつ、士郎は気乗りはしないが足を保健室へと進めていく。

 

(昼はこちらで用意すると言われた時点でおおよその予想はついている、恐らくというか十中八九アレであろう。)

 

付き合いが長い分カレンが何を用意するかは分かってしまう。

しかし分かっているからと言って今朝の内に対策を練ることなども用意することも出気ずこうしてお昼時間になってしまったわけである。

 

重くなる気分と足に渇を入れて覚悟を決めた所で目的地である保健室にたどり着いた。

一応カレンは保健室のではあるが先生であるので他の生徒がいるかもしれない中、呼び捨てと共に堂々と入るのはいらぬ面倒を招きかねないのでノックと共に失礼しますと挨拶をいれておく。

 

扉を開いてみると他の生徒はおらずカレンがお茶(角砂糖入り)を啜りながらそこにいた。見慣れた修道服ではなく白衣を着ており、髪型も後ろでまとめるように結ってある。性格はともかく見た目はいいのでこの学園ではそこそこ有名で人気も高かったりする。

 

「それでカレン、用件はなんなんだ?」

 

誰も居ないのを確認したのでいつも通りの口調で話しかける。

 

「あら、先生に対してその口の聞き方は如何なものかと思うのだけれど。」

 

「少なくとも年齢詐欺で保険医なんかやっててシスターの癖に毒舌な年下のあんたにだけは言われたくないな。それで?もう一度言うけど用件はなんなんだ」

 

「そうね、とりあえずお昼を食べながら話すとしましょうか。」

 

そう言うとカレンはアレを取り出した。

つい先ほど届いたばかりなのかソレはグツグツと音をたてており、器からでる湯気がゆらゆらと揺れていた。よほどの熱さなのか器の上の空間に陽炎さえも見えてきた。

 

カレンが取り出したソレはとにかく赤かった。

 

紅_嚇_緋_猩_朱

 

この世全ての赤を混ぜたようなそれは毒々しいまでに紅い。

ソレから漂う香りは直接神経を刺激するように鋭く強烈であった。

煮えたぎる様子とその色はまるでマグマのようでこのままで器を溶かしてしまうのではと錯覚してしまいそうであった。

 

これが体内へ侵入してしまえばどうなるだろうとは試さなくても分かる。

というか士郎は何度か経験したことがある。口に入れた瞬間に意識を刈り取られるだろう未来が容易に想像できる。

 

しかしだ、悪魔(カレン)の前でのんきに寝るなどと誰ができようか。意識がないうちに何をされるのかなんて分かったものではない。

 

「さぁ、私の奢りなので遠慮せずにどうぞ」

 

出来れば遠慮したい所だがそんな事が出来るのなら士郎はもう実行しているだろう。なのでここは__

 

「イタダキマス」

 

__涙をのんで食べるしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、今回は随分と頑張りましたね。」

 

微笑ましいものを見るような顔で言うカレンに士郎はなんとか保つことができた意識の中で睨みつける。

 

結果的に言えば意識を失わずに完食することに成功した。

しかしそれもやっとのことで、今の士郎は運動をしたわけでもないのに肩で息をして疲れが顔に出ていた。目元からは少量の涙が浮かび上がっており、そんな士郎の珍しい表情をおかずにカレンは自分の分をぺロリと平らげた。

 

弱った様子とその家族でさえ見たこともないような涙目の彼にカレンは頬を朱に染めながら興奮していたりする。そして彼女の手には携帯電話が握られている。出された麻婆豆腐と格闘することに集中していたからか士郎はその様を録画されていることに気づいていなかったりする。涙目で苦痛の表情を浮かべつつも一生懸命に食べる彼の様子はなによりも彼女にとっておいしかったりする。これを観賞しながら夕食を楽しもうと思っていたりもする。とんでもない変態である。

 

「さて、収穫もあった(昼食も食べ終えた)ことですし本題に移りましょうか」

 

「なん・・・だと・・・」

 

尚も回復しきっていない士郎はその顔を絶望に染めあげる。

先ほどの地獄が本題だと思っていた士郎にとっては今の言葉は聞き逃せるものではなかった。また、その表情を見て更に興奮しそうだったカレンであったがなんとか顔には出さずにあるものを士郎に渡した。そんな彼女の行動に疑問を感じた士郎ではあったがすぐに渡されたものの正体に気づく。

 

「これは!?」

 

「あら? その様子だと知っているようね。」

 

「いや知っているもなにも、これってマルティーンの聖骸布だろ、そんな貴重なものをどうして__」

 

「誰にもバレたくはないのでしょう? ならこれでも身に着けてうまくやりなさい、それに家にあったとしても使うことなんてなかったのだから。」

 

それは一見すれば赤い布にしか見えないが、見る者が見れば分かるそれはマルティーンの聖骸布。別名、魔力殺しの聖骸布とも呼ばれるそれは名前の通り、使用者や着用者の魔力を抑える効果がある。

 

幾ら魔術回路を閉じた状態と言っても一流の魔術師なら相手に触れるだけでも魔術回路の存在や状態に気づいてしまう。家にセラが居る時点で常にバレる危険性のある士郎にとっては出来るだけその可能性は無くしたい。

なので魔力殺しとも呼ばれるこの聖骸布は士郎にとってはありがたい。

 

「ありがとうなカレン。 でも本当に貰ちゃっていいのか?」

 

「えぇ、先ほども言ったけど私が持っていたとしても教会に眠っているだけだっただろうし。 私も誰がどうやって手に入れたのかも知らないし興味もないので。」

 

「その発言はシスターとしてどうなのかと思うぞ」

 

しかしシスターにあるまじき発言はいつもの事なので士郎もあまり気にしていなかったりする。

 

「さて、時間も余った事ですし次の時間までは私の話相手になって貰いましょう。」

 

どうやら本題はこの聖骸布のことだけだったらしく、カレンは足を組みなおして士郎を見つめてきた。

てっきり色々と要求されると覚悟を決めていた士郎は驚きつつも、なにも要求されないならいいかとカレンに断りを入れてからお茶を二人分淹れる。仕方のない事とは言えお茶に角砂糖を入れるのは士郎としては勘弁して貰いたい。

 

「それで、どんな話をお望みかな?」

 

「そうね、たまには裏の事情ではなく貴方の事を聞きたいわね」

 

「俺のこと?別にいいけど、あまり面白い話ではないとおもうが?」

 

「構わないわ___」

 

 

 

だって

 

 

 

貴方のことなら何だって面白いから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後カレンが持ってったー!!!
まぁ時系列的に自然と彼女が最後を担当してしまうんですがね。

家はセラ、
朝は美綴
昼はカレンてな感じで

プリヤがスピンオフだしスピンオフならスピンオフで出番の少ないほかのキャラに出番をと思って色々登場増やしてます。

ぶっちゃけるとただ自分の好きなキャラを登場させたいだけなんですがね!
美綴?大好きですよ!

どうやら自分はメインヒロインよりもメインじゃない娘が好きらしい・・・・・・・



<<「捕まえて口に麻婆豆腐をぶち込んでヤマアラシにして17分割するのが基本であろう、その後に挽肉にするといい。」

分かる人は分かるパロネタ


<<『それにしてもヒステリックなお母さんとお父さんでしたね~、心配性とも言えますけど。』

苦しいかもしれないけどごめん、ただこれがやりたかっただけ。


<<特にお兄ちゃんの怒りを買っていたり・・・

あーあ、凛ちゃん士郎の好感度さげちゃってまぁ・・・・
まぁアイツの記憶のせいで凛の好感度が元から高いしこれくらいいいだろう。


<<『ご主人様』だったり
『下僕』だったり

さすがSの皮をかぶったM


<<観賞しながら夕食を楽しもうと思っていたりもする。

変態だな。


<<私も誰がどうやって手に入れたのかも知らないし興味もないので

言峰ェ・・・・


<<仕方のない事とは言えお茶に角砂糖を入れるのは士郎としては簡便して貰いたい。

士郎は彼女の体質の事は理解しています。

<<士郎にとってのこの世界での唯一の幼馴染である。

幼い頃に色々失ってる士郎だし幼馴染くらい作ってもいいよね。ていうか美綴くらいしか一般人で士郎と仲がよくて幼馴染になれそうな人がいなかった。丁度いいけどね!!
一成?誰かが喜びそうだからやめた。

それと評価下がってましたね。やっぱ小文字は駄目だったかな?出来れば使わないようにします。




アホだと思うかも知れませんが外道麻婆、一度でいいから食べてみたい。


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最初の戦い

はい、ほら吹きの作者です。



うっわ!2ヵ月半くらい更新してなかったのか!
すいません!活動報告でもホラ吹いてましたね。
繊細は伏せますがとあるやらなければいけないがあったことを忘れていてそのせいで色々とあったとだけ言っておきます。

あまり言い訳はしません。
ごめんなさい


そのかわり 長いから許して!!


昼食の一件以来は特に目立ったようなイベントもなく時間も過ぎ、最後の授業が終わるベルが鳴ると士郎はいつも通りに部活へと足を進めた。

 

弓道部に所属している士郎ではあるが士郎自身が矢を射る事は滅多にない。今までに様々な武術を学び、美綴と共に切磋琢磨していたが弓道だけは別であった。

 

他の武術は相応の努力と時間をかけて学んできた士郎ではあるが弓道だけはそれをしなかった。否、する必要がなかった。

 

弓術に関しては既に極致に達している士郎はそもそも弓道部に入る必要もなかったのである。必要はなかったのだが、美人は武道をしていなければならないと言う謎の哲学を持った幼馴染に半ば強制的に入部させられたのであった。そういえば互いにまだ弓道を習っていなかったなと士郎の話も聞かずにいつのまにか二人分の入部届けをだしていたのである。

 

ここまでされては言いたくても言えず士郎は仕方ないと弓道部へ入部したのであった。

 

今度こそ負けないとばかりに初日から張り切っていた美綴ではあるが士郎が申し訳なさそうな顔をしながら一度弓を引いてみると彼女の張り切りは一転して怒りへと変わってしまった。正確には怒りというよりも拗ねているのだがそんな事は士郎が気づくはずもなく終始膨れっ面であった。そんな彼女の機嫌をとる為に色々手を尽くしたのは今ではいい思い出。

 

 

そんな彼女ではあったが今では当然のように主将までに成長しているのだから彼女の才能は恐ろしくもある。当時は士郎のほうが実力があるのに何故自分が主将になったのかと声を上げていたが実は士郎の推薦からの判断であったりする。自分の他人には理解できない感覚ではうまく後輩に教えることはできないなどと言い、さらには『美綴みたいな性格のほうが俺より断然向いている』と真剣な顔で言われてしまえば美綴も余り強く反発することもできなかった。後から遠まわしに士郎に認められていることに気づいて照れたのはまた別のお話。

 

 

ただ士郎は自分が弓道部で弓を引くのは少し違うと感じており自分から進んで弓を引くことはせずに、部員の面倒や道具の整理などに時間を使っていたりする。これではまるでマネージャーのようだと美綴に言われているのだがそれもいいかと士郎は思っていたりもする。

 

色々な出来事もあったりはしたが今では何事もなく部員全員が部活に励んでいるし部員も士郎の実力を知っておりそんな士郎のありかたに疑問を持つものもいない。

 

ただ美綴は昔のように切磋琢磨する日々が過ごせないのが残念だったりする。

 

 

 

 

 

「衛宮~」

 

着替えを済ませて弓や矢の整理をしていると後ろから声をかけられた。

振り返ってみると今朝もあった美綴であった。しかしその表情はいつもよりやけにご機嫌である。

 

「どうした美綴、今日は随分と機嫌がいいな」

 

「そりゃぁね。お弁当もおいしかったし、衛宮からも今度なにか貰えるしこれでご機嫌にならないわけがないよ」

 

いつになくご満悦な幼馴染に士郎は手を休ませずに微笑み。

 

「そっか、そこまで喜んで貰えるならこちらとしても嬉しいな。その感じだとセラの弁当にも満足してくれたみたいだしセラにもそれとなく感想言っておくよ。」

 

「満足も何も大満足だよ。 そうそうはいこれお弁当箱、今日はありがとうね」

 

そういうと美綴は包みに入った弁当箱を士郎に渡した。どういたしましてと言いながら士郎がそれを受け取ると、美綴の背後からもう一人誰かが近づいてくるのが見えた。紫色の髪を持ったその人物__

 

「いいなぁ美綴先輩、先輩のお弁当貰って。しかも昨日は先輩の当番でしたし・・・・」

 

__間桐桜は羨ましそうな視線を美綴に向けながら言う。美綴と同じく当然のように士郎の当番の日を知っているのは彼女が士郎の料理の弟子であるからだがそれはまた別のお話。そんな指をくわえている桜の後ろでは彼女の兄で士郎の友人である間桐慎二がやや不機嫌な様子で立っていた。

 

「ふふーん、まぁなんだ幼馴染の特権って事でさ。」

「いや、偶然だったんだけどな。それと実際に作ったのはセラだったし。それよりも慎二、なにかあったのか?」

 

何かを言うわけでもなく佇んでいた慎二ではあったが士郎が声をかけることで反応を見せる。むしろ士郎から話してくれるのを待っていたかのように慎二は腕を組みながら口を開いた。

 

「放課後になんで僕のことを待たずに先に部活にいくのさ。」

 

「えっ、だってクラスの娘と話し中だったし邪魔しちゃ悪いかなと思ったんだが」

 

「ふん、お前がいても誰も邪魔だとは思わないよ。とにかく衛宮のくせに僕を置いていくなんて駄目なんだからな。僕より先に行くなんて許さないから、お前は僕の後ろか隣にいろ。」

 

「そうか、じゃぁ今度からはちゃんと声をかけることにするよ。」

 

少々腹の立つような言い草ではあるが士郎はそのことを気にした様子もなく作業に戻ることにした。美綴ほどではないにしろ彼とはそれなりに付き合ってきた時間が長い。お世辞にも良い性格とは言えない彼ではあるが、彼の面倒くさく素直ではない所が間桐慎二の味だと士郎は思っている。しかしやはり人に好かれるような性格ではない事から彼のことをあまりよく思っていない者がいるのもまた事実。

 

一成などもあまり慎二の事を良く思っていない様子ではあるが無理やり突き放したりあからさまな敵意を向けたりはしない、せいぜい説教や文句などの小言を言うくらいであろう。慎二も面倒くさそうにはしているがはっきり拒絶している様子もない、恐らくあれが二人がうまく付き合う方法なのであろう。

 

そんな二人の間に入って二人を落ち着かせるのが士郎の役目であったりする。性格の違う者達ではあるがうまくバランスの取れている三人であることはクラスメイト全員が共通して持つ感想である。

 

 

 

士郎の返事に満足したのか慎二はふんっと鼻を鳴らしながらその場を離れてしまった。士郎はと言うと慣れているのか特に気にした様子もなく_仕方ないなぁ_とこぼしながら軽く笑みを浮かべていた。

 

そんな二人の様子を見て、間桐桜と美綴綾子の二人は顔を見合わせながらお互いに微笑むのであった。

 

 

 

 

遅れて登場してきた弓道部顧問は朝の一件の事をまだ引きずっているのか登場と共に『士郎~!今日ご飯作りに来てぇ~!!』と咆哮をあげながら士郎に掴みかかってきたのであった。

 

 

 

今日も弓道部は平和である。

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

私は思います。

幾ら何でもこれはないと・・・・・

 

確かにラヴから始まるレターだと早とちりしてしまった私にも少しは問題があるとは思うけど正直、会って間もない小学生にこのような手紙を送るのは如何なものかと思います。

 

_今夜0時 柳洞寺まで来るべし来なかったら殺す(帰ります)_

 

四六時中元気なルビーも一瞬静かになってしまうほどの肩透かしを食らっていた。ご丁寧に直筆じゃなくて文字の一つ一つの線を定規で書いたみたい。後半の取り消し線も相まって脅迫文にしか見えない。そもそもここまでするかと思ってしまう。後半の一文字も書き間違えたのかは分からないけどもし書き間違えたのなら書き直すとかは考えなかったのかな?

 

『帰りましょうかイリヤさん・・・』

 

「うん、そだね」

 

『何事も前向きに・・・ですよ!』

 

「うん、そだね」

 

ルビーらしくもなく、どこか無理に明るく振舞っている様子で私達は帰宅したのであった。

 

 

 

 

家に着き、ルビーに何が出来て何が出来ないかを聞いた後、参考までにまだ見終わっていないアニメのDVDをリズお姉ちゃんと一緒に観賞することにした。よほど熱中していたのか気づいたら既に日が暮れようとしていた。だけど(一方的な)約束の時間まではまだまだ時間もあったから、後回しにしていた宿題をやることにした。

 

宿題を終わらせてる途中に部活からお兄ちゃんが帰ってきて。帰宅途中に目に付いたからと私にコンビニの新作アイスを買ってきてくれた。すごく嬉しかったです。さっそく食べようと思ったけどもうすぐ夕食だからそれはデザートだと言われて渋々そうすることにした。

 

その後は何かが起こるわけでもなくいつも通り夕食を食べてお風呂に入ってすこしして寝ることにした。

 

しかし本当に寝るわけにもいかないので寝たふりをして皆が寝静まった頃にこっそりと家を抜け出すことにした。ルビーも一緒だったから余り退屈せずに待つことができたけど、恋の話に突入したときはお口ミッフィーしました。

 

 

 

家を抜け出した後もまだちょっと時間があったのでルビーに言われて少しだけ魔力砲の練習をした。火力が分からずにアスファルトに小さなクレーターを作ってしまったのは内緒である。とりあえずは老朽化と言う事にしておけないだろうか?

 

 

「そんなこんなで深夜0時です。」

『誰に向かって言ってるんですかイリヤさん?』

 

「いや、小学生らしく小学生っぽい日記のような何かでモノローグをと__」

 

『器用なものですね。』

 

「ほらそこ、無駄話してないで行くわよ。」

 

「行くって、ここじゃないの?」

 

てっきり待ち合わせ場所であるこの山門が戦いの場だと思っていたけど、どうやら違うらしい。

 

「いいえ、確かにここであってるわよ。空間の歪みはこの山門前からはっきりと観測されてるわ。」

 

「そう言われても・・・・なにもないんだけど?」

 

凛さんの指差すほうを見てみてもやっぱり何もない。余りにもはっきりと言うものだから私には見えない何かだと思った。もしかしたら私が戦う相手は幽霊さんなのかもしれないと思うと急に怖くなってきた。

 

「そうね、ここであってここでじゃない。言うならばカードは別の世界にあるのよ。」

 

いよいよ、凛さんが何を言っているのか分からなくなってしまった。頭を抱えている私に気づいたルビーは『実際に見せたほうが早いでしょう』と言って私達を中心に魔法陣を浮かび上がらせた。

 

急な出来事に焦る私だったけど、そんな私をスルーして凛さんは淡々と説明を続けていた。

 

「そうね・・・今私達がいるこの世界がコインの表とするなら今から私達が向かうのはその裏側_」

 

足元の魔法陣から光が浮かび上がり、少しずつその輝きが大きくなるにつれて肌で感じることができた。これが魔力なのかと_

 

「同じであって違う世界、まるで鏡の内側のようにそっくりなその世界_」

 

強くなる光はついに目を瞑ってしまうほどに膨れ上がり私たちを包むように目の前を真っ白にしていった。

 

「鏡面界__そう呼ばれる世界にカードはあるの」

 

光が止むと、視界に移ったのは先ほどと同じ場所。移動すると言われて目を開けてみるとそこには一秒前と同じ光景。一瞬何も起こってないと思ったけど違う。

 

ここはさっき居た場所とは違う。

星が見えていたはずの空は毒の霧のようなもので覆われており、この空間全てがさきほどよりも重い何かで支配されつつあるのが肌で感じられた。

 

一言で言うのであれば

 

「雰囲気が違う」

 

しかしそんな考えもすぐに失せることになる。

一変したこの状況に驚愕して固まっていた私だったが目の前から感じられたこの空間から感じる不気味な何かとは一線を画す別の何かによって正面を向かざるを得なかった。

 

 

 

それはいつの間にかそこにいた。

まるで、誰かを待っていたように自然な佇まいで_

無形の型のはずなのに、そこからは一つの隙も見当たらない_

陣羽織に三尺はあるだろう長刀_

腰まで届きそうな長い髪_

 

その姿はまるで____

 

 

「お侍さん?」

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

 

「くそ!思いのほか準備に時間が掛かったか!」

 

真夜中の肌寒い中、衛宮士郎は日課である魔術鍛錬もせずに柳洞寺へと駆けていた。口調とその表情からは焦りと共に少しばかりの苛立ちが感じられる。

 

カレンからの情報で恐らく今夜午前零時に二人が行動を起すだろうと言われて色々と準備をしようと思ったがどうにも自宅で行動を起すのは至難であった。家族の目(特にセラの)がある中で聖骸布を広げることも難しく、さらにはそれを加工など出来るわけがない。仕方がないので皆が寝静まる夜までは大人しくすることにしたのである。

 

とりあえずは魔力殺しの聖骸布で外套を作り、余った分はそのままにしておくことにした。加工が終わると次に引っ張りだしたのは使う日が来なければいいと思ってはいたが万が一のことを考えて製作しておいた戦闘服である。見た目は彼の弓兵(・・・・)と類似しているがところどころ違いが見つけられる。

 

まず、目に付くのはその色。

とある正義の味方は赤い聖骸布に黒のボディーアーマーであったが士郎の持つ戦闘服はその逆で黒い聖骸布に赤のボディーアーマーだった。それに加えて士郎は正体がばれないようにと黒いフードを取り付けていた。コレに口周りを包帯や布などで覆えば自分が誰かなどは分からないだろう。声も布越しであれば分かりにくいはずであるし、やろうと思えば声など幾らでも変えられる。

 

もしも戦闘になるとしたら相手はきっと魔術師だろうと予想し、ならば自分の素性がばれないようにと顔を隠すことを決めていた。もしも取り逃がしたりなどして自分の家族、更には知り合いを狙われるようであれば士郎は自分を許せないだろう。たった一つ、正体を隠すだけで危険は大分減らせる。ならば対策は徹底的にとるべきだ。

 

 

 

全ては予想に過ぎない、しかしその確率は決してゼロではない。

危険な芽は全て摘むべきである。

否、芽になる前__それこそ危険な種は撒かずに全て消し去るべきである。

 

 

そう

 

 

愛する者を守れるのならばどんな事も惜しまずやってみせよう。そう決意し、赤原礼装ならぬ黒原礼装を身に纏い、口元を包帯で覆った士郎は急いで家を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!やはり出遅れたか!」

 

簡単に装備を確認してから最終的な魔術回路の検査を終えた後、記憶にあった歪みの存在する場所を一つずつ確認していたら柳洞寺の歪みが急に増幅したのを感じ、山門へと急いで方向転換した。数秒でたどり着くとそこにはいつも通りの山門があった。

 

しかし、士郎からしてみればこれは明らかに異常であった。

日に日に歪みが大きくなるのは知っていたことである、だがコレほどまでにはっきりと感じることはなかった。まるで毒霧の入ったビンの蓋を一瞬だけ開けて閉めた事でもれ出てしまったような、そんな禍々しいものを感じた__

 

 

 

原因は分かっている、何故なら一度このような状況に相対したことがあるからだ。

これではまるでカレンに無理やり帰されたあの時と同じ

 

 

 

つまりはもう既にあそこにはあの二人がいるだろう事は簡単に予想できる。

今すぐにでもあの二人の加勢に向かいたい所ではあるが__

 

「クソっ!場所も原因も分かってるってのに!」

 

__衛宮士郎にはそこへ行く手段がない

 

 

 

 

今回も■■■の味方はなにもできない

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

「何ボサッとしてんの!構えて!」

 

「えっ!えっ!構えるって__」

「あれは具現化したカードよ!人じゃないわ!そしてその正体はッ!?」

 

何かを言おうとした凛さんだったけど、私はそれに耳を傾けることが出来なかった。

何故なら今までピクリとも動かなかったお侍さんが__

 

 

__まるで瞬間移動でもしたかのように、いつの間にか私の目の前にいたのだから。

 

 

「うひゃぁ!」

 

自分でも何故避けられたのかは分からない。ただ身体が勝手にこうするべきだと訴えかけ、その通りに動いただけ。もしくはただ単に運がよかっただけなのかもしれない。ただ分かるのはもし私があの場で動いてなかったら__

 

(確実に首がはねていたっ!?)

 

その事に気づいたのはあのお侍さんから全力で離れた後のことだった。

無我夢中で自分の持てる最大のスピードで後ろに下がった時に、ようやく理解が追いついた。

 

鼓動がうるさい

 

頭の中で何かが響く

 

身体がそこで止まっているなと警報をならしている

 

 

『恐ろしいスピードですね。あの一太刀もただものではありません。物理保護を8割まで上乗せしておきましょう』

 

「見た感じはセイバーかしら?服装からしても和服だしいきなり日本の英雄とやりあうなんて。メジャーなので行けば宮本武蔵か佐々木小次郎って所かしら?どちらにしてもあの敏捷性はやっかいね。目で追うことなんてほぼ不可能に近いわ。」

 

『おそらくあのスピードで懐まで入り、長い刀でレンジを確保して相手を切る感じですね。典型的な接近戦型のようなのでここは出来るだけ離れて遠距離攻撃を仕掛けるのが無難かと』

 

「そうね、私達じゃアレに反応することなんて無理だわ。イリヤ!アレから距離を置くわよ!」

 

言うや早いか、凛さんはすぐさま刀の振りにくい林の中へと駆けていった。

分かっている、距離を置かなければいけないことなんて分かっている・・・・けど

 

「__身体が・・・動いてくれない」

 

「『っ!?』」

 

足が震える

ルビーを握る手の感覚もない

今にも泣き出しそうなほどに目には涙がこみ上げてくる

喉も渇き

体中からいやな汗があふれ出てくる

 

さっきの出来事が脳内で何度もリプレイされる、

リプレイされるのは現実とは違い私の首が宙を舞う映像。

 

実際には起こってないことだと分かる、だけど_

 

 

そうなっていてもおかしくはなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「いやだよ・・・怖いよ・・・・早くここか__」

 

イリヤ!!

イリヤさん!!

 

 

気がつくと私は空を見上げていた。目に映るのはキラキラ輝くお星様と淡い光を映し出す綺麗な月。

そして感じる浮遊感

あれ?

私・・・・・飛んでる?

 

 

「くっ!」

 

気づくと私は凛さんの腕の中にいた。それでも勢いがありすぎたのか凛さんも一緒に後方へと勢いよく吹き飛んでいった。

 

お腹のほうから遅れて感じる鈍い痛みでようやく自分が切りつけられて吹き飛んだことに気がついた。

 

まったく見えなかった。それよりも切られたことさえも分からなかった。

いや・・・それよりも、

 

「私・・・・生きてる?」

 

あの一太刀を受けて生きていることに驚きだった。

確かに衝撃と何かで殴られたような痛みもあったけど、悶絶するほどのものでもなかった。せいぜいドッジボールの球が当たった程度の痛みだった。

 

それにしては私の身体が吹っ飛んだほどの衝撃とは矛盾が起きる。

 

一体何が・・・

 

『危なかったですね~、事前に物理保護を底上げしておいてよかったです』

 

「えっと・・・・ルビーのおかげ?」

 

『そうですよ~、恐らく半信半疑だったようですけどこれでもワタシはすごいんですからねぇ』

 

お腹を見てみても傷らしい傷もない。

その事にホッとするとジャリっと前方から音が聞こえた。

 

「暢気に話してるところ悪いけど今は敵の目の前よ、それと早く私の上からどいてくれるかしら?」

 

「ワワっ!ごめんなさい!」

 

そういえばそうだった。私、凛さんに受け止められたんだった。

 

「えっと!さっきはありがとうございました!」

 

「いいわよ別に、確かに貴方みたいな子にアレを前にして平然としていろって方が無理な話だわ。ごめんなさいね怖い思いをさせて。でも、酷いことを言うようだけど今はアレの相手をお願いしてくれるかしら。本当は私がやってあげたい__いえ、私がやるべきことなんだけど今の状況じゃ私は無力に等しい。」

 

 

 

だから・・・アレと戦って

 

 

 

あれだけの事を経験して尚もそんな事を言う凛さんだったけど

別にその事に怒りが込み上げてこなかった。

 

 

だって・・・・あんなにも申し訳なさそうな顔されたら私も怒る事なんて出来なかった。

 

「分かった。」

 

まだ不安はあるし恐怖もある、だけど幸いにも相手の攻撃は私には通らない。だから死ぬようなことはないだろう。刀を前にして今もまだ震えてはいるけどさっきみたいに身体が動かない程でもない。ルビーが言っていた通り、あのお侍さんが届かない距離まで下がって遠くから魔力砲を打ち続ければまだ勝算はある。

 

接近戦では勝てない、だから今は_

 

 

「距離をとる!」

 

 

足には自身がある、これでも駆けっこでは男子にだって負けた事はない。だけどスピードはあっちのほうが明らかに上、追いつこうと思えば一瞬で追いつくことが出来る。そんな相手に距離をとることなんて無理。だから_

 

 

「ルビー!下がりながら相手を近づけないようにするには!」

『あのスピードだと恐らく反応速度もそれなりにあるでしょう避けられては足止めにもなりません、なのでここは散弾のほうが有効かと』

 

 

実際にはまだやったことないけどここに来る前に色々聞いていたから分かる。

確かイメージは霧吹きのように細かい弾丸を広範囲に打ち出すように!

 

相手も私が距離を取ろうとしているのに気づいたようで刀を握って動き出そうとしたときだった。

私がルビーを振り下ろすと扇状に細かい魔力砲がお侍さんを飲み込んだ。

 

「範囲を広げすぎよ!それだと一発一発が弱すぎて足止めにはならないわ!」

 

一発で散弾が出来たことに喜びそうになったけど凛さんの叫びですぐに頭を切り替えてもう一度同じ手順で、だけどさっきよりも狭い範囲で散弾を打ち出した。

 

打ち出す間隔を開けすぎると相手が近づいてきてしまうから出来るだけ連続で打ち出す。

 

『恐ろしい相手ですね自分に当たる奴のほとんどを切り落としてます』

 

ルビーの言う通り、お侍さんは散弾をその長い刀で切り落としていた。

だけど、相手の足を止めることには成功している。

 

『距離は十分でしょう。これ以上離れればこちらの威力も下がってしまいます!相手が散弾に気を取られているうちに一発ぶちかましてください!』

 

足を止めてルビーを勢い良く振ると先から散弾とは比較にならないほどの魔力砲が相手へと一直線に打ち出された。

 

ドンっと魔力砲が相手に当たったのを確認できた。これで倒せたのならよし、倒せてなくてもそれなりのダメージを与えられたはず。

 

そう思いながら砂煙の舞う中で相手の状態を確認するべく意識を集中させる。

ゴクリと緊張の中で聞こえた。それは私からなのか後ろに控えている凛さんからなのかは分からない。

 

モウモウと煙が晴れるのを待つだけなのにそれが実際よりも遅く感じてしまう。まるでこの瞬間がテレビのスロー映像のようだ。

 

するとどうか・・・・

 

 

斬!

 

 

っと煙が横一線に切られていた。

 

 

「「!?」」

 

 

現実は甘くはなかった。

捌ききれなかった散弾のダメージはあるようだけど本命であった魔力砲でのダメージは一切受けていない。恐らく魔力砲のほうが脅威と分かり、散弾を無視して魔力砲を切り裂いたのだろう。

 

『カレイドの魔力砲を切るとは、やはりとんでもない技量の持ち主ですね。これは一筋縄では行きそうにありません。』

 

「でも、あの小さな散弾でもそれなりに効いてるみたいよ。見た感じ耐久力はなさそうだわ。多分一発でも本命が当たれば結構なダメージになると思うわ。とりあえず近づかせるのは危険なのは分かっているんだから同じ手段で足止めして本命の数を増やせばいいと思うわ。イリヤ、連続でどれくらいの数を出せる?」

 

「やったことはないからなんとも言えないけど多分3発は連続で出来ると思う」

 

こればっかりは練習もしていないから言い切れない。だけどさっきの感覚なら連続で3発は打てそうな気がする。

 

「初めてでそれだけ出来れば十分よ、とにかく今は距離をッ__」

 

その刹那・・・・空気が変わった。

何かが来るのが分かる。

今まで無形だったあの侍が初めてちゃんとした構えをとっていた。

それだけではない、ここからでも感じる集中力に私たちを貫かんばかりの鋭い眼光。

ここら一体の重圧も肌の上から直に感じることができるほど。

 

「この感じ!宝具!?いえ、それにしては魔力も感じない。でもこの重圧は__イリヤ!はやく距離を取るのよ!」

 

『いえ!この距離は相手の範囲内です!全魔力を物理保護に変換します!なんとか耐えてください!』

 

「ほっほうぐって!?一体何が起こるの!」

 

二人の焦りようからなにか大技がくるのが予想できたが具体的なことが分からないのでうろたえてしまう。凛さんは元から離れていたので恐らく範囲外にいるのだろう。だけどルビーが言うには私は逃げることが出来ないらしい。その事が理解できた瞬間、またも最悪の事態が脳裏を過ぎってしまいせっかく持ち直せたと思った恐怖が引きかえってきてしまった。

 

一度受けた相手の攻撃は私には通らなかったことは分かっている。だけど理解していても怖いわけではない、それにこれは大技だ。また無事であるという保障はない。全魔力を防御に回すと言われたけどそれでも不安はある。

 

 

秘剣__燕返し(つばめがえし)

 

 

また、見えなかった。

気づいたら私の身体はまた吹き飛ばされていた。

それと共に三つの衝撃が私の身体を襲っていたのに気づいた。

先ほどの比ではない衝撃と痛みが身体を襲っていた。まるで何かで強く殴られたような感覚・・・・だけど

こんなことを考えられているって事は私はまだ・・・・

 

 

「生きてる!!」

 

 

綺麗にとはいかないけど出来るだけ受身を取って相手を見据える、相手は私が1秒前まで居た場所に立っていた。相手に吹き飛ばされる形でだけど距離は取れた、すぐ後ろには凛さんがいる。随分遠くまで飛ばされたみたい。

 

痛みはあるけど相手の大技も防ぐことが出来ている。この分なら勝機はありそう。

 

『いまのは・・・・・・まさかそんな___』

 

「燕返し、って事は相手の正体は佐々木小次郎ね。だけどこれはとんでもないわね、動きなんて目でも追えないしその攻撃も捉えることは不可能だわ。今の一太刀だって相当なものよ。カレイドステッキがなかったらと思うとゾッとするわ。」

 

「一太刀じゃっ・・・なかった」

 

「えっ?」

 

「切られた後に気づいたけど3回切られてた。」

 

「まさか、あの一瞬で3回も攻撃したって言うの!?」

 

『それだけではありません、今のどう見ても3つとも同時に放たれてました。とても信じられない事ですけど今のは多重次元屈折現象で間違いありません。』

 

「多重次元屈折現象ですって!ただの剣士が魔法を使ったって言うの!」

 

『いえ、先ほどの攻撃からは魔力を欠片も感じられませんでした。恐らくただの剣技、技術のみであの現象を起したのでしょう』

 

「うそ・・・・・でしょ!剣技だけで魔法の領域に達したと言うの!そんなの__」

 

__馬鹿げてる

そう吐き捨てる凛さんだったけど私は二人が言ったことの大半を理解できなかった。言動からよっぽどすごいことだと言う事は分かるけど何も分からない私からすると今はそんなことより目の前の敵に集中したほうがいいと思ってしまう。

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

「くそ!何か方法はないのか!」

 

目的は目の前にあるというのに届かないというもどかしさに士郎は手を額に当てる。

自身の中にある世界に何かないかと捜索してみるが該当するものは何一つなかった。カレンからの情報で場所は鏡面界だということは分かっている。しかし士郎にはそこへ辿り着く手段がない。

 

カレンも鏡面界へ行く手段は知ってはいるらしいが自分にそんな能力はないといっていた。カレンが出来ないのであればへっぽこである自分も到底出来るとは思っていない。しかしそんな事を言っていられるほど士郎には余裕がない。

 

一か八か得意な解析をかけて術式を探るという手はある。しかしそれによって起こる反動は予想がつかない。更に解析対称が剣でないので解析自体の難易度も跳ね上がる。

 

だが、そんな事で諦める士郎ではない。

リスクを理解しつつも士郎は覚悟を決め、地面に片手をつけようとした時だった。

 

「誰かくる!」

 

内心で舌打ちしつつ士郎は急いで木の裏へと身を隠す。

 

(こんな時間に一体誰が?)

 

覗いてみるとそこには自分の元主人と小さな少女がいた。

だがその事実に士郎は混乱してしまう。

 

(何故だ!?お嬢様は既に戦いの場に居るんじゃないのか!それにあの少女は一体?)

 

わけが分からなくなった。

最初に感じた大きな歪みはルヴィアと凛が移動したからだと思っていた。

しかし、当のルヴィアはここにいる。だとしたら__

 

(凛は一人で向かったというのか!?)

 

幾ら二人の仲が悪いと分かっていてもあの凛が私情だけで一人で向かうなどという選択をするとは思えなかった。だが同時に凛は負けず嫌いだということもよく知っていた。認めはしないだろうが二人が互いにライバル意識を持っているのも知っている。

 

なのでルヴィアよりも先にと考える可能性もあるわけで・・・・・

 

(ないとは言い切れない!!)

 

こんな大事にそんな子供のような対抗心を持ち込むなどとは考えたくもないがそれを完全に否定できることもできない。もしそうだとしたらかつての師匠には呆れてしまう。しかし今はそんな事を考えている場合ではない。

 

もしも凛が一人で向かったとしたのなら彼女が今危険な状況だということになる。ならば余計に時間を無駄にすることはできない。

 

それに問題はそれだけではない。

ルヴィアの横に居る少女とその格好だ。

 

昨夜見たときは確かルヴィアがカレイドステッキの所有者であったはずだ。だが今はどうか?

 

あの奇妙な格好はカレイドステッキの力で間違いない。現に件のステッキは少女の手に握られている。

 

(あの子は一体誰なのか、何故カレイドステッキを持っているのか、お嬢様との関係はなんなのか。)

 

疑問は尽きない、だが今は凛の加勢が最優先。

カレイドステッキなら鏡面界へ移動するなど造作もない。恐らく凛もカレイドステッキの力を用いて鏡面界へと移動したのだろう。なら怪しまれるのを覚悟で彼女達に動向を願い出るのはどうかとも思ったがそれは余りにもリスクがありすぎる。最悪怪しすぎて置いてかれ、更には協会へ報告されるかもしれない。

 

なのでそれは却下。

ならばこっそり付いていくという手もあるがそれは至難の業だろう。

あっちには時計塔の主席候補とカレイドステッキがいる。実戦経験があまりない二人相手なら気配を消して近づくことは出来るだろう。しかし魔力は別である。士郎には魔力を消すという技術はない。カレイドステッキ相手に気づかれずに潜り込むなどほぼ不可能だろう。

 

(マルティーンの聖骸布を着るという手もあるがカレイドステッキ相手にどこまで通用するか分からない。あのステッキ相手には恐らく宝具クラスでもない限り姿を隠すことは難しいはず。)

 

なので用意しておいた魔力殺しの外套もやめたほうがいいだろう。

気づかれずに潜り込むことは難しい・・・・・

 

なら__

 

(気づかれてでも付いていく)

 

これならほぼ確実に鏡面界へと向かうことが出来る。

 

(だけど気づかれたときのリスクが余りにも大きい!)

 

あの二人なら事情を説明してもいいかも知れない。

なんだかんだ言って甘い二人である、士郎の事情や秘密をバラすなんて事はないとは思う。だがそれだと芋づる式にカレンとの関係や家族のことが分かってしまう。

 

(それはなんとしてでも避けないといけない!俺が魔術世界の事情を知っている時点でその家族も魔術関係者だということが明らかになる。それだけでなくその家族にも俺が魔術を使えることがバレてしまう!)

 

そんな事になれば長年隠してきた自分の秘密だけではなく切嗣達の努力も水の泡になってしまう。

 

よって、潜り込むという選択肢はどうやっても取れない。

その事が分かると士郎はまたも自身の無力さに苛立ちがこみ上げてくる。

 

そうこうしてる間に二人を中心に円状の魔法陣が浮かび上がり、光と共に二人の姿は消えていった。

 

(いや、まだ手がないわけではない。)

 

元々二人が来る前にやろうと思っていた方法がある。

確実性は皆無だが今実際に移動するところも目にした。

後は意地でも解析して自身の身体を鏡面界へとねじ込むことが出来ればいいだけである。成功したとしても恐らく士郎の身体は無事ではないだろう。

 

当たり前だ、別の世界へ無理やり移動するのだ。小さな穴に大きなものをねじ込むように自分の身体が傷付く可能性は高い。

 

(だけど、それでも構わない。)

 

__あそこには時計塔の主席候補二人がいるしカレイドステッキもある、それも二本だ。超級の魔術礼装に超級の魔術師二人がいる。二人の実力も知っているしカレイドステッキのアホ性能も知っている。

 

ならば問題はないはずである。

しかし、もしものこともある。それにあの小さな少女のことも気になる。

あんな子が戦場に参加すると知っていて何もしないわけにもいかない。

 

(だからこれは無駄かも無謀かも無意味かもしれない行動だ。だがそれでもいい、何もしないなんて選択肢は__)

 

「端から俺にはない!」

 

そう言い放ち、士郎は己の右手を先ほど消えた少女達の居た場所へと重ねた。

そして呟くのは己の人生と共にその身に刻んだ一つの呪文

 

 

―――解析(トレース)開始(オン)

 

 

_____________________________________________

 

 

 

「良いわよイリヤ!その調子!次は右に移動しながら散弾を撃つのよ!その後すぐに魔力砲を撃つように。タイミングはこっちで言うから。」

 

信じられない出来事から立ち直った凛さんはすぐさま作戦通りに事が進むように安全なところで指示を飛ばしていた。どうやらこの作戦はうまくいっているようであの侍さんにかなりのダメージを与えることに成功していた。凛さんも一件なにもしていないようだけど凛さんの出す指示はどれも完璧でタイミングもばっちりであった。

 

そのおかげで私も凛さんもあれ以来一度も攻撃を受けていない。

ルビー曰くあのお侍さんには理性がないようで思考するという機能がないらしい。

おかげで同じ方法でも相手は学習ができないらしく何度もこちらの攻撃を受けていた。

 

凛さんの言う通り、相手には魔術的な耐久力が低いみたいでまだ2発程度しか攻撃を受けていないのにもうすでに相手は満身創痍であった。その2発も完璧に当たったものでもないにも関わらずだ。さすが有名なお侍さん、タイミングも完璧だったのに魔力砲をすんでのところで防いでいた。

 

だけど防いだとしても低い耐久力のせいでダメージを受けてしまうようだった。

 

「この調子ならなんとかなりそうだね」

 

『そうですね、これだけやっても手段を変えないところを見ると遠距離攻撃はないのでしょう。自慢のスピードもこれだけ離れていれば追いつくこともできないようですし。散弾もうまく足止めをしてくれているみたいです。』

 

「後はこれを繰り返すだけでなんとかなりそうだね。」

 

『それにしてもイリヤさんの上達もすごいですね。少しずつですが弾速とコントロールが上がってきています。これを続ければいづれ防ぐ隙もなく相手に直撃できると思いますよ。』

 

確かに自分でも分かる。

同じことの繰り返しで慣れてきたのが一番の理由だと思う。後は恐怖を感じないこととか・・・・かな?

 

最初は怖くて全然動けなかったけど相手の攻撃が私には効かない事と相手が遠くにいることで安心してるんだと思う。

 

(ただ遠くから相手を一方的にいたぶってるみたいでなんか私のイメージしてた魔法少女とは違う気がして仕方がないけど・・・・)

 

『いやぁ~でも最初の相手がこういうタイプで助かりましたねぇ』

 

作業になりつつある魔力撃ちを続けているとルビーが何か気になるようなことを言い出した。

 

「それってどういうこと?」

 

『何事にもそうですが戦いにも相性というのがあります。それで今回の敵はワタシ達からすれば相性が良いといえます』

 

「さっき凛さんが言ってた魔術的な耐久力とかそういうの?」

 

『そうですね、それが一番の理由ですね。本来、遠距離タイプと近距離タイプは互いに弱点をつけるものなんです。今回の相手は明らかに近距離タイプです、このような相手には遠距離からの一方的な攻撃が一番効果的ともいえましょう。ですが逆に遠距離タイプも相手が懐に入ってしまえばこちらがなすすべもなく倒されてしまいます。なのでこの二つのタイプが戦うときに一番大事なのが___』

 

「距離・・・だね」

 

『その通りです。ですが先ほどの説明で分かる通りタイプだけでは相性はあまり変わりません、ていうか互いに50-50のマッチアップです。』

 

「まぁ・・・・・そうだね。お互いに弱点がつけるし」

 

『そうですね。では考えてみてください、もしもあの侍さんが私たちの散弾を気にしなくてもいいほどの耐久力を持っていたらと__』

 

言われてゾッとする。

そうだ、もしそうだとしたらあのスピードで足を止めることもなくこちらへ一直線に向かってこれるんだ。

 

幾ら私に効果が薄いといってもまったくダメージがないわけではない。衝撃も痛みもちゃんとある。衝撃だけで気絶しちゃう事だってありえる。気絶なんてしたら私が危ない事だってわかる。

 

でも相手の攻撃が私に効果が薄いことも相性がいい理由の一つなんだろう。

もし効果があったのなら最初の一撃で私はやられているのだから・・・・・・・

 

「本当!最初の相手があのお侍さんでよかったよ!!!ありがとう!そしてさようなら!」

 

怖いイフの話を忘れるように私は泣き笑いでヤケクソ気味に今回最大の魔力砲を撃った。

 

大きな爆発音と共に砂埃が舞い、私はその中を見ようと動きを止める。

これで倒れてくれたならよし、そうでなかったらもう一度繰り返すだけ。

 

煙が晴れるとそこには膝をつき、刀で身を支える侍さんの姿があった。

 

「いまよ!次の一撃で倒せるはず!」

 

「よーっし!特大のぉ~___」

 

もう一度魔力砲を撃とうとしたときだった。

これで終わる、そう思ったその瞬間__

 

 

 

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 

 

 

 

__お侍さんの胸から赤い槍が生えていた。

 

 

「ランサー、接続解除(アンインクルード)

 

見えなかった。

何が起こったのかわからなかった。

気づけば槍が生えていた。

結果しか見えなかった。

分からない

何が起こったのかがわからなかった。

 

後になってあのお侍さんがやられたことがようやくわかった。

 

でもなによりも__

 

「クラスカード、アサ・・・シン。回収完了」

 

あの子が誰なのかが分からなかった。

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

「なんとか・・・・・・これたか」

 

体中から血を流しながら、士郎は木の裏へと身を隠していた。

 

結果だけを言えば鏡面界への移動は成功した。しかし予想通り士郎の身体はズダボロになり、今にも倒れてしまいそうな傷だった。

 

鏡面界へと来てすぐにマルティーンの聖骸布で作った外套を纏うと視線を戦いがあったとされる場へと向ける。

 

そして士郎の目に映ったのは見覚えのある侍が見覚えのありすぎる槍に貫かれている光景であった。そしてその槍を握っているのは先ほど見かけた魔法少女。

 

「どういう・・・・事だ・・・・」

 

わけが分からない、ただその一言につきた。

敵が黒化したサーヴァントということはカレンから聞いていたので知っていた。

しかしそのサーヴァントが自分のよく知る者だったことに驚いている。

確かに冬木とは、更にはこの柳洞寺と縁がある人物ではある。

だがそれはこの世界での縁ではない。

 

確かに自分の知っているサーヴァントであるかも知れないと予想したことはある。だがその考えはこの世界とは違うということで、ないと再度思考して結論づけた。

しかしどうだ、目の前にいるのは佐々木小次郎であり、その胸から飛び出ている槍も自分と縁がありすぎるクー・フーリンのものである。

 

これがただの偶然とは思えない。

 

何かがある。

ただそのことだけは分かった。

 

(それだけじゃない、問題はあの槍だ)

 

あれは自分の目から見ても分かる。

宝具で間違いない。しかし本物でもない。

 

(だがアレが持つ()は本物だ)

 

まるで力だけが具現化したようなあの宝具に士郎は目を疑った。

自分の持つ能力とは別の方法で作られているのがわかるが方法は分からない。

秘められている魔力も一度が限界のものだ。

 

しかし、アレは宝具である。

宝具で間違いない。

 

槍に目が吸い込まれている士郎であったがすぐにその槍は姿を変えてしまった。

魔槍ゲイ・ボルクは一瞬の内にカレイドステッキへと変わっていた

 

(いや、あれは元に戻ったのか・・・それに、あのカード。見ただけで分かる、とてつもない魔術礼装だ。カレイドステッキが戻ったのと同時に現れたという事とアサシンがアレに姿を変えたところを見るにあのカードは英霊の何かを記録しているもの、もしくは英霊の座へと繋がっているものなんだろう。)

 

もしそうだとしたらあれを作った奴は魔法の領域にいるのかもしれない。

そう考えて思い出す。カレンも言っていたことだがアレは唐突に現れた。

 

士郎自身も歪みを感じたのは急なことだったのでアレが突発的に現れた代物だということは知っている。ならば疑問はつきない

 

(一体誰が?なんの目的で?いや、サーヴァントが出てきている時点で目的は決まっているようなものだ。)

 

最悪な予想である。

しかしその予想が間違っていないことが直感的に分かってしまった。

 

(間違いなく聖杯戦争と繋がっている。この冬木で歪みが7つとサーヴァント。関係がないわけがない。)

 

だとしたら疑問は更に増える。

この世界では聖杯戦争はもう二度と起こらないものだと思っていた。

実際に聖杯戦争の術式自体がもうないのだ。起こるはずがない。

 

だが__

 

(作り直したのならばそれは別だ!)

 

新しく別の聖杯戦争を作り出したのなら話は繋がる。

しかし、そう決め付けるのは早計だと言い聞かせ頭を振る。

 

(情報が少なすぎる。今は再び聖杯戦争が起ころうとしていると分かっているだけでいい。どうやら問題を解決するためにあの二人があの爺さんから任務を受けたみたいだし。)

 

これが別の魔術師なら即効であのカードを奪うところだが、あの二人とあの魔法使いが裏で関わっているのならひとまず安心である。

 

(にしてもあの少女は一体・・・・・)

 

よく観察してみても分からない。

格好はともかくあの少女には見覚えがない。

アイツ(・・・)の記憶にも何一つ該当しない。

 

身元もそうだが彼女が何故カレイドステッキを握っているのかが分からなかった。

昨晩見たときは確かルヴィアが使っていたはずである。

 

実力的にもルヴィアのほうがあるはずなのに何故態々あの少女がカレイドステッキを使っているのかが分からなかった。

 

(まぁ確かに年齢的にはあの子の方が魔法少女としてあってはいるけどさ・・・)

 

こんな危険な任務にあの少女を連れてくるような人物ではないはずである。

恐らく彼女を連れてこなければいけない何かがあったのだろうが、考えてみても分からない。

 

(昨日の喧嘩で魔力を使いすぎたとかじゃないよな・・・・・・)

 

だとしたら元主人と師匠には心底呆れてしまう。

 

(そういえば遠坂は無事か____)

 

探そうとしてやめる。

否、やめてしまった。

 

他の事に視線を奪われていたから今の今まで気づかなかった。

しかし視野を広げてみてすぐに気づいた。誰かがそこに居た。顔は見えないただ見えるのはその後ろ姿だけ。

 

その後姿に身体が固まってしまった。

身体だけではなく思考そのものも止まってしまった。

 

(どういうことだ!!なんで・・・・何故!)

 

綺麗な銀髪、ピンク色の魔法少女が居た。

見慣れた後姿だった。

見間違えるはずがなかった。

 

誰よりも守りたいと思った存在がいた。

 

そんな少女が何故?

 

(何故イリヤがここに居る!)

 

 

 

 

 




<<後から遠まわしに士郎に認められていることに気づいて照れたのはまた別のお話。
<<ただ美綴は昔のように切磋琢磨する日々が過ごせないのが残念だったりする。

自分で書いたくせに思った。美綴さんカワイイよね。


<<僕より先に行くなんて許さないから、お前は僕の後ろか隣にいろ。

こいつ書くの一番難しかったです。どうやって慎二のツンデレっぽい面倒くさい性格を現そうかと頭を使ったのは覚えています。


<<『士郎~!今日ご飯作りに来てぇ~!!』

先生が生徒に何言ってんだか・・・・・


<<士郎の持つ戦闘服はその逆で黒い聖骸布に赤のボディーアーマーだった。

Unlimited Codeのアーチャー2pカラーだと思えばいいです。

<<それに加えて士郎は正体がばれないようにと黒いフードを取り付けていた。コレに口周りを包帯や布などで覆えば自分が誰かなどは分からないだろう。

アーチャーの上下に分かれてる聖骸布の上の部分にアサエミのフードを取り付けた感じ。ただし色は黒。


<<今回も■■■の味方はなにもできない

伏せてるところに何が入るのかは想像にお任せします。


<<まるで瞬間移動でもしたかのように、いつの間にか私の目の前にいたのだから。

知名度のせいもあるけどランサーより早いとかやばいですよね。もし山門に縛られずに広い場所での戦いだったらめっちゃ手ごわいはず。


<<もしくはただ単に運がよかっただけなのかもしれない

さすがイリヤ、幸運と直感は高い。


<<「__身体が・・・動いてくれない」
<<足が震える
<<ルビーを握る手の感覚もない
<<今にも泣き出しそうなほどに目には涙がこみ上げてくる

小学生だもん!こうなってもおかしくないさ!


<<それにしては私の身体が吹っ飛んだほどの衝撃とは矛盾が起きる。

痛みの割には吹っ飛んだというちょっとした物理法則と痛みの矛盾点。こういう細かいのをいれるの好きです。邪魔ならけしますが。


<<「いいわよ別に、確かに貴方みたいな子にアレを前にして平然としていろって方が無理な話だわ。ごめんなさいね怖い思いをさせて。でも、酷いことを言うようだけど今はアレの相手をお願いしてくれるかしら。本当は私がやってあげたい__いえ、私がやるべきことなんだけど今の状況じゃ私は無力に等しい。」

再現できたかは分かりませんが。こういう凛の性格好きです。まぁ3ヒロインの中では一番 下ですけどね。(ごめんね凛ちゃん、でも好きだよ!ただ3人と比べれば低いだけで)。ちなみに作者の好きな順位はこうです、桜>=セイバー>凛。


<<カレンからの情報

何回か出てきたけど、便利な言葉だった。


<<こんな大事にそんな子供のような対抗心を持ち込むなどとは考えたくもないがそれを完全に否定できることもできない。

お二人とも・・・・・・・


<<凛さんも一件なにもしていないようだけど凛さんの出す指示はどれも完璧でタイミングもばっちりであった。

指示以外にも考察とかアドバイスをくれた凛。原作では本当に役立たずだったけど出来る範囲で役目を与えてみました。金ドリルさんは本当になにもしてないけど・・・・・(ごめんね)

しかしルビーがやばい!めっちゃアドバイスとかするしめっちゃ仕事してる。(本当誰だお前)


<<(まぁ確かに年齢的にはあの子の方が魔法少女としてあってはいるけどさ・・・)

本人達の前で言ったら士郎殺されるな


<<お侍さん
イリヤならさん付けすると思った。あとカワイイ





めっちゃ長くなりましたね。遅れてもいましたし文字数も普段の3倍くらいあります。
3つに分けるか迷いましたけど一つに繋げました。分けたほうがいいと言う意見が多ければ3つくらいに分けときます。


初っ端から原作とは全然違いますね。
これからドミノ式に他のことも変わっていきますのでお覚悟を。

くどくない程度に色々細かく書いたつもりですがいかがでしたでしょうか?
わりと細かく書かないとと思っているのでキングクリムゾン的なのは余り使ってません。あったほうが良いという声が多ければそうしますが。

後はそうですね。細かい伏線とか設定や描写に気づいてくれたら私としても嬉しいですね!

ではでは次回からやっとお話が動くようなものなのでお楽しみに!

あっそうだ。活動報告でも書きましたがここ専用のツイッター作りました。
ツイッター初心者ですが投稿した際にはあっちで通知したいと思います!






やっと美遊ちゃん出せたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
遅くなってごめんよぉぉぉ


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初戦―その後

満足度70%って所ですかね?いや、内容もそうですが描写とか色々。
ちょっと雑かなと思っています。でもこれ以上どうやるのかも分からないので投稿します。

あまり、大事な話はしないのでつまらなくなるかなと思ったので出来るだけ細かいネタとか伏線を入れてみました。

話の進み具合は遅いかもしれませんが
丁寧に書くことを心がけています!


何故彼女がここにいるのか

 

何故彼女があの格好をしているのか

 

何故彼女がアレを握っているのか

 

何故?何故?何故だ___

 

疑問は尽きない。

数々の疑問があるが、その疑問に答えてくれるものは居ない。

 

 

 

この異変に聖杯戦争が絡んでいるのはもはや明白。

ならばなんとしてでも自分の家族を巻き込むわけにはいけないと。

関わらせてはいけないと固く決意した瞬間だというのに。

 

(ダメだったと言う事か・・・)

 

これが士郎の幻想でも妄想でもないのなら自分はもう既に手遅れだと言う事になる。

幻想だと__妄想だと__夢ならどれだけよかったか。

 

(あぁ、そうかよ!そういうことかよ!)

 

どうやらこれは回避しようのない運命らしい。

 

(分かっていたはず!)

 

――イリヤは聖杯である。聖杯である時点で聖杯戦争に巻き込まれる確率はほぼ100%に近い。だから、幾ら入念に注意しようとも聖杯として生まれてしまった時点で聖杯戦争とは切っても切れない縁が出来てしまっている。そんな星の元で生まれてしまった彼女はどうあがいても逃げ切れることはできないのかもしれない。

しかし、だからと言ってはじめから諦めるわけにはいかなかった。

天文学的な確率かもしれない、

奇跡に近い、人には叶えようのないほどの願いかもしれない、

だけど、それを防ぐ未来がゼロではないのなら・・・・・・

 

それだけで衛宮士郎は動くことが出来る

 

 

 

 

 

しかしその未来は彼女がここに居ることで砕け散ってしまった。

 

(フフ、どうやら世界は私達兄妹(姉弟)がよっぽど嫌いらしいな。)

 

もう笑うしかない。

これも一つの運命(Fate)なのだろう。

一度巻き込まれた時点で後戻りなどほぼ無理だろう。

かつても思ったはずだ。

 

イリヤだけではない。

自分も聖杯戦争と縁がある。

この世界でも、アイツの世界でもだ。

 

衛宮士郎は聖杯戦争に巻き込まれる運命にあるらしい。

 

(憎たらしいな・・・・・・本当に!これが世界のルールだとでもいうのか!?これがオレ達の運命だというのか!これが世界の定めだとでもいうのか!ふざけるな!!そんな物に縛られてたまるか!負けてたまるか!諦めてたまるか!屈しないぞ!オレは折れない!絶対にだ!そんな運命なんてオレが修復不可能になるまでたたっ切ってやる!)

 

確かに彼女を魔術の世界から取り戻すのは絶望的だろう。

しかしだ、だからと言って諦める理由にはならない。まだ手はあるはずだ。出来ることがあるはずだ。

 

彼女が巻き込まれるのならば彼女の負担は士郎が受け持とう。

飛び火する危険は全て自分が切り落とそう。

危害を加える全ての事柄から守ることを誓おう。

 

(なんだ、はじめから決めていた事となにも変わらないじゃないか。やることが変わったわけじゃない。だが__)

 

巻き込まれた後と前じゃ意味が全然違う。

巻き込まれた後だとイリヤは少なからず裏の事情を知っていることになる。

だとすれば自分から危険へ飛び込む可能性もないわけじゃない。

 

それだけではない。

くどい様だが彼女は聖杯だ。聖杯戦争以外の理由でも彼女は魔術師にとっては極上の宝でしかない。

 

魔術の世界には自身の目的のためならば人徳や道徳などないものとする輩が多い。そんな相手にイリヤが捕らわれてしまえば士郎は自我を保っていられるか分からない。理想はそんなことが起こる前に阻止することだがそううまくいかないのが現実である。

 

(だけどやるしかない・・・いや、やるんだ。コレがオレの役目で俺の夢なんだから。)

 

 

イリヤには幸せになってほしい。

記憶にあるような不幸な人生を歩んでほしくない。

そんな不幸から彼女を守ることが士郎の夢である。

 

(降りかかる不幸があるのならば俺がその避雷針になろう。)

 

不幸には慣れている。

不幸に対する経験もある。

不幸程度に自分が負けるとも思っていない。

この程度、衛宮士郎にとってはどうと言うこともない。

 

元から運がいいほうではないのだから。

自分の分以外にも背負ったって変わるようなものでもない。

 

(いや、そもそも妹の苦労を背負うのが兄ってもんだからな。なにも可笑しい事じゃないさ。)

 

覚悟なぞとうの昔に出来ている。

後は自分の気持ちの持ちようだ。

自分の心が負けない限り、衛宮士郎は前へ進める。

 

決して折れることがない鋭く固い信念がある。

 

(そうだ、どんな時だってそうだったんだ。全ては自分自身との戦い。自分に負けない限り、俺に敗北はない。)

 

 

やることは決まっている。

 

俺はオレ達が思い通りに動くと思っている運命に宣言する。

だけどこれは、宣戦布告でも、復讐でも、逆襲などと言った大それたものでもない

もとより運命なんてものに直接何かが出来るわけではない

ならば抗ってやる

 

だからこれは、

私から大切なものを奪おうとする貴様たち(世界)への_______

 

 

 

 

 

抗戦だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

随分と長い間、思考の海に沈んでいたのだろう。

気がつけば魔法少女とその一方は魔法陣の中へと消えていった。

恐らく現実世界へともどったのだろう。

 

鏡面界へ残っているのは自分だけだ。

 

周りを見れば世界が崩壊しようとしているのが分かる。否、見ずともこの世界が崩れ落ちていっているのが分かる。

固有結界の崩壊と似たような感じだからだろう。このままここに残れば危険なことは士郎にも分かることである。

 

傷つき損だと思うところではあるが士郎は微塵もこれが無駄だったとは思っては居なかった。

 

来ただけでなにもしてはいないが収穫はあった。

カードの正体にも近づけたしこの異変がどれほど危険な事に繋がっているのかもはっきりとした。

 

なによりもこの一件にイリヤが関わっているのが分かったのが一番の収穫ともいえよう。

 

守るべき対象が事情を知っているだけで士郎も動きやすくなる。一瞬ではあるがイリヤに自分が魔術使いであることを暴露するのはどうかと思ったが、それは賭けに近いようなことである。

 

彼女が守られる存在のまま大人しくするような子ではないことを士郎はよく知っている。逆に事情を話すことで更にこちらの世界に足を踏み入れる切っ掛けになりかねない。

 

士郎が動きやすくなるのは確かにメリットではあるが士郎の中ではどんなことがあろうともイリヤの安全が第一である。自分の苦労と比較するのなら考えるまでもなく士郎はイリヤを選ぶだろう。なので暴露するという案はすぐに士郎の中で却下された。

 

 

「とりあえず・・・・まずは脱出だな」

 

行きと同じように解析した術式を展開し、小さな入り口を作り出す。

それはギリギリ人一人が入れるかもしれないほどの小さな穴。

カレイドステッキのようなスペックのない士郎にはこれが限界である。

 

出来上がった入り口に、士郎はその身体を無理やり押し込んだのであった。

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

うん・・・・・・

 

(だと思ったよ!)

 

『どうしたんですかイリヤさん?頭なんか抱えて』

 

「いや、予想通り過ぎたのとこの近い未来に起こりうるであろう面倒くさい展開にちょっと思うことがあってね・・・・・」

 

恐怖と興奮の初バトルから時間は経ち、今は学校の時間。

遅刻しないように寝不足と格闘しながら無事に学校について、やっと一息つけると机に着いてみるとタイガーこと藤村先生が転校生を紹介してきました。

 

普段なら誰だろうと目を輝かせるところではあるけど今回は違う。

何故なら心当たりがあるから。

 

 

なんとその転校生は昨晩現れた謎の魔法少女だったのであった。

昨日(今朝)の帰り道であの少女―どうやら美遊・エーデルフェルトというらしい―の年齢が私と同じくらいだったので漫画やアニメの王道である転校生フラグなのかと予想を立ててみたがどうやらその通りだったらしい。

 

(別に転校してきたことに問題はない・・・・)

 

もしかしたら魔法少女同士、仲良くできるかもしれない。

魔法少女云々を抜きにしても新しいクラスメイトが出来るのは私にとっても嬉しい。

見た目も可愛いし私の周りには少ない大人しそうな子だしね。

 

だけどこういう展開にはトラブルやイベントがつき物である。

近い将来、彼女と私はとんでもない事態に巻き込まれる気がしてならないのだ。

 

「はぁ~、これから一体どうなるんだろう。」

 

『なるようになりますよ!きっと!』

 

それって何かが起きるようなフラグだと思うんだけど・・・・

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

同時刻、士郎のクラスでもイリヤと同じように転校生が自己紹介をしていた。

イリヤと同じく、あの二人を見たときから転校生として紹介されるだろうとは士郎も予想していた。厳密には凛は復帰という扱いなのだが、説明するのも手間ということで一緒に来たルヴィアと共に転校生という扱いになっている。

 

もっとも士郎のクラスにいる者の大半は前から凛を知っていたためそのような説明も不要なのだが。

 

これから起こりうるであろう様々な面倒ごとに士郎は静かに頭を抱えて溜息を吐く。まさか士郎も時を同じくして妹と同じ仕草をしているとは思わないだろう。お互い、考えることや仕草が似てしまっているのはさすが兄妹と言えよう。なんでもないような事ではあるがこのような細かい所で兄と同じと言われるとイリヤは目に見えて喜ぶ。

 

 

とりあえず、このような事態は既に想定内だったので士郎は制服の下に昨晩製作しておいたマルティーンの聖骸布を身に纏っている。魔術回路は既に正常に開いてしまっている為、士郎が魔術使いであることがバレてしまう。優秀な二人であるため、また士郎自身も己の魔力を隠蔽できるほどの実力も才能もないのでここまで徹底にやるしかない。

 

カレンも士郎の事情を知っているので何かがあった時などは協力してくれるはずである。あの性格の彼女相手には苦労が絶えないがそれでも士郎は彼女には感謝もしているし信頼もしている。あまり気乗りはしないが彼女好みの麻婆豆腐でも作ってやるかと士郎は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

最初の授業も終わり、休み時間に入ると転校生二人の周りには人だかりが出来ていた。

凛の周りではクラスメイト達が復帰してきた理由や簡単な世間話をしている。知り合いなだけあって転校生によくある質問攻めはあまりなかったようだ。しかしルヴィアは皆にとっては初対面である。それだけではなく、口調や振る舞いからお嬢様だと分かり、更には美少女と来た、これでは質問攻めは避けられないであろう。

 

身分から人に囲まれることに慣れているようで最初は余裕の表情と的確な返しをしていたがあまりにも質問が多く、途中から困っているのが見えてきた。

 

一度凛に視線を向けていたが凛はその状況を楽しんでいるようで、他の皆には気づかれないようにほくそ笑んでいた。そんな彼女にルヴィアも腹が立ったようでプイッと視線を元に戻していた。他のクラスメイトが気づいていない中、士郎はその相変わらずの二人に苦笑が漏れる。

 

しかしかつての主が困っているのだ、それを見て見ぬフリをするような士郎ではない。

自然に輪の中へと入ると、ルヴィアも他の皆のように好奇心を貼り付けたような表情をしていない士郎に気づき、首を傾げていた。

 

「質問のしすぎだぞ。まだ最初の休み時間なんだしこれからクラスメイトになるんだから質問の機会は幾らでもあるだろ?おじょ__エーデルフェルトさんも困っているみたいだし今はコレくらいにしておけよ。」

 

士郎の言葉に興奮していたクラスメイトは落ち着き、次々とルヴィアに謝罪し己の席へと戻っていった。それなりに時間が経っていたようで休み時間も後わずかという所だった。

静かになったのを確認し、士郎も席に戻ろうとするとルヴィアが彼を引き止める。

 

「待ってくださいな。ミスタ、貴方のお名前は?」

 

「わた_俺の名前は衛宮士郎ですよ。」

 

このまま席に戻るのもどうかと思ったので士郎は素直に自己紹介する。

 

「シロー?シェロウ・・・・シーロウ?」

 

自分の名前の発音に苦戦している彼女を見て、士郎はどこか懐かしそうな笑みを浮かべる。どうやら自分の名前は外国の人には少しばかり発音に手こずるらしい。

記憶にも自分の名前に苦戦している外国人がいくつか浮かび上がる。

 

「そうですね・・・・では私の事はシェロとお呼びになられては__いえ、どうぞ私の事はシェロとお呼びください。」

 

懐かしさからか、無意識に士郎は口調を治すことを忘れてそう提案してしまった。

ルヴィアと会話をする際はなるべく気をつけようと思ったはずなのにこれである。どうやら長年染み付いてしまった執事口調は一朝一夕では直せないらしい。

 

「シェロ・・・・えぇ、いい響きですわ。ではこれからはシェロと。しかしシェロ、これからは同じクラスの一員になるのですからそのように畏まった口調ではなく先ほどと同じような口調でもいいのですよ。」

 

「いえ__いや、悪い。ちょっと昔の癖でな、貴女・・・ルヴィアに対してああいう口調になってしまうんだ。直そうとはするけどそう簡単に直りそうにもいかないから畏まった口調になってしまう時もあると思うが許してくれるか?」

 

「そう、その昔の癖とやらには興味がありますがどうやら訳ありのようですわね。ならいいですわ。これからも仲良くしていきましょう、シェロ。」

 

「あぁ、こっちもよろしく頼む。」

 

互いに軽く笑みを浮かべると士郎は自分の席へと戻っていった。

ルヴィアのほうは先ほどの会話がお気に召したらしく機嫌がよさそうだ。お嬢様であるが故に初めて経験した今回の出来事にご満悦の様子。

 

凛のほうは困るルヴィアを目にすることが出来ず終いになってしまったので対照的に少し不機嫌であった。そのほかにも理由はありそうだがここでは割愛しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「女狐が増えただって?」

 

いつも通り昼食の時間になり、士郎と一成は生徒会室で互いの弁当のおかずを交換していると一成が唐突に言い放った。

 

「そうだ、今日転校してきたエーデルフェルトは遠坂凛と同種だ。」

 

「つまり、彼女も一成の天敵って事だな。」

「なっ!いくら衛宮でも今の言葉は見逃せないぞ!」

 

「あー、悪い悪い。でも苦手なのは事実だろ?」

 

「むっ・・・確かにそうだが。女狐以前に俺は女性が苦手なのだがな。」

 

「まぁ、仕方ないさ誰にだって苦手なものはあるし」

 

お茶を淹れて一成に渡すとお礼と共に喉を潤した。一成が飲んだのを確認すると士郎も自分の分を淹れ、一成に倣ってお茶を啜る。

一瞬の静寂のすれ互いに息を吐く。

 

お茶を飲んで落ち着いたのか一成は止めていた箸を再起動させる。

その間に士郎は自分の弁当から一成と交換する分を弁当箱の箱の上に並べていく。

士郎の行動に気づいた一成も自分の弁当から交換するものを選び、士郎に差し出した。

 

「いつもすまないな」

 

「いいさ、俺もこれを楽しみにしていたりするからな。」

 

「そうか、そう言ってくれるとこちらも気が楽だな。衛宮の手製の料理が好きだが

セラさんの料理も衛宮に劣らず美味であるからな。」

 

「本当は俺が作りたいんだがうちのセラは俺が家事を・・・・特に料理をするのに反対でな。」

 

「確かそうであったな。しかし、それは残念だな・・・・。俺も衛宮の手料理をもう少し楽しめたらいいと思ったのだがな。」

 

「そうだな・・・・・・ふむ、今度から俺の当番の時だけだが一成の分も作ってくるってのはどうだ?」

 

何気なく士郎がそう言うと一成は目を見開いて口に入っていた食事を喉に詰まらせてむせてしまった。

 

いきなりの出来事に士郎も吃驚し、しかし迅速に自分のお茶を手渡し、一成の背中をさすってやる。お茶を飲んだことで詰まっていたものを流し込むことに成功した一成は呼吸を整えると士郎に掴みかかる勢いで聞き返す。

 

「すっすまない、しかし!さっきの言葉、あれは真か衛宮!」

 

「えっ?あっ、あぁ一成がよければだけどさ」

 

士郎からしたら何故一成がいきなりむせたのかに疑問を持っていたのだが一成はどうやら気にしていないらしい。実際は喉を詰まらせたことよりも士郎の発言の真意を問いただすほうが一成にとって大事であっただけなのだが。

 

「衛宮の弁当が食べられるのだ、俺からしたら良いに決まっている。しかしいいのか衛宮?俺の分ともなればいささか面倒ではないか?」

 

どうやら落ち着いてきたらしく、さきほどとは勢いが減ってきている。

 

「いや、一人増えるぐらいたいした手間じゃないさ。」

 

「本当は遠慮するところではあるがどうやら衛宮の手製ともなると俺も自制できないらしい。これも俺の修行不足か・・・・」

 

「ははっ、そこまで言われると俺も嬉しいもんだよ。しかし幾ら寺の息子と言っても一成もまだ思春期の高校生なんだ、コレくらいはいいと思うぞ。俺も一成には旨い物食べて貰いたいしさ。」

 

その言葉に一成は照れたように目を瞑り、片手で後頭部をかく。

しかしそれは一瞬のことであり、すぐさま片手で祈るようにお辞儀して感謝の言葉を述べてきた。

 

「ありがとう。しかし、貰ってばかりではダメなのでなこちらからもちゃんと弁当代は出させて貰おう。」

 

「俺としては気にしないところだが、一成も納得しないだろうしその申し出は受け取っておくよ。」

 

「うむ、ではその時を楽しみに待っているぞ。」

 

「あぁ、任せてくれ。満足いく品を用意してくるからさ」

 

士郎がそういうと、互いに軽く笑みを浮かべた。

今日も士郎と一成の昼時間はこうして過ぎていく。

 

これも士郎が守りたい何気ない日常の一つである__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みで暇だったルビーが散歩で偶然この教室に居た事を士郎は知らなかったのであった。

 

 

 

 

 




<<抗戦だ

自分でも馬鹿かな?と思いましたがすいません。分かる人は分かる、とある台詞の改変です。あの台詞が印象的だったので何故か書いてるときに思い浮かびました。ごめん、だけどかっこいいと私は思う・・・・・・


<<彼女には感謝もしているし信頼もしている

信頼している・・・・・・えぇ?
これは、うーん?ちょっと変だったかな?カレンを信頼するって相当頭おかしい奴になったかもしれない。

<<うちのセラ

なんか・・・いいよね。言い方が。



イリヤは相変わらず書きやすい。サブカル的なネタも入るし。

一成との会話については作者はノーコメントで。
ただ・・・いつか来るかもしれない時のためのネタの伏線とでも思っておいてください。


さきに言っておきますが私は正常です。


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お願い


お久しぶりです。
遅れてすいません。ツイッターでもいいましたが、まぁ簡単に言えば不幸なことが起きたといっておきます。言い訳になりますが。

戦闘も入れたら長くなりそうだし区切りも出来そうにないので今回はこれだけ。
それでも物足りないと思ったのでおまけもつけました。
後初めて士郎視点で書いた。ちょっと慣れない。



桜っていい娘だよね!



「さて、一通りの仕事は終わったが他に何か頼みごとはあるか?慎二」

「別にないけど・・・・まぁあるとしたら桜の機嫌を取るくらいだな。」

「機嫌を取るって・・・不機嫌になるほうが珍しいと思うんだが。お前が原因なんじゃないか?」

「それはない」

 

授業も恙無く終え、部活でもいつも通りマネージャーの真似事を終えた後、俺は慎二の家に訪れていた。

 

週に数回ではあるが慎二の頼みで彼の家の家事を引き受けている。慎二の家は他の家と比べても二周りほど大きく、遠坂の家のような洋式の屋敷になっている。当然部屋の数も多く、掃除も大変なので慎二は俺の家事の腕を見込んで俺を雇っているのである。別に頼んだわけではないがちゃんとお金も払ってくれるのでこちらとしては文句はない。しかしどうせ金を払うなら俺よりもちゃんとした家政婦を雇ってみてはと一度だけ聞いてみたところ、『お前で十分』という言葉が返ってきた。その他にもこの屋敷が不気味と言って来たがらない家政婦がいるというのも理由の一つであるらしい。まぁ、俺で十分と言われて悪い気はしないけど。

 

 

雇われたこともあって平行して桜の料理も見ることになれたので俺としてもこの仕事は楽しんでいたりする。この世界とあの世界を比べるのはどうかと思うが、一度経験した繋がりに心地よさを感じてしまったからにはその繋がりを俺から回避しようとは思えなかった。

 

自分でもコレでいいのかと何度も思ったが、結局一度でも手放したくないと思った時点で俺にはこの感情に抗うことは出来なかった。

 

桜に料理を教えてほしいと頼まれたときは柄にもなく笑顔を浮かべてしまったのはいい思い出である。

 

ていうか昔はともかく今の桜だったら俺がいなくても大丈夫だと思うけどと言ってみても「あいつは愚図だからお前も一緒にやれ」と言われた。桜は優秀だと思うんだけどなぁ

 

「そういえば衛宮、遠坂が急に帰ってきてたけどお前はなんでか知ってるか?」

「___いや、俺もよく分からないな。慎二は何故か知っているのか?」

「いいや、生徒会長経由で何か聞いてると思ったけど衛宮も知らないか。」

 

実は知っているとは口が裂けても言えない。

恐らく学校には家の都合などと言って誤魔化しているのだろう。

ルヴィアのほうは留学とかだろうか?まさか卒業までこっちに残るとは思えないし、十中八九今回の事件が解決したら時計塔に帰るだろうし。

 

「まぁ、そこらへんは本人に聞けばいいんじゃないか?」

「確かに気にはなるけど本人に聞いてまで知りたいとは思ってないよ。多分避けられるだろうし。」

 

そんな慎二の言い分に苦笑が漏れる。相変わらず遠坂は慎二のことが好きになれないらしい。

モテるやつではあるけどそれと同時に慎二のことが苦手な奴も多いらしい。

悪い奴ではないんだけどな・・・・・分かりにくい奴でもあるけど。

 

 

 

仕事も終えたことだし時間もあれなので俺もいそいそと帰りの支度を終わらせる。

 

 

「それじゃぁ慎二、夕飯は後は暖めるだけだから。雁夜さんが帰ってから一緒に食べてくれ」

「ご苦労だったな。ていうかまだ帰るなよ。出来れば桜にも挨拶してから帰ってくれ。頼むから。」

「いや、今は部屋で忙しそうだし邪魔するわけには行かないだろう。」

「あっ!帰ろうとするな!このっ___おーい桜ぁぁぁ!!衛宮帰っちまうぞ!!」

「わざわざ呼ばなくても__」

「僕の胃のためにも桜が来るまでそこにいろ。分かったな!」

 

そこまで必死そうに言われたら俺もこのまま帰るわけにもいかない。桜に挨拶してから去るのと慎二の胃がどうして関係があるのかは分からないけどここは素直に言うことを聞くことにしよう。なんか顔がマジだし。

 

そんな事を考えていると慌しい音を立てながら桜が玄関先まで来ていた。

 

「先輩帰っちゃうんですか?」

「あぁ、長居しても悪いしな」

「そうですか・・・・・・・・・・・・・・・・・・(本当は一緒にお弁当も作りたかったのに)

「ん?」

「いえ、では先輩。また明日ですね。」

「あぁ、慎二も。また明日な」

「はいはい。(女優にでもなればいいのに・・・・恐ろしい奴)」

 

なんかやけに慎二の目が死んでるんだが体調でも悪いんだろうか。

今度身体にいいものでも作ってやろう。

 

二人と別れの挨拶を交わすと俺は間桐家を後にした。

思えば随分長い事あの家に通っている気がする。あの二人とあったのもアイツよりも早い時期だったと思う。

 

 

「また明日・・・・」

 

 

いい言葉だ。

こんな日が、ずっと続いたらいいのにな。

 

 

いや__

 

 

 

「そうなるようにすればいいだけか。」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

さて、今日の学校の出来事を振り返ってみることにしよう。

あの二人が転入してくることは想定していたのでよしとしよう。

今日一日を普段通りに過ごしてみたがあの二人から俺にこれといった接触はなかった。このことから現時点では俺とイリヤが兄妹であることは把握していないのだろう。断定するのは早計ではあるけど接触もなければ探るような視線もなかったので恐らくまだ大丈夫であろう。

 

「まぁ、苗字も見た目も似てないんだし俺たちが家族なんて事は調べない限りは予想できないだろう。」

 

むしろ予想しろというほうが無理な話である。

けど調べられたとしても別段困るわけではないんだがな。

しかし関係がないと思ってもらったほうが興味の目も意識されることもないのでこちらとしては動きやすくはなる。なので分からないに越したことはない。

 

 

さて、今後の計画のことだが影ながら支援や援護を徹底することにしよう。

恐らく今夜も行動するだろうしイリヤに気づかれないように後を追い、遠く離れた場所から危険があった時にのみ俺も手を出すことにする。本音を言えば今すぐにでもイリヤをこの件から切り離したいところだがその後始末を考えると余り賢い判断とは言えないだろう。いい案があるわけでもないし。

 

遠坂もお嬢様もいることだし、そうそう無茶をさせるとは思えないし出来るだけフォローもすることだろう。むかつく奴だけどルビーもスペックだけは優秀なのだし少しは安心してもいいだろう。

 

俺は保険としてのスタンスを取るのが今は一番いいかもしれない。

 

「しかし・・・・・・ゲイ・ボルクを持っていたあの娘は一体誰なんだ?」

 

お嬢様と一緒に現れたことから彼女の関係者であることは予想できるが記憶を幾ら掘り出してみてもあの娘の情報は一切出てこない。平行世界であるから俺の知っている交友関係とは別の関係があってもおかしくはないし、ただ単に俺が知らなかっただけという可能性もある。

 

「イリヤと同じで巻き込まれただけと言うこともありえることだしな。」

 

しかし、考え出すときりがない。予想なんて幾らでもできるがその事ばかり考えても事態がいい方向に行くとは考えにくい。あの娘の事は深く考えなくてもよしとしよう。

 

「まっイリヤとも年齢が近そうだったし、案外いい友達になってくれるかもしれないしな。」

 

あの娘が魔術の関係者だろうとただ単に巻き込まれた娘だろうと、イリヤに笑顔が生まれるのなら俺はそれを応援したい。

 

あぁ・・・でも・・・・

この件が何事もなく終わって

被害も犠牲も何一つなくて

あの二人に新たな絆が生まれて

皆が皆、笑顔でいてくれたら

 

どんなにいいのだろうな。

 

 

そううまく事が運ぶとは限らないし、実際そうなる可能性のほうが低いのかもしれない。

 

 

だけどもしそうなったのならばその時は___

 

 

 

 

兄として歓迎しよう

 

 

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

___懐かしい夢を見た。

 

 

 

アレは確か____私の誕生日の少し前

 

そう、七夕の日。

離れ離れになった恋人が唯一会うことが許された日。

織姫様たちに向かって願い事を届ける日。

 

 

あぁ、今でもたまに夢に見る。

 

 

空は澄んでいて

綺麗な星空の中で

大きな月が輝いていたのを覚えている。

 

 

空気が美味しくて

心地のいい静かさで

庭でも蛍たちが空に浮かぶ星に負けまいと光っていた

 

絵に描いたように美しかった夜

 

今でも懸命に思い出せる、私の中で一番心に残っている日

 

 

そう、あの夜は

 

 

今まで見た中で一番星が輝いていた_

今まで見た中で一番月が大きかった_

今まで見た中で一番綺麗な夜空だった_

そして__

 

 

今まで見た中で一番お兄ちゃんが綺麗な表情を浮かべていた

 

 

 

 

 

学校からの帰り道、ミユさんとの才能の壁を感じて一人で打ちひしがれていたときにまるでタイミングを計ったように私はミユさんにあった。どうやらミユさんはお向かいさんらしく、帰り道が一緒だったみたい。その事に気づいたのは帰ってきた時なんだけどね。

 

いやしかし、昨日までは普通の民家が建っていたはずなのに帰ってきてみたら大豪邸が建っていたんだから驚いた。それはもうご近所さんの迷惑も忘れて大声で叫んじゃったよ。その後すぐにその家がミユさんのだと知って更に驚いたんだけどね。

 

そんなもろもろな出来事のせいで私は疲れてしまい、昨日の戦闘のせいで睡眠時間も減ったことで帰ってすぐに寝てしまった。そしたら夕飯前にセラにたたき起こされたんだけどね。

 

 

そんな事もあったけど本題は帰り道でミユさんと話したこと。

この場合はお話というより喧嘩?になるのかな。

 

私はただミユさんの質問に答えただけなんだけどどうやらその答えが気に入らなかったようで怒らしちゃったみたい。帰ってからも怒った理由を考えてみたけど未だに分からないでいる。

 

実際、どう答えたら正解だったんだろう?

 

ルビーに聞いてみても分からないって言うしこういうのは答えがある質問じゃないとも言っていた。

 

 

戦う理由

 

 

そんなの、小学生の私になんて答えてほしかったんだろう?

 

やっぱり、アニメとかでよくある『誰かを守るため』とかかな?

 

昨日戦ったお侍さんみたいのだって一人で町一つを滅ぼすことができるみたいだし。

良く考えてみると私ってそんな恐ろしい相手に勝っちゃったんだね。まぁルビーのおかげなんだけど。

 

あぁでもそうだね。そんな恐ろしいのが敵なら楽観的に考えて楽しんじゃおうなんて答えちゃいけないよね。ミユさんが怒っても仕方ないと思う。

 

私はこのことを現実的に考えないで漫画の主人公にでもなった気でいたんだ。

 

今夜会うときにでも誤っておかないと。怒らしたのは私だし、お兄ちゃんもよく言っていたしね。間違ったことを言っちゃったのならちゃんと謝らないと。

 

「よし!そうと決まればセラのご飯を食べて、お風呂に入って、今夜のための準備をしなくちゃ!」

 

すっきりとした気持ちでそう言うと、玄関が開く音が聞こえてきた。

どうやらお兄ちゃんが帰ってきたらしい。

 

「でもその前にまずはお兄ちゃんに__」

 

 

――おかえりお兄ちゃん!

 

――あぁ、ただいま。イリヤ

 

 

 

 

 

 

それは懐かしい夢だった。

 

『綺麗な夜空だなまるであの日みたいだ・・・・』

 

二人で短冊を片手に庭へ出ていると、お兄ちゃんがそんな事を呟いていた。お兄ちゃんの言うとおり、この日の夜空は綺麗だった。でも___

 

『あの日?』

 

幼いながらも、その言葉に首を傾げてしまった。この時の私は四六時中お兄ちゃんにくっついていたからお兄ちゃんが知っていて私の知らない景色などないと思っていた。その事にちょっとムッとなってしまったけど今思えばちょっと子供過ぎたと思う。

 

『ん?いや、なんでもないよ。それよりイリヤ、七夕にどんなお願い事をしたんだ?』

 

そういえば私はなんてお願いしたんだっけ?確か皆と一緒にいれますようにとかだったとおもう。

 

『えーとね、ずーっとお兄ちゃんの傍に入れますようにって書いたんだ!』

 

あぁ・・・・・そうだった。

確かこんな事を言った気がする。

ちょっと・・・いや、かなり恥ずかしいことをお願いしたかもしれない。

出来ればあのお願いの事は忘れてほしいかなぁ~___でもやっぱ忘れてほしくもないかなぁ。

 

『ッ_____あぁ、そうだな・・・・・今度こそ・・・・・傍に居てあげるよ』

 

『???、そういえばお兄ちゃんはなんて書くつもりなの?』

 

そういえばお兄ちゃん。目を見開いて驚いていたっけ。

でも__この時のお兄ちゃん、すっごく優しい顔で頭を撫でてくれたからすぐにそんな疑問もなくなったっけ。あの表情で撫でられるとすごく大事にされてる気がして私は好き。

 

はて、この後はどんな会話をしたかな?

確か__

 

 

『俺か?そうだね、エミヤシロウは欲張りだからこの短冊には収まらないかもね。きっと織姫様達も多すぎて叶える暇がないかも知れない。』

 

『そんなにいっぱいお願い事あるの?』

 

『あぁ、あるよ。だからね、俺は織姫様達じゃなくて別の人達にお願いすることにするよ。』

 

『別の人?』

 

『そうだね、お星様・・・・とかかな?』

 

『流れ星さんにだね!』

 

『うーん、まぁそういうことにしておこうかな。』

 

『じゃぁね、じゃぁね!お兄ちゃんはなんてお願いするの?』

 

『うん、せっかく星が良く見えるんだし。今お願いしてみようかな。それじゃぁイリヤ両手を貸してくれるか?』

 

そうだ、こんな感じの会話をしたんだ。

そしてお兄ちゃんは私の両手を包み込むように握って、祈るように目を閉じたんだ。

お兄ちゃんに手を握られたことと、私の手を握る為に屈んだことでお兄ちゃんの顔が目の前にあったことでやけにドキドキしたのもすごくよく覚えている。

 

そして・・・・・お兄ちゃんは静かに。優しく。ゆっくりと呟いた。

 

 

 

イリヤがもう苦しまなくいい世界になりますように____

 

 

やさしい人たちに出会って___

 

 

笑いあえる友達を作って__

 

 

あたたかでささやかな_

 

 

それはまるで歌のようで、聞こえるその声はどこまでも優しかった。

握る手は暖かくてまるで包まれるような心地よさがあった。

聞こえてくるその声が

感じられるその暖かさが

何よりも私を安心させてくれる

 

目をつぶっていたお兄ちゃんはここで一度止まると、閉じていた目を開けて私の目をジッと見つめた。

 

優しい微笑みではなく

困ったような苦笑でもなく

今まで見たこともないような、それこそ初めてかもしれない綺麗な笑顔で__

 

 

 

幸せをつかめますように

 

 

 

__そう願ってくれた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

夜になった。

 

 

これよりこの町は戦場(パーティ会場)へと変わる

 

 

主催者は不在

 

 

なのでサーヴァント(参加者達)は各自好きなように楽しんでいってください

 

 

ご自身の世界(部屋)からは出れないようになっています

 

 

しかしご安心を

 

 

時間が経てばいづれ自力で出れるようになると思われます

 

 

退屈かもしれないですが我慢してください

 

 

自分(私/俺)も我慢します、なんたって我慢できる者ですから

 

 

しかし運がよければ誰かが遊びに来てくれる(退治しに来る)かも知れません

 

 

ルールも今までとは違う変則的なものへとなっています

 

 

すでに退場(退室)してしまった方もいるようですが

 

 

ゲーム(戦争)は中止しません

 

 

では楽しみましょう

 

 

さぁ、時は来た___

 

 

 

聖杯戦争を続けよう

 

 

 




○月○日 晴れ ☆
今日の出来事。
兄さんが先輩を連れてきてくれた。すごく嬉しい。
もういっさつには軽めに書いてあげよう。

○月○日 晴れ ☆
今日の出来事。
イリヤちゃんが羨ましい。
先輩に撫でられていた。お弁当も作ってもらえてた。
私もされたいし食べたいなぁ・・・

○月○日 晴れ ☆
今日の出来事。
兄さんが先輩を雇ってくれた。嬉しい。
もういっさつには覚えていたら褒め言葉でも書こうと思う。

○月○日 晴れ ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
頼んだら料理を教えてくれることになった。やった。

笑ってくれた。
初めてみた。
綺麗だった。
初めてみた。
すごくよかった。
可愛かった。
かっこよかった。
身体がまだ熱い。
シーツのシミを洗わないと・・・・・
今夜は良く眠れそう。いい夢もみれそう。
でも先輩の人形が2つダメになっちゃった。また作らないと。

○月○日 晴れ ☆
今日の出来事。
今度はお掃除も教えてくれるみたい。
褒めて貰えるようにがんばろうと思う。

○月○日 晴れ ♡♡♡
今日の出来事。
先輩に褒められた。でも撫でてくれなかった。
よく眠れそう。

○月○日 晴れ ☆☆
今日の出来事。
今日も先輩がお手伝いにきてくれた。
でも先輩がいつのまにか帰っていた。何も言わずに帰るなんていじわる。
兄さんも何か言ってくれてもよかったのに。

○月○日 晴れ ☆☆
今日の兄。
また先輩が帰るのを教えてくれなかった。
出来れば挨拶して顔が見たかった。

○月○日 晴れ ☆☆☆
今日の兄。
先輩が作ってくれたおかず一品を私に黙って全部食べてしまった。
しかも私の大好物。
くうくうおなかがなりました。

○月○日 晴れ ☆☆☆☆
雁夜さんは全部食べてくれるのに兄さんはよく残す。

○月○日 晴レ ☆☆☆☆
今日の兄
また残した。もったいない。やめてほしい。

○月○日 晴レ ☆☆☆☆
今日の兄
次はない

○月○日 晴レ ☆☆☆☆
今日の出来事。
主将がお弁当貰ってた。すごく喜んでた。
ずるいと思う。羨ましい。

○月○日 晴レ ☆☆☆☆☆☆
今日のあに。
またやった

○月○日 晴レ ☆☆☆☆☆☆☆☆
今日の出来事
消えたと思ったライバルがまた帰ってきた。
邪魔だなぁ。
先輩と同じクラス。ずるい。許せない。




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