華麗なる戦車道一族 まほチョビエリみほバミューダ愛里寿その他戦車道乙女の家族計画 (光森 千影)
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社会革命と戦車道流派

 社会革命が起きた。

 日本の法律が改正され同性間での結婚が認められるようになり、

 医学技術の進歩によりiPS細胞や二母性マウスの生殖技術を応用して、

 女性同士のカップルで子供を作れるようになってしまった。

 

 この報道は全国の大学戦車道女子を震撼させる事態となり……、

 熊本県のとある大邸宅でも大きな騒動となっていた。

 

クマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモンクマモン

 

 楽しい一家の朝ごはん。

 6人の女性と1人の男性が、大食堂の8人がけテーブルの前に座り朝食をとっている。

 だが……朝っぱらから異様な緊張感が漂っていた。

 

「みほ、お醤油を取って」

「あ、はい、お母さ……お母様」

「ありがとう。ところでみほ、あなたに縁側の掃除をお願いしてたけど……障子の桟にほこりが残っていたわよ」

「え? ご、ごめんなさい……」

 

 わざわざティッシュに採った埃を、食卓の前に広げる。

 食事中だというのにずいぶんとマナーが悪い。

 目玉焼きハンバーグを食べていたエリカが箸をおき、茶を一口含んでから、義母に抗議した。

 

「しほお義母様……みほは何も悪くありませんわ! 縁側の障子は桟が部屋側を向いています。なんで縁側の掃除をして桟のほこりを指摘するんです? おかしいですよ!」

「っ……あ、ああ、そうね。……ちょっと試してみたのよ。みほ、すぐ謝るのはあなたの悪い癖よ」

「ごめ……あ、気を付けます」

「みほ悪い。ソースを取ってくれないか」

「あ、はい、お姉ちゃん」

 

 実母と実娘の嫁姑トークを止めるため、西住まほが話に割り込む。

 目玉焼きにソースを掛けようとしたところ……隣に座っていたオリーブ髪の妻、西住千代美がああっ!と声を上げた。

 

「千代美さん、はしたないわよ」

「あの、その……目玉焼きにソースは、ちょっと」

「うちは出身地の違う人間が集まった大家族。だからどのような文化があってもいいだろう。全員が全員、目玉焼きに醤油をかける必要は無い」

「その通りですよ、まほ様」

 

 末席に座る女中の菊代さんが、名前の入りミニチューブのケチャップを懐から取り出し、静かに目玉焼きに回しがけしていく。

 場の空気を和ませるため、上座にどっかりと腰を据えた西住常夫がはは、と笑い声を立て、優しい声で何事か喋った。

 

「え? まほの言う通りだ。これだけ女の子が集まってるんだから調味料くらい選ばせてやりなさい、ですって!

 常夫さん? その『女の子』の中に私は含まれてるんでしょうねっ! 

 あ、え? そう……含まれるのね。んもぅ、常ちんのい・じ・わ・るぅ……。あ、コホン。ま、そう言う事です。

 醤油でもソースでもケチャップでも塩でもマヨネーズでも胡椒でもお酢でもジョロキアソースでも、目玉焼きには好きな物をおかけなさい」

 

 朝食の場は──西住家の家族会議、ルール決めの場でもあった。大家族……というか3組の夫婦が同居する3世帯住宅は、まことに面倒臭い。

 

 

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 簡単に説明する。

 西住まほは大学卒業後プロリーグのチームに入り、安斎千代美、かつてのドゥーチェ・アンチョビの後輩となった。

 高校卒業後すぐに就職しプロリーグに入団して、チームを強豪に育て上げていたリーダー安斎千代美。

 彼女と合流し同居し……同性婚解禁の法律の施行日に結婚した。

 ところが、以前から議論されていた夫婦別姓については結論が出ず、まだ認められていないというねじれ現象。

 どちらか片方が苗字を変えることになり──西住流の血統を守るため、安斎は躊躇なくというか大喜びで苗字を変え、西住千代美となった。

 

 西住みほ、こちらは学生結婚だ。3年間の同棲生活を経て、逸見エリカと結婚した。

 しかし、母・西住しほからは冷たい言葉が返ってきた。

 

「西住流から逃げ出したあなたに、西住の名を継ぐことは許しません。家の敷居を跨ぐのは結構です。たが、苗字は変えてもらいます。

 戦車道を続けるのならば、夫の名となり新しい流派をおこしなさい」

「お母さん……そんな……わかりました!! やったぁ!!」

 

 ──西住みほは逸見みほとなり、西住流の分派『逸見流』をおこした。

 

 この時点で女同士の婚姻関係の場合、どちらが子供を産むかはまだ明確に定まってなかった。

 よって、夫側・世帯主側の女性が子を産んでも問題ないとの法判断がなされ……。

 毎晩どちらが産休を取るか、子供を産むかで2組の夫婦は大議論になっていた。

 

「西住……じゃなかったまほ! 私がまずお前の赤ちゃんを産むぞ! 大学戦車道に慣れ親しんだお前を徹底的にプロリーグ流にしごき上げ、隊長を交替してから産休に入る!」

「まぁまて安斎……じゃなった千代美、私がプロリーグ入りしてすぐ子供を産んだほうがいいのではないか、隊長交替よりもその方が自然だろう」

「入団していきなり産休に入る奴があるかっ! 私が産む、絶対赤ちゃん産む! 西住まほの健康な赤ちゃんを産んでみせる──当然!『娘』だっ!」

 

「ねぇエリカ、わたし……エリカのお嫁さんになったから、赤ちゃん産むよ!」

「はぁ? あんたみたいに戦車から離れるとあわあわしてて、家事料理もも下手くそな癖に子供なんか出来たら大変よ? しほお義母様にまたお小言言われて産後うつになっても知らないんだから!」

「エリカみたいに完璧にできるタイプの方が危ないって沙織さんが言ってた! それに……エリカが精一杯ささえてくれると……思うし……❤」

「……ま、どっちみち法改正は当分先だから、卒業後に出産できるよう、仕込みはもうちょっと先でいいんじゃないの?」

「え!? 仕込みって……エリカ、は、はずかしい……よ」

 

「嘆かわしい、まほもみほも普通に男と結婚していればこんな事態には……。常夫さん、もう一度リセットしますか……? はい、大丈夫ですよん、私の身体はまだ現役です❤」

 

 

ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコ

 

 その頃、群馬県の島田家。

 島田千代と愛里寿の座る応接間のソファの前で、三人の自衛官が正座し、絨毯に額をこすり付けていた。

 

『千代お母様、どうか愛里寿さんを私にください!』

「……仰る意味が分かりません」

『結婚させてください、お願いします!』

 

 法律上結婚できる年齢になったばかりの愛里寿は事の次第が呑み込めず……、

 ソファに深く腰掛け、握りしめた拳を膝の上に置いて、ずーっと下を向いていた。

 

 愛里寿の母、島田千代は軽い眩暈を覚えた。

 いきなり三人がやってきて『愛里寿を嫁に欲しい』と、床に頭を擦り付けている。

 しかもこの三人は……女だ。

 大学時代、選抜メンバーの中隊長として愛里寿の麾下にいた、アズミ・メグミ・ルミ。

 

「いくら女性同士の結婚が認められたとはいえ、重婚までは許可されていません」

『問題ありません! 私たち話し合って二年ずつで交代すると決めました!』

「はぁ?」

 

「まずはアズミが二年間結婚、いちど離婚して期間を空けてからメグミが結婚、また二年後にルミが結婚して……。

 それからはみんな仲良くパートナーとして暮らすか、だれか一人が結婚するか、結婚離婚サイクルをずっと繰り返すか……。

 じゃんけんでも話し合いでも戦車戦でもいいので、8年間でよーく話し合って決めますから!」

 

 千代はあまりの人権侵害、妻の意志を無視したトンデモ提案に半分意識を飛ばしそうになりながらも、目の前の冷めたコーヒーを一気に飲み、どうにかこうにか次の言葉を絞り出す。

 

「……で? だ、誰が島田流の子を……産むのかしら」

『もちろん! 愛里寿隊長ですっ!!』

 

 愛里寿は顔を耳まで真っ赤にしてぼたぼたと汗を垂らす。

 大人とはなんとあさましく、汚い存在なのだろう……。

 バミューダライアングルの六つの瞳は、74式戦車のアクティブ投光器の如く恐ろしいまでにぎらついていた。

 

「……あ、あ、あなたたち……」

『おお、結婚を認め……!』

「私のあ・り・す、を、なんだと思ってるのよぉぉっ!!」

 

 三人はボコにされた。 



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母になる……戦車道乙女たちの選択

 社会革命と医療革命により、同性婚と女性同士での妊娠、出産が認められ──。
 高校戦車道OGの間ではベビブームが巻き起こっていた。


「Oh! pretty baby! ……デイジィ、よく頑張ったわね」

 

 産婦人科のベッドで小さな赤子を抱き、乳を与えるダージリンと、赤子の頭を優しく撫でるケイ。

 慈母と、優しい父と、一粒種の娘との美しい聖家族の一コマ。

 

「ねぇ、ケイ」

「なぁに?」

「この子が2歳になったら、次はあなたの番よ」

「オッケーオッケー、私、デイジィの赤ちゃん産むわ。……男の子がいいかなぁ」

「法律が変わって、妻側しか子供を産んでいけないなんてことにならなければいいけれど」

「No problem! 何のための同棲婚よ、どっちも子供を生めば人口減がストップするわ!」

「……女に産まれて、よかったわ。ケイ」

「……私もよ、デイジィ」

 

 お乳をのませるために、大きくなった胸をはだけたままのダージリン。

 ケイは彼女の首筋に、そっとキスをした。

 

 英国流子育て? 米国流子育て? そんなものはどうでもいい。

 ケイとダージリンの二人で精一杯の愛を注いで、育てていこう。

 二人は肌を寄せ合いながら、そう、固く誓い合った。

 

///////////////////////////

 

「福田、大丈夫か」

「はい、大丈夫であります……」

「難産だったな。……すまない」

「隊長、お言葉ですが、自分はもう西であります……」

「そうだったな。すまん、定子」

 

 保育器に入った赤ちゃんに会えるには、もう少し時間がかかりそうだ。

 両親を説得し尽くして福田を娶り、絹代の細胞を採取・培養・受精させして無事に妊娠したが……135cmの身体には大きな負担がかかった。

 絹代は自分が産めば良かったと後悔したが、そこまでは両親を説得できなかった。父親が子供を生むのはいかがなものか、と。

 出産は難産となり、帝王切開。

 こうして、喋れるようになるまでにも3日かかった。

 

「名前は……どうしようかな」

「竹のように成長し、一番になる。どうでしょう」

「えーと、それはご先祖様に畏れ多い。ちょっと考えよう」

「はい! あ、んん……」

 

 絹代がベッドで横になったままの元福田の頬をそっと撫でると、彼女はちょっとだけ甘い吐息を漏らした。

 

「西……絹代……定子……竹……一」

 

 今頃、親は宮様に名付け親をお願いしてる頃だろうが、自分たちでも名前を考えておきたい。

 ベッドの横の椅子に座る。

 疲れて寝息を立てはじめた定子の横顔を見つめながら、自分たちの愛の証の名前を、静かな気持ちで考え続けていた。

 

///////////////////////////

 

「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

「おぎゃぁ! おきゃぁ!」

 

 安斎千代美は夜昼問わず泣き続ける2人の赤ちゃんの世話で手一杯。

 おしめを変えてお尻を拭き、母乳を与えて寝かしつける。

 ひととおり終えて眠りに付こうとすると、こんどはもう1人の赤子が泣きはじめる。

 

「あ、あと3時間で、みほと交替でき……る……」

 

 そのとき、静かに襖が開き──そこには、寝間着姿のベージュ髪の女が立っていた。

 

「千代美さん、もう大丈夫ですよ。みほと交替まで私がやりますから、向うの部屋で休んでてください」

「逸見……お前、大丈夫か?」

「千代美さんやみほよりはよっぽど元気ですから……。

 お乳は出ないけど粉ミルクは作れるし、おしめを変えるのも完全に覚えました。さぁ、休んできて、千代美さん」

「ありがとう、エリカ……」

 

 ふらふらと部屋を出ていく西住千代美を見送り、エリカが赤ん坊をあやしはじめた。

 普段はめったに見せない、明るい、底抜けに明るい笑顔で。

 

「ほーらちほちゃん、泣いちゃだめよー。おばちゃんがいいこいいこしたげるからー。

 あ、エミはちょっと待ってねー、泣かないの泣かないの、パパがすぐ抱っこしてあげるねー」

 

 正直、自分の事を「パパ」と呼んでいいのか迷っていたエリカだったが──、割り切った。

 ママが二人いても子供が混乱するだけだから。

(隊長は子育て苦手だからなぁ……ちゃんと覚えてもらわないと大変だけど、私と千代美さんとみほとで、三人がかりなら……)

 

「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

「はーいなかないの、おちっこでちゃった? うんうんでちゃった?」

 

 逸見エミが泣き始めた。ああ、これはおむつの交換かな?

 赤ちゃんのおむつに顔を近づけてちょっと匂いをかいでから、布おむつを手に取る。

 おむつカバーを取ると……ちょっと不思議な匂いがする……。おしりを綺麗に拭き、慣れた手つきでおむつをかえる。

(菊代さんやお義母様は、まだ二十歳になる前から……隊長やみほのおむつ、変えてたのよね……)

 

 おむつをかえ終わって、じぶんの娘をあやしていると、そっと襖があいて……逸見みほがやってきた。

 

「エリ……あなた、ありがとう……」

「エリカでいいって何度も言ってるわよ。それとも『おまえ』って呼んでほしい?」

 

 ちょっとだけお疲れ気味のみほが、上目遣いにもじもじして、おへその下で指をからませた。

 

「ちょっと恥ずかしいかな、エリカ……」

「いま二人とも寝たとこ。すこしの間お話しましょうか、いろいろとね」

「うん……」

 

 二つのベビーベッドで眠る、髪の色の違う赤ちゃんを見ていたみほに、エリカがそっと肩を寄せた。

 

///////////////////////////

 

「アズミ、おめでとう!」

「ありがとう。ごめんね抜け駆けして」

「ううん、アズミが勝ったんだから恨みっこなしだよ……さぁ隊長、次は私の番です!」

「いいえ、わたしです!」

「……ええと、その、まだ、早いと……おもう」

 

 おめでたが分かった島田愛里寿・アズミ夫妻と一緒に暮らすメグミとルミ夫妻が、照れ照れのアリスをサンドイッチして抱きしめる。

 

「あ、ちょ、恥ずかしいよ……!」

「頑張って育てるから二人一緒でもいいですよぉ」

「細胞サンプルのすり替え手段はばっちりですから、二人とも隊長の赤ちゃん産めますよ!」

「あのー、そのー」

 

 公然と『自分たちの赤ちゃんではなく、愛里寿の赤ちゃんが産みたい!』と言われると……、

 そのインモラルぶりについていけない彼女は、さらに頬を赤らめた。

(産まれてきた子が私そっくりだったり、遺伝子検査でバレたらどうすんだろ……)

 

「大丈夫です! まれに生殖細胞の培養に失敗する女性もいるそうですから……代わりに隊長から種を貰えば……あいたっ!」

「こらメグミ、ちょっとがっつき過ぎよ!」

「って、結婚して出来ちゃったアズミはいいけど、私らにとっては死活問題なんだからっ!」

 

 愛里寿の奪い愛。それは壮絶な戦車戦で決められた。

 3日間にわたって繰り広げされたパーシング3両での乱戦は……事情を知った乗員たちと一心同体となり──。

 それはそれは鬼気迫る戦いだったという。

 勝者はルミとメグミを撃破したアズミ。最後は……愛欲の強さ、本能の強さの勝負だった。

 

「家族計画はゆっくり考えましょ、家元にバレると面倒だし」

「……隊長、ぜったいに家元には内緒ですよ」

「……うん……」

 

 瞳がぎらぎらする三人のお姉さんに囲まれては……島田流戦車道の天才少女も、ただ俯いてうなづくのが精一杯だった。

 

///////////////////////////

 

「梓ちゃん……」

「なぁに、紗希」

「……かわいい」

「そうね、赤ちゃんって可愛いね……私たちも昔はみんなこうだったんだよね」

「赤ちゃんも可愛いけど、梓ちゃんも……」

 

 丸山紗希はそっと母と赤子の二人の頭を撫で、ニッコリとほほ笑んだ。

 いろいろな経緯を経た結果結婚し、紗希の子供を授かった丸山梓だが……こうして親子水入らずで過ごしていると、こんな幸福な時間は他に考えられるだろうか、という気持ちになってきた。

(あとは、結婚式でのキスと、病院でおめでた、ってわかった時かなぁ……でも、この時間はずっと続くんだ)

 

 紗希のお父さん、梓からみた義理の父も、色々と世話を焼いてくれる。

 本当は紗希に子供を生んで欲しかったみたいだけど、まずは妻となった梓が産む。

 

「この子が大きくなったら、つぎは紗希の番かな」

「……うん」

 

 はにかむ紗希。この顔を見られるのは妻である自分だけの特権。

 赤子にお乳を飲ませながら、梓は目を細め、ぽろりとひとしずく、涙を零した。

 

///////////////////////////

 

「……なんか納得できないけど、ノンナがお父さん、クラーラがお母さん、私が養子……って事で決着したのね」

『Да(ダー)』

 

 相変わらず身長が130cmを超えないカチューシャが、肩を並べるノンナとクラーラの膝の上で寝そべって腕組みをする。

 

「カチューシャが一生ノンナの赤ちゃんを産めなくなるわよ! それで本当にいいのね!?」

「……カチューシャ様、なんども産婦人科に通いましたが、妊娠は母胎へのリスクが高すぎると、どのお医者様も仰いまして」

「我々がカチューシャを失ってしまったら、生きる望みはありません」

「あなたたち、ときどき喧嘩するけどだいじょうぶ?」

「カチューシャ愛しさゆえの喧嘩ですから」

「ふたりでカチューシャ様を愛することが出来れば、なんの問題も無いのです」

 

 うっとりとした瞳でカチューシャを見下ろす青い瞳と水色の瞳に、小さなカチューシャはちょっとだけ怖気を感じた。

 二人が結婚して、自分が養子になったら……その次の展開は目に見えている。

 

「ノンナ、クラーラ、お願いだからどっちが先に産むかで喧嘩しちゃだめよ! 生殖細胞は凍結しとけば何年でも──」

『同時にカチューシャ様の赤ちゃんを妊娠します!!』

「あ……ああ……そう……なるのね」

 

 声を揃えて自信満々に言い切った二人の大女に、もう何か口を差し挟む元気がなくなってきた。

 三角関係が三位一体になるとは、まさか地吹雪のカチューシャも予想していなかったのだ。

 

「ん、んっ……」

 

 共通項はカチューシャ愛。

 カチューシャの同志として、憎しみを愛に変換した黒髪の日本人と金髪のロシア人が、愛娘の上で濃厚なキスを交わし始めた。

(娘の前でセッ……愛の営みを見せつける気満々ね……やるのは私……長女の前だけにしてほしいわ!)

 軽い頭痛を覚えたカチューシャがこめかみを抑えると……。

 ぽたっ、と、二人の唾液が服にこぼれ落ちた。



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