魔法先生ネギま! 進撃する生徒 (ヒイラギ1028)
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始まりの夜

進撃の巨人と魔法先生ネギま!とのクロスです、が
巨人は出ないし、進撃の巨人のキャラもでない……はず。
主人公が巨人になるかも。

そしてこんなクロスはいままでなかった……ハズ。


何事にも、表と裏がある。

表ではいい子ぶっているが、裏では悪口ばかり吐いている子がいるように、

逆の子もいるだろう。

表では強がり、悪口ばかり吐くが、裏では誰よりも人が嫌な子だっている。

 

思っている事とは逆の行動をとる人もいる。

目の前で人が、凶器をもった不審者に襲われているとしよう。

その間に咄嗟に入ろうと考える者はとても少ないだろう。

その場から離れ、助けるために誰かを呼ぼうとするものだっている。

それは、その場から逃げるための口実に過ぎない。

 

――まぁ、そんなことはどうだっていい。

 

俺は、この時間――夜の十二時頃――寮の門限をぶち破り、

森を走っていた。走っていた、というよりは、跳んでいた、のほうが正しいの

かもしれない。

俺は今、剣を二つ握っていた。

剣の柄の握り部分にある、二つあるうちの一つのトリガーを引く。

バシュッ、と何かが飛び出す音と共に、何かが木に勢いよく突き刺さる。

ギュルルル、と何かを巻き取るような音と一緒に、体がグイッと引き寄せられる。

木に激突する少し前に、もう一つのトリガーを引くと、何かが木から抜ける。

 

今度は、トリガーをひいた逆の手――右手――の剣の握り部分にある、トリガーを引く。

再び何かが飛び出す音と共に、木に突き刺さる。

 

この行為を繰り返しながら、森の中を移動していく。

そして、この剣には刃がついていなかった。

俺の腰の両横には、刀身を収納するケース。その上にはカートリッジ式のボンベが

取り付けられていた。

刀身は、一mほどで、切っ先は平ら。硬い肉を切るために、しなるようにできていた。

何本もケースに入っており、折る刃式カッターナイフの刃を延長したような外見と構造だった。

トリガーを引くのをやめ、木の枝の上に立つ。

目の前では、とても理解不能な光景が目に映った。

 

――中等部の制服の生徒数名が、お伽話にでるような鬼何十体と戦っていた。

鬼たちは、それぞれ大きさは違ったが、少なくとも3mから5mはあるだろう。

 

「……何だ、これ?」

 

俺のつぶやきには、誰も答えない。

一人の生徒が、これまたお伽話にでそうな杖を構えると同時に、

氷の何かが鬼に突き刺さった。

一人の生徒が、刀のような物を振るい切り刻んでいく。

少しずつ鬼たちが倒れふし、姿が消えていく。

それでも、生徒達は劣勢に見える。

 

お伽話の世界にでも入ったみたいだ。

魔法や鬼? 冗談もほどほどにしてほしい。

都市伝説や噂では、ここ――麻帆良――にはおかしな奴らが

いっぱいいるとは思っていけど……頭が追いつかない。

 

刀を持った女の子が大きく吹き飛ばされ、他の生徒とぶつかり倒れ込んでしまった。

ギリ、と柄を握り締める。この姿はあまり見られたくはない。

フードを目元までかぶり、深呼吸をする。

この格好で人前で出るのは初めてだし、何より恥ずかしい。

 

両腰についている、付け替え式刃を柄に合わせる。

トリガーを引くと、ワイヤーと共に、勢いよくアンカーが飛び出していく。

バスン、と大きな音を立てて鬼の背中に突き刺さる。

 

「あぁ? 新手――」

 

鬼は、最後まで言葉を発する事はなかった。

グィと体が引っ張られ、一気に鬼まで距離を詰める。

そのまま両手に握った剣で、うなじを勢いよく切り裂く。

そしてアンカーとワイヤーを外し、中等部の生徒の元へと降り立つ。

血を吹き出しながら、鬼がドサリと倒れ込んだ。

 

「……無事か?」

 

三人の生徒が、それぞれ血を流しているのを見ると無事ではなさそうだった。

 

「だ、誰ですか?」

 

刀を持っていた女の子が、刀を支えに立ち上がった。

 

「俺のことはいい。早く逃げてくれ」

 

この格好人に見られるのはすっげぇ恥ずかしい。

何より顔を見られたくない。

顔を見せないように、しながら逃げろと告げる。

その間にもどんどんと鬼が出てきている。

 

「で、ですが……」

 

「いいから行け! その様子じゃ足でまといなんだよ!」

 

初対面でこんなこと言ってゴメンなさい。

ほんとうにゴメンなさい。

女の子は、苦しそうな表情をしたあと、他の生徒をつれて下がっていった。

鬼が足をあげ、俺を踏みつぶそうとする。

 

トリガーを引き、近くにいた鬼の肩へとアンカーを突き刺す。

剣を横なぎに払い、首を切り飛ばす。

倒れる鬼の背中を蹴って跳躍し、剣を勢いよく振り下ろす。

振り下ろすと同時に刃を外すと、刃は回転しながら鬼の目に突き刺さる。

 

鬼が絶叫を上げて両目を抑える。

その頭に着地し、剣を頭へと突き刺す。

絶叫が止むのを確認すると、あたりを確認する。

 

「――あと3体」

 

アンカーを木へと突き刺し、鬼の目を錯乱するように高速移動を開始する。

鬼は俺を探して、あたりをキョロキョロと見回していた。

その時、鬼の首にワイヤーがグイッと引っかかった。

その反動を利用し、鬼の後ろ側へと回り込み、首を弾き飛ばす。

 

「――2体」

 

死角から、突然足を鬼に掴まれる。

 

「っ……!」

 

親指を切り飛ばすと、鬼は痛みに顔を顰めて手を離す。

アンカーを木に突き刺し、大きく後方へと下がる。

振り返りざまに再び刃を飛ばし、鬼の首に刃が突き刺さった。

 

「――あと、1体!」

 

カチッ、とトリガーを引くが、プシューという音がでただけだった。

ここに来るまでに、使いすぎたんだ……。

俺が飛び回らないのを見て、鬼がニヤニヤとしだした。

顔が引き攣るのを感じる。

 

「ちょーっと、ヤバイか……?」

 

予備のボンベは用意してあるが、取り替える余裕は与えてくれそうにない。

鬼が、両手で棍棒を握りしめて振り上げる。

機動力がなくなれば、俺はただの一般人だ。避ける暇もないだろう。

少しだけ後悔しているが、こんだけ時間を稼げばあの子達も逃げ切れただろう。

 

鬼が棍棒を勢いよく振り下ろして――

 

「初陣にしては、善戦したほうだよな……」

 

心臓が、貫かれた。

血を吹き出しながら、膝からゆっくりと崩れ落ちる。

 

「……は?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

誰かはしらないが、女の子の問いに答えず、すぐさま自分が生きているのを確認。

ボンベを急いで取り替える。

 

「貴方のおかげで、誰一人死なず――あれ?」

 

女の子が振り返ると同時に、トリガーを引き木の上へ移動する。

そのまま、森の中へと俺は突き進んでいった。

 

――こんな厨二な姿、絶対に顔とか見られたくない。




まったく。放置作品が多すぎだぜ!


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連続死合

「――うぁっ!?」

 

アンカーを突き刺して夜の森を移動していると、突然アンカーが吹き飛んだ。

木に背中や頭を打ち付けながら、地面へと倒れこむ。

 

「いっつつ……」

 

頭を抑え、何が起こったのか振り返った。

 

――化け物がいた。

いや、妖し、妖怪とでも言うのだろうか?

熊が一体。アンカーをつけた木をなぎ倒したようだった。

人など、あっさりと切り飛ばせそうな腕を大きく振り上げる。

 

「ッ……!?」

 

本能の指し示す方向へと飛び込み前転する。

すぐ後ろから、地面をえぐる音が響き渡った。

熊は、俺が避けたのを不服そうに呻いた。

 

「……くっそ」

 

今の衝撃で、立体機動装置に損傷ができたらしい。

ガスは大量にあるはずなのに、まったくアンカーが飛び出さない。

 

「――ふざけんな」

 

柄を握り締め、熊を睨みつける。

 

「こんなの、見つけなければよかったな」

 

腰についている、道具を見る。

俺がみつけた道具――立体機動装置――と呼ばれる物は、俺が

家の地下から見つけたものだった。

 

設計図から整備の仕方、使い方まで書かれた本を見つけた時は

とても興奮した。厨二心をくすぐられ、一ヶ月ほどまえから俺は使っていた。

初日はあんなにうまくはできなかったが、今は結構いい動きをできているんじゃ

ないかと俺は思う。

 

熊が、片手でがしりと俺の胴を掴む。

爪が体に食い込み、血が滲み出す。

 

「いっ……!」

 

痛みに顔を顰める。

こちとら、立体機動ができるだけの一般生徒だぞ……。

 

「いっ……てぇんだよ!!」

 

一つの剣を逆手に持ち替え、勢いよく振り下ろす。

ガギン!という派手な音を立てながら、刃が後方へと吹き飛んだ。

 

呆然と、刀を見つめる。

熊の肉だって断ち切れるハズだ。

これは、『対巨人用』の武器だぞ。

 

よくみると、熊の体が硬化していた。ピキピキと音をたてながら、

元の姿に戻っていく。

 

「クソが……!」

 

熊が、両手で俺を握りつぶそうと、力を込める。

体が圧迫され、とても苦しい。

 

ごぼっという音を立てながら、口から血を吐き出す。

意識が遠のいていく。視界がぼやけていく。

 

――だけど、まだだ

 

右手に持っている剣を、熊の目へと振り下ろす。

ざくりと音をたてて、熊の左目に剣が突き刺さった。

熊が絶叫をあげるが、力を緩めようとしない。

俺も突き刺さったまま、グイッと剣を捻る。

 

血が吹き出て、頬などに付着した。

 

「目まで、硬化はできねぇよな……!」

 

腕が、だらりとぶら下がった。

もう力も入らない。

痛みに顔を顰めながらも、眠るように目を閉じた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

痛みに顔を顰めながら、目を開ける。

軽く左手を握り締めながら動くのを確認する。

 

「……生きてる?」

 

どこかのベット――保健室――のようだった。

特に問題は――あった。

 

「うあぁぁぁ……!」

 

体を動かすと、全身に痛みが広がるが

そんなことは気にしない。

この格好のまま運ばれたのだろうか。

というか、あれは全部現実だったんだろうか?

 

ガチャリと保険の扉が開いた。

そこには、ぬらりひょんこと学園長が立っていた。

学園長は俺が眠っているベットへと歩み寄ってくる。

 

「気分はどうかね?」

 

「最悪です。全身が痛いです」

 

すると、学園長は楽しそうに笑った。

ひとしきり笑ったあと、こちらに頭を下げてきた。

 

「ありがとう」

 

「な、なんですか?」

 

学園長は顔をあげて、俺の問いに答えた。

 

「君は、昨日たすけてくれたじゃろう?

数名の生徒を……」

 

じゃあ、あれは全部現実だったのか。

待てよ?じゃあ熊に襲われたのは――

 

「君が助けた、生徒――桜咲刹那――という子が、君を助けたのじゃよ」

 

「俺は助けたあと、あの場を離れたはずですが……」

 

そう。俺はあそこから逃げて、熊に襲われた。

長い距離を立体起動で移動していたのだから、距離も離れていた筈だ。

 

「君を探していると、前方からカッターナイフを大きくしたような刃が

飛んで、その後熊の絶叫が聞こえたと言っておった」

 

「絶叫の聞こえる方向へ辿ったってことですか……というか、そんなに

刀身吹き飛んだのか……」

 

そして、立体起動装置が壊れたのを思い出して項垂れる。

修理するの面倒なんだよなぁ……。

 

「ところで――」

 

学園長が、鋭い眼光でこちらを見た。

姿勢をただし、学園長の目を見る。

 

「君は、何者じゃ?」

 

俺は何者って……。

 

「ただの一般生徒ですよ。特別な道具が使えるだけで

それ以外は全部普通です。特別な力が使えたら、ここにはいません」

 

あんな熊をぶちのめせるような力があったら、保健室にいないと思う。

ただ、道具に頼ってるだけなんだから強いわけがない。

 

「そうじゃな……今はゆっくり休むのじゃぞ?」

 

そう言って、学園長は保健室を出て行った。

天井をみつめながら、瞳を閉じる。

睡魔に身を委ねていった。

 



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異変異常厨二病?

 

 

――戦え!

 

 

無理だ

 

 

――戦うんだ!

 

 

あんな奴らに、勝てるわけ無いだろ!?

お前みたいな、成績上位者ならともかくな!

 

 

――戦わなければ、生き残れない!

大切な人を守るために兵士になったんだろ!?

 

 

…………

 

 

――ほら、もうすぐなんだ。

全部終わったら、皆で……――

 

 

っ……! 馬鹿、猿型が向かってきてる!

ここは食い止めてやるよ! 持って数十秒だろうけどなぁ!

だから約束は守れよ、この死に急ぎ野郎……。

 

 

――だけど……お前はどうするんだよ!?

アイツ以外にももっと……

 

 

ごちゃごちゃ喧しいんだよ! 俺の兵士の生き様だ!

お前だって大切な人に含まれてんだこの馬鹿!

 

 

――死ぬなよ

 

 

そりゃこっちの台詞さ。ほら、振り返らずに行け。

……ったく、最後の最後でカッコつけちまったよ。

こんなふうになったのも、お前のせいだからな……。

ガスも替刃も残り少ないと来たもんだ。

せいぜい、かっこ悪く足掻いてやるよォ!!

 

 

 

 

「――――起きろ!」

 

「ぐっはっ……!!」

 

ゴツンという音が教室に響き渡り、机へと顔面を打ち付ける。

頭を抑えながら前方に視線を向けると、教師がこちらを睨んでいた。

 

「さて、今いった事は確実にテストにでる。でるというか出す。

確実に覚えておくように」

 

はーい、と周りの生徒が返事をした。

 

「せ、先生! ワンモア、ワンモアプリーズ!

聞いてない! 俺聞いてないです!」

 

「すまん。先生最近物忘れが激しくってなぁ。

なんて言ったか忘れてしまったよ」

 

「えっ!? も、もう寝ませんから!

絶対寝ないんでお願いします!」

 

ちょうど、授業終了のチャイムが学校中に鳴り響いた。

 

「よーし、今日の授業はここまで!

今いったことを覚えておくように」

 

「いやいやいや! 絶対覚えてますよね!?

今いったことって言いましたよね!」

 

「はいじゃあ挨拶は省略で解散ー」

 

がやがやと騒ぎながら、大半の男生徒が売店へと走っていく。

そして、大半の女生徒が鞄から弁当箱をとりだし、わいわいと喋りながら食べ始めていった。

 

「――おーい、コウ。早く行こうぜ」

 

友人が俺の肩を叩きながら教室を後にしてでていった。

 

「あー……わかった。ちくしょう」

 

結局先生に教えてもらえなかったことを嘆きつつ、売店へと歩き始めていった。

 

 

 

 

「にしても、レベルたけーよな」

 

「何? 勉強のことか?」

 

焼きそばパンを頬ぼりながら、友人はつぶやいた。

 

「ちげーよ。女の事だよ。

最近の中学生はやばいよな?」

 

「いや、知らん。年下が好きだったのか?」

 

「知らんとは何事だこの野郎!」

 

友人は勢い良く立ち上がりながら、俺の制服をがしりと掴んだ。

 

「ば、馬鹿! 伸びちゃうだろ!」

 

「んなこたぁどうでもいい! 

あのな? 麻帆良学園の女子中等学校のレベルはやばいんだぞ?」

 

「いや、知らん。つーか俺達だって麻帆良学園の高等学校だぞ」

 

「おふぁぇふぁっへぇ、ふぃになるほぉんないるふぁろ!?」

 

「いや、分からん。食べながらしゃべんなきたねぇ」

 

「……お前だって、気になる女いるだろ!?」

 

ゴクンと飲み込みながら、友人は一気に捲したてた。

 

「いや、いない。まだ高校生になってすぐ彼女探しはねーよ……っと、俺は行くぞ」

 

「食い終わるの早くね!? ちょっとまってくれよ!」

 

「いや、待たん」

 

友人をおいて、俺は売店を後にした。

 

 

 

 

 

「――さてと、どーすっかな」

 

授業も終わり、寮へと戻った俺はさっそく立体機動装置の修理に取り掛かった。

 

「……どっか改良する……いや、下手に手を加えて壊したくはないな……」

 

カチャカチャといじりながら、本を読みながら正確に直していく。

 

「……あ? なんだ、このページ」

 

みたこともないページを見つけ、修理を一旦中断してページに目を向ける。

 

 

『――を傷――より、傷口から―最大――級の巨――と変貌――――。

――意志に沿って必要な分――巨人の肉体が自動的に生成―――

―を達成した後には朽ち果て――だし、負担は大―――肉体と精神――。

なお、巨人――うなじ――埋没した状―――』

 

 

「くっそ……所々破けたり、文字が薄くなって読めなくなってる……」

 

これじゃあ解読しようにも、読めない部分が多すぎる。

 

「まぁいいか。後で調べよう」

 

ページを戻して、再び立体機動装置の修理に取り組み始めた。

 

 

 

何時間たっただろうか、時刻はもう丑三つ時だった。

額の汗を拭いながら一息つく。

 

「あー……終わった終わった。そろそろ寝るかな」

 

道具をてきぱきと片づけ、寝る準備を始める。

 

「……そういえば、あの夢は何だったんだろう」

 

首を傾げて考えてしまう。

もうあまり覚えていないが、大切な夢だった気がする。

 

「――まぁ、忘れてるってことはそんなに重要じゃないってことだよな。

よし、寝よ寝よ」

 

ベットの中へと潜りこみながら、瞳を閉じた。

 

 

 

 

――っしゃあ! これで累計討伐数16だ!

 

 

おーい……俺の補佐も忘れんなよ。

 

 

――わかってるって! これでお前に追いついたからな!

 

 

……お前、あの状態で何体屠ってると思ってんだ。

あれも含めると少なくとも30体は超えてるだろうよ。

 

 

――いや、あれになると意識が遠のくっていうか、曖昧になるっていうか……。

 

 

あーあ。俺にもそんな力があればなぁ……こう、親指の付け根あたりを

ガリッとやればできたりしねーの?

 

 

――できるわけないだろ……。

 

 

だよなぁ……ったく、人類に貢献しやがって。お前が羨ましいよ、エレ――――。

 

 

 

 

 

 

「――いっでぇ!?」

 

突然の頭痛に目をさます。

頭を抑えながら上半身をゆっくりと起こす。

ズキズキと頭の奥が痛み、視界がチカチカとする。

 

「んだよ、これ……!?」

 

頭を抑えて、数分程度呻いていると痛みは引いてきた。

 

「うあー、なんなんだ一体……つーか今何時だ」

 

ちらりと時計に視線を向けると、短針が八時を過ぎたあたりだった。

 

「――遅刻じゃねぇかぁ!!!」

 

ベットから跳ね起きて、急いで支度を整えて寮を飛び出していった。

 

「やっべぇ! 完全に遅……刻……?」

 

ガシャンガシャンと腰のあたりがとてつもなくうるさい。

舌打ちをしながら腰に視線を向けると――何故か立体機動装置を身に纏っていた。

 

「は、はぁ!?」

 

いやいやいや、おかしいだろ!

いつも通り、調査兵団の朝練に遅れないように支度したはずだ。

くっそ、替刃を持って来んのを忘れ――

 

「…………」

 

再び、ズキンと頭が痛んだ。

朝の痛みと比べれば気にする程でもない。

今はもっと重要なことがある。

 

調査兵団の朝練てのはなんだ?

替刃を忘れたってのはなんだ?

 

普通は、制服や鞄の事をはじめに考えるだろう。

百歩譲って昨日の調整で間違っちゃった――百歩じゃなく、一千歩――として。

調査兵団ってのは何だよ。確かに文献にはのっていた。

 

「……気づかないうちに厨二病になってたとか笑えねぇぞ」

 

これを普段着と考えるほど俺の頭はまだ腐ってねぇぞ。

 

「……遅刻確定だわ。糞が」

 

制服をとりに、俺は踵を返した。

 

――頭痛が無視できない痛みになっても、我慢して。



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吸血鬼

やっとヒロイン? の一人登場かな!
遅くてごめんなさい!


 

「――桜通りの吸血鬼ぃ?」

 

「そうなんだよ。その反応を見ると知らなかったんだな?」

 

ため息をついて友人の顔をみる。

どうやら、本気にしているらしい。

 

「精神科行ってこい。今時吸血鬼なんているわけないだろ」

 

「本当だっての。つーか何でお前一時間目いなかったんだよ?」

 

「あー……教科書忘れたの思い出してさ。

それで遅れたんだよ」

 

友人はそれで納得したのか、それ以上は追求してこなかった。

 

「その、吸血鬼? の噂どっから出回ってきたんだよ?

誰から言われてそんなの信じたんだ?」

 

「えっと――あれ? 何で俺知ってたんだろ……」

 

「ハァ?」

 

それを聞きたいのはこっちだよ、と呟きながら再びため息をついた。

大体、こんなご時世に吸血鬼なんてお伽話みたいなことがあるわけない。

 

「あ、これは違うクラスの友達から聞いた話なんだけどさ」

 

「……お前噂話好きなのか」

 

教科書を取り出しつつ、友人の話に耳を傾ける。

 

「何でも、変な穴みたいのがある木が最近増えてるらしい。

藁人形で呪いでもやってるんじゃないかと思ってたんだが

穴が結構でかいらしい」

 

「……へぇー。そうなんだ」

 

……アンカーが突き刺さってできた穴の可能性が……。

冷や汗を流しながら、話を聞いていた。

 

 

―――――

 

 

昼食を食べ終えた頃、朝急ぎすぎたせいでノートがないことに気づく。

次の授業まで時間は少しある。

近道――桜通り――を突っ切っていけば十分間に合うだろう。

 

「……」

 

信じているわけではないが……もし、万が一厄介事にでも巻き込まれたら面倒だ。

だが、今急いでこっそりととりに戻れば……。

 

「……さっさと取りに行くか」

 

先生に見つからないようにこっそりと取りに行くと決意し、

教室を飛び出していった。

 

廊下を走りながら思考する。

最近はどうもおかしいことだらけな気がする。

立体機動装置、鬼のような化け物。そしておかしな夢。

更に吸血鬼と来たもんだ。

 

階段を駆け下り、昇降口を飛び出して向かう。

 

「……あれ?」

 

ピタリと足を止めて考える。

別に、桜通りには行かなくてもいいんじゃないか?

ノートがなくたって怒られるだけだし、面倒くさい。

 

「何だ、これ」

 

まるで、無理やり意志を変えられているような気がする。

何かが桜通りに行かせないように――

 

「――考えすぎだな」

 

それに、もうすぐ桜通りだ。

あと少しで寮に戻って、さっさとノートを取っていこう。

 

 

結果的にいえば、杞憂ですんだ。

何事もなく寮にたどり着き、忘れたノートを手に取る。

瞬間、ゾクリと背すじが凍った。

 

「なっ……!」

 

とても形容し難いが、殺気? かもわからない。

ただ、一瞬、歪な何かが起こった?

自分でもよくわからないしわかりたくもない。

ただ、何かしらの厄介事がこの麻帆良で起こっていることだけは分かった。

 

 

――――――

 

 

パキッ、と踏み出した足で枝を踏み折った。

茂みの中へと潜りこみながら、桜通りをちらりと見る。

そこには、二人の中等部の少女がいた。

 

いや、もう一人はとても幼いように見える。

中等部の制服を着てるだけの小学生かなにかか……?

ただ、その小学生? から異質な何かを感じるのは確かだ。

小学生? は少女に覆いかぶさり

 

――首筋に大きく噛み付いた。

 

血がピシャリとはねた。

恍惚とした表情で、血を舐めとっていた。

 

「吸血鬼……? 何かのドッキリじゃないのかよ」

 

柄を強く握り締める。

深呼吸を繰り返し、なんとか心を落ち着ける。

 

「――――――」

 

瞬間、 首元から口を離した吸血鬼は、不意に何かをつぶやいた。

再びゾクリと背筋が凍るとともに直感が警鐘を鳴らす。

勢い良く立ち上がると、柄のトリガーを一つ引く。

パシュッという音と共に、アンカーが吸血鬼の後ろあたりにある木に突き刺さった。

そのままもう一つのトリガーを引くと、体が引っ張られて

前へと引き込まれる。

 

ワイヤーが巻き取られ、高速でアンカーの突き刺さった木まで移動する。

後ろを振り返ると、自分がさっきまでいた場所には氷柱のような何かが

何本も突き刺さっていた。アンカーを離し、地面に着地する。

吸血鬼は、驚いたような表情でこちらを凝視していた。

 

「……貴様のような魔法生徒は見たことがないが?」

 

殺気丸出しで、吸血鬼はこちらを睨みつけた。

……魔法生徒ってのは、何だ?

さっきの氷柱は魔法なのか?

眉をしかめ、必死に考える。

 

「いや、俺は魔法使いじゃない」

 

「……何だと?」

 

訝しげに、吸血鬼はこちらを睨んできた。

 

「では、どうやって認識阻害を超えてきた?

人間は近寄らないようにさせた筈だが……」

 

認識阻害? コイツの言い方からすると、人が

近寄らなくなる魔法?

……これは使えるかもしれない。

 

「ハッ……だろうな。お前みたいな、チンチクリンな奴の

魔法は全然効かねぇよ」

 

吸血鬼の顔が、怒りで真っ赤になった。

 

「貴様……馬鹿にする気か? 私が誰だか知らないのか?

――エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

闇の福音( ダークエヴァンジェル)と呼ばれる始祖の吸血鬼だぞ?」

 

「へぇ……二つ名的なもんがあるのは知らなかったな。

つまり、あんたを殺せば金はがっぽり貰えるんだろうなぁ?」

 

ニヤニヤと、馬鹿にした笑い方でそう告げた。

ダークとか言ってるし、多分賞金首とかだったらいいなぁ

 

馬鹿にして、冷静になれないようにしてやればいい。

隙をみて逃げればいいだろう。

 

「貴様も賞金狙いか……だが、魔法使いではないお前が

どうやって相手をするつもりだ?」

 

腰についている収納ケースから刃を取り出し、柄にガチンと嵌める。

 

「――俺の特技を教えてやろうか」

 

その時、初めて吸血鬼が一瞬怯えたような表情となった。

 

「俺の特技は――――肉をそぎ落とすことなんだよ」

 

アンカーが飛び、近くの木へと突き刺さる。

そのまま吸血鬼のすぐそばまで一気に距離を詰める。

 

「なっ――」

 

――そのまま、横を通りすぎてもう片方のアンカーで奥の木に突き刺し、

吸血鬼から距離をとる――というか逃げる――ことに成功し、ガッツポーズをとる。

寮へと戻る最中、後ろから怒りの咆哮が聞こえたのはきっと幻聴かなにかだろう。




誰だって知らない道具で襲われたら咄嗟に
攻撃とか防御とかできないよね……よね?
でも数百年も生きてたらできそうだよねぇ……そこらへん
適当で本当ごめんなさい。


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