メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜 (ブルー人)
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プロローグ:輝きの前兆

前から書いてみたかったウルトラマンの小説です!
ラブライブに詳しいとは言えませんが、楽しんで頂ければ幸いです。


ーーーー夢を見た。

 

昔ーー自分がまだ幼かった頃の、記憶の夢。

 

夢の中での自分は、いつも泣いていた。全身が痛くて、辛くて、悲しくて、目の前で涙を流す幼馴染のことも守ることができなくて……。

 

自分はなんて情けないのだろうと、自らに怒りすら覚えた。

 

でも、そんな時だ。

 

夢の中で、いつも自分達を助けてくれる、”赤と銀のヒーロー”がやってくるのだ。

 

街を燃やす怪獣へ正義の拳を叩き込み、止めの必殺光線で戦いに終止符を打つ。

 

そんなかっこいいヒーローに自分もなれたらいいなと、そう思ったところで、いつもその夢は終わるのだ。

 

 

かっこよくて、大好きな”ウルトラマン”の夢ーーーー

 

 

◉◉◉

 

 

周りは壊れた建物や粉々に砕け散った船。海岸から見える巨大なシルエットを、ただ呆然と立ち尽くして眺めていた。バスの窓から見える景色を眺めるように、ただただ呆然と……。

 

少年ーー日々ノ未来は、幼くして”死”の恐ろしさを知ってしまった。

 

昔の怪獣映画に出てくるような、この世のものとは思えないくらい恐ろしく巨大な怪物を見て、立っているのがやっとだった。

 

 

「……!千歌‼︎」

 

倒れている幼馴染の少女に気付き、彼女の側へと駆け寄る。

 

「いっ……た……!いたいよ未来くん……!」

 

「大丈夫、きっと大丈夫だから……!……立てるか?」

 

目に涙を溜め、首を横に振る千歌。どうやら足を捻ってしまったらしい。他に大きな怪我が見当たらないのが不幸中の幸いだが、これでは歩くこともままならない。

 

未来はその小さな身体で歩けない千歌を背負い、できるだけ後ろに見える巨大な”影”から離れるように必死で走った。

 

街の人はほとんどが避難を終えているせいか、途中で助けてくれる者などいるわけがない。

 

(やっぱり一人で飛び出すんじゃなかった……!)

 

今更後悔しても遅いのは百も承知だが、愚痴を吐かずにはいられなかった。

 

 

 

ーーーー()()は突然現れた。

 

空から突然やってきた、青い身体の怪獣。

 

舌をまるで鞭のようにしならせ、剣のように街を切り裂く。身体から撃ち出した物体は着弾した瞬間に爆発し、街を焼け野原へと変えた。

 

 

(父さんと母さんは無事なのか……ッ⁉︎曜は……⁉︎果南さんは……⁉︎みんな……‼︎)

 

刹那、走っていた道路が割れ、同時に凄まじい衝撃と風が未来と千歌を襲った。

 

二人の身体は風に吹かれる紙のように簡単に吹き飛び、硬い地面をゴロゴロと転がる。

 

「ぐっ……う……!」

 

頭を打った。流れる血が頬を伝い、同時に鋭い痛みが襲ってくる。

 

「み、らい……く……」

 

「千歌……⁉︎」

 

地面に到達した時に強く身体を打ったのか、千歌は意識を朦朧とさせながらも未来に手を伸ばした。

 

それに応えるように、未来もまた小さな手を必死に伸ばす。

 

 

「千歌……!しっかりしろ!ちか……!」

 

なんて情けない。たった一人の女の子すらも救えないなんて。

 

未来は怪獣を、そして自分の非力さを憎んだ。

 

(俺に……力があればぁ……ッ‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー光だ。

 

突如として空から姿を現したソレは、怪獣を薙ぎ払い、地上に降り立ったのだ。

 

赤と銀の身体を持った、巨大な”光の巨人”。

 

もう一体怪獣が、と思ったのも束の間、二体の巨大なシルエットが戦い始めた。

 

街を守りながら戦う巨人を見て、ようやく彼は人間の味方だと理解した未来と千歌は、徐々に目を輝かせていった。

 

 

◉◉◉

 

 

「おっきろーーー!!」

 

「うわぁ⁉︎」

 

耳元で大音量の叫びをお見舞いされ、思わず飛び起きる未来。どうやらバスの中で眠りこけてしまっていたらしい。

 

横に立つ二人の少女を見やり、未来は口を開いた。

 

「おはよう。千歌、曜」

 

「おはよ、未来くん」

 

「おはヨーソロー!バスの中でも寝てるなんて珍しいね。寝不足?」

 

「うーん……睡眠時間は十分なはずなんだけど……」

 

座っているのは一番後ろの席。

 

隣に腰掛ける二人を一瞥し、未来は上と下に”青”が広がる窓の外へ視線を向けた。夏の象徴と言っても過言ではない海と、太陽が浮かぶ空。

 

数年前怪獣の脅威に曝されていたとは思えない光景が広がっている。

 

「一人暮らしだと色々大変そうだしね。今度うちの旅館に泊まりに来たら?温泉気持ちいいよ〜!」

 

「あ、じゃあ私も行っちゃおうかな」

 

高海千歌と渡辺曜。どちらも未来の幼馴染だ。

 

千歌の家は旅館を営んでおり、曜の父親はフェリーの船長……と、どちらも中々変わった家柄を持っている。

 

「……?千歌、それなんだ?」

 

「んー?これー?」

 

千歌が一枚のチラシを持っていることに気がつく。自慢気に見せてきたその文面には「輝け!スクールアイドル部(仮)大募集‼︎」と大きめのフォントで書かれている。

 

「私ね、今度スクールアイドル始めるんだー!」

 

「そんなのまで作ったんだ⁉︎」

 

「スクールアイドルって……あれか?大会とか開かれてる……」

 

「そう!あ〜楽しみだなぁ〜!」

 

今まで部活動に興味を示さなかった千歌なのだが、突然スクールアイドルときたものだ。

 

「アイドルねえ……できるの?」

 

「できるできないじゃない!やってみせる!」

 

「やる気だねえ、千歌ちゃん!それじゃ、私も一肌脱ぎますか!」

 

何か知らないがやる気満々の二人を見て、未来は安心するように微笑んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

ステルス機能を発動した宇宙船。

 

内浦の上空を浮遊するソレは、空を埋め尽くすほど巨大な物だった。

 

「メビウスの生体反応が感知できん……!」

 

「奴め……どこに隠れているのだ……」

 

輪になるように並ぶ四人の宇宙人。

 

メフィラス星人。

 

グローザム。

 

デスレム。

 

ヤプール。

 

不気味な四人が揃うこの場は異様な空気に包まれている。

 

「皇帝のレゾリューム光線を受けて尚生きているとは……しぶとい奴だ」

 

「どのみち殺す。同じことだ」

 

「奴を炙り出す為……手始めに、こんな怪獣はどうでしょう?」

 

メフィラス星人は地球へとある怪獣を放った。

 

数年前、地球を襲ったのと同じーーーー

 

 

 

 

「宇宙斬鉄怪獣ディノゾール」

 




次回はメビウス1話で登場した、あのディノゾールが登場!


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第1章 光の巨人と輝く水
第1話 輝きの出逢い



まずは本編1話目!
メビウスとAqoursのもう一つの物語をお楽しみください!


 

浦の星学院、その校門前。

 

桜が舞い、綺麗な木漏れ日の下、校門をくぐる初々しい新入生達の姿が目に映る。

 

その傍らでは盛んにチラシ配りなどの勧誘を行っている、様々な部活。生徒数の少ないこの学校ではそれこそ新入生の争奪戦になるだろう。

 

そして、ここにも一つーーーーーー

 

 

◉◉◉

 

 

「スクールアイドル部で〜す……」

 

もうほとんど人の通っていないにもかかわらず、消えそうな声で勧誘を続けている部活があった。

 

「大人気ぃ……スクールアイドル部で〜す……」

 

重い空気を纏う二人の女生徒を、日々ノ未来は少し離れた所から眺めていた。

 

(大丈夫かあれ……)

 

見たところ捕まえた新入生はゼロ。二人ーー千歌と曜の暗い面構えからそれは容易に想像できた。

 

スクールアイドルといえば、都会では結構メジャーなものかと思っていたが、内浦の若者は興味がないのだろうか。

 

……いや、単にあの二人の力不足ということもあり得るが。

 

(千歌も曜も、呼び込みは一応ちゃんと声が張っていた。……押しが足りないのか……?)

 

なんだか見ているだけ、というのも忍びないと感じ、未来はついつい二人の近くへと歩み寄っていった。

 

「苦労してるみたいだな」

 

「見てたなら手伝ってよ〜……」

 

「ごめんごめん。余りにも必死だったから、水を差しちゃ悪いと思って」

 

「未来くん、何かいい方法ないかな……?」

 

チラチラと助けを求める眼を向けられ、少したじろいでしまう未来。昔から千歌のこのような態度には弱いのだ。

 

「とりあえず、多少強引にでも仮入部とかさせてみたらどうだ?あとは流れでなんとかなるさ!」

 

「それはちょっと横暴すぎるよ」

 

ごもっともな意見。

 

とはいえ、やはり部員を集めるとなれば、それなりにグイグイいかなければ誰も寄っては来ない。中には「やりたいけど勇気がない!」なんて人も数多く存在するはずなのだから。背中を押してあげるのも、スカウトマンの大切な役目だ。

 

「ん……?」

 

急に千歌の目の色が変わったかと思うと、何も言わずに立ち上がり、すぐさま駆けて行った。

 

未来と曜も千歌が向かった方へ視線を向ける。そこにいたのはーー

 

 

「美少女ーーうぅわたぁっ⁉︎」

 

千歌に寄りかかっていた曜がバランスを崩して転げ落ちるのを尻目に、未来は千歌の後を追った。

 

茶髪と赤髪の美少女。おそらくは両方とも新しく入った1年生なのだろう。

 

「あのっ!スクールアイドルやりませんか⁉︎」

 

「ずらっ⁉︎」

 

「「ずら……?」」

 

「い、いえっ」

 

茶髪の少女は口元を抑え、必死に隠そうとしているが、未来には訛りを言ってしまったことがバレバレであった。今年の新入生は面白い子が多いのかもしれない、と内心ほんの少しだけわくわくする。

 

「大丈夫!悪いようにはしないから!あなた達きっと人気が出るっ!」

 

「うぅ、で、でもマルは……」

 

ここで引いてはおしまいだ!と、未来も口説きに参戦することを決意するのであった。

 

「そう。君達みたいな美少女なら、人気爆上げでグッズなんかも売られて……」

 

ーーーーっと、言い過ぎたか?

 

「とにかく人気出るよ君達!」

 

我に返った未来は慌ててそう訂正した。あまり押しが強すぎると逃げられてしまうかもしれない。

 

「……!」

 

隣に立つ赤髪の子は千歌の持つチラシに目を奪われている様子だった。スクールアイドルに興味があるのだろうか。

 

「興味あるの⁉︎」

 

「ライブとか、あるんですか⁉︎」

 

「ううん。これから始めるところなの。だからね、あなたみたいな可愛い子に是非!」

 

「」

 

千歌が赤髪の少女の肩に軽く手を置いた瞬間、超音波の如き悲鳴が響き渡った。

 

「ピギィャアハアァァアァアアアァァアァア⁉︎⁉︎⁉︎」

 

「ういっ⁉︎」

 

「お、お、お、お姉ちゃぁあ〜ん!!」

 

「ルビィちゃんは究極の人見知りずら……」

 

驚くことはそれだけではなかった。

 

「きゃぁああぁああぁあ⁉︎」

 

なんと次は空から黒髪の美少女が降ってきたのである。ーーいや、桜の木に登っていただけなのだろうが。

 

「ちょ、色々大丈夫……?」

 

心配そうな顔で詰め寄る千歌。

 

ーーそして最後に、極め付けがこれだ。

 

「ふっふっふーーーーここはもしかして地上ぉ?」

 

「大丈夫じゃねえ……」

 

「ということは……あなた達は下劣で下等な人間ということですか……」

 

明らかに中二病拗らせている女の子だ。リボンの色からしてこの子も一年生なのだろうが……

 

「それより……、足大丈夫?」

 

千歌がつん、と彼女の左足を突くと、身体を強張らせて虚勢を張る少女。

 

「イッ……!たいわけないでしょう⁉︎この身体は単なる器なのですから!ヨハネにとっては、この姿はあくまで仮の姿。おっと、名前を言ってしまいましたね。堕天使ヨハn」

 

「善子ちゃん?」

 

「へ?」

 

黒髪の少女の痛い演説の途中で言葉を発したのは、茶髪の少女だった。

 

「やっぱり善子ちゃんだ!花丸だよ。幼稚園以来だねぇ〜!」

 

(知り合いなのか……?)

 

「はぁ、なぁ、まぁ、るぅう⁉︎人間風情が、何を言って……⁉︎」

 

「じゃーんけーんポン!」

 

急に繰り出されたじゃんけんで黒髪の少女が出したのはーー一風変わったチョキだった。

 

「そのチョキ!やっぱり善子ちゃん!」

 

「善子言うな!私はヨハネ!ヨハネなんだからねー!」

 

と、捨台詞を残して逃げ去っていく中二病少女。

 

「どうしたの善子ちゃーん!」

 

「待って〜!」

 

続いて茶髪と赤髪の少女も連鎖するように後を追う。

 

結局、勧誘にまでは至れなかった。

 

「あの子達……後でスカウトに行こう!」

 

「ははは……」

 

「そうだなぁ、じゃあ俺も付き合うよ」

 

「えっ⁉︎ほんと⁉︎」

 

「どうせやることないしな」

 

「ありがとう未来くん!」

 

笑顔を見せる千歌に向かって、返答するように未来も笑う。

 

直後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー『こっちに来てくれ!』

 

 

「……んあ?」

 

青年のような、澄んだ声が耳朶に触れ、思わず間の抜けた声が漏れる。

 

ーーーー『頼む!時間がないんだ!』

 

「何言って……」

 

ふと校舎裏へ顔を向けると、この世の物ではない”何か”がそこにあった。オレンジ色に輝き、ふわふわと宙を浮いている。

 

未来はそれに、吸い寄せられるかのように近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー千歌ちゃん違うよ。その人は3年生。しかも……」

 

「う、うそっ⁉︎生徒会長⁉︎」

 

「とりあえず、生徒会室に来ていただけませんか?」

 

「は、はいぃ……ってあれ?未来くんは?」

 

未来の姿が忽然と消えていることに気が付いた千歌は、うろうろと視線を泳がせた後、どこかへ行ってしまったことを理解した。

 

「もうっ!付き合ってくれるって言ってたのに!」

 

 

◉◉◉

 

 

『起きてくれ、日々ノ未来くん』

 

「ん……ってあれ⁉︎」

 

意識が戻った未来を待っていた景色は、想像もしていなかったものだった。

 

周りには何もなく、ただ光の空間だけが広がっている。身体は宙に浮いているはずなのに、浮遊感は全くない。

 

『突然連れてきてしまってごめん。君に話したいことがあったんだ』

 

「なんだよお前⁉︎ここはどこだよ⁉︎帰せよこら!」

 

未来は目の前でプカプカと浮いているオレンジ色の球体を鷲掴みし、乱暴に上下へと振った。

 

『あわわわわ!!やめてやめて!話を聞いてよ!』

 

「話……⁉︎」

 

『単刀直入に言おう、”ウルトラマン”は知っているかい?』

 

その単語を耳にした直後、険しかった未来の表情が自然と冷たくなっていった。

 

「……知ってるさ、もちろん。この街に住んでる人なら誰でも知ってるだろうな」

 

と、いうより日本全土に知れ渡っているのではないかと思う。

 

数年前に起きた、”あの事件”ーーーーあんなことがあれば、誰でも忘れることなんかできない。

 

『なら良かった。……僕の名前は”メビウス”。光の国からやってきた、ウルトラマンさ』

 

「は、はぁ?」

 

全く意味がわからない。光の国?メビウス?聞いたこともない言葉だ。

 

「そんなウルトラマン知らないぞ!俺が知ってるのは確か……なんていったっけ……?だいたい光の国ってなんだよ!」

 

『やっぱり……”彼”は伝えてなかったのか。まあ、そんな性格じゃないしね』

 

「なにをわけのわからないことを……」

 

『君が言う”ウルトラマン”とは、数年前に青い怪獣を倒した人のことかい?』

 

「あっ……そう!そうだ!赤と銀の!」

 

『うーん……赤と銀かぁ……僕達はそういう人が多いからなあ』

 

初耳だ。と未来はなんとなくがっかりする。

 

自分達を救ってくれたウルトラマンは、どうやら大勢存在するらしい。

 

「……で?そのウルトラマンさんが俺に何の用だよ?」

 

『受け入れるのが早くて助かるよ。君の身体を、僕に貸して欲しい』

 

「は?」

 

『君の身体を、僕に貸して欲しい』

 

二回言ったということは、かなり大事な部分なのだろう。

 

「ちょっ⁉︎身体を貸すって……⁉︎」

 

『今僕は、とある宇宙人の攻撃の影響で実体を保つことができないんだ。誰かの身体を借りないと、ウルトラマンとして活動できない』

 

「それでなんだって今……!」

 

『今すぐじゃないと間に合わないんだ!もう地球に危機が迫っている!戦うにはこれしかない!』

 

「んなこと言われても……!ウルトラマンってのは沢山いるんだろ⁉︎その光の国とかに連絡して、助けて貰えばいいじゃないか!」

 

未来がそう捲し立てると、メビウスは見えない表情で、少しだけ悲しんでいるように見えた。

 

『できないんだ……敵の妨害で、地球とウルトラの星を繋ぐワープゲートが封鎖されているから。僕自身も、ゲートを開く力なんか残ってない』

 

「で、でも……」

 

『とりあえず身体は借りるからね⁉︎大丈夫!悪いようにはしないから!』

 

「なんかすごいデジャヴが‼︎」

 

オレンジ色の球体が自分の身体に入ってくるのを、未来はただ呆然と眺めていた。あまりにも現実味がない話を、無理やり頭に押し込まれた。

 

 

◉◉◉

 

 

「はっ……!」

 

目が覚めると、そこには何気ない校舎裏の風景が広がっていた。

 

身体にも特に異常はなく、むしろ気絶する前より良い気がする。

 

「ゆめ、だったのか……?」

 

『夢じゃないよ』

 

「だあああああああああ!?!?」

 

頭の中に誰かが直接話しかけてくる。その”誰か”は考えなくてもわかふだろう。

 

『これで君は、僕の力を使えるようになった。これから二人で頑張っていこう!』

 

「勝手すぎるだろ!それでも正義のみかーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

ノイズがかった情景が、頭の中を過る。

 

赤と銀の身体。こちらに顔を向けて、優しく語りかけてくれた、ヒーロー。

 

ーーーー○▲■□ーーーーー

 

 

『……どうかしたのかい?』

 

「いや、なんでも……」

 

『そっかーーーーさて」

 

『あれ⁉︎』

 

未来は咄嗟に、身体のあちこちに力を入れた。が、動かすことは愚か揺れもしない。

 

『まさか……』

 

「うん、僕達は自由に表に出る人格を変えれるみたいだよ」

 

『フザケンナ!返せてめえ!」

 

『あ』

 

メビウスの魂を跳ね除けるようイメージすると、勝手に身体の所有権が未来へもどってきた。意外と簡単に入れ替われるらしい。

 

「今度やったら本当に追い出すからな……!」

 

『わかったよ。……でも、本当に引き受けてくれるんだね』

 

「まあ……それはしょうがないし」

 

『ははは……ご協力感謝するよ』

 

未来の心中は複雑な思いで噛み合っていた。

 

かつて自らの命を救ってくれたウルトラマンの力ーーそれは同時に、怪獣達と戦わなければならない、という使命も課せられることになる。

 

(やるからには……手は抜けないな)

 

 

◉◉◉

 

 

「■■■■ーーーーーー!!!!」

 

宇宙。

 

音の伝わらないはずの空間で、怪物の雄叫びのようなものが響いた。

 

 

 

()()は地球に向かって一直線に落下してくるように見えた。隕石のように、自分の意思とは関係なく、地球を滅ぼすためだけに送り込まれた”害獣”。

 

 

「■■■■ーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

それは、紛れもなく”ディノゾール”の巨体だった。

 

 




次回はついに初変身&戦闘となります。


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第2話 戦いの決意

やっとウルトラマンとしての姿でメビウスが登場します!


「遅かったね。今日は入学式だけでしょ?」

 

「まあ、色々ありまして……」

 

「はい、回覧板と、お母さんから」

 

未来と千歌と曜は海の上を通り、とあるダイビングショップまでやって来ていた。

 

そこにはもう一人の幼馴染、松浦果南の姿があった。

 

果南は怪我をしている父親の代わりに家業を手伝う為、今は学校を休学しているが、もちろん3年生には進級している。つまりは、三人の先輩でもあるのだ。

 

「どうせまたみかんでしょう?」

 

「文句ならお母さんに言ってよ」

 

持ってきた物を渡した後は、このダイビングショップで少しだけ時間を潰す。

 

三人は外に設置してあるテーブルの席に適当に座った。

 

 

「それで、果南ちゃんは新学期から学校来れそう?」

 

「うーん、まだ家の手伝いも結構あってね。父さんの骨折も、もうちょっとかかりそうだし」

 

「大丈夫なんですか?お父さん」

 

「あはは。そこまで大事じゃないから、安心して」

 

並べられたボンベを運ぶ果南の姿は、高校生とは思えないほどに苦労の跡を感じる。休学までして家の手伝いをする彼女は、尊敬の思いすらある。

 

「そっかぁ……。果南ちゃんも誘いたかったなあ」

 

「誘う?」

 

「うん!私ね!スクールアイドルやるんだ!」

 

「っーーーー」

 

何かあったのか。一瞬だけ果南の動きがフリーズしたように止まったのだ。

 

「ふぅん……。まあ私は、千歌達と違って3年生だしね」

 

「知ってるー⁉︎すごいんだよー!」

 

「はいっお返し」

 

「ゔぁっ⁉︎」

 

スクールアイドルの何たるかを語ろうとする千歌に干物を突きつける果南。ーーそれはまるで、千歌の言葉を遮ったようにも見えた。

 

「また干物〜?」

 

「文句はお母さんに言ってよ。ま、そういうわけで、もうちょっと休学続くから、学校でなんかあったら教えて」

 

「う、うん」

 

『未来くん。あれは何だい?』

 

「い”っ⁉︎」

 

突然頭の中にメビウスの声が響き、上ずった声が飛び出してしまった。

 

「……?どうかしたの未来くん?」

 

「すごい汗かいてるけど……」

 

「ちょ、ちょっとお腹痛くて!果南さんトイレ借りますね!」

 

「いいよ。場所わかる?」

 

「わかりまっす!」

 

そう言うと未来は瞬時に席を立ち、脱兎の如くトイレへと向かっていった。

 

 

 

 

『どうして逃げたんだい?』

 

「メビウス!話しかけるのは極力周りに誰もいない時にしてくれ!びっくりするから!」

 

『あ、ご、ごめん。あの乾いた物が気になってつい……』

 

「干物だよ。魚とかを乾燥させたやつ」

 

『食べ物なのかい?』

 

「ん、まあ食べたり出汁取ったり……」

 

不意に一つの疑問が、未来の頭に浮かんだ。

 

メビウスと自分は今一体化している。ならば感覚などは共有されるのだろうか。

 

「なあ、俺が何か食べたら、お前にもその味が伝わるのか?」

 

『もちろん。身体が動かせないだけで、五感全てを共有してると言っていい』

 

「へえ、なんか変な感じだな」

 

『悪い宇宙人の中には、身体を奪った後に意識を潰してしまう者もいるから、注意してね。僕は絶対にやらないけど』

 

「やられても困るけどな」

 

つまり今の未来のスペックは、メビウスのものとプラスされていることになる。弱体化しているとはいえ、身体能力等も並の人間より遥かに高いだろう。

 

(それにしてもウルトラマンが自分の中にいるって、なんか実感ないな……)

 

 

◉◉◉

 

 

バスを降り、未来と千歌は自宅への帰路を歩いていた。

 

二人の家は隣同志であり、幼馴染という関係が築かれているのもその理由が大きい。

 

「どうにかしなくちゃなあ……。せっかく見つけたんだし……」

 

「申請、通らなかったんだっけ?」

 

「あー!そういえばあの時どこに行ってたの⁉︎手伝ってくれるっていったくせにー!」

 

「え⁉︎いやぁ……それは……」

 

「生徒会長の人にも色々言われたし!散々だよー!」

 

「わ、悪かったよ。明日からはちゃんと手伝うからさ」

 

「……ほんとに?」

 

「ああ、ほんとだ」

 

一気に晴れた笑顔を見せる千歌。本当は大して落ち込んでいなかったんじゃないかと思うほど切り替えの早さだ。

 

「でも今日のことは許しませーん!」

 

「ええ⁉︎なんで!」

 

「今度喫茶店で何か奢ってくれたら許してあげるー!」

 

「お、おまっ!調子にのるなぁ!」

 

「わー怒ったー!」

 

走り出す千歌を反射的に追いかける未来。周りが夕日で燃えている中のその風景は、まさに青春の1ページのようなシチュエーションだった。

 

「ん……?」

 

唐突に立ち止まり、空を見上げる千歌。あまりにも突然なことだったので、未来は目を丸くして同じ方向へと視線を向けた。

 

「どうかしたのか?」

 

「なんだろう、あれ……」

 

()()……?」

 

 

確かに、空の上に何か光る物が見えた。まだ星がはっきり見える時間帯ではない。

 

そしてしばらく見ていると、ソレはこちらに落下してきているとわかった。

 

 

『ーーーー!未来くん‼︎』

 

(……‼︎だから話しかけるのは二人きりの時だって言っただーー)

 

『今すぐ彼女を連れてこの場から離れるんだ!早く‼︎』

 

(はあ……⁉︎なんでーーーーってまさか⁉︎)

 

『あれはーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■ーーーー!!!!」

 

『怪獣だ!』

 

 

◉◉◉

 

 

世界が揺れる。

 

街中に降り立った巨体を見るのと同時に、過去の光景がフラッシュバックしてきた。

 

なぜなら奴はーーーーーー

 

 

 

「なんで……あいつが……!」

 

「う……あ……!」

 

「……!千歌!」

 

青い怪獣を一目見ると、千歌は全身を震わせて酷く怯え始めた。

 

この反応も当然だ。今視界に映っている化け物は、自分達にトラウマを植え付けた原因そのものなのだから。

 

 

「い……や……!いやぁ……!」

 

「くそ!」

 

膝を折り、頭を抱えてその場から動かなくなってしまった千歌を背負い、怪獣がいるのとは真逆の方へ駆け出す。

 

ーー数年前(あの時)と、全く同じ状況だった。

 

 

 

(悪いメビウス……!まずは住民の避難を優先したい!)

 

『当然!……だけど気をつけて、ディノゾールの舌は回避するのは難しいんだ。どうか、死なないように!』

 

(死ねるかよ……!やっと、やっとだぜ……⁉︎あのクソ野郎をぶっつぶせる時がきたんだ!!)

 

 

 

「助けて……!未来くん!未来くん!」

 

完全にパニック状態に陥っている千歌。

 

メビウスがディノゾールと呼んでいたあの怪獣ーー奴こそ、数年前この内浦に現れーーーーいや、世界で初めて確認された怪獣だ。

 

あの時は同時に現れたウルトラマンに倒されたが……。

 

「まさか、何体もいるってわけか……⁉︎」

 

『いや。ディノゾールは確かに群れで行動するけど……、今回地球に来たのは一体だけみたいだ』

 

「じゃあなんで一体だけ……」

 

「未来くん、何言ってるの……?」

 

先ほどよりも落ち着きを取り戻したのか、千歌は未来の背中に顔を沈めながらそう尋ねた。

 

「なんでもない!それより早く避難……!」

 

周りには自分達の他にも逃げ惑う人々で溢れている。皆災害が起きた時の避難指定場所に向かっているのだろう。それも、できるだけ遠くの。

 

「いたっ……!」

 

「……⁉︎」

 

すぐ側で一人の少女が転んだことに気づき、未来は千歌を下ろし、近くまで走った。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「え、ええ……。ちょっと擦りむいただけ……。ッ……⁉︎」

 

やはり足を強く痛めているようで、一人で歩いてもおそらくかなりの時間を要するだろう。

 

「……千歌。もう大丈夫か?」

 

「うん、ごめんね……。だいぶ落ち着いてきた」

 

「なら、この人と一緒に避難所へ向かってくれ」

 

「それはいいけど……未来くんはどうするの?」

 

「俺は少しやらなくちゃならないことがあるんだ!頼んだぞ!」

 

「ちょっと!未来くん⁉︎」

 

その場から飛び出した未来が向かったのは、もちろんディノゾールがいる方向だった。

 

千歌は少女と未来を交互に見た後、迷いつつも少女の肩を抱えて立つのを手伝う。

 

「乗って!避難所まで連れてくから!」

 

「あ、ありがとう!」

 

千歌は彼女を背負うと、必死に足を動かして避難所がある方へと走り出した。

 

 

「本当にありがとう……。私、この街の避難場所がわからなくて……」

 

「へ?観光か何か?」

 

「ううん。引っ越してきたの」

 

「そうなんだ……。災難だね、いきなりあんなのに遭遇しちゃって……」

 

 

千歌は一度振り返って未来がいないかを確認しようとするが、ディノゾールが近づいてきていることを考えるととてもそのような行動はできなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーーウルトラマンとなり、怪獣と戦う。

 

改めて考えると、どんなに危険なことかが理解できる。

 

未来は路地裏に身を隠し、建物の隙間から見えるディノゾールの姿を一瞥した。

 

 

『大丈夫かい?』

 

「正直怖いさ。小さい頃にあいつを見た時よりもな。……ただ」

 

『ただ?』

 

「ウルトラマンがついてくれているんだ。それだけで、俺は安心できる」

 

『はは。照れるなぁ……』

 

 

未来は深く深呼吸し、覚悟を決めたように目つきを変えた。

 

「で、どうすれば変身できるんだ?」

 

『左手を前に構えて。あとは僕の名前を叫べばいいんだ』

 

「……よし」

 

手の甲が前にくるように、左手を構える。するとオレンジ色の光が発生し、瞬く間に赤いブレスが現れた。

 

メビウスの力の元となる、”メビウスブレス”だ。

 

クリスタルサークルを回転させ、思い切り左腕を突き上げる。

 

 

 

「メビウーーーース!!」

 

全身が光に包まれる。

 

自分の身体と、メビウスの身体が交わっていくのがわかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「■■■ーーーー!!」

 

耳をつんざくような叫びを上げながら舌を伸ばし、容易く数々の建物を切り裂きながら移動するディノゾール。

 

破壊することだけが目的なのか。とにかくこの怪獣は、残虐の限りを尽くしていた。

 

が、ディノゾールは急に活動を止めたかと思うと、ゆっくりと後ろを振り向いたのだ。何もないはずの空間を。

 

 

 

 

 

 

天から降り注ぐような、光が見える。

 

その光を見た瞬間、避難しようと散り散りになっていた住民さえも足を止める。

 

そして、”まさか”と身震いした。

 

 

 

 

赤と、銀。

 

二色の体色の中心に輝く、青い光。紛れもなく、”ヒーロー”の姿がそこにあった。

 

そして、誰かが呟いた。

 

 

 

 

「ーーーーウルトラマン」

 

胸を張る光の巨人が現れるのと同時に、溜まっていたものが一気に噴き出るように歓声が上がった。

 

 

「ウルトラマンだ!」

 

「ウルトラマンが……また来てくれたんだ!」

 

 

逃げるのも忘れ、メビウスというウルトラマンが助けに来てくれたことをただ歓喜する人々。

 

それは光の巨人が、平和としての象徴であることを表していた。

 

 

 

 

 

(すっげぇ!家が!学校が!めちゃくちゃ小さい!)

 

『未来くん』

 

(はははは!!人がゴm『未来くん!』あ、ごめん、なんだって?)

 

この姿になっても脳内会話は健在のようだ。

 

『今この身体を動かせるのは君だ。集中して、目の前の敵を倒すことを考えるんだ』

 

(任せとけ。俺は……!)

 

「セヤッ!」

 

(ウルトラマンなんだからな!)

 

両手を構えながらジリジリと距離を縮めていくメビウス。……だが、やはり初めての戦闘なだけあって、恐怖が行動に現れていた。

 

『ずいぶんと慎重なんだね。意外だよ』

 

(ばかやろう!人間で言えば熊と戦うのとそう変わらないサイズ感だぞ⁉︎)

 

 

先手を取ったのはディノゾールだった。

 

舌を振動させ、一気に解放。刀の如き切れ味を持った斬撃が殺到してくる。

 

「フッ!」

 

飛び込み前転の形で回避、そして懐へ潜り込む。

 

一気に肉薄したメビウスは、そのままディノゾールの腹部へと渾身の右ストレートを放った。

 

「■■■■ーーーー!!」

 

が、中々に硬い装甲で覆われているようで、大したダメージは見られない。

 

ディノゾールは背中からミサイル弾のようなものを射出し、それはまたもメビウスに向かって一直線へ伸びてくる。

 

『メビュームブレードだ!』

 

(なに⁉︎そんなカッコいいのあるの⁉︎)

 

メビウスブレスへ意識を集中させる。すると光で構成された剣身がブレスから現れた。

 

「ハアッ!!」

 

迫り来る焼夷弾の全ての軌道を見切り、一つずつ、尚且つ迅速に切り落としていく。

 

『すごいよ未来くん!初めて戦うような動きじゃない!』

 

(なんか……わからないけど……目がすごい冴えてる)

 

どんなに速い攻撃でも、視認することができる。そして、それに対応することも容易だ。

 

(これもウルトラマンのなせる業か!)

 

全ての弾を切り落とし、一旦メビュームブレードを解除する。

 

ディノゾールの繰り出す舌を避け、接近。その巨体に掴みかかり、海の方へと投げとばした。

 

 

「■■■■ーーーー!!」

 

断末魔らしき鳴き声を上げ、海岸近くに落ちるディノゾール。

 

 

『未来くん、トドメを!』

 

(ああ!)

 

 

メビウスの情報が、頭の中へと流れ込んでくる。

 

ーーーーメビュームシュート。必殺技と言ってもいい、強力な光線技。

 

 

 

メビウスブレスのクリスタルサークルを回転させ、上の方で両手を揃える。

 

「セヤァッ!!」

 

最後に手で十字を組み、オレンジ色の光線がディノゾールへと放たれた。

 

 

「■■■■ーー…………!!」

 

光線が直撃したディノゾールの身体は爆散し、跡形もなく完全に消え去った。

 

 

 

 

どっと湧き上がる歓声を背に、メビウスの身体は光に包まれ、徐々に消滅していった。

 

 

◉◉◉

 

 

 

「未来くんのばかばかばかばかばかぁーーーーっ!心配したんだから!!」

 

「ご、ごめんて!イタイイタイ!!」

 

避難所。

 

ポカポカと未来を叩く千歌を、曜はあくまで微笑ましく眺めている。

 

「ほんと、怪我なくてよかったよ」

 

「もう!びっくりしたんだから!生きてたのが奇跡だよっ!」

 

「ごめんって……。あ、そういえば、あの子は無事だったか?」

 

千歌に任せていた少女のことを思い出し、ふと尋ねる。

 

「ああ、あの子なら大丈夫。怪我も大したことなかったし。果南ちゃんもお姉ちゃん達も無事だよ」

 

「そうか……よかったあ……」

 

安心した途端に疲れが波のように押し寄せてきた。

 

ーーーー今度は、守ることができたと言っていいんじゃないのか?

 

幼い頃の借りは返した。

 

あとは正真正銘、これからもウルトラマンとして人々を守らなくてはならない。

 

(これからもよろしく頼む、メビウス)

 

『こちらこそ、だ。君と僕で、地球を脅威から守ろう』

 

 

◉◉◉

 

 

「……やはり、この街に潜んでいたようですね」

 

「人間の身体まで借りて……ククッ、奴はもう実体が保てないでいるようだ」

 

「まずは奴を倒すのが先だな。この街に、続けて怪獣共を送り込む」

 

暗い空間の中で話す四人。

 

彼らこそーー皇帝と呼ばれる、エンペラ星人に仕える四天王達だ。

 

 

 

「皇帝の手を煩わせずに、私達だけでメビウスを始末するのです」

 

 

 

 




いきなりエンペラ星人の名前を出しちまいました。まあ、もちろん登場はまだまだ先ですが。


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第3話 奇跡の転校生


3話目です!


 

「それにしても、すごかったよね。昨日のアレ!」

 

「うん!悪い怪獣をえいっ!やあっ!とおっ!あっという間に倒しちゃうんだもん!」

 

「ウルトラマンかあ……。未来くんも見てたでしょ⁉︎」

 

平静を装いつつ窓の外の流れる景色を見ていた未来の身体が若干動揺するように揺れた。

 

顔が引きつっていないか心配しながらも、千歌と曜の方へ顔を向ける。

 

「あ、ああ、昨日のウルトラマンね。今朝のニュースでもその話ばっかやってたよな」

 

「かっこよかったよね〜!……でも、前に私達を助けてくれたのと違ったような……」

 

「そういえばあの時も来てくれたんだっけ。私は避難してて見れなかったんだけど……。千歌ちゃんと未来くんは、前にもウルトラマンに助けてもらったんだよね」

 

 

ーーーー以前ディノゾールがこの内浦に来た時に現れたウルトラマン。

 

体色はメビウスに似てるが、他の形状や技はメビウスと全く異なっていた。彼もウルトラマンということは間違いないはずなのだが……

 

 

(なあメビウス。前に地球に来たウルトラマンの名前って何なんだ?お前なら知ってるだろ?)

 

『それは…………』

 

何を渋っているのか、メビウスは言葉を詰まらせる。余計に気になった未来は、さらに後押しをした。

 

(あの人も、光の国からの使者だったんだろ?)

 

『……うん。でも彼は……もう……』

 

(なんだよ。勿体ぶらないで教えてくれよ)

 

自分達の命を救ってくれた、恩人の名前。ただそれが知りたかった。

 

今は自身がウルトラマンとなって戦う身。常にその恩人の名前を心に留めて置きたかったのだ。

 

 

『……ベリアル。それが彼の名前だ』

 

(ベリアル……、ウルトラマンベリアル、か。かっこいい名前だな!今はどうしてるんだ?)

 

『それが……』

 

 

まるで幼い子供のように胸を高鳴らせる未来とは反対に、メビウスの声はますます小さくなっていった。

 

『彼は僕よりも前に、地球を狙う侵略者と戦っていた。だけど……、彼はその宇宙人に敗れ、行方不明になってしまったんだ』

 

(なっ……!)

 

予想もしていなかった答えに、今度は未来が言葉を失う。呆気にとられている未来に、メビウスはさらに続けた。

 

『その宇宙人こそ、僕が力を失うことになった原因、エンペラ星人だ』

 

(エンペラ星人……)

 

『いずれ奴は、君の前にも現れる。その時には……』

 

(わかってる)

 

今の自分はウルトラマンメビウス。この地球を守れる唯一の存在だ。

 

どんな宇宙人や怪獣がやってきても、必ず勝つことが使命。例えそれが、ウルトラマンベリアルを倒したエンペラ星人でも。

 

(俺が……やらなくちゃならないんだ)

 

 

◉◉◉

 

 

「もう一度?」

 

「うん!ダイヤさんのとこ行って、もう一度お願いしてみる」

 

「でも大丈夫なのか?部員はまだ……」

 

「諦めちゃダメなんだよ!あの人達も歌ってた!”その日は絶対来る”って!」

 

浦の星学院の生徒会長、黒澤ダイヤ。

 

彼女はいかにも真面目、といった雰囲気で、スクールアイドルのようなものは嫌いと噂で聞いたことがあった。

 

やはり先日部活申請に行った千歌は追い返されたらしい。

 

 

「ふふっ……。本気なんだね……よっ!」

 

「あ!ちょっと!」

 

千歌の持つ申請用紙を奪い取る曜と、ほんの少し怒ったような表情をつくる千歌。

 

「私ね、小学校の頃からずーっと思ってたんだ。千歌ちゃんと一緒に夢中で、何かやりたいなーって」

 

「曜……?」

 

「だから!水泳部と掛け持ちーーだけどっ!はい!」

 

曜はいつの間にか取り出していたペンで申請用紙に自分の名前を書き、それを両手で千歌へと手渡した。

 

「曜ちゃん……!曜ちゃあん!」

 

「く、苦しいよ〜」

 

大袈裟に曜を抱きしめる千歌。……こんなことができるのも女子同士だからだろうか。

 

「よかったな千歌。これで部員は二人!」

 

「え、二人ぃ?」

 

「へ?」

 

曜は目を細めてジリッと未来へと詰め寄ってきた。思わず半歩引く未来だが、さらに曜は歩み寄ってくる。

 

「未来くんは入らないの?スクールアイドル部」

 

「はいぃ?いや俺男なんだけど……」

 

「マネージャーとしてなら、問題ないでしょ?」

 

「いやでも……」

 

「未来くんも入ってくれるの⁉︎」

 

一気に顔を近づける千歌に圧倒され、未来はついに承諾の言葉を口にしてしまう。

 

「わ、わかったよ……入るよ」

 

「やったぁ!ありがとう二人共!」

 

嬉しそうに無邪気な笑顔を見せる千歌に、曜と未来は自然と暖かい笑顔になっていった。

 

『未来くんて、千歌ちゃんって子に対しては甘いんだね』

 

(……うっさい)

 

◉◉◉

 

 

「お断りしますわ」

 

申請書を渡されて、ダイヤが最初に放った言葉に、三人は肩をすくめずにはいられなかった。

 

「やっぱり、簡単に引き退ったらダメだって思って!きっと生徒会長は、私の根性を試しているんじゃないかって!」

 

「違いますわ!何度来ても同じとあの時も言ったでしょう⁉︎」

 

「むぅ……!どうしてです!」

 

「この学校には、スクールアイドルは必要ないからですわ!」

 

「なんでです!」

 

机を挟んで身を乗り出すダイヤと千歌。顔を近づけてそう主張する二人の姿には、どちらにも譲れない何かを感じた。

 

「あなたに言う必要はありません!だいたい、やるにしても曲は作れるんですの?」

 

「きょく?」

 

「……ラブライブに出場するには、オリジナルの曲でなくてはいけない。スクールアイドルを始める時に、最初に難関になるポイントですわ」

 

(妙に詳しいな……)

 

ラブライブーーとは、いわゆるスクールアイドルの大会といったところだ。自分達のダンス、曲。スクールアイドルとしての実力を競い合う舞台。

 

「東京の高校ならいざ知らず。うちのような高校では……そんな生徒は……」

 

 

曲がなければダンスもできない。スクールアイドルを始めるどころじゃない。

 

「作曲か……」

 

『そんなに大変なことなのかい?』

 

(そりゃ、まあアイドルは曲に合わせて踊るもんだし……。ウルトラマンに馴染みがあるかはわからないけど)

 

『へえ。一度僕も見てみたいな』

 

(申請が通らなきゃどうしようもないな……)

 

◉◉◉

 

 

「一人もいなぁい……。生徒会長の言う通りだったぁ……」

 

「大変なんだね。スクールアイドル始めるのも」

 

「男子も全然だったよ……」

 

教室の机に突っ伏して脱力している三人。

 

やはり浦の星みたいな田舎の高校では、作曲ができるくらい音楽に精通している生徒など見つからないのか。

 

「うぅ〜こうなったら!私が!なんとかして!」

 

小さい子供向けの音楽本を取り出して熟読し出す千歌だが、それで作曲ができる頃には既に卒業を間近にしているだろう。

 

「はーい皆さん。ここで、転校生を紹介します」

 

担任の教師がそう言うと、一気に教卓へと生徒達の視線が引き寄せられる。

 

ざわめき始めた教室のドアを開けて入ってきた長髪の少女を見た瞬間、未来と千歌は思わず「あっ」と小さな声を上げた。

 

「今日からこの学校に編入することになったーー」

 

バレッタで留めてあるハーフアップの髪が揺れる。

 

清楚な雰囲気が漂う彼女は、静かに口を開いた。

 

「東京の音ノ木坂という高校から転校してきました。桜内梨子です、よろしくお願いします」

 

(昨日の……)

 

「奇跡だよっ!」

 

唐突に席を立ち上がった千歌は梨子へ手を伸ばし、思いもよらぬ偶然ーー否、奇跡を喜んだ。

 

 

「あ、あなた達は!」

 

千歌と未来に気付いた梨子も驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

ーーーー全てが、始まる瞬間だった。

 

 

 

 

 

「一緒に、スクールアイドル、始めませんか⁉︎」

 

千歌の問いに、梨子は暖かな表情を浮かべた後、落ち着いた声音で言った。

 

 

「ごめんなさいっ」

 

 

◉◉◉

 

 

「なに……⁉︎皇帝から⁉︎」

 

「はい。一旦地球から離脱しろとの命令が出ています。なんでも”ボガール”が近づいているとのことです」

 

「まさか奴の仕業か……?四天王を追放されても、我々の邪魔をするとは……!」

 

「とにかく面倒な事態なのは明らかです。皇帝も様子を見ようとお考えでしょう」

 

「奴がやってくるということは……当然あのウルトラマンも現れるはずです。ボガールを追ってね」

 

 

内浦の上空を飛行している宇宙船は軌道を変え、空高くへと昇っていった。

 

 

「どうか我々が手を下す前にやられぬようお願いしますよ……ウルトラマンメビウス」

 

 

 





できるだけ早めにツルギを出したいなーとは思っています。


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第4話 迫る狩人

今回は少しだけあのウルトラマンが登場。


時刻は深夜三時を回っていた。

 

街灯だけが視界を照らし、少し肌寒く感じる夜風が頬を掠める。

 

日々ノ未来はすぐ横に海岸が見える歩道を、大きな欠伸をしながら歩いていた。

 

「ふぁあ……。なんだよこんな夜中に……」

 

『ごめん未来くん。少し、気になる気配を感じて……』

 

「気になる気配……?」

 

ぐっすりと眠りに落ちていた未来を、メビウスは()()()に現れてまで起こしに来たのだ。

 

「とにかく用があるならすぐに済ませてくれ。俺は明日も学校なんだ」

 

『そのつもりだけどーーーー』

 

不意に言葉を切るメビウス。

 

彼と一体化している未来にも、メビウスが”何か”に警戒していることが手に取るようにわかった。

 

周囲の空気がピリピリと全身を刺す。威圧とも捉えられる緊張感がその場を漂っていた。

 

『……未来くん。少し身体を借りるよ!』

 

「え?」

 

奇妙な感覚が全身を駆け巡る。直後、メビウスが主人格へと切り替わったのが理解できた。

 

『……一体何なんだ?この感じ……なんか……』

 

「うん……まるで僕達を誘っているみたいだ」

 

少し先に見える森から、何者かの気配が発されている。まるでこちらに手招きするような、自ら未来とメビウスを引き寄せている様子だった。

 

 

慎重に森へ足を踏み込む。やはり、この近くに誰かが潜んでいる。

 

『気圧されそうだ……』

 

「無理もないよ。君はまだ、こういう経験は少ないんだから」

 

『こういう経験……?』

 

「命を狙われる経験だよーーーーハァッ!」

 

瞬時に未来の左腕にメビウスブレスを出現させたメビウスは、どこからともなく飛来してきた光弾をメビュームブレードで切り落とす。

 

『なっ……!敵襲か⁉︎』

 

「そうみたいだね。未来くん、悪いけど少しだけこの身体で戦わせてもらうよ」

 

森の中を駆ける。

 

暗闇に隠れながら光弾を放ち続けている謎の敵の場所を探るが、素早く移動しているためか正確には導き出せない。

 

なんとか迫る攻撃をメビュームブレードで防ぐのが精一杯だ。

 

「この戦い方は間違いなく……意思を持った敵ーー宇宙人の可能性がある」

 

怪獣のような獣ではなく、他の惑星の住人。高度な知能を持つ敵。

 

未来からすれば生まれて初めて遭遇する者だった。

 

『防戦一方だぞ……!大丈夫なのか⁉︎』

 

「心配しないで……!もう居場所はーーーー」

 

メビュームブレードの剣身が輝き、闇の中に残像のような軌道を描く。

 

「見切った!」

 

メビュームブレードから放たれた光の斬撃が草木を切り裂きながら暗闇へ溶け込む。

 

刹那、甲高い音が響き、同時に先ほどまで未来とメビウスを追い詰めていた光弾も途切れた。

 

『逃げた……のか……⁉︎』

 

「……」

 

風の音が不気味に二人を惑わす。

 

気配が遠ざかったことで安心したのか、メビウスは未来の左腕からメビウスブレスを消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『「………………ッッッ!!!!」』

 

警戒を解いたのが間違いだった。

 

一瞬の内に、二人の目の前に現れた巨大な”口”が、獲物を喰らおうと大きく開く。

 

咄嗟に横っ飛びで回避するメビウス。代わりにその場に生えていた大木と雑草を食い荒らした後、その巨大な口は森の奥へと消えていった。

 

 

「今のは……まさかボガール……⁉︎」

 

『なんだそれ……?』

 

「別名高次元捕食体とも言われている怪獣さ。でも、かなり高い知能を持ってる、厄介な奴だよ」

 

『なんだってそんな奴が地球に……⁉︎』

 

「わからない。もしかしたら、エンペラ星人が呼び寄せたのか、あるいは……」

 

メビウスは俯き、何か考えるような素振りを見せた後、再び顔を上げて言った。

 

「とにかく、このままじゃこの街に住んでいる人達も危険だ。ボガールは何でも食べてしまう。これからは奴らの捜索もしていかないと」

 

『そ、そんなにやばい奴らなのか⁉︎』

 

「まだ近くにいるかもしれない。家に帰るまでは、僕が身体を動かしていていいかい?」

 

『わかった、頼む』

 

ウルトラマンとしての責務を担って、まだ日が浅いというのに、いきなりとんでもない相手と対面してしまった。

 

ーーーー未来の中に、小さな不安が生じた。

 

 

◉◉◉

 

 

「どうしても作曲できる人が必要で〜!」

 

「ごめんなさ〜い!」

 

体育の授業。

 

女子の方へ視線を向けると、千歌の必死なスカウトをことごとくスルーする梨子の姿が校庭にあった。

 

転校してきてからずっとあんな調子だ。

 

梨子はピアノを習っていて、作曲もできるらしい、と未来は千歌から聞いていた。先日ディノゾールの襲撃があった日に避難所で話したのだろう。

 

現状浦の星で作曲をこなせる生徒は、おそらく梨子しかいない。千歌から見ればそんな貴重な人材をみすみす見逃せるわけがないというものだ。

 

『彼女は、どうしてあんなにスクールアイドルを拒むんだろう?』

 

(さあ……。何か事情があるんだろ)

 

 

◉◉◉

 

 

休み時間になると、千歌と曜は中庭に飛び出し、個人的にダンスの練習を始める。まだ部が成立したわけではないが、休み時間に踊る分には問題ないだろう。

 

「またダメだったの?」

 

「うんっ。でもあと一歩あと一押しって感じかな!」

 

「本当かそれ?」

 

一旦休憩のためにダンスを中断する二人。

 

「だって最初は”ごめんなさいっ!”だったのが、最近は”……ごめんなさい”になってきたし!」

 

「それ、嫌がってないか……?」

 

「だいじょーぶ!いざとなったらーーほいっ!なんとかするし!」

 

ニッコリと笑って子供用の音楽本を取り出す千歌。自分で曲を作るつもりなのだろう。……その事態はあまり考えないほうがいいかもしれない。

 

「あ、そういえば曜、衣装の方は?」

 

「ああっ!描いてきたよ!」

 

趣味でコスプレの衣装等を普段から製作している曜には、衣装作りを頼んでおいたのだ。

 

(少し気が早いかもだけど、まあ大丈夫だろ)

 

 

 

教室へ移動した三人は、曜が描いてきてくれた様々な衣装のデザイン案を拝見することになった。

 

「「お、おわぁ……」」

 

「どお?」

 

最初に曜が見せつけてきたスケッチに描かれていたのは、衣装というには少々堅すぎるデザインだった。それと曜自身の趣味が丸出しである。

 

「すごいな……。でもこれ、衣装っていうより制服……」

 

「スカートとかないの……?」

 

「あるよ!」

 

活き活きした表情で次のページへ移る曜。

 

今度は婦警の制服を着込む千歌の絵が描かれていた。

 

「い、いやぁ、これも衣装っていうか……。もうちょっとこう、可愛いのは……」

 

「だったらこれかな!」

 

お次は戦闘服、しかも武器まで所持してるときたものだ。楽しそうにイラストを描いてる曜の顔が容易に想像できた。

 

「もっと可愛いスクールアイドルっぽい服だよ〜」

 

「と、思って!それも描いてきたよ」

 

「最初からそれ見せろよ……」

 

スケッチブックをめくると今度は違和感の無い、まさしくアイドル、という印象の衣装が描かれており、苦い表情をしていた千歌の表情がみるみる晴れていく。

 

「わぁ〜!すごい!きらきらしてる!」

 

「でしょー!」

 

「でも、こんな衣装作れるのか?」

 

「うんっ!もちろん!なんとかなる!」

 

「本当⁉︎よーし!くじけてるわけにはいかない!」

 

申請用紙を取り出し、どこかへ行こうと教室から飛び出す千歌の後を、曜と未来は慌てて追いかけた。

 

「どこ行くんだ⁉︎」

 

「生徒会室!」

 

「えぇ⁉︎でもまだ部員は……」

 

「ダイジョブー!」

 

全く根拠の無い言葉を振りまきながら、千歌は廊下を走り抜ける。

 

『”せいとかいしつ”というのはなんだい?』

 

(……生徒の中で一番偉い人がいる場所だよ。部活の設立も、生徒会長を通してじゃないと成立しない)

 

『じゃあ、ついに”スクールアイドル”というのを見れるんだね!』

 

(いや、このパターンはたぶん……)

 

 

◉◉◉

 

 

「お断りしますわ!」

 

(やっぱりな)

 

堅苦しい雰囲気が漂う生徒会室。

 

奥のテーブルにつく一人の女子生徒ーー生徒会長でもある黒澤ダイヤの姿があった。

 

「5人必要だと言ったはずです。それ以前に、作曲はどうなったのです?」

 

「それはー!たぶん……いずれ!きっと!可能性は無限大!」

 

アホ毛を揺らしながら熱烈に語る千歌とは対照的に、ダイヤは冷ややかな視線を送り続けている。

 

(どうにかならないかな……。メビウスを入れても4人だしなあ)

 

『ち、ちょっと。間違っても僕の存在を他人に言ったりしちゃダメだよ』

 

(冗談だよ)

 

 

 

 

「で、でも、最初は3人しかいなくて大変だったんですよね。()()()も」

 

千歌のその言葉に反応するように、ダイヤの眉が少しだけ上がる。

 

「知りませんか?第二回ラブライブ優勝!音ノ木坂学園スクールアイドル、ユーズ!」

 

千歌がそう続けていると、徐々にダイヤの身体がプルプルと震え出し、明らかに気が立っている様子を見せる。

 

机を何度か突き、千歌の言葉を途切らせると、ダイヤは席を立ち、窓際の方へ背を向けた。

 

「……それはもしかして、μ's(ミューズ)の事を言っているのではありませんですわよね?」

 

「あ、あれもしかしてミューズって読む……」

 

「おだまらっしゃーーーーい!!」

 

長い黒髪を揺らして激昂するダイヤ。そのままズカズカと千歌の方へと近づく。

 

「言うに事欠いて、名前を間違えるですって⁉︎あぁん⁉︎」

 

「ひっ……」

 

「μ'sはスクールアイドル達にとっての伝説!聖域!聖典!宇宙にも等しき生命の源ですわよ!その名前を間違えるとは!片腹痛いですわ……!」

 

「ち、チカくないですか……?」

 

普段の冷静さを失って千歌へと詰め寄るダイヤを見て、曜と未来は引きつった顔になる。

 

「あれ、生徒会長ってこんなだったっけ……?」

 

「いやぁ……?」

 

何度か廊下や集会で見かけたことはあるが、その時の落ち着いたイメージでは考えられない態度であった。

 

「ふんっ!その浅い知識だと、たまたま見つけたから軽い気持ちで真似をしてみようとか思ったのですね?」

 

「そ、そんなこと」

 

「ならば、μ'sが最初に9人で歌った曲、答えられますか?」

 

「え、えと……」

 

ダイヤの問いに、ただ呆然と立ち尽くす千歌。それを見たダイヤは物凄い剣幕で千歌へと迫る。

 

「ぶーっ!ですわ!」

 

左右に身体を揺らして不正解を表現する生徒会長様に、未来と曜はさらに唖然とする。

 

「”僕らのLIVE 君とのLIFE”。通称”ぼららら”。次、第2回ラブライブ予選で、μ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだ場所は?」

 

「ステージ……?」

 

「ぶっぶー!ですわ!秋葉原UDX屋上。あの伝説と言われるA-RISEとの予選ですわ」

 

この時点で、未来は気付いていた。この人はかなりのスクールアイドルオタクだと。

 

マネージャーとしての仕事をこなす為に、未来は自宅でスクールアイドルについて色々と調べていた。μ'sやA-RISEという有名なグループのことも一通り調査を終えている。

 

そんな彼だからこそ断言できる。今ダイヤが出題している問題の回答は全て正解であることがわかっていたからだ。

 

(そんなにスクールアイドルが好きなら、どうしてダイヤさんは申請を許可してくれないんだ……?)

 

スクールアイドルのことを語る時に興奮を抑えきれない彼女がなぜ、と疑問に思う。

 

(何にせよ今回もダメみたいだな……。なら)

 

未来は千歌達に背を向けると、生徒会室の出入り口へと足を踏み出した。

 

「あれっ?どこ行くの?」

 

「ちょっと用事」

 

「うええっ⁉︎未来くんちょっと!」

 

ダイヤは未来の後を追おうとする千歌の制服の襟部分を掴み、強制的に自分の方へと振り向かせる。

 

「まだ終わっていませんよ」

 

「ひえぇ……」

 

 

 

廊下へ出た未来は、すぐさま2年生教室が並ぶ階へと急ぐ。

 

(先に部員を確保した方が申請が通る可能性が上がる!なら、マネージャーの俺が、スカウトに勤しんでやるぜっ!)

 

誰も見ていないことを確認しながら廊下を全力疾走する。

 

 

 

 

『ぶっぶっぶー!ですわ!』

 

途中でなぜか全校放送でダイヤの声が聞こえたが、なりふり構わず一人の少女を探した。

 

 

◉◉◉

 

 

「おっいたいた」

 

「……?あなたは確か……」

 

「同じクラスの日々ノ」

 

探していた少女ーーーー桜内梨子がいたのは音楽室だった。

 

ピアノを悲しげな瞳で見つめていた彼女は、未来が部屋に入ってくると何やら慌てた様子でピアノから視線を離したのだ。

 

「どうして音楽室(ここ)に?」

 

「もちろん、桜内さんを探してたんだよ」

 

「私を?」

 

未来は軽く首を縦に振ってから、単刀直入に言った。

 

「スクールアイドル、やってみない?」

 

そう言った直後、露骨に表情を曇らせる梨子。咳払いをした後に返答した答えはーー

 

「……ごめんなさい」

 

「……そっか。やっぱり、ピアノで忙しいのか」

 

「うん……。高海さんにも誘われてたけどーーあなたは、スクールアイドル部のマネージャーなんだよね。二人を支える……」

 

「うーん……まだ部は出来てないけど、いずれはそうなるな。人数足りてないんだ」

 

先ほどから俯いてばかりの梨子。

 

他のことでスクールアイドルをやる暇がないなら仕方がないか、と未来は踵を返しかけて……。

 

「高海さんって、すごい子だよね。やりたいことに正直で、なんだかいつも活き活きしてる」

 

「……?まあ、昔からあいつはあんな感じだよ」

 

「え?昔から?」

 

「幼馴染なんだ。曜もね」

 

梨子の曇っていた表情に驚きの色が混ざる。

 

「でも千歌の奴、前までは部活とか全く興味示さなかったんだよ。いきなりスクールアイドル始めたいとか言い出したからさ。なんか少し嬉しくなって、マネージャーとして支えることができたらいいなって思ったんだ」

 

半強制的にマネージャーとして仕立て上げられたのは内緒にしたが、言ったことに間違いはなかった。

 

千歌と曜の、スクールアイドルとしての活躍を、一番近い所で見守りたかったのだ。

 

 

「そう、だったんだ」

 

「ま、親心って言ったら変だけど……。いつも隣にいた身としては、俺も曜も、ほっとけないのかね」

 

今度こそ音楽室を後にしようと、梨子に背を向ける未来。数歩進むと、後ろから小さい声が耳朶に触れた。

 

「この前は、助けてくれてありがとう。高海さんにも、改めてお礼言っておいてください」

 

「どういたしまして。……スクールアイドル部は、いつでも君を歓迎するよ」

 

最後にちゃっかり勧誘を行ってから、未来は音楽室を後にした。

 

 

◉◉◉

 

 

「……ここが、地球……」

 

黒髪をショートボブで揃えた少女は、山の中から見える街を見下ろしていた。

 

少し暑そうな紺色のコートを見に纏う彼女の瞳は、狩人のように鋭い眼光が宿っている。

 

 

「本当に、ここに”奴”がいるの……?」

 

『……いや、いるのは本人じゃないな。おそらくは手下だ』

 

妖しく蒼色に輝く光の球体がコートの中から飛び出し、少女の周りをゆっくりと漂う。

 

『行こうステラ。俺達の復讐を、果たす時がきたんだ』

 

「うん。わかってる……」

 

少女の右腕には、青い光沢を放つブレスが装着されていた。

 

 

 




最後に出てきたのはもちろんアイツですが、本格的な登場はもう少し先になると思います。


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第5話 暴威の捕食者

今回は戦闘回


「前途多難すぎるよ〜……」

 

海辺で肩を落として腰掛ける千歌。横には並ぶように未来と曜が座っている。

 

「じゃあ……やめる?」

 

「やめないっ!」

 

「だよね!」

 

このやりとりは千歌のやる気を出させるために、曜が毎度口にしているものだ。

 

曜曰く、「そう言ったほうが千歌ちゃん燃えるから」らしい。

 

「やっぱり人数揃わないとダメかぁ……。桜内さんには断られちゃったし……」

 

「あれ?未来くんも説得してたの?」

 

「マネージャーだからな」

 

やはり作曲ができるという能力はかなりの美点だ。本当は土下座して靴を舐めても梨子を部員に加えたいが、そこまでしたら完全なる迷惑行為の域だ。

 

(なあメビウス、作曲とかできる?)

 

『ははは、逆にどうしてできると思ったんだい?』

 

(っすよねぇ……)

 

千歌が作曲するという最悪のケースは何としてでも避けなくてはならない。幼少児向けの音楽本を見せてきた時点でこの先どうなるかが容易に想像できる。

 

「あっ!花丸ちゃん!おーい!」

 

「あ、入学式の時の……」

 

後ろを振り向いて手を振る千歌を見て、静かに道を歩いていた茶髪の少女ーー国木田花丸は立ち止まると、「こんにちは」と軽く頭を下げて挨拶を交わしてきた。

 

「わぁ〜やっぱりかわいい〜……!」

 

「ん?あれは……」

 

花丸の後ろに生えている木の物陰から飛び出す赤い髪が見える。おそらくは花丸といつも一緒にいる少女だろう。

 

「あっ!ルビィちゃんもいるー!」

 

「ピギィ……!」

 

千歌はポケットから一つの飴を取り出すと、餌で猫を釣るようにゆっくりとルビィの方へと近寄って行った。

 

「ほーらほらこわくな〜い。食べる?」

 

「わ……えへへ……」

 

ルビィが道路に足を踏み込むと、千歌は持っていた飴を真上に放り投げ、ルビィの視線が上空へと逸らされたところを見計らってガッチリと抱きつく。

 

「捕まえたっ!」

 

「うっう〜!う〜!……むっ」

 

落下してきた飴が見事にルビィの口の中へと収まる。

 

(なんだこの光景……)

 

 

 

 

 

花丸とルビィを加えた未来達三人はバスに乗り、各々の帰路へと向かった。

 

「スクールアイドル?」

 

「すっごく楽しいよ。興味ない?」

 

やはりバスの中でも花丸とルビィを勧誘する千歌だったが、二人共期待していた答えを返してはくれなかった。

 

「いえ、マルは図書委員の仕事があるずら。……いや、あるし」

 

「そっかぁ……。ルビィちゃんは?」

 

「へっ⁉︎あ、え……ルビィはその……、お姉ちゃんが……」

 

「お姉ちゃん?」

 

「ルビィちゃん、ダイヤさんの妹ずら」

 

「えっ⁉︎あの生徒会長の⁉︎」

 

衝撃の事実が発覚。

 

思い出してみても似てるところが少ない姉妹だと思う未来であった。

 

「なんでか嫌いみたいだもんね、スクールアイドル」

 

「あんなに詳しいのにな」

 

「はぃ……」

 

落ち込むように俯くルビィ。入学式の時に見せた反応を考えると、ルビィ自身はスクールアイドルというものに興味を持っているはずだ。だが身内にそれを嫌う者がいるとなれば、やりずらいのもわかる。

 

「今は、曲作りを先に考えたほうがいいかも」

 

「そうだな。何か変わるかもしれない」

 

「そうだねぇ。花丸ちゃんはどこで降りるの?」

 

「今日は沼津までノートを届けに行くところで」

 

「沼津まで?ノートを?」

 

「はい、実は入学式の日ーーーー」

 

 

花丸が言うには、どうやら入学式の時に木から落ちてきた女の子ーー津島善子がクラスの自己紹介の時に急に教室を飛び出して、それ以来学校に来ていないのだと言う。

 

ーーーーおそらくは厨二全開の自己紹介をぶっ放してしまったのだろうと予想する。

 

「色々、大変そうだな……」

 

「あはは……」

 

 

 

 

ふと、バスから見える窓の外の景色へ視線を移す。

 

ゆったりと流れていく空、木々、コンクリートの道路。その全てがほんの一瞬だけ、止まったかと思うほどのスローモーションに感じた。

 

大木に紛れて、一つの人影が見える。

 

全身に悪寒が駆け巡り、未来は思わず目を見開き、その人影を凝視した。

 

そこにいたのは、白衣に身を包む中年の女性だった。不気味にこちらを眺めていて、不快感を覚えるような舌舐めずりを見せる。

 

ーーーー女の口が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『…………ッッ⁉︎』」

 

直後、凄まじい衝撃がバス全体を襲い、バランスを崩した車体がガードレールへと突っ込んでいった。

 

「きゃああっ!?!?」

 

「ピギッ……⁉︎」

 

車内をゴロゴロと転がる未来達。

 

咄嗟に運転席の方を見ると、運転手が気を失っていることに気がつく。

 

「ルビィちゃん、大丈夫ずら⁉︎」

 

「う、うん……」

 

「な、なにぃ……⁉︎事故……?」

 

頭をさすりながらよろよろと起き上がる千歌だったが、窓の外の光景を見た途端に悲鳴を上げてその場に尻餅をついてしまう。

 

「どうしたの千歌ちゃん⁉︎」

 

「か、か、かかか……!」

 

「か?」

 

曜と未来もすぐさま窓へ駆け寄り、外を確認する。

 

「「……!」」

 

灰色の肌に鋭い目。背中には特徴的な巨大な口を思わせる被膜を持っている。

 

「怪獣……⁉︎なんでいきなり……⁉︎」

 

「早くバスから出るんだ!」

 

気絶している運転手も中から降ろし、千歌達は急いでその場から離れようと走る。その一方で、未来は千歌達とは真逆の方へと疾駆していった。

 

上空に見える怪物の顔を見上げる。

 

『未来くん!奴は……!』

 

「ああ。あのでっかい口……、俺達を襲ってきた奴だな」

 

『うん。ボガールだ!』

 

左腕を構え、メビウスブレスを出現させる。

 

『いいかい未来くん。今回は前に倒したディノゾールとはわけが違う。用心して』

 

「わかった!」

 

クリスタルサークルを右手で回転。天を貫くように左腕を突き上げる。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「なんでまた怪獣が〜⁉︎」

 

「ピギィィイイイイイ!!お姉ちゃああああん!!」

 

「もうこりごりずら〜!」

 

必死に逃げ惑う少女達の中、バスの運転手を背負っていた曜が未来がいないことに気がついた。

 

「未来くん……っ⁉︎」

 

周囲を確認するが、周りにいるのは千歌、ルビィ、花丸の三人だけ。

 

「どこ行っちゃったの……⁉︎もう!」

 

ボガールの足音が迫ってくるのを感じ、仕方なく逃げることを優先する曜。

 

(もう……千歌ちゃんに心配かけるようなこと、しないでよ……!)

 

 

◉◉◉

 

 

オレンジに輝く光がボガールの背後へと降り立ち、その中心から巨人の影が見える。

 

ーーそれは他でもない、ウルトラマンメビウスだった。

 

「セヤ!」

 

勇ましくボガールへと両手を構えるメビウスであったが、内心は不安で埋め尽くされていた。

 

(うぉ……近くで見るとすごいキモい……)

 

前回襲われた時は夜中ということもあってか、はっきりとした姿は拝見できなかったのだ。

 

想像以上の異様さに思わず生唾を飲み込む。

 

「ハァッ!」

 

メビウスブレスに添えた右手から光刃、メビュームスラッシュを放ち、牽制する。

 

「■■■■ーーーー!!」

 

弾丸の如き速度で迫るメビュームスラッシュを、ボガールは片手のみで弾き、お返しとばかりに紫色に禍々しく色付いた光弾を繰り出してくる。

 

「ウワァアッッ!!」

 

反応しきれずに胸部へ直撃。後方へ吹き飛ばされたメビウスは近くの建物を下敷きにして倒れてしまった。

 

(いってぇ……!反撃喰らっちまった!)

 

『すぐに次の攻撃に移るんだ!』

 

「ハッ!」

 

次々に放たれてくる光弾を回避し、隙を探る。

 

流石に高度な知能を持っていると言われるだけあって、ディノゾールと違いそう簡単には隙を見せてくれない。光弾を回避しながらでの接近はほぼ不可能だろう。

 

(なら……!)

 

両腕をクロスさせエネルギーを集中。一気に前方へ解放し、バリアを展開する。

 

これもメビウスの技の一つ、メビウスディフェンサークルだ。

 

「ハァァァアアア!!」

 

『未来くんダメだ!それは強引すぎるーーーーッ!』

 

バリアで光弾を防ぎながら突進し、ボガールとの距離を縮める。

 

(近づけばこっちのもんだ……!)

 

瞬時にバリアを解除し、今度はメビュームブレードをメビウスブレスから伸ばし、ボガールへと振り上げる。

 

『未来くん!よすんだ!!』

 

(もらった……!!)

 

 

 

刹那、ボガール背中の被膜が膨大に広がり、メビウスを飲み込まんと迫ってきた。

 

(えっ……?)

 

『未来くん!!』

 

「グアァ……!!」

 

咄嗟に両腕広げ、左右から迫り来る被膜を受け止める。が、体勢を崩してしまったせいか力負けしている。

 

「ウッ……!アァ……!」

 

ボガールの狙いはメビウスを倒すことではなく、”食う”ことだと、この時やっと理解した。

 

「ウワァアッッ!!」

 

両腕が塞がっている所を見計らい、ボガールはメビウスを蹴り飛ばす。

 

地へ倒れ伏し、動きが鈍くなっている瞬間を狙って、ボガールはさらに追い討ちの光弾を放ってくる。

 

「ウワァァアアア!!!!」

 

胸に宿る輝きーーーーカラータイマーが青から赤へと変わり、点滅し出す。

 

立ち膝でなんとか身体を支えるのがやっとだった。一瞬でここまで体力を奪われるなんて余りにも予想外すぎる。

 

(甘く見てた……!)

 

ディノゾールよりも知能が高い、ただそれだけで、こんなにも遅れをとるとは。

 

「グアアッ……!」

 

ボガールが両手を突き出すと、メビウスの全身は硬直したかのように身動きがとれなくなり、その場を離脱することすらままならない。

 

(メビュームシュートで一気に……!)

 

メビウスブレスに右手を添える。

 

だが次の瞬間、ボガールは突然メビウスの視界から姿を消した。それが瞬間移動であることは感覚的にわかったが、反応できるかは別のことだ。

 

「ヘアァアッッ!!」

 

背後から鋭い爪の斬撃を受け、今度は顔から地面へと倒れ込んでしまう。

 

(くっそ……が……!)

 

『未来くん!気をしっかり保つんだ!このままじゃやられーー』

 

未来はぼやける視界の中、状況を確認しようとするも、全身の痛みで考えがまとまらないでいた。

 

メビウスの声すらもただただ木霊するばかりで、全く頭の中に入ってこない。

 

(死ぬのか……俺……?)

 

なんとか力を振り絞り、立ち上がるメビウス。その前方ではボガールがトドメの光弾を作るため、エネルギーを溜めている。

 

灰色の手の中に灼熱の塊が生まれ、それをメビウスに向けて放とうとした次の瞬間ーーーー

 

 

 

 

 

 

「■■■■ーーッッ⁉︎」

 

蒼い光線がメビウスの頰を掠め、通り過ぎるようにしてボガールの頭部へと直撃した。

 

『……⁉︎今のは……⁉︎』

 

「■■■■ーーーー!!」

 

急所に当たったのか、ボガールは先ほどまでの余裕を失い、狂ったように痛みに苦しんでいる。

 

やがてボガールは徐々に縮小化し、森の中に紛れて見えなくなってしまった。

 

 

 

(逃げた……?助かったのか……⁉︎)

 

咄嗟に後方へ振り向くが、そこには誰の姿もなかった。

 

『今のは……、かなり遠距離からの攻撃だ。それにあの光線は……』

 

「ウゥ……!」

 

メビウスの身体が光に包まれ、分散するように消滅していく。

 

(くそ……意識が……)

 

 

◉◉◉

 

 

「あっ!千歌ちゃん、未来くんが!」

 

「見つかったの⁉︎」

 

数分後、引き返してきた千歌達は道端に倒れている未来の姿を発見し、大慌てで介抱し始めた。

 

「た、大変ずらぁ……!!」

 

「救急車呼ばないと……!」

 

今にも泣きそうな顔と震える手で携帯を握り締めているルビィと、オロオロと右往左往している花丸。

 

そんな二人を尻目に、千歌と曜は未来の容態を確かめる。

 

「外傷は命に関わるほどでもない……。意識がないのは頭を打ったせいかも」

 

「未来くん……!」

 

 

 

 

 

一人の少年を取り囲む少女達。

 

常人ならその光景は見えないであろう距離。しかし黒いコートを身に纏った少女は、それをしっかりと捉えていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「私達の他にも、ウルトラマンがいたの……?」

 

『そのようだな。……だがどうであれ、俺達の目的は変わらない』

 

「…………」

 

少女は明らかに不機嫌そうに眉をひそめ、その場から立ち去ろうとする。

 

『どうした、ステラ』

 

「……なんでもない」

 

少女はもう一度少年ーーーー未来の方を睨むと、地を蹴り風のような速度で山の中へと駆けて行った。

 

 




次回はついに、あの青い奴が登場……⁉︎するかもしれないし、しないかもしれない……。


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第6話 蒼雷の剣

ついにヒカリーーもといツルギさんの登場です!
ヒカリサーガでの設定とか色々弄っちゃっていますが、そこは何卒ご理解を……


惑星アーブ。

 

それは争いや不幸など存在しない、澄み切った空と美麗な結晶が地を覆う美しい星。

 

 

ーーそんな一つの惑星に、一人のウルトラマンが降り立った。

 

彼の名はヒカリ。M78星雲ウルトラの星、光の国からやってきた宇宙科学技術局長官だ。

 

彼は、かの惑星アーブを調査するために、その星へと足を運んだのだ。

 

ヒカリを待っていたものは、想像を遥かに超える美しい光景だった。

 

そして、この星と共に生きていきたい、と思うようになった。

 

 

 

 

 

しかし、ある日惑星アーブは、恐ろしい怪獣の手によって壊滅の危機に晒されたのだ。

 

高次元捕食体、ボガールーーそして、その”王”アークボガールが現れたことによって、アーブは滅びてしまう。

 

自分の力ではアーブを救うことができない。だがどうしても諦めきれなかったヒカリは、キング星に住まうと言われる伝説の超人、ウルトラマンキングに助けを求めることにした。

 

キングに、戦うための力、”ナイトブレス”を授かったヒカリは、決死の思いで惑星アーブへと戻る。

 

だが、ヒカリは宇宙警備隊の隊員ではない。ましてや彼は、戦闘が不向きな”ブルー族”だ。アークボガールを相手に、勝利を収めることなど不可能だった。

 

なす術なく敗北に陥ったヒカリは、自分の無力さとボガール達への憎悪により、”復讐の戦士”と化してしまう。

 

 

ーーそれが、”ハンターナイトツルギ”の誕生だった。

 

 

「ボガールは……」

 

『見失ったみたいだ』

 

ステラは頭に乗っている黒いキャスケット帽を強く握り、隠しきれない怒りを露わにする。

 

「絶対、殺す」

 

『……初めて会った時とは、見違えるよ。最初はもっとーー』

 

「ツルギ」

 

青い球体の言葉を遮ったステラは眉をひそめ、さらに続けた。

 

「その話はやめて」

 

小柄な少女の見た目では考えられないほどの威圧感と殺気に満ちた声音だった。

 

 

 

ツルギがステラという少女と会ったのは、アークボガールを追ってとある星にやってきた時だ。

 

ノイド星。地球によく似た文明が築かれているその星の住人もまた、外見は地球人とそっくりだった。違う点は、多少身体能力が高いというくらいだ。

 

アークボガールがアーブの次に餌場として選んだ場所が、ノイド星だった。

 

 

◉◉◉

 

 

「クソッ!間に合わなかったか‼︎」

 

焼け野原の中逃げ惑う人々と、彼らを蹂躙するボガール達。

 

ツルギは拳を強く握り締め、ありったけの”殺意”をナイトブレスに込めた。

 

「デュアッッ!!」

 

青く輝く光線、ナイトシュートが一直線に伸び、街を破壊するボガールの内一体にそれが直撃する。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

甲高い断末魔を上げて爆発四散する灰色の怪物。その爆音に気づいたボガール達が、地に着地したツルギへと群がっていく。

 

ツルギはナイトブレスから光剣ーーーーナイトビームブレードを伸ばし、復讐の意のままにその刃を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーそこでも、戦いの先にあるのは絶望だけだった。

 

アークボガールとその手下のボガール達に数で圧倒されたツルギは、実体を保てなくなるほどのダメージを受けてしまったのだ。

 

ボガール達が去った、何もない荒野と化したノイド星の土を頭部に感じながら、ツルギはまたもボガール達への怨念を募らせる。

 

光の玉となったツルギは、ほとんど無心の状態でノイド星を彷徨いていた。すると、遠くの方で小さな泣き声が聞こえてくる。

 

ーーその声の主は、一人の少女だった。

 

(この子の身体を借りれば、俺はまだ戦えるかもしれない……)

 

復讐のことしか頭の中に存在しないツルギは、ノイド星の者までをもボガールとの戦いに巻き込むつもりだったのだ。

 

少女の体内に入り込み、主人格を奪うツルギ。

 

 

「……まだ慣れないな」

 

『だ、だれ……?』

 

少女のか細い声音が、自分の中で木霊するのがわかった。

 

「……⁉︎まさか、喋れるのか……⁉︎精神は完全に食い潰したはずだが……」

 

少女は、ツルギが予想もしていなかった精神力の強さを持っていたのだ。

 

意識を完全に奪うことは不可能と判断したツルギは、彼女に一つの提案をした。

 

(君、名前は?)

 

『す、ステラ……』

 

(ステラか。君はあの怪物達が憎いか?)

 

『え……?』

 

(俺と共に、あの怪物と戦う気はないか?)

 

ツルギが尋ねると、数秒間きょとん、とする少女。やがて意味を理解したのか、少女はかすれかけている声で言った。

 

『む、むりだよ……わたし、あんなのと戦うことなんて……』

 

(俺の力を使え。君と俺が組めば、きっとあいつらを倒すことができる)

 

確証のない言葉を並べて、なんとかして少女を説得するツルギだったが、なかなかステラは了承してはくれなかった。

 

『パパぁ……ママぁ……』

 

(……!ご両親の仇を討ちたくはないのか?)

 

『そ、それは……』

 

(このままでは奴らは、別の星々でも同じことを繰り返す、それでもいいのか?)

 

『でも、でも……!でもぉ……!うぅう〜……!』

 

(自ら動かなければ失うだけだ。……だから俺はやる……!)

 

ツルギの言葉を聞くと、泣いていた様子のステラの態度が一変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………わかった。わたしも、行く』

 

何かを決意したような声。

 

次の瞬間には、ツルギは強制的に身体の主導権を奪われていた。

 

「必ずあいつらをーーーー」

 

 

◉◉◉

 

 

目を覚ますと、そこに広がっていたのは”白”だった。真っ白い天井、そこに取り付けられている蛍光灯の光が目に飛び込んできて、思わずまた目を瞑った。

 

ベッドに寝かされていると気づいたのは、再び瞼を開けて周りを確認した時。どうやら自分は、病院にいるようなのだ。

 

「いっつ……!」

 

身体のあちこちを強く打ったのか、全身が筋肉痛のように酷く痛い。

 

『あ、未来くん。目が覚めたみたいだね』

 

(メビウス……。そうか、俺はボガールに……)

 

ーー左手が何か、柔らかく暖かい何かに包み込まれている。未来はふと視線を落とした。

 

「千歌……?」

千歌は未来の左手を両方の手でしっかりと握り、机に突っ伏すような形で眠りこけていた。

 

横の壁に掛けてあるカレンダーを見ると、ボガールと戦った日から既に2日が経過していた。

 

(ずっと付いててくれたのか……?)

 

 

 

「あれっ?起きてる」

 

病室の扉が開き、二つの見知った顔が中へと入ってくる。

 

一人は渡辺曜。もう一人はーーーー

 

「曜と……果南さん?」

 

「あちゃー、やっぱこうなってたか……」

 

曜は持ってきた毛布を千歌に優しく被せると、近くに設置してあった椅子に腰を下ろした。

 

果南はビニール袋に何本かのスポーツドリンクを持ってきてくれたようだ。

 

「びっくりしてすっ飛んできたよ。怪獣のせいで怪我したー、なんて聞いたから」

 

「千歌ちゃんなんか、付きっきりだったんだよ」

 

「……心配かけてごめん。他のみんなに怪我はなかった?」

 

「病院送りなのは未来くんだけ。もうっ、無事で何よりだよ。昔っからケガばっかしてたもんね」

 

「……ん?そうだったか?」

 

「まさか自覚がないとは……」

 

確かに小さい頃の未来は遊びから帰ってくる毎に身体に軽い傷をつけて帰宅していた。その度に父と母からは怒られていたのだ。……でも、そんなに騒ぐことだろうか?

 

(……父さんと母さんが()()()()()、今の俺を見てなんて言うかな……)

 

ーーーーウルトラマンになって、千歌を……みんなを守っていると知ったら。

 

「あれ……?」

 

「……?どうかしたの未来くん?」

 

(違う……、俺は…………)

 

 

 

 

守れてない。

 

 

 

 

今回の戦いで未来とメビウスがボガールに与えたダメージは皆無だ。

 

あの誰かが放った青い光線がなければ、今頃二人仲良くボガールに捕食されていたかもしれない。

 

何も守れてない。何もできていない。何もやれていない。

 

 

未来の右手が自然と拳を形作り、布団に醜いシワが出来る。

 

「ど、どうしたのいきなり、怖い顔して……」

 

果南が顔を覗き込んできて、やっと未来は我に帰った。

 

「えっ?……ごめん、ちょっと疲れてるみたいです」

 

「……それだけ?」

 

まるで、心の中を見透かされているようだった。心配そうにこちらを見つめる果南の瞳から、未来は目を逸らす。

 

「それだけです。ーーーーそうだ、曜。スクールアイドル部の方はどうなってるんだ?」

 

わざと話題を変える。未来の不自然な様子に果南はおそらく気づいているのだろうが、あまり深くは詮索しようとはしなかった。

 

「全然だよ。あの生徒会長さんが結構頑固者で……」

 

「そっか……、まあ、地道にやってくしかないな」

 

と、その時、千歌が目を軽く擦りながらムクリと上体を起こして顔を右往左往させる。

 

「あれ、寝てた……?今何時ーー」

 

真正面を向いたところで、未来と視線が重なる。直後、涙を溜めた笑顔を浮かべ、未来へ抱きついた。

 

「未来くん!よかったぁーーーーーー!!」

 

「く、ぐるちい……!」

 

未来にハグする千歌を微笑ましく眺めた後、果南は曜の肩に手を置き、椅子から立ち上がった。

 

「もうそろそろ暗くなるし、千歌と曜も一緒に帰りましょ」

 

「よ、ヨーソロー!千歌ちゃん、行こっか!」

 

「えっ?」

 

半ば強引に千歌の腕を引っ張る曜。

 

「あっ!じゃあまたね未来くん!」

 

三人は病室の出入り口まで寄ると、軽く手を振ってから廊下へ出て行った。

 

 

『……?曜ちゃんの様子が、何か変だったね』

 

「そうかな?いつもと変わらない気がするけど」

 

『うーん……。ま、僕の気のせいかな』

 

 

◉◉◉

 

 

深夜2時。

 

眠れないでいた未来は、病院を抜け出して軽く散歩に行こうと、支度をしている最中だった。

 

『こんな時間に出歩いたら危ないよ』

 

「そんな子供じゃあるまいし……俺はもう17ですぅ」

 

『僕は6800歳だけどね』

 

「なんの張り合いだよ。ていうかウルトラマンの基準がわからん……」

 

軽口を叩き合いながら、未来とメビウスは病院から抜け、海岸へと向かった。

 

 

 

「ちょーっと寒いかなあ。……海は暗くて少し不気味だし」

 

『地球に来て初めて海を見た時は驚いたよ。こんなにも綺麗な水が広がっているなんて』

 

「太陽の光に照らされる海は綺麗だからな。俺も小さい頃から、この海を見て育ったんだ」

 

 

しばらく道路の上で海を眺めていると、右側から人の気配を感じ、ふと顔を向ける。

 

そこにいたのは、自分や千歌達と同い年くらいの少女だった。暑苦しそうな黒いコートに、黒いキャスケット帽。ショートボブの髪の隙間から見える肌の色はこの世のものとは思えないほどに白い。

 

(……女の子?こんな時間に、しかも一人で……?)

 

なんとなく少女が通り過ぎて行くのを見た後で、再び海の方へ視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱりね」

 

冷たい声音が、耳を撫でた。

 

『未来くんッッ!!』

 

いきなりメビウスが主人格を奪い、メビウスブレスを出現させたかと思えばメビュームブレードまで展開したのだ。

 

『なんだ……?』

 

状況を理解するのに、若干の時間が必要だった。

 

二つの光剣が交差し、火花が飛び交う。

 

少女の右手から、未来の左手から、それぞれの剣を操って剣戟が繰り広げられていた。

 

「ぐっ……!」

 

鍔迫り合いのように刃を押し当てて静止する。メビウスと未来、二人の力でさえ押し負けそうなほどに強い腕力がプレッシャーを与えてくる。

 

「初めまして。あなたが……ウルトラマンの方ね?」

 

「きみっ……はっ……!誰だ……ッッ⁉︎」

 

「同類……()()()()()()()()

 

メビュームブレードを弾き飛ばし、少女は後方へ下がる。

 

「わたしはステラ。そしてーーハンターナイトツルギとの融合者」

 

コートの袖を捲り、右手に現れているナイトブレスを見せつける。

 

「あなた方と同じ、ウルトラマン」

 

『どういうことだメビウス……?』

 

(わからない!僕にもさっぱりだ!)

 

戸惑いを隠せない様子のメビウスを見て、ステラは呆れたように深く溜息を吐き出した。

 

『むっか……!おいメビウス、ちょっと変われ!』

 

「未来くん⁉︎」

 

無理矢理身体の主導権をメビウスから取り上げる未来。メビウスブレスを構えながら、ステラに向かって早口でまくし立てる。

 

「なんだお前は!いきなり現れてわけのわからんことをごちゃごちゃと……!」

 

「だからあなたはダメなの」

 

ほんの3秒ほどで距離を縮められた未来は、反応することもできずに圧倒され、尻餅をついてしまう。

 

短剣の切っ先を喉に当てられ、未来は驚きのあまり声も出せなくなる。

 

 

「今すぐにでも殺せる、けど……あなたには切る価値もない」

 

「なにっ……⁉︎」

 

「これからこの地球(ほし)は、わたし達が守ってあげる」

 

『「は、はぁ⁉︎」』

 

勝手なことを連続で言い放たれた未来とメビウスは、考えがまとまらないまま、ただステラの顔を見上げていた。

 

 

「あなた達の戦い、見てたわ。……なに?あの下手くそな戦い方。通常のボガール1匹と対峙しただけであの体たらく……片腹痛いわね」

 

「んだとぉっ……⁉︎言っとくけどな!俺は前にディノゾールを倒してーーーー」

 

「たかだか雑魚を倒したくらいではしゃいでるようじゃ、先が思いやられるわね」

 

「なっ……にぃ……⁉︎」

 

顔を真っ赤にして怒りを露わにする未来。ステラはそれを、絶対零度のように冷たい目で見下ろしている。

 

「そんなんじゃ、何も守れないって言ってるのよ!!」

 

「……っ⁉︎」

 

突然激昂するステラ。先ほどとは一変した怒り方に、未来は唖然とするばかりだった。

 

 

 

「言ってわからないのなら……いいわ」

 

ステラは持っていた短剣を、右腕に出現させていたナイトブレスへと装填した。

 

蒼い雷撃で空間が切り裂かれ、天から巨人が舞い降りる。

 

 

 

「これは……!」

 

『そんな……まさか本当に……!』

 

 

未来とメビウスの視界には、一人の蒼い巨人が映っていた。

 

 




次回はメビウスvsツルギ……⁉︎


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第7話 傷だらけの想い


さて、今回もラブライブ要素は少なめとなっています。……いやまじですんません。


「ハンターナイトツルギ……だって……⁉︎」

 

『どうして僕以外のウルトラマンが地球に……!援軍だとしたら、どうやってここまで来たんだ⁉︎』

 

暗闇の中、佇む蒼い巨人を見据える。

 

メビウスの話だと、エンペラ星人の妨害により、光の国から地球までのワープゲートは使えないはずだ。

 

『ふん……俺は宇宙警備隊の一員ではない』

 

テレパシーで語りかけてくる、男性の声。ステラと融合している、ツルギの声だ。

 

『俺達はボガールを追って、この地球に来たまでだ。お前達の事情など把握していない』

 

ツルギは元々光の国から離れ、地球の近くを彷徨っていたのか。ワープゲートを使うことなくこの地球まで来ることができたようだ。

 

「……メビウス。やるぞ」

 

『……⁉︎何を言ってるんだ未来くん!』

 

「好き勝手言われて、引くことなんてできるかよ!」

 

『戦ってはダメだ!僕はウルトラマン同士で戦う為に、君に力を与えたわけじゃない!』

 

未来にメビウスの声など聞こえていないに等しかった。プライドをズタズタにされ、完全に挑発に乗り、戦おうとしている。

 

……ボガールに負けたことで、かなり焦っている様子だった。

 

『未来くん!』

 

歯を食いしばり、左腕にメビウスブレスを出現させる未来。

 

今彼を突き動かしているのは、ただの意地。一人の少年のわがままに過ぎない。

 

「メビウーース!!」

 

しっかりとツルギの姿を捉えながら、メビウスブレスを天高く突き上げた。

 

 

 

 

 

「デヤッ!」

 

「ハアッ!」

 

メビウスとツルギは両手を上げ、空中へと飛び上がった。地上で戦えば、街にも被害が出てしまうからだ。

 

二人の巨人が夜空を舞い、両者はお互いを睨みつけている。

 

 

 

 

 

「セヤッ!」

 

メビウスはメビュームスラッシュを連続で放つが、風のような速度で移動するツルギに命中させることは叶わない。

 

(くそっ……!)

 

『落ち着くんだ未来くん……!今の君は冷静じゃない!』

 

(うるせえ……!黙っててくれ!!)

 

 

突然回避をやめ、ナイトビームブレードを展開してメビウスへと迫って来るツルギ。メビウスもそれを迎え討とうとメビュームブレードを左腕から伸ばす。

 

「セヤァッ!!」

 

「デュア!」

 

二人は空中で何度も交差し、その度に刃と刃がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

 

(やっぱり大したことないわね)

 

(今にその冷ました態度を改めさせてやるぜ……!)

 

テレパシーで言い合いながらブレードを振るう二人の少年と少女。身体を動かすことの叶わないメビウス自身は、凄まじい責任感に襲われていた。

 

『僕が、しっかりしていないから……!!』

 

『メビウスと言ったな。君と一体化してる少年には、足りないものが多すぎるようだね』

 

『……⁉︎なに……⁉︎』

 

『このままではいずれ君や、自身をも滅ぼすことになるぞ』

 

『やめてくれ。それ以上は……!』

 

『彼は、”勇者”に相応しくない』

 

『やめろっ!!』

 

未来を侮辱されたメビウスは、ついに保っていた落ち着きを失うことになる。

 

『未来くんは、自分のことを顧みずに、僕の申し出を受け入れてくれたんだ!』

 

『なら、それは君自身の間違いだなーーーーメビウス!』

 

「グワァ!!」

 

ナイトビームブレードがメビウスの横腹を直撃し、バランスを崩してしまう。

 

自由落下で海のど真ん中へと衝突し、高層ビル並みの高さの水の柱が立ち昇った。が、すぐにその赤い巨体に力を入れ、上半身を起き上がらせる。

 

「ハァァァアアア……!」

 

メビウスブレスのクリスタルサークルを回転させ、頭の上でエネルギーを増幅させる。

 

ツルギもナイトブレスを天にかざし、光線を撃つための力を溜める。

 

「ハアアアアアアア!!」

 

「デアアアアアアア!!」

 

メビュームシュートとナイトシュート。

 

二本の光の圧力がお互いに殺到。それぞれの目標へ到達する前に空中でぶつかり合い、空間が歪んで見えるほどの凄まじい力が巻き起こる。

 

(ぐっ……!がぁっ……!)

 

メビウスが押し負けているのは明白だった。

 

徐々にオレンジ色の光線を侵食していく蒼き殺意。止まることを知らないかのように、メビウスの方へ段々と迫っていく。

 

(くそ……!どうしてだ……!なんで……ッ勝てない⁉︎)

 

(終わりよ)

 

ついに自らの胸にナイトシュートが直撃し、ふんばりも届かずに地へと身体を叩きつけられるメビウス。

 

「グアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

しばらく静寂が辺りを包み込む。

 

わずか2分ほどの戦闘。瞬殺と言っていいほどの戦果で制した少女と青い光が、海岸へと降り立った。

 

「ぐっ……!いってぇ……!」

 

口から少量の血を流しながら砂浜へ横たわる少年を見下ろし、少女は言い放った。

 

「いつまでもそんな風に這いつくばっていればいい。……一緒にいるウルトラマンさんもね」

 

「お前……!」

 

未来の目で追いきれないほどのスピードで繰り出された光の刃が彼の喉元に突きつけられ、思わず身体が凍ったように動かなくなった。

 

「これは遊びじゃない。……まだ向かってくるとなれば、今度は殺すわ」

 

最後にそう言い残した少女は未来に背を向け、ゆっくりとその場を後にした。

 

 

「ステラああああああああ!!!!」

 

自らを打ちのめした少女の名前が胸に刻み込まれる。

 

憎しみに満ちた少年の叫びが響き、やがて海の中へ溶けるように消えていった。

 

 

◉◉◉

 

 

病院を出て、翌日の朝。未来はこれまでにないほど最悪の気分で登校していた。

 

バスに揺られながら、無表情で窓の外を眺めている。

 

(……遊びじゃない……か)

 

そんなことは言われなくてもわかっている。力を持つという責任が、どれだけ重いかを。ウルトラマンとして戦うことの、重圧を。

 

「あいつと俺で、一体何が違うんだ……」

 

頭を抱えたくなるほど憂鬱な気分だ。誰かに相談できるわけでもない。メビウスだって、今は精神に揺らぎを感じる。未来と同じで、ツルギに言われたことを気にしているのだろう。

 

「ん、メールだ……」

 

スマートフォンの画面に通知が届き、誰からかわかりやすいみかんのアイコンが見える。ーー千歌だ。

 

内容は『おっはよー☆今日は学校来れそう??』というものだった。

 

「”もうバスに乗ってる”っと……」

 

素早く画面のキーボードを操作し、速攻で返事を送る未来。千歌や曜と会えれば、少しは気が楽になれるだろうか、と何でもいいからすがりたい気持ちに駆られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドォーン!普通怪獣チカチーだよぉー!!」

 

「おはヨーソロー!」

 

朝のテンションとは思えないほど元気な様子でバスに乗り込んでくる二人の少女。

 

千歌と未来の家は隣同士だが、未来はほぼ毎朝学校へ向かう前に両親の墓参りに行っているため、バスに乗る場所が違うのだ。

 

「おはよう」

 

「む……うん……?」

 

「千歌ちゃん?」

 

未来が素っ気なく挨拶を交わすと、千歌が目を細めながら顔を近づけてくる。

 

「何時に無く元気がないね。やっぱり何かあったの?」

 

「そうか?……なんでだ?」

 

「曜ちゃんと果南ちゃんが言ってたから。お見舞いに行った時、なんかしょんぼりしてたーって」

 

「うん。してたしてた」

 

赤べこのように首を何度も縦に振る曜。余計なことを言ってくれたな、と若干やるせない気持ちになるが、未来は精一杯の虚勢を張って言った。

 

「大丈夫だよ。なんでもない」

 

「……そう?でも本当に何かあったらーー」

 

「それより、今日も行くんだろ?生・徒・会・室」

 

千歌の言葉を遮るように話題を振る未来。何も言わせないという威圧感を感じ取ったのか、千歌と曜は何も言わずにその話へとシフトした。

 

「もっちろん!諦めたらだめだからね!」

 

 

◉◉◉

 

 

「な……!」

 

浦の星学院の校門の近くまで来た三人だったが、未来が急に一人の女子生徒を見た途端に顔色を変える。

 

黒髪をショートボブで揃えた、色白の美少女だった。

 

「すごい……綺麗な子……!」

 

「……でも二年生のリボンつけてるけど……見たことない顔だね」

 

「よしっ!あの子もスクールアイドルにさそーー」

 

「ちょっとこっち来い!」

 

突然未来は二人の間から抜け出したと思えば、その美少女の手を乱暴に掴んでどこかへと連れて行こうとした。

 

「……知り合い?」

 

「いや、私は知らない……かな」

 

唖然とした表情で二人の背中を眺める千歌と曜。校舎裏へ消えて行くまで、ただ見つめているばかりだった。

 

 

「……なんか、最近の未来くん、やっぱり前と違うよ」

 

「うん……」

 

感じてはいた。

 

ここ最近、具体的に表せばディノゾールが再び現れた日以来、未来の雰囲気が変わったのだ。

 

振る舞い、態度はこれまでと何ら変わらないがーーーー今までと違いよく行動するようになった。

 

「さっき未来くん、バスの中で”なんでもない”って言ってたけど、あれは嘘っこなんだよ」

 

「……うん。私もそう思う」

 

「だって昔から、未来くんが”なんでもない”って言うときはーー」

 

ーーーー決まって、何かある時なんだもん。

 

 

◉◉◉

 

 

「お前……どういうつもりだ!!」

 

人目のない校舎裏に一人の少女を連れて来た未来は、声を荒げて問いを投げた。

 

「何って……学校に来ただけだけど?」

 

あたかも当然のことというように、少女ーーステラは微笑を浮かべて未来に返答した。

 

「わたし、今日からこの学校の生徒になるの。めんどくさい手続きはすっ飛ばしちゃったけど、教師の方は快く承諾してくれたわ」

 

「お前ら……まさか先生達を……!」

 

『安心しろ、少し催眠術のようなもので我々の存在を”当たり前のもの”にしているだけだ。身体に影響はない』

 

テレパシーで語りかけてくるツルギに反応するように、メビウスは突然口を開いた。

 

『君は……!君達は、どこまで人間を利用するつもりなんだ!』

 

『言ったはずだ。俺達はボガールを探しているだけ……他の者のことなど、どうでもいい』

 

怒りのあまり、逆に頭の中が冴えているように感じる。

 

未来は静かに、突き放すようにステラとツルギに言い放った。

 

「何が俺達の代わりにこの星を守るだ……!お前らがやってることは、それとは正反対だろう!!」

 

「”星を守る”という点では間違っていないわ。……民を守るとは言っていないけどね」

 

「お前!!」

 

肩に掴みかかろうとした未来の腹部をステラの鉄拳が貫き、上半身から倒れこむようにしてうずくまってしまう。

 

「かはっ……!」

 

「そろそろホームルームが始まるわ。戻らないとね」

 

鼻歌を披露しながら軽い動きで教室へ向かおうとするステラの後ろ姿を、未来は鋭い眼光を向け、よろよろと立ち上がる。

 

『大丈夫かい?未来くん……』

 

「……ああ」

 

ツルギとステラーーーー二人が何をしでかすかわかったものではない。

 

この学校のみんなを、千歌達を傷つけようとするならば、その時はーーーー

 

(俺はお前達に……どんな手を使ってでも復讐する)

 

 

◉◉◉

 

 

光の国。

 

地球までのワープゲートが塞がれている今、下手に動くことは不可能な状況となっていた。

 

『メビウスは……無事でいてくれているか』

 

宇宙警備隊大隊長、ウルトラマンケン。通称ウルトラの父は、遠く離れた星である地球の映像を手元に出現させ、不安そうな様子で声を漏らす。

 

『彼に伝えなくてはならない……。エンペラ星人を迎え撃つ、唯一の手段を』

 

赤いマントの中から一冊の古びた本を取り出し、不意に開く。ウルトラマンキングから授かった、”光の予言”と呼ばれる書物だった。

 

そこに書かれている一文に目を通す。

 

 

 

 

災いをもたらす闇来たれり。

 

輝きを放つ十人の勇者が集まる時、巨大な闇を消し去らん。

 

 

一の光。憧れを捨て新たなる空へと飛び立つ、太陽の輝き。

 

二の光。友情を育み友と共に数多の壁を打ち破る、友情の輝き。

 

三の光。仲間の想いを糧とし前へと進む、絆の輝き。

 

四の光。他者を思いやりその背中を押す、信託の輝き。

 

五の光。縛るものに囚われず決意の道を往く、勇気の輝き。

 

六の光。自らの気持ちを偽らず原点を忘れない、天使の輝き。

 

七の光。あらゆることに耳を傾け最善の判断を下す、聖典の輝き。

 

八の光。諦めることを知らず何度でも挑み続ける、挑戦の輝き。

 

九の光。人一倍の包容力で敵をも静める、愛情の輝き。

 

十の光。九つの心を通わせ闇を消し去る、英雄の輝き。

 

 

 

 

『究極の光……それを生み出すしか、奴に勝つ方法はない』

 

 

 

 

 




なかなかサンシャインの方のストーリーが進まない……。
梨子ちゃん加入までまだ時間がかかると思いますが、どうか僕の拙い文章に付き合ってくれると幸いです。


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第8話 海の音色

内容は大体タイトルからわかる通り……。前半は相変わらずウルトラマン要素満載ですが。


「今日からこの学校に転校してきた、七星(ななほし)ステラといいます」

 

(マジで来やがった……)

 

今朝のホームルームで転校生が来ると担任から聞かされ、嫌な予感が現実となって目の前に現れた。教師達に催眠をかけたとはいえ、梨子がやって来たばかりなのだから違和感は感じないのだろうか。

 

「あの子転校生だったんだね」

 

「珍しいね。短期間で二人も」

 

千歌と曜が何気ない会話を交わす中、未来だけがステラへ明らかに喧嘩腰な視線を注いでいる。

 

『未来くん、殺気ダダ漏れだよ……』

 

(ワザとだよ)

 

担任の教師の指示で自分の席へと移動するステラ。未来の隣を通り過ぎる瞬間、ステラも未来へとプレッシャーをかけるように視線を向けるのがわかった。

 

(なんて感じの悪い……!!)

 

『君もだよ……』

 

後ろの席から伸ばされた手に肩を軽く突かれ、反射的に後ろを向くと、目の前に千歌の顔があった。

 

(近い……)

 

「未来くんさっきもあの子と何か話してたみたいだけど、友達なの?」

 

「誰があいつなんkーーーーうん、この間たまたま知り合ったんだ」

 

未来が大声を張り上げようとした瞬間、メビウスが咄嗟に主人格へと移り変わり、事なきをえる。

 

千歌は未来の口調に違和感を感じつつも、「そうなんだ」とだけ言って自分の席に腰かけた。

 

『おい!勝手なことするなよ!』

 

(彼女達とトラブルを起こすのは好ましくない!騒ぎになるようなことは避けたいんだ!)

 

『……わかってるよ。落ち着いたからとりあえず身体は返してもらうぞ』

 

身体の主導権を取り戻した未来は、深呼吸をして乱れている心身を整える。

 

こんなことで取り乱してはいけない。これからステラとツルギはクラスメイトとして常に近くにいるのだから、できるだけ早くこの環境に慣れてしまわないと。

 

 

ホームルームが終わると、案の定他のクラスメイト達がステラの所へと集まり、質問マシンガンを浴びせていく。流石に圧倒されたのか、ステラの氷のような表情が一瞬引きつったのが見えた。

 

(でも、なんであいつはわざわざ学校なんかに……)

 

『情報収集のためかもね。ーーーーボガールが、どこに潜んでいるかわからないし』

 

(……?ちょっと待てメビウス、それはまさか……この学校の中にボガールの仲間が紛れてるかもしれないってことか⁉︎)

 

『その可能性は無視できない。この街にその中の一体が現れたということはーーーー間違いなく近くにいる』

 

「確定的ではないけどね」、と最後に付け足すメビウスだが、未来にとっては気休めにもならない言葉だった。

 

(また……あいつと戦うのか……)

 

ウルトラマンとしてまだ二回目の戦闘だったとはいえ、完膚なきまでに叩きのめされた未来の心には、不安と恐怖が蠢いていたのだ。

 

(なあメビウス)

 

未来は初めて怪獣と戦った日から不思議に思っていたことをメビウスへと尋ねた。

 

(どうして、俺を選んだんだ?)

 

メビウスが、自分を憑依する相手として選んだ理由。無数に存在する人間達の中から、なぜ自分が選ばれたのか。未来はその理由がわからなかった。

 

『君が、誰よりも”ヒーロー”に憧れていたからだよ』

 

(なんだよそれ……?)

 

『ただの直感さ。あまり気にしなくてもいいよ』

 

(直感で選んだのかよ)

 

『意外とわかるものだよ。君は特にわかりやすかったけどね』

 

(はあ?)

 

言ってる意味がわからない。そもそも未来がヒーローに憧れているなんてこともメビウスの憶測に過ぎないはずだ。

 

『僕には見えたんだ、君の中の光が』

 

(光……?)

 

ますます話が見えなくなるばかり。

 

未来はさらに質問を重ねようとするがーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー”これから先の未来、お前に”ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノイズがかった映像と声が脳裏をよぎり、同時に激しい頭痛に襲われた。

 

「うっ……⁉︎」

 

「未来くん?」

 

苦しそうに身を縮める未来を見て、後ろの席に座っている千歌が心配そうに声をかけてくる。

 

「なんでも、ない……」

 

「…………そう?」

 

腑に落ちない表情で椅子にストン、と腰を下ろす千歌。

 

 

 

ーーーー聞こえた声はおそらく男性だった。姿はよく見えなかったが、間違いなく未来に向かって何かを語りかけている様子だ。

 

(今のは……?)

 

 

◉◉◉

 

 

「未来くん帰ろー!」

 

放課後。

 

いつものように曜と千歌が一緒に下校しようと誘ってくる。が、未来にはこの後やることがあった。

 

「ごめん、先に帰っててくれ。用事が出来たんだ」

 

「あっ、じゃあ私も手伝おうか?」

 

「いやいいよ。バスなくなっちゃうかもしれないし」

 

「ーーーーそっか」

 

残念そうに俯く千歌だが、すぐに普段の明るい笑顔を浮かべて未来へ背を向けた。

 

「また明日ね!」

 

「ヨーソロー!」

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

 

教室を出て行く二人を見送った後、未来以外で唯一残っている女子生徒の方を睨む。

 

「いいの?お友達と一緒に行かなくて」

 

「本来ならそうしたいところだがな」

 

一定の距離を保ちながら、目の前に立つステラを見据える。

 

「答えろステラ。どうして浦の星に来た!」

 

「別に、暇つぶしよ。アークボガールを倒すまでのね」

 

「暇つぶしだと……?」

 

「ええ、”故郷にいた頃の習慣”を取り戻したくて。ーーーーそれと」

 

地面を蹴り、天井に届くほどに飛び上がったステラは、制服の袖から滑らせるように短剣ーーナイトブレードを取り出すと、一瞬で未来に肉薄し、顔面にそれを突き立てようとする。

 

「気安く名前を呼ばないで」

 

「それは悪かった……なっ!」

 

迫り来る光の刃。それが握られているステラの腕を寸前で払い除け、軌道を逸らす。

 

カァンーーと教室の壁に刃が衝突する。少し当たってしまったのか、未来の頰から流れた血液が刃を伝って床に滴り落ちた。

 

「…………戦いになるとすぐ”彼”に頼る癖、直した方がいいわよ」

 

「やっぱバレてたか……」

 

攻撃を受ける瞬間のみメビウスに前へ出て来てもらい、なんとか受け流すことができたのだ。

 

「で、忠告は受け入れてもらえた?」

 

「無理に決まってるだろ」

 

「ふんーーまあいいわ。精々ボガールに食われないようにね」

 

ステラはナイトブレードを壁から引き抜くと、未来へ背を向けて早足で教室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「どうしよこの壁のキズ……」

 

『あ、直せるよ僕』

 

「便利だなあ、ウルトラマンの力って」

 

特にこれといった情報を聞き出すことはできなかった。ただ言えることは、ステラはこの先しばらくこの内浦に留まるということ。

 

ーー次にボガールが出現した時は、おそらく三つ巴状態になる。

 

『彼女達とは、早めに和解したほうがいいね』

 

「和解だって?ムリムリ。今だっていきなり切りかかってきたんだぞ?」

 

『どういうことなんだろうね……。ノイド星人は比較的温厚な人が多いって聞いたけど……』

 

「のいどせいじん?」

 

『うん。ツルギと融合している彼女、人間の姿を借りてるわけじゃなさそうだ。だとしたらあの外見はーーノイド星人としか考えられない』

 

「宇宙人……なのか⁉︎あいつが⁉︎」

 

『だとしたら、あの身体能力も頷ける』

 

ツルギが身体を操らなくとも発揮される驚異的な身体能力。人間よりも高い力を持ったノイド星人ならではの荒技だ。

 

『それに、なぜボガールを追っているのかもわからない。僕達と同じ敵がいるなら、どうして協力して倒そうとしない……』

 

「なんでもいい。とにかく俺はあいつが気に入らない」

 

 

不機嫌そうに眉をひそめる未来。

 

(こんな時、ベリアルっていうウルトラマンなら、どうしたのかな)

 

 

◉◉◉

 

 

日曜の朝。

 

ベッドから起き上がった未来は、隣に設置されている机の上へおもむろに視線を移した。

 

数年前ディノゾールが襲来した時、命を落としてしまった両親が写真立ての中で暖かな笑顔を浮かべている。

 

「おはよう」

 

口にした本人にしか聞こえないほど小さな声でそう呟くと、未来は枕元に置いてあったスマートフォンを手に取り、通知が来ている事に気がついた。

 

(千歌と……曜からもきてる……)

 

何事か、とメールの内容を確認しようとした瞬間、通話を知らせるバイブレーションと音楽がかかり、思わずスマートフォンを落としそうになる。

 

「はっはいもしもし?」

 

『あっ!未来くんもしかして寝てた?』

 

慌てて電話に出たので声を聞いて千歌からの電話だと理解した。

 

「今ちょうど起きたところだけど」

 

『そっか。これから果南ちゃんの所のダイビングショップに来れる?』

 

「え?なんで急に?」

 

『梨子ちゃん連れてダイビングしようと思って!曜ちゃんも来るし、せっかくだから未来くんもどうかなーって』

 

正直寝起きということもあり、あまり身体を動かしたくないし、外にも出たくないのだが、誘いを断ってまでやることは特にない。

 

「わかった。もう少ししたら行くよ」

 

『オッケー!ふふんっ♪』

 

やけに上機嫌な様子だったが、何か嬉しいことでもあったのだろうか。千歌の場合いつもニコニコしてるので、その辺の区別がイマイチわからない。

 

スマートフォンをベッドに放り投げるようにして置き、早速着替えをしようとクローゼットを開ける。

 

『未来くん、ダイビングってーー』

 

「海に潜って魚観賞したり、泳いで遊んだりすること」

 

『なるほど。地球には色んな娯楽が溢れているんだね』

 

「どちらかというとスポーツだと思うけど」

 

適当な服を身につけ、急ぎめで準備を済ませた後、未来は飛び出すように玄関から出て行った。

 

 

◉◉◉

 

 

「海の音?」

 

「うん。私、ピアノの曲を作ってるんだけどーー」

 

梨子は海をテーマにした曲を作りたいのだが、具体的なイメージが浮かんでこないのだという。

 

「だからダイビングってわけか……」

 

「単純、かな?」

 

「音楽のことは正直さっぱりだけど……いいんじゃないかな、こういうのも」

 

ウェットスーツに着替え、船で少し移動した場所へ潜る。これだけで何か掴めるのかわからないが、他に方法も思いつかないらしい。

 

 

 

 

 

『海の中かあ……。僕は初体験だよ』

 

「俺は小さい頃に何度か……」

 

「……?日々ノくん、誰と話してるの?」

 

「いやなんでもないですっ!」

 

話を逸らすためにいち早く海へとダイブする。勢いよく飛び込んだのでかなりの水柱が出来、数秒後には海水の雨が降り注いだ。

 

「こーらっ。あんまりはしゃぐと危ないよー?」

 

「ご、ごめん果南さん」

 

船の上で腰に手を当ててそう言う果南にペコペコと頭を下げる未来。

 

たまに気が抜けるのは直していかないとまずい。メビウスの存在を勘付かれでもしたら……。

 

 

 

(下に行くほど暗くて……不気味だな)

 

周りを見渡す。

 

音の届かない静寂の空間が身体を包み、なんとも言えない不安が湧いてくる。

 

少し遅れて千歌と曜、そして梨子も水中へ入って来た。4人が一箇所に集まり、”海の音”を探す。

 

(イメージするにしても……こんな真っ暗な所じゃーー桜内さんの様子はーーーー)

 

水を掻き分けて梨子の方を向く。

 

目を閉じて、作りたい曲の雰囲気、メロディをイメージしているが、やはりそう簡単にはいかないだろう。

 

千歌と曜も自分達なりにイメージを膨らませてはいるが、二人とも梨子と同じく何も浮かんでこないようだった。

 

 

 

 

 

一旦船の上へ戻り、小休憩を挟んでいた。

 

「ダメ?」

 

「残念だけど……」

 

曜の問いに浮かない顔で答える梨子。

 

「イメージか……確かに難しいな」

 

「簡単じゃないわ。景色は真っ暗だし」

 

「まっくら?」

 

「そっか、わかった!もう一回いい?」

 

梨子の言葉から何かに気づいたように、千歌はすぐさま立ち上がって再び海の中へと潜っていく。

 

曜と未来と梨子の三人も、それに続いて海へ身を預ける。

 

 

 

千歌の進行方向を見て、未来はなんとなく彼女が何をしようとしているか予想がついた。

 

(明るい場所を探しているのか)

 

さっきいた場所とは違い、日差しが水中まで差し込んでいて、暗闇が晴れ渡るように見える。

 

 

 

 

四人はとある所で止まると、先ほどのように周りの雰囲気に意識を集中させ、イメージを固める。

 

そして数秒後ーーーー

 

 

 

 

 

(…………⁉︎)

 

ポロロンーーとピアノのような音色が聞こえ、ハッと目を見開く。梨子にもそれは聞こえたようで、驚いた顔で千歌、曜、未来と順に見合わせた。

 

音はそれだけでは止まらず、旋律のように、ハッキリとした曲が流れるように耳朶に触れてくる。

 

ーーーー海の音。

 

そう表現するに相応しいものだった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ぷはっ!」

 

「聞こえた⁉︎」

 

海面から顔を出した四人はすぐに寄り合い、確かに聞こえたであろう海の音の存在を確かめる。

 

「うん!」

 

「私も聞こえた気がする!」

 

「本当⁉︎私も!」

 

「俺も……確かに聞こえた!」

 

 

 

海の音が聞こえたことで現れた達成感と満足感。四人はそれに浸り、しばらく海面で笑い合っていた。

 

 

 

 




テレビのメビウスと違うところを少し解説入れておきましょう。

この作品でのツルギーーつまりヒカリの復讐の対象はボガール単体ではなく、”アークボガールが率いたボガールの集団”です。アークボガールを倒さないとこの件は解決しません。が、案外すぐに退場させると思います。

そして「展開が遅い!」と思ってるあなた、まだまだ本当に書きたい話は先なので、気長に読んでくれると嬉しいです。曜ちゃん回とか、ルビィちゃん回とか、かなまり回とか……etc


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第9話 夢の扉

今回は溜め回といったところでしょうか。


「相変わらず逃げ足の速いっ……‼︎」

 

『ステラ、いたぞ!!』

 

雷のような速度で夜闇の街中を駆ける二つの影。獲物を追う狩人と、それから逃げる灰色の怪物だった。

 

「はぁっ!!」

 

ナイトブレードから放たれた光弾が、人間大までに縮小化したボガールの背中に直撃する。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

鋭い断末魔を叫びながら、灰色の怪物は騒音と共に爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう地球(ここ)に来てから50体は倒したわ。一体どれだけいるってのよ……」

 

『今日はもう休もう。無理をするのは、敗北に繋がるぞ』

 

「チッ……」

 

ナイトブレードを懐にしまおうとしたところで、ステラとツルギは何者かの気配を感じ取り、再び周囲を警戒し出した。

 

ボガールのものと同質ーーーーそれでいて比べ物にならない威圧感。

 

 

 

 

『ーーーー忌々しい奴らだ』

 

『「!!!!」』

 

テレパシーで直接頭の中に響いてくる声。ツルギも、ステラも、その声の主には心当たりがあった。

 

忘れるわけがない。

 

自分達の大切な星を滅ぼし、悪行を繰り返す残忍なボガールーーーーその”王”。

 

「アーク……ボガール……ッッ‼︎」

 

ナイトブレードを持つ手を、白くなるまで強く握り締める。

 

湧いてくる憎しみを抑えきれずに、ステラは双眸に宿る怒りをさらに燃え上がらせた。

 

『我の餌場を荒らすとは……何度やられても懲りない奴らだ』

 

「ふん。どこに隠れてるか知らないけど、最後の晩餐は済ませておきなさい。近いうちにあなたは絶対に殺すから」

 

『ククク……、それは無理だな。我がこの地球を離れる時、最後のデザートはお前達だツルギ、ノイド星の小娘』

 

「あら、そう?食べきれるかしらね」

 

『口の減らない女だ』

 

 

 

徐々に遠ざかっていく気配を察知して、ステラはやっとナイトブレードを下げた。

 

『……!』

 

ステラに憑依しているツルギだからこそわかった。その時震えているステラは、怒りだけでなく恐怖も同等に感じていたことを。

 

「ねえツルギ」

 

『どうした?』

 

「これからも、側にいてくれる?」

 

自分はステラを利用してるも同義だ。彼女もそれは十分に理解しているはず。それなのにステラは、稀にこのようなことを口にする。その度にツルギはいつも、返答に困ってしまうのだ。

 

『君がいなくなる時が、俺の最後だ』

 

「……ま、そっか」

 

太陽が昇り始め、街の中にも日差しが入り込んできた。

 

行く当てもはっきりしないまま、登校までの時間をステラとツルギは街を彷徨い、過ごした。

 

 

◉◉◉

 

 

「え⁉︎うそ⁉︎」

 

「ほんとに⁉︎」

 

教室内でいつものように集まっていた千歌、曜、未来。スクールアイドルの話をしていた三人の所へ、梨子がやってきた。

 

「ええ」

 

「ありがとぉ〜……!ありがとおおお!!」

 

抱きつこうとする千歌をひょいっと軽く避ける梨子。段々と千歌の扱いがわかってきているようだ。

 

「本当に、やってくれるのか⁉︎」

 

「待って、勘違いしてない?私は曲作りを手伝うって言ったのよ。スクールアイドルにはならない」

 

「えぇ〜⁉︎」

 

「そんな時間はなーいの」

 

「そっかぁ……」

 

さっきまでの千歌の笑顔が残念そうな表情へと変わる。

 

「無理は言えないよ」

 

「やっぱダメかぁ……」

 

でも作曲だけでも手伝ってくれるのなら、十二分にありがたい。曲さえ出来てしまえば後はダンスと衣装……曜と千歌、未来だけでもこなせる事だ。

 

(本当は加入してくれるのが1番なんだけど……)

 

『あとは生徒会長さんを説得するだけだね』

 

(あ、そうだった……)

 

最終的に部を作るにはダイヤを通さなければならない。そこで拒否されてしまえば全てが水泡になる。

 

(まあ、今は歌を作るのが先だ)

 

「じゃあ、詞をちょうだい」

 

「し?」

 

梨子の要求を聞くなり首を傾ける千歌。教室内をウロウロと彷徨い、何かを探すような素振りを見せる。

 

(まさかあいつ……)

 

何も考えてなかったんじゃ……。

 

「詞ってなに〜♪」

 

「たぶん〜歌の歌詞のことだと思う〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「歌詞??」」

 

 

◉◉◉

 

 

と、いうことで。四人は千歌の家で歌詞を考えることになった。

 

家の前まで来て、梨子が驚いたような声を上げる。

 

「あれ?ここ、旅館でしょ?」

 

「そうだよ。ここなら、時間気にせずに考えられるから」

 

「俺は家も近いし助かる」

 

「バス停近いし帰りも楽だしね〜」

 

そう話していると、旅館の中から黒髪の女性が現れた。高海家の長女である、高海志満である。

 

「いらっしゃい。あら、曜ちゃんに未来くん!相変わらず二人とも可愛いわね〜」

 

「えへへ」

 

「ど、どうも……」

 

両手で二人の頭を撫で始める志満。

 

小さい頃から曜と未来を知っている人なのだが、実を言うと未来は彼女のことがほんの少しだけ苦手である。

 

未来自身の容姿が中性的ということもあるが、幼馴染が千歌と曜、見事に女の子ばかりの環境で育ったせいで、ほぼ女子のような扱いを受けているからだ。

 

(忘れたい過去だってあるくらいだよ……)

 

『ちょっと気になる』

 

(聞くな)

 

梨子と志満もお互い自己紹介を終え、早速千歌の部屋へ向かった。その時なぜか梨子だけが何かから逃げるように旅館の中へ駆け込んだのは気のせいだったろうか。

 

 

◉◉◉

 

 

未来が千歌の部屋に来るのは数ヶ月ぶりだった。

 

隣なのでよく旅館自体に遊びに行くことはあるが、長居するのも迷惑なのでいつも部屋には上がらずに帰っている。

 

ーーーーだから、千歌の部屋に入った瞬間から、冷や汗がドッと溢れてきた。

 

『……?未来くん、どうしてこんなに心拍数が上がってるんだい?』

 

(ないよな……?さすがにもう持ってないよな……?)

 

『……?』

 

 

 

未来が青い顔している最中、曜が千歌の机の上に置かれている写真に気がつき、すぐさまそれを手に取った。

 

「あぁー!この写真!」

 

曜がわざとらしく大声を上げるのを見て、未来の身体が大きくビクつく。

 

「まだ持ってたんだね〜」

 

「えへへ、懐かしいでしょ〜。ほらほら、未来くん見て」

 

千歌は曜から受け取った一枚の写真を未来に向けて見せつけてきた。

 

そこに写っているのは、幼い頃の千歌と曜…………そして同い年くらいの()()の姿だった。

 

三人ともミニサイズのセーラー服を身につけていて、敬礼のようなポーズをとっている。が、千歌と曜に挟まれている少女だけ顔を真っ赤にしている。

 

「やめろおおおおおお!!見せるなアアァァアァア!!ていうか今度来るときには処分しとけって言っといただろ!!」

 

「えー?だってかわいいよ?ねー桜内さん」

 

今度は梨子にまで黒歴史写真を見せる千歌。

 

「■■■■ーーーー!!!!」

 

「うえぇ⁉︎どうやって出したの今の声⁉︎」

 

奇声を発しながら千歌の手から写真を奪い取ることに成功した未来。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「しょうがないなあ。まだまだ沢山あるし、それはあげるよ」

 

「まだあんのかよ⁉︎」

 

 

 

 

「それより作詞を……」

 

「喰らえ!」

 

梨子の言葉を遮るように海老のぬいぐるみが千歌へと放り投げられる。

 

「やったな!」

 

未来の投げたぬいぐるみをキャッチし、逆にそれを投げ返す千歌だが、ヒットした場所はなんと梨子の顔面だ。

 

「甘いわ!」

 

未来も負けじと側にあった浮き輪を拾い上げ、咄嗟に前へと投げる。が、それもなぜか梨子へと被さってしまった。

 

「あっ……ごめ……」

 

ぬいぐるみを顔に引っ付けたまま未来の方を向く梨子。表情が見えない分恐怖が増す。

 

「……いいのよ……?」

 

「ひぇ……」

 

「さあ始めるわよー」

 

気を取り直して作詞を始めようとする梨子だったが、千歌と曜がまたもや関係のない話を始める。

 

「曜ちゃんもしかしてスマホ変えた⁉︎」

 

「うんっ!進級祝い!」

 

「いいなぁ〜!」

 

ドスンッ!と床を踏みつける音が響く。部屋中どころではなく、旅館全体に伝わるような振動と音だった。

 

 

 

「は・じ・め・る・わ・よ…………?」

 

「は、はい……」

 

 

◉◉◉

 

 

「う〜ん……」

 

作詞を開始してから数分。

 

行き詰まった千歌はとうとうテーブルに突っ伏す形で項垂れてしまった。

 

「やっぱり、恋の歌は無理なんじゃない?」

 

「いやだっ!μ'sのスノハレみたいなのを作るの!」

 

「そうは言っても……恋愛経験ないんでしょ?」

 

「なんで決めつけるの?」

 

「……あるの?」

 

「……ないけど……」

 

「やっぱり……。それじゃあ無理よ」

 

スクールアイドルを始めるのも結構大変なんだな、と改めて実感する。世に出てきたスクールアイドル達はみんな、こんなに難しいことをこなしてきたんだ。

 

「未来くんはないの?恋愛経験」

 

「ないぞ」

 

「だよね」

 

「そんな当たり前みたいに言わなくても……」

 

「曜ちゃんは?」

 

「えっ⁉︎私⁉︎」

 

未来の次は曜へと矛先が向けられる。

 

慌てた様子を見せ、曜は未来と千歌の顔を交互に見つめた後、若干悲しそうな声音で言った。

 

「私もないよ」

 

「だめかぁ……。でも、ていうことは、μ'sの誰かがこの曲を作ってた時、恋愛してたってこと?ちょっと調べてみる」

 

と言ってPCを開き、何やら検索しだす千歌。

 

「なんでそんな話になってるの?作詞でしょ?」

 

「でも気になるし」

 

キーボードを操作する千歌を見て呆れた顔をする曜と梨子と未来。

 

「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからねぇ」

 

「本当に……」

 

「…………ん?」

 

曜、梨子、未来はそれぞれ顔を見合わせ、何かに気がついたように千歌の方を向く。

 

「なにー?」

 

「今の話、聞いてなかった?」

 

「スクールアイドルにドキドキする気持ちとか、大好きって感覚とか」

 

「それなら、書けるんじゃないか?」

 

そう言われた途端、千歌の表情がみるみる明るく変化していくのがわかった。

 

「うんっ!書ける!それならいくらでも書けるよ‼︎」

 

すぐにペンを手に持ち、再び紙の上へ走らせる。数秒後には紙面を埋め尽くす勢いだ。

 

(はぁ……桜内さんのおかげでなんとかなりそうだよ)

 

『なんだか楽しみになってきたよ』

 

(ああ。なんとしてでもダイヤさんを説得しなきゃな)

 

 

 

「はいっ!」

 

しばらくすると、千歌が歌詞を書いた紙を梨子へと差し出してきた。その表情は自身に溢れている。

 

「もう出来たの?」

 

「参考だよ。私、その曲みたいなの作りたいんだ」

 

梨子が受け取ったその紙に書かれていたのは、”ユメノトビラ”。μ'sが第二回”ラブライブ!”の地区予選で披露したという曲。

 

「私ね、それを聞いてね、スクールアイドルやりたいって、μ'sみたいになりたいって、本気で思ったの!」

 

「μ'sみたいに?」

 

「うん!頑張って努力して、力を合わせて、奇跡を起こしていく。私でもできるんじゃないかって、今の私から変われるんじゃないかって、そう思ったの!」

 

「……本当に好きなのね」

 

「うんっ!大好きだよ!」

 

 

◉◉◉

 

 

歌詞作りにひと段落を終え、未来達はそれぞれの家に帰宅していた。

 

「だぁー!疲れた!」

 

制服のままベッドへダイブする未来。頰に柔らかい感触を感じつつも、頭に棘か何かが刺さるような感覚を感じていた。

 

(まただ……)

 

最近、いつのものか、誰のものかもわからない記憶の映像が目の前にフラッシュバックする現象がたまに起こる。

 

その時には、決まって頭痛に襲われるのだ。

 

「いっつ……‼︎」

 

 

 

 

 

景色が変わる。

 

周りにあるのは無数の木々。そして、目の前に立っているーー赤と銀の巨人。

 

『これから先の未来、お前に幸せがーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

『未来くん?』

 

急に苦しそうに身体を縮める未来を、メビウスはオロオロとした様子で声をかける。

 

「なあメビウス……もしかしたら、俺……」

 

毎回蘇るように浮かんでくる映像。もしそれが未来自身のものだとすれば、それはーーーー

 

「以前どこかで、ウルトラマンに会ったことがあるのかもしれない」

 

『え……?』

 

「そうだ、そうだよ!きっと俺は昔、ベリアルっていうウルトラマンに会ったことがあるんだ!」

 

『何を言ってるんだ未来くん……?』

 

「見えたんだよ!たぶんこれは、俺の記憶なんだ!」

 

やっと謎が解決した、と未来は清々しい顔でそう話し出した。

 

「でも、なんで頭痛くなるんだろ……」

 

『言ってることがよくわからないんだけど……』

 

「ん?いや、気にしないでくれ、こっちの話だ」

 

着替えを済ませ、再び倒れこむようにしてベッドへ横たわる。窓の外を見ると、もうすっかり暗くなっている。耳を澄ませば近くの海の波の音が聞こえてきた。

 

そして、もう一つーーーー

 

 

 

 

 

「……の……ら〜…………た……」

 

ピアノの音と、聞き覚えのある声が耳に滑り込んでくる。梨子の声だ、とわかるのにそれほど時間は必要ではなかった。

 

(そういえば千歌の隣の家、引っ越してきたって聞いたけど……桜内さんのことだったのか!)

 

段々と聞こえてくる曲が何なのかがわかってきた。

 

「この曲……”ユメノトビラ”……か?」

 

自然と笑みがこぼれ、それと同時にみかん色のよく似合う幼馴染の顔が浮かんできた。

 

「ははっ。すごいな、あいつの影響力は」

 

『綺麗な曲だね』

 

「ああ」

 

 

未来はメビウスブレスの宿る左腕を見つめた後、もう一度窓の外へ視線を戻した。

 

「明日が楽しみだ」

 

 

 




そろそろボガール騒動の方も進展させなきゃならんので、次回は少し戦闘が入るかもです。つまりファーストライブはも少し後になるかと。

そして今回もプチ解説!

この作品の世界観ではベリアルアーリースタイルに倒されたディノゾールが世界で最初に確認された怪獣となっておりますが、実は地球にも目覚めていないだけで数多くの怪獣達が眠っているという設定です。なので宇宙怪獣や宇宙人の他にも、色々な怪獣を出す予定なのでお楽しみに!
でもぶっちゃけ作者が一番出したいのはメトロン星人……w


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第10話 悔しさの果て

今回はサンシャインの時系列で言うと2話と3話の間の話です。


「ふんふんふーん♪」

 

早朝。

 

まだ太陽が昇り始めたばかりの薄明るい海岸で、高海千歌は上機嫌な様子で鼻歌を披露しながら水平線を眺めていた。

 

スクールアイドルになろう、という提案を、梨子がついに承諾してくれたのだ。

 

(頑張らなきゃ……!)

 

気合いを入れるために頰を軽く叩き、太陽の光を反射して輝いている瞳をもう一度海に向けた。

 

 

 

 

朝日に照らされ、オレンジ色に燃える海の光景が、幼少期のトラウマを蘇らせる。

 

街を焼く炎を写し、地獄絵図と化した大海の中、闘いを繰り広げる巨大な影。

 

「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」

 

過去に見た怪獣と全く同じ個体が現れ、さらにはそれに続くように現れた新たな怪獣。幼い頃に見たものを現実だと裏付ける証拠が、今になって立て続けに現れた。

 

ーーだが、自分達には力強い味方がいる。

 

数年前にディノゾールから街を守ってくれたように、今度もウルトラマンというヒーローが来てくれた。

 

「私もウルトラマンみたいに、精一杯輝きたい」

 

誰に言ったわけでもない、何気ない一言。

 

 

「輝きたい……?」

 

「え?」

 

千歌は声が聞こえたのと同時に後ろを振り向いた。

 

そこに立っていたのは、上から下まで黒ずくめの衣服を身にまとっている青年だった。

 

「ウルトラマンに、憧れているのかい?」

 

「え、えっと……そう、なのかな……?」

 

返答に困っている千歌を見てクスッと微笑し、青年は彼女の右隣へ歩み寄る。この辺では見たことがない顔、そして清潔感のある男性だった。

 

「えっと、あなたは?」

 

「ただの通りすがりだよ。少し散歩がしたくなってね」

 

青年は微笑んだまま千歌を一瞥し、キラキラとした眩しい水平線へ視線を向けた。

 

「それにしても眩しいなあ。ボクはあまり光ってるものが好きじゃなくてね、つい目を逸らしてしまうんだけどーー」

 

今度は海から千歌へと視線を移し、青年は口を開いた。

 

「不思議と、今は平気だ」

 

何の事か、と千歌は怪訝な表情で首を傾ける。

 

「この辺りの方なんですか?」

 

「いいや」

 

「じゃあ、観光?」

 

「うーん……そうなるかな」

 

そう言うと青年は踵を返し、ヒラヒラと手を振りながらゆっくりと去っていった。

 

一人取り残されたようにポツン、と砂浜に立つ千歌。

 

(変わった人だな……)

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーービウス

 

ーーーーメビウス

 

「はっ……!」

 

耳元で囁かれる声が聞こえ、日々ノ未来は光の空間の中で目を覚ました。

 

『この声は……!』

 

未来の周りを飛び回るオレンジ色の光球ーーメビウスがその声音に反応するなり、驚いた素振りを見せた。

 

『大隊長!』

 

「えっ?誰?」

 

わけもわからず戸惑う未来の目の前に、一人の巨人の顔が唐突に現れる。

 

『無事だったか、メビウス』

 

『はい。なんとか、この少年の身体を貸してもらい、一命は取り留めました』

 

『君は……』

 

巨人の視線が未来の方を指し、余りの存在感に圧倒される。

 

(この人も……ウルトラマン、だよな?)

 

「は、はい、日々ノ未来と言います!」

 

『未来くんは今、僕と一緒に怪獣達と戦ってくれているんです』

 

巨人は少し間を置いた後に、未来の頭から爪先までをまじまじと見つめる。

 

まるで心の中までも見られているような、奇妙な感覚に苛まれた。

 

『なるほど……確かに適任かもしれない』

 

(適任……?)

 

 

 

『私が今ここにいるのは、君達に報告することがあるからだ』

 

『報告したいこと……?それは、一体?』

 

『時間はかかってしまったが……我々宇宙警備隊は、エンペラ星人の妨害を突破することに成功した』

 

『っ!じゃあ、地球とウルトラの星を繋ぐワープゲートが、使えるようになったんですね!』

 

「宇宙警備隊って……」

 

話についていけない未来に気が付いたのか、メビウスは未来に目の前の巨人と自分達のことを説明し出した。

 

『ごめん、紹介が遅れたね。この人は、みんなからウルトラの父と呼ばれている、宇宙警備隊の大隊長なんだ』

 

「じゃ、じゃあめちゃくちゃ偉い人⁉︎」

 

余計に緊張感が増し、後ろに下がってしまう未来。

 

『そう構えないでくれたまえ。我々と君達人間は、対等な存在なのだから』

 

「は、はぁ……」

 

『それで大隊長、もしかして兄さん達が?』

 

メビウス先ほどまで話していた、ワープゲートについての件に戻した。

 

『ああ、既に地球へ向かっている者がいる』

 

話を聞く限りだと、どうやらエンペラ星人の妨害が消えたことで地球とウルトラの星を繋ぐワープゲートが使えるようになり、増援を送り込んだ、ということだった。

 

地球に干渉できるようになった。それだけでも大分戦力が多くなる。

 

『だが油断はするな。エンペラ星人は何を仕掛けてくるかわからない。兄さん達だって、常にお前の側にいるわけではないぞ』

 

『心配ありません。僕には、未来くんがいますから』

 

急に照れくさいセリフを口にするメビウスに、つい未来は顔を赤くしてしまう。

 

『日々ノ未来くん』

 

「は、はい」

 

『メビウスは紛れもなく宇宙警備隊の一員だが、まだ若く経験も浅い。君が、支えてやってくれるか?』

 

ーーーー不思議とその答えは、すぐに出た。

 

「もちろんです。俺とメビウスで、地球を守ってみせます!」

 

その答えに満足したかのように、巨人ーーウルトラの父は首を縦に振った。

 

『では、健闘を祈る。くれぐれも注意して、任務に当たってくれ』

 

そう言うと、ウルトラの父は霧のように姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ!」

 

上体をベッドから勢いよく起き上がらせると同時に、未来は大声を上げる。

 

窓の外は明るく、時計は午前6時を指していた。

 

「ツルギとステラのこと、聞いとけばよかった……」

 

 

◉◉◉

 

 

「えっ……!えぇ⁉︎ほんとに⁉︎」

 

「ええ」

 

朝の学校、その教室の端で、未来は驚愕の声を響かせていた。

 

梨子がスクールアイドルをやってくれると聞き、思わず後ろに転びそうになってしまう。

 

「千歌!どうやって説得したんだよ⁉︎」

 

「へっへーん!色々あってねー!」

 

マネージャーよりも部員の方がスカウト能力に長けているとはこれいかに。

 

「やったね千歌ちゃん!未来くん!桜内さんもありがとう!」

 

「あっ、曜ちゃん()()なんだけど」

 

千歌は片手を上げ、改まった顔で一つの提案を出してきた。

 

()()ちゃんのことは、名前で呼ぼうよ!もちろん梨子ちゃんは私達の事もそうしてね!」

 

「えっ⁉︎」

 

「いいねそれ!」

 

千歌からそう聞いた途端に顔を紅潮させる梨子。同じ活動をする者として距離を縮めるにはいいアイデアだ。

 

「りーこちゃん!」

 

「梨子ちゃん!」

 

「梨子!」

 

「えっと……千歌ちゃんに曜ちゃん、それと……未来くん……?」

 

戸惑いながらもそれぞれの名前を呼ぶ梨子を見て、千歌達は自然と表情が明るくなっていく。

 

「これからよろしくね、梨子ちゃん!」

 

 

 

 

 

その四人のやりとりを、離れた所からじっと眺めているステラの姿があった。

 

「……ふん」

 

自分の席に腰掛け、頬杖をついて未来達を観察してるステラ。

 

その時運悪く千歌と目が合ってしまうが、当然ステラはすぐに顔を逸らす。が、千歌の方はそう簡単には逃がしてくれなかった。

 

「ねえねえ七星さん!」

 

「……なにかしら」

 

軽快にステラの席へと近づく千歌。未来は危なっかしいものでも見るようにヒヤヒヤした心中でそれを眺めた。

 

「スクールアイドルに興味ない?あと一人でちょうど規定越せるんたけど……」

 

「お誘いありがとう。でも、遠慮しておくわ」

 

あくまで作り上げた笑顔を千歌に向け、ステラは席を立ち、逃げるように廊下へと出て行った。

 

残された千歌は、先ほどでは考えられないような落ち込みようを見せる。

 

「ま、まああいつはそういうの興味なさそうだし、な?」

 

「でもあと一人だよ?是非七星さんみたいな綺麗な人にもやってもらいたいし!」

 

斬りかかられるのは嫌なので、できれば誘わないでほしい、と心の中で呟く未来であった。

 

 

◉◉◉

 

 

『未来くん、起きて』

 

「んあ?ああ……また寝てたか……」

 

授業中。

 

開始30分ほどで眠気に襲われた未来は、眠ってはメビウスに起こされるということを繰り返していた。真面目な性格であるメビウスからして居眠りは許せないのだろう。

 

(なんか疲れが溜まってる気がするよ。前まで居眠りなんて全然してなかったんだぞ。……嘘じゃないからな)

 

『あぁ、千歌ちゃんも寝てる……』

 

(あいつはいつもの事だからほっとけ)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーその時。

 

「……?なんだなんだ?」

 

「地震か?」

 

「揺れてるよね?」

 

突如発生した揺れに生徒達が驚き、教室内にざわめきが広がっていく。

 

揺れは段々と大きさを増し、ついに教師も手を止めて生徒に安全を確保するよう呼びかけ始めた。

 

(なんだこれ……⁉︎)

 

『……未来くん気をつけて、近くに……』

 

(ボガールか!)

 

 

「キャァーーーー!!」

 

一人の女生徒が窓を見て鋭い悲鳴を上げた。

 

そこにいたのは、黄色く尖った眼光。灰色の皮膚。間違いなくボガールだった。

 

(いきなり……⁉︎まさかこんな所で⁉︎)

 

『……!ステラちゃんがいない!』

 

(なんだって⁉︎)

 

ステラの席へ視線を向けると、さっきまで椅子に座っていたはずの彼女の姿は忽然と消えていた。ボガールを仕留めに向かったのは明白だ。

 

(俺達も行かないと!このままじゃ学校のみんなが危ない!)

 

教室の中にいた生徒は担任の教師の後に続いて、荒れ狂う川のように廊下へ飛び出している。

 

「みんな早く!」

 

「ちょっ……!千歌ちゃん起きて!」

 

「……へ?」

 

梨子は目を覚ました千歌の手を引き、避難しようと廊下を飛び出す。

 

曜と未来も同時に廊下へ飛び出し、校舎の外へ出ようと必死に足を動かす。

 

 

「あの怪獣、前にも出てきた奴だよね⁉︎」

 

「ウルトラマンが倒したんじゃなかったの〜⁉︎」

 

以前メビウスと未来はボガールを仕留めることができなかった。

 

逃走したボガールが再び現れたのか、それとも別の個体なのか。

 

(今はそんなことどうでもいい……!問題なのはステラ達だ!)

 

ツルギとステラはボガールを倒すためなら周りのことなど意に介さない。戦いに巻き込まれて校舎ごと生徒が犠牲になることも十分にあり得る。

 

『そんなこと……絶対にさせない!』

 

(ああ!当たり前だ!)

 

 

なんとか校庭まで脱出できた生徒達。全校生徒が少ないのもあってか、全員集まるのにそう時間はかからなかった。

 

「怪我をした方はいませんの⁉︎いたらすぐに返事をしてください!」

 

3年生が集まっている場所でダイヤの声が聞こえる。生徒会のメンバーが必死に動いているのだ。

 

「騒ぎが収まる前に……!」

 

時を見計らって人混みから抜けた未来は、生徒達から死角である校舎の物陰まで移動し、メビウスブレスを出現させた。

 

「このボガール……全然動かないな」

 

『僕達がやってくるのを待ってるんだ。……食べるためにね』

 

「上等!」

 

クリスタルサークルを回転させ、左腕を突き上げる。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

 

 

現れた光の巨人は、空から舞い降りると同時にボガールの顔面へと飛び蹴りをお見舞いする。

 

とにかく校舎から離し、生徒達の安全を確保しなくてはならない。

 

「ウルトラマンだ!」

 

「私達を……守ってくれた!」

 

メビウスが現れたことで、避難もせずにその場に固まってしまう生徒達。

 

(頼むから離れてくれよ……!)

 

近くに人がいるせいであまり自由には戦えない。常に背にある学校を意識し、守ることを優先する。

 

「セヤ!」

 

立ち上がったボガールの頭を抑え込み、殴り飛ばす。が、効いているようには見えない。

 

(やっぱタフだこいつ……!)

 

ーーーーいや、自分の力が弱いだけだ。

 

続けて拳を叩き込み、間髪入れずに回し蹴りで薙ぎ倒す。前回の戦闘に比べたら明らかに流れが良くなっているが、やはり決め手に欠ける。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

「セヤァ!!」

 

繰り出された光弾を、両手をクロスして防御し、そのまま突進。被膜を避けるために後ろへ回り込み、胴体に手を回して思い切り持ち上げた。

 

(この前のようにはいかない……ぜっ!)

 

できるだけ校舎から離すことを意識し、ボガールを遠くへ投げ飛ばす。

 

『よしっ!いいぞ!今だ!』

 

(ああ!)

 

クリスタルサークルを回転、両腕を上の方で揃え、メビュームシュートを放つ準備をする。

 

「ハァァァァアアア……!」

 

そして腕を十字に組もうとした次の瞬間ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュア!」

 

蒼い光線がメビウスの脇腹を掠め、ボガールの身体を貫いた。

 

「■■■■ーーーー!!」

 

断末魔を上げて爆散するボガール。

 

「ァア……⁉︎」

 

痛みに苦しみながら傷口を手で押さえるメビウスの後ろに、蒼い騎士が降り立った。

 

『ツルギ⁉︎』

 

(ステラぁ……!)

 

(余計なことはしないで。ボガールは、わたし達が殺す)

 

(ざっけん……!)

 

よろよろと立ち上がるメビウスを気にも留めず、ツルギはボガールの死体が散らばった場所へと歩み寄った。

 

『これは……!』

 

(どうしたのツルギ?)

 

『気をつけろステラ!これは脱皮した跡だ!奴はまだ近くにいーーーー』

 

 

 

 

刹那、巨体へ豹変したボガールが空から落下し、地面に到達した瞬間ツルギは衝撃波で吹き飛ばされた。

 

『ぐあああ……!』

 

(きゃあああっ!!)

 

前よりも禍々しい見た目へと変化し、爪と背中の被膜は棘のように鋭くなっている。

 

『大丈夫か⁉︎』

 

『ボガール……モンス……!』

 

(なんだよこいつは……⁉︎)

 

(くっ……!)

 

ボガールモンスは赤黒い巨大な光弾を生成すると、並び立つメビウスとツルギに向かって一直線にそれを放ってきた。

 

「「グアアアアアアアアアア!!!!」」

 

回避することも叶わず、二人の巨人は爆発の中で苦しみ悶えた。

 

 




ボガールモンス登場!
テレビでもメビウスやツルギを苦しめたこの怪獣、一体どうやって倒すのか……⁉︎

そして今回のプチ解説はラブライブ要素に関しての説明です。

この作品では千歌や未来が通ってる学校は共学に変更してあり、名前も「浦の星女学院」ではなく「浦の星学院」に変わっています。なので普通に男子生徒も存在してるわけです。


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第11話 騎士の心

今回でツルギとステラとのいざこざをひと段落つけたかったので、少し多めです。


「きゃあああああ!!」

 

「うわぁぁあああぁぁあ!!」

 

ボガールモンスの放った光弾の衝撃は辺り一帯を吹き飛ばし、避難していた浦の星の生徒までも巻き込まれてしまった。

 

「うぐっ……!」

 

「曜ちゃん!」

 

勢いよく地面を転がる曜。頭部を強打したのか、瞼を閉じて気を失っている。

 

慌てて駆けつけようとする千歌と梨子だったが、道を塞ぐように連続した振動と爆発が襲ってくる。

 

(ウルトラマンが……もう一人?)

 

少し離れた場所にいる赤い巨人に、その隣に立つ蒼い巨人。

 

ボガールモンスの攻撃に為す術もなく、放たれる光弾を防御するだけで精一杯のようだった。

 

「千歌ちゃん⁉︎早く逃げないと!」

 

「う、うん!」

 

曜を背負った梨子が声を張り上げてそう呼びかける。

 

千歌は周りをキョロキョロと伺い、一人欠けていることに気がついた。

 

「未来くんがいない……」

 

「えっ……」

 

梨子も未来が近くにいないことを理解したのか、一瞬顔の血の気が引いていく。

 

「もう避難したかもしれないわ、私達も逃げないと!」

 

「梨子ちゃんは曜ちゃんをお願い!」

 

「千歌ちゃん⁉︎ちょっと!!」

 

梨子に背を向けて走り出す千歌。その先にあるのは、すぐ側にボガールモンスとウルトラマンが激闘を繰り広げている校舎だ。

 

(嫌な予感がする……!無事でいて未来くん!)

 

 

◉◉◉

 

 

次々に撃ち出される光の弾を防御しつつ、ツルギは目の前にいる灰色の怪物を睨みつけていた。

 

(ボガール……ボガール……!ボガール!!)

 

『……⁉︎ステラ⁉︎』

 

「ハァァァァアアア……!」

 

抜刀するような動きでナイトブレスからナイトビームブレードを伸ばし、迫り来る光弾を切り落とす。

 

(ボガールを……殺す!!)

 

『待て!ステラ!!』

 

ツルギが制止するのも構わずに、ステラは蒼い巨体を動かしてボガールモンスへと特攻していく。

 

自らに傷害を加える光弾を払い、ボガールモンスの身体を切り裂こうとブレードを振るった。

 

(あいつ……!)

 

『危険だ……!あのボガール……体内エネルギーが凄まじく膨張している!』

 

(それどういうことだよメビウス⁉︎)

 

『奴が死ぬ時に、大規模な爆発が起こる!』

 

 

 

 

「デアアアアアアアアア!!」

 

胴体に向かって大振りな斬撃を繰り出すツルギ。怒りに身を任せて剣を振るうその姿はまるで鬼神のようだ。

 

『ステラ落ち着け……!こいつは……!』

 

(うるさい!)

 

「ダァアアアアアアアアアア!!!!」

 

胴に刃を突き立てようと腕を引く。だが、その一瞬の隙を見逃さなかったボガールモンスは、鋭い鉤爪でツルギの鎧に向かってカウンター攻撃を繰り出してきた。

 

「グア……ッ!」

 

(くそ!くそ!くそぉ!!)

 

ツルギに追撃しようと、灰色の剛腕が真横から迫る。

 

 

 

 

 

 

 

「セヤ!!」

 

メビュームシュートがボガールモンス腕を直撃。間一髪で危機を逃れたツルギは後ろへ下がり、距離を取った。

 

『大丈夫か二人とも!』

 

(世話が焼けるなまったく……!)

 

横に立つメビウスに向かって、ツルギは鋭い視線を向ける。

 

(邪魔を……するなぁ!!)

 

再びボガールモンスへ立ち向かおうとするツルギだったが、痛みに耐えられずにすぐ膝をついてしまった。

 

(うっ……ぐ……ッ!!)

 

『ステラ!』

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

ツルギに接近しようとするボガールモンス。

 

メビウスは近づけさせまいと前に立ち、メビュームブレードを伸ばし構える。

 

「セヤァ!!」

 

すれ違い様にボガールモンスの頭部を切りつけ、振り向いた勢いを利用してさらに一撃を加えた。

 

(硬い……!)

 

ボガールモンスの皮膚に大した外傷は見られない。ダメージもほとんど受けていないのだろう。

 

「ハァァァァアアア……!」

 

メビウスブレスに力を溜め、左腕に”∞”字の炎を纏わせる。

 

「セヤァア!!」

 

「■■■■ーーーー!!」

 

横から迫る巨腕をいなし、ボガールモンスの腹部に高熱の拳を叩き込んだ。

 

炎がボガールモンスの身体を突き抜け、天へと昇っていく。

 

(通った!)

 

『未来くん!まだだ!』

 

(なにっ……⁉︎)

 

「■■■■ァァァアアア!!!!」

 

ボガールモンスは全身から灼熱の熱風を放出し、メビウスとツルギは堪らず側から離れる。

 

灰色の巨体が徐々に縮小していき、最後には紫色の球体となってどこかへ消えてしまった。

 

(また……逃げられた……!)

 

 

◉◉◉

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「いっ……つ……!」

 

木に背中を預けて脱力するステラ。未来も体力を使い果たしたのか、肩で息をして立っているのがやっとだ。

 

ステラの胸の中から青い光が浮かんでくると、中からメビウスと同じような球体が現れた。

 

『大丈夫かステラ?』

 

「ええ……」

 

メビウスも未来の身体から分離し、オレンジ色の光となって目の前に現れる。

 

『……君達に聞きたい。どうして僕らの邪魔をしてまで、ボガールにこだわるんだ?』

 

『それは……』

 

「……」

 

言葉を詰まらせるツルギとステラに、未来は我慢しきれないといった様子で怒号を吐き出した。

 

「言えよ!これ以上勝手なことをするなら……!」

 

「するなら、なに?」

 

ありったけの殺意が込められた瞳が未来を映す。だが今回ばかりは気圧されるわけにはいかないと、未来はそれに思い切り拳を握って耐えた。

 

『……俺は以前、ウルトラの星で”命の固形化”に関する研究をしていた』

 

「ちょっと……ツルギ⁉︎」

 

『ステラ、何度も詮索されては迷惑だ。全て話そう』

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

ツルギから語られる話には、ボガール達の悪虐の限りが尽くされていた。

 

アーブという星を滅ぼしただけでは飽き足らず、他の惑星までも次々に餌場として食い荒らしたという。

 

そして、地球に来るまでに出会ったノイド星の少女についても。

 

 

 

 

『俺達は、ボガールに復讐する。例えどんな犠牲を払ってもだ』

 

未来はツルギの言葉を聞き、どこからか湧いてくる怒りに身体を震わせた。

 

「そのためなら……人間なんかどうなってもいいってのか……?」

 

『人間など……アーブの知性体に比べれば、下等な存在だ』

 

「んなこと……言うなよ」

 

一歩一歩に怒りを込め、ツルギとステラの所まで進む未来。

 

『未来くん!』

 

「命の研究をしてた奴が……!そんなこと言うなよ!!」

 

『…………ッ』

 

「あなたにはわからないわ」

 

ボガールに受けた傷を抱えるように押さえ、足を震わせて立ち上がるステラの目は、どこか遠くをみているようだった。

 

「わかるはずがない。大事なもの全てを……奪われた気持ちはね」

 

「いいや、わかる」

 

「……なんですって?」

 

 

未来の過去の情景が走馬灯の如く脳裏に映し出され、父と母を失った時の悲しみと憎しみが蘇ってきた。

 

「俺も父さんと母さんを怪獣に殺されてる。……でもだからこそだ」

 

今度はステラとしっかり目を合わせ、言った。

 

「復讐心で周りが見えなくなって……そのせいで沢山の命が消えるなんて嫌だ!」

 

「うるさい……」

 

「俺は2度とあんな光景は見たくない。だからメビウスと一緒に戦うって決めたんだ!決して復讐のためなんかじゃない!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!!黙れぇ!!」

 

噛み付くような勢いで未来の胸ぐらを掴み、鬼の如き形相で激昂するステラ。

 

「わたしはあなたとは違う!そんなに心は強くない!……ねえ教えてよ、わたしは……わたし達は、どうすればいいっていうのよ!!」

 

段々と手に込められた力が無くなり、するっと未来の首元から彼女の小さな手が滑り落ちた。

 

「もう……終わらせたいよ……」

 

大粒の雫が宝石のような瞳から零れ落ち、地面を濡らす。

 

『ステラちゃん……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!見つけた!」

 

「えっ……?」

 

息を荒げて駆けつけてきたのは、未来の幼馴染である少女ーー高海千歌だった。

 

メビウスとツルギは慌てて未来とステラの身体の中に入り込み、息を潜めた。

 

「千歌⁉︎なんでここに……」

 

「なんで、じゃないでしょ⁉︎もう!また急にいなくなっちゃうんだから!こんな大変な時に!!」

 

「ご、ごめん」

 

「何度も何度も……もう、やめてよね……」

 

千歌は未来が無事だとわかったことで身体の力が抜け、地面にへたり、と座り込んでしまう。

 

「あれ?」

 

「……どうかしたの?」

 

「ステラがいない……」

 

後ろを振り返ると、そこにいたはずの黒髪の少女の姿は無かった。

 

「……?いたのは未来くんだけだったよ?」

 

(……ステラ……)

 

 

戦闘の後に充満する、光線で焼かれた空気の焦げ臭い匂い。今回はそれが、いつもより遥かに不快に感じた。

 

 

◉◉◉

 

 

その日の放課後。

 

「ワンツー!スリーフォー!ワンツー!スリーフォー!」

 

千歌、曜、そして梨子も加えた三人は、砂浜でダンスの練習をしている真っ最中だ。

 

梨子の方も曲が完成したらしく、早速今度は振り付けを決めようという話になったのだ。

 

「三人ともー!そろそろ休憩入れたらどうだー⁉︎」

 

「「「はーい!」」」

 

三人分のミネラルウォーターを運んで来た未来が砂浜でステップを踏む少女達に言う。

 

未来の手から水の入ったペットボトルを受け取っていく三人。その内一人は、頭部に軽く包帯を巻いていた。

 

「曜、動いて大丈夫なのか……?」

 

「え?あぁ、これね。ちょっと切っただけだから問題ないよ!」

 

「でも、痛かったら無理しないでね」

 

「そうだよ!悪くなったら大変なんだから!」

 

曜に巻かれている包帯を見て改めて胸を痛めたのか、千歌と梨子も心配するように言葉をかけた。

 

「えへへ。心配してくれてありがとう」

 

「マネージャーとして、アイドルの体調管理もこなさないとだからな」

 

未来がニッと無邪気な笑顔を送ると、なぜか曜の顔がたちまちりんごのように真っ赤になる。顔から火でも吹くのではないだろうか。

 

「よ、よーそろぉ……」

 

「なんだ急に大人しくなって」

 

「な、なんでもないよっ」

 

ぷいっと未来から逃げるようにそっぽを向く曜。彼女はごく稀にこのような反応を見せることがあるのだが…………やはり幼馴染である千歌や未来にもその理由はわからずにいた。

 

『ほら、やっぱり曜ちゃんの様子おかしいって』

 

(いや、曜はたまにこんな感じになるぞ?)

 

『あ、あれぇ?やっぱり僕の勘違い……』

 

 

 

 

四人は砂浜に尻餅をつき、深呼吸をして空を仰ぐ。

 

気温もそこまで寒いわけではなく、思わず眠ってしまいそうになるくらい気持ちいい空間だ。

 

リラックスした雰囲気の中、黒髪をショートボブに揃えた少女の顔が頭の中に浮かんでくる。

 

 

ーーーーわたし達は、どうすればいいっていうのよ!!

 

 

(なあメビウス)

 

『……ステラちゃんと、ツルギのことかい?』

 

(ああ)

 

 

あの冷めた態度から初めて彼女が見せた、内に溜め込んでいた感情。

 

ノイド星とやらの文化がどうなのかは知らないが、ステラは最初に浦の星に来た時”習慣を取り戻したい”と言っていたはずだ。つまり、彼女も元は未来や千歌と同じ学生で……おそらく年もそう離れていない。

 

そんな少女が、ツルギというウルトラマンと共に戦いへ身を投じている。……そんなの普通じゃない。

 

(俺が言えた口じゃないけど……)

 

『何か引っかかることが?』

 

(あいつらの話を聞いて……正直同情はしたよ)

 

自分と同じ……いや、それ以上の境遇にいる者達。重ならないわけがない。

 

(だから……少しだけ、俺にも非があるなって……)

 

『……たまーに素直になるよね、君って』

 

(うるさい)

 

『まあ確かに……僕も彼らには思う所もある。でも、あんなやり方が許せるわけじゃない』

 

(それだよ。だから次にボガールが出た時は、ちゃんと協力して倒す)

 

数秒間驚いたように、そして考えるように、わざとらしくメビウスが会話を途切らせた。

 

『うん、僕もそのつもりだった。……でもどうやって?』

 

(どうもこうもないさ。ただ勝手に、俺達があいつらのサポートに回ればいい)

 

『ははっ……君らしい』

 

「だろ?」と心中で会話していたはずの未来の顔が、不意に笑顔で満たされていった。

 

いつの間にかつり上がっている口角に気がついた梨子が、首を傾げて問いを投げる。

 

「嬉しそうね。何かあったの?」

 

「いや……別に、”なんでもない”っ!」

 

千歌は必死に否定する未来の横顔を見つめた後、目を伏せた。

 

 

 

四人で雑談をしていると、話題が自然とウルトラマンのことに移っていった。

 

数年ぶりに地球に現れた怪獣と、それを倒し街を守ってくれる正義のヒーローの話。

 

「そういえば私、小さい時はまだここにいなかったけど……みんなは経験してるんだよね」

 

梨子が言う経験、とはおそらく怪獣に襲われることだろう。世界で初めて確認された怪獣、ディノゾール。何の偶然か、奴はこの内浦に現れたのだ。

 

「うん。あの時は……すっごく怖かったなぁ……」

 

「……そうだな」

 

しんみりとした雰囲気になってしまい、まずいと思ったのか梨子がオロオロと表情を変える。

 

「でも、ウルトラマンが来てくれた」

 

「そうだよっ!今回だって!」

 

「あれ?でも……」

 

曜は何か疑問に思ったように口元に手を添えて考える素振りを見せる。

 

「あの時見たのと、最近来たウルトラマン、別物だよね?」

 

「あっ、確かに……そうかも」

 

一瞬ドキッとした後、正体がバレていないことを確信して胸をなでおろす未来。

 

「どっちも”ウルトラマン”じゃややこしいわね」

 

「じゃあさじゃあさっ!私達で名前決めようよ!」

 

『⁉︎』

 

メビウスが動揺してるのが手に取るようにわかった。これで変な名前を付けられたらたまったものじゃないだろう。

 

「ウルトラマンヨーソロー!」

 

「ウルトラマンオレンジ!」

 

「ぷっ……」

 

『……やめさせてくれないかな?』

 

(しょうがないなあ……ぷふっ……)

 

好き勝手に意見を出し合う千歌達に向き直り、未来は人差し指を立てて注目を集めた。

 

「”メビウス”、なんてどうかな」

 

「メビウス……?」

 

「無限大って意味ね」

 

「メビウスかあ……かっこいい!未来くんセンスあるじゃん!」

 

「決まりだな!」

 

これでいいだろう、と心の中でメビウスに確認する。

 

『ありがとう……本当にありがとう……』

 

(一つ借しで)

 

 

どうやら名前は”ウルトラマンメビウス”でOKが出たようだ。

 

「ウルトラマンメビウス……私達の……ヒーロー!」

 

 

◉◉◉

 

 

「な、なあメビウス……本当にここにいるのか?」

 

『間違いないよ。近くで、もう戦闘が始まってる』

 

真夜中に家を抜け出し、未来とメビウスは内浦にそびえ立つ山の中へと足を踏み入れていた。

 

二人はツルギとステラ……そしてボガールの気配を追ってここまでやってきたのだ。

 

ーーーーギィン……!

 

鉄がぶつかり合うような音が届き、瞬時に神経を張り巡らせた。

 

『……!来るよ!』

 

「わ、わかった!」

 

身体の主導権をメビウスへ渡し、未来とメビウスは山道を疾風の如き速度で駆け抜けた。

 

風が全身を打つ中、遠くの方で死闘を繰り広げている二つの影の姿を捉える。

 

間違いなく、ステラとボガールだ。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

「くっ……!」

 

ナイトブレードを駆使し、自分よりも一回り二回り巨大な体躯に立ち向かう少女。

 

『あれは……昼に逃げた奴か!』

 

「突っ込むよ!」

 

左腕にメビウスブレスを出し、拳に力を注ぎ込む。

 

『「はあああああっっ!!」』

 

縮小化しているボガールモンスの頭部に渾身のパンチが炸裂し、バランスを崩した隙にメビュームブレードを展開、全身を切り刻む。

 

やはり未来自身が身体を動かすよりも、戦闘慣れしているであろうメビウスが戦った方が有利だ。ウルトラマンとしての活動はメビウス本人の力が半減しているため出来ないのが余計に悔やまれる。

 

「あなた達……!なんでここに!!」

 

「助太刀だ!こいつは強い……!でも俺達が協力すればきっと勝てる!」

 

未来が主人格に戻った後、ステラの隣へ並び立つ。

 

「どういう風の吹きまわしよ!邪魔をしないでって言ったでしょう⁉︎」

 

ステラは地を蹴り、前にいる未来とメビウスを突き飛ばした後、ボガールの腹部にナイトブレードで突き、素早く引き抜いた。

 

「■■■■ァァァアアア!!」

 

その瞬間、怒り狂ったボガールモンスは身体を肥大化させようと紫色に発光する。

 

それを見たステラと未来はそれぞれメビウスブレス、ナイトブレスを構えた。

 

「奴を倒すのはお前だ」

 

「……はぁ⁉︎」

 

「俺達はできる限りお前らのサポートをする。邪魔はしない」

 

「何言って……」

 

「俺はお前が嫌いだ。でも……お前の力を借りたいんだ。みんなの命を、救うために」

 

「命を、救う……?」

 

構えていた右腕を顔まで寄せて、ステラはじっとナイトブレスを見つめた。

 

 

 

 

 

ーーーーステラは優しい子ねえ。

 

ーーーー父さんの自慢の娘だよ。

 

 

 

 

 

 

 

(声……?これは……)

 

聞き慣れた、心が落ち着く声音。

 

もう二度と聞けないはずの、かつての故郷での思い出が見える。

 

それが幻覚なのか、それともナイトブレスが見せているものなのか、ステラには全くわからなかった。

 

『ステラの記憶が、俺の中にも流れ込んで来る……』

 

今までに起こることのなかった現象だ。

 

『まさか……これがウルトラマンキングが言っていた……』

 

未来とメビウスという存在によって引き出された、ナイトブレスの奇跡の力。ツルギにはそれで納得することしかできなかった。

 

「わたしも」

 

「え?」

 

「わたしもあなたが大っ嫌いよ」

 

「え?あ、うん……しってた……」

 

「だから、存分に利用してやるわ」

 

にやけた笑顔を晒すステラに、未来もつられて笑いながら答えた。

 

「ああ、そうしろ」

 

 

ステラはナイトブレスにナイトブレードを装填。

 

そして未来は、メビウスブレスを高く突き上げーーーー

 

「メビウーーーース!!」

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーー心の底から笑えたのは、いつぶりだろう。

 

戦闘中、そんな疑問が頭の中に浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

「デュアッッ!!」

 

「テヤァッッ!!」

 

以前では考えられないようなコンビネーションでボガールモンスに一撃、また一撃と攻撃をヒットさせていくメビウスとツルギ。

 

タフなボガールモンスといえど辛いのか、拳一発蹴り一発で動きが鈍くなっていくのがわかった。

 

「■■■■ーーーーーーーー!!!!」

 

尻尾を触手のように操り、二体の巨人を仕留めようと迫って来る。が、息が合い始めたメビウスとツルギにそれを迎撃することなど容易い。

 

「「ハァッ!!」」

 

メビュームブレード、ナイトビームブレードを伸ばし、縦に振るう。

 

二つの光剣が交差し、バツ印の斬撃が空中を飛び、ボガールモンスの胴体を切りつける。

 

(挟んで!)

 

(了解!)

 

メビウスは左から、ツルギは右からの攻撃に臨む。

 

相変わらずボガールモンスは巨人を食おうと抗うが、被膜を広げる前にダメージが蓄積され、ほとんど動けないでいる。

 

「■■……!■■……」

 

弱っているのだろう、ボガールモンスの鳴き声も小さくなってきた。

 

瞬間、ボガールモンスの体に赤みが帯び始め、同時に高熱と水蒸気を放出し始めた。

 

『くっ……!』

 

『そうだ、こいつは……!』

 

体内に膨大なエネルギーを抱えているのだ。いわば”移動する火薬庫”。トドメを刺せば、その身体を中心に大規模な爆発を引き起こしてしまう。

 

 

 

 

(どうすれば……いいんだ⁉︎)

 

(…………)

 

立ち止まるメビウスを追い越し、ツルギがボガールモンスへと突撃する。

 

「デヤアアアアッッ!!」

 

ナイトビームブレードをボガールモンスの胴体へ突き刺し、そのまま抱えようとするツルギ。

 

『……⁉︎何をするつもりだ!』

 

(ステラ……⁉︎)

 

 

(こいつは、わたし達が引き受ける!)

 

ーーーーステラは今、”自分達が犠牲となる”と同義の言葉を口にした。

 

『俺とステラでこいつを持ち上げ……空中で爆破させるんだ!』

 

『そんなことをしたら……君達の命は……!』

 

『百も承知だ!!』

 

(死ぬつもりなんて毛頭ないわ……!だから……死なないように、神頼みでもしててくれない?)

 

 

 

ツルギが地面を蹴ると、同時に串刺し状態のボガールモンスも飛び上がり、ドンドン上空へと昇っていく。

 

『……随分と君らしくない行動だな』

 

(それはあなたもでしょツルギ…………いいえ)

 

 

 

 

 

 

 

(ヒカリ)

 

ーーーードオォォォォオオオオオン!!!!

 

真夜中に太陽が現れたかと思うほどの閃光が世界を照らし、凄まじい音が地上まで届いた。

 

 

◉◉◉

 

 

『……!しっかりするんだ!ツルギ!』

 

(ステラ⁉︎おいステラ!!)

 

青い肌を露わにし横たわる巨人に、メビウスは必死に呼びかけた。

 

ツルギを纏っていた鎧は砕け散り、元のウルトラマンとしての姿。

 

『がはっ……!惑星アーブよ……!』

 

(感謝しても……しきれない……わね……うっ……!)

 

(もういい!喋るな!)

 

鎧のおかげで生きて帰ってこれた。が、二人の命はそう長くは保たない。

 

ゼロ距離であの爆発をまともに受けたのだ、無事なわけがない。

 

『まだ……死なない……』

 

(えぇ……!アークボガールを……この手で殺す、までは……!)

 

ツルギーーーーいや、()()()が伸ばした手を咄嗟に握るメビウス。本当にただ祈ることしかできない自分達のことを、激しく呪った。

 

『何か……何か彼らを助ける方法は……!』

 

(誰でもいい……誰でもいいから……!ツルギを、ステラを……)

 

魂すら吐き出しかねない勢いで、未来は叫ぶ。

 

(助けてくれえええええ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

天からカーテンのような光が、青い巨人を包み込むようにして降り注いできたのだ。

 

『あれは……!』

 

メビウスは何かに気づいたように立ち上がり、光の根源に視線を向けた。

 

(ウルトラマン……なのか……?)

 

メビウスやヒカリ……それとは違う何かを漂わせている。例えるなら、以前会ったウルトラの父に似た雰囲気を放つ、”女性型のウルトラマン”がそこにいた。

 

『ウルトラの母……!』

 

ヒカリと共に吸い込まれるかの如く、メビウスも光の中へと溶け込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー『生きるのです、ウルトラマンとして』

 

ウルトラの母は一言そう言うと、ヒカリの身体に手をかざし、治療を開始した。

 

(そうか……、エンペラ星人の妨害が無くなって、地球に干渉できるようになったから……!)

 

 

しばらく経つと、ヒカリの身体からすうっと一人の少女が抜け出てきた。ヒカリと融合していた、ステラだ。

 

「あれ……わたし……」

 

隣に横たわるヒカリの姿を見て、何が起こっているのか理解したのだろう、ステラは若干悲しそうに顔を伏せた。

 

(ウルトラの母が治療をしてくれた。……なら、わたしはもう……必要ない……)

 

 

ヒカリの治療が終わると今度はメビウスに掌を向け、心地いい、暖かな光を浴びせてくる。

 

ーーーーウルトラの母が持つ、癒しの力。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あなた達はこれで、私達の戦いに巻き込まれる必要は無くなりました。これからは元の生活に戻るのです』

 

『あのっ!待ってください!』

 

発言をしたのは、メビウスだった。

 

『未来くんを巻き込んだのは、僕の責任です……だから、こんなことを言う権利はないかもしれない』

 

「メビウス……?」

 

『でも!僕は最後まで彼と戦いたい!どうか……許可してくれないでしょうか!』

 

ウルトラの母に必死に訴えかけるメビウス。

 

未来はその姿に、ただただ視線を注ぐことしかできなかった。

 

『俺も……です……』

 

よろよろと苦しそうに立ち上がるヒカリを、ステラは気にかけるように側へと駆け寄る。

 

『まだやりたいことが残っています。だからそれまでは……彼女と共にいたい』

 

ウルトラの母は二人を交互に見つめ、そして言った。

 

『それはあなた達が決めることではありません。…………どうするのですか?』

 

そう言って視線を送った先は、未来とステラだった。

 

ーーーー答えは、前から決まっている。

 

 

「俺はやります。自分の故郷がピンチなら……俺は守りたい。友達も、街も、地球も!」

 

「わたしもヒカリと一緒にいたい。……だって、まだ死んでないもの。彼は”別れる時は死ぬ時”って言ってましたから」

 

ウルトラの母をまっすぐに見据え、返答を待つ二人の少年少女。

 

 

『……わかりました。私からそう伝えておきます』

 

未来とステラの顔が、一気に明るくなる。メビウスとヒカリも、安心したのか深いため息を吐き出していた。

 

『ただし……この先に待っているのは、これまでとは比べものにならない試練ばかりです。後戻りはできませんよ?』

 

「「わかっています」」

 

ハモったことが気に入らなかったのか、ステラはギロッと未来をにらんだ後、不機嫌そうにウルトラの母へ視線を戻す。

 

 

 

『……よき友をお持ちになりましたね』

 

ウルトラの母はメビウスとヒカリにそう言い残し、霧のようにうっすらと消えていった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ヒカリって名前だったんだな、お前」

 

『……む』

 

光の空間から抜け出した後、元の山道でステラと未来は目を覚ました。

 

気不味い雰囲気の中、未来は何か話題を出そうと思い、口にした言葉がそれだった。

 

『そういえばヒカリって……どこかで聞いたような……』

 

オレンジ色の球体に変身したメビウスがふよふよと未来の周りを漂う。

 

『自慢ではないが、スターマークを授与されている』

 

『ああ!そうだ!何かの書類で見たよ!君の記事!』

 

興奮気味にそう言葉を浴びせるメビウスに、ヒカリは若干引き気味だ。

 

『うわぁ……ごめんなさい!今まで敬語も使わずに!』

 

『やめてくれ。俺のことは呼び捨てで構わん』

 

『そんな恐れ多い……』

 

光の国事情に全くついていけない未来とステラは、顔を見合わせて苦笑する。

 

「これからは、俺達協力し合うってことでいいのかな?」

 

「……別に」

 

素っ気なく背を向けるステラは、さっさと帰るご様子だ。

 

「また明日ね…………()()

 

「ああ、また明日」

 

違和感を感じつつも、その正体がわからないまま、未来とメビウスは帰路に着いた。

 

 

 

 

 




次回からはサンシャイン3話に突入!
そういえば敵宇宙人全然出せてない……メトロン回も書きたいのに……ちくしょう。

今回の解説はオリキャラである七星ステラについて。

年は人間で言うと16歳〜17歳に位置します。
今はかなり毒のある性格ですが、ボガールの襲撃を受ける前は穏やかで内気、そして臆病という真逆の性格でした。
見た目がショートボブというのは完全に作者の趣味です。ちなみにイメージカラーは紺色です。


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第12話 踏み出す条件

マリー登場!!シャイニィィイィィイイイイイ!!!!


「いやよ」

 

「そこをなんとか!」

 

教室の隅でステラに頭を下げる未来。その光景を見てすぐに他のクラスメイト達は気まずそうに目を逸らす。

 

「い・や・よ。大体なんでわたしに頼むわけ?」

 

「いやぁ……他に頼んだ人は全滅だったし……。お願いだ!俺達を助けると思って!」

 

ついに頭を地に付けて土下座の体勢になる未来を見て、ステラは後ずさりをした。

 

「ちょっ!やめてよ!頭上げなさいよバカ!プライドは無いの⁉︎」

 

「んなもんより今は部の方が優先だぁ!!」

 

「いやったらいや!!アイドルなんて絶対やらないから!!」

 

そう。未来は距離が縮まったステラに改めてスクールアイドル部へと勧誘していたのだ。

 

部の設立に必要な人数の規定は5人。あと一人で正式に申請を出せるというのに……なかなか最後の一人が集まらないでいた。

 

「み、未来くん、あんまり無理強いは……」

 

「ご、ごめんね、七星さん。あはは……」

 

見るに耐えない光景に千歌と曜が止めに入る。

 

「……そんなにアイドルやりたいの?」

 

「うんっ!私達、絶対μ'sみたいになるんだ!!」

 

「みゅー……?」

 

ステラの問いに即答する千歌の目は、幼い子供のように輝いている。

 

「あれ?知らないの?じゃあ今日の放課後私達と一緒に来て!見せてあげるから!」

 

「え?あの……ちょっと……!」

 

休み時間の終わりを告げるチャイムと共に自分の席へ戻っていく千歌を、ステラは唖然と眺めていた。

 

「強引な人……」

 

「通常運転だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで放課後。

 

ステラを連れて砂浜までやって来た未来達は、彼女にスクールアイドルのことを知ってもらうために練習を見せることになった。

 

「「「ワンツー!スリーフォー!ワンツー!スリーフォー!」」」

 

メトロノームに合わせて振り付けの稽古をする千歌、曜、梨子。未来とステラは少し離れた所で体育座りをし、3人を観察するように見ていた。

 

『頑張ってるね、3人とも』

 

「ああ」

 

「スクールアイドルね……。普通のアイドルなら知ってるけど、コレはわたしの故郷には無い文化だわ」

 

『俺もこのようなものは初めて見る』

 

ステラだけでなくヒカリまで興味深そうに眺めているのは意外だったが、割と好感触なようだ。

 

「ほら、これ見てみろよ」

 

「……?」

 

未来はスマホに一つの動画を映し出し、ステラの方へ差し出す。”第二回ラブライブ!”でのμ'sのパフォーマンスの動画だ。

 

「千歌の奴、その人達の動画を見て、スクールアイドルを始めようと思ったらしいんだ」

 

『ヒカリも見てみなよ。すごく綺麗で、素晴らしい歌だよ』

 

 

 

横でそう言う未来とメビウスなど気にもせず、ステラは動画に見入ってる様子だった。

 

未来は自分も最初μ'sの動画を見た時、同じような反応をしたのを思い出す。

 

「どうだステラ。仮にも女子なら、少しはやりたいと思ってくれたか?」

 

「ぶった斬るわよあなた」

 

溜息を吐いてスマホを返すステラ。その視線の先にある千歌達が練習している姿を、彼女は先ほどよりも真剣な眼差しで見た。

 

「ふぅ……!休憩しよっか」

 

「そうね。じゃあ10分後くらいにまたやりましょう」

 

「あっ!()()()ちゃあーん!」

 

額の汗を拭いながらこちらにやってくる千歌達。いつの間にか名前で呼ばれていることに少し遅れて気がつく。

 

「見てた見てた⁉︎スクールアイドルやりたくなった⁉︎」

 

「え?えぇっと……」

 

チラッと未来に助けを求める視線を送るステラ。これまでに見たことがない戸惑いようだったので、未来は面白がりながらも助け舟を出す。

 

「やっぱり踊るのは恥ずかしいから無理だってさ」

 

「べっ……別に恥ずかしいとは……」

 

「じゃあ入ってくれるの⁉︎」

 

「ち、千歌ちゃん……」

 

梨子に制止されてしょんぼりと落ち込む千歌に、ステラは慌てて付け足した。

 

「でも、未来みたいにマネージャーならやってもいいわ」

 

「えっ⁉︎」

 

4人の顔が驚愕で満たされ、たちまち目が点になっていく。

 

「ほ、ほんとに⁉︎」

 

「入ってくれるの⁉︎」

 

「ええ」

 

「いやったあーーーー!!」

 

思い切り飛び跳ねる千歌に釣られ、思わず未来までもがジャンプしそうになる。

 

 

 

『急にどうしたんだ?ステラ……』

 

(ちょっとだけ見たくなってね。この星の人間がーー未来達がどこに行くのか、どこまで進めるのか)

 

輝きを追いかけようとする千歌達の姿に影響でもされたのか、とステラは自分でもこんな事を口にしてることが不思議で仕方がなかった。

 

 

 

「これで5人!」

 

「うん!あとは生徒会長に頼むだ……け……」

 

急に目の色を変えて空を見つめる千歌。そこには一機のヘリコプターが浮かんでいる。

 

「なに?あれ……」

 

「小原家のヘリだね」

 

「小原家?」

 

「淡島にあるホテル経営してて、新しい理事長も……たしかそこの人だって聞いたぞ」

 

「へえ〜……」

 

「…………」

 

なぜか警戒心丸出しでナイトブレードを取り出そうとしているステラを遮り、未来は遠くにあるピンク色の装甲を見つめた。

 

「なんか……こっちに近づいてないか?」

 

「気のせいよ……ははは……」

 

梨子の言葉に反して、そのヘリは段々とこちらまでの距離を縮めていく。

 

『未来くん……これは……』

 

流石のメビウスも嫌な予感を察知したのか、警告するように言葉をかけてきた。

 

「ふ、伏せろォ!!」

 

「「「うわぁあ!?」」」

 

なんとそのヘリコプターは未来達の真上を通り過ぎ、旋回して再び側の砂浜に着陸しようとしたのだ。

 

風に吹かれて荒れる砂嵐に目を瞑り、未来達は目の前のヘリに視線を固定した。

 

 

「あれは……」

 

ヘリの扉が横に開き、中から1人の少女が姿を現した。

 

外国人のような黄金色の髪の毛をなびかせ、少女は座り込んでいる未来達へ向かって一言。

 

「チャオー!」

 

 

◉◉◉

 

 

「ええ?新理事長?」

 

「イェース!でもあまり気にせず、気軽にマリーって呼んでほしいの!」

 

理事長室の机の側に立つ少女ーーーー小原鞠莉は軽快な口調でそう言った。

 

「でも……」

 

「紅茶、飲みたい?」

 

「あの、新理事長……」

 

「マリーだよぉ!」

 

ずいっと千歌に顔を近づける新理事長を名乗る少女に、未来達は隠しきれない困惑を表情に滲み出させる。

 

「ま、まりぃ……。その制服は……」

 

鞠莉が身につけている服は紛れもなく浦の星学院の、それも三年生のものだ。彼女が理事長だと言うのなら、どうしてこの学校の制服を着ているのだろうか。

 

「どこか変かな?三年生のリボンもちゃんと用意したつもりだけど……」

 

「り、理事長ですよね?」

 

「しかーし!この学校の三年生!生徒兼理事長!カレー牛丼みたいなものね!」

 

「例えがよくわからない……」

 

「わからないのぉ⁉︎」

 

なんともまあ自由人な方だ。制服を持っているということは浦の星の生徒に間違いないのだろうが……。

 

「わからないに決まってます!」

 

「うわっ⁉︎生徒会長⁉︎」

 

「わぁお!ダイヤ久しぶり〜!随分大きくなって〜!」

 

「触らないでいただけます?」

 

唐突に現れたダイヤに頬ずりする鞠莉を見て、さらに困惑する未来。

 

「胸は相変わらずねぇ……?」

 

「やっ、やかましい!……ですわ」

 

「イッツジョーク」

 

あの生徒会長の胸を鷲掴みするほどの度胸を持ち合わせてる鞠莉を見て、「何者か」という疑問が強く湧き上がってきた。

 

「まったく……一年の時にいなくなったと思ったら、こんな時に戻って来るなんて……一体どういうつもりですの?」

 

「シャイニィー!!」

 

ダイヤの問いを無視して奔放な行動を続ける鞠莉。

 

ダイヤの一年の時にいなくなっていた、という発言から察するに、鞠莉は過去に浦の星に通っていた経歴があるようだ。

 

(留学でもしてたのか……?外国人っぽいし……)

 

「とにかく、高校三年生が理事長だなんて、冗談にも程がありますわ」

 

「そっちはジョークじゃないけどねっ」

 

「は?」

 

そう言って鞠莉が突き出してきた紙には、「任命状」と書かれている。大方これが理事長になったという証拠なのだろう。

 

「私のホーム、小原家の学校への寄付は、相当な額なの」

 

「うそっ⁉︎」

 

「そんな、なんで!」

 

どうやら彼女が理事長ということは事実らしい。信じ難い話だが、鞠莉の家柄のことを考えればあり得ない話ではなかった。

 

「実は、この浦の星にスクールアイドルが誕生したという噂を聞いてね」

 

「まさか……それで?」

 

「そう!ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので、応援しに来たのです!」

 

「ほんとですか⁉︎」

 

鞠莉の話を聞いて嬉しそうに表情を明るくさせる千歌。理事長が味方してくれると聞いて興奮しない者はいないだろう。

 

「イェース!このマリーが来たからには心配いりません。デビューライブはアキバドームを用意してみたわ!」

 

「そんな!いきなり……」

 

「き、奇跡だよっ!!」

 

「イッツジョーク!」

 

「……ジョークのためにわざわざそんなもの用意しないでください」

 

上げて落とされたのもあってか千歌の顔がみるみる暗くなっていく。

 

「実際にはーーーー」

 

 

◉◉◉

 

 

「ここで?」

 

「はい。ここを満員に出来たら、部として承認してあげますよ」

 

鞠莉に連れられて移動した場所は、浦の星学院の体育館だった。

 

千歌によるとダイヤは「5人集めても認めるわけにはいかない」と言っていたらしいが、理事長が出した条件なら関係ない。ダイヤにわざわざ頼まなくてもいいのだ。

 

「本当⁉︎」

 

「部費も使えるしね!」

 

「でも、満員に出来なければ……?」

 

「その時は、解散してもらう他ありません」

 

「ええっ⁉︎そんなぁ……」

 

「嫌なら断ってもらっても結構ですよ?」

 

ファーストライブでこの体育館を満員に出来れば、スクールアイドル部の設立が許される。出来なければ解散……一か八かの勝負といったところだ。

 

「どうしますか?」

 

「どうするって……」

 

「結構広いよねここ?……やめる?」

 

「やるしかないよ!他に手があるわけじゃないんだし!」

 

「そうだな」

 

曜お得意の方法で千歌のやる気を奮い立たせた後、堂々と啖呵を切る。

 

「OK。行うということでいいですね?」

 

体育館から去っていく鞠莉を尻目に考えていると、ステラはある違和感に気がついた。

 

数秒後、それがただの違和感でないと確信し、千歌、曜、梨子、未来の方を気まずそうに見やり、口を開いた。

 

「ちょっと待って。この学校の全校生徒って……何人?」

 

咄嗟に曜が指を使って計算し、全校生徒の人数を調べるのも束の間、曜も悲鳴に近い短い声を上げた。

 

「ああっ!」

 

「どうしたの?」

 

まだ状況が理解できないでいる千歌に、ステラは眉をひそめて言った。

 

「わからない?例え全校生徒が集まったとしてもーーーー」

 

自分達以外に誰もいない、もの寂しい空間にステラの声が木霊した。

 

「ここは……満員にはならないわ」

 

打ちのめされたように表情を曇らせる千歌達。

 

「まさかあの理事長……そのことを知ってて……」

 

 

◉◉◉

 

 

夕暮れの赤い日差しが差し込むバスの中。

 

千歌は窓に頭を預けて項垂れていた。

 

「どうしよう……」

 

「でも、鞠莉さんの言うこともわかる。それくらいできなきゃ、この先もダメということでしょう?」

 

「やっと曲が出来たばかりだよ?ダンスもまだまだだし……」

 

「じゃ、諦める?」

 

「諦めないっ!」

 

全校生徒を集めても満員にならないとしたら……校外の人にもお客として来てもらうしか手はない。

 

「はぁ……どうしてこう次から次に……」

 

「愚痴ってても仕方ないわよ。あんたもマネージャーなら、必死にビラ配りでもして来なさいよ」

 

「わかってるけどさぁ……」

 

どうもスクールアイドルにーーーーいや、千歌達に関わってから色々な事に巻き込まれている気がする。

 

(この憂鬱な感じ、小さい頃を思い出すよ……)

 

『小さい頃?』

 

(いや……昔、一時期不幸続きだったことがあってさ……)

 

親が死んだ後しばらく立ち直れなかった未来は、自分の周りに起こることが全て不幸であると錯覚するまでに陥ったことがあった。

 

(ま、所詮は子供だったし、その時はいつの間にか立ち直ってたけどな)

 

 

 

 

 

 

 

五人はどうやって学校に人を集めるか考えるために、千歌の家に集まって作戦会議を行うこととなった。

 

バスを降り、旅館に入ろうとしたところで未来はふと疑問に思ったことを言う。

 

「あれ?そういえばステラ、お前……どこに住んでるの?」

 

地球に来て家も何もないはずなのに、ステラが制服や学校で使う教材はどこで調達しているのか全く知らなかったのだ。

 

千歌達も気になったのか、無言でステラへ視線を向ける。

 

「どこって言われても……色んな所を転々としてるから」

 

「え?どういうこと?」

 

「え?だから野宿……」

 

「野宿ぅ⁉︎」

 

今日一番の衝撃と驚きが未来達を襲った。

 

冷静に考えれば確かに野宿しか選択肢がないが、やはり実際に本人の口から聞くとまた驚愕の大きさが変わる。

 

「なんで⁉︎家は⁉︎」

 

「家って……わたしにそんなのあるわけーーーー」

 

ステラは千歌にそう言いかけて自分がどれだけまずいカミングアウトをしようとしているのか理解したようだ。

 

”宇宙から来たから家がない”なんて口が裂けても言えない。

 

「し、趣味なの……キャンプみたいなものよ。お、おかしい?」

 

とてつもなく苦し紛れな言い訳を言い放つステラだが、千歌はそれに納得したように感嘆の声を上げた。

 

「へぇ〜!意外とワイルドなんだねステラちゃん!」

 

「え、ええ、まあね」

 

冷や汗を流しながらそう受け答えするステラに、未来はテレパシーで続けて疑問を投げた。

 

(じゃあお前制服とかどうやって手に入れたんだよ⁉︎)

 

(そんなのヒカリに頼めば余裕で複製してくれるわ)

 

『……ごほん』

 

あまり会話に入らないヒカリが咳払いをする。姿は見えないが、なぜか自慢げに胸を張る青い巨人の姿が想像できた。

 

(えっ……メビウス……お前できる?)

 

『ど、どうだろう……』

 

どうやらメビウスにとっても予想外だったらしく、苦笑まじりにそう答えた。

 

「でもまだ寒いし身体によくないよ?」

 

「家に帰るわけにはいかないわ。しばらくは他所で過ごすって決めたの」

 

千歌は少し考えるように空を見上げた後、手をポン、と打ち付けてステラにある提案をした。

 

「じゃあさっ、しばらくうちに泊まってきなよ」

 

「うちって……この旅館に?」

 

「うんっ、部屋ならたくさんあるし」

 

たしかにいい考えかもしれない。

 

ステラ本人としては外に留まる理由は無いのだから、いっそのこと千歌の家に居候でもさせてもらえば好都合だ。

 

「えっと……いいの?」

 

「もっちろん!志満姉達もきっと歓迎してくれるよ」

 

ステラはほんの少し嬉しそうにはにかんだ後、顔を上げて言った。

 

「お言葉に甘えて。よ、よろしくお願いします……」

 

高海家の住人が、一人増えた瞬間であった。

 

 




今回は日常回でした。
とりあえずルビィと花丸が加入するまではこんな感じでサンシャインのストーリーを進めていきたいと思います。並行してほんの少し伏線混ぜたりもしますが。

そして今回の解説はなんと2話続きで再びステラ、そしてヒカリについて。

ステラは今までボガールを狩りながら山の中で生活するという非常に野生児のような生活をしていました。
食事はヒカリの影響で取らなくても支障はありませんが、元は地球人によく似た身体の構造をしたノイド星人なので、本能的に何か食べたいと思うことはあります。
淡島神社で野宿をした時には参拝に来たお婆さんからお饅頭を貰い、初めて地球の食べ物を口にすることとなります。ちなみにその時の影響で和菓子が大好物となったようです。

あとヒカリの力もこの作品ではかなり弄くり回しています。……すごい科学者だし、ある程度の物は複製できたりするよね?(震え)



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第13話 輝きへの一歩

今回はついにファーストライブ回!……少し詰め込みすぎたかもしれません。


「じゃあ私、美渡姉と交渉してくる!」

 

「いってら〜」

 

未来達は今、ライブ当日どうやって人を集めるかの話し合い中だ。とりあえずは千歌のもう一人の姉である美渡に頼み込み、会社の従業員を連れてこれないか聞いてみることに。

 

「すごいわね……こんな部屋がいくつもあるの?」

 

「そりゃあまあ、旅館だし」

 

ステラは千歌の部屋に入ってからずっと周りをキョロキョロと伺うような反応を見せていた。初めてという事もあって、旅館の内装が珍しいのだろう。

 

「もしかしてステラちゃん、結構世間知らずのお嬢様だったり?」

 

「別にそういうわけではないけど……」

 

お嬢様という言葉ほどステラに似合わないものはない、と未来は思わず吹き出しそうになるのを……堪えきれなかった。

 

「ぷっ」

 

「なによ」

 

「いや、なんでもない」

 

気を取り直して本題に移ろうと、未来は気怠げに話を進めた。

 

「しっかしあの理事長もキツイ提案してくるよなあ。こんな田舎に人を集めるだなんて……」

 

「でも出来なきゃ、部を作ることすらできないよ」

 

「そうね。最初の頑張り所よ」

 

衣装を製作しながら話す曜と、真剣な眼差しでライブで使う曲の楽譜を見つめている梨子。

 

二人を見ていると、自然と自分も頑張らねば、という気持ちになってくる。

 

「じゃあステラ、俺達は今度配るチラシを作ろう」

 

「わかった」

 

無い知恵を振り絞って何とかデザイン案を出し、サンプルとして紙にイラストや広告を書いていく。

 

「少しお手洗いに行ってくるわ」

 

「いってら〜」

 

席を立つ梨子に手を振りながら、中々上手く決まらないデザインに悩む未来であった。

 

 

 

 

 

 

しばらくすると部屋の(ふすま)が勢いよく開き、何やら神妙な顔つきの千歌が姿を現した。

 

「……おかしい。完璧な作戦のはずだったのに」

 

額にマジックで書かれた”バカチカ”という文字をウェットティッシュで拭く千歌。どうやら交渉は上手くいかなかったらしい。

 

「ダメだったか……。まあ美渡さんの気持ちもわからないわけじゃないけど」

 

「ええっ⁉︎未来くんお姉ちゃん派⁉︎……って梨子ちゃんは?」

 

「トイレ行くって言ってたぞ」

 

「あれ、何やってるの?」

 

千歌が机の隣の襖を開けると、つっかえ棒のような格好で、真下に居座る大型犬を避けようとしている梨子がいた。高海家で飼っている”しいたけ”である。

 

「それよりも人を集める方法でしょ?」

 

「そうだよね、何か考えないと……」

 

「チラシだけじゃ効果薄いかもしれないしなあ」

 

「町内放送で呼びかけたら?頼めばできると思うよ」

 

「あとは沼津かなあ。向こうには、高校いっぱいあるから、スクールアイドルに興味ある高校生もいると思うし」

 

では沼津でもこのチラシを配ろう、と改めてデザイン作りに取り掛かる……が。

 

「あなたそれ……なに?」

 

「千歌と曜と梨子……のつもりだったんだけど……」

 

「……」

 

無言で未来の手元にあるデザイン案を見るステラの目は絶対零度の如く冷ややかだ。絵心など皆無な未来にイラストを描かせたらどうなるかを知る事となった。

 

逆にステラのイラストを拝見する。デフォルメされた3人の少女が、可愛らしく並んでいるのが見えた。

 

「あとはわたしがやるわ。あなたは……配る時に頑張りなさい」

 

「…………はぃ」

 

 

◉◉◉

 

 

次の日。

 

未来達はライブの知らせのチラシを配るために沼津駅前へとやってきていた。

 

普段暮らしている地域とは違い、人の数も建物の量も圧倒的に多く、改めて都会の力というものを感じた。

 

「東京に比べて人は少ないけど、やっぱり都会ね」

 

「そろそろ部活終わった人達が来る頃だよね?」

 

「よーし!気合い入れて配ろう!」

 

一足先にチラシを配ろうと走り出す千歌。

 

「よし……。これ、お願いします!」

 

続いて近くにいた高校生に向かってチラシを突き出すが、まるで何も見えないかのようにスルーされた。

 

「意外と難しい……?」

 

「こういうのは気持ちとタイミングだよ!見てて!」

 

大量の紙束を抱えて駆けていく曜の後ろ姿を呆然と眺める。

 

「ライブのお知らせでーす!よろしくお願いしまーす!」

 

「ライブ?」

 

「はい!」

 

「あなたが歌うの?」

 

「はいっ!来てください!」

 

二人組の女子高生の前に出てきては持っていたチラシをそれぞれに渡し、好感触を掴むことに成功した。

 

(さすがコミュ力の塊……っ!)

 

「感心してないであなたも頑張りなさいよ」

 

「む……。そういうお前はどうなんだよ。ちゃんとできるのか?」

 

「ふん、見てなさい」

 

ステラはゆっくりと一人で歩いていた男性を引き止めーー普段では考えられない満面の笑みを作った。

 

「すみませーん!今度行われるライブのお知らせですっ!もしよかったら来てください!」

 

(あぁ……⁉︎)

 

気味が悪いほどの眩しい笑顔。彼女の本性を知っている未来からしてはとてつもなく恐ろしい光景だった。

 

「え?連絡先?すみませーん、わたし携帯持ってないんです!」

 

男性にしっかりとチラシを受け取らせた後に軽くあしらうようにしてその場を離れるステラ。

 

「チッ……、調子乗んないでほしいわ。あのチャラ男」

 

「お、お前……怖いな」

 

「ほら、突っ立ってないで仕事してマネージャー」

 

「わかってる!」

 

未来も負けじと周りを見渡し、できるだけ大人しくて受け取ってくれそうな人間を探す。が、そんな人物など外見で判断するのは難しい。

 

(くそう……!怖い人に当たりませんように!)

 

『怪獣相手にしてる君がそんな弱気でどうするんだい?』

 

(うるさい!)

 

曜は言うまでもないが、千歌と梨子も意外と多くの人にチラシを配っている。未来の中の焦りがブーストしていった。

 

「ええいままよ……ってあれ?」

 

並んで歩く人影に見覚えがあることに気がつき、その二人組の方へと駆け寄っていった。

 

「花丸ちゃん!それとルビィちゃん!」

 

「ずらっ?」

 

「ピギッ……!」

 

すぐさま花丸とその後ろに隠れるルビィへライブのチラシを手渡す。

 

「ライブ?」

 

「ああ!うちの三人娘が歌うんだ、是非来てくれ!」

 

「やるんですか⁉︎」

 

「ん?」

 

「あっ……うゅぅ……」

 

未来と目が合った瞬間に膝を抱えて花丸の後ろに座り込むルビィ。怖い顔だったろうか、と内心反省する。

 

『任せて』

 

(はい?……うっ!)

 

気づくとメビウスがいつの間にか主人格を奪い、小さくなっているルビィの側に近寄っていた。

 

「絶対満員にしなきゃならないんだ。ルビィちゃんも、来てくれると嬉しいな」

 

「ぁ……は、はぃ……」

 

メビウスが発した爽やかな笑顔と声によって警戒心が解かれたのか、ルビィは紅潮させた顔をチラシで隠しながら小さくそう答えた。

 

『……もう全部お前一人でいいんじゃないかな?』

 

(ダメだよ。ちゃんと仕事しなよ)

 

『冗談だよ』

 

身体を元に戻してもらい、その場から離れて再びチラシ配りへと戻ろうとする未来。

 

 

「あ、君!それボクにも一枚くれないかな?」

 

「え?あ、もちろんです!どうぞ!」

 

黒い上着に黒いズボン……と、全身黒ずくめな男性がそう言って未来に歩み寄って来た。妙な雰囲気を纏った、清潔感のある男だ。

 

束から一枚、男性へと渡す。

 

「ありがとう。必ず行くよ、このライブ」

 

「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」

 

スクールアイドルが好きなのだろうか。やけに積極的な人だな、と違和感を感じつつも、未来はその場を後にしようとする。

 

『……ッ……⁉︎』

 

(どうかしたかメビウス?)

 

『……ごめん。なんか具合が……』

 

(人混みにあてられたか?)

 

『いや、それなら同化してる君も影響を受けるはずだ』

 

(よくわからんが気をつけてくれよ。俺とお前は文字通り一心同体なんだし)

 

男性を尻目に、気を取り直してチラシを配ろうと足を動かす。

 

「あれ、ちょっと待って」

 

「……?はい」

 

先ほどの黒ずくめの男性に呼び止められ、未来はキョトンとした表情になる。

 

「グループ名はなんていうんだい?」

 

「え?」

 

自分の手の中にある紙に目を落とす。

 

「グループ名……?」

 

 

◉◉◉

 

 

「まさか……決めてないなんて」

 

「梨子ちゃんだって忘れてたくせに」

 

「とにかく、早く決めなきゃ」

 

夕方、いつも通り海岸で練習を行なっていた千歌達は、未だに決まっていなかったグループ名の話題を持ち出した。

 

「そうだよねえ……。どうせなら学校の名前入ってる方がいいよね?”浦の星スクールガールズ”とか?」

 

「まんまじゃない」

 

「じゃあ梨子ちゃん決めてよー」

 

「ええっ⁉︎」

 

「そうだね!ほら、東京で最先端の言葉とか!」

 

ストレッチの最中である三人の会話に聞き耳を立てる未来とステラ。

 

「えっと……じゃあ、”スリーマーメイド”とか……」

 

「「いちにーさんしー!いちにーさんしー!」」

 

「待って!今の無し⁉︎」

 

(これ絶対俺にも回ってくるよな……)

 

しばらく決まることはなさそうだな、と思いつつ嫌な予感も同時に察している未来であった。

 

「曜は何かないのか?」

 

自分に矛先が向けられる前に曜へと振る。

 

ランニングしながら目を閉じて考えている曜が数秒後に一言。

 

「”制服少女隊”!どう?」

 

「ないな」

 

「ないわね」

 

「ないかな」

 

「そうね」

 

「えぇーーーー⁉︎」

 

それにしても、こんな大雑把に決めていいものなのだろうか。グループ名ということは、そのチームにずっと付いて回る看板のようなものだ。その場のノリで決定しないほうがいいと思うが……。

 

「じゃあ未来くんの番ね」

 

「ですよねええええ」

 

一応考えはしたが、それらしいものがポンポン浮かぶほど未来には発想力はない。

 

「じゃあ今まで出たのを合わせて、”浦の星少女隊”とか……」

 

「ちょ、ちょっと!スリーマーメイド要素ないじゃない!」

 

梨子が怒りにも恥辱にも見える表情でそう訴えてきた。正直組み合わせるのならスリーマーメイドは入らないと判断したので……。

 

「あっはははは!……ごめんなー梨子」

 

「未来くんの馬鹿!」

 

「ん……?」

 

ステラが何かに気づいたように、海が広がる後方へと視線を飛ばした。

 

そこには木の棒か何かで削られるようにして書かれた、”Aqours”という文字があった。

 

「この文字……なんて読むのかしら?」

 

「えーきゅーあわーず……」

 

「あきゅあ?」

 

「もしかして、”アクア”?」

 

「水ってこと?」

 

「あー……そゆこと……」

 

しばらく見惚れるように、五人はその場で固まったままその文字を眺めていた。

 

その沈黙を破ったのは、千歌だった。

 

「水かあ……。なんか、良くない?グループ名に」

 

「これを?誰が書いたのかもわからないのに?」

 

「だからいいんだよ!名前決めようとしている時に、この名前に出会った。それって、すごく大切なんじゃないかな!」

 

「……そうかもね!」

 

「このままじゃ、いつまで経っても決まりそうにないし」

 

千歌に続いて曜と梨子も賛同していき、ほぼ決定したような雰囲気が漂い始める。

 

「いいんじゃないかな」

 

「ええ。いい響き」

 

「じゃあ決定ね!この出会いに感謝して、今から私達は!」

 

千歌は広大な海原に向かって勢いよく飛び上がりーーーー

 

 

◉◉◉

 

 

次の日からもライブに人を集めるためにチラシ配りや町内放送をしたりと、様々な努力を施した。

 

もちろんダンスや曲にも改良を加え、当日に最高のパフォーマンスができるように最後まで、夜遅くまで作業を続けた。

 

「ここの振り付け、ちょっと派手すぎないか?」

 

「じゃあ少し抑えて……、この辺でアピールを……」

 

「なあ、千歌は……って」

 

いつの間にかテーブルに突っ伏して眠りこけている千歌に、未来は側にあった掛け布団をそっと被せる。

 

「今日はもう終わりにしましょうか」

 

「そうだね……ってもうこんな時間⁉︎バス終わっちゃってる……」

 

「ええ⁉︎」

 

ステラは千歌の家に泊まり、梨子と未来はお隣ーーーー三人は問題ないが、曜の家は少し離れた場所にあるため、バスが無いとかなりの時間を要する。

 

「もう夜遅いし、俺が送って行くよ」

 

「え?そ、そんな悪いよ!」

 

「だいじょぶだいじょぶ。ほら、行くぞー」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

ぴしゃっ、と襖が閉まる音が部屋の中に響く。

 

 

 

 

 

 

未来に手を引かれて部屋を後にする曜を見て、ステラは梨子に尋ねる。

 

「曜も照れる時があるのね」

 

「え?」

 

「いえ、なんでもないわ……。片付けはわたしがやっておくから」

 

散らばったプリント類に手を伸ばすステラに、梨子は構わずその手伝いを始めた。

 

「ううん、私もやるわ。ステラちゃんも遠慮しないでね、私達、友達なんだから」

 

「…………」

 

故郷を離れてから久しぶりに感じる暖かみの連続に戸惑いつつも、ステラは必死にポーカーフェイスを装った。

 

 

◉◉◉

 

 

(大丈夫だよな……警察とかいないよな……?)

 

未来は周りをキョロキョロとうかがいながら、曜を後ろに乗せた自転車で歩道を疾走していた。絶賛二人乗り中なので、誰かに呼び止められでもしたらお終いだ。

 

(にしても、なんか全然疲れないな……)

 

「み、み、み、未来くん⁉︎」

 

「なにー?」

 

「なにーって!スピード出し過ぎじゃない⁉︎」

 

「え?別にそんなことは……」

 

言いかけてやっと気づく。今の自分はメビウスと身体能力を共有しているのだ。どうりでいくらペダルを漕いでも疲れないわけだ。

 

「おっ……と」

 

「ひゃああっ⁉︎」

 

小石にでもつまづいたのか、若干大きめに車輪が地面を離れた。

 

曜からしたらバイクにでも乗っている気分ーーーーいや、それ以上の速度が出ているかもしれない。

 

振り落とされまいと必死に未来の胴にしがみついている。

 

「早く帰らないと心配するだろうし、ちょっとトバすぞ!」

 

「えっ?ええ⁉︎うわわわわああああ!?!?」

 

鎌鼬か何かとでも勘違いしそうな速度が、少女の悲鳴と共に街中を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「あ、あの……ごめん。ほんとごめん……」

 

曜の自宅に着いたはいいが、その時には既に彼女の体力は限界に達していた。

 

ぐったりとした身体とむすっとした表情でこちらに視線を突き刺してくる曜に、思わず目を逸らしたくなる。

 

「怖かったんだよ?」

 

「……はい……調子に乗りすぎました」

 

文字通りぐうの音も出ない未来をしばらく見つめた後、曜は何かを面白がるように吹き出した。

 

「ぷっ……!あははっ!冗談冗談!でもすごいね未来くん。いつの間にあんな体力付けたの?」

 

「えっと……まあ、色々ありまして」

 

「へえ、色々ね……」

 

じっと未来の顔を隅々まで観察した後、曜は彼に背を向けて玄関へと歩いて行った。

 

「じゃ、送ってくれてありがとね、未来くん。また明日」

 

「あ、ああ。おやすみ曜」

 

置いてかれたような心細さが一瞬胸をよぎり、未来はビクビクしながら再び自転車のサドルへ跨った。

 

(怒ってるよな……?)

 

今後メビウスの力を使う時は色々と気をつけよう、と反省する未来であった。

 

 

◉◉◉

 

 

「やっぱり慣れないわ……。本当にこんなに短くて大丈夫なの?」

 

「大丈夫だって!μ'sの最初のライブの衣装だって……ほら!」

 

ライブ当日。凄まじい緊張感の中、千歌達は体育館の裏手で開始時間を待っていた。

 

「はあ……やっぱりやめておけばよかったかも、スクールアイドル」

 

「大丈夫!ステージ出ちゃえば忘れるよ!」

 

この空間にいると、なぜか踊らないはずの自分まで緊張してくる。震える全身に力を入れながら、未来は腕に巻いている時計を確認した。

 

『ついに見れるんだね……ライブ!』

 

(嬉しそうだな)

 

『当たり前さ!初めてスクールアイドルのことを聞いてから、ずっと気になってたんだから!』

 

少し時間が経った後、照明等の器具の調子を確認していたステラが舞台裏へと駆け上ってきた。

 

「あっ、ステラちゃん!」

 

「準備は全部完了よ。クラスの人達も、配置に付いてるわ」

 

そう、このライブはこの場にいる五人だけで完成されるものじゃない。千歌の呼びかけで協力してくれることになった数人の生徒、そしてーーーー見にきてくれるであろう、地域の人々。

 

数々の協力が重なって織り成すものだ。

 

「一応言っておくけど……」

 

「ん?」

 

ステラは他の三人には聞こえないように、未来の側に寄って耳打ちをした。

 

「慰める準備もしといたほうがいいわよ」

 

「は……?」

 

不穏なセリフを囁いたステラは、そのまま何事もなかったかのように円形に並ぶ三人の少女の近くへ歩み寄って行った。

 

「未来くんとステラちゃんも!」

 

未来は千歌と曜の間に、ステラは曜と梨子の間にそれぞれ入り、深呼吸をして一旦落ち着く。

 

「そろそろだね……えと、どうするんだっけ?」

 

「たしか、こうやって手を重ねて……」

 

五人が片手を前に出し、添えるように掌を重ねていく……が。

 

「……繋ごっか」

 

「え?」

 

千歌に言われるままに重ねた手を戻し、隣にある手を優しく握る。

 

「こうやって互いに手を繋いで……ね?あったかくて、好き」

 

「ほんとだ」

 

静寂の中、外で降り注ぐ雨音と雷が落ちる音が耳をつんざく。

 

「雨……だな」

 

「みんな、来てくれるかしら?」

 

「もし、来てくれなかったら……」

 

「じゃあ、ここでやめて終わりにする?」

 

「…………くすっ」

 

「「「「「あははははっ……!」」」」」

 

ライブの前のひと時が終わりを告げ、千歌は目の色を変えて声を張り上げた。

 

「さあ行こう!今、全力で!輝こう!」

 

「「「「「Aqours!サンシャイン!!」」」」」

 

 

◉◉◉

 

 

マネージャーである未来とステラは一度舞台裏から移動し、一般のお客さん達が集まる場所に向かった。

 

そこで見た光景に、未来は息を呑むこととなった。

 

「……こっ…………これだけ……なのか……?」

 

体育館に集まったのは浦の星の生徒が数人と、マスクで顔を隠し、厚手のコートを羽織った少女のみ。満員とは程遠い、絶望的な数の差だった。

 

「……そう気を落とさないことね。最初なんて大体こんなものよ」

 

「……わかってる。大丈夫さ、あの三人ならきっと」

 

ステージの幕が上がり、照明の光と共に三色の衣装を身に纏った千歌、曜、梨子の姿が目に飛び込んで来た。

 

「……っ……」

 

千歌も集まった人数にショックを受けたのか、ほんの一瞬だけ表情が濁る。……しかし。

 

「私達は、スクールアイドル、せーのっ!」

 

「「「Aqoursです!!」」」

 

堂々と足を踏み出し、精一杯の想いを観客にぶつけようとする千歌達。

 

「私達は、その輝きと!」

 

「諦めない気持ちと!」

 

「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました!」

 

 

 

 

 

「目標は…………スクールアイドル、μ'sです!!」

 

憧れの存在を口にし、ますます三人の顔が引き締まっていくのがわかった。

 

「聞いてください!」

 

千歌の掛け声と同時に会場の静まりがピークに達し、ついにAqoursのーーーーファーストライブが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーダイスキだったらダイジョウブ!ーー

 

 

 

その場にいる者はーーーーそれぞれの、様々な想いを馳せていた。

 

三人を見守る者。誰かを待つ者。誰かに素直になれない者…………。

 

少女達の歌声によって彩られていく空間の外側にーーーー尋常ならざる”闇”が、近づいていたのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「やあ……今始まったところか……」

 

豪雨の中傘も持たずに校舎の前に立つ一人の黒ずくめの青年。その瞳には見る者に恐怖を与えるギラついた”闇”が込められていた。

 

青年の手中に闇のオーラが集まり、しっかりとした質量、密度を持ってテニスボールほどの大きさまで巨大化していく。

 

「さあ……見せてもらうよ、()()の輝きを……!」

 

青年は手の中にある”闇の波動”を放ち、傍に設置されていた電柱の導線を一撃で両断してしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

三人の輝きが頂点に達しようとした刹那、バツンッ!という不快な音と共に体育館中に暗闇が広がった。

 

「……なっ……⁉︎」

 

「停電……⁉︎」

 

当然照明の明かりも、音楽も中断され、その場にいた全員から困惑の声が漏れ始める。

 

(こんな時に…………ッッ!!)

 

未来は今までにないほどに脳をフル回転させ、今自分が何をすべきかを必死に模索する。

 

『ステラ……、ステラ!』

 

「はっ……!」

 

呆然と立ち尽くしていたステラが、ヒカリの声で我に帰る。

 

(どうしたんだヒカリ⁉︎何か手があるのか⁉︎)

 

『未来くん落ち着くんだ!』

 

(落ち着いていられるか!)

 

『ええい二人とも静かにしろ!!』

 

ヒカリの一喝で未来とメビウスは宿主であるステラの方へ視線を移す。

 

『この施設はそれなりに設備が整っている、ならどこかに予備電源になる何かがあるはずだ』

 

「行ってくる!」

 

「あっ!ちょっと未来⁉︎」

 

ステラの伸ばした手は未来には届かず、ヒカリの助言を聞くなり彼は体育館を飛び出して行ってしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

(妙だ……、なんでこんなに車が……?)

 

予備電源が置かれているかもしれない倉庫へ向かうために全力疾走していると、窓から外の景色が見えてきた。

 

「いや、今はそんなことより……ッ!」

 

視線の向きを前方に戻し、一秒でも早く倉庫に辿り着きたいと手と足を動かした。

 

途中、一人の男性とすれ違う。

 

未来がやってきたーー体育館のある方向へと向かおうとする、黒ずくめの青年。

 

(今の人……どこかで……)

 

『未来くん!もしかしてあれじゃーーーー』

 

 

 

 

一つの扉を指してそうメビウスが言いかけたところで、視界は一気にクリアに戻った。

 

周囲を照らす光が戻り、拍子抜けした未来は思わず立ち止まってしまう。

 

「電気が戻った……?」

 

何が起こったのか確認するため、倉庫へほとんど特攻していく形で入って行った。

 

「……⁉︎あなたは……!」

 

「あれっ……ダイヤさん⁉︎どうしてここに⁉︎」

 

「あ……これは……」

 

ダイヤの足元には予備電源の機器が置かれており、おそらくそのおかげで明かりが元に戻ったのだろう。

 

「あっ……ありがとうございます!!」

 

「ち、ちょっとあなた!お待ちなさい!」

 

ダイヤの言葉を聞かずに、未来は再び体育館に戻ろうと足を動かした。

 

 

◉◉◉

 

 

「あんた開始時間まちがえたでしょー!!」

 

その声が広い空間に響き渡った瞬間、その場を支配していた絶対的な闇が一瞬で消え去った。

 

数人程度しかいなかった体育館には大量の人が訪れーー()()になるまでそれは止まらなかった。

 

「やっぱり私……バカチカだ……!」

 

三人の少女から再び”輝き”が取り戻され、闇を消し去っていく。

 

 

 

 

(なんてことだ……!素晴らしい……!素晴らしいよ!)

 

黒ずくめの青年は傍にある壁に背を預け、高笑いしそうになるのを堪えた。

 

(これが……”光”か……。高海……千歌ちゃん……!)

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃああああああっ!!」

 

物凄い勢いと形相で体育館出入り口に現れたのは、日々ノ未来だった。

 

未来は数分前とは打って変わった情景の変化に目を疑い、近くにいた少女ーーーーステラに一言尋ねた。

 

「えっ…………満員?」

 

「満員……ね」

 

「夢じゃないのか……!」

 

「た、確かめてみるわ……!」

 

無言でナイトブレードを取り出してこちらに構えてくるステラを止め、自分で頰を強く引っ張る。

 

ーーーー確かに、痛い。

 

「夢じゃ、ないんだ!」

 

 

 

 

ーーダイスキがあれば ダイジョウブさーー

 

音楽が終わり、ステージ上でビシッと動きを止める三つの光。

 

数秒後、会場を満たす拍手と歓声が湧き上がった。

 

 

 

 

 

「彼女達は言いました!」

 

「スクールアイドルは、これからも広がっていく!どこまでだって行ける!どんな夢だって叶えられると!」

 

「ーーーー」

 

 

 

 

一人の少女ーーーーダイヤがステージの前に立ち、三人に向かってはっきりとした口調で述べた。

 

 

「これは今までの、スクールアイドルの努力と、街の人たちの善意があっての成功ですわ!勘違いしないように!」

 

「ーーーーわかってます!」

 

「……っ?」

 

「でも……、でもただ見てるだけじゃ始まらないって!上手く言えないけど……。今しかない、瞬間だから!」

 

だからーーーー

 

 

だからーーーーーーーー!

 

 

 

「だから!」

 

「「「輝きたい!!」」」

 

 

 

 

その日、また新たなスクールアイドルーーーーAqours(アクア)が誕生した。

 

 

 

 




かなり駆け足で進めてしまいました……。ということで次回からはサンシャイン4話、ルビィ&花丸がメインとなります!

そして、今回のプチ解説!

今回や第10話でも登場した黒ずくめの青年。彼もこの作品でのオリジナルキャラクターですが、とある宇宙人と深い関わりがあります。……まあ彼の能力の描写とか見れば大体お察しできると思いますが。
光である未来と対になるキャラとして登場させました。若干変態じみてるのはお気になさらず。


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第14話 互いの背中

テレビでオーブオリジンが登場してテンション有頂天マンです。

さて、今回からサンシャイン4話に突入……。花丸とルビィ加入までは戦闘ないので、不穏な展開とか心配無用ですぞ、たぶん。


「ふぅ……すっきりした……」

 

未来は濡れた髪をタオルで拭きながら、Tシャツと短パンというラフな格好で、リビングにあるソファーに吸い込まれるようにして座り込んだ。

 

『未来くん……。ちゃんと家の中は掃除してるのかい?』

 

「掃除?してるけど……?」

 

オレンジ色の光球がぷかぷかと周囲を漂う。未来が一人でいる間は、メビウスも彼の身体から離れているのだ。

 

散らかっているわけでもないが、所々に溜まっている埃が気になったのだろう。メビウスは控え目な口調で質問する。

 

『それにしてもこの家……、ほんとに未来くん一人で管理を?』

 

「まあな。俺も一人っ子だったし、母さんと父さんがいなくなってからは……なかなか家中にやることが行き届かなくて」

 

『あっ……、ごめん……』

 

「いいっていいって。今更…………」

 

たまに自炊もしているが、面倒なので大体は惣菜やコンビニ弁当で食事を済ませている。……ので、気付いた時には台所まで埃を被っていることもしばしば。

 

「千歌の家の料理美味いんだよなあ……。俺もステラみたいにあそこで暮らしたい」

 

『たしかにステラも褒めていたな、あの家の食べ物は美味いと』

 

「そうそう…………ん?」

 

メビウスとは違う何かの声が耳朶に触れ、反射的にその声音が聞こえた方を振り向く。

 

ーーそこにいたのは、蒼い光の球と化したウルトラマンヒカリだった。

 

「うおおおおっ!?!?どっからわいた⁉︎」

 

『ヒカリ⁉︎どうしてここに⁉︎』

 

大袈裟にソファーから転がり落ちる未来を尻目に、ヒカリは不規則に動き回りながら語り出した。

 

『ステラは今、あの千歌という娘と入浴中だ。少しの間ここにいさせてくれ』

 

「難儀だなぁ……。千歌は知らんが、ステラはそういうの気にしない印象なんだが」

 

『俺も以前まではそう思っていた。が、前に海で水浴びをした時にうっかり彼女の裸体を見てしまったのだが……』

 

「だが?」

 

『その後しばらくは口を聞いてくれなかった』

 

「おう……」

 

話の途中から声にいつもの張りが無くなったことから、ヒカリはかなり申し訳なく思っているらしい。おそらく今でも。

 

 

 

……少し時間が経った後に、気づく。この空間、野郎しかいない、と。

 

普段千歌と曜と一緒にいるので、このような状況は新鮮だ。例えるならそう、修学旅行での男子部屋のような。

 

『そうだ……。君達に話しておかなければならないことがあった』

 

急に声のトーンを下げて真剣な雰囲気を漂わせるヒカリに、未来とメビウスは揃って小首を傾げた。

 

『ここ最近、ボガールを見なくなった』

 

「……?よかったじゃん」

 

『いや、そうとも限らない』

 

しん、と空気の流れすら止まっているように感じるリビングの中が、段々と緊張感に包まれていく。

 

『前に話したが、俺達はアークボガール率いるボガールの集団を追って、この星に来た。奴らは今まで、この辺りに多く生息していたはずなのだが……、以前ボガールモンスを倒したきり、全く姿を見せなくなったんだ』

 

「うん」

 

『……まだ理解できないか。アークボガールはまだ倒していないのだぞ』

 

『……たしかに、それはおかしいね』

 

状況が飲み込めない未来の隣で、メビウスが納得したようにそう言った。

 

『奴らがそう簡単に地球を諦めるとは考え難い。……なのに、ボガール達は姿を消した』

 

「……?つまり……?」

 

『詳しいことはわからないが、ボガール以外の”何か”が干渉しているのは間違いない』

 

「ちょっと待てよ、それってまさか……!」

 

直感的に未来の頭の中で一つの名前が浮かぶ。

 

前にメビウスから聞かされた、ウルトラマンの宿敵とも呼べる者。

 

『エンペラ星人……。僕を再起不能な状態まで追い詰めた、暗黒の皇帝……』

 

『ああ。エンペラ星人がボガールを消したか……もしくは奴らが手を組み、何かを企んでいるのか』

 

「……!」

 

エンペラ星人ーーーーメビウスと、ウルトラマンベリアルですら敵わなかった相手。

 

『それと、だ。最近わかったことなのだが……。この地球から……特殊な時空波が発せられている』

 

「時空波?」

 

『発信源を無くさなければ、怪獣の出現は止まらない。宇宙だけでなく、この地球に眠る怪獣まで呼び起こすことになるぞ』

 

「なっ……!」

 

怪獣を引き寄せる、電波のようなものがこの星から流れ出ているという。……これもエンペラ星人の仕業なのだろうか。

 

『伝えたいのはそれだけだ。……そろそろ行くよ、すまなかったな、勝手に上がり込んで』

 

そう言い残すと、ヒカリは側にある壁をすり抜けて隣ーーーーステラがいる千歌の家へと戻って行った。

 

 

 

 

『未来くん……』

 

「……大丈夫だ。例えどんな怪獣だろうと……、エンペラ星人だろうと……この地球は、俺が守る……!」

 

宿敵の相手を深く胸に刻み込み、未来は戦いへの決意をより一層強めた。

 

 

◉◉◉

 

 

「これでよし!」

 

念願のスクールアイドル部が設立され、意気揚々と名札を取り付ける千歌。

 

「それにしても……まさか本当に承認されるなんてなあ」

 

ノリノリで判子を押し込む小原鞠莉の姿を思い出す。もしかしたら全てあの人の計算通りだったのではないかと思うほどに、ファーストライブは大成功に終わったのだ。

 

「でも、どうして理事長は私達の肩を持ってくれるのかしら?」

 

「それも何か狙いがあるとか……」

 

もう何もかも怪しく感じられる。本来ここは感謝すべきなのだろうが……。

 

「スクールアイドルが好きなんじゃない?」

 

「それだけじゃないと思うけど……」

 

「とにかく入ろうよ!」

 

与えられた部室の鍵をチラつかせる千歌を見て、皆の興奮が高まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

「うわぁあ〜……!」

 

「なんでこんなに荷物が……」

 

未来達を待っていたのは、物置と勘違いしそうなほどに埃っぽく、ダンボールの箱が至る所に積み重なった部屋だった。

 

想像していたのと真逆の光景を見て、口があんぐりと開いたままになる。

 

「理事長はたしか、片付けて使えって言ってたわね……」

 

「うっそだろ……これ全部か?」

 

「文句言っても誰もやってくれないわよ?」

 

腕まくりをして今から掃除する気満々の梨子と曜、そしてステラ。

 

「もう〜…………ん?」

 

千歌が設置してあった汚れたホワイトボードの面を見て、何かに気がついたのか小股で側に寄る。

 

「なんか書いてある」

 

「ほんとだ。……”いつもそばにいても伝”……んだこれ」

 

「歌詞、かな?」

 

「どうしてここに?」

 

以前この部屋を使っていた部活の人が書いたものなのだろうか。文字の掠れ具合からしてかなり前に書かれたものだろう。

 

「わからない……。それにしてもーーーー」

 

千歌が再び振り向き、積まれている荷物をじっと眺める。

 

 

 

『ん……?』

 

(……?どうしたメビウス?)

 

『いや、外に誰か……』

 

(え?)

 

メビウスに言われるままに外に繋がっている出入り口へと視線を移す。

 

ーーほんの一瞬、可愛らしい赤髪の先が見えたような気がした。

 

 

◉◉◉

 

 

静かな空気と本の匂いに包まれた図書室。

 

図書委員である少女ーー国木田花丸。彼女以外には生徒の姿がなく、それが一層この空間に物寂しい雰囲気を与えていた。

 

廊下からこちらに走ってくる足音が聞こえ、数秒後に図書室の引き戸が横に開かれた。

 

「やっぱり、部室できてた!スクールアイドル部承認されたんだよ!」

 

興奮気味で身を乗り出してきた友達に、花丸は笑顔で答えた。

 

「よかったね!」

 

「うん!あぁ〜……またライブ見られるんだぁ……」

 

まるで恋焦がれるような瞳で上を向く少女ーールビィを見て、花丸は慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

 

(よかった……。これでやっとルビィちゃんーーーー)

 

「……?花丸ちゃん、それなあに?」

 

「うん?」

 

ルビィは花丸が手に持つ、ボロボロの羊皮紙のような紙を見てそう尋ねる。

 

「オラもわからないんだ。来た時にはもう机の上にあって……」

 

紙には何か文章が書かれているのだが、日本語ーーいや、もしかしたらこの世界のどこにも存在しない言語で書かれているため、解読するのは不可能だ。

 

 

 

「こんにちはー!」

 

「ピィッッ!!」

 

数人の生徒が入ってくると同時に、ルビィは咄嗟に近くの扇風機の後ろへと身を隠す。

 

その生徒達はーー他でもないスクールアイドル部の部員達だった。

 

「あ、花丸ちゃーん!それと……ルビィちゃん!」

 

「ピギィ!」

 

隠れているルビィの居場所を見事当ててみせた千歌に、天敵に発見された小動物のような反応をするルビィ。

 

「よくわかったね」

 

「へっへーん!ふふ!」

 

「こ、こんにちは……」

 

おそるおそる挨拶を返すルビィを見て、千歌の瞳がキラキラと輝きだす。

 

「かわいい〜……!」

 

「ほらほら、俺達はコレ返しに来たんだろ?」

 

「あ、そうだった」

 

未来達は抱えていた本の山を花丸の前に置く。なぜだか部室に残されていたものだ。

 

「これ、たぶん図書室のものだと思うんだけど……」

 

「ああ……。たぶんそうです、ありがとうございまーー」

 

「スクールアイドル部へようこそ!!」

 

未来を押し退けて花丸とルビィの手を握る千歌に、二人は戸惑いを隠せず小さな悲鳴を上げる。

 

「結成したし、部にもなったし、絶対悪いようにはしませんよ〜?」

 

(またこいつは……)

 

「二人が歌ったら絶対キラキラする!間違いないっ!」

 

「あ……えっと……でも……」

 

「お、オラ……」

 

「おら?」

 

「あっいえ!マルそういうの苦手っていうか……」

 

「る、ルビィも……」

 

ルビィを見て少し悲しそうな表情を浮かべる花丸にーーーーその場にいる者は誰も気がつかない。

 

 

 

『ん……。んん!?』

 

(あ?どうしたメビウス?)

 

『そ、そこにある紙!』

 

(紙……?)

 

未来は目玉だけを動かして机の周辺を探す。すると花丸の手元に、所々が欠け、黄ばんでいる紙が置かれているのが見えた。

 

「なんだ、これ……」

 

ひょい、と片手で紙を目の前まで持っていくと、羅列されている文字をじっと見る。……が、何を書いているのかさっぱりだ。

 

『この文字、光の国の……!』

 

(はあ⁉︎うそぉ⁉︎)

 

なんと使われているのはウルトラの星の言語らしい。

 

「花丸ちゃん、どこでこれを?」

 

「わからないんです。マルが来た時には既にあって……誰かの忘れ物かもしれません」

 

「じゃあ借りるわけにも……。メモとっていいかな?」

 

「はあ……、たぶん……」

 

生徒手帳を取り出して、慣れてない文字を写していく。書いているうちに何か規則性があることはわかるが……やはり詳しい内容は理解することができない。

 

「どうもー。さ、そろそろ練習行こうか」

 

「あっ、そっか。二人とも、じゃあね!」

 

花丸に紙を手渡し、未来は千歌達の後ろへ続くように図書室を去って行った。

 

 

◉◉◉

 

 

「む、無理よ……さすがに……」

 

「でも……μ'sも階段登って鍛えたって……」

 

「でも、こんなに長いなんて……」

 

「こんなの毎日登ってたら、身体が保たないわ……」

 

足腰を強くするため、淡島神社にある尋常でないくらい長い階段をランニングしに来た千歌達だったが、途中で息を切らしてへたり込んでしまった。

 

ステラと未来も三人に同行しているが、メビウスやヒカリとの融合の影響でほとんどのスタミナが有り余っている状態だ。

 

座り込んでいる三人の隣で、未来は先ほどメモを取った紙を眺めていた。

 

(どうだ?)

 

『これはたぶん……”光の予言”の一部だね』

 

(光の……予言?)

 

『うん。僕達にとっても神様みたいな存在……ウルトラマンキングが生み出したと言われる書物さ』

 

(でも、それがどうして学校の図書室に?)

 

『わからない……。けど、あれは本体じゃないね。君がさっきメモを取ったように、あの紙もただ本文を書き写した物だ』

 

(誰かが内容を写したのか……)

 

『もしくは……僕達にコレを伝えるために……』

 

(これ?)

 

『うん。ここに書かれてる内容はーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?千歌達じゃない」

 

メビウスの言葉を遮るように上の階段から降りてきたのは、千歌や、未来もよく知る人物ーー松浦果南だった。

 

「果南ちゃん!」

 

「もしかして、上まで走って行ったの⁉︎」

 

「一応ね、日課だから」

 

(だれ?)

 

(果南さんだよ。俺達とは幼馴染)

 

テレパシーで尋ねてくるステラに、未来もまた脳内で返す。

 

「千歌達こそ、どうしたの急に?」

 

「鍛えなくっちゃって……ほら!スクールアイドルで!」

 

「ああー……そっか。ま、頑張りなよ!じゃあ、店開けなきゃいけないから」

 

そう言って階段を下って行く果南の息は全く上がっていない。まさに体力おばけといったところか。

 

「わ、私達も〜……行くよ〜……!」

 

負けじと対抗しようとする千歌に、周りの四人は苦笑を滲ませた。

 

 

◉◉◉

 

 

「で……なにこれ?」

 

「光の……なんだっけ?」

 

『光の予言』

 

「そうそれ!」

 

未来の自宅のリビング。

 

未来はステラをーーーー正確にはヒカリに内容を見てもらうために、家に招いたのだった。

 

「これが光の国の言葉なの?」

 

「メビウスが言うにはそうらしいけど」

 

テーブルに置かれているメモ用紙の前で蒼い光が止まり、しばらくして一言。

 

『よくわからん』

 

思わずコケそうになった。

 

『メビウス。君はこれをどう解釈する?』

 

『僕も何を伝えたいのかよくわからないんだ。読むのも初めてだし』

 

「二人ともかあ……」

 

「わからなくてもいいわ。とりあえず何が書いてあるのか教えてくれないかしら?」

 

『わかった』

 

メビウスは空中に日本語で光の文字を描く。

 

未来とステラはそれを見て数秒後、クエスチョンマークが頭付近に見えるくらいに疑問だらけの表情を浮かべた。

 

「一の光、憧れを捨て…………意味わからん」

 

「その前に闇って何よ」

 

『さあ……何かの災いを防ぐ方法なのかな……?』

 

 

 

 

 

 

 

その日は結局答えは出ず。頭の中がモヤモヤとしたまま次の日を迎えることとなった。

 

 

 




第7話でウルトラの父が言っていた光の予言が再び登場。そしてその内容を盗み、未来達に伝えたのは……⁉︎
ルビまるが加入した後の数話はオリジナルの内容で、出したかった宇宙人のエピソードとか消費したいと思います。

今回のプチ解説は今作の主人公について!

日々ノ未来。名前はもちろんテレビのメビウスの人間態である”ヒビノミライ”から頂きました。が、性格はテレビ版とは少々違います。基本落ち着いてますが、何かあるとすぐパニックになったり熱くなってしまう、メビウスに出会う前までは普通の男子高校生でした。ただ、正義感だけはテレビのミライにも負けません!
彼は過去に一度とあるウルトラマンと会ったことがありますが、本人はその事を思い出すことができないでいます。

それと今作のヒロインについてですが……。メインヒロインは千歌ちゃんでストーリーを進めていきます!
もちろん他のメンバーに焦点を当てた回も書きますが、千歌ちゃんがこの物語において重要なポジションにいることを先に伝えておきます。ほら、なんか黒い人から気に入られてるみたいですし(若干ネタバレ)


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第15話 二人のネガイ

時間が取れたので、すかさず投稿!


薄暗い森の中に、一人寂しく立ち尽くしていた。

 

繰り返し伝わってくる地面の揺れ、そして怪獣の鳴き声。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

光線を受けて四方に肉片を撒き散らし死滅する、一体の怪獣。

 

ーーーーこれは夢だ。

 

そう気付くのに時間はあまりかからなかった。

 

いつも、前触れもなく突然目の前に浮かぶ景色。モザイクのようにノイズがかった赤と銀の巨人が自分を見下ろすようにして、語りかけてくる。

 

ーーーー次に彼は、こう言うはずだ。

 

『これから先の未来、お前に幸せがーーーー』

 

確信する。これは過去に体験した、自分自身の記憶の映像だと。

 

巨人の言葉が最後まで聞こえないのは、未だその記憶をハッキリと思い出せないからだ。

 

(あんたが…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。

 

この夢を見た後は、酷く頭が痛む。封じられていたものを、無理やりこじ開けたような奇妙な痛み。

 

「あんたが……ベリアルなのか?」

 

 

◉◉◉

 

 

日々ノ未来は、自分の両親が親族と共に眠る墓の前で膝を折り、目を閉じ、手を合わせていた。

 

心を落ち着かせる線香の匂いが鼻をくすぐり、遠くの方で波の音が聞こえてくる。

 

未来は瞼を開き立ち上がると、穏やかな口調で話し始める。

 

「聞いてくれよ。千歌達のライブは大成功でさ、部として正式に活動できるようになったんだ。二人にも見せてあげたかったよ」

 

笑いながら話す未来の中で、メビウスは黙り込んでいる。この墓の前にいる時は、極力未来とは話さないようにしているのだ。

 

「じゃあ俺は学校あるから。また来るよ」

 

 

 

 

 

墓石に背を向けてその場から離れようとする未来の前に、一つの人影が現れた。

 

「あなたは……たしか……」

 

「やあ。また会ったね」

 

爽やかな表情と黒ずくめの服装を見て思い出す。チラシ配りの時に一度会った男だ。

 

「お墓参りかい?」

 

「はい。あなたも?」

 

「いいや、ボクは君に会いたくて来たんだ」

 

何を言ってるんだこの人は、と一瞬本気で顔が引きつる。落ち着いた言動から放たれる狂気にあてられ、男が急に怪しく見えた。

 

『……ッ⁉︎未来くん下がって!』

 

(メビウス?)

 

未来の身体の主導権を握り、咄嗟にメビウスブレスを左腕に出現させるメビウスを見て、黒ずくめの男は少し驚くような顔を見せる。

 

「君は……この星の人間ではないな⁉︎」

 

「ああなるほど……、君がメビウスか。普段は未来くんの身体の中にいるってことね。……いいの?それ、人道的に」

 

「目的はなんだ⁉︎」

 

警戒心を露わにするメビウスに、男は呆れるように溜息をつき、両手を挙げてホールドアップの体勢になる。

 

「よしてくれ。今はボクから仕掛けるつもりなんてない」

 

「なんだと……?」

 

『……メビウス。俺に話させてくれ』

 

未来が再び前に出て来ると、メビウスブレスを消滅させ、男に一歩近づいた。

 

「やあ。君と話がしたかったんだ、未来くん」

 

「あんたは……一体誰だ?」

 

「宇宙人……としか言えないな。ところで、ボクからのプレゼントはちゃんと届いてるかい?」

 

「プレゼント?」

 

まさか、と咄嗟にポケットの中にしまっていた”光の予言”のメモが書かれた紙に触れる。

 

「それの内容を知るのに苦労したよ。あそこは宇宙警備隊がウヨウヨしてたんだ」

 

「光の国に侵入したってことか……⁉︎」

 

「ああ安心して。他に変な事はしてないから」

 

ヘラヘラと緊張感が感じられない笑みを浮かべる男に、不安と共に怒りまで湧き上がって来る。

 

「なあ教えてくれ。光の予言は何を意味しているんだ?」

 

「やっぱりね。あれだけじゃ理解できないと思ってたよ」

 

男は空に浮かぶ太陽を指差し、未来も自然とそちらに視線が動く。

 

「エンペラ星人を、倒す方法さ」

 

「なっ……⁉︎どうやって⁉︎」

 

「そう慌てないでくれ。元々教えるためにここに来たんだ」

 

男は終始笑ったままだ。

 

清潔感のある見た目とは裏腹に、心の中は醜いまでにどす黒い”闇”を感じる。

 

「全部で十存在すると言われる、”光の欠片”を集めるんだ」

 

「光の……欠片?」

 

「それさえあれば……君達はもっと輝ける。ボクはそれが見たいんだ」

 

男はそう言うと漆黒の霧を全身から放出し、自身の身体をみるみる包み込んでいった。

 

「おいっ!待て!!」

 

余りにも遅く手を伸ばした未来だが、その指先にすら触れることなく、闇は霧散し、男がいた痕跡は跡形も無く消えていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ほんと⁉︎」

 

「はいっ!よろしくお願いします!」

 

スクールアイドル部、その部室。

 

先日勧誘した花丸とルビィが、なんと体験入部をしたいと部室まで訪れてくれたのだ。

 

「やったぁ!うぅ〜やったぁ……!やったーー!!」

 

目に涙を溜めて喜ぶ千歌は部屋を飛び出す勢いで驚異的なジャンプを見せる。

 

「これでラブライブ優勝だよ!レジェンドだよ!」

 

「千歌ちゃん待って。体験入部だよ?」

 

「要するに、仮入部っていうか、お試しってこと。それでいけそうだったら入るし。合わないって思ったらやめるし」

 

「そうなの?」

 

千歌はキョトン、とした顔で花丸とルビィの方を向く。二人は少し気まずそうに「いや、まあ色々あって」と笑った。

 

「生徒会長のことね?」

 

ステラの問いに頷く花丸とルビィ。

 

「あ、はい。だからルビィちゃんとここに来たことは内密に……」

 

そう語る花丸の話を聞かずに、千歌は早速Aqoursの広告ポスターに花丸とルビィの名前を付け足す。

 

「よっ!できたぁ!」

 

「千歌、人の話は聞きなさい、ね?」

 

ステラに小突かれる千歌。やはり同じ屋根の下で暮らしているだけあって、前よりも距離が縮まっている様子だった。

 

 

 

「…………」

 

そんなやりとりに見向きもせず、未来は険しい表情でメモ用紙を睨んでいた。

 

エンペラ星人を倒す方法ーーーーそう言われて引き下がれるはずがない。ましてや自分は、この地球を守る責務を担ったウルトラマンの片割れなのだから。

 

「ん?未来くん、それなにー?」

 

「あっ!」

 

千歌はひょいっ、と軽く未来の手からメモを奪い取ると、最初の行から目を通し始める。

 

「……えーと、一の光……」

 

「か、返せ!」

 

「あ!」

 

読み終える前に千歌の手から必死に紙を奪い返す未来。余裕の無いその表情を見て、曜は浮かんだ疑問を口にした。

 

「それ、この前取ってたメモ?結局なにかわかったの?」

 

「別に……」

 

「調べ物?なら私達も手伝っーーーー」

 

「千歌達には関係ないだーーーーッ!」

 

つい大きな声を上げそうになったのを寸前で呑み込む。今の自分は焦燥のせいで冷静ではないと理解しているはずだ。

 

怪訝な顔で未来を覗き込む千歌を見て、未来は落ち着いた態度を取り戻した。

 

「……なんでもないよ。それより、花丸ちゃんとルビィちゃんの体験入部の件が先だ。まずは一緒に練習やってもらうのが一番だろ、梨子?」

 

「えっ?う、うん、そうね。じゃあ私が作ってきた練習メニューがあるからそれをーーーー」

 

話題を別の方向へ逸らし、みんなの視線をホワイトボードへ向けさせる。

 

「……なにやってんのよ……」

 

ステラは苦い顔をしている未来を見て、眉をひそめた。

 

 

◉◉◉

 

 

練習を開始する、となって次に問題となるのは場所だ。

 

グラウンドはソフトボール部が使っていて、ダンスの練習が出来そうな場所がなかなか見つからない。

 

「さて、どうするか……」

 

「他に空いてる場所といったら……」

 

「屋上はダメですか⁉︎」

 

そう提案してきたのは、ルビィだ。

 

「μ'sはいつも、屋上で練習してたって!」

 

「そうか!」

 

「屋上か!」

 

「行ってみよー!」

 

たしかに屋上を使う部活は浦の星では他に見たことがなかった。広さも十分にあり、振り付けの練習をするにはもってこいの場所だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎に戻り、屋上へと向かった千歌達。

 

「うわ〜!すっごぉーーーーい!!」

 

ここに来たのは初めてだったのか、あまりの興奮にまたも大ジャンプを披露する千歌。

 

他のメンバーもここにやって来るのは初めてで、遠くの方でくっきり見える富士山や強い日差しに衝撃を受ける。

 

「太陽の光をいっぱいに浴びて!海の空気を胸一杯に吸い込んで!」

 

おもむろに灰色の地面に手を当て、「あったかい」と呟く千歌。

 

「……っ……?」

 

ーーーー未来には彼女が一瞬、”輝いて”いるように見えた。

 

 

彼女の隣に円を描いて並び、同じように地に手を当てて暖かみを実感する曜達。

 

「ほんとだ」

 

「気持ちいいずら〜!」

 

(ずら……?)

 

リラックスしきった花丸は目を瞑り、背を地面に預けて気の抜けた声を出す。

 

「さあ、始めましょうか」

 

「じゃあいくよー!Aqoursー!サンシャインー!」

 

まずは手始めに、以前ファーストライブでも披露した”ダイスキだったらダイジョウブ”の振り付けを練習することに。

 

 

 

 

 

「ワンツー!スリーフォー!ワンツー!スリーフォー!」

 

ルビィと花丸、それぞれに一人ずつ付いて順番に振り付けを教えていく。

 

二人とも呑み込みが早く、数回こなしただけでほとんどの動きをマスターしていった。

 

(よほどアイドルが好きなんだな……)

 

ルビィも花丸も、ダンスをしている時は眩しいくらいの笑顔を見せる。

 

以前ルビィは生徒会長であるダイヤの妹と聞いたが、彼女と同じものを感じるのだ。

 

(ダイヤさんもスクールアイドルに妙に詳しかったし……。もしかしたら……)

 

 

◉◉◉

 

 

練習を一段落終え、部室に戻ってきた未来達。

 

「今日までって約束だったはずよ?」

 

「ご、ごめん……あはは」

 

歌詞の締め切りまで間に合わなかったのだろう。梨子から注意を受ける千歌、という構図も最近は見慣れてきた。

 

「途中まではできてるんだけど……」

 

「ちょっと見せて……って、これ……」

 

ノートを開いた途端に目を大きく開かせる梨子。不思議に思い、曜やステラ、未来までもが後ろから覗き込む。

 

曲のタイトルには”ウルトラマン”の文字が見えた。

 

「千歌……お前まさかメビウスを題材にした詞を書こうとしてたのか?」

 

「うん!私達を怪獣から守ってくれるヒーロー、ウルトラマンメビウス!曲のアイディアにいいかなと思って!」

 

綴られている言葉を見る。「大きな心」「決して負けない」「僕らのヒーロー」…………。

 

ーーーー未来には、その言葉の何もかもが、今の自分に相応しくないと感じた。

 

「それいい!未来くんも何か考えてよ、名付け親なんだし!」

 

「ウルトラマンの曲かぁ……。私もある程度考えとかないと……」

 

「やめておこう」

 

冷めきった言葉が部室に響き、その場にいた全員の視線が未来へと集中する。

 

「やっぱりこういうのは、千歌達らしい、千歌達だけの歌にしたほうがいいんじゃないかな」

 

「もっとオリジナリティを出すってこと?」

 

「まあ、そんな感じ」

 

我ながら少々苦しい言い訳だったか、と後悔に近い反省が胸を駆け上がっていく。

 

ずっとノートから目を離さず、俯いたままの未来に何かを察したのか、ステラも続いて言葉を重ねる。

 

「そうね。曲作りまでウルトラマンに頼るわけにもいかないわ」

 

「それもそうかぁ……残念……」

 

「この曲はまた別の機会に使いましょうか」

 

軽くステラに会釈した後、未来はノートを千歌に返す。

 

「さあ、もう少ししたら練習再開しよう。俺、飲み物買ってくるよ」

 

背を向け、千歌達に顔を見せないまま、未来は部室から飛び出すように出て行った。

 

『未来くん……大丈夫?』

 

(なにが)

 

『いや……。今朝、あの宇宙人に会ってから何か……』

 

(心配しないでくれ。……ちょっと落ち着けないだけだ)

 

廊下には未来の足音だけが木霊し、誰もいない細い空間が余計に未来の不安を煽った。

 

 

◉◉◉

 

 

「これ、一気に登ってるんですか⁉︎」

 

「もっちろん!」

 

「いつも途中で休憩しちゃうんだけどねー」

 

「でも、ライブで何曲も踊るには、頂上まで駆け上がるスタミナが必要だし」

 

今度は淡島神社の階段を一番上まで登るメニューだ。

 

(余計なことは考えるな……。俺はスクールアイドル部のマネージャーなんだ!)

 

そう心に決め、未来は真っ直ぐな瞳で目の前の階段を見据えた。

 

「じゃあμ's目指して、よーいドォーン!」

 

千歌の合図を皮切りに、七人は一斉に地を蹴り、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫?花丸ちゃん……」

 

「ら、らいじょうぶ……ずら……」

 

走り始めて数分後。

 

最後尾を走る花丸の隣に付き、今にも倒れるのではないかとハラハラする。

 

「未来さんは……ルビィちゃんに……付いてあげてください……!」

 

「いやいやいや!そういうわけには……!」

 

「ルビィちゃんは……、ルビィちゃんは……!」

 

花丸は先を走るルビィの背中を見て、魂魄を吐き出す勢いで叫んだ。

 

「ルビィちゃんは走らなきゃ、ダメなんです!」

 

有無を言わせない気迫に圧倒され、未来は思わず数秒間硬直する。

 

『今のは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。無理はしないでよ!」

 

「……!はいっ……!」

 

花丸を追い越して、上へ上へと駆け登る未来。

 

直後、メビウスは何か勘付いたような様子で口を開いた。

 

『未来くん。もしかしたら…………』

 

(どうかしたのか?)

 

『エンペラ星人を倒す方法……。”光の欠片”は、人間の中にあるのかもしれない』

 

(なんだって……⁉︎)

 

『今、彼女の中に強い光の力を感じたんだ。……君に匹敵するほどの』

 

(そんなことが……っ?)

 

気になって仕方がないが、今は花丸に言われた通りルビィを頂上まで登り切らせることに集中だ。

 

前を走るルビィに追い付き、ゲキを飛ばす。

 

 

「ルビィちゃん、後少しでてっぺんだ!」

 

「は、はい……っ!」

 

 

段々と視界に入ってきた頂上では、既にゴールしていた千歌、曜、梨子、ステラが待機している。

 

ルビィに応援の声をかける千歌達。

 

 

 

そしてついにルビィが頂上へ登りきった瞬間ーーーー

 

(…………ッ⁉︎)

 

世界の隅々まで照らせるような、眩いまでの光が、彼女達から発せられたように見えた。

 

「やったよ、登りきったよーーーー!!」

 

 

◉◉◉

 

 

階段を降り、学校に戻ろうとする途中。テラスで一人立ち尽くしている少女の姿を見かけた。

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

「ルビィ⁉︎」

 

「ダイヤさん⁉︎なんでここに……」

 

「これはどういうことですの?」

 

無断でルビィがスクールアイドル活動をしていたことに怒ったのか、ダイヤの表情がほんの少し険しくなる。

 

「あの、ダイヤさん!これはですね……」

 

「いいんです、未来さん」

 

ルビィはそう言うと自らダイヤの前へと踏み出し、自分の持つ勇気を振り絞り、言い放った。

 

「ルビィ……!ルビィね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い光が世界を照らす夕暮れ時。

 

ルビィが自分のキモチを打ち明けたその日ーーーー国木田花丸は、未来達の前に姿を現すことはなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「よろしくお願いしますっ」

 

「よろしくね!」

 

「はいっ頑張ります!」

 

清々しい笑顔で千歌に入部届けを手渡すルビィ。きちんとダイヤの許可を得て、正式にスクールアイドル部の一員となったのだ。

 

「そういえば……花丸ちゃんはどこに?」

 

先日の練習の後、花丸は戻ってこなかった。

 

彼女はおそらく、勇気を出しきれていないルビィの背中を押すことが目的だったのだろう。

 

「私……ちょっと図書室に行ってきます!」

 

「あ、ルビィちゃん⁉︎」

 

部室を出て行くルビィの後を追うように、千歌達も戸を開いて駆けて行く。

 

(人の光が……エンペラ星人を倒す方法……)

 

未来は走りながらポケットの中をまさぐり、メモ用紙を取り出す。

 

…………ーの光。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図書室。

 

窓から覗いてみると、悲しそうな顔で一冊のアイドル雑誌を眺める花丸の姿が見えた。

 

ゆっくりとページを閉じ込めるようにする花丸に、ルビィは咄嗟に部屋の中に入り、訴える。

 

「ルビィね!花丸ちゃんのこと見てた!」

 

 

…………二の光。

 

 

「ルビィに気を使って、スクールアイドルやってるんじゃないかって!」

 

 

…………三の光。

 

 

「ルビィのために、無理してるんじゃないかって、心配だったから!」

 

 

ーーーーメモに書いてある一文、一文字を、見落とさないようにしっかりと読み進めていく。

 

 

 

「でも練習してる時も、屋上にいるときも、みんなで話してる時も、花丸ちゃん、嬉しそうだった!……それ見て思った」

 

 

ーーーーそして、とある一文を目にした時、未来とメビウスの中に雷に打たれたような衝撃が走った。

 

 

「花丸ちゃん好きなんだって!ルビィと同じくらい、好きなんだって!スクールアイドルが!!」

 

「ま、マルが…………?」

 

 

 

同時に、叫びたくなるほどの歓喜の気持ちが、胸の中で溢れかえった。

 

 

 

「ルビィね!花丸ちゃんとスクールアイドルできたらって、ずっと思ってた!一緒に頑張れたらって!」

 

「それでもオラには無理ずら。……体力ないし、向いてないよ……」

 

「その雑誌に写ってる凛ちゃんもね、自分はスクールアイドルに向いてないって、ずっと思ってたんだよ」

 

「……!」

 

 

 

 

 

「でも好きだった。やってみたいと思った。最初はそれでいいと思うけど?」

 

「…………」

 

「ルビィ、スクールアイドルがやりたい!花丸ちゃんと!」

 

 

 

 

 

ーーーー四の光。他者を思いやりその背中を押す、信託の輝き。

 

ーーーー五の光。縛るものに囚われず決意の道を往く、勇気の輝き。

 

掠れたシャープペンシルで書かれた二行の文が、未来の視線の先にあった。

 

 

 




ルビまる加入と同時に物語の駒を進める回でした。光の予言の詳しい内容は第7話参照です。

次回からはしばらくオリジナルのエピソードを展開していきたいと思います!お馴染みのウルトラ怪獣、そして今作オリジナルのキャラクターも登場しますよー!

今回のプチ解説は、この作品での渡辺曜ちゃんについて!

これまでメビライブサンシャインでは、曜ちゃんは未来に対して特別な感情を抱いているような描写を書きましたが……その理由は二人の過去にあります。
彼女ももちろん光の予言に当てはまる一人なのですが、その力を見せるのはいつになることやら。

そしてなんで今回の解説が曜ちゃんなんだって?……次回が曜ちゃん回だからだよぉ!


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第16話 愛された街:前編

スクフェスで新規URの梨子ちゃんが欲しくて貯めたラブカストーンを全て注ぎ込むも大爆死した作者の登場です。
あーもうジングルベルが止まらねえ。


ーーーー私には、幼馴染がいます。一人は可愛らしくて、とても元気な女の子。そしてもう一人は……とても負けず嫌いな男の子でした。

 

 

 

 

 

日が沈み始めた時間帯。

 

小学校のグラウンドで、並んで徒競走をする二つの人影が動いていた。

 

「はいっ!また曜ちゃんの勝ち!」

 

「クッソォおおおおおお!!」

 

「えっへへーん!まいったか!」

 

幼い頃、日々ノ未来は運動も勉強もパッとしない、秀でたものが見当たらない少年だった。

 

短距離走で競えば、男子の中では平均より少し下。女子の中でトップの実力を持つ曜にはとても敵わなかった。

 

幼馴染である女子に負けている、という事実が本当に悔しくて、悔しくて、悔しくてーーーー未来は来る日も来る日も、曜に勝負をふっかけていたのだ。

 

「もう一本だ!」

 

「え〜?もう諦めたら?未来くんじゃ私には勝てっこないよーだ!」

 

「うるさい!そんなのやってみないとわからないだろ!」

 

「やった結果がこれです〜」

 

「ぐぬぬぬぬぅぅう……ッ!!」

 

目に涙を溜め顔を真っ赤にし、何度も悔しがりながらも、未来は曜に徒競走の勝負を挑み続けていた。

 

「千歌っ!もう一本測定頼む!」

 

「らじゃっ!」

 

「もう、しょうがないなあ」

 

もう何度目だろうか。自然に身体が動くほど繰り返した動作をもう一度ーーーー未来と曜は、再びスタートラインに着いた。

 

「いちについてー、よーい……」

 

緊迫した表情の未来とは正反対に、曜は薄ら笑いを浮かべるほどに余裕な様子だ。

 

「どんっ!」

 

地面を蹴り出したのは、全くの同時だった。

 

これまでに走った距離をリセットしたかと思うほどに、未来は驚異的な速度で土の上を駆け抜けていく。

 

一方曜は、なかなか未来との距離を離せないことに焦り始めていた。

 

(まずい……!追いつかれちゃうっ……!)

 

どこから力が湧いてくるのか、本気で尋ねたい。今まで何本も競ってきたのに、未来は一番最初に走った時よりも遥かに走るスピードが上がっていたのだ。

 

「二人ともがんばれー!」

 

ゴール地点に立つ千歌の声が聞こえる。

 

未来と曜は、ほぼ横一線に並んでいた。

 

(まっけるかぁ!!)

 

曜は残りの精力を全て注ぎ込み、一秒でも速く、一歩でも多く踏み出そうとする。

 

「「とどけえええええ!!」」

 

未来と曜の叫び声が、グラウンド中に響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーこの後は……結局、どうなったんだっけ?

 

 

◉◉◉

 

 

オレンジ色の光に満ちた夕方。渡辺曜は部活を終えて帰路についていた。

 

(ん……?)

 

遠くの方で追いかけっこをしている小さな子供達を見て、不意に昔の記憶が蘇ってきた。

 

(懐かしいなあ。未来くんとよく走ったっけ)

 

曜に負けているのが悔しいという理由で、一人だけで毎日遅くなるまで徒競走の特訓をしていたのを覚えている。

 

”どうして諦めないのか?”。そう聞いた時に彼が返した答えはこうだった。

 

ーーーー『今回はダメでも次は勝てるかもしれない。次がダメならそのまた次。諦めない心が不可能を可能にするんだ!』

 

 

余りにも真面目な顔で言うものだから、その時はつい笑い転げてしまい、割と本気で未来を怒らせてしまった。

 

「ほんと、いつの間にあんな体力付けたんだか……」

 

前に自転車で送ってもらった時の驚異的な身体能力ーーーー前までの未来では……いや、人間では考えられない。

 

以前千歌が言っていた言葉、「未来くんが”なんでもない”と言う時は決まって何かある時」は、曜も全くその通りだと思っている。

 

(本人は隠せてるつもりだろうけどね〜……。これだから問い詰めるのも気が引けちゃう)

 

懐かしい思い出を胸に感じながら、曜は止まっていた足を前に踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なにあれ」

 

と、声に出るほど驚くべき光景が目に飛び込んできた。

 

下から上まで段々と細くなっていくフォルム。横から見える後頭部の一部分には黄色い吸盤のようなものがある。……そして、やけにカラフルな()()だった。

 

道の傍に腰を下ろし、ソレは脱力感溢れる体勢で顔を俯かせている。

 

「着ぐるみ……?」

 

その変わった風貌を恐る恐る眺めながら素通りしようとする曜だったが、あまりにも気になってしまい、寸前で立ち止まる。

 

「あ、あの…………」

 

ゆっくりと近づき、顔を覗き込むようにして声をかける。

 

「お、起きてますか〜……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああ!?!?」

 

「うわあああああああああ!?!?」

 

目の前にいた曜を認識した瞬間叫び出したその人物に驚き、咄嗟に曜も喉を痛めそうになるほどに叫んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「都市伝説でも広める気か?」

 

「ホントだよ!嘘じゃないって!!」

 

次の日。

 

昨日起こった出来事を部室にいた未来に話してみるが、予想通り信じてはくれなかった。

 

「なんか鯉みたいなのがいたんだって!」

 

「カラフルな半魚人が内浦にいるなんて聞いたことないぞ」

 

「なになにー?新しいコスプレの話ー?」

 

曜と未来の言い合いの中にトンチンカンな事を言いながら部室に入ってくる千歌。

 

「千歌ちゃん!千歌ちゃんなら信じてくれるよね⁉︎」

 

「え?なになに?」

 

「曜にコスプレ仲間が出来たんだとさ」

 

「えー⁉︎そうなの⁉︎どんな人⁉︎」

 

「ちっがーーーーう!」

 

部室内に曜の主張が響き渡る。

 

深呼吸を数回繰り返した後、曜は未来と千歌に向かってスマートフォンを突きつけた。

 

「写真だってあるんだからね!ホラ!」

 

と言って見せてきた写真は、撮る瞬間にブレたのか、ボヤけててよく見えないものだった。

 

「……?なんかやけに堅い走り方してる人影は写ってるな」

 

「よくわかんないよ?」

 

「うぅ……、すぐ逃げられて上手く撮れなかったんだもん」

 

涙ながらにそう語る曜からは、本気で悔しがってる雰囲気が感じ取れる。

 

(カラフルな半魚人ねえ……。どう思うメビウス?)

 

『うーん……確かに最近宇宙人をよく見かけるけど……』

 

(え?なにそれ初耳なんだけど)

 

『ヒカリの言ってた時空波に引き寄せられたんだろうね。大丈夫だよ、今のところ悪さをしてる宇宙人はいないみたいだし』

 

(そういう問題かなあ……)

 

メビウスは長考した後、閃いたように「あっ」と声を上げて言った。

 

『話に聞いた見た目で一番に思いつくのは、メトロン星人かな』

 

(メトロン……星人?)

 

『うん』

 

素っ気なく答えるメビウスに面食らった未来は、思わず質問を重ねる。

 

(侵略者の可能性は?)

 

『……一応警戒はしといたほうがいい』

 

(ラジャ)

 

といっても何をするべきか。パトロールでもすればいいのか。

 

 

 

 

「ん、他のみんなは?」

 

いつもこの時間には揃ってるはずのメンバーがいないことに気がつき、曜は二人に尋ねた。

 

「花丸ちゃんとルビィちゃんはもうすぐ来るって言ってたよ〜」

 

「ステラは…………今日は用事があるって言ってたな」

 

未来はステラに”頼まれた通りの事”を伝えた。

 

彼女とヒカリは今、ボガールがまだ近くに潜んでいないか調査している途中らしい。

 

「こんにちは〜」

 

「こんにちはです」

 

「あっ来た!」

 

部室の戸を開けて入って来た赤毛と茶髪の少女ーー花丸とルビィだ。

 

「未来くん。着替えるから少し外にいてほしいずら」

 

「る、ルビィも……」

 

「へいへい」

 

すっかりフレンドリーになった花丸とルビィの訴えに応じ、未来は外に繋がる出入り口へ向かった。

 

 

 

 

ぼーっと景色を眺めながら暇つぶしにメビウスへと声をかける。

 

(……そういやヒカリが前に言ってたけど、この地球にも怪獣がいるのか?)

 

『もちろんさ。様々な怪獣が、様々な場所で眠っているはずだよ』

 

(で、その……なんだ。時空波ってのが怪獣を呼び起こすと)

 

『……らしいね』

 

エンペラ星人打倒、と言ってもやる事は他に山積みのようだ。宇宙警備隊とやらはこんな仕事を毎回こなしているのか。

 

(務まるかなあ……俺に)

 

『何を言ってるんだ。君は僕が選んだということを忘れないでほしいねっ』

 

(そんな自信満々に言われても)

 

 

間の抜けた顔で視線を動かす未来。

 

流れる景色の中、ある一点を見た瞬間にメビウスは驚愕の声を上げた。

 

『……!?未来くんアレ!!』

 

(あれ?)

 

キョロキョロと目玉を動かし、メビウスが示したものを探す。

 

ーーーーそれは、すぐに見つかった。

 

派手な体色にギョロリとした目。腕は人間のような指が無く、ネギの先端のようにザクザクしている。

 

『メ ト ロ ン 星 人 だ よ!!』

 

「ええええええええ!?!?」

 

脳内で会話していたはずが、思わず声に出して驚いてしまう。

 

メトロン星人は上半身を曲げ、落ち込むようにトボトボと歩いていたのだ。

 

 

「曜ーーーーっ!よおおおおおおおお!!」

 

自然と身体が動いて後ろにある部室の戸を開けて曜を呼ぶ。

 

 

「ピギャアアアアアア!?!?」

 

「ずらあああああああ!?!?」

 

迂闊だった。

 

なんとまだ着替え終わっていなかった花丸とルビィが下着姿で並んでいたのである。

 

露出させた肌を必死に隠す二人に一瞬目を奪われーーーー

 

「ああっ!!ごめんなさーーーーぐぼあぁっ!?」

 

眼福、と思う前に曜の背負い投げが炸裂する。

 

反転する世界の最中、未来の目には先ほどのド派手な宇宙人の姿が焼き付いていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「全身がイガイガする……」

 

「未来くんが悪いんでしょ」

 

「でも本気で背負い投げしなくても……」

 

部活を終えた帰り。曜と未来はメトロン星人を捜索しに街をぶらついていた。

 

「それにしても、やっぱり私の見間違いじゃなかったわけだね」

 

「そうみたいだな。メトr……その変な着ぐるみはどこら辺で見た?」

 

「えっとね……あっ!そうここら辺!」

 

曜が指差した先は、住んでいる人がいるかわからないほどにボロボロなアパートの前だった。

 

……違う。記憶によれば、ここは実際に使われていない廃墟。空き家のはずだ。

 

「よーし。入ってみるか」

 

「ええ⁉︎いいのかなあ……勝手に……」

 

「大丈夫だって。へーきへーき」

 

最近恐怖心とか警戒心とかいうものが薄れてきていて困る。怪獣を相手にしていると肝が座るのだろうか。

 

 

 

日が沈んできたこともあり、明かりのないアパートの廊下はそれなりに不気味だ。

 

曜もほんの少しだけ怖がっているのか、未来の制服の裾をしっかりと掴んで離さないでいる。

 

「…………」

 

ゴクリ、と生唾を飲み込んで端から順に部屋の扉を開けていく。

 

ーーーー左端の部屋には、誰もいない。

 

「ま、当たり前か」

 

「暗くなったら困るし、早く確かめて終わらせようよ」

 

「そうだな」

 

隣、また隣、と順番に部屋の中を確認していく。

 

ーーーー結局、まだ中を見ていない残りの部屋があと一つになるまでおかしなことは起こらなかった。

 

右端の部屋のドアノブを掴む。

 

(まあ……何もなくて正直安心……)

 

ガチャリ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「「…………」」

 

最も右端にある部屋。

 

そこには唯一の住人ーーーーメトロン星人がいた。

 

「ぎゃあああああああああああ!?!?」

 

「「わあああああああああああ!?!?」」

 

 




念願のメトロン星人登場!!!!
結局前後編と分けることに……。眼兎龍茶は次回登場させます、絶対させます。

ではプチ解説いきましょう。
今作において内浦の街の様子などを解説していきたいと思います。

今回登場したアパート……もちろん原作であるラブライブサンシャインには存在しないものです。今回は曜の帰り道にある、という設定で登場させました。
今作ではたまにこのような存在しない建造物などが出てくるので、その辺はご了承を。

……やばい。次回解説することが思いつかない……。


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第17話 愛された街:後編

メトロン回閉幕。


「いやあ驚かせてすまなかったね。ほら座って座って」

 

「は、はあ……」

 

「お、おじゃまします……?」

 

半信半疑でメトロン星人を捜索し、とある空き家のアパートに入った結果、なんと本物のメトロン星人が実在したのだ。

 

未来はともかく曜はいきなりの展開についていけず、先程からぐるぐると目を回している。

 

「この星に来てもう10年になるが……、あいにくこんな所に住んでるからねえ。こうして家に誰かを上げるのは久方ぶりだよ」

 

(じ、10年……⁉︎)

 

未来と曜が並んで座る卓袱台の向かえには、数分前までは赤、青、黄、とカラフルな色合いの体色を持った宇宙人の姿だった初老の男性が胡座をかいている。おそらくはこの姿が人間態なのだろう。

 

「あの……」

 

「あ、なんか飲む?」

 

ボロボロの冷蔵庫から取り出したのは”眼兎龍茶(めとろんちゃ)”と書かれている缶の容器に入れられたお茶だ。

 

未来と曜、そして自分の分をそれぞれの前に置く。

 

(なんだこれ……)

 

「毒なんか入ってないよ。ほら、ぐーっといきなさいぐーっと」

 

警戒しながらまじまじと缶を見つめる未来にそう言うと、メトロン星人は星形のストローを使って中のお茶を吸い出した。

 

(メビウス……まさかこの人が侵略者じゃないよな?)

 

『……どうだろ……』

 

本当に宇宙人なのかと疑うほどに気さくな彼は、側から見ればただの人間のおっちゃんだ。

 

「……こんなお茶初めて見た……」

 

気づけば隣で曜が眼兎龍茶を手に取り、平然とした表情でそれを口に流し込んでいる。

 

出されたものは飲もう、と未来も缶に手を伸ばし、半ばヤケクソで口に持って行った。

 

「おいち〜!ふぅ〜!」

 

「ごふっ」

 

急に変装を解いて元の姿に戻るメトロン星人に不意をつかれ、思わず茶を吹き出してしまう。

 

「わっ!また変身した!」

 

「はっはっはっ。これが本来の姿だよ」

 

メトロン星人が他の星からやってきたという事実に驚きを隠せない曜。

 

「未来くん、やけに落ち着いてるね?」

 

「ん?そちらの彼は見たところ何か混ざっt」

 

『あぁーーーーっ!ストップストップ!!』

 

むせて喋れない未来に代わってメビウスがメトロン星人の言葉をテレパシーで遮った。

 

『彼の中に僕がいることは内緒なんだ!』

 

「ふむ、なるほどな」

 

「……?」

 

小首を傾げる曜にはメトロン星人が独り言を呟いたようにしか聞こえていないはずだ。

 

 

「ほんとに、宇宙人なんですよね……?」

 

「うん。宇宙人に二言はないよ」

 

(なんだそれ……)

 

「す、すごい……!宇宙人だよ⁉︎ねえ未来くん⁉︎」

 

「う、うん。そだね」

 

未来の身体をゆさゆさと揺する曜。彼の中にまさにその宇宙人がいるので、まるで自分の事を言われているような気分だ。それにステラだって宇宙人だろうに。

 

 

 

 

「それで……どうしてその姿で街中を歩いてたんですか?」

 

「あぁ……、やっぱりか。最近気が抜けるとすぐ元に戻っちゃって……」

 

どうやらあの派手な姿でぶらついていたのは故意ではないらしい。例え一般人に見られても着ぐるみと思われそうなものだが。

 

「そういえば私が最初見た時、すごく落ち込んでる様子でしたけど」

 

「俺が見かけた時もだ。すっごいだるーんってしてたし」

 

「色々あってね……」

 

急にテンションを落とすメトロン星人に、未来と曜は戸惑いながらも話を聞こうとする。

 

「何かあったんですか?」

 

「なに、大した悩みじゃないよ。……近頃、故郷に帰ろうと思っていてね」

 

「故郷に?」

 

「うん。それでな、せめて最後くらいは親しい友人に別れを告げようと思ったんだが……、自分が宇宙人だなんて言い出せなくてね」

 

なんとわざわざ自分がメトロン星から来た宇宙人だとバラすつもりなのか。自分に危険が降りかかる可能性も考えずに。

 

「大丈夫なんですかそれ?」

 

「いいんだよ。最後くらい……、本当の私を見てもらいたいんだ」

 

「…………」

 

そこまでするということは、もう二度と地球に来ることはないのだろうか。……そもそもどうして故郷に帰る必要があるのだろう。

 

地球(ここ)を去るのは、何か事情が?」

 

未来よりも一足先に曜がそう尋ねる。

 

「……親が危篤で……」

 

「えっ、あっ、すみません……」

 

(意外と重い理由だった……)

 

これまでの会話から悪さをする侵略者という可能性はほぼ無くなっただろう。むしろ家族を大切にする心優しい人だ。

 

(ていうか一体親は何歳なんだよっっ!)

 

『未来くんさっきからツッコんでばっかだよ』

 

……何か話を聞いてるうちにほっとけなくなってしまった。

 

聞く限りだとその友人とやらに宇宙人だということを打ち明けられずにいるーーーーその友人とは誰か。

 

こんな田舎だ。未来や曜もどこかで面識のある人間かもしれない。もしそうならば、力になれるはずだ。

 

「ちなみにその友人というのは……?」

 

「ん?そうだなあ……君達くらいの歳の女の子でな……」

 

「「ふむふむ」」

 

「ダイビングショップで働いていて……」

 

「「ふむふ…………ん?」」

 

ーーーーまさか……

 

「名前は松……」

 

 

「「果南ちゃん/さん!?!?」」

 

「……え?知り合い?」

 

 

◉◉◉

 

 

「そうか、果南ちゃんの幼馴染だったか……」

 

夕焼けの陽射しが窓から入り込み、三人の横顔を照らす。

 

「一年ほど前からあの店に通い始めてね。……いやあいいもんだよ、地球の海は」

 

「気持ちいいですもんね、ダイビング」

 

どうやら彼は果南が手伝いをしているダイビングショップの常連客らしいのだ。

 

「本当はお父さんの顔も見たいが、怪我をしてるそうじゃないか。……果南ちゃんは健気でいい子だよ。しっかりしてる」

 

「私達にとっても、お姉さんみたいな人なんですよ」

 

「果南さんなら、あなたが宇宙人だと知っても拒絶したりしないと思いますが……」

 

メトロン星人は気まずそうに頭を掻いた後、以前見かけた時のような脱力感溢れる前屈みの体勢になる。

 

「そうだろうねえ。……でもただ単にな、私に勇気がないだけなんだよ」

 

「勇気、ですか?」

 

「そう、勇気だ」

 

既に空になっている眼兎龍茶の缶を卓袱台の隅に置き、メトロン星人は自らの昔話を語り出した。

 

「さっきこの星に来てから10年経つと言ったね?」

 

「はい。そう聞きましたが」

 

未来は自分で答えておいて、薄々違和感を感じていた。

 

10年もいたのなら、どうして自分達は気付かなかった。このアパートが空き家になる前の住人にはバレていなかったのか、と。

 

「実はな、この内浦に来たのは果南ちゃんの店に初めて行った時とほぼ同じ、一年前なんだよ」

 

「それはつまり……以前は別の場所で暮らしていたと?」

 

「ああ。東京にな」

 

これまた意外な名前を出されて、一瞬言葉が出なくなる。未来達ですらほとんど行ったことがない東京に住んでいたというのだ。

 

確かに一年前ならば、その時にはこのアパートは廃墟同然になっていた。

 

「どうしてわざわざこんな田舎に?」

 

「そう聞くと思ったよ。いいだろう、話すよ」

 

静かに溜息をついた後、メトロン星人は自分の過去について語り出した。

 

 

「東京の方でもな、私と仲良くしてくれた子供達がいたのさ」

 

その頃を懐かしむように天井を見上げるメトロン星人の姿は、どこか寂しげだ。

 

「毎日が楽しくてなあ。子供達と一緒に鬼ごっこをしたり、隠れんぼをしたりな。充実した日々だったよ」

 

「…………」

 

「でも。その子達の親御さんはな、私の事が怪しく見えたみたいでーーーーまあ、実際怪しいのだけどね」

 

笑いながら話す彼の声音には、明らかに隠しきれていない悲しみの感情が宿っていた。

 

「その地を離れざるを得ない状況になったんだ。……でな、その時も今回みたいに、別れ際に子供達だけには自分の正体を明かそうとしたんだよ」

 

気付けば彼は震えているのは声だけでなく、身体までもをふるふると揺らしていた。

 

「……悪いことをしたと思ったよ。子供達にとって宇宙人というものは、やはり恐ろしいのだろうね。この姿を見た時のあの子達の泣き叫ぶ声……今でも思い出しては胸が痛くなる」

 

ーーーー今の地球人にとって、怪獣や宇宙人といった類のものは、恐怖の対象でしかないのだろう。

 

数年前にディノゾールが地球に現れてから、ずっと。

 

 

「どうにか身を隠せる場所を探した私は、ここに辿り着いたってわけさ」

 

「……俺達は、あなたを怖いとは思いません」

 

「ははは、優しいなあ。どうかその心を、私以外の宇宙人達にも向けてやってくれ」

 

少しの間静寂が続き、次に口を開いたのは曜だった。

 

 

「打ち明けましょう。果南ちゃんに!」

 

「え?」

 

「このままじゃ絶対後悔します!私と未来くんも一緒に行きます。だからあなたもーーーー」

 

「ありがとう。ありがとう。ここの人間は皆暖かい」

 

「じゃあ!」

 

「でもいいんだよ。私の私情に、君達まで巻き込むわけにはいかない」

 

ザクザクした腕を左右に振り、メトロン星人は否定の意を示す。

 

「もしも、……もしも、と考えてしまうんだ。もしも果南ちゃんを東京の子供達のように怖がらせてしまったら……それこそ私には耐えられない」

 

「…………それでも」

 

未来は思わず勢いよく立ち上がり、メトロン星人を見下ろした。

 

「もしそうなっても!……次は受け入れてくれるかもしれない。それがダメなら、その次には大丈夫かもしれない!!」

 

「未来くん……」

 

「諦めたらその先は絶対にこないんです!……あと少しで切り拓けるかもしれない道でも、途中で諦めたら終わりだ」

 

曜はハッと何かに気がついたように、未来の横顔を輝いた瞳で見つめていた。

 

「あなたが愛した人間を、もう一度信じてください!!」

 

深く頭を下げる未来に、メトロン星人は一度驚いた様子を見せ、数秒後に一言口にした。

 

 

 

「……眩しいなあ」

 

 

◉◉◉

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

ダイビングショップ。

 

松浦果南は店から出て行く客に深々とお辞儀をした。

 

 

 

「……ふぅ……」

 

「勇気を出して、メトロンさん!」

 

「大丈夫です!俺達が保証します!」

 

物陰から果南の様子を伺う未来、曜、そしてメトロン星人。何も知らない人が見ればただの怪しい集団だ。

 

メトロン星人は人間態に変身すると、震える足を踏み出してダイビングショップの方へと歩いて行く。

 

『大丈夫なのかな……』

 

(なあに、心配するなって。果南さんの懐の深さは伊達じゃない)

 

物理的にも、と付け加えようとして口を閉じる。メビウス相手にこの手の冗談はよしといたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?眼兎さんじゃないですか」

 

眼兎、と呼ばれたのは間違いなくメトロン星人のことだろう。

 

果南は彼に気がつくと、作業の手を止めて声をかけてくれた。

 

「珍しいですね、こんな時間に」

 

「いやね、今日はちょっと言わなくちゃならないことがあって」

 

そう言ってメトロン星人は、一瞬で人間態からいつものド派手な姿へと変身してみせた。

 

「…………」

 

「今まで隠していたが、私は宇宙人なんだ」

 

ただ呆然とメトロン星人の姿を眺める果南に向かって、彼は必死に伝えたいことを口にする。

 

「父さんや、もちろん君にも世話になった。……私は近々、故郷へ帰らなくてはならなくなったんだ。だからその別れをーーーー」

 

メトロン星人が話していると、時折クスリ、と笑い声が混じる。

 

「……うふふっ……」

 

果南は口元に手を当てて、必死に笑いを堪えようとする。が、抑えきれない声が若干漏れ出していたのだ。

 

「果南ちゃん?」

 

メトロン星人の中の不安が徐々に膨れ上がっていくのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー知ってましたよ」

 

「「「『!?!?!?』」」」

 

果南の発言に、メトロン星人はもちろん、隠れていた未来、曜、メビウスまでもが驚愕する。

 

「あなた、ダイビングが終わった後リラックスしてる時にそんな身体に変身してましたし」

 

「え?ま、まさか見てた……⁉︎」

 

至る所で気が抜けまくりじゃないか!とまたもツッコミを入れそうになる未来。

 

「ええ。言っちゃ悪いことなのかなーって、あなたには伝えませんでしたけど」

 

「なんてこった……」

 

頭を抱えるメトロン星人に、果南はさらに「あはは」と声を上げて笑う。

 

「でもそっかぁ……。帰っちゃうんですね」

 

「ああ。残念ながら」

 

「寂しくなります。眼兎さんは、久しぶりの常連さんでしたから」

 

「できることならば、もうしばらくは海の散歩をしてみたかったよ」

 

 

ーーーー沈む夕日が海面に反射し、メトロン星人のシルエットが揺れる。

 

「…………やっぱり、地球の海はいいなあ」

 

ポツリ、と呟いたその言葉は、瞬く間に海へ溶け込んだように思えた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……で、これはなに?」

 

「えーと……お土産?」

 

次の日。

 

未来と曜は大量の眼兎龍茶が詰め込まれた段ボール箱を持って部室へとやってきた。

 

メトロン星人が、地球を去る前にお礼がしたいと言って渡してきたものだ。

 

「ってこれ中身全部お茶⁉︎」

 

「こんなにたくさん、どうしたずら?」

 

「いや〜……ちょっと色々あって……」

 

千歌、花丸、ルビィは箱の中の眼兎龍茶を見て不思議そうに首を傾けている。見たことないパッケージなのだから、無理もないだろう。

 

三人が箱の中身に興味津々の中、曜と未来は昨日の出来事について話していた。

 

 

「まさか果南ちゃんがメトロンさんのこと知ってたなんてね」

 

「ああ。……もしかしたらあの店の客にまだ宇宙人がいるのかもな」

 

「まっさかー!」

 

笑い飛ばす曜の顔が一瞬で神妙なものに変わり、彼女は目でしっかりと未来を捉えるとーーーー

 

「未来くんって、変わり者だよね」

 

「な、なんだよいきなり」

 

「えへへ、別に」

 

悪戯っぽく舌を出し笑う曜。

 

彼女の瞳が写す未来の姿は、幼い頃と重なっていた。

 

 

◉◉◉

 

 

小学校のグラウンド。

 

「やった……」

 

身体をくの字に曲げ、荒い息を整えようと息を吐き出し、思い切り吸う。

 

「やったぁーーーー!!」

 

「うぅ……!」

 

「ついに!ついに曜に勝ったぞおおおおおお!!」

 

挑み続けていた徒競走の勝負。

 

30回ほど先からはもう何回走ったのかすら覚えてない。

 

何度も何度も幼馴染の女子に敗北し、それでも諦めないで走り続けた未来は、ついに勝利を収めることに成功したのだ。

 

「どうだ曜!見たか曜!」

 

「悔しいーーーー!!」

 

手足をバタバタさせながらそう叫ぶ曜は、まさに幼い子供といったところだ。

 

「もう……いいもんっ!別に負けたって!」

 

今まで勝っていた相手に抜かされたのがよほど悔しかったのか、曜は涙を流してそう言った。

 

「よ、曜ちゃん……」

 

「うっ……ぐすっ……」

 

オロオロとした様子で曜に駆け寄る千歌。

 

未来はその光景をじっと見つめた後、キッと表情を引き締めて二人のところへ歩み寄った。

 

曜に手を伸ばしーーーー

 

 

 

 

「なに泣いてるんだよ!ほら、まだまだ走るぞ!」

 

「え……?」

 

「ほらはやく!!」

 

半強制的に曜をスタートラインに連れて行き、その場に立ち止まらせる。

 

「……っ?勝負は未来くんの勝ちじゃ……」

 

「何言ってるんだ!俺はまだ一回しかお前に勝ててない!」

 

「……へ?」

 

「お前も、たった一度負けたくらいでなんだ!俺なんか何回負けたか数えられない!」

 

ニッと笑う未来を見て、まるで太陽のように眩しいと感じた曜は、思わず目を逸らした。

 

ーーーー不思議な感覚。

 

 

「……い、いいよ!やったげようじゃないですか!ヨーソロー!」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「えぇー!まだ走るのー⁉︎」

 

ストップウォッチを持つ千歌が不満そうに声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと少しだけーーーー

 

少しだけ、彼と一緒に走りたいと。

 

追いつきたいと、そう思った。

 

そしていつしかそれは…………”少しだけ”じゃなくなった。

 

 

 




曜ちゃん回でもあった16話と17話。でも彼女の本当のメインの話は皆さんご存知のサンシャイン11話ですね。
次回からもオリジナルエピソードをお送りしていきまっす!
予告しておくと……次回はルビィちゃん回にしようかなーと思ってます。

プチ解説イクゾオオオオオ!!ダイナモ感覚(ry

前回と今回のサブタイトル、「愛された街」の元ネタは言わずともわかると思います、ウルトラセブンのメトロン星人回「狙われた街」です。
ウルトラシリーズの中でもかなりの名シーンである卓袱台を間にした対話もこの話が始まりでしたね。
今作に登場したメトロン星人はマックスに登場したメトロン星人をモデルにしております。セブンに出てきたのと同一人物ですが、考え方が少し違っていて面白かったですね。


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第18話 ルビィの妹:前編

どうやらキャラ別の回は前後編の尺が必要なようだ……。
今回は黒澤姉妹の名前に因んだ、”鉱石”に関係するオリジナル宇宙人の登場です!
それでは、どうぞ〜。


宇宙に浮かぶ、青く美しい星ーーーー地球。

 

その輝きを求めて、様々な者達がその地へと降り立つ。

 

観光、侵略……目的もまた、それぞれで異なっていた。

 

 

◉◉◉

 

 

内浦の自然の中、一機の小型宇宙船が不時着した。

 

モクモクと煙を上げるその機体の中から、ヨロヨロとした動きで出てくる何者かの姿が見える。

 

「痛い……!もっと操縦練習してけばよかったなぁ……!」

 

青い髪をサイドテールで一つに束ねている、外見は小学生ほどの幼い少女。

 

サファイアブルーに輝く瞳に、透き通るような白い肌。宝石のように美しい姿を見れば、大抵の宇宙人は彼女が何者であるか理解できるはずだろう。

 

ーーーー彼女は、クォーツ星人と呼ばれる者達の仲間だった。

 

「うわぁ……」

 

淡島神社の上から見える景色に、思わず感嘆の声が漏れ出る。

 

近くに広がる青い海、潮の香り、のどかな雰囲気ーーーーあらゆる物が彼女を魅了した。

 

「作戦が成功すれば、ここがあたし達のモノになるんだ!すごいすごい!」

 

無邪気に笑いながらぴょんぴょんと飛び跳ねるのも束の間、少女はある事に気付いた途端、全身の血の気が引き、髪色と同じように真っ青な顔になる。

 

「あれ、そういえば”ゴーレム”はどこに……」

 

自分の衣服のポケットをまさぐり、全身を叩くようにして確認する。が、求めていた物の感触はなかった。

 

「ま、まさか……落とした……?」

 

不時着した時の衝撃でこの周辺に落としてしまったのか。積んでいたはずの()()が手元のどこにもない。

 

「どどどど、どうしようーーーーっ!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「失礼します」

 

「オウ、来たみたいですね!」

 

「はあ……」

 

今スクールアイドル部のメンバー全員は鞠莉に呼び出され、理事長室へと足を運んでいた。

 

鞠莉の前にある、無数の資料とパソコンが置いてある大きな机に寄る。

 

「えーと……今度は何用で?」

 

「もう、そんなに緊張しなくていいのに!」

 

理事長に呼ばれたということもあって、その場の全員の顔に不安が入り混じる。

 

パソコンの画面から目を離した鞠莉が、並んでいるAqoursの面々を横から順番に流し見して言った。

 

「少しあなた達に聞きたいことがあって呼んだの」

 

「聞きたいこと……?」

 

「イェース!」

 

鞠莉は机の上に無造作に散らばっていたプリントの中から一枚だけ拾い上げ、それを全員に見えるよう突き出した。

 

それは、拡大された写真。写っているものは、大きな二つの影。片方は人型で、もう片方は長い首を持つ獣のような姿をしている。

 

「……!これって……!」

 

「まあその反応は当然よね。……覚えてるんでしょう?あの時の事」

 

鞠莉の言葉に梨子だけが理解できていない様子だった。……無理もない。彼女は”あの時”内浦にいなかったのだから。

 

「写っているのは、ウルトラマンと怪獣ですね?」

 

「そ。昔からこの辺りに住んでた人にとっては、忘れられない出来事ね」

 

「……”未確認生命体第1号”、いわゆる怪獣という生物が、初めて地球に現れた日ですね」

 

「そして、ウルトラマンが初めて地球に降り立った日」

 

次々に言葉を呟く未来達に、梨子はさらに困惑するように周りの顔を見渡している。

 

「そう。……まあ簡単に言えば、私はウルトラマンの事を調べているの」

 

鞠莉がそう言った途端、未来とステラの身体がほんの一瞬反応するようにビクつく。

 

「それで、昔からこの地にいるあなた達にあの日何があったのかを詳しく聞きたいと思って。……ああ、確かあなたは東京からの転校生だったわね?あなたもあの日のニュースとか、知ってる事を話してほしいわ」

 

……どうして自分達に聞くのだろう。あの日の事ならば当時幼かった子供より、街の大人に聞いた方が早いはずだ。

 

これも、何か理由があるのだろうか。

 

「聞きたいことって言われても……。私、ただ逃げてただけだし」

 

「ルビィも、お姉ちゃん達と一緒に……」

 

「マルも同じずら」

 

曜、ルビィ、花丸が揃ってそう言う中、千歌と未来は引き締まった表情でボヤけた拡大写真を見つめていた。

 

「……ウルトラマンの事を調べて、何をするつもりなんですか?」

 

未来の問いに、数秒考えるような素振りを見せた後、口角を上げたまま鞠莉は言った。

 

「別にどうもしないわよ?ただ、彼の事をもっと知りたいの」

 

「机の上にあるのは見える限りメビウスではありませんが、そのウルトラマンは一体……?」

 

不意にそう言うステラへ、鞠莉の視線が移動する。

 

「メビウス?」

 

「あ……、私達最近現れたウルトラマンをメビウスって呼んでるんです。ややこしいからって」

 

「あら、なら私もそう呼んじゃおうかな?」

 

パソコンを回転させて画面をこちらに向けると、鞠莉は数十秒間の動画を再生させた。

 

ウルトラマンーーーーベリアルがディノゾールを光線で倒す瞬間だ。

 

「でも()()()じゃないの。私が欲しい情報は、数年前に現れたウルトラマンのことなの」

 

ステラはベリアルの事を知らないのだろう。豆鉄砲食らったような顔をして、固まっている。

 

「……そういえばあなた」

 

「えっ?」

 

鞠莉はステラに顔を近づけると、じっとその黒い瞳に黄金色の瞳を重ねた。

 

「あなたも転校生ってことになってるけど……前の学校の事は資料に無かったわね」

 

「…………学校側の不備でしょう」

 

「ま、それは置いといて」

 

鞠莉は片手で軽くパソコンを閉じると、固定されたかのような笑顔で未来達に改めて言う。

 

「何かあったらすぐに言いに来て欲しいわ。話はそれだけ。スクールアイドルの方も頑張ってね!」

 

 

◉◉◉

 

 

何か不安が胸の中で渦巻き、黒澤ルビィは淡島神社でお参りをしようと、階段を登っていた。

 

(ウルトラマン……かぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー『お姉ちゃあん!!どこお!お姉ちゃああああん!!』

 

 

 

 

寒気と共に過去の光景がせり上がってくる。

 

あの時、それはもうたくさんの涙を流した。怪獣がたまらなく怖くて、何度も何度も姉のことを呼んだ。

 

もしもあの時光の巨人が現れなかったら、と考えると今でも恐ろしく思う。自衛隊の攻撃を物ともせずに破壊の限りを尽くしていた、巨大な青い怪獣。

 

気の弱いルビィは、動けずに泣き叫ぶことしかできなかった。

 

(ウルトラマンが来てくれたから、今ルビィはここにいるんだ。あの人は、ルビィとお姉ちゃんをーーみんなを助けてくれた人)

 

ルビィは二つの赤と銀の身体を思い浮かべながら、淡島神社の頂上まで辿り着いた。

 

「うゅ……?」

 

祠の周辺で、何かを探すように屈んでいる人物の姿が視界に入ってきた。

 

見たところ幼いーーーー小学生くらいの女の子である。

 

「あ〜んもうどこいっちゃったかなあ……⁉︎」

 

茂みの中を手当たり次第に探る少女を見て、ルビィは思わず声をかける。

 

「あ、あの……何か探し物ですか?」

 

ルビィの存在に気付いた少女は、動きを止めたかと思えばすぐさま腰に装備していたレーザー銃を掴み取り、その銃口をルビィへ向けた。

 

「て、手を挙げろおおおおおおおおお!!!!」

 

「ピギィィィイィィイイイイイ!?!?」

 

二人の甲高い声が、街中に聞こえそうなほどに響き渡った。

 

 

◉◉◉

 

 

クォーツ星人のサファイアは、今この状況に陥っていることに凄まじい焦りを感じていた。

 

(見られた……見られた⁉︎地球人に、計画がバレちゃった⁉︎)

 

「あ、あの……」

 

「動くなぁ!」

 

「え、ええ⁉︎」

 

レーザー銃を構えたまま思考を回転させるも、パニックになった彼女はただ冷や汗を流すことしかできなかった。

 

そうしてるうちに、赤い髪の少女は銃をおもちゃと判断したのか、サファイアに向かって一歩踏み出した。

 

「ああ動くな!動くと撃つよ⁉︎ほんとに撃つよ⁉︎」

 

「そ、そんなに怖がらなくても……。ちょっと気になったから声かけてみただけだよ……?」

 

「ほ、ほんと?」

 

自分達の侵略計画がバレてしまったわけではないと理解すると、サファイアはレーザー銃を腰のベルトに挿し、安心するように深い溜息を吐き出した。

 

「お、驚かさないでよねっ」

 

「ご、ごめんね?それで、その……何やってたの?困ってるみたいだったけど……」

 

「……あっ、そうだった」

 

サファイアは自分達の侵略兵器である、”ジュエルゴーレム”を落としてしまったことを思い出す。

 

普段は手に収まるほどに小さな人形だが、クォーツ星人が念じればそれはたちまち巨大化し、強力な兵器と化すものだ。

 

ーーーーサファイアは、クォーツ星から地球を侵略するために尖兵として送られた少女だった。

 

「ちょっと落とし物しちゃって……」

 

「た、大変!大切な物なの?」

 

「え?う、うん……まあ」

 

「じゃあすぐに探さないと!手伝うから一緒に探そう⁉︎」

 

「え?」

 

呆気にとられたサファイアは、茂みの中へと手を入れる少女をしばらくただ見つめていた。

 

ーーーーこの人は何をやっているのだろう。

 

自分はこの星を侵略しに来た者だというのに、その敵の探し物を手伝う、と言った。

 

(あっ……そうだ、あたしはまだ侵略者だってバレてない……。えへへ、ここはこの人を利用しない手はないね!)

 

「なかなか見つからない……ってそういえばどんな物か知らなかった」

 

赤い髪の少女はサファイアに顔を向けると、言った。

 

「ねえあなた……って名前知らなかった。ねえ、教えてくれるかな?」

 

「教えるって、あたしの名前を?」

 

「うんっ」

 

まあそれくらい問題ないか、とサファイアは自らの名前を胸を張って名乗った。

 

「あたしの名前は…………さ、サファイア」

 

「えっ!サファイア⁉︎」

 

「うえぇ?」

 

瞳を輝かせて駆け寄ってくる赤毛の少女。興奮気味な彼女は早めに口を動かした。

 

「綺麗な名前!」

 

「え……?」

 

少女が言う鉱石、とはもちろんサファイアのことを言っているのだろう。ただしクォーツ星で”サファイア”と名付けられた宝石は地球の物よりも黒ずんでいて、あまり美しいとは言えないものだった。

 

サファイアは、昔から自分の名前があまり好きではなかったのだ。

 

「確かに髪も綺麗な青色で……すごくあなたに合ってるかも!」

 

(そっか……。この星では”サファイア”は綺麗な宝石なんだね)

 

「私の名前も、鉱石から取られてるんだよ!」

 

「えっほんと?」

 

思わぬ偶然を聞かされ、サファイアはつい彼女に聞き返してしまう。

 

「うんっ!ルビィって言うんだ!」

 

彼女の名前を聞いた瞬間、サファイアは氷漬けにされたかのように動きが止まる。

 

(同じだ……お姉ちゃんの名前と)

 

「あっ……そういえば探し物だったね……。えっと、何を落としたの?」

 

「これくらいの、虹色の人形だよ」

 

両手で円を描いてサイズを表すサファイアに、ルビィと名乗った少女は頷くと再び茂みの中を探索し始める。

 

(あっ……!あたしも探さないと!)

 

その日、青と赤の髪を持つ二人の少女は、日が暮れるまで一緒に”ジュエルゴーレム”を探した。

 

 

 




はい、まさかのオリジナル宇宙人でしたが……いかがでしょう?
今回と次回のエピソードは、実はモデルになった話がウルトラシリーズに二つ存在します。
一つはメビウスの「ミライの妹」、そしてもう一つは帰ってきたウルトラマンの「怪獣使いと少年」です。次回と合わせてみると共通点が見つかるかもしれません。

今回のプチ解説はクォーツ星人について。

星の景観としては惑星アーブが近いと思います。複数の結晶体で構成された街やテクノロジーが広がる星です。
大体の人々は生まれた時に鉱石にまつわる名前が付けられます。そして、住人全員が綺麗な顔立ちをしているという何とも羨ましい星です。
ただ、プライドが高く傲慢な人が多い星でもあります。

次回は久しぶりの戦闘もあるので、お楽しみに!


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第19話 ルビィの妹:後編

ようちかイベントを全力で走っています。未だに曜ちゃん一枚しか手に入ってません。踏ん張ルビィしなきゃダメですね。


「ただいま〜……」

 

すっかり日が暮れ、街灯が点き始めた時間。

 

黒澤ルビィは泥だらけになった制服を手で払いながら玄関の戸を開けた。

 

「ルビィ!こんな時間まで一体何をして……って何ですのその格好は⁉︎」

 

「うぅ……ご、ごめんなさい……」

 

「ちょっとそこに座りなさい!みっちりお説教ですわ!」

 

 

 

姉であるダイヤに小一時間ガミガミ色々と浴びせられた後、すぐに汚れを落としにお風呂へ向かう。

 

結局サファイアの”落とし物”は見つけることができなかった。

 

彼女は明日もーー見つかるまで探すつもりらしい。一度付き合ったということもあり、ルビィもサファイアの気の済むまで一緒に捜索する気でいた。

 

(お姉ちゃんに怒られちゃうかな……)

 

自分に厳しい部分のあるダイヤの方を見やる。ルビィを心配してのことだが、やはり怒鳴られるのは嫌だった。

 

(それにしても……変わった子だったな、サファイアちゃん)

 

数分前まで共に泥だらけになりながら人形を探していた女の子の顔を思い出す。

 

(もし妹ができたら……あんな感じなのかな)

 

短い時間だったが、サファイアと会話をしていてとても楽しいと感じることができた。

 

そして、ダイヤがーーーー姉がかつて自分にそうしてくれていたように、ルビィも誰かに甘えてもらいたいという欲もほんの少しあったのだ。

 

「よしっ……!明日もがんばルビィ!」

 

 

◉◉◉

 

 

「ねえ、どうしてここまでしてくれるの?」

 

「え?」

 

次の日の放課後も、ルビィはサファイアの探し物を手伝いに淡島神社へと訪れていた。

 

唐突な質問に言葉を詰まらせ、少し考えた後に返答する。

 

「なんだかほっとけなくて。迷惑だったかな?」

 

「ううん。そんなんじゃなくて……。どうしてあたしに、優しくしてくれるの?」

 

ルビィは、サファイアが侵略者だという事を知らない。それを抜きにしても、彼女はお人好しが過ぎると感じていた。

 

「うーん……。るびーー私ね、お姉ちゃんがいるんだけど……、いつも迷惑かけてばかりで……。だから、誰かに頼られたいって気持ちがあるんだと……思う」

 

「えっ!お姉ちゃんがいるの⁉︎」

 

「うん。……もしかして、サファイアちゃんも?」

 

ルビィがそう尋ねると、サファイアはバツが悪そうに顔をしかめ、小さく口を動かした。

 

「うん……」

 

「そうなんだ!私のお姉ちゃんはちょっと厳しいけど……ほんとはとっても優しいんだよ!サファイアちゃんのお姉ちゃんは、どんな人なの?」

 

「あたしのお姉ちゃんはーーーー」

 

サファイアは目元に溜まった宝石のような涙を拳で拭い、顔を上げた後に震える声音で言った。

 

「優しくて、すごく尊敬できる人で……。ほんとは、地球に来るのはあたしじゃなくて、お姉ちゃんで……」

 

「地球……?」

 

「うっ……ぐすっ……!」

 

とうとう泣き出してしまうサファイアを見て、ルビィは慌てた様子で彼女の方へ駆け寄った。

 

「ど、どうしたの⁉︎」

 

「なんでもないの……!なんでも……ないもん……!」

 

ーーーークォーツ星人の兵器である”ジュエルゴーレム”。これは本来、元々生きていたクォーツ星の住人から生成されたものだ。

 

彼らは生命活動を終えると、人間で言う心臓に当たる部分から一個の宝石を生み出し、他の肉体は消滅する。

 

その宝石にはクォーツ星人の最後の力が込められており、それを複数集めて錬成されたものが”ジュエルゴーレム”。……ゴーレムを操るのには巨大な生命力が必要であり、使役する者は寿命を削りながら戦うのと同義だ。

 

サファイアの姉は、ジュエルゴーレムを使用しようとして生命力を使い果たし、地球での任務の前に命を落としたのだ。そして他にゴーレムを扱えるほどの力を持った存在ーーーー妹であるサファイアに白羽の矢が立った。

 

「泣かないで……!」

 

ハンカチで自分の小さな顔を拭くルビィの姿がかつての姉と重なり、サファイアはつい、彼女に言ってしまった。

 

「お姉ちゃんって……呼んでもいい?」

 

「え?」

 

「ルビィお姉ちゃんって、呼んでもいい……っ⁉︎」

 

ルビィはその問いに目をパチクリさせて驚いた後、快い笑顔を浮かべて答えた。

 

「うんっ!いいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人の様子を、木陰に隠れて窺っている人影が一つ。

 

(……宇宙人の気配がするって言うから来たけど……なんでルビィちゃんがいるんだよッ⁉︎)

 

『な、なんか出て行きにくい雰囲気だね』

 

メビウスの言葉を聞いて駆けつけた未来が見たものは、クォーツ星人の女の子と仲良くしているルビィの姿だった。

 

『でも彼女が侵略者であることは間違いないよ。()()ジュエルゴーレムは、紛れもなくクォーツ星の兵器だ』

 

未来はつい先日この近くで拾った虹色の鉱石で作られた人形に目を落とす。今自分の右手に握られている物が巨大化して兵器と化すというのだから、ゾッとする。

 

(どうすんだよこれ……返さなきゃ悪いんじゃないか?)

 

『いや……でも一応危険なものだし……』

 

(でも、まだ子供だぞ?)

 

『それでも見過ごすわけには……』

 

未来とメビウスがそうやりとりしてる間に、ルビィとサファイアはゴーレム探しを諦めて一度帰宅するようだった。

 

階段を下りていく二人の背中を物陰からじっと眺め、再びジュエルゴーレムを見る。

 

「おっと手が滑った」

 

『ちょっ⁉︎』

 

未来は祠の側に向かって持っていたジュエルゴーレムを放り投げ、知らぬ顔で階段の方へ歩いて行く。

 

『な、なんてことをぉ……ッ⁉︎』

 

「大丈夫だって。それにもしでっかくなって暴れても、俺達でぶっ壊せばいい話だ」

 

『君は宇宙警備隊失格だ!』

 

「そんな組織に所属した覚えはありませーん」

 

メビウスの言葉を聞き流しながら、未来はルビィ達に追いつかない程度の速度で階段を下りた。

 

 

◉◉◉

 

 

(うぅ……こっそり抜け出して来たけど……帰ったら怒られちゃうよね……)

 

そのまた次の日。

 

日曜日なのだが、ルビィはダイヤに罰として外出禁止令が出されていたのだが、隙を見て家を出て神社へ足を運んでいた。

 

「うゅ……?」

 

不意に空を見上げると、何やら巨大な水晶のようなものが浮かんでいるのが見えた。

 

そこがいつもサファイアと一緒にいる場所だとわかると、ルビィはすぐさま階段を登るスピードを上げ、頂上へ急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっとジュエルゴーレムが見つかったのはよかったけど……)

 

サファイアは祠の側に落ちていたジュエルゴーレムを見つけ、無事回収することができた。

 

…………だが、迷っていたのだ。このまま地球を攻撃していいものかと。

 

ルビィに対して恩を仇で返すような真似をすることに抵抗を感じていたのだ。

 

ーーーーそして、運悪くたった今、クォーツ星からの増援が到着したところだった。

 

宇宙船からゾロゾロと外に出てくるクォーツ星人に、サファイアは何もできずに立ち尽くす。

 

 

「今まで何をしていたんだサファイア。我々が到着する前には攻撃を開始しろと言ったはずだ」

 

「……あっ……えっと……」

 

「まあいい、今からでも遅くはない。さあジュエルゴーレムを出せ」

 

「ぁ……っ!あっ……あ、あのっ!」

 

「どうした?」

 

集団のリーダー格である男に向かって、サファイアは震える身体に力を入れながら叫ぶように訴えた。

 

「こっ……!この作戦、あたしはやっぱりやめた方がいいと思います!」

 

「……なに?」

 

「ち、地球人とは友好関係を結んだほうが、我々のメリットになると思います!」

 

「馬鹿を言え。我々が欲しているのは友ではなく領土だ」

 

「で、でもっ……!」

 

「まったく……。姉が姉ならば妹も大概だな。血の繋がりというものは度し難いものだ。ルビィもそうやって、侵略行為を最後まで否定していたよ」

 

男はサファイアにゆっくりと近づき、彼女の手にある七色に輝く人形を乱暴に奪い取った。

 

「お前がやらないのならば、我々がやるまでだ」

 

男はジュエルゴーレムを思い切り前に投げると、突き出した手から虹色の光を放つ。

 

それを浴びたゴーレムは徐々に身体を肥大化させていき、街目掛けて凄まじい質量を持って落下していく。

 

 

ーーーードスン……!と大地が揺れるほどの衝撃が街中に伝わり、ジュエルゴーレムは活動を開始した。

 

 

◉◉◉

 

 

「なっ……んだあれぇ⁉︎」

 

『だから言ったじゃないかぁ!!』

 

今までにないほど怒号を上げるメビウスを流しつつ、未来は遠くに見える巨大化したジュエルゴーレムを見上げた。

 

「大丈夫だ、問題ない!勝てばいいんだよ勝てば!」

 

左腕に宿したメビウスブレスのクリスタルサークルを回転させ、身体の中のウルトラマンの名前を叫ぶ。

 

 

「メビウーーーース!!」

 

 

光と共にゴーレムの側へ着地したメビウスは、神社の方にクォーツ星人の集団がいることを確認する。

 

(仲間が来たのか……)

 

『未来くん避けて!』

 

(ん……?)

 

よそ見していた所へジュエルゴーレムの剛腕が顔面に叩き込まれ、メビウスの身体は回転しながら街中へ倒れた。

 

「ウアァ……ッ!」

 

一撃受けただけでもかなりの体力を消耗させられた。……つまり、かなりの馬鹿力だ。何度も受ければただじゃ済まないだろう。

 

「セヤ!!」

 

負けじとジュエルゴーレムの身体に掴みかかる。が、やはり向こうの方がパワーが上のようで、簡単に振り解かれた挙句胸部にもう一撃、硬く重いパンチを貰ってしまった。

 

さらにメビュームブレードを展開してゴーレムの身体を連続で切りつけるが、全く傷ついている様子もなく、おそらくダメージも通っていない。

 

(かったいなこいつ……!)

 

『メビュームシュートだ!』

 

(わかった!)

 

メビウスに言われた通り、光線を撃つためにメビウスブレスのクリスタルサークルを回転させ、力を増幅させる。

 

「ハアアアーーーーッッ!!」

 

オレンジ色の光線がジュエルゴーレムを焼き尽くさんと、その巨体へ殺到する。

 

しかしゴーレムは両腕をクロスさせ、盾のようにしてメビュームシュートを受け止めた。

 

(なんだって……⁉︎)

 

光線を防ぎきったジュエルゴーレムは再びメビウスに狙いを定めると、大きな足音を轟かせながら接近してくる。

 

(こいつ…………攻撃が全然通じないぞ⁉︎)

 

『全身がダイヤモンド以上に硬いんだ……!これを砕くには……どうすれば……っ!』

 

メビウスはただ繰り出される強烈な拳をいなし、回避することしかできずにいた。

 

 

◉◉◉

 

 

「宇宙警備隊員がいるとは聞いていたが……ジュエルゴーレムの前に手も足も出ないみたいだな」

 

「やめて!」

 

サファイアはゴーレムを操る男に必死にしがみついて邪魔しようとするが、非力な力で大の男を止められるはずもなく、軽く突き飛ばされてしまう。

 

「目障りな奴だ……」

 

「うっ……!」

 

男はレーザー銃を取り出すと、その銃口をサファイアに向ける。

 

飛び道具を向けられ、サファイアは胸の中から恐怖が迫り上がるのを感じた。

 

 

 

「だ、だめぇ!」

 

「…………⁉︎」

 

その時だ。

 

二人の間に割り込んで来た一人の赤毛の少女。腕を広げ、サファイアを庇うような姿勢で男を睨んでいる。

 

「ルビィ……お姉ちゃん……?」

 

「なんだ貴様は……?」

 

男のレーザー銃を握る手が一層強くなる。

 

ルビィは一歩間違えれば死ぬことになるこの状況を理解していながら、サファイアを守るために飛び出したのだ。

 

「地球人か……。そいつを庇ったところで、何も得することはないぞ」

 

「ルビィお姉ちゃん……逃げて……!」

 

ルビィは泣きそうな表情を無理やり引き締めると、男を見据えながら勇ましく口を開いた。

 

「何が何だかわからない……わからないけど……!妹が困ってたら、助けるのがお姉ちゃんだもん!!」

 

今にも腰が抜けそうなはずなのに、ルビィは恐怖を押し殺して目の前の殺意に耐えている。

 

「そうか。ならその愚か者共々…………死ね」

 

トリガーが引き絞られ、細いレーザー弾がルビィの心臓目掛けて放たれる。

 

ぎゅっと目を瞑って覚悟を決めるルビィだがーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺させるもんですか」

 

「ピギッ……⁉︎」

 

「わっ⁉︎」

 

ルビィとサファイアは揃って誰かに抱えられるようにして拾われ、レーザー弾は何もない場所を貫く。

 

ゴロゴロと転がるのも束の間、ルビィは自分達を助けてくれた人が顔見知りだと気付き、名前を呼んだ。

 

「ステラちゃん⁉︎」

 

「逃げるわよ!」

 

ステラは二人の手を引くと疾風さながらに階段を駆け下り、ものの数秒で地上へと到達してしまった。

 

ルビィが見ている前でヒカリに変身することはできない。危険な賭けだったが、何とか救うことができた。

 

「まったく。偶然わたしが通りかかったからよかったけど……普通なら今頃蜂の巣よ?」

 

「あ、ありがとう。運動神経凄いんだね……」

 

ステラは顔を上げ、メビウスとジュエルゴーレムの戦闘を見る。

 

明らかにメビウスが劣勢だ。

 

(加勢する……?)

 

『待てステラ。見たところ青髪の少女もクォーツ星人だ。念の為見張っておいたほうがいい』

 

(たしかに、それもそうか……)

 

『彼らには悪いが、ここは頑張ってもらおう』

 

(あなた、結構無慈悲な時あるわよね)

 

ステラは苦渋の表情を浮かべ、悔しそうに拳を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あたしが……!」

 

「サファイアちゃん?」

 

「あたしが、アレを止める……っ!」

 

サファイアは両腕を掲げ、ジュエルゴーレムに向かって念を送った。

 

 

◉◉◉

 

 

「ア……⁉︎」

 

メビウスは今まで防御していたラッシュが急に止まったことに違和感を覚え、ゆっくりと目の前のゴーレムを確認した。

 

ギギギ、と軋むような音を上げ、動きを止めているジュエルゴーレム。

 

ーーーーサファイアが、ゴーレムの動きを止めているのだ。

 

(な、なんだ……?急に大人しくなったぞ?)

 

『よくわからないけど……。今がチャンスだよ!』

 

(で、でもどうやって……!)

 

『……こうなったら最終手段だよ。未来くん、奴にしがみついて!』

 

(えっ?なに?)

 

未来は言われるがままにジュエルゴーレムの巨体に手を回し、抱きつくような体勢になる。

 

刹那、メビウスの体内から強烈な熱が吐き出され、まるで発火しているようにも見える。

 

『メビューム……!ダイナマイトだ…………ッッ!!』

 

身体の内側から焼けるような痛みと熱が広がり、意識が飛びそうになる。

 

(ぐぅっ……⁉︎がっ……!ォォオオオオオオオオ!!)

 

 

ーーーードオオォォォオオオオオン……!!とジュエルゴーレムごと大爆発を引き起こしたメビウスの身体が爆散する。

 

体内のエネルギーを使って敵に特攻する捨て身の技、メビュームダイナマイト。身体に負担のかかるこの技は、まさに最終手段であった。

 

 

 

数秒後、光の粒子が集まり出し、カラータイマーが点滅した状態のメビウスが再構成されていく。

 

「ウッ……!グァ……」

 

膝をつきながらもジュエルゴーレムを破壊したことを確認し、未来は安堵のため息を漏らす。

 

(はぁ……はぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な……⁉︎ジュエルゴーレムが……!」

 

淡島神社頂上でゴーレムがメビウスに破壊される光景を見たクォーツ星人達がざわつき始める。

 

メビウスは彼らの方を向き、未来がテレパシーで彼らに話しかける。

 

(さて……お前らはどうしてくれようか?)

 

「ひっ……!」

 

一瞬で顔を青くしたクォーツ星人達が乗ってきた宇宙船に逃げるように乗り込むのを見届けた後、ルビィがどこにいるのかを探した。

 

 

◉◉◉

 

 

「けほっ……!」

 

サファイアの小さな口から大量の血が吐き出される。

 

別の誰かが使役しているジュエルゴーレムに無理やり干渉したことによって、拒絶反応を起こされた彼女の内側から生命力が暴走しているのだ。

 

「さ、サファイアちゃん⁉︎どうしたの⁉︎ねえ!」

 

倒れるサファイアの手を両手でしっかりと握る。

 

「ごめんね……。あたし……ほんとは……このほしを……しんりゃ、く……」

 

一言一言、言葉を伝える度に胸が張り裂けるように痛み、出血を起こす。

 

「宇宙人でも……。あたしでも……お姉ちゃんの妹でいていいかな……?」

 

「……!」

 

ルビィは滝のように次から次に溢れてくる涙を払い、今にも事切れそうなサファイアの顔をしっかりと見据えた。

 

「当たり前だよ!だからサファイアちゃんも……ルビィの妹として、これからもずっと……!」

 

「ありが、とう……うれしい……。おね、ちゃーーーー」

 

サファイアの全身が海のような青色に輝き、雪のような光の粒となって天へと消えていく。

 

最後までサファイアの手を握っていたルビィの手中には、()()の美しい宝石が、彼女に甘えるように転がっていた。

 

 

◉◉◉

 

 

ジュエルゴーレムが街に現れて数日後の黒澤家。

 

「……随分大切そうにしていますが、それはなんですの?」

 

ダイヤは小瓶に入っている手の平ほどの青い宝石を眺めるルビィにそう問う。

 

ルビィはダイヤの方を振り向くや否や、笑顔でこう答えた。

 

「ルビィの、妹だよ」

 

そんな事を口走る妹に少し困惑しつつ、ダイヤは幸せそうなルビィの横顔を柔らかな視線を注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー『ルビィお姉ちゃん!』

 

たった数日間だけ現れた妹の姿を思い出す。

 

青い宝石の中で、彼女が笑いながら自分の名前を呼んでいる気がした。

 

 

 

 




結局死んじゃうのかよ!って思ったあなた、サファイアちゃんの出番はこれだけで終わらせるつもりはないので……安心してください(?)
次回は花丸回ーーーーにしようと思っていたのですが、予定を変更してサンシャインパートを進めたいと思います。つまり次回はヨハネが堕天します。オリジナルエピソードはもう少し後にまた書きます。

プチ解説はオリジナル怪獣であるジュエルゴーレムについて。

本文で説明があった通り、ジュエルゴーレムはクォーツ星人が命を落とした後に生み出す宝石から作られています。
同じクォーツ星人の魂と呼応し、操ることが可能です。ただし使い過ぎると死にます(直球)。
今回の最後でサファイアが遺した物がまさにゴーレムの元となるものです(ネタバレ)。

善子回が終わった後はそれぞれのメンバー回の続き、そしてサンシャインパートを進めつつ主人公とメインヒロインである未来と千歌にスポットを当てたいと思ってます。



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第20話 平穏の外側

サンシャイン五話に突入!
ただ、今回は少し前置きというか、布石を多めにしました。


ーーーー男は光を求めていた。

 

今の自分の中で蠢いている闇の力。それがたまらなく嫌で、不快で…………でも自分にはそれしかない。

 

光を失った男が得たものは、強力な闇。本人の意思とは関係なく手に入れたその力は、全てを飲み込みかねない最悪の力。

 

ーーーー男は光を探していた。

 

 

宇宙という広大な虚無の空間を彷徨い続け、男はとある星にすがる思いで辿り着く。

 

その青い星では太陽が大地を照らし、恵みを与えていた。

 

……だが、それでも男の心は晴れなかった。

 

何年ぶりかに見た太陽ですら、男の中の闇を消すことはできなかったのだ。

 

男はコンクリートのジャングルの中をひたすら歩き続け、まったく知識のないこの星の事を必死に知ろうとする。

 

光を、求めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにいさん大丈夫?具合悪いの?」

 

公園のベンチで頭を抱えていた男の側に、一人の幼い女の子が駆け寄ってくると、顔を覗き込みながらそう言った。

 

この星にやってきてから初めて住人に話しかけられた男は、返答に困り言葉を詰まらせてしまう。

 

ーーーー光を、求めていた。

 

「あ、もしかしてお腹空いてるとか?なら良いものあげる!はいっ!」

 

女の子が手渡してきた物は、男の手の平に収まるくらいの饅頭だった。

 

特に空腹というわけでもなかったが、男はなんとなく初めて見るその食べ物に興味が湧き、一口かぶりついてみる。

 

ーーーー甘い。

 

このように何かを食べること自体何年ぶりだったか。男は久しぶりに使った味覚をしっかりと感じ取った。

 

 

 

 

 

 

「穂乃果ちゃーん!もう帰らないと遅くなっちゃうよー!」

 

「あっ!ごめーん!すぐ行く!ーーーーじゃあねおにいさん!」

 

手を振りながら去って行く女の子の後ろ姿を見て、男はかつて失ったものと同じものを、彼女が秘めていることに気がつく。

 

ーーーーやっと、光を見つけた。

 

男はその瞬間、その光を追いかけることを心に決めた。いつまでも、いつまでも、手に入るまで……。

 

しかし男は、その時にはまだ知らなかった。

 

その光は、いつの間にか目の前から夢のように儚く消えてしまうことを。

 

 

◉◉◉

 

 

「ん……」

 

窮屈感で目が覚め、ステラは重い瞼を開いた。

 

「むにゃむにゃ…………」

 

「…………ちょっと」

 

違和感の正体が腰に回された二本の腕ということに気がつくと、ステラは密着している少女の頬を軽く突く。

 

「千歌、苦しい」

 

「うーん…………?」

 

全く起きそうにない千歌を見て、どうしてこうなったかを思い出す。

 

昨日は確か寝る前にステラの部屋で数分千歌と談笑していたはずだったが…………。

 

(そういえば……そうだ。わたしが先に寝落ちしちゃって……それで……)

 

やはりどう考えても千歌が一緒に眠っている理由がわからなかった。

 

「千歌、離して。……千歌」

 

「う、うぅ〜ん……?」

 

ぺちぺちと頬を叩くと小気味いい音が鳴る。千歌はそこでやっと目を開き、ステラの身体から手を離して上体を起こした。

 

「おはようステラちゃん……」

 

「おはよ。……ってどうしてあなたがここにいるのよ?」

 

「えー?えっと……ステラちゃんが先に寝ちゃったから、出来心でちょっと抱きついてみたら……予想以上に気持ちよくて」

 

「わたしは抱き枕じゃないのよ」

 

「えへへ……」

 

十千万での居候を始めてから、ステラを取り巻く環境が一変した。

 

食事も三食ありつけるようになり、同居人ができたことで暇な時間も減っていった。

 

そして何より、高海家の人と一緒に過ごす一時は、とても楽しい。

 

「さ、今日も学校なんだし。そろそろ準備しないと……」

 

「そういえばステラちゃんさ……」

 

「ん?」

 

千歌はにやにやと気味の悪い笑みを浮かべてはステラに近寄ってくる。

 

「もしかして、遠距離恋愛中の彼氏がいるとか……?」

 

「……は?」

 

何の前触れもなくそんなことを聞いてくるものだから、ステラは思わずそう聞き返した。

 

「なっ、なんでそんなこと聞くのよ?」

 

「え〜?だって〜……私聞いちゃったんだよねえ……ステラちゃんの寝言」

 

「なっ……なぁ……⁉︎」

 

内容がどうということは関係なく、寝言を漏らした上にそれを聞かれたことが屈辱だった。

 

みるみる顔を紅潮させていくステラを見て、千歌がさらに調子に乗った様子で攻める。

 

「なんだったかなあ……たしか……”ひかりくん”だっけ……?」

 

「……⁉︎」

 

最大の不覚だ。

 

まさかヒカリの名前を寝言で出してしまったいたとは。

 

「知らないわよそんな名前」

 

「え〜?ほんとに〜?」

 

「ほんとだってば!そんなことより早く学校行く準備!」

 

強引に話から逃げるステラに、千歌は懲りずに視線を向けてくる。

 

それにしても本当に危なかった。下手をすればウルトラマンの事だってバレかねない。同じ屋根の下に暮らすということは、秘密が全て筒抜けであるという覚悟が必要だ。

 

(気をつけないと……)

 

 

◉◉◉

 

 

「うーむ……」

 

「今日も上がってない」

 

「昨日が4856位で、今日が4768位」

 

「落ちてはいないんだけどな」

 

千歌達は黄色のパソコン画面を揃って睨む。

 

数多くのスクールアイドルの人気が、ランキングとして形になるこの制度。Aqoursはまだまだ下位の下位、先は長そうだ。

 

「ライブの歌は評判いいんですけど……」

 

「それに新加入の二人もかわいいって!」

 

「そうなんですか⁉︎」

 

「特に、花丸ちゃんの人気がすごいんだよね」

 

コメント欄を見ると、千歌達の言う通り花丸とルビィに関してのものが多い。やはり新メンバーというものは話題になるのだろうか。

 

「こ、これがパソコン……⁉︎」

 

「はい?」

 

横から顔を出した花丸が目を輝かせてそう尋ねる。

 

「もしかして、これが知識の海に繋がっているという、インターネット……⁉︎」

 

「そ、そうだな。知識の海かどうかはさておき」

 

「うぉお〜……!」

 

コメントになど目もくれず、花丸は興味津々の様子でまじまじとパソコン本体を眺めている。

 

「花丸ちゃんパソコン使ったことないの?」

 

「実は、おうちが古いお寺で電化製品とかほとんどなくて……」

 

「えぇ……」

 

ルビィの話によると、センサー付きの蛇口やハンドドライヤーを使っただけで「未来ずら〜!」と驚いていたようだ。もう機械音痴とか、そういうレベルではない。

 

「触ってもいいですか⁉︎」

 

「もちろん!」

 

千歌に許可をもらうと、花丸は瞳の輝きを一層強くさせてパソコンへと手を伸ばす。

 

彼女の目に止まったのは、キーボード右上にある電源ボタンだった。

 

「ずらっ」

 

掛け声を発しながら電源ボタンを軽く押し込む花丸。数秒後、画面が真っ暗になり、後ろでそれを見ていた千歌達の顔から血の気が引いていく。

 

「何押したの⁉︎いきなり……」

 

「えっ?あ……えへ。一個だけ光るボタンがあるなあと思いましてーーーー」

 

花丸が言い終わる前にすぐさまパソコンの元へ急ぐ梨子と曜。

 

「大丈夫⁉︎」

 

「衣装のデータ保存してたかな〜……⁉︎」

 

「ああ、それならこの前別のメモリに……」

 

「未来くんナイス!!」

 

そんなやりとりを見た花丸は泣きそうな顔をしながら、バツが悪そうに聞いた。

 

「ま、マル、何かいけないことしました?」

 

「あ、あはは。だいじょぶ、だいじょぶ……」

 

 

◉◉◉

 

 

「おおー!こんなに弘法大師、空海の情報が⁉︎」

 

「うん。ここで画面切り替わるからね」

 

「すごいずら〜!」

 

パソコンの使い方を曜に教えてもらっている花丸。

 

「もうっ!これから練習なのに!」

 

「まあまあ、いいじゃん少しくらい」

 

「それより、ランキングどうにかしないといけないわね」

 

ステラも言うように、スクールアイドルの知名度はランキングの順位に左右される。年々増えるスクールアイドルの数を考えれば容易なことではない。

 

「しかもこんな何もない場所の地味!&地味!&地味!!……なスクールアイドルだし……」

 

「やっぱり目立たなきゃダメなの?」

 

「人気は重要なポイントだと思うぞ」

 

何か目立つこと、といってもランキングで上位を勝ち取る以外の方法なんてそうあるわけではない。

 

「例えば、名前をもっとインパクトのあるものにするとかどうだ?」

 

「インパクトねえ……」

 

「スリー……マーメイド?」

 

小さく呟いたステラのその一言で未来と千歌は吹き出し、梨子は顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

 

「あっ今ならファイブね」

 

「ファイブマーメイド……!」

 

五人が人魚の格好をしているイメージが勝手に頭の中に浮かんでくる。

 

『えっ……なんだいこれは……』

 

(あっ!お前盗み見てんじゃねえ!)

 

未来のイメージした映像が一体化しているメビウスにも伝わったのだろう。メビウスは若干引き気味の様子だ。

 

「なんで蒸し返すの⁉︎」

 

「ってその足じゃ踊れない!」

 

「じゃあ、みんなの応援があれば足になっちゃうとか!」

 

「あっ!なんかいいその設定!」

 

「でも代わりに、声が無くなるという……!」

 

「だめじゃん!!」

 

「だからその名前は忘れてって言ってるでしょお⁉︎」

 

「悲しい話だよね〜……人魚姫」

 

 

 

何気ない会話の最中、メビウスの並外れた感覚が異変を捉え、未来は横から送られてくる視線の方を向いた。

 

(あれは……)

 

身を隠しながらこちらの様子を伺っている、ダークブルーの髪にシニヨンを横に作っている少女が視界に入る。

 

未来にとっては入学式以来に見かけるーーーー津島善子の姿があった。

 

 

◉◉◉

 

 

暗黒に包まれた世界が内部に広がる、闇の炎ーーーーダークネスフィア。

 

静寂と暗闇だけが存在するその宇宙船の中心に、尋常ならざる威圧感を放ちながら座している闇の巨人がいた。

 

「やあ……。もしかして、ここが”エンペラ星”のつもりかい?」

 

「…………何者だ」

 

黒ずくめの男は巨人の近くまで近寄ると、暗闇に閉ざされた瞳を見上げるようにして彼に向ける。

 

「同胞さ…………君のね」

 

「なんだと?」

 

並の生物ならば巨人の姿を一目見ただけで恐れおののき、腰が抜けてしまうところだ。……だが、黒ずくめの男は巨人に対して不気味なほどに平然とした態度で接している。

 

「余の他に、あの惨劇を生き延びた者がいたということか……」

 

「ボクも君の存在を知った時は驚いたよ」

 

黒ずくめの男は目の前にいる巨人を頭から爪先まで観察し、哀れむような表情を浮かべた後に一言言い放つ。

 

「……醜いね」

 

巨人には聞こえなかったのか、男の言葉は闇の中に消えていった。

 

「それで?貴様が余の同胞というのならば……何をしにここへやって来たというのだ?」

 

「同じ星の者として、君に忠告しておこうと思って」

 

「忠告だと?」

 

「そう、忠告」

 

黒ずくめの衣服をなびかせ、男は先ほどとなんら変わらない冷徹な声音で続けていく。

 

「はっきり言おう。このままだと、君は間違いなく負ける」

 

「……なんのことだ」

 

「もちろん、光の国と人間との戦いにさ」

 

巨人は男にありったけの殺意を乗せた視線を送る。が、男はそれすらも意に返さないように振る舞い続けた。

 

「ボクは最近現れた宇宙警備隊員を観察してきた。彼自身の実力は確かに大したものではない。……だけど、敵はウルトラマンだけじゃない」

 

「世迷い言を。人間に負けるだと……?どうせならもっと笑える冗談を言うべきだったな」

 

黒い巨人は自らの左手を男に向け、念力を使って凄まじい衝撃波を放った。

 

刹那、男も同じように片手を突き出し、対抗するように闇の波動を放つ。

 

二つの闇が激突し、空間が捻れるほどの圧力が二人の間に生まれる。

 

「…………っ」

 

「ほう……?」

 

実力は巨人の方が上だった。

 

男は全力で迎え撃つつもりだったが、巨人は三分の一の力すら出していない。…………それでも、男の方がほんの少し押されていた。

 

「さすが暗黒の皇帝だ……ボクなんかじゃ敵わない」

 

「わからないな。それを理解していて、なぜ余の前に現れた?」

 

「言っただろ。同じ星の……最後の生き残り同士の君に、忠告しにきたのさ」

 

男は息を整え、再び黒い巨人を見上げる。

 

「地球の……とある場所で光の欠片が集い始めている」

 

「光の欠片だと……?」

 

「ああ。”究極の光”を生み出すと言われるものだ」

 

男は過去に自分が見た光景を思い出しながら、黒い巨人に語る。

 

「ボクはかつて十存在すると言われる内、九つの光を発現した者達を知っている。だからこそ断言できる。もし全ての光が揃い、”究極の光”が生み出された時ーーーー君の敗北は決定的になる」

 

「はっ…………にわかには信じ難いな」

 

そう言う黒い巨人を見ても、男はその返答を予想していたように澄ました態度のままだ。

 

男は右手の掌を上にすると、とある立体映像を浮かび上がらせた。

 

写っているものは、明るい髪色をした一人の少女だった。

 

「君の場合最も注意すべきなのはこの娘だ。間違いなく”一の光”を持っている」

 

「貴様…………」

 

段々と滲み出てきた男の気味悪さを感じ、巨人は鋭い視線を彼に向ける。

 

「何が目的だ……?」

 

まるでその質問が愚問だと言うように、男は鼻で笑った後に言った。

 

「ボクは、ボクがかつて失った光を取り戻したいだけさ。……今度こそ、必ず…………!」

 

「なるほどな。…………名は?」

 

「そうだねえ……君が暗黒の大皇帝だから……」

 

男は少し考えるように唸った後、巨人に向かって自らの名前を言った。

 

「ノワールとでも名乗っておこうかな」

 

その言葉を最後に、男の身体は闇の霧に包まれ、細かな粒子となってその場を消えるように去っていった。

 

 

 




はい。なんと男の正体はあの方と同じ星の生き残り……!
今回チラッとしか登場しなかった善子ですが、次回からは本格的に物語に参加させます。

プチ解説は黒ずくめの男について。

10話で初登場し、出てくるたびに気持ち悪くなっていった彼ですが、今回やっとその素性と目的が少し明らかに。
名前の「ノワール」はフランス語の暗い、黒いという意味から取りました。ので特に意味があるわけではありません。
彼は数年前から地球で活動しており、その中で”あの人達”を知る機会が会ったのでしょう。ちなみにその”あの人達”は物語に本格的に絡むことはないので、期待している方には先に言っておきます。

では次回もお楽しみに!


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第21話 堕天使の再臨

UR千歌ちゃん欲しいんだよおおおあおおおああああああ!!!!!(千歌推しの咆哮)

今回はあの宇宙ロボットが登場!


時はほんの少し遡る。

 

津島善子は自分の部屋を真っ暗にしながら動画サイトで”儀式”の様子を配信していた。

 

ロウソクに灯した小さな火をひと吹きで消し、自らの誤ちに頭を悩ませる。

 

「またやってしまった……」

 

配信を終えた後にガックリと肩を落とす善子の背後には、魔法陣が描かれた大きな布が床に敷かれていた。

 

「ダメよ善子……もう高校生なんだから。卒業するのよ……!」

 

そう自分に言い聞かせる善子だったが、そう簡単に心変わりできるはずもなく……。

 

ーーと、その時。

 

「ん?」

 

魔法陣の中心が紫の光に包まれたと思いきや、いつの間にかそこには一つのリモコンのような物が置かれていた。

 

「なに……?こんなのあったかしら……」

 

真っ黒に染められたリモコンを手に取り、隅々まで確認するが、このような物が私物にある記憶はなかった。

 

「ゲームのコントローラー……かな?」

 

何気なく設置されてあるボタンを押すが、何も起こらない。

 

「はっ……!こんなことしてる場合じゃない!今日こそ学校に行くのよ!」

 

自分でも気付かない内に鞄の中に教科書と一緒にリモコンを詰め込んだ善子は、クローゼットから入学式以来に制服を取り出した。

 

 

◉◉◉

 

 

「いきなり屋上から堕天してしまった……」

 

善子は廊下に設置されている戸棚の中に身を隠し、膝を抱えていた。暗くて狭い空間が彼女の不安定な心を落ち着かせてくれる。

 

(なんで屋上に人がいるのよ……!それにずら丸まで……!)

 

やっと学校に来たのはいいが、この調子じゃクラスに馴染むのにはまだまだ時間がかかりそうであった。

 

「はぁいヨハ子ちゃん」

 

「学校来たずらか」

 

「ひえええええっ!?!?」

 

棚の引き戸が横に開かれ、光が差し込むのと同時に一組の男女が顔を出してきた。

 

男の方はスクールアイドル部マネージャー、日々ノ未来。そしてもう片方は善子の幼馴染でもある国木田花丸だった。

 

咄嗟に棚から飛び出した善子は廊下の壁にもたれかかる体勢になり、二人から顔を背ける。

 

「き、来たっていうか、たまたま近くを通りかかったから、寄ってみたっていうか……」

 

(たまたまねえ……)

 

「それより!クラスのみんな……なんて言ってる?」

 

「え?」

 

善子はそわそわした様子で花丸にそう聞く。

 

「私の事よ!変な子だねー!とか!ヨハネってなにー?とか!リトルデーモンだって、ぷふ。とか!」

 

「はあ」

 

「そのリアクション!やっぱり噂になってるのね!そうよねえ……あんな変な事言ったんだもん。終わった、ラグナロクよ!」

 

そう言って再び身を隠そうと棚の中に隠れる善子。

 

「まさに、デッドオアライブ!」

 

(この子こういうキャラだったのか……)

 

『ヨハネってなんだい?』

 

(俺に聞くな)

 

隠れてしまった善子に語りかけるように、花丸は棚に近寄ると彼女を安心させようと言った。

 

「誰も気にしてないよ」

 

「でしょ〜?……え?」

 

「それより、みんなどうしてこないんだろう、とか、悪い事しちゃったのかなーって心配してて」

 

「……本当?」

 

「うん」

 

「本当ね?天界堕天条例に誓って、嘘じゃないわよね?」

 

「……ずらっ」

 

花丸が頷くのと同時に棚の戸が開かれ、ガッツポーズをした善子が勢いよく立ち上がる。

 

「まだいける!まだやり直せる!今から普通の生徒でいければ!……ずら丸!」

 

「な、なんずらぁ?」

 

「ヨハネたってのお願いがあるの」

 

ぶつかりそうなほどに顔を近づける二人の横で、未来は呆然と立ち尽くしていた。

 

「えっと…………君達……」

 

「……?だれ?」

 

「ですよねー」

 

結局未来は終始幼馴染同士の会話に入れないままだった。

 

 

◉◉◉

 

 

その日の帰り道。

 

善子は上機嫌な様子でバス停までの道のりを歩いていた。

 

(まだチャンスがあるのね……リア充になるチャンスが!)

 

「きゃっ⁉︎」

 

スキップをしながら進んで行くと、曲がり角で一人の男性とぶつかってしまい、後ろに尻餅をついてしまう。

 

その時に落とした鞄が開き、中に入っていたリモコンが教科書と一緒に外へ飛び出してしまった。

 

「いったたた……。す、すみません!」

 

目の前に立つ男性に謝ると、慌てて散乱している教科書類をかき集め出す。

 

 

「津島……善子ちゃんだね?」

 

「はい?」

 

顔を上げた先に見えたものは、全身真っ黒な服を身にまとった青年だつた。

 

「あの……どちらさまで……」

 

「…………」

 

男はじっと善子の顔を見つめた後、転がっているリモコンに視線を移した。

 

「君、”リトルデーモン”が欲しいんだってね」

 

「えっ……?」

 

「君に、とっておきの下僕を用意したんだ」

 

男が片手を天にかざすと、二人の頭上の空間が捻れ、漆黒のゲートが開かれた。

 

そこから四つのパーツに分かれた黒いロボットが現れる。

 

「なっ……な……!」

 

善子はその光景を見て思わず腰を抜かし、全身を震え上がらせる。

 

黒いロボットのパーツはたちまち合体していき、瞬く間に一体の人型ロボットへと姿を変えた。

 

「”キングジョーブラック”……。君にこれをあげよう」

 

「あ、あんた一体何者よ⁉︎なんなのよこれ⁉︎」

 

周囲に”闇”が発生し、男の姿を徐々に煙のようなものへと変貌させていく。

 

「借りるよ、身体」

 

「うぐっ……!むぅっ…………⁉︎」

 

黒い煙は善子の口から身体の中へと入り込み、彼女を支配しようと自由を奪う。

 

「ふう……。少し強引すぎたけど……、やってることはメビウスやツルギと同じだし……大丈夫だよね」

 

善子の身体を手にした男ーーーーノワールは地面に落ちていたリモコンを拾い上げると、設置されてあるボタンを押し込む。

 

「さあ。起動だよ」

 

男が起動ボタンを押した瞬間、キングジョーブラックは右腕の砲口を街のど真ん中に向け、弾丸を発射した。

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーードオォォオオン……!という地鳴りと低い音が聞こえ、未来は自宅の窓から街の方を見る。

 

黒いロボットが、街を蹂躙する光景が目に飛び込んできた。

 

「なんだあれ……⁉︎ロボット⁉︎」

 

『キングジョー……⁉︎』

 

「メビウス!いくぞ!」

 

『わかった!』

 

着の身着のままで家を飛び出した未来は、左腕にメビウスブレスを出すと、慣れた動きで変身する。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セヤアッ!!」

 

街中に降り立つのと同時に拳を突き出し、キングジョーブラックの身体を強く殴りつける。

 

硬い装甲を持つキングジョーには、並大抵の攻撃で倒すことはできないだろう。

 

(こいつ……ただの怪獣じゃないよな……)

 

『誰かが持ち込んだとしか考えられないね……。気をつけて、敵はこれだけじゃないかもしれない』

 

(了解……!)

 

ギギギ、と音を立てながら右腕の武装ーーーーペダニウムランチャーを放つキングジョーブラック。

 

その破壊弾丸を避けながら、メビウスは牽制のメビュームスラッシュを放ち、隙をうかがう。

 

「グアッ…………⁉︎」

 

右腕のペダニウムランチャーのせいでなかなか近づくことができず、メビウスは防戦を強いられた。

 

(邪魔くさいなあのライフル!!)

 

『まずはあれをなんとかしよう!』

 

(ああ!)

 

メビウスブレスを操作し、メビュームシュートを撃つ体勢になる。

 

 

「セヤアアアア!!」

 

光線がキングジョーブラックの右腕目掛けて放たれる。が、なんと奴は身体を分離させて光線を避けたのだ。

 

(なっ…………⁉︎)

 

『この器用な動き……!やっぱり誰かが裏で操っているな!』

 

四体のロボットがメビウスの周りを囲み、一斉に電撃を放射してきた。

 

「グアアアアアアアアアア!!」

 

(くっ……そ……!)

 

『このキングジョー……通常のものより強化されて……⁉︎』

 

 

瞬間、上から降り注いだ青い光線がパーツの一つを弾き、出来た一瞬の緩みを捉えたメビウスは電撃の縄から脱出する。

 

(ステラ!)

 

(だらしないわね)

 

ヒカリはメビウスの隣に並ぶと、右腕のナイトブレスから光の剣ーーーーナイトビームブレードを伸ばした。

 

『ヒカリ、こいつは……』

 

『ああ。どうやら俺達を倒すために強化改造されているようだな』

 

(二対一なら勝機はあるさ……!)

 

 

キングジョーブラックを挟むようにして周囲を回るメビウスとヒカリ。

 

「デアアアッッ!!」

 

奴が弾丸を放つと、死角からヒカリが光剣でその身体を斬りつける。

 

「ハッ!」

 

メビウスも接近し、キングジョーブラックの胴体に連続でパンチを繰り出した。

 

 

 

 

 

 

「へえ……」

 

ノワールは二人の巨人とキングジョーブラックの戦いを遠目で眺めている。

 

「やっぱり……こんな闇じゃ物足りないか……」

 

『ち、ちょっと!返しなさいよ私の身体!』

 

「おや?意識を保っているとは驚いた。こちとら手加減しないつもりだったのに」

 

『いいから返してって言ってるのよ!この変態!』

 

「ひどいなあ。どうしてボクだけがそう非難されるんだろう?…………やっぱり、”闇”と”光”じゃ全然違うんだね」

 

ノワールはリモコンを握る手を強め、さらに善子の人格を潰そうと闇の力を増幅させる。

 

『ひぐっ……⁉︎』

 

「大人しくしててよ、君にも見せてあげるから。……光が、輝く瞬間ってヤツをさ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ……⁉︎)

 

キングジョーブラックは唐突にその場で回転し出すと、そのままペダニウムランチャーを発射。不規則に撃ち出される弾丸がメビウスとヒカリを襲った。

 

「ウアァアアア……!」

 

「グアアアアッ……!」

 

まともに弾を受けた二人は地に倒れ伏し、カラータイマーも青から赤へと点滅してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、このままじゃウルトラマンが……!ねえやめてよ!お願い!』

 

「あー……。死んじゃったらまあ、その程度の光だったってことかな」

 

『そんな……!』

 

「どのみちこんな所で負けてちゃ話にならないよ。彼らはいずれ死ぬ運命にある」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー違和感。

 

先ほどまで感じていた善子の気配が一変し、ノワールは思わず冷や汗を流す。

 

『なによ……さっきから好き勝手なことばかり言って……!』

 

「なんだ……?この……」

 

『ごちゃごちゃ言ってないで!早く私の身体を返せってのーーーーっ!!』

 

「ッ…………⁉︎」

 

瞬間、ノワールーーーーもとい善子の身体から眩い光が溢れ出し、ノワールが生み出した黒い煙が身体の中から強制的に追い出される。

 

「くっ……⁉︎」

 

「わっ⁉︎戻った⁉︎」

 

自分の身体を取り戻したことを確認した善子は、ノワールに向かって人差し指を突きつける。

 

「よくもやってくれたわね!お返しよ!」

 

善子は手に持っていたリモコンを思い切り地面に叩きつけると、全体重を乗せて踏み潰した。

 

パリ、と電気が漏れ出し、リモコンは完全に破壊される。

 

 

 

「はは……。そうか、君も……!君も”欠片”を持つ者の一人か……!素晴らしい……素晴らしいよ!!」

 

「はあ⁉︎何言って……」

 

「退き際かな」

 

顔を上げる。

 

リモコンが破壊されたことで動きの止まったキングジョーブラックは、メビウスとヒカリによって同時に放たれた合体光線を受けていた。

 

(うおおおおおおお!!!!)

 

(いけるわ!)

 

ガードもせずにただ立ち尽くすキングジョーブラックは光線を浴び続け、そのまま四方に鉄くずを飛ばしながら爆発した。

 

 

「思わぬ収穫がまた一つ……」

 

「あっこら!待ちなさい!」

 

「じゃあね、津島善子ちゃん」

 

「ヨハネよ!」

 

そう言い残すと、ノワールは先ほどと同じように自らの身体を霧状に変化させ、蒸発するように消えていった。

 

 

◉◉◉

 

 

「はあ……はあ……なんとか倒せたな……」

 

「でも、どうして急に機能が停止したのかしら?」

 

地に仰向けで倒れる未来と違い、ステラは息一つ切らさずに首を傾げている。こればかりは経験の差というものだろう。

 

『あのロボット……僕を倒すために作られたとしたら……』

 

「どうしたメビウス?」

 

『…………いや、なんでもないよ』

 

 

今までの敵とは違い、確実にメビウスを狙った兵器。これからも今回のような奴らが現れるのだとしたら、その戦いは熾烈を極めるだろう。

 

 

ーーーーその場合、未来は耐えられるのか。

 

 

メビウスはともかく、人間である彼が厳しい戦いについていけるかどうかはわからない。

 

一緒に戦うとは言ったが、未来が死んでしまってはなんの意味もない。

 

 

「メビウス?」

 

『あっ……いや……。そろそろ、帰ろうか』

 

「え?お、おう……」

 

「私達も行きましょうか、ヒカリ」

 

『そうだな』

 

 

ーーーーこの時、日々ノ未来はまだ知らなかった。

 

メビウスの心に、変化に、本音に。

 

それがいずれ、二人の関係を引き裂くことになることも知らずに、その日はそのまま帰路についた。

 

 

 

 

 

 





キングジョーブラックは僕の好きな怪獣の一体で、前から登場させたかったので思い切って出してみました。
善子の身体を乗っ取る展開は、別に作者の趣味とかじゃないから……ね?

プチ解説いきましょう。今回は光の欠片について。

光の欠片は第7話でも書いた通り、全部で十存在する、集まると究極の光を生み出すと言われる”現象”です。
超能力のように派手なものではありませんが、誰でも発現する可能性を持つ”ありふれた才能”とでも言いましょうか。ただ、実際に発現までに至った例はかなり少ないです。

最近少しリアルで忙しくなってきたので更新が遅くなる時があるかもです。



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第22話 偽りの天使


この作品の展開を常々考えながら生活している作者ですが、最近やっとバーニングブレイブ登場の回のシナリオが浮かんできました。
書くのが楽しみです。


「どうして止めてくれなかったのおおお!?せっかく上手くいってたのにぃ!うぅ……」

 

「まさかあんな物持ってきてるとは思わなかったずら」

 

スクールアイドル部室。そのど真ん中に設置されているテーブルの下に、津島善子は膝に顔を埋めて項垂れていた。

 

どうやらクラスに馴染めるよう、花丸におかしな行動を取った時には止める約束をしたのだが、どうも失敗したらしい。

 

「どういうこと?」

 

「ルビィもさっき聞いたんですけど。善子ちゃん、中学時代はずっと自分は堕天使だって思い込んでたらしくて……。まだその頃のクセが抜けきってないって……」

 

「重症じゃないか」

 

善子はやっと立ち上がったと思えば、背を向けたまま肩を震わせて話し出す。

 

「……わかってるの、自分が堕天使のはずなんてないって。そもそもそんなもんいないんだし……」

 

「じゃあ、どうしてあんなグッズ持ってきたんだよ」

 

机に置かれている堕天使アイテムの数々に視線を向けながら話す未来に、善子は口ごもりながらも小さな声で言った。

 

「それは、まあ……ヨハネのアイデンティティみたいなもので……。あれが無かったら、私が私でいられないっていうか……!」

 

「あなた治す気ないでしょ」

 

「はっ!」

 

ステラに指摘されて初めて自分が自然と堕天使ポーズをとっている事に気がつき、善子はキリッとした表情から間の抜けた顔になる。

 

「もしかして、この動画も……」

 

未来は自分のスマートフォンで動画サイトを開き、全員に見えるよう画面を前に突き出した。

 

《またヨハネと堕天しましょ……》

 

「わぁっ!」

 

物凄い勢いで未来のスマホの画面をほとんど叩くようにタップし、サイトを閉じる善子。

 

「とにかく私は普通の高校生になりたいの!なんとかして!」

 

「…………かわいい」

 

「「「「え?」」」」

 

さっきからやけに大人しかった千歌がそう呟き、全員の視線が彼女へと注がれる。

 

「これだ!これだよ!」

 

パソコンを使って先ほどの動画サイトを表示した千歌が興奮気味に言う。

 

「千歌ちゃん?」

 

「津島善子ちゃん!いや、堕天使ヨハネちゃん!スクールアイドル、やりませんか⁉︎」

 

机に身を乗り出して善子に接近する千歌。瞳をきらきら輝かせて勧誘するその姿に、善子は怪訝な顔で答えた。

 

「……なに?」

 

 

◉◉◉

 

 

「間違いないのか?」

 

『うん。たぶん、彼女も花丸ちゃんと同じだ』

 

旅館十千万。

 

階段を上がった先にある千歌の部屋の前で、未来は光の予言の文が書かれたメモを眺めていた。

 

『彼女ーー善子ちゃんの中にも、君のような”光”を感じるんだ。とても強力な……』

 

「堕天使なのに光って……。まあそれはさて置き、その光を持つ人間を十人集まれば、エンペラ星人を倒せるってことなんだよな?」

 

『あの宇宙人の言葉を信じれば、だけどね』

 

メビウスの言う”あの宇宙人”とは以前未来が墓場で会った黒ずくめの男のことだろう。

 

目的はわからない。が、なぜか奴は未来達に情報を与えてくれたのだ。

 

「もしかしたら千歌達も光を宿しているのかもな」

 

『ならいいんだけどね。探す手間が省けるし』

 

「でもここに書かれてるのは全部で十もあるぞ?例え今揃っているメンツが全員その光とやらを持ってるとしても、あと二個足りない」

 

未来がため息をついてポケットにメモをしまっていると、千歌の部屋の襖が開かれ、ステラが出てきた。

 

「ん?終わった?」

 

「いいえ。まだ着替えてるわ」

 

そう、千歌達は今堕天使をイメージした衣装の試着中なのだ。男である未来は背後にある楽園に入る事は許されない。

 

「……それは?」

 

「ああ……これ?」

 

未来はステラが手に一枚の手紙を持っていることに気がつく。よく見るとそこには黒い大きな文字で「果たし状」と記されていた。

 

「なんか喧嘩売られたみたい」

 

「喧嘩?誰に?」

 

「さあ?さっき目の前に刺さってきた物だから、差出人の顔は見てないわ」

 

「刺さっていた⁉︎」

 

よくわからないが、誰かに決闘でも申し込まれたみたいだ。地球に来る前はかなりヤンチャしてたステラとヒカリのことであるから、不思議ではない。

 

「で、どうするんだよ」

 

「無視に決まってるでしょこんなの」

 

ステラは持っていた手紙を両手で掴み上下に引き裂くと、ナイトブレードを取り出して粉々になるまで切り刻んでしまった。

 

「ちょっ⁉︎手紙書いた奴が超怖かったらどうするんだよ⁉︎」

 

「どんな奴だろうと、わたしとヒカリに勝てる者はいないわ」

 

「いやそういう問題じゃなくて!」

 

「ていうかなんであなたが焦ってるのよ」

 

と、その時。

 

再び背後の襖が開かれ、中から黒くてフリフリした服に身を包んだ千歌が飛び出してきた。

 

「着てみたよー!どう?どう⁉︎」

 

「ゴスロリ⁉︎」

 

「この前より短い……。これでダンスしたら、さすがに見えるわ」

 

「ダイジョブー!」

 

「そういうことしないの!!」

 

下に履いてあるジャージをおっ広げる千歌。それを見た梨子が慌てて彼女のスカートを押さえた。

 

「はぁ……いいのかなあ、本当に……」

 

「調べてたら堕天使アイドルっていなくて。結構インパクトあると思うんだよね」

 

なんでもかんでもアイドルに当てはめてしまうのは良いのか悪いのか。

 

「でもまあ、ヨハ子ちゃんの動画みたいな事をアイドルがやるって、今まで見たことないし」

 

「ヨハ子ってなによ!混ぜないでよね!」

 

「たしかに、昨日までこうだったのが……」

 

曜はファーストライブの衣装と今着ているゴスロリ衣装を見比べ、

 

「こう変わる」

 

「うぅ……なんかはずかしい」

 

「落ち着かないずら……」

 

他の面々もいつもより短いスカートに慣れていない様子だ。未来にとっては普段と違う華が見れた気分で悪くはないのだが。

 

「ねえ、本当に大丈夫なの?こんな恰好で歌って……」

 

「かわいいねー!」

 

「そういう問題じゃない」

 

「そうよ。本当にいいの?」

 

「これでいいんだよ!ステージ上で堕天使の魅力を思いっきりふり撒くの!」

 

「堕天使の……魅力?……はっ!だめだめ!そんなのドン引かれるに決まってるでしょ⁉︎」

 

「大丈夫だよー!」

 

千歌の言葉に惹かれるように妄想の世界へと誘われる善子。にやけ面を晒しながら不気味に笑う姿は、承諾してるも同然だった。

 

「協力……してくれるみたいです」

 

「しょうがないわねえ……。ごめん、ちょっと私お手洗い行ってくるわ」

 

「いってらー」

 

襖を開けて廊下に出る梨子を見送り、未来は視線の的を衣装に戻した。

 

「男の子から見てどう思う未来くん?」

 

「そうだなあ、俺的にはもう少し短くても……」

 

「未来?」

 

「冗談だよ……。衣装については詳しくないけど、いいんじゃないか?かわいいよ」

 

ステラの目線が刺さった瞬間に真面目な返答をする。

 

……ただ怖いのはあの生徒会長、ダイヤ様だ。この衣装を着た妹を見て癇癪でも起こすのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いぃぃいいいいやああああああ!!!!」

 

「コラ!しいたけ⁉︎」

 

唐突に上げられる悲鳴が耳をつんざき、咄嗟に廊下の方を見る。襖越しに少女が大型犬に追われているのが見えた。

 

そういえば梨子は千歌の家に来る度にしいたけを避けていたな、と今更彼女が犬嫌いということに気がつく未来であった。

 

「梨子ちゃん?」

 

「やめて!来ないでえええええええ!!」

 

「大丈夫?しいたけはおとなしーーーーぅ”あ”っ」

 

「あだぁっ⁉︎」

 

横ではなく前に開いた襖が倒れ、未来と千歌が重なるようにしてその下敷きになる。

 

「「梨子/ちゃん!?」」

 

「とおりゃああああああああああああ!!!!」

 

驚異のジャンプ力でベランダを飛び越え隣にある自宅へと移る梨子。

 

「「「「「おお……飛んだ」」」」」

 

その光景を目の当たりにしたのは未来達だけではなく、梨子の部屋を掃除中だった彼女の母も目撃者の一人となるのだった。

 

「お、おかえり……」

 

「ただいま……」

 

 

◉◉◉

 

 

「じゃあ衣装よろしくね」

 

「ヨーソロー!」

 

そろそろ日が沈み始めたのもあり、今日のところは解散することに。

 

バス停まで曜と善子を送った後、それぞれの帰路へと別れていく。

 

「じゃあマル達も」

 

「失礼します」

 

「うん!じゃーねー!」

 

花丸とルビィも自分の家へ向かおうと、その場を去っていく。

 

「あいたたたた……」

 

臀部を苦い表情でさする梨子を見て、千歌は小さく声を漏らして笑い出す。

 

「笑い事じゃないわよ!今度から絶対繋いでおいてよ!」

 

「はいはい、あはははっ」

 

「ほんとに犬苦手なんだな」

 

「もう、人が困ってるのがそんなに楽しい?」

 

「違う違う。みんな色々個性があるんだなーって」

 

「え?」

 

笑いながらそう言う千歌は、どこか哀しげにそう訂正した。

 

「私達始めたはいいけど……やっぱり地味で普通なんだなーって思ってた」

 

「そんなこと思ってたのか?」

 

むしろキャラが立ちまくりなのでは、とツッコミたくなる未来だったが、空気を読んでここは抑える。

 

「そりゃ思うよ。一応言い出しっぺだから責任はあるし」

 

段々と千歌の笑顔が綻び始め、ついには完全に目尻が下がった状態になった。

 

「かと言って、今の私にみんなを引っ張っていく力はないし」

 

「千歌ちゃん……」

 

再び顔を上げて笑顔を作った千歌は、先ほどの話にさらに言葉を重ねた。

 

「でも、みんなと話して少しずつみんなの事知って、全然地味じゃないって思ったの!それぞれ特徴があって、魅力的で……。だから、大丈夫なんじゃないかなって!」

 

未来は幼馴染の初めて見るようなその表情に思わず言葉を詰まらせ、数秒後やっと出てきた言葉が、

 

「変わったな、お前」

 

「えー⁉︎なに、褒めてるの⁉︎貶してるの⁉︎」

 

「どっちも」

 

「えーなにわかんないよー!」

 

地団駄を踏むかの如く足をバタバタさせる千歌。

 

 

 

未来は幼い頃、そして中学生の頃の千歌を知っている。だからこそ、先ほどの言葉を聞いて彼女が少しずつ変化していっているのがわかった。

 

部活動に興味がなかった千歌がスクールアイドルを始め、リーダーとしてメンバーの内面も見極めようとしている。

 

(いや……。俺が知らなかっただけで、これが本当の千歌なのかもしれないな)

 

「ふふっ……。とにかく、頑張っていきましょう。地味で普通のみんなが集まって、何ができるか、ね?」

 

「よくわかんないけど……。ま、いっか」

 

「よっしゃあ!うちまで競走!ビリはジュースおごり!」

 

「あっ!ずるーい!!」

 

駆け出す未来に続いて梨子、そしてかなり遅れて千歌が走り出した。

 

 

◉◉◉

 

 

暗闇に浮かぶ一隻の宇宙船。

 

エンペラ星人に仕える暗黒四天王達が乗り込むその船の中に、いつもとは違う人物がいた。

 

「一体皇帝は何をお考えだ!このような輩を再び仲間に加えるなど!」

 

銀色に光る鋭利なボディをした豪将ーーーーグローザムは不機嫌なのを隠す様子もなく態度に出す。

 

アークボガールはそれを気にする素振りすらせずに言う。

 

「仲間になった覚えはない。我はただ、この銀河全てを食い尽くしたいだけだ」

 

「まあまあ、落ち着きなさい二人とも」

 

冷静な雰囲気を保ちながら二人を止めたのはメフィラス星人。暗黒四天王の中で知将という位置にい宇宙人だ。

 

「以前までは邪将として四天王のメンバーだったではありませんか」

 

「はっ!追放されたがな!」

 

それぞれで好き勝手な意見が飛び交うこの場所で、唯一メンバーをまとめることができるのがメフィラス星人だった。

 

「それにしても、なぜ皇帝は俺達を地球に送ろうとしない?」

 

「……泳がせているのでしょう。()を」

 

「彼だと……?皇帝の同胞を名乗る、あの宇宙人か?」

 

「ええ」

 

そう。ノワールが地球でキングジョーブラックを使い破壊活動を行った事を知り、エンペラ星人はしばらく様子を見る事を決めたのだ。

 

「あんな雑魚……すぐにやられるに決まってる」

 

「わかりませんよ。彼も強力な闇の力を持っていますから……、それに……」

 

メフィラス星人は背後に控えている巨人を一瞥し、笑いを含めて言った。

 

「もし仮に彼が倒されたとしても……我々の出番はないかもしれませんね」

 

 

メフィラスの背後にいるのは、暗黒の鎧を纏った、”黒いウルトラマン”。

 

本来エンペラ星人専用に作られた鎧ーーーーアーマードダークネスを身にまとった、ウルトラマンベリアルの姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 




満を辞してチラッと登場したベリアル様は、やっぱりアーリースタイルではなく……!
彼の本格登場をお楽しみに!

プチ解説は今作の時系列について簡単に説明しましょう。

ウルトラ大戦争(エンペラ軍vs光の国の戦い)が起こる。

ベリアルが内浦にディノゾールを追って降り立つ。

戦争でウルトラの父が仕留め損ねたエンペラ星人にベリアルが挑み敗北。

メビウスがエンペラ星人に挑み敗北。

メビウスと未来が出会う。

といった感じです。基本的に元の設定はほぼ無視しています。
つまりテレビのウルトラシリーズとは違い、今作ではベリアルが初めて地球に来たウルトラマンという扱いになるわけです。

次回更新は都合により一週間以上間が空きます。楽しみにしてくださっている読者の皆様に深い謝辞を。



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第23話 善子らしいヨハネ


アメトーク仮面ライダー芸人特集を見た感想……ほぼネタシーンしか紹介してなかったじゃないかぁ!!
面白かったですけどね。


「ハァイ。伊豆のビーチから登場した待望のニューカマー、ヨハネよ!」

 

夏の日差しがジリジリと肌を焼く、浦の星学院屋上。

 

暑苦しそうなゴスロリ衣装に身を包んだ六人の少女が、各々で”堕天使ポーズ”をとって待機していた。

 

「みんなで一緒に〜……堕天しない?」

 

「「「「「しない?」」」」」

 

真ん中に立つ善子に合わせて台詞を決めるAqoursのメンバー達。

 

少し離れた所でカメラを設置し、その光景を撮影していた未来とステラは、ほんの少しの沈黙で場を満たした後、撮影終了のスイッチを押す。

 

「あー……」

 

「……こほんっ。はいオッケー」

 

わざとらしく咳をするステラに対して、未来はなんと言っていいのかわからない、といった顔で目の前の少女達を一瞥した。

 

 

◉◉◉

 

 

「やってしまった……」

 

「お、お疲れ」

 

後悔のあまり、すっかり脱力してしまっている梨子の側に寄り、とりあえず慰めてみる。梨子なら堕天使アイドルの事は反対すると思っていたが、案外すんなり付き合っていたので驚きだ。

 

「どう?」

 

「待って、今……」

 

ピコン、という音と共にスクールアイドルのランキングが更新され、一気に皆の視線がパソコンの画面へと移る。

 

「うそっ⁉︎」

 

「一気にこんなに⁉︎」

 

見てみればなんと900位台まで上がっていたのだ。偶然……というのも考えにくいので、やはり先ほどアップした動画の影響によるものだろう。

 

「じゃあ効果あったってこと?」

 

「すごいじゃないか!やったな!」

 

「コメントもたくさん!すごい!」

 

横に表示されているコメント一覧を見る。

 

そこに書き込まれていた内容は「ルビィちゃんと一緒に堕天する!」「ルビィちゃん最高!」「ルビィちゃんのミニスカートがとてもいいです」…………と、ルビィに関することがほとんどであった。

 

(こいつら…………)

 

「いやぁ〜……そんなぁ……」

 

嬉しそうに頰を染めるルビィだったが、未来はこのか弱く小さなアイドルにおかしなファンが付かないものか、と心中でハラハラしていた。

 

とその時、校内放送がかかったのか、天井のスピーカーから聞き覚えのある声が流れてくるのが聞こえた。

 

『……スクールアイドル部の部員は至急生徒会室まで来てください。……ただちに!!』

 

最後の方だけ語気を強くしたその声音は、千歌達を一瞬で凍りつかせた。

 

 

◉◉◉

 

 

「こういうものは、破廉恥というのですわ!!」

 

やはり待っていたのは生徒会長ことルビィの姉、黒澤ダイヤだった。

 

新しくアップした動画を見たのだろう、相当お怒りの様子で千歌達を呼び出したのだ。

 

「いやーそういう衣装というか……」

 

「キャラというか……」

 

「ほ、ほら、ルビィちゃんすご〜く可愛く撮れてますよ〜おねえさm」

 

ダイヤに鋭い視線を向けられて黙り込んでしまう未来。後ろからステラが「情けない」と罵っているのが聞こえたが、何も言えなかった。

 

「そもそも!私がルビィにスクールアイドル活動を許可したのは、()()()()()()自分の意志でやりたいと言ったからです!こんな恰好させて注目を浴びようなど……!」

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん……」

 

ダイヤの言葉を聞いて申し訳なさそうな顔をするルビィが、咄嗟にそう言った。

 

「……とにかく。キャラが立ってないとか、個性が無いと人気が出ないとか、そういう狙いでこんなことをするのは頂けませんわ!」

 

「でも、一応順位は上がったし……」

 

「そんなもの一瞬に決まってるでしょう⁉︎試しに今、ランキングを見てみればいいですわ!」

 

ダイヤが机の上でパソコンを回転させながらこちらへ渡すと、曜がそれを受け取り、ゆっくりとサイトを開いていく。

 

「……あっ!」

 

最初に視界に入ったのが、大きな数字で表されているランキング。先ほどは900位台だったが、今はなんと1500位台まで落ちてしまっている。

 

「本気で目指すのならどうすればいいか……もう一度考えることですね!」

 

「……は、はい……」

 

どんよりとした空気のまま、未来達は生徒会室からぞろぞろと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失敗したなあ……確かにダイヤさんの言う通りだよね……」

 

夕焼けを背に膝を抱えた千歌がポツリと呟く。

 

「こんなことでμ'sになろうだなんて失礼だよね……」

 

「千歌が悪いわけじゃないだろ」

 

「そうよ」

 

俯きながらそう口にする善子の方を全員が振り向いた。

 

「いけなかったのは……堕天使」

 

「え?」

 

「やっぱり、高校生にもなって、通じないよ」

 

「それは……!」

 

「なんか、すっきりした。明日から、今度こそ普通の高校生になれそう」

 

「じゃあ、スクールアイドルは?」

 

ルビィの問いに少しだけ考えるような素振りを見せた後、善子は背を向けて返答した。

 

「やめとく。迷惑かけそうだし。…………じゃあ」

 

軽く片手を振り、そのまま帰ろうとする善子。

 

どこか寂しそうに見えるその背中には……褪せた輝きが宿っているようにも感じられた。

 

「少しの間だけど、堕天使に付き合ってくれて、ありがとね。楽しかったよ」

 

 

善子が見えなくなる所まで歩くのを確認すると、梨子は不意にとある疑問を投げかけてきた。

 

「……どうして、堕天使だったんだろう」

 

「マル、わかる気がします」

 

そう言ったのは善子の幼馴染でもある花丸だ。

 

「ずっと、普通だったんだと思うんです」

 

花丸はもちろん、ルビィ、千歌、未来……全員に当てはまることだ。

 

他人の中に埋もれ、目立たない人間。そういう生活を続けてきて、ふと思う時がある。

 

「”これが本当の自分なのかな”って」

 

花丸の言葉を聞き、未来は過去のことを思い出していた。

 

ーーーー『俺に……力があればぁッ……!』

 

何もない人間でなかったら、もしも”本当の自分”とやらが存在して、それでウルトラマンのような力を発揮できたのなら、父と母は死なずにすんだのかもしれない。

 

「確かにそういう気持ち、あるかもしれないな……」

 

油断していると涙が溢れそうな気がして、未来は思わず空を見た。

 

「……幼稚園の頃の善子ちゃん、いつも言ってたんです」

 

 

 

 

ーーーー『私、本当は天使なの!いつか羽が生えて、天に還るんだ!』

 

 

 

 

 

花丸の話が終わると、全員がやるせない気持ちに包まれているのがわかった。

 

「…………やっぱりこれじゃだめだよ」

 

「千歌?」

 

「このままじゃ、ダメだよ!」

 

急に立ち上がった千歌に驚き、皆は目をパチクリさせて彼女の方を見た。

 

「スカウトを続けるよ!善子ちゃんのこと!”堕天使ヨハネ”として!」

 

 

◉◉◉

 

 

翌日の早朝。

 

千歌達スクールアイドル部は、再び善子を勧誘するために彼女の家の前へと訪れていた。

 

 

他のメンバーに気づかれないように、オレンジ色に輝く光が未来の中へと入っていく。

 

『未来くん』

 

(おっ!何かわかったのか!?)

 

『うん。昨晩ヒカリとステラちゃんと一緒に話し合って、辿り着いたことがある』

 

メビウス達は”光の予言”についてのより詳細な情報を集めるためにも活動していたのだ。

 

『やっぱり、僕の仮説は正しかった。究極の光を生み出すと言われる光の欠片……これは、人間の中にある』

 

(……そうか。それで、何個かは見つかったのか?)

 

『うん、それが……。過去にも発現した人物のケースを調べて、僕とヒカリはその欠片が埋まっているかどうかを判別できるまでに至ったよ』

 

どうやら光の国の一族にしか見分けがつかないものらしく、全部で十あると言われる光の欠片を集めるのにも、やはりメビウスとヒカリの力が必要なようだ。

 

『ひとつだけ、確実なものがある』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堕天使ヨハネちゃん」

 

「「「「「スクールアイドルに入りませんか!?」」」」」

 

「……はあ……?」

 

マンションから出てきた善子に向かって、堕天使衣装でそう呼びかける千歌達。

 

「ううん!入ってください!Aqoursに!堕天使ヨハネとして!」

 

「何言ってるの⁉︎昨日話したでしょ⁉︎……もう」

 

「いいんだよ!堕天使で!自分が好きならそれでいいんだよ!」

 

徐々に後ろへたじろぐ善子を後押しするように、千歌は真っ直ぐな瞳で彼女のことを見据えた。

 

「……ダメよ」

 

とうとう走り出し、千歌達から逃げようとする善子。

 

「あっ!待って!」

 

「生徒会長にも怒られたでしょ〜⁉︎」

 

街中を駆けながら言い合う二人について行くAqoursの面々。

 

「うん!それは私達が悪かったんだよ!善子ちゃんはいいんだよ!そのまんまで!」

 

「どういう意味〜⁉︎」

 

一番後ろで後を追う未来は、遠くで待機しているステラにテレパシーで合図を送った。

 

(……そっち行ったぞ)

 

(りょうかい)

 

縦横無尽に街を走り回りながらも、千歌は善子の説得を続けている。

 

「私ね!μ'sがどうして伝説を作れたのか!どうしてスクールアイドルがそこまで繋がってきたのか!考えてみてわかったんだ!」

 

「もう!いい加減にして〜!!」

 

善子が曲がり角へ行こうとしたところでステラが現れ、彼女の道を遮った。

 

「はいストップ」

 

「うぇ⁉︎」

 

一体どれほど走ったのだろうか。未来とステラ以外は全員が息を荒げ、肩を上下させている。

 

 

「ステージの上で、自分の”好き”を迷わずに見せることなんだよ!」

 

立ち止まった善子がゆっくりと振り返り、太陽を背にする少女を見つめた。

 

「お客さんにどう思われるとか、人気がどうとかじゃない。自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せることなんだよ!だから善子ちゃんは捨てちゃダメなんだよ!自分が堕天使を好きな限り!!」

 

 

 

「…………いいの?変なこと言うわよ」

 

 

「いいよ」

 

 

「時々、儀式とかするかもよ……?」

 

 

「それくらい我慢するわ」

 

 

「リトルデーモンになれって言うかも!」

 

 

「それは……でも、やだったらやだって言う!」

 

千歌は黒い羽を片手に善子に近づくと、彼女にそれを差し出して見せた。

 

 

 

ーーーーひとつだけ確実なものがある。

 

 

 

善子は千歌の手に触れると、了承の意を込めた微笑みを浮かべた。

 

 

 

ーーーー津島善子ちゃん。

 

ーーーー彼女は一度、”六の光”を発現させているみたいだ。

 

メビウスの言葉が胸に焼き付き、気づくと未来は新しく加わった少女の顔をじっと眺めていた。

 

 




今回で善子加入回は終わりですね。キリがいい所で終わるつもりでしたが、いつもより少ない文字数に……。
次回からは書き残していたメンバー回を消化していきます。つまりオリジナルエピソードです。
予告しちゃうと、次回は花丸回となっております。

プチ解説は……カイザーダークネスについて。

皆さんご存知のウルトラマンベリアル、つまり閣下がエンペラ星人専用の武装、アーマードダークネスを身にまとった姿ですね。
前回登場したベリアルはこの状態でしたが、一体どうして彼がアーマードダークネスを……そしてなぜ四天王達と行動を共にしているのか、今後の展開をお楽しみに!(解説になってないな……)

そして最後に、活動報告でも書きましたが、次回からメビライブの更新スピードが少しゆっくり目になります。詳しい理由は活動報告をご覧ください。新作の情報も載せました。


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第24話 龍の結末:前編


新規UR曜ちゃんを当ててやったぜ!!!!!!!!!


夏ノ眼龍は怒り狂った。

 

祠を破壊した者達を焼き尽くし、村に火を放ち燃やした。

 

もう誰もあの怒りの化身を止めることなどできはしない。

 

村人はただ、自分達の故郷が消し炭と化していくのを眺めるばかりである。

 

「ああ、儂達は間違っていたのか……」

 

一人の老人が、嗄れた声でそう言った。

 

 

◉◉◉

 

 

「…………あれっ?これで終わり?」

 

誰もいない図書室。

 

国木田花丸は机の前に座り一冊の小説を読み終えた後、素っ頓狂な声を上げた。

 

本の名前は「夏の怒り」。かなり昔に出版されたものらしく、本そのものは所々が傷んでいる。

 

内容は祭りのために祠を壊してしまった村人を龍が怒り、村を滅ぼしてしまうというものだった。いわゆるバッドエンドというものだろう。

 

「すっきりしない終わり方だなあ。ま、こういうのも乙ずら」

 

パタリと小説を閉じ、花丸は動くもの何一つない図書室を見渡す。

 

(やっぱりここは落ち着くずら……)

 

スクールアイドル部のみんなとワイワイ過ごすのもとても楽しいが、このように静かな空間で読書に勤しむのも同じくらい好きだ。

 

(……あ!もうこんなに外が暗い……)

 

時計を見ると既に6時半。夏も近いとはいえ、この時間になるとやはり日は暮れ始めている。そろそろ帰らないと家族も心配するだろう。

 

花丸は急いで荷物を鞄にしまい、席を立った。

 

(明日はスクールアイドルの練習……。頑張ろう!)

 

「うおっ⁉︎」

 

「わっ⁉︎」

 

図書室の出入り口を開くと、そのすぐ隣に見知った人物が驚きのあまり飛び跳ねた。

 

「未来くん?どうしたの?」

 

スクールアイドル部マネージャー、日々ノ未来である。

 

「いやー……なんでもないんだけど……」

 

「……もしかして、ずっとここにいたずら?」

 

「えっいやちが……」

 

「……ま、まさかマルを……」

 

「やめろ誤解だ!!」

 

ストーカーと間違えられてもおかしくない行動をしておいてなんでもない、と言い張る未来に、花丸の瞳はどんどん冷たいものへと変わっていく。

 

「じゃあどうしてここに?」

 

「ほ、本だよ。本を借りに来たんだよ……」

 

「…………」

 

「なんだよその目は⁉︎ここは図書室だろ⁉︎」

 

「……ま、そういうことにしておくずら」

 

からかうように笑った後花丸はそのまま未来の横を通り過ぎ、昇降口へと向かう。

 

 

 

(……まあ、本借りに来たなんて嘘だけど……。バレてないよな?)

 

『いや、バレバレだったと思うよ』

 

最近付き合いに慣れてきたのか、たまにメビウスは未来に対して容赦なくツッコミを繰り出すことがある。

 

(しょうがないじゃないか。花丸ちゃんに”光の欠片”が宿ってるって言ったのはお前だろ?)

 

『だからってこんなストーカー紛いのことしなくても……』

 

(まあ結局失敗したし、形だけでも本借りに……)

 

図書室の戸に手をかけ横にスライドさせようとするが、何かがつっかえているように開いてくれないのだ。

 

「って鍵かかってるし!」

 

「図書室はもう閉店ずら〜」

 

「あっ!おまっ!」

 

遠くの方でケタケタ笑いながら走っていく少女が見え、未来は一杯食わされた、と顔を歪める。

 

「らあっ!」

 

メビウスの影響で何倍にも膨れ上がった身体能力を駆使し、廊下を一気に走り抜ける。思いっきり校則違反だ。

 

「待てや一年坊主ぅ!!」

 

「ずらぁ⁉︎」

 

一瞬で自分の目の前に現れた未来に目を見開く花丸。

 

「あ、足速いずらね……」

 

「一年の頃は短距離で曜と互角だったぜ……」

 

「すごいのかすごくないのかわからないずら」

 

ええいうるさい。曜に負けてる男子なんか他にいるんだしいいじゃないか別に。

 

「もう遅いし送っていくよ」

 

「別にいいよ。帰り道マルぐらいしかいないし」

 

「逆に危険だろそれ」

 

いつもはルビィと帰っているようだが、今日はスクールアイドルの方の練習は休みな上に図書委員の仕事で帰るのが遅くなってしまっている。

 

「マルを襲おうなんて考える人いないよお……。あ、でも一人ここに……」

 

「誤解って言ってますよねぇ⁉︎」

 

 

◉◉◉

 

 

「図書委員の仕事って、こんなに遅くなるまであるのか?」

 

「ううん。今日はつい本に夢中になっちゃって……」

 

「ほんとに本が好きなんだな」

 

薄暗い街道を二人並んで歩く。

 

普段通らない道ということも相まってか、未来は自然と周囲を警戒してしまう。

 

「未来くんは本読まないの?」

 

「活字にはあんまり触れる機会がなくて……。強いて言えば物語くらいかな、読んだことあるのは」

 

論説文等が国語のテストで出てきた時はその度に顔を青くして頭を抱えているほどに苦手だ。小説を読み解く問題のほうがまだ楽な方だ。

 

「もったいないずら」

 

「はは……。何かオススメの本あるなら貸してくれよ」

 

「あっそれなら……」

 

花丸は鞄の中から一冊の小説を取り出すと、それをおもむろに未来へと差し出した。

 

「”夏の怒り”……?」

 

「これならそんなに長くないし、数分で読めると思うから……」

 

よく見れば確かに本自体の厚さはそれほどない。普段本を読まない人もこれならば最後まできっちり読み終えることだろう。

 

「ほー……。じゃ、読んでみるよ。ありがとう」

 

片手で受け取り、鞄にしまいながら未来はすっかり暗くなっている空を見上げた。

 

「……なんか雨降りそうだな」

 

「……あれ?そういえば未来くん、バスで帰らなくても大丈夫ずら?」

 

「ん?ああ平気平気。走ってもすぐ着くし」

 

メビウスの力を借りれば、の話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花丸の家である寺の前まで彼女を送り届ける。祖母らしき人に家に上がるよう誘われたが、さすがにそれは悪いのですぐさま退散した。

 

「で、どうだ?」

 

『……以前のような光は彼女から感じないな……』

 

「やっぱり何か条件があるのか……?」

 

花丸が前に光の欠片らしきものを見せたのはルビィと一緒に体験入部でやって来た時だ。それ以降変わったことは特に見られない。

 

「ヨハ子ちゃんはもう発現しているんだよな?」

 

『それは間違いないよ。何か……引き金になるようなものが必要なのかもしれない』

 

「引き金……きっかけか」

 

光の欠片がどういった条件で発動するのかはまだわからない。エンペラ星人を倒すほどの力だ。そう簡単に出せるとは思えない。

 

(もしかしたら俺の中にも…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるよ」

 

「『!?!?』」

 

顔を上げると、そこにはいつの間にかにやけ面の黒ずくめの青年が立っていた。

 

「出たな変態」

 

「やめてくれ。名前は”ノワール”で通すことにした」

 

『じゃあ君に聞こう、ノワール。”ある”とは?』

 

メビウスは未来の身体から分離すると、ノワールと彼の間に割って入る。

 

「言った通りの意味さ。未来くんにも、”光の欠片”はあるはずだよ」

 

「……あんたはどうして」

 

「でも同時に、凄まじい闇の力も眠っている」

 

「なに?」

 

ノワールが一歩踏み出すと、メビウスは咄嗟に未来の身体の中へと戻り、警戒するよう促す。

 

「君は今、光になりきれていない状態なんだよ」

 

「どういう意味だよ……!」

 

さらに距離を縮めてくるノワールに対し、未来はメビウスブレスを構えた。

 

「これも言葉通りの意味だよ。……過去に、何かあったのかな?」

 

「……ッ!」

 

メビュームスラッシュをノワールの足元に放つが、奴はそれを難なく回避し、一瞬でこちらに肉薄してきた。

 

「自分を騙してはいけないよ。……ツルギやステラちゃんのように、自分の為に力を使おうとは思わないのかい?」

 

「なんであんたが……あいつらの事を……⁉︎」

 

「君はもっと力が欲しいと思っている……。そうだろう?」

 

「あんたは……どっちの味方だ……?」

 

「愚問だね。ボクはただ、光が見たいだけさ。闇に抗う、究極の光を……」

 

不気味な黒い青年は身体を黒霧へと変えると、未来の身体に侵入しようとしてくる。

 

『彼の身体に触れるな……っ!!』

 

体内に入ってくるノワールを無理やり追い出すメビウス。

 

身体の主導権を奪うと、メビュームブレードを展開してノワールへと振りかざした。

 

「おっと」

 

後方へ退避しながら逃げるように身体を消滅させていくノワール。

 

「……まだ足りないか」

 

ノワールはそう言い残すと、以前と同じようにして霧散し、消えていった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『大丈夫だったかい?』

 

「あ、ああ……」

 

一瞬だが、ノワールに体内への侵入を許してしまった。

 

奴の力は未知数だ。……それに味方とも思えない。

 

「あいつ……なにが目的だ?」

 

 

◉◉◉

 

 

「……へえ」

 

大木の枝に腰掛けながら、ノワールは一冊の本に目を通していた。ついさっき未来からこっそり奪い取ったものである。

 

「彼が読書家だとは意外だ。……いや、これは花丸ちゃんにでも借りた物かな……?」

 

”夏の怒り”と題名にある本を閉じ、ノワールは下に広がる内浦の街を見下ろす。

 

 

「……決められた運命に逆らえるかな……?」

 

 

ノワールは本に手をかざすと、ドス黒い闇のオーラを注ぎ込み始めた。

 





いかがでしたでしょうか?
いやあシナリオ考えるのも楽じゃないっす……。

プチ解説はナツノメリュウについて!

作中の文を見ればわかると思いますが、”夏の怒り”の内容はウルトラマンマックス第9話「龍の恋人」に沿っております。
つまり次回登場する怪獣はもちろんナツノメリュウ……。
今回は小説の中に出てくる龍として登場しましたね。

それでは次回もお楽しみに!



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第25話 龍の結末:後編

花丸回後編!
最後にちらっとあの人が登場……?


「本を……失くした?」

 

「ごめん!本当にごめん!!」

 

練習を終え、帰り支度をしていたスクールアイドル部の面々だったが、急に花丸へ頭を下げた未来の方へと視線が吸い寄せられる。

 

「昨日ずっと探してたんだけど……、カバンの中から消えてて、どこにも見つからないし……」

 

「い、いいよいいよ。あれ、もう読み終わってたし」

 

首を何度も横に振ってそう言う花丸だったが、失くした張本人である未来は気が済まなかった。

 

「そういうわけにもいかないよ。何かお詫びを……」

 

「う〜ん……」

 

顎に手を当てて唸る花丸。彼女のことだ、そう大きなものは要求してこないだろう。

 

「じゃあ、この後買い物に付き合ってほしいずら」

 

「買い物?そんなんでいいのか?」

 

「うん。ちょっと荷物持ちの人が欲しいかなーって」

 

「わかった、お安い御用!」

 

そのやりとりを見ていたルビィと善子は何かを察したように苦笑する。未来はそれに気づかないまま、快く花丸の頼みを承諾した。

 

 

◉◉◉

 

 

「あ、あのー……花丸ちゃん……?」

 

「ん?どうかしたずら?」

 

未来と花丸は沼津にある大きな本屋に足を運んでいた。

 

花丸が台車に乗せた山のように積まれている本を見て、未来は思わず戦慄する。

 

「もしかして、これ全部買うの……?」

 

「うん、そうだよ」

 

まさかここまで大量の荷物だとは思わなかった。店に入る前に見たのだが、花丸がなぜか風呂敷を所持していた事を納得する。

 

会計を済ませ、持っていた風呂敷に買った本を全て包んだ後、彼女は未来にそれを手渡してきた。

 

(まあ、約束しちゃったしなあ……)

 

これくらい仕方ないか、と未来は泣く泣く本の塊を受け取り、背負う。

 

「未来くんが来てくれて助かったずら〜!」

 

「それは何より……」

 

背負っている物のせいで泥棒のような風貌になった未来。

 

二人は帰宅しようと、すっかり暗くなった夜の街を歩き始めた。

 

本は幸いメビウスが身体の中にいるおかげで大して重くは感じなかった。

 

 

「歩いたらお腹減ったずら〜……」

 

しばらく歩いていると、花丸が唐突にお腹を抑えてそう言ってくる。

 

「なにか食べていくか?」

 

「えっいいの⁉︎」

 

「あっ、もしかしてナチュラルに奢らされるパターン?」

 

前から気になってはいたが、花丸に限らずスクールアイドル部に所属しているメンバーは未来に対して遠慮がないように見られる。

 

……と、頭の中で思っていた事が口に出ていたらしい。花丸は笑いながら言った。

 

「だって未来くん、部活でサポートとか頑張ってるでしょ?みんなもつい甘えたくなるんじゃないかな?」

 

「喜んでいいのか悪いのか……」

 

側にあった鯛焼き屋に寄り、それぞれ一つずつ餡子の鯛焼きを買う。案外高値だったことに気づき、未来は渋々花丸の分のお代まで払った。

 

二人は鯛焼き片手に再び歩道を歩き出した。

 

「美味しいずら〜」

 

「うん、美味い」

 

味はなかなかいい値段してただけあって、それ相応の価値のあるものだった。焼きたてなので生地もカリカリしているのが好ポイントだ。

 

不意に花丸が傍に設置されてあった時計を見て呟く。

 

「もう七時ずら」

 

「あんなに本を物色してたら、そりゃこんな時間になるわ」

 

男の先輩としては、今日も彼女を家に送らなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁーーーーーーーーッ!!」

 

遠くの方で街行く人々の悲鳴が上がり、何事かと頭を上げる。

 

すると前方で巨大な火柱が上がっており、そこから逃げるために滝のように人がこちらに押し寄せて来た。

 

「なんだ……⁉︎火事か⁉︎」

 

そう思ったのも束の間、火柱が収まり、代わりにとある巨大なモノが夜の空に現れた。

 

暗い肌に金の装飾が施されたような見た目の、長い首を持つ龍だった。背中には炎で形成された大きな翼がある。

 

「龍……?」

 

『あれは……⁉︎』

 

(メビウス!何か知ってるのか⁉︎)

 

『いや……わからない……怪獣なのか……⁉︎』

 

 

頭の中で未来とメビウスが会話している隣で、花丸は遠くに見える龍を見てポツリと口に出す。

 

「夏ノ眼龍……?」

 

 

◉◉◉

 

 

「はははっ……すごいな、こいつは。空想上の存在なだけあるよ」

 

ビルの屋上に立ち、一冊の小説を片手に抱えながら、ノワールは不気味な笑いを漏らしていた。

 

「さあ焼くんだナツノメリュウ。ボクの望む光を……炙り出せ!」

 

闇のオーラが小説に注がれ、連動するようにナツノメリュウが凶暴さを増していく。

 

口から青い炎を吐き出し、沼津の街を火の海に変えようと動き出したのだ。

 

「君に物語の結末を変えるだけの力があるかな……?日々ノ未来くん……!」

 

 

◉◉◉

 

 

「花丸ちゃん!先に避難を!!」

 

「未来くん⁉︎」

 

背負っていた風呂敷を置き、鯛焼きを一気に口に放り投げると、未来は流れる人の波に逆らってナツノメリュウのいる方向へと駆け出す。

 

「なんだっていきなりあんなのが……!」

 

『凄まじい闇の力だ……。()()()()()に似ている……!』

 

「ノワールとかいう奴か……!」

 

やっぱりあの男は味方ではないようだ。これで確定的になった。なにが目的かはわからないが、この怪獣を奴が召喚したのは明らか。

 

未来は人目につかない、ビルとビルの間にある狭い空間に入り込む。

 

「メビウーーーース!!」

 

左腕を天にかかげ、ウルトラマンメビウスへと変身を遂げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テヤァ!」

 

光とともに現れた巨人は、街を焼くナツノメリュウの前に立ちはだかり、両腕を構える。

 

長い首の先にある頭をこちらに向け、ナツノメリュウは鋭い目つきでメビウスを睨んだ。

 

「■■■■ーーーーッ!!」

 

蒼炎を放射しながら飛び込んでくるナツノメリュウ。

 

メビウスディフェンサークルを発動させ、前方に突き出して対応する。

 

(なんて熱量だ……!)

 

炎を横に弾きながら飛びかかってくるナツノメリュウを受け止め、空から引きずり下ろす。

 

地上戦に持ち込んだメビウスだが、暴れる巨体をなかなか抑えることができずにいた。

 

『力が強すぎる……!』

 

(大人しく……しろぉ!)

 

「グアッ……!」

 

長い首で突き飛ばされるメビウス。

 

そこへすかさず青い炎が迫り、咄嗟にバク転で回避する。

 

「セヤッ!」

 

メビュームスラッシュで牽制し、両腕を広げて空へと移動した。

 

それを追いかけるように、ナツノメリュウは再び背中に炎の翼を作ると、大きくはためかせて上空へと昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……!はあ……!」

 

あちこちに火が立ち昇っている街中を、花丸は必死に走る。

 

空中戦を繰り広げるメビウスとナツノメリュウを見て、何もできない自分を恨んだ。

 

「あの龍……小説に出てきたのと、特徴が一致してるずら……」

 

どういうわけかは知らないが、物語の中から現れた存在だということは薄々わかっていた。

 

「一体どうして……」

 

「君の小説を利用させてもらったよ」

 

「……⁉︎」

 

いつの間にか後方に立っていた黒ずくめの男へ振り返る。

 

彼の右手には「夏の怒り」と書かれた本が握られていた。

 

「あなたの……仕業なの……?」

 

「ああ、そうだよ。ナツノメリュウを呼び出す媒体として利用させてもらった」

 

「ひどいずら……!どうしてこんなことを⁉︎」

 

「いやね、ボクが見たいものが一向に覚醒しないもんだからさ。きっかけを作ろうと思って」

 

「……?なんだかわからないけど……。こんなことのために本を利用するのはやめるずら!」

 

「アレを引っ込められるかどうかは君と、彼らにかかっているよ」

 

ノワールは本にさらなる闇を注ぎ込み、ナツノメリュウに力を与える。

 

「このまま物語の通り、全てを焼き尽くすか……。それともその運命を断ち切るか……」

 

 

 

 

 

 

「■■■■ーーーーッ!!!!」

 

黒霧が蔓延しだし、ナツノメリュウはまるで苦しむように暴れ出すと、周りにある建物をメビウスごと葬り去ろうとする。

 

「……させない。させないずら!」

 

「…………おお……?」

 

 

花丸は危険を顧みずにナツノメリュウの足元まで近寄ると、必死に叫ぶ。

 

(マルは信じるよ……!必ず、ウルトラマンが夏ノ眼龍を……!)

 

「運命なんか、いくらでも変えられるずら!!」

 

刹那、花丸の体内から眩い輝きが漏れ出し、ナツノメリュウを覆っていた黒い霧を払い始めた。

 

(この光は……⁉︎)

 

ナツノメリュウと取っ組み合いになっていたメビウスが、下を見て光の発生源である花丸に気がつく。

 

『これはまさか……!』

 

(”光の欠片”……⁉︎)

 

 

ーーーー四の光。他者を思いやりその背中を押す、信託の輝き。

 

 

 

「頑張って!ウルトラマン!!」

 

花丸から発せられた輝きが、まるでメビウスを応援するように、赤い身体に注ぎ込まれていく。

 

「ォォオオオオ…………!」

 

(力が……湧き上がって……!)

 

『これが……光の欠片の力なのか……⁉︎』

 

ウルトラマンと人間、双方の存在が呼応し、力を与える。

 

それが、光の欠片の真の力ーーーー

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

メビウスブレスから放たれる炎を拳にまとわせ、ナツノメリュウに強烈な一撃を叩き込む。

 

「■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!」

 

悶え苦しむナツノメリュウに向かって、メビウスはさらに追い討ちをかける。

 

(今、帰してやるからな……!)

 

クリスタルサークルを回転させ、エネルギーを溜めた後で腕を十字に組む。

 

「セヤアアアアッッ!!」

 

必殺光線であるメビュームシュートがナツノメリュウの胴体へと直撃し、途端に時が止まったように動かなくなる。

 

「……!」

 

ノワールが持っていた本がひとりでに浮き上がり、ナツノメリュウの元へ上っていく。

 

ナツノメリュウの身体が光の粒子へと変化し、心地良さそうな表情を浮かべて本の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

「やった!やったずらぁ!」

 

コンクリートの地面に落ちていた”夏の怒り”を拾い上げ、大事そうに抱きしめる花丸。

 

「……!あれ?」

 

ふと後ろを見ると、ノワールの姿は既になかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「昨日はひどい目にあったずら……」

 

「大丈夫だったの?二人とも……」

 

曜が眉を下げて心配そうにそう聞いてくる。

 

どうやらニュースで沼津の街に怪獣が現れたと聞いて、気が気でなかったらしい。

 

「ああ。ウルトラマンが助けにきてくれたからな!」

 

「失くしてた本も見たかったし、よかったずら」

 

笑顔で一冊の本の表紙を見せつける花丸に、善子は怪訝な顔で問う。

 

「で、結局その本はどこにあったのよ?」

 

「あっ……」

 

それを聞いてやっと気づいたように、花丸はハッと本を見つめる。

 

 

「そういえばあの人……なんだったんだろう……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

淡島神社の祠。その傍に生えてある大木の枝に、ノワールは寄りかかりながら欠伸をしていた。

 

近くに生物の気配を感じ取り、咄嗟に横を見る。

 

「君は……」

 

階段に立ち、ノワールの方をじっと見る初老の男性。

 

ノワールには彼が何者か、一目で理解できた。

 

「やあ。思ったより遅かったね」

 

「君はエンペラ星人の仲間なのか?」

 

男性は若干警戒しながら、ノワールへと質問を投げかける。

 

「仲間……か。向こうはわからないけど、少なくともボクは友達だと思ってるかな」

 

「メビウスを……あの子達をどうするつもりなんだ」

 

「はは…………言うわけないだろ」

 

ノワールは一気に表情を引き締め、木の枝から飛び降りると、男性の横を通り過ぎて階段を下り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ、邪魔をするなら君達でも容赦はしない。ウルトラ兄弟」

 

ーーーー男性の手には、ライトグリーンで染められたペンライトのようなものが握られていた。

 




「俺は運命と戦う!」的な話でしたね。今週のオーブでも掘り返されたエピソードなので、タイムリーに感じたかもしれません。

プチ解説はこの世界のウルトラ兄弟について!

エンペラ星人の妨害が解け、地球とウルトラの星を繋ぐゲートが開けるようになった、と以前作中で話しました。
急いでメビウスの増援として地球へ訪れたウルトラ兄弟達なのですが、本格的な登場は第二章からになります!
テレビ版と同じように、基本はメビウスの成長のために手出しはせず、ピンチになった時に助ける感じです。

次回は梨子ちゃん回になります!
その後は善子回……ときて千歌ちゃんの話にいくと思ったかぁ⁉︎
今後のことをちらっと予告すると、梨子ちゃん回の後に善子回、そしてサンシャインの話を一気に11話辺りまで進めて……。第一章のクライマックスとして未来と千歌がメインの話を書こうと思っています。

それでは次回もお楽しみに!


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第26話 あけてほしい:前編


曜ちゃんのURが出たと思ったら、まさかすぐに新規ずら丸URが実装とは……。課金したいなあ……。


『世の中から逃げたい』

 

生きていれば誰しも一度は思ったことがあるだろう。現実逃避というものだ。

 

どこか遠くへ行きたい。

 

自分が描く理想郷に行きたい……。

 

様々な理由で現実に絶望し、逃げたいと思った人々がいた。

 

ーーこれから語られるのは、そんな一人の少女の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに気を落とさないで、また次があるわよ……」

 

「うん……」

 

電気もつけずに暗くなった自室で、桜内梨子は布団の中にうずくまっていた。

 

観客席からの重圧、視線。ピアノに移る自分の影。練習していた時よりも遠く感じる鍵盤…………。

 

今日行われたピアノコンクールで一番やってはいけないことをーー

 

 

◉◉◉

 

 

「梨子ちゃん?」

 

こちらを覗き込むように、一人の女の子の顔が目の前に現れる。

 

スクールアイドル部のメンバー全員で、沼津へ遊びに行く途中なのだ。

 

「どうしたの?ぼーっとして」

 

「う、ううん。なんでもないよ」

 

自分でも今の否定は明らかに不自然だとは思う。が、千歌は何も聞かずに「そっか」とだけ言うと、やってきた電車へと目を向けた。

 

「やっときた。ヨハ子ちゃんと曜はもう向こうにいるんだっけ?」

 

「そうみたいだね」

 

「急ぎましょう!」

 

ルビィが中へと駆け出したのに続き、未来達もぞろぞろと電車に入っていった。

 

(電車……か……)

 

他のメンバーが笑いながら何気ない会話を交わすなか、梨子は一人窓の外を遠い目で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー『降りられますか?』

 

過去の記憶がフラッシュバックする。

 

車掌の制服に身を包んだ女の子が、自分にそう言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、梨子?」

 

「えっ⁉︎」

 

隣に座る未来に肩を叩かれ、一瞬で我に帰る。

 

未来は怪訝な顔で梨子のことを見つめていた。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「え?どうして?」

 

「なんか死んだ魚みたいな目で笑ってたから……」

 

「えぇ⁉︎」

 

そこまで様子がおかしかっただろうかと心配になり、梨子は咄嗟に側にいた千歌達と顔を見合わせた。

 

「やっぱりなんか変だね」

 

「何かあったずら?」

 

「ううん、なんでもないの。ちょっと思い出し笑いしちゃっただけ」

 

恥ずかしそうにそう言う梨子を見て、興味が湧いたのか未来はその話題に食いついてきた。

 

「その笑い話、聞かせてくれよ。向こうに着くまで暇だし」

 

「え、なになに?なんの話⁉︎」

 

二人が話してるのを見て、千歌やルビィ、花丸までもが聞き耳を立てている。

 

「え、えぇ?」

 

「あ、ごめん、もしかして人には言いにくいこと……?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

「じゃあ聞かせてよ!梨子ちゃんの話、私も聞いてみたい!」

 

と、半分押し切られる形で自らの()()()を披露することになってしまった。

 

「その……笑わないでよ?」

 

(笑い話じゃないのか……?)

 

未来が首を傾けるのと同時に、梨子は口を開いた。

 

 

◉◉◉

 

 

数ヶ月前。

 

「はぁ……」

 

曲作りをしている最中だ。

 

思ったように手が動いてくれない。頭の中で描いてた曲と、全然違う。

 

音が重い。鍵盤が重い。…………身体が、重い。

 

「こういうのを、スランプって言うのかなあ」

 

重いため息を漏らしながら、梨子は鍵盤にカバーをかけ、フタを閉める。

 

あのコンクールの日から、練習に全く身が入らない。

 

(……どうなるんだろう、私)

 

腰掛けていたイスから離れ、ベッドに飛び込むようにして横たわる。

 

コンクール、それも本番で、ミスではなく”弾けなかった”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気だしなよ」

 

「そ、そうだよ。これで終わりじゃないんでしょ?」

 

学校の友達は、全員梨子をそう励ましてくれた。

 

梨子も笑顔で平気だと答えた。

 

 

 

それから少し経って、内浦に引っ越すという話を、母親から聞かされた。

 

しばらく一人になりたくて、夜までーーーー丸一日出かけたのを覚えている。

 

「…………」

 

行くあてもなくただひたすらに歩いた。

 

周囲には夜を彩る街の光が溢れ、街行く人々を照らしている。

 

しかしどんなに時間をかけても、頭の中からコンクールの事が離れてくれない。

 

(…………どこかに行きたいなあ。辛いことも悲しいことも、なにもない場所……)

 

誰にも聞こえることのない、心の叫びだ。

 

ーーーーそんな時。

 

「……?」

 

 

()()()()は現れた。

 

外見はごく普通の電車と変わらない。ただ一つあり得ない点としては”空を飛んでいる”ということだろう。

 

気がつけば、周りには誰もいなかった。

 

「電車……?」

 

その電車は何回か空中を回り続けると、梨子の側まで寄ってきて停車したのだ。

 

「えっ……えっ?」

 

状況も理由も、何もかもが理解できずに、ただキョロキョロと視線を右往左往させる。

 

数秒間そんなことを繰り返していると、電車の扉が開き、中から車掌の制服を身につけた10代後半ほどの女性が出てきたのだ。

 

「…………どうされました?」

 

「ど、どうされましたって……あの、これは……?」

 

「見ての通り、電車ですよ」

 

そう答える車掌に思わず面食らってしまい、言葉に詰まる。

 

(ああ、そうか。……これは夢ね)

 

疲労からきた幻覚か何かだろうと思い込み、梨子は車掌に誘われるがままに電車の中へと足を踏み入れた。

 

 

「あの、この電車って……どこへ行くんですか?」

 

恐る恐るそう聞く梨子に、車掌は眉ひとつ動かさずに問う。

 

「あなたはどこへ行きたいのですか?」

 

「え?」

 

こんどは真正面を向きながら、被っている帽子の鍔に軽く片手で触れて位置を直す。

 

「この電車は、あなたにとっての理想郷へと向かいます」

 

「理想郷……?」

 

「はい。悲しみも、憎しみも、争いも、嫌なことなど何一つない素晴らしい世界です」

 

周りを見ると、自分の他にも少数ながら乗客はいた。彼らは車掌と違って不思議な雰囲気も無く、他の客達と談笑している最中だ。

 

それを見て少し安心したのか、梨子はこのまま電車の行く先へと行ってみようと感じた。

 

「あ、でも……私、切符とか持っていないんですが……」

 

「切符、ですか」

 

車掌は梨子に背を向け、他の乗客が集まっている席へ向かうと、何やら彼らにヒソヒソと話し始めた。

 

数秒後、そのうちの一人の男性が梨子の方を向き、笑顔で言う。

 

「別に構わんよ。”同志”は多い方がいいからね」

 

「はぁ……」

 

同志、とは何のことか気になったが、それが何であるかは尋ねなかった。

 

 

 

しばらくすると電車が揺れだし、そろそろ出発するのだなとわかる。

 

(私が望む、理想郷…………)

 

窓を眺めながら色々と考えを巡らせていると、妙なことに気がついた。

 

外の景色が、おかしい。

 

「な、なに?これ……」

 

まるで映画のフィルムのようなものがいくつも流れている。そこに写っているのはなんと梨子自身だ。

 

走馬灯のように、桜内梨子の半生が描かれたフィルムだった。

 

「あ、あの……これは……」

 

車掌を引き止め、窓の外を飛ぶフィルムが何なのかを聞く。すると彼女は質問の答えとは別のことを梨子に言った。

 

「……降りられますか?」

 

「え?」

 

「一つ言っておきますが、この電車はあなたが望めば簡単に降りられます。しかしそうした場合、二度と理想郷に行くという願いは叶わないでしょう」

 

この発言を聞いて初めて、梨子はこれが夢ではない事を理解した。

 

おそらく、その理想郷とやらに行ったとしても、現実世界に帰ってくることはできないのだろう。

 

「わ、私は…………」

 

一気に恐怖と不安感が脳裏をよぎり、咄嗟に電車の扉の前へと駆け出す。

 

「降りられるんですか……?」

 

「もちろん、あなたが望みさえすれば」

 

梨子は少し間を置いた後で、車掌を真っ直ぐに見据えて言った。

 

「あけてほしい、です」

 

「…………かしこまりました」

 

 

◉◉◉

 

 

「それで結局私は、過去の思い出が捨てられなくて……」

 

「帰ってきたってのか……」

 

「な、なんかちょっと怖い話だったね……」

 

若干ホラーテイストな梨子の話を聞いて、千歌と未来は揃って身体を震わせていた。

 

「こんな都市伝説みたいな話、信じるの?」

 

「そりゃあまあ、最近怪獣とか出てきちゃったしな」

 

「私も梨子ちゃんのこと信じるよ!」

 

そう言う友達を前にして、梨子はまた恥ずかしそうに頰を染める。

 

(やっぱり、降りて正解だった)

 

梨子は前までの自分では考えられない、清々しい笑顔を浮かべた。

 

 




タイトルからもわかる通り元ネタはウルトラQの実質的な最終回と言われている「あけてくれ!」です。
今回の話でその分のエピソードは消化してますが、梨子回は一応後編もあります。

プチ解説は異次元列車について!

「あけてくれ!」に登場する空飛ぶ電車ですね。乗る者を理想郷へと連れて行ってくれるというアレです。僕も乗ってみたい。
ちなみにこの話は怪獣や宇宙人の類は関わってませんね。思いっきり世○も○妙な○語みたいな話でした。
と、ウルトラQを見ていない人にも優しい解説でしたね。決してプチ解説のネタ切れというわけではないので…………はい。

それでは次回もお楽しみに!




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第27話 あけてほしい:後編

どうも、陸あおとです。

もう少し早い時間に投稿できればよかったのですが、ニコ生でミニライブを観てまして……wいやー楽しかったです!


「ねえねえ!今度はあそこ行こ!」

 

「おいおい、はぐれるから走るなよ」

 

沼津の街中をはしゃいで走り回る田舎メンバー達。その中で梨子、曜、善子は少し疲れた様子で目配せする。

 

「千歌ちゃん達、楽しそうね」

 

「たぶんみんなで遊ぶってこと、あんまりなかったからじゃないかな」

 

「にしても騒ぎすぎよ」

 

千歌達はゲームセンターでプリクラを撮ったり、クレーンゲームをしたり、服を買ったりと、沼津の街を堪能しているようだった。

 

 

「体力あるなぁ……」

 

『都会の街がよっぽど嬉しいんだね』

 

「そりゃそうさ!俺達みたいな田舎者だと尚更……」

 

誰にも聞かれていないことを確認しながら、身体の中に宿るメビウスと会話する。彼はいつも通り未来達を遠目で見守るようなポジションだ。

 

「お前も楽しんでくれよ、地球の娯楽を!」

 

『十分楽しんでるさ』

 

「未来くーん!おいてっちゃうよー!」

 

「ああ、今行く!」

 

千歌に呼ばれて走り出す未来。

 

そんなAqoursのメンバー達が笑顔で歩く様子を、ビルの上から眺めている男がいた。

 

「……さて、今日もやらかしますか」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………ん?」

 

人の波を掻き分けながら歩いていた梨子が何かに気をとられ、立ち止まった。

 

(今誰かの視線を感じたんだけど……)

 

梨子が立ち尽くしていることに気づかないまま、千歌達は楽しそうな顔で人混みに溶けていく。

 

まずいと思って駆け出そうとした瞬間、見覚えのある服装が目に入り、思わずその足を止めた。

 

「あれは……」

 

ただ一人、異様な雰囲気を漂わせている車掌服の人物。帽子を深く被っていて顔は見えないが、周囲を通る人々の不自然な無反応ぶりを見て違和感を感じた。

 

「ま、まって!」

 

梨子に背を向けて歩き出した車掌。

 

いくら急いでも追いつくことはなかった。

 

闇色の車掌服を頼りに路地裏へ辿り着き、人払いでもされているような、何もない暗道を進む。

 

「…………あっ!」

 

気がつくと駅のホームのような場所に迷い込んでいた。

 

暗がりの中、一つだけの車両で構成された電車が止まっている。

 

「これって……」

 

車両の数以外は()()()見たのと、全く同じ電車だった。

 

しばらく眺めているとドアが開き、眺めて中から先ほどまで追いかけていた車掌服の人物が現れ、梨子に歩み寄っていく。

 

「あ、あの……」

 

やっと見えたその顔は、以前拝見した女性のものではなく、若い男だった。

 

「桜内梨子様ですね?」

 

「え?どうして私の名前……」

 

「前任者から話はうかがっています。どうぞご乗車ください」

 

前任者、とは前に見た女性車掌のことだろうか。

 

梨子は不思議とあの時のような感覚を思い出していた。

 

吸い込まれるように車内へと足を踏み入れていく。

 

(話はうかがっているって言ってたけど……何のことなのかしら?)

 

ついつい乗ってしまったが、今回は理想郷へ行く気など微塵もない。

 

梨子は運転席に移ろうとする男を呼びかけ、言った。

 

「あの!私、この電車には……」

 

「乗るつもりはなかった……だよね?わかってるよ」

 

急に口調の変わった車掌に不安を感じ、梨子は眉をひそめる。

 

「……あなたは……。あの、その前任者の方は今どこに?」

 

「さあ、ボクも知らないね」

 

「えっ?……あっ、あの、これって”理想郷に行く電車”ですよね?」

 

「いいや、違うよ。少なくとも君にとっては」

 

車掌服と帽子を自ら剥ぎ取った男は、清潔感のある顔を露わにする。

 

黒服に身を包んだ男は丁寧にお辞儀をし、名乗った。

 

「初めまして、桜内梨子ちゃん。ボクの名前はノワール。覚えていて貰えるととても嬉しい」

 

直後、電車が揺れとともにゆっくりと進み出し、思わず手すりに寄りかかる梨子。

 

どんどん加速していくスピードに、戸惑いを隠せないでいる。

 

「どういうことですか⁉︎あなたは……⁉︎」

 

「残念だけど、これは”異次元列車”じゃない」

 

ノワールは自らの身体を黒霧で覆い、その場を去ろうとする。

 

「これは僕からの新しい挑戦だ、ウルトラマンメビウス」

 

黒い影が弾け飛び、電車がトンネルを抜けて沼津の上空目掛けて浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『未来くん!』

 

「ん?…………ってなんだあれ⁉︎」

 

空に魔法陣のようなものが展開され、そこから紫色の雷が街のど真ん中に炸裂する。

 

未来は一瞬で現れた巨躯に絶句し、目を大きく見開いて見上げた。

 

「ろ、ロボット……?」

 

身体は白く、ドラゴンのようなフォルム。腕には鉤爪や大剣が取り付けられていて、胸の赤いパーツは神秘的な印象を与える。

 

『異次元からやってきたのか……⁉︎』

 

「いくぞメビウス!」

 

『うん!やろう!』

 

千歌達に気づかれないようにその場を離れ、人目につかないよう証明写真機の中へと駆け込んだ。

 

「狭い!」

 

『仕方ないよ……。他に隠れる場所なんかないんだし』

 

「もう少しスマートに変身したかったなあ」

 

と言いつつメビウスブレスを左腕に出し、大きく振りかぶる。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「空飛んで……ええっ⁉︎」

 

目の前に出現した巨大な怪獣の胸部へと突撃していく電車。梨子はただ側にある手すりにしがみつくことしかできないでいた。

 

「きゃあああっっ!!」

 

電車ごと内部に取り込まれる梨子。全身に触手のようなものがまとわりつき、身動きが取れない。

 

「なんなのこれ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノワールは一キロほど離れたビルの上で白いドラゴンを見据え、やがていつも通りの笑みをにじませる。

 

「他の次元では”ギャラクトロン”と呼ばれていたようだね。同じものを用意させてもらった。シチュエーションもばっちりさ」

 

黒いコートを翻し、逃げ惑う人々を見下ろすノワール。余裕に満ち溢れたその表情は、どこか寂しげだ。

 

「ああ、まったく不本意だ。光を求めるあまり、ボク自身の手でか弱い命を危険にさらすなんて……。あははっ!」

 

言っていることとは裏腹に、ノワールはすぐに元のふざけた笑い顔を取り戻す。

 

「まあ、今更どうでもいいや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セヤァ!」

 

赤と銀の巨人がギャラクトロンの道を阻み、自分よりも大きな胴体にしがみついて抑え込む。

 

「ウァアアア…………!」

 

ギャラクトロンの腕から放たれた赤い光線が胸部に直撃。紙のように簡単に吹き飛ばされたメビウスは、複数の建物を巻き添えに倒れこんだ。

 

(うぐっ……!)

 

『これも……ノワールが呼び出した物なのか……⁉︎』

 

無機質な印象を与える正義の化身が暴威を振るう。ノワールが何か細工をしたのか、やたらと激しく攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

「ヤアッ!!」

 

拳を叩き込んでも、回し蹴りを炸裂させても、重心が固定されているようにビクともしない。

 

「ハッ!」

 

発射された光線をメビウスディフェンサークルで防御するが、十秒も保たずに亀裂が入っていった。

 

(うっ……!ぐっ……‼︎)

 

『まずい……!』

 

ついに展開していた光の壁が破られ、再び身体のど真ん中へ光柱が直撃する。

 

「ヘァアアッ……!」

 

(くそっ……!)

 

このままでは街の被害が計り知れない。一刻も早く奴を破壊しなくてはならない。

 

(なあメビウス……、前にジュエルゴーレムを倒した時の、なんとかダイナマイトって……)

 

『いいやダメだよ。あれはそう簡単に発動するものじゃない』

 

(だよな……。明らかにやばい感じだったし)

 

一度使ったことがあるからこそわかる。

 

メビュームダイナマイトは、文字通り命を削る技だ。易々と出せるものではないだろう。

 

『ん……?』

 

(どうかしたのか?)

 

メビウスはギャラクトロンの胸に取り付けられた赤い部品に目を留める。

 

未来も何か違和感を感じたのか、目を凝らして何があるのかを確かめた。

 

ギャラクトロンの内部が透けて見え、中に何か細長いものが埋まっているのがわかる。

 

(電車……?)

 

『あれはまさか……』

 

車内に一つ、小さな人影が見える。見覚えのある、長髪の女の子だ。

 

(なっ……!梨子⁉︎どうしてあんなところに⁉︎)

 

『……ノワール……!!』

 

人質のつもりか知らないが、どのみちこれで迂闊に攻撃ができなくなった。まずは取り込まれている梨子をどうにかしないといけない。

 

(あるいは……花丸ちゃんの時みたいに……!)

 

 

◉◉◉

 

 

(頭が……ぼーっとする……)

 

ぼやけた視界で目の前の光景を眺めている梨子はどうにかして身体を動かそうとするが、触手が邪魔で席を立つことすらできない。

 

(メビウス……、もしかして私を助けようと……?)

 

メビウスの明らかに不自然な戦い方に疑問を感じ、やがてそれは自分を助け出すことが目的だと悟る。

 

「私のせいで……上手く戦えないなんて……!ふうっ……ん……!!」

 

触手を引きちぎろうとしてみるが、なかなか頑丈に出来ているようで解くことは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアアアアアア!!!!」

 

胸にある赤いパーツ目掛けて刺突を放つメビウス。が、ギャラクトロンはそれを阻むように大剣を振りかざしてくる。

 

「ヤアッ!」

 

メビュームブレードでなんとか攻撃を受け流すが、強すぎる衝撃に思わずバランスを崩してしまった。

 

(なんとかあそこまで辿り着ければ……!)

 

放たれる光線の雨を避け、メビュームブレードを奴の胸部へと突き立てる。

 

ガキィン!という甲高い音と共に、光の刃が粉々に砕けた。

 

『硬い……!』

 

(ちょっとしか傷付いてないぞ⁉︎)

 

咄嗟にその場を離れ、ギャラクトロンからの追撃を躱す。

 

(どうすればいい……!)

 

『こっちの攻撃じゃ火力不足だ。あの大剣だって強力だし……』

 

メビウスのその言葉を聞いて、未来の頭に一つのアイデアが浮かぶ。

 

(なあ、あいつの関節ならブレードは通るんじゃないか?)

 

『え?まあ装甲よりは可能性はあると思うけど……。どうするつもりなんだい?』

 

(まあ見てなって!)

 

地面を蹴り、ギャラクトロンの眼前まで肉薄するメビウス。

 

奴はすぐに大剣を振るってくるが、それを予測していた未来は咄嗟に飛翔し、ギャラクトロンの背後へと回る。

 

「セヤアアアアアアッ!!」

 

振り向きざまに後ろからギャラクトロンの左腕関節にメビュームブレードの刃を当て、そのまま引き裂く。

 

「■■■■ーーーーッッ……!!」

 

関節から切り落とされたギャラクトロンの腕を拾い上げ、すぐさま奴の胸部にソレを叩き込んだ。

 

腕に取り付けられた大剣が胸を貫き、梨子が取り込まれている赤いパーツ部分が一気に脆くなる。

 

『敵の武器を利用したのか……!』

 

(今だああああッ!!)

 

間髪入れずにギャラクトロンの胸部へと腕を突き出す。

 

手のひらを覆うほどの大きさの赤い部品を掴み取り、思い切り引き抜いた。

 

(取った!)

 

『ナイスだ未来くん!!』

 

火花を撒き散らしながらこちらへ迫るギャラクトロン。たった今パーツを破壊した部分の守りが薄くなっており、おそらくそこへ光線を撃てば勝負は決まったようなものだろう。

 

「ハアアアアアア…………!!」

 

梨子の安全を確保した後、メビウスブレスのエネルギーを増幅させる。

 

「セヤアアアアアア!!」

 

メビュームシュートがギャラクトロンの胸部へと吸い込まれ、内部から徐々に爆発が広がっていく。

 

「■■■■ーーーー!!!!」

 

機械音を上げながら大爆発を起こすギャラクトロン。同時に奴を操っていたであろう闇の霧も晴れていく。

 

(はぁ……はぁ……)

 

 

◉◉◉

 

 

「梨子ちゃあああああん!!よかったよおおおおお!!」

 

「ち、千歌ちゃん⁉︎恥ずかしいよ〜!もう!」

 

(すす)だらけになっている梨子に飛びつく千歌を、彼女は恥ずかしそうに引き離す。

 

「まさか怪獣の中に捕まってたなんて……」

 

「ごめんね、心配かけて……」

 

身体の汚れを払いながら駅のホームに立つ梨子は、誰かを探すように周囲へ視線を巡らせる。

 

(結局、あの男の人はなんだったんだろう……)

 

梨子がさきほど乗った電車は、異次元列車ではなかった。外見だけを似せた偽物だったのだ。

 

「それにしてもひどい目にあったわ。メビウスが助けてくれなかったらと思うと……」

 

「まあ、無事に帰ってこれてよかったじゃないか」

 

「……妙に落ち着いてるね、未来くん」

 

「そうか?」

 

最近は誤魔化すのにも慣れてきた……と思う。

 

未来は内心梨子に怪我がなかったことに胸を撫で下ろしながら、帰りの電車が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……できることなら、もう一度見てみたいな、あの電車)

 

ホームに到着した電車を見やり、梨子は心の中でそう呟いた。

 

千歌達が車内に進んでいくのを見て、梨子は後ろからついていく。

 

 

「そこのあなた!」

 

「えっ?」

 

不思議と自分が呼ばれたと思い、梨子は自然と後ろを振り向いた。

 

そこに立っていたのはーーーーーーー

 

 

「あ、あなたは!!」

 

車掌服を着込んだ、一人の女性が佇んでいた。

 

ここは駅だ。車掌の一人や二人いてもおかしくないのだが、今目の前にいる人物は梨子にとって反応せざるを得ないものだった。

 

「今度は、降りられますか?」

 

ニヤリ、と笑いながらそう質問する女性に、梨子もまた笑顔で答えた。

 

 

 

 

「いいえ、乗らせていただきます」

 




今回は最近最終回を終えたオーブから怪獣を拝借!ギャラクトロンを登場させて頂きました!

プチ解説いきましょう。

ライバル的ポジションを担当しているノワールですが、キングジョーブラックといいギャラクトロンといい、やけにポンポンと怪獣呼び出しますよね、コイツ。
実はこれ本人の能力じゃありません。四天王の一人から力を借りています。
異次元を操る奴といえば……そう、ヤプールです。
怪獣を調達しているのはノワールですが、異次元に待機させているのはヤプールなのです。まあ、だからなんだって話ですけどw

次回からは善子回になりまーす!お楽しみに!



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第28話 星斬りの訪問者:前編

あけましておめでとうございます。
今年は創作のアイデアに満ち溢れた一年を願います。

今回の話は事前に第22話を読むことをオススメします。


月面。

 

音すら存在しない、静寂と闇が広がる空間にただ一人だけ存在感を放つ者がいた。

 

甲胄に身を包み、手に持つ刀はあらゆるものを切り裂くであろう鋭さだ。

 

「…………なぜ、来ない」

 

男はいくら時間が経っても待ち人が来ないことに苛立ちを感じていた。

 

知らせはこちらから出したはずだ。目の前に”突き刺さった”こともたしかに確認した。

 

「何故やって来ないのだ⁉︎ハンターナイト……ツルギ……!!」

 

誇り高き光の者であるならば果たし状を出した自分を無下に扱うことはないはず、そう思っていたのだ。

 

「奴め……!一体何をしているのだ……⁉︎」

 

このまま無視し続けるつもりなのだろうか。

 

この宇宙で名を馳せていたツルギという戦士に勝ち、自らの力を証明することは叶わないのか。

 

痺れを切らした男は、ついに背後に見える青い星の方へ振り向き、月面を蹴った。

 

(ならばこちらから向かうまで……!)

 

 

◉◉◉

 

 

開放的な青い空と海、白い雲と砂。

 

心地いい風が頬を撫で、思わず眠たくなるくらいのどかな昼下がりだった。

 

暑苦しそうな黒コートを着たまま、ノワールは木に登り、淡島神社の祠がある辺りから下の風景を見下ろす。彼の気に入っている場所だった。

 

『失敗したようだな』

 

唐突にテレパシーで伝わってくる暗黒の皇帝の声音に驚きながらも、ノワールは景色を見つめながら返答した。

 

「ボクもここまで手こずるとは思わなかった。予想以上に彼女達の光は強力だ」

 

ノワールの目的は、かつて失った”光”を取り戻すこと。

 

それだけ聞けば全ての光を抹消しようとしているエンペラ星人とは敵対関係にあるよう思えるが、実際は違う。

 

ノワールはあくまで”光を取り戻したい”だけだ。ウルトラマンのように地球を守ったり、エンペラ星人の邪魔をするつもりはない。

 

それをわかった上でエンペラ星人は彼を利用することに決めたのだ。もちろん、そのこともノワールは勘付いているだろう。

 

『では、お前が言う目的を果たすことは不可能と?』

 

「いや……それはどうかな。光の欠片っていうのは形あるものじゃない。その人間が発する”現象”だ。彼女達から奪うことは不可能……」

 

そう。ノワールが求める光とは、Aqoursのメンバー中数人が発現に成功している”光の欠片”を指していた。

 

「ならば光を宿している”身体”ごと乗っ取ればいい。……と、思ってたんだけどなぁ……」

 

一度目は津島善子。二度目は日々ノ未来。

 

二回とも体内への侵入には成功したが、善子の場合は光の欠片に、未来の場合はメビウスに弾かれて失敗している。

 

「そう簡単には譲ってくれなさそうだ。これはなかなか骨が折れるよ」

 

『まあいい、お前は好きなように行動すればいい』

 

「おや……、いいのかい?ボクはてっきり君に嫌われてると思ってたのに」

 

子供みたいな顔で喜ぶノワールだったが、一瞬でその笑顔が闇を含んだものへと変わった。

 

「まあ、でも……チャンスはまだある」

 

おそらく既に光の欠片を発現させている者の身体に入っても、乗っ取ることは不可能だろう。

 

だが、まだ欠片を奥底に眠らせている、”発現させる可能性”を持つ人間ならば…………。

 

()の闇を引き出すことなら、とても簡単さ。ねえエンペラ、頼みがあるんだけど」

 

『……なんだ』

 

「変身能力を持つ宇宙人を、ボクに寄越してくれないかな?二人ほど」

 

木から飛び降りたノワールが、階段を下りながら瞼を閉じる。

 

「きっと上手くいくよ。今度こそボクは、あの光を手に入れる」

 

 

◉◉◉

 

 

休日。浦の星学院スクールアイドル部、その部室。

 

七星ステラは誰もいないこの部屋の惨状を見て、顔を引きつらせた。

 

「また散らかってる…………」

 

ステラとヒカリはボガールの探索でたびたび外出するので、最近はあまり部活動に顔を出せていなかったのだが……。

 

「戻ってきたらこれだもの」

 

腰を曲げ、散乱していたブツを拾い上げる。おそらく善子のものであろう、厨二病感溢れる書物だ。

 

「ったく、誰が掃除すると思ってるのよ!」

 

『大変だな』

 

「ヒカリも手伝ってくれたらどんなに楽かしら」

 

そろそろ部室に他のメンバーがやってくる頃だろうから、ここでヒカリの人間態を晒すわけにもいかない。

 

(梨子がいるから安心だと思ってたけど……はぁ……)

 

高速で移動しながら部屋中を片付けていくステラ。ノイド星人ならではの荒業だ。

 

 

 

 

 

ものの数分で粗方の掃除が終わり、ステラは疲れを追い出すように息を漏らした。

 

直後、部室の前に人の気配を感じ、誰かが入ってくることも瞬時に察する。

 

扉を開けて入ってきたのは、顔の整ったダークブルーの髪を持つ少女だった。

 

「おはようございま〜す……ってステラしかいない」

 

「おはよう、ヨハ子」

 

「ヨハネ!……って、その呼び名は……」

 

「未来がいつもこう呼んでるから」

 

「あの男ぉ〜……!リトルデーモンの分際でぇ!」

 

頭に作ったシニヨンが特徴的な彼女とは、結構話す方だ。主にステラが善子の()()にツッコミを入れてるだけだが。

 

「まったくもう!みんなヨハネのことを軽視しすぎよっ!」

 

「そんなことないわ。あなたが自分のことを重視し過ぎなだーけ」

 

「あんたって容赦ないわよね」

 

目を細めて視線を突き刺してくる善子を尻目に、ステラは中心に設置されているテーブル前の椅子に腰掛けた。

 

「…………あれ?ここに置いてた黒魔術書は?」

 

「え?ああ、整理しといたわよ」

 

ピッ、と腕を組みながら人差し指を部屋の端にある段ボール箱へと向ける。

 

それを見た途端に、善子の眉がつり上がっていくのがわかった。

 

「ちょっと!勝手なことしないでよ!」

 

「な、なに?わたしは掃除しただけよ!」

 

「それが勝手だって言ってるの!」

 

「なっ……なによ!あんな邪魔なものほったらかしにしろって言うの⁉︎」

 

ステラはムキになるとなかなか止まらない。そのことを熟知しているヒカリは即座に「まずい」と彼女の体内で頭を抱えた。

 

「邪魔なもの……ですってぇ……⁉︎」

 

全身を震わせて怒りを表現する善子に、ステラも負けじと尖った視線を突き付け続けた。

 

「もう怒ったわ!あなたはヨハネに使えるリトルデーモン失格よ!天界堕天条例に従ってその軽はずみな発言を訂正しなさい!」

 

「その要求斬り捨てるわ!それにわたしはあなたの手下じゃない!」

 

『おいステラ、そのへんに……』

 

ヒカリの制止など全く耳に入っていない様子だ。

 

席を立った二人はしばらく睨み合った後、善子の瞳に涙が溜まり始めたところでステラはハッと目を見開いた。

 

「うっ……!わぁぁあん!もうステラなんか知らないんだからっ!!」

 

飛び出すように部室を出ていく善子。その後ろ姿を、ステラは呆然と眺めていた。

 

「な、なんで泣くのよ……」

 

『やってしまったな』

 

先ほどまでの熱が一瞬で冷めていくのがわかった。さすがに言い過ぎたかもしれない、と罪悪感がせり上がってくる。

 

ステラは倒れるように椅子へもたれかかると、頬杖をついて愚痴をこぼしだす。

 

「だいたい、なによ……リトルデーモンって……。これも地球では当たり前の文化なの?」

 

善子がAqoursの一員として加入する時は気にならなかったが、今になってステラは彼女の言うことの意味に疑問を感じ始めた。

 

『いや、未来達や他のAqoursメンバーの反応を見るに、そういうわけではないらしい』

 

最初にこの星に来た時よりも馴染んでいるのは確かだ。しかし、まだまだわからないことが多すぎる。

 

『だが未来達は、君のように疑問を感じることはないようだな』

 

「…………ふんっ。似てるといっても、所詮は違う星の住人同士よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ステラ、そのままではいけない』

 

「えっ?」

 

ヒカリの雰囲気がいつもより堅くなったのを感じ、思わず意識を彼に集中させる。

 

『君はこの星と、人間を守ることに決めたのだろう?』

 

「…………まだわからないけど、降りかかる火の粉は払うつもりよ」

 

『なら、まずはこの星の人間を知らなくてはならない』

 

「人間を、知る……?」

 

『そうだ。この星のあらゆる命の声を聞き、自身の心と向き合うんだ』

 

ヒカリの言っていることの意味はうっすらとしか理解できなかった。

 

この人はずるい。彼が自分に質問する時は、決まって”ヒント”までしか語ろうとしない。答えは自分で見つけろという意味だろう。

 

「難しい言い方しないでよ……。あなたは本当にわかりにくいわ」

 

『君なら見つけることができるさ』

 

 

 

 

 

 

不意に部室の扉か開き、今度はぞろぞろと数人の少女達が流れ込んでくる。

 

「こんにちは〜」

 

「あれ?なんだか少ないね」

 

未来と善子を除いた全員のAqoursメンバーが部室に集結した。

 

「そういえば、さっき善子ちゃんとすれ違ったけど……、何かあったずら?」

 

「泣いてたよね……」

 

「えっ?さ、さあ……。未来はどうしたの?」

 

「それが……」

 

千歌は苦笑いを浮かべて数分前の幼馴染の様子を思い出す。

 

「いくら呼んでも、起きてこなくて……」

 

「えぇ……何やってるのよあいつ……」

 

久しぶりに未来に対してのため息を吐き出すステラであった。

 

 

◉◉◉

 

 

「やばいやばいやばい!!!!」

 

『僕は知らないからね』

 

「わかってるよんなこと!!」

 

未来はバスから飛び降りると、すぐに地面を蹴って学校へ続く坂を上り始めた。

 

「まさか寝坊するなんて……」

 

昨日偶然動画サイトを漁っていたら善子の動画へ辿り着き、夜遅くまでその関連動画を視聴していたのが悪かった。

 

もちろん今朝はメビウスや千歌達が起こそうとしてくれたが、結果は言わずもがな。

 

「くっそぉ!地味に何個か面白い動画あげやがって!!」

 

『梨子ちゃんへの言い訳は?』

 

「素直に謝るよちくしょう!!」

 

『よろしい』

 

全力疾走で坂を駆け上がり、すぐに校舎が見える所まで到達した。

 

「ん……?」

 

不自然に道の真ん中に立つ人影が見え、咄嗟に立ち止まる。

 

和風の衣服で傘をかぶっている、腰に日本刀らしきものを下げた男だった。

 

(なんだ……?)

 

『…………⁉︎』

 

男はゆっくりとこちらに近づいてくるなり、一言未来へと言い放った。

 

「貴様がツルギか?」

 

「は?」

 

ツルギという言葉が何を意味するか、思い出すのに十秒。そして目の前にいる男が誰なのかを考えるのにさらに十秒。

 

やがて、彼が宇宙人だという結論が頭に浮かぶ。

 

「……誰だよあんた」

 

「俺はザムシャー。ハンターナイトツルギとの決闘に参上した」

 

「決闘……?」

 

なんのことかさっぱりだ。そもそも未来の中にいるのはツルギではなくメビウスだ。

 

「とぼけるな。以前果たし状を送ったはずだろう」

 

「はた……、いやまてまて!ていうか俺はツルギじゃないし!」

 

「ならば貴様が宿している者はなんだというのだ?」

 

どうやら彼にはメビウスが未来の身体の中にいることはお見通しらしい。

 

ザムシャーはピリッとした緊張感を放ちながら未来へ問う。

 

「あー……えっと……」

 

未来が返答に困っていると、彼の体内からオレンジ色の球体が飛び出してきた。メビウスだ。

 

「ツルギか……?」

 

『すまないが、違う。僕の名前はメビウス。君の探しているツルギと同じ星の出身だ』

 

「なるほど……、どうりで”似ている”と感じたわけだ」

 

未来とメビウスがツルギでないことをわかると、ほんの少しだけ柔らかい雰囲気になったザムシャーがさらに質問を重ねてくる。

 

「ではツルギについて何か知らないか?俺は奴と決闘の約束をしているのだが……」

 

「決闘の……約束?」

 

そんなことステラとヒカリは話してただろうか、と眉根を揉んで考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー無視に決まってるでしょこんなの。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

過去の映像が脳裏をよぎり、冷や汗が頬を伝った。全身から血の気が引いていくのがわかる。

 

そう、思い出したのだ。

 

ステラは前に果たし状が届いたと言っていた。だがそれは既に……。

 

 

 

 

(あいつが破り捨てちゃってたじゃん!!)

 




善子回と見せかけてステラ回でもあるお話です。
次回はついにヒカリとザムシャーが決闘……⁉︎

プチ解説です。

以前後書きで報告したと思いますが、善子回の次は一気にサンシャインパートを進めていきます。途中で怪獣も登場させるかもしれませんが、基本的に9〜11話辺りまで進めるつもりです。
ノワールがまた何か企んでいるようですが、それはサンシャインの話を進めた後に書く未来&千歌回で詳細が明かされます。よってネタバレするわけにはいきませんw

そして第一章のクライマックスに満を辞して怒涛の展開が待っています。

それでは、今年もメビライブサンシャインをよろしくお願いします!


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第29話 星斬りの訪問者:後編


ステラ&善子回後編!

ああ……オーブのオリジンサーガ観たいけど、Amazonプライム会員じゃない……。


「どうかしたか?」

 

「いえ、お気になさらず」

 

顔を横に振ってそう言う未来だったが、内心焦りまくりだ。

 

まさか以前ステラが滅多斬りにした手紙の差出人がわざわざ訪ねてくるとは。それに決闘がどうとか言ってたし。

 

ここまで気不味い場面に出くわしたのは久々だった。

 

「お前達はツルギの知り合いのようだな。奴の居場所を知っているのならば教えてもらおうか」

 

時代遅れな風貌をした宇宙人が鋭利な目つきを向けてくる。

 

一方、未来はどう誤魔化そうかという考えで頭がいっぱいになっていた。

 

「どうするんだよ……、なんかめんどくさいことになりそうだし、お帰り頂く?」

 

『でもわざわざ地球まで来たみたいだし……』

 

小声でメビウスと会話しているのがバレたのか、ザムシャーと名乗った宇宙人は不信感を含んだ声音で聞いてくる。

 

「噂に寄れば”ステラ”と言う名のノイド星人と共に行動しているとか……。何をコソコソと話している」

 

……そんなことまで知っているのか。

 

一体ヒカリとステラは過去に何をしてきたんだという疑問が自然と浮かんでくる。

 

漂う不穏な空気に、未来はたまらず半歩引いてしまう。

 

「どーすんだよ!もう俺怖いよこの人!あれ絶対何人か()ってる目だよ!」

 

『名前くらいは聞いたことあるよ、宇宙剣豪のザムシャー……』

 

メビウスの話を聞くと、どうやら彼は宇宙の様々な場所で強者に決闘を挑んでは勝利し、名を轟かせている者らしい。

 

一時期グレていたヒカリーーもといツルギの噂を聞きつけて来たのだろう。彼の目的はおそらくヒカリ達と一戦交えることだ。

 

「でも帰ってもらうにしても……ステラとヒカリをけしかけて追い払うなんて……俺もお前も嫌だろ?」

 

『そうだね。できれば争わないように……穏便に……』

 

未来とメビウスの平和主義な意見を斬り伏せるように、唐突にザムシャーが口を開いた。

 

「……時間の無駄だったようだな」

 

「あっ!ちょっ……待て!」

 

ザムシャーは未来の横を通り、風のような速さで坂を下りていった。

 

威風堂々とした雰囲気の余韻を感じつつ、未来とメビウスは唖然とした様子で既に誰もいない背後の坂道を見据えた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ふんっ!むこうが謝るまで許してやらないんだから!」

 

制服のまま校庭へ飛び出した善子は、途方に暮れたような顔で街へ行こうと歩き出した。

 

校門前辺りまでやってくると、走りながらこちらに向かってくる少年とすれ違う。

 

「あれっ?ヨハ子ちゃん?」

 

「ヨハネだってば……」

 

立ち止まって、背中を向けている善子を見て首をかしげる未来。

 

「もう練習始まってるんじゃ……」

 

「私、今日は休むわ」

 

「へ?なんで……」

 

「なんでもいいでしょっ⁉︎」

 

そう言い残して、すぐさま未来の元から離れようと駆け出す。

 

今思い返せば、下らないことで喧嘩をしたと後悔している。ステラにだって悪気はなかったはずなんだ。

 

彼女はただ、合理的な考えが過ぎるだけで、Aqoursのことを想っているからこその行動だったのだから。

 

「はあ……これじゃあ顔も合わせづらいじゃない……」

 

バス停まで下りてくると、善子は足を止めて先に見える海岸を眺めた。

 

海鳥の鳴き声が青い景色の中を木霊し、太陽の光がジリジリと肌を焼く。

 

「あーもうっ!私のバカ!ステラのバカーーーーッ!」

 

内にあるものを全て吐き出す勢いで叫ぶ善子。辺り一帯に彼女の声が響き、先ほどまで聞こえてた海鳥の声よりも遠くへ渡った気がした。

 

「”ステラ”……だと……?」

 

「え?……わぁ⁉︎」

 

いつの間にか隣に立っていた侍のような姿の男に驚き、仰け反ってしまう。

 

「貴様……今、確かにステラと口にしたな……?」

 

「きさっ……⁉︎だ、だれ!?」

 

見覚えのない顔に戸惑う善子を、男は気にも留めずに問い詰める。

 

「……ちょうどいい。少々手荒だが、協力してもらうことにしよう」

 

「へっ……?」

 

男は手刀を作ると、目にも留まらぬ速さで善子の背後に回り込み、うなじ部分に軽く叩き込んだ。

 

一瞬で気を失い倒れかけた善子を抱え、男は懐から一枚の紙を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「休憩〜……」

 

「はーい…………」

 

屋上で練習中の千歌達は、いつまで経っても善子が戻ってこないことに不安を感じ始めていた。

 

「善子ちゃん、どうしたんだろう……」

 

「今までこんなことなかったよね……」

 

「さっき校門前ですれ違ったけど、何かあったのか?」

 

未来の質問にはだれも答えず、ただフルフルと首を横に振るだけだ。

 

その中で、ステラだけが申し訳なさそうな顔で露骨に未来から目を逸らしているのが目立った。

 

「ステラ?」

 

「なっなに?」

 

「……?いや、お前何か知ってないか?」

 

「ぃ……いいえ、し、知らないわ……」

 

(怪しすぎんだろ)

 

明らかに挙動不審な彼女を見て、鈍い未来やメビウスでさえ異変を感じる。

 

「ちょっとこっちこい」

 

「わ、わたしはなにも隠してないわ!本当よ!」

 

未来に引きずられていくステラという珍しい図に、千歌達は呆然と二人を後ろから見送った。

 

 

◉◉◉

 

 

二年生教室前の廊下まで移動し、未来とステラの二人きりだけの空間となる。

 

たまに他の生徒が通りかかったが、近づき難い雰囲気に自然と離れていく。

 

「え〜と……、これは……」

 

「なによその目は。いいわよ、わたしが悪いって言いなさいよ」

 

『どっちもどっちなんじゃ……』

 

話を聞くと、一重にどちらが悪いとも言えないものだった。

 

ステラも善子も素直な性格ではない(ゆえ)、このような結果になっているのだろう。

 

「そんなに気になるんなら、謝ればいいじゃないか」

 

「わかってるけど〜……!」

 

頭を抱えるステラというのもレアなケースだ。しばらく見物していたいところでもあるが、ここはさっさと解決してほしい。

 

「……あ、そういえばステラさ。前に”喧嘩売られた”とか言ってたよな?」

 

「なんの話?」

 

「完全に忘れてやがる」

 

もう興味のかけらもなかったんだろうな……。ステラは面倒なことに関しては極力巻き込まれたくないのだろう。

 

そんな性格でなぜボガール狩りなんかしていたのかが不思議だが。

 

「ザムシャーって奴がお前を訪ねて来てたんだよ」

 

「ザムシャー……あの宇宙剣豪の?」

 

『ステラ、もしや以前の手紙は……』

 

ヒカリに指摘されて始めて気がつくのと同時に、普段感情の上下がわかりにくいステラの顔がみるみる青くなっていくのがわかった。

 

「ああ……あの手紙ね」

 

「思い出したか……、どうするんだよ?」

 

「無視を通すわよ。わたしは前と違って、お遊びに付き合ってる暇なんかないの」

 

『お遊び……か、どうやら向こうはそうは思っていないようだな』

 

瞬間、弾丸の如きスピードで廊下の窓から何かが突っ込んでくるのが見えた。

 

窓ガラスにもたれかかっていたステラの頰を掠め、壁に甲高い音を上げて物体が固定される。

 

見てみるとそれは、小刀で縫い止められた一枚の紙だった。

 

「なんだぁ⁉︎」

 

「これは……」

 

壁に近寄り、小刀を引き抜いて付いてきた紙切れを手に取る。

 

 

人間の少女を一人預かった。

 

 

紙には、ただそう一言だけ記されていた。

 

「ザムシャーから…………なのか?」

 

嫌な予感を察知したステラが咄嗟に地面を蹴り、窓から飛び降りる形で校庭へと飛び出した。

 

すぐに未来も後を追おうとするが……、

 

「こないで!」

 

「ステラ……?」

 

「これは、わたし達だけの問題よ」

 

いつの間にか遠くの方で巨大な人影が形成されていくのが見える。

 

甲胄をその身にまとい、引き抜かれた刀を片手に持つ、宇宙人の姿。おそらくあれがザムシャー本来の姿だ。

 

「人質取るような真似されちゃ、行くしかないか……」

 

『準備はいいか?』

 

「ええ、わたし達の力、見せてあげましょう!」

 

ナイトブレードを取り出し、右手に出したナイトブレスに挿し込む。

 

青い光に包まれたステラが飛翔し、ザムシャーの目の前までやって来ると、ついにその巨体を露わにした。

 

「その青き身体……ツルギだな?」

 

『お前の挑戦、受けてやろう』

 

街中に現れた二人の巨人。その周りには張り詰めた空気が漂い始め、遠目で見ている未来は息を呑む。

 

(人質はどこかしら?)

 

「安心しろ。もとより危害を加えるつもりなどない」

 

ザムシャーが見やった方向を見る。

 

そこにあったのは、近くの砂浜に目を閉じて横たわっている善子の姿だった。

 

彼女はただヒカリとステラを呼び出すための餌として使われたのだろう。

 

(やっぱりあの子が捕まってたのね……。ごめんなさい)

 

ステラは心中でそう呟いた後、青い巨人の身体を操って右手のナイトブレスから抜刀する動きでナイトビームブレードを伸ばした。

 

「…………」

 

風の音だけが聞こえる。

 

意識を集中させ、戦いが始まるのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ーーーーーーーーッッ!!」」

 

雷のような速度で振り抜かれた二つの刃が激突し、街中にその音が響き合った。

 

両者は休む暇など与えられず、お互いの動きを読んでそれぞれの剣を繰り出す。

 

(なかなかの腕ね……)

 

『ああ、だが俺達も負けてはいない……!』

 

「デヤァッッ!!」

 

一瞬の隙を見てナイトビームブレードの刺突を放つヒカリ。だがそれすらも先読みしていたのか、ザムシャーは身を翻してそれを回避する。

 

「せいっ……!」

 

「ヤァアアッ!」

 

互角の戦いとはこのことを言うのだろう。拮抗し、どちらが勝っても、負けても、おかしくない状況だ。

 

侍と騎士。剣を極めし者同士が、尚も自らの力をぶつけ合っている。

 

「甘いわ!」

 

「…………!」

 

ヒカリが攻撃を放った瞬間を見計らい、ザムシャーは胴体に星斬丸を振りかざす。

 

ギリギリのところで前宙し、躱すことに成功したヒカリだったが、さすがに今の一撃は危なかったと胸をなで下ろした。

 

「……聞いていたほどではないな。俺は貴様らを少々買いかぶっていたようだ」

 

『それは、どうかな?』

 

「なんだと……?」

 

『悪いが今の()()()は、以前とは違う』

 

ヒカリは膝立ちの状態から腰を上げ、再びナイトビームブレードをザムシャーへ向けて構えた。

 

『(ここから先は、二対一でいかせてもらう)』

 

「なにっ…………⁉︎」

 

飛ばされた斬撃を星斬丸で弾く。が、そのわずかな間でザムシャーに肉薄したヒカリは、下から上へと光の刃を振るった。

 

「これは……っ!ノイド星人の小娘と、ツルギの動きが……!」

 

ーーーーーー完全にシンクロしている……!

 

「デェェエエエヤァアアアア!!」

 

「くっ……!」

 

距離を取り、攻撃を回避したとほぼ同時に、両者が再びお互いに向かって走り出す。

 

「「……………………ッッ!!」」

 

 

刹那的な交差。

 

蒼雷の剣と星斬りの刀が激突し、耳をつんざく音の刃が生まれる。

 

数秒の静寂を確かめた後、ピシッと何かが砕ける音が耳に滑り込んできた。

 

「なにっ……⁉︎星斬丸が……!!」

 

ザムシャーが握っている名刀が、音を立てて両断されたのだ。

 

小惑星すらも真っ二つにする刀が、ヒカリのナイトビームブレードの前に敗れ去った。

 

 

 

 

「なぜだ……!なぜ俺は負けたのだ……⁉︎」

 

『……もし戦っていた者が以前までの俺達ならば、勝者はお前になっていたかもしれない。その理由がわかるか、ザムシャー?』

 

「なんだと……ッ⁉︎」

 

(ヒカリ……?)

 

ステラは唐突に語り出した相棒に困惑し、不意に彼とザムシャーの顔を交互に見た。

 

『教えてくれた者がいるんだ、強さの意味を。力を振るうことの重要さをな』

 

「力の重要さだと……?」

 

『ああ。そいつはいつも、何かを守るために戦っていた。……あの戦士達のおかげで、今の俺とステラがある』

 

「守る……」

 

ブレードを消滅させるヒカリを見て、敗北を悟ったザムシャーは舌打ちしながら背を向けた。

 

「俺はいずれ、再び貴様らに挑戦する。その時は、必ずこのザムシャーの名を首に刻み込んでやる」

 

そう言って地面を蹴り上げ、大空へと飛び上がるザムシャーの後ろ姿を、ヒカリとステラは見えなくなるまで眺めていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ん…………」

 

「目が覚めた?」

 

頰のザラザラした砂の感触と、潮の匂い。ステラの声が聞こえ、善子は重い瞼を開いた。

 

「あれ……私……、いたっ……!」

 

うなじを抑えて身を縮ませる善子に肩を貸し、ステラは海岸から出ようと足を踏み出した。

 

「……ごめんなさい」

 

「……え?」

 

「わたし、あなたのことを理解していなかったわ」

 

人間を守るために、人間を知る。

 

メビウスがそうしようとしているように、ヒカリとステラもまた、守るということが何を意味するのかを探さなくてはならない。

 

 

ーーーーわたしは、人間のことを…………理解したい。

 

 

 

「私の方こそ……悪かったわよ」

 

顔を赤くして謝る善子を見て、驚いたような顔をつくるステラ。

 

「てっきり、もうちょっと拗ねてるんじゃないかと思ったわ」

 

「な、なによ!口が減らないわね!」

 

「ふふ……、ごめんごめん!」

 

 

◉◉◉

 

 

「ふうん、ザラブ星人にババルウ星人か……」

 

黒い荒野が内部に広がる、ダークネスフィア。

 

エンペラ星人の足元に跪く二人の宇宙人をしばらく観察した後、ノワールは腰に手を当てて口角をつりあげた。

 

「いい人材をお持ちで」

 

「此奴らを使って、何をするというのだ?」

 

「まあ見てなって。…………でも彼らを出す前に、必要な手順がまだ残っている」

 

ノワールは背後に感じる威圧感に微動だにしないまま振り返り、だらしない格好で座り込んでいる漆黒の戦士に目を向けた。

 

「いよいよ君の出番が近づいているわけだが……準備はいいかい?」

 

「やっとか……。待ちくたびれたぜ」

 

黒い鎧を身にまとい、槍を持ち上げる禍々しい()()()()()()

 

「ベリアル、まずは君が地球へ向かってほしい。……極力ボクの指示に従ってくれると嬉しいな」

 

「どうでもいい。俺はただ、暴れたいだけだぁ!!」

 

赤黒い光線を槍の先から乱射するベリアルを一瞥し、ノワールは眉をひそめた。

 

 

 

 

(哀れだね……。こんなものが彼の憧れた存在だなんて……)

 

 




少し前にサンシャインパートで善子回をやったばかりでしたので、今回の話はどちらかというとステラを主要とさせて頂きました。

さて今回も解説のお時間です。

メビウスと未来も同じですが、ウルトラマンの身体を動かしているのは基本ステラです。
意識を完全に乗っ取ることもやろうと思えばできるのでしょうが、メビウスもヒカリも、それは人道的ではないと判断してます。(ツルギだった時は普通に乗っ取ろうとしてましたけど)
今回登場したシンクロという言葉ですが、あまり深い意味はありません。ウルトラマンと宿主がより強い力で繋がることができたという意味と捉えてください。ユナイトですユナイト。
ちなみにメビウスと未来はまだこの状態に至っていません。

さて次回からの数話、一気にウルトラマン要素が少なくなると思いますが、ご了承願います。


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第30話 廃校への抗い


今回からサンシャイン6話に突入。

ゼロクロニクルが終わったら新しいウルトラマンって始まるんですかね……?


「どういうことですの⁉︎」

 

「書いてある通りよ。沼津の高校と統合して、浦の星学院は廃校になる……。わかってたことでしょう?」

 

「それは……そうですけど……」

 

理事長室で何やら深刻な話をしている様子のダイヤと鞠莉。

 

身を乗り出して抗議するダイヤを、鞠莉はゆったりとした口調でなだめる。

 

「ただ、まだ決定ではないの。まだ待って欲しいと……私が強くそう言ってるからね」

 

「鞠莉さんが?」

 

「何のために、私が理事長になったと思っているの?」

 

瞼を閉じて物思いにふける鞠莉を見て、ダイヤは何か悟ったように顔を伏せた。

 

「この学校は失くさない。私にとって、どこよりも…………大事な場所なの」

 

「方法はあるんですの?入学者はこの二年……、どんどん減っているのですよ」

 

「だからスクールアイドルが必要なの」

 

先ほどから表情を曇らせていたダイヤだったが、鞠莉のその一言でより一層悲しげな顔になる。

 

「鞠莉さん……」

 

「あの時も言ったでしょう……?”私は諦めない”と。今でも決して、終わったとは思っていない」

 

不意に差し出された細い腕に視線を落とすダイヤ。

 

まるで鞠莉の手を視界から遠ざけるように目を閉じた後、一言だけ残して部屋を去ろうとする。

 

「私は、私のやり方で廃校を阻止しますわ」

 

扉が閉まる音が聞こえ、鞠莉は前に出した手を引き戻し、空しく呟いた。

 

「ほんと、ダイヤは好きなのね……。果南が」

 

 

 

 

 

 

そしてその一連のやりとりを数百メートル離れた場所から観察していた人物が一人。

 

黒ずくめの悪意が、不敵に笑った。

 

「へえ、廃校か。この状況が利用できるかどうか……、少しだけ様子見といこう」

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーー統廃合おおおおおお〜〜〜!?!?!?

 

スクールアイドルの部室に集まったメンバー達が一斉にほぼ悲鳴に近い声を上げた。

 

「そうみたいですっ。沼津の学校と合併して、浦の星学院は無くなるかもって……」

 

「そんな!」

 

「いつ!?」

 

「それは、まだ……」

 

田舎ということに少子化というものが重なり、年々浦の星の入学希望者は減ってきている。

 

だが、まさかこんな急に話が挙がるとは思っていなかった。

 

「一応、来年の入学希望者の数を見て、どうするか決めるらしいんですけど」

 

いずれは直面していた問題だ。……ただ、少し唐突すぎる。

 

いや、どこかでみんな予感はしていたのかもしれない。ここは都会と違って人も多くない。当然子供の数もその分少なくなっていく。

 

「廃校……?」

 

「千歌?」

 

重苦しい雰囲気の中、たった一人だけ笑顔で顔を上げる。

 

「きた!ついにきた!統廃合ってつまり、廃校ってことだよね⁉︎学校のピンチってことだよね⁉︎」

 

「千歌ちゃん?」

 

「まあそうだけど……」

 

「壊れたか……?」

 

曜が目の前で手をかざしてみせても固定された笑顔で前方を見つめる千歌。

 

「なんだか、心なしか嬉しそうに見えるけど」

 

「だって!廃校だよー⁉︎音ノ木坂と、一緒だよ〜‼︎」

 

部室から飛び出したと思ったら校内を駆け回り喜びを表現する彼女に、未来達は呆然と立ち尽くす。

 

「これで舞台が整ったよ!私達が学校を救うんだよ!そして輝くの!あの、μ'sのように!」

 

「そんな簡単にどうこうできるわけないだろ」

 

善子を抱えてポーズを決める千歌を見て、目を細めながら突っ込みをする未来。

 

「花丸ちゃんはどう思う?」

 

「……と、統廃合〜‼︎」

 

「こっちも⁉︎」

 

千歌と同じく学校が無くなることに対してあまり危機感を感じていない様子の彼女は、むしろ沼津の高校に通えることを歓喜している。

 

「よ、ヨハ子ちゃんはどう思う?」

 

「そりゃ統合したほうがいいに決まってるわ!私みたいに、流行に敏感な生徒も集まってるだろうし!」

 

「よかったずらね〜!中学の頃の友達に会えるずら〜!」

 

「統廃合絶対反対ー!!」

 

花丸の一言で瞬時に意見をひっくり返す善子。

 

不意に千歌が机を軽く叩き、皆の視線が自然と彼女へ流れていった。

 

「とにかく!廃校の危機が学校に迫っているとわかった以上、Aqoursは学校を救うため……行動します!」

 

「ヨーソロー!スクールアイドルだもんね!」

 

「で、具体的には何をするつもりなの?」

 

ステラの質問に沈黙で答える千歌を見て、彼女が何も考えていないことが露見する。まあ予想していたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、μ'sがやったことはスクールアイドルのランキングに登録して……」

 

「ラブライブに出て有名になって……生徒を集める……」

 

「それだけなの⁉︎」

 

過去に調べた内容を走りながら口に出していく未来とステラ。

 

やがて海岸の砂浜で休憩をとっていると、意外とやるべきことの少なさに曜が思わず聞き返した。

 

「あとは……」

 

 

◉◉◉

 

 

大量の資料を机に山のように積み重ね、小原鞠莉はパソコンの画面に目を凝らしていた。

 

何度も同じ映像を見返す。かつて内浦に現れた光の巨人が、怪獣ディノゾールを倒す瞬間の映像だ。

 

当時の住民が撮影したもので、画質はかなり荒い。

 

「…………やはりこれだけで何か見つけるのは難しいデスね……」

 

目を静かに閉じ、鞠莉は過去の記憶を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

住んでいたホテルは半壊し、当時まだ幼かった鞠莉も瓦礫に埋もれて身動きがとれない状態となっていた。

 

「うっ……ぁ…………ッ」

 

子供……それも女の子の力ではここから抜け出すことなど叶うわけがない。

 

すぐ側では怪獣が暴れており、奴の放つ焼夷弾が流れてきた時には鞠莉の命も終わりを告げることだろう。

 

「だれか…………」

 

「鞠莉ッ!!」

 

「……⁉︎」

 

頭に小さな団子を作っている少女と、前髪をぱっつんと切り揃えた黒髪の少女。

 

ダイヤと果南が、鞠莉を助けようと駆けつけて来たのだ。

 

「鞠莉さん……!大丈夫ですの!?」

 

「ダイヤ!誰か大人の人呼んできて!」

 

「わっ、わかりましたわ!」

 

ダイヤに指示をした果南は、今度は鞠莉を覆っている瓦礫に小さな手をかけ、必死に持ち上げようと顔を真っ赤にしている。

 

「ふっ……う〜……!!」

 

「もうだめだよ果南……、私はいいからもう逃げて!」

 

「ぜったい……やだ!!」

 

泣きそうになりながらも友達を助けようとするその姿勢に、鞠莉は心打たれながらも彼女の心配の方が勝る。

 

「あっ……!」

 

次の瞬間、怪獣の放ったミサイル弾が鞠莉達のいるホテルへと迫ってきた。

 

「…………ッ…………!」

 

死を覚悟し、視線を背けようとした鞠莉だったが、予想外にも放たれた攻撃は寸前で突如現れた”光線”に撃墜された。

 

「えっ……?」

 

「あれは……」

 

その場にいた果南と鞠莉は、舞い降りた光のカーテンを、まるで神を見るような瞳で見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

『チッ……。めんどくせえなあ、まったく』

 

 

 

 

 

 

 

どこからともなく聞こえてくるその悪態は不思議と安心感があり、躍起になっていた果南と鞠莉に落ち着きを与える。

 

「光の……」

 

「巨人……?」

 

赤と銀の体色を持つその巨人は、怪獣に掴みかかるとそのまま戦闘に移った。

 

迫る斬撃、焼夷弾を巧みに回避し、逆に強烈な攻撃を撃ち込んでいくその姿は、まさにヒーロー。思わず見惚れてしまう戦いぶりだった。

 

『ケンの奴も人使いが荒い。こんなもん下っ端の仕事だろうが』

 

腕を十字に組んで放たれた光線が怪獣へ直撃し、肉片を撒き散らしながら爆発四散する。

 

「す……」

 

「すごい……」

 

(のち)に彼は、人々からウルトラマンと呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

「私達を助けてくれた、ウルトラマン。…………彼にもう一度会って、ちゃんとお礼を言いたい」

 

ーーーー私と果南に、ダイヤ。あの人が守ってくれたから、今もこうして日常を過ごしていられる。

 

「……こんなに素晴らしい友達を持てたんだもの。私は諦めないわよ、果南」

 

 

◉◉◉

 

 

外に出てカメラを構えている未来。

 

手始めに内浦のいいところを伝えるために、PVを作成するという話になったのだ。

 

今彼らは、外に出てその材料を探している最中だ。

 

「よしっ!じゃあ試しになんか撮ってみようか」

 

「わっ!いや、マルには無理ずr……いや、無理……」

 

「うぅ……っ!ピギィ……!」

 

くいっとカメラを花丸やルビィへと向ける。が、二人とも恥ずかしがって画面外へと逃げてしまった。

 

「あれ?…………ほいっ」

 

今度は隣に立っていたステラにレンズを向ける。

 

「斬るわよ」

 

「なんで⁉︎」

 

未来は一旦カメラを下ろし溜息をつくと、後頭部を掻きながら千歌達に言った。

 

「おいおいおい。肝心のメンバーが恥ずかしがってちゃ、PV撮るどころじゃないぞ」

 

「そうだよみんな!もっとグイグイいかないと!」

 

「じゃあ次、千歌」

 

「へ?」

 

再びデジカメを持ち上げ、Aqoursの誇るリーダーへと向ける。

 

急に振られたこともあってか、千歌は若干躊躇いながら……、

 

「えへへ、ピースピース」

 

「ホームビデオじゃないんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーカンッ!

 

「どうですかー⁉︎この雄大な富士山っ!!」

 

ーーーーカンッ!

 

「それとー、この綺麗な海!」

 

ーーーーカンッ!

 

「さらに!みかんがどっさり‼︎」

 

シーンを変えながら内浦の様々な場所を紹介していく千歌。やがて街の場面へと移り変わり……。

 

「そして街には!」

 

一瞬の沈黙。徐々に焦りが見え始めてきたその時、ついに彼女は口にしてしまった。

 

「街には…………特に何もないです!!」

 

「オイオイオイオイオイ」

 

一旦カットし、未来はカメラ前に立つ千歌にジトっとした瞳を向ける。

 

「ダメだろそれじゃ!」

 

「そんなこと言われても……」

 

「ええい次だ次!」

 

再び場面を変更させ、今度は沼津の街へ。今度は曜が台詞を言うシーンだ。

 

「バスでちょっと行くと、そこは大都会!」

 

(うんうん)

 

「お店もたーくさんあるよ!」

 

(いいぞいいぞ)

 

ほんの少しだけ調子が良くなり、ドンドンいこう!と次の場所へ移動する。

 

「そしてぇ……ッ‼︎ちょっとぉ…………ッ!!」

 

(うんう……ん?)

 

「自転車で坂を越えると……っ!そこには……!伊豆長岡の商店街が…………ッ……!!」

 

(…………)

 

明らかに辛そうな状態で紹介を始める千歌と梨子。息切れした様子の彼女達は地面に座り込み、肩を上下させながら途切れ途切れに台詞を言う。

 

「全然……ちょっとじゃない……!」

 

「はぁ……はぁ……沼津に行くのだって、バスで五百円以上かかるし……」

 

「ねえちょっと待って」

 

カメラを持たない方の手で顔を覆う未来。このままではいけない。人を呼び寄せるどころか、むしろマイナスのイメージを与えてしまう。

 

「一度ちゃんと考える必要があるみたいね」

 

「そうだな」

 

ここまで終始走って移動していた未来とステラだが、いつも通り体内の宇宙人のおかげで息一つ乱れていない。

 

「なんで二人ともそんなに元気なの〜……⁉︎」

 

「鍛え方が違うんだよ」

 

「ぷっ……メビウスのおかげなのによく言うわ」

 

「あ”?」

 

彼にしか聞こえない大きさで呟くステラを睨みつける未来。彼女はそれすらも面白がってクスクスと笑いを漏らす。

 

ノイド星人はそもそも基本的な身体能力が地球人よりも別格なので、ステラに関しては本来ヒカリの力を借りなくても、今回のような距離を走ったくらいじゃ疲れないだろう。

 

 

「さあ、そろそろ戻りましょ」

 

「ち、ちょっと休憩してから…………」

 

上体を地面に吸い付かせるように倒れ込む千歌達。

 

(先が思いやられる……)

 





なんと数年前の襲撃の時に鞠莉達は間近でベリアルのことを見ていたんですね。彼に救われたのは未来や千歌だけではなかった……。

解説はこの作品でのベリアルについて。

ディノゾール襲来時には既にベリアルはある程度出世しています。ただ、本編と同じようにウルトラの父は彼よりも上をいってしまったようですね。
アーリースタイルの時は愚痴を吐きながらも仕事はこなしていたようですが、カイザーダークネス状態の彼はどうしてああなった……。
ベリアルと未来が再会した時、未来は彼を受け入れることができるのか?
今後の展開にご期待ください!


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第31話 夜空を照らす夢

最初はメビウスに出てきたウルトラ兄弟から数人を出す予定だった今作ですが、最近になって平成ウルトラマン達もゲストとして登場させたくなってきました……。

といっても一章のメインストーリーに絡むのはメビウスとヒカリだけですがね。本格的な登場は二章になることでしょう。


「今の状況はどうなっている?」

 

「エンペラ星人の軍勢に動きは見られません。……ただ」

 

光の国。宇宙警備隊本部。

 

大隊長と呼ばれるウルトラの父が赤いマントを翻し、背後に立っていたゾフィーへと身体を向ける。

 

()()?」

 

「報告によると、奴とはまた別の者が暗躍している模様です。……なんでもエンペラ星人と同じ惑星の生き残りだと名乗っているようで」

 

「……⁉︎それは本当か⁉︎」

 

思わず語気を強くしてしまう。

 

エンペラ星人の故郷である惑星は、奴を除いて全ての住人が死滅したと聞いている。今更もう一人の生き残りが現れたと言われて驚かないはずがない。

 

「兄弟達は今何を?」

 

「はい。メビウスには内密にしていますが、既に地球へ到着しているようです」

 

「そうか」

 

ウルトラの父はどっと疲れたような様子で額に手を当て、小さく息を吐き出した。

 

ウルトラマンキングから授かっていた”光の予言”を開くと、さらに脱力する。

 

「まさか、その宇宙人がこの内容を盗み出したというのか」

 

誰にも気付かれずに、「予言の内容は拝見させてもらった」と書かれたメモだけを残して去った。

 

その宇宙人とは、他でもないノワールである。

 

「予想外の存在が多い。……いざとなったら、メビウスをこちらに呼び戻すことも考えなくてはならない。彼と一体化している、地球人のためにもな」

 

まだ若いメビウスをこのままエンペラ星人との戦争に正面からかち合わせるわけにはいかない。

 

それに今の彼は日々ノ未来という少年と一つになっている状態なのだ。メビウスが危険に陥るということは、同時に未来の危機でもある。

 

それだけは極力避けなければならない。

 

 

 

(……お前は今、何を考えている?…………ベリアル)

 

 

◉◉◉

 

 

『以上!”がんばルビィ!”こと、黒澤ルビィがお伝えしました!』

 

理事長室。

 

鞠莉は目の前で開かれた動画から流れてくる声と映像を薄目で眺めていた。

 

動画が終わり、部屋の中に数秒間の静寂が満たされた後、緊張気味に千歌が彼女へと問う。

 

「どうでしょうか?」

 

ゴクリ、と並んでいた他の面々も冷や汗を顔に滲ませながら、鞠莉の表情をうかがっている。

 

しかし一向に彼女は返答をせず、代わりに小さな寝息が聞こえてきた。

 

「…………ォ”ウ!」

 

どうやら居眠りしていたようで、鞠莉はたった今動画が終わっていたことに気がついたように閉じていた瞼を開いた。

 

その様子を見て拍子抜けした千歌達は思わずその場でよろけてしまう。

 

「もう!本気なのに!ちゃんと見てください‼︎」

 

()()で…………?」

 

「はいっ!!」

 

開いていたパソコンを軽く閉じ、鞠莉は若干眉をつり上げてAqoursのメンバー達に言い放つ。

 

「それでこの”テェイタラク”ですか?」

 

「て、”体たらく”……?」

 

「それは、さすがに酷いんじゃ……」

 

「そうです!これだけ作るのがどれだけ大変だったと思ってるんでーーーー」

 

あんまりな批評に次々とブーイングに近い意見が飛び交う。それを打ち消すように、さらに鞠莉は声を張り上げて言った。

 

「努力の量と結果は比例しません‼︎大切なのは、このタウンやスクールの魅力をちゃんと理解してるかデス!!」

 

「それってつまり……」

 

「俺達が理解していないということ……ですか?」

 

「じゃあ理事長は、魅力がわかってるってこと⁉︎」

 

善子がそう聞くと、鞠莉は引き締まった表情のまま彼女達を見据えた。

 

「少なくとも、あなた達よりは。…………聞きたいデスか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして聞かなかったの?」

 

昇降口で靴を履いている千歌に、梨子は先ほどの件について尋ねた。

 

「なんか、聞いちゃダメな気がしたから」

 

「なに意地張ってんのよ」

 

「意地じゃないよ。…………それって大切なことだもん」

 

街の良いところを知らない人間に、他人にそれを伝えられるわけがない。考えなくてもそれはわかる。

 

「自分で気付けなきゃPV作る資格ないよ」

 

「理事長が言ってたことは……まあ、俺も正しいと思う」

 

昔から住んでいた街の良いところを見つけるのは、思っていたよりも難しいもので、馴染みのある場所ほどそれは見つけにくいものなのではないか。

 

「”既に知ってること”を気付くっていうか……、再確認するのは簡単なことじゃない」

 

「…………そうかもね」

 

「ヨーソロー!じゃあ今日は千歌ちゃん家で作戦会議だ!」

 

と、曜が口にした瞬間梨子の全身が強張る。千歌の家で飼っているしいたけが怖いのだろう。

 

「喫茶店だってただじゃないんだから。梨子ちゃんもがんばルビィして!」

 

「…………はぁ」

 

そんなやり取りを見ていた千歌の顔が少し暖まり、やがて笑いを零し始めた。

 

「ぷふっ……ふふふふっ!あははははは!!」

 

学校が好きで、だから無くなって欲しくない。そのために仲間とスクールアイドルとして活動し、より絆を深めていく。

 

千歌は、思った。

 

ーーーーやっぱり私、この学校が好きなんだ。

 

「よーしっ!……あ、忘れ物した。ちょっと部室見てくる!」

 

そう言って部室のある体育館への道を戻る千歌。

 

「締まりがないリーダーだなあ、まったく」

 

おそらくこの場にいる全員が、千歌と同じ気持ちを抱えているのだろう。

 

スクールアイドル部の部員として出会った仲間達。みんなこの学校があったからこそ引き寄せられた者ばかりだ。

 

「ちょっと様子見に行ってくる」

 

未来は先ほど千歌が向かった体育館方面の廊下へ走り出す。床の軋み、壁の汚れ、空気の匂いを感じながら。

 

浦の星学院の中を、駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって……」

 

他のメンバーも未来の後をついてきて体育館まで移動すると、ステージで踊る一人の少女と、それを眺めている千歌が視界に入る。

 

「すごいです!私、感動しました!」

 

「な、なんですの?」

 

なんとそれは思いもしなかった人物だったのだ。

 

スクールアイドルを嫌悪していたはずの、黒澤ダイヤが見事な踊りを披露していたのである。

 

「ダイヤさんがスクールアイドルが嫌いなのは、わかってます」

 

ステージ上に立つダイヤを見て、千歌は一層瞳の輝きを強くさせた。

 

「でも、私達も学校が続いて欲しいって、無くなって欲しくないって思ってるんです。……一緒にやりませんか⁉︎スクールアイドル!」

 

彼女はその質問にすぐには答えなかった。

 

舞台から飛び降り、黒髪をなびかせた少女が千歌の横を通り過ぎる。

 

「残念ですけど。……ただ、あなた達のその気持ちは、嬉しく思いますわ。お互い頑張りましょう」

 

ふとダイヤが落としていったプリントを千歌が拾い上げる。そこには”署名のお願い”という文字がある。今度行われる海開きのボランティアに関してのものだろうか。

 

「なあルビィちゃん。もしかして会長って前は……スクールアイドルのことを……」

 

「……はい。ルビィよりも大好きでした」

 

その哀しげな後ろ姿を見つめる千歌の表情にも、同じモノが宿るのが見えた。

 

「ーーーーッ!」

 

咄嗟にダイヤに声をかけようとした千歌の前に、彼女の理解者が両手を広げて立ち塞がった。

 

「今は言わないで!」

 

「ルビィちゃん……」

 

「…………ごめんなさい」

 

ダイヤが何を抱えているのか。妹であるルビィさえも知らないそれを、未来はおろか千歌達だって知る由もない。

 

 

ーーーーブッブー!ですわ!

 

 

春の始めに聞いた、ダイヤの千歌に対する振る舞いを思い出す。

 

(…………あの人もきっと……、みんなと同じなんだ)

 

 

◉◉◉

 

 

まだ太陽が昇っていない、午前四時前。

 

未来はぼうっとする頭を掻きながら、寝間着から浦の星学院の指定ジャージに着替えていた。

 

「…………ぐぅ……」

 

『未来くん?』

 

「ああ、大丈夫。起きてる、起きてるぞ」

 

海開きになると毎年浜辺の掃除に住民が集まる。未来もそれに参加するため、いつもより早起きしているのだ。

 

「うー、さむ……!」

 

「あ、未来くん。おはよう」

 

未来が玄関を出るのとほぼ同時に、二軒隣に建っている家から梨子が同じく赤いジャージ姿でちょうど家の扉を開けて出てくるところが見えた。

 

「おはよう。さすがにこの時間は寒いねえ」

 

「そうね。でもこの街に来てから、私にとっては新鮮なことばかりよ」

 

「そっか。ここの海開きも初めてだっけ」

 

海までの道のりを二人で並んで歩いた。まだ四時前なので、周囲に人の気配はほとんどない。

 

しかし、浜辺に近づくごとに騒がしい声が聞こえてくるのがわかった。

 

「あ、梨子ちゃんに未来くん!」

 

「おはヨーソロー!」

 

二人と同じジャージを着た曜と千歌が、十千万(とちまん)の提灯と大きな袋を手に挨拶を交わしてくる。

 

「二人の分もあるよ」

 

「こっちの端から、海の方に向かって拾っていってね」

 

「よしきた!行こうぜ梨子!」

 

眠気と寒さを振り払うためにやけくそ気味に走り出そうとする未来。

 

そんな彼には気も留めずに、梨子は立ち止まって砂浜にいる人々を眺めた。

 

「曜ちゃん。毎年海開きって、こんな感じなの?」

 

「うん。どうして?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんだ、お前も来てたのか」

 

「悪いかしら」

 

しゃがみ込んでゴミ拾いに勤しむ、七星ステラの背中を見かけたのだ。

 

「大歓迎さ。人手は多いほうが助かるし」

 

「そ。…………それにしても」

 

「ん?」

 

ステラは一度立ち上がり、自分と同じように集まっている街の人達に視線を注いだ。

 

「思っていたよりも人が多いのね、ここ」

 

「まあ、街中の人に……学校のみんなも来てるからな」

 

こういう行事とか、イベントとなるとこの街の人々は進んで協力してくれる傾向がある。

 

街のあたたかさとでも言うのだろうか。

 

「千歌達のファーストライブの時も思ったんだけど」

 

「…………?」

 

「この街の良さってーーーー」

 

「あのー‼︎みなさん!!」

 

ステラが何かを言い終える前に、一人の少女の呼びかけが、道路沿いにある階段の方へ未来の視線を引き寄せた。

 

「私達、浦の星学院でスクールアイドルをやっている、Aqoursです!」

 

その場にいた全員の視線を集めた千歌が、遠くの海まで聞こえるような声で、あることを話し始めた。

 

「私達は、学校を残すために!ここに生徒をたくさん集まるために!みなさんに協力してほしいことがあります!!みんなの気持ちを形にするために!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「よしっ、準備OK!」

 

屋上に固定カメラを設置し終えた未来は、顔を上げてドレスのような衣装に着替えた千歌達を見た。

 

「こっちもいいよ」

 

「上手くいくかしら……」

 

「大丈夫!みんなにはちゃんと伝えたから!」

 

全員の立ち位置を確認したステラが未来の背後まで戻ってくる。

 

合図を送った未来に、Aqoursのメンバーは首を縦に振って返した。

 

「本番いくぞ!」

 

音楽が流れ、ついにAqoursのPV撮影が始まった。

 

 

ーー夢で夜空を照らしたいーー

 

 

 

千歌達が美麗なダンスと歌を披露していく中、未来はこれまでの準備期間のことを思い返していた。

 

街の人達や、学校の生徒みんなに協力を呼びかけ、”スカイランタン”の製作を手伝ってもらったのだ。

 

数多くのランタンを作ることに成功し、曲のサビを控えた今は真下で空へ浮かぶのを心待ちにしている。

 

(来るわよ)

 

(ああ、わかってる。タイミングはバッチリだ!)

 

 

曲の盛り上がりがピークに達したところで、夜空を照らすスカイランタンが上空に放たれた。

 

 

(さあ、これが内浦って街だ……!)

 

 

内浦という場所がどのようなところなのか。それをアピールするには最高のパフォーマンスが完成したのだった。

 

 

『わあ!すごいよ未来くん!飛んでる!飛んでるよ!ほら、ヒカリ!ステラちゃん!』

 

(おお、想像してたよりもずっと……)

 

(綺麗なものね……)

 

『ああ。素晴らしい光景だ』

 

千歌達のダンスと歌も相まって、光の粒が飛んでいくその景色は心を魅了するものがあった。

 

千歌達みんなの夢で、この空を照らした。

 

「大成功だな」

 

 

◉◉◉

 

 

撮影が終わると、千歌はおもむろに屋上の端へ歩み寄り、そこから広がる景色を眺めていた。

 

「お疲れ」

 

「未来くん。……どうだったかな?」

 

「ああ、すっごく綺麗だった!」

 

「ほんと⁉︎やったね!」

 

無邪気な笑顔でハイタッチを交わす千歌だったが、すぐに芯の通った表情へ変わる。

 

「私、心の中でずっと叫んでた。”助けて”って。”ここには何もない”って」

 

「…………でも、そうじゃなかった」

 

「うん。やっとわかった気がするんだ、この街のこと」

 

未来から目を離した千歌が、再び海に彩られた街並みを見下ろした。

 

「追いかけてみせるよ。……ずっと、ずっと!この場所から始めよう!」

 

そんな様子の千歌を見た曜、梨子……Aqoursのみんなも決意を新たにする。

 

「できるんだ!!」

 




何気にゾフィーが登場したのは初だったかな?
今までチラチラ登場していたウルトラ兄弟達の活躍はもう少し先になります。

解説いきましょうか。

今作のウルトラ兄弟達は正史のものとは違うため、過去に地球を訪れたという経歴を持つ者はベリアル以外はいません。
よって二章でメビウスや未来達と絡む予定の彼らも、テレビのそれとは違ったものになるかもしれませんね。
ていうか二章でやりたいネタって結構あるんですよね……、サファイヤちゃん関連とか……。(忘れた方は18話19話をどうぞ)

ここ最近の話にずっと登場していたノワールですが、今回はセリフなしです。あの人が書いてて一番楽しいキャラかもしれませんw

次回からはサンシャイン7話に突入ということで、東京にレッツゴー!
それではお楽しみに!


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第32話 戦慄のエンカウンター


新規URのルビィちゃんを引き当ててやりました。
やっぱり11連は神です。


「この前のPVが五万再生?」

 

部室の窓際でうちわを扇ぐ千歌が後ろを向いて反応した。

 

「ほんとに⁉︎」

 

「”ランタンが綺麗だ”って、評判になったみたい」

 

いつものように自分達のスクールアイドルランキングを確認しようと、パソコン前に身を寄せて集まる。

 

「ランキングは……」

 

未来は端に表示されているランキングへと視線を移す。

 

そこに書かれていた数字は……。

 

「99位ぃ⁉︎」

 

「ずらっ⁉︎」

 

「……きた。きたキター!」

 

なんと全国で五千以上も存在するスクールアイドルの中で二桁台ときた。

 

千歌もこの躍進には予想外だったようで、興奮気味に距離を縮めてくる。

 

「一時的な盛り上がりってこともあるかもしれないけど、それでもすごいわね!」

 

「ランキング上昇率では一位!」

 

「おお!すごいずら!」

 

「この前の演出がかなり効いたみたいだな」

 

夜空に浮かぶスカイランタン。

 

歌の雰囲気と内浦の風景も合わさり、PVとしては最高と言ってもいいレベルのパフォーマンスが撮れたのだ。撮影していた当人が声を上げるくらいに。

 

「なんかさ、このままいったらラブライブ優勝できちゃうかも!」

 

「そんな簡単なわけないでしょう?」

 

「わかってるけど、でも可能性はゼロじゃないってことだよ」

 

何気ない会話の最中、パソコン画面のメールアイコンに赤い表示が現れ、メールを知らせる音が同時に鳴った。

 

「なんだ……?」

 

早速その中身を見ようと、アイコンをクリックする。

 

「”Aqoursの皆さん。東京スクールアイドルワールド運営委員会”」

 

「東京?」

 

「って書いてるな」

 

千歌達や未来にはあまり馴染みのない言葉に、その場にいた全員がキョトンとした顔へ変わる。

 

「東京って、あの東にある京……」

 

「なにそれツッコミ待ちか?」

 

蝉の鳴き声がやかましく響く夏場の一ページ。

 

数秒の間押し黙った後、千歌達は揃って声を上げた。

 

ーーーー東京だあ!!!!

 

 

◉◉◉

 

 

「東京、東京かぁ……」

 

『嬉しそうだね』

 

「そりゃあもう!内浦から東京行くっていったら一大イベントだからな!!」

 

リュックに着替えや荷物諸々を詰め込みながら、未来は早口でそう語る。

 

幼い頃に両親と一緒に旅行へ行ったりと、何度か足を運んだことはあったが、やはり同じ場所でも東京となると熱が入ってしまう。

 

「ところで、なんでお前が当たり前のように俺の家にいるんだ?」

 

「いいじゃない別に」

 

普段十千万で過ごしているはずのステラがソファーに腰掛け、頬杖をついて未来を見下ろしている。

 

「わたし、そのトーキョーって所には初めて行くんだけど……具体的にはどんな場所なの?」

 

「人々が集う混沌溢れる魔都さ」

 

「テンション上がりすぎて善子みたいな口調になってるわよ」

 

いまいち未来や千歌の喜びをわかっていない様子のステラは、退屈そうに自分の髪の毛を弄りだす。

 

「行くのはいいけど、あんまり羽目を外しすぎないようにね」

 

「そんなこと言って、お前が一番はしゃぐことになるかもよ?」

 

「わたしが?まさか。それに、わたしはわたしで向こうに用があるのよ」

 

「え?」

 

一息ついてソファーから立ち上がったステラは、右手に出現させたナイトブレスを未来に見せつける。

 

するとブレスから突然光で構成された文字が浮かび上がった。

 

「これは……?」

 

『……ウルトラサイン⁉︎』

 

未来の身体から飛び出したメビウスがステラの右腕辺りを飛び回る。

 

「そう。誰からかはわからないけど、わたしとヒカリにトーキョーから送られてきた」

 

「なんでまた……」

 

「それはわからない。……けど、イベントで未来達が同じ所に向かうなら好都合だわ」

 

文字とナイトブレスを消して、ステラは言う。

 

「これがもし罠で、わたしの留守を狙って敵が仕掛けてくるかもしれないから……、あなた達も一緒に付いてこれるなら安心よ」

 

「いやいやいや……、お前らがいなくても俺達がいるだろ」

 

「あなたとメビウスだけじゃ心配なのよ」

 

ナチュラルに傷つくことを言うステラにヘコみつつ、未来は荷物の整理を続ける。

 

「ところで未来」

 

「なんだ?」

 

「今光の欠片を持ってるのは、誰?」

 

背を向けたまま質問するステラを一瞥する。

 

思い出すまでに数秒間黙った後、未来は確かめるように頭に浮かんだ人名を口にした。

 

「メビウスの話によれば……。ヨハ子ちゃんと、花丸ちゃんかな?」

 

「二人だけ、か……」

 

小さく呟き、ステラは未来を見下ろす。

 

「過去のケースを見れば、光の欠片を発現した人間は複数いるみたいね」

 

「そうみたいだな」

 

「…………()()()()()()()()()()()、か……」

 

未来に聞こえないほどの大きさでそう言い残したステラは、出て行こうと玄関へ向かった。

 

「お邪魔したわね」

 

「おおー」

 

ヒラヒラと手だけ軽く振って、未来はステラを見送った。

 

 

◉◉◉

 

 

「おーっすー…………なにこれ」

 

「私に聞かないで……」

 

外に出ると、十千万の前にド派手な格好をしたルビィと千歌、それと探検家のような服装の花丸がいるのが見えた。一体どこに何をするつもりだったのか。

 

「美渡さんにでも何か吹き込まれたか……」

 

「未来くんも梨子ちゃんもそんな格好で東京行って大丈夫なの?」

 

「それはこっちのセリフだと思う……」

 

未来は半袖のジーンズジャンパーにワンショルダーのリュックと、いたって普通の外見だ。

 

十千万の方から物音が聞こえたので振り返ると、ちょうど出てきたところのステラと目が合う。

 

「ごめんなさい、少し遅くなったわ」

 

その姿を見て思わずギョッとする。軍服にも見える黒のコートに顔の三分の一を埋め、被っているキャスケット帽のせいでほとんど表情が見えない。

 

「まさかそれで行く気なのか?」

 

「他に持ってる服が無いのよ」

 

そういえばステラの所持品のほとんどはヒカリが複製したものだったことを思い出す。

 

「あ、なら私の服着なよ。サイズもほとんど一緒だし」

 

「わたしは別になんでもいいけど……」

 

「じゃあついでにお前も着替えてきたほうがいいぞ」

 

「ええー⁉︎」

 

千歌とステラが十千万に戻って行くのを見送ると、今度は花丸とルビィに視線を移した。

 

「二人もだよっ!!」

 

「ずらっ⁉︎」

 

「ピギィ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌の姉である志満の車を借りて沼津の駅までやってきた未来達。

 

人集りが出来ていることに気がつき、なんとなくその場へ近づいてみると、堕天使モードと化した善子とそれを見て引き気味の曜の姿が視界に入った。

 

「すげえ、羽ついてるよ」

 

「善子ちゃんも……」

 

「やってしまいましたねっ」

 

「善子ちゃんもすっかり堕天使ずら〜」

 

「みんな遅いよー!」

 

未来達に気づいた曜と善子がこちらへ身体を向けた。

 

「善子じゃなくてぇ……ヨハネ!せっかくのステージ!溜まりに溜まった堕天使キャラを解放しまくるの!!」

 

その勢いに圧倒されて見物していた人々が散らばって逃げてしまう。

 

(ああ、梨子が過労になるかもな……)

 

初っ端からまとめ役の安否が気になるところだが、未来も千歌達と同じく心躍っていることに変わりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ー!」

 

「あっ!むっちゃーん!」

 

出発する直前になると、見送りに来た千歌の友人達が何かを抱えてこちらへ駆け寄ってきた。

 

「イベント、頑張ってきてね!」

 

「これ、クラスみんなから」

 

そう言って差し出してきた物は、袋に入った大量のパンだ。

 

「わあ、ありがとう!」

 

「それ食べて、浦の星の凄いところ見せてやって!」

 

「……うんっ!頑張る‼︎」

 

クラスメイトの応援を背に、ついにAqoursは東京へと旅立つのであった。

 

 

◉◉◉

 

 

「おお……やっぱり……」

 

大きな建物が至る所に見られる。内浦はおろか、沼津と比較しても比にならないほどの大都会。

 

「わあ見て見て!ほらあれ、スクールアイドルの広告だよね⁉︎」

 

「ここがトーキョー……」

 

若干その表情に驚きの色を見せるステラ。内浦との差に驚いているといった様子だ。

 

「はしゃいでると、地方から来たって思われちゃうよ」

 

「そ、そうですよね。慣れてますーって感じにしないと」

 

「そっか」

 

何か思いついたのか、千歌が急に飛び出したかと思えば街行く人の側で止まり、

 

「ほんと原宿って、いっつもこれだからマジやばくなーい?おーほっほっほっ!」

 

「おいやめとけ」

 

「千歌ちゃん、ここ秋葉……」

 

「てへぺろっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

衝動を抑えきれなかった千歌達は、ついに街中目掛けて駆け出した。

 

未来とステラも彼女達とはぐれないように後ろを付いていく。

 

「みんな好きに行動してるなぁ」

 

「ちょっとわたし、一人で色々見てくるわ」

 

「は⁉︎ちょっと待てステラ‼︎」

 

去り際に見えたステラの瞳が普段よりも輝いていたのが見えた。案の定この大都会に興奮したのだろう。

 

「あーもう!…………ってあれ!?」

 

前方へ身体を向け直すと、そこには既に千歌達の姿はなかった。

 

完全に見失ったのである。

 

「しまったぁーーーー!!!!」

 

 

◉◉◉

 

 

『迷子になっちゃったのかい?』

 

「俺はもうそんな歳じゃない」

 

沈んだ雰囲気でヨロヨロと人混みの中を進む未来。

 

「くそ……迂闊だった……」

 

『携帯電話もあるし、大丈夫なんじゃないかな』

 

「……それもそうだな」

 

千歌達も女子だ。そしてこういう場所に来た女の子という生き物は、しばらく夢中になって買い物をすることだろう。

 

「しかたない、俺達もどっかで時間潰すか」

 

『あ、あれ食べてみたいな』

 

「高えよ」

 

街に並ぶレストランやカフェの前に展示されている食品サンプルを見かける度にメビウスが反応する。食事をする必要のないウルトラマンにとっては、味を楽しむだけの娯楽に近いものなのだろうが。

 

「さて、どうするか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはぁ」

 

「……⁉︎」

 

後ろから肩を掴まれる感触に驚き、未来は足を止める。

 

「奇遇だね、こんなところで会うなんて」

 

「……っ……お、まえは…………‼︎」

 

間近に感じる不気味な雰囲気にどっと冷や汗が流れ出す。

 

未来はおそるおそる声の主の顔を確認した。

 

夏だというのに暑苦しそうな闇色のコート。塗りつぶされたような短い黒髪。そしてどこか清潔感のある男…………。

 

「やあ未来くん。一緒にお茶でも……どうかな?」

 

「ノワー…………ル……!!」

 

 




着々と物語が進んでいく……。
次回にはSaint Snow登場させられますかね。

今回の解説は、ノワールについて。(何度目だろう)

もはや未来やメビウスのライバルキャラとしてのポジションを確立したノワールですが、次回は少しだけ彼の心中が明らかになる予定です。
結構行動力はある彼が怪獣任せで自ら未来やメビウスと戦おうとしないのは作戦というのもありますが、一番の理由は巨大化や変身といった大層な能力を持っていないことでしょう。(ジャグラーの魔人態のような姿がないのです)
ぶっちゃけ本人はそこまで強くありません。せいぜい未来の身体を使ったメビウスと互角くらいでしょうか。第20話でエンペラ星人に押し負けたのも頷けますね。
そんなノワールも今後直接戦う機会を与えるつもりです。どうやってメビウスと戦うのかは……今後の展開をお楽しみに。


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第33話 彼の求めたもの


今回の最後にはテレビのメビウスでも重要な役割を果たしたあの人の登場です。


ーーーーどうして消えてしまったんだ!!!!

 

男は心の声を叫ばずにはいられなかった。

 

やっと見つけたものを、光を、また失ってしまったんだ。

 

「どうしてボクだけがこんな目に遭う……⁉︎どうして……!!」

 

自分はただ、光を取り戻したいだけなのに。光輝く()()()を、ただ遠くから眺めているだけで満足だったのに。

 

なのに、

 

なのに……!

 

なのに!!!!

 

彼女達は、とあるライブを最後に解散。活動を停止してしまったのだ。

 

「ボクは……ボクはこれから、何を支えにすればいいんだ……」

 

九つの、光を追いかけてきた彼女達を、男もまた必死に追い求めた。

 

もう、あの時間は帰ってこない。

 

「光が、欲しい」

 

ただ切実に、純粋に……、単純に、そう思うばかりだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

「シュワシュワコーヒーを一つ」

 

「じゃあ…………同じのを」

 

「かしこまりました」

 

目の前にいる黒ずくめから目を離さないよう、未来は前を見ながら適当なものを選んだ。

 

オーダーを終えた店員が去ると、未来の中でますます不安が膨れ上がっていく。

 

どうして自分は今、こんな奴と喫茶店の同じテーブルに座っているんだろうか。

 

「ここは人が多くて騒がしいね。あの頃と全く変わっていない」

 

「…………」

 

「そんな怖い顔しないでよ。ボクがこんな人目につく場所で君達と()るわけないだろ?」

 

ノワールの挙動一つ一つに注意しながら、警戒した様子で未来は口を開く。

 

「なんのつもりだ?」

 

「”つもり”……?またボクが何か企んでると言いたいのかい?」

 

「当たり前だ」

 

「悲しいなあ!……まあそう思われるのも仕方がないか」

 

”お茶をしよう”などという提案に承諾したのも理由がある。

 

この男の誘いを断れば街の人を無差別に殺戮し始めてもおかしくない。それに、ノワールには聞きたいことが山ほどあった。

 

「ボクはただ、君と話がしたかっただけだよ……、本当さ」

 

「今更よく言う」

 

「お待たせしました。シュワシュワコーヒーです」

 

プレートに乗せられた二つのグラスを運んできた店員が、二人の間に割り込み、テーブルの上へそれを置いた。

 

「ごゆっくり」と言い残して去るのを待ち、未来は再び切り出した。

 

「お前の目的はなんなんだ、ハッキリしろ。敵だと言うならどうして俺達に光の欠片のことを教えた?」

 

「前にも言わなかったかな。ボクは自分のために動いているだけさ」

 

グラスから一口コーヒーを流し込み、ノワールは続ける。

 

「ボクは光が見たい。……これは前にも言ったよね?」

 

「それがわからないって言ってるんだよ」

 

「でもこれは言ったかな。ボクはエンペラ星人と同じ惑星の出身だ」

 

『なんだって……⁉︎』

 

メビウスが驚いたのを察知して得意げな表情を浮かべるノワール。

 

エンペラ星人の同胞だと聞いて、未来は警戒心をさらに露わにする。

 

「メビウスなら知ってるかもしれないけど、ボク達の星は滅亡している。太陽の損失によってね」

 

「…………」

 

「でもボクは光を諦められなかった。……こんな穢れた闇は、ボクが望んだものじゃない」

 

自分の身体を指してそう言うノワールの顔は、とても哀しげだ。

 

「ボクは光を取り戻したい。その目的の為なら他人を利用しよう、街を壊そう、惑星を滅ぼそう。……それがボクのやり方だ」

 

悪びれもなくそう口走るノワールを見て、未来は確信する。

 

やはりこの男は、自分達の敵だと。

 

「……もう一つ質問だ。前に言ってた、俺の中にも闇が眠っているってのはどういうことだ?」

 

「それは、自分が一番よく知っているんじゃないかな」

 

「なに……?」

 

ノワールが言葉の切れ目でグラスに口をつけるのを見て、未来も緊張を紛らわすために泡立った黒い液体を飲んだ。

 

「君はどうしてウルトラマンになることを選んだ?」

 

「それは……、千歌を……みんなを守るためだ」

 

「へえ〜…………」

 

馬鹿にするような顔でこちらへ視線を飛ばすノワールに、未来はぐつぐつと腹の底で煮えたぎる怒りを抑える。

 

「…………それだけ?」

 

「……ああ」

 

「あーあーあーあー!!嘘つくのやめようよねえ!!」

 

急に身を乗り出してきたノワールに驚き、自然と身体が後ろへ引いてしまう。

 

「まさか自分の本心に気づいてないわけじゃないんだろう?……君が求めているものはそんなものじゃない。もっとシンプルな”力”だ」

 

「力だって……⁉︎」

 

「そう。小さい頃からの願いだったはずだ。”もっと力が欲しい”ってね」

 

「…………‼︎」

 

その言葉に昔の映像が脳裏をよぎる。

 

ディノゾールに焼き尽くされた街。幼馴染の悲鳴。そしてあの時感じた痛み、辛さ、憎さ、無力感。

 

しばらく未来が呆然としていると、ノワールは急に数人の人名を口に出し始めた。

 

「高坂穂乃果。園田海未。南ことり。西木野真姫。小泉花陽。星空凛。東條希。矢澤にこ。絢瀬絵里」

 

千歌達のためにスクールアイドルのことを調べたことがある未来にはその意味がわかった。これは過去に活躍したスクールアイドル、μ'sのメンバーだと。

 

だが、その次にノワールは信じられないことを言い放つ。

 

「”光の欠片”リストさ」

 

「なっ……!」

 

「今名前を挙げた人間は、過去に光の欠片を発現したことがある者。……ただ一つを除いてね」

 

椅子の背もたれに体重をかけたノワールが、未来を見据える。

 

「ボクが知っている限り、発現した前例があるものは一から九番目の光のみ。…………”十の光”が生まれたことは無いんだよ」

 

「それがなんで俺の話に繋がるんだよ」

 

「わからないかな……。ボクは前にこうも言ったはずだ、”未来くんにも光の欠片は埋まっている”と」

 

「……!まさか……」

 

「そう、君が宿しているものはおそらく”十の光”。まだ発現には至ってないみたいだけどね」

 

ーーーー十の光。九つの心を通わせ闇を消し去る、英雄の輝き。

 

光の予言の一文を思い出す。

 

最後の光が、自分の中にある…………。

 

「あの予言にある”英雄”って、何を指してるんだろうね?……ボクはこう考えるよ」

 

「……?」

 

「英雄ってのは他人に力を知らしめた者。自分を曝け出して、認められたものだ。すなわち、力を持つ者でないと成れない」

 

鋭い目つきで未来を見やる奴の雰囲気は、先ほどとは打って変わって張り詰めたものになる。

 

「君がみんなを守るため、なんていう偽りの決意を固めてしまったおかげで、光の欠片は君の中に抑え込まれてしまっているのさ」

 

「偽りって……!俺は本当に……!!」

 

「エンペラ星人を倒す力が欲しかったんだろう?そのためには未来くん自身が強くならなければならない。そう、」

 

…………不思議と奴の言葉は、説得力があった。

 

「君は英雄になるべき男なんだ、日々ノ未来くん」

 

「俺は……おれは……」

 

「まあ君にその気がないんならボクが手伝ってあげるよ。何をすれば目覚めるのかな?例えば……そう!千歌ちゃんや曜ちゃん、君の友達にちょこっと怪我を負わせるとかーーーー」

 

ほとんど無意識に、未来の腕はノワールの胸元に伸びていた。

 

乱暴に奴の胸ぐらを掴み、手前に引き寄せ睨みつける。

 

「そんなことやってみろ……!お前の首をはね飛ばしてやる……!!」

 

「おっかないね!…………それでいい、もっとボクを憎みなよ」

 

不意に店内の視線が未来とノワールに集まっていることに気がつき、未来は慌てて奴から手を離した。

 

「……ふふ。じゃあこの辺で失礼するよ。またどこかで会おう、未来くん」

 

ちゃっかり伝票を残して店の扉を開けるノワールの背中を、未来は殺意を持った視線を注いだ。

 

『未来くん……』

 

「…………くそっ。またあいつのペースに乗せられた」

 

イライラを押し殺し、グラスに残っている残りのコーヒーを一気に飲み干す。

 

 

 

「…………シュワシュワコーヒーって、正直微妙だな」

 

 

◉◉◉

 

 

「もう〜!時間なくなっちゃったよ!せっかくじっくり見ようと思ったのに……」

 

「なによ!だから言ってるでしょ⁉︎これは、ライブのための道具なの‼︎」

 

「そんな格好して〜……」

 

「だって、神社に行くって言ってたから!似合いますでしょうか⁉︎」

 

「敬礼は違うと思う……」

 

千歌達は今、明日のライブの成功を祈って御参りをするために神社へ向かっているところだ。なぜか曜だけ巫女服姿なのが気になるが。

 

「そういえば、ステラちゃんは本当にいいの?」

 

「ああ。あいつなら後から合流するから、先に行っててくれってさ」

 

先ほどヒカリから送られてきたウルトラサインによると、ステラ達にコンタクトを取った者と会うことができたらしい。

 

連絡を取る余裕があるということは、罠ではなかったということだ。安心してもいいだろう。

 

(それにしても……、誰があいつらにウルトラサインを送ったんだ?)

 

「……ここだ」

 

「ここが、μ'sがいつも練習していたっていう階段!」

 

神社のすぐ側まで来ると、見上げるほどの高さがある階段が目の前に見えた。

 

かのμ'sが練習に使っていたという場所である。

 

「登ってみない⁉︎」

 

「踏み外して怪我したりするなよ?」

 

「よーし!じゃあみんな行くよー‼︎よーい!!」

 

「ええっ⁉︎ちょっと待ちなさいよー‼︎」

 

脇目も振らずに一段目の石を踏み前へ進む千歌は、憧れの場所ということもあり、その瞳がきらきらと輝いている。

 

(この階段を登っていたんだな……μ'sも……)

 

9人の女神の姿と重なって、黒ずくめの微笑が頭に浮かぶ。

 

μ'sが過去に光の欠片を持っていたとしたら……。千歌達が彼女達と同じく、その可能性を秘めているのだとしたら……。

 

なぜ、彼女達なんだ?

 

共通点はなんだ?

 

そして、一度も生まれたことがない”十の光”とはなんなのだ?

 

(俺が求めていたものは……、”力”だったのか……?)

 

考えれば考えるほどわけがわからなくなっていく。

 

こんなことで頭を悩ませていたら、それこそノワールの思う壺なのだろうが……。

 

 

 

 

ーーーー〜〜〜〜…………♪

 

 

 

「…………?」

 

階段を登りきり、膝に手をついて息をする千歌の耳に入ってきたのは、とても澄んでいて、調和のとれた歌声だった。

 

落ち着いた雰囲気でありながらも、中にある自心を表しているかのような、存在感のある声を。

 

「あれは……」

 

本殿前に立つ二人組の女子高生。一人は暗い色の髪をサイドテールに、もう一人はツインテールに束ねている。

 

彼女達は千歌に気付くとおもむろに後ろを振り向き、そして……、

 

「こんにちは」

 

微笑んで、そう挨拶を口にした。

 

 

◉◉◉

 

 

夕暮れ時の裏路地というものは、不気味だ。ジメジメしているし雰囲気も最悪。

 

そんな場所を待ち合わせに選んだのは、人に聞かれるとまずい話をしようと思ったからだろう。

 

「あなたが、わたしとヒカリを呼んだの?」

 

「よく来てくれた」

 

ステラとヒカリを呼び出したと思われるのは、少々年老いて見える男性だった。

 

……いや、地球人の男性の姿を借りた宇宙人といったほうが正しい。

 

『……!君は……』

 

「そちらは……科学技術長官ですね?」

 

『……”元”だがね』

 

「ヒカリ……?知り合いなの?」

 

ステラの疑問は、すぐに男性自身の口から明かされることになる。

 

「私の名はタロウ。ウルトラマンタロウだ」

 

 




今回の話のほとんどが野郎同士で睨み合いしてるだけですね……。
Saint Snowギリギリ出せました。
そして以前第一章で活躍させるのはメビウスとヒカリだけ!と言いましたが、ごめんなさい訂正します。タロウ教官殿を忘れていました。
彼が活躍するということは……第一章で最後に登場する怪獣はもちろん……?メビウス本編を観たことがある人には察しがつきますね。

今回は解説と言うよりも、裏話的なのを紹介しようと思います。

今作の主人公である日々ノ未来くん。実は初期構想時点での彼は今とはかなり性格が違ってました。
もっと落ち着いた性格、というか柔らかな雰囲気を持ったほんわか少年といった人物だったのですが……、それだとメビウスとキャラが被ってしまうのでボツに。
そして代わりに、テレビのメビウス本編で登場したとある人物をモデルにしたキャラクターとして仕上げました。若干こちらのほうがマイルドになっていますが。
この作品の終盤でそれを思わせるシーンを入れようと思うので楽しみにしていてください。(鋭い人はもう気付いてるのかな?)


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第34話 不安の芽生え


今回でサンシャイン7話パートは終わりですね。いつもより少々長めになっております。


「こ、こんにちは」

 

ほんの少しだけ戸惑う様子を見せた後、千歌は制服姿の二人の少女へ挨拶を返した。

 

「……?」

 

『どうかしたのかい?』

 

(いや、この人達どこかで……)

 

記憶があまり定かではないが、この女子高生二人の顔は見覚えがあった。

 

どこかで会ったことがある、というのならハッキリとわかるはずなので、おそらくネットの記事か何かで彼女達を見かけたのだと思う。どんな内容だったのかは忘れたが。

 

「あら、あなた達もしかして……Aqoursの皆さん?」

 

「うそ、どうして……」

「千歌達のことを知ってるんですか?」

 

こちらは誰も二人のことを知らないようだが、向こうは千歌達がAqoursだということに気付いた。

 

ということは……。

 

「PV観ました。素晴らしかったです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

どうやら以前公開した「夢で夜空を照らしたい」のPVを視聴済みのようだ。それならAqoursのことを知っているのも頷ける。

 

「もしかして……、明日のイベントでいらしたんですか?」

 

「はい」

 

なぜか少し眉をひそめながらそう尋ねるサイドテールの少女に、千歌はキョトンとした表情で答えた。

 

「そうですか。楽しみにしてます」

 

そう言い残し、向かって左側に立っていた少女がゆっくりとその場から未来達の横を通り過ぎ、立ち去る。

 

一方もう片方のツインテールの少女は深々とお辞儀をした後、突然こちらに向かって走り出したのだ。

 

「おお……⁉︎」

 

地面に手をつき、アクロバティックな動きで()()を通ると、うっすら笑みを浮かべた後に後方へ綺麗に着地する。

 

「では」

 

背を向けて神社から離れていく二人の少女。

 

たった今目の当たりにした驚異的な身体能力に、千歌達は揃って目を見開いた。

 

(ステラみたいだ……)

 

「東京の女子高生って、みんなこんなにすごいずら⁉︎」

 

「あったりまえでしょ⁉︎東京よトウキョウ!!」

 

一年生三人が驚きの余韻に浸っている中、千歌は本殿前でふっと口元を緩めた。

 

「歌、綺麗だったな……」

 

 

◉◉◉

 

 

やがて太陽は沈み、千歌達は事前に予約しておいた旅館へと足を運んでいた。

 

「なんか、修学旅行みたいで楽しいねー!」

 

「なあ、お前一体何着買ったんだ……?」

 

数時間前の巫女服姿とは一変して今度は客室乗務員風のコスプレだ。それなりに値が張るだろうに。

 

「堕天使ヨハネ、降臨!」

 

「うわっ⁉︎」

 

「やばい……かっこいい……!」

 

いきなりテーブルの上に飛び乗ってきたのは、黒いマントを翻した善子である。これも秋葉で購入したものだろうか。

 

(あ、そういや俺何も買ってないや……)

 

せっかくの東京だというのにお土産の一つも購入していないことに気づき、自然と今日の出来事が頭の中で映像として再生される。

 

黒ずくめの憎たらしい顔ばかりが浮かび、自然と握りしめた拳に力を込めた。

 

「ん!美味しいねこれ!」

 

「本当ね。未来くんもどう?」

 

「ああ、もらうよ」

 

腹いせにやけ食いしてやろうと、梨子に差し出された饅頭らしきものを一気に二つほど手に取って口の中に放り込む。

 

「あぁー!マルのバックトゥザぴよこ万十ーーーー!!」

 

「り、旅館のじゃないのかよ⁉︎」

 

急に声を上げた花丸に驚き、喉に饅頭を詰まらせかけた未来は咄嗟に咳き込んだ。

 

「それより、そろそろ布団敷かなきゃ…………」

 

未来達が騒いでいるのを尻目に、ルビィは押入れから積まれた布団を抱え、外に出そうとする。

 

すると自分よりも大きいものを抱えたせいでバランスを崩したのか、布団ごと彼女が覆い被さるように倒れてきた。

 

「ピギィ……!」

 

「おわぁ!?」

 

「ねえ!今旅館の人に聞いたんだけど…………あれ?」

 

それとほぼ同時に部屋に入ってきた千歌が、怪訝な顔で布団に埋もれる未来達を見下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音ノ木坂って、μ'sの?」

 

散らかっていた部屋を片付け、未来達は中心に設置されたテーブルを囲んで座布団の上に座る。

 

「うん、この近くなんだって。……梨子ちゃん!」

 

「ん?」

 

「今からさ、行ってみない?みんなで!」

 

そういえば梨子は音ノ木坂から浦の星に転校してきた生徒だった。今思えば春の出来事が懐かしく感じる。

 

千歌の提案に若干表情を曇らせる梨子。

 

「私、一回行ってみたいって思ってたんだあ。μ'sが頑張って守った高校、μ'sが練習していた学校!」

 

「ルビィも行ってみたい!」

 

「私も賛成ー!」

 

「東京の夜は物騒じゃないずら……?」

 

「な、なにっ⁉︎怖いの⁉︎」

 

「善子ちゃん震えてるずら」

 

音ノ木坂学院高校。

 

千歌達が目標としている、伝説とも言われているスクールアイドル、μ'sのメンバーが通っていた高校だ。

 

(そこに行けば……もしかしたら光の欠片に関しての、何かがつかめるかもしれない)

 

未来がそう空想して期待を膨らませていると、とある人物から予想外の言葉が飛び出した。

 

「ごめん、私はいい」

 

弾かれたように全員が一斉に梨子の顔へ視線を移した。

 

「先寝てるから、みんなで行ってきて」

 

そう言うと梨子は立ち上がり、小さな足音を立てながら部屋を出て行ってしまった。

 

取り残されたメンバーは顔を見合わせ、やがて曜が切り出す。

 

「やっぱり、寝ようか」

 

「そうですね、明日ライブですし」

 

少しだけ重い雰囲気となった空間で、未来達は次々と座布団から立ち上がった。

 

 

◉◉◉

 

 

寝る時はさすがに女子組とは別室だ。

 

一人で使うにしても少し広すぎる畳の部屋に布団を敷き、未来はしばらくその中で目を開けてジッとしていた。

 

(……トイレ)

 

気怠そうに掛け布団を剥ぎ、未来は部屋の出入り口付近にある手洗い場を目指した。

 

……その時だ。

 

もう宿の人間は寝静まっただろうこの夜中に、ノックの音が響いた。

 

『誰だろうね?こんな時間に……』

 

「ホラーは苦手だぞ俺は……」

 

おそるおそる扉を開けると、浴衣姿のステラが目の前に立っていた。

 

幽霊の類ではなかったことに胸をなでおろし、未来は彼女に用を聞く。

 

「なんだよこんな夜中に……。ていうかさっきまでどこに行ってたんだよ」

 

「別に大したことじゃないわ。……なに?心配でもしてくれてた?」

 

「んなわけないだろ。……俺じゃなくて、千歌達に心配かけるなって話だ」

 

「それもそうね。今後は気をつけるわ」

 

あたかも当たり前のように部屋に上がりだすステラを見て、未来は呆気にとられる。まさかこのまま居座るつもりなのだろうか。

 

「おい、俺はもう寝るぞ?」

 

「まあ待ちなさい。少し話があるの」

 

「大事なことなのか?」

 

未来の質問に少し悩むように唸った後、ステラはパッと顔を上げて答えた。

 

「わたし達にとってはとても大事よ。……あなた達にはあまり関係ないけど、一応話しておこうかと思って」

 

「……?はあ……」

 

月明かりを背にするステラは、いつにも増して神秘的な美貌を放っている。

 

彼女は側にあったテーブルの前に正座をし、未来から視線を外したまま言った。

 

「アークボガールが見つかったって」

 

「……⁉︎それって……」

 

「ええ、わたしとヒカリの……大事な人達を奪った奴よ」

 

ステラの胸から飛び出した青い光球が宙を舞い、落ち着いた口調で語り出す。

 

『俺とステラをウルトラサインで呼びだしたのは、宇宙警備隊のタロウだったんだ』

 

『まさか……タロウ教官が⁉︎』

 

「ええ、わたし達に話しておくべきだって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数時間前に遡る。

 

街の路地裏でタロウと対面したステラは、彼の口から報告された内容を聞いた瞬間目を見開いた。

 

「アークボガールが……⁉︎」

 

「ああ。ここから遠く離れた惑星で、再び奴らの捕食が確認された」

 

『……なんてことだ』

 

未来やメビウスと一緒にボガールモンスを倒したきり、全く姿を見せなかったボガール達、その親玉。

 

「やっぱり地球から離れていたのね……」

 

『それを伝えるために地球(ここ)へ?』

 

ヒカリの問いに、予想外にもタロウは首を横に振った。

 

「いいえ、私の任務は別にあります。……あなた達には、大隊長からの言伝を」

 

「……?」

 

宇宙警備隊の大隊長が、一体何を自分達に伝えるというのだろう。と、ステラは感じた疑問を表現するように首を傾けた。

 

「ウルトラマンヒカリ。七星ステラ。あなた達には、アークボガール追跡の任務を遂行してもらいたい、と」

 

『「……⁉︎」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アークボガールの捜査……⁉︎つ、つまり地球からいなくなるってことか⁉︎」

 

「ええ」

 

「それで、お前達はなんて答えたんだ⁉︎」

 

悲しげに下を向くステラの顔は無表情を保ってはいるが、未来には彼女の迷いが見て取れた。

 

「……わからないの。確かにわたし達はボガールが憎い、けど……」

 

「けど、なんだよ?」

 

「今この危険な状況で、あなた達だけを地球に残すことはしたくない」

 

眉を下げてそう言うステラに、未来とメビウスは「そんなことか」と、安心するように溜息を吐いた。

 

『大丈夫だよ。君達がいない間も、僕と未来くんが必ず地球を守ってみせる』

 

「そうだぜステラ。俺達のことを気にする必要なんかないって」

 

未来とメビウスがそう言うと、今度はヒカリが真剣な声音で問いを投げかけてきた。

 

『……君達は気付いていないのか?』

 

「……?何をだ?」

 

『不自然すぎることが一つあるんだ。…………前に一度、この地球から謎の時空波が発生していると言ったのは覚えているか?』

 

「怪獣を呼び寄せるとかいうアレか?エンペラ星人が仕掛けたっていう……」

 

『では聞くが、ここ最近現れた怪獣に時空波に関係するものはいたか?』

 

その質問を受けて、ヒカリが言いたいことがなんとなく理解できた。

 

キングジョーブラック。ナツノメリュウ。ギャラクトロン。

 

これらは全てノワールが呼びだしたものであって、時空波に引き寄せられた怪獣ではない。

 

『今も時空波はこの星のどこかで発生し続けている。……だが、それに対して影響を受けている怪獣や宇宙人があまりに少なすぎる』

 

以前会ったメトロン星人等、確かに地球には時空波に招かれた者が何人かは存在する。が、数が不自然に少ないというのだ。

 

『エンペラ星人の狙いは地球に眠る怪獣達や、宇宙怪獣を目覚めさせ、暴れさせることではなく……』

 

「……時空波を仕掛けたのには、別の目的がある……?」

 

不意に立ち上がったステラが、未来の目を自分の視線で射抜く。

 

「敵は何を考えているかわからないわ。……最悪の場合、あなた達は命を落としてしまうかもしれない」

 

張り詰めた空気を肌に感じながら、未来はステラとヒカリの言葉を脳内で繰り返していた。

 

エンペラ星人の企み。そしてステラとヒカリ、二人の地球を離れての任務。

 

 

ーーーーあなたとメビウスだけじゃ心配なのよ。

 

 

東京に来る前にステラに言われた言葉を思い出し、未来は悔しそうな表情で拳を握りしめる。

 

 

ーーーー君が求めているのは、シンプルな”力”だ。

 

 

(……くそっ……みんな好き勝手言いやがって……)

 

「……未来?」

 

「ぉ…………れ……だって……、やれるはずだ」

 

「ちょっと、聞いてる?」

 

伏せた顔を覗き込んできたステラに、未来は()()()顔で()言った。

 

「心配しすぎだって。……そりゃ、お前達よりは弱いかもしれないけど、俺達だってウルトラマンだ。千歌達は……地球は、必ず守ってみせる」

 

「…………」

 

「だからお前達は、安心して仇をとってこい」

 

引きつった笑顔でそう言う未来を見て、ステラは呆れた様子で彼の横を通り過ぎる。

 

「……わかったわ。夏中には出発するから、他のみんなには適当にごまかしておいて」

 

青い輝きと共に出入り口まで歩いていく少女の背中を、未来はやるせない気持ちで眺めた。

 

「…………お前はいいよな、そんなに強いんだから」

 

『……?何か言ったかい?』

 

「いいや、なんでもないよ」

 

 

◉◉◉

 

 

「ん…………」

 

カーテンから漏れる光に目をくすぐられ、未来は重い瞼を開いた。

 

『おはよう未来くん』

 

「おはよう。……もう朝か」

 

カーテンを開け、浴衣から私服へと着替えを済ませる。

 

ふと耳を澄ませば、隣の部屋から物音が聞こえたので、なんとなく扉を開けて廊下に出ると……。

 

「……千歌?」

 

「あ、未来くんおはよう!」

 

「ああおはよう。……練習行くのか?」

 

「うん!……未来くんも一緒に走る?」

 

昨日からのモヤモヤした気持ちを払うのにちょうどいいかもしれない、と未来はすぐさま頷いた。

 

今着ている服はTシャツにハーフパンツなので、運動をするのにも問題ないだろう。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿を出て、千歌について行く形で東京の街中を駆ける。

 

早朝ということもあり、周囲にいる人は未来と千歌のようにランニングに勤しむ人や、犬の散歩をしている者ばかりだ。

 

「ねえ未来くん」

 

「んー?」

 

「未来くんはさ、Aqoursのことどう思ってる?」

 

「え?」

 

いきなりの質問に頭を悩ませ、未来は走りながら隣にいる幼馴染に目をやった。

 

「どう思ってるって言われてもなあ」

 

「簡単にでいいよ。みんなを見てて、未来くんはどう感じてる?」

 

どうしてそのようなことを聞くのか気になるが、まずは千歌の質問に答えようと思考を巡らす。

 

「……みんな、活き活きしてるなあって」

 

「どんなところが?」

 

「……って、何なんだよこの質問?」

 

「んー……だって未来くん、春から少し雰囲気変わったっていうか……私達がスクールアイドルになった辺りから様子が変というか……」

 

千歌の言葉に、未来は思わず声を漏らしそうになる。彼女は少なからず、未来の異変に気付いているのだ。

 

春……つまりメビウスと出会った時からだ。

 

「なんか変わったところあったか?」

 

「うーん、だからその……未来くんさ……無理して、ない?」

 

大きなモニターが設置された建物の前で千歌は立ち止まり、未来の顔を真正面から見据えた。

 

なんと答えていいのかがわからなかった。千歌はどこまで気付いている?何を疑っている?

 

…………どうして、こんな悲しそうな顔をする?

 

(……もしかして、それを聞くために俺をランニングに誘ったのか?)

 

いつものように、未来は彼女に心配をかけさせまいと、あの言葉を口にする。

 

「……なんでもないさ。俺は、みんながもっと輝けるように協力する。ただそれだけだ」

 

「……うん、そうだよね。やっぱり未来くんは未来くんだよ」

 

「……?」

 

千歌が最後に呟いた言葉の意味を、まだ未来は気付くことができなかった。

 

…………自分のことで、精一杯だったから。

 

 

「千歌ちゃん!未来くん!」

 

後ろから響く声に反応し、二人は同時に振り向く。

 

そこには練習着姿で並んでいる、Aqoursのメンバーがいた。

 

「やっぱり、ここだったんだね!」

 

「まったく、勝手に飛び出さないでよ」

 

「練習行くなら声かけて?」

 

「抜け駆けなんてしないでよね!」

 

「帰りに神社でお祈りするずらー!」

 

「だね!」

 

みんなの顔を見た途端、不思議と不安定だった心が落ち着きを取り戻し、未来と千歌は自然と微笑んだ。

 

「……!」

 

直後、側にあった巨大なモニターから音楽と同時に映像が流れ出し、その場にいた全員の視線を集める。

 

そこに書かれていたものは……。

 

「ラブ……ライブ……」

 

「ラブライブ……!今年のラブライブが発表になりました!」

 

「ついにきたね」

 

「どうするの?」

 

「もちろん出るよ!μ'sがそうだったように、学校を救ったように!さあ、いこう!今、全力で輝こう!!」

 

千歌が差し出した手の甲に、それぞれの掌を重ねていく。

 

「ほら、未来くんも!」

 

「あ、ああ……」

 

曜に声をかけられてハッとした未来が、その輪に加わった。

 

ーーーーAqours!

 

ーーーーサンシャイン!!

 

 

◉◉◉

 

 

「ランキング?」

 

イベントの会場に着いた千歌達がスタッフの人に詳細内容を説明されている最中だ。

 

「ええ。会場のお客さんの投票で、出場するスクールアイドルのランキングを決めることになったの!」

 

今日イベントの場でのパフォーマンスだけで順位が決まるということは、完全な実力勝負だ。

 

そして、上位を取ればその分一気に有名になれる。

 

「まあそうね。Aqoursの出番は二番目!元気にはっちゃけちゃってねー!」

 

扉の中へ消えていくスタッフから目を離し、自分達の立場を確認する。

 

「二番?」

 

「前座ってことね」

 

「仕方ない。他のチームはラブライブ決勝に進んだことのある人達ばっかなんだろ?」

 

「でも、チャンスなんだ。頑張らなきゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マネージャーである未来とステラは先に客席へ移動しておき、イベントが始まるのを待機だ。

 

周りから溢れる熱気を見るに、やはりスクールアイドルというものの人気は凄まじいことを実感させる。

 

「すごい人ね」

 

「ああ。…………大丈夫かな、みんな」

 

ステージに足を踏み出すトップバッターの姿が見え、会場中の視線が前方に注がれた。

 

「……!あの二人は……」

 

そこには、意外な人物が現れたのだ。

 

未来は咄嗟にプログラム表を確認すると、一番上の方で記されているチーム名を呟いた。

 

Saint Snow(セイント スノー)…………」

 

 




徐々に未来が悪い方向に進んじゃってる……?
これも全てノワールって奴の仕業なんだ。
主人公である彼にはこの先キツイ試練を受けてもらいますよ〜(ゲス顔)

今回の解説はチラっと出てきたアークボガールについて!

テレビのメビウスでは元四天王というなかなか興味深い設定を持ちながら本編に登場することはなかったアークボガールさん。勿体無いので今作ではツルギ関連で使わせて頂くことに。
メディアによって活躍も違うアークボガールですが、今作ではどのような戦い方をするのか……、楽しみにしててください。


あぁ……早くバーニングブレイブ出したい……。


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第35話 俺の知らない千歌


なんとか一話分で8話パートを終わらせることができました。



『ではー!トップバッターはこのグループっ‼︎”Saint Snow”!!』

 

司会の高らかな声が会場内に響き渡り、音の影響でビリビリと振動がギャラリーの熱気を表すように身体の中を突き抜けていく。

 

「そうだ思い出した……!」

 

「なにが?」

 

率直な疑問を聞いてくるステラから視線を外したまま、未来はステージに立つ少女達のことを語る。

 

「Saint Snow……。北海道のスクールアイドルで、全国でも上位の人気を誇るグループ……だったはず」

 

「自信なさそうね」

 

五千以上存在するスクールアイドルの中で、一瞬でも目に留まるというだけでも凄い。

 

彼女達に見覚えがあったのも、以前ネットでスクールアイドルのことを調べた時に見かけたからだろう。

 

「始まるわよ」

 

観客の歓声と拍手も収まり始め、会場にはピリッとした緊張感が広がっていく。

 

ステージの照明が、二人の少女を後方から照らしていた。

 

 

ーーSELF CONTROL‼︎ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

印象的だったのは、彼女達の心情が現れているような力強い歌詞と、ダンス。

 

二色のライトで彩られたステージ上を、”二人のみ”という派手さに欠ける不利な状況でありながら、彼女達は全霊をかけて踊り、歌っている。

 

まるでこのステージに全てをかけているような……。

 

神社で見た時の落ち着いた雰囲気とは違い、圧倒されるような存在感を放っているのだ。

 

(…………これは…………)

 

ほんの少し、身体が震えた。

 

未来とステラにはその理由がすぐにわかったが、お互い口にはしなかった。

 

ここで言ってしまえば、そこで()()()だろう。

 

未来とステラが送り出した9人の少女達も、ステージの袖でおそらく同じことを思っているはずだ。

 

『…………』

 

体内に宿るメビウスがどんな心持ちなのかはわからないが、彼も今繰り広げられているものが何か、理解しているようだった。

 

(これがスクールアイドルか……)

 

 

 

最後の決めポーズと同時に音楽が気持ちの良いタイミングで途切れ、直後に大歓声が沸く。

 

雪の妖精のような二人のスクールアイドルへ、手が痛くなるほどの拍手が贈られた。

 

『続いてー!人気急上昇中のフレッシュなスクールアイドル!Aqoursの皆さんです!』

 

「……千歌……」

 

ぐっと溢れる想いを噛み殺し、未来はステージの上に現れた九人の少女を見据えた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……この街、1300万人も人が住んでいるのよ」

 

「そうなんだ」

 

複数の飛行機が停められている空港を見下ろし、不意に梨子がそう呟いた。

 

「……って言われても、全然想像できないけどね」

 

「……やっぱり、違うのかな。そういうところで暮らしていると」

 

小さく呟くようもまた、視線は前に向けられているはずだが、その瞳は何も写してはいなかった。

 

「どこまでいってもビルずら」

 

「あれが富士山かな?」

 

「ずら」

 

 

平気な顔で双眼鏡のレンズを覗く花丸とルビィ。

 

至っていつも通りな雰囲気を装っている彼女達を、未来とステラは一つの封筒を片手に眺めていた。イベントスタッフの人から受け取ったものだ。

 

千歌達には悪いと思うが、渡してきたスタッフの女性の表情がやけに気まずそうだったのが気がかりで、つい中を覗いてしまった。

 

…………そして、内容は想像を絶するものだった。

 

「なあステラ」

 

「ん?」

 

「渡すべき…………だよな、これ……」

 

「当たり前でしょ。…………これは、彼女達にとって必要なことよ」

 

「…………だよな」

 

大きなガラス窓付近で皆にアイスクリームを振舞っている千歌の背中が見える。

 

彼女は、誰がどこから見ても笑っていた。

 

…………笑っていたんだ。

 

(…………無理してるのは、お前もだろ)

 

こちらを振り向いて手を振ってくる千歌の笑顔には、いつもの輝きを感じない。

 

太陽を失った空のように寂しげなその瞳の奥には、幼馴染の未来でも見たことがない虚ろさを秘めている。

 

「未来くんも食べる?」

 

駆け足で近づいてきた少女を見つめ、未来もまた偽りの笑顔で、いつものように接しようとする。

 

「ありがとう千歌」

 

「ステラちゃんは?」

 

「いただくわ」

 

それぞれがアイスクリームを手に取ると、千歌はすぐに振り向いてみんなの元へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこれ?」

 

「ランキングの集計結果だ」

 

「ランキング……」

 

たった今思い出したように手渡された封筒を見つめる千歌。

 

この中身を見た彼女達は、一体どんな顔をするのだろうか。

 

見たくはない。けど、見なくてはならない。

 

Aqoursを見守ると誓った以上、自分もまた立ち会わなくてはならない。

 

おそるおそる中の紙を取り出す千歌の後ろから、曜達が覗き込むようにして彼女の手の中にあるソレを確認する。

 

「……!これって……」

 

「ああ。上位のチームだけじゃなくて、参加した人達全ての得票数が書いてあるみたいだ」

 

「Aqoursはどこずら?」

 

不安そうに順位を上から確認していくと、九位のところで皆の目線が止まった。

 

「あっSaint Snowだ……」

 

「九位か……。もう少しで入賞だったのね」

 

「Aqoursは……?」

 

「うん!」

 

どんどん表情を濁らせていく花丸が急かし、確認するペースを上げる千歌。

 

「……あっ…………」

 

やっと見つけた自分達のチーム名に安堵しつつも、左横に記されている数字を見て息を呑む。

 

「三十位……」

 

「三十組中、三十位……?」

 

「ビリってこと⁉︎」

 

「わざわざ言わなくていいずら!」

 

「得票数はどれくらい?」

 

「えっと……」

 

梨子に言われてすぐさま視線を右へ移す千歌。

 

未来からは用紙に阻まれて見えにくい千歌の表情だが、どんよりとした雰囲気が嫌というほど伝わってくる。

 

「……”0”……」

 

「そんな……」

 

「私達に入れた人、一人もいなかったってこと?」

 

今回未来とステラは投票には参加していない。きっと千歌達に肩入れしてしまうだろう、との判断だ。

 

逆にもしAqoursに入れたとして、投票数が”2”だった場合は、未来とステラが入れたことはバレバレだろう。

 

どのみちそんなことは千歌達を傷つけるだけだ。

 

「お疲れ様でした」

 

よろよろと身体のバランスを崩す千歌に、一人の少女が声をかける。

 

「Saint Snowさん……」

 

「素敵な歌で、とてもいいパフォーマンスだったと思います」

 

予想に反した感想をもらい、思わず呆気に取られる千歌達。そんな彼女達に突きつけるように、制服姿の少女は続けて言った。

 

「ただ、もしμ'sのようにラブライブを目指しているのだとしたら……」

 

冷たい言葉が、ハッキリと胸に刺さる。

 

「諦めたほうがいいかもしれません」

 

「……っ…………」

 

押しつぶされるような重圧を感じ始めた千歌達に、追い打ちをかけるようにしてツインテールの少女が言い放った。

 

「馬鹿にしないで。ラブライブは…………遊びじゃないッ!!」

 

目の端に涙を溜め、冷静さを欠いた様子でそう伝えてきたのだ。

 

聞き覚えのあるフレーズに顔を歪ませ、未来はステラを一瞥した。

 

 

◉◉◉

 

 

日が沈み始めた夕暮れの中に走る列車。

 

曜の隣、窓際の席でメンバー全員の顔を見渡す未来だったが、何か励ましの言葉を口に出しかけて、やめる。

 

「泣いてたね、あの子……。きっと悔しかったんだね、優勝できなくて……」

 

「ずら……」

 

「だからって!ラブライブを馬鹿にしないで、なんて……」

 

「でも、そう見えたのかも」

 

曜がそう言うと、否定するように千歌が意見を重ねてきた。

 

「私はよかったと思うけどな!」

 

「……千歌」

 

「精一杯やったんだもん。努力して頑張って、東京に呼ばれたんだよ?それだけですごいことだと思う!……でしょ?」

 

「それは……」

 

「だから、胸張っていいと思う!今の私達の精一杯ができたんだから!」

 

ニッと笑ってみせた千歌とは対照的に、眉を下げた曜がゆっくりと口を開いた。

 

「千歌ちゃん」

 

「ん?」

 

「千歌ちゃんは、悔しくないの?」

 

「え?」

 

ハッとメンバーの顔が上がり、千歌と曜が向かい合っている様子を見守った。

 

震えた声でもう一度、同じことを問う。

 

「悔しくないの……?」

 

「そ、それは、ちょっとは……。でも満足だよ!みんなであそこに立てて!……私は、嬉しかった」

 

「…………そっか」

 

そこからは、ほとんど会話も弾むことなく、重い空気のまま電車の中を過ごした。

 

 

◉◉◉

 

 

こんな時に気の利いた言葉が出ないのは昔から変わらない。

 

みんな不器用で、他人を慰めることに慣れてなくて……。

 

(くそっ……、マネージャーが聞いて呆れる……)

 

すっかり暗くなってしまった沼津駅。ちらほらと人が見える広場の真ん中で、千歌達は円を描くように集まっていた。

 

「おーい!!」

 

直後、すぐそばで自分達に向けられたであろう声が一斉に押し寄せてきた。

 

視線を移せばそこには数十人もの浦の星の生徒達が集まっており、そこにいたほとんどがこちらに手を振っている。

 

「みんな……」

 

「どうだった?東京は!」

 

「あー、うん!すごかったよ!なんか、ステージもキラキラしてて……」

 

興奮気味の彼女達は千歌の言葉などお構いなしに質問を浴びせてくる。

 

「今までで一番のパフォーマンスだったね!って、みんなで話してたところなんだ!」

 

「なんだぁ……心配して損した〜!」

 

「じゃあじゃあ!本気でラブライブ決勝狙えちゃうってこと⁉︎」

 

「…………えっ?」

 

その一言だけで千歌の笑顔が固まり、後頭部に回していた手は自然と力なく垂れ下がった。

 

「そうだよね!東京のイベントに呼ばれるくらいだもんね!」

 

「そ、そうだねー!だといいけど……」

 

周りでその会話が終わるのを待っていた皆は下を向き、中には今にも泣き出しそうな者もいる。

 

 

…………もういい。

 

 

やるせない気持ちで一杯になった胸を押さえ、未来は一歩引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

 

直後、不意にかけられた柔らかな声音につられ、千歌達は身体の向きを変える。

 

「お姉ちゃん?」

 

佇んでいた人物の姿を確認すると同時に、ルビィは抱えていた爆弾のような想いを一気に破裂させた。

 

「よくがんばりましたね」

 

「…………ぅ……っ……!うぅ……っ!ああぁ……!」

 

微笑む姉の胸の中に飛び込んだルビィは、大粒の涙を枯らすまで泣き、小さな叫びを響かせた。

 

 

◉◉◉

 

 

「得票…………ゼロですか」

 

「……はい」

 

ルビィの頭を膝に乗せて微笑むダイヤの姿は、まるで聖母のような安心感を与えてくれる。

 

「やっぱりそういうことになってしまったのですね。今のスクールアイドルの中では……」

 

怖いほど落ち着き払っている彼女の話を、千歌達はただ静かに聞いていた。

 

「先に言っておきますけど、あなた達は決してダメだったわけではないのです」

 

努力はした。PVだって上手くいったんだ。Aqoursのライブを好きでいてくれる人がいると、東京に呼ばれたこと自体が物語っている。

 

……でも、それだけではダメなのだ。

 

「”7236”。なんの数字かわかります?」

 

「…………ラブライブにエントリーしたスクールアイドルの数ですか?」

 

「ええ、去年の……最終的に登録された人達の数ですわ」

 

その数字は、第一回大会の十倍以上を意味していた。

 

元々人気があったスクールアイドルという存在に、ラブライブ、A-RISE、μ'sという加速が成され、やがて爆発的な人気は揺るぎないものになったのだ。

 

ドーム大会が開かれていることが、それをよく表しているだろう。

 

そうなれば当然、周りのアイドル達もレベルを上げてくる。

 

 

「じゃあ……」

 

「そう。あなた達が誰にも支持されなかったのも、()()が歌えなかったのも、仕方ないことなのです」

 

「……”私達”……?」

 

「どういうこと……?」

 

突然出てきた言葉に戸惑い、善子が立ち上がってそう聞く。

 

「二年前、既に浦の星には”統合になるかも”という噂がありましてね」

 

初めてダイヤの口から語られる驚くべき事実に、千歌達が揃って目を見開いた。

 

「私と鞠莉さんに……果南さん。三人でスクールアイドルを始めましたの」

 

「……だから会長は、あんなにスクールアイドルのことを……」

 

無言で未来の質問を肯定するダイヤ。

 

先ほど彼女自身の口から挙げられた三人は、かつてスクールアイドルとして学校存続のために活動していたようだ。

 

「でも……歌えなかったのですわ」

 

しかし、それも長くは続かなかった。

 

今の千歌達と同じく東京のイベントに呼ばれたダイヤ達だったが、予想を上回る他グループの実力と、会場の空気に呑まれてしまい、歌うことすらできなかったと……、ダイヤは過去のことを思い出しながら語った。

 

「あなた達は歌えただけ立派ですわ」

 

「じゃあ……会長が千歌達のことを反対してたのも……」

 

「いつかこうなると思っていたから」

 

ファーストライブの日に、ダイヤが伝えてきた言葉の本質が今になって見えてくる。

 

彼女の言う通り、あのライブが成功したのは街の人の善意と、歴代のスクールアイドルが築き上げてきた人気があってこそのものだ。

 

「…………ッ」

 

押し潰されそうな雰囲気に耐えかねて、未来は咄嗟に勢いよく立ち上がり、千歌へ目をやる。

 

「…………諦めるわけじゃないよな?」

 

「……………」

 

その問いから逃げるように、千歌は目を逸らす。

 

「千歌……!」

 

必死に彼女を奮い立たせようとするも、未来の言葉は千歌の心までには届くことはなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

疲れのせいか眠ってしまっていたが、モヤモヤした気持ちで目が覚めた。

 

既に朝だが外は曇っているせいで暗い。

 

「…………はぁ……」

 

『なんだか、大変なことになっちゃったね』

 

「…………うん」

 

オレンジ色の球体がゆっくりと視界の中を浮遊し、慰めるように話しかけてきた。

 

ベッドから起き上がり、部屋を出て廊下を進んだ先にあるベランダに出る。

 

冷たい風が頰に当たり、思わず身体を震わせた。

 

「なあメビウス」

 

『……なに?』

 

「どうしたらいいのかな……俺……」

 

背中を曲げ、柵の上に置いていた腕の中に顔を埋める。

 

近くで見てきたはずなのに、昔から千歌や曜と一緒にいたのに、みんなのことは理解してたつもりなのに。

 

今この瞬間だって、自分で答えが見つからずにメビウスに頼ろうとしている。

 

「……前から思ってたよ。俺はお前がいなきゃ……、いやお前がいてくれても、何もできやしない」

 

『そんなこと……』

 

「最初にボガールと戦って、負けた時だって……!ステラとヒカリがいなかったら死んでたかもしれないんだ!」

 

『未来くん!!』

 

突然発せられた怒声に驚き、未来は顔を上げる。

 

『……僕も、千歌ちゃんが言ってたことに同意だよ』

 

「……?」

 

『君は色々と背負いすぎている。……今回の件だって、君がそんなに抱え込む必要なんてないはずだよ』

 

「……ちがう」

 

『地球を守る使命だってそうさ。本来は僕一人でやり遂げるべきなんだ。……君の、”共に戦いたい”という意志を否定してでも』

 

「でも……!」

 

何かを言いかけて、未来の動きが止まった。

 

海岸の方へ吸い込まれるように視線が動き、海の中に立つ少女達へと固定される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も考えないまま家を飛び出し、未来は海の方へと駆けた。

 

 

「私、まだ何も見えてないんだって。先にあるものがなんなのか、このまま続けても0になるのか、それとも1になるのか、10になるのか……」

 

千歌と梨子が会話しているところを、未来は遠くの方で身を隠し、ひっそりと聞いていた。

 

「ここでやめたら全部わからないままだって。だから私は続けるよ、スクールアイドル。だってまだ”0”だもん!」

 

(……………………)

 

どうして自分は隠れているんだろう。

 

答えは簡単だ。心のどこかで”自分が知らない千歌”を見るのが怖いと思っていたのだ。

 

「0だもん…………。0なんだよ。あれだけみんなで練習して、歌を作って、衣装も作ってPVも作って、頑張って頑張って……!みんなにいい歌聞いて欲しいって……!スクールアイドルとして輝きたいって……‼︎」

 

 

…………これは、()()()()()

 

 

「……ッ!なのに0だったんだよ⁉︎悔しいじゃん!!」

 

自分の身体を叩いて心情を露わにする千歌を、未来は物陰から顔だけを出して見た。

 

「差がすごいあるとか!昔とは違うとかそんなのどうでもいい!!……悔しい……‼︎やっぱり私……!」

 

ーーーー悔しいんだよ……!

 

その言葉を聞いて、未来は顔を伏せた。

 

…………これは、()()()()

 

”悔しい”という想いこそ、電車で曜がした質問への本意だ。

 

千歌は悔しかった。悔しかったはずなんだ。……なのに、あの時は口にしなかった。

 

「よかった……。やっと素直になれたね……」

 

「だって私が泣いたら、みんな落ち込むでしょ……?」

 

梨子に抱きしめられて本音を吐き出す千歌。

 

もし自分が千歌と二人きりの場で、同じことを聞いたら……、彼女は今のように答えてくれたのだろうか?

 

「馬鹿ね。みんな千歌ちゃんのためにスクールアイドルやってるんじゃないの。自分で決めたのよ」

 

「え……?」

 

「私も、曜ちゃんも、ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、もちろん善子ちゃんも」

 

「でもっ……!」

 

「だからいいの。千歌ちゃんは、感じたことを素直にぶつけて、声に出して?」

 

いつの間にか曜やルビィ、みんなが側に集まっていたことに気がつき、すくっと立ち上がる。

 

「うっ……!あぁあ……!わぁああぁん……‼︎」

 

涙を流す千歌のところへ自然と足を踏み出していく曜達の背中を見て、ふと足元に視線を落とす。

 

「今から、0を100にするのは無理だと思う。でも、もしかしたら1にすることはできるかも。私も知りたいの、それができるか」

 

「……!うんっ……‼︎」

 

雲の切れ間から太陽が覗いている。

 

自分達を照らす太陽の光は、今の未来にとっては……

 

 

(…………眩しいな)

 

 

……ひどく遠くにあるものに見えた。

 




随分と駆け足になってしまいましたね。
今作はほぼオリ主である未来の視点で物語が進むため、8話パートの終わり方の雰囲気もアニメとは少し違ったものになっています。

今回は解説の代わりに少し長めの予告を。
今後の展開の整理が大体終わったので改めて報告すると、次回から始まる9話の内容を終わった後で未来と千歌に焦点を当てた話を書きます。
他のキャラ回とは違い物語の展開に大きく関わっていく話であり、第一章で最も盛り上がるところだと思うので、楽しみにしていてください!
その話で登場する予定の敵の中にはあのお方も……⁉︎

それではm(_ _)m


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第36話 水に隠した秘密


サンシャイン9話に突入!……といっても今回はほぼオリジナルのシーンばかりです。
かなり久しぶりの、戦闘シーンからのスタートとなります。


(なんだこいつ……⁉︎)

 

『アリゲラだ!かなり速い……っ!』

 

猛スピードで空を駆ける巨大な翼を持つ怪鳥を、光の巨人が必死に後を追っていた。

 

前触れもなく宇宙から飛来したと思われるこの怪獣は、戦闘機すら軽く凌駕する速度で攻撃を繰り出してくる。

 

「ハアッ!!」

 

牽制のつもりで放った無数のメビュームスラッシュは全て回避され、未来の中に若干の焦りが生まれた。

 

(いつまで経っても空中戦は慣れないな……!)

 

メビウスと一体化するまでただの人間だった未来にとって、空を飛ぶこと自体未知なるものだ。それに加えて、相手は空を支配する怪獣。

 

『目を離さないで!相手の動きをよく見るんだ!』

 

(くっ…………!)

 

めちゃくちゃに巡る視界に頭が痛くなってくる。

 

残像を描きながらこちらに突撃してくる赤い影をギリギリのところで察知し、咄嗟にメビウスブレスからシールドを生成させて防御する。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

「ウアッ……!」

 

容易く撃ち抜かれた光の壁が散り散りになって地上へ降り注いだ。

 

バランスを崩したメビウスは、内浦の海へと一直線に落下していく。

 

(こいつも!ノワールが呼び出した怪獣なのか⁉︎)

 

『わからない‼︎』

 

赤い巨人が苦戦している光景を、背の高い木の上で見物している人物が一人。

 

「残念だけどハズレだ未来くん。どうやら皇帝も、一枚噛みたくなったらしい」

 

誰に言ったわけでもないその言葉が風の音に連れて行かれた後、ノワールは怪訝な顔でアリゲラを眺めた。

 

「それにしても……、せっかく()()()で集めた怪獣を寄越してくるなんて、まったく彼はせっかちだなあ」

 

やれやれと肩をすくめる黒ずくめの男が木から飛び降り、おもむろに空を見上げる。

 

「…………いや違うか。たぶんこれは”揺さぶり”と……”()()()()”かな?」

 

ノワールが見上げた空の彼方に一点、()()の光が灯るのが見えた。

 

 

 

 

 

「セヤアアアアアアアアアッッ!!」

 

『……⁉︎なんだっ……⁉︎』

 

メビウスとアリゲラが空中で何度目かの交差をしかけた瞬間、天から伸びた黒い光柱がアリゲラに直撃し、奴は断末魔を上げて海のど真ん中へ叩きつけられた。

 

続けて耳をつんざく爆音が響き、水の柱が上がる。

 

(な……、なんだ…………⁉︎)

 

『アリゲラが……倒された……⁉︎』

 

すぐさま顔を上げて確認するも、そこには白い雲も青い空間が広がるばかりである。

 

他に生物らしきものは見られないとわかると、未来は地上に降りて安堵のため息をついた。

 

(なんだったんだ、今の……)

 

『今の光線は…………まさか……』

 

メビウスの瞳の裏には、恐ろしき暗黒の皇帝の姿が焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっててて…………」

 

『大丈夫かい?早く手当をしないと……』

 

「騒ぐほどの傷じゃないよ。血が多いから派手に見えるけど」

 

アリゲラにつけられた切り傷が左腕に痛々しく残っており、未来は引きつった顔でそこを抑える。

 

ウルトラマンとして戦うことになってからしばらく経つが、戦闘技術等の面で成長できても、この痛みだけはどうにもならない。

 

「……にしても、なんかどんどん敵が強くなってる気がするんだが」

 

『うん……、最近は特にね。でも僕達だって強くなってるんだ、そう簡単に倒れたりはしないよ』

 

「そうかな」

 

アリゲラが出たことで街の住人も避難していたのだろう。周りには人がまったくいない。

 

(さっきの黒い光線は……誰が撃ったものなんだ……?)

 

少し休もう、と砂浜にどかっと座り込む未来。疲れからか瞼がとても重く感じた。

 

それも束の間、後方からの足音でハッと頭が冴える。

 

咄嗟に後ろを向いた先に見えたものは、予想もしていなかった人物だった。

 

「果南さん⁉︎なんでここに…………!」

 

「未来こそこんなとこで何やってるの?どうして避難してなかったの⁉︎」

 

「イヤイヤイヤイヤ!それは果南さんだって同じじゃ……」

 

「私は逃げ遅れちゃって…………ってその傷!!」

 

反論しようと頭と手を横に振ったところで、果南が青ざめた顔で未来の左腕を指差した。

 

「どうしたのそれ!?血出てるじゃない‼︎」

 

「うぇえ⁉︎いや、これは……その……、怪獣の攻撃で吹っ飛ばされちゃって……」

 

「だっ……!大丈夫なの⁉︎頭打ってない⁉︎他に怪我したところは⁉︎」

 

血の気が引いた顔で左腕に触れる果南だったが、未来は別の意味で焦っていた。

 

(……よし、俺も逃げ遅れたってことにしよう)

 

『今度からは気をつけてよ……?』

 

(わかってるよ!悪かったって!)

 

傷がない方の手を掴まれ、半ば強引に引っ張られる。

 

「とにかくうちで応急処置しないと……!」

 

「ち、ちょっと果南さん⁉︎おーい!!」

 

果南に手を引かれるがままに進む未来。みんなの姉のような存在である彼女は、少々強引なところも持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよしっ」

 

「いだぁ⁉︎」

 

思いっきり包帯を締められ、思わず苦悶の表情で声を漏らす。

 

左腕に巻かれた包帯を細目でまじまじと眺めながら、未来は果南にお礼を述べた。

 

「あ、ありがとう果南さん」

 

「どういたしまして。……で、どうしてあそこにいたの?」

 

「か、果南さんと同じだよ?に、逃げ遅れたんだよ……?」

 

チラチラと視線を逸らしながらそう語る未来を、疑うような目で見る果南。

 

「だいたい果南さんだって、今回は無事だったからよかったけど……怪獣はみんなが思っているよりも怖いものなんだから!」

 

すくっと立ち上がった果南は大量のボンベを整理しだし、未来に背中を向けたまま話し始めた。

 

「大丈夫だよ。いざって時は、いつもウルトラマンが助けに来てくれるでしょ?」

 

「……ウルトラマンだって守りきれない時だってあります」

 

「そうかな……?でも私は信じてるよ」

 

ニッと笑ってそう返す果南の顔は、誰が見ても怪獣に怯えているようなものではなかった。

 

元々肝が座っている彼女だが、あんな巨大生物達を怖くないと思えるのは正直信じられない。

 

「……随分とウルトラマンを信用してるんだね」

 

「そりゃあ、助けられたからね」

 

どこか遠くを見るような目をする果南に、未来は首を傾ける。

 

「助けられたって……、メビウスに?」

 

「メビウス?」

 

「ああっ……。俺達、最近現れてるウルトラマンのこと、そう呼んでるんだ」

 

「ああ……そういえば千歌がそんなこと言ってたっけ……」

 

仕事にひと段落ついたのか、果南は木の椅子に腰掛け、机に頬杖をつきながら未来と向かい合う。

 

「でもそっちじゃないかな。そのメビウスっていうウルトラマンも、私達を守ってくれていることは変わらないけど……」

 

「……?」

 

「ほら、小さい頃に一度見たでしょ?」

 

未来や果南が小さかった頃、すなわち数年前ディノゾールを倒したベリアルのことを指しているのだろう。

 

「あの時、あのウルトラマンがいなかったら……、()()はこうして生きてはいないと思うの」

 

「……うん。俺も千歌も、あのウルトラマンに救われた」

 

あの日、ベリアルに助けられた人間は計り知れない。言ってしまえば内浦に住んでいる人達は全て彼が命を救ったようなものだ。

 

(…………気になるんだけどなあ。ベリアルは今、どこにいるんだろう?)

 

メビウスの話だと、エンペラ星人に戦いを挑んでからは行方不明扱いになっていると聞いた。

 

どちらにせよ、今の未来に確かめる手段はない。

 

「そろそろみんなに顔出してこないと、心配かけちゃうね」

 

「え?う、うん」

 

「じゃ、行こっか」

 

ふと先日ダイヤから聞いた話を思い出す。

 

ダイヤと鞠莉、そして果南の三人でスクールアイドルをやっていたという話だ。

 

「ねえ果南さん!」

 

「ん?」

 

「スクールアイドル……やってたって、本当?」

 

当然の質問に驚愕しキョトンとする果南だったが、すぐに笑顔を取り戻して答えた。

 

「まあ、ちょっとだけね」

 

「そっか!……それでさ、改めて頼みがあるんだけど…………。千歌達のグループに、Aqoursに入ってくれないかな⁉︎」

 

こうしてメンバーをスカウトするのは久しぶりな気がする。

 

未来の直球な頼みに困ったような表情を浮かべた後、果南は苦笑いで答えた。

 

「……あはは。でもほら、私はもう三年生だしさ!」

 

「……?それが何か問題にーー」

 

「ほら行くよ!みんな心配してるって!避難所まで競走ー!」

 

「あっ!ちょっと果南さん⁉︎」

 

唐突に走り出した彼女の背中を追うように、未来も地を蹴って駆け出した。

 

ーーーー果南ちゃんはやらないの?スクールアイドル!

 

ーーーーAqoursに入ってくれないかな⁉︎

 

…………

 

ーーーースクールアイドル……?

 

ーーーー学校を救うには、それしかありませんの!

 

二年前の友達の姿が目の前に見え、果南は溢れそうになった涙をぐっと堪えた。

 

 

◉◉◉

 

 

「夏祭り⁉︎」

 

「屋台も出るずら」

 

「これは痕跡……?わずかに残っている、気配……」

 

嬉しそうな顔のルビィが一気に眉を下げ、堕天使モードの善子を見やる。

 

「どうしよう……、東京に行ってからすっかり元に戻っちゃって」

 

「ほっとくずら」

 

「あ、下着見えてるわよ」

 

ステラの一言で横になっていた善子がガバッと起き上がり、鋭い目つきで未来を睨む。

 

「最低っ‼︎」

 

「なんで⁉︎」

 

何も見ていないというのに理不尽な抗議をされてしまった。

 

「あれっ?未来くんどうしたのその怪我?」

 

「ん?ああ……ちょっとヘマしちゃった」

 

曜が未来の左腕に巻かれている包帯に気がつき、聞いてきたものを少しだけ濁して返答する。

 

「もう……そういえばさっき怪獣が出た時に、逃げ遅れたって言ってたよね?命がいくつあっても足りないよ」

 

「はは……言えてる」

 

「ちょっと、反省してるの?」

 

「こ、今度から気をつけるから……」

 

腰に手を当てて説教じみたことを言ってくる曜に頭を下げる未来。

 

咄嗟に話題を変えようと、未来は曜に背を向けて千歌へ視線を移した。

 

「千歌は夏祭り、どうするんだ?」

 

「そうだねえ……決めないとねえ……」

 

東京のイベントに続いて、今度は沼津で行われる夏祭りで歌ってほしいという頼みが舞い込んできたのだ。

 

「沼津の花火大会って言ったら、ここら辺で一番のイベントだよ。そこからオファーが来てるんでしょ?」

 

「ああ、間違いない」

 

「Aqours知ってもらうには一番ずらね」

 

「でも……今からじゃあんまり練習時間、取れないわよね?」

 

ステラの言う通り、このイベントまでの猶予はあまり余裕があるとは言えない。

 

今回はスルーするという手ももちろんありなのだが……。

 

「千歌ちゃんは?」

 

「うんっ!私は出たいかな!」

 

物陰に半分身体を隠してそう答える千歌に、皆の表情が明るくなっていくのがわかった。

 

「今の私達の全力を見てもらう。それを繰り返すしかないんじゃないかな!」

 

「ヨーソロー!賛成であります!」

 

目だけを動かして未来と視線を合わせ、質問するように見つめてくる千歌。

 

未来はそんな彼女に、首を縦に振ることで返した。

 

 

 

 

 

「あっそういえば未来くん、果南ちゃんには……」

 

「ん?あー……、断られちゃった」

 

「やっぱりかぁー!」

 

千歌に頼まれて果南をスカウトした未来だったが、手応えは芳しくない。

 

「どうしてやめちゃったんだろう、スクールアイドル」

 

「会長は、イベントで歌えなかったからだって言ってたけど……」

 

「でも、それでやめちゃうような性格じゃないと思う」

 

「ん……?言われてみれば……」

 

昔からあの人は、簡単に物事を無理だと決めつけない、諦めの悪い人だったと思う。

 

そんな果南がどうして、スクールアイドルのことを…………。

 

(……俺らがまだ知らない、あの三人だけの秘密があるのかもな)

 




アリゲラのデザインは数多くいる怪獣達の中でもかなり好きな方です。
オーシャンの草k……じゃなくて勇魚に登場した怪獣ですね。

さてネタバレを回避しつつ解説いきましょう。

今回の話の冒頭でアリゲラの出番を一瞬で終わらせた破壊光線。これはデスシウム光線と見せかけて……レゾリューム光線です。
”純粋なウルトラマン”の身体を分解してしまうという恐ろしい必殺技です。
テレビのメビウスでもメフィラス星人を消滅させてしまったことを考えると、ウルトラマンに対しての効果を考慮しなくとも素の威力がかなりあるみたいですね。
今作のメビウスは未来という人間と一体化していますが……、さあ果たして……?


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第37話 塗り潰された思い出


最近オーブをレンタルで最初から視聴しなおしてます。
やはり面白い……。


「ルビィが聞いたのは、東京のライブが上手くいかなかったっていうくらいで……。それから、スクールアイドルの話はほとんどしなくなっちゃったので……」

 

部室で練習着のまま席についているAqoursの面々が、細々と語るルビィを見やる。

 

ダイヤの妹である彼女ならば、あの三人の過去を何か知らないか探りを入れてる最中だった。

 

「ただ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”逃げたわけじゃない”……?」

 

ルビィが耳にした話を聞くと、果南がスクールアイドルをやめる決定打になった理由は東京のイベントとは思えなかった。

「確かにダイヤさんがそう言ってたのか?」

 

「はい、鞠莉さんも一緒でした。……二人とも怖い顔で……」

 

二人が果南のことで話している場面に出くわしてしまった彼女が聞いた話の中では、果南はスクールアイドルから逃げたわけではない……。

 

「…………ん」

 

ふと横を向くと、引き締まった表情の千歌の顔が目に入る。

 

彼女は顎に手を当て、考える様子を見せた後で一言。

 

「……よしっ決めた!明日、果南ちゃんの尾行を実行します!」

 

「尾行?」

 

「うん。果南ちゃんはほぼ毎朝ランニングで出て行くはずだし……、その時にみんなでーーーー」

 

「そ、そこまでするのか⁉︎」

 

「だってこのままじゃモヤモヤするんだもん!果南ちゃんに何があったのか……ハッキリさせないと!」

 

いつになく張り切った様子で他のメンバーに目配せする千歌。多少強引な手段でも、果南のことを知るためならば何でもやるといった顔だった。

 

「未来くんは気にならないの?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

むやみにあの三人の問題に首を突っ込むのはなぜか気が引けるのだ。どうもこの件に関しては自分の出る幕じゃない気がしてならない。

 

未来は詰め寄る千歌の顔を避けながら、弱々しい声で言った。

 

「……わかったよ」

 

「みんなもいい?」

 

パッと振り向いた千歌に反応するように、曜、梨子と連鎖するように首を縦に振った。

 

「それじゃあ明日の朝、早速やるよ!」

 

おー!と腕で天を突く千歌に、少し遅れて未来達もばらばらに腕を突き上げた。

 

 

◉◉◉

 

 

「いやあ、ありがとう。君には世話になってばっかりだ」

 

エンペラ星人が住まう漆黒の宇宙船、ダークネスフィア内部。

 

「人材だけじゃなく、こんなものまで用意してくれるなんてね!」

 

ノワールは暗闇にそびえ立つ一機の巨大なロボットを見上げた。両肩に取り付けられている砲台が黒光りし、無機質な印象を与えるソレは、ただ戦うために作られた戦闘マシンである。

 

「装置を壊されない限り無限に再生する仕組みか……。いい感じにエグいね」

 

「他に必要なものは?」

 

「いいや、これだけあれば十分だ。本当に感謝してるよ」

 

漆黒のマントをなびかせて自分を見下ろす暗黒の皇帝。今まで怪獣を使役できたのも、ほとんどは彼の協力のおかげだ。

 

「何かお礼がしたい。……目的を果たした後で、君の傘下にでもつくかな?」

 

「……好きにしろ」

 

「じゃあ好きにさせてもらおうかな」

 

日々ノ未来の身体を奪うことができれば、ノワールの目的は果たされる。

 

その後はいずれ宇宙を支配する可能性を持ったエンペラ星人の陣営に味方した方が都合がいいのではないか?という考えだ。

 

(まあ、ぶっちゃけボクにはどうでもいいことだけど)

 

光さえ手に入れば、後はどうでもいい。星が滅んでも、宇宙が無くなっても構わない。

 

…………自分さえよければそれでいいのだ。

 

「さて、役割分担といこうか」

 

不意にノワールが振り返り、手を叩いて周囲にいた者達の視線を集めた。

 

右からベリアル、ザラブ星人、ババルウ星人と並んでいる。

 

「まずベリアル。君は指示があるまで好きに暴れていい」

 

「ハッ!元からそのつもりだ」

 

血気盛んなのはいいが、出された命令には従ってほしいところだ。

 

ノワールは微笑を浮かべたまま、ベリアルの隣に立つザラブ星人へと人差し指を突き出した。

 

「君は”()()()”」

 

続いてさらに右へと指先を移し、ババルウ星人へと向ける。

 

「君は”()()()”だ」

 

いつになく気味の悪い笑みを滲ませるノワールに、その場にいた暗黒の皇帝ですら若干の寒気を感じるほどだ。

 

「君が親思いな子でよかったよ、未来くん」

 

 

◉◉◉

 

 

「大丈夫かな……?バレてないよね?」

 

「たぶん……」

 

早朝。ランニングへ向かった果南の後を追うAqoursのメンバー。

 

全員で固まっているせいで、少しでも後ろを振りむかれたらすぐにバレてしまうだろう。……が、果南も走ることに集中しているのか、こちらに気づく様子は見られない。

 

まだ気温が低い街中を、静かに駆けていく。

 

「それにしてもすごい体力だな……。息切れ一つしてないなんて」

 

「前から思ってたけど……っ!果南ちゃんのフィジカル……ちょっと異常だよ……!」

 

酸素を取り込みながら途切れ途切れに言葉を繋いでいく千歌。ふと周りを見れば、死にそうな顔で足を動かしている花丸やルビィが視界に入る。

 

「ま、マル……もうダメずら…………」

 

「花丸ちゃん⁉︎」

 

血が通ってない顔で弱音を吐き始める花丸に、ルビィが駆け寄って背中をさする。

 

一方遠くの方に見える果南の背中は、とても活き活きした雰囲気を感じ取れた。

 

『楽しそうだね』

 

(ああ……。千歌の言う通り、スクールアイドルを諦めた人には見えない)

 

しばらくして神社の階段を登りだした果南を見失わないように、必死に千歌達も噛みつくように後を追う。

 

四肢を動かしながら思考を巡らしている中、未来は不意に傍らにあった林に視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ッ……!?」

 

「未来くん?」

 

思わず足を止め、未来は何もないはずの茂みをジッと見つめている。

 

やがて同じように立ち止まった曜が、心配するように顔を覗き込んできた。

 

「どうかしたの?」

 

「みんな、ごめん。先に行ってて」

 

「えっ……⁉︎急にどうしたの⁉︎」

 

突然地面を蹴った未来は、一直線に先ほどの林の中へ突っ込む。

 

視界を塞ぐ雑草を掻き分け、確かに見えた一瞬の光景を思い出す。

 

『未来くん……?何かあったの?』

 

「そんなはずない……!何かの間違いだ…………ッ‼︎」

 

メビウスの問いには答えず、ただ同じ言葉を繰り返し呟いている。

 

ーーーー確かに、見た。

 

林の中からこちらを見つめる、二人の人物を。

 

一人は男性、もう一人は女性。どちらも未来の記憶の中にハッキリと刻まれている顔だった。

 

「どこだ……⁉︎どこにいった……⁉︎」

 

めちゃくちゃに走り回り、森の中を走り抜ける未来。

 

先ほど見た二人の人間の名前を、消えそうな声で口にした。

 

「父さん……!母さん…………‼︎」

 

もうこの世にはいないはずの両親の姿が、一瞬でも目に飛び込んできたのだ。

 

見間違いではない。確かにそこに存在していた。

 

『なんだって……⁉︎待って未来くん!何を言ってるんだ⁉︎』

 

「いたんだよ!父さんと母さんが!!」

 

『そんなバカな……っ!』

 

気のせいだと言いかけたところで、未来の動きが止まる。

 

拓けた場所の中心に立ち周囲を見渡すが、人間はおろか小動物すら確認することはできなかった。

 

(俺は…………!何を……っ……?)

 

我に帰った未来は両手を地面につき、荒い息を吐き出して肩を上下させる。

 

さっきの両親らしき人物の顔を見た瞬間、未来の中で例えることのできない感情が爆発した。

 

一瞬で冷静さを失うほどのソレは、これ以上ないくらいに未来の不安を煽る。

 

 

 

 

 

 

 

「……想像してたよりも、上手くいきそうだ」

 

木陰に身を隠していた黒ずくめの悪意が自分を射抜いていることに、未来はまだ気づいてはいなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「果南ちゃんが⁉︎」

 

「うん。今日から学校に来るって」

 

「それで、鞠莉さんは?」

 

「まだ、わからないけど……」

 

ベランダに出ていた千歌、曜、梨子の三人が上に位置している三年生の教室の方を見上げた。

 

父親の怪我の影響で店の手伝いをしていた果南だったが、復学届けを提出して今日から登校するらしい。

 

「そういえば、未来くんは?」

 

「えっと……、あれ?」

 

背後にある窓越しに教室の中わ探すが、いつも一緒にいるはずの未来の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「さっきまでいたはずなんだけど……」

 

ぽつりと呟く梨子に続いて、曜が眉を下げて言う。

 

「昨日も未来くんの様子おかしかったし……、やっぱり何かあったんだよ」

 

「千歌ちゃんは何か聞いてないの?」

 

そう尋ねてきた梨子の顔を一瞥した後、千歌は真下に見える校庭へ目を落とす。

 

「ううん。……たぶん、聞いても”なんでもない”の一点張りだよ」

 

「またそれ?……もうっ、一度ちゃんと問いただしてみたら?」

 

呆れ顔で腰に手を当てる梨子を見て、千歌もまた諦めたような表情で首を横に振った。

 

口を閉じてしまった千歌に変わって、曜が梨子に過去の出来事を話し始めた。

 

「だめだめ。一人になりたいって時は、とことん周りと話さなくなるんだから、未来くんは」

 

「そうなの?」

 

「うん。前にも何回か同じようなことあったけど、絶対人に悩みを打ち明けたりしないんだもん」

 

話しているうちに昔のことを思い出したのか、曜は少しだけ怒っているような素振りを見せる。

 

「まったく水くさいよね!ほんと昔から変わってないんだからっ!」

 

「あはは……。でも、たぶん大丈夫だよ」

 

「え?」

 

小さく発された言葉に反応し、曜と梨子は千歌へと向き直る。

 

「どんな悩みを抱えていても、最後には笑顔に戻ってたし」

 

「……ん、もしかして小学校の頃の?」

 

「うん、それそれ!」

 

突然話の中に出てきたワードに戸惑い、梨子は曜と千歌を交互に見やる。

 

「えっと、なんの話?」

 

「梨子ちゃんは知らなくて当然だよ」

 

「たしか……あの時は中学に上がる直前だったっけ」

 

「……?だからなんの話なの?」

 

「んー?それはねー……」

 

勿体ぶってた千歌がやっと語ろうとしたその時だ。

 

「ん……?」

 

上の階から落ちてくる、一着の制服らしき何か。

 

ヒラヒラと舞いながら落下してきたソレを見て、曜が唐突に前方へのめり出した。

 

「制服ぅ!」

 

「「だめぇっ!!」」

 

ギリギリのところで曜を抱え、なんとかベランダからのダイブを阻止する二人。制服を追いかけて飛び降り自殺なんてことになればたまったものではない。

 

曜はおそるおそる目を開き、ギリギリのところで掴み取った白い布を確認した。

 

「これって……スクールアイドルの……」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………ここは……」

 

見覚えのある景色。

 

何度か夢に見た、あの森の中だ。

 

……まだ幼かった頃の記憶の映像。

 

「……!怪獣……っ!」

 

決まったタイミングで登場する怪獣。この光景も既に見たことがあった。

 

(…………この後は確か……、ベリアルが助けに……)

 

前に見た同じ内容の夢を思い出し、次に起こるであろう出来事を脳内で並べていく。

 

……が、予想外のことが起こった。

 

「…………あれ?」

 

ーーーー来ない。

 

いつもは助けに来てくれるはずの、光の巨人がやってこないのだ。

 

「なんで…………!」

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

霧に包まれてよく捉えることができない巨大なシルエットが目の前に迫る。

 

「うわあああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げ、未来は勢いよく上半身を起こした。

 

それと同時に休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴り響き、日陰で昼寝をしていたことを思い出す。

 

『……なにか、怖い夢でも?』

 

「……別に」

 

夢であったことに胸を撫で下ろしながらも、未来は何か引っかかりを感じていた。

 

(いつも見てた夢と……違う……)

 

ベリアルが助けに来ず、そのまま怪獣に襲われる……。少なくとも気持ちのいい夢ではなかった。

 

「……どっちが”本当”だよ…………」

 

痛む頭を抑え、未来は自分の教室へと向かった。

 

 




ノワールがザラブ星人とババルウ星人を呼んだ理由とは……?
未来のエピソードのために伏線やらを入れてたらサンシャインパートがゆっくり目になってしまいましたね。

今回の解説は、今回の話でも登場した未来の夢について。

初期からちょくちょくこの夢のシーンを挟んできましたが、第一章終盤でついにその全貌が明らかに……⁉︎
ベランダでの千歌と曜の会話の中にもそれに関係する話を混ぜてみました。
さて、そもそもこの夢で未来を襲っている怪獣とは何なんですかね?……実はこれがわかってしまうと色々と展開が予想できてしまうため、今まで意図的に伏せてきました。
ヒントを出すとすればテレビのメビウスで登場しましたが、そんなに目立った活躍はしなかった怪獣です。


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第38話 未熟者の空想


最後のサンシャイン9話パートです。
最後のメンバー加入回であると同時に、今作においては第一章最大の盛り上がりの前の溜め回でもあります。


「だから!東京のイベントで歌えなくって!」

 

「その話はダイヤさんから聞いた。けど、それで諦めるような果南ちゃんじゃないでしょ?」

 

「そうそう!千歌っちの言う通りよ!だから何度も言ってるのに!」

 

ほとんど強制的に部室に連れてこられた果南、鞠莉、ダイヤ。

 

三人に過去の出来事についての詳細を尋ねているのだが、当の本人が頑なに口を割ろうとはしないのだ。

 

「なにか事情があるんだよね?」

 

腕を組んで黙り込みを決めている果南に顔を寄せ、千歌はなんとか果南の真意を探ろうとしている。

 

「……ね?」

 

「そんなものないよ。……さっき言った通り、私が歌えなかっただけ」

 

先ほどから質問に同じことを繰り返す果南。それを見て、ついに千歌が頭を抱えてしまった。

 

「うぅー!イライラするぅーーーー‼︎」

 

「その気持ちよぉーくわかるよ!ほんっと腹立つよね、コイツ!」

 

「勝手に鞠莉がイライラしているだけでしょ?」

 

完全に千歌の味方と化した鞠莉が横で果南に人差し指を向けた。

 

しかしここまで強引に話を聞こうとしても応じない果南も強情だ。ただ、やはり彼女がスクールアイドルを辞めた理由は別にあると踏んでいる千歌は、諦めず押し続ける。

 

「でも、この前弁天島で踊っていたような……」

 

ルビィにそう指摘された途端に顔を赤く染める果南。そこへすかさず鞠莉が追い打ちをかける。

 

「おぉ!赤くなってるー!」

 

「うるさい!」

 

「やっぱり未練あるんでしょー?」

 

そこで唐突に席を立った果南が鞠莉を見下ろし、目をつり上げて言い放った。

 

「うるさい。未練なんてない!とにかく私は、もう嫌になったの!スクールアイドルは……、絶対にやらない」

 

果南はそう言い残して部室を去ってしまった。

 

未来は辺りを見渡し、さっきから千歌達の会話を傍観していたダイヤに目がとまった。

 

「あの、会長」

 

話を向けられるのを予想してなかったのか、ダイヤはギョッと目を見開いてこちらに振り向く。

 

「会長は何か知りませんか?」

 

「え⁉︎わ、私は何も……」

 

「ほんとに?」

 

「……………………ッ!」

 

「あ!逃げた!」

 

「確保!!」

 

「俺がか⁉︎」

 

周囲の視線がダイヤへと集中し、たまらず逃げ出そうとする彼女を取り押さえる未来。

 

(おっ……と。加減しないと……)

 

「ピギャアァァアァァア…………‼︎」

 

ルビィそっくりの悲鳴を上げるダイヤを見てジトっとした目を彼女へ向けるAqoursのメンバーであった。

 

 

◉◉◉

 

 

「わざと⁉︎」

やっと折れてくれたダイヤから詳しい話を聞くために、千歌達は黒澤家へと招かれた。

 

そこで新たに判明した事実が、果南は”歌えなかった”のではなく”わざと歌わなかった”というものだった。

 

「どうしてそんなことを…………」

 

「……鞠莉さんのためですわ」

 

「私の?」

 

「覚えていませんか?あの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょう?」

 

 

もしライブを続けていたら、怪我の悪化どころか事故も起きる可能性があったほど危険な状態だったらしい。

 

だからこそ、果南は歌わなかったのだという。

 

「じゃあ果南さんは、鞠莉さんを気遣って……」

 

「でもそのあとは?」

 

「そうだよ。怪我が治ったら、続けてもよかったのに……」

 

今回千歌達がそうだったように、東京のイベントが終わった時期には花火大会だってある。そこでもアピールのチャンスはあったはずなのだ。

 

「心配していたのですわ。……あなた、留学や転校の話がある度に全部断っていたでしょう?」

 

「そんなの当たり前でしょ!?」

 

雨が窓に打ちつけられ、低い音が聞こえる中、鞠莉の悲痛な叫びが部屋に染み渡る。

 

「果南さんは、思っていたのですわ。自分達のせいで、鞠莉さんから未来の色んな可能性を奪ってしまうのではないかって……」

 

「まさか……それで……」

 

不器用な少女達の、不器用な気遣い。

 

すれ違う二人をずっと見守っていたダイヤから語られる言葉が、未来達にも重くのしかかっていった。

 

不意に部屋を離れようとする鞠莉

 

「どこへ行くんですの⁉︎」

 

「……ぶん殴る!そんなこと、一言も相談せずに!!」

 

「おやめなさい。果南さんはずっとあなたのことを見てきたのですよ。……あなたの立場も、あなたの気持ちも。……そして、あなたの将来も」

 

ーーーー誰よりも考えている。

 

 

 

 

気づけば身体は、走り出していた。

 

果南はちゃんと伝えていた。

 

それが通じなかったのは…………自分が気づかなかっただけ。

 

(果南…………!果南……!!……果南!!)

 

黒い雨雲が空を覆い、鞠莉に試練でも与えるかのように雨粒が容赦なく全身に当たる。

 

「行かないと……!果南のところに!」

 

そう呟いたのも束の間、鞠莉は目の前に人影があることに気づき、思わず足を止めた。

 

ソレがただならぬ雰囲気をまとっていることを理解すると、自然と半歩後ろに下がる。

 

「やあ」

 

「……だ、だれ?」

 

全身黒の怪しい男がゆっくりと距離を詰めてくる。

 

「まさかこんなチャンスに巡り合うなんて。……負の感情が、胸の中に蠢くその身体。今ならもし光の欠片が発現しても邪魔されることはないだろう」

 

「なっ…………!」

 

男は自分の身体を黒い霧へと変化させ、目で追えないほどのスピードでこちらへ迫ってきた。

 

「うぐっ……⁉︎」

 

鞠莉の口から体内へ侵入してくるそれは、みるみる身体の自由を奪っていく。

 

「……くはっ」

 

やがて不気味な笑い声が漏れ…………、鞠莉の意識はそこで途切れた。

 

「…………上手くいった。さあ、おいでゼットン」

 

雨雲の中に展開された異次元空間から、一体の巨大な影が降ってくる。

 

電子音にも聞こえる鳴き声と共に、ソレは現れた。

 

「ゼッ…………トォ……ン」

 

宇宙恐竜ゼットン。

 

ノワールが知り得る怪獣の中でも上位の強さを誇るものだった。

 

大雨に打たれながらも、鞠莉の身体を乗っ取ったノワールが巨大な人形の怪獣へと歩み寄る。

 

「ほんとはお楽しみに取っておくつもりだったんだけど……、皇帝くんからあんな素敵なものをもらったんだ、ここでカードを切っても問題ないよね?」

 

姿は違えど、その異様な不気味さは内面から滲み出してくる。

 

黒い悪意はその口から高笑いを響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の音は⁉︎」

 

「あ、あれ!!」

 

突然走り出した鞠莉を追っていた千歌達が足を止め、前方にそびえ立つ巨大なシルエットを指す。

 

「怪獣ずら⁉︎」

 

「は、早く避難を!」

 

皆が慌ただしく後退しようとする中、ダイヤが何かに気がついたように前へと向き直った。

 

「鞠莉さん……、鞠莉さんがあっちに!」

 

「ちょっ……⁉︎会長⁉︎……ダイヤさんちょっと!!」

 

ゼットンがいる方向へと駆け出したダイヤへ手を伸ばすが、その手は空を切ってしまう。

 

「まずい…………ッ!」

 

『行かないと……!』

 

(わかってる!でもここじゃダメだ……!)

 

すぐ側にはまだ避難を終えていない千歌や曜、Aqoursのメンバーがいる。そんな中で堂々とメビウスに変身などできるわけがない。

 

(くそっ……!いっつも出てくるタイミングが悪いんだよ!)

 

『あの空のゲート……、またノワールの仕業なのか……⁉︎』

 

(そうに決まってる!あの野郎……!)

 

ダイヤが反対方向へ走って行ってしまったことに戸惑い、立ち止まっている千歌達。

 

「俺がダイヤさん達を連れ戻してくる!お前達は先に逃げろ!」

 

「また一人で……っ!待って未来くん!私も!」

 

千歌の伸ばした腕が未来に届くことはなく、遠ざかっていく背中を彼女はただ見ていることしかできなかった。

 

咄嗟に今やるべきことを判断した梨子が千歌の腕を掴み取り、真逆の方向へと引く。

 

「苦しい……苦しいけど……!ここは、未来くんを信じましょう」

 

苦渋の表情でそう言う梨子も、全身を震わせている。

 

「でも……!」

 

千歌が言い終わる前に、彼方から飛来した火球が数メートル離れた場所に衝突し、同時に爆音が耳に飛び込んできた。

 

「きゃあっ!!」

 

「ルビィちゃん!」

 

「……ッ!」

 

自分のわがままでみんなを危険に晒すなんてことはできない。

 

千歌はぐっと言葉を呑み込み、ゼットンとは反対の方向へと走り出した。

 

…………その後ろ姿が見えるのは、千歌を含め五人。

 

一人欠けていることに気付いたのは、避難を終えた後だった。

 

 

◉◉◉

 

 

「鞠莉さん!」

 

「……?」

 

今も火球を放ち続けているゼットンの傍に立つ金髪の少女の元に辿り着いたダイヤだったが、彼女の様子に異様な何かを感じ取り、咄嗟に立ち止まる。

 

「ハロー、ダイヤ」

 

「あ、あなた…………誰ですの?」

 

「あれ……?バレちゃった?」

 

後ろで手を組み、狼狽えるダイヤを面白がるようにステップを踏むノワール。

 

「やっぱり……、人間は稀に予想外のことを起こしてくれるから興味深い」

 

「ま、鞠莉さんの身体を返しなさい!」

 

「頼むよ〜!ボクにも色々事情があるんだ。人助けだと思って、諦めてくれない?」

 

「はぁ……⁉︎勝手なことを……!」

 

「諦めてくれないなら、こうするしかないからさ」

 

「え……っ?」

 

ノワールが鞠莉の小さな手を操り、パチンと軽く指を鳴らす。

 

次の瞬間、それに従うかのようにこちらを振り向いたゼットンが灼熱の火炎弾を放とうと構えてきた。

 

「ひっ…………!」

 

迫る火球を視認し、時間がゆっくり流れているような感覚に陥る。

 

しかし火炎がダイヤを呑み込もうとした直前、眩い光に包まれた少年が猛スピードで突っ込んでくるのがノワールには見えた。

 

攻撃が着弾する前にダイヤを抱え、人間では考えられないほどの速度でその場を離れる。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「み、未来さん…………⁉︎どうして……」

 

「掴まって!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

 

 

ゼットンの火球が届きにくい場所まで疾駆し、ダイヤを降ろす。

 

この状況の中でメビウスの力を頼らずにダイヤを助けるのは不可能に近い。変身は避け、高められた身体能力だけを駆使してダイヤを救出した未来だったが……。

 

(ああ……誤魔化すのめんどくさいなあ……)

 

「い、今のは……」

 

「理事長は俺に任せてください。ダイヤさんは避難を」

 

「い、いいえ!私も行きますわ!鞠莉さんがあんなことになって……放っておけるはずが……!」

 

「ああもう‼︎いいから逃げてくださいよ!!」

 

友達思いな彼女だからこその行動であるが、彼女が側にいては自由に戦えもしない。

 

『少し眠っててもらうね』

 

「え?」

 

メビウスが発した催眠波がダイヤの頭部に送られ、数秒で彼女は深い眠りに落ちてしまう。

 

「ほんと便利だなあ、ウルトラマンの力って」

 

『さあ、これで思う存分!』

 

「ああ、戦える!」

 

左腕に出現させたメビウスブレスのサークルを回転。光の巨人の名前を叫び、ウルトラマンへと変身する。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

 

誰も見ていないと確信していた未来。

 

だが彼がメビウスへと姿を変える瞬間を目撃していた者が一人、物陰に隠れていることには気付かなかった。

 

「…………今のって…………」

 

逃げずに未来の後を追っていた、渡辺曜の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天から降りてきた光のカーテンと共に登場したメビウスが、ゼットンを後ろから押さえつける。

 

「危なかったね、あと少しでダイヤちゃんは死んでいたよ」

 

ゼットンの攻撃を回避しながら拳を打ち込むメビウスを見上げた後、ノワールはゆっくりと道路を歩き出した。

 

「ゼッ……トォオ……ン」

 

「ウアアッ……‼︎」

 

ゼットンの防御力に苦戦を強いられるメビウスを見て、眉をひそめる。

 

「おいおい、どうかこんなところで死なないでおくれよ。君にはとっておきのサプライズを用意してるんだからね」

 

 

 

 

何度殴ってもそのタフな身体に弾かれる。防御の姿勢すらとっていないはずなのに、ゼットンは止まることなくメビウスへと反撃してくるのだ。

 

(こうなったら……!)

 

メビュームシュートで一気に勝負を決めようとする未来。

 

増幅されたエネルギーがメビウスの輪を描き、十字に組んだ手から放たれた光線がゼットンへと殺到した。

 

(なにっ…………⁉︎)

 

光線を両腕で受け止めたゼットンが、ソレを体内に取り込むようにして吸収を始めた。

 

直後、突き出されたゼットンの腕から同じような光線が放たれる。

 

(あぶなっ…………‼︎)

 

ギリギリのところで回避しようとするも、肩を掠めてしまった。

 

『ダメだ!光線技は使えない!』

 

(どうすりゃいいんだよ!!)

 

振りかざされる豪腕を受け止めるが、すぐに下から叩き込まれる蹴りを防御しきれずに吹き飛ばされる。

 

(飛び道具がダメなら……!)

 

左腕にあるブレスからメビュームブレードを伸ばし、ゼットンへ肉薄すると同時に肩に刃を突き立てようと迫った。

 

が、なんとゼットンはそれすらも防ぐバリアを展開し、惜しくも斬撃は跳ね返されてしまう。

 

(はあ!?)

 

『隙がなさすぎる……‼︎』

 

「ゼッ……トォ……ン……」

 

光線は吸収される。斬撃もバリアで通じない。今まで装甲が硬い怪獣とは戦ってきたが、ここまでこちらの攻撃を防ぎきる奴は初めてだった。

 

攻撃が通る可能性があるとすれば、バリアが張られていない隙を見つけての至近距離攻撃か、メビュームダイナマイトくらいだろう。

 

(これは……本格的に殺しにかかってるのかもな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……!こんな立て続けに怪獣が出てくるなんて……!」

 

慌てて店を飛び出してきた果南が逃げ惑う人々の中に混ざり、ゼットンからできるだけ離れようと走る。

 

(みんなちゃんと避難できてるかな……。ダイヤは……、鞠莉は……無事だよね……?)

 

頭の中で何度も彼女達の無事を祈り、海岸沿いの道を駆け抜ける。

 

「……ん?」

 

浦の星学院へ続く坂道に人影が登っていくのが見え、果南はふと足を止めた。

 

その後ろ姿が金髪の少女であることを視認した直後、弾かれたように地面を蹴る。

 

「鞠莉!!」

 

「うん……?」

 

鞠莉の姿をしたノワールは立ち止まり、駆け寄ってきたポニーテールの少女へ目を向けた。

 

「何やってるの⁉︎早くここから逃げ…………」

 

『……果南……?』

 

意識を失っていたはずの鞠莉が奥底で目覚め、果南の頭の中に声だけが響いてくる。

 

「……えっ?……ま、鞠莉?」

 

目の前にいる少女が鞠莉の姿をした別のモノであることを察した果南は、わけもわからずその場で硬直してしまった。

 

一方ノワールはダイヤに続いて自分を見破った果南を、鋭い目つきで睨む。

 

「……ああ、まったく人間というものは予想外なことばかり起こす。……君は危険だ」

 

「わっ!?」

 

片手から放出された闇の波動が果南を吹き飛ばし、彼女が倒れ伏すのを確認した後で、ノワールは背を向けて踏み出す。

 

「邪魔しないでくれるかな。……だいたい君達はもう友達でもなんでもないんだろう?」

 

「なにを……言って……!」

 

立ち上がろうとする果南に若干の苛立ちを感じ、彼女の元へ振り返り歩み寄る。

 

「だってそうだろう。君は鞠莉ちゃんに散々酷いことを言ってきたじゃないか。今更身の心配なんておかしいと……ボクは思うけどね」

 

「違う……ッ!私は……ほんとは……!鞠莉との決別なんて望んでなかった…………!」

 

『果南……‼︎』

 

ほんの一瞬、体内から追い出されそうになる感覚。

 

鞠莉が目覚めたことによって、この身体を維持することも楽ではなくなったのだ。

 

「…………何もかもが……誰も彼もが……!ボクの邪魔ばかりしやがって!!」

 

今まで見せたことのない怒号を吐き、ノワールは横になっている果南の腹部を蹴り飛ばす。

 

「うっ……!」

 

『果南!……お願いもうやめて!!』

 

「黙れ……!騒ぐな……ッ……くっ……」

 

果南の影響か、鞠莉の反抗が予想していたよりも大きい。

 

元から存在していた精神を乗っ取ることは容易ではなく、こうなってしまえば再び支配することは難しい。

 

「……それは……っ……鞠莉の身体だ……!」

 

「……こいつ……」

 

「あなたがどこの誰かは知らないけど……!見過ごすわけにはいかないの……‼︎」

 

「こんなチャンスを……!逃すわけには……‼︎」

 

ボロボロになりながらも距離を縮めて来る果南。彼女がこちらに近づいて来る毎に、鞠莉の精神がノワールを追い出そうとしているのがわかった。

 

「ごめんね鞠莉……、ずっと……自分勝手で…………ほんとに、ごめん……っ!!」

 

一歩、力強く踏み出す。

 

「私はずっと鞠莉のことを思ってた‼︎」

 

『…………ッ!私だって!あの時歌えなかった果南を……放っておけるはずがない!!』

 

今まで黙っていた本音を、お互いにぶつけ合う。

 

『私が果南を思う気持ちを……甘く見ないで!!』

 

「そんなの……言ってくれなきゃ……わからないよ‼︎」

 

やがて二人の間の距離がゼロに等しくなった時、鞠莉の身体から徐々に黒い霧が排出されていくのが見えた。

 

「うっ……!ぐうっ……!」

 

もはや支配しているのはノワールの方ではなくなっていた。

 

完全に身体の制御は鞠莉の意識下に置かれ、少しずつ黒霧が外に出ていくのを眺めることしかできないでいる。

 

「鞠莉……」

 

初めて会った時のことを思い出す。

 

内浦に鞠莉がやってきた時、真っ先に彼女に友達になろうと近づいた、二人の少女。

 

『ハグ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………しよ?」

 

細い身体に果南の腕が回され、爆発したような感情の波がノワールを襲う。

 

「ぐっ……!ああぁぁああああぁああ!!!!」

 

元の黒ずくめの男の姿となり、鞠莉の身体から吐き出されたノワール。

 

鞠莉を抱き寄せている果南から発せられる輝きを目の当たりにし、ノワールは何が起こっているのか理解した。

 

「……やはり君も……光の欠片を……!」

 

たまらずその場から逃げ出そうと、ノワールは瞬時に闇の中へと姿を消してしまった。

 

「……ははっ、やっぱり敵わないなあ、君達には」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………⁉︎)

 

『様子がおかしいね……』

 

先ほどから対峙していたゼットンだが、突然痺れたように身体を痙攣させ、動きを止めてしまったのだ。

 

(この感じ……キングジョーブラックの時と同じ……)

 

『未来くん!今だ!!』

 

(ああ!)

 

「ハァァァアアア…………!」

 

メビウスブレスにエネルギーを溜め、炎の渦を左腕にまとう。

 

「セヤァッ!!」

 

ゼットンの腹部に隕石さながらの威力が備わった拳が炸裂し、貫通した炎が背中を貫いて奴を空中へ放り出す。

 

(動きが止まった今…………!)

 

『バリアは関係ない!!』

 

光の刃をブレスから展開し、上空にいるゼットンへ切っ先を向けながら地を蹴った。

 

「セヤアアアアアアア!!」

 

増幅された力でメビュームブレードが振りぬかれ、ゼットンの身体を真っ二つに両断せんと迫る。

 

(おおおおおおおおおおお!!!!)

 

奴の硬い皮膚へ、腕に痛みが走るほどの力でブレードを押し込み、ついにはその黒い身体が天の中で切り裂かれた。

 

「ゼッ……トォオ……ン…………‼︎」

 

鳴き声を上げながら闇の中へと爆散していく宇宙恐竜。

 

メビウスが海の中に着地した時には、先ほどの一撃によって生まれた圧により雨雲が一直線に割れていた。

 

 

◉◉◉

 

 

ーー未熟DREAMERーー

 

 

ダイヤ、果南、鞠莉。

 

三人の問題を解決したAqoursのメンバーは、無事夏祭りのライブを行うことに成功した。

 

二年ぶりに衣装を着た三年生達が、鮮やかにステージ上を歌と踊りで染め上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……これはこれで、美しいものだね」

 

夜空に打ち上げられる花火を遠目で眺めながら、ノワールは脱力した身体を側にあった木に預けた。

 

「これでボクにはもう、一つしか選択肢は残されていない」

 

黒い双眸が向けられているのは間違いなくステージの上に立つ九人の少女達だが、ノワールは彼女達のことなど()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「君はどんな輝きを見せてくれるのかな……?未来くん」

 

地球に迫る、一筋の流星。

 

人の肉眼では見えることはあり得ない遥か彼方から、暗黒の鎧が飛来してくるのが、ノワールには見えていた。

 

 




その矛先が未来へと向けられる……⁉︎
メビウスへの変身を目撃してしまった曜は……⁉︎
そしてついに地球へ降り立つあのお方……⁉︎
と、色々と気になる要素を詰め込んだ話でした。
次回からしばらくオリジナルのシナリオとなりますので、ご了承を。

さて解説へ。

今までノワールが使役してきた怪獣達は、ほとんどが自分で用意したものです。
ある時は他の次元からイメージを借り、またある時は小説の中の存在を媒介に出現させたりと色々やってきた彼ですが、前回チラッと出てきた例のロボットはエンペラ星人直々に授かったものなので、オリジナルのソレと変わらない性能を持っていることでしょう。
つまり何が言いたいのかというと、単純に強いです。

しかしやって来る脅威はそれだけではありません。この先未来がまず戦うことになる相手は、彼の恩人でもある…………。

それでは次回をお楽しみに。


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第39話 心の中の闇:前編


さて、今回から未来くんに辛い思いをしてもらいます。
そしてやっとあの人の登場です。


「それじゃあね。またいつか会いましょう」

 

「ほんとに行っちゃうの?」

 

コート姿のステラが旅館、十千万を出て行こうとするのを上目遣いで見つめる千歌。

 

「そんな顔しないで。きっと、もう一度会いに来るから」

 

「約束だよ?」

 

「ええ…………約束」

 

「身体に気をつけろよ」

 

以前ステラ自身から話された通り、彼女は宇宙警備隊からの頼みでアークボガールを対象にした操作任務へ行こうとしているのだ。

 

もちろん千歌達に本当のことは話してはいない。Aqoursのみんなにはステラが外国に引っ越しするという設定で話を進めた。

 

『ヒカリ……、君も気をつけて』

 

『ああ。メビウス、武運を』

 

お互いにテレパシーで言葉を贈り、メビウスとヒカリも覚悟を決める。

 

これから先、しばらくはステラとヒカリは地球を離れる。すぐに戻って来ることも不可能だ。

 

つまり、当分はメビウスと未来だけで地球を守ることになる。

 

(大丈夫だ……。俺達だけでやれるはずなんだ……!)

 

強張る未来の表情に気がついたステラは彼に駆け寄ると、顔を近づけて隣に立つ千歌に聞こえないほどの小さな声で耳打ちをした。

 

「……何か嫌な予感がするわ。わたし達が戻って来るまでに死なないこと、これが絶対条件よ」

 

「わかってる。……最近メビウスもなんとなく雰囲気を察知してるみたいだ」

 

夏祭りのライブが終わってから数日が経つ今。日に日に近づいてくる不気味な気配に、メビウスはまるで怯えているようだった。かくいう未来も恐ろしいことに変わりはない。

 

「今までお世話になったわ。次にここへ訪れた時も、この旅館に泊まらせてね?」

 

「うんっ!もちろんだよ!」

 

最後まで笑顔を絶やさなかったステラだが、未来とメビウスには彼女の不安が手に取るようにわかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「おい、お前」

 

「んー?」

 

普段は人が寄りつかないような、静寂と暗闇に包まれた廃墟。

 

ババルウ星人は壁にもたれかかっているノワールにズカズカと音を立てて歩み寄り、やかましく抗議した。

 

「いつまでこんなカビ臭いところで待機させるつもりだ⁉︎」

 

「いや、別にここじゃなくてもいいんだけど……。君達、色々ややこしいこと起こしそうだから、できるだけ人目につかない場所にいたいんだ」

 

「そもそもなぜ待機命令なんだ!なんならベリアルが来やがる前にメビウスをぶちのめすことだって簡単なのによ!!」

 

刹那、気配すらも感じない速度で大砲の如き蹴りが繰り出され、ババルウ星人は一瞬で後方の壁に叩きつけられる。

 

ドゴォン‼︎と大きな音と共にコンクリートの破片と埃が舞い上がった。

 

「がはっ……!あ…………ッ……⁉︎」

 

「思い上がるなよ下等生物が。化けてコソコソするしか能のない君達に、”あの二人”が倒せるとでも?」

 

「おやおや、”君達”と一括りにされるのは少々気に障るな」

 

「おっと、そうかい?」

 

冷たい表情から一変、ノワールは緩めた口元を側にいたザラブ星人へと向けた。

 

「君こそ思い上がっているわけではあるまいね?我々がこの場に立っているのは、全て皇帝の(めい)であるが故のことだ」

 

「十分承知しているさ。でも忘れたかい?その皇帝くんが”ボクに従え”と言ったことを」

 

「ぬ……」

 

反論の言葉を出しかけて呑み込むザラブ星人から目を離し、壁にめり込んだままのババルウ星人へと視線を移す。

 

「君達はボクが駒として使った方が、エンペラの期待に応えられるというものだよ」

 

「ほう、君なら我々を上手く扱えると。そしてあのメビウスすらも倒すことができると」

 

「倒す…………か、少しニュアンスが違うかな。直接戦うのはボク達じゃないわけだし」

 

「ケッ!自分の失敗は棚に上げといてよく言うぜ!」

 

よろよろと起き上がってきたババルウ星人が、痛む身体をさすりながらノワールに迫る。

 

「テメェは今まで何度も作戦を失敗してるらしいじゃねえか。よくもまあそんなでかい口がきけたもんだな!」

 

「いやあ、それを言われると耳が痛い」

 

呑気に笑いながら頭をかくこの男からは、まるで緊張感というものを感じない。

 

まるでこれから行う企みは必ず成功する、と確信しているようだった。

 

「だからこそ君達の力を借りたいんだ、仲良くしようよ。……さっきは蹴って悪かったね、許してくれるかな?」

 

闇を含んだ笑顔を振りまくノワールは、凶悪な宇宙人であるはずのババルウとザラブが見ても狂気に満ちているものだった。

 

 

◉◉◉

 

 

「おーいみんなー!そろそろ休憩にしないかー!?」

 

「はーい!」

 

「疲れたぁ〜……!」

 

屋上でダンスのレッスンをしていた千歌達にタオルと水を配り、未来も塀に寄りかかって一息つく。

 

みんなのように踊っていたわけではないが、夏の暑さのせいで動かなくても喉が乾いてしまう。

 

「はい、未来くんも」

 

「ありがとう、曜」

 

「いつもみんなのサポートお疲れ様!」

 

段ボール箱から取り出したペットボトルを未来に渡し、敬礼のポーズを取る曜。

 

彼女は膝を折って地べたに座っていた未来の隣にやってくると、ゆっくりと身体を縮めていった。

 

「…………ねえ、未来くん」

 

「ん?」

 

「あっ……あのさ……」

 

キョトンとした顔で目を合わせてきた未来を見つめ、数秒後に一言。

 

「…………なんか付いてる」

 

「あ、ほんとだ、ごはん粒」

 

朝食に食べたお米が口元に付いてるのを指摘され、未来は慌ててそれを取り除いた。

 

「……じゃなくて!あのね!」

 

「えぇ⁉︎今度はなに⁉︎」

 

「だから……その……」

 

先日見てしまった光景を思い出す。

 

今目の前にいる少年が光に包まれ、ウルトラマンメビウスへと変身する瞬間を。

 

聞くべきなのだろうか。

 

彼はずっと、自分が光の巨人であることを幼馴染にすら打ち明けていなかった。

 

ーーーーそうだ。きっとこれは聞いちゃいけないことなんだ。

 

「……ぁ……」

 

「……?」

 

何か言いたそうに口をもごもごさせていた曜の後ろから、金髪の影が忍び寄る。

 

「なになにー?恋バナ?私にも聞かせてー!!」

 

「ちょっ⁉︎鞠莉ちゃん⁉︎」

 

「えっ⁉︎曜って未来のこと好きだったの⁉︎」

 

「果南さん!?!?」

 

新しく加わった果南と鞠莉は、時々このように悪ふざけでメンバーをいじり倒してくるのだ。

 

そしてその後は決まってーーーー

 

「あなた達!少しはしゃぎ過ぎではなくて⁉︎」

 

「わっ!オニババ!」

 

「なんですってぇ!?待ちなさい鞠莉さん!!」

 

キャーキャーと屋上を走り回る三人の少女を見て、みんな揃って面白がるような顔を浮かべる。

 

「随分賑やかになったものだ」

 

「ほんとにね」

 

やや呆れ顔の梨子だったが、すぐにその表情に明るさを取り戻す。

 

やがて弾かれたように未来が曜の方へ振り返った。

 

「で、何の話だっけ?」

 

「うぇっ⁉︎……えーと…………やっぱりなんでもないや」

 

「……?そうか」

 

こちらから未来の視線が外れた途端に顔を伏せる曜。

 

普段と違って元気のない様子の彼女を見て、梨子と千歌が心配そうに身を屈めて曜の背中に触れた。

 

「どうかしたの曜ちゃん?」

 

「熱中症かしら……」

 

「ううん!全然平気!」

 

余計な心配をかけてしまったと、曜はすぐさま立ち上がってピョンピョン飛び跳ねてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいの?手伝わなくて」

 

「ああ。みんなは練習で疲れてるんだし、後片付けくらい俺にさせてくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

最後に残っていた一年生組三人を帰し、誰一人いなくなった部室で散らかっている物を整理していく。

 

今思えばこういう作業はほとんどステラがやっていてくれたんだな、と改めて彼女の存在の大きさを痛感した。

 

窓の外を見れば沈みかけの太陽がギラギラと燃えているのが見える。

 

「すっかり陽も長くなってきたな」

 

『…………』

 

「メビウス?」

 

呼びかけても反応がないメビウスに不安を感じた未来は、ふと夕日のさらに上の方に目を移した。

 

そこには、何か黒い物体が一つ。

 

「なんだあれ……?」

 

『…………!まさかッ……!』

 

「え?」

 

思考が追いつく前に、その黒い物体はミサイルのような勢いでこの近くの海へと落下していった。

 

直後、大地が割れたかのような地響きが未来を襲い、咄嗟に壁に手をつく。

 

「何なんだ一体!?」

 

『未来くん!外へ!』

 

「あ、ああ!」

 

脇目も振らずに部屋を飛び出し、先ほどの物体が落ちた場所がよく見えるところまで移動する。

 

海のど真ん中に落ちたのか。潮風が荒れ狂うように全身に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……あれ…………?」

 

言葉が出なかった。

 

……いや、空気でわかる。これは敵襲だと。

 

しかし、遠くに見える漆黒の塊を視界に入れた途端、なぜか身動きが取れなくなったのだ。

 

その理由はおそらく、()の見た目。

 

首から下はいかにも頑丈そうな黒い鎧に包まれており、右手に持つ槍は悪魔のような印象を与えてくる。

 

そして何より目にとまったのは…………

 

「ウルトラマン…………?」

 

その瞳はつり上がっており、口には牙のようなものまである。が、大まかな形状は光の巨人と酷似しているのだ。

 

『な……んだ……⁉︎なんだ……あいつは……⁉︎』

 

メビウスもあのウルトラマンのことは知らないらしく、ただただ戸惑うばかりである。

 

(でも、これだけはわかる)

 

ーーーーあれは、ヤバイ。

 

 

 

『未来くん!!』

 

「…………ッ‼︎」

 

青ざめた顔でメビウスブレスを出現させ、未来は走りながら左腕を天に掲げた。

 

「メビウーーーース!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………キタ」

 

建物の上から漆黒の戦士が降り立ったことを確認したノワールは、抑えきれない興奮を表すように足踏みをしだす。

 

「やっと来やがったか」

 

「待ちくたびれたわ」

 

後ろで悪態をつくババルウ星人とザラブ星人には目もくれずに、ノワールは心を奪われたかのように漆黒の戦士とーーーー傍に見える光の少年を見下ろしていた。

 

「あはっ……!あははははははハハ!!ハッははハははハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ…………!」

 

夕日を背に降り立ったメビウスは、前方に見える黒い戦士に目をやる。

 

立ち膝の状態で彫刻のように動く気配のないソレは、余計に未来とメビウスの恐怖を煽った。

 

(……生きてる……のか……?)

 

『………………ウルトラマン……なのか……な?』

 

おそるおそる、ジリジリと距離を詰めていくメビウス。

 

(…………おーい……)

 

『……寝てる……?』

 

何度呼びかけても返事がこない。それどころか一ミリたりとも動く様子もない。

 

(……一体なんーーーーーー)

 

その時だ。

 

奴の右腕がほんの少し持ち上げられ、持っていた槍の切っ先がメビウスの喉元に向けられたのだ。

 

『………………ッ!?』

 

(なっ……⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー「バァーカ」

 

 

 

 

 

 

 

覚えているのは、両腕の燃え上がるような痛みと、()

 

赤黒い光線が目にチカチカと反射し、いつの間にか目の前の黒い鎧が立ち上がっていたことだけを理解する。

 

痛くて痛くていたくて痛くてイタくてイタクテイタクテ…………。

 

(あれっ……?俺、今…………)

 

ーーーー倒れてる?

 

 

 

 

冷たい海水に落ちていく感覚。

 

意識が途切れる瞬間、辛うじて見えたものは…………。

 

 

 

ーーーー楽しそうに笑う、黒いウルトラマンの姿だった。

 




ついに現れたウルトラマンベリアル。
未来達の命の恩人である彼が悪として立ちはだかった時、未来は何を思うのか……。
カイザーダークネス状態なので、アーリースタイルの姿しか見たことがない未来とメビウスはまだ気づいていないようですね。

さて、解説に参りましょう。

以前ザムシャーが登場した回で、メビウスと未来はまだステラやヒカリほど心を通わせることができていないと解説で話したと思います。
例えで”シンクロ”や”ユナイト”といった言葉を使いましたが、まさにそれらに関係するエピソードが今後展開される予定です。Xが登場するわけではありませんが(笑)。
今回から始まる未来の話は、いわば彼の強化イベントみたいなものです。
それに至るまでもう少し時間がかかるみたいですけどね……。
未来にのしかかる試練の数々にも注目です。


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第40話 心の中の闇:中編


バレンタインガチャ、無事爆死しました。


(がぁあ…………ッ……!あ”っ……ぅあ”ぁ…………!!)

 

『うっ……!ぐ……ぁ……‼︎』

 

赤い巨人が、水の中で悶え苦しむ姿を見下ろす、漆黒の戦士。

 

やがてメビウスが気を失うと、ベリアルは手に持つ槍の先を天に向け、見世物でも眺めるように笑いながら前屈みになる。

 

「はっはははは‼︎笑えるなぁ!!」

 

変色した両腕を力なく投げ出し、光の失った瞳で倒れているメビウス。ウルトラマンとしての姿を保っているのが不思議なほどに、その外傷は痛々しいものだった。

 

「やっぱりコレは、ウルトラマンを壊すには最適な武器だぜ」

 

ベリアルは三つに分かれている槍の刃を舐めるように見た後、再び気を失っているメビウスへ視線を落とした。

 

ベリアルがその槍ーーーーダークネストライデントから放った、レゾリューム光線。

 

純粋なウルトラマンの身体を分解する力を持つそれは、未来という人間と一体化しているメビウスすらも屠る威力を備えていたのだ。

 

咄嗟に腕で防御したのが不幸中の幸いか。

 

「ああ……?なんだもう終わりか?」

 

ピクリとも動かないメビウスだが、しばらくして光に包まれた巨体が消え去り、代わりに海面に一人の少年が浮かび上がってきた。

 

その少年の両腕も、メビウスと同じように大火傷を負っている様子だった。

 

「チッ……、つまらねえ。やっと好きに暴れられるってのによ」

 

おもむろに槍の切っ先を少年に向けるベリアルだが、そのすぐ側に異様な気配を感じ、動きを止めた。

 

黒ずくめの男、ノワールである。

 

「一撃でこれか……。やっぱりその鎧はすごいや」

 

「あ?俺の実力に決まってんだろうが。……お前も喰らってみるか?」

 

「ボクを殺そうとするのは構わないけど、時を考えてほしいな。まだ計画は終わっていない。……そして君の出番は終わりだ」

 

全身に闇のオーラをまとい、低空飛行で海の上を移動するノワール。

 

そのまま気絶していた未来を回収しようと抱え上げる。

 

「……なに?」

 

「聞こえなかったかな、君の役割は終わったと言ったんだ。次はボクの番ということさ」

 

「おいおいおい……そりゃあ……ねえだろっ!?」

 

瞬間的に繰り出された槍の刺突を回避し、ノワールはベリアルの目の前まで飛び上がってみせた。

 

「ボクは”指示があるまで好きに暴れていい”と言った。そしてもう”指示”は出した。……一撃で終わっちゃったのは自業自得だね」

 

「ハッ!ここまで貧弱な野郎だとは思わなかったぜ。光の国の奴らもイかれてやがるな。こんなに弱い奴に地球を守らせるなんてよ」

 

「とにかくエンペラの所へ戻ってくれないかな。君もレゾリュームの怖さは知っているはずだろう?」

 

「…………ふん、まあいい。いずれ俺は奴を超える」

 

そう言い残したベリアルは天を見上げ、黒い炎に包まれたかと思えば、一瞬で天高く飛翔した。

 

数秒で地球の大気圏外へ出て行ったベリアルを見送ると、ノワールは肩に担いでいる日々ノ未来を見やった。

 

「さあ、ここからだよ」

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーーウルトラマンは、俺の父さんと母さんを助けられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『未来…………くん……』

 

「……?う”っ……⁉︎」

 

メビウスの声で目が覚め、起き上がろうとしたところで両腕の激痛に襲われる。

 

まるで剥き出しになった神経を針で滅多刺しにされているような、鋭い痛みが全身に走った。

 

周りを見れば、白い砂と海が広がっている。

 

「一体……なにがっ……⁉︎」

 

『さっきの奴は……?』

 

弱々しい声音で辺りを確認するメビウスと未来。

 

砂浜に倒れている自分の身体を視認すると同時に、自らの敗北を悟った。

 

両腕には包帯がぐるぐる巻きにされており、誰かが治療してくれたのだと察する。……その”誰か”の正体は、すぐに理解した。

 

「やあ、おはよう未来くん」

 

「…………!?」

 

唐突に飛び出してきた黒い男から、怯えるように後ずさる。

 

ノワールは笑顔を絶やさずに、尻餅をついている未来に言った。

 

「傷つくなあ。一応今回は助けてあげたつもりなんだけど?」

 

「……何を……企んでやがる……?うっ……!さっきの奴は……なんなんだ⁉︎」

 

顔を痛みで歪ませながら喋る未来に、ノワールは躊躇いなく、素直に返答した。

 

…………それが未来にとって、何を意味するか知っていながら。

 

「ベリアルだよ」

 

「…………?」

 

「だーかーら、ウルトラマンベリアルだって」

 

「……は……?何言って…………」

 

『…………』

 

言葉の意味を理解できないでいる未来を無視し、さらに続ける。

 

「かつての君……いや、君達の命の恩人だよ」

 

「…………ッッ!!」

 

込み上げてきた抑えきれない怒りのままに、未来は痛む身体を立たせるとノワールの胸ぐらを掴んだ。

 

「ふざけるな……お前……‼︎次そんなデタラメ吐いてみろ……!本気でお前を……!!」

 

「まったく君は、とことん哀れな男だよ」

 

「ッ……!!」

 

殴りつけようと振りかぶった未来の懐に潜り込み、逆に腹部に重い蹴りを叩き込むノワール。

 

「がはっ……‼︎」

 

苦悶の表情で身を縮める未来を、ニヤついた顔でジロジロと眺めた。

 

「君は前から、薄々は気づいていたんだろう?……メビウス」

 

「……な……に……?」

 

『…………』

 

未来が痛めつけられていてもノワールを止めようとしなかったメビウスへ意識を向ける。

 

数秒後、ノワールの口から絶望的な言葉が言い放たれた。

 

「簡単なことだよ。ベリアルが過去にエンペラ星人に敗北した話は聞いてるだろう?彼は倒された後、戦力として皇帝に引き抜かれたってことさ」

 

「……うそだ……」

 

「正直あの鎧に操られてるかもわからないけど、まあとりあえず今はエンペラに味方していることは確かだね」

 

「嘘だ!!!!」

 

噛みつくような勢いでノワールに飛びかかる未来だったが、ひらりと軽く躱され砂浜に顔面を激突させる。

 

「あの人が悪に味方するわけがない‼︎ベリアルは俺を……!みんなを……!」

 

「じゃあ聞くけどさ、君はベリアルの何を知ってるというんだい?」

 

「え……?」

 

やれやれと肩をすくめてジェスチャーをつけながら大袈裟に話し始めるノワール。

 

「君の記憶の中のベリアルは間違いなく正義の味方なのだろう。でも、それが今でも同じとは限らないんだよ」

 

「違う……、俺は……俺はベリアルがいたから…………ここまで……」

 

「さっきの行動が何よりの証拠だ。彼は君を、容赦なく殺そうとしたじゃないか」

 

「あ…………」

 

意識を失う前の光景が脳裏をよぎる。

 

つり上がった目が、黒い身体が、槍から飛び出した死の光が、未来の心を打ちのめしていった。

 

「うっ……!ああぁ…………ッ……‼︎」

 

思わず頭を抱え、ガタガタと身体を震わせて現実から逃避しようとする未来。

 

…………メビウスは、最後まで何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして顔を上げた時には、ノワールの姿はなかった。

 

しかし、未来の中では今も確かに、彼の輝いていた思い出を汚す闇色の男の影がチラついていた。

 

 

◉◉◉

 

 

『…………夕食は食べないのかい?』

 

「……そんな気分じゃない」

 

家に戻ってからも、ずっと考えていた。

 

小さい頃にディノゾールから助けてくれたあの光の巨人は、本当にエンペラ星人の手先になってしまったのか?

 

…………ノワールの言葉だけなら、ただの戯言だと流すこともできただろう。

 

だが、それができない理由が未来にはあった。

 

「メビウス……教えてくれ、お前が知ってること、全部」

 

『………………』

 

そう、メビウスだ。

 

ノワールの言葉を素直に捉えれば、メビウスもベリアルについての何かを知っている様子だった。

 

……もし彼までもがベリアルを悪だと言うのなら、それは受け入れなくてはならない。

 

『……僕が知っていることは、もう全部君に話したよ』

 

オレンジ色の球体が未来の目線の先で止まり、間を置いて再び語りだす。

 

『でも奴の言う通り、なんとなく予感はしていた』

 

ウルトラマンベリアル。

 

過去に起こったエンペラ星人によるウルトラの星への襲撃、ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)で多くの敵を退け、功績をあげた実力者。

 

その強さは、現在の大隊長であるウルトラの父に勝るとも劣らないものだ。

 

『……彼の、ウルトラの父へのコンプレックスは凄まじいものだったと聞いている。それにエンペラ星人の持つあの鎧…………、弱みにつけ込まれたんだろう』

 

「それは……、つまり……」

 

『……確定的な証拠はない。けど、あの黒いウルトラマンがベリアルだという可能性は十分にある。……それだけさ』

 

本人は未来を少しでも励まそうと最後に付け加えた言葉だったが、彼には少しも響かない。

 

未来はベッドに仰向けに倒れこみ、包帯が巻かれた腕で顔を覆った。

 

「…………俺が抱いた憧れは、間違ったものだったのか?」

 

『違う、そうじゃない未来くん!君はーーーー』

 

メビウスが何かを言いかけたところで、一階の方でインターホンが鳴ったことに気づく。

 

「…………誰だ?」

 

重い身体を引きずり、未来は階段を下りて玄関の方へ向かった。

 

 

 

外の様子も確認せずに、未来はゆっくりと扉を開く。

 

「…………千歌?」

 

「こんばんは〜」

 

両手で三つほどタッパーを抱えている高海千歌が、玄関の前に無邪気な笑顔を浮かべて立っていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや〜……、志満姉ったらカレー作りすぎちゃって……えへへ。お裾分け作戦の最中なの」

 

「なるほど。……にしても多くないか?」

 

「察して!」

 

まさか配る家一つ一つにタッパー三つ分も用意しているのだろうか。もしそうなら一体どれだけのカレーを作ったのか気になるところだ。

 

「ありがとう千歌、まだ夕飯食べてなかったし、助かるよ」

 

なんとか絞り出した笑顔でタッパーを受け取る未来だが、千歌は彼の差し出してきた腕を見てギョッと目を見開く。

 

「そのケガ……」

 

「ああ、お湯ひっくり返しちゃってな。ちょっと痛むけど、大丈夫だよ」

 

火傷では済まされないほど痛いことはもちろん隠し、未来はまた彼女に安心させるための嘘をついた。

 

「ええっ⁉︎病院にはちゃんと行ったの!?」

 

「ああ、だから心配いらないよ」

 

「するよ!ただでさえ最近はケガばっかりしてるのに!」

 

青い顔で未来の腕と顔を交互に見る千歌。

 

「…………?」

 

「どうした?」

 

ふと顔を上げた千歌が一点を見つめて固まったかと思うと、人差し指を立てて呟いた。

 

「いま、未来くんの後ろで何か光ってたような……」

 

「え”っ!?」

 

今はメビウスが身体から離れていたことを思い出し、冷や汗をにじませてすぐさま後ろを振り返る。

 

咄嗟にどこかに隠れたのか、メビウスの姿は見られなかった。

 

「気のせいだったみたい」

 

「そ、そうか……あはは……」

 

安堵のため息を漏らした後、不意に千歌と目を合わせると、彼女の顔がボヤけて見えた。

 

 

 

 

 

「……未来くん……?」

 

「えっ……?……んだ、これ……」

 

頰に何かが伝う感覚。

 

気づけば未来の目には、大粒の涙が溢れていた。

 

「ど、どうしたの……?やっぱりケガが痛むんじゃ……」

 

「大丈夫、大丈夫…………だから……。くそっ……なんで泣いてんだ……」

 

いくら拭っても止まることのないそれは、今まで千歌達に見せてきた”なんでもない”態度が嘘であると表しているようだった。

 

 

◉◉◉

 

 

「いい感じだ。第一段階は大成功だね」

 

ノワールは横に並ぶザラブ星人とババルウ星人に目配せし、不敵に笑った。

 

少々興奮気味のババルウ星人が身を乗り出す。

 

「ってことは、俺達の出番か!?」

 

「ああ、その通りさ。次は君達の力がどうしても必要だからね、頼んだよ」

 

ノワールの言葉など耳に入っていない様子のババルウは、もうすぐ暴れられるということに飛び跳ねて喜んでいる。

 

「……そうさ、これはボクにはできない役回りだからね」

 

ノワールの企みを含んだ笑みに、まだ誰も気づくことはなかった。

 

(楽しみだなあ、次は何が見れるんだろう)

 

 




なんか回を重ねるごとにノワールの下衆さに磨きがかかっている気がします。初期はここまで酷くなかったはず……。

今回の解説はベリアルについて。

ウルトラ大戦争でウルトラの父が仕留め損ねたエンペラ星人を狙い、単独で勝負を挑んだベリアルですが見事に完敗。
挙句の果てには闇堕ちと散々な目に遭っている閣下。
はたして自分の意思で皇帝の下にいるのか?
原作のベリアルとの違いも比べてみると面白いと思います。
あと、レゾリューム光線の効果については独自設定が若干混じってます。

次回のタイトルは「心の中の闇:後編」となるわけですが……。実はまだスッキリとした終わり方にはしない予定です。
今のところは未来の話がメインですが、彼と千歌、そして曜がより関わってくるエピソードがさらに続いていきます。
主人公のカッコいいところがなかなか出てこない今作ですが……、近いうちにきっとノワールをぎゃふんと言わせてくれるはずです。


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第41話 心の中の闇:後編


気がついたら評価に色が付いていてびっくりです。
お気に入りしてくれている方々、評価を入れて下さった方々、そしてこの作品を読んでくれている方々に感謝です。
ありがとうございます。

これからもメビライブサンシャインをよろしくお願いします。


「それは本当か?」

 

「はい、確かな情報です」

 

ゾフィーからの報告を聞いたウルトラの父が、思わず語気を強くして席を立ち上がった。

 

ベリアルが、アーマードダークネスを装備して地球に襲来したのだと。

 

「……恐れていた事態だ」

 

「メビウスに……、彼と一体化した少年も重症を」

 

この頃は悪い知らせばかりが舞い込んでくる。

 

予想はしていたが、行方不明となっていたベリアルが敵として現れることは、やはりウルトラの父にとっても辛い事実だった。

 

「……このままいけば、彼らが命を落とすのは確実だ」

 

「では、やはり?」

 

「ああ」

 

ウルトラの父はゾフィーに背を向け、数秒間何かを迷うように黙った後、ハッキリとした口調で彼に言った。

 

「メビウスに、光の国への帰還命令を」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………さすがに、今回は傷の治りが遅いな」

 

未来は包帯を交換しようと右腕に左の手をかけ、解かれた隙間から見える火傷の跡に表情を曇らせた。

 

いつも戦闘で受けた傷は数日もすれば完治するのだが、今回はウルトラマンの治癒力でもかなりの時間がかかっている様子だった。これも、ベリアルが放った光線の特性ゆえなのだろうか。

 

「メビウスは大丈夫か?」

 

『うん。少し痛むけど、通常の怪獣相手なら戦えると思う』

 

そうか、と小さく口にした後、未来はベッドから起き上がって運動しやすい服に着替えだす。

 

今日もAqoursは学校で練習だ。未来もマネージャーとして、彼女達を支えるために役割を果たさなければならない。

 

「…………」

 

……先日から気分が優れない。

 

ベリアルが敵であることを知ったあの日から、未来は時々虚ろな瞳を見せるようになった。

 

彼が今までウルトラマンとしてメビウスと共に怪獣達と戦えたのは、いつもどこかに過去に抱いた憧れがあったからだろう。

 

『…………僕が、なんとかしなきゃ』

 

メビウスは未来に伝わらないように、心の隅でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!未来くん!」

 

十千万の前を通ろうとしたところで、ちょうど玄関から出てきた千歌と目が合った。

 

随分慌てた様子の彼女は、髪を手で整えながら未来の側まで駆け寄ってくる。

 

「未来くんも寝坊しちゃったの?」

 

「え、寝坊?」

 

「ほら、今日の練習は一時間早くやろうって、みんなで話してたじゃない」

 

「あれっ⁉︎そうだっけ⁉︎」

 

瞬時に昨日の帰り際に全員で話していた場面を浮かべる。

 

そういえばそんな話をしていたかもしれない、と今更思い出した。

 

「やっばい!急ごう千歌!」

 

「うんっ!」

 

歩道上の何気ないやりとりを、物陰からひっそりと眺めていた者が二人。

 

とある男性と女性の姿をしたソレは、未来と千歌に気づかれないようにゆっくりと背後から尾行していった。

 

 

◉◉◉

 

 

『状況はどうだ?』

 

「最高さ!本当、何もかも君のおかげだよ!」

 

聞こえてきたテレパシーに向かって、ノワールは大袈裟に手を大きく開いて無邪気な笑いを響かせる。

 

「そうだ、確認しておきたいんだけど…………、本当にあの二人はボクの好きに扱ってもいいの?」

 

『ああ好きにするがいい。煮るなり焼くなり、殺すなりな』

 

「ああ!君が皇帝と皆に慕われる理由がわかった気がするよ!」

 

胸に手を当ててウットリと笑みを滲ませるノワール。

 

彼が立っている場所は浦の星学院の校舎がよく見える、高台の上だ。

 

「計画は次のステップに移るところさ。……一応確認しておこうか」

 

エンペラ星人に説明するように、ノワールはおちゃらけた調子で語り出した。

 

「まずはプランA、これは光の欠片を、未来くんの身体ごと奪う作戦。……そしてプランBはーーーー」

 

風の音とノワールの声が重なり、その企みは彼方へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワンツー!スリーフォー!ワンツー!スリーフォー!」

 

「あ、未来くんちょっとズレてるよ」

 

「あっ……ご、ごめん」

 

動かしていた手を止め、未来は申し訳なさそうな顔で前に立つ九人の少女に謝った。

 

その中の一人、善子が首を傾ける。

 

「大丈夫なの?なんだか最近、練習中も上の空って感じだけど」

 

「……悪い……」

 

他のことに邪魔されてサポートも満足にできないようじゃダメだ。

 

そうわかってはいても、ベリアルのことで常に頭が一杯な状態が続いていた未来は、今まで何事もなくこなせていた事すらも手につかなくなってしまっている。

 

未来はふと、端の方に並んでいた鞠莉へと視線を移した。

 

(たしか鞠莉さんは……、前にベリアルについて調べてたよな……)

 

以前鞠莉が理事長室で昔の資料を広げてベリアルの調査をしていた光景を思い出す。

 

彼女が何を知りたがっているのかはわからないが、ベリアルが悪の戦士になってしまった、などということは話さない方がいいだろう。

 

……だいたい、なぜそんなことを未来が知っているのかも説明することはできないのだから。

 

「具合が悪いなら休んだほうがいいずら」

 

「未来くんその腕の怪我だってちゃんと治ってないんだから、安静にしないと」

 

労わるように優しい言葉をかけてくるみんなを見て、なんだかいたたまれない気持ちになった未来は、額ににじんでいる汗を拭って言う。

 

「……わかった、今日は帰って横にならせてもらう」

 

「迎えのリムジンを用意しまショウか?」

 

「お構いなく」

 

鞠莉の並外れた価値観の発言をスルーし、未来はどんよりとした雰囲気を漂わせて屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……、千歌達が団結しようとしてるのに、俺は何やってんだ……」

 

東京のイベントや、三年生の問題を乗り越え、Aqoursはさらに高みへと向かおうとしている中、自分だけが取り残されているような感覚に陥っていた。

 

ベリアルが敵になったということ以外にもいくつか悩ましいことがある。

 

仮にそれを受け入れられたとして、ベリアルに勝つことができるのか?

 

彼がウルトラの父に引けを取らない強さなら、未来とメビウスの力でそれを退け、地球を守ることは叶うのか?

 

……否、だ。今も痛々しく残る両腕の火傷がそれを物語っている。

 

(たった一撃だけなのに、あの力……)

 

以前受けた光線の痛みが自然と思い出される。

 

未来は嫌な気分を吐き出すように、重いため息をついた。

 

 

 

 

『……?未来くん、ちょっと』

 

「どうかしたか?」

 

メビウスに制止され、未来は立ち止まり、ふと顔を上げる。

 

 

 

…………そこに立っていた人物を見て、目を見開いて固まった未来は、小さく呟いた。

 

「父さん…………母さん…………?」

 

目の前に現れたのは、まさに幼い頃にこの世を離れてしまった父と母だった。

 

顔も髪も、ありとあらゆる身体のパーツが未来の記憶を揺さぶってくる。

 

「久しぶりだな、未来」

 

「会いたかったわ。随分大きくなったのね」

 

「なん……で…………」

 

あり得ない。どうかしてる。ついに頭でもおかしくなったのか。

 

どっと汗をかきながらゆっくりと後ずさる未来を見て、父は空いた距離を縮めようと足を踏み出してくる。

 

「く、来るな!」

 

「どうしたんだ未来、そんな怖い顔して……」

 

「母さん達がわからないの?」

 

明らかに不自然だ。怪しさしかない。

 

しかし、それでも今の未来の心を乱すには充分だった。

 

死んだ人間が目の前にいることが問題なのではない。それが未来の父と母であることが問題だった。

 

『これは……!未来くん逃げて!』

 

「父さん……母さん……なのか……?」

 

『冷静になるんだ!これは罠だ!』

 

操られたように徐々に前へ進みだす未来。

 

憧れの像が砕かれてしまった今、未来は自分の心の支えとなってくれる何かを求めているのだ。

 

メビウスのことも、何もかも打ち明けられる、そんな支柱となってくれる存在が。

 

「おいで、おいで、おいで、おいで…………」

 

ぐるぐると回る視界の中の中心に見える、手招きする父と母の姿。

 

「俺は…………」

 

 

 

 

「ちょっと痛いけど、我慢してね」

 

静かな男の声が聞こえる。

 

差し出された手のひらに触れようと腕を伸ばした瞬間、後頭部に凄まじい衝撃と鈍痛が迸り、一瞬で目の前がブラックアウトした。

 

 

◉◉◉

 

 

「う…………っ!」

 

頭の激痛で目を開けると、そこにはコンクリートの地面が広がっていた。

 

痛みに耐えて立ち上がろうとするも何かで縛られているのか、膝をついた状態で身動きはとれなかった。

 

(血……?)

 

ぼやける視界を凝らし、目の前に赤い液体が小さな水たまりを作っていることに気がつく。

 

これが自分の血液であることはすぐにわかった。おそらく後頭部を何かで殴られた時の傷から流れ落ちたものだろう。

 

周りに視線を巡らすと、灰色のひび割れた空間が広がっている。どこかの廃墟にでもいるみたいだ。

 

「気分はどうだい?」

 

横から現れた男を、虚ろな瞳で見上げる未来。

 

黒ずくめの男の隣には先ほどの父と母が立っており、それを視認した途端に未来は目を見開いた。

 

「どういう……ことだ…………」

 

「こういうことさ」

 

くい、とノワールが二人に顔を向けると、そこに立っていた父と母の姿がみるみる変貌していく。

 

『ザラブ星人に……ババルウ星人……!』

 

「ボクの協力者さ。君をおびき出すための餌役になってもらった」

 

「…………お、まえ……!」

痛いくらい拳を握り、確かな殺意を持ってノワールを睨みつける。

 

「父さんと母さんを…………こんなことのために……‼︎お前はァ!!」

 

「…………おっと」

 

瞬間、未来の胸から禍々しいオーラが溢れ出す。

 

漆黒の光、という表現が似合うソレは止まることなく放出され続け、コンクリートの床を染め上げていく。

 

「効果抜群ってところかな」

 

「絶対に……!絶対に許さねえ!!お前だけは……この手で……!!殺してやる!!」

 

「はぁ…………」

 

鬼のような形相でこちらに殺意の言葉を撒き散らす未来を無視し、ノワールは眉をひそめて顔を覆った。

 

「…………所詮はただの人間か」

 

「くそっ……!クソ!!ノワール!!!!」

 

ノワールは柱に固定された少年のところへ歩み寄り、同じ目線の高さになるようにしゃがみ込んだ。

 

「今君の中から溢れているものがなにかわかるかい?」

 

狂ったように怒号を吐き続ける未来を見つめながら、ノワールは続けた。

 

「光の欠片が変異したものだよ。欠片は宿主の心の純度でどんなものにでも変化する。……つまりこの闇は全て、君自身も気づかないうちに溜め込んできたストレスの塊とも言っていい」

 

ノワールの言葉はもう未来には聞こえていない。

 

彼への殺意だけが残った身体で、ただただそれをぶつけ続けている。

 

「実を言うとね、ボクはほんの少し期待していたんだ。今回も、君はボクの予想もつかない奇跡を起こしてくれるんじゃないかってね。…………正直がっかりだよ」

 

体内から闇を放出し続ける未来を、ゴミでも見るような目で見下すノワール。

 

「もう興味も湧かない。君は所詮、この程度の男だったというわけだ。…………その身体はボクにこそ相応しい」

 

そう言うとノワールは一瞬で身体を黒霧へと変化させ、未来の口から内部へと侵入してくる。

 

『まずい……!』

 

咄嗟にメビウスが反抗するが、未来自身から放たれている闇が邪魔をしてくる。ノワールがわざわざ未来を怒らせたのも、これが狙いだった。

 

やがて意識は呑まれ、未来の姿をしたノワールが身体を縛っていた鎖を引きちぎり、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……?なんのつもりだ貴様!」

 

「さあ未来くん、目の前には侵略者が二人、どうしようか?」

 

「裏切るつもりか!?」

 

狼狽えるババルウ星人とザラブ星人を見やり、ノワールは不気味な笑いを漏らす。

 

ノワールは未来の身体を操り、左腕にメビウスブレスを出現させた。

 

「くそっ……!」

 

直後、二人の宇宙人が身体を巨大化させ、廃墟の天井を貫いて外へと飛び出す。

 

頭上から落下してくる瓦礫を振り払い、ノワールは呟いた。

 

「…………メビウス」

 

黒い閃光が周囲を包み、禍々しい光のカーテンが広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ハァァァ……!」

 

赤い巨人が内浦の街の中に降り立ち、二人の宇宙人と対峙する。

 

(始めようか)

 

「ぐっ…………‼︎貴様ぁ!!」

 

背後から接近してきたババルウ星人だが、メビウスはそれを見ずに後ろへと蹴りを突き出す。

 

「うぐっ……!」

 

槍のような貫通力を持ったそれはババルウ星人の身体を容易く後方に吹き飛ばし、戦闘が困難になる状態まで弱らせてしまった。

 

「ひっ……!」

 

ノワールが操るメビウスの恐ろしさがザラブ星人の身体へ染み渡る。

 

彼はたまらず四肢をめちゃくちゃに動かして、逃走しようとメビウスに背を向けた。

 

(おや、逃げるのかい?)

 

徐々に距離を詰めながらメビュームブレードを展開するノワール。

 

それを見てついに腰を抜かしたのか、ザラブ星人は悲鳴を叫びながら悪魔の巨人を見上げた。

 

(ばいばい)

 

振り下ろされた闇の刃がザラブ星人の頭部を貫き、断末魔と共にその身体が爆散する。

 

「あああああああああ!!!!」

 

満身創痍なババルウ星人がまたも背後から殴りつけようと拳を繰り出してくる。が、ノワールはそれをいとも簡単に受け止めると、カウンターの膝蹴りを放つ。

 

(今までご苦労だったね。皇帝のために……、そしてボクのために死んでくれ)

 

「あ…………」

 

ブレードによる横薙ぎがババルウ星人の身体を両断し、四方に肉片を撒き散らしながら大爆発を起こした。

 

(くくく…………!はぁーはっははははははは!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これ以上…………彼の身体を……!好きにさせてたまるかぁ!!』

 

(……?)

 

メビウスの体内から微弱な光が漏れ出し、身体から追い出されそうな感覚が走る。

 

(そうだ……、未来くんの身体を奪ったとしても、君がいることを忘れていたよメビウス)

 

『うっ…………!おおおおおおお!!!!』

 

これまでにないくらいの踏ん張りが闇を振り払い、未来の意識も少しずつ取り戻されていく。

 

(……しょうがない、”プランB”に移行しようか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁああっ!!」

 

バチィ!と弾かれたようにノワールと未来の身体が分離し、両者は側に海岸が見える道路へと放り投げられた。

 

『大丈夫かい!?』

 

「ゴホッ!げほっ!けほ…………ッ!」

 

激しく咳込む未来はボロボロだが、体内にノワールの気配は感じない。どうやら追い出すことに成功したらしい。

 

前方の数メートル先には黒ずくめの男が立ち膝で顔を伏せているのが見えた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

『計画は失敗に終わったみたいだな!』

 

表情の見えないノワールに向かってメビウスが勇ましく言い放つ。

 

「……ふふっ……!あははははははは!!!!」

 

「なにが、おかしい……!」

 

血の通っていない顔の未来が、唐突に笑いだしたノワールへ鋭い視線を向けた。

 

「ついに……!ついに手に入れたぞ……!」

 

ノワールの左手には眩い光が宿っており、それは奴の腕の上でゆっくりと固形物に形成されていく。

 

「それは……!」

 

「君の身体は奪えなかったけど、これさえあれば結果オーライだ」

 

ノワールの左腕には、未来のものとよく似た…………()()のメビウスブレスがあった。

 

「メビウスの力……その一部を頂いたのさ」

 

『そんなバカな……!』

 

「勝ち取ったんだよ!光の欠片と同等の…………、ウルトラマンの光を‼︎」

 

黒いメビウスブレスを掲げ、ノワールは黒霧に包まれてその場を去ろうとする。

 

「待てっ……!」

 

不安定な足取りでノワールを追いかけようとする未来だったが、数歩移動した時点で膝をついてしまう。

 

「さらばだ未来くん。次会う時は……君達の敵として現れるから、そのつもりでね」

 

後に残された未来は、抑えきれない悔しさを爆発させた。

 

 

 

 

「ノワール……!ノワール‼︎ノワール!!!!」

 

倒すべき敵の名前を、自らの胸に刻みつける未来。

 

その悲壮感を表すように、激しい波の音だけが周囲に響いていた。

 

 

◉◉◉

 

 

その夜。

 

未来の家を抜け出したメビウスが、月の光を写す海の前へと立つ。

 

その外見は誰が見ても人間の青年の姿をしており、もし人に目撃されても彼がウルトラマンだとはわからないだろう。

 

(……僕は彼と一緒にいてもいいのか……?)

 

以前から感じていた疑問が、ふと頭の中によぎる。

 

どんどん力を増していく怪獣達に、ノワール。

 

未来が共に戦うことを望んでいるとはいえ、やはりこのままというわけにはいかないのでは……?

 

(このままじゃ僕はともかく、未来くんの命が危ない)

 

これはメビウスが始めたことだ。

 

未来という少年に助けられ、今も一緒に戦っている。

 

……だが、出会った時とは違い、今はもうメビウス一人でも戦闘は可能だ。

 

未来という尊い命を犠牲にしてまで、メビウスは彼と一緒に戦うことは選びたくない。

 

「ん……?」

 

不意に空を見上げると、側に光の文字が漂っているのが見えた。

 

ウルトラサインだ。

 

その内容はーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「光の国への、帰還命令……?」

 




ノワールの完全勝利……。
彼の思惑通りとなってしまった未来とメビウス。
そしてついに光の国への帰還命令が下され……?

今回の解説は黒いメビウスブレスについて。

メビウスの力の一部を奪ってノワールが再現した”闇のメビウスブレス”。その力は怪獣達の使役や、ノワール自身をも超人に変えることができる、といった能力です。
第二章ではこれを使ってノワールが様々な事件を起こすことになるでしょう。
今のところ明かせるのはこれくらいです。

そして次回。
普段僕はハッキリとした次回予告などはあまりしない方なのですが、今回は次回のサブタイトルを先に公開しておきたいと思います。

次回、第42話「鉄神の襲来」です。どうぞお楽しみに。


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第42話 鉄神の襲来

Aqoursのファーストライブまであとわずかですね。
…………僕は行けませんけど(血涙)。


「みんな、今日もお疲れ様」

 

「相変わらず屋上は暑いねぇ……」

 

とある休日の昼下がり。

 

練習を終え部室へと戻ってきた千歌達が汗だくの練習着のまま勢いよく椅子や床に倒れ込む。

 

千歌は冷たい床の感覚に夢中になりながらも、じっと部室の隅に視線を移した。

 

いつもなら、そこにはいつも未来が壁に寄りかかりながらみんなを見守るような瞳で見ている姿があるのだが…………。

 

「未来くん、今日も来なかったね」

 

「やっぱり、身体の具合があまり良くないんじゃ……」

 

「千歌は何か聞いてないの?」

 

水の入ったペットボトルを片手に、果南が床に脱力して倒れている千歌を見やる。

 

「一応連絡はつくんだけど……、なんだかパッとしない返事ばかりで」

 

「今まで未来さんが無断で休むことなんてなかったのに……、心配ですわね」

 

基本テンションの低い方ではない未来だが、ここ最近は不自然なくらい元気がない様子だった。そのことも少しひっかかる。

 

周りが未来の安否に頭を悩ませる中、曜はただ一人険しい表情を浮かべていた。

 

(……あの時のは、見間違いじゃなかったんだよね……?)

 

 

 

 

 

「じゃあ、みんなでお見舞いなんかどうですか?」

 

不意にぱんっと手を合わせたルビィが、そう提案を皆に投げかけてきた。

 

それを聞いた他のメンバーも顔を見合わせて「いいね!」と首を縦に振る。

 

「でも、大勢で行ったら迷惑じゃない?」

 

「あっ……そっか」

 

「じゃあ誰がお見舞いに行くか、ジャンケンで決めましょう」

 

ダイヤがそう言ったのを皮切りに、自然と各々が手を突き出してグーの形を作る。

 

「えーっと……、勝った人?負けた人?」

 

「後者だと罰ゲームみたいで未来さんに悪いですわね……」

 

「じゃあ勝った人で」

 

見舞いに行く一人を決めるためのジャンケン。同時に手を引き、そしてまた前に出す。

 

「いきますわよ。じゃーんけーん……」

 

ーーーーポンっ!!

 

 

◉◉◉

 

 

淡島神社の祠を囲む木々の枝に、ノワールはいつものようにどっしりと腰を下ろしていた。

 

左手にある黒いメビウスブレスを眺め、気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 

「……ここから先は皇帝のお手伝い、か。あんなもの貰っちゃったんだし、断れないけどね」

 

ブレスのサークルから立体映像が空中に投影され、そこには地球周辺の宇宙空間の様子が見える。

 

そして、こちらに向かってくる隕石のようなものが一つ。

 

「”インペライザー”……だっけか。これを使ってメビウスを倒せだなんて……皇帝も容赦が無いよね、まったく」

 

ハッキリ言って今回は未来やメビウスを見逃すつもりはない。彼が光の欠片を宿している者でも、この間の事で本人の力量は知れている。

 

インペライザーよりも強ければ生きるし、弱ければ死ぬ。それだけだ。

 

「これ以上失望させないでくれよ?……もう期待はしないけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーピンポーン。

 

「ん…………」

 

どうやらすっかり寝過ごしてしまっていたらしい。

 

未来はインターホンの音で目が覚め、気怠そうにベッドから降りると、ゆっくりと部屋を出て一階の玄関へと向かった。

 

誰が訪ねてきたのかは予想がつく。おそらくはAqoursのメンバーだ。

 

ここ数日彼女達の部活動に顔を出していなかったので、大方心配してくれたみんながお見舞いにでも来てくれたのだろう。

 

(…………できれば一人にして欲しかったんだがな)

 

自分のせいで、自分がまんまとノワールの罠にかかったせいで、メビウスは力の一部を奪われ、奴は強大な力を手に入れてしまった。

 

…………何もかもが悪い方向に進んでいる。

 

「はい」

 

包帯でぐるぐる巻きになった腕でドアノブを掴み、開く。

 

そこに立っていたのは、髪の毛の一部を三つ編みにした、みかん色がよく似合う幼馴染の姿だった。

 

一度着替えてきたのか、彼女が身につけているのは練習着ではなく、東京へ行った時のような私服だった。

 

「あ!未来くん!」

 

「千歌か……、何か用か?」

 

「ううん。用ってほどでもないんだけど……、ほら、未来くん最近部活に来ないから寂しいなーって」

 

ふと視線を落とすと、千歌の手には行きつけの喫茶店の紙袋が握られているのが見えた。

 

「お見舞いってことで……、入ってもいいかな?」

 

「あ、ああ……いいけど……」

 

差し出された袋を受け取った後、千歌を中に入れてリビングまで案内する。

 

 

 

 

「わざわざ悪いな、みんな怒ってないか?」

 

「全然!むしろ心配してる。……そのケガ、まだ痛む?」

 

千歌の前にお茶を出し、未来も彼女と向かい合うかたちでテーブルの前に座った。

 

「動かさなければ大したことはないよ。……まあなんだ、とにかく心配する必要はないから」

 

「……次に怪獣が出た時にはさ」

 

「え?」

 

下を向きながら何か言いたそうにしている千歌だったが、すぐに迷いを振り切って未来に言う。

 

「街の人の避難も大事だけど、今は未来くんだって怪我人なんだし……、まずは未来くんも一緒に逃げてほしいかなぁって……思ってて」

 

「千歌…………」

 

そんなわけにはいかない、とすぐには言えなかった。

 

自分達が行かなくては、街の人を……千歌達を守ることができないのだから。

 

だが千歌は、ウルトラマンメビウスは今目の前にいる少年なのだということを知らない。自ら正体を明かすわけにもいかない。

 

もし言ってしまえば、今までの事が全部崩れて、この関係も無くなってしまうような気がしたから。

 

……でも、そんな瞬間もいつやってくるかわからない。

 

(いつかは…………みんなにもバレる時がくるんだろうな)

 

 

「ねえ、ちょっとだけ外歩かない?」

 

「……?散歩か?」

 

「まあ、うん」

 

「別にいいけど……」

 

「うんっ。じゃあ行こ!」

 

千歌に手を引かれて外に飛び出した未来は、予想していた以上の猛暑に眉をひそめた。

 

眩い太陽の光すらも不快に感じる。

 

行くあてもなく海岸沿いを並んで歩いていると、千歌がぽつりと話題を零した。

 

「今度……落ち着いた時でいいからさ、どこかに遊びに行かない?」

 

「ん?俺はいいけど……、みんなにも聞いてみないとな」

 

「あっ、そうじゃなくて…………」

 

「…………?どういうことだ……?」

 

「えっと……だからその……」

 

立ち止まってもじもじと三つ編みをいじりだす千歌。

 

やがて未来の顔を直視し、口元を緩める。

 

「……そうだね、曜ちゃん達にも相談しないと」

 

ほんの少し悲しげな表情で未来に背を向けた千歌が、彼から距離を置くように道の奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……?流れ星…………?」

 

「え?」

 

ふと真昼の空を見上げた千歌の視界に映っていたものは、赤紫色をした隕石のようなものだった。

 

それは突如空中で消滅するのとほぼ同時に、街中にも瞬間的に現れた謎の光が収束してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー始まるよ、未来くん。

 

 

◉◉◉

 

 

空間転移を利用して内浦に飛来したソレは、生物的な感情等は一切感じられない、ただ使用者の命令に従う戦闘兵器だ。

 

黒光りする砲台を両肩に装備し、頭部には三連装ガトリングガンが配置されている。

 

その名は、”インペライザー”。闇の者が操る無双鉄神。

 

「ロボット…………?」

 

いつもノワールが怪獣を呼び出す時に現れるゲートが、今回は展開されることはなかった。

 

奴は宇宙から直接地球へと送られてきたのだ。

 

 

街の中で棒立ち状態のインペライザーを唖然と眺めていると、千歌が咄嗟に未来の腕を掴み、来た道を引き返そうと引っ張りだす。

 

「ちょっ……⁉︎」

 

「逃げなきゃ……!」

 

未来は千歌に手を引かれながらも、首を後方に向き直して巨大なロボットを見上げた。

 

(ノワール…………ッ……!!)

 

今度こそ。

 

今度こそあの男に勝利してやろうと、未来の中で闘争心が爆発した。

 

直後、唐突に動き出したインペライザーが建物を踏み潰しながらこちらへ向かってくるのが見えた。どうやらメビウスの宿主である未来を狙っている様子だ。

 

『このままじゃ……!追いつかれるよ!』

 

(でも今変身は……!)

 

奴が未来を捕捉している限り止まることがないのなら、やはり戦うしかアレを止める方法はない。

 

しかし、今目の前には千歌がいる。

 

「…………ッ!」

 

「未来くん……⁉︎」

 

千歌の手を振りほどいた未来が、何も言わずに彼女から背を向けたところで何かを察したのか、千歌はすぐさま未来の腕を掴み取った。

 

「千歌…………⁉︎」

 

「ダメ!ダメだよ!今回は……、今回だけは未来くんを放っておけない!!」

 

「…………っ」

 

違う。違うんだ。

 

自分達が行かなくてはならないんだ。でないと、他に誰がみんなを守るっていうんだ。

 

他の誰にもできない。日々ノ未来とメビウスだからこそできること。

 

 

「頼む……、頼むから離してくれ…………!千歌!」

 

「いや!絶対にいや!!」

 

今にも泣きそうで必死な表情を浮かべながら未来を止めようとする千歌。

 

「未来くんだってケガしてるのに!……もし、何かあったら……」

 

やがて彼女の目元から一筋の雫がこぼれ落ちた。

 

その瞬間、数年前のあの記憶がフラッシュバックする。

 

 

ーーーー俺に、力があれば。

 

 

 

 

 

 

(今その力は…………!確かに持っているはずだ!!)

 

過去の自分の姿が重なり、未来はインペライザーに対する凄まじい嫌悪感を一気に募らせていく。

 

 

もう、迷ってる場合じゃない。

 

 

 

「千歌……」

 

「……未来くん……?」

 

千歌の瞳に自分の瞳を合わせ、逸らさないようにしっかりと見据える。

 

「今まで……!黙ってて悪かった!!」

 

「えっ……?」

 

弾かれたように後ろを振り向いた未来は、インペライザーのいる方向へと全力で駆け出す。

 

光を宿した左腕を構え、走りながら天へと突き上げた。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

 

光に包まれた少年が天を舞い、代わりに赤く巨大な頭、胴体、腕、足、と次々にその姿を現していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うそ……でしょ…………?」

 

空から飛び蹴りの構えで現れた光の巨人がインペライザーへと迫る。

 

そのキックは肩部分に直撃したが、奴は全く動じていない。

 

その巨人は、まるでそこにいた少女の安否を確認するように…………、千歌の方へと振り向いた。

 

輝きを宿した二つの大きな目がしっかりと千歌を捉えているのがわかる。

 

「セヤッ!」

 

勇ましくインペライザーに飛びかかり、動きを止めようとするメビウスだが、その圧倒的なパワーを抑えることは叶わず、逆に奴の鋼鉄の裏拳で吹き飛ばされてしまう。

 

「なんで…………。なんで……、なんで未来くんが!?」

 

インペライザーに踏みつけられる赤い巨人に向かって幼馴染の名前を叫ぶ少女。

 

「ウッ……!ア”ァッ…………‼︎」

 

プログラミングされているように無機質な動きのくせに先が読みにくい攻撃がラッシュされ、メビウスは回避するのに精一杯の状況だ。

 

『未来くん……!君は……』

 

(…………今は戦いに集中しよう)

 

目の前の敵を倒すことだけを考える。

 

頭部のガトリングガンが目のようにメビウスを捉え、直線状のビームが発射された。

 

(ぐぅっ……‼︎)

 

上半身をギリギリまで後ろに曲げ、ビームを避けるのと同時にインペライザーへと肉薄し、全力で拳を叩き込む。

 

「ハッ……⁉︎」

 

強烈なパンチを何発も喰らっているはずなのに一歩も引かないインペライザーを見て、若干の焦りが生じてきた。

 

直後、両肩の砲台から赤いエネルギー弾が噴き出し、メビウスの身体を簡単に吹き飛ばしてしまう。

 

「ヘァアァア…………‼︎」

 

「あっ…………!」

 

遠目でメビウスの戦闘を見ていた千歌が思わず声を上げ、口元を両手で覆った。

 

 

 

『大丈夫か⁉︎』

 

(くそ……っ……!くそ!!)

 

決死の思いでブレスからメビュームブレードを伸ばし、これまでに無いくらいの速度でインペライザーへ接近する。

 

火事場の馬鹿力とでも言おうか。自分でも信じられないくらいの力が湧き出てきている。

 

…………ノワールに対する”憎しみ”という力が。

 

「セヤアァッ!!」

 

限界を超えたスピードで振りかざされた光の刃が鋼鉄の腕の付け根を捉え、間髪入れずに刃を引く。

 

両断された腕が地面に落ちたところでもう一発叩き込もうとするメビウスだったが……。

 

「…………⁉︎」

 

ギギギ、と破壊されたはずの腕が動き出し、なんと巨大な剣へと変貌したのだ。

 

(なっ……に……!?)

 

宙に浮かび上がり、元あった胴体へと吸い込まれていく剣。

 

インペライザーの再生機能によって、腕を切られる前よりも強化されてしまったのだ。

 

『なんだ……こいつは…………!?』

 

(ぐっ……!!)

 

繰り出される斬撃をメビュームブレードで受け止めるが、力負けしてしまっている。

 

巨体から振るわれる大剣。その威力は言うまでもないだろう。

 

……負ける。直感的にそう思った。

 

(受け流すのが精一杯だなんて…………!)

 

なんとかメビュームブレードで剣の軌道を変え直撃を避けているが、いつか限界はくるだろう。それもすぐに。

 

「ハァァァ……!」

 

ならば、とメビウスブレスのエネルギーを増幅させ、腕を十字に組んでメビュームシュートの体勢へと転じる。

 

「セヤアアアア!!」

 

光の粒子が一直線にインペライザーへと伸び、命中。奴の砲台部分を焼き飛ばすことに成功した。

 

しかし…………

 

「……フッ……⁉︎」

 

「ーーーーーーーー」

 

またも再生機能を発揮したインペライザーは、光線で受けた傷を跡形もなく修復してしまった。

 

(そんな……!)

 

カラータイマーが点滅し始めた刹那、奴のガトリングガンから放たれた螺旋状の光線がメビウスの腹部へと直撃し、なす術なく後方へ吹っ飛ばされてしまう。

 

「ウッ……!グアッ…………‼︎」

 

ーーーーまただ。

 

ーーーーまた俺は…………

 

(何も…………できないのか……?)

 

『未来くん……⁉︎おい!未来くん!!』

 

徐々にメビウスの身体がぼやけ、やがて幽霊のようにふっと消滅してしまった。

 

「…………ッ!!」

 

それを見ていた千歌は、すぐさま地面を蹴ってメビウスが消えた方向へ走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー」

 

直後、インペライザーが何かに反応するように動きを止め、おもむろに空を見上げた。

 

 

視線の先にあるのは、赤い小惑星のような物体。

 

それはゆっくりと地上に降りてくると、インペライザーの目の前で光を発しながら霧散していく。

 

「ーーーーーーーー」

 

現れたのは、メビウスとはまた違う、別の光の巨人だった。

 

特徴的な二本の角に、胸に輝くカラータイマー。紛れもなく彼がウルトラマンであることは確かだった。

 

 

 

ーーーータロウ……教官……

 

弱々しい声が、テレパシーとなってタロウの耳に届く。

 

「タアッ!」

 

インペライザーが仕掛けてくる前にタロウは驚異のジャンプ力で飛び上がり、空中でのムーンサルトスピンで勢いをつけ、そのまま足を突き出して急降下。奴に強烈な蹴りをお見舞いした。

 

「ーーーーーーーー」

 

新手の敵が現れたからか、インペライザーは先ほどと違った雰囲気でタロウへと照準を向けた。

 

 

◉◉◉

 

 

「未来くーーーーんっっ!!」

 

瓦礫が辺りに散らばっている中、千歌は足をとられないように注意しながら未来を探していた。

 

「未来くんッ!!いるんでしょ!?お願いだから返事して!!」

 

ーーーー”なんでもない”よ。

 

彼はいつもそうだった。

 

何か悩んでいることがあるはずなのに、未来は決まって”なんでもない”と言ってその場をやり過ごそうとする。

 

気づかないわけがない。

 

何かある。絶対に彼は何か隠していると、そう確信していたんだ。

 

……だって、幼馴染だから。

 

でも…………

 

 

 

「…………っ!未来くん!!」

 

煤まみれで横たわっていた少年の姿を見つけ、千歌はすぐに側へと駆け寄った。

 

緩まった包帯から覗く両腕の痛々しい火傷の後が見え、それさえもウルトラマンとしての戦いで負ったものだと瞬時に理解する。

 

つまり、今までの不自然な怪我は全てーーーー

 

「こんなに……ボロボロになって……!こんなに傷ついて……‼︎未来くんは…………‼︎」

 

気を失っている未来を抱きかかえ、その顔を涙でぐしゃぐしゃになった自分の顔へ引き寄せる。

 

「お願い……!死なないで……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストリウム!光線‼︎」

 

タロウが両手をTの字にして放つ七色の光線がインペライザーへと殺到し、その上半身を一瞬のうちに吹き飛ばしてしまう。

 

それにはメビュームシュートとの威力の差がハッキリと現れていた。

 

「ーーーーーーーー」

 

下半身だけとなったインペライザーにも警戒は解かず、タロウは再び両手を奴に構える。

 

「ーーーーーーーー」

 

「……⁉︎」

 

驚くべきことに奴は、上半身が無い状態で足を一歩踏み出してきた。

 

予想以上のしぶとさにさすがのタロウも驚愕せざるを得ない。

 

もう一度ストリウム光線を放とうと体勢を整えたところで……

 

 

 

 

「ーーーーーーーー」

 

インペライザーの身体は連れ去られるように空の彼方へと消えてしまった。どうやら空間転移で逃走したらしい。

 

「…………」

 

タロウは足元に見える少年と少女を見下ろした後、両手を振り上げて飛行のポーズをとり、地面を蹴った。

 

その時遠ざかる赤い巨人を、未来の中で辛うじて意識を保っていたメビウスがじっと見つめていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「うっ……!」

 

全身の激痛で瞼が開き、視界には白い天井が飛び込んでくる。

 

「未来くん!」

 

そこには個室のベッドで寝かされていた未来を囲むように、Aqoursのメンバーが立っていた。

 

どうやら病院に運び込まれたらしい。

 

「大丈夫なの?」

 

一番に駆け寄ってきた曜が、青い顔をしてそう聞いてくる。

 

「ああ……。いっ……た……!」

 

首を縦に振りつつも、未来は千歌を含めた他のみんなが気まずそうな顔を浮かべていることに気がつき、思わずその理由をきいてしまった。

 

「どうかしたのか……?」

 

「……ごめん未来くん、千歌ちゃんがみんなに……話しておくべきだって」

 

曜の言葉の意味が理解できずにいると、先ほどから顔を伏せて黙り込んでいた千歌が立ち上がり、側まで歩み寄ってきた。

 

「……どうして…………言ってくれなかったの……?」

 

「え……っ?」

 

そこで初めてわかった。

 

…………もう、みんな”知っている”のだと。

 

「……みんなに話したのか?」

 

険しい表情をした千歌が、段々と語気を強くしていく。

 

「ねえ、どうして?……なんで未来くんは、私達に何も言わないで……、自分の命かけてまで……!」

 

「……だから、前から言ってるだろ。…………これくらいなんでもなーーーー」

 

「なんでもなくない!!!!」

 

急に声を荒げた千歌に、その場にいた全員が身体をビクつかせる。

 

「なんでもなく、ないんだよ…………。例え未来くんが平気だって言っても、私は違うの!!」

 

「……!待ってくれ千歌、違うんだ……!俺はただ……‼︎」

 

「私は!!」

 

一瞬の静寂が部屋を満たし、いつの間にか千歌の目元から流れていた涙は、何滴も地面に落ちていた。

 

「私は…………こんなことをしてまで、守って欲しくなかったよ」

 

「……あ……」

 

「……⁉︎千歌!?」

 

その言葉を最後に病室の扉を開けて廊下へ飛び出していった千歌。

 

彼女を追いかけようと部屋を飛び出したのが果南と梨子だ。

 

数人が欠けた部屋のベッドの上。未来は虚ろな瞳で、魂が抜けたような様子で下を向いた。

 

 

 

 

 

(ああ、俺は…………)

 

ーーーー今まで、何をしていたんだ。

 

 

◉◉◉

 

 

ーーーーーー光の国への帰還命令。

 

この先の戦いは、これまで以上に過酷なものになるだろうからと、ウルトラの父が直々にメビウスへ下した命令だった。

 

『僕はどうすればいいんだ……?』

 

光の玉となったメビウスが、夜の病院で眠っている未来の横顔を見つめている。

 

その姿は、やはりまだ人間の高校生。子供だということを再認識させられる。

 

 

 

ーーーー自分は、まだ地球のために戦いたい。

 

しかし、インペライザーには敗北した。この先はアレよりももっと強力な敵が送り込まれてくるだろう。

 

その時命の危険に晒されるのは自分だけではない。

 

ならばどうするかーーーーーーーー

 

『これ以上僕のせいで、君の生き方を狂わせることはできない』

 

メビウスは球体からみるみる姿を変えていき、やがて人間の青年の姿へと変身を終えた。

 

音を立てないように病室の出入り口まで移動し、再びベッドに横たわっている少年へ視線を注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「……今までありがとう、未来くん。君のおかげで僕は、色々なことを学べた」

 

名残惜しそうに顔を伏せた後、すぐに顔を上げて決意に溢れた目つきへと変わる。

 

「…………さようなら」

 

 




ついに正体を明かしてしまった未来。
彼がメビウスだということを知り、ショックを受けてしまった千歌。
そして未来のもとから去ったメビウス……。
果たして次回は…………⁉︎

解説いきましょう。

今回の話で未来に想いを寄せていたのは曜だけではなかったことがわかると思います。
今までオリジナル回であまり重要な役割を果たしていなかった千歌ですが、今回のエピソードでそれも覆ります。
そして未来とメビウス。
今作のW主人公とも言えるこの二人も、今までの話ではイマイチ噛み合っていない雰囲気もたびたび表れていました。
これからの展開で二人はノワールに一矢報いることができるのか……⁉︎
そして心が折れてしまった未来の鍵となるのは……⁉︎

それでは次回もお楽しみに。


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第43話 これまでの自分


今回は文字数少なめですね。
完全に溜め回です。


まるで鉛が乗っているかのように、いつもよりも重く感じる身体。

 

…………いや、違う。これは”戻った”だけなんだと理解する。

 

「…………嘘だろ……?」

 

未来は飛び跳ねるようにベッドから上半身を起こすと、胸に手を当てて目を瞑った。

 

いつも側にいたはずの存在が、

 

メビウスの気配が、無くなっていることに気がついたのだ。

 

「……なんでだよ……、どこに行ったんだよ…………‼︎」

 

溢れそうになった涙を拭い、すぐさまベッドから降りて上着を羽織った。

 

しかし…………

 

「………………」

 

病室を出ようとしたところで足を止める。

 

もしメビウスを見つけたとして、どうする?

 

彼が自分のもとを去った理由は明白だ。決定打となったのは昨日の千歌に言われたことだろう。

 

メビウスは自分のせいで未来の人間関係が変わってしまうのを恐れたのだ。

 

(あいつがどうしていなくなったのか……)

 

全て未来のため。

 

当然だ。メビウスにとって、未来は今まで一緒に戦ってきたパートナーである以前に人間という守るべき対象なのだから。

 

今回は偶然助かったが、次にインペライザーと戦えばどうなるかわからない。

 

今度こそ命を落としてしまうかもしれない。

 

 

 

 

「俺は…………この戦いから手を引くべきなのか……?」

 

 

◉◉◉

 

 

「……この前は、助けていただきありがとうございました」

 

水平線を背に、メビウスは人間態となっているタロウへ頭を下げた。

 

目の前の先輩に確かな緊張感を持ちつつ、メビウスは引き締まった顔で再び顔を上げる。

 

「なぜ帰還命令に従わなかった?」

 

「それは……」

 

「ウルトラサインで伝えたはずだろう」

 

「ですがっ……!」

 

言いたいことに霧がかかっているかのように、上手く言葉が出てこない。

 

「君と一体化していた少年も重傷を負ったと聞く。……君も同じだ。このまま戦い続ければ、確実に命を落とすことになるんだぞ」

 

そうタロウは言った。ハッキリと、メビウスの力不足を指摘してきたのだ。

 

返す言葉も見つからない。確かに彼の言うことは正しい。

 

……でも

 

「それでも僕はまだ……この星を守りたい!もうあの子を危険に晒すことはしません。……僕だけの力で、人間を守りたいんです!」

 

今はそう伝えることしかできない。

 

タロウはここでいくらメビウスの話を聞いても考えを変えるつもりはないだろう。だが、メビウスにも引けない理由はあった。

 

かけがえのない、この内浦で過ごした時間という宝が。

 

「…………失礼します」

 

「待て!メビウス!」

 

タロウが止まるのも構わずに、メビウスは驚異的な身体能力を使ってその場から離れる。

 

その後ろ姿を見て、呆れたようにため息を吐き出すタロウ。

 

「まったく君は……、本当に生真面目な奴だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なーんか、つまんないな」

 

ふとこぼれ落ちた愚痴が、風にさらされて消えていく。

 

ノワールは昨日記録していた光景を、左腕にある漆黒のメビウスブレスから空中に投影させた。

 

そこに映っていたものは、インペライザーになす術もなく倒されてしまう光の巨人の姿。

 

「メビウスは未来くんから離れたか……、まあ賢明な判断だね。彼はこれから先の戦いには耐えられないだろうし」

 

インペライザーに敵わない程度の実力では、皇帝はおろか四天王にすら勝つことは不可能だろう。

 

「まあ、メビウスが単独で戦うとしても結果は見えてるけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ちゃんは?」

 

「……今日は休むって」

 

「未来くん、大丈夫かな……」

 

ふとそう呟く梨子に、部室にいた全員が反応するように視線が集まる。

 

昨日の病院でのことから、Aqoursの雰囲気は一気に暗いものになってしまった。

 

リーダーである千歌も普通に振る舞ってはいるが、時折その瞳から輝きが失われているのがわかる。

 

部屋の中に千歌がいないことを再確認してから、梨子は切り出す。

 

「みんなはどう思ったの?」

 

「どうって…………」

 

「今でも信じられないです。……未来くんがウルトラマンだったなんて」

 

今まで不自然な行動が何度も見られた未来だが、その理由が今ならわかる。

 

(……あの時……)

 

梨子は以前沼津に行った時のことを思い出す。

 

怪獣の中に囚われていた梨子を助けてくれたのも…………

 

いやそれだけじゃない。学校に現れた怪獣も、これまで現れた怪獣達と戦って、みんなを守ってくれていたのは未来だったのだ。

 

あの赤い巨人はーーーー

 

「あれ?そういえば曜は…………」

 

不意に鞠莉が部屋の中を見渡して首を傾ける。それに連動するように他のメンバーもキョロキョロと周りを確認した。

 

今部室にいるのは千歌と曜を除いた七人だけ。いつの間にか千歌だけでなく曜もいなくなっていたのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

当てもなく、ただひたすら歩き続けた。

 

メビウスを探しているわけではない。ただ無心に……未来は足を前に踏み出す。

 

メビウスは何も言わずに自分のもとを去った。

 

「……メビウス」

 

もう左腕にはメビウスブレスなんか出てくるわけがない。

 

ウルトラマンにもなれない。自分は無力な、ただの人間なのだから。

 

だから…………

 

(だから俺は……力が欲しかった…………ッ)

 

ノワールの言う通りだ。

 

未来は一人では何もできやしない。だから力が必要だった。求めていたんだ。

 

そうだ、最初からわかっていたはずだ。

 

 

 

 

「ここって…………」

 

顔を上げて、思わず目を見開く。

 

浦の星学院、その校舎裏。

 

メビウスと初めて出会った場所だった。無意識にここへ向かっていたということか。

 

「…………っ」

 

校舎に手をつき、その冷たくて硬い感触を肌に感じる。

 

ーーーーそんなことをしてまで、守って欲しくなかったよ。

 

 

 

何が親友だ。

 

何がマネージャーだ。

 

何が………………ウルトラマンだ。

 

 

 

「俺はみんなのことを…………何もわかってなかったじゃないか」

 

自分勝手に突き進んでただけだ。

 

みんなを、守っている()()に浸っていただけ。千歌達がどう思っているかもわからずに。

 

そして、メビウスが何を感じていたかも知らずに。

 

みんな心配してくれていたんだ、ずっと。その声を無視しながら突っ走っていたのは、自分自身。

 

正義を暴走させて、それを敵にも利用されて…………。

 

ーーーーバカだ。

 

「俺は…………ッ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいたんだね」

 

「……え?」

 

地面を映していた瞳を上げ、横を見る。

 

一人の少女が、敬礼しながらそこに佇んでいたのだ。

 

「ヨーソロー!未来くん!」

 

「……曜」

 

 

◉◉◉

 

 

「やあ、メビウス」

 

「……ノワールか」

 

「教官の命令に逆らうなんて、まったく悪い人だね君も」

 

黒ずくめの男を前にし、メビウスは警戒心を剥き出しにして構える。

 

今の奴はウルトラマンの力を持っている。メビウスと同じ力を。

 

風に揺られた木々が音を立てる中、二人の超人が対峙する。

 

「君も案外冷酷なところがあるんだね。ずっと戦ってきた未来くんをあっさり切り捨てるなんてさ」

 

「……彼を助けるためだ」

 

「ああ、そうだろうとも」

 

ノワールはゆっくりとこちらに近づいてくると、左腕に身につけている黒いメビウスブレスに触れながら言った。

 

「ここで提案なんだけどさ、ボクと組む気はないかい?」

 

「断る」

 

「即答だね。……まあ話だけでも聞いておくれよ」

 

三メートルほどの距離のところで立ち止まったノワールが身振り手振りを付けながら語り出した。

 

「皇帝はこの地球を滅ぼすつもりでいるけど……、実はボクにとってあまり喜ばしいことじゃない。何せ光の欠片を宿している可能性がある人間もまとめて消えちゃうことになるからね」

 

一拍置いて、メビウスの顔色をうかがってから再び口を開く。

 

「ボクはこの星にもっと輝いていてほしいんだ。……だから、ね?」

 

「僕の答えは変わらない。……お前と組むことなんてあり得ない」

 

「あらま、交渉決裂?」

 

参ったなあ、と頭をかいた後で、ノワールは一気に冷えた表情へ変わる。

 

絶対零度にも匹敵する視線が、メビウスを射抜いた。

 

「じゃあもう君には用はない。さくっと死んじゃってよ」

 

おもむろに腕を上げた後、指を鳴らしたノワールが黒霧に包まれてその場を去ろうとした。

 

「たった今地球にインペライザーを呼び戻した。……せいぜい頑張ってくれたまえ、光の戦士くん」

 

「…………ッ!」

 

漆黒の悪意が遠ざかり、メビウスは額に冷や汗を浮かべながら遥か彼方の空を見上げた。

 




未来の前に現れた曜は一体何を……⁉︎
次回のメビライブサンシャインは第一章の中で一番書きたかった回になります。

解説いきましょう。

未来の身体を離れたメビウスの人間態は、元ネタであるヒビノ ミライと同じ姿をイメージしてくれるといいでしょう。
今まで未来の容姿については説明をあまり入れてなかったのですが、テレビのミライとは全く違い、似てるというわけでもありません。名前だけを借りた全くの別人です。

近いうちに地球を離れたヒカリとステラを主人公とした番外編を書こうかなあ、と思っています。
そちらの方ではバンバン平成ウルトラマンとかも出せたらいいなあ、と。本当に投稿するかはまだ未定ですけど。

そして次回はついにアレが登場…………⁉︎
お楽しみに!


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第44話 決断の炎

サンシャイン二期が秋に放送決定!!!!
……ということで、やっと安心して第二章の構想が練られる……。
ライブには行けませんでしたが、ほんとに嬉しい発表でした。


「タロウにやられた部分の修復は完了してるね……、よしよし」

 

宇宙空間から地球へ特攻する勢いでやって来るインペライザー。

 

その姿を左腕のブレスから出した立体映像で確認したノワールは、腰を下ろしていた大木の枝から飛び降り、近くに見える街を見下ろす。

 

「メビウスは問題ないとして、厄介なのはタロウの方か。……インペライザーの再生力に敵うとは思わないけど、警戒はしておこう」

 

そう独り言を並べた後、今度は空を見上げて肉眼でインペライザーを視認しようとする。

 

「…………まだ遠いな」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………そっか。どこかに行っちゃったか」

 

コンクリートの上に座り込んだ未来と曜は、目の前に見える広大な海に視線を注ぐ。

 

たった今彼女には、全て話した。

 

メビウスとの出会い、今までの戦い、そして、メビウスがどこかへ行ってしまったことも。

 

何もかも全部吐き出したはずなのに、心の中にはまだモヤがかかっている。

 

「……全部俺のせいなんだよ。メビウスがどこかに行ったのも、千歌が言ったことだって……」

 

「うん、未来くんが悪いね」

 

あっさりとそう口にする曜に、思わず未来は愚痴を吐くのをやめた。

 

「千歌ちゃんが怒って当然だよ。……私だって…………ううん、他のみんなも同じだと思う」

 

「……だよな」

 

「うん、でもね……」

 

横で曜がきゅっと手に力を込めるのがわかった。ひどく緊張しているようで、その小柄な身体が少しだけ震えている。

 

 

「それ以上に、未来くんには”ありがとう”って言いたい」

 

「……は…………?」

 

間の抜けた声が波の音でかき消され、未来は青い顔を曜へ向けた。

 

普段と変わらない、元気一杯の笑顔が視界に入り、今度は未来が緊張で息が詰まりそうになる。

 

「その……上手く言えないけど、未来くんがメビウスに変身してたって聞いて……そりゃすっごく驚いたけど、それ以上に嬉しかった」

 

「……嬉しかった……?」

 

「うん、きっとこの気持ちはみんな同じだよ」

 

曜はしっかりと未来の瞳に自分の目線を重ね、言葉一つ一つに確かな感情を込めて伝える。

 

「でも……っ……俺は…………‼︎」

 

「えーいっ!!」

 

「……⁉︎」

 

震える声で何かを言おうとした未来の首に両手を回し、強引に手前へと頭を引き寄せた。

 

「ちょっ……!曜⁉︎なにを…………!くるし……!」

 

「えへへ、果南ちゃんのマネ〜」

 

ハグのことを言っているのだろうが、この状態では胸にもろ顔面が当たってしまい、やられる側としては果南のそれよりもずっと恥ずかしい。

 

なんとか首を動かして酸素を求める未来に、曜は目を閉じて語り出す。

 

 

 

 

 

「未来くんが今まで大ケガしてまで戦ってたのは、何のためなの?」

 

 

 

 

 

 

忘れていた何かが、一気に胸の中をせり上がってくる。

 

自分は今まで何のために戦ってきたか。

 

どうしてメビウスと一体化すると決めたのか。

 

……彼に頼まれたから?

 

ーーーー違う。

 

……単純に力が欲しかったから?

 

ーーーーそれも本意じゃない。

 

 

 

 

 

全部守るためだったはずだ。

 

幼い頃、何もできなかった自分が嫌で、だから自分は…………今度こそ守ってみせると。

 

「ぷはっ……!」

 

曜の胸の中からなんとか顔を出した未来の頰に、彼女は両手で触れる。

 

小さな手の感触が両頬に伝わり、目の前にはその温もりを与えてくれる本人の顔が見えた。

 

「…………みんなを、守るため」

 

「うん、知ってたよ!」

 

邪気など一切感じない笑顔を見せる曜。

 

彼女に影響されるように、未来の表情も段々と引き締まったものへ変わっていった。

 

「私は、そんな未来くんが素敵だと思う。……できなかったことを、できるようになろうとする君が」

 

「………………今まで、勝手に突っ走ってた俺を……」

 

「うん、()は許すよ」

 

曜は未来の頰から手を離すと、少し悲しげな表情で言った。

 

「だから次は、千歌ちゃんのところに行ってあげて。……私、未来くんと千歌ちゃんには、いつも笑顔でいてほしいから」

 

曜はずっと二人を見てきた。

 

彼女が渡辺曜であるからこそ、出てくる言葉だった。

 

 

 

ーーーーまだ間に合う。終わってないんだ。

 

終わらせてたまるか…………!!!!

 

 

「ありがとう……!曜!!」

 

立ち上がり、背を向けて走り出した未来の後ろ姿を、曜は遠くを見るような瞳で見つめた。

 

宙に浮いている足をパタパタと動かして、彼女は呟く。

 

「あーあ……バカだな、私」

 

コンクリートに背を預けるように、曜は上体を後ろへ倒す。

 

その頰は、りんごのように真っ赤に染まっていた。

 

 

◉◉◉

 

 

初めて会った時は、頼りない男の子だった。

 

人見知りが激しく、運動も勉強も中途半端で、そのくせ人一倍の負けず嫌いで…………。

 

やがて、「ああ、この人は普通星人じゃないんだな」と思うようになり、時を重ねるごとに彼のことが…………。

 

普通からなんとかして脱却しようとするその姿を見た。輝いてる姿を見た。

 

笑ってごまかす姿。怒る姿。悲しむ姿。喜ぶ姿。色々な姿を見た。

 

そして、傷ついてる姿を見た。

 

自分のためではなく、みんなのために戦っていた。

 

ーーーー自分は、そのことに気づかないままこれまで過ごしてきた。

 

ずっと近くにいた。隣にいた。だから、彼のことは何もかも知ってると思っていた。

 

だけど本当は………………。

 

 

 

彼はもう、道を決めてしまっている。こっちが口出ししても考えを曲げることはないのだろう。

 

(だったら、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ッッ!!」

 

「……」

 

ベランダの方から少年の声が聞こえ、千歌はハッと顔を上げる。

 

誰が来たのかはわかってる。

 

千歌は何も言わずに部屋を出て一階に降りると、そのまま外へ足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんっっ!!」

 

まず彼の口から飛び出してきたのは、謝罪の言葉だった。

 

深々と頭を下げる姿はなんともみっともなく、つい吹き出しそうになるのをこらえた。

 

彼はバッと顔を上げると、自分の顔に視線を合わせ、声を張り上げる。

 

「俺……バカだから……みんなに心配かけることなんか、全く考えてなくて……!」

 

彼の挙動一つ一つが、言葉の全てが、胸に響く。

 

 

「だから……これからもそれは変わらないと思う」

 

「……ふふっ」

 

 

ここで初めて、声を出した。

 

あまりにも真剣に訴えてくるものだから、笑ってしまう。

 

「……わかってたよ。未来くんは人の話は聞かないってことは知ってるから」

 

「うっ……」

 

「いっつも一人で何もかも抱え込んで、一人で解決しちゃう人だったから。…………でも、今回は違うよ」

 

「……?」

 

「だから、私も覚悟はできてる」

 

「えっ?」

 

呆けた顔でこちらを見つめる未来を、千歌は微笑むことで返した。

 

「これからは、未来くんを一人にしないって決めたの」

 

そうだ。何を言っても彼は止まらない。

 

みんなを守ると誓ったその時点で、未来は最後までやり遂げようとするはずだ。

 

だから、自分も。

 

「これからは未来くんだけじゃない、()()がついてる。そのことを忘れないで欲しいの」

 

彼がみんなを照らす光になるのなら、

 

「私は、未来くんを照らす光になりたい」

 

瞬間、胸の中に何か煌めくような感覚が走った。

 

身体の中に溢れる、太陽のような輝き。高海千歌のーーーー光の欠片。

 

 

 

 

「…………これからも、たくさんケガするかもしれない。死にそうになることだっていっぱいあるかもしれない。……それでも、待っててくれるか?」

 

「うん、必ず。……未来くんが笑顔で帰ってくるまで、ずーっと待ってるから‼︎」

 

「はは……なら、絶対に生きて帰らないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーードォォォオオオン…………‼︎

 

二人のやりとりを妨害するかのように、漆黒の塊が街中へ降り立った。

 

存在感のある砲台を備えた、無双鉄神。

 

未来は言葉を交わさず、視線だけを千歌に向けた。

 

彼女は無言で頷くと、見送るように輝かしい笑顔を振りまいてくる。

 

その笑顔に背中を押された未来は地面を蹴り、インペライザーの立つ街の方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セヤァッ!!」

 

本来の姿である光の巨人へと変身したメビウスが、インペライザーに飛びかかる。

 

未来と一体化している時とはまた違う、タロウによく似た格闘戦法で奴に攻撃を加えていった。

 

「ウッ…………!」

 

硬い装甲に拳が当たる度に、肩まで貫くような衝撃が走る。

 

 

 

 

「退がれ!メビウス!」

 

メビウスとインペライザーの間に割り込むように現れたタロウが、奴の肩にある砲台部分に渾身の回し蹴りを放つ。

 

バランスを崩したインペライザーを尻目に、タロウはメビウスの方へと駆け寄った。

 

「君の出る幕ではない!この場は私に任せて、光の国に戻れ!命令だ!」

 

「タロウ教官……っ……」

 

痛めた肩を抑えながら前へ進もうとするメビウスに、タロウは声を荒げてそう説得を続ける。

 

「ーーーー」

 

インペライザーが発射した三連装の光線が迫り、タロウはメビウスを守るようにバリアを展開して防御する。

 

「グッ……⁉︎」

 

しかし驚くべきことに、インペライザーのパワーはタロウをも凌駕するものだった。

 

発射された光線は防ぎきったものの、衝撃で若干後方へ仰け反ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははははハハははハハ!!いいねぇ!まさかタロウすら手に余る始末とは、傑作だ!!」

 

街で起こっている激しい攻防戦を、ノワールは一キロほど離れた場所で見物していた。

 

「君達ではインペライザーを倒すことはできないよ。……この星は、ここで終わる」

 

漆黒のメビウスブレスから放たれた闇のエネルギーがインペライザーへと送られる。

 

さらなる強化を施しているのだ。

 

「……?」

 

近づいてくる足音につられ、ノワールはふと後方へ振り返った。

 

 

「はぁっ……!はぁっ……!」

 

「やあ未来くん、何しに来たんだい?」

 

膝を折って肩を上下させている少年を見やり、ノワールは不敵な笑みを浮かべる。

 

「…………邪魔だ、どけ」

 

「……はぁ……?」

 

ノワールは怪訝な顔で大袈裟に首を傾け、未来を挑発するような口調で話し出した。

 

「まさかあの戦場のど真ん中に突っ込む気かい?ほんとに頭おかしくなっちゃったんじゃない?」

 

ノワールの言葉を無視し、未来は構わず奴の横を素通りしようと歩み出した。

 

彼が真横まで来た時点で、ノワールは真顔に戻って問う。

 

「死ぬ気かい?」

 

「ああ、もう以前までの俺は殺してやったよ」

 

「へぇ!そりゃ興味深い!まあ止めはしないよ、()()くん」

 

未来の目にはもうノワールの憎たらしい笑みは入っていない。

 

ただ前だけを見て、先に進もうとしている。

 

「…………ッッ!!」

 

爆発するような勢いで地を蹴り、二人の巨人と鉄神が争っている場所へと急いだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「ハァッ…………!ハァッ………‼︎」

 

「……クッ……!」

 

いくら破壊しても再生が止まらないインペライザーを見て、ついにタロウとメビウスは心が折れたように膝をつく。

 

腕を破壊すれば武器へと変わる。無力化することすら不可能だ。

 

「……アレを使うしかないか」

 

「……⁉︎あれって…………まさか……っ!」

 

タロウが腕を組み、そして開く。胸を張るのと同時に彼の全身が燃え上がった。

 

この姿をメビウスは知っていた。

 

自分の技であるメビュームダイナマイト、その元となった大技。

 

使用するだけで当人の寿命を縮める、禁断の技だった。

 

「ウルトラ……!ダイナマイトォ!!」

 

「タロウ教官!!!!」

 

メビウスが伸ばした腕が空を切り、タロウはそのままインペライザーへと突進していく。

 

「ヤアアッ!!」

 

奴の腰部分に抱きつくようにして逃げ場を奪うタロウ。

 

彼の体内エネルギーが、鋼鉄の身体を焼きつくす。

 

ギギギ、と悲鳴にも似た金属音が鳴り響き、ついには装甲がドロドロと溶けだしていった。

 

「タロウ教官ーーーーーーーーッッ!!」

 

刹那、凄まじい閃光が迸るほどの大爆発が巻き起こり、インペライザーごとタロウの身体まで炎と一緒に吹き飛んでしまった。

 

 

 

「…………!」

 

直後、光の粒子が集まりだしたかと思えば人型に集まっていき、段々とその身体が再構築されていくのがわかった。

 

ウルトラ心臓を中心に肉体が再生され、両手を上げたタロウが現れる。

 

「…………ウッ……!」

 

そのカラータイマーは点滅しており、エネルギーが残りわずかだということを表している。

 

寿命を縮めるほどの技を使ったのだ、無理もない。

 

タロウは地面に手をつくと、そのまま力が抜けたように倒れてしまった。

 

「ハッ…………!」

 

咄嗟に確認したメビウスが声を上げる。

 

「ーーーー」

 

なんとバラバラに砕け散ったはずのインペライザーの破片が集合し始めているのだ。

 

…………底無しの再生力。それを前にし、立ち上がろうとしていたメビウスは絶望した様子で再び膝をついてしまう。

 

そして、どこかから男の笑い声が耳に滑り込んできた。

 

 

「クククッ……!あははははは!!素晴らしい……‼︎これほどの力を、ボクが……!このボクが行使しているぞ!!」

 

左腕のブレスから発せられている闇のオーラは一直線にインペライザーへと伸びており、ノワールの有している力の一部が分け与えられている。

 

「今まで見ているだけだったけど……今日それも終わる!!」

 

過去の記憶の映像が頭に浮かんでくる。

 

九人の女神が、ステージの上で輝くその姿を。

 

「ボクは今、世界で一番幸せなのかもしれない……っ!」

 

 

完全に修復を終えたインペライザーが立ち上がり、頭に装備されているガトリング砲をメビウスへと向けた。

 

「さらばだウルトラマン達。君達の光の遺志、ボクが受け継ごう……‼︎」

 

螺旋状の光線が土手っ腹を貫き、軽々と後方へ吹き飛ばされるメビウス。

 

「ウァアッ…………‼︎」

 

建物を巻き込みながら転倒したメビウスが力なく倒れ伏し、ついにその瞳の輝きは失われてしまった。

 

「メビウスッ…………‼︎」

 

震える手で弟へと手を伸ばそうとするタロウだが、立ち上がることも困難なのか、その手のひらがメビウスに触れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

黒ずくめの男の笑い声が頭の中でこだまし、メビウスはどうしようもない怒りを煮えたぎらせる。

 

(僕が…………やらないと…………っ……)

 

今まで一人の少年の中から見てきた光景。

 

美しい海、人々の笑顔。

 

走馬灯のようによぎるそれらの映像を見て、メビウスはなんとか意識を繋ぎとめている。

 

 

 

 

ーーーー!!!!

 

 

 

 

悔しい。

 

何もできない自分が。

 

 

 

スーーーー!!!!

 

 

 

 

(未来くんも…………こんな気持ち……だったのかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウスウウウううウウウぅぅうウウゥウッッッッ!!!!」

 

「「「!?!?!?」」」

 

タロウ、メビウス、そしてノワールが、遠くから迫ってくる少年の声に反応した。

 

(この声は…………っ)

 

 

 

「立てぇぇええぇえぇええええぇええッッ!!!!」

 

一人の少年ーーーー日々ノ未来がメビウスの目の前へと駆け寄ってきたのだ。

 

「そんな……!どうしてここに⁉︎ダメだ未来くん!今すぐここから離れるんだ!!!!」

 

「やだ!!!!」

 

「なっ……!」

 

なんとか顔だけを動かして未来の全身を視界に入れる。

 

メビウスの巨大な頭に触れられるくらいに近づいた未来は、必死に彼に叫んだ。

 

「聞いてくれメビウス!!俺にはやっぱ……お前がいないとダメだ!」

 

「…………⁉︎」

 

「千歌と曜と話して、わかったんだ。……あいつの、ノワールの言う通りだ。俺は力が欲しかった!!…………そうだ、みんなを守るための力が!!」

 

…………一歩、力強く踏み出す。

 

「誰かを救えるはずの力で、知らないうちに憎しみを募らせていた。…………だからごめんな、メビウス」

 

「そんなこと……」

 

ほんの少し悲しげな表情を浮かべる未来だったが、すぐに眉を上げて再び叫び出す。

 

「これから先……もっと強い怪獣や宇宙人が現れる……。でも俺のことは気遣うな!俺はそれから逃げるんじゃなくて……‼︎乗り越えられるくらい強くなりたい!!」

 

「…………ッッ!」

 

メビウスはそこで初めて、日々ノ未来という少年の本質を垣間見た気がした。

 

彼は、根っからのーーーーーーーー

 

 

 

 

「だからもう一度!もう一度俺と一緒に……!戦ってくれ‼︎メビウーーーース!!」

 

突き出した左腕から順に、メビウスの胸部にあるカラータイマーへと吸い込まれていく。

 

全身を光に包まれた未来は、その場から跡形もなく消えてしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

「……!メビウス!!」

 

「未来くん‼︎まったく君は…………!本当に無茶をする!」

 

周囲が光に覆われた空間。おそらくはメビウスの中だろう。

 

未来はそこで、人間の青年の姿をしたメビウスと対面したのだ。

 

 

「無茶って……お前に言われたくないよ」

 

「あはは……、確かに……」

 

メビウスは一瞬顔を伏せ、消えそうな声で聞いた。

 

「本当に…………君はこれでいいのか?」

 

「いい。ここまできたんだ、最後まで付き合わせてもらう!」

 

「……そうか、そうだね。君はそういう人だった」

 

メビウスと未来はお互いに歩み寄り、同時に左腕を差し出す。

 

「わかった、もう僕は迷わない。君と一緒に、最後まで走りきるよ」

 

その言葉を聞いて安心した未来は、深呼吸をした後に言い放つ。

 

「いくぞ、メビウス」

 

「うん、僕達のーーーー」

 

「ああ!俺達の!」

 

 

 

「「想いはひとつだ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に包まれた赤い巨人がゆっくりと立ち上がり、鉄の塊の前を塞ぐ。

 

「ふん……再び一体化したか。でも、今の君達に何ができるっていうんだい?」

 

ノワールがそう吐いた次の瞬間、メビウスの身体が灼熱の炎に包まれていくのがわかった。

 

「……⁉︎これは……」

 

 

 

 

 

 

 

『(はぁぁぁああああああああ…………!!)』

 

身体に力がみなぎってくる。

 

まるで今ならどんな敵にも勝てるような…………高揚感と自信。

 

全身が熱い、だけどなぜか心地いい。

 

別の存在と、自分の身体が重なる感覚ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(ハァッ!!!!)』

 

身体を覆っていた炎の輪が晴れ、巨人の全身が露わになる。

 

先ほどよりも赤い部分が増し、胸には炎を表すシンボルが大きく刻まれていた。

 

ウルトラマンメビウスーーーーバーニングブレイブ。

 

 

「なにっ…………!?」

 

そこで始めて焦りを顔に出したノワール。

 

咄嗟に黒いメビウスブレスを構え、インペライザーへとありったけの力を注ぎ込んだ。

 

「インペライザー!!」

 

冷や汗を流しながらノワールかそう指示を出すと、ほぼタイムラグなど感じない動きでインペライザーは照準をメビウスへと向けた。

 

「ーーーー」

 

両肩から発射された光弾がメビウスへと迫り、着弾しようとしたその瞬間ーーーーーーーー

 

「フッ……!」

 

反射的に駆り出された二つの拳が光弾を消滅させた。

 

花火のように光が飛び散り、街にぱらぱらと降り注ぐ。

 

先ほどまでとは明らかに底上げされているメビウスのパワーに、ノワールは顔を歪める。

 

「どういうことだ…………⁉︎その姿は……⁉︎何が起こっているんだ!?!?」

 

『(おおおおおおおおおッッ!!)』

 

メビウスが地面を蹴ると、その場には巨大なクレーターが出来、同時に一瞬でインペライザーへと肉薄する。

 

「ヤアッ!」

 

爆炎をまとった拳がインペライザーの頭部を下から射抜く。まともに喰らったアッパー攻撃の影響でバランスを崩した奴は、簡単に地面に仰向けで倒れてしまった。

 

ーーーー燃える勇者。

 

メビウスという戦士に、強い繋がりが干渉した時に誕生する形態。

 

どんな悪も焼き尽くす、炎の闘志を宿している……!

 

(もうお前には負けない……。俺達が手に入れた、絆の力で!)

 

『お前達の悪……その(ことごと)くを打ち破る!』

 

 

「くっ……‼︎そおおおおおおおおおおお!!!!」

 

ノワールは咄嗟にインペライザーを操作し、炎をまとっている光の巨人へと突進を仕掛けた。

 

焦りのせいか攻撃はひどく大振りであり、大剣で繰り出された斬撃は容易にメビウスに躱されてしまう。

 

「ハァッ!」

 

大剣の刃を肘と膝の間で受け止めたメビウスは、インペライザーの動きが一瞬止まったのを見逃さず、もう片方の足で地面を蹴り、ドロップキックを浴びせた。

 

「ぐっ……!バカなっ…………⁉︎こんな……ことが……‼︎」

 

 

 

 

 

 

『(はぁぁぁああああ…………!!)』

 

胸の前でメビウスブレスに手をかざし、両腕を上げて力を増幅させる。

 

「……!今だっ……‼︎」

 

メビウスがパワーをチャージしているところを狙い、インペライザーはガトリングガンから三連装の光線を放つ。

 

「……⁉︎」

 

しかし、それはメビウスに到達する前に、別方向から放たれた七色の光線によって相殺された。

 

「き……さまぁぁああああああ!!!!」

 

咄嗟に視線を移すと、そこにはボロボロの身体でストリウム光線を放つタロウの姿があった。

 

「今だ!メビウス!」

 

『(…………ッッ!!)』

 

生成された炎の球は、メビウスの腕でも抱えきれないほど巨大なものになっていた。

 

『(せやぁあああああああッッ!!!!)』

 

突き出した両手に押されるように、メビウスが作り上げた莫大な炎のエネルギーの塊がインペライザーへと放出される。

 

バーニングブレイブの状態だからこそ発動できる必殺技、メビュームバーストだ。

 

「ーーーーーーーー…………ッ」

 

 

 

 

一瞬で炎の檻に囚われたインペライザーの装甲が溶け出し、数秒もしないうちに消滅してしまった。

 

それこそ、破片一つも残さずに。

 

「インペライザーが…………負けた……?」

 

片目を覆ってそう嘆くノワールは、すっかり脱力した様子でメビウスへ目を向ける。

 

(日々ノ…………未来ぃ…………‼︎)

 

ナイフのような鋭利な目つきで光の巨人を睨み、ノワールは黒い霧と共に風の中へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『タロウ教官……』

 

さすがに大技を放ったことで体力を消耗したのか、メビウスは肩を上下させてタロウの方へ意識を向ける。

 

(メビウス…………?)

 

『教官、僕は…………!』

 

タロウはメビウスが意見するのを手で制止し、柔らかな声音で言った。

 

「……インペライザーは尖兵に過ぎない。これから待っているのは、途方もない悪意だ」

 

『えっ……?』

 

「……だが、君とその仲間達なら、必ず乗り越えることができるだろう」

 

『……‼︎タロウ教官!あ、ありがとうございます!!』

 

メビウスに光の国への帰還命令が下されていたことを知らない未来には、二人のやりとりが何を意味しているのかはさっぱりわからなかった。

 

ただ、メビウスが心の底から喜んでいる。それだけは理解できた。

 

 

「日々ノ未来くん」

 

(……えっ?あ、はい!)

 

急に声をかけられたことで若干声が上ずってしまう。

 

「君にこのようなことを頼むのもどうかと思うが……。メビウスを、弟のことを、よろしく頼む」

 

(…………!もちろんです!メビウスはもう、俺の家族みたいなもんですから!!)

 

未来の発言で少々照れ臭そうに萎縮してしまうメビウスだが、目の前に教官がいたことを思い出したのか、すぐに態度を持ち直す。

 

 

「ジュワアッ!!」

 

タロウは何も言わずにゆっくりと頷くと、両手を広げて青い空へと飛び立ってしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

「…………っというわけでぇ……」

 

『初めまして……っていうのは変なのかな?メビウスと言います。よろしく』

 

スクールアイドル部の部室。

 

みんなの前で改めてメビウスの紹介をしようと、未来は全員を集めてここに呼んだのだ。

 

あんぐりと口を開けた少女達が視界に入り、メビウスは戸惑った様子を見せる。

 

『あれっ?あんまり驚かないんだね…………』

 

「いやぁ……もう充分驚かせてもらったというか……」

 

「お腹いっぱいというか……」

 

「う、宇宙ずらぁ……」

 

驚きすぎて身体が固まっている、といった様子の一年生組を差し置き、席を立った鞠莉と曜がオレンジ色の光へと詰め寄る。

 

「ワオ……ほんとに浮いてマスね……」

 

「本物なんだ……」

 

『ちょっ……つつかないで……』

 

「あ、ちなみにステラもウルトラマンだから」

 

いじられているメビウスを尻目に、未来は普段と変わらない様子で、あっさりと重要なことを打ち明ける。

 

「「「えええええええええええッッ!?!?」」」

 

「あれ?こっちは驚くの?」

 

「初耳だよ!?」

 

「今言ったからな」

 

メビウスと未来のことがバレてしまった以上、ステラとヒカリのことも隠しておく必要はあまりないだろう。ただでさえ”海外に引っ越し”などという無理のある言い訳だったのだから。

 

「ステラちゃんはミステリアスなところあったし……まあ、納得?なのかな……」

 

「ウルトラマンが……同じ部屋に二人もいたってことですわね……」

 

「まあ、確かに赤いウルトラマンさんはちょっぴり頼りない感じでしたし……」

 

「ルビィちゃん?」

 

「ピィッ⁉︎ご、ごめんなさい……」

 

「謝らなくても、ほんとの事だし」

 

「ええっ⁉︎千歌までそんなこと言う⁉︎」

 

「あははっ」

 

以前よりも遥かに騒がしくなってしまった部室。

 

狭くて窮屈で、埃っぽかったはずなのに、不思議とこの場所が落ち着く。

 

 

 

 

(俺とメビウスも……、やっとAqoursの一員になれたってことなのかな……?)

 




なんとメビウスブレイブではなくバーニングブレイブの登場……。
テレビのメビウスとは少々違った感じの演出にしてみました。

今回の解説はバーニングブレイブについて。

この状態でのメビウスと未来の吹き出しはよく重なって使用されますが、これは以前ステラとヒカリがシンクロ(仮)状態になった時のことを意識しています。
つまり未来とメビウスはバーニングブレイブになって初めてステラやヒカリと同じレベルのステージに立てるのです。
未来がメビュームブレードを好んで使用する傾向にあるため、今後バーニングブレイブ状態でもブレードを使うシーンが出てくるかもしれませんね。

外伝のステラとヒカリの話も考えている途中なのですが、なぜか戦神がプロットの中に投入されるという事態に……。これは色んな意味でやばい作品ができそうです。

次回は再びサンシャインパートへ突入。未来の夢の話はもう少し先になります。


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第45話 欠片の意味


フュージョンファイトに新しく登場するオーブの新形態がカッコ良すぎてもう……。
メビュームエスペシャリーの必殺技がツボです。


ーーーーいつも応援、ありがとうございます!

 

彼女達は、こんな自分にも変わらず笑顔を振りまいてくれた。

 

文字通り生きる希望、自分にとっての光そのものだった。

 

やがて、そんな光をこの手の中に収めることができれば、と思うようになった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………くそっ」

 

どうして思うように事が運ばない?

 

彼らはいつもそうだ。こちらの予想を遥かに超え、インペライザーですら敗北へ追いやった。

 

ーーーーあの時彼らが見せた炎の力…………。

 

あれは確実に以前のメビウスには無かった力だ。新たな可能性を……、光の力を自ら生み出したというのか。

 

「なぜ彼らばかり……。ボクには何も……」

 

どうして自分には闇しかない?どうして彼らには光がある?

 

こんな汚れた力、望んで手に入れたわけじゃないのに……‼︎

 

憎い。

 

光の者が憎い。

 

闇の力が憎い。

 

…………”あの少年”が、”あの九人”が、全てが憎い。

 

どうせ自分のものにならないのなら、いっそ…………。

 

 

◉◉◉

 

 

「いいですか皆さん!夏といえば……⁉︎はい、ルビィ!」

 

「んー……たぶん、ラブライブ!」

 

「さすが我が妹……!かわいいでちゅね〜よくできまちたね〜」

 

「がんばルビィ!」

 

周りの冷ややかな視線を気にする様子もなく、ダイヤはルビィの頭を撫で回している。

 

夏休みに入った初日だというのに、この姉妹コントを見せられているのにも色々と経緯があるのだが……。

 

未来はダイヤの後ろに設置されているホワイトボードに目を向け、そこに貼られているスケジュール表に書かれている予定を読む。

 

「夏といえばラブライブ!その大会が開かれる季節なのです!」

 

大きく身体を動かしながらみんなに説明をするダイヤは、これまでにないくらい活き活きした表情だ。今まで我慢していた分の”アイドル欲”が爆発しているのだろう。

 

(それにしても……)

 

ランニング15km、腕立て腹筋20セット、遠泳10km……etc.

 

下手すれば身体を壊しかねないハードなスケジュールが敷き詰められていた。

 

ダイヤが入ってから今まで梨子が作っていた練習スケジュールに改良が加えられるようになったのだが、正直このメニューをこなせるのは未来を除いて果南くらいのものだろう。

 

「こんなの無理だよ……」

 

「熱いハートがあればなんでもできますわ!」

 

「ふんばルビィ!」

 

「ま、まあ、実際にやってみてから調整していこう」

苦い顔でスケジュール表を睨んでいる千歌達とは違い、未来は余裕の表情でそう提案する。

 

「未来くんはいいよ!中にメビウスがいるんだもん!」

 

『じゃあ練習中は離れてようか?』

 

「死ぬからやめて」

 

身体の中から出ようとするメビウスを必死に押さえ込もうとする未来。

 

正体がバレてからというものの、メビウスが未来の体内から出てきて行動することも多くなってきた。

 

「実際そんな練習やり通せるほどの体力おばけなんて果南さんしかいないじゃん?」

 

「体力おばけ?」

 

ギラついた視線が背中に当てられ、未来はロボットのような動きで後ろを振り向いた。

 

「あっ……口がすべっ……」

 

「後でちょっと私のところに来てね」

 

「ごめんなさい‼︎」

 

果南から逃げるように部屋の隅へと避難する未来。

 

何か話題を逸らすことはできないか、と必死に思考を巡らせ、数秒後に思いついたように顔を上げて手を叩く。

 

「そ、そうだ千歌!海の家の手伝いがどうとか言ってたよな?」

 

「あー!そうだ!そうだよ!自治会で出してる、海の家手伝うように言われてるのですっ!」

 

「あ、私もだ」

 

猛暑の中でのキツイ練習メニューを避けるために未来に便乗する千歌。それを見て果南もたった今思い出したように呟く。

 

「そんなぁ!特訓はどうするんですの⁉︎」

 

「そのスケジュールじゃ、無理っぽいね」

 

「別にサボりたいわけではなく……」

 

直後、気味の悪い笑みに変貌するダイヤに身じろぎしつつ、「じゃあ」と声を発した鞠莉の方へ視線が引き寄せられた。

 

「昼は全員で海の家手伝って、涼しいモーニングアンドイブニングに練習ってことにすればいいんじゃない?」

 

「それ賛成ずら!」

 

「それでは練習時間が……」

 

どうやら鞠莉が提案したスケジュールが好評のようで、よりハードな特訓を求めるダイヤ以外は彼女の案に賛成の雰囲気だ。

 

「じゃあ夏休みだし、うちで合宿にしない?」

 

「「「合宿?」」」

 

ピッと指を立てた千歌の言葉を繰り返す。

 

「ほら、うち旅館でしょ?頼んで一部屋借りれば、みんな泊まれるし!」

 

すぐ近くに宿のアテがあることをすっかり忘れていた。確かに十千万ならAqoursのメンバーが全員で泊まっても大丈夫だろう。

 

「移動がない分、練習時間も多く取れるし……いいんじゃないかな」

 

「でも……急にみんなで泊まりに行って大丈夫ずらか?」

 

「だいじょーぶ!なんとかなるよ!じゃあ決まりっ‼︎」

 

流れるように今後の予定が決定し、今日はもう帰宅することに。

 

早朝から練習すると言っていた通り、明日からは早速朝の四時に海岸集合とのことだった。

 

 

 

 

「あっ未来、ちょっと」

 

「…………はい?」

 

 

◉◉◉

 

 

「逃げたほうがいいのかな……」

 

『まあまあ、とりあえず行ってみようよ』

 

未来とメビウスは先ほど解散した直後に果南に呼び止められ、彼女の家まで一緒に来るよう言われたのだが……。

 

(まさかさっきのこと本気で怒ってるとか……)

 

確かに後で来いとは言われたのだが、てっきり冗談だと思っていたので、まさか本当に呼び出されるとは思わなかった。

 

ダイビングショップの入り口に手をかける果南の後ろ姿を見て、彼女の気をうかがう未来。

 

「さ、入って」

 

「おじゃましま〜す……」

 

身体を縮めて完全にビビりながら家の入り口をくぐる。

 

以前来た時と変わらない、周りにはダイビングの道具が揃えられていた。

 

昔から何度も訪れている空間だが、いつもと違う果南の雰囲気にあてられて妙な緊張を感じてしまう。

 

果南は設置されていた椅子に適当に腰を下ろすと、口を開いた。

 

「ごめんね。急にうちに呼んだりして」

 

「それはいいけど……、一体なんの用件で?」

 

「前にも話したと思うけど……、昔現れたウルトラマンについて聞こうと思ってね」

 

予想が大きく外れた未来は、しばらく呆けた表情で果南の顔を見つめた。

 

昔現れたウルトラマン、とは紛れもなくベリアルのことだろう。彼女も鞠莉と同じく、彼を気にしている様子だったことは覚えているが……。

 

「君達本物のウルトラマンなんだし、何か知ってることあるんでしょ?」

 

『……質問を被せるようで悪いんだけど』

 

「ん、なに?」

 

オレンジ色の光が未来の身体から現れ、果南の近くまで浮遊して移動する。

 

メビウスは少し遠慮した様子で果南へ問いを投げた。

 

『君も鞠莉ちゃんも、どうして彼のことを気にかけるんだい?』

 

未来が前から不思議に思っていたことをメビウスが代弁してくれた。

 

確かにベリアルは、かつてこの内浦に現れたディノゾールを倒し、多くの命を救った。だが彼女達がここまで熱心に彼のことを調べようとする理由があるのだろうか?

 

「鞠莉さんも、資料なんか用意してまで調査してたし」

 

「そっか、鞠莉も…………」

 

果南は一度目を閉じ、思い出に浸るように語り始めた。

 

「前に話した”お礼が言いたい”っていうのもあるけど…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数年前。ベリアルが地球に降り立った直後のことだった。

 

 

 

「おいガキ共、ケガはないか?」

 

「う、うん……」

 

壁に空いた大穴から巨大な顔を覗かせ、ベリアルは幼い少女達の安否を確認した。

 

重傷ではないことがわかると、今度はその少女達を見て呟く。

 

「…………なるほど。確かにコレが揃えば奴もぶっ倒せるかもな」

 

理解できない言葉の内容に果南が首を傾げていると、ベリアルが大きな瞳を向けて言う。

 

「俺は予言なんてもん信じはしないが、一応忠告しておく。……お前達人間の中には、闇の皇帝を打ち破る力が眠ってる。……決戦の時には、お前らの力を借りることになるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベリアr…………、あのウルトラマンがそんな事を……⁉︎」

 

「うん。だから鞠莉も、そのことについて調べようとしてるんだと思う」

 

果南から語られた話は、ある意味未来やメビウスにとって衝撃的なものだった。

 

闇の皇帝ーーーーエンペラ星人を打ち破る力、これはおそらく”光の欠片”のことだ。

 

ベリアルは地球に来る前に予言を耳にし、実際に果南や鞠莉を見た時に光の欠片が眠っていることにも気づいていたのか?

 

それと気になる言葉はーーーー

 

(決戦の時、か…………)

 

このまま戦い続ければ、当然いつかはエンペラ星人とも対峙することになるだろう。

 

ウルトラの父とも引き分けた実力者が、地球に攻めてくる。字面だけ見ても絶望感満載だ。

 

果南達にそう言い残したベリアルも、今は奴の手先になってしまっている。

 

(言うべき……なのだろうか)

 

千歌や曜、みんなの中には光の欠片が眠っていると。

 

……いや、まだ伝えるには早いかもしれない。正体がバレて対等な関係になったとはいえ、極力彼女達を危険な立場にはしたくない。

 

「闇の皇帝っていうのがなんのことかはわからないけど、あのウルトラマンは私達にそう言ったの。……何か、できることがあるはず」

 

「…………」

 

果南の気持ちは十分に伝わってきた。

 

未来がウルトラマンだったという事実を知ったからなのか、奥底に溜まっていた正義感の塊が一気に溢れているのだろう。

 

彼女はこれまでの怪獣や宇宙人達との戦いを、ただ見ているだけというのが辛かったのだ。

 

『……ごめん。僕も彼のことはよく知らないんだ』

 

少し間を空けて、メビウスは小さくそう伝えた。彼も未来と同じ考えだったのだろう。今はまだベリアルのことは言うべきではないと判断したのだ。

 

「…………そっか」

 

「力になれなくてごめん」

 

「ううん。……私も、何かわかったことがあったら伝えるから」

 

やる気に満ちた顔でガッツポーズをする果南を尻目に、未来はこれから起こるであろう波乱を予感しては身震いするのであった。

 

 




シャイ煮回に突入しました。
この辺りから梨子や曜の心情が変化していきますね。この二人には二期でももっと絡んでほしいです。

今回の解説は今までの話から主人公である未来についてまとめてみましょう。

日々ノ未来。高校二年の17歳。
千歌と曜と果南という幼馴染を持ち、千歌と曜からは少なからず特別な感情を抱かれている。
彼自身気付いてはいないが、二人に対してはどこか依存している節がある。
小さい頃に二度ウルトラマンに命を救われているが、その内片方の出来事の記憶は何故か曖昧。
両親は過去のディノゾール襲来時に亡くしている。小学校から今に至るまで一人暮らしであった。
光の戦士にも劣らない正義感を持っており、メビウスと心が一つになった際になれるバーニングブレイブの状態では凄まじい力を発揮する。
好きなもの:みかん。カレー。
嫌いなもの:親しい友人からの拒絶。ノワール。


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第46話 終わらない脅威


発売が待ちきれなくてHAPPY PARTY TRAINをリピートしまくってます。
秋に放送する二期も待ち遠しい……。


『うーん……』

 

「ど、どうですか?」

 

ルビィの小さな手に収まっている青い石を観察した後、メビウスは彼女の目の前で動きを止めた。

 

『確かに生命反応は感じるね』

 

「ほ、ほんとですかっ⁉︎」

 

詰め寄ってきたルビィに若干驚きつつ、メビウスは「うん」と肯定する。

 

ルビィが持っているのは、以前地球にやってきたクォーツ星人、サファイアが遺したものだ。

 

クォーツ星人が生命活動を終えた後、彼らの身体は宝石へと変わる。

 

ルビィはサファイアの形見であるこの石をメビウスと未来の元に持って行き、なんとか彼女を蘇らせる方法はないか聞きにきたのだ。

 

『でも……残念だけど、ほんとに微量だ。この子がもう一度肉体を得ることはないと思ったほうがいい』

 

「……そ、そうですか…………」

 

一変してしゅん、と下を向くルビィ。

 

彼女もわかってはいた。が、諦めきれなかったのだろう。

 

最後の希望であったメビウスからも無理だと言われたルビィは、隠しきれない悲しみを表に出す。

 

(それにしても……俺らが思っていたより、みんな宇宙人と関わってたんだな)

 

三年生組といいルビィといい、未来やメビウスが知らなかった話が今になって舞い込んでくる。

 

「ありがとうございました……」

 

『あっ待ってルビィちゃん!』

 

「……?」

 

肩を落とし、去ろうとしていたルビィを引き止め、メビウスは早口で伝えた。

 

『あくまで可能性の話だけど……。その石に生命反応が残ってるってことは、代わりになる”器”があれば、彼女はまた動くことができるかもしれないんだ』

 

「……‼︎はいっ!!」

 

一瞬で曇っていた顔が晴れ渡り、ルビィは青く透き通った石を持ったまま走ると、砂浜に広げていた敷物に座り込んだ。

 

彼女は身に付けていた上着を脱ぐと、()()姿()になって海へと駆け出す。

 

 

 

「あっ!ルビィちゃん!」

 

「おまたせしました〜!」

 

 

同じく水着姿の千歌や曜が海の中で手を振る。

 

…………そう、今未来達がいるのは海。つまりは合宿に来たのだが……。

 

「遊んでばっかだし」

 

確か予定では昼に海の家を手伝うはずだったのだが……、みんな思い思いの時間を過ごしている。

 

かく言う未来も皆に合わせて水着になっているので、実は内心ノリノリである。

 

『未来くんは泳がないの?』

 

「あんな女の子だらけのところに突っ込む勇気はない」

 

砂の城でも作ろうかと足を曲げたところで、ふと隣に立っていた梨子に気づく。

 

一点を見つめたまま動かない彼女にいつもとは違った雰囲気を感じ取った未来は首を傾けた。

 

「どうかしたか梨子?」

 

「……えっ?」

 

「なにか悩んでる顔してる」

 

図星だったのか。一瞬梨子は動揺したように見えた。

 

「……悩んでる…………」

 

「相談事があるなら遠慮なく……」

 

「ううん、大丈夫。ごめんね心配かけて」

 

作り笑顔でそう言う彼女だったが、やはり何かある気がしてならない。

 

(深く聞くのはやめておこう)

 

『そういえば、海の家の手伝いがあるって言ってたよね?』

 

「ああ、うん……たしかーーーー」

立ち上がった未来が指差した方へ砂浜にいた皆の視線が集まる。

 

錆びた屋根に今にも落ちそうな看板。しばらくの間人の手が入っていないのが丸わかりだ。

 

客が一人も寄り付かなそうな外観の海の家だった。お世辞にも都会的とは言えない。

 

「……はて?そのお店はどこですの?」

 

「いや、だからこれだよこれ」

 

「現実を見るずら」

 

受け入れたくない現実を前にして会長が壊れてしまった。

 

それに対してすぐ隣に建っている海の家は、開放的な作りで電飾まで施されており、客も入りきらないほどに繁盛している様子だった。

 

「ダメかもなこりゃ」

 

「都会の軍門に下るのです……?」

 

腕を組んだ鞠莉が、唐突に低い声を出す。

 

「私達はラブライブの決勝を目指しているんでしょう?あんなチャラチャラした店に負けるわけにはいかないわ!」

 

「鞠莉さん……あなたの言う通りですわ!」

 

嫌な予感を察した千歌達は、一斉に唸るような声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌と梨子、果南さんは宣伝……。俺達は何をすれば?」

 

「あなた達四人には料理を担当してもらいます」

 

鞠莉、未来、曜、善子、と並べられた四人の前に立ったダイヤ。

 

「え?料理?」

 

「ええ。都会の方々に負けない料理で、お客のハートを鷲掴みにするのですわ!」

 

「あの、俺料理出来ないんだけど…………」

 

不意を突かれたかのようにダイヤは目を見開いて未来の方を見る。

 

「……あら?たしかあなたは一人暮らしだったはずでは……。自炊はしないのですか?」

 

「主食はコンビニ弁当です」

 

「たまに千歌ちゃんの家からお裾分けもらってるね」

 

料理はレシピを見ながらじゃないと全くこなすことができない。よって海の家のメニューに貢献することは不可能である。

 

「はぁ……期待はずれでしたわ」

 

「なんかすいませんね……」

 

「仕方ありませんわ。掃除でもしていてくださります?」

 

「了解!」

 

料理は女の子組に任せ、未来は早速傍らに落ちていた塵取りと箒へ手を伸ばした。

 

《……では、次のニュースです》

 

「……ん」

 

カウンターの横に設置されていたテレビから流れてきた音声に耳をかたむける。

 

画面には「行方不明」や「誘拐」といった文字が見える。

 

「最近こういうニュース多いな……」

 

近頃よく報道されるものに、突然人が行方不明になってしまう、といったニュースがある。

 

しかし不思議なことに、連続して起こっているはずの同じ内容の事件については全く触れられないのだ。

 

まるで、元々無かったかのように。

 

『ノワールが僕達の前からあまり姿を見せなくなったと思えば……、今度は別の事件が頻繁に起こってるね』

 

「……せめて犯人が、人間じゃないことを祈るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがにお店の後だとちょっとキツイね」

 

砂浜でのランニングを終えた果南がふと後ろを振り向くと、遠くの方で千歌達がバッタリと砂の上で倒れている光景が視界に入った。

 

予定通り海の家の手伝いが終わった後、次に練習メニューをこなそうとしていたAqoursの面々だったが……。

 

「こ、こんな特訓をμ'sはやっていたのですか……?」

 

「す、すごすぎる……」

 

バリバリ働いた直後にあの無茶な練習内容。大方の予想通り果南以外は立つこともままならない状態だ。

 

「やっぱり少し休んでからの方がいいよ」

 

「そ、そうですわね……。果南さんはともかく、私達にはとても……」

 

「水持ってくるから、ちょっと待ってて」

 

メビウスを連れて砂浜を飛び出した未来は、自宅の玄関前に準備しておいた水が入っている段ボール箱の所へ向かった。

 

 

 

 

 

「もうすぐ暗くなりそうだな……」

 

最近起きている事件がふと脳裏をよぎる。合宿中はみんな十千万に泊まる予定なので、心配することはないだろうが。

 

「よっと」

 

両手で段ボール箱を抱え、バランスを崩さないようにゆっくりと持ち上げる。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー…………ォォオ…………ォ……

 

 

 

 

「…………っ!?」

 

メビウスによって強化された聴覚が何かの鳴き声のような音を感じ取り、未来は咄嗟に周囲を確認する。

 

『……?どうかしたのかい?』

 

「今の音……聴こえなかったのか?」

 

『音……?』

 

どうやらメビウスには先ほどの鳴き声は聞こえていないようだ。もしかしたら未来だけが気づくよう、彼へダイレクトに発せられた音なのかもしれない。

 

(……どこかで聞いたことがあるような…………)

 

遠くへ波紋を広げるように鈍く聞こえるその音は、不思議と初めて聞いた気はしなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「くはははははは‼︎見ろ!俺の言った通りになったではないか!」

 

ダークネスフィアの周囲を漂う宇宙船。

 

メフィラス、デスレム、グローザム、ヤプールの四人が一人の青年を囲み、下品な笑いを船内に響かせた。

 

「皇帝の同胞と聞いたときは、どんな実力を持った者かと期待していたんだが……」

 

「まあそう言うなグローザム。このようなクズでも利用価値はあるさ」

 

散々な言われようである本人は、顔を伏せたまま左手にある黒いメビウスブレスを見つめている。

 

 

ーーーーこの力を手にした瞬間、理解した。

 

これは”光”なんかじゃない。

 

なら、なぜだ?ウルトラマンの、メビウスの光を奪ったはずなのに、どうして自分が使えるのは闇の力だけなんだ?

 

その答えはすぐに出た。

 

単純だ。ノワールという男が闇の存在だからだ。

 

ウルトラマンの光がノワールの手に渡ったその瞬間から、光は闇へと変換されたのだ。

 

(……諦めたわけじゃない)

 

色々なものを失って、沢山の命を奪って、その果てに手にしたものが闇の力だけ…………?

 

冗談じゃない。

 

(ボクは手に入れたはずなんだ……!ウルトラマンの力を……!)

 

どうやっても光が宿らないのなら、次に取る手は一つだ。

 

 

 

 

ーーーーウルトラマンという存在を、自分を否定したあの光の戦士を超える。

 

 

ウルトラマンという光を乗り越えた先には、きっとそれよりも素晴らしいものが待っているはずなんだ。

 

ーーーーボクは諦めない。

 

この手に入れた力でウルトラマンを超え、絶対的な存在へと昇華してみせる。

 

……いや、待て。

 

超えるべき存在はウルトラマンだけか?

 

否だ。彼らよりも優れた存在はいる。

 

…………そう、例えば…………

 

 

 

 

 

 

「……?なにを笑ってやがる?」

 

「いやあ、ごめんごめん。気に障ったのなら謝るよ」

 

不気味に口角をつり上げるノワールを見て、四天王達が怪訝そうに視線を注いだ。

 

「確かに今回はボクの負けさ。返す言葉もない」

 

「はははははッ!そうだろうそうだろう⁉︎」

 

あはは、と周りに合わせて笑いを飛ばすノワールだったが、その内心に秘めているものは穏やかではなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーエンペラ星人。

 

……ウルトラの父と引き分けた存在。ウルトラ大戦争を引き起こした張本人。

 

奴を超えれば、光の戦士など敵ではない。

 

幸いエンペラ星人は自分のことを利用しているつもりでいるようだ。

 

ならばこちらもそれに乗じて、その首を頂くとしよう。

 

(……待っていろ日々ノ未来。ボクはこのまま終わるつもりはない)

 

もっと強い力を手に入れ、それを奴らに示してやるのだ。

 

ノワールという男が、光の戦士よりも優れていることを…………!

 




今回はサファイア関連や、未来の過去に関係する話を混ぜました。
そして懲りずに何かを企んでいる様子のノワールはこれからどうなるのか……?

今回の解説ではノワールについてまとめてみましょう。

ノワール(本名不詳)
エンペラ星人の同胞を名乗る宇宙人。いつも同じ服、それも全身真っ黒のものを身につけており、しかしながら清潔感を漂わせている。
エンペラ星人と同質の闇の力を身体に宿しているが、彼自身の力は皇帝のそれよりも遥かに劣る。
ただ、メビウスの力を奪ってからの能力は未知数であることから、未来達の脅威だということには変わりないだろう。
極度の寂しがり屋。よく笑う。

好きなもの:光の力。
嫌いなもの:日々ノ未来。Aqours。闇の力。


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第47話 追想の記録

今回でサンシャイン10話パートは終わりです。


「美渡姉が余った食材は自分達で処理しなさいって……」

 

「これ全部か……」

 

「申し訳ない!」

 

「デース!」

 

売り物として出すために曜が作った”ヨキソバ”はほとんど売れ切れたが、鞠莉作”シャイ煮”と善子作”堕天使の涙”は大量の在庫を残す結果となってしまった。

 

チラリと目線を鍋の方へ持っていくと、鍋の外にはみ出した数々の高級食材が存在感を放っている。

 

『この料理は、どんな味がするの?』

 

「ルビィも気になる!」

 

「いいですわ!」

 

「あー……」

 

店内の掃除中に厨房の恐ろしい光景を見ていた未来には、善子が作った黒い塊の中に何が入っているのか既に把握していた。が、面白そうなので放っておくことにしたのだ。

 

 

流れるような動きでシャイ煮と堕天使の涙を温め直す二人。

 

他のメンバーはテーブルの上に彼女達が調理した見たこともない料理に息を呑む。

 

「「さあ、召し上がれ!」」

 

「い、いただきます……」

 

おそるおそる箸と白いどんぶりに手を伸ばし、震えながら口にシャイ煮を運ぶ。

 

ほぼ同時に皆の口にそれが放り込まれ、最初に予想外な反応を示したのは千歌だった。

 

「んっ!シャイ煮美味しい!」

 

「嘘だろ……美味いぞこれ……」

 

見た目からは想像もつかないような味付けが施されており、様々な高級食材達がさらにそれを引き立てている。

 

小原グループだからこそ調達できる、莫大な費用がかかるこの料理……。

 

「……で、一杯いくらするんですの?これ……」

 

「さあ?十万円くらいかなあ?」

 

「じゅっ……⁉︎」

 

驚きのあまり吹き出してしまう未来達。

 

「高すぎるよ!」

 

「え?そうかなぁ……?」

 

「これだから金持ちは……」

 

このお嬢様の金銭感覚は庶民のそれとは凄まじいほどにかけ離れていることがわかる。

 

「あはは……。次は、堕天使の涙を……」

 

ルビィは山のように積まれてある黒いたこ焼きらしきものを一つ取った。シャイ煮が意外に好評だったので、堕天使の涙の方も味に期待している様子だ。

 

つまようじに刺さったその禍々しい物体を口へと運ぶ。

 

「…………ルビィ?」

 

自らの髪に匹敵するほどにみるみる赤くなっていくルビィの顔を見て、色々と察した未来達から血の気が引く。

 

「ピギュァァアアァァアハァァアァァア‼︎‼︎辛い辛い辛い辛いからいカライ!!」

 

「ちょっと!一体何を入れたんですの⁉︎」

 

「タコの代わりに大量のタバスコで味付けした……これぞ!堕天使の涙!」

 

未来は外に飛び出してのたうち回るルビィに慌てて汲んできた水を渡す。

 

対照的に料理した本人である善子は顔色一つ変えずにタバスコの塊を頬張っている。同じ人間とは思えない。

 

『……食べなくてよかったね』

 

「何言ってんだ。俺達も在庫処理に貢献しなきゃならないんだぞ」

 

『……頑張ってね〜』

 

「おっと逃がさん」

 

『ひいいいい⁉︎』

 

身体から離れようとするオレンジ色の宇宙人を抱え、青い顔でテーブルの上に並べられた堕天使の涙を見下ろす。ルビィの様子を見た後だと余計に食べづらい。

 

 

 

 

 

 

「そういえば歌詞は?」

 

「う〜んなかなかね……」

 

「難産みたいだね。作曲は?」

 

側で皆が騒いでいる空間から一歩離れた場所では、千歌と曜と梨子の三人で作っている途中の曲について話し合っていた。

 

「色々考えてはあるけど……。やっぱり歌詞のイメージもあるから」

 

「いい歌にしないとね」

 

「……うん」

 

 

◉◉◉

 

 

二日目。

 

「だあああああぁぁぁぁぁ…………」

 

「だ、大丈夫?」

 

「ああ。でも少し休憩……」

 

テーブルに上半身を預けてため息にも似た声を出す未来。

 

宣伝担当の梨子、千歌、果南の三人が全員曲の歌詞やダンスの構想をしに出て行ってしまったため、今は未来一人でチラシ配り等をこなしている状態だ。

 

「まったく。男子たるもの、これくらいで弱音を吐いてはいけませんことよ?」

 

「にしても四人分の仕事はキツイってダイヤさん……。お腹すいたぁ〜曜なんか作って〜……」

 

「ヨーソロー!了解であります!」

 

目玉だけを動かして店内の様子をうかがうと、昨日よりは大幅に客の量が増えている。シャイ煮も値段を落としたこともあってか多少は売れているみたいだ。

 

『千歌ちゃん達が出る大会……ラブライブだっけ?』

 

「ああ、予選がもうすぐなんだよ。三年生のみんなもやる気になってる」

 

『ずっと我慢してきたのは、ダイヤちゃんだけじゃないみたいだね』

 

「そうだな」

 

スケジュールやダンスに関しては三年生組が加わったことでさらに改善され、衣装も鞠莉のおかげで予算面の問題が解決し、今までよりも実現できるアイディアの幅が広がった。

 

「……俺も頑張らないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁぁあ…………」」

 

「今日も……あんまり売れなかったみたいだな」

 

壁に手をついて肩を落とす善子と鞠莉。

 

また余ったであろう食材は自分達の腹の中へいくことを考えると身体が震えてくる。

 

「できた!カレーにしてみました!」

 

厨房から出てきた曜の手にはカレー、だが普通のカレーではない。じゃがいもやにんじんの他には余ったシャイ煮の具材や堕天使の涙が投入されている。

 

「”船乗りカレー・with・シャイ煮と愉快な堕天使の涙達”」

 

「ひえ〜…………」

 

「ルビィ死んじゃうかも……」

 

「じゃあ梨子ちゃんから召し上がれ」

 

「うぅ……」

 

人数分並べられたカレーを前にして固まっていた梨子がゆっくりと皿を掴み取り…………。

 

「…………美味しい。すごい!こんな特技あったんだ!」

 

曜のアレンジが加えられたシャイ煮と堕天使の涙は、一転して人気メニューとなり得るものへ変身した。

 

他のみんなも続いてカレーを手に取り食べ始める。

 

「ん〜!デリシャス!」

 

「パパから教わった船乗りカレーは、何にでも合うんだ!」

 

「んっふっふっふ…………。これなら明日は完売ですわ……」

 

算盤(そろばん)を弾きながらにやりと笑うダイヤに苦笑しつつ、未来もスプーンを握りカレーに手をつけ始めた。

 

 

 

 

「…………」

 

「わっ!千歌ちゃんどうしたの?」

 

一人浮かない顔を浮かべる千歌を見て、曜は咄嗟に彼女のもとへ駆け寄った。

 

「ううん、なんでもないよ。ありがとう」

 

「…………?」

 

彼女の視線の先にいた人物を見て、何かを察したように肩を動かす曜。

 

(……曜……?)

 

未来はふと目を動かして、並んでいた二人を見つめる。

 

何か危ない、近寄りがたい雰囲気を感じた未来は、無言で二人から背を向けた。

 

 

◉◉◉

 

 

「では!これからラブライブの歴史と、レジェンドスクールアイドルの講義を行いますわ!」

 

活き活きとした表情で障子に貼り付けた用紙を指すダイヤ。その反対側では未来を除いた八人が体育座りで「ラブライブの歴史!」と書かれた用紙を眺めている。

 

「今から?」

 

「うわぁ〜……!」

 

「だいたいあなた方は、スクールアイドルでありながらラブライブのなんたるかを知らなすぎですわ」

 

「それで、なんで俺が助手役……?」

 

ダイヤの隣に立たされている未来が首を傾けてそう尋ねる。

 

「未来さんならある程度の知識は備えてそうなので」

 

「まあ、そうだけど……」

 

以前スクールアイドルについて調べていたことがこんなところで役に立つとは。……いや、面倒な役にさせられてる点を考えれば役に立っているかどうかはわからないが。

 

「……?」

 

すぅ、と静かな寝息が聞こえ、ダイヤは不意に鞠莉の方へと目線を落とす。

 

瞳が描かれたシールを瞼に貼り付けた鞠莉が、堂々と居眠りをしていたのだ。

 

「鞠莉さん?聞こえてますか?お〜い……ミス鞠莉〜?」

 

それに気づいていない様子のダイヤは彼女の気を引こうと、鞠莉の目の前で手を振ったり声をかけたりし始める。

 

「どっひゃああああああああ!!!!」

 

直後、剥がれたシールが床に落ち、それがダミーの目だと知らずにいたダイヤは悲鳴を轟かせた。

 

「会長ぉ⁉︎」

 

「お姉ちゃん⁉︎」

 

一瞬の内に気を失って倒れたダイヤに、千歌達は呆れたようにため息をつく。

 

 

 

 

「今日はもう遅いから、早く寝よ!!」

 

千歌が急に立ち上がってそう言いだす。

 

何かの気配を感じて(ふすま)の方を見ると、隙間からじっとこちらを見つめる瞳が一つ。

 

ダイヤの悲鳴を聴いて駆けつけてきた千歌の姉、美渡だ。

 

あまりうるさくすると他の客に迷惑になる。よって大きな物音や声を出すとこのように旅館の神様が現れるのである。

 

「今日はもう退散した方がよさそうだな……」

 

慌てて布団を敷き始めた千歌達に背を向け、未来はその隣の部屋へと移動する。

 

「何かあったら呼んでくれよー」

 

「「「はーい!!」」」

 

 

◉◉◉

 

 

Aqoursのみんなが寝静まった夜。

 

「っと……これこれ!」

 

『……枕?』

 

一旦隣に位置する自分の家まで戻ってきた未来は、部屋のベッドの上にあった枕を抱えた。

 

「合宿場所が千歌の家でよかったよ」

 

『慣れた枕じゃないと眠れないとか?……でも病院では普通に安眠してたよね?』

 

「ある程度はなんとか……ギリっギリ我慢できるさ。でもせっかく家が隣だからな」

 

病院ではほぼ気を失った状態で運び込まれたこともあってか、自分の枕を持ってくる機会なんてなかった。

 

「おっと……!いてっ!!」

 

部屋から出ようとしたところで躓いてしまった未来は、側にあった机に激突して床に尻餅をついた。

 

と、同時に机の棚から顔を出していた一冊の本が床に転げ落ちてくる。

 

「ん……?これって…………」

 

一部が埃がかったその本の表紙には「diary」の文字がある。

 

『……これは?』

 

「懐かしいなあ。昔書いてた日記だ」

 

『どんなことを書いてたの?』

 

「えっと……」

 

適当にパラパラとページをめくっていくと、なんてことのない日常の記録ばかりが記されていた。

 

(「今日はカレーを食べた。おいしかった。」……我ながら可愛らしい事を……)

 

子供っぽい微笑ましい内容を流し読みしていく。

 

が、その直後、

 

 

 

 

 

 

 

父さんと母さんがころされた。

 

 

 

「…………っ?」

 

 

 

 

 

これからおれは一人になる。

 

あのかいじゅうにころされた。ゆるせない。

かいじゅうも、のこのこやってきたあいつも、絶対にゆるさない。

 

 

 

 

 

「なんだ……?これは……⁉︎」

 

そのページを最後に、日記は終わっていた。

 

走り書きされたその文字は、涙に濡れたように滲んでいる。

 

『未来くん、これって……』

 

「……っ!」

 

瞬時に何か見てはいけないものに触れてしまったと直感し、未来は日記を閉じると逃げるように枕を抱えて部屋を飛び出した。

 

 

(俺が…………アレを書いたのか……⁉︎俺が…………!)

 

 




未来の視点だからか、だいぶカットされたシーンがありますね。
まだサンシャインを視聴されてない読者様は是非目を通すことをオススメします。

解説いきましょう。

今回の最後は不穏な雰囲気で終わってしまいましたが……、元々この描写はもう少し後に描く予定でした。ただそうなると後々の未来の過去編で内容が濃くなっちゃうかな〜と思い、今回の最後に突っ込む事にしたのです。
日記の内容は未来の過去編……つまりは例の夢の話にも繋がるわけですが……、ここで前回の謎の鳴き声も関係してきます。
このエピソードは次回からのサンシャイン11話パートを終わったら投稿する予定なので、お楽しみに。


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第48話 異次元からの囁き


今回はついに四天王の一人である……あの人の登場です!


今では凄まじい規模の大会となった、「ラブライブ!」。

 

その参加者数も当然計り知れないものとなり、今では”予選に出場するチーム”を決める予備予選も行われるほどだ。

 

(そうだ……、今は気にしている暇なんかない)

 

先日自分の部屋で見つけた日記のこと。

 

気になることは確かだが、千歌達のためにもそれは後回しだ。今は…………、

 

未来は改札口前に並ぶAqoursのメンバー達を後ろから見守るように立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりね」

 

「お互いに」

 

沼津駅。

 

いよいよその予備予選が始まる……ところだったが、ついこの前梨子の口からあることが明かされた。

 

彼女のピアノコンクールが、ラブライブ予備予選の日と被ってしまったらしいのだ。前から何か言いたそうな様子だったのも頷ける。

 

今日は、向こうに行く梨子の見送りだ。

 

「梨子ちゃん、がんばルビィ!」

 

「東京に負けてはダメですわよ!」

 

「そろそろ時間だぞ」

 

「うん」

 

改札を越えて遠ざかっていく梨子の後ろ姿を、皆は名残惜しそうに眺めている。

 

駅を流れていく人混みの中に梨子が入ろうとした直前、千歌が一歩前へと踏み出した。

 

「梨子ちゃん!」

 

「……?」

 

「次は……!次のステージは、絶対みんなで歌おうね!」

 

「ふふっ……もちろん!」

 

覚悟を決めた梨子は千歌達に背を向け、ピンクのキャリーケースを転がしながら奥へ進んでいく。

 

彼女が一時チームから外れるとなると、予備予選は八人でステージに上がることになる。

 

 

「これで、負けるわけにはいかなくなったな」

 

「なんか気合いが入りマース!」

 

「ね、千歌ちゃん?」

 

ふと先ほどまで隣にいた千歌がいないことに気がついた曜は、咄嗟に後ろを振り返り彼女の姿を探した。

 

改札の前で、ジッと立ちすくんでいる千歌の背中が見える。

 

「千歌ちゃん……」

 

 

◉◉◉

 

 

「なんだお前……地球にいたんじゃなかったのかよ?」

 

「見事に完敗。尻尾巻いて逃げてきたよ」

 

四天王を含んだエンペラ星人に仕える幹部が住まう宇宙船。

 

ノワールは廊下で鉢合わせしたベリアルの巨体を見上げ、自虐混じりにそう言ってみせる。

 

「まさかインペライザーを倒すとはね……。あの炎の力、侮れないよ」

 

「……気持ち悪りぃ」

 

「……ん?」

 

瞬時に危険を察知したノワールは反射的に身体を反らし、頭上から繰り出された槍の一撃を回避した。

 

壁に三つの刃が突き刺さる轟音が響き、口角を上げてベリアルを見る。

 

「危ないじゃないか。いきなりなんのマネだい?」

 

「気分が悪くなるんだよ、お前のその振る舞いを見てるとな。他の馬鹿共はともかく、それでエンペラ星人を欺いているつもりか?」

 

「……気付いていたのか」

 

「俺に見抜かれたってことを肝に命じておけ。奴は裏切り者に容赦はしない」

 

ゆっくりと壁から漆黒の槍を引き抜き、ノワールの横を通ろうとするベリアル。

 

「……なぜボクにそんなことを?」

 

今のベリアルの行動には疑問を感じた。

 

自分がエンペラ星人を裏切ろうとしていることに気づいておきながら、それをわざわざ忠告するなんて。彼らしくもない。

 

「まさか君も…………っていうわけじゃないだろうね」

 

「……ここで殺したほうがよかったか?」

 

「いいや、口が過ぎたね。何も聞かないさ」

 

黒い鎧が遠ざかっていくのを見送り、ノワールは微笑を浮かべる。

 

ベリアルがエンペラ星人を裏切ろうとしていることは薄々わかっていた。そもそも彼の言動で皇帝本人にも丸わかりだろう。

 

だが今の雰囲気は、普段のベリアルとはまた違ったものを感じた。

 

 

ベリアルがまとっている鎧、アーマードダークネスの力は圧倒的だ。皇帝以外の者が使用すれば、たちまちそれは着ている者を支配し、自律する怪物へと変貌する。

 

それなのにベリアルが自我を保っているのは、驚異的な精神力によるものなのか、それともエンペラ星人が意図的にそう設定しているからなのか。

 

(さっきの彼は……まるで光の戦士()()()だった)

 

前に見たベリアルの戦い方から察するに、光の戦士だった頃の意志が残っているとは考えにくい。

 

だけどもし…………ベリアルが完全に鎧を制御しているとすれば、

 

アーマードダークネスを与えられる前の、あの正義の心を保っているとすれば…………

 

「…………いや、あり得ないか」

 

ウルトラマンとしての心根を未だに持っているのなら、メビウスや未来を殺しかけたりはしないはずだ。

 

(それにしてもわからないな……。光の者として生まれておきながら、闇の皇帝の下につくなんてね)

 

 

 

ノワールの作戦が失敗したことで、四天王も行動を起こそうとしている。ベリアルも進んで動き出しそうなものなのだが……。

 

既に邪将であるヤプールが地球に超獣を送ったと聞いた。

 

「皇帝に仕える四天王……ね。お手並み拝見といこうか」

 

 

◉◉◉

 

 

「特訓!ですわ!」

 

「……また?」

 

「本当に好きずら」

 

ホワイトボードにでかでかと書かれた”特訓”の文字の前で仁王立ちするダイヤに冷めた視線が刺さる。

 

妹の方は姉のやる気満々な様子を意に介さず、パソコンで何やら動画を見ている。

 

「……あれ?ルビィちゃんそれって……」

 

Saint(セイント) Snow(スノー)!」

 

ルビィの前にあるパソコンには、小さな画面の中で大きな存在感を放つ二人の少女が映っていた。

 

千歌達とは東京のイベントで会った、トップレベルの実力を持つスクールアイドル。

 

「先に行われた北海道予備予選をトップで通過したって!」

 

「へえ、これが千歌達が東京で会ったっていう……」

 

「頑張ってるんだ……!」

 

ライバルのライブ映像を前にし、嬉しそうに笑う千歌。

 

東京での一件を経て彼女は……いや、みんなが変わった。

 

「この二人の前に立つには……まずは目の前の予備予選を突破しないとな」

 

「うんっ!さあ練習!」

 

「では、それも踏まえて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで…………こう……なるのっ!?」

 

ギラギラと燃える太陽の下で、ジャージに着替えたAqoursのメンバーがプール掃除に励む。

 

ブラシを持った千歌が不満げに声を上げると、プールサイドに立つダイヤが声を張り上げる。

 

「文句言ってないでしっかり磨くのですわ!」

 

「で、でも……足元がぬるぬるして……」

 

「ずらっ!」

 

「ピギィ⁉︎」

 

足を滑らせてドミノ倒しになる花丸とルビィ。派手に転んで頭を打たなければいいのだが。

 

『こんなんで特訓になるのかな……』

 

「ダイヤがプール掃除の手配を忘れていただけね〜」

「忘れていたのは鞠莉さんでしょう⁉︎」

 

横で言い争いが始まったのを一瞥し、未来は黙々と床にブラシをかける。

 

生徒会長と理事長がこの調子で浦の星は大丈夫なのだろうか……。

 

「それで、曜はなんでまたその格好?」

 

白い制服に身を包んだ曜が、敬礼しながら未来の方を向く。

 

「デッキブラシといえば甲板磨き!となれば……これです!……とわあっ⁉︎」

 

滑って尻餅をついた曜に皆の視線が集まり、眉間にしわを寄せたダイヤの雷が落ちた。

 

「あなたその格好はなんですの⁉︎遊んでいる場合じゃないですわよ!」

 

「あはは…………」

 

顔を見合わせて笑う千歌と曜。

 

未来にはなぜか、二人の間に見えない壁があるように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分綺麗になったな」

 

「ほら見なさい。やってやれないことはございませんわ」

 

底は鏡のように太陽の光を反射しており、さっきまでのプールとは段違いだ。一時はどうなることかと思ったが、これで掃除の仕事は片付いた。

 

「そうだ、ここでみんなでダンス練習してみない?」

 

「オウ、ファニー!おもしろそう!」

 

「滑って怪我しないでよ?」

 

「ちゃんと掃除したんだし平気よ」

 

(心配だ……)

 

自然な流れでこのまま練習へ入ることに。予備予選が目の前にあるので怪我だけは本当に気をつけてほしいところだ。

 

千歌をセンターにした八人がそれぞれの位置につき、目を閉じて頭の角度を下げる。

 

「……?あっ……」

 

横で見ていた未来はそう声を上げ、千歌の横にあるぽっかりと空いたスペースを見た。

 

千歌達も気がついたようで、揃って「あ」と声をこぼす。

 

「そっか……、梨子ちゃんがいないんだよね」

 

「そうなると……今のかたちはちょっと見栄えがよろしくないかもしれませんわね」

 

「変えるのか?」

 

「それとも……梨子ちゃんの位置に、誰か代わりに入るか」

 

「代役って言ってもねぇ……」

 

未来がふと視線を外した先には曜が立っていた。

 

今回のダンスは千歌の他に目立つポジションとなる者がもう一人いる。それをこなすには彼女と息の合っている人物が適任だろう。

 

それができるのは……。

 

「…………」

 

「……ん?へ?え?」

 

徐々に集まっていく皆の視線を感じ取った曜は戸惑うような様子を見せる。

 

「へっ?えっ…………私ぃ⁉︎」

 

 

◉◉◉

 

 

「うーん……曜なら合うと思ってたんだが……」

 

「私が悪いの。同じところで遅れちゃって……」

 

「あぁ違うよ!私が歩幅、曜ちゃんに合わせられなくて……」

 

梨子のポジションは曜がカバーすることに決まったのだが、なかなかダンスのタイミングが合わない二人はお互いに気を使ってそう言ってみせる。

 

「まあ、身体で覚えるしかないよ。もう少し頑張ってみよう」

 

気まずそうに顔をうつむかせた曜は、押し潰されそうな重圧を感じていた。

 

自分で梨子の代わりが務まるのだろうか。千歌は自分と踊ることをどう思っているのか。

 

(やっぱり私は…………)

 

 

 

 

 

 

 

『そうだ。お前は親友からも求められてはいない』

 

「え…………?」

 

世界の色彩が反転したように禍々しいものへと変わり、どこからともなく低い声音が耳に滑り込んでくる。

 

『愛する者も遠くへ行き、親しい友からも必要とされないお前には……どこにも居場所などないのだ』

 

「だっ……だれ?」

 

気分が悪くなるような囁きが追い打ちをかけるように聞こえてくる。

 

自然と耳を塞ぎ、目を閉じてしまう。

 

 

 

「曜ちゃんどうしたの?」

 

「顔色悪いぞ?」

 

不意に飛んできた幼馴染二人の声が耳朶に触れ、ハッと我に返った曜は顔を上げて前方を向く。

 

いつの間にか視界の色は戻っており、謎の声も聞こえなくなっていた。

 

心配そうに顔を覗き込ませている千歌と未来が見える。

 

(今のは…………)

 

「曜ちゃん?」

 

「あっ……、うん!大丈夫!さあ練習しよう!」

 

先ほどのことは気のせいだと無理やり自分に言い聞かせ、曜は再び千歌の隣へと駆け寄った。

 




四天王で最初に動いたのはテレビのメビウスと同じくヤプールでしたね。
曜のメンタルボドボドの隙を狙ってAqoursを襲おうと計画を立てているみたいです。

今回の解説はベリアルについて。

未来達を殺しかけたりノワールに忠告したりと不安定なポジションのベリアルですが、彼がアーマードダークネスを手に入れた経緯について話しておきましょう。
ウルトラ大戦争が終わりしばらく経ったある日、逃走したエンペラ星人の居場所を見つけたベリアルは無謀にも勝負を挑み、返り討ちに遭ってしまいます。
しかし彼の戦闘力と内に眠る力への憧れを利用しようと考えたエンペラ星人は、彼にアーマードダークネスを与え、自らの部下としたのです。
まだまだ謎の多いベリアルですが、最終的にどのような位置となるのか……⁉︎


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第49話 赤い雨が降る時


もうすぐウルトラファイトオーブが始まりますね。楽しみです。


「え?ステラとヒカリから?」

 

『うん!あの二人からウルトラサインが送られてきたんだ!』

 

練習帰りの寄り道。

 

みんなと一緒にコンビニで身体を休めていたところに、ボガールを追って地球を離れた二人からのメッセージがやってきた。

 

みかん味のアイス片手にメビウスの隣へ駆け寄る。

 

オレンジ色の光から空中へ、プロジェクターのように映像が映し出されていく。

 

通常のウルトラサインではない。どちらかというとビデオレターのようなものだった。

 

「おおっ。久しぶりに見る顔」

 

『映像付きなんだ……』

 

映像をスタートさせた瞬間、ショートボブの少女の顔が大きく視界に飛び込んできた。カメラマンはヒカリなのだろうか。

 

《ええっと……、映ってるのこれ?》

 

《ああ》

 

《……こほん。久しぶりね未来、メビウス。連絡が遅れてごめんなさい》

 

しばらく聞いていなかった声音を流しながら映像の端に視線を移すと、豪華な装飾が施されたベッドや机が見える。一体今はどこにいるのやら。

 

《しばらくバタバタしてたけど……今は少し落ち着いてるわ。とりあえず近況報告ね。今、わたしとヒカリは”カノン”という惑星にいるの。そこのお姫様……ええっと……なんて説明すればいいのかな……》

 

《ステラ様?何をしているのですか?》

 

唐突に画面に割り込んできた一人の少女がアップで映される。年恰好はステラや未来とそう変わらない。

 

《ちょっ……!今取り込み中だから!》

 

《なんですかこれ⁉︎私、見たことも聞いたこともありません!不思議です!》

 

《あーもうっ!!とにかく!わたし達は無事だから!それだけ!あなた達も頑張りなさいよ!》

 

ぷつん、と騒がしい声を最後に映像は終わってしまった。

 

「……なんだろ、今の」

 

『とりあえず……二人とも大丈夫みたいだね』

 

ボガールを追うなんて言ってたので心配だったが……どうやらこの様子を見るに平気みたいだ。

 

アークボガールはまだ捜索中みたいだが、あの二人なら心配する必要はないだろう。

 

「こっちも何かメッセージ返すか?」

 

『そうだね。どうしようか』

 

「そうだな……、ん?」

 

いつの間にか空になっていたアイスの容器をゴミ箱へ捨て、未来はコンビニの横でダンス練習していた二人の少女に目を向けた。

 

(まだ練習してたのか…………)

 

学校から帰ってきてもダンスの練習を続けている曜と千歌。

 

同じ部分の振り付けなのだが、なかなか上手く合わないでいる。

 

「あっ……ごめん!」

 

「ううん、私がいけないの。どうしても梨子ちゃんと練習してた歩幅で動いちゃって……」

 

今までやってきた練習では、曜のポジションに梨子がいた。すぐに曜の動きで合わせるのは難しいのだろう。

 

それにしても予備予選とはいえ、一人欠けてるだけでも不安感を否めない。それも初めてのライブの時から一緒だった梨子がいないのだ。

 

(俺としても、千歌達が問題なく本番を通せるか心配だ……)

 

「千歌ちゃん。もう一度、梨子ちゃんと練習してた通りにやってみて」

 

「えっ……でも……」

 

「いいから!」

 

二人の様子を見ようと物陰から顔を出していた未来の下から、同じように三人の一年生組が顔を生やす。

 

「なにコソコソしてるのよ」

 

「お前らこそ」

 

「ちょっと心配で……」

 

あの二人の危なっかしい雰囲気に不安を感じていたのは未来だけではなかったようだ。

 

「せーのっ……ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト」

 

曜の掛け声に合わせてステップを踏んでいく。

 

今度はどういうわけか二人のタイミングはぴったりと合致し、今までのようにお互いの身体が衝突することはなかった。

 

「おお!合ったじゃないか!」

 

「曜ちゃん!」

 

「これなら大丈夫でしょ?」

 

「う、うん……さすが曜ちゃん、すごいね……」

 

直後、千歌の携帯から着信音が鳴った。画面には”桜内梨子”の文字が見える。

 

千歌は迷わず電話に出ると、嬉しそうな顔で耳元にスピーカーを添えた。

 

(無事に東京のスタジオまで着いたみたいだな)

 

梨子も向こうでピアノのコンクールがある。梨子も梨子で色々と大変なのだろうが、あいにく東京まで足を運ぶわけにはいかないので、彼女のために何かできることはない。

 

強いていえば、千歌達が予備予選を突破してくれることだろうか。

 

「あっちょっと待って、みんなに変わるから!花丸ちゃん!」

 

「えっ……えっとぉ……()()()()?」

 

『もしもし?花丸ちゃん?』

 

梨子の声が聞こえた瞬間に引きつった顔で仰け反る花丸。

 

「みっ!未来ずら〜!」

 

「呼んだ?」

 

「違うずら」

 

「なに驚いてるのよ。さすがにスマホぐらい知ってーー」

 

『あれ?善子ちゃん?』

 

今度は善子に声をかけられるが、当の本人は花丸と同じく緊張した様子で距離をとろうとしている。

 

「ふっふっふ……このヨハネは堕天で忙しいの。別のリトルデーモンに替わります!」

 

『……もしもし?』

 

「ピッ……ピギィィイイイイ‼︎‼︎」

 

「なんでそんなに緊張してるんだ……?」

 

「電話だと緊張するずら!東京からだし!」

 

「東京関係ある?…………じゃあ曜ちゃん!」

 

差し出された画面の向こう側に梨子がいると思うと、なぜか途端に気まずいと思ってしまう。

 

曜は数秒間固まったまま何も言えないでいた。

 

「あっ……ごめん電池きれそう……」

 

結局会話も続かないまま、梨子との通話時間は終わってしまった。

 

「よかったぁ……喜んでるみたいで。じゃあ曜ちゃん!私達ももうちょっとだけ、頑張ろうか!」

 

「…………うんっ!そうだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けが爛々と街道を照らすなか、曜は一人下を向きながら帰路についていた。

 

(これで……よかったんだよね)

 

先ほどの振り付けは、梨子のものだ。

 

今まで曜のポジションは梨子が入っていたはずだ。今頃千歌が曜のタイミングと合わせるとなると、少々時間がかかってしまう。

 

だから自分は、”千歌と梨子”に合わせなければならない。

 

 

 

 

 

『憎め』

 

「えっ……⁉︎」

 

『憎め……憎め……憎め……!お前を蔑ろにした者を全て……!』

 

まただ。

 

どこから発されているかわからない、男性の声。

 

この声を聞いていると、身体の奥底から抑えきれない感情が溢れ出てきそうになる。

 

これが嫉妬心というものなのか?

 

「やめて……やめてよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うりゃっ!」

 

「ッ!?!?」

 

突然胸部の膨らみを鷲掴みにされた感触。

 

「オーウ!これは果南にも劣らないーーーー」

 

「とおりゃあーーーー!!」

 

咄嗟に後ろから伸びていた腕を掴み取り、背負い投げで一気に前へともってくる。

 

()()の髪の毛が宙を舞い、鈍い音が聞こえたと同時にその犯人の顔が明らかとなった。

 

「アウチっ!」

 

「…………えっ⁉︎鞠莉ちゃん!?」

 

 

◉◉◉

 

 

「え?曜ちゃんが?」

 

『うん。なにか様子がおかしい気がして……』

 

未来と千歌がバス停から自宅へ向かう途中、メビウスが急に曜についての話題を振ってきた。

 

「俺は特になにも……」

 

『千歌ちゃんはどうだい?』

 

「曜ちゃんが…………」

 

千歌は顎に手を当てて考える素振りを見せた後、パッと顔を上げて神妙な顔つきを見せた。

 

(ダンスの振り付けのこと……やっぱりまだ気にしてるのかな?)

 

「どうして急にそんなことを……」

 

『いや、ちょっと気になってーーーーーー」

 

その時。

 

夕暮れ時の太陽を隠すように雲が流れ始め、辺りは一変して薄暗くなってしまった。

 

『…………この感じ……』

 

灰色の雲に覆われた空を見上げていると、メビウスが何か異変を感じ取ったように周囲を警戒しだす。

 

「……一雨きそうだな…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さい頃からの幼馴染である曜と千歌。二人は女の子同士ということもあってか、未来と一緒にいる時には無い特別な繋がりを感じていた。

 

昔から千歌と何か一緒にできることはないか、と何度か同じ部活にも誘うことがあった。

 

「でも……中学では断られちゃってさ。……だから、千歌ちゃんが一緒にスクールアイドルやりたいって言ってくれた時は、すごく嬉しくて」

 

千歌の言葉から始まったスクールアイドルだが、気づいた時にはAqoursのみんなが集まっていた。

 

「もしかしたら千歌ちゃん……、私と二人は嫌だったのかなって……」

 

ある程度のことは器用にこなしてしまう曜。しかし要領がいいと思われがちな彼女も、千歌や未来に対してはひどく不器用だ。

 

「なに一人で勝手に決めつけてるんですかっ?」

 

「だって……」

 

鞠莉は腰を下ろしていたベンチから立ち上がると、曜に背中を向けて言った。

 

「曜はちかっちのことが、大好きなのでしょう?なら、本音でぶつかったほうがいいよ」

 

「え?」

 

「大好きな友達に本音を言わずに、二年間も無駄にしてしまった私が言うんだから、間違いありません!」

 

と、その時。

 

サアァ、と雨粒が打ち付けられる音が聞こえ、鞠莉と曜はふと建物の外に見える道路へ目を向けた。

 

「あら、雨?」

 

何気なく呟く鞠莉だったが、窓に伝う液体の”色”を見てすぐに表情を曇らせた。

 

「赤い…………?」

 

 

◉◉◉

 

 

「赤い雨…………か」

 

「不気味だよね〜……。ニュースでも原因は謎だって言ってたし」

 

翌日。

 

部室の窓から外を眺めると、あちこちに赤い水溜りがあるのが見える。

 

昨日この鮮血のような雨が降り注いだのは世界中らしいのだが……。

 

『……嫌な予感が的中しちゃったかもしれない』

 

(備えておくか……)

 

エンペラ星人の刺客がやってきたのは間違いないだろう。もしかしたら既に近くに潜伏している可能性もある。

 

未来がそう考え込んでいると、視界の横から飛び出すように何かが入り込んできた。

 

「はいっ。未来くんとメビウスの分ね」

 

「リストバンド……?」

 

手に握られているリストバンドを受け取り、なぜ今これを渡してきたのだろう、と一瞬疑問がよぎる。

 

黒い地に赤と黄色で炎のマークが刻まれているデザインだ。

 

「なんだこれ?」

 

「東京から梨子ちゃんが送ってくれたんだ!」

 

振り返り、部室にいるみんなへ視線を移すと、それぞれ違った色のシュシュを手首に着けているのが見えた。

 

未来だけリストバンドなのは、梨子が気を利かせてくれたのだろう。さすがにシュシュだと男子が身につけるのは抵抗がある。

 

『そういえば未来くんがアクセサリーとか着けたところ、見たことないな』

 

「まあそういうの疎いし……」

 

早速右手にリストバンドを通し、珍しいものでも観察するようにまじまじと見つめる未来。

 

こういうのも悪くないな、と若干お洒落心をくすぐられる。

 

 

「おはよー!」

 

「あっ曜ちゃん‼︎」

 

横にある引き戸が開かれ、よく通る声で元気に挨拶をしながら曜が部室へと入ってきた。

 

昨日メビウスが気にしてたこともあったので、こっそりと彼女の様子をうかがってみる。

 

(……特に変わったところもないよな……)

 

「特訓始めますわよー!」

 

「「「はーい!!」」」

 

曜に水色のシュシュを渡した千歌も、ダイヤの招集に応じて部屋を出ようとする。

 

「千歌ちゃん!」

 

「……?」

 

「……頑張ろうね」

 

「うんっ!」

 

咄嗟に千歌を引き止めた曜は一言そう声をかけると、肩を落として物悲しげな表情を浮かべた。

 

「………………?わあっ!?未来くんいたの!?」

 

「ひどくない……?」

 

隅で一連のやりとりを見ていた未来の存在に気づいた曜は、なぜか頰を赤く染めて後ろへ下がる。

 

『ねえ曜ちゃん、最近なにか変わったこととかあるかな?』

 

「え?」

 

オレンジ色の光が彼女の目の前にやってくると、急な質問を投げかけた。

 

「どうして?」

 

『いや……深いわけはないんだけど……。なにもないならいいんだ』

 

数秒の沈黙を破るように、未来が部室の戸を開けて体育館へ飛び出す。

 

「じゃあ、曜も早く着替えて来いよ!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くく…………』

 

赤く濡れた地面に、ぼんやりとした人影が浮かび上がる。

 

部室の外から様子を見ていたとある存在は、待っていたのだ。

 

渡辺曜が、一人になるその瞬間を。

 

 




冒頭に出てきたステラが言っていた通り、外伝では惑星カノンも登場します。
オリジンサーガは見れてないのでPVや某サイト等で得られる情報でなんとか執筆していく予定です……。つまりだいぶ設定に違いが見られると思います。

解説いきましょう。

今作の世界ではベリアルが犯罪を犯す前にエンペラ星人の手に堕ちたということですが……では、ゼロは?
ゼロの方は元の設定とほとんど変わりません。スパークタワーのエネルギーを奪おうとしたところで連行され、レオやキングと修行の日々を送っていました。
少し違うのは、ベリアルの光の国襲撃事件が起こらなかったことで、映画とは違いゼロは修行を終えた後、セブン本人から父親であると告げられます。
ベリアルとの因縁も、この世界では無いことになりますね。


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第50話 曜の友達

今回は初の超獣が登場です。


『曜ちゃんなんか大嫌いだよ』

 

「えっ……?千歌ちゃん……⁉︎」

 

『もう顔も見たくない。じゃあね』

 

「なんで……⁉︎どうしてそんなこと言うの!?待って!千歌ちゃん!!」

 

暗闇の中へ溶けていく親友の背中を必死に追いかけ、手を伸ばす。

 

いつまで走っても、全力で手足を動かしても、彼女との距離は縮まるどころか遠ざかっていくばかり。

 

「やだ……!私……やだよ…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰もお前のことなど、愛してはいない』

 

 

 

「いやああああああああああああ!!!!」

 

家に戻ってきてから、ずっとこれだ。

 

手から滑り落ちたシュシュがひらひらと床に落ちていく。

 

ベランダで頭を抱え、喉が張り裂けるくらいに叫んだ。

 

……いくら否定しても、男の声が途切れることはなかった。

 

まるでこれが本心なのだろうと、自分に言い聞かせてくるような不気味な声。

 

 

 

 

プルルルル、と着信音が聞こえる…………が、男の囁きにかき消されるように音が霞んでいった。

 

辛うじて見えたスマートフォンの画面には、学校の昼休みに撮った梨子の写真。そして、その人物からの電話がきたことを意味する”桜内梨子”の文字。

 

(梨子…………ちゃん。……千歌…………ちゃん)

 

視界の端から徐々に目の前が真っ赤に染まっていく。

 

捻れるような動きで現れた人影は、曜に言い放った。

 

『やはり人間を滅ぼすのは人間自身だな。お前のように壊れやすい者が、それを証明してくれる』

 

 

◉◉◉

 

 

『こっちだ!』

 

「なんだよいきなりぃ!!」

 

強化された身体能力を駆使し、飛ぶような速さでコンクリートの地面を蹴る。

 

メビウスが何かを察知したのか、浦の星学院の方向から何かの気配がすると言うので、急いで家を飛び出してきたところだ。

 

辺りはすっかり暗くなってしまっている。未だ赤い雨が降った後のシミが地面に残っており、その異様な光景が一層未来の恐怖を駆り立てた。

 

「罠の可能性はないのか⁉︎」

 

『……僕達をおびき出すためにわざと信号を発しているんだろうけど、行かないわけにもいかないからね』

 

自動車すら凌駕する速度で坂を上り、校門付近でブレーキをかける。

 

罠とわかっていながら突っ込むのだ。

 

未来は周囲に神経を張り巡らせ、充分に警戒しながら進んでいく。

 

「…………」

 

『いこうか』

 

生唾を飲み込んでゆっくりと一歩、もう一歩を踏み出し、禍々しい雰囲気を帯びた校舎へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

並んでいる窓から月明かりが差し込み、廊下は点々とした光で濡れている。

 

木の板が軋む音にいちいち怯えながら進んでいくと、やがて気配が最も強い場所に辿り着いた。

 

(部室…………?)

 

数時間前までみんなが集まっていたスクールアイドル部の部室。

 

ただならぬ負のエネルギーが充満しており、雰囲気にあてられて自然と身体が強張る。

 

姿は見えなくてもわかる。すぐ近くに、明らかに光の存在ではないものが潜んでいると。

 

『お前は誰だ!?姿を現せ!!』

 

狭い部屋の中にメビウスの声が反射し、若干の揺れが起こった。

 

その直後、ぐにゃりと捻じ曲がった青白い影がホワイトボードに集まり、やがてそれは人型に形成されていく。

 

その姿を見たメビウスは絶句した後、一つの名前を口にした。

 

『ヤプール…………‼︎』

 

「こいつは……?」

 

ゴツゴツした印象を与える全身に、右手の刃。エンペラ星人に仕える四天王、その中でも邪将の名を与えられている異次元人ヤプールだ。

 

『クハハハハハハ!のこのこやってくるとは間抜けな奴らめ……‼︎』

 

「お前……エンペラ星人の刺客か!?」

 

『いかにも。私は皇帝に仕える四天王の一人、ヤプール』

 

「まさかあの事件…………お前の仕業なのか⁉︎目的はなんだ!!」

 

ふと最近立て続けに起こっている行方不明事件のことを思い出し、咄嗟に問う。

 

『……?つまらんことを聞くな。目的など、貴様らが一番わかっているはずだ……‼︎』

 

部屋の壁、天井、床を伝って移動しながら語りかけてくるヤプール。

 

『未来くん!』

 

「ああ!!」

 

『おっと。まあそう焦るな』

 

左腕にメビウスブレスを出現させ、サークルに手をかざしたところで、ヤプールは二人を制止する。

 

「なに……?」

 

『ただやり合うだけでは芸がない。……そこで、ちょっとした余興をな……。お前達の仲間に相応しい人材がいたのでな』

 

不気味に笑うヤプールを見て、メビウスが弾かれたようにハッと声を出す。

 

ほぼ無意識に、自然と頭の中に一人の少女の顔が浮かんだ。

 

『未来くん!今すぐ曜ちゃんのところに!!』

 

「はぁ⁉︎どういうことだよ!!」

 

『くははははは!!あの女は既に私の意識下にある。……友人を自らの手で殺めるのも時間の問題だな』

 

『なっ…………⁉︎』

 

青ざめた顔で部室を飛び出し、急いでやってきた方向へ戻る。

 

全力疾走で外に出て行った未来の後ろ姿を見て、ヤプールは不敵に笑った。

 

『貴様が追いつくか……。それとも親友を手にかけるのが先か……。くく……っ……!』

 

 

 

 

 

 

 

「何がどうなってんだ……⁉︎」

 

『やっぱり気のせいじゃなかったんだ……!曜ちゃんの元気がなかったのを覚えているだろう⁉︎』

 

曜の家までの道のりを走りながら、頭の中に響くメビウスの話を聞く。

 

「俺は特に……なにも感じなかったけど」

 

『ごめん、君に聞いた僕がバカだった…………‼︎』

 

「うっ……!悪かったよ!どうせ俺は鈍いですよ!!」

 

鈍感な自分を殴りたい気持ちを抑え、必死に四肢を動かす。

 

メビウスの話によると、ヤプールは曜の心の隙を狙ってマインドコントロールをかけようとしているのかもしれない、とのことだ。

 

友人を手にかける、という奴の言動から察するに、曜とは別の誰かが巻き込まれる可能性が高い。

 

咄嗟に携帯を取り出した未来は、まず千歌に通話を試みる。

 

数回の呼び出し音が鳴り、「もしもし」と千歌の声が耳に滑り込んできた。

 

「千歌か!?今どこにいる!?」

 

『え?今?どうして?』

 

「ええっと…………とにかく家から出るなよ⁉︎」

 

『でも私いま曜ちゃんのーーーーーー』

 

突然の大地の揺れにバランスを崩してしまい、よろけた拍子に携帯を落としてしまう。

 

不意に見上げた上空には、見たこともない奇妙な光景が広がっていた。

 

 

「空が…………割れてる……⁉︎」

 

 

◉◉◉

 

 

「曜ちゃーん!!」

 

すぐ側から聞こえてくる、自分を呼ぶ声。

 

ガンガンと痛む頭に手を添えて、曜は力を振り絞って立ち上がる。

 

(千歌…………ちゃん…………?)

 

なぜ、どうして、彼女がここに来た理由はわからない。だがやるべきことは”声”が教えてくれる。

 

…………『殺せ』

 

ダメだ。

 

…………『高海千歌を、皇帝に仇なす可能性がある存在を全て消し去れ』

 

ダメだ、ダメだダメだダメだダメだ。

 

「きちゃ…………だめ……‼︎逃げて……千歌ちゃん…………‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひび割れた空間の隙間から、赤い別次元の空間が見え隠れする。

 

「なんなんだよこれは!?」

 

『これは……ヤプールが操る超獣だ……!』

 

「超獣⁉︎」

 

ヤプールが生み出し、強力な力を秘めた、”怪獣を超える怪獣”。超獣と呼ばれるモンスターの姿が、ガラスが割れたような甲高い音と共に現れる。

 

お互いに補色である青とオレンジの身体。蛇腹な形状の胴体は芋虫のような印象を与える。

 

そして、特徴的な一本角。

 

『一角超獣……バキシム…………‼︎』

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

異次元空間から飛び出したバキシムが夜の内浦の海に着地する。

 

強風と奴の鳴き声がこちらまで到達し、吹き飛ばされるような威圧感をこの身に感じた。

 

「足止めってわけかよ…………!!」

 

『超獣と戦うのは初めてだ……。気を引き締めていこう‼︎』

 

「ああ‼︎メビウーーーース!!!!」

 

眩い光に包まれた未来が飛翔し、オーロラにも似たカーテンの輝きから赤い巨人となって現れた。

 

「セヤァッ!」

 

開幕速攻。メビウスはバキシムへ一直線に接近すると、思いつく限りの打撃を与えていく。

 

それに対応するように動くバキシムは、メビウスの繰り出した手刀、拳、蹴り、全てを相殺するように同じタイミングで攻撃をぶつけてきた。

 

「ウアッ…………!」

 

「■■ーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、怪獣…………⁉︎」

 

曜の家の前で立っていた千歌は、数キロ先に見える巨人と超獣との戦いに目を見開く。

 

停めていた自転車を一瞥した後、やっと玄関から出てきた親友のもとへ駆け寄った。

 

「よ、曜ちゃんあれ‼︎怪獣だよ!早く逃げないと!!」

 

曜の腕を引いて自転車付近までやってくると、サドルに腰掛け、彼女には後ろに乗るよう手で指示する。

 

「あっでも二人乗りじゃ走ったほうが速いかも…………」

 

「ねえ、千歌ちゃん」

 

「……え?」

 

するり、と首元に伸ばされた冷たい手の感触。

 

数秒かかって、自分の首が思いきり締められていることに気がついた千歌は、霞んだ声を出す。

 

「よう…………ちゃん…………?」

 

どんどん腕の力が強くなっていく……と思われたが、時折締めつけが弱まる瞬間があった。

 

だがそれも一瞬。千歌は親友が自分を殺そうとしている恐怖を感じながら、再び視線を彼女へ戻した。

 

「ちかちゃ……シン……じゃ、だめ……デ…………ッ!!」

 

「あぅっ……‼︎く…………!!」

 

いや違う。彼女がこんなことをするわけがない。

 

曜の腕の力が強まる瞬間だけ、彼女の目が赤くなるのを見て、千歌は理解した。

 

(曜ちゃんじゃない…………!)

 

 

◉◉◉

 

 

バキシムの両手に備わっている棘のような爪が重なり、間に凄まじいエネルギーが生まれる。

 

(ぐっ…………!)

 

放たれた光線を紙一重で回避し、後ろに回り込もうと地を蹴って飛び上がった。

 

しかしバキシムの頭上を通る直前、奴の角がミサイルのような勢いで発射され、その強烈な一撃が腹部に直撃してしまう。

 

「ウアァアッ…………‼︎」

 

そのまま落下し、水の柱が立つのと同時に地面へ到達。うずくまっているメビウスにすかさずバキシムが追撃を加える。

 

『このままじゃ…………!』

 

(なに、まだまだ!!)

 

メビュームスラッシュで牽制しつつ、バキシムの隙をうかがう。

 

離れると光線、ミサイル攻撃。勝機があるとすればやはり近距離戦だが……。

 

(そう簡単には、近づけさせてくれないよな)

 

禍々しい光線をメビウスディフェンサークルで受け止める。

 

この拮抗した状況。しばらくは根比べになるだろう。

 

(…………っと思ったけど、もう限界かも)

 

展開したシールドにも亀裂が入り始めている。破壊されるのも時間の問題だ。

 

『……1、2、3!避けて!!』

 

「フッ…………‼︎」

 

メビウスの合図でサークルが貫かれた瞬間を狙って身体を捻り、光線を回避しながら後方へ退避。

 

(あの時の……炎の力を使うか……⁉︎)

 

『……!未来くん‼︎あれ!!』

 

メビウスが示した方向を見下ろす。

 

住宅が広がっている景色の中、道路の上でなにやら人影が二つほど見える。

 

それは未来とメビウスがよく知る、少女達の姿だった。

 

(千歌……⁉︎曜!?)

 

曜が千歌の首に手をかけ、殺害しようとしているのだ。

 

(くそ……!ヤプール!!)

 

『未来くん、前!』

 

前方に視線を戻した時には、バキシムが放った光柱が既に眼前まで迫っていた。

 

「グァアアアアアアアア!!!!」

 

衝撃が胴体を貫通し、全身の力が抜ける。

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

バキシムはボールを弄ぶようにメビウスを蹴り上げ、痛めつける。

 

(くっ…………そ……っ‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー千歌ちゃん。

 

ーーーー千歌ちゃんは、私のことが嫌い?

 

 

 

頭の中に響いてくる曜の声。本物の、他の誰でもない彼女自身の叫びだ。

 

(曜…………ちゃん……)

 

目尻に涙を滲ませて首を掴んでいる曜を見据える。

 

「…………⁉︎」

 

「ごめんね、曜ちゃん」

 

抵抗するのをやめて、彼女の背中に手をまわす。

 

曜の身体が千歌に抱き寄せられ、自然と両手の力がゆるんだ。

 

『…………なに……⁉︎』

 

あまりに予想外な出来事にヤプールが焦りの声を漏らす。

 

「曜ちゃんがそんなこと思ってたなんて、全然気付かなかった」

 

「…………っ」

 

曜の精神を支配していた赤いオーラが段々と抜けていき、曜の虚ろな赤い瞳から元の輝きが取り戻される。

 

「……でもね、私もずっと思ってたことがあるんだ」

 

曜の身体を優しく包みながら語りかける千歌。

 

「曜ちゃんのお誘い、全部断って……ばかりで……!だから今回は……!スクールアイドルは絶対二人で一緒にやりたいって!!」

 

「千歌…………ちゃん……」

 

「だから曜ちゃんは、合わせなくていいんだよ。自分のステップで、私と曜ちゃんの二人で……!」

 

千歌の言葉一つ一つが胸に深く突き刺さる。

 

(私、バカだ……。バカ曜だ…………!)

 

抑えきれなかった感情の全てが涙という形で流れ出した。

 

「うっ…………‼︎うぁああぁぁああ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

想定外の事態を前にしたヤプールは咄嗟にその場を離れ、バキシムのもとへ駆けつける。

 

『…………なるほど。これがあの男の負けた理由か……!』

 

目の部分からバキシムの体内へ入り込んだヤプールが倒れ伏すメビウスを見下ろす。

 

『予定は狂ったが……メビウスさえ始末できれば……!』

 

「■■■■ーーーーッッ!!!!」

 

バキシムの口から複数のレーザーが放射され、膝をついたメビウスへ殺到した。

 

『…………⁉︎なんだ!?』

 

奇妙な光景を目撃したヤプールが驚愕の声を漏らす。

 

メビウスブレスから溢れ出た炎が、メビウス自身の身体を包んでいるのだ。

 

『(未来くん!!/メビウス!!)』

 

ドォン!と真正面からレーザーを受ける衝撃。

 

勝ちを確信したヤプールが見たものは…………

 

『……なんだと…………⁉︎』

 

炎の盾を展開し、レーザーから逃れたメビウス姿があった。その胸には炎のシンボルが刻み込まれている。

 

(さて…………ここからが本番だ)

 

ブレスから伸ばしたメビュームブレードに炎をまとわせ、構える。

 

「ハアッッ!!」

 

ブレードを一閃。炎の斬撃が空気を焼きながらバキシムへ高速で迫る。

 

『ぐぅっ……⁉︎』

 

反射的に両腕を盾にするが、まともに喰らったことで感覚がなくなるほどの衝撃が全身に走った。

 

『(うおおおおおおおおおおお!!)』

 

ガトリングの如き速度で放たれる炎の拳。

 

一……十……百……。数を重ねていく拳はもはや回避など不可能。

 

『まさかこれほどとはな…………!』

 

『(セヤァアアアアアア!!!!)』

 

最後の一撃がバキシムの土手っ腹にめり込み、爆発したかのような衝撃が迸った。

 

「■■■■ーーーーッッ!!!!」

 

断末魔を上げてバキシムが爆散し、それに紛れるようにヤプールが異次元のゲートを開いて逃走するのが見えた。

 

『やった……』

 

(向こうも解決したみたいだな)

 

遠くに見える二人の少女が抱き合う姿を見て、安堵のため息をつく未来であった。

 

 

◉◉◉

 

 

予備予選当日。

 

客席からサイリウムを握って待機していた未来だったが、ふと右腕に身につけていたリストバンドに目を落とす。

 

千歌がスクールアイドルを始めたのは、()()()と一緒に輝きたいから。

 

曜と梨子、Aqours……普通の人達が集まって、一生懸命歌って、踊って…………。一人じゃなくて、みんなと一緒に輝いていくこと。

 

それが、千歌がスクールアイドルの中に見つけた輝き。

 

(Aqours……サンシャイン!)

 

幕の奥で準備しているであろう千歌達に合わせるように、未来は心の中で掛け声を重ねた。

 

そして始まる。

 

ラブライブという輝きまでの切符。

 

幕が開き、Aqoursのメンバーが現れるとほぼ同時に、音楽がスタートした。

 

 

 

ーー想いよひとつになれーー

 

 

 




サンシャイン11話パートの終わりです。
千歌の本心を打ち明けるシーンはアニメでは梨子の口からでしたが、今回は千歌自身に話してもらいました。

では解説です。

今作でのバーニングブレイブの扱いは結構ふわふわした状態になってます。なので勝手に技を増やしてしまったりすることも多いと思います……。
ブレードを使用したのは以前も書いた通り、未来がメビュームブレードを使うのが好きなので、バーニングブレイブの状態でも構わずバンバン出しちゃう感じってわけです。

次回からはついに未来の過去が明かされるエピソードへと入ります。
彼が見た夢、そして行方不明事件の真相とは…………⁉︎
それではまた次回。


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第51話 未来からの言葉:前編

今回からは未来の過去編です!



「おれ達ももう中学生かぁ」

 

「もうすぐ卒業式だし、あっという間だったよな」

 

隅っこにある小さな椅子に座り、机に突っ伏しながら目を瞑る。

 

眠ろうと思っていたのだ。が、周りにいる他の子供達の話し声で気が散ってしまい、うとうとするどころかイライラを募らせてしまう。

 

雪が溶け、少しずつ春が顔を出してきたこの季節。あと数日もすれば卒業式がくる。小学六年…………いや、小学生という肩書きは消え、自分達はもうすぐ晴れて中学生になる。

 

……だけど、なぜか素直に喜べない。

 

こういうことはよくある、……”あの日”以来は。その理由も明白だ。

 

日々ノ未来という少年の心は、”あの日”に壊れてしまった。

 

 

 

 

「忘れられないことねえ……」

 

必死に眠りにつこうとしていると、クラスメイトの言葉がハッキリと耳に侵入してくる。聞きたくもない、どうでもいい雑談を。

 

「ほら、とっておきのがあるだろ」

 

「ああ、怪獣か?」

 

ぴくり、と身体が一瞬だけ震える。

 

あれは小学校中学年の頃だったか。

 

内浦に突如現れた巨大な怪物は、一瞬にしてこの街を火の海へと変えてしまった。

 

たまらなく怖かった記憶が蘇り、無意識に身体を強張らせて拳を作る。

 

 

「ばーか!メインは怪獣じゃなくて、ウルトラマンだろ!」

 

「あははっそうだったな!カッコよかったよなぁ……!」

 

 

そこで耐えきれなくなり、ほとんど叩くように机に手をつき、席を立った。

 

早足でクラスメイトの横を通り過ぎ、誰が見ても機嫌が悪いことがわかるほどに、大きな足音を立てて教室を出た。

 

ぽかん、と口を開けて少年が出て行くのを眺めていた生徒が、眉をひそめて言う。

 

「なんだよ日々ノの奴……感じ悪いなあ」

 

「しょうがねえよ。だってあいつ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンのこと大嫌いじゃん?」

 

 

◉◉◉

 

 

「そわそわしても結果は変わらないぞ」

 

「だってぇ〜!」

 

予備予選を終えて数日。

 

練習を一日休みにして各々の休日を過ごすなか、合格を願うために淡島神社へ御参りに行った千歌と曜、そして未来。

 

「もし落ちてたら……って考えると……!あーもう!!」

 

昨日のライブが終わった後から、千歌はずっとこの調子だ。

 

いや、千歌だけじゃなく他のみんな……未来だってそうだ。みんな口に出さないだけで、内心他のことに手がつかなくなるくらい予備予選の結果が気になっている。

 

「大丈夫だよ。私達は私達で、全力を出し切ったんだから。きっと合格してるよ」

 

ニッと少年のような笑みを見せる曜。

 

先日のライブでは、彼女と千歌の息はぴったりと合い、練習していたステップの部分も問題なくこなすことに成功した。

 

今は憑き物が取れたように活き活きとした表情になっている。

 

「今日はこれから、どうするの?」

 

「んー……特に予定は無いなあ」

 

「私も」

 

階段を下りながら話していると、不意にはずれにある拓けた空間が視界に入る。

 

「あ…………」

 

「……?未来くん?」

 

何度か訪れたことのあるこの場所。

 

未来は立ち止まると、ジッと奥の方を見つめた。

 

「なあ、千歌。この場所……何か思い出さないか?」

 

「…………?そうかな?」

 

「……俺の気のせいか」

 

後頭部を掻きながら再び階段を下りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーォォオオオオ……オオオオ……。

 

波のように揺らめいて聞こえる鳴き声。

 

合宿の時に聴いたものは、確かに聞き覚えのあるものだった。

 

しかし、まるで何かに邪魔されているかのように……記憶が曖昧になる。

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ!この後うちに寄ってかない?」

 

「千歌ちゃんの家?いいよ!未来くんは?」

 

「俺もせっかくだからお邪魔しようかな」

 

その時三人は、気づくことができなかった。

 

木陰に紛れ、”空間の歪み”から息を潜めて獲物を狙う者に。

 

 

◉◉◉

 

 

その日のことは鮮明に覚えている。

 

あちこちに火柱が立つなか、日々ノ未来は血を流す幼馴染をただ見ていることしかできずにいた。

 

地面や建物も真っ二つに切り裂かれる。次の瞬間には自分もそうなるかもしれない。

 

子供が感じるにはまだ早すぎる、”死”の恐怖だ。

 

「…………!」

 

痛む全身を無理やりに動かして、千歌のもとへ足を引きずりながら歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

「……!あれは!」

 

「■■■■ーーーーーーーーッッ!!!!」

 

カッと閃光が迸り、内浦の海に居座っていた怪獣が悲鳴を上げる。

 

怪獣という存在を認知しておきながら、後から現れたソレもまた”今まで見たことがない”という表現を使うに値するものだ。

 

光の巨人。

 

 

「シュワッ!!」

 

街を蹂躙していた巨大な怪物を逆に叩きのめす、圧倒的な力。

 

「すげぇ…………」

 

未来は疑問を感じずにはいられなかった。どうして自分にはあのような力がないのだろうと。

 

今の未来の目は憧れのスポーツ選手に向けるような、そんな輝きを宿していた。

 

だが、その憧れが続くのも長くはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父さんと母さんが死んだ。

 

逃げ遅れた子供を助けていた途中、怪獣の斬撃を全身に受けて絶命したのだと、知らない大人から伝えられた。

 

そのことを聞かされたのも避難所でのこと。光の巨人が怪獣を倒し、全てが終わった後だった。

 

他の大人達は父さんと母さんを勇敢であったと讃えた。助けられた子供と、その親からも感謝された。

 

 

だがそんなことは、未来にとってはどうでもよかった。

 

納得できなかったのだ。自らの命と、自分達の子供の、今後の未来を捨ててまで、名も知らない他の子を助けたことが。

 

しかし親の性格を知っていた未来も、納得はできなくても理解はできた。

 

未来自身、自分のことを後回しにして千歌を助けたのだから、両親のしたこととほぼ変わらない。

 

ーーーーだから子供が次に考えることは、

 

 

 

…………なんで、もっと早く来なかった?

 

 

 

簡単に言えばただの八つ当たりだった。

 

あの巨人が数分早くやってきていれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 

とても理不尽な、子供の我が儘な考え方だ。

 

そうだ。一時期の彼は、ウルトラマンのことが大嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来くんは不幸なんかじゃないよ?だって私がいるじゃない!」

 

「…………はぁ?」

 

昼休み、小学校での出来事だ。

 

今朝の占いで運勢が最悪だったことを千歌に話したところ、彼女はそう返してきたのだ。

 

「今日の私の運勢は最高!一緒にいればプラマイゼロでしょ!」

 

「そういうもんなのか……?」

 

苦笑しつつ視線を下に戻し、腕の中に顔を埋めた。

 

「なにやってるの?」

 

「寝る」

 

「えー?つまんないー!」

 

「……曜と遊んできなよ」

 

「曜ちゃんは校庭でかけっこしてるよ。私、今日はあんまり体力使いたくないの」

 

「あっそ、俺も動きたくないんだ。だからおやすみ」

 

「もうっ」

 

ピクリとも動かなくなった未来に背を向け、千歌は教室から出て行った。

 

めんどくさいのがいなくなった。これで安心して眠れる。

 

 

 

 

卒業を間近に控えたこの季節。先生方も何かと忙しそうで、学校中がバタバタしている。

 

未来や千歌、曜……生徒達にも授業で卒業式の練習等が入ってきたところだ。

 

 

 

 

 

「……ウルトラマン……ろ……?」

 

「…………!……‼︎」

 

ガタッ、と椅子を引く音。

 

クラスメイト達の会話から一つの単語が聞こえた瞬間に席を立ち、移動する。毎日こんなことをしていた。

 

子供達の憧れであるウルトラマンのことが嫌い。それだけでも同い年の少年少女達から白い目で見られるには充分な理由だ。

 

以前まで当たり前だった居場所が、今はとても窮屈に感じる。

 

(……占い……、運勢ね……)

 

先ほどの千歌との会話を思い出しながら廊下を歩く。

 

バカバカしい。父さんと母さんがいなくなった今、幸せなんかあるものか。

 

きっと今後の人生、自分が本当に幸福を感じられる瞬間など絶対にこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあまたねー!」

 

「うん」

 

隣にある旅館へ走っていく千歌に手を振った後、未来は後ろに見える自宅の庭に足を踏み入れた。

 

高海家の人達の協力もあってか、両親がいなくなった今でもなんとか一人暮らしでやっていけている。

 

一人で家に住んでから、気付いたことがいくつかあった。

 

まず、自分は料理のセンスがびっくりするほど無い。母さんは得意だったから、たぶん父さんに似たのだろう。

 

あと、掃除が大変だ。今まで母さんはこんなめんどくさいことをこなしていたのか、と少し尊敬する。

 

……あと、会話する相手もいないので、暇でしょうがない。

 

それから、掃除が大変…………これはもう挙げていた。

 

そして、そうだ、あれだ。

 

 

(…………寂しい)

 

寂しい。寂しいんだ。

 

何をしているときも、ふと思い浮かぶ疑問。”どうして父さんと母さんは死んだのか”。

 

どうしてあの二人なんだ。

 

やり場のない怒りは、いつも自然と、みんなの憧れであるウルトラマンに向けられる。

 

「はぁ……」

 

重いため息をつき、未来は目の前にある扉に近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇぇぇええぇええええ!?!?!?」

 

玄関に手をかけようとしたその時。

 

背後から雷のような悲鳴が上がった。

 

反射的に振り返った未来は、背後にある光景に目を見開く。

 

 

「…………あんた、誰?」

 

 

◉◉◉

 

 

「ねえねえ聞いて聞いて!私、今日の運勢第一位だって!」

 

「私は四位かあ、なんか微妙」

 

千歌の部屋でスマートフォンの占いサイトを見ながら会話を弾ませる三人。

 

苦い顔をしていた未来を見て、千歌と曜は悪いことでも思いついたような笑みを浮かべる。

 

「未来くんは?」

 

「…………ぃ」

 

「え?」

 

「最下位ッッ!!!!」

 

悔しそうに差し出してきた画面にはデカデカと”十二位”の文字がある。

 

「はいドンマイドンマイ」

 

「はっ俺は占いなんて信じてないし!」

 

「え〜?」

 

「ぐっ…………‼︎」

 

からかうように顔を近づけてくる千歌に耐えかね、咄嗟に立ち上がる。

 

「あれ?どこ行くの?」

 

「ちょっとトイレ」

 

「階段には気をつけてね〜」

 

「怖いこと言うなよ」

 

占いの結果が悪かったからといって、階段を踏み外したりするなんてドジはしない。たぶん。

 

こういう時に限って嫌なことが起こりそうなので、充分注意を配ってから部屋を出た。

 

 

 

「ったく……なにが占いだこんちくしょう」

 

『……?』

 

「だいたいあんなインチキくさいものに今後の人生決められてたまるかってーーーー」

 

『……未来くん』

 

「ん?どうかしたか?」

 

階段を降りようとしたところでメビウスに呼び止められる。

 

『なにか雰囲気が…………』

 

「……?雰囲気?敵襲か?」

 

『わからない……けど……』

 

メビウスがこのような反応を見せる時はだいたい何かが起こる前触れなのだが…………。

 

 

 

 

 

「……?なにもないなら俺はトイレに……」

 

『…………‼︎逃げて!未来くん!!』

 

「へ?」

 

『後ろッ!!』

 

 

 

咄嗟に後ろを振り返る。

 

…………これは、蛇か?いや、違う。

 

なにか長い、黄色い触手のようなものが”空間の穴”から伸びていたのだ。

 

「なっ……んだぁ!?」

 

『くっ……!未来くん!!』

 

首に巻きついてきたソレは、物凄い力でメビウスと未来の身体を引っ張り、ぽっかりと空いた黒い穴の中へ連れ去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってぇぇぇええぇええええ!?!?!?」

 

投げ出された。

 

思い切り尻餅をついてしまったのか、臀部がこれまでにないくらい痛い。

 

必死に状況を探るっていると、目の前に小学生と思われる、まるで女の子のような顔立ちの少年が立っていた。

 

彼は未来を見るなり、一言。

 

 

 

「…………あんた、誰?」

 

 

 




さて、過去編といっても単純なものではありません。
今回出てきた触手の正体さえわかれば、今後の展開も案外簡単に読み解けると思います。

解説は少年時代の未来について。

今まで語られてきたものとは全くといっていいほど印象が違いますね。実は今回出てきた少年未来が本来の性格といってもいいかもしれません。
ならどうして今はあんな熱血キャラと化してしまったのか?
この時点ではまだウルトラマンに対して憧れを抱いていなかった、という点も重要です。
あまり多くは語れないので、この辺で…………。
それでは次回もお楽しみに。


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第52話 未来からの言葉:中編

Twitterで新ウルトラマンの情報が出回っていたのですが、あれマジなのでしょうか((((;゜Д゜))))


「なんだお前!今すぐ俺の家から出て行け!!」

 

「わかった!わかったから防犯ブザーに手をかざすのやめろ‼︎」

 

尻餅をついた状態から手足を動かして蜘蛛のような動きで後ろに下がる。

 

未来が庭から出て行くのを見ると、少年は未だ怪しむような目つきで前方を見つめ、ゆっくりと玄関の戸を開けて家の中へ入った。

 

敷地内から出て一息ついた後、未来は今自分が置かれている状況を整理しようと周りを確認した。

 

青い空と海、近くに見える砂浜。変わり映えのない、いつもの内浦の風景が広がっている。

 

「なんでいきなりこんなところに……」

 

痛む臀部をさすりながら立ち上がり、先ほど少年が入っていった家の表札に目を向ける。

 

「こんな…………ところ……?」

 

目が点になるほどの衝撃だった。普通では起こり得ないことが目の前にあるのだ。

 

 

日々ノ、と。

 

確かにそう書かれてある。よく見れば外観が自分の家にそっくり……というか全く同じだということに気がつき、余計に頭が混乱する。

 

隣には”十千万”と看板を掲げた旅館があり、間違いなくここが自宅周辺の景色だということを理解した。

 

「ここ、俺の家だよな……?さっきの子、堂々と不法侵入してったぞ」

 

クエスチョンマークがいくつも脳内に浮かび、しばらく無言になる。

 

メビウスも何か考え込んでいるのか、何も言わない。

 

 

先ほど自分達を外に連れてきたあの触手……。

 

怪獣だとすれば何が目的だったのか。今のところ確認できることは”外に連れ出された”以外には見当たらない。

 

「っていうかあの子に注意しないと!!」

 

『ストップだ、未来くん』

 

再び家の中に入り込もうとした瞬間、メビウスから待ったがかかった。

 

何事かと踏み出した足を止め、彼の方に意識を移す。

 

「どうかしたのか?」

 

『僕の予想が正しければ、不法侵入になるのは未来くんの方だよ』

 

「なんで⁉︎」

 

『場所を変えよう。できれば目立たないところに』

 

「わけがわからん…………」

 

メビウスに言われるままにその場を離れ、未来は淡島神社の方へと向かった。

 

 

◉◉◉

 

 

「過去に飛んだぁ!?」

 

階段に腰掛けていたのが、思わず転げ落ちそうになるくらいに身体を跳ね上がらせる。

 

「なに言ってんだお前…………」

 

『こんな冗談は言わないよ。……さっき僕達を襲った怪獣、あれはおそらく”クロノーム”だ』

 

「クロノーム…………?」

 

おうむ返しでメビウスに問う。

 

話によれば、クロノームとは時間怪獣とも呼ばれており、獲物を見つけてはその人物を過去へと引きずり込み、襲うという恐ろしい怪獣だそうだ。

 

どうやら自分達は運悪くターゲットとなってしまったらしい。

 

「なんで俺が……」

 

『それは……ごめん、僕のせいかもしれない』

 

「メビウスのせい?」

 

クロノームは怪獣のなかでも高い知能を持っており、危険要素と認識したものは優先的に排除するのだという。

 

つまり…………

 

 

 

 

「じゃあ、なんだ?……俺は過去の内浦に飛ばされたと?」

 

『そうなるね』

 

「クロノームとかいう奴に?」

 

『……うん』

 

数分前の光景が脳裏に蘇る。

 

未来達が飛ばされたのは自宅の庭だった。それから導き出されることは…………、

 

「さっきの生意気な子供は、昔の俺か?」

 

『可愛かったね』

 

「次言ったらぶっ叩く」

 

正直言われても実感なんかあるわけがない。悪い冗談であってほしい。

 

(過去の内浦ねぇ…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーこれから先の未来、お前に幸せが■■■■■

 

 

ノイズのように浮かんだイメージを見て目を見開く。

 

「ああっ!」と声を上げて急に立ち上がった未来に、メビウスは戸惑うような様子を見せた。

 

『どうしたの?』

 

「ベリアルだ。もしかしたら、この時間にはまだベリアルがいるのかもしれない」

 

『ベリアルが……?』

 

かつて命を救われ、そして奪われかけたあのウルトラマン。

 

先ほど出会った未来の年恰好は、以前夢に見た光景に出てきた自分の姿と酷似していた。

 

もしかしたら、もうすぐ”その時”がくるのかもしれない。

 

もし運良くその場に遭遇して、エンペラ星人の手下になる前のベリアルに会うことができれば、その後彼に起こる悲劇を伝えることができるかもしれない。

 

クロノームを倒せば元の時代に帰れるだろうが、その前に……

 

「とりあえずやることは決まった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…………」

 

「え」

 

下から階段を登ってくる足音が聞こえ、ふと視線を落とす。

 

虚ろな目を浮かべた少年(自分)の姿が、そこにあった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ここ、よく来るのか?」

 

「…………まぁね。落ち着くし」

 

(愛想のない奴…………)

 

隣に座っている過去の自分のあんまりな態度に苦笑する。昔の自分はこんなに無愛想だっただろうか、と途端に不安になってきた。

 

そもそも自分に神社へ入り浸る趣味なんかあっただろうか?

 

 

 

 

 

 

仏頂面で一点を見つめる少年の横顔は、ひどく悲しそうだった。

 

……そうだ。この頃にはもう、父さんと母さんは死んでいるんだ。

 

不意に両親の顔が思い浮かび、つい目元に涙が滲んでしまう。

 

「……なんで泣いてんの?」

 

「泣いてねえし」

 

「…………きもちわる」

 

「はぁ⁉︎」

 

その発言は自虐になってしまうぞ、と心の中でツッコむ。まさか目の前にいる男が未来の自分自身だなんて思いもしないだろう。

 

(……あっそうだ)

 

未来が見た夢を合わせると、彼がベリアルと出会ったのは二度ということになる。

 

この時点ではどうなのだろうか。

 

「なあ君、ウルトラマンって見たことあるか?」

 

ぴくり、とその単語に反応を示す。

 

「……お前、この辺の人じゃないの?」

 

「えっいやその……うん」

 

「ふーん」

 

興味がなさそうにそっぽを向いた少年が、微かに歯ぎしりしたことには気づかない。

 

「内浦に住んでる人なら一度は見たことあるだろうね」

 

「怪獣に襲われた時だよな。…………そのあとは?」

 

「は?」

 

彼は未来の質問を聞くと、怪訝そうに…………いや不愉快そうにこちらに向き直った。

 

「だから……それ以降ウルトラマンには会ってないの?」

 

「……ない」

 

「そうか……。じゃあさ!」

 

もう一つ質問を重ねようとしたところで、少年は耐えきれなくなったようにその場で立ち上がった。

 

突然のことだったので、未来も間の抜けた声を漏らす。

 

「どいつもこいつも……!なんでだよ……⁉︎」

 

「お、おい……?」

 

「そんなにアイツが好きなのかよ!!」

 

「アイツ……?」

 

怒号を吐き出す少年の瞳には、憎しみにも似た焔が宿っている。

 

「助けられなかった人間のことなんかお構いなしに……‼︎怪獣を始末したらさっさといなくなったアイツが……!!」

 

「……⁉︎ちょっと待てよ……!一体どういうーーーー」

 

「何も失わなかった奴らにはわからないんだ……‼︎俺のこれから先に待っている人生に……幸せなんかない!!」

 

まくし立てる少年は、魂魄を吐き出すような勢いで……、

 

 

 

 

 

「俺は!ウルトラマンのことが大嫌いだよ!!」

 

未来から逃げるように階段を下りて走り去っていく少年。

 

わけがわからずに、ただその後ろ姿を呆然と眺めていた。

 

「ウルトラマンが…………嫌い……?」

 

どういうことだ。こんなことを思っていた記憶なんて欠片もない。

 

ベリアルに命を救われてから、未来はウルトラマンという存在に羨望の眼差しを向けていたはずだ。

 

だが過去の自分が今話した以上、それが間違った記憶だと認めざるをえない。

 

「俺は……ベリアルに憧れていたんじゃ…………」

 

 

◉◉◉

 

 

胸が締めつけられるように痛い。なにがそんなに辛いのかもハッキリしない。

 

本当はウルトラマンが悪いわけじゃないのはわかっている。でも、それではこの悲しみはどこにぶつければいい?

 

父さんと母さんを殺した怪獣はウルトラマンが倒した。ならこのままやり場のない憎しみを溜め込んだまま生きろというのか。

 

…………誰か、

 

 

 

 

「あれ、未来くん?」

 

公園で走り回っていた千歌と曜がこちらに気づき、ほぼ同時に駆け寄ってくる。

 

肩を落とした未来は二人に見向きもせずに素通りして行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーォオ…………オ…………。

 

海鳴りのような音が背後から迫る。

 

時の流れを狂わす怪物が、少年へ確かな悪意を突きつけていた。

 

 




夢に出てきた怪獣がクロノームであることが判明しましたね。
なぜ過去編の怪獣をこいつにしたかというと……過去に戻る理由を付けるのに都合がよかったから。それだけです。

解説いきましょう。

今作品のタグにある”オリジナルタイプ”。文字通りメビウスのオリジナルの形態が登場する予定です。
その形態は今では空気設定となってしまっている”光の欠片”が大きく関わってきます。
そして気になっている方も多いと思うのが”メビウスブレイブ”の存在。
先にバーニングブレイブを習得してしまった未来達ですが、メビウスブレイブが登場する機会は…………。必要なアイテムの片割れの持ち主が遠出してしまっているので今のところは無理ですね(焦)


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第53話 未来からの言葉:後編


ウルトラマンジードが正式に発表されましたね。
あらすじを見たところ今までのシリーズとも違ったコンセプトになるみたいなので、とてもワクワクしてます。


その時の記憶は、とても曖昧だ。理由はわからない。

 

だけど確かに見たんだ。あの時…………確かに俺はあの巨人に助けられた。

 

海鳴りの音に誘われて森に入り、そこで出会った奇跡。

 

神秘的な輝きをまとった巨人を見上げると、向こうもこちらに視線を送ってくれた。

 

前に感じたものとも違う、どこか覚えがあるような…………

 

 

ーーーーこれから先の未来、お前に幸せが

 

 

◉◉◉

 

 

「……なんか、最近未来くん元気ないよね」

 

帰り支度をする幼馴染の横顔を観察する千歌と曜。

 

普段もそこまでテンションが高くはない未来だが、近頃は一層活力が無いように感じる。

 

声をかけても生返事しか返ってこないので、千歌達もやがてそっとしておくことに決めた。

 

「なにかあったのかな?」

 

「…………」

 

今日も彼は自分達には目もくれず、一人教室から飛び出して行く。

 

「大丈夫だよ。だって、未来くんだもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………風呂に入りたいなあ」

 

神社の祠の前に陣取りながら、未来は消えそうな声で呟いた。

 

この時間に来て一週間ほど経っただろうか。メビウスのおかげで食事は取らなくていいものの、入浴することは叶わなかった。

 

極力知り合いには顔を見せないほうがいいと言われたので、大人しくひっそりとクロノームが出てくるのを待つしかない。

 

「十千万に泊まれればよかったんだけどなあ。金持ってないし」

 

『未来くんなら特別に代金無しにしてくれそうだけどね』

 

「いや無理だろ。この時代の俺は小学生なんだし」

 

一時期ステラとヒカリもこうして野宿していたことを思い出す。こんなことを十千万に来るまでやっていたのか、と改めてあの二人の凄さを実感する。

 

「もう塩水でもいいから浸かりたい」

 

『風邪引くと思うよ』

 

光のこもってない目で階段下を見る。

 

ここには滅多に人も来ない。この前やってきた小学生の未来が最初で最後だった。

 

「そういえば……。元いた世界の時間の流れはどうなってるんだろう」

 

『さあ……。結構留守にしちゃったからね』

 

今頃行方不明になったお尋ね者として貼り紙が街中に拡散されているかと思うと恥ずかしくなってくる。

 

「ん……”行方不明”…………?」

 

ふと合宿の時に見たニュースの映像が脳裏をよぎった。

 

元いた世界で多発していた行方不明事件。犯人は見つからず、やがて起きた事件そのものも忘れ去られていくという奇妙なもの。

 

 

(…………そういうことだったか)

 

あの事件を引き起こしたのも、今回の奴と同じ。つまりクロノームの仕業だったのだ。

 

事件が忘れ去られていったのは、ターゲットが過去の時間で死んだことによって起きる現象に違いない。

 

この時間で奴に負けて死ねば、自分もそうなる。

 

「はぁ……。ほんと、面倒なことに巻き込まれた」

 

 

◉◉◉

 

 

「クロノームねえ。皇帝くんも厄介な奴を送り込んだものだ」

 

四天王が集結した宇宙船の一室で地球の様子をうかがう一同。

 

「ノワールに続きヤプールの奴までもが失態を犯すとは……」

 

「勘違いしないでもらおうか。前回のはほんの小手調べだ」

 

四人の将が言い争うなか、黒いコートを翻した男が穏やかな表情で過去のデータを眺めていた。

 

日々ノ未来がクロノームに飛ばされたという、およそ四年前の地球の記録。

 

(この時は既にボクも地球へやってきていたか……)

 

あの頃はまだこうしてウルトラマンとの戦いを繰り広げることなんて思いもしなかっただろう。

 

かつて慕っていた九人の女神が宿していた力が、自分の目的の障害として立ちはだかるとは。因縁、運命とも言えるのか。

 

(さて、今後のシナリオはっと…………)

 

黒いメビウスブレスから文字が浮かび上がり、現在の時間に至るまでの流れが羅列されていく。

 

「…………?」

 

それを読み進めていくと、奇妙なことに気がついた。

 

思わず目を見開き、何度も同じ文を読み返す。

 

(どういうことだ……?)

 

 

 

過去にウルトラマンベリアルが内浦に現れたのは一度きり。

 

クロノームを倒し少年時代の日々ノ未来を救ったなどという記録は、一切載ってはいなかった。

 

数秒考え込んだ後、たった一つしかない可能性にたどり着く。

 

「そういう……ことか……」

 

自分は…………いや、自分達はなにか勘違いをしていた。

 

…………彼を救うのはベリアルではない。

 

「これに彼が気がつくのも時間の問題か……」

 

……どうやら今まで思っていた展開よりも、はるかにつまらないものになりそうだ。

 

なぜウルトラマンを嫌っていたはずの彼が、五年後には正義感溢れる今の日々ノ未来に変わったのか。

 

「これじゃあ、前にベリアルを向かわせた意味が薄れちゃうなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お祭り?」

 

「うん!三人で行こうよ!」

 

どこかそわそわした様子の千歌と曜が玄関前に立っていた。

 

二人は浴衣姿で、どうやら今日がその祭りの日らしい。

 

「そういうことは事前に誘ってくれよ」

 

「ご、ごめんね。だって……その……未来くん、断るかな〜って」

 

「……?」

 

よく見ると先ほどから視線を合わせようとしない曜が後ろに何か隠し持っている。チラシだろうか。

 

無言で彼女に歩み寄り、少々乱暴にその紙を奪い取った。

 

「あっ」

 

「……”ウルトラマン降臨祭”……」

 

「あの……えっと……」

 

二人の様子から察するに、ウルトラマンが嫌いな自分を誘うことが後ろめたかったのだろう。気をつかわせてしまったようだ。

 

「……うん。いいよ、行こうか」

 

「えっ!ほんと!?」

 

「ちょっと待っててくれ。すぐ準備してくるから」

 

なにも意地を張って断ることもないだろう。

 

明るい表情となった千歌達を背に、未来は家の中に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんか今日は、人が多いね』

 

「ウルトラマン降臨祭……か。そういや昔はこんなのもあったな」

 

本来はウルトラマンに対してのお祭りなのだろうが、同時に怪獣騒ぎである例の件を祝って祭りを行うのは不謹慎だという理由でいつの間にか無くなってしまったものだ。

 

 

『未来くん?』

 

 

 

「そうだ……俺、たしかこの日に……」

 

ノイズがかった映像が蘇る。

 

森の中に映る怪獣ーーーークロノーム。そして奴と戦うウルトラマンの姿。

 

 

 

 

 

 

ーーーーオォ…………オ……

 

 

 

 

 

海の方から波音にも似た鳴き声が耳朶に触れ、ハッと顔を上げる。

 

「…………!今の音は⁉︎」

 

咄嗟に神社の階段を登り、途中にある拓けた森のなかへ飛び出した。

 

高い場所から見える海は街の光を反射して不気味に揺らめいている。

 

『…………まさか、今日なのか……?』

 

「ああ、間違いない。クロノームは…………あと数時間もしないうちに襲ってくる!」

 

そしてあいつも、ベリアルもここにやってくるはずだ。

 

もし少年の頃の未来が心変わりする瞬間があるとすれば、今日この時以外に考えられない。

 

 

◉◉◉

 

 

並んだ屋台の間が光の道のように続いている。

 

街の人が賑わうなか、千歌と曜に手を引かれて人混みを駆けた。

 

ウルトラマンの顔を模したお面だったり人形だったりと、売り物のほとんどが彼に関連した何かだった。

 

いつもは苦い顔になる未来も、千歌達や他の客の熱気にあてられて心から祭りを楽しむことができていた。

 

(たまには…………こういうのも……)

 

 

 

 

 

 

 

「…………⁉︎」

 

直後、周囲の音が消えた。

 

電飾が施された屋台だけが残り、周りにいた人間は全て神隠しにでもあったかのようにその場からいなくなっていた。

 

先ほどまで手を繋いで歩いていた千歌と曜も目の前から消えている。

 

「……なっ…………にこれ……」

 

 

 

 

 

ーーーーオォ…………ォオオ…………!

 

「ひっ…………!」

 

背後から迫る咆哮を聞き、咄嗟に地面を蹴る。

 

後ろを振り返ると無数の触手が自分を捕らえようと、めちゃくちゃに動き回りながら近づいてきているのが見えた。

 

「なんだよこれ…………‼︎」

 

必死に逃げ回り、やがて神社のある山の麓までたどり着いた。

 

徐々に接近してくる気配から逃げるように階段を駆け上がり、側にあった茂みへ身を隠す。

 

 

「はぁっ……!はぁっ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『危ない……!助けないと!』

 

「待てメビウス!」

 

離れたところで少年の姿を見ていた未来が抑えた声でメビウスを制止した。

 

少年……過去の自分はひどく怯えた様子で森の中でうずくまっている。

 

『どうして止めるんだ……⁉︎』

 

「ここだ。もうすぐベリアルが来るはずなんだ!」

 

『……はぁ!?』

 

「……!あれは……」

 

山頂から見える海のど真ん中に巨大な影を視認し、身震いする。

 

「あれが……クロノーム…………」

 

ウミウシのように鮮やかな体色を持つ怪獣。月明かりに照らされたことでクロノームの全貌が明らかになる。

 

「オォ…………ォ…………」

 

奴から伸びる触手は真っ直ぐこちらへ伸びている。どうやら未来達を狙っているようだ。

 

クロノームは触手を張り巡らせ、息を殺して隠れている少年を念入りに探している。

 

『……いいや、あり得ない。彼はこの時には……もう……!』

 

「そんなわけあるか!俺は確かに覚えている……!」

 

そうだ、この場所だ。

 

夢で見た記憶と景色が一致している。

 

ここで未来は、ベリアルと二度目の出会いを果たすはずなんだ。

 

…………しかし

 

 

 

『……違うよ未来くん。誰も、こない』

 

「……いいや来る!絶対来るはずなんだ!」

 

膝を抱えてガタガタと震えている少年の近くにクロノームの触手が迫っていた。

 

ベリアルはまだ、こない。

 

『未来くん!』

 

「…………どうしてだ……!どうして来ない…………⁉︎」

 

『…………!危ない!!』

 

少年の姿を発見したクロノームは触手を勢いよく伸ばし、彼を捕らえようとする。

 

 

 

 

 

 

気付いたら、身体は勝手に動いていた。

 

「メビウーーーース!!!!」

 

 

 

 

 

 

伸ばされた触手に向かって光の刃が振り下ろされ、一瞬のうちに両断。

 

赤と銀の巨人がクロノームの前にそびえ立った。

 

「へ……?」

 

身体を小さくしていた少年は戦闘音がする方向へ引き寄せられるようにして歩み寄る。

 

「セヤッ!」

 

「■■■■ーーーーーーーーッッ!!」

 

見た目は少し違う。だけどすぐにソレだとわかった。

 

ーーーーウルトラマン。

 

 

 

 

 

 

 

『一気に決めよう!…………未来くん?』

 

(あぁ……そうか、そういう……ことだったのか……)

 

今ならわかる。

 

()()()自分が見ていたものは、

 

自分が憧れた存在は………………

 

 

 

 

 

 

 

クロノームから発射する光弾を防御し、放たれた触手を切り落としていく。

 

「セヤァッ!!」

 

「■■■■ーーーーッッ!!」

 

赤い拳が奴の身体に叩き込まれ、たまらず悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーその名前は、

 

 

 

 

 

 

 

「セヤアアアアアッッ!!!!」

 

十字に組まれた腕から放たれた光線がクロノームへと殺到し、瞬く間にその全身を焼き払う。

 

「すげぇ…………」

 

海上で爆発する怪獣とそれを成したウルトラマンを見て、少年はふと呟いた。

 

 

 

空中へ飛び上がったメビウスが森の方へ移動し、少年時代の未来を見下ろす。

 

『見られちゃったね。念の為、僕達に関する記憶は凍結しておこうか』

 

(ああ、そうだな。…………あんまり意味ないと思うけど)

 

『え?何か言った?』

 

(いいや)

 

自分がウルトラマンに憧れを抱いた瞬間。それが今だ。

 

日々ノ未来はこの時…………呪いから解放されたのだ。

 

(おい、そこの少年!)

 

「えっ……お、俺……⁉︎」

 

突然話しかけられて驚くような反応を見せる彼に視線を合わせ、未来は言った。

 

(お前、幸せが無いとかどうとか言ってたな。でもそれは違う。今ここに、俺という存在があるんだからな)

 

「……え?」

 

(約束するよ。これから先の未来、お前に幸せが()ることをな)

 

クロノームを倒したことで元の時代に戻ろうとしているのか、メビウスの身体が光の粒子となって消滅しだした。

 

ゆっくりとメビウスが彼に手をかざし、記憶の改竄を始める。

 

(ある意味貴重な体験をさせてもらったよ)

 

『でも……時空を越えるっていうのも楽じゃないね』

 

(そうだな。…………帰ろう。みんなが待ってる)

 

ふっと意識を失った少年を一瞥した後、巨人の身体が完全に空へと溶けていった。

 

 

◉◉◉

 

 

「「おっきろぉーーーー!!!!」」

 

「うおおおおお!?!?」

 

鼓膜が痛くなるほどの叫びが耳元で炸裂し、飛び起きる。

 

「ここは……?」

 

「ここは?じゃないよまったく。なんでこんなところで寝てたの?」

 

「千歌……と曜か……」

 

目の前に並んでいる幼馴染の顔を交互に確認した後、自分の身体を見下ろす。

 

周囲を見渡すと、どうやら自分は十千万の前で倒れていたみたいだ。

 

千歌と曜の外見を見るに元の時代へ帰ってこれた。

 

『無事かい?未来くん』

 

「なんとかな…………」

 

「二人ともなんの話して…………って臭ッ!未来くん臭い!!」

 

「え”っ!?そんなに!?」

 

飛ばされた瞬間からそう時間は経っていないようだが、向こうで過ごした分は蓄積されているみたいだ。

 

つまり一週間近く身体を洗っていなかった状態だ。

 

「どうしてそんなに泥だらけなの⁉︎」

 

「あーもうお風呂入ってきたよ!」

 

「わかったから押すなって…………」

 

 

二人に押されるがままに十千万へ入る未来。

 

その時彼は、かつて憧れの人物に言われた言葉を思い出していた。

 

 

(ああ、確かにあったな…………”幸せ”が)

 

 

 




過去の真相が明らかになりました。
あの時未来を助けたのはベリアルではなく、未来自身であったと……。サブタイトルにも複数の意味を込めました。

解説いきましょう。
今回舞台となったのは四年前の世界。μ'sが活躍していたのは五年前という説が濃厚らしいので、おそらくはもう解散した後かな?
この頃はまだノワールも大人しく、クロノームを除けば怪獣騒ぎも起きていませんでした。
できれば千歌と曜以外にも幼少期メンバーを登場させたかったのですが、かなりキツキツになるのでカットしました(泣)
次回からはサンシャイン12話に突入です!


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第54話 進む条件

ジードは7月からでしたっけ……楽しみすぎてもう……。

最近別の執筆活動でなかなか今作に時間がとれずにいます。一週間に一度は更新しようと思っていましたが、ついに今回それも叶わず……(少し前からそうだった気もしますが)申し訳ありません。
遅いなぁ、と感じた時にはこの前書きを思い出して、お察しいただけると幸いです。


「…………」

 

肌を焼く炎天下のなか、険しい面持ちで各々のスマートフォンの画面を凝視する。

 

ついにラブライブの予備予選結果…………それがもうすぐ発表されようとしていた。

 

「まだ?」

 

「まったく……どれだけ待たせるんですの……!」

 

「あ〜こういうの苦手!ちょっと走ってくる!」

 

落ち着きなくそわそわした様子の一同が不安に顔をしかめるなか、未来は少し離れたところで彼女達に見守るような瞳を向けていた。

 

「あんまり食べてると太るよ?」

 

「食べてないと落ち着かないずら!」

 

「リトルデーモンの皆さん……。この堕天使ヨハネに魔力を……霊力を……全ての……力をっ!」

 

(緊張してんなあ……)

 

前回ライブを行ってから今日までずっとこのような調子だったが、それもあと数分もすれば終わる。泣いても笑っても結果は出るのだ。

 

「あ、きた!」

 

曜の一声で彼女のそばに全員が駆け寄る。

 

「ラブライブ……予備予選……合格者……」

 

「ついに発表か……!」

 

「緊張する〜!」

 

Aqours(アクア)のア、ですわよア!ア!ア!アーーーー」

 

ぴこん、という通知音と共に複数のグループ名が羅列されていく。

 

食いつくように身を乗り出した千歌達に代わり、曜が一行目にある文字を読み上げた。

 

「イーズーエクスプレス…………」

 

ひゅおお、と皆の心境を表すような冷たい風が吹き抜け、千歌達は揃って眉を下げた。

 

「うそ!」

 

「落ちた……」

 

「そんなぁ〜!」

 

落胆しているダイヤの横から顔をのぞかせ、未来は画面の端に小さく書かれている文字に気づく。

 

「……ん?曜、それ…………」

 

「……あ、エントリーナンバー順だった」

 

ずっこける者のなかから顔を上げていち早くサイトを確認しようとする鞠莉。

 

「鞠莉さん、どうだった?」

 

鞠莉が見開いた瞳を向けた先にあった文字を確認する。

 

縦に並ぶグループ名のなかに、確かに「Aqours」の文字が見られた。

 

「Aqours……!あった!」

 

「予備予選……突破…………!」

 

「……鞠莉さん?」

 

「おう……まい……がぁ……!」

 

「まr」

 

「オウマイガーーーーーーッ!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「さあ、今朝とれたばかりの魚だよ!みんな食べてね!」

 

部室のテーブルの上に置かれたいかにも高そうな大量の舟盛り刺身。

 

果南が用意してくれたものだった。

 

「なんで……お祝いに刺身なの?」

 

「だって、干物じゃお祝いっぽくないかなって」

 

「干物以外にもあるでしょ……」

 

「そうそう、夏みかんとか!」

 

「パンとか」

 

 

 

各々の食べたいものが飛び交うなか、パソコンを抱えたルビィが慌てた様子で駆けてきた。

 

「見てください!」

 

「この前のPV……?」

 

予備予選で千歌達が披露した「想いよひとつになれ」のPVが開かれていて、ふと下にある再生数に視線を移す。

 

なんと十五万以上もの再生数だ。

 

「って……めちゃくちゃ見られてるじゃん!」

 

「私達のPVが!?」

 

「それだけじゃなくて、コメントもたくさん付いていて!」

 

さらにページを下にスクロールしていくと、「かわいい」「ダークホース」といったコメントのなか、全国進出を予想するものまであったのだ。

 

始めたばかりの頃に比べれば、Aqoursの評価も上がっていることがはっきりとわかる。

 

「よかった、今度はゼロじゃなくて」

 

「そりゃそうでしょ、予選突破したんだから」

 

「予備予選、だけどな」

 

みんなが胸を弾ませていると、千歌の携帯から着信音が鳴る。

 

「梨子ちゃんだ!」

 

すぐさまスマホを耳に当てて電話に出る千歌。

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

『どうかしたの?』

 

「なんか安心したら……どっと疲れが……」

 

『ははは。見守るほうも楽じゃないね』

 

ここまで来るのに色々あった。

 

メビウスと出会い、それに合わせたかのように千歌がスクールアイドルを始めた。

 

梨子と出会い、ステラと出会い、ファーストライブを成功させて……。

 

今思えば、全部運命だったのかもしれない。

 

(感傷に浸るにはまだ早いかな)

 

まだ何か終わったわけじゃない。むしろ始まったばかりだ。

 

千歌達はスクールアイドルの高みを目指し、未来はエンペラ星人という絶対的な壁を乗り越える。

 

それに、まだ浦の星の存続が決まったわけでもない。

 

 

「これは学校説明会も期待できそうだね」

 

「説明会?」

 

「ええ、セプテンバー(九月)に行うことにしたの」

 

「へえ。希望者はどれくらいなの?」

 

予備予選を突破したことで、浦の星の名前はさらに広く知れ渡ったはずだ。少なくともゼロなんてことはーーーーーー

 

「…………」

 

学校のサイトを開いた鞠莉が言葉を失った。

 

「……鞠莉さん?」

 

「ゼロ……」

 

「へ?」

 

「ゼロ…………だね」

 

彼女がそう口にした瞬間、皆の顔が驚愕の色に染められた。

 

 

◉◉◉

 

 

「はぁ……またゼロかあ……」

 

テーブルを囲んでかき氷をつつく千歌、曜、そして未来の三人。

 

松浦家が経営しているダイビングショップのフードコートで肩を落としていた。

 

「ゼロに愛されてるねぇ……」

 

「嬉しくな〜い……」

 

「入学希望となると、別なのかなあ」

 

「だって、あれだけ再生されてるんだよ?予備予選終わった帰りだって…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予備予選を終えた帰り、駅でのことだ。

 

「あのっ!Aqoursの果南さんですよね!?」

 

「えっ?」

 

「やっぱりそうだ……!サインください!」

 

そう言って色紙を差し出してきた女の子は、どうやら千歌達のファンのようだった。

 

……といっても、自分達に人気が出てきたという実感のない彼女達にとってはあまりに唐突な出来事であり、皆は揃って呆けた顔を浮かべるだけだった。

 

「え、私でいいの?……ほんとに私で合ってる?」

 

困惑した様子で果南がペンを走らせる後ろで、ルビィもまた自分のファンに追いかけられていた。

 

「ピギィ〜!」

 

「握手してくださーい!!」

 

「ま、マネージャーさん通してくださ〜い!」

 

「え、俺!?」

 

 

 

 

 

 

 

「って感じで大人気だったのに……。これで生徒が全然増えなかったら、どうすればいいんだろ……」

 

「μ'sはこの時期にはもう、廃校を阻止してたんだよね」

 

「へ?ぇそうだっけ!?」

 

反っていた身体を戻して身を乗り出す千歌。

 

「うん。学校存続が、ほぼ決まってたらしいよ」

 

「しょうがないさ。向こうは東京、ここは内浦。比べるにしては色々と違いがありすぎる」

 

「差、あるなあ……」

 

しゅん、と顔をうつむかせる千歌。

 

「ここでスクールアイドルをやるってことは、それほど大変ってこと」

 

「あ、果南さん」

 

ダイビングスーツ姿で階段を上がってきた果南が隣の椅子に腰を下ろした。

 

スーツを脱いでビキニ姿が露わになるが、昔からの付き合いである三人は慣れたような顔だ。

 

「東京みたいにほっといても人が集まる場所じゃないしね」

 

「……でも、それを言い訳にしちゃダメだと思う」

 

数秒の沈黙の後、引き締まった表情になった千歌がこぼした。

 

「それがわかったうえで、私達はスクールアイドルやってるんだもん!」

 

「あぁ、そんなに急いで食べると……」

 

千歌が一気にかき氷を口にかきこんでその場を飛び出した。

 

「一人でもう少し考えてみる!」

 

「千歌ちゃん⁉︎」

 

そう言ってダイビングショップから駆け出したと思えばすぐに立ち止まり、どうやら頭痛を起こしたようで頭部に手を当てて唸った。

 

「うぅ……きたぁ……!」

 

 

◉◉◉

 

 

「返信が遅れてごめん。こっちも大丈夫だ、なんとかやっていけてる」

 

ステラに送るための映像を撮り、未来は力が抜けたようにベッドの上に倒れこんだ。

 

 

先日起こったクロノームの事件を思い出す。

 

あの時未来の命を救ったのは自分自身。だけどそれよりも前にベリアルに助けられたのは事実だ。

 

わからないことはまだたくさんある。不安なことも。

 

でもそれと同じくらい、希望だって確かにあるんだ。

 

「光の欠片……か」

 

人間のなかに宿ると言われる、究極の光の断片。ウルトラマンとの出会いにより、奥底に眠っていた力が目覚めようとしている。

 

エンペラ星人は千歌達や、未来の可能性に気づいているのだろうか。

 

ノワールが入れ知恵したと考えれば、彼女達に危険が及ぶことは免れない。

 

 

(救われてばかりじゃダメだな。俺自身が強くならないと)

 

炎の力を手に入れたことで以前よりは戦いやすくなったが、闇の皇帝に通用するかと問われれば首を横に振るほかない。

 

「どっかに稽古でもつけてくれる人がいればなあ」

 

 

そう細々と呟いた瞬間、机に置いてあったスマートフォンから着信音が鳴り、未来はベッドから上体を跳ね上がらせた。

 

(グループ通話……?)

 

Aqoursのグループで千歌からの着信だった。

 

「はいもしもし」

 

『よし、これで全員揃ったね!』

 

「どうかしたのか?」

 

 

 

『私……もう一度東京に行こうかと思ってるんだ!』

 

単刀直入に語る千歌からは、電話越しでも伝わる強い意志が感じられた。




ひとまず一章内で考えていた展開は前回でやり尽くしたので、ここからはしばらく穏やかな内容になると思います。

今回は千歌についての解説です。

今作では幼少期にディノゾールが内浦に降り立ったことで、二度目に奴が現れた時には若干のパニックを起こしていましたが、これは作者が扱いきれずにすぐに没となった設定なのは言うまでもありません。
未来には昔からの変わり者といった印象を持っているので、インペライザー戦の時に彼が正体を明かすまでは全くメビウスとの関係に気づいていませんでした。
十千万に住まわせていたはずのステラとの絡みもあまり描かれていませんでしたね……。千歌に限らず反省点が多いです、もう。


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第55話 彼女達がいた場所

ギルキスジャケットの梨子ちゃんヤバすぎでしょ()


地球に来て、最初に見たのは空だった。

 

故郷では失われたはずの太陽が光を放ち、世界を照らす。この星の住人にとっては当たり前のことだろうけど、ボク()は違う。

 

右も左もわからずただ街中を彷徨っていた時に、ボクはまだ小さな子供だった彼女に出会った。

 

”光の欠片”と呼ばれる現象の存在は噂程度に捉えていたが、それが実際にあるとわかったのはその時が初めてだった。

 

そして、地球人に興味を持ったのもその時が始まりだ。

 

…………いや、正確には”光の欠片を宿した地球人”だ。ボクは光の力以外にはあまり興味がなかったからね。もっとも、今ではそれすらも変わってしまったけれど。

 

 

 

まあ、とにかくボクは一人の少女と出会い、数百年ぶりに光に()()()んだ。とっても暖かかったのを覚えているよ。

 

それからというもの、ボクはすっかり彼女に夢中になってしまってね。いつしかあの子の成長をそばで見守るようになった。

 

……いや、気持ちが悪いのは理解しているよ。でも今は話を聞いてほしい。軽蔑の目を向けるのはそれからでも遅くはないだろう?

 

 

えっと……どこまで話したっけ。

 

ああ、そうだ……それから何年か経って彼女が高校生になった。

 

たぶん君が聞きたいことはここから先の物語にあるよ。

 

 

彼女の光の欠片は今まで何の変化も感じられなかった。でも、あの子が高校二年になった春から……全てが始まったんだ。

 

……ああそうだよ、スクールアイドルだ。

 

驚くべきことに、彼女のもとに集まった女神達は例外なく欠片をその身に宿していたんだ。そりゃあ、びっくりしたさ。

 

……どうして彼女達が揃って光を持っていたのか、正直今でもよくわからない。彼女達が選ばれし者だったのか、それとも…………

 

……え?そこが重要だって?そんなこと言われてもなあ。

 

ボクだって必死で探したさ。”光の欠片が発現する条件”をね。

 

どう考えても彼女達は普通の女の子だった。今では遠い存在だけどね。少なくとも最初はどこにでもいるただの人間だったよ。

 

……だからね、ボクが知っている情報だけを頼りにすれば……欠片が発現する条件はランダムとしか言えないよ。

 

……でもそう考えると、やっぱり内浦に集った欠片達が不自然になる。彼らも偶然発現したとは考えにくいしね。

 

それに……今度は”あの子達”の時には無かった”十の光”が混ざっている。

 

ああ…………そういえば君は一度、彼らの命を救っていたね。その時になにか気づいたことは……ってあれ?

 

どこに行くんだい?

 

 

◉◉◉

 

 

「梨子は?」

 

「ここで待ち合わせだよ」

 

沼津の駅を軽く凌駕する圧倒的な人口密度に囲まれ、未来達は東京の地へ降り立った。

 

駅で待ち合わせる予定の梨子を探し、歩きだす。

 

「まさかこの短期間で二回も東京に行くことになるとは……」

 

「スクールアイドル始めてから電車に乗る機会も増えたよね〜」

 

「おかげで帰宅部の時じゃ考えられないくらい忙しくなったよ。……あ、メビウス、身体の外には出るなよ?」

 

『大丈夫、わかってるよ』

 

他愛もない会話をしている最中も、メビウスは周囲に目を光らせている様子だった。

 

この前クロノームに襲われたことで神経質になってしまったのだろうか。

 

 

「あれ梨子ちゃんじゃない?」

 

「ほんとだ。…………なにやってんだ?」

 

ロッカーの中へ必死に荷物を押し込んでいる梨子の後ろ姿が視界に入り、声をかけようと近寄る。

 

「おっす梨子。ピアノコンクール受賞おめでとう!」

 

「きゃぁぁあぁあ!?」

 

話しかけた途端に不審者でも見るような目を向けられ、思わず半端引いてしまう。

 

「梨子ちゃん?」

 

「み、みんな……」

 

「なに入れてるんだ?」

 

「え、ええっと……お土産とか、お土産とか、お土産とか……」

 

「わーっ!!お土産!?」

 

詰め寄って来た千歌に驚いた梨子がバランスを崩し、彼女が支えていた紙袋がロッカーからこぼれ落ちた。

 

「わ”ぁ”あ”っ!!」

 

「なにこれ…………」

 

「だめぇ!」

 

「め”ぇっ!?」

 

梨子が繰り出した両腕での張り手が両の目に直撃し、未来は背中から思い切り倒れた。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ちょっ梨子ちゃん!?」

 

千歌の瞳を塞ぎながら未来に謝る梨子は、なぜかはわからないが紙袋の中身を見られまいとしている様子だった。

 

『だ、だいじょうぶ?』

 

「……いたい」

 

少し離れたところで一連のやりとりを眺めていた果南達が苦笑するのがぼんやりと見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……最初はどこに?」

 

「タワー?ツリー?ヒルズ?」

 

「遊びに来たんじゃありませんわ」

 

「そうだよ、まずは神社!」

 

「また?」

 

「実はね、ある人に話聞きたくて、すっごい調べたんだ!…………未来くんが!」

 

一気にみんなの視線が未来の方へ集まる。

 

咳払いをした後、若干のドヤ顔で口を開いた。

 

「千歌からある人に連絡とれないかって頼まれてな。ダメ元でメール送ってみたんだけど……なんとびっくり、会ってくれるってさ」

 

緊張で手を震わせながらメールを打ち込んだ記憶が蘇る。

 

「ある人って……誰ずら?」

 

「ん?せーーーー」

 

「それは会ってのお楽しみ!」

 

言いかけたところで千歌に遮られたので、ふっと口を閉じる。

 

「話を聞くにはうってつけのすごい人だよ!」

 

千歌の言葉にうんうんと首を縦に振る未来。

 

神社、東京、すごい人、とキーワードを頭の中で整理したルビィとダイヤがハッと顔を上げて瞳を輝かせた。

 

「まさか……」

 

「まさか……!」

 

(……誰を連想してるんだろ……)

 

 

駅の出口に向かう途中、人混みの中だからかすっかり警戒心を解いていた未来。

 

彼の背後に近づく禍々しい気配を、まだ誰も気づいていない。

 

 

◉◉◉

 

 

「お久しぶりです」

 

「「なんだぁ〜……」」

 

「誰だと思ってたの?」

 

神田神社へと足を運んだ千歌達を待っていたのは、彼女達もよく知る二人の少女だった。

 

北海道のスクールアイドル、Saint(セイント) Snow(スノー)だ。

 

「お久しぶり。みr……マネージャーから話は聞いてますか?」

 

「ええ、ちゃんと。ずいぶんとお堅いメールでしたね」

 

冗談めかしてそう語るのは姉の聖良だ。

 

あはは、と小さな笑いが巻き起こったところで、千歌がある異変に気づいた。

 

「あれ…………未来くんは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……くん!未来くん!』

 

「あ……?」

 

ぼやけた視界の向こうからメビウスの声が聞こえる。

 

頬を撫でる優しい風と木々が揺れる音が通り過ぎ、未来は倒れていた上体を起こした。

 

『よかった……身体に異常はないかい?』

 

「異常……?俺、寝てたのか……?」

 

全身をくまなく確認するが、外傷らしいものは見当たらない。

 

すぐに自分のことよりも、そばに千歌達がいないことが気になった未来は短く声を上げて周囲に視線を巡らせた。

 

 

 

「お……き……たか……?」

 

今にも消えそうなかすれた声が前方から聞こえ、未来は立ち上がって顔を向き直す。

 

少々歳を重ねた様子の男性が一人、未来に目を固定して膝立ちしているのが見えた。

 

『迂闊だった……!まさかあんな人の目があるところで……!』

 

「あなたは……?」

 

『近づいちゃダメだ未来くん!彼は…………!』

 

苦しそうに胸を抑えてゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる男。

 

ふと駅での記憶が蘇る。

 

出口に向かおうとしたところで急に意識が遠のき、メビウスの声だけが最後まで頭の中に響いていた。

 

身体を乗っ取られていたんだ。それもノワールとは違う……むしろメビウスに近い感じの…………

 

 

「俺は……うぅっ…………‼︎く……っ!」

 

足がもつれて転倒してしまう男の方へ咄嗟に駆け寄り、とある名前を口にした。

 

「ベリアル……なのか……?」

 

今にも血反吐を吐いて死にそうな顔をした男を見下ろし、考える。

 

以前戦った時とは様子がまるで違う。こんなにも弱々しいベリアルは今まで想像したこともない。

 

なんの理由があって自分の前に姿を現したのか、それも含めて彼には色々と聞きたいことが山積みだ。

 

「俺にはもう時間がない…………‼︎どの道死ぬ運命にある……!だから……!」

 

「なに……?おい、なんだって……⁉︎」

 

右腕を掴まれたかと思えば無理やりに何かをつかまされた。

 

鋭利な刃が日光を反射し、ギラつく。

 

「手遅れになる前に……メビウス…………!お前が俺を殺せ……‼︎」

 

「は……⁉︎」

 

 

 

自分を殺せと言ったその男の身体からは絶え間なく闇のオーラが湧き出している。

 

ベリアル自身のものではない、これは…………

 

 

「…………!」

 

男の全身に、漆黒の鎧のイメージが重なった。




この作品、情緒不安定なキャラが多すぎかもしれませんね……笑
前に登場した時はヒャッハーキャラだったベリアルが今回はしおらしい感じに……。
そして身体を乗っ取られることに定評のある未来くんです。

解説はいきましょう。今回は短めで。

前々からベリアルにはシーンごとにテンション差が見られるよう書いてきましたが、今回でそれも決定的なものに。
そして明らかにその原因っぽい漆黒の鎧さん。ええ、もう隠す気ゼロです。
次回で今作においてのベリアルのポジションがだいぶハッキリしてくると思います。



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第56話 Aqours


今回で12話分は終わりです。


…………俺は考えなしだと、戦友によく言われる。

 

言われる度に否定も肯定もしなかったが、今なら言える、奴が正しかったと。

 

評価欲しさに無謀にも敵の本拠地へ単独でノコノコとやってきた間抜け、それが俺だ。

 

 

 

その結果が今の状況。

 

手足は動かず、頭も上手く働かない。

 

何も見えていなかった。自分のこと以外は何も。

 

「なかなかの執念だ。光の者にしておくには惜しいくらいにな」

 

向こうから聞こえてくる声の意味は理解できない。意識を保つだけで精一杯だ。

 

なんとか、一歩、一撃だけでも、このクソ野郎に一矢報いて……

 

じゃないと、あまりに自分が情けない。

 

「ぅ…………!ぉぉぉおオオオオッッ!!」

 

「無駄だ」

 

奴の片腕にある腕輪がりん、と空間を揺らす。

 

その美しくも恐ろしい音色が耳に入る頃には、歪んだ空間の波動が俺の身体を吹き飛ばしていた。

 

「が…………っ……‼︎」

 

このくらいの攻撃は防ぐことができるはずだった…………先ほど受けた光線が無ければ。

 

奴の右腕から放たれた赤黒い光線。

 

あれを受けた途端に痛みという言葉では表せない凄まじい苦痛が全身を迸った。

 

そのダメージが響いている。もう戦える状態ではない。

 

死ぬ、と

 

瞬時にそう思ったーーーーいや、理解した。

 

 

 

「手負いの余ならば勝つことは容易い……とでも思っていたか?酷い思い上がりだ。貴様は余を打ち破る力も、技も、可能性も、何一つ持ち合わせていないというのに」

 

暗黒の皇帝が嘲笑混じりに言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーベリアル

 

 

 

 

 

こんな時でも思い浮かぶ顔はいつも決まってアイツらだ。

 

光の国での日々を、俺はどんな思いで過ごしていたんだっけ。

 

楽しかったか。悲しかったか。憎かったか。退屈だったか。

 

おそらくは全てが正解だ。俺が今感じた走馬灯のなかに紛れ込んでいた感情は例外なく、俺自身からこぼれ落ちたもの。

 

「……………………ン…………。じ…………!」

 

「死ぬ前に一つ教えてもらおうか」

 

数分かけてやっと起き上がった俺に向かって奴は質問を投げかけた。

 

「なぜ貴様らはこの宇宙を守っている?なぜ地球という星に肩入れする?のうのうと太陽に照らされている惑星を、命を、なぜ救おうとする?」

 

ぼんやりとした思考をハッキリさせ、必死に答えを探す。

 

地球にディノゾールがやってきたのはエンペラ星人の差し金だ。目的はおそらく単純な侵略行為。

 

本部の奴らが俺に与えた命令の内容はその阻止。エンペラ星人の刺客から地球を守ることだった。

 

命令に従っただけ、というのが実のところ……だが……

 

地球で最初の任務を終えた後、俺はいらない言葉まであのガキ共に言った。アイツらに何ができるわけでもないのに。

 

光の欠片、などというお伽話を。

 

「へっ……知らねえ、な…………。いちいち理由なんか、考えてられっかよ……」

 

そう口にした途端、闇の皇帝は何かに気がついたように顔を上げた。

 

「なるほど。貴様には何もないのだな」

 

「…………?な……に……?」

 

満身創痍の俺にゆっくりと近づいてくる黒い気配。

 

「何もないからこそ自己顕示欲を”戦う理由”として自らを突き動かしている。……孤独で、哀れで、愚かな戦士よ」

 

守りたいものを持たず、ただ矜持だけを……力を生きがいとしてきた。

 

 

 

「そのような生き方はさぞ辛かろう。余が貴様に”生きる理由”を与えてやる」

 

とても冷たく、悲しい言葉だった。

 

 

◉◉◉

 

 

「何をしている……!メビウス!!早く……ぐっ……‼︎」

 

「ベリアル……あんた……」

 

今にも暴れ出しそうな悪意が膨れ上がり、ベリアルの自我を押しのけて強烈な存在感を増幅させていく鎧の気配。

 

……アーマードダークネス。エンペラ星人が生み出した最凶の兵器。

 

メビウスと未来は前に一度戦った時にその恐ろしさは嫌という程味わった。

 

『君はいったい……!』

 

「どういう……」

 

「……‼︎さっさと……殺せ!!」

 

物凄い剣幕で迫るベリアルに圧倒され、尻餅をつきそうになる。

 

ふと手の中に視線を落とせば、ベリアルに渡された銀色のナイフが一本。

 

これで自分を殺せと、彼はそう言った。

 

「ダメだ……!そんなことは絶対に…………‼︎」

 

今でも鮮明に覚えている、あの光景を思い出す。

 

 

 

「あ……⁉︎」

 

「あんたは一度俺達を助けてくれた!だから今度は……俺が!!」

 

 

 

直後、ミサイルのような速度でこちらへ向かってくる禍々しいオーラを察知し、未来は反射的に空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あのさぁ。困るんだよね、勝手にこんなことをされると」

 

「……お前は……!」

 

何度も見た顔。何度も憎んだ顔。

 

漆黒のコートが風になびき、未来達を見下していた。

 

()()()()疑われちゃうじゃないか」

 

「ノワー……ル…………」

 

いつものにやけ面とは違い、険しい表情で徐々に地面に降り立つ。

 

「お前……は……!」

 

「迎えにきたよベリアル。ボクと一緒に帰ろう。皇帝くんも待っている」

 

ノワールは口を動かしながら左手を振りかざし、前方に立つ未来を波動で吹き飛ばした。

 

『うぐっ……⁉︎』

 

「この力は……⁉︎」

 

倒れ伏す未来を一瞥し、すぐに興味を失ったような顔でベリアルの方を向く。

 

「……へえ、なるほど、そういうことか」

 

「ぐっ……!おま、え…………‼︎」

 

「まだ理性が残っていたなんてね。皇帝の予想も上回る()の強さ……感服だ」

 

黒いコートがたちまちに肥大化し、人間態のベリアルを飲み込む。

 

長袖の黒服となったノワールは再び未来の方を向くと、憎悪に満ちた瞳を浴びせた。

 

「随分と調子がいいみたいだね、未来くん。精々良質な踏み台として育ってくれよ」

 

「なんだと……⁉︎おい待て!!」

 

黒霧に包まれて上空へ飛翔していくノワールに手を伸ばすが、当然届くわけもなく空を掴む。

 

 

「あいつ……まだ何か企んでやがるのか……⁉︎」

 

『……ノワールはあくまで数多くいる刺客の一人だ。元凶を絶たない限り、この星には脅威が降りかかり続ける』

 

「……エンペラ星人、か」

 

最終的な目標は変わらない。でも今はベリアルのことも気になる。

 

先ほどの彼の様子は明らかに異常だった。

 

ノワールが無理やり連れて行ったことを考えると……やはりベリアルは……

 

 

(ベリアル……、あんたは一体……)

 

 

 

 

 

〜♪

 

「ん、メール……って……あ!」

 

メールの差出人は千歌。

 

ここでやっと自分が皆とはぐれてしまっているこの状況を再確認し、慌ててその場から駆け出した。

 

メールの内容は「みんなで音ノ木坂に行くよー」といったものだ。

 

勝手に抜け出したことは……まあ、一部の人達から咎められるであろう。

 

 

◉◉◉

 

 

「遅い!!」

 

「どこに行ってたんですの!?」

 

「ちょっと拉致に遭って……」

 

「……は?」

 

「いや、ごめんなさい……ほんと、はい」

 

案の定合流するや否やダイヤと千歌にガミガミと説教を喰らう未来であった。

 

「それは置いといて……いいのか?」

 

梨子に問うかたちで疑問形。

 

以前東京に来た時は彼女の要望で音ノ木坂には行かなかったからだ。

「うん、私はもう大丈夫だから」

 

「……?そうか」

 

他のみんなと目配せして微笑み合う梨子を見て、なぜだか自分だけアウェイ感が否めない。

 

 

”音ノ木坂学院下”の看板が見え始めたところで、ルビィやダイヤの挙動に落ち着きがなくなってくるのが見えた。

 

「うぅ……なんか緊張する……!どうしよう!μ'sの人がいたりしたら!」

 

「へ、平気ですわ!その時は……ササササインと……写真と……!握手……」

 

「単なるファンずら」

 

階段上にあるμ'sの母校を見上げ、期待に胸膨らませている二人。

 

(この上に……μ'sのいた場所が……)

 

前にノワールが言っていたことを信じれば、彼女達九人は全員光の欠片を宿していたという。

 

エンペラ星人を打ち破る唯一の方法である、究極の光を生み出す力。

 

……ずっとそうとしか見ていなかったけど、やっぱり何か引っかかる。

 

「……っ!」

 

「……千歌!?」

 

「抜け駆けはずるい〜!」

 

数秒の沈黙を破ったのは千歌が地面を蹴り、階段を駆け上がっていく姿だった。

 

みんな先を越されまいと、長い階段を踏み越える。

 

 

 

 

 

「ここが……μ'sのいた…………!」

 

「この学校を、守った……!」

 

「ラブライブに出て……」

 

「奇跡を成し遂げた……!」

 

葉が舞い散る正門前に並んで立ち、瞳を輝かせる千歌達。

 

かの伝説のスクールアイドルが在籍していた学校。ファンからすれば興奮しないわけがない。

 

「あの」

 

「……?」

 

横からの呼びかけに反応し、ほぼ同時に十の顔が振り向く。

 

音ノ木坂の制服に身を包んだ、一人の女子生徒が立っていた。

 

「なにか?」

 

「すみません。ちょっと、見学してただけで……」

 

「もしかして、スクールアイドルの方ですか?」

 

「あぁ、はい。μ'sのこと……知りたくて来てみたんですけど」

 

「そういう人、多いですよ!」

 

今日が初めてのことではないらしく、彼女はこちらへクスリと微笑んだ。

 

「……でも、残念ですけど……ここには、何も残ってなくて」

 

「え?」

 

「μ'sの人達ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジ色の光が座席を濡らしている。

 

線路を走る音と穏やかな揺れに眠気を誘われながら、未来達は東京を離れた。

 

「結局、東京に行った意味はあったんですの?」

 

「……どう思う?果南さん」

 

「そうだね……。μ'sのなにがすごいのか、私達となにが違うのか、はっきりとはわからなかったかな」

 

「じゃあ、どうしたらいいと思うの?」

 

「私?」

 

鞠莉の問いに果南はふと顔を伏せ、何かを思いだすように不自然な間が空いた。

 

「私は……学校は救いたい。けど、Saint Snowの二人みたいには思えない。……あの二人、なんか一年の頃の私みたいで……」

 

「……ビックになったね、果南も」

 

「……訴えるよ」

 

言い終わる直前に鞠莉が果南の胸を思い切り頰を擦り寄せるのを見てギョッとする。

 

「なあ、千歌は……」

 

「ねえっ!海、見ていかない⁉︎みんなで!!」

 

「千歌ちゃん⁉︎」

 

未来の質問が投げかけられる前に千歌が席を立ち、飛ぶように電車から勢いよく降りた。

 

 

◉◉◉

 

 

μ'sの人達、なにも残していかなかったらしいです。

 

 

 

海なら内浦で毎日見てるだろ、などという野暮なツッコミは誰も言わなかった。

 

千歌が言いたかったのは、そんなことじゃないだろう。

 

『急にどうしたんだろうね……』

 

(……まあ、あいつが唐突な行動に出ることは今に始まったことじゃないけど)

 

 

波の音が聞こえる。

 

内浦の海とも違う。もっと寂しくて、それでいて強い想いが感じられる場所だった。

 

 

「私ね、わかった気がする。μ'sのなにがすごかったのか」

 

「本当か?」

 

「たぶん、比べたらダメなんだよ

 

”μ's”も、

 

”ラブライブ!”も、

 

”輝き”も…………」

 

 

 

 

 

”それでいいんだよ”って。

 

 

 

 

「μ'sのすごいところって、きっと何もないところを……何もない場所を、思いっきり走ったことだと思う」

 

 

しばらく理解していないような表情をしていた者も、時間が流れるにつれて悟った様子へ変わっていく。

 

「みんなの夢を、叶えるために。……自由に、まっすぐに、だから飛べたんだ!」

 

 

μ'sのように輝くのと、μ'sの背中を追いかけることはイコールでは結ばれない。

 

自由に走り抜けることこそが、輝ける方法なのだと。

 

全身全霊、

 

何ものにも囚われずに、

 

「自分達の気持ちに従って!」

 

 

 

 

 

 

ーーーー自分達はμ'sではなく、Aqoursなのだ。

 

 

 

「……向かう場所は決まってるのか?」

 

「私は……ゼロをイチにしたい!」

 

東京でのライブ……その投票数が脳裏をよぎる。

 

「あの時のままで……終わりたくない!」

 

「千歌ちゃん……」

 

「それが今、向かいたいところ」

 

「ルビィも!」

 

「そうね、みんなもきっと!」

 

「なんか、これで本当に一つにまとまれそうな気がするね!」

 

「遅すぎですわ」

 

「みんなシャイですから!」

 

 

 

ああ、やっとわかった。

 

μ'sが光の欠片を生み出せた理由。千歌達に光の欠片が宿った理由。

 

彼女達は、そんなものには興味がなかったんだ。

 

究極の光なんて関係ない。ましてやエンペラ星人なんか尚更だ。

 

ただ自分の正直な心に従った結果、欠片を発現させるに至っただけ。

 

 

 

「じゃあ、いくよ!」

 

「あ、待って!」

 

円陣を組んで手を出した直後、曜からのストップがかかった。

 

「指、こうしない?」

 

親指と人差し指でVの字を形取る。

 

「これをみんなで繋いで……ゼロから、イチへ!」

 

「それイイ!」

 

「でしょ⁉︎」

 

「じゃあ、もう一度!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステラとヒカリへ。

 

返すのが遅くなって悪かった。映像だと恥ずかしいので、文字だけで送らせてもらう。

相変わらずエンペラ星人の刺客がうろちょろしているが、心配はいらない。

千歌達も大切なものを見つけることができたみたいだ。

それに俺も……いや、これは言っても混乱するだろうからやめておく。

とにかくこちらの心配は無用だから、お前達はボガール退治に専念してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロからイチへ!今、全力で輝こう!」

 

ーーーーAqours!

 

 

 

 

 

ーーーーーーサンシャイン!!

 

 

十の光、その始まりの声が、海岸中にこだました。

 

 

 

 




サンシャイン12話での海岸のシーンはBGMも相まって印象深いシーンです。

では解説へ

冒頭のエンペラ星人とベリアルの戦闘はウルトラ大戦争の直後のことです。
ウルトラの父と相打ちになり、傷を負ったエンペラ星人を追ってダークネスフィアまで辿り着いたものの、レゾリューム光線の影響で返り討ちに遭ってしまいました。
レゾリュームさえ受けなければ……まだ勝機は充分にあったかもしれませんね。

次回でついに13話に突入です。
その後は予定していた通り、二期が始まるまでステラとヒカリのエピソードとなります。
ラブライブ要素がゼロに等しくなることでしょう()


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第57話 災厄の卵

ついにウルトラマンジードが始まりましたね。
新しいシリーズが始まる時のワクワク感がたまらなく好きです。




「……拍子抜けだな」

 

一人きりの空間にノワールの呟きが溶けるように消えた。

 

先ほど無断で地球に降り立ち、日々ノ未来と接触したベリアルを連れ戻した後、エンペラ星人のもとへ差し出してきたのだが……

 

意外にも皇帝の反応は素っ気ないものだった。

 

アーマードダークネスの精神汚染が未だ完全なものではなかったとわかった以上、てっきりベリアルをその場で処刑するものだと思っていたのだが。

 

(ボクとしては彼が消えようと支障はないけど……エンペラ星人が何を考えてるのかさっぱりわからない)

 

少しでも不安要素があれば問答無用で排除するのが彼に抱いていたイメージだ。

 

以前から気になっていたのは、皇帝がベリアルに対しては寛容だということ。

 

……いや、さすがに気のせいか。

 

 

 

 

「……ん?」

 

宇宙船内にあるヤプールの工房前で足が止まり、ノワールは何気なく室内へと足を踏み入れた。

 

「小僧か」

 

「やあヤプール。できれば名前で呼んでくれると嬉しいな」

 

外見は若い男だが、ノワールはエンペラ星人とほぼ同等の年月を生きている。小僧と呼称されるのは少々間違っているのだ。

 

()の皇帝よりも力が大幅に劣っているのは、闇の中を彷徨って尚光を求め続けたせいでもある。

 

「なにをしていたのかな?」

 

部屋の中央には禍々しく発光する岩のようなものが一つ、無数の管を介して何かの薬品と繋がれている。

 

超獣でも作っている最中なのだろうか。

 

「これは……何かの卵?」

 

「卵、か。例えるなら時限爆弾の方が近い」

 

「……?超獣ではないのかい?」

 

キョトンとした表情で質問するノワールに、ヤプールは少しだけ自慢するような口調で語った。

 

「超獣だとも。我らヤプールの力が集結した究極のな」

 

「……それは興味深いね。当然この姿が完全体というわけでもないのだろう?」

 

「当たり前だ。……こいつが目覚めれば、全宇宙を支配することも容易い」

 

「彼を裏切るつもりなのか?ボクに話してよかったのかい?」

 

「ふん、貴様も同じ考えのようだが?」

 

「ま、バレてるよねそりゃ」

 

以前ベリアルにも簡単に見破られてしまったので、どうやら自分は隠し事をするのが下手なのだろう。

 

「皇帝を超える超獣ねえ……、想像できないけどな」

 

「……なにか勘違いしているようだな。宇宙を支配するのに皇帝を超える必要などない」

 

「……ウルトラマン達、か?」

 

ヤプールの企みは光の戦士達がエンペラ星人を倒した後で疲弊した彼らを打倒する、というものなのだろうか。

 

「でもさ、ボクが裏切るというのなら同じように考えている君の障害になることは明白だろう?」

 

「なに?……クハハハハ!笑わせてくれる!なんの力も持っていない貴様が障害になるだと⁉︎」

 

「あー……ま、そだね」

 

無意識に左腕を後ろへ隠したノワールは、ヤプールに背を向けて部屋を出た。

 

 

メビウスの力の一部を奪い、力を増したことは日々ノ未来とメビウスを除けばまだ誰にも語ってはいない。

 

しかし気づかれるのも時間の問題だ。故に早々に皇帝を倒すだけの力を身につけなくてはならない。

 

さらなる進化を。絶対的な力を。

 

「…………メビウス」

 

()()()()が、宇宙船内に迸った。

 

 

◉◉◉

 

 

「1258円です」

 

「あれっ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、いえ……」

 

予定していた金額よりも上回ったものを伝えられ、思わず未来は戸惑う様子を見せる。

 

(誰か高いの買ってないか……?)

 

しばらく同じことを繰り返し考えながら、浦の星学院への道のりを歩いた。

 

 

 

夏休みに入ってからエンペラ星人の刺客やノワールの姿はパッタリと見なくなった。

 

見かける宇宙人は地球への観光か、移住しに来た害のない者達ばかり。

 

メビウスが言うには『何もない時こそ構えるべきだ』とのこと。

 

もちろん未来も油断する気はないが、こうも戦う機会がないと身体も鈍ってしまう。

 

「なあメビウス、やっぱり宇宙警備隊には戦い方を教えてくれる人とかいるのか?」

 

『もちろん。以前共にインペライザーと戦ってくれたタロウ教官がまさにそうだよ』

 

「へえ、あの人が……」

 

確かに彼の体術は洗練されていて無駄のない動きだった。

 

ウルトラの星にはあのレベルの戦士が何人もいるというのか。

 

「たしか、メビュームダイナマイトもタロウから教わったんだっけ?」

 

『いや、教わったというか……。教官のウルトラダイナマイトがかっこよかったからつい……真似しちゃって」

 

「あぁ、ちょっと安心」

 

光の戦士とあろう者があんな危険な技を率先して教えるようなことはしないだろう。

 

きっとメビウスはこっぴどくタロウから説教を受けたに違いない。

 

 

 

『あ、そういえば未来くん。ステラちゃんとヒカリからメッセージが届いてたんだ』

 

「え?ほんとか⁉︎」

 

『うん。無事に任務を終えたから、これからこっちに戻るところだって』

 

しばらく前に地球を離れ、アークボガールを討伐しに向かった七星ステラとウルトラマンヒカリ。

 

彼女達ならば心配はいらないだろうと思っていたが、無事だという報告を受けてみればやはりほっとするものだ。

 

彼女達にはまだ自分達の成長ぶりは見せていない。バーニングブレイブの力を得た二人を見た時にステラ達がどんな反応をするのかが今から楽しみだった。

 

(もう遅れはとらないぜ。みんなと肩を並べて、この星を守り通してみせる!)

 

拳を作ってそう心に決める。

 

出会った時とは比べ物にならない未来の引き締まった顔つきを見て、メビウスもまた湧き出るやる気をかみしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずら〜……」

 

「ピギ〜……」

 

「ヨハ〜……」

 

「全然こっちに風こないんだけど」

 

扇風機の前に並んで陣取っているずらピギヨハ三人衆を一瞥し、未来はアイス片手に机へ寄りかかる。

 

今いるこの図書室にもクーラーが付いていれば楽になるのだが、統廃合寸前の浦の星にそのような話が舞い込んでくるわけもない。

 

「未来くんはずいぶん涼しい顔してるね」

 

「それはあれだ、ほら」

 

「“メビウスのおかげ”、でしょ?ずるいなぁ、もう」

 

ふくれっ面になる千歌に追い打ちをかけるようにくつろぐ未来。

 

ウルトラマンだからしょうがない。そう、しょうがないのだ。

 

「もうすぐステラも帰ってくるんだ。暑さで苦しんでるようじゃ示しがつかないぞ」

 

「え!?ステラちゃん帰ってくるの!?」

 

同じことを復唱する千歌に頷き返した未来が鞠莉の方へ身体の向きを変えた。

 

「だからまあ……、とりあえずこっちもいい報告を聞かせてやりたいんだけども…………どう鞠莉さん?今のところ説明会希望者は何人くらい?」

 

「えーっと今のところ…………」

 

「鞠莉さん!はしたないですわよ!」

 

カウンターを乗り越えて図書室のパソコンを操作する鞠莉にダイヤの雷が落ちるが、当の本人は気にもとめていない様子で手を動かし続ける。

 

「…………ゼロ〜♪」

 

前のめりになって期待していた皆を裏切る一言が部屋中に通った。

 

「そんなにこの学校魅力ないかな……。少しくらい来てくれてもいいのに」

 

「やっぱりそう簡単な話じゃないか……」

 

 

と、その時。

 

からりと引き戸が開かれる音が聞こえ、十人の視線が出入り口へと移った。

 

私服姿の少女が三人。全員が見覚えのある人物だった。

 

「むっちゃん達、どうしたの?」

 

「うん、図書室に本返しに」

 

千歌の友人であるよしみ、いつき、むつ。いつも三人一緒にいる仲良し組だ。

 

「もしかして、今日も練習?」

 

「もうすぐ地区予選だし」

 

「この暑さだよ〜……?」

 

「そうだけど、毎日だから慣れちゃった」

 

千歌の言葉を聞いて驚きを隠せない三人が揃って口を開ける。

 

千歌達がスクールアイドルとして活動していたのは承知していたことだろうが、夏休みを潰し、猛暑に耐えてまで練習していたというのは予想外だったようだ。

 

「そろそろ始めるよー」

 

「あ、うん!じゃあね!」

 

果南の呼び声に応じて三人に手を振りながらその場を離れた千歌。

 

大変ながらも学校のために頑張る彼女の姿は、その友人達にも強く心に残るものであった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ふう」

 

タオルで汗をぬぐいながらプールサイドに座り込んだ未来は、少し離れたところではしゃいでいる千歌達へ目を向けた。

 

先ほど図書室にやってきた三人と何か話している様子だった。

 

 

「思えば遠くに来たもんだなあ」

 

千歌と曜に乗せられてマネージャーになり、これまで共に活動してきた。

 

最初は今度もいつかは辞めてしまうのではないかと不安で仕方がなかったが、今の千歌にそのような様子は感じられない。

 

(飲み物でも買ってくるか……)

 

腰を上げ、過去の思い出に浸りながら自動販売機のある校内へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(えーっと水……水……)

 

 

 

 

「ふうん。少しは締まりのある顔になったじゃない」

 

「あ……?」

 

急にかけられた言葉に間の抜けた声で返した未来は、反射的に後ろを振り返った。

 

黒い髪をボブカットに揃え、キャスケット帽を被った物静かな雰囲気の少女。

 

夏だというのにぶ厚い紺色のコートに身を包んだ彼女はミステリアスな笑みをこちらに向けてきた。

 

「久しぶり、未来。元気そうで何よりね」

 

『予定より遅くなってしまった、すまないメビウス』

 

「ステラ!ヒカリ!」

 

どんな感情よりも真っ先に浮かんだ二人の名前を即座に口にする。

 

帽子を取り、近寄ってきた未来に見せた表情はわかりにくいが笑っているようだ。

 

『ステラちゃん!無事でよかったよ……!ヒカリも!』

 

『いらぬ心配をかけた。おかげで…………もう心残りはない』

 

「ええ。今まで感じたことのないほどに晴れやかな気分よ」

 

「じゃあ……アークボガールも倒したのか?」

 

「当然でしょ。じゃなきゃのこのこ帰ってきたりするもんですか」

 

相変わらず生意気なステラだが、今は苛立ちなど覚えない。

 

「色々話を聞かせてくれよ。他の惑星にも行ってきたんだろ?」

 

「ええ。奴らの首は持ってこれなかったけど、土産話ならたくさん聞かせてあげれるわ。でもその前に、千歌達にも顔を見せないとね」

 

歩き出したステラの隣に並び、買おうとしていた飲み物のことも忘れて未来は足を動かした。

 

 

 

 

 

「……そういえば知らせなきゃいけないことがあったわ」

 

「ん?」

 

玄関までやってきたステラは夕焼けを背に未来へ語りかける。

 

「ここに来る途中、地球目掛けて向かってきてる隕石を見つけたの」

 

「は?隕石?」

 

突然出てきたその単語に疑問符をつける未来。

 

「いや、隕石っていうにも様子がおかしかったわ。脈打ってて、まるで生き物みたいだったもの」

 

「なんだそれ……?」

 

想像できない光景に首を傾ける未来に続けて説明しようとするステラを手で止め、先に彼が質問する。

 

「隕石が向かってきてるって……ここに来る途中で破壊はしなかったのか?」

 

「ああ、それはーーーー」

 

直後、一気に顔から血の気が無くなったステラが地面に吸い込まれるようにして倒れた。

 

「なっ!?どうしたんだよ!?」

 

「……ごめんなさい。アークボガールとの戦闘で受けた傷が……まだ癒えてなくて」

 

胸を押さえて苦悶の表情を浮かべるステラ。

 

先ほどまでは虚勢を張っていただけだったのか。

 

「とにかくこの星が危ないわ。今のわたしは使い物にならない。あなた達で、地球を守るのよ」

 

未来の手を払い除けて無理やり立ち上がったステラは、鋭い目つきで彼を見据えた。

 

 

 

 




隕石の正体が明かされるのは結構後になります。まあ究極の超獣と言われれば大体の予想はつくとおもいますが(笑)

解説はステラとヒカリについて。

地球を離れた後、二人はすぐにボガールの足跡を見つけ、惑星カノンへと降りたちます。
そこで出会うことになるのがオーブオリジンサーガに登場した戦神です。
オーブとは別の宇宙なのでアマテ等のキャラクターは登場しませんが、外伝には代わりに多数のオリジナルキャラが出ます。

活動報告も更新いたしましたので、そちらもよろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに!


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第58話 みんなで輝く物語

前回記述するのを忘れておりましたが、今回で第1章は完結となります。
とりあえずはサンシャインの一期分が終わるというわけです。
果たして未来とメビウスは隕石から地球を守ることができるのか……⁉︎


「クソ……!どうすりゃいいんだ……⁉︎」

 

自室で頭を抱えていた未来に寄り添うように、オレンジ色の光が彼のそばまでやってくる。

 

『その隕石がどれくらいの大きさなのかはまだわからない。……でも、負傷していたとはいえあの二人にも手に負えなかったなんて』

 

あの後すぐに意識を失ってしまったステラとヒカリは、十千万の一室を借りて寝かされている。

 

目に見える外傷はなかった。しかし本人はとても苦しそうに何度もうなされては気絶する、を繰り返している状態だ。

 

「とにかくただの隕石じゃないってことは確かだ。今すぐにでもぶち壊しにいこう!!」

 

『ダメだ!』

 

部屋を出て行こうとした未来をメビウスが寸前で止めた。

 

『やるならギリギリまで待たないと……今僕達が地球を離れるわけにはいかないんだ』

 

未来にとって宇宙空間での活動は初めてだ。

 

そしてそれ以上に、今ここを離れると戦えるウルトラマンが地球上からいなくなってしまうことになる。

 

そこを狙ってエンペラ星人が仕掛けてくる可能性だってあるのだ。いや、むしろそれを目的とした陽動作戦かもしれない。

 

「…………地球のそばまで来るのを、待つってことか?」

 

『今は…………それしか方法がない』

 

明日には隕石がこの星に到達するだろう。それに加えてラブライブの予選まで控えているというのに…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステラの調子はどうだ?」

 

「あ、未来くん……」

 

家を出て駆け足で十千万までやってきた未来は、隠しきれていない焦燥を顔に出したまま千歌の前に立った。

 

「だいぶ落ち着いたみたい。……でも、しばらく身体は動かさないほうがよさそう」

 

耳をすますと、襖を挟んだ先にある部屋から静かな寝息が聞こえてきた。

 

「……明日のライブ、ステラは留守番だな」

 

せっかく予選当日まで間に合ったというのに不運なものだ。

 

……まあ、千歌達のそばにいてやれないのは未来も同じだが。

 

「なあ、千歌」

 

「ん?」

 

正直に事情を話そうとして言葉に詰まる。

 

できることならば彼女達に無駄な心配はかけたくない。

 

隕石を止めるからライブは見れない、などと口にする気にはなれなかった。

 

 

 

「その……俺…………」

 

「…………」

 

口ごもる未来を数秒見つめた後、千歌は当然のことのように言い放った。

 

「またなにか、危険なことするつもりなんでしょ」

 

「…………!それは…………」

 

千歌は苦い顔をして下を向いた未来へ歩み寄り、包み込むようにして彼の手を握った。

 

「大丈夫だよ…………前に約束したから。私は帰りを信じて待つ。未来くんは、生きて帰ってくる。たったそれだけのことでしょ?」

 

「千歌……」

 

こころなしかメビウスが微笑んだのを感じ、指先から順に身体が落ち着いていくような感覚が走る。

 

 

 

……そうだ。もう決めたじゃないか。

 

自分達が負けるなんてありえない。……だって、負けるわけにはいかないのだから。

 

今まで通り事件を解決して、笑顔で彼女達のもとへ戻ってくればいい。

 

「ああ……そうだったな……!」

 

 

◉◉◉

 

 

「たぶんここで合ってると思うんだけど……」

 

「千歌ー!」

 

「あっ!ここだよー!」

 

駅前で待ち合わせをしていたところで、三人の少女がこちらにやってくるのが見えた。

 

千歌が言うには学校のみんなもライブに参加して、浦の星学院の魅力をフルに伝える気らしい。

 

 

(あれ……?そういやラブライブのサイトに…………たしか……)

 

胸に引っかかる違和感の正体を掴むために、未来はスマートフォンを取り出してラブライブの詳細が記述されているサイトへとアクセスした。

 

 

「他の子は?」

 

「うん……それなんだけど……実は…………」

 

「……そっか」

 

「しょうがないよ。夏休みなんだし」

 

バツが悪そうに顔をしかめたむつ達を見て、咄嗟にフォローしようとする曜。

 

しかしその直後、千歌達が思っていたものとは真逆の展開となった。

 

「私達、何度も言ったんだよ?」

 

「でも……どうしても…………!」

 

「「……??」」

 

まだ状況がわかっていない様子の千歌と曜に披露するかのように、むつは司会者さながらの声を張り上げた。

 

「みんなー!!準備はいいー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーイェーーーーーイ!!

 

待ってましたと言わんばかりのタイミングで一斉に登場した、浦の星学院の制服を着た少年少女達。

 

「全員で、参加するって!!」

 

驚愕のあまり唖然とするAqoursのメンバー達。

 

「みんな……!」

 

「びっくりした?」

 

「うん!これで、全員でステージで歌ったら、絶対キラキラする!学校の魅力も伝わるよ!」

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

突然聞こえた謝罪の声がした方向に皆の視線が集まる。

 

そこに立っていたのは、申し訳なさそうに眉を下げた梨子だった。

 

同時に未来もサイトの確認を終え、残念そうに頭をかいた。

 

(やっぱりな……)

 

「実は……調べたら、歌えるのは事前にエントリーしたメンバーに限るって決まりがあるの」

 

「…………そんな……」

 

「それに、ステージに近づいたりするのもダメみたいで……」

 

マネージャーである自分がきちんと調べ、もっと早くに気付いて伝えることができればよかったのだが……。

 

隕石の事ですっかり頭の中から抜け落ちていた。

 

「……ごめんね、むっちゃん」

 

「い、いいのいいの。いきなり言い出した私達も悪いし」

 

「じゃあ私達は、客席から宇宙一の応援してみせるから!」

 

「浦の星の団結力の見せ所だね!」

 

暗くなった雰囲気を変えようと三人が激励を飛ばす。

 

 

文字通り浦の星学院全員の魂を背負った千歌達は、気を引き締めて会場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議だなあ。内浦に引っ越してきた時は、こんな未来がくるなんて思ってもみなかった」

 

「千歌ちゃんがいたからだね」

 

ライブ本番を間近に控えた千歌達は、学年ごとに分かれてそれぞれの準備中だ。

 

ホールの出入り口前では千歌、曜、梨子、そして未来の姿があった。

 

「それだけじゃないよ。……ラブライブがあったから、μ'sがいたから、スクールアイドルがいたから。曜ちゃんや梨子ちゃん……それに、未来くんとメビウスがいたから」

 

これから先、待っているものは楽しいことだけじゃない。

 

当然それと同じくらい、辛くて苦しいことだってあるはずだ。

 

だとしても千歌は…………いや、Aqoursのみんなは、それを楽しみ抜いて乗り越えるのだろう。

 

「全部を楽しんで、みんなと進んでいきたい!それがきっと……“輝く”ってことだと思う!」

 

 

 

 

 

 

 

「そうね」

 

背後からかかった澄んだ声が耳朶に触れる。

 

ダイヤ、鞠莉、果南、善子、ルビィ、花丸。

 

未来は揃った九つの光の前に立つと、静かに口を開いた。

 

 

「……?未来くん?」

 

「花丸ちゃん。ルビィちゃん。善子ちゃん」

 

「ずらっ!?」

 

「ピギ……⁉︎」

 

「だから混ぜないでって……あれ?今、名前…………」

 

唐突に名前を呼ばれた三人が小さく揺れる。

 

「三人とも最初の頃よりダンスが凄く上達した。たまにこっそり集まって個人練習してたのが報われたな」

 

「「「……!」」」

 

「果南さんと鞠莉さんとダイヤさんは生徒会のサポートもあるなか、俺の仕事まで手伝ってくれてありがとうございました。あなた達がいなかったら、手が回りきらなかったです」

 

「未来さん……」

 

「どういたしましてデース!」

 

「なんか、改まられると照れちゃうな……」

 

未来は身体の向きを直し、最後の三人と順番に目を合わせた。

 

「梨子、曜、千歌は作詞と作曲、衣装作りの中心になってみんなを引っ張っていたな。千歌に関しては締め切りに間に合うよう頑張ってほしいところだが」

 

「な、なんか私だけダメ出しされてる……!?」

 

柔らかい笑みを浮かべながら、未来は彼女達に背を向けて言う。

 

「たとえこの予選がダメだったとしてもな、今まで積み重ねてきたものが無駄になるわけじゃない。みんならしくあることが大切だ」

 

彼女達のそばに居続けて、知らなかったことをいくつも発見できた。

 

そして、千歌も変わった。

 

「…………行くんだね?」

 

「ああ。これは、俺とメビウスにしかできないことだからな」

 

「……わかった。じゃあ私達は、私達にできることをするよ」

 

 

ゆっくりと廊下を進んで遠ざかっていく未来の背中を見つめていた千歌達は、彼に聞こえるくらいの声量で叫んだ。

 

「イチ!」

 

「ニ!」

 

「サン!」

 

「ヨン!」

 

「ゴ!」

 

「ロク!」

 

「ナナ!」

 

「ハチ!」

 

「キュウ!」

 

「…………ジュウ!」

 

 

 

 

「Aqours!」

 

ーーーーーーーーーーサンシャイン!!

 

 

◉◉◉

 

 

「メビウーーーーーース!!」

 

 

 

 

 

 

 

巨人の姿になるのと同時に空高く飛翔し、あっという間に大気圏ギリギリの場所まで到達する。

 

突き抜けた雲が下へ下へと離れていくなか、メビウスは数百キロ向こうに見える飛来物を視認した。

 

(あれか!)

 

『間違いない!ここで……絶対に止めよう!』

 

(ああ!俺達の星には…………!)

 

さらに加速し、自分よりも何倍もある巨大な球体を激突するかたちで受け止める。

 

(落とさせねぇぇぇぇええええええええええ!!!!)

 

生身で最高速度の列車にでもはねられたかのような衝撃が全身を貫き、思わず嗚咽にも似た声を漏らした。

 

 

『ぐうッ……!!ぉぉおおお…………!!』

 

(なんてデカさだ……!)

 

未来とメビウスの必死の抵抗も、まるで蟻をあしらうかのごとく隕石は進み続ける。

 

心臓のように不気味に脈打つソレは、次第に形状を変化させていった。

 

 

(なっ……!これは……‼︎)

 

『触手…………!?』

 

 

鉤爪を取り付けたような青い触手が無数に伸び、両手を広げていた無防備なメビウスの横っ腹を薙ぎ払う。

 

(ガハッ…………!)

 

『未来くん……!』

 

黒い空間へと放り出されたメビウスだが、すぐに体勢を立て直して再び隕石を押さえつける。

 

……ビクともしない。あざ笑うかのように一直線に地球へと落ちていく。

 

 

 

 

『(まだだぁッッ!!)』

 

全身から紅蓮の炎を放射したメビウスが、これでもかと巨大な塊へ食らいついた。

 

しかしバーニングブレイブとなり、強化された肉体でも気休め程度にしかならない。

 

『このままじゃ……!』

 

(……諦めねえ……!諦めないぞ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちょっと……!右側空けなさい!!)

 

少女の声が聞こえるのと同時に、真横に雷のような速度で迫ってきた青い巨人が激突する。

 

『……!?ステラちゃんと……ヒカリ!?』

 

(お前ら身体は…………!?)

 

(平気よ!これくらいどうってこと…………!!)

 

『止めても聞かなかったものでな』

 

今にも意識を失いそうなか細い声で意地を張るステラ。

 

(バカ!そんな調子で……!本当に死んじまうぞ!?)

 

(うっさいわね……!大丈夫だって……言ってるでしょ!)

 

刹那、ヒカリの身体が七色に輝き出し、見覚えのある姿へと変身を遂げた。

 

ハンターナイトツルギと呼ばれていた時の、あの鎧を身につけていたのだ。

 

『その鎧は……!?』

 

『…………話せば長い』

 

 

 

二人のウルトラマンが並んで隕石を押しとどめようとするが、やはり吸い寄せられるように地球へ迫るばかりである。

 

(……やっぱりね。このままじゃ埒があかないわ)

 

(どうするんだよ……!?)

 

(どうもできないわよ……!ごり押しはあなた達の得意戦術だったはずでしょ!?)

 

(まあ、そうなるよな…………!!)

 

今地球では千歌達のライブが行われていることだろう。

 

彼女達の輝きを……めいいっぱい解き放って。

 

 

(落とさせるわけにはいかないんだ……!この星は絶対に……!)

 

熱風でほとんど見えない目を凝らし、隕石を睨む。

 

 

 

(守るんだあああああああああああああああああッッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー「よく言った、若者よ」

 

周囲の空間が急に明るくなり、何かに包み込まれているような優しい気配を感じ取った。

 

ぼやけた視界を巡らせると、自分たちは光で出来たネットのような物の中にいることがわかる。

 

『これ……は……!?』

 

満身創痍となったメビウスもまた状況を確認しようと周りに視線を散らす。

 

 

身体がとても軽い。

 

先ほどまで止まる気配もなかった隕石が徐々にその落下速度を落としているのを感じ、未来は安堵のため息を吐いた。

 

 

 

パシュ、と何かが切り離される音。

 

光のネットを生成していたと思われる()()()のシルエットが遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今……のは……?)

 

(……!チャンスよ!この速度なら地球に被害は出ない……!海にでも放り込めば、わたし達の勝ちよ!)

 

ステラにそう言われたのを皮切りに、失いかけていた意識が徐々に戻る。

 

既に大気圏内へ突入しており、メビウスとヒカリは慌てて隕石の裏側へと移動した。

 

真下にあるものは太平洋。ここの奥底へ沈めれば終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(千歌達…………ちゃんと……やれてる…………かな……)

 

『未来くん……?』

 

(ちょっと、未来……?大丈夫ーーーー)

 

段々と黒ずんでいく視界に奇妙な心地よさを感じるのと同時に、

 

一人の少女の声が、聞こえた気がした。

 

 

◉◉◉

 

 

目に映るのは七色の光と、一際強い存在感を放つ太陽の光。

 

少女は掴めるはずもないその光へと手を伸ばし、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなーー!!一緒に……!輝こうーー!!」

 

 

 

 

 

 




最後の最後であの方達が来てくれましたね。具体的なメンバーは第2章で明らかとなります。
投稿を始めて約一年……。とりあえずは第1章完結です。これまで読んでくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。

一章最後の解説いきましょう。

隕石から伸びた触手の見た目から考えればわかると思いますが、成長した姿は”あの超獣”となります。
ただし登場するのはこの作品が本当に終盤まで辿り着いた時でしょう。
そして次回からはステラとヒカリが地球を離れていた間、どのような経験を積んできたのかを描く外伝が始まります。
今回の話でアーブギアを装着していた理由もそこで明らかになるでしょう。

そして少しだけ外伝の内容を教えちゃうと、”とあるμ'sのメンバーのそっくりさん”が登場する予定です。
果たしてどのようなポジションのキャラとして登場するのか……。

それではこれからも、メビライブサンシャインをよろしくお願いします!


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外伝 ステラ&ヒカリサーガ
Episode1 かがやき〜輝星〜


外伝第1話です。
サブタイトルはオリジンサーガ風にしてみました。
タグにもありますが独自解釈と独自設定がバンバン出てきます。
後書きのほうでこの作品での初めての試みが……。


肉が潰される音。裂かれる音。鳴き声。

 

不快感しか感じないはずの様々なものが聞こえてくるが、不思議とわたしの気分は高揚していた。

 

 

 

目の前でなすすべもなく解体されている化け物を見る度に忌々しい記憶が蘇る。

 

わたしはいい気味だと、ほくそ笑みながら怪物を見下ろした。

 

(…………あはっ……!見て、ツルギ!死んだ!死んだよ!ほらっ!)

 

『…………喜ぶのはまだ早い。まだたったの一匹だ。俺達が真に狙うべき敵は、奴らの“王”』

 

(うん、そうだよね。……でも、でもね)

 

血が滴り落ちる光の刃を一振りし、既に動かなくなった怪物へ突き立てる。

 

(こいつらを殺すのが、とても楽しいの。……楽しくて楽しくてしょうがないの)

 

青い復讐者は鎧の下で、憎しみに満ちた声を吐露した。

 

 

◉◉◉

 

 

「本当にこっちで合ってるの?」

 

『タロウから聞いた情報によればそうなのだが……』

 

「ま、とりあえず向かってみましょ」

 

地球から数光年離れた先にある王立惑星、そこが今現在自分達の目指している場所である。

 

カノンと呼ばれるその星は惑星全体が一つの国となっており、文字通り王族というものが存在するのだという。

 

ステラとヒカリの目的は、カノンに潜伏していると思われるアークボガールとその配下の捜索、及び殲滅だった。

 

 

黒い空間に浮遊する無数の星々の中をナイトブレスの力を借りて駆け抜ける。

 

『今回の任務には、ウルトラ警備隊からの助力も寄越されるらしい』

 

「援軍でも送ってくれるのかしら?……できればわたし達だけでやりたかったのだけれど」

 

『相手は仮にも元四天王だ。それに、通常のボガールだけでも数で圧倒されれば手にあまる。気持ちはわかるが素直に従っておこう』

 

「はいはい」

 

ナイトブレスが発光し、目の前にワープゲートが展開される。

 

惑星カノンへと続く道だ。

 

ステラはこれから始まる過酷なミッションを予感したように息を呑んだ後、ゲート内へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……!」

 

数多くの屋台が並ぶ街中を少女は何かから逃げるように走った。

 

今日はとある事情から急遽行われることになったお祭りの初日で、周りには笑顔で店を見て回っている民の姿が見て取れる。

 

そのなかで一人汗を滲ませながら駆ける少女へ、民は怪訝な顔を向けた。

 

「なあ、今の子……」

 

「ああ、お前も見たか?」

 

ヒソヒソと話をする者を見て、いよいよ少女の焦りは頂点に達した。

 

「いけない、バレちゃう……!」

 

人混みを離れ、広大な森林がある公園へと隠れる。

 

 

 

 

「姫様ー!返事をしてください!」

 

「ひゃっ!?」

 

近くから聞こえてくる自分を探す声に反応し、情けない声が漏れた。

 

咄嗟にその場から離れようとしたところで、誰かに服の裾を掴まれる感覚。

 

「うえっ!?」

 

振り返るとそこには満面の笑みを浮かべた幼い女の子が立っており、こちらの顔を見ては大声で一言。

 

「お姫様だ!」

 

「ひぃ!?」

 

「……!?姫様!?」

 

子供の声を聞いて公園まで駆け込んできた男達がぞろぞろとこちらに走ってくるのが見える。

 

「ねえみんな見て!こっちにコトハ様がいるよ!」

 

「えぇ!ほんと!?」

 

「あわわわ……」

 

あっという間に子供達に囲まれたコトハは抜け出すこともできず、向こうから追ってきた親衛隊の男達へ青い顔を見せた。

 

 

「見つけましたぞ姫様!また勝手に城を抜け出して……!近頃は危険だからじっとしていなさいとあれほど……!」

 

「ごっごめんなさいダイモン!……そんなに怒らないでくださいよ、ね?」

 

「いいえ、怒りますとも。罰としてこの後はみっちりと訓練を受けてもらいます!」

 

腰に刀を下げた部隊の長らしき青年が歩み寄り、コトハに群がっていた子供達を優しくひきはがす。

 

彼女の手を掴み取ると、少々強引に引っ張る。

 

「ほら、服が泥だらけではありませんか……!帰ってお着替えを!」

 

「わ、わかりました!わかりましたから!」

 

親衛隊に連行されていくコトハを見て、子供達は揃って首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コトハは……戻ったのですか?」

 

「……はい。ご心配をかけてしまい申しわけありませんでした、お母様……」

 

広大な一室の奥で豪華な装飾が施されているベッドに寝かされた女性が一人。

 

カノンの女王であり、コトハの母親でもあるヒルメだ。

 

「最近はボガールと呼ばれる怪物が現れ、この星を脅かしていることは知っていますね?」

 

「はい、承知しています。……でも、どうしても私は、街へ行きたかったのです」

 

「民のことを思って、ですか」

 

「…………はい」

 

惑星カノンには、本来守護神である“戦神(いくさがみ)“という巨人が存在する。

 

カノンをあらゆる脅威から守り、敵を撃退するものだが、現在はその力を行使することができない。

 

王家の者にしかなれない戦神だが、今現在その力を持っているヒルメは不治の病に侵され、動くことすらもままならない状態だ。

 

当然次の後継者であるコトハには期待の目が向けられることになる。しかし…………

 

「私は未だ、戦神になれるだけの力は持ち合わせていません。……だけどせめて、民を安心させるくらいのことはしたいのです」

 

コトハには生まれてから一度も、戦神に変身する予兆は見られなかった。

 

優れた軍事力を持たないこの星では、戦神だけが頼りだ。

 

ボガールの対処も当然王族の仕事となる。

 

近頃現れ始めたボガールは人間と同サイズのものしかいないが、いずれは巨大な種も出てくるだろう。

 

その時に戦神の力がなければ、この星の歴史は終わりを告げる。

 

「あなたは戦いを望んではいない…………そうですね?」

 

「…………」

 

ヒルメの質問にこくり、と頷くコトハ。

 

先ほど着替えたばかりの真っ白な衣服を握りしめ、言葉を紡ぐ。

 

「私が戦神になれない理由は、きっと私が戦いを拒むことに関係していると思うのです」

 

「……ごめんなさいね。私が戦えれば、こんなことには……けほっ!」

 

「お、お母様のせいではありません!どうか安静にしていてください!」

 

咳き込む母を心配するコトハだったが、何もできない自分の無力さを思い出し、伸ばした腕を引っ込めた。

 

「あなたは優しくて強い子です。必ずやこの星の救いになると、私は信じていますよ」

 

「…………はい」

 

沈んだ雰囲気のまま「失礼しました」と部屋の扉を開けて出て行くコトハ。

 

太陽を形取った髪飾りがりん、と小さく揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真下に広がる、緑に囲まれた街。

 

ステラは惑星カノンの上空から街を見下ろし、様子をうかがった。

 

「……やけに賑やかね」

 

『祭りでもやっているのだろうか』

 

ゆっくりと地面に降り立ったステラが改めて周囲の状況を確認する。

 

故郷であるノイド星や、地球と比べれば技術はそこまで発達しているようには見えないが、周りに広がる豊かな自然が心地いい。

 

黒いコートを翻し、とりあえずは街へ向かおうと足を踏み出した。

 

「そういえばその援軍ってのはまだ到着していないみたいだけど」

 

『……そういえばそうだな』

 

「わたし達が早く来すぎたのかもね」

 

 

 

 

瞬間、目にも留まらぬ速さで短剣型のアイテム、ナイトブレードを背後へ振りかざした。

 

高速で引き抜かれたそれは回避不可能なほどに正確な狙いと動きが備わっており、数秒後にはステラの目の前に一つの亡骸が転がることとなった。

 

「……こいつは……」

 

たった今斬り伏せたものは幼い少女の姿をしており、切り裂かれた胴体からはおびただしい量の血液が流れ落ちている。

 

その直後、みるみる姿を変えていく少女の正体に顔を歪ませる。

 

『……ボガールだな』

 

「やっぱり、この星にいるのかしらね。…………アークボガール」

 

血を振り払った後でナイトブレードをコートへしまう。

 

奴らは自らの姿を変えて、獲物を襲う。

 

それに加えて、この見知らぬ土地で単独行動をするのはヒカリの言う通り危険なのかもしれない。

 

カノンの者がどこまでボガールのことを把握しているのかはわからないが、この星の住人にも協力を要請したほうが効率が良さそうだ。

 

「まずはそうね……、あの城へ向かってみましょう」

 

遠くの方に見える大きな建物を指差す。

 

『……いきなりだな。おそらくあそこはこの星の王族が住まう城だぞ?追い返される可能性もある』

 

「その時は、多少強引でも押し通るしかないわね」

 

『……まったく、君という奴は……』

 

面倒くさいことになるな、と今から先が思いやられるヒカリであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■————ッッッ!!」

 

「…………!?」

 

街の方から聞こえた叫びと地鳴りに反応し、咄嗟にその場から飛び出す。

 

巨大な影が視界に入り、思わず足を止めて灰色の怪物を見上げた。

 

先ほどのものとは比べ物にならない、巨大な体躯を持ったボガールだった。

 

「…………早速きたわね」

 

『先ほど倒したボガールに反応して出てきたのだろうか……?』

 

「どうでもいいわ、とにかく戦うわよ。できるだけカノンの人々の印象に残って、なおかつ感謝されるようにね!」

 

『少しは本心を隠すことも大切だと思うぞ』

 

「別にわたしは正義の味方ってわけじゃないし」

 

右腕に出現させたナイトブレスへブレードを装填。

 

青白い光に包まれたステラは飛翔すると、空のなかで巨人へと姿を変えた。

 

 

 




初回はオリジナルキャラの紹介といった感じでしょうか。
コトハの元ネタはオリジンサーガに登場したアマテ。ビジュアルはことりちゃんと瓜二つ、という設定です。
ただし一部彼女とは違い、髪が肩にかかる程度までしかありません。

外伝に入るにあたって、これまで文面だけだったステラの外見も絵におこしてみました。
とても上手いとは言えませんが、特徴は捉えているつもりなので参考までに。

ステラ

【挿絵表示】


コトハ

【挿絵表示】


全ての回に、とは宣言できませんが、外伝では挿絵もちょくちょく挟もうかと考えております。完全に自己満足なのでお気に召さない方には先に謝っておきます。m(_ _)m

次回の投稿はまた少し間が空くと思います。
それではまたノシ



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Episode2 つるぎ〜狩人〜

ジードにもついにゼロが登場、というわけで……?


「奴を城へ近づけさせるな!命を張ってでも守り通せ!」

 

「「「了解!!」」」

 

「コトハ様は、どうか俺のそばを離れないように」

 

「……っ……わかりました」

 

とうとう現れてしまった巨大ボガールを前にして、何もできない自分を呪った。

 

戦うのは嫌いだ。争いなんて…………戦神の力なんて、欲しいわけじゃないのに。

 

 

 

王族にはこの星を守る義務がある。このままじっとしているだけなんて到底許されない行為だ。

 

わかっている。わかっているはずなのに…………

 

(どうして私の身体は……動いてくれないのですか……?)

 

城の窓からのぞく灰色の肌が視界に入る度に足の震えがひどくなっていく。

 

こちらの戦力は数少ない戦闘機と、歩兵のみ。どう考えてもあの体躯を討ち果たせるとは思えない。

 

また自分のせいで、兵と民が無駄に命を散らしていくのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……あれは…………!?」

 

「……?ダイモン……?」

 

護衛についていたダイモンが外の景色を見て絶句した。

 

何事かと思った矢先、群青色の閃光が遠くの空で爆発するのが見えたのだ。

 

 

 

 

 

「光の…………巨人……?」

 

戦神に少し似ている……が、雰囲気はそれとは別物だ。

 

女神と例えるには語弊が感じられる、騎士然とした風格。

 

「……⁉︎コトハ様!?」

 

気がつけばコトハは、その場から飛び出していた。

 

 

◉◉◉

 

 

蒼い騎士は街を荒らしていた一体のボガールと対峙していた。

 

相手は通常のボガール。加えて単体ならば倒すことは容易いだろう。

 

巨人————ヒカリは右手を逆で前に出し、軽く挑発するように手招きした。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎————ッッ!!」

 

誘いに乗るように叫びながら突進してくるボガール。

 

それを軽くあしらうように受け流し、正確に手刀を与えていく。

 

(ぬるいわね)

 

『今の俺達ならば当然のことだろう』

 

今まで何体ものボガールをこの手で葬ってきた。この程度が相手ならば取るに足らない。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎————ッ!」

 

「フッ……!」

 

振り下ろされた鉤爪を両手で受け止め、身体を捻りながらのドロップキック。

 

重い蹴りが直撃したボガールはたまらず後方へとバランスを崩した。

 

その隙を見逃さず、ヒカリは抜刀するかのような動作でナイトブレスから光の刃を伸ばす。

 

「デエェェエエヤッ!!」

 

空中で軌跡を交差させる。質量を備えた残像が斬撃となって奴の懐へと射出された。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎ィィィイイイイ!!!!」

 

ブレードが炸裂した瞬間、耳をつんざくような断末魔が地に響き渡り、同時に爆散したボガールの肉片が周囲へ飛び散る。

 

戦場で静かに佇む蒼雷の騎士を、人々は神でも崇めるような歓声で讃えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう」

 

変身を解き、草原のど真ん中で一息つく。

 

もしかしたら一分もかかっていないのでは、と思うほどに早く片付いてしまった。

 

出会ったばかりの頃と比べれば、自分達の実力もかなりのものになっていると実感できる。

 

「掴みはオーケー……って感じかしら?」

 

『ああ。もしかしたら俺達のような存在とは馴染み深い惑星なのかもしれん』

 

過去にウルトラマンがやってきたのか、または彼らに近い存在が守り神としているのか。

 

前者は聞いたことがないのでおそらくは後者だろう。

 

……だとしても先ほどの民衆の反応は大げさすぎやしないか?と唸るステラ。

 

「まあとりあえず、危険視されてはいないみたいだし……このまま城へ向かって正体打ち明けちゃおうかしら」

 

『信じてもらえるかは別だがな』

 

気を取り直して城の方へと向かおうとしたステラだが、背後に猛スピードで迫る気配を感じ取り足を止めた。

 

ボガールとは違い全く悪意のないそれは一気にこちらへ肉薄してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だれ————」

 

「あっあの!」

 

振り返ると唐突に突き出された大きな瞳に戸惑い、つい後ろへ下がってしまった。

 

帽子が頭から落ち、隠していた表情が露わになる。

 

いつの間にかしっかりと握られていた両手。

 

目の前の少女は輝いた瞳をこちらへ向け、ベージュ色の髪を揺らしながら言った。

 

「あなた、ですよね!?さっきの巨人!」

 

「えっ……はぁ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

キラキラとした双眸をまっすぐとステラに向けた彼女は期待に満ちた声音で問うた。

 

「さっきの騎士様と同じ雰囲気があなたからするんです!そうですよね!?」

 

「えっと、あー…………」

 

視線を前から逸らしてヒカリに助けを求めるステラ。

 

(どうするの……!?ていうかどうしてバレてるのよ!?)

 

『俺に聞かれても困るのだが……』

 

 

 

 

 

「違うの……ですか?」

 

瞬間、衝撃が走った。

 

どこか甘えているような口調で上目遣いになる少女を視界に入れた直後、

 

「……その通りよ」

 

ステラは即答していた。

 

「やっぱり!」

 

ぱあっと表情を明るくさせる少女に奇妙な違和感を感じつつ、口を滑らせたことを後悔する。

 

 

 

 

 

「姫様————!」

 

遅れて駆けつけてきたのは武装した男達の集団だった。

 

一人だけ装いの違う青年が真っ先に飛び出し、間に入ってステラの手を握っていた少女を引き剥がす。

 

「……貴様、何者だ?」

 

そして最初に彼が向けてきたものは言葉ではなく、刀だった。

 

「待ってくださいダイモン!その方は……!」

 

少女の言葉を聞き流し、青年はステラの右腕へと視線を落とす。

 

先ほど現れた巨人と同じ物————ナイトブレスがあることを確認すると、青年は警戒心を隠すことなく首筋に刃を当ててきた。

 

「ずいぶんと荒っぽい歓迎ね」

 

「黙れ。先の青い巨人は貴様だな?あの風貌は噂で聞いたことがある。……ハンターナイトツルギ」

 

もはや懐かしく感じる名を出され、ステラとヒカリはきょとんとした様子で青年を見た。

 

「ダイモン!」

 

「……⁉︎姫様……!?」

 

少女は青年が構えていた刀を振り払ってステラの前へ立ち、庇うように両腕を広げた。

 

「彼女を傷つけることは許しません!」

 

「どうか退がっていてください。その者はこの宇宙でも悪名高い。目的のためならば手段を選ばない冷酷な人物として知れ渡っています」

 

ツルギとしての活動はともかく、地球での活躍はカノンの人々にとって知る由もない。

 

狩人として名が広まってしまったステラとヒカリに対して当然の反応といえるだろう。

 

(めんどくさいわね。蹴散らしちゃう?)

 

『いや、ここは穏便にいこう』

 

(冗談よ)

 

 

「ま、勝手にこの星に入ったのは事実だし。抵抗する気はないわ」

 

おもむろにホールドアップしたステラを見て青年は刀を鞘に戻し、ステラの両腕に縄をかけようとする。

 

「お待ちなさい!」

 

青年を制止した後、少女は威厳を含んだ声で言い放った。

 

「この方は城に連れて行きます」

 

「コトハ様……!正気なのですか!?」

 

「私の命令に背くあなたではないでしょう?」

 

「…………」

 

不服だと言わんばかりにステラを睨む青年だったが、少女の言った通り取り出した縄を懐にしまいこんだ。

 

(……助かったのかしら)

 

『そのようだな』

 

 

◉◉◉

 

 

「……いったい何をお考えなのだ……!あんな得体の知れない者を自室に入れるなど……!」

 

ダイモンは不安を募らせながら扉の前で腕を組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————光の国、ですか」

 

「ええ。まあわたしはそこの出身じゃないけどね」

 

用意された椅子に腰かけ、向かい合いながらお互いの事情を話した。

 

目の前にいる少女の名はコトハ。惑星カノンを統べる王族の姫君なのだという。

 

「それでね、アークボガールを倒すまでの間この星に滞在させてもらえれば嬉しいのだけれど」

 

「それはもちろん、こちらからお願いしたいくらいです!今の私達にボガールと戦う術はありませんから……」

 

「……?どういうこと?」

 

話を聞く限りでは、この星には“戦神”と呼ばれる存在がある。

 

王族のみが変身できるという、カノンの守り神だ。

 

ウルトラマンと同等の力を持つ戦神ならば、ボガールごとき倒すのは容易いはずなのだが……

 

「恥ずかしながら……。私は戦神になることができないのです」

 

「……戦神に……なれない……?」

 

「はい。戦いを拒む私を、王家の血が認めていないのかもしれません」

 

「なるほどね。……それで、わたし達に代わりにこの星を守ってほしいと」

 

『それでは、意味がないのではなかろうか?』

 

先ほどまで黙っていたヒカリがステラの身体を飛び出し、コトハに語りかけた。

 

『承知しているとは思うが、俺達は任務を終えればこの星を去ることになる。そうなればこの先のあらゆる脅威からカノンを守るのは君だ』

 

「……っ……それは……」

 

『アークボガールは強い。俺としても君の助力が欲しいところだ。どうにかして力を扱えるようにしてもらいたい』

 

「わかっています。……しかし、私は————」

 

コトハは苦い表情で言葉を濁す。

 

「——怖いのです。私の母が戦神になれなくなったのは、怪獣から受けた毒のせいですから。いずれ私もそうなると考えると……」

 

コトハの母、ヒルメが患っている病の原因は、ガーゴルゴンと呼ばれる怪獣との戦闘で負ったダメージだった。

 

別名石化魔獣とも言われる奴は、あらゆるものを石へ変える光線を放つことができる。

 

ヒルメはガーゴルゴンを倒すことには成功したが、同時に石化の呪いを受けてしまったのだ。

 

全身が徐々に石へと変わる呪い。いずれ心臓までも石に変わり、生命活動は完全に停止するだろう。

 

「お母様はもう歩くことすらできません。……バカみたい、ですよね。故郷が危ないのに、私は戦いから逃げようとしている」

 

「そう?」

 

「え?」

 

コトハの自虐を気に留めていない様子でそう口にするステラ。

 

「人間らしくていいと思うけど」

 

「…………」

 

「戦うことが怖いなんて当たり前でしょう?私はあなたを臆病だと思うけど、バカだとは思わないわ」

 

コトハは呆然とした顔で落ち着いているステラを観察するように見る。

 

「不思議な人ですね、ステラ様は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————ドォ……ォオ…………ン……!

 

「「……!?」」

 

何かが落ちてきたような衝撃を感じ、ステラとコトハは咄嗟に椅子から立ち上がった。

 

城の中からも騒がしい声が聞こえ、外で待機していたはずのダイモンが焦った様子で部屋の扉を開く。

 

「大変ですコトハ様!」

 

「何事ですか!?」

 

「それが…………正体不明の巨人が現れました!」

 

「なんですって……?」

 

てっきりボガールが再びやってきたのかと思ったが、違うみたいだ。

 

ステラは巨人と聞いて頭に浮かんだ予想を言葉にしてつぶやいた。

 

「もしかして……援軍?」

 

『その可能性はあり得るな。行ってみるとしよう』

 

「……!ステラ様!?」

 

地面を蹴り、コトハの自室から弾丸のような速度で外へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと…………ここでいいのか?」

 

城内にある庭園で一人立っている巨人が一人。

 

ステラは彼の足元までやってくると、その巨大な身体を見上げた。

 

「おっ!いたいた。暑苦しいコートに、いもくさい帽子…………あんたがヒカリか?」

 

青と赤と銀。

 

ブーメランのような形状をした突起が頭部に二つ。

 

さらに特徴的だったのは、目つきが悪いこと。

 

「あなたは……?」

 

「俺か?……ふっ」

 

自信ありげに腰に手を当て、巨人は自ら名乗り上げた。

 

「俺はゼロ。ウルトラマンゼロだ」

 

 

 

 




ゼロが登場です。
一章ではメビウスとヒカリがメインで進めてたので、なんだか新鮮ですね。
彼も外伝でのメインキャラとして活躍させていきます!

解説はゼロについて。

以前解説したものでゼロについての記述があったと思いますが、ここでもう一度。
この作品の世界ではゼロとベリアルに面識はありません。
セブンが父親だということは修行を終え、本人から聞かされたことになっております。
ウルティメイトイージスも持っていないので、原作と比べればかなり力が抑えられてる感じです。


今後のことを少し伝えると、外伝ではカノンとは別の舞台も用意したいな〜と思っております。
それでは次回もお楽しみに!



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Episode3 さだめ〜本能〜

3話目です。
今回はウルトラマンの戦闘はありません。


「……すっ……ごい」

 

ステラはタオル一枚というあまりにも無防備な格好でしばらく呆然としていた。

 

その理由は目の前に広がる楽園と見紛うほどの広大な大浴場だ。

 

サッカーもできそうなくらいに巨大で、きらびやかな装飾が施されている。

 

任務が終えるまでの間、この王城を拠点とすることをお姫様直々に許可されたのだが……

 

 

 

 

 

 

「…………♪」

 

他に誰もいないのをいいことにご機嫌な様子でステップを踏む。

 

かけ湯をした後で爪先からゆっくりと湯船に浸かった。

 

「ふぃ〜…………」

 

今敵襲でも受ければ瞬く間に制圧されてしまいそうな腑抜けた声が漏れる。

 

普段の彼女とは真逆の、クールビューティーとは大きくかけ離れた表情。

 

(十千万の温泉もよかったけど……こういう派手なお風呂もなかなか……)

 

改めて他に誰もいないことを確認し、浴槽の中で思いっきり足を伸ばした。

 

ちなみに、もちろんヒカリは外で待機である。よって正真正銘今の自分を目撃する者はいない。

 

(それにしても静かね……)

 

夕飯も終わり、城にいる者も身体を清める時間のはずだが、ここにいるのがステラだけというのも不思議だ。

 

おかげで独り占めできるので特別気になるわけではないが————

 

 

 

 

「ステラ様!」

 

「……!?」

 

物思いに耽っていたステラの不意を突くように浴室の扉が開かれる。

 

「ご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

ベージュ色の髪を翻し、布一枚の高貴な雰囲気の少女が一人早足でこちらに近づいてくる。

 

いつもと違い束ねていた髪は解いているので、少々長めに感じる。

 

「コトハ……。いいの?お姫様が薄汚い狩人なんかと一緒にお風呂はいって」

 

「もしかして、ダイモンが言っていたことですか?気にしないでください。彼は素直じゃないのです」

 

有無も言わせぬまま隣に浸かってくるコトハからほんの少し離れる。

 

着物をまとっている時はわかりにくいが、彼女はかなり()()()

 

無意識に自分の胸元へ視線を落としていたステラを、コトハの怪訝な目線が射抜いた。

 

「どうかしましたか?」

 

「べつに。……それにしてもあなたの顔、どこかで見たことあるのよね……」

 

髪をほどいた彼女の顔をまじまじと観察するステラ。

 

地球で知り合った者には当てはまらないが、確かにどこかでコトハに似た誰かを見たことがある。

 

「……気のせいかしら?」

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に一時間ほど湯船に浸かり続けているが、二人は尚もあがろうとしない。

 

それもそのはず、コトハはおしゃべりな口を閉じることなく話し続け、ステラは渋々それに付き合っていたからである。

 

普段同年代の女性と話したことがなかったのか、コトハは休むことなくカノンの伝統やらを話してくれた。

 

「そういえばこの浴場、他に人がいないのはどうして?」

 

彼女一人に話をさせるのも申し訳なく感じ、ふと最初に浮かんだ疑問を投げかけた。

 

「ああ。使用人の方々には専用のお風呂があるんです。ここは通常私や、お母様が使用する浴場なので」

 

「え、そうだったの?」

 

コトハに案内されてここに足を運んだのだが、今の事はまるっきり聞かされていなかった。

 

「なんか……悪いわね」

 

「いいえ!ステラ様とはこうして一緒に汗を流したかったので!」

 

どうやらすっかり懐かれてしまったようだ。

 

「そうだ!ステラ様に着てもらう服も用意してあるんです!」

 

「服?」

 

「はい!あのコートだと目立ってしまうので!」

 

確かにあの怪しい風貌で歩くのは少々浮いてしまう。

 

そう考えればコトハが気を利かせたのはありがたかった。

 

「ありがとう、色々と助かるわ」

 

「お安い御用です!」

 

 

◉◉◉

 

 

「おう、やっと帰ってき————ぶっ!?」

 

客室の扉を開いた瞬間、待機していたゼロが遠慮なく吹き出した。

 

十代前半の青年の姿に変身した彼は行儀悪く椅子に身体を預けている。

 

「あっはっは!なんだその格好!似合わねえぇぇぇ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

今のステラは普段着用している地味なコート姿ではなく、コトハが用意したメルヘンチックな衣服に身を包んでいた。

 

『あっ』

 

なにかを察したヒカリが短く声を上げた。

 

顔を真っ赤にしたステラがゼロのもとへ歩み寄り、無言でナイトブレードを振りかざす。

 

寸前で「うおっ⁉︎」と見事なバックステップで回避したゼロが防御姿勢をとった。

 

「なにすんだよ⁉︎やめて!?」

 

「避けないでよ。ちゃんと斬れないでしょ」

 

「わ、私はとってもお似合いだと思いますよ!」

 

バタバタと大騒ぎする三人を見て、ヒカリはため息をつかずにはいられなかった。

 

『こんな調子で大丈夫なのだろうか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……ゼロ、だっけ?あなたが光の国からの援軍で間違いないの?」

 

落ち着いた態度を取り戻した後、椅子に浅く座ったステラがゼロへ視線を流した。

 

「ああ、ウルトラの父から頼まれたんだ。親父も『いい経験になる』とか言ってな、勝手に話を進めやがったよ」

 

「親父……?」

 

『彼の父親はウルトラセブン。宇宙警備隊のなかでもかなりの実力者だ』

 

「ふーん……」

 

光の国や他のウルトラマンについては特に尋ねたことはなかったので、今ヒカリの口から聞いたことは初耳だった。

 

「ウルトラマンにも親子関係ってあるのね」

 

『当然だろう』

 

ヒカリには家族はいないの——と質問をしかけたところで口を閉じる。

 

今ここに光の戦士が二人も集まっているのは別に理由があるのだ。これ以上話を脱線するわけにはいかない。

 

「あの…………ゼロさんも私達と一緒に、戦ってくれるのですか?」

 

おどおどした様子のコトハが爆発物でも処理するような慎重さでそう聞いた。

 

一日で二人——ステラも合わせれば三人の異星人がやってきたという異様な状況を再確認したのだろう。

 

「まあな。大隊長の命令となればやるしかない。修行を終えてから初の任務だからな……腕がなるぜ」

 

「それじゃあ、まずは現状の整理を————」

 

 

 

「その必要はない」

 

立ち上がったステラがこれからの事を話そうとした直後、背後から扉の開く音と共に足音が近づいてくる。

 

そこにいたのは戦闘服に身を包み、刀を下げた青年だった。

 

「ダイモン」

 

「またあなた……?」

 

「……?だれだ?」

 

唯一顔を合わせてなかったゼロだけが首を傾げる。

 

「カノンの神聖な大地に侵入した挙句、怪しげな密会にコトハ様を巻き込むなど……到底許されない行為だ」

 

「やめなさいダイモン!この方達は味方です!」

 

「コトハ様、どうか今一度お考えを」

 

ダイモンは誠実さと真剣さに満ち溢れた瞳でコトハを捉える。

 

「このような狩人達の力を借りてはなりません。我々は自らの手で、この星を守らなくてはならないのです」

 

「とは言ってもよ。お前達にボガールを倒す手段はないんだろう?」

 

あくまでステラ達の力を借りようとはしないダイモンに、ゼロが何気なく問いを投げた。

 

「……親衛隊の力を侮るな」

 

「あっ……ちょっとダイモン……!?」

 

踵を返したダイモンに連れられて、コトハは淀んだ顔で頭を下げてから部屋を出た。

 

 

 

 

『……似ているな。出会った頃の()()に』

 

「……そうね」

 

赤い巨人とそのパートナーである少年の顔が脳裏をよぎる。

 

自分の実力を把握していないくせに変なプライドを持っているところなんかそっくりだ。

 

(今頃、なにをしてるのかしらね…………あの子達)

 

地球での暮らしが恋しいとは言わない。

 

だが自分達にとって、あの日々はあまりに尊いものだったのかもしれない。

 

不意にアークボガールに対する恐怖心が蘇ってきた。

 

ステラとヒカリの大事なものを奪い、その後も悪逆を繰り返す怪物達……。

 

一刻も早くこの因縁に終止符を打つべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

「————きゃあぁああああ!!」

 

「「『…………!?』」」

 

部屋の外から悲痛な叫び声が響き、ゼロとステラは考える暇もなく扉に体当たりする勢いで廊下に出た。

 

「どうした!?」

 

「ぁ……皆さん……」

 

曲がり角で硬直していたコトハとダイモンを見つけ、咄嗟に駆け寄る。

 

……血の臭い。

 

鼻の奥を不快に刺激する異臭を感じ、ステラは手を口元に当てて表情を歪ませた。

 

「……食べ残し」

 

ぽつり、と呟いた後で伏せた目を開く。

 

おびただしい量の血痕と、その中心に置かれていた()()()()

 

「な……どうして……!城の中に……!」

 

目の前の惨状を信じられないといった顔で見下ろすダイモンの横を通り抜け、ステラは冷静に現場を調査する。

 

残った腕がまとっていた布切れをつまみ、自分の顔まで持ち上げる。

 

「この服……使用人の制服ね」

 

「は、はい……そうだと思います。でも、どうして……」

 

「決まってるでしょ。……ボガールに食われたのよ」

 

「……!」

 

血の通っていない顔で膝から崩れ落ちるコトハ。

 

……遅れをとった。まさか既にこの場所に潜伏していたなんて。

 

潤んだ瞳の姫様に申し訳なく思いつつも、ステラは周囲を警戒した。

 

まだ近くにいるかもしれない————

 

 

「……!誰だ!」

 

暗い廊下の向こうから放たれた光弾がステラに迫ったのをいち早く察知し、ゼロは片手でそれを跳ね返した。

 

奥から逃げるような足音が聞こえ、ゼロが反射的に地面を蹴る。

 

「これ借りるぞ!」

 

「なっ……!おい貴様!」

 

横を通るついでにダイモンの刀を拝借し、超人としての脚力を見せたゼロが疾風さながらに廊下を駆けた。

 

「深追いは禁物よ!」

 

凄まじい速度で怪しげな影を追うゼロにそう忠告した後、ステラはもう一つの手がかりが床に落ちていることに気がついた。

 

(ベージュ色の……髪…………?)

 

数本の髪の毛が床に散乱しているのを見て、ふとコトハの顔が視界に入る。

 

おそらくはこの使用人も彼女と同じ色の髪をしていたのだろう。

 

(……そういうことね)

 

ボガールはあらゆるものに食物としての興味を示し、そして食らう。

 

それは()()()()()()()()()()()のだろう。

 

コトハと同じ髪色をした使用人が狙われた。つまりそれは——

 

(ボガールの狙いは……コトハを食べることね)

 

 




特に意識したわけではないのですが、少しホラーテイストになってしまいました。
ダイモンは話数を重ねる度にポンコツ感が出ちゃいますね……。
さて、コトハを狙い、城に潜んでいたボガールの正体とは……?


解説はボガールについて。

メビウス本編でも高度な知能や擬態能力を見せていたボガールですが、今作ではそれをもっと活用していきたいと思っています。
ミステリー要素というか、犯人当てみたいな展開に使っていきたいです。

それではまた次回!


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Episode4 あかし〜勲章〜

今回も少しハードな内容……


あちこちからすすり泣く声が聞こえてくる。

 

この日、一人の使用人の葬式がささやかに行われた。

 

沈んだ顔で彼女の遺影を見つめるコトハの隣に寄り添い、ステラは苦い表情と拳を作る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————くそッ!」

 

城壁に穴が空くほどの勢いで右拳を打ち付け、燃え上がる憎しみの炎を瞳に宿らせたステラが呻いた。

 

気まずそうに近づいてきたゼロが頭をかきながら声をかけようとするが、言葉が見つからずに黙り込んでしまう。

 

「…………この前のボガールは……まだ城のなかにいるわ」

 

「……そうだろうな。いや、すまない。仕留め損ねた俺の責任だ」

 

「別に責めてないわよ」

 

先日現場から逃走したボガールらしき影を追ったゼロだったが、城の複雑な構造を上手く利用され、結果取り逃がしてしまった。

 

「犯人はおそらくかなりの時間をこの城で過ごした者だ。完全に逃走ルートを確保済みの動きだったよ」

 

「……となると、少しは絞れそうね」

 

悔しそうな表情のまま受け答えするステラ。気持ちはゼロも同じだった。

 

光の戦士が二人も集まっておきながら、みすみす犠牲者を出すことになってしまった。悔しくないはずがない。

 

ましてや同じ過去を持つヒカリとステラにとっては尚更だろう。

 

「……戻りましょう。コトハが心配だわ」

 

踵を返して城の中に戻ろうとするステラの後ろ姿を追う。

 

(……師匠、親父。……俺、甘く見ていたよ)

 

 

◉◉◉

 

 

扉を開くと、彼女はすぐに目に入った。

 

顔の見えないコトハのそばに歩み寄り、視線を逸らして問う。

 

「……だいじょうぶ?」

 

「…………」

 

いつもなら言い終わる前に会話が続くはずだが、今回は数秒の間があった。

 

「……ステラ様、質問を重ねるようで申し訳ありませんが、今から私がする質問に正直に答えてください」

 

膝を折り、ベッドに顔を埋めて表情を見せないまま、彼女の声だけが小さく聞こえる。

 

「ボガールの狙いは…………私なんですよね?」

 

「……それは——」

 

一瞬迷うが、「慰めの言葉はいらない」とでも言われているような気がして、ステラは重い口を開いた。

 

「……その通りよ」

 

「やっぱり、そうだったんですね」

 

ぐったりとした様子で顔を上げたコトハの頬には涙を流した跡があり、その瞳からは普段の光は感じなかった。

 

「……あのメイド——ソフィーさんは最近入った方でして、よく『髪の色が同じですね』って話してたんです」

 

消えそうな声で語るコトハは今にも泣き出しそうに肩を震わせていた。

 

「ボガールがこの惑星を標的にした理由は……私の戦神の力に興味を示したから、違いますか?」

 

「……ええ、そうよ」

 

「…………夜の城は暗くて、かなり近づいてみないと顔も判別できません。ソフィーさんは……私と間違えられて、殺されたんですね?」

 

「…………」

 

「答えてください」

 

「——その可能性も、ないとは言い切れないわ」

 

精一杯のフォローだった。

 

実際のところステラもそうだと確信している。……だが、コトハの心が真実の重みに耐えられるかはわからない。

 

「……どうして…………どうして彼らは、こんな酷いことができるのでしょう……?こんな、進んで命を奪うようなことを——」

 

「それに関してはわたしも同じ立場だから一概には言えないわ。……でも、そうね」

 

目を伏せ、常々考えていたことをふとこぼす。

 

「強いて言うなら、本能なんじゃないかしら」

 

「本能……?」

 

「例えばそうね……わたしはヒカリと融合しているから食事はしなくても生きていける。けれどわたし自身“何かを食べたい”って欲求はあるわ」

 

食べたいから食べる。身体を綺麗にしたいからお風呂に入る。ほとんどの生命に共通することだ。

 

しかし————

 

「…………でもね、ボガール達の“食欲”は放っておいていいものじゃないわ。これ以上犠牲を増やさないためにも……」

 

ゆっくりと手を伸ばし、彼女の目の前までもっていく。

 

「わたし達と一緒に、戦ってほしい」

 

差し出された手のひらをしばらく見つめた後、コトハは首を横に振り、立ち上がった。

 

「……ごめんなさい」

 

それだけ言い残した彼女はステラの横を通り、悲しげな背中をこちらに向けながら部屋を出て行った。

 

 

 

『……今はそっとしておこう。彼女にはまだ荷が重すぎる』

 

「……今回の件はわたし達の落ち度でもあるわ。……今に見ていなさい」

 

ボガールの王の不気味な笑い声がふと頭のなかで再生される。

 

ノイド星を蹂躙されるなか、恐怖のあまり何もできずに身を潜めていた自分。

 

「わたしは……もう目の前の命を奪わせたりはしない」

 

 

◉◉◉

 

 

「ボガールが……コトハを狙っていると?」

 

「はい。……ですがご安心ください、我々親衛隊が全力を以って対処いたします」

 

横たわる女王の前に跪いたダイモンは、顔を伏せたままそう語った。

 

「……そういえば、光の国とやらの戦士達も協力してくれるようですね」

 

「————はい、そう聞いております」

 

こう答えるのは大変不本意だったが、女王の前で私情を挟むわけにもいかない。

 

この状況だ。悔しいが認めるしかない。今の自分達にボガールを討つ策は無いのだから。

 

これ以上犠牲者を出さないためにも、一時の感情は奥底に沈めよう。

 

「ところで、その光の戦士の名前は……?」

 

「……は。ステラとヒカリ……それにゼロ、と名乗っておりました」

 

不自然な沈黙が部屋を満たす。

 

何も言おうとしないヒルメに違和感を感じた直後、妙な寒気が全身を走った。

 

「……陛下……?どうかなされましたか?」

 

「……いいえ、なんでもありませんわ」

 

くうう、とお腹の虫が鳴く音が響く。

 

つい顔を上げてしまうと、恥ずかしそうに頬を紅潮させたヒルメと目が合った。

 

「……失礼、そろそろ昼食をお願いできるかしら?」

 

「ふふ……、直ちに」

 

ゆっくりと立ち上がり、一礼してから退室しようと背を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では遠慮なく、いただきます♡」

 

神経が引き裂かれるような苦痛が、ダイモンを襲った。

 

 

◉◉◉

 

 

城の近くから聞こえる鮮烈な地響きが耳朶に触れた。

 

立て続けに発生する地鳴りの正体を探るために、城にいた者は揃って窓際に駆け寄る。

 

使用人や兵士に混ざって外を確認したステラとゼロは、あまりにも想定外の事態に目を見開いた。

 

「なによ…………っ……これ……!」

 

五十……いや、もっといる。

 

人々は城を囲むようにして並んでいる巨大な影に息を呑んだ。

 

「ボガールだと……⁉︎どうしてこんなに……しかも同時に!?」

 

「……統率をとってる存在がいるわね」

 

考えるまでもなくアークボガールの仕業だろう。

 

しかし奴は一切自分の姿を見せようとはしない。

 

手下を大量に投入して、こちらの戦力を削ぐ気か————

 

「ゼロ!しばらく時間稼ぎをお願い!」

 

「それはいいが……お前はどこに行くんだ!?」

 

「奴らの狙いはコトハよ!まずはあの子の安全を確保しなくちゃ……!」

 

人混みを避けるために地面、壁、天井を順に伝って飛ぶように廊下を駆けた。

 

遠ざかっていくステラを見届けた後、ゼロは改めて窓の外の地獄へと顔を向け直す。

 

「まったく……初任務にしては重労働だな。じゃあご期待に応えられるよう——頑張るとしますか!」

 

ジャケットから取り出した眼鏡型アイテム——ウルトラゼロアイを目の前まで持ち上げ、

 

「デュア!」

 

目に充てる。

 

竜巻のような光をまといながら、ゼロは窓から身を投げた。

 

巨人の姿となったゼロは城に近づこうとしているボガールの集団を睨み、頭部のスラッガーを取り外して構えた。

 

「——いくぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——この臭い」

 

覚えのある鉄臭さを感じたステラは壁を蹴ってT字路を曲がった。

 

徐々に強さを増していく血液の気配に怯えながらも、彼女はその元を辿る。

 

『……!ステラ!』

 

「ええ!」

 

ふと視界の端に捉えた人影のもとへ急ぐ。

 

その青年は横腹から大量の血を流し、壁に背中を預けてうずくまっていた。

 

「あなたは確か……ダイモン……!?」

 

「……お前、か……」

 

曇った眼でステラを見つめるダイモンの顔からは生気が感じない。

 

『その怪我はいったい……!?』

 

「応急処置は済ませた……心配はいらん。少々血が足りないようだが……」

 

「誰にやられたの!?」

 

言いにくそうに口ごもった後、ダイモンはか細い声で伝えた。

 

「気をつけろ……ヒルメ様……女王陛下は既に……!」

 

「女王……?」

 

刹那、横からの殺意に反射的に動いたステラがダイモンを抱えたまま後方へ回避した。

 

二人がいた場所に禍々しい光弾が炸裂し、地面には巨大なクレーターが形成される。

 

「——外したか」

 

低い声が耳に滑り込んできた。

 

ただならぬ気配を察知し、警戒しつつ顔を上げる。

 

「……あなたは……」

 

白いドレスのような衣服に身を包んだ女性が一人、奥に立っている。

 

「久しいな、ノイド星の小娘。……そしてハンターナイトツルギ」

 

異様でありながら見覚えのある雰囲気に驚愕する。

 

……コトハの話では、女王はもう動ける状態ではないと聞いた。なら今目の前にいるコイツは——

 

「アークボガール……!」

 

「察しが早いな」

 

普通の人間がしていい顔ではない、歪んだ笑みを浮かべるアークボガール。

 

女王の姿のままゆっくりと近づいてきた奴にナイトブレードの切っ先を向けた。

 

「止まれ!」

 

「なんだ……?攻撃してはこないのか……?」

 

悪寒が走る。汗が止まらない。

 

対峙しただけで過去の忌々しい記憶が蘇ってくる。

 

氷像のように硬直したステラを嘲笑い、アークボガールは右腕を上げて光弾を作った。

 

 

 

 

 

「……ステラ様に、ダイモン……それにお母様!?」

 

後方からの声を聞いて三人の視線が流れる。

 

驚いた顔でこちらに駆け寄ってくるコトハの姿が見えた。

 

「お母様!?歩けるようになられたのですか!?」

 

「…………はっ!」

 

「え?」

 

笑い飛ばしながら放たれた光弾が、コトハを襲った。

 

「——ッ!!」

 

神風のごとき速度でダイモンを抱えたまま移動したステラが、ナイトブレードを駆使して射出されたすべての光弾を斬り落とした。

 

なにがなんだかわからない、といった顔で呆然とするコトハと死に体のダイモンを後ろで守り、勇ましくブレードを構え直す。

 

「ククッ……!あははははハハハハ!!」

 

「お母様……?」

 

「コトハ……ダイモンを連れて逃げなさい」

 

アークボガールが困惑するコトハの顔を見て愉快極まりないといった表情で笑った。

 

「あの女の娘か……滑稽だな。既に母親はいないことに気づかぬまま、この城に我と今まで過ごしてきたというのだから」

 

「コトハ!早く逃げて!」

 

言葉の意味を理解していないコトハに追い打ちをかけるように、アークボガールは本来の姿を自ら明かした。

 

「…………!」

 

口元を押さえて目の前の怪物に死人のような瞳を向けるコトハ。

 

紫色の肌に大きな鉤爪と角。

 

ボガールの王が、その全貌を露わにしたのだ。

 

「我の名はアークボガール。……お前の母親はなかなか美味かったぞ、()()()

 

最大の侮辱を含んだ笑い声が憎たらしく耳の奥を侵食してくる。

 

「お母様が……ボガール……?とっくの昔に食べられ、て……?」

 

理解したくない事実がコトハの頭を埋め尽くし、抱えきれなくなった感情が爆発する。

 

「コトハ様……!」

 

「いや……!いやあああああああああッッ!!」

 

泣き崩れる姫を計算通りと言わんばかりの様子で眺めるアークボガール。

 

「いい反応だ。絶望の感情はいいスパイスになる。我が食すまでの間、そのまま泣き喚いてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

「————おい下郎」

 

殺意に満ちた声音が伝わる。

 

「死ぬ覚悟は……当然できているわよね」

 

ナイトブレードを持った手を引き、腰を低く下ろすステラ。

 

「それは、自分に言い聞かせているのか?」

 

凄まじい力で地面を蹴る。

 

最後の言葉を皮切りに、ボガールの王と蒼雷の騎士は殺し合いを開始した。

 

 

 

 




いやー悪いことばかり起きますね。
元々カノン編はそんなに長くやる予定はなかったので、あと2〜3話程度で終わると思います。

では解説も含めて今後のストーリーを少しだけ予告していきます。

まずゼロの人間態のビジュアルについてはこんな感じです。


【挿絵表示】


人間でいえば高校生くらい、とのことなので少し幼めにしてみました。
ウルトラゼロアイはブレスレットに収納するのではなく、ジャケットにしまう感じですね。

そしてちょっと早いですが、カノン編が終わった後のことを話します。
二つめの舞台はキャラクターを除いて完全オリジナルのものになりそうです。
カノン編と同じく、μ'sのそっくりさんが登場します。
そのヒントとしてイラストも用意してみました。


【挿絵表示】


拙い画力ですが、もしキャラが判別できたら誰を元にしたキャラが出るのかわかると思います。
それではまた次回。


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Episode5 ことは〜言葉〜

ついにサンシャイン二期のPVが公開されましたね。
まだ内容は予想できない感じですが、放送されるのが楽しみで仕方ありません!


「ワイドゼロショットォ!!」

 

L字に組まれたゼロの腕から幾筋もの光が熱線となってボガール群のど真ん中へ直撃し、爆発。

 

かれこれ一時間は同じ戦況が続いている。

 

ボガール達はひたすら城を目指し、ゼロは背後にあるそれを防衛。

 

しかし全方位から取り囲んでいる奴らを完全に阻むのは不可能だ。

 

今はまだギリギリを保ってはいるが、ゼロ自身の体力が底をつくのも時間の問題だった。

 

「ちくしょう……!何体いやがるんだ……!」

 

五十体以上いたボガールも少しは減少した……と思いきや、見る限りだとそう数は変わっていない様子だ。

 

「……!?しまった……!」

 

ふと足元に視線を落とすと、親衛隊と思われる兵士たちが何人も地面に転がっている。

 

そして城の入り口には彼らを殺害したであろう小型のボガール————レッサーボガールの姿が確認できた。

 

(でかい奴に俺を足止めさせて、小さい方が伏兵として城に潜入……ってわけか……!)

 

何度もこちらの予想を上回っていくボガール達の連携に息を呑みつつ、ゼロは頭部のスラッガーを取り外して合体。

 

ゼロツインソードを目の前のボガール達へと構えた。

 

(もうこいつらは怪獣の思考能力を超えている……。これで宇宙人じゃねえってのがまた……)

 

末恐ろしい。

 

いや、通常のものやレッサーも充分に脅威なのだが、やはり最も注意すべきなのはアークボガールだ。

 

一度はその暴食さゆえに四天王の座を逐われ、現在は再びエンペラ星人の配下についたといわれているボガールの王。

 

「……気をつけろよヒカリ、ステラ。こいつら……俺達を殺す準備は整っているみたいだからな」

 

 

◉◉◉

 

 

背後で泣き叫ぶ少女の声が胸に刺さる。

 

ノイド星がボガール達の襲撃にあった時、何もできなかった自分の姿を連想させるコトハの嘆き。

 

————今度は誰の番だ?次は何を奪われる?

 

 

 

(させるものか……!)

 

絶え間なく振り下ろされる鉤爪をナイトブレードでいなし、反撃。

 

再び回避、斬撃。アークボガールとの戦闘が始まってからこれの繰り返しだ。

 

奴を巨大化させるわけにはいかない。この状況のなかで怪獣としての力を発揮されれば、こちらの勝機は完全に失われる。

 

ステラはなんとか奴をこの場に押し留め————いや、倒そうと思考を巡らせた。

 

「こんなものか」

 

「……!?」

 

ブレードの切っ先をアークボガールの腹部に突きたてようと迫った瞬間、奴の姿が目の前から消えた。

 

(うし……ろ————ッ!)

 

咄嗟に身体を捻って方向転換し、背後に回ったであろう奴に斬撃を浴びせ——

 

「あぐっ……!」

 

巨大な柱で殴られたかのような横薙ぎがステラを捉え、反応しきれずに直撃を受けてしまう。

 

石で組まれた壁に激突し、ステラは声にならない叫びを上げた。

 

『大丈夫か!?』

 

「平気よ、このくらい……!」

 

横腹を片手で押さえながら立ち上がり、紫がかった肌の怪物を睨みつける。

 

「貴様の眼からは覇気が感じられない。しばらく見ないうちに随分とかわいらしくなったじゃないか」

 

「黙りなさい……!」

 

「その心から以前のような殺意を取り戻さない限り……我には勝てんぞ?」

 

この緊迫した空気のなか軽口をたたく余裕を見せるアークボガール。

 

『……ステラ』

 

「心配しないで。わたしはもう、同じ過ちは繰り返さない」

 

地球で()()と出会ってわかったんだ。

 

手段を選ばなければ犠牲が増えるだけ。ここで冷静さを欠いてしまってはいけない。

 

「わたしは今宇宙警備隊、ウルトラマンヒカリの一部としてここにいるんだから」

 

「……ほう」

 

痛覚を無視しろ。ここで奴を殺すことが最重要事項だ。

 

敏捷さはこちらのほうが上だ。翻弄しつつ、奴の隙を——

 

「……ヒカリ」

 

『ああ』

 

頭の中で作戦を伝え、改めてアークボガールと対峙する。

 

「はああああッッ!」

 

奴の懐へ肉薄したステラは()()()()使()()()攻撃を開始した。

 

急に攻撃方法を変えた彼女に驚きつつ、アークボガールはそれすらも即座に対応してみせる。

 

「先よりもスピードが落ちているぞ?」

 

「……!」

 

身軽に体勢を変えてはトリッキーに打撃を放ってくるステラを軽くあしらい、一瞬よろけたところを狙って鋭い爪が振り下ろされる。

 

「——っ」

 

自らの身体が引き裂かれようとする直前、ステラはかすかに笑った。

 

()()()()()()()を感じたアークボガールはステラへの攻撃を中断し、後方へ爪を薙ぎる。

 

「貴様は……っ!?」

 

「デアッ!」

 

先ほどまではいなかった男性がナイトブレードを振り下ろし、アークボガールの肩に一太刀浴びせる。

 

「ぐうっ……!?」

 

男はステラの隣に並び、やがて身体を群青の光球へと変化させると、ステラの胸の中へ消えていった。

 

「一時的な分離……か……!」

 

「ここで消えろ……!」

 

再びナイトブレードを構えたステラが怪物へ接近する。

 

青い風が一瞬で眼前まで迫り、黄金色の刃が首筋に充てられ————

 

「……なっ……!?」

 

その攻撃は空振りに終わった。

 

地面に展開された異次元空間に身体の半分を埋め、その間に生まれた身長差で回避されたのだ。

 

「終わりだ」

 

鈍い音と感覚が聞こえる。

 

真下から突き出された鉤爪に反応しきれず、数秒後にそれはステラの腹部を貫いた。

 

「ぁ……!ごぼ……っ……!」

 

吐血し、苦痛に顔を歪ませるステラをまじまじと眺めた後、腕を振り払って彼女を弾き飛ばすアークボガール。

 

「ステラ様……!ヒカリ様……!」

 

「————……!う……っ……!」

 

「これで邪魔者はただ一人、あの光の戦士だけだ」

 

アークボガールは窓から見えるゼロに視線を移し、不気味な笑みを浮かべた。

 

「ハァァァアアアアア…………!!」

 

奴は全身を禍々しい光で覆い、その場からミサイルのように壁を突き抜けて外へ飛び出した。

 

 

 

「ステラ様……ステラ様……!!ステラさま!!」

 

ダイモンを壁に寄りかからせて休ませた後、血相をさらに青くさせたコトハが駆けつけてくる。

 

「はぁ……っ……はぁ…………ぅ……!」

 

「どうしよう、どうしようこんな……!」

 

頭の中が完全に漂白されたコトハは、ただ倒れ伏す彼女の手を握ることしかできなかった。

 

『くそっ……!このままでは……!』

 

ヒカリは持てる全ての力を治癒に回すが、それでもステラの体力が保つかはわからない。

 

「……ありがとうヒカリ。大丈夫、わたしはまだ戦えるから……!」

 

「やめてください!本当に死んでしまいます!」

 

無理やり身体に力を込めて立ち上がろうとするステラを慌てて制止するコトハ。

 

「もう……!もういやですこんなの!もうお母様もいない……!私のせいで、こんな……!こんなことになるなら……!大人しく食べられたほうがいいです!」

 

ボガール達の狙いは自分だと。

 

コトハは自分さえ犠牲になれば他の民は襲われないと思ったのだろう。

 

しかしそれは大きな間違いだ。奴らの暴虐はおそらくこの星の生命全てを食い尽くすまで止まらないだろう。

 

 

 

 

 

「……それ、本気で言ってるなら怒るわよ」

 

「へ……?」

 

「あなたがこうして弱音を吐いてるうちもね……他の兵士達は命をかけてあなたを守ろうとしているのよ」

 

頭部から流れてきた血をそのままにし、ステラはコトハの両肩に手をかけた。

 

「あなたがダイモンや彼らの働きを無下にするというのなら、それは救いようのないバカがすることよ」

 

「……っ……!」

 

「あなたはわたしの時とは違う……あなたには……!」

 

「ステラ様……?」

 

「あなたには力があるでしょう!それを使わないでどうするの!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

——集団でかかれ!

 

——一体ずつならば我々の敵ではない!

 

——コトハ様は無事か!?

 

——民の避難を急げ!

 

ステラの言葉を聞いた瞬間、今まで気づいていなかった周りの声がはっきりと聞こえた気がした。

 

「どうせ死ぬのなら、せめて最後くらいは戦ったらどうかしら」

 

腹部の傷口を押さえつつ、右腕を前にかざしてナイトブレスを出現させるステラ。

 

「私の……力……」

 

目の前で変身したステラが蒼い光に包まれて外へ移動するのを見届けると、コトハは胸に手を当ててぐっと息を呑んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「がはっ……!」

 

「ふん……歯応えのない」

 

大量のボガールを相手にし、満身創痍となったゼロを容赦なく蹂躙するアークボガール。

 

胸にあるカラータイマーが点滅を始め、鈍る感覚のなかで勇ましく両手を構える。

 

「テメェがこいつらのボスか……ヘヘっ……!わざわざ出てくるとはな、探す手間が省けたぜ」

 

「そうか」

 

「うおっ……!?」

 

発射された光弾を回避しつつ、待ち構えていたボガール達をゼロスラッガーで一掃。

 

「くっそ……!」

 

倒しても後からやってくるボガール達に行く手を阻まれ、アークボガールのいる場所まで到達できない。

 

「喰らえ」

 

「なに……っ!?」

 

ゼロの周囲に大量のボガールがいるにもかかわらず巨大なエネルギー弾を放とうとした奴に驚愕する。

 

「仲間ごと撃つ気か!?」

 

「仲間……?そいつらはただの駒だ」

 

凄まじい熱量がアークボガールの鉤爪に集中している。

 

「さらばだ————」

 

その腕が振り下ろされる直前に黄金の斬撃が奴の胴体に直撃し、体勢が崩れるのと同時に集めていたエネルギーが拡散する。

 

「デヤァァァァッ!」

 

「……!ヒカリ!ステラ!」

 

「死に損ないが……!」

 

ナイトビームブレードを伸ばして切りかかったヒカリのカラータイマーは既に赤く点滅していた。

 

振り下ろされた刃を腕で防ぎ、一旦距離をとるアークボガール。

 

「おい、大丈夫なのか……!?」

 

(戦いに集中して!)

 

『無理はするなよステラ……!』

 

どのみちこのままでは負ける。

 

腹に穴が空いていても、まだ動けるならやるしかない。

 

(倒す……!今度こそこいつを……!)

 

前に重なって立つボガールの群れを一瞥し、ヒカリは右腕のブレードで軽く(くう)を切った。

 

(邪魔を……!するなあああアアアアアアッッ!!)

 

ボロボロの身体で突き進もうとするヒカリの後ろから少し遅れてゼロが走り出す。

 

「うおおおおおっ!」

 

ゼロスラッガーを念力で操り周囲のボガールを次々に撃破し、アークボガールまでの活路を開いた。

 

『(————ッ!)』

 

右腕を天高く掲げ、ナイトブレスにエネルギーを凝縮。

 

ヒカリとゼロは同時に腕を十字に組み、それぞれの光線を放射した。

 

「「シュアッ!」」

 

まっすぐ前方へ伸びた二つの光は途中で重なり、一つになる。

 

「チィ……!」

 

アークボガールの前に残っていたボガール達全員が集結し、奴の盾となって防御した。

 

「「ハアアアアアア……!」」

 

爆発し、徐々のその数を減らしていくボガール達の後ろで、アークボガールは異次元空間に通じるゲートを開いた。

 

「ぐあっ……!」

 

合体光線は咄嗟に避けたアークボガールの腕を掠め、後方にいたボガール達までもを消滅させる。

 

「ハア……ハア……!ウッ……!」

 

「ちょ、おい……!?」

 

膝から崩れ落ちたヒカリを介抱するゼロ。

 

アークボガールは二人を忌々しげに睨んだ後、再び片腕を上げてエネルギーを集めだした。

 

「ここまでのようだな。貴様らはどう足掻いても我に食われる運命、ということだ」

 

「くっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————お待ちなさい!

 

突如頭の中で響いた声に反応し、三人は同時に城の方向を振り向く。

 

(この声は……)

 

直後、城とその周辺が眩い光を放ち始め、凄まじい力が溢れ出てくるのがわかった。

 

————ボガール。あなた達に最後の警告を出します。

 

「ほう?」

 

————直ちにこの惑星から立ち去りなさい。さもなくば戦神の名の下、あなた達を殲滅します。

 

「我はその手の交渉が苦手なのでね……!」

 

アークボガールは身体の向きを変え、集めていたエネルギーを城に向かって解放した。

 

刹那、見えない障壁に弾かれるように光弾が消滅する。

 

「……なに……!?」

 

————よくわかりました。それならば私も覚悟を決めましょう。

 

神々しいオーラが膨れ上がる。

 

今まで眠っていた力が、目覚めるような気配。

 

 

【挿絵表示】

 

 

————私の名はコトハ!この惑星、カノンの……()()である!




アークボガールは異次元空間も使用できるので厄介ですよね。
カノン編は次回でラストになるかな?

今回の解説は気になった人も多いであろうμ'sのそっくりキャラについて。

カノン編に登場したコトハから始まり、次の舞台でもとある三人を基にしたキャラが出てくる予定ですが……もちろん地球のμ'sメンバーとは一切関わりがありません。似てるだけです。
当初は完全オリジナルのキャラクターを出そうかと思っていましたが、ただでさえラブライブ要素のない外伝にさらに自キャラを投下するのは流石にやばいと思ったので、「μ'sのそっくりさん」として出てもらいました。

次回は満を辞して登場した戦神の戦闘……⁉︎


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Episode6 みらい〜明日〜

カノン編ラストです。
所々一章と繋がる部分があるので時間があればお探しください(笑)


その姿は、まさに女神と例えるのがふさわしいものだった。

 

体色は神秘なる白。全身に黄金色の装甲をまとい、頭部には太陽を形取ったようなリングが見える。

 

「はあっ……!」

 

戦神となったコトハは苦しそうに背中を曲げているヒカリとゼロへ歩み寄り、両手をかざした。

 

神々しい光の粒子が二人に降りかかり、赤色に点滅していたカラータイマーから青色の輝きが取り戻される。

 

(傷が……)

 

『これが……戦神の力なのか……?』

 

「大丈夫ですか、皆さん!」

 

腹部の風穴が一瞬で塞がったことに驚愕しつつ、ステラはヒカリの体内から前方に立つ敵を見据えた。

 

三人の巨人が並び立ったのを、アークボガールは忌々しげに唸る。

 

「どうも光の戦士とやらは悪運が強いらしい。……これではさすがの我も分が悪いか」

 

アークボガールは再び背後に異次元空間を展開すると、その場から逃走しようとバックステップを踏む。

 

『(逃がすかッ!)』

 

ナイトビームブレードを一閃。光の斬撃が奴に飛来し、その身体を切断せんと迫った。

 

しかしその攻撃はまたしても奴には届かない。到達する直前に横から発射された()()によって相殺されてしまったのだ。

 

(……!?こいつらは……!)

 

異次元空間からアークボガールを守るようにして立ちはだかる複数の怪獣達を順に確認し、その面倒さに思わず歯を食いしばった。

 

「とある男から拝借した下僕だ。我のボガール達よりは厄介やもしれぬぞ?」

 

『エレキングにアーストロン……ゴモラとレッドキングまで……!』

 

どれも瞳に光が宿っていない、人形のような怪獣達。

 

アークボガールが腕を一振りすると、それに反応して真っ先に三人のもとへ接近してきた。

 

「来るぞ!」

 

(コトハ、戦闘は初めてよね。もし危なくなったら————)

 

「大丈夫です」

 

自らの心配をするステラの言葉を遮る。微かに口元を引き締めたコトハは、純白の拳を強く握って構えた。

 

「戦いは嫌いです。……でも、これが私にしかできないことならば、私はそれを受け入れます。民を守るために」

 

(……そう)

 

数秒後に起こる乱闘に備え、ヒカリは視線を前に戻した。

 

「デアッ!」

 

近づいてきたレッドキングの豪腕を回避し、手刀を与えていくゼロ。

 

エレキングとアーストロンが放った電撃と熱線は戦神が障壁で防ぎ、その後ろから飛び出したヒカリがゴモラへと迫る。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッ!」

 

空中から距離を縮めようとしたヒカリに岩石のような尻尾が薙ぎ払われる。

 

寸前で身体を捻ってそれを回避、そのまま地面に降りて取っ組み合いに持ち込む。

 

「せいぜい励めよ。貴様らは生け捕りにして我のもとに運ばせた後で食ってやる」

 

異次元のゲートを開いて奥へと進むアークボガール。

 

(……!待て!)

 

『くっ……!』

 

奴のところへ行こうと足を踏み出した瞬間、ゴモラの繰り出したラリアットが眼前に迫った。

 

両腕でガードするが、予想以上の威力に思わず後退してしまう。

 

(どこへ行く気!?)

 

「我らボガールが拠点としている惑星がカノンだけだと思っていたか?……大間違いだ」

 

『なんだと……!?』

 

最後に言い残した言葉で不安を刻みながら、アークボガールは空中に現れたゲートを閉じて姿を消した。

 

 

 

 

 

「はああああっ!」

 

戦神が電撃を障壁で防御しつつ、手甲から伸ばした光の刃でエレキングを切り刻んでいく。

 

凄まじい痛みに甲高い悲鳴をあげ、見境なしに電流を放った。

 

「があっ……!?」

 

「ゼロさん!」

 

レッドキングと交戦していたゼロが流れ弾を喰らうかたちで直撃してしまい、体勢が崩れたところでさらに巨大な腕が追い打ちをかける。

 

吹き飛ばされたゼロに駆け寄り、コトハはおろおろと彼の背中に触れる。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「ああ。……しかし奴の電撃は厄介だ。この乱戦じゃ先に始末しようにも邪魔が入る」

 

『誰かが注意を引いて、エレキングを確実に仕留めるのが一番の手だろう』

 

(ていっても……!)

 

話している途中でこちらに放たれた炎柱を咄嗟に回避する。アーストロンが吐き出したマグマ光線だ。

 

(数は向こうの方が多いわ。わたし達だけじゃ人手不足よ)

 

大量にいたボガールがいなくなった分まだマシだが、こうも特徴と能力が一致しない連中に一斉にかかってこられては苦戦を強いられるのも仕方がない。

 

レッドキングが大地に腕を突っ込み、引き抜く。

 

巨大な岩石を取り出した奴は、ヒカリ達に目掛けてそれを放り投げた。

 

『(————!?)』

 

ブレードで砕こうとしたところでステラとヒカリは遠くから発射されるミサイル攻撃を察知し、動きを止める。

 

遠方から放たれたソレは岩石を迎撃し、同時に四体の怪獣へビーム砲撃を放ったのだ。

 

「あれは……戦闘機か?」

 

(……!あいつ……)

 

城のある方向から飛び出してきた一機の戦闘機、その操縦席へと視線を移した。

 

 

 

『無事ですかコトハ様!』

 

「ダイモン!」

 

援護射撃を撃ちながら上空を飛翔する戦闘機。

 

注意がそちらに向いたのか、エレキングとアーストロンが一斉に戦闘機へと電撃、熱線を放射する。

 

『囮は俺が引き受けます!コトハ様はそいつらと一緒に奴らを!』

 

通信機を通して大音量で伝わってきた彼の声に、コトハは安堵の溜息をついた。

 

「あはは……本当に私は、助けられてばかりですね」

 

(誰にも助けられないで生きてる人なんかいないわ。……たとえ女王でもね)

 

「さあお喋りは終わりだぜお嬢さん方!」

 

ゼロの一声で怪獣達へと注意を引き戻すステラとコトハ。

 

「教えてやろうぜ……俺達を倒すのは——二万年早いってな!」

 

「そうですね!やってやりましょう!」

 

(……なんで二万年?)

 

勢いを取り戻した三人は再び走り出し、戦闘機に気を取られているエレキングとアーストロンへ肉薄する。

 

スラッガーを繋げ、ゼロツインソードを振りかざしたゼロの横からナイトビームブレードを伸ばしたヒカリが疾駆する。

 

二つの方向から繰り出された斬撃がエレキングの角を両断し、感覚を失ったことでよろけた隙をついてさらに攻撃を加えていく。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッ!」

 

「やああっ!」

 

戦神の両腕から眩い光が放射され、真っ直ぐにエレキングの胴体を貫いた。

 

断末魔を上げて消滅したエレキングに気づいたのか、戦闘機に気を取られていた他三体の怪獣達が一気にこちらへ接近してきた。

 

発射してくる熱線を避けてレッドキングの腕をゼロが、ゴモラの尻尾を戦神が受け止める。

 

「デヤアアア!」

 

奥でマグマ光線を吐き出し続けるアーストロンの懐に突っ込んだヒカリは、咄嗟にナイトブレスにエネルギーを溜めて即座に解放。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッッ!」

 

ゼロ距離で直撃したナイトシュートが黒い身体を焼き切られながら、ロケット噴射のように天高く昇っていく。

 

空中でアーストロンが爆発四散したのを確認し、ヒカリは背後に向き直った。

 

 

「決めるぞお姫様!」

 

「はい!」

 

ゼロスラッガーを胸元にあるプロテクターに取り付けたゼロが力を込めた後、

 

「ハアッ!」

 

カラータイマー部分から凄まじい閃光が煌めいた。

 

「はああああ……!やあっ!!」

 

同時に戦神の両腕からエレキングを仕留めた光線が放射され、ゼロツインシュートと共にゴモラ、レッドキングへと殺到する。

 

「この星は……私が……守るんだ!」

 

二体の怪獣に光線が衝突する直前にコトハはさらなる力を込める。

 

その光柱はゴモラとレッドキングの強靭な肉体を物ともせず、神々しさすら感じる破壊力を以てそれらを打倒した。

 

 

 

 

 

 

「はあっ……!はあっ……!」

 

大量のエネルギーを使用したことで疲労がやってきたのか、戦神は膝をついてしまう。

 

(やったわねコトハ)

 

「ステラ様……ヒカリ様……」

 

『周りを見てみたまえ』

 

ヒカリに言われるがまま周囲の声に耳を傾ける。

 

避難していた民たちの「ありがとう」という声が、コトハのもとに届いていた。

 

 

 

『この声援だけで……いくらでも戦える気分になるだろう?』

 

「……でも同時に、大きな責任も伴う……ってことですよね」

 

ヒカリとゼロをそれぞれ見上げ、戦いの女神は微笑する。

 

「やっぱり私に、戦いは向いていませんね」

 

 

◉◉◉

 

 

「近況報告、ねえ」

 

状況も落ち着いてきたので、アークボガールの後を追う前に地球へメッセージを送ることとなった。

 

ヒカリが現在記録している映像が空中に映し出される。

 

コトハの自室で蒼い球体と睨めっこするステラが意を決したように口を開いた。

 

「ええっと……映ってるのこれ?」

 

『ああ』

 

「……こほん。久しぶりね未来、メビウス。連絡が遅れてごめんなさい」

 

地球で任務を続けているメビウスとそのパートナーである少年に向けてのメッセージだ。

 

カノンに到着してから波乱続きで無事を報告する暇もなかったので、おかしなタイミングになってしまったが。

 

「ステラ様?何をしているのですか?」

 

「……!?」

 

音もなく背後に現れたコトハが横から割り込んできて、録画している画面に入ってしまった。

 

「ちょっ……!今取り込み中だから!」

 

「なんですかこれ⁉︎私、見たことも聞いたこともありません!不思議です!」

 

「あーもうっ!!とにかく!わたし達は無事だから!それだけ!あなた達も頑張りなさいよ!」

 

無理やり終わらせたステラはどっと疲れた様子でコトハと目を合わせた。

 

「すっかり元気になったようね」

 

「はい!おかげさまで!」

 

アークボガールを撃退してから三日が経っていた。

 

光の国からウルトラサインで次の目的地が送られてくるまで城に滞在させてもらっているのだ。

 

「ダイモンも安静にしていれば命に別状はありません」

 

「あいつもだいぶ無茶してたしね……」

 

一瞬の沈黙の後、コトハは何やら眉を下げて聞いてきた。

 

「……行ってしまうのですね」

 

「ええ。元々わたし達はアークボガールを倒すために来たんだもの」

 

奴が去ってからこの星でボガール騒ぎが起きることはなくなった。おそらくは拠点を完全に別の惑星へ移したのだろう。

 

 

 

「入るぜお二人さん」

 

ノックもなしに唐突に部屋へ入ってきたゼロが軽く手を振りながら歩いてくる。

 

『警備隊からの指令か?』

 

「ああ、ついさっきな。すぐに向かえだとよ……まったく人遣いが悪いぜ」

 

「充分休めたし、このまま行っちゃいましょうか」

 

右腕にナイトブレスを出現させたステラがナイトブレードを取り出す。

 

「待ってください!」

 

変身しようとした直前、コトハは名残惜しそうに手を伸ばした後、自分の胸元へ引っ込めた。

 

 

「……また会えるでしょうか?」

 

「さてね、今のところ予定はないわ。……それに、もうこの星はあなた達だけでもやっていけるでしょ」

 

微妙な表情の変化だが、その時ステラは確かに笑っていた。

 

ぐっと息を呑んだコトハは、それに応えるように笑顔を浮かべる。

 

「……ありがとうございました!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

小さく頷いた後、眩い閃光が部屋を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さあ行きましょうゼロ、ヒカリ。任務はまだ終わってないわ)

 

「もちろんだぜ……!」

 

『ああ、今度こそこの因縁にケリをつけよう』

 

二人の巨人がカノンの空を駆け抜ける。

 

女王はその姿を、いつまでも眺めていた。




今回はいきなり解説から!

登場した怪獣は全てジードに登場したものとなっております。
ちなみにアークボガールにこれらの戦力を提供したのは一章で色々と暗躍していた黒いアイツです。
スペックもオリジナルよりは低めなので、案外あっさりと倒されてしまいましたね。

次回からは新しい舞台……!なのですが、作者のリアルでの都合により更新が遅れると思います。
読者様には深いお詫びをm(_ _)m


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Episode7 ゆかり〜由縁〜

今回から新しい星での話になります。
まだプロローグっぽい感じです。


どれくらいの時間が経ったのだろう。

 

俺は暗い、暗い、どこまでも広がっている空間のなかで一人彷徨っていた。

 

考えるという行為を重ねるごとに俺の意識ははっきりとしたものに変わる。しかしわかる事は皆無だった。

 

何か大事な使命を与えられたはずなんだ。守るべきものがあったはずなんだ。

 

……思い出せない。もしかしたら俺は役目を果たすことなく廃棄されたのかもしれない。

 

自分のなかに強大な力が眠っていることはなんとなくわかるが、それを行使することは結局一度もなかった。

 

この身体は簡単には死んでくれない。そう設計されているからだ。

 

 

今度は、どうしようか。

 

やるべきことは思い出せない。やりたいこともあるわけではない。ただひたすらにこの何もない空間を漂う、デブリにも等しい生き方。

 

視界の端に惑星が見える。気づけば俺は自ら進行方向を変え、真下にある一つの星に向かった。

 

もしかしたら、少し心細かったのかもしれない。たまにはこんな気まぐれを起こすのも悪くないだろう。だって他に何をするべきかわからないのだから。

 

他の生命と触れ合いたい。いつからか、心の隅でそんな願いが生まれ始めた。

 

 

◉◉◉

 

 

失敗した。

 

後ろから“欲”をむき出しにして追ってくる怪物たちの鳴き声が聞こえる。

 

両手いっぱいに抱えた保存食を落とさないように気をつけながら、少女はひたすら走る。

 

食べ物の備蓄が少なくなったのを感じ、ゴーストタウンと化した街に降りたところまではよかった。

 

まさか化け物達がここまで広く生息していたなんて思いもしなかった。

 

「いやだ……やだ……いや……!!」

 

一度でも足を止めれば追いつかれる。そして食われてしまう。

 

あの気持ち悪い皮膜で、無惨に噛み砕かれる。丸呑みかもしれない。

 

想像したくもない映像が脳裏をよぎり、少女は一層恐怖を色濃くしながら逃げ惑った。

 

 

 

 

「あっ————」

 

ごめんね、と心のなかで自分の帰りを待つ人達に謝った。

 

周囲が暗くて気づけなかった。足を滑らせて谷底へ落下する。

 

どんどん崖から離れる身体に、例えようのない痛みが貫いた。

 

「…………ぁぁ」

 

痛みを感じたのはほんの数秒だった。あとは消えそうになる意識をぼんやりと繫ぎ止めたまま、足を滑らせたであろう崖の方へ視線を移す。

 

残念そうにこちらを見下ろす怪物達の姿が確認できた。

 

食べられるよりは、崖から落ちて死んだほうがマシだ。……でも、

 

「……最後に……もう一度、二人の顔が……見れたらなあ……」

 

水のなかに溶けていくように視界が薄れる。

 

「…………」

 

何かが見える。

 

天国に誘うかのように少女の目の前を照らす一つの光。

 

神様————ふとそんな単語が頭に浮かんだ。

 

 

◉◉◉

 

 

この星にもう希望はない。最初にそう思ったのは妹が殺された瞬間からだった。

 

自らをボガールと名乗る連中は瞬く間に地上を支配し、暴虐の限りを尽くして自分たちに恐怖を刻み込んだのだ。

 

「……ノンの奴、遅いわね」

 

ボロボロになった布で身体を隠している少女——ミコはテーブルの前で頬杖をつきながら呟いた。

 

「ねえエリィ」

 

「…………」

 

軍服に身を包んだエリィは返事することもなく、ただ一つの武器である“ブレイガン”の手入れを行っていた。

 

この惑星——ハビットの生き残りはおそらくあと三人。他の住人は皆怪物の腹の中だ。

 

かつては機能していた軍隊も今はエリィを残して全滅。この小さな星で、圧倒的な数で攻めてくるボガールを相手にすることはできなかった。

 

「ちょっと行ってくる」

 

低い声でそうミコに告げた後、席を立ってアジトの出入り口へと歩く。

 

彼女の横を通り過ぎようとしたその時、静かな声で引きとめられた。

 

「どこへよ」

 

「……決まっているわ。ボガールを一匹残らず始末するのよ」

 

「そんなこと、本当にできると思ってるの?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

爆発的に湧いた怒りの感情が思考能力を低下させ、エリィは気づけば鬼のような形相でミコを睨んでいた。

 

「ねえエリィ、勘違いだったら謝るわ。……あんた、妹の跡を追うつもりじゃないわよね」

 

「少し黙りなさいミコ」

 

目に見えるほどの殺意に満ちた視線が突き刺さる。

 

復讐しか頭にないと訴えかけているような表情が痛々しくて見ていられなかった。

 

 

 

ほんの数日前、今まで存在が確認できなかった“ボガールの長”と思われる人物が姿を見せ、生き残っていた住民のほとんどを喰らい尽くした。

 

残党のなかで戦闘の心得を持っていたエリィとミコは他の人間を守ろうと必死に抵抗したが、その想いは奴によって簡単に潰えてしまったのだ。

 

「アリスは……!あの子は何も悪いことなんかしていないのに……!他の子供達も、あなただって!」

 

エリィはミコの身につけている薄汚れたマントをめくりあげると、その悲壮感漂う姿を目視した。

 

左側にぽっかりと空いたスペースに————腕はどこにもない。

 

「私の右目もあなたの左腕も……アリス達の命もみんな……!あの“ステラ”とかいう女に奪われたのよ!?」

 

忘れることはできない。

 

生者とは思えないほどに冷徹な瞳と漆黒のコート。

 

辺り構わず、死神のように遺体を積み上げていく姿を覚えている。

 

慈悲の欠片も持ち合わせていない、食欲を体現したかのようなその女は、ボガール達を率いてこの世界を暗闇に包んだ。

 

「アリスの跡追いね……それも悪くないわ。でもね……あいつを殺さない限り、私は死んでも死にきれない」

 

じっと身を潜めて震えるだけなんてとても耐えられない。

 

軍の同胞は皆死んだ。だがたとえ自分ひとりになったとしても、このハビットを守るという使命は変わらない。

 

そして何より、まだ仇を討てていない。

 

「無謀でも構わない。生きている限り、私はこの剣を奴らに向け続ける」

 

再び背中を向けて扉の前に立つエリィ。

 

彼女が手を伸ばしたその時、軋む音と共にそれは開かれた。

 

 

「ただいまエリィ、ミコ」

 

「……ずいぶん遅かったわね」

 

「いやあ、ちょっと予想外の事態が発生してな」

 

紫色の長い髪を後ろで二つに束ねた少女が大量の食糧と水を抱えて入ってきた。

 

エリィやミコと同じ、この星最後の生き残りであるノンだった。

 

「でもほら、食べ物はこんなに手に入ったよ。ここのところ節約してたし……たまには二人もパーっとしたらええんやない?」

 

「ごめんなさいノン、私はこれから出かけるの。ミコと二人でやってて」

 

そう言ったエリィは表情を見せずにアジトを出て行く。

 

「……心配やね」

 

「あいつも馬鹿じゃないわ。自分の身に危険を感じれば戻ってくるわよ」

 

エリィが一人でボガール狩りをしに出て行くことは初めてではないが、今回のは少し違う。

 

妹を殺されたことでタガが外れたのか、今までとは比べ物にならない殺意を感じた。

 

我を忘れた結果命を落とす可能性も考えられる。

 

「ウチに……できることはないのかな」

 

やるせない顔になったノンを一目見た後、ミコはマントに顔を埋めては苦い表情で歯を食いしばった。

 

 

◉◉◉

 

 

誰もいなくなった街を歩き回るのはいつになっても慣れない。

 

かつては活気に包まれていたこの街も、今は化け物が彷徨う廃墟と化している。

 

侵略者にとって住人がたったの三人という物件は願ってもない好条件なのだろうが、ボガールが徘徊しているとなれば話も別だ。

 

惑星ハビットはすっかり死んだ星になっていた。

 

(……くさい)

 

不快な臭いを感じ取ったエリィは腰に下げていたブレイガンを握り、光の刃を伸ばす。

 

建物の陰に隠れていた三体のボガールが姿を現し、一斉にエリィのもとへと突進してきた。

 

欲望の獣が向かってきたのを流し目で確認しつつ、腰を低くしてブレイガンを構える。

 

「「「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッ!」」」

 

「…………っ!」

 

息を止め、込めていた力を解放。胴を捻り、身体ごと回転させて三百六十度の斬撃をお見舞いする。

 

凄まじい熱で編まれた光剣がボガール達の身体を焼き切った。

 

「……どこにいるの……あの女は……!」

 

妹を殺した憎き奴の名を呟きながら歩き出す。

 

「ステラは……!どこだッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、上空から降ってきた殺意に目を見開いた。

 

「————…………!」

 

先ほどの三体とは別に、もう一体がそばにある建物の屋根に隠れていたのか。

 

しまった、と声に出す前に降り立ったボガールが背中の被膜を広げてエリィに迫る。

 

(こんなところで……!)

 

握りしめたブレイガンを振り上げるが、間に合わない。

 

エリィは自分を食らわんとするボガールのあまりの醜さに目を閉じた。

 

 

 

 

「はっ……!」

 

「……!?」

 

自分が食われる代わりに、ボガールが斬り伏せられる音が聞こえる。

 

恐る恐る目を開けると、そこにはボガールの亡骸と————面妖な風貌をした一人の男が立っていた。

 

「御免。貴様……先ほど“ステラ”と口にしていたな?」

 

「あなたは……?」

 

血の滴る刀を一振りし、鞘に戻す。

 

 

 

「俺の名はザムシャー。わけあってこの星を訪ねてきた者だ」

 

 

 




まさかのザムシャー再登場です。
新しい舞台になるにあたって追加戦士を考えていたのですが、ザムシャーの他にもう一人います。
冒頭のモノローグにヒントがあるので、気づいた人には「アレを出すのか……」とにやけてもらえればいいかな、と(笑)

今回の解説はエリィについて。


【挿絵表示】


外見は絵里ですが、性格は彼女より少々過激です。
ボガールとの戦闘で右目を失い、包帯で顔半分を覆っています。
使用している武器はスターウォーズに出てくるエズラのライトセーバーをイメージしてくれればいいと思います。


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Episode8 みなもと〜生命〜


ハビット編二話目です。
前回後書きで言っていた二人目の追加戦士の名前が明らかに……⁉︎


『それは————間違いないのか?』

 

「ああ、次に向かうのは惑星ハビット。小さいがそれなりに住民はいる」

 

(ヒカリ、どうかしたの?)

 

宇宙空間を移動しながら光の国からの指令を読み上げるゼロ。

 

目標地点である星の名前を聞かされたヒカリは、なぜだかそれに反応を示した。

 

『……いや、その星のすぐ近くに確か……』

 

(……?)

 

「見えてきたぜ」

 

遠くの方に浮かぶ小さな惑星を指差したゼロに続いて、ヒカリもまた飛行速度を上げる。

 

地球の半分ほどの大きさしかない惑星、そしてその隣には——かつて輝いていたであろう死の星が見えた。

 

(……!)

 

『……惑星アーブ。一時期俺が研究対象に定めていた星だ』

 

(これが……)

 

ハビットからそう離れていない位置にあるアーブを見下ろす。

 

生き物の気配など全く感じない、寂れた雰囲気が漂っていた。

 

(……絶対、勝とうね)

 

『ああ』

 

 

 

「おーい!何やってんだー!?」

 

先に進んでいたゼロが止まっていたヒカリとステラに呼びかける。

 

今は任務に集中しよう、と二人も身体の向きを戻してハビットの方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラム街、というのが第一印象だった。

 

建物のほとんどが半壊し、以前まで人間が住んでいたとも感じさせないくらいに寂れている。

 

変身を解除したゼロとステラはゆっくりと地に降り立ち、周囲に危険がないかを確認してから口を開いた。

 

「やっぱりここもボガールにやられた後みたいだな」

 

「……そうね。手分けして生き残っている人間はいないか探しましょうか」

 

「わかった。何かあったらウルトラサインで知らせてくれ」

 

ゼロとステラはお互いに背を向け、それぞれ反対方向に足を踏み出す。

 

……カノンの時とは比べ物にならない。

 

戦神のような存在がこの星にはいないのか、おそらくはロクに抵抗することもできないまま食い尽くされたのだろう。

 

——ノイド星と同じように。

 

地球にはウルトラマンが、カノンには戦神がいる。

 

だけどこの宇宙にはそういった守り神が存在しない惑星だって数えきれないほどあるのだ。このハビットや、ステラの故郷であるノイド星もそれに当てはまる。

 

そのような星が侵略者のターゲットにされた時には戦って勝つしか自分たちを守る方法がない。

 

……ではその戦いにすら負けてしまったら?

 

「……つらかったでしょうね」

 

『ステラ?』

 

「なんでもないわ」

 

帽子を深く被りなおし、ステラは辺りの惨状を視界に入れながら歩いた。

 

 

◉◉◉

 

 

「くそっ……胸糞悪いな、ボガールの奴ら……!」

 

あちこちに血痕が付着している瓦礫に足を取られないように慎重に進む。

 

ゼロはこの任務が与えられてからずっと、初めて目にする圧倒的な悪逆に震えていた。

 

歴戦の戦士に鍛え上げられた精神でも音を上げたくなるくらいには酷い有様だった。

 

「……あーところでさ、少し質問していいか?」

 

ゼロは不意に立ち止まり、()()()()()自分の後をつけてきている気配に話しかけた。

 

「お前、ボガールじゃあないよな?」

 

物陰に潜んでいた一つの影が姿を表す。

 

大きな布で小さな身体を隠している少女が顔を見せ、ゼロの前に立った。

 

ツインテールの髪が短冊のように揺れる。

 

 

 

「ええ、そうよ。食べることしか頭にない連中と一緒にしないでよね」

 

「ってことは……この星の住人か?だったら————」

 

刹那、嵐のような蹴り技が前方から乱舞し、反射的に腕をクロスさせてそれを防御する。

 

追撃してきたのを受け止めて放り投げるが、少女は空中で身軽に一回転すると難なく着地を成功させてしまった。

 

「いきなり何すんだ!」

 

「悪いわね、私にも確かめさせてちょうだい…………あんたがボガールじゃないかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ……!」

 

右腕の切り傷を押さえ、焼けるような痛みに耐えながら距離をとる。

 

ステラは突然現れた金髪の少女と顔を合わせ、絞り出すような声をあげた。

 

「あなたは……?」

 

「…………やっと見つけた」

 

握られた光の剣が振るわれ、軌跡が描かれると共に斬撃が繰り出される。

 

目で一つ一つを追い、確実に躱しながらナイトブレードを懐から取り出した。

 

「覚悟しなさい……ステラ……!」

 

「……!?どうしてわたしの名前を……!」

 

「ふざけるな!」

 

凄まじい熱を帯びた一振りを寸前で回避し、バク転をしながら再び彼女から離れた。

 

路地裏に隠れ、先ほど受けた傷の痛みに顔を歪ませる。

 

どうして少女は自分の名前を知っているのか、どうして襲ってきたのか。

 

あらゆる疑問よりも先に、ステラは金髪の少女の瞳が心に深く突き刺さっていた。

 

(復讐の眼差し——以前のわたしと同じ目だ)

 

どういうわけか彼女は自分を敵対視しているらしい。身に覚えはないがそれなりの対応をしなければこちらが殺される。

 

手加減して勝てる相手ではない——

 

『この星の生き残りとみて間違いないようだな』

 

「たぶんね。なんで恨まれてるかはわからないけれど」

 

近づいてくる足音を察知し、身を隠しながら暗い路地裏を駆ける。

 

「……!?」

 

直後、後方から放たれた無数の光線に目を見開いた。

 

ナイトブレードで全弾防ぎ、徐々に距離を詰めてくる少女を睨む。

 

(遠距離と近距離を兼ね備えた武器……!)

 

「ステラぁぁぁああああああ……!」

 

「ヒカリ!」

 

『ああ!』

 

小刻みに飛ばされてくる熱量を回避しつつ、ステラはヒカリに頼んでゼロへ助力を求めるウルトラサインを送信した。

 

「はあっ!」

 

「……っ」

 

壁を蹴ってこちらに接近してきた少女は、その金髪を鬣のように振るって光剣を振り下ろす。

 

ステラは全霊を以てそれをナイトブレードで受け止めた。

 

「ブレイガンの刃を止めた……!?」

 

「あなたは何者……!?どうしてわたしを襲うの……!」

 

「なんですって……?」

 

ステラの疑問を聞いてさらに怒りを煮えたぎらせていく少女。

 

「そんなこと……お前が一番わかってるでしょうが……!」

 

「ぐっ……!」

 

回し蹴りが腰に直撃し、ステラの身体は一直線に民家の壁に叩きつけられる。

 

『ステラ!』

 

「——っ」

 

「あの世でハビットの民に詫びてきなさい」

 

容赦なく迫る熱の塊を前にし、思わず目を逸らしかけるが——

 

「……!」

 

刃がステラの首に到達する直前、一閃の煌めきが少女の手元を弾いた。

 

雅な鉄の音が耳に滑り込んでくる。

 

いつの間にか現れては刀の峰打ちで金髪の少女から武器を取り上げた男は、冷静な瞳でステラを見下ろした。

 

 

 

 

『……!まさか……』

 

「久しいなツルギ、そして依り代の娘」

 

「ザムシャー……なの……!?」

 

彼の人間態の姿は地球で一度見たことがあった。

 

ハンターナイトツルギの噂を聞いてやってきた宇宙剣豪。かつてヒカリとステラに挑み、敗北した者だ。

 

「どうして邪魔をするの!?」

 

トドメを刺そうとした少女はザムシャーに向かって激昂するが、彼はいたって冷静な態度で刀を鞘に収める。

 

「落ち着け。俺の観察が正しければ、こやつらはお前の言う怪物の首領とやらではない」

 

「……⁉︎そんなはずないわ!確かにこの目で見た!」

 

少女が落としたブレイガンを拾い上げ、その銃口をステラへと向ける。

 

「背格好も顔立ちも同じ……!こいつは間違いなく、ボガールの長よ!」

 

マシンガンのように言いたい放題を連発されていたステラだが、やがてため息を吐いてゆっくりと立ち上がった。

 

「……不愉快ね。まさか奴と間違えられることになるなんて思わなかった」

 

『君が言っているのはおそらく擬態能力で我々に化けたアークボガールだろう』

 

「なっ……⁉︎」

 

ステラの身体から青い光が飛び出したのを見て、目を丸くする少女。

 

 

 

 

 

 

「ああ……ここにいたか」

 

驚いた顔でステラを凝視する少女と睨み合っていると、横から弱々しい少年の声が聞こえてきた。

 

ジャケット姿につり目のゼロと————その隣に立つマントで身体のほとんどを隠したツインテールの女の子。

 

どちらもついさっきまで喧嘩でもしていたかのようにボロボロである。

 

「……どういうこと?」

 

金髪少女の間の抜けた声がこだました。

 

 

◉◉◉

 

 

「宇宙警備隊……ウルトラマン……」

 

「信じてもらえた?」

 

「……にわかには信じ難いけれど、どうやら本当みたいね」

 

エリィと名乗った少女にこちらの事情を話すと、案外すんなりと受け入れられてしまった。

 

……いや、「受け入れられた」と思うのはまだ早いかもしれない。

 

 

 

中に入れてもらったアジトは地下にあり、かなりひっそりとしたものになっている。

 

窓もないので光は松明を壁にかけて部屋を照らしていた。

 

「私達三人はハビット最後の生き残り。……助けなら、もう少し早く来てほしかったわね」

 

「……わたし達も色々と忙しいのよ」

 

言いたいことは山ほどあるが、ステラは感情を押し殺して並んでいるこの星の住人達へ視線を向けた。

 

「私はミコ。エリィから体術を教わったから、多少の戦闘は問題ないわ」

 

ドヤ顔を作った後で壁に寄りかかって不満気な顔を浮かべているゼロをちらりと見るミコ。

 

ゼロはどうやら一撃痛いのをもらったようで、そのうち彼女に飛びかかってしまうのではないだろうかと思うほど一層目つきが悪くなっている。

 

「ウチはノン。……二人と違って、戦いは苦手かな」

 

マフラーを身につけた柔らかい雰囲気の少女が軽く手を上げて語る。

 

彼女達三人……たったこれだけがこの星の生き残りだというのか。

 

「……ザムシャー、あなたはいつこの星に?」

 

「三日ほど前だな。アークボガールとやらの噂を聞いてこの星にやって来たが……貴様らと再び相見えることになるとはな」

 

利害の一致で彼女達に協力しているのだろうか。本人はおそらく以前と同じ強者と戦いたいという理由でここまでやってきたのだろうが。

 

「……なるほどね。これだとつまり巨大なボガールと戦えるのはわたしとゼロ、そしてザムシャーだけ……ってこと」

 

何気なく整理したステラの口調に苛立ちを覚えたエリィは、隠す様子もなく眉をひそめた。

 

「……あなた達はいいわよね、力があるんだから」

 

「え?」

 

「きっと何かを失うことなんか怖くないんでしょうね」

 

席を立ち、別の部屋へと早足で移動したエリィの背中を見つめる。

 

ステラはどうしても過去の自分と重なってしまう自分自身が嫌だった。

 

「……ごめんね。エリィったら最近少し機嫌が悪くて」

 

「苦労してそうね、あなた達も」

 

代わりに謝ったノンと、彼女の隣で腕を組むミコ。

 

「そうだ、新しい住人に部屋を用意しなくちゃね。付いてきて」

 

「いや、俺はもう少し外を見回ってくる」

 

「では俺もアークボガールとやらを探しに出向くとするか」

 

ゼロとザムシャーがさっさと外に出て、結局残ったのはステラとヒカリだけとなった。

 

「……行こか?」

 

「……ええ、お願いするわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蟻の巣のような構造の道を進んで行くと、複数の扉が並んでいるのが見えた。

 

元々何かの施設だったのか、思っていたよりは充実している。

 

『……一つ、いいか?』

 

「んー?」

 

迷いを振り切って絞り出したかのような声が聞こえ、歩きながらノンが答える。

 

『一目見たときから気になっていた……。君はこの星の人間ではないね?』

 

「……⁉︎えっ……!?」

 

ヒカリの質問に驚いたのはノンではなくステラだ。

 

先ほど紹介を聞いた時はそんな情報を彼女の口から聞いていなかったからである。

 

「……やっぱり、あなたにはバレてたか」

 

『おそらくゼロも気づいているだろうな』

 

「どういうこと?」

 

背を向けていたノンが足を止め、こちらに振り向く。

 

「……確かに、()自身はこの星の者ではない。が、この身体はノンという少女のものだ」

 

一人称と共にまとっていた雰囲気を一変させたノンに驚愕する。

 

「……ヒカリとゼロに見破られたってことは……あなたもウルトラマンなの?」

 

「違う。……おそらく似たような存在ではあるのだろうがな。実のところ俺が知っていることも自らの名前くらいのものなんだ」

 

「名前……?」

 

一呼吸置いて、彼女————いや、彼といったほうが良いのだろうか。

 

その神秘的な声を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はかつて”ウルティノイド・ザギ”と呼ばれていたらしい」

 




はい、前回の冒頭に出てきたのはまさかのザギでした。
といってもネクサス本編に出てきたドス黒い彼ではありません。
まだノアの存在も知らず、防衛装置としての機能しかない状態です。
外見はザギの黒色部分を銀色にした感じです。

解説はミコについて。


【挿絵表示】


モデルは言わずもがなにこっち。
ボガールとの戦いで左腕を失っています。その影響からか得意な戦法は足技が主体です。
服装はオリジンサーガのガイさんが着ていたものをイメージしました。
エリィのストッパー的存在であり、ラブライブ本編に登場するにこよりも少しだけ落ち着いている性格です。

次回はまた少し物語が動く……⁉︎


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Episode9 おのれ〜自分〜

ついにジードの出生が明らかになりましたね……。
ペダニウムゼットンのデザイン結構ツボです。


「ウルティノイド・ザギ……?それがあなたの名前なの?」

 

「ああ」

 

ノンという少女の身体を借りた生命体が頷き、無表情のまま続ける。

 

「俺を造った者達は、何かが恐ろしかったのだろう。俺は自分が造られた理由も知らないまま宇宙に廃棄された」

 

 

【挿絵表示】

 

 

口にしている内容とは裏腹に、ザギは悲しみという感情を全く表に出さない。

 

機械のように無機質な言葉を聞きながらステラは無意識に身体を強張らせた。

 

『……その身体の少女——ノンの意識はどうなっている?』

 

「俺が表に出ている間は意図的に眠らせてある」

 

「……あなたはこの星の出身ではないのよね?何のために彼女の身体を借りているの?」

 

ザギが一瞬何かを考えるように黙り込む姿はまるでコンピューターのようだった。

 

「……さあな、俺も自分がわからない。はっきりしているのは……俺がこの少女から離れれば、彼女はたちまち命を落とすということだけだ」

 

「『……!?』」

 

その直後、ノンの瞳がくるくると色を変え、ザギが話していた時とは違う柔らかい雰囲気へと変わった。

 

「あれ?ウチ、何か言ってた?」

 

「い、いいえ」

 

「そっか。……最近なんだかぼーっとしちゃうことが多くてね。疲れてるのかな……」

 

どうやら本人は自分の中に別の存在がいることに気づいてないらしい。

 

ノンは何事もなかったかのようにこちらへ背を向けて再び歩き出した。

 

「ねえあなた、最近変わったことはなかった?」

 

「え?」

 

前触れもなくそう質問してきたステラに少し戸惑いつつも、顎に手を当てて廊下の天井を見上げる。

 

「変わったことね……。あ、そういえばこの前食糧を探しに行った時のことなんやけど……」

 

ノンが教えてくれた話のなかにザギが口にした言葉の意味に対するヒントがあった。

 

彼女は食べ物を探している途中にボガールと遭遇し、逃げている最中に崖から転落してしまったのだという。

 

そこから先のことはよく覚えていないとのことなので、おそらくはノンの生命活動が停止する直前にザギは彼女と一体化し、その命を繋ぎ止めたのだろう。

 

「今考えても不思議やなあ……よくあんなところから落っこちて無事でいれたもんやね」

 

「…………」

 

黙っておくべきだろうか。

 

ザギが何を考えているのかさっぱりわからないが、彼のおかげでノンは存命していられるということは本当らしい。

 

……どうしてザギは、彼女やエリィ、ミコに自分の存在を打ち明けない?

 

ウルトラマンと似た力を持っているのなら、共にボガールと戦うこともできただろうに。

 

近しい者ではあるが、戦う手段は持っていないということなのだろうか。

 

(……どうする?)

 

『しばらくは様子見だな。彼が何を思ってノンを助けたかはわからないが、理由はどうであれそのおかげで彼女は今生きている』

 

(でもなに考えてるかわからないし……ちょっと怖いわ)

 

『君に何かを怖がる感性があったとはな。意外だ』

 

(失礼ね。か弱い女の子なんですけど、わたし)

 

『あえて何も言わないでおくよ』

 

心のなかでありったけの文句を漏らしながら、ステラはノンに連れられて施設の廊下を進んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「……俺に何か用か?」

 

「ぬ……?」

 

拠点周辺の見回りに向かっていたゼロだが、先ほどからザムシャーが自分と同じ方向に付いてきていると気づき、おもむろにそう切り出した。

 

「どうしてさっきから俺についてくるんだよ」

 

「気にするな。後ろから襲おうなどとは考えていない」

 

本当かよ、と内心落ち着いていられないゼロ。

 

宇宙剣豪ザムシャーの名前は光の国にいた時にも聞いたことがあった。

 

実力者に勝負を挑み、自らの力を証明するために宇宙を旅している者だと。

 

(まさか俺を狙っているのか……?ったく面倒くせえな……)

 

とはいえ彼に勝負を挑まれたのなら、それは戦士として認められたと解釈していいのではないだろうか?

 

修行を終えたばかりで自分の力を充分に発揮できていないゼロにとっては、ザムシャーとの決闘は力試しに丁度いいのかもしれない。

 

(カノンでは情けない姿を晒しちまったし……それもありかもな)

 

段々と湧いてきたやる気に毒されてすっかり戦うつもりになってしまったゼロ。

 

もしも名のある戦士に戦いを挑まれたのなら、嬉しいと思ってしまうのは若気の至りなのだろうか。

 

(よっしゃあ!いつでもこいや!)

 

「……?」

 

無意識に拳に力を込めたゼロに怪訝な表情を向けるザムシャーであった。

 

 

 

 

 

 

「一つ聞きたいことがある」

 

「ん?」

 

しばらく無言で歩いていると、背後から低い声でザムシャーが問いかけてきた。

 

「確かゼロといったな。ツルギとは長い付き合いなのか?」

 

「ツルギ……?ヒカリのことか?いいや、少し前に任務で初めて顔を合わせたばかりだ。……まあ、あいつは光の国でもちょっとした有名人だし、知らなかったわけじゃないけどな」

 

ウルトラマンヒカリはかつて宇宙科学技術局所属の科学者で、“命の固形化に関する技術の研究”でスターマークを授与されたほどの博士だ。

 

文武両道である彼は現在宇宙警備隊に在籍していると聞いている。そのようになった経緯は知らないが。

 

「まあ、一後輩として尊敬してないわけでもない」

 

「……そうか」

 

「なぜそんなことを聞く?」

 

「……いやなに、以前奴に言われた言葉の意味がよく理解できずにいたのでな」

 

「……?どういう————」

 

ザムシャーの方を振り向いたその時、彼の後方から迫ってきた影に気がつき息を呑む。

 

身構えたゼロを見てザムシャーも察知したのか、腰に下げていた刀を引き抜いて後ろへ向けた。

 

「くっ……!?」

 

猛スピードで迫るソレは一体だけではない。

 

無数のボガールらしき影とともに奴は現れた。

 

 

 

 

 

「しつこい奴らだ。そこまで我に食われたいというのならば——」

 

「……!お前、その姿は……!」

 

ボガールの集団から出てきた一人の少女に目を疑う。

 

コートにキャスケット帽を被った見覚えのある顔がそこにあった。

 

「望み通り腹の中に収めてやろう」

 

「アークボガールか……!つくづく悪趣味な野郎だぜ!」

 

ステラの姿に擬態していたアークボガールは不敵に笑うと、軽く腕を振るってみせる。

 

それを合図に待機していたボガールが一斉に滝のごとく駆け出してきた。

 

「その姿でエリィ達の仲間を皆殺しにしやがったのか……!」

 

怒りで顔を歪ませたゼロが強く一歩を踏み出す。

 

「悪いがお前をかばう余裕はない」

 

「ぬかせ。貴様の助けなど無くとも、諸共に星斬丸の錆にしてくれるわ」

 

二人の戦士がボガールの集団に突っ込んでいくのを確認すると、アークボガールは微笑しながら暗闇の街道を駆けた。

 

「さて……これで邪魔する者はいまい……!」

 

 

◉◉◉

 

 

夢を見た。

 

どこからともなく現れた獣によって、惑星が蹂躙されるという恐ろしい記憶の夢。

 

宇宙から飛来した獣に星を破壊されていくなか、民は信じられない光景を目にする。

 

————神だ。神秘的な銀色の翼を持った神が、獣を一掃していくのだ。

 

圧倒的な力で獣共を消滅させた神は、すぐにその場を去ってしまった。民の不安は完全には拭えなかった。

 

その星の住人はずば抜けた科学力を有しており、再び獣が現れた時に備えて“神の模造品”を作ることにした。

 

星を守るための存在を————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

 

不思議な感覚に襲われて、ノンは目が覚めた。

 

今は夜中で、部屋の中は真っ暗だ。

 

傍で寝息を立てているエリィとミコを一瞥した後、ノンは顔を手で覆って夢の光景を思い出した。

 

(ウチの知らない……記憶……?)

 

夢というにはあまりにも鮮明な映像だった。

 

知らない誰かの記憶が頭のなかで勝手に再生されているかのようだ。

 

 

「…………ザギ……?」

 

ふと頭に浮かんだ名前を口にする。

 

なぜだか胸の中が少し暖かく感じ、ノンの表情は自然と解けていった。

 

 

 

「……ノン……眠れないの……?」

 

「あ、ごめんねエリィ。起こしちゃった?」

 

左目を擦りながらむくりと上体を起こしたエリィと視線を交わす。

 

きょろきょろと周囲を見渡した彼女は、引き締まった顔で口を開いた。

 

「そういえばあいつらは……ちゃんと“部屋”に案内した?」

 

「ステラちゃん以外はまだ帰ってきてなくて……」

 

「……ま、いいわ。あいつだけでも隔離してるなら」

 

「大丈夫だと思うんやけどなあ」

 

ステラに“部屋”として案内した場所は、いわゆる留置所のようなものだった。

 

エリィの指示で、万が一アジトに尋ねてきた者がいれば数日間はそこで大人しくしてもらうという決まりだ。

 

特殊な施錠がかかっていてこちらが操作しなければ部屋からは出られないので、明日の朝には自分たちが閉じ込められていることに気がつくだろう。

 

ステラ達には悪いが、ボガールの脅威がある以上は念入りにしなくてはならない。

 

「ザムシャーはここで寝泊まりするつもりはないみたいだけど……あのゼロって奴は帰ってきたら一緒に入れておかないと」

 

「あはは……」

 

エリィがここまで神経質になるのも妹を失ったことによる影響が大きい。

 

(…………ほんと、大丈夫なんかな……ウチら)

 

 

 

 

 

こんこん、と扉を叩く音が響く。

 

「あ、二人が戻ってきたんやない?」

 

反射的に立ち上がって出入り口まで歩いていくノン。

 

外に設置してある監視カメラからの映像が近くにあったモニターに映し出される。

 

「…………あれ……?」

 

そこに写っていた者は————今は隔離されているはずのステラの姿だった。

 

 

 




いきなりアジトに攻め込まれてしまう……⁉︎
ザギはまだ黒くなる前なので本編とだいぶ雰囲気が違いますね。

今回の解説はノン。


【挿絵表示】


ハビット編のμ'sキャラのなかでは唯一欠損がありません。
ザギと一体化する前は戦闘能力がほぼ皆無で、エリィとミコに守られながら身を潜めていました。
果たして彼女はザギと共に立ち上がることはできるのか……。

さてサンシャイン二期が始まるまであと少し。
二章では一章と同じようにオリジナルエピソードも複数用意する予定なのでそちらもお楽しみに!
まだ三年生組がメインの回は書いてませんしね。


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Episode10 こころ〜意思〜

先日のラブライブ発表会ではライバーの皆さんにとってとても嬉しい情報が解禁されましたね。
僕も興奮で胸がいっぱいでした。




「気をつけてっ!」

 

監視カメラのモニターから目を離した直後、爆発したかのような勢いで扉が破られる。

 

風圧で吹き飛ばされたノンは壁に背中を打ち付けて倒れ、衝撃で睡眠から転がるように目を覚ましたミコがエリィの横で瞬時に構える。

 

「ノン!」

 

「いったい何が……!?」

 

ブレイガンの銃口を埃の煙幕へと向ける。

 

小柄な少女と思しき人影がうっすらと揺らめいていた。

 

「…………まずは前菜といこうか」

 

「お前は……!」

 

別の部屋に閉じ込めておいたはずのステラ————いや、違う。

 

今目の前にいるのは彼女に化けた“奴”だと確信したエリィは、手が真っ白になるまで握ったブレイガンのトリガーを引き絞った。

 

「ミコ!ノンを連れて逃げなさい!」

 

「……!エリィ、あんたは……!?」

 

ミコの疑問に答える暇も与えられずに、エリィはアークボガールとの戦闘に突入した。

 

「ぐっ……!」

 

腕のみを鉤爪へ変化させたアークボガールが地を蹴り、エリィの首を狙ってそれを振りかざす。

 

回避しつつ奴の肩を掴みかかり、壁を突き破りながらも別の部屋へ移動してミコとノンから遠ざけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の音……?」

 

振動と大きな物音で目を覚ましたステラは上体を起こしてゆっくりと部屋の出入り口に手をかけた。

 

「……あれ?」

 

ドアノブを引いても押しても、目の前の扉は道を開けてはくれなかった。

 

ガキン、と施錠されているような音が聞こえ、思わず眉をひそめる。

 

「……閉じ込められた?」

 

『そのようだな』

 

ヒカリが肯定するのを聞き流しつつ、ステラは寝起きの頭で知恵をしぼる。

 

信用されているわけではないことは薄々感じとっていたが、まさか幽閉されるとは。

 

この討伐任務に出てからこういった迂闊なミスが続いてしまっている。

 

(わたしも焼きが回ってるのかしら……)

 

立方体の部屋を隅々まで観察し、どこかに出口はないものかとあちこちを探るが、それらしいものは見つからなかった。

 

「……斬って出ましょうか」

 

『いや待て、何かが近づいてきている』

 

ナイトブレードを取り出して低く腰を下ろしたステラにヒカリから待ったがかかった。

 

徐々に迫ってくる気配を察知し、その直後に反射的なバックステップを踏んだ。

 

 

 

「……!?」

 

ドゴォ!と扉を破壊して部屋の中に飛び込んできた者が二人。

 

一人はブレイガンを手に持ったエリィ、そしてもう片方は————

 

「……わたしと同じ顔……!?」

 

「ステラ!!」

 

鉤爪と光の刃の鍔迫り合いを制したエリィが鉤爪の腕を持つ少女を横薙ぎに蹴り飛ばす。

 

その射線上にいたステラは即座に片足を上げて“奴”の身体に大砲のごとき重みを帯びた回転蹴りを叩き込んだ。

 

「————」

 

瓦礫に埋もれる自分と同じ顔の怪物を見やり、ステラはエリィの横に並び立つ。

 

「どういうこと……?わたし達の居場所がバレたの……!?」

 

「……もともとこの星で隠れられる場所なんてここ以外残ってなかった。いずれは見つかると思ってはいたけど……」

 

「……!やっぱり話は後!」

 

折れた首を無理やり直し、巨大な爪を掲げながら歩み寄ってくるアークボガール。

 

「ほう、貴様らもここに身を潜めていたのか……ハンターナイトツルギに、ノイド星人の小娘」

 

「わたしの姿で辺り構わず食べ散らかすのはやめてもらえるかしら。……とても、気持ちが悪いわ」

 

睨み合い、どちらかが動けば戦闘が始めるという状況。

 

 

 

「……!?」

 

地鳴りが部屋を揺らし、三人の体勢を崩した。

 

勝ち誇った表情のアークボガールが含み笑いをしながら口を開いた。

 

「既に我が下僕が地上を囲んでいる。貴様らの運命はもう、我に食われると決まっているのだ」

 

「……!」

 

地上に向かって逃げたミコとノンの安否で頭のなかが一杯になったエリィの隙をつき、アークボガールは一瞬で彼女へ肉薄してみせた。

 

「くそっ……!」

 

振り下ろされた鉤爪を横から手を伸ばしたステラがナイトブレードで防御する。が、それを読んでいた奴は彼女の懐に潜り込むと強烈な膝蹴りをお見舞いしてきた。

 

「うっ……!」

 

「イタダキマス」

 

怪物としての姿を解放したアークボガールが背中の被膜を広げ、エリィを飲み込もうと迫った。

 

「エリィ!」

 

「————っ」

 

回避もままならないエリィが食われかける直前、壁の大穴から飛び込んできた二つの斬撃がアークボガールを襲った。

 

「チィ……!」

 

寸前でそれを避けた奴は後ろに下がり、攻撃が飛んできた方向を見やる。

 

「間に合ったか!」

 

「やっと姿を現したか……ボガールの王よ」

 

侍と青年が部屋に駆け込んでくるのを確認し、ステラは急いで膝をついているエリィの肩を抱えた。

 

「ゼロ!ザムシャー!」

 

『外の状況は!?』

 

「巨大化したボガール共が暴れてやがる!すぐに脱出するぞ!」

 

「ミコとノンは!?」

 

エリィの問いに一瞬言葉を濁らせるゼロに代わって、ザムシャーが答えた。

 

「案ずるな、二人ともここへ来る途中で保護した。……ただ、片方の娘は少々おかしなことになっているがな」

 

「……!?どういう————」

 

続けて質問しようとするエリィだが、それは体勢を立て直したアークボガールによって妨げられた。

 

「どいつもこいつも……!我の食事の邪魔を……!」

 

「……!?」

 

「ハアァァアアアアァア……!!」

 

禍々しい闇をまとって真上へと飛翔するアークボガール。

 

天井を突き破って地上へと昇った奴を追おうと、ゼロとステラがそれぞれのアイテムを取り出して装着する。

 

「デュア!」

 

「いくわよヒカリ!」

 

『ああ!』

 

光に包まれてウルトラマンへと変身した二人が地上へ急いだのを見上げ、エリィは必死な顔でザムシャーに掴みかかった。

 

「ミコとノンは……!?何があったの!?」

 

「……自分の目で確かめろ」

 

「きゃっ……!?」

 

ザムシャーはエリィを抱え、先ほどアークボガールが空けた天井の穴から上へと移動した。

 

 

◉◉◉

 

 

視界全体を覆い尽くす光が見える。

 

自分の意思で動かせない身体に戸惑いながらも、前方にそびえ立つ灰色の怪物達を視認した。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッ!」

 

銀色の巨体を駆ける稲妻のような赤いライン。

 

機械的な印象を与える外見とは裏腹に、その挙動は獣じみたものだった。

 

 

 

 

 

 

「ノン……!?」

 

銀色の巨人の足元で呆然と立ち尽くすミコ。

 

アジトから逃走している途中に巨大ボガールの集団と遭遇し、万事休すかと思われた瞬間だった。

 

ノンの胸から眩い閃光が炸裂し、同時に彼女は銀色の巨人へと変貌したのだ。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッ!」

 

咆哮するかのように上体を突き出して威圧するその姿に、ノンという少女の意識を感じることはできない。

 

正気を失ったようにボガールを殴りつける巨人は、ミコにはひどく恐ろしいものに見えた。

 

「ミコ!」

 

「……!エリィ……」

 

「何があったの!?」

 

「それが……」

 

どう説明していいかわからずに口を閉じてしまうミコを見かねて、エリィを連れてきたザムシャーが答える。

 

「……あれがそのノンという娘だろうよ」

 

「え……?どういうことよ!?」

 

「私に聞かれてもわかんないわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色の巨人がボガールを殲滅している後ろで、ヒカリとゼロはタイミングを揃えて地面に着地する。

 

(なに……あいつ……!)

 

「光の国の奴じゃなさそうだな」

 

『……おそらくは彼が——』

 

ウルティノイド・ザギ。

 

ノンの身体と一体化していた生命体の本来の姿だろう。

 

(味方……なの?)

 

ボガールと戦うザギを見てそうこぼすステラだったが、内心では真逆のことを考えていた。

 

理屈じゃない。今目の前にいる巨人は、どこかおかしい。

 

直感的にそう悟ったステラは彼に襲われた時に備えて警戒しながら距離を詰めた。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッッ!!」

 

雄々しい叫びを張り上げたザギの両腕から光線が発射される。

 

それと同時に身体を捻って回転させ、全方向に熱線を広げた。

 

「うおっ!?」

 

(わっ……!)

 

『なんてエネルギーだ……!』

 

ヒカリとゼロが巻き添えになる寸前にしゃがみ込んで回避する。

 

大量のボガールを倒し終えたザギが肩を上下させているのを見て、ステラは異様な不安感に苛まれた。

 

(……!見て!)

 

ザギの身体が徐々に実体を消滅させていく。

 

慌ててその場に駆け寄ると、ザギに変身していた少女が意識を失った状態で横たわっていた。

 

「……無事、みたいだな」

 

(……!アークボガールは……!?)

 

追ってきたはずの獲物が姿を見せていないことに気がつき、ステラは狼狽して周囲を確認した。

 

『……逃げられたか』

 

(……まだそう遠くへは行ってないはずよ。ノンを回収したら、すぐにでも追いましょう)

 

蒼い巨体を動かして手のひらを伸ばす。

 

街中に倒れていたノンを優しく手の中に収め、ヒカリはエリィ達のもとへ戻った。

 

 

◉◉◉

 

 

「オードブル風情が……!我の邪魔ばかりしおって……!」

 

アジトから数キロ離れた場所まで逃走したアークボガールだが、とても穏やかな気分とは言えなかった。

 

 

 

————随分手を焼いてるみたいだな。

 

暗闇を越えて頭の中に響いてくる声。

 

「何の用だ……エンペラ星人」

 

————報告を怠るなと伝えたはずだが?

 

「我は我のやりたいようにやる。今はまだ足りないが……いずれは勢力を拡大し、貴様らごと宇宙を喰らい尽くしてやるわ」

 

闇の皇帝は自分を殺すことはない。まだ有用だと思われている限りは絶対に。

 

アークボガールが自由に行動しているのは宇宙警備隊を撹乱し、こちらに注意を向けさせるためだろう。

 

その役目が終わらない以上、自分達の命は保証される。

 

————精々あの蒼い騎士に仕留められないよう、餌役を続けることだな。

 

 

闇の皇帝の気配が遠ざかっていくのを感じ、唸る。

 

「……違うな。餌は奴らのほうだ……!見ていろハンターナイトツルギ、そしてノイド星の小娘……!」

 

空を見上げた先に浮かぶ一つの惑星。

 

既に死んでいるその星を眺めながら、アークボガールは嗤った。

 

「墓場へ案内してやろうではないか……!」

 

 

 

 




今回は挿絵を用意できませんでした……。
アークボガールが見上げた先にあった惑星とは……⁉︎
二期が近づき、この外伝も着々と終わりに近づいています。

解説はザギについて。

スペースビーストを駆逐するという目的で作られたザギですが、自分がノアの模造品だと知って暴走。
ネクサス本編でも恐ろしい力を見せた彼が今作では味方に……⁉︎
まだまだ謎が多いザギですが、ノン達と出会ったことでどういった動きを見せるのか……⁉︎

それでは次回もお楽しみに!


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Episode11 のぞみ〜感情〜

サンシャイン二期まであと一週間!というわけで外伝もちょうど終盤ですね。
アークボガールを倒す、というだけの話のはずでしたが……思ったより長く続いてしまった(焦)


「皇帝、アレについての調べが終わったよ」

 

この銀河のあらゆる生命が恐れる暗黒の大皇帝に対して軽いテンションで話しかける青年が一人。

 

黒い空間に映し出された映像。獣のごとき咆哮を響かせて戦う銀色の巨人を指差して、彼は言う。

 

「ウルティノイド・ザギ。遥か遠くの惑星で人工的に造られた“神の模造品”」

 

驚異的な学習能力を持ちながらそれが生み出す可能性の範囲を恐れられ、創造主に棄てられた哀れな人形。

 

この絶大な力を秘めた防衛装置は、途方もない時間を暗闇のなかで過ごしてきたのだろう。

 

「……なんか、ボクらと似てるね」

 

青年は真顔を装ったつもりだったが、実際に見せていた表情からは憐れみの感情が伝わってきた。

 

「……どうかな?彼をこちらに引き入れる気はないかい?」

 

「やめておけ。見たところ扱いに困る輩だ」

 

映像ごしに眺めただけでそう断言するエンペラ星人に面食らう。

 

それに彼が「扱いに困る」だなんて口にするとは思わなかった。

 

ザギ————自分たちと同じ、宇宙を彷徨った望まれない旅人。

 

 

 

(君はその果てに……何を手に入れた?)

 

 

◉◉◉

 

 

地下の施設を捨てたエリィ達は路地裏に身を隠し、先ほど起こった奇妙な出来事について頭を抱えていた。

 

気を失っているノンを見下ろしたミコから一言漏れ出す。

 

「さっきのあれは……いったい何だったの?」

 

鬼神のような戦いぶりを見せた銀色の巨人を思い出して、一同は顔を伏せた。

 

(ヒカリ……)

 

『むやみに口出しするのはやめておこう』

 

ザギに関して知らないことが多すぎる。

 

彼は何のためにこの星を訪れ、そしてどうしてノンを助けたのかも。

 

下手をすればボガール達に放たれたあの凄まじい火力が……自分達に向けられるかもしれない。

 

「ん……」

 

「……!ノン!」

 

意識を取り戻したノンはゆっくりと瞼を開くと、自分を覗き込んでいるエリィ達の顔を順番に見る。

 

「ノン、大丈夫なの?」

 

「……急に意識が遠くなって……ウチ……どうなってたの?」

 

「覚えてないみたいね」

 

ザギとしてボガールの集団を焼き払ったことは彼女の記憶にはない。

 

あの状態は完全にザギが独断で行ったものなのだろう。

 

「貴様の中には別の存在が紛れている。それも極めて強力な何かがな」

 

「ザムシャー……!?」

 

ステラは躊躇いなくそう話し出したザムシャーの肩に思わず手を乗せて制止した。

 

「ふん。此奴の身体に潜んでいる者がいかに強い力を持とうとも関係ない。……言葉を聞けばどういう奴かわかるというものよ」

 

「だからって……!」

 

「そうだろう?……先の巨人よ」

 

ザムシャーの問いかけに応じるように、ノンの胸から閃光が点滅しだす。

 

泉が湧きでるように神々しく流れ落ちてきたその光は宙へ浮くと、全員に対して語りかけてきた。

 

「お前達に話すべきことはない」

 

自分の中から現れたその光体を視認したノンの瞳が見開かれる。

 

「あなた——が……」

 

ザギは困り顔を浮かべるエリィ達のなかでただ一人呆然としている紫の髪色をした少女を見下ろした。

 

 

「話すべきことはないって……そういうわけにもいかねえ。俺はお前みたいな見知らぬ存在を見かけたら本部に通報するよう命じられているからな」

 

「ゼロと同意見よ。あなたが何者かわからない以上、野放しにするわけにはいかない」

 

先ほどボガール達を一掃した光線といい、ザギの力はウルトラの父と同等——いや、それ以上の可能性もある。

 

こんな核爆弾のような存在を見て見ぬ振りなんかできなかった。

 

「…………俺はただ、俺のために力を使う。それだけだ」

 

最後にそう言い残したザギが再びノンの胸へと戻っていく。

 

「このっ……!ノンの身体から出て行きなさいよ!」

 

「少し落ち着きなさいよエリィ。……何か異常は?」

 

ミコの質問を聞いて反射的に胸元へ手をやるノン。

 

「ううん。ウチは大丈夫だよ」

 

「ならいいわ。今のところ問題があるわけじゃないし、ボガールも倒してくれた。ひとまず敵ではないんじゃない?」

 

「よくそんな簡単に信用できるわね……!ああ、もう!どうしてこう次から次におかしな奴らが舞い込んでくるの!?」

 

この現状がすっかり参ってしまったエリィが頭を抱えて叫んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

俺は見た、この星の生命体を。

 

俺は触れた、この星の命に。

 

違う存在と同化し、俺が知らない情報は全て取り入れた。

 

————だからだろうか。心がこんなにも切ないのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ねえ、聞こえる?)

 

返答はない。だが声は届いている確信があった。

 

エリィやステラ達と共に今夜身を隠せる場所を探しながら頭のなかで念じる。

 

(あなた、“ザギ”って名前なんだね)

 

迷いを感じる。

 

一心同体となっている今はノンにも彼の感情の波が手に取るようにわかるのだ。

 

(そっか……あなた、()()んだね)

 

誰とも話したくないが誰かと一緒にいたい。そんな気持ちが伝わってきた。

 

痛いほどわかる。だってこの感情は一度自分も経験したものだから。

 

(あなたはウチのなかに入ってきた時に、ウチの心を学んだ)

 

傷を癒すためではない。感情を学ぶために彼女の身体を借り、そしてそれ以降は肉体を乗っ取るつもりでいた。

 

しかし————

 

 

 

 

————……教えろ、俺が抱えているこの感情、これはなんだ?

 

(へ?)

 

柔らかくて暖かい、人を思いやる感情。

 

「優しさ」と表現できる思いでザギは満たされていた。

 

そして、もう一つ。

 

(あなたはウチに触れて、ウチと同じ優しい気持ちを手に入れたってことかな。……自分で言うとちょっと恥ずかしいね)

 

照れくさそうに語る少女のなかで彼は思っている。

 

初めて触れる感情の暖かさを。小さな星に生まれた命を。

 

 

ボガールに襲われた時、ノンとザギの心は完全に同調していた。

 

誰かを失いたくない。離れることが怖いと。

 

 

————俺は、恐れているのか?

 

かつて自分を棄てた惑星の住人を思い出す。

 

暴走する危険性があったザギを宇宙空間に廃棄したあの生命体に対しての“恐怖”。

 

棄てられるということの怖さを。

 

高度な学習能力を持つザギは、ノンと同化することで学んだのだ。

 

優しさと恐怖、人としての感情の一端を。

 

(あなたが誰にも自分の存在を打ち明けなかったのは、ウチらに嫌われるのが怖かったからなんだよね?)

 

————…………

 

なぜ否定ができない。

 

こんなにも複雑な感情を抱いたのは初めてだ。

 

何もかもがわからない。何もかもが。

 

(そういえば、まだあなたにちゃんとお礼言ってなかった)

 

————礼、だと?

 

うん、と頷いた後彼女は目を閉じる。

 

(ウチが怪我した時————助けてくれて、ありがとう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然の出来事だった。

 

闇夜に紛れて周囲を囲んでいる目線が数十体。

 

「……!警戒して!」

 

ステラは咄嗟に取り出したナイトブレードを構え、こちらの様子をうかがっている影を睨む。

 

「数は……。っ!なんだこれ……!!」

 

ボガールの気配を感じ取ったゼロが青ざめた顔で言った。

 

「アークボガールの奴……三百体以上のボガールをよこしやがった……!!」

 

この惑星に潜伏していたボガールが全て集結したのかと思うほど、圧倒される頭数。

 

『勝負を決めにきているな。……ステラ』

 

「ええ、勝つわよヒカリ。わたし達の故郷に誓って……!」

 

直後、足元に広がった血の池のような空間がステラの体勢を崩した。

 

「え————?きゃあああっ!?」

 

「ステラ……!?ヒカリ!!」

 

異空間に引きずり込まれていくステラが視界から消え、ゼロは思考が追いつかないままゼロアイを取り出す。

 

「くそ……!小さいのは任せるぞ!」

 

「わかってるわよ!ミコ!ノンをお願い!」

 

エリィの指示を聞いたミコがノンの腕を引っ張り、ボガールのいない隙間を狙って一直線に駆け出した。

 

ブレイガンから光の刃を伸ばしたエリィが暗闇を照らしながら敵へ光弾を発射。

 

それを合図に、幾度目の乱戦が開始された。

 

 

◉◉◉

 

 

「はっ……あああああ!!」

 

ヒカリに身体の主導権を譲り、高所からの着地をしてみせるステラ。

 

クレーターの中央でゆっくりと立ち上がり、周囲を確認する。

 

「……ここは……?」

 

乾いた大地に歪んだ空。

 

命が感じられない地に二人は立っていた。

 

 

 

『ここは……まさか……!』

 

「————ッ!」

 

横からの殺意を全力で回避する。

 

頰にわずかの傷を許してしまい、ステラの鮮血が宙を舞った。

 

「ようこそツルギ、そしてノイド星の小娘。ここが貴様らの墓場となる地だ」

 

「……出たわね」

 

自分の姿に()()ボガールの王が嗤う。

 

死の上に立っているような印象を受ける奴はステラとヒカリに向けて続けた。

 

「ここはかつて我らが食らった星。貴様らもよく知る地だ」

 

『……やはりそうか』

 

ハビットから連れてこられたこの惑星の名はアーブ。

 

過去にヒカリが救うことのできなかった奇跡の星。

 

「ハンターナイトツルギの存在を知ってから決めていた。——お前達は、必ず我がこの手で食うとな」

 

『俺が殺してしまったこの星で……俺を食う、か』

 

「いい筋書きだろう?」

 

悪趣味なアークボガールが不敵に口角を上げ、ステラに対しても侮辱の意を示してきた。

 

「そこの娘にも相応しい姿で挑まなくてはならないと思ってな——少し趣向を変えてみたのだが……お気に召したかな?」

 

「……口を閉じなさい、下郎」

 

もう既に怒りの限界など超えている。

 

今回の奴の姿は以前とは違った。()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()————

 

「わたしの母親は、そんな気持ちの悪い笑みは浮かべない」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「くははっ……!」

 

冷たい声で言い放ったステラを見て、ボガールは本性を現した。

 

「食ってやろう、狩人共。この地で貴様らの念を断ち切ってやる……!」

 

アークボガールとしての姿を見せた奴が巨大なものへと変貌していく。

 

「……ヒカリ」

 

『……どうした?』

 

「最後まで……力を貸して……!」

 

『最後まで……か。それはこの戦いが終わった後まで、という意味か?』

 

「いいえ?冗談じゃないわ」

 

闘志を宿した瞳で、彼女は言う。

 

「今のわたし達には、帰る場所があるでしょ」

 

蒼い閃光が疾る。

 

騎士の目覚めを感じたアーブの大地から、ほんの少し喜ぶような地鳴りが聞こえた気がした。

 




外伝は次回で最終回となります。
アーブの地でヒカリとステラはアークボガールとの決戦に挑み……⁉︎

今回は解説の代わりに今後の予定をチラ見せさせて頂きます。

このメビライブという作品を思いついた当初、ラブライブ無印のパターンから考えて二章+αで完結できるように構想していました。
なのでエンペラ星人との決着は二章の終盤で片付き、その後日談として一章でやり残したことを終わらせる予定です。
サンシャインがもしも三期までやるとしたら……そこまで綴るかはまだ未定なのです。

さて外伝も次回で終わり、ついに二章が始まろうとしています。
この作品で最も書きたかったシーンがその終盤に詰め込まれる予定なので、どうか最後までお付き合いください。


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Episode12 ひかり〜勇者〜

サンシャイン二期第1話を視聴しました。よかったですね。
これから紡がれるAqoursの物語を僕なりにどう装飾していくのか、今から楽しみで仕方がありません。

そして今回で外伝は最終回となります。
ヒカリとステラの物語を最後までお楽しみください。


(ふーん……、あなたの名前って"ツルギ"じゃなかったのね)

 

『ああ。別にそちらで呼ばれても支障はないがな』

 

彼と一体化してからしばらく経った後だ。

 

ステラ達がボガールを追って様々な惑星を転々としているうちに、いつのまにか"ハンターナイトツルギ"という名前が広まってしまったのだ。

 

(……まあ、他人からの呼称なんてどうでもいいことだわ。これからもツルギで通すことにする)

 

『好きにしたまえ』

 

暗い空間で沈黙が流れる。

 

ツルギは基本的に無口で、ステラも積極的に話す方ではない。会話している時よりも黙っている時間のほうが圧倒的に長いかもしれない。

 

彼らはボガールを追って……また別の惑星へと訪れようとしていた。

 

次に向かう星は地球。

 

青い海と力強い大地。ステラの故郷であるノイド星とよく似た文明を持つ惑星だった。

 

間近で見ても綺麗だとか、懐かしい、なんて感想は浮かばない。頭にあるのは「ボガールを全滅させる」という復讐心だけ。

 

……だからこれはきっと、単なる気まぐれだ。

 

(ねえツルギ、やっぱりあなたの本当の名前…………教えてくれない?)

 

 

◉◉◉

 

 

強い。一対一じゃ話にならない。

 

元四天王の一人————エンペラ星人の手先の中でも上位の戦闘能力を持っているのは間違いない。

 

「デヤアアアッ!!」

 

光で構成された剣が空を切る。

 

追撃を繰り出すがそれも奴の巨大な鉤爪に阻まれ、憎き肉体には届かない。

 

「つまらん」

 

『(ぐっ……!)』

 

横薙ぎの剛腕が腹部に直撃し、物理法則の赴くままに身体が吹き飛ばされた。

 

何もない荒野に青い巨人が転がり、他に誰もいない大地が響きを上げる。

 

「抵抗する獲物を押さえつけるのは好きだが……お前たちとの戦いはもう飽きた。しぶとく生きるのはもうやめたらどうだ?」

 

『勝手に吠えていろ』

 

刹那、遠距離から飛ばされた斬撃がアークボガールの首元をかすめる。

 

『貴様の罪はもはや数え切れない。……このアーブの大地が俺達の墓場だと……?冗談ではない』

 

光が一閃される。

 

切っ先を前方に見える奴へと狙いを定め、ヒカリは落ち着いた口調で言った。

 

『もう俺達に過去の因縁は関係ない。これまで犠牲となった、全ての命に誓って……貴様を討つ』

 

「そうか。叶わないことが決まっている願いほど儚いものはない」

 

再びヒカリとアークボガールが肉薄する。

 

鋭い剣戟の音が何度もアーブの地に奏でられた。

 

 

◉◉◉

 

 

もう失いたくない。そう思って必死にここまで戦ってきた。

 

最後に残ったミコとノンだけは助けてみせると。

 

だから自分も、今死ぬわけにはいかないと。

 

「ああっ————!!」

 

ブレイガンを振り回しながらエリィは考える。この戦いが終わった後で何が残るのか。

 

自分を含めたハビットの民が全滅するか、奴らが死ぬか。

 

後者を叶えるには、まず自分が頑張らなければならない。

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎————ッ!!」

 

「消えろ……!」

 

灼熱の刃で奴らを切りつけ、背後を走る二人の少女を守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

ミコに手を引かれながら、ノンは想う。

 

この状況で自分が足手まといにならない方法を。

 

 

頭上ではゼロとボガール達との戦闘が起こっており、ことあるごとに瓦礫が降り注いでくる。

 

それを正確に避けながら道を進むミコの背中に視線を移したノンは、覚悟を決めた声音で語った。

 

「ねえミコ、聞いて」

 

「……?」

 

ハビットの住人はほぼ死滅した。

 

この戦いを凌いだとして、その先の未来に待っているものはなんだ?

 

たった三人の少女だけでこの星を生きていく将来。侵略者にでも目をつけられたらひとたまりもないこの地で生きていく覚悟を。

 

「ウチ、ずっと考えてたの。エリィやミコ……みんなは何の為に生きてるのかなって。ボガールを倒して、その先にどんなことが待っているのかなって」

 

半分は諦めかけていた。

 

どうせ自分達だけ生き残っても、こんな状況じゃこの惑星は滅亡したも同然だ。

 

だからいっそのこと楽になれるのなら————と、自暴自棄な妄想も何度かしてみた。

 

エリィが神経質になって厳重な隔離システムを行っていても別段気には留めなかった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

 

 

でもあの日…………崖から落下して生死を彷徨ったあの瞬間だけは違った。

 

もう一度二人の顔が見たい。まだ生きていたいと思えた。

 

だからザギが自分を助けてくれた時は、まるで神様みたいだと思った。

 

「でもね、やっぱりウチは生きたいんだよ。……たとえ生き残りが、ウチらだけになったとしても……それでもウチは生きていたいんだよ」

 

「そんなの私だって同じよ!」

 

声を上げながらもミコはノンの手を引き、ボガール達から離れようと走る。

 

生きるために、生き抜くために。

 

「私だって死にたくなんかない。もっと生きて、年寄りになるまであんた達の側にいたいわよ!」

 

「————そっか。馬鹿だな、ウチ」

 

そんなことを考えているのはノンだけだった。

 

ミコもエリィも、生きたいという純粋な願いを胸にここまでやっていけた。

 

 

 

 

 

 

(……ザギ、力を貸して)

 

————俺が承諾するとでも?

 

(うん。だってあなたは、ウチを助けてくれたから。……とても優しい、今のあなたならきっと)

 

————奴らも言っていただろう。俺のような得体の知れないモノを信用するというのか?

 

(するよ)

 

考える間はなかった。考える必要はなかったから。

 

(ウチに触れたあなたなら……きっと同じことを考えてくれるはずだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおっっ!!」

 

三日月のような二つの刃が閃き、夜の闇のなかを飛翔しながらボガールを斬る。

 

カノンで戦った経験を生かして、ゼロは三百六十度からやってくるボガールの集団全てと渡り合っていた。

 

「クッソ……!ザムシャーの奴どこに行きやがった……!?」

 

いつの間にか姿を消していた宇宙剣豪の行方を探すが、周囲にはそれらしき影すらない。

 

さすがにこの数を一人で捌くのにも限界がある。一度経験があったとしても保って数分。せめてヒカリの加勢があればよかったのだが……

 

異次元に連れ去られたとなれば、彼らは十中八九アークボガールのもとにいるだろう。

 

一対一で敵う相手とは到底思えないが…………

 

「こっちも精一杯だぜ……!一掃したくても近くにあいつらがいたんじゃ————!」

 

足元で小型のボガールと戦っているエリィを見下ろす。

 

「……!?あれは……」

 

その少し先で起こった閃光に気がついた。

 

獣が吠える。造られたものにしては些か動物的すぎる行動。

 

銀色の巨人が再び立ち上がるのを目の当たりにした。

 

 

◉◉◉

 

 

「へ?今までどうして戦えたのかって?」

 

「ええ」

 

いつかの日の記憶が走馬灯のように浮かんできた。

 

ダンスの振り付け練習をしている少女達を見守る少年の隣に座り、ステラは問う。

 

「わたしは復讐のためにアークボガールを追っていた。……でもあなたには、自分が傷ついてまで戦う理由はなかったはずでしょ」

 

「あるぞ」

 

「……え?」

 

彼は間髪入れずに返答してきた。

 

「そうだなあ……強いて言えば、たぶん憧れなんだと思う」

 

「憧れ?戦うことが?」

 

争いなど好みそうにない彼がそう言うものだから、ステラは首を傾けずにはいられなかった。

 

「戦うことが好きってわけじゃないさ。……ただ、俺は自分を助けてくれた人みたいになれたらって思ってたんだ」

 

何気なく掴み取った空のペットボトルを眺めながら彼は語る。

 

「何もできないまま終わるよりも、自分だけが傷つく方が何倍もマシだ。……それでみんなを救えるならな」

 

顔を上げた少年の視線の先にあったものは、夕暮れを背に舞い踊る少女達だった。

 

胸に手を当てた彼は、瞼を閉じて自分の中にいる存在をしっかりと感じた。

 

「ウルトラマンの……()()()の力を借りて戦えた時……嬉しかったんだ。これでみんなを助けることができるってな。我ながら子供っぽい願いだとは思うけどさ、それでも————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……どうしてこんな時に思い出す。

 

視界が暗い。気絶していたのか。

 

全身がひどく痛んで身体が動かせない。

 

アークボガールとの戦いはどうなった?負けたのか?……自分は、まだ生きているのか?

 

「終わりだ、復讐の騎士」

 

奴の声だけが聞こえる。憎きボガールの王。

 

 

 

 

ああ、「復讐のためじゃない」だの「宇宙警備隊として」だの。

 

今まで散々言い訳してきたけれど————やっぱりわたしは憎いんだ。

 

だがそれでもいい。負けるより……

 

————何もかも失うよりはいい。

 

(ぁ……あああああアアああああアアアアあああ!!!!)

 

倒れていた身体を起こし、ウルトラマンヒカリは立ち上がる。

 

「なに……?」

 

前方で驚愕の声を漏らすアークボガールを見据えた。

 

『まだ……終わってはいないぞ』

 

(ええ。わたし達は諦めない。これから先も……生きるために……!)

 

憎しみという感情は簡単には消せやしない。……いや、ステラやヒカリにとってはそれが正しかったのだ。

 

憎しみもまた忘れてはならない思い出の一つ。この罪を背負い、この先もまた————!

 

 

 

 

 

大地が光る。

 

命の気配が感じられなかったアーブの地が、まるでヒカリを応援するかのように。

 

(これは……?)

 

『アーブの光が……!』

 

大地から現れた光はやがてヒカリのもとへ集結し、全身に浸透した。

 

それはあらゆる侵害を跳ね除ける守り————勇者の鎧へと変化した。

 

『俺達に……力を与えてくれたのか……?』

 

外見は以前のもの————ツルギであった時とそう変わらない。

 

しかしその内に秘めているものは正反対だ。

 

勇者の鎧……アーブギアの本来の力。

 

 

「妙なものを着込んだところで、この状況は覆らん……!」

 

アークボガールの爪先から凄まじいエネルギーが蓄積され、ヒカリに向かって一直線に発射される。

 

「デュアッ!」

 

ナイトビームブレードを使った渾身の一振りで対抗し、真っ二つに割れた光線がヒカリの横を通り抜けた。

 

「……!?」

 

『(はああああああああっ!!)』

 

地面をひと蹴りし、刃を一閃。直撃したアークボガールの胴体から火花が散り、苦しそうにうめき声を上げながら奴が後退する。

 

「貴様……っ……!!」

 

そのまま接近戦へと突入した。が、優劣は先ほどとは逆になっていた。

 

神風のような動きを立て続けに行うヒカリの攻撃を防御しきれずにアークボガールが追い詰められていく。

 

「ハアアッ!!」

 

地面にクレーターができるほどの重い一撃が奴の脳天に炸裂する。

 

 

 

アーブギアを身につけて戦う感覚が心地いい。ツルギであった時では考えられない爽快感。

 

それもそのはず。これは「復讐の鎧」などという息苦しいものではない。

 

この守りは「勇者の鎧」。これまでとは本質からして違っている。

 

『(次で決める…………!!)』

 

「ツルギィ……!」

 

(ちょっと、間違えないでよね)

 

『この名は……!』

 

全力の回転蹴りを決め、そのまま空中で回転した後で着地。

 

『(ヒカリだ!!)』

 

右腕に宿るナイトブレスに蒼い雷撃が降りる。

 

今度こそ、今回こそ————!

 

「デアッ!!」

 

終わらせる。

 

十字に組んだ腕から圧倒されるような虹色の波が放射され、アークボガールへ向かう。

 

「小癪な……!!」

 

奴もまた先ほどと同じように鉤爪からの光線で迎え撃つが、威力は明らかにこちらが上回っていた。

 

徐々に侵食されていく自らの禍々しい光線を見てボガールの王は嗚咽にも似た声を漏らした。

 

「馬鹿な……!この我が……このようなところで……!!」

 

 

 

(……終わりよ、アークボガール)

 

『まずは貴様の死を以って……アーブの民への謝罪とする……!』

 

直後、ナイトシュートが奴の胴体に到達し、擦切れるような悲鳴が上がった。

 

「宇宙警備隊……!ウルトラマンごときに……!我が破れるはずが————!!」

 

(あなたは食べ過ぎた。……そのツケを払う時よ)

 

「バカ————な——!」

 

轟音と熱風が辺りに広がる。

 

これまで溜め込んできたものを全て吐き出したような爆発が巻き起こった。

 

 

(やったの……?)

 

『そのようだな。…………よくやってくれた、ステラ』

 

(ううん。アーブの民が力を借してくれたのはあなたがいたからよ。……わたしだけじゃどうしようもなかった)

 

『それは俺も同じさ』

 

これ以上照れくさい言葉を並べるのは御免なので、ステラはきゅっと口元を閉じる。

 

そして次の瞬間虹色の光が霧散し、アーブギアは霧雨のように消えてしまった。

 

(あっ……)

 

『大丈夫さ、きっとまた会える。俺達が生き続ける限りはな』

 

(そうならいいけど……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「————終わったか。実に天晴れな戦ぶりであった」

 

『……!?お前は……』

 

岩陰から姿を覗かせた一人の宇宙人がこちらに歩み寄る。

 

(ザムシャー……。あなた、どうしてここに?)

 

「心配せずともハビットにいる連中は無事だろうよ。……何しろ“アレ”は、ボガールなどという輩に敗北する玉ではあるまい」

 

『アレ……?』

 

「まあ、そんなのは俺にとってどうでもいいことだ」

 

接近してくるザムシャーに警戒心を露わにするヒカリ。

 

彼のことだ、いつ刀が抜刀されて攻撃してくるかわかったものではない。

 

(まさかここで戦うつもりじゃないでしょうね)

 

『……もとよりお前はそれが目的でアークボガールを追っていたのだろう。それが倒され、今度は俺達に再戦を挑むというわけか?』

 

「…………」

 

沈黙が緊張に変わる、

 

と思われた矢先だ。

 

「————いや、やめておこう。どうやらまた貴様らとの技量の差が開いたようだ」

 

肩を落としてそう語る剣豪の姿はどこか哀しげで、それでいてとても楽しそうだった。

 

『……!もう行くのか?』

 

「ああ、ボガールの王は貴様らに先を越されてしまったからな。……だが忘れるな、ハンターナイトツルギの首は……必ずこのザムシャーが頂くと」

 

『……いいだろう。いついかなる時も、俺達はお前の挑戦を待ち続ける』

 

飛ぶようにして跳躍して去っていく彼を見送り、ステラがふとこぼす。

 

(前から思ってたけど……あなた達って仲いいわよね)

 

『そう見えるか?』

 

(ええ)

 

まるで実感がないといった様子で地を蹴り、アーブの大地から飛翔するヒカリ。

 

二人を見送る者は誰もいない。だけどきっと————

 

 

◉◉◉

 

 

「ザムシャーも言ってたけど……まさか本当にあの大群を全滅させるなんてね」

 

「まったくだぜ。俺も加勢したとはいえ……ほとんどはこいつらが倒しちまった」

 

ハビットに戻ったステラとヒカリを待っていたものは、疲れ切った表情をしたゼロとノン達だった。

 

ザギの力はまさに鬼神のような強さだったらしく、アークボガールの用意した手下は綺麗さっぱりと殲滅してしまったらしい。

 

「まったく……リスクがある可能性も考えないで……」

 

「あんたはいちいち考えすぎなのよ」

 

「あはは……でも大丈夫だよ、ザギのことは信用していい。それはウチが保証する」

 

何も言わないのでわかりづらいが、ザギは今もノンの身体の中に眠っているのだろう。

 

「それで……どうするの?これから」

 

ステラの質問には複数の意味が込められていた。

 

ザギに対しての問い。そしてエリィ達はこれからどうするか、という疑問。

 

「……私達はこれからも変わらないわ。死ぬまでずっとこの星で暮らしていくのでしょうね」

 

「もし今回のボガールみたいな連中が現れたらどうするつもりだ?」

 

「それも大丈夫だよ。……ザギもきっと残ってくれる。少なくともウチの身体が治るまではね」

 

ゼロの疑問にも間を空けずに返答してみせたノンも何かが吹っ切れたように笑った。

 

「あなた達も頑張りなさいよ。……これが終わりじゃないんでしょ?」

 

ミコにそう言われて改めて気がつく。

 

アークボガールを倒したからといってエンペラ星人の軍勢が滅びたわけではない。

 

戦いはこれからも熾烈を極めるだろう。

 

「ええ、わたし達も平気よ。……まあ、少しばかり荷が重い気はするけれど」

 

今回の任務は“攻め”一筋だったが、ヒカリとステラには地球防衛という役目が残っている。

 

 

 

「さよなら、遠い星のヒト。あなた達の健闘を、この星から祈っているわ」

 

「ありがとうエリィ、ミコ、ノン。……また縁があれば」

 

 

◉◉◉

 

 

「これでお前らともお別れか」

 

(寂しい?)

 

「んなわけあるか。……でもまあ、いい経験になったよ、今回の任務は」

 

真横で飛行する赤と青の巨人はごまかすような口調で話した。

 

『君の活躍は想像以上のものだった。俺からも本部に報告しておこう』

 

「……へへっ、あんたにそう言われるとは光栄だぜ。……またいつか、一緒に戦おう」

 

『ああ、きっと』

 

最後の会話を済ませたヒカリとゼロはそれぞれ反対方向へと進路を変え、宇宙空間を駆ける。

 

 

 

(……いよいよ帰るのね、地球に)

 

『嬉しそうだな』

 

(そ、そう?…………そうかもね)

 

アークボガールを倒したからか、胸の内に引っかかっていた重りのような感覚は無くなった。

 

……これから先、何が起こるのか————

 

(……っ……)

 

痛みが全身を疾る。

 

身体をを休める暇もなかったので、蓄積されたダメージはそのままだ。

 

ステラと同化しているヒカリも限界が訪れている。

 

(さっさと帰ってあいつらの成長ぶりを見てあげるとしましょう)

 

『そうだな。彼らもただ待っているわけでは————』

 

ヒカリの言葉が途切れる。

 

ステラもまた前方に見えた物体に気づき、目を凝らしてその正体を探った。

 

 

 

 

 

 

(あれは……)

 

『隕石、か————?』

 




ザギの強さについてはかなり悩みました。
かつてはノアと互角だった、という設定は闇堕ちした過程があってこそなのかもしれませんが、はっきりとは描写されてないので今作では結構濁してます。

解説はアーブギアについて。

ヒカリサーガを見た人にはわかると思いますが、シチュエーションを少し借りさせて頂いてます。
原作の方ではアークボガールではなくババルウ星人が相手だったかな?
僕はウルトラマンのなかでメビウスと並んでヒカリも特に好きなので、最後の最後で再びアーブギアを装着させる展開は書いててとても楽しかったし、心が踊りました(笑)

さて、次回からはサンシャイン二期……つまり第二章。
ノワールが手にした黒いメビウスブレスの力や、エンペラ星人との戦い。この作品を通して最も書きたかったシチュエーションがその最後にあります。

未来とメビウスも今頃アップを始めてる頃でしょう。かくいう僕も執筆するのがとても楽しみです。

それでは次回、またお会いしましょう。


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第2章 闇の巨人と輝きのAqours
第59話 次にすること


ついに第2章の始まりです。
外伝とは打って変わってライトな雰囲気に戻りますね。



光がない。

 

光がない。

 

…………光がない。

 

真っ黒に塗りつぶされた視界を開く。そうしても景色は変わらない。

 

闇のなかで想う。どうして自分達だけなのかと。

 

 

 

 

諦めるものか。

 

太陽みたいに輝けなくてもいい。だけどせめて、月のように光を浴びていたい。

 

辿り着いた地で見た光景はまさに楽園だった。見ているだけで救われたのかと錯覚するほどに綺麗なものを見た。

 

いや、実際自分は救われたのだ、“彼女達”の光に。

 

だから()()は——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……見たね?』

 

 

◉◉◉

 

 

「のわ……っ!?」

 

無意識に前へ傾けていた上体を戻して、未来は目を開いた。

 

『そこのボーイ!居眠りはノーサンキューデース!』

 

「あっ……す、すみません!」

 

ステージ上でマイクを通して注意する鞠莉に反応して軽く周囲で笑いが巻き起こる。

 

今は全校集会の真っ最中。クラスごとに列で並んで理事長と生徒会長の話を聞く時間だ。

 

「おはよう未来くん」

 

「もう、休み明けからだらしないわよ?」

 

「大目に見てくれ……こっちは大仕事した後で身体がバッキバキなんだ」

 

隣で冗談めかしく笑いかけてきた曜と、その後ろで呆れ顔をしているのは桜内梨子。

 

未来がマネージャーを務めるスクールアイドル部のメンバーだ。

 

地球に飛来してきた隕石を防いだことで大ダメージを受けてしまった未来とメビウスだが、なんとか登校できるくらいの体力は取り戻せた。

 

『ステラちゃん達はずいぶん元気そうだね』

 

(ほんとだよ。どんな身体してんだあいつら……。なんか強そうな鎧まで手に入れちゃってさ)

 

『僕達だって炎の力を習得したじゃないか』

 

(そうだけどさ……)

 

メビウスと出会ったばかりの頃と比べれば確実に成長はしている。

 

しかし未だに力不足感が否めないでいた。

 

 

 

『さて、と……。ハローエブリバディ!本日より、セカンドシーズンのスタートデース!!』

 

壇上で勢いよく未来達の方を指差す彼女こそ、この浦の星学院の理事長兼生徒、小原鞠莉。

 

「セカンドシーズン?」

 

「二学期ってことよ」

 

『それにしても……遅いね千歌ちゃん』

 

「あれ?まだ来てないのか?」

 

「“これからは一人で起きるから”って言ったそばから遅刻……」

 

「あっはははは……」

 

未来が居眠りしている間も彼女は姿を見せていないらしい。我らがAqoursのリーダーだというのに先が思いやられる……。

 

「理事長挨拶と言いましたですわよね!?そこは、浦の星の生徒らしい節度を持った行動と勉学に励むだと——」

 

「セツゾウを持つ……?」

 

「せ・つ・ど!!」

 

鞠莉の横でカーテンに隠れて文句を飛ばしている彼女は生徒会長の黒澤ダイヤ。

 

「それにしても……惜しかったわね。もうちょっとで予選通過だったんでしょ?」

 

視線だけを横にずらして隣にいる善子、ルビィ、花丸に質問するステラ。

 

「うん、あともう少しで全国大会だったみたい」

 

「過ぎたことをいつまで言ってても仕方ないずら」

 

「しっかぁーし!参加賞が二色ボールペンってどうなの!?」

 

「決勝大会に進出すると三色になるとか……」

 

「……絶妙にいらないわね」

 

「未来ずら〜」

 

「どこがよ!」

 

 

『シャラァ————ップ!!』

 

ぼそぼそと話し出す生徒達に向かって鞠莉の注意が炸裂する。

 

『たしかに、全国大会に進めなかったのは残念でしたけど……』

 

「でも、ゼロをイチにすることはできた。ここにいる皆さんの力ですわ」

 

未来はふと周りに立っている浦の星の全校生徒の様子をうかがった。

 

三年生は三クラス。二年生は二クラス。一年生は一つしかクラスがない。

 

全体的に見ても“少ない”と表現せざるをえない人数だった。

 

しかし、だ。

 

(今では入学したいって人も増えて……少しずつだけど希望が見え始めてる)

 

「それだけではありませんわよ」

 

『本日、発表になりました、次のラブライブが!同じように……決勝は秋葉ドゥーム!!』

 

と、その時。

 

体育館から息を切らして駆け込んできた一人の少女の姿が見えた。

 

「千歌!」

 

『トゥーレイト!』

 

「大遅刻ですわよ!」

 

「次のラブライブ……!」

 

体力が尽きかけても喋ろうと口を動かす千歌。

 

「どうするー!?」

 

「聞くまでもないと思うけど」

 

「善子ちゃんも待ってたずら!」

 

「うゆ!」

 

「ヨハネ!」

 

曜や果南に続いて他のメンバー達も彼女へ期待の眼差しを送った。

 

もちろん未来とステラ、メビウスとヒカリも例外ではない。

 

次に千歌が言う言葉はもうわかりきっていた。

 

「出よう!ラブライブ!……そして……そして!一を十にして、十を百にして、学校を救って————そしたら!」

 

————そしたら!?!?

 

体育館に全校生徒の声が反響する。

 

以前行った予選でのライブ以降、浦の星学院の生徒達の心は一層繋がりを強めていた。

 

「……そうしたら、私達だけの輝きが見つかると思う。きっと!」

 

————輝ける。

 

また最初から始めるんだ。自分達の物語を。

 

 

◉◉◉

 

 

「いたたたたた!!痛い痛い!!」

 

「かっっったいわねあなた……。家でストレッチしてないでしょ」

 

屋上で練習前の準備運動。

 

善子の開脚前屈を手伝おうと背中を押すステラだったが、予想以上の硬さに思わず顔を引きつらせる。

 

「もうちょっといけるでしょう。堕天使の力はこんなもの?」

 

「そんなわけ————あだだだだだ!?ギブギブギブ!!」

 

軋む音の代わりに悲鳴を上げる善子に周囲のメンバーも苦笑。日々のストレッチは大切である、と彼女によく教えてもらった。

 

「花丸ちゃんはずいぶん曲がるようになったよね」

 

「毎日、家でもやってるずら」

 

体力のなかった花丸だが、彼女も柔軟運動ならば皆と引けを取らないほどに上達していた。

 

「それに腕立ても」

 

「本当!?」

 

「見てるずら〜?」

 

自信満々に身体を両腕だけで支える花丸へ視線が集まる。

 

(ほんと、入ったばかりの頃とは見違えたな)

 

どこか感心したように彼女を見やる未来。

 

マネージャーとしてアイドルの成長が見られるのはとても嬉し————

 

「い〜〜〜〜〜〜〜〜……

 

腕の関節を曲げたところで動きを止めてしまった花丸を見て一瞬思考が止まる。

 

…………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ち。完璧ずら……」

 

「マジで?」

 

前言撤回。どうやら買いかぶりだったようだ。

 

身体を一度も上げることができないままカウントを止めた花丸を見下ろす。

 

「花丸ちゃんの練習メニュー、ちょっと追加しとこうか」

 

「ずらっ!?」

 

「ずらじゃない」

 

「善子もきちんと家でストレッチしてくること。いい?」

 

「は、はい……」

 

未来とステラもマネージャーらしさが板に付いてきた。

 

九人の体調管理はやはり大変な仕事だが、苦にはならない。

 

「それで……次のラブライブっていつなの?」

 

「たぶん……来年の春だと思うけど」

 

「ぶっぶー!!ですわ!その前に一つやるべきことがありますわよ!」

 

「「え?」」

 

唐突に迫ってきたダイヤにたじろぎつつ、曜と梨子は準備運動を中断して耳を傾ける。

 

「忘れたんですの?入学希望者を増やすのでしょう?」

 

「ああ、そっか……忘れてた」

 

「オフコース!すでに告知済みだよ」

 

「せっかくの機会ですっ。そこに集まる見学者達にライブを披露して、この学校の魅力を伝えるのですわ!」

 

「それいい!」

 

横からの一声に反応して階段の方を向く。

 

うっすらと笑みを浮かべる千歌がそこに立っていた。

 

「それ、すごくいいと思う!」

 

「トイレ長いわよ!もうとっくに練習始まってんだからね!」

 

「善子は自分のことも気にしなさいよ……ねっ」

 

「あいたたたたたたた!!」

 

(相変わらず容赦のない……)

 

善子の背中に両手で一気に力を押し込むステラを見て苦笑する未来。

 

『……?』

 

(ん?どうかしたかメビウス?)

 

『いや、鞠莉ちゃんがちょっと……』

 

(鞠莉さん……?)

 

メビウスに言われるまま鞠莉が立っている場所の方を振り返る。

 

いつものおちゃらけた雰囲気とは真逆の、険しい表情を作った彼女の姿があった。

 

 

◉◉◉

 

 

「そっか。秋になると終バス早くなっちゃうんだね」

 

練習を終えた帰りのバス停。

 

ほとんど何も書かれていないような時刻表を見つめて曜がそうこぼした。

 

「そうずらね」

 

「日が暮れるのも早くなるから、放課後の練習短くなっちゃうかも……」

 

「説明会まであまり日はありませんわよ?」

 

「それは、わかってるけど……」

 

「一度スケジュールを練り直したほうがいいかもな」

 

そろそろ夏も終わり、太陽が沈む時間も早まってきた今、あまり遅くまで学校にいるわけにもいかなくなる。

 

季節が変わるのと同時に、練習時間の調整も自然と必要になってくるだろう。

 

「朝、あと二時間早く集合しよっか」

 

「……合宿の時にも似たようなこと話したよね」

 

以前の合宿では朝四時に集合とのことだったが、結局時間通りに集まったのは花丸だけだった。同じ悲劇を繰り返すわけにはいかない。

 

「それと善子ちゃん、もう少し早く帰ってくるように言われてるんでしょ?」

 

「ギクッ!ど、どうしてそれを……?」

 

梨子の質問が不意打ちだったと言わんばかりに身体を強張らせる善子。

 

「うちの母親が、ラブライブの時善子ちゃんのお母さんと色々話したらしくて……。なんか、部屋にも入れてくれないって」

 

「だ、だから!ヨハネは堕天使であって、母親はあくまで仮の同居人というか——」

 

“母親”と言ってしまっているあたり即興で作った設定なのが丸わかりである。

 

「ヨハ子ちゃんのお母さんって……どんな人なんだ?」

 

「学校の先生なんだって。善子ちゃん幼稚園まで哺乳瓶離さなかったから、お母さん————」

 

「こらあああああああああ!!」

 

どんどん堕天使の余計な情報が増えていく。

 

善子がやりたいことをすればいいと言ってスクールアイドルに誘ったのはこちらなのだが、親にかける心配は程々にしてほしいものだ。

 

「……待って、沼津からこっちに来るバスは……遅くまであるのかな?」

 

「えーっと……仕事帰りの人がいるから……」

 

「……あっ!向こうで練習すればいいんだ!」

 

名案が浮かんだと同時に唸っていた千歌の表情も一気に明るいものへ変わっていく。

 

「それなら時間も確保できるずら!」

 

「ルビィ賛成!」

 

「そうだね。…………鞠莉は?」

 

パッと果南が背後を見ると、どこか物悲しげに肩を落としている鞠莉の背中が見えた。

 

「……へ?ノープロブレム!」

 

(……ん)

 

彼女の笑顔に違和感を感じてふと果南の顔を確認する。

 

やはりいつもと様子が違う。果南の何か言いたげな顔を見れば一目瞭然だった。

 

『……やっぱり何か……』

 

(ま、ここは話し慣れた人に任せるとしよう)

 

『君がそう言うなら……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またねー!」

 

遠ざかっていくバスを後ろから見送る梨子と未来。

 

「あれ、千歌は…………あっいたいた」

 

海岸沿いに立って夕日の映った海を眺めていた千歌の隣に二人が駆け寄る。

 

「綺麗……」

 

「本当……」

 

「少し眩しいけどな」

 

三人の前にあるオレンジ色の光。近いようでとても遠いそれは、まさに千歌達が目指しているものを体現したかのように輝いていた。

 

「私ね、一瞬だけど、本当に一瞬だけど……あの会場でみんなと歌って、“輝く”ってどういうことか、わかった気がしたんだ」

 

「本当に?」

 

「うん、もちろん!」

 

「————って千歌!?」

 

未来は前触れもなく地を蹴って走り出した千歌へ手を伸ばすが、掴むことなく空振りに終わってしまう。

 

「とぉぉおおおおおおおおおおっ!」

 

海に飛び込む勢いで全力のジャンプを見せた彼女の両腕を梨子と二人で掴み取り、ほっと胸をなでおろした。

 

「まだぼんやりだけど……でも、私達は輝ける。頑張れば絶対って……そう感じたんだ」

 

「……大変な道になりそうだけどな」

 

「だからいいんだよ!」

 

「あはははは!」

 

 

三人で笑顔を交わしながら不意に気づく。

 

「そういえば……ステラちゃんは?」

 

「あれ……?」

 

ステラは十千万で居候しているので、バスを降りるなら同じ場所のはず。

 

「メビウス、何か聞いてるか?」

 

『ううん。ヒカリからも連絡はないね』

 

「……ま、あいつらなら大丈夫だろ」

 

「ステラちゃんだって未来くん達と同じ、ウルトラマンだしね」

 

千歌を地面に引き戻し、三人はそれぞれの自宅へ帰ろうとその場を後にした。

 

 

◉◉◉

 

 

夕焼けの光が木々の隙間からはみ出し、地面を濡らしている。

 

ステラは道路沿いの森に足を運んでいた。

 

未来達には気付かれないようにこっそりとバスから抜け出して人気のない場所までやってきた理由はただ一つ。

 

「……で、誰よあんた」

 

「誘いに乗ってくれてありがとう、ステラちゃん……そしてウルトラマンヒカリ」

 

黒髪に黒いコート、明らかに怪しげな青年がそこで待っていた。

 

「こうして話すのは初めてだったかな?」

 

「少なくともこの星の人間じゃないわね。……用があるなら十秒で済ませてちょうだい。それと、ふざけたことを喋ればその瞬間に殺すわ」

 

「怖いこと言わないでよ……ほら、そんなにシワ寄せたら可愛い顔が台無しだよ?ちょっと話したいだけだって」

 

「黙りなさい。お前からはアークボガールと同じ匂いがする」

 

ステラの体内で待機しているヒカリも無言ではあるが男を警戒していた。

 

いつでもナイトブレードを取り出せるよう、スカート付近まで手を寄せておく。

 

「……アークボガール……か、君達の戦いも見ていたよ。正直ボクもあの手の下品な輩は苦手だったんだ。倒してくれてすっきりしたよ」

 

「十秒経過。おとなしく死になさい」

 

予備動作も見せずにステラは黒ずくめの男へ肉薄した。

 

こいつはどこかおかしい、と本能が告げている。生かしておけば厄介なことになるかもしれない。

 

「でもハズれだ。……ボクは皇帝よりずっと弱いけど、なめてかかると痛い目見るかもよ?」

 

「————っ!?」

 

奴が防御に使ったモノを視認して驚愕する。

 

突き出したナイトブレードの刃を防いでいるそれは————“黒いメビウスブレス”だった。

 

「手に入れた時よりもずいぶん力も増したし……小手調べに付き合ってくれないかな」

 

『……!ステラ避けろッ!』

 

「はっ…………!」

 

漆黒の光が広がり、咄嗟に奴から距離をとる。

 

『こいつは危険だ……!一旦退け!』

 

「どういう……!?」

 

『早く逃げるんだ!』

 

「ちっ……!」

 

ヒカリの指示は何よりも信頼できる。彼が退けというのならそれが最善なのだろう。

 

「あれ?おーい!待ってよー!」

 

駆け出したステラの背中を残念そうに見送る男。

 

 

 

「戦えると思ったのになあ。……やっぱり初戦は“彼ら”にしろって、神様からのお告げかな?」

 

左手に現れたブレスを消滅させ、()()()()は不気味に口元を歪ませた。

 

「光が手に入らないなら……今ある力でそれを超えればいい。そうすればボクはもっと高みへいけるんだ……!」

 

古い記憶を辿って彼は一人の少女の顔を思い出していた。

 

「見ていてくれよ……————ちゃん」

 

消えてしまいそうな一言に彼女の名前を乗せる。

 

高揚しているノワールの横を、冷たい風が吹き抜けた。

 

 




既になにかやらかしそうなノワール……。便利な悪役ですよこの人は……。
2章では他のウルトラ兄弟達もオリジナル回と絡めて登場させるので注目です!

ここら辺でもう一度ノワールについて解説しましょうか。

エンペラ星人と同じ惑星の出身、生き残りです。
皇帝と同じく闇の中を彷徨いながらも、光を諦めきれずに地球へ辿り着いた青年。意外と今作一の努力家かもしれません。
当初は未来やAqoursのメンバーが持つ「光の欠片」を奪おうと暗躍していたが、代わりに奪い取ったメビウスの力が闇に染まってしまったのを見て一旦その目的を変更。エンペラ星人をも超える存在になることを決意する。
彼が今後どう物語に関わっていくのか……⁉︎

それでは次回もお楽しみに!


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第60話 隠された活路

深夜投稿です。
今回の話は第1章に出てきた事柄が多く絡むので、2章から読み始めた方には事前に第7話、第24話、第25話を読むことをお勧めします。


『もしかして、私達のファンですか!?』

 

目一杯の笑顔を見せて嬉しがる少女と向かい合っている光景が浮かんできた。

 

(……これは……)

 

『いつも応援、ありがとうございます!』

 

(……!この人、たしか……!)

 

髪をサイドテールにしている無邪気な雰囲気の女の子。

 

 

 

自分の知らない記憶が映し出される。

 

そのなかには何人か見覚えのある人物も確認できた。

 

合計で九人。おそらくこの記憶の持ち主は彼女達の熱狂的なファンか何からしい。

 

(そうだ思い出した……μ'sだ……!)

 

今目の前に浮かんでいる光景に映る少女達の正体がわかったのと同時に、なぜそのような映像が唐突に出てきたのかを考える。

 

————見たね?

 

(……!誰だ!?)

 

周囲に何もない黒い空間。

 

やがてどこからともなく聞こえてきた男の声に警戒心を露わにする未来。

 

————ボクが奪った力はメビウスの一部……。一体化している君の精神と少しばかり繋がっているようだ。

 

(その声……!お前まさか……!)

 

————ボクの力が増すに連れてその繋がりも強くなっている。……君のなかをボクは覗けるし、逆のようにボクのなかも君は覗けるというわけか。

 

(待て……!!)

 

遠ざかっていく声を追い、未来は暗闇の中で無作為に手を伸ばした。

 

————これからは嫌でもお互いを意識せざるをえなくなる。……じゃあね未来くん、ボクが訪ねるまで死んでくれるな。

 

忘れることができない男の顔が一瞬、暗闇に揺らめいた。

 

(ノワール!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……!」

 

ベッドから跳ね起きて自分の心臓が動いていることを確認する。

 

ひどい夢だった。……いや、本当に夢なのか?

 

近頃はエンペラ星人やノワール絡みの事件は起こっていなかったので、すっかりその存在を忘れかけていた。

 

まだノワールという男は何かを企んでいる。それだけはわかった。

 

『……未来くん、君も見えたんだね?』

 

「ああ。くっそ……気味の悪い」

 

『あいつが奪った僕の力のせいだ…………ごめん』

 

「いや、奪われた責任は俺にあるんだ。……しっかし、まさかこれから先眠る度にあいつと繋がる、なんてことはないよな……?」

 

奪われたメビウスの力とノワールが未来達と共鳴して起こるシンクロ状態。

 

ノワールが言うには自由にこちらの“なか”を覗けるとのことだが……。

 

「夢じゃないみたいだな……」

 

『……九割の確率で意図的に引き起こされたものだろうね』

 

「まったく……あいつが怖くて夜も眠れない、なんてことになったら洒落にならないよ」

 

怖い、というのは言葉の綾だ。別にノワールに屈したわけではない。むしろ勝つ。絶対に。

 

 

 

(というか……)

 

夢で見た景色はノワールとμ'sの交流する風景だった。そこまで深い間柄ではなかったようだが、少なくともあいつは彼女達に会ったことがあるらしい。

 

そのなかで感じたノワールの心は、とても穏やかで————

 

「……いや、そんなわけないか。あれこれ考えるのは性に合わない、俺は寝るぞ」

 

『そうするといい。また何かあったら僕がなんとかするよ』

 

「悪いな」

 

再びベッドに倒れこんで瞼を閉じる。

 

未来がμ'sについて知っていることはネットの知識と、千歌達から教えてもらったことしかない。

 

かつて光の欠片を宿したといわれる彼女達について、未来はまだ何も————

 

(……ふん。どうせノワールがμ'sに近づいたのだって、光の欠片を狙ってたからだろ)

 

奥底に引っかかる違和感を無視して、未来は深い眠りについた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ふわあ〜……!」

 

「千歌ちゃん、いい場所あった?」

 

「うーん……なかなかないんだよねえ……」

 

近場で練習ができる場所といってもそうやすやすと見つかるわけもなく、事態はやはり行き詰まるばかり。

 

「ずら丸ん家お寺でしょ?大広間とかないの?」

 

「花丸ちゃんの家は遠いから難しいかな」

 

「そうずらね」

 

あまりにナチュラルに言うものなので一瞬反応が遅れたが、千歌と曜は未来の言葉に食いつかずにはいられなかった。

 

「未来くん、花丸ちゃんの家に行ったことあるの?」

 

「ん?ああ、といってもあの時は玄関前まで送っただけ————ってなんだその目は」

 

二人揃って冷えた視線を注いでくる千歌と曜に思わずたじろぐ未来。

 

「べっつにー?()()()帰るような関係だったなんて知らなかったからさー?」

 

「……?お前らとだっていっつもバスで一緒になるだろ」

 

つい「二人きりで」という重要な部分が抜けてしまったことに気がついた千歌は不機嫌そうにそっぽを向いた。

 

「もういいっ!」

 

「なんで怒ってるんだよ……?なあ曜、俺何か悪いこと言った——」

 

「未来くんのスケベ」

 

「なんで!?」

 

二方向からの謎の怒りに困惑する未来を尻目に、練習場所の相談は続いていく。

 

「なら、善子ちゃんの家のほうで……」

 

「どこにそんなスペースがあるのよ!」

 

と、ルビィの提案は善子によってすぐさま切り捨てられてしまった。

 

前途多難といった感じだ。このままでは時間だけがどんどん過ぎていくばかり。

 

 

 

「……あれ?そういえばダイヤさん達は?」

 

ふと三年生組が部室からいなくなっていることに気がついた曜がそう口に出した。

 

「さっきまでいたのに……」

 

「鞠莉さんは電話かかってきてたみたいだけど……」

 

「じゃあ理事長室かな————」

 

言いかけたところで部室のドアが開かれたことに気がつく。

 

深刻そうな顔つきで入ってきたのはスクールアイドル部もう一人のマネージャー、七星ステラだった。

 

「あ、ステラちゃん」

 

「珍しいな、お前が遅刻なんて」

 

「未来、ちょっといい?」

 

「えっ————っておい!襟を掴むな!」

 

外に連行されていく未来を、残った六人はぽかん、と呆けた顔で見送った。

 

 

◉◉◉

 

 

「なんだよ急に。正体はとっくにバレてるんだから別に場所を移さなくたっていいじゃないか」

 

「あの子達に余計な不安を与えたくないでしょ」

 

ステラの言葉を聞いて只事じゃないのを察し、未来は開きかけた口元を閉じる。

 

「“黒ずくめの男”についてちょっと調べててね。……今のキーワードに心当たりはある?」

 

どすり、と胸に何かが刺さったような感覚が疾った。

 

「……ノワールのことか」

 

「やっぱりあなた達も会ってたのね」

 

ため息をついたステラが面倒そうに頭をかきながら壁へもたれかかる。

 

洞察力の良い彼女のことだ。一目見ただけで奴の厄介さに気がついたのだろう。

 

『何かその……ノワールという男について知り得てる情報はないのか?』

 

『そういえば……以前東京で会った時にエンペラ星人と同じ惑星の出身、とか言ってた気がする』

 

『なんだと……!?』

 

ヒカリとステラはアークボガール討伐の任務で地球を離れていたので詳しくないと思うが、未来とメビウスにとってはかの暗黒宇宙大皇帝に匹敵する因縁を感じている人物だ。

 

『本部には伝わっているのか?』

 

『光の欠片について記されている“光の預言”の内容を盗み出したのも奴だ。大隊長も把握しているはずだよ』

 

「そう……それよ、光の預言。すっかり忘れてた」

 

疲れ切っているようにも見えるステラの表情は、いつも以上に険しいものだった。

 

「わたしとヒカリが地球(ここ)から離れている間に何か進展はあった?」

 

「……それがな、Aqoursのなかで発現しているメンバーが何人かいるけど……肝心の“何が引き金になるのか”ってのがひどく曖昧で」

 

何度か千歌達の胸が輝くのを目の当たりにしたが、どうしてそうなったのかがわからない。

 

「前に持ってたメモは残ってるの?」

 

「ああ、いつも持ち歩いてるぜ」

 

ポケットから取り出した紙を広げ、ステラに見えるよう差し出す。

 

一から十。全ての“光の欠片”について記されたメモだ。

 

「ノワールの言葉を信じればだけど……過去にμ'sのメンバーは全員光の欠片を持ってたらしい」

 

「それはわたしもいくらか把握してるわ。……何か他にない?発現した時の共通点とか」

 

「う〜ん……」

 

そういえば以前現れたナツノメリュウを倒せたのは、花丸が光の欠片の力を与えてくれたからだ。

 

その時は……そうだ、()()()()()()()

 

「ウルトラマンへの信頼…………とか?」

 

「————ちょっと待って」

 

メモを片手にしたステラが言葉を失い、もう片方の手で顔を覆った。

 

「…………もしかしたら、酷い勘違いをしていたのかも」

 

「どうしたんだ?」

 

「ここを見て」

 

彼女がメモの上を指で示し、その一文を読む。

 

————四の光。他者を思いやりその背中を押す、信託の輝き。

 

「今あなたが言ってた状況に似ていない?」

 

「ああ、そうなんだよ。ルビィちゃんと花丸ちゃんが加入した時も思ったんだけどさ。この“四の光”と“五の光”ってのがやけに二人と合致するというか……」

 

「それよ」

 

何かを感づいたステラの顔の前にピンときていない、といった未来の間の抜けた表情が浮かぶ。

 

「いい?光の欠片は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのよ」

 

「は……!?」

 

衝撃的な言葉を聞かされて面食らってしまう未来。

 

「で、でもそれだとノワールの言ってたことと違うんじゃ……」

 

「……敵のことをずいぶん信用しているのね。おそらくそれはあの男の勘違いよ」

 

ステラが言うには、光の欠片とは地球人だけが持つ“現象”なのだという。

 

「光の欠片は誰でも秘めている————けれどそれを引き出せる者はごくわずか。この預言に記されているような素質を持つ者だけ。ノワールが言うμ'sも、あなたが言うAqoursの子達も、みんなそれに当てはまっていたのよ」

 

「じゃあ、あいつが言ってた“十の光が発現したことがない”っていうのは……?」

 

「それは合ってるわね。単純に十の光を引き出せる者が、μ'sが活躍していた当時にいなかったのよ」

 

一の光も、二の光も……十の光も。その全て、例外なく誰もが発動させる可能性を持っているということだ。

 

『……つまり、なんだ。今まで我々が思っていた“ウルトラマンのみが光の欠片を秘めている人間を判別できる”というのは……』

 

「発動しているものを見て判断してただけってこと。……気に病まないで、間違ってはいないわ」

 

テーブルに置かれているりんごを見て「りんごが置かれている!」と言っていたようなものだ。

 

しかしこれで完全に欠片を探す手段とやらは無い、とわかってしまった。

 

今まで判別していた手段がただ“発動している光”を見て判断していたとわかった以上、“発動するかもしれない素質を持つ者”は探すことは不可能だ。

 

普段から複数の人間の性格等を観察して、光の預言のなかに当てはまる人物を探す、などということができれば話が別だが。

 

 

 

「二人ともー!曜ちゃんが練習場所のアテがあるかもって!」

 

唐突に開かれた部室の戸から上半身だけを出してこちらに手を振ってくる千歌が見えた。

 

「……続きはまた今度にしましょう」

 

「……そうだな」

 

ノワールの知らないことに一つ気がついた、というだけで少しだけ勝った気分だ。

 

しかしまだ引っかかることがあった。

 

(ノワールが“俺の中に光の欠片がある”って教えてきた時……胸が光ったとか、特に変わったことは起きなかったはず……)

 

————ならどうして奴は、俺の中に欠片があることに気がつけた……?

 

 

 




最後の会話、少しややこしかったですね(笑)書いてて混乱しました。
光の欠片についての詳細は何度か解説で紹介したので、覚えている人にとっては「知ってる」と思われるかもしれませんね。

今回の解説は光の欠片について簡単にまとめてみましょう。

・地球人の誰もが発動できる可能性を持っている。
※電池と繋がっていない電球のような状態。
・力を引き出せる者は予言に当てはまる人間のみ。
・μ'sが活躍していた時代に"十の光"は現れていない(?)
※あえて「?」をつけます。

究極の光を生み出すといわれる光の欠片。それがもたらすものは一体……?
それではまた次回。


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第61話 奇跡の兆し

今回も少し遅い時間の投稿。
1話分が終わりです。やっと物語が始まる、といった雰囲気ですね。




「「「わあ〜!!」」」

 

「広ーーーーい!!」

 

とあるスタジオに足を運んだ千歌達が隠しきれない興奮を解放するようにはしゃぎだす。

 

「ここ、開けると鏡もありますし!」

 

壁一面を覆っていたカーテンの一箇所をめくって見せるルビィ。

 

そこに設置されていた鏡に反射して映っていたのは善子の姿である。

 

「いざ、鏡面世界へ!」

 

「やめるずら」

 

「それにしてもすごい……。よくこんな場所借りれたな」

 

屋上よりもはるかに設備が整っている。ここを用意してくれた曜の功績は大きい。

 

「パパの知り合いが借りてる場所なんだけど、しばらく使わないからって」

 

「さすが船長!」

 

「関係ないけどね」

 

「それに!ここなら帰りにお店もたくさんあるし!」

 

「そんな遊ぶことばっかり考えてちゃダメでしょ?」

 

「本屋もあるずら!」

 

好き勝手な意見が飛び交うなか、ダイヤ、果南、鞠莉の三年生三人だけは顔を俯かせて浮かない表情を浮かべていた。

 

「どうかしたの?」

 

「……へ?えっと…………」

 

何気ない口調で彼女達に尋ねる未来と、もどかしそうに口元を動かす鞠莉。

 

それを見て何かを耐えかねたのか、果南が唐突に切り出した。

 

「ちょっと待って。その前に……話があるんだ」

 

「果南さん?」

 

そういえば少し前から果南や鞠莉の様子がおかしかったのを思い出し、未来はふと嫌な雰囲気を察するように黙り込んだ。

 

「実は……さ。…………鞠莉」

 

「————実は!学校説明会は…………中止になるの」

 

 

 

 

しん、とさっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返った。

 

状況を飲み込むのに数秒かかった未来と千歌がやっと声を出す。

 

「……え?」

 

「中止……」

 

「どういう意味……!?」

 

少し遅れて身を乗り出した梨子が皆の疑問を代わりに問う。

 

「言葉通りの意味だよ。説明会は中止。浦の星は、正式に来年度の募集をやめる」

 

無表情のままだった千歌の肩がほんの少し揺れた。

 

「そんな……!いきなりすぎないか!?」

 

「そうずら!まだ二学期始まったばかりで……」

 

「うん!」

 

「生徒からすればそうかもしれませんが、学校側は既に二年前から統合を模索していたのですわ」

 

落ち着いて——いや、落ち着いているように見せているダイヤの言葉が刺さる。

 

「鞠莉が頑張って、お父さんを説得して、今まで先延ばしにしていたの」

 

「でも、入学希望者は増えてるんでしょ?ゼロだったのが、今はもう十になって……」

 

「これから、もっともっと増えるって……!」

 

未来は混乱している思考を放っておいて改めて千歌に視線を写した。

 

両手で強く拳を握りしめ、悔しそうにしている彼女の姿。

 

「それはもちろん言ったわ。けれど、それだけで決定を覆す理由には————」

 

「鞠莉ちゃん!」

 

爆発したような勢いで鞠莉のもとへ踏み出した千歌が、彼女の肩に掴みかかって言う。

 

「……どこ?」

 

「……ちかっち?」

 

「私が話す!」

 

「おい千歌ッ!」

 

すぐさまその場を駆け出して部屋を出た千歌を引き止める。

 

「鞠莉さんのお父さんはアメリカにいるんだぞ……!?」

 

「……美渡姉や志満姉やお母さん。あと、お小遣い前借りして、前借りしまくって……!アメリカ行って……そして……!もう少しだけ待って欲しいって話す」

 

できるはずもないことを本気で口にするようになれば、それはもう策とかアイデア等の類ではない。

 

「……千歌ちゃん」

 

「できると思う?」

 

「できる!!」

 

曜や梨子の言葉にもその一点張りだった。

 

気持ちはわかる。説明会が中止になり、来年度の生徒募集をやめてしまえば、その先にあるのは統廃合。

 

今までの努力も、ゼロを十にしたのも水の泡となる。

 

「こうなったら私の能力で!」

 

善子の無理矢理なジョークも空しく消えていく。

 

 

 

「鞠莉はさ……この学校が大好きで、この場所が大好きで、留学より、自分の将来よりこの学校を優先させてきた」

 

「今までどれだけ頑張って学校を存続させようとしてきたか。私達が知らないところで、理事長として頑張ってきたか」

 

「その鞠莉が……今度は、もうどうしようもないって言うんだよ」

 

「でもっ……でも……っ……!!」

 

言いたいことは山ほどある。だけど肝心の言葉が出てこない。

 

一気に流れ込んでくる感情の波を押し殺し、鞠莉は精一杯の平常心を装って言った。

 

「ちかっち……ごめんね。テヘペロっ」

 

「……!違う……そんなんじゃない。……そんなんじゃ」

 

何も言えない。

 

未来はこういう時にどんな声をかけたらいいのかがわからない。

 

どう励ます。下がっていく士気をどうすれば持ち上げられる。

 

結局彼は、最後まで何も言えないままだった。

 

 

◉◉◉

 

 

翌日の朝。

 

再び開かれた全校集会で、理事長である鞠莉本人から学校説明会中止の知らせが言い渡された。

 

ノワールの調査で昨日スタジオにやって来なかったステラもまた瞳を大きく見開いて未来に説明を求めるように顔を向ける。

 

(……昨日千歌が家でやけに元気がなかったのはこのせいね……)

 

(……まあな)

 

戦いを重ねて成長しても、こういう状況の時に何もできないのは歯がゆい。

 

『きっと大丈夫だよ。今は千歌ちゃん……Aqoursのリーダーを信じるしかないさ』

 

(……そうだな。あいつならきっと立ち直れる)

 

スクールアイドルの活動をサポートするのが未来とステラの仕事だ。

 

今回の件について答えを出すのは千歌達。未来とステラは彼女達が選んだその道を進む手助けをすればいい。

 

あのメンバーなら必ずできる。そう思うことができるのが何より嬉しい。

 

(…………だから俺は、自分のことにも集中しなくちゃな)

 

『……未来くん?』

 

(もっと強くならないと。どんな怪獣にも負けないくらい強く。千歌達の輝きを守れるように)

 

『……?それは、つまり……』

 

(ステラ!ヒカリ!)

 

生徒の列に並んだままテレパシーで二人に頼む。

 

(なに?)

 

(俺に稽古をつけてくれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいドン」

 

「がはっ……!!」

 

ほんの少し涼しい風が吹く早朝のグラウンド。

 

未来とステラは制服から動きやすい練習着に着替えた後で体術の特訓を行っていた。

 

ただしお互いに体内のウルトラマン達は外に出てもらっている。

 

未来とステラ、二人の素の力を鍛えるのが目的だった。

 

「いったたたた……」

 

ハーフパンツからはみ出した足に擦り傷ができ、その部分の泥を落とそうと未来は息を吹きかけた。

 

メビウスとヒカリの力は借りていない、といっても地球人とノイド星人では身体能力の差は大きい。さらに戦闘経験もステラの方が遥かに上だ。

 

稽古が始まってから約一時間。未来はステラに一本も取れないまま、組手の回数は既に五十を超えていた。

 

「ちくしょう……!なんで一発も当たらないんだよ!」

 

「だってあなた攻撃が単調なんだもの。さっきからパンチパンチパンチって……もっと身体全体を使いなさい。足だって二本付いてるでしょう」

 

「んなこと言ったって……。お前みたいにピョンピョン跳べるわけじゃないんだし……」

 

思えばウルトラマンとして怪獣達と戦う時はメビウスの光線技やブレードを駆使してきた。

 

今のように格闘だけで戦う、というのは初めてだ。

 

その点ステラは完全に自分の実力を把握しつつ、無駄な動きを削っている。洗練された戦い方だった。彼女も普段は光の剣で戦っているというのに。

 

『しかしステラ、君はまた腕を上げたみたいだな。以前の任務を終えて成長しているようだ』

 

「そ、そうかな……。えへ、ありがと」

 

(……ステラの弱点はヒカリ、と)

 

顔を少し赤くさせて照れる彼女を見て思わずメモを取りそうになる。

 

「だー!改めて実力不足が身に染みたー!こんな相棒でごめんメビウス!」

 

『そ、そんな!君はよくやってくれてるよ!ヒカリとステラちゃんがちょっと強いだけさ!』

 

大の字になって叫ぶ未来におろおろと寄ってくるオレンジ色の光球。彼のためにも強くならなければ。

 

「ほら、寝てる暇はないわよ」

 

「……うす」

 

厳しく手を伸ばしてきたステラの手を掴み、立ち上がる。

 

そしていざ、と再び身構えたところで背後からの呼びかけに反応し、未来は振り向いた。

 

「おはヨーソロー!二人とも、朝から精が出るね!」

 

「おはよう、曜」

 

「みんなも来てたのか」

 

気づけば木の下に複数の人影が見える。千歌を除いた、八人のAqoursのメンバーだった。

 

「うふふ、考えることは同じだね」

 

「堕天使の導きが伝わったのね……」

 

「違うずら」

 

「二人は……何してたの?」

 

ボロボロになった未来と息一つ切れていないステラを交互に見て、ルビィが不安そうにそう聞いてきた。

 

「気にしないでくれ、ただの特訓」

 

「そうよ、いじめてたわけじゃないわ。こいつが弱いから一方的になっただけよ」

 

「後輩の前で本当のこと言わないでくれる……?」

 

服に付着した泥を払いつつ、メビウスを身体の中へ戻す。

 

すると強化された聴覚が徐々に近づいてくる足音を捉えた。

 

「……来るな、怪獣」

 

「え?」

 

ふと未来がこぼした前触れもない一言に反応して曜は首を傾ける。

 

「怪獣!?ど、どこですの!?」

 

「ダイヤ取り乱しすぎ」

 

「果南さんはどうしてそう落ち着いていられるのです————!?」

 

未来が指す「怪獣」を、どうやらダイヤは勘違いしたらしい。ひどく震えては鞠莉の後ろに隠れてしまった。

 

「怪獣なんてどこにもいないじゃない」

 

素朴な疑問を投げてきたのはステラだ。

 

「来るさ。……とびっきり強い、()()()()がな」

 

未来がそう言った直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガオオオオオ————————ッッ!!!!」

 

海の果てまでも届きそうな雄叫びがグラウンドに現れた少女から上がった。

 

「起こしてみせる!奇跡を絶対に!……それまで、泣かない!泣くもんか……!」

 

「やっぱり来たな」

 

背後からの声に反応して千歌は後ろへと振り向く。

 

涙をこらえた瞳で、そこに見えた皆の顔を見据えた。

 

「未来くん…………みんな……!」

 

そう。考えていることは同じ。

 

同じ舞台に立った者達だから。

 

同じ悔しさを感じた者達だから。

 

「不思議なものだな、言葉にしなくてもやりたいことが伝わるなんて」

 

「……きっと、諦めたくないんだよ……諦めたくないんだよ……!鞠莉ちゃんが頑張ってたのはわかる。でも私も、みんなも何もしてない!」

 

「そうね」

 

ダメなら仕方ない。けれどそう思うまではやれることをやりたい。

 

「無駄かもしれない……けど、最後まで頑張りたい!足掻きたい!ほんの少し見えた輝きを探したい!……見つけたい!」

 

「……ほんと、諦めることが苦手だよな、お前は」

 

「————みんなはどう?」

 

千歌が微笑んだ先には、「答えるまでもない」といった顔が揃っていた。

 

「ちかっち……みんな」

 

「いいんじゃない?足掻くだけ足掻きまくろうよ」

 

「そうね。やるからには…………奇跡を!」

 

————奇跡を、とそれぞれが改めて口にする。

 

お互いに同じ言葉を聞き、メンバー全員が同じ気持ちであると伝えあった。

 

『……奇跡。いい言葉だよね』

 

「お前にも付き合ってもらうぞメビウス。最後の最後まで、一緒に見届けてもらうからな!」

 

『ああ!喜んで!』

 

迷いはない。何度も繰り返した問答だ。

 

 

 

昇った太陽の光がグラウンドを照らす。

 

それにあてられたかのように、千歌は唐突に傍に設置されていた鉄棒へと駆けた。

 

「「千歌ちゃん!?」」

 

「ぐえっ!?」

 

千歌が逆上がりをする直前にステラが流れるような動きで未来の首を横へと持っていった。

 

「起こそう奇跡を!足掻こう精一杯!全身全霊!最後の最後まで!みんなで……!輝こーーーーう!!」

 

上から彼女の声が日光のように降り注ぐ。

 

未来は彼女の眩しいほどの笑顔を全身で受け止め、感化されるように笑みを返した。

 

 

◉◉◉

 

 

「良い」

 

遥か彼方から少年少女を透視する青年が一人。

 

「良いね、そうでなければ困る。ボクの力は闇よりも……そして光よりも強いことを証明するには君達の力が必要不可欠だ」

 

ドス黒い双眸を薄めて男は左腕をさする。

 

「……奇跡、確かにいい言葉だ。未来がどうなっているかなんて未来の自分しかわからない……けどね、()()()()()()()()は今の自分が決めることだ」

 

闇のオーラが左腕を燃やす。

 

黒い閃光と共に現れたブレスを見つめ、ノワールは呟いた。

 

「さあ始めよう未来くん。ボク達のライブ(戦い)を……!」

 

 




1章では無かった未来の修行シーン。やっぱり王道な主人公といえば特訓ですよね⁉︎
2章ではとあるウルトラマンとの絡みも兼ねて多く取り入れたいです。

解説いきましょう。

未来の戦闘能力については今までほとんどメビウス頼りでした。唯一例外なのはバーニングブレイブの状態ですかね。
メビュームブレードも使いやすいからとか、かっこいいからとか、単純な思考で使用しているので、状況によっての使い分けはあまり頭にありません。よく今まで戦ってこれましたね(焦)
ステラについては地球人では考えられない動きで攻めるので、未来にとって初見での対応はほぼ不可能ですね。
そんな彼女の弱点はヒカリ……⁉︎

次回はおそらく今作オリジナルの話になります。


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第62話 黒いメビウス:前編

今回から3話ほどに渡ってオリジナルエピソードとなります。
ついにノワールとの直接対決に……⁉︎


近頃は地球に移住しようとしてくる宇宙人は珍しくない。

 

しかし地球人にとってまだ他の惑星との接触は馴染み深いものではなく、一般人に紛れるには彼らと同じ姿で過ごすことを余儀なくされた。

 

友好的にとまではいかないが、少なくとも侵略目的以外で地球へやってくる者もいるのだ。

 

 

 

 

 

「おい見ろよ!いいもんが手に入ったぜ!」

 

「あぁ?」

 

白黒の縞模様の怪人が二人、住処である廃墟でこそこそと何かを話していた。

 

片方の男が数枚の写真を取り出し、もう一方へと差し出す。

 

「……っ!?お前、これって……!」

 

「ああ、今話題のスクールアイドル……μ'sの生写真だ!」

 

「おおお!」

 

ほとんど奪い取るように受け取った男はまじまじとそれを眺めては感嘆の声を漏らした。

 

「まさかお前……!前のライブの時に……?撮影は禁止だったはずじゃ……」

 

「ああ、ちょいと監視の目を盗んでな。撮らせていただいたのさ!」

 

「ヒューっ!やるぅー!」

 

滅多にお目にかかれない宝物を手に入れて上機嫌な二人に、徐々へ近づいてくる影。

 

かつん、と廃墟に金属音が響き、男達は出入り口となっている扉の方向へ振り向いた。

 

気配もなく施設に立ち入ってきた影を視界に入れた途端、二人の宇宙人は急に落ち着きのない態度になる。

 

「……ダダ、か」

 

「げぇ……!お前は……!!」

 

「“死神”……!」

 

「なにその物騒なあだ名」

 

黒いコートを翻した青年はゆっくりとダダ達に歩み寄ると、作り笑いを浮かべて言った。

 

「この辺りは人通りが少ないとはいえ……むやみに外で本来の姿に戻るのは控えたほうがいいよ」

 

「お、おう、そうだな……気をつけるよ」

 

大人しくそう返したダダに薄気味悪い笑みを贈ると、青年はそのまま踵を返して一歩踏み出した。

 

「……それと、さっきはやけに楽しそうだったけど————なにを話してたの?」

 

「と、特になにも!?別に地球人に迷惑かけるようなことはしてないぜ!?」

 

「あ、そう。ならいいや。……じゃ、またね。コレはボクが処分しておくよ」

 

「ん……?あっ!!」

 

手元に視線を戻し、先ほどまで大事に持っていたはずの写真が無くなっていることに気がつくダダ。

 

再び青年へ顔を上げると、彼の手にはその全てが収められていた。

 

「いつの間に……!」

 

音もなく、黒い霧と共に姿を消す青年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん、愚かな人達だ。ボクと違って正当な戸籍を手にしていながら違法に走るなんてね」

 

握っていた数枚の写真が黒い炎に包まれて燃えていく。

 

塵となったそれを風に預け、視界から消えるまで眺めていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「だはっ……!!」

 

「対応が遅い!回避されたらすぐに反撃を警戒!あと視線の動きで行動がバレバレ!弱すぎ!へっぽこ!!」

 

「最後ただの罵倒じゃねぇか!」

 

休日だというのに朝から鍛錬である。

 

未来がステラに何度も打ち倒される光景を、千歌は屋上の片隅で練習の休憩がてらに眺めていた。

 

「頑張るわね、未来くん」

 

「今のところステラちゃんに全敗だけどね……」

 

梨子と曜が揃って微妙な表情を浮かべる。

 

「それにしても……未だに実感がありませんわ。あの二人がウルトラマンだなんて」

 

「でも確かにこうして隣にいるしね……」

 

あぐらをかいて地べたに座っていた果南がふと横に視線を移す。

 

そこには不思議な雰囲気をまとった、オレンジ色と青色の光が浮いていた。

 

「二人はいつから地球に来てたんだっけ?」

 

『え?……僕は春に怪獣が現れた時かな。未来くんと出会ったのも同時期だよ』

 

『俺はその少し後だ』

 

「やっぱりあの時から既に私達のそばにいたんだね」

 

地球に二体目のディノゾールが襲来した日。メビウスと未来は一体化し、ウルトラマンとして戦う運命を背負ったのだ。

 

「そう考えると……昔内浦に現れたウルトラマンのことも気になるわよね」

 

『…………』

 

善子の何気ない一言につい黙り込んでしまうメビウス。

 

ベリアルについての詳細は未だに彼女達には話していない。

 

今はエンペラ星人のもとにいることも、以前現れた黒いウルトラマンこそがベリアルであるということも。

 

それを知っているのは実際に彼と戦ったメビウスと未来くらいだ。

 

 

————アーマードダークネス。

 

ベリアルが装備しているあの鎧はエンペラ星人以外が装着すれば精神を食いつぶされ、正気を保てなくなるという恐ろしいものだ。

 

おそらく未来はベリアルがあの鎧に操られているせいでエンペラ星人の手先になっていると睨んでいるが、実際のところはわからない。

 

「そうそう、私達を助けてくれたあのウルトラマン!過去の証言を集めても手がかりなしで……メビウスも知らないとなると手詰まりデース!」

 

頭を抱えてそう唸る鞠莉を見てヒカリが何か気づいたように声を上げる。

 

『……メビウス、まさか————』

 

『ああ、彼女達には黙っておいてくれ』

 

ベリアルが残した言葉……“闇の皇帝を倒す方法”を探している鞠莉だが、極力光の欠片の情報は彼女に伏せてある。

 

これ以上この九人を危険にさらすわけにはいかない、という未来とメビウスの判断だった。

 

「そういえば鞠莉さんと果南さんは妙な調べものをしてましたわね」

 

「えっ!?…………ま、まあね」

 

どうやら秘密なのは鞠莉と果南も同じだったらしい。ダイヤの問いに不自然な反応を見せた。

 

 

「みんなで……なに話してたのさ……」

 

ヘトヘトになって戻って来た未来が大の字で目の前に倒れこんだ。

 

対するステラは相変わらず余裕な表情で水の入ったペットボトルに口をつけている。

 

「お疲れさま」

 

『ちょっとね』

 

「大丈夫……?」

 

「ありがとうルビィちゃん」

 

ルビィから手渡された水を片手にのっそりと起き上がる未来。

 

『どうだいステラちゃん、未来くんの調子は』

 

「見てたでしょ、全然なってないわ。…………でも、うん。少しずつだけどキレが良くなってる」

 

「本当か!?」

 

未来が急に元気を取り戻したかのようにキラキラした瞳でステラを見つめる。

 

「ええ。たまにだけど……ほんの少しだけ危ないって思わされる時があったわ」

 

「俺も成長してるんだなあ……」

 

「ま、未だに拳での攻撃を優先しちゃうみたいだけど」

 

少しずつだけど確実に前には進んでいる。いつもは辛辣なステラが言うのだから間違いない。

 

「よっし!休憩が終わったら続きな!」

 

「やる気だけは一人前ね。比例して実力も上がればいいのだけれど」

 

深く座り込んで水分補給したその時、見上げた空の色が灰色がかったものへ変わるのを見た。

 

「……雨、だね」

 

千歌がぽつりと呟くのを皮切りに、点々と屋上の地面に雨粒の模様が描き出されていく。

 

未来はなぜか雨が降る光景を見て、咄嗟に何か不穏な雰囲気を感じ取った。

 

「中に入ろっか」

 

果南が駆け出し、その後ろから他のメンバーも付いて校舎の中へ逃れようとする。

 

 

 

『……未来くん、この感じ……』

 

(ああ、わかってる。……感じる、アイツが近くにいる……!!)

 

 

◉◉◉

 

 

「これじゃあ屋上での練習は無理だね。今からスタジオに移動する?」

 

「私傘持ってきてないよ〜……?」

 

「私も〜」

 

徐々に強くなっていく雨を窓越しに眺めつつ、Aqoursの面々は眉を下げた。

 

「ねえ未来くん————」

 

何気なく振り向いた千歌の顔が驚愕で固まる。

 

そこにいた幼馴染の姿は普段のパワフルな彼ではなく、顔を真っ青にして今にも倒れそうな表情を浮かべた少年だった。

 

「うっ……!くぅ……ッ!」

 

「ちょっと未来!?」

 

「未来くん!?どうしたの!?」

 

うずくまる未来の背中に手を当てて心配そうに少女達が顔を覗き込ませていた。

 

 

 

 

————未来くん!

 

遠くの方で声が聞こえる。千歌達の声だ。

 

自分を……日々ノ未来を呼ぶ声。

 

ダメだ、どんどん遠ざかっていく。聞こえなくなってしまう。

 

闇に支配された空間。あるのは虚無のみ。真っ黒に塗りつぶされた空間を見て想う。

 

(これが……こんなものが…………あいつが経験した世界だっていうのか……!?)

 

時間すら止まって見える完全な闇の世界。光など塵ほども見当たらない絶望的な空間。

 

冗談じゃない。頭がおかしくなりそうだ。

 

ダメだ、正気を保て。自分を忘れるな。

 

(俺は……!俺の名前は……未来……!)

 

消えていく。何もかも塗りつぶされていく。大切なものも全部————

 

 

————ボクの心を読もうとしただろう?

 

(……!?)

 

————慣れてもいない奴がボクの“なか”に踏み入れるのはやめたほうがいい。……じゃないとほら、既に気が狂いそうだろう?

 

(が……!あ…………ッ……!)

 

誰だ。誰の声だ。若い男の声。

 

暗くて何も見えない。メビウスは無事か?メビウス————あれ?

 

(メビウスって…………誰だっけ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁあああああ……!!』

 

(……!)

 

一気に視界が明るくなる。

 

正面から周辺へ広がっていく光に包まれた未来は、そこでやっと正気を取り戻すことができた。

 

 

 

 

「はあっ……!!はぁッ……!!うっ…………!!」

 

「未来くん!」

 

『大丈夫かい!?』

 

どうやらメビウスが()の闇を振り払ってくれたみたいだ。

 

大丈夫。自分の名前も千歌達の顔もちゃんと覚えてる。

 

「逃げろみんな……!ここは危険だ!」

 

「え……?」

 

「ステラ!あいつが来る……!みんなを頼む!」

 

状況が理解できていないといった顔の千歌達に向けて急いで避難するよう指示を出した。

 

「早くしろッ!!」

 

「……!みんな、こっち!」

 

「ステラちゃん……!?ちょっと……!」

 

強引に九人を連れて行ったステラを見送り、未来とメビウスは改めて周囲を囲んでいる“気配”に集中した。

 

————ははは。ボクと同調するのは構わないけど、それなりのリスクは覚悟しておかなきゃね。

 

「ノワール……!どこにいる!出てこい!!」

 

————言われなくともそうするさ。……そのためにボクはここにいる……!

 

土砂降りの空から雷鳴が轟き、未来が立っていた廊下が白く照らされる。

 

雷と共に現れた黒ずくめの男は不敵な笑みを浮かべると、険しい顔をした未来と目を合わせて言った。

 

「この時を……ずっとずっと待っていた」

 

左腕に宿る漆黒のメビウスブレスが具現化し、闇色の閃光が迸る。

 

『……なんだ……!?』

 

「俺達が奪われた力……!」

 

ノワールは落ち着いた口調で、そしてよく通る声で口にした。

 

 

()()()()…………!!」

 

 

◉◉◉

 

 

地鳴りが響く。この街の住人ならば聞き慣れた騒音。

 

怪獣が現れた時。そしてウルトラマンが現れた時にそれは鳴る。

 

「早く外へ!」

 

階段を下り、校舎の出口へと急ぐステラ達。

 

大地が揺れたことで怪獣が出現したと気がついたのか、千歌達も迷わず玄関を目指していた。

 

「……!あれって……」

 

「千歌ちゃん……!?」

 

唐突に立ち止まって窓の外を見上げた千歌と、彼女に反応して足を止める梨子。

 

「二人とも!何やって————」

 

先を進んでいたステラも呼びかけようと叫ぶが、視界に映ってしまったある光景に思わず目を見開いた。

 

「黒い…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨のなか、一体の闇の巨人が立ち尽くす。

 

顔を上げたソレは、まさしく————

 

「おまたせ、未来くん。これでようやく“対等”だ」

 

 

————漆黒のウルトラマンメビウスだった。

 

 




ついに黒いメビウスブレスの真の力が発揮されました。
今回がノワールとの最初で最後の戦いになるかも……?

解説はノワールメビウスについて。

奪い取ったメビウスの力の一部と自分の闇の力を掛け合わせて実現したノワールの超人形態。
外見はメビウスの赤い部分を黒に変えたもの。
スペックはバーニングブレイブと互角程度です。
この力を手に入れたノワールの行く末は……?


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第63話 黒いメビウス:中編

今週のジードも熱い展開でしたね。
キングの力が使えるってチートラマンに片足突っ込んでますよね……

さてそんな中メビライブはノワールとの対決です。
力を手に入れた彼はどのような道を歩むのでしょうか。


ウルトラマン、という名は人々が敬意、親しみ、尊敬……。あらゆる意味を込めて“彼ら”に贈ったものだ。

 

故に自分のような矮小な者が名乗っていいものではない。

 

————だからボクは“ノワールメビウス”。綺麗な肩書きなんか必要ないさ。

 

 

 

 

 

黒い巨人は雨のなか静かな佇まいで、険しい顔で屋上へ登ってきた少年を見下ろした。

 

「ノワール……なのか……!?」

 

「そうだよ、別に驚くことじゃない。君たちがいつも使っている力なんだから」

 

黒い身体のメビウス。

 

未来が変身するそれとは違って禍々しく、性質も逆に感じる。光の巨人ならぬ闇の巨人。

 

「……ふざけるな」

 

自然と拳に力が入る。黙っていられるわけがなかった。

 

ウルトラマンメビウスの力、姿。それをあんな奴が私利私欲のために使っているなんて。

 

「その力は……お前なんかが利用していいものじゃない!」

 

「もっともな意見だ。……だからボクは、使()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は……!?」

 

巨人の片手が上がりこちらに向けられ、手招きをするようにして指先が動かされた。

 

「きなよ二人とも。この力は偽物でもなんでもない、正真正銘本物の力だ。この世に二つと存在しちゃいけない関係だ。正しい論理となるのは勝った方の言葉のみ。……だからボクは全力を以て、君達を否定してみせよう」

 

「……戦えってことだろ」

 

心のなかでメビウスが肯定するのを感じ、未来は迷うことなく首を縦に振った。

 

「いいぜ、やってやる」

 

どのみちいずれは決着をつけなければならないと思っていた。

 

ノワールはこれまで未来や千歌達にあらゆる手段を使って光の欠片を奪おうと行動を起こしてきた。

 

だけど今回は違う。純粋に、未来達と戦うためにこうして現れた。

 

シンプルな力比べをしたうえでこちらを叩きのめすつもりだろう。

 

「いくぞメビウス」

 

『……うん。ノワールとの決着はここで付けよう』

 

左腕に輝くメビウスブレスのサークルを回転させ、エネルギーを増幅。

 

「勝負だノワール……!メビウーーーース!!」

 

突き上げた腕から眩い閃光が放出され、屋上に立っていた少年の姿が消失。同時に空から光のカーテンと共に赤い巨人が現れた。

 

 

 

ウルトラマンメビウスとノワールメビウス。赤と黒の二体の巨人がお互いに睨み合う。

 

雨が地に落ちる音が、勝負を沸き立てる歓声のように鳴り響いた。

 

「「セヤアッ!!」」

 

同時に地を走り、同じタイミングで拳を突き出した。

 

 

◉◉◉

 

 

「黒いメビウス……?まさかあの男なの……!?」

 

校庭に出て上空を見上げたステラが信じられないといった様子でこぼす。

 

千歌達も雨に打たれながら二体の巨人が戦う光景を呆然と眺めていた。

 

「メビウスが二人……?黒い方は偽物なの……?」

 

困惑する梨子の隣で険しい表情を浮かべるのは鞠莉と果南だ。

 

「ねえ鞠莉、この感じ……」

 

「……ええ、間違いない。以前私達を襲った、黒ずくめの男ね」

 

間近で感じた雰囲気を再び思い出し、あの青年の姿が浮かんできた。

 

鞠莉の身体を奪おうとした張本人。

 

「なんか嫌な感じ……」

 

「あの黒い方、マルも覚えが——」

 

「……!立ち止まってる時間はないわ!早く避難しないと!」

 

あれこれと考えているうちにステラが全員に向かって叫ぶ。

 

ステラに半ば強制的に校庭から追いやられた九人のなかで、ただ一人だけ黒い巨人に視線を注いでいる者がいた。

 

()()()()()……?」

 

「果南さん……?」

 

「ううん……なんでもない」

 

怪訝な視線を向けてきたダイヤにすぐさまそう言い、果南は振り返って再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぐあぁ……ッ!)

 

『くっ……!』

 

強烈なラッシュを受け流すも最後に放たれた蹴りが防御しきれず、後方へ思い切り吹き飛ばされてしまった。

 

「ダメだなあ、そんなんじゃ。全く張り合いがないよ。……本気でこなければ死ぬよ?」

 

(バカにしやがって……!)

 

起き上がるのと同時にメビウスの身体から爆炎が放出され、瞬間的に炎のエンブレムが胸に刻まれる。

 

『(うおおおおッ!!)』

 

バーニングブレイブとなったメビウスがノワールへと突進し、渾身の右ストレートを放つ。

 

それを最小限の動きで回避したノワールは距離をとりつつ軽快な口調で言った。

 

「そう!それそれ!その炎の力!それを待ってたんだ!」

 

(そうかよ……!なら存分に受け取れ!!)

 

地を蹴ったメビウスがノワールの腹部に砲弾の如き一撃を加え、間髪入れずに二つの拳で連打。

 

「がはっ……!」

 

『(はあああああ……!!)』

 

メビウスブレスから吹き上がった炎でさらに勢いをつけてノワールの顔面を殴る。

 

大きく回転して後方に広がっていた海にまで吹き飛んだノワールは、周囲に水柱を発生させて倒れこんだ。

 

(はあ……はあ……)

 

『……!まだだ!』

 

ゆっくりと亡霊のように水中から起き上がってきたノワールを見て無意識に思わず一歩引いてしまう。

 

「ああ……今のは効いたよ。腰の入ったいいパンチだった。そういえばステラちゃんに稽古つけてもらってたんだっけ」

 

(くっ……!この変態野郎が……!)

 

首を回しながら歩み寄ってきたノワールに対して並ならぬ恐怖を覚えてしまう。

 

戦いの最中に奴が何を考えているのかわからない。それが一番不気味だった。

 

(ノワールのなかを覗くか……?)

 

『それだけは絶対にダメだ。君では奴の闇に耐えられない』

 

数分前の事でノワールの心を読むのは無理だとわかっている。一歩でも踏み込めば簡単には戻ってこられない。

 

「……いや、まったく……つくづく不公平だよ、運命というものは」

 

(……なに?)

 

「どうして君のような人間が選ばれたんだ?何の取り柄もないただの子供が、どうしてウルトラマンの力と光の欠片を宿している?」

 

静かな声音だが、そこには凄まじい怒気が込められていた。

 

(……!?ぐっ……!)

 

『未来くん!』

 

目にも留まらぬ速度で迫ってきたノワールがお返しと言わんばかりに腹部へ拳を見舞ってきた。

 

「ボクのほうが強い。ボクのほうが優れている。ボクのほうが何倍も光を愛していたというのに……!!」

 

ラッシュが止まらない。どれだけ防御しても奴はそれを打ち破ってきた。

 

「それなのにどうしてボクには“闇”しかないんだ!君達が当たり前のように手にしている力が……!どうしてボクは持っていない!!」

 

(が……!)

 

ひゅ、と風を切る音が聞こえ、次の瞬間には身体が宙を舞っていた。

 

メビウスの巨体が海へと落ち、大きな水しぶきと音が上がる。

 

「見ろ……!ボクはこんなにも強くなった!それなのにどうして……!どうしてこの力は()()()()()()()!?」

 

嘆くノワールの言葉を聞いて、最後の言葉に反応するようにメビウスが語りだした。

 

『やっぱり……使いこなせていないんだね……』

 

よろよろと立ち上がったメビウスがノワールを見据え、細々とした声で言う。

 

『君が使っているのが僕の力というのなら、その真価は発揮しないさ』

 

「………………」

 

(うぉおおおお……!!)

 

隙を見て発射したメビュームシュートがノワールへ迫る。

 

奴はそれを視認した瞬間、黒いメビウスブレスに手を添えかけて————腕を引いて、上体を反って光線を回避した。

 

『……やっぱりね』

 

(どういうことだ……?)

 

『彼は僕が基本的に扱える光線等の()()使()()()()んだ』

 

今のタイミングなら同じ光線技やバリアでも充分防げただろう。しかしノワールはそうしなかった。いや、できなかった。

 

『その力で引き出せるものは限られている。せいぜい僕らと同じ身体能力を持った“仮初めの肉体”をまとうだけだ』

 

凄まじい殺気が未来とメビウスに向けられる。

 

確かな殺意を持ったノワールの声が聞こえてきた。

 

「……ああ、その通りさ。ボクはこの力を使いこなせていない。……メビウス、君の意思がボクに使役されることを拒んでいるからだ」

 

大股で接近してきたノワールの黒い拳が放たれる。

 

一つ一つを正確に避け、未来は反撃の機会をうかがった。

 

「どんなに闇を嫌っても……!ボクに与えられた運命は光を得ることを許さなかった!だからボクは……!その両方を超えてみせると誓った!」

 

一撃一撃が重い。まるで奴の感情が一発の攻撃ごとに流れ込んでくるようだった。

 

「ああそうさ、ボクはこの力を扱いきれていない。でもそれがどうした……!そんなことできなくても、今ここで君達の息の根を止めるくらいは造作もないんだよ……!!」

 

回し蹴りが土手っ腹に直撃し、赤い巨人は横飛びで内浦の上空を舞った。

 

『(くうっ……!)』

 

「そうだ、光なんていらない……!ボクはボクの力だけで……自身の証明を成し遂げるんだ……!」

 

 

 

 

 

今度はすぐには立ち上がれなかった。

 

……あまりにもバカバカしい、思わず笑ってしまいそうになるほどだ。

 

(……くはっ)

 

いや、笑ってしまった。

 

「……何が可笑しい」

 

(お前の言ってることがだよ。さっきから嘘ばっかじゃん、お前)

 

「なんだと……?」

 

(今でも未練たらたらなくせして……光なんていらない、とか口走りやがって……!)

 

「……未練なんて残していない」

 

(嘘だな)

 

「嘘じゃないッッ!!」

 

大ぶりな一振りがメビウスに近づく。が、それを容易に避けて懐に突っ込んだメビウスはありったけの力を注ぎ込んだ一撃をノワールへ見舞った。

 

「がっ……ッ!!」

 

(お……らぁ!!)

 

黒い巨体が浮き上がり、弧を描いて地上へと落下する。

 

巨大な地鳴りを響かせたノワールが腹部を押さえて膝をつく。

 

(お前はまだ光を諦めきれていないんだよ。……今はその八つ当たりをしてるだけだ)

 

「…………ああ、本当にムカつくね君。知ったような口を利かないでくれるかな」

 

(知っているから言えるんだ。……お前の攻撃を受ける度に、メビウスの力を通してお前の感情が流れてくるんだよ)

 

光を羨ましいと思う感情。闇から逃れられないという恐怖。

 

(……お互いの精神は繋がっているって、お前はそう言ったはずだ)

 

「…………黙れ」

 

(中途半端な奴だよ、お前は……!)

 

「黙れって……言ってるだろ!!」

 

同時に駆け出す。

 

お互いに左腕のブレスに全ての力を集中させて拳を握りしめた。

 

「「ァァアアアアアアア!!!!」」

 

中間で炎と闇のオーラが交差する。

 

(ここだ……!)

 

首を横にずらして奴の攻撃を受け流す。

 

「……!」

 

炎をまとった拳がノワールの頬に直撃し、炎柱が貫いたように後方へ広がった。

 

凄まじい衝撃をもろに受けたノワールはゆっくりと膝を折り、メビウスの前に倒れ伏した。

 

(うっ……!)

 

『未来くん!大丈夫……!?』

 

(ああ……なんとか)

 

後半は奴が冷静さを欠いたことで勝機が生まれた。ノワールが正確な判断の下行動していたら勝つことは難しかっただろう。

 

(俺の勝ちだ…………ノワール)

 

動きを止めた黒い巨人を見下ろし、未来はやるせない気持ちを誤魔化すように口元を引き締めた。

 

 

 

 

「……まだ、だ」

 

(……!お前まだ……!!)

 

暗かった双眸から再びぼんやりとした明かりが灯される。

 

「ボクはまだ負けてない……!ボクは君達よりも強くなった……!その炎の力だって目じゃないくらい強くなったはずなんだ……!!」

 

驚異的な執着心がノワールを起き上がらせる。

 

…………しかし、

 

「ぐっ……!うぅ……ッ!」

 

戦えるほどの体力は残っていなかった。

 

再び膝をついては顔を下に向けてしまう。

 

『…………もうやめるんだ。これ以上続けても意味がない』

 

「うるさい……!ボクは……ボクは……!!ボク、は————」

 

徐々に漆黒の身体が消失していき、最後には完全に見えなくなってしまった。

 

雨の音だけが聞こえる。

 

メビウスと未来は、何も言わずにその場を立ち去った。

 

 

◉◉◉

 

 

「くそ……くそ……!クソ!!」

 

ボロボロな風貌へと変わったノワールが木に背中を預けて腰を下ろす。

 

まだ光に未練を残している、と。彼らにそう言われた。

 

「違う、違う違う違う……!ボクはもう光と闇なんてものは……!!」

 

光が欲しい。闇から逃げたい。

 

「ボクは……!ボクはぁあああアアアアアアアア!!!!」

 

刹那、横からの衝撃によって身体が羽のように吹き飛んだ。

 

雨で濡れた地面を転がり、泥だらけになったノワールは顔を上げて一つの影を視認する。

 

「……お前は……!」

 

「ずいぶんと惨めな姿に成り下がったなあ、小僧」

 

木の幹に映るまだらな人影が浮かび上がり、倒れているノワールを嘲笑した。

 

「ヤプール……!」

 

「皇帝の指示でな、貴様に恨みはないが……死んでもらうぞ」

 

「エンペラ星人が……ボクを……!?」

 

そんなはずがない。

 

彼は自分と同じ境遇であり、同胞だ。少なくともそう思われるように振舞ってきた。

 

ここで殺されるなんて……!

 

「……と、その前にやるべきことがあったな」

 

「……なに————ぐあぁあああああああああ!!」

 

強烈な痛みと共に身体から力が抜けていく感覚。

 

いつの間にか左腕にあった漆黒のメビウスブレスは消えており、ヤプールのそばにはノワールから抜き取ったであろう力の塊が浮遊していた。

 

「貴様がメビウスから奪い取ったというこの力は頂いていく。新たな超獣を生み出す材料になりそうだ」

 

「……!ふざけるな……!返せ!!それはボクの————」

 

ヤプールの指先から電撃が放たれ、ノワールの身体を蹂躙する。

 

「うあああああ!!がぁ……!!ああああああ!!」

 

「皇帝は貴様が裏切りを計ろうとしていたことはお見通しだったようだ。先ほど貴様がメビウスに敗北した時点で処刑は決まっていたのさ」

 

「……くそ……!くそぉぉぉおおお!!」

 

「……!」

 

最後の力を振り絞り、辺り一面に黒霧を散布させる。

 

「……ッッ!!」

 

決死の思いでその場を離れたノワールは、ヤプールの目から逃れられる範囲まで逃走しようと森を駆けた。

 

 

「……くはは、逃げ足だけは早い男だ」

 

異次元空間が開き、銃を抱えた一体の宇宙人が現れた。

 

「ナックル星人、小僧を追え。奴にはもう以前のような力はない」

 

「了解」

 

 

◉◉◉

 

 

どうしてこうなる。何がダメだった。

 

今まで散々手を尽くしてきた。こんなに頑張った。

 

ここまで来たのに、どうして……!!

 

「はあッ……!はあ……っ!」

 

いやだ。死にたくない。ここまで来て何も得ずに終わりたくない。

 

「やだ……!やだ……!!」

 

闇の力なんか望んで手に入れたわけじゃないのに。

 

……ただ光が欲しかっただけなのに。

 

「うあっ……!!」

 

地に出ていた木の根に足を取られ、派手に転んで濡れた地面に倒れる。

 

「…………どうしてこうなる……!」

 

頰に流れる水が涙なのか、汗なのか、もう雨でわからなくなってしまった。

 

 




まさかのノワール退場の危機……⁉︎
今までライバルポジションとして暗躍していた彼も二章では序盤でボロボロです。

では解説いきましょう。

今作でのエンペラ星人は意外と甘い面を見せています。
まずノワールに対しては同じ境遇でありながら「光を諦めていない」という点で始末する対象でした。皇帝にとって光を求めるなんて事は何よりも不快なものですからね。
しかし同胞ということもあって多少は期待していたのでしょう。今まで命は取らないでおいたのが今回の件で完全に見限ってしまいました。
もしかしたらノワールという青年は最初から詰んでいたのかもしれません。

さて、彼は今後いったいどうなってしまうのか……?


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第64話 黒いメビウス:後編

時間が取れたので二日間連続投稿です。
力を失ったノワールが下した決断とは……?


深い闇の中に落ちていく。

 

自分の力で這い上がろうとしても、ボクは光を得ることが許されなかった。

 

誰かが引き上げてくれるわけでもない。ただ運命という名の法則に従って、一直線に落下していくのみ。

 

————もう、疲れたな。

 

何もかもどうでもよくなった。

 

拠り所だったものも無くなって、今度は自分が光になろうと努力してきた。あまりにも自分勝手な努力を。

 

 

暗闇のなかで少しだけ考えてみる。

 

どうしてエンペラ星人は闇を受け入れることができたのだろう、と。

 

ウルトラの一族もボク達と同じ悲劇を体験していながら、プラズマスパークを開発して再び光を手に入れることができた。

 

ボクも諦めなければ彼らのように光が取り戻せると信じてきた。……けれど皇帝はそんな願いは早々に捨て去って、闇だけを抱いて生きることを選んだ。

 

————ああ、ダメだ。もう頭がうまく回らない。

 

日々ノ未来。彼ほど恵まれた人間はそういないだろう。

 

太陽が天で輝く星に生まれ、光の欠片を宿し、ウルトラマンにまで認められた少年。

 

彼と何が違うんだ。彼が地球人だから、ボクが違う星の人間だからという理由だけでは片付けられないワケがあるはずだ。

 

————ボクは……何を間違った……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね未来くん、梨子ちゃん」

 

「……ああ」

 

「またね千歌ちゃん、ステラちゃんも」

 

「ええ」

 

黒いメビウスは倒され、雨も止んだ。

 

今日の分の練習は一旦終わりにし、千歌達はそれぞれの家に帰るところだ。

 

梨子と未来が帰宅するのを見届けた後、千歌はステラの隣に並んで十千万の前に立つ。

 

「ねえステラちゃん、さっきの黒いメビウスのことなんだけど……」

 

「知ってることは何もないわよ」

 

質問が終わる前にそう返された。

 

たまに未来にも怪獣やウルトラマンについて聞いてみたことはあったが、彼もその質問になると話を濁してくる。

 

未来もステラも、正体がバレているとはいえ千歌達に余計なことを話す気にはなれないのだろう。

 

「……私達のことを心配してくれてるのはわかるよ。でも、私は未来くん達の支えになるって決めた。みんなが何と戦っているのか……それくらいは知っておきたいの」

 

「…………」

 

はあ、と小さくため息を吐いたステラと向き合う。

 

「あのね千歌、これは軽い気持ちで踏み入っていいことじゃないの。たとえあなたが光の欠片を宿しているとはいえ————」

 

「……光の欠片?」

 

「————ごめんなさい、何でもないわ」

 

そう言い残したステラは次の質問が飛んでくる前にさっさと旅館に入ってしまった。

 

彼女の後ろ姿を見つめながら、今の不自然な態度の理由を考える。

 

(光の、欠片————)

 

以前未来が険しい顔で睨んでいたメモ用紙に書かれていたことがチラリと脳裏に浮かんだ。

 

「もしかして————」

 

と、その時。

 

横から何かが倒れた音が耳に滑り込み、反射的に右へと視線を移す。

 

「……!大丈夫ですか!?」

 

それは意識を失った、黒いコートに身を包んだ青年だった。

 

全身に痛々しい裂傷と打撲の痕。口元からは血を流した痕跡が残っている。

 

咄嗟に肩を担いで旅館まで運ぼうとしたところでふと気づいた。

 

(この人……前にどこかで……)

 

唐突に感じた違和感を頭の隅に追いやり、千歌は青年を連れて十千万へと足を踏み入れた。

 

 

◉◉◉

 

 

ボクは光の欠片を見分ける目なんて持っていない。そもそも見分ける必要なんてなかった。

 

欠片は時が来ればいずれ発現する。表に出ている光が見えれば誰が宿しているかは一目瞭然だ。

 

しかし未来くんの場合は少し違った。

 

以前の彼が宿していた欠片は光になりきれていない闇色が混じった状態だった。ボクはそれを判別していたにすぎない。

 

————闇を見分ける目、か。

 

皮肉なものだ。誰よりも光を望んだボクがこんな力を手に入れるなんて。

 

 

 

徐々に視界が明るくなる。

 

————ああ、ボクは気絶してたのか。

 

うっすらと明らかになる周囲の状況。

 

自分は今布団のなかで寝かされているらしい。目の前には天井が広がっていた。

 

「……いつは……ちゅうじん……よ……!」

 

「……ってる……も……」

 

すぐ近くで誰かが話している声がする。

 

片方が部屋を出て行く音が聞こえた後、ノワールは初めて瞼を開けた。

 

「あ、目が覚めたんですか?」

 

「ほのか…………ちゃん……?」

 

「え?」

 

覗き込んできた少女の顔を見て咄嗟にそうこぼした。

 

顔立ちが似ているというわけではない。どことなく雰囲気が————いや、()()が似ているのだ。

 

「……!どうして君が————ぐっ……!」

 

「まだ起きちゃダメですよ!」

 

上体を起こそうとしたところで彼女に止められる。

 

この少女のことをノワールは知っている。

 

高海千歌。スクールアイドルAqoursのリーダーであり、“一の光”の発現者。

 

「……どうしてボクはこんなところにいる?」

 

身体中に巻かれた包帯を軽く手でなぞりながら問う。

 

「家の前で倒れていたので。……あなたが宇宙人だっていうのは、ステラちゃ——友達から聞きました。だから病院に連絡するわけにも……」

 

「……そうか、さぞ反対されたことだろう。放っておこうとは思わなかったのかい?」

 

「……だって、目の前で苦しそうな人がいるのに、見て見ぬ振りなんてできませんよ」

 

……まったく()()の友達は、揃いも揃ってお人好しらしい。

 

それとも今まで自分がやってきた仕打ちを知らないのか?

 

「確かにボクは宇宙人だ。……それもさっきまでこの街で暴れていた“黒い巨人”だ」

 

この一言で彼女の態度は変わると————思っていた。

 

しかし千歌は顔色一つ変えずに首を縦に振ると、

 

「……やっぱり、そうだったんですね」

 

納得したような様子でそう言った。

 

「なんとなく……そうかな、とは思ってました。……私達、前にも一度会ってますよね?」

 

そう聞かれた自分の顔は、たぶんこれまでにないくらい間抜けな表情をしているだろう。

 

いつかの早朝。既に欠片を宿していた千歌に興味が湧き、ノワールは近くにある海岸で彼女に話しかけた。

 

まさか覚えてくれているとは夢にも思わなかった。

 

「ああ……そうだね」

 

無意識に片目を覆って窓から差し込んできた光から守る。最近はもう慣れてきたはずなのに。

 

ノワールの身体の構造は完全に闇に特化してしまっている。皇帝と同じく、光を発するものは視認しただけで不快感が湧き上がってくるのだ。

 

……だけど、それでも彼は光を求め続けた。

 

「……君はあの時とは比べものにならないくらい成長した。憧れを捨てて、真の太陽の輝きを手に入れた」

 

そんな彼女達が羨ましかった。

 

「君だけじゃない。……未来くんや、Aqoursのメンバー……。みんな以前とは見違えるような存在になった」

 

「……ずっと見てくれてたんですね」

 

「ははっ……違うよ。ボクは君達を利用しようとしていた。君の友達が、この星を守るために戦っているような悪い宇宙人なんだよ、ボクは」

 

束の間の沈黙が部屋を満たす。

 

うつむきながら目を閉じていると、横から澄んだ声音がもやもやした頭のなかを照らした。

 

「私にはそうは見えません」

 

「……なんだって?」

 

「こうして話してみるとどこにでもいる普通の人みたいで……なんか、親近感が湧いてくるんです」

 

「……ボクはともかく、君は普通なんかじゃないだろう。スクールアイドルとして、精一杯輝こうとしているじゃないか」

 

無言で首をふるふると横に揺らす千歌。

 

「私は“普通”なんですよ。……その気になれば誰にでもできることしかやってません。この前だって……結局統廃合の話は————」

 

千歌は言いかけたところで口を閉じてしまった。

 

ノワールは肩をすくめ、柄にもなくつい励ましの言葉を贈ってしまう。

 

「……それは違うよ。誰かのために行動を起こしている時点で、それは“普通”を超えている。胸を張っていいと思う」

 

「……ふふっ!やっぱりいい人だ!」

 

千歌の笑顔を見て一瞬、違う少女の顔が重なった。

 

…………ここに居るとどうにかなってしまいそうだ。

 

「……ボクはそろそろ退散するよ。あまり長居すれば未来くんに見つかりそうだし」

 

「あっ……!ちょっと!」

 

「さよなら、千歌ちゃん。……君と話せてよかった」

 

黒い霧と共に姿を消した青年をただ唖然と見送ることしかできなかった千歌。

 

「……名前、聞きそびれちゃった」

 

 

 

 

 

部屋の外で聞き耳を立てつつ待機していたステラが安心したように息を吐く。

 

『……奴からはもう以前のような力は感じない』

 

「しばらくは様子見……ね」

 

手に持っていたナイトブレードをしまい、その場を後にした。

 

 

◉◉◉

 

 

「う〜ん……」

 

ベッドに倒れこんでは腕で目を覆って唸る未来。

 

『……気になるの?』

 

「……何がだよ」

 

『ノワールのこと』

 

「んなわけないだろ!」

 

弾かれるようにして起き上がった未来は大股で移動し、クローゼットを開けると上着を引っ張り出してきた。

 

口では気にならないと言っても落ち着きのない行動でバレバレである。

 

『……今まで感じていたノワールとの繋がりが途切れた気がするんだ。もしかしたら彼はもう————』

 

「いいことじゃないか。……あいつはエンペラ星人の手先だ。いなくなったって俺達が困ることはない」

 

『……そうだけど……』

 

私服に着替えた未来は早足で玄関まで行くと、不器用な手つきで靴を履き始めた。

 

『どこに行くの?』

 

「果南さんとこでダイビング。少しは気が紛れる」

 

『やっぱり気になってたんじゃないか』

 

「うっさい!」

 

扉を開けるのと同時にメビウスが身体の中に戻る。

 

 

……前に見たノワールの記憶。

 

μ'sと楽しげに話す奴の心は、とても穏やかだった。

 

それがどうしても忘れられない。

 

(……くそっ……!なんで今になってあいつのことなんか……!)

 

ノワールは間違いなく悪だ。

 

己の目的のためならば手段も選ばない冷酷な男…………のはずだ。

 

自分に無理やりそう言い聞かせた未来は玄関から飛び出すように外に出ては果南の店がある方へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……!下っ端がコソコソと嗅ぎ回って……!」

 

近くの建物に身を潜め、徐々に距離を縮めてくる刺客をやり過ごそうとノワールは息を殺す。

 

エンペラ星人が送り込んできた者だ。相手は拳銃を持ったナックル星人一人。隙を見て襲撃すれば勝てるかもしれないが————

 

(……いや、この傷では難しいか……?)

 

奴は仮にも戦闘に慣れた個体だ。一対一で抑えきれるかどうか……。

 

 

 

 

「……あれ?お客さん?」

 

「……っ……!?」

 

背後からかけられた少女の声に動揺し、物音を立てて振り返ってしまった。

 

……ぬかった。ふと周囲を見渡せばここはダイビングショップ。店員の一人や二人がいてもおかしくはない。

 

「……!あなたは……!」

 

「そこかッ!!」

 

直後、こちらに向かって放たれた銃弾が少女もろともにノワールを貫こうと迫る。

 

「しまっ……!」

 

体勢を立て直そうとするが既に弾丸は半径二メートルほどにまで接近している。

 

(このままじゃ……!)

 

死ぬ。そう確信したすぐ後だった。

 

 

 

 

「……!なにっ……!?」

 

ナックル星人が驚愕の声をあげる。

 

ノワールの眼前にまで迫っていた銃弾は、風のように飛んできた一筋の光によって弾かれた。

 

駆けつけた一人の少年が猛スピードでナックル星人へと迫り、左腕から光り輝く剣を伸ばして迎え撃つ。

 

「ぐぉおお……ッ!?」

 

「はあああああっ!!」

 

目にも留まらぬ速さで拳銃を両断した少年は、流れるような動きでナックル星人を蹴り飛ばしたのだ。

 

「誰だ貴様は……!?」

 

「失せろ。次にここを襲えば命はない」

 

「チッ……!」

 

武器を失ったナックル星人が背後に異次元空間を開いて逃走する。

 

敵の姿が吸い込まれるように消えていったのを見て、ノワールは安心したようにその場に膝をついてしまった。

 

『なんだかステラちゃんみたいな台詞だね』

 

「やっべ、口調まで移っちゃったかな————ってそれより!」

 

すぐに後ろへ向き直った少年は、呆然と立ち尽くしていた少女の安否を確認した。

 

「果南さん!大丈夫だった!?」

 

「未来!」

 

お互いに駆け寄ろうとしたところでうずくまっている黒い青年に気がついた。

 

「……!ノワール……!?お前なんで……!」

 

「……!待って、この人怪我してる……!」

 

「う……」

 

地べたにノワールを寝かせた果南が躊躇なく彼の服をめくっては巻かれている包帯を凝視した。

 

「……出血は止まってるようだけど……。……ってあなた、あの時の……!?」

 

「……あっはは……また会えたね」

 

冗談めかしく薄ら笑いを浮かべるノワールに果南は一瞬眉をひそめるが、すぐに引き締まった表情になって彼の傷を観察する。

 

「果南さん、そいつは……」

 

「わかってる。……前に私達を襲った奴。宇宙人でしょ。……けど、それとこれとは別問題。救急箱取ってくる!」

 

そう言っては店に戻っていく果南。

 

彼女の後ろ姿を見送り、未来はおそるおそるノワールのそばまで歩み寄った。

 

「お前、どうしてこんなところに……それもそんなボロボロでいるんだよ」

 

「……勘弁してくれないか。ボクに戦う力が残っていないことくらいわかるだろう」

 

険しい目で自分を睨む未来に力のない声で語るノワール。

 

『君からはもう僕の力は感じない。いったい何があったんだ……!?』

 

「……大したことじゃないさ。パワーゲームに負けたってところかな。君達から奪った力も横取りされたよ」

 

どこか遠くを見ているような目でそう口にするノワールに、未来は徐々に敵意を感じなくなっていた。

 

「……お前には聞きたいことが山ほどある。知ってること全部、包み隠さず話してもらうぞ」

 

「別にいいよ。……ボクはもう当事者になることに疲れた。何もかも話して楽になれるならそれも本望——とは思うけどね、やっぱり君達は自分の力で輝くのが一番だ」

 

「は……?」

 

にやり、と口角を上げながら意味深な発言をする青年に再び苛立ちが湧き上がってくる。

 

「お待たせ————え……!?」

 

世界が止まったような感覚。

 

救急箱を抱えて走ってきた果南を見るや否や、何を思ったのかノワールは彼女に思い切り抱きついたのだ。

 

唐突なハグに困惑しているのは果南だけでなく、もちろん未来とメビウスもである。

 

「はああああああああ!?!?」

 

「えっ……ちょっと……!?なに……!」

 

「なにやってんだお前えええええッッ!!」

 

勢いをつけて繰り出した拳は寸前で身を翻したノワールによって躱された。

 

「おっと……危ない危ない」

 

「ノワールてめぇ……!」

 

「……ふむ」

 

追撃しようとしたところで気がつく。

 

ノワールは自ら巻かれていた包帯を外し、()()()()()()()()箇所を見せつけてきた。

 

「……!治ってる……!?」

 

「やっぱりね、果南ちゃんが宿しているのは“九の光”か」

 

「なに……!?おい、待て!」

 

「ボクは“傍観者”。……もうこの戦いに手を出すことはないだろう。まあ、見物くらいはさせてもらうけどね」

 

黒い霧に包まれて霧散していく青年。

 

……奴は最後まで笑っていた。

 

「果南さん、何かされなかった?」

 

「私は大丈夫だけど……“九の光”って……?」

 

「あー……えっと……」

 

最後にちょっとした面倒事を残して立ち去っていった奴を、未来は一生許す気にはなれないと悟った。

 

 

◉◉◉

 

 

結局のところ、ボクの考えは振り出しに戻った。

 

太陽にならなくてもいい。月のように光を浴びていたい。

 

……彼女達が踊っていた時のように、ボクは遠くから眺めているだけでいい。

 

「……ああ、全く…………なんて情けないんだろう、ボクは」

 

これからはエンペラ星人の追っ手から逃げながら地球で暮らすことになるだろう。

 

光を手に入れたいという気持ちは変わらない。けれど無理だとわかってしまった以上、いくら足掻いても仕方ないじゃないか。

 

「……さて」

 

————既に光の欠片は揃い始めている。

 

全て揃え、欠片の“真の力”を発揮した暁には皇帝すら凌駕する力を得るだろう。

 

「君達がそこまでたどり着けるのか……()()してるよ、未来くん、千歌ちゃん」

 

闇が舞う。

 

自分が光を掴めなかった原因は、ついに最後まではっきりしなかった。

 

……いずれ、もしもう一度光を求めることが許されたのなら、次こそ————

 

 

 

「……いや、やめておこう。やっぱりボクには、“観客”の方が性に合ってる」

 

真夜中のドームステージ。

 

恐ろしく広い空間に、ノワールはただ一人取り残されたように席に腰掛けていた。

 

 

「————μ'sic start……なんてね」

 

 

 




はい、とりあえずは退場しないですみましたね。
傍観者……といってもストーリーにはちょくちょく絡んでくると思います。結構おいしいところを持ってくかも……?

解説は果南の能力について。

九の光。人一倍の包容力で敵をも静める、愛情の輝き。
この欠片がもたらす力はコスモスやアクロスマッシャーを想像するといいでしょう。傷を癒し、心を癒す力です。
その特性から人の悲しみの感情や痛みには敏感になる時があります。
一章7話に光の欠片の詳細が全て書かれているので、今後どのメンバーが当てはまるのかなんとなくわかっちゃいますね。

次回からはサンシャイン本編の話を進めます。
ノワールが手を引いたということでついにエンペラ陣営が動き出す……⁉︎


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第65話 新たな課題

サンシャインパートに突入です。
今週のジードに出てきたダダカラーのレギオノイド、ゼロビヨンドを倒すって地味に、というかかなり強いですよね……?
それとも操縦士の技量なんでしょうか。


「……フ…………フハハハ……!」

 

捻れたマーブル模様の空間のなかで、一人の宇宙人が不気味な笑いを奏でていた。

 

手の上で浮かぶエネルギーの塊を眺めては興味深そうに唸る。

 

「これは良い。本当にメビウスの力をもぎ取っていようとは……あの小僧も最後くらいは役に立ったようだな」

 

異次元に身を潜めるのはエンペラ星人に仕える四天王の一人、ヤプールだ。

 

彼のそばには考案したばかりの超獣…………いや、超()がぼんやりと浮かんでいる。

 

ノワールがメビウスから奪った力と、超獣を製造する自らの技術を合わせて作り出した逸品だった。

 

「先に地球へ忍ばせておいたアレよりは劣るが……奴らを始末するには此奴でも充分……!」

 

それは、かつての大戦争でウルトラマンエースを抹殺すべく作り上げた物の改良版だった。

 

「此度の相手はエースよりも数段劣る小童だ。……我が叡智が敗れることはない」

 

この超人が完成し、メビウスを始末した後は————()()超獣を目覚めさせて、一気に勢力を築く。

 

一人だけの空間でヤプールは嗤う。

 

無限に広がるまだらな世界に、不快な声が響いた。

 

 

◉◉◉

 

 

「きっと……なんとかなるよね」

 

理事長室で父親へ電話をかけに向かった鞠莉を静かに待つ千歌達。

 

皆俯き加減な様子で呟くように話し出す。

 

「しかし……入学希望者が増えていないのは、事実ですわ」

 

「生徒がいなくちゃ……学校は続けられないもんね」

 

かちゃり、と扉を開ける音と同時に少々眉が下がり気味の金髪少女が現れる。

 

「鞠莉さん」

 

「どうだった?」

 

「……残念だけど……どんなに反対意見があっても、“生徒がいないんじゃ”って……」

 

「やっぱ……そこが問題だよな」

 

現実的な現状を突きつけられて意気消沈しかける未来達だったが、ほんの少し強調された鞠莉の声音がそれをかき消す。

 

「——だから言ったの。“もし増えたら考えてくれるか”って」

 

「えっ?」

 

「何人いればいいのって、何人集めれば……学校を続けてくれるかって」

 

「そ、それで?」

 

「…………百人」

 

決して簡単ではない数字が彼女の口から飛び出す。

 

予想はしていたが今いる希望者の数から大きくかけ離れたものだった。

 

「百人……」

 

「ええ。今年の終わりまでに、少なくとも百人入学希望者が集まったら……来年度も募集し、入学試験を行うって」

 

「百人って……今はまだ十人しかいないのですよ……!?」

 

「それを年末までに百人……」

 

「でも、可能性は繋がった」

 

ダイヤと梨子の弱音を打ち消すように言い放ったのは、廊下の奥に立つAqoursのリーダーだった。

 

「終わりじゃない。可能か不可能か、今はどうでもいい。……だって、やるしかないんだから!」

 

「千歌……!」

 

「まあ、確かにそれもそうか」

 

「鞠莉ちゃん、ありがと!」

 

「ちかっち……!?」

 

そばに設置されていた階段を駆け上がってはこちらに振り向く千歌。

 

笑顔でこちらを見下ろす彼女の姿からは、今までよりも一層強い輝きが感じられた気がした。

 

「可能性がある限り、信じよう!学校説明会も、ラブライブも頑張って、集めよう!百人!」

 

「ゼロからイチヘ!」

 

「イチからジュウへ!」

 

「ジュウから……ヒャクヘ!」

 

大きく手を伸ばしてその場から飛び降りた千歌が微かに呟く。

 

「……普通じゃない、か……」

 

誰の耳にも入らないまま、その一言は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なああぁぁぁ〜…………!とは言ったものの……」

 

「いきなり……?」

 

「だって、ラブライブの予備予選がこんなに早くあるなんて思ってなかったんだもん」

 

屋上の地面に大の字で寝そべりながら千歌が自信なさげにそうこぼす。

 

「心意気だけでもしっかりしてるなら上出来だと思うぞ」

 

「はい余所見しない」

 

「あだぁッ!?」

 

皆が休憩しているなかも未来はステラに絶賛絞られ中だ。

 

地に叩きつけられて涙目になっている未来を尻目に、皆の相談が続いていく。

 

「出場グループが多いですからね……」

 

「この地区の予備予選は来月初め。場所は、特設ステージ」

 

「有象の魑魅魍魎が……集う宴!」

 

『早いと何か困ることがあるのかい?』

 

未来とステラの特訓を眺めながら千歌達の話を聞いていたメビウスが尋ねた。

 

「歌詞を作らなきゃいけないからでしょ?」

 

「あぁ、なるほど。……千歌」

 

少々不安そうに視線を注いできた未来を見て千歌の表情が曇り始める。

 

「あー!私ばかりずるい!梨子ちゃんだって二曲作るの大変って言ってたよ〜!」

 

「それ言ったら曜ちゃんだって……」

 

「あはは……九人分だからね」

 

新しい歌詞に新しい曲、そして新しい衣装……と、大会に参加する前にこなさなくてはならない仕事が山積みだ。

 

「同じ曲ってわけにはいかないの?」

 

「残念ですが、ラブライブには“未発表の曲”、という規定がありますわ」

 

「厳しいよ……ラブライブ……」

 

「それを乗り越えた者だけが……(いただき)からの景色を見ることが……できるのですわ」

 

「それは……わかっているけど……」

 

改めて考えてもこの大会はハードルが高い。

 

まさに途方もない努力を積み重ねた者だけが通れる道だ。

 

「……で?歌詞のほうは進んでいるの?」

 

青空を見つめていた千歌の視界が一瞬にして梨子の顔面に占領される。

 

「わぁ!?そ、そりゃあ、急がなきゃ……だから?あは……」

 

(うーん様式美)

 

もはやライブ前のお約束である千歌と梨子のやりとり。

 

この二人は出会った春からやってることが変わっていない。

 

「ここに歌詞ノートがあるずら」

 

「わーーーーっ!?」

 

傍に置いてあった一冊のノートを手に取っておもむろに開く花丸。

 

そういえば千歌が構想中の時の歌詞はきちんと見たことがなかったので、未来も好奇心のままに花丸の隣に並んでノートを覗く。

 

「なんだ、ちゃんと考えてあ————」

 

花丸がページをめくる毎に現れるのは歌詞ではなく、デフォルメされた梨子の怒り顔だった。

 

口元がダイヤ型になっている辺り特徴を捉えている————って、注目すべきはそこじゃない。

 

「すごいずら〜」

 

「そっくり!」

 

「結構、力作でしょ?」

 

「真っ白じゃないか!」

 

落書きばかりで歌詞に関しては一切書かれていないノートを見て戦慄する。

 

「昨日、夜の二時までかかっ————」

 

最後のページがめくられるのと同時に隠れていた本物の梨子の顔が見えた。

 

もちろんつり上がった眉とダイヤ型の口である。

 

「千歌ちゃん……!?」

 

「……はい」

 

顔を逸らして逃れようとする千歌を鋭い視線で捕まえる梨子。

 

……課題は多いが、頑張らなければ先へは進めない。

 

 

◉◉◉

 

「う〜ん……。ねえ二人とも、前に作ったウルトラマンをイメージした歌詞があるんだけど……」

 

「それじゃあAqoursらしさは」

 

『出ないんじゃないかな?』

 

「だよねー……」

 

ちょっと前にも千歌は同じことを話していたが、その時もこうして却下させてもらった。

 

それに今回作るのはラブライブと学校説明会で使う曲だ。ウルトラマンの力を借りては意味がない。

 

「でも、このまま千歌達に全部任せっきりというのもねえ」

 

「じゃあ果南、久しぶりに作詞やってみる?」

 

「い、いいや私は……ちょっと……」

 

「以前のAqoursの作詞担当は果南さんだったの?」

 

「そうだよー。ちなみに私は曲作り担当ね!」

 

「へえ……なんか意外……」

 

てっきり琴を嗜んでいるダイヤが曲を作っていると思っていたが……。

 

「じゃあ衣装は?」

 

「まあ、私と————」

 

梨子の質問に答えつつ、ダイヤの視線がルビィの方へと向けられる。

 

「……へ?」

 

「あぁ!だよね!ルビィちゃん裁縫得意だったもん!」

 

「得意っていうか……」

 

横で話を聞いていた花丸がどこからかすかさずバッグを持ち上げ、そこに施されてある熊らしき刺繍を見せつけてきた。

 

「これも……ルビィちゃんが作ってくれたずら!」

 

「かわいい!」

 

「刺繍もルビィちゃんが?」

 

「……うん」

 

花丸の持つバッグを興味深そうに眺めながら、ステラがぽつりと呟く。

 

「……今度教えてもらおうかしら」

 

「ははは、縫ってる間に怪力で針折りそうだな」

 

「どうしてそんなに死に急ぐの?」

 

「ごめん」

 

冗談交じりに言ったつもりなのだがステラにはひどく気に障ったらしい。

 

ヒカリ曰く、「ステラは“女の子らしさ”に憧れている」

 

 

かたん、と唐突に席を立った鞠莉に皆の視線が集まる。

 

「じゃあ、二手に分かれてやってみない?」

 

「「「「二手?」」」」

 

全員のハモりが部室に響く。

 

説明を求める千歌達に、鞠莉は腰に手を当てて語り出した。

 

「曜と、ちかっちと、梨子が説明会用の曲の準備をして。他の六人が、ラブライブ用の曲を作る!そうすれば、みんなの負担も減るよ!」

 

未来とステラを交互に見た後で一言付け加える。

 

「マネージャーもちょうど二人いるしね!」

 

「でも、いきなりラブライブ用の曲とかなんて……」

 

「だからみんなで協力してやるの!」

 

不安げに言うルビィを元気付けるように声を張る鞠莉。

 

「一度ステージに立っているんだし、ちかっち達よりいい曲ができるかもよ?」

 

「“かも”ではなく、作らなくてはいけませんわね。スクールアイドルの先輩として!」

 

「おおっ!言うねえ!」

 

「それいい!じゃあどっちがいい曲作るか、競争だね!」

 

すっかり方針が決まった様子だ。

 

やる気になった千歌達を一通り眺めた後、未来はほんの少し不安げな顔をしたステラに肩を叩かれた。

 

「ん?」

 

「あなたは千歌のグループを見ててちょうだい」

 

「いいけど……どうしてだ?」

 

「人数が少ない方があなたでも制御できるでしょう。……梨子もいるしね」

 

「……?どういう意味だ?」

 

首を傾ける未来の耳に顔を近づけてステラはひっそりと話した。

 

「メンツをよく見なさい。六人の方は明らかに取締役が欠けているわ」

 

「……あっ」

 

改めて振り分けられたメンバーを見る。

 

三年生と一年生。濃いメンバーなのは言うまでもない。

 

ダイヤもしっかりしているようで流されやすいタイプだ。こちらはステラが適任だろう。

 

「では、それぞれ曲を作るということで決まりみたいですね」

 

「よし、みんなでがんばろー!」

 

千歌が掛け声を上げる姿を見て不安が煽られる。

 

「……ミイラ取りがミイラにならないようにな」

 

「ふん、わたしに限ってそれはありえないわ」

 

ステラの頼もしい発言に、未来は不思議と旗が立つイメージが重なった。

 

 




ヤプールが作り出そうとしているのは……?
まあバレバレですけどね(笑)

読者の方々の支えもあり、この作品も一年以上と長い間続けることができました。
そんななか第二章から読み始めたという人もいることでしょう。
それに伴って一章に出した設定で今後も登場する可能性のあるものをいくつか紹介したいと思います。
今回は主人公である未来について。

浦の星学院二年生の少年。
千歌や曜、果南とは幼馴染。
地球に初めて現れた怪獣であるディノゾールの襲撃によって両親を失い、その事件の時にはベリアルに命を助けられる。
"両親の命を救ってくれなかった"という幼い憎しみからウルトラマンという存在を軽蔑していたが、それもクロノームから助けてくれたメビウスによって考えを改める。(第51話〜第53話参照)
その後エンペラ星人に敗北し、実体化できなくなっていたメビウスに身体を借してウルトラマンとなる。
現在はエンペラ星人のもとにいるベリアルに複雑な感情を抱いているが…………?

次回は外伝以来のステラ視点になりそうです。


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第66話 歩み寄る試練

サンシャインも今週で半分が終わりますね。
ジードも折り返し地点ですし……時が経つのは早い。


「じゃあ、私達は千歌ちゃん家で曲作ってるね」

 

「頑張るずら〜!」

 

「そっちは任せたぞステラー!」

 

二年生達の背中が遠ざかっていく。

 

未来の声に手を振って返答した後、ステラは残った三年生と一年生の六人に顔を向けた。

 

「さてと、私達はどこでやろうか?」

 

「部室じゃダメなの?」

 

「なんか、代わり映えしないんじゃない?」

 

「そうですわね」

 

いつもと違う環境下での試行錯誤が新たなアイデアを生み出すヒントになり得る。

 

アークボガール討伐任務の時の自分達に照らし合わせて、ステラはなるほどと首を縦に振った。

 

「千歌さん達と同じで、誰かの家にするとか?」

 

「鞠莉んとこは?」

 

「え?私?」

 

「確かに、部屋は広いし……ここからそう遠くもないですし」

 

ダイヤ達の会話を聞いていた花丸がルビィと善子、ステラ達の間に割り込むようにしてひっそりと言う。

 

「もしかして、鞠莉ちゃんの家ってすごいお金持ち?」

 

「うん!そうみたい!」

 

「スクールカーストの頂点に立つ者のアジト……」

 

「……おかね、もち……?」

 

いまいちピンときていない様子のステラをルビィ達が取り囲み、キラキラした瞳を彼女へと向けてきた。

 

「きっとすっごく大きい部屋がいくつもあるんだよ!!」

 

「きっとすっごく未来ずら!!」

 

「きっと暗黒の使いが出迎えてくれる魔王城みたいなところよ!!」

 

「へ、へえ……それは気になるわね……」

 

何か皆のテンションがおかしな方向へ向かっていると薄々感じながらも、ステラは三人に圧倒されて口を閉じてしまう。

 

「私はノープロブレムだけど……四人はそれでいいの?」

 

ささ、とすかさず手を挙げる三人につられて、ステラも小さく片手を挙げて同意を示した。

 

「賛成ずら!」

 

「右に同じ!」

 

「ヨハネの名にかけて!」

 

「わ、わたしも!」

 

「オッケー!レッツトゥギャザー!!」

 

ステラのなかで静かに皆の相談を聞いていた者が一人。

 

『……まだまだ子供だな』

 

隠しきれない好奇心をステラの心に感じ、ヒカリは空気が抜けるような口調でこぼす。

 

子を見守る親のような心持ちで少女達へ着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一歩踏み入れた途端に感嘆の声が湧き上がる。

 

周囲の景色を反射する大理石で出来た床。大きくて柔らかそうなソファーが複数。もはや建てた意図すらわからない鞠莉に似た銅像。

 

何もかもがルビィ達の心を震撼させた。

 

「すごい!綺麗!」

 

「なんか気持ちいいずら〜……!」

 

「心の闇が……晴れていく……っ!あぁ……」

 

一方でハイテンションな三人の横に立つステラは意外にも冷静な様子だった。

 

「ステラはあんまり驚かないんだね」

 

果南の問いに少し考えた後、きょろきょろと辺りを見回しては口を開く。

 

「ううん。充分驚いてはいるんだけど…………」

 

『以前地球を離れた時に立ち寄った星で、ここと似た雰囲気の城に入ったことがあってな』

 

「し、城……?」

 

「それよりも、ここに来たのは曲を作るためですわよ!さあ!」

 

「ダイヤの言う通りよ。まずはテーマから決めていきましょう」

 

本来の目的を切り出したダイヤから順に、皆は設置されてあったソファーへと適当に腰を下ろした。

 

 

◉◉◉

 

 

「おまたせー!アフタヌーンティーの時間よー!」

 

しばらくして鞠莉が運んできたものは大量の洋菓子やティーポットが乗せられたアフタヌーンティースタンドだった。

 

「「「うわぁ〜!!」」」

 

一年生三人がそれらに釘付けになっている後ろで、ステラがほんの少し頬を染めてその様子を眺めている。

 

「……ヒカリ」

 

『どうした?』

 

「あれ、可愛いね」

 

『はあ……、確かに色とりどりで見栄えはいいな』

 

山積みになったマカロンをじっと見つめては首を横に振って正気を保つステラ。

 

「今の発言は忘れて」

 

つくづく難儀な性格をしているな、と彼女のなかで唸るヒカリであった。

 

「超未来ずら……!」

 

「好きなだけ食べてね!」

 

「なにこれ!」

 

「このマカロンかわいい!」

 

留まることを知らず、さらに加速していく三人のテンション。

 

「ほっぺがとろけるずら〜」

 

————そんなに?そこまで美味しい物なのか?

 

地球の甘味は大好きだが、未だその全てを知り尽くしたわけではない。これは是非自分も味わって————

 

「……ふんッ!」

 

「ステラさん!?」

 

「自分を殴った!?」

 

「気にしないで」

 

ダイヤと果南に驚愕の視線を向けられつつも煩悩を消し去るべく頰に平手を打ち込む。

 

そうだ。何のためにここへやってきた。まだ曲の方針すら定まっていないというのに————

 

「ダメよヨハネ!こんな物に心を奪われたら浄化される!浄化されてしまう!堕天使の黒で塗り固められたプライドが————!」

 

「あ〜んっ」

 

一人で堕天使劇を繰り広げていた善子の口に花丸がマカロンを一つ放り込む。

 

「ギラン!昇……天……!」

 

一瞬で目の色が変わった善子はそのまま吸い込まれるようにソファーへと倒れてしまった。

 

 

————そんなに?そんなに美味しいのか……!?倒れるほど……!?

 

「くぅ……っ」

 

『……ここまで辛そうなステラを見るのはいつぶりだろうか……?』

 

甘いものが好きな彼女に追い打ちをかけるようにして出された“可愛さを兼ね備えたお菓子”はまさにツボであった。

 

今にも泣きそうな顔をしているステラに対してトドメを刺すかのように、歩み寄ってきたルビィが一言。

 

「はい、ステラちゃんも!」

 

差し出された赤色のマカロンが視界に入った瞬間、ステラのなかで何かが切れる音がした。

 

「う……!うがーーーーーーッ!!」

 

「ピギィ!?」

 

彼女は奇声をあげて立ち上がると、はしゃいでいた三人に向かって人差し指を向ける。

 

「ええいうるさい!あなた達曲作りに来たんでしょう!?ならいつまでもキャーキャー言ってないで構想を練って————!」

 

「そー……ほいっ」

 

横から伸びてきたルビィの手からマカロンが放たれ、ステラの口の中へと見事に収納されていく。

 

「むぐっ……!?」

 

『…………ステラ?』

 

がっくしと膝をついて肩を震わせるステラへ心配そうに声をかけるヒカリ。

 

「うぅ…………美味しい……」

 

『あ、ああ。よかったな』

 

ああ、もうこうなってはダメだ。すぐには戻れない。

 

結局この後一時間ほど鞠莉の家で怠惰を貪り続けてしまった。

 

 

◉◉◉

 

 

「浮かびそうもない?」

 

「うーん……。“輝き”ってことがキーワードだとは思うんだけどね……」

 

「輝きねえ……」

 

一方千歌の部屋では梨子、千歌、曜、未来の四人がテーブルを囲んで頭を働かせていた。

 

全く埋まる気配のないノートと睨み合いながらぽつりとアイデアを出し合っていく。

 

「……このメンバーでライブの準備するのって、ファーストライブ以来かもな」

 

「あ、そういえばそうかも」

 

「あの時はステラちゃんもいたけどね」

 

どこか懐かしい空気のなか思いを馳せる。

 

スクールアイドル部を設立させるために行った最初のライブ。

 

人を呼ぶためにチラシも自分達で作って配り、体育館をお客さんで満杯にすることを目指していたあの頃が既に懐かしい。

 

まだまだ未熟だった彼女達も今はラブライブを勝ち進むために健闘している。

 

「……原点回帰、とか?」

 

「え?」

 

未来の呟いた言葉に反応するように、千歌は机に突っ伏していた頭を上げる。

 

「千歌がスクールアイドルを始めようと思った頃の気持ちを思い出してみたらどうだ?」

 

「確かに……新しくやってくる子達に贈るライブだし……いいかもね」

 

「……!それだ!よーしっ!!」

 

急にエンジンがかかったようにペンを走らせる千歌。

 

「果南ちゃん達に先越されないように……私達もがんば————」

 

千歌の言葉を遮るようにテーブルに置いてあった彼女の携帯が音を発する。

 

画面に表示されていた呼び出し主を確認して、その表情に焦りの色が垣間見えた。

 

「ルビィちゃん……?」

 

「“すぐに来て”って……」

 

「うそ!?本当に先越された!?」

 

「早くない!?」

 

四人はメールを見た直後、飛び出すように十千万を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかもう出来た!?」

 

黒澤家の階段を駆け上がり、皆のいる部屋へと急ぐ。

 

しかし千歌達を待っていたのは予想外の事態であった。

 

「その曲だったら突破できると言うの!?」

 

「花丸の作詞よりはマシデス!!」

 

「むぅ……!」

 

「でも、あの曲はAqoursには合わないような……」

 

「新たなチャレンジこそ……新たなフューチャーを切り開くのデース!」

 

統一感のない様々な意見が飛び交うなか、青ざめた顔を手で覆っているステラが傍に立っていることに気がつく。

 

「……お、お疲れ」

 

「…………不甲斐ないわ」

 

「あはは……」

 

 

◉◉◉

 

 

「やはり……一緒に曲を作るのは、無理かもしれませんわね」

 

「趣味が違いすぎて……」

 

「そっか……」

 

「いいアイデアだと思ったんだけどなあ」

 

花丸と善子、果南と鞠莉を残して一旦外に出たダイヤ達が消えそうな声で言う。

 

好きな音楽ジャンルの傾向もまるで違う三年生と一年生では対立が起こってしまう。

 

「もう少しちゃんと話し合ってみたら?」

 

「散々話し合いましたわ。ただ……思ったより好みがバラバラで」

 

「バラバラかあ……」

 

「確かに、三年生と一年生、全然タイプ違うもんね」

 

「でも……それを言い訳にしていたら、いつまでもまとまらないし」

 

難しい話だ。

 

グループが結成してからきちんと話す機会もあまりなかったメンバーだ。無理もない。

 

俯き気味のダイヤが不安げに口を開いた。

 

「……確かに、その通りですわね。私達は、決定的にコミュニケーションが不足しているのかもしれません」

 

ステラが居てどうにもならないのなら、本人達がこの状況を良いものに変えなければならない。

 

学年間の壁は彼女達当事者にしか壊せない。

 

「となると————」

 

一転して笑みを含んだ顔へ変わったダイヤが振り向き、とある提案を出してきた。

 

 

◉◉◉

 

 

退屈で死にそうな日々が続いていく。

 

ノワールは口笛を吹きながら内浦の街をふらふらと彷徨っていた。

 

(思っていたよりもエンペラ星人の動きが遅い。……いや、今活動しているのは四天王か?)

 

自分という駒がいなくなったことで奴らも本格的に地球へ侵攻してくるはずだ。

 

メビウスと未来はまだエンペラ星人とその配下達の恐ろしさを理解していない。

 

奴らと戦う時……彼らはいったいどう対抗するのか————楽しみで仕方がない。

 

「見届ける立場は楽でいいけど……退屈なのは少し辛い」

 

戦う力も失い、いつ敵が襲ってくるかもわからない状況のなかでもノワールは生き続けると決めた。

 

Aqoursやウルトラマン達の行く末を見届ける、その日までは。

 

 

 

「失礼。少し道を尋ねたいのだが」

 

「ん?」

 

法衣のような衣服をまとった初老の男性に声をかけられて立ち止まる。

 

どこからか漂ってくる威圧感のようなものがノワールを警戒させた。

 

「……はい、いいですよ」

 

「この住所なんだが……“十千万”という旅館の隣にある家だ」

 

差し出された地図を握る手を見て目を見開く。

 

彼がはめている、赤い宝石が取り付けられた黄金色の()()と、示された住所。

 

その両方に覚えがあったからだ。

 

「……ここなら、この先を進んで行くとわかると思います。近くに見える海がとても綺麗なところですよ」

 

「かたじけない」

 

一礼した後で横を通る男。

 

気づくとノワールは一つの質問を口にしていた。

 

「どうしてボクに聞いた?」

 

男は振り向かず、足も止めないまま静かに語る。

 

「なに、この星の者ではないと一目でわかったからな」

 

拍子抜けしたような様子で黒ずくめの青年は微笑した。

 

自分が“ノワール”だということはわからなかったらしい。

 

「……ボクの顔は把握されてないか。()()()()()にも相手にされないって……。このまま地球でずっと暮らすのも有りだね」

 

安全そうだし、と付け加えた後でノワールは姿を消した。

 

————この先は、退屈せずに済みそうだ。

 

 




そろそろ他のウルトラマンもちょいちょい出す頃かな〜っと思いまして……。
ラストに登場したあの人が最初の一人ですね。

解説いきましょう。
前回は主人公の未来を紹介したので今回は同じくオリキャラであるステラについて。

七星ステラは作中でも語られている通り「ノイド星」と呼ばれる惑星出身の宇宙人です。
ボガールに故郷を滅ぼされ、偶然出会ったツルギ……もといヒカリと一体化して復讐を誓います。
ノイド星人は地球とよく似た文明の星で、外見も普通の人間と大差ありません。
ちなみにかなり美人な方ですが目つきが悪いせいであまり目立ちません。(外伝の挿絵で外見は確認できるのでそちらもどうぞ)
アークボガールを倒した後はメビウスと未来のサポートも兼ねて地球防衛の任務を担っています。
現在では未来に体術を教える先生的なポジションに。

次回でおそらく2話分は終わり。
その次の回からはついにあの人が登場……⁉︎



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第67話 雨の奏で

新曲MIRACLE WAVEを聴いた時はすぐに思いました。
「あ、これ僕の好きなやつじゃん」と。
ダンスに関してはセンターもさることながら、運動量が凄いですよね。


「「「「仲良くなる??」」」」

 

すっかり険悪ムードになってしまった果南と鞠莉、そして花丸と善子が声を揃えた。

 

「そうですわ、まずはそこからです」

 

「曲作りは信頼関係が大事だし」

 

場を収めようとするダイヤとルビィの言葉に、四人は首を傾げて聞く。

 

「でも、どうすればいいずら?」

 

具体的な事が決まっていなかったことに気がつき、ステラは顎に手を当てて思考を巡らした。

 

思えばこのメンバーのことを詳しく知っているわけでもない。

 

仲良くなる方法と言われてもパッと浮かぶものではなかった。

 

「ふっ……任せて」

 

「何かあるの?」

 

急に自信ありげに立ち上がった果南に皆の視線が集まる。

 

「うん!小さい頃から知らない子と仲良くなるには————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————一緒に遊ぶこと!」

 

果南の手から放たれた豪速球が善子と花丸の間を通って後方へ突き抜ける。

 

「ナイスボール!」

 

それを難なく受け止めた鞠莉は上機嫌に親指を立てて見せた。

 

「これは……いったい……」

 

『ドッジボール……というらしい。この星のスポーツだ』

 

グラウンドへ移動したステラ達は、果南の案で親睦を深めるための遊戯をすることになったのだが……。

 

コートの外側で皆を眺めていたステラは不安そうに肩をすくめた。

 

「さあ、いくよー!マリ・シャイニング〜……!」

 

「ずらっ!?」

 

「任せて!」

 

花丸を庇うようにして前に立った善子が瞼を閉じ、早口で何かの詠唱を始めた。

 

「力を吸収するのが闇。光を消し、無力化して、深淵の後方に引きずり込む……それこそ!」

 

「……トルネェード!!」

 

黒時(こくじ)……喰炎(くうえん)!」

 

両手を上げてポーズを決めた善子の顔面にマリ・シャイニングトルネードなる一撃がクリーンヒットし、「のおぉーーーー!?」と間の抜けた悲鳴が轟く。

 

「ずらっ!?」

 

「ピギィ!?」

 

跳ね上がったボールが花丸、ルビィと二人の頭部へ綺麗に直撃。見事なトリプルヒットだ。

 

「ルビィ!?大丈夫ですか!?しっかりなさい!!」

 

「……あり?」

 

「…………別の方法を探しましょうか」

 

呆れ顔で眉根を揉んだステラが小さく呟いた。

 

 

◉◉◉

 

 

「はぁ〜……。やっぱりここが一番落ち着くずら」

 

「そうだよね」

 

図書室に移動した花丸達はそれぞれ椅子に腰を下ろし、適当な本を開いていた。

 

運動が得意ではないらしい一年生達は先程よりも落ち着いた表情だ。

 

「ふふっ……光で汚された心が……闇に浄化されていきます!」

 

安定したテンションで語る善子の顔には先のドッジボールで受けたボールの跡が痛々しく残っている。

 

「「あはははは!その顔〜!!」」

 

「なによ!聖痕よ!スティグマよ!!」

 

一方向かい側の机で脱力気味に本を開いている者が二人ほど。

 

果南と鞠莉は花丸達とは正反対にすっかり気力が失せてしまっていた。

 

「んー退屈〜……」

 

「そうだよー……海行こう海〜……」

 

「読書というのは、一人でももちろん楽しいずら。でも……みんなで読めば、本の感想が聞けて————」

 

花丸の言葉は二人の耳に入ることはなく、机に突っ伏した果南と鞠莉は一瞬にして夢の中だ。

 

「……ん?」

 

棚から読む本を選ぼうとしていたステラが一冊の書物に目を留めた。

 

少々厚めで、表紙には“彼らが降りた日”と書かれてある。

 

(これは…………)

 

手に取って開いてみると、まず最初に飛び込んできたのは半壊した建物の写真。

 

何かで切り裂かれたような直線的な破壊跡が印象的だった。

 

「それは初めて怪獣騒ぎが起こった時の記録ですわ」

 

呆然と写真を眺めていたステラに説明するような口調でダイヤが歩み寄ってきた。

 

「これが……」

 

パラパラと流し目でページを進めていくと、ぼやけた人影が写った写真が視界に入る。

 

『……!ベリアルか……』

 

「……地球に初めて降り立ったウルトラマン」

 

赤と銀の体色が辛うじて確認できるその資料は、まだエンペラ星人の手に堕ちる前のベリアルの姿だった。

 

「……あの時、私達を助けてくれたウルトラマン。今はどこで何をしているのですかね」

 

『……きっと今もどこかで、平和のために戦っているさ』

 

濁った言葉がヒカリの口からこぼれる。

 

今はこう言うしかない。メビウスが言うにはベリアルは既に皇帝の配下となっている可能性が高いと聞くが、彼女達にそれを教えるのはあまりに酷だ。

 

「……さ、二名ほどこの場所がお気に召さない人達もいるみたいだし、次の案を考えましょうか」

 

本を閉じて後ろで寝ている果南と鞠莉に冷たい視線を注ぐステラ。

 

……このままで本当に曲なんか作れるのだろうか、と不安が拭えない。

 

 

◉◉◉

 

 

またも場所は変わって、一行はとある温泉にやってきていた。

 

ダイヤの分析によればアウトドアな三年生とインドアな一年生に分かれていることが今までの失敗の原因、とのことだった。

 

ドッジボールにしろ読書にしろ、結果としてそれは現れている。

 

「それはそうとして……どうして温泉なの?」

 

「裸の付き合いですわ」

 

肩までお湯に浸かったダイヤがほっと息をついてそう言う。

 

彼女曰く、お互いに自分の姿をさらけ出すことで強い信頼関係に繋がる……らしい。

 

(カノンの大浴場とはまた違った雰囲気ね……。これが“和”というものなのかしら)

 

周囲に広がる露天空間を興味深そうに眺めるステラ。

 

ちなみに一糸まとわぬ姿になるにあたってヒカリは外で待機だ。上手いこと一般人には見つからないように身を潜めてもらっている。

 

「くくく……身体に……身体に染み渡る……!このパトスが!」

 

「暗黒ミルク風呂ねえ……。これも“和”……?」

 

「違うと思うずら」

 

「ああ〜……極楽ぅ〜……!」

 

怪しげなオブジェから流れるミルク色のお湯に浸かる善子とルビィを見て、ステラはまたも唸る。

 

裸の付き合い……。暗黒ミルク風呂……。地球の文化はまだまだ奥が深い。

 

(……む。なんだかんだ言って、わたしも楽しんじゃってるわね)

 

未来のことも悪く言えないな、とちょっぴり反省するステラであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかくお風呂入ったのに、雨なんてね……」

 

突然降ってきた雨をしのぐために、とあるバス停前で雨宿りをすることになった一同。

 

「結局何だったんですの……?」

 

「確かに何しに行ったんだか」

 

「マルはご満悦ずら」

 

「ルビィも」

 

楽しかったといえばそうなのだろうが、本来の目的である曲作りについては何も進展がなかった。

 

「あちらを立てればこちらが立たず……まったく」

 

「より違いがはっきりしただけかも」

 

数秒の沈黙のなかを雨音が満たす。

 

「どうしよう、傘持ってきてない」

 

「どうするのよ?さっきのとこに戻る?」

 

「それはちょっとなあ……」

 

「……くしっ!結局、何も進んでないかも……」

 

どんよりとした空気が漂うなか、一滴の水を垂らすような一言が花丸の口からこぼれた。

 

「近くに、知り合いのお寺があるにはあるずらが…………」

 

 

◉◉◉

 

 

「入っていいずら」

 

「え……こ、ここですの……?」

 

「いいの?」

 

「連絡したら、自由に使っていいって」

 

頭上では灰色の雲が空を覆い尽くしている。

 

小雨が降り続ける外を歩き、ステラ達は門の前で固まって中の様子をうかがった。

 

「お寺の人はどこにいるの?」

 

「ここに住んでるわけじゃないから…………いないずらぁ〜……」

 

「怖かないわよ」

 

懐中電灯を下から自らの顔に当てて怯えさせようとする花丸を尻目に、ステラは奥に視線を移した。

 

本堂だろうか。全体的に黒っぽい建物が視界に入った。

 

「雨宿りはここで決定ね」

 

「「ひいっ……!?」」

 

やけに怯えているように見える果南とルビィ。こういった場所は苦手なのだろうか。

 

対して善子はいたって通常運行だった。

 

「ふっふっふ……暗黒の力を……リトルデーモンの力を……感じ————」

 

「……仏教ずら」

 

「……知ってるわよ!」

 

 

 

 

蝋燭に灯る火だけが揺らめく畳敷きの空間に足を踏み入れる。

 

「で、電気は?」

 

「ないずら」

 

「リアリィ……!?」

 

ぎし、と歩く度に床が軋む音が微かに聞こえる。

 

しばらく何も言わずにぼうっとしていると、耐えかねた果南が沈黙を破ってきた。

 

「どどど、どうする?私は、平気だけど————ハグゥ!」

 

「むぎゅ」

 

言葉の間で轟いた雷鳴に飛び上がり、反射的に近くにいたステラに抱きついてしまう。

 

ボリュームのある何かに窒息させられそうになるも、何とか顔面を這い出して言う。

 

「ぷはっ……、やることならあるでしょ。まだ曲作りに関しては何も進んでないんだから」

 

「でも、またケンカになっちゃったりしない……?」

 

「きょ、曲が必要なのは確かなんだし、とにかくやれるだけやってみようよ」

 

「そうですわね」

 

ダイヤがそう言った直後、今度はミシりと物音が響き、ステラを放っぽり出した果南はダイヤのもとへ駆け寄った。

 

「ハグゥ!」

 

怖がりな一面を見せる彼女に細めた瞳を注いだ後、ステラは鞠莉の方を向く。

 

「意外とパーっとできるかも!」

 

「ところで歌詞は進んでるの?」

 

ここまで時間をかけて全く進んでいない、となれば千歌達のことも馬鹿にできない。

 

ステラも少しばかりだが、未来に対抗心がないわけではないのだ。

 

「善子ちゃんがちょっと書いてるの……この前見たずら」

 

「なに勝手に見てんのよ!」

 

意外な人物の名前が挙がった。

 

「へえ、やるじゃん!」

 

「すご〜い!」

 

「グレイト!」

 

「ふふふ……よかろう、リトルデーモン達よ。だがお前達に見つけられるかな!?このヨハネ様のアークを!」

 

「あったずら!」

 

「コラー!!」

 

花丸がどこからか取り出した善子のノートを皆で覗き込む。

 

それはもう当て字のオンパレードだ。継ぎ接ぎの言葉が並べられているのを見てステラ達の表情が曇る。

 

「こ、これは……」

 

「う、うらはなれせいきし……?」

 

裏離聖騎士団(りゅうせいきしだん)!」

 

「この黒く塗りつぶされているところは何ですの?」

 

「“ブラック・ブランク”!!」

 

「……読めない」

 

「ふん!お前にはそう見えているのだろうな、お前には!」

 

「誰にでも読めなきゃ意味ないずら」

 

悪いがこれは使えそうにない。

 

結局一から作り上げるしか手はないらしい。

 

「そういえばこのブラックブランク……?動きますわ……?」

 

「お姉ちゃん、それ……!虫!!」

 

「「ピギャアアアアア!?!?」」

 

黒澤姉妹が同時に飛び上がり、起きた風圧で蝋燭の小さな炎が小さくなり————

 

「……ずら?」

 

完全に消えてしまった。

 

暗闇に包まれた瞬間、ステラを除くその場の全員が突然の事に悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったい私達……どうなっちゃうの?」

 

やっとの思いで灯りをつけ、蝋燭の光を背にした善子がぽつりと呟く。

 

皆疲れ切ったような様子で柱に背を預ける等して脱力気味だ。

 

「全然噛み合わないずら……」

 

「このままだと、曲なんかできっこないね……」

 

ステラもまた煮詰まっているのを察したのか、それを誤魔化すようにヒカリへと意識を向けた。

 

「…………どうしよう」

 

『俺に聞かれてもなあ』

 

「わたしの責任だわ。もっと上手くやっていればこんなことには……」

 

『なに、まだ時間はある。そう気を落すことはないさ』

 

「でも————ひゃうっ!?」

 

言いかけたところで背中に冷たい感触を感じ、咄嗟にナイトブレードを取り出して身構える。

 

「な、なに?」

 

「雨漏りずら」

 

さっきまで座っていた場所を見下ろしてみれば、天井から漏れ出した雨水がポツポツとその地面を濡らしていた。

 

「どうするの?」

 

「こっちにお皿あった」

 

そばにあった棚から二つほど容器を取り出しては早足で雨漏りが起こっている真下へと急ぐ果南。

 

「今度はこっち!ええっと……」

 

「鞠莉さん!こちらにお茶碗がありましたわ!」

 

「こっちにもお皿ちょうだい!」

 

「オーケー!」

 

「こっちも欲しいずら!」

 

「お姉ちゃん、桶!桶!」

 

六人の見事な連携に唖然としつつ、ステラはゆっくりとブレードを懐にしまう。

 

さっきまでバラバラだったのが、急に綺麗にまとまりだした。

 

 

 

皿が水を受ける度にリン、チリン、と鈴のような音が鳴り、ステラ達はその音色に耳をすませた。

 

……“和”のイメージがステラのなかで段々と定まっていく感覚。

 

一粒一粒の大きさや音は違う。だが聴いている内にそれは、確かなメロディーとして形作られていった。

 

「……テンポも音色も大きさも」

 

「一つ一つ、全部違ってバラバラだけど!」

 

「……一つ一つが重なって」

 

「一つ一つが調和して!」

 

「一つの曲になっていく」

 

「マル達もずら!」

 

おもむろに肩を組んで円陣を作り、お互いに顔を見合わせる。

 

やっとヒントを得た彼女達はこれまでの経緯を思い出し、今の出来事に重ねながら笑顔を浮かべた。

 

「よーっし!今夜はここで合宿ずらーーーー!!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

結局は鞠莉の宣言に従い、一晩中曲作りをすることとなった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ん〜……!」

 

『お疲れ様』

 

「いんや、俺は何もやってない。……千歌達はすごいよ、本当に」

 

未来は外に出て大きく身体を伸ばし、屋根の上で腰を下ろしている千歌の後ろ姿を見上げた。

 

曲を作っている最中の彼女達は、まるで別人のような雰囲気をまとい出す。

 

千歌も曜も梨子も、スクールアイドルが好きなんだと伝わってくるようだった。

 

「俺達も頑張らなきゃな!」

 

『うん!』

 

浮遊するオレンジ色の光に笑顔を向け、未来は旅館に戻ろうと踵を返す————振りをして腕を構えた。

 

「なんてな……!バレてんだよさっきから!」

 

横から飛んできた蹴りの勢いをいなし、衝撃を殺す。

 

続けて繰り出された打撃を素手で受け止め、距離をとってから一声かけた。

 

「おはようステラ。どうよ、少しは見切れるようになってきただろ?」

 

「おはよう未来。まあ四十点といったところかしら」

 

「朝から物騒なことはやめていただけます……?」

 

「あ、みんなも」

 

ステラの後ろから現れた一年生と三年生達に会釈し、未来は軽く声を張り上げる。

 

「三人ともーーーー!!みんな帰ってきたぞ!!」

 

「あ、みんな!」

 

屋根にいた千歌と窓から顔を出していた曜、梨子がこちらに視線を移す。

 

「曲はできたー!?」

 

「バッチリですわ!」

 

「「「じゃーん!!」」」

 

得意げにノートを見せつけてきた果南達に、千歌はキラキラとした眼差しを注いだ。

 

さあ、ラブライブと学校説明会。どちらも手を抜けない正念場だ。

 

あとは練習あるのみ————!

 

 

◉◉◉

 

 

『……えるか。繰り返す、応答せよ。聞こえているのか。至急応答されたし』

 

近くに地球が見える漆黒の空間に、通信機と思しき物体が一つ。

 

赤い巨人が複数、力尽きたように宇宙空間を彷徨っていた。

 

「……雑魚共が」

 

浮遊していた通信機を握り潰し、鎧をまとった巨人が青い星を見下ろす。

 

「露払いなんてくだらねえ役割を任されるとはな。……どこへ行っても雑用ばっかだ、俺は」

 

胸に疼く闘争心をなんとか抑えこみ、黒いウルトラマンは飛翔する。

 

「…………まだだ。まだ狂うわけにはいかねえ……!」

 

自らが始末した若き戦士達を視界に入らないよう意識しながら、ベリアルは槍を持ち直した。

 

 




みんなが過去に見たベリアル……そして今現在のベリアル。
本当の彼は"どちら側"なのか?

今回の解説は最後の主要オリキャラ、ノワールについて。

かつてはエンペラ星人と同じ惑星に住んでいた青年。
宇宙を彷徨い光を求めるも、不本意ながら闇の力に染まってしまった悲しき男。
エンペラ星人とは違い望んで闇の力を手に入れたわけではないため、その力は皇帝のそれよりも遥かに劣る。が、性質は同じもの。つまりは完全な下位互換。
よく笑い、たまに怒る。三人のオリキャラの内一番動かしやすいキャラです。
せっかく奪ったメビウスの力もヤプールに横取りされ……と、最近の彼はちょっと可哀想が過ぎる。
傍観者になると言った彼は今後どのように物語に関わってくるのか。
そしていつか光を手にすることができるのか……。

次回は3話の話も進めつつ、"彼"と未来達の話も絡ませていく予定です。


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第68話 やらなきゃならないこと

さて、1章に登場したタロウに続いて、今回登場するのは……?


時は少しばかり遡る。

 

かつてエンペラ星人の手によって引き起こされた、闇の勢力と光の国との壮絶な戦い。

 

ウルトラ大戦争(ウルティメイトウォーズ)と呼ばれるそれは、ウルトラマン誕生以来の大事件だった。

 

「戦える者は私に続け!それ以外は銀十字のところへ!!」

 

宇宙警備隊隊長であるゾフィーが声を張り上げる。

 

突如として現れた敵の軍勢は既に光の国へ侵入し、暴虐の限りを尽くしていた。

 

もはや警備隊の力だけでは手が足りないほど、奴らは数と実力の両方を振るってウルトラの星に攻めてきたのだ。

 

「エンペラ星人……!何者だ奴は……!?」

 

複数の幹部と共に怪獣軍団を従えて侵攻してきた、リーダー格である一人の宇宙人。

 

自らを暗黒の支配者と名乗った者は、歴戦のウルトラ戦士であるゾフィーですら寒気を感じるほどの絶大な力を有していた。

 

立ち向かった者を残らず蹴散らし、今は大隊長————ウルトラの父と交戦中。

 

「大隊長と互角にやり合うとは……!」

 

「ゾフィー隊長!第三波、来ます!!」

 

「私が片付ける!全員射線上から離脱しろッ!!」

 

上空から迫ってきた大量の怪獣達に右腕の照準を定め、手の先にエネルギーを集中させる。

 

見たところ敵の数は五十を超える。ならば一掃するには少々リミッターを緩める必要があるだろう。

 

「シュアッッ!!」

 

「◾︎◾︎◾︎◾︎ーーーーーーッッ!!」

 

爆発的な勢いで解放された光が前方へ一直線に伸び、波のように押し寄せてきた怪獣の群れを蒸発させる。

 

ウルトラ兄弟のなかでもトップクラスの威力を誇るゾフィーの必殺技、M87光線だ。

 

「……よし……!引き続き怪獣達を押し留めるぞ!!大隊長の戦いを邪魔させるな!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

ウルトラの星から遠く離れた辺境の惑星、K76星。

 

前触れもなく送られてきたウルトラサインに、ウルトラマンレオは首を傾けた。

 

「……!“応援を求む”……!?」

 

予想外の内容に狼狽を隠せないレオに、拘束着で身を固められた一人の青年が尋ねる。

 

「……?おい、どうしたんだ?こないなら俺から————」

 

「修行は中断だ。俺が戻るまでここを離れるなよ」

 

「なに……!?おい待て!!」

 

引き留めようとする青年には見向きもせず、レオは地を蹴って飛翔する。

 

一心不乱に速度を上げ、サインの発信源である光の国へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今度は、この星が狙われるのか」

 

初老の男性が海岸沿いを歩きながら、かつての記憶を思い出す。

 

法衣姿に笠。太陽の光が指にはめたリングに反射して輝いていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ええぇえぇえええええええ!?!?」

 

新しい曲が完成し、意気込みも出来たところで鞠莉が突然驚愕の声を上げた。

 

全員が何事か、といった顔で彼女を見やる。

 

曇った表情で携帯を耳から離した鞠莉に果南が尋ねる。

 

「今度はなに?」

 

「良い知らせではなさそうですわね」

 

「実は……学校説明会が一週間延期になるって……」

 

一週間後……つまり翌週の日曜日。

 

その日に何があるのかすぐに察した皆が深刻そうな顔を浮かべる。……千歌を除いて。

 

「でも、どうしてそんな急に?」

 

「……雨の影響で道路の復旧に時間がかかるので、一週間後にしたほうがいいと……」

 

「確かに、その考えはわかるけど……」

 

「でも……よりによって……」

 

会話を聞いた千歌が呑気な様子で瓦を踏みながら屋根を移動し、こちらを見下ろす。

 

「どうしたのみんな?その分もっといいパフォーマンスになるよう、頑張ればいいじゃん!」

 

「またこの子は……」

 

呆れ顔のステラに続いてダイヤが悩ましい表情で口にする。

 

「どうやら状況がわかってないようですわね」

 

「問題です!」

 

「ん?」

 

旅館の窓から顔を出している曜が千歌に向けて問う。

 

「ラブライブの予備予選が行われるのは?」

 

「学校説明会の次の日曜でしょ?」

 

「……ですが」

 

未だ気づく様子のない千歌に瞳を細めた梨子の質問が飛んだ。

 

「そんな時、その説明会が一週伸びるという知らせが届きました。ラブライブ予備予選の開催日は変わりません」

 

「「二つが開かれるのはさて、いつでしょう!?」」

 

これでもかといった語気で千歌に問いかける。

 

自信ありげに腕を組んで見せた千歌の表情は、一瞬にして崩れることとなった。

 

「そんなの簡単だよ!…………んっ!?」

 

答えに気づき、驚いたところで足を踏み外したのか、千歌は吸い込まれるように地上へと落下する。

 

「ちょっ……!?」

 

「未来、GO!」

 

「GO!じゃねーよ!!」

 

瞬時にステラに蹴り飛ばされた未来は千歌が落ちようとしている真下に滑り込むようにして倒れこんだ。

 

「うっ!!」

 

「ぐおあぁあ!?」

 

見事に未来の背中へ千歌が尻餅をついた。

 

重い、と叫ぶことは全力で我慢した。後で千歌に文句を言われるのはごめんだ。

 

「同じ日曜だ!」

 

 

◉◉◉

 

 

「ここが、ラブライブ予備予選が行われる会場」

 

「ここ?」

 

体育館で周辺の地図を広げ、皆でそれを囲みながら打開策を模索する相談が始まった。

 

「山ん中じゃない」

 

「今回はここに特設ステージを作って、行われることになったのですわ」

 

「それで学校は?」

 

果南が人差し指で示しながら説明を加えていく。

 

「こっちの方角だけど……バスも電車も通ってないから……」

 

「じゃあそっちに向けて、電車を乗り継いで……」

 

「あああぁぁ……!ごちゃごちゃごちゃごちゃしてきましたわぁ!」

 

「……到底、間に合いマセーン」

 

会場から浦の星学院までかなりの距離がある。予備予選が終わった後で向かっても間に合うビジョンが見えてこないのだ。

 

「空でも飛ばなきゃ無理ずらね……」

 

「……未来くん、ステラちゃん……ここらで一つ……」

 

助けを求めるような千歌の視線を見て、彼女が何を考えているのかすぐわかった。

 

「……変身して手のひらにでも乗せてけってか?」

 

「おバカ、できるわけないでしょう」

 

「だよねー……」

 

『あはは、目立っちゃうもんね……』

 

ウルトラマンに乗って会場へ移動してきたスクールアイドル、としてメディアに取り上げられることになるであろうが、そんなことをすれば未来達とメビウスやヒカリとの関係性が世界中に露見してしまう。

 

「……ん!だけどほら、鞠莉さんに頼めばヘリぐらい楽々チャーターしてくれるんじゃないか!?」

 

「おお!その手があった!……というわけで鞠莉ちゃん!」

 

「……言えると思う?」

 

「「はえ??」」

 

間の抜けた顔の未来と千歌が並ぶ。

 

秀逸な案が浮かんだ、と思いきや鞠莉の反応は芳しくないものだった。

 

「……ダメなの?」

 

「オフコース!パパには自力で入学希望者を百人集めると言ったのよ!?今更“力貸して”なんて言えマセーン!」

 

「……ちょっと、地図踏んでるよ」

 

「……ウップス。と・に・か・く!オールオワナッシング!だとお考えください!」

 

きっぱりと断られた未来達は深く項垂れては溜め息を吐いた。

 

「……現実的に考えて、説明会とラブライブ予選、二つのステージを間に合わせる方法は……一つだけ」

 

きゅ、とターンした後でダイヤは表情を引き締めた。

 

「一つ……」

 

「あるの?」

 

「ええ。予備予選出場番号一番で歌った後、すぐであればバスがありますわ。それに乗れれば、ギリギリですが説明会には間に合います」

 

トップバッターでライブを披露した後ですぐに会場を抜け出して、バスを拾って学校へ向かう。

 

彼女の言う通りこのルートならば遅れることはないだろう。

 

「……ただし、そのバスに乗れないと次は三時間後。つまり、予備予選で歌うのは一番でなければいけません」

 

「それって、どうやって決めるの?」

 

「それは————」

 

 

◉◉◉

 

 

「抽選……か」

 

微妙に引きつった顔をした未来が靴を履き替えた後で玄関から出る。

 

これから会場で歌う順番を決める抽選会が開かれるのだ。

 

一番を引いてやる、と強気な千歌達の後ろを追い、未来とステラはバス停へ向かった。

 

「大丈夫かな……俺、さっきから嫌な予感がしてならないんだけど……」

 

「なるようにしかならないんだから、そんなに深刻に捉える必要もないでしょ」

 

「あっさりしてるなあ、お前」

 

ステラにとって運任せの状況は当たる時は当たる、外れる時は外れる。といった単純な考えなのだろう。

 

だが今回ばかりは一番を引かないと、ラブライブと説明会の両方でライブを行うことは絶望的になるわけだ。

 

「……千歌達の運に賭けるしかないか」

 

『……ん?』

 

メビウスとヒカリが何かに気づく気配を感じ、未来とステラは咄嗟に足を止めた。

 

「どうかしたのか?」

 

『……空を見て』

 

「空……?」

 

言われるままに頭上を見上げると、光で描かれた文字が宙に浮いているのが見えた。

 

「これって……!」

 

「ウルトラサイン……!?」

 

『“今すぐ指定された場所に来い”……。これは僕と未来くんに宛てられたものだね』

 

誰からのメッセージなのかはわからないが、ウルトラサインが送られてきたということは、差出人はメビウスやヒカリと同じウルトラマン。

 

「……ステラ、ちょっとみんなを頼む!」

 

「……わかった、気をつけて」

 

「みんな!ちょっと急用思い出した!抽選頑張れよ!」

 

「えっ……?未来くん!?」

 

ほとんど逃げ出すようにその場を離れた未来は、送られてきた住所を確認しながら地を駆けた。

 

『……!この場所……』

 

「どこだ?」

 

『それが……未来くん、君の家だ』

 

「は……?」

 

自分の家が指定された場所と聞いて思わず言葉を失った。

 

……誰だか知らないが何をするつもりだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急いで駆けつけた自宅には特に変わった様子はなく、何ら怪しい人物も確認できず、未来はほんの少し安堵した。

 

「……ほんとにここで合ってるか?」

 

『うん。確かにこの近くから発信されたものだ』

 

気配は感じない。音もしない。

 

念のため玄関の周辺をチェックし、誰もいないことを確認してから眉をひそめた。

 

「なんだったんだ……?」

 

腑に落ちない気分になりつつも、踵を返して千歌達のもとへ戻ろうとするが————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この程度も見破れないとはな」

 

「……!?」

 

声がした方へ反射的に振り返る。

 

いつの間にか背後に立っていた人影に気づき、未来は距離をとりつつ身構えた。

 

『……!』

 

「誰だ!?」

 

なぜか萎縮してしまったメビウスに疑問を抱きつつ、目の前に立つ法衣姿の男を視界に捉える。

 

笠を深く被っていて顔はよく見えない。

 

「エンペラ星人の手先か!?」

 

『未来くん待つんだ……!この人は……!』

 

「メビウス……?」

 

「……ふ」

 

不敵に笑う男性から漂う威圧感に圧倒され、一歩引きそうになるもなんとか堪える。

 

「知ってるのか……!?」

 

『……うん。この人は……』

 

被っていた笠を放り投げ、男は拳を突き出し————

 

『この人の名は————!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レオォォォォオオオオオッッ!!」

 

眩い閃光が周囲の景色を埋め尽くし、突然の出来事に未来は目を瞑った。

 

再び見えた光景を受け入れるのに、数秒の時間を要した。

 

「……え……?」

 

赤い身体の中心に宿るカラータイマー。

 

鬣のような頭部と、腹部には銀色の文字らしき模様が刻まれている。

 

一人の巨人が、未来の前に立っていた。

 

「ウルトラマン……なのか……!?」

 

唐突に現れた光の巨人を見上げ、未来は驚愕の表情を浮かべる。

 

「ついて来い。()()()には、足りないものを克服してもらう」

 

 

 

 

 




まずはウルトラマンレオの登場。
今作でもメビウスの活躍について物申すことがあるようですが……?

今回の解説も1章で出てきた設定のおさらいです。

以前語った通りウルトラ大戦争が起きた時期、ウルトラマン(今作ではベリアル)が初めて地球に降り立った日、ゼロの修行していた時期等、元設定から大幅に変更している部分が多々あります。
ややこしくならないようにするため、歴代ウルトラ戦士達の実力等はそのままですが。
また、ベリアルについては少々特殊なポジションであるため解説はまた次回辺りに……。

次回、メビウスvsレオ!?


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第69話 瞳の奥

思った以上に戦闘シーンが占めてしまいました。
未来とメビウスを訪ねてきたレオの目的は……⁉︎


(ウルトラマンレオ……?)

 

『うん。エンペラ星人の軍勢とも戦ったことがあるすごい人なんだ』

 

(そんな人がなんで……俺達のところに?)

 

レオに言われるがまま、未来はメビウスの姿を借りて地球の外側へと移動していた。

 

何も言わないまま先を行くレオに怪訝な視線を送りつつ、未来はひっそりとメビウスへ声をかけた。

 

(千歌達、大丈夫かな……)

 

『心配ないよ。今は僕達が地球を離れてもステラちゃんとヒカリがいる』

 

(それはそうだが……)

 

『ライブの順番も気になるけど……、今はレオ兄さんについて行ってみよう』

 

急な出来事だったので千歌達にはきちんと話す暇がなかった。何か厄介なトラブルに巻き込まれていなければいいが……。

 

(……!ここは……)

 

宇宙空間を飛翔するレオの背後をついて行くと、やがてポツリと浮かぶ月を目指しているのだと気づく。

 

わざわざ月面に呼び出して何をするつもりなのだろうかと首を傾ける。

 

 

何もない地表に降り立ったメビウスは周囲を見渡した後で、前方に立つレオへと顔を向き直した。

 

(えっと……)

 

『地球にやって来ていたとは知りませんでした。もしかして他の兄さん達も————』

 

ほんの少し高揚気味な様子のメビウスが尋ねる。

 

が、彼の質問などまるで聞こえていないかのように、レオは無言で腰を低くしては片手を前に突き出す。

 

「構えろ」

 

『(へ?)』

 

あまりに突然な発言に困惑するが、数秒後に言葉の意味を理解したメビウスは慌てて両手を振った。

 

(ちょ、ちょっと待ってくださいよ!急に現れてなんなんですかあなたは!)

 

「来ないのならこちらから行くぞ」

 

『……!未来くん!』

 

瞬間的に地を駆けてきたレオが眼前まで迫る。

 

咄嗟に後方へ飛び距離をとったメビウスは、今の動きで彼が本気であると理解した。

 

凄まじい威圧感に及び腰になってしまうも、ペースを持っていかれないように意識をはっきりと保つ。

 

(……よくわからないけど……!)

 

『今は戦うしかないみたいだ』

 

相手は歴戦の戦士。未来とメビウスでは経験だけでも雲泥の差だろう。

 

……未来のなかに、ほんの少しだけ“試してみたい”という思いがあった。

 

これまで戦い、ステラと特訓した今の自分の実力はどの程度のものなのか。

 

(……よし!)

 

レオが何を考えているのかはわからない。

 

しかしこれは自らの力を測るのに持ってこいの状況なのかもしれない。

 

(いくぞメビウス!)

 

『う、うん!』

 

出し惜しみはしない。最初から全力で戦う。

 

全身から炎を放出したメビウスの胸にファイヤーシンボルが刻まれた。

 

『(ハアッ!!)』

 

バーニングブレイブとなったメビウスがレオへ肉薄し、その胴体めがけて右ストレートを放つ。

 

ステラに鍛えられたその一撃は以前とは比べられないほどに成長していた。

 

「フン……!」

 

(…………っ!?)

 

しかしその攻撃は、何もない空間を突くことになる。

 

瞬時に上体を下げて回避したレオがアッパー攻撃でメビウスの肘を狙った。

 

(うっ……!)

 

痺れが全身を貫き、メビウスの動きが止まったところを強襲。

 

胴。顔。足。と容赦のない打撃の嵐が未来とメビウスを襲った。

 

『くっ……!?』

 

(クッソ……!!おりゃあっ!!)

 

鈍る感覚のなか、無理やり振り上げた足がレオの頬を掠めた。

 

「ハッ!」

 

(えっ……!?)

 

レオは流れるような動きでメビウスの足首を掴み取り、そのまま背負い投げの要領で地面へと叩きつけた。

 

『(がはっ…………!!)』

 

「ホッ……!トリャアッ!!」

 

メビウスの身体を持ちながら回転を加え、そのまま遠くへと放り投げる。

 

転がった先ですぐに立ち上がることができなかったメビウスは、ガンガンと痛む頭を押さえながら思考を巡らせた。

 

(なんだ今の……!?)

 

『完全にこっちの動きが読まれてる……!正面からじゃ勝てっこない!』

 

さほど大振りでもない攻撃でも、レオが放つ技は全てが重い。

 

加えてそれが同時に何発もやってくる。対処しきれたものじゃない。

 

獅子のような獰猛さと素早さ。

 

今の未来とメビウスにはない、二人の目指すものが彼には備わっていた。

 

「どうした?まだ始まったばかりだぞ」

 

(ぐっ……!ゲホッ……!)

 

ダメージが足を引きずる。

 

バーニングブレイブで底上げされた身体能力でも歯が立たないとは。

 

(…………いや、弱気になるな。まだ身体は動く。意識もある)

 

とは言っても戦闘開始直後にこのザマだ。普通に考えて勝利することは難しいだろう。

 

だから————

 

『(…………一発だ)』

 

渾身の一撃を一発、確実にレオに打ち込む。まずはそれを目標に戦う。

 

今の未来達の“本気”ではおそらくそれが限度。

 

「…………」

 

じっとメビウスが立ち上がるのを待っていたレオが微かに構える。

 

『(はあああああッッ!!)』

 

メビウスブレスからブレードを伸ばし、炎をまとわせながらレオへと接近。

 

「武器に頼れば隙が生じる」

 

(……!)

 

振るわれた斬撃を難なく避け、追撃を加えようとレオは拳を突き出した。

 

(あぶっ……!)

 

寸前で身体を反らして避けたメビウスは、引くことなく彼の姿を視界に捉えた。

 

『(セヤッ!!)』

 

これでもかとブレードを暴れさせてレオに斬りかかるメビウスだったが、その全てを回避されてしまう。

 

当たるどころか隙一つ見せない徹底した姿勢。

 

(強い……!)

 

単純に技量が足りない。

 

(……なら————!)

 

『未来くん……?』

 

ふと未来が笑ったような気配を感じ、メビウスは首を傾けた。

 

「ハアアアア……!」

 

高く飛び上がったレオを見上げ、メビウスは咄嗟に防御姿勢をとった。

 

『レオキック……!?』

 

「ヤアアアアアアアッ!!」

 

赤熱化した右足を突き出し、空中から一直線にメビウスめがけて迫る。

 

回避は不可能。

 

高エネルギーの塊が弾丸の如く空を切り、メビウスの胸にある炎のシンボルへと直撃した。

 

(ガハッ……!!ごぼっ…………!)

 

『ぐっ……あ…………!!』

 

弱々しい声が宙に響く。

 

倒れかけるメビウスに何の感情も抱いていないような冷たい視線を送るレオだったが————

 

(ぁ……ああああああああっっ!!)

 

「……ぬう……!?」

 

力強く踏み出した片足に力を込め、左腕を引き、上半身を回転させる。

 

『(セヤアアアアアアッッ!!)』

 

技の直後で動きが止まっていたレオに向かって渾身の一撃が放たれる。

 

メビウスブレスから発せられた炎と共に、左腕の拳がレオの腹部へとねじ込まれた。

 

強烈な轟音が張り上げられ、月面にあった岩が大きく跳ね上がる。

 

 

 

しばらくの間を沈黙が支配した後、崩れるようにメビウスが倒れてしまった。

 

(うっ……!けほっ……!)

 

レオは未だ、涼しい顔で立っている。

 

全力、渾身だ。全身全霊をかけたつもりの一撃さえも、彼には一切通じなかった。

 

「レオキックをわざと受けて確実に攻撃を与えようと考えたわけか。……だが、大ダメージを受けた後では充分な威力の拳は放てない」

 

(く……そ……!!)

 

「思った通りの実力だメビウス、それと地球人の少年」

 

無慈悲な声音が耳に滑り込んでくる。

 

「このような無謀な策に出たのも、俺がお前達を殺すことはないと思っていたからだろう?…………馬鹿者がッッ!!」

 

『……!』

 

「先の攻撃で諸共に命を落とす可能性は考えなかったのか?その後のことは思いもしなかったのか!?」

 

言葉が出なかった。

 

鈍痛が脳内を支配するなか、レオの怒気に満ちた声が聞こえて来る。

 

「エンペラ星人は手加減などしない。……一撃?一矢報いるだと?そんな甘い考えは、“真の殺意”の前では無意味だ!!」

 

(…………!)

 

ぞくり、と背筋が凍るような感覚。

 

闇の皇帝と実際に対峙したことのない未来は、実のところ今まで具体的なイメージはできていなかった。

 

しかしレオに打ちのめされた今、未来は微かにその恐ろしさの片鱗を垣間見た気がした。

 

「このような戦い方をする者に……地球を守る資格はない」

 

————ひどい勘違いをしていた。

 

力を試されていたのは、最初からこっちだったのだ。

 

レオは見極めていた。未来とメビウスにエンペラ星人と戦うことができるだけの力量があるのかどうかを。

 

……そのために二人を訪ねてきた。

 

(……ま…………て……!)

 

背を向けたレオに必死に手を伸ばす。

 

(……俺達に足りないものが多いことなんてわかってる……!)

 

『でも……!僕達は諦めません……!』

 

足りない力を補うためにこれまで努力をしてきた。

 

ステラに体術を教わり、成長は確かに感じていた。……けれど。

 

(……今の戦いで……俺達の考え方も、立ち回りも、技量も……!全然なってないって改めてわかった……!)

 

「……わかったから、なんだというのだ?」

 

『(強くなります!!今の何倍も努力して、地球を守れるだけの力をつけます!!)』

 

同じ言葉を重ね合う未来とメビウスを一瞥した後、レオは最後に一つだけ言い残していった。

 

「他人の力を頼りにはするな。……だがな、一人で戦っていると思うのもダメだ」

 

(……え?)

 

「お前達の戦い方には“クセ”がある。直そうとしても簡単にはいかん。…………ならばいっそ、その“クセ”を武器にしろ」

 

飛び上がっていくレオの背中を眺めながら、彼の言葉の意味を考える。

 

————“クセ”を武器に……?

 

 

◉◉◉

 

 

「そっか……一番は取れなかったか」

 

『残念ながら……』

 

地球に戻ってきた後で千歌から抽選の結果が聞かされた。

 

Aqoursの歌う順番は二十四番。完全なる中盤だ。

 

携帯越しに聞こえる千歌の声はどことなく力が抜けているように感じる。

 

「くじ引いたのはヨハ子ちゃんだっけ。……あはは、落ち込んでなきゃいいけど」

 

『決まっちゃったのは仕方ないけど……ほんとにどうしよう……』

 

窓から見える夜空を見上げながら未来も頭を動かす……が、なかなか案が出てきてくれない。

 

「どちらかを選ぶっていうのも…………そう簡単には決められないよな」

 

『……うん』

 

彼女達にとっては両方が大切な事柄だ。

 

学校を救うか。ラブライブを取るか。

 

「……っ」

 

不意にこみ上げてきた胸の痛みに顔を歪める。レオキックのダメージがまだ残っているのだ。

 

……レオの言う通り、無謀なことをしたものだ。

 

『未来くん?』

 

「ああ、大丈夫。……俺じゃ上手いアドバイスはできそうにないな。梨子とも話してみなよ」

 

『うん、そうしてみる————ステラちゃん?』

 

向こう側で何かしらのやり取りが聞こえた後、再び千歌の声が聞こえてきた。

 

『ちょっとステラちゃんに替わるね』

 

「ステラに?」

 

ゴソ、と携帯を持ち替える音の後で静かな声音が滑り込んできた。

 

『昼間何があったか聞かせてもらえる?』

 

「ああ……」

 

レオに会ったこと。彼と戦って負けたこと。

 

そして言われたことを全てステラに打ち明けた。

 

しばらく押し黙った彼女が、いつもと同じ冷静な口調で言う。

 

『……クセを武器に、か。確かにその方があなた達に合ってるかもね』

 

「どういうことだ?」

 

『レオの言葉にはわたしに対してのメッセージも含まれているわ。“未来の鍛え方”についてのアドバイスみたいなものね』

 

「俺の……鍛え方?」

 

よくわかっていない様子の未来にステラが続けて述べる。

 

『以前あなたのクセについて話したことがあるでしょう』

 

「ああ……パンチでの攻撃が多いとかなんとかいうやつ……」

 

『ええ。わたしはそれを指摘して、改善させようとしていた。……けれど、あなたはどうしても無意識に拳を主体とした戦法に移ってしまう』

 

思えばノワールと戦った時もそうだった。

 

身体全体を使えと言われても具体的なイメージが浮かばなかった未来が、結局最後に選ぶ戦い方————

 

『でも正すのは間違いだった。……あなたの場合そのクセを制御して、自らの技に昇華させる方が合っている…………っと、レオは言いたかったのかもね』

 

「自らの技…………」

 

少年漫画じみた思考を総動員させて、未来は考える。

 

ステラの話を聞いて辿り着いた結論は、至ってシンプルだった。

 

『……未来?』

 

『未来くん?』

 

急に黙ってしまった未来にメビウスとステラが声をかける。

 

「……そうか……!それだ……!」

 

『どうしたのよ、急にはしゃいで』

 

今の未来はメビウスの光線技や武器に依存している部分が大きい。

 

バーニングブレイブに関しても、メビウスが隣にいて初めて使用できる形態だ。

 

だから————

 

「俺だけの技…………!新技だよ!!」

 

『新……技……?』

 

「ああ!俺がメビウスの身体を動かして……初めて使える必殺技!」

 

日々ノ未来という人間の力を充分に発揮できる、新しい技を————!

 

「今後の特訓では、新必殺技についても考えることにする!」

 

『……ふうん。まあいいんじゃないかしら。方向性は間違ってないと思うわ』

 

「決まりだな!」

 

千歌達も新しいことにドンドン進んでいってる。

 

(俺も……負けていられない……!)

 

 

 




新必殺技……今作だからこそできる展開ですね。
未来には主人公としての意地を見せてもらおうではありませんか。
サンシャインパートがかなり削られているので、細かい部分の繋がりは3話を視聴することをお勧めします。

解説いきましょう。

今作では作者の個人的な好みにより、ベリアルアーリースタイルも物語に深く関わっています。
かつて内浦に現れたディノゾールを撃破し、エンペラ星人と対峙した後で行方不明になってしまったベリアル……。
アーマードダークネスをまとった姿で再び現れ、未来達とも戦いましたが、その時には過去の彼よりも残虐さが目立っていました。
元の設定とは違いプラズマスパーク絡みの事件には関与していませんので、姿が変わったのはアーマードダークネスの影響によると言うことですね。
そんな彼の目的とは……?

では次回もお楽しみ。



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第70話 灯火の先


今回は溜め回かな?
とりあえず3話分は終わりです。


「二つに分ける?」

 

部室でライブ当日の相談をするために集まった千歌達が、ほんの少しどんよりとした空気のなかでテーブルを囲んでいた。

 

「うん、五人と四人。二手に分かれてラブライブと説明会、両方で歌う。それしか……ないんじゃないかな」

 

「でも……」

 

「それでAqoursと言えるの?」

 

「ずら……」

 

あまり乗り気ではない様子の皆が口々にそう述べていく。

 

「それに、五人で予選を突破できるかわからないデース……」

 

Aqoursのパフォーマンスは“九人である”ということにアドバンテージがある。

 

実際全員で披露するつもりだったダンスを改変すれば、迫力も見栄えも落ちてしまうだろう。

 

「嫌なのはわかるけど……じゃあ他に方法ある?」

 

「……移動手段さえあれば」

 

未来の一言も空しく消えていく。

 

結局この日の話し合いは、分かれて歌うことに落ち着いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に良かったのかな?」

 

「良くはない……けど」

 

「現実的な方法で間に合わせるには、これが最善なのかもな」

 

曜、梨子、未来の三人がガードレールに腰掛けながらぽつり、とこぼす。

 

夕暮れを背にしていると自然に辛気臭い顔をになってしまう。

 

「私達は奇跡は起こせないもの。この前のラブライブの予選の時も、学校の統廃合の時も……」

 

俯いていた梨子が弾かれたように立ち上がり、表情を明るいものに変えて口を開く。

 

「だから、そのなかで一番いいと思える方法で精一杯頑張る!」

 

落ち込んでいた千歌達を励まそうとしているように、梨子はガードレールを飛び越えては笑顔でこちらを見上げてきた。

 

「それが私達なんじゃないかって…………思う」

 

「……そうね。あなた達は今までもそうしてきたんだし」

 

「今回もなんとかなるだろ!」

 

「そうだね……あっ」

 

何かに気づいたような様子で肩を揺らした千歌が、梨子の背後へと視線を移した。

 

つられて未来とステラも同じ方向へと顔を向ける。

 

そこに見えたのは広大なみかん畑と、いくつかの車両が繋がっている運搬用モノレールだった。

 

「……果物、よね。地球の」

 

「みかんだな。……うん!今年のも美味しそう!」

 

脳天気に笑う未来の横で呆然と立ち尽くしている千歌。

 

彼女は急にその場を駆け出すと、ガードレールを跨いで梨子のいる場所まで向かった。

 

「みかん!みかんだよ!」

 

「千歌ちゃん?」

 

「みっかーーーーん!!」

 

身体全体を使って喜びを表現する千歌だが、他の面々には彼女の考えていることはさっぱりわからなかった。

 

数秒遅れて何かを察した未来が慎重な顔で尋ねる。

 

「…………何か思いついたな?」

 

 

◉◉◉

 

 

ついにライブ当日。

 

ラブライブ特設会場へとやってきたのは千歌、曜、梨子、ルビィ、ダイヤの五人。他のメンバーは浦の星学院で学校説明会のライブを行う予定だ。

 

向こうにはステラがサポートとして付いているので、未来もこちらに集中できる。

 

観客席に腰を下ろした未来が口元を引き締めた。

 

「…………心配だ」

 

『さっきからソワソワしっぱなしだね』

 

信じて送り出したのはいいが、客席で待機してからなぜか震えが止まらない。出演者の方が何倍も緊張しているだろうに。

 

現在千歌達は自分達の順番になるまで待機中だろう。

 

未来はサイリウムを握り直して、彼女達がステージに上がるのに備えた。

 

「そう固くなる必要はないよ。ライブというものは純粋に……そう、適度に自分をさらけ出すことが肝心さ」

 

「あ、ああ……そうだな。…………ん?」

 

隣に座っている人影に声をかけられて、反射的にそう言ってしまう。

 

……しかし、それが誰なのか理解した瞬間、飛び跳ねそうになるくらいの驚愕が全身を走った。

 

「うおおおおッ!?ノワール!?」

 

「やあ」

 

「なんでお前がここに……!」

 

いつもと変わらない気味の悪い笑顔と黒いコート。

 

ノワールが隣の席で未来と同じくサイリウムを持ちながら座っていたのだ。

 

「おかしいことは何もないさ。ボクもAqoursのファンだからね」

 

「はあ……!?そんなこと言って……また何かしでかす気なんだろ!」

 

「今のボクに大それた事はできないよ」

 

参った参った、と両手を挙げるノワール。

 

……信用なんかするわけない。ライブ中は常にこいつに目を光らせておかなくてはならない。

 

 

 

『エントリーナンバー二十四!Aqoursの皆さんでーす!!』

 

「……!」

 

パッとスポットライトがステージ中央に当たり、千歌達五人の姿が暗闇から浮き出てくるのが見えた。

 

あちこちで鳴る拍手も段々と勢いが無くなり、静寂が訪れても————千歌達は歌おうとしなかった。

 

『……!何かあったのかな……!?』

 

「…………ダメなのか?」

 

九人で歌えないことが未だに足を引きずっているのか、千歌達は曇った顔のままだ。

 

「千歌…………!」

 

「……やっぱりこうなるか」

 

「あ……?」

 

「なに、こっちの話だよ」

 

意味ありげに呟くノワールの瞳は、いつの間にか真剣なものに変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「勘違いしないように!」

 

「……!?」

 

不意にかけられた声が皆の意表を突いて聞こえてくる。

 

「……なっ……!」

 

「……ほら、やっぱり来た」

 

にやりと口角を上げたノワールとステージ上を交互に確認する。

 

説明会へ向かったはずの果南、鞠莉、善子、花丸が千歌達の背後に立っていたのだ。

 

「やっぱり、私達は一つじゃなきゃね!」

 

「みんな……」

 

「ほらほら、始めるわよ!」

 

「ルビィちゃん、この衣装素敵ずら!」

 

揃った。無理だと思っていたはずの九人が。

 

「さあ、やるよ!」

 

「……!うんっ!!」

 

    ーーMY舞☆TONIGHTーー

 

 

寺でヒントを得たイメージを基に作曲したものだ。

 

和ロックな雰囲気に花丸が書いたであろう歌詞がマッチしている。

 

 

小さな炎も、集まれば大きな奇跡となる————彼女達の要望と心情をありったけに詰め込んだ一曲だった。

 

 

「……ボクは同じ光景を見たことがある」

 

「……なに?」

 

ふとノワールが呟いた言葉に反応し、未来はステージから視線を外した。

 

「だけど千歌ちゃん達は少し違うね…………今後が楽しみだよ。もちろん君も」

 

「なにを言って————」

 

曲の途中にも関わらず席を立ったノワールは、そのまま身を翻して会場を立ち去ってしまった。

 

いったい何だったんだ、と首を傾けつつ、未来は目の前のライブに集中————

 

「……あれ、待てよ」

 

『ん?』

 

「そうだ、果南さん達がこっちにいるなら尚更……!」

 

慌てた様子で立ち上がった未来は、少し迷うように千歌達を一瞥した後で会場を飛び出していった。

 

 

◉◉◉

 

 

「来たわね」

 

「ほんとに使うんだな、これ……」

 

会場から全力疾走して辿り着いた場所は、()()()()だった。

 

ステラの横で待っていたのはクラスメイトである、よしみとむつの二人だ。

 

「あなたが事前に連絡したんでしょう、このモノレールを使うって」

 

ステラはそう言って傍で静止している車両を見やった。

 

果南達がラブライブの方へ向かったのなら、ステラもこちらに来ていると踏んだのは正解だったみたいだ。

 

あらかじめやることを話しておいたのが吉と出たようだ。

 

「ああ、千歌のアイデアだったんだけどな……。二人もありがとう、協力してくれて」

 

「ううん!全然!」

 

「今は学校の危機だしね!」

 

気前よくモノレールを使うことを許してくれた農家の人達にも感謝だ。

 

 

 

「おーい!!」

 

「お、来たぞ!」

 

遠くから走ってくる千歌達の姿が見えるのと同時に、むつが勢いよくモノレールのエンジンをかけた。

 

「お嬢ちゃん達!乗ってっかい!?」

 

「二人ともありがとー!」

 

「そっか、これだったんだ……」

 

「みかん農家じゃ、そんなに珍しくないよ。さ、乗って!」

 

おー!と掛け声を上げながら次々と車両に乗り込んでいく千歌達。

 

説明会のライブ時間に間に合わせるため、彼女達はこの運搬用モノレールに乗って移動する。

 

土壇場でコレを思いついた千歌が、どれだけ必死な思いだったか。

 

(千歌は諦めることが苦手だからな……まったく)

 

どんな窮地でも、打開策はきっとある。彼女からはいつもそれを教えられるんだ。

 

「……って、本当に大丈夫なのこれ!?」

 

「みんな乗ったー!?」

 

「全速前進!ヨーソロ〜!」

 

元々の設計上、この機械に人が乗り込めるスペースはそう広くなかった。

 

九人でぎりぎり収まったなか、先頭に座っていた果南がレバーを引く。……が、

 

「……遅いな」

 

歩いた方が速いのではないかと思うほどの速度で車体が動き出す。

 

「……冗談は善子さんずら」

 

「……ヨハネ」

 

「って言われても、仕方ないんだけどね〜……」

 

亀の如きスピードに耐えかねたのか、果南の表情が徐々に険しいものへと変わっていった。

 

「〜〜〜〜……っ!もっとスピード出ないのぉ!?」

 

再び強くレバーが引かれるのと共にバキン!と嫌な音が耳朶に触れた。

 

「……バキン?」

 

恐る恐る果南の手元を確認する。

 

「…………取れちゃった」

 

————わあああああああああっっ!?!?

 

一転してジェットコースターじみた速度に変貌したモノレールを見送り、未来とステラは肩をすくめて顔を見合わせた。

 

「俺達も行くか」

 

「そうね」

 

むつ達がこちらを向いていないことを確認した後、地面を蹴る。

 

風のようにみかん畑の横を通り過ぎる二人の少年少女。

 

……そして、彼らを見守るように物陰に佇んでいた青年が一人。

 

 

「……奇跡…………輝きか」

 

 

◉◉◉

 

 

校庭に作られたステージの付近で、九人分の衣装を抱えながら待機。

 

「……まあ、わたし達の方が早く着くわよね」

 

「間に合うといいけど……」

 

時間はかなり押している。モノレールがなかったら遅刻は免れなかっただろう。

 

ここまで来るのに少し走る必要があるため、今は千歌達を信じるしかない。

 

「……わたしね、前からずっと思ってたの」

 

「ん?」

 

「どうして千歌達は、廃校を止めようとするの?」

 

正面を向いたままのステラが唐突に問いかけてきた。

 

これまで未来と共に千歌達に協力していながら、彼女はまだ理解しきれていなかった。

 

「スクールアイドルが好きだから……と言っても、統合先でも同じことはできるでしょう?」

 

ステラの捉えていた千歌の印象は、どこかずれているように感じた。

 

未来は少し考えるように黙り、同じく正面を向いたまま話し出す。

 

「当然スクールアイドルは好きなんだろうさ。……でもそれと同じくらい、この学校が好きなんだよ」

 

彼女達がこんなにも一生懸命になれるのは、浦の星学院が好きだから、ということに他ならない。

 

「千歌達にとって、()()()()()スクールアイドルであることに意味があるのさ」

 

背後に見える校舎を見上げ、未来は無意識に笑みを浮かべていた。

 

「……あなたはどうなの?」

 

「……え?」

 

「あなたはこの学校が好き?」

 

突然の振りに一瞬戸惑うが、未来はすぐにはっきりとした口調で答えた。

 

「ああ、好きだよ。みんなと引き合わせてくれた、大切な場所なんだから」

 

梨子、花丸、ルビィ、善子、鞠莉、ダイヤ————そしてメビウス。

 

自分の運命を動かすような出会いは、皆この学校で起こったんだ。

 

「……そう。なら、わたしも最後まで付き合わなきゃね」

 

『おっと、僕達のことは忘れてないよね?ね、ヒカリ』

 

『俺は……ステラの背中を押すだけだ』

 

頭のなかに響く騒がしいやりとりに思わず吹き出してしまう。

 

 

 

「……ああ、そうだ。奇跡でもなんでも起こして、この学校を救う」

 

遠くの方でわずかに見えた複数の人影に微笑み、手を振り返す。

 

前にステラが言っていた通り、物事はなるようにしかならないのかもしれない。……けれど、行動を起こすのは自分自身。

 

その果てに得た結果をどう呼ぶかもまた自分次第だ。

 

(俺達は起こすぞ……“奇跡”を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ーー君のこころは輝いてるかい?ーー

 

 

歌が伝わる。

 

彼女達の声、気持ち————風に乗ってやってくる。

 

かつて聞き惚れた歌声に勝るとも劣らない輝きを前に、男は抑えきれない興奮を手を強く握ることで形にした。

 

「…………来るのか」

 

何気なく見上げた空は、どこか不穏な雰囲気で満たされていた。

 

 




未来の学校に対しての気持ちも明らかになり、物語は次のステップへ。
二章で未来達に襲ってきた敵は今のところノワールくらいですが、果たして……?

では解説です。
今作では過去に地球に降り立ったことのあるウルトラマンはベリアルのみという設定ですが、それに伴って他のウルトラ戦士達とエンペラ星人の軍勢との因縁も少々違ったものになっております。
ウルトラ大戦争が勃発した時に四天王と対峙した者がそれぞれいるので、彼らを絡めた話も今後注目です。

次回は未来の新必殺技も含めたオリジナル回になります。


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第71話 僕達の力

先週のサンシャインでSaint Snowに焦点が当てられたのは驚きました。
実は僕、あの二人結構好きなので嬉しいです(笑)


「はあっ!せやッ!!」

 

「軽い軽い。素手でもいいくらいだわ」

 

太陽の下。屋上でひたすらにパンチの修練に励む未来。

 

ソフトボール部から拝借したミットを構えたステラに向かって、一発一発に全力を注いで叩き込む。

 

「……三十分経過。そろそろメビウスも交えてやりましょうか」

 

『うん、わかった。よろしくね』

 

未来の身体から一時的に離れていたメビウスが再び彼の体内に入り込む。

 

最初は未来自身の型を定着させ、その後はウルトラマンとしての活動を考慮して鍛え上げる。

 

「ふぅー…………。…………らぁッ!!」

 

底上げされた身体能力を使ってミットを殴る。ズパァン!という衝撃音が周辺に鳴り響いた。

 

しかしステラは多少眉を動かしたのみで、威力自体はそう高くないと知らしめられる。

 

……と、思われたが、

 

「…………」

 

「ん?どうかしたか?」

 

無言でミットを手から外しては赤くなっている手のひらをさするステラ。

 

どうやら顔に出ていないだけでしっかりと効いていたらしい。

 

「……痛かないわよ」

 

「すまん、お前がどういう性格なのか忘れてた」

 

宇宙人とはいえステラも女の子。メビウスの力を備えた未来のパンチを正面から受けるのは危ない。

 

『ヒカリも参加したほうがいいね』

 

「そうさせてもらうわ」

 

傍でこちらを眺めていた青い光球がステラの手招きに反応して寄ってきた。

 

 

 

 

この特訓を始めてしばらく経つが、未来の成長速度は凄まじいものだった。

 

一度レオから受けた打撃を身体が覚えているのか、予想以上にすんなりと拳の型が出来上がっていくのだ。

 

しかし————

 

「…………必殺技にはほど遠いなぁ」

 

休憩時間になり、倒れこむ形で空を見上げる。

 

雲ひとつない快晴。加えて地面の熱が背中を通して伝わってくる。

 

「疲れてるわね」

 

「へ?」

 

ぼうっと上を眺めていると、横からステラの声が飛んできた。

 

「顔色が悪いわ。最近は特に忙しかったし……今日はもう終わりにしましょう」

 

「そんなにか……?」

 

自分ではわかりにくい変化だが、ステラは体調管理に関しても一流だ。

 

千歌達の体力差等も完璧に把握しているため、マネージャーとしての知識がこういった場面で生きていると言える。

 

「それじゃあいったん部室に戻って————」

 

言いかけたところで背後から階段を駆け上ってくる気配を感じ取り、咄嗟に後ろへ振り向いた。

 

「ついにこの時が来たわね!リトルデーモン・アティード!!」

 

「待ち伏せしてたな?」

 

片目を隠しながら現れたのは後輩である津島善子だった。

 

最近体術の鍛錬が終わった後は決まって————

 

 

◉◉◉

 

 

「漆黒の……ダークネス……エクスプロージョン……」

 

ノートに羅列された禍々しくてクール(?)な単語を順番に口に出していく。

 

そう。ステラの特訓が終わった後は決まって、新しい技の“名前”を考えていた。

 

「どう、アティード?少しは自分の属性に合った言葉(スペル)が浮かんだかしら?」

 

「いやー……なんかどれもしっくりこないな……」

 

アティードというのは未来のことらしい。善子なら何かに名前を付けることに慣れていそうだから、という理由で技名の相談をしたところ、いつの間にか勝手に上級リトルデーモン認定されてしまっていた。

 

「ていうかこのダークな雰囲気の単語嫌なんだけど!もっと明るいの無いの!?」

 

「なっ……!ヨハネからの下賜が気にくわないって言うの!?」

 

先ほどから善子が勧めてくる言葉はどこかノワールを連想させられるものばかりで、自分の技に当てはめようとは思えなかった。

 

善子と未来のやり取りを眺めていた千歌が首を傾ける。

 

「二人とも何やってるの?」

 

『僕達の新しい技の名前を考えてるんだって』

 

「何それ面白そう!」

 

「あっメビウスの馬鹿!めんどくさい奴を増やすな!」

 

「なになにー?何の話ー?」

 

騒ぎを聞いて他のメンバーも未来のもとに集まってきた。

 

全員が揃って興味深そうにノートを覗き込んでくる。

 

「これなんかいいんじゃない?」

 

「あ、これと……そっちを組み合わせたら可愛いかも!」

 

「えっと……これなに?」

 

「“ブラックブランク”!」

 

好き勝手な意見が交差し、未来の頭がついにショート寸前を迎えた。

 

「だー!!いったん静かにしろォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直して再び考えをまとめる。

 

何気なく腕を組んだ果南がノートと睨み合っている未来に尋ねた。

 

「ウルトラマンの新技かあ。具体的なイメージはついているの?」

 

「えーっと……パンチっていうのはわかってるんだけど……。それだけじゃ上手くまとまらなくて」

 

「パンチ、ですか……」

 

ふと何かを考え込むようにダイヤが顎に手を当てる。

 

「もっと派手なのじゃダメなの?こうビビビーって」

 

「光線技ならもう充分に強いのがあるよ」

 

十字のジェスチャーで示してきた千歌の意見はあっさりと却下された。

 

メビュームシュートはメビウスが宇宙警備隊として自らを鍛え上げた末に必殺技として昇華させたものだ。

 

そもそも地球人の未来にビームなんか撃てない。自分だけの必殺技を作るのなら、必然的に打撃系統の技になる。

 

「パンチとなると……接近戦になるよね。相手の攻撃をかわしながら確実な一発が出せないと必殺にはならないし……」

 

「なんか果南さんやけに詳しいね?」

 

「なんとなくそうかなって」

 

感覚で物事を考える彼女らしいアドバイスだ。未来も言えた口ではないが。

 

しかし果南の言ったことも馬鹿にはできない。拳を必殺技として使うには近づかなければならないのは確かだ。

 

「……クックック……!それならっ!」

 

ウッキウキな様子でいつもの堕天使ポーズをとる善子に皆の視線が集まる。

 

もちろん期待の眼差し、というわけではない。

 

「そのスキルを磨くためのいい場所を知っているわ!」

 

「……心配ずら」

 

「心配ね」

 

「ヨハ子様、こっちは割と真面目なんだよ?」

 

「ヨハネよ!わ、私にだってちゃんとした考えくらいあるんだから!」

 

それはぜひお聞かせ願いたい。こちらとしては猫の手も借りたい状況なのだ。

 

「ズバリ!“動体視力”よ!」

 

 

◉◉◉

 

 

「……で」

 

とあるゲームセンターに足を運んだ一向。

 

ギラギラした筐体が並び立つ周辺を見渡し、精一杯の不安げな顔で善子を見やる。

 

「なんでゲームセンター?」

 

「ふっ……動体視力を鍛えるのにうってつけの物があるのよ」

 

彼女が指差した方向を向くと、一箇所だけやけに暗いスペースが視界に入る。

 

「……リズムゲーム?」

 

「そう!流れてくる譜面に的確な動きで対応する……。これぞまさにアティードが求める力への近道よ!」

 

「わかるようでわからない」

 

助けを求めようと周りに視線を送るが、いつの間にか千歌達の姿がなくなっていることに気がつく。

 

「あ!あのぬいぐるみ可愛い!」

 

「私に任せなさい、ルビィ!」

 

「もし取れなくても私が言い値で買い取りマース!」

 

「そ、それって大丈夫ずらか?」

 

「曜ちゃん梨子ちゃん果南ちゃーん!これ面白そうだよー!」

 

少し見ない隙にそれぞれで自由に遊んでしまっている。

 

最後の頼みであるステラですら「めんどくさそうだから勘弁」といった瞳を向けながらどこかへ去ってしまった。

 

「……わかったよ。何事も挑戦だ」

 

「話が早いリトルデーモンは好きよ」

 

「契約した覚えはないけどな」

 

唯一小さい頃にプレイしたことのある太鼓型の筐体の前にしぶしぶ立ち、百円玉を入れて曲と難易度を選択する。

 

「そりゃっ」

 

「あ”!」

 

横から伸びてきた善子の腕がバチで最高難易度の楽曲を選び、そのまま決定が押される。

 

「何すんだよ!」

 

「一番難しいやつで練習しないと意味ないでしょ」

 

「んなこと言われても……!」

 

昔少し触れただけで極めるほどプレイしたことはない。

 

最高難易度なんかできるわけがない。

 

「ちくしょおおおお!やってやるよもう!」

 

「その意気よ!」

 

 

 

 

 

 

 

結果は言うまでもないだろう。

 

力尽きて膝を折り曲げている未来に善子の心配そうな声音がかけられる。

 

「まったく情けないわね、大丈夫?」

 

「…………ちょっと酔った」

 

「この星の明日はあんたにかかってんのよ!さあ立って続き!」

 

俯きながら呟く未来の背中をさすりながらも檄を飛ばす善子。

 

「他に何かないのか……?あのドラム型洗濯機みたいなのとか……」

 

「あれは手袋無しだと火傷するわよ」

 

「ゲームなんだよな?」

 

なにやら物騒な単語が聞こえたが、先ほどのゲームの影響で思考が上手く働かない。

 

「こんなこともあろうかと私のを持ってきたわ。次はあれを————」

 

「お待ちなさい!」

 

背後からの待ったの声に未来達の動きが止まる。

 

ペンギンのぬいぐるみを抱えたダイヤが大股で歩いてくるのが見えた。

 

「やはりそんなことでは未来さんのためになりません!もっと現実的な方法を試すべきです!」

 

「と、いうと?」

 

「ズバリ!精神統一ですわ!」

 

 

◉◉◉

 

 

「お邪魔しまーす……」

 

雅な空気が漂う家の中に入り、ダイヤの後ろをついていく。

 

縁側を歩いて行くと、横に見える一室にいくつものぬいぐるみが散乱しているのが気になって視線を横流しする。

 

「あのぬいぐるみは……」

 

「……あ!」

 

何かに気づいたように身体を跳ね上がらせたルビィ。

 

「ルビィ!あれだけ片付けなさいと……!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

弾かれたように駆け出しては床に散乱したぬいぐるみ達をかき集めるルビィを見て、どこか違和感がよぎる。

 

『……!あの宝石は……』

 

テーブルに置かれていた一個の青い石。

 

ルビィはそれを大事そうに小瓶へ詰めると、落とさないようにしっかりと自分のポケットの中にしまいこんだ。

 

(……クォーツ星人の時の)

 

『……もしかしてあのぬいぐるみは————』

 

メビウスが途中で言葉を切る。

 

「……どうかしました?」

 

『「ううん、何も」』

 

 

 

 

少し歩いて行くと広めの和室に着いた。

 

千歌達が全員入っても余裕なほどの一室で、未来とステラを含めた十人はダイヤに言われた通り並んで正座する。

 

「では始めましょう」

 

スラッとどこからともなく木刀を取り出したダイヤが立ち上がる。

 

「ちょっと待って!?」

 

「なんでそんな物騒なもの出してきたの!?」

 

曜と未来が同時に仰け反って抗議する。

 

「無論、精神の乱れを漏らした者に罰を与えるためです」

 

「イヤイヤイヤイヤ!なんで私達まで!?」

 

「俺もまだ趣旨が理解できてないんだけども!」

 

「お黙りなさい!」

 

こほん、と咳払いで場を静めたダイヤが口を開いた。

 

「新必殺技となれば大切なのはイメージです。未来さんには沈黙の中でそれを固めてもらいます。他の皆さんはついでです」

 

「ついでって何!?」

 

「問答無用!では始め!」

 

強制的に開始された精神統一に戸惑いつつ、未来は咄嗟に目を瞑って暗闇のなかへ飛び込んだ。

 

 

(…………なんか、思い浮かべてたのと違うなあ)

 

必殺技を生み出す、となればひたすら特訓のイメージだったが、他にも大切なものがあると皆に気づかされた。

 

『でもありがたいね。こうして僕達に付き合ってくれるなんて』

 

(まあ……それもそうだな)

 

みんなに協力してもらったんだ。せめてヒントくらいは思いつかないと————

 

過去に経験してきた戦いを思い出す。

 

(パンチ……メビウス……威力……)

 

……正直に言うと自分だけのアイデアで必殺技が完成するとは思えない。やはりメビウスからも何かしら引き出してもらわないと……。

 

自分だけの、ということにこだわり過ぎてた。レオも「一人で戦っていると思うのはいけない」と言っていたじゃないか。

 

仲間達からヒントを得て、さらにそこへ自らの考えを加える————

 

(そういえばメビウスの技の中に……パンチ技……)

 

 

 

 

 

 

 

『「あっ!!」』

 

急に声を上げた未来に驚いた千歌達がビクリと身体を揺らした。

 

「そこっ!」

 

「あいたっ!!」

 

スパン!と未来の肩にダイヤが振り下ろした木刀が炸裂する。

 

「ストップストップ!思いついたんだって!」

 

「え?」

 

木刀を構えるダイヤから逃げるように遠ざかった後、自信ありげな顔を見せる未来。

 

……難しいことを考える必要はなかった。もっとシンプルに、大胆に、かつインパクトのあるものだ。

 

「……聞かせてくれる?」

 

正座を崩さないまま、ステラは静かな視線を注いでくる。

 

「ああ————」

 

と、その時。

 

 

 

 

 

 

 

甲高い音が街中に響いた。

 

同時に人々の悲鳴が耳に届き、未来は反射的にその場を飛び出した。

 

「……!あれは……!」

 

異様な光景が視界に入ってきた。

 

見覚えのある、そして恐ろしい景色————

 

 

 

 

 

「空が()()()()……!」

 

 

 

 




未来の必殺技のためにAqoursメンバーが協力する流れは二章で書きたかった展開の一つです。
次回はついにあの超人が登場します。

今回はクォーツ星人について振り返りましょうか。

第18話と第19話、「ルビィの妹」に登場した今作オリジナルの宇宙人です。
今回ルビィが持っていた青い石はサファイアという名のクォーツ星人が変化したものでしたね。
以前メビウスに「器があればまた動くことができるかもしれない」と言われましたが……?
この辺りも今後触れる機会があると思います。(おそらく終盤に)

次回、未来とメビウスの新必殺技が炸裂……⁉︎


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第72話 自分への衝撃

9話の新曲、「ジングルベルが止まらない」とは違った雰囲気のクリスマスソングって感じで良かったですね。



ひび割れた空の隙間から覗く赤黒い異次元空間。

 

緑色の双眸がぼんやりと浮かび上がり、逃げ惑う人々を見下ろした。

 

「ノワールの仕業……じゃないよな。あいつが広げるゲートとは雰囲気が違う」

 

『…………おそらくヤプールだ。以前バキシムを呼び出したのと同じ……!』

 

黒澤家の縁側から上空を見上げた未来が忌々しそうに表情を歪めた。

 

「ステラ!」

 

「わかってる!……みんな、早く避難を!」

 

「そう……ですわね」

 

突然の騒ぎに戸惑いつつも、千歌達は先行していくステラの後ろへ付く。

 

相変わらず心配そうにこちらを見てくる千歌に対して、未来は笑顔で親指を立てることで返答した。

 

「大丈夫!みんなの協力を無駄にはしない!」

 

「……そういうことじゃないんだけどな……」

 

自信満々に言い放った未来に呆れた視線を向けた後、千歌は明るい顔で口にした。

 

「……信じてるよ」

 

 

◉◉◉

 

 

「アァ……ァァアアアア…………!!」

 

呻き声にも聞こえる低い音を上げながら、一体の超人が空を破って地上へ降り立つ。

 

赤い身体の上に黄金色の装甲、頭部は王冠のように尖っていて左手には鋭い鉤爪が確認できる。

 

怪獣というよりもウルトラマンに近い姿をした奴は、言葉を発することもなく暴れ始めた。

 

『未来くん!』

 

「ああ!……メビウーーーース!!」

 

未来が駆け出し、地を蹴るのと同時に赤い巨人が空に舞う。

 

空中からの飛び蹴りを怪物に見舞い、メビウスは両手を構えて距離をとった。

 

 

(ヤプールって……確か前に曜を襲った奴か……!?)

 

『うん……こいつの資料も見たことがある。前に起きた戦争でエース兄さんを倒すため、ヤプールに造られた兵器だ』

 

かつて“エースキラー”と呼ばれたそれは、ウルトラ兄弟の技を使用できるように製造されたと聞く。

 

ウルトラマンエースと対峙し、激戦の末に破壊されたと記録には残っていたはずだが……。

 

 

 

————そいつの名は“エースキラー”ではない。

 

『(…………!)』

 

頭のなかに直接送り込まれる声。正体は考えるまでもなく明白だ。

 

異次元に住まう凶悪な超人、ヤプール。

 

『どういうことだ……!?』

 

————なに、戦えばわかるさ。そいつは貴様らを倒すために造り上げた一級品よ……!

 

(……なにが来ようと関係ない。俺達はただ……!)

 

一歩強く踏み込み、一気に前方へ移動。

 

(返り討ちにするだけだ!!)

 

正面に立つエースキラーの懐に潜り込み、散々鍛え上げた拳を突き出す。

 

(……なんっ……!?)

 

が、その一撃は()()()()()()回避されてしまった。

 

負けじと連続して打撃を繰り出すが、例外なくその全てを避けられてしまう。

 

(……この感覚……!)

 

『レオ兄さんと戦った時と同じ……!動きが読まれてる!』

 

……いや、読まれているなんてものじゃない。

 

予測の類ではなく「こう動く」と確信を持って攻撃を避けている。

 

まるで自分自身と対峙しているような————

 

「ァァア……!!」

 

エースキラーが右腕を前に持っていくと、装備しているクリスタルが輝いた。

 

————()()()()()()()()()

 

『(……なにっ……!?)』

 

ヤプールが指示を出すのと同時に奴の右腕のクリスタルから黒ずんだ光剣が伸びる。

 

メビウスも反射的にブレードを伸ばし、振り下ろされた斬撃に対応した。

 

(ぐっ……!)

 

鋭い連続攻撃を捌きつつ、奴の持つ力の正体を探る。

 

『この力は……!』

 

(ぜあああッッ!!)

 

メビウスが放った大振りの斬撃がエースキラーの刃と衝突し、両者は弾き飛ばされるかたちで離れた。

 

————ははははは……!()()()()()()()()()

 

再び出された命令通りに奴の身体が動く。

 

右腕のクリスタルに左手を添え、引く。

 

充填されたエネルギーがうねり、十字に組まれた腕から光線が発射された。

 

「グア……!」

 

回避が間に合わずに凄まじい熱線が肩をかすめ、後方へと流れていく。

 

『間違いない……!この力は……!』

 

(メビウスと同じ……!)

 

目の前にいる敵が自分達と全く同じ力を有していると気づき、未来とメビウスは戦慄した。

 

 

————あの黒い小僧が持っていた貴様らの力を奪い取り、取り込ませた。言わばこいつは“メビウスキラー”。ウルトラマンメビウスを抹殺するための存在だ。

 

(…………なんだって……!?)

 

————小僧の時とは違って今回はデータを基にしたコピー品。力も充分に発揮できるだろうよ。

 

以前ノワールが語っていたことを思い出す。

 

「横取りされた」「今の自分に力はない」————そのようなことを言っていたのは覚えている。

 

それに最近のあいつはどうも様子がおかしかった。もしかしたらヤプールに力を奪われて、そのまま用済みに————

 

————もう一度、メビュームシュートだ。

 

『(……!)』

 

考えている暇はない。

 

咄嗟にメビウスブレスにエネルギーを溜め、メビウスキラーとほぼ同時に光線を放った。

 

同様の技がぶつかり合い、周囲には凄まじい衝撃が波紋のように広がる。

 

(完全に互角か……!)

 

あらゆる力がメビウスと同等。この状況を打開する方法はもう一つしかない。

 

…………新技を。ノワールがメビウスの力を奪った時点では習得していなかった、新しい技を叩き込むしか……!

 

 

 

(…………ダイヤさんが考案した瞑想のなかで、既にイメージは固まってる)

 

『ついでに名前もね』

 

緊張をほぐすために微かに笑みを浮かべる未来。

 

(自分が相手……なんて、いい機会だな。これまでの俺達とは違うって証明してやろうぜ!)

 

『ああ!やろう!』

 

拳を握り直した後、前方に立つメビウスキラーを見据える。

 

動きが読まれるとなれば一筋縄ではいかない。“奴が反応しきれないタイミング”で攻撃を繰り出すしかない。

 

少し前の未来ならばわざと攻撃を受けて動きを止める戦法に走っていただろうが、レオと戦ってからそれは控えるように意識している。

 

……戦いが終わった後で自分が生きていないと、意味がないんだ。

 

『(はあッ!!)』

 

爆発的に解放された炎が広がる。

 

バーニングブレイブの姿となったメビウスが地を蹴り、走り出す。

 

横から来る鉤爪を受け止め、手前に引き寄せてから胴体へ蹴りを放つ。

 

メビウスキラーが攻めてきたところを上手く対応し、直後に攻撃すれば当てることは可能だ。

 

(後手に回るのは仕方ない……!隙さえ見えればこっちのもん……だっ!!)

 

いなして、攻める。その繰り返しだ。

 

「アァ……!」

 

向こうが動きを把握しているように、未来も奴の動きは読める。

 

要するにこれは“どれだけ早く反撃できるか”が鍵だ。

 

相手が自分自身なら、対応するのは造作もない————!

 

 

 

————ほう。

 

予想外にも善戦するメビウスを見て感嘆の声を漏らすヤプール。

 

(だああああッ!)

 

横薙ぎの攻撃を避け、確実にメビウスキラーの腹部へと拳をねじ込む。

 

「……ァ……!」

 

『……!後方へ!』

 

(おっと……!)

 

下から襲ってきた蹴り上げをバク転で回避し、一旦離れて待機。

 

これ以上続けても埒があかないのは両者がわかっていることだ。おそらくは次の攻撃で全てが決まるだろう。

 

(……いくぞ)

 

『……うん』

 

メビウスブレスに右手を添え、エネルギーを増幅させる。

 

炎のオーラが左腕を囲み、拳が真っ赤に燃えた。

 

「ァァアアアア!!」

 

メビウスキラーが再び腕を十字に組み、メビュームシュートをこちらに向けて放ってきた。

 

その直後に走り出し、光線が当たるギリギリのところで身体を下げて滑り込む。

 

『(おおおおおオオオ……!!)』

 

真上に通る光線の熱を感じながらスライディングの要領で移動し、メビウスキラーの足の間を通り過ぎた。

 

左腕のエネルギーを溜めて、溜めて、溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて——————!!

 

『(はあああああ……!!)』

 

振り向くのと同時に左腕をトリガーのように引きしぼる。

 

メビウスキラーがこちらに気がついて振り返る頃には、既に限界まで接近することに成功していた。

 

『(メビューム……!!)』

 

ボッ、と炎が吹き出たところでその拳は音速を超え、まっすぐに奴の胴体へと迫る。

 

『(インパクトォォォオオオオ!!!!)』

 

腰を回転させて全エネルギーをメビウスキラーへ向ける。

 

「————ア」

 

全ての衝撃が収束して奴の胴体を貫き、その巨体が羽のように軽々と吹き飛ばされ、空中で身体の中心から分解されるように爆散していった。

 

 

 

(……がっ……!)

 

左拳に凄まじい鈍痛が走り、メビウスは思わず膝をついて焦げた腕を見下ろした。

 

(いってえええぇぇええ……!!)

 

時間が経つにつれてどんどん痛みが増していく。

 

————メビュームインパクト。メビウスの持つ大部分のエネルギーを左拳に集中させて放つ一撃必殺の技。

 

今まで使用してきたパンチ技を応用できないかと考えた結果、未来のどこまでも脳筋なアイデアで生み出されたのが「込める力を強くすること」だった。

 

『……くっ……!思ってたよりも反動が大きいね……!』

 

(メビュームダイナマイトよりマシとはいえ……さすがに多用はできないかもな……!)

 

『……!そうだ、ヤプールは……!?』

 

瞬時に周りを探すメビウスだったが、既に奴の気配は遠ざかっていた。

 

……ともあれメビウスキラーは倒した。あれがノワールの力を奪って造られたものなら、今後自分達の力を利用されることはないはずだ。

 

(……さて、帰る……か……)

 

薄れる意識のなか、徐々に人間の身体へと戻っていくのがわかった。

 

(……戻ったらみんなに色々言われそうだなあ)

 

 

◉◉◉

 

 

「バカじゃないの?」

 

『「……ごめんなさい」』

 

目が覚めた時には病院のベッドの上だ。そしてステラから最初に言われたことがコレだ。

 

未来が横になっているベッドを囲んだ千歌達は皆苦笑いを彼に向けている。

 

「あはは……手、大丈夫?」

 

「……なんとか」

 

「まさかあんな単純な技になるなんてね……」

 

「未来さんらしいといえばそうですが……」

 

もう集中砲火だ。返す言葉もない。

 

冷え切ったステラの瞳が怖いので視線を逸らし続けるが、声だけははっきりと聞こえてくる。

 

「……メビウスまであんな案に賛成するとは思わなかったけど」

 

『……ごめん、正直ここまでデメリットが出るとは思わなかったよ』

 

「まあいいわ」

 

呆れ顔で椅子から立ち上がったステラが腰に手を当てて口を開く。

 

「制御できるかは別として、クセを武器として形にすることはできた」

 

「あ、ああ!だろ!?」

 

「でも反動が大きすぎるわ。文字通り一撃必殺…………確実に敵を倒せる状況の時だけ使いなさい」

 

「…………」

 

「返事!」

 

「はい!」

 

元気だしなよ、と慰めてくれる千歌達の言葉もむなしい。

 

だけど新しい必殺技が出来たんだ。自分で作った課題をこなせただけで今は及第点だろう。

 

(……だけどまだ足りない)

 

エンペラ星人や四天王と戦うにはまだ力不足だ。

 

ベリアルに関しては以前一度敗北している。技を一発撃つだけでこの有様じゃ次に戦う時も同じ結果に終わるだろう。

 

(俺達の戦いは、絶対に負けられない戦いなんだ)

 

強く思う。誰にも負けない力が欲しいと。

 

みんなを守る力。闇の皇帝から、この地球を守れるだけの力を。

 

左手に宿る痛みを噛みしめながら、未来はこの先に待っているであろう脅威に身体を震わせていた。

 

 

 

 

 




メビウスキラー撃破。
そろそろレオに続いて他のウルトラ兄弟達も登場させるタイミングですかね……?

解説は新必殺技について。

メビュームインパクトはメビウスブレスに限界までエネルギーを溜め込んだ後、至近距離でそれを解放する技です。
威力的にはメビュームダイナマイトよりも下ですが、その分負うダメージも少なく済みます。
ライトニングカウンター・ゼロの応用技であり、上位互換。
使用した後に反動がくるように設定したのは、メタ的に言ってあまりポンポンと発動させないためです。

今後は各キャラのメイン回と合わせてあの方々を登場させるかもしれません。


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第73話 硬度十の悩み

ジードもいよいよ最終章ですかね。
嫌な予感を醸し出しているエンペラ星人カプセルとダークルギエルカプセルの活躍に期待してます。



————このままいけば、君は確実に負ける。

 

以前一人の男に言われた言葉を思い出す。

 

妙な雰囲気の奴だった。自分と同じ境遇でありながら、光を取り戻そうとした愚かな男。

 

「……ご報告を」

 

ダークネスフィアの外部から聞こえてくる声に反応する。

 

「現在はヤプールが攻撃を仕掛けていますが……依然成果は出ておりません」

 

メフィラス星人の落ち着いた声音を聞き流しつつ、暗黒の皇帝はとある人間達のことを思い出していた。

 

ノワールという男が異常なまでに執着していた十人の地球人。

 

そのなかの一人はウルトラマンメビウスと一体化し、忌々しくも計画の邪魔立てをしてくる少年。

 

他の九人は一見何の変哲もない少女達だ。

 

小僧の話を信じるわけではないが、やけに胸騒ぎがする。

 

あの男が言っていたことが事実になってしまう————そんな予感が脳裏をよぎった。

 

「……どうかなされましたか?」

 

一切返事をしようとしないエンペラ星人に対して怪訝な声が向けられる。

 

「…………現在侵攻しているヤプールに伝えろ」

 

低い、冷徹な声が通った。

 

「以前報告にあった“光の欠片”とやらを宿している地球人を、此処へ連れて来い」

 

「……は。かしこまりました」

 

ゆらり、と消えていくメフィラスの気配。

 

確かめなければなるまい。無限の輝きを生み出す……“究極の光”とやらが本当に存在するのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのガキ共を連れて来いだぁ?」

 

「ええ、皇帝直々の指示ですよ」

 

グローザムとメフィラス星人のある言葉に反応するように、宇宙船内の隅で眠るように黙り込んでいたベリアルの身体が揺れた。

 

「ええい、皇帝は何を考えている……!?俺が行動を起こせばすぐにでもメビウスの首を持ってこれるというのに!」

 

「笑わせるなグローザム、奴の息の根を止めるのはこのデスレムだ」

 

「ほう?……言い争いなんてまどろっこしい。今この場で————試してみるか?」

 

一瞬の間に張り詰めた空気が充満する。

 

やがて両手を振りながら二人の間に割って入ったメフィラスが口を開いた。

 

「おやめなさい、今はヤプールに任せるのです。皇帝の采配に従えないと言うのならば……今すぐにでも四天王の座を降りればいかがかな?」

 

一つ名前をポンと出されただけでその場は収まってしまった。

 

「あなたも……従ってくれますよね?」

 

槍を抱えながら座しているベリアルの方を振り返る。

 

異様な雰囲気を漂わせている彼の姿は、とても元宇宙警備隊員には見えないほどに禍々しい。

 

「…………ああ」

 

一言だけ呟いたベリアルに歩み寄り、メフィラスは観察するように視線を這わせた。

 

「……初めてその鎧を装備した時とは別人のようですね。あの時はそう————まさに暴力を体現したかのような力を見せてくれました」

 

あくまで何も言わずに座ったままのベリアルに対して気にすることもなく続ける。

 

「あの頃に比べれば随分と理性も戻った。……まるで皇帝と対峙した時のような————」

 

「言っておくが」

 

突然立ち上がった漆黒の戦士が三叉の槍の矛先をメフィラスに突きつけては威圧するような声音で言った。

 

「俺は今この場にいる誰よりも強い。鬱陶しく詮索する輩も一瞬で塵にできるくらいな」

 

「……少々戯れが過ぎたようですね。気分を害したのなら謝ります」

 

ホールドアップするメフィラスを見て槍を下ろし、ベリアルは元居た部屋の隅に移動すると再び眠りに落ちるように口を噤んだ。

 

————()()()()()()()()()

 

心のなかで呟いた一言は誰にも聞こえない。

 

ただただ孤独に、闇の中へ溶けていくだけ。

 

 

◉◉◉

 

 

「へ?今日は特訓なし?」

 

「ええ、ちょうど外は雨も降ってることだし……休むにはいい機会だわ」

 

部室の荷物整理をしながら語るステラを前に呆然と立ち尽くす未来。

 

運動着の袖から見える彼の左手には何重にも巻かれた包帯が確認できた。

 

「はあ……了解。じゃ、ちょっと体育館で自主トレしてくる」

 

「話聞いてたの?」

 

踵を返す未来の肩に彼を行かせまいとステラの手がガッチリと捉えた。

 

「あの滅茶苦茶な必殺技を撃ったせいであなた達の身体は限界に近いのよ。そんな状態で稽古なんかつけたら壊れるのは目に見えてるでしょう?」

 

「べっ……別に平気だし、それに少しでも早く強くなりたいし……」

 

「ああもう……みんなからも何か言ってあげて」

 

肩をすくめたステラが背後でテーブルを囲んで座っていたAqoursの面々に助けを求める。

 

「焦る気持ちもわかるけど、今は安静にしてなきゃダメだよ」

 

「そうよ、ただでさえ私達のサポートで疲れてるんだから」

 

「ぐっ……」

 

左右に立っていた曜と梨子から同時に軽いお叱りを受けてしまった。

 

前もステラに顔色が悪いとか何とか言われたので、未来の外見に彼自身の疲労が現れているのは本当なのだろう。

 

『メビウス、君にも彼の管理をする責任はあるぞ。未来もこの性格だ、いざとなったらストッパーの役目を背負うのは君なのだからな』

 

『……ああ、わかってる。未来くんの頑張りは応援したいけど、こればっかりは仕方ないよね』

 

「なんだよみんなして……」

 

この雰囲気じゃ今日は大人しくしたほうが身のためか。ナイトブレードの錆になるのは勘弁だ。

 

 

 

「…………それは置いといて」

 

奥にある窓際へと視線を移す。

 

不自然なほど上機嫌な様子の千歌が鼻歌を口ずさみながら窓拭き掃除に勤しんでいる。

 

少し……いや、かなり奇妙な光景だ。

 

「なんであんなに機嫌いいんだ?ステラ何か知ってる?」

 

「ううん、そういえば今朝も突然早く飛び出して行ったわね……」

 

「てっきりガチガチに緊張してるのかと思ってたが」

 

今日は千歌達にとっても重要な発表が行われる日だった。

 

千歌以外のメンバーは先ほどからソワソワした様子でルビィの前に置いてあるパソコンを見やっている。

 

「……忘れてるとか?」

 

「その可能性が高い気がする」

 

「リアリィ……?」

 

「千歌ちゃん、今日……なんの日か覚えてる?」

 

「ん?」

 

さりげなく尋ねる曜。

 

彼女の質問に対して千歌はほぼ考えることもなく即答した。

 

「ラブライブ予備予選の結果が出る日でしょう?」

 

「おお!覚えてた!」

 

「き、緊張しないの?」

 

「ぜーんぜん!だって、あんなに上手くいって、あんなに素敵な歌を歌えたんだもん。絶対突破してる!」

 

既に合格を確信している様子の千歌からは欠片ほどの不安が感じられない。彼女は本気でそう思っているのだ。

 

「昨日、聖良さんにも言われたんだよ。『おそらくトップ通過ね』って!」

 

「……本当?」

 

「いつの間にそんな仲良しさんに……」

 

「あの人のお墨付きなら信用できるかもな」

 

そうこう言っているうちにパソコンから通知音が鳴る。

 

吸い込まれるようにして皆が画面の前に集まり、届いたメールを開いて読んだ。

 

「い、いきます!」

 

ルビィがやや上ずった声でパソコンを操作し、「予備予選結果発表」とある画面からEnterをクリックする。

 

パッと切り替わったページに最初に現れたのは————

 

 

 

「Aqours……。Aqoursだ!」

 

視界に飛び込んできた文字をそのまま口に出す未来。

 

間違いなく千歌達のグループ名が、Aqoursの文字が見えた。

 

「もしかしてこれ、トップってこと!?」

 

「やったずら!」

 

「うむ!良きにはからえ!」

 

「鞠莉!」

 

「オウ、イエス!」

 

ハイタッチやハグ等、各々で溢れんばかりの喜びを表現する。

 

前回と同様にとりあえず予備予選は通過できた。少しは息をついてもいいだろう。

 

「ん……」

 

すぐ横で口を開けたまま呆然としているダイヤに気づき、千歌は何気なく彼女に手のひらを向けてハイタッチの合図をした。

 

「ダイヤさんも!」

 

「え?は、はあ……」

 

小気味いい音が鳴るのとは反対に、ダイヤの表情はどこかやりきれない雰囲気を宿していた。

 

 

◉◉◉

 

 

「とは言ったものの……」

 

「いつものね」

 

「今度はなに……?」

 

机に突っ伏したまま呻く千歌を見下ろしながら、ステラはそばに置いてあった貯金箱に触れる。

 

スクールアイドル部の予算が詰まったものだ。

 

「ほら、ここんとこ説明会とラブライブ……二つもあったから……部費がね」

 

気まずそうな顔で横に視線を流す未来と、それに反応して貯金箱を逆さにしてみせるステラ。

 

ちゃりん、と落ちてきたのは一つの金色の輝き————

 

「……ゴエン、ね」

 

「ねえヒカえもん、お金とか作れない?」

 

『未来くん、それじゃ犯罪だよ……』

 

「ご縁がありますように!」

 

「ソーハッピー!」

 

「って言ってる場合か!」

 

何かを乗り越える度に新たな課題が舞い込んでくる。まったく退屈させてくれない部活だ。

 

放っておくことはできない。このままじゃたとえ決勝に進んでも東京までの移動ができなくなってしまう。

 

「…………」

 

「……ダイヤさん?」

 

「えっ?」

 

どこか羨むような瞳で鞠莉や果南の方を眺めていたダイヤが咄嗟にこちらを向いた。

 

「何か気になることでも?」

 

「あっ……いえ。果南さんも鞠莉さんも、ずいぶん皆さんと打ち解けたと思いまして」

 

小さく語った彼女の声が段々と小さくなるのがわかった。

 

……確かに以前よりも遥かに学年間の距離は縮まった。が、それが何か問題あるのだろうか。

 

「果南ちゃんはどう思うずら?」

 

「そうだねえ……」

 

「果南……()()()……?」

 

ある単語に反応してダイヤの目が見開かれた。

 

(……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小原家の力を借りないことが条件だと、いよいよ打つ手は絞られていく。

 

神にでも頼るしかない、と細々とお参りを済ませる。

 

結局その日は何の解決策も出ないまま帰りの時間を迎えた。

 

「鞠莉ちゃん!またねー!」

 

「果南ちゃん!明日本持ってくずら〜!」

 

「うむ!」

 

マリンパークから帰路に向かう船へと順番に乗っていく千歌達に手を振り返す果南と鞠莉。

 

普段とは違う、少々沈んだ様子のダイヤは二人を引き止めては何か言いたげな雰囲気で柵にもたれかかった。

 

「で、何のトークですか?」

 

「え?いえ、大したことではないのですが……その……」

 

口ごもるダイヤだったが、やがて意を決したように言い放つ。

 

「二人とも……急に仲良くなりましたわね」

 

「仲良く?」

 

「私と……果南が?」

 

手と身体を合わせてダイヤに視線を注ぐ果南と鞠莉に、彼女は図星をつかれたように声を震わせた。

 

「違いますわ!一年生や二年生達とです!」

 

「へ?」

 

「もしかしてダイヤ、妬いてるの〜?」

 

「ま、まさか……!生徒会長としてちゃんと規律を守らねば皆に示しがつきませんわ!」

 

 

 

一方、傍に停まっていた船の中で耳をすませている者が二人。

 

(……なんか揉めてる?)

 

(いや、違うでしょ)

 

未来とステラは強化された聴覚で三人の会話を聞かせてもらっていた。

 

ダイヤの様子がおかしいと思ってマークしていたが、思った通り何か抱え込んでいるみたいだ。

 

(……まあ、そんなに深刻そうでもないし……やっぱり果南さんと鞠莉さんに任せた方がいいだろ)

 

(同意見ね)

 

あの三人はお互いのことをよく理解し合っている。悩みがあるのならまずは三年生同士で話し合うことも大切だ。

 

「あ、戻ってきた」

 

やっと乗船してきたダイヤの表情はいつもと変わらない————ように見えてほんの少し眉が下がっている。

 

なんとも言えない彼女の顔を見て急に不安感が湧き上がってきた。

 

(……やっぱりちょっと心配)

 

(早いわね)

 

 




狙われるAqours……。
次のウルトラ兄弟の登場はもう少し先になりそうです。

解説いきましょう。

引き続き未来の疲労が溜まっている描写が……。
マネージャーの仕事とウルトラマンとしての活動を両立させようとすれば、そりゃ疲れも出ますよね。今後セブンのように足枷になってしまうのか……。
これまで人間らしい苦悩に衝突してきた未来ですが、二章でもその試練は待ち構えています。
Aqoursのメンバーやステラ、ヒカリ、そしてメビウスに支えられながら彼はどこに辿り着くのか。

さて、まずは四天王の一人であるヤプールの撃破が課題ですね。
次回以降の展開をお楽しみに。


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第74話 危機はいつも突然に


今回でサンシャイン4話終了です。
10話も終盤に差し掛かってる感すごかったですよね。


「バイト?」

 

「大変そうだなあ……」

 

「しょうがないわよ……」

 

ベンチに腰掛けながら力なくため息をつく未来、千歌、梨子、曜。

 

活動資金を集めるためにアルバイトをしよう、という話が上がったのだ。

 

「現実的に考えたらそれくらいしか方法はないわね」

 

「……ヒカリ」

 

『却下だ』

 

地道にコツコツと稼ぐしかない。時間はかかるかもしれないが、これもラブライブのためだ。

 

「あら?今度は何ですの?」

 

不意にこちらにやってきたダイヤへと顔を上げた。

 

やけにモジモジと身体をすり合わせているのが気になる。

 

「あ、はい」

 

「お腹痛いんですか?」

 

「違いますわ!……い、いえ、何か見てらしたような……」

 

「はい!内浦でバイト探してて、コンビニか新聞配達かな〜って」

 

「ならっ沼津の方がいいかもしれませんわね」

 

バイト求人情報の冊子を持った曜の隣に座り込むダイヤ。

 

「沼津でか〜……」

 

「だったら色々あるよ!カフェとか!お花屋さんとか!変わったところだと、写真スタジオのモデルさんとか!」

 

「おお!なんか楽しそう!」

 

次々と膨らんでいく想像に胸を高鳴らせる千歌達。

 

細かいことは何も考えていない、といったテンションの彼女達を見て不安を募らせたステラが口を開いた。

 

「ちょっと待ちなさい。そんな簡単に————」

 

「ブッブー!ですわ!!」

 

言いかけたところで突如立ち上がったダイヤの声が重なる。

 

「安直すぎですわ!バイトはそう簡単ではありません!大抵土日含む週四日からのシフトですので九人揃って練習というのも難しくなります!だいたい何でも簡単に決めすぎてはいけません!!」

 

腕を組んで背を向けたダイヤに千歌達の唖然とした瞳が刺さった。

 

「————ちゃんとなさい!!……あ」

 

横で一部始終を眺めていた未来とステラは二人並んで目を細める。

 

(……うん、いつも通り)

 

(最後に表情を崩したのが気になるけど……)

 

 

◉◉◉

 

 

「フリマかあ〜」

 

とある公園へと足を運んだAqoursの面々。

 

周囲には彼女達の他に多くの出店が並んでおり、そこそこの賑わいを見せていた。

 

今日はダイヤの案で未来達もフリーマーケットに参加することになったのだ。

 

「これならあまり時間も取られず、お金も集まりますわ!」

 

「すごいお姉ちゃん!」

 

「ダイヤさんはこんなことも思いつくずらね!」

 

「さすがダイヤさん!」

 

「そ、それほどでも……ありますわ!」

 

「あなたにこの堕天使の羽を授けましょう……」

 

「……光栄ですわ」

 

少し張り切った様子のダイヤからはやはり普段と違う。

 

何かを気にしているのか、どこか動きがぎこちない。

 

「ドゥ……フフフフフ……!」

 

(ど、どう思うステラ?)

 

(……こわい)

 

未来は不気味に笑みをにじませるダイヤを見てただ事ではない、と顔を引きつらせた。

 

「お待たせ〜!」

 

「あ、千……歌?」

 

こちらに駆けてきた幼馴染の姿を見て絶句する。

 

身体をすっぽり覆う巨大なみかん型の着ぐるみをまとった千歌がそこに佇んでいた。

 

「どうしたんだそれ……?」

 

「美渡姉の会社で使わなくなったからって……どお?」

 

「使用目的が謎すぎますわ」

 

「みかんのお姉ちゃん!」

 

唐突にかけられた声の方向に向き直る。

 

ペンギンのぬいぐるみを抱えた幼い女の子が千歌の足元に立っていた。

 

「さっそくお客さんが来たみたいだな」

 

「わあっ!みかんだよ〜冬にはみかん!いけっビタミンCパワー!」

 

「もうっ!」

 

冗談交じりに迫り寄る千歌から逃げるように後退する女の子。

 

「これ、いくらですか?」

 

「えっ?どうしようかな……」

 

「値段設定してなかったのか……」

 

なかなかボリュームのあるサイズのそれは小さな子が両手でやっと抱えられるくらいの物だった。

 

商品の状態からも考えるにおそらくは千円を超えるぬいぐるみ。

 

「でも……これしかないけど……」

 

「ええっと……」

 

差し出された五円玉を見て困ったように仰け反る千歌。

 

「ご、ごめんねお嬢ちゃん。さすがにそれだけだと————」

 

フォローに回ろうと二人のそばに駆け寄った未来だが、そんな彼に対して女の子は上目遣いになり————

 

 

 

 

「ありがとー!」

 

「「毎度あり〜!!」」

 

結局五円玉一枚と交換してしまった。

 

「世渡りの上手そうな子だったな……」

 

「あなたまでノっちゃったらダメでしょうに」

 

「ふっ……あの瞳の魔力は向けられた者にしかわからないのさ」

 

「何を言ってくれてるんですの?ちゃんとなさい!」

 

腕を組んで眉をつり上げたダイヤが二人に向かって声を張った。

 

「Aqoursの活動資金を集めるためにここに来てるのでしょう?まずは心を鬼にして、しっかり稼ぎませんと!」

 

「だってぇ……」

 

「すみませーん、これ千円でいいかしら?」

 

「見てなさい!」

 

ダイヤが新たにやってきたお客の前に駆け寄っては引き締まった表情で語りだす。

 

「いらっしゃいませ!残念ですが原価的にそれ以下はブッブー!ですわ!」

 

「で、でも……」

 

「はっきりと言っておきますが新品ではございませんが未使用品!出品にあたっては一つ一つ丁寧にクリーニングを施した自慢の一品!それをこのお値段、すでに価格破壊となって……おりますわ!」

 

勢いよく人差し指をお客さんに突きつけるダイヤに皆の呆然とした視線が突き刺さった。

 

「お客さん指差しちゃダメだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……アヒルボート決定ずら」

 

「ピギィ!?」

 

算盤を用いてフリーマーケットでの売り上げを計算していた花丸が不意にこぼす。

 

「それにしても……」

 

「何者にも屈しない迫力だったわね」

 

「さっすがダイヤさん!」

 

「だよね……!」

 

賞賛されているというのに当の本人は地面の方を向いて苦笑するばかりである。

 

「それにひきかえ、鞠莉はそんなの持ってくるし……」

 

千歌の姉、美渡が運転席に乗ったトラックから自分の形をした銅像を降ろす鞠莉。

 

家から持ってきた物なのだろうが、出品されても買おうと思えるような商品じゃない。

 

「これ売る気だったの?」

 

「それを言ったら、善子も売り上げナッシングデース!」

 

「……ヨハネよ」

 

抱えた段ボール箱の中に大量の黒い羽を積んだ善子が切ない表情を浮かべ、風に攫われていく無数のそれを遠い眼差しで見つめた。

 

「フッフッフッ……まるで傷ついた私の心を癒してくれているかのよう…………美しい」

 

「バカなこと言ってないで急いで拾いなー!!」

 

「うぅ……はい〜!!」

 

美渡の雷が落ちるのと同時に足並み揃えて駆け出す善子達。

 

「あぁ……この調子で充分なお金なんか集まるのだろうか————」

 

ふと背後に向き直ると、俯いたまま動く気配のないダイヤが視界に入る。確実に最近のダイヤはどこか様子がおかしい。

 

けれど未来がこの事に気づいて果南や鞠莉が気づかないのはあり得ないだろう。何かしら相談は受けてるはずだ。

 

『……今の彼女は……そうだね、以前までの思い詰めてる時の君にそっくりだ』

 

「なんだよそれ」

 

『近頃は“なんでもない”なんて言わなくなったみたいだけど』

 

「……?なんの話だよ?」

 

『あれ、自覚はしてなかったんだ』

 

メビウスの言うことに首を傾けつつ黒羽根拾いを続ける。

 

つくづく自分の変化には疎い未来であった。

 

 

◉◉◉

 

 

そして後日。

 

今日一日だけ曜の頼みでシーパラダイスのバイトをすることになった千歌達。

 

「えっとー……じゃあ、仕事いい?」

 

イルカ達のパフォーマンスを眺めて歓声を上げるのも束の間、曜の声に反応して彼女の姿を探す。

 

「あれ?どこだ?」

 

「ここだよー」

 

未来の問いに返答したのは風船片手に子供達と戯れる、シーパラダイスのマスコットキャラであるうちっちーだった。

 

正確にはその着ぐるみを被った曜だ。

 

「わっ!いつの間に!」

 

「とりあえず三、四、四に分かれて」

 

「「「おー!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜の指示で未来は千歌、花丸、ダイヤの組に。ステラは梨子やルビィ達の組に回された。

 

「きつねうどん!お待たせしましたー!」

 

「結構並んでるなあ……」

 

「うどん、もう一丁!」

 

「マルは麺苦手ずら……」

 

「ほら、のんびりしている暇はありませんわよ!」

 

売店の裏で食器の整理をしながらもついついダイヤの様子を気にしてしまう。

 

(……今のところ普段通り……)

 

「ち、千歌さん」

 

「はい?」

 

「き、今日はいい天気ですわね〜……」

 

「……?はあ……」

 

「花丸さん、うどんはお嫌い……?」

 

「うぇえ……?」

 

思ってるそばからダイヤに異変が起こる。

 

「未来さん、お身体の調子はよろしくて……?」

 

「え?ああはい、前より少しは……」

 

やけに優しげな口調で語りかける彼女からは表現し難い空気がにじみ出ていた。

 

「なに?なにかあった?あったずら……?」

 

「わからないずら……」

 

「もしかしてダイヤさん……」

 

違和感溢れる笑顔を向けてくるダイヤを見て、三人は冷や汗を流しながら身を寄せ合った。

 

「……ウフッ」

 

「「「すっごい怒ってるずら〜……!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

売店にやってくる人も少なくなったところで、ダイヤは別の仕事の手伝いへと向かった。

 

未来は塵取りと箒を手にフロアを駆け回る。

 

「なんであんなに怒ってたんだろ……」

 

『やっぱり何かあったんじゃ……』

 

「……ん?」

 

ふとキッチンがある方から洗剤の匂いが流れてくるのに気がつく。

 

洗い物に慣れていない千歌と花丸が過剰に洗剤を入れているのだろうか。

 

未来はゆっくりと歩み寄りながら中の様子をうかがった。

 

「おーい、なんか匂いすごいけど大丈夫————うおおぉぉおお!?」

 

視界に飛び込んできたのは想像を絶する光景だった。

 

「ん?どうかしたの未来くん?」

 

「ずら?」

 

滝のように台所から湧き上がる泡に目を疑った。

 

このままいけば天井に届くのではないかと思うほどのそれを二人は何とも思っていないように作業を続けている。

 

「どうしてこうなった!?」

 

「早く綺麗になるよう洗剤全部入れたずら〜」

 

「かしこい!!」

 

「ずら〜」

 

まさかここまでとは思わなかった。

 

戦慄しながらも未来は早口で二人に指示を出す。

 

「ああもう!二人に任せた俺がバカだった!早くこのナイアガラを処理するぞ!」

 

こんな惨状をダイヤに見られたらどうなるかわかったもんじゃない。

 

彼女が戻ってくる前にさっさと————

 

「あっ」

 

不意に花丸が持っていたお椀が滑り、彼女の手から離れて宙を舞った。

 

未来の真横を通り過ぎたそれは、池に落ちることなくとある人物の頭に覆い被さる。

 

「……三人とも、お気をつけなさい」

 

「「「はぁ〜い……」」」

 

いつの間にか背後に立っていたダイヤは静かにそう言った。

 

 

◉◉◉

 

 

「ダイヤ“ちゃん”って呼ばれたい……?」

 

「みんなともう少し距離を近づけたいってことなんだと思うけど……」

 

「それで……」

 

「じゃあ、あの笑顔は怒っているわけじゃなかったずら?」

 

休憩時間。

 

ダイヤを除いた千歌達八人は果南と鞠莉に呼び出され、イルカ達が泳ぐプールの前に集まっていた。

 

ここのところダイヤの様子がおかしかった理由が二人の口から明かされたのだ。

 

「でも、可愛いところあるんですね、ダイヤさん」

 

「言ってくれればいいのに」

 

「でしょ〜?」

 

「だから、小学校の頃から……私達以外はなかなか気付かなくて」

 

真面目。堅い。お嬢様。頼り甲斐はあるが自分達とは違う、雲の上の存在————

 

皆がそう思ってしまう影響から、ダイヤ自身も「みんなの理想」にならなくてはと距離をとってしまうのだという。

 

「本当は、すごい寂しがりやなのにね……」

 

 

 

 

 

と、その時。

 

騒がしい声と足音が施設内のあちこちに響くのが聞こえ、咄嗟にその場から駆け出す。

 

「わっ!なにこれ!?」

 

遊びに来たのであろう幼稚園の子供達が一斉に別々の方向へと散ってしまっている。

 

「うわっこりゃ大変だ……!」

 

「ちょっと、どうするの!?」

 

ステラは群がる子ども達をおんぶに抱っこでなんとか押し留めていた。

 

幼児に圧倒されるステラとはレアな光景だな、と思う暇も一瞬。未来も散り散りになった子供を落ち着かせるために思考を巡らせた。

 

「こういうの苦手なんだけどなあ……!」

 

『久しぶりに僕が前に出ようか……!?』

 

「でもこれだけの人数だぞ?なんとかなるか……?」

 

あれこれ考えているうちにも園児達の暴走は続く。

 

「何か手は————!」

 

 

 

 

 

直後、施設中に聞こえるような笛を鳴らす音が響いた。

 

皆の視線が音のした方向へと吸い込まれていく。

 

「さあ、みんな!スタジアムに集まれー!!」

 

飛込み台の上に立つ人影を見て驚愕する。

 

「だ、ダイヤさん!?」

 

「園児のみんな!走ったり、大声を出すのは他の人に迷惑になるからブッブー!ですわ!」

 

ダイヤの掛け声につられて子供達が一気に中央へと集まっていく。

 

予想外の事態に未来はポカン、とその光景を眺めるばかりだった。

 

「みんな、ちゃんとしましょうね?」

 

————はーい!!

 

 

◉◉◉

 

 

「結局、私は私でしかないのですわね……」

 

「それでいいと思います」

 

バイトが終わる頃には日が落ち、夜に入る前のオレンジ色の闇が辺りを包んでいた。

 

「私、ダイヤさんはダイヤさんでいてほしいと思います。確かに、果南ちゃんや鞠莉ちゃんと違って、ふざけたり冗談言ったりできないなって思うこともあるけど……」

 

「でもダイヤさんはいざという時に頼りになって、俺達がだらけている時は叱ってくれる。そんな、ちゃんとした人なんだ」

 

何も意識する必要なんかない。

 

黒澤ダイヤは今のままでいいんだ。厳しいけれど優しい、千歌達全員にとって姉のような存在————

 

「だからこれからもずっと、ダイヤさんでいてください!よろしくお願いします!」

 

「私は……」

 

言い淀んだダイヤが静かにこちらへと顔を向ける。

 

何かを誤魔化すように黒子をかいた彼女は、はにかみながら口にした。

 

「私はどっちでもいいのですわよ!…………別に!」

 

彼女の本心はわかっている。

 

千歌の合図で全員が一斉に声を張り上げた。

 

「せーのっ!」

 

————ダイヤちゃん!!

 

綻ぶように笑みをこぼすダイヤ。

 

その足元には————

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

地面に巨大な亀裂が迸り、ガラスのように甲高い音を立てて裂けた。

 

「なっ……!」

 

言葉を交わす暇もなくダイヤの身体が異次元空間へと吸い込まれ、見えなくなる。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「ダイヤッ!!」

 

「…………ッッ!!」

 

咄嗟に地面を蹴った未来が閉じる前の異次元へと身を投げた。

 

その直後、見計らったように大地が修復され、別の世界へと通じる穴は消え去ってしまった。

 

あまりに唐突な事態に言葉を失う千歌達。

 

「……未来くん……?ダイヤさん……?」

 

奇妙な空間の中に落ちてしまった二人の姿はもうない。

 

今何が起こったのか。それを理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 




今回は解説ではなく今後の展開について話しておきましょう。

この先の数話はオリジナル回となります。
それに伴って五話の話を大幅に省略する予定です。(詳細はこの後のエピソードで)よしりこ推しの方には申し訳ありませんがご了承願いますm(_ _)m
次回からは四天王の一人であるヤプールとの戦いに加えて物語がほんの少しだけ動く予定です。
それでは次回もお楽しみに。


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第75話 怨念の野望

なんとか二日連続投稿できました。
さて、敵が狙ってきたものとは……?


「おやおや、これはまた随分と……」

 

薄暗い内浦の自然のなか。

 

ノワールは周囲を囲まれていることを察知し、抵抗する素振りも見せずに両手を頭上に挙げた。

 

暗闇に紛れて詳しい数はわからないが、刺客の数はざっと三十人は超えている。一人で振り切るのは不可能だ。

 

「すぐに殺さないってことは、何かしらの用があるわけだ。……皇帝くんの指示かい?」

 

————ええ、あなたのおっしゃる通りですよ。

 

直接頭に送り込まれてくる声。この冷静な雰囲気はメフィラス星人だろう。

 

「まさかボクの力が必要だ————なんて言うんじゃないだろうね?今更彼が心変わりするわけがない」

 

自分は皇帝にとって既に用済みだ。今まで身を潜めながら過ごしてきたのも彼が送り込んでくる刺客から逃げるため。

 

————部分的にはそう解釈してもらって構いません。……では、詳しい話は向こうで。

 

目の前の空間が捻れ、ノワールを招くようにワープゲートらしき穴が開く。

 

「……さて、どうしたものか」

 

 

 

そして連行されていく青年の様子を後方から見ていた者が一人。

 

両手に煌めく銀色の指輪。上部にはめ込まれた宝石が神々しく輝いていた。

 

「……これはまずいな」

 

 

◉◉◉

 

 

「未来さん……!起きてください!未来さん!!」

 

「うっ……!」

 

身体を揺すられる感覚と左腕の痛みで目が覚めた。

 

眼前には必死な表情でこちらを覗き込んでいる少女の顔が見える。

 

「ダイヤ……さん……?怪我はありませんでしたか?」

 

先ほど起こった出来事を思い出す。

 

バイトが終わった後、急に地面が裂けたかと思えばダイヤが真っ逆さまに異次元空間へと落下し、それを追いかけて未来も反射的に飛び込んだのだ。

 

とりあえずは生きていることを確認し、安堵のため息を吐く。

 

「私は大丈夫ですわ。……けど」

 

「……?」

 

地面に触れると妙な感触が手のひらを刺激した。

 

アスファルトではない、()()地面。

 

「……!これは……!おいメビウス!いるか!?」

 

『大丈夫、ちゃんと君のなかにいるよ。…………それにしても』

 

思わず何度も目をこすっては視界が捉える景色を確認した。

 

果てまで続いているような砂の大地————砂漠に覆われた乾いた世界だ。

 

先ほどまでそばに建っていた施設も、千歌達の姿もどこにも見当たらない。

 

「……ここは……どこですの……?」

 

不安で仕方がない、といった顔で自らの身体を抱えるダイヤ。

 

未来もまた未知の光景に戦慄するばかりである。

 

「……どういうことだ……?みんなはどこに……!?」

 

一歩踏み出せば足を取られそうな砂の海に片足が埋もれる。

 

「みんなーーーーーーッッ!!どこにいるんだーーーーーーッ!?」

 

張り裂けんばかりの声を張り上げて返事を待つも、どれだけ時間が経とうと返ってくる気配はなかった。

 

「……まさかとは思いますけど、私達が眠っている間に……この世界は……怪獣達に……!」

 

「違う!!」

 

縁起でもない。これは誰かが見せている幻————あるいは未来とダイヤが何かしらの結界に囚われているかだ。

 

「でもあの後ルビィは……!皆さんはどうなってしまったのですか!?」

 

「……わからない。けど、ずっとこうしてるわけにもいかない。まずは歩こう、ダイヤさん」

 

突然の事態に頭がいっぱいいっぱいだが、不安な気持ちを押し殺して何とか彼女に手を差し出す。

 

「……そ、そうですわね……」

 

「それでこそダイヤさんだ」

 

こんな状況だからこそ正気を失ってはダメだ。

 

ダイヤの手を取りゆっくりと立ち上がらせた後、宛てもなく砂漠のなかを歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動を開始して一時間ほど経っただろうか。

 

周囲には元々建物だったであろう瓦礫等で埋め尽くされている。

 

いくら歩いても同じ景色ばかり見えてくるのは正直くじけそうになる。

 

「さっきから歩きっぱなしだけど……ダイヤさん足とか痛くならない?」

 

「ええ、大丈夫ですわ」

 

「ん……?」

 

ちくり、と胸に引っかかる違和感。

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いえ……大したことでは」

 

「そうですか」

 

きょとん、と首を傾げるダイヤは見たところ普段と変わりない。むしろこの状況でよく落ち着いていられると思う。

 

未来ですらどうにかなりそうだというのに、彼女は先ほどの取り乱しようが嘘のように冷静だ。

 

『…………』

 

無言の時間が続く。

 

千歌達の安否も気になるが、ここから脱出しない限りは何もできない。

 

(……無事でいてくれ)

 

 

◉◉◉

 

 

「未来とダイヤが消えた……!?」

 

ステラは目を見開きながら驚愕の声を漏らした。

 

慌てて周囲を警戒するも、既に異様な気配が近くにいることに気がつく。

 

「お姉ちゃん……!?」

 

「ステラちゃん……!二人はどこに————」

 

「伏せてッッ!!」

 

警告した直後に凄まじい騒音に囲まれた。

 

千歌達と自分を覆うようにして放たれた何らかの攻撃。衝撃の檻に閉じ込められた彼女達は、なすすべなくその場で身を縮めることしかできなかった。

 

「きゃあああああ!!」

 

「ぐっ……!」

 

ぬかった。未来とダイヤをこの場から消したのは注意を逸らす囮だったのか。それともこちらはただの足止めか————

 

「どちらにせよ……!」

 

ステラは懐から引き抜いたナイトブレードを握りしめ地を蹴り、弾丸らしき物の雨の隙間を駆け抜けた。

 

「好き勝手やってくれるわね!!」

 

攻撃を放っている者の居場所を暗闇から探し当て、ブレードを振り下ろす。

 

しかしその斬撃は、驚異的なスピードによって現れた防壁によって防がれてしまった。

 

「受け止めた……!?」

 

「……ふん」

 

剣を防御している壁を見ると、それは分厚く構成された()であった。

 

青いフードを被った何者かが一瞬のうちに作り上げた氷の壁。

 

「カアッ!!」

 

「きゃ……ぅ……!?」

 

前方から吹雪く凄まじい冷気と雹を受け、ステラの身体は宙を舞った後にアスファルトの地面へと叩きつけられる。

 

「ステラちゃん!」

 

「うぅ……!大丈夫……!」

 

駆け寄ってきた千歌に抱えられながら、ステラは自らの片腕に視線を移した。

 

右腕を覆う巨大な氷の塊。咄嗟に防御したのが間に合ったが、少しでもタイミングが遅れたら全身氷漬けだった。

 

「誰なの……!?」

 

「お前は……“違う”な。今回の俺の目的はそのガキ共だ」

 

ステラの背後に立つ八人の少女達を指差すと、フードの男はゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 

「待ちなさい……!」

 

『ステラ、よせ!』

 

ヒカリの言葉など耳に入っていないように、寒さで凍えている身体を無理やり奮い立たせ、男の前へと立ちはだかる。

 

「ほう……あれを喰らってまだ動くか。しかし無理をすればその右腕が砕けるぞ?」

 

「く……そォ……!」

 

「上手く避けろ」

 

片腕から伸ばされた銀色の剣がステラめがけて勢いよく振り下ろされ————

 

「やめ……ろおおおおおお!!」

 

「なんだぁ……?」

 

その場を駆け出した果南が二人の間に割り込み、フードの男を突き飛ばそうとする。が、奴はそれを物ともせずに彼女の腹部に重い打撃を放った。

 

「うっ……!」

 

「果南!!」

 

気を失い、力なく倒れかける果南を軽々と抱えた男は背を向けて足を踏み出す。

 

「はっ!手間が省けた。一人生け捕りにすれば充分だろう」

 

「待て……!」

 

追いかけようとするステラに再び絶対零度の風が襲う。

 

「くうっ……!」

 

『ステラッ!!』

 

「……!果南ちゃん!!」

 

果南は冷気をまとった男と共に暗闇のなかへと消え去ってしまった。

 

青ざめた顔で立ち竦む鞠莉。

 

薄れゆく意識のなか、ステラは緊急の事態に対応できなかった自らの無力さを呪った。

 

 

◉◉◉

 

 

「なっ……!」

 

信じられない光景を目の前にした未来は、目を見開いて()()()顔を交互に見た。

 

「「どういうことですの!?」」

 

同じ顔が二つ————黒澤ダイヤが二人いる。

 

先ほどまで身体を休めていた未来とダイヤの前に、もう一人のダイヤが現れたのだ。

 

「まったく意味がわかりませんわ!いきなりこんな砂漠に飛ばされて一人で孤独な旅をしたかと思えば……私がもう一人!?」

 

「それはこちらのセリフですわ!」

 

言い争いを始める二人のダイヤを見てとうとう頭がおかしくなってしまったのかと唸る。

 

しかし確かに、間違いなく二人存在しているのだ。

 

後からやってきたダイヤも未来と一緒にいたダイヤも外見はもちろん口調も同じ。

 

「……どっちかが偽物ってことだよな……」

 

「「私は本物ですわよ!!」」

 

少しの狂いもなく同時に発したダイヤ達の言葉を聞いて余計に頭を抱えたくなる。

 

『……未来くん、ちょっと』

 

(どうした?)

 

『おそらくどちらかが僕達をこの空間に連れ去った張本人。……ヤプールだ』

 

(……!ヤプール……!?)

 

確かに異次元を操る、といえば奴が当てはまる。

 

自分達をここへ引きずり込み、バラバラになったところをどちらかになりすまして始末するつもりだったのだろう。

 

「……!いや待て、確かめる方法はある」

 

そうだ。すっかり頭から抜け落ちていたことがあった。

 

どちらのダイヤが本物か、未来は確かめる術を知っている————!

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも!!」

 

「「なんですの??」」

 

同じ表情の二人を見比べた後、未来ははっきりとした口調で言った。

 

「…………ダイヤ()()()

 

直後、両者の顔にそれぞれ違う変化が現れた。

 

後から合流したダイヤはほんの少しほおを赤らめて「はい?」と返事を。

 

未来と行動を共にしていたダイヤは————

 

「……?い、いきなりなんですの……?ダイヤちゃんだなんて————」

 

刹那、瞬時に左腕に出現させたメビウスブレスから光の刃を飛ばす。

 

後者めがけて放った不意の一撃は————命中することなく空を切った。

 

数分前まで未来と二人きりだったダイヤが表情を一転させ、距離をとってからこちらを睨んでくる。

 

「…………ほう」

 

「ダイヤさん、俺の後ろに」

 

「え、ええ……」

 

ダイヤの姿をしていた奴の外見がみるみる変貌していく。

 

歪んだ影へとなったヤプールを睨み返し、未来はいつでも変身できるよう左腕に手を添えた。

 

「正体を現したな、さっさとここから出してもらうぞ」

 

「我ながら名演技————と思ったが、どうやら不覚を取ったらしい」

 

ヤプールは影の姿のまま飛翔すると、ガラスを突き破るように砂漠の空を割った。

 

「逃がすかッ!!」

 

上空に開いた巨大な穴めがけ、未来はダイヤの手を引いて走り出した。

 

「メビウーーーース!!」

 

オレンジ色の輝きが偽りの世界を照らし、一人の赤き巨人が手のひらに少女を乗せて、空に浮かぶ大穴へと飛び上がった。

 




連れ去られてしまった果南。
そして何やらノワールもエンペラ星人に呼び戻されたようで……?

では解説です。

冒頭でノワールがあっさり降伏した場面。もう彼に以前のような力がないことが現れていますね。
かなり前に記述した通り彼自身の力は大したことありません。複数の戦闘員が一斉にかかれば簡単に制圧できるでしょう。
「それでも最後に足掻く気はあるだろう」と思うかもしれませんが、実はそうでもありません。テンションとは裏腹に本心では自分がいつ死んでも仕方がないと思っております。
まあ少しでも可能性があれば迷わず逃げますけどね(笑)

次回はついにヤプールとの決戦です。


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第76話 邪悪の行方


ついにヤプールと激突。
一方未来の知らないところで大変なことが……。


「ピギャアアアアア!?」

 

夜空に開いた異次元へと続くゲートから飛び出してきた赤い巨人が街中に降り立ち、手のひらに乗せた少女を地上へと返した。

 

(ダイヤさん、怪我はなかった?)

 

「え、ええ。なんとか……」

 

(よかった。……すぐにここから逃げて、みんなのところへ行くんだ)

 

メビウスは背後にうねるまだら模様の影に視線を流す。

 

徐々にその形を変え、赤い甲殻類のような外見の巨大な怪人へと変貌した。

 

(早くッ!!)

 

「わ、わかりましたわ!」

 

踵を返して走り出したダイヤを見送った後、ヤプールの立つ方向へ向き直る。

 

大柄な身体。右腕の三日月状に曲がった刃。これがヤプールの戦闘時の姿なのだろう。

 

(以前からうちの部員に手出してたよな、お前。……今度こそ仕留めてやる)

 

「口だけならばいくらでも吠えれるだろうな」

 

(……いくぞ、メビウス)

 

『奴は四天王の一人だ。……気を引き締めて』

 

夜の街に浮かぶウルトラマンの双眸と宇宙人の影。

 

内浦の人々は何度見ても慣れることができないこの光景に息を呑んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「はあっ……!はあっ……!皆さーーーーん!!」

 

息を切らしながら必死に四肢を動かすダイヤは、遠くの方で微かに見えた人影に向かって手を振った。

 

集団の中から一人だけこちらに飛び出してきたのを視認し、無言で両手を広げる。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ルビィ!」

 

胸に駆け込んできた妹の背中に腕を回し、強く抱きしめる。

 

「よかった……本当に……!無事でよかったですわ……!」

 

「……あ」

 

涙を浮かべて喜ぶのも束の間。ルビィは不意に瞳の色を変えて声を震わせた。

 

「……なん……ちゃんが……」

 

「え?」

 

「……果南ちゃんが!」

 

その数秒後、ルビィが口にした言葉の意味を理解することになる。

 

奥に見える人間のなかに、果南の姿だけが確認できなかったのだ。

 

「……ど、どういうことですの……?」

 

「……!ステラちゃんしっかり!」

 

千歌の声に反応して視線を落とす。

 

そこに見えたのは、苦しそうに表情を歪めたステラが横たわっている光景だった。

 

彼女の右腕にはひどい凍傷、そして身体のあちこちに打撲傷と切り傷が見られる。

 

「はぁ……あ……ぐ……!」

 

「あつっ……!?」

 

ステラの額に手を当てると、通常の人間では到底耐えられない体温が彼女の身の危険を訴えかけてきた。

 

「すごい熱……!いったい何があったんですの!?果南さんはどこに————」

 

「……果南は」

 

地を見つめたままの鞠莉が静かに口を開き、皆にとって受け入れ難い事実をダイヤに伝えた。

 

「果南は…………宇宙人に連れ去られたわ」

 

塞がらない口から「え」と、言葉にならない音が出た。

 

どん底にいるような雰囲気をまとった皆を見て、鞠莉が口にしたことが嘘ではないと確信する。

 

「なんで……どうしてこんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セヤアッ!!」

 

メビウスが放った上段蹴りを身体を反らすことで軽々と回避するヤプール。

 

戦闘が始まってから休むことなく攻撃を浴びせ続けているが、奴に大したダメージは感じられなかった。

 

(ぐあっ……!)

 

大木で薙ぎ払われたかのような衝撃の蹴りがメビウスの腹部に直撃し、受身を取ることもできずに大地を転がる。

 

おかしい。攻撃は当たっている……それなのにヤプールは息切れひとつしないで薄ら笑いを聞かせてくるのだ。

 

「やはり今の身体ではこの程度の力しか出せないようだな」

 

(な……に……!?)

 

膝立ちの状態で自らの左腕に視線を落とすと、今更身体が気がついたように痛みが蘇ってきた。

 

メビュームインパクトの反動————未だにその怪我を引きずっているのだ。

 

どうやら以前メビウスキラーをけしかけてきたのは未来達の体力を奪うことも作戦に入れていたらしい。

 

(……もしかして俺達、かなりやばいことしちゃってたのかもな)

 

『今それを考えても仕方がないよ。極力打撃を避けて、突破口を開こう』

 

(ああ……そうだな……っ!)

 

左腕を勢いよく振るい、ブレスから黄金色の刃を伸ばす。

 

爆弾を抱えた箇所を使うのは少々危険だが、メビュームブレードの斬撃ならばいくらかマシなるはずだ。これでいくしかない。

 

『(うおおおおおお!!)』

 

全身から炎を吹き上げ、ヤプールのもとへと駆ける。

 

バーニングブレイブとなって強化された腕力でブレードを振り抜く。

 

奴の曲刃と激突し、耳をつんざくような音が轟いた。

 

『ぐっ……!』

 

(思ったように動けない……!)

 

左腕を振るう毎に蓄積されたダメージが神経を食いつぶすような感覚が走る。

 

日常的に感じていた痛みなので多少は慣れているがやはりベストな戦闘は無理だ。

 

「はあッ!!」

 

「グアッ……!」

 

ヤプールの振り下ろした刃が胸部に当たり、火花を撒き散らしながら後退する。

 

メビュームバーストもこの調子では充分な威力は発揮できない。決め手に欠けるこの状況で戦い続ければいずれ負けてしまうだろう。

 

(…………!)

 

迫ってきたヤプールの豪腕を回避しつつ反撃の機会をうかがう。

 

(らぁッ!!)

 

右の拳で奴の胴体に強烈な一撃を見舞い、間髪入れずに回転蹴りの嵐。

 

「ぬぅ……!」

 

「セヤァ!」

 

一瞬の隙をついてメビュームブレードの切っ先をヤプールめがけて突き出した。

 

ギリギリのところでそれを受け止めた奴はメビウスから一旦距離をとる。

 

「戦えば戦うほどに……その場に適した戦法を見出すことができる……。なるほど、貴様らがしぶとい理由の一つをまた理解した」

 

(ォォォオオオオッッ!!)

 

右拳でヤプールの体勢を崩し、わずかな一瞬の隙をブレードで突く。

 

流れに乗ったメビウスは次々に強烈な攻撃を奴に浴びせていった。

 

「……は、ハハハ……!」

 

(……何がおかしい)

 

「いやなに、つくづく惜しいと思ってな」

 

よろめいたヤプールが脱力した状態のままこちらに語りかけてきた。

 

「なぜお前達は人間を守る?状況によってはいとも容易く売り渡されるというのに」

 

(なに……?)

 

『……耳を貸しちゃダメだ、未来くん』

 

ぼんやりとした言葉で話すヤプールには、不思議と説得力があるようにも感じた。

 

「言葉通りの意味だ。……ウルトラマンよりも強力な存在が現れた時……人間どもは簡単に貴様らを見限って、そちらに尻尾を振る」

 

(……そんなことはない。俺達はどんな敵が来ても負けないし、人間もメビウス達を信じている。……人間である俺が、この場に立っていることが何よりの証拠だ)

 

「ククク……果たしてそうかな?」

 

ひやかすように言うヤプールに苛立ちを覚え、メビウスは作った拳に力を入れて奴を睨んだ。

 

 

 

 

「日々ノ未来……お前ならわかっているはずだ。たとえ全ての四天王を討ち取ったとしても……闇の皇帝には敵わないと」

 

(……!)

 

日々思い悩んでいたことが、心のなかで一気に溢れかえるようだった。

 

頭のなかでイメージしていたエンペラ星人の力。絶大な力を持つ彼と対峙した時、自分は対等に戦うことができるのかという不安と恐怖。

 

「ああ、わかるとも……怖いのだろう?強くなるための稽古とやらも、恐怖を誤魔化すためのクスリに過ぎん」

 

……違う。エンペラ星人が怖いわけじゃない。怖いわけじゃ————

 

『未来くん!』

 

(はっ……!)

 

我に返った直後、禍々しい光弾が眼前まで迫ってきたことに気がついた。

 

「グアアアアアア!!!!」

 

防御姿勢すらとっていなかったことで凄まじい威力がもろに伝わる。

 

後方に吹き飛んだメビウスはすぐには立ち上がれず、上体だけを起こして歩み寄ってくるヤプールを見上げた。

 

「隠す必要はない。闇の皇帝を恐れているのは何もお前だけではないのだから」

 

(ぐっ……!)

 

「皇帝がこの星に降り立った時には……間違いなく命を落とすことになる。そうなる前にこちら側へ来るのも一つの手だぞ?」

 

突きつけられた三日月状の刃を掴み喉元から離そうとするが、力が入らないせいでどんどん距離を詰められる。

 

(くっ……ああぁ……!)

 

はっきりとしない思考。

 

ぼやけた視界に映るヤプールの顔が脳裏に焼きつき、エンペラ星人に対する恐怖心を煽る。

 

同時にメビウスのカラータイマーが赤く点滅しだし、体力の限界を知らせてきた。

 

(俺は————!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

ヤプールの背後から発せられた眩い閃光と共に巨大な人影が現れた。

 

「なに…………っ!?」

 

咄嗟にメビウスから離れ、後方から放たれた斬撃を回避するヤプール。

 

『いったいなにが……!?』

 

(……!メビウス、あれ!)

 

街の明かりが巨大なシルエットの全貌を露わにする。

 

中性的な顔立ちに騎士の兜のようにも見える頭部。

 

赤と銀の体色は紛れもなく————ウルトラマンだった。

 

「トリャァ!!」

 

縦方向で構成された光の刃が飛び、後退するヤプールの右肩をかすめる。

 

「ぐうっ……!」

 

(切断技……!?)

 

横に並び、肩を貸してくれた巨人の顔を見上げる。

 

メビウスは隠せない驚きを解放するように言った。

 

『エース兄さん!?』

 

(兄さん……ってことは……やっぱりあなたは……!)

 

ウルトラ兄弟の一人、ウルトラマンエース。

 

「メビウス、少年、まだ動けるか?」

 

『(……!はい!)』

 

エースの隣に立ち、勇ましく構える。

 

……相手のペースに乗せられるな。誰を信じるべきかなんて最初から決まっている。

 

「「…………ッッ!!」」

 

同時に駆け出した二人の巨人がヤプールへと肉薄し、鋭い手刀の連撃が奴へと殺到した。

 

本調子ではないメビウスの隙をエースがカバーし、なおかつヤプールの防御を解く。

 

『(はああああああッッ!!)』

 

そこへ炎をまとったメビウス渾身の右拳が炸裂し、ヤプールは嗚咽を漏らしながら奥へと吹き飛んだ。

 

「ハハハハ……!思わぬ邪魔が入ったが……いいだろう。我らはマイナスエネルギーがある限り、何度でも蘇ることができる」

 

これから倒されることに何の未練も抱いていないような口ぶりで語り始めるヤプール。

 

これ以上何も聞かないように意識する未来だったが、不快にも奴の声は頭のなかに響いたままだった。

 

『(はあああああ…………!!)』

 

「「ダアッ!!」」

 

エースがL字に組んだ腕から必殺技である“メタリウム光線”を発射し、メビウスは爆炎のエネルギーを全力で増幅させたメビュームバーストを放つ。

 

「必ず……!戻ってくるぞォ……!!」

 

二方向からの凄まじいエネルギーを一身に受け止め、ヤプールはそう言い残して爆散した。

 

 

◉◉◉

 

 

『助かりました、兄さん』

 

「……俺があいつのペースに乗せられたから……。本当に……ありがとうございました」

 

人間態へと姿を変えたエースと向かい合う。

 

彼が助けに来てくれなければ、あのままヤプールになすすべなく敗北していただろう。

 

「礼には及ばん。……それに、今はこうしていられる状況じゃない」

 

「え?」

 

エースの視線が未来の瞳と重なる。

 

彼は深刻そうに表情を引き締めると、先ほどの戦闘で疲労しきっている未来へと言い放った。

 

「日々ノ未来くん、君の友人がエンペラ星人のもとへ連れ去られた」

 

「…………へ?」

 

言葉の意味を理解するのに少々時間が必要だった。

 

口を開けたまま呆然としている未来に追い打ちをかけるように、エースはさらに続けた。

 

「……兄さん達も別件で手が回らない状況だ。彼女を救えるのは————」

 

「ち、ちょっと待ってください!連れ去られたって誰が!?」

 

エースは未来の青ざめた顔と向き合った後、重い言葉を口にした。

 

 

 

「松浦果南という少女だそうだ。……急げメビウス、未来くん。奴らが彼女を生かしておく保証はないぞ」

 

 




次回、果南奪還作戦。
重傷を負ったステラは戦闘不能……。未来とメビウスは単独で救出に向かうのか……!?

では解説です。

活発化してきたエンペラ星人の軍勢に対処するため、ウルトラ兄弟達も複数地球に潜伏しています。
敵の動向を探り、必要な時はメビウスと未来のサポート等を担いますが、依然として人手不足が否めない状況です。

さて、次回はあの人と対面することに……?


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第77話 闇の巨人


サンシャイン11話見ました。
最後のあれは予想外すぎてもう……。
もしかして勇君って浦女の校歌とかなんですかね?


過去に何度も訪れた病院の一室。

 

酸素マスクを付けてベッドに横たわるステラを囲みながら、千歌達はどん底にいるかのような空気を感じていた。

 

「……向こうには俺達だけで行く」

 

沈黙を破ったのは未来だ。

 

連れ去られた果南の救出。ステラとヒカリが倒れた今、それに出動できるウルトラマンは他にいない。

 

地球を離れるのは危険だが、そんなことを考えていられる状況でもない。

 

「未来くん……メビウス……」

 

「あいつらの狙いはわからないけど……その場で手をかけずにわざわざ連れ去ったってことは、そうする必要があったってことだ」

 

『彼女は殺されたわけじゃない。……すぐに、僕達が連れ戻してみせる』

 

既に果南が連れ去られてから一時間ほど経っている。これ以上の猶予は望めない。

 

「……!ステラちゃん……?」

 

横になるステラの手を握っていた千歌がふと声を上げる。……と思えば未来に対して手招きするので、何事かと急いで駆け寄った。

 

いつもの彼女からは想像もつかないほどに弱り切った表情で、ステラはゆっくりと右腕を差し出してきた。

 

「…………」

 

「……!」

 

彼女の右腕に現れたナイトブレスが発光し、幾筋もの光の繊維となって未来の左腕へと移る。

 

強い力を感じた後、ステラの意思を確認するように言った。

 

「持ってけ……ってことか?」

 

無言で頷く彼女に対してこちらも首を縦に振って返答した。

 

どの道今の状態ではウルトラマンに変身できない————ならば未来とメビウスにナイトブレスの力を与えておこうと考えたのだろう。

 

これから未来達が始めようとしていることは、自殺行為にも等しい。その僅かな助けになればというささやかな願いだ。

 

「……ありがとう。あとで必ず返しに戻るからな」

 

微かに笑ったステラが目を瞑る。

 

その横で千歌はどうすればいいかわからない、といった顔で未来を見上げていた。

 

「……その、未来くん……私達……」

 

「みんなも気をつけてくれ。また狙われる可能性もないわけじゃない」

 

「待って!」

 

焦燥に駆られた未来が病室を出ようとしたところで曜が口を開いた。

 

背を向けたまま彼女の声を聞く。

 

「果南ちゃんがこんなことになったのは……未来くんのせいじゃないからね」

 

引き締まった口元から発せられた震えた声を聞き、未来は一歩踏み出した。

 

「……ああ」

 

 

◉◉◉

 

 

暗くてじめじめした空間で目が覚めた。

 

周囲は明かりのない真夜中の街のように真っ暗だ。目が慣れるまでしばらく無言で過ごす。

 

「……ここは……?」

 

果南は小さな声で呟いた後、すぐ近くにいる人影の存在に気がついた。

 

暗闇のなかで黒い衣服をまとっているせいでその全貌ははっきりとはわからない。

 

「やあ、目が覚めたみたいだね」

 

「あなたは……」

 

陽気な声が飛んできたことでほんの少し安心する。が、自分が誘拐されたという事実を思い出してすぐさま身構えた。

 

「……!」

 

ぽっ、と青色の炎が灯され、目の前に一人の青年の顔が浮かんだ。

 

「こんにちは果南ちゃん、こんなところで会うとは思ってなかったよ」

 

「……確かノワール……」

 

「あれ?ボクの名前知ってるの?嬉しいな!」

 

「未来が前に呼んだのを聞いてたから……」

 

灯りがついたことで自分がどのような状況にいるのかはっきりした。

 

透明な球体の中にノワールと共に閉じ込められている。外は深海にでも沈んでいるかのように真っ暗だ。

 

「…………あなたが私をここに連れてきたの?」

 

「いいや違うよ。実はボクも無理やり連れてこられた身でね」

 

「そ、そうなの?」

 

とりあえず彼自身は何かするつもりはないと判断し、胸をなでおろした。

 

自分達を覆っている透明な障壁に触れ、小突いてみる。

 

「……この壁、壊したりできない?」

 

おそるおそるノワールに質問する果南に、彼は迷うことなくあっさりと答えた。

 

「できるよ」

 

「……!なら————」

 

「でも今はやめたほうがいい。…………ほら」

 

ノワールが指差した方向に視線を向ける。

 

徐々に暗闇が晴れ、外に巨大な人影があることに気がついた。

 

「皇帝くんのお出ましだ」

 

闇を体現したかのような巨人がゆっくりとこちらへ歩み寄る。

 

例え難い雰囲気と威圧感に圧倒され、果南は血の気の引いた表情で巨人を見上げた。

 

「さてエンペラ、果南ちゃんがこの場にいることで君がボクを呼び出した理由がなんとなくわかったよ」

 

ノワールは立ち上がり、両手を広げては軽快な口調で言った。

 

「光の欠片について…………聞きたいのかな?」

 

 

◉◉◉

 

 

向かう場所は敵の本拠地。

 

メビウスと未来はエースからもらった情報をもとに宇宙を飛翔しながら捜索していた。

 

『ダークネスフィア……それがエンペラ星人の宇宙船だ』

 

(メビウスは一度あいつと戦ってるんだよな?)

 

『……うん』

 

メビウスが力を失い、未来と一体化することになった元凶。

 

暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。奴が住まう場所へと今から単独で乗り込むというのだ。

 

『……!未来くん!』

 

(……!)

 

遠くから放たれた光線に反応し、瞬時に回避行動をとる。

 

メビウスの姿が敵に見つかったのか、迎撃体制へと入った兵士達が次々に現れた。

 

『レギオノイドだ!多いよ!』

 

(敵のアジトが近いってことか……!?)

 

放たれる光柱を避けながら突き進み、レギオノイドの集団へと迫る。

 

一つ一つ落としていくんじゃキリがない。ここは一気に————

 

(使わせてもらうぞヒカリ、ステラ……!!)

 

左腕に宿るナイトブレスとメビウスブレスを融合させ、一つのアイテムへと変える。

 

メビウスの身体に金色のラインが走り、ナイトメビウスブレスからは黄金色の長剣が伸びた。

 

『(うおおおおおおッッ!!)』

 

ありったけのエネルギーをブレスに込め、解放。

 

爆発的に膨れ上がった光の刃がレギオノイドの群を焼き払う。

 

そのまま身体ごと回転し、周囲に残ったレギオノイド達を巻き込みながら前進した。

 

無数の爆発を背に、メビウスはダークネスフィアを目指す。

 

(待っててよ……果南さん!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇に浮かぶ球体に囚われた果南とノワールを見下ろし、エンペラ星人は口を開いた。

 

「小僧、貴様は以前余に言ったな……"このままでは負ける"と」

 

「ああ、確かに言ったね」

 

暗黒の支配者を前にして動じない様子のノワール。

 

一度裏切られた相手を前にして何の感情も抱いていないような様子で語りかけるのだ。

 

「……その光の欠片、とやらの詳細を教えてもらおうか」

 

「……へえ、興味持ってくれたんだ?」

 

「答えろ、あれは光の者が地球人に向けてばら撒いたものか?」

 

「いいや?そういうことができる奴を知らないわけじゃないけど————」

 

一拍置いて皇帝の顔色を伺いつつ、ノワールは言った。

 

「あれは正真正銘、地球人が生み出す力だ。君が想像するような第三者が作ったものじゃないよ」

 

特定の人物から確認できる謎のエネルギー体。

 

ノワール自身その由縁を知っているわけではないが、ウルトラマンキングの予言を知った時は心が躍った。

 

「まあすぐに信じられなくても仕方ない。何の力もない地球人が、闇の皇帝を倒し得る力を持つなんて————ボクでも飲み込むのに少し時間がかかった」

 

エンペラ星人は何も言わない。納得しているのか考え込んでいるのか。

 

背後にいる、怯えた表情で二人の会話を聞いていた果南の方へ視線を向ける。

 

「実際に発動するまで見分けることはできないけれど……彼女に関しては確かに欠片を宿しているよ。それがどれだけ強力なのか……身をもって体験したしね」

 

話の矛先を向けられた果南の肩がビクリと揺れる。

 

「……この矮小な輩が、余を倒すだと……?」

 

「ま、ボクでも知ってることはそれくらいのものさ」

 

果南を観察するように視線を落とした後、馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばすような声をあげた。

 

「やはり戯言に耳を貸すべきではなかったな。この怯えきった小娘が……余より絶大な力を秘めていると……?」

 

「正確にはその断片、だけど……」

 

直後、遠くで聞こえる戦闘音に反応し、ノワールは意識を外へと移した。

 

立て続けに耳に滑り込んでくる爆発の音。間違いなく誰かがこの場所に近づいている。

 

それが何者なのか。ノワールにはもう考えるまでもない。

 

「ちょうどいいや、()とも会ってみなよ。いずれ君の前に立ちはだかる少年だ」

 

 

◉◉◉

 

 

レギオノイドの集団を蹴散らし、さらに先へと進んだ宙域。

 

禍々しい漆黒の炎を視界に入れたメビウスは、一直線に飛ぶ速度を上げた。

 

(あれが…………ダークネスフィア)

 

決して途絶えることのない闇の炎が燃えている。

 

この先にエンペラ星人がいると考えただけで身体が震えてきた。

 

(この中に果南さんが……)

 

『慎重に進もう。……極力戦闘は避けてね』

 

一度皇帝と対峙したメビウスは至って冷静にそう口にする。それによって未来の緊張感もさらに膨れ上がった。

 

徐々にその宇宙船との距離を詰める。

 

いつでも敵を迎撃できるようにと、ナイトメビウスブレスから伸ばした光の長剣を常に構えていた。

 

ここに来るまでどれだけ果南の無事を祈ったかわからない。彼女に何かあったら千歌達に顔向けできない————

 

 

 

 

 

(…………)

 

…………重なった。

 

ふと視界の端に捉えた人影を見やる。

 

あとほんの数メートルでダークネスフィアに到達するというところで、メビウスは飛行を中断してその場に留まった。

 

…………重なった。過去に見た巨人の姿と重なった。

 

横に浮かんでいた一人の巨人と目が合う。向こうは何を思っているのだろうか。

 

未来とメビウスは突然の邂逅に驚きつつも、漆黒の鎧をまとった戦士の名前を呼んだ。

 

『(————ベリアル)』

 

 

 




ベリアルと再会した未来とメビウス、そして囚われた果南達の行方は……⁉︎

解説いきましょう。

光の欠片はジードに登場するリトルスターと似てはいますが全くの別物です。
作中語られた通り伏井出ケイによって生み出されたリトルスターとは違い地球人が自力で発するものです。
他の宇宙人から発現することもないので、宿している者は宇宙全体で見ても希少と言えるでしょう。

さて次回は……まさかのエンペラ星人と激突……?
※まだ最終回ではありません。


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第78話 英雄のレゾナンス

ジードもサンシャインもクライマックス……ですがこの作品はまだまだ終われそうにないですね(笑)



何度もフラッシュバックする光景があった。

 

悲しくも美しいその日の出来事。

 

命日となるはずだったその日に不思議な存在によって助けられ、未来達は今まで生きてこれた。

 

ウルトラマンという存在を初めて知ったその日————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(……ベリアル)』

 

正面で浮遊している漆黒の戦士を捉える。

 

三叉の槍を片手に最恐の鎧をまとったウルトラマン。

 

(…………)

 

かつての恩人を前にして、未来は左腕の長剣を構えた。

 

今のベリアルは本人の意思とは関係なく操られている可能性が高い。以前地球で会った時は迷わず襲いかかってきた。

 

……今回もきっと……

 

「通りたきゃ勝手に行けよ」

 

『(え?)』

 

拍子抜けする答えに思わず間の抜けた声が出た。

 

ベリアルがここにいたのは門番として配置されているから、と思っていたが…………。

 

「今俺に与えられている命令は"待機"だ。無駄な仕事はしたくないものでね」

 

『……!ベリアル、君は……!』

 

問題なく会話を交わしているベリアルを見て、以前出会った時との変わりように驚愕する。

 

理性のない猛獣のように襲ってきた彼と、苦しそうに介錯を頼んできた彼。

 

(……あんたはいったい……何がしたいんだ?)

 

未来の問いには答えない。ただ無言で虚空を眺めているだけ。

 

「あのガキはまだ無事だ。助けに来たのなら……早めに向かうことだな」

 

(……俺は、あんたに————)

 

言いかけたところで槍の切っ先がこちらに向けられ、その直後赤黒い光線が真横を通り過ぎた。

 

「さっさと失せろ。これ以上留まれば……俺はお前らを殺すことになるが?」

 

(……っ)

 

一変して凄まじい殺気を放ってきたベリアルに圧倒され、ほとんど反射的にその場を離れた。

 

彼の真意はわからない。……だけど今は敵対しなくて済むようだ。

 

未来にとってはそのほうがいい。戦って勝てる相手ではないとわかっているし、なにより————

 

(……命の恩人と争うなんて……)

 

————今回も、"伝える"ことはできなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「ありもしない夢物語に心を奪われた哀れな男だ。……闇を超えるものなど存在しない」

 

「まあまあ、いいから彼とも話してみなよ」

 

いつ自分を攻撃してくるのかわからない状況のなか、ノワールは冷静な様子でエンペラ星人を繋ぎ止めていた。

 

ここに連れてこられた時点で助かる可能性は一パーセントもないとわかっていた。

 

断言しよう、このまま何かしらの乱入がなければ果南諸共自分は死ぬ。

 

(頼むよ未来くん……?)

 

内心冷や汗が止まらない。平静を装うのもそろそろ限界だ。

 

どうにかして皇帝の隙を作り、さっさとこんな場所からトンズラして————

 

「さっきから光とか……闇とか……よくわかんないけどさ」

 

「ん?」

 

背後で怯えていたはずの果南が立ち上がり、エンペラ星人を見上げては言う。

 

「あなたなんかに未来達は負けない」

 

「……なに……?」

 

予想もしなかった地球人の言葉に、エンペラ星人はかすれ気味の声を漏らした。

 

興味深そうな視線を送るノワールもまた、彼女の思わぬ行動に息を呑む。

 

「あなたが未来とメビウスの敵ってことは……なんとなくわかる。どうしてこんな……地球を襲おうとするの!?」

 

「吠える気力があるとは意外だな。……望み通り墓場へ送ってやろう」

 

まずい、と唇を噛み締めた。

 

皇帝の腕が振るわれた瞬間に自分達の命は消える。

 

一秒あれば果南とノワールを同時に始末することは容易い。それほどの力が奴にはある。

 

「…………っ」

 

エンペラ星人の左腕が掲げられ、りん、と腕輪がぶつかり合う。

 

皇帝が二人に向かって手を振りかざさんとしたその時、

 

「……!」

 

上空から飛来した光の斬撃がエンペラ星人へと向かってくるのが見えた。

 

攻撃がやってきた方向には見向きもせず、彼は挙げていた左腕を後方へ振るう。

 

「うわっ……!」

 

「ぐっ……!」

 

凄まじい衝撃波が広がり、その斬撃を打ち消してしまった。

 

わずかな沈黙の後、一体の巨人が降り立つのを視界に捉える。

 

左腕から伸ばした黄金の長剣を構えた赤いウルトラマンが、渾身の力で再び極大の斬撃を飛ばしてきた。

 

「……ふん」

 

虫ケラでもあしらうかのように、エンペラ星人は絶大な威力を誇るその攻撃を軽々と払い除けてしまう。

 

 

「時間稼ぎ、ギリギリ間に合ったみたいだね」

 

球体のなかで安心したように尻餅をつくノワール。

 

その横では障壁に手をつきながら、とある名前を叫ぶ果南の姿があった。

 

「未来!!メビウス!!」

 

(果南さん!)

 

『どうしてノワールまで……?』

 

へらへらと笑いながら手を振ってくるノワールを無視し、果南が無事であることを確認する。

 

しかし安心はできない。そのすぐ側には闇の皇帝が立っているのだから。

 

(とにかく短期決戦だ!果南さんを助けたらすぐに離脱する!)

 

『えっと……ノワールは……?』

 

(知らん!)

 

なぜあいつが果南と一緒に囚われているのか知らないが、助けてやる義理はない。

 

それに奴なら自分の力だけで勝手に逃げることができるはずだ。いつものように、汚く。

 

(ぜぁぁああッッ!!)

 

地面を抉りながら前進し、広範囲に煙幕を張る。まずはエンペラ星人の視界を奪い、一気に攻める作戦だ。

 

(あれが……エンペラ星人……)

 

遠くに見える漆黒の巨人を見て、自然と身体が震えた。

 

先ほど放った光の斬撃は、未来とメビウスが持てる全ての力を結集して繰り出したつもりだったが……結果は見ての通り、まるで通じていない。

 

まさに最強、最悪の敵だ。

 

(ザ・ラスボスって感じだな……。でも……っ!)

 

必ず隙はあるはずだ。

 

メビウスは煙幕を張りながら奴へと接近し、背後に回る。視界の外から奇襲を狙う考えだ。

 

「…………さて、脱出しようか。君も来るかい?」

 

「え?」

 

果南は隣でゆっくりと立ち上がったノワールの顔を見やった。

 

「まだ未来達が……」

 

「ああ、あの二人はよく働いてくれたさ。でももう終わりだ、彼らのしたことが無駄にならないよう、ボクらはさっさと退散しよう」

 

「何言って————」

 

ふと視線を未来達のいる方向へと戻す。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

一瞬理解が追いつかなかった。

 

数秒前までエンペラ星人を翻弄していたはずのメビウスが、全身に傷を負って倒れ伏していたのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

…………あれ?

 

吹き飛びかけてた意識を無理やり引き戻す。

 

…………なにがあった?

 

たった今エンペラ星人との戦闘が始まって……それで————

 

動かない身体に四肢が付いている感覚が戻るが、視界は黒いままだ。

 

全身に力を込めても全く反応してくれない。暗闇のなかで一人取り残されたかのようだ。

 

…………あれ、()()……?

 

気づいたのと同時に深い絶望に襲われた。

 

戦闘なんかしていない。ただ一方的に蹂躙されただけだ。

 

数秒前、未来とメビウスはエンペラ星人に一太刀浴びせようと接近した。

 

……そうだ、思い出した、その直後に————

 

(げはッ……!)

 

『うっ……ぐ……ッ!』

 

攻撃する前に吹き飛ばされた。奴は片腕を軽く動かしただけなのに、それなのに触れることも叶わずに————

 

「貴様は……ああ、以前葬ったウルトラマンか」

 

足音が近づいてくる。絶対的な力を誇る闇の皇帝が歩み寄る音。

 

「……なぜ生きているのか、などとは聞くまい。問うたところで意味がないのだからな」

 

『……!』

 

やっと戻った視力を凝らして上を向くと、漆黒のマントを翻した影が見えた。

 

(これが……エンペラ……星人……)

 

勝てない、と確信した。こんな奴、たとえこの先いくら努力しても————

 

(……うごけ……動け……カラダ……うごけ……っ!!)

 

…………死ぬ。

 

『未来くん……!』

 

自分の敵がどんな奴なのか、今やっとわかった。

 

ヤプールの言葉が頭のなかで蘇る。

 

 

 

————たとえ全ての四天王を討ち取ったとしても……闇の皇帝には敵わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!離してよ!」

 

「ちょっ……痛い、痛いって」

 

腰に打撃を喰らいつつ、ノワールは片腕で果南を抱えながら異次元空間を移動していた。

 

未来とメビウスがここへやってきたということは、足止めに向かったヤプールは既に敗れている。故に————

 

(今の時点では異次元空間を支配している者はいない。警戒する必要なく移動手段として使える。……まったく便利だねえ)

 

ダークネスフィアから地球までの距離はこの空間を使うことで数分で移動できる。自分の力だけで移動するよりもずっと良い。

 

「離してったら!」

 

「いたァ!?」

 

強烈な肘打ちを背中にもらい、ノワールは目に涙を浮かべながらつい手を離してしまった。

 

異次元空間に浮遊する果南と視線を交差させた後、困ったように口を開く。

 

「もう……なんだっていうんだい?」

 

「未来とメビウスを残して逃げるなんてできるわけないでしょ!?……どうすれば戻れるの?」

 

「戻ってどうするの?」

 

「……それは……!」

 

口ごもる果南を見て自然とため息をついた。

 

「あのね果南ちゃん、君一人戻ったところで足手まといにしかならないよ。さっきも言っただろう?彼らの覚悟を無駄にしないためにも——」

 

「だからって……私だけ逃げるなんて嫌だよッ!!」

 

大した正義感だ。光の欠片を宿すのに相応しい。

 

だが果南が持つ光だけでは皇帝に勝つことはできないのはわかっていた。光の欠片は……十全てが揃った時に初めて真価を発揮する。

 

「……言っておくけど、ボクはその気になれば一人で逃げることもできたんだ。いろいろと後が怖いから助けてあげただけ、ということを理解してもらいたいね」

 

あのまま果南を置いていけば地球に残っているステラとヒカリに報復を受ける可能性もある。安全第一を目指すのならそれは定石ではない。

 

それと————

 

(一応ファンだから、というのは黙っておこうかな)

 

ふと果南へ視線を戻すと、何やら目を丸くして驚いていることに気がつく。

 

「どうかした?」

 

「あれは……」

 

彼女が指差したのはノワールの背後。

 

ゆっくりと異次元を漂っている無数の巨影が見えた。

 

「……ああ、だいぶ前にボクが作った怪獣達だね。ヤプールに頼んでここにしまっておいたのを忘れてたよ」

 

「ねえ!」

 

詰め寄ってきた果南から仰け反る。

 

突然のことに驚愕しつつ、ノワールは彼女が言わんとしていることを聞いた。

 

「な、なんだい?」

 

「あの怪獣達、動かせる!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『弱気になるな!!』

 

(……!)

 

声が聞こえた。

 

『今まで散々頑張ってきたんだろう!?地球を……千歌ちゃん達を守るために!!』

 

エンジンがかかる。錆び付いていた頭のギアを強制的に回転させるような、とても気合いの入る声だ。

 

『君はいつだって困難を乗り越えてきた……!何度くじけそうになっても……!立ち上がってきたじゃないかッッ!!』

 

……メビウスだ。相棒が自分を呼んでいる。

 

消えかけていた正気を引き寄せ、未来は光のなかで目を覚ました。

 

(ァ……ああアアア……!!)

 

グラグラになったバランス感覚で立ち上がり、エンペラ星人と対峙する。

 

痛みでどうにかなりそうだ。体力なんてとっくに尽きている。……けれど、ここで死ぬわけにはいかない。

 

「……先の一発で殺したつもりであったが……」

 

黒い巨人は改めてメビウスを睨み、こちらに殺気を放ってきた。

 

「諦めろ。貴様らでは余に触れることすらできない」

 

(……まだだ……)

 

諦めてたまるか。

 

……自分達の戦いは、絶対に負けられない戦いなんだ。こんなところで易々と殺されるなんて冗談じゃない。

 

(俺達が……みんなを守るんだ……!!)

 

 

 

最後まで諦めず、不可能を可能にする。それが————

 

『(ウルトラマンだッッ!!)』

 

爆発的な圧力がエンペラ星人の手の中に収束するのを感じた。

 

奴の腕が振り下ろされる直前、瞬時にバーニングブレイブへと姿を変えて拳を構える。

 

『(メビューム…………!!)』

 

腰を低く構え、エンペラ星人の放つ衝撃波を迎え撃とうとした直後、

 

『(インパ————!)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————バリィィイイイイン!!!!

 

周囲に現れた無数の空間の亀裂に気を取られ、メビウスとエンペラ星人は動きを止めた。

 

(……!なんだ……!?)

 

『……異次元空間……!?』

 

五十近くのゲートが開き、まるで軍隊のように揃ったタイミングで複数の怪獣達が現れたのだ。

 

キングジョーブラック、ギャラクトロン、ゼットン……過去に一度戦ったことのある怪獣達も所々に確認できる。

 

(うわっ……!)

 

一斉にこちらへ向かって突撃してくる怪獣達を前にして、思わず防御姿勢になるメビウス。

 

しかし————

 

『(…………へ?)』

 

無数の怪獣軍団は自分達を素通りし、エンペラ星人のもとへ一直線に向かって行ったのだ。

 

「ぬぅ……!」

 

軽々と怪獣の集団の一部を吹き飛ばすエンペラ星人だったが、次から次へと襲いかかるそれらに足止めをくらってしまう。

 

(一体なにが……)

 

直後、後方から聞こえる叫びに反応し、振り向く。

 

「未来ーーーー!!メビウスーーーー!!」

 

「早く来たまえ!!こんな足止め数秒保つかどうかだぞ!!」

 

(果南さん……!?ノワール……!?)

 

いつの間にか脱出していた二人が立っていたのだ。

 

「「早くッッ!!」」

 

二人の呼び声に応じ、反射的に地を蹴る。

 

メビウスが走ってきたのを視認し、ノワールは異次元へと繋がる門を広大に開いた。

 

巨人の身体が全て入りきった後、果南とノワールは同時にゲートの中へ戻り、即座に閉める。

 

「ぬ……ォォオオオ……!!」

 

十秒足らずで全ての怪獣達を始末してしまったエンペラ星人が辺りを確認した時には、既に彼らの姿は消えていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「はあっ……!はあっ……!!」

 

人間の姿に戻った未来は、まだら模様の空間で鎮座している黒い青年を見た。

 

「間一髪だったね」

 

「なんでお前が……。俺達を……助けたのか……!?」

 

「彼女に無理やり言われて、だけどね」

 

横に視線を向ければ、うっすらと笑みを浮かべた果南が立っていた。

 

「無事でよかったよ、二人とも」

 

『果南ちゃん……!』

 

「それはこっちのセリフ……だよ……!」

 

泣きそうになるのを堪えた未来は…………そのまま眠るように意識を失う。

 

「未来!?」

 

倒れる寸前のところで彼を受け止める果南。

 

お互いの心臓が動いているのを感じ、自分達が生きて帰ってきたことを実感するのだった。

 




みんな無事生還しました。
ノワールが放置していた怪獣達がここに来て役に立ちましたね。

では解説です。

忘れてた人も多いと思いますがノワールは自分が作った怪獣達をヤプールの異次元を通して地球へと放っていました。
いくらか蓄えはありましたが、未来達に敗れ、エンペラ星人からも命を狙われたことでせっかくの戦力が台無しに……。ということで今回はその怪獣達に助けてもらうことに。
以前記述したと思いますが、これらの怪獣達はあくまでノワールの模造品なので、オリジナルの力よりだいぶ劣ります。

次回からは少し落ち着いた回になりますね。


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第79話 機が熟すまで

今回の話はサンシャイン5話と6話の間に起きたエピソードです。
以前知らせた通り5話の話は省略してあります。


白い壁と天井の一室。

 

ベッドの上で瞼を閉じている少年の手を握りながら眠ってしまっている少女が一人。

 

「……やっぱり」

 

部屋のなかに足を踏み入れたステラは、未来のお見舞いへと向かった千歌が案の定眠りこけているのを確認し、深いため息をついた。

 

自分と入れ替わるように重傷を負って運ばれてきた未来が意識を失って、既に一ヶ月近く経っている。

 

エンペラ星人の魔の手から果南を救出するのは成功したが、彼が目覚めないままでは勝利とは言えない。

 

「……それに」

 

ステラはいつの間にか開いていた窓の方向へ視線を流した。

 

黒いコートを翻した青年が涼しい表情でこちらに瞳を合わせてくる。

 

「どうしてあなたがここに?」

 

「傷つく言い方だなあ。未来くんと果南ちゃんが生きて帰ってこれたのはボクのおかげだっていうのに」

 

「……それについては感謝してる。でもあなたはエンペラ星人の手先だったはずよ。二人を助けてメリットなんかあるわけない」

 

ステラの言葉を聞いて面食らったように黙るノワールだったが、すぐにいつもの調子を取り戻して口を開いた。

 

「……違うよ、ボクはもう一人きりさ」

 

ほんの少し寂しさが垣間見える表情。

 

ベッドで横になっている未来と、それに付き添う千歌の寝顔を眺めた後、ノワールはこちらに背を向ける。

 

「……そろそろちゃんと話しておいたほうがいいんじゃないかな」

 

身体を黒い霧へと変化させ、窓から外に出るノワール。

 

彼の言ったことの意味は理解している。……もうこのままではいけないと、ステラは口元を引き締めた。

 

「……あれ、ステラちゃん?」

 

寝ぼけ眼でこちらを見上げる千歌。

 

————言わなければならない、彼女達が狙われる理由を。

 

 

◉◉◉

 

 

暗闇のなかで目が覚めた。

 

自分の身体がどうなっているのかを確認し、前方へと意識を向ける。

 

一筋の光が道のように続いていることに気がついた未来は、おそるおそる一歩踏み出した。

 

「『……あ』」

 

隣で同じように動いた者の存在を視認する。

 

好青年、といった印象の男がこちらに目を合わせて笑いかけてきた。

 

「……メビウス、だよな」

 

『うん。……こんなかたちで対面するのは初めてだね』

 

奇妙な感覚に悩みつつも、未来とメビウスは光を目指して歩き出した。

 

……自分達以外は何もない空間。

 

「……これは、俺の夢の中なのかな」

 

『夢と表現するのはちょっと違うかもしれない。たぶんこれは……何者かの干渉を受けているんだ』

 

どうやらテレパシーのようなものらしい。

 

以前ウルトラの父からの交信を受けた時もこのような状態だったな、と気にせず進むことにした。

 

「……!」

 

しばらく進み、目の前の光が徐々に大きくなってきたところで、周囲を取り巻くような声が聞こえてきた。

 

————エンペラ星人を取り逃がしたぁ……?

 

「これは……」

 

宙に映し出された映像を見ると、何人ものウルトラマン達が何やら話している光景が見えた。

 

————なら俺が出る。お前はここで待ってろ。

 

————ベリアル、待て……!

 

————お前だけにいい格好はさせないぜ。

 

光の国らしき場所から飛び立っては、猛スピードで移動するウルトラマン。

 

見覚えのある姿に未来はふと名前を呟いた。

 

「……ベリアル……」

 

今映し出されている映像は過去にベリアルが行ってきたであろう記録。未来の知らない彼の記憶だった。

 

現在の黒い外見ではなく、本来の体色である赤と銀…………ウルトラマンとしての姿。

 

————ったく、地球に向かったディノゾールの処理が終わったかと思えば、今度はテロリストの始末だ。

 

面倒そうに言うベリアルからはどこか嬉しそうな様子も見て取れる。

 

まるで「これから功績をあげてやる」とでも言いたげな————

 

「……あっ!」

 

次の映像へと切り替わった瞬間、未来は思わず声を上げた。

 

エンペラ星人に敗れるベリアルの姿。

 

闇の皇帝が伸ばした腕に視界を遮られ————映像は終了する。

 

「……なんだったんだ……?」

 

『……!未来くん!』

 

唐突に見せられた映像に困惑する未来だったが、メビウスに肩を叩かれたことで意識を別の方へと移した。

 

 

 

 

「…………あ」

 

名前を呼ぼうとして虚しく声が消える。

 

背後に立っていた人物に対して、未来は尋ねようと口を開いた。

 

「俺の記憶だ」

 

質問しようとするも、()は未来が言葉を発する前に答えた。

 

『……これが君の体験した出来事だというのかい?……ベリアル』

 

漆黒の鎧をまとったベリアルが静かにこちらを見つめる。

 

この空間に未来とメビウスを招いたのは彼だったのか。

 

「俺はあの時エンペラ星人に敗北し、そして————」

 

自らの身体を忌々しそうに引っ掻き、散った火花を見下ろす。

 

「この呪われた鎧……アーマードダークネスを強制的に装着させられた」

 

「……ベリアル、あんたはやっぱり————裏切ったわけじゃないんだよな?」

 

未来は今まで疑問に思い、そうであって欲しくないと考えていたことを問いかけた。

 

「ウルトラマンべリアルは正義のヒーローなんだよな……?地球を……俺達を救ってくれた英雄なんだよな……!?エンペラ星人の手先になんかなってないんだよな!?」

 

徐々に語気が強くなる。

 

そうであって欲しいという願いを片っ端から言葉にし、彼にぶつけた。

 

未来だけじゃない、千歌や曜、果南…………あの時内浦に住んでいた誰もが思っている。

 

ベリアルが敵だなんて————やっぱり信じられないんだ。

 

「……だが経緯はどうであれ、だ。俺は既に何人もの命をこの手にかけた。今更戻ることはできない。皆が知るウルトラマンべリアルはもういない」

 

「そんなの……ッ!そんなの知るかよッッ!!」

 

アーマードダークネスの影響で理性を失わせ、べリアルに破壊行為をさせた後で罪の意識を植え付ける。

 

この鎧には、簡単には逆らえない。……たとえ今のように意識が戻っていたとしても、べリアルは鎧の本来の持ち主であるエンペラ星人の人形も同然だ。

 

エンペラ星人(あいつ)はべリアルの心を利用したんだ。べリアルが逆らえないとわかっていて……それで……!!

 

「あんたがそう思ってても、俺達にとっては違う!べリアルはべリアルだ!!……光の戦士、ウルトラマンべリアルなんだよ!!」

 

ありったけの想いを言葉に乗せて言い放った。

 

……こうなった理由を聞いたところで納得なんてできるものか。

 

全ての元凶はエンペラ星人だ。……あの闇の皇帝さえいなければ……!!

 

「……子供の幻想だな」

 

「……え?」

 

「俺にとってはお前の言葉の方が“知るか”だ」

 

べリアルは自らの両腕に視線を下ろし、嘆くように言葉を紡いだ。

 

「……見ろよ、この醜い姿を。鎧を装着してからな、少しずつウルトラ戦士だった頃の記憶も薄れてきているんだ。お前らに見せた記憶も……時間が経てばいずれ消える。そうなれば今度こそ完全に皇帝の下僕、カイザーダークネスの誕生だ」

 

天を仰ぎ、闇に染まってしまった自分を見下すように語るべリアル。

 

「俺はもう戻れない。汚れた手を引きずって生きていくしかない。……心のどこかで力を欲していたのは事実だ。……だが——」

 

————こんなことになるのなら、皇帝と対峙した時点で死ねばよかったんだ。

 

あまりにも悲愴的な言葉がべリアルの口から聞かされ、未来は目を見開いて押し黙った。

 

しばらくの静寂の後、未来は溢れてきた感情をひたすらに吐き出した。

 

「……それでも」

 

「……なに?」

 

「子供の幻想でも……なんでもいい……!俺はあなたを救いたい!!だってあなたは紛れもなく……確実に……正真正銘……絶対に……!!俺達の命の恩人なんだからッッ!!」

 

自然と涙が頬を伝っていた。

 

黒いウルトラマンを前にし、未来は彼と真っ向から想いをぶつけ合った。

 

「……今日お前達を呼び出したのは、こんな下らない口喧嘩をするためじゃない」

 

「……?」

 

べリアルはこちらに背を向けると、徐々に捻れていく空間へ吸い込まれるように去ろうとした。

 

「忠告しに来たんだよ。次に俺と戦う時は、殺す気でかかってこい。……俺もそうする」

 

「……!待っ————!」

 

離れていく背中に手を伸ばすが、届くわけもないそれは虚しく空を切った。

 

「俺はまだ……あなたに伝えたいことが————!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い天井が見えた。

 

背中にある柔らかいベッドの感触とお別れし、上体を起こして身体の具合を確認する。

 

「…………俺は————」

 

弾かれたようにベッドから飛び降りた未来は、そのまま病室を抜け出して浦の星学院へと向かった。

 

 

◉◉◉

 

 

「光の……欠片?」

 

「ええ、それがあなた達の中に眠っている。……敵はそれを狙って、果南を攫った」

 

千歌達九人を部室に集め、ステラは彼女達が秘めている可能性について話した。

 

エンペラ星人という巨悪を倒す唯一の方法である究極の光の存在。光の欠片についての詳細も、知っていることは全て伝えたつもりだ。

 

「それって、私達も未来くんやステラちゃん達の力になれるってこと!?」

 

「……残念だけど、そこまではよくわからないわ。光の欠片の力は未知数…………まだわかっていないことの方が多いかもしれない」

 

「……そっか……」

 

興奮気味に聞いてきた千歌が一気にテンションを落として俯く。

 

彼女はずっと前から未来やメビウスの力になりたいと考えていたのだ、無理もない。

 

「これも見えない力……なのかもね、リリー?」

 

「私達にそんな力が……」

 

善子と梨子はほんの少し戸惑いつつも、胸に手を当ててステラの言葉を噛み締めた。

 

「……今後もあなた達は狙われるかもしれない。だからくれぐれも気をつけて————」

 

ガタン、と扉を開く音に反応して振り返る。

 

皆の視線が集まった場所には、よろよろとした足取りで部室に入ってくる少年の姿があった。

 

「……!未来……!?」

 

「未来くん!?」

 

「よ、よお……」

 

曜は身体のあちこちに包帯が巻かれた未来の肩を支え、ゆっくりとそばにあった椅子へと座らせる。

 

「ちょっと未来、勝手に病院抜け出しちゃ————」

 

果南が飛び出しかけた言葉を飲み込む。

 

異様な雰囲気に包まれている今の未来からは、不思議と威圧感が感じられた。

 

「……だいぶ気を失ってたみたいだな」

 

「う、うん。でもよかった……!もう一生起きないかと思って……」

 

「未来くん」

 

強い意志を感じさせる瞳と目が合う。

 

千歌は彼と正面から向き合うと、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「……ステラちゃんから聞いたよ、私達の中にある……力のこと」

 

横に立っていたステラに視線を流すと、首を縦に振ることで返された。

 

「……そうか」

 

いずれは打ち明けなくてはならない時が来ると思っていた。

 

……さっきのベリアルとの会話もそうだ。この戦争が着々と終幕へ向かっていると実感する。

 

「……これから先、今以上にみんなを巻き込んでしまうかもしれない」

 

「今更、でしょ?」

 

奥の方でウインクして見せた果南が未来へ微笑んだ。

 

抑えていた感情が一気に溢れ出し、溜め込んでいた涙がこぼれる。

 

「……ありがとう、みんな」

 

孤独な戦いから解放されるのと同時に、危険がより大きくなる。

 

ベリアル。ラブライブ。四天王。エンペラ星人。

 

決着をつけなくてはならないものはまだまだある。

 

何かが終わったわけじゃないんだ。

 

ここからさらに激化するであろう戦いのなかで……自分達はどこへ辿り着くのだろうか。

 




ついにベリアルの秘めた想いが明らかに。
未来やメビウスが彼をどうするのかも注目です。

解説いきましょう。

今作のベリアルは元の設定よりも善の部分が押し出されています。
しかし力への憧れやウルトラの父への嫉妬等はそのままなので、エンペラ星人にはその隙を突かれた感じですね。
今はなんとか意識を保ってはいますが、それも時間の問題です。
いずれは未来達と戦う運命……。その時彼らはどのような決断を下すのか。

次回からはまたしばらくサンシャインの話を進めたいと思います。


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第80話 超えるためには


ジード最終話、まさかまたベリアルのあの姿を拝むことができるとは……。
さて、今回からサンシャイン6話に突入です。


「悪い人じゃないって……ノワールが?」

 

「うん」

 

練習スタジオの廊下の隅で千歌と果南、そして未来が顔を見合わせて何やら話し込んでいた。

 

「……あの時、彼がいなかったらどうしようもなかった。私も未来も、あのまま死んじゃってたかもしれない」

 

「……果南さんはともかく、どうして千歌までそんなことを?」

 

未来が目を覚まし光の欠片のことも伝えた後、二人だけで話しているのを見かけたが……どうやらノワールについての事だったらしい。

 

「私、前にもあの人に会ったことあるの」

 

「なんだって……!?」

 

「その時の印象もそうだけど……あの人、何か別の理由があって怪獣を操っているんじゃないかな……?」

 

千歌と果南にそう言われ、未来は目覚めてから初めてノワールについて考えた。

 

確かにダークネスフィアでの戦いではノワールに命を救われた。あいつがそうする理由はともかく、これは紛れもない事実だ。

 

今は力を失い、エンペラ星人にも命を狙われているような口振りだったが……。

 

「……判断するにはまだ情報不足だ。二人には悪いけど、俺は以前までのあいつの行動を許すことはできない」

 

千歌達が知らないところでも、奴はこれまで様々な方法で攻撃を仕掛けてきた。

 

そう簡単に心を許すなんてできるわけがない。

 

「……そうだよね」

 

「ほら、そろそろ練習始めないと。次のライブが近いんだから」

 

半ば無理やり話を終わらせ、未来は千歌と果南を部屋へと移動させる。

 

……二人の口からノワールについて出てくるのは初めてのことだ。

 

(……俺もあいつの動向は気になる。ここしばらく考えてなかったが……)

 

まだ気を抜くには早いのかもしれない。

 

 

◉◉◉

 

 

「ワンツースリーフォー!ワンツースリーフォー!ここで変わって!」

 

鏡の前に並び立ち、未来の手拍子に合わせて振り付けの練習をする梨子達。

 

横で観察していたステラが改善すべき箇所をアドバイスする。

 

「すごい、前より良くなってるわ。花丸はもう少し腕を上げた状態でキープお願い……そうそう」

 

「ずらぁ……」

 

「じゃあちょっとだけ休憩を挟んで、その後は個人練習ね」

 

次に控えているのは地区予選。前回のラブライブでは突破できなかった難所だ。

 

練習量が多くなるなか、みんなよく頑張っている。

 

「わっ!全国大会出場が有力視されてるグループだって!」

 

「ずら?」

 

「なになに?そんなのあるの?」

 

曜の持つスマートフォンの画面の前に皆が集まり、そこにまとめられたスクールアイドル達のグループ名に目を通す。

 

「ラブライブ人気あるから、そういうの予想する人も多いみたい」

 

「どんなグループがいるの?」

 

「えっと……前年度全国大会に出たグループはもちろんで……っと」

 

画面をスクロールしていき、見覚えのある名前のところで手を止めた。

 

「Saint Snow」と表記された記事をタップし、二人の少女の姿が映し出される。

 

「あ……」

 

「“前回、地区大会をトップで通過し……決勝では八位入賞したSaint Snow。姉、聖良は今年三年生。ラストチャンスに優勝を目指す!”」

 

やはり彼女達の名前も出てくる。

 

頑張っているのは千歌達だけじゃない。他のアイドル達も、優勝目指して切磋琢磨している。

 

「二人とも気合入ってるだろうなあ……」

 

「あとは……。あっ!Aqours!」

 

「えっ!?」

 

「本当か!?」

 

「ほら!」

 

羅列されたスクールアイドルのなかに自分達の名前を見つけ、驚愕しつつもそれを読み上げる。

 

前回は地区大会で涙を飲んだAqoursだが、本大会予備予選の内容は、全国大会出場者に引けを取らない見事なパフォーマンスだった。

 

「……“今後の成長に期待したい”……。よかったなみんな!期待されてるぞ!」

 

「期待……」

 

千歌は自分に刻み込むようにその言葉をつぶやいた。

 

「フッフッフ……このヨハネの堕天使としての闇能力を持ってすれば、その程度造作もないことです!」

 

「そう!造作もないことです!」

 

いつものように自分の世界に入り込む善子だが、驚いたのは彼女に応じるように立ち上がった人物だ。

 

「……はっ!?」

 

「なにこれ?」

 

突如豹変した梨子を見上げ、未来は首を傾ける。

 

「さっすが我と契約を結んだだけのことはあるぞ、リトルデーモンリリーよ!」

 

「無礼な!我はそのような契約交わしておらぬわ!」

 

堕天使コントを見せつけられた後で皆に説明を求める。

 

「えっ?この人梨子だよな……?」

 

「なんか色々あったみたいで……」

 

「“リリー”……?」

 

これが堕天する、というものなのだろうか。

 

「アティードが眠っている間……新たな上級リトルデーモンとして迎え入れたのよ」

 

「そうなの?」

 

「違うー!これは違くてー!!」

 

「ウェルカムトゥーヘルゾーン!」

 

「待てい!!」

 

気を失っている間にAqoursの環境も少し変わったみたいだ。

 

「今回の地区大会は、会場とネットの投票で決勝進出者を決めるって……」

 

つまりはその場で投票結果が発表される、ということだ。

 

そのルビィの言葉を聞いてほんの少し引っかかる部分があった。

 

「よかったじゃん!結果出るまで何日も待つより————」

 

「そんな簡単な話ではありませんわ」

 

千歌が言いかけたところでダイヤの声が重なる。

 

深刻な表情に変わった鞠莉が、今置かれている状況を説明するように話し出した。

 

「会場には、出場グループの学校の生徒が応援に来ているのよ」

 

「ネット投票もあるとはいえ、生徒数が多い方が有利……」

 

もしも自分の学校に投票することが前提と考えると————

 

最も生徒が少ない浦の星学院が不利になる。

 

 

◉◉◉

 

 

「Aqoursらしさ?」

 

次の日。

 

屋上へと練習しにやってきた皆の前で、千歌から話があると言われたのだ。

 

「私達だけの道を歩くってどういうことだろう……。私達の輝きってなんだろう……。それを見つけることが大切なんだって、ラブライブに出てわかったのに……。それがなんなのか、まだ言葉にできない。……まだ形になってない」

 

今のラブライブを形作ってきた先駆者達の実力。そして現在も活躍しているスクールアイドル。

 

誰もがさらなる高みを目指している。今よりももっと————

 

肩を並べたなんて思う者は、誰もいない。

 

そのなかで駆け抜けるには————

 

「だから、形にしたい。形に……」

 

少しの静寂の後、後ろで話を聞いていたダイヤが口を開く。

 

「このタイミングでこんな話が千歌さんから出るなんて、運命ですわ」

 

「えっ?」

 

「あれ、話しますわね」

 

「え……!?でもあれは……」

 

ダイヤの言葉に狼狽えたのは果南だった。

 

「なに?それ何の話!?」

 

振り返っては三年生達の方に夢中な視線を注ぐ千歌。

 

ダイヤの口から聞かされたその話は、決勝へと進む鍵になるものだった。

 

「二年前、私達三人がラブライブ決勝に進むために作ったフォーメーションがありますの」

 

まだ彼女達が一年生の頃————以前のAqoursが製作したもの。

 

「そんなのがあったんだ!すごい!教えて!」

 

「……でも、それをやろうとして鞠莉は足を痛めた。それに、みんなの負担も大きいの。……今そこまでしてやる意味があるの?」

 

「なんで?」

 

乗り気ではない果南の手を千歌が握る。

 

彼女のまっすぐな視線が、果南の瞳を射抜いた。

 

「果南ちゃん、今そこまでしなくていつするの?最初に約束したよね……!?精一杯足掻こうよ!ラブライブはすぐそこなんだよ!今こそ足掻いて、やれることは全部やりたいんだよ!」

 

「……でも、これはセンターを務める人の負担が大きいの。あの時は私だったけど……千歌にそれができるの!?」

 

「大丈夫、やるよ……私」

 

切り上げようとする果南の腕を引き、必死にくらいつこうとする千歌。

 

(負担が……大きい……)

 

未来は目を伏せ、過去に自分が感じた痛みを思い出すように、腕に巻かれている包帯に触れた。

 

「決まりですわね。あのノートは渡しましょう、果南さん」

 

「今のAqoursをブレイクスルーするためには、必ず越えなくちゃならないウォールがありマース!」

 

「今がその時かもしれませんわね」

 

皆に押される形で果南は手にしていた、フォーメーションが記述してあるノートを千歌に手渡した。

 

「言っとくけど、危ないと判断したら……私はラブライブを棄権してでも千歌を止めるからね」

 

「……ちなみに、そのセンターの振り付けっていうのは……?」

 

未来はおそるおそる果南にその詳細を尋ねた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……ロンダートからのバク転……かあ」

 

その夜。

 

家のそばにある海岸で大技の練習に励む千歌を、未来はそわそわした様子で見守っていた。

 

「よ……っとととと……!」

 

「うっ……!」

 

バランスを崩して転ぶ彼女を見て思わず目を瞑る。

 

先ほどから何度も繰り返し挑戦しているが、経過は芳しくない。

 

砂の上なのである程度柔らかいとはいえ、やはりこう何度も身体を打ちつけていると————

 

「心配そうね」

 

十千万の方から歩いてきたステラが暖かい缶コーヒーを差し出してきた。

 

それを受け取った後、手をつけずに話し出す。

 

「…………千歌はああ言ってたけど……やっぱり俺も賛成するとは言えない。いきなりこんな危険な技————」

 

『……自分と重なるかい?』

 

メビウスの問いにはすぐ答えられなかった。

 

……図星だ。このまま無茶をすれば、千歌は大怪我をしてしまうのではないだろうかと不安で仕方がない。

 

「……まったく、それはあの子達も同じでしょ」

 

「え?」

 

隣でコーヒーを一口飲んだ後、ステラが言う。

 

「最近はわたしが避難誘導で、あなたが戦う。……一緒に行動してるとわかるのよ。いつも心配そうな目であなたを見送っているわ」

 

戦うことに————みんなを守ることに夢中で気づかなかったこと。

 

こうして立場が逆になって初めてわかった。

 

「…………見守る側の気持ちって、こんなに辛いんだな」

 

本人は必死に頑張って物事を成功させようとしている。……だからこちらからは一概にやめろとは言えない。

 

『応援するか止めるか。……難しいところだね』

 

「果南さんの気持ちもわかるよ」

 

ははは、と笑い飛ばそうとするが、自然と表情が暗くなる。

 

千歌がボロボロになっていく様を……ただ眺めることしかできないなんて。

 

「まったく……相変わらず鈍いわね」

 

「ステラもありがとな。命がけでみんなを守ろうとしてくれて」

 

「……べつに。今までそのつもりでやってきたんだし」

 

何かむず痒い空気を感じ、未来は誤魔化すためにもらった缶コーヒーを口にした。

 

「……ぷっ!にっが!!これブラックじゃん!!」

 

「甘い方は売り切れだったから」

 

「ちゃっかりラスイチは自分の物にしてるのな……」

 

冬が近づき、冷たい風が肌に食い込む。

 

コーヒーをカイロ代わりにして、未来とステラは終わるまで千歌の練習する姿を見守っていた。

 

 




放送当時も思いましたが、この振り付けかなりキツイですよね。
実際のライブでは披露するのか気になるところです。

では解説へ。

冒頭で語られた千歌と果南によるノワールに対しての考え。
前回の戦いでは思わぬ活躍で未来達を救ってくれた彼ですが、今後の動向はいかに……?
ベリアルと合わせてこの後の展開でも鍵になる人物です。
同胞であるエンペラ星人ともまだ掛け合いがあるかも……?

それでは次回もお楽しみに。


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第81話 奇跡を呼ぶ波

サンシャイン12話が終わり、ついに来週最終回。

かなり駆け足投稿です(笑)
このまま一気に最後まで書き切りたい……!


「いきまーーーーすッ!!」

 

「千歌ー!頑張ってー!」

 

体育館のステージ上に敷いたマットめがけて駆け出した千歌と、それを応援する部活中の生徒達。

 

皆の注目が集まるなか、大きく床を踏みしめ————

 

「うわぁっ!?」

 

バランスを崩して顔面から思い切り地に衝突する。柔らかいマットの上とはいえ見てる方も痛くなってくる。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

「……だ、だいじょうぶ……だいじょうぶ……。……もう一回!」

 

「少し……休んだ方がいいんじゃないか?ほら、もう五日もぶっ続けだし……」

 

すぐさま立ち上がって再び挑もうとする千歌に、未来はおろおろとした様子で制止しようとした。

 

日に日に増えていく千歌の生傷が彼の心を抉る。

 

「ううん、まだ大丈夫。もうちょっとで……掴めそうで……」

 

「地区大会まであと、二週間なんだよ?ここで無理して怪我したら……」

 

「うん、わかってる。……でも、やってみたいんだ」

 

曜から言葉をかけられても彼女の表情は曇らない。

 

ただまっすぐ、この先にある未来(ライブ)を見据えている。

 

「私ね……一番最初にここで歌った時に思ったの、みんながいなければ何もできなかったって。ラブライブ地区大会の時も、この前の予備予選の時も、みんなが一緒だったから頑張れた。学校のみんなにも、街の人達にも助けてもらって、だから……一つくらい恩返ししたい」

 

彼女は止まらない。きっと誰に何を言われようと続けるだろう。

 

「怪我しないように注意するから、もう少しやらせて!」

 

そう言って再び位置に戻ると、練習を再開する。

 

「……ほんと、頑固なところがそっくりね」

 

腕を組んだステラが肩をすくめ、未だ成功する気配のない千歌の姿を見つめた。

 

 

◉◉◉

 

 

夕暮れ時の海岸。

 

諦めずに練習を続ける千歌の影が砂浜に映り、くるりと回ろうとしては転げ落ちる。

 

「手をついたらすぐに視線を地面に固定して……それから勢いよく振り上げる。その後は素早く空中で足を揃えて————」

 

「ふむふむ……」

 

「わかってる?」

 

「未来くんよりわかりやすい!」

 

「悪かったな、脳筋で」

 

何度も戦っているうちに自然と身体にコツが染み付いて、精度はともかくロンダートやバク転程度ならメビウス抜きでもできるようになったが……。

 

未来は教えることに向いていない。やはりこういうレクチャーはステラに限る。

 

「……いっつ……!」

 

「……!」

 

千歌が転ぶ度に身体に電撃のような緊張感が疾る。

 

ひたすらに失敗を積み上げていく彼女の姿を見守りながら、ステラはふとこぼした。

 

「……どうしてあんなに頑張れるのかしらね」

 

「…………普通怪獣」

 

「え?」

 

不意にそう語り出した未来を見やる。

 

「普通怪獣ちかちー……って自分のこと思ってるからさ、あいつ」

 

以前にも何度か聞いたことのある自称。

 

普通星人、普通怪獣。そんな自虐混じりのあだ名。

 

……でも眺めていただけのこれまでとは違う、自分の手で掴み取りたいものが出来た今、千歌は必死に前へ進もうとしている。

 

普通から脱却するために。他のみんなと肩を並べるために。

 

今度こそは、今度こそはと……。

 

 

 

————力が、あれば……!

 

 

 

「…………その気持ちも、一応わからないわけじゃないから。何かを乗り越えるために、頑張りたいってことも……」

 

最善を尽くすために賭けに出るのも、無茶をするのも、みんな————

 

「……今更、な話ね」

 

「……そうだな。とっくに普通を超えてるよ、千歌は」

 

座り込み、夕日に手を伸ばす千歌。

 

少し離れたところで見守っていた曜と梨子、そして果南だったが……。

 

「……千歌」

 

「……果南ちゃん?」

 

歩み寄ってきた果南に、千歌のきょとんとした表情が向けられる。

 

「……約束して。明日の朝までにできなかったら、諦めるって」

 

それは千歌のためを思って、そして果南自身のけじめも含めた言葉だった。

 

「よくやったよ千歌。……もう限界でしょ?」

 

「果南ちゃん……」

 

かつて自分が挑戦した技だからこそ言える。体操等を習っていたのならともかく、経験もない千歌がやるには難易度が尋常ではない。

 

「…………っ」

 

強く拳を握りしめ、去っていく果南の背中へ悔しそうな視線を向ける千歌を見て、未来はとあるやりとりを思い出す。

 

————千歌ちゃん、やめる?

 

————やめないっ!!

 

彼女は決して諦めないだろう。

 

時間までに間に合うように、そして成功するように、千歌は最後まで続けるだろう。

 

……それなら、

 

「……俺が、するべきことは……」

 

今までと何ら変わらない。

 

……信じるんだ、千歌を。必ずこの技を自分のものにすると信じて、待つんだ。

 

それがマネージャーとして……日々ノ未来としてやれることの全てだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果南にタイムリミットを告げられたその夜、千歌は再び外に出ては一心不乱に特訓を続けていた。

 

曜や、後からやってきた梨子も、少し離れた場所にある階段に腰を下ろして彼女を見守っている。

 

「あぁ……!もうっ!!」

 

何度挑戦しても、幾度飛んでも決まらない。

 

やがてそれは小さな怒りとなって、千歌の心を燻らせた。

 

拳の衝撃が砂の大地に消え、彼女は静かにこぼす。

 

「どこがダメなんだろう……私……」

 

悔しくて悔しくて、自分に問いてもわからない。

 

傍で眺めていた未来も自らの手を強く握りしめる。

 

「……ステラ」

 

「教えられることはもうないわ。最初の勢いも、足を揃えるタイミングもいい。……でもそこから繋げられるかどうかは……」

 

本人次第。

 

この系統の技は教えられたからといってすぐにできるわけじゃない。最終的に信じられるのは自分自身の感覚。

 

だが一度成功しさえすれば……きっとコツは掴める。

 

「「千歌ちゃん!」」

 

駆け寄ってきた梨子と曜が大の字で倒れた千歌を励まそうと、彼女の手を握った。

 

「焦らないで、力を抜いて、練習通りに……」

 

「梨子ちゃん……」

 

「できるよ、絶対できる!……頑張って!」

 

「見てるから」

 

「うん!」

 

二人に背中を押され、消えかけていた情熱が再燃する。

 

「「「千歌ちゃーーーーん!!ファイトーーーー!!」」」

 

不意にかけられた応援の言葉に反応して振り向くと、いつの間にかやってきた一年生三人が視界に入った。

 

スゥ、と息を溜め、未来も負けじと声を張る。

 

「頑張れ千歌ーーーー!!」

 

みんなの声援を背に、千歌は再び地面を蹴り————

 

「ふっ……!」

 

地面スレスレで回転しかけた千歌は、そのまま吸い込まれるように背中で着地した。

 

……失敗だ。

 

「なぁあああ!できるパターンだろこれぇ!!」

 

抑えきれない悔しさを吐き出す千歌。

 

「なんでだろ……なんでできないんだろ……?梨子ちゃんも、曜ちゃんも、未来くんも、ステラちゃんもみんな……!こんなに応援してくれてるのに……!」

 

泣かないように目元を腕で押さえながら、千歌は自分に言い聞かせるように口にした。

 

「やだ……やだよ!私、何もしてないのに!何もできてないのに!」

 

「……!そんなこと————」

 

「ピー!ドッカーン!!ズビビビビビビーーーー!!普通怪獣ヨーソローだぞぉ!!」

 

「おっと好きにはさせぬ!リコッピーもいるぞー!」

 

痛ましい彼女の姿を見て立ち上がりかけた未来の言葉を遮り、何やら賑やかな騒音が聞こえてきた。

 

「え、えっと……普通戦士ミラトラマ————」

 

「無理して乗らなくていいから」

 

おちゃらけたポーズをとる梨子と曜に続こうとしたところでステラに止められた。

 

「……まだ自分を普通だと思ってる?」

 

曜の問いに自然と目を伏せる千歌。その沈んだ様子からして肯定しているのだろう。

 

「普通怪獣ちかちーで、リーダーなのにみんなに助けられて、ここまで来たのに自分は何もできてないって。……違う?」

 

「だって……そうでしょ?」

 

「千歌」

 

ゆっくりと歩み寄ってきた未来を見上げ、千歌は何かと首を傾ける。

 

「どうしてみんながここにいるのか……覚えてるか?」

 

「え?」

 

彼女が感謝しているのは街の人や学校の友達、そして他のAqoursのメンバーみんなに対して。

 

……そう、最も重要なものが欠けている。

 

「始まりは突然だった。……誰かが誘わなきゃ、スクールアイドルをやろうとも、それをサポートしようとも思わなかったはずだ。……そう、()()()だ」

 

「……それは……」

 

口ごもる千歌に対して、曜と梨子も続いて声をかける。

 

「千歌ちゃんがいたから私は……スクールアイドルを始めた」

 

「私もそう。……みんなだってそう」

 

「他の誰でも……“今のAqours”は作れなかった。……千歌ちゃんがいたから、今があるんだよ。そのことは……忘れないで」

 

波の向こう側で昇ろうとしている太陽が砂浜を照らす。

 

……自らを普通だと決め込んでいる人間が、それ以上のことをやり遂げようとしているなんて、ものすごい勇気が必要だ。

 

千歌のなかで、以前誰かに言われた言葉が蘇った。

 

————それは“普通”を超えている。胸を張っていいと思う。

 

「恩返しなんて思わないで。みんなワクワクしてるんだよ?……千歌ちゃんと一緒に、自分達だけの輝きを見つけられるのを」

 

道路の方で立っていたルビィや花丸、善子もこちらへ駆け寄ってくる。

 

集まってきた彼女達の身体にはあちこち、千歌と同じような、練習で出来たであろう傷が見えた。

 

「みんな……」

 

「新たなAqoursのウェーブだね」

 

日の光が顔を出す直前の刻。

 

やってきた鞠莉、ダイヤ……そして果南が与えられた練習時間の終わりを告げた。

 

「千歌、時間だよ。準備はいい?」

 

「……っ!」

 

皆が並び、作られた道のなかを千歌は駆け抜ける。

 

「…………ありがとう、千歌」

 

最後のチャンス。

 

今まで練習してきた経験の全てを————この一瞬に乗せて、

 

 

 

 

千歌は飛んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

     ーーMIRACLE WAVEーー

 

 

軽快なイントロと共にAqoursのライブが始まる。

 

ラブライブ地区予選。以前彼女達が突破できなかった壁。

 

未来は観客席に座り、サイリウムを手にしながら一言嘆いた。

 

「だからさぁ……なんでお前が隣の席なんだよ!?」

 

「ははは、こんな偶然もあるもんだなあ」

 

黒いコートに身を包んだ青年が右で笑う。

 

この男————ノワールは本当に神出鬼没だ。以前のライブに続いて今回も隣り合わせとは。

 

……ステラとヒカリは少し離れた席にいるが、いざとなったらテレパシーで————

 

未来は自分の運の悪さを憎みながらステージ上に視線を戻した。

 

千歌達の歌を聴きながら、ノワールに対して小さく言う。

 

「……この前は、助けてくれてありがとう」

 

「……へえ?」

 

意外そうな顔から一気ににやけ面へと表情を変えたノワール。

 

「どういたしまして」

 

「……どうして俺達を助けた?」

 

「ファンだから……ってだけじゃダメかな?」

 

「納得できるか!!」

 

奴は勿体ぶるように微笑んだ後、ステージに目線を固定したまま口を開いた。

 

「ボクの目的は変わらない。君達が生み出す最高の輝き————究極の光をこの目で見ることだけさ」

 

『……その究極の光っていうのも、いまいち僕らにはわからない』

 

メビウスの問いに対しては脱力したように肩をすくめた後、静かに答えた。

 

「ボクだって知らないよ。ていうか知ってたらあんな回りくどいやり方はしなかったよ」

 

あんな、とは以前までの自身の行動を言っているのだろう。

 

ノワール自身も知らない。だけど確かに存在する大きな力————それが究極の光。

 

「「……あ」」

 

未来とノワールの声が自然と重なる。

 

千歌が見事にロンダート、そしてバク転への繋ぎを成功させたのを見て胸をなでおろした。

 

「……お見事。大事にならなくてよかったよ」

 

小さく拍手をしながらそう言うノワールに、未来は不意を突くように語った。

 

「……まあ、そうだよな。欠片が地球人全員に宿っていることは、お前も知らなかったみたいだし」

 

「……なんだって?」

 

一転して目を見開いたノワールがつぶやく。

 

と同時に音楽が止まり、千歌達のライブは幕を閉じた。

 

「それは……つまり」

 

「ただそれを引き出せる人間はごく稀。……まあ、お前が以前まで言ってた仮説となんら変わりない」

 

「……いや、全然違うよ」

 

「へ?」

 

今度は未来が目を丸くしてノワールの顔を見た。

 

「地球人が既に全ての光の欠片を宿しているとすれば——当然、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ」

 

「……あ」

 

盲点だった。

 

地球人にあらかじめ光の欠片が揃っているとすれば————複数の予言に当てはまる人物も存在する。

 

「ああ、そうか……」

 

ノワールは静かに笑うと、何も言わずに席を立った。

 

「……今度何かしでかしたら承知しないからな」

 

「何度も言ってるだろう。ボクにもうそんな力はないさ」

 

会場から出て行こうとするノワール。

 

観客席にある階段を上っていく途中、過去の記憶を思い出しながら彼は微笑んだ。

 

「……そうか、()()()()()()()()()()()()

 

光の欠片のうち、十の光は他の九つを束ねる力を持つと言われている。

 

……一と十。二つの輝きを持った少女の笑顔が脳裏によぎった。

 

「ボクは既に……究極の光ってのを見ていたのかもしれないな」

 

自分が誰の視界にも収まっていないことを確認し、ノワールは黒霧となってその場を去っていった。

 

 

 




最後にさらっと過去の真実が明らかになったところで、6話パート終了。
何やら満足げにその場を後にしたノワールでしたが……?

今回の解説です。

まだまだ謎が多い究極の光。エンペラ星人に対抗できるといえば凄まじい力ですよね。
原作メビウスの終盤でエンペラ星人を倒したのは、ウルトラマンと地球人との絆でした。果たして今作ではどのような形でそれが描かれるのか……。

次回からは7話に入ります。


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第82話 足掻いた先に


7話に入りました。
アニメでは廃校問題について関わる重要な回でしたね。


『それでは皆さん!!ラブライブ、ファイナリストの発表でーーーーす!!』

 

マイク越しのハイテンションな声が結果発表の時間を告げる。

 

ステージに立つ出場者達、そして彼女達を応援していた観客席の人達。

 

会場内にいた全ての人間が、息を呑んで巨大なモニターに視線を注いだ。

 

(決勝へ進めるのは……たったの三組だけ……!)

 

自然と手に汗がにじみ、身体に力が入る。

 

様々な色のグラフが上昇していく演出のなか、水色の線が驚異的な速度で走っているのが見えた。

 

(頼む……!)

 

『上位三組はぁ……!このグループですっ!!』

 

思わず瞳を閉じてしまった未来だが、周囲から湧き上がった歓声にあてられてすぐにモニターを視界に入れた。

 

「……あ、くあ」

 

金、銀、銅と三つのグループ名が上に表示されている。

 

一位のところに表示されている名前は、「Aqours」だ。

 

何度も目をこすって確認した後、未来は溜め込んでいた想いを爆発させた。

 

「いよ…………っしゃああああああ!!」

 

大きく拳を突き上げた未来に周りの観客の視線が集まる。

 

そのなかにステラの冷たい瞳が混ざっているのを見て我に返った未来は、小さな声で謝った後に再び腰を下ろした。

 

『やったね、千歌ちゃん達』

 

「みんなの努力が報われてよかったよ」

 

あれだけ練習したんだ、結果が出た時は嬉しいに決まってる。

 

ステージ上で喜ぶ千歌達の姿を見下ろし、未来は目尻に浮かんだ涙を手で軽く払った。

 

 

◉◉◉

 

 

「緊張で何も喉が通らなかったずら……」

 

「あんたはずっと食べてたでしょ!」

 

制服に着替えた千歌達が安心した様子でしみじみと感傷に浸る。

 

「それにしてもアキバドームかあ……!」

 

「どんな場所なんだろうね」

 

それぞれでいい曲を作りたい、ダンスや衣装をもっと頑張りたいと、早速次のライブでの話題が飛び交う。

 

「みんな張り切ってるな」

 

『……ん?あ、あれ!』

 

「どうしたメビウス————」

 

ふと横に顔を向けると、大きなモニターに映る千歌達の姿が目に飛び込んできた。

 

衣装からして先ほど行われたライブの映像だろう。

 

五万近くなっても次々と増えていく視聴回数の数字に驚愕し、声を上げるルビィ達。

 

「本当……こんなにたくさんの人が……」

 

「……正真正銘、千歌達みんなが勝ち取った数字だな」

 

ゼロなんてものとはほど遠い、さらなる高み。

 

前回突破できなかった壁を、彼女達はぶち破った。

 

「生徒数の差を考えれば当然ですわ。これだけの人が見て、私達を応援してくれた」

 

「……あっ!じゃあ入学希望者も!」

 

弾かれたように鞠莉のもとへ皆の視線が集まる。

 

言われるまでもなく、と彼女は既に入学希望者数の確認画面を見ていた。

 

「どうしたのよ?」

 

「うそ、まさか……」

 

鞠莉の口から絞り出すような声が漏れた。

 

「携帯、フリーズしてるだけだよね?昨日だって何人か増えてたし……。まったく変わってないなんて……」

 

「鞠莉ちゃんのお父さんに言われてる期限って、今夜だよね!?」

 

不安そうに尋ねるルビィに続くように、皆の表情が曇っていく。

 

重苦しい雰囲気を壊すように、ダイヤの柔らかな言葉が通った。

 

「大丈夫、まだ時間はありますわ。学校に行けば正確な数はわかりますわよね?」

 

「……うん」

 

「よしっ!」

 

小さく手を広げた千歌は、いつもと変わらぬ笑顔でみんなに向けて言った。

 

「帰ろうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってて」

 

夜八時に学校へ到着したAqours。

 

正確な数字を確認するため、パソコンを操作する鞠莉を食い入るように眺める。

 

「どう?」

 

「……変わってない」

 

「そんな……」

 

「まさか……天界の邪魔が!?」

 

相変わらずな善子に花丸とルビィの冷えた視線が刺さる。

 

現在の希望者数は八十。統廃合の話が無くなるまで、あと二十人。

 

「……じゃあ、あと四時間で……?」

 

「Aqoursの再生数は?」

 

「ずっと増え続けてる」

 

視聴回数と入学希望者数は、当然ながら一致するものじゃない。

 

……どこかで必ず限界が生じる。Aqoursと浦の星の、認識の差が。

 

「……パパに電話してくる」

 

おもむろに立ち上がった鞠莉と、続くようにダイヤが部屋を出る。

 

やり場のない緊張感と不安を内に留めたまま、千歌達は理事長室で過ごすこととなった。

 

 

◉◉◉

 

 

「遅いな……鞠莉さん」

 

かれこれ一時間経った、夜の九時。

 

何度もパソコンを確認しては彼女の吉報を待つのみだ。

 

「向こうは早朝だからね。なかなか電話が繋がらないのかもしれないし——」

 

不意に扉が開かれ、微かに笑みを浮かべた鞠莉が前で手を組んで現れた。

 

「ウェイティングだったね」

 

「お父さんと話せた?」

 

「うん、話した。決勝に進んで、再生数がすごいことになってるって!」

 

「それで……?」

 

梨子の質問にはすぐ答えず、代わりに同行していたダイヤが口を開いた。

 

「なんとか明日の朝まで延ばしてもらいましたわ。……ただ、日本時間で朝の五時。そこまでに百人に達しなければ、募集ページは停止する、と」

 

「最後通告ってことね」

 

さすがにこれ以上は限界のようだ。

 

もともとあった期限がここまで引き伸ばされたんだ、鞠莉と彼女のお父さんがやってくれたことは計り知れない。

 

ふとかけてあった時計を確認する千歌。

 

「でも、あと三時間だったのが八時間に延びた」

 

「わあっ!今、一人増えた!」

 

興奮しながら報告してきたルビィを見て、ほんの少しだけ皆の緊張がほぐれる。

 

「やっぱり……!私達を見た人が、興味持ってくれたのよ!」

 

「ああ、このままいけばきっと……!」

 

その時、脇目も振らずに駆け出した千歌がドアノブに手をかけ、早口気味な口調で言った。

 

「千歌……!?どこ行く気だ!?」

 

「駅前!浦の星をお願いしますって、みんなにお願いして……それから……!」

 

明らかに焦燥に駆られている彼女を見て、そばに立っていたステラが落ち着かせようと声をかけた。

 

「……今からじゃ無理だと思うけど」

 

「じゃあ!今からライブやろ!?それをネットで————」

 

「準備してる間に朝になっちゃうよ?」

 

「そうだ————!」

 

振り向き、さらなる行動に出ようとする千歌のもとへ曜が走り、抱きつくかたちで彼女を制止させた。

 

「落ち着いて!……大丈夫、大丈夫だよ……!」

 

「……でも、何もしないなんて……!」

 

「安心しなさい。あなた達のライブは、きっと学校の助けになってくれる。客席から見てたわたしが言うんだもの」

 

普段のステラからは想像できない、根拠のない励まし。

 

みんなわかってる。……そうするしか、信じるしかないからだ。

 

「……そうだよね。あれだけの人に見てもらえたんだもん。……だいじょぶ、だよね」

 

「さあ、そうとなったら皆さん帰宅してください」

 

話がひと段落ついたところでダイヤからの指示が出る。

 

それを聞いたみんなはそれぞれ不安な表情に変わった。

 

「帰るずらか?」

 

「なんか一人でいるとイライラしそう……」

 

「落ち着かないよね、気になって……」

 

「だって?」

 

皆の様子を予想していたかのように果南がダイヤへ視線を流す。

 

「仕方ないですわね」

 

「じゃあ、いてもいいの!?」

 

「皆さんの家の許可と……理事長の許可があれば」

 

ちら、と目を横にいる鞠莉に向けたダイヤ。

 

当たり前だ、とでも言うように彼女は即答した。

 

「もちろん!みんなで見守ろう?」

 

「わあっ!また一人増えた!」

 

嬉しそうにパソコンを抱えて立ち上がったルビィにつられ、千歌達もまた空気が和らぐのを感じた。

 

「……っと」

 

「未来くん?」

 

唐突に腰を上げて扉のもとへ歩み寄る未来に反応し、何事かと声をかける千歌。

 

「ちょっと屋上で、外の空気吸ってくる」

 

「えー?ここにいようよー!」

 

「ずっとここで座ってたら緊張で胃がやられそうだからな」

 

冗談混じりのセリフを飛ばした後、ドアを開けて廊下に出る。

 

理事長室よりもほんの少し冷たい空気に眉をひそめながらも、未来は階段の方向へ足を踏み出した。

 

 

◉◉◉

 

 

夜風に当たりながら未来は目を閉じ、塀に寄りかかる。

 

「……百人、集まると思うか?」

 

『大丈夫だよ!千歌ちゃん達も……未来くんやステラちゃんだって、一生懸命頑張ってきたんだから!』

 

「こういう時には頼もしいよ、メビウス」

 

『褒めてる……?』

 

強張っていた身体が少しだけ緩み、未来はその場で塀に背中を預けつつ腰を下ろした。

 

「……前にステラに言われただろ、“学校のこと好きか”って」

 

『……うん、聞かれてたね。未来くんは“好きだよ”って答えてた』

 

「ああ、そうだ」

 

地面に顔を向けながら話す。

 

最近疲れているのか、情けない考えがよく頭に浮かんでくるのだ。

 

「俺は怪獣や宇宙人と戦ってるせいで、好きなこの学校に対しては何もしてやれてないなって……ちょっと悔しい」

 

ゆっくりと地べたに触れ、撫でるようにして感触を確かめる。

 

色んな人達が踏んできた、歴史のある校舎。

 

「だからその分は千歌達に任せて、俺はそのサポートをすれば満足って思ってたけど……なんか、今になってもやもやした気持ちが出てきてさ」

 

一人の生徒として、大切な人達と巡り会わせてくれた浦の星学院に感謝している。

 

生き物のような言い方だが、別に語弊ではない。

 

『……マイナスエネルギー、だね』

 

「え?」

 

『人がもたらす負の感情のことだよ。それが集まって怪獣を生み出してしまうケースもあるみたいだよ』

 

メビウスの話によれば生き物以外にも建築物、無機物等がマイナスエネルギーを発することもあるのだという。

 

「もしかしたらこの学校も、統廃合が悲しくて……怪獣とか生み出しちゃうかもな」

 

冗談半分でそう言ってみるも、後から自分が心の奥底でその仮説を信じていると未来は察した。

 

『あはは、どうだろうね。僕もまだ新人の身だから、詳しいことはよくわからないんだ』

 

最後に「戦いが終わったら勉強し直さないと」と、死亡フラグじみた言葉を口にするメビウス。

 

もしもこの学校が意思を持っていて、自分が統廃合になるとわかっているのなら————マイナスエネルギーを発してしまうのだろうか。

 

「ん?」

 

ふと階段の方へ視線を向けると、ひらひらと手を振って笑いかけてくる千歌の姿が見えた。

 

「来ちゃった」

 

真横に座る彼女からほんの少しだけ距離をとり、何気なく尋ねる。

 

「……みんなの様子はどう?」

 

「そわそわしてるけど、余裕はあるみたい。梨子ちゃんなんかお腹鳴らしちゃってさ!ルビィちゃんと花丸ちゃんと善子ちゃん、あとステラちゃんが買い出しに向かったよ」

 

「……ぷっ!梨子にしては珍しいな、俺もその場にいればよかった」

 

声を抑えて笑いを交わすも、すぐに意気消沈。曇った表情が浮き出てくる。

 

「……ねえ、さっきの話」

 

「……?」

 

「マイナスエネルギーとかいう……」

 

ぎくり、と肩を揺らす未来。

 

聞かれていたのか、と少々顔を引きつらせた。

 

「こんなこと言うのは変かもしれないけど……この学校は、私達の活動を嬉しく思ってくれてるのかな……?統廃合は嫌だって、思ってるのかな……?」

 

「……同じこと考えてたよ」

 

オカルトじみた話だが、こんな状況に置かれてみると気になってしまうものだ。

 

この学校の意思が、想いが。

 

千歌達の頑張りが————きちんと伝わっているのかどうか。

 

「それを聞くためにも……この学校には長生きしてもらわなきゃな!」

 

ニッと半ば無理やり笑って見せた未来を見て、千歌は一瞬頬を染める。

 

「……うん、そうだね」

 

 

◉◉◉

 

 

「九十四人……」

 

「あと……六人か」

 

あと少し。あと少しなんだ。だけどタイムリミットの五時まであと一時間もない。

 

千歌はパソコンを両手に取り、祈るように繰り返した。

 

「……お願い。……お願い……!お願いお願いお願い……っ!お願い!!」

 

「……っ」

 

未来は彼女の隣に立ち、画面を覗き込んでは同じように願った。

 

「頼む……あと少し……!あと少しなんだ……!あとちょっとで救えるんだよ……!!」

 

「千歌ちゃん……未来くん……」

 

増えない数字を睨み続ける。意味のない行為にも意味があると信じて行う。

 

ふと傍に視線を外せば、安らかな表情で目を瞑る曜の姿があった。

 

「……さすがの曜ちゃんも睡魔には勝てないか……」

 

「寝てないよ。……けど、待ってるの、ちょっと疲れてきた」

 

パチリ、と目を開けてそう口にする曜。

 

「みんなも少し外に出てみたらどうだ?頭がすっきりするよ」

 

「いいね、気分転換に行こうか」

 

「私はもう少し見てるね」

 

果南、千歌、梨子、曜は伸びをしながらドアを開く。

 

未来も続こうと最後尾を歩くが、ドアが閉まる最後まで机に置かれたパソコンの画面を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あと六人!お願い!!」

 

「……お願いしますっ!」

 

プールサイドのそばにある階段に立ち、千歌と曜は並んで手を合わせた。

 

「おぉーーーーーーい!!」

 

唐突に立ち上がった果南が口元に手を添えて叫ぶ。

 

反響した彼女の声が山彦のごとく返ってきた。

 

「浦の星は、いい学校だぞぉーーーーーーーー!!」

 

「おーーーーい!!絶対後悔させないぞーーーー!!」

 

「みんないい子ばっかだぞーーーー!!」

 

夜通し起きてたというのに元気一杯な様子だ。

 

未来も何か叫ぼうかと考えていたところで、背後から第四波がやってくる。

 

「私がーーーー!保証するーーーーーーッ!!」

 

梨子が声を張り上げると、静かだった空間に一時の笑いが飛び交った。

 

「……ふふっ保証されちった」

 

「私の保証は間違いないわよ!」

 

「違いないや」

 

どっと湧いた笑いの渦を遮るように————

 

 

 

 

 

「千歌ちゃん!来て!!」

 

その時間はやってきた。

 

ルビィが呼んだのを聞き、反射的に身体が理事長室に向かう。

 

息を呑む暇もないまま目的地に着いた千歌達は、急いでパソコンの画面を確認する。

 

「……あと三人!」

 

現在の人数は九十七。目標の百まであと本当に……本当に少しだ。

 

あと数歩、もう一踏ん張りあれば————!

 

「でも……時間はもう……」

 

「お願い!…………お願いッ!!」

 

神様に祈るなんて、今まで本気でしたことはなかった。

 

でも、今は————

 

(頼む、神様……!どうか俺達の学校を……!みんなを……!)

 

————救ってください。

 

「九十八!!」

 

「よし……!あと二!」

 

「時計は?」

 

「大丈夫!大丈夫……絶対に届く!」

 

あと二。たったの二だぞ。

 

あと一歩。たったそれだけあればこの学校を救えて、みんなの努力も報われて————

 

全部…………全部、笑って喜べるっていうのに。

 

「……届け」

 

「……届く!」

 

「……届け……!」

 

「届く!!」

 

「届け!!」

 

カタン、と時計の針が動く音。

 

五時になったことを知らせられた直後————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学希望者数は、()()()()()()()()()()()()()へ変わり、

 

浦の星学院の統廃合が、正式に決定した。

 




放送当時も視聴して驚きましたが、G's設定のサンシャインは最初から廃校が決定していますからね。
やはりアニメでもそれに合わせた展開になったのでしょうか。

今回の解説です。

マイナスエネルギーについての言及がありました。
原作のメビウスでは80登場の回に統廃合が決定した学校からマイナスエネルギーが放出され、生徒達と80をもう一度会わせてあげるために怪獣を呼び出していましたね。
詳しくは話せませんがそれを基にしたエピソードも書く予定です。
具体的には11話パート辺りに……。
(今作の設定的に80が登場するのは難しいかもしれませんが。)

それでは次回もお楽しみに。


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第83話 救うカタチ


7話後半です。
この辺りから物語が終局へと向かっていきます。


『浦の星学院は次年度より、沼津の高校と統合することになります。皆さんは来年の春より、そちらの高校の生徒として、明るく元気な高校生活を送ってもらいたいと思います』

 

全校生徒の前で伝えられる、あまりにも哀しい報告。

 

マイクを通して聞こえる鞠莉の声も、どこか無理しているような明るさが感じられた。

 

やれることはやった。精一杯頑張った。

 

————その結果が、これだ。

 

受け入れたくない現実が千歌達の心を傷つけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ちゃん。次、移動教室だよ」

 

「あぁ……そっか」

 

「大丈夫か?さっきからぼーっとして」

 

窓の方を向いて上の空な表情を作っている千歌に曜と未来が声をかける。

 

「千歌!」

 

「いよいよ決勝だね!ラブライブ!」

 

「このまま優勝までぶっちぎっちゃってよー!」

 

「また良い曲聞かせてね!」

 

駆け寄ってきた友達の声も抜け落ちていっているような、中身のない笑顔を浮かべる千歌。

 

ガタン、と椅子を引いて立ち上がった千歌に皆の驚いたような視線が集中した。

 

「そうだよね!優勝目指して頑張る!」

 

不自然な笑顔。それに気づいているのは、その場にいる曜と未来————そして、廊下でその様子を聞いていた梨子だった。

 

 

◉◉◉

 

 

「学校が統合になったのは残念ですが、ラブライブは待ってくれませんわ」

 

「昨日までのことは忘れ、今日から気持ちを新たに、決勝目指して頑張ろう!」

 

「もちろんよ!五万五千のリトルデーモンが待つ魔窟だもの!」

 

「みんな善子ちゃんの滑り芸を待ってるずら」

 

「ヨハネ!」

 

皆が無理やり元気を出して練習に臨もうとしている光景を、未来とステラは少しだけ離れた位置で眺めていた。

 

「……何よあなたまでうじうじして、昼は平気だったじゃない」

 

「…………」

 

空の方を向いて一点を見つめる未来。

 

すぐに気持ちの整理がつくわけがない。それはみんな同じだ。これ以上落ち込んでばかりじゃいられないのもわかってる。

 

…………けど、

 

「……あとたったの二だったんだぞ?一日とは言わない、あと数分あれば————」

 

虚しいことを言ってるうちに悲しくなった未来は、それ以上口にするのをやめた。

 

「……なるようにしかならない。確かにその通りだな」

 

小さくこぼした未来の言葉を聞いて、ステラは少々怒気を孕んだ声で言った。

 

「それは物事を諦めて思考停止した奴が最後にこぼす言葉よ。……みんなはわたしとは違う。まだラブライブっていう目標が————」

 

「勘弁してくれよ」

 

震えた声を絞り出した未来の横顔を見て、ステラは思わず目線を彼から外した。

 

「…………ごめんなさい」

 

「……でも、お前はいつも正しいよ。冷静で、的確で、迷いがなくて……俺なんかとは大違いだ」

 

 

 

「そ、それに!お姉ちゃん達は、三年生はこれが最後のラブライブだから……だから……だから……!絶対に!優勝したい!」

 

向こうから聞こえてくる芯の通った声音に反応し、顔を上げる。

 

彼女達の背中を押すのは自分達だ。辛くても……前に進まなきゃならない時がある。

 

「……ほら」

 

「……あーもう、こうなったらヤケだ!」

 

優勝するぞ、と意気込んでいる皆のところへ戻り、未来とステラは指示を出す。

 

「じゃあ、アップを始めましょうか」

 

「ライブが終わったばっかりだし念入りにな」

 

おー!と声を上げたみんながそれぞれ位置につき、いつも通りのメニューを始めていく。

 

「イチニ、サンシ、ニーニ、サンシ!」

 

気を紛らわすために未来とステラも輪に加わり、同じようにストレッチを開始。

 

この数秒間だけは笑顔を維持できた。身体を動かしているうちは、なんとか嫌なことを忘れられる。

 

————そう考えているのは自分だけではないと……未来は勝手に思い込んでいた。

 

「…………!」

 

何気なく目を向けた先にあった千歌の顔が視界に入る。

 

頬を伝う一筋の雫が、笑っている彼女の顔を濡らしている。

 

「……千歌」

 

「……?どうしたの?」

 

みんなそれに気がついたのか。手を止め、棒立ちの状態で千歌に心配そうな瞳を向けた。

 

伝染していくように次々と皆の笑顔が消え、きょとんとした表情の千歌が首を傾ける。

 

「みんな……?」

 

「今日は……お休みにする?」

 

気の毒そうに尋ねてきたステラは、気まずい雰囲気のなかやり場に困った手を腰に当てていた。

 

「えっ……なんで?平気だよ!」

 

「ごめんね……無理にでも前を向いた方がいいと思ったけど……。やっぱり、気持ちが追いつかないよね」

 

「そんなことないよ。ほら、ルビィちゃんも言ってたじゃん!鞠莉ちゃん達最後のライブなんだよ!それに……!それに……!!」

 

「千歌だけじゃない」

 

果南が千歌のもとへ歩み寄り、彼女の手を握っては視線を交差させる。

 

「みんなそうなの」

 

「ここにいる全員……そう簡単に割り切れると思っているんですの?」

 

「やっぱり……私はちゃんと考えた方がいいと思う。本当にこのままラブライブの決勝に出るのか、それとも……」

 

固まった表情のまま、千歌はみんなの顔を見渡していく。

 

その誰もが心の傷を引きずっているような顔のままだった。

 

「……そうですわね」

 

「まっ……待ってよ!そんなの出るに決まってるよ!決勝だよ!?ダイヤさん達の————」

 

「本当にそう思ってる?自分の心に聞いてみて。……ちかっちだけじゃない、ここにいるみんな」

 

 

◉◉◉

 

 

自宅に帰り、ベッドに倒れこんだ未来が呻き声にも似た音を出す。

 

『……大丈夫?』

 

メビウスの声も右から左へ通り過ぎ、頭のなかにあるのは先ほど鞠莉達に言われたことだけ。

 

「……学校を救う。……“救う”ってなんだ……?」

 

ごちゃごちゃになった思考は一向にまとまる気配がなく、終始未来の平静を奪ってくるのだ。

 

 

 

————起こしてみせる!奇跡を絶対に!……それまで、泣かない!泣くもんか……!

 

 

 

(……ここまで順調に進んできたと思ってたのになあ……)

 

今日の千歌の涙は、未来の心にも大分くるものがあった。

 

学校を救いたい。

 

諦めきれない思いが胸のなかで疼いている。

 

……どうにかして、彼女を————

 

「……!」

 

ベッドから上半身を起こし、未来はふと浮かんだ単語をつぶやく。

 

「……ラブライブ……学校……優勝……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

屋上に集まった千歌達は、すっかり心の整理がついたような表情でその場に立っていた。

 

「……結局、みんなここに来るんだな」

 

「出た方が良いっていうのはわかる」

 

「……でも、学校は救えなかった」

 

「なのに、決勝に出て……歌って」

 

「たとえそれで優勝したって……」

 

未来が薄々思っていた通り、皆の意見は一致していた。

 

学校を残すという目的は果たせなかった。故にこのままラブライブに出ても意味はない————と、

 

(……でも、俺はやっぱり……)

 

塀に寄りかかる千歌の背中を見る。

 

今回の出来事だけで、随分と弱々しく見えるようになってしまった。

 

「確かにそうですわね」

 

「でも、千歌達は学校を救うためにスクールアイドルを始めたわけじゃない」

 

「……輝きを探すため」

 

「みんなそれぞれ、自分達だけの輝きを見つけるため。……でも——」

 

「見つからない」

 

未来が鞠莉の言葉に頷きかけたところで、遮るように千歌が口を開いた。

 

「……だってこれで優勝しても、学校は無くなっちゃうんだよ?」

 

しん、と空気が張り詰めるのと同時に沈黙が訪れる。

 

ゆらりと立ち上がった千歌は、曇りきった目で言い放った。

 

「奇跡を起こして、学校を救って、だから輝けたんだ。輝きを見つけられたんだ。……学校が救えなかったのに、輝きが見つかるなんて思えないッ!!」

 

「……!待ってくれ千歌、まだ————!」

 

「私ね、今はラブライブなんてどうでもよくなってる。私達の輝きなんてどうでもいい……!学校を救いたい!!みんなと一緒に頑張ってきた此処を……!」

 

高校生の少女の、純粋な悔しさ。

 

それを一身に受け止め、未来は強く握った拳を前に掲げて声を張り上げた。

 

「だったら……!」

 

 

 

 

 

「「じゃあ救ってよ!!/だったら救ってくれよ!!」」

 

遠くから聞こえた声と重なるのを感じ、未来達は反射的に後方へと顔を向けた。

 

駆け出し、塀から顔を覗き込んで真下に広がる校庭を見下ろす。

 

「だったら救って!ラブライブに出て……!優勝して!!」

 

何人もの————いや、全員だ。

 

全校生徒が校庭に集まり、千歌達に対しての言葉を大声で伝えている。

 

「みんな……」

 

「できるならそうしたい!みんなともっともっと足掻いて!そして……!」

 

「そして!?」

 

「……そして————!」

 

詰まりかけた言葉を引き出し、千歌は声に出す。

 

「学校を存続させられたら……!」

 

少しの静寂。

 

彼女が何も言わないのを見て、みんなは————未来が言わんとしていたことを伝えてくれた。

 

「それだけが学校を救うってこと!?」

 

ハッと目を見開いて俯いていた頭を上げる。

 

「私達、みんなに聞いたよ!千歌達にどうしてほしいか、どうなったら嬉しいか!」

 

「みんな一緒だった!ラブライブで優勝してほしい!千歌達のためだけじゃない!私達のために!学校のために!」

 

「この学校の名前を、残してきて欲しい!!」

 

「学校の……」

 

思わぬ言葉にぽつり、と同じ言葉を繰り返すダイヤ。

 

力強い、生徒達の言葉を受けて————

 

「千歌達しかいないの!!千歌達にしかできないの!!」

 

「浦の星学院、スクールアイドル!Aqours!その名前を、ラブライブの歴史に……あの舞台に!永遠に残して欲しい!!」

 

「Aqoursと共に、浦の星学院の名前を!!」

 

……だから、と彼女達は何度も重ねて————

 

「「「輝いて!!」」」

 

 

皆が伝え終わったのを見て、未来は隣に佇んでいた千歌の肩を軽く叩いた。

 

「……未来くん」

 

「俺からも頼む。……この学校のことを……みんなのことを……ラブライブに刻み込んで欲しい。……みんなが“ここにいた”ってことを……!!」

 

統廃合が防げなくてもいい。

 

……だからせめて名前を。一生消えない、栄誉ある歴史の中に————この名前を……!

 

ささやかなみんなの願いを、叶えて欲しい。

 

「……千歌ちゃん」

 

「「や・め・る??」」

 

にやけた顔で揃って尋ねてきた曜と梨子に対して、千歌は震える足で地面を何度も踏みつけた。

 

「……やめるわけないじゃん。決まってんじゃん……!決まってんじゃん決まってんじゃん……!!」

 

一斉に上げた顔と広げた両腕。

 

一転して頼もしい表情へと変わった千歌は、先ほどの落ち込みようが無かったかのように輝いていた。

 

「————優勝する!!ぶっちぎりで優勝する!!相手なんか関係ない!!アキバドームも……決勝も関係ない!!優勝する!!……優勝して、この学校の名前を……!一生消えない思い出を作ろう!!」

 

この日、新たな願いを乗せて動き出す。

 

————十個の光が、新しい目標へと向かって。最高の輝きを残しに————

 

「……これまで見てきたなかで、一番強そうな“怪獣”だな」

 

天を見上げる千歌を見やる。

 

彼女の胸に————とびきり強い光が宿っているのが見えた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……おや」

 

宇宙船内の気温が凄まじく底下していることを察知し、メフィラス星人はふと声を上げる。

 

ところどころに転がる氷塊。明らかに何者かが戦った痕跡だ。

 

メフィラスは周囲に()()()()()()()()()()()()()()()ことを確認し、傍の壁に磔にされていた氷漬けの宇宙人を見た。

 

「まったく……無駄な争いはよしなさいとあれほど言ったのですがねえ」

 

参謀宇宙人デスレム————その亡骸。

 

氷結し、ひび割れた身体は痛々しくて見ていられない。

 

大方自分が留守の間に二人の幹部によって、どちらが先に出撃するかの揉め事があったのだろう。

 

まったく馬鹿な愚か者達だ。目を離した隙にこの有様とは。

 

「……ということは」

 

ヤプール、デスレムが命を落としたとなれば————残る四天王は自分を抜いてただ一人。

 

「グローザム……。どうやらウルトラセブンが潜伏している北海道という地に向かったようですな」

 

メフィラスが軽く腕を振るうと、それと連動するように氷漬けになったデスレムが粉々に砕け散る。

 

もともとグローザムは連携に向いていない。

 

「不死身の身体を持つ彼が負けるとは考えられませんが……」

 

単独行動で勝手に敵を始末してくれるならそれも良し。万が一敗北してもこちらの支障は多少の戦力を失うだけだ。

 

「……時空波で集めた“軍団”の構成は順調。決戦の時は近いですぞ」

 




まさかのデスレム退場。
そしてグローザムはかつての決着をつけるために北海道へ……?

解説いきましょう。

グローザムはウルトラ大戦争でも氷結能力で光の国の戦士達を苦しめた強敵ですね。
原作のメビウスでも一度は敗北してしまうほどの相手でした。
次回からの舞台では北海道という寒地+グローザムというかなり厳しい状況での戦闘に……?
前に一度交戦したことがあるヒカリとステラが鍵になりそうです。

次回からの8〜9話ではオリジナルの展開が多くなります。


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第84話 北の輝き

最近ほんとに寒くなりましたね。
僕のいる所は部屋の中もほっとくと10度くらいになるので……
皆さんも体調管理、気をつけてください(・・)ゝ

というわけで今回から8話、「HAKODATE」に入ります。


「どこだ……!どこにいる……!!」

 

吹雪のなか、建物の上を渡りながら移動する影が一つ。

 

……やっと見つけた。かつての戦争で相対し、仕留めることの叶わなかった相手。

 

青いフードを深く被ったそれは、怨敵の名前を繰り返しながら宙を舞った。

 

「ウルトラセブン……!!」

 

氷結の悪魔は唸る。

 

宿敵の潜んでいる位置がわかった矢先。ウルトラマンメビウスを抹殺するという目的も忘れ、男はただ過去の恨みに目を向けていた。

 

「今度こそ……俺は貴様を殺す……!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「さっっっっむ!!」

 

正面からぶつかってくる雪の嵐に抗いつつ、未来は悲鳴にも似た声を上げた。

 

視界が白く塗りつぶされ、まともに歩くこともできない。

 

「ここ……どこ?」

 

「何も……見えませんわね……!」

 

「天は……ルビィ達を……」

 

「見放したずら……」

 

「よく知ってるなそんなセリフ……」

 

厚着をしてはいるが、それすらも貫通してくるような冷たい風の槍。いや壁だ。

 

ウルトラの星には冬という季節が存在せず、寒い環境には上手く対応することができない。故にメビウスやヒカリを宿している未来とステラも今回ばかりは少々キツイのだ。

 

「……ふん、こんなの……前に喰らった冷気に比べればどうってことないわ」

 

「死ぬほど震えながら言うセリフかなあ」

 

青ざめた顔で自らの身体を抱えているステラを一瞥した後、改めて前方へと視線を向けた。

 

「なんだか眠くなって……」

 

「私も……」

 

「ダメだよ!寝たら死んじゃうよ!寝ちゃダメ!」

 

オレンジ色の覆面を身につけた千歌が膝を曲げた曜と梨子の肩を揺する。

 

「これは夢だよ……ゆめ……」

 

「そうだよ……。だって内浦にこんなに雪が降るはずないもん……」

 

「じゃあこのまま目を閉じて寝ちゃえば、自分の家で目が覚め————」

 

「……ないと思うぞ」

 

ふっと一時的に止んだ吹雪の隙をつき、目の前にある駅を見上げた。

 

函館駅、と表示されているそれは間違いなく現実のもの。……そう、

 

「ここ、北海道だし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜!はるばる来たね、函館!」

 

風も収まり、周囲の景色もはっきりしてきた頃。

 

駅前に集まった千歌達。なぜ彼女達がわざわざここまで足を運んできたのかというと————

 

「まさか地区大会のゲストに——」

 

「招待されるなんてね……!」

 

果南の手にあるチラシには「地区予選大会観覧のご案内」の文字があった。

 

ここ北海道で開催される地区予選に、なんとAqoursの九人がゲストとして招待されたのだ。

 

「……うぅ、寒い……」

 

「寒いの嫌い」

 

「曜ちゃん、もうちょっと厚着した方がいいわよ」

 

「ステラもいつものコートと帽子だけじゃキツイぞ……っていだぁ!」

 

うっすらと張られた氷のせいで足を滑らせた未来は、そのまま吸い込まれるように尻餅をついた。

 

「未来くんも雪道でいつもの靴履いてちゃダメだよ……」

 

「用意する暇がなくて……」

 

内浦の環境とは全く違った、というか正反対なそれに戸惑うばかりである。

 

異世界にでも迷い込んでしまったのかと思うほどに路面の状況から積雪に至るまで、何もかもが違う。

 

「その通りデース!」

 

「そんな時こそコレ!」

 

「「じゃーーん!!」」

 

ダイヤと鞠莉は身体を寄せ合い、揃えた片足の靴裏を見せてきた。

 

滑り止めが施された冬仕様の靴だ。

 

「これでバッチリデース!」

 

「さすがお姉ちゃん!」

 

「「これで例えこのような雪山でも、ご覧の通り!!」」

 

言った直後に穴の開いた雪山に埋もれる二人を見て呆れた顔を浮かべる千歌達。

 

「お待たせずら〜」

 

「あ、花丸ちゃ————」

 

横から飛んできた花丸の声に反応して振り向くも、彼女の異様な姿に未来は言葉を失った。

 

いつもよりひと回り、ふた回りと大きくなった身体がこちらに迫ってくる。

 

「やっとあったかくなったずら〜」

 

「花丸ちゃん!?」

 

「どんだけ着込んでるんだよ!!」

 

皆のツッコミが入った直後、バランスを崩した花丸がごろりと倒れこんでくる。

 

「ちょっおま——」

 

「「うわぁああああ!?」」

 

未来、曜、善子、ルビィの四人を巻き込んで巨大な球体と化した花丸が上にのしかかってきた。

 

「もう……」

 

相変わらず騒がしいみんなの様子を尻目に、ステラはふと上空を見上げる。

 

『……どうかしたのか?』

 

「……今、何か通ったような……」

 

じっと目を凝らして周囲を探るが、特に変わったものは見られなかった。

 

「……くしゅんっ!」

 

『大丈夫か?』

 

「……やっぱり寒いのは嫌い」

 

 

◉◉◉

 

 

ライブが始まる直前、Saint Snowの二人に挨拶へ向かおうとしていた千歌達。

 

その道中で他校の生徒から記念撮影をお願いされる等、決勝へ進むことがどれだけ凄いのか改めて感じさせられる事が多々あった。

 

「さて、未来くんは外で待っててね」

 

「へ?」

 

「バカ、女の子の控え室にズカズカ入るつもり?」

 

「あっ……そうか、了解」

 

ぽつん、とほんの少しだけ寂しそうな顔になった未来を廊下に残し、ステラは千歌達に続いて部屋の中へと足を踏み入れた。

 

「失礼しまーす……。Saint Snowのお二人は……」

 

「はい?……ああ!お久しぶりです」

 

既に白いライブの衣装に身を包んだサイドテールの少女、鹿角聖良が鏡の前にある椅子に腰掛けていた。

 

その横に座るイヤホンをつけて目を閉じているツインテールの少女は、聖良の妹である理亞だ。

 

「ごめんなさい、本番前に……」

 

「いいえ。今日は、楽しんでってくださいね。……皆さんと決勝で戦うのは、まだ先ですから」

 

「はい、そのつもりです」

 

聖良の揺るぎない、自信に満ちた表情を見て、ステラは流石だなと感心した。

 

以前会った時も同じだった。この人は自らの勝利を疑わない。それだけの努力を積み重ねてきたのだろう。

 

「お二人とも、去年の地区大会は圧倒的な差で勝ち上がってこられたし……」

 

「……また見せつけるつもり?」

 

イベントでのライブは忘れもしない。

 

千歌達の心を打ちのめし、そして成長させたあのパフォーマンス。

 

今回も、もしかしたら————

 

「いえいえ、他意はありません。それにもう……皆さんは、何をしても動揺したりしない」

 

「どういう意味ですの?」

 

「Aqoursは、格段にレベルアップしました。今は紛れもない優勝候補ですから」

 

「優勝候補……」

 

再び自分達の置かれている立ち位置を自覚し、静電気のような緊張が身体の芯を通る。

 

聖良は席を立ち、深々と頭を下げては言った。

 

「あの時は失礼なことを言いました。……お詫びします」

 

「聖良さん……」

 

不意に差し出された手を一瞥し、千歌は彼女と目を合わせた。

 

「次に会う決勝は、Aqoursと一緒に…………ラブライブの歴史に残る大会にしましょう!」

 

突然の真っ直ぐな宣戦布告を聞き、慣れていない雰囲気もあってか千歌は一瞬戸惑ってしまった。

 

「千歌ちゃん」

 

「ここは受けて立つところデース」

 

「……うん!」

 

自分のコートでごしごしと手を擦った後、聖良の右手とガッチリ握手を交わした。

 

「……理亞!理亞も挨拶なさい!」

 

背後に佇む妹を呼びかけるが、本人は依然目を閉じたままだ。

 

聞こえていないのか。それとも聞こえているがだんまりを決め込んでいるのか。

 

「理亞!」

 

「ああ、いいんです!……本番前ですから」

 

「……ん」

 

傍で理亞の様子を眺めていたステラが視線を落とすと、彼女の重なった両手が震えていることに気がついた。

 

他にそのことに気づいている者はただ一人。

 

先ほどから気にかけるように理亞を見ていた————ルビィだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜!すごい声援だ!お客さんもいっぱい!」

 

千歌達が案内されたのはステージに対して左側、その上層の席だった。

 

見渡す限りの観客が持つサイリウムの光が広がり、会場内を照らしている。

 

「観客席から見ることで、ステージ上の自分達がどう見えているか……」

 

「どうすれば楽しんでもらえるかも、すごい勉強になるはずだよ」

 

「だよね……!」

 

未来とステラはいつも観客席からライブを見ているが、やはりステージに上がる本人達が見ると学べる点も違う。

 

「それで、Saint Snowの二人は……」

 

「プログラムによれば、確か次だけど……」

 

パッと照明の色が変わり、紫がかった光がステージの上を彩った。

 

その中心で背中を合わせて直立しているのが、Saint Snowの姉妹二人。

 

「イッツショータイム!」

 

序盤からギター音が鳴り響き、これから始まるライブのボルテージをさらに引き上げる。

 

そしてついに彼女達が動き出————

 

 

◉◉◉

 

 

地区予選が終わり、千歌達は結果が表示された巨大なモニターの前に集まっていた。

 

一位「Super Wing」、二位「あしも☆え~る」、三位「Kiss Bear」。

 

ランキング上位三組に載ってあるそれらの名前を見て、息を呑む。

 

……Saint Snowは————

 

「……びっくりしたね」

 

「まさか、あんなことになるなんて……」

 

「これが……ラブライブなんだね……」

 

「一度ミスをすると、立ち直るのは本当に難しい……」

 

じっとランキングを見つめ続けるルビィの横で、ステラは瞳を細めて数時間前の出来事を思い出した。

 

ライブが始まってすぐに彼女達はお互いに身体を衝突させてしまい、バランスを崩して転倒してしまったのだ。

 

その後は動揺したせいでやり直しも効かず、結果はそのまま————

 

「……あの子」

 

「……へ?」

 

突然ステラに声をかけられたことでほんの少し肩を跳ねて驚くルビィ。

 

「理亞って子、震えてたの気づいてたでしょ?本番前の控え室で……」

 

「あ……うん。ステラちゃんも?」

 

小さく頷いた後、今度は千歌達の方へと視線を向ける。

 

ライブを行う数分間、たった一度のミスが全てを終わらせる。

 

これまでの努力も、成果も、全て泡沫のごとく————一瞬で。

 

一歩間違えればAqoursも同じ道を辿る可能性がある。

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼します」

 

再び控え室に戻り、Saint Snowを訪ねようとした千歌達だったが……。

 

扉の先にはもう、彼女達の姿はなかった。

 

代わりに同室していた少女達が二人の経緯を話してくれた。

 

「……Saint Snowの二人、先に帰られたみたいです」

 

「この後、本選進出グループの壮行会あるんですけど……」

 

「控え室で待ってるって、聖良さん達言ってくれたのに……」

 

残念そうに語る彼女達の声は徐々に小さくなっていった。

 

鏡の前に二人の姉妹の姿を幻想する。

 

「今日は、いつもの感じじゃなかったから……」

 

「ずっと……理亞ちゃん黙ったままだったし……」

 

「……あんな二人、今まで見たことない……」

 

「あれじゃあ動揺して歌えるわけないよ……」

 

「それにちょっと、ケンカしてたみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時。

 

路面電車に乗り自分達のホテルへと向かう千歌達だが、なかなか昼間の出来事が頭から離れてくれない。

 

未来はふと、以前スクールアイドルについて調べていた時に視聴したSaint Snowのライブ動画を思い出していた。

 

「……あの二人も、千歌達と同じように努力してここまで這い上がってきたんだ」

 

「それが最後の大会でミスして、ケンカまで……」

 

「たしかに……」

 

ステラは最後、という単語を聞いてルビィの肩が微かに震えるのを見た。

 

「ルビィ、寒いの?」

 

「えっ?ううん、大丈夫。ありがとね」

 

自分から目を離した直後、彼女の視線が無意識にダイヤの方を向いたのを見てしまう。

 

「…………」

 

「やっぱり、会いに行かないほうがいいのかな……」

 

「そうね!気まずいだけかも!」

 

無理に場を和ませようと明るく振る舞う善子。

 

しんみりとした空気のなか、鞠莉も穏やかに口を開いた。

 

「私達が気に病んでも仕方のないことデース」

 

「そうかもね」

 

「あの二人なら大丈夫だよ」

 

「仲のいい姉妹だしね」

 

「……うん」

 

段々と湿った雰囲気が晴れていき、皆も少しずつ笑顔を取り戻してきた。

 

「じゃあこの後は、ホテルにチェックインしてー」

 

「明日は晴れるらしいから、函館観光だね」

 

話がまとまり、ようやくみんなの余裕も戻ってきた頃。

 

『……ステラ』

 

「ん?…………あ」

 

顔を上げ、そこに描かれた光の文字が視界に入った。

 

ウルトラサイン。光の国における連絡手段の一つ。

 

(差出人は?)

 

『セブン……ウルトラセブンだ』

 

(セブンってたしか……)

 

以前アークボガール討伐任務を担った時、共に戦ったウルトラマンゼロの父親。宇宙警備隊のなかでも指折りの実力者と聞く。

 

そんな彼が自分達に何の用だろうか。

 

『……明日、指定した場所に来て欲しいとのことだ』

 

(……あした?)

 

『ああ。君には悪いが、函館の甘味を味わうのはお預けだな』

 

さあ、と無表情のまま青ざめた顔を隣に座っていた未来に向け、彼の腕をやや強めにつねる。

 

「いででで……!なんだよ……!」

 

「別件ができて明日は一緒に行動できないから、何か甘い物とか見つけたらわたし用に持ち帰ってちょうだい」

 

『なるほど、その手があったな』

 

『「別件……?」』

 

首を傾ける未来とメビウスを尻目に、ステラはうっすらと瞳を潤すのであった。

 

 




放送前から待ち望んでいたSaint Snowメイン回。まさか実現してくれるとは思いませんでした。
公式さんありがとう。

では今回の解説です。

日本各地に調査へ出ているウルトラ兄弟達。セブンが北海道に潜伏しているのは話の都合もありますが、役者さんが北海道出身ということなので関連付けてみました。
今作ではウルトラ大戦争勃発時にグローザムと戦い、その能力故にお互い引き分けた設定です。

次回からは久しぶり(?)にステラとヒカリ視点になると思います。


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第85話 絶対零度の影


8話後半です。
セブンがステラとヒカリを呼び出した理由とは……。


「「「うわぁ〜!!」」」

 

タワーの展望台から見える巨大な城郭を見て揃って声を上げる千歌達。

 

今いるのは五稜郭タワー。函館の観光名所の一つである。

 

「すごい!すごーい!!」

 

「なんだか美味しそうな形ずらね」

 

星型にも見えるそれを眺めてはそれぞれで思い思いの感想を述べた。

 

「すごいな……変身した時の景色より高い……!」

 

『空を飛んでるみたいだね』

 

五稜郭を見て「魔法陣みたい」とはしゃぎだす善子。土方歳三の銅像に目を輝かせる曜。ガラス張りの景色に足を竦ませる果南。

 

満喫している様子のみんなを見て、未来は残念そうに肩をすくめた。

 

「もったいないなあ、ステラも来れればよかったのに」

 

「そういえばステラちゃん、何かあったの?」

 

「別件があるとかどうとか言って————」

 

何気ない曜との会話の最中、何やら思い詰めた表情のルビィが視界に入る。

 

「あっ!ちょっと見て見て未来くん!」

 

「ぐおっ……!」

 

千歌に強引に腕を引かれて連行される未来。

 

もう一度背後を向きルビィの様子を確認した時には、いつも通りの笑顔がそこにあった。

 

 

◉◉◉

 

 

「なんか落ち着くね、ここ」

 

「内浦と同じ空気を感じる」

 

「……そっか。海が目の前にあって、潮の香りがする街で、坂の上にある高校で……」

 

ふと背後にある坂道を見上げ、登っていた高校生達と会釈を交わす。

 

「繋がってないようで、どこかで繋がってるものね、みんな……」

 

「お待たせずら〜」

 

ずしずしと曇った声音で歩いてくる足音が聞こえ、再び身を強張らせる未来。

 

またも大量に上着を着込んできた花丸が迫ってきたのだ。

 

「ピギィ〜……!!」

 

「また!?」

 

「なんでまた着てくんのよ!?」

 

「止まれ止まれ!!」

 

手を左右に振って制止しようとするのも虚しく、再び花丸の下敷きになる善子、ルビィ、曜、そして未来。

 

「学習能力ゼロですわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく周辺を歩き、鞠莉のティータイムにでもしようか、という提案を聞いて近くにある店へと寄る。

 

「と、いうことで!」

 

「くじら汁……?」

 

「向こうじゃ見ないな……」

 

道南の正月料理としても有名な料理だ。

 

外に貼り出されているメニューの一部を見た後、ゆっくりと戸を開ける。

 

「すいませーん……」

 

店内に向かって呼びかける千歌だったが、店員らしき人の出迎えどころか返答もない。

 

「すいませーん!……あれ?」

 

「“商い中”……って書いてはいるけど……」

 

「うぅ……とりあえず中に入れて欲しいずら……」

 

冷たい風に吹かれて凍えている花丸を見やり、仕方がないと店内に足を踏み入れる。

 

「じゃあ、失礼しまーす!」

 

「うぅ、やっと助かるずら……」

 

店の中は暖房も炊いてあり、ポカポカとした和みのある空気に包まれていた。

 

適当な席に座り、メニュー表を手に取って目を通すと、ますます今ここにいないステラがかわいそうになってくる。

 

「……あいつの好きそうなのばっかりだ」

 

『持ち帰りってできるかな……?』

 

ざわざわとした店内の雰囲気を感じ取ったのか、店の奥から誰かがやってくる音が聞こえてきた。

 

「すいません!今ご注文を————」

 

黄色いメイド服姿で登場したのは、千歌達も見覚えのある人物だった。

 

「鹿角……聖良さん……!?」

 

「えっ……!?皆さんは……」

 

今まで見たことのない彼女の姿に思わず固まる未来。

 

……この店は、Saint Snowの姉妹二人の実家だったのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「…………」

 

『機嫌を直してくれステラ』

 

「べつに怒ってないわよ」

 

『スイーツの買い置きは彼らに頼んだのだろう?』

 

「そういうことじゃないの!みんなと歩いて、その場で一緒に食べるのが美味しく感じるってものでしょ!?」

 

『やっぱり怒っているじゃないか』

 

困った子だ、と彼女の体内で肩をすくめるヒカリ。

 

セブンに指定された場所は函館山の山頂。ロープウェイに乗りながら、ステラは微かに頬を膨らませていた。

 

彼女が握っている携帯の画面には一枚の写真が表示されている。

 

「未来の奴……わざわざメニューの写真なんて送ってきて……」

 

『助かるじゃないか。どれを買っておくか選んでくれ、という意味だろう?』

 

「余計に今食べられないのが悲しくなるじゃないの」

 

『理不尽な……』

 

彼女はいつもヒカリの意外なところでムキになるので扱いが難しい。

 

娘がいたらこのような感じなのか、と何度思わされたことか。

 

 

 

山頂に着くと、ステラの他にも何人か景色を楽しんでいる者が確認できた。

 

昼間だからなのか、予想していたよりもずっと空いている。

 

「待っていたよ」

 

ロープウェイの機内から降りると、待ち構えていたかのように横から声をかけられる。

 

少々老年に見える男性が、そこに立っていた。

 

「あなたが……ウルトラセブン」

 

「本当は夜に呼びたかったが……あいにくと急いでいてね。なに、昼でも十二分に綺麗な景色だ」

 

彼の後ろについて行き、横に並んで函館の街を見下ろしながら話した。

 

「君達が北海道に来ていると知った時は驚いたよ。ちょうど新しい仕事を頼もうと思っていたところなんだ」

 

『新しい仕事……?』

 

「また討伐任務?」

 

「いや」

 

セブンは不意に空を見上げ、太陽のある方向を指し示した。

 

「近頃、太陽に異変が起きている。現場に向かって、詳しい様子を観察してきて欲しい」

 

「……!太陽が……!?」

 

彼の口から飛び出した用件は、あまりにも突拍子のないことだった。

 

なんでも太陽に原因不明の黒点が現れ、現在も徐々に面積を広げているそうなのだ。

 

「我々はエンペラ星人が怪獣をおびき寄せるために設置した、時空波発生装置の位置の特定で手が離せない。どうか引き受けてはくれないだろうか?」

 

顎に手を当てて考え込む。

 

このままいけば地球に送られる太陽光は消え去り、永遠の闇が訪れる。

 

……こんなことをするのは————十中八九奴しかいない。

 

「それもエンペラ星人の仕業……よね」

 

『……以前から気になってはいたが、時空波を発生させているというのに地球へやってくる怪獣の数も一致しない』

 

「おそらく……それは地球へ送るのではなく()()()いるのだ」

 

怪獣を引き寄せる時空波で周辺にそれらを集め、凄まじい数の怪獣軍団を構成する。

 

それが……エンペラ星人の目的。

 

それに加えて太陽の黒点だ。間違いなく何かを始めようとしている。

 

「まるで……戦争でもやるつもりみたい」

 

ふと感じた寒気を紛らわすように、ステラは自分の手に息を吐いて温めた。

 

「……ここ数日間、周辺の気温が特に低下している。もしや————」

 

「……?」

 

何か言いかけたセブンに首を傾ける。

 

「……エンペラ星人の部下のことは把握しているか?」

 

『ああ、その内ヤプールは既にメビウスとエースによって倒されたはずだが……』

 

「もしも、だ。グローザムという宇宙人と遭遇した時には極力戦闘を避けなさい」

 

「……え?」

 

そう言い残したセブンはステラに背を向け、ロープウェイ乗り場へと足を運んでいく。

 

どうやらこれで話は終わりらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グローザムは四天王の一人。……グローザ星系人という種で、氷を操る能力を持つのが特徴だ』

 

考えをまとめるため、ステラは暗くなるまで当てもなく函館の街を歩いていた。

 

「どう考えても……以前戦った奴のことよね……」

 

青いフードを被った男。ステラを重傷になるまで追い込み、果南を連れ去った張本人。

 

思い出しただけで怒りが湧き上がってくる。

 

「……あいつが……近くに……」

 

ギリ、と歯が軋む音。

 

やがて赤レンガ倉庫が並ぶ場所にたどり着いたステラは、道の隅で立ち止まって言った。

 

「……ヒカリ」

 

『俺達で倒そう、か?』

 

「うん」

 

強く頷いたステラに、ヒカリは少々困った様子で唸った。

 

『記録によれば、奴は凄まじい再生能力を持つと聞く。……先ほど会ったセブンと戦い、引き分けにまで持ち込んだ恐ろしい奴だ』

 

「再生ね……。わたし達の鎧と根比べってところかしら」

 

『……ちょっと待て、まだ戦うと決めたわけではないぞ』

 

はっきり言って奴はメビウスと共闘してでも倒し切れるか怪しい。おまけに函館はウルトラマンにとって活動しにくい気候だ。

 

『慎重に事を運ぶべきだ。でなければ……以前と同じように、敗北するだけだ』

 

「恨みだけじゃない」

 

ヒカリの言葉に語気を強めて言い放つステラ。

 

ここでグローザムが暴れて何もしなければ当然犠牲は出る。増援なんか待つ暇はない。

 

「……何もできずに、人の悲しい顔を見ることしかできないのは……もうやだ」

 

病院のベッドから眺める景色は最悪だった。

 

浮かない顔でこちらを見下ろす千歌達。あのまま未来とメビウスが果南を取り戻してくれなかったら、どうにかなっていたかもしれない。

 

『……まったく。しかしどうする?数日もすれば俺達はここを去る予定なのだろう?』

 

「わたし達だけ残りましょう。太陽の異常を調べるのは、グローザムを倒した後でも間に合うわ」

 

強引な彼女にため息をつかずにはいられないヒカリであった。

 

 

 

「……ん?」

 

しばらく歩いて行くと、巨大な電子装飾が施されたクリスマスツリーの前に出た。

 

その下に立つ二人の少女が視界に入り、反射的に名前を呼ぶ。

 

「ルビィ」

 

「……あ!ステラちゃん」

 

ルビィの隣に立ち、こちらへつり目を向けてくるツインテールの少女。

 

「あなた……」

 

Saint Snowのメンバー、鹿角理亞だった。

 

「遅かったね、未来くん達心配してたよ?」

 

「え、ええ……。どうしてここに?」

 

不意に駆け寄ってきたルビィがステラの手を握り、前触れもなく言った。

 

「ステラちゃんにも、協力してほしいことがあるの!」

 

「…………へ?」

 

 




太陽の黒点や時空波についての話が出ました。こちらも元の設定とは少しだけ絡み方が違います。
ルビィとダイヤの話も省かれているので、そこはサンシャイン本編を視聴することをお勧めします。

では解説です。

グローザムの再生能力は確か質量が小さくなった状態で受ける熱ダメージには耐えられませんでしたよね。
しかし今作ではGUYSのようなサポートしてくれる防衛隊がいません。つまりウルトラマン達の力のみで倒さなくてはなりませんね。
ステラとヒカリはどうやって奴を倒すつもりなのか……?

次回から9話に突入します。


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第86話 二人の結晶


さて9話です。
今回と次回は色々と構成がややこしいのでまとめるのに苦労しました(笑)


「やっぱりホテルの中はあったかいわねえ」

 

「なんでさらっと俺の部屋でくつろいでるの?」

 

聖良に頼んでとうふ白玉ぜんざいを一人前だけ持ち帰りさせてもらい、夜になってやっと帰ってきたステラに渡す。

 

なぜか自分の部屋に居座りつつそれを口に運び始めた彼女に、未来は眉をひそめて言った。

 

「冷蔵庫に入れてたからすっかり冷たくなってるだろ」

 

「美味しいものは美味しいわ」

 

「そうか……。で、今まで何してたんだよ?」

 

気を取り直してステラが何の用で別行動していたのか、その詳細を尋ねる。

 

ぜんざいに夢中な彼女に代わってヒカリが答えてくれた。

 

『セブンに呼ばれ、新たな任務を頼まれた』

 

『「新たな任務??」』

 

メビウスと声を揃えて首を傾げる未来。

 

『……っていうか、セブン兄さんだって!?』

 

『ああ、彼自身は別の理由でここに訪れていたらしいが……』

 

「それで、その新しい任務っていうのは?」

 

ヒカリは数時間前に聞いた太陽の黒点の話、そしてエンペラ星人の目的についての話を語った。

 

時空波発生装置によって怪獣の軍団が出来つつあることも全て。

 

 

 

 

『……そんなことが……』

 

『いよいよ最後の戦いが近いのかもな』

 

「……最後」

 

ヒカリの言葉を聞いて、未来の胸がずしりと重くなる。

 

呑気にぜんざいを食べ終えたステラがベッドに腰掛けている未来を見上げ、いつものように静かな口調で言った。

 

「それとね、わたし達……もう少しだけここにいようと思う」

 

「……食べ歩きツアーでもするのか?」

 

「ぶった斬るわよ」

 

部屋の中だというのに寒気を感じた未来は「冗談だ」と両手を上げた後、改めて話に戻る。

 

「何かあったのか?」

 

「……四天王の一人が、この近くに潜んでいるかもしれないの」

 

「なんだって……!?」

 

思わずその場で立ち上がり、目を見開く未来。

 

……やはり自分達を狙って追ってきたのだろうか。

 

「わたしはここに残ってそいつを倒す。あなたは内浦に戻って千歌達を守ってあげて」

 

「ぐっ……まあ、それしかないか……。でも大丈夫なのか?太陽を調べてくれって言われたんじゃ……」

 

「地球で騒ぎになってないうちはまだ黒点の面積も小規模ってことだろうし、用を終えてからでも間に合うわ」

 

それだけ言い残してステラは席を立ち、未来の部屋の玄関へと歩いていく。

 

「ち、ちょっと待ってくれ」

 

彼女の去り際にふと先ほどのヒカリの話を思い出し、引き止めた。

 

「なに?」

 

「……ステラはさ、エンペラ星人を倒して……この戦いが全部終わったら、どうするつもりなんだ?」

 

「……どうしたの急に?」

 

突然の質問に戸惑いつつもステラは思考を巡らせる。

 

数秒間黙り込んだ後、彼女はあっさりとした様子で返答した。

 

「さあね、わたしの故郷はもうないし……それに、この先生きてる保証もどこにもないから。先のことはわからないわ」

 

未来に背を向け、「おやすみなさい」とだけ最後に言った後、ステラは扉を開けて自分の部屋へと戻っていった。

 

「…………物騒なこと言うなよ」

 

静かになった部屋で未来はつぶやく。

 

「……メビウスも、いずれは帰っちゃうんだよな」

 

『それは————』

 

一瞬答えを選ぶような間があり、その数秒が未来にさらなる不安を与えた。

 

『……そういうことになるのかな。でも不思議なことじゃない。君はもともと、普通の高校生として生活していた。……その日常に戻るだけさ』

 

この空気が長く続くのはダメだと、すぐにそう気がついた未来は無理やり笑顔を作ってベッドに倒れこんだ。

 

「あーもうやめやめ!今日は色々歩いて疲れた。そろそろ寝かせてもらうよ」

 

『うん、おやすみ』

 

電気を消し、瞼を閉じてもある単語が脳裏によぎる。

 

————最後。

 

 

◉◉◉

 

 

翌日。

 

ハンバーガーショップでルビィ、花丸、善子が同じ席に座り、その向かえには————

 

「…………」

 

不機嫌そうに飲み物の泡音を立てている理亞と、ステラの姿があった。

 

昨日の夜、ルビィに言われた時は本当に驚いた。

 

「理亞と一緒に、ダイヤと聖良に贈るライブをやりたい」と聞かされたこと。そして、その協力を頼まれたこと。

 

グローザムの件でここに残るつもりだったので特に支障はないが。

 

「……三人も来るなんて、聞いてない」

 

「ああでも、花丸ちゃんも善——ヨハネちゃんも、ステラちゃんだってとても頼りになるから……」

 

「関係ない!……私、もともとみんなでワイワイとか好きじゃないし……。だいたいあなたメンバーじゃないでしょ!?」

 

「マネージャーよ。……なるほど、確かにこのメンツじゃ心許ないわね」

 

集まったメンバーを一通り見て言い放つステラと理亞の間に、バチバチと雷電がぶつかり合っているように見える。

 

「それを言ったら、マルもそうずら。善子ちゃんに至ってはさらに孤独ずら」

 

「ヨハネ!……なにさらっとひどいこと言ってるのよ!」

 

「……ずら?」

 

花丸の口調を聞いて語尾に違和感を感じた理亞が首を傾ける。

 

「はっ……!!これは……オラの口癖というか……」

 

「オラ?」

 

「違うずら……マル……」

 

「ずら丸はこれが口癖なの」

 

善子に簡潔に説明されてもイマイチわかっていない様子の理亞。

 

「だからルビィといつも図書室にこもってたんだから」

 

「そうなの?」

 

一転して表情を明るいものへと変える理亞の横顔を見て、ステラはなんとなくルビィ達一年生と同じ雰囲気を感じ取った。

 

「ずら……。今年の春まではずっと、そんな感じだったけど……」

 

「私も……学校では、結構そうだから……」

 

(……同じ人種なのかしら)

 

無言で飲み物を吸い上げつつ彼女達の会話を聞いていると、それぞれの性格や個性は違えど、どこか似通った部分があるなと感じた。

 

何気ないじゃれ合いのなか、理亞の表情が一瞬緩んだのをステラは見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“私は負けない何があっても”……」

 

「“愛する人とあの頂に立って、必ず勝利の雄叫びをあげようぞ”……」

 

「……千歌って、実はすごかったのかも」

 

理亞の考案した歌詞を声に出して読んでいくと、なかなか短絡的な————もといストレートなものばかりだ。

 

「だから言ったでしょ!?詞も曲もほとんど姉様が作ってるって!」

 

「まだ何も言ってないけど……」

 

善子とステラはテーブルに置かれたポテトを手に取り口へ運ぶと、頬杖をついて言う。

 

「……しっかし、捻りも何もないわよね」

 

「直接的すぎるわね。うちの熱血バカといい勝負かも」

 

「熱血バカ……?」

 

「でも、歌いたいイメージはこれでわかったずら!」

 

「ルビィも手伝うから、一緒に作ってみよう?」

 

口々に語るルビィ達を見て、理亞は不安げな口調で質問を投げかけてきた。

 

「あなた達、ラブライブの決勝があるんでしょ?歌作ってる暇なんてあるの?」

 

「それは……」

 

言葉に詰まるルビィの代わりに花丸が立ち上がり、理亞に向かって笑顔を振りまいた。

 

「ルビィちゃんは、どうしても理亞ちゃんの手伝いをしたいずら!」

 

彼女に続いてルビィも席を立ち、強気な物言いで語りだす。

 

「理亞ちゃんや、お姉ちゃんと話してて思ったの。私達だけでも、できるってところを見せなくちゃいけないんじゃないかなって。……安心して、卒業できないんじゃないかなって」

 

と、その時。

 

善子の携帯が鳴り、直後に彼女が短い悲鳴のような声を上げる。

 

「げっ!リリーだ!」

 

「なんて書いてあるの?」

 

「“どこにいるの?もう帰る準備しなきゃダメよ”って……!」

 

親子のようなやり取りの後、梨子から怒りマーク付きで「リリーって言わないで」と届き、またも身体を仰け反らせる善子。

 

「……!?思考を読んだだと……!?」

 

「もうそんな時間!?」

 

「どうするの?」

 

「今は冬休みずら」

 

「だから?」

 

「だから————」

 

 

◉◉◉

 

 

「ここに残る!?」

 

「「「うん!」」」

 

一年生とステラによる報告を聞いて驚く千歌達に、花丸がやや強引に説明を始める。

 

「そうずら!理亞ちゃんが大変悲しんでいて、もう少し励ましたいずら!」

 

「そうそう……!塞ぎこんじゃっててどうしようもなくてさ……!」

 

「うゆ!」

 

やけに饒舌な三人に違和感を感じた後、未来はステラの顔を見てなんとなく事情を察した。

 

「ステラが付いてるからそれはいいとして……泊まる場所はどうするんだ?」

 

「幸い、理亞ちゃんと聖良さんの部屋に余裕があるからそこで……」

 

「わあ!なんか面白そう!」

 

「そうですわね。この際私達も————」

 

みんなで残ろうとダイヤが提案しかけたところで慌ててフォローに入るルビィ。

 

「ああっでも、そんなに広くないというかなんというか……」

 

「そうずら!それに理亞ちゃん、色々ナイーブになってるずら!」

 

即興で考えた言い訳が終わると、ルビィがダイヤのもとへ駆け寄り上目遣いで言った。

 

「ごめんね、お姉ちゃん。二、三日で必ず戻るから……」

 

「……べつに、私は構いませんけど?」

 

動揺を隠しきれていないダイヤの許可を得ると、ルビィ達の表情がパッと晴れやかなものになる。

 

「いいんじゃないの?一年生同士で色々話したいこともあるだろうし」

 

一人だけ二年生が混ざっているはずなのだが、背丈があまりルビィ達と変わらないせいで全く違和感がない。

 

思わず笑いそうになるのを堪え、未来はステラから視線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルビィ達を置いて帰りの飛行機に乗った千歌達。

 

数日間の思い出に浸りながら、函館の街に別れを告げようとしていた。

 

「来てよかったね」

 

「うん!すごく。私達の知らないところでも、スクールアイドルは同じように頑張ってるんだなあって……」

 

「食べ物も美味しかったし!」

 

『街も綺麗だったね』

 

シート越しの会話をしながら窓を眺め、眼下に広がる景色を見る。

 

すっかり小さくなってしまった街がほんの少しだけ名残惜しい。

 

「あぁ……ルビィ……」

 

そんななか携帯の待ち受けを見つめてため息をつく者が一人。

 

「何か気に入らないことでもしたんじゃないの?」

 

「そんなこと!」

 

急に大声を上げたダイヤに他の乗客達の視線が集まった。

 

「お客様!?」

 

「ああ、だいじょぶでーす!……でもあの様子、明らかに何か隠してる感じだったけど……」

 

「メンバーが分かれてSaint Snowの家に……。もしかして……!!」

 

Aqoursを脱退して「Saint Aqours Snow」を結成するのでは——!?と、よからぬ想像をかき立てる鞠莉。

 

先ほどから心配で胸が張り裂けそうになっていたダイヤはそれを聞いてまたも悲鳴に近い否定を叫んだ。

 

「ブッブーーーー!!ですわぁーーーー!!」

 

「お客様ぁ!?」

 

「お、落ち着いて……」

 

「イッツジョーク……」

 

未来も少しだけ考えてはみるが、そういえばステラが残る理由は聞いていてもルビィ達の事情は把握していなかった。

 

「そうじゃないと思うよ」

 

「え?」

 

不意に千歌が口を開く。

 

「たぶん、あれは……」

 

「あれは?」

 

「うーん…………いーわない!もう少ししたらわかると思うよ!」

 

焦らされたことでダイヤの疑問と不安が同時に爆発し、三度機内に彼女の悲鳴が轟くこととなった。

 

「そんなぁ〜!!」

 

 

◉◉◉

 

 

「ここが理亞ちゃんの部屋?」

 

再び鹿角家へと戻って来たルビィ達。

 

理亞の部屋へと案内され、好奇心のままに周囲を見渡す。

 

「好きに使っていいけど、勝手にあちこち————」

 

「うわぁ……!綺麗ずら!」

 

棚に置いてあったスノードームを手に取る花丸だったが、すぐさま彼女の手の中から理亞が奪うようにして取り返す。

 

「勝手に触らないで!」

 

「雪の……結晶?」

 

ステラが尋ねると、理亞はなぜだか眉を下げて語り始めた。

 

「……そう。昔……姉様と雪の日に、一緒に探したの。……二人でスクールアイドルになるって決めた。あの瞬間から、雪の結晶を……Saint Snowのシンボルにしようって」

 

スノードームを優しく棚に戻し、再びこみ上げてきた悔しさに胸を痛めながら彼女は続ける。

 

「……それなのに……、最後のラブライブだったのに……」

 

「綺麗だね」

 

悲しげな雰囲気を追い払うようにルビィが小さく言う。

 

「当たり前でしょ!姉様が見つけてきたんだから!ほら、あなたの姉より上でしょ?」

 

「……!そんなことないもん!お姉ちゃんはルビィに似合う服すぐ見つけてくれるもん!」

 

「そんなの姉様だったらもーーーーっと可愛いの見つけてくれる!」

 

「そんなのーーーーっ!!」

 

二人による姉自慢争いが激化するなか、花丸と善子、ステラは目を丸くしてその光景を眺めていた。

 

「こんな強気なルビィちゃん……!」

 

「初めて見た……!」

 

(性格は正反対だけど……)

 

二人のなかの共通点。きっとそれが、今回ルビィを動かした理由。

 

「ほんと、姉のことになるとすぐムキになるんだから」

 

「それは……お互い様だよ」

 

「そうかも」

 

お互いに顔を見合わせて微笑むルビィと理亞。

 

真逆に見えるが、もしかしたら二人は————ダイヤや聖良とも違う性質の、心を許せる相手なのかもしれない。

 

「皆さん……本当に戻らなくて平気なんですか?」

 

ノックと同時に扉が開かれ、メイド服姿の聖良が顔を出す。

 

「あ、はい」

 

「他のメンバーに頼まれて、どうしてもこっちでやっておかなきゃいけないことがあるずら!」

 

「あぁ、そうですか……」

 

花丸がそう説明した後で聖良の前に善子が歩み出て、頭を下げる。

 

「こちらこそ、急に押しかけてしまって……すみません」

 

「いえいえ、うちは全然平気なんですけど。では……ご飯ができたら呼びますね」

 

そう言い残して去っていく聖良。

 

普段では見られない善子の姿に、皆珍獣でも見るかのような目を向ける。

 

「……なんとかごまかせたわね」

 

「善子ちゃんが……」

 

「ちゃんと会話してる……!」

 

「いつもこうならいいのに」

 

「ヨハネ!あんた達に任せておけないから仕方なくよ!仕方なく!……堕天使はちゃんと世に溶け込める術を知ってるのだ!」

 

「みんな意外な一面があるずら」

 

「隠し持っている魔導力と言ってもらいたい!」

 

近くで見てきたはずのステラも驚くばかりである。

 

……近くにいたからこそ見えにくい、とも言うのか。

 

「でも……そうかも!」

 

「え?」

 

「ルビィ最近思うの。お姉ちゃんや上級生から見れば頼りないように見えるかもしれないけど、隠された力がたくさんあるかもしれないって!」

 

ルビィの言葉を聞いて、何か閃いたように挙手しては言う。

 

「じゃ、決まりずら!」

 

「何が?」

 

ピースサインを見せながら彼女は口を開いた。

 

「歌のテーマずら」

 

 

◉◉◉

 

 

姿を隠しながら鹿角家を観察している者が一人。

 

「あのガキ共は……」

 

そのなかに紛れているウルトラマンの姿を見たグローザムは、不気味な笑い声を響かせた。

 

「前に氷漬けにしてやった女……?なぜここに……」

 

ウルトラセブンを追ってこの地に来たが、ここには自分に対して有利な環境が揃っている。

 

能力差を考えても負けることはないだろう。

 

「……ク……クハハハ……!」

 

セブンはそう簡単に姿は見せない。ならば————

 

「まずはあのガキを処刑し、餌にする他はあるまい……!」

 

 




ステラのよからぬフラグが立ちまくりですね……。
次回はついにグローザムとの戦闘に。

解説です。

二章から読み進めた方は把握していないと思いますが、ステラの故郷であるノイド星はアークボガールとその仲間達によって滅ぼされています。
その因縁も断ち切り(外伝参照)、エンペラ星人との戦いが終わった後はどのような道へ歩もうとするのか。

それでは次回もお楽しみに。


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第87話 聖夜の悪魔


今回は自分なりの解釈が入ってるので、読者の方々が思っていたような考察と一致しない部分もあるかもしれません。
それでは9話後半、スタートです。


「ねえ、それなに?」

 

「え?」

 

ノートに考えた歌詞を羅列している途中。

 

ルビィの首元から下げられた紐を指差して、理亞は首を傾けた。

 

「ああ、これ?」

 

パジャマに隠れていたそれを引っ張り出し、青く輝く石を見せる。

 

「お守りなんだ」

 

「お守り……。綺麗な石ね」

 

「ありがと」

 

かつて自分をお姉ちゃんと呼んでくれた少女の形見。

 

別れてからこの石は肌身離さず持っている。

 

(サファイアちゃん、見てくれてるかな……?)

 

大事そうにそれをしまい込んだ後、ルビィは気を取り直してノートと向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中。

 

普段寝る時間になっても、ルビィと理亞は歌詞の創作を続けていた。

 

廊下からその様子を見守る聖良は、微笑ましそうに————そしてどこか心配そうな表情を浮かべている。

 

「聖良…………さん」

 

「ああ、ステラさん。どうかしました?」

 

寝間着姿の二人が廊下で向かい合う。

 

ステラは「やったーーーー!!」という二人の声が理亞の部屋から漏れたのを聞き、安心したように胸をなでおろした。

 

「眠れないんですか?」

 

「いえ。……二人とも、頑張ってるなって……。私達も部屋に行きましょうか」

 

聖良に案内されて彼女の部屋へと入る。

 

人数の関係でステラだけここに寝泊まりする予定だった。

 

「すみません、ちょっと狭いかもしれませんが……」

 

「いえ、ありがたく使わせていただきます」

 

お互いにぎこちない様子で同じベッドの中に入る。

 

大した会話もないまま消灯し、ステラがそのまま眠ろうとした時————

 

「ステラさんは……Aqoursさん達のマネージャーでしたよね」

 

「えっ……はい」

 

突然話しかけられたことで答えるのが少し遅れた。

 

「……皆さん、普段は向こうでどんなことをされているんですか?」

 

「最近はひたすら練習ですね。……千歌達にとって、ラブライブを絶対に優勝しなくちゃならない理由ができましたから」

 

学校のみんなに託された想い。それを叶えるためにも、結晶は絶対に勝たなくてはならない。

 

「やっぱりそうですよね……」

 

「……でも、Saint Snowも凄いと思います。初めてライブを見た時、わたし————」

 

「私が」

 

途切れ途切れの言葉が聖良の口から漏れる。

 

「……私がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったんじゃないかって、今でも思うんです」

 

ライブ当日に見た理亞の様子を思い出す。

 

緊張からなのか。それとも他に理由があるのか。

 

————ひどく震える、理亞の手。

 

「……理亞を傷つけてるだけで、私は姉として何もしてあげられていないのかもって」

 

「断言しましょう、それは絶対にないです」

 

思わずベッドから跳ね起きて、隣で横になっている聖良と目を合わせた。

 

「え……?」

 

「……きっと、もうすぐわかると思います。今はこれしか言えません」

 

話は終わりだと言わんばかりに再びベッドに倒れるステラ。

 

聖良はただ呆然とするのみだった。

 

 

◉◉◉

 

 

ルビィと理亞が行うサプライズの流れは既に決まっていた。

 

まずは二人のライブを函館山でダイヤと聖良に見せる。そして次に————

 

彼女達は第二の贈り物として、A()q()o()u()r()s()()S()a()i()n()t() ()S()n()o()w()()()()()()つもりだったのだ。

 

そのための人数分の衣装を作るのは骨が折れる作業だったが……。

 

今頃は千歌達にも連絡が伝わり、こちらに向かって来ているだろう。

 

もちろんどちらもダイヤと聖良には内緒だ。

 

「クリスマスイベント……受かるといいわね」

 

本日は彼女達が参加しようとしているイベントの選考会。そこで受からなければ“全員で歌う”という願いは叶わない。

 

部屋の中で審査を受けている二人の姿を、花丸と善子、ステラの三人が見守っていた。

 

「……私達は、スクールアイドルをやっています。今回は、このクリスマスイベントで、遠くに暮らす別々のグループの二人が手を取り合い、新たな歌を歌おうと思っています!」

 

「大切な人に贈る歌を!」

 

頼もしく映るルビィと理亞の姿を見て、花丸と善子は揃って号泣し出す。

 

「なに泣いてるずらぁ……」

 

「あんたの方が泣いてるわよ……!」

 

「ずらぁ〜……」

 

ふと視線を横にやると、自分達と同じように理亞達の様子を眺めている者が二人いることに気がつく。

 

「……あの制服……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対満員になる、と豪語した結果、なんとかイベントの参加権は勝ち取ることができた。

 

今は放送局でその告知をしている最中である。

 

「さあ今日は!クリスマスフェスティバル出場者の……えっと……」

 

「Saint Aqours Snowです!」

 

「が、お越しくださいました〜!」

 

「ネーミングセンスもストレートなのね……」

 

「ちゃんと告知するずら」

 

「うん!」

 

喋るのは花丸、ルビィ、理亞に任せてステラと善子は待機。

 

意を決してマイクに顔を近づけ、ルビィは自分達のライブの知らせを言った。

 

「クリスマスイブにライブを行います!」

 

「よろしくず——じゃなくて、よろしくお願いするず——じゃなくて、お願いしますずら!……あ」

 

結局口癖を隠せないまま告知をしてしまう花丸であった。

 

 

 

 

 

「あぁ……失敗したずら」

 

なんとか告知を終え、放送局を後にしようとするルビィ達。

 

「大丈夫だよ花丸ちゃん」

 

「あんな一瞬の放送だったんだし、聞いてる人も気づいてないわよ」

 

そう言いつつ施設内を歩いていると、前から歩いてくる制服姿の二人の少女がルビィ達の目の前で立ち止まった。

 

「……?この二人、選考会の時にもいた……」

 

「どなた?」

 

「……クラスメイト」

 

理亞は絞り出すようにそう言った後、怯えるようにルビィの背中に隠れてしまう。

 

「どうして隠れるの?」

 

「だって……ほとんど話したことないし……」

 

少しの間の沈黙。

 

やがてそれを壊すようにルビィが言い放つ。

 

「Saint Snowのライブです!理亞ちゃん出ます!」

 

その知らせを聞いて、張り詰めていた二人の表情が一気に明るくなる。

 

「理亞ちゃん……」

 

「私達も行っていいの!?」

 

「えっ……うん。それと……今更だけど……ラブライブ予選は、ごめんなさい……」

 

小さくそう語る理亞に対して、彼女達はいたって優しげな態度で言った。

 

「いいんだよ。私達のほうこそ、嫌われてるのかなって……。会場にも行けずに、ごめん」

 

「理亞ちゃんや聖良先輩が、みんなのために頑張ってたの知ってるよ」

 

「Saint Snowは学校の……私達の誇りだよ!」

 

「クリスマスフェスティバルには出るんでしょ!?みんなも来たいって!いい?」

 

「……うん。……うぅ……!」

 

今まで知らなかった気持ち、想い、そして言葉。

 

思いもよらぬ告白を聞いて、理亞は無意識に涙を流していた。

 

「……違うようで似ている、ね……」

 

つられて瞳を潤すルビィを一瞥し、ステラは改めて彼女達は似た者同士なんだと思わされた。

 

 

◉◉◉

 

 

その夜。

 

ダイヤがロープウェイに乗ると、隣に立つ客が聖良だということに気がついた。

 

「聖良さん?」

 

「あら、どうしてここに?」

 

「いえ、ちょっとここに来るよう言われまして」

 

「えっ……!?実は、私もです」

 

星の仄かな光が入り込んでくるなか、二人の少女が指定された場所へ向かう。

 

山頂まで登ると、二人にとっても大切な人達が待ち構えていた。

 

ルビィと理亞は足並みを揃えて二人に駆け寄り、一枚の封筒をそれぞれ渡す。

 

そう、“第二の贈り物”の詳細が中にある封筒だ。

 

「……これは?」

 

「クリスマス——」

 

「プレゼントです」

 

まだ幼さが残る、妹達の贈り物。

 

「クリスマスイブに、ルビィと理亞ちゃんで、ライブをやるの!」

 

「姉様に教わったこと……全部使って、私達だけで作ったステージで!」

 

「自分達の力で、どこまでできるか!」

 

「……見て欲しい!」

 

「あのー……」

 

見つめ合う姉妹達の最中、聞き覚えのある声が上から飛んでくる。

 

「私のリトルデーモン達も見たいって!」

 

「誰がリトルデーモンよ!」

 

上の階でこちらを見下ろす、Aqoursのメンバー達の姿がそこにあった。

 

「千歌ちゃん!みんな!」

 

「来てたの?」

 

「鞠莉ちゃんが飛行機代出してくれるから、みんなでトゥギャザーだって!」

 

「あったりまえデース!こんなイベント見過ごすわけないよ〜」

 

「さすが太っ腹!」

 

「まったく……今までで一番の仕事量だったよ……」

 

脱力気味にそうこぼす未来に対して、ステラは珍しくキツイ言葉はかけなかった。

 

「今回は色々と世話になったわ。ありがとね」

 

「お、おう……」

 

素直に返されて少々戸惑い気味な未来。

 

「姉様」

 

「お姉ちゃん」

 

今まで溜め込んできた、感謝の気持ちを全て込めて、

 

二人は伝えた。

 

「「私達の作るライブ、見てくれますか?」」

 

「……もちろん」

 

「……喜んで」

 

抱き合い、その言葉を受け止めるダイヤと聖良。

 

百万ドルの夜景を背に、今ルビィと理亞のライブが始まろうとする————

 

その瞬間、

 

 

 

 

 

 

「…………来たわね」

 

周囲の気温が著しく下がるのを感じ、未来とステラはその場で身構えた。

 

夜の街に集まる雪のような物体。その正体は————

 

「クハハハハ……!!ハハハハハハ!!」

 

銀色の鋭利な身体。腕から伸びる剣。

 

暗黒四天王豪将、グローザムが函館の街に現れたのだ。

 

「さあ出てこいウルトラマン共……!まとめて砕いてやるわ……!!」

 

ああ、タイミングが悪すぎて心底頭にくる。どうして奴らはこうも大事なものを壊しにくるのか————

 

「未来!!」

 

「ああ!!」

 

頭に血が上った二人は、重要なことを忘れたまま————メビウスブレスとナイトブレスを腕に出現させた。

 

「……えっ?」

 

「待って未来くん、今は————!」

 

聖良と理亞の視線が二人に集中する。

 

地面を蹴り、凄まじい閃光と共に未来とステラは————

 

 

 

 

「セヤァ!」

 

「デュア!」

 

ウルトラマンの姿へと、変身を遂げていた。

 

 

◉◉◉

 

 

函館の街に二体の巨人と一体の宇宙人が対峙する。

 

今までウルトラマンを狙って本州へと降り立っていた怪獣達だが、今回は違う。

 

街の人々は初めて目の当たりにする光景に、戸惑いと恐怖の念を感じていた。

 

((はああああッッ!!))

 

右腕にブレードを伸ばしたヒカリがグローザムへと斬りかかり、メビウスもまた背後から殴ろうと迫る。

 

銀色の剣で光の刃を受け止めた後、グローザムは周囲に冷気を発生させて二人を後退させた。

 

「ほう……メビウスまでいるとはな。これは思わぬ収穫が期待できそうだ」

 

(余裕こいてんじゃ……ねえぞッ!!)

 

メビウスも同じくブレスから刃を伸ばして攻撃を仕掛けるが、周囲に広がる寒さの影響か関節が上手く動いてくれない。

 

(ぐっ……!!)

 

鈍くなる赤い巨人をグローザムの斬撃が襲い、火花を散らして地に伏せてしまった。

 

「ウアッ……!」

 

(まだよ……!)

 

ヒカリの身体に七色の輝きが巻き起こり、やがてそれは鎧の形となって装着された。

 

グローザムの剣を確実に防ぎつつ、重い一撃を拳で与えていく。

 

「なに……!?」

 

(はあッ!!)

 

奴の腹部に一発お見舞いした後、ヒカリは素早くブレードを再展開し、その胴体を斜めに一刀両断した。

 

低い音が響き、グローザムの身体が二つに割れる。

 

「……フフフ……ハハハハハハ……!!」

 

(なっ……!)

 

『これが……奴の……!』

 

真っ二つにしたはずの身体が一瞬で再生し、再びこちらへ襲いかかってきたのだ。

 

「無駄だ。俺の異名を知らないのか?」

 

不死身のグローザム。

 

ウルトラ大戦争でも多くの宇宙警備隊員を倒し、恐れられた氷結の悪魔。

 

何度攻撃を与えても回復し、切り刻んでも元の身体に戻る。

 

(そんなデタラメな……!)

 

「さて……」

 

グローザムはメビウスとヒカリの足元に向かって冷気を吐き出し、その両脚を氷漬けにしてしまった。

 

(ぐあっ……!!)

 

(しまった……!)

 

「メビウスは楽勝で始末できるとして————」

 

振り返り、身動きの取れなくなったヒカリを見やるグローザム。

 

「お前の鎧は厄介だな。……このまま全身氷漬けにしてしまおうか」

 

両腕から鋭い刃を伸ばし、二人の巨人に突きつける。

 

((なめるな……!!))

 

直後、メビウスとヒカリは同時にお互いの足元へ斬撃を飛ばし、足枷になっていた氷塊を粉砕した。

 

グローザムから距離をとり、タイミングを揃えて光線を放つ。

 

「「ハァッ!!」」

 

「ぐぅ……!?」

 

メビュームシュートとナイトシュートの重ねがけだ。並の怪獣や宇宙人ならばこの一撃で勝利できる。

 

しかし————

 

(……嘘だろ)

 

粉々に砕け散ったはずの奴の身体がまたも集まっていき、元の状態へと再生していくのだ。

 

以前にも似たような力と対峙したことがある。

 

『インペライザーの時はバーニングブレイブの力で倒したけど……』

 

(……やるしかないだろ……!)

 

メビウスの身体から炎が放出され、ファイヤーシンボルが胸に刻み込まれる。

 

姿を変えるのと同時にエネルギーを凝縮し、巨大な爆炎が腕の中に出来た。

 

『(はあッ!!)』

 

メビュームバーストをグローザムめがけて放つ。

 

が、奴は口から嵐のような冷気を吐き出し、それすらもかき消してしまったのだ。

 

「ハハハハハ……!!何をやっても無駄だ!!」

 

(……こうなったら……)

 

左腕のブレスに手を添えたメビウスを見て、ヒカリは彼の肩を掴んではそれを制止させた。

 

(あの捨て身の必殺技をやろうとしてるんでしょ?やめておきなさい、また左腕が壊れるだけよ)

 

(じゃあどうすれば……!)

 

「カアッ!!」

 

メビウスとヒカリの間に向けて吐き出された冷気が街を凍らせる。

 

二人がなすすべもない姿を見て高笑いを上げるグローザムに、ヒカリは鋭い視線を突きつけた。

 

(……あなたを倒さないとね……あの二人が……みんなが……!!)

 

右腕のブレスから再びブレードを展開し、構える。

 

(楽しくクリスマスを過ごせないのよッッ!!)

 

今まで見てきた光景を思い出す。

 

夜遅くまで作詞をし、姉のために頑張っていたルビィと理亞。放送局での嬉し涙もそうだ。

 

あの美しい愛を、守りたい。

 

(諦めるもんか……ッ!!)

 

「ええい……!うっとおしい!!」

 

グローザムを羽交い締めにするメビウスだったが、未だ寒さの影響で上手く力が入らずに振り払われてしまう。

 

(……っ)

 

「もう遊びは終わりだ。まとめて始末してやる……!!」

 

まずはメビウスを始末しようと、膝を折る彼らに向かって剣を振りかざすグローザム。

 

『メビウス!!』

 

(未来ッ!!)

 

首元に向かって斬撃が繰り出されようとした時————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?なに……!?」

 

眩い閃光と共に現れた、()()()の巨人にそれは阻まれた。

 

赤い身体に額のランプ。特徴的な頭部のブーメラン。

 

(……え……!?)

 

「フンッ!」

 

力強い蹴りでグローザムを蹴り飛ばし、メビウスから退かせる。

 

間違いない。彼は————

 

(ウルトラセブン……!)

 

『セブン兄さん!』

 

駆けつけてくれたウルトラセブンの横にメビウスとヒカリが立ち並び、グローザムへと両腕を構えた。

 

「現れたな……!ウルトラセブン……!!」

 

憎しみ混じりの呼び声が耳朶に触れる。

 

かつての大戦争で戦った宿敵の姿を認識し、グローザムは一層その凶暴性を増していた。

 

「みんな、すまない。もうしばらく戦えるか?」

 

『もちろんです!』

 

『しかし、奴の再生能力……。勝算はあるのか?』

 

ヒカリの問いに頷いた後、セブンはその場から駆け出してグローザムのもとへと向かった。

 

「ヒカリ、ステラ!こいつを倒すには、君達の鎧の力が必要だ!」

 

『アーブギアの力が……?』

 

自らの胸に触れるヒカリ。

 

「勝利の鍵は……!空にあるッ!!」

 

頭部のアイスラッガーを外し、メビウスと共にグローザムと剣戟を繰り広げるセブン。

 

(……空……)

 

ふと先日セブンと話した内容を思い出し、ヒカリはとある案を弾き出した。

 

 

 

「……!」

 

「三人がかりなら勝てるとでも思ったか!?」

 

しがみついてきたメビウスとセブンを豪腕で吹き飛ばすグローザム。

 

函館の環境に加えてグローザムが発している冷気。ウルトラマンに不利な状況が揃っているのだ。

 

「死ねえッ!!」

 

セブンに向かって銀色の刃が向けられたその直後————

 

「デュアッ!!」

 

セブンの腕から放り投げられたアイスラッガーが飛翔し、グローザムの両足を切断する。

 

「……!?」

 

バランスを崩した奴はその場に倒れ込み、身動きの取れない状況となった。

 

再生するまでの数秒の隙。それを見てヒカリは地を蹴って走り出す。

 

「デヤァッ!!」

 

グローザムの身体を抱え、天高く飛び上がる青い巨人。

 

 

 

 

 

雲の上を突き抜けてもさらに上昇し続け、やがて宇宙空間へと到達する。

 

「何のつもりだ……!?」

 

付近に感じる凄まじい熱を察知し、グローザムは初めて危機感を覚えた。

 

「まさか……!貴様らァ……!!」

 

身体をばたつかせて暴れるも、頑丈な鎧に阻まれて剣が通らない。

 

そして巨大な灼熱の炎————太陽が近くなっても、ヒカリの身体はアーブギアによって守られる。

 

『(はああああああああッッ!!)』

 

太陽に向かって奴を放り投げ、間髪入れずに右腕のエネルギーを解放。

 

青色の光線が一直線に奴へと伸び、胴体へと直撃。その身体を一撃でバラバラに粉砕した。

 

「ぐっ……!ぁあああああああ!!」

 

重力で引っ張られながら太陽の熱で全身を焼かれるグローザム。

 

質量が小さくなったこの状態ならば、奴の再生が追いつく前に消滅させることが可能だ。

 

「馬鹿な……!俺は……!!不死身のはず……!!」

 

『その異名もここまでだな。……聖夜の報いを受けろ、グローザム』

 

「おのれ……!おのれええええええええッッ!!」

 

断末魔を上げながら溶けるように消滅していく奴の姿を眺める。

 

四天王の一人を……ここに討ち取った。

 

 

 

 

 

『さて……戻ろう、ステラ』

 

(……!ヒカリ、あれ……!)

 

ステラが示した方向を見る。

 

太陽の一部————見る限りまだごく微小だが、確かにセブンに言われた通り異様な雰囲気を醸し出している黒点が見られた。

 

『あれが……エンペラ星人の……』

 

 

◉◉◉

 

 

     ーーAwaken the powerーー

 

 

無事に迎えたクリスマスイベント当日。

 

AqoursとSaint Snow、みんなで手がけるライブを楽しみながら、未来とステラは何気ない会話を交わす。

 

「理亞ちゃんと聖良さんにも正体がバレちゃうなんてな……」

 

「誰にも言わないって言ってくれたし、まああの二人なら大丈夫でしょう」

 

キラキラとした衣装で舞い踊る少女達を眺めながら口を開く。

 

「それよりステラ……お前、また新しい任務頼まれてただろ?」

 

「ええ、そうね」

 

グローザムを倒したその直後、太陽の様子を報告し終えたステラは、再びセブンから指令を出されたのだ。

 

今度は時空波発生装置の捜索で、宇宙を担当しているウルトラマンジャックからの頼みだった。

 

なんでも怪しい宙域を発見したので、捜索の手伝いをしてほしいとのことだ。

 

「……またしばらく地球を離れることになるわね」

 

『俺達がいなくなっても……』

 

「ああ、わかってる」

 

聖夜の空の下、最高の笑顔でライブを披露している少女達を見やる。

 

未来は強く拳を握りしめ、徐々に近づいてくる決戦の予感を感じた。

 

エンペラ星人との戦いはおそらくもう目の前だ。

 

「千歌達は……みんなは必ず……!」

 

守ってみせる。

 

————終わりが近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして未来とステラの知らない場所。

 

宇宙船の中で、一人の宇宙人が不敵に笑った。

 

「……さて」

 

————残る四天王は、あと一人。

 

 




グローザムの倒し方はですね……これしか思いつきませんでした(笑)どこぞの魔法使いみたいな方法ですね。
バーニングブレイブも通用しないとなれば太陽の熱くらいしかないと思いまして。

解説です。

ついに残りの四天王はメフィラス星人のみとなりました。
メビウス本編でも他の四天王とは違った方法で戦いを挑んできましたね。
しかし今回ターゲットとなるのは……未来やメビウスとは限らないかもしれません。
付け加えると今作のメフィラス星人はウルトラ大戦争時にウルトラマンと相対した個体、という設定になっております。

次回からの10話分、戦闘シーンはお休みです。未来達にも束の間の平穏を。


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第88話 星空に祈る


視点の関係で思ったより短くなったので1話でまとめました。
大晦日にこの話を投稿するのは少し運命感じますね(笑)


大晦日の夜、高海家。

 

普段は家にいない千歌の母も、年末には帰ってくる。

 

そして居間に集まる人数も————今年はちょっとばかし多くて、例年よりも賑やかだ。

 

「ありがとね未来くん。料理作りすぎちゃって、困ってるところだったのよ〜」

 

「あ、いえ!こちらこそお誘いありがとうございます!」

 

「ステラちゃんも、おかわり遠慮しなくていいのよ」

 

「そのつもりです」

 

「あらいい食べっぷり、お母さんはりきっちゃうぞ〜!」

 

「作りすぎて困ってたのでは……?」

 

志満や美渡、千歌の他に未来とステラも加わりテーブルを囲んでいる。

 

『未来くん、いつもは千歌ちゃん()で過ごしてなかったのかい?』

 

(え?ああ……そういや今年が初めてだな……)

 

どうして今まで来てなかったんだっけ、と何気なく思い出す。

 

思えば父さんと母さんがいなくなってからは、ずっと一人で年を越していた。

 

いつもは明るく振舞っていても、心の奥底で両親の死を引きずっていた過去の自分。

 

家族の団欒とか、そういった賑やかな雰囲気が怖くて自然と避けていた。

 

(……こうしていられるのはたぶん、メビウスのおかげだ)

 

『え?』

 

(なんでもない!)

 

頭のなかの会話を無理やり終わらせ、素直にこの時間を楽しもうとする未来。

 

「あっ!もうすぐ日付変わるよ!」

 

テレビから流れるカウントダウンがゼロになった瞬間、その場にいたみんなは見計らったようにお辞儀をした。

 

————あけまして、おめでとうございます。

 

 

◉◉◉

 

 

お正月でもAqoursの練習は休みではない。

 

昼頃には学校のグラウンドに集まり、ラブライブ決勝に向けた特訓を始める予定だ。

 

「それに……今日はSaint Snowの二人も付き合ってくれるんだろ?」

 

「そうみたいね」

 

北海道からはるばるやってきてくれた聖良と理亞の姉妹が、千歌達の練習を見てくれるというのだ。

 

彼女達にとってこれ以上のコーチはいないだろう。

 

ステラと横並びで歩き、学校の校門前までやってくると————

 

「あ、二人とも!」

 

「あけましておめでとヨーソロー!」

 

晴れ着姿で集まっているAqoursの面々と、制服に身を包んだSaint Snowの二人が立っていた。

 

「これから練習……するんだよな?」

 

「そうだよ!」

 

「そんな格好でできるわけないでしょ!さっさと着替えてきなさい」

 

「え〜……」

 

ステラに言われて渋々着替えに向かう九人を見て、そばでその様子を見ていた理亞が呆れた顔で尋ねてくる。

 

「いつもこんな調子なの?」

 

「わりと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習着に着替えた千歌達がグラウンドに集合し、ついにSaint Snow特別コーチ二人による特訓が始まろうとしていた。

 

浦の星学院を見渡した聖良がふとつぶやく。

 

「いい学校ですね。私達と同じ、丘の上なんですね」

 

「うん!海も見えるし!」

 

「でも、なくなっちゃうんだけどね!」

 

「「えっ……?」」

 

曜の言葉を聞いて目を見開く理亞と聖良。彼女達は廃校の件を知らないので、驚くのも無理もない。

 

「今年の春、統廃合になるの。だから……ここは三月でジ・エンド」

 

「そうなの……!?」

 

「でも、ラブライブで頑張って生徒が集まれば……」

 

「……ですよね。私達もずっとそう思ってきたんですけど」

 

笑みを浮かべつつ、どこかもの哀しいグラウンドを見つめる千歌。

 

お互いに顔を見合わせ、悔いはないと言うかのように微笑む。

 

「……そうだったんですか」

 

「あ、でもね!学校のみんなが言ってくれたんだ!ラブライブで優勝して、この学校の名前を残して欲しいって!」

 

「浦の星学院のスクールアイドルが、ラブライブで優勝したって。そんな学校がここにあったんだって」

 

果たせなかった望みのなかで見つけた、新たな光。

 

それを聞いた聖良は、あてられたように瞳を輝かせた。

 

「最高の仲間じゃないですか!……素敵です」

 

「……じゃあ、遠慮しないよ」

 

腰に手を当て、低い声でそう言った理亞からもまた、今回の練習においては手を抜くことができないという覚悟が見えた。

 

「ラブライブで優勝するために、妥協しないで徹底的に特訓してあげる」

 

「……マジ?」

 

「マジ」

 

「マジずら?」

 

「マジずら!」

 

「マジですか……?」

 

「だからマジだって!」

 

経験が浅い未来とステラからしても聖良達の協力は頼もしい。

 

色々な人の応援を背に、千歌達は憧れの舞台へ挑もうとしているのだ。

 

「……こうして時って、進んでいくんだね」

 

不意に鞠莉がこぼした言葉が耳に滑り込む。

 

どこか寂しそうに聞こえるそれは、胸に引っかかる重い何かが秘めていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「はあっ……はあ……!」

 

「お正月ですからねえ、皆さん」

 

鈍りきった身体が突然の運動に悲鳴を上げている。

 

息を切らして地に手をつく千歌達のなかで唯一平気そうなのは果南くらいのものだ。

 

「身体を、一度起こさないとダメですね。校門まで坂道ダッシュして、校舎を三週してきてくれますか?」

 

「「「えええっ!?」」」

 

「さっき言ったよ、遠慮しないって」

 

「はいっスタートです!」

 

聖良の合図で疲れ切った身体を引きずりながら再び走り出す千歌達。

 

その今にも倒れそうな後ろ姿に苦笑しながら、未来はおそるおそる二人に尋ねた。

 

「Saint Snowのお二人は……いつもこんな練習を?」

 

「ええ、わりと」

 

「さすが全国レベルのスクールアイドルね」

 

感心するようにそう言ったステラに、聖良は静かに補足の言葉を加えた。

 

「それはAqoursの皆さんも同じですよ。……彼女達がいったい、どこまでいけるのか、今から楽しみです」

 

そう微笑む彼女の横顔を見て未来は思う。

 

……そうだ、学校のみんなだけじゃない。

 

千歌達九人は、敗退したスクールアイドル達の想いも背負って決勝に臨むんだ。

 

「さあ、私達も!」

 

「よしきた!」

 

理亞が飛び出したのを皮切りに、未来達も共に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関前で腰を下ろし、少しの間休憩を挟む。

 

「こんな調子で決勝なんて……本当に大丈夫なのかな……?」

 

息継ぎをしながら不安げに言う梨子。

 

「いけると思いますよ」

 

「本当!?」

 

「ステージって、不思議とメンバーの気持ちが……お客さんに伝わるものだと思うんです。今の皆さんの気持ちが、自然に伝われば……きっと、素晴らしいステージになると思います」

 

「……はい!」

 

努力した分、それは実力としてステージ上に現れる。

 

千歌達ならば大丈夫だ。きっと————見たこともないような輝きを見せてくれるはず。

 

「鞠莉ちゃんは?」

 

「……あれ?」

 

いつの間にか鞠莉の姿が見えないことに気がついたルビィが周囲を確認する。

 

「ああ、何かご両親からお電話だったみたいですが……」

 

「もしかして、統廃合中止ずら!?」

 

「いやいやいや、さすがにそれは——」

 

「みんな!」

 

横から飛んできた声に反応して皆の視線が流れていく。

 

何かを隠すように後ろで手を組んだ鞠莉がそこに立っていた。

 

「お話は済みましたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって学校の体育館。

 

ステージ前に集まったみんなは、鞠莉からの話に耳を傾ける。

 

「理事?」

 

「オフコース!統合先の、学校の理事に就任して欲しいって。ほら、浦の星から生徒もたくさん行くことになるし、私がいたほうが……みんなも安心できるだろうからって」

 

「理事……って?」

 

「鞠莉ちゃん、浦の星の理事長さんでもあるの」

 

「ええっ!?」

 

理亞が驚くのも無理もない。当初はダイヤでさえも信じられなかったのだから。

 

「じゃあ、春からも鞠莉ちゃん一緒に学校に!?Aqoursも続けられる!?」

 

「いや、それ留年したみたいだし」

 

「理事長がメンバーになったらスクールアイドルじゃないだろ……」

 

「大丈夫、断ったから」

 

あっさりとそう告げる鞠莉に「ええっ!?」と驚愕の声が浴びせられた。

 

「理事にはならないよ。私ね、この学校卒業したら、パパが薦めるイタリアの大学に通うの。……だから、あと三ヶ月。ここに居られるのも」

 

 

◉◉◉

 

 

「では」

 

まとめた荷物を持って去ろうとしている聖良と理亞を駅前まで見送る。

 

「もう少しゆっくりしていけばいいのに」

 

「ちょっと、他にも寄る予定があるので」

 

「予定?」

 

「ルビィ知ってるよ!二人で遊園地行くんだって!」

 

「言わなくていい!」

 

照れ隠しのために声を荒げる理亞は、気を取り直して一枚のメモをステラに手渡す。

 

「これ、姉様と二人で考えた練習メニュー」

 

「ありがとう」

 

「どれどれ……って、またすごい量だなこれは……」

 

思わず苦い表情になるみんなを見て、理亞は最後の檄を飛ばした。

 

「ラブライブで優勝するんでしょ?そのくらいやらなきゃ」

 

「ただの思い出作りじゃないはずですよ」

 

「必ず優勝して。……信じてる」

 

再び支えられていることを自覚し、千歌は力強く首を縦に振った。

 

「うん!」

 

「がんばルビィ!」

 

「……なにそれ?」

 

「ルビィちゃんの必殺技ずら〜」

 

「ピギィ……」

 

「技だったの!?」

 

ルビィを中心に巻き起こる笑いが響く。

 

 

 

正月の夕暮れ。賑やかな時間が————終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イタリアかあ……」

 

「そうね、きっとそうなるのかもなあってどこかでは思ってたけど……」

 

「実際、本当になるとね」

 

沈みかけた太陽が世界をオレンジ色に染める。

 

海岸付近で足を止めた二年生五人は、しばらく遠くの海を見つめていた。

 

「……あと三ヶ月もないんだよね」

 

「ラブライブが終わったら……すぐ卒業式で」

 

「鞠莉ちゃんだけじゃないわ。ダイヤさんも、果南ちゃんも……」

 

「春になったら、一気に周りの環境が変わっちゃうな」

 

今のメンバーで一緒に登下校することもなくなり、バス停で手を振り合うこともしなくなる。

 

統廃合先の制服に変わり、教室だって別々になるかもしれない。

 

不意に駆け出した千歌は、砂浜の上に木の棒で文字を描き始めた。

 

始まりの名前、「Aqours」

 

「Aqoursは……どうなるの?」

 

「三年生、卒業したら……」

 

「わかんない。……ほんとに考えてない」

 

一点を見つめた千歌は、こちらに背を向けたまま口にした。

 

「なんかね、ラブライブが終わるまでは……決勝で結果が出るまでは————そこから先のことは、考えちゃいけない気がするんだ」

 

「それは……みんなのために、か?」

 

未来の問いに静かに頷く千歌。

 

「全身全霊、すべての想いをかけて、ラブライブ決勝に出て優勝して……ずっと探していた輝きを見つけて!それが……学校のみんなと、卒業する鞠莉ちゃん、果南ちゃん、ダイヤさんに対する礼儀だと思う」

 

その言葉を聞いた梨子は、言葉に出す前に一歩踏み出していた。

 

千歌の頬を両手で挟み、柔らかに笑う。

 

「むっ……なに?」

 

「賛成」

 

「大賛成!」

 

浜辺の上で身を寄せ合う三人を眺めつつ、未来は隣に立つステラに何気なく聞いた。

 

「……お前は、いつ地球を出るんだ?」

 

「予定では明日の朝ね。沼津の方でジャックと落ち合うの」

 

『ジャック兄さんと一緒の任務かあ。いいなあ…………。ヒカリ、僕からもよろしく伝えといてくれないか?』

 

『ああ、請け負った』

 

五人の影が砂に映る。

 

穏やかな日常の一ページは————そう長くは続かないかもしれない。

 

 

◉◉◉

 

 

————みーらいくーーーーん!!

 

「うえっ!?」

 

すっかり暗くなった頃。

 

だらだらと何も考えずに正月の余韻に浸っていると、外の方から大声で名前を呼ばれた。

 

慌ててベランダに出てみれば、なぜだか全員集合した千歌達が視界に入る。

 

「どうしたんだーーーー!?」

 

「ちょっと一緒に、ドライブしない?」

 

「ドライブ……?」

 

玄関前で止まっている白とピンクカラーのワーゲンバスに目が留まる。

 

いったい何の気まぐれなのやら、と思いつつも上着を羽織って外へ飛び出した。

 

「……これ乗れるの?」

 

「乗れるの?じゃなくて乗るのよ」

 

左右から挟まれて辛そうにしているステラが呻くように声を出す。

 

既に定員オーバー気味の車内に無理やりねじ込むようにして、未来も席に腰を下ろした。

 

「準備はいいデスか、未来?」

 

「……ってあれ!?鞠莉さん!?」

 

「ハーイ」

 

さも当然かのように運転席に座っている金髪の少女に目を見開き、未来は一気に胸の中にあった不安を爆発させた。

 

「免許取ったの……?」

 

「後々必要になるからね」

 

話によれば海外で留学する際にも使うとのことで、誕生日を迎えた時に取ったそうだ。

 

今はもうすっかり慣れてるから大丈夫、と念を押されても不安感は拭いきれない。

 

「しかもMTって……すごいな鞠莉さん!」

 

「もっと褒めてくれてもいいのよ〜?」

 

と言いながらバスを発進。直後に車体が上下に揺れ、乗っていたみんなが悲鳴をあげた。

 

「……大丈夫?」

 

「お、オーライ……」

 

(いざとなったら……な?メビウス)

 

『う、うん。意識しておく』

 

 

 

なんだかんだで走っているうちに安定したのか、道路を走行中の時は危なっかしい事は起きなかった。

 

「ちなみにこれ、どこに向かってるの?」

 

「星を探しに、らしいよ?」

 

「星……」

 

果南に言われて窓の外を見上げるが、空は雨雲に覆われていて星なんか一つも見えっこない。

 

「わあ、見て……!船の光かな?」

 

窓から見える点々とした海の輝きを見つけ、ふと曜がこぼす。

 

「綺麗ね……」

 

「なんか、ワクワクするね!」

 

「うん!考えてみれば、こんな風に何も決めないでみんなで遊びに行くなんて、初めてかも!」

 

「だからみんなで来たかった」

 

梨子の言葉に応えるように、運転席の鞠莉が前を見ながらそう言った。

 

「本当は、三人だけの予定だったんだけど……」

 

「十一人がいいって」

 

「……うん」

 

静かな空間で満たされた車内。

 

数秒後、千歌は弾かれたように空を見上た。

 

「あっ星!」

 

「えっ!?どこですの!?」

 

「鞠莉ちゃん!」

 

「オーライ!」

 

ガコン、とギアを切り替えて進んでいた道路を曲がる鞠莉。

 

方向からして西伊豆スカイラインへと向かうつもりなのだろう。

 

(でも……まだ雨は……)

 

未だ空は晴れることなく冷たい雫を降らし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をお祈りするつもりだった?」

 

山の上までやってきて車を止めた鞠莉は、虚しそうに流星の絵が描かれた星座早見盤を手に取る。

 

「……決まってるよ」

 

「“ずっと一緒にいられますように”?」

 

「これから離れ離れになるのに?」

 

鞠莉がイタリアへ留学に行くように……ダイヤは東京の大学へ、果南も海外でダイビングのインストラクターの資格を取るために。

 

三年生はそれぞれの道を歩みに、この先バラバラになってしまう。

 

「だからだよ、だからお祈りしておくの。いつか必ず……また一緒になれるようにって!……でも」

 

表情を曇らせた鞠莉は、目に涙を浮かべて口にした。

 

「……無理なのかな?」

 

「なれるよ!」

 

沈んだ雰囲気を一気に引き上げる千歌の声音が車内に響く。

 

「絶対一緒になれるって、信じてる!鞠莉ちゃん、それいい?」

 

「え?」

 

「千歌?」

 

鞠莉から星座早見盤を受け取った千歌は外に飛び出すと、天高くそれを掲げた。

 

「この雨だって、全部流れ落ちたら……必ず、星が見えるよ!」

 

「…………」

 

雨に打たれながらそう語る千歌を見て、未来とステラは顔を見合わせる。

 

お互いにうっすらと笑みを浮かべていることを確認し、二人同時に外へ駆け出した。

 

「だから晴れるまで、もっと……!もっと遊ぼう!」

 

「それまで待ってたら風邪ひいちゃうぞ?」

 

「え?」

 

不意に発せられた声に反応して、千歌がこちらを向く。

 

「……メビウス、いいよな?」

 

『今回だけだよ、他の人に見られたら大変だからね』

 

「まったく甘いわね」

 

『君も同じことを考えていたみたいだがな、ステラ』

 

「どういうこと?」

 

四人のやり取りに首を傾ける千歌。

 

バスを降りた他のメンバーも集まったところで、未来とステラは腕に手を添え————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————うわぁ〜!!

 

赤と青の巨人。その手のひらに乗った九人の少女達は、雲の上の景色に感嘆の声を上げた。

 

真下に広がる雨雲と、頭上に散らばる星の海。

 

「すごい!すっごい綺麗!!」

 

『しっかり掴まっててね』

 

(あんまり顔を出すと、地上に真っ逆さまよ)

 

ウルトラマンの手に乗り、先ほどまで雲に隠れて見えなかった光景を堪能する千歌達。

 

彼女達の笑顔を見て、未来はメビウスとヒカリに感謝しきれないほどの想いを言葉に乗せて伝えた。

 

(ありがとうメビウス、ヒカリ。二人のおかげで、みんなの願いが叶った!)

 

『どういたしまして、だ』

 

『ステラが言うなら仕方がない』

 

(あなたも素直じゃないわね)

 

忘れることができないであろう、夢のような景色。

 

空に輝く星達のなかに、一筋の流星が見えた。

 

「あっ!流れ星!」

 

「ほんとだ!」

 

次々に流れていく星の雨。

 

先のような光を阻むものではなく、千歌達を激励するような美しい雨だ。

 

「……見つかりますように」

 

星々に向かって、千歌は祈った。

 

「輝きが……。私達だけの輝きが、見つかりますように!」

 

 

◉◉◉

 

 

「準備は完了しましたね」

 

暗闇に浮かぶ怪獣の軍勢と向き合い、メフィラス星人は言う。

 

地球に侵攻する準備は整った。あとは————

 

「最後に一度だけ、私からの挑戦状を叩きつけるとしましょうか」

 

 





ついにメフィラスとの戦い……。
今回狙われる者は……!?

ここにきて未来についての余談を語っていきます。

中性的というにはほんの少しだけ幼い雰囲気の少年で、本人も知らないところで千歌や曜に依存気味というなんとも男らしくない設定でしたが……。
メビウスと出会ってここまで戦い続け、やがて内面的にも変化が訪れました。
ただ恋愛に関してはトコトン苦手で……?
次回は久しぶりに恋愛要素タグが仕事をするかもしれません。

今日中にもう1話だけ投稿しようと思います。


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第89話 最後の将


11話に入ります。
今回以降オリジナル展開が大半を占める予定です。


「そうそう、そっち気をつけて」

 

「千歌ちゃんは大丈夫?」

 

色鮮やかな色彩で作られたアーチを校門前に建てる。「閉校祭」と大きく書かれたそれは、学校のみんなで作り上げた感謝の結晶だった。

 

「そらっ!」

 

トンカチを使って杭を叩き、アーチと繋がっているロープを張る。

 

「……かんっぺきだな」

 

「立派ね」

 

設計通り立ち上がってくれたアーチを見上げ、梨子と未来は揃って上を見上げた。

 

「うん。これまでの感謝を込めて…………盛大に盛り上がろうよ!」

 

「ヨーソロー!」

 

浦の星学院に別れを告げる————閉校祭。今はその準備中だ。

 

 

◉◉◉

 

 

学校のみんな、全校生徒による提案で鞠莉のもとに申請が届いたのがきっかけだ。

 

当然その申し出は快く承認され、今こうしてみんなでせっせと校内の装飾を頑張っている。

 

「こんな時に行っちゃうんだもんなあ、ステラ」

 

『向こうも大事な仕事だしね』

 

数日前の朝、ステラはジャックとともに時空波発生装置の特定のために宇宙へと出て行った。

 

しばらくは戻れないそうなので、未来とメビウスの二人だけの防衛任務だ。

 

「未来くん、ちょっと天井にこれ付けてもらっていい?私じゃ届かなくて」

 

「あ、オッケー」

 

側で教室内の装飾をしていた女子生徒から飾りを受け取り、上靴を脱いでから椅子へ足を乗せる。

 

(……ま、これはこれで楽しいけどな)

 

今までここで出会い、ここで学んできたんだ。

 

今度はこっちが学校にお礼をする番だ。

 

「ありがとう。また何かあったらお願いね」

 

「了解!」

 

こちらはそろそろひと段落つこうとしていたので、一旦自分の教室の様子を見てこようかと部屋を出る。

 

千歌達が担当する和風メイド喫茶は、材料費等の問題で女の子向けの衣装しか製作できないようだった。故に一部の男子が半強制的に女装させられていたが————

 

(あんまり近づきたくないけど……)

 

未来は最初から嫌な気はしていたので指名される前にその場から逃げさせてもらった。そして現在も絶賛逃亡中。

 

「そうは言ってもこのまま顔も出さないわけにはいかないし……」

 

おそるおそる出入り口から顔だけ出して教室内を確認する。

 

少し遅れ気味だが、このままいけば充分間に合う程度のものだ。

 

「……ん」

 

ふと端にあるテーブルに視線を移すと、メイド服製作を手伝ってくれているルビィが目に留まった。

 

「ル————」

 

「あー!未来くん見つけた!!」

 

「あばよ」

 

声をかけようとしたところで背後から聞こえた千歌の声をいち早く察知し、地面を蹴る。思わず人間ではありえない速度で走ってしまったことは内緒だ。

 

「廊下を走ってはいけませんわぁ!!」

 

「ごめんなさーーーーいッッ!!」

 

ダイヤの雷が落ちるのを後ろで感じつつも全力で逃亡させてもらう。

 

昔から割と本気でこの容姿をからかわれるのは嫌なのだ。

 

『ちょ、ちょっと落ち着いて未来くん』

 

「あ、ああ……ごめん……」

 

階段の踊り場で立ち止まり、壁に手をついて息を吐く。

 

……いつまでもこうしてはいられない。閉校祭は明日なんだ。

 

「……よし!————あれ?」

 

ここは校舎の辺境。みんな閉校祭の準備で駆け回ってはいるが、ここに来る人は滅多にいないはず。

 

しかし————

 

「誰か今……」

 

何もないはずの教室に入っていく人影が視界の端にちらつくのを見た。

 

ゆっくりと歩み寄り、その教室へと足を踏み入れる。

 

「……?誰もいない……」

 

静まり返った教室の中心で立ち止まっていると、頭のなかに何かが響いてきた。

 

 

————気をつけて。

 

 

誰かの声がそう知らせてくる。

 

周囲に人がいないか確認するも、やはり未来以外には誰も確認できなかった。

 

 

 

 

 

その直後、ドオォン!という凄まじい騒音が外から聞こえ、未来は弾かれたようにその場を後にした。

 

「なんだ……!?」

 

音がしたのは校門がある方向。

 

玄関で外靴を履き、外へと足を踏み出す。

 

「なっ……!なあああああ!?」

 

なぜだか高海家の飼い犬であるしいたけがひっくり返っており、ぶつかったのかアーチまでもがバタリと倒れている。

 

「どうしてこうなった!?」

 

「し、しいたけが走り回っちゃって……」

 

唖然としている千歌と並んで未来も口をあんぐりと開くばかりである。

 

 

◉◉◉

 

 

「器物破損、被害甚大、アーチの修復だけで十人がかりの四時間のロス」

 

「だって……」

 

「ていうかなんでしいたけが学校にいたんだ……?」

 

「なんか、美渡姉散歩してたらリード放しちゃったみたいで……」

 

生徒会室に呼び出された千歌、花丸、梨子そして未来。

 

鞠莉にやられたのだろう、額に押された「承認」の判子を拭いながら話すダイヤの眉間にシワが寄る。

 

「言い訳は結構です。とにかくこの遅れをどうするか……。閉校祭は明日なんですのよ!?」

 

「う……頑張ります……」

 

「それで済む話ですの?もう下校時間まで僅かしかありませんわ」

 

「そろそろ終バスの時間ずら」

 

「準備、間に合うかなあ……」

 

「だよね……」

 

もともとこのまま順調にいけば間に合う、程度の余裕だったのだ。アーチの修復で時間を取られて一気に大ピンチだ。

 

「オーケイ。そういうことであれば、小原家が責任を持って送るわ!全員!」

 

「本当ずら!?」

 

「でも、全員って?」

 

「準備で学校に残る生徒全員。もちろん、ちゃんと家にも連絡するようにね」

 

鞠莉の言葉を聞いてパッと表情を明るくさせた千歌達。

 

「ありがとう!みんなに伝えてくる!」

 

「未来さんは先ほどの廊下走行について少し話が————」

 

「あ、あはは……じゃあねダイヤさん!」

 

「あっ!お待ちなさい!!」

 

引き止められる前に退散させてもらう。時間の問題もあるんだ、ここで説教を受けてる暇はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美渡がお詫びに、と差し入れしてくれたみかん鍋でお腹を満たした後、みんなで作業を再開させる。

 

「しっかし……結構みんな残ってるんだなあ」

 

資材を運びつつ、皆の作業風景を眺める未来。

 

ほとんど————というか全員残っているのではないかと思うほど、夜の学校は賑わっていた。

 

指定の場所にダンボール箱を届けた後で、休憩がてらに校門のアーチの様子を見に行く。

 

「……あ、曜」

 

「未来くん、お疲れ様」

 

最後の仕上げをしていたのか、トンカチ片手に曜がアーチ前に立っていた。

 

「なんとか間に合いそうだな」

 

「だね。一時はどうなることかと思ったけど!」

 

みんなの頑張りが報われ、なんとか今日中に準備は終わりそうだ。またしいたけが乱入してこなければいいが————

 

「最初も、この場所だったよね」

 

不意に曜がこぼした言葉の意味を探る。

 

校門前。ぽつりと置かれているダンボール箱。

 

去年の春。千歌がスクールアイドル部の部員集めに励んでいた場所。

 

「あっという間だったな」

 

「ほんと!一年でいろんなことがあったよね!」

 

千歌がスクールアイドルを始めたのと同時期に、未来はメビウスやステラ、ヒカリと出会い————怪獣達との戦いに身を投じることとなった。

 

「……でさ、未来くん。突然こんなことを聞くのもなんだけど……」

 

「ん?」

 

次に曜が発する言葉に、未来は数秒考えるどころか思考停止にまで至ることになる。

 

「未来くんってさ、千歌ちゃんのこと好きだよね?」

 

「………………」

 

目を点にして曜の顔を見つめる未来。

 

「……未来くん?」

 

「……おっ……おれっ……俺が!?」

 

「うん」

 

「千歌のことを……!?」

 

「そうそう」

 

一言ずつ頷いていく曜。

 

段々と蒸気していく自分の顔面を自覚しつつ、未来はひたすらに抗議し続ける。

 

「何を根拠にそんなこと……!!」

 

「んー……。一番最初にそう思ったのは、未来くんとメビウスの関係を知った時かな」

 

正体がバレた時————といえばインペライザーとの戦いだ。

 

あの時は今までウルトラマンであることを内緒にしていたことや、ボロボロになって心配させてしまったこともあり、千歌をひどく傷つけてしまった。

 

「あの時の未来くんの顔を見て……なんとなくね。……あ、違ったらごめんね!」

 

「俺が……チカノコト……スキ……?」

 

「目が怖いよ未来くん……」

 

まとまらない思考を無理やりに整理する。

 

……どうしてこのタイミングでそんなことを聞いてきた?閉校祭だから?学校が終わるからなのか?……いや、関係あるかそれ?

 

「あ、未来くんと曜ちゃん!」

 

「千歌ちゃん!」

 

「……!?」

 

駆け寄ってきた千歌の顔が直視できない。

 

下を向きつつ、少しずつ後退し————

 

「うわああああああああああ!!!!」

 

「未来くん!?」

 

「あちゃー……」

 

全力疾走で退避。

 

やってしまったか、と頭をかく曜に、千歌はきょとんとした顔を向ける。

 

「何かあったの?」

 

「…………ビンゴだね」

 

「へ?」

 

「ううん、なんでも」

 

微笑みながらそう返す曜に、千歌はただただ首を傾けるしかなかった。

 

 

◉◉◉

 

 

「……くっそー曜の奴……。変なこと言うから眠れなくなったじゃんか」

 

枕に顔を埋めたまま唸る。

 

閉校祭の準備は無事終わることができ、鞠莉の用意した車でそれぞれ帰宅。

 

すっかり深い時間になった今、明日に備えて眠ろうとしていたのだが————

 

「……ああ、ダメだ」

 

『どこか行くの?』

 

「ちょっとそこらへん散歩」

 

ベッドから降りた未来はクローゼットへ向かい、私服と上着を着て玄関を出た。

 

曜に言われたことを忘れるためのちょっとした運動だ。

 

歩いてればいずれ頭から綺麗に無くなって————

 

『そういえば、曜ちゃんが言ってた話って——』

 

「あーーもーーーー!!頼むよほんとーーーー!!」

 

『ええっ!?』

 

突然頭を抱えて大声をあげる未来に怯えるような声を漏らすメビウス。

 

彼が話を振り返すのは予想してなかった。てっきりメビウスはこの手の話には興味がないと思っていたが。

 

「……ごめん、ちょっと取り乱した」

 

『う、ううん……僕こそ、なんかごめんね』

 

「……千歌のことが好き、か」

 

冷静に考えてみてもハッキリとはわからない。

 

大切で————特別な存在というのは確かだ。でもそれは曜や、Aqoursのみんなだって同じ。

 

…………家がお隣で、小さい頃から交流があって、それで————

 

『……あはは、未来くんがこんなに照れる顔は貴重かも』

 

「うっさい」

 

考えれば考えるほどわからなくなる。

 

俺は————日々ノ未来という人間は…………。

 

 

 

 

 

 

その時。

 

突然目の間に現れた人影に反応して顔を上げた。

 

「……!?」

 

ぼんやりと浮かぶ影。未来達を誘うように段々と距離を離していくそいつは、全身が真っ黒。

 

ずんぐりとした体型に尖った耳。そしてつり上がった青い目を持っていた。

 

『メフィラス星人だって……!?未来くん、追って!』

 

「お、おう!!」

 

幽霊のように漂うそれは未来が駆け出した瞬間に急に速度を上げ、遠ざかっていく。

 

「逃がすか……ッッ!!」

 

メビウスの力を借り、風のような速度で街中を駆けた。

 

高速で移動しつつ、奴を見失わないように意識する。

 

「メビウス、あいつは……!?」

 

『メフィラス星人……おそらく暗黒四天王に所属しているのと同一個体だ……!!』

 

「なんだって……!?————あっ!」

 

ふっと煙のように消えたメフィラスの幻影。

 

その場でブレーキをかけた未来は、周囲を確認しながら肩を上下させた。

 

「いなくなった……」

 

『……嫌な予感がする。急いで戻ろう』

 

「ああ…………って痛っ!?」

 

振り向いた瞬間にごつん、と頭部に何かがぶつかる音。

 

見えない壁があるかのように、引き返そうとする未来を阻んでいた。

 

「……まさか……」

 

『罠、だね』

 

 

◉◉◉

 

 

「未来くんと梨子ちゃん……もう行っちゃったのかな……?」

 

閉校祭当日。

 

これから始まる最高の時間に胸をときめかせ、千歌はバス停に向かった。

 

遠くに見える長い髪を視界に捉え、千歌は何気なく……いつものように声をかける。

 

「おはよう梨子ちゃん!……ってあれ?未来くんはいないの?」

 

ひょい、とこちらを振り向いた梨子は呆然と自分を見つめるのみで返事をしない。

 

どこか怪訝な瞳を向けてくる彼女に不安を感じ、千歌は再び名前を呼んだ。

 

「ねえ梨子ちゃんってば!」

 

「えっと……」

 

うろうろと落ち着きのない視線をやっと千歌に定めたかと思えば————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どちら様…………でしょうか?」

 




ついに始まってしまったメフィラス星人によるゲーム。
未来はバリアの外に弾き出されて手が出せない様子……。
そして学校で聞こえた声の正体とは。

では解説です。

今回から始まるメフィラス星人の挑戦ですが、結構色んな要素がごちゃ混ぜになっております。
これまで作中に登場した物や仄めかしてきたものが次々に絡んできます。
一章で書いた話、そしてサンシャイン一期を見た人は色々と感慨深くなるかもしれません。

それでは次回もお楽しみに。


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第90話 私達のいた場所

最後の四天王であるメフィラス星人。
それを打ち破る鍵となるのは…………。


時は数時間前に遡る。

 

生身で殴っても壊れる気配のない障壁に痺れを切らし、未来が左腕に手を添えた時。

 

————おっと、いいのですか?手を出せば中にいる人間を焼き払いますぞ?

 

「……!?誰だ!!」

 

夜空に投影される巨大な影を見上げ、未来は鋭い目つきでそれを睨んだ。

 

『メフィラス星人……!!』

 

「お前……ッ!!何をするつもりだ!?」

 

先ほどまで追っていた宇宙人の姿を見せられ、さらに憤慨する未来。

 

————なに、ちょっとしたゲームですよ。君達の“絆”とやらを試す、ね。

 

「ゲームだと……!?」

 

————君達の仲間である高海千歌……、バリア内にいる彼女以外の人間の脳にとある細工を施しました。

 

ふと視線をずらすと、内浦全体を囲むようにして何らかのエネルギーを放射している宇宙船が目に留まった。

 

どうやら幻影で未来を誘い出したのは、一時的に街から離れさせるためだったらしい。

 

————彼女達の命が欲しければ、大人しく見物していることですね。

 

「……ふざけんな……!ふざけんなァ!!」

 

高笑いを残して消えていく影を、未来とメビウスはただ眺めることしかできなかった。

 

「……みんな……っ!!」

 

 

◉◉◉

 

 

理解が追いつかない。今彼女は何と言ったのか。

 

「どちら様でしょうか」と、確かにそう聞いてきた。嘘なんてついていないとでも言うかのような純粋な瞳で。

 

千歌は引きつった顔で再び問う。

 

「どちら様でしょうか……って……。やだなあ梨子ちゃん、冗談きついよ……」

 

微妙な空気が漂うなか、ついに会話が続かないまま学校へと向かうバスが到着する。

 

いつも一緒にいたはずの友達は妙によそよそしくて、気まずく感じた千歌はほとんど無意識に梨子と離れた席に腰掛けた。

 

(梨子ちゃん……だよね。人違いじゃない……よね?)

 

後ろの席に目を向けて再度確認するが、姿から仕草までどこからどう見ても桜内梨子本人だった。

 

————どちら様…………でしょうか?

 

(梨子ちゃんはこんな意地悪する子じゃないと思うけど……)

 

知らないうちに彼女が嫌がることでもしてしまったのか、と不安になる。

 

「あ、梨子ちゃん!おはヨーソロー!」

 

「おはよう曜ちゃん。閉校祭、楽しみだね!」

 

後ろの方でそんな会話を聞き、千歌は耳をそばだてた。

 

「そうだ、曜ちゃ————」

 

「ところで梨子ちゃん、外で話してた子って知り合い?」

 

席を立とうとしていた身体が固まる。

 

幼馴染である曜ですら他人行儀な物言いを口にしたのだ。

 

「ううん、違うよ。……浦の星の制服着てたけど……あんな子今まで見たことないわ」

 

「ちょっ……ちょっと待ってよ!」

 

今度は考えるより先に身体が動いた。

 

二人のもとへ大股で歩いて行き、必死に問いかける。

 

「やめてよ二人とも!エイプリルフールにはまだ全然早いよ!?」

 

「えっと……ごめん、そのリボン二年生だよね。どこかで会ったかな……?」

 

心底困ったような表情でそう聞いてきた曜を見て、つい語気を荒げてしまう。

 

「……!もういいっ!!」

 

頬を膨らませて背を向ける千歌に、梨子と曜はただ呆然とするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう……こと……?」

 

学校に着いてからも顔見知りの生徒に話しかけてみたが、誰一人自分のことを知らないような素振りだった。

 

頭を動かすのが苦手な自分でも異常だということくらいわかる。

 

「……あっ!」

 

うちっちーの着ぐるみを着て顔だけ出している果南を遠くに見つけ、泣き出しそうな顔で廊下を駆け出した。

 

「果南ちゃん!果南ちゃーーーーん!!」

 

「ん?」

 

「あっ」

 

彼女のところに到達しかけたところで足をつまずいてバランスを崩してしまう。

 

「おっと、大丈夫?」

 

着ぐるみの大きな腕で千歌の身体を受け止めた果南。

 

果南の身体に触れたことで一気に安心する千歌だったが————

 

「ありがとう果南ちゃん」

 

「あれ?どこかで会ったことある?」

 

「…………え?」

 

震える瞳で果南の顔を捉え、確かにそれが自分の幼馴染であることを何度も確認する。

 

「ま、いいや。閉校祭、楽しもうね!」

 

「…………」

 

そう言い残して去っていく彼女からは、悪意といった類の気配を全く感じなかった。

 

————嘘はついてない。騙そうともしていない。本当に自分の存在が忘れ去られている。

 

「……なんで」

 

その後も必死に校内を駆け回るが、自分を覚えている人物には誰一人会えなかった。

 

家族である美渡や志満でさえも怪訝な目線をこちらに向けてくるばかり。

 

「…………どういうこと?」

 

————ごめんなさい、覚えてないわ。

 

「…………いったい何が……」

 

————もしかして説明会応募してくれた子かな?

 

「……なんで……なんで……!」

 

————その制服って、手作り?すごいわね!

 

「どうして!?」

 

 

 

 

 

————どちら様…………でしょうか?

 

 

 

 

 

無意識にたどり着いた場所はスクールアイドル部の部室だった。

 

中庭で出店を開いている鞠莉が視界に入る。おそらく彼女に会いに行っても同じ反応をされるだろう。

 

部室に置いてあった千歌の私物は綺麗さっぱり無くなっており、まるで自分だけが世界からいなくなってしまったかのようだった。

 

「どうしちゃったんだよ、もう!!」

 

机に顔を埋める千歌。

 

しばらくそうしていると、よく通る声で呼びかけてくる声音の存在に気がついた。

 

————顔を上げて。

 

「……!?誰……!?」

 

青色の髪をサイドテールにした小学生くらいの女の子。

 

宝石のように美しい瞳と木目細かく、透き通るような白い肌。

 

————あたしはこの学校が放つマイナスエネルギーによって、辛うじて精神体を維持している状態。あまり長くは保たないの。

 

藁にもすがる思いで眼前に立つ少女の言うことに耳を貸す。

 

————どうにかして他の人達の記憶を復活させて、このエネルギー波を弱めて欲しいの。このままじゃあたしも手出しできない。

 

「でもどうすれば……!?」

 

————ごめんね、もう……限界……。()()()()()達を……助けてあげて……!!

 

消えかける少女に手を伸ばすが、空しくも千歌の手は何もない空間を掴んだ。

 

「……なんで……私だけが……」

 

そう言いかけてふと気づく。

 

「……千歌……だけ?」

 

いや、違う。未来がいない。

 

「そうだ、未来くんとメビウスは……!?」

 

パッと体育館の方を振り向いて、部室の出入り口の戸を開こうと手をかけた瞬間————

 

「…………!」

 

その扉は千歌が触れる前に開かれ、目の前には曜が立っていた。

 

 

◉◉◉

 

 

「……あの宇宙船をどうにかできれば……」

 

空に浮かぶメフィラスの乗った宇宙船を睨みつけるが、奴に言われた言葉を思い出して表情を曇らせた。

 

余計な手出しをすれば無条件で千歌達が命を落とす。

 

『……くそっ』

 

「……どうすれば……!!」

 

途方に暮れる未来とメビウス。

 

顔を地面に向ける彼を勇気づけるように————その男性は現れた。

 

「顔を上げなさい、少年」

 

『……!?あなたは…………!!』

 

「え……?」

 

落ち着いた雰囲気の初老の男性を見上げ、メビウスは驚愕の声を上げた。

 

「今は信じるしかない。彼女達が……メフィラスの呪縛を振り払うことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた……さっきの」

 

「曜ちゃん…………」

 

なんとかして、みんなの記憶を————

 

「曜ちゃん!」

 

「はいぃ!?」

 

彼女の肩を掴み、目と目を合わせて説得を開始した。

 

「私だよ!高海千歌!!幼馴染の!!」

 

「たか……?ごめん、なんのことかさっぱり……」

 

困惑した顔を向けてくる曜を見ていたたまれない気持ちになるが、めげずに彼女を見据える。

 

泣きそうになるのを堪え、千歌はこれでもかと口を開いた。

 

「去年の……春……!」

 

「え?」

 

「去年の春!!一緒に校門の前で部員集め頑張ったじゃん!!」

 

「どうしてそれを……!?」

 

共通の記憶に引っかかった、と表情を明るくさせる千歌。

 

ふと今朝持ってきた荷物の中を思い出し、テーブルに置いていた鞄を開いてある物を取り出す。

 

「ほら、これも!!」

 

千歌はオレンジ色のシュシュを引っ張り出しては曜に見せつけた。

 

「みんなそれぞれ色は違うけど……同じ物を梨子ちゃんからもらったよね……!?」

 

「な……なんであなたがそれを————」

 

そう言いかけた曜は一瞬考え込むが、すぐに我に返ったように千歌の顔を見直した。

 

「…………ごめんなさい、やっぱり————人違い、とかじゃないかな……?」

 

「…………!」

 

直後、抑えていた感情が一気に爆発し、千歌は脱力したように掲げていたシュシュを下ろす。

 

 

 

 

 

「…………どうして……?」

 

「…………あ」

 

曜は目の前に立つ見たこともない少女の顔を見て、理由もなく悲しい気持ちになった。

 

「どうして……!忘れちゃうのぉ……!!」

 

「あっ…………あの…………!!」

 

涙を流した千歌は、伸ばされた曜の手を振り払って部室から飛び出してしまった。

 

地面に落ちたオレンジ色のシュシュを拾い上げ、じっと見つめる。

 

「…………なんで……こんなに傷ついてるんだろ……?」

 

自然と曜の目元からも一筋の雫が溢れ、床へと落下する。

 

みかんを連想させる色が目に焼きつき、気づけば曜はその場から駆け出していた。

 

 

◉◉◉

 

 

「あ、梨子ちゃん!」

 

「曜ちゃん!」

 

廊下の曲がり角で鉢合わせした梨子と対面した曜は、彼女の焦ったような様子を見て咄嗟に質問した。

 

「もしかして……さっきの子探してた?」

 

「……!曜ちゃんもなの……!?」

 

曜の手に握られているオレンジ色のシュシュに視線を下ろす梨子。

 

「それって……私達が持ってたのと同じ……」

 

「……あの子が持ってたの」

 

「……!?それってどういう————」

 

口を閉じた梨子はふと顎に手を添えて思考を巡らせた。

 

「……教室のお店、少しだけお仕事大変だった……人数はきちんと調整したはずなのに……」

 

「…………私達しか知らないはずのことを知ってて、私達しか持ってないはずの物を持ってた」

 

つぶやき、お互いに顔を見合わせてその場を駆け出す。

 

————スクールアイドル部でーーーーす!!

 

…………違う。

 

————スクールアイドル、始めませんか?

 

…………違う。

 

————スクールアイドルは絶対二人で一緒にやりたいって!!

 

…………この記憶は…………ッ!!

 

「「違うッッ!!」」

 

二人の胸の中から発せられる眩い光。

 

それが凄まじいエネルギーの波を起こし、上空から流れてくるメフィラスのエネルギーを相殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「千歌ちゃーーーーん!!」」

 

「……!?」

 

屋上で膝を抱えて俯いていた千歌のもとへ駆け寄った曜と梨子は、言葉を交わす前に衝動的に彼女へと抱きついた。

 

「……!二人とも————」

 

「ごめん……!ごめんなさい千歌ちゃん……!!」

 

「こんな大事なことを忘れてたなんて……!!」

 

涙を流して謝り続ける二人のぬくもりに包まれた千歌は、枯れていたはずの瞳の泉を再び溢れさせた。

 

「元に…………戻ったの……?」

 

「うん……!うん……!!」

 

「私の名前……わかる……?」

 

「千歌ちゃんよ!Aqoursのリーダー……千歌ちゃんに決まってるよ!」

 

「本当に……?嘘じゃないよね……!?」

 

止めることなどできない嬉しさが目から流れ落ちる。

 

ここがみんなのいる学校だということも忘れて、千歌は大声を上げて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————なっ……!馬鹿な……!?

 

光の欠片によって生み出された予想外のエネルギーに驚愕し、メフィラスは普段の冷静さを忘れて狼狽した。

 

————はっ……!しかしこんなもの、一時的な現象に過ぎません。もう一度エネルギーを流してしまえば……!

 

再び作戦を実行しようとした直後、

 

————なにぃ……!?

 

真下から発射された礫がメフィラス星人の乗っていた宇宙船を貫き、木っ端微塵に爆散させた。

 

咄嗟にその場から脱出したメフィラスが地上へ降り立つ。

 

「何者だ……!?」

 

攻撃が発射された方向へ顔を向けると、そこに立っていたのは()()()()()()()()()()()()だった。

 

この兵器の名前くらいは聞いたことがある。

 

「ジュエルゴーレム……クォーツ星人の兵器がなぜこのような所に……!!」

 

ゴツゴツとした身体に太い腕。サファイアブルーに輝くそれはまっすぐこちらに照準を定めた。

 

「チイッ!!」

 

マシンガンのように腕から射出される硬質な弾丸を回避。

 

反撃に出ようとゴーレムへ接近するメフィラスだったが————

 

 

 

(どぉぉおおおおりゃああああああッッ!!)

 

「ぬぅ……!?」

 

横から繰り出された強烈な拳を両腕でガードし、後方に衝撃を逃しつつ距離をとる。

 

宇宙船が撃墜されたことでエネルギー波に加えて展開していた障壁まで消滅したのだ。つまり————

 

『みんな無事みたいだね』

 

(ああ……本当によかった)

 

バリアが解除されて速攻で駆けつけたメビウス。

 

学校の付近で行なわれている戦闘を見て、浦の星学院の生徒達が巨人達を見上げていた。

 

そのなかに一人、ジュエルゴーレムに見開いた瞳を向けている者がいた。

 

「さ…………サファイアちゃん……なの……?」

 

ルビィは突如現れた鉱石の巨人を見上げつつ、首から下げていたはずの青い石が無くなっていることに気がついた。

 

 

 

 

 

『えっと……君は味方……でいいのかな?』

 

メビウスの問いに反応してジュエルゴーレムの頭が縦に振られる。

 

(……さて)

 

気を取り直してメフィラスと対峙し、手のひらと拳を合わせて言い放つ。

 

『(覚悟してもらおうか!!)』

 

「ええいっ……!!」

 

お返しとばかりに禍々しい光弾を学校へと向けて放つメフィラス。

 

瞬時にその行く手を阻み、メビウスの拳と蹴りがそれを撃ち落とそうとする————

 

「甘いッ!」

 

(……!?)

 

メビウスに触れる直前、突然軌道を変えた光弾が上空へと飛翔した。

 

そのままメビウスの反応しきれない方向から再び皆のいる学校へと向かっていく。

 

「しまっ————!」

 

校舎に直撃してしまう、と思われたその時————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光と共に空から現れた一人の巨人によって、それは防がれた。

 

「……!?あなたは……!!」

 

降り立った者の姿に驚きを隠せないでいるメフィラス。

 

鍛え上げられた筋肉にシンプルな赤と銀の体色。胸に宿る流星の如き輝きを放つのはカラータイマーだ。

 

浦の星学院の前に現れたのは————

 

「ウルトラマン……!!」

 

『兄さん!』

 

(助太刀感謝します!!)

 

障壁の外で未来とメビウスが出会った男性。彼こそがウルトラマンの地球上においての姿。

 

三対一。この戦力差ではもはやメフィラスに勝ち目はないだろう。

 

(よーし……!)

 

「待つんだ」

 

(へ……?)

 

再び戦おうと一歩踏み出したメビウスを手で制止させ、ウルトラマンはメフィラスに対して語りかけた。

 

「もう終わりだ。貴様が仕組んだこのゲームは、彼女達が見事勝利を収めた。ウルトラマンの力を借りずに……自分達の力でだ」

 

「…………」

 

身構えていたメフィラス星人の腕がゆっくりと下ろされる。

 

やがて考え込むように数秒間黙ると、ゆっくりと口を開いた。

 

「…………わかりました。ルールを設けたのはこの私。どうやら今回の勝者は地球人のようですね」

 

潔く負けを認めたメフィラス星人は、対峙していた三人に対して続ける。

 

「今回は引きましょう。……しかし諦めたわけではありませんよ。いつの日か必ず……再び君達に挑戦しに戻ってきます」

 

うっすらと消えていくメフィラス星人を最後まで油断することなく見送る。

 

「いつの日か————必ず…………!!」

 

 

◉◉◉

 

 

   ーー勇気はどこに?君の胸に!ーー

 

 

 

 

暗くなり始めた時間。閉校祭の最後はキャンプファイヤーで締めることとなった。

 

校庭に組まれた燃え上がる木々を囲みながら未来達は歌う。

 

それぞれの気持ちを乗せた声が学校中に奏でられた。

 

「————」

 

ルビィは胸に手を当て、無くなったはずの石を探るように摩った。

 

————ジュエルゴーレムは、メフィラス星人が去ったのと同時に姿を消した。役目は終わったとでも言うかのように。

 

以前メビウスはルビィに言った。「器となる存在があれば、再びサファイアは生命体として活動できるかもしれない」と。

 

何度も何度も家のぬいぐるみで試したが上手くいかず————そして今日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え尽きた大木を寂しそうに見つめる生徒達。

 

未来はふと、少し前に千歌やメビウスと話した会話の内容を思い出していた。

 

「……なあ、メビウス。マイナスエネルギーってのは意図的に発生させることもできるのか?」

 

『……わからない。少なくとも僕は前例を知らないよ』

 

サファイアは単独では活動できないほど弱体化した状態だった。

 

その器となってくれたエネルギーの出所は————

 

 

 

————ありがとう。

 

歌い終えた直後、千歌達浦の星学院の生徒達は突然頭のなかに響いてきた声に驚愕する。

 

みんなを救ってくれた力。

 

その正体はこの先もずっと、はっきりとはわからないままだった。

 

 

◉◉◉

 

 

「……光の欠片、ですか」

 

宇宙空間から地球を見下ろし、不意にそう呟くメフィラス。

 

ノワールという男が語っていた力は確かに存在した。このままいけば戦いがどのような結末を迎えるのか、とうとうわからなくなってしまった。

 

「さて、私も指揮に戻りましょうか」

 

「その必要はねえよ」

 

「…………!?」

 

後方から飛んできた攻撃に反応できず、そのまま直撃。

 

メフィラス星人の身体に深々と突き刺さる三叉の槍。それを投擲した人物は、悶え苦しむ彼の眼前までやってくると静かに言い放った。

 

「皇帝が“負け犬に用はない”、だとよ」

 

「こう……てい…………!?」

 

「所詮はお前も、あいつの遊び道具の一つでしかなかったってわけだな」

 

漆黒の戦士はそう言い残し、勢いよくメフィラスの胴体から槍を引き抜く。

 

「ぐはァ……ッ……!!」

 

鎧に身を包んだ戦士に手を伸ばし、最後の力を振り絞ってメフィラス星人は言った。

 

「は……ハハハ……!最初からこうなる運命だった、ということですかな……?君も気をつけることですな。生き延びたいというのであれば……戦うしか方法はありませんぞ……ッ!!」

 

爆散するメフィラスを背に、ベリアルは小さくこぼす。

 

「……生き延びたい、ねえ。————冗談だろ」

 




ジュエルゴーレムは1章「ルビィの妹」に登場した今作オリジナルの怪獣です。外見はその時とは少々違いますが。
そしてメビウス本編と同じく処刑されてしまったメフィラス星人。
ついにあとは最後の戦いを残すのみです。

今回解説はお休みにして12話以降の予告をします。

この後始まる12話の内容が終わると、ついにこの作品を通して最もクライマックスとなるエンペラ星人との最終決戦編へと突入です。
たぶん今までで一番長いオリジナルエピソードになると思います。
宇宙へ調査に向かったステラとヒカリ、そして地球に残った未来とメビウス、千歌達が遭遇する絶対的な闇の力。
果たしてそれを乗り越えることができるのか……。

ではまた次回。


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第91話 終わりの刻


12話です。
最後の戦いが近いということで、サンシャイン本編の明るい雰囲気とは違い不穏な空気が漂っています。


「準備はいいのか?」

 

「うん」

 

他に誰もいない教室の中、未来と千歌は向かい合う。

 

色々あったが、閉校祭の最後には笑顔でこの学校と別れを告げることができた。

 

あとは————

 

「いよいよ決勝……なんだね」

 

自然と拳に力が入る。

 

これから挑む最後の舞台を想像し、千歌は身体を震わせた。

 

「大丈夫!」

 

廊下の方から駆け寄ってきた曜と梨子が強くそう言った。

 

「この時のために……すっごく練習したんだもん!」

 

二人の言葉に頷きつつ教室を出ると、他のみんなも静かにその場で待っていた。

 

「…………確かに、毎日朝の早くから、夜も遅く、暗くなっても」

 

「がんばルビィしたから!」

 

「それでも、みんな一度もサボらなかった!」

 

「弱音は言ったけどね」

 

「とにかく朝は眠かったずら。ね、善子ちゃん」

 

「ヨハネ!さすが我がリトルデーモン達……褒めてつかわす!」

 

「ありがと!」

 

努力した分の実力は裏切らない。だから安心してライブに臨める。

 

ラブライブ。スクールアイドル達の憧れ。目標。

 

その舞台に今、彼女達は進もうとしているのだ。

 

(千歌達なら……きっと————)

 

連れて行ってくれるだろう。この学校の名前と共に。最高の舞台、その向こう側へ。

 

————行ってきます!!

 

校舎に向かって挨拶する千歌達。

 

さあ、ここから先は————自分達の番だ。

 

 

◉◉◉

 

 

「…………」

 

(どう?)

 

地球から少し離れた宙域。

 

ヒカリはデブリのなかに紛れていた棒状の装置を発見し、ジャックに鑑定してもらっていた。

 

「……間違いない。この物体から時空波が発生させられていた————その形跡がある」

 

『形跡……?今は機能していないというのか?』

 

「ああ。どういうわけか……現在は何の電波も発していないガラクタだ」

 

(どういうこと……?)

 

長い時間をかけてやっと見つけたお目当ての物は、とっくに役目を終えた宇宙ゴミと化していた。

 

「とりあえず本部に連絡だ。……もしかしたら既に————」

 

(……!危ないッッ!!)

 

遠くから発射されたレーザーに反応し、ヒカリとジャックは同時にその場から離脱する。

 

瞬時に体勢を立て直し、前方に見える無数の点を視界に捉えた。

 

『なんだ……!?あれは……!!』

 

(まさかこれって……)

 

「…………最悪の事態だ」

 

遠くに見える数え切れないほどの“点”。その一つ一つがこちらに向かってくる怪獣だと認識した瞬間、ヒカリとジャックに悪寒が走った。

 

(どうして急にこんな……!)

 

「……エンペラ星人め……既に時間稼ぎは完了していたということか……!?」

 

このタイミングで発見されることも予期していたのか、敵の軍勢はもう既に完成している状態らしい。

 

ジャックとヒカリの背後を進んだ先には地球がある。考えるまでもなくそこへ侵攻する気だろう。

 

『どうする……!?』

 

「くっ……!ひとまず足止めだ!ヒカリ、本部にウルトラサインを!!」

 

『了解ッ!!』

 

空中で光の文字を描き、それを遥か遠くの惑星に向かって飛ばすヒカリ。

 

————あとは増援が来るまで、この軍団を止める……!!

 

「いくぞッ!!」

 

『ああ!!』

 

(ええッ!!)

 

その場を飛び出し、ナイトブレスからブレードを伸ばして怪獣の軍団へと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方地球にいる未来達は、東京に着くと千歌からの提案で神田明神にお参りをすることになった。

 

階段を勢い良く駆け上がり、しばらくぶりに本殿と対面する。

 

「オウ!変わらずビューティフォー!」

 

「急な階段だったずらぁ」

 

「でも、前来た時に比べたら楽じゃなかった?」

 

「みんなそんなに息も上がってないしな」

 

「成長って、気づかないうちにするもんだよ」

 

以前までの自分達と比べて備わっている体力も違う。

 

数々の苦難を超え、千歌達は確かに成長している。

 

「よし!じゃあお祈りしようか!」

 

賽銭を投げ入れた後、手を合わせては思い思いの願いを口にしていった。

 

会場の全員に想いが届きますように。全力を出し切れますように。

 

緊張しませんように。“ずら”って言いませんように。全てのリトルデーモンに喜びを。

 

浦の星のみんなの想いを、届けられるような歌が歌えますように。明日のステージが最高のものになりますように。

 

————ラブライブで優勝できますように。

 

九つの願いを届けた後、未来もまた目を閉じて口にする。

 

「……奇跡が……起きますように」

 

今まで紡いできたものには、きっと意味があるのだと信じて。

 

彼女達を見守ってきた者として、未来は最大限の応援と願いを込めて————そう言った。

 

「ずらぁ!」

 

「ん?」

 

花丸が声を上げたことに反応し、絵馬が掛けてある場所へ足を運ぶ。

 

「なに?」

 

「これ!」

 

ルビィの指差した絵馬を見ると、「Aqoursが優勝しますように」と浦の星学院の有志達によって書かれたものがそこにあった。

 

その他にも千歌達の勝利を願う絵馬がところどころに見られ、彼女達の表情も明るくなっていく。

 

「……あ」

 

しかしふと視線を外したところで目を留める。

 

他のスクールアイドル達の優勝を願った絵馬————それも数え切れないほどに確認できた。

 

「……私達だけじゃない。みんな勝ちたくてここに集まってる」

 

「……ん?」

 

端の方へ目を向けると、やけにドス黒い文字で書かれている絵馬が視界に入った。

 

なぜだか引き寄せられるように膝を折って、未来はそれを見る。

 

「……“どうか彼に安らかな終焉を”……」

 

名前は書いていない。ただ一行、そんなことを書かれた絵馬。

 

 

 

 

「お久しぶりです!」

 

横から飛んできた声に反応して身体を向き直す。

 

階段のある方向に立っていた二人の少女を見て、千歌達はその名前を呼んだ。

 

「聖良さん!」

 

「理亞ちゃん!」

 

Saint Snowの二人。

 

彼女達も応援にここまで駆けつけてきたのだろう。

 

「ついに、ここまで来ましたね」

 

「ビビってたら負けちゃうわよ!」

 

「わかってるわよ!」

 

「アキバドームは、今までの会場とは違うずら……」

 

「どんなところか、想像できない……」

 

これから自分達が踏みしめるステージを想像し、花丸とルビィはか細い声でそう言った。

 

「私も……あのステージで歌えたことが、今でも信じられない」

 

「自分の視界……全てがキラキラ光る。まるで……雲の上を漂っているようだった」

 

「雲の上…………」

 

以前メビウスとヒカリの手のひらの上で見た光景を思い出す。

 

思わず息を呑む圧倒的な周囲の景色。自分達がちっぽけな存在に感じるほどだ。

 

……でも、今回はそうも言っていられない。

 

「だから!……下手なパフォーマンスしたら、許さないからね!」

 

「あ……当たり前だよ!がんばルビィするよ!」

 

二人の話を聞いて、決勝への覚悟がさらに深まる。

 

 

「————あ」

 

木陰に身を隠してこちらを眺めている者が一人。

 

その存在を察知し、未来は一言断ってからその場を駆け出した。

 

「ちょっとごめん!」

 

「未来くん?」

 

大急ぎで階段を降りようとする彼の背中に手を伸ばしかけるが、“いつもの”事情だろうと千歌はすぐに腕を下ろした。

 

 

◉◉◉

 

 

「ノワール!!」

 

「……あれ?」

 

追いかけてきた少年を見て、黒ずくめの青年は驚くような様子を見せた。

 

「べつにただ見てただけだから、追いかけてこなくてもよかったのに」

 

「……あの絵馬」

 

「うん?」

 

未来は先ほど神社で見た絵馬のことを思い出し、肩を上下させながら聞く。

 

「あの隅にあった絵馬、お前が書いたやつだろ」

 

「絵馬…………ああ、そういや君達が来る少し前に掛けておいたっけ」

 

「あれ……どういう意味だ?」

 

ノワールは少し照れくさそうに頬を掻いた後、小さな声で答えた。

 

「特に意味はないさ。ボク自身の、そうであって欲しいというささやかな望みだよ」

 

「誰に向けて書いたものだよ……?」

 

少なくともあそこに書かれていた“彼”とは自分のことではない、と未来は確信していた。

 

それに“終焉”という言葉も気になる。

 

「悪いけどそれは教えたくない。君にだってプライバシーというものがあるだろ?」

 

ノワールは一拍置いて、どこか遠くを見つめながら儚げに口を開く。

 

「……どれだけ寂しかったか、どれだけ恐ろしかったか、それはボクにしか理解できない。ボクは()の唯一の理解者だからね」

 

「……それは————」

 

「誰に言ったかは忘れたけど、ボクは同じ言葉を何度か口にした。……“向こうがどう思っているかはわからないが、少なくともボクは友人として彼と関わっている”からね」

 

ノワールの言っている言葉の意味がわからずに首を傾けていると、奴は笑って両手を左右に振った。

 

「なに、独り言さ。気にしないでくれ」

 

不意に空を見上げ、一点を見つめたままノワールは言う。

 

「……選んだ道がもう少し明るければ、こうはならなかったはずなのにな」

 

最後にそう言い残したノワールが黒い霧となってその場を去る。

 

彼がいなくなった地面を見下ろす未来に、メビウスは静かにつぶやいた。

 

『……戻ろう、未来くん』

 

「……ああ」

 

どこか引っかかるノワールの態度が心に焼きつく。

 

(……なんでそんなに、悲しそうな顔をする)

 

 

◉◉◉

 

 

今夜泊まる宿へとやってきた一同。

 

部屋の作り。匂い。何もかもが、前に東京に来た時を思い出させる。

 

「なんかまた、修学旅行みたいで楽しいね!」

 

「未来くん、どうかしたの?」

 

梨子はベランダの方で立ちながら外を眺めている未来を示して、千歌に聞いた。

 

「……?さあ……カッコつけてるのかな?」

 

「ちっげーよ!考え事だよ!」

 

「そんなとこにずっといたら、風邪を引きますわよ」

 

「わかってるよ。……まったく」

 

騒がしい声を背に未来は空を見上げた。東京は明かりが多いので星はあまり多く見えない。

 

『何か気になることでも?』

 

「……なんか、怖いんだ」

 

きゅっと胸を締め付ける不安感。

 

何かを予期するように身体が震えている。これは強大な敵と対峙する時にも何度か体験した。

 

「終わりが近いって……ヒカリは言ってた。俺もそんな気がするんだ。それもそう遠くない内に」

 

ノワールと話したからだろうか。あいつの今にも死にそうな弱々しい姿を見て思ったんだ。

 

「……前に一度、エンペラ星人と戦った時……まったく歯が立たなかった」

 

『でもあの時君は……“立った”じゃないか。勇敢に』

 

「……メビウス、俺が話してるのは感情論の話じゃない。単純な実力の差だ」

 

未来は下を向き、柵に額を付けて目を瞑る。

 

「なあメビウス、俺は————俺達は…………エンペラ星人に勝てると思うか?」

 

『……さあね』

 

冗談混じりの笑いを含めた物言いにカチン、と少々怒りが湧く。

 

「ちょっ……俺は真面目に————!」

 

『ダメかもしれないし、勝てるかもしれない』

 

「……え?」

 

メビウスは静かに、それでいて強い圧力のこもった声で言った。

 

『……“最後まで諦めず、不可能を可能にする。それがウルトラマンだ”』

 

「……!」

 

『過去は過去、今は今だ。次に戦う時はどうなるかわからないさ』

 

闇の皇帝の力は凄まじい。……その凄まじい力を前にして、未来とメビウスは他人の助力を得ながら生き延びた。

 

生きている内はまだ、可能性がある。

 

『未来はいつだって前にしかない。……君は一生懸命特訓をして、僕と一緒に戦ってきたじゃないか。だからきっと————』

 

「————大丈夫、か」

 

ああ、弱気な自分が恥ずかしくなってくる。

 

相棒がこんなにも頼もしくいてくれるというのに、相方の自分がこんなんでどうする。

 

 

————鞠莉・シャイニングトルネーーーード!!

 

「……はは、結局はそんな理屈になっちゃうか」

 

————やったわね!!

 

「そうだな、ごめんメビウス。俺も————」

 

————甘いですわ!!

 

「俺も…………」

 

背後から聞こえる騒音に気を散らされ、未来はとうとう振り向いては注意しようと口を開いた。

 

「おい、ちょっと静かに————ぶっ!?」

 

未来の顔面に投擲された枕が直撃。

 

それを見た曜は「どうだ!」とガッツポーズをして見せた。犯人はお前か。

 

「……クク、いいだろう。お望み通り枕の海に沈めてやるわァ!!」

 

「ちょっと堕天してない?」

 

「いくぞォ!!」

 

『危ないから僕は離脱してるね』

 

「え?」

 

スーッと未来の肉体から抜けていくメビウス。同時に未来の身体能力も並のそれに変わる。

 

「お前裏切っ————ぐはっ!」

 

『フェアじゃないからね』

 

やれやれ!とみんなから集中砲火を受ける未来。

 

楽しそうにしている千歌達の雰囲気にあてられて、未来も自然と口角を上げた。

 

「やってやろうじゃねえかああああ!!」

 

「普通怪獣ミラミラが来るよ!構えて!」

 

「変な名称付けんな!!」

 

全員が疲れ切るまで続く枕投げ。

 

終わった頃にはもう————感じていた不安のことなど忘れ去っていた。

 




ついに攻めてきた怪獣軍団。
ラブライブ決勝の裏でエンペラ星人との戦いも終わりが近づいています。

では解説です。

怪獣達の詳しい数はご想像にお任せしますが、百どころではないことは最初に言っておきます。
当然ヒカリとジャックだけでは対応しきれません。そこでこの状況を突破するのは……。
次回ではついにあの人達が再登場です。最後の戦い、その前座に相応しい者がやってきます。

次回もお楽しみに。


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第92話 新しい世界

サンシャイン本編ではすっきりとした終わり方だった12話ですが……。
今回も自己解釈がバリバリなので、そこら辺はご了承ください。


「さすがに……厳しいな……!」

 

(わたし達だけじゃ……とても……!)

 

無数の怪獣軍団に囲まれながらも、ヒカリとジャックは背中を合わせて身構える。

 

地球時間でどれほど経っただろうか。既に百を超える怪獣達を倒した。

 

しかし————

 

『ぐっ……!』

 

迫り来るバードンの(くちばし)を回避し、瞬時にナイトシュートを放って撃ち落とす。

 

これだけ倒しても未だに勢いが落ちることなく攻めてくる怪獣達。

 

とうとうカラータイマーも点滅しだし、限界が訪れたと思った時————

 

 

 

 

 

 

 

「デヤアアアアアアッッ!!」

 

『(…………!?)』

 

二筋の光の軌跡が敵の軍隊を流星のように駆け抜け、同時に何体もの怪獣達を切り裂き、爆発させた。

 

助け船を出してくれた者を見上げ、ステラとヒカリは驚愕の声を上げる。

 

「よう、待たせちまったな」

 

赤と青の体色に、頭部にある二つのスラッガー。

 

間違えるはずがない。以前共にアークボガール討伐任務を担った————

 

(ウルトラマンゼロ…………!!)

 

『間に合ったか!』

 

「ああ。……おっと、来たのは俺だけじゃないぜ?」

 

(えっ……?)

 

刹那、背後からの爆発音を聞いてヒカリは振り返る。

 

「せいッ!はッ!……ぜあああああああッッ!!」

 

デブリを踏み台にしながら場所を変え、縦横無尽に刀を振るう宇宙人が一人。

 

鎧姿が特徴的な————宇宙剣豪。

 

『ザムシャー…………!?』

 

(どうしてあなたまで……!)

 

駆けつけたザムシャーへと近寄り、問う。

 

彼は相変わらずつっけんどんな態度をとりつつ、ゆっくりと口を開いた。

 

「勘違いするな。……貴様らの危機など俺が干渉することではない。……だが」

 

ビシリ、と血を払うように刀を振ったザムシャーは、その鋭い目をヒカリへと突きつけた。

 

「ステラ、ヒカリ、貴様らに死んでもらっては困る。俺はまだ……ハンターナイトツルギの首をもらってはいないのだから」

 

『ザムシャー……』

 

(……まったく……どうしてわたしの周りには素直じゃない男しかいないのかしら)

 

やや呆れ気味に肩をすくめたヒカリが再び怪獣達のいる方へと向き直る。

 

いざ、と拳を構えたところで、ゼロからまたも驚きの言葉が発せられた。

 

「ああ、ちなみに言っておくとこいつは偶然居合わせただけだ。俺が言ってるのは————」

 

(え?)

 

ゼロが指さした方を向く。

 

きらきらと輝く何かが星々に混ざってこちらへ向かってくるのが見えた。

 

「君達は本部に向かってサインを送ったのだろう?ならば当然、()()も来るさ」

 

ジャックはいたって落ち着いた態度でそう語る。

 

あのシルエット達は————

 

 

 

「シュアッ!!」

 

掛け声とともに発射された光線が怪獣の軍団、その一部を焼き払う。

 

凄まじい威力を前にして、ヒカリは思わず息を呑んだ。

 

「あまり先行しすぎるな、ゼロ」

 

「はは、悪い悪い」

 

怪獣達に勝るとも劣らない、大量のウルトラ戦士達。

 

それを率いてやってきた二人のウルトラマンがヒカリの目の前にやってくる。

 

『ゾフィーに……大隊長まで……!?』

 

「遅れてすまなかった」

 

ゾフィーに加えて、ウルトラの父までもが参戦したのだ。

 

ヒカリとジャックにエネルギーを分け与え、カラータイマーが青色に輝いたのを確認して、ウルトラ父が指示を出す。

 

「ここは我々が引き受ける。君達は、メビウス達のもとへ向かうんだ」

 

(それは、なぜ……?)

 

いきなりこのような大部隊を連れてやってくるなんてただ事ではない。

 

…………そう、ただ事ではない事が起きているのだ。

 

「エンペラ星人が地球へ向かっている。……この怪獣達は陽動だ、急げ!」

 

『なっ……!』

 

(————!みんな……!!)

 

話を聞いて反射的に動いたヒカリが飛翔し、地球へと向かう。

 

それを追うように、ザムシャーもまた宇宙空間に散らばる岩を足場にしながらその場を離れた。

 

 

◉◉◉

 

 

「会場集合?」

 

「うん!本番前はみんな自由行動で、自分を見つめ直す時間にしてほしいの!」

 

 

 

 

 

昨日の夜に千歌から言われた提案により、現在は当てもなく東京の街を歩いていた。

 

数時間後には会場へ向かい、ラブライブの決勝が行われることになる。

 

「遅刻とかしなきゃいいけど……」

 

『あはは。いくらなんでも、こんな大事な日をすっぽかすなんてありえないよ』

 

内浦よりも圧倒的に多い人数のなかを歩く。

 

秋葉原の電気街はメカメカしくて、東京にある街の中でも一際賑やかだ。

 

千歌達は今、どんな気持ちでこの時間を過ごしているのだろうか。

 

勝ちたいと思っているのか。それとも————

 

「ん、千歌と……曜か?」

 

歩道を笑いながら駆けている二人の少女を見かけ、なんとなくその後を追う。

 

何かを追いかけるように走っていた彼女達は、やがてUDXのモニター前で立ち止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルの上から秋葉原の街並みを見下ろす青年が一人。

 

懐かしい景色を眺めながら過去の記憶に浸る。

 

目を閉じれば音楽が聞こえる。真っ暗な闇のなかで彷徨っていた自分を救ってくれた光。

 

「君達が繋げた可能性は……確かに新たな光を生み出した。ボクは————」

 

手を伸ばしても届かなかった輝き。汚れきった自分では掴めないと思いながらも、足掻き続けた日々。

 

意味はあったのだろうか。自分はなぜ生まれ、何のために生きてきたのか。

 

色々やってはみたが、相変わらず答えが見つからないのがちょっとばかし悔しい。

 

————ススメ。

 

「……ああ、そうだね」

 

考えたって仕方がない。今の自分にできることは————見守ること。

 

「さて、見せてもらおうか。君達の輝きを……!」

 

 

◉◉◉

 

 

  ーーWATER BLUE NEW WORLDーー

 

 

 

 

 

今は全力を尽くすだけだ。

 

今まで行ってきた努力、想い。その全てをこの数分間に凝縮して、会場のみんなに届ける。

 

Aqoursを象徴する水色の衣装に身を包んだ千歌達がステージ上で舞い踊る。

 

これまで紡いできたもの————その全てを一つにまとめたような、集大成に相応しいパフォーマンス。

 

迷いなど一切感じさせない真っ直ぐな想いの波が観客達を魅了した。

 

観客にいる者達も加わって、会場にいる全員で作り上げるような青い輝きの空間。

 

この瞬間だけ存在できる“光の海”。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………おめでとう、みんな」

 

“WINNER Aqours”と表示されているモニターを見て、溢れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。

 

肩を上下させて身を寄せ合うステージ上の少女達。

 

しばらくして拍手が鳴り終えると思った矢先————

 

「————アンコール!!」

 

誰が最初に発したかはわからない。

 

波のようにその願いは広がり、やがて会場にいる全員がそう繰り返す。

 

もっと彼女達の歌を聴いていたいと。多くの人がそう心動かされたのだ。

 

会場内が暗転した数分後、最高の景色を勝ち取った九人の少女達は高らかに叫んだ。

 

————Aqours!サンシャイン!!

 

 

 

   ーー青空Jumping Heartーー

 

 

◉◉◉

 

 

どれだけ走ってきたのか、もはやわからない。

 

色々な感情が胸を支配するなか、千歌達は笑顔で会場を出た。

 

「この旗、結構重いね」

 

疲れと嬉しさの混ざった顔でそう語る千歌。

 

ラブライブ————その栄誉ある大会のなかに、浦の星学院の名前は確かに刻まれた。

 

「ほんと……夢みたいな時間だったね!」

 

「会場全体が……海みたいにキラキラしてて……」

 

やり終えたみんなはそれぞれで想いを馳せる。

 

学校の生徒————そして内浦の住人みんなの応援と共に達成した一つの目標。

 

「みんなお疲れ」

 

「未来くん!」

 

外で未来と合流した千歌達は、何よりも先に勝ち取った旗を彼に見せつけた。

 

「私達……やったんだよね」

 

「ああ、客席からでもはっきりわかるくらい……輝いてた!」

 

彼女達はやり遂げた。————学校を救ったんだ。

 

そして、千歌達自身の願いも叶えた。

 

「Aqoursは、ラブライブで優勝したんだ」

 

もやもやとした空気のなか、未来にそう言われて改めて自覚する。

 

優勝した。勝ったのだと。達成感で満たされた胸をぎゅっと掴み、千歌はみんなのいる方向をへと振り返った。

 

「……ありがとう、ここまで一緒に来てくれて。私……今、最高に嬉しい!!」

 

「千歌ちゃん……!」

 

「泣いてはいけませんわよ」

 

「そうだね、ここは笑顔で!」

 

「ほら、未来くんも!」

 

「あ、ああ!」

 

円陣を組んだ千歌達はお互いの顔を見た後、溜め込んでいた感情を爆発させるように声を上げた。

 

————やったああああああ!!!!

 

体全体で全力の喜びを表現した千歌は、一息ついた後で言った。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

「ああ————」

 

やけに暗くなった外に違和感を感じ、未来はふと空を見上げた。

 

雨雲と言うには色がドス黒い、まるで闇を形にしたような暗雲が天を覆っている。

 

「……なに?これ……」

 

数秒前までは晴れやかな空だったはずなのに、いつの間にか辺りは薄暗くなってしまった。

 

 

 

 

 

『……!あれは————!!』

 

上空から一直線に地上へと落下してくる一体の巨人を視認する。

 

大地が揺れ、道路が割れ、ビルが崩壊する。

 

地に降り立った漆黒の鎧をまとう巨人は三叉の槍を肩に担いで立ち上がり、その全貌を露わにした。

 

「ベリアル……っ……!?」

 

「……黒い……ウルトラマン……?」

 

東京の街に立つそれを見た人々は足を止め、呆然と立ち尽くしていた。

 

やがて今までの平穏を終わらせるように————一人の男の声が世界中に響いた。

 

 

 

 

 

 

————余は、エンペラ星人……!!

 

黒い巨人とは別に、低い声音が耳に滑り込んでくる。

 

「この声……!」

 

千歌達のなかで果南のみが覚えのあるその声に反応した。

 

————この宇宙に君臨する者。……地球人に余の意思を伝える。

 

張り詰める緊張感のなか、次に伝えられた言葉に目を見開いた。

 

————ウルトラマンメビウスを……地球人自らの手で余に差し出せ。さもなくば送り込んだ下僕が……この星を滅ぼすことになろう。

 

「なっ……!」

 

皆の青ざめた顔が未来へ集中し、彼もまた予想外の事態に冷や汗を流していた。

 

————要求を呑むのなら、あらゆる脅威から余が地球を守ると約束しよう。

 

凄まじい威圧感が世界中に伝わる。

 

メビウスを追放すれば、永遠の闇の中で地球は存続される。拒否すれば————

 

————一時間だけ待ってやろう。賢明な判断を期待する。

 

「……っ」

 

未来は静かに立ち尽くすベリアルを見上げ、彼から意思というものが感じられないことに気づく。

 

かつて地球を守った光の戦士を使って、今度は逆に滅ぼそうと差し向けるなんて。

 

…………一時間だ。それを過ぎればベリアルは活動を開始する。

 

「……待つ必要なんか、ないよ」

 

「千歌……?」

 

一歩踏み出した千歌は、黒く塗りつぶされた空へと向かって声を張り上げた。

 

「ウルトラマンメビウスは私達を……地球を守ってくれた大切な仲間だ!!」

 

彼女に続くように周囲にいた人々も声を上げ、エンペラ星人の要求を拒否することを示した。

 

「そうだ……!宇宙人なんかに負けはしない!!」

 

「お前らなんかにこの星は渡さないッ!!」

 

どんどん声を大きくしていく地球人達に反応し、暗黒の皇帝は何気ない口調で言い放った。

 

————そうか。

 

直後、静止していたはずのベリアルが動き出し、傍にあった高層ビルを槍で薙ぎ倒す。

 

街中に悲鳴が轟き、すぐさまその場から逃げようと人々は走り出した。

 

「……!!みんなは早く避難を!!」

 

「未来くん……!!」

 

一人ベリアルのもとへ駆け出した未来は、左腕にメビウスブレスを出しては大きく天へと突き上げる。

 

「いくぞメビウス……!」

 

『ああ!……今日ここで、全部終わらせる!!』

 




いよいよ最終決戦の始まりです。
ヒカリとステラはザムシャーと共に地球へと向かいました。
まずはメビウスvsベリアルですが……勝てるビジョンが全く浮かびませんね(笑)

解説いきます。

駆けつけてくれたウルトラマン部隊は様々な戦士で構成されております。
今まで登場できなかった80から、パワードやマックスといったウルトラマンも一応紛れています。
ゾフィーに加えてウルトラの父までもが出動……って、光の国がガラガラなのでは?と思ったそこのあなた。最強のお爺さんがお留守番しているのでご心配なく。
エンペラ星人との総力戦ですからね。出し惜しみは無しです。

さて、エンペラ星人が理想とする「新しい世界」か。それとも未来達がそれを打ち破るのか。


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第93話 宿命の決戦


ついに開幕した最後の戦い。
アーマードダークネスをまとうベリアルに未来とメビウスの攻撃は通用するのか……。


「80とユリアンは左、グレートは右から攻めてくれ!パワード、今だ!!」

 

ゾフィーの指揮で四人が連携し、怪獣軍団めがけて光線を発射。数十体を同時に消滅させる。

 

戦闘が始まってからしばらく経つが、これだけの大部隊を率いて来ても数で押されている。

 

「これでは太陽が……!」

 

太陽の黒点はエンペラ星人が現れたのと同時に侵食の勢いを強めていた。

 

このままでは完全に光が遮られ、地球が闇に覆われてしまう。

 

「シュアッ!!」

 

後方から繰り出された光線がゾフィーの横を通り過ぎ、奥にいる怪獣を爆発させた。

 

「ゾフィー兄さん!」

 

「状況は!?」

 

「……!来たか!」

 

地球で任務を行っていたウルトラマン、セブン、エースが駆けつけ、ゾフィーのもとへ集合。

 

ウルトラの父も加わっていることに気がつき、皆驚きを隠せていない様子だった。

 

「数はまだ向こうの方が多い。タロウ、ジャックと組んで殲滅に当たってくれ」

 

「「「了解!!」」」

 

ウルトラ兄弟達を総動員しての戦いだ。

 

おそらくはウルトラ大戦争以来の凄まじい戦いが予想される。

 

「やることは前と変わらない!!我々はここで怪獣達を食い止め、地球への侵攻を阻止する!!()()の戦いの邪魔をさせるな!!」

 

 

◉◉◉

 

 

混乱する人達が集められた避難所。

 

黒い巨人とメビウスの戦いが行なわれている今、人々は地響きに怯えながら遠くに見えるその様子を見守っていた。

 

「……未来くん、メビウス……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(はあああああああッッ!!)』

 

凄まじい攻防が繰り広げられる。

 

殺気が込められた槍の切っ先を回避し、反撃に出ようとするが————

 

(…………ッ!)

 

追撃は許さないとばかりにノールックの回し蹴りが放たれ、ギリギリで間に合った急場凌ぎの防御で対抗。

 

(がっ……ア……!?)

 

みし、と骨が軋む音が聞こえた。

 

大砲のような蹴りが腕の盾を無に帰してメビウスの身体へと炸裂する。

 

簡単に吹き飛んだ赤い巨人は東京の建物を巻き添えにしながら倒れ伏した。

 

「ハハッ……ハハハハハハ!!!!」

 

不気味な笑い声がベリアルの口元から漏れる。

 

完全に正気を失っている。鎧の魔力に取り憑かれているんだ。

 

『大丈夫か……!?』

 

(あ、ああ……。くっ……!)

 

あらゆるスペックが自分達を上回っている。

 

経験も、力も、スピードも————そして、

 

「セヤッ!!」

 

「デリャァアア!!」

 

技も。

 

メビュームシュートとデスシウム光線が激突し、数秒も保たずにメビウスが押し負けてしまう。

 

『(ぐああああああッ!!)』

 

火花を散らして膝をついたメビウスに向かって、ベリアルは間髪入れずに三叉の槍————ダークネストライデントを振り下ろしてきた。

 

(ぐぅ……!)

 

なんとか肩でそれを受け止め、敵であるベリアルを睨んだ。

 

「楽しい……楽シイなァ……!メビウス……!!」

 

(こっちは全然……楽しくないんだよッッ!!)

 

隙を見て抜け出したメビウスは瞬時にバーニングブレイブへと姿を変え、強烈な拳を奴の鎧に叩き込んだ。

 

「……ハハ。響かねえんだよ……!」

 

(そんな……!!)

 

全力で放ったはずのパンチはベリアルにダメージを与えることなく鎧に衝撃を抑えられてしまう。

 

ベリアルの力に加えてアーマードダークネスの耐久力————

 

『……!未来くん!!』

 

(はっ……!)

 

眼前に迫った膝蹴りがメビウスの顔面を直撃し、バランスを崩したところで槍による横薙ぎの攻撃が襲う。

 

(あっ……ぐぅ……ッ!!)

 

考える暇すら与えられない状況だ。

 

力なく倒れたメビウスを見下ろし、ベリアルは彼の顔を踏みつけては言った。

 

「まさかこれで終わりとか言うんじゃねえだろうな?もっと戦わせろ……俺に……!タタかわセロ……!!」

 

(……ッッ!)

 

上から迫る槍の突きを身体を転がすことで回避。

 

そのまま身体を起こし、背後に回り込んで渾身の蹴りを放つ。

 

「効かねえよ」

 

(わかってるんだよそんなことは……!!)

 

奴の反撃を回避し、一旦距離をとって隙をうかがう。

 

……まずはアーマードダークネスだ。あれをなんとかしないとダメージすら与えられない。

 

しかしこちらは実力でも手数でも劣っている。

 

(…………!)

 

ふと視線を落とすと、鎧の腰に一振りの剣が収められていることに気がついた。

 

(あの剣を奪い取って、なんとかして鎧に傷をつけよう。その隙間から本体に攻撃だ)

 

『わかった。……でも』

 

未来は一体化しているメビウスの言わんとしていることを察していた。

 

自分達だけでは一方的に痛めつけられるだけだ。せめて誰かあと一人————いや、最低でも三人がかりで臨みたい。

 

『……未来くん、その前に聞いておきたいことがあるんだ』

 

(……?)

 

『彼を————ベリアルを、本当に倒してもいいんだね?』

 

未来が考えないようにしていたことを、メビウスは迷った末に聞いた。

 

かつて内浦に現れ、未来や千歌……みんなを助けてくれた恩人。

 

だけど今は————

 

(……前に言われただろ。今度戦う時は、全力でこいって)

 

強く拳を握りしめ、目の前に立つ“敵”を見据える。

 

(……本当に……本当にベリアルが、地球を滅ぼそうとするのなら————止めてあげないと)

 

こんなの残酷すぎる。……そうだ、残酷なのがエンペラ星人のやり方だ。

 

だけど千歌達を……みんなを守るためなら……!!

 

(戦いたくなくても…………戦わなければいけないのなら、そうするしかないんだ……!)

 

再び足を前に出して駆ける。

 

「オラァ!」

 

上から迫る槍の切っ先を上体を下げることで避ける。

 

すれ違いざまに奴の腰へ手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない。

 

(うっ……!)

 

すぐにバク転で後方へ下がり、牽制のメビュームスラッシュを放つ。

 

しかし予測通り簡単に防御されてしまい、直後に槍の先から発射された赤黒い光線がメビウスへと殺到する。

 

『(…………!)』

 

息を整える暇もなく身体を横に逸らす。

 

今ベリアルが繰り出したのはレゾリューム光線。純粋なウルトラマンの身体を分解する力を持つ恐ろしい技。

 

今は未来と一体化しているとはいえ油断はできない。単純な破壊力でも充分に脅威だ。

 

『今の光線だけは……絶対に受けちゃダメだ』

 

以前のように一瞬で行動不能に陥るか、あるいは死。どちらにせよ喰らうわけにはいかない。

 

(……るもんか)

 

ボロボロの身体を引きずって拳を構える。

 

(負けるもんか……!!)

 

————俺が止めないと。

 

ベリアルを倒さないと地球は滅びる。みんなが死ぬ。それは絶対に嫌だ。

 

ベリアルを……倒さないと……!!

 

(うおおおおおおおッッ!!)

 

「何度やっても無駄だ」

 

メビウスブレスに全エネルギーを集中させ、構える。

 

ベリアルもそれを察したのか、既に槍を前にかざして警戒態勢に入っていることを確認し————

 

(せやああああ!!)

 

左腕を突き出したその直後、奴が盾として突き出した槍の持ち手に触れる前に閉じていた拳を()()()

 

「……フェイント……!?」

 

そのままベリアルの腕を掴み取り、動きを封じたところで今度は右腕にエネルギーを集中させる。

 

「ハッ!!」

 

「……!」

 

全エネルギーを集中させることで左側に注意を逸らし、次に右の拳で体勢を崩す。

 

そして————

 

(入る……ッ!!)

 

再び左腕に力を込め、ガラ空きになったベリアルの顔面を思い切り殴り飛ばした。

 

「……!?」

 

(うおおおおおおッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一発入ったことで勢いがついたのか、少しだけ攻撃が通るようになってきたメビウスを見て人々が歓声を上げる。

 

千歌達もまた数キロ先に見えるその光景を見守っていた。

 

「やった!」

 

「いけるよ、これ!」

 

避難所の中が歓喜の渦に包まれるなか、外で戦闘を眺めていた者が表情を曇らせる。

 

「これは……まずいな」

 

メビウスは上手く立ち回っているが、こうも頭部ばかり狙っていると攻撃パターンもやがて読まれる。

 

相手はあのベリアルだ。同じ攻撃が通じる相手じゃない。

 

ノワールは気づけばその場を離れ、戦闘が行われている場所へと向かって走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よしッ!これで————!)

 

振るわれる槍を回避しつつ頭部へのダメージを狙う。

 

————と、思わせておき、実際に目当てなのはベリアルが腰にさしている剣だ。上へ注意を逸らし、懐へ潜り込んで手を伸ばす。

 

『(届く…………!!)』

 

黒い剣にメビウスの手が触れようとしたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワンパターンなんだよ、お前は」

 

(————ッ!?)

 

直後、凄まじい鈍痛が腹部を貫いた。

 

ベリアルがダークネストライデントを真下から振り上げ、メビウスの土手っ腹に炸裂。

 

『(がはッ…………!!)』

 

空中に弧を描いて街中へと倒れる赤い巨人。

 

————読まれていた。自分達が剣を狙っていることも全部。

 

(ぐっ……う……!)

 

「ダメージを与える手段が限られているのなら……それをカバーするのは容易い」

 

眼前まで歩み寄ってきた漆黒の戦士を見上げる。

 

…………格が違う。エンペラ星人にたどり着く前にこの調子じゃ————

 

「ただのガキにしては楽しませてもらった。……どうだ?今すぐに融合を解くというのなら、お前だけは生かしてやってもいい」

 

『……!』

 

ほんの一瞬、メビウスの心に迷いが生じたのを…………未来は見逃さなかった。

 

「このまま二人とも死ぬか、それとも一人生き残るか。……お前もよく考えるんだな、メビウス」

 

(ダメだ、メビウス……!耳を貸すなッ!!)

 

このままいけば敗北は確実。ならば未来だけでも救おうという思いが微かにメビウスのなかで渦巻いている。

 

『……僕は……』

 

(メビウス……!)

 

数秒の沈黙の後、禍々しいエネルギーが空間に走ったのを感じた。

 

その直後にベリアルの雰囲気がさらに荒々しいものになり、猛烈な殺気がこちらに向けられるのがわかる。

 

「ハハハハハ……!!時間切れだ、諸共に死ねぇ!!」

 

三叉の槍がなすすべもないメビウスの頭部へと突き立てられ————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィン!と甲高い音が耳朶に触れる。

 

刃と刃が激突したかのような凄まじい衝撃と空気の振動。

 

(……まったく、やっぱりわたし達がいないとダメダメね)

 

「貴様らは……!?」

 

二つの刃が交差してダークネストライデントを受け止める。

 

そのままベリアルごと弾き飛ばし、倒れ伏すメビウスから距離をとらせた。

 

(いつまで寝てるのよ。ほら、立って)

 

(……!?)

 

二つの人影がぼやけた視界に映る。

 

やがてそれは青い身体の巨人と鎧姿の宇宙人だということに気がつき、メビウスは驚愕の声を上げた。

 

(ステラ……ヒカリ……!?)

 

『ザムシャーまで……!』

 

「細かい話は後だ」

 

(そうね、上の方も忙しいみたいだし)

 

『上……?』

 

ふと上空に意識を向けると、時折爆発するように閃光が走るのが目に留まる。

 

宇宙空間で怪獣達と戦闘中の光の戦士達。それを目撃したメビウスは安心するように息をついた。

 

『みんな……!来てくれたんだ……!』

 

(すごい……!)

 

(感心してる場合じゃないでしょ)

 

ヒカリはアーブギアを装着してナイトビームブレードを、ザムシャーは星斬丸をベリアルへと構える。

 

メビウスも両の拳を前に突き出し、目の前に立つ敵へと身構えた。

 

(ここから先は総力戦よ、ついてこれる?)

 

(ああ!……いくぞ、今までの決着を————ここで付けてやる!!)

 

 




ヒカリとステラ、ザムシャーも加わっていよいよ反撃の時。
そして戦いを見守る人々の運命は……?

では解説です。

本来はエンペラ星人が装着する予定で造られたアーマードダークネス。皇帝以外が身につければたちまちに身体を支配されてしまうという恐ろしい鎧ですが……。
メビウス本編では装着しないまま地球へ訪れたエンペラ星人。
今作の最後には誰の手に渡り、どのような結末を迎えるのか。


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第94話 暗黒の序曲


さて、今回はついにあの方が…………。


————ウルトラマンについてどう思いますか?

 

怪獣騒ぎが起きて以来、しばらくの間小学校の周りをマイクや大きな機械を持った大人達がうろつくようになった。

 

教員に止められても隙を見て子供達に同じ質問していく人達。みんなわけもわからずに思い思いの言葉を口にしていく。

 

「かっこいい!」

 

「なんか怖い」

 

「怪獣倒してくれた」

 

「ちょっとかわいそう」

 

「ビーム撃ってた」

 

 

 

学校からの帰り道。

 

未来が幼馴染と共に下校していた途中の出来事だ。

 

————ウルトラマンがやってきた日のこと、詳しく教えてもらえる?

 

マイクを向けられてはそんなことを聞かれた。

 

未来と一緒にいた二人の少女が口ごもっているのを見て、やがてそれは未来へと向けられる。

 

「あ、あの……未来く——その子はパパとママを……」

 

気まずそうにそう語る少女の言葉を聞いて、なぜだか大人達は嬉しそうな表情へと変わった。

 

————どんな気持ちだった?

 

良くも悪くも世間はウルトラマンの話題でいっぱいだ。

 

彼を祭り上げる者。陥れようとする者。この時の未来はどちらだっただろうか。

 

人々からウルトラマンと呼ばれている宇宙人は、街を壊す怪獣を倒し、救ってくれた。

 

もちろん助けられなかった命も多く存在する。未来の父と母もその内の人間だ。

 

「……そうですね————」

 

 

◉◉◉

 

 

「千歌さん!」

 

「……!聖良さん!理亞ちゃん!」

 

避難所で座り込んでいた千歌達のもとへSaint Snowの二人が血相を変えてやってきた。

 

「よかった……二人もここに避難してたんですね」

 

「ええ……。内浦の人達も心配して……一緒に皆さんを探してたんです」

 

「無事でよかった……」

 

胸をなでおろす聖良と理亞の後ろから駆け足でやってくる人影が見える。

 

「みんな!!」

 

「お母さん!!」

 

皆の母親達が走ってきたのを見て一斉に安堵のため息をつくAqoursのメンバー。

 

それぞれ再会を果たすと、千歌の母は疲れ切った顔で口を開いた。

 

「心配したよ……。まだ未来くんとステラちゃんが見つかってないの!千歌達一緒にいたんでしょ……?何か知らない!?」

 

「え————」

 

無意識に千歌達の視線が窓から見える外へと流れる。

 

避難所から見てもわかるほどに————巨人達の戦いは熾烈を極めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(はあああああああッッ!!)』

 

三方向から同時に放った斬撃すらも槍で完全に捌かれ、戦慄する。

 

あらゆるタイミング、角度から繰り出される攻撃を完璧に防いでくるのだ。

 

「フッ……!!」

 

(だぁぁあッ!!)

 

(ハッ!!)

 

三対一でやっと互角に戦えているのが現状だ。

 

「デリャァア!!」

 

(…………!!)

 

戦闘を続けているうちにベリアルの攻撃も読めるようになってきた。が、それもヒカリとザムシャーと共に欠点を補い合っているからこそ保てる。

 

槍を防ぎ、弾き、攻撃を与える————!

 

「フン……ッ!!」

 

((そこだッ!!))

 

ザムシャーが槍を切り上げた隙を突き、メビウスとヒカリで的確な斬撃を加える。

 

ギャリィ!!と擦れる音が街に響いた。やはり鎧のせいでダメージはあまり蓄積されない。

 

(でも、いける……!このまま押し続ければ……!)

 

「クハっ……!」

 

対峙する三人の戦士を見てベリアルは唐突に笑い声を発した。

 

(……何がおかしいの?)

 

「お前らの馬鹿さ加減にだよ」

 

ベリアルの手の中に握られていた槍が天へと向けられ、猛スピードで竜巻のごとく回転。

 

赤黒い稲妻がそこへ集中し、次の瞬間————

 

「ハアッ!!」

 

禍々しいエネルギーが解放。

 

地面を抉りながら突き進んでくる光線をすんでのところで回避した。

 

『…………ッ!』

 

通常のものよりも強化された————ギガレゾリューム光線。

 

今のは掠めただけでも危ない。尋常ならざる緊張感が三人に走った。

 

「オラァ!」

 

(くっ……!)

 

固まっているメビウスのもとにベリアルが接近し、腰にさしていた剣————ダークネスブロードを引き抜いて振り下ろす。

 

瞬時にメビュームブレードで対抗するが、あまりの腕力差に簡単に膝をついてしまう。

 

(未来ッ!!)

 

横から助太刀に入ったヒカリが右腕の剣を振るうが、今度は槍で防御される。

 

それを見て逆方向から迫ったザムシャーがベリアルに向けて星斬丸を突き立てようとした。

 

しかし————

 

ベリアルはヒカリの剣を弾き返し、片手に持っていたダークネストライデントで三人を同時に薙ぎ払う。

 

(きゃああッ!!)

 

(ぐあっ……!!)

 

「ぬぅ……ッ!!」

 

吹き飛んだ三人の戦士を見やり、ベリアルは肩を上下させながら高笑いを響かせる。

 

「ハハハハハハ!!……ハ……!!————うっ……!!」

 

(……!?)

 

直後、ベリアルは突然頭を抱えては苦しそうに呻き声をあげた。

 

(……急にどうしたの……?)

 

『鎧の魔力が暴走しているのか……!?』

 

『でもベリアルはもう……!』

 

(…………ッ!!)

 

ベリアルの動きが止まった隙を見てその場を駆け出し、メビウスは奴の手からダークネスブロードを奪い取った。

 

「……ぐっ……!!」

 

(ぜあああああああッッ!!)

 

そのまま身体を回転させ、漆黒の鎧に向かって刃を振るう。が、装甲に到達する前に槍で防御され、そのまま鍔迫り合いの体勢となった。

 

「調子に乗るなよガキィ……!!」

 

(…………ベリアル)

 

……まさか、この状況でも。こんな状態になってもまだ足掻こうとしているのか?

 

完全に鎧に正気を奪われても、無意識のうちに自らの身体を取り返そうとしているのか?

 

(…………ッッ!!)

 

ベリアルから離れ、黒い剣片手に彼を見つめる。

 

走馬灯のように数々の記憶が頭のなかによぎった。

 

「死ねえッ!!」

 

(未来!!)

 

『メビウス!!』

 

 

 

————ベリアル。それが彼の名前だ。

 

————ベリアル……、ウルトラマンベリアル、か。かっこいい名前だな!

 

————あのウルトラマンは私達にそう言ったの。……何か、できることがあるはず。

 

 

 

肉薄してきたベリアルの繰り出す槍を回避し、メビウスは剣を構える。

 

『未来くん!』

 

膝をつくヒカリとザムシャーが横で見守るなか、メビウスとベリアルによる一対一の攻防が繰り広げられる。

 

ベリアルの動きが先ほどよりも鈍い。……()()()()が、必死に抵抗しているのか。

 

(……っ!うおおおおおおッッ!!)

 

ベリアルの横を通り過ぎる直前、全力で腕を振ってアーマードダークネスの腰の装甲を切り裂いた。

 

振り返り際に今度は背中へ十字の斬撃を浴びせる。

 

 

 

 

 

————そうですね————

 

 

「クソ……!!」

 

メビウスを始末するためにベリアルは両腕にエネルギーを集中させて光線を放とうとするが、寸前で飛び出したヒカリとザムシャーによって羽交い締めにされたことで動きを止めた。

 

『今だメビウス!未来!』

 

「さっさと斬れ!!」

 

(未来ッッ!!)

 

鎧の隙間から漏れる微かな光。

 

 

————少なくとも彼は————

 

 

僅かに切り開いた奴の弱点めがけて————メビウスはダークネスブロードを突き刺した。

 

「貴様らァァアアアア…………ッッ!!」

 

溢れんばかりの光が鎧の中から漏れ出し、血のように吹き上がる。

 

(俺は今まで……あんたに言いたいことがあったんだ)

 

さらに腕に力を込め、全身を使って剣を深く彼の身体へと押し込んだ。

 

(あの日……内浦に怪獣が現れた時————俺を……千歌を……みんなを……!!)

 

 

 

————みんなの命を救ってくれました————

 

 

(助けてくれて……ありがとう……ッ!!)

 

「ぐおおォォオオオおおお…………!!!!」

 

爆発するように鎧のなかの光が弾け飛び、抜け殻のように空っぽになったそれが街に音を立てて崩れ落ちた。そこにベリアルの姿はない。

 

消えた彼の断末魔が耳に残る。……最後の最後まで、自分は彼に助けられてばかりだった。

 

(……うっ……!)

 

今まで溜め込んできたダメージが一気に痛みとなって全身に走った。

 

倒れかけたメビウスをヒカリが支え、ザムシャーは構えていた刀を下ろす。

 

『未来くん……大丈夫……?』

 

(俺は平気だ……。他のみんなは……?)

 

ヒカリとザムシャー。二人とも目立った負傷はしていないことを確認すると、安心するように溜息を吐く。

 

(あなた達が一番重傷よ。早く手当てを————)

 

言いかけたところで何やら重苦しい雰囲気を察知し、ヒカリはふと天を見上げた。

 

同じように何かを感じ取ったのか、ザムシャーも下ろしていた星斬丸を高く構え直す。

 

(みんな……?)

 

「どうやら……まだ戦いは終わっていないようだな」

 

『……!避けろッッ!!』

 

刹那、上空から降り注ぐ黒い火球を視認したヒカリが叫んだ。

 

三人が立っていた場所めがけて恐ろしいほどの威力を備えた火球が激突し、大爆発を起こして辺り一面を吹き飛ばす。

 

『(ぐあああああ……!!)』

 

衝撃によって後方へと吹き飛ばされたメビウスは、うつ伏せになって倒れた後に咄嗟に空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

黒い雲のなかから一際禍々しい炎がゆっくりと地上めがけて降りてくる。

 

『(…………!)』

 

背筋に悪寒が走る。逃げろと身体が叫ぶ。逃げても無駄だと心が教える。

 

闇の巨人は漆黒のマントをなびかせながら、人が築き上げてきた街のなかへと足を付けた。

 

直後、周囲の建物が爆風で吹き飛び、火の粉が熱の波となって宙を舞う。

 

だが光を発するものは不要。その巨人は背中のマントを翻すと、辺りに燃えている炎を全て消してみせた。

 

「……来たか」

 

数百メートル離れた場所にあるビルの上から戦況を見下ろす黒い青年が呟く。

 

その姿を見て恐れない人間は誰一人としていなかった。

 

瓦礫の山と化した文明の結晶には見向きもせずに、暗黒宇宙大皇帝は降臨した。

 

 

 

 

 

 

「余は……暗黒の支配者……!!」

 

名乗りを上げるエンペラ星人を前にして、三人の戦士はすぐには動けなかった。

 

自分がまだ生きていることを、心臓が動いていることを確認し、やっとの思いで恐怖の塊のようなそれを睨む。

 

「ウルトラマンよ……光の者達よ……!ついに…………かつての決着を付ける時がきた!!」

 

闇の皇帝が天を指し、もはや勝利は決定付けられたとでも言うように口を開く。

 

黒点に侵食された恒星の姿がそこにあった。

 

「見るがいい、既に太陽は燃え尽きつつある。今こそ全ての光は閉ざされ……そしてこの星は息絶えるのだ……!」

 

まだ身体は動く。思考もクリアだ。きっと大丈夫、ヒカリとザムシャーだっている。

 

「ウルトラマンよ、光の者達よ……!愚かな選択をした全ての命諸共、漆黒の闇となれ。……滅びされェッ!!」

 

相手はエンペラ星人ただ一人。恐れるな。

 

固まるな立て動け足に力を入れろ構えろ止まるな怖がるな前を見ろ目を背けるな敵を捉えろみんなを守れ戦え————

 

「余が降臨した以上……この星に————未来はないッ!!」

 

(エンペラ……!!)

 

硬直しているメビウスよりも先に、ヒカリとザムシャーがその場に立ち上がった。

 

「参るッッ!!」

 

ナイトビームブレードと星斬丸を構え、()()()()正面から奴に特攻を仕掛けていく。

 

(待てみんな……!!そいつは————!!)

 

エンペラ星人の腕輪が残酷(うつく)しく鳴り響く。

 

皇帝は左手を軽く前に突き出した次の瞬間には————

 

「な——」

 

(に)

 

メビウスの真横を後方に向かって二つの人影が通り過ぎる。

 

ヒカリとザムシャーは奴に触れることもできずに————自分達が対峙している者の強大さを知ることとなった。

 

「さあ……」

 

二人を吹き飛ばしたエンペラ星人はメビウスを視界の中心に捉え、嘲笑するような口調で言い放った。

 

「……どうする?」

 

 




ついにベリアルとの決着……?
1章3話で名前が登場してからここまで長かったですね。
そして同じく物語序盤から名前が登場していたエンペラ星人のお出ましです。

今回は今後の展開をネタバレしない程度に紹介します。

エンペラ星人との戦いはもちろん注目すべきところですが、他シリーズからもシチュエーションを一部借りてきたりしています。
外伝作品なども追っている人にはにやっとできるシーンもあるかもしれません。(もっと詳しく言いますと漫画作品とか……)
あとは今まで謎が多かった「光の欠片」の真の力ですね。この作品を書くきっかけとなったシーンがそろそろ近くなってまいりました。

ではまた次回。


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第95話 絶望の狭間

エンペラ星人との直接対決です。
絶対的な力を前にした未来達は……⁉︎


懐かしい感覚、それも極めて不快な。

 

一切の希望が存在しない閉ざされた静寂の世界。

 

恐怖で身体が動かない、闇に包まれた空間のなかで未来は思う。

 

————初めて怪獣と遭遇した日も……こんな感じだったっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あ……う……)

 

「ぐぅ……っ!」

 

後ろで倒れているヒカリとザムシャーの苦しそうな声だけが聞こえてきた。

 

数メートル先に立つ暗黒の皇帝を前にして、メビウスは完全に動けないままでいる。

 

どれだけ決意を固めても、どれだけ感情を高ぶらせても、実際にその“死”を体験してしまっては簡単には行動に移せない。

 

身体が震える。以前の恐怖と絶望、そして痛みが身体に現れている。

 

(……何してるんだ……戦わないと……!!)

 

小鹿のような足で小刻みに震える身体を支える。

 

痺れたように言うことのきかないそれを死に物狂いで前に出した。

 

「怯えているな、光の者よ。無謀と勇敢の区別がつかないのはお前達の悪い癖だ」

 

(だま……れ……!!)

 

動け、動け、動け。

 

何のために今まで戦ってきた。ここで勝たなきゃ全てが無駄に終わるぞ。

 

立ってくれ未来、みんなと一緒に歩んできた一年は————今日この時のためにあったんだろ。

 

「ふん……!!」

 

(————っ!)

 

エンペラ星人の放つ念動力が空間を歪め、メビウスを地面から離すと、そのままヒカリとザムシャーが伏している場所まで戻されてしまう。

 

『ぐあっ……!!』

 

一発喰らっただけでも全身にガタがくるほどの威力。

 

触れるどころか近づけさえもしない。自分達では皇帝の前に立つことすら許されないのだ。

 

(このっ……!このォ……ッ!!)

 

(……!ステラ……!!)

 

やっとの思いで立ち上がったヒカリがナイトビームブレードを奴に向けて走りだす。

 

凄まじい剣幕で斬りかかってきた戦士を、皇帝は羽虫でも払うかのように左手を振るった。

 

(きゃ——ぅ…………!!)

 

『ステラ!!』

 

(…………!!)

 

飛ばされたヒカリを受け止めようとするも、予想以上の勢いに勝てずメビウスまでもが建物を巻き込んで後方へと退けられる。

 

(がふっ……!)

 

『未来くん……!』

 

ヒカリが装着している勇者の鎧すらも意味を成さない。

 

————これが暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。この宇宙に君臨する闇の巨人……!!

 

「おのれエンペラ……!!」

 

刀の先を地面に突き立てて支えとし、ザムシャーが再び立ち上がる。

 

……ダメだ。彼が向かっても念動力で吹き飛ばされるだけだ。本人もそれはわかっているだろう。

 

それなのに————

 

(……ザム……シャー……)

 

ぼやけた頭と目を凝らして目の前の光景を見る。

 

立ち向かい、その度に退けられる戦士の姿が瞳に映った。

 

「はああああああッッ!!」

 

「ふん…………ッ!!」

 

簡単にエンペラ星人の前に倒れてしまうが、一向に諦める気配もなく突き進んでいく。

 

何度倒れても再び立ち上がり、星斬丸を振りかざす彼の姿を見て、メビウスとヒカリ————そしてエンペラ星人までもが驚愕の声をあげる。

 

「光の者でもないお前がなぜ……!?」

 

「………………」

 

皇帝の質問には答えず、無言で刀を構えたまま敵を睨みつけるザムシャー。

 

ベリアルとの戦闘から続いての連戦。彼の身体は既に限界を突破している…………そのはずなのに。

 

「トアアアアアアッッ!!」

 

どうしてそこまで頑張れる。

 

動けないヒカリとメビウスの前に立ち、盾になるように彼は皇帝へと立ちはだかる。

 

『ザムシャー……!』

 

まともに動かすことも叶わない身体を無理やり立ち上がらせようとヒカリが動く。

 

エンペラ星人は一方的に、そして一歩も動くことなくザムシャーを痛めつけている。

 

「余に楯突く者は許さぬ……!」

 

「ぐああああああッッ!!」

 

奴の放った波動が直撃し、悲鳴を上げながらもザムシャーは何度も————何度も、何度も立ち上がった。

 

『よせザムシャー……!それ以上はもう……お前の身体が保たない……!』

 

「断る」

 

星斬丸の刃を閃かせ、そう口を開くザムシャー。

 

「貴様らは言ったはずだ。……守るべきものがあるから、強くなれると」

 

『(…………!)』

 

「なら俺は……貴様らを守り通して、真の強さとやらを手に入れてみせる……!!」

 

————何かが、未来のなかで音を立てて壊れた。

 

「ぬああアアアアッッ!!」

 

星斬丸を地面に向けて叩きつけ、その衝撃波によって土煙が巻き起こる。

 

その瞬間を狙ってヒカリとザムシャーは同時にその場を駆け出した。

 

エンペラ星人の視界が塞がれる一瞬の隙を狙って、二人はそれぞれの剣を掲げて走る。

 

 

(……俺の……馬鹿野郎……!!)

 

メビウスは痛む身体で這ってとある場所を目指す。

 

(メビウス……付き合ってくれるか……!?)

 

『……!うん……うん……!!』

 

未来の意思を汲み取ったのか、メビウスはしきりにそう返事をした。

 

 

 

 

 

 

「「デアアアアアアッッ!!」」

 

二つの刃が皇帝へと振り下ろされる。

 

その直後、ヒカリとザムシャーの表情に絶望の色が入り混じった。

 

「……ぬ……ぐ……ッ!」

 

(なんて奴……!!)

 

左手一本。奴が防御に使ったのはそれだけだ。

 

小惑星すらも粉砕する一撃————その二重。

 

宇宙に名を馳せる強者達による渾身の斬撃を…………エンペラ星人はいとも容易く受け止めてみせた。

 

「ふんッ……!!」

 

ギィン!!と跳ね返される音が響き渡り、ヒカリとザムシャーは同時に後退させられる。

 

直後、間髪入れずに放たれた念動力によって二人は虫ケラのように吹き飛ばされた。

 

(あぁ……ぐ……っ)

 

『……!!』

 

「消えろ、光の者よ……!!」

 

皇帝の左手から放たれた必殺の一撃がヒカリを貫こうと迫る。

 

避ける術はない。死を覚悟する暇もなくそれは残酷にも————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(…………!?)』

 

閉じていた瞳を開く。

 

死が訪れない、その理由を自らの目で受け止めることとなる。

 

両手を広げてヒカリとステラの盾となったザムシャーが————目の前に見えたのだ。

 

「ぬ……ぅ……ッ!!」

 

(ザムシャー……どうして……!!)

 

やがて力なくヒカリの腕のなかへと倒れたザムシャーは、虚ろな瞳を眼前に見える彼————そして彼女へと向けた。

 

 

 

 

 

「……ここまでか」

 

『何をやっている……!!ザムシャー!!』

 

「……無念だ、お前達ともう一度……戦う時を待ち望んで……これまで生きてきた——」

 

(そうよ……!あなたはまだ生きなきゃならない……!!生きてわたし達と戦うんでしょう!?)

 

「——ああ」

 

天に向けて手を伸ばしたザムシャーの手を強く握り、ヒカリとステラは必死に彼に呼びかける。

 

『逝くなザムシャー……!おいッッ!!』

 

(お願いザムシャー……死なないで……!!)

 

自分の名前を呼ぶ二人の戦士を見てザムシャーは思う。

 

かつて戦いのなかでこんなにも心が和らぐ時間があっただろうか。

 

死の足音が近づいているというのに、なぜだか自分はひどく落ち着いている。身体の熱が消えかけているというのに心はこんなにも熱い。

 

「————一生の不覚だな」

 

宇宙最強を目指してここまでやってきた。だが今はこうして、暗黒の皇帝になすすべもなく倒れている。

 

好敵手の腕のなかで、このような心持ちで逝ってしまうことがとても残念だ。……残念だが————

 

『……ザムシャー……!?』

 

(…………!!)

 

自らを犠牲にして他の命を救う。

 

絶望に包まれたこの空間のなかで、不思議と悪い気はしなかった。

 

「これが————“守る”ということなのだな」

 

光の粒子となって霧散していくザムシャーを看取り、ヒカリとステラはゆっくりと身体を上げる。

 

 

 

 

「…………愚かな」

 

傍に転がっていた星斬丸を拾い上げ、両手でしっかりと握り、黒い巨人へと突きつけた。

 

(エンペラ星人……!!お前ええええええッッ!!)

 

殺意に満ちた蒼き騎士が皇帝へと迫る。

 

近づけさせまいと左腕を振るった奴から衝撃波が殺到した。

 

『(踏ん張れ…………ッッ!!)』

 

地面から浮こうとする足裏に力を込め、ヒカリはその場で踏み留まる。

 

どんな攻撃も寄せ付けないはずのアーブギアがひび割れ、徐々に音を立てて崩れていく。

 

(まだ……!まだ……っ!!)

 

どこかの内臓が壊れた。腹の中を掻き回されるような痛みが迸る。

 

————だがまだ動ける。

 

念動力に逆らって皇帝との距離を縮めていくヒカリの執念。ザムシャーを殺されたことによる怒り故か、それとも————

 

『ぐっ……!!』

 

(ゴフッ……!)

 

何かが弾けた。これ以上動いたら死ぬかもしれない。

 

————でもまだ生きている。

 

文字通り死ぬ気での特攻。これくらいの覚悟がなければ暗黒の大皇帝には一矢報いることもできない。

 

ザムシャーは死ぬ覚悟で自分達を守ってくれた。ならばこちらもそうしよう。

 

『借りるぞザムシャー……!』

 

構えていた星斬丸を振り上げ、眼前に迫るエンペラ星人へと浴びせた。

 

「…………ッ!」

 

ヒカリが通り過ぎたことで起きた風圧が奴のマントを巻き上げ、その漆黒の身体の隅々が露わになる。

 

刻まれた傷は()()。一つはたった今ヒカリとステラ、そしてザムシャーが付けたもの。

 

(……なんだ、わたし達が初めて……ってわけじゃないのね)

 

今にも消えてしまいそうな声で語るヒカリを睨み、エンペラ星人は自分の顔に泥を塗った輩を始末しようと腕を振り上げた。

 

「ォォォオオオオ…………!!」

 

怒りに震える皇帝の衝撃波がヒカリへと迫り————

 

 

 

 

そして、防がれた。

 

『……無茶をする』

 

(それがこの二人だもの)

 

再びヒカリの盾となった巨人。赤い身体に()()()()()()()()()()()()が混ざっている。

 

胴体から右腕にかけてアーマードダークネスを装着した————ウルトラマンメビウスがそこに立っていた。

 

「貴様…………」

 

(……エンペラ……星人……!!)

 

一歩前に踏み出す。

 

ベリアルを倒した後に残っていた鎧の一部を身につけたのだ。

 

沸き上がる闘争心を目の前に立つ皇帝へと向け、メビウスは呪いを背負いながら歩き出した。

 

「その鎧をまとって余の前に立つとはな。……クク、ハハハハ……!!」

 

『(おおおおおおおッッ!!)』

 

黒い拳を奴へと突き出す。が、放たれた衝撃波に阻まれてエンペラ星人の身体まで到達できない。

 

「はあッ!!」

 

(ぐっ……あ……!!)

 

一部だけでも意識を持っていかれそうだ。ベリアルはこれを全身に装着して今まで正気を保っていたのか。

 

————危険なんてことは百も承知だ。だけど今はこれ以外に方法はない……!!

 

『いけるかい、未来くん……!!』

 

(ああ……!!)

 

みんな必死に戦ってる。これくらい耐えないと奴には通用しない。

 

闇にはならない。この鎧を制して俺は————!!

 

(うっ……!があああアアアア!!)

 

右半身の言うことが効かない。

 

メビウスの身体に焼けるような痛みが走るのを見て、エンペラ星人は面白がるように笑った。

 

「おもしろい。ではどこまで耐えることができるのか……余が試してやろう……!!」

 

凄まじい闇の波動が全身を貫く。

 

倒れちゃダメだ。奴を倒さないと。

 

進め、進め、進め————!!

 

『(うおおおおおおおおおッッ!!)』

 

手慣れた動作を瞬時にこなす。

 

左腕のメビウスブレスのサークルを回転させ、頭上でエネルギーを増幅させてから腕を十字に組む。

 

『(セヤアアアアアアッッ!!)』

 

光と闇が交差する光線がエンペラ星人へと殺到。

 

アーマードダークネスの力で何倍にも膨れ上がった威力のメビュームシュートが、奴の胴体を直撃した。

 

「……!」

 

至近距離での攻撃に対応しきれなかったのか、エンペラ星人の足は衝撃を逃がすように一歩後退した。

 

『はあっ……はあっ……!』

 

(こんだけやっても……一歩引かせるだけかよ……!!)

 

「ふむ……」

 

一瞬、暗黒の皇帝の視線がメビウスの身体を通して————未来だけを捉えたような気がした。

 

「これだけの力がまだ残っているとはな。戯れに仕向けた四天王を退けただけのことはある」

 

奴の右腕に赤黒い稲妻が集中し、それは一筋の光線となってメビウスへと放たれた。

 

「————しかし、もう終わりだァ!!」

 

(————…………!!)

 

反射的に展開したバリアでそれを受け止めるも、それすら通り越してメビウスの身体を破壊していく暗黒の光線。

 

(ぐっ……ああああアアアアアア!!!!)

 

死を痛みに変換したような激痛が両腕から全身へと伝わる。

 

腕の感覚がなくなっても痛みだけが残り続け、メビウスと未来の身体を蝕んでいく。

 

 

 

 

 

(……千……歌……)

 

ふと一人の少女の顔が浮かんだ。

 

怒った顔。悲しい顔。笑った顔。

 

自分の日常を美しく彩ってくれた少女の顔が————こんな状況で頭に浮かんできた。

 

(まだ……シねなイ……っ……!!)

 

前方に広げた障壁が崩れ始めた瞬間、メビウスの声が聞こえてきた。

 

『……未来くん』

 

(……!メビウス……?)

 

『君と僕の融合を解除しよう』

 

(……!?ばっ……!そんなことをしたら……お前は……!!)

 

今受けているレゾリューム光線は純粋なウルトラ一族の肉体を瞬時に分解するもの。未来との一体化を解除すればその時は————

 

『このままじゃ二人とも死ぬよ。……せめて、今は君だけでも』

 

(おい……!待て、やめろメビウス……!馬鹿野郎!!そんなことしてみろ……!!絶対に許さないからな……!!)

 

『大丈夫。君達なら、きっと————』

 

直後、未来の身体が弾かれるように巨人の身体から排出される。

 

メビウスの背中が視界に入り、未来は必死に彼へと手を伸ばした。

 

「————っ!!メビウスううううううッッ!!!!」

 

相棒の身体が、アーマードダークネスだけを残して砂のように消滅していくのが見えた。

 

裏路地に倒れこんだ未来は、血の気の引いた顔で黒い巨人を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『くそ……!!』

 

(……っ!うあああああああッッ!!)

 

そばで倒れていたヒカリが最後の力を振り絞ってエンペラ星人へと特攻する。

 

「はあッ……!!」

 

腕の一振りで吹き飛ばされ、徐々に青い身体が薄れていくのが見えた。

 

「わかっただろう、ウルトラの一族は……決して余には勝てぬと」

 

 

◉◉◉

 

 

消滅していくヒカリを一瞥した後、人間の姿となって街中に消えた未来に対してエンペラ星人は言った。

 

テレパシーを使って、彼だけに伝えたのだ。

 

 

————日々ノ未来。地球人の身でありながら光を宿す者よ。

 

「……!?」

 

路地で苦しそうに表情を歪めながら座り込んでいた未来に、エンペラ星人の声が届く。

 

————貴様の執念はウルトラマンが消えたとて充分に脅威だ。……そこでもう一度、今度はお前に直接問いかける。

 

皇帝の口から言い放たれる要求に、未来は大きく目を見開いた。

 

————自ら命を絶て。そうすれば他の地球人の命だけは見逃してやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自ら……命を……」

 

何もなくなった両手に視線を落とす。

 

メビウスブレスが消えた左腕が、未来の胸を抉った。

 

————自ら命を絶てば、他のみんなは助かる。自ら命を絶てば…………。

 

 

 

 

「俺が死ねば…………千歌達を助けられる……」

 




絶体絶命な状況に加え、再び下されるエンペラ星人からの要求。
もう後がありませんね。

では解説いきましょう。

アーマードダークネスを装着した状態のメビウスは内山まもる先生の「ジャッカル軍団大逆襲」で登場しました。
そちらでは色々あって制御可能になりましたが、今回はそれも無理な状況だったのでコントロールはできませんでしたね。

そして次回はついに第2章のクライマックス。
残酷な選択を迫られた未来は……?


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第96話 無限の輝き

絶望的な状況のなか、未来を導くのは……?


ウルトラマン達が宇宙人に敗北したという情報はすぐに世界中に知れ渡り、人々は絶望の淵に立たせれていることを自覚する。

 

避難所から三人の戦士が消滅する瞬間を見ていた千歌は、青ざめた顔で口元を手で覆った。

 

パニックになる人間達のなか、脱力したように座り込んだルビィが不意にこぼす。

 

「……死んじゃった……の?」

 

目に涙をにじませるルビィの肩に触れるダイヤだったが、気持ちは皆同じ。

 

どうしようもない状況のなか、唐突に千歌がその場から駆け出した。

 

「千歌さん!?」

 

「千歌!?」

 

咄嗟に彼女へと手を伸ばす聖良と千歌の母。

 

一人避難所の外に向かって走り出した千歌の背中を見て、Aqoursのメンバー達はお互いに顔を見合わせると了承するように頷き、その後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来くん!!未来くーーーーんッッ!!」

 

「ステラちゃーーーーんッ!!」

 

半壊した街中で必死に声を張る。

 

呼んでも一切の返事をよこさない彼らを探して、千歌達は瓦礫のなかを走り回った。

 

「……!ステラちゃん……!!」

 

建物の壁に背中を預けて倒れていたステラを発見し、急いで彼女のもとへ駆け寄る。

 

腹部にはひどい出血が見られ、放っておけば命に関わることは素人の目にも明らかだった。

 

「……ばか……なんで……こん……とこ……に……」

 

「喋っちゃダメ!」

 

途切れ途切れに口を開くステラの身体を診る。千歌達の手では到底治せない傷だ。

 

次々に流れてくる血をどうにかして止めようと、梨子はポケットに入っていたハンカチを使って腹部にあてがう。

 

「どうしよう……こんなに血が……!」

 

「未来くんはまだ見つからないの……!?」

 

「救急車とか……」

 

必死に自分を助けようとしている少女達の姿を見て、ステラは消えそうな声で言った。

 

「わた、しは……もう……手遅れ……」

 

「……違う!絶対助かるよ!!ねえ、そうでしょヒカリ!?」

 

曜はステラの体内にいるはずのヒカリへと問うが、彼からの返答はなかった。

 

気休めでもなんでもいい。まだ助かる道はあると言って欲しかったのに。

 

「……もう、終わりなのね……」

 

「……!」

 

不意に善子がこぼした言葉でずしり、と空気が重くなるのを感じた。

 

「やめるずら!!」

 

「……ごめん。でも————」

 

声を震わせる善子が周囲の惨状を見渡して口にした。

 

「————どうするっていうのよ……?」

 

その質問には誰も答えることができなかった。

 

皆現実から目を背けるように俯いている。

 

…………ただ一人を除いて。

 

 

◉◉◉

 

 

————俺が死ねば、千歌達を救うことができる。

 

心臓の鼓動が早くなるのがはっきりとわかった。

 

もうメビウスはいない。ステラとヒカリ、ザムシャーの力を借りても歯が立たなかった。

 

エンペラ星人を倒すことは叶わなかったのだ。

 

「……あ……はぁっ……はぁっ……!!」

 

恐怖が全身を支配する。

 

何度も息を吸い、今ある生を実感しようと必死になった。

 

自分がいなくなっても————それでみんなが生きていけるなら、喜んで命を差し出そう。

 

…………だけど。

 

「……くそ……!くそおおおおおッッ!!」

 

地面を殴り、叫ぶ。

 

自分の身代わりとなって…………メビウスは死んだ。

 

エンペラ星人は未だ健在。大したダメージを与えることすらできなかった。

 

————なんだこの様は?

 

正義のヒーロー、ウルトラマンが聞いて呆れる。自分は今まで何をやってきたのか。

 

「……千歌……みんな……」

 

あの美しい日常を守るためにウルトラマンとして戦ってきた。その果てに得たものがこの絶望か。

 

「…………」

 

何もかもに嘆き、頭が真っ白になった時。

 

未来はほとんど無意識に、両手を自分の首に回していた。

 

————俺が死ねば、みんな助かる。

 

(…………さよなら、みんな)

 

心残りがないわけではない。できることなら最後にもう一度だけ、彼女に————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく世話の焼ける」

 

「え————」

 

手に力を込めようとした直前、横から放たれた蹴りが未来の頬に炸裂した。

 

勢いよく裏路地を転がった身体は壁に激突し、鈍い音が響く。

 

「いっつ……!?」

 

頭を押さえて顔を上げた先にいた人物に、未来は目を見開いて驚愕の声を上げた。

 

「お前……!」

 

「やあ未来くん、今何をしようとしてたのかな?」

 

頭から足まで全部が黒い。

 

コートを翻した青年はゆっくりとこちらに歩み寄ると、膝を曲げて未来と視線を合わせた。

 

「ノワール……何しに来た……?」

 

「先に質問したのはボクだよ」

 

「うっ……!?」

 

未来の胸ぐらを掴んだノワールは静かに怒りを宿した瞳を彼へと向ける。

 

「答えたまえ、今君は何をしようとした?」

 

「……!それは————!」

 

黒い瞳の奥底に垣間見えた真剣さに圧倒され、未来は小さな声で答える。

 

「……エンペラ星人に言われたんだ。俺が死ねば、他のみんなには手出ししないって……」

 

「…………」

 

細めた目でじっと未来の曇りきった表情を観察した後、ノワールは大きなため息を吐き出して彼から手を離した。

 

「……君に失望するのはこれで二度目だ」

 

尻餅をついた未来の前に立ち、ノワールはいつもの軽い口調で言葉を発する。

 

「馬鹿か君は、たとえ命が助かったとしても地球は闇に閉ざされたままだ。そんな世界で生きていて、彼女達は本当に幸せだと思っているのかい?ボクは御免だね!」

 

「そんなこと……わかってるよ!!」

 

痛む身体を押さえつつ立ち上がった未来は、ノワールの眼前に歩み寄って言い放つ。

 

「だけどもうそれしかないじゃないか!!俺はもうウルトラマンじゃない……他にみんなを救う方法なんて……っ!!」

 

「………………」

 

弱音を吐く彼を見下ろし、ノワールはもう一度大きなため息をつく。

 

「変なところで現実的になるのは君の悪い癖だ」

 

「えっ……ちょっ……!!」

 

ノワールは前触れもなく未来の腰を抱えるとそのまま跳躍して壁を蹴り、近くにあった建物を踏み台にしながらどこかを目指して移動しようとした。

 

突然のことに未来は抵抗しながら抗議の言葉を吐く。

 

「何すんだよ!!離せ!!」

 

「暴れると落ちるよ」

 

今はもう未来の身体は通常の人間と同じだ。メビウスがいなくなった今、高所から落下すればたちまに命を落とすことになる。

 

それに気がついた未来は暴れるのをやめ、自分が死にたくないと思っていることに自虐的な笑みを浮かべた。

 

「…………どうすりゃいいんだよ」

 

かつての宿敵に抱えられたまま、未来は片手で自分の顔を覆った。

 

 

◉◉◉

 

 

「……!あれって……!!」

 

意気消沈していた皆が果南の指差した方へと視線を移す。

 

空からこちらへ飛ぶような速度でやってきた人影を見て、揃って声を上げた。

 

「うわっ……!!」

 

抱えていた未来がノワールに放り投げられ、千歌達の足元まで転がってくる。

 

「未来くん!」

 

彼の顔を見た千歌は安心するように名前を呼ぶと、彼のもとへ駆け出した。

 

しかしすぐにノワールの存在に気がつき、その黒い風貌の青年を見上げては小さく呟く。

 

「あなたは……」

 

千歌達の顔を見やり、少しだけ気まずそうに笑った後、ノワールは静かに彼女達へと言い放つ。

 

「ボクにここまでさせたんだ、君達には必ず……最高の輝きを見せてもらうよ」

 

そう言い残して地面を蹴り、薄暗い街中へと彼は消えていった。

 

「……!ステラッ!!」

 

後ろに座り込んでいる弱々しい少女の姿を見た未来は、すぐさまその場を飛び出して彼女のそばへと走る。

 

「……生きてた……のね」

 

「あ、ああ……!それよりお前、その傷……!!」

 

ヒカリの力でも治しきれないのか、ステラの腹部は見ることも躊躇するような痛々しいものだった。

 

頭部と口元からも鮮血が流れ、虚ろな瞳で彼女は口を開く。

 

「ちょうど、よかった……未来……身体はまだ……動かせる……?」

 

「……!?何を————」

 

おもむろに右腕を差し出してきたステラ。

 

今にも消えそうな声音で、彼女はとある頼み事を言った。

 

「ヒカリ……、未来と一体化して……たたかっ……て……」

 

『……!!』

 

「おねが、い……」

 

自分はもう助からないとわかっているのか、ステラは小さな声でそう頼む。

 

しかしヒカリとの融合を解除すれば間違いなく彼女は数分で命を落とす。自分でもそれは理解しているだろう。

 

それなのに————

 

「わたしの……わがまま……きいて……くれる……?」

 

『…………』

 

ヒカリは何も言わずに、黙り込んだまま彼女の右腕から未来の身体へと移ろうとする。

 

『……いくぞ、未来』

 

「いくぞってお前……!ステラはどうなるんだよッ!!」

 

『彼女の!!』

 

いつになく声を張ったヒカリの声はひどく震えている。

 

『……ステラの、意志を汲んでやりたいんだ……!』

 

「…………っ」

 

ぐっと涙をこらえた未来は青い光を受け取ると、勢いよく立ち上がって右腕にナイトブレスを出現させる。

 

「……ありがとう」

 

静かに礼を言ったステラは眠るように瞼を閉じる。

 

一歩踏み出した未来を見て、鞠莉は彼に問いかけた。

 

「戦うの?」

 

「…………ああ」

 

「敵わなかったのに……?」

 

強く拳を握り締める。

 

ステラが繋いでくれた希望を、ここで形にしないと。

 

……ああ、やっと決心がついた。死ぬなんてやっぱり馬鹿げている。

 

「俺達はウルトラマンだ」

 

強く踏み出した彼の手を————千歌は掴んで、引き止めた。

 

 

 

「二人だけには行かせない」

 

「千歌……?」

 

暖かな感触が伝わる。

 

太陽の光が届かない闇のなかで、未来は微かな光を彼女達から感じ取った。

 

「前に言ってたよね、私達に眠る力のこと」

 

「光の欠片……か?」

 

今まで千歌達を守ってくれた光の欠片。地球人だけが宿すと言われているエネルギー体。

 

曜や梨子、他のみんなも未来の周りに集まり、引き締まった表情を向けてくる。

 

「まだ終わりじゃないよ」

 

「そうですわ。……それに」

 

「うん、さっきから聞こえてるもん」

 

果南、ダイヤ、鞠莉の言葉に首を傾ける未来。

 

 

————ん

 

 

「リトルデーモンがこんなに頑張ってるんだもん、弱音吐いてる場合じゃないわね!」

 

「さっきのは聞かなかったことにするずら〜」

 

「サファイアちゃんが守ろうとしたもの……ルビィも守りたいから!」

 

 

————くん!

 

 

「ちゃんと聞こえるはずだよ」

 

「耳を澄ましてみて」

 

「うん。…………ほら!」

 

 

————未来くん!!

 

 

直後、右腕に宿るナイトブレスから聞こえてきた声に驚愕する。

 

聞き間違えなどするものか。いつも一緒にいた仲間の声だから。

 

そばにいてくれた友達の声だから————!

 

「メビウス……?メビウス……なのか……!?」

 

————また一緒にいこう。……僕達の、最後の戦いのために!

 

ナイトブレスから発せられる声に驚きつつ、そのワケをメビウスへと尋ねる。

 

「お前、どうして……!」

 

『……そうか、これも……!』

 

ヒカリは何かに気がつくように声を上げると、メビウスの身体が再構成されている理由を話し出した。

 

『以前ステラの両親の魂が一時的に呼び戻されたことがあった。……おそらくはこのナイトブレスを生み出した、ウルトラマンキングの力』

 

「と、とにかく!メビウスはまだ生きてるんだよな!?幻じゃないよな!?」

 

————うん!

 

もはや懐かしくも感じる彼の声を聞き、未来は自然と目に涙をにじませていた。

 

その様子を見て微笑む千歌達が未来の隣に立ち、街中にそびえ立つ暗黒の皇帝を見上げる。

 

 

 

「皆さーーーーん!!」

 

「何やってるのよ!!」

 

避難所から追ってきたのか。聖良と理亞の二人がこちらへ駆けてくるのが見えた。

 

「二人とも!!」

 

「ステラちゃんを頼みます!!」

 

「「えっ……?」」

 

呆然とした様子で千歌達を見た後、その近くで倒れているステラに気がついては慌てて彼女のもとへ走りだす。

 

「……いこう、私達……九人も!」

 

千歌の言葉に頷いたみんなが未来の周りで円を組む。

 

未来が右腕に出現させたナイトブレスを操作し、エネルギーを充填。その手を中心へと伸ばす。

 

重なっていく十の手から仄かに光が生まれ、徐々にその強さを増していく。

 

「……!」

 

そして未来の目の前に————左腕にメビウスブレスを宿した一人の青年が現れた。

 

赤と青。二つのブレスを中心に光の勢いは周囲へと広がっていく。

 

 

 

 

「……あたたかい」

 

瞼を閉じていたステラは小さくこぼし、目の前で生まれようとしている最高の輝きに視線を注いだ。

 

「イチ!」

 

「ニ!」

 

「サン!」

 

「ヨン!」

 

「ゴ!」

 

「ロク!」

 

「ナナ!」

 

「ハチ!」

 

「キュウ!」

 

「ジュウ!!」

 

一から十、全ての光の欠片が集結し、同調する。

 

増幅されていく光のエネルギーが最高潮に達し、未来と千歌は声を揃えて叫んだ。

 

「「Aqoursァ!!」」

 

————サンシャイン!!!!

 

花丸、善子、ルビィ、ダイヤ、鞠莉、果南、梨子、曜、千歌、未来、メビウス、ヒカリ。

 

全員で同時に天へ向かって拳を突き出し、高らかに言い放つ。

 

————メビウーーーース!!!!

 

 

◉◉◉

 

 

地上から天に向けて伸びた光の柱を視認し、エンペラ星人はそのあまりの眩しさに目を隠す。

 

赤と青に金。炎を形取った模様に————太陽の如き黄金色の輝きを全身から絶えることなく放っている。

 

光の欠片の力と、ウルトラマンの力が掛け合わされた姿。

 

ウルトラマンメビウス————メビウスサンシャインブレイブ。

 

(これが究極の光……即ち、無限の輝きだ!!)

 

両腕に宿るメビウスブレスとナイトブレスを構え、エンペラ星人と再び対峙した。

 




エンペラ星人との最後の戦いです。
ついに実現した究極の光。正反対の力を持つ巨人達の戦いの行方は……!?

今回の解説はサンシャインブレイブについて。

外見は黄金色に輝くフェニックスブレイブといった感じです。
絶対的な闇に対抗できる絶対的な光。
ヒカリや未来の他にAqoursのメンバーとも融合した今作におけるメビウスの最強形態の一つ。
使用する技はフェニックスブレイブのそれに酷似したものが多いです。

明日で毎日更新は終わりで、それ以降は不定期更新になります。


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第97話 ウルトラの奇跡

ついにエンペラ星人との決着です。
なお前回記述した通り、今回で毎日更新は終わりです。


二対の巨人がお互いの前に立ちはだかり、張り詰めた緊張感で周囲が満たされる。

 

「言ったはずだ、ウルトラマンは決して余には勝てぬ……ッ!!」

 

エンペラ星人は再び右腕に赤黒い稲妻を集中させると、メビウスに向かって一直線にそれを放った。

 

「————」

 

刹那、メビウスは開いた右手を前に向け、眩い閃光が迸る。

 

皇帝の放ったレゾリューム光線は、メビウスから発せられた光の波によって一瞬でかき消されてしまった。

 

「……まさか、余の力を超えるだと……?」

 

(当たり前だ)

 

予想外の事態に動揺を隠せないでいる奴へと語りかける。

 

これは地球人とウルトラマン、両方の願い……その全てが詰まった想いの結晶。

 

暗黒の皇帝などが放つ孤独な力なんかに————負けるはずがないんだよ……!!

 

『みんな……!いくよ!!』

 

————うん!!!!

 

黄金の巨人がその場を駆け出し、エンペラ星人との接近戦へ持ち込もうとする。

 

「小癪な……!!」

 

(……!鎧が————)

 

周囲に転がっていたアーマードダークネスがエンペラ星人のもとへ集まり出し、次々と奴の身体に装着されていく。

 

ダークネストライデントを構えたエンペラ星人に接近したメビウスはその薙ぎ払いを回避し、懐に潜り込んでは光の速さで拳を打ち出す。

 

「ぬぅ……!!」

 

『(ハアッ!!)』

 

エンペラ星人の放った黒い火球をアクロバティックな動きで避け、距離をとった後に両腕を交差させる。

 

「セヤッ!」

 

メビウスブレスとナイトブレス。その両方から同時にブレードを展開し、二刀流の状態で再び奴へと迫った。

 

「ヌアアアッッ!!」

 

『(うおおおおおおッッ!!)』

 

エンペラ星人の持つ槍とブレードがぶつかり合い、しばらく凄まじい攻防が互角に続く。

 

やがて僅かな差を制したメビウスがエンペラ星人の胸部へと強烈な斬撃を浴びせた。

 

「ぐっ……!!」

 

奴の身を守るアーマードダークネスが裂け、血のように光の粒子が漏れ出す。

 

数分前の劣勢が無かったかのように、今はメビウスがエンペラ星人よりも優位に立っているのだ。

 

————それっ!!

 

拳を。

 

————やあっ!!

 

蹴りを。

 

————はあああッ!!

 

斬撃を。

 

ありとあらゆる方法……思いつく限りの攻撃をありったけに与えていく。

 

未来とメビウス……そして千歌達の本気。これまで紡いできた想い全てをぶつける。

 

一発一発————それぞれの輝きがダメージと共にエンペラ星人へと伝わっていった。

 

『(はああああああッッ!!)』

 

「…………ッッ!!!!」

 

全力を乗せたパンチが奴のど真ん中へ炸裂し、衝撃を逃しきれずにエンペラ星人は後方へ吹き飛んだ。

 

「……光の者達よ……なぜ闇を恐れる……!?全てが静寂に支配された素晴らしい世界を……!!」

 

(そんなの……決まってるよ!!)

 

千歌の言葉と同時に黄金色の拳が放たれ、エンペラ星人へと殺到。

 

(私達、寒いの苦手だしね……!!)

 

二体の巨人の間に距離が開き、その隙を見逃さなかったメビウスがすぐさま体勢を整えて光線を放とうとする。

 

『(はあああああ……!!)』

 

両の拳を合わせた後左腕を上に、右腕を下へ。次に流れるような動きで右腕を天へと掲げる。

 

そのまま手を十字に組み、二つのブレスで増幅したエネルギーを一気に解放。

 

「…………ッッ!!」

 

黄金色の光線が奴へと伸びる。

 

瞬時に危機を感じ取ったのか、エンペラ星人は咄嗟に両腕を前に突き出すとそれを受け止めてみせた。

 

「ォォオオオオオ……!!」

 

『(うおおおおおおおッッ!!)』

 

驚くべきことにエンペラ星人は凄まじい執念を発揮し、互角の状況へと持ち込んだ。

 

光と闇の巨人による根比べ。光線を絶えず放ち続けるメビウスと、それを受け止めるエンペラ星人。

 

(……みんな)

 

光の空間のなかで千歌達が顔を見合わせる。

 

お互いに同じことを考えているのだな、と微かに笑い、千歌は世界中に聞こえるような声を張り上げた。

 

(歌おう……みんなで!!)

 

(千歌……!)

 

今まで披露することのなかった“ウルトラマンの曲”。

 

ずっと前から完成していたそれを————この空間から、全ての命に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

   ーーウルトラの奇跡ーー

 

 

 

 

 

光線を放つメビウスの体内から聞こえる歌声は、まるで音楽そのものが輝いているように見えるほど美しかった。

 

ここまで戦ってきた未来とメビウスの想い。そしてそれを支えてきた千歌達の心。

 

そしてこの先に待つ輝きを願った歌。

 

(……私達は今まで必死に頑張って、ここまで来た!)

 

(そうずら。……自分を信じて、仲間を信じて!)

 

(自分らしさを貫いて、みんなと肩を並べて……!!)

 

————ひび割れる音。

 

(何度くじけそうになっても……這い上がってきた!)

 

(大好きな場所を守るために!!)

 

(次の世代に繋がるように!!)

 

————壊れる音。

 

(定められた運命にも負けずに、立ち向かってきた私達なら……!)

 

(きっと……この星だって守り抜ける!!)

 

(そうだよ……!私達に叶えられない夢なんか……ないッッ!!)

 

腕の先から徐々に崩壊していくアーマードダークネス。

 

悲鳴にも似た低い声をあげるエンペラ星人は、怨敵を睨むように一層強くメビウスへと視線を注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと……危ないかもね」

 

二体の巨人を見上げたノワールがふと呟く。

 

ここにきて皇帝の方も想定外の力を発揮している。本来ならば究極の光の前になすすべもなく倒れるはず。

 

それだけ光が憎いということなのだろうか。どちらにせよこのままじゃ————

 

『もう一押し必要……ってか?』

 

「ああ、生きてたのか君」

 

背後からかけられた声に反応してノワールは問う。

 

『あれくらいで死んでたまるかよ。ようやく好き勝手できるんだぜ?』

 

「あはは、そりゃそうか」

 

近くに感じる微かな生命反応と会話を交わしつつも、ノワールは巨人達の戦いを見守る。

 

「で、ボクに何か用?」

 

聞こえてくる“声”に向けて質問する。その返答は予想もしていなかった提案だった。

 

『今の状態じゃ実体化は無理だ。……お前の身体を貸せ』

 

「……は?」

 

思わず間の抜けた声がこぼれ、“彼”の言い放った言葉の意味を理解すると同時に吹き出してしまう。

 

「ボクと君が……?ご冗談を、今更舞台に上がるなんて許されるわけがないだろう。……加えてボクは汚らわしい闇だ」

 

自らの両手に視線を落とし、ノワールは自虐的な笑みを浮かべた。

 

「……ボクが触れる力は全て闇に変換されてしまうんだぜ?」

 

『その決め付けが、お前の成長を妨げている』

 

「……なんだって?」

 

聞こえてきた声音の言葉が耳に滑り込み、今まで感じてきたものがひっくり返るような感覚に陥った。

 

『自分を信じろ。自虐心を捨てろ。……そして証明するんだ、“人は誰でも光になれる”ってことをな』

 

「————」

 

『それに……お前は今までやってきた行いを貫けばいい』

 

徐々に存在感を増していく声を聞き、ノワールの心もまた段々と高揚していくのがわかった。

 

『お前は今まで、自分勝手に場を引っかき回していた。……今回もそうすればいいのさ』

 

目から鱗とはこのことを言うのか。

 

ノワールは“彼”の言葉を理解すると、胸の奥底からどっと熱がせり上がってくるのを感じた。

 

「はは……あはははははは!!なるほど、確かにボクらしい!!……自分勝手を貫け、か」

 

止まっていた情熱が再び動き出すような感覚。

 

ノワールは後ろを振り向くと、そこに浮かんでいた光の球体へと言った。

 

「いいだろう、溢れた者同士……共に行こうじゃないか」

 

『へっ……一緒にすんじゃねえよ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くっ……!足りないか……!?)

 

ひたすらに力を注いでエンペラ星人へと光線を撃ち続ける。が、未だに奴はこれを耐えているのだ。

 

恐るべき執念。このまま続けても勝てるかどうか————

 

『……!?なんだ————!?』

 

すぐそばから発せられた閃光が周囲を照らす。

 

この星の人々はそれを見たことがあった。

 

ピンチの時にやってくる、永遠のヒーロー。

 

光と共に駆けつけてくる、ウルトラマンを————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュワッ!!」

 

隣に立ち並び、十字に組まれた腕から光線が射出される。

 

メビウスは横に立つ一体の巨人へと顔を向け、それが誰なのか確認した後、驚愕するように声を上げた。

 

『ベリアル……!?』

 

(ノワールお前まで……!!)

 

赤と銀。かつて内浦に現れた時と同じ姿。

 

ノワールと一体化したウルトラマンベリアルが、そこに立っていた。

 

(やあみんな!さっきぶりだね!)

 

『よそ見をするな!僅かな油断が命取りになるぞ!!』

 

『(……!はいッ!!)』

 

ベリアルが加わり、二つの光線がエンペラ星人へと殺到する。

 

原型を留めていたアーマードダークネスは砂と化し、皇帝自身の黒い身体が再び露わになった。

 

「オオオ……!オオォォオオォオオオオ…………!!!!」

 

腕の先から奴の身体が焼けていく。

 

光に包まれるなか、エンペラ星人は曲がることなく自らの存在を強調し続けた。

 

「余は……暗黒の皇帝……!!光の国の一族などに敗れはせぬ……!!」

 

先の戦闘で受けた傷が開き、黒い肌の隙間から眩い光の粒子が漏れ出す。

 

(今だ、みんな!!)

 

『ガキ共!!お前らの全力を……奴にぶち込んでやれッ!!』

 

『(…………ッッ!!)』

 

両腕のブレスが輝き、メビウスの身体が消える。

 

————いや、これは消えたのではない。“光”になったのだ。

 

「ぬぅ……!?」

 

一筋の閃光となったメビウスがエンペラ星人へと特攻を仕掛ける。

 

(————届け……!)

 

(俺達の……!)

 

(私達の……!!)

 

 

 

 

————光!!!!

 

サンシャインブレイブが放てるなかで最強の威力を誇る特攻技、メビュームサンシャイン。

 

不死鳥の姿を形取った光が皇帝の胴体を貫き、闇を払うようにそれは輝く。

 

「ガハッ……!!」

 

奴に攻撃を浴びせた後、メビウスは背後にいるであろうエンペラ星人がまだ倒しきれていないことを瞬時に察知した。

 

あと一撃。それさえあればエンペラ星人は完全に消滅するはず。

 

(…………ッッ!!)

 

振り向きながら思考を巡らせる。

 

この体勢、このタイミングから、放てる技は何か————

 

……思い浮かんだのは、一つだけだった。

 

『(はあああああ…………!!!!)』

 

どうせこれが最後なんだ。ありったけを……今ある全ての力を注ぎ込んで叩きつけてやれ。

 

左腕のメビウスブレスにエネルギーを……溜めて。

 

溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて溜めて————!!

 

『(メビューム…………!!)』

 

振り返り際に拳を引き、向こうもこちらを振り向いたことを確認して、エンペラ星人の腹部へと狙いを定める。

 

『(インパクトォォオオオオッッ!!!!)』

 

絶大な衝撃を備えた炎の拳が皇帝へと放たれる。

 

身体を突き抜けて天へと昇っていく炎の柱。

 

「オオォオ……ォォォオオオオ…………!!!!」

 

最後の一撃を喰らい、エンペラ星人は苦しそうに身体を揺らしては震える声音で口にした。

 

「なぜだ……!なぜ貴様らはのうのうと太陽に照らされているこの星を救おうとする……!?」

 

『それは違う。……光があるから闇が生まれる。闇があるからこそ光が存在できる。どちらかに偏った世界なんて、あってはならないんだ』

 

ベリアルの言葉を聞いて、何かを悟ったようにエンペラ星人は黙り込んだ。

 

誰もが持っている光と闇の一面。

 

一度は闇に堕ちかけたベリアルがこうして光の戦士として立っているのも————

 

「……そうか、余は……ウルトラマンに負けたのではなく——」

 

奴の全身が仄かに輝き始め、徐々にその身体は光へと変換されていく。

 

「ウルトラマンと……人間の絆に……負けたのか……」

 

黄金色の粒子となって空へと消えていく皇帝の姿を見送る。

 

「余が……余が……光になってゆく…………」

 

暗黒宇宙大皇帝として恐れられた者の最期。

 

安らかにも見える彼の様子を見て、ノワールは静かに口にした。

 

(君の役目は終わった。……これからは次の世代が、世界を作っていく)

 

暗雲が晴れる。

 

青い空と共に現れた太陽は————いつも通りの輝きを放っていた。

 




メビウス本編ではゾフィーが駆けつけてくれましたが、今作ではベリアルアーリースタイルが登場。
長かった戦いもひと段落つきましたね。

解説は今回で最後になるかな……?

アーマードダークネスの呪縛から解き放たれ、ノワールと一体化して元の姿を取り戻したベリアル。
ウルトラの父と同期だったこともあり凄まじい力を秘めています。
ノワールに関しても最後の最後で光を手にすることができましたね。
作者としても少しは報われてよかったと思います(笑)

次回から13話分になりますが、アニメのサンシャインとは違った終わり方になる予定です。
そして忘れてはいけないのが……今も海で力を蓄えているあの人。


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エピローグ:日々の未来
微かな予感


今回からはエピローグ編に入ります。
書いてるうちに13話の原型はほぼ無くなってしまいました(焦)
オリジナルの話が大半を占めているのでご了承を。


閉じられた門の前に立って、生徒達は校舎を見上げる。

 

夕焼けに照らされてオレンジ色に輝くそれを眺め、いつまでも続くことはない時間が過ぎていく。

 

「……閉めよう」

 

永遠に続くのかと思うほど長い沈黙は、一人の少年の一声によって終わることとなった。

 

頷いた九人の少女達がそれぞれ左右の門に触れ、最後の別れを告げようとする。

 

少年もまた一歩踏み出し、左腕を前に出そうとして動きを止めた。包帯で繋がれて首からぶら下げられていることをすっかり忘れていた。

 

使えない左腕の代わりに湿布だらけの右腕を出し、門を閉めようと力を込める。が、うまく力むことができない。

 

「……一緒に」

 

隣で笑う少女の力が加わり、門はやっと動いてくれた。

 

……笑顔で、そう笑顔で。

 

この学校との別れは笑顔で、と心に決めた。

 

だから————

 

「…………はは」

 

無理やり力を込めた口角が抵抗するように上下する。

 

自分の意思とは関係なく流れてきそうになる雫を死ぬ気で堪え、皆は浦の星学院の門を閉じた。

 

 

◉◉◉

 

 

千歌達はラブライブで優勝した。未来とメビウスの戦いも終わった。

 

そして卒業式を終えた翌日、未来達は海岸に集まっては宙に浮かぶオレンジ色の輝きを見つめた。

 

「もう行くのか?」

 

『うん、名残惜しいけど……いつまでも居座るわけにはいかないよ』

 

十人の少年少女達と視線を交差させたメビウスが言う。

 

『それより未来くんは大丈夫なのかい?』

 

「ああ……全治一ヶ月ってところらしい」

 

包帯の中に埋もれる左腕を見て苦笑する。

 

全力を超えたメビュームインパクトを放ったんだ。腕が吹き飛ばなかっただけマシと考えよう。

 

「それよりベリアルは……」

 

「そうですわ!私達、まだきちんとお礼を伝えてないですもの!」

 

「すーぐ帰っちゃうんだもんなあ」

 

ベリアルは今まで行方不明になっていた分の報告やら何やらですぐに光の国へ帰還してしまったのだ。

 

「お礼なら俺がみんなの分もバッチリ伝えたし、大丈夫だよ」

 

エンペラ星人との最後の戦いが終わった後、彼はノワールと一体化したまま光の国へ向かった。

 

犯罪者として連行していったのか、それとも単独で実体化することはできないだけなのか。

 

まあ、あいつが大人しく逮捕されるとは思えないが————

 

「揃ってるわね」

 

背後からかけられた声に反応して振り向く。

 

松葉杖で身体を支えながらこちらに寄ってくるショートボブの少女が一人。

 

「ステラもヒカリに付いていくんだよな?」

 

「ええ、ずっと千歌の家でお世話になるのも嫌だし」

 

「そんな心配しなくていいのに」

 

奇跡的に一命を取り留めたステラもこうして徐々に回復していっている。

 

本人によるとサンシャインブレイブの光を浴びてから随分と意識がはっきりするようになったらしい。

 

————究極の光。

 

かつてはただの予言だと言われてきたものが様々な奇跡を残してくれた。

 

『しかし安心してくれ。いつか俺が必ず、ステラを受け入れてくれる星を————』

 

「え?いやよ、死ぬまで一緒にいてくれるって言ってたじゃない」

 

『ん、んん……?なんか最初と違くないか……?』

 

相変わらず親子のような二人を見て笑みがこぼれる。

 

「そっか…………これで終わりなんだな」

 

エンペラ星人は倒し、黒点に覆われていた太陽も宇宙警備隊の活躍によりいつもの輝きを取り戻した。

 

メビウス達がこの地球にいる意味もなくなったわけだ。

 

一年間共に過ごしてきた仲間達は、未来のなかで想像以上に大きな存在になっていたらしい。名残惜しくて仕方がない。

 

……けれど、

 

『未来くん、みんな』

 

「ん?」

 

『————今までありがとう。君達と過ごした日々を、僕は決して忘れることはないだろう』

 

そう言って彼らは光に包まれ、巨人の姿へと変身する。

 

海のなかに立つ赤と青の巨人を見上げ、未来達は最高の笑顔で返答した。

 

「ああ!!」

 

「メビウスもヒカリも、ステラちゃんも!これから元気でね!」

 

(わたし達がいなくなっても、しっかりね)

 

テレパシーで届くステラの声を聞き、未来は強く胸元を握る。

 

「……大丈夫。一人で……いや、俺達だけでも行けるさ」

 

「どこまでもね」

 

横に並ぶ千歌達と顔を見合わせた後、未来は再び目の前の友達へと目を向けた。

 

「だから安心して、光の国に帰ってくれ」

 

その言葉を最後に会話は途切れた。

 

ゆっくりと頷いたメビウス、ヒカリが海から飛び立ち、青空のなかを——いや、光の国を目指して飛翔する。

 

「さようならずらーーーーっ!!」

 

「元気でねーーーー!!」

 

「身体に気をつけなさいよーーーー!!」

 

「向こうに行ってもしっかりするのですわよーーーー!!」

 

どんどん離れていくウルトラマンの背中に向けて、皆それぞれ見送りの言葉を投げかけた。

 

「…………っ!」

 

「未来くん……?」

 

不意にその場を駆け出す未来。

 

 

 

 

 

「はあっ……はあっ……!くっそ……身体が重い……!!」

 

海岸沿いの道路を走る。

 

彼らの姿が見えなくなるまで走り続け、やがてバス停の前で未来は立ち止まった。

 

「……すぅ」

 

エネルギーを溜めるように息を吸い、必殺技を放つようにそれを開放した。

 

「ありがとおおおおおおおおッッ!!!!」

 

きっとこの声が聞こえていると信じて、日々ノ未来は叫ぶ。

 

飛び去っていった彼らの影が空色のなかに溶けた後も、未来はその青空を眺め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

————それが、約一年前の出来事。

 

 

◉◉◉

 

 

「未来くん、梨子ちゃん、おはヨーソロー!」

 

「おはよう曜ちゃん」

 

「おはよう」

 

バスを降り、校門前まで歩いてきたところで曜と遭遇する。

 

浦の星学院で最後の卒業式が行われてから約一年。高校三年となっていた未来達にも卒業シーズンが到来していた。

 

「あれ、千歌ちゃんは?」

 

「起きないから置いてきた」

 

「たまにはいい薬になるわっ」

 

「あはは……久しぶりだね……」

 

今頃美渡辺りに叩き起こされている頃だろう。まあ間違いなく遅刻だ。

 

統合先の制服に身を包んだ未来達が廊下を歩きながら何気ない会話を咲かせていく。

 

「あ、じゃあ私はここで」

 

「じゃね」

 

「ああ」

 

別クラスである梨子と別れ、曜と未来は並んで一つの教室のなかへと足を踏み入れた。

 

「もう一年も経つんだね」

 

「そうだな……。この一年は平和でよかったよ」

 

当然と言うべきなのだろうが、エンペラ星人を倒してからは怪獣騒ぎも起きていない。いたって平凡な日々が続いていた。

 

大学受験もなんとか終え、あとはこの学校から巣立つのみだ。

 

「……なんだよ?」

 

隣の席に座る曜がにやにやとこちらを眺めてくることに気がつき、未来はおそるおそる尋ねた。

 

「最近、千歌ちゃんとはどうなの?」

 

「……なんだよそれ」

 

「どうなのどうなの?」

 

「だーもう!つっつくな!!」

 

からかうように小突いてくる曜の腕を鬱陶しそうに払いのけ、未来は頬をかいた。

 

「別に変わったことなんかないよ」

 

「またそれかあ。大学は別になるんでしょ?そろそろちゃんとしないと!」

 

「ダイヤさんみたいなこと言うなあ」

 

恥ずかしながら千歌との関係は一年前からほとんど進展していなかった。

 

お互いに気になっているのは確かだが、両者あと一歩が足りない。

 

 

 

 

 

————おい見ろよこれ。

 

————太平洋に異変?

 

「……ん?」

 

ふと周囲から聞こえてきた会話が耳に滑り込んでくる。

 

咄嗟に携帯を取り出してニュースサイトを開くと、「太平洋から高熱」の文字が視界に入った。

 

記事を読み進めていくと、やけに胸の内に引っかかる単語が出てくる。

 

「……太平洋のど真ん中に高熱を放つ謎の物体……生命体の可能性も——」

 

————怪獣、という単語が脳裏をよぎるも、すぐに頭のなかで否定した。

 

エンペラ星人はもういないはずだ。……なら地球を狙う他の宇宙人————

 

徐々に悪い方向に移っていく思考を振り切り、未来はスマートフォンの画面から視線を外した。

 

「……まさかな」

 

 

◉◉◉

 

 

「一年……そうか、もうそんなに……」

 

沼津の街を歩く青年がふとつぶやく。

 

清潔感のある、灰色のトレンチコートを身につけた男は街行く人々に混ざりながら、微かに匂う潮風に微笑んだ。

 

『……ったく、またここに来ることになるとはな』

 

「嬉しそうだね」

 

『んなわけねえだろ、はっ倒すぞ』

 

「君はボクのなかにいるんだ。本心を読み取るくらい造作もない」

 

さて、と額に触れて目を瞑る。

 

遠くにいる人物と繋がる感覚が走り、青年は脳内で言葉を紡いでいく。

 

(こっちの周囲に異常はないよ。今のところは太平洋のアレに集中したほうがいいね)

 

————そう、了解。こっちも同じ。どうやら後始末が必要なのは海の方だけみたいね。次の指示までぶらぶらしてていいわよ。騒ぎを起こしたら斬るから。

 

(了解。久しぶりに来たんだ、後で一緒にお茶でもしようよ)

 

————奢ってくれるなら。

 

その言葉を最後にテレパシーは途絶える。

 

青年は澄み切った空を見上げ、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「まったく、まさかこんな道を歩むことになるとはね……。人生何があるかわからないね、これは」

 

ふと遠くに見える人影を見やる。

 

何やら急いでいる様子の、みかん色が似合いそうな少女。制服を着ているあたり遅刻しそうなのだろう。

 

何気なく腕時計を確認し、今度は気の毒そうに笑った。

 

「……もう九時過ぎか。ドンマイ」

 

涙目でバスに駆け込んでいく少女を見送った後、青年は踵を返して歩き出した。

 




残り数話で今作は完結となります。
アニメの方も劇場版が決定しましたが、一体どのような話になるんですかね?
もしかしたらテレビシリーズとは別にAqoursの物語を描いていくとか……?


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とりこぼした怨念

だいぶ間が空いてしまいましたね。
エピローグ編二話目です。


「お久しぶりです、ダイヤさん!」

 

「ええ、千歌さん達も。……もう一年も経つんですのね」

 

喫茶店の一席に座る私服姿のダイヤが軽く会釈し、長い黒髪を揺らしながら集まったメンバーの顔を順に見ていく。

 

果南と鞠莉を除いた、七人の少女達がその場に集まっていた。

 

ダイヤは大学の春休み中、空いた時間を使ってこうして顔を見せに来たのだ。

 

「こうして並んでみると……少し背が伸びましたわね、ルビィ」

 

「えへへ……」

 

「善子ちゃんはあまり変わってないずらね」

 

「ヨハネ!あんたも大して変わってないでしょ!?」

 

久しぶりに集まっても変わらないやりとりを聞いて吹き出す千歌達。

 

統廃合先の制服に身を包んだ彼女達はどことなく初々しさを感じさせる。

 

「やっぱり、果南ちゃんと鞠莉ちゃんは来れないか」

 

「海外だからね、二人とも忙しいでしょ」

 

度々電話で会話をする果南や鞠莉は海の向こうで頑張っている。九人全員で集まるのはもう少し先になりそうだ。

 

「……未来さんはいないのですか?」

 

「それが連絡つかなくて————」

 

千歌が言いかけたその直後、スカートのポケットにしまいこんでいたスマートフォンから振動と着信音が届き、手に取り画面を確認した。

 

「……“ちょっと遅れる”だって」

 

「せっかくダイヤさんが来てくれたのに!」

 

「では未来さんが来るまで……この一年間の話でも」

 

「いろいろ聞かせてよお姉ちゃん!」

 

 

◉◉◉

 

 

「な……な……!」

 

未来は目の前にある光景にむき出しになる勢いで目を見開いた。

 

立ち並ぶ二人の男女。驚く未来とは対照的に何気ない顔でこちらに手を振ってくる彼らの側に駆け寄り、未来は早口でまくし立てた。

 

「ノワール!ステラ!どうしてお前らが!?」

 

「落ち着いて未来くん」

 

「ヒカリとベリアルもいるのか!?もしかしてメビウスも————!」

 

「落ち着け」

 

驚異的なスピードで放たれた平手の突きが未来の腹部に炸裂し、鈍い痛みが走るのと同時に膝を曲げる。

 

引きつった顔を上げると、そこにはうっすらと笑みを浮かべた小柄な少女がこちらを見下ろしていた。

 

「ひ、久しぶり……ステラ」

 

「久しぶり未来。……少し背伸びた?」

 

「みたいだね。最後にボクと会った時よりも一センチほど」

 

「なんで把握してるんだよ気持ち悪いな」

 

すぐ横に立つ灰色コートに細めた視線を向けた後、改めて二人を見る。

 

いつも浦の星の制服を着用していたステラは初めて会った時の黒コートを着ていて、ノワールと並べばペアルックに見えなくもない。当然意識しているわけではないのだろうが。

 

「……それで?なんでお前らが地球にいるんだよ?」

 

ステラとノワールはヒカリとベリアルと一緒に光の国へ向かったはずだ。

 

エンペラ星人が倒され、もう驚異は去ったのだ。ウルトラマンがここに留まる理由はない。

 

「それも含めて、少し話があるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マイナスエネルギー……?」

 

「そう」

 

沼津のとある喫茶店。

 

涼しげな顔で大量に砂糖が投入されたコーヒーに口をつけるステラ。

 

話によると以前未来達が隕石を沈めた箇所————つまり海から異常な量のマイナスエネルギーが放出されているのだという。

 

「そこで調査のためにボク達が派遣されたというわけさ」

 

「……なるほど。ていうかお前は完全に“こっち側”なんだな」

 

「警備隊の仕事は飽きないからね。毎日のように戦いが巻き起こる」

 

『少しは休ませろっつー話だ』

 

彼のなかから聞こえた声に反応して未来は肩を跳ねさせる。

 

「ベリアルとヒカリ……。メビウスはいないのか?」

 

「……それがね」

 

急に目を伏せたステラの表情で不安が駆り立てられる。

 

『実は……メビウスは一度、既に地球へと先行して降り立ったはずなんだ』

 

「……!?え!?」

 

ヒカリの言葉に思わず席を立つ未来。

 

一目が集まるのを察知して静かに座り直した後、小声でその詳細を尋ねた。

 

「……先行したって……もう地球に来てるのか?」

 

『ああ、そのはずだ。……だが——』

 

「彼からの連絡がある日急に途絶えてしまってね。ウルトラサインも寄越さない」

 

いたってその余裕な笑みを崩さないまま語るノワール。やけに他人行儀な彼にとってはどうでもいいことなのだろうか。

 

「……彼の反応が届かなくなったのは太平洋のど真ん中。……異変が起こっているのと同じ場所よ」

 

「…………」

 

一年前まで一心同体であったウルトラマンの姿を思い出す。

 

メビウスがいなくなった……つまりは何者かに倒された?

 

「……死んだってことか……?」

 

『それを調べるために俺達が来てるんだよ』

 

「それと忠告ね」

 

ここからが本題だと言わんばかりの気迫でステラが未来の顔を見据えた。

 

「わたし達との関係はこれまでよ。この先何が起ころうとも……どこにでもいる普通の人間として生きなさい」

 

「それはどういう……」

 

「今の君はただの一般人、ということさ」

 

未来は向かい合っている二人と目を合わせ、彼らが言わんとしていることを察した。

 

これから先、もし怪獣が現れたとしても……千歌達と一緒に逃げろと。戦いに加わろうとするのはやめろと。そう言っているのだろう。

 

実際メビウスがいない今、未来一人で何かができることは限られている。

 

「安心して。今回の件はわたし達だけで片付けるから」

 

それだけ言い残して席を立ったステラと、それに付いていくように立ち上がるノワール。

 

奇妙な虚無感だけが胸の内に残り、未来は不快感を紛らわせるように机の隅に残っていた水を飲み干した。

 

「……メビウス」

 

 

◉◉◉

 

 

「あ〜楽しかった!」

 

「こんなに遅くまで遊んだのは久しぶりだな」

 

星が見え始めた頃。

 

建物の多い街——その歩道を歩きながら未来達……元二年生組は数分前の想いに耽る。

 

久しぶりに顔を合わせたダイヤはほんの少しだけ大人っぽくなっていて、もうスクールアイドルをやっていた時とは違うのだな、と不思議と寂しく思った。

 

ルビィや善子、花丸の三人も同じ学校とはいえ話す機会が減ったのも事実。こうしてもう一度集まれたことは確かに意味があった。

 

「そういえば、未来くんは集まる前にどこで何をしてたの?」

 

「え?」

 

不意にそう聞いてきた梨子と目が合い、咄嗟に視線を逸らす。

 

ステラ達に会ったことはまだ皆に話してはいない。彼女達もそれは望まないだろう。

 

……もう自分達が関わっていいことじゃないんだ。

 

「なんでもないさ、ちょっと野暮用があっただけ」

 

怪しさ満点な未来の言い訳に眉をひそめつつ、千歌達は詳しいことは尋ねなかった。

 

「ほら、もうすっかり深い時間だ。早く帰らないと美渡さん達に心配かけちゃうぞ」

 

「じゃあバス停まで競争!」

 

「あ、こら!この辺りは人が多いんだから迷惑よ!」

 

内浦にいた時と同じ感覚で突っ走る曜を制止する梨子。

 

そんな何気ない一コマを、未来と千歌は後ろの方でぼんやりと眺めている。

 

「……いこっか」

 

「お、おう」

 

千歌がこぼしたいつも通りの自然な笑顔を見て、未来はなぜだか胸を押さえた。

 

周囲の環境はこんなにも変わってしまったのに、彼のなかで一年前と同じ感情が残り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスの席で揺られながらぼうっとした瞳を落とす。

 

「俺達にとっての輝き……」

 

見つけることはできたのだろうか。

 

千歌達と共に駆け抜けた日々————その末に手に入れたこの平和な日々。

 

どこか寂しい気持ちに溢れたこの世界は、本当に日々ノ未来が望んだものなのか?

 

どこからともなく湧き上がってくる虚無感に苛まれ、未来はふと顔を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

————未来くん。

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳をつんざく爆音と共に空から巨大な落下物が一つ。

 

世界が揺れる。

 

凄まじい騒音と被害を運んでやってきた隕石が内浦の海に吸い込まれていくのが見えた。

 

「きゃああっ!?」

 

「なに!?」

 

衝撃が走るのと同時にバスが車線を外れ、道路を大きく回転。中にいた未来達もなすすべなく全身を打ち付けてしまう。

 

「いっつ……!?」

 

「……!あれは……!?」

 

微かに開いた瞼の隙間から見えた景色に驚愕する。

 

海から塔のように伸びていく生命体————無数の触手を持ち、その頂点には黄金色の悪魔が鎮座している。

 

 

 

————フハハハハハハ!!!!

 

「この声は……!」

 

聞き覚えのある高笑いに反応し、未来は千歌達を連れていち早くバスの外へと飛び出した。

 

夜の空の下。遠くに見える巨大な怪物を視界に捉え、その正体を瞬時に察する。

 

「ヤプール……だって……!?」

 

————ついに……ついに復活を遂げたぞ……!一年間蓄えたエネルギーに加え……このウルトラ戦士の力……!!

 

天辺に居座る獣の中に浮かぶシルエット。

 

未来はそれを視認し、直後に掠れた悲鳴をあげた。

 

「あれって……」

 

隣に立つ曜が口元を押さえ、恐れるように後ろへ下がる。

 

その赤い身体を忘れることはできない。

 

未来は強く手を握りしめ、かつて共に戦った相棒の名前を呼んだ。

 

「メビウス……!!」

 

吸収されているのか、向こうからの返事はない。

 

 

 

————さあウルトラ戦士よ……ヤプール人は帰ってきた。今こそ全ての決着を付けるときだ……ッ!!

 

 

 




おそらく次回で最終回になると思います。
ここまで長く書き続けることができたのは今までこの作品を応援してくれた読者様達のおかげです。
エンペラ星人戦ほどのインパクトは難しいかもしれませんが、どうか未来達の戦いの終わりを見届けてください。


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未来の輝き

ついに最終話……。
未来達の物語の最後をどうか見届けてあげてください。


無数の触手が雨となって街に降り注ぐ。

 

破壊のみが目的とでも言うように、海に現れた怪物は一方的な攻撃を開始した。

 

「メビウスが……あの中に……!」

 

未来は数キロ先に見える塔のように伸びた身体の頂点を見上げた。

 

ヤプールが生み出した究極超獣————Uキラーザウルス・ネオ。

 

エンペラ星人が倒された後も、奴は復活の機会をうかがっていたんだ。

 

一年前、皆と協力して海に落とした隕石の中に潜んでいた悪魔。

 

「……早く避難を!」

 

梨子が走ったのを皮切りに千歌と曜、未来もその場を離れようとする。

 

(……俺はもう、ウルトラマンじゃない)

 

未来は苦しそうに顔をしかめた後、超獣の体内に囚われている巨人の姿を幻視した。

 

先ほど聞こえた声は気のせいなんかじゃない。

 

確かに()()()は……自分を呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……!あれ!」

 

「……!」

 

曜が指した上空に視線を移すと、暗い色のなかに二筋の光が流星のように近づいているのがわかった。

 

青と銀。未来達にとっては珍しくもない————光の戦士が現れる前の予兆。

 

「ベリアルとヒカリ……!」

 

「ステラちゃん達だ!」

 

内浦に出現した超獣を仕留めようと降り立った二体の巨人。

 

千歌達はつい身の安全も忘れて足を止めてしまう。

 

「……今はあいつらに任せるしかないか」

 

戦闘を始めたウルトラマン達を見守りながら未来は思う。

 

あの中からメビウスを救い出すのは————ステラ達だけでは不可能だという予感があった。

 

過去の戦いを思い出せ。ヤプールを含めた敵勢力に取り憑かれた場合、切り離す鍵になるのはなんだった?

 

 

 

 

 

 

————今の君はただの一般人ということさ。

 

昼間にノワールから言われた言葉を思い出す。

 

自分でもわかっているはずだ。ウルトラマンの力がなければ戦うことは不可能。

 

…………けれど、

 

「無力ってわけじゃない」

 

力強く握った左拳を胸まで掲げ、未来はまっすぐな瞳を前に向けた。

 

「みんなは先に避難していてくれ」

 

「未来くん……?」

 

決して揺るぎない意志が宿った目を向けられた千歌は何かを察したのか、やれやれと肩をすくめてはうっすらと彼に笑った。

 

「やっぱりそうなっちゃうか」

 

「ごめん千歌。……もう一度だけ、待っててほしい」

 

一年前と変わらないやりとり。

 

未来は再び海の方へ向き直り、ヒトとしての身体を精一杯に動かした。

 

 

◉◉◉

 

 

(まさか捕まってるなんて……!)

 

『これでは迂闊に手は出せないな』

 

空中で触手を避けながら凄まじい速度のチェイスを繰り広げていたヒカリが忌々しそうにこぼす。

 

むやみに攻撃すれば体内に吸収されているメビウスの身が危うくなる。ベリアルという強力な助っ人がいてもそれは変わらない。

 

(どうするステラちゃん?)

 

(とりあえず触手をなんとかしなきゃ!街への被害は最小限に————)

 

『……!おいガキ!危ねえ!!』

 

ベリアルが忠告するよりも先に殺到した触手の鉤爪がヒカリの身体を切り裂く。

 

(ぐっ……!)

 

バランスを崩した青い巨人は吸い込まれるように地上へ落下し、海岸で大きな地響きを上げながら背中を打つ。

 

 

 

 

 

『大丈夫か?』

 

(ええ……。厄介なことになったわ)

 

その直後、どこからか自分達を呼ぶような声音が聞こえてくることに気がついた。

 

耳を澄ましてみればそれは少年の声だとわかり、嫌な予感を感じ取りつつも聞こえてきた方向を見やる。

 

「おーーーーーーい!!」

 

真横でピョンピョンと兎のように飛び跳ねながら両手を振っていたのは、昼に警告したはずの人間。

 

「おーいステラーーーーッ!!お————」

 

(……このバカが)

 

軽く小指で小突いてやると、面白いくらい見事に転ぶ未来。

 

「何すんだよ!!」

 

(早く引き返しなさい。死にたいの?)

 

そのまま立ち上がろうとしたヒカリを見た未来は慌ててそれを引きとめようとする。

 

「待て待て待て!!メビウスがあいつの中にいるんだろ!?俺ならヤプールとあいつを切り離すことができるはずだ!!」

 

(……どうしてそう思うわけ?)

 

「そんなのわかりきってるだろ」

 

自信ありげに自分の胸元を叩いた未来を見てふと気づく。

 

今までの戦いのなかでも数々の奇跡を生み出してきた力が目の前にあるのだ。

 

(……光の欠片ね)

 

「ああ。……今も使えるかはわからないけど、試す価値はあるはずだ」

 

(結局こうなるのね……)

 

深い溜息を吐き出したヒカリが無言で手のひらを未来の前へ降ろす。

 

(死んでも文句言わないでよね)

 

「死なないように頑張ってくれ」

 

太い指先にしがみつき、未来は巨人と共に内浦の空へと飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおお!?!?」

 

縦横無尽にUキラーザウルスの攻撃を回避するヒカリ。

 

未来はその手のなかで振り落とされないよう身体を強張らせるばかりである。

 

目指すは積み重なった胴体の頂————本体と思しき超獣の額にある赤い結晶。

 

(はははははは!!やっぱり来たか未来くん!!)

 

『筋金入りのバカだなお前』

 

光線で触手を撃ち落としてヒカリの進路を切り開くのはノワールと一体化したベリアル。

 

 

 

 

 

「メビウス……!」

 

ミサイルのような速度で飛び回りながら隙をうかがう。

 

(————ここだッ!!)

 

やがて活路を見出したヒカリが真正面から本体がある天辺へと突っ込み、右手に収めていた未来をUkキラーザウルスの頭部へと突きつけた。

 

「いつまでも……寝てんじゃねえええええええッッ!!!!」

 

直後、未来の胸の内から閃光が迸り、世界を塗りつぶす。

 

……これが本当に、最後の————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは」

 

気づけばまだら模様の空間で一人立っていた。

 

体内に入ることは成功したのか。……なら次はメビウスを探し出す。

 

 

 

————自ら死地へ飛び出すとは……愚かなことこの上ない。

 

「……ヤプールか」

 

周囲から聞こえる声を流しつつ、未来は真っ赤な道を歩き出す。

 

未来が立っているのはUキラーザウルスの内部。つまりはヤプールの体内と同義。

 

————まあ予想の範囲内だ。……さあどうする?今のお前達には、皇帝を滅ぼした力は使用できない。

 

「なるほど、調査済みってことか」

 

果南や鞠莉に、ダイヤ————三年生達が内浦から離れている以上、究極の光を呼び起こすことはできない。

 

それを理解していながらも尚、未来は恐れることなく道を進む。

 

「……究極の光は必要ないさ」

 

————ほう?

 

「俺が関われることなんて限られてる。……今できることとすれば、それは————」

 

段々と目の前に浮かんでくる赤いシルエットを視認し、未来は強く一歩踏み出す。

 

「——こいつを叩き起こすことだけだ」

 

 

◉◉◉

 

 

————ずっと不安だった。僕一人でやっていけるのか心配だったんだ。

 

地球を離れた時からずっと、()のことが気がかりだった……そう思い込んでいただけで、本当は僕自身が怖かったんだ。

 

僕と彼は文字通り一心同体となって戦ってきた。彼に助けられながら————そして彼を助けながら。

 

————未来くん。

 

きっとこうして囚われてしまったのも、僕一人じゃやっていけないという表れなのだろう。

 

……彼がいなくなった途端に“炎の力”が上手く使いこなせなくなった。あの時エンペラ星人を倒せたのだって、千歌ちゃん達がいたからだ。

 

————僕は、一人じゃ何も————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほお、そんなこと思ってたのか」

 

誰かの声が聞こえる。聞き覚えのあるものだ。

 

「まったく情けないな……俺もお前も、一人じゃ何もできないなんて」

 

身体を縛り付けていたものが解かれる。

 

……ああ、そうだ。この声は————

 

「これからは、今度こそお互いに……ちゃんとしないとな、メビウス」

 

『……うん、そうだね』

 

自然と口から出た言葉。

 

目の前に立つ少年は、笑って僕を呪縛から解き放ってくれた。

 

「……これが俺の最後の仕事だ。もう覚悟はできてるぜ」

 

『……わかっているよ。僕も宇宙警備隊員として……立ち上がらなくちゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Uキラーザウルスの肉体が輝き出し、内部から吐き出されるようにして一体の巨人が夜空へ飛び出す。

 

その赤い手のひらには————一人の少年。

 

(来たか……!)

 

『おせえぞ!!』

 

『メビウス!』

 

(未来!!)

 

ヒカリとベリアルに頷き返した後、メビウスは海岸に目を向ける。

 

三人の少女がこちらを見上げている場所まで飛翔し、ゆっくりと右手を地面に降ろした。

 

「よっと……」

 

未来はメビウスの手の中から飛び降り、待っていてくれた千歌達のもとへと駆け出す。

 

「おかえり未来くん」

 

「メビウスも、おかえりなさい」

 

『心配かけたね』

 

赤い巨人が立ち上がり、背後にそびえる超獣を睨む。

 

『セヤッ!』

 

最後にもう一度未来と視線を交わした後、その巨体を勢いよく飛び上がらせた。

 

その後ろ姿を見つめていた未来に、曜が顔を覗かせて尋ねてくる。

 

「一緒に行かなくてよかったの?」

 

「ああ。……ここから先は、ウルトラマンの仕事だから」

 

————ピンチな時に現れる、赤と銀のヒーロー。

 

俺達の————ウルトラマン。

 

 

 

 

 

 

 

 

『セヤアアアアアアッッ!!!!』

 

凄まじい閃光が迸る。

 

海で行なわれているであろう戦闘に背を向け、未来は隣に立っていた千歌達の肩を軽く叩いた。

 

「さあ、避難するぞ。ここは一般人がいるような所じゃない」

 

「……そうね」

 

憑き物が取れたような笑顔を浮かべる未来を見て、梨子もつられて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

けじめはつけなければならない。これから先のためにも。

 

大きな爆発音が耳朶に触れる。

 

振り向けばまた躊躇ってしまいそうで、前を向いたまま一心不乱に走り抜けた。

 

(……今度こそ、本当に……さよならだ)

 

 

◉◉◉

 

 

「卒業しちゃったね、私達も」

 

「あっという間だったな」

 

学校へ向かうと、ピンク色が視界を支配していた。

 

桜舞うなかを歩き、二つの人影が校門の前に立つ。

 

「お邪魔しま〜す……」

 

「なんか緊張するな……」

 

二人の男女が誰もいない校舎の敷地内に足を踏み入れる。

 

かつては毎日くぐっていた門も、今ではとても懐かしい。

 

「……あ」

 

「どうかした?」

 

少女がふと足を止めた少年と同じ方向を見る。

 

何の変哲もない——少し寂しげな校舎裏。

 

「ここで俺……あいつと出会ったんだよ。半ば無理やりに協力させられてさ」

 

「……本当に色々な人と出会ったよね、この学校で」

 

廃校は防げなかったが、救うことはできた。

 

かけがえのないものと巡り会わせてくれた大切な場所。

 

「みんなが諦めなかったから、私達はあの場所に立てた」

 

「……ああ、何かに助けられながら駆け抜けてきた」

 

一人じゃできないことも、みんなとならできる——と。そう自分達に言い聞かせて歩んできた青春の刹那。

 

……でも、それも終わりはやってくる。ここから先は、新しい物語を綴らなければならない。

 

 

 

 

 

 

「なあ、千歌」

 

「うん?」

 

「……俺さ、お前のこと————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

限りない未来の、その先へ。

 

切り開くのは自分自身だ。まだ見たこともない世界を探して————少年少女は走り続ける。

 

輝くために。新しい輝きを探すために。

 

輝きの出逢いは、人の数だけ存在するのだから。

 




これにてメビライブ サンシャイン、完結です。

今回のラストの展開はかなり迷いましたね。未来とメビウスが再び一体化するのか、それとも二人がそれぞれ独り立ちするのか。最終的に後者を選びましたが。
話のボリュームについては後日談的な話なので、エンペラ星人戦の余韻程度に考えてくれれば幸いです(焦)

投稿を始めてから約1年半の長い連載でした。執筆している最中には色々なトラブルもありはしましたが、なんとか最後まで書き切ることができました。
これも今までこの作品を読んでくれた方々のおかげです。楽しい時間をありがとうございました。

次回作についてはまだ検討中です。
ライダー関連とか興味あるんですけどね……(笑)
設定が固まらない内はなんとも言えないです。

ではまたどこかでお会いしましょう!ノシ


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