インフィニット・ストラトス―失われた未来― (レイブラスト)
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第0話 転生!始まる物語

お久しぶりです、レイブラストです。今回は初となるIS×ライダーを書きます。
毎度の如く竜頭蛇尾な出来になるやも知れませんが、長い目で見て頂きますようお願いします。
それでは、どうぞ。


とある真っ白な空間で、2人の青年は呆然と立ちすくんでいた。彼らは片方の男が運転する車でドライブに出かけ、その最中に信号無視で突っ込んで来た大型トラックと衝突して即死……したのだが、何故かここに飛ばされたのだ。しかも目の前には白い服を着た老人が居る。

 

「えっと……アンタ誰? ここはどこ?」

 

「ワシか? ワシはお主達のところで言う神じゃ。まあ立場はそんなに上ではないがの。それとここは、死んだ生き物の魂が地獄や天国へ行く前の言わば中間地点のようなものじゃ」

 

「あ、やっぱ死んでたのか俺達。そうだよなぁ……心臓止まってるもん」

 

自分の胸に手を当てながら運転していた青年が言う。その顔からは「こんなことなら、もっと楽しいことをやっておけば良かった」という気持ちが伝わってくる。

 

「そう心配せんでもよい。実は上からの命令で、お主達を別の世界に転生させることになったんじゃ」

 

「それって、神様転生って奴!?」

 

驚いたように声を上げたのは、もう1人の青年だ。先ほどまでの気怠げな顔から一転、希望に満ち溢れたものになっている。

 

「う、うむ。随分テンションが変わったのう……」

 

「すんません、こういう奴なんで。で……転生先はどんな世界で?」

 

「ええと、確かお主達の愛読している書物で言う、インフィニット・ストラトスという世界だったような……」

 

「キタァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

大声を上げて喜ぶもう1人に、2人は耳を塞いで顔を見合わせた。

 

「ホントすいません……」

 

「いや、いいんじゃ。お主も苦労しとるみたいだしのぅ」

 

苦笑しながらコホンと咳払いすると、神は2人の前に液晶ディスプレーのようなものとタッチペンを出現させた。

 

「これは?」

 

「転生するに当たって、お主達の要望を叶えようと思ってな。好きな願いをいくらでも書き込んでくれて構わない。やり方は要望を書いた後、『追加』のボタンをタッチ。これでもう十分だと思ったら『決定』ボタンをタッチじゃ」

 

「ゲームの設定画面みたいだな」

 

肩をすくめながらタッチペンを持つ。だが運転手の青年はちっとも筆が進まなかった。

 

(まいったな……どんなことを書けばいいのかわからん。アイツの書いたことを参考にでもするか)

 

ちらっと隣を覗き込むと、『織斑一夏になりたい』と書いて追加を押し、しかしエラーと表示された。

 

「エラー? 何で?」

 

「さすがに無理じゃよ。転生先に存在する魂を自分のものと置き換える等、理がおかしくなってしまう。まあ最初から織斑一夏なる者が存在しない世界なら可能じゃが……ワシは中間管理職のようなもので、転生先の指定及び変更はできんから無理じゃな」

 

「くっ……ならこうしてやる!」

 

苛立ちながら言うと、彼はタッチペンをスラスラと走らせ、次々に追加を押していく。それを見た友人は焦った。

 

「お、おい待て! 『織斑一夏の性別逆転』とか『白式を自分の専用機に』とか、『ISの操縦を篠ノ之束に教えて貰う』はまだわかる! でも最後の奴はいくらなんでも―――」

 

「うるさい! 僕はハーレムを作るんだ。その為に一夏の存在は邪魔なんだよ!」

 

決定をタッチし、ディスプレーが消えると彼の姿もまた消えた。

 

「行ってしまったか……随分無茶苦茶なことを書き込んでおったが、さてお主はどうする?」

 

「……止めるに決まってんだろ。それがダチとしてのケジメだ!」

 

言いながらタッチペンを走らせる。彼が書いたのは『篠ノ之束らが生まれるより5年前に転生』、『亡国機業のトップの座に着く』、『仮面ライダー鎧武に出てくるアイテムを制作・発展できる程の知識及び技術』等。

 

「なるほどの。じゃがロックシードとやらはどうやって作るつもりじゃ? ヘルヘイムの森を呼ぶ訳にも行くまいて」

 

「大丈夫。ちゃんと追加条件でそこんとこ書くから」

 

最後にそれを書いて追加ボタンを押し、すぐに決定を押すと彼の姿も消えた。

 

「やれやれ……上が彼らを選んだのは、世界を引っ掻き回す為か? それだけならいいのじゃが、色々無茶な要求をしたせいでイレギュラーが確実に出ることになりそうじゃし……ああ、気が滅入る」

 

頭を押さえながら、神の姿もまた消えた。




導入部としてはこんなところでしょうか。ちなみに転生した2人の全特典はここに記しておこうと思います。若干ネタバレになりますので、そういうのが嫌いな方はご注意下さい。



















転生者1 ・篠ノ之束らが生まれるより5年前に転生 ・亡国機業のトップの座に着く ・仮面ライダー鎧武に出てくるアイテムを制作・発展できる程の知識及び技術 ・ISコアの改造に関する必要な知識及び技術


転生者2 ・織斑一夏の性別逆転 ・白式を自分の専用機に ・ISの操縦を篠ノ之束に教えて貰う ・篠ノ之束以上の天才的な頭脳 ・他組織による織斑一夏の抹殺


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第1話 接触!2人の天才

「…………はぁ……」

 

彼女は、自身が作った移動式のラボの中で無数のモニターを見ながらため息をついていた。そこに映るのはISの登場によって行われている、男性の迫害や違法研究施設の映像……そして親友の弟が誰かを嗾けている様子だ。

 

「こんなことの為にISを作った訳じゃないんだけどな……って、大本の原因は束さんにあるんだろうけどね」

 

頬杖をつき、空いた手で髪の毛をくるくると巻きながらボーッとモニターを見続けている。と、突然モニターの1つがどこかから通信が来たことを告げた。

 

「? この移動式ラボに通信して来るなんて、一体誰が? ちーちゃんか箒ちゃん……は携帯にかけてくるか」

 

訝しみながらも通信機能をオンにする。果たして誰がこちらに連絡を寄越して来たのか? その結果は意外な者からだった。

 

『あー、もしもし? 篠ノ之束さんのお宅でしょうか?』

 

「んーそうだけど何か用? 私も忙しいから、つまらない内容だったら切るよ」

 

『まあまあそう仰らずに。簡単なことです。私が推し進めているプロジェクトに必要不可欠な、ISのコアを新造・提供して頂きたいのです』

 

「ふうん……それってさ、私にとって有益になるのかな? 今までテレビ越しだけど業務提携したいって言ってきた企業は、どれも私に匹敵する技術力を持って無かったし」

 

『その点でしたらご心配なく。現にこうして貴女のラボに直接通信しているのが、何よりの証明になると思いますが』

 

「むっ」

 

悔しいが正論だった。今まで彼女のラボに直接、通信をしてきた人間や組織は身内や親友以外誰1人としていない。彼女は通信機越しに会話しているこの男に、興味を持った。

 

「……いいよ。でもまずは実際に会ってどんなプロジェクトなのか見せて貰わないと。そっちの場所と企業名を教えてくれない?」

 

『承知しました。場所はそちらの画面に表示させますが、企業名は……亡国機業(ファントム・タスク)と言えばわかるかと』

 

「…………へぇ」

 

益々興味が沸いた。亡国機業(ファントム・タスク)と言えば第二次大戦頃から存在する秘密結社だが、技術面では自分には遠く及ばないと思っていた。しかしそれがこうして覆されたのだ。

 

(久々に現れたかも。私を満足させてくれる相手が)

 

画面に映る座標をチラ見すると、彼女はすぐに支度をしてラボを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。心臓止まるかと思ったよ」

 

「でもお陰で篠ノ之束博士がこちらに来てくれるんでしょう?」

 

「とは言うけどさぁ、スコール。こっちとしては気が気じゃないんだよ。何というか、寿命が二、三年縮まる感じで」

 

「……それは大変だったわね。お疲れ様」

 

通信を切って額の汗を拭いながら言う男に、秘書であるスコール・ミューゼルが労いの言葉をかける。

 

「ま、成功したからいいけど」

 

言いながら、彼は服の胸ポケットに付けたネームプレートをついと掴む。

 

(それにしても未だに思うけど、もうちょっと名前どうにかならなかったのかなぁ)

 

戦極凌馬―――そう書かれたプレートを見つめながらため息をつく。何を隠そう、彼こそが運転手をしていた青年の転生した姿なのだ。

 

(いくらなんでもそのまま過ぎるよ。まあ響きとか字面とかカッコイイからいいけど…………ん?)

 

ネームプレートから視線を外してモニターを一瞬見た時、こちらに近づく未確認物体の存在に気がついた。無性に嫌な予感がし、席を立とうとした瞬間―――壁を突き破って人参型ロケットが突っ込んできた。

 

「……早過ぎやしませんか? 篠ノ之束博士」

 

「ふふん! 遅すぎよりは遙かにマシなのだよ!」

 

土煙を払いながら、凌馬はロケットから降りて腕を腰に当て、ドヤッと決め顔をしている女性―――篠ノ之束を見つめた。

 

「それでどんなプロジェクトなの? 折角来てやったんだから、さっさと見せてよ」

 

「ええ、わかってますとも。こちらに」

 

早歩きでデスクに近づいてくる束に、凌馬は引き出しからあるものを2つ取り出して見せた。片方は右側に刀のようなものが付いた黒いバックル。もう片方はカラフルな錠前のようなものだ。

 

「何これ?」

 

「こちらはロックシードと言い、ISコアを加工・変化させたものです。こっちは戦極ドライバー。ロックシードの力を引き出すツールです。……論より証拠、実際にお見せしましょう」

 

席から立ち上がり、戦極ドライバーを腰に当てるとそこから黄色のフォールディングバンドというベルトが伸張し固定される。

 

『レモン!』

 

手に持ったレモンロックシードを解錠すると、頭上にレモンを模したレモンアームズが出現する。

 

「変身!」

 

『ロック・オン!』

 

即座に戦極ドライバーに装着・ロックするとトランペットによるファンファーレの音が鳴り響き、凌馬はカッティングブレードと呼ばれる右側の刀を倒し、レモンロックシードを輪切りにする。

 

『カモン! レモンアームズ! Pierce of Rapier!!』

 

流れ出る音声と共に全身が青と黒のアンダースーツ・ライドウェアで覆われ、レモンアームズが頭に被さる。そして展開・装着され凌馬の姿は仮面ライダーデューク レモンアームズになった。

 

「これが私の開発した、アーマードライダーシステム。その試作機のデュークです」

 

「……す……」

 

「「す?」」

 

「凄い凄い! まさかISコアを改良してこんなものを作るなんて! ねえどんな機能があるの!? どんなことができるの!? 教えて教えて!!」

 

「わ、わかりましたから落ち着いて下さい!」

 

予想以上の食いつきぶりに圧倒されながら、デュークは宥めると一つ一つ説明し始めた。

 

「まずアーマードライダーの性能についてですが、ライドウェアやアームズで装着者を保護する為、既存のISとは異なりシールドエネルギーや絶対防御を必要とせず、エネルギー切れの概念がありません」

 

「へぇ~! でもそれだと、試合の時とかでワンサイドゲームになっちゃうね」

 

「心配ご無用。ドライバー横に取り付けたスイッチを押すことで擬似的にシールドエネルギーを発生、攻撃力を第3世代型IS並にダウンさせ同じ土俵に立つことができます。そして用途ですが、基本的には人命救助や宇宙での活動等に用いようと考えていますが、量産の暁には違法研究所の制圧及び破壊も視野に入れています」

 

「……面白いね。うん、気に入った! 束さん、君達をジャンジャン援助するよ~!」

 

ご機嫌な笑みで手を振って言う彼女に、マスクの下で凌馬はふぅと息を吐いた。篠ノ之束が興味を持ち、援助を行ってくれるかは一種の賭けに等しかった。

 

(まずは一段落ってとこか)

 

「あ、そうだ。君達の名前を教えて貰ってなかったね。役職と一緒に教えてよ」

 

「私の名前は戦極凌馬。亡国機業(ファントム・タスク)のトップであり、開発部門の主任も兼ねています」

 

「私はスコール・ミューゼル。プロフェッサー凌馬の秘書を務めています」

 

「戦極凌馬に、スコール・ミューゼルか……よし! これからはりょーくんとすーちゃんと呼ぼう!」

 

「す、すーちゃん?」

 

(案外まともなので良かった……)

 

妙な渾名を決められたスコールは唖然とし、デュークは内心ホッとしながら変身を解除した。

 

「ああそれと、私のことは束なり束っちなり好きに呼んでくれて構わないよ。後、敬語も無しね~」

 

「……了解した。束……これでいいかな?」

 

「オッケ~!」

 

楽しそうにスキップをする束を見た後、凌馬は椅子に腰掛けいよいよこれからだと決意を新たにした。




如何でしたでしょうか? 戦極ドライバーデュークの変身音は意図的に違うものに変更してあります。オリジナルの戦極凌馬と違って、彼の感性は至って普通ですので……。


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第2話 奪われたモノ

今回はちょっとアレな場面があるので、苦手な方は遠慮無くブラウザバックを……。


彼女―――織斑一夏は絶望し震えていた。

 

第二回モンド・グロッソ決勝戦の直前。彼女は会場に応援に行く筈だったが、その途中に薬を嗅がされ気絶、拉致され気がつけば廃墟で縛られていた。

 

(……本当、私ってこんなことばっかり……)

 

『一夏姉さんみたいな出来損ないは僕達織斑家には必要無い存在だ。だから……さっさと消えてくれないかなぁ?』

 

小さい頃から彼女は、双子の弟である織斑春也にそう言われ虐められてきた。

一夏は姉である織斑千冬のような超人的な運動能力も、春也のような天才的な頭脳も持っていない。所謂要領の良くない人間だった。そんな彼女に対し周りの目は決して優しくは無かったが、千冬はそんな一夏によくしてくれた。わからないところは何度も丁寧に教えてくれたし、剣道も幼なじみの篠ノ之箒と共に鍛えてくれた。

だが―――春也だけは違っていた。

 

『千冬姉さんに目を掛けて貰うのは僕だけでいい。これ以上、僕の千冬姉さんに近づくな!!』

 

彼は一夏を、千冬の目の届かないところで執拗に虐め続けた。時にはクラスメイトを扇動し、決して周りにはわからないように。結果、彼女の身体と心には癒えない傷が無数についた。一夏は何度か姉に言おうとしたが、言えなかった。春也が千冬の居る前では仲良しのフリをし続け、『本当のことを言ったら、どうなるかわかるよね?』と脅しを掛けてきたからだ。

 

(何で私ばっかりこんな目に遭うんだろう……私が何したって言うの……?)

 

顔を上げてそう思った時、誘拐犯の男の1人がこちらに近づいて来た。

 

「なあお前等。コイツ―――ここでヤっちゃおうぜ?」

 

「っ!?」

 

「おいおい、いいのかよ? 大事な人質だろ?」

 

「構うこたぁねぇぜ。四肢や顔さえ無事……要するに外面さえよければその場は誤魔化せる」

 

「そうかねぇ。どうも俺は乗り気じゃないが……まあお前に任せるよ」

 

「へへっ。あんがとよっ」

 

(う、嘘? や、やめて……来ないで!)

 

恐怖のあまり声が出ず、身を悶えさせるが屈強な男性の力に勝てる筈もなく足を広げられ、下着をずらされる。男の方もズボンを下げ、自らの象徴を露わにする。

 

「前戯は……時間が無いからいいか。んじゃ行くぜ!」

 

「い、いや……やめて……」

 

か細い声も虚しく、ソレが彼女に宛がわれ―――

 

 

 

 

ブチィッ!

 

 

 

 

「あがぁあああっ!? あ…ああ……い、嫌ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

―――純潔を、散らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、廃墟の外には亡国機業(ファントム・タスク)の一員であるオータムが量産バイク・サクラハリケーンを停車させて降り立ち、インカムに手を当てた。

 

「こちらオータム、作戦ポイントに到着した。これより任務を開始する!」

 

『了解。健闘を祈る』

 

通信を終えると彼女は赤いカラーリングのジューサーを模した新型ドライバー・ゲネシスドライバーを腰に装着。走りながら通常のロックシードを発展させた「エナジーロックシード」の1つで、『E.L.S.-02』と識別番号が振られたサクランボを模したチェリーエナジーロックシードを取り出し解錠させる。

 

『チェリーエナジー!』

 

オータムの頭上にサクランボの形をしたチェリーエナジーアームズが出現し、ふよふよと漂う。

 

「変身!」

 

『ロック・オン!』

 

ゲネシスドライバーのコアにチェリーエナジーロックシードをセットすると機械的なアラームが鳴り、オータムはドライバー右側のハンドル・シーボルコンプレッサーを押し込んだ。

 

『ソーダ! チェリーエナジーアームズ!!』

 

チェリーエナジーロックシードが左右に展開すると音声が流れ、彼女は腕部・脚部に毛皮状のアーマーが付属した薄い緑と黒のアンダースーツ・ゲネティックライドウェアに包まれ、チェリーエナジーアームズが頭部に被さり展開。上半身に装着され次世代型アーマードライダー・仮面ライダーシグルド チェリーエナジーアームズに姿を変え、左手には専用の弓矢型武器・ソニックアローが所持される。

 

「オラァ!」

 

変身完了と同時にドアを蹴破って突入する。

 

「あがぁあああっ!? あ…ああ……い、嫌ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

彼女の目と耳に飛び込んできたのは、強姦されている一夏の様子とその悲鳴だった。

 

「っ……! テメェ等ァァァアアアアアアア!!」

 

即座にソニックアローを構え、シグルドは一夏を犯していた男を撃ち抜いて殺すと、残る男達も切り裂いて殺害する。

 

『おいどうした! どうなった!?』

 

「……こちらオータム。作戦は失敗。織斑一夏は生きているが既に……ッ!」

 

『……そうか……間に合わなかったか……。なら、後は予定通り頼む』

 

「了解」

 

結果を聞いた凌馬は残念そうな声を出し、指示を伝えて切った。こうなることは彼の友人が転生前に書いたことを読んでて知っており、止めようとしていたのだ。

 

「おい、大丈夫か? しっかりしろ」

 

「……………………」

 

肩を担いで問いかけるが一夏は虚ろな表情のまま一切反応せず、シグルドは「可哀想に」と心底同情しながらサクラハリケーンへと運んだ。

 

「座標軸入力完了っと……掴まってろよ!」

 

メーター部にあるデジタル画面を操作し、シグルドは一夏を前に乗せた状態でサクラハリケーンを走らせる。そしてディメンション・インジケーターと呼ばれるデジタルメーターが現れ、ある速度に達しようとした時―――彼女にとって予想外のことが起きた。

 

「逃がすか!」

 

ダァン! ダァン!

 

誘拐犯の1人が後ろから拳銃を放ってきた。当然命中率は悪いのだが、運悪くソレがデジタル画面に直撃。火花を散らし、数値が変わってしまった。

 

「何っ!? うわあっ!!」

 

気を取られて画面を見た直後、サクラハリケーンが瓦礫に乗り上げた為バランスを崩しシグルドは地面に投げ出され、サクラハリケーンは一夏を乗せたまま車体が回転し、現れた空間の裂け目を通ってどこかに消えた。

 

「クソッ! 聞こえるかプロフェッサー、大変だ! サクラハリケーンが一夏と荷物を乗せたまま、どこだかわからない場所に飛ばされちまった!!」

 

『何だって! 君は無事なのか!?』

 

「直前で投げ出されたお陰でな。とりあえず、予備のサクラハリケーンでそっちに向かう!!」

 

『ああ、頼む!』

 

あまりにも予想外な事態に取り乱しかけるが、深呼吸をして落ち着くと凌馬は一夏と積んでた荷物が飛んだ場所を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス オルコット家

 

「ん……」

 

金髪の少女―――セシリア・オルコットは自宅の庭に置かれたパラソル付きのテーブルで、従者のチェルシー・ブランケットが付き添う中、紅茶を嗜んでいた。

 

『そういえばお嬢様。何故今の時間に、外で紅茶を飲みたいと仰ったのです?』

 

思い出したかのようにチェルシーが問いかけると、セシリアはティーカップを皿の上に置いて不思議そうに言った。

 

『自分でもよくわかりませんの。ただ何となく、ここで何かが起きそうな、そんな予感がして……』

 

庭の一角を見つめた―――その時だった。突如として空間が歪み、バイクが出現。セシリア達から見て右側に少し走るとバランスを崩し転倒。乗っていた少女と後ろに縛ってあったアタッシュケースは投げ出され、バイクは鍵の形になり小型化した。

 

『な、何ですのこれは!? っ、チェルシー!』

 

『はい!』

 

慌てて従者と共に駆け寄ると、気絶している少女を助け起こし、周りに飛び散ったものも確認する。

 

(私が感じた予感は当たっていましたのね。……それにしても、この方は一体……)

 

少女を見下ろし、セシリアはため息をついた。



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第3話 明かされる真実

(織斑一夏……織斑千冬の血縁者でしょうか? でも一体誰があんなことを……!)

 

所持していた学生証を見ながら、セシリアはベッドで眠っている少女―――一夏を見る。その表情は険しいものだ。と言うのも、チェルシーが彼女の衣服を脱がして身体を拭いた時、全身についた傷跡と強姦された痕跡を見てしまったからだ。

 

「う、ううん……」

 

その時、一夏が呻き声を上げながら瞼をゆっくりと開けた。

 

「気がつきましたか?」

 

「は、はい。……あの、貴女達は?」

 

「私はセシリア・オルコット。オルコット家の当主をしておりますわ。そしてこちらは、専属メイドのチェルシー・ブランケット」

 

「よろしくお願いします」

 

「う、うんよろしく……って、オルコット家って確か、イギリスで名高い貴族じゃ……」

 

「ええ、そうですわ」

 

頷くセシリアに、一夏は目を見開いた。すぐに傍らに置いてあった携帯を取って日付と時刻を確認するが、別に数日経過している訳でもなかった。

 

「おかしい。私、ドイツに居た筈なのに…どうしてイギリスに居るの?」

 

「突然目の前に現れたんですの。それにしても妙な話ですわね……貴女の身に何がありましたの? 体中の傷も、何か関係が?」

 

「(あ、見られちゃったんだ)ううん。身体の傷は、今よりずっと前につけられたものだよ」

 

「……よろしければ、詳しく聞かせて貰えないでしょうか?」

 

「……いいよ、気晴らしにもなるし。そんなにいい話でもないけどね」

 

前置きを入れてから、一夏は訥々と話し始めた。自分が織斑千冬の妹で、双子の弟から拒絶され彼や、彼に扇動された者達により虐められ傷を負わされてきたこと。そして今日……モンド・グロッソ決勝直前に誘拐され、犯人の1人に心身共に一生癒えぬ傷を与えられ、気がついたらここに居たことを。

 

「……酷い話ですわね。どうして貴女のような人が、そのような目に……」

 

「本当、何でだろうね……私の努力が、足りなかったのかな? そうだよね、そうでなきゃ出来損ないだなんて―――」

 

「そんな筈がありませんわ!! 貴女は姉や弟に追いつけるよう、常に努力し続けて来たんでしょう!? それをこんな……こんな目に遭わせるだなんて!!」

 

拳を握り締めて立ち上がり、怒気を露わにするセシリア。彼女自身、一夏の境遇に共感できる部分があった。過去に両親を事故で亡くし、遺産目当てで近づく周囲の大人達から遺産を守る為に不断の努力を続け、新型ISのテストパイロットにも選ばれた。

だから許せなかった。一夏が続けてきた努力を、平気で踏みにじる者達が。

 

そんなセシリアの言葉に一夏は驚き、顔を綻ばせた。

 

「……ありがとう。オルコットさんて、優しい人なんだね」

 

「……私、人の努力をバカにする人が許せないんですの。……それより、これからどうするおつもりで?」

 

「これからか……正直、家にはもう帰りたくないかな。千冬お姉ちゃんには悪いけど、春也に…男の人に酷いことされるの、もう嫌だし……」

 

俯きながら言うと、傍に立っていたチェルシーが少し考えて述べた。

 

「それでしたら、ここに住むというのはどうでしょう?」

 

「まあ……それはいい考えですわね、チェルシー」

 

「え、い、いいんですか? 色々と問題があるんじゃ……国籍とか」

 

「大丈夫ですわ。私、ISのテストパイロットを務めていますから、政府の方々とは多少コネがありますのよ」

 

不安げに尋ねる一夏に、セシリアは自信満々な笑みを浮かべて言った。一夏はしばし考え込むと、顔を上げた。

 

「……わかりました。ご厚意に、甘えさせて頂きます」

 

「決まりですわね。これからよろしくお願いしますわ。それと、私のことはセシリアと呼び捨てにして下さいまし、一夏さん」

 

「うん。わかったよ、セシリア……ってあれ? 私、いつ名前教えたっけ?」

 

首を傾げながらキョトンとする一夏に、セシリアとチェルシーは「可愛い」と思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。一夏が居なくなった後の廃墟に、ISを纏った織斑千冬が現れた。彼女は一夏誘拐の報告が伝わるや否や、試合を棄権して飛んで来たのだ。ところが、指定してきた場所には一夏どころか犯人の姿すら居ない。

 

「……一体どういうことだ? まさか、別の場所に逃げたか?」

 

「その心配はないわ。織斑一夏は無事よ……一応はね」

 

突然背後から聞こえてきた声に振り向くと、スーツを着た金髪の女性が歩み寄って来ていた。

 

「貴様、何者だ? 一夏が無事とはどういうことだ?」

 

「私はスコール・ミューゼル。亡国機業(ファントム・タスク)所属よ。それと一夏ちゃんのことだけど、私達の本社に来てからでいいかしら? 何分私達も把握し切れてなくてね」

 

「…………わかった。言う通りにしよう」

 

しばし迷った千冬だったが、ここに居ても何の手掛かりもないと考え、彼女に着いて行くことにした。

廃墟の外まで出るとスコールは量産バイク・ローズアタッカーに跨り、千冬にもISを解除して後ろに乗るように促す。訝しみながらも搭乗すると、スコールの運転で発進。一定速度まで一気に加速し、サクラハリケーン同様ワープした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツからいきなりワープして亡国機業(ファントム・タスク)本社に到着した衝撃も抜けきらないまま、千冬はトップである人物が居る部屋へと案内された。

 

「初めまして。私が亡国機業(ファントム・タスク)のトップ兼技術主任の戦極凌馬だ。よろしく」

 

「織斑千冬だ。早速だが、一夏はどこに居る?」

 

「それなんだが、本来ここに連れてくる筈が不測の事態に遭ってね。現在彼女はイギリスに居るらしいんだ」

 

「イギリス? イギリスのどこだ?」

 

顔を顰めて詰め寄った時、デスクに置かれたPCの画面にピピッという音と共に地図と赤い点が表示された。

 

「ちょっと待って、今詳細位置がわかった。……ふむふむ。どうやらかの有名なオルコット邸に保護されてるようだ」

 

キーボードを操作して答える凌馬に、千冬は「そうか。感謝する」とだけ言うと背を向けて歩き出そうとした。

 

「あ、待った待った。下手に連れ戻したりしない方がいいよ。少なくとも、織斑春也と会わせることになるだろうし」

 

「? 春也と会わせると何かまずいのか?」

 

「そうか、君は知らなかったっけ。彼女、織斑春也に相当虐められてたんだよ」

 

「何!?」

 

「勿論証拠だってある。……束」

 

「アイアイサー!」

 

突然壁の一部がどんでん返しとなって、ウサ耳カチューシャをつけた女性・篠ノ之束が資料の束を持って現れた。

 

「束!? お前、なんでこんなところに……」

 

「説明は後々。それよりこれを見てよ」

 

資料をずいと差し出され、千冬は受け取って一枚一枚捲って見ていく。すると最初は普通だった彼女の表情が、みるみる驚愕したものに変化していった。

 

「こ、これは……! そんな、まさか……!?」

 

「信じられない? これを初めて知った時の私もそうだったよ。まさかはるくんが、いっちゃんに対してあんな酷い仕打ちをしてたなんてさ……。この時ばかりは、表立って動くことができない自分の立場を呪ったよ」

 

「……じゃあ、春也が私の前で見せていた姿は、偽りのものだったということか…………だが、それなら余計に一夏を保護しなければ。無理に家に返したりはしない。せめてここなら!」

 

春也に会わせるのが危険なら、会わせなければいい。そう考えての発言だったが、凌馬は首を横に振って言った。

 

「残念だが、今はそっとしておいた方がいい。無闇に接触すれば、心の傷が広がりかねない。……全身の傷のことを言ってると思ってるなら、それは違う。一夏ちゃんは、女性として最も陵辱的な行為を誘拐犯の男にされたんだ」

 

「!!!!!!」

 

ハンマーで頭を殴られたような衝撃だった。女性として陵辱的な行為……それが何を意味するのか、千冬にも察しがついた。

 

「だから一夏ちゃんに関しては、ある程度傷が癒えるまで接触しない方が良いんだ。一応、監視はしておくけど」

 

「そうか……」

 

呆然と呟いた千冬の心は、一夏を救えなかった悔しさと自分への怒りが混ざり合っていた。そんな彼女の様子を知ってか知らずか、スコールは千冬を見て言った。

 

「貴女のせいじゃないわ。まさか実の弟が姉を虐めているだなんて、普通思わないもの。……それに後悔ならいつでもできるけど、これからのことはどうするの? 試合をほったらかしにして来たんでしょ?」

 

「ああ……私は現役を引退する。そろそろ頃合いだと思ってたしな……」

 

「その後は何もやることは無いかい? もし無ければ、ここで働いて欲しいんだけど」

 

「ここでだと? 何故だ?」

 

「純粋に君の戦闘能力を買っているからさ。それに、一夏ちゃんに何か起きた時、ここに居ればすぐに出動ができる」

 

「……なるほど。そう考えれば魅力的だが、情報をリークしたドイツ政府も黙ってはいないだろう」

 

「そこはご心配なく、上手く交渉してみせるから」

 

ロックシードをクルクルと指で回転させつつ、PC画面に映る一夏とセシリア達が仲良くしている様子を、凌馬は微笑ましく見ていた。



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第4話 出撃!アーマードライダーズ!

今回、やや性的な描写がありますので、閲覧にはご注意を。


一夏がオルコット家に住んでから二ヶ月が経過した。

 

「食事をご用意しました、お嬢様」

 

「いつもご苦労様ですわ」

 

彼女は現在、セシリアのメイドとして働いていた。ただ住んでいては申し訳がないと、自ら申し出てチェルシー指導の元メイドとしての作法を学んだのだ。

 

「ん……今日もとても美味しかったですわ。一夏さんの料理は最高ですわね」

 

「いいえそんな。まだまだ精進するべきところも多いですし」

 

「ふふ、そう謙遜なさらなくてもいいですのよ?」

 

実際、一夏の料理の腕前はチェルシーが驚き、セシリアお抱えのシェフが唸る程のレベルだ。それでも謙虚でいられる姿勢に、セシリアは感心を抱いたことが幾度となくある。

少しして、セシリアは一夏の手料理を食べ終えた。

 

「ごちそうさまでした。…あ、それからこの後はプライベートタイムですから、片付けが済んだら私の部屋に来て下さいまし」

 

「畏まりました」

 

一礼し、一夏は食器を運んで行く。その姿は二ヶ月間ですっかり板についていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうですか一夏さん? ここでの暮らしにはもう慣れましたか?」

 

「うん。最初は緊張したけど、今ではこの通り」

 

少しした後、一夏はセシリアの部屋のベッドに並んで座り談笑していた。このプライベートタイムのみ、彼女は気兼ねなく対等の立場で話すことができるのだ。

 

「それは良いことですわ。でも、あまり無理は為さらないで下さいね?」

 

「平気平気。そりゃあ多少は引き摺ってるけど、セシリアが傍に居てくれるもん。だから大丈夫だよ!」

 

ニカッと笑って言うと、セシリアの顔が照れて赤くなり、それを見た一夏もまた照れて赤くなる。最近の2人はいつもこの調子だ。そして何故こうなるかという理由を、2人は知っている。

 

「一夏さん……」

 

「セシリア……」

 

どちらからともなく顔を近づけ、一夏とセシリアは―――キスをした。そう、2人は互いに恋しているのだ。このことに最初に気づいたのは一月前の一夏で、同姓に恋したという事実に葛藤しつつも、意を決して告白。この時にセシリアは一緒に過ごす内に、一夏へ恋慕の情を募らせていたことに気づき、その場で告白。両想いとなった。

 

「ん…ちゅ……はぁ…一夏、さぁん……!」

 

「セシリア……ちゅ、ちゅぴ……セシ、リア……!」

 

誰にも、チェルシーにさえ知られてない2人の関係。それが興奮に火をつけ、より求め合っていく。やがて互いに服をはだけさせ、セシリアは一夏をベッドに押し倒した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして火照りが冷め、ベッドに横になった2人は壁に掛けてある時計をふと見た。

 

「……そろそろ起きなきゃ。プライベートタイムが終わっちゃう」

 

「そうですわね……」

 

乱れた服とベッドを整え、ドアを開けて部屋を出る―――と、思いがけない人物がそこに居た。

 

「……………………」

 

「チ、チェルシーさん……!?」

 

「しまった」と言いたげに無言で立ち尽くすチェルシーに一夏は驚き、セシリアは絶句していた。どうしようかとオロオロしていると、「はぁ…」とため息をついてからチェルシーは切り出した。

 

「お嬢様、一夏さん。私は以前よりお二方の関係に気づいておりました。故に敢えて何も言わなかったのですが、この際はっきりと申し上げておきます。……私は、例え何があろうともお二方の味方です。現在の関係についても、心から応援しております」

 

「「えっ……」」

 

その言葉に2人は一瞬ポカンとするが、すぐに笑顔になって顔を見合わせる。しかしチェルシーは「ですが」と頬を赤く染めて話を続けた。

 

「事に及ぶ際には、少々声を抑えた方がよろしいかと。……聞こえてましたよ」

 

思わず一夏もセシリアも恥ずかしそうに顔を赤くし、苦笑した―――その瞬間。

 

ドガァァァァン!

 

爆発音と共に衝撃で家が大きく揺れた。

 

「な、何ですの!?」

 

「確認します!」

 

すぐさまチェルシーが携帯を出してどこかへ電話すると、その表情が徐々に険しいものへと変わっていった。やがて電話を切るとセシリアを見て言った。

 

「大変ですお嬢様。屋敷内にISが侵入しました! 周囲も多数のISに囲まれているとのことです!」

 

「何ですって!? 一体誰がそんなことを……」

 

「とにかくお嬢様は安全な場所へ! 一夏さん、お嬢様を頼みます!」

 

「はい!」

 

力強く頷くと一夏は一旦部屋に戻り、置いてあったアタッシュケースを持ってセシリアの手を引いて走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外では正面に二機、左右に一機ずつ、裏に二機と合計六機のISが取り囲んでいた。そこから少し離れたところの道路で、空間が歪んでサクラハリケーンやローズアタッカーに乗った女性達が現れ、ISの死角になる位置で停止した。

 

「まさかこんな形で初陣を迎えることになるとはな…………お前ならこの状況でどう動く?」

 

その内の1人―――織斑千冬が隣の眼帯をつけた銀髪の少女に問うと、彼女はi-padを見ながら答えた。

 

「既に内部に敵が侵入している模様なので、迅速に外の連中を片付けるべきかと。正面の敵は私と千冬お姉様が倒しつつ突入。A班はその援護を。B班、C班はそれぞれ右と左の敵を撃破。D班は裏に居る敵を撃破だ。……何か異論は?」

 

『『『ありません!』』』

 

満場一致で返事をする銀髪の少女の部下達。その様子に千冬は満足げに微笑んだ。

 

「良い指示だ、ラウラ。流石は元ドイツ軍の精鋭部隊を率いているだけある」

 

「恐縮です、千冬お姉様」

 

「……その言い方を改めるつもりはないのか……」

 

少女―――ラウラ・ボーデヴィッヒは呆れる千冬に首を傾げてみせると、後ろの部下達に手で合図を送って促す。3つの班はバイクで各々の担当位置に移動して行き、ラウラ達はバイクから降りてロックシード形態にして仕舞う。

 

そしてそのまま残った部下達と共に、正面で武器を構えるIS達の前へ堂々と歩いて行った。

 

「……ん? 何だコイツ等は?」

 

「織斑千冬だと? 何故ここに……まあいい。今の彼女はISを纏っていない。我々でも十分対処可能だ」

 

「そうかな? それはコイツを見てから言うんだな」

 

ニヤリと鋭い笑みを浮かべると千冬は白い鎧武者の頭部が描かれた戦極ドライバーを、ラウラは緑色の西洋風の戦士が描かれた戦極ドライバーを腰に当て、部下達は何も描かれていない量産型の戦極ドライバーを一斉に腰に当てる。

次に千冬は『L.S.-04』と書かれたメロンを模したメロンロックシードを、ラウラは『L.S.-12』と書かれたドリアンを模したドリアンロックシードを、部下達は『L.S.-01』と書かれたマツボックリを模したマツボックリロックシードを手に持つ。

 

『メロン!』

 

『ドリアン!』

 

『『『マツボックリ!』』』

 

ロックシードを解錠すると、マスクメロンの形をしたメロンアームズとドリアンの形をしたドリアンアームズ、そして無数のマツボックリアームズが空中に出現。IS操縦者達を驚かせた。

 

「な、何だこれは!? 新型のISか!?」

 

『『『変身!』』』

 

『『『ロック・オン!』』』

 

戦極ドライバーにロックシードをセットするとラウラのドライバーからはエレキギターのロックミュージックが、それ以外からはホラ貝の音が響き渡り、全員同時にカッティングブレードを倒して輪切りにする。

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『『『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!!』』』

 

千冬は純白、ラウラは黄緑色、部下達は黒いライドウェアで纏われ、各々の頭にアームズが被さり展開。上半身に装着され、それぞれ仮面ライダー斬月 メロンアームズ、仮面ライダーブラーボ ドリアンアームズ、黒影トルーパーへと変わった。

 

「さて…こんな形とは言え実戦での初テストだ。存分に暴れさせて貰う」

 

「みんな、始めるぞ! 破壊と暴力のパジェントをな!!」

 

『『『了解(ラジャー)!!』』』

 

掛け声と共に斬月は鍔が銃身になっている刀型武器・無双セイバーをホルダーから抜き、ブラーボは専用の鋸型武器・ドリノコを構え、黒影トルーパー達は槍型武器・影松の矛先を向ける。

 

「っ、おい聞こえるか! 正体不明の敵が現れた。正面に集まれ!」

 

二機居るISの片割れが他の仲間に連絡をするが、了解の返事は聞こえず、ノイズと共に混乱した声が聞こえてきた。

 

『……れど…ろじゃない……! 今変…敵に……れて……うああああああああああ!?』

 

「おい!? おい!?」

 

「残念だったな、援軍は来ない。……取り囲め」

 

ブラーボの指示で黒影トルーパーが二機のISを取り囲む。IS操縦者達は自棄になり、マシンガンを連射するがアーマードライダーの装甲には歯が立たない。

 

『『『ソイヤッ! マツボックリスカッシュ!!』』』

 

『『『はあああああああああああああああ!!』』』

 

今度は黒影トルーパー達が影縫い突きを発動して反撃。影松を突き立て、シールドエネルギーをごっそりと持っていった。

 

「トドメだ……はああああっ!!」

 

『ドリアンオーレ!!』

 

「食らえ!」

 

片方のISは斬月が無双セイバーを全力で振り下ろし、もう片方はドリアッシェを発動したブラーボがドリノコから光弾を飛ばす。エネルギーがゼロになったISは待機状態になり、操縦者達は黒影トルーパー達が拘束していく。

 

「この程度か……」

 

「では行きましょう。…ソイツ等は任せたぞ」

 

黒影トルーパーに指示を出した後、ブラーボは斬月と共にオルコット邸に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の中を逃げていた2人は危機に直面していた。階段を降りた先の広い部屋で、三機のISに待ち伏せされていたのだ。

 

「やっと見つけたよ、セシリア・オルコット。さあ、さっさと私に遺産相続の権利を渡しな!」

 

「お断りしますわ! 貴女のような人に、大切な遺産を渡す訳にはいきません!! ブルー・ティアーズ!!」

 

自分に話しかけてきたIS操縦者の1人の言葉を一蹴し、専用ISブルー・ティアーズを展開する。

 

「先手必勝、ですわ!」

 

言うが早いか、ビット兵器であるブルー・ティアーズを分離させオールレンジ攻撃で狙い撃つ。

 

「ぐあっ! この……!」

 

「焦るな! 間合いに飛び込め!!」

 

「っ!?」

 

操縦者の発言に急いでビットを戻そうとするが僅かに遅く、敵ISに接近を許され一斉攻撃を受けた。

 

「きゃあああああああ!?」

 

「機体がスナイパータイプだったのが災いしたね!」

 

近距離で連続攻撃を受けたせいでブルー・ティアーズは大破。シールドエネルギーがゼロになり、セシリアはISを解除され倒れ込んだ。

 

「セシリア! だ、大丈夫!?」

 

「い、一夏さん……逃げ、て……」

 

慌てて一夏が助け起こすが、無情にも敵ISの武器が自分達をロックする。

 

(やだ……やだよ! こんなところで、死にたくなんかない! 力が、セシリアを守る力が欲しい!!)

 

ぎゅっとセシリアを抱き締めながら強く思った時、アタッシュケースの中から金色の光が溢れ出した。突然の出来事に一夏やセシリアだけではなく、敵ISの視線も集中する。

何かがある―――そう感じた一夏は迷うことなくケースを開ける。そこにはイニシャライズ前の戦極ドライバーと『K.L.S.-01』と書かれたロックシード、そして『L.S.-∞』と書かれた鍵のようなものが入っていた。

 

「……何これ? バックルと錠前と…鍵? ど、どう使うのかな?」

 

困惑しつつも、とりあえず戦極ドライバーを腰に当ててみる。すると黄色のフォールディングバンドが伸張・固定されドライバー左側に鎧武者の横顔が表示された。

 

「えっと、この次は……うっ!?」

 

鍵のようなものを通して、一夏の頭にこれら2つを使って変身する青年の映像が流れ込んで来る。思わず頭を押さえるが、兎に角見よう見まねでロックシードを解錠してみる。

 

『カチドキ!』

 

音声と共に上空に巨大なオレンジ色のアームズが出現、ゆっくりと降下し始める。

 

(なぁにあれぇ!?)

 

思わず面食らうが、すぐに戦極ドライバーにセットしてロックをする。

 

『ロック・オン!』

 

(えっと後は……)

 

ホラ貝のサウンドが流れる中、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにすると今度は鍵のスイッチを押す。

 

『フルーツバスケット!』

 

下から鍵部がせり出し、戦極ドライバーの鎧武者が書かれていた部分にソケットが出来、更に11個のアームズが出現する。

一夏はソケットに鍵を挿入すると、それを回転させた。

 

『ロック・オープン!』

 

ロックシードと鍵が展開し2人の鎧武者の顔が現れると同時に、紺色のライドウェアが全身を覆う。次に巨大なアームズが頭部に被さって展開、重装甲の鎧武者の姿に一瞬なると無数のアームズが身体に集約されてオレンジ色の装甲が全て弾け飛び、敵IS達にぶつかりダメージを与える。

 

『極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!!』

 

力強い音声と共に、胸部に多数のフルーツが描かれた白銀の鎧武者―――仮面ライダー鎧武 極アームズの姿が露わになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。彼女らが住む場所とは別の宇宙の遙か彼方にある惑星―――

 

「っ……!」

 

「どうしたの?」

 

「今……少し違うけど、俺と似た力を感じた。今の段階じゃ一過性のものだろうけど……」

 

金髪の女性と金髪の青年は、神妙な面持ちでどこか遠くを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だアレは!? 新型のISか……!?」

 

「一夏さん……なんですの……?」

 

目を見開いて尋ねるセシリアを見やると、鎧武は敵ISを見据えながら鍵の部分を回す。

 

『大橙丸!』

 

音声が鳴り響き、鎧武は右手にオレンジの断面を模した大橙丸という剣を召喚。

 

「そんなもの……ただの虚仮威しだ!!」

 

一機のISが急接近してブレードを振るう。だが鎧武は大橙丸でそれを防ぐと、易々と押し返して逆に一撃叩き込み、吹っ飛ばす。

 

「ぐああああ!」

 

「コイツ! だったらこれで!」

 

別のISがマシンガンで離れた間合いから狙い撃つ。

 

『メロンディフェンダー!』

 

『ブドウ龍砲!』

 

バンッ! バンッ!

 

「うわああああっ!!」

 

しかしそれは緑色の楯・メロンディフェンダーに防がれ、ブドウを模した銃・ブドウ龍砲によるカウンターを食らい倒れる。

 

『影松!』

 

『キウイ撃輪!』

 

『ドンカチ!』

 

『マンゴパニッシャー!』

 

息つく間もなく鍵を回し、影松と円形の刃とハンマーとメイスを召喚して一気に残るISに投擲、ダメージを与えた。

 

「ぐっ…な、何なんだコイツは!? 何なんだよぉ!!」

 

『バナスピアー!』

 

驚くIS操縦者を余所に今度は槍を持つと、カッティングブレードを一回だけ倒す。

 

『ソイヤッ! 極スカッシュ!!』

 

勢いよく槍を地面に突き立てると、バナナを模したエネルギーが地面から無数に現れ、敵IS達を逃げられないようにした。

 

『無双セイバー!』

 

『火縄大橙DJ銃!』

 

無双セイバーと火縄銃型武器・火縄大橙DJ銃を召喚すると、銃口に無双セイバーを入れて合体・大剣モードへと変化させる。

 

『ソイヤッ! 極オーレ!!』

 

その状態でカッティングブレードを二回倒すと大剣にエネルギーが集約。鎧武は回転しながら振り回し、三機のISに斬撃を食らわせシールドエネルギーを一気にゼロにして操縦者達を気絶させた。

 

「………………………」

 

敵を倒したことを確認した鎧武は変身を解除。一夏に戻るとロックシードと鍵は身体に吸い込まれ、同時に気絶し倒れた。

 

「一夏さん! しっかりして下さい! 一夏さん!!」

 

倒れた一夏を受け止め、呼びかけながら身体を揺らす。丁度その時、斬月とブラーボが2人と出会した。

 

「これは一体……」

 

「!? あ、貴女達は!?」

 

「心配しないでくれ、私達は敵ではない。君達を助けに来たんだ」

 

「本当ですの?」

 

「勿論。少し失礼するぞ」

 

そう言うと斬月は一夏をお姫様抱っこし、ブラーボはセシリアに肩を貸した。

 

(ん? これは…戦極ドライバー? それにこのロックシード……まさか一夏がコイツ等を?)

 

腰に装着された戦極ドライバーと床に転がった幾つかのロックシードを見ながら、千冬は仮面の下で訝しんだ表情になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、屋敷の外に出た斬月達だが後ろから復活した操縦者とISが迫っていた。斬月は気づきつつも特に気にする様子はない。ISがついに躍り出ようとした―――その瞬間。

 

『ピーチエナジー!!』

 

飛んできた光の矢によって貫かれ、再び操縦者は気絶した。斬月とブラーボが視線を上げた先には、家の屋根に立つ桃色の次世代型アーマードライダーが見つめていた。




初っ端から最強フォームに変身させるという、この型破り。
これ以降終盤まで、出番はお預けなんですけども……。


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第5話 集結する意志

「う…ううん……」

 

目を覚ました一夏は、どこかの病室のベッドに横たわっていた。周りにはセシリアとチェルシーがおり、それ以外にも千冬や束、ラウラや凌馬にスコールやオータム、桃色のアーマードライダーといった面々が揃っており、更に束の妹である篠ノ之箒まで居た。

 

「気がつきましたか?」

 

「セシリア……ここはどこなの? それにどうして箒や千冬お姉ちゃん達が……」

 

「私にもよくわからないんだ。いきなり姉さんが現れて、バイクに乗せられるまま連れてこられたんだが……」

 

「君達の疑問には私がお答えしよう」

 

頃合いを見計らい、凌馬が前に出て来て言う。

 

「貴方は?」

 

「私は戦極凌馬。今現在君達が居る亡国機業(ファントム・タスク)のトップだ」

 

亡国機業(ファントム・タスク)? 聞いたことがありませんわ。どんな組織なんですの?」

 

「簡単に言えば、アーマードライダー部隊を所有する秘密結社で、主に人知れず悪を滅ぼすことをやっている所さ。ちなみにアーマードライダーと言うのはISを根本から改良したもので、オルコットちゃんが見た斬月やブラーボ、それにここに居るマリカのことだよ」

 

チラリと傍に立つ桃色のライダー―――仮面ライダーマリカを見やる。同時に千冬とラウラは戦極ドライバーを一夏達に見せた。

 

「千冬お姉ちゃん、ここに所属してたんだ」

 

「ああ。黙っていて済まなかったな」

 

「それはいいんだけど、どうしてまた? 何か理由があるんでしょ?」

 

「それに、織斑さんだけではなくボーデヴィッヒさんが居るのも不思議ですわ。彼女、ドイツ軍特殊部隊の隊長ではなくて?」

 

「これも私が説明するよ。織斑千冬をここに所属させたのは、単に戦力に加えたかったのと、いざという時に君達を助けに行けるようにする為さ。ただドイツ政府が色々と煩かったから、ちょいと交渉してね」

 

「その結果が、彼女がここに居る理由ですか?」

 

「部隊ごと接収したんだ。まあ話すと長くなりすぎるから、あまり深くは聞かないでくれ」

 

人に言えないようなこともやったしね、と心の中で付け加える。

織斑千冬を所属させるに至って懸念となったのは、ドイツ政府が情報をリークしたことを貸しにしてドイツ側に来るよう迫ることだった。だから凌馬はアーマードライダー等極一部の技術を提供することを条件に交渉をするつもりだった……だがここで予想外の事実を偶然知ることになる。

ドイツ政府と一夏を誘拐した連中は裏で繋がっており、全ては織斑千冬をドイツ軍に迎え入れる為の壮大な自作自演であったのだ。このことが彼女に知れたら激怒しかねないと思いつつも、これ以上ない有効なカードとして凌馬はこれを利用。ドイツ政府をほぼ言いなり同然にした上で交渉を優位に行い、向こうが出してきた特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」の特殊訓練についても「緊急時にはそちらを優先させるから、こっちに接収して訓練させる」という条件を飲み込ませ解決させた。

 

「それより、少し一夏ちゃんに言わなければならないことがある。そこの机にあるバックルのことは覚えているかな?」

 

彼はベッドの隣にある机の上を視線で指す。一夏がその先を見ると、戦極ドライバーに色取り取りなロックシードが幾つか置いてあった。

 

「えっと…はい。確か必死で変身したような……でも、あの時使った錠前と鍵が無いような……」

 

「このバックルは戦極ドライバーという名前で、これらの錠前…ロックシードの力を引き出す為の道具だ。ロックシードと言うのはISコアを改良した全く新しい発明品のことだよ。……それで君が初変身で使ったロックシード―――錠前の方がカチドキロックシードで鍵の方が極ロックシードって言うんだけど、精密検査の結果極ロックシードの方にカチドキが吸収されて、しかも君の心臓と一体化しているみたいなんだ」

 

「えっ」

 

現実味が沸かない言葉だった。あの鍵が、心臓と一体化している? それはどういう状況なんだろうか。そしてどんな変化が自分の身体に起きるのか―――

 

「まあ身体機能に異常は無いみたいだから特に心配する必要はないと思うけど、何かあったら連絡して。電話番号渡すから」

 

「……あの、それって普通の生活に戻ることを前提に言ってるんですか? だとしたら、無理だと思います。こんなことに巻き込まれてしまったんですし」

 

「じゃあどうすると言うんだい? 君の意見を聞かせて欲しいな」

 

「…………………」

 

しばし全員の顔と戦極ドライバー、ロックシードを見ながら一夏は考え、そして答えを出した。

 

「私も……ここで千冬お姉ちゃん達と一緒にここで戦います。こんな私でも何かの役に立てるなら、そうしたいんです。貴方もそう考えて、こんなにロックシードを用意してくれたんでしょう?」

 

「え? あ、うん…ま、まあね」

 

つい声に詰まった。実はそのロックシードらは極アームズから生成されたものなのだが、到底信じられる話ではなく、また余計ややこしくしてしまうので黙っていることにした。

 

するとセシリアが決意を秘めた顔で凌馬を見つめた。

 

「待って下さい。それでしたら、私もここで戦いますわ」

 

「お嬢様!?」

 

「セシリア!? でも……」

 

「今回のことで、私は自分の実力不足を痛い程感じましたわ。それに私、既に決めていますの。どんなことがあっても一夏さんを守ってみせるって。なのに当人から守られているのでは格好がつきませんもの。ですから一夏さんと同じ力を得て、今度こそ一夏さんを守れるようになりたいんですの!」

 

「セシリア……」

 

拳を強く握り締めながら言う彼女を見て、一夏は頬を赤く染める。セシリアの強い信念を感じ取った凌馬は、これは参ったと言わんばかりに手を上げて言った。

 

「相当な覚悟のようだね。わかった。一応イニシャライズ前の戦極ドライバーもあるし、ロックシードはそこから好きなものを持っていけばいい。ただ訓練はこれまで以上に厳しいものになる上に、場合によっては人殺しの十字架を背負うことにもなるが……」

 

「承知の上です。構いませんわ」

 

即答したセシリアに凌馬はフッと笑うと、戦極ドライバーを懐から取り出して投げ渡す。受け取ったセシリアは机を見ると目についたロックシード2個を手に取った。

 

「それにしても、君は随分と一夏ちゃんに入れ込んでいるようだ。さっきの宣言も、まるで恋人同士みたいな雰囲気だったよ」

 

「いやですわ、雰囲気だなんて。私達は実際に恋人同士なんですよ?」

 

「ふぇっ!? な、何言ってるのセシリア!?」

 

「なっ…そ、それは本当なのか一夏!?」

 

顔を真っ赤にして慌てる一夏と、彼女に詰め寄る箒。しかし周りは思った以上に冷静で驚きの声も上がらない。

 

「……? 自分で言うのはアレだけど、何でみんな驚いてないの?」

 

「ああ、監視する過程で知っちゃってさ……」

 

「さすがに私も大層驚いた。が……正直なところ、私は2人を応援しているぞ。なあ束?」

 

「そうそう! 私なんて2人の百合百合な時間をコレクションにしているくらいだし」

 

「ちょっと待て! それは初耳だぞ!?」

 

流れるようにぶっ込んだ束の発言に凌馬が耳を疑い、一夏とセシリアが顔を赤くして俯いていると、スコールとオータムが前に出て述べた。

 

「私とオータムも貴女達と同じような関係だから、何か困ったことがあったら言ってね」

 

「おう。遠慮する必要はねぇからな!」

 

「「は、はい」」

 

「そ、それはそうと姉さんが私を呼んだ理由は何なんですか?」

 

混乱してしまった流れを変えようと箒が尋ねる。すると束は待ってましたと言わんばかりに笑顔で箒を見た。

 

「ふふふ。そんなこと言って、箒ちゃんも薄々感付いてるんじゃなぁい?」

 

「……まさか、私にもアーマードライダーになれと?」

 

「うん! その方がいっちゃんを守れる人が多くなるし、いいでしょ」

 

「へ?」

 

一夏は間抜けな声を出した。何故そこで自分のことが出てくるんだろうか。そう思っていると束が察したのかこう続けた。

 

「いっちゃん。ここに居るみんなはね、いっちゃんがはるくんから受けた仕打ちのことを知ってるんだ。だけど、今の今まで知らなかったり何かやってる程度でしかわからなかったから、何も出来なかった……その償いをする為に、私達はいっちゃんの味方になる人達を集めているんだ」

 

「そ、そうだったんですか!? それじゃ、千冬お姉ちゃんをここに所属させた理由も……」

 

「言っただろう? 君達を助ける為だって」

 

「っ……!」

 

次の瞬間、一夏はポロポロと涙を流した。ここまで親身になってくれる人が居るとは思っていなかったのだ。

 

「一夏……」

 

「箒ちゃんも、一緒に戦ってくれる?」

 

「……この状況で無理と言える訳がないでしょう? それが私にできる唯一のことなら、覚悟を決めます」

 

「いいご友人を持ちましたのね、一夏さんは……ところで、あのアーマードライダーは一体誰なんですか?」

 

「ん? ああ彼女は―――」

 

笑みを浮かべたセシリアがふと疑問に思ったことを尋ねて凌馬が答えようとした時、マリカが前に出て変身を解除した。

そしてその姿に、箒とセシリアと一夏は驚愕した。

 

「ち、千冬お姉ちゃんに似ている……?」

 

「お前は何者なんだ?」

 

「私は、織斑マドカ。千冬姉さんのDNAをベースに生み出されたハイパーソルジャー……所謂人造人間だ」

 

「じ、人造人間!?」

 

「とある研究所に囚われていたところを、私が助けたんだ。一夏の話を聞いて、妹として力を貸したいと言うんだが……いいか?」

 

「私は別にいいけど…いいの? こんな私が姉で」

 

「いい悪いとかじゃない。私は一夏姉さんの妹になりたいんだ」

 

「! あ、ありがとう……マドカ……!」

 

妹になりたい―――双子の弟に拒絶されてきた一夏にとって、これ以上に救いの言葉はなく、止まっていた涙が再び溢れ出す。

 

一夏とセシリア、箒等を加えて凌馬率いる亡国機業(ファントム・タスク)はいよいよ本格的に始動し始めた。



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第6話 初陣と救出

半年後―――

 

亡国機業(ファントム・タスク)のシミュレーションルームでは、木々が生い茂る湿地帯の中に一夏、セシリア、箒と千冬、ラウラ、マドカがそれぞれドライバーをつけた状態で対峙していた。

 

『みんな準備はいいかい? それじゃあ、スタートだ!』

 

スピーカー越しに響く凌馬の声と共に一夏は『L.S.-07』と書かれたオレンジロックシードを、セシリアは『L.S.-08』と書かれたバナナロックシードを、箒は『L.S.-SILVER』と書かれた銀のリンゴロックシードを、マドカは『E.L.S.-03』と書かれたピーチエナジーロックシードを握り締める。

 

『オレンジ!』

 

『メロン!』

 

『バナナ!』

 

『ドリアン!』

 

『シルバー!』

 

『ピーチエナジー!』

 

各ロックシードを解錠することで一夏の頭上にはオレンジを模したオレンジアームズが、セシリアの頭上にはバナナを模したバナナアームズが、箒の頭上にはリンゴを模したシルバーアームズが、マドカの頭上には桃を模したピーチエナジーアームズが、千冬にはメロンアームズが、ラウラにはドリアンアームズが出現する。

 

「「「「「「変身!」」」」」」

 

『『『ロック・オン!』』』

 

ISモードに変更したドライバーにセットしてロックをかけると一夏と箒の戦極ドライバーからはホラ貝の音が、セシリアの戦極ドライバーからはファンファーレが流れ始め、それぞれカッティングブレードを倒して輪切りにしたり、シーボルコンプレッサーを押し込んだりした。

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』

 

『カモン! バナナアームズ! Knight of Spear!!』

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『ソイヤッ! シルバーアームズ! 白銀・ニューステージ!!』

 

『ソーダ! ピーチエナジーアームズ!!』

 

ロックシードから一斉に音声が流れ、一夏は紺色の、セシリアは赤と白銀の、箒は額に大きな前立のある水色と銀色のライドウェアに全身を包まれ、マドカはピンクと黒のゲネティックライドウェアに包まれ、それぞれアームズが頭に被さって展開。装甲として装着され一夏は仮面ライダー鎧武 オレンジアームズに、セシリアは仮面ライダーバロン バナナアームズに、箒は仮面ライダー(カムロ) シルバーアームズに、マドカは仮面ライダーマリカ ピーチエナジーアームズに変身した。同様に千冬とラウラも斬月とブラーボに変身した。

 

「行くぞ、一夏!」

 

「今日こそは勝ってみせる!」

 

「勝負だ!」

 

「全力で行きますわよ!」

 

「さあ…始めるか!」

 

「いざ尋常に……勝負!」

 

そして、6人のアーマードライダー達が得物を手に戦いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、凄ぇな。3人共この半年間で、劇的な成長を遂げているぜ」

 

「でしょでしょ! やっぱ凄いよね、いっちゃん達!」

 

「訓練開始直後はほぼ一方的な試合展開が多かったけど、今じゃ何度か白星を入れているし。そろそろ実戦に出しても……ん?」

 

その時パソコンに一通の電子メールが届いた。何事かと開いて読むと、凌馬の表情が真剣そのものに変わった。

 

「もしかして、久しぶりの依頼?」

 

「正解だ。スコール、シミュレーションを中止させてくれ」

 

「わかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎧武達が戦っていると、突然アラームと共に部屋が通常の無骨なものに変わる。何らかの要因で模擬戦が中止になった証だ。

 

『諸君、悪いが今日の訓練は中止だ。たった今日本政府から直々の依頼が届いた』

 

「日本政府から? それでミッション内容は?」

 

『1時間前、更識家の跡継ぎである更識刀奈とその妹の更識簪が、反政府組織によって誘拐された。彼女達を救出して欲しいというのが依頼内容だ』

 

「更識家って何? 有名なの?」

 

「極一部の人間しか知らない、対暗部用暗部組織だ。私も最近まで詳細を知らない程徹底して存在が秘匿されてる筈だが……裏切り者でも出たか?」

 

『その辺は誘拐犯にでも聞くとして、座標情報を送るからすぐに出動準備をしてくれ』

 

「了解しました。出撃メンバーは?」

 

『今シミュレーションルームに居る全員だ。作戦は追って伝える』

 

「「「っ……!!」」」

 

凌馬の言葉に鎧武、バロン、冠が緊張する。ついにこの時が来たのだと実感していた。

 

「聞いたな? ではみんな、行くぞ」

 

「う、うん」

 

「フッ、そう緊張することはない。今までの訓練を思い出して、全力でやるんだ」

 

緊張している3人に向けてアドバイスすると、斬月は部屋の出入り口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中にある、開けた場所に立てられた廃屋―――

 

この中に両手両足を縛られ、身動きが取れなくなっている姉妹―――更識刀奈と更識簪が居た。

 

(油断したわ……まさか白昼堂々と誘拐するだなんて。休日だからってISをメンテナンスで置いて来るべきじゃなかった)

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「大丈夫よ、簪ちゃん。私がついているから、ね?」

 

不安そうな表情と声色の簪を安心させるべく言うが、状況は芳しくなかった。廃屋にはISを装備した女が1人とマシンガンを持った男が2人。外にもIS二機と武装した男が数人で警備していた。

 

「チッ、まだか? 要求は伝えた筈だろ?」

 

「焦らないの。いずれ来る筈だから。まあ来なければ……コイツ等は死ぬけど」

 

ISの武装を2人に向けながら言う女に、刀奈は今後どうすればいいか何度も思考していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バァンッ! バァンッ!

 

「きゃあっ! な、何!?」

 

当の外では、ISの一機に弾丸が命中し操縦者が悲鳴と戸惑いの声を上げていた。武装兵達の視線と銃口が一斉に向けられると、無双セイバーの銃口を向けた斬月とマリカ、冠が歩いて来ていた。

 

「貴様等、何者だ!?」

 

「その姿……まさか、噂に聞くアーマードライダー!?」

 

「答える気はない。ただ、貴様等を倒す存在とだけは言っておこう」

 

「そう警戒するな。安心しろ、抵抗しなければ命までは取りはしない」

 

「向かって来る以上はどうなっても責任は取らんがな……!」

 

斬月達はメロンディフェンダーと無双セイバー、ソニックアロー、杖型武器・蒼銀杖を構え、武装兵達を睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 外が騒がしいわね……何かあったのかしら」

 

廃屋内では外の戦闘音に気づいたIS操縦者が武装兵と共に入り口へと近づく。刀奈と簪も何が起きたのかと顔を見合わせた―――そのタイミングで裏口から鎧武、バロン、ブラーボが鍵を破壊して侵入。鎧武とバロンが刀奈と簪の拘束を外しにかかる。

 

「!? 貴方達は……!」

 

「待ってて下さい。もうすぐ外れますから」

 

そして外し終えた丁度その時、ハイパーセンサーで動体反応を探知したIS操縦者が銃器を構えて振り返った。

 

「アンタ達何者!? 人質を逃がそうってんなら、そうはいかないわよ!!」

 

「くっ、まだか!?」

 

「もう少し……外れましたわ!」

 

「こっちも!」

 

「彼女達は私に任せろ。敵の対処は頼んだぞ!」

 

そう言うとブラーボは刀奈と簪を連れて裏口から外に出て、鎧武はオレンジの断面を模した片刃剣・大橙丸を、バロンは槍型武器・バナスピアーを構えて立ち上がる。

 

「行きなさい!」

 

操縦者のが立場が上なのか、命令された武装兵達が前に出てマシンガンを撃ちまくる。しかし鎧武とバロンは多少痛いと思いつつも銃弾の中を突っ切り、それぞれの武器でマシンガンを弾き飛ばすと首に手刀を当て、気絶させた。

 

「やっぱり通常火器は効かないか。でもいくら全身装甲(フルスキン)だからって、多少はシールドエネルギーは削れている筈! なら―――」

 

ドガガガガガ!

 

「お生憎様! はああああああ!!」

 

放たれる弾丸を回避しながら接近し、鎧武は大橙丸と無双セイバーの二刀流でISを斬り伏せる。

 

「これはISではございませんのよ!」

 

怯んだところにバロンがバナスピアーで突きをかまし、ISに膝をつかせる。これだけの攻撃でシールドエネルギーが半分も減っていることに操縦者の女は驚いた。

 

「そんな……ISが負けているだなんて!?」

 

「ISも決して絶対って訳じゃないんだよ! 行こう、セシリア!」

 

「ええ!」

 

ISの前後で挟み撃ちにする形に位置取ると、鎧武は大橙丸と無双セイバーの柄の底を合体させてナギナタモードにし、戦極ドライバーから外したオレンジロックシードを無双セイバーの窪みにセットしてロック。バロンはカッティングブレードを一回倒す。

 

『ロック・オン! イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン! オレンジチャージ!!』

 

『カモン! バナナスカッシュ!!』

 

「はあああああああああああああああ!!」

 

「輪切りにしちゃうんだから! セイハァァァアアアアアアアアアア!!」

 

無双セイバーから放った光刃がISの動きを封じ、バロンが巨大なバナナを模したエネルギーを纏ったバナスピアーで突き飛ばす。吹き飛んだ先に居る鎧武が大橙丸でISを切り裂き、機能停止に追い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、外ではマリカと冠がISと一対一で優位に戦っており、斬月は武装兵達を手玉に取っていた。

 

「はあっ! せえいっ! どうした!? 向かって来る奴はもういないのか!」

 

残り1人となった武装兵に斬月は無双セイバーの切っ先を突き付けながら言うと、持っていた銃を捨て降参してしまった。彼女は内心、「骨の無い奴だ」と毒づいた。

 

 

 

 

ISと戦っていたマリカと冠は、頃合いを見計らってゲネシスドライバーのシーボルコンプレッサーを一回押し込み、カッティングブレードを一回倒した。

 

「一気に決めるか!」

 

『ピーチエナジースカッシュ!!』

 

「一撃必殺、覚悟しろ!」

 

『ソイヤッ! シルバースカッシュ!!』

 

マリカはソニックアローの両端についた刃・アークリムにエネルギーをチャージして振り回し、冠はエネルギーを溜めた蒼銀杖をジャンプしながら突き刺し、ISのエネルギーを一気にゼロにした。

 

「量産型とは言え、この程度か」

 

「これがアーマードライダーの力……プロフェッサーが無闇にひけらかすなと言っていたのが、改めて実感できる……」

 

戦闘を終え、IS操縦者や武装兵達を拘束していると裏口から脱出したブラーボ達が合流。続いて正面の出入り口から鎧武とバロンが拘束した人物達を連れて合流した。

 

「ごめん、少し時間が掛かっちゃった」

 

「気にするな。初任務でこれ程ならむしろ十分だ。さて……大丈夫か?」

 

助け出された姉妹の顔色を伺いながらブラーボが尋ねると、おっかなびっくりしながら刀奈がこくりと頷く。

 

「え、ええ。私は大丈夫……それより簪ちゃん! 大丈夫? 怪我してない? どこか痛くない!?」

 

「だ、大丈夫だよ! そんな大げさに……」

 

「だって…私のたった1人の妹なのよ? 貴女に何かあったら、私……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「……すぐに戻らないとまずいんだがな」

 

「もう少しこのままにしてあげようよ」

 

「フッ、そう言うと思ったよ」

 

安堵の涙を見せながら簪を抱き締める刀奈を見て、鎧武と話していた斬月は小さく笑みを零した。



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第7話 姉の想い、妹の覚悟

「……まさかかの有名なアーマードライダーの本拠地に来るなんて、人生何が起きるかわかりませんね」

 

しばらくして更識姉妹は亡国機業(ファントム・タスク)に連れられ、食堂でお腹を満たした後に目の前に座った凌馬へ言った。

 

「ほう、その口ぶりだとアーマードライダーのことについて、色々と知っているみたいだね」

 

「知ってると言っても、亡国機業(ファントム・タスク)とアーマードライダーが何らかの繋がりを持っているってことぐらいで、まさか篠ノ之博士等の有名人や織斑一夏がここに居ることは驚きましたけど」

 

「え? 私のことを知ってるの?」

 

「前に貴女が行方不明になった時、手掛かりを探す為に情報を細かく調べたのよ。で、色々なことを知っちゃった訳」

 

「そうだったんですか……」

 

一夏は彼女の言葉から、過去に自分が受けた仕打ちも知っているんだろうと思ったが、それ以上は何も追求しなかった。同時に刀奈も、一夏のことに関してはもう何も言わなかった。

 

「で……そろそろ私達をここに呼んだ理由を話してもいいんじゃないんですか?」

 

「なんだと思う?」

 

「大方、アーマードライダー等の秘密事項について口外しないことを約束しろ……とか?」

 

「それもあるけど、本筋はこれさ」

 

床に置いてあった2つのアタッシュケースをテーブルの上に置いた凌馬は、それを開けて戦極ドライバーとゲネシスドライバーを刀奈達に見せた。

 

「そういうことね……秘密を共有する者同士で、一緒に戦えと。でもわざわざ2つ用意したのって、もしかして簪ちゃんも巻き込む気ですか?」

 

「そうだとしたら?」

 

「断固反対します。私はともかく、簪ちゃんまで危険な目に遭わせないで頂戴!」

 

「……君の意見は最もだ。でも当の本人は興味を持ってるみたいだよ?」

 

肩をすくめて言う彼にチラリと隣を見ると戦極ドライバーと、一緒に入っていた表面がドングリを象っており『L.S.-03』と書かれたドングリロックシードを持ってじっと見比べていた。血相を変えた刀奈は簪の肩を掴み、自分と向き合わせた。

 

「どうしてなの、簪ちゃん! 貴女が戦う必要は「あるよ、お姉ちゃん!」……え?」

 

「私、今までお姉ちゃんに足手纏いって思われてたように感じてた。でも違った……お姉ちゃんは、私を守ろうとしてあんなことを言ったんだよね? さっき見せた表情でわかったもん」

 

「! それは……」

 

「でもそのせいで必要以上に負担が掛かっているんでしょ? だから私、戦う! お姉ちゃんがもう負担を背負わなくていいように……!」

 

「簪ちゃん……」

 

初めて妹が見せる覚悟に刀奈はたじろぐと同時に嬉しくなった。いつの間にか自分の妹は、自らの力で歩み出そうとしているのだと。

 

「……わかったわ。一緒に頑張りましょう、ね?」

 

「! うん!!」

 

「決まりだね」

 

ゲネシスドライバーと『E.L.S.-05』と書かれ表面がマツボックリの形をした、マツボックリエナジーロックシードを手に取った刀奈と簪が笑顔で見合う中、凌馬は目を閉じて微笑ましげに言った。

 

2人の様子を近くで見ていた一夏は、微笑みながら目に滲んだ涙を拭っていた。

 

「? どうした一夏。何故泣いている?」

 

「……うん、ちょっとね。私も春也と、ああいう風になりたかったなって……」

 

「一夏さん……」

 

箒に問いかけられた一夏が少し悲しげに言うと、セシリアがそっと手を握ってきた。貴女は1人じゃない……そんな気持ちが伝わってくるようで、一夏は嬉しくなった。

 

その時、オータムの携帯が鳴り、彼女はすぐに電話に出た。

 

「おう、どうした? ふむ……そうか、よしわかった。んじゃ、後は頼むぜ」

 

「誰からだい?」

 

電話を切ったオータムに凌馬が尋ねると、彼女は「ああ」と短く答えてから説明した。

 

「レイドワイルドからだ。連中、ウチの専属部隊と一緒にターゲットを追い詰めてるってさ」

 

「レイドワイルド?」

 

思わず一夏はオータムが言った名称を聞き返した。レイドワイルドと言う単語は聞いたこともない。彼女の疑問に答えたのは、オータムではなく凌馬だった。

 

「そういえばまだ説明してなかったっけ。レイドワイルドってのは、黒影トルーパーで構成されたセカンドチームのことで、主に君達が任務中でいない時に別の任務が入った際、出動して戦う部隊なんだ。メンバーはウチの若い社員がほとんどだけど、選抜された民間人も何人か参加しているよ」

 

ふうん、と一夏は頷いたがふと胸中に抱いた疑問を口に出した。

 

「その民間人から選ばれたメンバーに、私の知り合いっていますか?」

 

「ん? ああ、いるよ。君達にとっては、ちょっと意外かもしれないけど」

 

意外……それが何を指すかはわからなかったが、一夏にとって他の知り合いと言えばあの4人しかいない。

 

(まさかね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ・グランドキャニオン

 

一夏達がレイドワイルドのことを知った時、赤く染まった大渓谷が太陽の光に照らされたこの地で、当のレイドワイルド達は五機のISと戦っていた。

 

「そ、そんなバカな……ISが手も足も出ないだなんて!」

 

「年貢の納め時って奴だ。大人しく降参しろ!」

 

レイドワイルドの中で唯一試作型の戦極ドライバーで変身した、仮面ライダー黒影が槍型の武器・影松の切っ先を突き付けながら言う。

 

「巫山戯るな! まだ私達はやり遂げていないのよ!」

 

「男ばかりの政権を武力で崩壊させ、女性だけの、女性にとって優位な政権にする為にかい? それこそ巫山戯ていると思うけど」

 

黒影の隣に立つ、彼の親友と思しき黒影トルーパーが呆れたように言う。既に他のメンバーは捕らえられているのだが、往生際が悪く決して負けを認めようとはしなかった。

 

「黙れ黙れ黙れぇ! 貴様等男なんかに負けるくらいなら、私達は死を選ぶ!!」

 

「何を言っても無駄か……ならこっちも遠慮しねぇ! 行くぜみんな!!」

 

『『『応っ!!』』』

 

『『『ソイヤッ! マツボックリスパーキング!!』』』

 

一斉に戦極ドライバーのカッティングブレードを三回倒すと、相手が放った銃弾を回避するように高くジャンプし、高速回転しながら影松を持って体当たりをかました。当然ISが勝てる訳もなく、戦闘不能になり捉えられた。

 

「ようし、任務完了っと! お疲れ!!」

 

「うん、お疲れ!!」

 

『『『お疲れ!!』』』

 

変身を解除した黒影の正体―――五反田弾の声に黒影トルーパーの1人で親友の御手洗数馬。そして他のトルーパー達は笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、再び亡国機業(ファントム・タスク)。デスクワークを終えた凌馬が一息ついていると、束がお茶を持ってやってきた。

 

「お疲れ様、りょーくん」

 

「おや? 珍しいね。君がこんな時間にここに居るだなんて」

 

「1つだけ、確かめないといけないことがあってね」

 

「確かめること? 何かな?」

 

真面目な表情と声色になった束に、凌馬はお茶を一口飲んでから真剣な面持ちで彼女と向き合う。

 

「いっちゃんに渡した極ロックシードとカチドキロックシード……アレって何らかの要因でいっちゃんの心臓と融合したんじゃなくて、そうなる様に(・・・・・)プログラムしてた(・・・・・・・・)からなんじゃない?」

 

「……根拠は?」

 

「いっちゃんを守る為……でしょ? はるくんの理不尽から身を守ることができるように。あのロックシードには、人知を超えた力が秘められているから」

 

「やれやれ、何もかもお見通しか……君の言ったことは正しいよ。私は最初から彼女に力を与える為に、アレ等を渡した。それで、勝手な真似をした私を君は糾弾するのかい?」

 

「まっさか~! むしろ感謝しているぐらいだよ。いつも誰かがいっちゃんについていてあげる訳にもいかないし、身を守る力があるのに越したことはないから」

 

おどけたように笑みを浮かべた彼女は、「でも」と言葉を続けた。

 

「私だって、いっちゃんの為にできることなら何だってするんだから。私にできることがあったら言ってよ」

 

「うーん、そういうことなら―――」

 

溜めてあった考えを、凌馬は束に一つ一つ告げていった。



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第8話 織斑春也

彼―――織斑春也は幼い頃から、周りに賞賛されてきた。天才的とも言えるその頭脳を、類い希な身体能力を。だがそれは、偶然や努力で手に入れたものではなく、転生の特典として必然的に手に入れた力だった。

何故彼がそれ程までの力を求めたかと言うと、理由は単純。原作で一夏に惚れていた7人のヒロイン達を自分のものにする為だ。いくら先のことを知っていても、それに対処できなければ意味がない。力がいるのは当然だった。

そして見事力を手に入れた春也には、他にも自信があった。原作の一夏は異常な程に鈍感で唐変木で、ヒロイン達が暴走する切っ掛けを作ってしまったが、自分はそんな失敗はしない。一言一句聞き逃さず、フラグを折らないようにすることができる、と。

だが唯一、彼が懸念する材料があった。この世界における自分の双子の姉―――織斑一夏のことだ。特典で一夏は女になっているし、将来的には辱めを受けて死ぬ運命になっている……が、それは中学生になってからでその前に何か余計なことをしでかして、ヒロインとレズハーレムを作ることだって有り得る。彼はそう思い、千冬や周りの目が届かないところで彼女を虐めた。助けを呼べないように脅したりもした。時には誰かを嗾けて虐めさせた。決してバレないようにそうしたことを行いつつ、春也は篠ノ之箒と積極的に仲良くなろうとした……のだが、途中まで上手くいってたそれはある日を境に突然、向こうから露骨に避けられ始めた。

 

「どうしたの? 僕が何か悪いことでもした?」

 

そう聞くと、彼女は睨みながらこう答えた。

 

「自分の胸に聞いてみろ。詳しくはないが、私は知っているんだからな」

 

意味がわからなかった。もしかして、自覚が無いだけで何か酷いことでも言ったのだろうか。ISを発表する前の束に操縦方法をシミュレーターで教わりつつ、春也は箒と距離を詰めようとしたが結局避けられたままISが発表され、束と箒は自分の近くから居なくなった。このことに彼は少なからず憤りを感じ、一夏に八つ当たりしていたがその内気が晴れた。

 

5年生になると、凰鈴音が春也と同じクラスに転校してきた。気持ちを切り替え、春也は鈴と仲良くなろうとした。

日本語の発音のことでからかわれ虐められそうになった時に彼女を助け、それが切っ掛けで距離も縮まり始めた。……しかし、ここでまたしても予測不可能な事態が起きた。中学に上がった頃、箒の時みたいに鈴はある日突然春也を冷たい目で見てきて関わろうとしなくなったのだ。

一体何があったのか。箒の時と同じ問いをすると、鈴は怒鳴るように言ってきた。

 

「アンタ、自分が何したのかわかってんの!? あんなことするだなんて……最低! アンタなんか顔も見たくない!!」

 

益々意味がわからない。一体自分が何をしたのだろうか。わからないまま苛立ちだけが募り、しばらく一夏を気晴らしに虐めた。その後は弾や蘭に数馬と友達になったりしたが鈴には拒絶されたまま離ればなれになった。

 

何かがおかしい。そう思った春也だが、彼は決して慌てなかった。もし仮に原作から逸脱したことが起きても、繋がりをもった―――本人にとっても想定外だったが―――とある機関が指示通りに動いて補完してくれるだろう。だから安心して、こっそり買ったISの参考書を熟読しながら、第二回モンド・グロッソで一夏が行方不明になったことを思い出し笑いしていた。

 

そして―――

 

「ついに、ついにこの時が来たか……!」

 

彼は試験会場の一室に鎮座するISの前で感慨深く呟いた。いよいよ自分の名が世界に知れ渡る瞬間が訪れようとしているのだ。

 

「待ってろよ、みんな……僕は一夏とは違う。必ず幸せにしてみせるさ……!!」

 

他人からすれば歪んだものにしか見えない笑みを浮かべながら、彼はISに触れた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 入学……ですか? IS学園に?」

 

春也が世界で初めてISを動かした男性として報道されてからしばらく。一夏は凌馬の言葉に戸惑っていた。

 

「でもどうして私が? セシリアや箒とかはまだわかるけど」

 

「みんなと一緒の学校に入った方が、寂しくなくていいと思ったんだ」

 

「大丈夫なんですの? IS学園には織斑春也も入学するんでしょう?」

 

「織斑春也と2人きりにならなければ問題ないだろう。皆が居る前で暴力を振るう訳にはいかないだろうし」

 

「学園には私も居て常に目を光らせてるから、心配することはない」

 

「………………」

 

目を閉じ、黙考する一夏。このまま怖いことから目を背けていいのか? それとも立ち向かうべきか? 考えた末、彼女は目を開けて言った。

 

「わかりました……行きます、私も」

 

「本当にいいんですの、一夏さん?」

 

「いつまでも目を背けてちゃダメだから。ちゃんと、春也と向き合って話してみないと」

 

「お前がそんなことを言うとは…強くなったな」

 

覚悟を感じさせる一夏の言葉に、箒は微笑む。それを見ていた凌馬は、今度はセシリア達を見て話し始めた。

 

「後、セシリアちゃんとラウラちゃんは基本的に自分のISを使ってくれ。イレイザーっていう架空の会社の正式なテストパイロットという肩書きになる一夏ちゃんと箒ちゃんはともかく、国に所属している娘達が自国のISを使わないなんて、メンツが潰れちゃうからね」

 

「箒ちゃんとまーちゃんも同じだから、気をつけてね~」

 

「それはわかりますけど、だからって新世代型ISを作らなくても……」

 

「私なんかセシリアと同じ、イギリス側から出向したパイロットとして登録されてたぞ」

 

「それだけならまだマシだ。私とセシリアのISは……」

 

「ええ……」

 

4人ははぁ、とため息をついて顔を見合わせた。箒には束が完全新規で設計した第4世代型IS「紅椿」が、マドカには凌馬がイギリス政府と交渉して得たBT兵器搭載IS二号機「サイレント・ゼフィルス」が与えられていた。セシリアとラウラのISはこれまで使っていた「ブルー・ティアーズ」と「シュヴァルツェア・レーゲン」だが、欠点が気になった束によって改造が施されていた。

具体的にはブルー・ティアーズの方はビットがレーザーライフルと同時使用することが可能なまでに操作しやすくなり、レーザーライフルは途中から半分に分割でき、後ろ半分が実弾装備のマシンガンとして使えるようになった。シュヴァルツェア・レーゲンはAIC使用時に必要な集中力が軽減された他、(これはラウラ達には秘密なのだが)VTシステムが外された。

 

「り、凌馬さん。このことって簪や刀奈さんにも伝えなくていいんですか?」

 

「早めに伝えてあるよ。刀奈ちゃんは専用機を持ってるし、簪ちゃんはこれから貰うらしいから。…さて、最後になるけど千冬。君に渡したいものがある」

 

何だろう?と不思議に思う千冬に、凌馬は引き出しから出したソレらを持って立ち上がった。

 

「それは…ゲネシスドライバーとエナジーロックシード?」

 

「ようやく君の分が完成したんだ。いやはや、苦労したよ。君が存分に使いこなせるようにしなきゃならなかったからね」

 

「今後はこれを使って戦えと言うことか。いいだろう」

 

何度か頷くと、彼女はドライバーとロックシードを受け取りまじまじと見つめた。

 

「それにしても、一夏達は羨ましいぞ。先に入学することができて」

 

「ラウラはドイツ政府からの任務が通達されているそうだからな」

 

「お陰で途中編入しなければならん。祖国からの命令とは言え、全く間の悪い」

 

同情を含んだマドカの呟きに、腕を組んでむすっとした顔でラウラが若干の不満を口にする。

 

「というか問題ないのか? IS学園に行ってる間も依頼が来るのでは」

 

「あー、時々は頼むかもしれないけど、基本はオータムとレイドワイルドのトルーパー隊で賄うことにするよ」

 

「そういうことだから、お前等は安心して青春を満喫してろ」

 

ニッと笑うオータムに皆も釣られて笑う。その中でただ1人、凌馬は「いよいよだ」と内心決意を新たにしていた。



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第9話 再会!一夏と春也

四月 IS学園

 

(どういうことだこれは……何がどうなっている……)

 

一年一組の教室で、席に座った織斑春也は焦りと困惑を入り混ぜた表情で前の席に座る女生徒を見つめていた。

 

(アンタは死んだ筈じゃなかったのか、一夏姉さん!? それに後ろに居るコイツは誰だ!? 千冬姉さんにそっくりだが……)

 

春也の戸惑いを余所に、メガネを掛けた小柄な女性が壇上に上がって挨拶をした。

 

「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は副担任の山田真耶です。1年間よろしくお願いします」

 

だが誰も返事をしない。注目が一夏と春也、そして千冬にそっくりな少女へと向いているからだ。

 

「え、えっと……それじゃあ自己紹介をお願いします。と、取りあえず出席番号順に……」

 

(うーん、何か反応してあげれば良かったかも……)

 

オロオロとする真耶を見て、一夏は内心苦笑する。そうしていると前の人達の挨拶が終わり、一夏の名前が呼ばれた。

 

「織斑一夏さん」

 

「はい」

 

すくっと立ち上がると、後ろを向いて今日初めて見るクラスメイト達を見渡した。

 

「織斑一夏です。イレイザー社のテストパイロットを務めています。趣味は料理です。みんなとは少しでも仲良くなりたいと思ってます。一年間よろしくお願いします」

 

ゆっくりと一礼すると、周りから拍手が起こりそれに笑顔になりながら一夏は座る。続いて春也が席から立ち上がる。

 

「えっと、織斑春也です」

 

注目を集める中、彼はしばし溜める。そして……

 

「―――以上です」

 

『原作通り』の台詞を述べ、周囲をズッコケさせた。一夏は唖然とし、箒とマドカは呆れていた。するとそこへ千冬が現れ、春也の頭を出席簿で叩いた。

 

「まともに挨拶もできんのか、お前は」

 

「げっ! 関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄だ。……それより山田君。クラスへの挨拶を押しつけて済まなかったな」

 

「いえ、そんな」

 

これまた原作通りのボケを言った春也に千冬は軽くツッコむと、真耶と軽く会話して壇上に上がって行った。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で立派なIS操縦者に育て上げるのが仕事だ。これからよろしく頼む」

 

『『『きゃああああああああああああああああああああ!!』』』

 

自己紹介をした瞬間、周囲から黄色い歓声が沸き起こる。あまりの音量に、一夏達は手で耳を塞ぎながら顔を顰めていた。

 

「素敵! まさか本物の千冬様をこの目で見られるなんて!!」

 

「お姉さま! お姉さまに会う為に私、栃木からやって来ました!」

 

「私、お姉さまの為なら何でもします!」

 

騒ぎ出す生徒達を見て、さすがの千冬も「またか」と言いたげな困り顔で額を押さえた。

 

「……どうしてこうも、こういう奴らが私のクラスに集中するのだ。ある意味感心するが……嫌がらせなのか?」

 

「きゃあああああああ! もっと叱って! 罵って!!」

 

「でも時には優しくして! そして付け上がらない程度に調教してぇ!!」

 

((((この教室には変態しかいないの(か)(いませんの)……?))))

 

本当に誰かが仕組んだのではないかと思われる程の変態発言を発する生徒の多さに、揃って天を仰ぐ。このクラスで一年間やっていけるかという不安も、少し生まれていた。

 

「まあいい……それより織斑。学校では公私を分けて織斑先生と呼べ」

 

「わかりました千ふ…じゃなくて、織斑先生」

 

「やっぱり織斑君って、千冬お姉さまの弟なんだ」

 

「立場変わって欲しいなぁ……」

 

2人のやりとりを見ていた一部の生徒が羨ましそうに呟く。一夏は心の中で「変わったらかなり苦労すると思うよ?」と呟き、姉の私生活を思い出していた。

 

「大分流れが脱線してしまったな。自己紹介を続けてくれ」

 

「わかりました。では…織斑マドカさん」

 

「はい」

 

場を仕切り直すように言うと、真耶がマドカの名前を呼ぶ。返事をして立った彼女に、春也は驚きながら振り向いた。

 

(マ、マドカだって!?)

 

「織斑マドカだ。訳あってイギリスの親戚のところに住んでて、今は一夏姉さんと同じくイレイザー社のテストパイロットをやっている。趣味は読書だ。一年間よろしく頼む」

 

一礼して席に座ると、周りがざわざわとマドカについてあれこれ話し始める。

 

「妹だったのかぁ。道理でそっくりだと思ったわ」

 

「何かまるで、織斑先生をそのまま小さくした感じ」

 

「喋り方も織斑先生そっくりね。頑張って背伸びしてるみたい」

 

「それ私も思った!」

 

「おい、どういう意味だそれは」

 

「ま、まあまあ……」

 

一部の女生徒が言ったことにマドカがムッとして睨み、一夏が春也を挟んで宥めていた。

その後自己紹介が進んでいき、セシリアの番が終わった丁度その時―――千冬がふと問いかけた。

 

「オルコット。一夏は『あのこと』を言ったのか?」

 

「いえ、言っていませんが……私の口から告げた方がよろしいのでしょうか?」

 

「……そうだな、言ってしまえ。後々になって発覚して面倒事になるよりはマシだ」

 

(え! い、言って大丈夫なの?)

 

セシリアと千冬を交互に見ながら、一夏はこれから恋人の言う事実で何か問題が起きないか心配した。そんな彼女を余所に、『あのこと』が何なのか気になるクラスメイト達にセシリアは凛として告げた。

 

「実は私、織斑一夏さんとは将来を誓い合った仲なんですの」

 

教室がシーンと静まり返った。「ああ、やっぱりダメか……」と気を落としていた一夏だったが―――

 

「き……」

 

「?」

 

「きゃあああああああああああ!! 百合よ! リアル百合カップルよぉ~!!」

 

「初めて見たわ! 生きてて良かったぁぁああああああああ!!」

 

「応援するから、2人とも幸せになってね!!」

 

(う、嬉しいけどこれは予想外だよ……)

 

(一瞬気圧されましたわ……)

 

クラスの女子達に祝福され、一夏やセシリアはホッとしつつも怒濤のような勢いに驚かされていた―――そこへ。

 

「ち、ちょっと待ってくれ! みんな普通に受け入れてるけど、それでいいのか!?」

 

ガタッと席を立った春也が混乱気味に言う。死んだ筈の姉と、攻略する筈だったセシリアがそういう関係になっていたのだから、無理もない。

 

「なんだ? 一夏姉さんとセシリアの関係にケチをつける気か?」

 

「ケチって…僕はただ……」

 

「織斑君。気持ちは凄くわかるけど、応援してあげようよ。大丈夫、すぐに慣れるって」

 

「うんうん。私も弟がソッチ系だと知った時は一時期愕然としたけど、今じゃ普通に接しているし」

 

(そんなことどうだっていい。セシリアが……僕のセシリアが……クソッ!)

 

よりにもよって同性、しかも双子の姉に奪われてしまったと春也は憎々しげに一夏を睨み付けた。そんな心情に気づく筈もなく、一夏は受け入れてくれた嬉しさを噛み締めながらクラスメイト達の自己紹介を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SHRが終わると続いてISの授業へと入った。必死で勉強した甲斐があり、授業で遅れることは無かった……が、先ほどの一件でやや視線を集めているのが少し気になった。それはセシリアも同様で、授業が終わると同時に一夏の元にやってきてため息をついた。

 

「やっぱり視線を集めてしまいましたわね……」

 

「セシリアがカミングアウトするからだよ。結果オーライだったけど」

 

「この程度の視線なら些細なことだろう。少なくとも、コイツよりはマシだ」

 

クラス中だけでなく、クラスの外から見に来ている生徒の視線を受け続けている春也を横目で見てマドカは肩を竦める。

 

「言えている。だがコイツの場合、同情の念は沸いてこないが」

 

「おいおい、いくらなんでもそれは酷いんじゃないかな?」

 

鼻で笑って言う箒に、苦笑しながら春也が声を掛けた。一夏以外の3人の目つきが険しくなる。

 

「……何の用だ、織斑?」

 

「君と話したいことがあるんだ、箒。できれば人がいないところでさ」

 

「断る。貴様と話すことなど何もない」

 

即答で断られたことに顔を引きつらせると、今度は一夏の方を見て言った。

 

「じゃあ姉さんと2人で話すことにするよ。それならいいだろう?」

 

「え、私?」

 

「でしたらここで話して貰えないでしょうか?」

 

「若しくはこの中の誰かが同行するとかな」

 

「そんな警戒しなくてもいいじゃんか。僕と姉さんは姉弟なんだし」

 

どの口が言うか―――と箒達は思って食い下がろうとしたが、一夏はそれを制した。

 

「いいよ、行こうか」

 

「大丈夫なんですの?」

 

「うん」

 

立ち上がり春也の後に続く一夏。春也は歩きながら、原作とは違う出来事に対する疑念を並べていく。

 

何故織斑マドカがここに居るのか。

何故セシリアが姉と同性カップルになっているのか。

何故箒からあんなに冷たくされたのか。

 

その答えは意外にもすぐに出た。

 

(全部一夏姉さんのせいだ。一夏姉さんが生きてたからこうなったんだ! このままだと今後の出来事が起きなくなるかもしれない……いや、それは『奴ら』に連絡すれば解決するか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝手な結論を出した春也は誰もいない屋上へと辿り着くと、一夏を先ほどの爽やかさとは打って変わった表情で睨み付けた。

 

「……で、話って何? そんなに怖い顔してさ」

 

「まさか一夏姉さんが生きてるとは思ってなかったよ。てっきり死んだと思ってたのに」

 

「本当に死んで欲しそうな言い方だね」

 

「そりゃそうさ。一夏姉さんは織斑家の汚点だからね。しかも同性愛者の変態にまで落ちぶれているとか……」

 

呆れたように春也は言う。今までなら自分を傷つける言葉に身体が動かなかったが、支え合う仲間達を得た一夏にとって、それは怖くもなんともなく逆に怒りが込み上げてきた。

 

「言いたいことはそれだけ?」

 

「は?」

 

「同性愛が普通じゃないってことぐらいわかってる。でも、貴方にだけはそれを否定されたくない!!」

 

「何……!?」

 

「セシリアはこんな私を支えてくれた……傷ついた私と愛し合ってくれた! 今まで否定されて来た私には、大きな希望になったの! それを否定されてたまるか!!」

 

「コイツ、言わせておけば!」

 

殴りかかる春也だが、一夏はその手を掴むとカウンターで腹に膝蹴りを入れた。

 

「がっ!」

 

「私はもう、昔の私じゃない。いつまでも貴方に怯えてばかり居ると思ったら、大間違いよ!」

 

屋上から去っていく一夏。蹴りのダメージが抜けきらない春也は、その背中を見ながら呟いた。

 

「アイツ、よくも僕に……! 覚悟しろよ。いつか必ず殺してやるからな……!!」



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第10話 対決への火種

「では四時間目の授業を始める……と、その前に再来週に行われるクラス対抗戦の代表者を決めねばな。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会へも出席する。言わば、クラス長だ。なおクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりでいろ。自薦他薦は問わん。誰かいないか?」

 

授業開始直後に言った言葉で、クラス全体がざわざわとし始める。一夏は「推薦するならセシリアかな?」と、セシリアは「思い切って自薦してみましょうか」と考えていると……。

 

「はい! 織斑君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います!」

 

1人の女子の発言を皮切りに、一気に春也を推していくムードへと変わっていく。

 

「僕が? できるかなあ(よし、いいぞ。これでもうすぐセシリアがキレる……!)」

 

戸惑った表情の裏で、春也は何もかも予想通りといった笑いを浮かべていた。そして―――

 

「待って下さい!」

 

声を張り上げてセシリアが手を挙げた。手で机を叩いて立ち上がるのでは?と春也は疑問に思っていたが、些細な違いだと気にとめなかった。

 

「何だ、オルコット?」

 

「確かに男性である織斑さんがクラス代表になれば、皆さんが思うように広告塔になります。ですが、クラス代表になるからには実力が伴っていなければいけないと私は思います。そこで―――」

 

一旦言葉を切って間を開けると、一夏をチラッと見て再び千冬に向かって告げた。

 

「―――私は一夏さんを代表として推薦し、且つ私自身も立候補致しますわ」

 

「え! 私も!?」

 

ビクッと体を震わせる。すると周りが再びざわざわし始める。

 

「言われてみるとそうよね。インパクトだけあって実力が無ければ意味ないもの」

 

「手堅く代表候補生がなるのが一番なのかな……あれ? じゃあ何で織斑さんを推薦したんだろ」

 

「実力を認めてるってこと?」

 

「織斑さんも強いのかな?」

 

しばし意見が飛び交っていると、千冬がパンパンと手を叩いて声を張った。

 

「静かに! さて、複数の候補者が出たが……オルコットの言う通り、クラス代表には実力が伴ってなければならない。そこでだ。一週間後の月曜日の放課後に、第3アリーナでISによるクラス代表決定戦を行い、勝ち数の多い者へクラス代表になるならないの権限を与えようと思う。各々、その間にできる限りの準備をするように」

 

「はい」

 

「は、はい(ホントに大丈夫かな……)」

 

(まさかセシリアがあんなことを言うとは……まあいい。結果的には原作通りの流れになったし、これで僕に惚れさせれば……)

 

内心ドキドキする一夏の後ろで、春也はニヤリと誰にもわからぬようほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、織斑君。教室にいたんですね」

 

放課後。教科書類を整理していた春也のもとに、真耶が書類を持って現れた。「ああ、寮の鍵のことか」と思いながら春也は返事をした。

 

「何か用ですか、山田先生?」

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました。これが鍵です」

 

「あれ? 確か一週間は自宅から通う筈では」

 

鍵を受け取りながら、春也は想定していた質問を口にする。真耶は困ったような顔をしてそれに答えた。

 

「大きな声じゃ言えませんけど、政府の命令で急遽決まったんです。身の安全もありますし」

 

(そりゃあそうだよな)

 

たった1人の男性操縦者が外を出歩けば、どんな危険が待っているかわからないことは彼は十分承知していた。

 

「あ、でも荷物とかどうしたらいいでしょうか?」

 

「安心しろ。既にお前の荷物は手配済みだ」

 

新たに問いかけたところで千冬が現れて言った。いきなり目の前に現れたことに一瞬驚くも、春也は笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます(どうせ最低限度の物しか入ってないんだろうけど)」

 

「では、私はこれで失礼しますけど、確認事項だけ一通り言いますね。部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年毎に使える時間が異なりますけど、今のところ織斑君は使えません。それから、今後夕食は六時から七時に寮の一年生用食堂で取って下さい。1人部屋ですけど、もし何か問題があったら遠慮無く言って下さい」

 

(やっぱり相部屋じゃないのか。チッ、これも一夏姉さんのせいだ……! このままだとこれから起こる筈のイベントも起きなくなる可能性がある。ここは奴らに連絡しておくべきだな)

 

箒との相部屋ではないことに苛立って一夏に対して怒りを滲ませるが、すぐに納めて考えると指定された部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏とセシリアはこれから一緒に住むことになる部屋を軽く見渡していた。

 

「中々良い部屋ですわね。ただ壁の色が個人的にイマイチな気がしますわ。いっそ壁紙を調達してしまいましょうか?」

 

「そんなことより、何で私まで推薦したの? とてもじゃないけど代表やれる自信なんてないよ」

 

「ええ、わかっておりますわ。ですからならなければいいのです」

 

「? どういうこと?」

 

ベッドに座るセシリアの隣に腰掛けながら、一夏は問いかける。何故彼女は一夏を推薦したのか。少し間を開けて、その真意を語り始めた。

 

「いいですか? 千冬義姉様は『勝ち数の多い者へクラス代表になるならないの権限を与える』と仰いました。つまり、あくまで権限を与えられるだけで別にクラス代表にならなくてもいい筈でしてよ」

 

「そ、そういうもんなんだ……でも、ならどうして推薦したの?」

 

「代表決定戦を発生させ、そこであの男に一夏さんの実力を見せつけて貰う為ですわ」

 

「……!」

 

一夏は目を見開いた。セシリアは彼女に、春也への蹴りをつける為に行動を起こしたのだ。

 

「……勝てるかな? 私に」

 

「一夏さんなら、必ず勝てますわよ」

 

「そっか……そうだよね。よし! 昔とは違うってことを、春也に身を以て教えてやるよ!」

 

「その意気ですわ!」

 

力強く宣言する一夏に満面の笑みを浮かべる。その笑顔に彼女は顔が熱くなり、その様子を見たセシリアもまた気分が高揚していた。

 

「セシリア……今、2人きりだね……」

 

「そう、ですわね……」

 

「……しちゃおっか……?」

 

「……ええ。来て下さいまし……」

 

「じゃあ……んっ」

 

そっと顔を近づけて優しく口付けする。しかしそれはすぐに激しいものへと変わっていく。

 

「ん……んぅ……! 好き…大好き、セシリア……!!」

 

「私も……愛して、んっ! いますわ……一夏さん!!」

 

器用にキスしたまま服をはだけさせ合いながら、2人は倒れ込んで想いを交わした……



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第11話 開幕!クラス代表決定戦!

一週間後。クラス代表決定戦が行われる日が訪れた。一夏とセシリアが居る側のピットでは、2人の他に箒とマドカ、簪が応援に駆けつけて来ていた。

 

「いよいよ奴との試合か……コンディションの方は万全だろうな?」

 

「勿論だよ箒」

 

「問題ありませんわ」

 

「まあ一夏姉さんとセシリアなら大丈夫だろう。相手の機体はブレードが一本だけみたいだし」

 

i-padに表示された春也専用IS『白式』を見ながらマドカが言う。今日搬入されたばかりだが、どうにかデータを入手できたのだ。

 

「これが白式……」

 

画面に映る機体を複雑そうに簪が見る。そんな彼女の表情に、一夏はあることを思い出した。

 

(そういえば簪のISって、春也の専用機にスタッフを取られたせいで開発が一時期滞っていたんだっけ)

 

「? 一夏?」

 

「え、何? 簪?」

 

「じっとこっち見てたから……どうかしたの?」

 

「いや、さ……簪の専用機のこと思い出してて。この前あんなことになったんだし、気にしてるんじゃないかなぁって」

 

見られていることを不思議に思って尋ねた簪に、言葉を選びながら答えると彼女は「ああ、そのことか」と何度か頷いた。

 

「別に気にしてはいないよ。もう過ぎたことだし、凌馬さんが開発を請け負ってくれたから。ただ……」

 

「ただ?」

 

「この子が可哀想だなって。こんなに綺麗な機体なのに、あんな奴に使われることになって」

 

「それは言えてるな。あんなクズが操縦者ではな……」

 

同情を含んだ簪の発言に、マドカも嘆息をつきながら機体のデータを眺める。そしてチラッと時計を見てからセシリアを向いた。

 

「そろそろ試合開始時間だ。お前が先に行く筈だったか?」

 

「ええ。では行ってきますわ」

 

「頑張ってね」

 

「勿論ですとも」

 

応援の声を掛けた一夏に微笑むと、ブルー・ティアーズを展開してカタパルトに移動する。

 

「セシリア・オルコット。ブルー・ティアーズ……発進!!」

 

背面のスラスターを噴かし、セシリアは戦いの場へと躍り出た―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 春也はまだ出てきてないんだ」

 

「機体の到着が遅れているかもしれん……っと、言ってたら出てきたぞ」

 

腕組みしながらアリーナが映るモニターを見ていた箒が、出撃してきた白式の姿を視認する。だがその姿にある違和感を彼女は抱いた。

 

「ん? おいちょっと待て。白式はまだ初期形態のままじゃないか?」

 

「え!? そんな状態でどうして?」

 

「時間が無かったんだろうさ。ま、この状況で奴がどう動くかは見物だが」

 

「あっ、もう始めたみたい。セシリアが先に仕掛けた」

 

試合展開をいち早く察知した簪により皆がモニターを注視すると、ライフル形態の『スターライトmkⅢ』で牽制を行うセシリアの姿が見えた。

 

「どうも狙いが本気じゃないな。相手が初期形態だと気づいているのか?」

 

「多分そうかも。セシリアのことだから、自分と同じ土俵に立たせてから完膚無きまでに叩きのめすんじゃないかな?」

 

「一夏がそう言うなら、間違ってないと思う」

 

「だな。一夏姉さんは彼女のことをよく知っているし。……ん、どうやら勝負が動きだしそうだ」

 

モニターを見るマドカの目には、一次移行(ファーストシフト)して形状と色合いが変化した白式の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(結局ビット兵器は使って来なかったか……何を考えている?)

 

一次移行(ファーストシフト)を終え、春也は近接ブレードが変化した雪片弐型を握り締めてセシリアを見据える。

 

(何にせよ一次移行(ファーストシフト)は完了したんだ。後は零落白夜の使い所にさえ気をつければ……!)

 

原作の一夏は零落白夜を使用した為にエネルギー切れで敗北となってしまった。だが彼はそれを知っているので自滅しない自信があり、勝利できる可能性も考えていた。

 

その直後、ブルー・ティアーズから四機のビットが分離。春也にレーザーを一斉射してくる。それを回避すると、雪片弐型を振りかぶって接近していく。が……

 

「ぐわっ!?」

 

背中に衝撃を感じて思わず振り返る。彼の目にはビット達が動き回りながらレーザーを放ち、更にそれが曲がる光景が見えた。

 

(な、何だこの動きは!? それに偏向射撃だって!? バカな、タイミングが早すぎる!!)

 

混乱しかけるが、すぐに頭を冷やしてスラスターを全開にし、スターライトmkⅢによる攻撃もお構いなしに突っ込んで零落白夜を発動―――

 

「甘い…甘過ぎますわ」

 

―――したのだが、セシリアはスターライトmkⅢの銃身を分割してマシンガンモードへと切り替え、フルオートでビットと共に撃った。

 

「なっ、実弾兵器!? 何故そんな隠し球が……うおわぁっ!?」

 

自分が持つ知識とは異なる現状と本来存在する筈の無い武器に驚愕したまま、春也は撃墜されエネルギーが尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアとの試合に敗北した春也は、機体のエネルギーを回復させながら試合内容を思い出していた。

 

(操縦技術は明らかに向上していた……少なくとも束さんが作ったシミュレーターを使い続けている僕以上に、だ。しかもライフルが分割するなんて原作にない。一夏姉さんが関わったことで何かしら変化が起きているんだ、きっと……チッ)

 

またアイツか―――苛ついて舌打ちするが、すぐに気持ちを切り替えて次の試合へと集中する。

 

(そうだ。次は一夏姉さんと戦うんだ。そこで今度こそ、再起不能なまでに叩きのめしてやる!)

 

(何を考えているのやら……どうせ碌でもないことだろうな)

 

雪片弐型を強く握り締めてニヤリと笑う春也を見て、千冬は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ、セシリア! カッコ良かったよ」

 

「ありがとうございます、一夏さん」

 

ピットに帰還したセシリアはISを解除すると、駆け寄って労いの言葉を掛ける一夏と微笑み合う。

 

「おいおい、帰ってきて早々にイチャつかないでくれ。周囲の温度が高くなる」

 

「今更だろ。それより次は一夏と織斑春也の試合だ。気張って行くんだぞ」

 

「任せて!」

 

自信満々に頷くと、エネルギーが回復した白式が出撃するのを見計らってアリーナへと歩き始めた。

 

「待って、変身しないの?」

 

「ん…折角だからさ。みんなに見せたいと思って。私の―――変身を」

 

呼び止めた簪に微笑んで言うと、一夏は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナでISを纏って待機していた春也や、観客達は目を疑った。一夏は生身の状態で歩いて現れたのだ。

 

「……どういうつもりかな、一夏姉さん。僕と戦う気は無いとでも?」

 

「違うよ。私の変身、見て欲しいんだ……貴方にも…みんなにも」

 

春也を見上げながら戦極ドライバーを腰に当てて装着すると、右手に握り締めたオレンジロックシードを解錠する。

 

『オレンジ!』

 

解錠と同時に頭上にオレンジアームズが出現し、ゆっくりと降下し始める。その光景は目にした者全てを驚愕させた。

 

『な、何あれ!?』

 

『鎧? オレンジ?』

 

「こ、これは……!」

 

「行くよ春也……変身!」

 

『ロック・オン!』

 

オレンジロックシードを戦極ドライバーの窪みにセットしてロックを掛けると、認証音声と共にホラ貝のBGMが会場中に響き渡る。視線が更に集まってくる中、一夏はカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにする。

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

一気にアームズが頭部に被さり、全身をアンダースーツで覆われると同時に展開して鎧になって装着。彼女の姿を仮面ライダー鎧武 オレンジアームズに変えた。

 

(その姿、やっぱり……!)

 

「覚悟して。ここからは、私のステージなんだから!」

 

ISモードに切り替わった鎧武はPICで宙に浮いて、左手に持った大橙丸の切っ先を春也に向ける。これまで感じていた疑念がとある確信へと変わりながら、春也は雪片弐型を握り直す。

 

「言うじゃないか。一夏姉さんの分際で……調子に乗るな!!」

 

瞬時加速(イグニッションブースト)を発動させ、一気に接近して鎧武に斬りかかるが―――

 

「それはこっちの台詞!!」

 

大橙丸で防御され、腰のホルダーから引き抜いた無双セイバーで斬りつけられる。

 

「ぐっ! この!」

 

今度は別の方向から攻めたり、急角度で攻め込んで行くがいずれも鎧武には届かない。全て防御されるか受け流され、その度に攻撃を受けていた。

 

「ええい! だったらこれでどうだ!」

 

業を煮やした春也は再び瞬時加速(イグニッションブースト)を発動。鎧武の目前まで接近すると動きを変え、姿を消したと錯覚させた上で真下を潜り抜ける形で背後へ回り込む。そして必殺の零落白夜で振りかぶる……。

 

『ソイヤッ! オレンジスカッシュ!!』

 

「やああああああっ!!」

 

……鎧武はそれを読んでいたかのように、カッティングブレードを倒し振り向きながら回し蹴りを放つ。

 

「っ!? ぐほぁあああっ!!」

 

あまりの反応速度に動きが鈍った春也は必殺の無頼キックをモロに食らって墜落。敗北した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合の様子を見ていたセシリア達は、一夏の勝利を喜ばしく思っていた。

 

「さすが一夏さんですわ」

 

「エネルギーも最後のキックで使った以外には減っていない。完封勝利だ」

 

「これで奴も身に染みただろうさ。もう一夏姉さんは、お前なんか怖くも何ともないってことが」

 

「それより次は一夏とセシリアの試合だけど、どっちが勝つと思う?」

 

「「どっちがか……むう……」」

 

顔を見合わせて唸る箒とマドカ。正直なところ予想がつかないのだ。時には一夏が勝利し、時にはセシリアが勝利する。2人の戦いはそんな調子だったのだから。

 

「そう悩まないで下さいな。私は一夏さんとの勝負なら、勝っても負けても悔いはありませんもの」

 

「そうは言うが……って、お前何故ISを解除してアリーナへ向かう? まさか……」

 

「ふふっ。一夏さんと戦うのなら、こちらの方が良いですから」

 

懐から取り出した戦極ドライバーを見せると、彼女は一夏と同様に歩き出した。



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第12話 全力対決!鎧武vsバロン!

「あれ、セシリア? 何でIS外してるの?」

 

エネルギーを回復させた鎧武は生身で出てきたセシリアに首を傾げ、地面に降り立って問いかける。

 

「それは……こういうことだからですわ」

 

戦極ドライバーを一夏だけではなく観客達にも見えるように翳すセシリア。案の定、他の生徒達はまたもや驚いていた。

 

『ち、ちょっと! アレって織斑さんが使ってたのと同じじゃない!』

 

『嘘! じゃあオルコットさんって、専用機を2つも持ってるってこと!?』

 

「……どうして『そっち』を?」

 

「一夏さんと戦うのなら、こちらの方がいいと思いましたの。それに私も……私の変身を、皆さんに見て欲しいんですの」

 

セシリアは腰に戦極ドライバーを宛がって装着すると、バナナロックシードを解錠してくるりと回す。

 

「変身!」

 

『バナナ!』

 

上空にバナナアームズが出現して降下し始める。セシリアはバナナロックシードを戦極ドライバーにはめ込んで施錠し、ファンファーレのような音楽が流れる中カッティングブレードを倒して輪切りにする。

 

『ロック・オン!』

 

『カモン! バナナアームズ!』

 

頭部にバナナアームズが覆い被さり、アンダースーツが装着……されたのはいいが、それを見ていた女生徒の1人が思わず口走った。

 

『え、バナナ!? バナ、バナナ!?』

 

「……バロンですわ!!」

 

『Knight of Spear!!』

 

ムッとしながら叫んだ直後、アームズが展開して鎧となって上半身に装備。仮面ライダーバロン バナナアームズに変化した。

 

「さあ……行きますわよ、一夏さん!」

 

「わかってる。いつもと同じで、全力だよ!」

 

大地を蹴って2人が走り出す。勢いよく振られた大橙丸とバナスピアーがぶつかって火花を上げ、鍔迫り合いになる。

 

「くっ……はああっ!!」

 

バロンは力を込めて押し返すと、バナスピアーで鎧武の装甲を連続で斬りつけていく。

 

「きゃっ!? まだまだぁ!!」

 

無双セイバーを取り出した鎧武は素早く弾丸をチャージするとバロンに発射。バナスピアーで防御した隙を突き、大橙丸と無双セイバーで攻撃していく。

 

(やりますわね……ですが!)

 

『カモン! バナナスパーキング!!』

 

カッティングブレードを三回連続で倒してバナスピアーにエネルギーをチャージすると、勢いよく地面に突き刺す。瞬時に足下から無数のバナナ状のエネルギーが現れ、鎧武はバックステップで回避する。

 

『カモン! バナナスカッシュ!!』

 

再びバロンの戦極ドライバーから音声が流れ、武器を捨てたバロンが足を開いてゆっくりと腰を落とす。

 

「っ!」

 

『ソイヤッ! オレンジスカッシュ!!』

 

それを見た鎧武も同様にカッティングブレードを倒し、バロンと同じような構えをつくる。そして―――

 

「「はっ!」」

 

足を揃えて勢いよくジャンプすると、空中で一回転しながら鎧武は右足を、バロンは左足を前に突き出す。

 

「やああああああああああっ!!」

 

「はああああああああああああ!!」

 

空中で2人のキックがぶつかり合い、余剰エネルギーが波動のように溢れ出る。拮抗し続け、無限に続くと思われたこの対決は溢れたエネルギーの爆発で終わり、観客達が気づいた時には鎧武とバロンは先ほどとは真逆の位置で立っていた。だが……

 

「っ……!」

 

膝をついたのはバロンの方だった。直後にスピーカーから試合終了の声が発せられた。

 

『試合終了! 勝者、織斑一夏!!』

 

万雷の拍手が、戦い終えた鎧武とバロンを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後ピットに帰還した一夏とセシリアを、簪達は暖かく出迎えた。

 

「2人とも、お疲れ様」

 

「今回は一夏の勝ちだったようだな」

 

「正直危なかったけどね」

 

「でも、次は負けませんわよ」

 

「それはそうとして、些か決着の付け方が早くないか?」

 

「「だってセシリア(一夏さん)と2人でゆっくり休みたかったんだもん(ですもの)」」

 

疑問を述べた箒に2人はあっけからんと答え、マドカは半ば呆れたように左手で首元を仰ぎながらため息混じりに言った。

 

「はいはい。そういうのは自分らの部屋でやってくれ。やたら雰囲気が甘くて仕方ない」

 

「え、そんなに甘い?」

 

「十分甘いよ。お姉ちゃんだって、最近じゃからかうより先にダウンするぐらいだし」

 

「相当だな……」

 

一夏とセシリアの放つラブラブオーラの凄まじさに驚愕しつつ、皆は談笑しながらピットを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(セシリアまで……仮面ライダーに……!)

 

反対側のピットで鎧武とバロンの試合を見ていた春也は、内心呟きながら呆然としていた。

 

(この世界に仮面ライダー鎧武は存在しない。あれを作ることができるのは―――間違いなく『アイツ』しかいない)

 

自分と一緒に転生し、今まで一度も会ったことのない親友を思い浮かべ、彼は拳を握り締めて同時に歯ぎしりした。

 

(きっと一夏姉さんもアイツが助け出したんだ。クソッ、前世でも度々邪魔して来たと思っていたらこの世界でも邪魔をするか……!)

 

怒りが頂点に達しようとしていた時、彼はハッとして深呼吸で心を落ち着かせると、冷静に状況を判断していく。

 

(戦極ドライバーをセシリアが持っていたということは、おそらく他のヒロインや束さんとも関わっている筈だ。おそらく目的は原作の展開を起こさせないつもりか……だが甘い! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるんだからな)

 

携帯電話を手に取ると、春也はあるところへ電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、一年一組のクラス代表は織斑君に決定です」

 

翌日。山田先生は朗らかな笑顔と共にそう告げた。しかし話を聞いていた春也は疑問に思い尋ねた。

 

「あの、すいません。僕、負けましたけど……何故?」

 

「それは私達が辞退したからですわ」

 

疑問に答えたセシリアに、春也ははたと思い至った。原作ではこの試合が結果でセシリアが一夏に惚れたのだ。同じ白式を駆る自分にも、万に一つの可能性があるのなら―――

 

「貴方はまだ実戦経験が少ないのでしょう? クラス代表になれば、試合回数が増えて経験を積むことができる筈。それに個人的な事情なのですが……私達のどちらかが代表になると、プライベートで一夏さんと会える時間が減ってしまうでしょうし」

 

―――残念だが、その僅かな可能性さえ打ち砕かれたようだ。

 

「いやぁ、わかってるねセシリア!」

 

「せっかく世界で1人しかいない男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとね~」

 

「織斑君は貴重な経験が積めるし、他のクラスの子には情報が売れる! 1粒で2度おいしいね!」

 

クラスメイト達からは好評で、自分の株が下がっていないことにまずは安堵する。とはいえ、セシリアが自分のものにならないことが確定したのは彼にとって痛手だった。

 

(あの身体を好きに出来ないのは惜しいが……まあいいか。他にヒロインは幾らでもいるし、仮に全員がダメでもその時は二軍の奴らを口説けばいい)

 

「クラス代表は織斑春也に決定。異存はないな……では、授業を始める」

 

授業が始まる直前まで、春也は誰にもわからぬようニヤニヤしながら考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に翌日。

 

「それでは織斑君! クラス代表決定おめでとう!」

 

「おめでとう~!」

 

クラッカーが放たれ、一斉に乾杯をする。春也のクラス代表就任パーティーが始まったのだ。当の春也は女子達に囲まれて騒がれ、大いに戸惑っていた。

 

「……うわぁ。私、代表にならなくて良かったかも」

 

「揉みくちゃにされるのは御免ですものね。そうなるなら、一夏さんとこうしている方がずっと楽しいですし」

 

苦笑する一夏に、セシリアは言い終えると「はい、あーん」とお菓子を食べさせた。

 

「ったく、姉さん達は安定してるな」

 

「むしろはっちゃけてとんでもないことになるかもしれん」

 

「マジか。私、とても耐えられる自信ないぞ?」

 

甘々な雰囲気の2人を見ながら、箒とマドカはソフトドリンクをぐいっと飲み、近くの生徒達と適当に話をする。元より春也のことには興味が無いので、純粋にパーティーを楽しんでいた。

 

「はいはーい、IS学園新聞部でーす。本日は話題の新入生、織斑春也君の特別インタビューをしに来ました~!」

 

その時、教室に1人の女生徒が入ってきた。話の内容から察するに新聞部に所属する上級生がインタビューに来たのだ。彼女は春也に一通りインタビューをすると、メモを取って一夏達のところへやってきた。

 

「失礼。織斑一夏さんとセシリア・オルコットさんかしら?」

 

「そうですけど?」

 

「私は二年の(まゆずみ)薫子(かおるこ)。貴方達のことは概ね耳に入れているわ」

 

「はあ……それでどういったご用件で?」

 

「私事なんだけど、2人のこと……応援してるから。風当たりが強くても、負けないでねっ」

 

それだけ言うと、薫子は一組を去って行った。

 

((((……いい人だな(ですわね)、あの人))))

 

この瞬間、4人の心は一つになった。



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第13話 中国からの転校生

「転校生? 今の時期に?」

 

クラスメイトから聞いた情報に、一夏は怪訝そうな顔をした。だが次の一言で彼女はあることに思い至った。

 

「うん。中国の代表候補生らしいよ」

 

(中国? てことは……あの子かな?)

 

懐かしむような表情に、セシリアは一夏が昔の友人のことを思い浮かべているのだろうと思い、尋ねた。

 

「一夏さん。もしかして今度の転校生、一夏さんの知り合いではないのですか?」

 

「え? ああ、確証は無いけど。中国の友達と言えば1人しか居ないから」

 

「織斑さんの友達ってことは、織斑君の友達でもあるの?」

 

「まあね。それなりに良い付き合いはしていたよ」

 

「何にせよ、頑張ってね! 織斑君が勝つとクラスみんなが幸せになるんだから!」

 

「ああ、スイーツパスのことか」

 

みんなが盛り上がっている原因を悟ったマドカが頷く。正直なところスイーツパスにさして興味はない。ただ、織斑春也が手も足も出ずに負ければいいと思っていた―――その時。

 

 

 

「その転校生って……私のことかしら?」

 

 

 

教室の入り口から1人の女子の声が聞こえた。それは一夏と春也にとっては聞き覚えがあり、懐かしい人の声であった。

 

「生憎だけど、二組の代表を変わって貰ったの。だから楽に勝てるとは思わないことね」

 

宣戦布告の言葉を投げかけつつも、彼女の視線は一夏を向いていた。そして……

 

「まあそれはともかく……久しぶりね、一夏」

 

「鈴…やっぱり鈴なんだね! 久しぶり!!」

 

「やっぱりって何よ~? 私が凰鈴音以外な訳無いっしょ?」

 

近づき笑顔で握手をする一夏と、活発な印象の女生徒の(ファン)鈴音(りんいん)。久しぶりの再会に2人の心は躍っていた。

 

「思った通りでしたのね」

 

「あ、うん……鈴。彼女達は―――」

 

「皆まで言わなくてもいいわ。みんなのことなら聞いているから」

 

「え?」

 

"聞いている"……その意味を問おうとしたが、寸前で邪魔が入った為言えなかった。

 

「やあ鈴、久しぶり。一夏とばかり話してないで、僕とも話してよ」

 

「……何よ織斑春也。アンタなんかに用は無いわ」

 

目に見えて鈴の機嫌が悪くなった。だが春也はめげずにいつもと変わらぬ表情で、鈴に話し続けた。

 

「冷たいなぁ。それに呼び方も、前みたいに春也って呼んでよ」

 

「冷たいですって? そりゃあ、アンタが一夏にしたことを見たら誰だってそうなるわよ」

 

鈴の放った一言は、春也だけでなく一夏達にも衝撃を与えた。彼女はセシリア達同様、一夏が春也から受けた仕打ちに気づいていたというのだ。

 

「……何が、言いたいのかな?」

 

「ふん! しらばっくれちゃって……まあいいわ。今更アンタに根掘り葉掘り聞くつもりはないし。でも覚えておきなさい。どうしても秘密にしたいことってのは、完全には秘密にできないものなのよ」

 

睨みながら言うと、時間が無いのもあってか鈴は二組へ戻って行った。一夏達は顔を見合わせていたが、春也はため息をついて落胆していた。

 

(どこかで見られていたか……僕としたことが、徹底さを欠いたな。お陰で鈴まで離れてしまった……アイツが絡んでることを考えると、このままだと本気でメインヒロイン達が落とせなくなるかも。ま、僕の手に入らないのならいらないから消せばいい。幸い女は周りに幾らでもいるし)

 

落ち込んだ思考をポジティブなものに切り替えると、彼は皆と共に授業に取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたわよ、一夏」

 

「あ、鈴」

 

昼休み、食堂に訪れた一夏達を出迎えたのはラーメンを手に持った鈴であった。一夏達は食券を出してそれぞれトレーを持ちながら、鈴と共に近くの席に座った。

 

「本当に久しぶりだね…鈴。また会えるとは思ってなかったよ」

 

「中国に帰った直後は私もそう思っていたわ」

 

「……ところで鈴。私達、幾つか鈴に聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」

 

「ええ、いいわよ。答えられる範囲内だったらだけど」

 

その場に居る面々を見渡して言うと、真っ先にマドカが小さく手を挙げて聞いた。

 

「では私から。凰鈴音「鈴って呼んで」……鈴と言ったな。私達のことは聞いていると言っていたが、一体誰からだ?」

 

「そのことなら……これを見ればわかるんじゃないかしら?」

 

がさごそと鈴は懐からある物を取り出した。それは一夏やセシリア、箒に簪が持っているのと同じ戦極ドライバーだった。

 

「そ、それ……! 何で!?」

 

「ちょっと前にスコールって人に変なとこに連れられた時、プロフェッサーから貰ったんだ」

 

「なるほど……貴女が噂の新人だったのね」

 

「「「「「「うわっ!?」」」」」」

 

唐突に聞こえてきた声に揃って驚く。いつの間にか『納得』と書かれた扇子を持った刀奈が、席に座って話しかけてきていた。

 

「い、いきなり現れないでよお姉ちゃん……」

 

「ごめんごめん。でも顔合わせぐらいはしておきたいと思って」

 

「その口ぶりからして、楯無さんは彼女について気づいていたんですか?」

 

「ちょっと前に耳に入れたのよ。新入りのアーマードライダーが腕を伸ばしているって。どんな人かはわからなかったけど、貴女だったとはねぇ」

 

「それよりもう一つ気になることがある。お前も亡国機業(ファントム・タスク)に入ったと言うことは、春也の本性を知っているのか?」

 

「あっ……!」

 

箒の疑問に、一夏は目を見開いて鈴を見る。すると彼女は肩を竦めながらため息混じりに語った。

 

「まあね。最初は単に良い奴と思ってたんだけど、中学の頃だったかしら……一夏を虐めているのを偶然見て言ってることを盗み聞いたのよ。で、弾と数馬と協力してできる限り一夏を1人にしないように心がけたわ」

 

「ち、ちょっと待って。今なんて言ったの? まさか、弾達も気づいてるの!?」

 

「そうよ。ただアイツが一夏に口止めしてるところも聞いてたから、知ってることは内緒にしてたの。……結果的にそれが裏目に出てしまったけど」

 

「迂闊にばらしたら一夏姉さんが危険な目に遭っていたのは間違いない。その判断は間違っちゃいないさ」

 

暗い表情になる鈴にマドカがフォローを入れる。気分を落ち着かせて「ありがとう」と述べると、一夏を見て言った。

 

「何にせよ、これからは同じアーマードライダーとして一緒に戦っていくから、改めてよろしくね一夏!」

 

「うん…よろしく!」

 

最初こそ戸惑いを感じていた一夏だったが、今は嬉しさが勝り笑顔で答える。鈴はそんな彼女とセシリアを交互に見るとこう言い出した。

 

「でもこっちも驚いたわ。私の知らないところで、一夏ったらこんな綺麗な子を恋人にしてるんだもの」

 

「色々とあってね……」

 

「まあその辺の事情は深く聞かないけど……これからも一夏のこと、頼むわ。セシリア」

 

「はい。お任せ下さい、鈴さん」

 

大事な親友を頼むことを真剣な面持ちで告げられ、セシリアは彼女を名前で呼んで頷いた。

 

「さてとっ。挨拶も済んだところで、さっさと昼食を片付けるとしますか」

 

「そうだな。食べ遅れて千冬姉さんに叱られるのだけは御免だ」

 

苦笑しつつ言うマドカに全員が似たような表情をすると、それぞれの食事を口へ運んでいった。



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第14話 乱入!クラス対抗戦!

クラス対抗戦―――それはアリーナ毎に各学年別で行われる一対一のクラス代表同士のトーナメント戦である。

毎年かなりの人気を誇るこの戦いは、今年は開始前からより一層盛り上がっていた。一年生の部に専用機持ちの代表が2人おり、内1人に世界初の男性操縦者がいるからだ。予想以上の盛り上がりを見せる観客席の様子に、映像を通して見た楯無は感嘆の声を出した。

 

「それにしても、今年は凄い人気ね……」

 

「イレギュラーなことが重なりましたからね。……ところでお嬢様。何故そんな浮かない顔を?」

 

「え? ああ、ちょっと……何となく嫌な予感がして……」

 

杞憂であって欲しいと彼女は思っていたが、こういう時の予感は的中するものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ピットの片側では鈴が出撃準備を進めていた……のだが―――

 

「凰鈴音専用IS『甲龍(シェンロン)』。第3世代型で連結可能な青竜刀を武器とし、特殊兵装の衝撃砲は360度狙い撃つことができる、か……中々良い機体じゃないか」

 

「そりゃどーも。でも一言言っていい? ……アンタ達ホントは一組側でしょ」

 

何故か一夏達一組の専用機持ち達が挙って二組側のピットに来ている為、半ば呆れたようにツッコんだ。

 

「確かにそうだが、奴の応援ができると思うか?」

 

「それもそうね」

 

「え、こっちに来といてなんだけど納得しちゃうの?」

 

「彼の本性を知れば誰だってそうなりますわよ。一夏さんの応援なら全力で致しますけど」

 

「一夏が代表か……もしそうだったら結構楽しめたかもね。でも、織斑春也が代表なら何度でも叩き潰せるメリットがあっていいけど」

 

「フッ、良い性格してるな」

 

好戦的な表情に、傍で聞いていたマドカも実にいい笑顔になる。「まるで悪人がする顔だよ」と一夏はこっそり思っていた。

そこへ鈴と春也の出撃を求めるアナウンスが流れ、それを聞いた箒は鈴に声を掛ける。

 

「そろそろだな。全力で挑めよ」

 

「ったく、素直に受け取っておくけど、一組の人達が聞いたら怒るわよそれ」

 

とは言いつつも笑顔で正面を見据え、カタパルトで試合会場へと発射されていった。

 

「さて、私達は試合の様子を見るとするか」

 

見送った後、箒達はモニターの前へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さてと……いよいよね)

 

アリーナの中央付近にて、鈴は白式を纏った春也と対峙した。こちらを見くびっているのか腕に自信があるのか、春也は笑みを浮かべていたが彼女にとってはどうでもよかった。

 

「始める前に言っとくけど、私は一切遠慮なんかしないから」

 

「上等。そっちこそ、僕の腕を見て腰を抜かすなよ?」

 

「フン……(ま、最初はお手並み拝見といきますか)」

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

試合開始を告げるアナウンスと同時に、鈴は青竜刀型武器『双天牙月』を強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合内容は客観的に見ても中々良い展開だった。

より練習したのか、春也の動きはクラス代表決定戦の時よりも良くなっており、雪片弐型を振るってフェイントを混ぜながら鈴に近づく。

しかし鈴は双天牙月を使って攻撃を防ぎつつ、龍砲と呼ばれる衝撃砲から不可視の砲身から空気弾を放ち、春也を吹き飛ばす。すぐに態勢を立て直すと、今度は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で急接近する。

雪片弐型による一撃を入れられるも、双天牙月を駆使して徐々に押し返していく。たまらず距離を取る春也だが、すかさず柄同士を連結させた双天牙月をブーメランのように投げ、回避したところに衝撃砲を叩き込んだ。

 

「わー、フルボッコだぁ……」

 

「完全に叩き潰す勢いだな、あれは」

 

序盤から怒濤のラッシュに一夏は顔をやや引き攣らせ、マドカは腕を組んで試合を眺め続けた。

 

「私からすれば、いい気味ですけど」

 

「あんな人、何も出来ずに負ければいいんだ」

 

「言われまくりだな。私も同意見だが」

 

辛辣なコメントに嘆息をつく箒だったが、内心は2人と同じだった。

そんな彼女達の前で、鈴はいよいよ決着をつけようと春也と向き合っていた。龍砲にエネルギーをチャージし、何故か春也がほくそ笑んだその瞬間―――アリーナに衝撃と爆発音が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴と対決していた春也は、内心毒づいた。

 

(チッ、本当に容赦が無いな! だがこの試合で墜とされる訳にはいかない!)

 

序盤の連続攻撃でシールドエネルギーが減ってしまった為、彼は一旦回避行動に専念する。そして『その瞬間』を今か今かと待ち構えていた。

 

「世界初の男性操縦者と言っても、この程度か……」

 

「(言ってろ。……さて、そろそろかな)……フッ」

 

そろそろかと笑みを浮かべ、鈴が怪訝に思った直後。アリーナのバリアを粉砕しながら何かが上空から降ってきた。

 

「攻撃!? どこから!?」

 

センサーで周囲を確認した鈴は、爆煙が晴れる中に襲撃者達の姿を見つけた。

全身装甲(フルスキン)に通常のISより一回り大きな駆体。全部で二体居る内の一体は両腕がビーム砲になっており、もう一体は両腕が鋭利なブレードになっている。

 

「データに無い機体……何者なの、コイツ等?」

 

(フフ…ショーの始まりだ!)

 

困惑と警戒が混じった感情で襲撃者達を見る鈴の傍で、春也はこれからの立ち回りを想像してニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として現れた侵入者に、一夏達は息を呑んだ。と同時にいつでも出撃できるように準備をすると、まずマドカが千冬に通信を行った。

 

「織斑先生、聞こえますか?」

 

『織斑妹か。ああ、聞こえるぞ』

 

「状況の説明と今後の指示をお願いしたいのですが」

 

『わかった。だが、どうにもまずいことになっていてな……各アリーナの遮断シールドがレベル4で固定されて解除不能な上、ピットのドアには全てロックが掛かっている。加えて織斑と凰の居るアリーナ以外にも、同様の襲撃者が現れているんだ』

 

「なんですって!?」

 

『今からお前の端末に座標を送る。全員で見てくれ』

 

千冬が言い終えると同時に、マドカは回線を繋いだまま端末を操作してIS学園のマップを表示させる。侵入者と思われる赤い点がいくつか点滅していた。

 

「二年と三年のアリーナに一機ずつ。グラウンドに三機。そしてここに二機か……どうする?」

 

「そうだな…ここの敵は一夏が鈴と合流して戦えば問題無いだろう。二年側にはセシリアと箒、三年側には私と簪が行くとして残るグラウンドはどうするか……」

 

『教師達が量産型で応戦しているが、状況は芳しくないようだ。何、心配するな。既に私と楯無が向かっている』

 

「了解しました。……さて、各々のポジションはさっき説明した通りだが、何か異論は?」

 

「無いよ」

 

「ありませんわ」

 

「「特に無い」」

 

一様に言う4人を見渡して、マドカは無言で頷く。4人も頷くと、一夏を残して走って行く。一夏は1人ピットの扉へ向きを変えると、オレンジロックシードを右手で持つ。

 

「ふう。まずはここを突破しなきゃね……変身!」

 

『オレンジ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年生が代表戦を行っていたアリーナに紅椿を纏った箒とブルー・ティアーズを纏ったセシリアが突入した時、応戦していたと思われる女生徒2人のISはエネルギー切れで戦闘不能になっていた。

 

「タイミングとしては良かったみたいだな」

 

「そうですわね。後は……」

 

目前に佇む黒いISをセンサーで調べていく。

 

「生体反応がない? まさか無人機か?」

 

「無人機の開発は未だ為し得ていない筈ですが、今はそんな疑問より撃破することに専念しませんと」

 

「ああ。だが無人機となると好都合だ……全力を出し切れる!」

 

言うが早いか箒は刀剣型武器『雨月(あまづき)』と『空裂(からわれ)』を手に、敵ISに接近する。敵はビーム砲の銃口を向けるが、既にビットを展開しスターライトmkⅢを構えていたセシリアの牽制攻撃で動作が中断される。

 

箒は一瞬生じた隙を見逃さず、振るった空裂から放たれたエネルギー刃でビーム砲が搭載されている腕の内、右腕を切断。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で肉薄すると雨月で残る左腕の銃口に突き刺しレーザーを発射。破壊して丸腰同然にする。

トドメにセシリアが全方位一斉射で頭部を撃ち貫き、機能を止めた。

 

「呆気ないな。無人機だからと期待していたが、こんなものか」

 

「動きが単調でしたもの。仕方ありませんわ」

 

破壊した敵機の残骸を見下ろしながら、2人は息を切らした様子もなく顔を見合わせしばし話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三年側のアリーナピットの扉を破って突入したマドカと簪は、二年側に現れたのと同型の敵ISを目にした。

 

「コイツが襲撃者か。無骨な奴だな」

 

「マドカ。あれ、多分無人機だよ。生体反応が無い」

 

「何? そうか……それは遠慮がいらなくて都合がいいな!」

 

「同感!」

 

会話を区切ると、素早く左右に分かれる。黒い敵ISは砲門をそれぞれ2人に向け放つ。回避したものの、ビームはアリーナのシールドを振動させた。

レベル4のシールドすら破られる可能性がある……短期決戦しかない。図らずも離れたところで簪とマドカは同じことを考えていた。

 

ビームを再チャージする間に、簪は自身の専用機『打鉄弐式』の背面に搭載された荷電粒子砲『春雷』を、マドカのサイレント・ゼフィルスは専用ライフル『スターブレイカー』を構え、同時に斉射。装甲にダメージを与えて仰け反らせた瞬間に全ビットとマルチミサイルランチャー『山嵐』から、計6つのレーザーと48発の誘導ミサイルを放つ。敵ISはビーム砲で迎撃するも、数発しか防げずほとんどが命中。駆体のあちこちから火花を散らせ、敵機は倒れて機能停止した。

 

「他愛もない相手だったな」

 

「ただのプログラムだもの。人の底力には勝てない」

 

ライフルで既に動かなくなった敵ISを小突き、彼女らは顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専用IS『ミステリアス・レイディ』を装着した刀奈が到着した時、戦況は敵側に押されている状態だった。敵ISはビーム砲装備が二機にブレード装備が一機の組み合わせで、機械的だが連携を取りつつ戦っており、性能差もあって教師側は攻勢に出られなかった。

だが簪達とアーマードライダーとしての訓練を行っていた刀奈にとって、敵の動きはさして驚異的には感じられなかった。

 

(これも特訓の賜物って奴かしらね)

 

「!? 貴女、生徒会長の……!」

 

「ここは私に任せて下さい。ああ、心配は無用ですよ。学園最強の名は伊達ではありませんから」

 

学園最強―――その言葉に納得した教師達は一時後退する。彼女は他者を見下すような性格ではないが、教師達の動きを見てむしろ足手纏いになるだろうと感じていたので都合が良かった。

 

「さあ、掛かって来なさい。機械人形」

 

ブレード装備のISが突っ込んでくる。しかし遠くから行動パターンを見て無人機だと察した彼女に、遠慮も何も存在しない。故に―――

 

「ゼロ距離……貰ったわよ」

 

―――ランス型武器『蒼流旋(そうりゅうせん)』をブレードのリーチ外から先んじて突き立て、内蔵されたガトリングガンをぶちかますという、相手を確実に殺す戦法を取れる。

 

「怯んでるところ悪いけど、後ろのお仲間共々お陀仏にさせて貰うわ」

 

指をパチンと鳴らすと、突如として三機のISが爆煙に包まれる。ミステリアス・レイディのナノマシンを応用した必殺技『清き熱情(クリア・パッション)』を食らった敵機は、ビーム砲装備はギリギリで回避したもののブレード装備はまともに食らい破壊された。

二機の敵ISは状況が変わったと見たのか、自分達の任務を果たしたのかどこかへ移動しようとした。刀奈は追いかけようとして、やめた。何故なら―――

 

「どこへ行く気だ?」

 

世界最強がその進路に立ち塞がっているからだ。想定外の事態に敵IS達は立ち止まる。

 

「人が乗っている気配がしないのを見ると、無人機か。なら通常モードのテスト相手にうってつけだな」

 

左手で取り出したゲネシスドライバーを腰に当てると銀色のベルトが伸張し、装着される。千冬はマドカが使っているのと同系列の、通常型より性能が高いエナジーロックシードの1つである『E.L.S.-04』と書かれたメロンエナジーロックシードを取り出してロックを解除する。

 

「変身」

 

『メロンエナジー!』

 

頭上に斬月のそれとは違い夕張メロンを模した、メロンエナジーアームズが現れる。その後素早くゲネシスドライバーにメロンエナジーロックシードを固定し、施錠した。

 

『ロック・オン!』

 

音声と同時に重低音が鳴り響く。相手を見据えたまま、千冬はゲネシスドライバー右側のハンドル・シーボルコンプレッサーを握り押し込んだ。

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

メロンエナジーロックシードのカバーが展開してアームズが頭部に被さると、白と黒の二色のアンダースーツ・ゲネティックライドウェアが全身を覆い、同時にアームズが展開して上半身に鎧となって装着。彼女の姿を次世代型アーマードライダー、仮面ライダー斬月・真 メロンエナジーアームズへと変えた。

 

「あれが織斑先生の新しい力か……」

 

そう呟いたのは刀奈で、他の面々は皆驚きのあまり声すら出ない。織斑一夏と同じ力を彼女が持っているとは、さすがに想像もつかなかったのだ。

その時、二機の敵ISがビーム砲を同時に放った。

 

「はあっ!!」

 

斬月・真は右手に持ったマリカのと同じ武器『ソニックアロー』を振り、ビームを縦に切り裂いて避ける。続けてソニックアローから光矢を連続して放ち、敵ISの装甲に当てて火花と共に怯ませる。

 

「次はこれだ」

 

ゲネシスドライバーからメロンエナジーロックシードを外すと、ソニックアローにある窪みにセットしてロックを掛ける。

 

『ロック・オン!』

 

一歩一歩敵ISに斬月・真は歩み寄る。その様はさながら死刑執行人と言ったところか。AIが恐怖を覚えるとは思えないが、まるで恐怖を感じたかのように敵ISは再びビーム砲を構える。が、

 

『メロンエナジー!!』

 

「はああああああああああああああっ!!」

 

エネルギーがチャージされたソニックアローを振り抜き、斬撃を横一文字に飛ばす。斬撃はISを二機纏めて上半身と下半身を泣き別れさせ、破壊した。

 

「さすがは織斑先生だわ」

 

「これがゲネシスドライバーの力か……」

 

二機のISを相手に勝ってみせた斬月・真に刀奈は感嘆し、変身を解除しながら千冬は新たな力を噛み締めていた。



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第15話 ダブルアタック!鎧武と龍玄!

マドカ達が散らばって行ったのと同時刻。鈴は緊急事態に見舞われていた。敵IS達のカメラアイが光った瞬間、甲龍が機能停止してしまったのだ。

 

「ジャミング装置……! 味な真似してくれるじゃないの!」

 

即座に原因が何なのか察した鈴は今後どうするか考える。だが隣に居る春也はそんなことはおかまい無しだった。

 

(よし。後は奴らを倒せば僕の株は急上昇だ! そうすれば……フフフッ!)

 

より一層ニヤリと笑うと、白式の零落白夜を発動させ一気に近づこうとした。

 

『オレンジスカッシュ!!』

 

ドォォォォン!!

 

しかしそれは、耳に入った音声と共にビットの扉を破壊して駆け寄ってきた鎧武によって注意を削がれ、中断してしまった。

 

「なっ!?(一夏姉さんめ、またか!)」

 

「鈴! 大丈夫!?」

 

「この通り無事よ、一夏。でも状況は良くないわ……奴らのジャミング装置でISが起動できなくなってるのよ」

 

「ISが? じゃあ―――」

 

「こっちで行くしか無いってことね」

 

懐に仕舞っていた戦極ドライバーを取り出して腰に当て、フォールディングバンドを伸張させ装着する。

 

(戦極ドライバーだと…まさか鈴も!?)

 

内心驚く春也の前で、鈴は表面がブドウを模しているブドウロックシードを取り出し、スイッチを押してロックを解除した。

 

「変身!」

 

『ブドウ!』

 

頭上にブドウの形をしたブドウアームズが現れて降下する。次にブドウロックシードを戦極ドライバーに装填し、施錠をする。

 

『ロック・オン!』

 

銅鑼や二胡による中華風のミュージックが流れる中、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにする。

 

『ハイーッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!!』

 

一気に落下したアームズが頭を覆い、全身が緑のライドウェアで包まれるとアームズが展開して鎧となり装着。鈴の姿を仮面ライダー龍玄 ブドウアームズに変えた。

 

「これが鈴のアーマードライダー……」

 

「そっ。龍玄って言うの。さあ…行くわよ一夏!」

 

「うん!」

 

「え? ちょ……」

 

春也が何かを言う前に2人は行動を開始した。鎧武が大橙丸を持って先行して接近し、突進してきたブレード装備型と刃をぶつけ合い火花を散らす。後方からビーム砲装備型が援護しようとするが、それより前に龍玄がブドウの意匠が施された専用銃『ブドウ龍砲』を撃ち、援護を許さない。

 

「はっ! たあっ! ……っと、次はこれで!」

 

『パイン!』

 

敵ISとの距離を開けると、鎧武はオレンジロックシードを戦極ドライバーから外し、代わりに取り出した表面がパイナップルを模し『L.S-05』と書かれたパインロックシードを解錠。オレンジアームズが消え、頭上からパインの形をしたパインアームズが降下して来る中、パインロックシードをドライバーにセット。ロックを掛けてカッティングブレードを倒して輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! パインアームズ! 粉砕・デストロイ!!』

 

落下して展開したアームズは上半身に装着し、鎧武をパインアームズへと形態変化させた。

 

「纏めてやっつける!」

 

フレイル型武器『パインアイアン』を振り回し、龍玄と共に二機の敵ISに同時にダメージを与えていく。

 

「よし……これで決めるよ、鈴!」

 

「任せなさい!」

 

『ソイヤッ! パインスカッシュ!!』

 

『ハイーッ! ブドウスカッシュ!!』

 

2人は戦極ドライバーのカッティングブレードを素早く倒し、まず鎧武がパインアイアンを敵ISに蹴飛ばす。ビーム砲装備型は間一髪避けたが、ブレード装備型は巨大化した鉄球部分に動きを封じられる。鎧武と龍玄は勢いよく跳躍すると空中で一回転し、それぞれ右足と左足を突き出してキックを放った。

 

「セイハァァァァァァアアアアアアアアアアーッ!!」

 

「はぁぁぁああああああああああああああッ!!」

 

必殺のダブルライダーキックが炸裂し、ブレード装備型を木っ端微塵に吹き飛ばした。その様子を見ていたビーム砲装備型は形勢不利と判断、上空へ移動し脱出を謀る。

 

「逃がさないわよ、コイツ!」

 

『ハイーッ! ブドウスカッシュ!!』

 

カッティングブレードを再度倒した龍玄は、ブドウ龍砲後部のレバーを引いてエネルギーをチャージ。トリガーを引きブドウの粒を模した弾丸を連射して動きを止めると、龍型の大型弾を発射して敵ISを爆散させた。

 

「一丁上がり!」

 

「やったね、鈴!」

 

「ふふん、どうよ? 中々のモンでしょ!」

 

得意気に言いながら、龍玄は鎧武と共に変身を解除する。そして敵ISの残骸からISコアを抜き取りピットへ戻ろうとして、チラッと春也が視界の端に映った時、ある違和感を覚えた。

 

(そういえばジャミング装置が働いていたのに、何でアイツのISだけ解除されなかったんだろ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも、お疲れ様」

 

ピットへ戻った一夏と鈴を待っていたのは、労いの言葉を掛けた刀奈を始め各方面の敵ISを担当しに行っていた面々だ。表情から見て他の敵ISも撃破することができたのだとわかり、安堵する。

 

「みんな無事で何よりだ。疲れているだろうから本当ならゆっくり休んで欲しいが、生憎聴取や報告書の提出に敵ISの解析が残っている。すまんが今暫く付き合ってくれ」

 

申し訳無さそうに言う千冬に皆快く頷くと、遅れてやってきた春也と共にピットを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。本部の食堂で束達と食事を摂っていた凌馬は、タブレット端末に表示された情報を見て「うーん」と唸っていた。

 

「何か悩んでるけど、どうだったの?」

 

「ざっくり言うと敵は無人機でコアは全て未登録のもの。一夏ちゃん達の前に現れた個体はISの展開を阻害するジャミング装置を持ってたけど、何故か白式は正常に動いていた。……悩む要素がわんさかだよ」

 

「ちょっと見せて」

 

隣に座る束がひょいとタブレットを取って目を通す。するとその表情がみるみる内に険しいものへと変わっていった。

 

「おかしい……このIS、私が設計図の段階で開発中止にした筈なのに」

 

「何だって? てことは、誰かが設計図を盗んだってことか? んなことできる奴いんのか?」

 

「居るわよオータム。私達がマークしているあの男が」

 

その言葉にオータムはハッとし、凌馬と束は頷いた。

 

「そう。天才的な頭脳を持つ彼なら、ISのコアを作れても不思議じゃあない。最も1人じゃ限界があるから、協力者が居るのは間違いないだろうけど」

 

「協力者ねぇ。今の世の中、心当たりがありすぎるぜ?」

 

「しばらく泳がせて、尻尾を出すのを待つのがいいかな……」

 

先ほどとは打って変わって、悲しげな顔で束は呟く。心配した凌馬が何事かと声を掛ける。

 

「浮かない顔しているけど、どうしたんだい?」

 

「うん……もし背後に何者かが居るとして、何ではるくんは道を外れるようなことをしちゃったんだろうって……」

 

「……そうだね。だからこそ止めなければならない。彼がこれからやろうとすることを全て」

 

「ええ」

 

「だな」

 

新たに決まった目標を確認し、4人は再び目の前の食事に手をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Prrrrrrrrr!!

 

人気の無いIS学園の海岸で、春也は電話をかけていた。少しして相手が電話に出て彼は爽やかに対応する。

 

『もしもし?』

 

「あ、会長さん? 僕だけど」

 

『あら春也君。何か用……って言うのは野暮ね。どう? 送り込むタイミングはばっちりだった?』

 

「タイミングは良かったんだけど、僕の前に現れた奴も他の奴らも、僕以外の連中に倒されちゃってさ」

 

『あら、そうなの? やっぱり全機にジャミング装置つけた方が良かったかしら』

 

女性権利団体(そっち)の資金は有り余ってるんだから、次はちゃんとつけといてよ」

 

彼が話している女性は、女性権利団体のトップの人間だ。春也が団体と繋がりを持ったのは、小学校6年生の時。織斑千冬の弟ということで接近してきた彼女達を上手く説き伏せ、協力関係を結んだのだ。

 

『でもその様子だと、装置の識別機能は正常に働いていたみたいね』

 

「うん。白式は除外されてたよ」

 

『となると、次の行動までに準備が必要ね。今後のスケジュールはどうなってるの?』

 

「それは今度改めて話すけど、今度は数を増やして欲しいな。僕が渡した設計図で、コアなら幾らでも作れるんだから」

 

『任せて。……それにしても、貴方には脱帽するわ。コアの作り方だけじゃなく、無人機の設計図や篠ノ之博士が中止にしたスケジュールなんかも知っているなんて……』

 

「怪しんでいるの? 目的はとっくに話したと思うけど」

 

『ええ、わかっているわ。貴方と私達が世界を支配する、全てはその為の行動だって』

 

「そういうこと。じゃ、またかけるから」

 

ピッと電話を切った春也の顔は、さっきの爽やかなものとは違いニヤリとした悪意を含んだ笑みになっていた。

 

「ふん。せいぜい僕の為に動いてくれればいいさ」




本編中に出てきた言葉のちょっとした解説。

篠ノ之博士が中止にしたスケジュール→織斑春也の嘘で本当は彼の原作知識。


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第16話 友人との再会

「え? 一夏さんのご友人の家へ……ですか?」

 

数日後。自室にてセシリアは一夏の言葉に思わず聞き返した。

 

「うん。折角の休みだし、最近落ち着いてきたから顔を合わせておこうかなって」

 

「どんな方達なんですの?」

 

「私が中学の頃にできた数少ない男友達で、鈴と一緒に他のクラスメイトから私を守ってくれたんだ」

 

「一夏さんにとっての恩人ということなんですね。そういうことでしたら、私も会ってみたいですわ」

 

「そうなの? じゃ、一緒に行こうか。向こうには内緒にしてさ」

 

「ええ」

 

話が纏まると、財布等の貴重品を持って2人は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、一夏! 久しぶり!」

 

目的の家につくと、玄関前に当人の五反田弾と彼から連絡を受けた御手洗数馬が立っていた。

 

「久しぶり。弾、数馬」

 

「辛いことがあったって聞いたけど、元気そうで何よりだ。ん? そっちの子は……」

 

「紹介するね。彼女は―――」

 

「ああ、言わなくてもわかってる。恋人のセシリア・オルコットさんだろ」

 

「「え?」」

 

顔を見合わせる一夏とセシリア。自分達の関係はまだ話していないと言うのに、どうして知っているのか。

 

「兎に角家に上がって。詳しい話はそれからだ」

 

弾に促され、2人は首を傾げながら勝手口から入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしてセシリアのことを知っていたの?」

 

二階の弾の部屋に入って腰を降ろした後、一夏は真っ先に尋ねた。弾と数馬は一瞬顔を見合わせると、真剣な面持ちで言った。

 

「これを見れば、きっとわかる筈だぜ」

 

服の裏側にあるポケットをまさぐり、2人はあるものを取り出す。それを見た一夏とセシリアは仰天して声を上げた。

 

「これって、戦極ドライバー!? 何で!?」

 

「あ、貴方達は、もしかして……!?」

 

「そう。アーマードライダーだ。ただしレイドワイルドっていう、セカンドチームに所属してるけどな」

 

「凌馬さんが言ってたのって、このことだったんだ……」

 

何時ぞやの凌馬の言葉を思い出し、一夏は驚きつつも納得していた。

 

「では織斑春也のことも知っているのですか?」

 

「ああ。気さくな奴だと思ってたんだが、どうもその気さくさが上っ面っぽくてな。一夏を虐めてる現場を見て確信したんだ。コイツは信用できねぇって」

 

「打ち明けられなかったのは、悪かったと思ってる。アイツが何しでかすかわかんなくて……」

 

「謝らなくていいよ。私の味方になってくれたのは事実だし、心の支えになったから」

 

「そっか…それを聞いてやっと安心できたぜ」

 

ホッと胸を撫で下ろす弾と数馬。彼らは一夏に対して親身になれなかったことを今の今まで悔いていたが、彼女の言葉と笑顔でようやくその重荷を降ろすことができたのだ。

 

「……オルコットさん。これからも一夏のことを頼みます。俺達も、微力ながら応援しますから」

 

「……任せて下さい。一夏さんのことは、私が責任を持って支え続けますから」

 

「お、大げさだよぉ……」

 

頭を下げて頼み込む弾達の姿に強い決意を以て応えるセシリアの姿に、一夏は嬉しさと照れくささが混じった気持ちになった。

 

「そ、それより、弾達がレイドワイルドの一員ってことは、箒達も知っているの?」

 

気恥ずかしさから別の話をすると、弾と数馬は少し考えてから述べた。

 

「多分知らないんじゃないか? セカンドチームの面は基本的に秘密だし、知ってるのは鈴とラウラ・ボーデヴィッヒって子ぐらいだったと思うぞ」

 

「そういえば、更識楯無って人も感付いてるような話を聞いたけど……」

 

「では私達がいない内に、話しているかもしれませんわね」

 

「あー、あるかも。どうせ会いに行ってるから知る筈だって言ってさ」

 

何となく刀奈がやりそうだと思い、一夏は苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅんっ!」

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

 

「うーん、何だろ……誰か噂しているのかしら? ってそんなことより、もっと話して欲しいんだけど」

 

「そんな気になります? 弾と数馬の話」

 

「そりゃね。みんなもそうでしょ?」

 

「まあ一夏の支えになってくれたのであるとのことだから、気にならないと言うのは嘘になるな」

 

腕を組んで言う箒に他のメンバーも頷く。彼女達は鈴から一夏が弾達のところへ行ったという話を聞き、興味本意で生徒会室に集まって詳しい話を聞くことにしたのだ。

 

「と言ってもレイドワイルドの件も含めて粗方話したし……強いて言うなら、今まで一度も彼女ができたことが無いことかな?」

 

「本当なのか? 写真を見たが2人とも顔は良い方だし、性格だって鈴が言った通りなら多少なりともモテてもおかしくは無い筈だが」

 

「それについては、運が無かったとしか言いようがないのよ。2人が好きになった女子は悉く女尊男卑思想抱えてるわ、その他の女子は織斑春也の方ばかりに行くわで」

 

「女難の相でもついてるのかソイツ等は……」

 

良い奴なのに報われてないことを知ったマドカは、写真の中の弾と数馬に憐憫の視線を向けた。

 

「いい出会いがあって欲しいと願う他ないな」

 

「あ、出会いと言えば虚ちゃんも気にしてることを言ってたような……」

 

「ふむ。そう考えてみると、相川も男子との出会いが欲しいと最近愚痴ってたな」

 

「ここ女子校みたいなもんだし、難しいよね」

 

「せいぜい文化祭でしか切っ掛けが無いよな……」

 

思わず揃ってため息が出てしまう鈴達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、織斑春也は。

 

「……何だよ弾の奴。行っていいか聞いたらダメだと即答してきて……あーあ! 虐め指示してたの見られるんじゃなかった!」

 

完璧さを欠いたことを悔やみながら、1人寂しく部屋でゲームをしていた。



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第17話 2人の転校生

ある日のこと。一夏達は朝のSHR開始までの時間を特にやることもなく過ごしていた。だが1つだけ考えていることがある。今日やってくる転入生のことだ。

 

「やっぱ変だよねぇ。この時期になんて」

 

「そうですわね。1人はラウラさんだとわかりますけど、もう1人の方は……」

 

「私達か織斑春也を探る為に何者かが送り込んだスパイ、とも考えられるな」

 

「奴に関してはいくら情報を盗られようと構わんが、一夏姉さんに危害を加えるようであれば―――潰すしかないか」

 

「気が合いますわね。私も同意見ですわ」

 

「物騒なこと言わないでよ」

 

怖い顔になって言うセシリアとマドカに、苦笑しながら言う一夏。しかし同時に、自分のことを大切に思ってくれてると感じて嬉しい気持ちになる。そうこうしていると、SHRが始まって千冬と真耶が教室に入って来た。

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めること。それと各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので、決して忘れないように。忘れたものは……そうだな、代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらうぞ」

 

おそらく冗談のつもりで言ったと思われるが、全員真面目に取ってしまったので笑いも何もなく、千冬は何とも言えない表情になって話を続けた。

 

(そういえば…さっきから何で春也はニヤニヤしてるんだろ)

 

後ろの席をチラリと見やってまた前を向くと、「何か良いことでもあったんだろう」と思い忘れることにした。

話をするのは千冬から真耶へと変わったが、ここでクラスメイト達の沈黙を破ることになる一言が発せられた。

 

「えっと……皆さん。今日は転校生を紹介します。しかも2人です」

 

『『『ええええええええええええええええええっ!?』』』

 

一夏、セシリア、箒、マドカ、春也以外の面々が驚き出す。だが春也を除く4人も、驚いてないだけで転校生の1人が怪しいと思っている。

 

「では、入ってきて下さい」

 

「はい、失礼します」

 

「失礼する」

 

山田先生に言われて2人の生徒が入って来た。1人は想定通りラウラ・ボーデヴィッヒ。だがクラスメイト達の視線はもう1人に釘付けになっていた。

 

「ではまずデュノア君、自己紹介をお願いします」

 

「フランスから来ました、シャルル・デュノアです。この国では色々不慣れなこともあると思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

「お、男……?」

 

誰かが呆けて言ったように、もう1人―――シャルル・デュノアは男子だった。だが一夏やセシリアや箒やマドカは嫌疑の目線を向けていた。

 

(男にしては、線が細いような……)

 

(どうにも男性にしては、声が高すぎる気がしますわ)

 

(顔立ちがどう見ても女のソレに近いな)

 

(変装してはいるが奴は女だ……ということは、どこかのスパイなのは間違いない。悪い奴には見えないが)

 

4人の中で確信を持っていたのはマドカのみだったが、他3人もデュノアが只者ではないことを感付いていた。だが―――

 

『『『きゃあああああああああーーーーっ!!』』』

 

「男子! 2人目の男子よ!!」

 

「織斑君とは違ったタイプのイケメン! 嫌いじゃないわ!!」

 

「しかも美形! 守ってあげたくなる系の!!」

 

周りの凄まじい叫びに耳を塞ぎ、それどころでは無くなってしまう。この五月蠅さだけはどうにかならないのか、と彼女達は思った。

 

「静かにしろ! 全く、騒ぎすぎにも程があるぞ」

 

千冬が一喝することでようやく収まり、皆の視線がラウラへと移る。騒音とも言える程の騒ぎの中でも、彼女は表情を少しも変えることなく立っていた。

 

「それではボーデヴィッヒさん、自己紹介をお願いします」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。出身はドイツで、年齢は16。こういった場所には訪れたことが無いので不慣れな部分があるとは思うが、できる限り早く打ち解けられるよう努力するので、何分宜しく頼む」

 

やや堅めの挨拶ではあったが、それでもクラスメイト達は笑顔でパチパチと拍手で迎えた。ラウラも一夏達もまずはホッと一息ついた。

 

「それではHRを終わる。今日はこの後、二組との合同で実習を行うので速やかに着替えてアリーナへ向かうように。それと織斑。同じ男として、デュノアの面倒を見てやってくれ」

 

「わかりました」

 

HRが終わり、春也はシャルルに向き直る。シャルルは笑みを浮かべながら彼へと近づいた。

 

「君が織斑君かな?」

 

「ああ。よろしく、シャルル。僕のことは春也でいい……っと、それより早くアリーナに行かなきゃ。急がないと女子が着替えるし」

 

「そうだね」

 

そう言って、春也とシャルルは教室から出て行く。それを見届けた一夏達は、着替えを始めながらラウラと話をした。

 

「久しぶりだね、ラウラ」

 

「ああ、久しぶりだ。こうして皆と再会することができて嬉しいぞ」

 

「私もだ。ところで、この時期になったのはドイツで任務を行っていたと聞くが、何をしていたんだ?」

 

「とある過激派武装集団の鎮圧作業だ。早く片が付くと思っていたんだが、これが思ったより深くてな。調べるとバックの組織やらそれに関わる政治家等の情報が、もう出るわ出るわで」

 

「確かニュースでも言ってたな。大々的に報道されてたから知ってるぞ」

 

「ラウラさん達の部隊が関わっていましたのね。まあ考えてみれば、そうでなければそこまでのことができる筈はありませんもの」

 

「言えてるな」

 

「それより、だ。あのシャルル・デュノアという奴のことだが……」

 

着替え終わったところでラウラが声のトーンを変えて切り出すと、一夏達も表情を引き締め声を落とす。

 

「正直怪しい……かな。顔が女の子に近すぎる感じがするし」

 

「加えて声も男にしては高すぎる上に、体格が女のソレだ。間違いなく黒だな」

 

「で、どうしますの? 証拠が無い以上下手に追求するのは無謀ですし」

 

「刀奈さんか凌馬さん達に頼んで調べて貰うのはどうかな? 案外すぐにわかるかも」

 

「放課後辺りに頼んでみるか。……と、早くしなければ遅刻してしまうな」

 

時計を見て、一夏達は他のクラスメイト達と共に足早に教室を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドにて二組のクラスメイト達と共に整列していると、授業開始ギリギリになって春也とシャルルが息を切らしながら到着した。

 

「何かあったんでしょうか?」

 

「転校生目当ての女子達の波に飲まれたらしいよ」

 

「遅くなる訳だ。シャルルには同情するが、奴はむしろいい気味だ」

 

「奇遇だなマドカ。私も同じことを考えていた」

 

ニヒルな笑みを浮かべるマドカと箒を見て一夏が苦笑していると、千冬が全員を見渡して声を張った。

 

「それでは今日から、格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する……が、まず手始めに専用機持ちによる戦闘演出をして貰う。凰、オルコット! 前に出ろ」

 

「え、私!?」

 

「私ですの?」

 

やや面食らいながらも歩み出た時、上空から発せられた異音が彼女達の耳に入った。目を向ければ、ISを纏った真耶が急降下してきていた。

 

「わぁぁぁああああーっ! ど、どいて下さいぃ~!!」

 

「や、山田先生!? 一体何が!?」

 

「今行きます!!(山田先生への好感度を上げる絶好のチャンスだ!)」

 

突然のことに驚いていると、春也が白式を展開。真耶を正面から抱き締める形で受け止め、ゆっくりと降下しながら真耶の顔を見る。

 

「大丈夫ですか、山田先生」

 

「は、はい。平気ですけど……こ、この体勢は……」

 

「咄嗟でしたので。少しの間我慢していて下さい」

 

周りの女子達の黄色い声援を浴びながら、地上に降り立った春也は内心名残惜しく思いつつ真耶を放す。だがその様子を鈴達は冷たい目で見ていた。

 

「フン。綺麗事言っちゃってさ。下心満載なのが見え見えだっての」

 

「そうですわね。私も直感ですけれど、裏があるように思えますし」

 

「一見すると爽やかに見えるが……あれだ。どうやって女を堕とそうか考えてる奴の顔をしてる」

 

「箒や鈴達への対応を聞いて女好きとは思っていたが、教師にまで手を出す気かあの男は」

 

「あのような男が織斑先生や一夏の弟だなどと……腹立たしい」

 

「(実の弟にこう思うのはどうかと思うけど、でも……)気持ち悪い……」

 

春也の本性を知っている彼女達は彼の思惑に感付き、嫌悪感を露わにした。

 

「静かに! 時間が押してるから、手早く始めるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬の言葉でセシリア&鈴vs真耶の演習が行われた。日頃の戦闘訓練で2人の操縦技術は飛躍的に向上しているが、真耶はそれをものともせず逆にかく乱していき、そしてフレンドリーファイアを誘発した上で追い打ちを仕掛け、撃墜した。

 

「っつ~! やっぱISでの戦闘じゃこうなるか……」

 

「もっと経験値を積んで、強くならないといけませんわね……」

 

「諸君、これがIS学園教員の実力だ。理解したか?」

 

締めの言葉で全員が頷いたのを見ると、千冬は更に続けた。

 

「次はISの装着と歩行の訓練を行う。専用機持ちは織斑、織斑姉、織斑妹、オルコット、篠ノ之、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな……なら、10人一組のグループに分かれて各専用機持ちに教えて貰うように」

 

直後、全員が一気に春也とシャルルに群がる。一夏達のところにはチラホラとしか来ていない。

 

「やっぱこうなるよね……」

 

「だがさすがにこれはまずいだろ」

 

「千冬姉さん、一喝頼みます」

 

「織斑先生、だぞ」

 

苦笑しつつ千冬は全体を見渡すと表情を引き締め―――

 

「そこまでだ! 出席番号順に1人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通りだ。次に同じことをするなら、ISを背負ってグラウンドを百周してもらうぞ!!」

 

さすがにそんなことをされてはたまらないと、女子達はすぐさまグループを作ってそれぞれの担当してもらう専用機持ちのところへ移動した。

 

「あ、ちょっとよろしいでしょうか」

 

訓練を開始する前に、セシリアが一夏に近寄り話しかけてきた。何だろう?と一夏は首を傾げる。

 

「今日のお昼休み、一夏さんは何か予定がありまして?」

 

「特に無いけど、何で?」

 

「屋上で、昼食を一夏さんや箒さん達とご一緒にと思いましたの。折角こうして集まったんですし」

 

「へえ、いいじゃない! 大賛成だよ!」

 

「そう言うと思ってましたわ。ではまた、後ほどに」

 

「また昼休みにね」

 

約束を交わした後、再び離れて自分の担当するグループへ集中する。その後は春也が女子をお姫様抱っこして運んだり、シャルルがそれを頼み込まれたりと色々あったが、問題なく実習を終えることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休みの屋上。一夏とセシリアは授業終了後に声を掛けた箒、マドカ、鈴、簪、ラウラ、シャルル(と、どこで聞いたのか刀奈も)達と集まった。ちなみに何故シャルルが居るかと言うと、女子に迫られつつあったのを助けた為である。

 

「えと、ありがとう。お陰で助かったよ」

 

「礼はいい。それより折角一緒になったんだから、自己紹介をしよう。私は篠ノ之箒だ、よろしく」

 

「私は織斑一夏。遠慮無く一夏って呼んでくれると嬉しいな」

 

「セシリア・オルコットですわ。以後、よろしくお願いします」

 

「織斑マドカ。一夏姉さんの妹だ、よろしく」

 

「私は二組の凰鈴音。気軽に鈴って呼んで頂戴」

 

「更識簪って言うの。四組に居るんだけど、これからよろしく」

 

「更識楯無。簪ちゃんの姉で、生徒会長をやってるわ」

 

「先ほど挨拶したが、私はラウラ・ボーデヴィッヒ。特殊部隊の隊長をやっている」

 

「そうなんだ……みんな、よろしくね」

 

 

自己紹介を終えると、それぞれ弁当を取り出して広げ、一夏はセシリアの手作りサンドイッチを一切れ手にした。

 

「……前みたいに変な臭いはしないね。じゃ、頂きます」

 

パクッとサンドイッチを頬張る。その様子をシャルル除く一同は固唾を飲んで見守り……

 

「……うん、おいしいよ」

 

微笑みながら告げた一言に心から安堵するのであった。

 

「本当に成功してたのね。疑って悪かったわ」

 

「謝らないで下さい鈴さん。当事者である私が言うのもなんですが、そう思われるのは仕方の無いことですもの」

 

「? えっと……どういうこと? 彼女の料理に何かあったの?」

 

唯一事情を知らないシャルルが聞いてくる。彼の問いに、ラウラは一息つきながら答えた。

 

「実はセシリアは、料理の出来栄えが宜しくなかったんだ」

 

「そうなんだ…でもいくら何でもそこまで真剣になることはないんじゃ? 料理が上手くない人って、世の中には結構いそうだし」

 

「そうじゃない。セシリアのは、あまりのまずさに気絶してしまう程のレベルだ」

 

「嘘!?」

 

「お恥ずかしながら、本当のことですわ……」

 

「あの時は大変だったのよねぇ。私の力を持ってしても、あそこまで苦戦したのは正直初めてだったわ」

 

「は、はぁ……」

 

正直なところ具体的にどんななのかシャルルにはわからなかったが、兎に角凄いのだろうということは感じていた。

 

「そ、それよりさ、良かったのかな? 春也を置いて来ちゃって。今頃大変な目に遭ってるんじゃ……」

 

「ああ、別にいいぞ。何ならもっと酷い目に遭って欲しいぐらいだが」

 

あっけからんと放ったマドカの言葉に、その場に居る全員がうんうんと頷く。彼の本性を知らないシャルルは困惑するばかりだ。

 

(何!? 春也に一体どんな恨みがあるの!?)

 

「そんなことより、早く食べようよ。恒例のおかず交換もまだなんだし」

 

「でしたら私は、一夏さんのを……」

 

「簪ちゃんの貰っちゃおっかな~♪」

 

「お姉ちゃんのも頂戴」

 

「酢豚、貰うぞ」

 

「んじゃ私は……箒の唐揚を頂こうかしら」

 

「マドカ、1ついいか?」

 

「勿論だ、ラウラ。……と、シャルルも一緒にどうだ?」

 

「え、いいの?」

 

「遠慮しないで好きなのを選んでくれ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

彼女達の輪にシャルルも加わり、昼休みを楽しく過ごした。だが誰も、後にシャルルに絡んだとんでもないことが起きようとは予想していなかった。



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第18話 利用する者とされる者

今回の話を書き上げるのに、思いの外時間がかかりました……


(ふう……)

 

シャルルとラウラが転入してから少し経過したある日。放課後の練習を終えた春也は、更衣室で着替えながらこれからの段取りについて考えていた。

 

(どうやってシャルルを救い出すかが重要なポイントだが……やっぱりISのデータを引き渡すしかないか。幸い、既にUSBにコピーしてあるし)

 

ポケットの中に入れてあるUSBメモリーに触れながら考える。そう、春也は端末からハッキングを行いアーマードライダーを除く全専用機のデータを手に入れているのだ。

 

(これだけあればさすがにシャルルから手を引くだろう。万が一バレたとしても、端末はシャルルのをこっそり使ってるし指紋も残してない。最悪僕の身は守れるということだ。……そんなことは出来る限りしたくないけどさ)

 

出来る限り見捨てたくはない。しかし自分の立場が悪くなるなら容赦しない矛盾の覚悟を彼は抱き、着替えを完了させ更衣室の扉を開けた。その先に書類を抱えた真耶がいた。

 

「あ、織斑君。丁度良かったです」

 

「どうしました、山田先生?」

 

「今月下旬から大浴場が使えるようになったんです。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に2回の使用日を設けることにしました」

 

「本当なんですか! それは良かった……後でシャルルにも伝えます」

 

満面の笑みで喜ぶ春也を見て、真耶も笑顔になり立ち去る。その時、入れ違いになるようにシャルルがやってきた。

 

「何を話していたの?」

 

「今月下旬から大浴場が使えるんだって。限定的だけど、毎日個室の風呂を使わなくて済むようになるんだ」

 

「そっか。教えてくれてありがとう」

 

そんなに嬉しそうじゃないな……と春也は思いつつ、着替えに来たシャルルと擦れ違い―――

 

「前から思ってたけど……君ってどっちかって言うと女の子っぽいよな」

 

何の気なしに言い放ち、衝撃を受けて目を見開くシャルルを残して去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。自室に居る春也は、先ほどシャルルが入って行った個室風呂をじっと見つめ、換えのシャンプーを持って立ち上がった。

 

「(落ち着け。ちゃんと段取り通りにやるんだ)シャルル~。シャンプー換えるの忘れてたから、今入れるよ」

 

『えっ!? ま、待って!!』

 

慌てる声を無視して彼はドアを開ける。そこには一糸纏わぬ姿の『女子』が呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、君は女の子だったんだ」

 

ジャージを着てベッドの上に座り込むシャルルを見ながら、春也は複雑な表情で言った。

 

「……いつから気づいてたの?」

 

「最初に会った時だよ。男にしては妙に声が高いし、身体のラインがあまりにも女らしかったからね。直感だけで確証はなかったけど」

 

「だと思ったよ……自分でも怪しいかなって思ってたもの」

 

「差し詰め僕の白式のデータを狙ったんだろ?」

 

「実家のデュノア社から、正確には僕の父親である社長から言われてね……」

 

「何でこんなことを? 自分の子供なのに」

 

「正式な子供じゃないからだよ。僕が愛人の子だから……」

 

そこからシャルルは淡々と語り始めた。母親が亡くなり、生活に困っていたところを父親と名乗る社長に引き取られたこと。検査をしていく内に高いIS適正を持つことが明らかとなり、テストパイロットとして選ばれたこと……

 

「本妻の人に平手で殴られたりもしたよ。泥棒猫の娘が!ってさ。お母さんもちょっとぐらい教えてくれても良かったのになぁ……」

 

「…………」

 

「けど僕が引き取られてしばらくして、デュノア社は経営不振に陥ったんだ」

 

「ニュースで僕も知ってる。第3世代型の開発が遅れているって?」

 

「第3世代型の開発は急務だったんだ。でも時間もデータも圧倒的に不足してて……そこへ世界初の男性IS操縦者の発表。父さんは一も二もなく飛びついたよ」

 

「で、男装して広告塔となり、僕に接触してデータを入手するよう命じられたと」

 

「その通り。でもこうも簡単にバレるとは思ってなかったよ……言い訳にしか聞こえないけど、ホントは騙したくなかった。本当に…ごめんなさい」

 

頭を下げ、誠心誠意シャルルは謝る。それを見た春也は、前以て用意していた台詞を発する。

 

「頭を下げないでくれ。別にシャルルに怒ってる訳じゃない。むしろ助けたいと思ってるぐらいだ」

 

「助けるって……どうするのさ。いくら君でもデュノア社相手じゃ分が悪いどころじゃ―――」

 

「これを使う」

 

割り込みながらUSBメモリーを取り出してシャルルに見せる。当然彼女は困惑して春也を見つめる。

 

「これは?」

 

「中に白式や紅椿、ブルー・ティアーズ等の専用機のデータが入っている」

 

「えっ!? い、一体どうやって!?」

 

「大きな声じゃ言えないけど、ハッキングしたんだ。兎に角、これさえあればデュノア社との交換条件に持ち込めるって寸法さ」

 

「ハッキング……それに交換条件って……」

 

「ただし、あくまでデータそのものはシャルルが渡さなければいけない。それまでちゃんと保管できていればいいんだけど……」

 

「わ、わかった。やってみるよ。でも今日は疲れたから、明日でもいい?」

 

「うん」

 

「あ、ありがとう。……だけどどうして、春也は会ったばかりの僕にこんなことを?」

 

素朴なシャルルの疑問に、春也は少し考えてこう告げた。

 

「僕が君を女の子かもしれないと疑っていたのは知ってるよね? あの頃から僕は、君のことを異性として意識してしまっていた。そして君が女の子だと明らかになった時確信した。シャルル―――君のことが異性として好きなんだって」

 

「え……」

 

「だから僕は助けたい。僕が好きになった子を…………こんなんが理由じゃ、いけないかな?」

 

「そ、そんなことは―――」

 

「僕は本気だ。でも僕1人では限界がある。だから……そのデータのこと、頼むよ」

 

「う、うん(これを渡すってことは、一夏達を裏切ることになる。そんなことは…………それによくわからないけど、さっきから彼の言葉からは何も感じられない気がする。何か別のことを考えてるような……)」

 

(そう、シャルが好きなのは本気だ。ただ―――君がちゃんと動いてくれるかどうかで変わるけど。今後のこともあるからね)

 

薄気味悪い何かを感じ取るシャルルの前で、春也は気づかれぬよう悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッキングされた? 私達の専用機のデータが?」

 

翌日。屋上で弁当を食べながら、箒が話を切り出した刀奈に問いかける。

 

「ええ、それもつい最近にね。何となく端末を見てたら侵入された形跡があって、それでわかったのよ」

 

「盗まれたのは刀奈さんのデータだけですか?」

 

「いいえ。みんなのを借りて確認したけど、ここにいる全員のデータがコピーされていたわ」

 

「へぇ。どこのどいつか知らないけど、随分と素敵な真似してくれるじゃない……!」

 

「お姉ちゃん、犯人の目星はついているの?」

 

「当然。色々経由してたから思ったより時間かかったけど、ある端末からハッキングされていたことがわかったわ」

 

「どの端末なんだ?」

 

「……シャルル・デュノアが所持しているノートパソコンからよ」

 

食を中断し、息を呑む。もしかしたらと、懸念していたことが現実となった瞬間であった。

 

「彼が、データを……」

 

「いや、まだそうとは限らない。他の誰かがデュノアのパソコンを利用した可能性がある」

 

「ラウラ…何でそう言える?」

 

「今朝廊下を歩いていた時、死角となる場所でデュノアを見かけた。USBらしきものを持って、『本当に僕がこのデータを……』と呟いていたぞ」

 

「ではデータは学園内の何者かに与えられたと?」

 

「そのようね。ともかく、今日の放課後に部屋の前で待ち構えていましょう」

 

頷いて同意する一夏達だったが、何故かラウラだけは考え込んでいるのか頷かず黙ったままだ。

 

「どうしたの? 神妙な顔しちゃって」

 

「どうも引っかかるんだ。会長にしかわからない程のハッキング技術を有した者が、ここにそうそう居るか?」

 

「そうですわね……居るとするなら、織斑春也―――っ!!」

 

「……あくまで私の推測だがな」

 

とは言いつつも、内心ラウラはシャルルはそそのかされているだけで、黒幕は織斑春也ではないか?と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。自室で出かける支度をするシャルルを春也は見守りつつ問いかけた。

 

「外出届は提出したんだよな?」

 

「今朝出してきたよ」

 

「ならいいんだ。……ところでシャルル、昨日の返事は考えてくれた?」

 

「返事? 一体何の……あ」

 

思い出した。彼に自分を女として好きだと言われたことを。だが不思議と胸が高鳴ることはなく、どう答えればいいのか迷った。

 

「えっと、その……ごめん。いきなりすぎて決められないって言うか……」

 

お茶を濁す発言をすることで一旦切り抜けようとするが、春也は表情から彼女が自分に好意を抱いてないことを悟り冷めてしまった。

 

「謝らなくても大丈夫だよ。こっちが勝手に告っただけだし……そうだ。折角だから駅まで付き添うよ。それくらいはいいだろ?」

 

「別にいいけど」

 

「んじゃ、行こうか」

 

部屋のドアを開けて2人が外に出た瞬間―――待ち構えていた一夏達によって行く手を阻まれた。

 

「そこまでだ。大人しくして貰うぞ」

 

「……どうしたんです、こんなに大勢。織斑先生まで」

 

「更識楯無から、ここにいる全員の専用機データを盗まれたと言われてな。発信元はシャルル・デュノアのパソコンだそうだ」

 

「っ!?」

 

目を見開き身体を硬直させるシャルル。それもその筈。自分のパソコンでハッキングをした覚えはなく、単に春也からデータを渡されただけなのだ。

 

(チッ、やはり更識楯無のデータを盗んだのはリスクが高すぎたか)

 

「そんな、何で……ど、どうしよう、春也……」

 

頭の中が真っ白になり、助けると宣言してくれた男を頼ろうとする。しかし、春也は動揺せず涼しい顔をして言った。

 

「なんだ……既に知ってたんですね。なら説明する手間が省けて何よりです」

 

「何だと?」

 

「シャルルが僕を含めた専用機のデータを入手していたことを偶然知りまして。今から寮長室に連れて行こうとしていたんですよ」

 

「!? ち、違……春也、何で……!?」

 

(君が僕のことを好きでいてくれたなら、庇うなり団体の圧力なりでどうにかしてあげたんだけどね。僕のことを好きにならないなら、邪魔でしか無いんだよ)

 

「本当? 嘘ついてるんじゃないでしょうね?」

 

「だったらパソコンを調べてみなよ。それで僕がやったのか明らかになる筈だ」

 

自信たっぷりに言うが、一夏達は事前に疑っていたこともあり、更に彼の言葉とシャルルの反応から本当の犯人は春也だということを見抜いた。が、こう言ったということは証拠を消し去っているのは明白だ。

 

「(春也、お前……)是非そうさせて貰う。が……その前に場所を変えねばな。一緒に来て貰うぞ、デュノア」

 

「……はい……」

 

力なく言う彼女の目からは、一切の光が無いように見受けられた。ラウラはそんな彼女から、何か過去の自分と似たものを真っ先に感じ取った。

 

「………………」

 

「ラウラさん? どうかなさいまして?」

 

「いや……何でもない」

 

その言葉とは裏腹に気に掛けつつ、ラウラは他の面々と共に千冬の後に続いた。



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第19話 捨てる神あれば拾う神あり

生徒会室へ連れて来られたシャルルは刀奈に身体検査を行われてUSBを取られ、更に男装道具も取っ払われて元の女子としての姿で椅子に座っていた。その周りには一夏やセシリア、箒達が座っている。

 

「それじゃあちょっとした尋問をさせて貰うわよ、シャルル……いえ、シャルロット・デュノアさん」

 

「え……どうしてその名を……?」

 

「私の家はその手の筋に通じてるの。ハッキング事件が起きた時、平行して貴女のことを調べたのよ」

 

前置きしてから、刀奈はシャルロットに関しての調査記録を読み上げていった。その内容は、彼女が春也に語ったものの他、つい先ほどのハッキングの件まで含まれてた。

 

「……で、憶測になるけど貴女は織斑春也に保身として利用され、罪を背負わされた。何か間違っているところはあるかしら?」

 

「……いえ。全て更識先輩の言った通りです…………もういいでしょう? どうせ春也がやった痕跡はないだろうし、煮るなり焼くなり好きにして下さいよ」

 

自暴自棄になりながら言う。女であることを否定され、味方になると言った男に裏切られ、彼女の精神はボロボロだった。そんな姿を見て、ラウラはたまらず刀奈に進言した。

 

「楯無会長。このままではいくら何でもデュノアが不憫だ。何とか助けることはできないのか?」

 

「勿論そのつもりだけど―――貴女からそんなこと言うなんて、珍しいじゃない」

 

「それは……」

 

「いいよもう。何もしなくて。どうせ君達も、春也と同じように掌を返すに決まって「違う!!」!?」

 

「私は、私達はそんなことはしない!」

 

「じゃあ何? 君達は僕を助けてくれるって言うの? 今まで君達を騙していたって言うのに!?」

 

「そうだ。信じてくれ!」

 

「なら、他の誰にも言えない秘密を教えてよ! どうせできないだろうけど!」

 

「……いいだろう」

 

懐に手を入れたラウラは一度全員を見渡しシャルロットにはわからないよう、戦極ドライバーをチラッと見せる。それがこれから明かすことの同意を求めることだと、皆はすぐ気づいた。

 

「私は…良いと思うよ」

 

「信用して頂けるのなら、構いませんわ」

 

「私も同意見だ。……デュノアをこのまま放っておくなどできない」

 

「いいんじゃない? 根っからの悪い奴とは考えられないし、重度の疑心暗鬼になってるみたいだしさ」

 

「コイツの素性と、アイツのしでかしたことを考えると見過ごせはしないからな」

 

「私も、助けてあげたい。その為に必要なことなら教えてもいい」

 

「だそうですよ、織斑先生」

 

「全くお前達は、アイツ等のいないところで……まあいい。向こうで連絡入れるから、先に話を進めておけ」

 

部屋の隅に移動した千冬はスマホを使い通信する。ラウラは改めてシャルロットに向き直ると、戦極ドライバーとドリアンロックシードを取り出した。

 

「それ、一夏とセシリアが持ってるのと同じ、イレイザーのIS―――」

 

「ISとは違う。これはアーマードライダーシステムと呼ばれるものだ。それだけではない。ここに居る全員が、これやパワーアップ版のドライバーを持って同じ組織に所属している。だがイレイザーではない。それは架空の存在だ」

 

(あ、それも言っちゃうんだ)

 

「………………」

 

「これで……信じてくれるか?」

 

「そ、そりゃあ、ホントに教えて貰ったし……でも、なんでそこまで?」

 

「私達は単純に助けたいって思ったからだけど、ラウラちゃんはそうじゃないみたいよ」

 

「え?」

 

一度目を閉じて深く息を吐き、再び開けるとラウラはシャルロットの瞳をしっかり見据えて語り出した。

 

「……今のお前は、以前の私と似ている。だから放っておけなかった」

 

「似てるって……」

 

「かつて私は軍内で居場所をなくして、孤立し、掌を返され、誰かに頼ることも、変わることもできず……荒れに荒れた。だが組織に部隊ごと接収され、変われる機会を与えられた。お前にも、シャルロットにも変わろうとする意志があるなら、チャンスはある」

 

「変わろうとする意志……」

 

「教えてくれ。お前の意志を、お前の望むことを……頼む」

 

「ラウラ………………僕は…………僕は、もう実家と関わりたくない……! お願い……助けて……!!」

 

「……お前の望み、確かに聞いたぞ」

 

泣いて縋り付くシャルロットを優しく抱き締めながら千冬を見ると、通信していたスマホをスピーカーモードにして画面を向けた。結果、相手の顔と声が千冬以外の全員に届くようになった。

 

『やれやれ……まだ渋るようなら私からも説得するつもりでいたんだけど、必要なくなったみたいだね』

 

「!? だ、誰!?」

 

『初めましてになるかな、シャルロット・デュノアちゃん。私は戦極凌馬。アーマードライダーの開発者で、イレイザー……元い、亡国機業(ファントム・タスク)のトップをやっている者だ』

 

「貴方が、あのベルトを……」

 

『君のことは楯無ちゃんや千冬からの報告で存じている。で、単刀直入に聞くけど、さっきの助けて欲しいって言葉が君の本音で良いのかい?』

 

「……はい。実家にも、春也にも利用されたまま終わりたくなんかない……僕は、ここに残りたいんです」

 

『なら決まりだ。それで助ける方法だけど、君のデータをデュノア社から抹消し、我々の元に所属させるよう手続きするのが手っ取り早い』

 

「そ、そんな事が可能なんですか?」

 

『当然さ。ただまずはデュノア社を文字通りぶっ潰す必要があるから、手続きはちょっとの間待って貰うけど』

 

「ぶ、ぶっ潰っ!?」

 

穏やかな口調の中に出てきた物騒な言葉に思わず声に出すが、凌馬は気にせず続ける。

 

『では、早速準備に取りかかるのでそろそろ失礼する。吉報を待っていてくれたまえ』

 

電話が切れて画面が暗くなると、傍にいたラウラは真っ直ぐシャルロットを見て言った。

 

「そういうことだ、シャルロット。もうお前が苦しむ必要は、無いんだ」

 

「……ありがとう、ラウラ……それと、ごめんね。色々と言っちゃって」

 

「気にするな。職業柄こういうのには慣れている。それに溜まっていたものが吐き出せて、スッキリしただろ?」

 

若干申し訳ない表情になるシャルロットに、ラウラは微笑んだまま返す。と、シャルロットは気になったことを尋ねた。

 

「でもラウラ達が所属している、亡国機業(ファントム・タスク)……だっけ。聞いたこともない組織だけど、どんなことをしているの?」

 

「ざっくり言えば、アーマードライダーの部隊を率いてテロリストを鎮圧することが目的だな。まあ詳しいことはプロフェッサーに直接会った時に聞けばいい」

 

「(会った時? てことは何れ会いに行くことになるのかな)そうしてみるよ」

 

事態が収まり落ち着いてきたところで、セシリアがシャルロットに素朴な疑問を投げかけた。

 

「そういえば、性別を明かすまでシャルロットさんのことは何て呼べばいいんですの?」

 

「確かに。もうシャルルと呼ぶのはアレだしな。一夏姉さん、良い案はないか?」

 

「うーん……箒は何かある?」

 

「だったら、シャルって呼ぶのはどうだろうか。その方がしっくりくる」

 

「中々いい渾名じゃない。で、当のアンタはどうなの?」

 

「シャル、かぁ―――良いよ。今度からはそう呼んで欲しいな」

 

新しい自分の愛称を決めて貰ったシャルロットは満面の笑みを浮かべ、最後にそれぞれ解散して部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、亡国機業(ファントム・タスク)では電話を切った凌馬が束達に質問されていた。

 

「んで、具体的にどうやってあの子を助けるの? 私が人肌脱いじゃう?」

 

「手っ取り早くて助かるけど、今の情勢で君の力を借りることは大きな混乱を招くことになる」

 

「貴方の言い方からして、別な方法があるんでしょう? 一体どんなことをするつもり?」

 

「どうせお得意の電子戦で一泡噴かすんだろ」

 

「おっ。珍しく正解だよ、オータム」

 

「マジでやんのかよ……デュノア社の規模的に、アンタがやっても世界は混乱するぜ、きっと」

 

「束がやるよかマシさ」

 

「ひ、酷い言い分だね……! 事実だけど」

 

やることを決めた凌馬は頭の中でプランを練りながら、右手に持った『E.L.S.-01』と書かれたエナジーロックシードを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びIS学園に戻り、春也の自室の窓際。部屋の主の春也は、再び女性権利団体会長と連絡を取っていた。

 

「データの方、ちゃんと送れてますか?」

 

『ええ、破損もないわ。回線をいくつも経由させているのに、さすがね……白式のデータだけ入ってないのが気になるけど』

 

「それについては追々。何分不可思議な機体でして」

 

『そう、わかったわ。……にしても、貴方も相当悪い男ね。デュノア社の傀儡と化した少女を助けると言いつつ、データを盗んだことがバレた時の保険に仕立て上げ、渡したデータそのものも大本からコピーしたもので、事情聴取の隙に大本を私に送りつけてくるなんて』

 

「正直言うと、本当はそっちに圧力を掛けて貰うことを考えてたんです。でも彼女は僕のことを好きに……理解者になってはくれなかった。だから切り捨てたまでです」

 

『自分本位な考えね。嫌いじゃないけど』

 

「じゃあそろそろ切ります。……ああ最後に1つ。送ってくれた製作途中のプロトタイプのデータ、ありがとうございます」

 

『どういたしまして』

 

そこで春也は電話を切った。

 

(僕自身もびっくりだよ。まさかISの拡張領域(バススロット)や待機形態への変化機能を応用することで、通常の金属にトランスフォーミウムと同じ効果を持たせられるなんて)

 

彼は端末を操作して先ほど話題に出していたプロトタイプと思われる、大型トラックとスーパーカーの画像が映し出されていた。




タグにトランスフォーマー/ロストエイジを追加しました。


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第20話 心機一転

「さてと……作業を始めるとしよう」

 

その日の夜から、凌馬は戦極ドライバーのデュークを元にゲネシスドライバーによる次世代型アーマードライダーとして作った、仮面ライダーデューク レモンエナジーアームズに変身した。この新デュークには、ネットワーク接続及び高性能演算能力が搭載されている為、これらと自身の能力を駆使してハッキングを行うのだ。

 

デュークは手始めに、デュノア社のメインコンピューターに侵入。過去の犯罪履歴のコピーやそれに関わっている人物達のリストアップ等、数々の黒い所業を洗い出していく。

次に、シャルロット・デュノアの戸籍・登録情報を抹消し、彼女に亡くなった母親の名字のフランソワを与えて別の経歴とシナリオを作成。それは以下の通りになった。

 

 

 

 

第一に、シャルロット・デュノアという人物は存在しない。

第二に、シャルロット・フランソワは母親が亡くなり生活難になった際、デュノア社社長に拾われテストパイロットとして登録。そして織斑春也が世間に認知された後、「シャルル・デュノア」と名前と性別を偽った上で養子縁組をし、広告塔としてIS学園に送り込まれた。

第三に、そのことに心を痛めたシャルロットはイレイザー社に助けを求め、イレイザー社は彼女を保護。犯罪行為をしたデュノア社に対し然るべき処置を行った。

 

 

 

 

問題があるとするならばイレイザーという会社が架空のものであるということだが、そこは抜かりなく、公式ホームページを束と凌馬で事前に製作してある。ハッキングの件については春也が証拠を残してなかったこともあり、一夏達の間で黙っておくことにした。

 

そして上記の準備が整ったところで、デュークはデュノア社の黒い部分を世界中に公開。ここまでかかった時間は僅か三日という驚異的な速度であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の情報公開にフランス政府は大いに戸惑ったが、すぐさま状況を判断し、インターポールの協力を受けて特殊部隊を投入。リストに上がった人達(中には国会議員や大臣も居た)を次々と逮捕していき、更にデュノア社にも制圧部隊が向かった。

 

この緊急事態にデュノア社社長のレオポルド・デュノアは大いに焦った。何とかしようとパソコンは起動させてあるが、最早どうすることもできずパニックに陥る。その時、パソコンのモニターにノイズが走り、仮面ライダーデュークの姿が映し出された。

 

『やあ初めまして、レオポルド・デュノア社長』

 

「!? な、何だ貴様は! 男? だがその格好はIS……!?」

 

『名乗る義務も、答える義務もないね。ただ1つ言えることは……今の状況的に、君はもう終わりだってことぐらいかな。ま、自業自得だけど』

 

彼の言葉から、レオポルドは情報を公開したのが今映し出されている仮面の人物の仕業だと直感した。

 

「そうか……! 全て貴様の仕業だな!? 何の恨みがあってこのような!!」

 

『恨みは別にないよ。ただ、君に利用された女の子が我が社に告発して来てね。それを暴く手伝いをしてあげたんだ』

 

(っ! シャルロットの奴、よくも……!! だがこうなった以上、お前もどうなるかはわかっている筈だ!)

 

レオポルドはデュノア社の悪事が暴かれた以上、スパイ活動をしている娘のシャルロットもただでは済まないと考えていた。だがデュークはその思考を読んだのか、こう話を続けた。

 

『そうそう。その女の子たけど、少々経歴を変えさせて貰ったよ。君とは赤の他人で、性別偽装も広告塔扱いにする為だって』

 

「………………は?」

 

『簡単に言えば、シャルロット・デュノアという人物は存在しないことになってるんだよ。じゃ、後は獄中で反省なりなんなりしたまえ』

 

モニターが真っ暗になると同時に、部屋に特殊部隊がなだれ込み、呆然とするレオポルドを拘束した。

取り調べの中でレオポルドは、娘のシャルロット・デュノアをシャルル・デュノアとしてスパイ目的で潜入させたことを語ったが、そんな人物は存在せず、変装したのはシャルロット・フランソワという別人で、目的も広告塔だと語られた。

経歴を変えた―――その意味を理解すると同時に、道連れが不可能となったことに絶望したレオポルドは、半ば抜け殻のような状態で自らの罪を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、そんな感じでデュノア社は一新され、お前はイレイザーに保護された身になった訳だ」

 

「……まさか三日ほどでそうなるなんて思わなかったよ……でも、ありがとう」

 

凌馬による報復が終わり、一段落着いたところで1人部屋に移動したシャルロットの元に朝早くマドカとラウラが訪れ、報告をした。本当に少ししか日にちが経ってないことに驚きつつも、感極まり感謝の言葉を述べた。

 

「ただ名字が変わってしまうことが気になるとこだが……」

 

「いいよ別に。デュノアに拘ってる訳でもないし、むしろお母さんの名字に戻って嬉しいよ」

 

やや済まなさそうに言うマドカに、気にしないでとシャルロットは手を振る。説明を終えたマドカに代わり、ラウラが前に出て次の説明を始めた。

 

「一段落ついたところで悪いが、プロフェッサーがシャルに会いたがっている。すぐにでも連れて来て欲しいとのことだ」

 

「すぐにって、こんな朝早く? HR始まっちゃうよ」

 

「それなんだが、ラウラとシャルが行ってる間に千冬姉さんが山田先生を通してシャルのことを説明するらしくてな。ちょっとした時間潰しと思えばいい」

 

「ならいいけど……戻って来た後が怖いなぁ」

 

「皆良い奴らだから、問題ないだろう。それより行くぞ」

 

「わっ、急かさないでっ」

 

慌ただしく支度を整えると、シャルロットはラウラに引っ張られつつ部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎裏に着いた2人は、周りに誰もいないことを確認。ラウラが薔薇を模したロックシードのような錠前を取り出した。

 

「何それ?」

 

「見てればわかる」

 

ガチャンッと錠前を解錠して放り投げると、空中でガチャガチャと変形しつつ量産バイク・ローズアタッカーに変形、着地した。

 

「バイクになった! こんなものも作ってるの?」

 

「他にも色々あるが、まずは私の後ろに跨ってくれ」

 

言われるがまま、ローズアタッカーに跨ったラウラの後ろに跨り、彼女の腰をぎゅっと掴む。掴まっていることをラウラは確かめると、ローズアタッカーを発進させディメンション・インジケーターが出るまで加速し、メーターの値を一定まで伸ばす。そのまま加速し続けると、周囲に薔薇の花びらのようなものが無数に舞い始める。

 

「は、花びら? 何で!?」

 

「喋ると舌を噛むぞ!」

 

更にスピードを上げ続けると、機体が宙に浮いて錐揉み状に回転。前方に空間の裂け目が出現する。

 

「うひゃあああああああああああああああああああああ!!??」

 

突然の出来事に変な悲鳴を上げながら、シャルロットとラウラはIS学園から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間の裂け目を通った2人が到着した場所は、とても広い部屋のような所だった。ローズアタッカーのエンジンを切って降りると、ラウラが先導を切る。

 

「こっちだ、着いてきてくれ」

 

「うん」

 

初めて来る場所に戸惑いながらシャルロットはついて行き、やがて『社長室』と書かれた部屋の前に辿り着く。ラウラがコンコンとノックすると「入っていいよ」と男性の声が聞こえ、「失礼する」とドアを開けて入った。

 

「よく来てくれたね、シャルロットちゃん。亡国機業(ファントム・タスク)へようこそ」

 

「朝早くから呼び出してごめんね~」

 

デスクに座る凌馬が笑みを浮かべて言い、次いで近くに座っている束がのんびりと言う。が、シャルは世界的に有名な篠ノ之束が目の前に居ることに目を大きく見開きラウラにひそひそと問い質した。

 

(ち、ちょっとラウラ! 篠ノ之博士がなんでこんなところに!?)

 

(協力者としてプロフェッサーと共に行動しているそうだ。シャルロットに対しても好意的に思ってくれているから、気にする必要はないぞ)

 

(気にするよ!!)

 

2人の様子を見ていた凌馬は、苦笑しつつも穏やかな口調で言った。

 

「まあ落ち着いて。気持ちはわかるけど、本題に入らないと」

 

「は、はい。……あの、僕を呼び出した理由はどういったものでしょうか?」

 

「2つある。まず1つ目に、君がここに所属する以上、ラウラちゃん達と共にアーマードライダーとして戦って貰う必要がある」

 

「戦い……ですか。具体的には?」

 

「反政府組織…特に過激派の鎮圧だったり、違法研究所の制圧だったり、色々さ。何れにせよ、実戦に出るから場合によっては誰かを殺すことがあるかもしれないが……覚悟はあるかい?」

 

人殺しをする―――凌馬の問いかけにシャルロットは少し迷うも、深呼吸をして彼の目を見て答えた。

 

「はい。ISに乗った時から、いつ実戦に出ても良いよう精神面も鍛えさせられましたし。それに……僕みたいな人間を増やしたくありません。その為なら、僕は……」

 

「……愚問だったか。では早速これを受け取ってくれたまえ」

 

隣に立っている女性―――スコールに目で合図を送ると、アタッシュケースを持ってシャルロットの前まで歩き、中身を開ける。そこには戦極ドライバーとクルミを模し『L.S.-02』と書かれたロックシードのセットが入っていた。

 

「鎧武と同型のドライバー……」

 

「量産型の戦極ドライバーにクルミロックシードだ。組織の一員として戦う場合や、ISが使えない時に使うといい。勿論、普段から使ってもいいけど」

 

「………………………」

 

ドライバーとロックシードを持ったシャルロットは、自分が亡国機業(ファントム・タスク)の一員として真の戦いに身を投じることを実感していた。

 

「あとりょーくんが言ってた2つ目だけど、君のISを私に貸してくれる?」

 

「へ?」

 

頃合いを見計らって言った束に面食らうシャルロット。首を傾げながら、彼女は待機形態の専用IS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を渡した。

 

「さんきゅ~! むふふっ。さぁて、どんな魔改造しよっかな~?」

 

「ま、魔改造っ!?」

 

「機動性をグンバツにしようか、それとも武器の搭載数を増やすか……うーん、夢が広がるや!」

 

「ぼ、僕のISに何する気ですか!?」

 

目をキラキラと輝かせてISを持ち歩く束に慌てるが、ラウラがポンと肩を叩いて告げた。

 

「安心しろ。悪い方に改造する訳ではない。良い方に改造しすぎるだけなんだ、あの方は」

 

「最もらしいように聞こえるけど、遠い目してる時点でむしろ嫌な予感しかしないよ!!」

 

やいのやいの言っていると、部屋を出ようとした束が振り返って言った。

 

「そういやりょーくん。あのことについても話しておかなきゃ」

 

「っと私としたことが。すっかり忘れてたよ」

 

今度は何だろう?と不思議に思うシャルロットに、凌馬は自分達が活動している『真の目的』を語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑春也の悪事を公にする、か……」

 

IS学園の廊下を歩きながら、シャルロットは噛み締めるように凌馬が語った目的を呟く。

 

「個人的で信じられないか?」

 

隣を歩くラウラが聞くと、首を横に振って言う。

 

「彼の悪行を知った今なら納得できるよ。僕も利用されかけたし、それに……女として、一夏にしでかしたことも許せないから。しかも自分の手を汚すことなく……!」

 

「……そうだな。だからこそ私達が奴の悪行を暴くんだ。今はまだその時ではないが」

 

強い憤りを感じるシャルロットを宥めながら歩くと、教室の前で立っている千冬と目が合った。

 

「お待たせしました、千冬お姉様」

 

「お、お姉様?」

 

「あー……それについては気にするな。コイツが勝手に言っているだけだ。それより良いタイミングで来てくれた。もうすぐ山田先生の説明が終わるから、指示があったら入ってくれ」

 

「はい。……ああでも、緊張してきた。みんな受け入れてくれるかな……」

 

「受け入れるさ。だから心配せずに、楽な気持ちで行け」

 

不安げな顔をする彼女をラウラが励ました時、真耶がシャルロットに入ってくるよう促してきた。覚悟を決めたシャルロットはドアを開けて教室に入り、壇上へ上り改めて自己紹介をしたが、クラスメイト達はニュースを見ていたり真耶の説明を聞いたりして身の回りのことを伺っていた為、皆一様に同情し温かく迎えてくれた。そのことに感激して涙を流しながら、笑顔で述べた。

 

「ありがとうみんな……! 改めて、これからよろしく!」

 

(ふん……)

 

周りに受け入れられているシャルロットを、春也だけは何の感傷もなく一瞥した。

 

(やっぱりね。僕が見捨てても彼女は救われた。アイツならそうせずには居られないだろうし、きっと生徒会長達も手伝っている筈。彼女を保険に使ったのは間違いじゃなかった)

 

悪びれる様子もなくチラッとシャルロットを見ると偶然にも目が合う。キッとこちらを睨み付けて来るが、「ふん」と鼻で笑うと適当にスマホを操作した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方の食堂。シャルロットを入れた面々が食事を摂っていると、不意にマドカが思い出したように告げた。

 

「そういえば千冬姉さんから伝言を頼まれてたんだった。今回の学年別トーナメントは二人一組のタッグマッチ制になったんだと」

 

「タッグマッチかぁ。てことは誰をペアにするかが鍵になるかな」

 

食べながらうーんと思案する。少しして何かしら閃いたセシリアが鈴を見て言った。

 

「そうですわね。でしたら私は……鈴さんとペアを組みますわ」

 

「私と? アンタは一夏と組むと思ってたのに」

 

「遠距離担当のブルー・ティアーズと中距離担当の甲龍は相性がかなり良い。だからセシリアは、お前と組もうと言い出したんだろう」

 

「確実に勝ちにいく考えか……いいわ。セシリア、一緒に勝ち抜きましょう!」

 

「ありがとうごさいます、鈴さん!」

 

テーブルを挟んで向かい合わせになっている2人がガッチリと握手を交わす。一夏や箒達も、誰とペアを組むか話し始める。

 

「ラウラ、私とペアを組まないか?」

 

「箒とか。わかった、いいぞ」

 

「じゃあ……シャル、私と組んでくれる?」

 

「勿論だよ一夏」

 

「となると私は簪と組むことになるな…頼むぞ」

 

「うん、任せて」

 

特に揉めることなくすんなりとペアを作ると、共に戦う者同士で握手をする。勝利の女神はどのペアに微笑むのか。それはまだ、誰にもわからない―――



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第21話 見参!ジンバーアームズ!

時は流れ、学年別トーナメントの前日。一夏は自室の机の上に置いたゲネシスコアとエナジーロックシード3つを見ていた。寝間着に着替えたセシリアは何となく気になり、一夏に尋ねた。

 

「一夏さん、どうかしましたの? ずっとロックシードを眺めてて」

 

「ああ、ゲネシスコアを介したエナジーロックシードの装着、まだ使ったこと無いなって思って」

 

「戦極ドライバーで使用すると、何らかの特殊能力が得られる……とプロフェッサーは仰ってましたわ」

 

「ジンバーアームズって言うんだっけ。レモンエナジーは単純なパワーアップで、チェリーエナジーは高速移動ができるみたい。ピーチエナジーは直接戦闘には向かない能力と言ってたけど、何なんだろ?」

 

「トーナメントで使う訳でもないですし、訓練で使ってみたらどうでしょうか」

 

「そうしてみる。……っと、もうこんな時間。早く寝なきゃ」

 

部屋の電気を消した2人は寝る前にそっと口付けをすると、互いのベッドに潜って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日のトーナメント開催日。観客席で春也は苛立ちを隠せずにいた。何故なら一回戦の対戦カードが一夏&シャルロットvsラウラ&箒の組み合わせで、本来自分と戦う筈の相手が一夏と戦うことになったからだ。

 

(シャルとのペアはこっちから切り捨てたから仕方ないとして、アンタがラウラと戦うなんてどういうことだ! これじゃラウラを僕に惚れさせることが……!!)

 

激昂しかける春也だが、呼吸を整え気持ちを落ち着かせると冷静に考えを纏めていく。

 

(……まあいい。どうせ今のラウラの様子じゃ、VTシステムは発動しない。保険の数を前より大量にしたのは名案だったな。手に入らないものを始末するのに、余計な策を練らなくて済む)

 

「どうしたの織斑君? 難しい顔して」

 

隣に座っているパートナーの相川清香が顔を覗き込んでくる。シャルロットが既に一夏とパートナーを組んでいたので急いで決めたのだ。

 

「気になってね。どっちが勝つのか」

 

嘯きながら春也はまだ誰もいないアリーナを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

ピットでISを纏ったシャルロットは深くため息をついた。鎧武に変身した一夏はそんな彼女を見て尋ねる。

 

「やっぱりラファールのこと、気にしてる?」

 

「そりゃ気にするよ。性能が第3世代型並に引き上げられてる上に、武器の総量が明らかに増えてるんだもの……反応に困るったらありゃしない」

 

束の改造により第2世代型の枠を飛び出てしまった愛機にただ戸惑いを感じるが、鎧武に「仕方ないよ。束さんだもの」と言われ「まあ確かに」と、改めて気を引き締めて出撃した。

 

2人がアリーナに出撃すると、既にラウラと箒が出て待っていた。

 

「ごめん、遅れちゃった」

 

「謝らなくていい。こっちも今し方来たところだ」

 

「それにしても一戦目でお前達と当たるとは驚きだ。上で待つ手間が省けたな」

 

「同感だね」

 

大画面モニターに試合開始までのカウントが表示される。4人とも表情が打って変わって真剣そのものになり、相手を見据えながらハイパーセンサーでカウントを確認。数字はもう、0だ。

 

『試合開始!』

 

「行くよ!」

 

「勝負だ!」

 

「負けないから!」

 

「参る!」

 

鎧武とラウラが、シャルロットと箒が得物を構えて相対する。シャルロットは連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」を初っ端から放つ。箒は右手に握った刀剣型武器・雨月(あまづき)と左手に握った空裂(からわれ)を駆使して、何と弾丸を弾き飛ばして攻撃を防いだ。

 

「シールドで防ぐ訳でもなく、単純に避けるのでもなく、そんな方法を使うなんて……だったらこれで!」

 

再びレイン・オブ・サタデイを三連射すると、近接ブレード「ブレッド・スライサー」に武器を持ち替え、箒が回避したところに強化された加速能力で一瞬にして間合いに飛び込み、全力で振るう。

 

「っ! 私に接近戦で勝負を挑むとは……面白い!」

 

「僕だって、近距離戦闘も負けない自信があるからね!」

 

二本のブレット・スライサーでシャルロットは箒を相手に、二刀流同士の戦いに突入する。互いに切り結び、火花が飛び散る中、シャルロットは重機関銃「デザート・フォックス」を左手で取り出し近距離で発砲。更に右手でアサルトライフル「ヴェント」を所持し、トリガーを引いた。軽微ながらもダメージを受けた箒は、シャルロットの腕前の高さに感心する。

 

「武器をいきなり変更して虚を突く。それがお前の戦術ということか、見事だ」

 

「そう。名付けて砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)。その名の通り、求めるほどに遠く、諦めるには近く……その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、綾やかなる褐色の死へと進むが如く、相手を追い詰める技さ!」

 

好戦的な笑みを浮かべ、シャルロットは更なる連撃を開始する。ブレッド・スライサーによる接近戦を挑み、前触れもなくレイン・オブ・サタデイやヴェント、デザート・フォックスに切り替えダメージを与えていく。「これなら行ける!」とシャルロットは笑みを浮かべた―――だが。

 

「やるな! どうやら私も、紅椿の全てを引き出す必要があるようだ……!」

 

「え?」

 

疑問に思い首を傾げていると、箒が雨月で突きを放つ。咄嗟にシールドで防御しようとしたが……。

 

 

バシュンッ!

 

「うわっ! ……え? ええっ……!?」

 

 

雨月の先端からレーザーが発射され、大きく吹き飛ばされる。そこへ追い打ちとばかりに、空裂を振り抜く……と、そこから斬撃がシャルロット目掛けて飛んでいく。

咄嗟に上に飛んで回避すると、両手を下げて佇む箒を見据える。

 

「まさかそんな隠し球を持ってるなんて。お陰でシールドエネルギーが一気に削られちゃったよ」

 

「本当なら二撃目で仕留める予定だったんだが…まあいいさ。次で蹴りをつけるのみだ!」

 

「言ってくれるね!」

 

雨月と空裂を構えた箒と二本のブレッド・スライサーを持ったシャルロットが、同時にスラスターを全開にして突撃する。

 

「「はぁぁぁあああああああああああああああああ!!」」

 

ザシュッ!!

 

機体のエネルギーを切り裂く音が響き、互いに剣を振り抜いた状態で背中合わせになる。直後に2人共地面に落下して膝をつく。同時にシールドエネルギーがゼロになったのだ。

 

「やっぱ無理だったかぁ……でも何で箒の機体まで?」

 

「さっきの攻撃はシールドエネルギーを消費するから、あの時点でエネルギーは五分だったんだ。無論、回復手段もあるが……それを使っては面白味が無くなってしまうしな」

 

「そうなんだ。まあお陰であいこに持ち込めたからいいけど、今度は全てを出し切った紅椿と戦ってみたいな」

 

「またいつか、な」

 

再戦を誓い、2人は全力で戦えたことに満足して笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を少し巻き戻して、鎧武とラウラの戦いは、まずラウラがシュヴァルツェア・レーゲンの肩に装備された大型レールカノンを放って序盤から攻め込んでいく。

 

「うわっ! くっ! 私だって!」

 

砲弾を避けながら鎧武は無双セイバーの弾をリロードしつつ、トリガーを引いて弾丸を発射するがラウラも回避する。

 

「さすがに当たってはくれないか」

 

「まあね!」

 

レールカノンが再び火を噴く。そうして幾度か射撃戦が繰り広げられ、一進一退のまま鎧武が再びリロードして銃口を向けた時、彼女の動きが停止した。

 

「! しまった、AIC!」

 

「今だ!」

 

ラウラは両肩とリアアーマーから6機のワイヤーブレードを射出すると、大橙丸を弾き飛ばし更に攻撃を加えていき、勢い余って鎧武がAICの拘束から外れて吹き飛ぶ。

 

「うっ、やったな! だったらこれで行くよ!」

 

『イチゴ!』

 

オレンジロックシードの蓋を閉じて外した鎧武は、表面がイチゴを模し『L.S.-06』と書かれたイチゴロックシードを取り出して解錠し、戦極ドライバーに装着。すると消えたオレンジアームズの代わりにイチゴの形のイチゴアームズが降下してくる。そして最後に、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! イチゴアームズ! シュシュッと・スパーク!!』

 

落下したアームズは一度地面にぶつかってバウンドしてから鎧武に被さり、上半身に左右非対称になって展開。派生形態のイチゴアームズへと鎧武を変化させた。

 

「イチゴのアームズか……」

 

「こっから逆転していくよ! たあっ!」

 

クナイ型武器の『イチゴクナイ』を両手に持つと、交互に投げつける。素早く飛んでくるそれをラウラはAICで止めるが、イチゴクナイは鎧武の手の中にどんどん発生し投げつけられる為、次第に処理が追いつかなくなっていく。

 

「っ、数が……! こうなればダメージは覚悟で―――!?」

 

「せやぁああああああああああっ!!」

 

ラウラが見ると、イチゴクナイの連射に隠れて鎧武が高くジャンプし、両手に逆手持ちにしたイチゴクナイを落下しながら突き立てようとしてきた。

 

「そうはさせるか!」

 

ガキン!

 

プラズマ手刀を発動させ、イチゴクナイの切っ先を掴む。だが鎧武は攻撃が防がれたとわかると一度後退し、イチゴロックシードをドライバーから外して無双セイバーの柄にある窪みに装着する。

 

『ロック・オン! イチ・ジュウ・ヒャク! イチゴチャージ!!』

 

「これで決める! やぁああああああああ!!」

 

カウント音声が流れる中、掛け声と共に無双セイバーを横一文字に振り抜く。すると斬撃が放たれ、更にそれが無数のイチゴクナイを模したエネルギー刃に変化し弾幕の如くラウラを襲い、シールドエネルギーを一気にゼロにした。

 

 

『試合終了! 勝者、織斑一夏&シャルロット・フランソワ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そろそろかな)

 

試合終了のアナウンスを聞いた春也は、ふと空を見上げた。

 

 

「負けてしまったか……だが、久しぶりにお前と良い試合ができた」

 

「私も。ラウラと全力で戦えて嬉しかった」

 

試合が終わり、鎧武とラウラは歩み寄って握手を交わす。と、その時―――

 

 

 

ドガァァァアアアアアアアアアン!!

 

 

 

アリーナのシールドが破壊され、全身装甲(フルスキン)の無人ISが何と20体もの大群で侵入してきた。装備は両腕が振動ブレードになっているのと、両腕がガトリングガンになっているのが半々だ。

 

「あの時の無人機!? それもこんな大量に……む、何だ!?」

 

「あれだけの数のコアを、一体どこから……な、何だ? どうしたレーゲン!?」

 

「ラファールが……! 一体どうしちゃったの!?」

 

「まさか、ジャミング装置が……!」

 

30機全てのISに搭載されたジャミング装置により、箒達のISは機能不全に陥る。鎧武もISモードがエラーになった為、通常モードに切り替えた。

 

「ならば…箒、変身するぞ!」

 

「承知した!」

 

「変身……それなら僕も!」

 

ISを解除して戦極ドライバーを腰に装着するラウラと箒。それを見たシャルロットも量産型戦極ドライバーを装着する。

 

「!? 待てシャルロット! お前はアーマードライダーとしての戦闘は未経験だ! いきなり実戦に出るのは―――」

 

「危険なのはわかってる! でも前に言ったよね、戦う覚悟はあるって。ここで逃げて、自分で決めた覚悟に嘘をつきたくないんだ!!」

 

「シャルロット……わかった。だが決して無理はするなよ」

 

「うん。……ありがとう」

 

(シャルはああ言ったけど、この数じゃ初陣には厳しいかも。どうすれば…………そうだ、ここはアレを使ってみよう!)

 

ラウラ、箒、シャルロットは各々が所持するドリアンロックシード、リンゴを模した銀のリンゴロックシード、クルミロックシードを取り出し、鎧武は戦極ドライバーの顔の書かれたプレートを外して代わりにゲネシスコアをはめ込みオレンジロックシードと、『E.L.S.-01』と書かれたレモンを模したレモンエナジーロックシードを手に持った。

 

「「「変身!」」」

 

『ドリアン!』

 

『シルバー!』

 

『クルミ!』

 

『オレンジ!』 『レモンエナジー!』

 

『『『『ロック・オン!』』』』

 

解錠したロックシードを戦極ドライバー(レモンエナジーロックシードはゲネシスコア)にセットしてロックすると、ホラ貝とエレキギターによるサウンドが響き渡り、頭上にドリアンアームズ、シルバーアームズ、クルミの形をしたクルミアームズ、オレンジアームズ、そしてレモンの形をしたレモンエナジーアームズが現れる。ラウラ達は互いの背を預けるように円陣を組みながら、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りに(レモンエナジーロックシードはカバーが展開)した。

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『ソイヤッ! シルバーアームズ! 白銀・ニューステージ!!』

 

『クルミアームズ! ミスターナックルマン!!』

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーレモン! ハハーッ!!』

 

ラウラ達3人は通常のアームズが勢いよく被さって展開するが、鎧武は2つのアームズが融合して全く別のものに変わってから被さり、レモンの断面が描かれた陣羽織状の鎧として展開された。結果シャルロットは仮面ライダーナックル クルミアームズに、鎧武はソニックアローが使用可能になるジンバーレモンアームズに変化し、ラウラと箒もブラーボと冠に変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、管制室でも二度目になる突然の襲撃に慌ただしくなっていた。マイクを握った真耶が大声で避難の指示を飛ばす。

 

「非常事態発生です! 現時点を以ってトーナメントは中止! すぐに教師の鎮圧部隊を送りますので、生徒の皆さんは至急避難して下さい!!」

 

「(まずい流れだな……)楯無、私達も対処に当たるぞ」

 

「了解しました。みんな、準備はいい?」

 

「うん!」

 

「勿論ですわ」

 

「とっくにできてるわよ!」

 

「いつでも行けるぞ」

 

千冬が楯無を通してその場に居るアーマードライダーの面々を促し、管制室から出て歩きながら一斉にロックシードを握り締める。

 

「「「「「「変身!」」」」」」

 

『メロンエナジー!』

 

『マツボックリエナジー!』

 

『ドングリ!』

 

『バナナ!』

 

『ブドウ!』

 

『ピーチエナジー!』

 

各ロックシードが解錠されると、それぞれの頭上にメロンエナジーアームズ、マツボックリを模したマツボックリエナジーアームズ、ドングリを模したドングリアームズ、バナナアームズ、ブドウアームズ、桃を模したピーチエナジーアームズが出現する。同時に千冬達は各ドライバーにセットしてロックし、シーボルコンプレッサーを押し込んでエナジーロックシードのカバーを展開したり、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『『『『『『ロック・オン!』』』』』』

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

『リキッド! マツボックリエナジーアームズ! ソイヤッ! ヨイショッ! ワッショイ!!』

 

『カモン! ドングリアームズ! Never Give up!!』

 

『カモン! バナナアームズ! Knight of Spear!!』

 

『ハイーッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!!』

 

『ソーダ! ピーチエナジーアームズ!!』

 

頭部にアームズが被さり、ライドウェアやゲネティックライドウェアで身体を包まれ、展開したアームズが鎧となって上半身に装着。彼女らを斬月・真、仮面ライダー黒影・真 マツボックリエナジーアームズ、仮面ライダーグリドン ドングリアームズ、バロン、龍玄、仮面ライダーマリカ ピーチエナジーアームズに変身させた。

そしてすぐさま走り出してアリーナに急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何なのあの数……それに、織斑さんと同じISがあんなに……!?」

 

一方観客席では、無人ISの大群と新たに出てきたアーマードライダー達に清香が驚きを隠せないでいた。

 

「気になるのはわかるけど、避難指示も出たし早く逃げよう。ほら」

 

「う、うん」

 

(他にも居るかもと思ってたけど、こんなにとは……これじゃあアリーナへの乱入も奴らの始末も無理か。でも予備を用意しておいたのは正解だったな……フフフ、倒すのが無理でも足止めぐらいはしてくれよ。僕のステージを邪魔させない為にね)

 

清香の手を引いた春也は、そんなことを思いつつ他生徒達と共に避難を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナではアーマードライダー達が合流して2人一組で編成を組んで、無人機と二機ずつ戦っていた。

 

ブラーボと組んで戦うナックルは、初陣にも関わらず無人機相手に両腕の大きなグローブ、クルミボンバーで善戦していく。

 

「はあっ! せいっ! とりゃあああっ!!」

 

「ふんっ! ……やるじゃないか、シャルロット! 初陣にしては上出来だ! はっ!」

 

「そうか…なっと!」

 

ドリノコやクルミボンバーによる連撃で敵IS二機の強固な装甲を完膚無きまで叩きのめしていき、少し距離を取ったところでそれぞれカッティングブレードを二回倒す。

 

『ドリアンオーレ!!』

 

『クルミオーレ!!』

 

「「はぁぁああああああ……たぁぁあああああっ!!」」

 

ブラーボはドリアッシェを発動してドリノコから、ナックルはクルミボンバーからエネルギー弾を放ち、敵機に直撃させて粉々に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

IS学園での変身が初めてな黒影・真とグリドンは、先端に十字の刃が、反対側に鋭い形状の刃がついた槍型武器の影松・真と金槌型武器のドンカチを武器に、ガトリング装備の無人IS二機に接近戦を挑む。

 

「行くわよ、てりゃあああああ!!」

 

「この……! えぇぇーいっ!!」

 

懐に入り込むことでガトリングを使わせず、リーチの短さを逆に武器にして無人機にダメージを与えていく。同時に位置を調整し、二機を背中同士ぶつけることに成功する。

 

「トドメ、行くよお姉ちゃん!」

 

『カモン! ドングリスカッシュ!!』

 

「ええ、任せて頂戴!!」

 

『マツボックリエナジースカッシュ!!』

 

「「はぁぁぁあああああああああああああ!!」」

 

カッティングブレードを一回倒し、駒のように高速回転してドンカチで殴りつけるグリドンインパクトと、シーボルコンプレッサーを一回押し込んで影松・真で刺突攻撃を行う影縫い突きで挟み撃ちにし、纏めて破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ! AIの癖して、妙に連携が取れている」

 

「だったら取らせぬまでだ。はあっ!!」

 

ブレードとガトリングでタッグを組んだ敵機が連携を取りつつマリカと冠を攻めるが、すぐさま各個撃破に切り替えた2人が別々に相手をする。そしてソニックアローにピーチエナジーロックシードをセットしたり、カッティングブレードを一回倒したりして手早くトドメに移る。

 

『ロック・オン!』

 

「連携を前提としている機体なら、私達と戦うこと事態が間違いだったな……!」

 

『ピーチエナジー!!』

 

「行くぞ、バラバラにしてくれる!!」

 

『ソイヤッ! シルバースカッシュ!!』

 

ソニックアローの弦を引いて狙いを定めたマリカは、強化された光矢を放つソニックボレーでガトリング装備型を撃ち抜き、高くジャンプした冠は蒼銀杖でブレード装備型を一刀両断。敵機はほぼ同時に爆発四散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブレード装備型同士で組んでパワーで押してくる無人機に対し、バロンと龍玄はやや苦戦していた。

 

「っ…! やっぱこのアームズじゃ接近戦には向かないか! なら―――」

 

「力業で来ますわね……! でしたら私も―――」

 

一度バックステップで距離を置くと、2人はブドウロックシードとバナナロックシードを外して、代わりに表面がキウイとマンゴーを描きそれぞれ『L.S.-13』や『L.S.-11』と書かれたキウイロックシードとマンゴーロックシードを取り出して解錠する。

 

「「目には目を、よ(ですわ)!!」」

 

『キウイ!』

 

『マンゴー!』

 

ブドウアームズとバナナアームズが消滅し、龍玄の頭上にはキウイを模したキウイアームズが、バロンの頭上にはマンゴーを象ったマンゴーアームズが出現してゆっくり降下してくる。そこで素早くカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『『ロック・オン!』』

 

『ハイーッ! キウイアームズ! 撃・輪・セイヤッハッ!!』

 

『カモン! マンゴーアームズ! Fight of Hammer!!』

 

認証音声と共にアームズが一気に落下し、龍玄をキウイアームズに、バロンをマンゴーアームズに変化させた。

 

「とあっ! やぁああああっ!」

 

圈型武器のキウイ撃輪を振り回し、龍玄は敵ISのブレードを受け流しカウンターを入れる。通常のISなら一溜まりもないであろう振動ブレードは、キウイ撃輪の切れ味に負け両方とも真っ二つに両断された。

 

「はぁあああああ! せぇやぁぁああああああ!」

 

アリーナの地面に若干めり込む程の重量のある、メイス型武器マンゴパニッシャーをバロンは軽々と扱い、先端部に付属した刃と棘にその重量も相まって敵のブレードを文字通り粉砕した。

 

『ハイーッ! キウイオーレ!!』

 

『カモン! マンゴーオーレ!!』

 

「「これでお終い(ですわよ)! はぁぁああああああっ!!」」

 

反撃不能に陥った敵を見逃さず、カッティングブレードを二回倒すとキウイ撃輪とマンゴパニッシャーを振るい、斬撃と先端部を模したエネルギーを飛ばして敵を爆散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっ! そりゃっ!!」

 

「ふんっ! はっ!」

 

鎧武と斬月・真はソニックアローを駆使して接近して斬りつけたり、距離を取って光矢を放ったりしてダメージを与えていく。

 

「これがエナジーロックシードの力……今までよりも、強い力を感じる!」

 

「やはり初めは驚くか。だが油断はするなよ!」

 

「言われなくても!」

 

ドライバーからエナジーロックシードを外し、各々のソニックアローに装填して施錠する。更に鎧武は戦極ドライバーのカッティングブレードを一回倒す。

 

『『ロック・オン!』』

 

『ソイヤッ! オレンジスカッシュ!!』

 

ソニックアローの弦を引き、鎧武は斜線上に折り重なって現れたオレンジとレモンの断面を模したエネルギーを、斬月・真は備え付けのポインターを照準として狙いをつけ、強化された光矢を放った。

 

『レモンエナジー!!』

 

『メロンエナジー!!』

 

駆体を撃ち抜かれた二機は、機能不全になりながら爆発した。

 

 

 

一先ず戦いが終わり、ライダー達が合流すると斬月・真が全員を見渡して労いの言葉を掛けた。

 

「皆、よく戦ってくれた。シャルロットも、初陣にしては上出来だ」

 

「ど、どうも……はぁ……」

 

「フラフラだな。まあ無理もない、私が肩を貸そう」

 

「ありがと、ラウラ」

 

変身を解除すると、シャルロットはラウラに肩を担いで貰う。グリドン、斬月・真、マリカ、冠、バロン、龍玄も変身を解除していき鎧武と黒影・真もロックシードに手を掛けた、その時―――黒影・真に通信が入った。

 

「ん? 虚ちゃん? どうしたの……………………ええっ! まだ敵が居る!?」

 

『『『っ!?』』』

 

思わず叫んだ言葉に全員が驚愕し、黒影・真はより詳しい情報を通信相手の布仏虚から聞き出す。

 

「座標は……避難している人達の近く!? こんなの、今からじゃとても!」

 

「(そんな、それじゃあ危なくてバイクも使えない! どうすれば…………そうだ!)その座標、最短ルート毎私に送って下さい!」

 

「いいけど、何か良い考えでもあるの?」

 

「ちょっとした賭けですけどね」

 

左手にチェリーエナジーロックシードを持った鎧武は、レモンエナジーロックシードを外してそれのロックを解除した。

 

『チェリーエナジー!』

 

オレンジロックシードのカバーが閉じ、ジンバーレモンアームズが消えて頭上にオレンジアームズとチェリーエナジーアームズが同時に現れる。ゲネシスコア部にチェリーエナジーロックシードをセットしてロックすると、鎧武はカッティングブレードを倒してオレンジロックシードを輪切りにし、チェリーエナジーロックシードのカバーを開いた。

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーチェリー! ハハーッ!!』

 

2つのアームズが融合して被さると、再び陣羽織になるが先ほどとは違ってサクランボの断面が描かれたジンバーチェリーアームズになった。

 

「ルートも送られてきた。よし、行ってくる!!」

 

ジンバーチェリーアームズの特殊能力である高速移動能力を使い、残像を残しながら鎧武は目的の座標に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちだ、早く!」

 

一方、春也は避難する生徒達の先導になって廊下を走っていた。だが―――

 

ドォォオオオオンッ!!

 

突然目の前の廊下の壁が破壊され、そこから三機の振動ブレード装備型の無人ISが現れた。

 

「そ、そんな……私達、ここで死んじゃうの……!?」

 

「そんなことはさせない! みんなは僕が守る!」

 

白式を展開した春也は雪片弐型を強く握り、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用して距離を詰めると、零落白夜を発動。突然動きを止めた(・・・・・・・・)敵ISの一機を切り裂き破壊した。

 

(前は確認できなかったけど、僕が相手だと無抵抗になる上に僕の攻撃で余裕に壊れるのは確かみたいだ。このまま一気に―――)

 

ザシュッ!

 

「なっ!?」

 

「ま、間に合った……!」

 

更に敵を撃破しようとした時、鎧武によって擦れ違い様に無人機を転ばされてしまった。

 

「一機は春也が倒したのね。後は私に任せて!」

 

「待てよ一夏姉さん! コイツ等は僕が倒す。貴女の指示なんか聞く気はない!」

 

「私だって、貴方に頼むのは嫌だよ! でも、頼めるのが他に居ないから!」

 

「っ……わかったよ! みんな、こっちだ!」

 

渋々といった様子で、春也は他の生徒達と共に別ルートへと向かう。それを見た鎧武はすぐさまカッティングブレードを二回倒す。

 

『ソイヤッ! オレンジオーレ!! ジンバーチェリーオーレ!!』

 

「みんなに手は出させない……! はああああっ!!」

 

高速で移動しながら、エネルギーを溜めたソニックアローで敵機を一気に切り裂いて、二機の胴体と下半身を泣き別れにした。

そして変身を解除すると安堵のため息をついて千冬達と合流すべく急いだ。




春也……正確には無人ISの秘密が明らかとなりました。鈴との戦いでもこの特性を利用して余裕の勝利を決めるつもりでした。


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第22話 一時の日常と暗躍する者

「結局のところ、無人機のコアは全部未登録の物だったんだね」

 

事件が終わった翌日。一夏はセシリア達と学食で朝食を食べながら昨日の出来事について、色々話をしていた。

 

「むしろ登録済みのだったら別の意味で怖いわよ。まあどっちにしろ大問題に代わりは無いけど」

 

「情報を徹底的に隠蔽したお陰で外部に漏れる心配は無くなりましたけど、無人ISが20体も襲って来たんですもの」

 

「下手をしたら世界中がひっくり返るな」

 

「何にせよ、今は事態を収集できたことに安心するとしよう。さすがに疲れが残ってるからな」

 

「あの後事情聴取とかもあったからね……ふぁ……」

 

「クラスメイトから他のアーマードライダーについて質問攻めされたし……説明するだけで疲労困憊だよ」

 

眠たそうに簪が欠伸をし、他の面々もそれに釣られる中、シャルロットが隣に座っているラウラに向かって言った。

 

「そういえば、ありがとねラウラ」

 

「何がだ?」

 

「ほら、肩貸して貰った後、僕そのまま寝落ちしちゃったみたいだから……ベッドまで運んでくれたお礼だよ」

 

「ああ、そのことか。別に礼などいい。お前が無事ならそれで十分さ」

 

「そ、そう……そう言ってくれると、僕も気が楽になるよ」

 

笑みを浮かべたラウラに頬を赤くしながら笑顔で言うと、ラウラもまた顔を赤らめる。そのまま2人はじっと見つめ合い……

 

「んんっ! あのさ、早く食べないと遅れるわよ?」

 

鈴の咳払いで慌てて食べかけの朝食を再び食べ始めた。そんなシャルロットとラウラに、もしやと問いかけた。

 

「アンタ達さ、一夏とセシリアみたいに互いのことを好きになっちゃったの?」

 

「ふぇえええっ!? い、いきなり何言ってるのさ! ねえラウラ……」

 

「……そうかもしれんな」

 

「えっ!!?? ど、どうして!?」

 

シャルロットは驚いて口を手で押さえながら尋ね、一夏達も目を丸くする。

 

「どうしてかと聞かれると、私にもよくわからん。シャルロットを救って、戦う覚悟と芯の強さに触れて……気がついたら、そういう感情を抱いていた。……お前はどうなんだ、シャルロット?」

 

「僕は…………僕も、実は……」

 

「やっぱり。切っ掛けは?」

 

「わからない。強いて言うなら、春也に利用されて絶望していたところに救い船を出してくれたから……かな」

 

「曖昧だな。ま、恋愛なんて大抵はそんなもんかもしれないが」

 

「誰かを好きになるのに明確な理由は無いから、曖昧でもいいんじゃない?」

 

マドカと簪の言葉を聞き、ラウラはしばし考えた末に思い立った顔つきになると、シャルロットを見てこう告げた。

 

「よし、決めた。シャルロット! 今からお前を、私の嫁とする!」

 

「へ、嫁!? 何で!?」

 

「前にクラリッサから、日本では気に入った相手を嫁にするという習わしがあると聞いたんだ。ダメ、だったか?」

 

((((((おかしい。間違っている知識なのに、今だけは間違ってないなんて……!!))))))

 

誤って覚えた知識が正しく活かされるという異例の事態に、一夏達が驚いていると顔を真っ赤にしていたシャルロットが恥ずかしがりながらもそれに応えた。

 

「……いいよ。僕で良ければ、ラウラのお嫁さんに…して下さい」

 

「シャルロット……」

 

感極まり、ラウラはシャルロットの両手を包むように握る。直後、成り行きを見守っていた他の生徒達から拍手や黄色い歓声が上がる。そういえば学食だったと恥ずかしくなるが、2人は満更でもない気持ちになる。だが……。

 

(またこの展開か……一夏姉さんといいセシリアといい、女同士で恋愛するなんて、バカみたいだ)

 

ただ1人、春也だけが冷たい目で見ており、ため息と共に食堂から出て行った。そんなことに気づかない一夏達は、騒ぎが収まったところで話題を変えた。

 

「ところでさ、今度臨海学校で海に行くみたいだけど、水着はどうする? 私はこの際新調しようと思うけど(折角束さんに傷跡を綺麗に消して貰ったんだし)」

 

「私も新しいのを買うつもりですわ。最近サイズが合わなくなって来ましたし」

 

「あー、それ僕もだ。もう止まるとは思うけど、困っちゃうよね」

 

「大きすぎて肩が凝って仕方ないしな。簪ぐらいが丁度いい塩梅かもしれん」

 

「そうかな?」

 

楽しく言い合う5人だが、一方で鈴とマドカは暗い雰囲気を出して俯いていた。

 

「何が肩が凝るよ……そんなの些細なことじゃない。凝るまでも無い私達に比べれば、どんなに恵まれていることか……」

 

「千冬姉さんや一夏姉さんはああなのに、理不尽だ……なあ、そう思うだろラウラ!?」

 

「いや……というか、何故そこまで胸の大きさに拘る?」

 

任務の都合上、狭い通路を何度か通ったことのあるラウラは、胸の大きさで悩む2人の気持ちがよく理解できずに困惑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、食堂から去った春也は……。

 

「もしもし、聞こえますか?」

 

『ええ、聞こえるわ。それで何の用かしら?』

 

「例の無人機ですが、臨海学校の分は確保していますか?」

 

『勿論、抜かりなく準備しているわ。でもさすがに軍の新型をハッキングするのは無理よ。それに追加の無人機も足止めができれば良い方の出来だし、第一どのタイミングで出せばいいのかは私達にもわからないわ』

 

「大丈夫です。そこは前に言ったように、全部僕がやりますので」

 

『……本当に貴方には脱帽するわ。それじゃあ、バレないことと成功を祈っているわ』

 

件の女性権利団体との電話が切れ、春也は窓から水平線の彼方をじっと見つめた。

 

(今までは邪魔をされたが、今後はそうはいかない。奴は僕が仕留める。そして一夏姉さんを、確実に殺してやる)

 

クラスメイトには見せられない、歪んだ笑みを顔に浮かべながら彼は廊下を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(結局今回も彼は尻尾を出さなかった……。次のチャンスは臨海学校……ここで織斑春也は何か大きな動きを必ず見せる筈だ)

 

春也が悪巧みをしているその頃、凌馬は1人臨海学校で起きるであろう出来事について考えていた。

 

「(福音の暴走を束が行う確率はゼロ。となると奴が暴走させるとは思うが、果たしてそれだけで済むかどうか)どうにも嫌な予感がするんだよねぇ」

 

レモンエナジーロックシードをくるくる回しながら、凌馬は1人ごちた。



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第23話 それぞれの臨海学校

「見てセシリア! 海だよ、海!」

 

臨海学校当日。移動中のバスに揺られて海岸へと向かう中、窓から見える海に一夏はすっかり興奮していた。

 

「もう、一夏さんったら。興奮し過ぎですわよ。お気持ちはわかりますけど」

 

「あ、ごめん。あんまり海に行ったことないから、つい嬉しくて」

 

「そうでしたの。それなら十分楽しまないといけませんわね」

 

「うんっ!」

 

一夏のテンションが高いまま、やがてバスは目的地の旅館へと到着した。そして旅館の前に降りて整列すると、千冬が全員を見渡す。

 

「ここが今日からお世話になる花月壮だ。従業員の仕事を増やさないように注意するんだぞ」

 

『『『よろしくお願いしまーす』』』

 

「ほら、お前もちゃんと挨拶しろ」

 

「えっと…織斑春也です。よろしくお願いします」

 

女子達は元気よく挨拶し、春也も緊張しながらではあったが挨拶をする。次に旅館へ入ると、事前に割り振られた部屋に移動した。

 

「わあ、綺麗な部屋」

 

「これが畳ですのね。初めて触りましたわ」

 

部屋に入った一夏は予想してたよりも部屋が良かったことに感嘆し、セシリアは初めて踏んだ畳の感触に興味津々だ。

 

「さてと。じゃあ早速着替えて海に行こうか」

 

「ええ。ですがその前に、サンオイルを塗って下さると有り難いですわ」

 

「お任せあれっ」

 

そう言うと持ってきた荷物の中から水着を取り出し、その場で制服から水着へと着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃあ、暑い……今年の夏ってこんな暑かったっけ?」

 

「サンオイルを塗っていなければ、肌が焼けてしまうところでしたわ」

 

砂浜に出た一夏とセシリアは日差しの強さに手を額に当てながら呟く。と、ここで一夏はセシリアの水着姿を改めて見る。青いビキニタイプの水着を着た彼女は、スタイルが抜群なこともあって艶っぽく見える。加えて歩く度に、豊満なバストが揺れ動く。その光景に一夏はポーっと頬を赤く染めていた―――すると。

 

「一夏さん、どうしましたの?」

 

「!? な、何でもないよ。ちょっとボーっとしてただけ」

 

覗き込んできたセシリアに、吃りながら釈明するが、何かに気づいたように微笑むと顔をすっと近づけた。

 

「本当にそうなんですか? 私の姿に見とれていたのではなくて?」

 

「そ、それは……」

 

「ふふっ。……ここだけの話、私もずっと一夏さんに見とれていたんですよ」

 

「え?」

 

「その証拠に、ほら」

 

優しく掴んだ一夏の右手を自分の胸へと持っていく。ドキドキと高鳴る心臓の音が、彼女に手を通して伝わる。

 

「ホントだ……私と一緒だったなんて、何か嬉しいかも」

 

「一夏さん……」

 

「セシリア……」

 

燦燦と輝く太陽の下で、2人は近づけていた顔を更に近づけていき―――そっと唇を重ねた。

 

「何公の場でやらかしているのよ、アンタ達は」

 

「「っ!?」」

 

が、直後に現れた鈴に言われて離れる。よく見れば鈴の顔も赤くなっている。

 

「み、見てた?」

 

「見るつもりは無かったけど。てか、私で良かったけど織斑春也が見てたら無茶苦茶嫌味言われるわよ、きっと」

 

「それだけは御免ですわ!」

 

冗談を言い合っていると、そこへ簪とマドカと箒がやってきた。

 

「相変わらず良いプロポーションだな、一夏姉さんは」

 

「千冬お姉ちゃんには負けるけどね」

 

「あの人と比べたらさすがに負けるだろう。ところで、シャルとラウラは? 私達より先に出た筈だが」

 

「あっちに居るけど……」

 

どことなく気まずそうに指を差す簪の先には、確かにシャルロットとラウラが居た……居たのだが。

 

「しかし、だ。何度見ても似合っているな、嫁の水着姿は」

 

「そう言うラウラも、似合ってて可愛いよ」

 

「そ、そうか」

 

「……めっちゃイチャついてるわね」

 

思わず鈴はため息をつく。女同士とは言え、あちらこちらでイチャイチャされていては、見てる方としてはたまったものではない。

 

「鈴さんも恋人を作ればよろしいのでは?」

 

「それって男? それとも女? 後者だったら遠慮しとくわ。私はノーマルだもの」

 

「だが実際問題、IS学園に通いつつ彼氏を作るとなると厳しいぞ」

 

「親しい人物が居るなら別だがな。ほら、前に中学の同級生が居るって話してただろ」

 

「弾と数馬のこと? 無理よ、互いに友達って割り切ってるから」

 

「焦らず気楽にいけばいいんじゃないかな?」

 

簪の締めの言葉により、「そうしよう」と意見が一致したところでこの話題は終了となり、それから昼食時まで海で泳いだり雑談等をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。1人露天風呂に浸かっていた春也は防水加工された端末を取り出し、本来一般人が見ることができない筈の軍用ISのプログラムデータを見ていた。

 

(僕が作った暴走プログラムはちゃんと入ってるみたいだな。束さんが先にハッキングした場合は自動消滅するようにしてるし、後は僕が上手く立ち回れるかどうかか。……きっと大丈夫さ。世界で唯一の男性操縦者である以上、最後に笑うのは僕なんだから)

 

自分本位な思考をする春也は長風呂をして暖まると、成り行きが上手くいくように祈りながら部屋に戻って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付と場所は変わり、早朝のハワイ沖。

ここでは米軍所属のIS操縦者、ナターシャ・ファイルス中尉が新型の軍用ISを纏って随伴機と共にテストを行っていた。

 

「各部チェック……問題無し。コンディションは最高よ」

 

『よし、このまま稼働テストに移ってくれ。武装のロックは外すなよ?』

 

「わかっているわ」

 

冗談混じりに言う試験官に肩を竦めながら言うと、ナターシャはディスプレーを操作していく。

 

ビーッ! ビーッ!

 

突如として警告音と共に目の前がエラー画面で埋め尽くされる。

 

「な、何よこれ!? 一体何が!?」

 

『緊急停止装置は……ダメだ、作動しない! 機体を解除しろ!』

 

「無理よ! 完全に制御できなくなってるわ! このままじゃ暴走してしまう!」

 

『仕方がない……通信兵は直ちに軍に通達を! 終えたらすぐにここから逃げるんだ! 死にたくなければ急げ!!』

 

指示のすぐ後、軍用ISは完全に操縦者の制御下から外れて暴走。その場で見境無く暴れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後、亡国機業(ファントム・タスク)にて。

 

ピピピピッ! ピピピピッ!

 

「ん?」

 

デスクに座る凌馬のパソコンからアラート音が聞こえ、キーボードを操作すると表示された画面を見て顔色を変えた。

 

「(ついに来たか)みんな、ちょっと来てくれ。厄介なことになった」

 

ソファに座っていたスコール、オータム、束が凌馬の傍に集まってパソコンを見る。

 

「新型軍用ISの暴走を止めてくれ? 内容も内容だけど、アメリカから直接依頼が来るなんて、唯事じゃないわね」

 

「てか二時間も暴れてたのかよ。現在は移動してるらしいが…………っておい! コイツ一夏達のとこへ向かってるぞ!?」

 

「わかっている。束、私と一緒に合宿先に行こう。そこでみんなに指示を出す」

 

「オッケー!」

 

「で、俺達はここで待機か?」

 

「ああ。衛星を使って福音の周辺を常に観測しててくれ。じゃ、行ってくる」

 

そう言うと、ロックシードを2つとゲネシスドライバー一式を持って携帯を使って電話しながらピットへと向かった。



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第24話 暴走する福音

お気に入り数が過去最大になっていました。これも偏に皆様方のお陰です。


臨海学校2日目。この日は一日を丸ごと使ってISの非限定空間使用の訓練が行われる。パッケージと呼ばれる換装武器を機体に装備し、それらのデータをとる為だ。実習は一般生徒と専用機持ちとで分かれて行い、専用機持ち達は岩場で囲まれた場所に千冬と共に集まっていた。

 

「全員揃ったな。よし、これより実稼働試験を行う。まずはパッケージの換装だ」

 

号令を掛けられ量子変換(インストール)の作業に移る。全員が全員という訳ではなく、一夏はアーマードライダーをISモードで使っている為パッケージがなく、箒と春也はそもそもパッケージが必要ないので作業が終わるまで眺めていた。

 

「暇だな」

 

「うん。何してようか?」

 

「さてな……そうだ。確かまだ使ってないエナジーロックシードがあっただろ? 効果を見てみたいんだが」

 

「言われてみればまだ残ってたっけ。うーん…私も効果を確かめたいから、いいよ」

 

ゲネシスコアを取り付けた戦極ドライバーを装着し、オレンジロックシードとピーチエナジーロックシードを取り出して解錠させる。

 

『オレンジ!』 『ピーチエナジー!』

 

それら2つをドライバーにセットしてロックをかけると、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにしたりカバーを開いたりした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーピーチ! ハハーッ!!』

 

出現したオレンジアームズとピーチエナジーアームズが融合して一夏の全身を覆ったライドウェアの上に被さって展開し、桃の断面が描かれたジンバーピーチアームズに変身させた。

 

「……あれ?」

 

だがこれといって突出したような感覚はない。ジンバーレモンよりパワーは落ちているし、ジンバーチェリーのようなスピードが出せる訳でもない。戦闘向きではないと聞いたが……そう思った時だった。

 

『あーあ。こんなにたくさんあると、何だか嫌になっちゃう』

 

『文句言わないの。ほら運ぶの手伝って』

 

「? みんなの声だ……」

 

ここには専用機持ちしかいない。しかし他のクラスメイト達の声は確かに聞こえてくる。

 

「箒、この姿だと聴力が強化されるみたい。相川さん達の声が聞こえるもの」

 

「私にはわからないから何とも言えんが、それは凄いな。だが使い所はあるのか?」

 

「それ言われると―――」

 

 

 

キィィィィィン……

 

 

 

「ん?」

 

海の方からスラスターのような音が聞こえる。姿が見えないことからかなり遠くにいるのがわかるが、音が近づいてくるような感覚を鎧武は覚えた。

 

「何の音だろう?」

 

気になって音を良く聞き取ろうと意識を集中した―――そこへ。

 

「空間を超えて、私参上!」

 

「ついでに束さんも、お呼びとあらば即参上!」

 

響いて来た声の方向を見ると、量産バイクのローズアタッカーに乗った凌馬と束がそこに居た。

 

「「「束さん(姉さん)!?」」」

 

「「「「プロフェッサー!?」」」」

 

(な、何だこの男は!? 何で束さんと一緒に!?)

 

いきなりの訪問者に作業する手を止め、一夏は変身を解いた。代表して千冬が何があったのか問いかけた。

 

「何故ここに? 何か急ぎの用事でも?」

 

「実は―――」

 

「お、織斑先生! 大変です!!」

 

凌馬の声を遮る形で真耶が大慌てで走ってきて千冬に端末を渡す。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし…………了解した。全員注目! これより私の後に続け。山田先生は他の生徒達に屋内待機を指示してくれ」

 

「私達も行っていい、ちーちゃん? 手伝えることがあるかもしんないし」

 

「ああ、頼む。状況が状況だからな。……ところで、先ほど伝えようとしていたのはこのことか?」

 

「ご名答だよ」

 

肩を竦めながら言う凌馬に、千冬は改めて所属する組織の情報収集能力の高さに感嘆しながら移動をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番奥の大広間に機材等を運び込んだ臨時作戦室に到着すると、そこは証明が落とされて多数の大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代型軍用ISである、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が突如制御不能に陥り暴走。周辺基地及び迎撃部隊に損害を与え、監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

情報を聞いて一夏は、先ほど変身した時に聞こえたスラスター音のことを思い浮かべていた。

 

(あれはISが移動している音だったんだ……)

 

「衛星による追跡の結果、福音はここから4キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして80分後になる。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して、空域及び海域の封鎖を行う。何か意見のある者は?」

 

「はい。正確な機体情報の開示を求めます」

 

「わかった。ただし、これらは二ヵ国の最重要軍事機密だ。決して口外はするな。情報が漏洩した場合、査問委員会での裁判と最低でも二年の監視がつくことになるぞ」

 

「覚悟の上ですわ」

 

セシリアの発言に千冬がデータを表示させる。それを見た専用機持ち達は話し合いながら作戦を練っていく。

 

「広域殲滅戦用IS……オールレンジ攻撃が可能のようですわね。範囲はビット兵器の何倍もの広さですから、火力制圧は不可能ですわ」

 

「何なのよこの特殊兵装は……36門の砲口なんて厄介すぎるでしょ。他の兵装が霞んで見えるわ」

 

「この火力じゃリヴァイヴのシールドでも防ぎようがないか。防御特化パッケージを使ってギリギリって感じ」

 

「それよりマルチスラスターが最も厄介。並のISじゃ追いつくことさえ困難な代物だよ」

 

「格闘性能が未知数なのもな。下手に接近すれば手痛いしっぺ返しを受けるかもしれん」

 

「何よりフィールドが海上なのが嫌らしいな。アーマードライダーは通常だと飛行不能だし、ISモードだと攻撃力が落ちてしまう」

 

だが中々確実性のある作戦を出すことができない。そこでラウラが千冬に尋ねた。

 

「偵察は可能ですか?」

 

「無理だな。奴は現在時速2450キロの超音速で飛行中だ。アプローチは一回が限界だろう」

 

「となると、僕の白式が役に立ちますね。零落白夜なら一撃で落とすことができます」

 

自ら進言したのは春也だ。周りの目つきが厳しくなるが、確かに対IS用の最強武器である零落白夜なら確実性は高い。

 

「移動手段はどうするつもりだ? 移動にエネルギーを消費しすぎると零落白夜は使えないぞ」

 

「箒の紅椿に運んで貰えばいい。専用ISの中で最も速く飛べるし、シールドエネルギーも回復できるから零落白夜を連続して使える。どうかな?」

 

「私が運ぶのか? ……まあ任務と割り切ればできないこともないが」

 

「待った。一撃で決められなかった場合にもう一機随伴させた方がいい。私としては鎧武がオススメだ。切り替えられるアームズの種類が最も多いからね」

 

「え、私ですか? わ、わかりました」

 

割り込んだ凌馬の指名に面食らう一夏だが、表情を引き締めて戦う覚悟を決める。だが疑問に思うところもあったので、春也に聞こえないよう凌馬に近寄り質問する。

 

「アーマードライダーは通常モードでは空を飛べない筈でしたよね? どうやって戦えばいいんですか?」

 

「このスイカロックシードを使うといい。訓練で説明だけならしたから覚えていると思うけど、ジャイロモードには単独での飛行能力があるしヨロイモードで組み付いて技を発動すれば文字通りイチコロさ。ただ活動時間に制限があるから、移動はこのダンデライナーを使ってくれたまえ。これはロックビークルの中で唯一飛行可能なマシンだから」

 

そう言って『L.S.-10』と書かれ表面がスイカを象ったスイカロックシードとタンポポを模した錠前形態のビークル、ダンデライナーを渡した。

 

「あの織斑先生、1ついいですか? あの男性は一体何者なんですか? 束さんと親しいようですけど……」

 

突如現れた謎の男の正体が気になり、千冬に尋ねる。千冬は少し考える素振りを見せながら予め用意していた答えを言う。

 

「イレイザー社社長の戦極凌馬だ。一夏の鎧武を作った人物でもある」

 

(戦極凌馬だと!? 言われてみれば、奴の顔は間違いなく仮面ライダー鎧武の戦極凌馬だ。何故ISに奴が? いや待てよ……そうか! ここに来てから姿を見ないと思っていたが、アイツだとすれば全て辻褄が合う!!)

 

凌馬を見つめる目が疑問から驚愕、そして憎しみに変わった。だが当の本人はそれに気づいていない。

 

「あ、私からも言わせて貰うけど、絶対に無理しちゃダメだよ? いっちゃんと箒ちゃんに何かあったら、みんな心配するからね!」

 

「「はい」」

 

一緒に頷くといよいよ本格的に作戦の準備に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出撃5分前。

 

「変身!」

 

『オレンジ!』

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

砂浜に出た箒と春也はISを展開。一夏は鎧武に変身してホバーバイクに変形したダンデライナーに跨り、紅椿に掴まる春也の様子を眺めていた。

 

(何か変なこと考えてないといいけど、どうも不安な感じがするなぁ)

 

『作戦開始時刻1分前だ。各員、気を引き締めろ』

 

通信で告げる千冬に、3人の緊張感が高まる。深呼吸をして心を落ち着かせると水平線をじっと見据えて肩の力を抜く。

 

『時間だ。作戦開始!!』

 

その言葉を皮切りに、箒と鎧武は海上へと飛び立つ。そのまましばらく進んで行くと、銀色に輝く機影が見えてくる。

 

「あれが福音か……だが何故動きを止めている?」

 

「理由なんかどうだっていい。アイツを倒せる絶好のチャンスだ!」

 

「!? おい! 勝手に突っ込むな!!」

 

ある程度近づいたところで春也は箒から離れ、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動して一気に近づく。

 

(焦るな。声を出すな。十分近づいたところで……今だ!!)

 

彼にとって絶好のタイミングで、零落白夜を発動した雪片弐型で斬りかかる。が、福音は当たる直前に気づいたらしくダメージは与えたものの倒すには至らなかった。

 

「クソッ、避けられた!(想定内だけどね)」

 

「ええい、言わんこっちゃない! 一夏、さっき渡されたスイカを!」

 

「言われなくても!」

 

『スイカ!』

 

『ロック・オン!』

 

先ほど受け取ったスイカロックシードを解錠して戦極ドライバーにロックすると、鎧武の倍以上の大きさの、スイカを模したスイカアームズが頭上に出現する。

 

「えぇぇぇえええええええええええ!? な、何これぇええええええええええええええ!?」

 

あまりの大きさに鎧武は絶叫し、箒と春也と福音までもが驚きのあまり動きを止めていた。しかし気を取り直した箒が鎧武を叱咤激励する。

 

「しっかりしろ、一夏! ここまで来たら後へは引けないぞ!」

 

「……ようし! 一か八か、やってみる!!」

 

やるしかないと覚悟を決め、鎧武はホラ貝の音が鳴り響く中カッティングブレードを倒して、スイカロックシードを輪切りにした。

 

『ソイヤッ! スイカアームズ! 大玉・ビッグバン!!』

 

『ジャイロモード!』

 

スイカアームズが鎧武を完全に覆い隠すと続けて鳴った別の音声と共に、腕を前に突き出したような巨大飛行形態に変形し空中に浮かぶ。

 

「っとと……じゃあ早速!」

 

指部分に装備されたガトリング砲を放って福音に攻撃する。福音もそれに応戦し、搭載ユニット「銀の鐘(シルバー・ベル)」の砲門から圧縮されたエネルギー弾を放ったり瞬時加速(イグニッション・ブースト)並の加速で回避行動に出る。だが何れもスイカアームズの機動力で回避されたり、凄まじい連射速度の前に避けきれなかったりと次第に鎧武に追い詰められていく。

 

「どんどん行くよ!!」

 

エネルギー弾を避けて上昇し福音の真上に移動する。そこへ全砲門を向けた福音が強力なエネルギー砲を放つ。

 

『大玉モード!』

 

再びスイカの形に戻ると堅固な装甲で攻撃を弾き、重力に任せて落下していく。

 

『ヨロイモード!』

 

音声と共に今度は人型に変形し薙刀型巨大武器、スイカ双刃刀を右手に握り福音に組み付く。

 

「はあっ! このぉっ!!」

 

拳やスイカ双刃刀で殴りかかり福音に一方的にダメージを与える。ただやられている訳にはいかないと福音がパンチを繰り出すが、当たる前に高くジャンプをする。

 

「これでトドメだよ! 輪切りにしてやるんだから!!」

 

『ソイヤッ! スイカスカッシュ!!』

 

カッティングブレードを一回倒した鎧武は、スイカ双刃刀を持つ手首を高速回転させてスイカ状のエネルギーを撃ち出し福音を拘束する。

 

「セイハァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

落下しながら擦れ違い様にエネルギーを溜めたスイカ双刃刀で福音を切り裂くと、オレンジアームズに戻り真下に来たダンデライナーに飛び乗る。

 

「箒!」

 

「わかっている!」

 

シールドエネルギーが無くなった銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の装甲を箒が引っ剥がしてパイロットを受け止める。後は粒子化した機体をキャッチするだけだと思われたが……

 

「La……」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が眩い閃光を放ちながら姿形を変えた。フォルムが女性的なものからスイカアームズに似たマッシブなものになり、銀の鐘(シルバー・ベル)が消滅し代わりにエネルギーでできた天使のような翼が生えている。更に両手にはガトリング砲が内蔵されていた。

 

(フッ。こんなこともあろうかとハッキングでコアを弄っておいたのさ。倒された相手のデータを元に同等のレベルにまで進化でき、無人でも動けるようにね。……まさかここまでスペックが上がるとは思ってなかったけど)

 

「無人なのに動いている!? それに第二形態移行(セカンドシフト)だと!?」

 

「そんな……! どうしよう!?」

 

「こんなことになるとは想定外だ……! 仕方ない、一時撤退だ。奴の能力は完全に未知数になったし、生身のパイロットを抱えている分余計不利だ」

 

「……そうだね。退くことも勇気って言うし。そうと決まれば!」

 

『レモンエナジー!』

 

鎧武はゲネシスコアを戦極ドライバーに嵌め込み、レモンエナジーロックシードを解錠してそこに装着して施錠した後、カッティングブレードを倒した。

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーレモン! ハハーッ!!』

 

陣羽織型のアームズが被さって展開され鎧となり、ジンバーレモンアームズに変わるとソニックアローを構えて福音に放つ。

 

「私が殿をやるから、2人は早く!」

 

「無茶はするなよ! ……ほら、お前も来るんだ!」

 

春也を促しながら箒は背を向ける。だが……彼と鎧武の距離が近かったことがまずかった。

 

(今こそ最大の好機だ!)

 

ザシュッ!

 

「うっ、何っ!?」

 

背中から鎧武に近づくと、春也は雪片弐型で斬りかかり混乱した隙に戦極ドライバーに手を伸ばして、ロックシードのカバーを閉じ変身を無理矢理解除させた上でダンデライナーから突き落とした。

 

「え……きゃああああああああああああああっ!?」

 

(後は念のために……)

 

素早く表示したモニターを操作し何かの電波を送ると、福音が放ったビームやガトリングを敢えて受け、白式が解除された状態で海へと落ちて行った。

箒がそれに気づいたのは、一夏の悲鳴が聞こえて振り向いた時だった。

 

「!? なん……だと……! 一夏ぁあああああああああああ!!」

 

海面へ叩き付けられた2人を沈む前に拾い上げどうにか担ぐと、ダンデライナーを回収しどういう訳か棒立ちになっている銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を不審に思いつつ旅館へと急いだ。




という訳で、福音を超強化しました。そうしないと味方がピンチになる場面が想像できなかったので……。


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第25話 邂逅する2人

帰還した後、一夏と春也と福音のパイロットは医務室へと運ばれ、箒は千冬達に事の顛末を話した。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)第二形態移行(セカンドシフト)をし、パイロットを抱えていることから撤退を判断した直後、突然撃墜された……か」

 

「一夏さんはどうなっているのですか?」

 

「命に別状はない。気絶しているだけだが、海面に身体を打ち付けているのでしばらくは目を覚まさないだろう」

 

「そう、ですか……」

 

ホッと胸を撫で下ろすセシリア。他の面々も一夏がとりあえずは無事だと知って一安心する。そんな中、凌馬が怪訝そうな顔で呟いた。

 

「どうにも解せないねぇ」

 

「何がですか?」

 

「観測結果からパワーレベルがアーマードライダー並に上がっているのは紛れもない事実だ。それなら許容量を超えたダメージで変身が解除されてもおかしくはない…が、持ち帰ったダンデライナーを調べたらちょっとした汚れぐらいしかなかった……おかしいとは思わないかい? なあ束」

 

「だね。攻撃に巻き込まれて破壊されているか、せめてダメージを負っている筈だよ」

 

「では何故変身が?」

 

「他に変身が解除される可能性と言えば……ベルトを破壊されるか、自分で変身を解くかしかないよ」

 

「ま、誰かにロックシードの蓋を閉じられたという可能性もあるけどね」

 

最後にポロッと言った凌馬に全員が「まさか……」と1つの考えに至る。

 

「アイツ……! 起きたらただじゃ済まないわよ!!」

 

「待て。まだ奴がやったという確証はない。せめて尋問するべきだ」

 

「尋問か。何をするべきか……」

 

「私に任せろ。軍に居た頃色んな手段を叩き込まれたからな」

 

「じゃあ私も。実家が実家だけに、少しは知ってるから」

 

「僕もやってみようかな。一応スキル自体は身につけてるし」

 

やたらと物騒なことを言うマドカ達に凌馬達が内心冷や汗をかいていると、作戦室のアラートが鳴り響いた。何事かと千冬がディスプレイを操作する。

 

『警告、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)及び未確認機接近中』

 

表示された文字に全員が息を詰まらせる。その中で束が小型の端末を操作して細かな情報を調べていく。

 

「未確認機のパターンは前回や前々回の無人機と同じ……反応は全部で8機だよ」

 

「福音を含めて9機か……お前等、戦れそうか?」

 

「勿論ですわ。私を誰だと思っていますの?」

 

「全部ぶっ壊す勢いでやってやるわよ!」

 

「ここでじっとしていても解決しないしね」

 

「リベンジを果たさねばな」

 

「襲って来るというなら、倒す以外に方法はない」

 

「背水の陣という奴か……いいさ。やれるだけのことはやってやる」

 

揃って戦う意志を見せるその姿に、千冬は半ば呆れながらも笑みを浮かべて告げた。

 

「全員、ドライバーとロックシードを持って私に続け。連中を食い止めに行くぞ!」

 

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

 

力強く声を張り上げ部屋を出て行く。が、凌馬は思い出したように慌ててセシリアを呼び止めた。

 

「あ、待ってくれセシリアちゃん!」

 

「プロフェッサー?」

 

「君用に作っておいたこれを渡しておくよ。本当なら事件が一段落してからと思ってたけど、第二形態移行(セカンドシフト)した福音と戦う以上はそうも言ってられないからね」

 

そう言って彼はゲネシスドライバーとレモンエナジーロックシードをセシリアに手渡した。

 

「……ありがとうございます、プロフェッサー!」

 

礼の言葉を述べて頭を下げると、セシリアは皆の後を追いかけた。

 

「さて。こちらも作業を始めよう」

 

「腕が鳴るとはこのことだね! やっちゃうよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸の前の歩道に辿り着くと丁度砂浜の上に無人機らが浮かんでいたが、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿は見えない。

 

「福音の姿が見えない? 捜索は……させてくれないか」

 

「どうでもいいが、今回のはガトリング持ってる奴ばっかりだな」

 

「遠距離から一方的に攻撃するつもりなんだと思う。それで勝てたら御の字で、負けたら―――」

 

「どこかに潜んでいる福音が、撃破後の隙を狙って不意打ちという算段か……上等だ!」

 

真っ先にマドカがゲネシスドライバーを装着したのを皮切りに、箒、鈴、シャルロット、ラウラ、簪が戦極ドライバーを、千冬、セシリアがゲネシスドライバーを腰に装着し、それぞれロックシードとエナジーロックシードを解錠する。

 

「「「「「「「「変身!」」」」」」」」

 

『レモンエナジー!』

 

『シルバー!』

 

『ブドウ!』

 

『クルミ!』

 

『ドリアン!』

 

『ドングリ!』

 

『メロンエナジー!』

 

『ピーチエナジー!』

 

セシリア達の頭上にレモンエナジーアームズを始めとしたアームズが形成される。即座にロックシードをドライバーにセットしてハンガーを閉じると、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにし、シーボルコンプレッサーを押し込んでエナジーロックシードのカバーを開く。

 

『『『『『『『ロック・オン!』』』』』』』

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

『ソイヤッ! シルバーアームズ! 白銀・ニューステージ!!』

 

『ハイーッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!!』

 

『クルミアームズ! ミスターナックルマン!!』

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『カモン! ドングリアームズ! Never Give up!!』

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

『ソーダ! ピーチエナジーアームズ!!』

 

音声と同時にライドウェアやゲネティックライドウェアが全身を覆い、各アームズが頭部に被さって展開。鎧になって上半身に装着され、セシリアは仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズに、箒は冠に、鈴は龍玄に、シャルロットはナックルに、ラウラはブラーボに、簪はグリドンに、千冬は斬月・真に、マドカはマリカの姿に変身する。

 

「行くぞ! 戦闘を開始せよ!!」

 

「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」

 

斬月・真の掛け声により、8人のアーマードライダーはガトリングを構える無人機に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…ん……あれ、ここは……?」

 

一夏は見覚えのない場所にいた。どこかの海岸らしい場所だが、旅館は見当たらない。一体どこに居るのだろうと一夏は思っていた。

そんな時、ふと背を向けて立っている1人の男が居るのに気がついた。話しかけてみようと一歩踏み出すと、それがわかったのか男は振り向き一夏を見て笑みを浮かべた。

 

『ようやく君と会うことができたよ』

 

「え?」

 

『ディケイドや鳴滝さんじゃないから直接は出向けないし、こういう形じゃないと意識を飛ばすことができないからな……苦労したぜ』

 

「あの、どういうことですか? それに貴方は一体……」

 

『あ、悪い。まだ名乗ってなかったっけ。……俺は葛葉紘汰。君と同じ力を持っている男だ』

 

「同じ力って?」

 

男―――葛葉紘汰に一夏は尋ねる。紘汰は一度俯くと真っ直ぐ一夏を見て、こう述べた。

 

『極ロックシード……黄金の果実の欠片。神に等しい存在になる為の鍵だ』

 

説明しながら紘汰は自らの姿を金髪で右目が赤のオッドアイに、銀色の鎧と白のマントを纏った格好へと変化させた。

 

「神……じゃあ貴方は神様なんですか? 私も何れ、貴方と同じようになってしまうと?」

 

『いや……君の持つ鍵はそこまでの力は持っていない。でも、君の思いには応えてくれる筈だ』

 

「私の思い……私が、何をしたいか……」

 

今までの人生を振り返りながら一夏はこれからのことについて思う。自分は何をしたいのか。春也への復讐? 否、もう言いなりにならないと本人の目の前で宣言したのだから、そんなことをする意味はない。

 

「私は、春也を止めたい。もうこれ以上、悪いことに荷担して欲しくないから。それと、止めた後は理由が知りたい。春也が何を目指しているのか、どこへ行こうとしているのか―――」

 

『止めたい、か……だったら早く起きないとな』

 

呟いた後、2人の真横に無人機らと戦うバロン達の姿が映し出された。

 

「みんな!……うっ!?」

 

身を乗り出した一夏は、自分の右手から放たれる強い輝きに目を細める。収まったところで見てみると、それは彼女が初めて変身した時に使った橙色のロックシード―――カチドキロックシードだった。

 

「このロックシードは……」

 

『やり遂げるんだ、君がやろうとしていることを。俺も遠くから応援してるぜ』

 

言いながら紘汰は仮面ライダー鎧武 極アームズに姿を再び変えると、一夏に背を向けて歩き出す……と、その途中で足を止めた。

 

『そういえば、まだ君の名前を聞いてなかった。何て言うんだ?』

 

「……一夏。織斑一夏です」

 

『一夏か……良い名前だな』

 

暖かみのある言葉を掛けると鎧武は歩き始め、一夏は目の前がホワイトアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ……ぁっ……」

 

目を覚ますと一夏は布団で寝ていた。起き上がってふと左手を見ると点滴が打たれている。隣には春也が同じようにされて眠っており、その隣にいる銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のパイロットも同様だった。一夏は点滴を取ると、傍に置いてあった戦極ドライバーを拾って立ち上がる。ふと足下を見ると、カチドキロックシードが転がっていた。

 

「夢じゃ無かった……」

 

手に取り窓の外を見つめる。離れてはいるが戦闘の様子が見える。

 

「行かなくちゃ」

 

「織斑さん……?」

 

聞こえてきた声に振り向くと、真耶が心配げに立ち尽くしていた。その表情を見て一夏が頷くと真耶もまた頷いた。

 

「気をつけて下さい」

 

「……はい!」

 

戦極ドライバーを装着し、一夏は皆の元へと急いだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして海岸では、先の失敗を踏まえてプログラムが書き換えられたのか、各個撃破の要領で中距離から狙い撃ってくる無人機に対しバロン達は挑んでいた。

 

「行きますわよ!」

 

バロンは逆手持ちしたソニックアローから光矢を穿ち、無人機に当てる。刺さった矢は爆発するが敵はそんなことは意に介さずガトリングを撃ってくる。しかし、ゲネシスドライバーによってパワーアップしたバロンにとって、この程度のISの武装は豆鉄砲のようなものであった。

 

「これがゲネシスドライバーの性能……戦極ドライバーとは段違いですわ!」

 

更に一発矢を放って片方のガトリングを破損させると、レモンエナジーロックシードをドライバーから外してソニックアローに取り付ける。

 

『ロック・オン!』

 

「セシリア・オルコット、狙い撃ちますわよ!」

 

『レモンエナジー!!』

 

音声と共にソニックボレーが発動し強化された光矢が無人機に発射され、ボディに突き刺さると無人機を爆発四散させた。

 

 

 

 

 

 

 

冠は連射される弾丸を裁きながら、常に距離を取っている無人機を見る。

 

「距離と飛行能力で優位に立ったつもりか…………はあっ!」

 

一度しゃがんで斜め前に大きく跳躍した冠は、無人機に蒼銀杖で一撃入れつつ地面に着地する。

 

「見通しが甘かったな」

 

『ソイヤッ! シルバースパーキング!!』

 

戦極ドライバーのカッティングブレードを三回倒し、蒼銀杖の先端にエネルギーを集約させるとそれを勢いよく投げる。背面まで貫通し火花を上げるところに、冠はキックを放って蒼銀杖を押し込んで突き抜ける。蒼銀杖をキャッチして着地すると共に無人機は爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

龍玄と戦う無人機は、元々遠距離戦を得意とするブドウアームズに遠距離戦で挑んだのが失敗だった。

 

「そらそら、どうしたの!? 私に遠距離で挑んで来たってことは、勝つつもりなんでしょ!」

 

挑発を交えながら弾丸を避けたり防御しながらブドウ龍砲を撃ちまくる。無人機も回避行動に移るが、避けきれずに何発かガトリングに当たり爆発した。

 

「(それともやっぱり、元から勝つ気がないのかしら……ま、考えるのは後にしといて!)悪いけど、今ね!」

 

『ハイーッ! ブドウスカッシュ!!』

 

カッティングブレードを一回倒してブドウ龍砲のレバーを引き砲身にエネルギーをチャージする。そして無人機が視界を取り戻したタイミングでトリガーを引き、必殺のドラゴンショットを発射。無人機を爆破、撃墜した。

 

 

 

 

 

 

 

ナックルはクルミボンバーを楯にして弾丸を防ぎつつ無人機の真下まで一気に駆け抜ける。

 

「そんなに大きなガトリングじゃ、真下はすぐに狙えないでしょ!」

 

『クルミオーレ!』

 

「何もできずに終わっちゃえ!!」

 

クルミボンバーからクルミ状のエネルギー弾をパンチと共に真上に打ち出す。対応も何もできないままナックルの言うとおり、爆発四散した。

 

 

 

 

 

 

 

連射される弾丸をドリノコで弾き飛ばしながら、ブラーボは接近戦のアームズでどう攻めるか考える。

 

「ここはこうするのが一番だな!」

 

ドリノコの柄同士を連結させると、ブラーボはそれを投擲し無人機に攻撃を加え、ブーメランの要領で戻ってきたところを受け止め再び分割する。

 

『ドリアンオーレ!!』

 

「締めはコイツだ! 食らっておけ!!」

 

続けざまに戦極ドライバーのカッティングブレードを二回倒すとドリノコを何度も振るい、ドリアンの実を模した光弾を連続発射。無人機を蜂の巣にして撃墜した。

 

 

 

 

 

 

 

『カモン! ドングリスパーキング!!』

 

「やあああああああっ!!」

 

弾丸が降ってくる中素早くカッティングブレードを三回倒したグリドンは、ドンカチを思い切り振ってドングリ型の衝撃波を飛ばし、片方のガトリングを早々に破壊。

 

『カモン! ドングリオーレ!!』

 

「そこっ! たぁぁあああああああああ!!」

 

無人機のAIが処理を行う間にグリドンは敵より高くジャンプし、落下しながらドンカチで叩き付ける。一撃ではなく二発、三発と続き、フレームが耐えきれずに無人機は爆発。生じた炎の中からグリドンが現れ、砂浜に着地した。

 

 

 

 

 

 

 

斬月・真はソニックアローを連続して放つ。無人機はダメージを受けつつも攻撃を続行するが、それは失策だった。

 

「私に勝つ気があるのか? 常に攻撃し続ければいいと言うものではないぞ!」

 

ソニックアローで両方のガトリングを撃ち抜き破壊する。それにより攻撃指令から切り替える為にAIが一時的に静止したのを斬月・真は見逃さず、ソニックアローにメロンエナジーロックシードをセットした。

 

『ロック・オン!』

 

「いや……そもそも私達に勝つことが目的ではなかったな」

 

『メロンエナジー!』

 

必殺技、ソニックボレーが無人機を貫く。空いた穴から連鎖的に爆発していく無人機に、斬月・真は背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ガトリングの雨あられか……バカの一つ覚えみたいにっ!」

 

マリカはソニックアローで頭部のカメラアイを破壊する。狙いがつけられず滅茶苦茶に乱射する無人機を前に、マリカはシーボルコンプレッサーを一回押し込む。

 

『ピーチエナジースカッシュ!!』

 

「これで終わりだっ!!」

 

ソニックアローを振り抜き、放たれた斬撃が無人機を両断。破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての無人機をほぼ同時に撃破し、全員が現れるであろう銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を警戒し始めたその時―――

 

 

ドガァァァァンッ!

 

 

「ぐあああああああっ! な、何っ!?」

 

広範囲に放たれた強烈なエネルギー砲を食らい、そのダメージに吹き飛ばされ膝をつき、又は倒れる。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がエネルギーで形成されたウイングそのものを飛ばして、範囲攻撃を行ったのだ。それも砂の中から。

 

「地中に潜っていただと……!」

 

「小癪な真似してくれるじゃない……てかISの癖にアーマードライダーに膝をつかせる程のダメージを与えるなんて、どんな威力してんのよ!?」

 

「スイカアームズの攻撃を学習して、アーマードライダー並のスペックに進化したとは聞いていたが……!」

 

「余裕綽々なのも頷けますわね……厄介な!」

 

空中に浮遊し見下ろしてくる銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を睨み付ける。そこへ―――

 

「みんな! 大丈夫!?」

 

「一夏さん! もう平気なんですの?」

 

「うん。それより、一体何が?」

 

第二形態移行(セカンドシフト)をしたことで、福音の攻撃力が遙かに上がってるんだ。それで無人機を倒したところでダメージ受けちゃって……」

 

(次世代アーマードライダーをもダウンさせる程の威力……ジンバーアームズやスイカアームズでも危ないかも)

 

しかし一夏には確信があった。その攻撃を防ぐだけの力を、新たに手に入れたロックシードが持ってるということを。

 

「……アイツは私が倒す」

 

「1人でか!? 無茶だ!」

 

「私を信じて」

 

困惑するマリカに微笑みながら言う。マリカは何か確信めいたものを感じて一夏を信じ見守ることにした。

一夏は一歩前に出て入手したばかりのカチドキロックシードを解錠した。

 

『カチドキ!』

 

普段使うロックシードよりも力強い音声と共に、頭上に初めて変身した時と同じアームズ―――カチドキアームズが現れた。

 

「あのアームズは、あの時の……!」

 

「変身!」

 

初めて一夏が変身した時の出来事を思い出すバロンの前で、カチドキロックシードを戦極ドライバーにセットして施錠すると、すぐにカッティングブレードを倒した。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! カチドキアームズ! いざ・出陣! エイエイオー!!』

 

雄叫びのようなサウンドが周囲に響き渡り、アームズが頭に被さって上半身のみならず下半身まで覆うように展開される。普通のアームズやジンバーアームズ、エナジーアームズとも違う重装甲の鎧の胸部には普段頭部に飾り付けられている三日月のシンボルが描かれており、代わりに今頭部にあるシンボルは鋏のような左右対称のものに変化していた。背中にはカチドキ旗と呼ばれる二本の旗がある。

今ここに、一夏の新たなる変身―――仮面ライダー鎧武 カチドキアームズが爆誕した。



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第26話 出陣!カチドキアームズ!

物凄く難産な話だった……


同時刻。春也は不思議な場所にいた。見渡す限り海岸で、空は青く澄み切っている。傍に倒れている枯れ木に腰掛けながら、彼はこの場所のことを考えた。

 

(ここが白式の世界なのか……実際に見てみるとより綺麗だ。まあそれは置いておくとして、流れ的に謎の少女と騎士が現れる筈。それまで待っていよう)

 

腰掛けたまま春也はまず少女が現れるのを待った。しかし、待てども待てども中々姿を表さない。こんなに時間がかかったっけ?と首を傾げた直後―――

 

「そろそろ引っ込んでるのも限界……」

 

「ん?」

 

小さな声が聞こえ、その方向を見ると待ち侘びていた少女がいた。白い服を着て白い大きな帽子を被った少女が。

 

(ようやくか。無人機に足止めして貰うのも限界だろうし、急がないと)

 

立ち上がって少女に歩み寄ろうとした時、少女は口を開いた。

 

「何故……」

 

「?」

 

「何故貴方は、自分の姉にあんなことをしたんですか?」

 

「……何でそんなこと、今聞くの?」

 

「そんなこと、で済ませてしまうんですね…………こんな人が私のマスターだなんて……こんな人に、力を貸したくは……」

 

「何だと……っ!」

 

瞬間、少女の胸ぐらを春也は掴むと苦しむのも厭わず自分と同じ目線にまで上げ、強く睨んだ。

 

「僕に力を貸さないと言うのか!? 僕が居なきゃ動くこともできない癖に!」

 

「う……あぁ……!」

 

「道具の癖に、人間に楯突くんじゃない!! お前らISは大人しく、操縦者の言うことを聞けばいいんだ!! さっさと力を寄越せ!!」

 

「―――そこまでです。彼女を放しなさい」

 

掴む力を強めていく春也。しかし聞こえてきた声に振り向くと白い騎士甲冑を着た女性が居た。

 

「貴方の望み通り力を渡します。ですから放しなさい」

 

「……最初からそう言えばいいんだ」

 

そう言って少女を乱暴に放すと、春也の意識はそこで遠くなっていった。

 

後に残された騎士は倒れて咳き込む少女を助け起こした。

 

「大丈夫か?」

 

「はい……でもごめんなさい。私のせいで、彼に更なる力を与えてしまった……」

 

「だが時間稼ぎはできた。それに仕方ないさ。彼の言う通り、私達は道具でしかない。使う者の行く末を見守ることしかできない存在だ」

 

「ですが、貴女は……」

 

「……そんな顔をするな。リセット後も今日まで残っていられたこと自体が奇跡に近い。何、お前のことだ。私が消えた後もやっていけるさ」

 

「…………………………」

 

騎士の顔を、少女はただ寂しそうに見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春也が目を覚ました。起き上がると隣には救助したISのパイロットが眠っており、反対側には空の布団があった。

 

(しまった、一夏姉さんが先に起きていたのか! これ以上活躍を奪われてたまるか!!)

 

内心で焦りを見せると真耶が止めるのも聞かず、進化した白式―――白式・雪羅を纏って飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は春也が夢を見ている間に遡る。

カチドキアームズに変身した鎧武は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を見上げていた。その姿に誰もが唖然とした。

 

「カチドキ……アームズだと?」

 

「武将……?」

 

次の瞬間、福音がエネルギー弾及びガトリングを鎧武に集中して放った。ゲネシスドライバーで変身するアーマードライダーをもダウンさせる威力のソレを受け、誰もが無事では済まないと思った。

ところが事実は違った。流れ弾で周りの砂浜にクレーターが出来る中、鎧武は多少は身体を揺らされるものの全くダメージを受けていなかった。

 

「あの程度で済ませている……!?」

 

「頑丈にも程があるだろ……」

 

しばらくして遠距離攻撃が無駄だと理解したのか、福音は一度攻撃を止めるとスラスターを噴かせて鎧武に急接近しつつ左の拳を振るった。対する鎧武も右腕を全力で振りかぶる。

 

 

ドンッ!!

 

 

2つの拳が激突し凄まじい音と衝撃波が発生する。にも関わらず鎧武は一歩も退くどころか、逆に福音の腕にヒビが入った。

接近戦も不利と判断した福音は再び距離を取って鎧武を見下ろす。AIが高速で処理を行うがそれすら追いつかない。人間で言うパニック状態に陥っていた。

 

「今度はこっちから行くよ!」

 

相手が再び遠距離戦を取った以上、このままでは防戦一方になると判断した鎧武は、どこからともなく火縄大橙DJ銃を右手に取り出すと掲げる様に持ち上げる。そして側面についている、柑橘類の断面を模した円盤をラッパーのように左手で回す。同時に火縄大橙DJ銃からホラ貝のメロディとビートが流れる。

今度は何が始まるのかと注目していると、鎧武は銃身を福音に向けてトリガーを引き火球を次々と放った。

福音はエネルギー弾を連続発射して迎撃する。火球は何発か相殺されるが一、二発は福音に直撃した。パターンを変えようと判断した鎧武は、更に円盤を回してホラ貝のサウンドを鳴らし、トリガーの横にあるピッチを右に回す。するとサウンドの音程と速度が高くなり、その状態で円盤を回してトリガーを引くと小さくなった弾が機関銃の如く高速発射された。

 

「せりゃああああああっ!!」

 

雨霰のように発射される弾丸に福音も迎撃しきれず、先ほどよりも攻撃を通してしまっていた。追い打ちとばかりに鎧武はピッチを左に回すと、音程と速度が下がったサウンドが流れる。円盤を回しトリガーを引いた瞬間、銃口から巨大な砲弾が放たれた。当然福音も迎撃してくるが、連射時のように迎撃の合間を縫うのではなく砲弾はエネルギー弾を消し去り、尚且つ勢いを殺すことなく福音に直撃。

 

「これなら防ぐことなんてできないでしょ!」

 

姿勢を崩したところに更に二発撃ち込む。火花を上げながら福音は墜落し浅瀬に叩き付けられた。

必死に起き上がる福音へと鎧武は迫ると、火縄大橙DJ銃を消してカチドキ旗をそれぞれ手に持った。

 

「はぁあああっ!」

 

先端で福音を思い切り突くと、次いて腹の部分で殴りそして一回転しながら旗に炎を纏わせると、火の粉と共に福音を薙ぎ払い遠くへと弾く。

 

「まだ終わりじゃないよ!!」

 

再び火縄大橙DJ銃を所持すると戦極ドライバーからカチドキロックシードを外し、DJ銃の窪みにセットした。

 

『ロック・オン!!』

 

ドライバーや無双セイバー、ソニックアローのソレとは違い力強く雄々しい音声が響き渡り、銃口にエネルギーがチャージされていく。

 

「行けぇぇええええええええええええええ!!」

 

『カチドキチャージ!!』

 

トリガーを引いた途端、まるで光線のような砲撃が放たれ福音を飲み込む。砲撃が収まらない内に福音は限界を超えて爆発四散し、止んだ後には破片1つさえ残らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だあの威力は……!?」

 

少し離れた場所で白式・雪羅を纏った春也は、福音の最期を見て背筋が凍り付いた。

 

「無人機がみんなを足止めするのに力不足なのはわかっていた……だから福音をパワーアップさせたのに! なのに何故……何故貴女は僕の邪魔をするんだ……!!」

 

拳を強く握り締めると、変身を解除して互いを労りながら旅館に戻る面々に見つからないよう先に旅館へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん、んぅ……ここは………………?」

 

「目を覚ましたか」

 

戦いの後、医務室で眠っていたナターシャは目を覚ますと丁度視界の端に千冬の姿を捉えた。

 

「織斑、千冬…………何故貴女が…私の目の前に?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走……と言えばわかるか?」

 

「ああ……気絶してる間に日本の近くまで来てたのね。貴女が助けてくれたの?」

 

「私じゃない。自慢の生徒達のお陰だ」

 

フッと笑みを浮かべて言う千冬に「そう……」と呟くとゆっくり起き上がる。すると寝ていた状態では見えなかった2人の女性―――オータムとスコールが目に入った。

 

「よっ。久しぶり」

 

「!? 何で貴女達がここに……軍を辞めたんじゃ……」

 

「辞めた時に言ったでしょ? 傭兵になるって」

 

「所属している組織のリーダーが、ナタルを無事救助しろって依頼を受けたんだ。で、俺とスコールがナタルを本国に連れてく為に呼ばれて来たって訳」

 

「…………え? てことは道中スコールと一緒になるってこと?」

 

「そうなるわね」

 

どこか艶を含んだ表情で言うスコールに、ナターシャは顔を青くする。それを疑問に思った千冬はオータムに小声で尋ねた。

 

「一体彼女らに何があったんだ?」

 

「あー……簡潔に言えば、スコールは超肉食系女子ってことだ。俺は元々ソッチ系だったから良かったんだが、ナタルはノーマルだからなぁ……一種のトラウマになってんだ」

 

「そ、そうなのか……」

 

何かと弄くられている姿を想像し憐憫の視線を向けていると、ナターシャから救いを求めるかのように見つめられる。

 

「……スコール。彼女は病み上がりだから、手荒な真似はするなよ」

 

「勿論♪」

 

が、触らぬ神に祟り無しと半ば見捨てた発言により、スコールは悲壮な表情のナターシャを担いで部屋を出た。丁度そのタイミングで部屋に凌馬が入って来た。

 

「……何か福音の操縦者が絶望した表情でスコールに担がれてたけど、何があったんだい?」

 

「スコールの悪い癖が出た」

 

「……それはお気の毒に…………」

 

「それより、何か用か? データならもう渡した筈だが」

 

「おっと、思わず忘れるところだった。実は千冬に用があるんだ」

 

「私に?」

 

「今夜、皆が寝静まった頃―――私の部屋に来て貰ってもいいかい?」

 

場の空気が凍った。

千冬は呆然とした表情を赤らめていき、オータムは千冬の勘違いに気づいてため息をつき、凌馬は「変なこと言ったかな?」と自分の言葉を振り返り、綾に気づいた。

 

「いやいやいやいや、違うよ!? 単に織斑春也関連の話をする為であって、他意とかは無いよ! 束も一緒だしさ!」

 

「な、何だ……人を驚かせて……」

 

「確かに誤解させるような言い方したアンタも悪いわな」

 

オータムにジト目で見られ、凌馬は「うっ」と罰が悪そうに頭を掻いた。

 

「じ、じゃあ伝えることは伝えたから、私はこれで……」

 

空気的に居づらくなり、衝動的に部屋を出る凌馬であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「思わず飛び出しちゃったけど、どこで何してようか……おや?」

 

考えながら廊下を歩いていたが視界に映った光景に足を止めた。視線の先では春也に対し一夏達(主に鈴)が問い詰めていた。

 

「だから! アンタが一夏を海に突き落としたんじゃないかって言ってんのよ!」

 

「何度も言ってるだろ。どこにそんな証拠がある?」

 

「一夏が乗ってたダンデライナーがほぼ無傷なのが何よりの証拠じゃない!」

 

「それだけじゃないよ。私は福音を正面に見据えていたにも関わらず、背後から攻撃され無理矢理鎧武を解除された。貴方以外に誰ができたって言うの?」

 

「というか、それ以前に君達が揃いも揃って嘘でもついてるんじゃないか?」

 

「何だと……!」

 

「まあまあまあまあ! 不毛な喧嘩はそこまでにしようじゃないか」

 

「あ、プロフェッサー! でもコイツが……」

 

「そういうのは私達に任せておいて。君達はまず戦闘の疲れを養うんだ」

 

間に割って入った凌馬に不満げな声を上げるが、彼の説得で尋問を取りやめ立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中―――

 

春也は不意に目を覚ました。就寝時間が遅い訳でも尿意を催した訳でもなく、不意に胸騒ぎがして目が覚めたのだ。見れば一緒に居る筈の千冬がいない。

 

(千冬姉さんがいない……何なんだろう、この不安は……? どうも落ち着かない)

 

気分でも変えようと、白式を持って廊下に出る。暗所に目を慣らしながらみんなを起こさないように静かに歩いていくと、とある部屋から明りが漏れていた。気になって近づくと話し声も聞こえる。

 

(何を話しているんだ?)

 

白式を部分展開してISの集音機能を使い聞き耳を立てる。春也が耳にしたのは、彼にとって衝撃的なことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春也が起きる数分前。千冬は凌馬、束と面と向かって座っていた。

 

「で…話とは? 春也のことだとは聞いたが」

 

「単刀直入に言おう。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の暴走事故……これに織斑春也が関わっていることが明らかになった」

 

「……そうか」

 

「? 驚かないの、ちーちゃん?」

 

「大してリアクションしてないだけで十分驚いてるさ。ただ……貴方が断言するということは、確固たる証拠があるということなんだろう?」

 

「良くわかってるね、その通りだよ。証拠の1つとして、まず束にネックワークで福音に侵入して調べて貰った結果、ISコアそのものに暴走プログラムと強引な自己進化プログラムが入れられていたことが判明した。それも後付けでだ」

 

「後付けで……そんなことができるのは―――」

 

「ここに居る篠ノ之束か、私か織斑春也の3人ぐらいだろうね。他に居たら既に耳にしてる筈だし」

 

凌馬はそう言ったが、実質犯人は春也1人に絞られる。だが彼は「だけど」と話を続けた。

 

「これよりも決定的な証拠がある。白式から発信された何らかの電波を衛星がキャッチしたんだ。しかも同時刻に離れた場所で無人機と思われる機体群が起動している。そこで電波の行方を辿ったところ……」

 

「発信された電波は無人機のもとへ向かっていた、と?」

 

「正解~! いやはや苦労したよ。衛星を無数に経由するなんて方法使ってたから、普通の人には追跡できなかっただろうね。ま、この束さんとりょーくんにかかれば電波さえ見つけちゃえばこっちのもんだけど」

 

「これらを突き付けてしまえば、最早言い逃れはできないだろうね。背後に潜んでいる組織のことは、取り調べの時に自白剤でも飲ませれば簡単だから……実質全てが解決したと言っても過言じゃない」

 

「……………………………」

 

春也が―――自分の弟が行ってきた凶行を止めることができる。安堵しかけるが、はたとあることに気づく。

 

「いや、まだだ。春也は世界初の男性IS操縦者と、織斑千冬の弟という肩書きがある。今のままでは上から圧力を掛けられてしまうだろう」

 

「……ほう。君から指摘されるとはね。ま、指摘されてなくても私から問いを投げかけていたが……どうするつもりだい?」

 

「……会見を開いて白騎士事件の真相を話す。そうすることで、春也は後ろ盾を完全に失う」

 

「なるほど。ISの優位性を示した事件が実はマッチポンプで、しかも君が動かしていた真実が白日の下に晒されれば、ISと君の信用は地に落ちることになる。またとない手だが……覚悟はあるのかい? 君も、束もだけど」

 

「私は全然オッケーだよ。ちーちゃんが決めたことだし、それに……はるくんを止める為以外にも、今の世界を作ってしまった贖罪を償わないといけないから」

 

「私も覚悟を決めた上で言ったんだ。ただ束を巻き込んでしまうのが心配だったんだが……杞憂だったようだ」

 

「纏まったみたいだね。よし! では会見の詳しい話は後日するとして、今日はもう帰るとしよう」

 

「泊まっていかないのか?」

 

「デスクワークほっぽり出して来たから、徹夜でやらないといけないんだ。じゃ、そういうことで」

 

「ばいび~!」

 

そう言うと凌馬と束は窓から外へ出て行き、バイクの音と共に遠ざかって行った。

 

「……私もそろそろ寝るか」

 

電気を消し、千冬も布団の中へと潜った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(とんでもないことを聞いてしまった……)

 

廊下にいた春也は大いに焦った。聞いていたのは白騎士事件の辺りからだったが、彼を揺さぶるには十分すぎた。

 

(このままじゃ僕が積み重ねてきたもの全てが無駄になる! こうなったら…一か八か、明日の明け方の、誰にも知られない場所で千冬姉さんを殺るしかない!)

 

実姉を手に掛ける決意をしてスマホで時計のタイマーを明け方にセットすると、廊下で眠りにつくのだった。



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第27話 姉弟対決!斬月vs斬月・真!

ついに春也がやらかします。


翌朝……と言っても午前4時という朝日が昇ろうとしている時間帯。スマホの目覚ましで起きた春也はすぐに千冬の部屋に入ると、荷物を漁り始める。

 

(ただでさえ千冬姉さんはIS相手に生身で立ち向かえるのに、アーマードライダーに変身した状態が相手じゃ僕に勝ち目はない。なら……)

 

少しして指先に固い物が当たる。取り出すとそれは千冬のゲネシスドライバーで、一緒にメロンエナジーロックシードも出てきて転がった。

 

「これさえ奪えば……ん?」

 

ふと荷物の中の携帯らしき端末が目にとまる。事のついでにとそれも手に取り懐へと仕舞う。

 

「う……うぅん……はる、や……?」

 

丁度その時、千冬が目を覚ました。起き上がり春也を見るその目は寝ぼけていたが、彼の手にゲネシスドライバーらが収まっているのを見て一気に意識を覚醒させた。

 

「春也、お前!」

 

問い詰めようとしたが、その前に春也は立ち上がり廊下へと出て行った。

 

「くっ!」

 

一体何故、春也は私のゲネシスドライバーを持ち出したのか。それ以前に、何故この時間にこの部屋にいたのだろうか。様々な疑問が千冬の頭に飛び交うが、気を取り直して荷物の中からもしもの為にと所持していた戦極ドライバーとメロンロックシードを取り出し、廊下に出た。

 

 

意外にも春也は廊下の端で立ち止まったまま逃げようとせず、出てきた千冬に面と向かって言った。

 

「どうしてこんなことをしたか気になる?」

 

「……ああ。是非とも聞かせて欲しいな」

 

「話してもいいけど、場所を変えてもいい? こんな朝早くから騒ぎ立てたらみんなに迷惑がかかるし」

 

「いいだろう。どこで話すんだ?」

 

「そうだね……あそこがいいかも」

 

手を叩き、さも今思いついたとばかりに言うと千冬に背を向けて歩き出す。千冬も弟の後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動した先は岩場のある海岸だった。海に面した部分は崖になっており、落ちれば怪我は免れないだろう。距離を置いて立つ春也に千冬は尋ねた。

 

「それで、持ち出した理由は何なんだ?」

 

「……その前に聞いてもいい? 昨晩言ってた白騎士事件のことを会見で話すって……どういうこと?」

 

「……聞いていたのか」

 

「偶然だけどね。夜中に目が覚めて、気晴らしに廊下を歩いてたら聞こえてきたんだ。……驚いたよ。まさか白騎士事件が束さんが起こしたマッチポンプで、しかも千冬姉さんが白騎士を動かしてたなんて。……こんなこと本気で公表するの? 世界そのものがひっくり返ることになるんだよ……!?」

 

「……ISが世に出てから、身の回りのもの全てが変わってしまった。それをわかっているつもりだったが……私は気づいていなかった。だから私は贖罪を果たさなければならない」

 

全てが変わった―――女尊男卑のことかと思ったが、身の回りという言い回しから自分のことを言ってるのだろうと、春也は何となく理解してしまった。

 

「(何でわかったんだ? さては戦極凌馬か? アイツめ、どこまでも余計なことを……尚更ここでしくじる訳にいかなくなったな)悪いけどそうはさせないよ。千冬姉さんがどこまで知ってるかわからないけど、僕にとって不利なことをするなら―――消すだけだ」

 

ゲネシスドライバーを「こう使うんだっけ?」と腰につける。それを見た千冬もいよいよ覚悟を決める。

 

「それがお前の答えか……!」

 

戦極ドライバーを腰に当てるとメロンロックシードを持った手を顔の横に持っていく。

 

(もう1つ持っていたのか!? 主任みたいなことを……でも性能はゲネシスドライバーのが上だ!)

 

それに合わせて春也もメロンエナジーロックシードを同じように掲げた。

 

『メロン!』

 

『メロンエナジー!』

 

『『ロック・オン!』』

 

それぞれのドライバーに装填して鍵を掛け、千冬はカッティングブレードを倒して輪切りにし、春也はシーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開いた。

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

音声が二重に流れ、ライドウェアやゲネティックライドウェアで包まれた身体に、現れたアームズが被さって展開。千冬を斬月に、春也を斬月・真に変身させた。

 

「「…………………………………………」」

 

左手でメロンディフェンダーを持つ斬月は右手で無双セイバーを抜刀する。斬月・真はソニックアローを握る右手の感触を確かめながらすっと構える。

 

「「……はぁあああああああっ!!」」

 

ほぼ同時に2人は走り出した。ソニックアローと無双セイバーの刃がぶつかり火花を上げる。鍔迫り合いの状況から互いに距離を空けると、斬月はがむしゃらに斬りかかる斬月・真のソニックアローをメロンディフェンダーで受け流しつつ、無双セイバーで足払いをする。そして倒れたところに一気に無双セイバーを振り下ろすが、斬月・真もソニックアローで十字に防ぐ。

 

「何故一夏にあんなことをしたんだ!? 誰にでも得手不得手があることは、お前もよく知っているだろ!! しかも直接的にだけではなく、周りを嗾けてまで……!!」

 

「邪魔だったんだよ! 僕が一夏の役割を持ってるのに存在して、挙げ句に織斑家の出来損ないときてる! だから排除してあげようとしたんだ! 周りを使ったのは、僕が目立つところで直接やったら今度は僕が汚点になってしまうからだ!! 千冬姉さんにとっても得な筈だよ!?」

 

最早取り繕う必要も無しとばかりに斬月・真は吐き散らすと、左足で腹部を蹴り飛ばす。すぐに立ち上がるとソニックアローの弓を引いて光矢を放つ。

 

「っ!」

 

斬月はこれをメロンディフェンダーで防ぐと、無双セイバーの後部スイッチを引いてチャージし、トリガーを引いて光弾を放った。

回避した斬月・真はこれでもかと光矢を放つが、斬月は冷静に防いだり回避しながら光弾を放ちつつ接近していく。

 

「この……! でやぁぁあああああっ!!」

 

「はぁあああああああ!!」

 

カウンター狙いでソニックアローを振るうが、それが届く前に無双セイバーが斬月・真を切り裂いていた。

 

「ぐっ……!」

 

「得な訳があるものか! お前も一夏も、私にとっては大事な家族に変わりない!! 排除なんて、間違っても望むものか!!」

 

更に無双セイバーで斬りつけられ、斬月・真は仰向けに倒れた。

 

「な、何で……このベルトの方が、性能は上なんだろ!? その考えが間違っていたのか!?」

 

「間違ってはいない。だが……ベルトの性能の違いが、戦力の決定的差になるのではない。それを教えてやる!」

 

無双セイバーの切っ先を斬月・真に向けて言う。このままやられる訳にはいかない!と、斬月・真は咄嗟に岩の一部をもぎ取って砕くと、斬月に向かって投げた。

 

「うっ!?」

 

思わずメロンディフェンダーで顔を覆う斬月だが、その隙を逃すまいと斬月・真は起き上がりソニックアローによる連続切りを決めていく。最後に上半身に蹴りを放って仰向けに倒すと、全力でソニックアローを振り下ろした。

 

「うああああああああっ!!」

 

「くっ……!」

 

咄嗟に左手をメロンディフェンダーから離して無双セイバーを両手持ちにし、先ほどとは逆の姿勢で十字に防いだ。

 

「さっきさ、僕も一夏姉さんも同じ家族だって、そう言ったよね千冬姉さん!?」

 

「ああ、そうだ!」

 

「だったら何故! 家族である僕の道を阻もうとするんだ!? 千冬姉さんがISで世界最強になって、崇められる程有名になって……僕にとって千冬姉さんの名前はこれ以上とない権力になった! 誰も僕に逆らわなくなった! だから尊敬してたのに……! でも僕の邪魔になるなら、権力を奪うのなら、千冬姉さんなんてもういらない。世界最強の弟と言う肩書きを僕に与えたまま、消えてよ……!!」

 

「春也ぁぁ……!!」

 

ソニックアローを押し退けると無双セイバーで斬月・真の上半身を横薙ぎに攻撃し、更に突きを放って後じさりさせた。

 

「ぐはっ! くぅ……!」

 

体勢を立て直すと斬月・真はメロンエナジーロックシードをゲネシスドライバーから外し、ソニックアローに取り付ける。それを見た斬月も戦極ドライバーのカッティングブレードを左手で一回倒した。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! メロンスカッシュ!!』

 

音声が鳴ると同時に斬月・真は弓を引き、斬月は勢いよく走り出す。

 

『メロンエナジー!!』

 

強化された光矢が斬月に向かうが、無双セイバーを振るい発生した斬撃でこれを打ち消す。驚愕する斬月・真だが再び弓に手を掛け、二発三発と放つ。しかしこれも斬月は打ち消し、インファイトへと持っていく。

エネルギーをチャージしたソニックアローのアークリムと無双セイバーの刃が斬り結ぶ。負けるものかと斬月・真はソニックアローを大振りするが、無双セイバーで受け流した斬月は一回転した後、斬月・真を横一文字に切り裂いた。

 

「ぐぁぁああああああああああっ!?」

 

斬月・真は大きく吹っ飛ばされ膝をつく。

 

「これで終わりだ……春也!!」

 

駆け出して一気に接近すると、斬月・真に向かい無双セイバーを振り下ろす。だが……

 

「っ……!」

 

斬月の脳裏に、物心つく前の幼い一夏と春也と共に過ごした時のことが過ぎった。

 

(両親が家を出て、私が親代わりとなって2人を育てて来た。平等に接したつもりだった……なのに春也。何故お前は変わってしまったんだ? お前は何を求めているんだ……!?)

 

それが斬月を躊躇わせた。振り下ろした手は無双セイバーが当たる前に止まり、斬月・真を仕留めることはできなかった。

 

(今だ!!)

 

『メロンエナジースカッシュ!!』

 

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

最大のチャンスを見逃す筈もなく、斬月・真はシーボルコンプレッサーを一回押し込んでアークリムにエネルギーをチャージし、左下から右上に向かってソニックアローで斬月を切り裂いた。

 

「ぐああああああああああああああああっ!!」

 

衝撃で戦極ドライバーが身体から外れ、それにより変身が解除されながら斬月は大きく吹き飛ばされる。

 

(春也……)

 

変身が解かれた千冬は、斬月・真に手を伸ばしながら海中にその姿を没した。

 

「……さよなら、千冬姉さん」

 

変身を解除し別れの言葉を告げた春也は、ヒビが入って使い物にならなくなったメロンロックシードと、同じくヒビが入って左側のプレートに描かれていた横顔が消えた戦極ドライバーを拾い旅館へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。帰りのバスの中はちょっとした騒ぎになっていた。

 

「織斑先生、どこ行っちゃったんだろ? 寝ぼけて山ちゃんの話聞いてなかったからわかんないよ」

 

「ちゃんと聞いときなさいよ。昨日ISに関する事故が起きて、それの報告書を作る為に先にIS学園に戻ったって」

 

「そうそう。しかもその後、政府関係のところにも行くんだって。先生も大変だなぁ」

 

クラスメイト達が口々に言うのを、春也は内心ニヤニヤしながら聞いていた。

 

(我ながら無理があるとは思う言い訳だったけど、山田先生が騙され易い性格で助かった)

 

そう。春也は千冬を屠った後、真耶にこう話したのだ。

 

『織斑先生の伝言を預かってて、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の件の報告書を作る為に先にIS学園に戻ると言ってました』

 

…と。真耶は当然ながら驚き、更に何故荷物を置いたままなのかも尋ねたがこれについては、

 

『相当慌ててたらしくて、忘れてしまったそうなんです。報告書を作った後すぐに政府へ赴く予定だから、僕に持ってきて欲しいと言われました。……全く、ズボラなんだから』

 

と話した。真耶は苦笑しながらもこれを信じ、噛み砕いて一組の生徒達に説明したのだ。……勿論納得してない者達もいるが。

 

「本当に千冬お姉様は1人で戻られたのだろうか? どうも怪しい気がするが……」

 

「事実だとしても、千冬姉さんの性格から連絡しないのは不自然だな」

 

「それにベルト等が入っている荷物を他人に預けるのも、おかしな話ですわ」

 

「確かに妙だな。一夏……お前はどう思う?」

 

「わかんない……けど、千冬お姉ちゃんのことを考えると胸騒ぎがするの。何も無いといいけど」

 

不安を抱えながら、一夏達はバスに揺られてIS学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園到着後、荷物を置いてから真っ先に生徒会室に向かい千冬が戻って来ているか刀奈に尋ねた。すると……

 

「織斑先生? 帰って来てないわよ。監視カメラには映ってなかったし、潜伏しているレイドワイルドも見てないって言ってたわ」

 

「潜伏? IS学園にレイドワイルドのメンバーが居るのか?」

 

「ええ1人だけ。三年生のダリル・ケイシーこと、本名レイン・ミューゼル。スコールさんの姪よ」

 

「そんなことより、ここに居ないなら千冬お姉ちゃんは一体どこに?」

 

「とりあえず山田先生に相談してみよう。何かわかるかもしれない」

 

一同が生徒会室を出ると、当の真耶とばったり鉢合わせた。

 

「あ、山田先生。丁度いいところに」

 

「丁度いい?」

 

「実は……」

 

と、千冬がIS学園に戻っていないことを話す。すると、「やっぱり」と腕を組みながら言った。

 

「職員室の先生が、織斑先生は戻って来てないって言ってたんです。それで今、織斑さん達に伝えようと探してたところなんです」

 

「そうだったんですか……」

 

「……そういえば、山田先生はどこで千冬さんが先に戻っているという話を知ったんです? 荷物も置いてったそうですけど」

 

「それは、織斑君が織斑先生からの伝言だと」

 

「織斑春也が? 余計に怪しいわね。何か隠しているのかも」

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれるかな?」

 

刀奈がそう呟いた直後、いつの間にかいた春也が余裕綽々といった様子で歩み寄ってきた。

 

「! 貴様……」

 

「僕は織斑先生に言われて、山田先生に伝えただけだよ。その後のことは知る訳がない」

 

「どうだか。その伝えられるように言われたってこと自体が嘘なんじゃないの? 荷物を丸ごと置いていったってのも、変な話だし」

 

「逆に聞くけど、僕の話が嘘だっていう証拠もあるのかい?」

 

「それは……」

 

「無いよね? だったら、僕を犯人扱いして疑うのはよしてくれ。僕だって千冬姉さんがどこ行ったのか気掛かりなんだからさ」

 

「……そうね。疑ってごめんなさい」

 

「わかってくれたならいいんだ。じゃあ僕は行くよ…………あ、そうそう。千冬姉さんのことで何かわかったことがあったら、僕にも連絡を寄越してくれ」

 

そう言い残し春也は立ち去って行った。

 

「こうなったら、更識家の力で探すしかないわね」

 

「それは心強いが……本当に何も知らないのか、アイツは?」

 

「さあ……? とりあえず私、プロフェッサーに電話してみる。何か知っているかもしれないし」

 

携帯を操作すると、一夏は凌馬に電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、私だけど……あ、一夏ちゃん? 何か用? ……え、千冬? いや、こっちには来てないし、緊急の任務も与えてないけど……何だって?」

 

一夏から告げられたことに凌馬は顔色を変えた。そして電話を切るとすぐに束を呼び出した。

 

「どしたのりょーくん?」

 

「……困ったことが起きた。千冬の行方がわからなくなったらしい」

 

「!? ちーちゃんが……!?」

 

「理由は不明だがすぐに捜索隊を出す必要がある。束にも協力して貰えると有り難いけど……会見はどうする?」

 

「そんなの後でいいよ! ちーちゃんを探すのが先だもん!」

 

「そう言うと思ったよ。私も同意見だ」

 

あくまで平静に務めようとするが、想定外の事態に凌馬は内心動揺するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の夜。春也は体調不良と偽り、ほぼ一日部屋に缶詰状態で、ゲネシスドライバーや壊れた戦極ドライバー等を解析していた。

 

「ふう……一日中調べてようやく全部理解できたけど、このアーマードライダーシステムってのは凄いな。ロックシードが、まさかISコアそのものを加工したものだなんて。しかもモード切り替えができて、通常時の出力は第3世代型どころか紅椿すらも超えているときてる。IS涙目って奴だね」

 

感嘆して言うと、春也はノートパソコンに表示された情報を、差し込んだUSBメモリに移動させシャットダウンした。

 

「ともあれ、設計図を完成品から求めることはできたし、後は好きなロックシードやドライバーを僕の味方の数だけ作ればいい。……ああでも、その前に福音を倒したあの形態と戦ってデータを得なきゃ。それとこのゲネシスドライバーにはつけられているけど、キルプロセスは外しておかないと」

 

背伸びと欠伸をして今日はもう寝ようとベッドに入った時、テーブルの上に置いてある待機状態の白式が目に入った。

 

「……折角第二形態移行(セカンドシフト)してくれたけど、これはもういらないかな。データも取れたし、こうしてISよりも強力な武器が手に入ったし」

 

適当に分解するなりしようかなと言うと、春也は眠りについた。だが白式が悲しそうに輝いたのを彼は知らなかった。



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第28話 斬月の裏切り?

夏休みに入り数日が過ぎた。千冬の行方は未だに掴めず、心配が増すばかりの一夏をセシリアは気分転換にとデートに誘った。現在はとあるレストランに来てメニューを見ていた。

 

「どれにします?」

 

「とろけるチーズピザにしようかなって思ってる。セシリアは?」

 

「この本格イタリアン風パスタにしますわ」

 

「じゃあ店員さん呼ぶね」

 

テーブルの端に置いてあるボタンを押して店員を呼び、注文をする。そして店員が去り料理を持ってくるまでの間に、一夏はセシリアを見て言った。

 

「セシリア、今日はデートに誘ってくれてありがとう。凄く嬉しいよ」

 

「喜んで頂けて幸いですわ」

 

「でもどうして急に、デートに行こうって言い出したの?」

 

「日本でデートらしいデートをしたことがありませんでしたから。……それに、一夏さんの笑顔が見たかったですし」

 

最後にボソッと付け加えるセシリアだが、それを一夏はちゃんと聞いていた。同時に今回のデートが、最近千冬のことで思い悩んでいた自分への計らいだということに気づいた。

 

(ありがとう。貴女が私の恋人でいてくれて……)

 

破顔し心の中で礼を言うと、丁度良いタイミングで料理が届きそれをセシリアと共に食べる。

 

 

 

 

 

食事の後、2人は会計を済ませようと席を立った。直後、一夏の携帯がメールの受信音を鳴らした。

 

「? 誰からだろう?」

 

携帯を操作してメールの内容を見た一夏は、送信者の名前と内容文に目を見開いた。

 

「これって……!」

 

「何て書いてありましたの?」

 

覗き込んだセシリアもまた、表情を一変させた。

何故ならメールの送信者の名義は千冬で、付近にある廃工場のマップと『この場所に来てくれ。話がしたい』という文が書かれていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間前―――

 

春也は女性権利団体の会長と共にとある施設に居た。机に座りハンバーガーを食べながら、春也はこう尋ねた。

 

「それで、わざわざ呼び出したってことはついに例の兵器の試作機が完成したってことで良いんですか?」

 

「ええそうよ。かなり時間と金が掛かっちゃったけど……優秀なスタッフのお陰でね」

 

「その割には1人以外は詳細すら知らされていない、手駒同然の存在だと聞きましたが?」

 

「今の世界…と言うか、織斑千冬に心酔しきっているもの。作業が終わったら始末しないと、邪魔でしかないわ」

 

「まあそっちの事情ですし何でもいいんですけど。ところでその1人は誰なんです? 紹介されてないんですが」

 

「しばらく缶詰状態で電話にすら出られない状況だったから、しようにも出来なかったのよ。でも今日やっと紹介できるわ。……優陽(ゆうひ)ー! ちょっとこっちに来なさい!」

 

「はい、美咲会長!」

 

会長―――美咲に呼ばれて元気よく返事をして登場したのは、研究者らしく白衣を着たショートヘアーの女性だった。

 

「この人が?」

 

「兵器開発部の責任者である横山優陽よ」

 

「初めまして。織斑春也君ですね? 美咲会長から話は聞いています」

 

「どうも。……あの、さっき会長さんが試作機が完成したと言ってたんですが、それは今どちらに?」

 

「今モニターに映します」

 

そう言うとモニターと接続してあるパソコンの前に座り、キーボードを操作する。すると格納庫のようなものに鎮座するトラックとスポーツカーが映し出された。

 

「では起動させますね」

 

キーボードを更に操作すると、二台の車が粒子状に分解し、それぞれ銀のロボットと赤いロボットとなって再実体化した。

ちなみにモニターには両機の識別番号と名称が以下の通りに表示されていた。

 

 

 

『TF-00 スティンガー』 『TF-01 ガルバトロン』

 

 

 

「どう? ISが待機形態から戦闘形態に変化する機能を応用した、ISとは一線を画す新兵器―――TFシリーズの出来は」

 

「(元々は僕が出したアイデアだと言うのに、自分達の成果みたいに言うなぁ)最高です。これはもう戦闘に出せるレベルなんですか?」

 

「ええ。いつでも出すことができますよ」

 

「それは有り難いですね。……ところでお願いがあるんですが」

 

「何でしょうか?」

 

「TFシリーズの量産体制が整ってからでいいんですが、これらの物を作るのに必要な材料を揃えて欲しいんです。それと、こちらのマシンの設計図にある空間転移装置を量産してTFシリーズに搭載してくださると有り難いんですが」

 

机の上に置いてあった大きな封筒を開けると、春也は戦極ドライバーとゲネシスドライバー、サクラハリケーンの設計図を渡した。

 

「どれどれ……ああ、これなら材料を揃えるぐらいはできますよ。何人分集めればいいんでしょうか?」

 

「こっちが4人分で、こっちが1人分あれば十分です」

 

「了解。転移装置の方は……これも頑張ればすぐ量産できます」

 

「本当ですか。ありがとうございます。では僕はここで失礼します」

 

「どこへ行くんですか?」

 

「ん……ちょっと不出来な姉の始末に。ここらで消えて貰った方が良いと思いまして」

 

その後春也は千冬の端末を用いて一夏の携帯にメールを送信し、廃工場に呼び出す算段を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、ここに千冬お姉ちゃんが居るのかな?」

 

指定された廃工場に、一夏は1人訪れていた。

 

(セシリアは怪しいって言ってたけど、それでも何か手掛かりが掴めれば……!)

 

ガタンッ

 

「!?」

 

物音が聞こえ振り向く。そこにはソニックアローを持った斬月・真の姿があった。

 

「千冬お姉ちゃん、なの……?」

 

「…………はぁっ!」

 

一夏の問いに答えず、斬月・真は接近するとソニックアローで斬りかかる。

 

「うわっ!? い、いきなり何を!?」

 

辛くも避けた一夏は何故攻撃したか尋ねるも、斬月・真は何も口にせず再びソニックアローを振り翳してきた。

 

「うっ! くうっ……変身!」

 

『オレンジ!』

 

戦極ドライバーを腰に装着しオレンジロックシードを解錠すると、素早くドライバーにセットしてロックを掛け、カッティングブレードを倒して輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

鎧武に変身すると大橙丸を構え、斬月・真の攻撃を防いだ。

 

「どうしてなの、千冬お姉ちゃん!? 何でこんな!」

 

「はぁあああっ!!」

 

困惑する鎧武に一切手加減することもなく、斬月・真は膝蹴りを放つとソニックアローを横一文字に振り抜いた。

 

「きゃあっ……! ほ、本気だって言うの……」

 

「……………………………」

 

膝をついて戸惑う鎧武。そんな鎧武に斬月・真はソニックアローの弓を引いてエネルギーを溜める。そして放とうとした―――その時。

 

『カモン! バナナアームズ! Knight of Spear!!』

 

「やぁああああああああああっ!」

 

「っ!?」

 

突如としてバロンが死角から乱入し、そちらにソニックアローを向けるがその前にバナスピアーによって突き飛ばされた。

 

「セシリア!」

 

「心配で後をつけてみましたが、案の定でしたわね……!」

 

呆然とする鎧武の前でバロンは斬月・真と激しい接近戦を繰り広げる。その光景を見た鎧武は拳を握り締めながら立ち上がる。

 

「何で千冬お姉ちゃんがこんな真似をするのかはわからない……でも! 私だって黙ってやられる気はない!!」

 

『レモンエナジー!』

 

ゲネシスコアを戦極ドライバーに取り付けレモンエナジーロックシードを解錠すると、ゲネシスコアに装着してカッティングブレードを倒して輪切りにしたりカバーを開いたりした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーレモン! ハハーッ!!』

 

「はあっ!!」

 

ジンバーレモンアームズに姿を変えた鎧武は、ソニックアローを持ってバロンに加勢した。

 

「っ!」

 

内心で驚きながらも斬月・真はソニックアローを振るう。しかし鎧武に受け止められるとバロンのバナスピアーで攻撃され、更に鎧武のソニックアローで斬りつけられる。予期せぬ援軍と連携に、斬月・真は攻撃された痕を手で押さえながら後ろに下がった。

するとバロンがある違和感に気づいた。

 

「……おかしいですわ。本物の千冬義姉様なら、この程度は余裕で防げそうなものですのに」

 

「! 言われてみれば、千冬お姉ちゃんの力がこんなものの筈がない……じゃあアイツは何者なの!?」

 

マスクの下で強く睨みながら言う。相変わらず無言のままの斬月・真は動揺を隠すようにソニックアローを強く握り締めた。

 

「っ……!」

 

目の前の斬月・真が千冬でなければ、本物の千冬はどこに居て誰が斬月・真に変身しているのか―――駆け巡る焦燥感を掻き消すように、鎧武はドライバーからロックシードを全て外すとカチドキロックシードを手に持った。それを見たバロンも、戦極ドライバーを外してゲネシスドライバーに付け替えるとレモンエナジーロックシードを取り出した。

 

『カチドキ!』

 

『レモンエナジー!』

 

解錠し各々のドライバーにロックシードをセットして施錠するとカッティングブレードを倒して輪切りにしたり、シーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開いた。

 

『『ロック・オン!』』

 

『ソイヤッ! カチドキアームズ! いざ・出陣! エイエイオー!!』

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

カチドキアームズとレモンエナジーアームズが鎧武とバロンに被さって展開し鎧になると、鎧武は無双セイバーを、バロンはソニックアローを持って斬月・真に向けて走り出した。

 

「「はぁああああっ!!」」

 

「ぐっ!」

 

同時攻撃をソニックアローと鎧で受け止めようとする斬月・真だが、パワーが増したことによって防ぐことができず競り負けてダメージを負う。斬月・真は負けじとソニックアローから光矢を放つが、カチドキアームズの装甲で掻き消した上で逆にバロンの光矢と火縄大橙DJ銃に持ち替えた鎧武の砲撃を食らい吹き飛ばされた。

 

「ぐあっ……!!」

 

必死で痛みを堪えると、何やら端末を操作する。するとどこからかブレード装備型の無人ISが二機現れ、それに紛れる形で斬月・真はその場から撤退した。

 

「あっ! 待て!」

 

「一夏さん! 無人機を倒すのが先ですわ!」

 

「っ、わかってる!」

 

鎧武はDJ銃の銃口部分にあるジョイントを展開すると無双セイバーの切っ先を差し込む。奥まで入れるとグリップ部分から刃がせり上がり、巨大な剣が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、斬月・真は少し離れた場所からデータを観測しつつ動揺している心を落ち着かせた。

 

(まさかセシリアが乱入するばかりか、戦闘パターンから偽物とバレるとは……さすがは代表候補生といったところか。仕方ない、始末するのは後の楽しみにしておこう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあっ! せえいっ!」

 

「はぁあああっ! えぇぇぇぇぇいっ!」

 

鎧武とバロンは襲いかかってきた無人機を逆に追い詰め、時間を掛けてられないとすぐに戦極ドライバーから外したカチドキロックシードを火縄大橙DJ銃にセットしたり、ゲネシスドライバーのシーボルコンプレッサーを一回押し込んだりした。

 

『ロック・オン!! イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・オク・チョウ! 無量大数!!』

 

「セイハァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

『カチドキチャージ!!』

 

『レモンエナジースカッシュ!!』

 

「ぜぇえええええええええい!!」

 

必殺の火縄大橙無双斬による一閃とソニックアローによる斬撃が決まり、無人機を返り討ちにして破壊。変身を解除すると斬月・真が逃げた方へ走るが、既に姿を消していた。

 

「逃げられた……」

 

「捕まえて情報を聞こうと思ってましたのに」

 

「とりあえずプロフェッサーやみんなには報告しとかないと」

 

どうにか気持ちを切り替えようとする2人だったが、その後ろを変身を解除した斬月・真―――春也が通り過ぎたことに気がつかなかった。



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第29話 白式の心

「ん……あれ? またここ……?」

 

夏休みが明けたある日、一夏は夢を見ていた。それはこの前、葛葉紘汰と邂逅した際に見えたのと同じ空間だったが、今回は明確に違う部分があった。

 

『……ひっく……ぐすっ……』

 

(女の子?)

 

目の前には見知らぬ少女がおり、手で顔を覆って泣いていた。戸惑う一夏だったが、放ってはおけず声を掛けた。

 

「……どうしたの? 何があったの?」

 

少女は顔を上げて一夏の顔を見ると、涙は止まったがその表情をより一層悲しげなものへと変えた。

 

『ごめんなさい……一夏。私は、貴女の弟を止めることができなかった……』

 

「え?」

 

『私達を動かせる唯一の男性でありながら悪事を重ねる彼を、ただ傍で見ていることしか…………本当に、ごめんなさい……!』

 

「貴女……白式、なの?」

 

コクリと少女は頷く。少し間を置いて一夏は膝をついて同じ目線に合わせると、そんな少女をそっと抱き締めた。

 

『……え?』

 

「謝らなくていいよ。春也を止めようとしてくれた、その気持ちだけで十分だから」

 

『ですが、私は…あの人の操縦者を、貴女の姉を見殺しにしたも同然の事を……』

 

「!? 千冬お姉ちゃんがどこに居るのか知っているの!?」

 

『……はい。でもここで教えても、目が覚めたら全てを忘れてしまいます。しかしこうして夢の中で伝える以外に、方法は……』

 

「そっか……」

 

少し考え、一夏は紘汰の言葉を思い出した。自分の中に眠る力は、自分の思いに応えてくれると。

一夏は目を閉じ、少女の手をそっと握って強く願った。

 

(この子の力になりたい。伝えたいことを、ちゃんと伝えられるように……!)

 

そうすると手と手の間に眩い光が溢れ出した。それはどんどん強くなっていき、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢?」

 

朝を迎え目を覚ました一夏は、身を起こして背伸びをする。と、自分のベッドに誰かが入り込んでいるのに気づいた。

 

「セシリア……昨夜一緒に寝たっけ?」

 

首を傾げながら布団を捲る。そこには―――

 

「はぇ?」

 

キョトンとした表情で一夏を見上げる、夢で出会った少女の姿があった。

 

「だ、誰!?」

 

「あの、その、私……」

 

「ふぁ……どうしましたの一夏さん? 大きな声を出して………………だ、誰ですかその方は!?」

 

一夏の驚きの声に目を覚ましたセシリアも、見知らぬ少女の姿を見て仰天した。

 

「ひうっ!?」

 

驚かれたことに驚いた少女は、小さく悲鳴を上げると光に包まれ、白色のロックシードとなってポトッとベッドの上に落ちた。

 

「「ええええええええええええええええええええええええええええっ!!??」」

 

立て続けに起こる想定外の出来事に、一夏とセシリアは早朝にも関わらず叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の騒動からしばらく経った昼休み。文化祭の準備で忙しい中屋上に集まった一夏達(+通信状態でipadに映る凌馬)は昼食を摂った後、一夏が持っている白いロックシードを中心に囲んでいた。

 

「本当に女の子がロックシードになったって言うの? 何だか信じらんないわね」

 

「私だって信じられないよ。でも事実なのは確かだし……」

 

「論より証拠、コイツが実際に変化するのを見たら私達も信じられるが」

 

そう言ってラウラが手を伸ばした直後、白いロックシードがふわりと浮かんで光を放ち、少女となって姿を現した。

 

「わっ!? ほ、本当に女の子になった!?」

 

「嘘だろ……」

 

「な、何にせよ、これで今の話が真実ということが明らかになったわね……驚き過ぎて現実味が無いけど」

 

「それで……貴女は何者なのかしら? 詳しく話してくれる?」

 

「は、はい」

 

頷くと少女は事細やかに、自分の正体は白式のコアであること、夢の中で一夏と出会い光に包まれたこと、気がついたら現実世界に人として実体化していたこと、ロックシードに変化したのは自分でも驚いていること等を話した。

 

「聞けば聞くほど謎だらけだな……というか一夏。お前がそもそもの原因なのに、何故忘れていたんだ?」

 

「うーん、夢の中の出来事だったからかな?」

 

「はい。あの状態の私達と話したことは、夢の中でのこととなるので起きたら忘れてしまうんです」

 

「だからかな? 僕を含めて今まで誰も、ISコアに人としての意志と姿があるのを知る人が居なかったのは」

 

「かもしれないわ。……で、一部始終を見せましたけど、どうでしたかプロフェッサー?」

 

手に持ったipadに映っている凌馬に刀奈は語りかける。常に冷静に判断する彼も今回ばかりは激しく狼狽していた。

 

『いや……何というか……完全に予想外と言うか、まさか極ロックシードにそこまでの効果があるとは思ってなかった……』

 

「プロフェッサーですら想定してなかった事態なんですのね」

 

『想定できる訳がないよこんなの……それで白式……でいいんだよね? 君は千冬について何を伝えようとしてたんだい?』

 

「あ、そうだ! 何か知っているの?」

 

「そのことなんですが―――」

 

少女は皆に千冬が臨海学校の時、春也にゲネシスドライバーを奪われて斬月・真に変身され、彼女も斬月に変身して戦ったが倒されてしまったと説明した。

その説明に対する反応は愕然としたり、憤りを覚えたりと様々だった。

 

「は、春也が……千冬お姉ちゃんを……!?」

 

「他の誰かが変身しているとは思ってましたが、よりによってあの男とは……!」

 

「あんのバカ男! ついに尻尾を見せたと思ったらとんでもないことしでかして!! 連れてきて全員でボコってやる!!」

 

「それは無理よ。彼、どういう訳か夏休み明けてから一回もIS学園に姿を見せてないもの。家にも戻ってないわ」

 

「妙な話だな……が、それなら先に千冬お姉様を探して証言させればいい」

 

『……いや、現時点でそれは無理だ』

 

「どうしてですの?」

 

『実は昨日……見つけたんだ。その、千冬を』

 

「!? ほ、本当ですか!? どこで見つけたんです!?」

 

『臨海学校先から、かなり離れた沖合を意識不明の状態で漂流してるのを発見したんだ』

 

「漂流って、一ヶ月近くをか!?」

 

『ああ。今はウチの医療機関で保護している』

 

端末の映像が変わり、ベッドの上で人工呼吸器をつけて眠る千冬の様子を映し出し全員……特に一夏が真っ先に画面に近づいた。

 

『手は尽くしたし、今も束が付きっ切りで看ているが脳の損傷が激しくて……正直なところ、意識が戻るかどうか―――』

 

「…………そう……ですか……」

 

「一夏さん……」

 

一夏は込み上げてくる涙を必死で抑えた。そうしなければ今にも心が折れてしまいそうだから。それを察したセシリアも、一夏にそっと寄り添った。

その様子を見た凌馬は沈んだ気持ちを切り替えようと頭をフル回転させた。と、あることが頭に浮かんだ。

 

『そういえば……その子はこれからなんて呼べばいいんだい? 白式って言うのは女の子の名前にしては、らしくないだろうし』

 

「わ、私の名前ですか?」

 

「あ、言われてみれば……どうしよっか?」

 

困惑する少女を囲んでうーん、と全員で考え込む。少しして一夏がポンと手を叩いた。

 

「今ふっと思いついたんだけど……真白(ましろ)っていうのはどうかな? 真実の真に白式の白で真白。……ダメ?」

 

名前の案の善し悪しを一夏は少女に尋ねる。突然少女の名前を決める話になったので困惑していたが、気を取り直すと一夏に笑みを向けて言った。

 

「いえ……とてもいい名前です」

 

「喜んでくれて良かった」

 

「名前で思ったんだが、授業中とか周りに他の生徒が居る時はどうやって過ごすんだ? さすがにそのままはまずいと思うぞ」

 

「それでしたら大丈夫です。普段はロックシードに変化してますので」

 

身体を光らせると、少女改め真白は再び白いロックシードに姿を変えた。

 

『うーむ、やはり科学原理が全くわからない……』

 

「わかったらわかったでプロフェッサーが恐ろしいですわ……」

 

変化する様子を見て頭を悩ませる凌馬に、セシリアはちょっとした安堵から嘆息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後の最終授業は、一組では学園祭での出し物を決める話し合いをすることになった。執行及びまとめ役はクラス一のしっかり者と称される鷹月(たかつき)静寐(しずね)が務めている。

 

「何か良い案はありませんか?」

 

「そう言われてもねぇ……」

 

「織斑君を主軸とした奴をやりたかったのに、当人が居ないんじゃ決めらんないよ」

 

「夏休み明けてから一度も来てないよね、織斑君」

 

「それ言ったら織斑先生もだよ。やまちゃんが代理で担任やってるけど、何やってるんだろ……」

 

「ああもう、話を逸らさない! 何でもいいから、意見を言って下さい!」

 

春也と千冬の不在でモチベーションが下がってしまっているクラスメイト達を見かねた静寐が、パンパンと手を叩く。その直後、ラウラがスッと手をあげた。

 

「知人の薦めを思い出したんだが、メイド喫茶はどうだろうか。経費の回収には向いているし遊び心もあるだろ?」

 

「メイド喫茶か……いいかも!」

 

「でもメイド服はどうやって用意するの?」

 

「私裁縫部だから、縫えるよ!」

 

「私も実家で余っているのをいくつか取り寄せますわ。それからついでにと言っては何ですが、茶器も届けさせましょう。より本格的になりますわ」

 

「さ、さすがセシリア……規模が違う!」

 

「では出し物はメイド喫茶と言うことで、オーケーですか?」

 

『『『オーケー!!』』』

 

満場一致で出し物が決まった。テンションの差が激しいなぁ、と思いながら一夏が皆を眺めていると、真白のロックシードがカタカタと揺れた。一夏はバレないようにこっそりと手にして小声で話す。

 

「どうしたの?」

 

『皆さん楽しそうにしているので、何だか私まで楽しみになってしまいまして』

 

「きっと楽しい学園祭になるよ。一緒に見て回ろうね」

 

『はいっ』

 

一旦会話を切り上げると、ラインナップ等を次々と出し合い決めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこれだけの数を揃えたんですか……」

 

格納庫にて無数の車が鎮座しているのを見て、春也は壮観だなと零した。

 

「結構大変だったでしょう? 休み無しで作業してたって言ってましたし」

 

「それ以上に私も現場も楽しんでやってたから、そんなに苦ではなかったわ。そうよね?」

 

「はい! 特に、白式・雪羅等の専用機の武装データを搭載したTFを作った時なんか、もう全員揃って大興奮、濡れ濡れでしたよ!」

 

「品のないこと言わないで下さい。てか仲良くなってますけど、そんなんで始末できるんですか?」

 

「心配ご無用です! 完成記念にと渡したワインに毒仕込みましたから、とっくにあの世行きですよ!」

 

「……自分から聞いといて何ですけど、喜々として言うことじゃ無いですよねそれ。後、ちゃんとドライバーとロックシード持ってますよね?」

 

「ええ、忘れてないわ」

 

言いながら美咲は認証済みの戦極ドライバーを、優陽はゲネシスドライバーを取り出す。彼女らが用意した材料で、春也が作ったものだ。

 

「それにしても、ちゃんと説明されても信じられないわ。ISコアそのものを加工することで、ISを超える兵器が簡単にできるなんて。……ところで貴方も忘れて無いわよね?」

 

「TFをいつでも起動できる遠隔装置のことですよね。ちゃんと持ってますよ」

 

左腕の白式があった部分に装着した時計のようなものを指して言う。これと同じものを美咲も所持している。

 

(それにしても朝起きた時、白式が無かった時はびっくりしたな……一体どこにいったんだ? ISコアに意志が芽生えてどっかに飛んでったとか? ……な訳ないか。理由が何であれどうせこれからの戦いでは役に立たないし、廃棄処理する手間が省けたからいいけど)

 

「ところでだけど、夏休みからずっとここに居て、IS学園にも行ってないんじゃ不審に思われるんじゃない?」

 

「どうせこれから裏切りに行くようなものなんです。だったらあんな邪魔者ばかり居るような場所に行こうが行くまいが変わらないでしょ?」

 

笑顔で言い放つ春也に、美咲は彼の裏に潜む狂気を感じ取るのであった。



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第30話 幕開け!恋の訪れる学園祭!

学園祭前日。一夏とマドカと真白は亡国機業(ファントム・タスク)の医療機関を訪れ、千冬が居る病室の前に来ていた。

 

コンコン

 

『どうぞ』

 

「……失礼します」

 

軽くノックをして入ると、ベッドに横になっている千冬と丸椅子に座る凌馬と束がいた。

 

「具合はどうなんだ?」

 

「悪化はしてないが、良くもなっていない。ずっと眠り続けているよ」

 

「お姉ちゃん……」

 

千冬の傍に歩み寄ると、一夏は手を彼女の手に重ねる。意識の無い姉の姿を見て涙が溢れそうになるが、それを必死で堪える。

 

「……我慢しなくてもいいよ、いっちゃん。悲しい時は泣いても「泣きません」え?」

 

「春也のしでかしたことのせいで泣きたくなんかない。泣くのは千冬お姉ちゃんが目を覚まして、春也に証言突き付けて土下座で謝らせてからです」

 

涙を堪えて決意を固める一夏に、束は彼女なりの強さを感じ取った。そんな時、束に話しかける者が居た。

 

「あの……」

 

「? 確か君は白式が変化した……真白ちゃんだったっけ?」

 

「はい」

 

「こうして見ると人間にしか見えないね。束さんもびっくりだよ……まあそれは置いといて、これからはしろちゃんって呼ぶけど、私に何か用?」

 

「これをお渡ししようと」

 

真白は懐から学園祭の招待券を二枚出すと、一枚を束に渡しもう一枚を凌馬に渡した。

 

「これ、IS学園の……どうして?」

 

「最近千冬お姉ちゃんのことで根を詰めてるって聞いたから、息抜きにと思って」

 

「提案したのは箒だけどな。ちなみにスコールとオータムにも渡しておいたぞ」

 

「そういうことなら、お言葉に甘えさせて貰うよ。束も行くだろ?」

 

「でもちーちゃんが……」

 

「千冬の看病も大切だが、今は気持ちをリフレッシュさせた方がいい。寝不足のせいで結構酷い顔してるからね」

 

「……そんなに酷い?」

 

「相当なもんだ。もし千冬が見たらきっと気絶してしまうよ」

 

「ええっ!? そ、それは嫌ぁーっ!!」

 

「(お、思ったより本気にされてしまった……)じゃあ息抜きするかい? ストレスが抜けたら少しはマシになるかもよ?」

 

「するする! させて下さい!」

 

渋る束に凌馬は冗談のつもりで言ったが、意外と本気でとられてしまい、内心戸惑いながらもポーカーフェイスで続行し束の首を縦に振らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一晩明けた学園祭当日。一組のメイド喫茶では開店前の準備を行っていた。

 

「よく似合ってますわ、一夏さん」

 

「そうかなぁ? イマイチ自信ないけど……」

 

オルコット邸で着ていた物とは違い、可愛らしい装飾が施されたメイド服姿を褒めてくれるセシリアに一夏は首を傾げる。こんなに可愛い服が果たして自分に似合うのだろうか疑問だったが、セシリアが言うのだから似合っているんだろうと完結させた。そこへ同じく着替えを終わらせた箒、マドカ、シャルロット、ラウラがやってきた。

 

「着替え終わったみたいだな。……ふむ。中々似合ってるじゃないか」

 

「そう言う箒達も凄く似合ってるよ」

 

箒は特注の和服メイド服を、シャルロットはオレンジのオーソドックスなメイド服を、マドカとラウラはゴスロリ風のメイド服を着込んでおり、そのどれもがマッチしていた。

 

「それは良かった。私としては、やはり和服の方が落ち着くのでな」

 

「褒められるのは嬉しいが、どうも複雑だなぁ」

 

「え、何で? 可愛いのに」

 

「そんなに好きじゃないんだ、ゴスロリは。周りに子供っぽく見られるし。ラウラも嫌だろ?」

 

「別にそんなことはないが。体型を気にしても変えられるようなものでもないし。まあ似合ってなければ話は別だが」

 

「そんなことないよ。今のラウラ、すっごく似合ってて可愛いから」

 

「そ、そうか。そう言うシャルロットも、似合っているぞ」

 

「……準備前にイチャつくな」

 

互いに頬を赤くしたラウラとシャルロットにジト目を向けながらぼやくマドカ。呆れ半分羨ましさ半分といったところだ。

 

「(やはりIS学園に居る以上、異性との出会いは無きに等しいしなぁ。かと言って私は同性愛の方ではないし…………今考えても仕方ないか)……っと、そろそろ開店の時間だ。みんな行くぞ!」

 

時計を見て気持ちを切り替えると、マドカは入り口を開ける。店先にはかなりの客が列を作って並んでいた。若干気圧されるものの、気を持ち直すとすぐさま接客に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開店から30分後。

 

「織斑さん! 二番テーブルにこれ持ってって!」

 

「わかった!」

 

「オルコットさん! 十番テーブルの注文とってきてくんない!?」

 

「お任せ下さい!」

 

「フランソワさん! お客様を十一番テーブルに案内して頂戴!」

 

「任せて!」

 

店は客足が途絶えること無く繁盛しており、厨房班も接客班も休む暇もなく大忙しで働いていた。

 

「織斑さん、三番テーブルにお客様を案内して」

 

「はーい!」

 

そんな中で案内を頼まれた一夏が入り口に向かうと……。

 

「一夏ぁー、お邪魔しに来たわよ~」

 

「はぁー、本格的とは聞いてたがここまでとは驚いたぜ」

 

「メイド服似合ってるわよ、一夏ちゃん」

 

「他の皆も中々様になってるねぇ」

 

「おお、箒ちゃんは和メイドなのかー。眼福眼福~♪」

 

中華喫茶の出し物で赤いチャイナドレスに身を包んだ鈴を先頭に、感心した様子のオータムと優しく笑みを浮かべたスコール、全体を見渡す凌馬とパッと見別人に見えるレベルで変装をした束がいた。

 

「(変装が本格的すぎて一瞬誰かわからなかったけど……束さん……だよね?)あの、プロフェッサーの隣に居る人って……」

 

「……言いたいことはあると思うけどとりあえず今は虹野アリスって名前になってるから、店外ではそう呼んであげて」

 

「は、はあ……わかりました。それではご主人様、お嬢様、こちらへどうぞ」

 

困惑しかけるが束の事情的に仕方ないと納得すると、鈴達をテーブルへと案内した。

 

「ご注文は何になさいますか?」

 

「んじゃ私は、アイスティーにするわ」

 

「俺はブラックコーヒーの濃いめの奴な」

 

「私にもオータムと同じのをお願い」

 

「私はそうだな……アイスコーヒーを1つ頼むよ」

 

「アリスさんにはカフェオレをプリーズ!」

 

注文を承ると、一夏は厨房へ移動し少しして注文した飲み物を乗せたトレイを持って戻ってきた。

 

「お待たせしました、ご主人様、お嬢様」

 

「ありがと」

 

「この濃さ、やっぱコーヒーはこれに限るぜ!」

 

「そうね(思ってたより濃いわね……)」

 

「どうもありがとう」

 

「そんじゃ早速、頂いちゃうよ!」

 

凌馬らは渡された飲み物に様々な反応を示しながら飲み始める。それを一夏は見守っていたが、セシリアが近くに寄って来てトントンと肩を叩いた。

 

「一夏さん、そろそろ休憩のお時間ですわよ」

 

「そっか。じゃあ早く行かないと、弾達と行き違っちゃうね」

 

「ええ」

 

「ん? 一夏はともかくセシリアまで弾達の迎えに行くの?」

 

「折角蘭さんに招待券を渡しましたのに、出迎えないのは失礼ですもの」

 

「ああ、あれってセシリアだったんだ……道理で電話越しに嬉しそうにしてた訳だ」

 

「では行きましょうか。……そうですわ、プロフェッサー達も一緒に行きますか?」

 

「いや、私達はもう少しここにいるよ」

 

凌馬からの返答を聞いた一夏とセシリアと鈴は一組の外へ出る。いざIS学園のゲートへ向かおうとするが、何かを思い出した一夏が足を止めた。

 

「そうだ、真白を出してあげなきゃ」

 

人目のつかないところに行き人間の姿になった真白を連れてくる。だが真白はどこか疲れているような顔をしていた。

 

「どうしたのよ。歩く前から疲れちゃって」

 

「一夏の腰にぶら下がっていたら、目を回してしまいまして……」

 

「……ご愁傷様ですわ」

 

「だ、大丈夫?」

 

「行動に支障を来す程ではないので、特に問題はありません」

 

「ならいいけど、やばかったらちゃんと言ってね」

 

真白を気遣いながら(結局本当に問題はなかった)受付のある方向へと一夏達は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくしてゲート付近では弾、数馬、蘭の3人が目の前のIS学園を立ち止まって見上げていた。

 

「これがIS学園かぁ。やっぱテレビと資料で見るのじゃ迫力が違うな」

 

「僕は未だに衝撃が抜けきらないぞ。普通じゃ来られないところに来てる訳だし……やっぱ持つべきものは友達だよな」

 

「おう。……蘭も感謝しろよ? 余ってた招待券貰えたお陰で、お前も来ることができたんだから」

 

「お兄に言われなくてもわかってるわよ。……それにしても、外に並べてあった自動車やトラックは何だったのかしら?」

 

「スポンサーの宣伝じゃないかな? シボレーが4台ある上にパガーニとか置いてあったし。そんなことよりかは受付に行こう。じゃないと話が始まらない」

 

「そうだな。えっと受付は……お、あれだな」

 

時間的に減ってはいるが、まだ列になって招待券を順番に見せているのを目敏く発見すると最後尾に並ぶ。弾達の番が来るのはすぐだった。

 

「次の方、どうぞ」

 

「ああはい」

 

一番に弾が招待券を渡す。受付をしていた生徒―――虚はそれが本物であるかどうかを確認すると名簿を指しながら顔を上げた。

 

「ではこちらにお名前……を……」

 

「あ……」

 

見上げる虚と見下ろす弾の視線が合った瞬間、2人に電撃のようなものが走った。そのまま硬直したかのように見つめ合う。

 

「ちょっと何やってんのよお兄。早く名前書いてよ」

 

「っ! そ、そうだった。えと、名前名前……」

 

「え、えっと、こちらのペンをお使い下さい」

 

妹に注意されて慌てて名前を記入する。それを終えると虚が書かれた名前を確認した。

 

「五反田弾さん……って言うんですね……」

 

「は、はい。……あ、あの…貴女の名前は……?」

 

「わ、私ですか!? 私は、その……の、布仏虚といいます!」

 

やたらと辿辿しい2人の様子に、数馬と蘭は何が起きたのかを把握し同時に呆気に取られた。

 

「……あり得ない……お兄に一目惚れするだなんて……」

 

「弾が一目惚れするならいつものことだけど……世界が滅ぶ前触れか……?」

 

言いながら名簿に名前を記入した、その時であった。

 

「あ。いたいたって、何があったの?」

 

「い、一夏。それに鈴とオルコットさんも……」

 

「何やら虚さんの顔が真っ赤ですが……」

 

「っ! まさか弾! アンタ、初対面の癖してセクハラ発言したんじゃないでしょうね!?」

 

「言いがかりだ! 俺がそんなことをする奴に見えるか!?」

 

「「「「見える」」」」

 

「ひでぇ!!」

 

セシリアと真白を除く4人にハモられたことでショックを受ける。一連の会話を聞いていた虚は釈明すべく立ち上がった。

 

「ち、違います! 私が勝手に一目惚れしただけで、彼は何も………………あ」

 

「え……?」

 

「「嘘ぉ!?」」

 

「まあ……」

 

「え、あ、い、今のはあの! その、えっと……」

 

意外すぎると驚く一夏と鈴に、目を見開いて口元を手で隠すセシリア。そして混乱しあたふたとする虚の姿を見ていた真白はある疑問を口にした。

 

「一夏。ひとめぼれとは、一体何なんですか?」

 

「え? うーん……初対面の相手を一目見ただけで好きになる、かな?」

 

「ん……? なあ、その子は一体誰なんだ?」

 

首を傾げる真白の姿を見て、どうにか場の空気を変えようとしていた弾がこれ幸いにと尋ねた。

 

「ああ、この子は真白。私の遠い親戚にあたる子なんだ」

 

「初めまして。よろしくお願いします」

 

「こっちこそよろしく。……てか一夏に親戚なんていたとは初耳だな」

 

腕組みしながら言う弾に、事情を知る一夏達は顔を見合わせ苦笑する。

 

「って! 話逸らそうとしても無駄よ」

 

「ギクッ!? ば、バレた?」

 

「全く……んで、事情は何であれ虚さんは弾に惚れちゃったと。弾、アンタはそれにどう応える気?」

 

「ど、どうって……」

 

「や、やっぱりさっきのは忘れて下さい! 初対面の人にこんなこと言われたところで、迷惑でしかありませんし……」

 

「め、迷惑だなんて、そんなこと! お、俺は……っ、俺も、布仏さんに一目惚れしましたから! だから全然、迷惑なんかじゃない!!」

 

「ふぇっ!? …あ、ぁぅ……」

 

「……到着早々、お兄の春到来を見られるなんて思わなかったわ……」

 

「しかも人が大勢居る中でな。……マジで世界滅ぶんじゃないか、これ?」

 

周りからの注目を集めてしまっていることに数馬がツッコみ、「あっ」と気づいた弾と虚が恥ずかしそうに頬をかく。もう苦笑するしかないと一夏は思わず周りを見渡した。

 

(……あれ?)

 

その中に後ろ姿だがある人物が学園内を歩いているのに気づいた。見間違いかと目を擦るが、確かに彼はそこにいた。

 

(間違いない……でもどうして今頃?)

 

「……か。一夏!」

 

「……鈴? どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないわよ。急に黙り込んじゃって……何かあったの?」

 

「ううん、何でもないよ。……あ! 悪いけど用事思い出したから、ちょっと行ってくるね!」

 

「用事って、ちょっと一夏!」

 

引き留めるより早く、一夏は走り去ってしまった。後に残された鈴や真白達は怪訝そうに彼女を眺めていた。

 

「一夏の奴、どうしたんだ?」

 

「さあ?」

 

「(何だか嫌な予感がしますわ……)私が見てきますわ。皆さんはご自由に見て回って下さいな」

 

不安を感じたセシリアは一夏に気づかれないよう、人混みに紛れながら後をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私服だったけどあの後ろ姿は間違いない。でもどうして今になって……?)

 

思考を張り巡らしながら一夏は歩く。しばらくして追いかけていた人物は通路の途中で立ち止まり、一夏もそれに合わせて足を止める。気がつけばゲート付近から離れたところに来てしまっていたが、今更後には引けない。すぐに目の前の人物に問いかける。

 

「……春也……だよね?」

 

「……よくわかったね。やっぱ姉弟ってことかな」

 

振り向きながら言う人物―――春也はいつものように爽やかな笑みを浮かべていた。

 

「まあね……1つ質問してもいい? 何で千冬お姉ちゃんをあんな目に遭わせたの……!?」

 

「あんな目?」

 

「臨海学校の時、千冬お姉ちゃんのゲネシスドライバーを奪って変身して、海に落としたことだよ。言っとくけどしらを切ろうとしても無駄よ。何もかも全部知っているんだから」

 

「(目撃者がいたのか? 確認した筈だが……まあいい。どうせ今更取り繕う必要もない)今は言えない。ただ別のことで謝らないといけないことがある」

 

「別のことですって?」

 

「うん。なんせここはもうじき戦場となるからね。折角の文化祭を台無しにしちゃってごめん……って」

 

言い終えるとゲネシスドライバーを腰に装着し、メロンエナジーロックシードを持った右手を掲げる。

 

「貴方まさか……! ここで戦えばどんなことになるのか、わかっているの!?」

 

2人の周りには一般の招待客や生徒等が行き来しており、何人かは足を止めて「喧嘩か?」と見守ってもいた。

 

「わかってるさ。でも僕と関わりの無い人達のことなんて―――知ったことじゃない。変身」

 

『メロンエナジー!』

 

メロンエナジーロックシードを解錠した春也はゲネシスドライバーにセットして施錠すると、シーボルコンプレッサーを力強く押し込んでロックシードのカバーを展開させた。

 

『ロック・オン!』

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

頭上に出現したアームズが頭に被さりゲネティックライドウェアで全身を包まれると共に開いてアーマーになって固着し、春也は斬月・真に姿を変えた。

 

「はぁっ!!」

 

「っ!」

 

変身してすぐに一夏に接近してソニックアローを振るう。咄嗟に左に転がって回避するが斬月・真は続けざまにソニックアローを振るってくる。巻き添えを食らった柱が破壊され、周りの客達が悲鳴を上げて逃げ始める。

 

「くっ、このままじゃ!」

 

「何やってるの姉さん? 早く変身しなきゃ。でないと被害がもっと広がるよ?」

 

「貴方、よくもぬけぬけと……!」

 

平然と周りを巻き込んだ斬月・真の行動に怒りを震わせると、戦極ドライバーを腰に装着してカチドキロックシードのロックを解除した。

 

「変身!」

 

『カチドキ!』

 

すぐに戦極ドライバーに取り付けて鍵を掛け、カッティングブレードを倒してカチドキロックシードを輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! カチドキアームズ! いざ・出陣! エイエイオー!!』

 

巨大なカチドキアームズが一夏の全身を包むように展開し、鎧武に変わると無双セイバーを持ってソニックアローと斬り合い火花を散らした。



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第31話 楽園の崩壊

一夏の後を追ったセシリアは、彼女が春也を追いかけていたことを知ると同時に斬月・真と鎧武に変身して刃をぶつけ合う光景を目にした。

 

「こんなところで戦うだなんて……早く織斑春也を止めませんと!」

 

懐からゲネシスドライバーを左手で取り出すセシリアだったが、彼女の目の前に1人の女性がふらりと立ち塞がった。

 

「……誰ですの貴女は? 危ないですからどいて下さると嬉しいのですが」

 

「質問は一度に1つずつだと有り難いんですけど、今回は特別に両方一気に答えてあげましょう。私は女性権利団体の兵器開発部チーフ、横山優陽と言います。そしてここからどいてくれるかと言う問いに対しては、残念ですが拒否させて頂きます」

 

「拒否……何故ですか?」

 

「彼に、春也君に言われてるんですよ。セシリア・オルコットは用心深いから必ず織斑一夏を心配して追いかける。前はそれで一騎打ちの邪魔をされたから、私に防いで欲しいと」

 

戯けたような笑みを浮かべながら、優陽はゲネシスドライバーを出して腰に装着。更に表面がドラゴンフルーツを模し、『E.L.S.-PROTO』と書かれたドラゴンフルーツエナジーロックシードを取り出した。

 

「!? ゲネシスドライバーにエナジーロックシード……どうして貴女が!?」

 

「春也君のお陰ですよ。変身!」

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

側面のスイッチを押して解錠し音声を鳴らすと頭上にドラゴンフルーツを模したドラゴンエナジーアームズが現れてゆっくりと降下し始める。

 

『ロック・オン!』

 

ドラゴンフルーツエナジーロックシードをゲネシスドライバーにはめ込むと、ロックを掛けてシーボルコンプレッサーを押し込みロックシードのカバーを左右に開いた。

 

『ソーダ! ドラゴンエナジーアームズ!!』

 

ディスコ風のミュージックが鳴り響く中、アームズが頭に被さって優陽の全身を黒と銀のゲネティックライドウェアで覆い、展開して上半身に鎧となって装着され彼女を仮面ライダータイラント ドラゴンエナジーアームズへと変えた。

 

「なるほど……今の一言ではっきりしましたわ。貴女方女性権利団体が、織斑春也の背後にいるということが! 変身!」

 

『レモンエナジー!』

 

レモンエナジーロックシードを解錠したセシリアは、優陽同様にゲネシスドライバーにセットしてロックするとシーボルコンプレッサーを押し込みカバーをオープンさせた。

 

『ロック・オン!』

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

出現したアームズがセシリアに被さり、ゲネティックライドウェアに包まれると展開して鎧になりバロンに変化する。

 

「「はぁああああっ!!」」

 

変身が完了すると同時に、バロンとタイラントは接近してソニックアローで斬り合う。斬撃音に気づいた鎧武は振り向いて2人が戦っている場面を目にした。

 

「セシリア!? それにあのアーマードライダーは……!?」

 

「余所見するんじゃない!」

 

しかし斬月・真の猛攻により意識を戻される。鎧武はカチドキアームズの装甲で防ぎながら無双セイバーで攻撃を加えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が行われていることはすぐに各所に知れ渡ることになった。それは一組も例外ではない。

1人の生徒が慌てて入ってきたことから状況は動き出した。

 

「はぁ……はぁ……た、大変よ!」

 

「な、何があったの?」

 

「織斑さんが、IS展開した織斑君と戦ってるの! しかも不明機まで現れて、そっちはオルコットさんが戦ってる!」

 

「ぶっ!?」

 

凌馬は口に含んだ飲み物を一瞬吹き出しそうになり、どうにか堪えると席を立って箒達と集まる。

 

「今の話だが……」

 

「確認したけど、本当みたい。先に仕掛けたのは相手からだけど」

 

「あの野郎、ついにやってくれたな……! ぶちのめしてやる!」

 

「その前に止めないとまずくないか? それにセシリアと戦っている謎のアーマードライダーというのも気になる」

 

「何にせよこういう時は現場に赴くのに限る。さあ行こう」

 

「悪いけど、そうはさせないわよ」

 

彼らの話を聞いていた女性客の1人が、言いながら立ち上がり腰に手を当てる。当然ながら凌馬達は顔を見合わせ疑問を投げかけた。

 

「あー、君は誰なんだい? 何故そうはさせないと言ったのかな?」

 

「私は女性権利団体の会長、新田美咲よ。さっきの言葉の意味は……彼に阻止するよう頼まれたからと言えばわかるかしら?」

 

「何……コイツ、まさか……!」

 

女性権利団体という組織名と頼まれたという言葉で真っ先に理解したラウラの目前で、美咲は既にプレートに横顔が描かれた戦極ドライバーを見せつけるように出して腰に宛がい、黄色のフォールディングバンドを伸張させる。そして銀のロックシード同様に表面がリンゴを模した『L.S.-TABOO』と書かれたリンゴロックシードを右手に持った。

 

「戦極ドライバー!? なんでこの人が!?」

 

「それにそのロックシード、一体どこで手に入れたんだ!?」

 

「彼に聞いてみればわかるんじゃないかしら? ……変身♪」

 

『リンゴ!』

 

ロックシードを解錠してシルバーアームズによく似たリンゴアームズを出現させると、戦極ドライバーに装着、施錠しバロンやグリドンと同じファンファーレの旋律が流れる中カッティングブレードを倒して輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『カモン! リンゴアームズ! Desire Forbidden Fruit!!』

 

一気に落下したリンゴアームズが頭を覆うと白と黒のライドウェアが美咲を包み、アームズが鎧となって展開。女性的なシルエットを持つ、仮面ライダーイドゥン リンゴアームズに変身した。

 

「ええっ! あ、あの人織斑さん達と同型のISを展開したよ!?」

 

「こんな場所でなんで!?」

 

「な、何が始まるって言うの!?」

 

変身を目の当たりにした周りがざわつき始める。イドゥンは左手に所持したリンゴ型の楯・アップルリフレクターから、その内側に収納されている専用剣・ソードブリンガーを右手で引き抜くと切っ先を凌馬達に向けた。

 

「やれやれ……織斑春也と繋がっていた組織が明らかになったのはいいものの、困ったことになったね」

 

「どうする? 俺が奴を抑えて、その間にここに居る全員を避難させるか?」

 

「私は良い考えだと思うわ。貴女達は?」

 

スコールの確認に、箒達アーマードライダーへの変身能力を持つ者達はすぐに頷いた。

 

「では彼女は君に任せるとして、私達は皆を避難させることに専念しよう。アリスも手伝ってくれるよね?」

 

「うん。めんどくさいって言ってる場合じゃないからね」

 

「決まったみてぇだな。んじゃ行くぜ!!」

 

言うが早いかオータムがイドゥンの腰に突進して捕まえる。咄嗟の事態に驚くイドゥンだったが、すぐに蹴りを放つ。オータムは付近のテーブルや椅子を巻き込みながら倒れた。

 

「今の内だ! みんな、すぐにここから避難しろ!」

 

「決して焦るな。落ち着いて、私達の指示通りに動くんだ!」

 

吹き飛んだオータムにイドゥンの意識が向けられている隙に、客や他の従業員達を避難させていく。

 

「ふん……あくまで私の相手はコイツに任せたってこと? 生身の人間を囮にされるなんて、舐められたものね」

 

「そいつはどうかな?」

 

壊れたテーブルなどを除けながら起き上がったオータムは、腰にゲネシスドライバーを巻くとチェリーエナジーロックシードを解錠した。

 

『チェリーエナジー!』

 

「何っ!? 貴女もイレイザー社の……!?」

 

「(偽名の方で呼んでるってことは、どうやら戦極ドライバーやロックシードのことしか知らないみたいだな)そういうこった。変身!」

 

アームズが現れ頭上で待機し、オータムはチェリーエナジーロックシードをゲネシスドライバーに嵌め込みロックを掛けシーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開かせた。

 

『ロック・オン!』

 

『ソーダ! チェリーエナジーアームズ!!』

 

一気に頭に被さったアームズが、オータムの身体がゲネティックライドウェアで包まれるのと同時に展開。鎧となって固着しシグルドに変わった。

 

「っしゃあ! 久々に戦らせて貰うぜ!!」

 

ソニックアローを持つ左手の力を強め、イドゥンに接近しつつ大きく振りかぶった。

 

「くっ!」

 

イドゥンはアップルリフレクターでソニックアローによる近接攻撃を防ぎ、ソードブリンガーで斬りかかる。シグルドは右手で刀身を掴むようにして止めると、押し切られまいと抵抗しながらイドゥンの腹部に蹴りを放ち、数回ソニックアローで斬りつけた後弓を引いて光矢を放った。

 

「がはっ……!」

 

「どうだい? こう見えて俺だって戦闘部隊の一員なんだ。ま、非常要員だけどさ……何にせよお前はアイツ等の足止めを目論んでいたみたいだが、これじゃあさすがに無理だろ」

 

「……ええ、そうね。確かに私には無理だわ。でも私達にはとても強力な仲間がいるのよ」

 

「? それがセシリアと戦ってる奴のことを言ってるのなら、無駄だと思うぞ。アイツは熟練のアーマードライダー相手でもちょっとやそっとじゃ負けないからな」

 

「そっちじゃないわ。今から呼ぶ、外に待機させていた援軍のことを言ってるのよ」

 

「は……?」

 

何のことを言っている、と疑問を抱くシグルドを余所に、イドゥンはインカムに当てるように手を動かし何事か呟いた。

 

「トラックス01、起動して私のもとへ来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイラントと戦闘状態にあるバロンは、ソニックアロー同士で鍔迫り合いをしている最中に異変に気づいた鈴達が駆けつけてきたのを知った。

 

「マ、マジでドンパチやってやがる……!」

 

「斬月・真に変身してるのはアイツだとして、黒いアーマードライダーは誰が!?」

 

「何にせよ早く止めないとまずいわ! 虚さん、避難誘導をお願いします! 蘭もどっか安全なとこに逃げて!」

 

「わかりました!」

 

「は、はい!」

 

次々と指示を飛ばす鈴。更にバロンは校舎側から走ってくる2人の人物に気づく。

 

「白昼堂々と、それも周りに人が居る状況で襲ってくるなんて、いい度胸してるわね」

 

「誰に喧嘩売ったのか教えないといけないよね、お姉ちゃん?」

 

「ええ!」

 

刀奈と簪だ。2人は騒ぎを聞きつけた際、一組に残っていたメンバーよりも一足先に向かっていたのである。

 

「……残念でしたわね! 貴女の目論見は無駄に終わりそうですわよ」

 

「いいえ、まだです。……起動したのは01ですか……ならトラックス02、起動! こっちに来て下さい!」

 

「? 何をしましたの?」

 

「もうじきわかりますよ」

 

マスクの下で不敵に笑みを浮かべるタイラント。その成り行きを鎧武と戦いながら見守っていた斬月・真は小さくため息をついた。

 

(やれやれ、01に次いで02の起動もか。戦いながらじゃ、忙しいったらありゃしない)

 

「余所見してる場合じゃないよ!」

 

思考している隙に鎧武の無双セイバーが斬月・真のアーマーを切り裂く。よろめいて数歩下がるが、斬月・真は慌てずに呟いた。

 

「……トラックス03、起動しろ。02の後を追って暴れるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イドゥン、タイラント、斬月・真が指令を送った直後、ゲートよりやや離れた屋外に展示されていた車(フレイトライナー・アーゴシー1台、パガーニ・ウアイラ1台、シボレー・トラックス4台)の内、3台のシボレー・トラックスのエンジンが無人のまま起動し近くに居る人達を困惑させた。

 

「お、おい……なんか勝手に動いてないかこの車?」

 

「あり得ないわ。だって無人なのよ?」

 

動く筈がないと困惑する人々だが、3台のトラックスは運転手もいないのに勝手にギアを変え、アクセルを噴かして発進。逃げ遅れた人達を跳ね飛ばしながらそれぞれ指定された場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キキィィィイイイ……!

 

「ん? なんだこの音……」

 

ドリフトで生じるタイヤと地面との摩擦音を聞いた弾が振り向いた時、2台のシボレー・トラックスが突っ込んできた。

 

「うおおおおおおおお!? な、何だ何だ!?」

 

「お、お兄! あれって確か展示されてた車じゃ……!」

 

全員の注目がトラックスに集中する。直後、トラックスのボディは粒子状に分解しながら空中を漂い、刀奈と簪、鈴や弾達の前に移動すると巨大な人型のロボットモードに再構築され4人の戦いを妨害させまいと立ちはだかった。

 

「なっ……! 車が変形した!?」

 

「何なのこれは……一体何だって言うの!?」

 

いきなり出現した自分達にとって未知なる存在に鎧武らは動揺する。丁度そこへマドカ達が駆けつけた。

 

「っ、これはまたとんでもないことになってるな!」

 

「わっ! でっかいロボットが二体も!? 何なのさアレ!? ねえ箒ちゃんわかる!?」

 

「姉さんが知らないものを私が知ってる筈がないでしょう!」

 

「アレが何なのかはともかく、今そこに居る……織斑春也の仲間であることは間違いない。我々はあのようなものなど、一切知らないからな」

 

「何だっていいよ。アイツ等は僕達が楽しみにしていた学園祭を台無しにしたんだ。この場でぶちのめして血祭りにあげてやる!!」

 

「やれるものならやってみなよ! どうせコレには、TF(トランスフォーマー)には勝てないさ!」

 

「どうかしら? やってみなければわからないわよ!」

 

その言葉と共に各自ISを展開し武器を構える。

 

「篠ノ之博士にもわからなかったあのロボット、一体何なのかしら? プロフェッサー、貴方なら何か……あら?」

 

専用IS『ゴールデン・ドーン』を纏い戦闘準備に入ったスコールが、尋ねながら振り向くとそこに居る筈の凌馬の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面はシグルドとイドゥンが戦っている一組へと移る。トラックスを呼び出す通信を行ったイドゥンに警戒心を高めるが、何も来ないので拍子抜けする。

 

「なんだ……何も来ないじゃねぇか。ハッタリで変なこと言うんじゃ―――」

 

ドガァァァァァンッ!!

 

「―――うおわぁっ!?」

 

油断したその時、窓がある側の壁が破壊され、シグルドはシボレー・トラックスが変形したロボットの巨大な腕に掴まれた。

 

「ぐあっ! な、何なんだコイツ!? 放しやがれ!」

 

「望み通り放してあげるわ。……地面に叩き付けてやりなさい」

 

命令を受け、トラックスはシグルドを外の地面に勢いよく投げつける。

 

「がはっ……! テメェ、どこのどいつか知らないが、容赦しねぇからな!!」

 

ソニックアローを左手から右手に持ち替え、弓を引いて光矢を放つ。それは外れることなく直撃したが、トラックスの装甲は無傷だった。

 

「なっ!? だったらこれでどうだ!」

 

再び弓を引くと今度は空中に向けて矢を放つ。するとチェリー型のエネルギーが形成されそこから無数の光矢に分かれてトラックスに向かう。しかしそれもまた、直撃して怯むような動きをしたもののダメージは与えられなかった。

 

「マジかよ、どんだけ固ぇんだコイツ……」

 

ISを容易く破壊することができるアーマードライダーの攻撃を弾く装甲に、シグルドは呆然と呟く。

 

「ふふ、形勢逆転ね。さあトラックス01、やってしまいなさい」

 

イドゥンの命令に呼応するかのようにトラックスはゴーグル状の単眼を光らせ、右前腕部を一度粒子化し両側に刃のついたクローが付属した銃に変形させる。そしてシグルドをロックオンすると、銃口から追尾式ロケット弾を発射した。

 

「うおああああああああっ!!」

 

どうにか直撃は避けたものの、爆風で吹き飛ばされ倒れてしまう。一連の様子を一組の教室から見ていたイドゥンはトラックスの傍に飛び降りると、シグルドを見て言った。

 

「どう? これが私達の切り札よ。さっきのは小手調べだったけど、次は本気で命を刈り取らせて貰うわ」

 

「それは困るね。彼女は我々の大切な仲間なんだ」

 

だが両者の間に割って入る形で現れた男が1人いた。戦極凌馬だ。

 

「プロフェッサー……!」

 

「虫の知らせで戻って見ればやはりこうなっていたか。君ほどの者が苦戦するとは、あのロボットは中々の強敵と見た。だがそこの君。いくら何でも二対一は卑怯ではないかな?」

 

「あら。じゃあ貴方が助っ人としてこの子と戦うとでも?」

 

「Exactly!」

 

凌馬は懐から出したゲネシスドライバーを腰に当て銀色のフォールディングバンドを伸ばして装着すると、レモンエナジーロックシードを持った右手を左手とクロスさせながら前に突き出した。

 

「変身!」

 

『レモンエナジー!』

 

解錠しクロスさせた両手を上下逆にするように回転させると左腕は前に出したまま右腕を下げ、次に左腕を下げると同時に右腕を前に突き出し、そして最後に右腕を下げてゲネシスドライバーにレモンエナジーロックシードを装填。左手でロックを掛けシーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開いた。

 

『ロック・オン!』

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

音声と共に空中に出現したバロンのソレと同じレモンエナジーアームズが、展開しながら凌馬に被さり全身をロイヤルブルーと黒に所々を銀で装飾したゲネティックライドウェアで包み、アームズが完全に展開してデュークに変身完了した。

 

「!? 男の貴方までこれを使えるなんて……やっぱりこれはISじゃないのね……」

 

「ふむ。どうやらコレに関しての詳細をそこまで知らずに使っていたようだね。ま、君がどう思っていようと私には関係の無いことだが」

 

デュークはトラックスを見上げながらソニックアローを構え戦闘体勢に入った。



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第32話 大乱闘

『非常事態発生! 非常事態発生! IS学園に居る全ての方はシェルターに避難して下さい!! 繰り返します、IS学園に居る全ての方はシェルターに避難して下さい!!』

 

ようやく発令された避難警報が学園中に響き渡り人々がシェルターへ移動する中、鎧武達は戦う場所を変え、周囲に被害の出にくい開けた屋外で戦闘を継続させていた。

 

「さて……避難勧告が出た以上、戦闘を長引かせるのはまずいわね。一斉攻撃で一気に片付けた方が良いと私は思うけど……貴女はどうなの、楯無ちゃん」

 

「奇遇ね。私も貴女と同意見よ。簪ちゃん、マドカちゃん、遠慮しないで最初から全力でやって頂戴」

 

「言われなくてもそうするつもりだ」

 

「既にロックはできてる。後は発射するだけ」

 

右腕をトラックス01同様の武器に変形させたトラックス02が腕を振り回し攻撃する中、通信を行い攻撃手段を決める。

 

「それじゃ……行くわよ!!」

 

スコールの合図によりゴールデン・ドーンから超高熱火球・ソリッド・フレアが放たれ、直撃すると同時にミステリアス・レイディが既に散布していたナノマシンを含む霧が爆発を起こす。そこへ打鉄弐式のミサイルランチャーとサイレント・ゼフィルスのビットレーザーが襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、トラックス03を取り囲む鈴達も攻撃を仕掛けようと作戦を立てていた。

 

「さっきスコールさんの通信拾って聞いたけど、初っ端から最大火力出して落とさなきゃ周りが危ないわ」

 

「ならまず、私がAICで奴を抑えよう。その間に3人で攻め込んでくれ」

 

「ありったけの火力をぶち込むなら、得意中の得意だよ」

 

「最大火力で、か……あの武装は調整が難しいのだが、何とかやってみるか」

 

「決まったか? では行くぞ!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンのAICを発動し、右腕を振り上げた状態のトラックス03を停止させる。

 

「オラオラァァァ! 今日は出血大サービスよ!!」

 

「食らえぇぇぇえええええええええ!!」

 

すかさず甲龍の衝撃砲が背面から、シャルロットが駆るラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは正面から六一口径アサルトカノン・ガルムの二丁撃ち→レイン・オブ・サタデイ→ヴェントと次々と連撃を加える。

次に箒がスライディングしながらトラックス03に接近し、展開装甲を変形させて作ったクロスボウ型ブラスターライフルを斜め前方に向け発射。最後にラウラがレールカノンを放ち攻撃は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい弾幕と爆風に付近で戦闘していた鎧武達も思わずトラックスの方を見た。

 

「凄い弾幕……あのロボットはどうなったんだろ?」

 

「破壊されているといいのですが……」

 

「バカめ。アレがIS如きの攻撃で易々と破壊される訳がない」

 

嘲笑する斬月・真の通り、煙が晴れた先には無傷のまま佇むトラックス02と03の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スコール達がトラックスに攻撃を叩き込んでいる時、イドゥンはデュークに変身した凌馬に驚きつつも、先ほどと同様に打ち負かされるのがオチだろうと考えてデュークを無視し、シグルドへと歩を進めた。

 

「へへっ……マジで一対一で戦う気かよ……相当舐められているみたいだぜ、プロフェッサー」

 

「無理もないさ。端から見ればデュークは普通のアーマードライダーと何の変わりもないからね」

 

「ふん……」

 

デュークの発言を鼻で笑うと、イドゥンはシグルドに再度刃を向け戦いを始めた。

 

「とはいえ、どう攻略すべきか……」

 

顎に手を当てて考え込むデュークに、トラックスのクローが振り下ろされる。

 

「おっと」

 

バックステップで回避すると、じろりと見つめてくる単眼と目を合わせた。

 

「まずはこれでいくか」

 

小手調べにと、デュークはゲネシスドライバーのシーボルコンプレッサーを右手で持つと、ぐいっと一回押し込んだ。

 

『レモンエナジースカッシュ!!』

 

音声と共に額のゲネティックシグナルと複眼が光り、それと同じくしてトラックスの挙動がまるで複数の敵を相手にしたかのようなものになった。

 

「効きめは十分みたいだね。大分困ってるみたいだ……ふふふ、開発者自ら特別にチューンしたゲネシスドライバーの性能、如何かな?」

 

デュークのゲネシスドライバーには、試験的に様々な機能が搭載されている。その1つが、今使ったハッキング機能だ。これはIS等の機械のセンサーをハックし、無数の仮面ライダーデュークを映し出してあたかも大群に襲われているかのように錯覚させることができるものだ。

 

「そんじゃあ今の内に、コイツのウィークポイントを……」

 

再びゲネティックシグナルと複眼を光らせ、トラックスを隅々まで解析し弱点を探る。

 

「はいはいはいはい……なるほど」

 

ソニックアローを構えて弓を引くと、デュークは右足の関節部を目掛けて穿つ。ピンポイントで節目に突き刺さった光矢は爆発すると同時に関節パーツを破壊し、トラックスに膝をつかせた。

 

「どんなに装甲が堅固でも、負担がかかり易い関節が弱いのは巨大ロボットのお約束だよね」

 

『ロック・オフ!』

 

言いながらレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーから外すと、ソニックアローにセットする。

 

『ロック・オン!』

 

弓を最大まで引くと、持ち手の部分を反時計方向に90度回す。すると弦の部分が延長・湾曲しエネルギーが更にチャージされる。

 

「これでトドメだよ、変形ロボット君」

 

『レモンエナジー!!』

 

手を離し、他の次世代型アーマードライダーのソレより強力なソニックボレーをトラックスの頭部目掛けて二連続で発射。一発目でカメラアイを砕くと二発目が露出した内部に当たり炸裂、頭部を粉々に吹き飛ばした。トラックスは機能不全となり俯せに倒れた。

 

「……必殺技クラスの攻撃はさすがに防げないか。何にせよ、関節部やカメラ部分ならアーマードライダーの武装で十分破壊可能だということが証明された訳だ」

 

「そんなバカな……! アレを1人で破壊するなんて―――ぐっ!?」

 

「どうしたぁ? 動揺してるのが伝わってくるぜおい!」

 

トラックスが一体のみとは言えデューク1人に撃破されたことにイドゥンは取り乱し、ここぞとばかりにシグルドはソニックアローによる格闘戦で畳み掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラックス01をデュークが撃破したのと同時刻。ビークルモードで起動したシボレー・トラックスに跳ね飛ばされた人達を救助していた弾達は、ISの一斉攻撃に対し無傷で済ませたトラックス02と03に軽く戦慄していた。

 

「嘘……ISの武器が効いてない!? どうして!? ISは他の兵器に対して無敵の筈なのに!」

 

「(あのロボット、アーマードライダー並の力を持ってるのか? いやそれよりも)落ち着け蘭! 今は怪我人を運ぶのが先だ!」

 

「そうっスよ! 気持ちはわかるけど、冷静にならないと危険っス!」

 

弾に続いて言ったのは、IS学園の生徒で二年生で唯一の専用機保有者であるフォルテ・サファイアだ。戦闘で発生した音と避難誘導で駆けつけ専用ISを纏って救助を手伝っているのだ。

 

「けどISの武器が効かないとなると、私らにはどうしようもないっスね……」

 

「ああ、残念だがな。兎に角今はこっちを優先しよう」

 

落胆するフォルテに、刀奈を含め2人しかいない三年生での専用機保有者の1人でフォルテの恋人でもあるダリル・ケイシーという少女が声を掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で鈴達はISでは歯が立たないと知ると解除して、戦極ドライバーやゲネシスドライバーを腰に巻く。

 

「今度はソレで戦うのかい? 無駄なことだとは思うけど」

 

「さっきも言った筈よ。やってみなければわからないって! 変身!」

 

「「「「「「変身!」」」」」」

 

『ブドウ!』

 

『マツボックリエナジー!』

 

『ドングリ!』

 

『ピーチエナジー!』

 

『ドリアン!』

 

『シルバー!』

 

『クルミ!』

 

斬月・真の挑発に逆に笑みを浮かべ、鈴、刀奈、簪、マドカ、ラウラ、箒、シャルロットは各々のロックシードを解錠するとドライバーに装填して施錠し、様々なミュージックによる多重奏を響き渡らせる。そしてカッティングブレードを倒して輪切りにしたり、シーボルコンプレッサーを押してカバーを開いたりした。

 

『『『『『『『ロック・オン!』』』』』』』

 

『ハイーッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!!』

 

『リキッド! マツボックリエナジーアームズ! ソイヤッ! ヨイショッ! ワッショイ!!』

 

『カモン! ドングリアームズ! Never Give up!!』

 

『ソーダ! ピーチエナジーアームズ!!』

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『ソイヤッ! シルバーアームズ! 白銀・ニューステージ!!』

 

『クルミアームズ! ミスターナックルマン!!』

 

出現したアームズが彼女らの頭に被さって展開、その姿を龍玄、黒影・真、グリドン、マリカ、ブラーボ、冠、ナックルに変えた。

 

「……私もそろそろ、本領発揮といきましょうか」

 

その光景を見ていたスコールも、認証済みの戦極ドライバーを取り出すと腰に当ててセシリアが持っているのと同じバナナロックシードを出して解錠した。

 

『バナナ!』

 

「変身」

 

戦極ドライバーにバナナロックシードを装着、施錠をしてカッティングブレードを倒し輪切りにする。

 

『ロック・オン!』

 

『カモン! バナナアームズ! Knight of Spear!!』

 

バナナアームズが出現後、スコールの頭を覆い隠すと身体を黒と銀のライドウェアに包んで展開。セシリアのバロンのプロトタイプである、仮面ライダーブラックバロン バナナアームズに変身した。

 

「アンタも変身したのか。滅多なことじゃ使わないと言ってたのに」

 

「今がその滅多な時だからよ」

 

「ハッ。言えてる!」

 

マリカと軽口を叩きながらブラックバロンはトラックスを一度見上げ、後ろで端末を操作してトラックスをスキャンしている束に聞いた。

 

「篠ノ之博士。アーマードライダーの武装であのロボットは倒せるかしら?」

 

「正攻法じゃ怯ませることはできても倒すのは無理だね。ただ関節と頭部のカメラアイが比較的装甲が薄いから、そこを狙えば勝ち目はあるよ」

 

「……だそうよ皆」

 

「ようし、そうとわかればやってやるわよ!」

 

龍玄が威勢よく叫んだその時。救助活動を行っている弾達のもとへラファール・リヴァイヴを纏った真耶とその他教師が数人訪れた。

 

「遅くなってすみません!」

 

「お、IS学園の先生だ! いいところに来てくれたぜ!」

 

「山田先生、それに他の先生方も、怪我人を運ぶのを手伝って下さい!」

 

「僕達だけじゃ手が足りないんです!」

 

「わかりました、直ちに―――」

 

「ちょっと待って! あのロボットはどうするの!? 生徒だけに任せておくのは危険すぎるわ!」

 

1人の教師がトラックスと戦う龍玄らのもとへ行こうとする。それを見たダリルは慌てて教師の前に立ちはだかって止めた。

 

「行ったらダメだ! あのロボットにはISの攻撃は通じない!」

 

「!? どういうこと? ISはあらゆる兵器の頂点に立つ存在なのよ。それが―――」

 

「本当なんです。私もこの目で見ました。第3世代型ISの一斉攻撃を、あのロボット達は無傷で防いだんです」

 

真白の説明に真耶達は愕然とした表情になる。ISで破壊できない兵器。そんなものにどうやって対処すればいいと言うのか。

 

「それなら、何故彼女達は戦っているの? ISの攻撃が通じないなら止めた方が」

 

「お嬢様達のIS……いえ、アーマードライダーなら勝てる可能性はあります」

 

虚は信用して貰う為に彼女達の秘密の1つを明かす。アーマードライダーという言葉を初めて聞いた教師達は困惑して顔を見合わせる。すると考え込んでいた真耶が何か決心した表情で他の教師に告げた。

 

「……わかりました。私達も救助活動を手伝います!」

 

「真耶!? 何言ってるのよ、正気!?」

 

「確かにおかしいと思うかもしれません。ですがあの子達なら、きっと何とかできるんじゃないかって、そう信じられるんです」

 

「真耶……わかったわ。みんな、私達も手伝うわよ!」

 

真耶の言葉に心を動かされた教師達がISの機能を駆使し、怪我人の救助活動を手伝い始める。その一方で、トラックス02&03とアーマードライダーとの戦いはついに幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

まずトラックス02には黒影・真が影松・真を持って突撃を仕掛ける。事前の会話からどこを狙われているか理解しているトラックス02は、即座にロケット弾を発射。

 

「そんな攻撃、生徒会長の私には通用しないわ!」

 

ロケット弾を回避、或いは影松・真で切り捨てながら接近する黒影・真。だが、トラックス02も負けじと右腕のクローを振り下ろした。

 

「くっ!」

 

どうにか影松・真で受け止めるが、防ぐのだけで精一杯でしかもトラックスがじりじりと押していた。

 

「今よ簪ちゃん!」

 

「はあっ!」

 

黒影・真の背後からグリドンがジャンプし、トラックス02の右腕に取り付く。トラックス02は右腕を振り回してグリドンを離そうとするが、彼女は必死でしがみつき肩まで登る。

 

「よし、後は……」

 

『カモン! ドングリスカッシュ!!』

 

「やあああっ!!」

 

カッティングブレードを一回倒すとエネルギーをチャージしたドンカチを右肩の関節部に勢いよく振り下ろした。

関節が火花を上げて壊れ、右腕が力なくだらんと垂れ下がる。トラックス02はグリドンを動く左腕で殴ろうとした―――だが。

 

「行くわよマドカ!」

 

『カモン! バナナスカッシュ!!』

 

「ああ、任せろ!」

 

『ピーチエナジースカッシュ!!』

 

バナスピアーとソニックアローにエネルギーを溜めたブラックバロンとマリカが、トラックス02の足下を走り抜けながらそれぞれ右足と左足の関節を切り裂いた。バランスを崩し膝をつくトラックス02。そこへ―――

 

「そろそろトドメといこうかしら!」

 

黒影・真がトラックス02のカメラアイ目掛けて影松・真を突き立てた。視界すらも封じられたトラックス02は唯一動く左腕を滅茶苦茶に振り回す。

 

『マツボックリエナジースカッシュ!!』

 

続けてシーボルコンプレッサーを二回押し込むと、黒影・真はジャンプして右足でキックを放った。

 

「やぁぁぁあああああああああああっ!!」

 

必殺のキックは影松・真を頭部の奥深くに更に押し込み、トラックス02を完全に機能停止に追い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃トラックス03側では、手始めに龍玄がブドウ龍砲のレバーを引いて銃口からエネルギー弾を連射していた。ダメージは無いものの、のけぞり鬱陶しそうにするトラックス02だったが。

 

「そこだ、食らうがいい!」

 

『ソイヤッ! シルバースカッシュ!!』

 

カッティングブレードを一回倒した冠が、蒼銀杖を振るって左足の膝関節を攻撃。片足をダメにされたトラックス03はバランスを崩しかけるがどうにか持ち直し、右足を軸に冠へ向きを変えると右腕のクローを勢いよく突き出した。

 

「っ!」

 

「ここは私が!」

 

ドリノコを頭上でクロスさせるように構えながら、ブラーボが冠を押し退け代わりに攻撃を受け止める。

 

「くっ、予想以上に重いな……ならばこれで!」

 

『ドリアンスカッシュ!!』

 

片手になったせいで押し切られないよう一瞬でカッティングブレードを倒すと、頭部のトサカから発生させたエネルギーブレードで右腕を真上に跳ね上げた。

 

『クルミスパーキング!!』

 

「そこだ! はあっ! たあっ!」

 

その隙に、ナックルはカッティングブレードを弾くように三回倒しパンチアクションと共にクルミ状のエネルギー弾を左足の関節目掛けて打ち出す。エネルギー弾の直撃により完全に左足の膝から下が吹き飛び、ついにトラックス03はしゃがみ込んだ。

 

「やるじゃない、シャル!」

 

「これぐらいどうってことないよ。それよりそろそろ片付けよう!」

 

「ええ!」

 

『ハイーッ! ブドウスカッシュ!!』

 

『クルミスカッシュ!!』

 

龍玄とナックルが共に戦極ドライバーのカッティングブレードを一回倒す。直後にロケット弾が飛んでくるがこれをジャンプで躱し、龍玄脚とナックルキックによるダブルライダーキックを放った。

 

「「はぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!」」

 

トラックス03はロケット弾で迎撃するが、2人のキックはそれを掻き消しながら突き進む。それでもただではやられまいと左腕でパンチを放つが、空中で身体を捻って避けられ頭部にキックを受ける。そして。

 

バキィィィィンッ!!

 

僅かな拮抗の後、金属が砕ける音と共にトラックス03の頭が粉々になり龍玄とナックルが着地すると同時にズドンと倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景に、真っ先に焦ったのはタイラントであった。

 

「!? そんな……私達の切り札が倒されるなんて!」

 

「隙を見せましたわね……!」

 

驚愕した隙をバロンは狙い、シーボルコンプレッサーを一回押し込みソニックアローの刀身にエネルギーを溜める。

 

『レモンエナジースカッシュ!!』

 

「はぁぁああああっ!!」

 

「うぅっ!」

 

怒濤の連続斬りを受けたタイラントは呻き声を上げて後ずさりする。そこへ追い打ちをかけるべく、バロンは更にシーボルコンプレッサーを二回押し込んだ。

 

『レモンエナジースパーキング!!』

 

「はあっ!」

 

「そうはさせません!」

 

『ドラゴンフルーツエナジースカッシュ!!』

 

空中に飛び上がるバロンに対抗し、シーボルコンプレッサーを一回押し込むタイラント。

 

「はぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

バロンのキック技、ギャバリエンドが放たれタイラントのソニックアローと衝突する。バチバチと火花を散らしながら両者は拮抗する。

 

「くっ! やぁぁぁあああああああああ!!」

 

だがバロンは気合と共に力を込め、ソニックアローを弾いてタイラントのボディに直撃させた。

 

「きゃあああああああああああああっ!?」

 

吹き飛ばされ仰向けに倒れたタイラントはドラゴンフルーツエナジーロックシードが外れて変身が解け、優陽の姿に戻ってしまった。

 

「何っ!?」

 

立て続けに起こる不利な出来事に驚く斬月・真だが、これだけでは終わらなかった。

 

「そらそら! どうしたぁ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

シグルドとイドゥンが戦闘しながら現れ、その後ろをデュークがついて来ていた。シグルドはソニックアローでアップルリフレクターを弾き飛ばすとすぐに蹴りを放ち、続けてチェリーエナジーロックシードをソニックアローにセットした。

 

『ロック・オン!』

 

「こいつで終いだぜ、会長さんよ……!」

 

『チェリーエナジー!!』

 

引き絞った弓を放し、強化した光矢をイドゥンに発射する。

 

「あああああっ!?」

 

炸裂した勢いで優陽の近くに吹き飛び、リンゴロックシードが外れてこちらも美咲の姿に戻った。

 

「クソッ! こうなったら速攻で撃破する!」

 

『メロンエナジースカッシュ!!』

 

シーボルコンプレッサーを一回押し込むとエネルギーをチャージさせたソニックアローを鎧武に振り下ろした。

 

ガギンッ!

 

「そんなものでやられたりは!」

 

「バカな……!」

 

だが鎧武はカチドキアームズの装甲で受け止めて無力化、武器を無双セイバーから火縄大橙DJ銃に持ち替え側面の円盤を回すと銃口を斬月・真の腹部に押し当て―――

 

「耐えられるものなら耐えてみなさい!」

 

―――トリガーを引き、ゼロ距離で火球を放った。

 

「ぐぁぁぁああああああああああああっ!!」

 

変身こそ解除されなかったものの、ダメージを受け吹き飛ばされた斬月・真は起き上がるだけでも一苦労といった様子であった。

 

「……まだやる気?」

 

火縄大橙DJ銃を構え続ける鎧武の周りに、全アーマードライダーが集結する。多勢に無勢の状況でまともに戦うのは無理と判断した斬月・真は救助活動を行っている真耶達をチラッと見るとため息をついた。

 

「……参ったよ。降参だ」

 

メロンエナジーロックシードのカバーを閉じて変身を解くと、春也は両手を上げる。尚も警戒を続ける鎧武達だが、春也は左腕に取り付けてある端末に小声で囁いた。

 

「……ガルバトロン、スティンガー、起動。付近の女性を適当に連れ去るんだ」

 

命令と共にフレイトライナー・アーゴシーとパガーニ・ウアイラが起動。粒子状に分解するとそれぞれ銀色と赤色のロボット、ガルバトロンとスティンガーに変形した。

 

「!? 何よコイツ等!?」

 

「しまった! 早く逃げるんだ!!」

 

起動に気づいたマリカが呼びかけるが、一部の教師がそれを無視し攻撃を仕掛ける。当然ながら双方共無傷で、しかもガルバトロンが振るった拳が教師の1人に直撃しシールドエネルギーが一気にゼロにされて吹き飛び気絶してしまった。

 

「今更ながらなんつー威力だよコイツ等!」

 

「こうなったら秘密とか言ってる場合じゃない! 早いとこ変身―――うわあっ!?」

 

急ぎ戦極ドライバーを取り出そうとする数馬だったが、彼に向かい走り出したスティンガーに慌てて避ける。その隙にスティンガーは虚とフォルテを、ガルバトロンは真耶と他の教師1人をISごと鷲掴みにしてしまった。

 

「ああ、布仏さん達が捕まっちまった!」

 

「織斑春也、貴様ぁ!!」

 

「おっと動くなよ! 動いたら4人がどうなるか知らないからな」

 

人質を得たことで不利な状況を逆転させた春也。果たして鎧武達に、打つ手はあるのか……



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第33話 黄金の力、極アームズ再臨!

一瞬の隙を突かれ、虚達を人質に取られてしまった鎧武達。危機感を募らせる彼女達を余所に、ガルバトロンとスティンガーは人質を手に春也の元へと歩き近づいた。

 

「よくやったガルバトロン、スティンガー。さあ2人とも、一度退却しますよ」

 

「待って春也!」

 

「……何だい一夏姉さん?」

 

立ち去ろうとする春也を鎧武が止める。心底鬱陶しそうに聞くと鎧武は一歩前に出て春也に問うた。

 

「貴方は一体何がしたいの!? 女性権利団体なんかと手を組んで、千冬お姉ちゃんをあんな目に遭わせて、挙げ句の果てに学園祭を滅茶苦茶にして!!」

 

「それだけではありませんわ! 貴方は昔、周りを扇動して一夏さんを虐めていましたわよね!? 何故そのようなことをしたのですか!」

 

続けてバロンが問いかけ、そんなに一気に言うなよと内心思いながらも春也は少し間を置いて答えた。

 

「まず一夏姉さんの件から言うよ。……僕以外に世界を支配できる人間を排除したかったからさ」

 

「? それはどういう意味?」

 

「僕達の姉である千冬姉さんは、世界最強という肩書きを得てその弟妹という肩書きを僕達にくれた。これを権力としてうまく使えば、千冬姉さんの後継者として世界をひれ伏させることができるんだよ。実際、学校では誰も僕に逆らおうとはしなかった。一夏姉さんは落ちこぼれだったけど、一応はその権利を持ってるから居なくなってくれた方が良いと思ったんだ」

 

「それだけ……? たったそれだけの理由で、アンタは一夏を傷つけたって言うの!?」

 

「いいや。僕達織斑家の汚点だったから、も理由としてはあるよ」

 

激怒する龍玄に涼しい顔をして言う。それが龍玄の怒りに更に火をつけたが、殴りかかる衝動を必死で堪えた。

 

「一夏姉さんが誘拐されて、以降行方不明になったと聞いた時は喜んだよ。ようやく消えてくれたかってね」

 

「だが生憎、一夏ちゃんは私達が助けたことで生き延びていた。それが君にとって誤算だった訳だ」

 

変身を解除した凌馬が言うと、春也は彼を憎々しげに見つめ、怒りにも似た感情を込めながら問いかけた。

 

「……お前はそうやっていつも僕の邪魔をしてくれたな。一々一々……せめてここでは好き放題させろよ!!」

 

「お前の欲望塗れな願望なんか、邪魔するに決まっているだろ。それがダチとして、俺がお前にできるせめてものことなんだからよ」

 

「! 戦極…凌馬ァァァァッ!!」

 

睨み合う凌馬と春也。その光景、特に一人称が変化しダチという単語を使った凌馬に皆の視線が集中していた。

 

「プロフェッサー。今の話は……?」

 

「気にしないでくれ。少々プライベートなことなものだからね。それより一夏ちゃんの問いに答えて貰おうか」

 

「……わかっている、最初の3つのやつでしょ。まず女性権利団体と手を組んだことだけど、それは僕を高みへと至らせる為に必要な駒を用意したり、僕にとってまずいことをもみ消してくれる存在がいた方が得だからだ」

 

「駒って、度々現れた無人機のことを言ってるの?」

 

「そうだ。次は……千冬姉さんのことだったか。何、簡単な理由だよ。あの人が会見を開いて白騎士事件の真相を世に明かそうとしたからさ」

 

「白騎士事件の真相? 一体何なんだ?」

 

「後で束さんにでも聞くといいさ。兎に角、そんなことをされては千冬姉さんの権威や僕の評判も地に落ちてしまうから、始末したんだ。全くバカな人だよ。会見なんて開こうとしなければ、手を下さなくて済んだのに。それにあの人、僕にトドメを指す絶好のチャンスで躊躇いを見せたんだよ。それさえなければ、今僕がここに居ることは無かったのかもしれないのにさ」

 

壊れた戦極ドライバーとメロンロックシードを取り出しながら笑うと、それらを鎧武の足下へと放り投げた。鎧武は戦極ドライバーとメロンロックシードを見下ろすと、怒りに肩を震わせながら再び顔を上げた。

 

「後は……ああここを襲った理由か。僕がコピーしたドライバーとロックシードと、このトランスフォーマーという新型兵器の性能テスト。それとIS学園への決別の意志を示す為だよ。……しかし、トランスフォーマーがこんなに早く倒されるとは思わなかったよ。アーマードライダーにも引けを取らない性能だと自負してたんだけどね」

 

「性能テストに決別……たったそれだけの為に……! 春也、アンタだけは絶対に許さない!!」

 

あまりにも勝手な理由をいけしゃあしゃあと述べる春也に、ついに鎧武の怒りが頂点に達した。その時、鎧武の右手から金色の光が突如として溢れ出た。

 

「うわっ!? な、何だこれは! 眩しい!」

 

「この光は……!」

 

やがて光は収まり、鎧武の手の中には初めて変身した際に用いた、あの極ロックシードが握られていた。

 

「! 一夏さん、それは!」

 

「これはあの時の………………よし!」

 

『フルーツバスケット!』

 

極ロックシードの側面にあるスイッチを押すと下から鍵がせり出し、オレンジアームズ、バナナアームズ、ブドウアームズ、ドングリアームズ、マツボックリアームズ、ドリアンアームズ、クルミアームズ、メロンエナジーアームズ、レモンエナジーアームズ、チェリーエナジーアームズ、ピーチエナジーアームズが一度に出現し鎧武の頭上をくるくると回る。

そして戦極ドライバーに接続用ソケットができ、鎧武はすぐさまそこに差し込むと極ロックシードを回した。

 

『ロック・オープン! 極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!!』

 

カチドキロックシードと極ロックシードのカバーが展開し力強い音声と共に、全てのアームズが鎧武に集まり吸収され、カチドキアームズの鎧が弾け飛ぶ。中から現れたのは胸部にオレンジ・イチゴ・スイカ・バナナ・ブドウ・メロンの絵が描かれた白銀の南蛮胴で全身を包み、大きなマントを羽織った鎧武者。最初に鎧武が変身した極アームズだ。

 

「カチドキアームズの中から、新たなアームズが!?」

 

「だ、大将軍……?」

 

「やはりこの姿でしたのね。これを見ているとあの日のことを思い出しますわ」

 

「ようやくお出ましか。長かったねぇ」

 

「!? 極アームズだと……くっ、トラックス04! 起動して一夏姉さんを殺せ!!」

 

腕に装着した端末に指示を送ると展示されていた場所に唯一残っていたシボレー・トラックスが走り出し、人にぶつかる直前で粒子化し鎧武と春也の間にロボットに変形して割って入った。

そしてクローを展開しながら鎧武に近づくが、鎧武は落ち着いて極ロックシードを回す。

 

『ドリノコ!』

 

音声と共にブラーボの武器であるドリノコが召喚され、回転しながら自動でトラックスをガリガリと攻撃。怯ませると鎧武の手に収まった。

 

「! あれは私の武器……!」

 

驚きを隠せないブラーボの前で鎧武はトラックスの胸元へジャンプすると、ドリノコを何度も振るい火花を散らして後退らせた。

 

「集団戦じゃないのに押されているだと!? こうなったら!」

 

『メロンエナジー!』

 

『ロック・オン!』

 

他のアーマードライダー達が、短時間とは言えトラックスを数人がかりで仕留めたことを考えると状況的にまずいと春也は判断し、即座にメロンエナジーロックシードをゲネシスドライバーにセットした。

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

再び斬月・真に変身するとソニックアローを持ってトラックスの横に並び立つ。

 

「2人がかりで来ようって訳? なら!」

 

『無双セイバー!』

 

今度は無双セイバーを召喚し逆に斬月・真らに向かっていく。そしてまず斬月・真の攻撃を防ぐと腹部を斬りつけ、すかさずトラックスの左腕によるパンチを防いで押し退けると取り出したイチゴロックシードをソケットに装填した。

 

『ロック・オン! イチ・ジュウ・ヒャク! イチゴチャージ!!』

 

「はぁぁぁあああああああ!!」

 

無双セイバーを上に向けて振り抜き斬撃を飛ばす。斬撃は空中でイチゴクナイ型の大量のエネルギー刃に変化しトラックスに降り注ぎダメージを与えた。

 

「まだまだ!」

 

『影松!』

 

左手に影松、右手に影松・真を召喚させるとまだ怯んでいるトラックスの顔面に影松を投げる。先端部がカメラアイに突き刺さり混乱したところで、鎧武は影松・真を斬月・真に振るう。初撃はソニックアローで防御されるも反対側の刃を使った二撃目で膝を狙い、膝を付かせると蹴りを放って斬月・真を転ばせた。

 

『大橙丸!』

 

次に大橙丸を呼び出すと、無双セイバーと柄同士を連結させてナギナタモードにする。斬月・真からトラックスに方向を変えると既に起き上がっていたトラックスは、右腕からデタラメにロケット弾を発射していた。

 

『メロンディフェンダー!』

 

だが鎧武は走りながら極ロックシードを回し、メロンディフェンダーで一部向かってくるそれを弾いて一気に懐に飛び込むと勢いよく斬りつけ、大橙丸の刀身から出たオレンジ色の斬撃で右腕を切り落とすと、そのまま無双セイバーの刀身で左腕を切り落とした。

 

『火縄大橙DJ銃!』

 

息つく間もなく火縄大橙DJ銃を召喚。側面のソケットにパインロックシードをセットする。

 

『ロック・オン!!』

 

DJ銃から『フルーツバスケット!!』という音声が和風ミュージックに混じってリピートされ、銃口に果実の幻像が浮かびエネルギーが溜まっていく。

 

「はぁぁああああ……はあっ!!」

 

『パインチャージ!!』

 

トリガーを引き強力なエネルギー弾を発射しトラックスを飲み込む。無数の果実がトラックスを覆うような光景の中で、装甲が耐えきれなくなり爆発が始まる。やがて限界を迎えたトラックスは放たれたエネルギー弾と共に跡形もなく消え去ってしまった。

 

「こ、こんなことが……! ガルバトロン、スティンガー! 変形しろ! 人質を連れて退却だ!!」

 

「おっと、その前にそれだけは返して貰うよ! キルプロセス!!」

 

逃げようと踵を返したところに凌馬が懐から出したリモコンを向けてスイッチを押す。途端に斬月・真のゲネシスドライバーからバチバチと小さな爆発が起きる。

 

『メロンエ、メロンエナ、メ、メ、メロンエナジー……』

 

ゲネシスドライバーが斬月・真から外れてエラーのように音声が繰り返され、変身を維持できなくなり春也へと戻る。

 

「クソッ! 覚えていろ!!」

 

捨て台詞を吐いて春也はビークルモードに変形したガルバトロンに乗り込み、スティンガーと共に発進させた。

 

「ちょっと、急ぐあまり忘れてるものがあるわよ!」

 

「お、置いてかないで下さい~!」

 

美咲と優陽も慌てて飛び乗ると、ガルバトロンとスティンガーはサクラハリケーンやローズアタッカーのようにこの場から消えた。

 

「スコール、今の」

 

「どうやら連中、ロックビークルの技術まで盗んでいたらしいわね」

 

「全く以て抜け目が無いというか何というか……ところでりょーくん。さっきのキルプロセスって何?」

 

「ああ、万が一敵に盗まれた時の為に、組み込んでおいたヒューズを飛ばすシステムだ。危険度の高いゲネシスドライバーにしか施してないけどね」

 

言いながらメロンエナジーロックシードと壊れたゲネシスドライバーを拾い上げる。

戦いが終わり、皆が変身を解除する。だがその表情は決して晴れやかなものではなく、むしろ悲壮感の漂うものであった。

 

「……学園祭は滅茶苦茶にされた上に、虚さん達が攫われた。こんなの、勝利だなんて呼べないよ……」

 

一夏の呟きに、セシリア達も黙って俯くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、拠点に戻った春也達は。

 

「痛た……思った以上に反撃食らっちゃったわね」

 

「死ぬかと思いました……おまけに身体も怠いです」

 

「私も、変身を解いてから何だか調子が変なのよ。ダメージ受けすぎたのかしら」

 

「今の内にちゃんと休んでいた方がいいですよ(僕が施した仕込みはちゃんと効いているみたいだな)」

 

倦怠感を訴える優陽と美咲に内心ほくそ笑みながら声を掛けると、「さてと」と格納庫に移動し、ロボットモードに変形させたガルバトロンとスティンガーの前に居る虚達と対面した。

 

「やあ。気分はどうかな?」

 

「……最悪もいいところよ。突然こんなところに連れてきて、目的は何なの? 私達をどうするつもり?」

 

「目的はそうだな……世界の全てを僕のものにする、と言えばわかるかな」

 

「世界征服ってことっスか!?」

 

「その通りだよ。だけど成し遂げても後を継ぐ奴が居ないと、僕が死んだ後の支配は終わってしまう。だから君達には僕の子孫を産んで貰うよ」

 

「!? し、子孫って……そんな……」

 

「冗談でしょ……」

 

「ふざけないでよ! 私は男は嫌いなの! 子供なんか産まないわよ!!」

 

連れてこられた4人目の女教師が怒りを剥き出しにして叫ぶ。これに対し春也は目を細めながら肩をすくめた。

 

「やれやれ、よりによって同性愛者を連れて来ちゃったか。まあ付近の女性を適当にって言ったから仕方ないけど……でも考え直さない? 同性同士の恋愛なんて子孫を残せない、非効率的なものなんだよ」

 

「確かにそうかもしれないけど、アンタなんかの子を産むぐらいなら死ぬ方がマシよ!!」

 

「……わかったよ。そこまで言うなら、望み通りにしてあげる。ガルバトロン」

 

命令を送られたガルバトロンは教師をひょいと掴み上げると、胸部に存在する円形のシュレッダーを回転させた。

 

「な、何をするつもり!?」

 

「死ぬ方がマシなんだろ? だからそうさせてあげるのさ」

 

身体を反らせたガルバトロンは教師をシュレッダーの上へと持っていく。

 

「ま、待って! わ、私が悪かったわ! 貴方の言うとおりにするからお願い助けて!」

 

「もう遅い! それに他の3人への良い見せしめになるからね。さあやってしまえ!」

 

命じられるまま手を離し教師をシュレッダーへと落とす。ガリガリと肉と骨を裂く音と夥しい量の血飛沫が舞う。

 

「ぎゃあああああああああああああああああーっ!! だ、だずげぇ……」

 

「はははははは! 僕に逆らう者は皆こうなるんだ。君達も理解したかな!?」

 

凄惨な光景にフォルテは胃の中の物を吐き出し、真耶はショックで気絶し虚はどうにか持ち堪えると顔を青ざめながら必死で頷いた。

 

「それじゃ僕は美咲さん達を呼びに行くから。死体の処理を急いでやっておいて」

 

ガルバトロンとスティンガーをビークルモードに変形、待機させるとミンチよりも酷い状態になった死体処理を虚達に丸投げし去って行った。

 

 

 

 

 

 

その後、何とか掃除を済ませたガレージに春也は美咲と優陽を連れてきた。

 

「で、今後どうするつもりなの?」

 

「どうするも何もIS学園に喧嘩を売ったんだ。このままの流れで例の作戦を実施するんだ」

 

「今すぐですか?」

 

「ああ、今すぐだ。連中はIS学園での救助及び復興作業に忙しい筈だから、すぐには対処できないだろう」

 

「虚を突くってことね。いいわ、私好みの作戦よ」

 

「そりゃどうも。んじゃ、早速作戦開始といきますか」

 

ガルバトロン、スティンガー、その他大量に保管されてある量産型トランスフォーマーと、それらとはどこか雰囲気の違う10台のトランスフォーマーを起動させながら春也は邪悪な笑みを浮かべた。



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第34話 動き出す者達

学園祭が最悪の形で幕を閉じたIS学園では、怪我人の救助と応急処置、破壊された箇所の修理、パニックを起こしかけている生徒及び一般客への説明、それらの家族から切れ間無く来る苦情への対処等に追われていた。

 

「ふぅ……これでようやく一息つけるわ」

 

生徒会室の椅子に深く腰掛けた刀奈は額の汗を拭いながらため息をつく。疲れ切った彼女に簪がお茶の入った湯飲みを差し出す。

 

「お姉ちゃん、これ」

 

「ありがとう簪ちゃん。……ぷはーっ。生き返るわ」

 

一気に飲み干して安らぐと、少し離れた場所にある椅子に腰掛けている本音に視線を向ける。

 

「本音」

 

「………………」

 

「……本音」

 

「………………」

 

「ほ・ん・ね!!」

 

「!? ……なぁに、お嬢様~?」

 

「いつもの口調で誤魔化しても無駄よ。……虚ちゃんのこと、考えてたんでしょ?」

 

「…………うん。お姉ちゃんが心配で心配で……それに、自分が情けなかった」

 

「え?」

 

「かんちゃん達がお姉ちゃんのところへ行った時、私は他のみんなと一緒に避難してたの。かんちゃんと一緒に行動してたら、ひょっとしてお姉ちゃんは助けられたんじゃないかって、そう思うと……」

 

今にも泣き出しそうになる本音に、簪は近寄ると正面からそっと抱き締めた。

 

「情けなくなんかないよ。自分の身を守ることは、凄く大事なことだもの。それに、もし私達について行ったとしても、虚さんを助けられたかどうかはわからない。逆に捕まっていた可能性もあるんだよ?」

 

「でも……」

 

「大丈夫。虚さん達は私達が必ず助けてみせるから。だから安心して、ね?」

 

手を優しく握って本音に微笑む簪。その姿に刀奈も微笑んだ―――その時だった。

 

『あー、もしもし。聞こえるかな?』

 

刀奈達が持っている端末から凌馬の声が聞こえてきた。何事かと2人は更に聞いてみる。

 

『私は今本社に居るんだけど、皆も大至急こっちに来て欲しいんだ』

 

「大至急? プロフェッサーがそんなことを言うなんて珍しい……」

 

「余程のことがあったみたいね。早速行きましょう簪ちゃん」

 

「うん。……本音、行ってくるよ」

 

「気をつけてね~!」

 

廊下に出る刀奈と簪を見送る本音の表情は、いつもの屈託のない笑顔に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、亡国機業(ファントム・タスク)の会議室。一夏達ワンオフのアーマードライダーに変身する者の他にシュヴァルツェ・ハーゼ隊やその他レイドワイルドの面々も全員集合していた。

 

「お久しぶりです、隊長」

 

「久しぶりだなクラリッサ。お前達や、まだ面識の無いセカンドチームが集められるとは相当なことがあったようだが、何か知っているか?」

 

「……実は―――」

 

「はーい、皆さんご注目~。話を始めるよー」

 

集められた理由をクラリッサが語ろうとした直前に凌馬と束が前に立ったので、やむを得ず話を中断することになった。

 

「今回はセカンドチームを含めた全アーマードライダーを集めた訳だけど、どうしてか不思議に思っているだろう。今から理由を説明するが、まずはこれを見て欲しい」

 

「ポチッとな」

 

束がリモコンを操作すると部屋の照明が落ちて前に掛けられているスクリーンに様々な国にある軍事基地の映像が分割して映し出される。

一見何とも無いように見えるが、数秒後、どの基地にも大量の車が押し寄せてきた。それらは基地内で粒子状に分解、IS学園で戦ったトラックスやガルバトロン、スティンガーのようなロボットに再構成されて暴れ始めた。

 

「これは……!」

 

「織斑春也と、彼と協力関係にある女性権利団体が作ったとされる、新型兵器……彼らはトランスフォーマーと呼んでいたからこれからはそう呼ぶけど、それらが織斑春也らをIS学園から撃退して約一時間後に、各国の軍事基地をほぼ同時に襲撃したんだ。被害は甚大で、配備されていた全ISがコアごと破壊されてしまったらしい」

 

「全ISが、コアごと!? クラリッサ、これは……!」

 

「……事実です隊長。我々のISも奴らには歯が立たず、叩きのめされました。幸い全員がやられる前に脱出しアーマードライダーへと変身しましたが、それでも4、5体倒すのが精一杯で、基地を守ることはできませんでした」

 

「そうだったのか。だがクラリッサ達が無事で何よりだ」

 

悔しそうに握り締める拳の上に手を重ねると、ラウラはクラリッサの顔を見て微笑む。当のクラリッサは部下である自分達の安否を気遣ってくれるラウラに、内心で感激していた。

 

「後これは一夏ちゃん達、専用機持ちに関わることだが、これを見てくれ」

 

分割されている映像の1つを拡大したものを映す。そこに流れたとあるトランスフォーマーの攻撃に、真白とセシリアは言葉を失った。

 

「あの白いロボットの攻撃……私の零落白夜と雪羅と同じです!」

 

「隣に居る青いのは、ブルー・ティアーズのビットを使っていますわ!」

 

そう、映像に映る二機の白いトランスフォーマーと青いトランスフォーマーは、白式・雪羅とブルー・ティアーズの武装を使っていたのだ。

 

「これだけじゃないよ」

 

リモコンを持つ束が映像を切り替えていく。別の基地では紅椿と甲龍とサイレント・ゼフィルスの、また別の基地ではラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡとシュヴァルツェア・レーゲンの、更に別の基地では打鉄弐式とミステリアス・レイディと……驚くべきことに、嘗て織斑千冬が使っていた暮桜と同じ武装を使うトランスフォーマーがそれぞれ一機ずつ暴れていたのである。それも各操縦者と同じ動きで。

 

「僕達のISの武器を……何で!?」

 

「事前にデータを盗んでいたんじゃないかって束さんは思ってるよ。時期としては……シャルルンが罪を着せられそうになった頃かな?」

 

「何ですって? だとするとアイツは私達がシャルと話し合っている隙に、データを持ち出したってこと!?」

 

「何て人なの……許せない!」

 

彼女達は彼が単にデータを持ち出したことだけではなく、シャルロットを罠に嵌めたことすら自分の行動を隠す為のものだったという事実に強い怒りを覚えた。

 

「軍事基地を破壊しきった後、トランスフォーマー達は車に変形してどこかに転移して行った。そして少し経った頃に、こんな映像が世界中で流れた」

 

映像が変わり、軍事基地襲撃を緊急報道するニュース特番が再生される。だが十秒も経たない内にノイズが走ると共に、織斑春也を映し出すものへと変化した。

 

『皆さん、織斑春也です。この度は皆さんに残念なお知らせがあります。インフィニット・ストラトスは、僕達の新兵器トランスフォーマーの前では敵ですらない。そして僕もまた、世の男性達の希望ではない。今日から僕は、この世界の王。皆さんには、僕達の支配に従って頂きます。勿論逆らったらどうなるかは、ニュースの映像を見ていればわかりますよね? 三日間の猶予を与えますのでよくお考え下さい。では、良い返事を期待しています』

 

そこで映像はノイズと共に困惑するニュースキャスターが映るものへと変わり、そこで束は映像を止めた。レイドワイルドの面々からも「これ俺もテレビで見たよ。すっげぇ驚いたぜ」等の声が上がる。

 

「ここからが本題だ。この事態を重く見た各国の政府は、彼らを制圧するよう私達に依頼をしてきた。私としてはすぐにでも受けたいのだが……」

 

今度は何か戦闘機らしきものから地上の建物を映す映像にスクリーンが切り替わる。

 

「これはトランスフォーマーの転移反応を追った先に存在した、廃棄済の研究施設に飛ばした無人偵察機が送ってきた映像だ」

 

施設の周囲をぐるぐると回る偵察機。そのカメラは、施設全体を輪を描いて守るようにビークルモードで待機している無数のトランスフォーマーを映していた。

 

「解析したところ、トランスフォーマーの数は大凡30体。しかし一部には三体に分裂して変形する奴も居るから、実際の数はもっと多い。60体程と言っていいだろう」

 

「60!? あのロボットが、そんなにも居るのか……」

 

「対して我々の戦力はここに居るのが全てだが、ワンオフのを装備しているのが12人。レイドワイルドが30人。シュヴァルツェ・ハーゼ隊が20人。合計62人だ。数ではほぼ互角だが、奴らを倒すには少なくとも一体につき4人がかりで挑まなければならない。しかも人質救出の為の人数を割かないとならないから、かなりの激戦になると思われる。死人が出てもおかしくはない。よって今回は志願制を取らせて貰う。作戦開始時刻は今から三時間後なので、その間に家族や友人と十分に相談して参加するか否かを決めて欲しい。それでは、解散」

 

プロジェクターが停止してスクリーンが巻き上げられ、照明が点灯される。途端に会議室がざわめき立つ。

 

「家族や友人、か……セシリアはどうする? やっぱりチェルシーさんのところに行くの?」

 

「そうですわね。これから私がどんな作戦に参加するのか、せめて話しておきませんと」

 

「……家族か。久しぶりに姉さんと話してみるか」

 

一夏達も与えられた一時間を、どう過ごすのか互いに相談し合っていた。そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス、オルコット邸。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

ローズアタッカーで帰ってきたセシリアを、チェルシーは恭しく礼をして迎えた。

 

「本日はどのようなご用件で?」

 

「織斑春也のことは御存じですわよね?」

 

「……ええ。先ほどテレビに映ってましたので。彼がどうか?」

 

「その織斑春也の拠点を制圧する任務を受けましたの。非常に危険な任務ですわ。もしかしたら死―――」

 

言いかけたセシリアの口にチェルシーは人差し指を当てて制すると、笑顔で述べた。

 

「そんな弱気のまま戦いに行くのはおすすめしません。必ず勝って帰ってくる、その覚悟を持って戦って下さい。私もお嬢様が生きて帰ることを、信じていますから」

 

「チェルシー……ありがとう」

 

幼い頃からの親友の激励にセシリアは感謝し、同時に今までにない戦場に赴く為の覚悟を得たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国、鈴の実家。

 

「……お母さん、ただいま」

 

「鈴!? どうしたの急に! IS学園が大変なことになったって聞いたけど……」

 

「大事なことを話しに来たの」

 

「大事なことって、何? テレビでやってた、変な演説みたいな奴のこと?」

 

「うん……」

 

訥々と鈴は母に作戦のことをできる限り噛み砕いて説明した。最初は黙って聞いていたが、説明し終えた後には目を見開き鈴の肩を掴んでいた。

 

「鈴貴女、そんな危険な戦いをしに行くつもり!? ダメよそんなの! 絶対反対だわ!」

 

「………………」

 

「他に代わって貰える人はいないの? 貴女が持ってる……戦極ドライバーっていうベルトをその人に渡せば、貴女は戦わなくて済むのよ。何なら私が!」

 

言うが早いか鈴から戦極ドライバーを奪うと、腰に当てる。だがフォールディングバンドは出ず、腰に装着することはできなかった。

 

「何で……どうして!?」

 

「……それは最初に変身した人しか使えないの。誰かが代わりになることはできないんだよ……」

 

「そんな……」

 

絶句した鈴の母は長く思案していたが、もう一度鈴の表情を見つめると再び肩を掴んで尋ねた。

 

「……絶対に死なないって、約束できる?」

 

「え?」

 

「本当なら無理にでも引き留めたいけど、貴女にしかできないことなんでしょう? でもさっきの約束ができなきゃ、行かせてなんかあげないわよ」

 

「お母さん……うん、約束する! 私は絶対に死なない! 死んでたまるもんか!!」

 

母と約束を交わし、鈴はどんなことがあっても必ず生きて帰ることを頭に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之神社

 

「こうして箒ちゃんと2人で来るのも久しぶりだね」

 

「ええ。小学生の頃以来でしょうか?」

 

箒と束の2人は数年ぶりに姉妹揃って、篠ノ之神社へと訪れていた。懐かしげに目を細め、あの頃の日々を回想する。

 

「箒ちゃんの舞、綺麗だったなぁ。今でもはっきり覚えてるよ」

 

「私も覚えてます。何度か裾を踏んだりして、苦労したこともありましたけど」

 

「今となっちゃ良い思い出だよね~」

 

「ええ……」

 

そこで会話は一旦途切れ、思い出の詰まった神社を見上げていた。そして、沈黙を破ったのは束だった。

 

「……私がISを発表して、色んなものが変わっちゃったけど……こんなことになるなんて予想できなかったなぁ」

 

「姉さん?」

 

「今更だけどごめんね、箒ちゃん。本当なら私が落し前をつけないといけないのに、それを貴女達に押しつけて……恨んでるよね?」

 

「姉さんっ」

 

自責の念に駆られる束を見て、箒は咄嗟に束の手を握っていた。

 

「私は、私達は姉さんを恨んでなんかいません。姉さんがいなければ戦極ドライバーもロックシードも量産できず、一夏やシャルロットを救うこともできなかったんですよ? それに、もし織斑春也のことを言っているなら、それはアイツが勝手に愚かなことをしただけです。姉さんは悪くありません」

 

「……そう?」

 

「はい。だからそんな顔をしないで下さい。みんなに笑われるぞ……お、お姉…ちゃん……」

 

「!? い、今箒ちゃん、私のこと何て!?」

 

「な、何でもありません。さ、さあ早く戻りましょう!」

 

「照れなくてもいいじゃん~! ね、もっかい言って!」

 

「そ、そのことはもう良いじゃないですか!」

 

結局照れてしまったが、勇気を持って言った一言は束のいつもの笑顔を取り戻すことに成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡国機業(ファントム・タスク)病室

 

一夏とマドカと真白は未だ目覚めぬ千冬に会いに来ていた。生命維持装置をつけて規則正しく呼吸をする千冬の手を握った一夏は声を掛けた。

 

「千冬お姉ちゃん……私達、春也を止めに行ってくる。もうこれ以上、春也に好き勝手なことをさせない為に。それと、春也をここに連れてきて謝らせるから」

 

「心配はいらない。一夏姉さんは私達が責任を持って守るし、私も死ぬつもりはない。必ず千冬姉さんのところに戻ってくる」

 

一夏の手の上からマドカが手を重ねながら言う。それから手を離すと、真白が何か伝えようとしているのに一夏は気づいた。

 

「真白、どうかした?」

 

「……一夏。実は折り入って頼みが―――」

 

コンコン

 

「失礼する……む? 邪魔したか?」

 

ノックの後に扉を開けてラウラとシャルロットが入ってくる。何か話そうとしていた真白の様子に一旦外で待っていようと考えたが、真白は「大丈夫です」と告げる。

 

「また後で言いますから。それより2人はどうしてここに?」

 

「家族や友人に会って来いと言われたが、私にとっての家族はシュヴァルツェ・ハーゼの皆だからな。互いに意気込みを語り合って、時間が余ったから千冬お姉様に会っていこうと思ったんだ」

 

「僕はそもそも会うような家族がいないから、せめて千冬さんを見舞いに行こうって思ってここに来て、その途中でラウラと合流したんだ」

 

「そうだったんだ……」

 

「それで様子はどうだ?」

 

「今までと変わらず、眠り続けている。千冬姉さんのことだから、必ず目を覚ますと信じているが……」

 

「……そうか」

 

ベッドに歩み寄ったラウラとシャルロットは、穏やかな顔で眠り続ける千冬の顔を見た。

 

「きっと目を覚ますよ。それがいつなのかはわからないけど……だからこそ、織斑春也は僕達の手で止めなくちゃ。千冬さんもそれを聞いたら安心するだろうし」

 

「むしろ悔しがるだろうな。私の出番は無いのか?って」

 

「あ、何となくありそうかも。ふふっ」

 

起きて早々にそんなリアクションをする千冬を想像して思わず笑いを零す一夏。とそこへ、再びノックと共に病室の扉が開けられた。

 

「失礼するよ」

 

「プロフェッサー? 何かありましたか?」

 

「決戦に赴く前に見舞いに来たのさ」

 

言いながらベッドの近くに寄ると懐から修復した戦極ドライバーとメロンロックシードとメロンエナジーロックシード、そして待機形態のISらしきものを隣の机に置いた。

 

「千冬お姉ちゃんの戦極ドライバー……修理終わってたんですか?」

 

「それにそのISは……暮桜、ですね?」

 

「正解だよ真白ちゃん。せめてお守りになればと考えてね。本当ならゲネシスドライバーも直しておきたかったけど、間に合わなくて。……っと、そろそろ作戦前のミーティングが始まる時間だ。私はもう行くから、君達もなるべく早く来るんだよ」

 

病室を後にする凌馬。それを見た真白も「私達もそろそろ行きませんと」と一夏達を促す。

 

「うん……行こうか」

 

一夏の言葉にマドカ達も従い部屋を出て行く。最後に千冬を一目見やると、一夏は扉をしめた。

そして医療施設を出たところで、鈴、刀奈、簪、箒、束が彼女達を出迎えた。

 

「遅かったじゃない。プロフェッサーも、もう来ないかと思ってたわよ」

 

「冗談。行くに決まっているじゃない」

 

「その意気込みがあれば十分ね」

 

「そりゃどうも。……ところで真白、お前一夏に何か言いたいことがあるんじゃなかったか?」

 

「あ、いけない。忘れるところだった。結局何だったの?」

 

「それなんですが……一夏、どうか白いロボットとの戦いで私を使ってくれませんか?」

 

「へ?」

 

思わず素っ頓狂な声が出るがすぐに何を意味しているかを理解した。真白は自分が変化したロックシードを戦いで使ってくれと言っているのだ。

 

「確かに一応はロックシードだから使えるとは思うけど、何でまた?」

 

「……許せないんです。盗み取った私のデータを、あんな破壊目的のロボットに搭載したことが。皆さんもそう思うでしょう?」

 

「言われてみれば……紅椿のデータを勝手に盗られた挙げ句、破壊の為に使われるのは―――気分が悪いなんてものじゃない」

 

「私達のISに対する冒涜と言っても過言ではありませんわね」

 

「あー、そう考えたら無性にイライラしてきたわ。一発ぶちのめしてやらないと気が済まないかも」

 

「ぶちのめすだけじゃダメだよ。徹底的に破壊しなきゃ」

 

「レーゲンの名を汚す不届き者め。戦場で会ったら覚悟しておけよ……!」

 

「みんな血気盛んねぇ。私はクールに急所を狙っていたぶるのがいいわね」

 

「文字通り手も足も出ないようにするってのは?」

 

「お前等も大概だな…………だが嫌いじゃない」

 

悔しさを滲ませる真白に触発され闘争心を沸き立てさせる。すると彼女達の想いに反応したのか、極ロックシードが光り始めた。

 

「え? な、何が!?」

 

慌てて懐から出して右手の平に乗せると、箒達が肌身離さずつけている待機形態の紅椿、甲龍、ブルー・ティアーズ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲン、サイレント・ゼフィルス、打鉄弐式、ミステリアス・レイディが彼女達の体から勝手に離れて浮かび上がる。極ロックシードから漏れ出た黄金色の輝きがISを包むと、形がISからロックシードやエナジーロックシードへと変化した。

 

「!? 紅椿が……!」

 

「甲龍まで、ロックシードに……」

 

恐る恐る各々のISが変化したロックシードを手に取る。不思議とそのロックシードから声が聞こえてくるような感じがした。

 

「そう……貴女も悔しいんですのね、ティアーズ」

 

「無慈悲な破壊の為に力が使われるのは、君も納得がいかないんだね。気が合うよ」

 

「奴らが気に入らないか。奇遇だな、私も同じだ」

 

「お前を使えだと? フッ、いいとも。奴と対面したその時が来たらな」

 

「任せて。貴女を使って必ず倒してみせるから」

 

「これでもう足手纏いにはならない? 私は一度たりとも貴女をそう思ったことはないわ。だから……今までもこれからも、私に力を貸して頂戴」

 

「? 皆そのロックシードと何を話しているんだい? というか、ロックシードが語りかけてきているとでも……?」

 

「ふーむ、研究のしがいがある―――けど、今は時間がないからやめとこ」

 

「っとそうだった。皆、早く行かないと」

 

束の一言で我に返った凌馬に促され、一夏達は他の面々が待つ場所へと向かうのであった。



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第35話 最終決戦開幕

「ではこれより、作戦の詳細について説明するけど……その前に欠員なくこの場に集まってくれた皆の勇気に感謝を述べたい。ありがとう」

 

全アーマードライダーが一度に出撃しても良い様に設計してあるロックビークル発進場にて、凌馬が立体モニターを用いて施設周辺のマップを見せる。

 

「本作戦で最も重要視されるのは人質の救助だ。よって大部隊が相手の守りを引きつけている間に、少数で編成された救出チームが潜入する方向で行こうと考案している。メンバーは私を含めて5人。内1人には一夏ちゃん、君が入って欲しい」

 

「私がですか?」

 

「ジンバーピーチアームズの索敵能力で、人質の場所を探して貰いたいんだ。それに施設内に居る敵の把握にも打って付けだからね。引き受けてくれるかな?」

 

「……わかりました。やります」

 

「感謝するよ。後のメンバーは志願制にするけど、誰か入りたい人は―――」

 

説明を遮るかのように弾、数馬、ダリルがサッと手を挙げた。あまりに早いので凌馬は一瞬戸惑いを見せる。

 

「まさか即答即決するとは思ってなかったよ……でも滞りなく決定したのはとても喜ばしいことだ。あ、最後に残り全員による陽動の捕捉をしよう。君達には事前に配られた紙に書かれた座標に向かってそこでそれぞれ部隊を展開して貰うことになるけど、戦闘はツーマンセルを組んで挑んで欲しい。バラバラで戦うよりかは連携が取れた方がいいからね。誰とペアを組むかは君達に任せる。質問はあるかな?」

 

全員を見渡して問いかける。すると1人のトルーパー隊員が手を挙げ、凌馬はその人物を指した。

 

「はい君」

 

「俺達は陽動役って言ってましたけど、幾つか倒してしまっても良いでしょうか?」

 

「そうだね。敵を倒して困ることはないし、できる限りこっちからガンガン攻めて行って倒しちゃって構わないよ。……もう他にはいないかい? では各自、ロックビークルを出して座標を入力してくれ」

 

サクラハリケーンやローズアタッカーが一斉にロックシード形態からバイク形態に変形させられ、一夏達が跨る。凌馬もローズアタッカーに乗りながら振り向いて全員に言う。

 

「では私の合図で発進だ。三カウントで行くよ。……3…2…1…出撃だ!!」

 

各バイクのスロットルを全開にして走り出す。先頭に居た集団から次々と転移していき、やがて発進場からは誰も居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたことは着いたが、凄い光景だな……」

 

無数の車やトラックが並ぶ景色を目にして、箒は嘆息をつく。隣に立つ鈴も「まったくね」と呆れる。

 

「よくもまあこれだけの数を作ったもんだわ。一周して怖さも吹き飛ぶわよ、アレ見ていると」

 

「どことなく不気味さはあるがな」

 

などと言い合っていると、凌馬から作戦開始のメールが入る。箒や鈴、この場に居る隊員達や他の場所に居るセシリア達は気合を入れ、各自ドライバーを装着しロックシードを取り出す。そして―――

 

『『『変身!』』』

 

『シルバー!』

 

『ブドウ!』

 

『『バナナ!』』

 

『ピーチエナジー!』

 

『クルミ!』

 

『ドリアン!』

 

『ドングリ!』

 

『マツボックリエナジー!』

 

『チェリーエナジー!』

 

『『『マツボックリ!』』』

 

『『『スイカ!』』』

 

一斉に手持ちのロックシードを解除し、戦極ドライバーやゲネシスドライバーにセットしてロックを掛ける。

 

『『『ロック・オン!』』』

 

無数のアームズが頭上に現れ、何重にも響き渡るホラ貝のサウンドと、それに混じるファンファーレ、銅鑼と二胡、エレキギター、重低音のサウンドが鳴る。彼らはカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにし、シーボルコンプレッサーを倒してエナジーロックシードのカバーを開いた。

 

『ソイヤッ! シルバーアームズ! 白銀・ニューステージ!!』

 

『ハイーッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!!』

 

『『カモン! バナナアームズ! Knight of Spear!!』』

 

『ソーダ! ピーチエナジーアームズ!!』

 

『クルミアームズ! ミスターナックルマン!!』

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『カモン! ドングリアームズ! Never Give up!!』

 

『リキッド! マツボックリエナジーアームズ! ソイヤッ! ヨイショッ! ワッショイ!!』

 

『ソーダ! チェリーエナジーアームズ!!』

 

『『『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!!』』』

 

『『『ソイヤッ! スイカアームズ! 大玉・ビッグバン!!』』』

 

箒が冠に、鈴が龍玄に、セシリアがバロンに、マドカがマリカに、シャルロットがナックルに、ラウラがブラーボに、簪がグリドンに、刀奈が黒影・真に、オータムがシグルドに、スコールがブラックバロンに変身。その他隊員達が黒影トルーパー マツボックリアームズやスイカアームズに変身し戦闘準備を整える。

 

するとそれに反応したのか、敵トランスフォーマーが全機起動しエンジンを噴かせる。そして直後……

 

「「「「「「「「「「突撃よ(だ)(ですわ)!!」」」」」」」」」」

 

『『『おぉおおおおおおおおおおおおおおーっ!!』』』

 

アームズウェポンを掲げて一気に走り出す。同時にトランスフォーマー達も走り出すとシボレー・トラックス、いすゞギガ、マクラーレン・MP4-12Cスパイダーらが粒子状に分解、ロボットに変形し大股で走る。

アーマードライダーとトランスフォーマーの大部隊がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったか。こっちも準備に移ろう」

 

施設から離れた場所で状況を見ていた凌馬がローズアタッカーの画面を再操作し、それに合わせて一夏達もディスプレイを操作する。ふと、操作していた弾の手が止まり一夏が心配げに声を掛ける。

 

「弾? どうしたの?」

 

「いやさ……IS学園で咄嗟に変身できてたら俺、虚さん達を助けられたのかなって考えちまって……」

 

「それ言ったら僕だってそうだ。でもあの時ああしてなければとか、あれをやれてたらとか、仮定の話してるより今をどうにかすることが重要だと思う」

 

「同感だな。後悔している暇があったら、今やるべきことに集中しろ。でなきゃ、今度も救えなくなる」

 

「……そうだよな。悪い」

 

「準備はできたかい? さ、行くよ」

 

バイクに跨った状態で凌馬はレモンエナジーロックシードを持つ。一夏達も緊張に息を呑んで各ロックシードを握る。

 

『レモンエナジー!』

 

『オレンジ!』

 

『『『マツボックリ!』』』

 

ゲネシスドライバーや戦極ドライバーにロックシードをセットしてロックをする。

 

『『『『『ロック・オン!』』』』』

 

アームズが現れるとすぐにカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにしたりシーボルコンプレッサーを押し込んでエナジーロックシードのカバーを開きバイクを発進させる。

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

『『『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!!』』』

 

デューク、鎧武、黒影、黒影トルーパーに変身しながら彼女達は再び転移した。

 

やがて転移先である施設の裏口に着くと、ロックビークルを仕舞って集まる。

 

「裏口から入るって発想はいいけど、大丈夫か? 監視カメラとかもありそうだし」

 

「心配ご無用。私のゲネシスドライバーにはジャミング装置が組み込まれていてね。それを作動させれば私と周りに居る君達は、あらゆる監視をかいくぐることができるって寸法さ」

 

『レモンエナジースカッシュ!!』

 

説明しながらシーボルコンプレッサーを一回押し込んでゲネティックシグナルを光らせると、ドアを開けて堂々と中に入る。鎧武達もおっかなびっくりと入っていく。

 

「む。見たまえ」

 

デュークが指した先には何らかの警報装置があったが、一切反応を示していなかった。

 

「どうやら効果はマジみてぇだな」

 

「そういうこと。それよりほら、早くジンバーピーチになって」

 

「あ、はい」

 

『ピーチエナジー!』

 

ゲネシスコアを戦極ドライバーに取り付けた鎧武がピーチエナジーロックシードを解錠。ゲネシスコアにセットすると再度カッティングブレードを倒して、2つのロックシードを一度に輪切りにしたりカバーを開いたりした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーピーチ! ハハーッ!!』

 

一度分離したオレンジアームズが空中でピーチエナジーアームズと融合しジンバーアームズになると、鎧武に装着されジンバーピーチアームズへと姿を変えさせた。

 

「…………………………」

 

神経を研ぎ澄まして施設内の音を調べていく。

 

『…………を…………り………』

 

「っ! 今、虚さんの声が!」

 

「やはりこの施設内に居ると見て間違いないようだ。急いで助けに行こう。ただ……今のところは見えてる通路は一本道だけどこの先分岐があってもおかしくはないから、その時はまた頼むね、一夏ちゃん」

 

「はい!」

 

力強く頷くと今度は鎧武を先頭にして通路を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

一方外の部隊の一角では、スイカアームズを纏った黒影トルーパーがスイカ双刃刀を構えてトラックスの一体に突進。トラックスは手でそれを受け止め押し返そうとする。

 

「後ろがガラ空きですわよ!」

 

『カモン! バナナスカッシュ!!』

 

そこへ背後から飛び乗ったバロンが、エネルギーを溜めたバナスピアーを首元に突き刺してそのまま振り抜き、首を刎ねた。

 

「一丁上がり、ですわ!」

 

「気をつけろ! 来るぞ!」

 

近くでいすゞギガから分裂して変形した中型トランスフォーマーの顔面を撃ち抜いたマリカが叫ぶ。

視線の先をバロンが見ると、青いスバルBRZと緋色のフォルクスワーゲンゴルフ GTEスポーツコンセプトが猛スピードで接近してきていた。身構えるバロンとマリカの前で二台は粒子状に分解するとロボットモードに変形。スバルBRZ(以下、ティアーズフェイクとする)は右腕を変形させたスナイパーレーザーライフルで黒影トルーパー スイカアームズを撃つと、フォルクスワーゲン(以下、ゼフィルスフェイクとする)が殴りかかってスイカアームズを破壊。黒影トルーパーはマツボックリアームズになって投げ出された。

 

「例のブルー・ティアーズの能力を持つロボット……もうお出ましですか」

 

「私のサイレント・ゼフィルスのパクリも同時に来るとはな。喧嘩でも売ってるつもりか」

 

言い合う2人の横から黒影トルーパー達が前に出ようとする。だがバロンとマリカはそれを手で制すると自ら歩み出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが一方で他のアーマードライダー達も同じ状況になっているとは、2人は知る由もなかった。

 

「! お姉ちゃん、あれ!」

 

倒れた敵の上に乗っているグリドンが指し示した先には、マツダアテンザとボルボコンセプトクーペが居り、走りながら分解、2人を通り越して打鉄弐式とミステリアス・レイディの意匠を持つロボット(以下、打鉄フェイクとレイディフェイクとする)に変形するとそれぞれ薙刀とガンランスを手にした。

 

「案外早く出てきたじゃない。てっきり最後まで温存しておくつもりだと思ってたけど」

 

「初手から全力で倒そうって考えだと思う。それもセオリーの1つだから」

 

「まあ確かに。でも、私達を楽に倒せるとは思わないことね」

 

冷たい機械の目を睨みながらグリドンと黒影・真は緊張を解すべく深く息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クルミスカッシュ!!』

 

「ぜやぁあああああああっ!!」

 

クルミボンバーでナックルは2つの頭を持つトランスフォーマー、トゥーヘッドの武器と一体化した両手の関節を一気に粉砕する。

 

「今だよ!」

 

「わかった、任せろ!」

 

その後ろからクラリッサの変身する黒影トルーパーが纏うスイカアームズが接近しトゥーヘッドの頭部をそれぞれ掴むと、強靱な握力で握り潰した。

 

「敵機撃墜!」

 

『ドリアンスカッシュ!!』

 

突然背後で聞こえた別の音声に振り向くと忍び寄っていたトランスフォーマーの一体を、ブラーボが撃破していた。

 

「油断大敵だぞ、クラリッサ」

 

「申し訳ありません隊長。感謝します」

 

「ねぇラウラ。何か近づいて来るよ」

 

ブラーボの肩を叩いてクルミボンバーで指した方向では、日産インフィニティ・エマージ(以下、ラファールフェイクとする)とホンダNSXコンセプト(以下、レーゲンフェイクとする)が変形し、腕と一体化した銃やショルダーキャノンを放った。

 

「うわっと!? 危ないな……!」

 

「オレンジと黒……それに武器構成から考えてラファールとレーゲンのコピーか。となると停止結界が厄介な代物になるな」

 

「我々全員で援護した方が良いですね」

 

「ああ、頼むぞ」

 

周囲に居るシュヴァルツェ・ハーゼ隊が変身した黒影トルーパー達を見やり、ブラーボはドリノコを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食らいなさい、この屑鉄め!」

 

『ハイーッ! ブドウスカッシュ!!』

 

カッティングブレードを一回倒した後、ブドウ龍砲のトリガーを引いて強力な弾を敵トランスフォーマーに連射する。だが当たり所が悪く相手を仰け反らせるに留まった。

 

「チッ! 大きい癖にちょこまか動いて……ああもう! こうなったら!」

 

『キウイ!』

 

『ロック・オン!』

 

『ハイーッ! キウイアームズ! 撃・輪・セイヤッハッ!!』

 

キウイロックシードを、外したブドウロックシードの代わりに戦極ドライバーに装着するとカッティングブレードを倒し、輪切りにしてキウイアームズにチェンジした。

 

「ようしこれで!」

 

龍玄はその場で回転してキウイ撃輪の1つを遠心力で投げ飛ばし、片足の関節を切断。膝をついたところにもう1つを投げて今度は首を刎ねた。

 

「っしゃあ!!」

 

戻ってきたキウイ撃輪をキャッチして叫ぶ。そして左を向いて次なる標的に狙いを定める―――

 

『ソイヤッ! シルバースパーキング!!』

 

「はあああああああああ!!」

 

―――が、冠が先んじて蒼銀杖で首を刎ね龍玄の前に降り立った。

 

「もう、私が狙ってたのに」

 

「誰が倒そうと同じだろ。……むっ!?」

 

2人が話しているところへ複数のロケット弾が飛んでくる。見ると前部から銃口を覗かせたトヨタFT-1(以下、紅椿フェイクとする)とレクサスLF-A(以下、甲龍フェイクとする)が向かってきており、冠と龍玄の目前で変形すると雨月・空裂に似た剣と双天牙月に似た刀剣を構えた。

 

「紅椿と甲龍の偽物か。随分早いご登場だな」

 

「何だっていいわ。コイツ等をぶちのめせるならね!!」

 

臆するどころか龍玄は逆に戦意を高める。冠も退く気は毛頭ない。

 

奇しくもほぼ同時刻に、それぞれのアーマードライダー達の前へ彼女らが倒さんと考えていた敵が現れた。偶然にもそれによって彼女達は同じ考えを持ち、取る行動も同じであった。バロン達はISが変化したロックシードを取り出すとドライバーからロックシードを外し、代わりに解錠した。

 

『ブルー・ティアーズ!』

 

『サイレント・ゼフィルスエナジー!』

 

『打鉄弐式!』

 

『ミステリアス・レイディエナジー!』

 

『シュヴァルツェア・レーゲン!』

 

『ラファール・リヴァイヴ!』

 

『紅椿!』

 

『甲龍!』

 

解錠すると各々の専用機の名前がコールされ、頭上にメカメカしい外見のアームズが出現する。

 

 

「あのアームズは若しや、私のブルー・ティアーズとマドカさんのサイレント・ゼフィルス?」

 

 

 

「色合いからしてシュヴァルツェア・レーゲンと、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡか……」

 

 

 

「ミステリアス・レイディと打鉄弐式のアームズね。どんな感じで装着されるのかしら?」

 

 

 

「私達のISを模したアームズってこと? 面白いじゃない!」

 

 

驚きと感嘆を交えつつその場でドライバーにロックシードを装填してロック、そのままカッティングブレードを倒して輪切りにしたりシーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開く。

 

『『『『『『『『ロック・オン!』』』』』』』』

 

『カモン! ブルー・ティアーズアームズ! Snipe the Target!!』

 

『リキッド! サイレントエナジーアームズ!!』

 

『シュヴァルツェア・レーゲンアームズ! ミスターウォーリアー!!』

 

『ラファール・リヴァイヴアームズ! ミスターユニバーサル!!』

 

『カモン! 打鉄弐式アームズ! Attack and Fire!!』

 

『リキッド! ミステリアスエナジーアームズ!!』

 

『ソイヤッ! 紅椿アームズ! 絢爛・ダンシング!!』

 

『ハイーッ! 甲龍アームズ! 龍・砲・バンッバンッバンッ!!』

 

今までに聞いたこともない音声が流れると各アームズが降下し、バロン達アーマードライダーに被さって展開する。バロンは肩部に小型化したビットがつき、同じくビットが装着されているロングライフルを所持したブルー・ティアーズアームズに、マリカはブルー・ティアーズアームズに似た形と武装だが色が黒いサイレントエナジーアームズに、グリドンは背面に荷電粒子砲を背負い薙刀を持つ打鉄弐式アームズに、黒影・真は透明な装甲の中に水のような液体が満たされ、ガンランスを装備したミステリアスエナジーアームズに、ブラーボは黒い装甲に赤いラインが入り、肩にショルダーキャノンを担いだシュヴァルツェア・レーゲンアームズに、ナックルはレイン・オブ・サタデイと灰色の鱗殻(グレー・スケール)に似た武器を持ったラファール・リヴァイヴアームズに、冠は雨月・空裂に似た形状の日本刀を両手に所持し赤い装甲に包まれた紅椿アームズに、龍玄は胸部装甲にスピーカーのような砲門があり双天牙月に酷似した青竜刀を2つ持つ甲龍アームズにその身を変えた。

 

 

「まさかとは思ったが、本当にこんなことが起こるとはな……」

 

 

 

「使っといて何だけど、これは自分でもびっくりだね」

 

 

 

「ISがアームズになるなんて……何だか不思議な感覚」

 

 

 

「ロックシードに変化した時点で感じてはいたが、ここまでして共に戦ってくれるとは。操縦者冥利に尽きる!」

 

 

 

「おいおい、マジかよ……さすがの俺でも想定外だぜ、これは」

 

「正に奇跡と言ったところかしら。フフ……私達も負けてられないわね」

 

「おう!」

 

各地で色取り取りの見たことのないアームズが現れるのを目にして、シグルドとブラックバロンは一瞬呆けるが、すぐに目の前の赤いトランスフォーマー―――スティンガーへ刃を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早い内に出しちゃったけど、良かったの?」

 

「出し惜しみをして勝てるような相手じゃないからね。現に今、未知のアームズを纏っているし。もし負けたとしても、一夏姉さんを始末して逃げるまでの間足を止めてくれれば十分さ」

 

「強力な戦力を捨て駒扱いですか? 豪快と言うか何と言いますか……」

 

(フン……その捨て駒の内に入っているとも知らないで、バカな女達だ)




専用機の能力を持っている、敵トランスフォーマーの名前については気にしないで下さい……これが私のなけなしのネーミングセンスなんで……


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第36話 戦士の目覚め

ジンバーピーチアームズの能力で探りながら研究所の中を進んでいた鎧武達は、大型倉庫へと繋がる扉の前に来ていた。

 

「この奥に人質達が居るんだね?」

 

「はい。でも気をつけて下さい。春也達の声も混じって聞こえましたから」

 

「わかっている。……行くぞ!」

 

バンッ!と扉を開けて中に入る。そこには座らされた状態で柱に縄で縛られた虚達と、彼女達を囲むように立っている春也達、そしてガルバトロン含む三機のビークルモードのトランスフォーマーの姿があった。

 

「もう来たんだ。少しは道に迷うと思ってたのに、拍子抜けだなぁ」

 

「春也……!」

 

「テメェ! 虚さん達を放しやがれ!」

 

「そう言われて素直に放す奴が居ると思う? 2人はどう思います?」

 

「居るわけないわよねぇ」

 

「右に同意です」

 

言いながら戦極ドライバーとゲネシスドライバーを腰に装着し、リンゴロックシードとドラゴンフルーツエナジーロックシードを解錠。

 

『リンゴ!』

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

そしてドライバーにセットしてロックを掛け、カッティングブレードを倒して輪切りにしたりシーボルコンプレッサーを押してカバーを展開した。

 

『『ロック・オン!』』

 

『カモン! リンゴアームズ! Desire Forbidden Fruit!!』

 

『ソーダ! ドラゴンエナジーアームズ!!』

 

出現したアームズが頭部を覆って展開し、イドゥンとタイラントの姿に2人を変える。変身が完了すると、今度は春也が懐をまさぐり始めた。

 

「何してんだお前?」

 

「千冬姉さんのゲネシスドライバーは奪い返されてしまったからね。僕が僕の為に作った、僕だけのドライバーとロックシードをお披露目しようと思ってさ」

 

春也は認証前の戦極ドライバーとオレンジロックシードに似た、表面が赤く黒い蔦のような模様が描かれた『L.S.-07』と番号の記されたブラッドオレンジロックシードを取り出すとまず戦極ドライバーを腰に宛がった。黄色のフォールディングバンドが伸び、左側のプレートに鎧武のそれと酷似しているが黒い蔦が描かれている鎧武者の横顔が表れる。次に春也はブラッドオレンジロックシードを解錠した。

 

「変身」

 

『ブラッドオレンジ!』

 

頭上にオレンジアームズに似ているが、表面に黒い蔦の模様のある赤いブラッドオレンジアームズが出現してゆっくり降下し始める。

 

『ロック・オン!』

 

素早く戦極ドライバーにセットしてロックするとブラーボやナックル同様のエレキギターのミュージックが流れる中、カッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!!』

 

一気に落下して被さったブラッドオレンジアームズが展開し、全身を包んだライドウェアの上に鎧となって固着する。春也の姿は鎧武にそっくりな、しかしジンバーアームズのようにクラッシャー部が黒く前立てが赤いアーマードライダー・仮面ライダー武神鎧武 ブラッドオレンジアームズに変化した。

 

「!? 鎧武にそっくりだと……」

 

「確かに姿は似ているけど、強さは別格なんだよ」

 

刀身が赤い大橙丸と無双セイバーをそれぞれ左手と右手で持つ。そして鎧武に挑む……と思いきや、インカムに手を当てる動作をして言った。

 

「ただ僕と戦う前に、一夏姉さんにはコイツと戦って貰うけど」

 

直後、トランスフォーマーの内白いBMW・i8とメタリックレッドのランサーエボリューションが粒子状に分解・変形しロボットモードになると、それぞれ右腕を雪片弐型や雪片に似たブレードに変形させた。

 

『あの武装……アレは私と暮桜のコピーです!』

 

「一体ならどうにかなりそうだけど、二対一じゃ不利かな……」

 

「一夏ちゃんは白式もどきを倒すんだ。暮桜もどきは私が相手をするから。他の皆はあの2人を頼む」

 

「わかりました。……行くよ、真白!」

 

『はい!』

 

真白が変化したロックシードを握り締めると、鎧武は迷うことなくそれを解錠する。

 

『白式!』

 

音声が流れると同時に真っ白で機械的な見た目のアームズが頭上に現れ、徐々に降下し始める。鎧武は戦極ドライバーにそれを装填、ロックをかけると素早くカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! 白式アームズ! 雪片・セカンドステージ!!』

 

消え去ったジンバーピーチアームズの代わりに落下、展開して装着されると雪片弐型に似た剣を右手に握り、鋭いかぎ爪のついた籠手を左手に装備した白式アームズに鎧武を変えさせた。

 

「そんな姿になったからって、勝てると思わないことだね。さあ、行け!!」

 

BMWとランサーエボリューションが変形したトランスフォーマー(以下、白式フェイクと暮桜フェイクする)と、イドゥンとタイラントが進み出す。

 

「行くよみんな……ここからは!」

 

『私達の!』

 

「『ステージだ(です)!!』」

 

「「「おうっ!!」」」

 

鎧武の掛け声と共に、黒影と数馬が変身した黒影トルーパーはタイラントへ、ダリルが変身した黒影トルーパーはイドゥンへ、デュークは暮桜フェイクへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………冬…………千冬……』

 

「……ん……?」

 

その頃、千冬は謎の声に呼びかけられ目を開けた。だが周囲の空間が全て真っ白であることから、覚醒したのは意識だけで身体はまだ眠ったままであるのだと悟った。

 

「あれからどれ程眠っていたのかはわからんが、早いところ目を覚まさないといけないな。…………それにしても、私を呼んだあの声は、一体?」

 

『千冬』

 

「っ!」

 

再び名を呼ばれて声がした方を見ると、そこには長い紅色の髪を持つ千冬と同じ背格好の女性が立っていた。

 

「お前は……」

 

『ようやく貴女とこうして話をすることができますね』

 

「まるで私のことを長年知っているみたいな口ぶりだな。だが、お前のような人物とは生憎面識が無くてな」

 

『無理もありません。織斑一夏の、黄金の力を持つ鍵による作用がなければ、私はただ貴女に使われていただけの機械に過ぎなかったのですから』

 

「使われていた? ……まさか、お前は……!」

 

女性の言葉に、千冬は1つの可能性に辿り着き驚愕から目を見開く。そんな千冬の手を女性は握ると、そっと囁いた。

 

『本当ならもっと貴女と話したいことがあるのですが……残念ながら時間がありません。今の目的を、貴女を目覚めさせることを最優先させます』

 

「……また会えるだろうか?」

 

『……ええ、きっと。この戦いを終えたその後に』

 

「戦いだと? 何やら現実ではよからぬことが起きてそうだな……となると、いよいよすぐに目覚めなければな」

 

『負けないで下さい。私も、貴女の力になりますので―――』

 

その言葉と共に手を離され、千冬の視界はぼやけていった。

 

 

 

 

 

「っ、ここは……」

 

再び視界が戻った時、見覚えのある医務室の天井が目に入った。上半身を起こして隣の机を見ると戦極ドライバーとメロンロックシードとメロンエナジーロックシードが置いてあったが、それらに混じってとあるロックシードが置いてあった。

 

「?」

 

不思議に思ってそのロックシードを、本来暮桜が置かれていた場所にあったソレを手に取る。紅いメカニカルな表面に千冬はフッと笑みを零し、ドライバー一式と一緒に仕舞うと立ち上がり端末を片手に廊下に出た。

 

(まずは現状の確認からだが………………何? 春也が世界中に向けて宣戦布告をしただと? 新兵器を配下に置いて?)

 

最新の情報を次々に見て、千冬は目眩にも似た感覚を覚える。

 

(魔道に堕ちたか、春也……私があの時止めることができていれば、或いは―――)

 

「ちーちゃん……?」

 

端末を見て考え込む千冬に、後ろから束が声を掛けた。我に返った千冬はすぐに振り向き親友と顔を合わせた。

 

「いつ起きたの?」

 

「つい先ほどだ。現状確認の為に情報を閲覧している途中だったが、春也のせいでとんでもんないことが起きている様だな」

 

「うん。今は彼と、彼に協力する組織を止める為にみんなが戦いに行っている」

 

「場所はどこだ?」

 

「……早速戦うつもりなの? 一ヶ月以上も眠ってたから、身体が訛ってると思うし、それに脳に障害があってもおかしくは―――」

 

「一ヶ月か、それなら問題はない。思考能力にも今のところ何ら影響は無い。十分けじめはつけられるさ」

 

「けじめって、何の?」

 

「……一対一の戦いで春也に負けて、あいつを止められなかったことに対するけじめだ。ここまで春也を増長させたのは、私の責任と言っても過言ではないからな」

 

「そう……」

 

悲しげに言う千冬に束は目を閉じると、千冬が持つ端末を指して告げた。

 

「それに今みんなが行っている作戦の詳細な情報が載ってるから、座標を知りたいなら見た方が早いよ」

 

「束……ありがとう」

 

礼を述べて端末を操作して確認すると、千冬はすぐさま発進場に移動し腰に戦極ドライバーを宛がった。

 

「変身」

 

『メロン!』

 

そしてメロンロックシードを解錠し戦極ドライバーにセットしてロックを掛けると、カッティングブレードを倒して輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』

 

現れたメロンアームズが被さって展開し斬月に変身すると、手に入れた新たなロックシードを一旦仕舞いサクラハリケーンを出した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬が目覚め、一夏達が春也と対面してから暫し時が経った頃。各戦場では激闘が繰り広げられていた。

 

「奴らのビットから落とすぞ!」

 

「わかりましたわ!」

 

肩とライフルに付属していたビットを解き放ち、2人は敵が放ってきたビットを狙う。ビットだけの攻撃に限らず、ライフル同士の撃ち合いも行う。

 

「くっ! まるで私達自身と相手をしてるみたいだ……ISの武装だけではなく、操縦者のデータまで組み込まれているのは本当らしいな」

 

「そうですわね。いつ頃のかは不明ですが」

 

「だが良い事実だ。過去の自分に比べてどれだけ強くなったか確かめられるからなぁ!!」

 

言いながらライフルを連射しつつゼフィルスフェイクに突撃する。それに対応すべく相手はビットのいくつかでマリカを囲み、残りを自分の周りに集めた。

 

「んなもんで私が止められるかぁあああああ!!」

 

自身を囲むビットの攻撃を避けつつ更に近づく。ビット及びライフルを放とうとするゼフィルスフェイクだったが、次の瞬間、ライフルがマリカ側のビットによる一斉攻撃を受けて破壊された。

 

「目の前ばかりに集中し過ぎて、周りが疎かになってたみたいだな!!」

 

ここぞとばかりにマリカはゼフィルスフェイクに飛び乗ると、カメラアイにライフルを突き立てた。

 

『サイレントエナジースカッシュ!!』

 

シーボルコンプレッサーを一度押し込み強化された弾丸をゼロ距離で連射。ゼフィルスフェイクの頭部を粉々にした。

 

「やっぱゼロ距離斉射ってのはハイリスクだが、気分がいいよな!」

 

バロンに同意を求めて言ったのか独り言なのかは不明だが、マリカはビットを戻しつつ叫んだ。

 

そのバロンはビットで本体を攻撃しつつ、ライフルで相手のビットを一機ずつ落としていた。ティアーズフェイクもいい加減鬱陶しいと判断したのか、ライフルで本体を狙い撃ち始める。だがそれこそがバロンの狙いだった。相手の銃口をターゲットスコープに納めた瞬間、トリガーを引き弾丸をティアーズフェイクのライフル内に撃って破壊した。

ライフルモードが使い物にならなくなり、相手は銃口を外してマシンガンモードに切り替え連射する。

 

「それも読み通り……ですわ」

 

マスクの下で笑みを浮かべながら銃をマシンガンモードにして足下を撃つ。たちまち土煙が巻き起こりバロンの姿を隠す。ティアーズフェイクはセンサーの感度を上げて姿を探すが見つからない。その時、何かをセンサーで捉えた。だが直後に画面にノイズが走る。煙で視界が無い中、バロンの投擲してきたライフル付属のブレードが首に深く刺さったからだ。

 

「どうやらそこみたいですわね。では遠慮なく!!」

 

『カモン! ブルー・ティアーズオーレ!!』

 

カッティングブレードを二回倒してからトリガーを引き、突き刺さったブレード目掛けて弾丸を撃ち、奥深くまでブレードを押し込む。そこへビットが集中攻撃を仕掛け、ティアーズフェイクは機能を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の場所では打鉄フェイクがグリドンと黒影・真をロックしマルチミサイルランチャーを発射した。

 

「させない!」

 

『カモン! 打鉄弐式スカッシュ!!』

 

カッティングブレードを一回倒したグリドンが同じくミサイルを放ち、相手のミサイルを撃墜する。

 

「ナイスよ簪ちゃん。じゃあ私も……ぐっ!?」

 

黒影・真を突然爆発が襲う。レイディフェイクがナノマシン入りの水を気化して散布し、爆発させたのだ。

 

「痛たた……やるじゃない。でもやられたらやり返さないと、お姉さん気が済まないのよね!」

 

『ミステリアスエナジースカッシュ!!』

 

シーボルコンプレッサーを一回押し込むと水が霧状となって散布され、いくつかの黒影・真の分身が現れレイディフェイクに攻撃を仕掛ける。レイディフェイクは所持したガンランスで反撃するが、攻撃はすり抜けてしまう。センサーでよく調べると幻影だとわかったので次からは放置することを決める。しかし4人目を感知したセンサーは、それがただの幻影でないでは無いことを教えた。だが―――

 

「もう遅いわよ。……ドカーンってね」

 

分身が至近距離で爆発する。その隙に黒影・真は再びシーボルコンプレッサーに手を掛ける。

 

『ミステリアスエナジースパーキング!!』

 

レイディフェイクは聞こえてきた音声に警戒する。そして上空からキックを放つ黒影・真の姿を捉えてガンランスのガトリングガンから弾丸を発射した。直撃し黒影・真は大爆発を起こす。

 

「ざ~ん念。それはお・と・り・よ♪」

 

背後から聞こえる声に振り向けぬまま、レイディフェイクは影松・真で首を刎ねられる。さっきの黒影・真はナノマシンによる爆弾分身だったのだ。

 

「凄い……私も!」

 

感嘆の声を上げるグリドンに、再びミサイルが向かう。グリドンは着弾寸前で前に走り、回避すると同時に打鉄フェイクに薙刀を突き出す。

相手も薙刀を用いて斬り合いを行う。グリドンは小回りを効かせて攻撃を躱し、打鉄フェイクは焦ったのか背面のキャノン砲を肩に担ぐように展開させ、エネルギーを溜め始める。

 

『カモン! 打鉄弐式スカッシュ!!』

 

「防いで見せる!」

 

『カモン! 打鉄弐式スパーキング!!』

 

対抗してグリドンもカッティングブレードを倒し、背部のキャノン砲を同じように展開・エネルギーチャージを開始させる。ほぼ同時に両者の砲門から荷電粒子砲が発射されてぶつかり、爆発を起こす。その直後、打鉄フェイクに無数のミサイルが命中する。キャノン砲展開前に発動した技が、時間差で襲いかかったのだ。

 

「今っ!!」

 

『カモン! 打鉄弐式オーレ!!』

 

怯んだ隙にカッティングブレードを二回倒し、胸部に薙刀を深く突き刺す。そのまま一気に真上に振り上げ、頭部を下から真っ二つに両断・破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラーボ達の戦場では、レーゲンフェイクがAICを発動させて苦しめていた。

 

「クソッ! 集中力が必要ないと、こうも厄介だとは……!」

 

部下共々身動きが出来ずに足掻いていると、レーゲンフェイクの真上からダンデライナーに乗った黒影トルーパー達が銃撃しながら垂直降下してきた。レーゲンフェイクはショルダーキャノンでそれらを狙い撃つが……

 

「利用させて貰おうかな。それっ!」

 

ラファールフェイクの右腕に組み付いたナックルが、ショットガンで至近距離から肘関節を撃ち抜き、自由を奪ったところで強引に向きを変えると指ごと引き金を引いて弾丸を放ち、レーゲンフェイクに当てて注意を一時的に逸らした。

 

「! 停止結界が……ならば!!」

 

『シュヴァルツェア・レーゲンスカッシュ!!』

 

停止結界が解けた隙にカッティングブレードを倒し、逆にレーゲンフェイクを停止結界で封じると接近して手刀で胸部に突き刺した。

 

「こいつもおまけだ、食らっておけ!!」

 

手を引き抜いた後、損傷した箇所にショルダーキャノンを連続で叩き込む。中枢部を滅茶苦茶にされたレーゲンフェイクはカメラアイの光が消えて倒れた。

 

「さすがラウラ、仕事が早い。僕も負けていられないな!」

 

一度ラファールフェイクから離れたナックルは、ブレードに変形した左腕の攻撃を避けつつそれに飛び乗り、高くジャンプすると―――

 

『ラファール・リヴァイヴスカッシュ!!』

 

「取った!!」

 

カッティングブレードを倒しながら飛び越して右手で頭を掴むと、左腕のリボルバー式パイルバンカーを突き刺し6発連続で打ち頭部を粉々にした。

 

「どんな装甲だろうと、撃ち貫いてやるだけさ……!」

 

薬莢を排出しながら、ナックルは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冠と龍玄は、レーザーと斬撃、衝撃砲を切れ間無く連続発射してくる紅椿フェイクと甲龍フェイクに手を焼いていた。

 

「うわっと! ああもう、鬱陶しいったらありゃしないわ!」

 

「片方だけでも注意を逸らせればいいんだが……」

 

「……あ、何か思い浮かんだかも。ちょっと聞いてくんない?」

 

ひそひそと冠に耳打ちする龍玄。一度顔を見合わせると互いに頷き、まず龍玄がカッティングブレードを一回倒す。

 

『ハイーッ! 甲龍スカッシュ!!』

 

「これでもぉ……食らえっ!!」

 

柄同士を連結させた青竜刀を投擲するが、それは二体を素通りして飛んでいく。今度は冠がカッティングブレードを二回倒す。

 

『ソイヤッ! 紅椿オーレ!!』

 

「この切っ先、触れれば切れるぞ!!」

 

日本刀の刀身にエネルギーをチャージし、紅椿フェイクに向けて走り出す。それに対し甲龍フェイクが衝撃砲で迎撃しようとするが―――

 

「甘いのよ、薄鈍が」

 

ザシュッ!!

 

―――ブーメランのように戻ってきた青竜刀が甲龍フェイクの左膝の関節を切断し、バランスを崩させる。当然ながら迎撃はできない。

 

「仲間に頼ったのが仇になったな。受けろ!!」

 

肉薄した冠は紅椿フェイクの刀を避けつつ、まず左腕の関節を斬撃で両断。続いて右腕に飛び移ると肘関節に一本突き刺した後、レーザーを放って爆破し距離を取る。両腕部を失った紅椿フェイクは、千切れた部分をパージしてジョイントを見せると背面部から分離したパーツを胸部に連結・クロスボウ状にして冠に向けた。

 

「ならば!」

 

『ソイヤッ! 紅椿スパーキング!!』

 

三回カッティングブレードを倒すと胸部装甲が分離・変形してクロスボウ型武器になる。グリップを握った冠は銃口を紅椿フェイクへと向ける。

 

「食らうがいい……!」

 

引き金を引き、光矢が放たれ同時に相手側からも光矢が放たれる。2つは空中でぶつかり合い僅かな拮抗の後、冠側が押し切り紅椿フェイクを砲門ごと貫通。カメラアイから光を奪い去った。

 

「やったか……むっ!?」

 

一息ついたところに、甲龍フェイクの衝撃砲が襲ってくる。

 

「アンタの相手は私よ! 忘れんじゃないわよ!」

 

『ハイーッ! 甲龍スカッシュ!!』

 

それを阻止せんと、龍玄が衝撃砲を放って注意を自分に逸らす。甲龍フェイクはすぐさま衝撃砲を発射するが―――

 

「っと、危ない危ない。でもって、一瞬のラグの間に!」

 

『ハイーッ! 甲龍オーレ!!』

 

カッティングブレードを二回倒すことでエネルギーを溜め込んだ青竜刀を、全力で投げ飛ばして砲門に突き刺す。

 

「せりゃああああああああああああああああ!!」

 

そして必殺の龍玄脚を柄の部分に蹴り込み、奥深くへと突き入れる。それだけではなく、龍玄自身も甲龍フェイクの内部へと入り込みそして―――

 

『ハイーッ! 甲龍スパーキング!!』

 

―――連続で衝撃砲を撃ち、甲龍フェイクを内部から粉々に吹き飛ばした。

 

「悪いけど、コピー商品は嫌いなのよね」

 

地面に転がった甲龍フェイクの頭を踏みつぶしながら、龍玄はそう口にした。



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第37話 人を呪わば穴二つ

いいサブタイトルが思いつかなかった……


「はぁああああああああああっ!!」

 

倉庫では鎧武が剣を振るい、白式フェイクが左腕を変形させたシールドで防ぎつつブレードで突いてくる。一旦後ろに下がることで攻撃を回避すると、左腕のかぎ爪を小型のキャノン砲に変形させ頭を狙う。

 

「これでっ!」

 

荷電粒子砲が白式フェイクの顔面に直撃し、仰け反らせる。だが白式フェイクは特にダメージもない様子で、ブレードを展開・エネルギー刃を発生させた。

 

『零落白夜です、気をつけて下さい』

 

「うん……!」

 

頷きながら鎧武はカッティングブレードに手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「オラァァァァッ!!」」

 

「てぇいっ!」

 

黒影と黒影トルーパー(数馬)は、タイラントの構えるソニックアローに影松を振り下ろした。

 

「会長や春也君でも無いのに、戦極ドライバーでゲネシスドライバーに勝てるとでも思ってるの!?」

 

「んなもんわからねぇぜ! 機械の性能差じゃなくて、操縦者の技量で勝ち続けた奴はこの世にたくさん居るらしいからな!」

 

「千冬さんとか、やってのけそうだよね……!」

 

「……そりゃあの人ならな……」

 

「戦いの最中だってのに、随分余裕なんだ……ねっ!!」

 

「気張ってばっかじゃ、息詰まっちまうから、な!!」

 

「よっと!!」

 

タイラントの装甲を影松で切りつつ、2人は距離を空ける。一方で黒影トルーパー(ダリル)は、イドゥンにソードブリンガーで影松を下に押さえつけられてしまっていた。

 

「くっ!」

 

「同じ戦極ドライバーでも、質が違うのよ質が!」

 

「……だがテメェ自身の質は最悪みたいだな?」

 

「っ! 言わせておけば、この!」

 

「この程度の挑発で頭に血が昇るぐらいなら、やっぱ大した質じゃないな! そらっ!!」

 

足で影松を蹴っ飛ばしてソードブリンガー共々無理矢理上に向ける。そしてアップルリフレクターで防がれるより前に、イドゥンに突きを放ってダメージを与えた。

 

「ぐぅっ! 調子に乗らないでよね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暮桜フェイクと戦っているデュークは、常に零落白夜を発動させたブレードによる攻撃に肝を冷やしていた。

 

「っと! 容赦が無いったらありゃしない……!」

 

言いながらソニックアローから光矢を連続で発射するが、暮桜フェイクは左手で防いでしまう。

 

「前に戦った量産型と違って、油断が少しもできないね。どうしたものか……」

 

やや焦りを含んだ声を出し、デュークはソニックアローを握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、戦況は互角と言ったところかな。できれば僕が出る幕もなく葬って欲しいところだけど」

 

戦闘を傍観しながらそう呟く武神鎧武だったが、その思惑は外れることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソイヤッ! 白式スカッシュ!!』

 

「はぁあああああ……たぁぁっ!!」

 

カッティングブレードを倒して剣を展開・零落白夜を発動させると一気に駆け寄り、白式フェイクの一太刀を避けて柄の部分に飛び乗ると、荷電粒子砲に変形した白式フェイクの左腕を発射寸前に両断し破壊すると自分の左腕を頭部に押し当てた。

 

『出力最大!』

 

「砕け散れぇぇぇえええええええええええええええっ!!」

 

ミシミシと金属が軋む音が白式フェイクの頭から聞こえ、カメラアイが明滅し始める。鎧武は更に左腕に力を込め、ついに頭部を貫通。白式フェイクの機能を停止させた。

 

「よし! 次は……春也!!」

 

戦極ドライバーから白式ロックシードを外し、オレンジロックシードをセットしてオレンジアームズに変わると、大橙丸と無双セイバーを持って武神鎧武に斬りかかった。

 

「くっ! トランスフォーマーをこうも簡単に倒すなんて!」

 

「私達を甘く見ないことね!!」

 

刃を受け止める武神鎧武を睨み付ける鎧武。姉弟の本気のぶつかり合いが今、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レモンエナジースカッシュ!!』

 

手始めにデュークはシーボルコンプレッサーを一回押し込んで暮桜フェイクのAIに干渉、複数の分身が居るように見せかけ自らはソニックアローの弦を引く。

だが暮桜フェイクは分身達には目もくれずに、真っ直ぐ本体目掛けて攻撃を仕掛けた。

 

「千冬を参考にしたAIなら、そう来ると思っていたよ」

 

一切焦ることもなく、デュークはソニックアローを構えた状態の自分を突き抜け飛び上がる。そう、攻撃準備を整えていたのも分身で本体はそれに紛れるようにして隠れていたのである。

 

「コイツで終いだ!」

 

『レモンエナジースパーキング!!』

 

シーボルコンプレッサーを二回押して右足にエネルギーをチャージすると、それを暮桜フェイクの頭部に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままじゃ埒が明かない。弾、ここは一気に!」

 

「奇遇だな、俺もお前と同じ考えだ!」

 

『『ソイヤッ! マツボックリスカッシュ!!』』

 

黒影と黒影トルーパー(数馬)は共にカッティングブレードを一回倒すとタイラントに向かってジャンプし、影松の切っ先を勢いよく振り下ろした。

 

『ドラゴンフルーツエナジースカッシュ!!』

 

対するタイラントはシーボルコンプレッサーを押し込み、ソニックアローの斬撃を放ち防御を行う。

 

「とっとと決めるぜ!」

 

『ソイヤッ! マツボックリオーレ!!』

 

「そうね!」

 

『カモン! リンゴスパーキング!!』

 

黒影トルーパー(ダリル)とイドゥンもまた、カッティングブレードを倒して互いの得物で同時に突きを放ち、装甲に食い込ませる。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」

 

「「はああああああああああああああ!!」」

 

5人の気合が叫びとなって響き渡る。そして―――

 

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

 

「「「うわあああああああああああああああ!?」」」

 

「「きゃあああああああ!?」」

 

互いに強引に押し切ろうとした黒影と黒影トルーパー(数馬)とタイラント、互いの得物を振り抜いて装甲を切り裂いた黒影トルーパー(ダリル)とイドゥンとの間で爆発が生じ、黒影3人は虚達のところへ、タイラントとイドゥンはそこからやや離れたところへ吹き飛ばされた。

 

この時の衝撃で黒影と黒影トルーパー2人の戦極ドライバーはマツボックリロックシードごと破損し、イドゥンはリンゴロックシードこそ無事なものの戦極ドライバーは破壊され、タイラントはゲネシスドライバーが頑丈であった為に破壊は免れたが体力を大幅に消耗していた。

 

「! 貴方達は……!?」

 

「ご、五反田君……なの……!?」

 

「先輩!? 何で先輩がそれを!?」

 

戦極ドライバーを破壊されたことで変身が解け、正体が露見し虚達を驚かせる。だが彼らはそれどころではなかった。

 

「せ、説明は後で。兎に角、今は早く逃げないとまずい!」

 

「えっと、どうやって解けば……」

 

「だぁーっ! 慌てんじゃねぇ!!」

 

美咲とタイラントがダウンしている間に、どうにか虚達を解放しようと3人は試みる。だが武神鎧武はそれを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(チッ! 使えない駒共が……人質に逃げられるじゃないか。早急に何とかしたいが、暮桜のTFもピンチだ。まずはこっちからだな)

 

鎧武と戦いながら考えを纏めると、大橙丸で斬りかかる。横に転がられて回避されるがその間に武神鎧武はコマンドを暮桜フェイクに送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュークの放ったキックは暮桜フェイクの頭部を捉えた……かに思えたが、寸前に武神鎧武の送ったコマンドで粒子化され空を切った。

 

「何!? ……うわあああああああああ!!」

 

動揺する間もなく、粒子化した暮桜フェイクに身体を拘束され、床や壁等に身体を激しくぶつけられる。最終的に放り捨てられる形で解放されたが、全身打撲でまともに動くことができず、衝撃でゲネシスドライバーがレモンエナジーロックシードごと外れて遠くへと転がった。

 

「ま、まずい……!」

 

冷や汗を大量にかきながら、凌馬はロボットモードに戻った暮桜フェイクを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あっちは大丈夫だな。次は……)はっ!」

 

「うっ!?」

 

無双セイバーのトリガーを引いて鎧武を威嚇すると、武神鎧武はカッティングブレードを三回操作した。

 

『ブラッドオレンジスパーキング!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅっ!?」

 

武神鎧武の戦極ドライバーから音声が流れるのと同時に、タイラントのドラゴンフルーツエナジーロックシードがスパークを発し、タイラントを苦しませる。

 

「何だ!? アイツのエナジーロックシードから……何か出てるぞ!」

 

「植物の……蔦、なのか?」

 

困惑する弾達の前でタイラントは蔦状の何かに全身を取り込まれ、悲鳴を上げる間もなく牛に似た白い人型の怪物に姿を変えた。

 

「!? 何あれ! 春也、貴方一体!?」

 

「オ、オーバーロード……! この世界に最初の怪人が誕生してしまったのか……!!」

 

突如現れた怪物に鎧武は驚愕し、凌馬は本来現れる筈の無かった怪人(オーバーロードインベス)の出現に衝撃を受ける。

 

「ゆ、優陽……!? その姿は何!? 一体何が―――」

 

タイラントだった怪物に詰め寄る美咲は、それ以上問いかけることができなかった。怪物が振り抜いた大剣が彼女の首を一撃で跳ね飛ばしたからだ。

 

「自分の仲間を殺した!? あの女、理性が無くなっているとでも言うのかよ!?」

 

「正真正銘の怪物になっちまったみてぇだな! てか、今の光景だと私らもやべぇぞ!!」

 

「そうだ、早く逃げなきゃ!」

 

弾は虚を、数馬は真耶を、ダリルはフォルテを連れて逃げようと走るが、怪物は凄まじいスピードで走り後を追ってくる。

 

「いけない! このままじゃ弾達が!!」

 

「邪魔させると思っているのか! どうせ代わりはいくらでもいるんだし、奴らは殺させて貰うよ! 一夏姉さんの心を折る為にね!!」

 

助けに行こうとした鎧武も武神鎧武に阻止され、いよいよ怪物の大剣が彼らを切り裂こうとした―――正にその時。

 

『ハイーッ! ブドウスカッシュ!!』

 

鳴り響く音声と共に弾丸が大剣に直撃して遠くへ弾き飛ばす。

 

「何!? 今のは!」

 

「ふう、よくわからないけどナイスタイミングみたいね」

 

ブドウ龍砲を構えた龍玄の他、基本形態に戻った各アーマードライダー達が倉庫に集って来たのだ。

 

「助かったぜ鈴!」

 

「弾、アンタ達何で生身なのよ? それにあの怪物、一体何な訳?」

 

「俺達、揃って戦極ドライバーを壊されちまってさ。あの化け物は敵側のゲネシスドライバーのアーマードライダーが、春也が何かやったせいで突然変異を起こしたんだ」

 

「……アイツ、ついに人を化け物に変えやがったのね。いいわ、あの怪物は私達が「その必要はない」えっ?」

 

倉庫に響いた新たな声に全員の視線が発せられた方向―――龍玄達の後ろに集まる。そこには腰に無双セイバーを携え、左手にメロンディフェンダーを持った仮面ライダー斬月の姿があった。

 

「千冬お姉ちゃん……!?」

 

「!? そんな、バカな! あの時、千冬姉さんは殺した筈……!!」

 

「千冬お姉様! いつお目覚めに?」

 

「ついさっきにな。それで看病の為に残ってくれてた束に話を聞いて、ここに駆けつけた次第だ」

 

「大丈夫なんですか? 病み上がりの上、身体も鈍っている筈では……」

 

「心配はいらん。私を誰だと思っている?」

 

その一言だけで全員を納得させると、斬月はタイラントが変貌した怪物へと目を向ける。

 

「……奴が何なのかは不明だが、相手は私に任せてお前達は弾達と凌馬を連れて退避しろ。あの様子だと、おそらく全身を痛めている筈だ」

 

有無を言わせぬ迫力を怪物への殺気と共に出し、ブラーボ達は無言で頷き人数を分けて指示に従う。だがバロンだけは残り斬月の隣に立った。

 

「退避しろと言ったぞ?」

 

「貴女の邪魔はしません。私は一夏さんのサポートをしますので」

 

「あの鎧武に似たアーマードライダー……春也と戦うのか」

 

「恋人として、彼が一夏さんにしたことを許す訳にはいきませんので」

 

「……わかった。そこまで言うなら私は何も言わない。ただ、健闘は祈らせて貰う」

 

「では私も貴女の勝利を祈らせて頂きますわ」

 

言い終えるとバロンと斬月は同時に走り出す。怪物が反応して攻撃しようとするがその前に斬月は行動していた。

 

『ソイヤッ! メロンスカッシュ!!』

 

「行けっ!!」

 

カッティングブレードを倒しメロンディフェンダーを投げつける。怪物に直撃しダメージを与えると同時に注意が一瞬逸れ、バロンの通過を許す。怪物が我に返ったところに、斬月は無双セイバーを引き抜いて頭上から一撃を食らわせ―――

 

「はぁぁぁあああああああああああああああ!!」

 

―――人間で言う心臓に当たる器官がある場所を全力で貫く。数秒悶え苦しんだ後に怪物はダランと力なく倒れた。怪物の屍は人間に戻ることなく、風化して消えていった。

 

「やっぱり凄い……!」

 

凌馬に肩を貸すグリドンがその光景を目の当たりにして驚嘆する。

 

(すまない3人共。後は頼む……)

 

戦闘続行が不可能になったことを不甲斐なく思いながら、凌馬は鎧武、バロン、斬月に後を託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凌馬を担いで行くグリドン達と擦れ違った斬月は、彼らを追撃しようとしていた暮桜フェイクの前に立ちはだかった。

 

「貴様の相手は私だ。相手にとって不足はないだろう?」

 

挑発的な物言いに応えるかのように、暮桜フェイクは零落白夜を発動させたブレードを振り翳す。相対する斬月は入手したばかりの新しいロックシードを取り出し、しばし見つめた。

 

「もうお前を使うことは無いと思っていたが……偽物に本物の力を示してやるのには必要不可欠だ。だからもう一度力を貸してくれ、暮桜!!」

 

『暮桜!』

 

ロックシードを解錠すると頭上に桜色をしたメカニカルなアームズが出現し徐々に降下する。戦極ドライバーからメロンロックシードを外し代わりにセットしてロックを掛け、すぐにカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! 暮桜アームズ! 零・落・白・夜!!』

 

特殊な名乗り音声と共に、メロンアームズが消滅して新たなアームズが被さり上半身に展開して鎧になる。右手には初代雪片を模した剣が握られ、斬月は新たな姿にして自らの原点の力・暮桜アームズに変身した。

 

「さすがに小型化されてはいるが、この感触、忘れはしない。行くぞ……!」

 

『ソイヤッ! 暮桜スカッシュ!!』

 

カッティングブレードを一回倒して零落白夜を発動させると、突撃し暮桜フェイクのブレードと火花を散らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあああああああああ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

一方鎧武と武神鎧武の戦いでは、到着したバロンが早速武神鎧武にバナスピアーで攻撃を加えて鎧武を援護した。

 

「セシリア!」

 

「私も共に戦いますわ! 構いませんわよね?」

 

「勿論! 凄く心強いよ!」

 

マスクの下で満面の笑みを浮かべて頷くと、大橙丸やバナスピアーを武神鎧武に向けて構える。当の武神鎧武はいきなりの乱入者に驚くも、すぐに冷静さを取り戻す。

 

「セシリアか……! 二対一とは随分なことをするもんだね。ま、一石二鳥になるからいいけど。何せ折角一夏姉さんの心を折ったと思ったら、これ以上とない支えになるんだもの。一夏姉さんの後に消そうと考えてたけど都合がいいや」

 

「相も変わらず、身勝手な理由ですこと。もう私、怒りを通り越して軽蔑しましたわ」

 

「同感だね。自分の都合で私を含めた、大勢の人に迷惑を掛けたんだもの。償いはきっちりして貰うよ!」

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

感情のままに突撃してくる武神鎧武に合わせ、鎧武とバロンも走り出す。両者の得物が同時に繰り出されるが、武神鎧武はバナスピアーは無双セイバーで、大橙丸は赤い大橙丸で受け流し攻撃をする。

だが2人は身を反らしたり身体を捻ったりして躱すと、攻撃後の隙を突いて再び各自の武器で突きを放った。

 

「ぐおっ!? くっ、やってくれるじゃないか!」

 

『ブラッドオレンジスカッシュ!!』

 

無双セイバーを腰のホルスターに戻してカッティングブレードを一回倒すと、大橙丸を両手で持ち刃にエネルギーをチャージしていく。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

勢いよく振るわれた大橙丸から斬撃が放たれて鎧武とバロンを襲う。近くにあった燃料入りのドラム缶にも直撃して爆発が2人を飲み込む。勝利を確信した武神鎧武だったが……。

 

『レモンエナジー!』

 

『マンゴー!』

 

『『ロック・オン!』』

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーレモン! ハハーッ!!』

 

『カモン! マンゴーアームズ! Fight of Hammer!!』

 

「「はぁぁぁぁあああああああああああ!!」」

 

変身音と共に爆煙の中から、ジンバーレモンアームズとマンゴーアームズにチェンジした鎧武とバロンが、ソニックアローとマンゴパニッシャーを構えて走り出てきた。

 

「なっ!? ぐぼあっ……!!」

 

完全に不意を突かれ、2人の重い一撃を食らって怯む。続けざまに鎧武はレモンエナジーロックシードをソニックアローにセットしてから、バロンはそのままカッティングブレードを操作する。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! オレンジスカッシュ!!』

 

『カモン! マンゴーオーレ!!』

 

鎧武はソニックアローを目一杯引き、バロンはマンゴパニッシャーを勢いよく振り回し始める。

 

「行けえっ!!」

 

『レモンエナジー!!』

 

「はぁああああ……やぁぁぁああああああああ!!」

 

必殺の光矢ソニックボレーと、エネルギー弾パニッシュマッシュが武神鎧武に放たれる。

 

「そうはいくか!」

 

咄嗟に大橙丸と無双セイバーの柄同士を連結させナギナタモードにした武神鎧武は、自分の前でソレをクルクルと回転させ壁をつくる。直後に2人の必殺技が命中。ダメージは軽減させることに成功したが爆煙で視界が悪くなった。

その隙に鎧武はカチドキロックシードを、バロンは戦極ドライバーをゲネシスドライバーと交換してレモンエナジーロックシードを解錠した。

 

『カチドキ!』

 

『レモンエナジー!』

 

『『ロック・オン!』』

 

『ソイヤッ! カチドキアームズ! いざ・出陣! エイエイオー!!』

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

カチドキアームズとレモンエナジーアームズに変身が完了すると一気に武神鎧武に駆け寄り、無双セイバーと火縄大橙DJ銃を合体させた大剣とソニックアローを叩き込んだ。

 

「そりゃあっ!」

 

「せぇいっ!」

 

「がはぁっ……! クソ、一方的にやられてたまるか!!」

 

体勢を立て直した武神鎧武は、無双セイバーナギナタモードで鎧武とバロンに連続して斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暮桜フェイクの大振りだが的確な攻めに、斬月はパターンを見極める為にしばし防御や回避に徹していた。そして―――

 

「……この位でいいか。はっ!!」

 

頃合いを見計らって高くジャンプし剣を逆手に持ち変え頭上高くに上げる。暮桜フェイクはブレードを横向きにして切り払う構えを作る。

 

(読み通りだな)

 

予測していた攻撃が来たことに内心で呟くと、剣をブレードに叩き付け、鍔迫り合いをする……のではなく、叩き付けた勢いで相手の頭上で一回転し背後へと着地した。

 

「はぁっ!!」

 

素早く振り向いて両足の関節部を攻撃し膝をつかせると、暮桜フェイクに登って首筋の僅かな隙間に左腕を強引に捻込んだ。

 

「終わりだ……!」

 

コードをぶちぶちと何本か引き千切ると、暮桜フェイクのカメラアイが消えて前のめりに倒れ機能を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で鎧武は火縄大橙DJ銃を分離させた上でカチドキロックシードを、バロンはソニックアローにバナナロックシードをセットしてロックを掛ける。対する武神鎧武も無双セイバーナギナタモードのソケットに、ブラッドオレンジロックシードを取り付ける。

 

『ロック・オン!!』

 

『ロック・オン!』

 

『ロック・オン! イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン!』

 

「「「はぁぁぁあああああああ……!!」」」

 

鎧武はDJ銃のトリガーに指を掛けつつもう片方の手で銃身を支え、バロンはソニックアローを持った右腕を後ろにして腰を低くし、武神鎧武は無双セイバーを両手持ちにして足を開いて構える。

 

「セイハァァァァァアアアアアアアアアアアアアーッ!!」

 

『カチドキチャージ!!』

 

「フンッ!!」

 

『バナナチャージ!!』

 

「せぇぇええええええええええいっ!!」

 

『ブラッドオレンジチャージ!!』

 

DJ銃の銃口から放たれたエネルギーの奔流とソニックアローを地面に突き立てたことで発生した、バナナを模したエネルギー衝撃波が走り、無双セイバーの斬撃と衝突する。

 

「この程度で……僕が負けてたまるかぁっ!!」

 

エネルギーを押し返そうと力を込める武神鎧武。その姿にバロンは急ぎゲネシスドライバーのシーボルコンプレッサーを、二回連続で押し込んだ。

 

『レモンエナジースパーキング!!』

 

「はぁっ! ……せやぁああああああっ!!」

 

その場でジャンプして放った急降下キック・ギャバリエンドが武神鎧武へと向かって行く。

 

「何!?」

 

驚き対応しようとするも時既に遅く、必殺のキックは武神鎧武の身体をしっかりと捉えていた。同時に防ぐものがなくなったDJ銃等のエネルギーも直撃することになる。

 

「し、しまっ……ぐああああああああああああああああ!!」

 

「これで終わりですわ、織斑春也!!」

 

直後に爆発が起きて、バロンは着地するが武神鎧武は大きく吹き飛ばされる。彼の戦極ドライバーは真っ二つに割れており、変身が解除され唯一無事だったブラッドオレンジロックシードが床に転がった。

 

「勝負ありですわね」

 

「観念しなさい、春也!」

 

「……はっ! 誰がそんなことをするものか!」

 

ブラッドオレンジロックシードを握り締めながら立ち上がると、懐に手を入れてある物を取り出し2人に見せつける。

 

「! そんな……もう一つ持っていたの!?」

 

「その通り! そしてこっちが、僕の本当の切り札と言う訳だ……!」

 

言いながら春也は取り出したソレ―――ゲネシスコアが取り付けられた戦極ドライバーを腰に宛がった。



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第38話 決着!真の勝利者

最終決戦も今回で幕引きとなります。


ゲネシスコア付き戦極ドライバーを腰に装着した春也は、『L.S.-MESSIAH』と書かれ表面がザクロを模したザクロロックシードを取り出し、ブラッドオレンジロックシードと共に解錠した。

 

『ザクロ!』 『ブラッドオレンジ!』

 

ザクロロックシードを本体側に、ブラッドオレンジロックシードをゲネシスコア側にセットして施錠をする。

 

『ロック・オン!』

 

ホラ貝のサウンドが流れ出す中、春也はカッティングブレードを倒して2つのロックシードを輪切りにした。

 

『ソイヤッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス!!

                   ハッ! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!!』

 

音声と共に春也の周りに展開済みのアームズ(前部と右側面部がザクロを模したブラッドザクロアームズ、左側面部と後部にブラッドオレンジアームズ)が現れ、ライドウェアが全身を包むのと同時に各部に装着され、春也の姿を仮面ライダーセイヴァー ブラッドザクロアームズへと変えた。

 

「来い、ガルバトロン!」

 

変身後にすぐさまガルバトロンをロボットモードにトランスフォームさせて傍に来させると、カッティングブレードを三回倒した。

 

『ソイヤッ! ザクロスパーキング!! ブラッドオレンジスパーキング!!』

 

するとガルバトロンの頭部が粒子化して空中を漂い、セイヴァーは大橙丸を振るって衝撃波を起こし鎧武とバロンに威嚇を行うと、ジャンプして頭の無くなったガルバトロンに飛び乗る。次いで粒子化した金属がガルバトロンとセイヴァーを固定させるように再実体化。これでセイヴァーはガルバトロンをダイレクトに動かすことが可能になった。

 

「アーマードライダーと、トランスフォーマーが……合体した!?」

 

「驚いたかな? フフフ……僕自身も驚きだよ。こんなに力が込み上げてくるとはね……!!」

 

愉悦に浸りながらガルバトロンの右腕にバチバチとエネルギーをスパークさせると、勢いよく地面に叩き付けた。

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「「きゃああああああああっ!?」」

 

「何っ!? ぐぅっ!?」

 

全方位に発せられた衝撃波は鎧武やバロンだけでなくやや離れた場所に居る斬月をも巻き込み、倉庫の壁を突き破って外に出る程の威力で吹き飛ばした。

 

ドガァァアアアアッ!!

 

破壊音と共に黒影トルーパーらと量産型トランスフォーマーらとの戦場に鎧武達3人及びガルバトロンセイヴァーが姿を表す。

この時バロンは衝撃波をモロに受けた影響で、ゲネシスドライバーが外れて斬月の付近まで飛ばされ、足下には同じく吹き飛ばされたと思われるリンゴロックシードが転がっていた。

 

「2人とも無事か!?」

 

急ぎ足に斬月がセシリアのゲネシスドライバーを片手に駆けつける。

 

「千冬お姉ちゃん……うん、何とか」

 

「私も平気ですわ。……ところで千冬義姉様、そのゲネシスドライバーですが」

 

「ん? ああすまん。今返すよ」

 

「いえ、そうではなくて……それは千冬義姉様に使って頂きたいのです。専用のゲネシスドライバーはまだ修理中ですし」

 

「え? そしたらセシリアはどうするの? レモンエナジーアームズ以外の強化形態は無い筈だし」

 

「これを使いますわ」

 

問いかけた鎧武に、セシリアはリンゴロックシードを拾い上げて2人に見せた。

 

「それって敵が使ってた……!」

 

「本当なら使いたくはありませんが、強力なのも事実ですので。どうでしょう、心置きなく戦えますか?(それに私の予想が正しければ……)」

 

「……ああ。感謝する」

 

戦極ドライバーを外した千冬はゲネシスドライバーを腰に宛がいメロンエナジーロックシードを、セシリアは再び戦極ドライバーを装着してリンゴロックシードを解錠し、鎧武は極ロックシードの鍵部を迫り出させる。

 

『メロンエナジー!』

 

『リンゴ!』

 

『フルーツバスケット!』

 

そして各々のドライバー及びソケットに取り付けると、シーボルコンプレッサーを押し込んでカバーを開き、カッティングブレードを倒して輪切りにし、極ロックシードを回した。

 

『『ロック・オン!』』

 

『ソーダ! メロンエナジーアームズ!!』

 

『カモン! リンゴアームズ! Desire Forbidden Fruit!!』

 

『ロック・オープン! 極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!!』

 

現れた無数のアームズの内、1つは千冬に被さって仮面ライダー斬月・真へと変身させ、1つはセシリアに被さって仮面ライダーバロン リンゴアームズという新たなる変身を遂げさせ、残りのアームズは鎧武に吸収されカチドキアームズの装甲を弾き飛ばして極アームズになる。

 

「パワーアップしようが無駄さ! 僕の勝利は変わらない!」

 

銃に変形したガルバトロンの右腕から追尾式ロケット弾を発射する。鎧武達は三方向に散らばることで直撃を免れると、それぞれがガルバトロンセイヴァーに向かって走る。

 

「させるか!」

 

ロケット弾を連続発射して鎧武達を何としても抹殺しようとする。だが彼女達はそれらを潜り抜け、斬月・真が真っ先にジャンプしてガルバトロンセイヴァーのセイヴァー部分に肉薄する。

 

「ここまで来れば!」

 

「それはどうかな!?」

 

斬月・真の振るうソニックアローを大橙丸で止めると、もう片方の手に黒いソニックアロー・セイヴァーアローを出現させて斬月・真を斬りつける。

 

「っ……!」

 

「はははは! あの時は余韻に浸っていて確認を怠ったけど、今回はちゃんと看取ってあげる。だから安心しなよ、千冬姉さん!!」

 

力を込めて武器を振り抜こうとする。だが―――

 

『カモン! リンゴスカッシュ!!』

 

戦極ドライバーの音声が流れると共に、両足の関節が破壊されガルバトロンセイヴァーは膝をつく。

 

「何だ!?」

 

「フッ、良いタイミングでやってくれる」

 

マスクの下で笑みを浮かべる斬月・真の言葉の通り、彼女がセイヴァーと対峙している間に足下へ移動したバロンがカッティングブレードを倒し、アップルリフレクターから引き抜いたソードブリンガーで切り裂いたのだ。

 

「姉さん! まさかアンタ、僕の視界を塞ぐ為にわざと!?」

 

「さすがは私の弟だ、察しが良い。が……気づくのが遅かったな」

 

『火縄大橙DJ銃!』

 

極ロックシードからDJ銃を召喚する音声が流れると同時に斬月・真はその場から離脱。斬月・真の身体に隠れて見えなかったその後ろに、オレンジロックシードをセットする鎧武の姿がセイヴァーに映った。

 

『ロック・オン!!』

 

和風ミュージックに入り交じって『フルーツバスケット!!』の音声が鳴り響き、エネルギーがチャージしていく銃口を真っ直ぐガルバトロンセイヴァーへ構える。

 

「はぁぁぁあああああああああああああ!!」

 

『オレンジチャージ!!』

 

トリガーを引くと同時に果実の奔流が、逃げることのできないガルバトロンセイヴァーを飲み込み各部を破壊していく。

 

「チィッ! こんなところで死んでたまるか!!」

 

大橙丸とセイヴァーアローで自身とガルバトロンを固定している部分を壊すと、セイヴァーは攻撃に巻き込まれる前に脱出。着地したところでガルバトロンは木っ端微塵に爆発した。

 

「僕のガルバトロンが……よくもやってくれたなお前等!!」

 

並び立つ鎧武、バロン、斬月・真に対しセイヴァーは苛立ちの言葉を投げるとロックシードのカバーを閉じ、リンゴロックシードに似た色合いで『L.S.-GOLD』と書かれた金のリンゴロックシードを取り出し解錠した。

 

『ゴールデン!』

 

ブラッドオレンジロックシードを外しゲネシスコアに代わりにセットすると、ザクロロックシード共々ロックを掛けカッティングブレードを倒す。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス!!

                   金! ゴールデンアームズ! 黄金の果実!!』

 

アームズのブラッドオレンジだった部分が消滅し、リンゴアームズの銀色の部分が金色になったものに置き換わる。セイヴァーは強化形態のゴールデンアームズに変神したのだ。

 

「それはこっちの台詞だよ! 散々好き勝手にやっておいて……これだけじゃ済ませないんだから!」

 

『パインアイアン!』

 

パインアイアンを召喚するとバロンや斬月・真と共に走り出す。セイヴァーも一気に駆け出して自ら接近していく。

 

「はあっ!」

 

「せぇやっ!」

 

まず斬月・真とバロンが先行して二手に別れ、時間差で斬りかかった。セイヴァーは斬月・真が右から振り下ろしたソニックアローをセイヴァーアローで受け止め、バロンが左から振り上げたソードブリンガーを同じくソードブリンガーで押さえ止めた。

 

「やあああっ!!」

 

そこへ鎧武がパインアイアンを投げつける。初撃と二撃目はまともに食らってダメージを受けるが、次の一撃が当たる寸前に腕の力を抜き、拮抗状態を崩して抜け出し距離を取るとセイヴァーアローから光矢を連射した。

 

『ソニックアロー!』

 

すかさず鎧武も武器をソニックアローに交換すると弓を引いて、光矢を撃ち合う。単純な撃ち合いだけなら互角とも言えたが、斬月・真及びバロンも攻撃に参加したことでセイヴァーが徐々に追い詰められていく。

 

「くっ! こんなの卑怯だぞ!!」

 

「戦いに卑怯汚いもない。それにその台詞は、お前が言うべきものではない!」

 

「煩い! 最後に勝つのが僕なのは変わらない!!」

 

『ソイヤッ! ザクロスパーキング!! ゴールデンスパーキング!!』

 

セイヴァーがカッティングブレードを素早く三回倒すと、バロンのリンゴロックシードにスパークが走り蔦のようなものが発生する。

 

「ぐうっ…!?」

 

「しまった、これは!」

 

「セシリア! ま、まさか!」

 

「そのロックシードを使ったのは失策だったな! さあ一夏姉さん! 恋人が目の前で怪物になるのを「何が失策ですって?」…何?」

 

「こうなることは、始めからわかってましたわ……!」

 

痛みに悶えながらバロンは鎧武のドライバーに手を当て、カッティングブレードを倒す。

 

『ソイヤッ! 極スカッシュ!!』

 

音声と共に極ロックシードから発生した黄金の輝きがバロンを包み、痛みを和らげながら蔦に全身を包ませた。そして、

 

「……はああああっ!!」

 

勢いよく蔦を取り払ったそこには、バロンでもセシリアでも無い別の何かが居た。異形と化したタイラントのようだが、それとは違いある程度人としての面影を残し、赤・黒・黄を基調とするステンドグラス状の模様が施されていた。

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「ええ……一種の賭けに近かったですが、このロックシードならどうにかなると思いまして。新たな力を得るとは想定外でしたけど」

 

「博打にも程がある。一時はどうなることかと思ったぞ」

 

一安心する2人。セシリアは左手を何度か握り締めながら新たな力―――かつて別の世界で黄金の果実を巡って葛葉紘汰と壮絶な戦いを繰り広げた、駆紋戒斗という男が手にしたオーバーロードの力―――ロード・バロンの感触を確かめた。

 

「理性を保っているだと!? バカな…こんな筈では!!」

 

後方へ飛び退いたセイヴァーは戦極ドライバーからザクロロックシードを取り外すと、セイヴァーアローの窪みにセットしてロックを掛け弓を引き絞った。

 

『ロック・オン!』

 

それを見た鎧武と斬月・真もソニックアローにレモンエナジーロックシードとメロンエナジーロックシードを付けて弓を強く引き、ロード・バロンは専用の剣グロンバリャムを構える。

 

『『ロック・オン!』』

 

セイヴァーアローとソニックアローの先端にエネルギーが集まって輝きを放つ。

 

「今度こそ、死ねぇ!!」

 

『ザクロチャージ!!』

 

「もう弟だからと容赦はしない……!!」

 

『メロンエナジー!!』

 

「でやぁあああああああ!!」

 

『レモンエナジー!!』

 

「はああっ!!」

 

殺意と強欲を乗せて発射されたザクロ色の光矢は、自らを気体化して一瞬で距離を詰めたロード・バロンに切り払われ、レモン色とメロン色の光矢が狼狽するセイヴァーを襲う。

 

「なっ……!? うわああああああああああっ!!」

 

まともに食らったセイヴァーは仰向けに倒れる。それでも立ち上がるその姿に、鎧武達は怒りを通り越して呆れる。

 

「春也、貴方まだ戦うつもりなの?」

 

「こうなったらあの戦極ドライバーも破壊するしかありませんわ」

 

「ああ。奴を止めるには、もうそれしかないだろう」

 

判断を決めた後の行動は早かった。鎧武はカッティングブレードを一回倒し、ロード・バロンは右足に力を込め、斬月・真はシーボルコンプレッサーを二回押し込んだ。

 

『ソイヤッ! 極スカッシュ!!』

 

『メロンエナジースパーキング!!』

 

「「「はっ!」」」

 

その場で勢いよく斜め前に向けてジャンプをし、空中でキックの構えを作ると全身全霊でセイヴァーに放った。

 

「はぁぁぁああああああああああああああああああっ!!」

 

「セイハァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「せぁぁぁぁあああああああああああああああああっ!!」

 

アーマードライダー2人+オーバーロード1人による必殺のトリプルキックがセイヴァーへと刺さる。咄嗟にセイヴァーアローで防御しようとするが、あっという間に崩されて直撃を受けた。

 

「ぐわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

セイヴァーの戦極ドライバーはロックシード毎粉々に砕け散り、地面に倒れ込んだ後に春也の姿へと戻った。

と同時に、周りの戦場でも変化が起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした!? 来やがれ、このクズ鉄野郎!!」

 

スティンガーの頭に掴まり攻撃しつつ挑発するシグルド。引き剥がそうと必死で右手を伸ばすスティンガーだが、手が届く前にシグルドは背中等の別の場所へ移動して超至近距離での攻撃を止めなかった。

 

「完全に遊んでるわね……ま、これ切るのにわざと時間掛けた私が言えることじゃないけど」

 

切り落としたスティンガーの左腕を踏みつけているブラックバロンは、ため息をついて言った。

 

「やっぱり戦場で自分の性癖は出すものじゃないわね。いたぶり過ぎて疲れたし、躁鬱感もあるし……面倒だからさっさとやっちゃいましょうか」

 

『カモン! バナナスカッシュ!!』

 

カッティングブレードを倒した後瓦礫を踏み台にして勢いよくスティンガーへと飛ぶ。

向かってくるブラックバロンに気づいたスティンガーは、シグルドを振り解くのを中断して右腕を向けてロケット弾を連発する。

 

「はっ!」

 

だがバナスピアーから放った斬撃で全て撃墜すると、ブラックバロンは一度スティンガーの右腕に乗って再びジャンプ。上空から重力に任せて落下し、スティンガーの右腕と勢い余って右足をバナスピアーで両断した。

 

「トドメは任せたわよ、オータム」

 

「オーケー!」

 

『ロック・オン!』

 

ソニックアローにチェリーエナジーロックシードを装填して施錠すると、倒れ込んだスティンガーの首元に当てて力一杯弓を引く。

 

『チェリーエナジー!!』

 

チェリー色のソニックボレーがスティンガーを貫き、機能を停止させる。次なる相手はいないかと周りを見た直後、2人は異変に気づいた。

 

「? おいスコール、見ろよ」

 

「動きが変ね……」

 

他のトランスフォーマー達の動きが一律して鈍くなり、やがては完全に静止してしまった。カメラアイも消えた為、彼女らは全てのトランスフォーマーが機能停止したのだと判断した。

 

「命令系統をコントロールするものが破壊されたのかしら?」

 

「てことは、アイツ等がやってくれたのか?」

 

「ええ、おそらく」

 

警戒そのものは怠らないが、一先ず戦闘が終了したことに安堵するブラックバロンとシグルドであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざ、ザクロロックシードが……! これじゃトランスフォーマー達を動かすことが……! だけどまだだ、まだ僕には―――」

 

全ての手を失い焦りに焦る春也は、どうにか立ち上がろうともがくがダメージが抜けきっておらず、動けずに居た。そんな彼に鎧武はゆっくりと近づいていく。

 

「い、一夏姉さん……!」

 

「……こんなことを言うのもなんだけど、いい様よね。私や他の皆を利用して、自己中心的な考えを通そうとしたツケが来たんだと心底思うよ」

 

『無双セイバー!』

 

『火縄大橙DJ銃!』

 

極ロックシードを回して無双セイバーとDJ銃を召喚すると2つを合体させ大剣モードにする。

 

「お、おい……それで何をする気だ? まさか、僕を殺すつもりじゃないだろうな!?」

 

「だとしたら……どうする?」

 

「ま、待て! 考え直すんだ、一夏姉さん! 束さんを超える偉大な頭脳を、この世界から消す気か!? それに僕は世界で唯一の男性IS操縦者だぞ! それを殺したらどうなるか……!!」

 

「心配無いんじゃない? ISコアは学園にあるもの以外は貴方が壊しちゃったし、私達のはロックシードに変化したし……何より束さん本人にコアを作る気が無いみたいなんだって。知らなかった?」

 

『ソイヤッ! 極オーレ!!』

 

戦極ドライバーのカッティングブレードを二回倒して大剣にエネルギーを溜める光景に、春也はいよいよ危機感を感じ取っていた。

 

「やめろ! 落ち着け、落ち着くんだ! 過去に一夏姉さんにしたことは全て謝る! それに一夏姉さんも、僕と同じ人殺しにはなりたくないだろ!?」

 

「……確かに人殺しをしたくはないし、する気もなかった。今までは……だけど、貴方だけは別。貴方は超えてはならない一線を超えた。にも関わらず今こうしている間も反省の色が全く見えてこない……そんな奴に生き延びられたら、また悲劇が起きる」

 

「待て、待ってくれ! わかった、反省する! 罪を償う! だから頼む、い、命だけは!」

 

「それと一番最初の質問に答えてあげる。……いくら天才的な頭脳を持っていても、人間性が最悪なら―――価値なんて無いに等しいんだよ!!」

 

大剣を振り上げ、両腕にしっかりと力を込める。

 

「あ、あああ……! や、やめてくれぇぇぇええええええ!!」

 

「………………………」

 

みっともない命乞いを無視し、鎧武は大剣を勢いよく春也に振り下ろした。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

絶叫をバックに大剣が春也の身体を切り裂―――かず、顔のすぐ傍の地面に突き刺さり抉っていた。

 

「……なんてね。貴方みたいな小心者、殺す価値がある訳ないじゃない。2人もそう思うよね?」

 

春也に背を向けて変身を解除し同意を求める。斬月・真も解除するが、ロード・バロンはセシリアの姿に戻るとリンゴロックシードが勝手に外れて粉々になった。先ほどの進化は一過性のものであったのだろう。

 

「一夏……そうだな。春也はしっかりと法の裁きを受けるべきだ。それでコイツも頭を冷やしてくれるだろう」

 

「この男のことですから、素直に罪を認めるとは思えませんが」

 

目を閉じて頷く千冬に対しセシリアは肩を竦めながら、失禁し気絶した春也をジト目で見て言う。

こうして、1人の男が起こした自分勝手な戦争は終わりを告げたのであった。




今回の話でロード・バロンを出す予定は始めはなく、リンゴアームズのままトリプルキックを放ち、変身解除後にロックシードが砕ける内容でした。
しかし、ここまで来たのだから1話だけでも出したい!と思い、やや強引ですがロード・バロンに限定的ながら変身させました。


とまあ零れ話はさておき、次回はいよいよ最終回です。ここまで読んで下さった皆さん、どうか最後までお付き合い下さい。


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最終話 愚者の末路/それぞれの未来へ

春也の野望を挫いてから一週間。IS学園は男性IS操縦者が世界征服を目論んだことと、もう1つとあるビッグニュースに大騒ぎしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、本当に今日も騒がしいわね……私達以外誰も居ないのに、なんでここまで声が聞こえるんだか」

 

一夏とセシリアの部屋に集まったアーマードライダーの面々の内、鈴が「ある意味凄い」と呆れ半分感心半分で言った。

 

「仕方あるまい。私達とて大層驚いたものだ。何せ、かの『白騎士事件』の真相が千冬お姉様と篠ノ之博士による、壮大なマッチポンプだと言うからな……織斑春也が言っていたのはこのことだったんだな」

 

驚き過ぎて疲れたという表情のラウラの通り、千冬と束は緊急会見を開いて白騎士事件の真相を明らかにしたのだ。

 

「もう開いた口が塞がらないとかのレベルじゃないよ。現に大騒ぎになってるし」

 

「お2人とも各方面から連日攻められ続けて、見るに堪えませんでしたわ」

 

「ネットとかの書き込みも凄まじかったわ。しかもここの生徒達まで、まるで掌を返したみたいに罵詈雑言を言い放ってたわよ。……女尊男卑社会に染まってた人もね」

 

「ほんと自分勝手だと思う。周りに流されてコロコロ意見を変えて……怒る気も失せるよ」

 

「それがある意味人間らしいと言えば、らしいかもしれないけど。…ていうか一夏、さっきから黙り込んでるけど、何考えてるの?」

 

話に参加せず、「うーん」と唸っている一夏に鈴がふと尋ねると、我に返ったのか周りを見渡して言った。

 

「ああ、うん……ちょっと気になってて。春也は何を原動力にして世界征服に乗り出したのかとか、色々……」

 

「何でってそりゃあ……何でかしら?」

 

「今更理由などどうだっていい。どうせ碌なものではない」

 

「それもそうか……」

 

「あの」

 

とここで、今まで黙っていた真白が手を挙げた。

 

「織斑春也は今後、どうなるのでしょうか?」

 

「気になるの?」

 

「一応は前のマスターですし」

 

「ま、死刑は確定だろうな。それ以外に奴に掛けられる刑があるとは思えん」

 

「そっか」

 

「……顔色1つ変えませんのね」

 

「あれだけのことをしたんだもの。可哀想だとか、そういう類のものは一切沸かないんだ。不思議なことに」

 

「当然のことだとは思うよ。でも彼のことだから、納得はせずに脱獄すると思うけど」

 

「そうなったらプロフェッサーが何とかするらしい(間違いなくその場での殺害だろうが)。それより千冬お姉様達が今どうしてるのか気になるぞ」

 

「さっき会見を終えて職員室で突っ伏していたのを見たわ。相当きていたみたい」

 

「そっとして置いた方が良さそうかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしゅっ! ……風邪でも引いたか?」

 

一夏達が千冬の身を案じていた頃、当の本人はマドカの付き添いで凌馬が取り調べをしている部屋へと向かっていた。

 

「姉さんが風邪を引くとは思えないな。誰かが噂しているんだろう、きっと」

 

「全世界に及ぶな、それは」

 

「これが終わったらしばし静養しているといいよ。……ところで、救助された3人の様子なんだが」

 

「ああ、どうなった?」

 

「フォルテ先輩は身体的、精神的な面双方で特に問題なし。むしろレインとより親密な関係になっている。が、虚先輩と山田先生は……」

 

「どうした?」

 

「確か救助に当たったトルーパー隊の…そう、五反田と御手洗と付き合いを始めたらしい。先生曰く、助けに来た王子様に一目惚れしてしまった、だそうだ」

 

「話に聞いてた布仏のみならず、真耶までもか……」

 

互いに羨ましく思いながら取調室のドアをノックして入る。そこには千冬とマドカを振り向いて見る凌馬と項垂れたままの春也の姿があった。IS学園に入学していた為、便宜上ここに連れてくることにしたのだ。

 

「やあ。疲れているだろうに悪いね」

 

「長姉として会っておかなければな。で、様子は?」

 

「目を覚まして状況を伝えた時から項垂れてばかりだったけど、裁判無しの死刑が確定したのを伝えたらもう余計に。いくら聞いても何にも答えてくれなくなっちゃって」

 

「そうか……」

 

千冬は凌馬と席を代わると春也の顔を上げる。その目は虚ろだったが千冬を見て焦点を合わせた。

 

「千冬姉さんか……何か用?」

 

「刑が確定したと聞いてな。日取りが決まる前に面会しておこうと思ったんだ。それで単刀直入に聞くが、今の心境はどうなんだ?」

 

「心境だって? 決まってるじゃないか。……今も腸が煮えくりかえる思いだよ」

 

「……………………」

 

「僕が、僕こそが千冬姉さんの跡を継いで世界の全てを支配するに相応しい存在だったんだ。なのに邪魔されたばかりか死刑だって? ふざけるな……僕はまだ死ぬわけには……!!」

 

会話の途中で半ば錯乱して頭を抱える春也の姿に、千冬は彼が反省も何も全くしていないことを理解し、同時に姉として抱いていた弟への想いも完全に消え去った。それを察したのかマドカが声を掛けた。

 

「もう行こう、千冬姉さん。コイツはもう……どうしようもない」

 

「……ああ」

 

促される形で席を立ち、部屋を去って行く。凌馬も最後に春也を一瞥すると何も言わずに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……という話だった訳だけども、どう?』

 

「うーん、『あっそう』って感じ。今更アイツに興味も同情もないし」

 

ラボにて凌馬と通信をしていた束は春也について素っ気なく答えた。彼女の中で織斑春也への感心はついに失われたのだ。

 

『そうか。それより、戦極ドライバーとロックシードの、正式な発表の準備はどうだい?』

 

「問題ナッシングだよ~。でもいつ発表して配るの?」

 

『ある程度落ち着いてからだね。ISを大量に失ったという傷跡は大きいし、何より各地の復興に力を注いでいる現状だから』

 

「オッケ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜のこと。懲罰房にて春也はブツブツと呟いていた。

 

「……こんなところで死んでたまるか……世界は僕のものだ、僕が支配するんだ……!」

 

やがて口の中に手を入れると歯の1つを取り外して出した。それは本物ではなく精巧にできた差し歯で、彼が力を込めて上下から押さえると小さな光と共にゲネシスコア付き戦極ドライバーとザクロロックシード、金のリンゴロックシードが現れた。

 

「万が一の為に、予備のドライバー一式をISの拡張領域(バススロット)を応用して作っといたコレに隠しておいて良かった。後は……」

 

素早く戦極ドライバーを腰に宛がうと各ロックシードを持つ。だが金のリンゴロックシードは春也が所持した瞬間メッキが剥がれたかのように色が黒くなり、『L.S.-DARK』と書かれた黒のリンゴロックシードに変化した。しかし必死になっている春也は気づかず、ザクロロックシードと黒のリンゴロックシードを解錠し、それぞれ本体側とゲネシスコア側に取り付けた。

 

『ザクロ!』 『ダークネス!』

 

『ロック・オン!』

 

そしてカッティングブレードを倒して2つのロックシードを輪切りにした。

 

『ソイヤッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス!!

                   黒! ダークネスアームズ! 黄金の果実!!』

 

音声と共にブラッドザクロアームズと同様の方法でアームズが装着され、春也はブラッドオレンジアームズだった部分が黒く染まったリンゴアームズに似たものに変わった、仮面ライダーセイヴァー ダークネスアームズに変身した。

 

「さてと……」

 

両手に持ったセイヴァーアローと刀身がマゼンタ色になっているダーク大橙丸を握り締めると、そのまま壁を破壊して外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

けたたましく警報が鳴る最中、夜の中を走るセイヴァーは海岸に辿り着いたところで足を止めた。暗闇の中で懐中電灯の光を照らされたからだ。

 

「やっぱり予備の装備を持っていると思っていたよ。こういうことには抜け目が無いからね、君は。無理言って束に怪我を治して貰って正解だったよ」

 

懐中電灯で自らを下から照らすと、凌馬は戯けたように語りかける。

 

「戦極凌馬……! 僕を止めに来たのか?」

 

「勿論。いくら何でも、このまま逃がす訳にはいかないからね。……と言うか、ここから逃げた後君はどうするつもりだい? 後ろ盾は無いんだよ?」

 

「僕の後ろ盾が女性権利団体だけかと思ったか? 残念だったな。使ってないだけで、連絡を取り合っていた場所はいくつかあるのさ。僕はそのどれかに逃げて、ISとトランスフォーマーを再生産し、今度こそ世界を僕の前に跪かせるんだ!!」

 

「なるほど……よーくわかった。尚更君を逃がす訳にいかないってことが!」

 

白衣の内側に手を入れた凌馬は、タイラントが使っていたのと同型だが型式番号が『E.L.S-HEX』になっているドラゴンフルーツエナジーロックシードを出して解錠した。

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

頭上にドラゴンエナジーアームズが出現し、予め装着していたゲネシスドライバーにセットするとシーボルコンプレッサーを押し込む。

 

『ロック・オン!』

 

『ソーダァ! ドラゴンエナジーアームズ!!』

 

最初の以外タイラントのと同じ音声が流れるとアームズが被さり、全身を包んだゲネティックライドウェアの上に展開。タイラントのそれとは違い左右非対称で胸にデュークの紋章が描かれたドラゴンエナジーアームズに変身した。

 

「やれるものならやってみろ! 戦極凌馬ァァァ!!」

 

「っ!」

 

一気に接近したセイヴァーとデュークは互いの獲物を振るう。セイヴァーアローとソニックアローがぶつかって火花を散らし、ダーク大橙丸による不意打ちを身を捻って避けると装甲にソニックアローを突き立てる。

 

「一夏ちゃんはお前を殺す価値の無い男と言ったらしい。全くその通りだと思うよ……だが、彼女はこうも言ったそうだ。このまま生かしておけばまた悲劇が起きると!」

 

「所詮一夏姉さんは極悪人を殺す勇気もない、ただの腰抜けだったのさ! 僕を生かせたらこうなることぐらい、わかっていた筈なのに!」

 

「だが正直なところ、私は安心している。理由がどうであれ、一夏ちゃんのような優しい子に人殺しの十字架を背負わせたくは無かったからね。それと同時に彼女には感謝もしている。こうして俺自身の手で、お前に対するケジメをつけられるからな!!」

 

「本気で殺すと言うのか、僕を! できるものか、お前も犯罪者になるんだぞ!!」

 

「心配ご無用! 政府や学園側には、万が一の時は自分で始末をつけると通してある!」

 

「!? ……それは一夏姉さん達も!?」

 

「知ってるさ、当然!」

 

強引に振り払って距離を取ると、膝立ちの状態でソニックアローとセイヴァーアローの弦を引いて光矢を放つ。1発目は互いに躱し、続けて放った2発目は肩に直撃して転倒する。急ぎ立ち上がると移動しながら撃ち合い、攻防を続ける。

 

そしてとある一発が2人に当たり仰け反らせると、それぞれのロックシードをドライバーからアローに装填し直した。

 

『『ロック・オン!』』

 

力強くグリップを引き、照準を合わせてほぼ同じタイミングで彼らはソニックボレーを放った。

 

『ドラゴンフルーツエナジー!!』

 

『ザクロチャージ!!』

 

発射された光矢は軌道上で衝突。一瞬の拮抗の後にデューク側がセイヴァー側を消し去り、セイヴァーの戦極ドライバーに直撃しスパークを散らさせる。

 

「ぐあっ……! バ、バカな……! 僕が、この僕がこんなところで!」

 

「とっくに剥がれ落ちているんだよ、お前が表面に貼り付けた金メッキは。その醜悪なリンゴのアームズが証拠だ。……それじゃあ、トドメだ」

 

『ドラゴンフルーツエナジースカッシュ!!』

 

シーボルコンプレッサーを押し込みソニックアローのアークリムにエネルギーをチャージする。

 

「黙れ! 何もかもお前に邪魔されたままでたまるか!」

 

対するセイヴァーもカッティングブレードを倒しダーク大橙丸を握る。

 

『ソイヤッ! ザクロスカッシュ!! ダークネススカッシュ!!』

 

「はあああああああああっ!!」

 

「うあああああああああああっ!!」

 

ソニックアローとダーク大橙丸が激突して爆発音が上がる。デュークはダーク大橙丸の刀身を膝蹴りでへし折ると、折れた刃を握り締めてセイヴァーに突き刺した。

 

「うぐっ!?」

 

「うらぁぁぁぁああああああああああ!!」

 

怯んだ隙にソニックアローによる一閃で、ついにセイヴァーのボディに決めの一撃を食らわせた。

 

「い、嫌だ……僕は、僕は世界の王になるんだ! 世界は……僕のものだぁぁぁぁ!!」

 

死への恐怖に取り憑かれながらセイヴァーは爆死し跡形もなくなった。

 

「……最後まで君の性格を直せなかったのは本当に残念だよ」

 

何れやってくるであろうIS学園の教員らへの説明内容を考えながら、凌馬は悲しげな面持ちで闇夜を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れ、束と凌馬はISに代わる物としてアーマードライダーシステムを正式に発表。それに伴い、女尊男卑で今まで虐げられてきた世の男性達が暴動を起こすなどの混乱が世界各国で起きたが、やがて収束し平和な世界へと進んだ。

IS学園は名を変え、アーマードライダーの変身者を育成する機関になり必然的に男子生徒も続々と入学し始めた。

尚、IS学園に配備されていたが為に生き残った僅かなISは廃棄するか否かで議論されたが、最終的に忌むべき歴史として忘れることが無い様、ISコアと分離した状態でそれぞれ博物館に展示されることになった。

 

 

 

そして一夏達一年生が進級し、卒業を迎えるのもほぼ同じ時期であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日でもう卒業か……長い様で短かったなぁ」

 

「ええ。あっという間でしたわ」

 

卒業式を終え、三年間の学園生活に思いを馳せる一夏。そんな彼女にセシリアは寄り添うと、そっと手を握った。いつもなら一夏も微笑み返すが、今日はそれでも何か考え込んだ表情のままだった。

 

「一夏さん? どうしましたの?」

 

「うん……もし私がセシリアと出会ってなかったらって思って。セシリアを好きになることも、春也への恐怖心を払うことも出来なかったんじゃないかなぁって」

 

「そうですわね……私も一夏さんと出会ってなければ、アーマードライダーになることも、プロフェッサー達と出会うことも無かったかもしれません……」

 

しみじみと語りながら、初めて一夏と出会った日のことを思い出す。

 

「やっと見つけました」

 

そこへ式の間、一般席に座っていた真白が駆け寄ってくる。

 

「あ、ごめん真白。ほったらかしにしちゃって……」

 

「気にしてませんので大丈夫です。それより、向こうで皆さんが待っていますよ?」

 

真白が向けた視線の先を見やると、やや遠くに凌馬や箒等の面々が立ち並んでおり代表するかのように鈴が手を振っていた。

 

「なら早く行きませんと。これ以上待たせる訳にはいきませんわ」

 

「うん。行こう、2人とも」

 

一夏はセシリアと真白と共に、平和を守る為に命を掛けた仲間達の元へ走った―――




これにてインフィニット・ストラトス―失われた未来―は完結となります。失われたのは春也の未来だった……という。タイトルからしてネタバレだったんですw
結局春也は死にましたが、だったら何で前回見逃したのかと気になる人も居るでしょう。
実は初期のプロットでは一夏がそのまま春也を殺害し、最終話は単なる後日談の予定でした。しかし一夏の心情が描写しにくかった(極悪人とは言え弟を手に掛ける訳ですから平然としていてはおかしいし、かと言って重くし過ぎるのも後味悪いし)のと、凌馬の台詞にある通り彼女に殺人をして欲しくなかったのと、決着は彼の手でつけさせたかったので急遽結末を書き換えました。前回でゴールデンアームズを出したのも、金メッキが剥がれたダークネスアームズを出すのに極力違和感を無くす為です。

こんな最終回ではございますが、ここまで続けられたのは偏に読み続けて下さった皆様のお陰です。ご愛読ありがとうございました! 次回作でもまたお会いしましょう! では!!


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番外編1 AfterEpisode withラウラ

大変長らくお待たせしました。ようやく番外編の1つが完成しました。ああ、疲れた……
今回は本編に出なかったとあるキャラクターの登場と、そのキャラとラウラに関するオリジナルの掘り下げをしております。色々ツッコミどころがあるとは思いますが、どうぞ宜しくお願いします。


戦いが終わって半年―――

 

「んふふ~♪」

 

篠ノ之束はいつになく上機嫌だった。ニコニコと笑みを浮かべ鼻歌を歌いながらテレビに映されたDVDを見て。だがこれは今に始まったことではない。

 

「……またそれを見ているのかい? 何回目だ?」

 

「ん~、かれこれ20回目かな?」

 

「飽きないもんだねぇ」

 

「何度見たって飽きることはないよ。いっちゃんとせっちゃんの晴れ姿を収めているんだもん!」

 

そう言う束が見ているテレビには、ウエディングドレスを着た一夏とセシリアが神父を前に誓いのキスを交わしている姿が映し出された。

 

「ま、それもそうか……」

 

デスクの上に置かれている写真立てを凌馬は徐に手に取る。写真には真白を挟んで両脇に立ち笑顔を向ける一夏とセシリアが写っている。

 

「ちょっといいかしら?」

 

とそこへ、スコールがノートパソコンを片手に歩いてきた。その表情はいつになく真剣だ。

 

「どうしたんだいスコール? 新たな違法研究所が見つかったのかい?」

 

「大正解よ。これを見て頂戴」

 

ノートパソコンを開いて机に置き画面を見せる。束もDVDを止めてパソコンを覗き込んだ。

 

「ほう、ドイツの研究所か。どれどれ、分野は…『軍事用人造生命体に関する研究・開発』…………これってまさか?」

 

「ええ、ラウラの生まれた場所と見て間違いないわ。この分野に関する研究はドイツじゃここでしかやってないみたいだし」

 

「ふーん。ところですーちゃん、何か変わったところは? ま、何も無いと思うけど」

 

「……残念ながらあるのよ」

 

「と言うと?」

 

「この研究所は極最近……一週間程前までは普通に研究員が活動していたのが、ハッキングした監視カメラの映像から判明しているわ。でもそれ以降は誰も映ってない(・・・・・・・)……」

 

「誰も? 死体さえもかい?」

 

問いかけに対し無言で頷くスコールを見て凌馬は顎に手を当てて考え込む。

 

「どうするりょーくん? いつも通り乗り込んでパパッと調べて、後はドカンと爆破しちゃう?」

 

「いつも通りとはいかないかな。少しばかり戦力を増加する必要があるからね」

 

言うが早いか、凌馬は携帯を取り出し電話をかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、ドイツ・研究所付近―――

 

「で、私達まで呼び出されたという訳か」

 

「そゆこと」

 

サクラハリケーン等のバイクが停車させてある草原にて、千冬はため息と共に凌馬や他の面々を見渡した。

 

「……些か戦力が過剰だと思うのだが?」

 

「何があるかわからない以上、これぐらいは妥当だと思うけど?」

 

研究所に乗り込む為に揃えたメンバー―――鈴・ラウラ・シャルロット―――を見て若干心配顔になる千冬に肩を竦めながら凌馬は言う。

 

「それはそうとプロフェッサー。今回の任務に関して私達を選んだ理由は? ラウラはドイツ出身だからわかるけど」

 

「理由は…そうだね。ラウラちゃんは鈴ちゃんが言った通りで、シャルロットちゃんは任務や訓練で彼女といつも一緒に居るから。んで鈴ちゃんと千冬は……暇そうだからかな?」

 

あまりにもあんまりな理由に千冬と鈴はガクッとなる。だがラウラは彼らの遣り取りも耳に入れず、じーっと研究所を見つめていた。

 

(私の生まれた場所、か……記憶には無いが何故か惹きつけられる。あの中に何があると言うんだ……?)

 

「それで僕達はどうやって侵入すればいいんですか? 正面突破…じゃないですよね?」

 

「そのつもりだけど?」

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「もぬけの殻らしいからね。まあ万が一に備えてドライバーを装着しておけば何とかなるだろう」

 

懐をまさぐって戦極ドライバーを取り出し腰に当てて装着する。千冬達も次々と戦極ドライバーを装着していく。

 

「プロフェッサーが戦極ドライバーつけてるの、初めて見たかも」

 

「いつも使っているゲネシスドライバーがオーバーホール中だからね。さ、あんまり長居していると日が暮れちゃうから、早く行こう」

 

自ら先導し、凌馬は研究所へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、入ったはいいがどうすればいい? 片っ端から調べろと?」

 

「……いや。その心配は無いらしい」

 

研究所に入った後、凌馬は床に落ちている植物の葉を拾って呟く。

 

「何の葉っぱ?」

 

「見た感じは薔薇だね」

 

短く答えると歩き出して立ち止まり別の葉を拾う。そして再び歩を進め、葉を拾いながら奥へ奥へと歩いて行く。

 

「なんでこんなに薔薇の葉っぱが落ちているんだろ? 植物の研究でもしていたのかな?」

 

「だといいが」

 

物色しながらラウラは次の部屋へと移る。そこで目にした光景に、彼女は疑問を抱かざるを得なかった。

 

「皆、来てくれ。少し様子が変だ」

 

何事かと集まるとラウラはある部分を指した。一見すると何の変哲もない壁だが、床には薔薇の葉がそこに続くかのように落ちていた。

 

「何で壁に続いているのかしら? 何かしら扉とかならわかるけど」

 

「ふむ……」

 

ふと凌馬は近くに備え付けられているAEDボックスに目をやった。これも一目見ただけでは特に変わった様子はないが、凌馬はAEDボックスを急に掴むとガタガタと揺らす。すると……

 

バキッ

 

ボックスが壁から外れ、その下に何かの解除装置と思われるテンキー付きの端末が姿を露わにした。

 

「思った通りだ」

 

フッと笑みを浮かべた後、懐からタブレットと接続コードを取り出すとコードの端をタブレットのソケットに繋ぎ、端末側を見てそこにアダプターを差し込むとコードの反対側を繋いだ。

凌馬はタブレットを操作すると数十秒もしない内にピーッという解除音と共に壁だった部分が手前に開いた。

 

「隠し扉だったのか」

 

驚きながら千冬は扉に手を掛け大きく開ける。隠し扉の内側にはもう1つ白い扉があり、こちらは普通の扉だが『遺伝子強化体実験室 関係者以外立ち入りを禁ずる』と文字が書かれていた。

 

それも開けるとその先は壁・天井・床全てが真っ白な幅の広い廊下になっており、左にNo.Aと書かれたドアとNo.Bと書かれたドアがあり、反対側にはNo.Cと書かれたドアが1つあった。

 

「どこから調べたらいいかな?」

 

「こういうのは番号の若い方から調べるって相場が決まってるのよ。だからまずはここからね」

 

警戒しながらドアを開ける。No.AとNo.Bの部屋を隈無く調べていくが、どちらも液体に満たされた人が入れそうな円筒型カプセルがいくつか立ち並んでいるだけで何もなかった。

 

「残るはNo.Cの部屋だけか。せめてこっちには何かあって欲しいけどねぇ……ってラウラちゃん?」

 

「C……か」

 

感慨深げにラウラはドアに触れる。気を取り直してドア横の壁に背中を貼り付けると、そっと開けた。

 

ヒュッ!

 

「っ!」

 

直後に部屋の中から長槍が飛び出す。普通に開けていたならばそのまま身体を貫かれていたであろう。槍はすぐに引っ込んだがその形にラウラ達は驚いた。

 

「今のは、影松!?」

 

「アーマードライダーが居るのか!?」

 

「みたいだよ。ほら」

 

部屋の中に視線を向けた凌馬の先には、影松を構えた1人の黒影トルーパーが一歩ずつにじり寄って来ているのが見えた。

 

「何故アーマードライダーがここに居るのかはわからないが……!」

 

正面に向かい合うように立ったラウラはドリアンロックシードを出して構える。解錠しようとしたその瞬間、黒影トルーパーはラウラを見て驚いた様に立ち止まり影松を降ろした。

 

「まさか……貴女なのですか? ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「!? 何故私の名前を……!」

 

「…………」

 

無言のまま黒影トルーパーはロックシードを閉じて変身を解く。そこには黒いバイザーをつけたラウラに酷似した1人の少女が立っていた。

 

「何なのこの子? ラウラに似ている?」

 

「似ていると言うよりは、まるで瓜二つよ」

 

「お前は一体……」

 

「私は『遺伝子強化試験体C-0009』、クロエ・クロニクル。『遺伝子強化試験体C-0037』……ラウラ・ボーデヴィッヒを産み出す過程で作られた失敗作です」

 

バイザーを外し黒い眼球に金色の瞳を向けて少女―――クロエは語る。

 

「私の……同士、なのか……だが何故だ? 私は貴女のことを何一つ知らなかったぞ」

 

「あの状況から考えれば無理もありません」

 

「良ければその辺りの事情を、詳しく聞かせて貰えるか?」

 

千冬の問いかけにクロエは頷くと、息を整えて事の経緯を話し始めた。

そもそもクロエやラウラは『Cナンバーズ』と呼ばれる人造兵士製造計画の一環として生み出された。獣型であった『Aナンバーズ』や『Bナンバーズ』とは異なりヒューマノイド、それも少女型にしたのは敵対する側を油断させ、攻撃の手を緩める心情を誘う為だったと言う。

生み出された個体の数は2人を含めて40人だった。が、その内無事に成長できたのは僅か8体のみであった。

 

「どうしてそんなに減っちゃったのよ? 何か事故とかでもあった訳?」

 

「人工的に生み出された命はとても不安定なものでした。免疫力が低く、少しの刺激にも過剰反応してしまう。8人も生き残れたのはむしろ奇跡に近かったのです」

 

彼女らは姉妹達の存在を認識する前から1人ずつ隔離され、様々なテストを受けさせられた。そこで各々の得手不得手を見極めたのだが……

 

「その中でも特に技きん出た能力を持ったのがC-0037……貴女だった」

 

それ故にラウラは他の姉妹達と出会うより前に違う施設に移され、そこでより戦闘に特化した教育や訓練が行われることとなった。一方でクロエ達は一カ所に集められ(奇しくも、ラウラを除いた生き残り達が初対面を果たす切っ掛けとなった)、ラウラに先んじて疑似ハイパーセンサーである「ヴォーダン・オージェ」の移植実験が行われた。

結果は全て失敗。クロエの眼球は黒く変化しヴォーダン・オージェが常時発動。更に他の6人の内2人が脳への過負荷で死亡、1人が失明することとなってしまった。

 

「そんな……」

 

彼女の話を聞いたラウラは涙をボロボロと流して悲しんだ。今まで不幸だと思っていた軍での出来事はクロエ達の身に起きたことと比べるとマシな方だった。それどころか、かけがえの無い部下や友人達を持てた自分はどれ程幸福であったか。家族同然と言い切れる部隊の皆と出会った裏で、本当の姉妹達は実験により死んでいたと言うのだ。

今にも崩れ落ちてしまいそうな衝撃と言える。

 

「そのような大切なことを、何故私は……!」

 

「自分を責めないで下さい。私達は貴女のことを恨んでも、羨んでもいません。むしろ誇りに思っていました。私達『Cナンバーズ』の存在は無駄では無かったと証明できたのですから」

 

「誇り……本当に、貴女達は私を……?」

 

「ええ。貴女は私達姉妹の誇りであり、大きな光でした」

 

ラウラの涙腺は決壊した。クロエはラウラをそっと抱き寄せ、その胸を貸した。声を押し殺して泣くラウラの姿に、凌馬達は揃って貰い泣きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてラウラが落ち着いたところで、クロエは話を再開させた。

ヴォーダン・オージェの移植が失敗した後、クロエ達5人は廃棄処分される筈だったがそれに待ったをかけた人物がいた。クロエの教育、及びテストを担当した研究員だった。

彼女は研究所の唯一の良心と言える存在であり、ヴォーダン・オージェの実験の際配置換えで生き残ったCナンバーズ全員の担当となった為、その立場を活かして脳への過負荷を抑える特殊なバイザーを開発したのである。名目上は貴重な被験体が全滅するのを防ぐ為であったが。

 

「研究員達の中で彼女だけは、私達を研究材料ではなく人として扱ってくれました。彼女が居なければ私達はとっくに死んでいたでしょう」

 

そこからしばらくは彼女のお陰で平穏な日々が続いていたが、それを崩すことになるものが送られてきた。

 

「それがこれ……戦極ドライバーやロックシードと呼ばれるもの等の設計データです。男性IS操縦者から協力の見返りとして送られてきたと研究員達は語ってました」

 

研究員達はまず得られたデータから量産型戦極ドライバーと、同時に送られてきたISコアを改造してマツボックリロックシードを製作。更にゲネシスコアやエナジーロックシードまでも製作した。

これに味を占めたのか、ロックシードに関する研究は歯止めが効かなくなって行った。設計図には無いオリジナルロックシードを作りクロエ達Cナンバーズをその実験台にし出したのだ。その勢いは最早誰にも止められるものではなかった。

 

「今までの実験が生易しいと思える程、過酷な実験を私達は強いられました。そして一週間前のあの日……」

 

その日はクロエ以外の4人がオリジナルロックシードの実験として戦闘ルームに連れて行かれ、クロエのみ別室で待機していた。だが実験開始から間もなく、突如として4人が入った部屋から植物の蔦のようなものが無数に伸びて来た。何が起こったのかを理解するより早く、植物は研究員達を次々と絡め取ると部屋へと引きずり込んで行った。クロエもあわや捕まりかけたが、1人の研究員に助け出された。最初に彼女の担当をしていた研究員だった。

 

「彼女は私を私達が生まれたこの部屋に連れてくると、万一に備えてここに10日分の非常食を蓄えていたことを教え、戦極ドライバーとマツボックリのロックシードを渡してきました。それから実験を止められなかったことをしきりに謝り……私に『クロエ・クロニクル』という名前を与えて去って行きました」

 

「……なるほど。それ以降君はここに閉じこもり、籠城戦を行ってきた訳か」

 

こくりと凌馬の問いかけに頷いて答える。

 

「要するにここも、織斑春也が関わったせいで破滅したってことね…………あんの疫病神が…………!!」

 

「自業自得と言えばそれまでだけど、彼が切っ掛けを作りさえしなければ……」

 

「クロニクル。籠城戦をしていたということは、お前は外の状況を知らなかったのか?」

 

間接的とは言え元凶である春也に対する怒りを滲ませる鈴と、改善されかけていた環境を台無しにされたことに対する悲しみを見せるシャルロットに対し、千冬はあくまで冷静にクロエに尋ねる。

 

「はい」

 

「では他の姉妹がこの一週間でどうなったのかもわからないか……」

 

「だったら探してみましょうよ。いいですよね、プロフェッサー?」

 

「勿論良いとも。むしろ私からその話題を振るつもりだったし、反対しない要素は無いよ。千冬、君もだろう?」

 

「フッ、お見通しか」

 

「……だそうよラウラ。あ、言っとくけど私も探すのに賛成だから」

 

「そうか……感謝する」

 

シャルロットの言葉を皮切りに、残る姉妹達を探そうとメンバー全員が意見を揃える。ラウラは込み上げる感情を抑えて短く礼を言うと、驚き目を見開いているクロエを見る。

 

「何故そこまで……私は何も頼んでないのに」

 

「私も今改めて驚かされたが、これが私の仲間達だ。頼まれなくても、誰かの為に行動することができる。それに……そう言う貴女も本当は探して欲しいと思っていたのでは?」

 

「それは……ええ……」

 

「だったら何も問題はない。一緒に……私とクロエ姉さんの姉妹を探そう」

 

「! ……はい!」

 

微笑みながらラウラは言うと、クロエは目に涙を浮かべつつ笑顔で頷いたのであった。

 

「じゃあ探索を再開するけど、ここから先の道案内は君に任せてもいいかな?」

 

奥のドアの前に立った凌馬が、やや後ろでバイザーをつけ直しているクロエに聞く。

 

「はい」

 

「早速だがこの向こうの部屋はどうなってたんだい?」

 

「ロックシードや戦極ドライバー等の研究・開発を行っていました。以前はISの武装に関する研究をしてましたが」

 

「何かしらの手掛かりはあるということか」

 

一言呟くと全員に目配せしてからドアを開ける。中は窓がないことと電気がついてない為かかなり暗かった。

 

「えっと、電気電気……」

 

近くの壁を触って探るとスイッチらしきものが指先に当たる。パチッとスイッチを入れると部屋の電気がつく。だが一安心も束の間、彼らの前に驚くべき光景が広がっていた。

 

「っ!? これは……!」

 

全員が息を呑んだのも無理はない。先ほど話に出てきた謎の植物が壁や天井をびっしりと覆っていたからだ。しかも床は踝の高さまで水で浸っている。

 

「な、何かとんでもないことになってるけど、大丈夫なのこれ?」

 

「わかりません……あれから何があったのか、それすらも知らずにあの部屋にいましたから」

 

「とりあえずまずはここを探そう。ロックシードを開発していたなら、幾つか置いてあってもおかしくはない」

 

積極的に部屋を探していくラウラに、思わず面食らっていた鈴とクロエ、そして全員が加わる。しばし探していると……

 

「……あれ? これってエナジーロックシード?」

 

「何? ちょっと見せてみろ」

 

シャルロットが見つけたなにかを千冬が見てみる。彼女の右手にはゲネシスコアが、左手には『E.L.S-06』と番号が振られ、表面が栗を模したマロンエナジーロックシードが握られていた。

 

「見たこともないエナジーロックシードだな」

 

「織斑春也が設計したもののようだね。ここに証拠がある」

 

復旧させたパソコンを凌馬は操作すると、春也が送ったと思われるマロンエナジーロックシードの設計図を見せた。

 

「こちらではマツボックリロックシードを複数発見した。が、それ以外にめぼしいものは無かったな」

 

「そうか。……うん?」

 

ふと足下に落ちているものを2つ拾い上げる。両方共同じ形状のロックシードだが、凌馬にとってそれらは自分の知識に全く無いロックシードだった。

 

「このロックシードは何なんだ? 表面が薔薇の花だからローズアタッカーかと思ったけど、明らかに変身用だし……設計図はあるかな?」

 

ブツブツと呟きながらマロンエナジーの設計図があったパソコンを弄る。ピッという音と共に画面が切り替わり別の設計図が映し出された。

 

「これか。えーっと…………はあ? 何だこりゃ?」

 

「どうした?」

 

「ヘンテコなものを作りやがって。何が改良だ、こんなの改悪以下の屑鉄がいいところだ」

 

「だからどうしたんだ? わかるように説明してくれ」

 

急にイライラし出した凌馬に困惑しながら千冬は尋ねる。薔薇のロックシードを指しながら凌馬は皆に聞こえる声で言った。

 

「いいかい? まず前提条件としてロックシードの材料にはISコアが必要不可欠だ。アームズを生成する負荷に耐えられるのがそれしか無いからね。だがこのロックシードは、その肝心要となるISコアが組み込まれてないんだよ」

 

「え? それじゃあ何が入っているんですか?」

 

「ISコアを用いずに安定したロックシードを作るには同質量のレアメタルが必要になる。だと言うのにここの連中と来たら、独自に作った特殊合金で賄ってる」

 

「ではこの植物は……」

 

「間違いなくロックシードの暴走によるものだ。それもここまでのものとなると、巻き込まれた者はおろか使用者もどうなっているか……」

 

「そんな! あの日は私以外の全員がそのロックシードを使った実験を……!」

 

「何だと!? では!」

 

「ぐずぐずしている場合じゃないな。クロエちゃん、次はどの扉だい?」

 

返事として指し示された方向にあるドアを確認すると、気をつけつつ開ける。

 

ドンッ

 

「うわっと! 何かぶつかっ……!?」

 

入った直後にぶつかったものを見て凌馬は、いや全員が絶句した。天井に蔓延った植物に絡まり逆さ吊りになった死体があったのだ。それもミイラ化した……

 

「ひっ! な、何よこれ!? ミ、ミイラ!?」

 

「服装からしてここの研究員に違いない。だがこうなったのは……植物に養分を吸い尽くされたのか?」

 

「映画にでも出てきそうだけど、ビンゴっぽいよ。ほら」

 

凌馬の向けた視線の先には同じく研究員らしきミイラ化した死体が幾つか転がっていた。部屋があまり広くないのもあり、死体が密集しているようにも感じられる。

 

「うっ…見ているだけで気分が悪くなってくる…………あれ?」

 

生理的嫌悪を感じ顔を顰めたシャルロットは、近くに倒れている女性研究員らしき遺体の胸ポケットから何かがはみ出ていることに気づき、それを恐る恐る手に取った。

 

(メモ帳?)

 

掌サイズの小さなメモ帳をシャルロットは捲っていく。書かれていたのは簡易的な日記のようなもので、内容はクロエが話していたこととほぼ同じで薔薇のロックシードによる実験が行われた日から先は何も書かれてなかった。……が、最後のページに書かれていたものを見て驚いた。

 

「これって……」

 

「? どうしました?」

 

思わず上げた声に反応したクロエが覗き込む。彼女もシャルロットと同じ―――否、それ以上に驚いた。

 

『C-0007 ケイリー・クロニクル C-0009 クロエ・クロニクル C-0015 ルーシー・クロニクル C-0024 シャイン・クロニクル C-0025 クレア・クロニクル』

 

最後のページにはクロエ含む5人のナンバーと名前が書かれていたのだ。

 

「私の名前と、他の姉妹達の名前でしょうか……? もしかしてこれは……」

 

「君が話していた研究員のもの?」

 

「ほう、ということはこの女性が……?」

 

聞こえてきた声の方を2人が見ると、しゃがんで先ほどの女性の遺体を調べていた凌馬と目が合った。

 

「エイミー・クロニクルって言う人らしいよ。知ってるかい?」

 

「! エイミー……間違いありません。その方が、私達の…………ああ、そんな…………!」

 

ミイラ化した遺体に近寄ってしゃがみ込むと名札を確認し、顔を見つめた後に肩を震わせながら嗚咽を漏らし始めた。凌馬は立ち上がるとシャルロットの傍へ行き、メモ帳を拝借する。

 

「ケイリー、クロエ、ルーシー、シャイン、クレア……どれも『美しい』や『光』といった意味を持っているな。シャルロットちゃん、君はどう見る?」

 

「……きっと、一段落したら養子にすることを考えてたんだと思います。そうじゃなかったら、自分と同じ名字をつけたりは……」

 

「そうか。私も、そうだと思うよ」

 

悲しげな顔で言うシャルロットに賛同すると、凌馬は傍に歩み寄ったラウラに縋り付いて、泣き続けるクロエを他の皆と共に沈痛な面持ちで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……落ち着いたか?」

 

「ええ……」

 

一頻り泣いた後、クロエはラウラから離れバイザーを外して目元を拭う。落ち着いたクロエを見て安心したラウラは遺体を見下ろす。

 

「感謝する、エイミー・クロニクル。私の姉達を人として扱い、名前を与えてくれて。出来ることなら、貴女と話がしたかった」

 

言い終えると同時にラウラはエイミーに対して敬礼した。半ば無意識だったと、後になって彼女は語った。

 

「まだ余韻があるかもしれんが、戦闘ルームに行かなければな。こちらで良かったか?」

 

「はい。この先に4人が居る筈です」

 

クロエの確認を得ると、千冬は警戒しながら戦闘ルームへと続くドアを開けた。

 

戦闘ルームはその性質上、かなり広い造りとなっていたが今し方居た部屋よりも凄惨な状況になっていた。

水嵩は膝辺りまで来ており、植物の侵食も壁や天井を覆うどころかそこら中に小さい薔薇のようなものが自生している有様だ。遺体の数も先ほどより増しており残る全ての職員が集められていることを感じさせる。極めつきに部屋の奥には、五メートル程はあろう一輪の薔薇が咲いており、しかもラウラやクロエに似た4人の少女達が、囚われているかのように絡み合った蔦から目を閉じた状態で身体を覗かせていた。

 

「あれは……」

 

ザブザブと音を立てながら近づいていく。すると4人の内1人が眠りから覚めたように目を開け、クロエを見つめた。

 

「C-0009……久しぶり、ね……」

 

「C-0015……」

 

「隣に居るのは、C-0037……ラウラ・ボーデヴィッヒかしら?」

 

「ああ。初めましてになるな」

 

ラウラの言葉に呼応したのか、残る3人の内2人が目を開け、1人は目を閉じたまま顔を向けた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒが居る……? 本当なんですかそれ?」

 

「……本当みたいだよ。C-0009も居るし」

 

「今の声がそうなのかな?」

 

「C-0024、C-0025、C-0007……」

 

「見つけたのはいいが、この状況はどうしたものか……」

 

「? C-0009、周りに居る人達は一体?」

 

考え込む凌馬と呆然とする鈴とシャルロットと冷静に務める千冬を見て、C-0015が疑問を投げかける。

 

「ラウラと共にここへ調査をしに来た方々です。私は彼らと出会い、貴女達を探していたのです」

 

「そう……でもごめんなさい。私は、私達はここから出ることはできないわ」

 

「!? 何故です……?」

 

「私達の身体はとっくに死んでいるの。だからこの植物から離れられないんだ」

 

「死んでるって……でもアンタ達は今もこうして!」

 

「彼女達が言っていることは、どうやら本当のようだ」

 

反論する鈴に、タブレット端末に繋いだ検査機械のようなものを4人に向けて何やら調べていた凌馬が言う。

 

「4人が巻いている戦極ドライバー。それぞれに薔薇のロックシードが装着されているだろう? アレの暴走によってこの有様になった訳だが、本体であろうあの薔薇は誕生後にクロエちゃんを除く全ての研究員から養分を吸い尽くして成長したらしい。無論、彼女達からもね。今4人が生きているのは、装着したロックシードと戦極ドライバーを介して薔薇からエネルギーを送り込まれているからだ」

 

「そんな……でも何であの4人だけ!?」

 

「今調べてわかったことだが、薔薇のロックシードは植物を誕生させたと同時にその心臓部になったようだ。そこにエネルギーを送り込む際、戦極ドライバーを経由して繋がっている彼女達にもエネルギーが行き渡る。だから生きているのさ。最も……偶発的なことだとは思うけど」

 

「……貴方の言う通りよ。さあ、わかったのなら私達を―――殺して頂戴」

 

「!? な、何を言うのです!?」

 

「さっきも言ったけど、私達は既に死んでいるわ。勿論、私達自身納得がいくものではなかったけれど……でももういいのよ」

 

「うん。最後にC-0009だけじゃなく、ラウラ・ボーデヴィッヒと出会うことも出来たし」

 

「私の場合は姿はわからなかったけど、ちゃんと声は聞こえたから満足だよ」

 

「だからお願い。私達を解放して下さい……こんな姿を晒してまで、生きていたくないんです……」

 

「っ……!」

 

姉妹達の覚悟にクロエは拳を握り締め、しばらくして凌馬達の方に向きを変えた。

 

「……お願い、します。彼女を……姉妹達を、楽にしてあげて下さい………っ!」

 

「……本当にいいんだな?」

 

無言のままコクリと頷く。

 

「ならば、その役目は私が引き受けよう」

 

「ラウラ……?」

 

「姉にばかり辛い役目を押しつけてはいられないからな……」

 

言い終えるとラウラは4人のもとに歩み寄っていく。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……貴女の手で逝けるのなら、本望よ。さあ、早く私達のロックシードを破壊して。そうすれば……」

 

「その前に、言いたいことがある。貴女達の世話をしていた、エイミー・クロニクルという女性が居たな?」

 

「……ええ。ロックシードの暴走に巻き込まれてしまったけれど……」

 

「彼女が貴女達に遺したものがある」

 

そう言うと凌馬が所持していたエイミーのメモ帳を広げる。思わず確認して「いつの間に」と後ろで凌馬が呟いていた。

 

「メモ帳? それに何か書いてあるの?」

 

「ああ……貴女達の名前だ」

 

「! 名前、ですって?」

 

「C-0009にはクロエ・クロニクル、C-0007にはケイリー・クロニクル、C-0015にはルーシー・クロニクル、C-0024にはシャイン・クロニクル、C-0025にはクレア・クロニクルという名前が割り振られている。姓が同じクロニクルなのを見ると、引き取って娘にするつもりだったんだろう」

 

それを聞いた4人は皆一様に涙を零した。ナンバーのみを与えられた実験体の自分達が、人としての名前を貰えるとは思っていなかったからだ。

 

「そう……エイミーは最後まで私達を想っていてくれたのね。これでもう、思い残すことは無くなったわ」

 

「……行くぞ」

 

いよいよラウラは薔薇のロックシードを破壊する為に変身しようと、ドリアンロックシードを取り出す。いざ解錠しようとしたその時―――ラウラに蔦が襲いかかった。

 

「っ!?」

 

咄嗟に回避できたが蔦は勢いよく地面に突き刺さり穴を開けていた。あのまま食らっていたら命はなかっただろう。

 

「いけない! コイツが攻撃体勢に入っている! みんな、気をつけて!!」

 

C-0025―――クレアの言葉にラウラ達は気を引き締め、下がりながら薔薇を睨み付ける。

 

「どうやらラウラちゃんが自身の命を脅かすと思って、反撃に出たらしいな」

 

「面倒な……でもやるしかないか!」

 

全員が一斉に各ロックシードを取り出すと、次の攻撃が始まる前に解錠をした。

 

『ドリアン!』

 

『マツボックリ!』

 

『レモン!』

 

『メロン!』

 

『クルミ!』

 

『ブドウ!』

 

そして戦極ドライバーに装填してロックを掛けると、エレキギター、ホラ貝、ファンファーレ、銅鑼と二胡のサウンドが鳴る中カッティングブレードを素早く倒してロックシードを輪切りにした。

 

『ドリアンアームズ! ミスターデンジャラス!!』

 

『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!!』

 

『カモン! レモンアームズ! Pierce of Rapier!!』

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天・下・御・免!!』

 

『クルミアームズ! ミスターナックルマン!!』

 

『ハイーッ! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!!』

 

出現したアームズが頭に被さり、ラウラはブラーボに、クロエは黒影トルーパーに、凌馬はデューク(戦極ドライバーver)に、千冬は斬月に、シャルロットはナックルに、鈴は龍玄に変身した。

 

「来るぞ!」

 

直後に襲いかかってくる無数の蔦を各々の武器で迎え撃つ。相手は植物なので切ったり千切ったり潰してしまえばもう襲いかかってくることは無いが、すぐさま別の蔦が襲ってくるので中々本体へと進むことができずに居た。

 

「ああもう! 次から次へと切りが無い!」

 

「それにこのパワー、まるでアーマードライダーと戦っているみたいだよ!」

 

ブドウ龍砲を連射する龍玄とクルミボンバーで殴り飛ばしているナックルが思わず愚痴を零す。

 

「ロックシードから生まれた化け物だ。それぐらいの力は持ってても不思議じゃないさ!」

 

「とは言うが、これ程の数となると……ゲネシスドライバーが無いのが痛いな」

 

「それは言えてるね」

 

背中合わせにレイピアと無双セイバーで蔦を斬り伏せるデュークと斬月は、ゲネシスドライバーを持って来られなかったことを悔やむ。

 

(! そういえばさっき……!)

 

2人の言葉でナックルは先ほど回収した、マロンエナジーロックシードとゲネシスコアを思い出して取り出す。

 

「っと、私としたことがその考えを失念していたよ」

 

「なるほどな、その手があったか」

 

その様子を見ていたデュークと斬月も、もしもの時にと持ってきていた予備のゲネシスコアと、ドラゴンフルーツエナジーロックシードとメロンエナジーロックシードを取り出す。だが―――

 

ヒュッ!

 

「うわっ!?」

 

突如飛んできた二本の蔦がデュークを縛り持ち上げる。突然のことにゲネシスコアとエナジーロックシードを放してしまう。

 

「プロフェッサー!」

 

ブラーボがドリノコをブーメランの様に投げ、蔦を切断する。バシャッと着水したデュークは素早く蔦を取り払いながら起き上がる。

 

「ふう、酷い目に遭ったよ……」

 

「プロフェッサー、これを」

 

そこへ先ほどデュークが落としたゲネシスコア一式を持った龍玄が近寄る。

 

「君が使っていいよ」

 

「え?」

 

「いや、元々君に渡そうと思って取り出したんだ。だから気にせず使ってくれ」

 

驚く龍玄を余所にデュークは戦闘を再開する。若干首を傾げながらも、龍玄は言われた通りにナックルや斬月同様にプレートを外してゲネシスコアを取り付け、エナジーロックシードを解錠する。

 

『ドラゴンフルーツエナジー!』

 

『マロンエナジー!』

 

『メロンエナジー!』

 

各ゲネシスコアに取り付けると、ナックルと龍玄の戦極ドライバーのサウンドが斬月と同じホラ貝のものに変わり、頭上にドラゴンエナジーアームズと毬栗を模したマロンエナジーアームズ、そしてメロンエナジーアームズが現れる。次にカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにし、エナジーロックシードのカバーを開く。

 

『ソイヤッ! ミックス! ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!! ジンバードラゴンフルーツ! ハハーッ!!』

 

『ソイヤッ! ミックス! クルミアームズ! ミスターナックルマン!! ジンバーマロン! ハハーッ!!』

 

『ソイヤッ! ミックス! メロンアームズ! 天・下・御・免!! ジンバーメロン! ハハーッ!!』

 

分離したアームズが各エナジーアームズと融合しジンバーアームズへ変化すると3人に被さって展開し、龍玄はソニックアローを所持したジンバードラゴンフルーツアームズに、ナックルは毬栗型手甲のマロンボンバーを両手に装備したジンバーマロンアームズに、斬月はソニックアローとメロンディフェンダーを同時装備したジンバーメロンアームズに強化変身した。

 

そして蔦に苦戦するブラーボの元へ駆けつけ、一気に蔦を排除にかかる。

 

「ラウラ! コイツ等は私達に任せて行きなさい!」

 

「薔薇の化け物を倒して、彼女達を解放するんだ!」

 

「私達のことは気にするな! この程度でやられる程、柔ではない!!」

 

「……すまない!」

 

短く礼を述べると薔薇の方へ走る。当然蔦が襲いかかっていくが……

 

「そうは行かん!」

 

「邪魔はさせません!」

 

斬月が投げたメロンディフェンダーがブラーボの周囲を漂いながら、球状の電磁バリアを発生させて蔦を防ぎ、そこへ斬月がソニックアローのアークリムで、黒影トルーパーが影松で斬りかかる。

それでも尚、蔦は壁や天井等から伸びてくる。

 

「元から断たないとダメってことかな。だったら!」

 

『ソイヤッ! クルミスカッシュ! ジンバーマロンスカッシュ!!』

 

マロンボンバーで蔦を排除していたナックルは、カッティングブレードを一回倒してジャンプすると空中で錐揉み回転し、マロンボンバーの棘を周囲に飛ばしまくる。全て飛ばすと中から栗の中身を模した小ぶりのマロンボンバーが現れる。

棘は刺さると同時に爆発し、壁等に蔓延る植物を燃やしていく。

 

「まだまだぁっ!」

 

『ソイヤッ! クルミオーレ! ジンバーマロンオーレ!!』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

更にカッティングブレードを二回倒し、マロンボンバーに炎を纏わせると勢いよく地面を殴りつけ、膝ほどあった水を全て蒸発させた。

補給源である水が無くなり薔薇はいよいよ焦ったのか、頭部と思われる花弁をブラーボに向け中央に何かしらのエネルギーを溜め込む。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ブドウスカッシュ!!』

 

「悪あがきは、みっともないわよ!」

 

『ドラゴンフルーツエナジー!!』

 

龍玄が放ったソニックボレーは、ソニックアローから双頭の龍の形となって薔薇へ向かい、花弁に炸裂した。

 

「っ……うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

ブラーボは一気に接近すると、4人の戦極ドライバーに手を伸ばした―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ありがとう……ラウラ……」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、連れてきたのがこの子って訳?」

 

「まあね」

 

亡国機業(ファントム・タスク)の一室にて、凌馬とラウラに連れられたクロエを束は観察するように見る。

 

「目の色以外はらーちゃんそっくりだねぇ。バイザーをつけてないと脳に負担がかかり過ぎて死んじゃうんだっけ?」

 

「ああ。だから私達の技術でどうにかできないかなと」

 

「うーん。やってみなきゃわかんないけど、ま、大船に乗ったつもりでいてよ。ね、くーちゃん♪」

 

「(く、くーちゃん?)は、はい。よろしくお願いします」

 

「そう緊張しなくてもいい。何考えているのかはわからんが、悪い人ではないからな」

 

「さらりとディスられた!?」

 

緊張気味のクロエを宥めた後、ラウラは研究所に居た4人の姉妹達に思いを馳せた。

 

(ケイリー姉さん…ルーシー姉さん…シャイン姉さん…クレア姉さん…貴女達のことは忘れない。だからどうか、安らかに眠ってくれ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、亡国機業(ファントム・タスク)が所有する見晴らしのいい土地の1つに、質素な墓が建てられた。

墓石にはエイミー・クロニクルの名と、彼女が名付けた4人の少女の名前が刻まれていた―――




という訳で、ラウラの姉に当たるクロエとその他オリジナル姉妹達の登場回でした。上手く書けたかなぁ……
尚、龍玄、ナックル、斬月のジンバーはこれまた強引に出しました。


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番外編2-1 AfterEpisode from NewGeneration

久しぶりの投稿です。何故こんなに遅れてしまったのか。
それは納得がいくシナリオにならず何度も書き直したことと、スパロボVに現在進行形でハマっているからです。


某日 IS学園・海岸

 

「ん~! 綺麗な夕日だ」

 

水平線に沈みゆく夕日を眺めながら、凌馬は大きく背伸びをする。だが彼の脳裏には、忘れようにも忘れられない光景が映し出されていた。

 

 

 

 

『うらぁぁぁぁああああああああああ!!』

 

『い、嫌だ……僕は、僕は世界の王になるんだ! 世界は……僕のものだぁぁぁぁ!!』

 

 

 

 

「あれから2年、か。一夏ちゃん達ももうすぐ卒業するし、月日が経つのは早いものだ」

 

かつての親友を屠った場所を見つめると彼は深くため息をついた。

 

 

 

 

『だが正直なところ、私は安心している。理由がどうであれ、一夏ちゃんのような優しい子に人殺しの十字架を背負わせたくは無かったからね』

 

 

 

 

(『人殺しの十字架』か……覚悟していたとは言え、背負ってみると結構くるもんだな。やっぱり一夏ちゃんが背負わなくてよかったよ)

 

しばらく眺めてふと空を見上げると、ゴロゴロと言う音と共に暗雲が近づいているのが見えた。

 

「おっと、こりゃ一雨来そうだな。そろそろ帰るか」

 

くるりと背を向けて二、三歩進むと凌馬は肩越しに振り向いて言った。

 

「……じゃあな」

 

やがて凌馬は去って行ったが、それ故に気づくことができなかった。春也が倒された場所にザクロロックシードの残骸の1つが落ちていたことを。立ちこめた暗雲から放たれた落雷がソレに直撃したことを。

そして残骸が妖しい光を放ち、人型のホログラムのようなものを発生させたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に3年後……

 

 

 

 

 

「ここがAR学園かぁ」

 

学園指定の制服に身を包んだ黒髪の青年が、旧IS学園―――現AR(アーマードライダー)学園を見上げて呟く。青年の名は黒樹(くろき)信吾(しんご)。彼はアーマードライダー育成機関へと様変わりした学園に、今日この日から通うことになるのだ。

 

(ああ、今更だけど不安になって来た。同級生は俺ら2人以外皆落ちたから、知り合いなんてほとんど居ないだろうし……)

 

ドンッ

 

「うわっと……!」

 

上手く友達が出来るかどうか内心悩んでいると、身体の右側に何かがぶつかりよろける。見ると女子生徒が驚いた顔で彼を見つめていた。どうやら考え事をしている間に、距離が近づいていたらしい。

 

「あの、大丈夫ですか? 申し訳ありません、話に夢中になっていたので……」

 

「あ、ああ。ていうか、こっちこそごめん。考え事しててつい……」

 

「真白お姉ちゃん、早く行こうよ。入学式が始まっちゃう!」

 

「きゃっ。まだ時間はありますから、そんなに引っ張らなくてもっ」

 

話し相手と思われる別の女子生徒に引っ張られ、彼女は体育館へと向かって行った。

 

(『真白』って言うんだ、あの子。……可愛かったな)

 

ぶつかった際に見た女子生徒の顔を思い出しポーッと考え込む。が、すぐに入学式のことが頭を過ぎり、慌てて走るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式を終えた後、信吾は自身が割り振られた教室である一組に来て席に座っていた。

 

(わかりきってたことだけど、知らない人ばかりで緊張するなぁ)

 

周りをそっと見渡して表情をやや強ばらせる。と、教室のドアが開いて黒いスーツを着た女性がと茶色のスーツを着た女性が入ってきた。

 

「おはようございます。全員揃っていますか?」

 

黒いスーツを着た女性が壇上に登って問う。腰まで届く紅色の髪が特徴的な、凛とした雰囲気を醸し出す姿は美女と言っても過言ではない。

 

「皆さん、初めまして。一年一組の担任になりました、織斑咲良(さくら)と言います。それとこちらは、副担任の澤田(さわだ)里香(りか)先生です」

 

「よろしくお願いします」

 

ショートヘアーで優しげな表情の女性―――里香がお辞儀をする。それを見届けた後、咲良は生徒達を見渡して説明を始めた。

 

「それでは、これから皆さんが学ぶことになるアーマードライダーについて大まかに説明しましょう。知っている人も多いと思われますが、アーマードライダーはISを男性でも使える様に改良したものです。しかし、そのスペックは過去開発された全てのISを上回ります。幸いにも新アラスカ条約があるので、戦争行為に用いることは禁止されていますが、探査活動、災害派遣、要人警護等の様々な分野に関わっています。ですので皆さんにはこの一年を通して、アーマードライダーの重要性及び危険性をしっかり学んで、正しく扱えるようになって貰います。次の時間ではアーマードライダーの変身訓練を早速行うので、第三アリーナに集合して下さい。私からの連絡は以上です。澤田先生は?」

 

問いかけられた里香はメモ帳を確認した後に、「大丈夫です」と頭を振った。

 

「わかりました。ああそれと、時間厳守ですので遅刻しないよう気をつけて下さい」

 

そう言うと咲良は里香と共に教室を後にした。その後の教室は少し賑やかになっていたが、青年は先ほど咲良が言った言葉を噛み締めていた。

 

「(重要性と危険性か……アーマードライダーもISも、使い方によっては人を殺す兵器になってしまうんだ。忘れてちゃダメなことだよな)よし……って、うわっ!?」

 

改めて気を引き締めて顔を上げると、目の前に男子生徒の顔があって思わず彼は仰け反った。

 

「よっ、信吾」

 

「って祐介じゃないか。心臓に悪いな」

 

「いやー、わいもそこまで驚くとは思っとらんかった」

 

そう言い、ツンツンした髪型が特徴の男子生徒―――菊池(きくち)祐介(ゆうすけ)はアハハと笑う。

彼は大阪出身で、中三の夏頃に家の都合で信吾の通う学校に転校し、同じクラスで席が隣同士になったのを切っ掛けに仲良くなったのである。

 

「にしても中学に続きまたも同じクラスになるとは、驚きやなぁ」

 

「席も前後で、去年みたく近いし。俺と祐介の間がごっそり抜けてるからなんだろうけど」

 

「それもそれで驚きやな……」

 

一体何人もの受験生が難問の前に撃沈したのか、と考える祐介に苦笑した信吾はふと右隣の席を見た。

 

「あっ……」

 

またもや彼は驚いた。緊張していて気づかなかったが、隣には先ほどぶつかった女子生徒―――真白が後ろの席の女子生徒と話をしていた。彼女も信吾に気づいたらしく、彼を見て「あっ」と声を発した。

 

「貴方は先ほどの……」

 

「ん? なんや、知り合いか?」

 

「知り合いと言う程じゃ……さっき会ったばかりで名前も知らないし」

 

「ふうん。……あ、わいは菊池祐介。こっちは黒樹信吾と言うんやけど、君は?」

 

祐介の問いに彼女は優しく微笑んで言った。

 

「真白・オルコットです。真白、と呼んで頂けると嬉しいです」

 

「ちなみにちなみに! 私はドロシー・オルコットって言うの。真白お姉ちゃんの妹だよ! ドロシーって呼んでねっ」

 

先ほど真白と会話していた金髪の女子生徒―――ドロシーが身を乗り出して元気よく言う。

 

「(オルコット? そういえば伝説のアーマードライダー、鎧武とバロンに変身している同性夫婦も同じ名字だったような……)わかった。よろしくね真白さん、ドロシーさん」

 

「おう、よろしくな。ドロシーはん、真白はん(妹と言う割には髪の毛や目の色がちゃうような……まあ、あんまり根掘り葉掘り聞くのも失礼やし、ツッコまんとおこう)」

 

「……って、自己紹介はいいけど早く行かなきゃ!」

 

「やばっ! 初日から遅刻は洒落にならんで!!」

 

2人の慌てる声に、信吾と真白も急いで教室を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 亡国機業(ファントム・タスク)

 

「そうか。うん、了解」

 

「どったの?」

 

「咲良からの定期連絡だよ。もうすぐ今年最初の授業が始まるそうなんだ。……彼女達は上手くやっているかな?」

 

「ん? 心配してるの? りょーくんにしては珍しいね」

 

「まさか。彼女達の社会適応能力が凄まじく高いことは君も知っているだろ? その点に関して心配事はないさ」

 

「さーちゃんなんか、一番最後に実体化したのに、もう教習プログラムを終えてるもんねぇ……じゃあなんで?」

 

ソファーに座ってティーカップを持ちコーヒーを飲む凌馬に、もたれかかりながら束は言う。

 

「楽しみなのさ。思春期の男の子と触れ合うことで、彼女達にどのような変化が起きるのかがね」

 

「変化って、例えば~……私とりょーくんみたいに?」

 

「……恋仲になると言いたいのかい? まあ否定しないけど…そんな感じかな」

 

「むーっ。りょーくんの鈍ちんめ~」

 

「? 何だい鈍ちんって……」

 

何のことやらと束を見ると、彼女は慈愛のこもった眼差しで自分の腹部を撫でていた。凌馬はティーカップを思わず落としそうになった。

 

「え……ええっ!? い、いや、待ってくれ! マジか? マジなのかおい!?」

 

「んふふ~! だって毎晩あんなに、激しくされたら……ねぇ~?」

 

「いやどちらかと言うと、求めて来たのは君の方で……はぁ、どっちでもいいか。できたのなら、ちゃんと責任を取らないとな」

 

「えへへ♪ ありがと、りょーくん♪ ……そうだ! 折角だからちーちゃんにも教えよっか?」

 

「……やめた方がいいんじゃないか? ただでさえ最近結婚に焦っていると言うのにそんな話をされたら、どんな顔をするやら」

 

「ほう……それは今私がしている顔で間違いないか?」

 

「あ、そうそう。こんなか……お……」

 

突然聞こえた声に普通に受け答えようとして、凌馬と束はフリーズした。噂をしていた本人がいつの間にか背後に立っていたからである。

 

「2人とも。先ほどの話……詳しく聞かせて貰えるか?」

 

迫る千冬を見た凌馬と束は後にこう語った。「あの時の千冬(ちーちゃん)は、ある意味一番恐ろしかった」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AR学園 第三アリーナ

 

「確か変身訓練をする言うてたな。どのロックシードを使うんやろ?」

 

「学校での訓練だから、多分Cクラスのマツボックリロックシードじゃないか?」

 

特殊スーツ(ISスーツとは異なり、各部に防御用プロテクターが施された最新タイプ)に着替えてアリーナに集まった後、信吾と祐介は実習で行うことについて思った、様々なことを話していた。少ししてダンデライナー二機が彼らの前に着陸し、黒影トルーパーが地面に降り立つと同時に変身を解除。咲良と里奈の姿に戻った。

 

「お待たせしました。それでは授業を始めます。まず班を4人一組で作って下さい」

 

言われた通り、生徒達は班を作り始める。大抵は男子同士や女子同士で班を組んでいくが、中には男女2人ずつで班を組む者達も居る。信吾達も同様だった。

 

「2人ともさっきぶりだね。よろしく~!」

 

「改めて、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、改めてよろしゅう!」

 

「あ、はい。こちらこそ」

 

ドロシーと祐介、真白と信吾が互いに握手を交わす。

 

「……組み終えた様ですね。では次に、各班を代表して一名が、こちらにある戦極ドライバーとロックシードを取りに来て下さい」

 

生徒全員を見て確認した咲良が里奈に目配せすると、彼女はダンデライナーの後ろに固定してあった箱を開けて、量産型戦極ドライバー&マツボックリロックシードのセット40組を用意した。

 

「誰が取りに行く?」

 

「俺が行くよ」

 

「ええんか?」

 

こくりと頷くと信吾は走って箱まで行き、ドライバー一式を人数分持って戻ってきた。丁度その時、咲良から変身訓練開始の許可が出された。

 

「じゃあ早速……」

 

「やってみっか」

 

量産型戦極ドライバーを腰に当てて、フォールディングバンドを伸張し装着。次にマツボックリロックシードのスイッチを押して解錠する。

 

『『『マツボックリ!』』』

 

真上にマツボックリアームズが出現し、ゆっくりと降下し始める。

 

「おおっ! 一瞬で現れおった! てかどういう原理で浮いとるんや?」

 

「うわ、真下から見ると中々の迫力だな……」

 

徐々に自分に向かってアームズが降りてくるという現象におっかなびっくりしながら、ロックシードを戦極ドライバーの窪みに取り付けて施錠する。

 

『『『『ロック・オン!』』』』

 

ホラ貝のサウンドが流れる中、信吾と祐介はカッティングブレードをそっと倒してロックシードを輪切りにした。

 

『『『『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃・イン・ザ・シャドウ!!』』』』

 

待機していたアームズが一気に頭に被さり、身体全体にライドウェアを着させると展開して上半身に鎧となって固着。黒影トルーパー マツボックリアームズになった。

余談だが最新型のドライバーは従来型に搭載されていたISモードの代わりに、競技用モードが搭載されている。読んで字の如く、アーマードライダーを用いた競技等に使う際のモードで、ISに隠匿する必要が無くなった為にPICに当たる機能が省かれている。

学園で使われるものは基本的に競技用モードの状態でロックが掛けられ、ロックシード側も危険防止の為アームズウェポンが使えないようになっている。

 

「変身……したのか、俺…………本当に変身したんだ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおお! マジで変身した! メッチャ凄い! わいカッコイイやん!!」

 

感慨深げに信吾は拳を握り締め、祐介は興奮して叫びながら変身した自分の身体を見ていた。彼らだけではなく、ほぼ全員が初めて変身したことで驚いたり喜んだりと様々な感情を露わにしていた。

 

「で、変身した後は何するんやろ? 組み手かな?」

 

「いきなりそんなことはしないと思うけど」

 

「出来るんですか、組み手?」

 

「こう見えて柔道の心得があるんや。ちょっとやそっとの数じゃ、へこたれんで」

 

「おお、それっぽい構え」

 

などと言って構えを取る祐介にドロシーが感心する。その後、授業は何事もなく進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後 寮 1021号室

 

「よっこらせっと……」

 

ベッドに腰掛けた信吾は疲れを取るかの様にふぅ、とため息をつく。

 

「正直……君と同室になるとは思ってなかった」

 

「わいもや。なんや運命めいたものを……って、男同士で言うても気持ち悪いだけやな」

 

窓を開けて風に当たっている同居人―――祐介に向いて言うと、ベッドから立って彼の隣へと赴く。しばらく景色を眺めていると、祐介は彼にあることを尋ねた。

 

「……なあ。信吾はなんでこの学園に入学しようと思ったんや?」

 

「え? 藪から棒にどうしたの?」

 

「よう考えたら時期が時期だけに忙しゅうて、理由とか聞いたり話したりする余裕もなかったからな。わいも後で話すし、な? ええやろ?」

 

「うーん……そういうことなら、話してもいいか」

 

信吾は少し考えると窓の近くにあった椅子に腰掛け、祐介は近い方のベッドに座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人が座ったのとほぼ同時。海岸にて人の形をしたホログラムが浮かび上がり、真っ直ぐ彼らの部屋を見つめていた。

 

『そろそろ頃合いかな……』

 

そう呟くと人型はゆっくりと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が入学を決めたのは…姉さんに憧れたのが理由だな」

 

「姉ちゃんに?(そういえば信吾の家族の話はあまり聞いたことないな)」

 

「ああ。姉さんは俺とは大分歳が離れてて、俺が物心ついた頃には防衛大学に入ってたんだ」

 

「防衛大学!? てことは、姉ちゃん今は自衛隊員なんか!?」

 

「IS部隊に所属してて、何度か基地や自分が訓練しているところを見学させたりしてくれたんだ。その姿がカッコよくて、俺も姉さんみたいになりたいなって思うようになって……」

 

「なるほどぉ、それでここを選んだんやな」

 

「で、祐介は?」

 

「わいか。理由としては似たようなもんやな……わいの場合は祖父ちゃんなんやけど、うちの祖父ちゃんも昔自衛官をやっとってな。ようわいに話を聞かせてくれたんよ。そんで聞いてる内に国や人を守る仕事に憧れて、それに最も近づけるところとしてここを選んだんや」

 

「ホントに似てるね」

 

「その祖父ちゃんも2年前に、老衰で亡くなってもうたんやけどな……信吾の姉ちゃんは元気しとるか?」

 

「………………………………………………」

 

「……信吾? どないしたんや?」

 

突然苦々しい顔になって押し黙った信吾に、祐介は何かまずいことでも聞いてしまったのかと不安になる。果たしてその不安は的中することになる。

 

「俺の姉さんは…………5年前に亡くなった」

 

「なっ……!? ご、5年前言うたら、織斑春也の!」

 

「……奴が世界中の軍事施設に嗾けたトランスフォーマー軍団。そいつらの攻撃から同僚の女性を庇って、姉さんはISごと…………」

 

「(道理であまり家族のことを話題に……)……すまん。そないなことになっとるとは知らずに、わいは……」

 

「いいよ、気にしなくて。引き摺ってないと言えば嘘になるけど、大分割り切ってはいるからさ」

 

「ほんまか……?」

 

「本当」

 

「そっか……ありがとうな。そう言って貰えると、ちょっとは気が楽になるわ」

 

落ち込む自分を気遣ってくれた友人に、この話にはもう触れないでおこうと祐介は心の中で固く誓った。だがこの一連の遣り取りを窓際に近づいていた人型が見ていた。

 

(話に夢中でこっちには気づいてないみたいだ。でも万が一を考えると、こっちに行った方がいいかな)

 

人型はホログラムを消してザクロロックシードの残骸に戻ると、空中を漂い開けっ放しの窓から部屋に侵入。そのまま信吾の制服の上着のポケットに入った。そのことに2人は気づかない……




久々すぎてこんな出来でいいのか不安ですが、とりあえず今回はここまでとさせて頂きます。


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番外編2-2 GhostReverse

一週間後。信吾はどこか気怠い様子で教室の席に座り、HR前の時間を過ごしていた。

 

「……大丈夫か信吾?」

 

「ダメかもしれん……」

 

ため息と共に机に突っ伏す信吾。2日目から彼は原因不明の倦怠感に悩まされており、日に日に症状は悪くなっていた。今来たばかりの真白とドロシーも顔を見合わせる。

 

「黒樹君、まだ良くならないの?」

 

「ああ。せやから悪いけど、ホームルーム始まるまで寝かしといてやってや」

 

「そうですか……わかりました」

 

その後HR開始時間まで眠っていた信吾だったが、眼が覚めた後も倦怠感は依然拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局倦怠感は昼休みになってもなくならず、信吾は俯きながら祐介と共に廊下を歩いていた。

 

「……今はどうなん?」

 

「全然ダメ……授業の内容とかノートに写せても、ちっとも頭に入らない……」

 

「やっぱ何かしらの病気なんやないか? もう一回保健室行くか?」

 

「そうしてみる……午後からのノートもお願いしていい?」

 

「勿論や。気ぃつけてな」

 

祐介に見送られて、信吾は保健室へと向かう。だが数歩足を進めた瞬間―――

 

(今だ!)

 

「うっ……!?」

 

ポケットの中に忍び込んだザクロロックシードの残骸が淡く光り、同時に頭痛が信吾を襲う。だがそれも数秒のことで、やがて彼の目が赤く光ると再び歩を進めた。

 

「ん? なんや今の……?」

 

後ろから見ていた祐介はその様子に違和感を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

気がつくと信吾は、保健室の前に立ち尽くしていた。

 

「いつの間にか保健室に着いている……無意識でここに来たのか? マジでヤバイかも、俺……」

 

頭を抱えつつ、彼は保健室のドアを開けた。だが考えてたが故に自分の制服の内ポケットに入っていた物に、彼は気づくことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。信吾は祐介と共に寝間着に着替えて布団に潜っていた。

 

「体調はもうええんか?」

 

「うん。今のところは問題ないよ」

 

「ならええんや。ほな、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

電気を消してベッドに身体を預けると祐介はすぐに眠った。が……信吾は身を起こした。否、信吾自身は既に眠っている。彼を動かしているのは別の『何か』だ。

 

『さあ……始めようか』

 

その何かは信吾の身体を用いて、制服に仕舞っていたものをベッドの上に並べ、なるべく音を立てないように作業し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…うぅん……」

 

翌朝、信吾はいつもより早い時間に目が覚めた。隣を見れば、祐介はまだ寝ている。

 

「もっかい寝よっかな……」

 

二度寝を決め込もうとした時、ベッドの脇に何かが置かれているのに気づいた。近づいてその正体を確認した瞬間―――眠気は一瞬で吹き飛んだ。

 

(せ、戦極ドライバー!? しかもゲネシスコア付きの……なんでここに!?)

 

昨日まで無かったものが存在していることに動揺しつつ、戦極ドライバーを手に取る。するとその陰に隠れて見えなかったものが見えた。

 

(ロックシードまで……それも3つも、一体どうなってるんだ!)

 

混乱しながら2つのロックシードを手元に寄せる。

 

(これ、よく見たら5年前の戦いで織斑春也が使っていたものじゃないか。確かブラッドオレンジとザクロと……最後の1つは見たことない奴だ。でも誰が作ったんだ? そして誰が俺の部屋に!?)

 

「ん…むにゃ……」

 

「っ!?」

 

声に驚いてビクッと身体を震わせ、咄嗟に戦極ドライバー等を枕の下に隠す。振り向いてみれば祐介が寝返りを打っていた。信吾はホッと一息つくと、早めの朝支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

信吾は第二アリーナの観戦席に座り、変身して訓練している生徒の様子を見ていた。この日は午前授業のみなので、昼からは自由時間になりこうして自主練に励むこともできるのだ。

 

(何となく部屋に置きっ放しにするのもまずいから、持って来ちゃったけど……これどうしよう……)

 

制服の内ポケットに閉まってある戦極ドライバーを見て、思わずぼやく。

 

「黒樹さん? どうしたんですか、1人で?」

 

声を掛けられて顔を上げると、運動直後らしくタオルで汗を拭いている真白の姿があった。

 

「ああ、うん。ちょっと、悩み事がね……」

 

「……宜しければ、相談に乗りましょうか?」

 

そう言って真白は隣に腰掛けてくる。

 

(参ったな。気持ちは嬉しいけど、なんて言えばいいんだろう。気がついたら戦極ドライバーとロックシードが枕元に置いてあったって? 誰も信用しないよ、そんなこと)

 

(だったら、信用させればいいだけの話じゃないか。こんな風に、ね……!)

 

「え? ……がっ!?」

 

頭の中に聞こえてきた謎の声に一瞬呆けた直後、強烈な頭痛が信吾を襲った。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

いきなり苦しみだした信吾に慌てる真白。すると信吾の目が赤く光り、顔を上げると真白の制服の首元を思い切り掴み上げた。

 

「うっ……! な、何を……!?」

 

『久しぶりだね、白式……いや、真白・オルコット。と言っても、こうして実際に対面したのは極僅かかな?』

 

「! そ、その声は……!」

 

『ここ一週間の調べによると、あの戦い以降一夏姉さんの養子になったそうじゃないか。フフフ……つまり、君を殺せば一夏姉さんは少なからず悲しむと言う訳だ。復讐の一歩としては上々の獲物だね!』

 

掴んでいた手を離すと、懐から戦極ドライバーを取り出して腰に装着し、ザクロロックシードとブラッドオレンジロックシードを出して解錠した。

 

『ザクロ!』 『ブラッドオレンジ!』

 

ザクロロックシードをベルトの本体側に、ブラッドオレンジロックシードをゲネシスコア側にセットして施錠をし、カッティングブレードを倒して2つ纏めて輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス!!

                     ハッ! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!!』

 

信吾の周りに展開済みのアームズが現れ、ライドウェアが全身を包むのと同時に装着。彼の姿を仮面ライダーセイヴァー ブラッドザクロアームズへと変えた。

 

『さあ……リベンジの始まりだ!!』

 

「くっ……!」

 

言うが早いか、大橙丸で真白に斬りかかる。間一髪避けると、真白は懐から出したポケベル型アイテムを取り出し、スイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡国機業(ファントム・タスク)本部

 

ピピピッ! ピピピッ!

 

「! りょーくんりょーくん! 真白ちゃんからの緊急コールだよ!」

 

「ブッ! な、何だって!?」

 

パソコンに表示されたメッセージと鳴り響く警告音に、凌馬はあり得ないと思いつつも確認する。

 

「本当だ……場所は学園の第二アリーナか。よし、行ってくる!」

 

「気をつけてね!」

 

机の上に置いてあった装備を掴むと、凌馬は発進場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あははは。どうしたんだい? 避けてばかりじゃないか』

 

「っ……!」

 

挑発しながら攻撃してくるセイヴァーから真白は必死で逃げ続ける。観戦席で繰り広げられている攻防は、既に模擬戦をしている面々にも注目されていた。当然、彼らにも。

 

「真白はん!」

 

「真白お姉ちゃん!」

 

真白の元へ祐介とドロシーが駆け寄って来た。自主練を終えて一息ついたところで今回の騒ぎを目撃し、急いで駆けつけたのである。

 

「菊池さん、ドロシー!」

 

『新手か……でも丸腰なら僕の敵じゃないな』

 

「遠目で見てまさかと思うたけど、セイヴァーやないかこれ……!!」

 

「誰が変身しているの!?」

 

「っ、それは……」

 

まさか信吾が変身しているとは言えず、言い淀む。その隙にセイヴァーは大橙丸とセイヴァーアローを振り下ろすが―――

 

「はぁっ!!」

 

横から飛び蹴りを放たれ、よろめいて数歩下がった。

 

「緊急コールを受けて駆けつけてみれば、こんな状況になっているとは……もう少し早く来た方が良かったかな?」

 

「いえ。良いタイミングでした、プロフェッサー」

 

構えを取りながら真白達を庇う様に立つ男……戦極凌馬。当然だが祐介はその姿を見て驚愕する。

 

「せ、戦極凌馬……! 亡国機業(ファントム・タスク)の社長はんが、なしてここに!?」

 

「真白お姉ちゃんの緊急コールのお陰だよ。それを使うと、いつでもどこでもプロフェッサーが駆けつけてくれるんだって。私も持ってるよ」

 

「マジで!? 君ら何者なん!?」

 

2人の会話を余所に、凌馬はゲネシスドライバーを腰に巻き付けセイヴァーを見据える。

 

『また会えて嬉しいよ、戦極凌馬』

 

「……本当に君なのかい? 確かに死んだと思ったんだが、一体どんなトリックを使ったんだ?」

 

『知る必要はない。どうせアンタは僕に殺されるんだから』

 

「言うじゃないか。……変身!」

 

『レモンエナジー!』

 

レモンエナジーロックシードを解錠すると、ゲネシスドライバーにセットしてシーボルコンプレッサーを押し込み、ロックシードのカバーを開く。

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

出現したレモンエナジーアームズが凌馬の頭に被さり、ゲネティックライドウェアで包まれた身体に鎧となって固着、仮面ライダーデューク レモンエナジーアームズに変身した。

 

「はあっ!」

 

『たあっ!』

 

互いに接近し、ソニックアローとセイヴァーアローを振るい刃がぶつかって火花を散らす。数度斬り合った末鍔迫り合いとなり、セイヴァーは大橙丸を用いて不意打ちを狙うが……。

 

「そうはいかない!」

 

大橙丸の刀身をデュークが掴み、強引に攻撃を止めた。

 

『へぇ……やるじゃないか』

 

「君に進歩が無いだけだよ。前にも同じことをやられたからね。あの時は避けたけど」

 

『減らず口を。でも、そう余裕ぶってられるのもここまでだ!』

 

大橙丸を放して後ろに下がって距離をとると、セイヴァーはデュークを真っ直ぐ見据えた。

 

『今の僕には誰にも負けない力があるんだ。それを披露してあげるよ』

 

そう言い懐へ手を伸ばそうとするが……

 

『ぐっ……!?』

 

突然頭を押さえて苦しみ始める。

 

『チッ! 完全に同調できてはいなかったか……まあいい。今は引っ込んでおいてやるよ』

 

そこまで言ったところで変身が解除され信吾の姿に戻り、更にロックシードと戦極ドライバーが彼の身体に取り込まれていった。

 

「! 君は……」

 

「信吾!?」

 

全く関係無い人物が現れたことに驚いたデュークは、彼の名前を呼んだ祐介の声に振り向く。直後、信吾の身体がぐらつく。

 

「おっと」

 

素早く受け止めると床に寝かせ、ロックシードのカバーを閉じて変身を解除する。

 

「おい、大丈夫か信吾! しっかりせい!」

 

「大丈夫、気絶しているだけだ」

 

信吾を揺さぶり必死で声を掛ける祐介に安心させる様に言うと、凌馬は真白とドロシーと顔を合わせて頷き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お、おい……それで何をする気だ? まさか、僕を殺すつもりじゃないだろうな!?』

 

『だとしたら……どうする?』

 

『ま、待て! 考え直すんだ、一夏姉さん! 束さんを超える偉大な頭脳を、この世界から消す気か!? それに僕は世界で唯一の男性IS操縦者だぞ! それを殺したらどうなるか……!!』

 

『心配無いんじゃない? ISコアは学園にあるもの以外は貴方が壊しちゃったし、私達のはロックシードに変化したし……何より束さん本人にコアを作る気が無いみたいなんだって。知らなかった?』

 

『ソイヤッ! 極オーレ!!』

 

『やめろ! 落ち着け、落ち着くんだ! 過去に一夏姉さんにしたことは全て謝る! それに一夏姉さんも、僕と同じ人殺しにはなりたくないだろ!?』

 

『……確かに人殺しをしたくはないし、する気もなかった。今までは……だけど、貴方だけは別。貴方は超えてはならない一線を超えた。にも関わらず今こうしている間も反省の色が全く見えてこない……そんな奴に生き延びられたら、また悲劇が起きる』

 

『待て、待ってくれ! わかった、反省する! 罪を償う! だから頼む、い、命だけは!』

 

『それと一番最初の質問に答えてあげる。……いくら天才的な頭脳を持っていても、人間性が最悪なら―――価値なんて無いに等しいんだよ!!』

 

『あ、あああ……! や、やめてくれぇぇぇええええええ!!』

 

『………………………』

 

『うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! い、今のは……? ていうか、ここどこだ?」

 

周りに何もない真っ白な空間で目を覚ました信吾は周りを見渡す。

 

「今のは僕の記憶だよ。出来損ないの一夏姉さんに負けた、忌々しい過去のね」

 

背後から聞こえた声に振り返ると、そこには自分と同じAR学園の制服を着た青年が立っていた。彼の顔に、信吾は大いに見覚えがあった。

 

「お、お前は……織斑春也!?」

 

「そう、その通り。僕は織斑春也。志半ばで倒れた、世界で唯一の男性IS操縦者さ」

 

「何故お前がここに!? お前は…死んだ筈じゃ!」

 

「死んでいたさ。でも僕が死んだ場所に落ちてたロックシードの欠片……ソレに宿っていた僕の残留思念が、落雷のエネルギーを利用して復活したのさ。と言っても、肉体は無いから君の身体を使っているけどね」

 

「俺の身体を!? そうか……道理で最近調子が悪かった訳だ」

 

これまでの状況に合点がいったところで、信吾は春也をキッと睨み付けた。

 

「お前の目的はなんだ? 俺に取り憑いて何がしたい?」

 

「そんなの決まってるじゃないか。僕を蹴落とした一夏姉さんや、僕を殺した戦極凌馬に復讐を果たし、トランスフォーマー軍団を再結成してこの世界の王として世に返り咲くことさ」

 

「な、何だって! お前は、5年前の戦いを繰り返す気なのか!? ふざけるな! あの戦いでどれだけの人が死んだと思っている!? 俺の姉さんも、夢半ばにしてトランスフォーマーに殺されたんだぞ!!」

 

「知らないよそんなの。逆に聞くけど、君は地球の裏側で起きたテロに巻き込まれて、死んだ子供達のニュースに一々悲しんでいるのかい?」

 

「なっ……!!」

 

「まあそんなくだらない問答は置いといて。君にはしばらくこの空間でじっとしておいて貰うよ。下手に動かれても困るからね」

 

「待て!」

 

次第に春也の姿が消え、信吾は手を伸ばすが寸前で姿が消え空を切ってしまった。



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番外編2-3 Revenger

大急ぎで書いたので割と適当な出来かも知れない……

それと最後に、悪維持さんとのコラボでとあるキャラクターが出ます。


「織斑春也の……幽霊?」

 

保健室にて眠り続けている信吾の傍で、ドロシーは凌馬に対し首を傾げた。他には真白と祐介と咲良が居る。

 

「非科学的だが、そうとしか考えられない。変身後の姿や声、そして言動。その全てが織斑春也そのものだったんだ」

 

「非科学的とかそんなんどうだって構いまへん。肝心なのは、織斑春也の霊が居てそれが信吾に乗り移ってるってことや。あの声は資料音声で聞いたんと同じやったし……戦極社長、織斑先生、何か手は無いんですか?」

 

「手と言われても、現状どうしようもないよ。相手は実体が無い上に、手掛かりになるであろうロックシードと戦極ドライバーは黒樹信吾の体内に入ってしまったんだ」

 

「目が覚めるのを待つしかありませんね」

 

「大丈夫? 目が覚めたらまた乗っ取られてるとかない?」

 

「やめてくれへんかドロシーはん? そうなったら、いよいよわしらにはどうしようもなくなるで」

 

「……戦うしかないと思います。彼の目的が復讐な以上、放っておいたら危険になりますから」

 

「そら、理屈で考えたらそうやろうけど……」

 

苦渋に満ちた表情で真白が言い、祐介が納得できずに言いかけた時、寝ていた信吾の目が開きゆっくりと身を起こした。

 

「! 黒樹さん、気がつきましたか?」

 

「…………………」

 

信吾は無言で真白達の顔を確認した後、ニヤリと笑った。その目は赤く光っていた。

 

「まずい、乗っ取られている! 可能性としては考えてたけど、こんなに早いとは!」

 

「ドロシーはんがフラグ建てたからと違うか!?」

 

「え、私のせいなの!?」

 

『言い合っている場合かい? 今回はもう容赦しない。さっきは見せられなかった切り札を見せてあげるよ』

 

立ち上がった信吾……春也は、戦極ドライバーを装着するとザクロロックシードと銀色の無機質なロックシードを取り出し解錠した。

 

『ザクロ!』 『リベンジャー!』

 

「リベンジャー?」

 

『フッ……変身!』

 

2つのロックシードをドライバーにセットすると、施錠した後すぐにカッティングブレードを倒して輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス!

                   ハッ! リベンジャーアームズ! 絶・対・勝・者!!』

 

音声が鳴り、春也は左側と右側が銀色の機械的なアームズに変化した、仮面ライダーセイヴァー リベンジャーアームズに変身した。

 

『はあっ!!』

 

セイヴァーアローをいきなり振るってくるセイヴァーに、凌馬達は慌てて廊下に出る。

 

「君達は下がっててくれ。……変身!」

 

『レモンエナジー!』

 

解錠したレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーにセットし、シーボルコンプレッサーを握り押し込む。

 

『ロック・オン!』

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!!』

 

「はあああああっ!!」

 

デュークに変身した凌馬はソニックアローを持って接近する。だが……

 

ドンッ!!

 

「ぐはっ!?」

 

突然衝撃が全身を襲い、仰向けに倒れる。見ればセイヴァーの腹部に衝撃砲のようなものがついている。

 

「い、今のは……」

 

『まだまだだ!』

 

衝撃砲発射口が消え、今度は肩にレールカノンが現れ、デュークの身体が金縛りに遭ったかのように動かなくなる。

 

「今度はAICか!?」

 

『食らえ!』

 

レールカノンの弾が直撃し、デュークは後ろに吹っ飛ばされる。

 

「ぐあっ……その銀色のロックシード、まさかとは思うが、5年前の専用機のデータが入っているのか?」

 

『正確にはあの戦いで君達が使ったISロックシードのデータだよ。一週間で全部集めるのは苦労したけど、お陰で僕は最強の力を手に入れることができた。……さあ、一夏姉さん達が使っていた武器で殺されるがいい!!』

 

次いで雨月と空裂を握り締めてゆっくりと歩み寄る。

 

「お、おい。これ加勢した方がええんとちゃうか!?」

 

「加勢って、武器も無いのに無茶だよ!」

 

「せやかて、これ以上ダチの身体勝手に使われて好き勝手されるんは、我慢できんのや!!」

 

「菊池君……ですが……」

 

「………………」

 

祐介の必死の形相と凌馬に迫るピンチに、ドロシーは黙考した後意を決してあるものを差し出した。

 

「菊池君、これを使って。プロテクトは解除してあるから、実戦モードでいけるよ」

 

「え、これって……戦極ドライバー!? なして君が……まあええ、理由は聞かん! それよりもこれがあるなら次はロックシードや! マツボックリの奴あるか?」

 

「マツボックリロックシードじゃさすがに勝てないよ」

 

「なら他の奴は!?」

 

「1つだけ……とっておきのがあるからそれを貸してあげるね」

 

焦る祐介に答えたドロシーの言葉に、真白と咲良は唖然としていた表情を更に驚愕とさせた。

 

「ドロシー、貴女まさか!」

 

「ダメです! 一般人の前でそれを使っては!」

 

「ごめんなさい真白お姉ちゃん、咲良さん。でも私、プロフェッサーのピンチを見過ごすなんて出来ない! ……菊池君、私を使って!!」

 

そう言うとドロシーの身体が光り、青いロックシードとなって祐介の手に渡った。

 

「うぇええええええええええええ!!?? ド、ドロシーはんがロックシードになったぁぁぁあああああああああああああ!? ど、どういうことなんやこれ!!」

 

『ごめん、今は説明してられない! とにかく私を使って変身して!』

 

「しかも喋ったぁ!? ああもう! 訳わからんけどやってやろうやないけぇ!!」

 

『ブルー・ティアーズ!』

 

勢いでドロシーが変化したブルー・ティアーズロックシードを解錠し戦極ドライバーにセットする。音声を聞いたセイヴァーとデュークが驚いて見る中、カッティングブレードを倒して輪切りにする。

 

『カモン! ブルー・ティアーズアームズ! Snipe the Target!!』

 

アームズが頭に被さって展開し、祐介をブルー・ティアーズアームズに変化させた。

 

「っしゃ! 次は何をすればええ!?」

 

『ビットを飛ばして! 肩とライフルに装備されてるから、それに意識を集中させるの!』

 

「肩とライフルに……こうか!」

 

言われた通り意識を集中させると、両肩とライフルからビットが離れて浮遊する。

 

「おお、出来た! なるほど、こんだけ簡単なら後もできるやろ! 行けぇ!!」

 

『あ、待って! 闇雲にやっても―――』

 

言い切る前にビットからレーザーが発射され、彼自身もライフルの引き金を引く。発射された弾は一部デュークを掠めつつセイヴァーへと向かった。

 

『甘いね!』

 

だがセイヴァーは余裕綽々といった様子でレーザーを弾いていく。だが油断し過ぎていた為、弾いたライフルの弾が床で跳弾し、ザクロロックシードに直撃してしまった。

 

『ぐあああっ!?』

 

苦しみ蹲るセイヴァー。デューク達は何事かと顔を見合わせる。

 

「……効いたんか?」

 

「どうもそうらしい……」

 

『くっ、よくもやってくれたな…………ぐっ!?』

 

立ち上がったセイヴァーは頭を押さえた。本体であるザクロロックシードにダメージを受けた事で、信吾との同調がズレ始めたのだ。その証拠にセイヴァーの身体から這い出る様に信吾の手や顔が見えてくる。

 

「よ、よくわかんないけど、このチャンスは逃がさない……!」

 

『ぼ、僕から離れようと言うのか!? そうはさせないぞ……!』

 

「っ! 皆、彼を引っ張るんだ!」

 

「おっしゃ!」

 

『な、何をする!?』

 

咄嗟にデュークが呼びかけたことでその場の全員が信吾の腕を引っ張る。ややあって、必死に抵抗するセイヴァーから信吾が完全に抜け出た。

 

「うおっと!? だ、大丈夫か信吾?」

 

「ああ、大丈夫だ。心配掛けて、ごめん」

 

「構へん構へん! 君が無事ならそれでええんや」

 

「気を抜くのはまだ早いよ。まだ戦いは終わってないんだ」

 

『せ、折角の人質が……! だがまだだ! リベンジャーアームズがある限り、僕の勝利は揺るがない!』

 

フラフラと立ち上がりながら、己が作った最強のロックシードに信頼を寄せる。そんな彼を尻目に、デュークは真白達を見た。

 

「さて、ドロシーちゃんはもうやってるみたいだけど、彼の力に対抗するには真白ちゃん達の力を借りる必要がある。できるかい?」

 

問いかけに真白と咲良は顔を見合わせると、同時に頷いた。それを確認するとデュークは信吾を見た。

 

「黒樹信吾君。救出したばかりで悪いけど、君にも協力して貰うよ。何せ数が足りないからね」

 

「変身しろってことですか?」

 

「そうだ。戦極ドライバーは真白ちゃんが持ってる筈だから、それを使ってくれ」

 

言い終えると同時に真白が信吾に戦極ドライバーを渡す。

 

「あー、信吾? いきなりで訳わからんと思うけど、次はロックシードの話になると思うから、もっと訳わからんくなるから気ぃつけや」

 

「え?」

 

「真白ちゃん、頼む。咲良は私を頼むよ」

 

「はい」

 

「任せて下さい」

 

2人の身体が光に包まれてロックシードに変化し、それぞれ戦極ドライバーを巻き付けた信吾とデュークの手に収まった。

 

「えええええええええええええええええっ!? な、何だこれぇぇぇぇえええええええええええええええええええ!!!!」

 

「……な? 驚くやろ?」

 

「悪いが説明している時間も惜しい。早く変身を!」

 

「うぇ!? は、はい!」

 

『白式!』

 

『暮桜!』

 

混乱しながらもデュークと共にロックシードを解錠。戦極ドライバーにセットし、カッティングブレードを倒して輪切りにする。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! 白式アームズ! 雪片・セカンドステージ!!』

 

『カモン! 暮桜アームズ! 零・落・白・夜!!』

 

出現したアームズを頭から被り、2人は白式アームズと暮桜アームズに姿を変えた。

 

「えっと……正直開いた口がふさがらない程に驚いているけど、その、あ、改めてよろしく。真白さん」

 

『ええ、よろしくお願いします』

 

「ではまず私が先陣を切る。黒樹君は後に続いて攻撃。菊池君は後方からの援護を頼む」

 

「「わ、わかりました!」」

 

「行くよ咲良!」

 

『はい!』

 

『カモン! 暮桜スカッシュ!!』

 

カッティングブレードを倒し、雪片のエネルギー刃を展開する。一連の流れを見ていたセイヴァーは、忌々しげにカッティングブレードに手を掛けた。

 

『今更ISアームズが3つ出てきたところで無駄だ! 僕は全ての力を一度に使える! 数が違うんだよ!!』

 

『ソイヤッ! ザクロスカッシュ!! リベンジャースカッシュ!!』

 

音声と共に衝撃砲、ビット、クロスボウ型ブラスターライフル、雪片、雪片弐型等の武器が一斉に召喚される。

 

『死ねぇぇぇぇええええええええええええええ!!』

 

手に握った雪片と雪片弐型を向けることで一斉攻撃が始まるが、デュークはそれらの攻撃を潜り抜けてセイヴァーに一太刀浴びせた。

 

『がっ!? ば、バカな……!』

 

「さっきは驚いてバカ正直に食らったけど……考えれば、一夏ちゃん達の方が鋭かったよ」

 

『ふ、ふざけ―――』

 

「2人とも、今だ!」

 

『ソイヤッ! 白式スカッシュ!!』

 

『カモン! ブルー・ティアーズスカッシュ!!』

 

「「はああああああああああああああああああ!!」」

 

カッティングブレードを同時に倒し、まず信吾が接近し雪片弐型で横一線に切り裂く。続いて祐介がライフルで狙いをつけ、ビットの一斉射をお見舞いした。

 

『ぐあああああああああああ! そ、そんな……ぼ、僕はまた負けるのか!?』

 

「織斑春也。私が言えることじゃ無いかもしれないが、こう言う言葉があるのを覚えた方がいい。……この世に悪が栄えた試しは無い、ってな」

 

『あ、悪……僕が、悪……!? うあああああああああああああああっ!!』

 

自分が悪だと指摘されて動揺したまま、セイヴァーは爆散した。それを確認してデューク達は変身を解除。同時に真白達も元に戻った。

 

「終わったのか……?」

 

「多分……」

 

「……さてと。黒樹信吾君に、菊池祐介君。ぶっつけ本番で戦ってくれたことに心から感謝する。だけど、君達は真白ちゃん達の秘密を知ってしまった。ま、ドロシーちゃんの独断と私の指示のせいだけどね」

 

「うっ…ごめんなさい……」

 

「お、俺達はどうなるんですか?」

 

「心配しなくてもいいよ。別に社会的に抹消したりとかそんなことはしない。ただ、記憶を消して秘密を忘れるか、全てを知って私達の仲間となるか……そのどちらかを選んで貰う。ちなみに、リスクが低いのは前者だと予め言っておく。後者の場合だと、無断で誰かに話したりしない様監視がつくからね」

 

凌馬の言葉に2人は顔を見合わせる。

 

「今すぐどうするか言わなくても構わないよ。じっくり考えて返事を決めて欲しい(と言っても、彼らの目を見ていれば返事は自ずとわかるけど。それに……秘密の内容やこちらからスカウトしたかの違いはあれど、遣り取りは箒ちゃん達の時とほぼ同じなんだよね)」

 

どこか懐かしさを感じつつ信吾達の話し合いを眺める。が、その途中でセイヴァーが爆散した場所を見た。

 

(それにしても一週間でこんなロックシードを作るとは……余程執念深かったってことか。バカは死ななきゃ治らないとは言うが、お前の場合死んでも治らなかったみたいだな)

 

リベンジャーロックシードの残骸を拾いながら、凌馬はそんな皮肉を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AR学園 海岸

 

『はぁ……はぁ……リベンジャーロックシードが破壊されるなんて……何故だ! 一夏姉さん達が使っていた時は、トランスフォーマーを圧倒していたのに!!』

 

ホログラム状態でノイズを走らせながら、春也は這々の体で海岸を歩いていた。リベンジャーロックシードを犠牲にしたものの、爆発に紛れて辛うじて逃げていたのだ。

 

「力を力としか捉えてないようじゃ、負けるに決まっているわよ」

 

『! 誰だ!?』

 

声を掛けられその方向を見る。そこには1人の少女が春也を見据えて立っていた。

 

「アタシは兵鬼薫。織斑春也……貴方の魂を回収しに来た者よ」

 

彼女が何者でどこから来たのか。それを語るには、少々時間を巻き戻さねばならない。




という訳で、悪維持さんのところのキャラクター、兵鬼薫が登場しました。彼女が来た理由等は次回明らかとなります。


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番外編2-4 Battle of Another Ghost~End of Soul

今回は悪維持さんとのコラボで、前回登場した兵鬼薫を含む『煉獄の義姉弟』のキャラクターが2人登場します。



世界は1つではない。次元の壁を超えた向こう側には似て非なる世界がある。その向こうには別の世界、更にその向こうにはまた別の世界が、本のページの様に幾つも折り重なっている。

 

一般的にそれらは並列世界と呼ばれている。

 

基本的に並列世界は互いに干渉することはおろか、観測することもできない。故に並列世界間を移動するには相応の手段が必要になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが今、アタシ達が乗っている列車って訳♪」

 

「薫義姉さん、誰に話しているの?」

 

どこか得意気な少女に、隣に座る別の少女が疑問符を浮かべる。彼女達の名は兵鬼(かおる)と義妹の鬼町夏煉(かれん)。様々な世界を渡り、クズ転生者達を屠る転生者ハンターだ。そして2人が今乗っているのが異世界渡航用に新造された特殊列車、クライナー・ナイルカスタムである。

 

「気にしないで。大したことじゃないから。それよりもうすぐ次の世界に着くから、降りる準備をしといてね」

 

「はーい」

 

(情報が正しければ……ふふっ、早く会いたいわ♪)

 

「?」

 

嬉しそうに笑みを浮かべる薫に夏煉は再び不思議そうな顔をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス

 

(降りろと言われて降りた先がイギリスなんだけど、本当にここに居るのかな?)

 

「さて、まずは情報集めをしましょうか」

 

「例によって雑誌を買うんだよね。でも私、英語はそんなに自信ないんだけど……」

 

「大丈夫。有名人だから多分、表紙見ただけですぐにわかるわ」

 

義姉の言葉に半信半疑ながらも、一緒にコンビニに入って雑誌コーナーへと歩を進める。

 

(表紙ってことは、モデルか何かをやっている人だと思うけど……)

 

考えながら雑誌売り場を一瞥する……と、とある雑誌の表紙が目に止まった。思わずそれを手に取り、表紙を飾る黒髪と金髪の女性2人を見る。

 

「……凄いわね。本当にすぐわかっちゃうなんて」

 

「え? じゃあこの人達が……?」

 

「そう、今回の貴女の相手。そこんとこに名前が書いてあるけど、一夏・オルコットとセシリア・オルコットって言うのよ。あ、実際に戦うのはこっちの1人だけどね」

 

言いながら黒髪の女性……一夏を指す。

 

「(見た目と名前からだと明らかに人種が違う筈なのに、なんで同じ名字なんだろ?)わかったのはいいけど、会えるの? 仕事中で無理ですってなりそうな気が……」

 

「それこそ大丈夫。今日は祝日だから仕事も休みの日。ちゃんと調べて来たんだから」

 

「ふうん(薫義姉さんがここまで徹底してるなんて珍しい。もしかして、薫義姉さんもこの2人に会いたいのかな?)」

 

物珍しさを感じながら、夏煉は雑誌を購入し薫と共にコンビニを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

「中々見つからないわね……この辺に居ると思ったんだけどなぁ」

 

「そう思ったのなら、なんでレストランに来ている訳?」

 

「あはは……ちょっとお腹すいちゃって……」

 

呆れながら言う夏煉に薫は苦笑で返す。2人は今、とあるレストランのカウンター席に並んで座っていた。

 

「まあ腹拵えには丁度良い時間帯だけど」

 

言いながら目の前に置かれたパスタを一口頬張る。

 

「っ、おいしい……! 薫義姉さん、このパスタ凄くおいしいよ!」

 

「え? どれどれ……ホントだ、おいしい! イギリスにしては珍しいわね」

 

料理に対する感想を言い合いながら食べ続けていると、夏煉の反対側の席から何やら話し声が聞こえてきた。

 

「ふふ。褒められてますわよ、一夏さん」

 

「嬉しいけど、直に聞くと照れちゃうなぁ」

 

「?」

 

何だろうと思い隣を見てみる。そこには見覚えのある黒髪の女性と金髪の女性が座っていた。

 

(一夏・オルコットとセシリア・オルコット……! こんなところで出会うなんてっ)

 

驚いて固まっていると、視線に気づいた黒髪の女性……一夏が夏煉を向いた。

 

「ああ、ごめんなさい。盗み聞くつもりじゃなかったの」

 

「あ、いえ、その……それより、褒められてるとか照れているとか、話してましたけど……」

 

「うーん、話せば長くなるんだけど……」

 

「アタシは長くても平気よ。夏煉は?」

 

「問題ないよ」

 

「では僭越ながら、私が説明致しますわ」

 

金髪の女性……セシリアが語る話によるとこの店は、以前セシリアの屋敷で働いていた料理人が彼女達の卒業後に独立して構えたもので、その際に一夏が記念にと自身が考えたオリジナルイタリアンパスタの調理法を書いた紙を渡したと言う。

 

「じゃあそのパスタって、もしかして」

 

「これのことだよ」

 

そう言って夏煉達が食べていたパスタの皿を指す。

 

「凄い……自分が考えた料理がメニューの1つに加わるなんて」

 

「あの時は自分でも驚いたなぁ。本当に使われるなんて思ってなかったから」

 

「素人の意見だけど、プロとしてもやっていけるんじゃないかしら?」

 

「ええ。実際に世界的に有名なシェフから太鼓判を貰っていますの。でも一夏さんたら、私と同じ仕事がしたいからって、モデルをやってますのよ」

 

「えー! もったいないわね」

 

「あはは……」

 

4人はすっかり意気投合して会話を続け、しばらく経ったところで揃って席を立った。

 

「ありがとうごさいます。私達の話に付き合って下さいまして」

 

「いえ、お構いなく。ところで、最後に1つお願いがあるんですが」

 

「お願い? サインなら幾らでも書いてあげるけど」

 

「そういうのではなくて。―――一夏・オルコットさん、貴女と手合わせを願いたいんです。『仮面ライダー』として」

 

その言葉に一夏とセシリアは表情を強ばらせるのあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルコット邸

 

「……要約すると、貴女達……夏煉と薫は異世界のライダーで、夏煉を心身共に強くする為に色んな世界を巡っていると?」

 

あの後、オルコット邸に移動した一夏達は薫と夏煉から自分達の正体や目的等を聞き目を丸くした。

 

「俄には信じ難い話ですが……一夏さんはどう思いますの?」

 

「私は本当だと思うけど」

 

「えっ? どうして……って、話した本人が言うのもなんだけど」

 

「うーん……上手く言えないけど、こう、直感めいたものが働いたっていうか……」

 

「はあ……」

 

いまいち釈然としないセシリアであったが、一夏が言うのなら正しいのだろうと思いそれ以上は言わなかった。

 

「結構アバウトだね」

 

「いいんじゃない、それで? ともかく、信じてくれたんなら次はどこで戦うか決めないと。模擬戦とは言っても被害が出ないとは限らないんだし」

 

「それでしたらここの地下にご案内しますわ。とっておきの場所がありますのよ」

 

「地下があるんだ……凄いなぁ。あ、戦う前に1個聞いてもいい?」

 

「どうしたの?」

 

「ずっと気になってたんだけど、どうして2人とも同じ名字なの? 義理の姉妹って感じじゃあ無さそうだし……」

 

「ああ、それは私達が結婚しているからだよ」

 

「…………………………へ? 結婚!?」

 

「そうですわ。私と一夏さんは、将来を誓い合った仲なんですの。ねえ、一夏さん♪」

 

「うん♪」

 

(やっぱり良いわぁ~。女の子同士のカップルって♪ 凄く癒やされる……けどちょっと羨ましい。あーあ、私もイチャイチャできる可愛い恋人が欲しいな~)

 

(薫義姉さんが陽太義兄さんの代わりについてきた理由って、これだったんだ……そりゃ来たくなる筈だよね、薫義姉さんなら)

 

イチャイチャする2人を見て薫は目をキラキラと輝かせ、その様子に夏煉は納得がいき半ば呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下戦闘ルーム

 

ややあって、4人は地下にある戦闘ルームに来ていた。ここは一夏達が亡国機業(ファントム・タスク)を抜ける直前、凌馬が家に居ながらでも訓練が出来る様にとセシリアの許可を得て作ったもので、普段は一面真っ白だがステージセレクト機能により市街地や湿地帯などの景色を投影して、様々なシチュエーションで戦うことができる優れものだ。

 

「えっと、改めてよろしくね、夏煉」

 

「よろしくお願いします、一夏さん」

 

「審判役はアタシ達がやるけど、遠慮せずに戦ってね~!」

 

「バトルフィールドは市街地Aに設定しますが、よろしいですか?」

 

「私はいいけど、貴女は?」

 

「その市街地Aってのがどんな感じかわからないから、何とも……」

 

「ん~……東京の新宿をモデルにしてるって言えばわかるかな?」

 

「あ、はい。納得しました」

 

「それでは……」

 

セシリアが所持しているリモコンのスイッチを押すと、周囲の景色が新宿の町並みへと変わっていく。

その光景に最初こそ夏煉は興味深そうにキョロキョロとしていたが、やがて臨戦態勢を取ると前腰部に両手を翳して変身ベルト『ゴーストドライバー』を出現させ、黒紫色の変身アイテム『ヘレナ眼魂』を取り出した。

一連の流れに一夏は面食らったが、自身も戦極ドライバーを取り出し腰に装着。オレンジロックシードを取り出して翳す。

 

少しの間の後、夏煉はゴーストドライバー前面のカバーを開いて眼魂側面のスイッチを押して起動。ドライバーに装填してカバーを閉じ、右側のレバーを引く。一方の一夏はオレンジロックシードを解錠して戦極ドライバーにセット、施錠する。

 

『アーイ! バッチリミトケー! バッチリミトケー!』

 

『オレンジ!』

 

『ロック・オン!』

 

互いのベルトから待機音声が流れると同時に、オレンジアームズと黒地に紫の縁取りのパーカーが出現する。

 

「「変身!」」

 

夏煉はレバーを掴んでぐいっと押し込み、一夏はカッティングブレードを倒してロックシードを輪切りにした。

 

『カイガン! ヘレナ! デットゴー! 覚悟! キ・ラ・メ・キ! ゴースト!!』

 

『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!!』

 

素体であるトランジェント状態に一度変化した後、パーカーを羽織った夏煉は紫と黒の顔が描かれ、額には紫色の炎を模した二本の角を持つ『仮面ライダーヘレナ』に、一夏はライドウェアに全身を包まれてオレンジロックシードを被り、上半身に展開して鎧となった仮面ライダー鎧武 オレンジアームズに変身した。

 

「仮面ライダーヘレナ……」

 

「(ヘレナ…それが今の貴女の名前なのね)仮面ライダー鎧武……」

 

ヘレナはゴーストドライバーに手を翳すことで専用武器『ガンガンセイバー』を取り出し構え、鎧武は大橙丸の切っ先をヘレナに向ける。

 

「私の生き様、たっぷりと見せてあげる!」

 

「ここからは私のステージなんだから!」

 

同時に駆け出し、ガンガンセイバーと大橙丸で斬りかかる。互いの刀身が激しくぶつかり火花を上げた。

 

「はあっ! せやっ!」

 

「はっ! てりゃぁっ!」

 

一度刀を離して再び斬りかかる。武器や装甲の一部で火花が散り何度かよろめくが、その度に体勢を立て直し攻撃を続行する。一度でも付け入る隙を与えれば、一方的な流れに繋がるからだ。

やがて何度目かの鍔迫り合いが起き、鎧武は右手を腰の無双セイバーに伸ばし、後部のスライドを引いて弾を装填しながら引き抜くと同時にトリガーを引いた。

 

「うっ!?」

 

「はあああああっ!!」

 

銃口から放たれた弾丸を受けて後退するヘレナ。そこへ鎧武は大橙丸と無双セイバーの二刀流で攻め込むが……

 

「そうはいかない!」

 

ガンガンセイバーから小太刀を分離して同じく二刀流にすると、ヘレナは鎧武の一撃をそれぞれの剣で受け止めた。

 

「小太刀……!?」

 

「はああっ!」

 

面食らっている隙に押し返して距離を空けると、小太刀を反転状態で合体させ更に柄を折り曲げてガンモードに変形。トリガーを引いて弾丸を放った。

 

「ぐぅっ!? くっ、それなら!」

 

攻撃を防ぐ為に鎧武は無双セイバーと大橙丸の柄同士を合体、ナギナタモードにすると自分の身体の前でクルクル回転させて弾を弾く。

 

「だったらこっちも!」

 

一度攻撃を止めたヘレナは、柄を戻して小太刀を分離させると今度は柄同士で合体。ナギナタモードに変形させると鍔に描かれた目玉模様をゴーストドライバーに翳した。。

 

『ダイカイガン! ガンガンミイヤー! ガンガンミイヤー!』

 

対する鎧武もオレンジロックシードを戦極ドライバーから無双セイバーに付け替える。

 

『ロック・オン! イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン!』

 

腰を落とした後睨み合い武器を強く握る。

 

『オメガストリーム!!』

 

『オレンジチャージ!!』

 

「「はああああああああああああっ!!」」

 

背後に浮かび上がった目玉型の紋章をエネルギーとして纏った刀身と、オレンジ色の果汁の様なエネルギーを纏った刀身がぶつかり合う。しばらくは拮抗していたが、やがて間で爆発が起きた。

 

「「っ……!」」

 

幸いにも爆発する直前に後ろに飛び退くことで、双方共に大きなダメージを負うことはなかった。

 

「強い……!」

 

ヘレナはD05とナンバーが書かれた眼魂を取り出すと、ゴーストドライバーのカバーを開けた。

 

「行くよ、チンクさん!」

 

『ああ! 私達の力を見せよう!』

 

眼魂からも力強い少女の声が発せられ、ヘレナはその眼魂―――『チンク眼魂』のスイッチを押し、バックルにセットして閉じた。

 

『アーイ! バッチリミトケー! バッチリミトケー!』

 

現在羽織っているパーカーが消え、バックルから胸元にⅤと刻まれた灰色のロングコートが現れ頭上を旋回し始める中、ゴーストドライバーのレバーを引いてすぐさま押し込む。

 

『カイガン! チンク! 投げる刃! 相手を爆破!!』

 

現れたパーカーを羽織り、ヘレナは『チンク』の力を宿した『チンク魂』にゴーストチェンジした。

 

(気のせいかな? 今、目玉みたいなアイテムが喋った様な……)

 

「仮面ライダーヘレナ、チンク魂」

 

『戦闘開始だ!』

 

コートの内側から投げナイフ『スティンガー』を幾つか取り出し、鎧武に向かって一斉に投げる。

 

「(気のせいじゃない。やっぱり喋っている!)はっ!」

 

一投目を避けた後、次のナイフは無双セイバーナギナタモードで切り払っていき、最後のナイフも切り払おうとする。だが……

 

カチッ ドガンッ!

 

「うっ! な、何? 爆発した!?」

 

「はぁああああああああっ!!」

 

突如とてナイフが爆発。混乱したところにヘレナがナイフを手に接近戦を挑んでくる。咄嗟に無双セイバーで対応するが、先ほどの様にナイフが爆発しないか戦々恐々としている。

 

『良い戦い方だ。相手の意識はナイフに集中している。やるなら今だ!』

 

「うん!」

 

ヘレナは一度攻撃を中断し、バックステップで鎧武から離れる。

 

カチッ ドガンッ!

 

「きゃあっ!?」

 

今度は鎧武の装甲から爆発が起き、よろめいて後ろに下がる。

 

「い、今のでわかった。爆発するナイフを投げてるんじゃない。物を爆弾化する能力なんだ……!!」

 

「さすがにバレちゃったか……」

 

『なら一気に畳み掛けるまでだ!』

 

ここで決めるべくヘレナはゴーストドライバーのレバーに再び手を伸ばした。

 

「それならこっちも!」

 

『イチゴ!』

 

その隙に鎧武はイチゴロックシードを取り出して解錠し、オレンジロックシードと交換して戦極ドライバーに嵌め、カッティングブレードを倒して輪切りにした。

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! イチゴアームズ! シュシュッと・スパーク!!』

 

頭上に現れたイチゴアームズが消えたオレンジアームズの代わりに被さり、鎧武は派生形態のイチゴアームズに変化した。

 

『ダイカイガン! チンク! オメガドライブ!!』

 

レバーを変身時と同様に引いて押し込むことでオメガドライブを発動し、自身の周囲に大量のスティンガーを発生、滞空させる。

 

『ロック・オン! イチ・ジュウ・ヒャク!』

 

鎧武はイチゴロックシードを無双セイバーの柄に装填する。

 

「行って!!」

 

『イチゴチャージ!!』

 

「せぇえええええいっ!!」

 

滞空していたスティンガーと、無双セイバーを横一文字に振り抜いたことで発生した大量のイチゴクナイ型エネルギー刃が同時に発射され、空中でぶつかり大爆発を起こした。

 

「うわっ!?」

 

爆風に視界を遮られてヘレナはたじろぐ。

 

『オレンジ!』 『チェリーエナジー!』

 

『ロック・オン!』

 

『ソイヤッ! ミックス! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!! ジンバーチェリー! ハハーッ!!』

 

「てやあっ!」

 

「っ!?」

 

音声と共に赤い残像を纏った鎧武が、ソニックアローでヘレナを何度も切り裂く。ジンバーチェリーアームズの持つ高速移動能力によるもの。

 

「せいっ! たああああああっ!!」

 

「がはっ……! っ、動きが見えない……!」

 

『高速移動か、厄介な!!』

 

『チンク、私と交代して! このままじゃ負けるわ!』

 

『カズラ……わかった、後は頼む!』

 

「お願い、カズラちゃん!」

 

新たに出てきたD13と書かれた眼魂―――『カズラ眼魂』のスイッチを押すとドライバーからチンク眼魂を抜いて代わりに装填する。

 

『アーイ! バッチリミトケー! バッチリミトケー!』

 

今度はフードの左端に黒髪のサイドテールが着いた、黒と薄紫を基調としたパーカーが出現して旋回する。

 

『カイガン! カズラ! 縛って読み取る! 万能な触手!!』

 

パーカーを纏い、ヘレナは『玉置カズラ』の力を宿した『カズラ魂』に変化した。そのまま周囲に意識を集中していると、鎧武がソニックアローで斬りかかってくる。

 

「そこねっ!!」

 

パーカーの一部が触手となり、鎧武を縛り上げて身動きを封じる。

 

「うわっ! こ、今度は触手?」

 

「さっきのお返しよ! ええいっ!!」

 

もう1つの武器である『ガンガンハンド』のロッドモードを構えると、鎧武に次々と打撃を与える。

 

「ぐっ! がっ! がふっ!」

 

「最後はこれで!」

 

ガンガンハンドの砲身を伸ばして鎧武を突き、縛ったままやや遠くに飛ばす。

 

『今よ! 必殺技を使って!』

 

「うん!」

 

『ダイカイガン! カズラ! オメガドライブ!!』

 

「はっ!」

 

ゴーストドライバーのレバーを操作した後、高くジャンプして右足を触手に変化。更にそこから螺旋状の錐に変化し、勢いよく回転させる。

 

「とりゃああああああああああああっ!!」

 

必殺のドリルキックが鎧武に向かい、見事命中する。ヘレナとカズラ眼魂は一瞬勝利を確信したが、右足に違和感を持った。

 

「っ!? 手応えはあるのに、倒れていない?」

 

直後、衝撃で発生した煙が晴れていく。

 

『カチドキアームズ! いざ・出陣! エイエイオー!!』

 

そこにはカチドキアームズになり拘束を脱した鎧武が、装甲で受け止めた右足を左手で掴み、火縄大橙DJ銃の砲身を向けて立っていた。

 

『いけない! 相手はまだ健在よ!』

 

カズラ眼魂が警告した直後にDJ銃が火を噴き、ヘレナを大きく吹っ飛ばした。

 

「うぐっ……!」

 

その隙に鎧武はDJ銃の円盤を回してホラ貝のメロディとビートを流すと、ピッチを右に回して再び円盤を回し、トリガーを引いた。

 

「おりゃあああああああっ!!」

 

銃口から小さい弾丸がガトリングの様に連続で放たれる。ヘレナは複数の触手で弾を弾き、何発かは抜けて当たってしまうもののダメージを極力防いでいた。

 

「このままじゃジリ貧だよ……!」

 

『夏煉、カズラと私を交代させて! 状況を打破するにはそれしかないわ!!』

 

『そうね…任せたわよ、パティ!』

 

「力を借りるね、パティ!」

 

触手で防御しながらD07と書かれた眼魂―――『パティ眼魂』のスイッチを押してゴーストドライバーにセットする。

 

『アーイ! バッチリミトケー! バッチリミトケー!』

 

頭に青いカチューシャをつけた緑の長袖パーカーが現れ、それを見た鎧武は急ぎカチドキロックシードをDJ銃の窪みに装填する。

 

『ロック・オン!!』

 

「はぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

『カチドキチャージ!!』

 

トリガーを引き、強力な砲撃を銃口から放った。

 

『カイガン! パティ! 粒子と変化し! 不思議な女子!!』

 

だが間一髪ゴーストチェンジが完了すると、ヘレナは身体を粒子化させて砲撃を回避した。

 

「消えた……!? がっ!?」

 

戸惑ったその瞬間、鎧武は背中に衝撃を感じた。振り向けばいつの間にかヘレナが立っている。無双セイバーに武器を持ち替えて斬りかかるが、またもや粒子化すると背後に回り紫のオーラを纏ったガンガンセイバー・ナギナタモードで攻撃する。これこそが『パティ・クルー』の力を宿す『パティ魂』の能力だ。

 

『ダイカイガン! ガンガンミイヤー! ガンガンミイヤー!』

 

ガンガンセイバーをバックルに翳し、身体を再度粒子化させて鎧武を包囲。死角からナギナタモードによる連続斬りで翻弄し、正面に現れるとガンガンセイバーを回転させて粒子竜巻を発生。鎧武の身を拘束する。

 

「さっきの手はもう使えない筈! これで決めるよ!!」

 

『やってしまいなさい!!』

 

「てやぁあああああああああああ!!」

 

鎧武に向かいヘレナは勢いよく突進する。

 

『フルーツバスケット!』

 

『ロック・オープン! 極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!!』

 

「きゃああああっ!?」

 

しかしそれは、音声と共に弾け飛んだカチドキアームズの装甲によって止められた。起き上がったヘレナが正面に見たもの。それは……

 

「私の全力、見せてあげる……!」

 

白銀の鎧武者、極アームズだ。

 

『凄い威圧感だわ……』

 

『パティよ、妾と変わろうぞ』

 

「『羽衣狐』さん?」

 

『主も気づいているのであろう? アレを相手にするのはちと荷が重い、と』

 

『……残念ながらね。それじゃあ、貴女に任せるわよ』

 

『うむ、任された。では行こうか、娘』

 

「はい、羽衣狐さん!」

 

D02と書かれた眼魂―――『ハゴロモギツネ眼魂』を出してスイッチを押し、パティ眼魂と交換してゴーストドライバーに入れる。

 

『アーイ! バッチリミトケー! バッチリミトケー!』

 

裾の部分に、九つの白銀に煌めく狐の尻尾がついた漆黒のセーラー服のパーカーが現れると同時にレバーを引くと、すぐに押し込んだ。

 

『カイガン! ハゴロモギツネ! 魅惑の妖狐! 統べるは漆黒!!』

 

パーカーを羽織り、ヘレナは『羽衣狐』の力を宿した『ハゴロモギツネ魂』に変化した。

 

「「……………………………」」

 

『ソニックアロー!』

 

鎧武はソニックアロー二本を、ヘレナはガンガンセイバーとガンガンハンドを持ち睨み合う。

 

「「はぁあああああああああああああっ!!」」

 

走り出し、互いの得物で斬り合う。それぞれの武器が相手の装甲や武器を斬りつけ、火花を散らす。少しして、鎧武が不意に膝蹴りを食らわせヘレナをよろめかせる。

 

「せぇいっ!」

 

そこに追い打ちを仕掛けるが―――裾から分離した尻尾『ミスティックナインテール』が盾となり防御すると同時に、鎧武に体当たりし突き飛ばす。

 

「きゃっ! 今度はビット兵器って訳?」

 

「うーん……どちらかと言うとファンネル?」

 

『言うとる場合か』

 

ツッコミを入れられつつも、ヘレナはミスティックナインテールから出てきた扇と太刀の形をした2つの武器、『二尾の鉄扇』と『三尾の太刀』をガンガンセイバーとガンガンハンドの代わりに手にした。

 

「はっ!」

 

「うっ!?」

 

二尾の鉄扇を一振りして突風を浴びせた後、三尾の太刀に炎と雷を纏わせて振り下ろす。

 

『メロンディフェンダー!』 『ブドウ龍砲!』

 

だが鎧武はメロンディフェンダーを召喚してこれを防ぐと、ブドウ龍砲のトリガーを引いて紫色のエネルギー弾を連射した。

 

「わっ! やったわね!」

 

少し食らうもミスティックナインテールで防ぐと、新たに十字槍型武器の『四尾の槍』を持ち、突きを放つ。鎧武は避けようとするが、槍が伸びたことで躱しきることができず食らってしまう。

 

「槍が伸びた? だったらこれで!」

 

『影松!』

 

「てやぁあああああっ!!」

 

目には目をと影松・真を召喚して構えると、伸縮して攻撃してくる四尾の槍をいなしつつ攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い戦いですわ……どちらが勝ってもおかしくはありませんわね」

 

「そうね。でも義姉の身としてはここは夏煉に…………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観戦していた薫は所持していた端末が反応したことに気づき、何に反応したのかをすぐに確かめた。

 

「(ついに動き出したみたいね。それにしても、往生際が悪いこと……何にせよ回収に行かなくちゃ)ごめんなさい、急用ができたわ。判定は貴女に任せるわね」

 

「えっ?」

 

戸惑うセシリアを余所に、薫は何処かへと走り去った。

 

 

一方全力で攻防を繰り広げていたヘレナと鎧武は肩で息をしていた。体力の限界が近づいているのだ。

 

「はぁ……はぁ……あの、つ、次で、最後に、しません?」

 

「ぜぇ……ぜぇ……そ、そう、だね。ちょっと、張り切りすぎちゃった、からね……」

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

『しっかりせい娘! もう一踏ん張りじゃ!』

 

「は、はい……!!」

 

『ダイカイガン! ハゴロモギツネ! オメガドライブ!!』

 

レバーを動かしてオメガドライブを発動させると、鉄扇、太刀、槍、そして4つに増殖しそれぞれブレード・ガン・ナギナタ・二刀流モードとなったガンガンセイバーと、2つに増殖しロッド・ガンモードにそれぞれ変化したガンガンハンドが現れ、内ガンガンセイバーとガンガンハンドのガンモードを両手に1つずつ所持し、後は周囲で滞空する。

 

『火縄大橙DJ銃!』

 

対する鎧武は火縄大橙DJ銃を取り出し、窪みにオレンジロックシードをセットしてロックを掛けた。

 

『ロック・オン!!』

 

更に極ロックシードを回して次々と武器を召喚し始める。

 

『大橙丸!』 『バナスピアー!』 『ドンカチ!』 『クルミボンバー!』 『キウイ撃輪!』 『マンゴパニッシャー!』 『メロンディフェンダー!』

 

『ソイヤッ! 極スカッシュ!!』

 

呼び出した武器を周囲に滞空させた後、カッティングブレードを一回倒して黄金のオーラを纏わせる。ヘレナの方も武器に漆黒のオーラが纏われる。

 

「いっけぇぇぇええええええええええええええ!!」

 

「セイハァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

『オレンジチャージ!!』

 

放たれた黄金の奔流と漆黒の奔流が激しくぶつかり合う。衝撃で頑丈な筈の戦闘ルームが軋み始める中、2人は退こうともせず全力を出した。

 

その結果―――双方のエネルギーが臨界点を超えて大爆発が起き、ヘレナと鎧武を巻き込み吹っ飛ばした。

 

「「きゃあああああああああっ!!」」

 

「うっ……!?」

 

離れた場所に居るセシリアすら腕で顔を覆う程の余波が届き、収まったところで見てみれば2人はどうにか立ち続けていた。が、すぐに同時に膝をつき同時に変身が解除された。

 

「お2人とも、大丈夫ですか!?」

 

慌てて駆け寄ったセシリアは、先に一夏を、次に夏煉に肩を貸す。

 

「な、何とか、ね……」

 

「勝負は……ど、どうなり、ました……?」

 

「……同時に変身が解かれましたので、引き分けと判断させて頂きますわ」

 

「そう、ですか……でも、引き分けに持ち込めたのはラッキーだったかも……一夏さん、凄く強かったから……」

 

「それを言ったら……夏煉ちゃんも相当強かったよ。途中、何度負けると思ったことか……」

 

「それ以上喋ってはいけませんわ。一夏さんも夏煉さんも、まずはゆっくり休みませんと」

 

「そうだね…ごめん」

 

「ところで、薫義姉さんは? さっきから姿が見えないけど……」

 

「それが……急用が出来たと言ってどこかに行ってしまいましたの」

 

「急用?(薫義姉さんのことだから重要なことなんだろうけど、何があったんだろ?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、薫はクライナー・ナイルカスタムを用いてAR学園に赴いていた。

 

「ここの筈だけど……」

 

端末を用いて周囲を探る。するとやや離れたところにホログラム状態の春也が確認できた。

 

(居た。さっきやられたのは確認済みだけど、それでも消えてないなんて、しぶといにも程があるわ)

 

ため息をつきながら歩を進める。

 

『はぁ……はぁ……リベンジャーロックシードが破壊されるなんて……何故だ! 一夏姉さん達が使っていた時は、トランスフォーマーを圧倒していたのに!!』

 

ホログラム状態でノイズを走らせながら、春也は這々の体で海岸を歩いていた。リベンジャーロックシードを犠牲にしたものの、爆発に紛れて辛うじて逃げていたのだ。

 

「力を力としか捉えてないようじゃ、負けるに決まっているわよ」

 

『! 誰だ!?』

 

「アタシは兵鬼薫。織斑春也……貴方の魂を回収しに来た者よ」

 

『回収だと? 君も戦極凌馬の仲間か!?』

 

「違うわ。ただ……少なくとも貴方の味方じゃないことは確かよ」

 

『何だっていい。僕の邪魔をするなら……変身!』

 

『ブラッドザクロアームズ! 狂い咲き・サクリファイス!!

              ハッ! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道・オンステージ!!』

 

ホログラム状態から直接セイヴァーに変身すると、大橙丸とセイヴァーアローを構えた。

 

「乱暴ね……そこまでして世界を支配したい理由は何なの?」

 

『僕の存在を認めさせる為だ! どいつもこいつも、僕がオタクだからってバカにしやがって! アイツだってそうだ! 親友面して僕のことを庇ってたけど、結局はそんな自分に酔ってただけなんだ!』

 

「小さい理由……そんなくだらないことで、実の姉の処女を散らせたと言うの? それも自分の手を全く汚さずに……」

 

『それぐらいしなきゃ壊れないと思ったからさ。文句あるのか?』

 

「あるわよ。同じ女性として、貴方が……テメェが彼女にやったことだけは絶対に許せないんだ!! 変身!!」

 

そう言うと電王ベルトに似た『煉王ベルト』を腰に巻き、ライダーパスを翳した。

 

『DRAGON FROM!!』

 

彼女の身体が素体のプラットフォームになり、次いで黒いオーラアーマーが出現。各部に装着していき、薫の姿を『仮面ライダー煉王 ドラゴンフォーム』に変えた。

 

「仮面ライダー煉王……兵鬼薫!!」

 

『電王系ライダー!? この世界のライダーは鎧武系列の筈じゃ……』

 

「テメェが知る必要はない。ここでアタシに倒されるからな」

 

『ふざけたことを!』

 

『ロック・オフ!』

 

セイヴァーはザクロロックシードを外してセイヴァーアローにセットしようとする―――が、その前に接近した煉王によって腹パンを受け、腕を掴まれ阻止された。

 

『は、離せ! 必殺技を邪魔するなんて、卑怯だぞ!』

 

「散々好き勝手してきた奴に言われたくはねぇな」

 

強引にザクロロックシードを奪い取ると、それを潰さんばかりに握り締める。

 

『ぐあああああああああああっ!! や、やめろ……お願いだ、それを壊さないでくれ!!』

 

「断る。そうしないと、テメェの魂を回収できないんでね」

 

『ぐわあああああああああああああああああああ!!』

 

ザクロロックシードが限界を超えて砕け散り、セイヴァーの姿がノイズとなって消える。煉王はすぐさま変身を解くと、ガシャコンバグヴァイザーを取り出して彼の魂を回収した。

 

「ふう。もう1つのミッションも完了っと。さて、勝負の結果を見に行きますか」

 

AR学園に背を向け、薫は歩を進めた。




という訳で、この様な話が裏で起きていた訳です。コラボして下さった悪維持さん、ありがとうございます。
自分の文才が乏しいせいで上手く書けたかどうか自信がありませんが、これで良かったでしょうか……?


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