ひと夏の思い出を小さな彼女と (シート)
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ひと夏の思い出を小さな彼女と

 

 燦々と輝く太陽から射しこむ暑い夏の日差し。

 空は雲一つない快晴。眼前に広がるは白く輝く砂浜と、本当に何所までも果てしなく続いているのではないかと錯覚されられそうになる穏やかで透き通る海。

 ここがまだ隠れ家的なビーチであったのならどれだけよかったことだろう。しかし、ここは漂流したすえに流れ着いた無人島。しかも、誰も知らぬ未開の島。

 だというのに、ここに漂流して数日。人理を修正する世界最後のマスターである“彼”と、何故だか一緒に漂流していたマシュを筆頭とした見知った数人サーヴァント達の環境適応は凄まじく、今ではすっかり未開拓の無人島を住みやすい様開拓していた。

 住みやすい環境になれば、心に余裕が出てくるというもの。漂流したとは言え、快晴の青空と眩い太陽、砂浜と海から高揚感と開放感を沸きたてられ、サーヴァントの面々はすっかり夏を満喫していた。

 

「はぁ……疲れた」

 

 海やビーチから離れるように疲れた顔でとぼとぼと歩く彼。

 世界最後のマスターにしてサーヴァントのマスターである彼も夏を皆と共に満喫していた。だが、彼はどこまでいっても人間。人間と英霊とでは体力が違う。加えてサーヴァント達は明らかに夏の暑さに浮かされており、いつも以上にハイテンション。いろいろな意味でお祭り状態。

 そんなサーヴァントの面々と共に遊んでいれば、誰よりも早く体力切れを起し、疲労が溜まる。未だ遊び続けているサーヴァント達に申し訳なさを感じながらも、彼は一足先に休ませてもらうことした。

 

「あら、戻ってきたの。何だか疲れた顔してるわね、お疲れ様」

 

「エレナ……」

 

 休憩の為、浜辺にある海の家と呼ばれるコテージの近くまで彼はやって来た。

 するとそこあるビーチパラソルの下に置かれたビーチチェアで『エレナ』と呼ばれた少女が一人休んでいた。

 エレナ・ブラヴァツキー。キャスターのサーヴァントであり、彼とは師弟の関係にある。この無人島にいるということは彼女もまた漂流した英霊の一人。

 

「こんなところで何してるんだ?」

 

「見て分からない? 涼んでるのよ」

 

 そう言ったエレナは、ビーチチェアに体を預けながらリラックスしていた。

 手には冷えたレモネードがあり、それだけでも一目で涼んでいるのが分かる。

 しかし、彼が聞きたいのはそういうことではない。

 

「そうじゃなくて……あの二人はどうしたんだ?」

 

「ああ……あの二人ね」

 

 苦い顔しながらエレナは頷き、視線をある方へ向ける。

 彼もその視線を追うと、そこには男二人組、トーマス・エジソンとニコラ・テスラがいた。

 彼らもまた漂流したサーヴァントの一人であり、無人島で繰り広げられる夏のバカンスを満喫していた。いつものように言い争いをしながら。

 内容はBBQについてらしい。いがみ合いながら言い争う二人の様子を見て、何故今エレナがここいるのか彼は大体察した。

 

「何というか……どこでも二人はいつも通りだな」

 

「本当にね。まったく、こんなところに来てまで。流石に最初からずっとああなのだから付き合いきれないわ」

 

 呆れ果てた表情を浮かべるエレナに彼は苦笑した。

 いつも通りの二人の光景だが、カルデアと連絡の取れない無人島に来てもいつもと変らない光景を目にできるというのは彼に不思議と安心をもたらす。

 ああいうのを喧嘩するほど仲がいいっていうんだろうか、と今も言い争いながらBBQをしている二人を見ていると彼はそんなことを思った。

 

「そういうわけで私はこうして日陰で涼んでいるの。あなた、疲れているんでしょう? だったら、ここで涼んでいきなさい。冷たいレモネードもあるわよ」

 

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 エレナの隣に空いているビーチチェアへと彼は体を預ける。

 

「んー……はぁ……」

 

 ビーチチェアの背もたれに深くもたれながら体を伸ばし、彼は一息つく。

 朝からずっと動きっぱなしだった彼にとって、今こうしてゆっくりと体を休めることはありがたかった。

 しかも、日陰で砂浜の上に座るのではなく全身で寝転べる長椅子に座れるのだから尚更ありがたい。

 

「……」

 

 何となく彼は隣でくつろいでいるエレナへと横目をやった。

 彼女も他の面々と同じ様過しやすい格好、水着姿ではある。だが、エレナが選んだ水着が彼にとって見ずにいられない悩ましいものだった。

 

「(今更だけど何でスク水? なんだろう)」

 

 そんな疑問を思わずにはいられないほど。

 エレナが着ている水着とはスクール水着、通称スク水と呼ばれる学生が着用する紺色の水着。胸の辺りにある名札には『えれな』と名前がひらがなで書かれている。

 似合ってないわけではない。むしろ、恐ろしいぐらい似合っている。しかし、エレナがスク水を着ることによって、幼く小さな体型の幼い雰囲気が更に強調されているような感じが彼にはしてならない。

 

「何じーっと見てるの。いやらしい」

 

 凝視され続け気づかないわけもなく、エレナは呆れた様なじっとり目を彼へ向けていた。

 

「いやらしいって……そんなんじゃなくて、何でその……スク水なんだよ」

 

「今更それを聞くの? いいじゃない。好きで着ているんだから。それとも似合ってないのかしら?」

 

「いや、似合っているけどさ」

 

「ふふん」

 

 聞かれて咄嗟に答えた彼の言葉を聞いて、嬉しそうにエレナは微笑する。

 言ったことは嘘ではないが微笑むエレナを見て、何だか彼の方が恥ずかしく感じてしまい視線を逸らした。

 

 好きで着ているという言葉通り、エレナに恥ずかしがっている様子はない。堂々としている。

 だからこそ、好きでスク水なのかといろいろとツッコミたい気持ちはあるが、ここは好きで着ている言われた以上黙っておくしかなかった。

 

「平和ね」

 

「ああ」

 

 ビーチペラソルの下、ビーチチェアに腰掛けながら、二人はまったり休む。

 辺りでは未だBBQについて言い争っている二人の声や、ビーチバレーをしているマシュ達の賑やかな声が聞こえる。

 この二人はと言うと、特にこれといった会話はない。必然的に沈黙が生まれるが、それでも気まずい雰囲気はない。二人はこの場の雰囲気を好み楽しんでいる。二人の間には穏やかな時間が流れていた。

 

「なぁ、エレナ」

 

「ん? 何かしら?」

 

 問いかけられ、エレナは彼のほうへと向く。

 

「エレナは遊んだりしないのか?」

 

 それはある意味、至極当然な問いかけだった。

 彼は砂浜でマシュ達とビーチバレーをして、エレナはエジソンやニコラと一緒に居て子守もといお目付け役を。

 そんな風に別行動していた二人だったが、彼はエレナが遊ぶわけでもなくずっとお目付け役をしていたことは知っている。何も無理に遊べと彼は言っているわけではない。人にはそれぞれの楽しみ方がある。

 しかし、お目付け役していた時も、そして今もエレナはずっとじっとしてる。そんな姿を見ているとこうした問いかけをせずにはいられなかった。

 

「んーどうしようかしらね。というか、そういうあなたこそ、遊びに戻らなくてもいいの? きっとマシュ達が待ってるはずよ」

 

「それはそうかもしれないけど、俺はエレナと一緒に遊びたいんだ」

 

「――なっ!?」

 

 自分でもこれは少しばかりキザっぽいかもしれない。

 彼はそう思いはしたが普段、彼女には子ども扱いされるばかりで余裕な態度を崩せたことがなかった。だからこそ、今こうして滅多に見れないエレナの素で驚いている表情を見ることが出来、してやったりと嬉しい気持ちを感じていた。

 仕切りなおすかのように一つ咳払いをして、彼女は言った。

 

「本当にあなたは変なところでストレートね。よくってよ。事情はともあれ折角、海に来たんだものね。お誘い、お受けするわ」

 

「じゃあ、早速」

 

「焦らない。また太陽の下に出るんだもの。ちゃんと準備しなくちゃ」

 

 言いながらエレナは、ビーチチェアの足元に置いていた鞄の中からあるものを取り出した。

 

「はい、これ」

 

「何だこれ」

 

「見ての通りよ。日焼け止め。塗ってくれるかしら?」

 

「な、何でだよ! そんな恥ずかしい……というか、自分で塗れるだろ?」

 

「恥ずかしいってあなたね……私がお願いしたいのは背中よ。自分では全部届かないからね。前は自分でするから心配しないで。それともやらしい私のマスターは前も塗りたいのかしら?」

 

「……あ、あのな」

 

「というか、今更過ぎない? 背中、肌に触れるぐらいで。私とあなたは、“それ以上”のことをしているというのに」

 

「……」

 

 完全にいつもと変らないようにからかわれているのは分かっているが、彼は何も言い返せなかった。

 お願いしてきた理由はご普通な理由で肌に触れるなんていうのは彼らにとって本当に今更過ぎる。それほどまでに彼らは、“それ以上”のことをしている証拠に他ならない。

 

 それに何も彼はエレナにを塗るのが嫌なわけはない。

 ただ本当に恥ずかしいだけのこと。しかしここに来て、恥ずかしがったところで下手すると余計に子ども扱いされかねない。それは悔しい。彼は観念という名の決断をした。

 

「分かった、分かった。塗るよ」

 

「じゃあ、よろしくね」

 

 エレナはビーチチェアの上で仰向けになり、目を閉じながら背中に日焼け止めを塗られるのを待つ。

 受け取った日焼け止めを手に取って彼はエレナへと近づくと彼女の背中に塗り始めた。

 彼女が着ているスク水から見える背中は一々言葉にするまでもなくきめ細かく綺麗なもので、背中だけではなく二の腕や太股もまた魅惑的だった。

 

 そ手には日焼け止めを塗っているのにも関わらず、滑らかでありながら柔らかな肌の感触が伝わってくる。もち肌とはこういうのをいうんだろうか。日焼け止めを塗る指先はもちもちとしている肌埋まっていくかのよう。

 その光景、感触に彼は不思議と体内温度が上がっていくような気がした。

 彼は外見に変化がないように努めながら、手を動かしていたが。

 

「んっ……んん、やっ……あ、ん……」

 

 漏れる色っぽいエレナの声。彼から少しだけ見えるエレナの表情も心なしか色っぽい。

 その声を聞いて、彼は思わず手を止めた。

 

「やめろってば! そういう変な声出すのは」

 

「仕方ないじゃない。くすぐったいんだもの。そんなこと言うのなら恐る恐る塗るのはやめてほしいのだけど」

 

「……うっ」

 

 エレナの言葉に彼はバツが悪そうな顔をして返事を詰まらせていた。

 肌に触れるのは初めてではない。だが、自分以外の誰かに日焼け止めを塗ること自体は初めてな為、彼の手つきは確かに恐る恐るになってしまっていた。これならば、くすぐっているようなものでエレナが変な声を出してしまうのも仕方ない。

 気を取り直して彼は再び日焼け止めを塗っていく。

 

「ぁ、んんっ……はぁ、はぁ……っ、あぅ、ん……」

 

「(気にしない! 気にしない!)」

 

 相も変らず日焼け止めを塗る度にエレナは艶っぽい声を悩ましい吐息混じりに漏らす。

 今さっきでどうにかなるものではなく、慣れないものはやはり慣れない。手つきは未だ恐る恐るであり、結局くすぐるような感じになってしまった。頭の中で呪文の様に唱え、ただ塗ることだけに意識を向けようとする。

 何もわざと変な声だしている訳ではないということは充分分かってはいる。彼女は彼女で変な声が出ないよう声を我慢しているが、その我慢している声がその仕草が色っぽく、返って彼を悶々と煽るばかりだった。

 ようやく長いようで短い時を経て、塗り終えることができた。

 

「お、終わった……これでいいよな?」

 

「まだよ」

 

「え?」

 

「水着との境目がまだでしょう? 変に境目ついたら嫌だから内側まで少しでいいからちゃんと塗ってね」

 

 背中とは言え、流石に水着の中に手を入れることに抵抗は覚える。

 抗議しようかと思ったが、ここまで来たらやるしかない。彼は今一度覚悟を決めた。

 水着を上げ、内側へと手を入れ、境目だった部分を塗っていく。

 先ほどまで塗っていた背中と大して変らないはずなのに、水着の内側へ手を入れているというだけで、やましいことをしているような気分になる。

 

「ぅ、んっ……はっ…」

 

  ふとエレナの顔が彼の目に入った。

  くすぐったくて出てしまう声を我慢しているエレナは心にしか恥ずかしそうな表情をしており、頬が薄っすらと紅潮している。その普段あまり見れない彼女の表情にますます彼の体温は上がっていく。

 

「(何だかクラクラしてきた……おかしくなりそうだ)」

 

 エレナに日焼け止めを塗るということ。手に伝わるエレナの柔らかい肌の感触。

 それによって眩暈みたいなものがしているが、それの原因が夏の暑さなのか、それともまた別のものなのか彼には分からなくなってきていた。何だか反応してはいけない部分が勝手に反応してしまいそうになる。

 おまけにこのままだと自分すらも夏の暑さに浮かされた他のサーヴァントみたくおかしくなってしいそうだと、眩暈がする頭のぼーっと思った。

 

「もう、いいわよ」

 

「えっ? ああ」

 

 エレナの言葉で彼は我に返る。

 手元を見れば、何とか塗り終えられたようだった。

 彼は、彼女から離れると元いたビーチチェアへ倒れるように座った。

 

「(……つ、疲れた)」

 

 彼の体にどっとした疲れの様なものが襲ってきた。

 ただ日焼け止めを塗ったにしか過ぎない。されど、終わった今にしてみれば、何だか必要以上に気を使い、普段している訓練以上に疲れた気分で一杯だった。

 

 それでもいい思いしたことには変らない。

 しかし、眩暈というよりか興奮は未だ収まらない。昂ぶったまま。

 

「まったく、初心なんだから。たかだか日焼け止め塗るぐらいで」

 

 声の方へ視線を向ければ、そこには前かがみで彼の様子を伺う呆れ顔のエレナ。

 姿勢が姿勢なだけに胸元から見える水着の中、谷間が見えそうになっている。

 目を背けるようと彼はしたものの、エレナに頬を触れられ、それは出来なかった。

 

「エレナ……」

 

 求めるように名前を呼んでは彼は息を呑む。

 熱っぽい身体に、彼女の手は冷たく感じ心地いい。

 言葉もだが、エレナの仕草もまた完全に子ども扱い。いいように遊ばれていると分かっている彼だが、エレナから目を離せない。魅入られるように、ただ目を離せないでいた。

 

「もう、我慢できないって顔しないの。これから遊びに行くのでしょう。誘ったのは誰だったかしら?」

 

「俺、だけどさ……」

 

 散々煽られた様な気分でこれではあんまりだ。

 歯切れ悪く言う彼を見て、エレナは仕方ないと笑い言った。

 

「まあ、私にも責任がないとは言えないわよね。じゃあ」

 

「――」

 

 固まる彼に構わず、頬に触れた手はそのままにもう片方の頬に頬を軽くすり寄せ、耳元で囁いた。

 

「今はこれで我慢しなさい」

 

 彼の頬にそっと彼女の柔らかな唇が触れる。

 やがて、申し合わせたかの様に二人は目を合わせた。

 彼に見えたエレナの瞳も熱っぽく輝いて、美しかった。

 少しの間、そうしてお互い見つめ合っていたが、エレナは静かに言った。

 

「私だって我慢できなくなっちゃいそうなんだから……そういうのは遊んだ後でも冷めなかったらその時はたっぷりと、ね」

 




ミートウォーズのスク水エレナ最高だった


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