Fate/alternative (ギルス)
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【オルタニキで】「プロローグ」【第五次聖杯戦争】
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
それは、稲妻の様な切っ先だった。
心臓を串刺しにせんと繰り出される槍の穂先。
躱そうとする試みは無意味だろう。
それが稲妻である以上、人の目では捉えられない。
死にたくない、死んで、いいはずがない。
兄さん、兄さんーー私は、まだ。
死ね、ない。
その思考を最後に、我が身は百舌鳥の早贄よろしく貫かれるのかと。
身を強張らせた。
加速した思考が、ゆっくり、ゆっくりと迫る槍を認識して。
だが、身体はそれを回避できるだけの動きはできず。
ただ、必死に考えに考えた。
何かを、聞いて、答えた様な気がした。
そして、稲妻はとうとう私の身体をーーーー、
だが。
この身を貫こうとする稲妻は、
稲妻以上の速度を持った紅い暴風に吹き散らされた。
ズシン、と言う重い足音。
目の前の敵が踏み鳴らした踏み込みよりなお重く、速い。
我が身を襲った稲妻と、奇しくも同じく長い柄を持つ「槍」と呼ばれるその武器は。
紅く、暗く…そして、何より余りに恐ろしかった。
「問おう、貴様が俺のマスターか。」
巨大な黒い影が喋った。
紅く、暗いその凶器を構えたまま。
「え?あ、え?」
混乱の極みにある私の頭はまともな答えを返せず。
目の前に立つ存在が私に語りかけていると理解するまでに暫しの間を必要とした。
「…ちっ、ハッキリしやがれお前が俺のマスターか、と聞いている。」
気怠そうに、しかし眼は相手の動きの一端すら、視界から外さない。
「小僧、貴様が何者かは知らんがな…この儂を前に余所見とは良い度胸じゃ!」
こちらが悠長に会話するのをいつまでも待ってくれる筈も無く、槍を構えた赤い影は苛立ちを含んだ声で叫んで来た。
ジャッ!
と風切り音を立て、鈍色の鋼が再び稲妻の様な速度で迫る。
今度は目の前の…紅い暴風の主に。
「は、しゃらくせぇ!」
ガイン!
と激しく音を立て、鋼が打ち合う音が暗い土蔵の中に響いた。
「まあ、いい…その手に宿る令呪…お前が俺のマスターで間違いはなさそうだ。」
不敵な笑み。
まるで牙の様にずらりと並ぶ尖った歯。
三日月の様に歪めた口元を隠しもせず、眼前の敵を見据える、漆黒の立ち姿。
フードに半ば隠れた顔は野性味あふれ、両耳には長い水晶の様なイヤリング。
両脚は黒い、まるで捻れた角の様に見える無数の棘に覆われた生物じみた装甲に鎧われている。
腰から伸びるのは…尻尾???
まるで巨大な百足にも見える尻尾がゆらゆらと揺れていた。
紅い月が輝く空が。
土蔵の窓から怖いくらいの赤光を差しいれている。
私はーー
初めて、誰かに「畏怖」と「憧れ」を同時に抱いた。
という訳でプロローグのみです。
流石に冒頭の相手が兄貴同士ではいけないのでランサーは差し替えが起こりましたw
うん、バレバレかもしれない☆4ランサーなあの方です。
また、バーサーカーなオルタニキが主人公と契約したため、アインツベルンの枠も変わります。
また、この作品途中から本気で原作を逸脱します。
オリキャラもいくらか入りますので、そのあたりご了承下さい。
それではーー次回更新でお会いしましょう!
2016.5.21 Pixivにて初稿up、8月28日、ハーメルンにて加筆修正後、投稿。
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第1話 『始まり』
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
主人公の名前とかは拙作、某所にて投稿している別シリーズのぐだ子基準ですがあくまでもイフ世界のぐだ子です。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
打ち合いはたったの2合。
睨み合いに至っては恐らく2秒に満たない。
だが、それがまるで永遠にすら思えた。
「ふん、いけ好かないマスターじゃて…この好機に戻れと来たか…まあ、良い…そこな槍使い、貴様がなんのクラスかは知らぬが…次におうた時こそ、全力で打ち合おうぞ。」
「は、逃げるのか爺、少しは楽しめるかと思ったんだがな?」
「生憎我がマスターは臆病でな、貴様のように武人気質だと良かったんじゃがな。」
赤い中華風の衣装、結われた赤髪。
喋り方こそ老獪ながら目の前の、自分を殺そうとした相手は若々しく、鍛え上げられた身体をしていた。
「かっ、冗談…俺は王だ、殺し、奪い、強さを示すーー在り方はただそれだけでいい。」
否定しながら、何処か嬉しそうに口角を吊り上げる、漆黒。
「ふ、覚えておれよ、必ず、必ず貴様の本気を見せてもらう。」
そう、言い捨ててバックステップ。
中華風の男は土蔵の入り口から出たかと思えば急にその気配が消えた。
先ほど迄の圧倒的存在感が嘘のように。
「気配遮断ーー?いや、違うな…目視出来なくなった途端に気配が完全に消えただと…厄介な野郎だな、フン。」
男が消えた先に殺気を叩きつける様にしていた彼が、振り向く。
怖い。
けど、震えるほどにーーその強さに憧れる。
「サーヴァント、バーサーカー…呼び声に応えて来てやったぞ、小娘。」
**********************
さて、訳がわからない。
聖杯戦争???
いや、確かに私の家は魔術師の家系だ。
しかし。
私は…今や完全に一般人だったはず。
なにせ父の代で魔術師としては終わっている。
魔術師には…魔術刻印と言うものがある。
言うなればそれは魔術師の家系にとって一子相伝の魔術の奥義書みたいなもので、先祖代々受け継がれていくその家系の魔術の結晶みたいなものだ。
兄が居たが、兄は後継者にはなれなかった。
そのままならば私が後継にされていただろう。
だが、不幸な事故で父は他界。
遺体すら残らない惨状で…魔術刻印もまた失われた。
バーサーカーによればこれは聖杯戦争。
聖杯を巡り、七人の
母は早くに亡くし、身寄りもなく父の古い縁故に頼って仮の住まいにとこちらに引っ越してきた訳だがーー真逆。
狙った様にそんな儀式が開催されるなんて。
聞いてない。
第一、私がその
「は、ははは…なんだろ、こんな…私が何をしたって言うの?」
「何をだと?お前、馬鹿か。」
思わず零した言葉に、辛辣な答えが返ってきた。
「お前は俺を召喚した。」
「は、はぁ。」
「故に、俺は貴様を旗印に全てを刺し殺し、踏み壊し、蹂躙する。」
「え…、何、なん、え?」
「お前となら…楽しい覇道を歩めそうだな…マスター。」
凶暴な、笑み。
それを見た途端だった。
胸が、痛い。
ズキズキと痛み、息までが苦しい。
「あ?どうしたよ、無駄にでけぇ自分の胸なんざ鷲掴みにして?」
「し、知らない、わよ…急に、なんか苦しく…カハッ」
視界が揺らぐ。
グニャグニャと景色が歪み、立っているのか、倒れているのかすらわからない。
拙い、意識もっていかれ、る…。
《…朔弥…!》
声。
懐かしい声。
「っ…がはっ!」
酸素が急激に脳へ供給される様な感覚。
身体中から奪われたものが一気に満たされ、私は激しくむせ込んだ。
地面についた自分の両手、ことに左手に見える痣ーー、令呪が見える。
三つの巴が追いかけ合う様に配置された美しい赤い図柄。
それは、目の前のバーサーカーの胸にも刻まれた文様。
「そうか、俺の維持が殊の外堪えたのか。」
言うや、バーサーカーはその姿を光に包み、消えた。
「…あ。」
途端に楽になる身体。
『不便なもんだな、魔力が足らないなんざ。』
頭に直接語りかける様な声。
「……!?」
『狼狽えるんじゃねえ、霊体化しただけだ、この声はお前との
「あ、え、そうか…これ、貴方の声なんだ」
『ああ、後でもう少し説明してやる、今は休め。』
意外に優しく言われてしまう。
…ツンデレ…?
『お前…死にてえのか、あ?』
ギャー!?
し、思考が筒抜けっ!?
「ご、ごめんなさいーっ!?」
思わず飛び上がり、土蔵の壁に背中を押しつける形でひっつく。
ずるずるへなへなとへたりこみ、床に崩れ落ちる。
驚愕と安堵から力が抜けた。
情けない話だが…下着を濡らさなかっただけマシだと思う。
「あうあう…誰か助けて…。」
割と本気で。
意識を手放す寸前、
その時は本当にそう思ったりした。
***********************
朝。
朝だ。
太陽が顔を出し、大半の人にとって1日が始まる時間。
いつもと同じその朝に。
何故か今日は珍客が居た。
いつもの様に早起きし、食事の支度をする前に先日散らかしたままだったと思い出した土蔵に来ると、扉が半開きになっていた。
「…なんでさ?」
中を覗けば、そこには女の子が倒れていた。
橙色の明るい髪を肩まで伸ばした健康的な印象を受ける顔立ち。
視線が下にいくにつれ、その豊満な胸が強調されて見えてしまう。
逸らそう、と思いながらもつい見てしまうのは男の性が。
「桜より…あ、いやそうじゃない大丈夫か、あんた?」
白い、何処かの高校のブレザーの様な服装。
いや、年格好からして実際に高校の制服なのだろう。
「あ?この娘…確か…」
そうだ、昨日の転校生じゃないか。
記憶を辿れば、つい先日見たばかりの服装。
顔立ちまではあまりハッキリ記憶していなかったが確か一年に転校生が来ただかで人だかりができていた、その中心に居た人物だ。
******
もうすぐ、予鈴の鐘が鳴る。
ホームルームまで間がない、急がなければ。
「やばいな、つい修理に夢中になっちまった。」
朝も早くから、生徒会から頼まれた備品を修理していたのだが意外に手間がかかる作業につい、時間を忘れて没頭してしまってこの有様だ。
足早に一年の教室の前を通り抜けようとした時、目の前に人だかりがあるのが見えた。
どうやら女子生徒と男子生徒がなにがしか口論をしているようだった。
「ね、君今日から来るって聞いていた転校生だよな、なかなか可愛いじゃん、どう、良かったら弓道部に見学に来ない?朝練は終わったけどさ、夕方にでも見に来いよ、ボクの美しい立ち姿を見せてあげるからさ?」
…時間も無いし、関わり合いになっている場合では無いのだが。
「あの、先輩…私弓道に興味はありませんし…あと、転入手続きがあるから忙しいんです…申し訳ありませんがどいてもらえませんか?」
「は!照れるのは仕方ないけどさぁ、この僕が誘ってるんだ、後から後悔しちゃうぜ?」
「何このワカメ…うz」
「は?何だって?聞こえ無いんだけど。」
渦中の人物、片方は良く知った顔だった。
文武両道、学問も部活もそつなくこなす秀才…何だが、どうも他者との関わりの持ち方に問題がある友人であった。
「はぁ、仕方ない…おい、慎二。」
「あぁ?衛宮ぁ?」
「もうすぐ予鈴鳴るぞ、お前も2年なんだから早く行かないと藤姉…っと、いや藤村センセに怒られちまうぞ?」
「…ちっ、腹立たしいけど確かにね…まぁ、一応感謝するよ衛宮。」
「はは、感謝なんかいいさお前とは友達だからな、さ、行こう。」
******
そう、そのまま教室に向かって…完全に置き去りにする形で放置してしまったのが確か。
この娘だったはずだ。
すやすやと硬い土蔵の床で眠る姿はもはや堂々とすらしている、が。
このままにもできまい。
「おい、起きなよ、おーい?」
つん、つんと頬を突くが、一向に起きない。
「ん〜むにゃ、兄さん…エッチな本の隠し場所はもうすこし考えなよ…ふにゃ。」
…なんだこの寝言。
仕方ない。
「よい、しょっ…とぉ。」
すこし躊躇したが、やはりこのままにも出来ないな、と彼女を抱き上げ、和室の一角に運ぼうと歩き出す。
…所謂お姫様抱っこだ。
藤姉や桜に見つかる前に早いところ運ばないと。
「ふ、ふふふもう食べられませんよ…、、ヤん。」
「な、なっ!?」
なんだ、偶然か?
今、衛宮んって言わなかったか?
いや…ハッキリ聞こえたわけじゃないしなにか別の単語かもしれない。
なごやん、とか。
「はぁ、まあいいや…とりあえず…」
和室の戸を足で開け、中に入る。
「布団、をーー」
「おぅ、小僧…布団これでいいか?」
何故か。
先回りする形で上半身半裸、フードを被って下半身はジーンズ姿の野性味溢れる筋肉質の男が布団を引いてその前に佇んでいた。
「は…?」
「おぅ。」
「な、なんだお前ーーーーっ!?」
衛宮士郎。
穂群原学園2年生。
こうして、彼を巻きこんで私と、バーサーカーの冒険譚は幕を開けたのでした。
と言うわけで第二回です。
士郎にはこういう形でサブ主人公として登場して貰いました。
因みにサーヴァントは未召喚です。
本来なら士郎がたどるはずだったランサーとアーチャーの対決シーンを目撃したのはぐだ子さんこと九重 朔弥(ここのえ さくや)。
彼女は曲がりなりにも魔術師であった為からくもランサーの追撃を逃れて逃げた先が衛宮家土蔵だった、という訳でした。
ランサーが入れ替わり、中華なランサーに。
バーサーカーがセイバーの代わりに召喚された事で、他にも改変される歴史が出てきますがそこは今後ゆっくり明かしていきたいと思います。
皆さまの応援があれば続きます!
戦闘とか入らなくてすいません。
原作にある程度そう形で話を進行しますのでまったりとお待ちくださいませ。
それでは、また次回があればお会いしましょう!
2016.5.22 携帯より某所にて初稿投稿。
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第2話 『神成る槍』
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、原作をなぞる展開、演出上止むを得ず原作からの引用文があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
某所にて投稿時にアンケート欄に士郎を主人公にと望むお声が若干ありましたので、サブ主人公として配置されました。
お話にももちろん絡ませる予定です。
ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
いつの間にか随分と暗くなってしまった。
夕日は沈みかけ、グラウンドにも誰一人居ない。
転入届を出し、不備があったとかで初日終了後に職員室に向かい、暫く書類の書き直しに没頭し、やっと終わったと廊下を歩けば、朝のワカメがこちらを睨んでいた。
「おい、お前…待てよ、朝は衛宮が割って入って話が流れたけど…」
などと聞こえてきたが今度は努めて無視。
「は?無視かよ?…図太い神経だね
ああ、厄介なのに目をつけられた。
そう考えた瞬間には全力で踵を返し、走り出していた。
「なっ、逃がすかよこのっ…先輩後輩の上下関係ってヤツをたっぷり教えてやるからな!?」
冗談では無い。
あんな人につかまれば何をされるかわからない。
*******
「はっ…はぁ、ま、撒いた、か…な?」
二階に上がる振りをして窓から渡り廊下の天井に飛び出し、雨樋を伝って一階へと戻り、下駄箱を抜けてグラウンドへ。
流れる様な逃げ方である。
「全く…私の美貌に寄ってくるのは仕方ないけど…あんなのはごめんこうむるね、断じて。」
野球部のネット裏に腰掛け、暫くやり過ごす。
携帯を弄り回しながら時間を潰すうちに段々周りが暗く、陽が落ち始める。
「うー、お腹すいたなあ…」
お昼にサンドイッチ一つ食べただけ、それからすでに6時間以上は経過している。
お腹だって減ってあたりまえだ。
キュルキュル、っと可愛らしい腹の虫を鳴らしながら座り込み、辺りを見る。
誰一人居ないグラウンド。
この広さに寂しさすら覚えながら、本当に誰もいないだろうな、と聞き耳をたてる。
すると…遠くから、いや…意外に近くから音が聞こえた。
甲高い、金属音。
鋼と鋼がぶつかり合うその音はーー
「何よこれ…」
立ち上がり、グラウンドの逆側を見れば…そこには嵐が吹き荒れていた。
互いにあか。
今夜の月の光とおなじいろ。
赤と、紅。
片や、長い柄を持つーー槍。
片や、一対、黒と白の二刀流。
槍は二刀を近づけまいと遠距離から恐ろしい速度と正確さで突いて、突いて、まるで瀑布の如き攻めを。
二刀使いはギリギリで槍の猛攻を受け流し、懐ろへ入り込む隙を窺っていた。
「………っ!」
非現実。
まるで現実味が無い光景。
夜の校庭でまるでコスプレイヤーみたいな二人が、しかし真剣を持って人智を超えた速度で殺し合いをしている。
だが、それは無骨でも、殺伐としているでも無く…美しいとさえ言える、まさに演武と見えた。
その舞踏が、幾たびも続きーー正に終わりを告げんとした、その時。
「よくぞ言った、若僧…ならば食らうか、我が必殺の一撃を…!」
鬼気、とはこれを言うのだろう。
紅い、中華風の衣装をした、槍使いが槍を構え、深く腰を落とした瞬間。
周りの大気が、凍りつく。
それは、気温の低下では無い。
ただ、触れれば死ぬと。
物言わぬ骸になるのだと告げる、死神の視線。
パキン。
緊張の余り。
私は…足元の小枝を踏み折ってしまった。
「誰じゃ!」
槍の穂先が、こちらに向く。
ヤバい、ヤバいヤバイヤバイ!
逃げろ、と。
全身の神経が警鐘を鳴らしていた。
身体は弾かれた様に走り出し、私に今可能なすべてを用いてーー簡易ながら魔術による肉体強化までかけ、先ほどワカメから逃げた速度の倍は早く走り抜ける。
だが。
「なかなかの俊足よ。」
あれ程必死に走ったと言うのに。
男は息一つ乱さないまま。
ほんの一瞬きの間に。
私の目の前に、立っていた。
*******************
「これで7つ目かーーとりあえずここが起点みたいね。」
屋上には堂々と八画の刻印が描かれている。
魔術師にだけ見える赤紫の文字は、見たことの無いカタチであり、聞いたことも無いモノで刻まれている。
「……まいったな。これ、わたしの手には負えない。」
この呪刻を仕掛けた奴は何も考えていない。
だが。
これ自体はおそろしく高度で複雑な術式で編まれている。
推し量れる術式の意味合いとしては…力の吸引。
一時的に機能を止めることは可能だろう。
しかし、相手がこの呪刻に触れ、再び魔力を通せばそれだけで復活してしまう。
正直、嫌がらせ程度に遅延させることしかできない。
「ーーーーーー…」
アーチャーは何も言わない。
屋上で呪刻を見た時から口を噤んでいるのは、この呪刻の正体に気づいているからだろう。
この結界は対象から「体力を奪う」なんて生易しいモノでは無い。
一度発動すれば、結界内の人間を文字通り「溶解」させる。
内部の人間から精神力や体力を奪うと言う結界はある。
だが、今学校に張られようとしている結界は別格だ。
これは魂喰い。
結界内の人間の身体を溶かして滲み出る魂を強引に集める
古来、魂と言うものは扱いが難しい。
それは確かに在るとされ魔術に於いては必要な要素と言われているが、
魂はあくまで「内容を調べるモノ」「器を移し替えるモノ」に留まる。
それを抜き出すだけでは飽き足らず、一箇所に集めるなど理解不能だ。
だって、そんな変換不可能なエネルギーを集めたところで魔術師には使い道がない。
だから、意味があるとすれば、それは。
「アーチャー、貴方たちってそういうもの?」
知らず、冷たい声で問いただした。
「ご推察の通りだ、我々は基本的に霊体だと言っただろう。故に、食事は
栄養を摂ったところで基本的な能力は変わらないが、取り入れれば取り入れるほどタフになるーーーつまり、魔力の貯蔵量が上がっていくというワケだ。」
……そう。
自らのサーヴァントを強化させる方法が、無差別に人間を襲うこと。
「マスターから提供される魔力だけじゃ、足りないってこと?」
「足りなくはないが、多いに越したことはない。実力が劣る場合、力の差を物資で補うのが戦争だろう。
周囲の人間からエネルギーを奪うのはマスターとしては基本的な戦略だ。そういった意味で言えば、この結界は効率がいい。」
「ーーーーー」
勝ちたければ人を殺して力をつけろ、とアーチャーは言っている。
なんて単純。
そんな事、わたしだって知っていた。
だから、これから自分がとるべき道もちゃんと判っているつもり。
「それ、癇に障るわ、二度と口にしないで。アーチャー。」
描かれた呪刻を見つめながら告げる。
アーチャーは何故か弾むような声音で
「同感だ。私も真似をするつもりは無い」
そう、力強く返答してくれた。
「さて、それじゃあ消そうか。無駄だろうけどとりあえず邪魔をするくらいにはなる。」
描かれた呪刻に近寄り、左腕を差し出す。
左腕に刻まれた魔術刻印は、私…「遠坂凛」の家系が伝える”魔道書”だ。
ぱちん、と意識のスイッチを入れる。
魔術刻印に魔力を通して、結界消去が記されている一節を読み込んで、後は一息で発動させるだけ。
「
左手をつけて、一気に魔力を押し流した。
これでとりあえずこの呪刻から色を洗い流せるのだがーーーー
「何じゃ、消してしまうのか?」
******************
唐突に。
まるで結界消去を阻むかのように、
第三者の声が響き渡った。
「ーーーー!」
咄嗟に立ち上がり、振り返る。
給水塔の上、およそ10メートルの距離を置いた上空でそいつは私を見下ろしていた。
紅い月明りに同化するように立つ姿は痩躯。
痩せたかに見える細く長い身体はしかし、一切の無駄の無い筋肉の塊。
中華風の赤い装束、燃える様に赤い髪は結わえ、無造作に頭上に束ねられている。
飄々とした笑みを張り付かせ立つ、若々しく、荒い獰猛な表情。
両袖をつけるようにして腕を合わせ、しゃがみ込みながら此方を睨めつける眼差しは、虎か、狼か。
猛獣の眼差しは、美味そうな餌を見つけたとばかりに愉悦に浸った光を此方に向けている。
「ーーこれ、貴方の仕業…?」
声が震えそうになるのを抑え、問う。
「いいや?この様な小細工を弄するは脆弱な戯けがやる事よーー儂等はただ、命じられた事をこなしてーー死合うのみ…そうじゃろう、そこの若僧?」
「ーー!」
軽々と、しかし殺意に満ちた。
この男、霊体化したアーチャーが見えている!
「やっぱり、サーヴァント!」
「応よ、それがわかるお前は…儂の敵、で良いのだな?」
「ーーーーーーッ!」
背筋が凍る。
何という事は無い、飄々とした男の声。
そんなものが、今まで聞いたどんな言葉より冷たく、吐き気がするほど恐ろしいだなんて。
視界がチカチカして、世界が色を失いかける。
どう動くべきか、何が最善かは判らない。
ただ、この男と今ここで戦う事だけは、絶対にしてはいけないと理性が告げているーー!
「ほぅ、たいしたものだ何もわからない様でその実、肝心な事は理解しておるか…小娘、貴様少しは齧っているようじゃな?」
何の事かわからない、が。
スゥ、と男が立ち上がり…その腕が上がる。
事は一瞬。
今まで何も無かった男の手には、長さ2メートル余りの槍。
飾りは少なく、刃元に赤い布飾りが見えるのみ。
それは、ただ実戦に特化した無骨極まりない、しかして単純なる殺戮の為の道具だった。
『ーー神秘の欠片も感じぬ槍だというのに、なんだこの総毛立つ様な圧迫感は…っ』
僅かに焦りを含んだアーチャーの念話。
自信の塊の様なコイツが…つまりは相手はそれだけ強敵だ、という事か。
男の顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
「ーーーー!!」
考えるよりも早く、真横に跳んだ。
屋上だから思い切り跳べない、なんて余裕は無い。
兎に角全力で、力の限り、フェンスに体当たりする気で真横に跳躍する……!
ぶぉん!
風切り音とともに髪を舞い上げる、旋風。
正に間一髪。
ほんの瞬きの間に突進してきたソレは、容赦なくフェンスごと、一秒前まで私が居た空間を斬り払った。
「ふっ、良い功夫じゃ、娘!」
紅い鬼が迫ってくる。
退路など何処にも無い。
背後はフェンス、左右はーーダメだきっと間に合わない…!
判断は一瞬。
即座に屋上のタイルを蹴る。
「
左腕の魔術刻印を走らせ、一小節で魔術を組み上げる。
身体の軽量化と、重力調整。
この一瞬、羽と化した身体は軽々と浮き上がりーー
「凛……!」
「わかってる、任せて…!」
フェンスを飛び越えて、屋上から落下した。
「っ!」
風圧と重圧が体を絞る。
着地まで十五メートル、時間にして1.7秒ーーダメだ、それじゃきっと追いつかれる!
「
ブワ、っと土煙が薄く上がる。
「ーーっ、はっ!!」
着地の衝撃をアーチャーに殺させ、地面に足が着いたと同時に走り出す。
とにかく、移動しなければならない。
私とアーチャーの特性が活かせる、遮蔽物の無い…広い空間にーー!
「は、っ…は!」
屋上から校庭まで、7秒かからずに走り抜ける。
距離にして百メートル以上、常人なら残像しか見えない様な速度。
けど、そんなものは、サーヴァント相手にはなんの意味も無かった。
「いや、本気で逸材じゃ…ここで殺すにはちと惜しい程に、な」
過去の英雄たるサーヴァントに手放しに褒められたのは誇るべき事かも知れない。
それが私を殺そうと迫る相手でなければ。
「アーチャー!!」
私が後ろに引くのと同時に、前に出たアーチャーが実体化する。
紅月の夜。
アーチャーの手には、月光を反射させる一振りの短剣があった。
「ーーほぅ…」
まただ。
あの獰猛な笑み。
「そうこなくてはな…そういう
ごぅ、と言う風音。
それは先程容赦なく私を殺しにきた、鋼。
2メートルを超す長槍だった。
「ランサーの、サーヴァント…」
「如何にも…そういう貴様はセイバーの…む、違うな…何奴じゃ、貴様は。」
目を細め、殺気の塊と化して睨みつける、ランサーに、アーチャーはあくまで無言。
「ふん、真っ当な一騎打ちをする様には見えんな、貴様は。と、なればアーチャーか。」
嘲りを含む声にもアーチャーは答えない。
対峙するは奇しくも双赤。
どちらも紅と、赤。
月光の下、対峙した二人は互いに必殺を計っている。
ランサーは槍を構え、アーチャーは一見棒立ちして片手に短剣を持っているだけにしか見えない。
だが、そこには隙など無いであろう事は何よりランサーもまた構えたまま動かない事から理解する。
「どうした、小僧…弓を出さんのか?」
…前言撤回、もしかしたらランサーはアーチャーが弓を出すのを待っていただけなのか?
「これでも礼節は重んじる方でな…貴様が全力を出せる獲物を構える間ぐらい待ってやる。」
「ーーーーーー…」
アーチャーは何も答えない。
敵に語る事は何も無いとばかりに、その[[rb:剣 > はがね]]の様な背中が語っていた。
それで、気づいた。
私はバカだ。
アーチャーはただ一言、私の言葉を待っているだけだと言うのに。
「アーチャー。」
近寄らず、その背中に声をかける。
「手助けはしないわ…貴方の力、ここで見せて」
「ーーーーーク」
それは、笑い、だったのか。
私の言葉に応える様に口元を吊り上げて。
赤い騎士は疾走した。
渦巻く突風。
短剣を手に、赤い弾丸が疾走する。
「カッ、戯けがッ!」
迎え撃つは獰猛なる獣。
その笑みは肉食獣のソレに似て。
疾駆するアーチャーが突風なら、迎撃する穂先は神風であったろう。
奔る刃、流す一撃。
高速で奔る槍の一撃を、アーチャーはすんでに短剣で受け流す。
「ーーーーッ!」
赤い外套が止まる。
敵はアーチャーの疾走を許さ無かった。
槍の間合いまで、僅か2メートルの接近すらさせない。
長柄の武器にとって、距離は常に離すもの。
2メートルを越えるほどの槍を持つランサーは、射程圏内に入る敵をただ、迎撃すればいい。
踏み込んでくる外敵を貫くことは、自ら打ってでるよりよほど容易いのだから。
にも、関わらず。
ランサーは迅雷の如き速度をもって、自ら距離を詰めてきた。
アーチャーはその猛攻に、前進すらままならない。
「弓兵風情がこの儂に接近戦を挑んだな…?」
その鼻っ柱を、今すぐに命共々折り砕いてやろう、と。
その猛攻は益々速度を上げて行く。
本来、長柄の武器にとって自らが距離を詰めるのは自殺行為だ。
槍とは、素人目には「突き殺す」武器に見られがちだが。
その真価は「払い」にある。
薙ぎ払いによる広範囲の打撃は、もとより身を引いて躱すなどという防御を許さない。
半端な後退では槍の間合いから逃れられず、反撃を試みる様な見切りでは、腹を裂かれるのみ。
かといって無造作に前に出れば、槍の長い柄に弾かれ、容易く肋骨を粉砕される。
アーチャーとランサーの体格はさほど大きな差は無い。
重装甲では無いアーチャーにとって、旋風のような槍の攻撃範囲に踏み込むのは難しい。
だが、それが打突であれば話は別だ。
高速の一刺、確実に急所を貫く突きは確かに恐ろしい。
しかし軌跡が「点」である以上見切ってしまえば躱す手段は幾らでもある。
アーチャーの様に急所を突きにきた槍の柄を打ち、軌道を僅かでも逸らせばそれだけで隙になる。
弓兵と甘く見た油断だろう。
長柄の利点は自由度の高い射程と間合いだ。
それを自ら捨てた時点でランサーの敗北はーー
「ーーーーーぬっ!?」
赤い外套が停止する。
時間が巻き戻ったかの様な悪夢。
否。
そうでは無い。
ランサーの穂先は先程よりもさらに高速。
刃先が見えず、
鋼が時折月光を弾く様が見えるだけ。
「ぐっ!?」
軌道を逸らそうといなしにかかるアーチャーが短剣ごと弾かれる。
ランサーの槍に戻りの隙など無い。
いや、それどころか速度はさらに際限なく上がり続け…今やサーヴァントをしても必殺の域まで到達する一撃一撃が雨あられとアーチャーに降りかかる。
甘く見たのは私たちだ。
あのサーヴァント、ランサーに槍兵の常識など、無いに等しかった。
雷速の打突は更に、まるで柳の枝がしなる様にその打突方向すら自在にコントロールされ、襲いかかる。
「な、なんというーー槍捌き、か!」
「貴様こそ…儂の槍を不得手な獲物でよくも凌ぎおる…が、終わりじゃ!」
ガィィンッ!
甲高い音を立て、アーチャーの手から短剣が弾き飛ばされた。
もはや嵐の様な直線的な突きの軌道に加えて、しなる一撃一撃が蛇の様に合間を縫って襲いかかる。
それは、アーチャーにとってはくるのがわかっていながら躱すことのできない一撃だった。
「間抜けめ」
ランサーが止めとばかりに槍を構え直し…
「…アーチャー!」
慌てる私に構わず、アーチャーは徒手空拳のままに両手を広げ、
「己が愚かさを抱いて死ねぃ、若僧っ!」
ランサーの手から、雷光の如き勢いで槍が突き出される。
眉間、首筋、心臓。
穿つは三連、全弾急所ーーー!
だが、視る事さえできぬ雷光を、一対の光が弾き返す……!
「チッ…二刀使い、じゃと?」
仕留めそこなったランサーが舌打ちをする。
その視線の先には、先程弾かれたものと同じデザインの短剣、更にもう一つ。
対比するような黒い短剣が増えていた。
中華風のデザイン、鉈にも見える肉厚の刃はしかし、洗練された美しい模様に彩られている。
両手に握られたそれは、左右対称の
*********************
「弓兵風情が剣士の真似事、などとは言わぬ、儂とて他人の事はあまり責められたものでは無いからな…だが。」
最早プライドが許さぬと、突如再開された槍捌きは先程よりもまだ早く、苛烈になって行く。
「っ、しつこいな、貴方も!」
「ぬかせ、この赤狸めが!」
耳を打つ剣戟は、まるで激しくも美しい音楽の様だった。
不規則ながらリズムをもって響くソレは、死の舞踏、それを彩る音楽の様だ。
死は、誰のもとにも平等に訪れるのだと言う様に槍と短刀が光を奔らせ、踊る。
一瞬の筈の剣戟はしかし、永遠かと感じられた。
懐に入れまいとするランサーと。
双剣を盾に間合いを詰めるアーチャー。
刃のぶつかり合いは体感だけでも100を超え、激しく音が聞こえる度にアーチャーは武器を失う。
だが、それも一瞬。
次の瞬間にはアーチャーの手には再び同じ武器があり、その度にランサーは僅かに後退する。
事此処に至り、ランサーは自らが油断していたと認めたのだ。
こ奴が何者かは知らぬ。
だがこれ以上、この男を弓兵と侮れば…敗北するは己であるのだ、と。
瞬間。
槍の嵐が、雷が、止んだ。
隙なく構え、いつでもアーチャーを阻める格好ではあった、が。
「27、これだけ弾いてもまだあるとはーー」
視線は油断なく、しかし何処か息を吐き出すかの様に。
「認めよう、愚か者は儂の方であったとな、してーー貴様一体全体、どこの国の英霊だ。」
「答える義務はないな。」
あまりに不可解。
奴が手に持つ双剣にはいささかながら心当たりがある。
ーー夫婦剣…
呉王に命じられ造られた名剣。
だが、その鋳造に用いた特殊な鉄が如何しても混ざり合わず、見兼ねた鍛冶師干将の妻、莫耶がその身を炉に投げ入れ、捧げたことで出来上がったといういわれを持つ中国の伝承にある名剣、だが。
干将・莫耶を造った人物は居ても使いこなしたものなぞ終ぞいなかった筈だ。
幾度紛失しようと必ず持ち主の元に戻る、と言われた逸話もまた、先程の現象の答えを出している。
だが、だがしかし。
やはり、使い手なぞ存在する筈が無い。
「干将・莫耶…違うか?」
ピクリ、とアーチャーの眉が動く。
「益々わからんな…案外貴様、近代の無銘の英霊、か?何らかの経緯で干将・莫耶を得ただけのーー」
「そういう貴方こそ…近代の英霊、だろう。」
アーチャーの投げかけに、今度はランサーの口角が吊り上がる。
「ふむ、何を根拠に。」
「近代の、などと遥か昔の英霊が使う言葉にしてはいささか不自然、かつーー、これほど変幻自在、神速の槍捌きとなればーー服装から見てとれる中国には恐らく、たった一人。」
ザワリ。
空気がざわつく。
ランサーの全身から…鬼気が立ち昇り始める。
「よくぞ言った、若僧…ならば食らうか、我が必殺の一撃を…!」
「止めはしない、いずれ越えねばならぬ敵だ。」
瞬間。
周囲の空気が凍りつく。
それは、物理的な気温の低下では無い。
だが、比喩でも無く。
あまりの殺気に、無生物すら恐怖したかと思うくらいの静寂が、場を支配する。
大気中のマナは一気にランサーへと集まり、大気が凍る。
「ーーーー」
あれは、触れてはいけない。
このままではあの槍が奔って、アーチャーは。
間違いなく、敗れ去る。
あの槍が奔れば最後と。
わかっていながら私は指一本動かせない。
アーチャーを助けなければ、支援しなければと思いながら。
今、私が動けばそれが開始の合図になりかねないからだ。
あれが発動したら終わりだと、わかっていながらーー
だから。
もし、それを止めるとすれば。
パキリ、と。
乾いた小枝を踏み折る音が、響いた。
「誰じゃっ……!!」
それは、私達が見逃していた第三者の登場に、他ならなかった。
************************
「誰じゃ!!」
「……え?」
ランサーから放たれていた鬼気が消えた。
走り去っていく足音。
その後ろ姿は、間違いなく学生服だった。
「生徒……!?まだ、学校に残っていたの……!?」
「その様だな、お陰で命拾いしたが。」
冷静に言うアーチャー。
いやまあ、確かにそれは助かったけど…
「失敗した、ランサーに気を取られて周りの気配に気がつかなかった、って、アーチャー、アンタ、何してんの」
「見て判らないか、手が空いたから休んでいる」
「んな訳ないでしょ、ランサーはどうしたのよ」
「さっきの人影を追ったよ、目撃者だからな、おそらく、消しに行ったのだろう。」
「ーーーーーー」
一瞬。
あらゆる思考が、停止した。
「追って!アーチャー!私もすぐに追いつくからっ!」
即座にランサーを追う、アーチャー。
「くそ、なんて間抜け…っ!」
目撃者は消すのが魔術師のルールだ。
だから、それが嫌なら目撃者なんか出さなければいいんだと、今までずっと守ってきたのに。
なんだって今日に限ってこんな失態を…!
走る。
頼むから生き延びていてくれ、と願いながら。
************************
走る、走る、走る、走るーー。
きっと、一生分走ったに違いない。
一瞬にして追いつかれた事に諦めかけたが、砂を蹴って目潰しを仕掛け、その隙に、死にたくない一心で私は再び走った。
校舎に駆け込み、遮蔽のある空間で、なんとかやり過ごせないかと。
しかし、直ぐにそれが失態だと気づく。
もし、見つかれば…袋の鼠では無いか。
何か、何か無いかーー
家庭科室。
其処には幸いにも…現状を打破する切り札になり得るモノが揃っていた。
あんな化け物にどこまで、通じるか。
それでも、簡単に諦めてたまるもんか。
白布に覆われて隅に立てかけられていたマネキン、それに自分の髪の毛と、指を噛み、滲んだ血を一滴。
そこにルーンを施す。
「付け焼き刃の私の魔術で、どうにかなるか判らない、けど…お願い、効いて…っ」
さっきのは、高位の精霊?
あるいは怨念で縛られた人間霊だろうか?
それにしては嫌に知性があった様子だった、が。
なんにせよ…これに気を取られてくれてる間になんとか…逃げなきゃ。
********
「なかなかに足掻くでは無いか、しかし、終わりかの?」
呟くと、室内に足を踏み入れる、ランサー。
「…今夜はどうにも楽しい日よな…1日に二人も逸材を見つけ、どちらも殺さなきゃあならんあたりが悲しいところだがーー怨んでくれるなよ、こちらも慈善事業をしとるわけでは無い、のでな。」
部屋の片隅で、うずくまり、震える少女。
白布を巻きつけ、涙ながらにこちらを見やる姿はいっそ哀れを誘う。
「情けなど、期待されても困るな。」
トス、っと。
軽い音を立て、刃が少女の胸へと吸い込まれる。
瞬間、爆発したかの様に広がった閃光の中。
少女が、ニヤリと、嗤った。
**********************
「はっ、はっ、はっ、はっ…っ!!」
走る、走る、走る、走る。
先程一生分走った等と言ったが、どうやらまだまだ走らないとならないらしい。
空きっ腹に優しくない。
腹痛が、身体を苛むが。
命には変えられない。
道を走り、時に他所様の家の庭を突っ切り。
住宅街に隠れる場所を探し、兎に角走る。
今夜行く筈だった下宿先を探したいところだが、住所を記したメモは鞄と共に学校だ。
「なんでもいい、とにかく…隠れなきゃ」
坂道をひた走ること数分後。
視界にやたらと立派な武家屋敷が目に入って来た。
庭には土蔵らしい建物もたたずんでいる。
人気は、無さそうだ。
暫しの隠れ場所にさせてもらう分には、良いかもしれない。
重い鉄扉を開け、中に滑り込む。
ガラクタが散乱した土蔵の中はヒンヤリとした空気だった。
腰掛けれそうな場所に、近くにかかっていた適当な布を敷き、へな、と座り込む。
「や、やっと一息つけた…転入早々、なんで死ぬ様な目に会わなきゃいけないの、うぐぐ。」
幻惑のルーンでマネキンを私だと錯覚させ、仕掛けた目眩しで時間稼ぎ。
魔力を伴う光は例え相手が怨霊、精霊であったとしても多少効果がある筈だ。
確かに作動した手ごたえを感じた。
だからこそ自分は先んじて窓から退散したとは言え、ここまで逃げ切れたのだろう。
魔力も、体力ももう限界だ。
とりあえず、朝までここでやり過ごしてから考え…
「見つけたぞ…小娘。」
「ひっ!?」
鉄扉が開き、入ってきたのは。
先程の赤毛の、怨霊。
「や、ちょ、なんでここまでっ」
「もう少し、貴様が事情を知っておれば…魔力を隠して逃げおおせたかもしれんな。」
か、完全に人語を理解してる!
「あ、悪霊の類じゃ、無い?」
「戯けか、悪霊、怨霊が武器を持って相争うと思うてか?我らはサーヴァント。」
「サーヴァント、サー、ヴァン、トッ!?」
ここでようやく合点がいった。
サーヴァント。
過去の英霊を使役し、扱う。
聖杯の奇跡。
「え、ちょっと…嘘!?」
東国の僻地で開催される大儀式。
それに精霊をも超える英霊を扱うものがあると、噂には聞いていたがーー
魔術師であれば垂涎ものの報酬があるが、とんでもなく危険な儀式だ、とは聞いている。
詳しい話は父が居ない今、わからないが…
「さて、随分と面白い真似をしてくれたがーー今度こそ、終いじゃ。」
スゥ、と構えた穂先が此方を向いた。
し、死ぬ?
このまま、私はーー死ぬ、の?
そう、考えた途端。
左手の甲に激痛が走る。
「い、った…、何!?」
手には、赤く、三つの痣が浮かび、腫れができていた。
「ソレはーーそうか、貴様が、最後の!」
ますます生かしておけなくなった、と言うや男の槍が、閃いた。
【後書き的な何か】
はい。
と、言う訳で。
ようやくプロローグへと繋がりました。
なっが!
我ながら書いててなっが!
しかも、今回は結構な原作の引用というね、もうね。
(規約違反に引っかかりません、よね、ね?)
とはいえ。
原作を軸にして物語を改変する事が逆に大変だと、思い知りました。
原作の雰囲気ぶち壊してしまわないか、そこにヒヤヒヤしながら原作の文と見比べながらの作業。
はい、やはり学ばされるものが多々ありました。
やっぱり自分の地の文章は拙い、と。
改めて感じました。
少しでも皆様が楽しいと感じていただけたら私はハッピーです。
さて、アーチャーはこれで、ランサーの正体にほぼ気がつきました。
ランサーは逆に大混乱。
挙げ句の果てには槍持の、あり得ないサーヴァント(オルタニキ)とこのあと出会ってしまう訳です。
現在の登場サーヴァントは3騎。
アーチャー 真名 ???
とはいえ、まあ原作のままの人ですからわかりやすいですやね。
ランサー 真名 一体何書文なんだ!?
はい、「拳児」とか読みましょう。
…まあ、伝説が大袈裟なのはともかく、死因に関してはあの漫画間違いだったらしいですが。
というか日本で流れるかの人の話は本人の祖国ではかなり違う話になってたりするらしいですが。
気になる人はwikiだけでなくいろいろぐぐると良いかもしれません。
バーサーカー 真名 クー・フーリン・オルタ
言わずと知れた我らがクー・フーリンの兄貴、その闇堕ちバーサーカーバージョン。
耐久性のあるバーサーカー。
頼れる兄貴、厨二病も真っ青なあの方です。
次回、話は再び時間軸を衛宮士郎とオルタニキの出会いに戻ります。
それでは皆様、今回も長い長い、私の駄文と改変話にお付き合いありがとうございます!
次回も、お付き合い頂きたく。
2016.5.24.22:20 携帯より、某所に初稿投稿。
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第3話『正義の味方』
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、原作をなぞる展開、演出上止むを得ず原作からの引用文がある場合があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
今回、日常パート。
…話が進む進む詐欺。
それでは、拙い作品ではありますが宜しければお楽しみ下さい。
それは、稲妻の様な切っ先だった。
心臓を串刺しにせんと繰り出される槍の穂先。
躱そうとする試みは無意味だろう。
それが稲妻である以上、人の目では捉えられない。
死ぬ、シヌ、死んでしまう。
なに一つ成さず、残さず、生きた意味すら解らぬままに。
私は、兄の為にも、生きなければならない。
死んで。
たまるか。
身体中に巡る魔術回路。
数にして200余。
数だけなら一流の魔術師を越え、超一流、いや、人外の域。
しかし。
それら殆どが機能していない。
眠ったままの、役立たず。
いま、起きなくてーーなんの為の、魔術回路、か!
(なんでもいい、コイツを…)
どうにかする、力を!
強いーー力を寄越せ、私は、死ねないんだ!
ズクン。
手の甲が、熱い、身体が、揺れる。
ーー否。
視界が、緋く染まり…何かが私に。
《欲しいか、全てを蹂躙する、王の力が!》
寄越せ。
誰であれ何であれ構わない。
私を害するモノをーー全て吹き散らす力を!
それは一瞬。
思考が、私に投げかけて来た言葉に、ただ心が無意識に答えを返していた。
《聞き届けた。此れより俺は貴様の、牙だ!》
閃く、闇。
闇が凝縮したかの様な、光を吸い込んで行く闇の帯。
それが、土蔵の床に記された古い魔方陣を書き換えて。
噴き出す様に。
顕現した。
******************
誰も居ない家庭科室。
そこに、胸部を穿たれ、半ば砕けたマネキンと強烈な光に晒され、僅かに焦げ臭くなった空気だけが残されていた。
「アーチャー。」
「すまない、凛…どうやらランサーを見失った様だ、魔力どころか痕跡らしい痕跡が見当たらん…どんな手品だ、これは。」
「…今は良いわ、それよりこれ。」
「あぁ、一流とは言えんが、魔術、だな。」
幻惑のルーン。
それに加え、魔力を視覚に強烈に作用する様調整された、魔術的な
外からもわかるくらいに強い光を窓越しに放っていた。
全く知らない手口だ。
しかも状況からして、これを仕掛けたのは先ほどの生徒。
改造制服か、或いは他校の生徒か?
何にせようちの学生服とはいささか違っていた様に記憶している。
ならば必然、私の知らない第三者だ。
「どこの田舎魔術師かしら…セカンドオーナーであるウチに…遠坂に挨拶も無しとか。」
「怒るところは其処か…、君は」
少々呆れ顔のアーチャーは放置して調べを進める。
まあ、正直な所ほっとしている。
一般の生徒が巻き込まれたわけではなくて。
死体を拝むのはできれば、したくないと思っていたから。
「今日はもう帰るわよ。」
「そうだな、魔力の回復は必要だ。」
頷き、霊体化したアーチャーから視線を外し、一階玄関へと足を運ぶ。
ああ、明日からやる事は山積みだ、などと思いながら。
******************
ガバ、と。
布団を跳ね除け、起き上がる。
「し、死んでたまるかーーー!?」
開口一番。
口をついて出たのは、そんな言葉。
「よぅ。」
くわ!
っと見開いた瞳に飛び込んできたのは。
自分の中では先ほど見たばかりの、浅黒い肌に、獣の如き双眸のーー、バーサーカーの顔があった。
ただ、格好は随分と違う。
足や手に、捻じれた角の様な突起も無ければ、服装もまたジーンズと言うラフさ。
槍も今は構えていない。
「あ…れ?」
自分が盛大に寝ぼけていたのを自覚。
顔が一気に熱くなった。
「バーサーカー?」
「おぅ、そうだ…おまえの呼び出したサーヴァントだよ、マスター。」
やはりあれは、夢ではなかった。
…しかし。
ここは、何処だ?
作りからして日本家屋。
畳に敷かれた客室用らしい羽毛布団に寝かされていたのか。
畳を形作る藺草の匂いが、何処か懐かしい。
そ、っか…昨日の武家屋敷の中か。
「お、目が覚めたか、転校生。」
ス、っと襖が開き癖のある赤毛に柔和な笑みを浮かべた男が、手に盆を持って入ってきた。
盆の上には湯気を立てる美味しそうなご飯、味噌汁と焼き鮭に、漬物が乗っている。
「はへ???」
くぅ、とお腹が鳴るのを感じながら私の目はお盆に釘付けだった。
「ああ、腹減ったろぅ、まずは食べなよ。」
差し出されたご馳走に、食いつこうとして、躊躇う。
がっついたら…なんか女の子としてだめな気がしたから。
キュルルル…クゥ。
「あっ…」
しかし、腹の虫めが全て台無しにしてくれた。
「い、いただきましゅ…」
噛んだ!よりによってこのタイミングで!
し、死んでしまいたいっ!?
恥ずかしさに悶えていると、バーサーカーがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
ああああああっ、何だかわからないけど物凄く恥ずかしいっ!
ーーで。
結局、空腹に負けておかわりまでした後、ようやく自己紹介と状況把握タイムと相成った。
「…つまり、君は偶然その、聖杯戦争とやらに巻き込まれて…偶然うちの土蔵に逃げ込んで…死ぬかと思った矢先に彼、バーサーカーが召喚されて助けられた、と?」
「はい、荒唐無稽な話です、信じろと言う方が無理な話ですがーー
「信じるよ?」
ーーはっ!?」
「いや、だって俺の親父、魔術師だったし。」
「マジで?」
「ああ、普段は隠さなきゃならないらしいが同じ魔術師、しかも敵意がない相手なら問題ないだろう。」
呆れた。
この人お人好しにも程がある。
「いやいやいや、あっさりバラしてどうするんですかっ、私が実は悪い女って可能性は考えないんですかっ!?」
「信じるよ、君が悪女なら…最初に魔術師だなんて話さないだろうし、目を見れば悪人かどうかくらいわかるさ。」
な、何と言う…ど天然。
あまりにも、純粋培養過ぎるんじゃなかろうか。
「それに、正義の味方はーー女の子を大事にするもの、だろう?」
【後書き的な何か】
はい。
順調に餌付けされるぐだ子。
エミヤさんの調理スキルは高校生当時すでにプロに迫ると思います、原作見る限り。
とりあえず前回長くて仕方なかったから日常パートで短く区切りました。
こんな感じで、お話は徐々に進めて行きます。
多分、きっと。
次回は桜登場予定。
SYURABA、になるのか否か。
それでは次回、またお会いしましょう!
2016.5.26.18:55 某所にて初稿投稿。
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第4話 『虎VS…』
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
日常パートその2。
桜登場。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
それに、正義の味方はーー女の子を大事にするもの、だろう?」
カーッ、っと顔が熱くなるのがわかる。
な、なにこの人…お人好しにも程がある上に、天然!?天然なの!?
「あ、は、ははっ、女の子、ですか…」
あ、ヤバ。
なんだかドン引きしたみたいな声を返してしまった。
そうじゃない、そうじゃないけど。
直球過ぎて。
心臓がバクバク言ってる。
「ああ、祖父さ…親父の夢はね、正義の味方だったんだそうだ、志半ばに…夢は折れてしまったらしいけどね。」
「え、それってーー」
「ああ、正義の味方はさ、年齢制限があるらしいんだよ、笑っちまうだろ?」
あ、なんだ…てっきり死んでしまいました、って話かと思った。
「それで、貴方は?」
「ああ、親父の夢は、俺が叶えてやるーーなんて、ガキの口約束さ。」
苦笑いしながら、けれど。
ちっとも、無理だなんて思ってない。
そんな表情。
「ーー純粋、なんですね、えっ、と」
「ああ、悪いまだ名前も名乗って無かったな、俺はエミヤ、衛宮ーー士郎だ。君よりは一つ年上、2年だが同じ穂群原学園生だ、よろしく。」
す、と自然に差し出された手をとる。
「ここのえーー九重…朔弥です、よろしく、」
「ああ、君の願いとやらが叶うまで、な。」
「ハイ、よろしくお願いします、衛宮先輩ーー…ん?」
願いが、叶うまで?
「ブッ、ク、ク…ブワハハハハッ!」
堪えきれない、と言った顔で。
真後ろで胡座をかいて時々ニヤニヤしていただけで大人しかったバーサーカーが吹き出した。
「い、いいい、今なんて言いましたか、先輩っ!?」
「え?だから、君の願いが叶うまで…?」
「な、なんでそうなるっ、ひっ、ひっヒーッヒッヒ、は、腹が痛ぇ、ぼ、坊主テメェ、俺を笑い死にさせてぇのかよ、ブハッ、ヒーッヒッヒヒヒ!」
でかい図体(今は尻尾は無い)をゴロゴロと畳の上で転がしながら腹を抱えて笑うバーサーカー。
「む、なんだよ…困ってる人がいたら助けるのが道理だろう、第一聖杯とやらが誰かの手に渡るまで戦いが終わらないんだろ、だったら話は簡単だ。」
「ど、どうする気だよ、えっ?」
涙目でプギャー、とか言いそうな顔で指差すバーサーカー。
「その
不機嫌そうに返し、答えを紡ぐ、士郎。
「幸い俺も程度は低いが魔術も使える、二人で協力したら早く片がつくし…死人だって出さずに済むかもしれないだろう。」
呆れた。
開いた口が塞がらないとは正に今だ。
「そんな軽い理由で、命を懸ける気ですか…貴方…」
私だって、巻き込まれたようなものだし、助けは幾らでも欲しいとは言え。
ちょっと、この先輩は…大丈夫だろうか?
「女の子が困ってる、理由ならそれで充分だろう、それに自分の住む街で人死には避けたいしな。」
なっーーま、またこの先輩は対処に困る言い回しを…
「あ、あぅ。」
ヤバい。
おさまれ、動悸。
「ーーヒ、ヒ…テメェ、真性の馬鹿か、なんの得にもならないだろうに…本気なら正気を疑うぜ…ある意味俺のお仲間だなぁ、お前。」
どこか、揶揄するかのようで、その癖変に優しく。
バーサーカーは諭すように話す。
「ーー本気さ。」
むす、っとした顔で返す衛宮先輩。
「ーー遠からず死ぬぞ、テメェ?」
視線が怖い。
凄い目でバーサーカーが士郎を睨む。
「どう言う意味ーー」
と、士郎が返すのとタイミングを同じく。
ピンポーン!
とインターフォンが鳴った。
「あ、もしかして…?悪い、二人ともこの部屋で待っててくれるか?」
会話を打ち切り、士郎が玄関へと歩いていく。
そうは言われても私もどうしたらよいかわからない状況で。
自然、何とは無しに困ってしまい、士郎が向かった玄関に足を向けていた。
「ああ、やっぱり桜か、おはよう。」
「はい!おはようございます、先輩!」
そんなやりとり、来客はーー女の子?
しかもやけに可愛らしい声をした子だなあ…
「あの、先輩、?」
結局、考え無しに顔を出してしまい。
声の主、桜さんとやらと、ばっちり目が合ってしまいました、まる。
花が綻ぶ様な可愛らしい笑顔が一転、目尻には涙が溜まり。
「ど、どなた…です、か?」
プルプルとチワワみたいな震え方をしている。
「ーー、あ?」
そこでようやく、自分がまるでーー
エミヤ先輩と、そういう関係性だと誤解されかねない状況だと、悟る。
「っ、ち、違っ、違いますよ、え、っと桜さん!?私は先輩とはそんな関係ではーー」
桜さんの美しい紫紺の髪が、
ザワリと、脈打つかの様な錯覚を覚えた。
「先輩、の…ば、バカー!バカー!う、うわーーーーーんっ、浮k、じゃないけど…裏切り者ーーーーっ!」
鞄が飛ぶ。
靴も飛んだ。
ついでに、どこから出したのか信楽焼の狸までが飛んできた。
「あ、危なっ、桜、危ないから!」
次に桜さんの豊満な身体が。
ぷるんぷるん揺らすところを揺らしながら、髪を振り乱してぐるぐるパンチ(子供がししそうなアレ)でエミヤ先輩の意外に厚い胸板をポクポクと叩いている。
…段々、彼女の顔が泣き顔からちょっと嬉しそうな顔になってるのは気のせいだろうか?
あ、先輩に抱きついた。
…どさくさ紛れに。
「先輩、衛宮先輩はっ、無節操に女の子を連れ込むやらしい人じゃないですよね?ね?」
ぎゅむー、と抱きしめながら、至福って顔が見え隠れする桜さん。
…この子。黒い。
「ーーさ、さくらっ!は、離して、離してくれ、あ、あ、あたってる、いろいろまずいから、な、な!?」
困惑しながら、鼻の下が微妙に伸びてます、先輩……
ーー男の人、って。
*******************
誤解を解くのに随分苦労した。
関係のまるで無いこの人に、下手な事も言えないし。
衛宮先輩には、今は霊体化したバーサーカーが勝手に姿をさらしてしまい、済し崩しに説明する羽目になったが、これ以上巻き添えを増やすわけにもいかない。
結局、私は先輩のお義父さん、衛宮切嗣の縁者であり、下宿先を探していたから格安でここを紹介されてきた、と言う嘘をつく羽目になった。
いや、実は嘘から出たなんとやら。
真実、私の父の縁故、とやらは…衛宮切嗣その人だったのだが。
実は、父は大雑把な人で。
冬木の街で、この住所に行き家主に「デイウォーカーの一件では世話になった、すまないが手を貸して欲しい」ただそう告げれば家主は大概の事はしてくれるだろうから、もしも困る事があれば尋ねなさい、としか書いていなかった。
第一本人も本当にそんな事態になるとはあまり思わなかったのだろう。
住所が殴り書きされたメモが、緊急時には、と先ほどの言葉と一緒に書かれていただけ。
後からそれがわかったのは、鞄に忘れたメモの住所は、正にこの武家屋敷だったから、だ。
家主である士郎はそんな事はさっぱりだそうだが。
曰く、切嗣の事だから…俺に伝えてなかっただけかもなあ、だとか。
父も父だが。
先輩のお義父さんもーー大概大雑把だった様だ。
****************
「お話はわかりました。」
やっと納得してくれたか…後は適当な理由をつけて明日にでも下宿先を探して…
「しかし!私はともかく!」
え、何なの?
この私は四天王の中では最弱、次なる刺客が、的な物言いは?
「藤村先生は納得しないと思いますよ、先輩」
「あ、あ〜…藤姉か…」
苦い顔で呟く衛宮先輩。
やっぱり藤村さんって四天王?(違います
「藤村、ってもしかして英語の藤村大河先生の事ですか?」
「はい、先生は先輩のお義父さんの知り合いで…先輩、の保護者にあたる、と言うか…保護されている、と言いますか…あれ?」
「桜、確かに藤姉は保護者より保護されそうな感じだがそれ以上言ってやるな…」
「あ、あははー、まあお会いしたらわかりますよ、はい!」
と、そんなことを言っていた時だった。
ガラ、と。
庭に面した戸が開き…女性が眠そうな顔で上がりこんできた。
「しーろーうー、桜ちゃあんおはよふぁあ〜」
「藤姉…だらしない顔で上がりこんでくるなよな…まったく、教師がみっともないぞ?」
などと返しながら、衛宮先輩は茶碗に御飯をよそいだし、ごく自然とそれを藤村先生に差し出した。
「ん、ありがと。」
先生もまた、慣れた手つきでそれを受け取り、御飯とおかずを交互にぱくつき始めた。
「だってだってだって〜お父さんがね、士郎のうちばかりに入り浸らないでたまには自宅で食べろとか言うのよ?私はね、士郎のお姉ちゃんなの、だから士郎のごはんは私のもの、お姉ちゃんのごはんを作るのは士郎のお仕事です、ね〜〜☆」
なんて。
小首を傾げて言い始めた。
「先生…それはちょっと違いませんか?」
と、桜さんも困惑顔だ。
「そうだぞ、藤姉…たまには自分でも作って雷河さんに手作りの朝ごはんとか振る舞ってみろよ、大喜びするんじゃないか?」
衛宮先輩は先輩で話がずれてる。
「ん〜〜こんな美味しいごはん、他で味わえないんだも〜〜ん……ん、?」
と、箸が止まる。
視線がようやく、一人端の方でお茶を頂いていた私に向けられる。
「ホワーーッ!?」
絶叫。
「だ、誰っ、侵入者っ、間女!?」
だ、誰が間女だ。
「ふ、藤姉落ち着け!」
「こっ、こ、これが落ち着いていられますかーーー!?し、士郎がジゴロにっ、不埒者にぃっっお姉ちゃん士郎をこんな風に育てた覚えありませんっ、て言うか誰、貴女ーー!!」
ガオー!
と大絶叫と言うか、咆哮する藤村先生。
「あ、九重朔弥です、先生…先日転入して…ご挨拶しましたが覚えておられませんか?」
「こっ、この…え?」
なんか目に涙浮かべながら反芻する藤村先生。
「あっ、そっかそっか、なら安心ーー」
「そうそう、身元ははっきりしてる!怪しくないぞ藤姉!」
ば、先輩の馬鹿!
それ、火に油ーーー!?
「って、身元が怪しくなくても大問題でしょうがーーーー!」
ガオー!ガオー!
とさらに大咆哮。
「まままま、まさか一線を超えちゃったりしてないでしょうね、ね!?」
肩をガクガク揺らされ、答えようにも答え辛い。
「ちょ、ま…そんなことありません、ありませんからっ!?」
「藤姉落ち着け、その子はオヤジの知り合いの娘さんだ、落ち着けってー!?」
「そんな、誤魔化されないからねっ、私の目の丸い内は士郎を手篭めになんかさせないんだからっ、お姉ちゃん頑張るって…切嗣さんのっ!?」
ピタリ、と止まる大暴走。
後、目は「丸い」では無く、「黒い」内…じゃないかな。
「ああ、そうだ。」
やっと止まった、とばかりにため息をつく衛宮先輩。
「切嗣さん、何処にいるの!?ねぇっ、教えて、九重さんっ!?」
一転。
今度は凄く、真剣な眼差しで問いただされる。
「あ、ごめんなさい…ちょっとわからないんですけど…私の父が、たまたま知り合いだった、ってだけで…リアルタイムに連絡してるわけでは…って、行方、わからないんですか?」
「あ、そ、そう…そうなんだ…ごめんね。」
明らかに落胆する藤村先生をみたら。
なんだか悪い気がしてきた。
「先輩、お義父さん、行方不明なんですか?」
「ああ、まあそうなるかなあ…もともとフラッといなくなって、半年位して帰るような事してたダメな大人だからなあ…」
「でも!もう2年だよ、士郎?」
「そうだなあ…俺が自立出来そうになったら、フラッといなくなることが増えて…何度もいなくなっては藤姉が泣いてたっけ…今回は確かに長い、けどな…あの切嗣が簡単にどうにかなるわけないじゃないか。」
まさか。
先輩のお義父さんも…魔術師?
いや、先輩がそうなんだから不思議はないか。
なら、何らかの…「不慮の事故」に会う可能性は非常に高い。
「お役に立てず、すいません。」
「ん〜ん、私の方こそ、怒鳴り散らしてごめんなさい、切嗣さんのお知り合いなら…仕方ないかなあ…」
「せ、先生っ、本気ですかっ!?」
「ああ、もち二人だけとかダメのダメダメ。」
「え、でも先輩のお義父さんは居なくて…どうしたって、それは…」
いや、バーサーカー居るしね、本当はそこは心配無いんだけど。
言えないよねえ。
「任せて!私も今日からここのウチの子になる!」
「ーー、は?」
あ、衛宮先輩が面白い顔してる。
「あ、なんなら桜ちゃんも一緒に泊まる?桜ちゃんなら大歓迎よっ、ガールズトークしましょうガールズトーク!」
「藤姉……」
これはーーどうしたものか。
『ゴメン、バーサーカー…ちょっと助けて…普通の格好で出てきてくれないかな?』
『あ?俺に何を期待してんだ、テメェ?』
バーサーカーだぞ、考えるのは苦手なんだよ、と念話が返ってくる。
『だって、あまりこの人達を近づけたら…巻き込みかねないよ。』
『ーー保護者の真似事をすりゃいいのか。』
『え、う、うん!』
『チ、しかたねえマスターだな…細かいとこはてめえで合わせな、俺は出て座ってるだけだからな。』
『あ、ありがとうバーサーカー!大好きっ!』
『ーーーー』
『バーサーカー?』
『オルク、だ…便宜上そう呼べ。』
名前呼び…やっぱりツンデr…
『しばくぞテメェ!』
『キャー!キャー!w』
昨夜と比べ、余裕が出たからか。
バーサーカーが実は怖く無い、とわかったからか、随分軽いノリでの念話が飛び交うありさまである。
*********
「え、っと…は、は、はろー?」
どーん、といきなり襖を開いて出てきた浅黒い肌をした大巨人。
身長も、ガタイもそこいらのスポーツ選手よりも立派である、ビビらないほうがおかしい。
まあ、英語教師がそれで良いのかと思わなくは無いが。
「オルクだ、一応保護者、って肩書きにはなってる、まあなんだ…さっきからあんたが叫んでたような心配はいらねえよ、このガキが朔弥に手ぇだすようなら…俺がしめとくから安心しろ。」
「だ、ダメ!ダメですっ、士郎を苛めたらダメのダメダメなのーー、おもて出ろやこのピーーが!」
「好き勝手したいなら、私を倒してからにしなさいっ、おら、ピーーついてんのかこのピーー、かかってこい、バキューン!がっ!?」
「…口汚いにも程があんだろ、姉ちゃん…」
真逆のバーサーカーが呆れる程のスラングが飛び出した。
先生…急に変な語彙力発揮しなくても…
竹刀を取り出し、振り回し始めた先生に、バーサーカー、相手にもしないと思いきや、こんな事を言い始めた。
「好き勝手、ね…なら俺が勝てばそれで丸く収まるんだな?」
「は?が、ガタイがあるからって剣で私に勝てるとか思わないほうが良いわよっ、これでも腕には覚えがあるんですからね!?」
ガオー、とまた吼える藤村先生。
「んじゃ、あっちにあった道場でやろうや。」
こうして、何故か藤村先生とバーサーカー…自称、オルクの対決が決まった。
…どうしてこうなった。
桜さん、バーサーカーにびびって黙ってしまうし、先輩も苦笑いしかしてない。
もう一度言おう。
ど う し て こ う な っ た 。
【後書き的なもの】
書いてる自分もわかりません。
どうしてこうなった。←
なんかドタバタしただけで修羅場にはなって無い気がしてきた。
まあ、多分これは前哨戦。
まだ凛が加わってないからね!←←
というわけで次はオルク=オルタニキと、
タイガー=藤村大河の試合になります。
原作のセイバーの時より叩きのめされそう…
あと、さりげに重要な改変事案。
切嗣さんは、死んだ、とはなっていません。
この世界では「行方不明」です。
2年たち、法的には切嗣は武家屋敷は雷河を保証人に、士郎にいずれ渡す形にしてあるため、雷河預かりの、士郎のお家、となっています。
原作通り、税金その他もしてくれています。
さて、切嗣は生きているのか?
そもそも、この世界では大四次聖杯戦争はいかなる結末を迎えたのか…
きちんと完結すれば明かされる筈です。
頑張ります。←
さて、そんな感じに話は進んでいますが、皆様、このシリーズにたくさんの評価、感想ありがとうございます!
感謝感激、ボイボスカタストロフィ。(矢を降らすな)
急ぎ足で書いた話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
2016.5.27.1:20 自宅より、某所に初稿投稿。
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第5話 『兆し』
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
虎VSオルタニキ。
タイガー、大被害。
ーー初○○はなんの味?
と言うあまり殺伐としないほのぼの展開からのシリアスが湧いてでました。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
「さあ、好きな獲物をとりなさい!」
バン、と指差す先には竹刀と木刀が幾つか立てかけられており、その脇には掃除用のモップが転がしてある。
「あー、ならこれで良いぜ」
と、迷わずモップを掴むバーサーカー。
「は?」
持ち手もまともに無く、かつ、プラスチックの安物の柄だ。
竹刀が打ち当たればへし折れるだろう。
「さあ、どこからでも構わんぞ?」
片手にダラリと柄を持って構えもせずに向かい合う。
「な、舐めプ?舐めプなの!?」
などと、タイガーご立腹である。
「ち、チェストーーッ!」
お約束の掛け声高らかに、大上段からの振り下ろし。
「は、緩い緩い。」
す、と半歩引いて頭を軽く振るように動かした、それだけ。
だが、先制の一撃どころか、返しの二撃目までも予測していたかの様に空を切る。
「なっ…?」
絶句する先生。
当たり前だ、バーサーカー、彼の真名はまだ聞いていないが…しかし、彼は英霊である。
過去、竜を、神を、打倒し、神代の魔法が飛び交う様な時代を生きてきたであろう英雄豪傑なのだ。
3、4、5、6、と先生の竹刀が空振りする回数も増え続け、段々と息が上がり始める。
時々、流石に後退しないと当たりそうなコースから振るわれるものだけ、モップの柄で、軽々と受け流す。
如何に藤村先生が鍛えていても。
彼からすれば児戯に等しいのだろう。
「な、な、な、」
「藤姉、諦めろ、実力差がありすぎる。」
と、衛宮先輩が諭すように声をあげた。
「や、やだ…やだーー!」
と、いきなり駄々っ子の様に泣き始める先生。
「うわーーん!どこの馬の骨かわからないBL野郎に士郎とられたーーっ、士郎が、士郎のお尻が開発されちゃうううっ!!」
「ちょっ、藤姉っ、なんでそうなるっ、無いからっありえないからっ!?最初は朔弥と二人がマズイって話だっただろうが、なんでオルクさんと俺をカップリングしてるんだっ!?」
「…なんだ、そっちがいいのか、テメェら?」
「「駄目っ(です)っ!」」
桜さんと先生がハモった。
桜さん…わかりやすいなあ…いっそ、可愛いくらいだ。
先輩はーー鈍すぎる。
あんな直球で誑し込む癖に。
無自覚とか軽薄な男よりある意味タチが悪い。
「……なんだ、お前…弟がとられんのが寂しいのか?」
オルクさん、何言い始めるんですか?
「なら、俺が寂しくなくしてやろうか、今晩からでも。」
そう言って、ぜーぜー肩で息をしている先生にす、と近づき。
先生の顎をクイ、っと指先であげた。
「え、ちょっ?」
先生が、反応するよりも素早く。
バーサーカーの唇が、藤村先生の唇を塞いでいた。
「っ、あ、や、え、ちょっ…」
わたわたともがく藤村先生が、段々脱力して…
くた、っとなってへたり込んだ。
「どうだ、気持ちよかったか?」
ペロリ、と舌舐めずりをしたバーサーカーは。
まるで子供が玩具を手にしたみたいな顔をしていた。
「キ、キス…キス…し、舌が、ぬろ、って…なんか、お、奥まで絡んで…あ、あ、あ、」
藤村先生、オーバーヒートして真っ赤になって放心状態だ。
「な、な、な、何してやがりますかっ、バーサーカーっ‼︎」
あ、思わずクラス名で呼んでしまった…マズイ。
「お、す、わ、りっ!!」
お前は心底反省しろ、と強烈に念じた結果。
「な…何ぃっ!?」
ビターーン!、とバーサーカーが、床に顔からダイブした。
そしてもそもそと、正座の姿勢になる。
『て、テメェッ馬鹿か、馬鹿なのかっ今令呪使いやがったなこの間抜けッ!?』
『令呪…?』
なんか、手の甲の痣が一画消えているが…これか?
『ああ、そうだこのウスラ馬鹿がっ、令呪はな…サーヴァントを律する絶対命令権だ、3回しか無い、しかも使い様によっては奇跡さえ起す大魔術の結晶だぞっ!?』
「先生に、謝りなさい、オルク。」
「ぬ…ぐ、なんで、謝らなきゃ…」
ひらひらと。
手の甲を見せつける様にバーサーカーに向けて振る。
「く、覚えてやがれテメェ…」
「謝り、なさい。」
「す、すまなかった…な…」
「え?あ、い、いやあの…」
正気に戻りつつある先生だが、やはりまだ混乱中の様子。
「もうしねえよ、悪かった。」
バツが悪そうに胡座をかきなおし、頭を掻く。
「あ、いえ…ハイ。」
なんか。
先生の視線が妙に熱っぽいんだけど。
どうするのよコレ。
ーー夕方。
「先輩、先輩…藤村先生、どうですか?」
極力本人に聞こえない様に小声で耳打ち。
しかし、必要無かったかもしれない。
コトコトと、鍋が火にかけられた音が響き、サク、サク、とキャベツを刻む刃音がリズミカルに聞こえる。
「駄目だな、もう今日は授業中まで魂抜けた感じだった。」
やっぱりか。
『バーサーカー…あんた何て事してくれたのよ…藤村先生完全に腑抜けちゃったじゃない』
結局、調べれば下宿先候補はここだったし、なし崩しにここに住めるみたいだからそのまま、今日は学校を終えてから夕食の支度を手伝っている、桜さんも一緒に。
『貴重な令呪でサーヴァントにお座りさせた馬鹿が何か言ってますねぇ、いやあ、聞こえねえわ、なんにも。』
まだ根に持っていたのか、意外としつこいな…
『知らなかったんだもん、しかたないじゃない…むぅ。』
それに、なんか嫌だったし。
ジュワッ、とカツが揚がる油の泡だつ音。
「まあ、仕方ないさ…藤姉は切嗣にばっかりかまってたから…未だに男に対して免疫薄いからなあ。」
なんであんな駄目な大人が持てるのか理解に苦しむ、とかなんとかつぶやきながらも手際よく調理は進む。
「先輩も大概鈍ちんだと思いますけどね…」
「ん?なんだって?」
「や、なんでもありませんよ〜」
桜さんの視線が痛いです。
「さて、盛り付けたら机に運んでくれるか?」
そう言いながら、カツをザクザクと美味しそうな音を立てて一口大にカットしていく。
「はあい。」
皿を持って、食卓に向かう途中にピ、とTVの電源が入る音がして、ニュースが流れ始めた。
ーー昨夜未明、このところ立て続けに起きているガス漏れ事故、4度目の騒ぎがありました。
一部では老朽化したガス管が原因とも、手抜き工事が原因とも言われていますがハッキリした答えは出ておらずーー
今回の被害は意識不明の重体が7人、軽症で、気分の悪さや吐き気を訴えた方が4人。
いずれも命に別状はありませんーー
そんな内容のニュースを聞きながら衛宮先輩が眉間にシワを寄せて画面を睨んでいた。
「桜、今夜は送るよーーあと、明日からはしばらく…ウチには寄らないほうがいい。」
前半を聞いてにこやかな顔をした直後、後半の会話で一気に顔を曇らせる桜さん。
「嫌です。」
「え、桜…?」
あー、そりゃそうだろうなあ…鈍ちんな先輩は解ってない…
危ないから遠ざけよう、ってのはわかるんだけどね…桜さんからしたらさっぱり理由がわからないだろうし…。
「私が邪魔ですか、いりませんか…?」
「いや、そうじゃないよ最近どうにも物騒だからさ…その、桜には危ない目にはあってほしくないんだ。」
「先輩…私、ごめんなさい先輩の気持ちもわからずに…」
「いや、俺こそきちんと説明すれば良かった、桜にはいつも助けてもらってるのにな。」
ああ、なんか空気が甘い、主に桜さんの側だけ。
先輩の鈍ちん、朴念仁。
「なんだ朔弥、お前は行かなくていいのか?」
「ーーなんでよ?」
「いや?お前はああいうのがタイプだと思ってたんだがな、違うなら構わんが。」
あの小僧、よく似てやがる。
なんてつぶやきは、私の耳には届かなかった。
***********************
夜の新都。
強い風が吹いている。
風はヒュウヒュウと風鳴りを響かせ、寒くなり始めた冬の街を凍えさせるには充分過ぎるほどに。
「…つまんないわ、サーヴァントは確かに全て召喚されたのよね?」
先に口を開いたのは少女。
年の頃は16歳〜18歳くらいか。
体格としては細身で、儚げな印象を受けるが、それなりに発育する場所は発育していて、歳を考えればまだ発育途上、末恐ろしい将来性である、どこが、とは言及はしないが。
少女は、白い、白磁のような肌に、ルビーの様に美しい瞳、銀糸の様に輝く白銀の髪。
清楚なワンピース姿で、まるで人形の様に可愛らしいその姿には似つかわしくないどこか冷たい声で従者らしき男性に話しかける。
「ああ、間違いない…教会からも打診を受けた上に…こちらの霊基盤にも反応があった。」
「ーー良いわ、セイバー。」
「なんだ、マスター、アインツベルン」
「その、家名だけで呼ぶのやめてよね…」
「そうだったな…すまない、イリヤ。」
ふ、と優しい表情になり男ーーセイバーはイリヤと呼ばれた少女を抱き寄せる。
「貴方はーーキリツグの、かわりなんだから…私を寂しがらせたら、ダメなの。」
どこか拗ねながらも甘える様に、男の胸に顔を埋める、少女ーーイリヤ。
「貴方が…バーサーカーで呼出せなくて良かった、なんて…こういう時は思ってしまう…私、アインツベルン失格かもね。」
背中で束ねた長く、癖のある黒髪に、引き締まった体躯、仕立ての良いスーツに身を包まれたその身体は…細身に見えるその実、よく見れば2メートルを越す長身、丸太が如き太い手脚。
逞しい、と一言に片付けられない、神々が与えた、美しい身体がそこにはあった。
「本来ならーー私はアーチャーの方が適正は高いのだがな…まあ、前回はイレギュラー続きだったと聞いている、アハト翁が最優のセイバークラスに拘るのも無理はなかろう、私とてバーサーカーで呼び出されていたら会話もままならなかったかもしれんからな…バーサーカーで呼び出す案が廃案になったのは僥倖だったよ。」
バーサーカーで呼び出された場合、大概のサーヴァントは大幅な基礎能力向上の恩恵の引き換えに理性を奪われ、とんでもなく多量に魔力を食う、燃費の悪いハイオク車を絶えず全開でエンジンを回し続ける様な無謀な状況になる。
過去、バーサーカーを呼び出したマスターは例外なく、魔力を食われ続けて自滅したほどだ。
ーー最強の魔術師として「造られた」イリヤにはその制御も可能だとは言われていたが。
「ブリテンの騎士王とーー最強と目された魔術師殺しまで使った挙句、聖杯は手に入りませんでした、なんて結果ーーお爺様は納得出来なかったんでしょう。」
そう続けた後、眼下を睥睨する様に見回してーーーー街の明かりを、まるで親の仇の様に睨みつけ、きゅ、っとセイバーの逞しい身体に腕を回す。
「安心しろーーお前の望みは、私が叶えよう、必ず…お前は私が守り抜く。」
セイバーは、どこか悲しげに決意を語る。
「キリツグはもう、居ない…私にはセイバー、貴方だけ、なの。」
少女はそれには答えず、どこかすれ違った主従の会話はそこで止む。
聖杯戦争、二日目の夜はこうして、過ぎていった。
【後書き的なもの】
はい!
はい!はいはーい!
先生は悲しい!助手1号の姿が!姿が!
ロリじゃあない、だと!?
と、タイガーの咆哮が聞こえてきそうな展開でした。
と、いったわけでアインツベルン陣営のサーヴァントは、セイバーです。
まあ、わかるとは思いますがアーサーでもアルトリアでもありません。
正体は、おいおいわかります。
現在の登場サーヴァント
セイバー 真名 ???
宝具 ???
出身地 ???
時代 ???
アーチャー 真名 ???
宝具 ① 干将・莫耶 (切り札は不明)
出身地 ???
時代 近代?
ランサー 真名 ???
宝具 2メートルを越す槍?
出身地 中国?
時代 近代?
バーサーカー 真名 クー・フーリン(オルタ)
宝具
出身地 アイルランド
時代 古代・神話期
判明分はこんな感じです。
バーサーカーのはまだ出てはいませんがあえて明かしてあります。
…他誰一人明かされてないんじゃもん…←
ま、クーフーリンですからね、有名だし。
と、言う訳で駆け足続きですが話にストックがあるからこその更新速度です、ストック尽きたらかなり頻度は下がるかと。
それでは、次回更新でまたお会いしましょう!
2016 5.27 20:18 自宅より某所に初稿投稿。
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第6話 『絆/傷の名』
***************
ーーソラは、真っ黒に焦げた太陽に侵され。
大地は、赤々と舌舐めずりする炎に満たされ。
僕は…絶望を知った。
***************
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、原作をなぞる展開、演出上止むを得ず原作からの引用文が入る事があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
士郎とぐだ子を軸に物語は展開します。
現在判明している正史との相違点。
◇ マスターは衛宮士郎では無く、ぐだ子。
◆ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◇ アルトリアは召喚されず、バーサーカー。
◆ バーサーカーがクー・フーリン・オルタ。
◇ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◆ ランサーが、近代中国の英霊らしい。
また、ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
炎。
真っ赤に灼けた空が、今にも降ってきそう。
喉はカラカラに涸れて、声を出すたび痛みが走る。
助けて。
自分だけが助かって、それでいいの?
死にたくない。
無理だよ、だって君達はーー
もう、死んでいるじゃないか。
灼けた空が照らし出す、真っ黒に炭化したヒトだった、者達。
中にはまだ、動いているものもあったが…
太陽すら真っ黒に焦げ付いてしまったこの空の下では…生きている方が奇跡だった。
ああ、でもね、きっと僕はーー遠からず君達の仲間になってしまうんだ。
ああ、せめて…僕がかわりに、声を出さなきゃ。
「ああーー苦しいなあーー。」
夢は、そこで途切れた。
***************ーー…
ーーなんて、夢。
陰鬱にも程がある。
「おはよう凛、寝覚めは如何かね。」
「ーー夢見が悪い、最悪。」
ふわり、とダージリンの良い香りが鼻腔をくすぐる。
目を覚ませ、と言う事か。
「おはよう、アーチャー…」
きっと今、私は酷い顔をしている。
サーヴァントとはいえ、異性に見せたい顔では無い。
「…顔、洗ってくる…」
「ああ。」
カチャカチャと、私が一息に飲み干した紅茶のカップを片付けるアーチャーを置き去りにして、バスルームへ向かう。
ああ、いっそこのままシャワーも浴びようか。
と、考えてスルリと寝巻きを脱ぎ捨て、寝ぼけまなこで浴室へ。
熱めに設定したシャワーを頭から浴びて、意識を覚醒させる。
ーー少しは夢の残滓が吹っ切れる、と言う様に。
「凛。」
突然、脱衣場からアーチャーの声。
「ひゃっ、な、なな、何よ!?」
思わず胸を掻き抱くようにして脱衣場のほうを見る。
磨りガラスだから見えはしないが、しかしシルエットはわかるだろう。
「シャワーを浴びるなら着替えくらい持って行きたまえ、裸でうろつくつもりか、君は。」
「あ」
…うかつ。
今迄一人だったせいかそのあたりまったく警戒していなかった。
「着替え、置いておくぞ。」
脱衣カゴにパサリ、と衣服が置かれる音。
僅かに開いてカゴを見れば、制服一式が…
置かれていた。
「ーーちょっ、アーチャーッ!!」
遠坂の屋敷に、賑やかな声が響く。
これまでなかった空気。
悪い気はしない。
「まったく…なんなのよあの駄サーヴァントッ…後で後悔するほど面倒な作業させてやるからっ…!」
はあっ、と息を吐き出しながら脱衣場に出て、着替えを乱暴につかみ、慌てて着替える。
髪を乾かし、戻る頃にはーー
食卓には朝食が並んでいた。
ルッコラとブロッコリーのサラダにスクランブルエッグ、トーストに紅茶。
どれも完璧な仕上がりである。
「ーーこんな材料あったっけ…」
「何、君が寝ている間に少しね、コンビニでも今はなかなか良い食材が揃うものだな、割高ななだけが玉に瑕だが。」
「え…お金は?」
「財布を置いたままにするのはあまり感心しないぞ、凛?」
ーー確かに…財布はリビングに置いたままにしたけど…だって、この屋敷に通常の侵入者とかあり得ないし。
二重三重の魔術防御と結界、罠の宝庫なのだ。
侵入した時点で命の保証すらできない。
ーーそもそも、侵入する前に人払いの結界に引っかかるから常人が侵入すること事態があり得ないのだが。
「勝手に使わないでよ…もう…。」
「そう思うなら食材くらいもう少し揃えておきたまえ。」
ああ、完全に毒気を抜かれてしまった。
許したわけではないが…まあ、先延ばしにしておくことにする。
椅子に腰掛け、サラダを一口。
「…むぅ、美味しい…」
自家製のドレッシングだろうか、これは、梅?
刻んだ梅と、黒胡椒に、あっさりした和風ドレッシングが野菜にマッチして、美味だ。
なんか悔しい。
私だって料理くらいできるのだ、その気になれば。
…特に中華なら負ける気はしない。
「アーチャー、今日帰りに買い物に寄るわ」
なんだ、やけに素直だな、なんて…今だけ言ってなさい、夜にはぎゃふんと言わせてやるんだから。
ーー呑気なものである。
******************
「さて…俺は学校に行くけど…九重はどうするんだ?」
先輩がそう、下駄箱から靴を出しながら聞いてきた。
「一応行きますよ、バーサーカーだって霊体化して常にそばにいますからね。」
「霊体化か…便利なもんだなあ、サーヴァントってのは。」
「…先輩、一応言っておきますけど…何か起きても手出しはしないほうが無難ですよ?」
あまりに呑気な先輩に、忠告。
「…確かに俺にできることは少ないだろうけど…もし九重が危なけりゃ、手は出す。」
ああ、この人やっぱりわかってない…私はあの夜本気で、死にかけた。
魔術師ができるのは精々がサポートに過ぎない。
サーヴァントとはそれほど規格外の強さなのだ。
迂闊に手を出したが最後ーー先輩は間違いなく、死ぬ。
「死にたい訳じゃないでしょう…私だって助けはありがたいですけど…住まいだけでも充分過ぎるくらいですから。」
「欲の無い奴だなあ、九重は。」
ーー先輩にだけは言われたくないです、それ。
半眼で呆れる内にいつの間にやら通常の住宅街を抜け、商店街に差し掛かっていた。
「お、士郎じゃねえか…あれ、なんだよお前、桜ちゃんからのりかえやがったのか!?」
「ま、おばちゃん感心しないわあ…」
などと。
商店街のおじちゃんおばちゃん方からいきなりディスられ始める衛宮先輩。
「いや、まてまて皆っ、こいつは後輩で、しかも親父の知り合いの娘さんなんだよ!住むところを探してて、親父の縁故を頼ってうちにしばらく住むことになっただけだ!やましい事は何も無いから!」
「ど、同棲!?」
「桜ちゃんという通い妻だけじゃ足りねえってのかい、うらやま…いや、けしからん!」
「きゃー!おばちゃん後30若かったらほっとかないのに!」
と、一気にまくしたてる先輩、囃し立てる商店街の方々。
火に油じゃないですか…。
*********
そんな暖かくも馬鹿馬鹿しいやりとりをして、学園にたどりついた矢先。
濃密な魔力がーー私達を出迎える。
「……っ、!?」
「な、なんですコレ…!」
感じるだけで頭がおかしくなりそうな…甘く、危険な、蜜ーー例えるなら食虫植物が虫をおびき寄せる匂いの様なーーー
「へぇ、貴女が昨日のーー」
背後からかかる声。
そして明らかに威嚇する様な…攻撃的な、魔力!?
この人、サーヴァントの、マスター!?
「はじめまして、外様の魔術師さん。」
「あ、え…遠坂…?」
振り返り、困惑顔の先輩。
いや、私も訳がわからない。
「おはよう、衛宮君ーー、まさか貴方までとは気がつかなかったわ。」
「貴女、真逆…」
「ーーそう警戒しないでもいいわ、昼間からやり合うつもりは無いし、聞いておきたい事があったけど…その反応を見る限りあなたたちが仕掛けた訳じゃあ無いのね。」
「ーー仕掛けた、ってこの…なんていうんだ…校門くぐった途端に感じた…むせ返りそうな甘い匂い、か?」
「ーーそう、貴方はそう感じたの。」
まるで、食虫植物ね、と私と同じ感想を呟いた後視線が此方を向く。
「ーーさて、貴女…一体どこの派閥の何様かしら?」
「…派閥も何も…私はただの二流魔術師ですよ、遠坂さん。」
「ーーだが、何方かはマスターではある…そうだな?」
と、校門の陰から一人の男が姿を現す。
「アーチャー…迂闊に姿をさらさないでよ…」
「なんだ、アンターー」
先輩が向けられた視線に怒る様に言葉を返した、瞬間。
ボグ!、と音を立てて衛宮先輩が体をくの字に曲げて咳き込んだ。
「が、グハッ…!?」
「アーチャー!」
やり過ぎだ、と遠坂さんが嗜めるとアーチャーの手は止まる。
しかし、眼は依然として先輩を睨んだままで。
「こんな脆弱なガキがマスターとはな…」
咳き込む先輩を見下す様に告げる赤い人。
なんだろう。
ムカムカする。
きっとあれが遠坂さんのサーヴァントだとわかっていて尚。
昨夜のランサーみたいに恐怖は無い。
だが、それはきっと怒りのせいで。
「マスターは、衛宮先輩じゃない。」
先輩は、無関係なのにーーコイツッーー!
「表出ろや、この
実体化したバーサーカーが。
私より素早く喧嘩を買っていた。
*********
校舎裏の林。
其処に私達は居た。
授業が開始される直前となれば人気は無い。
「…アーチャー、貴方が余計な事をしたからよ…どうするの、コレ…」
本来なら休戦を申し出て、この結界を張ったやつを締め上げるまでは互いに不干渉を提示するつもりだったのだが、台無しだ。
「フン、軽く撫でた程度だろう…マスターでも無いのに首をつっこんだあの小僧が迂闊なのだよ。」
「お喋りは、楽しいですか?ワタシーー怒っています、とっても、怒ってるんですよ?」
バーサーカーは無言で、しかし武装し、構える。
「やだ…槍ーー?」
赤い人、アーチャーのマスター、遠坂と言ったか、が驚きの声を上げる。
それはそうだ、ランサーはすでに昨日遭遇しているはずだから。
先ほどは頭に血が上って気がつかなかったが…この、今対峙する赤い人は昨夜、ランサーと対決していた英霊だ。
「テメェは何処で出会ってもいけすかねぇ野郎だな…」
武装し、黒く捻じれた無数の突起に、怪獣みたいな脚で大地を踏みしめ、手にはあの朱槍を構える。
「君の様な粗暴な知り合いは居ないはずだがね…」
そう言いながら双剣を握るアーチャー。
「マスター、やるぞ?」
「…ええ、行きなさい…バーサーカー!」
「■■■□ッーーーーーー‼︎‼︎」
咆哮が、音が時間差で聞こえるほどの速度。
バーサーカーの巨体がアーチャーの痩躯に迫る。
ガキィ!
双剣が槍の穂先を挟む様にして止める。
「何っ!?」
だが。
止めた筈の槍が、穂先からさらに分かれる。
槍から槍が
「ぬ、うぁっ!?」
上半身を後ろに全力で反らす事で辛うじて直撃を避けるアーチャー。
前髪が数本、ハラリと切り落とされる。
「何だ、その槍は…!?」
解析ーー構造、読めぬ。
材質ーーー魔力を帯びた、何かの骨?
似た材質の何かを見た様な気はする、しかしーー今までに見たどの武具にも該当しない。
恐らく素の状態から大きく、材質すら変質している?
「俺の槍が気になるか、だがそんな余裕があるのか、え?」
「さぁーー怖じ、惑え!」
バーサーカーの全身から立ち昇る異様な気配。
ソレが空間を支配し、蹂躙する。
大地から、木々から。
仄暗い輝きが噴き出し、アーチャーだけでは無い、周り全てを飲み込んでいく。
スキル「精霊の狂騒」。
周囲の全ての敵を恐怖と錯乱に陥し入れ、精神干渉により対象の筋力、敏捷を著しく下げる広範囲精神干渉。
「ぬ、く…力が…抜ける、?」
「ほう、アーチャーの対魔力か…多少レジストした様だが…しかし、あちらはどうかな?」
「な、何…これ…っふ、震えが止まんな、嫌っ、あ、あ、あ!?」
アーチャーが斜め後ろを僅かに見やれば、己のマスターが両肩を抱き、過呼吸に陥っているのが目に見えた。
「き、貴様っ!」
「ねえ、アーチャー?今、どんな気持ち?」
突然、話しかけたのは朔弥。
「な、なに?」
「親しい人をいきなり苦しめられて…どんな気持ちか、そう聞いてるんです。」
「……そ、それは…」
「アー、チャー、謝罪…なさい…今のは明らかにこちらの、はぁっ、不手際、でしょ、う。」
息も絶え絶えに、しかし非を認める遠坂さん。
しかし。
「っ、しかしなーーこいつらはいずれ敵にまわる…それがわかって言っているのか、凛。」
頑固モノっ。
自分のマスターが非を認めているのにまだ食いさがるか、コイツ。
「アーチャー、これ以上、く、言う、…令呪を使う…らね?」
「ーー仕方あるまい…今回は凛に免じて矛を収めるとしよう…だが…」
まだ、何か言うつもりか、と少しムッとした瞬間。
パァン!!
林の中、乾いた音が響いた。
アーチャーの頬を遠坂さんが平手打ちにしたのだ。
「いい加減に、しろっ!」
涙目で、バーサーカーのスキルに侵されながらの一撃。
それもサーヴァント同士が、立ち会う中に踏み込んできて、だ。
ヒュウ、とバーサーカーが口笛を吹くのが聞こえた。
「ーーーー!」
泣き笑いの様にも見える複雑な表情をしたかと思うと、アーチャーはそのまま霊体化して消えた。
今の一瞬で、スキルの効果が、途切れた。
いや、バーサーカーが意図的に解除したのかもしれない。
少しむせ込んだ後、遠坂さんは私、いや…衛宮先輩に向き直り、頭を下げる。
「ーー悪かったわ、ウチの駄サーヴァントの非礼…許せとは言わないけど…今は置かせて欲しいの。」
未だに鳩尾を押さえ、声も出せない衛宮先輩に変わり私が答える。
「ーーいえ、遠坂先輩、それは私も同じですから…頭に血が上ってやり過ぎました、ごめんなさい。」
互いに深々と頭を下げる。
それを、バーサーカーはどうにも振り上げた拳を持て余したか、どうしろってんだ、と言う顔で見つめるのみであった。
【後書き的なもの】
はい、今晩は。
あるいは…おはようございます、こんにちわ。
グーテンモルゲン、グーテンダーク!
バームクーヘン、って切り株って意味だそうですよ?ドイツ語ドイツ語。
…だからどうした。←
微妙なエヴァネタでした。
さてさて、今回またもかませにされてしまいました…テリーマン状態の赤い人…ごめん、俺君は大好きなんだよ、カッコイイんだよ、でも朔弥を絡めると途端に残念になるのは何故だホワイ?
今回、鋭い方は指摘しそうないわゆる「ボロ」を出した人が。
はい、何故この第五次がイレギュラーだらけなのかーーその事に関わるものなのか?
多分、段々といろいろ違和感が増えていくかと思いますが、もしかしたら「歴史そのものが改変」されるかも、しれません。
様々なルートがある第五次聖杯戦争ですがーー
この事態は歴史上、決して自然には起こらない。
「人為的」なイレギュラー、なのかもしれません。
次回はオルタニキ、アーチャーだけでなく他陣営にもスポットライトが当たります。
それでは、皆様また次回お会いしましょう!
2016.5.29 19:07 某所にて初稿投稿。
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第7話 『神性』
ーー神の憎悪、神の呪い。
神々とは、人から見れば理不尽そのもの。
人は神の域には並び立てぬが故。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この作品はFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、原作をなぞる展開、演出上止むを得ず原作からの引用文が入る事があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
士郎とぐだ子を軸に物語は展開します。
現在判明している正史との相違点。
◇ マスターは衛宮士郎では無く、ぐだ子。
◆ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◇ アルトリアは召喚されず、バーサーカー。
◆ バーサーカーがクー・フーリン・オルタ。
◇ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◆ ランサーが、近代中国の英霊らしい。
また、ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
それではどうぞ、拙い作品ではありますが宜しければお楽しみください。
「ーーマスターよ、儂は一体全体何時までこの様な茶番を繰り返せば良いのだ?」
赤髪を束ね、その身を包む装いもまた紅い。
眼光鋭く、その身体は鋼の如き逞しさと、内包する気力を感じさせる。
「そう慌てるな…ランサーよ」
黒いカソックを纏い、その高い背丈は闇の中にあってなお、存在感を示す。
男は地下室の明かりをつけ、背中を向けたままにこちらに話かける。
「慌てるなと言うがな…セイバー、アサシン、キャスターを覗いて他三騎は一度は手合わせしたがの…いい加減全力で戦わせて貰えんか?」
カソックの男は、チェスの駒の様な物を地図上に配置し、動かす。
7つの駒、7騎のサーヴァントを模したピースが動かされ、穂群原学園の位置に、バーサーカー、アーチャー、そして、ライダーの駒が配置される。
カッ、と硬質な音を立ててガラステーブル上の地図上に駒が立つ。
「時がくれば嫌でもやり合うのだ。」
故に待て、とこれまで、幾度か繰り返した問答はやはり同じ結末を迎える。
「引き続き警戒はしておけ、なに…いずれはお前が楽しめる戦いもあるだろう。」
「ーーフン、まどろっこしい事だ。」
***************
「ーー本当にごめんなさい、衛宮君、それに…」
「九重、朔弥ですよ、遠坂先輩。」
「ありがとう、九重さんーーアーチャーが本当に失礼な事をしてしまったわね…」
「ですから、お互い様、でいいじゃないですか、それより今は学園の事を。」
頭を下げる凛に朔弥はそう、切り返す。
「ーーそうね。」
考えこむ様にして、数瞬躊躇いを見せた後、凛は口を開く。
「今、学園に張られた結界は…ハッキリ言って放置できるものじゃないわ。」
「ーーどんな、ゲホ、モノなんだよ?」
まだ僅かに咳き込みながら言葉を挟んだのは士郎。
「発動したらーー中に捉えた人間を…溶かし、殺して…にじみ出た魂を吸い上げるーー外道の産物よ。」
「ーーーーッ!?」
士郎の顔が怒りとも焦りともつかない表情に変わる。
「術式、壊せないんですか?」
「あまりに複雑すぎる…悔しいけど。サーヴァントの使う神代の魔術でしょうね…無理だったわ、昨晩試みたけれど僅かに遅延させるのが関の山。」
士郎の目が、お前は?、と朔弥に向く。
「ーー冬木のセカンドオーナーである遠坂先輩にできないなら私にはもっと無理、かな…」
「セカンド、なんだって??」
士郎の言葉に、凛は顔を顰める。
「外様の彼女が知っていてなんでこの地に住んでる貴方が知らないのよ…貴方の師は一体何を教えていたのかしら…」
呆れ顔で凛が話すのも無理はない。
セカンドオーナーとは地域一帯を管理する者ーーつまりはこの地域の魔術師の元締め、と言える存在だからだ。
本来この地の魔術師ならば知っていて然るべき、住み始めた段階で挨拶くらいすべき相手だからだ。
反対に無断で住んでいるならばそれはそれとして尚更警戒対象として知っているべきである。
「お、オヤジは…切嗣は俺に魔術を教えるのは反対していたぐらいだからなあ…本格的に教えを請う前に居なくなってしまったし…まともに魔術師としての知識は教えられてないんだ。」
(呆れた…衛宮君のお父さん…一体何を考えて何を教えていたのかしら…まあ、今はそんな場合では無いけど…)
「そんな事より今は学園だ、どうしたらそんな危険なモノを取り除ける?」
「ーー1番確実なのは、仕掛けたサーヴァントか、そのマスターを…殺す事よ。」
「殺さ、なきゃ、駄目なんですか?」
質問していた士郎よりも先に聞き返したのは朔弥だ。
「駄目ね、だってマスターを殺されたサーヴァントと、サーヴァントを失ったマスターが再契約して新たな敵になる、なんてことだってあり得るんだから。」
「ハッ、ならサーヴァントを殺し尽くせばいいーー抉って、斬り裂いて、蹂躙してやればいいだろう。」
「暴論ね…それが容易く出来るなら早々にやっているわ。」
「ーー弱い、弱いな、弱いから安易な手段に頼るーー単純な力だけを言ってるんじゃあない、心が弱い、決意が足りない…芯がない。」
「ーー言ってくれるわね、ならアンタはどれだけ強ーー」
ジャラララッ、ガキィン!
不意に振り抜いたバーサーカーの腕に、槍が瞬時に現れ、飛来した鎖を弾き、絡め取る。
その先端は巨大な釘状になっており、投擲して刺す武器ーーと、言うよりそれは地面に杭打たれた鎖をそのまま、設置用の杭ごと投げつけたかのような凶悪なものだった、言うなれば釘剣と呼ぶべきか。
「そうだな、不意打ちを防いでやるくらいには力はあるぜ、え?」
嘲りを含む視線は、私の背後で霊体化を解いたアーチャーに向けられたものか。
「礼は言わんぞ…私でも充分間に合っていたからな。」
アーチャーは未だに不機嫌極まりない、しかしマスターである遠坂さんの危機に仕方なしに実体化し、武器を構えた様だ。
「驚きました…あれを止めますか…あなた。」
雑木林の木々の間から見えるのは紫。
美しくも怪しい紫色の髪が逆さに垂れていた。
「ーーサーヴァント…ッ!」
妖艶な肢体、怪しげに光を照り返す紫髪。
樹木に逆さにぶら下がりながら釘剣の逆端を握りしめる、サーヴァントの姿がそこにはあったーーーー。
****************
ーーHalf a year ago【半年前】
「ーーキリツグが…養子を…?」
「ハイ、今代の聖杯戦争の事前情報収集にあたり得られた情報です…間違いはないかと。」
イリヤに仕える女性型ホムンクルス、セラが神妙な顔で…いや、普段から変わらぬ無表情で語る。
「私や…お母様を忘れて?」
「所詮は裏切り者…聖杯に手をかけながら、姿を見せる事も無くお嬢様を気にかけもしないで10年間放置した輩です。」
「これが、その養子、衛宮士郎、だって。」
白の礼服に身を包んだ顔のつくりがまるで同じセラとは対照的にどこか気薄な気配を纏うホムンクルスが写真を取り出し、イリヤの前に差し出した。
「リズ…黙りなさい。」
「ーーいいわ…サーヴァントの召喚、今すぐ行いましょう…最高のサーヴァントを呼び寄せてみせましょう、お爺様の思惑に乗る気は無かったけれど…潰して、やる…衛宮、士郎ーー!」
憎しみが、頭を支配する。
愛情が、憎悪に変わる。
愛しいと言う心は…一歩バランスを崩せば一転して対象を滅ぼすモノへと変わり果てる。
捨てられた。
キリツグは、私を、捨てた。
壊した。
あの人は…アインツベルンを裏切り、なおかつ私を…私を、捨てた!
幸せだったのに、お母様が帰らないのは仕方ない、決まっていた事だもの。
聖杯戦争が起きた時からわかっていたから。
でも。
キリツグはーー生きていながら私を迎えにこない。
その上、養子を?
様々な考えが浮かんでは、怒りに塗つぶされる。
無意識に指を噛みながら、地下室への階段を降りていく。
「ーーこれが、聖遺物ーー」
赤い高級感のある布にくるまって、細長いものが安置された祭壇。
否、細長い、とは遠目に見ての話。
全体のシルエットとしては確かにスラリと長い…両・片手汎用のツーハンドソード。
しかし、その全長は優に3m
槍よりも長く、刃だけで2mを超える。
人が持つには巨大すぎる、剣であった。
「リズ、セラ。」
「はい、お嬢様…準備は万全で御座います、後は魔力を注ぎ、呪をのせるだけ…」
「よろしい、ならばーー始めましょう。」
時刻は、丁度月がのぼる頃合いだ。
魔力の循環も問題は無い。
「ーー素に、銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には大師、シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよーー、
身体中が、沸き立つ。
魔力回路が焼き切れそうな程、熱い。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。」
「ーーーーーー
感じる。
すぐ側にーー人智を超えた、神に連なる者が。
「ーーーーーーーー告げる」
「ーーーーーー告げる。」
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」
「誓いを此処に、我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者ーー汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ天秤の守り手よーーーー!!」
視界が白に染まる。
閃光が奔り、目の前にある巨大な剣が、浮き上がり…、空中で静止する。
ボワッ、っと噴き上がったのは真紅の炎。
炎は輝きを増し、剣の周りで渦巻いたかと思うと、やがて人の形を成した。
神々に祝福されたその見事な肉体美。
均整のとれた芸術的な身体のライン。
隆々とした筋肉が、しかし無駄なくついている。
肩から、腰までは魔力を帯びた革鎧を纏い、手甲と足鎧をつけたその、姿。
眼前に横たえられた、巨大な剣に手を伸ばす。
まるで、喜びに打ち震えるかのように剣が啼いた。
キィイイン、と澄んだ音色が地下室に反響する。
柄にその指先が触れた途端。
炎が噴き上がり、かの者の身体を覆う。
「!?」
イリヤが驚き、目を見開きその様を見る。
「ーー懐かしいな、変わらぬ様で何よりだ。」
炎はしかし、彼を焼き尽くすどころかその身体を優しく包み、挨拶だとばかりにじゃれつくだけであった。
巻き上がる髪は炎が照り返し、輝くばかり。
「サーヴァント、セイバー…■■■■■、召喚に応じ参上したーー。」
剣を手に、跪き、頭上に掲げる。
まるで臣下が王から騎士の叙勲を受ける様に。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン…私が貴方のマスターよ、セイバー。」
セイバーはその言葉に、ただ黙って頷き、主となった少女の言葉を待つ。
「流石は…■■■■最強の英霊ーーなんと言う輝き、なんと言う…神気。」
生唾を飲む音が嫌に大きく耳に響く。
眼前で自らの主に跪き、剣を差し出す姿すら。
神々しいその威容。
「これならば…此度の聖杯戦争…お嬢様の勝ち…ね」
聖杯戦争開始の半年以上前。
聖杯のサポートすら無く…イリヤはサーヴァントを召喚してみせたのだ。
冬木ですら無く、遠くアインツベルン所縁の地にて。
「セイバー、これより貴方は我が剣、そして…私のーー」
今代の聖杯戦争中最高峰の英霊は、最優のクラス、セイバーとして、限界した。
【後書き的なもの】
少し間が空きまして、作品がまだストックあるのになんでモタモタしてるのかと。
まあ、ちょっとリアルでいろいろありましたのですが。
さて、今回はセイバー召喚の回想が主でした。
召喚呪文も一部改変されてオリジナルです。
だって、我が大師シュバインオーグって…
ゼルレッチさんですよね…あれはつまり、遠坂が唱えた場合になるんではないかなあ、と勝手に考え改変しました。
「我が」のみ削ってます。
まあ原作でも誰が唱えてもそのままなんですけど、どうにも違和感を禁じ得ない為に勝手に変えてます、不愉快に思う方がいたらごめんなさい。
まあ、わかる人にはわかるだろうけどセイバーも一応名前は伏せました。
後、イリヤが外見がかなり成長している点もあり、その辺りはおいおい明かしますが、オリジナルが強くなってきましたから原作引用はかなり減りそうです。
で、ライダーに関しては原作通りのメドゥーサさん。
考えてみたら…この話の面子相手だと涙目なレベル…
がんばれ、末っ子…!?←
それでは、次回、またお会いしましょう!
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第8話『円環矛盾』
繰り返されていた、歴史。
いつしか綻び、異物が混じり、流れは幾筋にも分かれて変わる。
この道程は、騎士王の望みにも、天の杯にも、無限の剣の丘にも繋がらない、第四の道。
未知は既知を覆す。歴史がーー転換する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、原作をなぞる展開、演出上止むを得ず原作からの引用文が入る事があります。
(…と、言っていましたがかなりオリジナル要素が先行し始めました、引用は少なくなるかもしれません。)
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
士郎とぐだ子を軸に物語は展開します。
現在判明している正史との相違点。
◆ マスターは衛宮士郎では無く、ぐだ子。
◇ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◆ アルトリアは召喚されず、バーサーカー。
◇ バーサーカーがクー・フーリン・オルタ。
◆ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◇ ランサーが、近代中国の英霊らしい。
また、ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
林の中、走り回りながら飛来する釘剣を躱す。
先ほどからあの女サーヴァントは…二対一の不利を悟ってか、サーヴァントでは無くマスターを狙いうちしてきた。
「っ、また!?」
ガキン!、とアーチャーの双剣が凛に迫った釘剣を弾き、即座に相手は飛び退いて、と似たような攻防を数合続けていた。
「ええい、しつこい奴…っ!」
アーチャーが苛立ちながらも相手を補足しようと辺りを探る。
しかし、早い。
「ランサーとは違うが…立体的な機動とは厄介なものだなっ…!」
「純粋な速さならランサーに分があるでしょうね…っ、でもこう飛び跳ねられちゃ…!」
「ち、俺の
迂闊にもスキルを見せてしまったのも悪かった、その効果範囲を相手に見せてしまったのだから。
警戒した相手サーヴァントは先ほどから一定距離を保ちながらしか仕掛けてこないのだ。
「埒があかねえ、これでも喰らいやがれ!」
と、自分の宝具である槍をあっさりと投擲するバーサーカー。
「!?」
これには流石に驚き、更に大袈裟に飛び退く相手サーヴァント。
(こいつ…あっさり槍を投げただと?)
アーチャーはそう、訝しむ。
しかしその答えは直ぐに出る事になる。
ズリュ、っという感じにバーサーカーの掌から槍が生えたのだ。
「!」
まるで体の一部を切り離して投げただけに見えた。
何せ槍は直ぐに取り出され、二本、三本、と次々に投擲されたからだ。
「く、なんとデタラメな!?」
紫の髪を振り乱しながら、奇妙なアイマスク姿の女サーヴァントは必死に回避行動をとり続ける。
「クハハハハ、そらそらそらっまだまだあるぞ、逃げろ、怯えろっ!」
段々とバーサーカーらしい、というか恐ろしいほどの笑みを浮かべ、高笑を続けるバーサーカー。
「…分が悪い、か」
そう呟き、大きく距離を取るサーヴァント。
そこに、苛だち混じりの声が聞こえた。
「ちっ、何やってんのさ、ライダー?」
舌打ちを隠しもせず、罵りを上げるその声は。
「…し、シンジ?」
間桐慎二。
桜の兄で、衛宮士郎の同級生。
私に、散々ちょっかいを出してきたあのワカメが、そこに居たーー。
****************
なんだ、一体何が?
何故、慎二が、サーヴァントを…?
ライダー、そう呼んだ。
つまり、それはーー
「…間桐くん…貴方がマスターだったなんてね…気がつかなかったわ、どうして?間桐の家系はもうーー」
「魔術師として、枯れ落ちた、って?あのさ、知識はあるんだ…幾ら僕に魔力や回路が乏しかろうがさーー方法は、あるんだよ遠坂。」
してやった、としたり顔で言い放つ慎二。
だが、待てよ。
おまえが、マスター、だったのなら。
「答えろ、慎二。」
「あ?衛宮?なんだよなんだよ、おまえがマスターだったの?生意気だなあ…衛宮の癖にそぉんな強そうなサーヴァント、従えてさあ…」
勘違いも甚だしい、が。
誰もわざわざ正すことはなかった。
「…答えろ、よ…この、結界は慎二、おまえが仕掛けたのか?」
聞きたくはない、だが聞かなきゃいけない。
「は?ああ、そうだけど?」
あっさりと、ヤツはそう、答えた。
「し、慎二ィィィ!!」
激昂し、突撃する。
「あ、馬鹿、懲りなさいよあんたは!」
凛が慌てて宝石を構え、放つ。
「あ〜っ、もうっ、勿体無いっ!」
切り札の宝石程ではないが、それなりに高価なそれを躊躇いながらも起動する。
「弾けろっ!」
投げ放たれたトルマリンから迸る電撃が視界を紫電で染め、奪う。
「穿て。」
バーサーカーの声に反応して、其処彼処に突き刺さっている槍から一斉に、刃が伸びた。
穂先の根元、横向きに左右三本ずつある刃が凄まじい勢いで。
偶然、その内の一束がライダーの肩を切り裂く。
「ぐっ…!?」
「ちっ、本気で何してるんだよお前はぁっ、もう、いい…一旦退いて…」
即座に慎二を抱え、校舎のある方へと飛び退くライダー。
「逃がすかよっ!」
バーサーカーと、士郎がまた懲りずに走り出した、その瞬間。
ズクン。
視界が一瞬ーーブレた。
甘い匂いが増し、辺りに充満する。
「ぐっ…これ、は!」
士郎が走り出した足を止め、口をおさえる。
「不利を悟って…ついに切り札をきったと、そういう事か…」
アーチャーが呟き。
「あんの、ワカメ頭っ、なんて事を!」
凛が吠える。
「言ってる場合、かよっ先に行くぞ!」
士郎が、叫び、走り出す。
「ーー
それは、魔術の行使に他ならない。
呪文とか、掛け声みたいなそれはイメージを引き出し形にする為のものであり、なんでもいい。
魔術師には別段代わり映えのない自身の肉体強化。
凛は、精々思っていたよりまともな魔術が使えるんだ、程度の感想。
朔弥は、あ、あれ良いなあ、自分は使えないし、程度の感想。
しかし、一人の男は違う。
驚愕に目を見開いていた。
(ば、馬鹿なーー何故、あんな魔術を使える!)
有り得ない。
今、この時代の、この男が此れ程自然に魔術を使えるなどと。
そう、考えても見ろ、今回の
彼女が居ない。
まるで知らないバーサーカーが居る。
何より、本来ならば彼女についての記憶以外は殆ど磨耗し、或いは聖杯が記憶を封じていたのかもしれないと、今ならば思い至るーーが。
今回は余りにも、
目の前で逃げたライダー。
彼女も覚えている。
真名や、マスターに関しては確かに記憶に欠落があり思い出せない。
しかしーー姿形、それそのものは見た瞬間に思い出した。
どういう訳だか、彼女と自分がどこか近未来的な場所で笑い、語り合う姿まで見えた。
訳がわからない。
この、記憶はーー何だ!
校舎へと走り込む士郎、遅れて続いていく凛、朔弥。
それに追随しながら混乱する思考を兎に角今は、と隅に追いやり切り替える。
「……!」
三人と二騎が足を止める。
生徒達が、廊下で、教室で倒れ伏していた。
生徒だけではない。
そこには…意識を半ば以上混濁しながらも生徒をどうにかしようとしている、藤村大河の姿もあった。
「あ、あれぇ…士郎?」
「…藤、姉っ!」
「よかったあ、大丈夫そ、うだね…」
安心してか、そのままーーポス、と士郎の胸に寄りかかり意識を手放す、大河。
大河をそっと横たえ、視線を前へと飛ばす。
「…慎二。」
「何だよ衛宮?」
廊下の突き当たりには、慎二が立っている。
その前には、サーヴァント、ライダー。
「最後だ、聖杯戦争なんかから手を引け、この物騒な結界を解除してーー」
ズバッ、と黒い何かが士郎の頬を掠めた。
ツー、と赤い血が流れる。
「馬鹿なの?やめるわけないじゃんか…それとも二対一だからって調子に乗ってるのか?」
スウ、と士郎の目が怒りに細くなって。
「残念だ、本気で残念だよ慎二。」
「よせ。小僧ーー貴様が魔術を使えるからと、サーヴァントに…」
アーチャーが制止し、自分達に任せろと言わんとして。
「よけいなお世話だ、あいつはさ…友達なんだよ、だからーー俺がやらなきゃ、いけないんだよーー
左手には肉厚の刃を持ったナイフ。
所謂軍用ナイフ、ファイティングナイフと呼ばれる物だ。
右には拳銃、回転式ーーリボルバーと呼ばれるタイプの大口径の物だ。
ダンウェッソンモデルW12。
357マグナム弾を吐き出す、本来なら片手で扱うような代物では無い。
「ーーっ、やっぱり刃物はまだしも拳銃の類は反動がきついな、クソ。」
軽く頭を振り、頭痛を振り払う士郎。
「な、ななな、なんだ今のっ、どこからそんな物騒なモノ取り出した!?」
「ーー問題ありません、慎二、あの様な現代兵器など我々サーヴァントには通用するわけがーー」
ガォン‼︎、ガキィン‼︎‼︎
「ーーっ!?」
「流石は、英霊…今のを止めるかよ。」
確かに、不意とはいえ彼女、ライダーは弾丸を止めた、いや…辛うじて弾いた。
何故そうしたのかと問われれば、悪寒がしたのだ。
何故だか、これは食らうわけにはいかない、とーー。
弾いた弾が、彼女の髪を掠め、引きちぎっていた。
数本の紫髪が宙を舞う。
「ーー何です、何なんですか貴方は。」
釘剣を構え、油断なく構えるライダー。
敵は二騎と、さらに一人。
自身に致命の一撃を与える可能性が増えたのだ。
もはや一瞬たりとも気は抜けない。
「なーー!」
凛、そしてアーチャーは混乱の極みにあった。
有り得ない、今の士郎が使った魔術。
何もないところから武器が生成された。
更には弾丸の威力。
髪とはいえ、サーヴァントの身体に損傷を与える。
つまりそれは、無から生み出された概念礼装だということか。
「ーー出鱈目だ、貴様、一体ーー?」
アーチャーの驚きも今は士郎には関係がない、むしろ都合がいい。
慎二は、自分が止めるのだから。
「正義の味方ーー見習い、ってところか、な。」
ありえない、凛は目の前の光景が信じられず、繰り返し心中で呟く。
(投影?いえ、物資の創造魔術?
にしたってそれが概念を帯びているとかどんな奇跡よーー!?)
今にも叫び出したいくらいだ。
しかもあいつは。
マスターですらないのだから。
「ーー不本意ではありますが、使わせていただきましょう…いいですね?慎二?」
ライダーが、意を決した顔ーー口元しかわからないが、をしてこちらを見据えた。
ふ、と力みなく左手が上がり、眼帯を外し、た。
「これはーーまずい、皆、奴の目を見るな!」
アーチャーが何かに気づいて、叫ぶ。
だが、遅かった。
ライダーの眼帯、
現れたのは蛇眼。
見たものを石へと変える、魔の瞳。
「ーーこいつは、石化の魔眼かよ!」
「や、やばっ足が!」
焦る凛、バーサーカー、アーチャー。
足が徐々に石へと変わっていく。
サーヴァントはまだマシだ、対魔力によってその侵攻は緩やかだから。
だが、凛と朔弥は見る間に石化が進む。
「うぐ!?」
そしてそれは、士郎も同じく。
サーヴァント二騎がいる事から油断したのだ。
士郎以外の面々は完全に射程から逃れ損ねた。
士郎もまた、機敏に反応したものの片足が石化し始めていた。
「ーー衛宮先輩ーー頼みました。」
朔弥が、そう一言告げる。
朔弥の片手から、翠色の光が降り注ぐ。
イシスの雨。
彼女のもつ数少ない魔術の一つ、その効果は、あらゆる状態異常の回復。
そしてそれを最後に朔弥が一気に石化する。
魔術をオーバーロードさせ、すぐ隣の凛にかかる呪いを力技で強引に自身に集めたのだ。
「え、ちょっと!?」
「ーー!」
士郎は唇を噛み締め、血を流し、直後に叫ぶ。
「ッ、アァッーー!」
ズガァァン!
けたたましい音を立て、弾丸が奔る。
起源弾。
衛宮切嗣、魔術師殺しが切り札とした魔を破壊する弾丸が放たれる。
「ぬ、うーー!」
美貌を歪ませながらライダーが仰け反り、回避しようとするも、完全にはかわしきれずに額を掠める。
威力は殆ど通らない。
僅かに額の皮を削り、血を流した程度の。
サーヴァントにしてみれば数秒もかからず治癒する程度の傷が。
彼女を、毒に浸した。
「ーーこれ、は…魔力の流れが!?」
「お、おい!?」
狼狽える慎二。
そして、ライダーは…
「ーーーーッ」
声ならぬ叫びを上げながら、自らの喉を。
切り裂いた。
はい、おはようございますこんにちはこんばんは。
ギルスです。(英雄王ではありませんよ?w)
なかなかオルタニキとセイバーの戦いまで行きません、、、
まあ、流石にライダー戦はしないといけないなあと強引ですがこんな展開に。
原作通りの落ちこぼれ士郎だと思ったか?
残念、セイバーがいない補正で魔術師殺しの技を受け継いでいたよ!
あくまで士郎の理想が高い為以前ろくにおそわらなかったと答えた士郎ですが、実際にはこの世界の士郎には改めて教えることが少ないから、だったのです。
まあ、切嗣は確かに魔術師としての心構えなんか教えませんでしたけどね。
第一切嗣自身にそんなもの無いでしょうから。
さて、一時的ですが朔弥が脱落。
そして士郎が活躍ーーする、のか?
うん、まだ私にもわかりませんw
一応、士郎が現在使用している魔術をデータに。
投影魔術
創造可能な武具
強化を施した刃物類
一部銃器(あまりに複雑な構造だと魔力を通した概念礼装としては扱い辛くなる)
衛宮切嗣の起源弾
身体強化
身体能力の向上。
サーヴァントのステータスで言えば一時的にだが筋力、敏捷をCランク程度には上げられる。
視力強化
夜目をきかせたり、数十メートル先を見渡す程度に強化可能。
と、言った具合です。
起源弾を複製可能な時点でやり過ぎかとも思いましたが、切嗣みたいな爆破や暗殺はしないだろうから…ある意味切嗣が撃ち放題な状態よりはマシです、多分。
それでは皆様、また次回更新でお会いしましょう!
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第9話 『瞳』
螺旋。
円環矛盾の螺旋。
繰り返し、僅かづつ変わりゆく歴史の波。
世界は徐々に交差するーー…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
士郎とぐだ子を軸に物語は展開します。
現在判明している正史との相違点。
◆ マスターは衛宮士郎では無く、ぐだ子。
◇ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◆ アルトリアは召喚されず、バーサーカー。
◇ バーサーカーがクー・フーリン・オルタ。
◆ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◇ ランサーが、近代中国の英霊らしい。
◆ 士郎が魔術を想定以上に扱えた。
◇ アーチャーにカルデアの記憶が…?
また、ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
ぐだ男は………。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
舞い散る血が、宙に陣を敷く。
描き出された魔方陣が、其処に何かを呼ぶ。
「なんだ、あれ…?」
「ーー不味い、全員躱せぇっ!!」
アーチャーが叫ぶ。
閃光、次いで轟音が遅れて響き渡る。
校舎の廊下を蹂躙したそれは、進路上の全てを薙ぎ倒さんと走る。
「ち、朔弥ッテメェは本当に手間ぁかけさせやがるな!」
素早く、石にされた朔弥と、ついでとばかりに横たえられていた大河を抱え、3階の窓から飛び退くバーサーカー。
凛はアーチャーが、士郎は躱せない。
躱せる様な位置にはいなかった。
「衛宮君ーーッ!!」
アーチャーに抱えられたまま、凛が悲痛な叫びを上げる。
夕日が美しい校庭で、いつまでもいつまでも。
ひたすら愚直に、高跳びを続けていた姿。
挫ければいい、諦めたらいい。
無駄な努力なんかーー見ていてーー
見ていて、なんだっただろう。
何故、今更あんな光景を思い出すのか。
割れたガラス片がキラキラと乱反射しながら地面に落ちて行く。
「う、そよねーーあんたが、あんなに諦めの悪い奴がそんな、嘘よね?」
アーチャーの懐から、着地と同時に抜け出し、校舎を見上げる。
なぜか、鼻の奥がツンとする。
痛い。
眼に涙が、溜まる。
「ーーっ、痛てて、クソッ、無茶苦茶しやがってあの野郎ッ」
だから。
背後から聞こえた、その呑気な声が誰だ、なんて一瞬わからなかった。
見る間に凛の顔が、蒼白から健康的な肌色を通り越し、真っ赤になって行く。
ーー耳まで。
「ーーなんで生きてるのよこのスカタン!?」
ゴスッ!
と鈍い音を立てて、士郎の頭を殴打したのは握り込まれた凛の拳だった。
「は?、いや遠坂、な、なん…痛っ、痛い!」
涙目で士郎を小突き続ける凛。
あまりの事に呆然とするアーチャーとバーサーカー。
「なんだ、ありゃあ?」
「私に聞くな…。」
どうにも疲れた顔で答えるアーチャー。
どうやらライダーの気配は無い。
逃げたか。
ダメージからか結界は既に解除されていた。
じき、体力あるものから目覚めるだろう。
廊下に大河以外がいなかったのは幸いだった。
もしも居たら今頃は微塵にされていたところだ。
後は凛が落ち着いてから考えるか、とアーチャーは自分もまた混乱する頭を抱え、振る。
「本当になんなんだ、これは。」
アーチャー、心底から漏れ出た本音であった。
*******
「…なんでさ…」
あの後。
監督役にあたる聖堂協会の神父、言峰綺礼に凛が連絡を取り、校舎の中の魔術的な証拠の隠滅後と同時進行で、生徒や藤姉は病院へ搬送された。
表向きは民間協力、という程だが実際には消防にも聖堂協会の息がかかった人物がいるのだろう。
素早い手際だった。
そして、何故かこんな状況になっている。
石化した九重を運び込み、解呪には敵サーヴァントを倒すのが一番早い、と結論が出たわけだが。
その後に何故か士郎へ凛の怒りの矛先が向いていた。
「当たり前でしょう、私は冬木の管理者なんだから、貴方みたいな魔術師を野放しには出来ないわよ。」
「いや、それはわかった、わかったけど…なんでそれで、俺が遠坂の弟子にならなきゃーー」
「だって今貴方の師はいないんでしょう、その上知識だって中途半端。」
「いや、俺これでも親父が残した課題はやってるしーー自主鍛錬だって欠かして無いぞ?」
士郎の言い分に、凛はため息を吐きながら答える。
「あのねーー貴方が魔術を発動する時…わざわざしなくても良いプロセスを踏んでるのよ、わかる?」
「いや、そうか?」
「そ、う、よ!」
ずい、と顔を近づけながら凄まれ、何故か士郎は赤面しながら後退る。
「いや、遠坂、近い近い!」
ーー初心か。
「そう、ならやってみなさい簡単な魔術でいいから発動して見せて?」
顔を離した凛も、こころなしか耳が赤い。
「ーーなんなんだよ…」
ぶつくさ言いながらも集中する。
身体に魔力を通し、
「それよっ!」
と、鋭い指摘の声が聞こえた。
「え、あ!?」
集中が途切れ、魔力が霧散する。
「そんな無駄な事に命をかけてどうするのよ、貴方は。」
「は?」
きょとん、とまるで解らない士郎。
「ーーしっかりしてよね、貴方には嫌でも朔弥を元に戻すために戦力になってもらわなきゃいけないんだから。」
「いや、魔術ってのは、死が本質なんだろ?だから、危険で当たり前なんじゃーー」
「士郎、貴方ね…毎回一から魔術回路を…創ってるでしょう…?」
「ーーえ、駄目なのか?」
「はあ、当たり前よ…毎回毎回身体を作り変える様な真似して…負担が大きすぎる、制御に失敗したら死んだっておかしくないのよ?」
「や、だからさ…魔術ってのはーー」
同じことを繰り返そうとすると、何故か凛の顔が強張って。
「これ、呑んで。」
そう言って差し出された赤い何か。
「飴玉…?」
確かに、呑み込めと言われれば可能だろうが…
丸呑みと言われたら少しきついサイズだ。
「宝石よ。」
しれっと言われてしまった。
「はっ!?」
腹壊すだろ、それ!
「大丈夫よ体内で貴方の魔力と同化して吸収されるはずだから。」
いや、だとしてもやはり抵抗はある。
異物を呑み込めと言われたわけだし。
「いいから、呑みなさい!」
ガ、と頬を挟まれて口を開けられ、そのまま口に捻じ込まれた。
「モガッ!?」
死ぬ、宝石が喉に詰まって!
ーー本当にそうなったら、多分世界でも珍しい死に方だなあ…っていやだから!
「ぐ、は、っ…あ、あれ?」
意外にするりと胃に収まる宝石。
しかし、急激に視界がグラグラしだした。
「ーーーー!?」
毎日の鍛錬でたまに起こるーー制御に失敗しかけた時のような感覚。
背骨の中心に灼けた鉄を差し込むような、綱渡りの作業。
それがズレて、肉が灼け、沸騰しかねない痛みが心を焼いていく。
「ーー、あ、が、あーー」
「え、ちょっと嘘、なんで逆に魔術回路が乱れてーー」
士郎の身体が震え、その焦点が定まらなくなっていく。
「ーーち、この小僧…今まで薄氷の上を歩くようなバランスで魔術を行使してやがったなーーやっぱりこいつは俺のお仲間だなあ…もしサーヴァントになるようなことがあれば…バーサーカー適正があるんじゃあねえか?」
そう、冷酷なまでに批評を述べるバーサーカー。
「ーーこのまま制御できなきゃあ、死ぬぞ?」
「なん、で…魔術回路のオンとオフを切り替えられるように、って…ただそれだけのーー」
凛の顔が段々と焦りに囚われる。
「それだけデケェ爆弾抱えたままやってやがったのさ、この小僧は。」
「馬鹿じゃないの?勝手に首を突っ込んでおいてーーそんな、危険抱えたままになんの得にもならないのに…でも、」
(何より許せないのは、それに気付きもしないでこいつを戦力だなんて、駒みたいに扱った私自身だ。)
「アーチャー、できたらバーサーカーも、暫く…こっち見ないで。」
凛の手が、士郎の震える身体を抱きしめて。
頬を染めながら近づけた唇が触れた。
「ーーーーーーーーーー」
舌が絡み、二人の唾液が混じり合う。
数秒か、数十秒か。
凛にとっては長く。
士郎にとっては一瞬に過ぎた刹那。
凛の舌を通して注がれた魔力が、士郎の内で荒れ狂っていた魔力の激流を優しく絡め取り、その動きを正して行く。
やがて、士郎の視界は開け、其処には美しい一対の
凛の瞳があった。
「ーーと、遠…坂?」
つ、っと唾液が糸を引き、どこか茫洋として意思が感じられない、凛の赤く火照った顔が離れていく。
いつしか震えは止まり、身体の痛みが和らいでいた。
数十秒程切ない表情のまま、肩で息をしていた凛が徐々に呼吸を戻していく。
「か、勘違いするんじゃないわよ…私の見立てが悪かったの、だからーーあんたが危うく死にかけた、そんなもの私のプライドが許さないの、それだけだからね?だから、助けたの!」
顔どころか手指の先まで桜色に染めて、凛は早口にまくしたてる。
(今のは、違うーー治療、治療行為なんだから)
「小僧、その嬢ちゃんに感謝するんだな。」
「え、あ…そうか…俺、魔力の制御に?」
「ああ、嬢ちゃんが与えた石がきっかけじゃああるがよ…今嬢ちゃんがああしてなけりゃあ、遠くない未来に今より酷い状態になってーー間違いなく死んでただろうぜ。」
「ーーそうか、ありがとう、遠坂。」
「いいわよ、あんまり危なっかしいから放っておけなかっただけだもの。」
凛は視線を外しながらも横目でチラチラと士郎を伺いながら、髪をクリクリと弄り回し、おちつかない。
「ーーそんなこと言われたらますます…男としちゃ黙ってられないじゃないか…何でも言ってくれ、遠坂。」
「ーーだから、気にしなくていいってば。」
「そうはいかない、責任ってものがあるだろう。」
「は!?せきっ…?」
ゆでダコみたいに赤くなり、狼狽える凛。
「ーーああ、遠坂に負担をかけちまった、それは俺が未熟だったから、その責任は自分が負うべきだかーー」
当たり前、とばかりに見当外れな話をしだす士郎。
その頭を誰かがむんずと掴んだ。
「ーーうちのマスターを自覚なくナチュラルに口説くのはやめてもらおうか。」
アーチャーは酷く爽やかな笑顔だが、その頬はひきつり、こめかみには青筋が浮かんでいた。
「え?、違っ何だお前、や、止めーー痛ダダダダダダ!?」
「来い!魔術が知りたいなら教えてやる!」
赤い弓兵が力づくで士郎を引きずっていく。
「あ、アーチャー!?何言ってるのよ貴方は、ってちょっと待ちなさい、コラ!?」
「ーーぶ、クアッハハハ!!」
その様子を見ながら大笑いするバーサーカー。
…石になった朔弥は、思った。
(私ーー忘れられてないよね?ね!?何このラブコメ展開っ!?)
石にはなりながらも。
意思はあったのである。
石だけに。
***********************
衛宮家から少し離れた民家の屋根。
月明かりに照らされ、長い影が伸びていた。
暗い雰囲気を纏うその一種異様な立ち姿。
襤褸を纏い、身体つきも判然としない。
ただ、異様に掠れた声、息が、漏れ出ていた。
「ーーエ”ミヤーー」
確かに、その影は口にした。
えみや、と。
【後書き的なもの】
皆さま今晩は、或いはこんにちわ、おはようございます。
本作品への評価、コメント本当にありがとうございます、励みになります!
さてしかし。
初投稿当時、なんだかこれだけの文量にやけに悩みながら書き上げました。
いや、本気でオリジナルばかりになってきましたし、展開が駆け足すぎるかなあ?
原作ではスイッチのオンとオフを切り替えさせるだけの凛のとった荒療治ですがーー
ことこの作品の士郎には、爆薬の導火線に火を点ける行為に他なりませんでした。
元来未熟な士郎が本当に強引に高度な魔術を使い続けると言うのはまさに自殺行為。
作中で今後、記述しますが、士郎は一部の魔術に関してだけ切嗣の魔術刻印を施されています。
全て受け継いだ訳でもないため後継者とは呼べないレベルですが。
それを使い、コントロールもまともに出来ない士郎が使用の度魔術回路を生成し、発動していたのが現状。
そこに無理やり回路を目覚めさせようと言う力が流し込まれたら、当然危険です。
今回はその暴走を凛が原作にもあった「魔力供給」の仕方を応用して、口腔内の体液、粘膜の接触を媒介に士郎の体内の魔力ーーオドを調整したわけです。
さて、セイバーさん、早く出してあげないとね…最後の影は、何者か?
まさかセイバーか!?(なわけない)
なんていいつつ、次回またお会いしましょう!
今回もお読み頂きありがとうございました!
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第10話『デイウォーカー』
デイウォーカーは滅びないーー。
「しつこいね、君も。」
くたびれたコートに咥え煙草。
ボサボサの黒髪に無精髭と、それだけなら実に清潔感の無い、ただの中年にしか聞こえない姿、しかし男の眼光は鋭く、立ち姿に隙は無い。
「しつこくもなろうが…貴様、我を散々に痛めつけておいて滅ぼすでも無く放置しよってからに…舐めているのか!?」
金髪、碧眼に野生の獣じみた目をギラつかせ、男を睨むのは酷くアンバランスな美形だった。
その眼に似合わず華奢な身体、しかし牙は長く、身体からは魔力が嫌と言うほど垂れ流しである。
「ーー僕としては切り札まで使って滅ぼせなかった方が驚きなんだけどね。」
呆れたように呟き、やれやれとポーズをとる。
「巫山戯るなっ、いっそ殺せぇ!?」
叫びによじる彼の動作が妙に艶めかしい。
ああ、よく見れば彼ではない。
彼女、だ。
控えめだが胸はある様だし、身体も丸みを帯びていて…中学生位の少女に見えた。
見た目だけは。
「できたらやっている、僕としても吸血種ーーそれもデイウォーカーにつけ狙われるのはさすがに疲れる。」
デイウォーカー。
陽を往く者。
吸血種にとって弱点であるはずのソレを軽く克服するほどの高位存在。
中には空想具現化、などという宝具に類する力を有している者までいるらしい。
死徒、中でもとりわけ古く強力なのが真祖。
目の前の美形ーーいや、少女は。
真祖でこそないが実に齢300を越す超越者である。
男、衛宮切嗣は以前、彼女と死闘を繰り広げた。
とある魔術師が、自分の子供をつけ狙われて彼に古い伝を頼って助けを求めてきたのだ。
ナタリア・カミンスキー。
彼、切嗣の師にあたる人物と魔術師、九重十蔵は所謂、同級生、兼情報屋。
フリーランス、一匹狼だったナタリアに様々な情報を渡したり、物資を支援していたのが、彼や、その徒弟だった。
「九重氏も何故こんな面倒を…」
とはいえ、子供を殺そうなどと言う輩を放置もできない。
正直に言って自分の身体は本調子から程遠い。
第四次聖杯戦争で受けた痛手は今尚彼を蝕んでいるのだから。
「君は、力に頼りすぎだ…それほどの魔力をただ垂れ流し、叩きつけることしか出来ていない、だから今の僕にすらあしらわれるのさ。」
淡々と、話しながら冷静に魔力と身体能力に任せた連撃を捌いていく。
「君、ではない!我が名は白金ーー明けの白金、イルマ・ヨグル・ソトホープだ、覚えておけ、雑草が!」
大層な二つ名だが、彼女自身はさほど強くない。
地力はともかく技術が無い。
故に、こうして怒らせておけば対処は容易だった。
罠にもかけやすい。
ほら、今みたいに。
「ーーぬうあああ、あ?」
ピン、と何かが抜ける音。
仕掛けておいた聖水入りの手榴弾の安全ピンが抜けたのだ。
本来なら破片をばら撒き、中にある殺傷能力の高い金属片が飛び散るのだが、これは特注で、中には圧縮した水、聖水が仕込まれている。
金属でなく特殊な圧縮ビニールに入れた水が。
凄い勢いで飛び散った水は弾丸さながらの勢いで彼女の全身を叩く。
「あ、あだ!?あ痛たたたたたっ!!」
白煙を上げながら床を転がるイルマ。
更には転がった先で網が飛び出し、イルマを吊りあげた。
切嗣は既に射程外に退避済みである。
「な、なんだこれーー!?」
ジタバタもがくが、中々切れない。
聖銀を編み込んだ特注である。
「さて、これで終わりにしてくれないかな…僕には君を滅ぼす手段が無い、しかし君は僕には勝てないーーこんな泥仕合はもうやめて欲しい。」
「ぐぎぎ…っ!」
自分の服を噛んで悔しがるイルマ。
いや、シャツが捲れている、見えるからよしなさい、とは切嗣は言わなかった。
…指摘したらしたで面倒そうだからだ。
「それじゃあ、僕は行くよ、君も僕みたいな死に損ないにこれ以上拘らないほうが良い。」
そんな屈辱の記憶も…もう、随分と昔の事に思えた。
************ーー…
「まず、貴様の間違いを一つ正しておこう。」
頭を鷲掴みにされ、引き摺られながら連れてこられた中庭で、俺は今アーチャーから魔術の講義を受けていた。
「間違い?魔術回路のスイッチって話ならさっき…」
ギロリと睨まれた。
流石にサーヴァントに本気で睨まれたら怖い。
「そうではない…魔術には起源と言うものがあるのは知っているか?」
「あー、切嗣がそんな話をしてくれた事はあったなあ…俺の起源は、「剣」だとか?」
「そこまでわかっていながら何故貴様は先の戦闘で銃などを投影したのだーー馬鹿か。」
「あれくらいしかサーヴァントに通じそうなものがなかったんだよ…銃の投影が負担がデカイこと位わかってたさ。」
「戯け、まずそこから間違いだというのだ。」
「は?」
「貴様に出来る事は何だ。」
「出来る事?」
「そうだ、貴様はあれやこれやと器用にこなせる様な人間でもあるまい?」
「ーー決めつけられるのはいい気分はしないけど…まあ間違っちゃいない、かな。」
「そうだ、不器用なお前が出来る事など限られている、相手が人外、それも英霊ならばなおのことだ。」
ドヤ顔しやがって…どうにもこいつは虫が好かない。
「ーー故に、勝とうと思うな、最善を尽くせ、己の中の最強をイメージしろ。」
「イメージ…」
「そうだ、貴様に出来るのは魔術を競う事でも、白兵戦を挑んで無様に切り捨てられる事でもない、勝てないならばーー勝てるモノを幻想しろーー私が教えられるのはそこまでだ、後は我々サーヴァントの戦いを見届け、糧にしろ。」
「ーーお前さ、ただいけ好かない奴じゃあなかったんだな、いけ好かないお人好しだ。」
などと。
いつの間にか口走った自分に驚きだ。
「ーーフン、いけ好かないのは私も同じだ、戯けが。」
今夜の講義はこれまで、なんて掛け声も起立、礼!も無いが、二人して牽制する様に苦笑いしてどちらともなく屋敷に戻ろうとした、その時。
けたたましい警報ーー魔術的な侵入者への警報が働き、脳裏に響き渡った。
この場合、士郎に認識された味方ーー
凛、朔弥に士郎、サーヴァント二人をを入れた5名に、だ。
「「ーー侵入者?」」
士郎、アーチャーの声がハモった瞬間であった。
**********************
「やっぱり、簡単には行かないかーー」
想定より早い、が…恐らく再度ワカメーーいや、ライダー陣営が仕掛けてきたか、もしくは新手のサーヴァントか。
「朔弥、もう少しだけ我慢しててね…ちゃんと元に戻してあげるから。」
石になった朔弥に語りかけてから、凛は中庭に面した窓を開けて、廊下に姿をさらす。
「アーチャー!!」
声と同時、戻ったアーチャーが霊体化を解き、傍に出現した。
「やかましいな、この音ーーはやいとこネズミを仕留めるとしようや、なあ?」
バーサーカーは好戦的な笑みを浮かべ、そんな呟きを発した。
「そうだな、それには同意しよう…来たぞ。」
塀の上から、中庭にドズン、と重い音を立てて着地したそれは、獣じみていた。
身の丈は高く、2.6m程か。
吐く息は生臭く、全身は筋肉の塊の様な姿。
一枚の襤褸を羽織り、下は獣毛に覆われ、足先は異様に長い爪が地面をえぐる様に固定している。
「サーヴァント、では無いな…これは…死徒か。」
死徒。
中でも低級なゾンビ、レッサーバンパイア。
その類か、と見当を付けてアーチャーは頭の中で対策を練り始める。
「ふむ、高位の魔術師かーーもしくはキャスターの使い魔か?」
コキコキと肩を鳴らしながら言うのはバーサーカー。
「なんにせよ、敵には違い無いわけね。」
凛の声が、開戦の合図だった。
「は、違い…無ぇな!」
ブオン、と空を切り月明かりの下紅い魔槍が閃いた。
それを受け流そうとした死徒だが、力の差は歴然。
刃こそ逸らしたが直ぐに力負けしてよろめいた。
「ぐ、ぇミヤ…キリヅグゥ!」
生臭く息を吐き出しながら発した言葉。
「親父の名前…?」
士郎が疑問を抱き、躊躇するが周りは違う。
アーチャーは既に再生能力を持つ死徒を滅ぼすのに適した武器を取り出していた。
士郎に聞こえない程度の小声で投影を行って。
「ハルペー…不死の怪物の首を刈り取る不死殺しーー受けるがいい!」
ハルペーは緑の光に変換され、アーチャーの持つ弓につがえられた。
即座に射られたそれが目の前の異形を貫きかけた、が。
「私のお人形を壊さないでくれないかしら…守護者のクソ野郎様?」
指二本でそれを止めたのは。
ふわりと舞い降りた、ゴスロリ風のやけに露出の多い衣装に身を包んだ、金糸の様な髪に、美しい碧眼の美少女だった。
「ーー何者。」
アーチャーの声が警戒を強めている。
バーサーカーすら今は黙して様子を見ている。
「私?私は白金、
「ーー頭大丈夫かしら、あの娘。」
思わず呟いたのは凛。
いや、無理からぬ話ではある。
見た目中学生女子。(圧倒的な美少女ではあるが、やはり外見は中学生。)
それが、崇め奉れとか言ってるのだ。
しかも露出多めのコスプレスタイルで。
**********************
「ーーとりあえず死んどけや。」
そう言いながら恐ろしい速度で踏み込んだバーサーカーの槍が少女を捉えた。
ギャリン!
指二本で挟んでいたハルペーを逆手に持ち直し、槍を止める少女ーーイルマ。
対してバーサーカーは笑みを深め、槍をさらに振り回し、突き出した。
「ハ!面白れえな、テメェ!」
嬉々としたーー或いは鬼々とした表情で槍を振るう。
速度は秒毎に上がり、今や凛の目には捉えきれなくなっていた。
「面白え、が…崇め奉れだと?…俺は王だ、王を前にその不遜ーー万死に値するな、えぇ?」
そうだーー俺を使って良いのは、好きに発言を許すのは…三人だけだ。
女王、メイヴーー俺を生み出した始まり。
そして。
絶望を乗り越えて俺を打破した双子ーーあの二人だけだ。
一直線に槍を突き入れ、正面から挑む。
「死などとうに乗り越えておるわ、しゃしゃるなよ若僧がーー!」
イルマが空いた方の掌に魔力を集める。
ほの紅く輝くそれは圧縮された破壊エネルギー。
「弾け飛べ…雑草が!!」
「喰らうかよ、マヌケ。」
バーサーカーはあたら不自然なまでにその進行方向を捻じ曲げた。
「うわ、尻尾で軌道修正とか…」
呆気にとられた凛。
隣ではアーチャーもまた毒気を抜かれた様にしてバーサーカーの動きを見ていた。
いや、むしろいずれ敵に回る可能性が高い彼を見て、共倒れれば良いとか考えてる顔だ、あれは。
「ち、見かけの割に器用な奴じゃな!」
イルマはそう毒づき、魔力の塊を投げつける。
イルマの手を離れたそれは、最初は塊のままに飛んでいく、がやがて制御を離れたためかバラバラになり、礫の様にバーサーカーの周りに降り注ぐ。
「は、残念ながら俺に飛び道具は通じないぜ?」
矢避けの加護。
一定以下の威力の飛び道具を逸らし、外してしまうバーサーカーのもつスキルの一つ。
そのまま、イルマに再度突きかかるが、そこに先ほどの死徒が横合いから殴りかかる。
「ガウッ!」
「ち、そんな雑魚くらいおさえとけ弓兵っ!」
毒づくバーサーカー、しかしアーチャーは。
「貴様一人では足らなかったかね、いやそれは失礼したーー買い被りすぎだったか。」
「…テメェ、覚えとけよこの野郎…良いだろう、そこまで言うなら俺の力ーーしかと目に焼きつけろっ!」
叫び、月明かりを背に飛び上がるバーサーカー。
「全種解放ーー…」
禍々しい気配がバーサーカーを包み、フードは硬質化して行く。
「ち、ちょっとまて、まさか、宝具!?」
「加減は無しだーー」
体内から何かが飛び出そうとする感覚。
力を振るうのは、いっそ快感ですらある。
「おい、待てって…クソ!」
さらに魔力は高まりーー
ズガァーン!!
銃声が、それを遮った。
「待てって、言ってるだろっ!」
魔力は霧散し、硬質化しかけていたフードは柔らかな質感を取り戻し、今にもバーサーカーの体外にせり出そうとしていたモノも再び体内に戻っていた。
「ーーなんのつもりだ、小僧?」
バーサーカーの眼が、怒りに、濁る。
「ーーそいつらには聞きたいことが山ほどあるんだ、それにーー直ぐに殺す殺すと物騒な事を言うなよな。」
「自分から死にてえのか、ガキ。」
こめかみに向けて放たれた弾丸を片手で受け止め、僅かに痛みを感じ、しかめ面で睨むバーサーカー。
「そんなわけないだろ、だから聞きたいことがーー」
「い、今のっ!今のは起源弾か!?そ、そうだろっああ、やっとだ、やっと会うたな、エミヤーー
唐突に。
花がほころぶ様なとびきりの笑顔で、少女、イルマは。
士郎に抱きついていた。
それはもう、ぎゅう、と。
もう、目にも止まらぬ速度でもって、迅速に、力強く。
「え、何、は?」
驚く士郎、しかし。
「な、ななななっーー!?」
何故か。
一番取り乱したのは凛だった。
【後書き的なもの】
拙い内容の拙作に、評価、コメントを毎度毎度ありがとうございます。
本当に、本当に感謝の極み。
今回はオリジナルキャラクターが登場、また切嗣に関しても回想ですが出番がありました。
さて、切嗣は今も生きているのか、否か。
そして、何故かラブコメしゅうが。←
謎が少しづつ増えて、今後物語は本来の歴史を大きく逸脱していきます。
まだまだ、風呂敷は畳むどころか広がりを見せます、必ず完結まで書いていきたいと思います故、皆様応援お願いします!
それではまた、次回更新で!
しーゆー!
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第11話 『見上げる空は』
狼煙は上がる。
月を迎え、風が吼える。
慟哭を上げることもできず少女は、静寂を捨てた。
「先程はお見苦しい姿をお見せ致しまして、大変失礼致しました。」
「ーーえぇと、誰、コレ?」
思わず半眼になる凛。
いや、無理はない。
何せ目の前でやたら丁寧な挨拶をしているのは先程の「死徒」なのだから。
「や、違うとか言うレベルじゃないですよね…体格違いすぎないかあんた!?」
ビシッ!っと華麗なツッコミを入れたのは士郎である。
「お恥ずかしい、あれは戦闘時の姿でして…不細工になるのであまりあの姿はお見せしたくはありませんなあ…普段はこちらの姿でイルマお嬢様の付き人をしております、イゴールと申します、以後、お見知りおきを、キリツグ・エミヤ様。」
物腰柔らかに、そう締めくくったのは年の頃にして50代前半と言った姿の初老の紳士。
どうやっても、先に見た巨体の死徒には見えない。
「あ、いやだからですね…俺は切嗣じゃあ無くて…士郎、衛宮士郎なんですって。」
「なぜじゃ、起源弾を使いこなすのはキリツグだけじゃろう、何せあれはお前の身体の一部から出来た弾丸じゃからしてーー」
何でそんなことがわかるんだ、こいつ。
「は、まったく厄介な弾丸だぜ…まともに食らえばサーヴァントだって効果無しとはいかねえだろうからなありゃあ。」
などと、先程軽々と直撃を避けた張本人、バーサーカーがシャアシャアと言っている。
「うむ、儂もアレに初めて貫かれた日は…足腰が立たなくなるほどであったぞ…キリツグの身体の一部に無理やりに貫かれたあの日ーー儂は生涯忘れ得ぬであろうな…」
ーー違うのはわかるんだが、その言い回しはどうなんだ。
「ーーあれは複製品だ、本来の持ち主はここには居らんよ…魔術師殺しになんの用事かは知らんがね…こちらは取り込み中だ、人違いが分かったら早々に帰りたまえ。」
お前はお前でなんでそう刺々しいんだよ、アーチャー。
「ーーそうか、人違い、か…しかし良く似ておるなーー確かによく見れば姿形は似ておらぬが…あり方が、魂の色とでも言おうか。」
イルマは一人、ウムウムと頷いている。
それをお嬢様、良うございましたなあ、なんてイゴールが相槌をうっていた。
マイペースすぎるだろ、お前ら。
「ーーて、言うかね…どうしてあんたら寛いでるのよ…士郎、貴方も中に入れるんじゃないわよ…」
なんでか遠坂がイライラしてる。
「ーー兎に角、貴女に敵意が無いなら本気で帰ってくれないかしら…こちとらライダーは探さなきゃいけないし、忙しいのよ…本当。」
「ふむーーイゴール、どうやら儂らはタイミングの悪い時に来てしもうたようだな…キリツグが戦っているかと思うて駆けつけてみれば…なぜか歓迎されてはおらんようじゃし、帰るかや。」
「左様で、それでは…皆様お騒がせ致しましたがこれにて。」
そう言ってイゴールはイルマを抱き抱え、そのまま玄関から退室していった。
「ーーあっさり帰ったわね…何だったのかしら…はあ、想定外の事態が多すぎて頭がどうにかなりそうだわ…今日はもう休みましょうか。」
「ーーそうだな、九重には悪いが…いい加減限界だ、今はそのほうがいい、かもな…」
その時、俺は気付くべきだった。
あまりに自然に言われて。
遠坂もじゃあ、また。
なんて言って帰ったのかと、そう思っていたのだ。
**********ーー…
朝。
朝がきた。
日差しが優しく僅かに昇り始めた。
徹底的なまでに朝である。
いつもの起床時より少しだけ早いくらい。
昨夜はさすがに疲れた。
遠坂が帰り、流石に九重には悪いがこのままにもできないからと、バーサーカー、オルクと一緒に九重を土蔵に運び、布をかけて隠した。
ーー石化、と言っても妙に生暖かいとか、その、ちょっと柔らかいとか思ったのは内緒である。
確かに石にはなっていたが、多分あれは表面だけだ。
身体活動は停止、と言うか仮死状態の様なものらしいとバーサーカーから聞いた。
ただ、長く続くと冗談抜きに完全に石になる可能性もあるらしい。
停滞のルーンとやらをバーサーカーが施していたので暫くは大丈夫だそうだが。
さて、それはそれで問題なのだがーー
目下、更に大問題が発生していた。
昨夜は確かに、一人で自室に入って寝たはずだ。
しかし。
何故かーー人肌の温もりが背中にしがみついているのを感じた。
おかしい。
というか、俺以外にいるのはバーサーカーだけじゃ無いか。
まさか、まさか、な?
『うわーーん!どこの馬の骨かわからないBL野郎に士郎とられたーーっ、士郎が、士郎のお尻が開発されちゃうううっ!!』
などと言う。
物騒極まりない藤姉の台詞が脳内にリフレインする。
「ーーお、俺にそんな趣味はなーーい?」
ガバ、と意を決して体の向きを変えた視界に入って来たのは。
美しい金髪に、真っ白な肌。
薄いネグリジェしか纏わぬ姿の…イルマが抱きついて寝息を立てていた。
「ーーなんでさ。」
と、現実から逃避しかけたその時。
襖が開いた。
勢い良く。
スパーン!、と。
そして、そこには。
まるで幽鬼の様な顔でふらつく…
「と、遠さ、か…?」
ーー凛の姿がありました。
「ーーむにゃ…ト…レ…何処だっけ…」
なんだか呟いていた遠坂が。
足元も見ずに歩み寄りーー
「あ」
つまづいて、こけた。
ビターン!
と音が出そうな倒れ方で、遠坂が俺とイルマの上に覆い被さる、と言うか。
勢いよく下に敷く感じに倒れてきたのだ。
いや、いっそボディプレスだった。
「めぎゅう!?」
イルマの悲鳴だ…ちょっと可愛い。
「ーーい、いった〜…何だってこんなところにつまづく様なモノ、が…?」
「ーーお、おはよう…遠坂…?」
なんでお前らここに居るんだ、と話をしようと手を挙げたのだが。
俺の上には今、イルマが抱きついた状態でその上に倒れてきた遠坂が、腕立て伏せするかの様な姿勢でその下に俺達を組み敷いた格好でいるわけで。
フニュリ、と。
なんだか極上のマシュマロに触れた様なーーいや、しかしこの温もりはなんだろう。
なんて考える暇は無くてーー。
一際甲高い悲鳴と、激しい平手打ちの音が響き渡るのだった。
改めて言いたい。
「ーーなんでさっ!?」
********
「ーー吸血種に、2騎のサーヴァント…衛宮士郎…どうにも渾然としていてわかりづらい状況ね一度、確かめる必要があるかしら。」
「何が問題だと言うのだ、イリヤ。」
厳しい表情で黙していたセイバーが薄く笑いながらそう問いかける。
「大問題よ、彼がマスターかどうか今一わからないもの。」
ふん、と可愛らしく鼻を鳴らして言うイリヤ。
「ーーよくわからないが…その男が憎いのだろう?」
ならば、やる事は変わらないでは無いか、とセイバーは首をかしげる。
「変わるわ、だって…私はアインツベルンなんだからーー確かに彼は憎いわ…でもね、私怨だけで誰かを殺すほどに私は傲慢じゃあ無い。」
「ーー殺したいならば、殺せばいい、と…神々ならば言うだろうな…人であったとしても…これは戦争なのだと主張して、そうする者が殆どだろうーーだが、私はイリヤのその姿勢は嫌いでは無いよ、好ましく思う。」
「ーーりがと。」
小さく、常人なら聞こえ無い程度の呟き。
だが、彼はサーヴァントだ、聞こえていないはずは無い。
しかし、彼がそれに答えることは無かった。
アインツベルンの拠点、城とも呼べる豪奢な建造物は冬木の外れ、深い森の只中にあった。
何代か前のアインツベルンが城ごとこの地に移しかえたのだ。
なんとも桁外れにスケールの大きな話である。
その一室、尖塔の一番上の部屋で二人は月を見ていた。
大きな赤い月。
血のような夜の赫光。
緋色に輝く愛剣の刀身を磨きながらセイバーは呟いた。
「ーーああ、マスターが1人…脱落したか姿をくらましたな。」
視線の先には、霊基盤が仄かな光を放ち鎮座している。
幾つも輝く光点は、サーヴァントとマスターを示す。
そのうち一つが、光をスウ、と消していく。
マスターを表す小さな光が一つ、だ。
「そろそろ様子見にも飽いた、な。」
ポツリとセイバーが呟き、イリヤが仕方ないわね、と答える。
「近々、軽く仕掛けましょう…でも彼は殺しちゃだめだからね、セイバー?」
「ああ、手足の腱を斬る位に留めておこう。」
できるだけそれもよして、と言われたが彼は答えない。
どこか嬉しそうに表情が変わった様な気がして、セイバーの顔を覗き見る、と。
そこには武人然とした厳しい表情が、あるだけだった。
***************
「ーーさて、説明して貰いましょうか、士郎?」
目の前に、仁王立で構えるのは藤村大河、教師、そして姉の様な存在。
つい先日、ライダーの仕掛けた結界にやられて昏倒していた筈なのだが。
見舞いにと病院に向かおうとしたら回復して帰って来たと連絡があった。
…どれだけタフなんだよ藤姉…いや、元気で安心したけどさ。
「先輩は一度…ロープレスバンジーでもすればいいと思います。」
とても可愛らしく、にこやかな笑顔でとんでもないことを言われた。
ーー桜である。
桜はあの時偶々家の用事で遅れてきた事が幸いし、難を逃れていたらしい。
「さ、桜…ロープレスだと死んでしまうんじゃあないかな…」
「ーーなんで、一晩で、女の子が2人も増えてるのっ!?」
「そうです!しかも遠坂先輩がいるじゃないですかっ!」
ガオー!、と昨日に続き吼えるタイガー。
桜まで便乗して叫んでいる。
「や、あ、えっと…それはだな…」
やばい、うまい言い訳が出てこない。
「藤村先生、ーー彼を責めないであげてください…衛宮君はウチが急な修繕で水周りも空調も効かなくなったと聞いてそれならうちに来たら良い…幸い部屋は貸すほど空いているからーーと手を差し伸べてくれたんです。」
「や、遠坂さん!あのね、貴女もだめだからねっ、年頃の男女が一つ屋根の下とか絶対にだめっ、何か起きてからじゃ遅いんだからっ!」
「ーー何か、とは?」
「え?あ、や…それはそのぅ…だってほら…男女が一つ屋根の下なんて…間違いが起こるかもしれないでしょ!?」
「ーーー衛宮君、貴方先生にあまり信用して貰ってないの?」
なんて事を此方にふってくる遠坂。
「え?や、どうなんだろ…なあ、藤姉?」
「え!?い、いやそれは信用してるよ?してるわよっ、士郎が間違いなんか起こすはずないじゃないっ、お姉ちゃんは士郎を間違いを起こす様に育てた覚えはありませんっ!」
焦りながらもそう口にしたのがーー決着だった。
「そうですか、なら問題無いじゃないですか、ねえ?オルクさん?」
と、そこでバーサーカーをダシにする。
「あぁ?ーーいいんじゃねえの?」
と、やる気なくチラ、と大河を見た途端。
「ーーは、はわわわっ!」
なんて汗を流し始める藤姉。
「ーーう、うう〜〜!」
顔を真っ赤にして、涙目で唸っている、
どうやらまだ道場での一件は尾を引いているらしい。
「遠坂先輩ーーずるいです…」
桜もまた、そこには口を挟めずに恨めしげに目を向けただけに終わる。
「まあまあ、皆さん…私もオルク様もおりますし何も女性の中に男が1人とはなりませんから大丈夫でございましょう、そこは私が責任を持ちましょうぞ。」
「ーーお願い、します。」
不承不承ではあるが、イゴールさんの言葉に桜と藤姉が頭を下げた。
そんなこんなで少々ギスギスしてはいたもののーー遠坂の話術とバーサーカーとイゴールさんの存在でなんとか切り抜けることには成功した。
したのだが。
何故か俺の隣りにちょこん、と可愛らしく座るイルマに対して鋭い視線が向け続けられていた…って何で遠坂まで。
「…このロリコン…」
何だか遠坂が俺にだけ聞こえる距離でそんな事を呟いてきた、誤解だ!
「ほっほっほっ、イルマ様、大人気ですな?」
いや、イゴールさん…多分違うと思いますよ。
「儂は可愛いからな!」
…お前は空気読めよ、頼むから。
ワイワイガヤガヤ、騒々しいくらいの食卓ーー久しぶりだな、こんなの。
切嗣と、雷我のじいさん、藤村組の若い集や藤姉。
たまに揃う時はこんな感じだったっけ。
「たまには、いいか。」
無意識に口が笑みを作る。
今だけは煩わしい事を考えないですみそうだ。
喧騒は、学校に出掛ける間際まで続いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕方。
屋上に集まった俺と遠坂は慎二がどこに逃げたかを考えていた。
桜にそれとなく聞いたが、あの日以来家にも帰っては居ないらしい。
…桜も辛そうに顔を伏せていた。
早く、なんとかしないとな…
あのバカを見つけてぶん殴ってでも考えを改めさせなきゃいけない。
「間桐君がどこにいるかーーだけど…霊脈に近い場所に隠れている可能性が高いわ、なにせあれだけ魔力を使い潰したのだから…彼の魔力容量では回復はおぼつかないはず…結界での回収も不発に終わったし、ね。」
「霊脈か…具体的には何処なんだ?」
「強い霊脈となれば限られてくる…一つは、教会。」
「ーー教会か…そういや一度顔を見せに行く方が良いんだったか。」
「ええ、貴方は参加者では無いから厳密には…バーサーカーと九重さんが、ね。」
「なるほど。」
「今はまだそれを考えなくても除外して良いわ。」
「なんでだ?」
「あそこはね、監督役である聖堂教会の、この場合は綺礼のやつーーがいるだけじゃ無い、脱落したマスターを保護する場でもあるの。」
「ああ…慎二は…それを知ってたらまずいかないな…」
あいつの性格なら負けてもいないのにそんな場所にはまず行かないだろう。
「そういう事よ、後はお山ーー柳洞寺ね。」
「一成のウチじゃないか…そうか、あそこ霊脈だったのか…」
「それと、ウチ…遠坂の屋敷、ね。」
まあ、流石にここは無いでしょう、と続ける遠坂。
「後は、新都の…中央公園。」
彼処かーー彼処は正直な話いい思いでは無い。
できたら近づきたくは無い、な。
そう、彼処は10年前に起きた大災害の中心だった場所だ。
それを知っていれば近づきたいと思う人間は少ないだろう。
なにせ、どういう訳かあの焼け跡にはろくに草木も育たない。
その上、なぜか息がつまると言うか…居づらいのだ。
「お寺はまず無いでしょうねーー人目がありすぎるもの、消去法でいけば、多分新都の方が可能性が高いと思うわ。」
「そうか、なら急ぐか…幸い授業もしばらくは無いって話だったしな。」
そう、ある意味では幸いだったが…あの集団昏倒事件のせいで今日はほとんどの生徒が欠席。
その為行われた会議の結果、今日を境に暫くは休校となったのだ。
「そうね、行きましょう。」
遠坂が先行し、俺たちはそのまま新都へと足早に、学校を後にした。
************ーー…
ビル風が、甲高い音を立てて吹き抜ける。
まるで過去が追い縋る様に。
彼女は一人。
「…来たようですね…どうします、慎二?」
「は、魔力は回復したんだよなライダー。」
「そうですね、完全ではありませんが全力戦闘をしたとしても…宝具を乱用でもしない限りは明日まででも戦えます。」
ビル群の一角、その屋上フェンス越しにこちらを見下ろす
彼女ーーライダーは今、重力すら無視して壁面に直立していた。
直角に聳えるビルの壁面にだ。
風の音が煩いくらいだが、サーヴァントである彼女の耳には残念ながら慎二の声が聞こえていた。
「そうか、なら…やれ…衛宮のサーヴァントだ、あのいけ好かない槍使いから先に仕留めろっ、いいな!?」
「いいでしょう。」
やはり解っていない。
正面から遣り合おうとすれば私は敗れるだろう。
あの槍使いは、不味い。
あまりに強い膂力とあの槍。
不吉極まりない、あの力は私の内に居るモノに近しい力だ。
その上相手はサーヴァントが2騎居るのだ。
これでただ無策に勝てると思う方がどうかしている。
だが、ただやられるつもりは無い。
正面から、やりあわなければよいのだから。
見上げる空は赤い。
くれなずむ夕日…彼女にすれば血を連想するその色は身体を火照らせ、昂ぶらせる。
しかしそんな事は知りもせず。
獲物の気配は…徐々に近づいていたーー。
皆様こんにちは、こんばんは、おはようございます。
貴方/貴女の愉悦部、ギルスです。(何
まあ、多少なりとも私の投稿する文章が楽しんでいただけたら幸せです。
ようやくセイバー陣営がちょっと動きます。
まだまだ物語は始まりから大して進んでない感がパ無いです。
イルマみたいな濃いキャラを投入しつつ、少しずつ物語は進んでいきます。
ランサー影薄いぞ!ぐだ子もどうなる。
伏線ばかりが増えていくこの話、はたしてちゃんと回収できるのか!?
そんなぐだぐだ感で、次回に続くっ!
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第12話『神話』
ならば、世の理から外されたモノは。
己が存在か、世界への憎しみか。
魔は魔なりの矜持を持ってーー
「私とアーチャーは外れの方からまわるから、貴方達は中心部からお願い、見つけたらーーそうね、空に向けて目印を飛ばすわ。」
「わかった、遠坂、気をつけてな。」
「…貴方こそマスターでもない半人前なんだからあまり無理はしない事ね。」
「…ツン、とかいう奴か?アレ。」
マスターを助ける為だから、とついてきたバーサーカーが凛を指差しながらニヤニヤとしている。
「るっさいわね!?貴方のマスターを助けに来てるんでしょうがっ真面目にやんなさいよ!」
ーー遠坂って…こっちが地、なんだろうなあ…
優等生然とした学校での姿が聖杯戦争に関わりを持ってからこっち、ガラガラと崩れ続けている。
実は少なからず憧れめいたものを抱いていた士郎だったが、それも今はもうどうでも良い。
むしろ今の方が好ましいと思える程度には自分も慣れてきたなあとか考えていた。
「まあまあ、遠坂、悠長にしてもいられないだろ、早いところ慎二を見つけないとな。」
そう前置き、凛の肩をポンと押し出す。
「わかってるわよ、もう。」
膨れ面で文句を言いながらも歩き出す凛も何処か憎めないし、可愛らしくさえ思える。
「じゃあ、お互い気をつけて行こう。」
ふん、と言う凛の態度と無言のままのアーチャーの気配を感じつつ、一行は互いに反対に向いて歩き出す。
サーヴァント2騎は霊体化し、夜闇を歩き出した
ーーーーーー…
「慎二よ。」
しわがれた声。
人をねめつけるような視線、君が悪いくらいの矮躯に、細い手足。
手には樫の杖を持ち、頭は肥大化し、禿げ上がっている。
それこそどこかのアニメに出てくる妖怪の総大将のようなその姿。
「なんだよ、爺さん。」
恐ろしい人物である、これが血縁者でなければこんな口を聞いただけで今頃は魔蟲の餌にされているだろう。
「なに、可愛い孫に力を貸してやろうと思うてなあ…此度の聖杯戦争に儂は手出しするつもりは無かったのじゃがな…おぬしが実に真剣に魔術師として参加をしたいと言う、嬉しい限りではないか。」
迂遠な言い回し。
ーー胡散臭いね、この蟲爺が…
慎二は心中ではそう考えながらも、顔には笑顔を浮かべ、答えていた。
「へぇ!そりゃあ助かる、嬉しいね。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。」
そう言いながら祖父が取り出したのは黒い、何かの欠片だった。
「これはな、とある絶大な力を秘めた聖遺物の欠片よ…使い方次第で令呪以上にサーヴァントを強化できる…使うが良い。」
ほっほ、と機嫌良くそれを手渡され、掌に乗ったそれを見つめる。
もとは金色だったのか、所々に金箔が剥がれかけたように光る部分があった。
ーーもっとも、実際には黒い方が貼り付いている、と言う方が正しいかもしれない。
濃い煤のように金色を燻ませたソレは。
まるで乾いた泥の様にも見えた。
「ーー有難く貰っておくさ、僕は何であれ使いこなしてみせるとも…そして魔術師として大成してやるよ、爺さん。」
***************
そんなやりとりから数日。
真逆こんなにも早く切り札を切る羽目になろうとは。
ライダーには知らせないまま、慎二はそれを握りしめ、魔力をそこから引き出していた。
望むほどに力が流れ込みーー慎二を通してそれを受けたライダーもまた身体の奥底から湧き上がるような力を感じていた。
(おかしいですねーー慎二は此れ程の魔力を持っていなかったのでは…?)
疑問は尽きない、がーー
力があるに越したことはないだろうとライダーは一旦その思考を停止する。
「仕掛けますーーまずは、槍使いっ!」
上空から魔力を放ち、エコーの様にかえってきたそれを頼りに正確に位置を確認する。
ジャッ!
鋭い音を立て、夜気を切り裂き釘剣が飛ぶ。
「ーー坊主っ、上だっ避けろ!」
バーサーカーの声に慌てて飛び退く。
バカァ!、と石畳が割れて飛び散る。
「あ、危ねえっ!?」
一瞬遅れていたら自分は頭からあれに貫かれていただろう。
「ーーは、一対一なら勝てると思ったか?」
ググッ、と下肢に力を込めて…跳んだ。
同時に光を放ち、手足に棘が生え、尾が生えた。
フードは端がはためくが、貼り付いた様に耳や後頭部を覆ったままだ。
手には紅い槍。
瞬く間にビルの壁を馳け、高度が上がって行く。
そこに四方から釘剣が飛ぶ。
高速で壁面を移動しながらライダーが放って来ているのだ。
「ハハハハハッ緩い緩い緩いッ!!」
片手で槍を回転させて軽々とそれらを弾き続ける。
「やはり、この程度では足りませんかーーならばッ!」
校舎でしたのと同じ様に、ライダーが己の武器で己自身を切り裂く。
血が舞い、舞い飛ぶそれが高速で飛び回りながらも彼女の周りで陣を為した。
「己が血を媒介にした召喚かーー!」
光とともに現れたのは、3体。
人面鳥翼ーー女の顔をした化鳥。
「ハルピュイアーーギリシャ神話の魔物だと?」
ケケーッ、と甲高い叫びをあげて飛びかかるハルピュイア達。
その爪は鋭く、かわしたバーサーカーの下に見えていたコンクリートの壁面を豆腐の如く抉りとる。
「は、数撃ちゃ当る、か?」
「彼女達を下等なハルピュイアと侮るなら、貴方は直ぐに死を迎える事でしょう…槍使いッ!」
更に釘剣が飛び、三羽のハルピュイアが交互に襲いかかる。
「ふーー高所での戦いは苦手と見える、先の怪力ぶりが見る影もありませんね!」
口を三日月型に歪め、笑う。
「ーー調子に乗ってんじゃねえぞ」
ざわり、と周囲の気温が一気に下がる。
スキル「精霊の狂騒」。
暗い光がハルピュイア達を絡め取り、その動きが鈍くなる。
「堕ちろ。」
投擲された槍がハルピュイアの一羽を捉え、胴を串刺しにする。
直ぐに落下を始めたハルピュイアは姿を遠くしーー光と消えた。
「「ーーオキュペテー!」」
嗄れた、しかし確かな言葉が残る二羽から紡がれる。
オキュペテー、ギリシャ神話にあるハルピュイアの三姉妹ーー。
「は、なるほど…
残る二羽の挟撃を器用に壁面を走り続けながら宙返りして避ける。
「ひゃっ、ハー!」
楽しげに、笑いながら、バーサーカーは飛び、投げ、ライダーの投擲を弾き、突き返す。
「ギャギャ、ーーアエロー、やれ!」
黒色の羽根を広げたハルピュイアが翼から黒い砂埃を起こして放つ。
それは広がり、バーサーカーの視界を塞ぎーー
「キャハハハッーーケライノー、オキュペテーの仇は私が!」
緑の羽根を広げたハルピュイアからは疾風が。
それは暴威と化してバーサーカーに殺到した。
「カッ、前に言わなかったかーー俺に…ああ、お前らにじゃあなかったな…俺にはな、飛び道具は効果ねえ、んだ、よっ!」
風はバーサーカーの目前で霧散し、その暴威は届かず。
逆手に放った2本目の槍がアエローを貫いた。
貫かれたはなからアエローの身体は光の粒子と化して飛散し、槍もまた空中で光に分解されるーーバーサーカーが槍を消したのだ。
「ギャ!?」
次の瞬間にはバーサーカーの手には槍が握られ、ケライノーを頭と脇腹から切り裂き4つに寸断した。
「ーーまだ、終わりではありません!」
先のハルピュイアとの戦闘時の隙をつき、さらなる陣が空中に無数に華開く。
赤々と血色に輝くそれらから無数に有翼の魔獣が現れる。
殆どは一斉にバーサーカーに殺到するが、一部は地上ーー士郎へと向かっていく。
「数で押す、かーー悪くないなあ…相手が俺でなければだが、な!」
バーサーカーもまた、ライダーの召喚の隙をつき魔力を高めていた。
身体をーー、一つの発射台に見立て。
限界まで引き絞った腕の力をーー解き、放つ!
「
**********ーー…
士郎達と別れてから半時、アーチャーが空に異変を察知する。
「凛っ!小僧とバーサーカーの側が当たりの様だ、戦闘を確認したーー!」
凛からはビルの谷間に時折チカチカと小さな光が見えただけ。
しかしアーチャーの鷹の目は激しい空中戦を捉えていた。
「アーチャー、急ぐわっ抱えて!」
「了解した、しかとつかまれ、凛!」
凛を抱え、アーチャーは疾駆する。
夜の街とはいえ人目が皆無とは行かない。
しかし事は急を要する。
後の事は後の事だ、人目は少ないし何とでもなるだろう。
…この後、流石に誰が目撃したかもわからず、聖堂教会のーー主に綺礼が主体の情報操作で、「ビルの谷間を飛ぶ赤マント」と言う奇妙な都市伝説ーー…、噂が流れるのは、別の話である。
…ーー***************
足場を確保。
ベランダに尾を差し入れ、金属柵に巻きつけて身体を固定ーー
壁面にめり込んだ恐竜じみた爪先がミシミシと音を立てる。
半身を限界まで反らし。
「数で押す、かーー悪くないなあ…相手が俺でなければだが、な!」
腕の筋繊維がブチブチと音を鳴らして千切れ、その端から再生を繰り返す。
「
放たれた槍は光条と化し、無数に分裂しーー飛び交う魔物達の心臓めがけて飛んでいく。
「ゲイ…ボルク…そうか、貴様はーーっ、」
ライダーは咄嗟に身を捩る、が…回避は不可能だった。
何せ光は…躱したライダーの心臓へと、一度通り過ぎた後にありえない角度に反転。
急降下して再びライダーへ迫る。
「アイルランドの光の、神子…かっ!!」
再度回避を試み、ビルを駆け上がり、屋上へと到達し、地に足をつけた瞬間。
ドズ、っと重い音を出して槍の穂先がライダーの豊満な胸に吸い込まれるように収まり、背中から突き抜けた。
背後では魔物達にも槍が雨霰と降り注ぎ、逃げ回る魔物達を執拗に追尾しその心臓を正確に貫いた。
バラバラと落下しながら粒子となって消えていく。
「は、違うな…光はとうに失せた、今の俺はコンホヴァルの糞野郎より尚悪意に満ちた、狂った王だ。」
答えながらバーサーカーもまた屋上へと降り立つ。
「く、くく…そうか、貴方は私と同じく反転した存在かーーしかし、如何に否定しようと貴方は貴方だ…クー・フーリンには違いある、まい…グ、ハッ!」
大量の血反吐を吐き散らしながらライダーが身悶える。
「素直に終われよ、
「いつから、気づい、て?」
息も絶え絶えに問うライダー…メドゥーサ。
辛うじてフェンスにへばりついてはいる、がいつ力尽きて倒れてもおかしくは無い。
「最初から。」
つまらないと槍を肩に担ぐ様にメドゥーサを見下ろすバーサーカー…クー・フーリン・オルタ。
「諦め、られる、くらいであればーー誰…が…召喚に応、じ、ましょ…か…貴方は違うと?」
苦しげに胸に突き立つ槍に手をかけながら問うライダー。
「望みなどはなから終わっている」
「馬鹿な!」
ごぼり、と血を吐き出しながら叫ぶ。
「願いすら無くーー?認め、ません!」
ぶわ、と。
真っ暗な影が伸びた。
給水塔の影から伸びたそれはライダーを一瞬で包み込む。
「ーーなんだ、こいつは?」
膨れ上がった影は、人の形を失い崩れていく。
下半身は肥大化し、長く強靭な蛇体となり、上半身は所々鱗に覆われてはいたが美しいままに、顔は巨大な単眼と、長く不揃いな牙を生やした口、髪はその一本一本が蛇となる。
「ひ、ひいぃぃっ!?」
給水塔の影から這う様に転がり出てきたのは慎二だった。
自らのサーヴァントの変貌に驚いたのだろう。
確かに見ただけでも恐怖を感じておかしくは無い、あれは人にとって害悪だ。
ひたすらに邪悪でしかない。
「ーーゴルゴーンの怪物…か。」
その答えに行き着き、嘆息しながら槍を構える。
彼にとっても思うところが有るのだ。
怪物、邪悪。
それは彼自身の成れの果てにもなり得ることだから。
「せめてもの情けだその姿、1秒でも早くこの世から消してやるーー」
初めてバーサーカーの顔から笑みが、消えた。
【後書き的なもの】
ごめんよ…ライダー…結局こうなるしか無いライダーさん。
自分で書いていてかわいそうになりました。
しかし、青セイバーが居ない以上ペガサスとの激突とか無くなりました。
エクスカリバれませんからね…。
また、宝具開帳によりライダーにはオルタニキの真名バレしました。
必然、見えているアーチャーにも…。
そしてぐだ子(朔弥)…出番ねえ。←
まあライダー脱落したら出番あります…多分。
というわけで、次回はゴルゴーン化したライダーとの戦闘です。
上手く描写できるかなあ。
それでは、皆様次回更新まで、アディオス!
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第13話『別離/醒』
別れは、いつも唐突にやってくる。
どんなに拒んでも、どんなに避けてもーー
セイバー、参戦。
「マスターが?」
「ああ、お前を呼んでんだよ、早く行けや。」
「ーー、、、」
「何だ、何を鳩が豆鉄砲喰らったみてえな顔してやがる?」
「ああ、申し訳ありません…貴方の口からその様な雑事が出てくるとは思いませんでした。」
「ーーお前、俺をなんだと…」
「バーサーカーでは?」
「ーーいや、まあ…違わねえがよ…」
暖かな記憶、ここで無いどこか、遠い、遠い記憶が流れ込む。
*********************
ドォン、と揺るがす音がした。
変貌前と比べて体躯が3倍、いや4倍には膨れ上がったライダー、メデューサを見上げ、バーサーカー…クー・フーリン・オルタはその眼に怒りを浮かべる。
「ーーどこの馬鹿の差し金だ…英霊を使い潰す様な真似をーー」
許されると思うな、と。
今は回想もできない奥底にある記憶が瞬きの間に不快感を瞼にに焼き付ける。
映るのは、己が槍に霊核を貫かれた自らの姿。
ーー幻、というにはやけにリアルなそれは。
恐らくは実際に辿った末路の一つなのだろう。
八方から襲い来る蛇に対し、両手に槍を構え、二槍を振り回し引き裂いていく。
「JyAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAa!!」
言葉すらまともに発することも無くなったその巨軀がビルを揺らしながら尾を打ち、髪の毛が変じた無数の蛇をけしかける。
「無様だなあ…メデューサ!」
頭をよぎるのはこちらに召喚されてから見たわけでは無い、背の高い眼鏡をかけた美女の姿。
「ーー良い女は皆、俺の前から死んで消えやがる…だが、良い女が醜く変わるのも見過ごせねえな!」
槍に引き千切られた蛇は紫色の体液を撒き散らしながら屋上のコンクリートに落ち、白煙を上げて消滅して行く。
面倒だが、削る。
そして1秒でも早く、霊核を砕いてやるーー
そう独りごち迫る殺意を槍で、肘で、膝で、爪で切り裂き打ち捨てていく。
そこにーー
異物が紛れ込んだ。
「バーサーカー!無事かっ!?」
衛宮士郎。
特大の馬鹿が、馬鹿面下げてやってきた。
「ーーお前、馬鹿かっ、いや大馬鹿だ!」
思わず叫び、同時に士郎へと迫る蛇を切り裂き阻む。
「馬鹿とはなんだよ!」
士郎もまた、獲物を構えていた。
それは、
迫る蛇がバーサーカーが一瞬目を離した隙に士郎を襲う。
が、それは士郎の両手に構えられた刃に阻まれた。
振り抜くは黒刃、返すは白刃。
交差した鋼が交わる位置に、再び黒が停止する。
「ーー
「
黒い銃身、銃口の下に見えるのは刃。
肉厚で、折れず、曲がらず、刃毀れしない、そんな概念を詰め込まれ成型された不屈の刃。
白い銃身、銃口の下に備わるは刃。
細身で、しかしその刃は触れたものを両断する為にあるかの様なーー鋭利な、片刃。
日本刀にも似たそれはしなやかで、かつ鋭い。
「ーー
***********
息が切れた。
これだけの高層ビルを駆け上がった代償だ。
しかし、精神は冴え渡り今までにない程の高揚を見せる。
目前の脅威ーー平和を脅かすモノ。
今ならば。
魔術回路がすんなりと繋がる、廻る。
軽い。
ギアが一気にトップまであがる感触。
「バーサーカー!無事かっ!?」
アーチャーが教えてくれた。
不器用な男の、精一杯の助言。
彼は言った、お前の中の最強をイメージしろ、と。
『ーー故に、勝とうと思うな、最善を尽くせ、己の中の最強をイメージしろ。』
あの言葉と。
凛の、献身がーー
衛宮士郎の中の常識を超えて力を生み出した。
何故かバーサーカーから馬鹿呼ばわりされた。
馬鹿とはなんだ、と返しながらも身体は熱を持ち、魔術回路が励起し、駆動する。
己が最強のイメージ。
それは、幼き日の壊れかけた自分を繋ぎ止めてくれた憧れの人。
その、孤独な背中。
何故だろう。
その背がーー赤い誰かと。
重なって見えた。
俺に銃はあわないと。
暗にアーチャーが諭してくれたのは分かった。
分かり過ぎた。
だが、剣の延長であるのならば?
銃であり、剣。
その両の
2丁2刃の銃剣が銃口をーー目の前の脅威ーー
メデューサへと、向けていた。
「ーー
その笑顔が、あまりに嬉しそうだったから、憧れた。
「
夢を語るその顔がーーあまりにも悲しいから、俺が叶えると、約束した。
そうだ。
俺の中にイメージがあるなら、それは俺が憧れた正義の味方の。
切嗣の力に他ならない。
「ーー
人を脅かす、人知の埒外の邪悪がいるのなら。
それは、滅ぼされなければならない。
「喰ら、えぇぇぇーーっ!!」
放たれた弾丸は刃。
放たれては再生する刃は時間差で撃ち出された白と、黒。
白は切り裂く。
進路上の全てに対して、切り裂く事を強くイメージした、起源弾の切って、嗣ぐ、の「切る」イメージを内包した魔刃にして魔弾。
黒は、抉り、再生を阻む。
「嗣ぐ」イメージを内包し、無差別に振りまく魔弾にして魔刃。
白はメデューサの尾を深々と切り裂いた。
紫色の血が吹き上がり、その次の瞬間には傷が再生していく。
黒は偶々、バーサーカーが切り裂いた傷口に吸い込まれーー
傷口から壊死を広げていく。
「GiiyAaaAAaaaaAaaAAa!?」
身悶えするメドゥーサ、いや。
ゴルゴーンの怪物。
「は、小僧ーーやるじゃねえか。」
褒美だ、と。
その口が無音に紡ぐ。
次の瞬間、瀑布の様な槍の連打がメドゥーサに殺到した。
「GAaAaAaAaauAAAAAAaAa!?」
見る間に削りとられて肉片を撒き散らし、血を霧と噴き出しーー
徐々にその動きを鈍らせていく。
その巨軀の奥底。
メデューサの蛇体の中心、人で言うなら胎盤にあたるあたりに光が見えた。
霊核だ。
体組織の大半を削り殺され、再生をしようと魔力が渦巻いている。
「く、そ再生が早いーー」
「これで足らねえって言うのか?」
二人が並んで呟いたのは同種の感想。
即ち、このままでは目の前の脅威を排せ無い。
「ーーアイルランドの大英雄ともあろう者が、いささか情けなくは無いか。」
そこに。
響く声はーーアーチャーでは無い。
低く、厳かに。
屋上のコンクリートの上に着地したのは。
仕立ての良いスーツに身を包んだ…長身の男。
長い癖毛が後手に撫でつけられ、額が出てその目がよく見えた。
端正な顔立ち、引き締まった肉体美。
その体積に反してあまりにバランスのとれた体つきがその身体をむしろ小さく印象づける。
近づいてみれば逆にその大きさに驚くほどだ。
また、その首に手を回して白磁の様な肌、紅玉の様な瞳をした女性が抱きついている。
「ありがとうセイバー、降りるわ。」
ス、と大事そうに地面に足をつくまでまるで壊れ物を扱うように繊細な動作で扱われ、降りた女性は。
「ーー初めまして、ライダー、バーサーカー…いえ、クー・フーリン。」
ライダーの単眼がギロ、とセイバーとその女性に向けられる。
身体はすでに7割を再生し終えて。
「そして…会いたかったわシロウ・エミヤ」
「ーー君は、誰だーー、」
「何故名前を、かしら?」
「簡単な話ね…キリツグは元気?」
「ーーそうか、義父のーーいや、ごめん分からないんだ、俺も切嗣が今どうしてるのか。」
「愚図は嫌いよーーセイバーを伴い現れた時点で私が敵だとわからないかしらーー」
「テメェ、誰だ?敵だってぇのは嫌と言うほどわかりきっちゃいるがな…一方的に悟った物言いをされるのは気分が悪ぃな、え?」
バーサーカーの言葉にセイバーが僅かに動き、女性の前に出た。
「良いわセイバー、そうね…せめて名乗るのが礼節と言うものだったわ。」
そう前置き、セイバーの横に並んだ後、答える。
「我が名はイリヤーーイリヤスフィール・フォン・アインツベルンーー、こう名乗れば解るかしら?」
そう名乗り、何故かその視線は斜め前のビルに一度向けられ、その後また士郎達へと戻る。
「アインツベルンーーなるほど…御三家の一つ…か。」
「ふふ、そうよーー
「御三家?」
「始まりの御三家…この聖杯戦争をおっ始めた魔術の大家の一つ…マキリ、遠坂、そして錬金術の大家アインツベルン。」
「そう、その通り…そして此度の勝者の名となるわ。」
女性が手を挙げると、セイバーが動いた。
再び前に出、手を翳す。
そこに紅蓮の炎が現れ、形を成す。
「セイバー、焼き尽くしなさい。」
「承知した。」
構えたそれはーー赤々と輝く長く、巨大な剣。
灼熱を纏う刀身は美しく、畏れを感じさせる、まさに神々を前にしたかの様な。
「な、なんだあの剣ーー構造どころか材質すら視えない?」
士郎の眼は、解析を得意とする。
事にそれが剣であるなら尚更に、だ。
現に今両手に持っている銃剣もまた、アーチャーの使う双剣を視て着想を得、作り上げた礼装だ。
「神が鍛えし我が
一振り。
空気が灼け、メドゥーサの身体に斜めに切り込みが奔る。
二振り。
交差した剣閃が、炎を吹き上げる。
「ギッ…!?」
痛みからか、メドゥーサの牙の隙間から、僅かにまだ人型をしていた時の声に近い呻きが漏れた。
「ーー終わりだ、
「SygyAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAaAa!?」
「焔気解放ーー灰と成せ。」
ゴァ、と。
空気をその熱波が上空へと巻き上げ、メドゥーサの巨軀が火柱に包まれる。
「ーーな、なんて威力だ…炎の、剣?」
士郎の驚きも無理はない。
あれ程に苦労したメドゥーサの再生を簡単に上回り、焼いていくその威力。
火柱は赤から青、白へと色を変える。
どんどんと高温になっているのだ。
「ーーちっ」
バーサーカーが吐き棄てる様にそれを見る。
やがて声どころか影すら残さず。
メドゥーサのその巨軀が燃え尽き、消えた。
「さて、次はどちらだ?」
不敵に笑みを浮かべたセイバーの剣先が。
二人に、突きつけられた。
**************
ビルからビルへ、跳ねるように移動していた赤い影が止まる。
「アーチャー?」
凛が何事かと問えば。
「ーーライダーが、消滅した。」
唐突な一言。
「えっ?」
「先ほどライダーが異様な姿に変貌してバーサーカーと、それにあの小僧を交えて戦闘を続けていた様だが…横合いから入ってきたサーヴァントが一瞬にしてライダーを…」
話す声が硬い。
当然だろう、あの暴力の塊の様なバーサーカーから獲物を一瞬にして奪ったと言うのだから。
「ーー相手はバーサーカー以上に?」
「ああマズイなあれは、規格外過ぎる。」
「ーー気づかれていると思う?」
「この距離、加えて相手はおそらくセイバー…普通ならば気づかれてはいまいがーー」
保証は出来ない、とアーチャーは言う。
「…それでもこのまま無策で近づくよりマシ、でしょう?」
「ああ、そうだな…奇襲を仕掛ける。」
そう言うや取り出した黒塗りの洋弓。
「ーー貴方がアーチャーらしい戦い方をするのってもしかしなくても初めてじゃない?」
クス、と笑いながら凛が語る。
「ふ、よく見ておけ…君が如何に優秀なサーヴァントを引き当てたかを、な?」
そんな軽口を最後にアーチャーの眼は獲物を見定める。
「ーーI am the bone of my sword…」
詠唱。
同時、その手には剣が顕現した。
それは光に変換され、光の矢へと変わる。
「ーー射抜けーー
*******ーー…
光が見えた。
暖かで、優しい光が。
薄桃色の桜の花弁が舞い散り、その中で自分は誰かに膝枕をされている。
「綺麗ですねーーサクラ。」
そう、舞い散るのは桜の花だ。
「…ライダー?」
「お別れ、ですーー願わくばもう少しアナタを見ていたかったのですが…怪物に堕ちてまでああも一方的にやられようとは…屈辱です…が、不思議に悪い気はしないのは何故でしょうね。」
或いはそれは。
偽りの王が見せた不器用な
膝の上の誰かさんは、面食らった顔で固まっている、かと思えば。
火がついた様に叫び始めた。
「お別れ?おい、巫山戯るなよ、巫山戯る…巫山戯るなよっ、じゃあ僕はどうなるんだ、この愚図っ!」
「慎二ーー貴方は捻くれてはいますが…存外優しい男です、できるなら…この花吹雪の様にか弱く、儚いーー貴方の妹を…」
「なんだよっ、お前結局桜が大事なだけかっ、僕は、僕なんかどうでもいいんだよな、分かってたさ、ああ!分かっていたとも!」
「ーー最後まで我儘ですね、貴方は。」
「なんだよっ、お前がーー」
ふわ、と。
身体が持ち上げられて。
ライダーの胸に掻き懐かれた。
「本当は、誰かに甘えたかったのでしょう?」
「なっ、違うっ僕はーー僕なんか、」
私はーー最後に救われたのかもしれない。
まさか、姉二人以外にこんな私の死を悼んでくれる人が…二人も居るのだから。
「慎二ーー今は貴方がマスターです、だから…桜にも伝えて下さい。」
私が、消えてしまうことを。
貴方と、貴女を置いていく不甲斐なさを。
「叶うなら、あなたがたを二人とも長く長く、見守りたかったーー聖杯を得たら受肉して、桜と、慎二と、三人で河原を歩くんです。」
「お前、何をーー」
「擬似的とはいえ、マスター…貴方の記憶を見たのを許してくださいね…嫌いでしたよ、貴方の事は…でも、貴方がどうして魔術師たろうとしていたのかーー視て、しまいましたから。」
「勝手な、事を言ってんじゃ、ない、よ…」
声が、涙に咽ぶ。
「ふふ…嫌いでしたよ、嫌い、
幼い桜と慎二。
幼くして養子にされた桜。
それは自分が才能を持たなかったから。
だからこんなにも華奢で、愛らしい女の子が。
人の道を外れた外法に染められてしまった。
嫌だ、嫌だ、自分が嫌だ。
こんなにも頑張ってるのに認められない。
どんなに足掻いても、桜に敵わない。
桜を魔術から救いたいのに、桜の才能を超えなければ桜は救われ無い。
死んだ様な目で、蟲蔵の地下に横たわる少女の姿を幻視する。
「勝手に、見るなーーこの、デカ女!」
「…その言葉を言った人間は今まで例外なく引き裂いてきましたが…喜びなさい慎二ーー貴方が一人目の生存者ですよ。」
そんな馬鹿な言葉を紡ぎながら、ライダーは慎二を抱き寄せ、頬に唇を落とす。
「女神の祝福、ですよ…せめて貴方が生き延びられる様にーー」
「女神?お前、馬鹿も鏡を見てから言えよ?」
辛辣な言葉はしかし、涙でぐしゃぐしゃの顔ではまるで意味が無い。
「貴方こそ、自分の表情…見てみなさい慎二。」
そう言って、顔を近づけ、瞳を見つめられた。
ライダーの瞳越しに映る自分は、それは酷い顔をしていた。
「さあ今度こそ…お別れです、さようなら、慎二ーー桜を大事にしてくださいね。」
「お、おい、待てよ!」
手を伸ばす。
届け!届け!届け!
ライダーの姿が消えていく。
伸ばした手は空を切り、頬の熱だけが残った。
ーーああ、どうして自分の手はいつも届かないのだろう。
夢は其処で終わり。
恐怖に駆られて逃げた先ーー
転げ落ちた階段の踊り場の鉄臭い匂いで目が覚めた。
瞬間、空気が振動した。
焼けた風が吹いて。
階段通路を熱気が満たした。
傍には燃え落ちた本が一冊だけ。
「ーーなんだよ、夢は、終わったはずじゃないのかよーー」
あんな恥ずかしい真似しやがって、あんな事を自覚させておいて…
「ーー自分一人、居なくなるなよ…デカ女。」
塩辛い味が、鼻の奥まで満たしている気がした。
【後書き的なもの】
はい、皆様おはようございます、こんにちは、こんばんは。
いつもコメント、評価ありがとうございます。
それと、ぐだ子…まだ復活描写が出来ないーー
セイバーとの前哨戦がこの後入ります。
それにケリがついたら衛宮邸に戻って復活描写ができる、はずーー。
今回は士郎の、捏造設定が入り込みました。
この作中での士郎は、切嗣から少なからず戦闘技術、魔術などの手ほどきを受けています。
原作版zeroの切嗣より幾分かましな体調である切嗣は、なんだかんだ渋りながらも彼に生き残る為の技術としてそれらを教えています。
得意な環境で育てられた彼が、いずれ戦いに身を投じることになってしまうもしも、の為に。
その結果、固有結界の特性が僅かながら変わっています。
また、一部魔術刻印のコピーを施されているために原作士郎からは逸脱した強さを得るに至りました。
今回士郎が使用した魔術、劣化宝具とも言えるものに関してのデータです。
○『
最大補足:1〜???
最大射程:0〜???
見た目は黒い2丁拳銃に刃をつけたモノ、銃把は真っ直ぐに剣の柄の様に伸ばし、変形、剣形態で二刀として振るう事も可能。
(DMCの主人公が持っていた銃に近い感じと言うと解りやすいかな?)
士郎が内包する「剣」を弓矢ではなく銃により発射する発想に至り、独自に昇華された「
射出時にはスライドした刃が銃口前にせり上がり、魔力の爆圧により発射される。
今回は使う機会は無かったが、銃口からは刃を番えずに魔力塊を弾丸として凛のガンドの様に打ち出す事も可能。
番える刃が変わる事でその威力、効果もまた変容する。
基本的に射程はアーチャーの弓に劣るも、連射性能と汎用性においては勝る部分を持つ。
魔力消費もまた、投影する刃の種類により上下し、作中持ち入られたのは干将・莫耶に起源弾の特性を上乗せしたもので、
剣の所有者の経験記憶を読み取れない代わりに射出速度は弓で射る場合の数倍の速さであり、英霊でない身でありながら英霊に通じる程の飛び道具として運用可能。
もしも士郎が英霊であるなら、最速のランサーですら捉えるであろう弾速である。
と、言う能力でした。
もし士郎がこのまま英霊化するならばやはりアーチャー、もしくは狙撃での暗殺が可能な点からアサシン、精神の壊れ方故にバーサーカーにも適正がありそう。
ーーそれと、駆け足でしたしねじ込んだ感が半端ないですが、拙作の慎二は実はキレイな慎二でした。
ーーライダー、少しは報われたかなあとか考えながら夢のお別れシーンを入れたとかなんとか。
セイバーが、あまりに唐突に来た感じが否めませんが…ここまでで正体に気づいた人いるんだろうか?
初期投稿元では44人中、12名がバレバレと答え、19名が確信は無いが、とお答え頂きました。
あちらでもこちらでも、共通して頂いた答えの中で何故かラーマ、と言うお答えが多かったのですが、おそらくは前書きに書いた神の呪い、のくだりが誤解を招いたのかな、と。
答えは割とシンプルで。
剣に拘ると答えが出ないと言うセイバークラスにあるまじき答えだったりするのですが。
実はその剣自体は本作のセイバーが持っていた逸話より、その後に手に入れた人の逸話の方が有名です。
ーーしかもその人もその剣より他に象徴する武器があったりしますから、一般的にこの剣自体は知名度が低いんですよねぇ。
まあ、つまるところ、セイバーはーーおや、誰か来たようだ。
「ーーーーーー!?」
暗転。
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第14話『夜空の華』
血を、怒りを、迷いをーー悲しみ/哀しみすらも踏み砕き。
彼らは、英雄であり、守護者であり、星の意思の遂行者でもある。
人類種を護り、時に壊し、正しきを護るモノ。
そこに、本来意思はない。
ならばーー
「キリツグーーどうして私を迎えに来なかったの?どうしてーー私は独りきりになってしまったの?」
冬の林、アインツベルンの森の深く。
少女、イリヤスフィールは一人呟いていた。
いや、正確には二人。
召喚に成功したセイバーが傍にただ、イリヤを雪から守る様に風上に立っている。
「イリヤスフィール、お前は何を望む?」
「ん、セイバー…?」
「聖杯を手にしたその時ーー何を望む。」
「わからない。」
「私はきっと何も願うことはできない、だって聖杯が起動する、って事は私が私でなくなるって事だもの…多分お爺様…アハト翁は第三魔法を完成させたいんでしょうね。」
息は白く、彼女が生きているのだと目に映して伝える様で。
「生きたいとは思えない、か?」
何故、自分は己がマスターにこの様に問いかけるのか?
「…理由が無いわ。」
伏せられたその顔は悲しみに満ちている。
「ならば、せめてそれまでに叶えたい願いは無いのか?」
心に刺さった棘が、喉元を切り裂く様な不快な気持ちを感じさせる。
「…そう、ね…なら、セイバー?」
悪戯を思いついた様な顔は悲しむよりは彼女に似合うと、そんな益体も無い思いがよぎり。
「なんだ。」
自然、なんだって聞いてやろうでは無いかと考えていた。
「私の、お
なんだって、聞いてやろう。
だがーーそれは、その…良いのか?
「その、なんだ…本気か?」
些か困惑した私にイリヤスフィールは満足したとばかりに嬉しそうに鼻を鳴らし、胸を張る。
歳の割にたわわに実っている双丘はふるりと揺れて存在を主張している。
「嫌、かしら?」
上目遣いに見上げる澄んだ瞳。
赤い宝石の様なそれに見つめられて頷かない男は、男色家か、よほどの人嫌い意外無いだろう。
いや、イリヤスフィールを異性としてみるかと言われれば違うのだが。
ーー言うなれば、まるで我が子に抱く愛情に近い。
「嫌ではない。」
「なら、決まりね!今日からセイバーは私のお
初めて見た彼女の心からの笑みは。
冬に咲く季節外れの向日葵の様で。
ただ他者を破壊するだけの
この時、一人の父親になった。
「そうか、ならばイリヤは私が守り通してみせようーー例えイリヤがイリヤでなくなろうと、私が存在する限り、少しでも長く。」
「ふふ、大英雄の癖にーーなんでそんなに控えめなのかしら、変なバーサーカーね。」
「ーーイリヤ、私はセイバーだが?」
「ーーあ、そうね最初はバーサーカーで呼ぶ予定だったから間違えちゃった。」
「そうか。」
ーー何時しか雪は止み…暖かな陽が雲間から差し込んでいた。
********
「ーー射抜けーー
夜の空を裂き、螺旋が飛ぶ。
光の螺旋は空気を巻き込み、帯電する程の勢いで、空間を捻りながら突き進んだ。
冗談抜きに今のアーチャーの一撃としては最大の火力。
切り札の一枚と言える一撃だ。
「ーー、イリヤッ伏せろ!」
セイバーの剣先が二人から離れ、背後へと降り抜かれた。
ガキイイイッ!!!
激しく火花を撒き散らし、鋼が鋼を削る音が暫く聞こえて。
やがて、矢が爆発した。
「ーーぬ、宝具をっ、使い捨てるかっ!」
完全な不意打ちに反応したセイバーも大概だが、しかしその矢は更に上を行った。
止めたと思ったら、爆発したのだ。
強烈な魔力を撒き散らし、セイバーの上半身を光が包んだ。
「…す、すげぇ…今のはアーチャー、か?」
士郎は驚きを隠さない。
いや、隠せないのか。
「ーー上半身が…」
セイバーの上半身は剣を握る右肩あたりをかろうじて繋げる形で…消し飛んでいた。
左肩から左脇腹、頭は無くなり、生きているとは思えないその姿。
だが。
「お、おいおいおい…嘘だろう…不死身かコイツーー?」
バーサーカーの言葉は当然と言えた。
如何なサーヴァントと言えど、霊核を破壊されれば消滅は免れない。
頭と心臓の両方が吹き飛んでそれが無事とは思えないし、例え霊核だけ無事であったとしても致命傷、生きている方が不可思議だ。
だが、セイバーの身体は、動いた。
剣から吹き上がる炎がセイバーの身体を包んだかと思うと、一瞬にして再生を果たしたのだ。
「ーーふぅ、真逆宝具を爆破するなどとは考えなかったな…流石に驚いたぞ。」
仕立ての良いスーツこそ吹き飛んだものの。
セイバーは平然とそこに立っていた。
上半身半裸になった姿はむしろ芸術家が裸足で逃げ出すか、セメントで固めてコンクールに出品したくなるような均整の取れた黄金比。
無用な色気すら振りまく姿だった。
「ーーセイバー、武装なさい。」
僅かに頬を赤らめ、イリヤスフィールが呟いた。
「ーーむ、そうか半裸ではいかんな。」
と、言うや彼は淡い光を纏い、瞬間それは神々しく艶めかしい色合いをした革鎧…というよりは現代風にデザインをアレンジしたのだろうか?ーーが、召喚時と違い、レザージャケットに近いモノと化して彼の肉体を鎧う。
手足には頑強そうな鋼の手甲と具足。
それはーー獅子の毛皮だった。
一頭の獅子の皮をそのまま身に纏う姿と言うなら、その形だけならば原始的である。
が、今もって姿は現在進行で変わりつつあり、脈動する息吹すら感じられ、首元には鬣を使った飾りがふわふわと気持ちよさそうに揺れている。
半ば生きたまま彼を包むその獅子皮はただの獣ではあるまい。
霊獣、神獣の類ではないだろうか。
「さて、一度とは言え私を殺すかーー此度のアーチャーはなかなかに稀有な力を持っているとみえる!」
「ーー油断がすぎるんじゃない、セイバー?」
イリヤはどこか不機嫌に、頬を膨らませる、まだ赤い顔のままで。
「ーーいいや、私は本気で迎え撃ったんだがな…まさか弾く寸前に爆破されるとは予想外だった…二度は無い、がな。」
不敵な笑み。
絶対の自信を湛えたそれは怖気さえ誘う。
「ーーな、なんなんだサーヴァントってのはどいつもこいつも規格外すぎる…」
士郎が慄くのも無理からぬこと。
むしろ恐怖に震えないだけ彼は胆力があると言える。
「は、ありゃあその中でもとびきり抜きん出てやがるぜ。」
バーサーカーさえこんなことを言うならば、正に目の前の相手は、
「小僧、逃げるぞ…正直あれを殺しきれる気がしねえ…」
小声で士郎へ話しかけるバーサーカー。
そう、マスター不在の現状であれには抗し得まい、令呪のサポートがあれば…或いは。
「逃がしてもらえるなんて…考えてる?」
イリヤからの死刑宣告。
「ーー退路は…用意するんじゃあ無い、作り出すモノ、なんだよ!お嬢ちゃん!!」
スキルーー「精霊の狂騒」。
バーサーカーから放たれた邪気がセイバーを絡め取る様に蠢く、が。
「ーーむ、鬱陶しいな。」
効いてはいる様だが…正直大した事は無さそうだった。
「ち、セイバーの対魔力かよ…」
だが、防がれる事は想定内。
バーサーカーが槍を構え、隙を伺う中に再びそれは飛来した。
アーチャーの第二射だ。
「ーーむ!」
流石に今度は至近距離で弾こうとはせずにセイバーは斬撃を振り抜き、その剣圧を飛ばして矢を斬り裂いた。
恐ろしい威力と精密さ。
それは確かな技術の現れだ。
夜のビル群の合間に、火の華が咲いた。
炎剣の輝きと、飛来する矢の輝き。
二つが夜空を艶やかに染め上げる。
「喰らいな!」
槍を矢継ぎ早に投擲し、伸ばした棘が壁のごとく彼らを阻む。
「ーーええい、鬱陶しいと言うにーー!」
流石に飛来した螺旋剣に対処しながらバーサーカーと士郎へ構う暇は無い様だ。
「おら、今のうちに逃げるぞ小僧!」
「は、ぁ、あーー、わかった!」
一瞬とまどうも士郎は即座に踵を返す。
「ええい、次から次へとーーならば…!」
セイバーの手にした剣が炎を吹き上げ、消えるーーそれは即座に形を変え、巨大な弓へと姿を変えた。
「ふふっ、やっちゃえーーセイバー!」
嬉しそうな顔でイリヤが呟くと同時。
********ーー…
「ーーえ、何あれ!?」
アーチャーが矢を射かけ続けていると、凛が慌てた声を上げた。
「真逆…奴はセイバーでは無いのかっ!?」
風を切って飛来する九つの矢。
その矢は一つ一つが巨大で、かつ、鋭い。
全てに狙いをつけて射ち落す暇は無い…そう判断したアーチャーはその手に剣を、3本同時に投影する。
「ーーI am the bone of my sword…全てを射抜けーー
ジャッ!!
まるで赤い光線の様に三条の矢が空を裂き、飛んだ。
それはありえない軌跡を作り、セイバーが射った矢を次々と破壊する。
が、さらに飛来した新たな矢が赤い猟兵を射落とす。
「何というデタラメな…凛、引くぞ!」
矢は、最初に射られた矢を追い越す速度で迫り、追尾して動くこちらの魔弾を予測して破壊して見せたのだ。
更に彼方は1射につき9本の矢を射かけてくる。
こちらは、あの矢を落とすだけの威力となれば3本が限度にもかかわらず。
その三射で9本を射落としても、更にあちらは9本を射かけてくるーーいずれはこちらの手が押し負けるのは目に見えている。
「ーー口惜しくはあるが、あれは正真正銘バケモノか…?」
凛を小脇に抱え、ビルを躊躇なく飛び降りる。
幸いなのは彼がアーチャークラスでないからか、矢の狙いはやや大味な事か。
おそらくは半ば直感で射かけているのだろう。
此方の正確な位置は見えてはいまい。
だが、先ほどから狙いは徐々に正確さを増している。
と、なれば止まるのは危険以外の何物でも無い。
案の定、矢は意趣返しとばかりに次々と射かけられ、飛び退くアーチャーと凛へ殺到する。
急所を射抜くほど正確な射で無いにせよ、あの矢を受ければかすっただけでも大事だろう。
すぅ、と息を吸い込みーー新たに前方に投影。
「ーー
光の花が咲いた。
赤紫色をした7枚の花弁を展開する美しき盾。
それは確かな堅固さを持って、殺到した矢を全て防ぎきる。
花弁には傷一つつかず、矢は弾かれていく。
やがてアーチャーと凛は地上へと到達、矢弾はようやく止んでいた。
都合の良い事に都心部には珍しく、淡く霧が出てきていた。
矢の狙いが甘くなったのはこれもあったのかもしれない。
「ーーく、はっ…!」
ごっそりと魔力がもっていかれた。
凛は身体が重くなるのを感じ、アーチャーを見る。
次々と展開された多彩な矢弾、最後には…アイアス、そう言っていた。
アイアスと言えばーーギリシャ神話、トロイア戦争における大英雄が要した盾の筈だがーー彼は近代の英雄では無いかとあのランサーも言っていたでは無いか。
「アーチャー、貴方…本気で何者?」
「ーー言っただろう、君の不完全な召喚で記憶が定かでは無いと…全く、もう忘れるとは君は記憶力が無いのかね?」
などと、自称記憶喪失に言われてしまった。
「何ですって!?」
思えばこんな悪態も、彼の口八丁だったのだろうとーー後に私は後悔したものだ。
今この時には気付けなかった、その事実に。
私たちは、なんとか逃げ切った事に、只々安堵していたのだから。
********
【衛宮邸】
命からがら逃げおおせた俺たちはようやく人心地ついていた。
「ーー情けないのう、貴様ら。」
霧が形を変え、一人の少女へと変貌する。
「ーーイルマ?」
「そう!イルマ・ヨグ・ソトホープ様よ!」
えへん、と胸を反らすーーが、膨らみはほとんど無い。
「貴女…私、邪魔だって言わなかったかしら?」
凛があからさまに嫌な顔でイルマを睨む。
「は、我が魔霧が無ければ貫かれていたかも知れんというにーー恩知らずな女子よの。」
「魔霧ーーそうか、あの不自然な霧は…」
アーチャーは気づいていたのか得心がいったと言う顔で呟く。
「そうか、イルマが助けてくれたんだな、ありがとう。」
士郎は士郎で素直に礼を述べる。
「ーーまあ、どうだって構わねえがーー今なら朔弥を解呪できるはずだ、行くぜ。」
バーサーカーはバーサーカーでスタスタと土蔵へと歩いていく。
その過程で武装は解かれ、ラフなジーンズにシャツと言う格好になっていた。
「ま、待てよ!俺もーー」
「ーーまあ、朔弥を元に戻すこと自体は賛成よ…行きましょうアーチャー。」
「ああ。」
士郎が土蔵の鉄扉を開き、奥まった位置に布をかけられた朔弥の石像へと案内する。
そこへ、バーサーカーが手を触れ…朔弥の心臓の辺りに手を置いた。
「ーーユルーー」
言葉と共に、バーサーカーがアルファベットのZを鏡写しにした様な文字を描く。
ユル、再生と復活の象徴とされるルーン文字。
「こいつも…本気でバーサーカー…?魔術まで操るとか反則よね…」
と、凛は複雑な顔だ。
やがて輝きは薄れ、朔弥の表面を覆う石が剥がれ落ちて行く。
パラパラと石粉が散り、朔弥の目がうっすらと開く。
「んーーバーサー、カー…あれ、それにーーエミ、ヤん…?」
寝ぼけまなこでそう言って頭を振る。
ようやくの石化からの復活。
ライダーが倒れた事で石化の進行そのものは止まりはしたが、それまでに石になった部分ーー主に無機物はどうにもならなかった。
肉体は今のルーン文字により復活した、したのだが。
「ーーあれ?なんか…寒…い、?」
スースーする。
なんでか、まるで地肌を直に冬の空気が撫でている様なーー?
目の前には、何故か目を反らす士郎、アーチャー。
あ、って顔で固まる凛が居て、じー、っと見つめてくるゴスロリ少女。
そして。
堂々たる態度で両腕を組んでこちらを見る、バーサーカーの姿があった。
「よう、マスター…なかなか色っぽいぜ?」
つ、と自分の身体に視線を落とす、と。
…一部は、衣服が石になったままで僅かに残り隠れはするものの。
ほぼ、全裸。
そう、石化した服は、先ほど。
「ぴ…ピャーッ!!??」
バシィン!!
と、バーサーカーの頬を渾身の力でひっぱたく音が響いたのだった。
【後書き的なもの】
はい皆様、こちらはお久しぶりでございます。
やっとこさぐだ子(朔弥)が石から戻りました。
そして今回でセイバーの正体に確信を持った方も多いのでは無いでしょうか。
9つの矢、炎の剣ーー異常な不死性。
さらには彼には無窮の武練系のスキルがある為、前述した「アーチャーが最適なクラス」であるという彼自身の独白はあくまで、クラススキルの有無(鷹の目)による視力的な制限に過ぎません。
その上、セイバークラスで現界している彼には「直感」のクラススキルがあります、今回は矢の着弾を勘で補えた理由がそれでした。
回避によし、狙い撃ちによしの万能スキルですね。
今回は距離がありましたから逃げおおせたアーチャー組でしたが、もし中距離でしかけた場合、結果は変わっていた事でしょう。
そんな訳で、セイバーのデータです。
*投稿元では、materialとして別途掲載したものを記載します。
ーー寸劇つき。
…ーー**********
【Fate/alternative material ① 】
イリヤ(ロリブルマ)「さて、作者の気紛れで始まりましたこの企画、Fate/alternative− material(フェイトオルタナティブマテリアル。」
冬木の虎「解説は、冬木の虎ことワタクシ、藤村大河とーー」
イリヤ「今作品ではボインボインに育っちゃった、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがおおくりします!」
虎「だが、ロリブルマだ。」
イリヤ「きー!ほっといてよ、いいじゃない、私のこの姿のファンもいるんだから!」
目玉『このロリコンどもめ!』
虎「ちょっ、今一瞬ゲイザーがいたんだけど!?ら、ランサー!ランサーを呼べ!?」
※ゲイザーとはFate/GrandOrderに登場するモブ敵ですが、必中やらなにやらいやらしい攻撃と、高いHPを持つ登場が多くとても面倒くさい敵キャラです、デカイ目玉。
※暫くお待ちください※
・
・
・
イリヤ「師匠、大丈夫ゲイザーさんは通りすがりのおっぱいタイツ師匠が串刺しにして持ち帰りしてくれましたから、震えて道場の隅に隠れなくて大丈夫ですよー?」
虎「そ、そうか!なら改めて登場サーヴァントの紹介と行きましょう!」
イリヤ「はーい、ではまず、ワタクシ、イリヤスフィールの召喚したサーヴァントです!」
セイバー
真名:不明
出典:不明
属性:中庸・善
イメージカラー:鉛/赤
マスター:イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
【外見】
うねる様な癖毛を伸ばし、後ろに撫でつけオールバックにしたものを無造作に首後ろで束ねている。
身長もまた、扱う剣同様にでかい、2メートル越え、強靭な筋肉の鎧を纏う、均整のとれた肉体は鉛色の艶を持つ鋼と見紛う武の化身。
それは一種異様な迫力を孕む美でもある。
普段は特注のスーツを着ているが、作中で破壊された為宝具にて武装、それを宝具の意思か、主の意思かは定かではないが現代向けにアレンジしている。
手足に鎧、レザージャケット(手甲と袖は同化している)と言うぶっちゃけ間違えてしまった厨二的コスプレスタイル。
【能力値】
筋力:A+
耐久:A
敏捷:A
魔力:B
幸運:B
【クラススキル】
○対魔力A
ランクA以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
○直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力、Bランクの第六感は高確率で危険を察知、回避せしめたり視認できない敵に対しての高い命中補正を得る。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
○勇猛:A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
○心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
Aランクともなれば未来予知紛いの回避、敵に隙を誘発させる為の動作の組み立てを自然と行えてしまうレベル。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
○魔力放出(炎):B
魔力を体外に「炎」として放出する能力。
ジェット噴射じみた加速や炎を纏うことによりリアクティブアーマーの様に矢弾を爆圧で弾き飛ばすことも可能。
また、武器や拳に纏うことで威力の底上げも行える。
○無窮の武練:EX
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮する、また彼独自の術法・術理も存在し、それらは如何なる達人にも模倣は出来ない。
○神性:A
如何に神に近しい存在であるか。
高位の神霊に連なる者であるらしく、最高ランクの神性を誇る。
通常攻撃に追加ダメージを付与し、また一定ランク以下の魔性に対して心理的に有利に戦える。
○宝具 ????????
燃え盛る炎の如き刃紋と長大な刃を誇る
その神々しい輝きから恐らくはかのエクスカリバーにも劣らない高位の神造兵器であると予測される。
○宝具 ???の獅子
セイバーが纏う革鎧。
今は形を変え、レザージャケット風に変化している。
首元には鬣が変化したファーみたいな飾り、手足は金属の手甲と具足に覆われている。
神獣、霊獣の類が素材である可能性が高い。
魔力を持った
○宝具 ????の弓
巨大な黒塗りの強弓。
細部に渡り細工が施され、その表面はザラザラとした生物的な感触を持った弓。
矢の一本すら通常の2倍以上の太さ。
サイズからして常人には弦を引くことすら叶わない、中心には円形になった部分があり、そこに複数の矢を番え、一射で9つの矢を飛ばすことを可能とする、作りとしてはアーチェリーにも似たものだが、原典となる宝具はまた違った形をしているらしい。
現在はセイバークラスでの現界であるため通常は真名解放は不可能。
○宝具 ?????
セイバーの伝説上の逸話を再現した能力。
現状、詳細は不明。
******
虎「ーーなんだこれ。」
イリヤ「すっごいでしょー、んふふん♪」
虎「いや、それで済ますレベルじゃねーぞ。」
セイバー「………///」(照れているらしい)
虎「まだ不明な部分は正体に関わるからあえてぼかしてあります。(作者)だって…」
イリヤ「私の
虎「弟子一号…そのロリコン容姿でもアウトだが、本編の容姿でもその台詞はアウトだからな…」
イリヤ「えー?なんでー??」
虎「とりあえず大概チートだって言うのが良く解った、他の連中勝ち目無いんじゃないのこれ?」
セイバー「いや、可能性としては無いわけではない、かなりの無茶をしてようやく僅かな勝機が見えるかどうかではあると思うが…とはいえ、まだまだ姿も現さぬサーヴァントも居るのだ、戦局は単騎の強さのみで決するとは限らない、ましてやバトルロイヤル形式なら尚更の話だな。」
虎「謙虚だなー、憧れちゃうなー!その調子で特に不遜なバーサーカーとかヤってくれないかなー(チラチラ)」
イリヤ「…師匠、私怨入ってない?」
虎「な、なんの話かな、ワタクシ、公明正大が売りの冬木の虎、私怨なんか絡めて解説するわけないじゃないか、あーはっ、はっ!」
セイバー「…目が泳いでいるぞ、冬木のタイガー。」
虎「わっ、私をタイガーって呼ぶなー!?」
イリヤ「あ、師匠がキレた。」
セイバー「公明正大…?」
イリヤ「ん、今日はここまで!(きゃぴ☆」
虎「こ、こらっ勝手に終わるなー!?」
materialーー① end
②があれば、続く。
**********ーー…
はい、そんな訳でセイバーのデータを公開しました。
…いやあ、これは書いていてやばいとしか思えなかった。
宝具の性能はまだ秘されたまま、ましてや通常のステータスがパない。
下手なバーサーカーを軽く上回る勢い、原作青セイバーが顔面蒼白になるくらいですな。
まあ、現時点でラスボスまったなしなセイバー。
しかし、まあまだまだサーヴァントはいますから、今後にご期待ください。
それでは、次回はぐだ子、落ち込むの巻でお会いしましょう!
朔弥「は、裸見られた…先輩に、アーチャーに、バーサーカーに見られた…」
…予告する間もなく落ち込んでますね!←
ではでは!しーゆー!
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第15話『テメロッソ・エル・ドラゴ』
太陽を落とした女、ってねーー!
新ライダー、星を開拓する者、参戦。
暗く、広い空洞の中。
二人の人物が向かい合って睨み合いを続けている。
「ーーこれはこれは…なんとも皮肉な話だな、ん?聖女様。」
「嫌味ですか、
「ああそうだ、復讐こそ我が有り様よ。」
「ここには復讐する対象も有りはしないでしょうに。」
「此処どころか、そも復讐そのものが終わりを告げているーー最早私が現界する事はありえないと思っていたがな…世界は私を眠らせてはくれんらしい、お前もそうだろう?」
「ーー私は裁定者、ルーラーとして喚ばれたみたいですね…しかしこの冬木の地において私が呼ばれること自体がイレギュラーな筈ですが…何者かの思惑…でしょうか?」
「ーーいや?どうやら理由はこれの様だな?」
暗闇の中、地面に描かれた方陣が淡い光を放つ。
ボウ、と明かりを灯したそれは7つの輝きを作り出す。
既に灯されていた9つの輝きに加えて、7。
中心に、白く清らかな輝きと、濁った青白い炎じみた輝き。
加えて、円周に均等に配置された14の輝き、うち一つは既に輝きを失っている。
合計16騎分の輝きーー。
「ーー新たな英霊召喚が始まるとーー?」
…この事態こそが本来あり得ざる第三者の介入を仄めかしている様にしか思えない、が…。
「だからこそ裁定者たる貴様がーーそしてその抑止力として俺が呼ばれたのだろうよ、私情を挟まず、役目を果たせと聖杯が言っている。」
「聖杯ーーそれ自体に意思があると?」
「此度は、その様だな?」
「ーー貴方とて…彼女には縁も情もあるでしょうに…」
「ふん、これで潰れてしまうならアレは俺たちを導いた彼奴ら二人の片割れでは断じてなかろうよ、そんなものは姿形が似ただけの泥人形の様なモノだ。」
「相変わらず辛辣ですね、口だけは。」
「ハ、好きに言っていろ、絶望こそ人生のスパイスよ…それを乗り越えてこその復讐だ。」
待てーーしかして希望せよ。
口に出しはせずとも彼がそれを言いたそうにしているのが彼女、ルーラーにはわかりやすいほどに分かった。
ーーもっとも、それを聞くものはルーラーだけではあったが。
方陣の内側、光を失っている箇所の丁度逆側の光が一際強く輝き出す。
それを見下ろしながらルーラーは呟く。
「全く、縁と言うのは簡単には無くならないのですねーーこんな形で無ければもっと歓迎したいところですよ…ねぇーー?」
空洞の中心、方陣のさらに真ん中。
そこには巨大な岩塊がまるで腕の様な形で屹立している。
その手のひらに当たる場所には、深緑色の結晶が鎮座している。
その結晶の中には一つの影。
ルーラーが呟いた名は、洞穴を吹き抜けた痛いほど冷たい風に掻き、消された。
****************
カチャカチャ…静かな室内に食事を摂る箸の音だけが響く。
見れば朔弥は妙に居心地が悪そうに、ソワソワとしているし、大河は居ない、桜は居たがーーこちらも何処か沈んでいる。
兄、慎二が行方知れずになり2日、それを相談しに現われた桜に、昨晩士郎がウチに泊まって行け、と言ったのだ。
ーー聖杯戦争に否応なしに関わってしまったとはいえ、士郎は慎二が何故行方知れずになってしまったかを話そうにも話せないと言う負い目があったからだ。
凛もまた、難しい顔はしたが反対はしなかった。
朔弥はーー昨晩の出来事に頭がパンク寸前であり、且つ家主と、セカンドオーナーたる遠坂がそう判断したのだから、と考えを放棄していた。
「ーー桜、慎二の事は心配するな…俺が必ず探し出して…今回ばかりはぶん殴ってでもお前に謝らせてやるからな。」
「ーーふふ、先輩、珍しいですね先輩がそんな過激な事を言うなんて。」
少し困ったな、と言う表情ながらもどこか嬉しい、と言う顔の桜。
「ーー時と場合によるさ、今度ばかりは問答無用にあの馬鹿が悪い。桜がどれだけ自分を心配してるかーーあいつだってわからなくは無いだろうにさ。」
……それ、貴方が言うの?とは凛の表情だ。
その後は妙に静かな食事を終え、一同は一旦は各々に割り振られた、或いは勝手に居ついた部屋へ戻って行った。
士郎は普段から使っている驚く程に私物少ない和室、桜は応接間近くの部屋を、凛は離れの一番上等な客室にベッドまで持ち込んでいた。
そしてイルマと、その執事であるイゴールは地下室ーーあったんだな、そんなものーーを探り当てるやそこへと陣取った。
どうやら切嗣、義父が武器の保管場所にしていたらしいのだが…土蔵の床下にまさかあんな階段が隠されていようとは。
と言うか、今迄修練場にしていながらまるで気がつかなかった…大間抜けか、俺は。
…凛曰くちょっとした魔術工房並み、だとか。
半端な魔術師なはずの義父がよくもこれだけのものを作っていたものだ。
桜が居室に入っていくのを確認し、一同はそっと足音を殺して地下室へと集まる。
「ーーな、何これ…世界中の外法、外道の知識のオンパレードじゃない…あ、いや違う…全てそれと対になる様な記述が…セットに?」
そこには魔導書の山。
有名なモノから言うならばーー無名司祭書、金枝篇、ネクロノミコン迄が其処にあった。
無論、原典なはずは無くすべからく写本や不完全なものばかりではあったが…
それに連なる様に対抗手段もまた並べて保管されている。
例えば海魔召喚の頁の端には、添え書きされた、海魔や古き者を退ける古き印、
「ふふ、キリツグらしいな…彼奴は常に人類に害成す存在や事象を廃絶する方法を求めていたと見える。」
イルマが呟き、イゴールが頷いている。
は、はは。
確かにオヤジらしいなーー全く、正義の味方は年齢制限があるんじゃなかったのかよ…
まるっきり諦めてないじゃないか。
恒久的な世界平和。
それをクソ真面目に現実に変えようと。
足掻いて足掻いて足掻き抜いて。
「ーーはぁ、俺が必死になって追いつこうとしてるのにな…」
「衛宮君ーー貴方のお義父さんって…何者なのよ…?」
まさに開いた口が塞がらないと言った凛。
「いや、それは俺が聞きたいよ本当。」
「何よそれ。ーーこの蔵書、時計塔だってこんな封印指定一歩手前な魔導書の写本とかそうそう無いわよ?それが、こんなに沢山…」
「ふん、あやつ…やはりわしを謀っておったな…吸血種を滅する方法まであるでは無いか、知っていてわしを何度も見逃す等、屈辱じゃのう…。」
などと言う言葉とは裏腹、イルマの顔はどこか嬉しそうだった。
「遠坂は知らなかったっけなあ…俺のオヤジは…正義の味方で、魔法使いなんだよ、正義の味方は年齢制限で廃業だなんて言ってたけどな。」
「ーー何言ってるかさっぱりなんだけど…」
魔法使いと言えば魔術の深奥にたどり着いたほんの一握りの偉人に冠せられる称号だが、この場合は違う意味だろう、間違いなく。
「ーー魔術師殺し、そう言えば遠坂さんにもわかるんじゃないかな?」
とは、今しがた階段を降りてきた朔弥の台詞。
「まさか、第四次聖杯戦争でお父様と敵対した、アインツベルンの傭兵ーー!?」
「なんだ、オヤジの奴そんな事もしてたのか。」
呆れたな、と言う顔の士郎。
「私の父さん、九重十蔵と縁があったから多少は聞いてるけど…偏屈な変わり者だったみたいね…昔、私を狙った吸血種を追い払ってくれたのも、子供を狙うなんて許し難い、ってだけで必要経費以外は報酬もろくに取らなかったそうよ。」
「ーーあ、なんじゃお主あの時の双子の片割れか〜道理でどうにも魔力に覚えがあると思ったわい。」
「「はっ?」」
士郎と朔弥の声が、ハモった。
**********
「ーー再契約、だって?」
「そうだ、マキリの末裔よーー貴様が望むというなら力を貸してやろう。」
聖堂教会支部、冬木教会。
煌びやかなステンドグラスから差し込む光が、三人の男の顔を仄かに照らし出している。
「あんたーー何を言ってる?」
先の戦いでライダー…メドゥーサを失った慎二は、逃げ込んだ先で思わぬ話を振られていた。
「ふ、少年…疑うのも無理からぬ話、少し解りやすく話してやろう。」
と、話すのは聖堂教会の法衣、カソックを首までぴったりと締めたお堅い格好の神父。
しかし、その目は一切笑っていない。
寧ろ底なしの暗闇を覗いてしまった様な不気味さが見えて。
「ーー信じられるかよ、あんた…監督役が個々の勢力に肩入れしていいのかよ?」
「私は最早聖杯等必要としていなくてね…何より君個人に興味がある、なんなら聖杯は君一人で使うといい、我々には聖杯そのものは必要無いのでね。」
「ーー今の貴様にはわれが手を出す価値と意味があると言う事よ、王の誘いぞ?光栄であろうが。」
礼拝堂のイスに座る金髪紅眼の美丈夫はニヤニヤと笑みを浮かべながら手を差し出す様にして慎二を見ている。
「ーー王…ね、あんた相当強力な英霊なんだな。」
「ーーああ、そうさな…オレ一人で他全ての英霊を相手にしても良い程度にはな?」
「そうかよ、しかし都合が良すぎてかえって信じられないんだけど?」
「……フ、君は知らないのだったな、私はね、第四次聖杯戦争の参加者だったのだよ。」
「ーー何…だって?」
「く、くくっ…なぁ、
「ーーそうだな…確かにこのまま終われない…考えても…」
慎二が渋々ながら、しかしこのチャンスを逃すまいと答えを決めかけたその時。
ガシャーーン!!
ガァン!タタン、チュインッ!
ステンドグラスを貫き、数発の銃声がそれを遮った。
「ーー待ちな、シンジ…アンタまた間違えて死ぬ気かい…?」
そこに華麗に降り立つのは女。
パイレーツハットに、ジャケットを羽織りーー両手に銃を携えた女海賊。
はち切れんばかりの胸をジャケットに無理矢理収め、2丁拳銃を構えるその姿。
「ーーアンタのサーヴァントは…アタシ以外にゃつとまらないだろう?」
フランシス・ドレイク。
史実上は男性ではあるが、今は女。
太陽を落した女ーー。
テメロッソ・エル・ドラゴがそこに立っていた。
「アタシと組めば、儲けは折半ーー契約、報酬、分前半分。これ以上信用できる主従関係はそうないだろう?」
男よりも男前な姉御肌。
それが彼女、フランシス・ドレイクの生き様である。
「ーーなんだ貴様は…疾く失せよ、不敬であろう!!」
機嫌を損ねた男の背後から、金色の波紋が浮かび上がり…一斉に刃が射出される。
片刃、諸刃、直刀、槍に斧、果ては鎌やチャクラムに至る古今東西あらゆる武器が女に迫る。
「ハッ!いきなりご挨拶じゃあないか、英雄王!」
流麗な銃捌きで打ち出された弾丸が武具の射線を逸らし、礼拝堂のイスや地面を抉る。
さらに空中で宙返りをする様にして残りを回避すると、今度はお返しとばかりに銃弾が英雄王と呼ばれた美丈夫に迫る。
「ーーネズミがっ、図に乗るな!!」
展開されたのは盾。
名もなき、とある宝具の原典の一つ。
虹色に輝くその盾は、円周から内円にかけて街を、空を、世界を孕んでいた。
弾丸は微風程にも威力を発揮できずに盾に阻まれた。
「ーー概念による世界断絶かーー最強とも言える防御だね…だが、緩い。」
「ーー要は、気合いの問題、さぁ!」
今度は、先とは比べ物にならぬ魔力が込められた二発の銃弾。
「ハッ、無駄だ雑種ーーこの盾は少々魔力を込めたところで…なにぃ!?」
バキンッ!
一撃目であっさりと盾は砕け。
二発目の弾丸が男に向かう。
「っ、ぬぅあ!」
咄嗟に手を出し、弾丸は瞬時に武装した彼の金の手甲に弾かれた。
「ーー我が鎧に傷を…?」
「ーーなんだい、気に入らないかい?」
「楽に死ねると思うなよーーこの売女が!」
「はっ、この代償ーー高くつくよ?」
視線が交わり、正に命のやり取りがーー始ま…
「けどまあ、今は三十六計逃げるが、勝ちっーーてね!」
ーーら無かった。
ドォン!!
何もない宙空から響く轟音。
同時、巨大な鉄球ーーカルバリン砲の砲弾が男等を狙い撃つ。
「ぬ!?」
盾が砕かれていたのもあってか、今度は大きく飛び退いて避ける。
礼拝堂のイスと地面を先ほど以上に砕き抉り、もうもうと土煙りを上げた一撃は、あたり一面の視界を遮りーー。
開けた時には、慎二と女の姿は無かった。
「ーーーっっ!!」
顔を真っ赤にして歯を剥く金髪紅眼の男。
対して綺礼は、さも可笑しいといった風に。
「く、王よ…中々思う通りには行かぬものですなあ?」
先程の寸劇を続ける様な嫌に丁寧な口調のまま、英雄王に声をかける。
「く、黙れ綺礼、死にたいか貴様っ!」
「ククーー楽しめ、と言ったのはおまえだろう、ギルガメッシュ。」
ドガ、とイスの残骸を踏み砕く音が、響いた。
【後書き的なもの】
はい、一気に急展開。
段々と置いてけぼりなSN側主要キャラクター達。
楽しんでいただけていますでしょうか、ギルスです。
割と行き当たりばったりに書いている本作ですがーーとうとうstaynightの本筋を大きく逸脱し始めました。
ルーラーとアベンジャーの登場。
新たなサーヴァントの登場と、英雄王、綺礼の行動に対する妨害。
これで慎二と英雄王が組む未来もまた改変されました。
さて…これで完全に未知の領域ーー
世界は何処へと向かうのか。
人理焼却が行われたカルデアの記憶が散逸してサーヴァント達に保有?あるいは流れ込むのは何故か。
話は大きく動き始めました。
この大風呂敷ーー最後までお付き合い頂ければ幸いです。
あ、因みに慢心王の盾をあっさり貫いたのはスキル「星の開拓者」の効果です。
慢心ギルに無敵貫通美味しいです。(愉悦
それでは!
次回更新でお会いしましょう!
ではでは、しーゆー!
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第16話『封印指定執行者』
槍が示すは殺意ーー美しき槍兵、推参。
新ランサー、新バーサーカー参戦。
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
☆【現在判明している正史との相違点。 】
◆ 衛宮士郎が実戦レベルの魔術を使える。
◇ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◆ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◇ ランサーが近代中国の英霊。
◆ バーサーカーはクー・フーリン・オルタ
◇ 聖杯により(?)
◆ 更に7騎の英霊が追加召喚される。
◇ 間桐慎二と英雄王が組まない。
◆ 大聖杯のある空洞内に謎の結晶。
ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
、と言ってましたが段々それも怪しくなってまいりました、果たして…真実は?
ぐだ男は………。
それではどうぞ、拙い作品ではありますがお楽しみ下さい。
「ありえないわ…何なのこれは…」
大聖杯がある大空洞にほど近い、円蔵山中腹にある柳洞寺。
その境内で一人の女サーヴァントが立ち尽くしていた。
紫のフードを目深に被り、手には水晶球を持つ立ち姿。
足元には術式の施された円陣が描かれており、今尚仄かに光を発している。
何某かの儀式の片手間に何かを探っていた様だ。
「ーーどうした、キャスター?」
彼女こそは「魔術師」のサーヴァント。
コルキスの魔女…メディア。
そのキャスターに声をかけたのは現在のマスター、葛木宗一郎。
士郎や凛も通う穂群原学園の教師であり、数奇な運命から一度はマスターを失ったキャスターと契約を交わした魔術師では無い男。
「宗一郎様…聖杯が蠢動しています…まだ戦いは序盤だと言うのに、何故…?」
「さてな、魔術師でない私には検討もつかないがーー敵を倒す、どうあれそれで方が付くのだろう?」
「ーー確かに…誰がいかな小細工を弄したところで聖杯そのものさえ押さえてしまえば他に意味は無いーー」
「そら、ならば勝てばいい。」
「本当に貴方は不思議なマスターですこと…何の根拠もないそんな言葉を信じてしまいたくなります。」
ふふ、と柄にもなく笑みをこぼし。
キャスターは再び作業に戻る。
強く、強く、強くなる為にーーーー。
************
「さて、シンジ。」
「ーーお前、馴れ馴れしいんだよ…!」
街の外れ、10年前の大災害の余波で崩れかけたスポーツジム跡。
その一室ーー埃に塗れた椅子を払い、胡座をかいて座る女。
「そう邪険にしなさんな、あんたは私を知らないだろうがねーー私は、あんたを知ってる。」
そう、間桐慎二。
私はこいつを知っている、いやーーこいつと同じ名と姿をした無垢な魂を知っている。
だからだろうか。
マスターも無く、ささやかな魔力だけを与えられて現界したその耳朶に聞こえた声は。
聞き慣れた、あの子供じみた、すぐヒステリックに叫び散らす馬鹿に。
とてもとても似ていたから。
「はぁ?真逆とは思うがお前、爺の差し金か?」
「爺…あぁマキリ・ゾォルケンか、違うね、聞いただけではあるがあんな奇人変人大賞にかかずらわる気はさらっさら無いね。」
「奇人変じ…ぶっ!」
あのマキリ・ゾォルケンに奇人変人とは痛快極まりない。
恐ろしく、決して逆らえない存在だと思っていたあの化け物を随分と面白可笑しく言ってくれる。
「ふ、まあ聞きなよ…あたしはあんたじゃないあんたを知っている、平行世界と言えばいいのかね…あんたはそこじゃ、あたしのマスターだったのさ、シンジ。」
「僕が?たいした魔力も魔術回路も無い凡人の僕がか?」
「ーーそうさ、その聖杯戦争じゃあマナやオドは必要無かった、ただ度胸と才覚があればマスター足り得たのさ。」
「だから僕を選ぶのか、でも生憎僕には魔術回路はないしーー疑臣の書も焼けちまった…この世界じゃあ令呪すら無い僕と再契約なんて土台不可能だ、他を当たれよ。」
「大丈夫さーー魔力、令呪に関してなら心配無いね…なんせーー」
そう言ってドレイクは慎二の手を取り、自らの胸元に引き寄せた。
「は、ちょ、な、何?」
暖かく柔らかな柔肉の感触に慌てる慎二。
だが、次の瞬間その表情が固まった。
「ーーこ、コレーー」
引き抜かれた自身の手に感じる莫大な魔力。
そして、慎二の手のひらに具現したその形は。
金色の盃ーーそれは、まるで。
「なんだこれ…まるで聖杯みたいな形しやがって…しかも尋常じゃない魔力っ!?」
「ああ、あたしが受け継いだお宝ーー聖杯、ホーリーグレイル・オブ・オケアノスさ。」
「は、はーーーー!?」
ジムの中、慎二の絶叫が響き渡った。
当たり前である、こんなことを聞いたら間違い無く全聖杯戦争関係者が白目を剥くだろう。
「ーー、な、なんで最初から聖杯戦争の勝利者の景品持ってるんだ、お前ぇぇっ!?」
「ハハッ、なんでだろうねぇ?」
「な、あ、えぇ〜〜〜???」
「く、ハハッ、ハッハハ、ひー可笑しい…あぁ、言っておくがこいつは願望機としての性能は失ってるからね?」
「な、あ、あ、え??」
最早慎二の理解をはるかに超えた事態に、口も頭も追いつかず、ただただ驚くしかない。
「ーーこいつはね、最早聖杯を巡るだけの争いじゃあ無くなってるのさ。」
「お、おまっ、おまっ…え」
「ーーああ、そういやあまだ名乗って無かったねぇ…悪い悪いシンジだと思ったらつい、ね。」
「い、いやそうじゃな…」
「ーー私はフランシス・ドレイク…史実じゃあ男扱いされちゃいるけどね事実はこんなもんさ…絶世の美女が海賊ーーどうだい、痺れるだろう?」
パチン、とウィンクして悪戯っぽく笑うその顔は、まるで子供みたいな心底満足気な笑み。
強さの中に純粋さを併せ持った、世界史上、二番目に世界を一周した人物は。
本当に子供の様な一面を要していると見える。
「ーーさて、そろそろ馴染んだかい?」
「あ、えっ?」
一瞬見惚れていた慎二が腑抜けた声を出し、自らの手の甲を見つめると。
そこには帆船を模した形状の令呪が三画。
青い刺青の様に現われてーーいた。
***********
「ーー全く、
パリッとノリがかかった仕立ての良い、それでいて運動を前提に仕立て上げられたスーツに身を包んだ、短く切り揃えたショートカット、手にはレザーグローブをし傍らには大きなバッグを置いた男装の麗人ーー、と言うよりは動きやすい格好を追い求めた結果として男装の様になっただけなのだが。
バゼット・フラガ・マクレミッツ。
魔術協会の虎の子である
通常の魔術師には捕縛、或いは殺害が不可能な封印指定を受けた異能者、実力者を抹殺、無力化するために存在する所謂
中でも彼女は突出した実力をもつ最終兵器。
そんな彼女を投入しながら下された命令は沙汰あるまでの待機。
「解せぬ、と言う顔だねえ…レディがその様な顔をするものではないよ、バゼット。」
無意識に顰め面をしていたバゼットの前に長い金髪をふぁさ、っとなびかせて歩み寄るのは、ランサー、フィン・マックール。
フィオナ騎士団の長にして「
その槍は堕ちたる神霊をも屠ったと言われ、クー・フーリンからすれば同じくケルトに連なる同郷人ーー言うなれば後輩にあたる人物。
「ランサー…私としては貴方が召喚された事態がそもそも解せないのです…全サーヴァントは召喚されて私は出遅れた筈だったーーそこへマスター不在の貴方がふらりと現れて…」
『宜しければ私と契約してくれませんか、お嬢さん?』と来た。
「私としても僥倖だった、ルーンを扱い…まさか現代まで我が時代の神秘を受け継ぐ者とーー何よりこの様に美しいマスターと巡り会えたのだからね!」
ランサー曰く、自分の他にも六騎の英霊が僅かな魔力とリミッターが外れたスペックを持って召喚されたと言う。
自分がそうであり、また状況や召喚された際の周囲の魔力密度からもまず間違いが無いと。
如何なる手段でその様な情報を得たかと問えば。
「今知ったのだよ。」
と何故か親指を口に咥えて答えを返された。
ーー後から聞いた話では彼の親指にはかつて師であるフィネガスに教えられ、焼いて食べようとした智慧の鮭「フィンタン」の脂が跳ねてかかった際に熱さのあまり口に含んだーーが染み込んでおり、それは舐める事で彼の中の知識を元に、その思考速度を跳ね上げ、更には周囲の情報を知識として感じ取り、演算し、予測する…恐るべき智慧の宝具なのだ。
(赤ん坊の指しゃぶりみたいだ、などと空気を読まずに茶々を入れては…いけませんよね…しかし、気になる……。)
「ーーともあれ、貴方は伝承通りに智慧に溢れた御仁である様だ。」
とりあえず褒めておこう、実際には憧れのフィオナ騎士団の長たる人物がこうも軽薄だとは想像すらしなかったが。
いや、しかし女難で身を滅ぼし騎士団を瓦解させるきっかけになっていた筈だしあながち間違いでも無いのだろうか。
「はっはっはっ、そうであろうとも!いつ、如何なる時も輝いてしまうのが私と言う男だからな!」
この軽いノリが無ければ文句なしに強く美しい英霊なのだが。
「ーー兎に角情報だけでも探らねばなりませんからね…脚を使うしか無いでしょう、使い魔だけではいささか不安だ。」
「ーーさて、残念だねバゼット…静観せよ、と言う話だがどうやら静かに潜ませてはくれない様だよ?」
ーー指、離そうか大英雄、と…そうでは無い。
「どう言う事です、ランサー?」
「うん、お客さんの様だよ。」
スウ、と立ち上がると手を翳すフィン。
その手には光と共に槍が現れる。
その刃は諸刃、柄には紫の蔦が絡まる意匠が施されている。
彼の持つ伝承の結晶、神霊殺しの無敗の槍が顕現する。
バゼットはその槍を見た途端に引き込まれる様な感覚を覚え、アタマを振る。
「ーーあまり見つめない方がいいよ?」
神霊の祟りが怖いからね、などと冗談とも本気ともつかない台詞を吐くランサー。
槍から感じられたのは途方も無い殺気。
窓から吹き込む風が、彼等が待機していたマンションの一室に生温い感触を持ち込む。
冬だと言うのに、だ。
「カハァ…」
窓枠に手をかけ、顔をのぞかせたのはーー。
短く刈りそろえられた灰褐色の髪、爛々と輝く両の眼をこちらに向ける、金の肩当、同じく金の手甲、赤いマントを羽織りサンダルを履いた男。
「ーーその理性が蒸発した眼ーーバーサーカーか…こんな狭い場所で狂戦士の相手とはまた、骨が折れるな。」
軽口を叩きながら隙の無い所作で槍を構え、腰を落とす。
「ーー敵、ハーー殺す、コロスコロス、ロー、敵、コロスコロスコロス、殺スゥ!!」
両手を広げ、羽撃くようなポーズから、獣じみた動きで飛び掛かる男、バーサーカー。
「ーーは、私と素手で渡り合う気かね、流石バーサーカー…頭が沸騰しているんじゃないかね、そらっ!」
飛び掛かるバーサーカーに対しランサーの容赦ない槍捌きが襲う。
怒涛の突きに怯む何処か、更に距離を詰め、体中を傷だらけにしながらも全て直撃を避けたバーサーカーは信じられない行動に出た。
「顔がーーがら空きだぞ!」
突き入れられた槍の穂先をーー
ガチン!!
歯で、噛み付いて止めたのだ。
「な、何ぃ!?」
慌てたランサーの隙を突き、刃を顔ごと振って逸らすと一瞬にして懐に潜り込む。
ズドン!
鈍い音と共にバーサーカーの膝がランサーの鳩尾にめり込んだ。
「ガハッ!?」
血反吐を吐き散らしながら一瞬宙に浮いた後、バーサーカーの拳が更に追い打ちをかける。
嵐のような拳打がフィンの美しい顔を捉えた。
「ーーッ!」
たたらを踏み、しかし踏みとどまると槍を引き戻し、バーサーカーへと怒りを向ける。
「やって、くれたなっ蛮夫めがっ!!」
槍を構えたかと思えば、次の瞬間にはまるで針のような無数の煌めきがバーサーカーに降り注ぐ。
本来の宝具開帳の数万分の一の力ではあるが、水の勢いは分厚いコンクリートにも穴を穿つ程だ。
「ーーガァア!!」
身体に無数に刺さる水の針に怯んだバーサーカー。
そこを見逃す
「一対一ではありませんよ、サーヴァント!」
肉体強化の魔術により瞬間的にはサーヴァントにも迫る速度でロケット砲の様に飛び出し、その拳がバーサーカーの鳩尾を捉えた。
たまらず吹き飛ばされ、壁に激突してめり込むバーサーカー。
「ーーランサーの痛み…お返ししましたよ。」
硬化のルーンが施されたレザーグローブによる近接打撃。
更にはルーンによる肉体強化、本人の類稀なる戦闘技能。
それらを持ってして彼女は真にサーヴァント並みの戦闘技能を有している。
それが魔術協会のジョーカー、封印指定執行者ーーバゼット・フラガ・マクレミッツ。
「おいおい、私の立場が無いではないか」
苦笑いのランサー。
それはそうだろうまさか英霊、しかもバーサーカーと殴り合える人間がいようとは。
「まるで
「はしたないと思いますか、ランサー?」
「いいや?最高の女性だよ、君は!」
笑顔で槍を構え直し、バゼットと並ぶランサー。
唸り声を上げて立ち上がるバーサーカーを、二人の視線が、射抜いた。
はい、皆様こんばんは、こんにちわ、おはようございます、ギルスです。
今回もまた新サーヴァントとマスターが登場。
本編Fate/staynightでは麻婆神父に騙され、片手ごと令呪とクー・フーリンの兄貴を奪われた失意の人、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
続編にあたるホロウ・アタラクシアではアベンジャー、
詳細は語られず仕舞いなので全て直接戦闘かどうかはわかりませんけど、多分ダメットさんなら肉体言語で退けたに違いない、俺は信じているぞ!(何がだ
そしてランサーはやはり兄貴を二人出すわけにはいかないので…
智慧の宝具、
槍兵ーーフィン・マックールさんと相成りました。
バーサーカーは…FGOにもいる人です。
まあ新バーサーカーは次回あたり真名バレするかも。
駆け足になりそうですが、新規サーヴァントとマスターを早めに出していく予定です。
また、既存のキャスターとアサシンは多分原作そのままです。
多分、だけどw
それでは、また次回更新でお会いしましょう!
しーゆー!!
H28 8月16日 21:45 自室にて某所に初稿投稿。
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Fate/alternative material ②+③
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、今回は本編では無くサーヴァント達のデータ集となっています。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
冬木の虎「ーーさて、あまりにもセイバーが化け物な件について。」
炉利ブルマ「私のセイバー、最強!」
バサニキ「いや、ありゃ最早反則だろう…元々チートだがよぉ、やり過ぎ感しかしねえ。」
虎「ーーー、、、」
ブルマ「あれ?師匠?しーーしょー?」
バサニキ「固まりやがったな。」
ブルマ「まあ、トラウトって奴?」
朔弥「いや、サーモンじゃないんだから…」
ブルマ「あっ!本編では石になったままだった役立たずなお色気担当主人公なお姉ちゃん!」
朔弥「ぐ、ぐふっ!(吐血)」
バサニキ「抉ってやるなよ…」
朔弥「あ、あんたが言うか!?(真っ赤)」
ブルマ「まあまあ、とりあえず今日は誰を紹介してくれるのかしら?」
朔弥「ーーこの色狂いよ、色狂い。」
バサニキ「俺はそこは正常だ、バーサーカーだがな。」
ブルマ&朔弥「ーーじとー。」
バサニキ「さて、俺のステータスだがーー」
朔弥「逃げたな…まあいいや、うん、こいつ、オルク事バーサーカー…クー・フー・リンオルタですが、本来のクー・フー・リンのバーサーカー化とも違う存在です、何しろFGOに於ける一種のボスキャラであり、聖杯の力を初めから取り込んで生まれたのがこのーー本来のバーサーカーなクー・フー・リンを遥かに上回るスペックをもつオルタだから。」
ブルマ「…聖杯の力をって…じゃあ何のために彼は聖杯戦争なんかに?」
バサニキ「ーー腐れ縁だ。」
朔弥「だ、そうです(苦笑)」
朔弥「因みに…ウィキペディア先生によれば、ライダークラスとおぼしき伝承通りの姿ならバーサーカーより酷いかもしれない。」
バサニキ「正直この姿で現界したのは幸運だな、ライダークラス(?)できたら街中を歩けないところだ。」
ブルマ「どれどれ?(水晶球を取り出し、覗き込む。)」
朔弥「ん?どうしたの?」
ブルマ「(ガクガクブルブル)」
バサニキ「あー、見ちまったか。」
灰色と黒色の二頭の馬が引くチャリオット、戦装いの無骨なソレに乗るのは、髪は百本の宝石の糸で飾られ、胸には百個の金のブローチで煌びやかに飾り立てているが、その身は激しく痙攣し、額からは光線を発して顎は人の頭ほどに膨れ上がり、両目の間には七つの瞳が生じ、片方の目は頭の内側に入り、もう片方は外側へ飛び出している。
手足の指は七本に増え、両頬には黄・緑・赤・青の筋が斑らに浮かび上がる、その鬼相。
電流のように逆立った髪は先端に向かうほど赤く変色し、そこから血が滴るーーーー
ブルマ「では、ここからはデータになります。」
バサニキ「…現実から目を背けやがった…。」
朔弥「……もうクトゥルフの神話生物や邪神並みに性質が悪い…」
******************
クラス:バーサーカー
真名:クー・フーリン(オルタ)
出典:ケルト神話・Fate/GrandOrder
地域:欧州/北米大陸(第五特異点)
属性:混沌・悪 性別:男性
イメージカラー:黒/赤
マスター:九重朔弥
【外見】
*未再臨時の初期装備姿です。
ーー牙の様にずらりと並ぶ尖った歯。
半月の様に歪めた口元を隠しもせず、眼前の敵を見据える、漆黒の立ち姿。
フードに半ば隠れた顔は野性味あふれ、両耳には長い水晶の様なイヤリング。
両脚は黒い、まるで捻れた角の様に見える無数の棘に覆われた生物じみた装甲に鎧われている。
腰から伸びるのは…尻尾???
まるで巨大な百足にも見える尻尾がゆらゆらと揺れていたーー。(本編プロローグより抜粋)
【能力値】
筋力:A+
耐久:B++
敏捷:A++
魔力:C+
幸運:D
【クラススキル】
○狂化:EX
如何に理性が失われているか。
バーサーカー特有のスキルで理性と引き換えに絶大なステータス強化を得る。
ーー言語や理解力と言った意味であればC相当だが、狂い方も人それぞれと言う事かーー彼が狂っているのはもっと根幹的な部分である。
【スキル】
○精霊の狂騒:A
クー・フーリンの唸り声は、地に眠る精霊たちを目覚めさせ、敵軍の兵士たちの精神を砕く、精神系の干渉。
敵陣全員の筋力と敏捷のパラメーターが一時的にランクダウンする。
今作品に於いては敵の精神に干渉する事で恐怖を呼び起こし一時的な自律神経失調を引き起こすスキル。
○矢避けの加護:C
クーフーリンが生まれつき持つ飛び道具に対する防御スキル。
例え宝具でも投擲タイプであるなら、使い手を視界に納めた状態であれば該当する加護のスキルレベルを上回らない限り彼に対しては通じない。
ただし超遠距離からの直接攻撃、および広範囲の全体攻撃は該当せず、またバーサーカーでの限界か或いはオルタ化の影響からかランクが1ランクダウンしている。
○戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
仮に致命傷ーー霊核を砕かれようとも暫くの間は限界し、行動が可能。
また、このスキルのランクが高いのはルーン魔術をほぼ自己再生に回している事も一つの理由である。
○神性:C
如何に神に近しい存在であるか。
半神半人である彼は太陽神ルーを父に持ち、色濃く神の血を引いているが、オルタ化した事でランクダウンしている。
通常攻撃に追加ダメージを付与し、またスキルランク以下の魔性に対して物理・心理的に有利に戦える。
○聖杯再臨:EX
聖杯をその身に取り込み、力に変換する偉業。
遠き約束の地にて交わされた絆は、その身に5つの聖杯を同化せしめた。
その為本来以上にステータス増加が発生している、幸運を除く全てに+補正が一つ加えられている。
また、それ以上の何かも秘めている様だが、現状は封印されている。
【宝具】
○
ランク:B++
種別:対軍宝具
レンジ:5~50
最大捕捉:100人
クー・フーリンが師匠スカサハから授かった魔槍、ゲイ・ボルク。
クー・フーリン本来の宝具。
自らの肉体の崩壊すら辞さないほどの限界を超えた全力投擲で放たれる、魔槍ホーミングミサイル。
本編ではライダーの召喚したギリシャの魔物群をその投擲で鏖殺した。
ランサー時よりも威力と有効範囲が上昇している。敵陣全体に対する即死効果があり、即死にならない場合でも大ダメージを与える。
ルーン魔術によって崩壊する肉体を再生させながら投擲しているため、本人がダメージを受けることはないが、途方もない苦痛を受ける。
また、因果逆転の呪詛も秘めており、「心臓(霊核?)を貫く」と言う結果を手繰り寄せる為に望外の幸運値か、加護、呪詛を弾く耐性を持たない限り一度放たれた槍が心臓を外す事はありえない。
○
ランク:A
種別:対人宝具(自身)
レンジ:─
最大捕捉:1人
由来:魔槍ゲイ・ボルクの素材となった紅の海獣クリードの骨で出来た甲冑。
クー・フーリン・オルタに付与される宝具。
荒れ狂う狂王の怒りがゲイ・ボルクの素材となった紅海の海獣クリードの骨格を具象化、甲冑と化して纏う、攻撃型の骨アーマー。
この鎧を装着すると耐久がランクアップ、筋力をEXにランクアップさせる反面、「抉り穿つ鏖殺の槍」の発動が不可能となってしまう。
鎧の爪で敵を連続で切りつけた後、力を溜め、爪を敵に突き刺し、爪を起点に無数の細かい棘が伸び、敵を体内から引き裂く。
FGO第五特異点での師弟対決においては、影の国でスカサハに与えられたものではない為スカサハもその存在を知らず、対応出来なかった。
************
バサニキ「因みに補足するなら俺の視力はアーチャークラスには及ばないものの、数十メートル先で広げた絵本の絵柄からウォー○ーを探せる位には良好だ。」
ブルマ「ーー成る程、つまりこの残念系影薄主人公なお姉ちゃんの裸体を余す事なく記憶しておけるくらいには目が良いと。」
バサニキ「ああ、なんだか本編で結局そこに触れなかったから触れておけとかなんとか聖杯から電波が来た。」
朔弥「それ聖杯じゃねえ!性拝だよっ、セクハラダメ、絶対!?(指先まで真っ赤)」
バサニキ「因みに朔弥の内腿には際どい位置にハートに似た痣がある。」
朔弥「ヤメローーーッだ、誰も得しないから、そんな情報ぅわあぁぁぁぁぁぁん!?」
虎「泣くな少女よ…耐えろ、今は耐えるんだ…」
朔弥「っていつ復活した!や、やめっ、ちょ、確かめなくていいからっ、スカートめくるなっ!?」
虎「…うわ、肌綺麗ね貴女…痣もなんとなく薄ピンクに見えて可愛い…でも場所が場所だけにちょっと変な気持ちになるわね、私ノンケの筈だけど…(ゴクリ)」
朔弥「ちょっと、や、ひゃあん!?」
ブルマ「……師匠…セクハラは…その…//////」
バサニキ「…俺も触れていいか?」
朔弥「だ、だだだだ、駄目っ、絶対駄目ぇ!」
虎「くっくっ、ここか!ここがええのんか!」
朔弥「け、ケダモノーーー!?」
ーー終わる!
********************
以下、material③。
※第16話「封印指定執行者」を読み返すタイガー。
虎「ど、どどっ、どう言う事だってばよ!?」
ブルマ「落ち着け、ししょー。」
虎「だだだ、だって弟子一号よ!サーヴァントが!サーヴァントがひー、ふー、みー、よー…い、いっぱい!?」
ブルマ「あー、本編では大変な事態になってますねー、確かに。」
ぐだ男「はい、確かに大変な事態になってますねー。」
虎「誰、彼、ホワイ??」
ブルマ「おい英語教師…」
ぐだ男「あ、初めまして、妹がお世話になっています、朔弥の兄で九狼と申します。」
虎「え、あ、これはこれはご丁寧に…こちらこそ宜しくお願い…ってえー!?」
ブルマ「師匠がマスオさんみたいな顔に…」
ぐだ男「面白い人だなあ。」
虎「そ、そんなこたぁいいんだよ!」
ブルマ「その心は?」
虎「データを公開せねばならぬ!」
マシュ「まあ、それがお仕事ですしね。」
虎「うわっ、またもや誰方!?」
マシュ「あ、初めまして九狼先輩のサーヴァントで、シールダーのマシュです。」
虎「ねぇ、ここに出るのって本編で出番が少ないとかそういう人とデータ公開される鯖くらいじゃあないの?」
マシュ「そうなんですか?」
九狼「メタい発言をしないでくださいw」
ブルマ「まさか…そのおっ、、で私の人気を奪う気ね!?」
虎「な、何だってーー!!」
九狼「まあ、もしかしたら僕らにも出番あるのかな、FGOの人理焼却が起こってなくても僕らは世界のどこかにはいるんだろうしね?」
マシュ「ーー私は、どうでしょうか…」
ブルマ「なんだか話が重い方向に行きそうだから、サクサクッとサーヴァント紹介!」
虎「ハイハイ、今日のサーヴァントはコレ!」
アーチャー「呼んだかね?」
虎「はい、呼びましたよー今回まじで良いとこ少ない紅茶さん。」
紅茶「ーー喧嘩を売っているのかね、君は」
ブルマ「まあまあ、とりあえず行きますよ。」
*ここからはデータになります。
************
クラス:アーチャー
真名:現在不明
出典:Fate/staynight
地域:日本
属性:中立・中庸 性別:男性
イメージカラー:赤
マスター:遠坂 凛
【外見・特徴】
*FGOにおける最終再臨時の装備です。
赤い外套、短い白髪を逆立てた髪型。
鍛え上げられた無駄のない肉体、猛禽の如き眼光を持つ男、自称召喚不備による記憶喪失。
周りが化け物揃いのために目立たないがその実力は純粋な人が上り詰めた形としては類い稀な力を有している。
黒と白、二刀、干将・莫耶を操る白兵戦を得意とするアーチャーとしては異質なスタイル。
しかしもちろん、時には黒い洋弓を用いた遠距離戦もこなす。
今作品ではセイバーに不意の一撃でとは言え致命傷を負わせている。
ーーまあ、一瞬で再生されてしまったが。
性格は基本的に気障で皮肉屋な現実主義者。それでいて、お人好しと言う絵に描いたような善人で、ツンデレ。
【能力値】
筋力:D
耐久:C
敏捷:C
魔力:B
幸運:E
【クラススキル】
○対魔力 D
魔術への耐性。一工程の魔術なら無効化できる、魔力避けのアミュレット程度のもの。
○単独行動 B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても2日は現界可能。
○千里眼 C
「鷹の目」とも呼ばれる視覚能力。例え高速で移動する相手でも4km以内の距離なら正確に狙撃できる。
staynight本編でアーチャーは数キロ先の鉄橋脇の歩道、そのタイルを目視して数を数えられると豪語していたが、事実その通りの様である。
【スキル】
○魔術 C-
基礎的な魔術を一通り修得している。
○心眼(真) B
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す。
○投影魔術 A
イミテーション・エア。
道具をイメージで数分だけ複製する魔術。
干将・莫耶もこのスキルで生み出した複製品、投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。
この何度でも複製できる、と言うスキルの特性からアーチャーは投影した宝具を使い捨てる形で矢として放ち魔力を暴走、自壊させる事で対象を爆発に巻き込むと言う技を持つ。(
【宝具】
???????????????
アーチャーの有する唯一彼自身が持つ宝具。
魔術の一種であり、彼自身の象徴。
彼が扱う古今東西様々な宝具はこの宝具より零れ落ちる雫の様な物である。
現実に生きていたなら封印指定間違いなしの大禁呪。
【投影宝具】
*アーチャーの真なる宝具の効果により生み出される複製宝具群。
複製宝具は真打と比べて1ランク下がる。
但し、改良を加えたものに関してはその限りではない。
○
ランク:不明(凛の見立てではA)
捻れた刀身を持つ片手剣。
偽、の名が示す様に本来の形とは異なり、アーチャーによる改変が成された人造宝具。
彼は幾度でもコレを取り出せる様で、弓に矢として番え、放つ。
彼が使い捨てる宝具の中でも高威力の逸品で、空間を捻じ切りながら突き進み、
本来の姿は虹の様な剣光を螺旋状に伸ばし、纏う異形の大剣。
虹霓剣、螺旋虹霓剣とも呼ばれ、ケルトは赤枝騎士団の英雄フェルグス・マック・ロイの所有する魔剣である。
その威力は絶大で、「振り抜いたその剣光によって丘を三つに切り裂いた」と言う逸話が伝えられている。
また、本来のカラド・ボルグは彼の有名なアーサー王と円卓の騎士に登場する太陽の騎士ガウェインが持つ神造兵装、
偽・螺旋剣のランクは不明だが、staynight本編にてバーサーカーのランクB以下の攻撃を無効化する効果を持つ
○
ランク:B
種別:魔剣/魔弾
北欧における英雄、ベオウルフが所持していた魔剣、魔弾として放てば射手が健在かつ狙い続ける限り、標的を襲い続ける効果を持つ。
今作では約4km先のビルから直感頼りに放たれたセイバーの一射九矢の連射に対抗して繰り出された。
驚異的な追尾能力と速度で三倍の数の矢を破壊し尽くしたが、更に追い討ちに放たれた九矢に貫かれて消えた。
『Fate/hollow ataraxia』においては冬木新都のセンタービルから冬木大橋へ、弓につがえて放ち、魔弾として使用した剣。
一度射出されると射手が健在な限り弾かれようとも標的を追尾し続けるため、作中では40秒かけてチャージして放たれた弾はセイバー(アルトリア)でさえその状況では射手を仕留めるしか対抗手段はなく、士郎は令呪を使用してセイバーをセンタービルへと跳躍させた。
矢を放ってからアーチャーがセイバーに致命傷を負わせられてしまうまでにかかったのが「2秒弱」とされ、その間にセンタービルから大橋までが約4キロの距離であり、そこにいる標的に到達して再び襲いかかろうする所までいっていたことと、小節の詠唱時間1秒との設定から、魔弾の速度は音速の6倍程になる。
本来の姿は一対二本の諸刃の剣を鎖で繋いだものだが、剣として使用した場合の能力はエミヤ、本来の持ち主であるベオウルフの場合も共に描写されていない。
○
ランク:不明(B+の投擲武器をほぼ防ぐ)
種別:結界宝具
ギリシャの英雄アイアスの盾。
アーチャーが唯一得意とする防御用装備。彼の用いる投影の中でも最高の防御力を持つ。投擲武器や、使い手から離れた武器に対して無敵という概念を持つ概念武装。光で出来た七枚の花弁が展開し、一枚一枚が古の城壁と同等の防御力を持つ。また花弁に魔力を注ぎ込むことによって防御力の底上げもできる模様。
**********
九狼「わー、流石SNの主人公格…中々にオーバースペックですね」
紅茶「いや、私は基礎能力が低いのでね、スキルや宝具を使い分けてようやく他の強豪と並べると言ったところだ。」
虎「器用貧乏とも言う。」
紅茶「ぬぐ、何気に失礼だな貴女は…」
ブルマ「ふーん、しかし本当に貴方何者?」
九狼「ああ、イリヤちゃんは本編参加者だからそのあたり知らないんだねえ…」
虎「ーーなんか、誰かに似てるんだよね。」
ブルマ「ん?どゆこと??」
九狼「まあ、大半の読者の皆さんは知っている事実だけど…まあ、一応黙っておきますね。」
紅茶「ーー助かる。」
虎「ーーあれ?もしかして貴方って…」
九狼「ハイ、では今回はこの辺で!」
紅茶「うむ!さらばだ!」
虎「え、ちょっ勝手に締めるな!?」
マシュ「シーユーアゲーン、です!」
連投失礼致します。
貴方の、貴女の愉悦部、ギルス、、、デス!(ペテさんお帰りください)
と、言うわけで某所では別々に投稿しましたし、こちらではmaterial①は後書きに付随して書いていましたが、ボリュームもあったのでこうして②と③を纏めて掲載致しました。
ちょいとした寸劇もほぼそのまま再録しています。
次回、第17話では更に場をかき回す英霊が登場しますーー。
お楽しみに!
ではでは、しーゆー!!
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第17話『雷霆』
狂気の月は昇り、戦局は混迷を極めてゆく。
果たして、争いは誰が為か。
新アーチャー、参戦。
☆【現在判明している正史との相違点。 】
◆ 主人公は最近影薄いけどぐだ子(朔弥)。
◇ ぐだ子(朔弥)がオルタニキを召喚。
◆ 衛宮士郎が実戦レベルの魔術を使える。
◇ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◆ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◇ ランサーが近代中国の英霊。
◆ 一部鯖にカルデアの記憶が…?
◇ 聖杯により(?)
◆ 更に7騎の英霊が追加召喚される。
◇ 間桐慎二と英雄王が組まない。
◆ 慎二の第二鯖はフランシス・ドレイク。
◇ ドレイクは月の聖杯戦争の記憶がある。
◆ バゼットの鯖はフィン・マックール。
◇ 大聖杯の存在する大空洞内に謎の結晶。
また、ぐだ子はカルデアでの事は覚えていませんし、そもそも並行世界の同一存在です。
しかし、同じ人間ではありますから…何かはある、かもしれません?
と、言っていましたが段々それも怪しくなってまいりました、果たして…真実は?
ぐだ男は………。
「ーー慎二、あれはマズイ…気づかれる前に逃げるよ。」
「おいおい、あれだけ自信満々だった癖に何言ってんだよお前…」
「ーーそうじゃない、格が違いすぎるんだよ…あれは最早サーヴァントであってサーヴァントですら無い…神霊クラスの化け物だ。」
目の前に立つのは二人の巨人。
その傍らにはそれぞれ愛らしい少女が見えた。
方や、灰褐色の肌に癖の強い髪を撫でつけ、束ねた巨人と美しい銀の髪に紅眼を持つ美少女。
慎二にすればライダー(メドゥーサ)の仇。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとセイバーのサーヴァントだ。
方や、紫がかった薄桃色のショートカットにオーバルフレームの眼鏡に白衣と黒いシャツ、ネクタイと養護教諭ーー所謂保健室の先生の様な服装の女性。
その前に立つのは、豪胆な表情、やたら立派な髭を生やした初老の男性。
その体躯はゆうに190cmはあるだろうか。
灰褐色の巨人ーーセイバーと比べれば低いものの肉体の厚みはセイバー以上。
重厚な黒い鎧に身を包み、両腕を組んだままにあのセイバーをーー格下を見る様にして睥睨している。
「ーー久しいな…一応はセイバーと呼んでおこうかのぅ?」
「ーー何故貴方が…貴方ほどの方がサーヴァントとして召喚に応じただと…、冗談では無い、イレギュラーにも程がある…!!」
「ーーセイバー、何なのアイツ…失礼極まりない奴だけど…とんでもない魔力を感じる…それこそ、サーヴァントなら7騎全てを束ねても及ばない位のーー」
「ーー力だけは有り余るが、中身は唯の好色家だ…イリヤ、決して奴に近づいてはならん、孕まされるぞ。」
「ーーは、はらっ…なっ!?」
生真面目なセイバーがなんともとんでもない発言をした事と内容に狼狽え、赤面するイリヤスフィール。
「ーーアインツベルン、でよろしいのですよね…私としては早く決着をつけてしまいたいんです…正直聖杯戦争を早期に決着させる為とは言え…この様な方と絶えず一緒にいるのは耐え難い苦痛ですので…大人しく脱落して貰えませんか?」
「ーー貴女、私とセイバーを舐めてる?」
イリヤの表情が苛立ちを含んだモノから、鋭く殺意の込められたモノに変わった。
「ーーセイバー、勝てるわよね?」
「主命とあらば、如何なるものであれ打倒して見せよう。」
セイバーがその手に、ライダーを引き裂いた炎剣を顕現させる。
「ーープライド、ですか…プライドで死んでは余りに割が合わないのではありませんか?」
「左様、確かにワシに勝てるとすればーーお前と…後は古代ウルクの王くらいか、だがそれとて極小の可能性に過ぎまい?」
髭を撫でながらさも当然だとばかりに言い放ち、ようやくの事で構えをとる男。
しかし、その手には何も無い、無手だ。
「ーーアーチャー、こうなっては仕方ありません、やりますよ?」
「承知した、褒美はそなたの胸を一晩貸し切りにしてくれればそれで良いぞ?」
「…いい加減に本気で怒りますよ?」
翳した彼女の手の甲には令呪。
青い、雷を模した形の刺青にも似た令呪が見えた。
いい加減にしないと令呪で命じるぞ、と言う脅しだろうか。
「ふぁっ、はっははは、良い良いそれでこそ落とし甲斐がある!」
あっさり拒否されるが、へこたれもせず豪快に笑うアーチャー。
「待たせたな、では旧交を温め合うとしようか、セイバーッ!!」
バッ、と広げた両腕から、掌にかけて青白い光が迸る。
「ーー雷霆よ、穿て!!」
それは、雷光だった。
一瞬にしてセイバーへと到達した稲妻。
それはセイバーの対魔力により半ばが弾かれるが…残り半分はそれを貫きセイバーへと届く。
「ぬぐっ、相変わらずの威力…分霊としての現界でコレか!」
「どうしたセイバー、友が打った剣が泣くぞ!」
更に追い討ちをかけるかの様な轟雷がセイバーに迫る。
「抜かせっその母のーー己が妻の蛮行を野放しにした貴方にだけは言われたくないわっ!!」
「ハ、アレの思考は異常であるからなっ…我が子ながらヘパイストスは哀れであったわ!」
「ーー己が妻の手綱を握っておれば、そもそもあちこちの女に貴方がうつつを抜かしておらねば良かっただけの話であろうが!」
怒気を孕んだ剣閃が雷を払う。
その刃の煌めきは一瞬にして9つの斬撃を生じさせ、雷と相殺した3つを除く6つの煌めきがアーチャーを襲う。
「くわははは、効かぬなあ!」
アーチャーが胸を逸らすような動作をしただけで、黒い鎧から溢れた闇が斬撃を霧散させる。
「ーーっ…」
知らず、唾を飲み込む音がした。
余りに苛烈なその一撃、それがまるで前戯に過ぎないのがアーチャーの、セイバーの表情からわかるからだ。
《ーーなんなんだありゃあ…おかしいだろう、あいつらどっちも!》
流石に声には出さず、念話でライダーに怒鳴る。
《だから言っただろ…ありゃ化け物だよ、できれば相討ちしてくれれば一番良いんだが…そうはいきそうにないね。》
何故自分達はこんな風にコソコソと覗き見をしているのか。
それは少しだけ時間を遡るーー
************ーー…
「ーーライダー…お前さあ…なんで絡みついてくるわけ?」
街中を歩いて、標的を探そうかとしていた慎二に、ライダーは何故か腕を絡め、ぴったりと寄り添い、歩いていた。
慎二の顔は少しだけ赤い。
美女に腕を絡められているのは悪くないが…今はそんな気分にはなれない。
ただ、相手を探すだけなら簡単だ。
衛宮の家へ行けばいい、そこにはあのいけ好かないバーサーカーが居るだろう。
しかし、今の自分の怨敵はセイバーだ。
ライダーを…メドゥーサを斬り裂き、焼き殺したあのサーヴァントを。
「いいじゃないか、張り詰め過ぎても良い事なんかないよ?少しはあんたも余裕を持ちなよ…と、ありゃあなんだい?」
ドレイクが指差したのは新都の大通りに面したフードコートにある幾つかの軽食屋台の一つだった。
「あ?ジャガペだろ…新ジャガーー芋を丸ごと素揚げして胡椒をまぶしただけの貧乏くさい料理じゃないか…何、食いたいわけ?」
「こ、胡椒っ?とんでもない贅沢じゃないか…何処が貧乏くさいものか!」
ーーああ、そう言えば彼女が生きていた時代には胡椒は金と同等の価値があったんだったか。
「はふ、はふ、ほっふ、ほふっ!」
熱そうに、しかし心底嬉しそうに揚げたての、串に刺した芋を頬張る。
大粒の黒胡椒が美味いのか目の端には涙が泛かんでいた。
「そんなに美味いか?」
差し向かいにフードコートに座り、何本もの串を頬張るライダー。
ジャガイモとジャガイモの間にはベーコンが挟まれていて、 肉汁が溢れ、艶めかしい唇に脂がツヤを出していて…彼女の顔を見るに心底美味そうである。
「美味いさ!新鮮な野菜、肉汁溢れるベーコン…惜しみない香辛料…ああ、楽園はここにあったのか…。」
「は、大げさな。」
いつの間にかライダー、フランシス・ドレイクのペースに巻き込まれ、いつしか慎二も笑っていた。
「おや、笑ったね?」
手についた胡椒と脂をペロリと舐め、視線を向けてくる。
「ーーな、なんだよ悪いか?」
「いいや、大いに結構だね、えらいえらい。」
と、いきなり慎二の頭を撫で回すライダー。
「ちょ、やめろ馬鹿!」
少々照れながら、悪態を吐く慎二を更に嬉しそうに撫で回し、ヘッドロックする。
「いいじゃないか、減るもんじゃないだろう、ウリウリ!」
いつの間にか撫で回していた手はグーになり、頭をグリグリと攻めたてている。
「ちょ、痛、いたたたたっ!?」
そうこうしていると、周りの人の視線が段々集まり始める。
野性味あふれる美女と、黙っていさえすればそこそこ顔もいい少年。
周りからはどう映るのか。
「ーーば、目立つからやめろ、恥ずかしい!」
「あはは、初心だねぇ…ん?」
「なんだよ?」
笑顔が一転、厳しい顔つきになって一点を凝視する。
「慎二ーーちょっと来な。」
と、いきなり首根っこをつかまれて引きずられる。
「ーーは?何を、おい!?」
*******************
ズルズルと引きずられた先で、物陰に身を潜める二人。
ライダーの視線の先には、一人の女性。
薄桃色の髪に、憂いを帯びた表情。
年の頃は20代半ばか、前半。
オーバルフレームのーー横長の眼鏡をかけ、手元の文庫本に視線を落としている。
赤いネクタイに白衣を羽織った格好はどこかアンバランスではあるが…なぜかそれが似合うと言うか、不思議な魅力を持っている。
ーー大人びてる癖にあどけない表情。
ライダーも美女と言えるが、その女の子はまた、違う。
「…生きて、生き延びていたとはね…此処で出会うのも因果って奴か…。」
「知り合いか?」
「ーーああ、あちらは私を覚えているか怪しいけどね…。」
少し悲しそうな顔で答えるライダー。
「らしくない顔しやがって…調子狂うんだよな、全く…」
「は、慎二の癖に生意気な。」
「で?どうするんだよ?」
「尾行、しとこうか…まずは情報だ。」
こうして僕らは、その女性を尾行する事にしたのだーーあんな化け物に出くわすとは思いも、せずに。
************
「ーーはあ、遅いですよアーチャー。」
待ちくたびれたとばかりに溜息を吐く。
(ふははは、まあ良かろうて…
このサーヴァント、事もあろうに街中で女性をナンパした挙句ホテルへしけこんでいたのだ。
一般人と性行為に及んだ程度で大した魔力にはならないだろうに、大体サーヴァントが子種を残すとか多分不可能だと思うが…確信は無いが…できるのか?
(いやしかし、最近の世の中は便利じゃの、あの様な趣向を凝らしたまぐわいの場があるのだから…らぶ、ほ…とか言ったか。)
「ーーこのセクハラゴッド…何故でしょう、なんだか今凄くイライラします…」
(なんじゃ、生理か?)
「ーー違います…殴りますよ?…兎に角行きましょう…先方が指定してきた場所に行かなければ。」
こめかみを押さえてイライラしながら立ち上がり、文庫本を閉じる。
そのまま文庫本を近くの屑篭に投げ入れると、足早に歩を進める。
(ふん、敵なぞ待たせて苛立たせておけば良いモノを…律儀な事だな。)
アーチャーの呟きは、誰に聞かれる事もなく。
彼らと、尾行する慎二とライダーは新都の外れへと向かうのだった。
**********
時は更に遡る。
慎二達が女性を尾行するもう少し前。
新都外れの廃区画のスポーツセンター周辺。
「ランサー、追いますよ!」
「委細承知!」
隙を突き、壁際に追い詰めたバーサーカー。
しかしトドメを刺そうと近寄った所で思わぬ事態が起こる。
窓から差し込んだ夕日が偶然にも反射し、一瞬だけ視界を奪われた。
その一瞬、一瞬で十分だったのだろう。
相手はひび割れた壁を蹴り砕き、外へと逃げ出したのだ。
「逃がさんよ!」
再び水の魔針がバーサーカーに殺到するも、今度は素早く横に飛んで躱された。
「おのれ、ちょこまかと…!」
こうも距離を置かれてはランサーもバゼットも攻撃手段が乏しい。
夕暮れに染まり、薄暗くなり始めた人のいない廃墟の街並みの屋根を飛び回り、追走劇は続いた。
やがて再開発が遅れている廃区画から出て、新都の外れへと場が移る。
そこはかつての聖杯降臨の場ーー10年前の惨劇の中心、未だ犠牲者の怨念が色濃く漂う場所。
冬木中央公園の只中であった。
そこに漂う空気、マナ、全てが異常なこの場所で。
バゼットとランサーは着地と同時に顔を顰める。
「これはっ…前回の聖杯降臨の地と聞いていましたが…マナが濃いとかそんな話で済むレベルではーー」
「躱せ、マスター!!」
目の前のバーサーカーとは明らかに異なる方向からの遠距離攻撃。
「むっ、何奴!?」
慌ててとびのいた先には、一人の男。
その手には、銃。
肉体強化を施していなければ反応できないタイミングだっただろう。
「参ったね…まさか躱されるとは…」
黒いコートを羽織り、目深にフードを被った男は呟く。
顔はいまいち、逆光で確認できない。
薄暗くなり始めた空に、街灯の光。
明らかにそれら視界を覆うタイミングも計算しつくしての狙撃。
しかし男の誤算はバゼットの身体能力を見誤っていた事だろう。
「封印指定執行者ーーこれほどとはね。」
く、っと皮肉気な自嘲の声、次いで紡がれた言葉は命令だった。
「バーサーカー、宝具の開帳を認めるーーお前の護る国の為だ、放て。」
「ーー貴様がこいつのマスターか…!!」
「ーーアー、ローマ、ローマに…映えあれ…ローマに仇なす者、脅かす者を捕らえよーー月よ、蒼き輝きよーー!」
今までろくに言葉を発しなかったバーサーカーが発した言葉は。
「…あぁあっぎぃいぃいっ!!?」
叫び、天を仰ぐ瞳が恍惚と開かれる。
「女神よ……おお……女神が見える……!」
結局は意味不明な言葉。
だが。
その言葉とともに天が翳った。
夕闇が更に暗闇を増し、天空に星が現れる。
そして、中天に輝くのは月。
ここ数日の赤い輝きでは無い、狂おしい程に美しい蒼き輝き。
「ーーさせるか…っマスター、放つぞ!?」
「ーーやむを得ません、許可します!」
ランサーの周りにも魔力が渦巻き、水が踊るように流れ出る。
『
『
天から光が降り注ぎ、ランサーの槍に集まった水は形を成しーー
『
『
そう、水は形を成しーー、崩れた。
「な、何いっ!?」
光が溢れ、更に視界が塞がれる。
「ーーくっ!?」
身体から力が抜ける。
「ーー馬鹿な…私の切り札まで効果をなさないーー?」
バゼットもまた、呆然と拳に「何か」を握りしめて呟く。
バーサーカーと、男の気配は既に無くなっていた。
**************
慎二とライダーは先ほどから物陰に潜み、ひたすら息を殺していた。
元来魔力の無い慎二と、魔力を抑え、半霊体化したライダー。
派手な行動や物音さえ立てなければ気づかれはしない。
そんな中で、彼らは冒頭の状況に出くわした。
二人の少女と、二騎のサーヴァント。
睨みあう両陣営。
「ーー貴方達…果たし状じみた呼び出しをしておいて随分と時間にルーズな事ね?」
手にした紙切れ…今朝のうちに大鷲の足に括り付けて届けられた鳥文をヒラヒラ揺らし、苛立ちを隠そうともしない銀髪の少女…イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
「此方のサーヴァントがどうにも我儘で…どうにかして貰えたら助かるのだけれど。」
それに対して不遜なほどの態度で、冷めた口調で返す女。
「何じゃ、マスターが相手をしてくれるならばあの様な真似をせんでも良いのじゃぞ?」
「ーー絶、対、に、い、や、で、す !」
何か凄く嫌そうだった。
主従関係が上手くいってないのだろうか。
「巫山戯ているなら帰るわよ?」
イリヤスフィールは更に苛立ちながら問う。
「ーー失礼、要件は二つ…同盟を組まないかという話と…」
「同盟?この文面で?やっぱり巫山戯てるの?」
投げ渡された文は器用にイリヤスフィールから、女の手に収まる。
何らかの魔術かもしれない。
「なになに…はいけい、旧交暖まる再開を期待している…ついては貴様のマスター共々軍門に降れ…何、悪いようにはしない聖杯とやらも望むならくれて、や、るーー?」
文を読み進めるに従い、眼鏡の女マスターの表情が怒りに染まってゆく。
「ーーアーチャー…貴方言ったわよね…セイバーは親交があった英霊だから、説得のために文を書く、って?」
「おうよ、どうだなかなかきちんとへり下る文面であろう、相手にもきちんとメリットを説明してーーー」
「貴方はお馬鹿さんですか!差出人の名前も無く、この内容で誰が話を聞くものですかっ、ここに来ただけ奇跡みたいなものじゃないですか!?」
髭面の大男の胸ぐらーーマントの端を掴みあげて怒鳴る姿は失礼だがちょっと可愛らしい。
涙目で怒るあたり結構苦労人なのかも。
「ーーまあ、そう怒るな駄目なら一度叩きのめしてから従わせたらよかろう?」
「ーー文面でなんとなく嫌な予感はしていたのだ…しかしまさか…」
セイバーが、ひたすら嫌そうな顔で返す。
ライダーは焦りを覚えていた。
尾行してきたは良いが、目の前の二人は明らかに自分一人の手には負えない。
聖杯の恩恵を受けた今ですらあの二騎のうちどちらか片方すら相手にするには難しいだろう。
自らの内に残った聖杯の残滓が、二騎のサーヴァント、セイバーとアーチャーの強さを肌が泡立つほどに伝えてくる。
このままでは気づかれずに離脱するのさえ難しい。
「ーー久しいな…一応はセイバーと呼んでおこうかのぅ?」
「ーー何故貴方が…貴方ほどの方がサーヴァントとして召喚に応じただと…、冗談では無い、イレギュラーにも程がある…!!」
そうこう考える内に、二騎の争いが始まってしまった。
轟雷が、斬撃が、破壊の嵐が吹き荒れて公園の枯れかけた樹々をなぎ倒していく。
まさに神話の体現の如き争いの前に、身動きが取れない。
だが、救いは思わぬ所からもたらされた。
ーー空だ。
「ーーぬっ、う!?」
「ぐ!?」
先ほどからの激しさが嘘の様に、唐突に動きを止めたニ騎。
一瞬にして空が翳りーーあたり一面に蒼い輝きが降り注ぐ。
「ーーなんだ、月が、蒼く…?」
「今だ…逃げるよ慎二!」
セイバーも、アーチャーも。
身体の力ーー魔力を掻き乱すこの光に晒され、動きを止めた。
ライダーにも当然不調はあったが…そこは火事場のなんとやらだ。
「ぐえっ!?」
首をつかまれ、息が詰まって妙な声を出した慎二を連れて全力で離脱する。
「ーーなんじゃ…月の力…だと?」
アーチャーは呟く。
「力を掻き乱されるーー不快な光だ。」
セイバーも顔を顰め。
「ふん、卿が冷めたわーー改めてまた会おうぞ。」
雷が地面を叩いたかと思えば。
其処には二頭の神牛に引かれた古風な戦車が顕現していた。
「ーーそれは…真逆、
「ほう、なかなか博識だな?」
「第四次ーー前回の聖杯戦争のライダー…イスカンダルが使っていた宝具…貴方は、征服王なの?」
「ふ、あの様な盗人と一緒にするでないわ、本来ならばコレはわしに捧げられた供物故にな」
「ーーまさか、まさか?」
「ーーああ、イリヤ…アレはその真逆ーーギリシャの大神…雷の神、主神…ゼウスだ。」
稲光りが轟き、視界を覆う。
月夜も雲に覆われーー大粒の雨が地を、樹々をーー強かに打ちすえる音が、響きわたった。
【後書き的なもの】
はい皆様こんにちは、こんばんは、おはようございます。
貴方の心の変人、ギルスです。
朔弥「ーー変人で良いの…?」
ライダー(以下作者)「いやあ、先日ね、聖杯戦争にまきこまれったーとやらをしてみたら…オルタニキを召喚できるけど、魔術の腕はなんで生きてるのレベルで、貴方のマネーパワーで勝ち残りましょうとか言われた…課金かよ。」
作者「ーーだからもう、なんでもいいです…シクシク(T ^ T)」
朔弥「ーーとりあえずさ、私達この数回出番無しなんだけど…私の復帰後の活躍ぶりは!?」
作者「ーー天啓が降りてきた、もうとんでもない鯖出そうって降りて来た。」
朔弥「ーー某所のアンケートとかで、なんも要望がないからってもうヤケクソ気味に風呂敷広げるのよそうよ!たためなくなるから!?」
作者「はっはっはっ、もう広げちゃったもんねー!」
朔弥「だめだこいつ、なんかアンデルセン達と似た匂いがする…早くなんとかしないと…」
と、言うわけで今回はとんでもない人が降臨しちゃいました。
まあ、ネタを探しても探しても相応しい鯖が見つからなくてとうとうオリジナルに走りました、神霊は呼べないとか縛りはあるはずですが、今回は既に聖杯が複数あったりイレギュラーバリバリです。
さあ、まさかのゼウスを従える女性は一体何者か!
セイバーの真名はいい加減出して良いんじゃないか!?
バーサーカーも宝具開帳したしもろバレだよローマ!ネロも居ないのにローマ伯父!
後黒コートは一体誰ですか!?←
ますます入り乱れて参りました。
Fate/alternativeーー最後までお付き合い願えれば幸いです。
それでは、また次回更新で!!
シーユーアゲーン!!
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Fate/alternative material ④
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、今回は本編では無くサーヴァント達のデータ集、及び解説となっています。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
ぐだ子「出番よこせ…」
ブルマ「は!お色気担当のお姉ちゃんがやさぐれている…!」
ぐだ子「お色気言うな!?」
虎「出番…私なんかほとんど無いから最近このデータ集でしか喋ってないんだけど!?」
ブルマ「しかも話の根幹にはまず関われないって言うね、もうね(笑)」
虎「わ、私をタイガーと呼ぶなああああ!?」
ぐだ子・ブルマ「「呼んでないし!?」」
白衣の女性「ーーはい、とりあえず解説にうつりますね。」
虎・ブル・ぐだ子「「「誰だ(よ)っ!?」」」
白衣「ーーさて、どうにも混迷を極めてきた本編ですが。」
虎「さらっとスルーしやがった…」
白衣「まず、本来ならあり得ない現象が幾つか起こっています。」
ブルマ「どんな?」
白衣「これは確認に過ぎませんが…エクストラクラスの二人を合わせて16騎ものサーヴァントが召喚、それらが前半に召喚されたサーヴァントの令呪は赤、後半に召喚されたサーヴァントの令呪は青の令呪に分かれている事。」
ブルマ「本当だ、貴女は青のーー私のは赤いのね(脱ぎゃっ)」
士郎「ちょ、イリヤ!お腹出しちゃだめ!なんていうか目の毒ーー」
ぐだ/虎/桜「「「じとーーー」」」
士郎「な、なんでさっ!?」
白衣「…それから(無視)、貴女…イリヤスフィールさん、貴女は本来ならば聖杯の器ーー小聖杯として調整されたホムンクルスであるが故に身体は成長しない筈でした。」
ブルマ「ふふふ、確かに今回の私はお兄ちゃんやその他のファンの方々の為、こんなにおっきくなりました!(胸を反らす)」
虎「ーー貴女達なんで揃いも揃って…(自分と見比べて)って言うか今回は大人バージョンにブルマなんだ…犯罪臭しかしない…本当になんで…(もう一度見比べて)」
髭の人「ふぁははは!そりゃあワシにもまr」
白衣「黙れセクハラゴッド!!」
髭「ぶべらっ!?」
虎「うわあ…なんか丸くてごつい鈍器で…」
ブルマ「凄く…大きいです…(物理)」
白衣「うちの駄サーヴァントが大変失礼しました…(血糊フキフキ)」
ぐだ子「美少女マスターは見た!ドキッ血痕だらけの最高神!原因はセクハラ!?ーー提供は信頼と安心のアーネンエルベでお送りします?」
虎「いや、どこの深夜番組よ…あと若干市原悦子混じってるから。」
髭「ワシ、最高神なんじゃけど…扱い酷くね?」
紅茶「ーー神か、神ね…仕置きをするのは構わないが…別に、うっかり殺してしまってもかまわんのだろう?(満面の笑み)」
ぐだ子「ちょ、紅茶さん落ち着いて!なんか神殺しの武器を並べないで!?」
紅茶「ーー凛に手出ししたら殺す、座に戻る前に108回殺す。」
髭「あ?ワシ貧乳にはーー」
紅茶「アンリミテッドブレイドワー」
ぐだ子「まてまてまって、本編でもまだ出してない宝具をこんな舞台裏で使わないで!?」
虎「ぎゃーー!?刃物!刃物ぉ?大量の長物やヤッパがぁ!?」
*ヤッパ=893用語、主に短刀を意味する。
ブルマ「師匠…やはりそっちの人なんですね」
白衣「…とりあえず、アーチャーのデータを紹介します。」
ぐだ子「この子、ぶれないなあ…」
白衣(…これでも大分変わったんですけどね…)
ぐだ子「…ん?」
白衣「なんでもありません、ではここからはデータになります。」
******************
クラス:アーチャー
真名:ゼウス(ユピテル、ジュピターとも。)
出典:ギリシャ神話
地域:ギリシャ地方/オリュンポス
属性:混沌・中庸 性別:男性
イメージカラー:白
マスター:???
【外見・特徴】
ギリシャ神話におけるオリュンポス十二神の頂点に君臨する最高神であり、古代ローマ神話においてもジュピター(ユピテル)の名で最高神として崇められる。
また、ゼウスの語源は天の主、などを意味し、キリスト教において神を讃える「デウス」と同じくした意味を持つ。(ただし存在としては別であり、同一視はされていない。)
今作における外見は立派な髭を生やした、外見的にわかりやすく言えばイケメン仕様のドワーフみたいな顔立ち、もっと言えばイスカンダルをもう少し老けさせて髭を伸ばしたイメージ。彫りは深く、彫刻の様な厳つくも美しい顔立ちをしており、その体躯もまた巨大で190cmを優に超える。
当時の古代ギリシャ人男性の平均身長が165cm程であったと言われており、比べてみてもその大きさが伺える。
数多くの宝具を持つ彼だが、今回は重武装した姿ーー漆黒のフルプレートメイル「
他にも純白の軽装鎧「
性格は極めて破天荒で且つ、好色。
これは一説には現世の危機に際し活躍する英雄を世に送り出すためであるとされる
ギリシャ神話の神はやたらに自由で好色な者が多いがゼウスはその中でもあまりに色事にまつわる話が多い、これは後世の人間が我こそは神の系譜に連なる者である、と自称し倒した結果であり…ある意味ではゼウスは被害者かもしれない、浮気をするたびに妻であるヘラにとんでもないヤキモチを焼かれ、その被害は主に浮気相手に向けられる理不尽ぶり。
相手は騙されたり化かされたケースが殆どで、実際悪いのはゼウス以外に無い。
嫉妬に狂った者程恐ろしい存在は居ないと言う事か…現代に至るまでヘラの名前は所謂「メンヘラ」に現れている様にすら思えてくる。
ーー実際には「メンタルヘルス(精神疾患)」がネット上のスラングとしてメンヘラに変容した、というのが真実だが。
だが、人が信じればそれが形を成すのが神という概念存在であり、結果としてゼウスはあらゆる邪悪を打ち砕く雷を操り、万能の力を持つが妻と美女には滅法弱い恐妻家と言う情けなくもどこか人間臭い最高神の姿となったのである。
【能力値】
筋力:B
耐久:B
敏捷:C
魔力:EX
幸運:A
【クラススキル】
○対魔力 EX
魔術への耐性。神代の魔術すら無効化し、魔法ですらその効果を半減させる規格外の耐性。
事実上この世のいかなる魔術を用いようと彼を害することは不可能である。
○単独行動 B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても2日は現界可能。
【固有スキル】
○天空神の眼 EX
「神の視点」とも呼ばれる視覚能力。所謂本来の意味での千里眼であり、距離に関係なく結界などの魔力的な妨害が無い限りいかなる場所をも見透す力。
この力故にアーチャーのクラススキル、 千里眼はオミットされている。
ただし、見えすぎるが故に遠距離を精密射撃するのには不向きな能力であり、大雑把な位置に強力な一撃を叩き込むのにしか使えない。
アーチャー自身、この視界を用いて精密射撃をしたことすら無いため。(主に美しい女性を覗く為に用いる下衆っぷりである。)
つまりは狙撃手としては使いこなせていない。
○魔力放出【雷】EX
魔力を体外に雷として放出するスキル。
武具や拳に纏わせて威力を底上げしたり、電磁パルスを放射して精密機器を狂わせたりできる、またアーチャーに至ってはその膨大な魔力により磁界を操り、その先に存在する現象を操る事も可能。
ただの石ころも魔力でコーティング(そのまま飛ばしても摩擦で石が消滅する為)する事で所謂レールガンの原理で発射し、サーヴァントにすら致命傷を与えかねない凶悪な礫と化す。
○西洋魔術/ギリシャ文明圏 A
西洋、主にギリシャ文明圏におけるあらゆる種類の魔術を極めた証。
思想、体系の違う天使・悪魔召喚などは含まれない、ただし本人に深く学ぶ気が無かった為かA止まりである。
時代的に後に自身が別名で崇め奉られる事となるローマ帝国の台頭以降のものは習得していないが、あくまでも神秘とは薄れゆくものである為に派生した一部技術を除けば無いに等しく、初見の魔術もほぼ見ただけで魔術式を理解してしまう。
もしも本気で学ぶことを良しとすればEXでもおかしくは無い。
○神性 EX
誰あろう彼自身が大神そのものの分霊である為、規格外のランクを持つ。
邪悪に対して常に有利に、また相手が邪悪であればあるほど威圧効果を発揮する。
MND(精神)判定に成功しなければ行動判定全てにペナルティを与える。
また、宝具(真名解放)以外の攻撃全てに強力な追加ダメージ効果を付与する。
【宝具】
○「
ランク:EX
種別:対人〜対界宝具
最大補足:測定不能
レンジ:0〜∞
ゼウスが巨人族との戦、ティタノマキアで救った鍛冶神キュクロプスからその礼に献上された雷そのものを具象化した神造兵器。
その威力は凄まじく、ゼウスが本来の力を持って振るえば一撃で大地を全て融解させ、全宇宙を灼き尽す事すら出来る程で、多くの神々もこの力の前に敗れ去っている。
流石にサーヴァントとしての現界である為そのままの威力では無いがそれでも最大出力ならば英雄王の乖離剣と真っ向から撃ち合える程の威力を持つ。
真名解放前でもはた迷惑な程に強大な電磁操作能力を有し、磁界や電流を自在に操れる。
低出力で放つのは作中、セイバーに向けて放っていた真名未解放の雷撃である。
また、魔力放出【雷】のスキルもこの宝具の恩恵である。
○「
ランク:B+
種別:対人宝具(防具)
最大補足:範囲内の全ての知的生物
レンジ:0〜500m
漆黒の
FGO的に言えば敵全体に確立でスタンを付与するスキルを備えている。
また、黒い霧の様なオーラによる自立防御機能も備えておりB以下の攻撃は全てシャットアウトしそれ以上でも一定値までのダメージをカットし、それが魔力を含む一撃であるなら対魔力も相まって殆ど攻撃としての意味をなさない、欠点は異様に重く、敏捷を1ランク下げてしまう事。
○「
ランク:B+
種別:対人宝具(防具)
最大補足:範囲内全て
レンジ:0〜50m
純白の軽鎧で、眩いばかりの光輝を纏う。
輝きは電光であり、人間が近づけば灰になる
程の高電圧の雷撃を常に放出している。
厄介な事にこの効果は装備者の意思では出力を上げる事はできても完全に止めることはできず、浮気相手の元に行くにはこの鎧をつけていかねば行けない制約を受けたゼウスが浮気相手の元へと降臨した結果、哀れ女は灰になってしまったと言う逸話が残っている。
…因みにやはり妻、ヘラによる謀略である。
「
○「
ランク:C
種別:対人宝具(変身能力)
最大補足:1人(自分自身のみ)
レンジ:ーー
神話においてゼウスが様々な人物、動物、無機物や黄金の雨に化けた逸話が昇華した宝具。
ゼウスは老若男女、全てに変化出来たが、更には無生物にすら変化し、様々な女性を口説いたり、襲う際に用いたとされる変身能力。
そこに限界は無く、思い描き、集中するだけで望んだ物や者に変化できる。
また、いかなる姿をとろうともその力は変わらず、変身前に装備した鎧などの装着型宝具の効果をそのまま引き継ぐ。
つまりは、「
****************
ぐだ子「なんか…もう、本当なんか…」
ブルマ「ゼウス最低だ…」
紅茶「これ程の宝具を…ただひたすらナンパや覗きや強姦に用いた等…これだからギリシャは…!」
白衣「エロ神死すべし!」
虎「奥さん怖ぇ…」
アーチャー「あんまりじゃあ、あんまりじゃあ…ワシだって好きでこんな人生歩んできたわけじゃないやい!」
*ゼウスが好色なのは後世の人間が皆が皆私こそゼウスの血脈だと言い出したからです。
多分最初から好色な神様ではなかった、なかったはず…。
士郎「ーーなんだか収集がついてないな…。」
白衣「代わりに進めておきましょうか?」
桜「そうですね、とりあえず浮気は死刑だと思います♡」
士郎「ひ!?桜の影からなんか伸びてる!?」
白衣「ーーこれ、まさか…」
士郎「あ、騒いでたサーヴァント全員とついでみたいに何故か藤姉が縛り上げられた挙句全力で投擲された…」
黒化桜「ーーお星様になあれっ♡」
白衣「ーーさて、その他の相違点ですがーー」
ぐだ子「話始めるの!?」
白衣「まず、先ほど上げたイリヤスフィールの成長、そして7騎以上のサーヴァント召喚、そしてーー神霊たるゼウスの召喚。」
桜「なるほど…確かに本来の聖杯戦争の枠を遥かに超えた事態になっていますねえ…」
白衣「はい、本来冬木の聖杯によって呼べるのは、東洋を除く「英霊」であり、「神霊」は如何にランクが落ちようとも召喚されるはずが無いんです。」
士郎「神様がそうぽんぽんと召喚できちまったら世界がとんでも無いことになりそうだしなあ。」
白衣「はい、作中の私が何故神霊を型落ちとは言え召喚できたかに関してはいずれ理由が明かされるでしょう。」
桜「なるほど…そういえばお爺様が兄さんに…何かの欠片を渡しましたよね…あれも?」
白衣「ライダーを怪物へと変貌させたあの破片ですね、あれについては大方の読者様がZeroを知っていれば…いえ、むしろ貴女こそよく知っているんじゃありませんか、桜さん?」
桜「ーーなんの事でしょうか?私は一般人ですよ?か弱いか弱い、可愛らしい後輩です♡」
ぐだ子(この娘やっぱり黒い…腹黒い…)
白衣「そう、確認されただけでこの作中では聖杯が二つ。」
士郎「本来の大空洞に安置された大聖杯とーー慎二の新しいサーヴァント、青の令呪のライダーが持っていた…ホーリーグレイル・オブ・オケアノスとか呼ばれていたやつだな。」
白衣「はい、願望機としての機能は失われているーーとはつまり何者かが叶えた願いを現在進行形で叶え続けている、或いはその権能そのものが失われる事態があったか。」
ぐだ子「ーーあれ、確かうちのバーサーカーのデータの中に…
士郎「え、本当だガチで書いてある…はぁ?聖杯を5つぅ!?」
桜「つまり、都合7つの聖杯がすでにこの地に集っている訳ですね。」
白衣「はい、神霊が降臨した事、聖杯がこんな風にいくつも集まる事実…偶然なはずがありませんよね?」
士郎「どう考えても黒幕がいるよなあ…」
ぐだ子「でも影も形もないよね?」
士郎「そこなんだ、これまでこれだけ不可解な形になりながらそれらしい奴が誰もいない、全てが巻き込まれただけにしか見えなくて…」
ブルマ「いや、一番怪しいのは白衣のお姉ちゃんじゃないの?」
白衣「失礼な、私みたいに控えめな黒幕なんているはずが無いでしょう?」
ぐだ子「……随分アグレッシブな気がしますけど…なんか、変な違和感があるんですよね、貴女を見てると…なんだろう??」
オルニキ「……いずれわかる、いずれな。」
ぐだ子/士郎「え、何か知ってるのか!?」
オルニキ「ーーーー……さあな。」
ぐだ子/士郎「間!今の間ぁ!?」
白衣「ーー謎が増えただけかしら?」
ブルマ「ふふ、いいんじゃない?今はこれで。」
*という訳で、解説になったかどうか怪しい解説でした。
謎の鍵になりうる発言やなにやらがこのショートコント中に隠れています。
一種の伏線確認と言うか。
ではではみなさま、今回はこれにて閉幕。
新たな舞台でーー
お会いしましょう!?
しーゆー!!
【後書き的なもの】
はい、今作品屈指のチートキャラ、ゼウスさんのデータでした。
書いていてヤバイとしか思えないこのステータス…流石ギリシャの最高神。
次回本編で明らかになりますが、セイバーの正体ももうバレバレですね、はい。
そして話のストックが遂に尽きました。
故にこの速度での更新は以降は望めませんが、気長にお待ち頂けたら嬉しいです。
それではみなさま、また次回本編で!
しーゆー!
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第18話『歪み』
人は何故に抗い、希望を目指すのか?
「じゃあ何か…イルマ、お前が話に出ていた
「まあ、そういう事になるかの。」
「……ねぇ、何で私達を襲ったの?」
「カレイドスコープのジジイがな、言っておったんだ…お前達はーー世界を創り変える存在だ、とな。」
「ーーちょっ、、、っと待って?」
妙な溜めを見せたあと、凛が聞き返す。
「なんじゃ?」
「カレイドスコープ?まさか、まさかよねーーその人、名前はーー」
「ああ確か、キシュアゼル、ゼレ?」
「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ卿でございます、お嬢様。」
「おう、それじゃ!」
「ーーだ、大師父ゥゥゥゥゥ!?」
凛が目を剥いてツッコミを入れている。
あわやそのまま卒倒しかねない勢いで倒れかけた為に慌てて士郎が抱きとめる。
「だ、大丈夫か遠坂!?」
「……いや、うーん…なんていうか予想の斜め上をいかれたと言うか…」
「ーー遠坂先輩、私の記憶が確かなら…キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、ってーー第二魔法ーー平行世界の運営を司る、”魔法使い”、よね?」
「え、ええーーそして私の家、遠坂の三代前の当主に教えを説いた人物…噂じゃ聖杯戦争開始にも関わった…私の家系にとっては
衛宮先輩に抱き抱えられてちょっとばかり嬉しそうに、頬を赤くする遠坂先輩可愛いな。
「ーー魔導元帥、宝石翁、
まて、待て、マテ。
今、聞き捨てならない単語が出ていませんでしたか?
ゼルレッチが死徒、二十七祖ですと?
あれ、おかしいな…英霊召喚を可能とする世界にーー?
世界、世界ーー?
「、あれ…?私今、何を考えーー」
ズクン、と視界が僅かに揺れて…
瞬間、頭を鈍器で殴られた様な錯覚を覚えた。
ーー頭が、割れそうだ。
いた、イタイ、痛いーー痛い痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイ痛いイタイーー
「あ、かっーーく、う!?」
視界が明滅する様にチカチカと瞬き、心が押し潰されそうな不安と、隣にあるはずの何かが足らない様な欠落感ーーーー、
「さ、朔弥っ!?」
衛宮先輩の声とーー
「九重さんっ!?」
遠坂先輩の声がーー
遠く、かなたに、消えて行く。
『ーー貴女が、アナタ達がいくら足掻こうと無駄な事ーー全ては私のーー■■の中にーー』
黒い、服。
昏い、眼差し。
ぞっとする様な、その冷たい声が。
『誰が、自由にさせて等やるものですかーー』
罅割れの様な恐ろしいその口に。
笑みを浮かべながら、そんな台詞を吐いた。
「に、いーーさんーー私、は…」
最後に見えたのは、埃の残る石畳の床。
私の意識は直ぐにーー途切れた。
*************
「…ゼウス、ですって、冗談じゃ無いわ。」
「生憎と事実じゃ、美しい乙女よ。」
「ーー汚らわしい目でイリヤを見ないで頂こうか、父上。」
「ああ、そうか、そうよね…あれが真実大神ゼウスだと言うなら…」
「ーーワシをまだ父と呼んでくれるのじゃな、
「不本意ながらな、貴様は間違いなく私の父であり…唾棄すべき敵だ。」
雷鳴が轟き、殴りつける様な雨が降り始める。
雨は視界を煙らせて、互いの表情を隠す。
「ーー残念じゃ、では今宵はこれにて、な。」
既に濡れた分は戦車の御者台を濡らすが、髪を乱暴に掻き上げ、ゼウスはただセイバー、ヘラクレスを一瞥した後には空に舞い上がる。
戦車が飛び去った後には破壊痕がまざまざとその様を見せつける様にしてあり、木々を薙ぎ倒し、ベンチを、街灯を砕き、曲げ、焦げつかせ、燃やし、溶かしていた。
荒れ狂っていた炎の熱は雨に散らされ、冷え始めている。
しかし。
「ーーイリヤ、奴は必ず我々で仕留める。」
「当然ね、私達を見くびった事を、死の淵で後悔させてあげなくちゃ。」
イリヤの身体中に、赤々と浮かび上がる紋様。
それは丹田を中心に全身を覆い尽くすほど広がり、光と熱を伴い脈動している。
全身の魔術回路そのものが全て令呪なのだ。
神にも等しい力を備えた大英雄ーーセイバー、ヘラクレスを聖杯なしに召喚し、維持したカラクリ。
イリヤのマスターとしての適性の高さと、この無尽蔵とも言える魔力。
「神霊を従えるなんて裏技、確かに驚いたけれど…勝つのは、私達。」
身体を打つ雨粒が、触れたはなから蒸発して行く。
熱は冷めない。
まるで、彼女の怒りに呼応するかの様にーー。
**************
夢。
夢を、見ていた。
そう、これはきっと夢だ。
だって、兄が居る。
兄は、兄はーーあの時、確かに。
「朔弥、第六特異点には俺が行くから。」
「ん、行ってらっしゃい。」
兄は、数多の英霊を従え、■■■■に向かう。
時に私が、時に兄が。
でも、重大な局面はいつも兄が立ち向かい、打破してきた。
私は幾度かの特殊な■■■を解決したに過ぎなくて。
■■王に最初に相対したのも。
■■を真の意味で■■したのもーー兄だ。
幾人もの英霊が、兄を取り囲み、甲斐甲斐しく世話を焼いている。
私の隣にも、赤い服装の背の高いヒトが立っている。
嘆息しながら兄を見つめている気配がするが、その顔が見えない。
褐色の肌のアサシン、カボチャを引き連れたキャスター、刀を腰に下げた薄桃色の着物の上にダンダラ模様ーー新撰組の羽織を着た少女、蛇の様に絡みつく着物の子、他にも沢山、沢山、沢山。
だが、一番目を引いたのは…
その中の誰より献身的に、打算も無く只々ーー兄さんを慈しむ眼で見つめ、支える少女。
大きな盾を持って、兄を護る姿。
景色が一変し、モニター越しに私は兄と、彼女の戦いを見守っていて。
「先輩、危ないっ!」
その盾は強固で、まるで少女の強い意志を表す様に、あらゆる危険から大事な人を護る様に。
敵宝具の一撃すら弾いて見せた。
「ーーュ。」
無意識に、紡いだ真名は零れ落ちて消える。
暖かで、懐かしいその光景は、きっと。
きっと…。
突然に、闇が広がる。
浸された足元が暗闇に沈み、感覚が消えていく。
『カエシテナンカ、アゲナイ。』
『アナタモ、カレモ、タマシイダケデアラガッタ…ダレニモ。』
暗闇に沈みながら、必死に手を伸ばす。
その手は空を切り、何も掴めない。
ーーあ、シヌ?
そんな風に怖気が身体を走り。
なにかが私を身体ごと掴みあげ、引っ張り上げた。
痛、なんかチクチクすrーー
*********ーー…
「ーーーー!?!?」
目を見開く。
そこは、先までの闇では無く。
■■■■でも無く。
藺草の香りがする武家屋敷ーー衛宮先輩の家。
私の今の家、居候先。
「ーーあ、わた、ワタ、し、どうして?」
背中が冷や汗で冷たい。
酷く汗ばんだ身体が不快で、しかし体の感覚がある事に強く安堵を感じてーー
「良かった…気がついたか。」
心配そうに覗き込んでいるのは、髪の色は違うけど、懐かしいあの人ーー
「ーーエミヤん…ありがと…えへへ…」
自分でもこの時、蕩けた様なだらしない笑顔をしてしまったと思う。
起き抜けで混乱していたとは言え。
「な、こ、九重?」
なんでだろう、目を丸くして驚いてる。
心なしか顔が赤い?
「朔弥。」
でも、不満はきちんと伝えないと。
「え、は??」
濡れタオルを絞っていた手が止まり、動揺した顔をする彼。
「ーー朔弥で、いい、の、に。」
むくれて、唇を尖らせながらそこまで言って。
頭がやっとはっきりして来た。
今、自分は誰に、何を話してーー?
「…あ、や、違うっ、今のっわ!?」
無言。
互いに、沈黙する。
やばい、あまりの恥ずかしさに顔が合わせられない…
とりあえず布団で顔を隠して潜り込む。
(うわぁーーっ、な、何してるの私ィ!)
あれではまるで、看病してくれている恋人に苗字呼びされて、拗ねて甘えていたみたいでは無いか。
あ、あの夢がいけないんだーーあんな、夢が…
そう、思い出した瞬間、震えがきた。
あのまま闇に呑まれていたら、私、どうなっていたの?
《目覚めたかよ、マスター。》
念話だ。
《ーーあ、バーサーカー?》
《おうよ、お前が召喚したサーヴァントだ。》
以前にもした様なやりとり。
なぜか少しだけ、それにほっとする自分が居て。
《あれ、さっきの、チクチクしたの》
《あ?なんの話だ?話が見えねえが起きたならさっさと立ち直りやがれ、面倒くせえ。》
《なん、でもない、ありがと。》
そ、っと布団から起き上がる。
正直震えは未だ止まらない、けど、少しだけ落ち着いてきた。
ただ、考えれば考えるほど、怖い。
あの闇は、一体なんなのか、あの夢は?
ーー失いたく、無い。
いつの間にか私、思いつめた顔で自分自身を掻き抱くようにして震えていた。
「ーー九重ーーあ、いや…さ、朔弥ーー?」
さっきの話を間に受けた純粋培養先輩が、「朔弥」呼びしてくれて。
ふ、と震えた身体が抱きしめられた。
「ーーえ、えっ!?」
途端に怖い、より混乱が勝る。
「大丈夫、大丈夫…怖いことなんか忘れて、力抜いて、負けない自分を思い出せ。」
「ーー負けない、自分…」
「ああ、朔弥は強い、あんな殺し合いの場に巻き込まれて、それでも気丈に振る舞って、前に進んできたんじゃ無いか。」
ぎゅ、と少しだけ力を込めて抱きしめられて。
「何でだかわからないけど…先輩にだけは言われたく無いよ。」
素直に、その身体を抱きしめ返す。
「ーーああ、大丈夫…足りないなら俺が助けるさ、だから…少しは力を抜いて誰かに頼ったっていいんじゃ無いか。」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。
暖かで、優しくて、どこか懐かしい。
■■■■の記憶も、失う怖さも。
吹き飛んでーー
「力を抜いて?病人に何をしてるのかしらねえ…衛宮、くぅん??」
「とっ、遠坂ーーっ(ゴクリ)」
その手におぼんに乗せた中華粥を持って。
静かに襖を開けた、
赤いアクマが、立って、いた。
************
「どうやら、とんでもないものが召喚された様じゃあないか、聖女様?」
「ーーだからその呼び方はやめて下さい、アベンジャー。」
「ーーふん。」
鼻で笑いながら、どこか嬉しげにするのは意地が悪いと言うか。
「それに、アレに関して言えば既に随分前から召喚そのものは為されていましたよ、セイバーとほぼ同時期に、しかしながらかの存在は規格外故にか正規の枠には当てはめられる事無く”青''の令呪の側で召喚された様子でしたが。」
「ふむ、赤だ青だと意味はあるのか?」
「ーー赤、本来の第五次聖杯戦争における英霊のマスターには、それが施され…ありうべからざる存在に関しては青、と言うくくりの様ですね…一部は神明裁決を持ってしても御しきれない可能性もあります。」
神明裁決、ルーラーに与えられた特殊な令呪。
ルーラーは各サーヴァントに対する絶対命令権をそれぞれ二画有している。
しかしいかな令呪とはいえその英霊が強力な存在であれば一画では御し得ず、二画用いたとしても御しきれない可能性は皆無ではない。
「まさかギリシャの主神が出てこようとはな…その理由はルーラーである貴様にもわからんのか?」
「ええ、残念ながら…」
「いよいよとなれば俺は奴の元へ出向くぞ?」
「構いません、貴方に関しては私も神明裁決権も持ち得ませんし、自由に動ける存在も必要でしょう、事にこの聖杯戦争は異に過ぎる。」
ーー全く、度し難いわね?
「ーーッ、引っ込んでなさい…まだ、その時ではありません…」
「どうした、まるで亡霊の声を聞いた様な顔だぞ?」
「ーーいえ、貴方に心配される様では私も立つ瀬がない、大した事ではありませんよ。」
「っは、違いないな、まあ…今は観測するのも良かろうよーー待て、しかして、とな。」
変わらず吹き抜ける冷たい風と、二人の会話だけが大空洞の中に響く音。
生きるものが無いその空間は、まるで冥府の入り口の様で。
ーー結晶もまた、ただ静かにそこにあるだけだった。
【後書き的なもの】
はい、皆様こんばんは、こんにちは、或いはおはようございます。
ギルスです。
さて、更に謎が深まる今回。
ようやく、黒幕に繋がりそうな展開がありました。
そして士×ぐだな展開が。
そして今回でストックは完全にゼロになりました。
次回更新まではまた間が空きます、ごめんなさい。
ではでは、また次回更新にて!
しーゆー!!!
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第19話『我儘』
醜悪な迄の負の連鎖は止まらない。
ああ、なんたる矛盾。
世界は、救われたいと願いながら破滅を望む…狂った想いこそが想念なれば。
【Intrude ■■ 】
そも、自分の人生は矛盾に満ちていた。
救いたいーー救えない。
救えなかったーーけれど確かに救えた命もあった。
沢山の人の命をーーて。
たった一人の大事な■■を失い。
たった一人を護ろうと走り出し、沢山の誰かを殺してしまった。
間違えた?
ーー否。
それは間違いなんかじゃない。
だって、それがたった一つの願いだから。
何一つ、掌に止めおけず、無くした自分の。
唯一残された願いと言う名の呪い。
愚直に走り抜けた先に広がった赤茶けた荒野と、墓標の様に立ち並ぶーー。
それは、いつか見た可能性でも、追い続けた理想でも、美しいと感じた彼女がいたあの丘でも無く。
閉じて、間違えて、捻じ曲げられた可能性の蠱毒の中で出来上がった猛毒の荒野。
暗く、紫がかった毒気に薄く覆われた大気。
居並ぶ墓標の様な何か。
その荒野の中心には、巨大な絞首台が聳え立つ…粗末な木材で出来た螺旋の段差は13段。
一段一段が高く、足を上げ、上がるだけで身が竦む。
死に向けて歩くだけの、その道程。
今日も自分はーーその螺旋を歩く。
首に縄を巻かれたまま死に向けて、幾度も幾度も自ら絞首台へと。
長く、恐ろしい螺旋に終わりが訪れる。
それはつまりーー自分が、死ぬと言う事だ。
ああ、今日
身体が、浮遊感に包まれ、墜ちた。
【Intrude outーー】
******ー…
「最悪だ、何だ今の夢は…また君か、アサシン。」
「ーー心外だ、まるで俺が好んで見せつけている様な言い方はやめてくれ、そちらが勝手に覗き見ているんじゃあないか。」
声が、反響してエコーを残す。
冬木の街を旧市街と新都に分け隔てる未遠川、その近くにある地下の排水施設。
その広大な空間内にて巨大なコンクリートの柱にもたれながら話す。
目の前には俺に従うサーヴァント、アサシン。
頭には赤いターバンの様なものを巻き、顔には右半ばを幾つかの魔力光を灯す、隈取りの様なラインが走る。
今は無手だが、腰にはホルスターがあり、黒い銃把が二つ見えた。
黒を基調とした動きやすそうなボディスーツの上に赤茶け、最早黒ずんだ色をしたロングコートを一枚羽織り、その下の脚にはナイフを備え付けている様だ。
エクストラクラスでは無いものの、彼はどう見ても本来なら固定された筈のアサシン、ハサン・ザッバーハではあるまい。
山の翁、を意味する暗殺教団の開祖から連綿と受け継がれてきたアサシンの語源にもなった集団の頭の一人では、断じて無いだろう姿。
未だ真名をマスターである俺にすら明かそうとしない、曰くーー名乗るほどのものでは無い、だとか。
まあ一応宝具や能力に関しては開示されているのだから、名前などさしたる問題でもない。
いっそこのアサシンらしからぬ英霊を別のクラスだと偽る位が勝ち抜くにはーーいや、アサシンなんだからまず必殺でないとだめか。
正攻法でいくなど馬鹿げている。
魔術師と、マスター。
その二人には契約の成立と共に通常であれば魔力供給の為の擬似的な魔力経路ーーパスが繋がる。
それは時に、魔力と共に双方の記憶を見せる時がある。
白髪に、顔の半ばが重度の火傷を負ったかの様にケロイド化しているその壮絶な面持ちを沈鬱にしながら呟く男性。
震える手で羽織ったパーカーのポケットから取り出したプラスチックケースから、錠剤の様なものを取り出し、噛み砕く。
「ーーっはあ。」
口の中を満たす清涼感に息を吐く、と。
「…まるでヤク中みたいだな、そうしてると。」
ジト目でそんなことを言ってくるアサシン。
「それこそ心外だ、ただのミント味の清涼剤だぞ、これは。」
10年前から患うこの身体の倦怠感と、思考の鈍りを冷たいミントの味が少しだけ取り戻してくれる気がして、好んで齧っているのだが。
痛いから、苦しいからとアルコールの酩酊に任せてしまえば楽になるかもしれないが、それでは殻に閉じこもってしまった兄と変わらない。
「10年だ、あの忌まわしい事件後になんとか身体を維持して技術を、魔力を蓄えた、今ならあの頃みたいな無様は晒さないさ…俺を生かしてくれた天に感謝しなくちゃあな…」
第四次聖杯戦争。
その爪痕は街にだけではない。
多くの人に傷を残した。
自分もまたその一人であると言える。
てっきり自分は誰にも必要とされていないと、苦しみと痛みに狂いかけた思考の中で何処かで自分は歪んでいるとも自覚していたから、そう思っていたのに、天は俺を救いやがった。
今の自分を動かすのは、妄執とは違う。
恨みも、苦しみも堪えきれない程抱えている。
しかし、そうじゃない。
そうじゃ、ないんだ。
あの時に自分は学んだ筈だ。
大事な誰かを、護るしかないのだと。
独りよがりな考えと中途半端な力では何も、自分すら救えはしないのだと気付いた筈だ。
それは未だ為されていない。
ただ一つ残った、護りたいもの。
身体に負った後遺症は深刻だった。
だが、乗り越えた。
多少手先が震える事はあるが魔術師としても力をつけた。
今ならばーー誰に対しても負ける気はしない。
ただ、惜しむらくは召喚したのが最弱の、アサシンのクラスだった事か。
バーサーカーを引いてさしたる才能もない自分が自滅するのも御免だが、火力不足は否めない。
「俺にあるのなんて、結局意地だけだな。」
意固地になって、意地で生きながらえてきた。
いっそ死んでしまえた方が楽だったろうに。
「意地で結構じゃねえか、信念だ、願いだなんて綺麗に言葉を飾る輩だって結局は自分の我儘を意地になって通したいのと変わりゃしないんだぜ?」
ーー全く、この暗殺者は時々心臓に悪い。
「妙な言葉を吐くなよ、痒くなるだろうが。」
照れ混じりに返すと、静かだった空間内に低い、唸るような音が聞こえた。
蟲の羽音だ。
暗闇を飛び、それは俺の腕にとまる。
「帰ったか。」
それは先ほどまで街中を飛び回り、敵の情報を集めて回っていた使い魔ーー「視蟲」の一体だ。
流石に常時全ての視覚を共有するのは脳に負担がかかり過ぎるため、録画した映像の様に使い魔が見た物を限定的に視界に再生し、映させる。
「アサシン、今回の聖杯戦争はどうなってるんだ…規格外があまりに多すぎないか…?」
「あ?どういうこったよ?」
「ーーセイバーは、大英雄ヘラクレス…その上何故か現れた二人目のアーチャーは…ギリシャの主神だそうだ。」
「ーーバカも休み休み言えよ、神霊が降ろせるわけな…」
「嘘をついてどうする、相手マスターのハッタリでないなら、事実だろうよ。」
「ーーマジかよ。」
最悪だな、それ。
アサシンの答えは戯けながら、しかしどうにかしようと考えを廻らす顔で答えだのだった。
*********ー…
日本、千葉県は成田空港。
ロンドンから長い時間をかけてたどり着いたのは懐かしい空。
何処か淀んだ空気の中に懐かしい香りが混じる。
「ーー懐かしいな、この
慣れ親しんだ日本人にはわからないモノだが、外来の人種からしたら日本と言う地は醤油の香りがするのだ。
まあ、敏感すぎるとも思うが確かに国々で特産も違えば空気も、漂う香りも違うのだろう。
実際、イギリスは紅茶の香りしかしない、などと言う輩もいる。
しかし、私は日本のこの香りは嫌いでは無い。
長い黒髪が絡んで少々鬱陶しい、英国紳士風に歩く私はウェイバー・ベルベット。
またの名をロード・エルメロイ二世。
第四次聖杯戦争を生き延びた元マスターにして、現在では魔術師の総本山、時計塔の名物講師にして実力者、などと言われてはいるが…
私自身には然程の力は無い、しかし教えた教え子達は次々に傑物と成った。
そのせいか、最近は死にそうになる任務にやたらに駆り出される、暗に死んでくれれば良いと言われているに等しい。
確かに、現時点でも教え子達が集まれば時計塔に反乱を起こせる程の力になるだろう。
とはいえそんな事を彼らが望みはしないだろうし、自分に其れ程価値を見出されているとは思えない、せいぜい魔術師らしからぬ自分が面白いとかその程度だろう。
「全く、Fuckだ、Fuckin 過ぎる。」
最近面倒ごとに巻き込まれ続けていた気がするが、今回は最たる事例だろう。
もしも、親しんだこの地でなければ有能で、死に難い力を持つ教え子の誰かに向かわせるのも厭わなかっただろう、しかし。
「冬木だけは、自分で行きたいなどと…感傷が過ぎるかな、なあライダー?」
現在、冬木は不可思議な力場に覆われている。
第四次聖杯戦争が終結して10年。
まだ聖杯戦争が始まるには早いはずだった。
だが、破壊された聖杯から溢れた魔力は一部だけだったらしく、たった10年で再度聖杯が起動するだけの魔力が満ちた。
本来なら50年はかかるはずだったのだが。
「冬木は魔術的な隔絶状態にあると聞くし…大丈夫かな…お爺さん達…」
第四次聖杯戦争時に特に世話になった老夫婦を思い出し、思わず当時の口調に戻っていた。
そんな風に油断しきっていた私の後ろに、剣呑な気配を纏う者が立つ気配。
「あ、いやいやゲフン!グレン翁にマーサさん…無事だといいが。」
「今更取り繕っても遅くありませんか、ロード。」
パリッとノリがきいた仕立ての良いスーツを着込んだ堅苦しい格好の女性。
短く刈られたショートカット、鋭い眼、背は女性にしては高く、引き締まった体躯。
手にはレザーグローブ、肩には大きなゴルフバックに似たバックをかけている。
「黙れ筋肉達磨…貴様も鍛錬鍛錬ばかりでなく日本人女性の奥ゆかしさの欠片でも学んではどうだ、あ?」
痛いところを見られ、思わず悪態が口をついて飛び出した。
…いつから自分はこう口が悪くなったのか。
相手はまがりなりにも女性だと言うのに、紳士とは言えない態度をしてしまった。
「日本人女性が奥ゆかしい?それは最早遠い過去の話ではありませんか、サブカルチャーに影響されすぎですね、ロード。」
「ぐ、き、貴様…仮にも上司にその口の聞き方は…ぬぐっ」
言い返し終わる前に睨まれた。
視線で人が殺せるんじゃ無いか、コイツ?
「そんなに可愛くありませんかね、私は…」
そんな殺人視線を叩きつけてきた連れが小声でなにがしか呟いた様だが、聞こえ無い。
「あ?」
「何でもありません、早くしないと新幹線に乗り遅れますよ?」
と、指さされた時刻は確かに差し迫っていた。
「全く、日本はせわしないのだけは頂けないな…」
第五次聖杯戦争開始から暫く経ち、魔術協会が観測した異常。
監督役からも、監視している筈の魔術師や使い魔からも全ての連絡が途絶。
冬木市を中心に広範囲が魔術的な「人払い」の結界に似た空間干渉を受けていた。
どういう訳か、聖杯は一度起動する気配を見せている。
そしてそれ以降、冬木市は魔術師や素養ある人間以外は近づこうともしない魔都と化し、素養の有る無しに関わらず、入れば二度と戻って来ない。
電気的な連絡手段すら絶たれ、その事実の揉み消しに魔術協会や聖堂教会が躍起になっていた。
聖杯が無関係とは思えない。
しかし解読不能の超高度な術式に編まれた閉鎖空間は、人を寄せ付けず、入れば二度と戻って来ない。
その道の玄人に見せた所、一種の固有結界じみた場を形成しているとか。
本来なら固有結界などこれほど長期的に維持は難しいはず…英霊であってもそれは同じ…ライダー、イスカンダルの宝具がそうであった様にその維持は莫大な魔力を必要とする上、世界を浸食し続けようにも世界の方がそれを元に戻そうと修正力を働かせてしまう。
つまりは普通ならばどうあれ長続きはしない筈だ。
「固有結界とはまた、特異な状況もあったものだが…そもそも誰が如何なる目的でそれをしているかすらわからん、現時点では冬木市封鎖以上の出来事は起こっていない…」
「不可解だとは私も思います、だからこそ現在の魔術協会として送り出せる知識と力、両方を送り出したのでは?」
知識、とはロード・エルメロイ二世、つまりは自分の事であり力、とは。
私の隣で弁当を食い散らかしながら喋る筋肉達磨…封印指定執行者たるバゼット・フラガ・マクレミッツの事だろう。
「不可解ですめば良いんだがな…嫌な予感しかしないぞ、私は。」
ぼやく内に。
バゼットの弁当は3箱目に突入した。
ーーおい、私の分は何処だ。
***********
新幹線からバスやタクシーを乗り継ぎ、辿り着いた冬木市と隣り合わせた地域の狭間。
後数百メートル進むだけで冬木市に入ろうかと言う位置、タクシードライバーが何だかんだと理由をつけて、これ以上進もうとはしない。
口論の末に彼は、代金は要らないとまで言い捨て、その場に私達を降ろすと逃げる様に走り去って行った。
それから半刻程経ち、我々二人は国道脇にポツンと立ち尽くしている。
何故冬木市に入らないかと言えば、正直無策で入るのも良しとできずにまずは周辺の魔力異常を探索していたのだが。
「ほぼ異常無し、だと?」
「ええ、これだけ見た目に異常があると言うのに各種観測法には引っかかりません。」
今、目の前の境目にあたる部分には薄紫の膜の様な障壁が見えている。
魔術の素養が無ければ何の異常もない風景だったかもしれないが、二人は違う。
「何だ、これは…言うならばまるで…」
そう、表すとすればこれは時間が停止したかの様な静けさ。
しかし、内側は如何なるものか。
「ーー結局、入るしか無いわけか…Sit!」
悪態をつき、石を蹴り入れる。
すると。
コーン、と石がコンクリートに当たり跳ねる音が聞こえ、次の瞬間には吐き出される様に障壁の内側から返ってきたのだ。
「ーーな、んだこれは。」
異常だ、異常としか思えない。
だが。
「グレン翁は…この中、か…」
「行きましょう、ロード。」
「は、確かにそれしかあるまい…ライダーの奴が居れば言うだろうな、我が覇道を阻めるなら阻んで見せよ、我はただ蹂躙するのみぞ、とな。」
理解できないと言う恐怖を、最も心強い身内を思い出し、喝を入れる。
「征服王ですか…できればお会いしてみたかったですよ!」
そう、前置きながらバゼットが障壁へと歩き出し。
それに続いて私も進む。
「いずれ私が彼を再び呼び出した時に、君が生きていれば合わせてやってもいい、きっと君の様な女傑は気に入られるだろうよ、バゼット。」
「楽しみにしておきましょう、約束ですよ?ロード。」
歩き出した私とバゼットが、真っ白い光に包まれ、意識が遠のいていく。
ーー無謀と無茶の違いくらいは弁えているつもりだったが…結局、私が世界一破天荒な貴方の忠臣である事に変わりは無いらしい。
つまりは、こんな無茶をしてしまうのは貴方の影響だ、責任とれよ?
なあ、ライダー。
世界が、塗り潰されてーーー…。
【後書き的なもの】
皆さまこんにちは、こんばんわ、或いはおはようございます、ライダー/ギルスです。
長らくお待たせしました、しかもその上で内容がなんか薄い…本来ならもっと書きたいのですが、今日はP5の発売日だから許して!?
後、プリズマコーズでイリヤ引けないのに何故か違う鯖が来ました、嬉しい悲鳴。
青王(3騎目)と、ジャックちゃんきました!(しかも同時に)
育成があああ!!←←
はい、話を戻しますと…実は冬木市自体が中にいる人が気付きもしないくらい違和感無く深刻なレベルで異界化していたと言う異常事態。
さて、バゼットがいる時点で時間は少し遡るはず、ですが今一時間軸がずれ気味なこの展開。
果たしてランサーとはいつ出会っていたのか、そもそもロードはその後何でいないのか。
後前半でてきたのはいったい誰おじさんなんだ!
と言う更に更に混迷が深まる事態と相成りました。
ネタバレ、悪いのはギリシャ。←
やー、この上まだいろいろ出ますよ、お楽しみに!
ではでは、またの更新でお会いしましょう!
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第20話『因子』
悪食の竜、救国の竜。
何方も竜。
人の世に、彼らの居場所はーー
もう、無い。
視界が白く塗り潰され、次に目を開くと自分は何故か、見覚えのある埠頭に居た。
木箱に腰掛け、薄ぼんやりとした頭を動かし現状を認識する。
ーー私は、ウェイバー・ベルベット。
ここは、見覚えがあるぞ…第四次の時に派手にライダーが真名を名乗ってくれた場所だ。
「私は確かに街境から一歩踏み込んだだけだった筈だ…何故こんな所にいる?」
空間が異常な状態であったのは認識していた所だ、つまりは歪みに巻き込まれここまで転移したのか?
いや。
それではアレが説明できんーー
埠頭の倉庫の一角に、古めかしい丸型の電波時計が掛けられている。
示す日付はしかし。
「ーー何故、我々が辿り着いた日付から二週間も遡った日付が表示されているのだーー」
バゼットは?
それに持ち込んだ筈の礼装はーー
懐を探る。
あった。
数本の小瓶と簡易術式を編み込んだ数枚の呪紋布。
そして、ライダー…イスカンダルのマントの切れ端。
「間違いない、夢を見ているわけでも無いようだ…。」
腕時計を確認すれば、その時刻は停止し、日付は二週間先を示している。
「ーーこれは…」
これらが、同時に壊れているとは思えない。
つまりは、本当に時が…?
「いや、流石にそう結論づけるには早計か。」
今は、情報が欲しい。
正直言って聖杯戦争只中のこの街でサーヴァントも居らず魔術師がうろつくのはさあ殺して下さいと言わんばかりだが…
「まあ、期待しなかったと言うと嘘になるが…仕方あるまい。」
懐ろに大事にしまい込んだ聖遺物に触れ、独りごちる。
「ーー待っていろ、私が解き明かしてやる。」
この不可解な状況、歪みを抱えた聖杯戦争。
放置しておけるものか?
…否、だ。
第四次にあれ程被害を出しながら、聖杯がおかしい事にも触れずに魔術協会も聖堂教会も黙認した。
その結果がこの事態だ。
恐らくだが聖杯はもはやまともではあるまい。
ライダーが、我が主君がその手に掴みたがったのは断じてそんな紛い物では無い。
認めるわけにはいかない。
そんなものは、願望機ですら無い、ただの厄災の火種でしか無い。
そんな紛い物はーーいずれ必ず解体してくれる。
だが、始まってしまったからにはどうにかせねばなるまい。
あの日の再現にだけは、ならぬように。
懐が、熱く脈動したような気がして。
それはきっと、ともすれば弱気になる自分を彼が鼓舞してくれたのだと信じて、私は聖杯戦争へとその身一つで、踏み込んだ。
**************
黒い兜に覆われたその眼差しは解らない。
しかしーーその音無き声は呪詛に満ちていた。
何故だ、何故ーー貴方は、私に!
手に、槍を掴む。
飛び込んできた無数の刃を槍を振るうことで防ぐ。
足は大地を砕かんばかりに踏みしめている。
槍だけで捌けなくなり始めた。
ならばと空いた手に剣を摂る。
片手で振り回す様な槍では無いが、卓越した技量がそれを可能にする。
両手に剣と槍を携え、振るい続ける。
刃は、更に数を増やし…中には鈍器や、弓矢、飛礫の様なものまでが射出され、己に殺到してきた。
ーーその様な単調な攻撃で私が倒れると思うな…!
声はしかし、喉を鳴らす事はなく。
「
黄金が見降ろし、どこか寂しげに口元を歪め、呟く。
「聖杯の泥…いや、もっと醜悪な何かに、お前も呑まれたか…」
ーー私は!私は、見つけたのだ!
「このままにしていれば…やもすれば明日は我が身、か。」
ああ、そうだ…貴方は、貴方だけがーー
「見苦しいぞ、仮にも英霊なればーー潔く退場せよ…足掻くほど己が道を否定していると解らぬか。」
ーー邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ!
「見るに堪えんな、せめて
360度、全方位から実に120もの宝具ーー剣、槌、矢、槍、鎌、あらゆる武器が黒い騎士を包囲する。
「滅びよ!」
何故、何故、何故、何故、何故だ、何故に、何故か、何故よ、何故にこそ、何故にかーー
一斉に黒い騎士に殺到する刃の数々。
絶対的な滅びが迫る。
槍と剣の堅固な守りも、数の暴力には敵わない。
暫くは弾かれていた刃はやがて騎士に突き刺さりはじめた。
ーーーーぁーーアーー
声なき声が、言葉にもならず吐き出されていた荒い息は。
ヒューと鳴るような、細い息を最後に上がらなくなる。
槍衾にされた騎士はハリネズミの様な格好で膝をつき、やがて黒い泥とも、靄ともつかぬ何かになり、崩れていく。
「見苦しくも生き足掻くか…変わってしまったな、貴様も。」
どこか、寂しげに呟きながら孤高の王は黒い霧に背を向ける。
「見苦しい、見苦しい事この上ないなーー」
それは誰に向けての呟きなのか。
先程の黒い騎士か、それとも。
**********
「で、衛宮くんは可愛い可愛い後輩に何をしていたのかしら?」
「い、いや遠坂っ、誤解、誤解なんだ!?」
「桜には黙っておいてあげるわ…」
見下した様な眼で言われても!?
「先輩って大胆ですよね…危うくクラッとしちゃいましたよ、うん。」
朔弥まで!
味方はいないのか!?
「いやいや、パスを通じて朔弥の狼狽っぷりが伝わってきたがよ…まあ、面白い面白い。」
とは、オルク、クー・フーリン・オルタ。
「ちょ、バーサーカーそれ以上は令呪よ!令呪!?」
やたらに焦り出す朔弥に、バーサーカーが更にチャチャを入れる。
「ヒャッハハハ、なんだ、自分が一番だと良いなー、とか、でもこれ以上先は怖いなー、とかなんとか言ってた事をか?」
「ーー!ーー!!ーー!?」
言葉にならない声を上げ、朔弥の顔色が信号機みたいに赤や青に変わる。
終いには座布団でバーサーカーに殴りかかり、バーサーカーは首だけを動かしてそれを避けている。
「ーー動くなっ、こんのーーバーカーさー!」
駄洒落かよ、ってーーえぇ!?
キイン!、と甲高い音が響いたかと思うと、バーサーカーの動きが止まる。
そしてーー座布団、では無く信楽焼の狸が命中した。
「おごわっ!?」
砕けた信楽焼の狸は哀れ畳に散乱し、そしてバーサーカーが怒声を上げた。
「てっ、てめえまたやりやがーー何?」
肩で息をする朔弥の手。
よく見れば、令呪と呼ばれた刺青みたいなものが、「一画」減っていた。
「減って、ねえ?」
確かに、今膨大な魔力がバーサーカーを縛り、制御したのが魔術師として、いや…何故か感覚として見えた。
だが、すでに「二画」失わねばならない筈の朔弥の令呪は一画しか失われていない。
「ーーまさか、回復したのか?」
バーサーカーの、確信めいた言葉に。
「嘘、あり得ないわ…使い方もそうだけど令呪が回復ですって??」
「え、するものじゃないの、だって石から戻った時には三画に戻ってたよ??」
「しないわよ!?」
ーー最早、ヒステリックな叫びをあげるしか無いとばかりに遠坂が叫んだ。
*********
ーー驚いたなんてものじゃ無い。
この子ーー何者なの?
使役するバーサーカーの規格外の強さといい、それを平気な顔で維持する魔力といい…
本人曰く、最初は気を失いそうになったけど、その後はいつの間にかなんとかなった、と。
「ーーやっぱり…ね」
あの後、衛宮くんへの追求どころでは無く私は彼女を問い詰め、本人に自覚が無さ過ぎて埒があかないので血液を採取し、溶かした宝石を混ぜてその性質を調べた。
出てきた彼女の魔術起源はーー
「復元」、「共振」、「竜」。
何それ、凄いの?、とは朔弥の聞いて最初の一言。
「凄いのよ、貴女ーー言うなれば竜と人のハーフみたいなものよ、竜の血や肉を食べたりしたわけ?」
「さあ、覚えが無いけど…」
「竜の起源、とは言ったけどこれはむしろ貴女の血に宿る特性みたいなモノよ…貴女の心臓は恐らくとんでもない量の魔力を作り出している…ただ、普通なら身体がそれについていかないはずだけど…貴女の起源、復元の特性が働いているんじゃないかしら…身体を最適、最良の状態へと作り変えるーー常に自己改造をしているとも言えるわね…血の中の細胞も再生と自己改変を繰り返して、体外に出た…空気中でも細胞が活動しているわ。」
「それ、ホラー映画みたいに九重が増えたりはしないよな?」
「先輩、私をなんだと…」
「ーーそれは無いでしょう、末端の細胞には魔力を自己生成できないからいずれ魔力が尽きて死滅するでしょうね。」
スチャ、とメガネと指差し棒、教鞭と言ったら良いだろうか、を装着しながら説明に入る。
「少ないけれど彼女の様な体質は過去に例があるわ、例えばーー」
「例えば?」
「竜殺しの英雄、ジークフリート。」
「ジークフリート…ジーク君?」
「くん、って…まあ、とにかくジークフリートは…悪竜ファーヴニル、もしくはファフニールと呼ばれた竜を退治した際にその血を全身に浴びているの。」
「ふむふむ…、で?」
なんだか、お伽話を聞いてる子供みたいな顔をされてしまった、解ってるのかしらこの子…
気を取り直し、教鞭を取り直す。
「ジークフリートは、肉体の殆どがその血を浴びて不死身になるのだけどーー唯一、背中だけは血を浴びなかった、その為に最後にはその場所を槍に貫かれて殺されているわ、一説には悪竜の死に際の呪いから常に背中を晒さなければならなかったとも言われているけれどーー」
「それがなんで私の体質に繋がるの?」
「まあ、聞きなさい…今の話の様に竜の血や肉によりその特性を授かればまさに英雄にも等しい力や肉体を授かるの…竜種が現存しないのは竜殺しの英雄が世に現れすぎたからかもしれないけど…つまりは貴女もそうした恩恵を授かっているんじゃないか、って事よ…時計塔には今もジークフリートの体細胞の一部が保管されているなんて噂があるけど、あながち与太話でもないかもね、時計塔基準のこの検査方法に引っかかったのが貴女でーー間違いなく異様な魔力生成能力と、再生を繰り返す力を持っていたんだから。」
首をかしげながら、そんな覚え無いんだけど、と悩む朔弥。
「なあ、なら朔弥は傷を負っても再生したり、或いはそのジークフリート見たいに不死身に近い堅固な肉体を持ってるのか?」
「いえ、そこまで有難いものでも無いようね…ジークフリートは元から素養があったのでしょうけどこの子はどこまでいっても凡人の肉体に無理やり…そうね、軽自動車にFワンのエンジンを積んで走らされてるのと変わらないわ。」
「それってーー」
「…竜種の恩恵ね…それが事実なら朔弥の身体は恐らく魔力を生成しつつ、容器になる身体を壊さない様に再生と順応を繰り返すので精一杯だろうよ、あんなものは劇薬と変わらん、普通の人間に耐えられるもんじゃねえ。」
と、バーサーカーも同意する。
「おい、それ大丈夫なのか、九重は?」
「心配しなくても無理をしなければ大丈夫でしょうね、其れ程彼女の復元の魔術起源の効果は竜種の血と相性が良かったんでしょう。」
「そうか、なら良いんだが…」
ほっとしている彼には悪いが、本当は…かなり危ういだろう。
奇跡的なバランスで成り立っているのが現状だ。
ーーまあ、それはコイツも同じ、だったっけ。
あの時の「治療行為」を思い出したら恥ずかしさがこみ上げてきた。
わ、忘れなさい、私!
「遠坂?どうした、顔が赤くーー」
無言で教鞭で殴る。
スチール製のソレはかなり痛いはずだ。
「あ痛っ!?」
「話を戻すけど、多分令呪はその復元に巻き込まれる形で、再生しているんじゃないかしら…」
まあ、ソレを作る莫大な魔力が何処から流れているかはまるで見当がつかないのだがーー
「つまりは、令呪が三画ある状態を完全な状態、と肉体が認識したからこそ令呪の欠損を補えた、と?」
「そう言う事よ、アーチャー。」
流石、私のサーヴァントは理解が早いわね、頭を抱えてる衛宮くんとは大違い。
「推測の域を出ない話だけど、それにしても貴女の規格外さにはほとほと呆れるしかないわね…」
「これで彼女に非凡な才能があった日には凛、君以上の魔術師になっていたかもしれんな。」
アーチャーまでが、そんな風に言う、悔しいけど、確かに。
「ーー半竜同然の肉体を持ってるなんてもう魔術師の域を出かけてるわよ。」
半眼になり、アーチャーを睨んでやるが、肩をすくめて躱すだけ。
「なんにしても、貴女の父親…確か九重十蔵だったかしら…聞かない名前だけど、何者なのかしらね?」
「お父さん、自分のことはあまり話さない人だったからなあ…あ、でも確か。」
「確か?」
「お父さんの通り名、聞いたことがあったっけな…確か、そう…」
考え、思い出した名前。
それはーー
「アジ・ダハーカ…とか?」
セカンドオーナーとして、聞き捨てならない二つ名だった。
…ー**********
竜、龍ーードラゴン。
英雄譚に語られるそれは大概の場合悪の象徴である。
英雄に正しく殺され、人の世に平和が訪れた事をわかりやすく示すための悪役。
悪があるから善が敷かれ、善があるから悪が敷かれる。
世の理とはかくも矛盾に満ちたモノ。
善のみで成り立つ世界等人の世には有り得ないし、悪のみの世界も有り得ない。
コインの表裏の様に、世界には善と悪が混在している。
悪は、誤りか?
否、ひとつの在り方に過ぎない。
竜は、悪か?
否、ひとつの命に過ぎない。
価値観などは種族、それどころか人と人の間ですら違うものだ。
ましてや異種族となれば尚更だろう。
ーー人と竜では、価値観そのものが違う。
つまり、竜だから普遍的な悪、である事にはならないのだ。
中には良い竜もいるだろう。
しかし、良い竜だから世の中が受け入れてくれる訳でもない。
男は、遥か遠い先祖に龍を持つ一族だった。
今や血は薄れ、あくまでも龍を祀るに過ぎない一族であった筈が、男は真逆の先祖がえりを起こし、強い竜因子を宿すに至った。
ーー半竜半人。
正に己が意思に関わらずその様な力を持って産まれたが為に身内からも疎まれ、殺された。
しかし、男は幾度殺されようとも蘇った。
刺されても、斬られても、砕かれても、轢き潰されても、燃やされても、何をされても3日と経たずに蘇る。
男の名は、アヴゥドル・スィーンハイム。
歳も一定の歳から老化を止めた、いや…酷くゆっくりになった。
20半ばを超えたあたりから20年に一度くらいで漸く年齢を重ねる様になった。
結果、今のーー40半ば程度の外見に至るまでに彼は実に四百年の時を過ごしていた。
巷では彼を蛇王ザッハークが幽閉された御山から抜け出しただの、アジ・ダハーカの再来だのと騒ぎ立てた。
いよいよ居場所がなくなると、彼は持ち前の身体と魔力を使い、己が身を守る生き人形をこしらえた。
それが、幼い子供の姿をしていたのがいけなかったのか。
その当時にはまだあまり知られていない錬金術の秘蹟によるホムンクルスでしか無かったのだが、彼は「幼な子を喰らい、己が身の竜を植え付けて傀儡にした」と言う濡れ衣を着せられてしまう。
やがて、すれ違いから手製の農具を振りかざして襲いかかってきた鍛冶屋の息子を反射的に放った魔力で殺してしまう。
その事が益々民衆の恨みを集めーー
やがて、その地にも男の居場所は無くなった。
ホムンクルスでさえも数の暴力に抗えず、男は捕らえられ、処刑される。
しかし、死なない。
死ねないのだ。
結局、死んだふりをして土葬された土から這い出し、遠く海外へと逃げ延びる。
それから更に時は流れ、50過ぎの外見からはとうとう百年を経ても身体は老化の兆しすら見せなくなる。
溢れるほどの魔力を用いて作り出した数々の秘蹟は、現代に生きる魔術師達の技術の基になった。
己が力を隠し、隠遁を続けた彼だったが…皮肉にも彼を外へと再び連れ出したのは、己が一族の末裔だった。
一族の性はすでに無く、彼でなければわからないくらいに薄れた血の残滓。
しかし、一族は彼の事を当時の様な悪名で語り継ぎはしなかった。
魔術の祖、ソロモン王に劣らぬ偉大なる竜魔術師ーーアブドゥル、と呼んで一族の中でのみ、密かに語り継いでいたのだ。
それを聞いた男は、黙って一族の末裔たる女に語り聞かせた。
信じるか信じないかはわからないがーー
それは、自分の事なんだよ、と。
***************ー…
「ーー凄い人だね、そのアブドゥルさん?」
「…それから、彼は表舞台には立たないまでも魔術協会にも協力し続けーーやがて、十五年前に封印指定を受けたの。」
「あ?なんだそりゃあ…十五年…聞いた限りじゃその男は幻想種や神に並びかねない力を持ってるじゃねえか、それが魔術協会になんで今更目をつけられた、もっと昔に目をつけられてなきゃおかしいだろう?」
わっかんねえな、と胡座をかいて頬杖をつくバーサーカー。
「ーー力を巧妙に隠し、あたかも古い文献を読み解いたと嘯いていたらしいわ、自作の魔道書を、だけどね。」
「彼が世に出てから20年、その知識は重宝されたし、利用価値もあった、けれどーー彼が竜因子を持つなんて誰も知らなかったのよ、公の場で…彼が言い争いの末に傷を負うまではね。」
傷が瞬く間に塞がり、無くなる瞬間を目にした魔術師達はどう思ったのか。
「それは、彼の妻となった一族の末裔、サロメを貶める発言をした当時、ロードだった一人の魔術師の言葉が発端だったそうよ。」
「ーーその一族の末裔、名はサロメとは…皮肉にしか聞こえんな、その符号は。」
アーチャーは正に皮肉気に唇を歪める。
サロメとは、近親婚を咎められたのを理由に聖書に言うヨハネを殺害しようとした女な名前である。
そして、ヨハネは神により生かされ、死ねなかった。
「事実は小説よりも、とはよく言ったものよね…そして、その血を調べられた彼はまたしても居場所を失いかけ、妻と共に逃げようとしたわ、争いを好まなかったのかしらね、戦えば、勝てたかもしれないのに。」
「それで、どうなったの?」
「ーー妻は、逃げる途中で封印指定執行者に殺され、怒り狂った彼がその執行者を殺害。」
「ーー馬鹿な野郎だ…そんなに腹が立つなら最初からそんなことにならん様に女だけを連れて隠遁し続けたら良かったろうに。」
「これらの話は、殺された妻、サロメの霊から時計塔の死霊術師が聞き出した話らしいわ。」
(朔弥は、気づいていない…いや、気づきたくないのかもね…)
「それから数年、逃げ続けた男はーー極東の田舎町で見つかり、時計塔秘蔵の不死殺しの神器を用いて完全に殺されたわ、それが十年前の話よ。」
「なるほどな、いやいや…耳が良いのも考えものじゃなあ…聞きたくもない話を聞いてしまったわ。」
ス、と闇から浮き上がるように現れたのはイルマ。
「イルマ?」
「儂が最後に見た貴様の父親、九重十蔵…いや、アジ・ダハーカと呼ばれた封印指定の魔術師だがな、80も超えた様な皺くちゃの爺だったぞ、身体からは殆ど血の匂いがせんかった、恐らくだがーー力の源たる血を貴様に、いや…貴様の兄と二人に分け与えたのでは無いか?」
「え…お父さんが、アブドゥル、さん?」
「母親がサロメかどうかはわからないけど貴女に竜因子が宿る理由、どうもそれが当たりみたいね。」
「じゃあ、お父さんはーー事故で死んだんじゃあ、無い…?」
「そうね、辛い話だけど…そうなるわ。」
「大丈夫か、九重?」
衛宮君は…またそうやって無駄に優しく…
いや、それが彼の長所なのかしらね。
「しかし、解せねえな…自分の命を危険に晒してまで何故不完全にしか馴染まない朔弥に血を分け与えた?」
バーサーカーの懸念は最もだ、それは私もわからない。
「さあ、ね…私もこの話は又聞きだからーー私のお父様、遠坂時臣が第四次聖杯戦争に参加する前に…弟子と話していたのをたまたま聞いてしまっただけだし、ね。」
「よく、そんな昔の話を詳細に覚えていたな…遠坂。」
「気になってね、それから暫くしてからその、弟子に聞き直したのよ、ほら…学校の事件隠蔽に出張ってきた聖堂教会の神父、この聖杯戦争の監督役でもある言峰綺礼よーー何故だか異様に嬉しそうに、仔細に、事細かく聞かされたわ、もう、嫌になるくらい。」
「遠坂先輩、私ーーその監督役さんに会ってみては、駄目ですか?」
「ーーえ、いやまあ構わないけど…あまりお勧めしないわよ、あいつ絶対人格破綻者だから…」
嫌そうに、しかし私の了承をもって、次に向かう場所は決まったのだった。
【後書き的なもの】
皆さまはいさい!
沖縄ではありませんが私は元気です。
今日は某所のドラゴンステーキな話を読みつつ、焼肉食ってました、ライダー/ギルスです。
イベントプリズマコーズもなんとかクロ最終再臨素材と宝具5迄は間に合いました。
本当はフォウ君も二種20ずつ欲しいがこちらを書くのに筆が滑りすぎてやってません…時間んん!!←←
さて、今回はオリジナルもオリジナルな要素がてんこ盛り。
天の狐じゃないよ?
ちょっと前に槍狐は来ましたが。
本人も知らなかった。
ぐだ子の衝撃の秘密が明らかに。
まさかの父親は半竜だった。
イルマがけしかけられた理由もその辺りにあるのでしょうか?
まあ、ゼルレッチさん愉快犯なだけな可能性もありますけどね!←
…流石にステキなステッキ作成したゼルレッチさんじゃないしそれはない、と思いたい。
前回、やりたい放題詰めすぎてると指摘されましたが、最早二次創作物だし、止まらない勢いで書いてます。
つか、そうでもしないと完結まで続くか怪しいから、とにかく必死に完走目指します。
皆さまの熱い応援コメント、感想、評価が私の原動力です!
いつもいつも、私の駄作を読んでくださる皆さまには感謝の念が絶えません。
本当にありがとうございます!
それでは、また次回の更新で!!
シ、シ、シ、しーゆー!
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第21話 『蛹』
くるくるくるくるーー
そこは、混沌の坩堝。
それは、呪いだった。
叶わぬ望みーー、願いと言う名の呪いだ。
男は子供の頃に見た夢のまま、救済を願った。
傷つき、戦い抜いてーー辿り着いた黄金の杯。
「は、ははっーーコレで良いんだ、コレで全て、何もかも救われるんだーー。」
目尻に涙を浮かべ、震える声で指先を伸ばす、男の足元に横たわるのは、先程まで男を支えていたサーヴァント。
満足気な笑みを浮かべ、今や消滅を待つ身。
「ーー叶わない夢はない、願いは力に変わりーーこれで、私も、貴方も救われ…」
眩い光の波が視界を灼き、世界を包んだ。
ーーースベテヲ、救う?
バカヲイウナ、ソノヨウナ結末ガ、アルナド…
ダガ、キサマガイチバンノゾムモノダケデモ救ッテヤロウ。
キサマは、仮ニモ勝利者デアルカラナ。
歪み、嗄れた声が聞こえた。
************ーー…
「さてーー出てきたは良いが…やはりこの聖杯戦争はあまりにも歪よな。」
冬木という街を円蔵山の中腹、柳洞寺の管理地である墓場から見下ろす、ダークグリーンのスーツ姿の男。
どうにも現代にしてはレトロな、古めかしいタイプのものだ。
男は人では無い。
サーヴァント『
エドモン・ダンテス。
男の目には可視化された怨念が見える。
古きから新しきまでだ。
「ーー怨嗟の念が強すぎるな。」
『
冬木…ここはどうにもただの街とは言えない。
夜に紛れてはいるが彼もまたサーヴァント。
その魔力は尋常では無い。
だが、今はそれも抑えられ、一般人に等しい程に隠されていた。
その上、今の彼には厳密にマスターはいない。
魔力は有限ではあるが他のクラスのサーヴァントと違い彼は自身の魔力を周囲のマナから吸収して得ることも出来る。
ほぼ自給自足だ。
「この気配ーーどうやらこそこそとなにやらしている輩が居るな。」
柳洞寺に目を向け、すぐに興味を失い背を向ける。
「まあ、今は別件だな。」
一瞬後には闇だけが残る。
青白く、仄暗い灯火がほんの僅かだけ地面に焦げた跡を残す。
アヴェンジャーが持つ高速移動。
魔力放出の亜種とも言える力で、時には光熱そのものと化して宙を翔けるその力は魔力を殆ど発しない。
体内で爆発的に高めた魔力を足裏や空気中に一瞬弾けさせる縮地に近い移動方。
だが身体を一時的に炎と変じるその能力と相まってそれはまるで、セントエルモの灯の様だ。
派手さは無く、しかし確かに存在を主張し、次の瞬間には消えて失せる。
彼の本来の俊敏さも合わせればまるでフィクションの中の忍者の如く残像を残す様な動きを可能としていた。
彼独自の嗅覚…恩讐を感じ取るソレが導く先へと直走る。
冬木の新都と旧市街を別つ境界線、未遠川の周辺に在る排水施設。
都市部に雨水などが流れ込むのを防ぐ為、川へと繋がる巨大な地下水路だ。
かつて、正史の第四次聖杯戦争の折にもキャスター、ジル・ド・レェがそのマスターと潜み快楽殺人を繰り返していた場所だ。
「ここもまた一段と濃いな…」
水路を飛び越え、奥まった空間に踏み込もうと足を出した途端。
脚に絡みついていた不可視の糸が切れた。
バガッ!、と言う音が聞こえたかと思えば無数のボールベアリングが超高速で飛来する。
本来ならばサーヴァントたる彼にはこの様な鋼の玉など傷一つ負わせることはできない。
ーーだが。
「これはっ…魔力で編まれている!?」
咄嗟に判断し、眼前に己が魔力を蒼き炎に変えて叩きつける。
炎は壁となってベアリング弾を焼き尽くす。
「魔力で編まれたトラップーー近代の暗殺者…イレギュラークラスか!」
本来ならば暗殺者のクラスはハサン・ザッバーハただ一つ。
山の翁のいずれか一人しか召喚対象たり得ない。
しかし、このトラップーー明らかに定義するならば暗殺者の行動そのもの。
正面切って戦う三騎士でも、残るいずれのクラスにもそぐわない。
「ーーお見通し、か!」
まだ若い男の声。
声のした方に振り向いた瞬間、背中に衝撃が走る。
「ーー!?」
念の為に警戒していた甲斐があった。
背後から斬られる可能性は考慮済みであった為、背後に張った魔力がアサシンらしき男が斬りつけた刃を逆に圧し折っていた。
「ーー2度通じるものではないが、セイバーなどが使う魔力放出の応用だ…局地的に魔力を集めて己が弱体耐性をカバーした。」
鋼の決意、攻撃に回せば敵の防御を貫通し、己の筋力を一時的に引き上げると同時に数瞬だが肉体の脆い部分を補強するスキル。
「くっ、厄介なーー!」
飛び退き、闇に紛れんとするアサシン。
「逃すと思うか、暗殺者!」
仮に回避スキルで躱そうにも先の鋼の決意による貫通効果は大抵の防御、幻惑を相手の気配が僅かにでも補足できれば無効化可能だ。
だが。
「ーーなに?」
唐突に、気配が一切感じ取れなくなる。
如何にアサシンの持つ気配遮断スキルがあるとは言え一度攻撃に出た以上簡単には気配を辿れなくなるわけが無いのだが。
「気配だけでは無い…魔力まで撹乱しているのか、これは?」
よくよく目を凝らせばこの広大な地下空間内のあちこちに先のトラップに似た仕掛けや、呪符が貼られている。
「原因はあの呪符群か…」
(舐めてくれるな、暗殺者風情が?)
「この様な仕掛け一つで俺を封じた気なら…おめでたい事だ!」
バ、と飛び出した次の瞬間にはトップスピードに達し、残像を残す速度で地下空間を翔ける。
次々と炎が瞬き、呪符が見る間に数を減らす。
時折発動するトラップも炎に阻まれ、燃え落ちる。
「なんて出鱈目…力、いや…速さで罠を強行突破されるなんてね…でもこれは、どうだい?」
ヴワン。
無数の羽が一瞬のズレもなく同時に羽撃く。
「喰いつくせーー羽刃蟲!!」
先のアサシンとは別の声。
それを合図に一斉に物陰から飛び出した凶悪な鋭さを持った大顎と刃物の様な羽を開いた蟲がアヴェンジャーに殺到する。
これが人間なら2秒と持たずにズタズタに噛み裂かれるだろう。
だが蒼い炎が一際強い輝きを放ち、アヴェンジャーの全身から噴き出し羽刃蟲を焼き尽くす。
「ーー姿を現せ魔術師、何も今すぐ貴様を殺すつもりは無いのだ…だがこのまま続けるなら…我が宝具をもって全て焼き尽くしても良いが、どうする?」
「ーー…何が狙いだ。」
「貴様はこの聖杯戦争、真っ当に願いが叶うなどと思うか?」
「ーーサーヴァントである貴様が何を言い出す…いや、何を企んで…」
「ーーそこか、魔術師。」
話すうちに、僅かな敵意ーーつまりは一種の恨みが自分に向けられる、位置を特定するには十分だった。
「ーー!」
一瞬にして間合いを詰め、物陰に隠れた魔術師へ手を翳す、その気になれば焼き尽くしてしまえる様に。
だが、その姿は想像もつかない姿であった。
身体の大半は蛹の様な表皮に覆われ、柱に半ば癒着する様にもたれかかっている。
「見つかってしまうとはな…随分苦心して施した認識阻害の結界だったんだが…俺の技量じゃここまでか…」
ス、とアサシンが姿を見せ、主人の前に立つ。
その姿は予測のままに近代的な出で立ちだった。
頭はターバンの様に赤い布を巻き、顔の大半はフードと口元を覆う布で隠れて目だけがギラついた眼光を見せる。
黒を基調とした近代的なボディスーツの上には元は淡い色合いだったのが汚れ、赤茶から黒にに変色したコート。
腰のホルスターには二丁の銃把が見えていた。
「アサシン、君では彼は止まらんだろう…もういいよ、なんなら俺を殺して再契約にかけるといい。」
「ーー早合点するな、殺す気ならばそうしている、まずは話し合いだ、
「ーー昔、そんな特撮ヒーローがいた様な気がするな…まあ僕は念力なんか使わないが。」
意外に冷静に冗談を返しながら、魔術師、間桐雁夜は自由になる首だけを動かして白髪に半ばがケロイド化した火傷跡に覆われた顔を此方に向けた。
「全く不便なものでね…定期的にこうして身体を再生して毒素を出さなきゃ生きてもいけない身体なのさーー。」
直後、パリパリと背中辺りに亀裂が入り、蛹が割れて雁夜の身体がゆっくりとせり出してくる…まるでB級映画のワンシーンの様に異様な光景。
「ーーよければ、後10分ばかり待ってもらえないかな、エクストラクラスのサーヴァント君。」
「待つのは慣れている。」
フ、と笑いながらそれに返すアヴェンジャー。
アサシンはと言えば無言でその間に立つのみであった。
**************
「しかし、暇じゃ。」
吸血種、イルマ・ヨグ・ソトホープ。
真祖を除けば最高位に位置する吸血鬼である彼女には凡そ吸血種らしい弱点は無い。
例えば、陽の光。
日光浴ができるレベルだが、強いて言えば日焼けで黒くなりすぎるのが嫌。
例えば、流れる水。
少々肌を刺激するが…寧ろ痛いながらも気持ち良い、ちょっと自分はMかも知れない。
例えば、ニンニク、十字架。
ニンニクは臭くなるし、気持ち悪いがその程度。
十字架は…流れる水と変わらない。
触れたらピリピリするけど触れる位置によっては寧ろイイかも知れない。
何処かって?
言わせるで無い、この助平め。
「お嬢様…いくら衛宮様方が教会に出かけて暇だからと言ってその格好は破廉恥すぎはしませんか…」
呆れ顔で呟くのは執事である死徒、イゴール。
初老の男の姿は一見温和だが、これで本性は恐ろしい巨体を誇るのだからわからない。
「日本の冬はいかん…炬燵とやらはあまりに魔性だ…骨抜きにされてしまう。」
炬燵に潜り込み、頭と両手を出した状態で蜜柑を剥き剥きしている。
因みに、ドレスは邪魔になって傍に脱ぎ捨てられている。
…下着だけで炬燵を背負った格好なのである。
「確かにドレスのスカートは炬燵に籠るには不向きでしょうが…そもそもその様に亀かエスカルゴの様な姿はーー」
「あー、煩いな…ワシの勝手じゃろ、血も吸わずに霧になったりなんだかんだと魔力使いすぎたんじゃもん…切ーーじゃない、士郎の血を吸おうにもここ、正面から戦ったら洒落にならんのばかりじゃろうが。」
ぷー、と頬を膨らませる姿は年端もいかぬ少女らしいものだが、口調は老獪な年寄りそのものだ。
「…いっそそこらの一般人の血を吸えば良いのかもしれぬが…それはプライドが許さん。」
「難儀な事ですなあ…ほほっ。」
それをどこか微笑ましいとばかりに軽口を返すイゴールは楽しそうである。
「貴様なあ…最近主従と言う立場を忘れておらんか、ん?」
「滅相もない、ただ、長い付き合いですからなあ…主従を超えてどこか孫を持つ祖父の様な気持ちも無いわけでは御座いませんが。」
「…ウヌぅ…」
「衛宮切嗣…不思議な御仁でしたな…今はどうしているのやら。」
「どこかでしぶとく生きているだろうさ、そうでなくては困る。」
「…ふふ、決着を、ですかな?」
「そうじゃ、借りは返さねばな。」
「…似た気配だと言うだけで、勘違いして抱きついた事は忘れておきましょうか。」
「いっ、イゴールっ!殴るぞおまえ!?」
顔を真っ赤にして炬燵から立ち上がるイルマ。
汗ばんだ下着は薄く張り付き、子供らしくも、大人に成りかけている未成熟な肉体を晒す。
「ああ、ですからはしたない…」
「話を逸らすなっ!?」
衛宮家は主人不在でも賑やかである。
*************ーー…
「いよいよキナ臭くなってきたものだ…」
冬木ネオ・ハイアットホテル。
10年前に倒壊したこのビルであったが、新たに建造されたそれは最新、最高級を謳い、当時のホテル以上の豪華さとセキュリティーを備えていた。
その最高級の客室に居るにしては珍妙な組み合わせの二人。
一人は、東洋人は幼く見えるとは言え身体つきに反して幼い顔立ちの、ショートカットの女性。
もう一人は、2メートル近い巨躯で腕を組む筋骨隆々の大男、しかしその見た目は厳ついというだけに留まらず、美しくさえある黄金比。
アーチャー、ゼウスとそのマスターであった。
「ええ、また…時空が歪みを見せましたね、今回は小規模な時空震でしたが…」
「此方に降りたって以降、頻繁に聖杯経由でちょっかいをかけてくるものが居るな。」
「解っていた事ですが、貴方の様な規格外を従えているのはひとえに、その”ちょっかい”に負けないで頂きたいからーーでもあるんですからしっかりして下さいね?」
「ーーハ、そこいらの貧弱な英霊と一緒にしてくれるな、分霊とはいえ…ワシは神であるぞ?」
「神を名乗りながら異変一つどうにもならないとはお笑い種です。」
「ーーぬかせ、小娘が…この街は異常極まりないんじゃよ…我が眼を持ってしても全容が見えぬのだ…如何にこの身が全盛期に比べいささか以上に格を落としていようと、見通せない状況などない筈なのだ。」
「ーー
生暖か…いや、最早その域を通り越して乾ききった眼で自らのサーヴァントを見る。
「そのチベットスナギツネの様な目はやめんか、マスター…」
「そう思うなら真面目にやってください。」
はあっ、とため息を吐きながらこめかみを押さえながらアーチャーに目を向ける。
「まったく、笑っておればすこぶる魅力的だと言うのに…」
「貴方に言われても嬉しくありませんよ…私がそんな風に言われたいのはあの人だけですから。」
「あの人、のぉ…全く…お主の様な女に想われるその男は幸せものよな。」
「えぇ…ですから、必ず、必ず救いますよ。」
薄桃色の髪に、紫紺の瞳、そこに決意の光を灯して立つ姿は。
女神すら霞む程に神々しい。
しかし、同時にあまりに危うくもあった。
「あまり独りで気負うでないぞ、人の身で叶う事などそう多くはないのだ…他ならぬお主こそ解っている筈じゃろうて…奇跡とはただ一人で起こすものでは無い…神に抗うは人の業であるが、ただ一人で成し得るほど容易なものではないーー違うか。」
「ええ、そうです…貴方を召喚し、この地に立つ為に如何に多くを失いきたか…忘れたわけではありません。」
それほどに「あの人」は大きな人だった。
そして、同時にあまりにも優しく、脆い。
他人を救うことに躊躇などしない癖に、自分を救う事など考えてもいない。
危なっかしくて、愛おしい人ーー
「ええ、必ず救います…待っていてくださいね…先輩。」
【後書き的なもの】
はい、皆様こんばんは、こんにちは、おはようございます!
ライダー/ギルス です。
さて、間が空きましたがこちらも更新しました。
p5楽しいよp5。
委員長の「鉄・拳・制・裁 !」で水着マルタ思い出した。
p5の短編みたいな感じのクロスオーバーも彼方ではゆっくり更新中。
希望があれば此方にも上げようかな?
後、FGOにおける十二の試練の悪夢。
なにあれ怖い…後スカサハ師匠と槍ニキもヤバイ、厄イ。
同時に倒さないと全体即死発動するし、回避スキル連打するし…いや、もう、鬼畜。
俺、あんな怖い連中を作中に出しまくっていたのか…逃げて!冬木逃げて!
後…士郎、鯖もなしに大丈夫、お前!?
とか、今更思いました。
インフレ過ぎてサーセン。
だが自重しない。
冬木はどんどんやばくなります。
と言う訳で今回はアヴェンジャー、エドモン・ダンテスさんが動きました。
本人は偵察程度の気分ですがアサシン、雁夜おじさんを呆気なく完封。
聖杯とかいらないし、彼は個人的に気に入ったものの為にしか動きません。
聖杯からの意思、命令も真面目にとりあってません。
ま、彼は上から言われて素直に従うたまじゃないですしお寿司。
さて、ではでは!
次回更新で!
次は多分、ぐだ子と麻婆神父トーク。
AUOも居るのかしら?
で、またお会いしましょう!!
しーゆー!
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第22話 『恩讐』
過去に囚われる者。
過去より這い上がる者どもよ。
待てーーしかして希望せよ。
「これは…どう言うつもりだ?」
「ん?見た通りだが、何を悩む、金なら手に入った、問題あるまい?」
「──いや、確かに君が適当に買ったスクラッチがいきなり当たって大金に変わるのを見たのも驚きだけどな。」
「まあ、換金は戸籍の無い俺ではできなかったからな、半分はお前にやろう。」
「あ、いやなんか後が怖いし何より俺には金を使う未来があるかだってわからないから、要らないよ。」
曰く、彼の持つスキルの効果らしいが…
「黄金律A」とはここまで理不尽に効果覿面なのか…
「そんな事で聖杯を望もうと言うのか貴様は…まあいい…理由か。」
「いや、俺は──」
聖杯を、のくだりを否定しようと口を開く。
が、先にアヴェンジャーの言葉がそれを遮る。
「ふむ、強いて言えば気まぐれだな。」
「─は?」
アサシンは今は姿を消している。
今現在向かい合うのは俺、間桐雁夜とアヴェンジャーだけだ。
「気まぐれだ、気まぐれ…そうだな、より具体的に言うならば…お前の気概が気に入ったと言えば納得か?」
「──いや、ますます理解に苦しむが…」
「オレは、特殊なサーヴァントでな。」
「ああ、そりゃエクストラクラスだもんな…」
「いや、そういう意味ではない。」
と、会話をしながら今俺の目の前には信じがたい光景が広がっている。
アヴェンジャー、彼はニヒルに口元を歪めてはいるのだが、余りにも似合わない。
「オレは聖杯により招かれた、本来とは違う、通常と異なりマスターの居ない──完全に独立したサーヴァントだ。」
今、凄い重大な案件をサラっと吐き出されたが…僕の目は寧ろその姿を認められずにいた。
つい数時間前に、まるで蒼き流星の如き動きで空を駆けたとはとても信じがたい。
なんせ、今の彼はどういう訳か借りてきたレンタルアパートの一室で、やたらに可愛らしいクマさんプリントのエプロン姿で料理を作っているのである。
しかも、外套は脱いだもののレトロなスーツはその下に着用したままで。
「…え、あ、そ、そうなのか。」
「なんだ、意外に驚かんな?」
フライパン片手に可愛らしく小首を傾げる姿は一部の層が見たら喜びそうな感じだが、男だ。
「いや、もう今日は驚きすぎてキャパが…」
最早苦笑いしかできない。
しかしこんな姿を見せて油断させて俺をどうする気だ?
「あの地下空間で蛹から羽化した後に貴様は言ったな?」
そう言えば確かに御大層な事を言ったかもしれない。
今や自分の生き長らえる意味そのものと言えるくだらない話。
「──許しがたい者が居る、と。」
「ああ、確かに言ったな、そうさ、俺の祖父だと嘯くあの妖怪爺──あいつを滅して、救うんだあの子を…今度、こそ!」
「その、眼だ。」
心底から美味そうなものを見つけたと言わんばかりに期待に満ちた眼が、俺を射抜く。
「眼?」
「ああ、そうだ…恩讐に生き、恩讐に身を焦がす者の眼だ、死に挑み、然しながら希望を抱いたその矛盾──実に気に入った。」
その台詞だけならニヒルに決めた彼の姿はかっこいいと言えなくも無い。
だが、クマさんエプロンである。
「まずは、食え。」
「え、あ、ああ。」
さきほどまで皿に盛り付けなどされていなかった筈だが、気づけば机には出来上がった料理が所狭しと並んでいた。
少しばかりスパイシーな香りと、ガーリックの香り。
「簡単なものだが栄養価は高い筈だ、貴様はまず身体を養え。」
…コイツ、もしかしたら世話焼きなだけか?
疑うのが馬鹿らしくなってきた。
て言うか、そもそもあの時殺そうと思えば殺せた訳だしな…疑う事自体ナンセンスな話だったのかもしれん。
「ありがとう、戴くよ。」
料理に罪はあるまい。
「──オブゥッ!?!?」
…調理した者には…罪があった。
一口含めば口に広がる異様なまでに強い大蒜臭、辛味の中に絶妙に間違ったバランスで感じられる妙な甘さ。
「レバーのニラニンニク炒め、ニンニクの芽添え、味噌風味だ、美味かろう?」
「あんた、栄養価だけみて混ぜたな!?」
涙目でむせながら抗議する。
栄養価を足し算すればいいと言うものでも無いだろう!本気で!
「──馬鹿な、不味いとでも?」
こ、こいつッ本気で驚いてやがる…マジか。
「美味い不味い以前の問題だ、ニンニク入れすぎだろう!?」
「そんなに臭いか?」
「味覚大丈夫かお前ッ、半ば失いかけた俺の嗅覚でコレだぞっ、普通なら卒倒するわ!!」
「──な、んだと…ならば…あの赤いのがほざいていた感想、事実だと言うのか?」
なんだか思案顔になったアヴェンジャーだが、とりあえず無言でやたら臭い料理を片付ける。
臭いに無頓着になりかけた俺でコレだ…多分外まで臭ってるんじゃ無いか…
嗅覚に鈍感な俺の鼻にガーリックの香りが届いた時点で気づけば良かった。
あれは最早食材への冒涜である。
「とりあえず、まだ材料はあるな…」
結局、何故か自分が料理を作る羽目になった。
どうしてこうなった。
ああ、そう言えば桜ちゃんが、一度だけ不器用に目玉焼きを焼いてくれた事があったなあ…
うちに来たばかりで、俺が出奔して間もなく、一度だけあの屋敷に荷物を取りに戻った時だ。
蟲爺のいないときを狙って、勢いに任せて出奔した時に持ち出せなかった、フィルムを取りに。
思えば、あの時間違えていたのだ。
あの時──あの子がいた事に驚いている場合じゃ無く、無邪気に笑いながら久しぶりだと、そう言って料理をしてくれた。
おもてなし、だと言って。
何故、そんな事に構わずすぐに連れ出さなかったのか。
そんなままごとに付き合う事さえしなければ。
あの子をあの場から救い出せた筈だったのに。
「なんじゃ、貴様大言を吐いておいておめおめ出もどりか?」
「──っ、どうしてもここに捨て置くには惜しい物を忘れていたから取りに来ただけだ…貴様の思い通りになんかなる気は無いからな!」
不意に戻った蟲爺に啖呵を切り、食べかけた卵焼きをそのままに、ただ、小声でありがとう、と言うのが精一杯だった。
爺の目の前からあの子を連れ出すほどの勇気も無く、力も無い。
このまま去るならこの男も自分をわざわざ殺しにも来ないだろうなどという惰弱さに負けた。
そして、暫く悩みに悩んだ末に。
第四次聖杯戦争に参加しようなどと。
間違いを犯してしまう事になったのだ。
そう、歪んだ想いに囚われて、囚われの少女と、その母をーー想い人を救いたいと願いながら、その実自らのエゴに周りを巻き込むだけの、歪んだ願いを抱えて──。
人は、幾度間違えば正しくあれるのか。
恩讐があるのだとすればそれは、寧ろ俺自身に対してなのかもしれない。
******************
「ふむ、この霊基盤の反応は一体如何なる事か…既に12体分の反応があるなどと…」
此度の第五次聖杯戦争、その監督役たる聖堂教会の神父にして神罰の代行者たる彼、言峰綺礼は些か困惑していた。
ルーラー、アヴェンジャーに関しては霊基盤にその存在は確認出来ない。
故に彼は読み違えている、サーヴァントは現在13騎では無く、自らが擁するイレギュラーを足せばさらに1騎、計15騎存在する事を。
今回、正規の7騎に加えて自らが擁する「前回」の生き残りであるアーチャー、英雄王ギルガメッシュを入れて8騎。
それが初めに描いた全体図であった筈なのだ。
しかしある時期を境に次々と反応が増え、今や英雄王を入れると13騎。
脱落したライダーを除き、それでも従来の倍の数の英霊が現界している。
「把握する限りの英霊はギルガメッシュ、セイバーにヘラクレス、アーチャーに凛の従える無名の英霊…ランサーに李書文…真名不明のキャスター、アサシン…、そして規格外のバーサーカー…クー・フーリン…」
呟いたのが当初把握していた英雄王を含み、ライダーを除くサーヴァント7騎。
クー・フーリンに関しては対ライダー戦にて開帳した宝具名から察しはついた。
「その上…更に7騎…未だ真名不明の海賊らしきライダー、宝具からしてランサーはフィン・マックール…それに正体不明のアサシン、…第二のセイバークラスは現状不在、キャスターは姿を見せず、バーサーカーは真名不明な上にマスターも素性がまるでわからん、アーチャーは…神霊、ゼウス──だと?」
教会地下の一室で霊基盤を睨むその顔は珍しく顰め面であった。
想定外の事態が起きすぎている。
「ふん、綺礼よ…中々に良い面をしているではないか…あまり我を興に乗せてくれるな、縊り殺したくなるでは無いか、なあ?」
背後にラフな格好の美丈夫。
金髪、紅眼の人間離れした畏怖と均整が同居した男ーー英雄王ギルガメッシュが腕を組み、見降ろしていた。
「ギルガメッシュか…ふん、困惑もしようというものだ、一体聖杯はどうなっているのだ…アレを宿したにせよ此度の事態は度がすぎる。」
「何、あの赤いのに好きに暴れ回らせてやれば良かろうが、そろそろ頃合いでは無いか?」
そう、つまりはランサーを捨て石にしろと言っているのだ、この英雄王は。
確かに、英雄王の力を持ってすればほぼ全てのサーヴァントを打倒可能だろう。
だが。
「ギルガメッシュ、いかに貴様でもあのアーチャーに対しては完封ともいかんだろう。」
「──ふん、この我を誰だと思っている…神など、微塵に砕いて那由多の果てへ消し飛ばしてやるわ!」
ギルガメッシュが負けるとは思えない、しかしあのアーチャー相手に複数入り乱れる混戦になれば必ずどこかで綻びが生まれるだろう。
それは面白くない。
それでは、面白くないのだ。
だが。
「確かに静観するのもそろそろ終わりにすべきかもしれんな…。」
「ランサー。」
令呪を通じ、監視を続けていたランサーに告げる。
「──頃合いだ、貴様が良しとする相手の首を取れ、ただしあのアーチャー…ゼウスにだけは手出しするな、貴様では消し炭にされるのがオチだ。」
《ようやくその気になったか、マスター…しかし消し炭にとはコケにされたものよな…まあ、どのみちワシが好む手合いでも無い故したごうてやるが、な。》
「好きに暴れるがいい、目立たなければ幾ら殺そうが構わん…ただし逐次報告だけはしろ。」
《承った、それでは──ランサー、
それを最後に、プツリと意識のリンクが途切れる。
「やれやれ、あれでは報告も真面目にしてこんかもしれんな、まあ…一人二人潰してくれれば構わんか…」
「で、客のようだが?」
英雄王が目で上を指す。
「どうするのだ?」
「迷える子羊には、道を説くのが神職の務めと言うものよな。」
「──はっ、どの口がほざくのだ貴様!」
愉しくて仕方ないという風に笑いを堪えるのに苦労するな、と返す英雄王。
「さて、私には口は二つとないのだがね。」
「口は?舌は、と続くのではないか、この似非神父めが、クックク、ハッハハハハ!」
英雄王が姿を消し、綺礼は階段を登り、礼拝堂の扉を開く。
「ようこそ、神の家はいつ如何なる時にもその門戸を開いている──懺悔かね、相談かね?」
薄ら寒い笑顔を浮かべ、客人を出迎える。
そこには見知った顔。
遠坂凛、己の魔術の師である時臣氏の娘、氏の亡き後は私がまだ幼い彼女の後見人でもあった。
その後ろには、見慣れぬ少女。
使い魔やランサーから報告は受けている。
あの、九重十蔵の娘。
アジ・ダハーカを継いだと思しき者、九重朔弥。
そして衛宮。
衛宮士郎──あの男の、養子。
「久しぶり、でも無いけど…綺礼、監督役としての説明責任を果たしてもらうわ。」
と、凛が切り出す。
「よかろう、凛…お前が私に頼み事など…そこの二人には感謝せねばな?」
「──よしてよ。」
それ以上の言葉こそ無いが、しかし凛は明らかに嫌がっている。
そんな姿を見ると抑え難い嗜虐心に駆られる。
「時に、そこの少年は?」
「え?あ、ああ…士郎は弟子よ、出来は悪いけど素養はあるわ、サーヴァントを従えるでも無いし、その、ちょっとほっとけなくて、あ…いや…兎に角、取引したのよ、取引。」
慌てた様に捲したてる凛。
ふと、なんとは無しに感じた。
(なかなか、面白いでは無いか。)
ニイ、と益々怪しい笑顔を浮かべ、彼らを招き入れる。
「まあ、立ち話もなんだ…入り給え。」
ああ、愉しい時間になりそうだ────。
*************
願い。
願いとは何だ?
ヒトの望み。
渇望。
叶えたい想い──
狂おしいほどに求める強い思いに突き動かされ、彼らは呼び声に応える。
そう、何の為に。
私は何の為に此の時代に現界したのであったのか。
今となっては、もうその答えは出て。
だからこそ──彼を。
救わなくてはならない。
そうだ。
あんな、あんな理不尽な黄金に竦み、立ち止まっている場合では無いのだ。
──待っていてください、必ずーー貴方の元に、戻りますから。
ああ、私の──鞘。
私と言う愚かで独りよがりだった抜き身の刃を受け容れた貴方。
必ず。
必ず──
光が、瞬いた、気がした。
【後書き的なもの】
はい皆様お久しぶりです、ライダー/ギルスです。
暫く違う話やらリアルやらFGOやらに興じたりしていたらいつの間にか随分時間が空いちゃいました、すいません!
今回、麻婆との話し合いまで行くはずでしたが、アヴェンジャーのエピソード入れていたら次回まで持ち越しになりました。
まあ、皆様も多分麻婆よりエド×雁が見たいよね!?え?雁×エドが良い?
貴方、なかなか腐通ですね?←
いや、ごめんなさいごめんなさい、腐要素は無いです、冗談です。
まあ、うちのエドモンはポンコツ属性だったと言うオチ。
あと、ツンツンだけどデレ安い。
かなりのチョロインである。
(だから腐では無いし男だと言うのに。)
と言うわけで、現在の戦力比。
朔弥(ぐだ子)side
朔弥、バーサーカー(クー・フーリン・オルタ)
凛、アーチャー(エミヤ)
士郎、イルマ(吸血種)
*厳密にはイルマ単独で協力している関係、サーヴァントでは無い。
間桐side
慎二、ライダー(フランシス・ドレイク)
桜?
赤のキャスターside
葛木宗一郎、キャスター(メディア)
アインツベルンside
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、セイバー(ヘラクレス)
魔術協会side
バゼット、ランサー(フィン・マックール)
ロードエルメロイ二世
聖堂教会side?
言峰綺礼 アーチャー(ギルガメッシュ)、ランサー(李書文)
雁夜side
間桐雁夜、アサシン(真名不明)
アヴェンジャー(エドモン・ダンテス)
????side
???、アーチャー(ゼウス)
青のバーサーカーside
????、バーサーカー(カリギュラ)
聖杯side?
マスター無し、ルーラー(ジャンヌダルク)
マスター無し、アヴェンジャー(エドモン・ダンテス) ※現在雁夜に肩入れ
青のセイバー、キャスター、不在、不明。
赤のアサシン、不明。
現在の勢力図はこんな感じです。
書いてみたら中々にわかりづらいなコレ!
まあ、こんな混迷極まる第五次聖杯戦争。
まだまだ続くからお付き合いよろしくお願いします!
ではでは、また次回の更新で!
しーゆー!
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第23話 『赤と青』
恐怖の大王は、時を跨いで──
それは、まるで綺羅星の様に──
始めにそれは、星々の輝きを受けてたゆたう様に暗い宙に漂い流れていた。
それは、円錐にも、円柱にも、匣の様にも、瓢箪の様にも、或いは壺の様にも見えた。
夢幻の怨嗟に囚われた虜囚を乗せた箱舟──
罪人達を連れ、世を儚んだ女は空を漂う。
やがて、その人知を超えた感覚は、蒼く美しい宝石のような星を観る。
『アア──ナント、ウツクシイホシ、カ。』
ソレは、知らず知らずに呟いていた。
その感覚に捉えた星こそが、ソレが遥か昔に求め続け、何時しか忘れてしまっていた大切なモノを育んだ場所であるとも気づかずに。
『ソウダ──ツギハ、アソコガイイナァ?』
無邪気な声は、耐え難い歪みを孕み、度し難い傲慢さと、気が狂いそうな甘い毒の香を含んでいた。
綺麗だから、欲しいから…だから。
『壊しちゃおう。』
一瞬だけ、その声に人間味が宿り、直ぐに無機質な、陰湿な、空寒い響きに戻る。
そうして。
ソレは太陽から三番目に位置する惑星へと、降下を開始した。
空気と擦れ合うその硬質な肌が、不思議な七色を撒き散らし、まるで──綺羅星の様に。
1999年、7月。
空に七色の流星が見えたと一部天体マニアの間で騒がれた。
だが、その星はとうとう落下した事実も無く、噂は噂として消えていった。
まだ、今ほどに電子情報網も発達しない頃の話。
ほんの一握りの人だけが騒いだ小さな話。
その日、
誰が救ったわけでも無く。
ただ、偶然の──いや。
必然の歪みがもたらした救いに。
そして。
歪んだ歴史は、一つの転換期に再びの歪みをもたらした。
誰一人気付かぬまま。
救われた世界は、次なる滅びに晒される事となる。
『アア、タノシイナア、ハジマルヨ、ハジマルヨ──キミガマチノゾンダ、ウマレオチルシュンカンガ、イヤ──ノゾマレタ、カナ?』
────
『ハハ、ヨケイナオセワカイ?ケレド、ウマレオチテモラワナキャア、ナンドモ、ナンドモ──カタチヲナスタメニ、キミハノゾマレタママニシタライイ、ネガワレルノガ、ホーリーグレイル──ワタシモマタ、ヨニデルコトコソガ、在り方なのですから──』
在り方?
人らしい在り方はとうに忘れた。
しかし、人に憧れる。
失った。
喪ってしまった。
『ハテ──ナニヲナクシタノダッタカ…』
『ハテ────?』
**************
懐かしい街並。
懐かしい空気。
ここは自分が知る冬木の地でありながら、冬木の地では無い様な違和感。
「しかし、あれからもう10年か。」
若気の至り、馬鹿ここに極まる理由で参加した第四次聖杯戦争。
自分はそこで死に直面し、生を得て、そして何より人として得難い経験をした。
ただ、認められたかっただけの自分。
卑小な自分を、大きな身体で導いてくれた征服王。
そして、敵でありながら王たる彼の生き様を認め、自分を見逃した英雄王。
あの後、セイバーも、英雄王も、どうなったかは定かでは無いが。
起こった災厄を鑑みるならばおそらくマスター共々果てたのだろうか。
遠坂時臣の死に様は実に奇妙ではあったが──
「まあ、今考える事では無いか。」
小さな公園に差し掛かり、ブランコや砂場で駆け回り、はしゃぐ子供の声が遠くに聞こえた。
違和感こそあるが、のどか過ぎる光景。
「本当にここは、あの結界の中…いや、冬木、なのか?」
「異な事を言うやつじゃなあ…?」
ふ、と急に声がして振り向く。
そこには白髪の長い髭をたくわえ、ボロを纏う一人の老人の姿があった。
片目は目の病気でも患ったのか、アイパッチの様なもので隠している。
「冬木にきまっとるじゃろうが?」
「え、ああ──数年ぶりでしてね、大層変わってしまったな、という話ですよ。」
何度かマッケンジー夫妻に会いには来たが、ここ数年はそれも出来ていない。
咄嗟に、変に思われたかと言いつくろう。
「ほー、まあ、気をつけなされよ…懐が暖かそうじゃからなあ、坊主。」
浮浪者?それともスリか何かだろうか?
いや、それならこんな風に声をかけてはこないか。
「ご忠告ありがとうございます、大丈夫ですよ、これでもイギリスの、治安も良くない場所での暮らしが長かったのでね…物盗り程度にどうにかされるほど甘くはありませんから。」
多分、おのぼりの外国人だと思って声をかけてくれたのだろう、酔狂な──いや、まるでマッケンジー夫妻の様に優しい御人だ。
「そうかね、まあ…念のためじゃ、ワシがおまじないをしてやろう。」
そう言いおき、老人は指をササ、と走らせた。
「ほほ、ワシこれでもまじないが得意でな、坊主には不幸が見えとったからな、少し払ってやったわい、お前さんに幸多からんことを、な。」
ふ、と笑い。
柄にもなく優しい笑顔でもう一度礼を述べる。
「ありがとう、おじいさん…貴方なんだか似ていますよ、僕の知っている人に。」
「そうか、綺麗なおなごなら紹介してくれ、是非な。」
と、わきわきと指をいやらしく動かす爺。
「男ですよ、貴方と同じお爺さんだ。」
やれやれ、と肩をすくめて背を向ける。
「坊主、楽しいやつじゃなお前さん…縁があればまた会おうな、ほっほっ。」
面白いのはあんただろ、とは言わず手を上げて答え、その場を後にする。
老人は、黙って先ほどまで繰り返していた作業に戻る。
手元の袋から取り出した餌を、茂みにいたカラスに放り投げる。
美味そうにそれをつつく二羽のカラスを見て目を細め、呟く。
「美味いか、美味いか〜?」
餌をやる対象は変わっているが、やはり冬木はのどかであった。
表からみる、限りは。
***************
「なんだ、今の──」
聖杯戦争が始まって、もう何日めだろうか。
昼に何をしたかも朧げな位に頭がはっきりしない。
何かを見た様な気がする。
忘れてはいけない何かを。
「痛っ?」
左手の甲に、鋭い痛みが走る。
切った覚えもないのに血が滲んで流れた。
「なんだ?っと布団についちまう…。」
慌てて流れた血が落ちない様に右手を重ね、そのまま洗面所に向かう。
血を洗い流した後に現れたのは、剣。
昏く冷め覚めと月の様に冷徹な刃がそこにあった──眩く輝く、金の刃もそこにあった。
「──っ!?」
一瞬、手から二つの刃が突き出している様に見えた。
美しい金色と、禍々しい黒。
しかし直ぐにその幻覚は消え、ただ、赤い刺青に似たものが左手甲に浮かび上がっていた。
「これ、まさか…令呪、か?」
何故、この状況で自分に令呪が顕れたのか。
「──俺に願いなんか、無いんだがなあ…イッヅゥッ!?」
更に右手に痛み。
重ねて血が流れ、金色の尖った先が見えた。
「これっは…いっ、いってぇ── 」
都合6画。
二つの令呪が左右の手に宿る。
「うっ、ぐあああああああっ!?!?」
蹲り、堪らず声を上げる。
言いようの無い激痛が身体を引き裂く様にして通り抜けていく。
『大丈夫ですかっ!士郎──!』
懐かしい誰かの声が聞こえた。
それは、幻聴だとわかっていながら。
頬に、涙が伝った。
「うっ、あ────ああああああ!!」
泣き叫ぶ様に頭を掻きむしりながら叫ぶ。
「ちょっと、士郎っ、大丈夫!?」
声に驚き、飛び込んできたのは凛だ。
赤い、いつもの服装に、髪だけはまだまとまりきらなかったのかまだ肩に流れたまま、すこし跳ねていた。
「とお、さ、か?」
「ちょっと、本当に大丈夫?顔、真っ青──」
嘘──、と。
今度は凛の顔が白くなる。
「なんで、あんたに令呪、が?」
呆然と立ち竦む凛、その後ろからバタバタと誰かの足音。
「何事ですかっ!?」
「あ、ここ──朔弥?」
「む…」
わざわざ、名前で呼び直したのを聞きとがめ、凛の顔に朱が戻る。
蹲る士郎を見た朔弥が、先ほどの凛同様に顔を青くして、駆け寄った。
「ちょっと、血が…いや、先輩顔、真っ青ですよ、大丈夫なんですか??」
令呪など、見えなかったかの様に士郎に寄り添い、支える姿。
ああ、私──やっぱり、魔術師なんだなあ。
そんな風に、普通と違う自分が嫌になる。
凛の思いは誰に聞きとがめられる事も、無く…は、無かった。
《凛、無理をするな──何も君が何時も魔術師然としなければならないわけじゃ無いんだ。》
《え、士郎?、あんた何言っ──あ、アーチャー?》
《全く、動揺し過ぎだ…小僧と
《え、あ…ごめん、ってそうじゃない、そうじゃないでしょ…余計な御世話よ!?》
《ふん、その方が君らしいよ──凛。》
従者の声に、反論しようとした矢先。
「──なっ?」
カランカランカランカランッ!
鳴子の様な警戒音。
「敵!?」
行くわよ!、と凛が舌打ちしながら駆け出し、朔弥も士郎に肩を貸しながら立ち上がる。
「バーサーカー!」
「ああ、ここに居るぜマスター。」
庭先に魔力を感じる。
敵は外壁を通り越して入り込んだ様だ。
「小僧、マスターとここに居な。」
そう言い残し、バーサーカー、クーフーリン・オルタもまた凛を追う。
「始まった、か。」
最後に呟いた言葉は誰の耳にも届かない。
しかし、言葉通りに。
事態は急激な変化を見せた。
庭には、無数の影が揺らめいていた。
黒く染まったまるで亡者の様な幾つもの影。
口々に怨嗟を吐き出し、姿は様々。
剣、暗器、槍、魔導書──様々な獲物を構えた其れ等は一様に眼に光は無く、泥の様な光沢をした身体を引き摺る様にじわじわと包囲を狭めてくる。
「な、何よこれ…?」
凛の眼には、そのステータスが見えた。
つまりは。
「全部、サーヴァント!?」
「何事だこれは…随分禍々しいが、あれがサーヴァントだと?」
アーチャーの疑問はもっともだ。
何せ見た目は英霊とは程遠い、言うなれば悪霊そのものの姿。
「──黒化英霊…歪んだ力に侵され、変質した英霊の成れの果てだ。」
答えたのは、バーサーカー。
「黒化、だと?」
「ああ、そうだ…俺もまた歪んだ願いから変質して生まれた口だからな、御同類の事はよーく分かるのさ…俺の真名はアーチャー、お前ならもう検討がついてるだろう?」
「あ、ああ…宝具を見たからな…しかし君のソレは私が知るものとは些か以上に違っていたが…?」
「そうさ、故にこその変質、アレは俺の様な黒化英霊の成り損ない…言うなれば、デミ・オルタってところか、自我が無いんだよあいつらは。」
「クー・フーリン・オルタ、それが俺の本来の真名さぁ。」
そう言いながら槍を構え、庭先の黒化英霊を睨みつける、クー・フーリン・オルタ。
「真名を…良いのか?」
「ハ、もうお前も、嬢ちゃんも聖杯がまともじゃ無い事には薄々勘付いているんだろう?」
「それは──」
「いや、お前は知っていたはずだな…アーチャー、いいや…剣製の英霊よぉ?」
「な、貴様──!?」
「は、その反応じゃ俺の事は覚えてないか、いや…オルタ化した俺やそのあたりの事は座の記録にすら届いていない、か?」
「な、何を言っている、何を?」
困惑するアーチャーを他所に、バーサーカーは殺気を高めていく。
「さあて、それじゃあ一仕事、するかねえ!」
「──何してるの、アーチャー!」
遅れて、凛が叫ぶ。
「っ、ええい、仕方ない!」
手に双剣を握り、駆け出す。
ガイン!と音を立て、刃を弾く。
強い。
己の意思を失ってこれか。
「これが英霊だと言うのは本当らしい、な!」
「アーチャー、気をつけて…こいつら全部雑魚じゃ無いわ…むしろ強敵よ!」
凛の眼に見えるステータス、それを見ればわかるが、その真名はわからずとも能力は朧げに判る。
それら全てが高水準、その上何らかのステータスの底上げがなされている様だった。
「バーサーカーの狂化スキルみたいなもの?」
自我が無い彼らは、その反面強い力を得ているのかもしれない。
「く、しかしマスターも無しに何と言う馬力だこ奴ら!」
最初に揺らめいていた数騎をなんとか斬り伏せるアーチャーとバーサーカー。
アーチャーは強引な太刀筋から体勢を崩しながらもなんとかと言うていだ。
しかし、影は更に増援を寄越してきた。
黒い油溜まりの様な中から、現れたのは剣の英霊。
構えた豪壮な剣を振り上げ、そこに光が集まり始める。
「え、ちょっとアレ真逆!」
凛の焦りはもっともだろう、あろう事か黒化英霊、デミ・オルタは自我すら無いと言うに、宝具を開帳しようとしているのだから。
「ちい、あの光…マズイ、対軍宝具っ!?」
間に合わない、バーサーカーは未だ残ったランサーの黒化英霊と鍔迫り合いをしていたし、アーチャーもまた体勢が崩れた直後──
「遠坂っ、アーチャー、バーサーカー、無事か、みんなっ!」
叫び、朔弥の肩を借りながら手に銃を構えるのは士郎。
そして、それが剣の英霊の意識を向けさせてしまう。
「足掻ク者──神は、貴様ラヲ、オ認めになラヌ──」
今までバーサーカー達に向いていた剣先が、士郎へと向けられ、光が──
「士郎ーーーッ!!」
凛の叫び、そして。
「セイバーッ!!!」
甲高い、少女の声と、剣が奔る音が。
聞こえた。
【後書き的なもの】
遂に、士郎に令呪が。
しかもダブルですよ!この街を泣かせる奴は許せない、さぁ、お前の罪を数えろ!(違います
さてさて、読んだ皆様は最後に助けに入って来たのは誰だか想像はつきましたか?
セイバー?
それともセイバー?
若くは違うなにか?
① セイバーだろ、わかりやすスギィ!
② アサシン?
③ キャスター?
④ イルマ?
⑤ それ以外の既存鯖?
答え合わせは次回に!
と、言うわけで次回更新にてまたお会いしましょう!
ではでは!しーゆー!
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第24話 『混沌』
アルトリア、君は悪くない。
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
(;゚Д゚)
(゚Д゚;)
(;つД⊂)ゴシゴシ
(゚Д゚)え?
アーチャー、落ち着け?
聖杯戦争とは、願いを叶える願望機、聖杯を巡り願いを叶える為に七人のマスターと、サーヴァントが争い、聖杯を得るに相応しいと証明し、手にする為の闘争である。
要約すればそう説明を受けた後、士郎と朔弥はそれぞれ別の意味で首を傾げた。
「何故、わざわざ殺し合わなきゃならないんだよ、それこそスポーツみたいにルールを設けて競っちゃいけないのか?」
「衛宮士郎、だったな──ならば貴様は、大切な誰かを生き返らせたかった、として…誰かが決めたルールで、やりようによっては勝てたかもしれないとなって負けた時に納得し、願いを諦められるとでも?」
「う、いや…それは──」
「そらみたことか、ヒトは所詮ヒト…譲れない願いを抱えた者が、命もかけずに引き下がるなどと甘いのだよ、だからこそ聖杯も争いを長く凄惨なモノにしない為に…いわば慈悲をもってこの形式を定めたのでは無いかと思うがね。」
「そんな人間ばかりって訳じゃ…」
「そうだな、諦められる者もいるかも知れぬ、しかし全ての参加者がそう言えるとは流石に君でも思えるかね?」
「…っ!」
唇を噛み、黙る。
悔しいだろうな、この人心底お人好しだから…
そう考えながら、次は私かと声をかける。
「──貴方、本当に神父様?」
皮肉でもなんでも無い直球の疑問。
なんせ目の前の人物はあまりにも嬉しそうに衛宮先輩を論破し、愉悦に満ち満ちた顔をしていたから。
「…いかにも、迷える子羊に応える神父だとも、ああ…私ほど敬虔な信徒もそうは居らんよ、可愛らしいマスターよ。」
「…綺礼…あんた真逆ロリコンだったわけ?」
「何を言うのかね、これでも死別はしたが妻帯者だぞ、私は?」
聞いていた凛が驚愕している、知らなかったのだろうか。
「…色白で、可憐な女性でな──私のような殺伐とした男には似合わぬ聖女の様な女性だったとも…もっとも、私などに関わったが故に幸せらしい幸せを知らずに天に召されてしまったがね。」
「…あんた、元代行者だものね…奥さん、普通の人だったの?」
「ふむ、アレは代行者の妻になるには余りに普通の人間らしい幸せを感じ、私の様な者まで包もうとする変わり者であったがね、なんだ凛…男女の機微でも学びたいのか、なんなら教えてやらんでも無いぞ?」
ヌたりとした笑顔を向けられ、凛が怯む。
「お、お断りよこの変態!」
「ふむ、残念だが仕方ない…まあ、バーサーカーのマスターよ、君が言う様に私は人間味に欠ける男であるとは思うがね、しかし紛れも無く神職につくものだ。」
「…確かに淡々と教えを説くには良いのかもしれませんけど…いや、そんな話をしに来たわけでは無かった…。」
つい、脱線してしまったが。
いや、意図してさせられたのかな?
「…言峰神父様、貴方が代行者で、その上、私の父、九重十蔵について知っていると聞いたので…教えてください、父は…殺されたんですか?」
「──驚いたな、真逆君が、あのアジ・ダハーカの娘、とは…」
間を空け、応える様は本当に驚いた様にも見える、が。
「ならば、役割とは言え君のお父上には気の毒な事をした──私もまた、アジ・ダハーカ封印の現場に立ち会った一人でね…最後に手をかけたのは私では無いが…な。」
「なら、やっぱり…?」
「ああ、封印指定を受けた君の父上は不死殺しの刃で四肢を落とされた後、魔術協会の封印指定執行者がとどめを刺した。」
「…その、執行者の名前、は?」
怒りが、目の前を赤々と染める。
「流石にそれは話せない、聖堂教会と魔術協会とが連携して行った数少ない事例ではあるが、故にこそ機密を漏洩するわけにもな、それとも私を今すぐここで殺すかね、サーヴァントを従えた今の君にならば容易い事だ。」
一瞬、バーサーカーに命じそうになるが、怒りを必死に押しとどめる。
「──いい、です…実行犯でも無い人に手をかけたくは、ありませんから。」
実行犯でも無い人に、それはつまり…そういうことなのか。
自分で言いながら驚きだ。
「そうか、ならば…君は命の恩人と言えるな…ひとつ、ひとつだけ教えてやろう…その実行犯、此度の聖杯戦争の参加者の一人、マスターだ。」
「…ありがとうございます、神父様。」
「なに、これも神の使徒としての役目だとも」
「綺礼──あんたねえ!」
反射的に食ってかかったのは、凛。
「遠坂先輩!」
「なによ?」
「大丈夫、大丈夫ですから。」
「…九重、お前…」
士郎も、凛もそれきり黙る。
気まずいまま、もう聞いておくことは無いかと言峰が問うと、誰もそれ以上聞きはしなかった。
なんだか──妙に疲れた。
******************
「なあ、九重。」
「ナンデスカ、エミヤシロウ先輩?」
「なんでカタコトだよ…八つ当たりするなよ…いや、したくもなるだろうけどさ、気にしすぎるなよ、無理なら無理で吐き出しちまえ。」
「…衛m…いや、士郎あんたねえ…」
凛が呆れ顔で、言峰教会からの下り坂を歩きつつ士郎にぼやく。
「なんで、って…先輩が優しくするからじゃないですか──もう、馬鹿。」
「は?なんだそれ??遠坂、わかるか?」
「あたしに振らないでよ…わかるけど。」
「そうですよー、先輩はもう少し自覚してくださいね、この天然スクエア先輩はっ!」
ぺち、と脛を蹴飛ばされ、士郎は困り顔で唸るばかり。
(鈍いなー、鈍すぎるなー…こいつ、本当に──ん?スクエア、四角??)
はたと、凛も思いあたり、思案する。
(朔弥でしょ、桜でしょ…本人入れたって三角じゃ──ん、まさか…)
「ちょっと、朔弥っ、貴女まさか私も数えてないでしょうねっ!?」
「────え?」
心底から、違うの?そんな馬鹿な、と言う顔をされた。
「ちっ違うわよ馬鹿っ!?!?」
真っ赤になって否定する凛。
「違うと言われましても…ねえ?」
と、何故か実体化して歩いていたアーチャーを振り返り同意を求める朔弥。
「いや、私に振るのかね…君は…」
至極複雑な顔で言い淀むアーチャーの顔に何故だか溜飲が下がった。
「──んん〜??」
と、首をかしげ…
「ま、いっか。」
急に笑顔になる朔弥。
「「女(の子って)と言うのは──」」
何故かハモる、士郎とアーチャー。
「黙りたまえよ──」
「いや、お前が真似すんなよな?」
急に険悪な二人。
「「男って────」」
今度は、凛と朔弥の声が同期するのであった。
…お互い様だろう、これ。
そう思って見ているのは、意外にもバーサーカーである。
「全く、世話の焼けやがるマスターだ。」
面倒そうに、しかしどこか嬉しそうに。
その端正な顔を綻ばせる様を見たら。
メイヴは、あの我儘女王様はなんと言うだろうと。
薬代も無い事を考える程にはバーサーカーらしく無い思いを巡らせながら。
並列してその思考は。
この、聖杯戦争を捻じ曲げている何者かを。
どう、殺してやろうかと。
朔弥の父を殺したと言う執行者もまた、事実なら如何に苦しく、無惨に殺せば良いのかと。
あまりに「らしい」思考を巡らせていた。
結局。
ああ、俺はやはり、狂ってるな。
と、思い至るのみであった。
*********************
「──いや、らしくねぇ。」
全く、本当に自分はどうかしてしまっていた。
教会でのやり取りを思い出し、冷や汗をかきそうな現実に辟易する。
「本当によ、ぬるま湯に浸かりすぎてふやけっちまってたなあ…」
あわや、士郎とともにマスター、朔弥までが宝具に吹き飛ばされる所だった。
ギチ、と尖った歯が唇を切り、血が流れた。
「感謝する、ぜぇ…青いの。」
バーサーカー、クー・フーリン・オルタが目を向けた先。
士郎と、朔弥を護るように飛び出した一人の少女。
その手には、英霊ならば、見間違えるはずも無い燦然とした輝きを放つ剣。
「──エ、エクス…馬鹿な、君は今回、現界していなかったのでは無いのかっ!?」
「──エ、え、…」
「──あ?」
「エーーーーックス!!!」
はあ?
と。
アーチャーの顔が面白い事になった。
「我が名はエックス!謎のヒロインエックス!けっして、けっして…アルトリア・ペンドラゴンなどではなあいっ!!!」
「────」
(;゚Д゚)
(゚Д゚;)
(;つД⊂)ゴシゴシ
(゚Д゚)え?
こんな感じに。
アーチャーは面白いくらいに二度見、三度見していた。
「えー、と…アサシ、ン?」
マスターにのみ見えるステータスウィンドウを見て声をかける、と。
だばーー、っと。
本当にだばーー、っと。
涙を溢れさせながら「ジャージ」に、「体操着」に、「ブルマ」ハーフパンツではない。
更に胸には「あるとりあ」と平仮名で書かれている少女──あるぇ、さっき自分でアルトリア・ペンドラゴンでは無いとか言いませんでしたか。
さておき、少女は、泣きながら答えた。
「セッ、セッ──」
「セッ○○?」
「小学生みたいな煽りヤメろ馬鹿!?」
戯けた事をほざいたバーサーカーにはハリセンで突っ込んでおいた。
さっきふやけっちまってたなあとか言いながらしっかりボケかましてるよこの狂犬…って。
「セイバーなんでずううう、アルトリアでいいんですう〜っう、うわああん!?」
なんか、大号泣された。
「こ、この
「…その、剣…間違いなく君はアーサー王…いや、アルトリア・ペンドラゴンなの、だな?」
「し、信じてくださるのですね、流石アーチャーですっ!!」
眼を潤ませながら息つく暇もなく訴えているアサシ…いや、自称、セイバー。
「話が全くわからないんですが…」
凛は完全に置いていかれ。
朔弥はなんだか首を何回も何回も傾げていた。
「…なあんだろう、何回もこんな光景を見たような、でもコレジャナイ感がある、ような気が…???」
「まて、落ち着け、アサシ── 」
「違いまずゔ〜セイバーなんでずうう!?」
「あ、わかった、わかったからセイバー!」
泣きながら鼻水を擦り付けるセイバー(仮)にどうしたらいいのかと言う顔の士郎。
「…なんだろう、何か、何か壊れちゃいけない幻想が壊れたような気がしてならないっ!」
困り顔で器用に泣き笑いの様な声で呟く士郎の声で、何故かアーチャーが
「俺は、答えを得たから──だからもう、いいよな…?」
呟く台詞がなんだか不味い。
「…ちょっとあなたたちっ…いい加減に…ッ、しろーーーーーッ!!」
カオス極まりかけたその場に。
凛の大音量の一喝が響き渡った。
「はっ!」
「あ。」
「…め、面目ない…ちとトリップしてしまった様だ…クッ…!」
いや、アーチャー、くっ殺さんですか?
違うよ、貴方にそんな属性ないからね?
「なんだかわからないが凄く悲しくなったんだ…なんだろう、本当になんだろう…」
衛宮先輩、頑張って下さい、なんだかわかりませんがわかる様な気もします。
「す、すみません…取り乱しましたはい、私はアーサー王の別側面…かなりふざけた時空で発生した…所謂黒歴史なんです…でも意識は、意識はきちんと私ですからっ、セイバー死すべしとか無性に叫びたくなるけど、私は私ですからっ!」
「…セイバーに何か恨みでもあるの?」
遠坂先輩の至極まともなツッコミ。
「…聞いたら駄目だと思います、本当に勘弁してください…」
アーサー王、また泣きそうだった。
「…と、とりあえず…気を取り直して!」
パン!と頬を叩いて気合を入れ直したアサ、いやさセイバーが士郎に向き直る。
「ス──、ハァ、問おう。」
「え、あ?」
「貴方が、私のマスターか?」
「……あ、ハイ多分…?」
困惑顔のまま、士郎は令呪を翳す。
両手、共に。
「では、これより、我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある──サーヴァント、アルトリア・ペンドラゴン…これより貴方の剣と成ろう…。」
粛々と、金砂の髪を揺らしながら告げる、彼女は確かに美しい。
しかし、ブルマが。
体操着の名札が。
「あ、ああよろしく、セイバ…ブフゥ!」
今、そこに気づいた士郎が吹いた。
盛大に吹き出した。
「し、シローーゥ!?」
今度こそ、騎士王がマジ泣きした。
…ねぇ、大丈夫?この聖杯戦争、大丈夫?
とりあえず。
新たな仲間が加わったのである。
──どうしてこうなった。
【後書き的なもの】
はい。
ごめんなさい、長い長いシリアスに耐えきれなかったんです。
とうとうシリアスブレイクしました、セイバーファンの皆様には本当にごめん、マジごめん。
でも。
セイバーがアサシンクラスで現界した事、士郎に6画二種の令呪が宿った事にはきちんと意味があります。
今後そこは明かしていきますので、最後まで是非、呆れずにお付き合い頂けたら幸いです。
と、言うわけで。
前回の回答は②。
アサシンが正解でした。
最後の「セイバー!!!」、はイリヤの叫びでもなければ記憶を持っていた士郎の叫びでもありません。
アサシンアルトリア──謎のヒロインXの、雄叫びだった、と言う酷いオチでした。
うん、自分でも酷いと思います。
あ、胸のゼッケンは中の人が隠す気皆無なため「あるとりあ」になっています。
当初は、違う形のはずでしたが。
この方が面白いよね?
たまにはハメを外そう?
と。
ナイアルラトなんたらさんが囁きました。
煮え 滾る 混沌 の核 !!! (CV 折笠愛&若本規夫)
いや、よそうぜ兄弟。
次回には修正しよう?
本当に修正しよう?
…大丈夫、さすがに脱線したままにする気はありません。
シリアスに戻るから。
シリアルじゃないから。
信じて、お願い?
と、言うわけで!
また、次回更新でっ、会いましょう!!
しーゆー!
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第25話 『未来/見来』
交わり行く世界の在り方。
しかして、それは未来へと繋がるや、否や。
「ねぇ、死んでくれる?」
目の前に立つのは、影。
遠き日の写し身が目の前に居る。
アーチャー、ゼウスとの決着をつけるために街へと向かう最中。
それは浸み出ずる様に現れた。
「なんなの貴女──」
黒い、ワンピース、紅い宝玉の様な瞳。
幼く、手足こそ短いが、陶磁器の様に白い肌。
「何って…私は、貴女、貴女の可能性。」
毎朝鏡台の前で見る貌。
「…不愉快よ、セイバー、やりなさい。」
巨大で、威圧的な存在を背後に引き連れて。
「…あは、あははははは!!」
それは…、狂った様に笑う、幼い貌は。
「承知した──紛い物は消えよ。」
「できるかしら、できるかしら!ねぇ!?」
嬉しそうに、愉しそうに、殊更愉快でたまらないと嗤う、「過去の自分」。
「やっちゃえ───
黒いワンピースの少女が手を振り下ろし叫ぶ。
「────■■ォ■■■■■■ォォォオ!!」
鼓膜を破られそうな咆哮が轟き、巨大な石柱から削り出された斧剣が疾る。
それは、とても理性を失い狂化した者の太刀筋では無かった。
九つの斬撃が走り込み、懐へと潜り込もうとしたセイバー、ヘラクレスに迫る。
「狂っても──
即座に炎剣の刃が同じく九つの斬撃と化し、全てを弾き返す。
ギャリイン、と鋭い金属が鉄塊を擦る様な耳障りな衝突音が響く。
が、体躯が違う。
力も、狂化した分あちらが僅かに上回る。
「ぬっ、く!?」
セイバーは僅かにたたらを踏み、蹌踉めく。
「あら、呆気ない、あはははははっ!」
黒いワンピースのイリヤは笑う。
「──グオ■■■■■■ォォ■ォ■!!」
集音マイクがあれば音割れしてしまいそうな咆哮が再び響く。
斬撃が閃き、セイバーの胴に殺到する。
「セイバーッ!?」
ズシャ!!
硬い砂袋を鉄塊で叩いた様な鈍い音。
「あら?」
確かに斬撃がセイバーを裂いたと思っていた黒いイリヤがピタリと笑いを止めた。
「──フ、武技は忘れじとも…己が宝具の効果すら忘れたか、バーサーカー。」
斧剣は、その刃を通せない。
事に、ランクとして落ちる神代の時代の石柱を削り出しただけの粗末な斧剣では。
宝具としての格はようやく最低限度と言ったところだから。
「──ネメアの獅子…?」
「そうだ…生半な刃は宝具と言えど通じぬよ、そして…ただの打撃になり下がった攻撃が通じぬ理由は…マスターならわかるだろう?」
「そう…、
「なれば、諦めて消えよ…紛い物!」
セイバーの視線が、影の様な姿の
ボッ、と空気を貫通して剣閃が奔った。
バーサーカーの、暗い影の様な肌が炎剣に見る間に切り刻まれる。
「ガ──ァ■■■ァア!」
ドシャリ、と肉片が地面に落ちて、真っ黒な、コールタールの様になって消えていく。
「.…フ、うふふ、うふふふふふ──」
「…何を笑うのよ…気味が悪い」
「哀れ、哀れね、早く楽になってしまう方が、苦しまなくて済むのに…聖杯戦争なんて何故するの、私にその意味は無い…いいえ生きる意味さえありはしないくせに──アインツベルンである、と言うただそれだけで動く人形の癖に!」
キリツグが居ない。
お母様も居ない。
そんな世界に──意味なんか、あるの?
「黙れ──黙れ、だまれ、黙りなさい!」
髪が浮き上がり、ザワザワと生き物の様に蠢き、その中から銀の煌めきが躍り出る。
「──
星の光を浴びて煌めくソレは針金だった。
髪の中に仕込まれたそれは魔術により伸び上がり、宙を舞う。
瞬時に形を変え、鋼細工の美しい鳥が羽撃いた。
「──カッ…」
針金が胸を貫き、短い呼気を吐き出して吐血する黒イリヤ。
そのまま、地面に倒れると先のバーサーカー同様にコールタールの様な液体に変わり、染み入る様に消えていった。
「…なんなの!なんなのよ!」
ヒステリックな声を上げる主に、セイバーはそっと手を出し頬を撫でる。
「気にしなくていい、取り乱せば相手の思う壺だ。」
「…わか、わかってる…わかってるの!」
ギュウ、とセイバーの太い腕にしがみつく。
爪が食い込み、普通ならばセイバーの皮膚は裂けていただろう、が。
「イリヤ、あまり力を入れるな…お前の爪の方が割れてしまう。」
「………ぅ…う、ふぅ…」
静かに泣くイリヤ。
あの黒いイリヤが言った事が余程こたえたのだろう。
確かに、イリヤには未来が無い、過去縋るべき二親も失い、寄る辺も無い。
残されたのは「アインツベルン」であり続ける事だけ。
「──泣くな、私が居るだろう…イリヤ。」
「う、ぅうぇ、う──あああっ!」
慟哭。
たかだか十数年の彼女の人生には何も無い。
アインツベルンと言う呪いに縛られ、唯一外に繋がる扉と言えた父親に見捨てられ、母を失い。
「もう、私には、私には…キリツグ、キリツグ助けてよ、キリツグ──」
父親になって欲しい、そう言った彼女。
しかし、求めるのは「キリツグ」。
セイバーでも、ヘラクレスでも無い。
「泣くな、イリヤ──」
結局、親の温もり、特に父親の愛など知らぬ自分には代わりを演じる事すらできないのか。
「泣くな…」
主の小さな身体を抱きしめながら。
大英雄ヘラクレスは考える。
先の影。
アレは、なんなのか。
どこか、懐かしいとすら感じた…
同時に悍ましく/望ましく──
不安そのものでしか無い、その感情。
しかし、感情は感情でしか無い。
答えのないままに。
今夜はこれまでか、と。
ゼウス探索を中断し、主を抱き抱え、跳んだ。
***********
「──なるほど、状況は理解しました…なんにせよ、アーチャー、凛…あなた方が味方である事…これほど力強い事は無い。」
衛宮邸の庭での戦闘。
黒化英霊を退け、一息ついた面々は情報の共有を行う為に居間に集まり食卓を囲んでいる。
マスターである凛、朔弥、そして士郎。
サーヴァントであるアーチャーとバーサーカー。
イルマは興味が無いとばかりに地下へ潜ったまままだ。
…いや、少し前まで炬燵にいたらしい跡が残っていたが。
みかんの皮とかみかんの皮とか。
そして──、セイバー、アルトリア。
いや、正確にはアサシンであるのだが、言うと本人が泣き崩れるので皆がセイバーで通す事にしたのだ、察して欲しい。
彼女、あの混戦の最中に衛宮邸内部に突如召喚されたらしい。
そして、「シロウ」を強く覚えていた彼女は。
その危機に迷いなく飛び出し、黒化英霊を斬り伏せたのだ。
「…アルトリア、君は…君は本当にあの、アルトリアなのか?」
「…えぇ、一人の哀しい男に救われた孤独な王だった、あのアルトリアですよアーチャー。」
二人の間に、何故か入り込めない空気を感じた。
「貴方が…
含みのある言葉、視線。
絡み合う様に親愛──否、それ以上の何かを感じる。
ふと、その優しい眼差しがアーチャーだけで無く、士郎にも向けられた。
士郎の方もまんざらでも無い顔をしていたりする。
「…何ですかね、あれ…?」
ブス〜、と頬を膨らませ呟く朔弥。
「知らないわよ…私に聞く?」
やはり不機嫌な凛。
「な、なんだかわからないが二人とも親しい仲なのか?別にいいじゃないか…なんだか奇跡みたいなものだろう、あれ…って事はアーチャーって…アーサー王伝説に所縁の英霊なのか??」
少しだけアルトリアの慈愛の眼差しにドギマギしながら士郎が呟くと。
「…知らないってぇのは時に残酷だなあぉい。」
バーサーカーの声は他には届かず、しかし士郎の呟く声は他に届いて。
「アーサー王所縁の弓を使う英霊って事は…トリスタン卿か?」
「「アレと一緒にしないで頂(きたい)こうか!?」」
アーチャーと、アルトリアがハモった。
トリスタン卿…何か問題人物だったのだろうか。
「え、あ、はいすいません…?」
「は、私は何を…いや、何故かトリスタン卿と同一視されるのが我慢ならなかったのだ、何故か…」
アーチャー、どうも記憶しているわけではない様である。
「記憶に無いだけで何処かで会っているのかもしれませんね…いや、あの男は有能でしたが些か問題のある性格でしたから、無理は無い…」
と、どこか疲れた様子のアルトリア=アーサー王、本当に何したの、トリスタン。
「私は、アーサー王所縁の英霊など恐れ多い者では無いよ…未だ記憶は継接ぎだが、少しならば思い出した事もある──私は真っ当な英霊では無い。」
語り出したアーチャーに、凛が暫し驚き、停止する。
「凛、話しておくが構わないか?」
「え、ええ…協力関係にある訳だし…何より今回の聖杯戦争はおかしいわ…場合によっては聖杯は諦めた方が良いのかも知れないし。」
「──そうか、君がそこまでわかっているならば…話せるようだな。」
神妙なアーチャーの口調に[[rb:欠伸 > あくび]]をするバーサーカーを除いた全員が注目する。
「先ず、先の私の話だが…私は真っ当な英霊では無い、所謂守護者…カウンター・ガーディアンと言う存在だ。」
「守護者…そうですか、貴方は、矢張り。」
何故言わなかった、と言う顔を凛に向けるアルトリア、対する凛にはその意図がわかるはずも無い。
「アルトリア、君は知っているな…契約が果たされず、死後に正統な英霊となる君とは違い…私は、死に際に願ってしまったのだよ、力を、望みを叶える力をね。」
「守護者…?」
とは、士郎の言葉…アーチャーは一瞬だけ複雑な顔をしたが、続ける。
「──ああ、世界の意思、抑止力と言えるものに契約を迫られた俺はその力と引き換えに守護者となった…守護者とはな、人類滅亡を防ぐ為に同じ人類すら抹殺する防衛装置──この星の免疫細胞の様なものだ。」
「故に、俺には真っ当な英霊の如き名も無ければ、伝説に謳われる様な力も無い。」
「だから、記憶が無いなんて言ったの?」
「マスターには悪いと思ったがね…いや、当初記憶が混乱していたのは事実だよ、ただ、思い出してからも態々こんな話を聞かせる意味も無かったのでな。」
「アーチャー…貴方ねぇ、はぁ、いいわ続けてよ、まだあるでしょ?」
「ああ、すまないな。」
一拍おいて、息を吸ってから再び話を再開する。
「我々守護者や英霊に時間の概念は薄い──故に召喚があればあらゆる時代、あらゆる平行世界に招かれる可能性がある訳だが…少なくとも、今まで冬木の第五次聖杯戦争に呼ばれた場合、多くは記憶にプロテクトがかけられ、最後に至るまで聖杯や参加者についての記憶は磨耗したかの様に思い出せず、終わりを迎えて来た。」
「私も、彼も…私は正直特殊な召喚のされ方をしていたのですが、平行世界の冬木における聖杯戦争に、ほぼ全て関わっています。」
「嘘、どんな確率よそれ…」
凛が驚くが、そこにアーチャーが補足する。
「驚く事も無い、つまりは我々が居てはじめて聖杯戦争が歴史上起こりうる、つまりは特異点に近しい存在なのだろう…聖杯戦争がある、と言う時点でこの時代の冬木に我々があること自体が歴史の転換点と認識されていれば確率など無意味だ。」
「そうです、アーチャー…貴方は何処まで思い出したのです?」
「いや、正直に言うと従来よりも様々な事を思い出した気はするが、まだまだ記憶は穴だらけだ…すまん。」
「いや、気にすることでも無いでしょう、私とて似たようなものです、しかし…私は本来セイバーとして…っく、あーアサ、アサシンなどでなく、セイバーとして、早々に召喚されていた筈なんです、この家の土蔵で、ランサーに襲われ死にかかった士郎に。」
「え、土蔵、それって…?」
「そういやランサーに襲われたのは朔弥で、召喚されたのはバーサーカー、だよな?」
「うん、赤毛の…怖い目をしたランサーだった、しゃべり方はなんかおじいちゃんみたいな。」
「…享年が高齢だったのでしょうか、戦いに身を置く英霊にしては珍しいですが…問題はそこでは無く…本来、ランサーとして呼ばれたのは…青い槍兵、クー・フーリンでした。」
「…ああ、そうか、そうだったな…校庭でランサーとやり合った時に違和感はあったのだ…何がおかしいかもわからない程度の違和感だったが、そうだ……本来はバーサーカー、君の別側面が本来のランサーだった筈なんだ。」
顔に掌をあて、考えながら思い出した事をぽつりぽつりと話続けるアーチャー。
「ふぅん、俺は話したように少々特殊な生まれ方をした身でね…ランサーの俺としての記憶は共有してねぇよ、いや生前に関しては覚えてるがね。」
畳に寝転び、欠伸をしながら聞いていた バーサーカーが話をふられて面倒そうに手を挙げ、答えた。
「…そもそも、そこだよ…九重朔弥。」
「ふぇ??」
「君は一体、何者だ?」
アーチャーの鷹の如き視線が、朔弥を射抜く。
「ぴっ!?」
びくり、と跳ね上がるようにして怯える朔弥。
「…おい、てめ…」
士郎が朔弥を庇おうと口を開いた瞬間。
「
一瞬、本当に一瞬で槍を突きつけたバーサーカーがアーチャーの喉に穂先を押し付けた。
「…やめて!バーサーカー!」
朔弥が何故か、悲鳴みたいな声で静止する。
「…命拾いしたな、赤いの。」
ス、と槍を引く。
「…ほとほと君は企画外だな…音も無く間合いを詰められるとは思わなかったよ…しかし、九重朔弥…君と、まさに今その異常な実力を示したバーサーカー…見知らぬ槍兵…君達こそがこの異常な聖杯戦争のカギになり得ると私は睨んでいるのだよ。」
「…バーサーカー、できればわかっている事を話しては頂けませんか?」
「セイバー、いいや…王様よ…俺は、話さねえ…一つ言えるのは、聖杯なんかよりまともじゃ無い何かが…いやがるだろう、ってだけだな。」
どか、っと胡座をかく形で座り、朔弥を引き寄せるバーサーカー。
ぼすん、とその体を抱き抱える様に、護る様に。
「にゃっ!?バーサーカー、何???」
「てめえ、危なっかしいからちょっとこうしろ。」
「え、え、うぇ???」
思わぬスキンシップに朔弥大混乱。
「ねえ、セイバー、アーチャー。」
凛がため息を吐きながら二人を流し見する。
「「なんでしょう(なんだ)?」」
「とりあえず、変にくっつかないで真面目に話してくれる?」
…いつの間にか、アーチャーの傍らにはアサ…セイバーが寄り添う形でぴったりくっついていた。
「あ、こ、これは失礼…アーチャーの傷を見るつもりでしたが…誤解させてしまいましたか?」
「アーチャーの傷なら私が魔力を送るだけで治るじゃないの…余計なお世話よセイバー。」
「なんにせよ…聖杯戦争はここに居るメンバーだけでも中断、再開は聖杯の状態を確かめてからでも良かろう?…降りかかる火の粉は払うにせよ、な…クラスはともかくアルトリアが味方になったのであれば戦力として申し分ない…他のサーヴァントを倒すのも難しくは無いだろう。」
「アーチャー…無意識?無意識なの?」
アーチャーの手は、何故かアルトリアの頭を優しく、優しく撫でていた。
愛でる様に、壊れ物を扱う様に、優しく。
「む、あ…こっこれは──」
「…とにかく!方針はそれでかまわんな、マスター、皆!?」
「…構わないけど…聖杯とかあまり興味無いからな…しかし、アーチャー…自重しろよてめえ。」
なんでか、士郎の額にも青筋が浮かび。
朔弥も、凛も。
とてつもなく冷たい視線をアーチャーに向けていた。
「…シロウ…私の事で怒って…?」
なんでか、嬉しそうなアルトリア。
今度は、凛と朔弥の視線が士郎に向けられた。
「えっ、ちょ!?な、なんでさ!?」
流石に…理不尽である。
とりあえず朔弥はバーサーカーの膝に収まりながらでそれはどうなのかとか、バーサーカーもちょっと朔弥の頭を撫でたそうに見ていた事とか…もろもろあったが。
──誰も突っ込まなかった。
【後書き的なもの】
はい、皆様こんばんは、こんにちは、おはようございます。
皆様の娯楽と隙間的な時間を頂き物語を紡ぎます、ライダー/ギルス…です。
ちゃんとシリアスだよね、ね!?←
さて、今回は説明会と言うか、半ば暴露大会に。
僅かずつですが伏線を回収しつつあります。
特にオルタニキと朔弥の存在について。
今後強くそれは物語に関わって行く事でしょう。
また、シロウとセイバー(アサシン)もまた然り。
更にはイリヤの元にも黒化英霊が現れました。
そう、ヘラクレスに至ってはバーサーカーである己が。
黒いロリヤが言うのは「私は貴女の可能性」との事。
本来の聖杯戦争に於けるヘラクレス(バーサーカー)とイリヤ。
ありえなかったセイバーとしてのヘラクレスと、成長したイリヤスフィール。
神霊を従えたマスターに、ありえなかった可能性、本来の可能性が黒化英霊と共に、本人を糾弾するかの様に現れて。
さて、黒幕は何がしたいのか。
そも、この冬木は本当に如何なる状態なのか?
風呂敷は頑張ってたたみますので、長くはなりそうですが頑張って書きます。
皆様のコメント、応援が我が活力です。
それでは、また次回の更新でっ!
シーユーアゲーン!!
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第26話 『鳥籠』
人神、皆が等しく籠の鳥───
巡り廻る輪廻の縁、神ならざる者に抗う術はあるや、否や。
……夢。
これは近くて遠い、愚かな自身の過去。
「遠坂時臣──質問は一つだ、何故…桜を臓硯の手に委ねた。」
「──何?それは…今この場で君が気にかけることなのか?」
「答えろ──時臣ィ!!」
強く、強く問いかける声に、嘆息を交えて答える声。
「ハ…問われるまでも無い、愛娘の未来に幸あれと願ったまでの事…」
「──ッ、何だと!?」
怒りに目の前が霞み、目眩さえ覚えた。
「…二子をもうけた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。」
最早、先に続く台詞も大方予想がついた。
「秘伝を伝授しうるのはただ一人…何方か片方は”凡俗”に堕とさねばならぬと言う、ジレンマよ。」
凡、俗…。
一呼吸、一呼吸が、苦しい。
心が、張り裂けてしまいそうで。
「──とりわけ我が妻は…母体として優秀過ぎた…凛も桜もともに等しく希代の素養をそなえて産まれてしまったのだ、娘達は二人が二人…魔導の家門による加護を必要としていた。」
あの、遠い日の母と子の姿を…この男は、ただ「凡俗」と切り捨てるのか──!
「いずれか一人の未来の為に…もう一人が秘め持つ可能性を摘み取ってしまうなどと──親として、そんな悲劇を望むものがいるものか。」
そんな──そんな、理由、でっ…知って、知っているのか!桜が、桜が間桐の家でどんなことをされているのかを!?
「姉妹双方の才能について望みを繋ぐには…養子に出すより他に無い。」
知らないはずが無いよな、それで!それでどうしてそんな顔ができるんだ──!
「…だからこそ、間桐の申し出は天啓に等しかった──聖杯の存在を知る一族ならば、それだけ“根源”に至る可能性も高くなる──」
そんな、そんな理屈──産まれてくる先を選べない子供に押し付けて!
それで、それが────!!
「魔術師とは、生まれついてより力ある者、そして…いつしか更なる力へと辿り着く者──その、運命を覚悟する以前からその責任は血の中にある…それが、魔術師の子として産まれると言う事だ、私が果たせなくとも、凛が。」
子供は、貴様の、一族の夢とやらを叶えるための道具じゃ無い!!
「そして凛ですら至らなかったとしても、桜が──遠坂の悲願を継いでくれるだろう。」
時臣、時臣ィ!
何故、何で貴様は、そんな!
凝り固まった妄執が正しいだなんて、言えるんだっ、お前が、お前が優秀で、葵さんを、幸せにしてくれると思ったから!
だから、俺は────
第一、それでは!
「──貴様、相争えと言うのか、姉と妹で!」
「仮にそんな局面に至るとしたら…我が末裔達は、
「な、に?」
「栄光は勝てばその手に、負けても先祖にもたらされる、かくも憂いなき対決はあるまい?」
狂って、いる。
こいつは、いや、魔術師なんて奴らは皆が。
狂ってやがる!!
「貴様、は──狂っている!!」
ああ、この時の俺は──余裕も無く、時臣が全て知った上だと信じて止まなかった。
「語り聞かせるだけ無駄な話だ…魔導の尊さを理解せず、あまつさえ、一度は背を向けた…裏切り者には。」
裏切り者。
奴からしたらそうだったのだろう。
考えてみれば、時臣の言い分は、全てが間違いでは無かったんだ…稀有な才能を持ってしまった二人は、一般人として生きるには難しく、したとして直ぐに捕縛され、良くて封印指定と言う名のモルモット…悪ければホルマリン漬けの生体魔術標本にされていたかもしれない。
「──わかるまい、…この所業、それすらも…強き理由あっての事であるのだと──」
あの、いつも人を見下し、怪しげな嗤いしか見せない臓硯がただ一度、零した言葉。
理由とは、何であったのか。
もしかすれば、奴なりに深い訳があるのだろうか。
否、あったとして…奴が許されざる者である事に変わりは無いが。
眠れない眠れないと横になって目を閉じるうちに見た浅い夢。
いつか見た光景が脳裏に蘇っただけの。
空が白み始め、朝日が昇る。
カーテンの隙間から
夢は、終わり。
そうだ、もう──過去だけを見つめるのは止めにしたのだから。
で、無くては…「彼奴」に会わせる顔が無い。
「どうした、雁夜?」
昨日出会ったばかりの、エクストラクラスのサーヴァント、アベンジャーが眠気に頭が回らない俺を覗き込んでいた。
「いや、夢をな…見ていたんだ。」
「ああ──他人の事はあまり言えないんだがな、あんたも本当に不幸極まりないな…」
「アサシン…まさか…お前──」
「わりいな、バッチリ見えちまったよあんたの夢。」
仕方ない、と溜息を吐きながら二人を見比べる。
方や、女性だと言われても違和感がなさそうな髪型のアベンジャー。
方や、精悍な男、になる手前と言った風体のアサシン。
「…何故、俺は男二人の顔を朝日とともに拝まねばならんのだ…」
考えて、少し切なくなった。
ああ──桜ちゃん、きっと大きくなってるだろうなあ…
会いたい、などと言う許されない思いを顔を振って振り払う。
「さて、アサシン…情報、あるなら報告よろしくな。」
「朝から勤勉だな、マスター。」
どこか人懐こい笑顔で悪態を吐くこの暗殺者。
まあ、嫌いでは無い。
「当然さ…余裕なんかないんだからな。」
キッチンからは、湯を沸かす音だけが聞こえてきた。
アベンジャーには、コーヒーか紅茶だけを頼む事にしたからだ。
さて、このイレギュラーだらけの聖杯戦争。
なんとか勝ち抜かなきゃあ、な。
**************
時刻は数刻遡り、深夜の冬木上空。
「ふん、つまらん…つまらんぞ。」
紅い眼を不機嫌に細め、街を眺める美丈夫。
英雄王ギルガメッシュは感じていた。
「如何なるものかはわからんが…無粋な匂いだ、神如き何者か…或いは神そのものが糸を引いているか…?」
空を覆う不可視の壁。
それは本来であれば内側からは「ある」と認識することすら不可能なものであったが、偶然にも上空を遊覧飛行と洒落込んでいた彼は見つけてしまったのだ。
「我が宝物を持ってして解析できず覚えもない力だと…宝物に由来するものでは無いか、或いは何がしかの存在そのものの力であるのか…不愉快だ、我が思うようにできず、鳥籠の鳥の如き扱いを受けようなど…必ずその大罪、我が前で償わせてくれる…」
もし、今「アレ」を抜けばこの壁を破壊する事も不可能では無いかもしれない。
だが。
「しかし、我をして気づかせぬ輩とは些か興味もある…どうせならば、この状況をも楽しんでこそ王と言うものよな。」
確かに不快ではあるが、ならば気づきすらしていない凡夫どもの足掻きを眺めるもまた一興か。
黄金の船に腰を据え、夜の街灯りを見下ろしながら。
最古の王は笑みを浮かべた。
「…あの泥に似た何かといい、この街に現れた幾つかの厄介な気配…考え次第では面白いではないか、そうよ、神ですら我を意のままにはできぬと知れ。」
一転して笑い始め、夜空に一人声を上げる。
その笑いは暫く響き…やがて、彼がその場から去って行き静寂が戻った。
聖杯戦争開始当時、紅く丸かった月は徐々に欠け、今は下弦──半月まで形を変えている。
静かに輝く月は黙し、空には現代には珍しく、何一つ飛行していない。
鳥はおろか、飛行機、果ては人工衛星の光すら届かぬ空。
都会にあるまじき美しい星々のみが瞬くその空に。
街に暮らす誰一人、気づかない。
異常が異常とわからない。
そこに囚われるのは人のみに非ず。
英霊ですら、その籠の中であった────
***************
「シロウ、アーチャー。」
「何かね、セイバー。」
「どうした、セイバー?」
「今日の賄いは何でしょうか。」
キラキラした目で二人を見つめるアサ…セイバー。
服装は今は凛から譲り受けた私服で、白と青を基調とした可愛らしい服装だ。
…正直、士郎には何故凛がこんな服を持っていたか甚だ疑問であった。
アーチャーは知っていたのかそこはあまり気にしていないようだ。
「ならば冷蔵庫の貯蔵は十分か、小僧。」
挑発的な物言いで士郎を煽る弓兵。
いや、お前それ英霊の台詞じゃないから。
「舐めるなよ、いつだろうと客が来ても構わないだけの備蓄はあるぞ?」
ニヤリと返す士郎の言葉に無言で冷蔵庫を開けたアーチャーがそれを見て嘲笑する。
「ハ、この程度でドヤ顔はよせ未熟者──彼女を満足させたくばこの三倍は持って来いと言うものだ!」
アーチャー、士郎。
活々きしすぎではなかろうか。
「ねぇ、何なのあの主夫二人…私達女よね?」
「…お昼からあまり重いメニューは厳しいなー…ただでさえ、最近身体動かせなかったのに…(石化で)。」
などと言っていると、今時珍しい古めかしいタイプの据え置きの電話機が音を奏で始める。
「あ、ハイ衛宮です。」
すぐに士郎が電話に出、応対する。
「…はい、え?ネコさんが?大丈夫なんですか?はい、大丈夫ですよ今日だけなら手伝いますから、ハイ、ハイ──」
聞こえた内容はあまり喜ばしいとは言えないものらしいのは伺えた、同時に女性らしき「ネコさん」の名前。
「どうしたのですか、シロウ?」
「あ、いやコペンハーゲン…バイト先の人が体調不良で病院に行かなきゃならないらしいんだけど…どうしても今日は予約した品物を取りに来るお客さんがいて店番が欲しいらしいんだよ。」
と、顎に手を当てる思案顔でアーチャーが口を開く。
「…行きたまえ、夕飯までは私が引き受けよう、但しセイバーは連れて行け…いかに貴様が魔術を扱うとはいえサーヴァントに襲われでもすれば無意味だからな、此方は私にバーサーカーがいれば過剰な程に戦力がある。」
「なんだよ、気味が悪いくらい物分りがいいじゃないかアーチャー。」
てっきり、逃げるのかとか煽るのかと身構えていたのだが。
「世話になっている御人なのだろう、礼を失するのを良しとするほど程の悪い人間であるつもりもないからな、貴様の話であったとしても、だ。」
「他人事では無いでしょうに…相変わらず素直ではありませんね、アーチャー?」
からかうようにセイバーに言われ、アーチャーが眉間に皺を寄せる。
「セイバー、夕飯はデザート抜きで良いのだな?」
「なっ、シっ…アーチャー、それはあんまりではありませんか!?」
「知らん、反省しろ馬鹿者。」
拗ねた様にそっぽを向くアーチャーに、慌てて機嫌を直してくださいと懇願するアルトリア。
「「夫婦(だ)ね」」
「夫婦だな。」
「なんだよあれ。」
凛、朔弥、バーサーカーが同様の感想を。
士郎はなんとも言えない気持ちを感じながら言葉を放つ。
「…まあ、とにかく準備してコペンハーゲンに出かけてくるよ、夕飯前には戻れると思うから皆は寛いでてくれ。」
「あまり悠長にするのもとは思うけど昼日中から動くものでも無いしね…そうさせてもらうわ。」
「は、俺もマスターから離れる気はねぇよ。」
「じゃあ、それで頼むよ。」
士郎が自室に財布と僅かな荷物を取りに行き戻る頃には。
台所で、結局デザート抜きを言い渡されたアルトリアがしょんぼりしながら戻ってきた。
「ハァ、シロウ…それでは行きましょうか。」
「ああ、ごめんなアルトリア、つきあわせちまって。」
「──ッ」
息を飲む様に、アルトリアが僅かに頬を赤らめ、停止する。
「どうした?」
「あ、いえシロウに名前で呼ばれるとちょっとびっくりすると言うか、なんともその。」
「あ、悪い…アーチャーがそう呼んでたからつい…嫌か?」
「あ、いえ…外や部外者の前でなければ構いません…嫌だなんて、思いませんよ?」
「あ、ありがと、う?」
玄関先に出るまでにこれである。
「ねえ、凛ちゃん──」
「何よ、朔弥…ちゃん付けするくらいなら凛でいいわよ…」
「あれ、どう思う?」
「みたままよね…アーサー王って移り気なのかしら…英雄色を好むとは言うけれど…」
「うん、なんかね…不思議とセイバー?がアーチャーにであれ、先輩にであれああいう態度してるのを見てたらどっちにしても何だかモヤモヤするのよね…何でかな…」
「奇遇ね、私もよ。」
ガシ!
と手を取り合い、年の差を超えて二人はこの瞬間、友情?で結ばれたのである。
「君達な…私は仮にも英霊だぞ…丸聞こえなんだがな…」
疲れた様なアーチャー。
「胃薬いるかよ、色男?」
ニヤニヤニヤニヤと嬉しそうなバーサーカー。
「余計なお世話だ…」
更に深いため息を吐きながら、アーチャーは黙って昼の支度にかかるのであった。
冬木は、異常事態にありながらも今はまだ、平穏であった。
【後書き的なもの】
はい皆様こんばんは、こんにちは、おはようございます。
皆様のおつまみ、ビールのおとものライダー/ギルスです。
珍味的な噛めば噛むほど味が出る話が書きたい今日この頃。
今回は日常回。
とくに話に進展らしい進展は無くてさーせん。
次回──ラブコメの波動。
着々と修羅場フラグを立てる弓兵とSN主人公。
そんな感じで大丈夫か?
大丈夫だ問題無い。
だってFateだから。
と、言う訳でまた次回更新でお会いしましょう!
しーゆー!
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第27話 『酒精』
まあ…少し調べただけのにわか知識がもとだから、詳しい方間違いとかありましたら教えてください、はい。
因みに作中に登場するお酒は実在するお酒をモデルにしています。
お値段とかマジでそんな価格。
ん…あれ?ラブコメ?あれ…?
酒屋兼居酒屋、コペンハーゲン。
新都のオフィス街にある洒落た内装を持った店で、店舗は地上部分には酒屋、地下に続く階段の下にはバーがある。
昼は配達も承る酒屋、夜は居酒屋にと忙しい隠れ家的な人気店。
冬木市にある酒屋の中で、ある意味最も品揃えがマニアックな店。
それにはとある理由と、負けず嫌いな店員、音子(ネコ、と読むべし、おとこと正しく読んではいけない。)に原因があるのだが。
まあ、今はそこは割愛しよう。
「と、言うわけでさあ士郎ちゃん、頼んだよ〜〜上得意様なんだよ、ご予約の方。」
「ハイ、任せてくださいお二人にはお世話になりぱなしですから。」
切嗣が居なくなった後、蓄えだけでは不安だからと探したバイト。
しかし、未成年を雇い入れてくれる筈も無くどうしたものかと思いながらも探していたら、ネコさんの親父さん、コペンハーゲンの店長は事情を聞き、快く雇ってくれたのだ、その恩には報いねばなるまい。
そんな話を、一度店長に話したら「最初は兎も角途中からはむしろこちらが大助かりだ」とはありがたい言葉も頂いた。
「で、これなんだけどさ。」
と、店長が取り出したのはやたら厳重に鍵がかけられた黒いアタッシュケース。
「…はい?なんですこれ…なんでこんな厳重に??」
「いやね、凄くお高いお酒なんだよ、コレ。」
「はぁ、にしても大袈裟じゃありませんか?」
「ははは、値段聞いたら飛び上がるよ〜」
と、士郎の腕に手錠をはめ出した。
「え、ちょ??」
「こうして万が一にも誰かに取られない様に、ね!」
「や、待ってください…店番するんですよね?」
カチャカチャ、と。
アタッシュケースと腕が繋がれる。
「うん、でもこれ本気で高いからさ。」
嫌な予感しかしない。
「…幾らなんです?」
「んー、都心に家が建つよ?」
「え、はぁ!?」
目を見開いて驚愕する士郎を面白そうに見守る店長。
「あははは、いやあ、コネと言うコネを駆使して手に入れたんだ、ネコが連れてきた客がとんだ富豪で、しかも我儘放題な青年でねえ、世界一の酒を献上してみせよ、なんていうのさ、献上だなんてうちはプライドを持って店を開いてるから、どんな王侯貴族にもタダで酒をくれてなんかやらないって柄にも無く熱くなって啖呵をきってしまってねぇ。」
なんだか少し楽しそうな店長。
碌でもない話じゃないか、それ?
「そしたらさ、面白い。ならば金はくれてやるから最高の一品を届けてみせよ。でなくば貴様らの尊厳、命共々消えることになろう!だよ?いつの時代の暴君だよ、って思わない?」
「──店長、その暴君の相手を俺にしろ、と?」
「あははは、メンゴ☆」
古っ!?
いや、店長の世代ならそうかもしれないがそうじゃない。
「は、嵌めましたねネコさん…!」
どうにも、ネコさんの体調不良とやらも怪しくなってきた。
「と、じゃない店長〜早く連れてけ〜あたしゃ病人だぞ〜?」
と、一階の方からネコさんの声。
「…元気じゃないかよ…ったく。」
どうやら、面倒な客を押しつけられたか。
「あ、お酒の説明とかはそこのメモに詳しく書いてあるから、後はいつもの士郎ちゃんなら大丈夫大丈夫、宜しくね。」
(シロウ…私、なんだか嫌な予感がするのですが?)
とは、気配遮断で隠行中のはずのアルトリアの念話。
何故だろうか、その意見に激しく賛同している自分がいる。
「何故かな…うん、嫌な予感しかしないぞ?」
と、慌ただしく二人が出て行く音がして、店内がやけに静かになる。
「…そういや、何も受け渡しだけなら
「シロウ…問題はそこではないでしょうに…」
と、声がして振り向いた先にはアルトリアがいた。
但し、ネコさんがいつもしているのと同じ黒いエプロンに、給仕服(メイド服)に近い可愛らしいドレス姿だ。
「────…」
士郎が、たっぷりと2秒ほど固まった。
「シ、シロウ?やはりこの格好は変でしたか??」
変なものか、寧ろ…
「あ、ああ、似合ってるぞ?」
「あ、ありがとうシロウ…そう言われるとやはり嬉しいですね…?」
はにかむ様に上目遣いで呟くアルトリア。
ご、後光が差して見える…!?
「しかし、先ほどのネコとか言う女性…侮れませんね、私の存在を見破られようとは。」
「え、嘘だろ?」
今のアルトリアはアサシンクラス。
気配遮断している彼女を見つけるなんて人間業じゃないぞ?
「いや、それが意味不明でして…いきなりこう…エミヤんを狙う牝の匂い…出てくるが吉だよ!?──などと言われてしまいまして…意味はわかりませんでしたがとんでもない気配察知能力でした。」
「…それでアルトリアから出て行った訳か。」
「ええ、まあ…その後はなんだか分からない内にこの服を着せられまして…恥ずかしいですね、これは…」
「いや、似合ってる、凄く。」
「シ、シロウ…」
ぱぁ、と頬を桜色に染め、士郎と向き合うアルトリア。
やがて、アルトリアは目を伏せ、閉じる。
「──え、え?」
士郎とてお年頃、いかに鈍感でもそれが何を意味するかは──
「酒蔵の雑種はいるか!」
バァーンッ、と勢いよくバーの入り口が開き、入ってきたのは白のラインをアクセントにした黒いジャケットに白いワイシャツ、黒のパンツ姿の金髪、紅眼の美丈夫だった。
「あ…ぇ、ぃ?」
アルトリアが口をパクパクさせながらその闖入者を見て眼を白黒している。
「──なんだ、おらんの…む?」
男は、そう呟いた後にアルトリアに眼をやり、ニタリ、と満足そうな、しかしどこか高慢な表情でこちらを睥睨する。
「本来ならば…我を出迎えぬ時点で死をもって贖わせるところだが──なかなかどうして、気が利いておるではないか…なぁ、セイバー?」
「なんだ、あんた──?」
「痴れ者が、我とセイバーの逢瀬に立ち入るでない、今ならば見逃してやるから疾く失せよ…雑種。」
フン、と鼻で笑いながら士郎を歯牙にもかけぬとあしらう男。
「な、何故貴方がここにいるのだっ、アーチャー!?」
「ハ、我を誰だと思っている…?高々数年の魔力などどうとでも維持できるわ。」
「──さ、サーヴァント!?」
「察するに、その雑種が此度のマスターか…随分と貧弱な…セイバー、貴様のステータスにも影響があるのではないか、ん?」
まあ、その美しさと変わらぬ「愛嬌」があるならば強さの是非なぞ我は問わぬがな?
と、男、アーチャーは勝手な理屈を並べたてる。
「ギルガメッシュ…、古代ウルクの英雄王──シロウ、気をつけて下さい…あれはこと英霊を尽く凌駕しうるだけの財を持つ難敵です…!」
「…!」
士郎もまた、聞いた事のあるとんでもない大英雄の名に慄く。
「ふん、そう褒めるな、こそばゆいでは無いか…まあいい、セイバー、お前が居るのは嬉しいが…今日は酒を買いに出向いたのだ、酒蔵の雑種がこの我を唸らせる品を用意すると豪語したのでな…戯れに金を与えて奔走させて見たのだ、今日が期限であったのだが──」
「…へ、じゃあ…お客様じゃないか、すみません、これは大変失礼致しました…ではこれを買い付けにいらしたのはお客様、ギルガメッシュ様でよろしかったでしょうか?」
と、士郎が突然がらりと対応を変え、接客モードに移行する。
「え?え?し、シロウ??」
アルトリアはその急変に頭が追いつかずに混乱する、が。
「──ほぅ、客と認識した途端に掌を返すが如き…いや、そのプロフェッショナル振り、見事である…少しはましな雑種であったか、良い…では酒を出して見せよ。」
「はい、少々お待ちを。」
返事を返し、アタッシュケースの鍵を一つ一つ開け、開く。
手錠も外し、中身をバーカウンターに置き、開帳する。
「えー…銘はマッカ◯ン・インペリアルM、その試作品との事ですが…最高の腕前を持つ硝子細工職人が創り上げた至高のボトル、中に封入されたのは万を超える樽から選び抜いた7種から、25〜75年物の最高品質の物を調合したウィスキーであるとの事…王にご満足頂くため、マスターが苦心の末に手に入れた、まだ市場に出回る前の最高級品をご用意しました。」
アタッシュケースから取り出された、琥珀色の液体を湛えた美しいボトル。
それは、後に市場にて約65万ドルで落札される事になる正規の品の、いわば刀で言う影打ち。
真打の名刀の如き譽れは無くとも、その切れ味に変わりは無い。このウィスキーもまたそういった珠玉の逸品であった。
後の正規品と比べ幾分か職人の遊び心の入ったボトルは古風なデザインであり、そこには宝石の様に一見して誰にでも高い、と思わせる装飾は無く、しかし見事なカッティングと、どこか幻想種に似た雰囲気を持つそのデザイン。
本来市場に出すには少々趣味に走りすぎて蔵入りしたモノ。
ボトルの先端には天馬があしらわれ、表面には美しいカッティングを施されたガラスがさながら琥珀の海に宝石が膜を張るように、輝きを放つ。
しかし、今回ギルガメッシュにこれを用意するにあたり、敢えてこのデザインのものを選んだ店長の眼力、正直何者だ。←
「ほぅ…悪くは無い、見た目は合格だ。」
ギルガメッシュがそう呟き、手を翳すとそこに黄金の波紋が浮かぶ。
波がおさまると、そこにはキラキラと光を零す妖精の様なものが舞っていた。
「な、なんです、それは!?」
アルトリアが警戒心露わに声を上げる。
「静かにせよ、これは酒精の一種だ…我が宝物庫の酒蔵に住まうものでな、飲まずともその酒が我が財宝に足るか否かを見分ける生き物よ。」
「はぁ、便利だなそれ…目利き、いや酒利きの必要無いじゃないか。」
「中には希少性から開封を躊躇う場合もあろう、それが真に価値あるものかを見極めるにはちょうど良いのよ。」
フン、と士郎の言葉に存外丁寧な解説をする英雄王。
やがて、光はボトルに纏わりつく様に円を描いて飛び回り始めた。
「…どうやら此奴の眼鏡にかなったようだな、良い…あの雑種には褒美を与えると伝えておけ、そうだな、貴様にも一つ褒美をやろう。」
そう言って、ボトルを先ほどの波紋にしまい込むと、光はそれを追って波紋に消えていった、そして英雄王は、何の気まぐれか士郎に向き直る。
「本来ならばセイバーにふさわしくない貴様のような雑種、斬り捨てても良いのだがな…先の応対、粗はあるがその年齢からすれば悪くはない、励めよ。」
そう言って差し出されたのは、一揃いのショットグラスだった。
美しく、先ほどのボトルを上回る精緻な細工が施されている。
「…あの、これは…?」
「貴様は雑種としてはましな部類に入る、故につまらん事で死んでしまうなよ、セイバーも一時預けてやろう…まあ、最後には我に傅くのだ…火遊びの一つくらいは容認する度量も王たる証よな。」
「…ああ、簡単に死ぬ気なんかないさ、感謝するよ…英雄王、ギルガメッシュ。」
今度は店員では無く、マスターとして、一人の衛宮士郎として答えた。
「シロウ…」
アルトリアが、ほぅ、と熱い吐息を吐き出して士郎を見つめる。
「故に、勝ち残り、最後に殺しあう前に一献飲み交わすくらいはしようではないか。」
つまりは、英雄王は士郎に、聖杯戦争で生き残り最後に己の前に立つことを許すと言っているのだ。
「そうだな…でも、お前と酒を飲むことはできないな。」
今の今まで上機嫌だった英雄王の眉間に皺がよる。
「ほぅ…つまらぬ事を、何故だ?」
「いや、だって俺未成年だから。」
それを聞いて。
英雄王は紅い眼をめいっぱい見開いた後、大声で笑いだす。
「ハ、クハハハハハハ!堅物すぎるであろう、小僧、少しは融通を効かせるくらいはせぬとセイバーに愛想つかされてしまうぞ、んん?」
クイ、と士郎の顎を持ち上げて瞳を覗き込む。
不意打ちのような動きの急変にアルトリアも慌てるが間に合わず。
「気に入った、お前が生き足掻く様を見るも一興よな。セイバー?」
「なんです、マスターから手を離しなさい英雄王!」
「貴様も──無様に生き足掻いてまでも此方側に舞い戻りたかったか…小僧の影響か?」
叙事詩に名高い英雄王、ギルガメッシュ。
その瞳に射抜かれ、士郎は身動きできずにいた。
(まずい、簡単に間合いを詰められちまった…この男の気分一つで、俺は死ぬ…)
ギルガメッシュの顔が息がかかるほどに近い。
ニィ、と口元を歪めて笑う。
「中々楽しい反応をしてくれるな、死ぬなと言ったところだ…まだ殺しはせぬから安心しろ…まあ、くれぐれも我を失望させるな、小僧。」
「英雄王!それ以上は許しません…!」
アルトリアが臨戦態勢に入り、服装はそのままに、手には黄金の剣が顕れる。
「ハ、最初から剣を露わにするとは…よほど此奴に執心とみえる…まあ良い、続きはまたにしておこう。」
と、バーカウンターに一枚の紙片を置くとギルガメッシュは直ぐに出て行った。
そこには小切手。
100000000、と記されたそれは確かに本物だった。
「英霊って…お金あるんだな…」
その後。
帰ってきたネコさんに散々からかわれた。
やれ、アルトリアの具合はどうだった、とか。
店を汚してないだろうな、勿論性的な意味で、とかなんとか。
そして、約四千万の仕入額との差に。
店長が喜色ばんだ悲鳴をあげたのだった。
【後書き的なもの】
はい皆様こんにちは。もしくはおはようございます、こんばんは。
ライダー/ギルスです。
今回、ラブコメ目指したはずだったのですけど。
AUOさんが引っ掻き回すに止まりました…
あるぇ??
そしてかなりどうしようもない理由からギルガメッシュ生存フラグが割れました。
何故貴方が、とか言ってますがアルトリアさん、落ち着いて?
貴女はちゃんと知っていたはずよ?
まあ、乱入そのものの話でしょうけどね。
食べ物やラブコメで重要な事を話すのが遅れたわけじゃないよ、多分?
さて、そこで今回は話は進みませんでしたが、
謎のアルトリアXさんの現状について触れておこうかと思います。
以下、ステータス。
クラス:アサシン(自称セイバー)
真名:アルトリア・ペンドラゴン
出典:路地裏さつきヒロイン十二宮編?
地域:サーヴァント界?
属性:混沌・中庸 性別:女性
イメージカラー:青
マスター:衛宮士郎
ステータス
筋力:B
敏捷:A+
耐久:C
魔力:B
幸運:D
宝具:EX
宝具:
やる事は
また、無銘勝利剣と違い、闇色のモルガーンは星光を纏い、黄金と星光の共演に見る者を魅了する程美しい軌跡を残す。
ネタ時空で発生したアサシンクラスだが、真っ当な騎士王の意識が入る事、最高相性のマスターを得る事で大化けした成功例。
以上がアサシン、謎のヒロインXの霊基に入ったセイバーアルトリアのステータスでした。
まだ、記載していないモノも後々でてくるかもしれません。
それでは、また次回更新にてお会いしましょう!
しーゆー!!
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第28話 『アンゴルモア』
世界の意思を超えて世界を歪め続けるナニカ。
人理は狂い、再び人の世を壊しにかかる。
恐怖の大王は、世を壊すモノ。
無かったはずの脅威。
なればこそ、英雄豪傑の魂、英霊よ。
世界を、救うべきモノ達よ──
戦え。
「さて、アルトリアには夕食はとりわけ多めに用意しておかねばな…」
誰にともなく言葉を紡ぎながら、台所で我が家の様に手慣れた作業をする弓の英霊。
いや、真実それは…、そんな彼の元に、意外な人物が声をかけてきた。
「よぅ。」
現れたのは、冬だと言うのに袖もないレザージャケットを素肌に羽織っただけの、しかしフードだけは室内にもかかわらず外さない。
狂戦士のクラス、それも特殊な霊基を備えて現界した、アイルランドの大英雄。
「クーフーリンか、どうした…賄いならば今しばし待てと君のマスターに伝え給え。」
「ハ、そんな雑事にわざわざお前さんを訪ねて来ねえよ、それより…「君のマスターに」たあ…随分とよそよそしいもんだな、え?」
「何が言いたい。」
「どこまで、思い出した?」
「どこまで?平行世界の記憶、いや…座の記録と言う意味ならばあまり芳しくはないぞ…きっかけがあればもう少し思い出せるとは思うが…」
「そうじゃ無ぇ。」
「では、なんだと言うのだ?」
「惚けてるのか、或いは制限されたのか…お前さんやはり…違うのか?」
「だから、貴様は何が言いた…」
「人理焼却。」
「──な、に?」
視界が揺らぐ。
「九重朔弥、九狼。」
「九、狼?」
聞いた覚えが無い/聞いた覚えがある。
「人理継続保障機関──」
「やめ、ろ…何を、言って…ぐ!?」
頭に、魂に、異物が──
「カルデア────」
観測/特異点/人理/炎上都市/人理継続・焼却/オ■■ノス/■■王/■■■■■■■■■
「っ、がああっ!?」
恐ろしいまでの情報が雪崩の様に頭に流れ込んでくる。
わからない、私は、何時の、何処の、どんな立場の、如何なる「エミヤ」であったのか──
視界がグルグルと回り、膝をつく。
「どうやら思い出したか…てめえの記憶が垣間見えちゃいたからな…賭けだったが。」
世話の焼ける野郎だ、とお手上げのポーズをするバーサーカー。
「お、思い出したぞ…クー・フーリン・オルタ…貴様が誰か、朔弥が…私にとっても…いや、今は違う…彼女にあの時と同じ「盾」の令呪は無い──もう、彼女は全ての英霊のマスターでは、ない、のだな?」
「ああ、契約と言う意味じゃ俺だけのマスターだ、だがな…こちらの存在であるからか、記憶こそ無いが──あいつはあいつだよ、お前さんにも…あの小僧にも知らずに惹かれてやがる…いいのか、あのままいけば過去に…お前さんの大事なマスターを盗られちまうぞ?」
「今、この時の私は遠坂凛のサーヴァントだ…如何にこの冬木の聖杯が異常をきたしていようとも…彼女に聖杯を捧げるが契約…サーヴァントである以上それを履き違える事は…」
「馬鹿が、この冬木の聖杯に詰まってるのは…憶測だがてめえが知る災厄じゃあねえぞ…杯の破壊だけで止まるようなヤワな代物じゃねえ、なんでこの俺が──こんなもん抱えて召喚される様、わざわざ仕組んだと思ってやがる?」
腕を組み、柱に寄りかかっていた身体をこちらに向き直し、その胸元を晒す。
三つの巴が輪を描くその刺青の中心から浮かび上がる、五つの輝き──
「待て、それは真逆!」
「ああ、そうだ、ホーリーグレイル…イ・プルーリバス・ウナム──それを核とした五つの力の塊…この異常を引き起こした、冬木聖杯を中心とした計測不明の異常力場…アンゴルモアの牢獄──それを打破すべく送り込まれた切り札だ。」
「アンゴルモア、だと…?」
「ああ、ことの発端はここ、特異点Fじゃあ無い…1999年、7月──外宇宙より飛来したたった一つの隕石…それが聖杯の中に居たこの世全ての悪──アンリ・マンユを侵食し、中に巣くった。」
「っ、馬鹿な…そんな馬鹿な…確かに人理は修正されたはずだろうっ、ならば何故この様な異常を引き起こした、最早■■王の介入も無い、歴史は正され、全ての人の記憶から我々のした事は消えているはずだろうっ、何故、何故今更──いや、待て…ならば特異点より生まれ、カルデアのみに繋ぎとめられていたはずの貴様が座に存在し、召喚されて…いや、カルデアがあの時と同じ目的を持って動いているのは何故だ、人理は修正された、ならば観測する為の機関に戻っていなくてはおかしい!」
「ああ、そうだ…本当ならば、な。」
「教えろ、私にカルデアを思いださせ、なおかつ貴様が存在する意味を!」
「冠位指定──グランドオーダーは、真の意味で完遂されていなかったのさ、正直言って俺の記憶もまだ穴がある、この冬木に来た時点で随分と封鎖をかけられた…聖杯を五つ抱えた俺でこれだ…聖杯を持たない…聖杯再臨を終えていない面子は送り込まれたはなから聖杯に巣食う何者かにこの牢獄の中の一存在として取り込まれたよ。」
「真逆──」
「ああ、そうだ…お前さんもまた、異変解決にとマスターと共に数多くの英霊と共に送り込まれた一人で間違いない、記憶が戻ったのが何よりの証だろうよ。」
「いや、そうとも言い切れない…おそらくだが私はこの冬木に元から呼ばれる筈のアーチャーでもあり、同時にカルデアのエミヤでも、ある様だ…意識して初めてわかるが…融合した様な感覚があるのだ。」
「ほぉ…そうか、聖杯が無いお前さんは霊基を喰われたか…それを、補う為にこちらの自分自身に、そういう事か。」
「ああ、おそらくだがそれで正解だろう。しかし、ならばマスター…いや、朔弥は…こちらの存在と言ったな…カルデア側の彼女は、いや…彼女の兄も…どうなった?」
「────死んだよ。」
「な、に?」
世界が、凍りつく音が聞こえた気がした。
聞いてはならない、聞きたく無い。
護ると誓った、抱きしめ、手を握り締め、決して離すまいと──それが。
「だから、死んだよ。」
冷徹に、突き放す様に、言い放たれた。
「う、嘘を言うな!彼女が、あの男が!死んだなどと戯けた嘘をよくも、よくも吐いたな貴様っ、貴様──!!!」
胸倉を掴み、引き倒す。
抵抗も無く、されるがままオルタが倒れて。
「あ、あああああ──っ!!」
マウントをとった格好から、殴る。
殴る、殴る、殴る、殴る──────。
「は、はぁ、はぁ、はぁ…何故、抵抗もしない、貴様…巫山戯て…」
「巫山戯て、この俺が無抵抗に殴らせてやると思うか?」
「馬鹿な、ならば…本当、に?」
「はっきり、確認できたわけじゃあねえ…だが、レイシフトを用いた一度目の干渉に於いて…彼奴ら二人を含むほぼカルデアの全戦力を投入しての殲滅戦、その開始と同時に、敵が牙を剥いた、その時に大規模な力場の干渉に飲み込まれて大半の英霊が存在ごと削りとられ、二人も光に呑まれて消えた。」
「殲滅戦だと?」
「ああ、言っただろう…ここは特異点F──炎上都市冬木になる筈の場所…修正され、真っ当な聖杯戦争が行われる筈の冬木だった。」
「炎上都市──あの、惨劇がここで起こる?」
「ああ、故に大規模な戦闘を予測し、送り込まれた大部隊だったんだがな、結果は先も話した通り、挙句再び歪み始めた歴史は、冬木を火の海に沈めるに留まらず…繰り返し、繰り返し人々を殺し続ける蠱毒の壺と化した。」
「既に数度、この冬木は聖杯起動と同時に炎上都市と化している…そして、暫くの間を空けて、巻き戻る。」
「なん、だと…何故?」
「知るかよ、俺が聞きてえ…その上、僅かずつ変化している、前回にいなかった人物が増えたり、減ったり、な。」
「何故、今それを私に話す?」
「こいつを通じてお前さんが時折カルデアの記録を垣間見ていたのは察してたよ、だからこその賭けみたいなもんだ…もはや停滞していて良い状況には無いからな。」
「昨日の、黒化英霊、か…シャドウサーヴァントとは違うのだな、あれは。」
「シャドウより厄介だな、稀に意思を持つタイプもいる上に宝具を使いやがる奴もいる様だ…昨日やられかけてヒヤっとしたぜ…」
「それに、死んだと言ったが…お前さんの話を聞いて少しだけ希望も出た、朔弥だがな…彼奴も時折カルデア側の記憶を見てるかもしれねえ、いまいち干渉されているのか判然とはしないがな…小僧を「エミヤん」とか呼んでいたからな。」
「────っ!」
それは、その呼び方は…知人を思い出すから止めろと何度言っても、彼女がしつこく呼ぶので諦めがちに許した、愛称。
不意打ちだ、不意打ちにも程がある。
絆は途切れていないのだと、希望はあるかもしれないのだと、落としておいて持ち上げて…この、バーサーカーが…っ!
頬を、一筋熱いものが流れる。
「ハ、泣いてやがるよこいつ。」
雫は、バーサーカーの顔に落ちて。
「五月蝿い、人の恥を愉しむな…英雄王か、貴様は…!」
「まあ、今はお前さんと俺の中にしまっとけ…まだ誰が敵で誰が身内か判別できん。」
「…そう、だな…ああ、そうしよう。」
涙を拭い、立ち上がる寸前。
がらりと戸が開いた。
「ヤッホー士郎っ、美味しい匂いに釣られたトラー!」
酒瓶片手に。
虎が桜を伴い、上がりこんできた。
「あり?」
何この状況、と呟くは冬木の虎。
だが、それはアーチャーとバーサーカーこそ言いたい台詞だった。
何故貴女はこのタイミングで入ってくるのかね!?、と喉元まででかかった言葉を飲み込んで。
(クール系×ワイルド系…もしやこれは…)
などと言う腐女子脳がはたらいた人が約一名いたのは、本人だけの秘密である。
どちらの、とか聞いてはいけない。
****************
円蔵山、柳洞寺。
その境内にて、絶世の美女と言われてもいいほどの美しい女性が、普段のフード姿では無く、こちら側の人らしい服装で御山を見上げていた。
「どうした、キャス──いや、メディア。」
「いえ、戴いたこの服…気に入りましたわ、流石、宗一郎様。」
「仮にも夫婦ならば偶には贈り物くらいするのだろう、真似事だ…喜んでもらえたならそれはそれで嬉しくはあるがな。」
と、口にしながらまるで喜色が伺えない顔で話す、葛木宗一郎。
キャスター、メディアの現マスター。
「いえ…本当に嬉しいのですよ?」
ふ、と柔らかく微笑み…しかし直ぐに山にまた目を向ける。
「どうにも…この喜びを噛み締めてばかりはいさせてくれない様ね…」
と、唐突に衣服を脱ぎ始める、キャスター。
「なんだ、キャスター…まだ夕暮れだ、少し早くは──む。」
何かずれた会話をしていた宗一郎もまた、構えを見せた。
とはいえ、腰を僅かに落として手を多少前に掲げただけのファイティングポーズとも言えない自然体だった、が。
「折角戴いた服…汚したくはありませんもの」
一糸纏わぬ姿になったキャスターがパチン、と指を鳴らすと直ぐにいつものフード姿に戻り、庭先には複数の骸骨──竜の牙を媒介に呼び出した兵士、竜牙兵が湧き出した。
『キャス、ターのサー、ヴァント…主は、貴様が聖杯に介入…事を…許可、されて、オラヌ…ヨッテ、死ヲ、給ワルガ、イイ──』
「誰の手かは知らないけど…先を越されたねかしらね…既に不完全ながら英霊を支配下に置いているみたいね…けど…術式が美しく無い、力任せに操るだけの強引な術式…その力は驚きだけど…キャスターたる私にとって不愉快極まりない…良いでしょう、相手になりましょう…宗一郎様、申し訳ありませんが前をお任せ致します。」
「承知した。」
宗一郎の構える拳と、脚に保護の術式がかかり、次の瞬間。
竜牙兵の間を縫って飛び出した宗一郎が、迅雷の如き速度を以って黒く陰った英霊へと肉薄した。
ゴキン。
鈍い音がして、名乗りも無いまま、先の無名の英霊の首がへし折れる。
即座に消滅したその端から、新たにもう一騎、いや…二騎。
一騎は素手、女性らしいシルエット…僧服にも見える…が…クラスはよくわからない。
一騎は槍を持ち、まだ若いであろう体躯のランサーらしき英霊。
「ぬ、厄介な…」
竜牙兵が片方を抑えようと女性らしいシルエットに殺到するが、一瞬にして蹴散らされた。
唯の二振り、足と拳が風を切り、骨達を根こそぎ砕いて見せた、しかもどういう訳か復活するはずの不死の兵は散らばったまま動かない。
「洗礼詠唱を付与した拳──ち、聖人の類か!」
キャスターが歯ぎしりをしながら睨む。
このままでは数の上で不利だ。
いかに自分が援護しても一騎当千の英霊を二体…同時に相手にするには人の身のマスター、宗一郎には荷が重い。
「フッ!」
呼気を吐き、しなる鞭の様な変幻自在の拳が先の聖人に襲いかかる。
その動きに相手は体勢を崩し、その心臓に貫手が──突き刺さる前に槍が横から宗一郎を狙う。
「…文字通り横槍という訳じゃなあ…」
ギン、と。
槍に槍が挟み込まれ…弾かれた。
「しかも黒いの、貴様…功夫が足らん、出直してこい。」
割って入って来たのは、赤い髪。
中華風の衣装に身を包んだランサー。
「お主の技は面白い、儂と死合わぬうちからやらせるには惜しい…故に──助太刀致す。」
「感謝する、ランサー。」
「…危篤なサーヴァントだこと…けれど今は、乗っておきます…とはいえ下手な真似をするなら背中を撃ち抜きますからね?」
「おお、怖や怖や…心得た、今は、な!」
ボッ、と槍が空気を貫き、黒いランサーへ迫る。
同時に再び奔った宗一郎の拳もまた、聖人を捉えた。
決着は、直ぐにでもついてしまいそうではあるが、僅かな間のランサー、キャスターの共闘が、始まった。
***************
乖離する。
世界から、全てが。
閉じた坩堝に諍いは絶えず、絶望にこそ。
希望は最後にあらわれるのだ。
神は、天上におわすことなく。
人に、希望は無い。
だから、希望を見出さねばならぬ。
絶望に、世界が全て侵食される前に。
希望を見出さねばならぬ。
──やかましいのぉ…貴様の言葉など知るものかよ、ワシはワシ…大神ゼウスなるぞ?如何にこの身が卑小な型枠に押し込められようが、変わらずワシはワシ…貴様もこの様に無為な干渉、大概に止めろというのじゃ…迷惑千万よ。
我が言霊を正確に聞きしながら、何故キサマはその意に従わぬ、何故、何故──
何故?
そりゃあ、儂こそが「神」に他ならんからじゃ…何故貴様の様な輩の意に従わねばならんか、その方が理解できぬがな?
ああ、■■■■──哀れな、ものよ。
日が沈みゆく街を眺め、大神は一人思考に耽る。
目を閉じれば見えてくる街の姿、いくらか見えたサーヴァント達の姿。
「そろそろ、動かにゃならんな、マスター?」
「始まった、のですか?」
「まだ断言はできんがな、彼方此方に湧き出しておる。」
「わかりました──今夜何処かの陣営に仕掛けます。」
「応よ。」
ニヤ、と。
不敵な笑いを浮かべて大神は立つ。
嵐が、吹く前触れの様な、そんな顔で。
【後書き的なもの】
はい、一気にフラグを回収し始めました。
ウチのエミヤんは、他のシリーズでぐだ子とイチャイチャしていたエミヤんですから、ハイ。
コレ。
http://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=6761235
そして、黒幕さん活発に動き始めました。
もしかしてそれがだれか、わかる人もいるかもしれませんがとりあえずシークレットで、お願いします。
あ、メッセージでの考察はウェルカムですよ?
明かせる範囲で説明も致します。
ていうか、何故かしら…オルタニキがいると腐要素が僅かにだがにじむ。
なんかそういうキャラに見えてしまうw
個人的にオルタニキ大好きなのでこのシリーズ書いているんですが、素直にヒロインとイチャイチャする人にも見えないんだよなあw
だからか、兄貴は兄貴なんだという立ち位置にいます。本当、兄弟か男親みたいな心情。
あ、因みに今回の黒化英霊はマルタ(ルーラー)の服だけまともなバージョンとプニキです。
さて、カルデアから来た英霊はどうなったのか、味方は今後どれだけ増えるのか?
ゼウスは、ロードは?
まだまだ伏線山積み…頑張って回収します!
という訳で…次回更新でまたお会いしましょう!
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第28.5話 「タイガー道場alternative」
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
捏造設定、独自解釈、オリキャラなどが入る可能性があります。
また、今回は説明回です。
物語と別に話の内容を整理しよう的な舞台裏の小話です。
また、多大なるネタバレを含みます。
カルデアの事やら、今後語るかわからない設定部分をぼかしながらですが説明しています。
それでも構わないという心の広い方のみ、先へとお進み下さい。
無理!という方にはブラウザバックを推奨致します。
【タイガー道場/alternative】
虎「長かった…長かったぞ読者諸君んんん!ようやく、ようやく我々の出番だ!出番!タイガー道場っオルタネイティヴッッ!!?」
ブルマ「えっと、体格がいつものロリにもどりません師匠!」
虎「ブハ!弟子ぃ!な、なんだそのエロさは、(ぱっつんぱっつんなサイズ小さめの体操着とブルマに苦しそうな銀髪紅眼の巨乳を見て)け、けしからんっ!!」
紅茶「…いや、何というかあざといな筆者…」
ブルマ「絵にならないと意味がない気もするけどねー?」
紅茶「…しかしイリヤ、君それだけあちこち育ちながら声はかわらんのだな…」
ブルマ「んー、そだねえ…本編の私は多少冷たい喋りだけどCVは変わらないらしいよ?」
虎「またメメタな話を…」
紅茶「メタ、だ。」
紅茶「で、今回は何かね説明補足の集まりと聞いてきたが。」
ぐだお「はいはい、というわけでみなさんこんばんは、こんにちは、おはようございます、皆様の暮らしをみつめすぎるスタンプに最近シュールさを感じているぐだおこと九狼です。」
虎「どんな挨拶よ。」
紅茶「…マスター、ボケだらけの現場に取り残されるサーヴァントの気持ちも少しは別れ、戯け!」
ぐだお「さて、ではまず整理していきましょうねー、しまっちゃおうねー(棒)」
紅茶「…ぼのぼのとかわからんだろう…」
ぐだお「まずは(スルー)ことの発端から説明しましょう…読者様の視点では、まず我が妹…朔弥がランサーに襲われた場面から。」
虎「これ、本来なら士郎が襲われれてたはずなのよね?」
紅茶「そうだ、私とランサーの校庭での対決、それを目撃し、校舎内で一度殺されたのは衛宮士郎、私の過去だった。」
ブルマ「お姉ちゃんは死ななかったよね?」
紅茶「ああ、そうだ…彼女が魔術師であることなどが幸いし逃げおおせている。」
ぐだお「うん、まずそこからいろいろおかしなことになったんだね、そもそも朔弥は本来この街にはいなかった。」
紅茶「そうだ、ランサーもまた本来のクーフーリンではなかった。」
ぐだお「そこはオルタのクー、オルクが来ちゃったのもあるのかな、代わりにその空きに据えられたのはr…いや、一応まだ真名出てないのか、今更だけど。」
ブルマ「出し損ねただけみたいよ、筆者。」
紅茶「うむ、まあ中華なランサーに差し代わっていた。」
ぐだお「さて、このまま差異を並べていくとキリがないから、大きな違いの、判明分を時系列に並べてみたよ?」
紅茶、ブルマ、虎「どれどれ…」
*******************
【年表】
【1986年頃?】
第四次聖杯戦争より8年前、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、衛宮切嗣、アイリスフィール夫妻の間に生まれる。
【1994年】11月頃
第四次聖杯戦争、勃発。
正史では間桐雁夜はこの時死亡したとされるが、この歴史においてはなんらかの方法で生きながらえた。
また、衛宮切嗣もまた、本来の時期に衰弱死はしておらず、現在は行方不明扱い。
【1999年】7月
宇宙より恐怖の大王、虹色に輝く隕石らしき何かが飛来。
この時、通常の計器類に捉えられないままに冬木に落下し、大聖杯内のアベンジャーすら侵食、内部に巣食う。
【2004年】2月頃
第5次聖杯戦争、勃発。
一度目は正史を完全に再現する形で進んだ様子、しかし結果がどうなったかは不明、聖杯起動と同時に冬木に異界が展開。
カルデアスタッフがその原因、特異点の中心が1999年に飛来した「何か」である事を観測、「アンゴルモアの牢獄」と名付ける。
【聖杯起動後】
魔術協会、聖堂教会共に一度目の起動で異常を察知するも、全ての観測手段は中を見通せず、更には魔術師や力を持たない人間からはその異界を、認識さえできず、近づけば本能的な忌避感から中へ向かう事すら困難な事のみを把握。
第四次聖杯戦争関係者であるロードエルメロイ二世と、封印指定執行者のバゼット・フラガ・マクレミッツを派遣。
【????】
カルデアより、時空を超え、グランドオーダーを完遂した英雄、九重九狼、朔弥の出撃を決定、人理修復の為にレイシフトを敢行するも、仮称、「アンゴルモア」による時空・因果干渉を受け、カルデアは朔弥、九狼と言う得難いマスター二人を含めて壊滅的な被害を受ける。
*******************
この下はカルデアに関するネタバレ、今作品の独自設定。
読みたくない方は注意。
【今作に於ける「カルデア」】
【カルデア存続について】
本来、グランドオーダーを完遂した時点で他所の特異点修正と同じくしてカルデアスタッフ、九狼、朔弥が歴史に残るはずも無く、消えると思われていたが…そうはならなかった。
推測としては、世界が「カルデア」を群体の英霊、として座に召し上げたとも、グランドオーダーがまだ完全に完遂されていないともされたがそこは不明。
現に通常手段では人類史を救ってもカルデアから外には出られないままであり、レイシフトを行わなければ外へは向かえないままである。
また、現実世界の様々な歴史上にももちろん九狼と朔弥は存在する。
(今作品の朔弥は現実世界側の朔弥であると目される、但し記憶の流入は起っている?)
*******************
【各平行世界の歴史の齟齬】
ぐだお「と、言うのが大まかな話の流れですね、僕はこのレイシフト時に光に飲まれて以降、行方不明と言う事になります。」
虎「まだ原作(FGO)終わってないのだがしかし。」
ぐだお「まあ、そういう可能性のひとつと捉えてください、僕はFGOでのグランドオーダーを成し遂げた後のぐだお、と言う事です。」
ブルマ「朔弥は、は現実のお姉ちゃん?それとも…カルデアの?」
ぐだお「さて、オルクはエミヤ同様に朔弥も現実の朔弥と同化して生きながらえたんじゃ、と期待しているみたいだけど…さて、どうだろう?」
虎「朔弥ちゃん人間でしょ…英霊みたいな真似は不可能なんじゃ?」
紅茶「いや、推測の通りにカルデアが群体の英霊、として守護者のカテゴリーに召し上げられていれば…厳密には朔弥は英霊であると言えるかもしれん…奇跡があればと、信じたくなるな。」
ぐだお「紅茶は朔弥大好きだもんなー」
紅茶「な、な、何を言ってるのかね君はっ?」
虎「ぷっ、可愛いw」
ブルマ「きゃー(≧∇≦)」
紅茶「ごほん、それとだな、いろいろと複雑化しているから一応補足するのだが…正史、としているのは第5次聖杯戦争、衛宮士郎が騎士王、アルトリア・ペンドラゴンと出会った…所謂SN──Staynightの世界なわけだが。」
ぐだお「ふむ?」
紅茶「あの世界は、実はFate/Zeroの歴史と必ずしも繋がる訳ではない、らしい。」
虎「切嗣さんがいないとSNも始まらないんじゃ?」
紅茶「うむ、概ねは変わらないのかもしれないが、一応はあれは派生した歴史の可能性でしか無いようだ、まあ殆ど正史扱いだがな。」
ぐだお「そうした話をするなら、FGOにおける歴史も違いますね、此方では2004年の冬木で初めて聖杯戦争が起きた事になっています、その後に冬木の聖杯戦争のシステムを元に作られたのが、カルデアにおける複数英霊を使役可能にした──「守護英霊召喚システム・フェイト」らしいですし。」
ブルマ「つまりどういうことだってばよ…」
虎「…全部が似たような世界だけど、それぞれ違う…?」
ぐだお「多分それが一番正確な答えかもしれませんねえ、先に話した歴史の開始が違う以上、本来なら僕らカルデアがこの平行世界に介入する意味が無いんです、しかし──シバが観測した、と言うことは僕らにとってもこれを見過ごしてはいけない、のでしょうね。」
*******************
【理由とギリシャ】
白衣の女性「カルデアが関わる理由…それは簡単な話です、この異変が放置すればあらゆる平行世界へ害をもたらしかねないからでしょう。」
ぐだお「あれ?なんか君どこかで見たことが…」
白衣「き、気のせいでしょう…それより。」
紅茶「そうか、敵は因果すら歪めた怪物…放置すればあらゆる平行世界を歪め始めかねない、のか?」
白衣「ええ、ですから──すべからく人類を、世界を揺るがす事態…守護者が動いてもおかしくはありません。」
紅茶「霊長の守護者──アラヤの手が伸びると?」
ぐだお「もしかしたらカルデアこそが自覚はないけどその、守護者なのかもね?」
白衣「ええ、その可能性もありますが、それ以上の上位存在が動く可能性もあるでしょう。」
虎「それ以上?」
ブルマ「守護者は人類の存続に動くけれど…人を護るための集合意識がアラヤなら、世界そのものを護るのは、だれなのか…わかる?」
虎「あはは、わかんなーいw」
ブルマ「そ、実はわからないわ、守護者に関しては存在を観測されているけど、その上位存在はあるだろう、との予想はされながら、確認されてないの。」
ぐだお「…人を護るのが英霊、カウンター・ガーディアン…なら、世界を護るのは…もっと、強い、何か?」
白衣「そうですね、グランドオーダーの際には■■王■■■■が何らかの手段を講じてその降臨を防いでいたとも思われます、彼の者の第三宝具は世界を覆いましたから、その影響か、或いはその上位存在がカルデアが救う事をあらかじめ知っていた、か。」
ブルマ「■■王■■■■の陰謀は、此方の世界でも画策はされていたようだけど案外あっさりと開始前から前提条件を覆されて頓挫したみたいね、公式にそれは明言されているわ、■■王の計画、案外ガバガバだとか揶揄されてるけど…まあ、私の身内も大概だから他所の事をとやかくも言えないけれど…アンリマンユとか、バーサーカーでヘラクレス呼ばずにアーチャーで呼べば最強だったとか…まあ、今作品ではセイバーだけど、ヘラクレス。」
*ヘラクレスは実はキャスター以外全てに適正がありますが、よりによってバーサーカークラスだと数々の宝具が使えません、ステータス上げてもそれが敗因みたいなモノ、実際今作品ではセイバーヘラクレスにバーサーカーヘラクレスはあっさり負けましたが、その理由は宝具が大理石の斧剣であったためにネメアの獅子とゴッドハンドの護りを突破できなかった事と、黒化した影響で完全消滅は無くなりましたがゴッドハンドが無効になった為。
紅茶「彼がバーサーカーで無ければ我々はSN正史に於いて為す術なく負けていた可能性が高いからな…今回のセイバーでも然り、不意を打つ事で一度は打破したが…彼の宝具を考えたら次は通用すまい?」
ブルマ「ふふん、そうよ
ぐだお「いやあ…此方でも高難易度で本気のバサクレス相手にした時はきつかったなあ…あれは通じなくなる機能まではなかったけどそれであれだもの…あれが意思を持って冷静に襲いかかってくるとか考えただけで詰みだね。」
虎「うわぁ、じゃあ後十一回、異なる方法で殺さなきゃ死なないわけ、あの筋肉セイバー?」
ブルマ「筋肉言うな、まあ12回ね。既に最初にやられた分は回復したし。」
紅茶「な、回復までするのかあれは!?」
ブルマ「膨大な魔力が必要にはなるからストック1つ回復するのに数日はかかるけどね、私以外の並のマスターなら干からびてるわ。」
ぐだお「流石ギリシャ最強…ギガントマキアじゃあ神々では殺せない巨人族相手にするためにゼウスが呼び寄せるくらいだからなあ…人であった頃から人外じみた強さを誇っていたのも頷ける話だね…。」
虎「私ギリシャ神話詳しくないんだけど、なんでヘラクレスはゼウスをあんなに憎むのかしら、血縁者でしょ?」
紅茶「ああ、それはなゼウスの妻、ヘーラーにヘラクレスは嫌われていてな…その悪辣な計略に心身を侵され、妻子を自らの手で殺める事になったからだ、ゼウスがあちこちで不貞を働かねばその様にヘーラーが嫉妬にかられはしなかったであろうし、彼が親交があったヘパイストスの事もまた、ヘーラーは醜い、という理由だけで我が子と認めなかったのだよ、それが理由で鍛治神ヘパイストスは母ヘーラーといがみ合い続け…親子で和解することもなかったようだ、誠実なヘラクレスはその事も、妻子の事も許せなかったのだろうな。」
虎「でも、それ悪いのはヘーラーじゃないの?」
紅茶「一概にそうとも言い切れまい、ヘーラーはゼウスを愛したが故に嫉妬に狂ったのだからゼウスがもう少し誠実ならば起こらなかった悲劇とも言えるからな。」
白衣「男女の仲はわかりませんね…私は男が悪いと思いますけど…どっちつかずで、ふらふらふらふらするとか、しかも関係までもつなんて最低では?」
ぐだお「何故かな、なんだか胃がキリキリしてきたよ…」
紅茶「奇遇だな、私もだ…うっ、痛たた…」
マルタ「…貴方方は少し反省したほうがよろしいのでは…とくに紅茶。」
紅茶「君は…マルタではないか…杖も無しに君がいるのは珍しいな?」
マルタ「まあ、今回端役でしたが出番がありましたからね、水着は頂けないのでライダーの時の服装に籠手だけつけた素手の状態で。」
タラスク(無言で頷いている)
紅茶「…ますますヤンキー聖女扱いされそうだな君…その姿でバイクに乗って背中に文字でも入れたら完璧に特攻○女じゃないか…」
マルタ「なんですって!?殴るわよ!?」
タラスク(((((;゚Д゚)))))))
紅茶「やめたまえ、タラスクが怯えているではないか…(宝具発動の度に巻き込まれるから気が気ではなかろうな…)。」
ぐだお「あははは」
紅茶「しかし、君がこの舞台裏にいるという事になると本編で語られた『削り取られた』英霊の末路はやはり──」
マルタ「ええ、不本意ながら黒化英霊として黒幕に使役されている者が殆どね、みすみすカルデア側は敵に力を与えた事になる。」
ぐだお「まあ、カルデア側以外の英霊も囚われているから、恐らく過去に冬木聖杯が召喚した英霊も使役されているね、座とのラインに干渉したのか、聖杯が記録していたのかはわからないけど。」
紅茶「ギルガメッシュは相変わらず我を保っているみたいだな…流石と言わざるを得ない、複雑ではあるが。」
白衣「彼も特別な英霊ですからね…カルデアにもいた彼ですが、第四次から現界しているのは変わらないようですから別個体と認識すべきでしょう、朔弥を覚えていれば直ぐにでも味方につくとは思いますが、それは無いでしょうね。」
紅茶「今回は出会い方が違うからか士郎を気に入っていた様だが…投影をみたら掌を返すだろうか…」
ぐだお「いやあ、彼一度気に入れば案外口は悪いけど寛容だよ…多分あれこれいいながら助けてくれそうだけど。」
紅茶「あの男とは馬があった試しが無いのでどうしても疑ってしまうな、偏見はいかんのだが。」
ぐだお「そうかなあ…ホロウの釣りの時とか君ら凄い仲良さそうじゃない…。」
紅茶「耳鼻科と眼科に行け、マスター。」
ブルマ「…私の平行世界の友達がいなくて良かった、カップリングがどうとか言い出す案件だわ、これ。」
虎「プリヤの話はよせw」
*******************
【事象の差異と解説】
ぐだお「さて、では細かな相違点も洗い出してみよう、数はあるけど簡単に解説します。」
ぐだお「はい、まずこれ。」
◇ ぐだ子(朔弥)がオルタニキを召喚。
◆ ランサーが近代中国の英霊。
◇ アインツベルン陣営はセイバーを召喚。
◆ バゼットの鯖はフィン・マックール。
ぐだお「ヘラクレスがセイバーなのは、そもそもバーサーカー枠がオルクで埋まったから、ではあるけど理由の順序が逆なんだよね…恐らくはカルデア介入まではヘラクレスはバーサーカーのままで繰り返し聖杯戦争に参加していたんじゃあ無いかな?」
虎「ランサーが違う理由は、同じ存在であるバーサーカーのクーフーリンと、ランサーのクーフーリンが同時に存在できないから、なのかな?」
紅茶「バゼットの鯖が本来クーフーリンだった為か、これもまたフィン・マックールにすりかわっているな。」
ぐだお「そこに介入して、エミヤ同様に中華ランサーとフィン・マックールが自我を残そうとしたのかもね、彼等はウチのカルデアにいたし…まあ、記憶/記録はどうやら覚えてないみたいだけど、中華の方は朔弥殺そうとしたし…まるくおさまったら後で自害しかねないなあの人…」
ブルマ「ちなみに別側面ならば同名の英霊も同時に存在する事は理論上はあり得るわ、カルデアでは当たり前に起こっていた様だけど。」
ぐだお「あはは、確かに。」
◇ 主人公は最近影薄いけどぐだ子(朔弥)。
ぐだお「これについては、士郎君がだどるはずの道をうちの妹がたどることになったみたいだけど詳細な理由は不明、前述した様にカルデア全体が英霊として召し上げられているならば、自身と同一存在を因果を捻じ曲げてきた黒幕に対抗して呼び寄せ、同化した結果である可能性がある。」
紅茶「あくまでも憶測レベルだがな。」
ぐだお「まあね、でも現段階ではこれ以上考察は不可能かな、情報開示量が足らないよ。」
◆ 衛宮士郎が実戦レベルの魔術を使える。
◇ 切嗣は死が確定しておらず、行方不明。
◆ 雁夜が生存、青のアサシンのマスターに。
マルタ「この辺りは第四次からの流れが完全に覆る勢いね?」
紅茶「そのせいか、第五次にもかなり変化が見られるな。」
ぐだお「確かにね、これに関しても情報の量が足らないけどひとつ言えるのは…やはりここは似た様な平行世界である、と言う一点かな…僕らがそれぞれ知る歴史と聖杯戦争の開始から違うから。」
虎「切嗣さんがSN史より元気だったからか、士郎に魔術を真面目に教えたみたい?」
紅茶「それにしてもおかしな点はあるのだが…仮に切嗣が真面目に教えたとして、果たして私がああもスラスラ魔術を使えるだろうか…」
ブルマ「まだこれも情報が足らない、かな?」
紅茶「そうなる、すまない。」
ぐだお「(必死に笑いを堪える仕草)」
紅茶「…何かねマスター…」
ぐだお「ご、ごめんその声ですまない、は腹筋にく、くる、ぷっ、くくくっ」
紅茶「失礼だな君は!?」
虎「中の人ネタ、乙」
◇ 夢によりカルデア関与の可能性が浮上。
◆ 一部鯖にカルデアの記憶が…?
ぐだお「これに関してはもう、答えが本編で出ましたね、オルクが介入した事でエミヤにカルデアの記録/記憶が戻りました。」
エミヤ「カルデアの異変介入と、黒幕の時空・因果律干渉の結果、と言う話だな。」
虎「話がでかすぎてついていけない…」
ブルマ「師匠、ガンバ!」
◇ 天の杯ルートでもないのに黒化英霊出現。
◆ 冬木は何らかの力場で隔離状態。
ぐだお「これもねえ、黒幕、仮称『アンゴルモア』が原因とされてるけど…まず天の杯ルートの泥による英霊ともまた違うから誤解しないでね、黒化した英霊はどうもアンリマンユに取り込まれた時ともまた微妙に違うから。」
紅茶「アンリマンユの力をもアンゴルモアが取り込んだのかと思っていたが…違うのか?」
ぐだお「全て間違いとも言わないけど、まずスペックがおかしいんだよね…自我があったりなかったり、ステータスが上がったり…」
紅茶「アンリマンユに囚われたセイバーや、バーサーカーにも天の杯ルートで意識はあった様だが?」
ぐだお「それだけじゃない、一見して顔や姿がわからないのさ、宝具でも見ればわかる程度でさ。」
紅茶「そう言われれば天の杯ルートでは見た目が黒かったりはしたが、誰だかは一目瞭然だったはずだな…」
◇ 聖杯により(?)裁定者ルーラー&復讐者アベンジャー召喚。
◆ 更に7騎の英霊が追加召喚される。
◇ 前半と後半の鯖の令呪の色は赤と青。
ぐだお「これもね、ルーラー、アベンジャーの召喚…本当に聖杯…、アンゴルモアがしたのかな?」
虎「その心は?」
ぐだお「まず、理由が薄い、なんともなれば結果ごとリセットできるくせにわざわざルーラーを呼び出し、尚且つその監視にアベンジャーを呼ぶ…矛盾しない?」
紅茶「確かに意味がわからんが…」
ぐだお「アベンジャーはともかく、ルーラーは別の力の介入があったんじゃないかと思ってるんだよ、僕は。」
ブルマ「別の力?」
白衣「それこそ先ほど話した守護者の上位存在…神如き何者か、では?」
紅茶「…ますますわからん。」
ぐだお「それから令呪の色分け、これはあまり深い意味は無いのかもね…元来の枠で召喚されたのが赤、程度で…」
紅茶「青側はやたらにチート級が多い気はするがな。」
白衣「力の均衡が崩れてはいけないと世界そのものがバランスをとり、事態を終息させる為に干渉したのかもしれませんね、本来因果律に干渉などすれば世界からの揺り戻しに合うはずですから。」
ブルマ「追加召喚に関しては、聖杯に備わる予備システムを起動しただけの話ね、万一悪用された場合の保険に作られた対抗措置よ。」
虎「そのあたりは聖杯大戦とかその辺ぐぐるとわかる、わかります。」
◆ 慎二の第二鯖はフランシス・ドレイク。
◇ ドレイクは月の聖杯戦争の記憶がある。
◆ Xには平行世界の不完全な記憶が。
◇ アーチャーもまた、まだらに記憶が。
ぐだお「聖杯を持っていたから、このドレイク船長間違いなくうちの船長なんだけど…なんでムーンセルの記憶があるんだ、この人…」
紅茶「私にも平行世界の記憶が蘇ってきたくらいだ、この世界、実は他の平行世界と境界が曖昧なのではないか?」
ぐだお「X、いや…アルトリアもなあ、そうなのかなあ…霊基が混ざってないかな、彼女の場合…」
紅茶「まだ彼女、他にも多数側面があったはずだが…」
ぐだお「うちには槍の側面は獅子上も乳上も居ない、から無いと…思い、たい。」
虎「それフラグ、絶対フラグ。」
紅茶「これ以上アルトリアのゲシュタルト崩壊は勘弁してくれ…」
◆ ロード・エルメロイ2世が来日、冬木へ。
ブルマ「一緒にバゼットも来ているけど、何故か別れ別れな上に記憶すらおかしくなってない、バゼット?」
虎「なんか時系列おかしいんだよね、時間がどうのこうのって言ってたし…」
紅茶「巻き戻しの影響で中の時間軸が外と違うのかもしれないな、ロードだけが記憶がまともな理由がわからないが。」
◆ 士郎に真逆の双令呪、ヒロインX(in青王)
ぐだお「…なんでかな…アルトリアが複数いるからかな(白目)」
ブルマ「筆者曰くきちんと意味はあるらしいですが、今はやはり開示する気は無いみたいですね。」
虎「筆者ェ…」
◆ 新アーチャーはギリシャの主神、ゼウス。
ブルマ「なんで神霊が降臨したのよ…ワケワカンナイ。」
紅茶「いや、そもそもアンリマンユもゾロアスター教のれっきとした神格だぞ、そう考えれば方法次第で神霊もサーヴァントに落とす事も不可能では無いようだが。」
ブルマ「…言われてみたら、確かに。」
白衣「いろいろ大変なんですよ?ゼウスの制御…魔力だけでなく…」
ぐだお「あー(察し」
◇ 大聖杯の存在する大空洞内に謎の結晶。
ぐだお「なんだろうね、コレも、意味深にずーっと引っ張ってたけど、これがアンゴルモアの隕石、なのかな??」
ブルマ「なーんか怪しいけど…そうかなあ?」
虎「これで記載していた分は終わりかな。」
ぐだお「いやあ、多かった…しかもほとんど答えてないじゃんこれ。」
紅茶「結局、また謎が増えたってお叱りを受けないか…?」
虎「紅茶、それ以上いけない。」
ブルマ「まあ、とにかく今はここまでという話みたい、皆さんお付き合いありがとうございました!」
マルタ「少しは役に立てたかしら。」
白衣「まあ、全部ネタバレするわけにもねえ。」
虎「とりあえず悪いのはギリシャ、にしとけばいいんじゃない?」
ぐだお「いやいや、それは流石にw」
ブルマ・虎「まあ、とにかく!ありがとうございました〜〜!!!」
【後書き的なもの】
長いよ!
毎回マテリアルすると長いよ!
…小話まじえるからかもしんないけど。
どうでしょう、少しは話の内容が整理出来ましたでしょうか?
長い長い設定垂れ流しにお付き合いいただき本当にありがとうございます。
話を書き進めながら作り上げた設定でもあるので後付け的な部分も多々あります。
また、記載した、と虎が言ってますが、これはpixivに掲載した側にはトップページに相違点を毎回挿入していた名残です。
こちらではページ区切りができず最初の方以外記載していませんでした、ごめんなさい。
今後、なるべく矛盾無いように進めるつもりですが、綺麗におさまるかなあ、と不安もあります。
正直ページとか区切れないからハーメルンにはこれを載せるか悩みましたが…結局載せました。
ひとまずは長かったから、今回はこれにて。
それでは、本編でまた!
しーゆー!!
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第29話 『凪』
空を揺るがす嵐が。
静けさは鳴りを潜め、
徐々に風が吹き始める──
「嵐が、来る。」
嵐?
「ああ、世界を揺るがす大嵐だ。」
怖いの、いや、だよ。
「なに、心配はいらん…何の為にこの様な極東の地にまで出向いたと思うておる?」
早く、出たいよ。
「暫くかかるな、だが──必ず元凶は取り除かねばな…黄昏を見る前に世界がなくなってしまうのでは…我々が今までなにをして来たかわからなくなるでは無いか。」
じゃあ、元凶を、喰えばいい?
「お前は──すぐそれだ、少しは考えてものを言わんか、全く。」
難しいこと、ニガテだ、よ。
兄者、は狩の事しか、考えてない、よ
…ととさま。
「まるで犬の様な事を言うでない…誇りを持たんか…誇りを。」
おいしくない、から、いらない。
「しようのない奴じゃな…はあ。」
──兄者…とと様、呆れてるよ…
「しかしまあ、あやつがまさか地上に干渉しようとはな…まずはお手並み拝見かの?」
****************
囲まれている。
四方八方から感じる気配、禍々しい力。
「まずいな、想定外だ…これは尋常ではないぞ…バーサーカー、離れてくれるなよ…僕だけでアレを突破するのは不可能に近い…」
愛用の銃器を構え、しかしサーヴァント相手にはなんの意味もない事を考えれば牽制になれば良いところだろうと周りを見渡す。
見えるだけで数騎。
「馬鹿な、何故サーヴァントが群れをなしてるんだ…しかも、基本ステータス以外が見えない…クラスすらわからないだと?」
第四次のアサシンの様な特殊な存在?
それにしても一騎一騎のステータスが高すぎる…!
「────ウ、ァ■■──…」
バーサーカーもまた、本能から忌避したか、警戒心を露わにして周りを睨む。
どうすべきか判断もつかず様子を見ていると、やがてセイバーらしき影が見えた。
身の丈に見合わぬ大剣を構えた少女らしき影。
「あ、あ、ア──■■ォォ■■■!」
「ど、どうした…バーサーカー、落ち…!」
制止も間に合わぬまま、バーサーカーが弾丸の様に飛び出した。
勢いのまま少女へと躍りかかると、その両手を振りかぶり、ハンマーの様に叩きつけた。
「──!!」
言葉はなく、しかし少女は大剣を横に構え、腹を片腕で支えてその一撃を受けきって見せた。
なんと言う膂力か、少女の外見をしてもそこはやはり、サーヴァント。
「■■ォ!■■!■■──!!!」
聞き取り辛いが、心なしかバーサーカーは同じ単語を繰り返し叫びながら拳を振るい続けている様に聞こえる。
その猛攻を受けながら、少女もまた口を歪めて笑っている様に見えた。
「バーサーカー、奮起するのはいいが飛び出しすぎだ、このままじゃ…っ、クソ!」
バーサーカーと少女を中心にサーヴァントが円を描く様に包囲し始める。
まずい。
バララララ、と手にした機銃を連射する。
だが。
「、やはり無駄か…!」
弾丸は着弾したものも軽々と弾かれ、鎧や皮膚を貫けない。
そもそもほとんどが回避されている。
「バーサーカー!退がれ、宝具を用いて離脱を
──!?」
ドフ、っと。
軽い音がして身体が浮き上がる。
殴られたのだ。
サーヴァントからしたらほんの軽い一撃っ、しかし人の身には…
「げ、あ…!!」
胃液を吐き散らして崩れ落ちる。
目の前には、杖を構えたキャスターらしきサーヴァント。
キャスター?キャスターの一撃で自分は悶絶していたのか。
「な、さけなくなるな…クソ!」
意地で身体を起こし、振るわれた杖をかいくぐり、唱えた。
「──time alter double accel ‼︎」
固有時制御。
人の身には過ぎた力だが、体内に限定する事でその影響を最小限に。
世界に咎められずに時空を歪める特異な魔術。
一瞬、2倍速に加速し、キャスターの視界から逃れ、頭に懐ろから取り出したもう一つの銃器を向ける。
トンプソン・コンテンダーカスタム。
大口径の一撃のみを射出する携帯できる拳銃としては最大威力を発揮する改造品。
弾丸には30ー06スプリングフィールド弾。
本来は対応しない口径だが、カスタム時に無理に作らせた銃身はそれを吐き出した。
ガオン!、と拳銃にあるまじき音を立てて弾丸が吐き出され、慌てて身体を捻ったキャスターの頭を掠め、肩を撃ち抜く。
本来ならば、例え肩を砕かれようと即座に治癒をかければ問題ない程度の傷。
弾丸が自身を貫いた事に驚きこそするが、キャスターは魔術を用いて──
その、肩が爆ぜた。
「──!?!?」
キャスターは訳も分からず、混乱しながらのたうち回る。
「君が魔術師で無ければ僕がやられていたよ…いや、それも最早時間の問題、か?」
取り囲まれたバーサーカーも、暴れまわりはしているが徐々に追い詰められていく。
「諦めが早いのですね…貴方?」
鈴を転がすよう様な、可愛らしい声。
どこか冷たく話しながらもその澄んだ声はそれが女性だと感じさせた。
そして、立ち塞がるのは巨躯。
異様なまでの魔力を漲らせた、鎧の隙間からでも解る、筋肉の塊の様な立ち姿。
「な──に?」
後に、あの声の後にあの姿で一瞬我が耳を疑ったとは彼の言葉。
しかし、現実にはその後ろに女性が控えていて見えなかっただけなのだが。
「先の一撃は見事だったがな、あまりに冷静にすぎやせんか…少しは足掻いて見せよ、人間?」
漆黒の鎧に身を包み、両手に青白い雷を纏う大男。
「アーチャー、やりなさい!」
澄んだ声が、放てと叫ぶ。
「ハッハー、是非もなし!!」
豪雷一閃。
光が瞬いたかと思えば、次の瞬間には辺りに気配は皆無。
バーサーカーと、アーチャーを除いた気配は根こそぎ消滅していた。
「──アー、■、ロ──」
悲しげに呟いたバーサーカーを背に。
堂々と此方を向いたのは、大神ゼウス。
現状、此度の聖杯戦争に於ける最大最古の英霊であった。
*************
高く、高く。
天に聳える山が見えた。
その頂に、一人の男が磔にされている。
その肉は、岩肌に張り付き、半ばが石のように変質してしまっている。
腸が露出し、鎖に繋がれた姿は明らかに生きているとは思えない。
だが。
動いた。
男は呻きながら涙を流しているのだ。
「何故、解放した──何故、私はここを離れてはならないのだ、罪は罪、罰は罰──償う事で私は…まだ、■■でいられるのだから…忘れないで…ああ、忘れないで…母様──」
「原初の火を与え給うた神ともあろう者が、なんと情けない…さあ、泣いていないでここから降りるのだ。」
「──巫山戯るな!巫山戯るな?誰が望んだ、誰が頼んだ!私はこのまま朽ちてしまいたい!消えてしまいたいのだ!人は、栄えた、栄えて、堕落した!私が招いた、私が犯した罪だ!」
「──だが、お前のその罪が、人を生かした、人を…確かに救ったのだ。」
むせ返るような、嫌な臭気が漂う山肌。
その臭いと、足元には犬面鷲身の異形が、矢に貫かれて横たわる。
「ああ、ああ──お前が来たことで、私の唯一の理解者が、死んでしまった…死んでしまったのだ…」
「正気か、それは貴様の腸を啄ばんでいた化け物ではないか。」
男──プロメテウスの言葉に。
解放者、ヘラクレスは眉間に皺を寄せて唸った。
「だが、私はこの鷲に啄ばまれ、しかしこの鷲に生かされていたのだ…」
この男は、底なしの馬鹿か。
自分を苦しめ続けた畜生が、事もあろうに自分を生かした?
ヘラクレスは知らなかったが、彼は三千年もの間、この異形の鷲の糞尿を糧に生き続けていたのだ、不死故に死ぬことは無いプロメテウスだったが、もしも腹を満たす事がなければ。
如何にそれが汚物だったとしても彼の精神を辛うじて繫ぎとめたものでもあった。
故に、辛苦に晒された彼にしてみれば、何時しか鷲は彼の唯一の理解者となり得ていたのだ。
鷲には、ただ栄養ある岩肌にぶら下がった便利な餌場にしか思われずとも。
彼が狂った親愛を抱いたのは、無理からぬ話であったかもしれない。
考えてもみれば、三千年だ。
三千年の間誰と話すこともなく、ただただ腸を抉りだされる日々…
この男は狂う事で唯一、自我を残したのだ。
「哀れよな…だが、私にも、人々にとっても貴方は恩ある神だ──」
やがて、無言のまま泣きじゃくるプロメテウスを胸に抱き、山肌を降り始めるヘラクレス。
やがて視界は霞み、ぼんやりと意識が覚醒しだす。
「ああ──光、光が見える…雷火に怯える必要も無い、寒さに凍えることも無い…人に希望を与えたのは確かに、貴方なのだから──」
背後に聞こえた声は、どこか異質で、今ここにあると思えない。
しかし。
優しく、悲しく、苦しそうな──
***********
目覚めたそこは、自分のベッドだった。
「イリヤ、おはよう。」
「──リ、ズ?」
リーゼリット。
自分の一部、アインツベルンのホムンクルスで…そして、妹のような存在。
「お嬢様、ご無事でなによりでございます。」
「セラ…」
同じくアインツベルンのホムンクルスであり、魔術師としての自分の師でもある、姉の様な、存在。
はたと気がつき、飛び起きる。
「そう、そうだわ…早く…あの不埒な神を跪かせなきゃ…私を、アインツベルンを侮った事を悔やむ様に──」
「落ち着け、イリヤ──今のお前の精神状態で逸るのは得策ではない。」
そう、制止したのはセイバー、ヘラクレス。
「夢を、見たわ──セイバー、貴方が…鳥葬の磔刑にされていたプロメテウスを助けた時の夢を…貴方、プロメテウスに向けた目と同じ目を今、私にも向けたわね?」
「プロメテウス…懐かしい話だな。」
「私を、憐れまないで。」
強い拒絶、強い、悲しみと怒り。
それは人の強さで、弱さだ。
「全く、強がりを──」
嘆息しながらも、ヘラクレスは否定はしない。
ベッドからよろめきながらも起き上がるイリヤを支え、その丸太の様な腕に抱え上げた。
「アーチャーを、探すわ。」
「承知した、マスター…アインツベルン。」
わざわざ家名だけで呼んだのはヘラクレスなりの皮肉と、ある種の優しさではあったが。
イリヤは答えず、行きなさい、とだけ命じる。
「行ってらっしゃいませお嬢様…ご武運を。」
セラの台詞に頷き、ヘラクレスが同時に足に力を込める。
もう日が沈んだ空に、砲弾の様な速度で飛び出していく。
「イリヤ、もう、行っちゃった…」
「お嬢様、でしょう…リズ。」
「セラ、は…硬すぎ。」
「貴女は柔らかすぎるのです、メイドとして少しは自覚なさい…ですが…今だけは許しましょう…イリヤ──無事に帰ってきてくださいね。」
それが、例えほんのひと時であっても。
聖杯戦争が終われば消えゆく自分達には、貴重な、貴重なひと時なのだから。
もしも。
幸せな、唯人に生まれていたら。
自分達は、笑いながら生を謳歌しただろうか?
そんな事を考えるほどには、彼女もまた、人であった。
【後書き的なもの】
はい、皆さんこんばんは、こんにちは、おはようございます。
今回は本当に話が進んでません…書いていてちょっとスランプを感じました。
しかし、やっとあの方が出てきました。
前回出た時には正体は伏せていましたが…
今回は流石にお分かりですよね?
あの方です。
それと、ゼウスが絡み。
雁夜とアヴェンジャーが。
ぐだ子と士郎、凛が。
湧き出す黒化英霊…今回はネロさんがゲストでした。
ヘラクレスの12の難行の一つを夢に出しました。
プロメテウスはこれ、本当に狂ったかの様な言動をしているんですよ。
私的にはプロメテウスは人類に貢献し、なおかつ自身を顧みない愛をもって救おうと言う姿が何処か、士郎やエミヤに重なるんですよね。
だから、結構好きな神様でもあります。
自身を犠牲にすらしながら与える無償の愛情。
もしかしたらエミヤは時代が時代なら聖人に認定されていたかもしれませんね。
ジャンヌダルクがそうであった様に。
まあ、彼は宗教家ではありませんが…村娘だったジャンヌダルクがそうなった様に、後世に神の言葉を聞いたのだ、と解釈されて聖人に認定される──エミヤはそれを聞いたら激怒しそうですが、時代時代を作ってきたのはそうした思想に利用された英雄の道標。
生きているうちにそんな英雄になりたい、そんなある意味厨二病ですが、今はゲームと言う仮想現実や読み物でそういった存在になった様に感じ、浸ることができる。
便利で、ある意味怖い世の中ですね。
いつか…非現実と現実の境が解らなくなる様な時代が、来るかもしれない。
そんな厨二病代表の英雄願望に取り憑かれた衛宮士郎。
さてはて、これから彼はどうなるのか。
今回出番なかったからよいしょしてみました。(口に出すなや
それでは皆様、また次回の更新でお会いしましょう!!
しーゆー!!
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第30話 『絶招』
生涯コレ修練と、激しく走り抜けた。
神に届くその槍は。
生涯見つけられなかった「望み」に出会う。
壊れぬ敵、胸躍る、強き者──。
我は、戦に生きる修羅。
今一度の生は、義と、拳に…捧ぐもの也。
「どうした、綺礼?」
カソックを首元まできっちりと閉め、暑苦しい程に厳格に着こなし。
男…言峰綺礼はいやに嬉しそうに肩を震わせていた。
「く、ククク…ククク、あっはっはっは!」
使い魔が齎した映像。
そこにはくたびれたレザーコート、煙草を咥えて銃器を手にする一人の男が映っていた。
衛宮切嗣。
魔術師殺し──
「生きていたか、戻ってきたか、信じていた、ああ信じていたとも!」
「その顔、覚悟…ようやく10年前と同じ貴様に戻ったな、待ち侘びたぞ!」
喜色に満ち満ちたその顔は、常の神父を知る者からしたら驚きだろう。
無感動、無表情なこの男が、あまりにも、あまりにも活き々きと、饒舌に喋るのだから。
「…………」
背後に立つ紅眼の美丈夫はその口元を笑みに変え、ただその背を見つめていた。
****************
あの、昏い影の様なサーヴァントの襲撃から1時間程。
正面からでも、搦め手を使おうともあちらがこちらを認識した時点で詰んでいる。
それほどにこのアーチャーの力は群を抜いている。
その主従に促され、今僕らは冬木ネオハイアットホテル──10年前自分が爆破したホテルの後継にあたるホテルのスイートに通された。
第四次のケイネス・エルメロイ・アーチボルトと言い、魔術師然としたマスター達は危機意識は無いのか、こんな空中に居を構えて…爆破しろと言わんばかりだ。
いや…この主従ならば力ずくで全て弾き返してしまいかねないが。
「で、僕をこんな所に連れてきてどうしようと言うんだい。」
ケイネスの時の様にフロアが異界化していたり、工房になっていたりはしない様だが、敵の拠点だ、警戒して悪い事はあるまい。
「…意外に臆病なんですね、貴方?」
「慎重だと言ってくれ。」
白衣に、ボルドーカラーのネクタイ、パンツスーツに身を包んだ知的な美人。
アーチャーのマスターで、名前は知らない。
声は鈴の音のようで、その容姿は100人いたら99人は振り返るであろう程に異性からも同性からも羨まれるであろうほど整っていた。
──いや…何を考えているんだ、僕は。
とか考えながら、視線はつい、豊かに実る一部分を見てしまうのは男のサガか。
「…気のせいかのお…そいつの背後に…わしが妻に睨まれた時みたいな言いようが無い怖気が見えた気がするんじゃが…」
腕を組みながら呟くアーチャー、どこか第四次で見た征服王に似ている。
言われた途端、怖気を感じた。
嫌な事を言わないで欲しい。
お前みたいな神気溢れるサーヴァントが言うと洒落にならない。
「…なんだろう、嫌な予感しかしないんだが。」
「■■■…」
バーサーカー、哀れむような目で見るな、後なんでお前アーチャーに平伏してるんだ、負けを認めたみたいになるなよ、おい。
後に、彼が大神ゼウスであると聞いて納得した、バーサーカー…カリギュラが治世していたローマは彼らギリシャの神々を呼び名こそ変えつつも崇拝していたのだから、最早最初から屈していた様なものだろう。
****************
「は、手応えのない──さて。」
湧き出した黒化英霊を一息に葬り、キャスターと葛木に向き直るランサー。
「中つ国由来のサーヴァント、かしら…貴方、私達の側につく気は無いかしら…正直なところ私達の願いは半ば叶っているのよ、だから聖杯が要ると言うなら貴方に渡しても構わないわ…マスターには死んで貰いますけど。」
このランサー、武人気質であるのは明白、加えて理不尽な願いなど持ち合わせていないのは問わずと知れた。
ならば、この優秀な前衛を手放すてもあるまい、人間であるランサーのマスターは信用など出来ないから死んで貰うしかないが。
「は、生憎よな…マスターに恵まれたとは言わぬが儂は強き者と死合いたいだけでな──」
ギラギラとした目は、葛木に向いている。
最早言葉は要らぬとばかりに、葛木、己がマスターまでが薄く笑いながら構えをとる。
それも、本気で殺すための型を。
「殿方の考えることは今も昔も解りませんね…さりとてマスターがそう考えたならば、異論を挟みもしません、残念ですよ、ランサー。」
「は、厚遇の申し出感謝する、しかしこの身は武に捧げたものなれば──いざ、尋常に。」
そして、思い通りに運ばないのが人生と言うものか。
最早1度目の生は終わった身でありながらも、矢張り運命と言うものからは逃れ得ぬのか。
「この、後に及んで──戻れ、じゃと!?」
「…貴様のマスター、無粋が過ぎるな…」
これ以上は言葉には出さない葛木であったが、その表情は明らかに気の毒だ、と語る。
「…地獄に堕ちろ、マスター…。」
血が流れる程に唇を噛み締め、己がマスターに恨み事を吐き出す。
「野暮用を申し付けられた、業腹だがこの様な些事で令呪を使われても叶わぬ故な──勝負は預ける。」
《毎度毎度良いところに水を差しよって…狙っておらんだろうな、貴様…》
《真逆、優先事項が出ただけの事よ。》
──どうだかの。
まあ、今は仕方あるまい…先ほどの申し出を袖にしたのは誤りであったか?
否、この機会は正しくあの男が儂を呼び寄せた故の付録の様な第二生よ──なれば、ある程度は従うが義と言うものであろう、間違いでは、無い筈じゃ。
「…ランサー、いつでも歓迎するわ?」
魔女が、見透かした様に笑みを向けてくる。
「は、身に余る評価、痛み入るがな…二言は無いとも。」
そう言い残し。
ランサーは未練を振り払うかの様に激しい音を立て、境内の石を蹴り割る様にして離脱して行った。
「あら、私がキャスターでなければ後始末に困る所よ、全く。」
す、と手を翳しただけで巻き戻しの様に境内の荒れた様子が消え、半壊していたものも全て綺麗に元どおりになる。
「…やはり、幾度見ても不思議なものだ、我が目を疑いたくなるな。」
常ならば黙って見ていたであろうマスターも先のランサーの熱にあてられたか、いやに饒舌だ。
「私は──魔女ですから。」
他に言われればけして許さぬ蔑称を自ら皮肉気に口にする。
「…お前は、お前だろう、キャスター。」
──そこは、メディアと呼んでほしいのだけど。
この方にそれを求めるのも違うかしら。
などと思考しながら、コルキスの魔女、メディアは思う。
こんな形でなく、生前に出会っていたなら、自分はあの様に悲惨な人生を送らずに済んだのだろうか、と──…
****************
「ランサー。」
と、目を剥く様に語るのは言峰綺礼、己がマスター。
「なんじゃ、マスター。」
物凄く微妙な顔で、生暖かい視線を送るランサー。
「この男を追い詰める…貴様好みではあるまいが、存外しぶとく、強かな男だ…少しは楽しめると保証しよう。」
「…構わんが、なぜ今なのだ?」
「殺さず、生かして捕らえろ…サーヴァントがいる様だがそれは完膚無きまでに殴殺して構わん。」
答えになっておらんぞ、と言う顔ながら渋々と出て行くランサー。
「…良いのか、令呪で縛らなければ面白がって殺しかねんぞ?」
「…あんな猪武者に、あの男がやられるものか…だが、仮にもランサーが聞いた通りの漢であるなら奴を間違いなく追い詰めるだろう。」
ただ、それと「殺せる」事は同義では無いが、と薄ら寒い笑顔で、自分が笑みを浮かべたことにも気づかずに答える綺礼。
その台詞を聞いた英雄王は、とうとう堪えきれずに笑いだした。
「ふ、ふははは、綺礼…お前笑っているぞ?矢張り面白い奴よな貴様は…見ていてまるで飽きぬ。」
精々、己が成したい事をするがいい、と。
綺礼の肩を叩いて退室して行く。
「…そうか、私は──笑えて、いる、か。」
己が顔を、その無骨な手が包み、口の端と目だけが覗く。
それは、酷く歪な…人らしい感情を真には理解できぬ彼が唯一理解した
愉悦と言う感情の魔物…。
閉じた街、閉じた空。
それを知るでもなく、しかし彼は嗤う。
それは、紛れもなく。
彼にとっては「希望」であったのだから。
**************
妙な悪寒、風邪でも引いたのかと仕方なく携帯のナンバーを交換し、断りを入れ、彼らが拠点にしているホテルから出て近くのコンビニへと歩いて来た。
簡単な栄養材を購入し、店先で飲み干してダストボックスに放り込む。
ガタン、と音を立ててそれは箱を揺らし。
確認して直ぐに公園を散策する様にして煙草を吸いながら歩いた。
「出てきたらどうだ…サーヴァント。」
「ふ、気づいていたか…中々に戦慣れしている様じゃな?」
「褒められて嬉しいものでもないが、な。」
煙草を踏み消し、懐の得物を握る。
「声をかけた、ならば抗う気はあると言うことじゃな…行くぞ!」
ドカン、と空気が爆破されたかの様に激しく震え、ランサーの姿が一息に迫り、直前で鋭角に角度を変えた。
「ぶ、物騒な奴じゃな!」
木には、ピンと張られた鋼。
足裏から送られた魔力で起動した、予め街の各所に仕込んでおいたトラップの一つ。
細く、束ねた女の髪と撚り合せて洗礼を施した魔力銀──ミスリルの鋼糸だ。
「そのまま首が落ちてくれれば楽だったんだけどね、残念。」
「なんと…追い詰められたのはわしの方、か…?」
辺り一面に張り巡らされた鋼糸の網。
ランサーの最大の長所である「速度」は封じた。
後は、力で捻じ伏せるだけだ。
「バーサーカー、やれ!」
糸の無い、狭い範囲にバーサーカーを実体化させて、視野を共有してこれ以上は動くな、という範囲指定のみを簡潔に念話で指示を出す。
バーサーカーの怪力を生かし、連撃を加えるも、ひらひらとかわされる。
しかし掠めた拳は木の幹を粉砕し、破片が辺りに降り注いだ。
「は、ほっ、こいつはたまらんな…だが、速さだけで武を誇ったわけでない事を教えてやろうか!」
槍を投げ捨てダン!と脚を踏み、地を揺らす。
本来ならばこの様に強く踏み込むのは震脚としては間違いなのだが、敢えての派手なパフォーマンスだ。
力で勝るバーサーカーに対し、まるで柳の様な体捌きでゆるり、と先ほどの音と反対に。
揺らめく様に傍に滑り込み。
バーサーカーの胸に、トン、と。
──拳が触れた。
「絶招──猛虎・硬爬山…!」
本当に軽く、ただコツンと当たるだけの拳が、バーサーカーの逞しい胸を、軽鎧ごと陥没させた、常人ならばそれだけで命絶たれていた事だろう。さらには、そこに追い討つ様に肘が衝撃が消える「前」に吸い込まれた。
バガン!!!
鉱石をハンマーで叩き割る様な音。
吹き飛んだバーサーカーの身体が、鋼糸に絡まり、ズタボロになりながら止まる。
酷い有様だが、なんとか霊核は損傷していない、慌てて治癒の為の魔力を流す。
「なっ──バ、バーサーカー!?」
なんと言う事か。
槍を手放してなおあの戦闘力。
桁違いの技術、そしてあの技──
「真逆、貴方は…!」
「ほ、知っておったか…人はワシを…『神槍』…などと呼ぶらしいな?」
やはり、サーヴァントとは面白い…ワシの本命の一撃を受け…なお生き足掻くものがいようとは──
そう呟く顔は喜びに染まる、まるで子供みたいな…無邪気な笑顔で。
しかし、その手に死を乗せたまま……
稀代の格闘家が、手を伸ばす──
「迂闊だね、神槍…、李、書文!!」
そう、迂闊だ。
槍を手放さずに鋼糸を切断しながら戦われれば今頃詰みだったかもしれない、しかし…その格闘家故の矜持が、自信が。
彼の判断を過たせた。
言葉と同時に懐で握っていた得物。
それを、抜く───フリをして。
逆手で隠し持っていたもう一つを放り投げる。
キュア!!
光が迸り、ランサーの眼を灼いた。
「ッガ、小癪な──!」
至近距離でのフラッシュグレネード。
相手が、人であったならばまさか爆薬を投げつけられたか、と目を閉じて伏せただろう。
だが、ランサーはそうはせず、爆破前に投げ返す自信があったが故の過ちを犯した。
確かに彼は疾い。
着火前に掴み取り、投げ返そうと手首のスナップのみで投げ返した。
が、切嗣がそれを見越していないはずも無い。
投げ返すか、蹴り飛ばすか、或いはそのまま突っ込んでくる、と予想し、既に爆破寸前まで待ってから投げていた。
結果的にソレは、ランサーの掌を離れ、彼の顔面の高さで起爆した。
切嗣は既に背を向け、目を閉じたまま記憶した地形を思い出しつつ疾駆する。
「バーサーカー、霊体化して付いて来い、逃げる!!」
流石に目を灼かれ、涙を流しながら一瞬躊躇うランサーを背に、とにかく逃げた。
このままでは拙い。
決定打が無いのだ、そもそも自分には聖杯など必要無い、寧ろ破壊しなければならないからこそ病んだ身体を押して参加したのだから。
「ならば…誰かと手を組むのも…妙手かもしれないな。」
10年前なら、考えもしなかったであろう思考。
舞弥がいたら、言うだろうか。
──切嗣、貴方は弱くなった、と。
************
「は、なんだありゃあ…」
黒づくめのマスターとバーサーカー、それを追い詰めたランサーらしい相手の戦闘を影から見ていたのは雁夜が召喚したアサシン。
「バーサーカーもとんでもないパワーだったが…槍を手放してからの方が強いんじゃないのか、あのランサー…」
槍をまともに振るう場面こそなかったが故の誤解であったが、彼のランサーはその槍の手腕は正に神域。
それを鍛錬する為の前段階に習得したものこそ八極拳であり、後に李氏八極拳と呼ばれ数少ない弟子によって伝えられている、現代に残る数少ない実践派の武術。
しかし、その気性から「手を抜く」などと言うことが一切無かった彼は、生涯実践派の技術を錬磨し続け、無駄の無い…実戦において見た目が派手なだけの技術など意味は無いと地味であろうと意味のあるものを突き詰めた。
結果として生まれたのが先に挙げた李氏八極拳でありその中心にあるのが彼自身の生涯そのもの──『六合大槍』である。
つまりは先に見た拳打は彼にしてみれば敵に、状況に合わせたに過ぎない。
「にしても…あのバーサーカーのマスター…そうか、そうかよ…皮肉な運命ってものかな?やっぱりマスターの話通り…イレギュラーの多い聖杯戦争、なんだな…」
一人納得する様に呟き、アサシンは闇に、消えた。
【後書き的なもの】
はい、みなさまおはようございます、こんにちは、こんばんは。
貴方の暮らしを見つめるネコカオス的なものがいたらどうしよう。
ライダー/ギルスです。
今回、本来ならカオスな愉悦劇場を書いていましたが戦闘シーンを書いていたら真面目なシーンになり、流れ的には本編の流れだから、とまずはきちんと本編を書いてからと踏みとどまりました。
いや、まだ書いてる途中ですが麻婆と慢心王とネコがハッスルしているとかいないとか。
(予定は未定)、この話の時間軸から派生はしますが、ありえない登場人物とかいろいろ盛る予定。
ギャグって意図して書くの難しいよね、本当。
でも化学反応起こした時は我ながらどうなんだこれ、ってくらいのものが生み出されたりします。
…うっかりシリアスにぶっ込んじまったエックスとか、エックスとか、エックスとか。
物語的には一進一退していますが、ゼウスと切嗣に同盟?フラグが立ちました。
いや、士郎達と同盟するのが一番良いんですが彼は士郎が参加したのを知りません、むしろ避けて避けて、遠ざける気満々ですので衛宮邸にすら近づくのを避けるでしょう。
すれ違いの極致。
ブキヨウのキワミッ──ッア──!!
さて、複雑なこの話。
マジで収拾つくの?バカなの?筆者死ぬの?
ごめんなさい、頑張るから見捨てないで下さいマジで、マジで((((;゚Д゚)))))))
と、言うわけで震えながら次回更新まで頑張ります、しーゆー((((;゚Д゚)))))))((((;゚Д゚)))))))
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第31話 『神々の系譜』
破壊の術理──拳に生き、槍を愛し。
ただ、武練を極めた先に。
その拳に、槍に。
二の打ちは要らず──。
視界が白く灼ける。
急激な可視光線の変動に、サーヴァントの常人以上の視力は逆効果だった。
眼が良い分余計に光を浴びて眩む。
しかし。
一瞬の躊躇いこそあれ…そこまでだ。
涙を流したまま、それも眼は閉じたまま。
ランサー…否。
李書文は走り出した。
獲物が逃げた先、林の木々や残ったワイヤーも障害物にすらならない。
走るスペースがある以上、何処に何があろうが問題無い。
圏境──、中国における武術、或いは仙道の極みの一。
万物自然の気と己自身を合一化する事により周囲に完全に溶けて消える魔技。
…万物の気に合一すると言う事は即ち、周りが見えずとも何ら問題が無い。
仮に音や触感…五感悉くが奪われたとしても。
彼の神槍を止める事能わず。
「くく、カカカッ、やってくれた、やりおる、楽しいなあ…なあ!」
声が響く。
故に段々と後ろから迫っているのは解る。
だが、気配が無い、消えた。
「クソ、なんなんだ…魔力すら感じない…声だけが聞こえるなどと、これはどんな宝具だ…かの神槍にこんな逸話など──」
衛宮切嗣は焦っていた。
魔術師殺しと呼ばれ、何度も死線をくぐり抜けた自負がある。
それが。
気配を消したわけでも無い、喋りすらしている相手の位置が特定出来ない。
「怖いか、恐ろしいか、小僧!」
享年は70にもなろうという年齢だったと聞く。
ならば自分は確かに小僧だろう。
「ああ、怖いね気味が悪いっ、何なんだ李書文っ、貴方は一体何をしている…貴方ほどの武人が姿も見せず凶手(暗殺者)の真似事か!?」
「死地に於いて──闘争の場に於いてよもやその様な下らぬ誇りを問われようとは…我が楽しみを
何かに気づいたかの様に会話が止まる。
…一瞬の静寂。
「ならば…とっくりと──敗北の味を知るが良い、人間っっ!!」
響いたのは轟雷そのもの。
響き渡る荒々しい声に導かれる様に雷の雨が降り注ぐ。
辺りは光と音の洪水に満たされ、一瞬何もわからないくらいに視界と可聴域が破壊されんばかり。
「こ、これは…っ!?」
驚くランサーの圏境が破れ、姿が見えた。
気による合一化は辺りを押し流すほどの広範囲の雷撃に蹂躙されてはとても保てるものではなかった。
「ほう!よく避けた、人間!」
「滅茶苦茶な奴じゃな、おい!?」
流石の“神槍”も慌てていた。
然もありなん…僕だって最初は度肝を抜かれたからな。
全く厄介だ、ああ、厄介だ。
余りにも規格外で、あまりにトンデモナイ。
だが。
それだけに──味方となればこれほど頼もしいものも他に居ない。
「…助けを求める、それはそう言う事だと認識して宜しいのですね?ミスタ、衛宮。」
「ああ、是非も無し…僕としても火力不足に悩んでいた何処に渡りに船さ、先ほどはワザと渋りもしたが…バレていたかい?」
「まあ、連絡先を聞いて少し考えたいなんて言いながら通話状態で黙って会話だけ流されればわかりますよ。」
「…違いない、すまないが宜しく頼むよ…あー…」
「…私の事は…そうですね、エレインとでもお呼びください。」
「了解した、Ms.エレイン。」
会話が進む間もアーチャーは彼らとランサーの間に仁王立ちして牽制している。
やがてしびれを切らしたランサーが吠えた。
「貴様ら、ワシを無視するでないわ!」
槍を構え、アーチャーに矛先を向ける。
「は、この私に…宝具でもない鋼を向けるか?死にたい様だなランサー、死にたくなければ宝具を出せ…その槍、捨て置いて、な?」
アーチャーの両腕に紫電が奔る。
それはバチバチと火花を散らしながらアーチャーの前方で弾け続けた。
「…確かに、落雷が槍に落ちては敵わんな。」
と。
あまりにあっさりと槍を手放し、再び徒手空拳になるランサー。
「生憎神秘だなんだとが薄い時代に生まれたものでな…他より幾分か丈夫で重い造りのこの槍以外、持ちあわせてはおらんよ。」
故に。
槍を手放して相手をしよう、と。
このアーチャー相手に言い放ったのだ、このランサーは。
「鬼に逢うては鬼と、仏に逢うては仏と──、心ゆくまで殴りあおうではないか!」
カッ、と笑いながら声をうわずらせ、雄叫びを上げるランサー。
「武人の矜持という奴か、先ほど否定していたわりには熱いことではないか。」
「勘違いするな…わしはな、強きものと存分に死合いをしたいだけよ…生前、ついぞ味わえなんだ生死を賭けた真の武を…競う相手に飢えていただけの事…そこに矜持など無いわ。」
「は…嫌いでは無いぞ。貴様の様に勇猛な猛者は貴重故な。もしも望むなら我が血を飲んで、神の末席に座る気は無いか、神性は無かろうとヌシならオリュンポスに置いても良かろうよ。」
「アーチャー…馬鹿…!」
自らの情報をうっかり口にするアーチャーにマスター、エレインが嗜める。
「オリュンポス…確か…ギリシャ神話の?そしてその雷の力…真逆御身は…神の列席に名を連ねた者か…!」
列席どころか頂点に居るのだが、そこはエレインも口にはしない。
「…勇者よ、返事は如何に?」
「は、光栄な事じゃがなあ…お断りだ。」
ニヤ、と笑いながら拳を構えるランサー。
「残念だ。ならば…敵として、その身の一切を滅ぼしてやろう!」
それを合図に。
戦いの火蓋は切られた。
一瞬にしてランサーが間合いを詰めようと神速の移動を見せる。
しかし、アーチャーもまた雷速の移動により同じだけ下がる。
そのまま両手から放たれた稲光りが地面を叩き、土が爆ぜた。
土煙がもうもうと立ち込め、視界が塞がれる。
だが、ランサーは圏境による気の合一により視界は要らず、アーチャーの神の眼もまた煙一つで視界を奪われる様なものではなかった。
互いに煙は意味は無く、ランサーが放ったのだろうか、気を纏わせた石が弾丸の如き速度を持ってアーチャーへ殺到する、それは恐ろしい威力の指弾だった。
指の力だけで弾かれた石塊は気を纏い、鋼鉄すら貫く魔弾と化し、それを電磁波を用いた反作用で反らしいなすアーチャー。
その直後には雷の雨がランサーを撃たんと降り注ぐ。
一進一退の攻防は、一見決め手を打てないアーチャーが不利にも見えた。
何せアーチャーの雷撃は強力だが今の所当たる気配が皆無。
対してランサーは徐々にだがその間合いを詰めつつある。
このままいけば遠からずランサーが懐に入り込み、強烈な一撃を見舞えば終わり。
──素人目にはそう見えた。
だが、実の所事はそう単純では無い。
ランサーは確かに一撃必殺と言える拳すら持つ、だが近づけない。
距離を詰めてはいるが先ほどの様な異常な速度を発揮されればまた離されるだけだ。
そしてアーチャーもまた、決め手を打つにはここはあまりに街中すぎた。
もし、先ほど以上の威力でランサーを仕留め得るだけの雷光を放つなら、街を巻き込むことになるのだ。
「ふん、流石は神の列席に名を連ねる者よな…なんじゃ先の異常な速度は、なんの手品か。」
「は?簡単な事よ。雷撃を調整して電磁磁石的な応用で浮かんで走っただけだ。」
アーチャーの説明はイマイチ分かり辛いが。
つまりは彼は人型のリニアモーターカーになった様なものであった。
足元に作り出した力場と、地面から微弱に発せられている磁力を増幅し、反撥させる事でまさに雷速を可能にしていた。
…仮に、人間がこの移動を行なった場合は身体が真っ二つに折れ曲がるだろう、急加速の負荷に耐えられずに。
「ふぅむ、やはり
「カ、カカッ!その速さでなお足らぬと来たか、楽しい、楽しいぞ…アーチャーッ…とと、難儀な事じゃな…身体が若いからか…強者を前にすると妙に落ち着かんわ!!」
満面の笑みでそんな事を宣い雷の雨を避けながら飛び回るランサー。
それを嬉々として追い撃つアーチャー。
「…ねぇMs.…エレイン。」
「何でしょう
「僕等完全に蚊帳の外じゃないか?」
「…普段役立たずな上にセクハラゴッドですから…戦闘でくらい死ぬほど役にたってもらいませんと。」
「…君、辛辣だね…」
「…。」
互いに会話が得意で無いマスター二人は直ぐに会話が尽きた。
沈黙したまま戦いの趨勢を見続けるだけ。
しばらくそうして落雷と石飛礫の飛び交う様を眺めていた二人の表情が凍りつく。
「──この、殺気…!」
「なんだ、どこかで…このぬたつく様な陰湿な気配…」
二人に向けられた明確な敵意。
それはワザワザその存在をアピールするが如くに発されていた。
「──久しいな、衛宮…切嗣?」
いつの間にか、公園の端には人型の影、そこに在るは黒。
漆黒のカソックに身を包んだ神の使徒。
「貴様…言峰──綺礼!?」
切嗣は目を剥いて眼前の「敵」を見た。
既に死んだ筈の男。
確かにこの手で殺した男がそこに居た。
「馬鹿な、馬鹿なっ、貴様は確かに…起源弾で撃ち、その上僕がこの手で心臓を撃ち抜いた!何故生きている…っ!?」
そして。
死した筈の男の頭上にある黄金。
街灯の上に手を組んで立つは全き黄金の王。
「貴方…貴方は…英雄王…ギルガメッシュ…!?」
その姿を見、エレインは瞠目する。
「ふん、我が名を知るか…この時代にあっても我の偉業は揺るがぬと見える…良い、特にそこな雑種の不敬は許そう、本来ならば我の名を軽々しく口にした時点で極刑ものだが…そこは時代故と寛容にもなろうではないか、貴様の美しさにも免じて、な。」
ナチュラルに上から見下しつつ口説きにかかるこの傲岸不遜が服を着た様な男。
エレインはいかな理由かこの黄金の英霊の真名を知りえた様だ、しかし──
「英雄王、だと…何故、貴様までが現界している、第4次から10年だぞ!?」
「ふん、我を誰と思っている?その程度の事造作もないわ…貴様こそしぶとい事よな?人の身であの中身に侵されながら良く今も戦えるものだ、そこは褒めてやらんでもない。」
お前の様な男に褒められても嬉しくもなんともない、切嗣はそう考えながらも別の領域でも思考する。
考えていた限りにおいて最悪を通り越した想定外。今ここでこの二人が現れるなど…!
「不思議かね?衛宮切嗣。」
「ああ、地獄から戻ってきたか…言峰綺礼。」
「酷い言われようだな…私はこれでも聖職者だぞ、逝くならば天に召されるのではないかな、私ほど敬虔な信徒もそうは居まい。」
不敵な笑み。
人を見下す様な嘲りの眼。
「間違いなく…貴様は言峰綺礼、なんだな…」
「私の様な人間が二人とこの世にいるものか、そして貴様には…今一度問わねばならぬ。」
「く、クク…やはり貴様らは面白い…いや、愉快であるぞ!」
「──マスター…何故出てきたかは知らぬがまた邪魔をしに来たのか。」
アーチャーと睨みあう形で乱入者に注視するランサー。
アーチャーもまた、二人を見て動きを止めていた。
「無粋よなあ…興が乗ってきたと言うに…なんなんだ、貴様らは。」
「は、貴様の様な愚物に言われようとはな…貴様は神に連なる者だな?その神気…虫唾が走るわ。」
忌々しげにアーチャー…ゼウスを睨みつける英雄王。
「ランサー、言ったはずだな?アーチャーには手を出すな、と。」
ギヌロ、と睨みを効かせる綺礼。
ランサーに対し、さり気なく左手の令呪をチラつかせる。
「ワシが容易く敗れると言いたいのか?」
「容易くとは思わん…だが、負ける。」
「舐められたものよな…神であろうが、鬼であろうが殴殺して魅せようではないか。」
ランサーは己がマスターを睨み返し、視線ですら人が殺せるのでは無いかと言う程に怒りを向ける。
「ランサーよ…貴様は勝てぬよ、そやつが真実神であるのなら──人の身から逸脱する術を持たぬ貴様は負ける、間違いなくな。」
黄金が語る。
人の身に過ぎぬ槍兵が哀れと言わんばかりに。
「ならば見よ…止めろと言うなら令呪を2画は使え…でなくばワシは止まらんぞ?」
「いいだろう、止めはせん…大言を吐くのならばやってみるがいい、…令呪二画を捧げる、ランサー…貴様の敵を、必ず殺せ。」
翳した令呪がキイン!と音を鳴らして魔力の塊が、李書文の身体へ吸い込まれてゆく。
「なんじゃ、話せるではないかマスター…八極拳を学んでおるだけあるな。」
笑いを一つ、鬼気すら立ち昇る背を向けて。
ゼウスへと再び向き直る李書文。
「アーチャー…いやさ…異国の神よ。」
「何だ、勇者よ。」
「我が一撃──躱してみせよ。」
腰だめに脚を沈め、震脚を静かに踏み込む。
構えは無窮。
武練の果てに至る一つの極致がここに在る。
それは彼の唯一の矜持。
武を磨く、武を放つ。
悉くを砕くが為の──ニノウチイラズ。
「神に槍する我が拳──徒手であろうと全てを砕く──」
これ以上の言葉は要らず。
これ以上の時間も要らず。
ただ、必倒の
「
今までを凌駕する速度で。
それまでを圧倒する気勢で。
拳/死が迫る。
躱せない。
これを躱すだけの技量はアーチャーには無い。
しかして、受ければ死。
ならば。
「見事なり──なればこそ…とく見よ…神の権能、我が系譜──顕れ出でよ。」
「アーチャー…まさか…止めなさい、それは貴方の…!」
マスターが止めろと叫ぶが遅い。第一…出さねば死に等しい痛みが待っている、それは御免被る。
「
煌びやかな装飾に彩られた真円型の盾。
それは…表面に神獣、アマルティアの鞣し革が貼られ、神の金属…アダマンが組み込まれた絶対不可侵の神の盾。
ゼウスが娘、女神アテーナーに貸し与えたとされる対神宝具。
李書文の无二打が絶死の拳ならば、これは全てを断絶し邪悪を打ち払う神の権能。
盾に阻まれた拳が火花を散らす。
魔力を喰い散らかし、権能すら殺しにかかるその脅威の拳が勢いを増す。
「カ、カ、カカカッ世界は広いッ!」
やがて。
その拳が血を噴き出した。
手首から先が砕けて微塵に散る。
「いいや、貴様はやはり人を超えておるよ…ワシが相手でなくば…言葉通り神々すら殺し得る拳であったわ。」
ギシ…メキメキッ、ビギンッ!!
高い音を立て、盾が二つに割れた。
神の一撃すら受け流す不可侵の盾が、だ。
「我が宝具…
「アーチャー、まだ儂は…生きておるぞ!」
と、足元にあった槍を片足で跳ね上げ、片手で掴むと同時に恐ろしい程の速度でアーチャーの眉間へと穿つ。
だが。
穂先がアーチャーへ届くことはなかった。
先ほど石飛礫てを逸らしたのと同じ電磁干渉。
槍が通常の金属に過ぎぬ以上その干渉を避けることは叶わなかった。
「ぬかっ、た…わ…ほんに…世界は広い…クク、業腹じゃがマスター、ギルガメッシュ…貴様らの言葉通りになってしもうたなあ…だが…満足じゃわい、神に一太刀…浴びせた故に、な。」
「何…?」
ギルガメッシュが怪訝な顔で問い返す。
直後、ゼウスの頬が深く裂けた。
血飛沫が舞い、赤いものが流れる。
「は…衝撃波で我が肌を裂いたか…本当に惜しい男よな…」
哀しげに呟いたゼウスの腕は、ランサー、李書文の胸を貫いていた。
紫電を纏う貫手が、霊核を破壊したのだ。
「盾が無ければ儂が死んでいただろう、誇れランサー、貴様は確かに全てを殺す。」
「は、敵に慰めの言葉を投げかけられようとはな…だが…それがギリシャの大神とあらば…誉れとすべきかのぉ…あぁ、だがやはり…悔、し……」
ランサーの身体が金の粒子となって崩れていく。
サーヴァントの死とはこう言う事だ。
霊基を保てず座へと還る。
(ち、消える間際に思い出すか…なんじゃ、■■■…おぬしがマスターなぞしておったのか…随分と冷たい顔をするようになりおっ、て…声をかけてやりたいが…は、もう声帯も維持できんな…すまんなあ、どうやら儂はお主らを害してしもうたようだ…)
書文の無事な片手が、ゼウスの後ろへと伸び、何かを掴もうかと言う様に差し出され。
最後にはふ、と微笑を浮かべ…そしてついに消え崩れた。
「ランサー…安らかに…さて、次はどなたが相手でしょうか…今、何故だか自分でもわかりませんが物凄くイライラするんです。」
「マスター…奴らの相手はワシがするんじゃから…下がっとれ。」
「…あの神父の相手は僕がしよう、エレインはサポートをしてくれると助かる。」
何故だか、この女性は信頼できる。
どこか…雰囲気が舞弥に似ているからか。
「…しかたありませんね、さあ…それでは行きますよ、アーチャー、切嗣!」
いきなり呼び捨てか、と少々面食らいながら切嗣もまた答える。
「…お手柔らかに、レディ。」
それを見た英雄王が無言で宝物庫を展開。
言峰もまた手に黒鍵──代行者が用いる簡易概念礼装を構えた。
「さあ…今度こそ…本当の答えを聞かせてもらうぞ…衛宮切嗣…!」
──夜の公園に、銃声が、響いた。
はい皆様こんにちは、或いは こんばんは、おはようございます!
皆様の背後に忍び寄る、
大変長らくお待たせいたしました。
更新です、pixivで書く書く詐欺しているギャグは難産してます、すいません。
と言うわけで…ゼウスがさらなるチート宝具を解禁。
だいぶ以前にこじつけくらいしようと指摘されていたゴルディアスホイール出した案件とかの答えです。
◯
ランク:EX
種別:召喚/収納宝具
レンジ:0〜???
最大補足:???
ゼウスに連なる神々を象徴する宝具以上の力を持つ「神器」を一時的に召喚する。世界中に語られるゼウスの神々の王としての権力を象徴化した宝具。
また、ゼウスに捧げられた供物、宝物もまた取り出す事が可能。
召喚した神器が破壊、ないし消失した場合はそれぞれの能力に応じて復活に時間を要する。
令呪を用いる事でさらなる力も開放可能だが、詳細は不明。
【内包神器】
◯
さいやくうちはらうかむいのやぎだてと読む。
ゼウスが幼少時に乳を飲んだ神獣、アマルティアと言う山羊の革を舐めして貼り付けたラウンドシールド。金属部は後に悪乗りしたヘパイストスが補修と言う名目でアダマン鉱を練り込んだ。伝承上その様な事実はないが、この物語の中のヘパイストスはいわゆる魔改造大好きな発明家気質で、邪悪を攘い、拒絶すると言う概念をも何らかの理由で素通りされた場合ただの盾では砕けてしまう、と魔改造を施した。
しかし今回は逆にそれが仇となり、拒絶の概念が練り込んだアダマン鉱により弱くなっていた、通常その程度ならばあらゆる力を弾くだけの強力な概念武装(エクスカリバーの一撃ですら角度をつければ無傷で逸らしいなすだけの防御力を誇る)であるが、李書文が放つ一撃は正に必ず殺す技。
故にそれを遮る無粋は許さじと概念の理すら殺して見せたのである。
が、そこが李書文の限界。神盾と真っ向から打ち合った拳は砕けて散った、必ず防ぐ盾を砕き、必ず殺す筈の己が拳を失う…まさに「矛盾」である。
この他にも
と、言うチートでした。
本当にこいつなんで制御できてるんだ(白目
それでは皆様、また次回更新にてお会いしましょう!
しーゆー!!
復刻サンタイベント、リボン集め辛かった。
ライダー/ギルスでした。
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第32話 『激怒』
ゆっくりですが、シリーズ執筆再開していきます、またおつきあいのほど、よろしくお願いします!
半ばが焼け焦げた木々の間を走り抜け、夜の公園の中で3つの影が交差する。
「最初から互いの場所が知れているなんて…どうにも不利だ、ね!」
と、愚痴をこぼしながら腰のホルスターから抜いた短銃を連射する。
「ハハハハハハッ、無駄だ、衛宮切嗣!」
嬉しくてたまらないといった表情で黒鍵──、代行者が使う簡易式典礼装を扇状に展開して弾丸を弾き、躱しながら迫るカソックの男…言峰綺礼。
「私を、忘れていただいては困ります!」
横合いから飛び出したエレインが尋常でない速度で体当たりを仕掛ける。
「──身体強化か、驚異的な速度だが…緩いな、女!」
あっさりと体当たりの勢いを肩から僅かに触れるようにして受け流した綺礼は、そのままエレインの背後にまわり…深く踏み込み、足裏から腰、肩にかけて練りこんだ螺旋運動のみでエレインの華奢な身体を弾き飛ばした。
「きゃあっ!?」
意外に可愛らしい声を上げて吹き飛ぶエレイン。
木の幹にぶつかり、ウッと呻いて崩れ落ちた。
「
ニヤ、と口角を吊り上げてエレインを一瞥した後直ぐに切嗣に視線を戻す綺礼。
「緩くなったのは…君じゃあないのか、言峰綺礼!」
足で踏んで仕掛けていた罠を起動。
綺礼の足元から真上に吹き上がるのは対人地雷、凶悪な威力を誇る鋼弾が、人の身体など易々と──
「は、見越していないと思ったか?」
綺礼の身体は驚くことに、その衝撃をものともしなかった。
否、正確には鋼弾が…爆風に捲き上る土煙までが全て滑るようにして身体に触れずに通過していく。
ありえない。
「な、なんだと?」
驚く切嗣を見て益々口角を吊り上げ、答えを出す綺礼。
「クク、貴様がこうした道具に頼る事は分かっていたのでな…ギルガメッシュから借りた矢避けの護りを付与した魔術礼装だ。」
チャラ、とカソックの中からネックレスを取り出してみせる。
「チ…やっかいな!」
不味い状況である。
近接戦闘に秀でた相手に対して飛び道具が実質封じられた。
地雷が吹上げた爆圧や鋼弾まで「飛び道具」と認識するのか。
…わざわざ銃を防いで見せた後から明かしたあたり、何度でも完全に防ぐと言う訳ではなさそうだが…あと幾度叩きこめば通じるかが解らない以上望みは薄い。
あちらからすれば致命的なもの、躱しきれないものを礼装で無効化するだけの話だろう。
仕方なくスーツの内側、銃とは逆に吊るしてあったサバイバルナイフを抜き、ホルスターと役立たずになった銃を投げ捨てた。
これで手持ちの武装はナイフと…懐のコンテンダーカスタムのみ。
「ぐ、噂にたがわぬ実力…流石は元、代行者…人外を相手に立ち回る化け物揃いとは聞いていましたが…私も拳法、習っておけば良かったなんて今更思いましたよ…つぅ…!」
顔をしかめ、ふらつきながら立ち上がるエレイン。
「…頑丈だな、背骨が折れていてもおかしくない当たり方をした筈だが…。」
僅かに眉を上げ、エレインの頑健さに驚く綺礼。
「生憎、頑丈さだけが取り柄なんです、私。」
「下がれ、君では足手まといにしかならない…むしろアーチャーの補助に回る方がいい。」
「何を…貴方も攻め手がないんじゃないですか、
強がるように軽口を叩くエレイン。
「…だが、君がいても変わる訳では、」
「あまり見せたくはありませんでしたが致し方ありません…!」
と、先ほどと同じく無策に体当たりを仕掛けるエレイン、あれでは先の繰り返しだ。
いや、僅かに違うとすれば左手が何故か曲げられ、何かを構えるような動作で突き進んでいるが…肘打ちでも加える気だろうか?
「やめろ、無駄だ!」
叫ぶが、遅い。
「…愚かな!」
綺礼も先と同じようにエレインの肩口に合わせて受け流そうとして──
吹き飛んだのは言峰綺礼の方だった。
「ぬぐわっ!?」
バチ、と弾かれたようにエレインの身体に触れる前に、綺礼の身体がまるで車に跳ねられたかのように錐揉みしながら空中に投げ出される。
「…な、んだと!?」
しかし、体操のオリンピック選手もかくやという身のこなしで僅かに体制を崩しながらも着地する。
「…何をした、女!」
「さあ?手の内を明かすのは三流のやる事ですから?」
先ほどの綺礼の行動を揶揄するように言い返すエレイン。
戦局は膠着し始めていた。
互いが互いの手の内を見破れない、或いは対処に困る現状。
エレインのなんらかの手もまた、綺礼に致命傷を与えるには足らない。
数度、繰り返されたその攻防に区切りがついたのは綺礼と、エレイン双方が唐突に呻き、飛び退いたからだった。
「く、アーチャーっ、宝具を連続展開しましたね…ま、魔力を使いすぎ、で…う!」
「ち、ギルガメッシュめ…まさかアレを抜いた、な?」
互いが魔力をサーヴァントに吸い上げられたのだろう。
本来なら絶好のチャンス…しかしあの矢避けのネックレスがある以上切嗣には手段が無い、バーサーカーもまだランサー戦のダメージから回復していない。
「この場は…預けたぞ、衛宮、切嗣!」
口惜しそうに吐き捨て、言峰綺礼は去っていく。
「悔しいのは此方だよ…全く忌々しい…大丈夫かい、エレイン?」
膝をついたエレインを抱き起こし、支える。
「だ、大丈夫…魔力を…かなり持っていかれてしまいましたが…。」
蒼白な顔。
あまり大丈夫には見えなかった。
********
「疾く、滅びよっ!」
黄金の波紋から無数の宝具が飛び出しアーチャーを襲う。
剣、槍、斧、刀、様々な武具は全てに神性を打破するための力を備えた宝具だ。
「…こりゃあ、喰らえば痛いではすまんな、あ!」
アーチャー…、ゼウスも負けじと雷光を激しく迸らせて宝具の群れを撃ち墜とす。
「我(オレ)は貴様ら神々がどうしようもなく煩わしい、虫唾が走るわ!」
「初対面からなんだかんだと言われても困るな…貴様はあれか、現代で言うところのボッチか、ボッチと言う奴だな、うわはははは!」
「我を…出来損ないの凡百と同列に扱うでないわ、この愚神めがっ!!」
激情に駆られたギルガメッシュの背後と言わず、あらゆる方向から宝具群が顔を覗かせると一斉に発射された。
それはさながら黄金の竜巻の如く波紋は次々展開されてはゼウスへと宝具射出を繰り返す。
「は、こいつぁかなわんな!」
僅かに慌てるそぶりをみせたゼウスだが、声にはまだまだ余裕がある。
「現世より疾く去ねっ!」
恐ろしい轟音と閃光が辺りを染め上げ、嵐の様な攻めが終わる、と同時に。
「油断大敵、と言う言葉を知っとるかっウルクの英雄王!!」
頭上より声とともに降り注ぐ極太の雷光。
ゼウスの姿は先ほどまでの重厚な黒い鎧ではなく、眩い輝きを纏う純白の軽鎧に換装されていた。
宝具、
雷光が如き動きを可能にする雷光そのものを凝縮した光の鎧。
ランサーに見せた雷速の移動を常に、それも空中ですら飛行可能にしたその速度は黄金の竜巻を逃れて余りあるものだった。更にはその効果は速さのみではなく、雷を増幅する効果も備えている。
「な、めるなっああああっ!!!」
ギルガメッシュの背後から飛び出した自動迎撃宝具である銀の円盤群が雷光を遮り、威力を減衰させる。
が、打ち消すことは叶わず押し負け、煙を吹いて爆散した。
が、威力を落としたソレを新たに取り出した雷光を吸収する効果をもつ剣で払い、ようやく相殺する。
「これを受けきるか…英雄王の名は伊達ではないな、んんっ!?」
「貴様に褒められようと…苛立ちしか湧かんわ戯けっ!!」
ともに破格の霊格を備えたアーチャー同士。
恐ろしいまでの遠距離戦が繰り返される。
ただ、多彩な宝具を操るギルガメッシュに対してゼウスはその手数はともかく、種類は少ない。雷と、電磁誘導によるレールガン化した物質射出のみだ。
だが。
ギルガメッシュに乖離剣「エア」がある様に。
ゼウスにもまたまだ見せていない残り10の神具がある。
オリュンポス12神の力の象徴たる神の扱う宝具が、そして自身の切り札たる神の雷も。
「ふははははは、当たらねば意味がないぞっ英雄王っ!!」
神性を打破する宝具をいくら撃ち込もうと、確かにゼウスのあの速度では当たるもなにもない。
「ならば…縛り上げてやろう、天の鎖よ!」
ギルガメッシュが手を振り上げ、振り降ろすと360度あらゆる方向から鎖が飛び出した。
その先端は尖っており突き刺されば無事ではすまないだろう。
「は、どうしたところで囲みを抜ければ同じこ…ぬ!?」
先ほどと同じく鎖の囲みを抜けようと速度を上げると、鎖もまた恐ろしい勢いで加速し、ゼウスの脚を捕らえた。
「馬鹿な、なんじゃこれは!?」
「天の鎖…我が友エルキドゥが遺した対神宝具…原初の神すら拘束せしめた神縛る鎖よ、そぉら、締め上げてやろうぞ!」
左脚がギリギリと鎖に締め付けられ、肉を裂き、血が滲む。
「は、神の血も赤色であったか!」
愉快そうにギルガメッシュが笑い、更に手を振り下ろす。
鎖がゼウスの四肢を拘束し、宙空に磔にした。
「ふははははっ、その鎖は貴様の神性が強ければ強いほど強度を増し、なおかつ締め上げるっそのまま手脚を引きちぎるか、或いは串刺しか…選べ…愚神!!」
「やれやれ…この様な切り札を持っておったか…仕方あるまいっ大盤振る舞いじゃ…神の権能、我が系譜──顕れ出でよ。」
ゼウスを中心に膨れ上がる神気。
鎖はそれを感じ益々締め上げるが、ゼウスは僅かに顔を歪めたのみで宝具を発動する。
「
手を封じられているからか、ゼウスの眼前に顕現した黒い刃をもつ諸刃の片手剣。
それは一種恐ろしい黒々とした刃に光を反射させ…生じた赤黒い火閃が天の鎖を一瞬にして焼き切った。
「なぁ、にぃっ!?」
驚愕しながらも再度鎖を展開しようとするギルガメッシュ、だが。
「天の鎖よっ!!」
鎖は、姿を見せない。
「な…、天の鎖よっ!?」
悲鳴に近い声で、ギルガメッシュが珍しく取り乱す。
「…貴様とその厄介な鎖のえにしを一時的に断ち切った…いかに叫べどもその鎖は応えぬよ…では…反撃といこうかの!!」
軍神の剣が消え、ゼウスがそう言った直後。
ギルガメッシュが爆ぜる様に飛び出し、手にした剣で切りかかった。
「ぬわっ!?」
鬼気迫る勢いと、その異常な速度。
先ほどまでのギルガメッシュとどこか違う。
「貴様、貴様っ、よくも…エルキドゥとの絆を、断ち切っただと…許さん、許さんぞこの、この…クソ戯けがああああっ!!!」
語彙が貧弱になるほど、ギルガメッシュは怒りに狂いながら剣を振るう。
「ぬわっ、と、ほ、おおっ!?」
ギルガメッシュの周りにいくつもの文様の様な輝きが見える。
おそらくあれらがギルガメッシュの身体能力を限界以上に引き上げているのだろう。
「い、イランプシィの雷速に追いすがるなど、出鱈目だな貴様っ!!??」
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、消え失せろこの愚物がぁーーー!!!」
剣で切り掛かりながら宝具を射出し、更には自動迎撃宝具を攻撃に転用し、自らを掠める様な射出の仕方のなりふり構わない血眼の攻め。
それでも躱し続けるゼウスに業を煮やし、再び大量の宝具を連続展開する。
「ちょこまかとぉ…逃げ回るしかできんのか、貴様はっ!」
そして、先ほど以上の速度で撃ち出された黄金の竜巻、その流れに放たれた雷を放ち、吸収もする自動迎撃宝具。
それを盾にして引き抜いたのは──
黒い螺旋を描く幾何学的な尖塔に赤いラインが走る奇形、英雄王が誇る最強最大の対界宝具、世界を撃ち壊す創世の剣。
「ちいいっ、ソレは、まさか…!」
「知っていたか…ならばこれを拝謁する栄誉に咽びながらあの世に行け!…我が最大の一撃にて幕引きとしてやる…滅ぶがいい…っ、
乖離剣の螺旋塔部分が回転をはじめ、今にも放たんと振り上げた、その刹那。
ドクン、と鼓動が跳ね上がる様に。
ギルガメッシュの脳裏に記憶が駆け抜けた。
「なんだ、この…記憶──は、く…n?」
唐突に動きを止めたギルガメッシュを訝しみながらもゼウスもまた助かったとその隙に離脱する。
「なんじゃ、あ奴?…まあ、マスターに無理をさせすぎたよってな…ちょうど良いわ。」
頭を抱えるギルガメッシュを他所に。
ゼウスは逃げの一手を打つのであった。
【後書き的なもの】
皆さま…大変、大変っ、お待たせ致しました!(平伏)
エミヤ「( ^ω^ )」
朔弥「( ^ω^ )」
エックス「( ^ω^ )」
三人「「「出番は??」」」
ごめんっ、めっちゃごめ…いや!朔弥っ、君は別シリーズでエミヤとイチャコライチャコラしてたやないかっ!?
こっちが停止してたのそちら書いてたからだし!?
朔弥「そこまでして未完結じゃないか。」
うっ、それは…
エックス「筆者の文才と集中力の無さを責めてはいけませんよ?」
グハァッ…!?(クリティカル)
さ、流石アサシ…ぶべらっ!?
エックス「セイバー死すべし慈悲は無いっ!」
ちょ、まっ…俺はセイバーじゃねえだろうっ!
みぎゃああああっ!?(斬
エックス「悪は滅びた…」
朔弥「…筆者を斬ってしまったら誰が続きを書くのかな…?」
エミヤ「……アンデルセンあたりに?」
二人「「やめろ、それはいけない!」」
アンデルセン「失敬な、だが私に書かせたらあまりハッピーエンドにはならんかもしれんな!ふわははははっwww」
…てめえら、覚えてろよ特にエックス!!
四人「「「「あ、生きてた」」」」
=
と、いうわけで久々にシリーズ再開しました。
いろいろ書いてるので前みたいな速度は出ませんが、暖かく見守っていただけたら幸いです。
以下、宝具データ。
【内包神具】
○ 「
もえ、やきたつぐんしんのけん。
オリュンポス12神が一柱、軍神マルスが腰に佩刀していたやはりヘパイストス製である無銘の片手剣、空間を裂き「縁」すら断ち切る断絶の刃である。
神鉄をバターの様に焼き切る恐ろしい斬れ味。
使い方次第では魔女メディアの宝具、ルールブレイカーに近い使い方も可能とする。
但し射程は刃そのものか、射程半径1メートル程の刃から生じる火閃で触れていなければ概念や縁は断ち切れない。
他にも権能を備えるが、ゼウスは本来の使い手では無いため扱いきれるかは未知数。
剣としても優秀で、本来の持ち主であるマルスがセイバーとして召喚された場合はエクスカリバーガラティーンに似た炎熱纏う斬撃を熱衝撃波を伴う光の帯として照射する。
【筆者蛇足。】
セイバーはビームを放つモノ…型月的な話ならそうなる、え?沖田さん?はあ、セイバー、あ、ハイそうですか…何事も例外はあるんですねー(棒)。
では、皆さままた次回更新で会いましょう!
しーゆー!!
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第33話 『雅、翳りて。』
山門には雅なるサムライ。
復讐者と暗殺者。
無間地獄は続く。
ああ、そこに慈悲は、無いのか。
「……もう、やめてください…。」
やめる?ナニを?
「何度、こんなことを繰り返すんですか?」
……ガ…、……ルマデ。
「我儘を言わないでください、桜。」
ヌウ、と伸び上がった影の両手が、少女の頬を慈しむ様に撫でた。
「──やめて!ライダーの顔で、声で…私を呼ばないで!!」
黒く歪んだタールのような影から這い出た、上半身だけのメドゥーサ。
その身体は衣服もなく、豊満な乳房が溢れでる様にして見えている。
顔は右半分が赤黒いラインに侵され、目は白眼が黒く、黒目が真っ赤に染まっている。
バシ、ッと。
平手がメドゥーサの手を払いのけた。
虚数、ノツカイテ、ヨ…汝ハ、貴重、ダ。
ユエに、コソ、キオ、く、を残した、ニ。
「…いっそ、何も知らないままなら…よかった…先輩が何度も何度も何度も何度も何度も、殺されて行く様を、見せられ続けなければならないのは何故っ、私が、先輩が、何をしたの!?」
────、ナニ、モ。
「なら、放っておいてよ!なんで!なんで!」
其処に在るからだ。
唐突に、理性的な声。
しかし、直ぐにそれは影の海に消えて行く。
アア──、ソコ、ニ、アルノダナ。
アルノカ?ナケレバナラヌ、アルノダ、ハズダ、アレバ、アルノカ、アレ、アルヨウニ…ararararararararararararar──
「もう、嫌…誰か、私を、先輩を、皆を…、この無限螺旋から…解放、してください…死んだっていい、むしろ、せめて、死んで終わらせて…もう、繰り返し絶望するのは…嫌なの…」
儚げな少女の願いは、虚しく響く。
此処は蟲蔵。
既に主人も居ない、蟲の巣窟であった場所。
パッ、と。
脳裏によぎるのは大聖杯を前にしてその身体を影に貫かれる赤毛の少年の姿。
「先輩、先輩、先輩…もう、死なないで、生きて下さい、生きて、生きて…うぁーーああああああああああああっ!!!」
もう、少女を蹂躙する悍ましい蟲も、翁も居ない、だと、言うのに。
少女は──ちっとも、幸せになれはしなかった、自由すら、無かった。
=
赤い月の浮かぶ空。
冬木旧市街の武家屋敷の庭に、三人のマスターとサーヴァントは集っていた。
「さて、士郎に、アーチャー。」
「なんだね、ア…セイバー?」
「なんだい、ア…セイバー。」
「二人してアサシンって言いかけるのやめてもらえますかっ!?泣きますよ、私!?」
抗議するアサシンなアルトリアはもう半泣きである。
「い、いやすまん、何故か口走りかけた…」
「え、俺はアル──って、いや真名言いそうになって真名はまずいかな、と…」
「士郎は許します、アーチャーは後でカリバります、確定です、むしろ確変からの大フィーバーです、二本でぶった斬ります。」
「な、アルトリア!?やめたまえ、本気で死んでしまうではないか!?」
おい弓兵、真名、真名!!
などと、漫才をしているとそこに新たに突っ込みが加わった。
「なにしてんのよ、あんた達…あとセイバー…
も何時迄も拘らないの、話が進まないじゃない。」
凛の呆れ顔に、続くは浅黒い肌の筋肉巨人。
「そうだな、夫婦喧嘩は俺も食わねえぞ?」
──それで良いのか、クランの猛犬…。
「バーサーカー…冗談とか言えるんだ…しかも自虐ブラックジョーク…」
とは、朔弥。
「まあ、兎に角皆準備はよろしいですね?」
「ああ、ばっちりだ」
アルトリアの言葉に答え、投影したサバイバルナイフと、強化を施した数種類の拳銃類をホルスターに収める士郎。
「…投影品でないとはいえ結局銃を使うのか、貴様…。」
もうどうでもいいか、と投げやりながら苦い顔のアーチャー。
「そもそも最初からいつでも臨戦態勢よ、私は?」
と、腰に手を当てながらふふん、と言い放つ凛。
「俺としても早いところ現状を打破したいところだな、敵を抉るなら早い方が、いい。」
「好戦的ですね…まあ、先ほどの新都心側からの発光現象は異常な魔力量でした…間違いなく特大の力がぶつかり合いをした余波…おそらく宝具でしょう。」
「ああ、真昼かってくらいに空が白くなってたからな…騒ぎにならないのは人払いや認識阻害の結界でも張られていたんだろう。」
「今こそ動く時でしょう…大聖杯が収められた円蔵山の洞穴…そこを打破するには絶好のチャンスです…キャスターが巣食っているのはわかっていますが…われわれ全員がかかれば楽に勝てます。」
「…確かにキャスターが想定通りコルキスの魔女であれば負ける道理は無いだろう…門番にアサシンが居たとしても大丈夫だ、しかしな…今回は君が経験した聖杯戦争のどれとも違う…いかなるイレギュラーが存在するかわからんぞ?」
「…その時はその時でしょう、最早躊躇っている場合でもありません。」
「そうだな、確かに急いだ方が良かろう。」
アーチャーが同意し、そのまま全員で柳洞寺へと歩き出す。
「士郎、私が抱えて走る方が早い…行きますよ?」
と、アルトリアが士郎を軽々と持ち上げ、横抱きに抱えた。
お姫様抱っこである。
「ちょ!これは、幾ら何でも恥ずかしい!?」
「「「……っっ!」」」
当人二人以外の全員、笑いを堪えるのに必死であった。
=
「…とうとう来ましたか…さて、全力で迎え討たねばいけませんね…此度もあまり長い蜜月は続きませんでしたわね…。」
山道を登る複数の気配。
山門に守りは無く、このままいけばいかに彼女に有利な場とは言え数に負けるだろう。
破格の霊格を備えた二人に、あの厄介なアーチャー。
3対1では如何に神殿化したこの境内であれ敗北はほぼ確定。
「宗一郎様…今迄お世話なりました、今宵、この時を持って契約を破棄させていただきます。」
そう独りごちコルキスの魔女、メディアは自身の胸に歪な短剣を突き立てんと、逆手に構え。
その手にスウ、と伸びた掌が重ねられた。
「…宗一郎様、何故…」
「キャスター、いや…メディアよ、仮初めにとはいえ夫婦の契りを交わしたのだ、独り逝くなど許さん。」
「…何を、貴方からしたら私はただの、行きずりでしょう?」
「…いいや、おまえは…何もなかった俺に熱を灯した、生きる意味をもたらした。」
「…罪なお方、私はこれでも王女でしたのに。」
「…なら、どうしたというのだ?」
「…この私をこうまで骨抜きにするなど…本当に、罪なお方です事…」
そのまま二人は身体を重ね、抱きしめ合う。
長い口づけを交わし、確かめるようにした後は…山門に目を向けた。
立ち昇るのは影。
幽鬼のように立ち昇る人形は、長い刀を背にした羽織を着たサムライであった。
『最早、自我など殆ど持って行かれたのだがな…残滓に過ぎぬこの身で良ければ…使い潰すがいい。』
と、声は無く念話だけがメディアの頭に響く。
「…アサシン…パスも無く、貴方は最早聖杯の傀儡でしょうに…何故?」
『さてな、まるでこれこそが役目だと言われた気がしてな、気がつけば立っておったよ。』
ふふ、と笑いを零しフードを取り払うキャスター。
「…オヌシ、ヤハリ、顔…出した、ガ良い」
それだけを絞り出すように肉声にして伝えて、アサシンは念話すら通じなくなった。
「…最後にそれ?本当に気障ね…貴方…残念、宗一郎様がいなければ少しぐらついていたかも知れませんが…けれどそうね、せっかくの厚意ですから…遠慮なく使い潰させてもらうわ、アサシン。」
にい、と口元を歪めて笑うアサシン。
「こころえた」とでも言いたげに。
=
「そろそろだ、もしも私とセイバーが覚えている通りなら…山門にはアサシンがいる筈だ。」
アーチャーの言葉に頷き、見えた山門には…
黒い影が佇んでいた。
「あれは──アサシン!?」
「邪魔をするな、シャドウ!!」
アーチャーが弓を構え、矢を放つ。
が、一瞬閃いた刃がそれを斬り落とした。
「…ココ、トオサヌ。」
その間に山門前にたどり着いた面々に伝えるように声を一つ絞り出す、アサシン。
「その様な姿になってなおこの山門を守りますか、アサシン。」
今度は声は無く、ただ構えた刀がその返答だった。
「ならば、私が相手になりましょう。」
アルトリアが、青いジャージ姿に燐光を零すマフラーを首になびかせ、その手に輝く聖剣を構える。
それを見たアサシンが感嘆した様に息を漏らす。
「皆、手出しは無用…さあ、行きますよ!」
金の輝きがアサシンを斬り伏せようと幾度も閃き、それを流麗な動きを持って受け流すアサシン。
力と疾さでねじ伏せにかかるアルトリアの剛の剣、対するアサシンの柳の如き柔の剣。
「凄い…なんなのあれ…刃が見えないんだけど…」
「楽しそうな相手を独り占めか…俺の分はあるんだろうなあ…あ?」
「出番まで待っててよ、バーサーカーが暴れたら私が疲れるんだから…」
凛の声に被せるようなバーサーカーの声、それを嗜める朔弥。
「力や速さは完全に上なのに…全て軸をずらして刃を逸らしてる、しかも──あれ、宝具じゃない…ただ長いだけの刀だぞ!?」
「ほう、あの動きの中それが解るか…小僧、やはり貴様は…」
「は?何だってアーチャー?」
「いや、気にするな…それより今ならば走り抜けられよう、行くぞ!」
「トオ、サ、んと、いッ…た!」
掠れた声でアサシンが叫ぶと、そこに複数の影が立ち昇る。
「ち、デミオルタを呼びやがった。」
バーサーカーが呟き面倒そうに槍を構える。
「何、嬉しいんじゃないの?」
さっきから闘いたがっていたバーサーカーはあまり嬉し気ではない顔で朔弥に返す。
「自我もない奴を相手にしても面白かねぇ。」
「まあ、なんにしても…先生!出番です!」
いきなり腰に手を当て、胸を張りながら何かのたまう朔弥。
「誰が先生だ用心棒か、俺は!」
「にゃはははっ」
「戯け、来るぞ!」
二人のコントを待つほど影達は優しく無かった。
アーチャーの指摘通り一斉に獲物を構えて走り寄り、斬りかかってくる。
双剣を投影したアーチャーが最初に、矛を構えた大柄な影と切り結ぶ。
「ぐ、この膂力…体格、武器…呂布か!」
「呂布って、三国志の英傑じゃない!なんでそんなのが影化してるわけ!?」
凛が悲鳴みたいに叫ぶ。
それはそうだろう。
何せ冬木の聖杯で東方の英霊は呼べないはずなのだから。
「私が知るか!だがこの奉天牙戟はどう見ても、呂布のそれだ!」
矛を弾き、いなしながらアーチャーが怒ったように返し、次に走り寄る影を一度に二人。
バーサーカーが足止めた。
片側は槍を、片側には長い尾を叩きつける。
「ーー◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」
影達の声なき叫びが響く。
バーサーカーが相手にする影の後ろから、フードを被り片手に括り付けた簡易クロスボウを放つアーチャーらしき影。
影はすぐに薄い皮膜に包まれて姿を消した。
(ち、あの馬鹿緑まで取り込まれてやがるか!)
「ちょ、何今の…アサシン!?」
凛は勘違いしているようだがアサシンだと言われても違和感は無いものの…あれはアサシンでは無くアーチャー、ロビンフットだろう。
カルデアでの記憶を少なく無い量保有するバーサーカーにはそれが理解できた。
もしも、カルデアの英霊の大半が相手に奪われているとすればかなりまずい。
「ぬうっ…ああ!!」
呂布の矛を弾き、がら空きの胴を斬りつける。
痙攣するように跳ねた後に呂布の影は崩れて消えた。
「…ぐ!」
だが、アーチャーもまた少なく無い傷を負ったのか肩口を押さえてよろめいた。
「アーチャー、大丈夫!?」
凛が慌てて治癒の魔術を使い治療にかかる。
「流石に三国志に名高い豪傑…理性をなくしながらこれ程とはな…無傷の勝利とはいかなかったか。」
「…よく言うわよ、呂布奉先って言ったら無敵の代名詞みたいな英傑じゃない…それを一対一で宝具もなしに倒して、それ?私にしたら貴方こそびっくりよ…本当、どこの英霊よ貴方。」
「さて、そこは何故か記憶が曖昧でな?」
「……そう言うことにしておいてあげる、でもいつか教えなさいよ?」
「…黙秘権は無しかね?」
「当然♡」
「あかいあくま」め、とアーチャーが心中毒づいたのは言うまでもない。
=
「…さて、マスター、アヴェンジャー、どうするよ?」
「…どうもこうもあるか、なんだアレは…本当に同じサーヴァントか。」
「同感だね、俺は魔術師でしか無い、が…あれらが如何に規格外かくらいは解る。」
ビルの一角から双眼鏡でゼウスとギルガメッシュの激闘を見守っていた雁夜、アヴェンジャー、アサシン。
真昼のように明るく光ったかと思えば、公園の木々は薙ぎ倒されてミステリーサークルみたいになっていた。
「…あれ、どう誤魔化すんだ教会の連中。」
「…さあね、地盤沈下だとでも報道するんじゃないか、後は不発弾の誘爆とか。」
「…しかしあの力…アレがギリシャの主神だというのも頷けた、奴の宝具も確認できたのは上々だ。」
「…いや、あれは一端だと考えたほうがいいぜ、アヴェンジャー…あんな剣はゼウスの逸話には無い…借り物くさいんだよな。」
と、灰藤色の眼を細めてアヴェンジャーに注意を促すアサシン。
彼らからは流石に開放した際の真名は聞こえておらず、その色形を目視したのみではその正体も見破れなくても仕方ない話だ。
「ほう、根拠は?」
「…むしろあれがゼウスの主武装だと思う根拠こそないだろ。」
「…一理ある。」
シャポーの鍔を直しながら納得するアヴェンジャーを横目に、雁夜は考える。
「俺達に勝機があるとすれば…アサシンによる陽動と、アヴェンジャーによる一撃必殺を狙うより無いだろうな。」
「…最善手としてはそうだろうな。」
淡々と、それで足りるとも足らないとも言わずそう答えるアヴェンジャー。
「もしくは逆に、あんたらに陽動させて俺が敵マスターをBANG、ってのは?」
「先の敵マスターの不可思議な防御を見ただろう、おまえの攻撃が通るかも怪しかろう。」
「辛辣だね、俺にも切り札の一つくらいあるんだぜ?」
軽口を叩きながら、三人は闇に消える。
聖杯戦争は、未だ混迷の中に。
【後書き的なもの】
はい、皆様おはようございます、こんにちは、こんばんは。
皆様のお茶受け的なもの、名状しがたいライダー/ギルスです。
はあ、ナーサリー、はい、ナーサリー…術ギル、アタランテ…
☆5がこねえっ!?
血の涙が出そうです。(現在210連敗)
なーんて話はどうでもいいですか、そうですね…山の翁…じいじ、欲しい(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
万象の鐘は…金がないから鳴らない…
運も今の所ない…
ウッ(;ω;)
エミヤ「落ち着け、馬鹿者。」
朔弥「はい、再起不能な筆者は置いておいて…現状の生存確認をば。」
カキカキ。
生存サーヴァント/マスター
赤の令呪
セイバー(ヘラクレス) /イリヤ
アーチャー(エミヤ)/遠坂凛
バーサーカー(クーフーリン)/九重朔弥
アサシン(アルトリア)/衛宮士郎
キャスター(メディア)/葛木宗一郎
青の令呪
セイバー(未召喚?)
アーチャー(ゼウス)/エレイン
ランサー(フィン・マックール)/バゼット
バーサーカー(カリギュラ)/衛宮切嗣
アサシン(???)/間桐雁夜
キャスター(未召喚?)
ライダー(フランシス・ドレイク)/間桐慎二
前回生存サーヴァント
アーチャー(英雄王ギルガメッシュ)/言峰綺礼
特殊クラス
ルーラー、アヴェンジャーはマスター無しで限界可能。
ルーラー 聖女????
アヴェンジャー 巌窟王エドモン・ダンテス
脱落者
赤のライダー(メドゥーサ)
赤のランサー(李書文)
朔弥「と、こんなですねえ…以外に脱落者少ないなあ…。」
虎「筆者がキャラ殺すの躊躇うんだよ、後伏線張るだけはっていまだに出てないキャラとかね、もうね、回収できるのかしら…」
エミヤ「そこは筆者が気合いれるしかあるまい…根性出せよ、書けば出るかもしれんぞ?」
か、書く!書くよ!☆5おおおーー!?
イリヤ「物欲センサーバリバリね、ダメだこりゃ。」
ヘラクレス「煩悩があっては運も味方せんからな。」
九狼、筆者「ふぁ(;ω;)」
てなわけ?で、また次回更新までしーユー!!
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第34話『悪夢』
大変遅くなりました。
「…おかしい。」
「なによ、藪から棒に?」
黒化英霊の群れは確かにこちらを押しとどめようと動いている。
アサシン…あの長刀、アーチャーとアルトリアが言っていた「佐々木小次郎」に違いはあるまい。しかし解せないのはソレが黒化しており更に他の黒化英霊を呼び寄せた事だ。
「…キャスターの陣営はまだ黒化したりしてないと思ってたんだけど…」
「それだけ今回の聖杯に異常があるって事でしょう、益々冬木のセカンドオーナーとしては見過ごせないわね。」
「…そうじゃない、そうじゃないよ凛ちゃん。」
何かがおかしい。
うまくは言えないが──
「くっ、この男っ…黒化しながら此れ程に巧みな技を──」
アルトリアが僅かながら押されている。
魔力放出こそ行えるがセイバークラスで現界したわけではないからかその押しが弱い。
「…フ。」
ニヤ、と口元を歪めて刃を構え直す佐々木小次郎。
「…私の技、通じないと思うなら受けて見なさいっ…シロウッ、宝具を使います!」
「ああっ、存分に持っていけ!」
両手で握っていた黄金の聖剣を片手持ちに、片手を空けて後方に飛ぶ。
「…サ、セヌ!」
まるで、アルトリアの宝具が対城宝具と知るかのように距離を詰めて発動させじと迫る佐々木。
だが。
「飛んで火に入る夏の虫──と、言うのでしたかっこの国では!?」
叫び、構えた両手に有るのは。
黒鋼と、黄金。
「──!?」
二刀を構えたアルトリアを見て面食らうアサシン、佐々木小次郎。
「ふ、その一瞬、命とりですよっ…星の息吹…宙(ソラ)の黒渦──相反し、喰らい合う──星を屠れ…宙(ソラ)を断て…エックスゥ!」
飛び込んでしまった小次郎には最早刀を受け流すしか手はなく。
しかし、それは受け流せるような刃でも無かった。
全てを忘れて魅入ってしまう黄金の聖剣と。
全てを飲み込む虚無の様に黒く反転した魔剣。
どちらも銘は「エクスカリバー」。
「カリ、バァァー!!」
交差した刃が、長刀を易々と断ち切った。
そのまま光と闇は同時に小次郎を捉え…
「ガハッ…、み、ごとなり!」
その絞り出す様な声と共に、アサシン佐々木小次郎は光となって消えていく。
「…九重朔弥ぁ!」
凛とした、声を聞いた。
多分これがアサシン本来の声なのだろう。
「…な、何!?」
「…託す、メディアを、救ってやってくれ…囚われた多くは助からぬ、斬れ。」
私に今、したように、と。
「な、なんで今そんな事言って──」
「朔弥、聞いてやってください。」
アルトリアが神妙な面持ちでそう促す。
「…セイバー、君は…」
傷を治療し終えたエミヤもまた似たような面持ちで。
「わかったわよ…」
「死の間際にようやく自由になるとはな、抗うにも限度があったわ…聖杯に気をつけるがいい、あれは最早…人類悪、そのものだ。」
「…人類悪?」
バーサーカーが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
「私の口からは…ここまで、だ…」
これ以上は言えぬのだ、と自嘲気味に笑うアサシン。
「──ではな、
え?
マスター?
どういう意味かと問いただす前に、アサシンの姿は月光に溶ける様に消えていった。
「人類、悪…だと?」
エミヤもまた、苦々しい顔で呟く。
月にかかる翳り。
黒く影を落とすそれは──
=
「クソ、なんなのだこの街は…異常だ、異常しかない!だと、言うのに誰一人としてそれに気づきもしない…こんな馬鹿な話があるか!」
ロードエルメロイII世、本名ウェイバー・ベルベットは口にゲソ…イカの足を加えながら毒づき地面を蹴飛ばした。
イライラしながら考えごとをしていたら眉間に皺を寄せていたらしく、通りすがりのガテン系のおっさんに同情された。
「にいちゃん、カルシウムたりてねえのか?やるよ。」──と。
メザシならともかく、イカの足にカルシウムは無い…多分。少なくとも豊富では無い。
いや、そうじゃない。
そうではなくて…この現状だ。
時空間系パラメータはてんでバラバラ。
道から道へでは無く、街の境目付近で数歩歩いたらいきなり壁に囲まれていた何て事も。
時間感覚自体が曖昧で、油断すると意識が持っていかれそうになる。
ともすればそれに抗わない方が甘美だとばかりに意識に、ナニカが働きかける。
「…何故かはわからないが…私にだけ加護のようなものがあるのか…街にいる人たち、皆が時々搔き消えるように居なくなる…その次の瞬間には日が落ちたり昇ったりするなど…」
ある時には、目の前で談笑していた学校帰りの女子高生らしき一団が唐突に、まるで夢遊病者の如く瞳の色を失い立ち尽くしたのを見た。
そして、日が落ち、昇っていったかと思えば踵を返して…学校へと引き返していく様を見た。
在野の魔術師を訪ねた時には、その姿毎消え失せ、次の瞬間には日が昇って朝になり、寝室らしき場所から寝ぼけながら現れた。
何故貴方は結界にかかりもせず私の工房にいるのか、と激怒された。
当然だろう、招いたのはそのもの自身…
しかるべき連絡手段を用いて時計塔のロードであると名乗り、招き入れさせたのだから。
魔術抵抗を持つものはおそらくそうして大規模な仕掛けにより誤認し、ないものは深度の深い催眠の様な状態に落とされ、操られる。
…ここはまさに「鳥籠」或いは「箱庭」とでも呼べる場所だ。
最早、人の業ではない。
その中で自分だけが夜を、昼を…おそらくは「正確」に過ごしている。
はじめに意識が飛んだ時にどの程度時間感覚が狂わされたかわからないが、それ以降はまだ2日と経ってはいない。
しかし、実に数度日が落ち、昇ってをこの眼にしかと見た。
まるでビデオの早回しの様に──
「やはり、あの時の老人…あの老人に『おまじない』とやらをされてから、だ…」
そう、あれ以来異常を異常だと認識し始めた気がする。
それまでは自分も街の人々の様になっていたのだろうか?
「ゾッとしない話だ…しかし鍵はあの老人が握っているに違いあるまい…見つけねば…」
どういうわけか争う魔力などは感じるというのに、サーヴァントには一向に出会えない。
今の自分が出会ってどうするという話はあるが、そもそもどの陣営にも出会えないのが最早異常である。
出向くたびに、まるで意図したかの様に場面が変わる。
日が落ち、昇って…「何もなかった」かのように。
ただ、破壊跡などがあるのだ、或いは修復された破壊跡が。
「…本当に、私はいつもいつも貧乏くじばかり引いている気がするな…」
今この場にとある人物がいればさも嬉しげに笑うだろう。
…思い出したら腹がた立ってきた。
「ファアッ◯!!!」
唾とイカの足を空中に浮かせながら叫ぶ長髪のイギリス人紳士。
…否、もう立派に不審者である。
少なくとも…紳士たるものが叫ぶ様な内容ではなかった。
=
月明かりを遮るのは影。
蝙蝠の翼の様にマントを広げた、キャスターの姿。
「油断が過ぎるのではなくて!?」
その一言と共に特大の魔力弾がまるでレーザーの様に高速で幾つも降り注いだ。
石段が弾け、周りの木々が抉り穿たれる。
「きゃあ!?」
悲鳴をあげた朔弥をバーサーカーが抱えて避けた。
矢避けの加護を持つ彼には飛び道具の一発や二発では当たりはしない。
「…キャスターか!」
アーチャーもまた、即座に凛と、ついでに士郎の襟首を掴んで回避行動に移っていた。
唯一、宝具を撃ち込んだ直後のアルトリアだけが魔力弾の直撃を受ける。
被弾した場所から土煙が上がり、視界を塞いだ。
「!」
だが、舞い上がる煙が晴れた先には無事に立つアルトリアがいた。
「…キャスター、確かにタイミングだけを見れば危なかったですが…あの程度の物量ならば直感だけでも対処可能ですよ?」
「…シングルアクションの魔術としてはありえない速度と威力だったけど…流石はキャスターのサーヴァント、規格外ね…」
凛が呆れ混じりに抱えられたまま唸る。
反対側の手で襟を引かれて宙を舞った士郎はといえば投げ出されて激しくむせていた。
…気道が潰れなかっただけマシだろうか。
「ガハ、あ、ゲッホ、アーチ、ャーてっめえ!」
「だ、大丈夫、士郎?」
凛がいささか間抜けに、脇に抱えられたまま士郎を心配する、と。
ドサリ、といきなり手を離された。
「あ痛っ、アーチャーッ、何するのよ!?」
「…知らん、着地くらい自分でしたまえマスター。」
不機嫌さを隠しもしない声に凛が立ち上がりながら不服を訴える。
「な、なんなのよもう!」
***
「…はあ!」
アルトリアが木を蹴り飛び上がり、キャスターに斬りつける。
空中故に魔力を放出する事で軌道修正しながら弾幕を避ける。
「やっかいね、まるで先読みをされたみたいに…ならば!」
ブワ、と多量の積層型魔法陣が複数展開され、さらに弾幕の量が増えた。
「…くっ!?」
流石にかわしきれなくなり剣を交差して弾くも勢いを殺されてアルトリアが地面に落とされた。
「ラチがあかねえな…なら…これでどうだ?」
クーフーリン・オルタ、バーサーカーが魔槍を構える。
グ、と踏み込んだ足に爪に似た装甲が現れ、地面に突き刺さる。
固定したのだ、放つ為に。
「…我が槍は因果を逆しまに──全てを穿つ朱(あけ)の棘──その心臓、貰い…っ」
「させんよ、狂戦士。」
その槍が放たれるまさに寸前。
横合いからヌルり、と気配無く現れた男。
葛木総一郎。
その手は鎌首をもたげた蛇にも似た動きでクーフーリンに迫る。
「ぬっ!?」
ガイン、と慌てて引き寄せた投擲寸前の槍を無理やり拳と体の隙間へ捩じ込む。
ブチブチと筋肉が千切れる嫌な感触。
「あの体制から…槍を捩じ込むか──面白い、流石というところか。」
口では驚きながら身体は微塵も動きを止めず、葛木の手足はまるで鞭の様に不規則な軌道を描いて迫る。
刹那に叩きこまれた手数は実に十八。
人体の急所や関節を破壊にかかる一撃一撃は情け容赦無くクーフーリンに群がり、噛みつこうと殺到する。
「…チィッ、おかしな技を!」
足の固定を外し槍を強引に振り回して葛木を飛び退かせた後、向き直る。
「…仕留めきれんか…。」
葛木の拳は確かにバーサーカーの身体を幾度も抉り、打ち据えた。
だが、足らぬ。
「…は、最初の数度は加護のおかげだがよ…その後にテメェ、矢避けの加護に護れない殴り方に…触れる様な打撃に変えやがったな?」
そう、矢避けの加護は、矢を避ける。
飛び交う矢弾を、あるいは拳もまた「飛んで来た」と認識すればそれを反らす。
だが。
緩やかに、触れた箇所から浸透する様な打撃では反らせない。
「厄介な力を持っているものだ、しかしその頑丈さも規格外だな。」
「はっ、生憎…生き汚いのが取り柄でな。」
口の端から血を流しながら悪態をつく。
ダメージは決して軽くはない。
「…てめえこそ、本気でただの人間、か?」
いかにキャスターの魔術強化があるとはいえサーヴァントを打撃で痛めつけられるなど。
もはや人外の領域だろう。
「…身体能力の高さだけが戦いの全てではなかろう、現に私は力も、速さも──貴様に遠く及ばない。」
「ああ、だがその奇妙な技と…異様な先読み…まるでサーヴァントを相手にしてる気になってきたぜ…あんた、アサシンじゃねえのか?」
と、どこか喜色を滲ませ、笑うクーフーリン。
「違うな、…だが、次で終わりだ。」
ス、と再び双蛇が鎌首をもたげる。
「…おい、アーチャー、手を出すな。」
不意に背後に言葉を投げかける。
「…今ならば簡単に撃てると思うのだがね。」
赤いアーチャーが、弓に矢を番えていた。
「俺の楽しみ…奪うなよ。」
ニイ、と口を裂けた三日月の様に吊り上げ、答える。
「…了解した、ならば早々に決めたまえ。」
「ありがと、よっ!!」
轟、と空を裂いてバーサーカーの巨体が飛び出した。
「く、やはり前衛をつとめられるのが総一郎様だけでは…出なさい、竜牙兵!」
キャスターの左手からばらまかれた骨片が地に触れると同時に骸骨兵となり、セイバーと、飛び出したバーサーカーの眼前に群がり始めた。
「は、有象無象が幾ら出ても、なあ!」
槍の一振り毎に数鬼が砕かれ、青白い火を残して消えていく。
だが、地面からは湯水の様に骸骨兵が湧き出しつづけていた。
「く、大した強さではないが…なんと鬱陶しい!」
アルトリアが忌々し気にそう言い放った、その時。
大地が、揺れた。
=
「…胎動が…始まった?」
大空洞内に響く微振動。
──ソレは、目覚めの予兆。
「嘘、早すぎる、まだ数日しか経っ…あれ?」
聖杯戦争開始からほんの数日。
頭ではそう認識していた、今の今まで。
だが。
あらゆる光景を見せられてきた彼女、桜は悟る。
日付けが、合わない。
起きた出来事に対して明らかに日付けが経っているのに。
本来終わるべき──日目の夜を超えていない。
「…何を、何をしたの!っねぇ、▲@#◼︎ッ、教えてよ!?」
名前が、音にすらならない。
告げることを咎められたかの様に頭が、痛みを訴える。
「は、ぐっ…!?」
よろめき、壁に手をついて耐える。
そもそも何故こらえたのかもわからないが、しかし。
疑問を持つことを諦めちゃダメだ。
そう、ただそう感じた。
虚数、ノ、使い手ヨ。
抗ウナ。
「…いや、です、先輩を、姉さんを…皆を絶望に落として喜ぶあなたのいうことなんか、聞いてあげません!」
沈黙。
微振動だけが感じられる薄暗い洞の中で、ふいに声が聞こえた。
「…やれやれ…強情な。」
「え。」
そこに見えたのは、あり得ざるモノ。
赤いスーツにステッキ、紳士然とした佇まい。
「…う、そ?」
「久しぶりだな、桜──元気にしていたか、などという気はないが…やはり感傷的な気持ちは拭いきれないものだな…人の心とはかくも面倒なモノだ。」
「…お、父様…?」
「ああ、そうだ…おまえの元、父親だった人非人だよ、私は。」
皮肉気に口角を吊り上げ、自虐的に呟く男。
先代セカンドオーナー。
遠坂時臣が、そこに──居た。
悪夢は、まだ始まった、ばかり。
【後書き的なもの】
はい、だんだんと現状が明かされ始めました。
人間どころか、サーヴァントすら化かしてしまう仕掛け。
繰り返す朝と夜。
さて、いかなる存在がコレを引き起こしているのか。
そして。
遠坂時臣は、「何」なのか。
ここからは段々と謎を明かしにかかります。
はくのんは…もう少し、待ってね?
ではでは、また、次回更新で!
しーゆー!!
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第35話『胎動』
繰り返す都度に──
聖杯戦争は繰り返す、召喚の祝詞にも似て。
人理焼却の火は、消えてはいなかった。
そこに待つのは──
如何なる悪か。
人類悪は立ち塞がる。
彼らの前に、彼女の前に。
さあ、グランドオーダーの再開だ。
これはFate/staynight、及びFate/GrandOrderの二次創作です。
鳴動する大地。
揺れに従い左右に振れるビル。
「…始まったぞ、マスター。」
「な、なんだこれは?」
ゼウスの力と、英雄王の突然の不調に救われる形で争いが止まり、僕とエレインはホテルに戻り、今後どうするかを話し合っていた、その時だった。
「…この箱庭の再編よ。」
「箱庭、だと?」
「えぇ。」
確かに違和感はあった。
確かに見知ったはずの冬木だというのに、どこかに違和感を感じていた。
「文字通りの意味とすればここは、実験場のようなものか?…まさかとは思うが我々すら意志を持ったつもりの傀儡、などというオチは勘弁してもらいたいな…B級映画のラストでもあるまいし…神の玩具にされた哀れな泥人形、なんて事になりたくは無いぞ。」
「安心してください、我々はれっきとした人間…傀儡などではありませんよ、ただ…」
数瞬、言葉を止め何かを考えこんだ彼女だが、すくにこうべを上げて話しを続ける。
「この再編が終われば我々は一切の記憶を消され、あちらの思惑通りの位置からリスタートさせられます、一部例外的な加護を得ない限りは。」
「ええ、聖杯──、或いは神々の加護を。」
「…そうか、君にはアーチャーが…。」
「ええ、大神ゼウス…ギリシャの主神たる彼の力で私は再編…繰り返しを免れています…それと、さっきの泥人形云々の話は英雄王には絶対にしないでください…逆鱗に触れますよ、先のこのエロゴッドが地雷踏み抜いた時みたいに。」
「……肝に命じておこう、無駄にあんな破壊を撒き散らされても叶わないからな…マスターである言峰をどうにかすれば良いだけの話だ。」
「…お主にも協力関係になったわけだからな…ワシからの加護をやろうか。」
そうして、ゼウスが僕に手を翳す。
「──是は、我が妻、へーラーの加護である、畏れ、敬え…
ゼウスの手の先に展開された積層型立体魔法陣、その輝きは僕を包み込み、その心に触れた。
「……っ、何を!?」
「本来ならば下級の神や魔物を支配し、操る術式だ…それに手を加えてマスター以外の人間にパスを通し、ワシの力の一部を貴様に植えつけたのよ、どうだ…力が湧いてこよう?」
確かに、丹田の辺りから熱を持ち、魔力が湧き出てくるかの様だ。
「…力、はいいが僕を精神支配なんかしてないよな?」
「ほ?…ああ、そうかそんな手段があったか!しまった、マスターに使っておけば今頃毎晩しっとりと──」
「…あ、あ、ちゃ、あ?」
怖い。
怖すぎる。
端正なエレインの顔が真顔になって、口元だけ釣り上がると美しいという前にどこか根源的な恐怖を覚えた。
「ひ、マスター、そう怒るな…ヘラじゃあるまいし…全く、冗談じゃ、冗談…第一この宝具は対象一人に一度きりじゃからして…マスターにはもう使えんから安心しろ、貴様にもな、小僧。」
「──まあ、貴方からすれば僕など小僧以下でしょう…とは言え…あまり舐めてくれないで欲しいところだ。」
袖に隠していたデリンジャー(超小型の単発式拳銃)を抜き、アーチャーの眉間を狙う。
「…は、そんな玩具が効くと?」
「弾丸は対神術式を刻んだ特別製だ、痛みくらいはあると思うが?」
「…やめてください、アーチャー、切嗣も。」
溜息をつきながら、エレインが割って入る。
「…本気でやり合うつもりはないけどね、舐められっぱなしでは共闘関係も何もない、僕なりに意地くらいあるさ。」
「ふ、そうか…まあ嫌いではないがの。」
「…今はそれより。」
「「ああ、異変、だな。」」
高層ホテルの窓から見えた円蔵山からは、白い光柱が立ち昇っていた───。
********
新都のビルの一室から、アーチャー陣営を見張っていれば円蔵山から光が見えた。
「…アヴェンジャー…君は聖杯に召喚されたと言ったな…なんだ、あれは?」
帽子のツバを直しながら光柱を睨む復讐者。
「…ああ、絶望が始まるか。」
「絶望?」
「…正直、俺にもあれが何かはわからん、ただまともな力ではないな、俺を呼び寄せたこともそうだが…禍々しい何かを感じる。」
「…で、ツンデレなあんたは聖杯ではなく、こうして人間についたわけだ。」
アサシンが気怠げに呟き、律儀にアヴェンジャーが返す。
「ふん、言葉もなく俺を使い潰そうと言う聖杯の意志なぞに構ってやるものか、俺が見たいのは生き足掻く人間の業よ。」
「ふーん、なんだか俺には理解できないがね。」
「は、お子様には解るまいよ…昏く、消えることのない燠火の如きこの灼熱の感情──復讐とは、甘美で、恐ろしく、そして愚かな程に醜くも美しいものだ。」
悦に入った様に語る、アヴェンジャー。
「…復讐、ね…確かに人を怨むことすらなかった俺には理解できないね。」
「…怨むことが無かっただと?そんな事があるものか…いや、真実そうだとするなら貴様は人として壊れている。」
「ああ、俺は壊れている、だからこそ人を殺して、コロして、殺し尽くして──そして、救いながら、救われず…首を吊る羽目になったんだからな。」
…以前に見た、夢のイメージが蘇る。
あれはやはり、アサシンの。
「…は、自覚してそれか…救われんな。」
「…軽蔑したか?」
「いや、むしろ尊いとすら思うがね、貴様は壊れる事で己を貫いたのだろう…それもまた我とは違う形の人の業よ。」
なんだろうか、妙な疎外感がある。
「して、間桐雁夜よ…おまえは何を望み、何を成す?」
「…今度こそ桜ちゃんを救い、魔術によって不幸な目にあう人間をなくしたい…叶うなら聖杯の力で世界の魔術を消してしまいたいね。」
「…ふ、なるほどな…理解できなくはないが、愚か。」
に、と嗤うアヴェンジャーはどこか同情じみた感傷を匂わせる。
「…なんだと?」
「怒るな、怒るな。」
…怒るだろう、普通。
「…何、貴様の願いではな…魔術によって不幸になる人間はいなくなるだろう、しかし世界は魔術に変わる何かを当てはめてくるだけ…最終的に不幸な人間は減らぬし、世界の修正力が違う形でその娘や、魔術によって不幸になっていた人間を再び不幸にするだけだ。」
「…なら、どうしたらいいって言うんだよ?」
「何、一人の人間が護れるものなど微微たるものだ…そこを履き違えずにまずは目の前を救え、それを只々繰り返して…世界を救ってしまった馬鹿を、一人…いや、二人知っている。」
「二人?」
「ああ、愚かにも美しい…純粋過ぎて危なっかしい双子だった。」
「なんだいそりゃ。」
「…ふ、其奴らとて世界の有り様を変えたわけではない、そのままの、有りの侭の世界を焼滅から救っただけだ、もちろん…周りに助けられながらだがな。」
「…そんなものかい?」
「ああ、そんなものだ、結局一人の人間が巨大な力を得たところで…限度があるのだ…だから、絆を紡ぐ…青臭い話だ…おまえたちがもしその双子に出会えたとしても、オレがこんな事を話したなどと言ってくれるなよ?」
「恥ずかしくて死んじまうか?」
ニヤニヤしながらアサシンが割りこむ。
「ああ、火が出るな!」
「君の場合怨讐の炎が出そうでシャレにならないな…」
「クハハ!違いない、さて…では行くか…聖杯の元に皆集うであろうよ、あの光が悪さをする前に決着をつけに行かねばな。」
「…聖杯戦争、本当に正常に機能してるのか、コレ?」
「…してはいないだろうな。」
「…やっぱりか。」
「おいまて、じゃあ僕の努力は!?」
「…さて?」
「…面白いから見ていてやるよ、マスター。」
──趣味の、悪い事だ。
********
「…で?都合の良い事ね、キャスター。」
「…私も厚顔だとは思うけれどね、あの光、振動──貴方達も異常だとはわかるでしょう?」
あの振動と光。
それに反応したキャスターはいきなりの休戦を申し出てきた。
「…確かに、そうね。」
腰に手を当て、怒り心頭の顔で交渉をしているのは遠坂だ。
「あなたがたにはわからないかもしれませんが…この聖杯戦争は何度も繰り返しているわ。」
「「は??」」
「…やはりな…」
驚く俺たちの中で唯一、納得しているのはバーサーカー。
「バーサーカー、知ってたの?」
朔弥が不思議そうに聞き、アーチャーは訳知り顔で見つめるのみ。
「…ああ、正確に言うなら…俺だけが覚えている、と言うべきか。」
「…何ですって…なら、貴方はただのイレギュラーでは無く…?」
「ああ、おまえもそうなんだな、キャスター…いいや、メディア。」
目を剥いて驚きながら返すキャスター。
「…やはり、貴方はあのカルデアのサーヴァントでしたか。」
「ああ、そうだ…貴様が覚えているのならば争う意味も無かろう…確かに俺はカルデア所属のサーヴァント、バーサーカー…クー・フーリン・オルタだ。」
「ちょ、何を真名をバラし…え、クー・フーリン!?」
ケルトの大英雄じゃない!、とは凛の声。
「…そこで頷く貴方も、覚えているのかしら、錬鉄の英霊。」
「…ふ、真名をバラさない辺り配慮に感謝しよう…神代の大魔術師よ…しかし、俺は残念ながら断片的にしか覚えていない。」
「…貴方達…一体何の話を…!」
遠坂が理解ができない、と叫ぶ。
当然だろう、俺、朔弥、遠坂のマスター三人ともが完全に蚊帳の外だ。
アルトリアもまた困惑している様子だが、とりあえずは詮索せず静観の構えだ。
「時間も無い…全て、話してやる。」
そうして語られたバーサーカー、クー・フーリンの話は。
俺たちの想像をはるかに超えた話だった。
=
人理継続保障機関、フィニス・カルデア。
とある者の手により起こされた人類全て、人類史を焼き尽くそうとする途方も無い計画。
魔術協会も、聖堂教会も全てが歴史ごと無かった事にされた。
残った七つの特異点、それを修復し、黒幕を打倒したのが──
「それが…こいつ、九重朔弥と──」
「その兄、九重九狼。」
双子のマスターだ、と。
「え、えぇえ!?」
「…嘘、では無いみたいね…貴方達が揃って私たちを担ぐ理由が見当たらない…もの。」
唖然とする遠坂、九重、俺。
当然だろう。
「…わ、私身に覚えが無いんだけど…」
「そりゃあそうだ、おまえは朔弥だが、グランドオーダーを成し遂げた朔弥とは正確には別人…だろうからな、憶測ではあるが。」
「…ええ、貴女は変わらない…けれどおそらく…今話した貴女は、貴女の内に眠って…いえ、存在を重ねていると言えるかしら。」
「…わかるのか、キャスター?」
「ええ、エ…じゃない、アーチャー、貴方の様に霊核を重ねて存在を維持したのではない、彼女はあくまで人間よ。」
「…俺の推論は的はずれだった、か?」
バーサーカーが言うには、彼の記憶にも欠損があり、正確な所はわからないとか。
だから朔弥は、「カルデア」と言う群体の英霊として世界に召し上げられた存在であり、故にこそアーチャー同様に破損した霊基を補うためにこの世界の自分自信に同化して、生きながらえているのではないか、と。
「…惜しいけれど違うわ、カルデアは英霊の座についてはいない…もしそうなっているなら何故、私が記憶を維持していられるの?マスターがこの有様なのよ?」
「…確かに…しかし、どうなっているのだ。」
アーチャーが頷き、先を促す。
「…結論を言うならば…私には記憶がほぼ残っているわ、この聖杯戦争の黒幕に関する知識こそ奪われているけれど、ある程度推論はたっている、そうね…何があったかを話してあげる。」
流石は神代の大魔術師、魔女メディアと言ったところか。
後ろには葛木先生がふむ?、と頷きながら話しを聞いていた。
「──あの日、私達カルデアの英霊はマスター、朔弥…貴女に導かれてこの冬木の特異点を修正するために降り立ったわ。」
「…記憶が随分違うな…俺は冬木に来る前に光に呑まれたと覚えている、が…」
確かに、バーサーカーの話も聞いたが、どうも矛盾がある。
「…それは、貴方が一度目にレイシフトを行い、失敗したからよ、クー・フーリン・オルタ。」
「…何?」
「最初は…常に前線に立っていた朔弥、貴女の兄…九狼がレイシフトを敢行したわ。」
しかし、結果はバーサーカーの話の通りの失敗。
二度目にはそれを踏まえて、嘆いたカルデアスタッフの怒りに突き動かされた執念が相手の時空干渉を跳ね除けるだけのデータを得、対抗術式を刻んだ。
「…九狼の、あの子の犠牲を無駄にするわけがないでしょう…朔弥や、あの子を慕うサーヴァント達がどれだけ怒り狂ったか…わかるでしょう、貴方は。」
「…ゾッとしねえな、俺、もしカルデアに帰れるなら…そんときゃただじゃすまねえな…」
しかし、ならば腑に落ちない。
「なあ、ちょっといいかキャスター?」
「何かしら、坊や?」
妖艶な笑み。
そう、底なしの沼に引きずり込まれそうな、暗い闇。
「…あ、ああ…対抗術式を刻んで…どうして朔弥は今こんな事に、あんただけが記憶を維持してるのは何故だ?」
「…私が、マスターの存在を証明するための、レイシフト理論上に必要な…サブの観測手をしていたからよ。」
「…そうか、合点が言った…常にデータを蓄積し、カルデアにバックアップを送り付けていたあんただからこそ…聖杯の力も無しに記憶を維持できたわけか…意味消失を防ぐための予防措置がまさか、記憶を維持するために役立つとはな。」
「ええ、殆どのサーヴァントがあの泥のような怨念に屈した今、カルデアとも繋がりを断たれて…最早諦めていたのだけれど。」
貴女が健在だと言うなら…まだ、希望はあるかもしれないわね、と。
メディアはそう言ったのだ。
「朔弥、貴女の記憶──戻すことができると思うわ。」
ここに、再びグランドオーダーが、始まる。
【後書き的なもの】
はい、皆様こんばんは。
貴女の、貴方の枕元に笑顔で夢枕、ライダー/ギルスです!
朔弥「やめて、それ通報案件だから、不審者だから!」
えー?
凛「えー、じゃないわよこの馬鹿作者。」
はっはっは、流石に本気じゃありませんよ、イッツカルデアジョーク!
凛「忘れてたわ、九狼の性格もそもそもあんたの心から湧き出た産物だものね…根源の貴方がましなはずがなかった…」
…イシュタルさんの記憶を持ち出さないで!
こっちでは貴女人間!
いちマスター!
凛「舞台裏だから良いじゃない、ケチ。」
そーいうことかなあ…まあ、いいや。
朔弥「いいんだ…」
はい、風雲急の展開をようしてきました、オルタニキで第五次聖杯戦争…Fate/alternativeシリーズ。
あ、そうそう、まずはゼウスの宝具データ。
これ、前に出た神々の系譜、の神具の一つね。
◯
きょうきょうたるじょおうけん。
神々の女王、へーラーとしての女王の権能。
あらゆる種類の怪物を操り、呼び起こす。
ギリシャ由来の怪物ならば即座に召喚し、使役できる。
但し担い手たりえないゼウスに扱えるのは同時に一体のみであり、且つ契約済の魔物出なければ即時召喚は不可能。
契約を新たに行う場合は儀式魔術並みに時間が必要とされる。
本来の持ち主であるへーラーならば何体もの神代の怪物を同時に従える事が可能。
*今回はこの力を限定的に用いて切嗣との「擬似契約」としてパスを通しました。
マスターであるエレインにも同様の方法で魔力を通すパスだけでない、加護を授けるためのパスを通しています。
凛「なにこれ、まあた、チート…」
神様ですからね…さて!
物語のお話です!
凛「話すっとばしたわね!?」
カルデアとオルタニキ、メディアの関係。
繰り返される聖杯戦争。
ループするこの箱庭、とは何なのか。
はくのんはまだか!
様々な展開をしすぎて、フラグ回収大丈夫か、俺!
凛「うぉい!?」
まあ、なんとかします、しーまーすーよー!
後、書き終わってからロードのエピソード入れ忘れた!
…ま、次回でいっか☆とか思ったとか内緒、超内緒。
朔弥「自らバラしていくスタイル…そこに痺れたり憧れたりしない…」
真面目な話、はくのんはギルガメッシュと絡むため、もう少し後からに成ります。
もともとイレギュラーに参加させたいキャラでもあるのでちょっと無理矢理感あるけど最後までには出てきます。
時臣やら桜やら、雁夜のこともきちんとしなきゃね…回収が大変。
凛「ところでさ…アインツベルン陣営とか、シャケ的な智慧ランサーは?」
…………あ。
凛「あ、じゃなあああい!!プロットくらい作れ!馬鹿!?」
あははははは、では、次回更新で会いましょう!
さらばだ明智凛!!
凛「怪人二十面相かあんたは!」
しーゆーwwwww
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第36話『500年の妄執』
長きに渡る妄執。
かつて抱いた理想は見えず。
人に、500年の時は長きに過ぎた。
呪い、あれ。
現世全てに──、救いをもたらしたモノに。
希望?
絶望?
人が望むは────
「…お、父様…?」
「ああ、そうだ…おまえの元、父親だった人非人だよ、私は。」
赤いスーツ、ステッキ、口髭に、整った髪。
何より炎の如き意思を示すその瞳の奥の光。
まごう事なき先代セカンドオーナー、遠坂時臣がそこに立っていた。
「…そんな、お父様は第四次聖杯戦争で亡くなった筈…!」
「ああ、私は死人だよ。」
「な、何を言って…何を!!」
最早桜の心は崩壊寸前だった。
無数の蟲に蹂躙されようと、純潔を奪われ、人と言って良いのかすら判らない程に胎内を造り替えられてすら残っていた桜に残された希望。
繰り返すこの坩堝…、必ず、必ずいつか打破されるものと。
「た、助けて…先輩、先輩いぃ…!」
だが。
繰り返すだけでなく。
死者を操ることすら、蘇生すらできるというのなら。
もう、抗う意味すら無いのでは無いか?
頭を抱え、涙していると時臣の大きな手のひらが頬を撫でた。
「…桜、おまえの役目は楔に他ならぬ…おまえが未だ引き継いだ記憶と自我を保てるはその役目故よ…私のような端末では無く、おまえには可能性が残された。」
「…私の、可能性?」
「そうだ、世界を繋ぎ、希望をもたらす…」
唯一の可能性だ、と。
「希望、私が、希望?」
「人という種の可能性、それこそを我が主は望まれた。」
ステッキを一振りし、暗闇に火が灯る。
明かりは、今迄見えなかった洞窟の奥を照らし出した。
そこにあるのは、黒。
昏く、光を浴びて艶を見せる黒曜石の如き黒。
伸び上がる巨大な腕。
その頂きに見える、結晶体。
翡翠色をした結晶が光を返す。
結晶の中には影が見えた、少年の影。
そこに…無言で寄り添う、一人の女性。
否。
アレは──
裁定者。
無慈悲に、定められた調律を守る者。
「…ルー、ラー?」
何故だろう、わかるのだ。
アレがなんであるか。
「…ええ、桜…私はルーラー、ジャンヌ・ダルク…彼を守り、人を人たらしめる最後の砦となる者です…ようやくわかりました、貴女の様なモノが居る…そしてそこな男…桜の父だと、死人だと言っていましたね──」
「遠坂時臣、かつてそう呼ばれた者ですよ。」
「…端末…ですって?良くも私や彼の前に…姿を見せたものですね、その男の姿とて殻に過ぎない癖に…ええ、本当に良くも…!」
穏やかだったその顔に僅かな苛立ちが見えた。
救国の聖女と呼ばれた彼女が嫌悪するなど。
彼女は旗を翳し、立ちはだかる様に結晶の前に立つ。
「近寄る事など許しませんよ…◼︎◼︎◼︎!」
◼︎◼︎◼︎?
聞き取れないが、なんと言ったのか。
「貴様がいる限り無駄だからな…今はまだ、その男に触れはせんよ、イレギュラーの裁定者よ。」
「…イレギュラー、やはり私は冬木聖杯に呼ばれたのでは無く──」
「ああ、そうだ…所謂世界の矯正力という奴だろうな…世界からすれば我々こそが異端なのだから…対抗措置にアヴェンジャーを喚んではみたが、真逆貴様らに縁ある男を呼び寄せようなど…腹立たしい限りだ。」
「…帽子男を御しきれなかったわけね…ざまあみなさい、◼︎◼︎◼︎…!」
一瞬、聖女の顔が憎しみに歪む。
言葉まで荒げる姿は何処かおかしそうに笑う童女の様な、純粋な悪意に満ちていた。
父は、いや、父如きこのナニカは。
彼女に一体何をしたのか。
そして──翡翠に閉じ込められた、少年。
彼は、一体誰なのか?
橙色の髪、何処か憎めない顔立ちをしている、しかしごく平凡に見えるその少年は。
その手に。
盾を模した「令呪」を宿していた──。
*********
「…クソ、なんだというのだあれは!」
伸び上がる光の柱。
ロードエルメロイII世、ウェイバーは毒づいていた。
「…あの場所は…大聖杯…!」
第四次聖杯戦争以降、調べに調べた。
冬木は円蔵山に安置された巨大術式…、冬木の大聖杯。
急がねばならない。
事態は私が知らない場所で深刻な局面へ進行している様だ。
走る、走る、走る。
走り、もつれ、転んだ。
「ぐぎゃっふ!?」
そう、そうだった。
「わ、私と言う奴は…此の期に及んで…!」
体力不足で力尽きるなど。
「ゆ、許されるはずが、なかろう!?」
ガバ、と起き上がり…ひいひい言いながらお山の上を目指す。
「シット…、やはり身体は鍛えておくべきだった、のか…」
などと項垂れていると、不意に林道の奥から何かがヌウ、と現れた。
それは。
「な、何いっ、犬…いや、狼?」
体長数メートルはあろうかと言う巨大な獣がそこにいた。
スンスンと鼻を鳴らし、こちらを値踏みするようにして──
「くっ、南無三!!」
などと、日本で影響されて覚えた言葉…義妹あたりが聞いたら馬鹿にされそうだ。
──毒づき、小声で唱えていた魔術を発動。
驚愕の言葉を挙げたふりをしながらの裏詠唱…サイレント・キャストと呼ばれる小技である。
…まあ、小手先と笑わば笑え。
コレが、使い魔でも、サーヴァントであっても、逃げねばならない。
故に。
「食われてなど…やらんからなあ!」
風が特大の
この上なく会心の出来。
この一撃ならば僅かながらサーヴァントにも届くのではないかと。
手にした魔力増幅のタリスマンを握りしめてその一撃に期待──を持つ前に自身に失望する。
ひらり、と。
不可視のギロチンは容易く回避されて林道の樹木数本を両断するに止まった。
そしてあっさりと襟首に、その巨大な牙が突き刺さ…らなかった。
はぐ、と。
咥えられたままに獣が階段を駆け上り始めた。
「な、ん、だ、と、おおおおぉ──!?」
ウォ────ン!!
咆哮が響く。
ロードを咥えた獣だけでは無い。
さらに現れたもう一頭が並走する。
「こ、コレは…魔獣か!?」
訳がわからない。
この魔獣…殺す気ならば先ほど簡単に自分を噛み殺せた筈だ。
一体、何者の使い魔なのか。
「止まれ、獣。」
そんな事を考えている内に。
いつしか道を登りきっていたらしい。
「ぐぬわっ!?」
いきなり落とされた。
「ぬ、ぬぐ…貴様何者だ…?」
不気味な矮躯の老人。
杖に寄りかかる様に立ち、視線を向けてくる。
その身から感じられるのはとびきりの邪気。
「ふぇふぇふぇ、知っておるぞ、貴様…前回の聖杯戦争であの征服王とおった小僧じゃなあ…背丈だけは伸びたようだが──相変わらず魔術は拙いままか?」
ウゾウゾと老人の足元から湧き出す、無数の奇怪な蟲。
「…その、蟲…そうか、間桐の…マキリ・ゾォルケン…!!」
咄嗟に懐から取り出した試験管を投擲する。
そこに封ぜられた魔力が。
火と言う型を得て爆ぜた。
「ほっ、火か、怖や怖や!!」
ザア、と。
蟲が数を増し、炎に飛び込んで行く。
生物が燃える嫌な臭いが漂いだし、火が蟲壁に遮られる。
その壁からバチバチと音を立てて弾けた蟲が焼けた呪い、鉄の針と化して飛び出した。
「火針蟲…焼けて弾ける呪言の塊よ…さあ、悶えて死に行くがよいわ、獣めが!!」
此方を見てすらいない。
渾身の一撃も利用され、その燃え立つ呪針は火を纏い二匹の獣に殺到する。
だが。
並みの魔術師ならば百度は死ねる呪いの針を受けて、獣は微動だにしなかった。
その毛皮は呪いを弾き、針はその先端を肉に届かせることすらなかった。
一匹は老人に飛びかかり、そして先まで私を咥えていた方の獣が私を守る様に立ち塞がった。
「…おまえ…?」
ぐるぅ。
静かに唸るその瞳には確かな知性がある。
「カッ、畜生風情が──このワシに…ワシの、500余年に渡る悲願を邪魔立てするか!」
ズア、と。
地面から二匹の巨大な百足に似た巨大な蟲が頭を出し、飛びかかった狼を牽制する。
更に老人、マキリ・ゾォルケンの身体から弾丸の様に飛び出した甲虫が獣に向かい、かわされて樹木に大穴を開けた。
「…何という威力だ…対戦車ライフルではあるまいし!」
ある人物の影響で、にわかとは言え知識を持ってしまった重火器の知識と照らし合わせても、遜色どころか上回るのではないかという威力。
「醜いのう…高々500年程度…生き足掻いた末に目的すら見失った小僧っ子が。」
カン、と。
杖を立て、地を叩く音。
振り返るとそこには、散々探し回っていた人物が居た。
「貴方は──、やはり!」
やはり、唯人ではなかったか、と。
問いを投げかけようとしたロードを手で制して、老人は笑う。
「ほほ、また会ったのう…ヌシとはやはり縁があった、か…おぬし…覚悟はあるか?」
「…覚悟?」
「おうよ、果てなき知識に身を浸し、かつ…英雄の道を歩む覚悟はあるか?」
「…何を言って──」
会話はしかし、続かない。
「なんじゃ、貴様はっ…小僧だと、ワシを小僧などと宣うは何処の馬の骨か!!」
百足擬きがさらに湧き出し、こちらに殺到する。
その鋭い顎門から覗く牙は鋼鉄すら容易く咬み裂くだろう。
「…黙れ、小僧。」
そう、老人が言葉を放った瞬間。
先ほど自分が放った炎が児戯に見える程の激しい炎が一瞬にして吹き上がった。
「…これは、原初の
キエェーー!
金切声を上げ、百足擬き数匹が瞬きの間に灰と化した。
「…この、魔術──キャスターの、サーヴァントか!」
マキリ・ゾォルケンが憎々しげにこちらを睨む。
「…黙れと、言わなんだか?」
ヒュ、と。
軽い風音が鳴ったかと思えば。
マキリ・ゾォルケンの胸から槍が生えていた。
「ゲアッ!?」
見えなかった。
狼の動きも目で追いきれない程だったが、今…いったいいつ槍を投げた?
格好だけ見れば、古ぼけた服に片目を覆うものもらいを隠す様な…眼病でつける様な使い捨てのアイパッチ。
手に持つ杖はいつのまにか無くなり、肩には一羽の鴉が止まっている。
「──それと、一つ間違いを正しておこうか…儂はキャスターでは無い。」
「ガ、ならばこの槍…ランサーだとでも、いうの、か…ごふっ。」
口から血反吐を吐きながらマキリ・ゾォルケンが問う。
「…儂はグランドキャスター、冠位を持って世に降りたちし者──あの好色なアーチャーの同類よ。」
「ぎ、ぎざ、ま…も、か──」
「そろそろ黙れ。」
言葉と共に老人の姿が変わる。
ボロは黒いローブ、アイパッチは黒い革の眼帯に。
顔も幾分か好々爺じみていたものから鋭い眼光を宿すに至り。
その身体から滲み出る言い様のない威圧感。
「やれ」
アオーーン!
アオッ、アオッヴォウ!!
二匹の獣が吠える。
「ぎ、ぎああああっ!?」
それが振動の波となり、マキリ・ゾォルケンを捉えた。
「から、だが…崩れっ、ぎいいっ!?」
ボロボロとゾォルケンの身体から蟲達がこぼれ落ちていく。
「…貴様とて最初はその様な妄執に囚われてはおらんかったであろうにな…」
「…な、何を…ワシは、ワシは…生きるのだ、永遠を生きて、生きて──」
ハタと。
その先を紡ぐことができずにゾォルケンは言葉を詰まらせる。
「──生きて、何を…したかったのだ、ワシは、私、は──?」
虚空を見つめる瞳が、大空洞の方角を向いた。
「…ユスティーツァ?」
それを最後に。
マキリ・ゾォルケンと呼ばれた男の殻は破れた。
バリン。
その矮躯を突き破り、世に産声を上げるのは…呪い。
ノロイ、のろい、呪い。
怨念の塊が噴出する。
地を汚し。
空を染め上げて。
瘴気の柱が噴き上がる。
『カツて高貴たレと、悲願を求メタ魂を以ッテ…、』
白く、僅かに灰色に燻んだ巨大な肉の柱。
側面には無数の巨大な眼、眼、眼、眼。
十字型に割れた虹彩を持つ紅い眼は此方を睨め付けており、ギョロ、ギョロと不気味に蠢いている。
『我、怨嗟ト憤懣ヲ抱き…今、此処に──魂の坩堝へ…現、界、セリ。』
「な、なんだ…なんだアレは!!」
悍ましい、悍ましい、悍ましい、悍ましい!
見ただけで目を潰したくなる。
声を聞いただけで発狂しそうになる。
いかん、落ち着け…ある種の神殿と同じだ──精神を鎮めろ。
「…ヌシに力を授けてやろうと思うたが…これはそれどころではないな…さて、どうしたものか…この様なモノ…いかにして葬るかのお…」
「…っ、ご老人!何を悠長なことを…貴方がいかなる英霊かは存じ上げませんが──あのような化け物…倒せるのですか!」
と言うか、なんなのだ、アレは!
やはり厄イ。
あの義妹にふられた仕事や話がまともであった試しがあったか?
いや、無い…帰ったら必ず何らかの形で報復してやる…絶対にだ!
「倒すだけならなんとかな、しかし今は儂の力もまだ安定しておらんしな…何より下手に倒せばアレは、その身に孕んだ瘴気の塊を山裾からふもとに垂れ流すぞ?」
唖然とするしか無い。
あの様なサーヴァントすら飲み込みそうな極大の悪意を前に。
この老人は、なんとも飄々としているでは無いか。
『グランド、クラス──その名を騙るか、塵芥メがァあァ!』
カッ!
瞳が輝き、爆発が巻き起こる。
地面を捲りあげながら光の波が押し寄せる。
「う、わっ!?」
「カァッ!」
杖の一振りで活性化した林の木々が枝葉を伸ばし、塞ぐ。
それらの葉は全てが硬化のルーンを刻まれていた。
鋼以上の硬度と強力な魔力に覆われた防壁が壁となる。
『その様なモノ、無力と知れ…貴様が如何に強力な英霊であったとしても──この街にいる限り…勝ちは、ない──お前には、無理だ。』
一際強く、眼群が輝く。
『友は全て──消えゆく。』
紅眼は更に無数の爆光を生む。
これでは反撃すら出来ない………!
ルーンに強化された樹木は爆光を防いではいるが、このままでは押し負ける。
ウォーン!
魔獣が飛びかかり、爪牙を振るいその肉塊を切り裂く。
しかし、浅い。
「…あー、埒が開かんのぉ…」
老人が、つい、と腕にはめた黄金の腕輪に触れようとしたその時。
「魔神柱──そう、ならば…アレが関わっていると?」
憎々しげに呟いたのは、フードを目深に被った、美女だった。
「ほ、コルキスの──動いたか。」
「…貴方、何者かしら、私のことを随分と訳知り顔で…まあ、いいわ…」
階段を駆け上がり、抱えられ、或いは息を切らしながら現れたのは、少年少女達。
中には知った顔もあった。
「…君は、遠坂の?」
紅い外套の男に抱えられていた黒髪の少女。
資料で見た顔だ。
「貴方はっ、確か時計塔の…
「…II世、をつけてくれ給え…正直私の様な未熟者が背負う看板ではないよ、五大元素…アベレージワンの天才、遠坂凛。」
気の強そうな、それでいてその目には優しさが宿る。
「…同じ御三家でも随分な違いだなマキリ。」
肉塊を目に、呟いたその言葉に。
「ま、マキリって…あれが!?」
呪いの塊の様なそれを見上げ、驚愕する凛。
「…と、遠坂…アーチャーに運ばせるとかずるいぞ、くそ!」
その背に、気を失った橙色の髪をした少女を背負う少年。
「──あれが、間桐の…?」
「間桐って…待てよ、まさか慎二が──」
少年が慌て、肉塊を見た。
「ガッ…あ!?」
身体が震え、多量の汗を吹き出し始める。
──さもありなん、天才、遠坂はレジストした様だが…凡百の身なればあの呪いはキツかろう。
「落ち着け、少年…あれは極大の悪意…まともに意思を開いてあれを見てはならん…己の心の前に壁を作るイメージをしろ、息を整え…己を切り離せ。」
この状態でも少女を落とさないのは見上げた根性だ。
「あ…カハッ、はあ、あ!」
…意外に飲み込みが早い。
この少年…見た感じ才能は「私同様」無いに等しい…だが、長所だけを伸ばせば案外化けるのではないか?
「落ち着いたか。」
「は、ハイ…ありがとうございます…えと。」
「…ロードエルメロイII世、時計塔のロードの末席に身を置かせて貰っている、魔術師の端くれだよ。」
「…ロードの癖に端くれとか、嫌味?」
半眼でそう足したのは遠坂凛。
「…私がこの立場にいるのは…偏に過去の過ち故だからな…はめられた様なものだ、分不相応にも程がある。」
『…囀りオルワ、人間共!!』
「ふん、マキリ・ゾォルケンに寄生してまで何をしたい?」
ロードが呟く。
「…あの妖怪みたいなジジイ…とうとう人間辞めたわけ…なるほど。」
凛が納得顔をした言葉に少年の方が何故かホッと息を吐いた。
慎二が、と言っていたがマキリの関係者だっただろうか?
マキリにはもう、直径の…魔術師足り得る子孫は居なかったはずだが。
「…アレは…魔神柱、忌むべき人理の敵よ。」
バサ、とローブを翻して先ほどの美女が杖を翳した。
「消え去りなさい──コリュキオンッ!!」
ボッ、と。
空気を裂く音を立てて無数の魔力弾が肉塊を直撃した。
『ガアァあぁッ裏切りの魔女、メディア…我が主人が見逃していたからと…調子にノルで、ナイゾ!』
傷口から煙と、黒い呪いの泥を吐き出しながら、肉塊が怨嗟の声を上げる。
「…醜悪極まりないな。」
「ふん、真逆また、あれを見るはめになるとはな…さっさと抉り殺すか。」
紅い外套の男が呟き、続けて現れたのは半裸で、身体中に棘の様なものを生やした奇形の槍を持つ男。
「…やめんか貴様ら、下手に倒せば呪いを撒き散らしかねんからワシが抑えながら手を考えていたと言うに。」
「…ご老人、しかしあの巨体…もはや街への被害は免れないのではないか?」
と、二度目のやりとりに紅い外套の男が口を挟んだ。
「…あの化け物を…結界に取り込んだ上で倒せば問題あるまい。」
ク、と。
唇の端を吊り上げて笑う男。
「…結界じゃと…、馬鹿を言うな障壁を張ろうがあの呪いの濃さではすぐに溢れ出すわい…それこそ禁呪でも持ち出さねば──」
バッ、と。
老人の横に着地した男は、背中を向けたまま言い放つ。
「ふん、問題無い──なんならトドメを刺してしまって、構わんのだろう?」
顔は見えない、見えないのに。
…そのドヤ顔してるのがまるわかりな声音だった。
「なあ、
【後書き的なもの】
ハイ!急展開ですよ!
やっと話がいろいろ進んできたわよ!
他の陣営も書かなきゃならないからこれ、まとめるの辛いの!!←
老人「自業自得じゃろ?」
狼ズ「「わっふ。」」
フィン「と言うか我々忘れられてないか。」
バゼット「…どうせ本編でも影薄いですからね、私…プリヤに帰りたい。」
プリヤの扱いも出番こそあれどうかと思いますがしかし。
兎にも角にも。
マキリ・ゾォルケンから顕現したのは一体何なのか!
魔神柱って何なのか!(棒
そしてグランドキャスターを名乗る爺さん何者だ!?←
あれこれバレバレながら!
やっと次回はアーチャー(エミヤ)に見せ場を作れそうだよ!!
後、朔弥の記憶の話はまだ引っ張ります、ごめんなさい。
謎の少年「いやあ、出番あったね…俺。」
ありましたねえ。
これに関してはもう前々から伏線は張り続けていましたが。
伏せたけどどれもバレバレな感じの今回!
後早く…はくのんも早くしなきゃ!
頑張るよ、頑張るよ…頑張って書くよ!
ではでは。
今回はこの辺りで──
ぐだぐだ明治維新…魔人セイバー来ちゃうのかな…お金やばいよやばいよ?、ライダー/ギルスでした!
またね!
しーゆーねくすとえぴそーど!
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第37話 『無限の剣製』
ぐだ×弓コンビ──
復活!!!
…正確にはマスターぢゃないけど。←
「…どうやら…自体は火急の勢いで動きはじめたようだな、ギルガメッシュ。」
「そうか。」
光の柱を見やる言峰綺礼の呟きに実につまらなそうにギルガメッシュが答える。
「…どうした、おまえが望む混沌ではないか。」
「ふん、誰かに裏から操られる愉悦など…楽しむ意味もない。」
教会の庭先で話す二人。
そこに一人の影が歩み寄る。
「──何者だ、貴様?」
その、気配。
ただの人には見えず、かといってギルガメッシュの眼を持ってしてすら、その底も見えない。
未来視を可能にする英雄王の眼を誤魔化すなど人の身には不可能、ならば人外と言う話になるの、だが。
「…貴様は、何故貴様がこんな場所に居る?」
どうやら、綺礼の知己の様だった。
「おぉ久しぶりですねぇ、言峰綺礼。」
巻き舌の特徴的な喋りをする、褐色の肌、綺礼同様にカソックを着込んだ姿。
「──第九秘蹟会、筆頭騎士…
第九秘蹟会。
第八秘蹟会が正式な神の恩恵を受けたと認定された聖遺物を回収する部署であるのに対し、第九秘蹟会は外法を破戒する。
神に連なる聖なる使徒として、異端の教えを破戒して回る狂信者の集団。
…中でもナインは九人の筆頭騎士の一人。
本来は敬虔な神の信者であり、その盲信とも言える思考により行動する他の第九秘蹟会の一員と同じく異端の破戒を行う者。
「…ふふ、気軽にナイ神父、と呼んでくれ給え…君と私は長い長い付き合いではないか、なあ?」
「…代行者時代に何度か組んだと言うだけだろう、過度に馴れ合うつもりは無い。」
値踏みする様な、ヌラヌラと嫌らしい視線。
「…わぁたしとは、仲良くはしたく無い、と言う顔だね?」
「…貴様の様な狂信者と馴れ合う馬鹿が居るか?」
そんな探り合いをする彼らを。
英雄王も苛立った眼差しで睨みつけていた。
「…主従揃って私が嫌だとみえる、仕方ないよね、ああ仕方ないな…ふ、ふふふ!」
顔を掌で覆いながら、空を仰ぐ様に高笑いするナイ神父。
「何が可笑しい、雑種!!」
その笑いは、英雄王の怒りに触れるのに十分だった。
展開された金の波紋──
「ふぅんんっ!」
と、野太い声で腕を振った、唯それだけで。
昏い何かが帯の様に翻り、宝具を絡めとり、容易く、「砕いた」。
「んん〜…主従共に使えるなら使うつもりだったが…どうやら、自意識だけは高いようだ。」
「…綺礼、逃げよ。」
「…は?何を言っている、ギルガメッシュ…貴様らしくもな…に?」
時既に遅く。
言峰綺礼の胸から生えた昏い触腕。
ゆっくり、ゆっくりと。
その身体が自ら流した血溜まりに倒れて行く。
「…貴様あああっ!!!」
先ほど以上の数と速度で。
ゼウスとやりあった時に等しい黄金の嵐が吹き荒れた。
「は、ははははっぶるぅああああっ!!」
巻き舌の野太い声、同時に振るわれた無数の昏い触腕。
宝具が次々絡めとられ、砕かれて行く。
「お、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ!?」
「ふあはははは、無駄無駄無駄ぁ!」
あり得ない光景。
あの、バビロニアの英雄王が手玉に取られていた。
たった一人の人間に。
それは騎士。
最凶の騎士。
第九の恐怖、異端の破戒者。
聖堂教会、第九秘蹟会所属。
ナイン・テンプルナイツ。
名など無く、その呼称はその存在を表す記号。
9番目の神殿騎士、ただそれだけ。
ここに。
神をも滅ぼす教会最大の[[rb:禁忌 > タブー]]が顕現した。
「なめる、なあああ!!」
怒号と共に引き抜かれた乖離剣。
しかし。
「ぅおっとぉ、そんな危なっかしいオモチャは…振り回して貰っては困るな!」
束ねられた触腕が、一気に加速し。
ギルガメッシュの…乖離剣を持つ右腕を…
切り飛ばした。
「がっ、ああああっ!?!?」
血飛沫が飛び、腕から離れた乖離剣は粒子化して、消えた。
その腕を片手で受け止めたナイ神父は、
嗜虐的な嗤いを浮かべて。
倒れ伏し、死に体の綺礼を見た。
言峰 綺礼。
彼が最後に見たのは…
瞳に、赤々と光を灯し、嗤う。
三眼の───、怪物の姿だった。
*******
無。
何もない、白一色の世界。
「…私は…朔弥。」
手に、盾を宿した私。
「私も、朔弥。」
胸に、竜を宿した私。
「「 ──── 」」
どちらも、私。
『朔弥』
懐かしい、声。
──にい、さん?
『今の朔弥は此方の自分自身に重なりながら存在する状態だ…そうでなければ全てを奪われてしまうから。』
無造作にはねた癖毛、人好きする笑顔。
間違い、ない…兄さんだ。
じわり、目頭が熱くなる。
「──生きて…」
『…今は俺の事は気にしないで、自分を心配しなよ?』
存在が、揺らぐ。
ひどく不確かで───
『そうだ、カルデアのバックアップを失った今、朔弥の存在は酷く不確かな状態にある。』
「…意味消失…!」
『そう、思い出してきたかい?』
兄さんの声と、カルデアの名前。
それを境に、脳裏に様々な映像が去来する。
炎上都市、冬木。
オルレアン。
オケアノス。
魔都、ロンドン。
アメリカ。
エルサレム…キャメロット。
バビロニア。
そして──、終局特異点…
そうだ、何故。
何故、こんなに大事な記憶を無くしていたのだろう。
レイシフト、大雑把に説明すればタイムスリップに近いこの現象は、人間を霊子化して時を遡り…過去を変える。
それは即ちサーヴァントにも近い霊子存在になる事で世界の強制力から逃れる為に。
だが、人の魂はそうした行為に耐えきれない。
故に、意味消失、存在を保てず消失してしまう危険もあるのだ。
故にカルデアのバックアップによる存在証明をし続ける事でそういった危険を防ぐのだ。
だが、そのカルデアからも、予備として機能していたキャスターからのバックアップもなくなり、私は…一度消えて無くなりかけた。
そこに、強く惹かれたのが自分と同じ波動。
この世界における自分自信だった。
そう、そうだ。
私は、私に重なる事で「意味消失」を免れたのだ、ならば。
「…ありがとう、私。」
「…どういたしまして、私。」
礼を返されたその瞳から光が失せた。
…そうだ、この世界の「私」は。
既に、かの者に負け、死を迎えている。
心臓に感じる、確かな熱。
竜種に連なる血が脈打つ。
そう、貴女…私に貸してくれるのね?
コクリ、頷いて消えていくもう一人の私。
白い世界に、赤が産まれる。
私の胸から飛び出したソレは、巨大な竜と化して羽を広げた。
咆哮が響き渡る。
ああ、目覚めなければ。
涙が頬を伝う。
赤い光が、目を灼いた。
=
「なんなら、とどめを刺してしまっても、構わんのだろう?」
どうしようもなく、この馬鹿サーヴァントが調子に乗っているのが解る。
…癪だが、それでも私はこう言うしかない。
「ええ、アーチャー…存分に…やりなさい!」
令呪を翳し、命じる。
莫大な魔力がアーチャーに吸い込まれ、手から令呪が一角消失する。
「承った、マスター!!」
アーチャーの足元から吹き上がる、魔力の渦。
「──
I am the bone of my sword.
──体は剣で出来ている
熱い、風が吹く。
Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で、心は硝子
泣き出しそうな風が。
I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗
幼き日に夢を貰った。
Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく
ただ、ひたすらに駆け抜けた。
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない
理解、して貰おうとしなかった。
Have withstood pain to create many weapons.
彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う
だけど──答えはすぐ側にあったのに。
Yet, those hands will never hold anything.
故に、その生涯に意味はなく
大丈夫、俺は──答えを見つけたから。
So as I pray, ──
その体は──
そう、今の、俺は。
「おはよう、
「へ、あ…目、覚めたのか九重!?」
士郎が、驚きながらも嬉しそうに。
UNLIMITED BLADE WORKS.
無限の、護る為の劔で出来ている。
──ああ、相変わらず寝坊助だな、朔弥!」
ゴウ、と。
炎の輪が地を走る。
世界が、塗り替えられていく。
赤い荒野に無数に突き立つ剣の墓標。
空には巨大な歯車が回り、眩い橙色をした光が空間の中心に浮かんでいる。
「こ、これ…!」
「ほ、魂消た、固有結界か!!」
凛が、老人が驚愕する。
朔弥に記憶が戻ったのだろう。
私にも、鮮やかな思い出が流れ込んできた。
ああ、こんなに暖かで、大切なモノを。
私ときたら、放置したままだったなどと。
「さあ、此れなるは無限の劔でできた丘──人類史を焼き亡さんとした悪意の御柱よ…その身、その眼でしかと見るがいい!!」
手を振り下ろすと同時に。
数多の剣群が魔神柱に殺到する。
『英霊、如きガ、頭ニ乗ルカ!!』
傷口から呪泥(じゅでい)を吐き出し、のたうちまわる肉塊。
その声には、怨嗟が充ち満ちている。
「相変わらず、見るに耐えないね…エミヤん、オルク!やっちゃって!!」
「…ついでみたいに言うな、小娘…まあ、その方が…テメェらしい、がな。」
どこか、嬉しそうな顔のバーサーカー。
「ちょ、朔弥!アーチャーのマスターは私、私だから…ってちょっと待って、衛宮って言った、今っ!?」
「「あっ」」
エミヤと、朔弥の声が重なった。
「ああああっ、ついうっかりいい!?」
「……ああ、なんだ、その…遠坂?」
エミヤが、まるで士郎が困った時のような顔を見せる。
その瞬間、凛は全てを悟る。
「そう、そう言う事…、は、ははっ…頭痛い…理解したわ、このっ馬鹿っ!!」
スパーン!と…凛が。
履いていた靴の片方を居合抜きの如く瞬時に脱ぎさり、勢いよく衛宮士郎の頭をはたいた。
「あいたぁっ、な、なんでさっ!?」
「黙れ、この嘘つき!女たらし!」
「は、ええっ!?」
…やつあたりなのはわかってるけど。
そんな顔で士郎をどつきまわしている凛。
そんな、磨耗した記憶の彼方にある懐かしい温もりが。
「護って見せよう──今度こそ!!」
劔の丘から抜き放つ。
一本の、黄金。
「…っ、その、剣は!」
アルトリアが、目を見開いた。
それは、始まりの剣。
王を選定した岩上の剣。
「
光が、頭上に掲げられた刃に収束する。
それは、人類を護るべき光。
救国の王を選定した、始まりの聖剣。
「
金の粒子が輝きを放ち、一直線に魔神柱をめがけ、迸った。
『グ、ギイィぇぁァーーッ!?』
光に呑まれた肉塊は、再生する側から崩され、焼けていく。
「…御主、やるではないか!」
老人が賞賛を送り、エミヤがニヤリと唇の端をつり上げる。
「ふ、令呪まで使わせたのだ…まだまだいくぞ、魔神柱ぅっ!!」
ザシ、と。
カリバーンを突き刺さし、次なる剣を。
「羅刹王を降す不滅の刃、悪鬼を滅ぼす光の輪──
握り、魔力を込め、即座に投擲した。
それは瞬く間に光の輪となり、全ての魔を穿つ刃の車輪へと変貌を遂げた。
『…ギェァーーッ!?』
刃は回転しながら魔神柱を削る、削る、削る!
「…まだだ、そのまま爆ぜろ…『
ドズン!
莫大な対魔性の側面を持つ魔力が爆発した。
魔神には特に痛い筈だ。
「は、少しは働こうか…全呪解放──」
バーサーカーから放たれだした、硬質な魔力。
それはあの晩、士郎が止めた、彼の宝具。
魔力はその身体を覆い、硬質な鎧に、棘に、牙に成る。
「加減は無しだ──絶望に沈むがいい。」
それは、まさに狂戦士。
バーサーカーにふさわしい姿。
獣じみたその姿は、ゲイボルクの素材となった魔獣、クリードの骨を用いた攻勢防御外骨格。
バーサーカーの膂力をEXまで引き上げ、全身を凶器と化す切り札。
「──
パガン!
あまりの力に、蹴り足に打たれた地面が爆ぜた。
ロケット砲もかくやと言う速度で飛び出すと、そのまま魔神柱の胴に風穴が開いた。
『ア──ア"ア"ア"アーー!?』
苦悶にその巨躯を折り曲げる魔神柱。
「まだ、終わりじゃねえぞ?」
再び、地面を蹴り飛び上がったバーサーカー。
その身は遥か上空に飛び出し、何もない宙空を蹴った。
否。
宙空に展開したルーン魔術の光の板。
それを足場に四方八方から超高速の、魔槍を身体中から生やした英霊砲弾が魔神柱を穿つ、穿つ、穿つ、穿つ!
みるまに削られ、再生すら追いつかずに形を変えて行く。
『馬鹿な!バカナ!コノ、我ガ…魔神、バルバトスがァ、一方的に、蹂躙されるナド、アリエナイぃーーーー!!』
「もっとだ、もっと嘆け!バルバトスゥ!!」
甲高い笑い声を上げながら、抉り続けるバーサーカー、その眼は正に狂気に充ち満ちて。
魔神柱バルバトス。
その十字の光彩を持つ無数の瞳に。
ハッキリとした恐怖が映る。
『や、ヤメろ、ヤメろ!ヤメロぉ!』
「残念だが、貴様に人権は、無ぇんだよ!」
ブシャァ!
一際大きく斬り裂かれ、呪泥が吹き出す。
『ぁ、お、ノ、れ、ぇ──貴様ら、ソウカ…思い出したノダナ…あの、煉獄の様な戦いの日々をぉっ…なればこそ!貴様らは──全てを知るが故に全てを嘆くのだ……『焼却式 バルバトス』──燃え尽キよッ!!』
複数の眼から、一斉に爆光が放たれ、爆ぜた。
だが。
「ふぁふぁ、その力はもう見たぞい…出力が上がろうと仕組みを理解したならば防ぐにも容易なものよ…邪悪よ、失せよ──!」
老人が杖を振る。
複数のルーン光が閃き、爆光を9割方飲み込み、消しとばす。
『な、ニイ!?』
そして。
ミチミチと筋繊維を千切る音を立てながら。
槍を、構え。
「
投げた。
──
空中で数千の光に別れた槍は。
魔神柱、バルバトスの身体を余すところなく抉り砕いて行く。
『あ、あ、あ、我が、我がああ!!』
その声が。
『滅ぶなど、あり得ぬ、ならぬ、死んでなるものかあああ、生きて、生きて──ユ◼︎◼︎◼︎ー◼︎ァあああぁーー!!』
人であった、マキリ・ゾォルケンのモノに戻る。
それを断末魔に。
魔神柱、バルバトスは完膚なきまでに消滅した。
「…ふ、ぅ…流石にこれ程の呪泥を吐き散らされるとキツイものだな…だが、街への流出は防いだし…大半はバーサーカーが槍の力で削ぎ殺してくれた、これで、終わりだ。」
「うん、今度こそバルバトスを倒し切った、んだよね?」
「は、あれで再生なんざ不可能だ…槍の呪いで確実に殺し尽くしたからな。」
流石はクーフーリンの「ゲイボルク」と言うところだろう。
「これが…今代の聖杯戦争のサーヴァント…なんという力だ…英雄王にすら並ぶのではない、か…?」
今迄黙していたロードエルメロイII世があんぐりと口を開けて、そう呟いた。
ああ、流石に疲れた。
ぐら、と。
視界が揺らぐ。
「あとは、任せた…。」
ああ、俺は。
あの頃望んだ、人を護る者に…
正義の味方…いや。
大事な人を護る守護者に、なれただろうか?
どさり、と身体が地面に落ちた後に霊体化する。
朔弥と凛が心配する声を最後に、この身は英霊だというのに。
…私の意識は、途切れた。
【後書き的なもの】
はい、皆様おはようございます、こんにちは、或いはこんばんは。
ライダー/ギルスです。
まあた新キャラとか懲りない私です。
ぶるあぁー!(新キャラ脳内CV:若本規夫
さておき。
…今回はまあ、とにかく派手に。
宝具の大盤振る舞い。
やっと出番のありましたクリードコインヘン。
かっこよく描写できたかな?
書いていて楽しいバトル回でした。
それでは皆さま…また次回更新にてお会いしましょう!!
…もっとだ…もっと(素材を)寄越せ…バルバトス!!(血涙
また討伐戦起きないかな…だめっすか、はい。
さーせん。←←
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第38話『眩き黄金』
月よりの旅路。
少女は、再び黄金に出会う。
はくのん、やっと参戦!!
「…あれ。」
岸波白野。
緩くウェーブのかかった肩甲骨辺りまで伸びた薄明るい茶髪、それなりに出るところも出てくびれも有る身体。
何処にでもいる、平凡な女子高生。
私は無個性で、特に目立たず、いつもクラスで三番目くらいにいた。
秀ですぎず、馬鹿でもなく。
ただ、埋没している。
だと、言うのに。
何故か努力しなくちゃいけない様な焦燥感にかられて、気がついたら努力している。
どうでもいい筈なのに。
世界も、自分も、強いて言えば気に入った人を見て…その人達がしあわせならそれでいい。
私の心は。
未だに不完全だ。
何かが、足りない。
欠けているのだ、大切な、大切な何かが。
月明かりが見える、仄明るい夜に。
何故か急に目が、覚めた。
時刻は、遅いとも早いとも言えない時刻。
夜には違いないし、うら若い女性が外に出る様な時間では、決してない。
「……なんで、かな…呼ばれてる様な、そんな気がする……。」
不思議とそれは、確信があった。
確かに、誰かが私を呼んでいる。
「…待ってて、今、行くから。」
ぎゅう、と握りしめた手の甲には、消えかけた痣。
手早く制服に着替えて上からダッフルコートを羽織る。
「誰が、居るのかな──。」
赤い背中。
青い和装。
燃える剣。
──燦然と輝く、黄金。
それらが脳裏をほんの一瞬だけ過り、消えた。
ああ、私は今から、運命に出会うんだ。
何故か、嘘偽りなく私は。
そう、確信して自宅の玄関を出た──。
=
「…おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ、おの、れ────っ!!」
呪詛を吐き出すかの様に怒鳴り散らす英雄王、その怒声に合わせる様に飛び交う剣、槍、斧。
「うわははははははっ、悔しいかね、悔しいかね英雄王っ!?」
ナインが腕を振るう度に宝具が掴まれ、砕かれて行く。
既に言峰は虫の息だ、もはや助かりはしないだろう。
このままでは魔力不足と、あの黒い触腕に翻弄された挙句に──負ける。
それがわかる程度にはギルガメッシュは馬鹿ではなかったし、言峰がやられた時点で慢心も無かった。
にも、関わらず。
人類最古、最強の英霊の力を目の前の黒人は易々といなして見せた。
「悲しいなあ、英雄王…最初から全力で抗えば…まだしも勝ち目があったろうにな、今回の聖杯戦争…私を殺し得るモノが複数居る──貴様まもまた、可能性はあったのだが!」
人間。
ただの人間が、英霊相手になんと不遜な事か。
本来ならば人間が英霊にスペックで上回る事は不可能に近い。
ごく稀な特殊例を除けば…命懸けで漸く傷つけ、或いは滅する「可能性」を持てる程度。
が、この男の言葉は真逆。
全くおかしな物言いなのだ、普通ならば。
「貴様、一体…“何” だ?」
「言峰が言ったろう…私は第九秘蹟会…九人の筆頭騎士が一人──第九鞘、ナァイんん…だ、とも。」
会話の最中も触腕はギルガメッシュを捉えようと蠢くが、複数の銀の円盤が雷鳴を鳴らしながらそれを阻んだ。
この力、アンリ・マユに近しい、だが…
違う。
原初の泥…ケイオスタイドを煮詰めて固めたかの様な凶悪なまでの混沌の力。
此れ程の狂気に等しい力を人間が?
あり得ない。
「…図に、乗るな!!」
先ほどから真正面からの宝具射出を繰り返していたギルガメッシュ。
しかし、唐突にナインの周囲を囲む様にして宝具が射出された。
「ぬぅ!?」
緩急を変えた一撃に一瞬、対処が遅れる。
とは言え、難無く迫る宝具群を叩き落としたナインが見たのは、光学、魔力迷彩宝具──ハデスの隠れ兜で姿を消すギルガメッシュだった。
「──この、屈辱…忘れぬぞ……!」
ナインを睨みながら徐々にギルガメッシュの姿が消えていく。
追撃を仕掛けようと思えば出来ただろう。
しかし、ナインはただ鼻で笑う。
「くく、再戦を楽しみにしていますよ…精々、良いマスターを探して見てください…フワハハハハハッ!」
=
走る。
ただ、導かれる様に走った。
予感が、ある。
きっと、この先に。
私が出会うべき誰かがいる。
冬木のベッドタウン──その道を抜け、山あいに近づく途中にある冬木教会、そこへ続く道からほど近い、西洋墓地。
夜間の其処は不気味なほど静かだったが、不思議と怖くはない。
一歩、また、一歩。
近づいているのがわかる。
「…ああ、そうか、私がいつも感じていた焦燥感は──」
黄金の夢。
かつて歩んだ月の記憶。
そう──私は貴方に出会う為に。
故に、この世に生を受けたのだから。
「……ギル。」
墓石の一つに息も絶え絶えといった程で寄りかかる、常ならば決して見せない弱々しい姿。
それでも、その姿は眩く、私を照らす黄金だった。
どこまでもどこまでも──
果てなく遠いこことは違う月の裏側で。
出会った時のまま。
「はく、の──貴様なのか?」
キョトンとした顔。
珍しい。
鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔をしたギル。
レアだ。
「く、くくくく…唐突に貴様を思い出した…今この我は関わらぬ筈の貴様を──何故かと訝しんで見れば、そうか、そうか…居たのだな。」
「貴方の眼、使えばすぐわかったでしょう?」
「ハ、未来がわかりすぎてはなんの面白みも無いわ…言峰は哀れであったが…おまえが居るのであれば此度の恥も、苦痛も耐えてやろうではないか…なあ、白野。」
「ギルをいじめた奴は、何処?」
キ、と前を見据え、虚空を睨む。
「戯け、油断したばかりにこの体たらくではあるが…我を誰と心得る…王の中の王、ウルク王、ギルガメッシュであるぞ?」
「ふふ、ギルはやっぱり──そうでなきゃ。」
ああ、欠けていたパズルのピースが埋まった様な充足感。
ふわり、と。
優しい匂いがギルガメッシュの鼻腔をくすぐった。
「ふん──待って、おったか?」
「ふふ、たった、17年程しかたってないよ、ギル…おかえり。」
「──ふん、よくぞ待ち、我を見つけ出した…褒めてやろう、白野。」
ひし、と抱きしめて。
そして、ギルの顔を確かめて──
キスの一つもしてやろうか、と身構えたその時、気づいてしまった。
「あれ…あれ…ギル…腕、腕が無いよっ!?」
「騒ぐな、片手がもげた程度。」
「や、だって、腕が、痛い?大丈夫?あ、あわわわわわわっど、どど、どうしよう!?」
涙目であたふたしていると、ギルに小突かれた。
「あ痛!」
「落ち着けと言うに、戯け。」
そう言って、ギルは金の波紋に手を突っ込み、小瓶を一つ取り出し、一気に中身を飲み干した。
「ん、ぐ…相変わらず不味い霊薬だ…」
と、そんな呟きをしたかと思えば。
腕が見る間に生えた。
「う、うわ…」
正直肉が盛り上がり、腕を形成する様はキモイ。
「ふう、これで…お前を抱けるぞ白野。」
ぎゅ、と。
不意に抱きしめられた。
そのまま。
このままに…時が止まれば良いのに、なんてセンチメンタルな気持ちになった。
…私らしく無いな、コレ。
「このままお前を押し倒したい所ではあるのだがな…今は些か事情がある、とりあえず離れるとしよう。」
4次元ポケッ──もとい。
それに乗せられ、ナイトフライトと洒落込む。
「ねえ、ギル…私ね…ギルの気配を感じてただ走ってきたから…周り、見てなかったんだけどね…アレ、何かな?」
御山、円蔵山から立ち昇る光の、柱。
山裾付近で閃く爆光。
「──聖杯に、何かあった様だな。」
「えっ、聖杯、聖杯あるの!?」
「…白野、再会そうそう慌ただしい事ではあるがな──再び我と契約を交わせ。」
と、そう言ってギルが私の顔を引き寄せた。
「へ、ふぇ!?」
「アーチャー、ギルガメッシュ──これより貴様は我が主にして半身、命を分かつ者だ…簡易ではあるがココに契約を交わす──岸波白野…覚悟せよ、貴様は我の、モノだ。」
唇を強引に奪われた。
「ん、んーー!?」
「暴れるでない、コラ!」
身体の芯から溶かされてしまいそう。
「ん、んふ、は、ぁ…ちゅ、ふぁ…」
甘い痺れが、全身を侵す。
「ギル…ん、はぁ…!」
「ふ、がっつくでないわ白野。」
唇が離れ、糸を引く。
「あ、やぁ…ギル…いじ、わる。」
ス、と。
右手の中指に何かが通された。
指輪、だ。
「左はそのうちにはめてやる…今はこれで許せ。」
「にゃ、にゃ!?」
見る間に顔が熱くなる。
「令呪を封じたモノだ…しばらく身につけておけば貴様に再び令呪が宿ろう。」
「──相変わらずなんでも出てくるね、ギル…やっぱり貴方はギルえも──」
「……。」
睨まれた。
うぬぬ、解せぬ…!
だってどうみてもドラ◯もんじゃないか!
「ふ…先ほどまで屈辱に腹わたが煮える思いだったのだがな…貴様のアホヅラを見たら笑えてきたわ、ふ、ふははははははは!」
「酷っ!?」
「さて──令呪が馴染むまでは傍観するとしようか…あの痴れ者を裁くのはそれからだ…」
うやぁ…ギルが本気で切れてる…まあプライドの高いギルが片腕もがれて黙ってるわけがないよねぇ…どうしてここにいるとかいろいろ聞きたいけど、聞いたら怒りそうだなあ。
月明かりに照らされ。
闇を裂く光の柱を見下ろしながら──
何故かギルはワインを取り出し、私を膝に抱き抱えだした。
「あの…ギル?」
「なんだ。」
「──あれ、なんか大変な事が起きてない?」
「だろうな。」
「…いいの?」
「ふん、業腹だがフェイカーに、騎士王…その上あの女がいる様だ…我が出ずともあちらは構うまいよ。」
「フェイカー、無銘がいるの!?」
「…なんだ、まさか彼奴が良いのか、白野?」
──あ、拗ねた。
「なに言ってるかな、私がギル以外興味を持つわけないでしょ…それでも一度は命を救ってくれた相手だから、お礼くらいは言いたかっただけだってば。」
「…お前がそういうのであれば…今度あの赤いのには高級ハムでも送りつけておこう。」
「…お歳暮じゃないんだから…。」
…喜びそうだけど。
「白野。」
「ん?」
「──此度の聖杯戦争…一筋縄ではいかぬ…この我をして脱落の危険性があるだろう…死なずにすむ様、ゆめ、警戒を怠るなよ。」
「…ありがと、大丈夫だよ…ギルがいるんだもの、私達が負けるわけないでしょ?」
「…ふ、そうであったな…お前の戦術眼は我が眼をも超えたある種の予知の様なもの…ふふ、また、我を使いこなしてみせよ。」
「まーかせて!」
満面の笑み。
自信たっぷりの顔、できたかな?
本当は、泣き出したい。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。
大事な大事な、私の欠片。
それが、見つかったから──。
おかえり、ギル。
もう一度、心の中でそう呟き。
私は…待ち望んだ黄金に包まれ眼を、閉じた。
=
「…バゼット。」
「なんでしょう、ランサー?」
金糸の様な美しい髪を手で梳きながらランサー、フィン・マックールはマスターであるバゼットにたずねる。
「どうにも浮かない顔だね。」
「…今回の聖杯戦争…わからない事だらけです、あのバーサーカーのマスターの顔、見ましたか?」
「…いや…見ていないが?」
「あの周到な手管、覚えがあります。」
「ふむ…魔術師同士そういうこともあるだろう。」
「…いえ、そのモノは既に故人であるはずなのですよ。」
考えこみ、空を見上げる。
「第一、私にしても──、一体いつここに来たんでしたか…確かに長髪の誰かと来た様な気はしますが…あれはもっとこう…?」
「…何を言ってるんだい、君とはこの冬木で出会い、契約を結んだろう。」
それだ。
そもそもその状況からしておかしな話で。
野良サーヴァントなどあり得ない。
ましてや此れ程の大英霊が。
「く、考えれば考える程に頭に霞みがかった様に…ッ!?」
ぐわん。
大地が、揺れた。
冬木全体が振動し、夜空に光柱が伸び上がる。
「…あれは…!」
そちらに駆け出そうとした、瞬間。
ドズン!、と。
巨大な何かが空から降ってきた。
「──アーチャーを探していれば…妙な異変もあったものだ…その上探してもいないものは見つかるときたか。」
鈍色の体躯、首筋に這う、後ろに撫でつけられたうねる様な髪。
その眼は理性を宿してはいるが、何処か狂気を孕んでいるようにも感じた。
その腕は人ではないかと思ってしまうほど人形じみた美しさをした少女を抱いていた。
「…探しものでないのであれば失礼、しかし──英霊と英霊、出会ったからにはする事は決まっていよう…違うかね?」
槍を構え、ランサーがバゼットとの間に入った。
「ふん、身の程知らずね…見逃しても良かったのだけれど…そうね、夜空をセイバーに抱えられて跳ぶのも飽々していたもの…いいわ、セイバー、やってしまいなさい!」
「…了解した、イリヤ。」
「…イリヤスフィール・フォン・アインツベルン──セイバーのマスターよ、以後、お見知り置きを…ランサーと、そのマスターさん?」
「…バゼット・フラガ・マクレミッツ…ランサーのマスターだ、アインツベルン。」
「よろしくね、最もあなた方とはこれきりになってしまいそうだけど…それと。──家名だけで呼ばれるのは好きじゃないわ…」
セイバーがマスターの少女、イリヤをそっと地に降ろす。
「では、ランサー。」
「ああ、セイバー。」
ランサーの手には水を纏う魔槍、
セイバーの手には炎を纏う神剣──
互いの獲物が、切っ先を光らせる。
「「いざ!」」
跳躍は、同時。
一瞬の交差で互いに放つ一撃一撃は、刃を介してその腕に衝撃を伝える。
「ぐう、なんと重い…!」
一撃の重さが半端ではない、それはケルトの英雄達を知るフィンにしてそう思わせるだけのもの。
「…なんという上手さか…私の斬撃を枝分かれする前に止めたか。」
今の一撃で、セイバーとしては残り八の斬撃を以ってして一息に葬るつもりであったのだが。
ランサーはセイバーの膂力を。
セイバーはランサーの技術に。
互いが舌を巻く。
「さぞ、名のある大英霊と見たが…名乗りを上げられぬのが惜しい限りよな…」
「…なあに、ランサー、貴方私のセイバーの真名が知りたい?」
「ふん、此れ程の手練れ…せめて名乗りを上げたいと思うが騎士と言うものであろうよ。」
「いいわ、ヒントを上げる…セイバーはギリシャ最大最強の大英霊…それだけ聞いたら後はわかるでしょう?」
息を飲む、バゼット。
神代から受け継がれた古き家系である彼女には、その一言で十分すぎるほどに想像できた。
あの剣は、生半な宝具ではあり得ないのは一目で見てとれた、その上でギリシャ、そして彼が纏う獣皮、恐らくは獅子、…それを主としたその防具。
「…ギリシャ…獅子…炎を纏う剣…まさか、まさかそれは──マルミアドワーズ…?」
「…正解だ、この剣は銘をマルミアドワーズ──我が友、ヘパイストスが打ち鍛えし神の剣…そこまで看破したならばもう名乗りを上げて差し支えなかろう。」
「は、ははは、ならばその防具、ネメアの獅子か…正に、正にギリシャ最大の英雄よな…」
「改めて名乗りを上げよう、我が名はヘラクレス──ギリシャに生を受けた古めかしい武人…さて、後世の騎士よ…貴殿の名は教えてもらえるのかね?」
「…ああ、ああ、光栄だ、ヘラの栄光──十二の難行を成し遂げた勇者ヘラクレス…相手にとって不足なし…我は、フィオナ騎士団が長!」
「…へぇ、貴方が…」
「強く!気高く、美しき智慧者──フィン・マックールとは私の事だ!」
「自分で美しいとか恥ずかしいからやめてください…後勝手に真名を名乗らないでください、全く…」
「騎士として、応えぬわけにいくまいよ?」
…貴方にそんな矜持があったのに驚きですが。
「面白い、あの嫌な光も、アーチャーも気にはなるけど…音に聞いた赤枝の団長の槍…へし折ってあげなさい、ヘラクレス!!」
「やれるものなら、やってみるといい!」
再び構え、槍を繰り出すフィン。
それを一瞬遅れたというのに難なく捌くヘラクレス。
どちらも恐ろしい程の技術と力。
本来なら人の身に介入など、不可能。
だが、バゼットは違った。
「フッ──はぁ!!」
硬化のルーンを刻んだグローブと靴が斬り結び、飛び退いたヘラクレスに追い打ちをかける。
「ぬ!」
激しく打ちあった直後故に、まさかのマスターの乱入に対処が数瞬遅れた。
「はああああ!!」
乱打がヘラクレスの肌に叩きこまれ、僅かに脚を踏ん張り、顔が仰け反る。
──が。
「馬鹿な、無傷だと!?」
「なかなかの拳打だが…私にその程度の攻撃は意味を成さんよ、猛々しきマスターよ。」
「なっ──」
「返礼だ、受け取りたまえ!」
ボッ。
空気を裂く音と共に衝撃を受けた。
全身に響く重い衝撃。
二度の衝撃でガードがこじ開けられた。
三、四、五度目でルーンの護りが吹き飛んだ。
七、八度目で肋骨がへし折られ。
九つ目の衝撃が身体を天高く打ち上げた。
「があっ、カハ!?」
それは、軽く打ち出されただけ──剣から離れた右手の、腰すら入らない体制からの牽制程度の拳だった。
体内に治癒を施しながら、空中で身をひねり、着地する。
「──わざと見逃した、なセイバー、いいや…ヘラクレス…。」
「貴公では…私に傷一つ負わせられぬからな…わざわざ殺す意味があるか?」
悔しいがそれは事実。
あの一撃を意にも解さない防御に、あの技術、あの力。
かなう、道理がなかった。
「へぇ…セイバーの一撃をもらって生きてるだけで凄いわよ、貴女?」
「…想像以上の化け物を従えている…流石はアインツベルンということか。」
打撃に吐いた血反吐を拭い、答える。
「では、幕だ…ケルトの英雄、誇り高き騎士、フィン・マックール…もう少し刃を交えたいところだが、いささか急ぎの事情があってな。」
そう前置いた後、ヘラクレスは今迄片手で振り回していたその神剣を両手で握り、構えた。
「──火を呑め、獣を屠れ──そは、荒々しき牙、吠え、猛れ…」
刃に、恐ろしいくらいに魔力が集まって行く。
「宝具を、解放する気か!!」
フィンが慌てて、自らも槍を構え──
「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃…!」
「剛なる者──」
「その身で、味わえ…!」
『
槍に満ちた水が、全てを穿つ光となり。
『
剛剣に宿る猛々しい炎が、あらゆる邪悪を、獣を屠る斬撃と化す。
圧縮された水の槍と、超高温の炎。
それらがぶつかれば、水蒸気爆発が起こる。
熱された水は気化し。
炎により急激に気化した水の、その体積は実に1700倍にも膨張する。
爆散した水は辺りの物体を薙ぎ倒し、その高熱は人の肺腑を焼く。
「──!!」
慌ててルーンによる護りを展開。
(これでは…、あれを使えない!)
本来ならばセイバーの宝具開帳は絶好のチャンスだったのだが、これでは切り札を切ることも叶わない。
「ぬ、うううーー!!」
「おおぉーー!!」
炎と水は、未だせめぎあいを続けている。
大量の水蒸気が晴れた時。
両者は共に立っていた。
但し、フィンは満身創痍。
護りを抜けた熱波に焼かれた肌は灼け爛れ、その美貌が損なわれている。
人であるならショック死しているであろう重度の全身火傷だ。
対するヘラクレスは、無傷。
先にこちらの拳を防いだ護りは威力を削がれた
「く、くく化け物、め…我が神霊を穿つ一撃を…完封してのけるかよ。」
「相性も悪かったな、フィン・マックール…火と水では、威力を発揮しきれまい。」
「…だが、我が槍は…折れてはいないぞ大英雄…!!」
灼け爛れ、掠れた声を張り上げるランサー。
「ふ、マルミアドワーズを受けて立っているだけで貴様は十分すぎるほど強い。」
ならば、それを蹂躙する貴様は一体なんだと言うのか。
「は、はははは、は!」
一声笑い、そして焼けて白く濁った眼で睨む。
なんとか自己修復し、視界が戻ってきた。
「正真正銘、我が最後の一撃…受けよ!」
振り絞り、抉りこむ槍の一刺し。
「疾い、が、哀しいかな…刺突では…読み易すぎる。」
僅かに身体をずらし、その刺突を躱し。
マルミアドワーズが閃いた。
「終わりだ、フィオナの長よ。」
ナインライヴズ。
ヘラクレスのその究極の武技が形を成した、獲物次第で形を変える概念宝具。
一瞬にして放たれた九つの斬撃が、ランサー、フィン・マックールを引き裂いた。
「ランサーッ!!」
バラバラと、地に落ちたフィン「だった」モノ。
それが一瞬遅れて、金の粒子と化して消えて行く。
「……あ、ああ!」
崩れ落ち、涙を見せるバゼット。
「…いくわよ、セイバー。」
興味をなくしたとばかりにまだ蒸し暑い蒸気が纏わりつくのを嫌う様にイリヤが告げた。
「ではな…強きものよ…さらばだ…女、諦めるな…この街は、狂っている。」
「…セイバー、何を言ってるの?」
「…なんでもない、それではアーチャーを探しにいくとしようか…この惨劇…奴を殺して終われば良いのだが。」
再びイリヤを抱え上げ、跳び上がる。
後には、膝をついたバゼットが一人残されるのみであった──。
*******
──ステータス情報が更新されました。
◯
ランク:EX
種別:対獣、対神宝具
レンジ:???
最大補足:1〜???
鍛治神、ヘパイストスが鍛えた神鉄の剣。
その剣は獣を屠り、炎の如く美しい刃紋を持つ神器名剣。
今作では火属性を帯びており、対獣、「人類悪」にも特攻を発揮する。
元来通常の刃や、エクスカリバー(カリバーンであるという説もあるが)ですら傷つかない怪物をも斬り裂いた名剣で、一時はアーサー王が所有する事もあったと言われる。
真名解放時にはエクスカリバーにも匹敵する炎の帯を放出するが、ヘラクレスが使えばそれを斬撃として放つことができ、もちろんナインライヴズによる九連撃も可能。
単体を対象とした斬撃から、大軍を想定した一撃まで幅広い運用が可能な神造兵器。
鍛治神が鍛えたこの剣は、エクスカリバーをも純粋な格としては上回る。
ただし、星を護る、と言う条件下であれば、エクスカリバーに対してはその限りではない。
【後書き的なもの】
はい、皆様のお越し(閲覧)をお待ちしております、しがない二次創作家、ライダー/ギルスです。
はい、駆け足な感が否めないフィンさん退場…すまない、すまない…だがしかたないんや。
セイバーの化け物ぶりを再認識させてくれた◯リーマン的立ち位置になってすいません。
バゼットさんにはまだ役割があるので生き残りました。
最近いろいろ書きすぎて更新遅くて申し訳なし。
とりあえず忘れたわけじゃないよ更新。←
話が進んだようで進まない!
はくのん可愛いよはくのん。
うちのはくのんはギル様大好きはくのんです。
ギル様もはくのん大好きです、コトミーは犠牲になったのだ…!!
参戦予定キャラがようやくほぼ出揃いました、まあ…黒幕やらぐだおなど一部はまだアレですけど。
あとお父ちゃん(アジダハーカ)の話とかまるで置き去り感。
少しづつ進めていきますが、これ完結何話になるやら…下手したら100とか行く…?
が、頑張って書きマッス!w
ではでは、なんかビィビィちゃんの逆襲とか公式発表ありましたね…サクラファイブとか来るのか…ビーチ、なのは水着鯖?
もしくは前貼りだけとか際どいサクラファイブの為の理由付け?
いろいろ気になるFGO。
それでは、また次回更新で!
しーゆー!!
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第39話『昏き聖女』
神に見捨てられ。灼熱に巻かれ。
黒い聖女は猛りくるった。
そんな過去の己に感じいるものはあるのか。
だが、そんなことはもうどうでも良かった。
今、この時、このピュトスの中で。
神ならざる身は、神に怨嗟を告げる身なればこそ──
今、己が信ずるは神では無く。
自分でも無く。
ただ、無償の情をくれた彼らに他ならないのだから。
故に、小賢しく考える事などしない。
ああ、あんたに敵対する者を焼けば、あんたはかえってくる?
だから、邪魔するなら、焼いてやる。
「…この、魔力…魔神柱!?」
かつての時間神殿で感じた魔力。
人類史を焼き尽くさんと画策した◼︎◼︎王。
その眷属が、確かにこの山の麓に現れたのを感じる。
「…マキリ…そうか、最後の殻を脱ぎ捨てたか。」
ふ、と。
音もなく現れたのは遠坂時臣。
「…お父様…」
息も絶え絶えに、膝をついたままの桜が呻く。
「…桜、無理をしてはいけません…貴女は今、何者かの侵食を受けている…」
そう、間桐桜と言う個人は崩れる寸前だった。
幾たびも死を見た。
大切な人の断末魔を聞いた。
忘れることも出来ず。
告げることも、助けることも許されない。
ただ、見る事だけしか許されない。
「…救国の英雄、ジャンヌダルク。」
杖を突きつけ、ルーラー、ジャンヌダルクを睨みつける時臣。
「…。」
「貴様は何をせんと現界した?そのモノを護る為か、或いはクラス通りに聖杯戦争のバランサーとしてか?…半端なものよな、そ奴を護るが故に貴様はそこを動けない、役目を果たせないわけだ?」
ニヤ、と笑う。
それはやはり時臣ではなかった。
「…貴方、やっぱりお父様、じゃない…」
「……ふん、言ったであろう桜、私はお前の父であった、ものだと。」
今はもう、ベツモノだと。
『全く…魔神柱?もしくは使い魔?なんだか知らないけれど──
それは、内から響く声。
「──ま、待ちなさい…ジャンヌ!」
ジャンヌダルクが、ジャンヌを止める。
影を割って飛び出した…「黒い」ジャンヌダルクを。
「…残念、私は私に言われても止まってなんか──あげないわっ!」
「ぬっ新手のサーヴァントだと!?」
「…汝が路は──すでに途絶えた!」
黒いジャンヌが手を翳し、振り降ろす。
黒く燃え盛る鉄の杭、復讐の炎を纏う槍群が時臣に迫る。
「があ!?」
あっさりと貫かれた時臣が痙攣したかと思えばドロリ、と黒いタールの様になり大地の染みと化す。
「…何を、貴女は!」
「は、まだ姿を晒す時でないとでも?」
「…あな、たは?」
桜が呆然としたまま黒いジャンヌダルクに問う。
「私はジャンヌ、ジャンヌ・ダルク・オルタ…救国の英雄などではない…全てを怨み、呪い、焼かれて死した反英雄──
ジャンヌ・オルタが強く、嗜虐心を満たした目で桜を射抜く。
「さあ、そろそろ頃合いでしょう…動けない貴女の代わりに引っ掻き回して来てあげるわ、私。」
「…あまり無茶をしないでくださいね…本当に。」
諦めた様にため息を吐くジャンヌダルク。
ニヤ、と唇の端を吊り上げるジャンヌ・オルタ。
「見てなさいよ…黒幕気取りの三下…本当の悪とは、黒幕とはどんなものか教えてあげるわっ…あーははははははっ!」
そうしてオルタはひとしきり笑い、暴風の様に洞窟を飛び出していく。
「…貴女方は、一体…」
「…言ったでしょう、私は
くすり、となぜだか本当に嬉しそうに微笑むジャンヌダルク。
背後に護る翡翠の結晶に向けた視線は…慈愛に満ちたものだった。
「…桜、安心してください貴女もまた…私達の腕に抱かれ護られるべき…魂ですよ…この言葉は受け売り、ですけどね?」
慈愛が、確かな愛情を含んだ声音に変わる。
ああ、きっとその言葉を贈ったのはその視線の先の──
=
「…無茶をするからじゃよ。」
「…全くね、幾ら何でもあんなものを自分の心象風景の具現に取り込むとか正気の沙汰じゃないわ、幾らサーヴァントでも病むわよ…」
「…この馬鹿の自己犠牲癖は今に始まったもんでもねえからな。」
と、クー・フーリン・オルタと凛の視線が士郎に向いた。
「…ああ、確かに。」
「なんで俺を見るんだよ…」
「「そりゃ…ねえ。」」
凛と朔弥が倒れて朔弥の膝で眠るアーチャーと、士郎を交互に見やる。
「だからなんでさ!?」
「んん〜お主とそのアーチャー…ああ!」
目を細め、二人を見比べたグランドキャスターさんもまた納得する。
「だからなんなんだよ!?」
はあ、と盛大なため息をついて凛が口を開く。
「聞いてなかったの?さっき…朔弥がこの馬鹿の真名を零してたわよ…エミヤ、ってね。」
「……は、はああああ!?」
魔神柱が葬られ静寂の戻りつつある夜空に、士郎の叫びが…盛大に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…神気を辿ってきてみたはいいが何だ今のは。」
士郎が叫んでいる開けた場所から数メートル離れた木々の合間、鈍色の肌をした巨漢と、藤色のロシアンハットと白いフリルをあしらったショートラインのドレスに、肩には帽子と同じ藤色のケープを羽織った少女が先の戦いを眺めていた。
「…まさか遠坂のアーチャーが禁呪の使い手だとは思わなかったわ。」
「…ああ、私を一度殺したあの攻撃も先の固有結界の派生技能だった様だな…おそるべき使い手よ。」
「どうする、セイバー?」
「…いや、彼らの相手をしても仕方あるまい…先ほどの異形の柱と言い…やはりこの聖杯戦争は狂っている…確信したよ、此度はまともな願いなどまず叶うまい。」
「…どう言う意味よ、それは?」
返答次第では許さない、と視線にその気持ちを察したセイバーは自らの主人に跪き、答える。
「どうもこうも…先ほどの異形は明らかに英霊ですら殺す類の災厄だ、そして神霊の降臨…それもゼウスだけでは無い、あのキャスターらしき老人…あれもおそらくは神に類するモノだ。」
そう、此度はイレギュラーが多すぎる。
「…正直わけがわからないわ…」
「だろうな、今は静観するべき、かもしれぬ…一度監督役とやらに問いただしてはどうだ。」
「…あの神父、私苦手なのだけど仕方ないわね。」
今は自体の把握が急務か、と納得しその身を翻すアインツベルン主従。
…まさかそこに、恐るべき災厄が座しているとも知らずに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…ねえ、ギル。」
「なんだ、白野?」
「…本当に放置してて大丈夫なの?」
「は、構わん構わん…見ればフェイカーだけでは無くいろいろと居るようではないか…一人は気にいらぬ気配を纏うておるようだが──まあ、今は良かろう…暫しはお前との逢瀬を堪能しようではないか、ん?」
くい、と白野の顎を持ち上げて見つめる英雄王の視線に白野の顔がさあ、っと赤みを帯びる。
「ちょ、すとぷ、すとぷ!どうどう!すていすてーい!」
英雄王の頬を両手で挟み込むようにしながら慌てて顔を逸らす。
くきゃ、とか音がした気がするが気にしないでおこう、そうしよう。
「…照れ隠しにもほどがあるぞ?」
ちょっといけない角度にそらされた首をコキコキと鳴らしながら戻すギルガメッシュ。
ちなみに今は、空中に展開された彼の宝具…とある小説にも登場した有名な空中の城、その原典の一部である黄金の庭の上、やたらふわっふわのクッションを敷き詰めた場所で二人は抱き合い…いや、白野が一方的にギルガメッシュに抱き締められていた。
「ギルとイチャイチャしたくないわけ、ではないんだけどそろそろやめやがれください…私は貴方と違って人間なので!そう何度も何度も体力が持たないのですよ!?」
真っ赤に茹で上がったみたいに上気した彼女の首筋や横腹には赤い、小さな花びらの様な跡がいくつもつけられていた。
「…ふむ、まあ仕方ない。」
と、言いながら片手に持っていたピンク色の小瓶が黄金の波紋の中へと投げ入れられた。
「…ギル、今のナニ?」
「媚薬だが?」
「ニャ〜〜〜〜/////!?」
スザザ!
と、白野が飛び退く様に後退した。
「…その反応はいささか傷つくのだが?」
「やかましい!さっきあれだけ、あれ…だけ…うにゃああああ!?」
ジャラララ!
と、鎖が波紋の中から伸び、白野を拘束し、引き戻す。
すぽん、とギルガメッシュの胸に収められた白野は観念したかの様に大人しくなった。
「…うう〜、再会数時間でどんだけさ!ケダモノ!ビースト!?」
「ふはははは、我は人類悪にはならんから安心しろ!」
「意味わかんない!?」
王様は絶賛ストレス解消中でした、まる。
え?生贄にされた私はどうなるって?
…ナレーションに突っ込むなよう。
まあ、人間諦めが肝心ですよ、リア充モゲロ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
山道を走り抜ける。
元々農家の出であった彼女は生前から荒地を走り回るのも大して苦にはならなかった。
「…この気配…大空洞内部にあった気配とはまた別の…」
街中へと降りた彼女の足は自然と元来ルーラーであった時の感覚を頼りに、今は薄れたそれを絞るようにして感じ取る。
「…こちら、かしら…」
やがて見えてきたのは一台の車。
新都側から橋を越え、住宅街へと入り込んできたワゴン車をとらえた。
確かに、その車から感じるのは巨大な力。
「…先手必勝!」
地についた手が、暗赤色の輝きを放つ。
アスファルトを透過し、伝わった熱が形を成し、土砂を伴いながら車の直下から噴き上がった。
「あははは、脆いわね!」
ドガン!
ワゴン車はその勢いに負けて横転し、地面を横滑りしながらガードレールに激突してようやく停止する。
「…あら、確かに貫いた筈なんだけど…無事みたいね、おかしな話だわ。」
ワゴン車を突き上げた一撃は、先の時臣を貫いたのと同じ黒い槍。
炎熱を纏うそれが確かに貫いたと思ったが、ワゴン車は横転したもののその車体は無事である。
「…なんと手荒い歓迎か…しかしワシは気の強いおなごも嫌いでは無いがな。」
シュン、と霊体化を解いて現れたのはグランドアーチャー、ゼウス。
ワゴンからはなんとかドアを開いて二人の男女が這い出してきた。
「あいたた、確かに荒い歓迎だね…」
「…下からだなんて…しかも不意打ちですか…全く、
頭を左右に振り、そう呟く切嗣とエレイン。
「…私、貴女に会ったことあったかしら…?」
「…この姿ではわからないでしょうけれど…会ってはいますよ。」
不意に睨み合う女性二人。
「…まあいいわ、貴女は今私の敵ではあるのでしょうし…あんな汚らしい存在にいいようにされている時点で…ね!」
踏み込み、エレインに突進するジャンヌ・オルタ。
「…ワシを忘れとらんかお嬢さん!」
横合いからまさに雷速で迫るゼウス。
「なっ、早っ!?」
バチ!、と火花を散らして炎と雷が弾け合う。
一瞬にして後退を余儀なくされたジャンヌ・オルタ。
「…楽しませてくれそうね…おじさま?」
暗い炎がジャンヌ・オルタの足元から噴き上がる。
「…マスター、ワシ…あの手のおなごはちょっと苦手かもしれん…あやつを思い出すんじゃが…逃げたら怒るか?」
自分の妻を思い出したのか微かに震えを覚えるゼウス。
「当たり前ですちょっとお灸を据えて上げなさい、多少セクハラしても許します、あのダーク聖女にだけは。」
「…ちょっとあなた、なんだかわからないけどそれ、明らかな私怨よね!?絶対!」
意味もわからないながら何かを感じたジャンヌ・オルタが叫ぶ。
「……承知した、マイマスター!!!」
このゼウス、先程の気後れなど無かったかのような…満面の笑みである。
【あとがき的なもの】
はい、この作品では久しぶりで御座います、皆様の心の影に忍び寄る…這い寄る物書き。
ライダー/ギルスです。
いや、いろいろ手を出し過ぎて停滞して申し訳ないです。
しかしながらちゃんと書いてますから…見捨てないでね?(キャロン!、とつぶらな目)
朔弥「キモイ。」
筆者を前に随分な言い草!
朔弥「キモイ。」
…心の中でスパさんが目覚めたらいやだから冷たすぎるその目はやめろ。
朔弥「まあ、とりあえず久しぶりの復帰ですね…エターナってないかとヒヤヒヤしたわ。」
士郎「…実際危うかったんじゃないか?」
オルク「…こいつ一丁前にスランプだったのか?」
そんな大層なものではなくて、単に忙しかったり浮気していろいろな作品書いていたからなだけかなあ…w
とりあえず、ごめんなさい、そしてまたゆるゆる書いていきますから!
次回まで…しーゆーあげーん!!
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第40話『
月は満ち、欠け、やがて真円/深淵を描き、再び巡る。
輪廻/回帰/希望/絶望…
廻る廻る、セカイは、マワル。
「聖杯、聖杯さえ手に入れれば──全ては救われるんだろ…だから!桜を放せよ、
赤毛の少年が、私を見つめる。
切迫した表情で。
だが、それは私を求めてでは無い。
無償の奉仕。
かの者の本質はまさにそれだ。
「…生まれてこの方…人が、私を見て私を無視した事などありませんでした。男はもとより、女も、すでに枯れ果てた老骨でさえも私を見れば虜になった、そして何も考えられないヒトガタと化した…貴方は、何ですか?何者です、神の眷属ですか?」
虚ろな目で、腕の中で浅く呼吸をする桜。
意識も半ば無く、この会話自体聞いているかも怪しい状態だ。
「…何を言っているかわからない、俺は俺だ、衛宮士郎──人間だ!」
「…馬鹿な、ありえません、ありえません、ありえません、ありえません、ありえませんっ、ありえません!」
誰もが美しいと褒め称えた黒髪が揺れる。
「今更!私に、希望など持たせないで!神様!」
細く、しなやかな。
誰もが白磁の如く美しいと褒め称えた指が赤毛の少年に向いた。
「何を言ってる、君はもう手に入れただろう、聖杯を──それを用いて全てを救うんじゃなかったのか!そう言ったからこそ、俺も、セイバーも…受け入れたんじゃ無いか、全てを救うと言ったからこそ!!」
足らない。
全て叶えるのであれば、まだ足らぬ。
だから、この極小の可能性すらもワタシハ、欲した。
「…士郎、いけません…もはや彼女は正気では無いっ!」
金髪の、可愛らしい少女。
だがその手には似合わぬ黄金の剣。
息も絶え絶えに、しかし流れる血を厭わず、彼女は士郎と呼ばれた赤毛の少年の前に出た。
セイバークラスの耐魔力でならば耐えうると思ったのか。
──愚か。
「──絶望よ、此処に。」
白い、指先に集まった黒い靄(もや)。
それが錐の様に尖り、打ち出された。
「…ガッ!ば、馬鹿な…耐魔力が、まるで働かない…?」
銀の鎧を貫き、少女の胸に風穴が開いた。
同時に──背後に庇われていた少年の腹にも。
「…あ?」
「…あ、ぁああぁ──先輩、先輩!先輩ィ!」
意識を殆ど失いかけていた桜が、火がついたみたいに叫びはじめた。
ああ、これは夢。
ほんの少し前に見た、今とは違う筋道に見た、泡沫。
「──そう、貴方は…そうでした、聞いていた、そうだ、士郎、士郎と言うのですね…セイバー、貴女にこのマスターは…勿体無い、余りに、過分──」
己が口角が釣り上がるのを意識する。
アア、ワタシハ、嗤ッテ、イル────。
=
街灯が明滅し、辺りがチカチカと照らされては薄暗くなるのを繰り返す。
戦闘の余波か、辺りの電子機器が狂いを生じさせていた。
「ハ、貴方みたいな輩が黒幕、あり得る話ね、その神気、後ろにいる胡散臭いスーツの如何にもな女誑し、果ては私を貶す悪女と来た…決定、貴方達が敵ね、そうに違いないわ!」
黒い聖女様は絶好調。
一人テンション高めに叫んでいた。
「いやいや、お主ちょっと極端じゃろ、少しは考える努力をじゃな?」
ゼウスがわずかばかり呆れて返し、後ろにいる切嗣がお、女誑し…となんだか顔をしかめていた。
「…はあ、脳筋此処に極まれりですね。」
エレインも呆れた顔。
しかしゼウスは仕切り直しとばかりに頭をガシガシ掻いた後に口を開いた。
「まあよいわ、良い女には違いあるまい、行くぞ性女とやら!ふはははー今夜はハッスルじゃあ!!!」
……端的言ってにこの非常時にそんな時間は無い筈なのだが、当のゼウスはすっかりヤる気である。それに「せい」の字が違うだろ。
「…キモッ!このヒゲ…黒髭とはまた違うキモさを感じるわ、燃えてしまえっ!!」
ゴウ!と放たれた炎は赤から青に。
高温のそれがまるでアイスの様にゼウスが立っていた場所を溶かし、円形範囲のアスファルトが一瞬に蒸発した。
「うははは!ヨイヨイ、抗ってこそ乗りこなし甲斐があると言うものぞ、ワシはライダーでもヤっていけそうじゃな!」
「
旗を振りかぶり、炎を放ちつつ即座に突進。
勢いのままに突きを繰り出し、敵の胴を狙う。
「は、見え透いた狙いじゃな!」
雷速一閃、素早く回り込んだゼウスがジャンヌオルタの背後から雷光を放つ。
「…っ!」
かろうじてそれを躱すが体制が大きく崩される。
そこへ滑り込んだゼウスの手が、するりとジャンヌオルタの胸へと伸びた。
「うははっ良い触り心地じゃ、役得役得!」
もにゅもにゅと、如何にも手慣れた手つきでジャンヌオルタの豊満な胸を円を描くように揉みしだき出す
「ひゃ…っどこ触ってんのよこのっ!!」
慌てて身を捻り、地べたを転げながらも炎を操るジャンヌ。
それはゼウスの回避を見越しての連撃。
「ほ、甘いあま──うひゃっほい!?」
躱した場所に再び炎が上がり、慌てて飛び退くゼウスだが、その髭にわずかに火の粉が燃え移った。
「あぢゃぢゃぢゃっひっ、髭に火が!?」
バンバンと叩きながら火を消すゼウスを脇目に立ち上がり、旗を構えるジャンヌオルタ。
薄い笑顔を貼り付けながら。
「う、うふふ…あの馬鹿以外に許す気なんかなかった私の──を、ブチ殺す…、
──その眼は、全く笑っていなかった。
全く、ほとほと雌虎の尾を踏むのが得意な神である。
…ところで、この真っ黒聖女にネットスラング教えた馬鹿は誰だ?
…などと、無益なことを考えているエレインだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、遠坂のアーチャーこそ戦闘不能だが…なんとかあの化け物は退けた、残るは大空洞内部の本命だけ、か?」
「いや、まだ他のサーヴァントも残ってやがるからな…事情を知らない奴らからすれば俺達がやろうとしていることは間違いなく障害以外の何者でもねえだろ。」
「ええ、まだ問題は山積みよ。」
士郎の言葉に、クー・フーリン・オルタが答え、確かに。とメディアとキャスターも同意する、いやグランドキャスターだと本人は名乗っていた…ややこしいので今後はメディアはメディア、グランドキャスターの方をクラスで呼ぶ方が良いだろうか。
最早、聖杯戦争として真名を隠して戦う意味合いも薄くなって来た気もするし。
「…ねえ、キャスター…いいえ、グランドキャスターさん?貴方がグランドクラスだと言うなら千里眼である程度事情は把握しているんじゃないの?」
「…ふふふ、ああ、そうじゃな、エインヘリヤルの乙女よ。」
「エイン…?」
「エインヘリヤル、北欧神話にある死後、戦乙女に導かれた勇者が集う神の神殿よ──それを語るという事は…貴方は北欧所縁の英霊?でも北欧神話にキャスター適性のある英霊ってそんなに多くは…むしろ殆どがセイバーやランサー、バーサーカーじゃ?」
そう、北欧神話に語られる英雄の殆どは剣、槍、弓、斧などを獲物としており、恐れを知らぬ勇猛果敢な戦士ばかり。
故に壮絶な死を迎えたものも多く、バーサーカー適性のある者も数多い。
女性ならばキャスターに見合うものも幾らか居た気はするが…男性となれば稀有だろう。
「まあ、ワシについては後で良かろう。なんにせよ時はあまり無い、早急に事態を収拾せねばこの世界事態が危いのでな。」
「…なんとなく想像はして居たけれど…彼処に巣食うのは…神にも等しい力を持っている何か、なのね。」
「そうじゃなあ…なんの因果かそのような力を持ってしまったようじゃがな。」
元々はそうではないのだ、と言下に告げるような言い回し。
「…それが何なのか貴方は理解しているのですか?」
メディアが、どこか敬意すら含む口調で問い返す。
「…推測でしかないがな、まあ一番理解しているのは先ほどから街中でドンパチを始めたグランドアーチャーのクソジジイじゃな。」
「グランドアーチャー…って、何人グランドクラスが現界してるのよ、どんなインフレよ!?」
凛がキレ気味に叫びだした、無理もない。
「…驚かないんじゃなかったのかよ、遠坂。」
いまいち理解していない士郎が呑気につっこむと、凛は更にヒートアップした。
「やかましいっ、こちとらありえない事だらけで常識が家出中よ、もうっ!」
「あいたっ!事あるごとに俺を殴るのやめろよな!?」
「…仲良しさんだねえ…」
「…お前が言うか?」
…倒れたエミヤを膝枕しながら言う朔弥の姿には説得力のかけらも無かった。
「…正直話についていけないのだが、私はどうしたら良いと思う?」
と、忘れ去られていたように黙っていたロードエルメロイ二世が、同じく黙っておすわりしている二匹の狼に尋ねた。
「「…アォン?」」
同時に首をかしげる二匹が妙に可愛かったたかなんとか。
「…ライダー…お前がいたらなあ…」
見上げた月は怪しく紅い光を、湛えていた。
長らく更新できていませんでした。
とりあえずこれでストックは無くなりますが、もう少し話を纏めたい今日この頃。
ああ、文才が欲しい。
私にアンデルセンください。
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第41話『 「 」 』
数多の魔術師が求めたモノ。
数多の人が識らず触れるモノ。
それは、原初の光なれば。
それは、終の闇なれば。
──普遍的無意識。
或いはアカシックレコード。
創作の世界では手垢のついた表現ではあるが、事実それに類するものは絶対の法則、神如き何者かの意思であるとすら言える。
それはこの世界に於いてはこう呼ばれる。
「根源」或いは「 」。
魔術師の目指す最終目的であり、且つ魔術師はまずこれについてこう習う。
「 」を目指せ。
されど
「 」は人にはたどり着けない。
なんたる矛盾。
なんたる無意味。
しかし、逆しまに考えるならば。
それは、
ただ、それに尽きる。
ならば、人を逸脱すれば良い。
宝石の翁、万華鏡の様に死徒になるか?
否、半端な死徒になってしまえばあらゆる意味で存在が格落ちしてしまう。
万華鏡は遥かに高みにいるからこそそこに至った、前提から違う。
それに、他者に寄りかかって世界の枠組みから外れた者が、世界の理を変えられる道理もない。
元来私は半ばとは言え人から外れていたのだから。なれば、至るために我が身を捧げるか?
否。
それでは見届けることができぬ。
ならば。
創れば良いのだ。
我が身、我が魂、我が力を継いだ私を超えた人形を。
「…そうだ、貴様が望むままにすれば良い…力を貸そうではないか、私が。」
黒い
いつの間にやら私が創り上げた結界を音もなく踏み越えてこの工房の最深部にたどり着いたその異端者、三日月のように裂けた微笑みを浮かべ、舐める様にこちらを見下すその視線。
「ああ、悪いがこの工房の魔術的な結界は少々乱暴に扱ってしまった、いぃやぁ、参った参った、まぁさか私が手ぇずぅから引き千切る羽目になろうとは、流石は神代に近い古代から生きた者なだけはある。」
「……神の下僕が何用か。」
「信心せぬ輩には罰が下るぞ
「心にもないことをよくほざく。」
「──私ほど敬虔な神の使徒は居らぬとも。」
確かに、この男の眼は狂気さえ伴う盲信した者にも見える。だが。
致命的に何やらズレている様に思えてならないのだ。
「…ふん、貴様が敬虔かどうかなどどうでも良い事だ、まして私が基督教の神に迎合すると思うか?」
「…いぃや?思わんね。」
殊更に理解ができない。
そう答えながら彼はまだ私に何かを見出している様子だが、こちらからすればこの様に芯がない癖に変容を良しとせず、あからさまな程に全てが己が思惑通りに進むと信じきった眼。
「ならば失せるがいい、私としてもなんの得もないと言うのに貴様の様な化け物を相手にする気もない。」
「…それはそれは、だぁが!だがっ、しかし!お前はいずれ識る。いかに貴様が竜に連なる先祖返りであろうと、神代の魔術を体得しているとしても!たった一人、孤独な貴様には何一つなし得ないと…いや?気づいているのだろうぅ、気づいたからこそ…今更に、今の今まで考えもしなかった行為に手を!染めっ…」
バシャ!
水音と共に首が落ちた。
苛立ちとともに放った不可視の刃が法衣の男の頭蓋を宙に飛ばす。
それが落ちた先には水槽があった。
二人の子供が薬液に浸された、透明な
「…け、けひひひ!図星かね、
「黙れ、
長く伸びた爪が、紅い鱗に覆われた半竜の足が見える。
それが、瞽の狂信者を踏み砕いた。
たまたま、その位置にあった水槽に映る我が姿。端が擦り切れた魔獣の皮でできたローブ。
そこからはみ出した半人半竜の脚。
顔は齢を重ねた年経てなお厳つい皺が。
紅白入り混じる、肩甲骨辺りまで伸びた髪と、胸元まで伸びた髪と色彩を同じにした髭。
数多の排斥と絶望を受けてなお諦めきれぬ愚かな願いを抱いたその決意の証。
金の瞳を怒りと、憐憫と、悲しみと愛憎に染める己が身を見やる。
「…なんとも、浅ましい貌だ。」
血に汚れた足下を見れば、断たれてなお嗤っていたそれは既に消えていた。
「──ああ。やはり…ワシは醜いか?」
その問いに答える者は、居なかった。
──────────────
「これは…なんだ?」
円蔵山、柳洞寺大空洞──本寺建立の際に既にあった天然の洞穴。
約200年の昔にそこに設置された巨大な魔法陣…アインツベルンの悲願、第三魔法を再現するための器、始まりの回路。
『大聖杯。』
「──これが大聖杯、アインツベルンの誇る大魔術式よ…けれど、おかしいわ。」
「うむ…これは最早高々魔術式には到底見えぬ代物よ…イリヤよ、此度はここまでにして引いた方が良い…」
「何を気弱なことを言ってるの、セイバー、ギリシャ最強の英雄が──」
ぱち、ぱち、ぱち。
両手を打ち合わせる、控えめな拍手。
そこに立つのは黒い法衣に身を包んだ長身の男。
「おや、おや、おや、敗退したが故にその理性を取り戻し、剣の英雄として現界した大英雄様ではないか、ふ、ふはは!」
「……貴様は、そうか……」
「気づいたかね、気づいたのかね?そう、そうともさ…狂化を持ったままのシャドウなど相手にもならなかったな、セイバー。」
「…なんなのあなた?」
「は、はははイリヤスフィール、イリヤスフィール!貴女は私、私は貴女だよ!いや、あえて今、この姿の私の名を語るとすれば…ただ、こう呼びたまえ…
「イリヤ、とりあえず殺すが構わんか?」
「やっちゃいなさい、セイバー!!」
「──応!!」
一瞬、膝がたわんだかと思えば、次の瞬間にはドンッと音を残してその鈍色の巨躯が跳んでいた。
「は、流石に早い!」
笑いながらも手を振ったナインの影から伸びたのは闇の触腕。
「虚数魔術…っ!?」
その状態に気づいたイリヤが叫び、セイバーに回避を促す。
「セイバー、それに触れてはだめ!」
1を0に還す。
稀なる魔術属性、虚数。
それはおよそ真っ当な人間に使えるものではなく、素養を持つものはごく僅か。
しかも、アレは不味い、あの虚数の内包する魔力は、私に匹敵する…!
そう感じたイリヤは即座に反応し、魔術を飛ばしてナインを牽制する、が。
「ははは、針金細工かね、他愛無いな!」
腕の一振りで渾身の魔術は無効化され、地に堕ちる。
「やっぱり、あいつ…魔力を喰ってる!」
魔力を喰らい、とりこむ。
その性質にしてあの力量は不味い。
恐らく使い方次第でサーヴァントの霊体すら貫通、切断せしめる魔技だ。
「…人の域を超えているな、ナインとやら!」
ヘラクレスがその手に顕現した炎剣を振るえば、九つの斬撃が火の粉を散らしながら影の触腕を断ち切っていく、が、敵もさる者。
触腕は数を増してヘラクレスを四方から追い詰めようと包囲を狙いう。
「は、はは!貴様こそ…流石ギリシャの大英雄、この私をして動きが、把握しきれぬとは、化け物め!!」
「…人の身で英霊の動きについて来る貴様が言うか…最早呆れるな。」
しかしそこはギリシャ最強。
数々の武勇を残した偉業は伊達では無い。
「──ッ、オォ!!」
彼が着込んだ獅子の毛皮、其れが姿を変えて鎖に繋がれた獅子の顔を象った。
ガチィン!と音を立てて触腕を噛み、止める。
「は!触れたな、ヘラクレスゥ!!」
「…我が名を知りながら我が宝具には疎いと見える、故、狂者たる私を操りながら敗北するのだ…人間!!」
触腕は触れた。
ヘラクレスの纏うネメアの獅子に。
虚数魔術の特性上、魔力さえ潤沢であるならばサーヴァントすら崩壊するのが真理である、が。
「…何?何故崩れぬ、いかな宝具とて魔力で編まれているならば崩壊せぬはずが…」
「やはり、そう思いこんでいたか…戯けめ…この獅子は
そう、人であれば引き裂き、耐えても魔力を吸い尽くす。
しかし、神獣。
かの獅子は神獣なのだ。
神秘の塊でありながら生きた存在。
その纏う魔力は計り知れず。
その四肢が生み出す膂力もまた天井知らず。
「第一拘束解放…枷は外れたぞ、ネメアよ、さあ…叫べッ、
ヘラクレスの胸で獅子が啼いた。
その咆哮は空間を伝播し、周囲に見える己が敵──この場合は触腕のみを音の波が震え砕く。
「なっ、私の…無貌の腕がッ!?」
ねじ切れるように砕かれていく触腕。
そしてその一瞬の動揺はヘラクレスにとって十分すぎる隙だった。
「終わりだ、人間──」
肉を斬り裂く音が大空洞に、響いた。
──────────────
「おるくー。おーるくー…ば〜さ〜かぁ〜。」
「…んだ、情け無い声出すんじゃねえよ
「エミヤんが目覚まさない…」
と、涙目で訴えて来るマスター。
…正直うざったい、と適当な対応をするクーフーリン・オルタ。
「あ?知るか、そりゃアレだけやりゃ疲弊するだろう、暫くすりゃ復活するからそこらに放り投げとけ、だいたい今のそいつは他所のマスターのサーヴァントだろうが。」
「だってエミヤんだよ!?」
「だから知るかよっ!?」
などと戯れていたら冷たい視線がこちらに向いた。
「……ねえ朔弥…それ、ウチのアーチャーなんですけど…ねえってば。」
「エミヤんはあげないよ!?」
「だからウチのアーチャーなんですけどっ話聞いてよこのスゥイーツ脳!?」
御三家の一角がご立腹だった。
さもありなん。
「…しかし聞くだに壮大な話だな…グランドオーダー?…レメゲトンの七十二柱の魔神だと?」
「ええ。信じられないでしょうが事実よ。そしてこの特異点の元凶は…多くの英霊を擁し二度にわたりビーストを討ち、人理を救済したカルデアさえも壊滅寸前に追い込んだ。」
メディアから事情を聞いたロードエルメロイ二世が呟き、メディアが補足する。
「しかしおかしくはないか…何故それほどの存在が冬木に唐突に現れた?」
「…唐突ではないわ、カルデアの事前の観測によれば1999年にはその前兆は確認されている…だからこそこうして今、この2004年の冬木に我々が送り込まれたの。」
「それだけでは無い、お前さんがたは知覚できていないかまだ体験しておらんようじゃがそこな小僧とその騎士…いやアサシン?…他にもおるが…この閉じたピュトスの中で繰り返し聖杯戦争に駆り出されとるぞ?」
「…そう!それですよ、おじいさ…い、いやグランドキャスター!貴方がかけた呪いとやらで私は見たんだ…幾度も夜が、昼が、瞬時に明けては沈む…異様な光景を…っ!」
「ちょっと待って…今あなた、ピュトスと、言ったかしら?」
「…おっと口が滑ってしもうたな…」
「やっぱりあなた、黒幕を知ってるわね?グランドアーチャーの方が良く知っているとか言っていたけれどあなたも十分に知っているのではなくて?」
「…お主には今の一言でわかったやもしれぬがな、今はまだ伏せておけ。」
「何故!」
「ここは奴の腹のなかに等しい…今はまだ微睡んでおるが、もし奴の真名なぞ口にしてみよ、やっこさん飛び起きてしまうぞ?」
「…そう、今は寝た子を起こす時では無いというのね?」
「寝た子と言うより眠れる厄災とも言えるがな…なんにせよそう言うことじゃ。」
あごひげを撫で付けながら答えるグランドキャスター。
目頭を抑えて天を仰ぐメディア。
「あは、あはは…洒落にならない…もし予測通りの相手ならカルデアが情報不足で壊滅寸前に追い込まれりわけだわよ!」
「……そんなにヤバイ相手な訳?」
「ええ、今はまだ明かせませんが…下手な破壊神よりある意味で厄介極まりない相手だとだけ言っておくわ…。」
神代の魔術師たる彼女がこうまで畏れる相手。
一筋縄ではいかないだろうなあ、と…
───────────────────
その頃のはくのん。
上空高く浮かぶ黄金の船。
そこには黄金の王と、不屈の契約者が居た。
「あっ、ちょっ、ぎる!」
「なんだ、はくの?」
「……だからっ、本当にいいの、こんな?」
先ほどから感じる大きな不安。
あの戦いの最中身についた獣じみた第六感がこの地が危険極まりないと告げていた。
「…我に今、お前を愛でる以外に大事があると思うか?」
などと、危険を危険とも思わぬ唯我独尊。
「〜〜⁉︎///////」
結局。
…王様はどこまできても我様だった。
金ピカ、働け。
はくのんセクハラ?され続けるの巻。
次回…「 仇 」…。
フランシス・ドレイク──吼える。
なんかもう、大変お待たせしまして…覚えてくださってるかな、かな…コソコソ (穴に隠れながら
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第42話『仇 〜アダ〜 』
──深い孔の底。
それは、覗き返してきた。
紅い、燃える瞳で────。
「────不覚、」
「……え?」
一瞬の静寂。
ネメアの獅子による破壊は周囲の対象のみを砕き、敵を捉えた。追い打つ様に放たれたヘラクレスの斬撃は確かに目の前の神父を捉えていた。
燃え盛る炎の刃は情け容赦なくその法衣ごと体を引き裂き、灼き尽くし、悉くを真っ黒な塊に変える。
だが。
「ひ、ひはははっ可愛い、可愛いねぇ大英雄!ワタシが、ワタシタチが、この程度で亡びると…思ったのかね!?」
炭化した塊に三日月のような裂け目が開く。
それは歪な震えを声のごとくして空間に伝えていた。
「…きさ、ま…ことに人を外れた
口から盛大に血を吐き出しながら眼前の黒い塊を睨みつける。
炭の様だったそれはいつの間にかタール状の粘性を持つナニカに変わり、ウゾウゾと蠢きながら形を変える。
そこから伸びた長い、金属にも見える闇色の錐がヘラクレスの腹を抉っている。
「ああ、ああっ、やはりいつ如何なる時代も綺羅星の如き輝きを放つ貴様らをこうして嬲り尽くすのは甘美にすぎるな!」
「セイバー!?」
「…大事ないイリヤ、たかが命を一つ持っていかれただけの事──ヌゥン!」
バギン!、と乾いた音を立てて錐がへし折れて細かな破片となって散った。
「嬲るなどと言わず最大の一撃を持って俺を殺し尽くすべきだったと後悔するがいい…得体の知れぬ亜神めが!」
ゴウッ!
神剣から迸る焔は苛烈さを増し、今度は炭化何処か一切焼滅させてやろうと燃え盛る。
「怖い怖い、は、ははは助けておくれよ、クロウくん!」
タールが形を成し、今度は女の姿を見せた。
かと思えば次はスーツ姿にサングラス、その下には痛々しい傷跡が刻まれた眼光鋭い男に成り替わる。
「…貴様の思い通りに全て運ぶと思うなよ、愚物が…ああ──、おまえならば如何する、このシステムですらない幻想の坩堝を──」
誰に向けたかすらわからない要領を得ない独白を吐き出し、男から再び神父の姿に戻る。
「ヌウァ!!」
轟。空を引き裂き唸りを上げるヘラクレスの丸太の様な蹴りが、神父の体躯を捉える。
紙木細工の様に吹き飛ばされるかに見えたその身体はしかし、ふわり、と音も立てずに地に降りた。
「──っはぁ、やはりこの姿が一番安定するな、───や、──イアの姿ではここは位相がズレすぎているか。」
岩をも砕く様なヘラクレスの蹴りをこともなしにいなし、呟くナイン。
「何を訳のわからない事を…っセイバー!令呪を以って命じるわ──宝具の全力での限定空間への開帳を…このバケモノを跡形もなく消し飛ばしなさい!」
本来、この閉所で宝具の開帳をしようものならば天井を崩してマスターであるイリヤ諸共に生き埋めである、故の…令呪。
令呪による奇跡を用いて宝具の破壊を巻き散らさずに余さず敵へと安全に叩きつけるために空間を操作する。
「…火を呑め、獣を屠れ──そは、荒々しき牙、吠え、猛れ!」
吹き出した焔が百蛇の如く伸び上がり、鎌首をもたげる。
「剛なる者──!」
剣のしなりに合わせる様に炎の蛇は敵をその蛇体の檻に囲い込む。
「
音が、消えた。
闇が、失せた。
ホワイトアウトした視界の中でイリヤは確かに見た。
身体、そして魔力の流れが千々に絶たれて尚、悍ましい笑みを浮かべる…顔。
その額に燃える真紅の瞳を──。
*********
「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃え尽きなさい!!」
ジャンヌ・ダルク・オルタ。
黒い聖女は怒りに任せて炎を繰り出し続けるも、先から一向に当たらない。
「ふははは、甘い甘いそんな事でワシに当たると思うか、幼いのぅ、身体以外は!」
「やかましいこのセクハラサーヴァント!?」
…本当に神だろうか、このアーチャー。
ちょっぴり本気で自害させた方が全国の女性のためなんじゃないかなとか思う。
「アーチャー、あまり巫山戯ているとお仕置きしますよ?」
「気持ち良いので頼む!」
……殴っていいだろうか?
「私を無視してイチャつくな!」
「あ、そういう感情一切合切金輪際、未来永劫過去現在全てに於いてありえませんので。」
「マスターが酷い!?」
私の言葉に涙目になりながら、器用に炎をかわし、更にはまた背後に回り込んで後ろから抱きしめる。
「ちょ、早っ…はなせ!?」
「わはははは、やはり良い乳じゃ!」
またもやその豊満な胸を好き放題にされて顔を真っ赤にしながら暴れるジャンヌオルタ。
「やっ、んっ…こいつなんなの妙に上手い…は、あっ!やめっ…このぉ!?」
手から発した黒い炎、宙空から放たれた槍がゼウスを襲うも全てひらひらと、ジャンヌオルタを抱きしめたまま避け続ける。
「けしかけてなんですけれどコレ、矢張り止めるべきでしょうか?」
つい、勢いでお灸を据えろなんて言ったものの早々に罪悪感が込み上げてきた。
「…あの猛攻を避けながらよくあんなコントをしていられると言うか、最早呆れを通り越して畏敬の念を抱けるレベルだな…」
などと言いながらありありと呆れを含んだ物言いの切嗣。
「あのいやらしさが無ければ文句なしに最強のサーヴァントの一角なんですが…はあ、残念でなりません。」
返した言葉に苦笑いしつつもそれ以上言わないあたりは切嗣も似たような事を思ったのか。
いよいよ持ってジャンヌオルタが組み伏せられそうになったのでゼウスに待ったをかけようとした、刹那。
地面が、激震した。
「ちょ、なんなの今の!?」
とてつもない魔力の奔流。
それが先ほどジャンヌオルタが後にした大空洞の辺りから迸る。
「…こりゃあ急いだ方が良いかのぉ…。」
「え!ちょ、やめなさいこの!」
ひょい、と軽々とジャンヌオルタを担いだゼウスはこちらに向き直る。
「マスター、遊んでいる暇は無くなった…残念でならんがここからはしりあすだ。」
「…そこはかとなく発音がおかしいのは突っ込むべきなのかな?」
担いだジャンヌオルタの臀部を撫でながら尻…、もとい。
シリアスとか言われても台無しである。
「…聞かないでください。」
「…そうだね、うん。僕が悪かった。」
神様は自由。
自由すぎるのがギリシャである。
────────────────
「…なんなんだここ、おかしいってレベルじゃないぞ。」
「そうだね、嫌な気配がぷんぷんするよ、鼻が曲がりそうだ。」
異変を察知し、大空洞に踏み込む。
その入り口は間桐に残っていた資料から突き止めたいわば裏口だった。
莫大な魔力の流れ、光の柱。
その上先ほどの激震。
「あの化け物どもをどうにかできないかと探りを入れに来れば何だいこの展開は、聖杯戦争なんだろうがこいつは?なら勝ち抜き戦になるもんだろう、普通。」
「いや、聖杯戦争ってのはバトルロイヤルだろう何言ってんのさおまえ。」
「…まあ、以前経験したのは勝ち抜きだったのさ、慎二…ところでライダーとは呼んでくれないのかい?」
悪戯っぽい微笑みに思わずたじろぐ慎二だが、そこは虚勢を張った。
「…は、実力も示さないうちからこの僕のサーヴァント気取りかよ、安くないんだよこちとらさあ…第一、あの神様だかにビビってたくせによく言うよな全く。」
「は、言うじゃないか…別に勝ち目が絶対にないとまでは行かないよ、切り札も無いでもない…少なくとも一対一ならなんとか、ね。」
実際は口とは裏腹に認めてはいた。
あの破格の力を持った黄金のサーヴァントを出し抜いてみせたその手際、力押しだけで勝てない相手とみるや観察に徹し、しかし勝ちを諦めてはいないその貪欲な精神を。
「はは、しかし寂しいもんだねぇ…月でのあんたはもっと素直だったのに。」
とはいえ、それを言えるほど素直でも無い。
「ハ、それならソイツは僕じゃないな。」
それは暗に自身が捻くれていると認めたようなものだが気にしたら負けだ。
「いいや、やっぱり似てるよ。」
フランシス・ドレイク。
稀代の海賊が何故女の姿などしているのか。
…年上ぶってくるこの態度も気にくわない。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」
「ああ…もうすぐ最深部だ、資料通りならこの先に大聖杯がある筈。」
「全てを適える願望機、その大元かい…そんなもんに願っても碌なことにゃなりゃしないんだけどねぇ。」
とてもじゃないが召喚に応じたサーヴァントのセリフでは無い。
「いや、だったらおまえなんで召喚に応じたんだよ?」
「ああ、そりゃそうだけどね…月じゃああたしは単にそれが、お宝としか思えなかったからさ…でも今は違う、聖杯を持ってみて、いや…グランドオーダーなんてものに関わって知ったんだ。」
やけに優しい顔で語るドレイク。
まるで誰かを想うような女の顔。
「…はん、グランドオーダー?なんだいそりゃあ…そもそも答えになってないぞ。」
「ああ、悪いねぇ、そいつは企業秘密って奴かな、ははは!」
快活に笑い飛ばすドレイクだがぴたり、とその笑いを止める。
「どうやら此処が事の中心のようだね。」
その声に、反応する者がいた。
鈍色の巨躯と、視線だけを投げかけてくる紅い瞳の少女。
「新たなサーヴァントか、或いは再び湧いて出たか、ナインとやら?」
「ナイン…なんの事だいそりゃあ?」
大空洞の中心にほど近い開けた空間、そこには凄まじい破壊痕があった。
不可思議なのはそれが綺麗に一定の範囲だけを抉っている事。
「……お前は…、見つけたぞライダーの仇…セイバー!!」
知らず、そんな言葉が口をついて飛び出した。
「これは異な事を、仇だと言ったか小僧。」
「…ああ、そうさ…お前は僕から、ようやく見つけた小さな感情の元を奪った!」
自分でも思いもしなかった言葉が後から後から湧き上がる。
「…若いな、そうは思わんかそこの女サーヴァント。」
そうだ、確かにあのセイバーの言う事は正しい、これは殺し合いの奪い合いだ、勝者はただひと組のバトルロイヤル。
仇だなどと言い出すのが烏滸がましい、ただ弱かったことこそ罪なのだ。
「…否定はしないさ、だが若さってのもいいもんさ、いくら一度は死んだ身とはいえ年寄り染みた事を言いなさんな。」
だけど、それを否定はしないで、それでも背中を押すように理屈じゃない、心を認められたみたいでどこか照れ臭いが、認めたくはないが嬉しくなった。
「…まあ、なんであれ貴様らは敵だ、小僧…小物と思い見逃したが二度はないぞ…逃げるならば最後だ…さあどうする?」
「…クソが!今更逃げられるかよっ、これでも間桐の後継なんだよ、僕はぁ──行け、
「あいよマスターッ、いっちょ[[rb:英雄 > 怪物]]殺しと洒落込もうか!」
勝ち目など薄い事も解っていた、それでも引けない戦いだった。
「ああ、証明しろ、ライダー…一対一なら勝てるってのを!」
応えてくれた彼女に、密かに感謝しつつ。
「あいよっ、少なくとも負けない戦をしてやろうじゃあないか!」
拳を、握りしめた。
【あとがき的なもの】
はい、なんか投稿自体がお久しぶりです、最近どうにも自分が書いたものが微妙な気がしてならない、ついつい他所様の面白い作品と比べてしまう負のループなライダー/ギルスです。
慎二「暗っ!筆者暗っ!」
ワカメに言われたかないやい!
慎二「誰がワカメだ!?」
畜生!なんでワカメの癖にカッコイイんだ!ワカメの癖に!
士郎「スランプらしいんだ、まあ優しくしてやってくれよ慎二。」
慎二「いや、男の僕に優しくされて何が嬉しいのさ、そもそも他人への理解も自分の事すらおざなりないい子ちゃんのお前が言うなよ衛宮!」
桜「兄さん…素直じゃないんですから…」
慎二「あ?桜、お前何言ってんの!何言ってんの!?」
桜「だって映画(HF)の兄さん完璧にツンデレじゃないですか。」
慎二「な、ばっ、馬鹿言うなよ、馬鹿言うなよ!」
ドレイク「あははは、語彙力が溶けてるよ慎二!」
慎二「やかましいわ!?」
…HF最高でした。
だからこそ自分の、作品が!!
士郎「あ、筆者がまたダークサイドに…」
ゼウス「めんどくさいやっちゃのう…」
士郎「ところでなんでいまさらHFの話なんだ、公開されたのかなり前だぞ?」
桜「はあ、このあとがき自体かなり前に書いたらしいですからねぇ。」
虎「シブでかなり前にあげたくせにこちらにあげないから…」
ゼウス「それ、言っちゃダメなんじゃないかのう?」
桜「だからって話ではないですが、2話一度にあげたらしいです。」
虎「気力がなくてこちらにあげ忘れていただk」
ゼウス「いやだからそれ言っちゃダメなんじゃないかのう?」
士郎「ま、まあ兎に角、一応今筆者の頭にある話的には次回またいろいろごちゃごちゃするらしい。」
エレイン「物語のキーになる人が出るそうです、後、繰り返しの中で何があったかにもーー?」
虎「次回!大聖杯に潜む闇、桜ちゃんの見た真実に!レディーー」
ブルマ「師匠、それ以上いけない!」
オルク「GO」
全員「「「言っちゃったよ!?!?」」」
※ 作中、ナインが変えた女と、サングラスの男は実は違う作品からの時空を超えた友情出演です、なので特にFate関連の人…ではないかもしれないかもしれなくなくない。
虎「どっちだよ。」
ブルマ「まあまあ、とりあえずまたお会いしましょうね!」
次回に、続け…!
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