B級の比企谷くん【ワートリ×俺ガイル】 (あなたのハートにイオナズン!)
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多くを語る必要はない。そう、ボッチだから…!

初投稿なのでお手柔らかに(真顔


 

「ボーダーって悪の組織みたいだよな」

 

「はっ?」

 

 

 緊急脱出(ペイルアウト)で飛ばされてゆく奴を眺めながら何気なく思ったことを口走り、現場へ並走していた名も知らぬ男子に疑問符を投げかけられた。

 投げかけられても済まないが、独り言なので続きは無い。

 屋根の上を飛ぶように走るスピードを上げて、ブレードを顕現、勢いをつける。

 

 

「――ダッシャォラァッッッ!」

 

 

 単独専行で犠牲となった誰かさんには悪いが、居場所特定した近界民(給料)(歩合制)は俺が貰った。

 トーフみたいにすぱすぱ切れる驚きの切れ味を誇る支給武器で、手足胴体と8分割に切り分ける。

 気勢(奇声)を上げて1点ゲト。

 続けて2点目、傍に居た別個体を串刺しにしその胴体へと貼りつくようにライダーキック。

 やはりニチアサは至高、進行方向に障害物(別ネイバー)があっても盾になる。

 纏めてドボン、3点目。

 なんか今日爆釣じゃね? なに俺、明日死ぬの?

 

 

「――うぉ、もう片付けてる……相変わらずスゲーな、油虫」

 

 

 遅れてやってきた男子が不本意なあだ名でそう呟く。

 聴こえてないわけじゃねーけど聞いて堪るか。

 最初誰のことを言ってるのかわからんかったが、本部で俺がポイント稼ぐたびに囁かれるからハチマンもうわかっちゃったよ。

 走り方が不評のよう、黒くて素早くて捕まえられないと。

 戦い方それだけじゃねーし。

 誰だ、最初に言い出した奴、賠償金払え。

 

 

「お仕事しゅーりょー、帰る」

 

 

 通信機に返事も待たずに連絡。

 時間帯はさておき、仕事した分だけキチンと手取りがあるから問題は無いが、せっかく緊急脱出という手段があるのだから俺も自宅に緊急脱出したい。

 やられそうになったら逃げられるんだから、やっぱボーダーって悪の組織なんじゃね? それもプリキュアから見た感じの。

 シュインッ、って消えるやつ、アレふつーに瞬間移動だし。

 シュインッ、って俺も手早く帰りたいなー。

 女子中学生と戦わせられるのは御免だけどさぁ。

 

 

 

 ☆  ★  ☆  

 

 

 

 詳細を語れるほど詳しくないのでモノローグ語る気も無く『ググれ』と下すが、見習い多いな!と正規扱いされないC級を抜けるとようやく稼ぎを増やせる立場へと居座れる。

 それでもポイントを失えば都落ちも容易いらしいが、鎖乍ら天空闘技場の各区切り階層で居座る選手らと同じように其処らへしがみ付くB級の執着心は侮れない。

 まあいつまでもしがみ付いていられるわけでもない立ち位置だし、才能がある奴は飛び越えて精鋭扱いされるわけですけどね。

 俺? チームに誘われず自分から誘っても付いてくる者も居らず、もはや血族と呼んでも過言ではないボッチを極めたような俺が、自分からそんな立場を目指せると思うてか。

 まるで血に呪われたかのように呪詛を発する、この腐った眼球が目に入らぬか。

 まーさーに血族、此処から犬神家宜しく一代限りの血統が続くんですね! 断絶しちゃってんじゃねーかよフザケンナ。

 

 まあ俺の血眼はさておき、今日も今日とて即席チーム。

 数が足りなかったり、ボッチを極める(俺みたいな理由)以外で単騎をポリシーにしている奴とかで頭数だけ揃えて、歩合制FeverTimeは終了である。

 気分は日本昔話エンディング。

 あったかいお家で小町が待ってる。

 これで嫁ならば云うことなしなんだけど、妹だしなぁ……。

 なにはともあれ、でんでんでんぐりがえってばいば(以下自粛。

 

 ……何やら嫌な予感がひしひしと感じる。

 なんだろう、やっぱり明日死ぬのかしら。

 

 

 




~主人公:比企谷 八幡
 タイトル:ボッチ級の比企谷君
 云うほど強くないというよりは己の弱さを自覚しているタイプ
 無双とかするんじゃなくて生き残る方優先
 なおボーダー内部なら友人出来る、みたいな内弁慶にはしないつもりの今後の展開
 他人からの評価は色々と闇鍋


というわけで、高2病拗らせた私の考えるアレな八幡でお送りいたします
こんなの八幡じゃないわ!タダのオリ主よ!と仰る方には、残念ですが私の知る二次の八幡はどいつもこいつもこんなんでしたから悪しからず
まだマシな方を目指してみる(宣言

トリガイルなので総武高アンチになりそうですけど、もともとツッコミ処多い高校ですし問題ないですよね
なるたけアンチヘイトへは向かわせない…っ!

ツッコミはセルフサービスとなっておりますので、ご意見・ご感想お待ちしております


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ラヴコメェ? そんなの幻想でしかないねッ!

思いつくままに書いた妄想なのですがとりあえずここまで


 

 

「――で、比企谷、これはいったいなんだ?」

 

「……国語の課題、ですね」

 

 

 一夜明けて翌日放課後、結果だ、結果だけがこの世に(ry。

 昨夜の悪寒はそこそこ当たっていた模様で、生活指導の平塚先生(独身)に呼び出されて今に至る。

 どーにも俺の書いた国語の課題がお気に召さないご様子。

 その辺りは感性の問題だと思う。

 ラノベや漫画を馬鹿にする奴らがひとむかし前には溢れていたわけだが、今となってはそれも下火。

 日本が誇るサブカルチャーの一角を担うそれは、子供から大人まで小金を巻き上げる希少な財源の一角だ。

 みんなも、ガガガ文庫を読もう! 面白いよー、うしおととら。白面の者の気持ちがよくわかるわ。

 

 

「そんなのは見ればわかる、問題なのは中身だ。なんだ最後の一言にリア充爆発しろって、異論は無いが学校の課題でテロリスト宣言はヤメロ」

 

 

 異論は無いんですか……あっ(察し。

 

 

「わかりました、書き直してきます」

 

「ああ、そうしてくれ。私だって暇じゃないんだ、他の先生方からは仕事を振られるし、そのうえ国語教科まで受け持って下手な騒動の火種は御免だ」

 

 

 若手ですものね。

 思わず心中で敬語になってしまう。

 生活指導なればこそ、高校生という無駄に幼稚さが抜けきれない学生の悩みなんかを請け負う方面でも精力的になっているのかもしれない。

 年の差を如実に前面へ押し出さない程度の差異を見え隠れさせる高校生という生き物は、時に己の幼稚さを自覚できずに暴走することが已む無きことも無きにしも非ず。

 その点で云えば、幼稚園の保母さん方と遣ることに差異は無いのかもしれない。

 がんばってください! ひらつかてんてー!

 

 

「……折角だし少し話していこうか、比企谷。そのなんだ、キミは、友達は居るのか?」

 

「とくに要りませんが……」

 

 

 あれ、なんかニュアンス間違えたかな。

 平塚先生が口元抑えて顔を背けた。

 笑いを堪えているのですかコノヤロー。

 

 

「い、いや、すまん。では、恋人とかは……」

 

「強いて挙げるなら仕事が恋人です」

 

「オイヤメロ、それは私に酷く効く」

 

 

 真顔になって下されたお言葉は少々エッジの利いた鋭いニュアンスであった。

 先生の琴線を刺激したよ! やったねハチマン! 余計なこと言っちゃった!(嗚咽。

 

 

「んんっ、そういえばバイトをしてるのだったか。……キミのような人材を取ってくれるバイト先があったことに驚きだが」

 

 

 どれだけ見下してんだコノヤロー。

 まあ同感ですけどね。

 

 

「と、なると部活も所属してない、か……。ふむ」

 

 

 んー? なーんか嫌な予感がするな。

 というか、この先生の今の目は、俺を当て馬にしようと画策していた中学のクラスメイトを思い起こさせる。

 俺がリア充を好きになれない理由のひとつに、奴らにとって俺は体の良い『踏み台』として利用されるから、というモノがある。

 そいつらと同じ目をしてる。

 所詮高校でも教師は教師ですか、そうですか。

 

 

「――よし、キミに今回のペナルティとして奉仕活動を命じる。ついてきたまえ」

 

「お断りします」

 

 

 考えが纏まったであろう平塚先生の意気揚々とした宣言に、俺は拒絶の意を明確に示すのであった。

 

 

 

  ☆  ★  ☆  

 

 

 

 俺は柏のスペースガンマン! 右手のサイコガンが火を噴くぜ、ヒューッ!

 そんなテンションで、本日の防衛任務はスナイパーである。

 頭数の足りないところへ派遣されるわけだから、やる人のいない仕事を割り振られることがしばしば。

 やれることはやるだけやっておけば生き延びる確率も増える、っておばあちゃんも言っていた。決め台詞は「マタギとヤマネコは眠らねぇ!」。

 ところで場所は三門市だが……まあ同じ千葉だし、いっそ同一存在と呼んでも過言ではないか。但し舞浜は別。奴は千葉の冠を抱くに値しない裏切者よ……。

 どちらにしろ千葉の国境を守るお仕事、深夜というのも相俟ってテンションは鰻登りである。

 黙って国境を跨ぐ奴はネイバーだ! 御断りを入れる奴はよく訓練されたネイバーだ!

 

 あの後の平塚先生は俺を何処かへ拉致ようと妙にしつこかったが、向こうが進級を盾に脅しをかけてきたので出来なくても問題ないですと切り返しておいた。

 対立というものは弱みを見せたら負けである。

 ぶっちゃけ、進級できなくなったらなったでボーダー関連で別箇の進学先を選定してもらうこともできる。

 無理して総武高に居続ける必要性も無いわけだ。

 というか、本当にそういう話になったとしたらその辺りの実情交えて他の先生方とお話するだけで問題は無かった。

 話を大きくしたら無事でいられないのは平塚先生の方であるし、他の先生方も巻き込まれる話になる前に事を収められてよかったですなー。

 

 

『比企谷くん、2時の方向にゲート発生。其処から見える?』

 

 

 おっと、お仕事お仕事。

 2時方向、アレか。距離は400、適当だけど。

 ――狙い撃つぜ!

 

 




アンチヘイトとかやる気は無いにゃん
でも元々が問題ありなラノベだからロジカリックに二次創作書くとどうしたって齟齬が出るにゃん
その辺りを突っ込まれても何とも言えないとしか言いようがないにゃん
おれっちにはよくわからないにゃん


…ジバニャン?
なんのことだかおれっちよくわからないにゃん


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比企谷八幡は勘違いをもうしない。しないったらしない

短いけどとーかー


 

 

「――もう出来たのか。文章書くのむちゃくちゃ早いな、貴様」

 

 

 と、翌々日の放課後に平塚先生へ当たり障りのない内容の課題の惨たらしい姿を提出しに行くと、やや引き気味の顔でそう(のたま)われた。

 やりたくないことはすぐに片付いちゃうんです、と(うそぶ)いておいたが、流石に生徒に対して『貴様』は無いでしょう『貴様』は。

 

 肝心の中身は本当に惨たらしいくらい原形を留めない勢いで夜のテンションで書き上げたもので、ぶっちゃけ某剣豪将軍(自称)のラノベモドキに似た仕上がりとしか言いようがない。

 読ませられたことが度々あるのだが、誰だお前!?と問いたくなるくらいに課題の中で彩られた『俺』は世間のリア充を踏み越えて往く【進撃の凡人】であった。

 やっぱり文章は眠い目で書くものじゃないよね。八幡よくわかったよ。

 これでまたダメ出し食らったらPLACETOPLACEの眼鏡を参考にしよう。芳文社の奴ね。

 

 それはさておき、どうにも本日は視線を感じる。

 別にそういったサイドエフェクトが備わっているわけではないのだが、害意や危険感知といったモノに敏感になるのはボーダーの性ではないのかな、と思っている。

 戦争から帰ってくる親父さんが神経過敏になったりする話もあるのだし、常時戦争状態の今の仕事が10代20代の俺たちに何の影響も及ぼさないとは決して言いきれないんじゃないかなぁ、と。

 まあそういう俺はほぼバイト感覚で近界民ぶった切ったり偶に撃ち抜いたりしてるんですけどね。

 

 話を戻すけど、本日の視線に害意のようなものは取り合わせていないけれど、むしろ何やらタイミングを計っているような気配くらいは伺える。

 なので、本日はなるべくひとりきりにならないように、昼休みもベストプレイスへ向かわずに教室でボッチ飯を敢行してみた。

 いつもは消えない男がその場に残ることに、教室内の違和感は中々に最高潮であった。

 フフフ怖いか? 安心しろ、俺が一番怯えてる。

 

 そして現在は放課後で周囲に人気無しということは、その狙いの視線の主が襲撃するにベストなタイミングと言えるわけで。

 早く帰らなくちゃ(使命感。

 

 

「ヒッキー!」

 

 

 廊下を女子の声が、誰かを呼ぶように響く。

 おい呼んでるぞヒッキーさんよ(笑)。

 

 

「ヒッキーってば! ちょっと待ってよー!」

 

 

 しかし学内で引きこもり認定とかヒデェネーミング。

 やめてやれよ、また引きこもりに戻っちゃうだろ。

 

 ……俺じゃないよね?

 

 進む背中に幾度となく距離が遠ざかることなく届けられる呼び声は、しつこいくらいに俺を攻める。

 この身体を焼き尽くさんばかりにヒッキーヒッキーヒッキーヒッキー……怖いわっ!

 いっかいだけだ、いっかいだけ振り返って、自分のことじゃないことを確認しよう。

 

 

「もー、やっとこっち向いた!」

 

 

 ……マジで俺だったよ。

 ていうか、誰だコイツ。

 

 

「……何の用、というかヒッキーってなに、舞浜ネズミの亜種?」

 

「え、なにわかんないこと言ってんの、キモい」

 

 

 酷くね?

 というかホントに誰だ、このピンク団子髪。

 

 

「キモくてスンマセンでしたね。用がないならもう行くぞ」

 

 

 暇じゃねーんだ、と踵を返す。

 ホントは然程忙しくも無いけど、さっきから俺の心が警報をガンガンに鳴らしてる。

 早いところコイツから離れないと、なんかヤバい。

 

 

「わわっ、ちょ、ちょっとまって、えーと……っ、こ、これっ!」

 

 

 と、差し出されるのはレース系の小さな布?でラッピングされた塊。

 まるでクッキーか何かを一人分包装したような、可愛らしいそれをずいと手渡される。

 

 ――……え、これって、まさか、

 

 

「お、お礼だからっ!」

 

 

 そう言って走り去って往くピンク女子。

 廊下は走るな、と云うべきかも知れないが、もっと別なことが気にかかった。

 

 

「………………お礼って、何の……?」

 

 

 俺にはさっぱり心当たりがなかった。

 

 

 

 ☆  ★  ☆  

 

 

 

 本日女子から手渡されたそれをテーブルの上へと置いて、俺は深く考え込む。

 腕組みをして、いっそ悩むと云っても過言ではないくらいな様相を見せる俺を尻目に、妹様はテーブルの上のそれへと目が行っていた。

 

 

「およ? おにーちゃん、これ何?」

 

 

 俺はそれに答えるよりももっと重要な疑問があるので、質問に質問を返すようで悪いが先に行動を促した。

 

 

「小町、とりあえずそれを見てくれ。話はそれからだ」

 

「なんでそんなもののしいの」

 

 

 頭に疑問符を抱きつつも、云われたとおりにテーブル上の包装紙を器用に紐解く。

 あと『物々しい』な。

 

 

「………………おにーちゃん、これ、なに?」

 

 

 先ほどとは込められた意図の変貌した、同じ科白が引きつった貌の小町の口から吐き出される。

 ドン引きの妹様の紐解いた包装紙の中には、黒々とした毒々しい幾つもの『炭』が詰まっていた。

 

 

「見知らぬ女子から貰ったのだけど、小町、こういうのを渡す女子の心境を15文字程度で教えてくれるか?」

 

「えーと……、ご、ご愁傷さま?」

 

 

 やや憐みに似た視線が、小町から向けられている。

 うん、俺も別に期待したわけじゃないもん。

 だから平気だねっ、生ゴミを手渡されたんだろ、罰ゲームだろ、これくらい軽い軽い! つ、強がりじゃねーしなっ!(涙声。

 

 

「とりあえず、あの見知らぬ女子はジョイフルと呼ばせてもらおう」

 

「いきものがかりみたいだね」

 

 

 ちがう、そっちじゃない。

 

 




え、ワートリ成分がなかった?
そんなことないじゃないっすか


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怖いモノなんてあんまりない!

日刊投稿逃したぁ…鬱だぁー…


 

 俺が女子から生ゴミを手渡される程度の評価を受けている恐れが発覚したジョイフル事件から早くも3年……、いやそこまでは経ってないか、精々二日か三日程度しか過ぎ去ってはいない。

 早めの梅雨が訪れたとでも言いたいのか、朝から曇天であった空模様はしとしとと雨模様に代わり、例の事件以降再び舞い戻ることとなったベストプレイスへは本日も伺えない模様。

 仕方なしに教室で飯を食うしかないのか、と購買より戻ってみると、スクールカースト上位のグループ内に噂のジョイフルが混じっている姿を見つけてしまった。

 ……同じクラスだったのかあの女郎(めろう)……!

 

 と、なると先の事件を引き起こした主犯は、恐らくはグループ内で女王気取りのあの金髪ロールである可能性が大。

 あーゆう手合いは中学にもいた。

 下に見た男をからかって陰で笑う、むしろお前が陰気なんじゃねーのかと云いたくなる女子特有の腹黒さ。

 そんな内面真っ黒でよくクラスの低カーストを下に見れるな、と云いたくなるが、そういうモノは得てして己を知らぬものである。

 注意を促したところで大抵は無駄に終わり、逆恨みが待っている。

 

 よかろう、そうして敵対するというのならば、こちらはむしろ迎撃の準備をしようではないか。

 具体的には豚の血あたりを集めよう。某アイアンメイデンでお馴染みの拷問部によればスタンダードな手筈らしいからな。

 そうしてこちらが己の席へと戻りつつ、内心復讐の手段を測りかねていると、某ジョイフルが金髪ロールへと申し訳なさそうな声を上げた。

 

 

「――あはは、で、さあ優美子、あたし、ちょっといくところがあるんだけどー……」

 

「そーなん? じゃあ行って来ればいーじゃん。あー、帰りにレモンティー買ってきてくれる?」

 

「え、あー、いや、ちょっと時間がかかるといいますかー……」

 

 

 何やら齟齬があるご様子。

 言い淀むジョイフルに、金髪ロールは怪訝な顔で話を問うも、はっきりとしない答え方に女王は段々と苛立ちを顕わにしてゆく。

 さながらその様は獄炎の女王、――む、いかん、まーだ俺の中に残っているのか中学の残滓。

 消え去れ……っ! もう俺は左腕が疼いたり、世界に封印された13柱の神の一角である、などという黒歴史を思い起こすことは無いんだ……っ!

 

 

「なんなん、はっきり言いなよ。そんな言いづらいこと隠してるわけ? あーしら友達と違ったの?」

 

 

 苛立ちが最高潮にでも達しているのか、金髪ロールはクラス中に聞こえる声量で友人(仮)を威圧する。

 その雰囲気に圧されてか、クラスに残っていた他の奴らも居心地が悪そうに教室を出始めて往く始末。

 逃げ遅れた俺は、とりあえずこの互いに押し黙った空気を打破すべく、云いたいことを呟いた。

 

 

「ともだち、ねぇ」

 

 

 無駄にニヒルな含み笑いを周囲に思わせたかもしれないが、現在イメージしているのは指一本立てたマスクの彼であったりする。空中浮遊!

 

 

「あ? なんか文句あんの?」

 

 

 おう、見事にこっちにヘイトを向けるか。

 まあ元より敵対していたお相手だ、存分に煽って遣ろう。

 

 

「別にぃ?」

 

「だったら口挟んでんじゃねーよ。関係ない奴は黙ってて」

 

 

 む? コイツは俺のことを大して認識してなかった?

 やだ、自意識過剰じゃねーかよ俺……!

 となると、あの炭を寄越してきたジョイフル本田は一体何故。

 まあいいや、とりあえず言いたいことはまだ終わってない。

 

 

「そう思うんだったらまずお前が出てけよ」

 

 

 とりあえず正論。

 クロヘさんはアレだけド正論を吐き出してると、そのうち背後から刺される最終回を迎えそうだよな。

 

 そんな内心の俺という、見るからに低カーストな男子に言い返されたのが腹立たしいのか、金髪ロールは一瞬で怒鳴り返すような顔つきでこちらへと向いた。

 しかし、ボーダーという特殊なところで培った経験は、俺に彼女を大して脅威とも見取らぬ判別を下す。

 要するに全く怖くない。

 死ぬわけじゃない女子相手など恐怖でも何でもないので、スケェェェイス!と叫ばなくとも乗り越えられる程度の低いハードル。

 ゲートボールより容易いわ。

 

 

「何より関係ないのはお前がそうして怒ってるっていう事実だろうが、この教室で昼めし食ってる他の奴らには何一つ関係ない。関係ない奴巻き込んでんじゃねーよ。お友達との友情を確かめたいのならばお外でどうぞ?」

 

 

 なお、先も言ったがお外は雨模様である。

 ところでこの科白、他の奴が既に逃げ終えて居たらほぼ威力も無いんだけどな。

 感覚で見取るけど、まだ聴衆というか野次馬は室内に散見している模様。

 何より大多数の誰かを了解得ずに味方に付けられる今だから出来る言だよね。

 危うい橋を渡らせるなよ、まったくぅー(呆れ。

 

 

「な、こ、っの……っ! ふ、ふん、そんなこと言って、あんたどーせユイが可愛いから助けてやろうとか思ったんでしょ? 見え見えだっつーの、そんなの」

 

「何故に俺が見も知らぬ奴を助けなくちゃならんのだ」

 

 

 ほぼコンマを挟まずに返答。

 どうやら金髪ロールは俺を攻撃する材料を探そうとしている様子だが、俺からしてみればジョイフル本田は今のところ敵の(しもべ)

 黒い全身タイツでイーッと声を上げる若しくは語尾にゲスとかやんすとかつける様な小物程度の相手は、別に助けるほどの者でもないと思う。

 関係ないけど、二度寝ちゃんがキャラ作ってたのが地味に悲しい。お前フツーに喋れたのかいっ!

 てか、ユイってだれ。

 

 

「は、はぁ!? あんたクラスメイトに何言って、」

 

「待って優美子っ! あのね、私――」

 

 

 

  ☆  ★  ☆  

 

 

 

 なんだかんだで台風一過。

 ジョイフル本田は何やら彼女なりの言い分で以て金髪ロールと和解を交わし、彼女たちの友情()にはいった罅はいい感じに修復できたらしい。

 そうなると俺は元よりお役御免であるので、遅れた昼食をもっぐもぐと健啖に頂き始める。

 今日も元気だ、あんパンうめー。

 

 そうしてすっかり毒気を抜かれた金髪ロールに、あんパンを食う間に内心で建てた検算で以て再び近づいて往く。

 

 

「――で、レモンティーだったか? 買ってきてやるよ。さっきは言い過ぎたからな、ごめん」

 

 

 ついさっきまで対峙していた相手に謝られ、一瞬で「な……っ」と絶句する金髪ロール。

 だが、此処で騒げば痛い目を見るのは間違いなく彼女だ。

 矛を収めた相手を、尚も攻撃する行為は人格を疑う一因成り得る。

 モノを考えない莫迦ばかりが世に蔓延っているわけではない、人はそれなりに誰しもが試行して思考して選択して観測して生活する。

 この俺の行動は考えなしの側面からすれば烏滸がましい独り善がりであるが、同時に相手の器を量りに掛け得る聴衆へ猜疑を挟む余地を与え得る行動だ。

 スクールカーストを地に落とす程度の評判の低迷を謀る俺の一策さて、どう躱す?

 

 

「~~っ、……はぁ、此処で騒いだらあーしがガキみたいじゃん……。わかったわよ、ゆるす。あーしも、さわいじゃってごめんね」

 

 

 ――ふぅん、以外にも話の分かる女子だな。

 彼女に対する評価をやや上方向に修正し直しながら、俺は再び購買へ向けて足を進めるのであった。

 

 

 




さくさくすっきりと纏まっているのが何か違うのかな
八幡らしくないと評判の4話です

地の文に色々とメタなネタを挟んでいれば八幡らしさというか残滓みたいなものは見受けられると思って書いているのですが、やはり会話をどうにかしないとダメなのかしら
はぁー。と前置きをつけたり、やたら上から目線で斜に構えたり
そういう八幡が欲しいのならよその子になっちゃいなさい!

あと葉山さんが空気です、すんませんでした


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聞かせてよ紅蓮の弓矢を

初の試みですが冒頭は八幡視点から変えてあります


 

 自分体調悪いんで壁打ちいーっすか、と比企谷という生徒がこちらの了承を得ずにラケット片手に集団より外れて往く。

 いつものことだが、だからこそ厚木は内心忸怩たる思いであった。

 学校とは集団生活を学ばせる場である。

 だというのに、高校生という大人と子供の境界のようなその年代は、特に自らだけでもなんとかなるのだという勘違いなどを患い、自ら集団より外れて孤立してゆく者も多くいた。

 これは生物としての危機意識が長い集団社会の中で低迷し、本能的な部分に何かしらの欠陥が生じたのだという説と、逆に立って歩ける生き物に進化しているからこそ、独り立ちを自発的に行う生物としては実に正常な野生的な行動の帰結だ、という説がある。

 どちらだとしても、学校とは社会生活を学ばせる場であり、個人だけで成立する才能を優先させる社会を作らせないように下積みを行わせる目的で若い年齢層を取り囲む簡易的な閉塞社会である。

 そのことを論理にならずとも自覚している体育担当の厚木教諭は、いつもながら自ら集団より外れて往く比企谷をまた引き留め損なったと悔やみ、しかし生徒総数が奇数の為にやはり余らざるを得ず引き留める理由を挙げることが出来ずに、彼が突出してしまう現状に申し訳ない思いを抱いていた。

 体調不良を訴えたにも拘らず、そこらの凡才生徒の5倍速くらいのスピードで壁打ちを繰り返すようになってゆく比企谷を眺めながら、どうしようもない無力感に苛まれる厚木教諭の姿が其処にあった。

 

 どのようにしているのか、独りで3本のラケットを両手でジャグリングのように使い分け、ボールの数もどうにも2・3個では足りないくらい増やして『壁打ちを』する比企谷に、喰種捜査官かお前は、という感想を抱いたところで、集団の中では無駄に衆目を集める生徒・葉山とその連れ合いのペアがボールをあらぬ方向へと弾く。

 

 

「っちょっ、マジパネェー、今のスライスっしょ? 隼人くんうめぇわー」

 

「ははは、たまたまだよ」

 

 

 葉山の自己申告の通りに、そのボールは目的以外のところへと向かっているのだから偶然なのだろう。

 そして比企谷の壁打ちの中に紛れて、しかしそのスピードは衰えることをしなかった。

 何が其処まで執拗に体育館の壁を攻撃せしめるのか、と問い質してみたくもあるが、常人には計り知れない目標へ邁進しているような比企谷を見ていると注意を促すことも野暮ではないのかと思い始めてくる。

 それは笑いながら紛れたボールを探しに来た葉山の相方である戸部も同じだったらしく、眼前に繰り出される目を疑う光景に、彼もまた引き攣った貌で見惚れてしまっていた。

 正直テニスそのものには役に立つのかは不明なスキルだが、傍観者が混じり始めたのでタイミング的にも問題ないかと厚木教諭は笛を鳴らす。

 

 

「よぉし、10分ほど休憩じゃぁ。次はペアを換えてやってみぃー」

 

 

 そう申告するモノの、余っていると自覚しとる者はどうしたって余り続けるのだろうのぉ、と己の無力さを噛み締める厚木教諭なのであった。

 

 

 

  ☆  ★  ☆  

 

 

 

 やってて良かった佐々木式。

 むしろ有馬式かも知れないが、こういう日頃の運動はトリオン体になったときに己の身体を飛躍的に動かし易くするので、だからこそボーダー自体も『適度な運動』を隊員らに日頃から行うようにと勧告しているのかもしれない。

 無論、一か所で棒立ちになって手塚ゾ●ンを展開するようなテニスではなく、縦横無尽に動き回って得物もそこらへと、時に距離を置くように配置し直したりしながら、アステロイドモドキ(代役)のボールを溢さないように壁を狙う。

 ボーダーを辞めたら壁殴り代行を目指すのも良いかも知れない。

 

 休憩の笛が鳴ったのでボールの弾み方に緩急をつけ、ちゃんとキャッチできるようなスピードに落として受け止めつつ籠へと戻す。

 そのまま投げつけては弾力性のあるボールなので勢いが付き過ぎて籠から飛び出してしまうのだ、人間横着しちゃダメだよね。

 

 

「すっげぇぇぇぇ! ナニソレ!? なんなんそれ!? ナニモノっしょ、えーと、ひき、ヒキタニくん!?」

 

「ヒキガヤだ」

 

 

 なんか後ろで見ていたチャラ男が奇声を上げて興奮している。

 釣られるように後ろにいる、先日の教室で見た気がする金髪は引き攣った貌である。

 というか、よく見ると金髪ロールとグループを組んでいた気がするふたりである。

 何かしら騒ぎ始めた女王様相手に宥めようと口を挟みつつ、弱気が過ぎて一蹴されていたような覚えがある。

 描写されてないけどそういうことがあったんだよ、俺の前だけで世界が過ぎ去るわけじゃねー。

 

 

「なんか用か?」

 

「いやマジスゲェってヒキガヤくん! ボーダー入れるんじゃね!?」

 

 

 B級です。

 が、其処は告げずに興奮するチャラ男を宥めつつ、呆れるように諭しておく。

 

 

「というか、この程度で入れるとかボーダー舐めてねーか? 異世界と戦争やってる機関だぞ? このくらい出来なくちゃ生き残れねぇって、知らねーけど。S級とかになると指先クンッてやったら街ひとつ破壊できるような戦闘力が常識なんじゃねーの? 知らねーけど」

 

「マジかー……、ボーダー試験受けようと思ってたけど、やっぱ受かる奴らはそれくらいできんのかー……、……ってそれドラ●ン●ールじゃねーか! ヒキガヤくんおもしれーっしょー!」

 

 

 掴みはオッケー。……らしい。

 俺は後半マジで呟いたのだが、どうやらギャグと思われたらしい。

 ノリツッコミみたいに手のひら裏手でビシィーッとやられて、うむぅ、と唸る。

 やっぱリア充のノリってよくわからんわ。

 

 

 

  ☆  ★  ☆  

 

 

 

「あれ、ヒッキーじゃん。こんなとこで何してんの?」

 

 

 ベストプレイスで昼飯食ってるところへ自販機があるせいなのか、ふらりと現れたのはジョイフル本田。

 この場所は風通しも良く、たまにテニスコートで頑張る女子が伺えたりもするお気に入りの場所であったりする。

 いや、スコート穿いてるわけじゃないけれども、頑張る女の子は見ているだけで癒される。

 ただしジョイフルてめーはまだ駄目だ。

 

 

「そのヒッキーってのヤメロよ本田ユイ」

 

「由比ヶ浜だけど!?」

 

 

 誰だよ。

 自己紹介も聞いてない奴の名前なんぞ知らん。

 

 

「そーか、ドーモ、ユイガハマ=サン、ヒキガヤハチマンデス」

 

「なんで今更、知ってるし……」

 

 

 アイサツも出来んのか。

 ニンジャなら常識だぞ、日本のワビサビも汲み取れぬのかオロカモノめ。

 

 

「じゃああだ名で勝手に呼ぶんじゃねー。ていうか許可してないからね」

 

「えー、ヒッキーはヒッキーじゃん」

 

 

 ダメだ、話が通じない。

 コイツもう帰らねーかな、と諦観の意を込めて先ほどの女子へと再び視線を向ける。

 すると、くだんの女子は何故かこちらへと向かってきている最中であった。

 ……ああ、自販機あるしね。

 

 

「あれ、さいちゃんだ。やっはろー!」

 

 

 知ってるのかユイガハマ。

 というか、ナニその頭の悪そうな言葉。南米辺りの部族のアイサツ?

 

 

「あはは、由比ヶ浜さんやっはろー」

 

 

 同じように手を振り振り、はにかみながら返事を返すテニス少女。

 ナニソレ超カワイイ、流行らせようぜ。

 

 

「さいちゃんは昼練?」

 

「うん、今年から部長になったし、もうちょっと上手くなりたくて」

 

 

 と、彼女もまたリア充の一角なのか、すぐさまユイガハマの質問に答える。

 非リアは此処で二度聞きしたりどもったりと、脳の言語野に障害が出てるんじゃないかってくらい会話が弾まないからな。実に大変だ。……俺やん。

 若干の自己嫌悪に苛まれるそんな俺へと、この可憐な少女がちらちらと視線を向けている。

 うむ、ユイガハマもまだまだだよな。此処は率先して俺を紹介すべき。

 と、いうわけで、まずはアイサツ。古事記にも載っている。

 

 

「ドーモ、サイチャン=サン、ヒキガヤハチマンデス」

 

 

 一瞬きょとんとした顔を(ユイガハマはジト目で呆れ顔を)したが、そこはやはり本家美少女。

 すぐに笑顔を浮かべて、

 

 

「どーも比企谷さん、戸塚彩加です」

 

 

 と、姿勢だけを同じように(口調は何処か可愛らしく)返してくれた。

 見たかユイガハマ、いやガハマ。これが真性だ。

 何はともあれトツカサイカな、八幡覚えた。

 

 

「そういえば比企谷くんもテニス上手だよねっ」

 

「え、そーなん? なんか意外……」

 

 

 アイサツを終えて、トツカはヒキガヤに迫るようにきらきらとした目線を向けている。

 近い近い止めて許して浄化されちゃう。

 何故かゲーム的ウインドウみたいな説明文で迫りくるトツカに、俺ことヒキガヤは「お、おう」とどもりつつの返答しかできない。

 チクショウ、せやからこちとらリア充やないっちゅーに! コミュ能力にステ振り失敗してるんだからもうちょっと距離気にしてくれないかなぁ美少女は!

 内心は「ああんいいにほいいぃぃ!」と絶叫しつつ、そんな内心がばれては一大事と返答も曖昧に成らざるを得ない。

 さておき、トツカの話の持って行き方に意外性を抱いたガハマが怪訝な顔をこちらへ向けると、トツカはその目映い(まなこ)のまま説明を続けた。

 

 

「うんっ、ラケットみっつにボールをじゅっこも使ってるのに、縦横斜めに高速機動みたいに打ち続けて全然体幹がブレてないんだっ」

 

「なにそれキモイ」

 

 

 げせぬ。

 

 

 




長くなりそうなので今日はここまで


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会話があれば何でもできる!

せっかくのクロスなのでワートリからもキャラを出します


 

「テニス部?」

 

「うん、比企谷くんが良ければ、入部してくれないかなぁ、って……」

 

「あー、すまんな。俺バイトやってるから、学校でそういう活動する気はないんだ」

 

 

 ガハマさんに真顔でキモイ認定されたその翌日、女子に冗談抜きで蔑まれる心の痛みを女子は知らな過ぎてとバンドロッカーが涙目で歌う味わいたくも無い心情をしっかりと味わった俺は、その鬱憤を晴らそうと今日も壁を撃つ仕事が始まるわといそいそとラケットを先日の倍ほど確保して独り相撲に勤しもうとしていた。

 その予定だったのだが、気づけばトツカさんと談笑していた俺。

 壁さんに何の恨みがあるんだ、とニヤニヤする動画のコメント欄の如き電波な脳内一言に触発されたわけではないが、壁さんの寿命が延びる代わりに、俺の先行きは彼女の御膝下であるらしい。

 振り返りほっぺぷにというリア充がするようなささやかないたずらで呼び止められてからはもう彼女の独壇場、誘われるがままにいつもの相方の子がいないと手を伸ばしてきたトツカさんはいたずらな天使のようでもあった。

 さすが美少女、そつがない。……この欲しがりさんめ!

 

 それはさておき、あははうふふと普段の殺伐とした世界観を払拭するトツカさんとのラリーは実に楽しかった。

 心なしか体育の厚木先生もほんわかとした顔つきで口調も穏やか、何かいいことでもあったのかしら。

 そして休憩に入り、誘われた結果が前述した会話である。

 

 ボーダー自体に忌避意識を持っている人物は何故かこの三門市では異常に少ないのだが、相手が怪物的な脅威であり被害が思った以上に膨大であったとしても俺たちは『戦争をする組織』でしかない。

 そういうところに所属している以上、意識操作か印象操作が現在行われていたとしても、『その先』を見据える必要性は持っていて不要なモノでもないはずだ。

 結果として、俺個人がボーダーに所属しているという事実は、学校ではほんの一部を除いて大っぴらにするような事情には繋がらないと判断している。

 ……まあ、見てくれがこんな俺が市民を守る一角を担っている、と思われることは『他人を見てくれで評価する人々』にとってはどうしたって不快に繋がるであろうから、『個人的な事情』という理屈を押し出して3秒くらいで考えた以上の理由で秘匿権利をもぎ取ったわけだけど。

 そんなわけで俺はバイト内容を明かさないのだが、それとはまた別の理由でトツカさんはしゅんとしている。

 しかし何故女子テニスに俺を入れようと。

 マネージャー役にはどうしたって役不足なのでは。

 

 

「ひょっとしてテニス部って男女混合なのか?」

 

「なんでそんなことになったの……?」

 

 

 純粋に疑問に思っている眼差しを向けられる。

 ぐぅわぁー、浄化されるぅー!

 こんな目を向ける女子初めて! なんたって俺ボーダーでは油虫だからね!

 

 

「いや、トツカが俺に入部してくれって言ってるのって、テニス部だろ? だったら女子のトツカが男子の俺に言ってるのだからそういうことに……」

 

「……ぼく、男子だよぉ……」

 

 

 ――…………………………は?

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

「緊急事態だ綾辻! ちょっと生徒名簿見せてくれ!」

 

「へ、ちょ、はち、比企谷くん!? いつもは話しかけても来ないのになんでいきなり生徒会室に……!?」

 

「たのむ! お前だけが頼りだ! ボーダーで彼女にしたいランキングナンバーワンのお前なら、きっとこの問題に対処してくれる……!」

 

「な、そ、こ、こまるよ、こんな、誰もいないからいいけど、いきなりそんな……」

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 ……戸塚の衝撃的なカミングアウトから一転、証拠を探しに見知った気配を感じた生徒会室にまで突貫噛まし、部活名簿と生徒名簿の簡略した一覧を確認し、間違いなく戸塚は男子として総武高に通っていることが判明した。

 生徒会側からしたら簡略とはいえ生徒の個人情報の流出なので、尊い犠牲となってくれたボーダー所属でもある生徒会副会長綾辻何某には今度何か奢る約束をして別れることに。

 そのとき彼女もまた何か云っていた気がするが、落胆した俺には内容があまり入ってこなかった。

 お礼はマッカンでいいかしら……。

 

 いや、まだ男装した美少女の可能性が……! と逢坂学園感を醸しつつ、昼休みなためにベストプレイスへと舞い戻る花盛りの俺。

 ダメだー、うちの保健養護って男じゃねー……! 漫画と現実の境が見えていない、危険な兆候であると自己判断し、それでも諦めきれない感情の赴くままに俺はラケットを手にしていた。

 

 

「……まあ、テニス部へ入部までは無理だけど、練習に付き合うくらいなら出来る。戸塚さえ良ければ、相手しても良いけど」

 

「ほんと!? ありがとう! 体育の後いきなり何処か行っちゃったから心配してたんだー」

 

 

 と、ややぶっきらぼうな口調に上から目線で云っちまった俺に、尚も変わらぬ笑顔を向ける大天使トツカエル。

 守らなきゃ、この笑顔(確信。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 さてそんな騒動から二日ほど経ったある日のこと。

 湿気交じりであった空模様も久方ぶりにからりと晴れ、この調子なら今まで濡れて半面でしか練習も利かなかったテニスコートも問題なく全面扱えるのでは、と放課後に対戦する約束を充てて許可をもらいに職員室へ。

 何故か上機嫌の厚木先生から快く使用許可を頂けて、やや困惑しつつもこれで本格的なテニスができるぞいっ、とコートへ先に行って居るはずの戸塚を追いかける俺がいた。

 

 

「あ、はちまーん!」

 

 

 うん、名前呼びになりました。

 もう結婚しちゃってもいいんじゃないかな(錯乱。

 

 

「おう、許可もらってきたぞ」

 

 

 テニスコートで手を振る彼女もとい彼に、なるべくポーカーフェイスを維持したままニヒルに応える俺。

 目さえ腐っていなければイケメンなのにね! ……こうして自傷しないと本気で惚れそうになるやろ(言い訳。

 

 

「うん、じゃあとりあえずワンセットマッチから――「あー、テニスしてんじゃんテニス! ……ひっ!?」

 

 

 おう誰だ、俺の戸塚の科白を遮った野暮な野郎は。

 思わずメンチを切ると、知らずに漏れた殺気に充てられたのか息を呑む金髪ロールが其処に居た。

 

 

「あれ、ヒキガヤくんじゃん。なに、テニスしてんの?」

 

 

 そんな殺気を感じ取れなかったのか、最近体育の時間に何故かよく話すトベなんとかが金髪ロールの後ろから顔を出す。

 というか、ぞろぞろといつものグループが連れ立ってやってきていた。

 その中にはジョイフル本田改めお団子ピンクの姿は無い。なに、アイツはぶられてるの?

 

 

「おう、戸塚の練習を見てんだよ。俺の方が素人なんだけどな」

 

「っべー! 相変わらずヒキガヤくんパネェわー! じゃあ邪魔しちゃわりぃだろうし、いこーぜみんな!」

 

 

 おう邪魔すんな。

 意外にも話の分かるトベなんとかは、先立ってこちらを指さしていた金髪ロールを連れてコートより出ていこうとする。

 というか、いつのまに入って来てるんだよ。

 

 

「……つーか、素人が練習見るってなにそれ」

 

 

 ぼそ、と呟かれたのは金髪ロールの小声。

 ん? 帰る空気になっていたと思ったのだけど……。

 

 

「……。おし。ねえ戸塚ー、なんならあーしが練習みてやろっかー?」

 

 

 と、何故か金髪ロールは制服の袖を捲りつつ、こちらへと再度近寄ってくる。

 おいおいヤメロよ、そんな恰好でテニスしたら見えちゃうだろ(止めない。

 

 

「あーしこう見えて中学の頃はけっこーテニスやってたからねー、たぶんそっちの腐り目より教えるの上手いよ?」

 

 

 と、こちらを意味ありげに見やる金髪ロール。

 どうしてか金髪ロールは、先ほどから俺に対して微妙な対抗意識を抱いているような気がする。

 これまでのわずかな言動からの推測でしかないが、それは嫉妬というよりは何処か負けてられるか、という感じに近い意思表示にも思われる。

 ……さっき睨まれたことに思わず気圧されたのが許諾できないとか? ほんと推測だけど、彼女とは以前にも絡んだのでそこそこの確執が下火にある。

 その辺りの意識は俺は特に持ってないが、ひょっとしたら彼女なりに意趣返しをしたくて絡んできているのでは、と想像して、

 

 

「へー、そうなのか。じゃあ手伝ってもらおうぜ。よかったな戸塚!」

 

「え、う、うん」

 

 

 使える者は誰でも使う。

 快く彼女の申し出を受諾して、戸塚は今まで付き合ってくれた俺に思う処がありそうだが今は頷いてもらう。

 

 そうすると、肩透かしを食らった金髪ロールはきょとんとした顔をしていた。

 おそらくだが、自分で云った手前覆すことは無いだろう。

 そのことにしばらくしてから気づいたのか、ややジト目でこちらを見る彼女。なんすか?

 

 

「~~っ……なんでそんな簡単に……っ、あーもう! ちょっと腐り目! ジャージ貸して!」

 

「あ? 自分の持って来いよ」

 

「練習見てやんだからそんぐらい良いでしょ。制服でテニスできるわけないじゃん馬鹿なの?」

 

 

 それは放課後なので制服テニスをしようとしていた俺に対する当てつけかね?

 何か知らんが絶好調である。

 何処かしら吹っ切れたような態度で、金髪ロールは今から教室に戻るのも億劫だと思ったのか、こちらへと要求を指定する。

 少なくとも何かしらの対価回収をしようと計算を働かせた結果の行動かも知れない。

 

 

「それはともかく誰が腐り目だふぉらぁ」

 

「あんた以外に誰がいんのよ」

 

 

 あ、そーっすね……。

 ぐうの音も出せず意気消沈する俺がいた。

 

 

 




・大天使トツカエル
 尊い

・原作でも誰も気にしないボーダーの記憶操作という不穏な設定
 この八幡は知らない模様。たぶん組織に漬かってない所為ですね

・綾辻さんは生徒会
 はいはい、テンプレテンプレ

・厚木先生の株を挙げて往くスタイル
 厚木先生はいい先生。はい復唱

・奉仕部またもや出番なし
 多分今頃はクッキーでも作ってるんじゃないかしら

・あーしさん
 ちょっと負けず嫌いなところが描けてたのなら尚好


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赤べこが舞い、こけしが飛び、鮭が落ちてくる

そんな日常


 

 なんだかんだで戸塚のテニスに関するあれこれを三浦へ押し付けることに成功した日から早くも一週間。

 当初懸念されていた部内のモチベーションの問題は、練習に付き合うようになってずるずると三浦がマネージャーのような立ち位置に至った結果なんとかなったらしい。

 彼女はどうにも面倒見が意外と良いというかオカン気質というか、初めは戸塚の練習だけを見ていたのだが俺がヨイショと持ち上げたり褒めたり宥め賺したりと色々やる気を出させていたら、いつの間にやら部活そのものを引っ張ってゆく女王様が出来上がっていた。

 そんなケミカルチェンジを果たしたテニス部で、元居たやる気の無かった奴らがなんとかなるのかと幾許かの懸念もあったりしたのだが、先頭に立って男子を引っ張るオカン(三浦)と後ろの方から健気に応援をする美少女(戸塚)に挟まれてやる気を出さない男子なんていない。

 程よく訓練されてゆくテニス部の新しい扉が開けて往く一方で、俺はというと元の平穏無事なボッチ生活へと戻ってゆくのであった。

 べ、別に悲しくなんかないもんねっ!

 

 

「それで比企谷、私の授業に遅れた理由を教えてもらおうか?」

 

「寝坊した妹を送迎して遅れました」

 

「キミに妹なんていないだろう」

 

 

 いるわぁ! 目に入れるほどじゃないけど可愛い妹がいてらぁ!

 というかこの先生は俺をどういう目で見ているのだろう、以前に呼び出された時といい、どうにも俺のことを目の敵にし過ぎている嫌いがある。

 ……独身だから若いツバメを狙っている……!? ワガハイ、身の危険……!

 

 

「む、キミも遅刻か川崎。重役出勤は感心しないぞ」

 

 

 と、云われた青みがかった銀髪ポニーの女生徒にはその言葉のみ。

 云われた方も、ども、と頭を下げるだけで終了。

 

 

「で、なんで遅刻したんだ? 怒らないから言ってみなさい」

 

 

 俺のターンが終わらない。

 おかしくない? モンスターカードをドローしたの? そもそもデュエルもしてないからね?

 世の理不尽というよりは俺に対する世間が悪いのでは、と云いたくなる一日の始まりであった。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 由比ヶ浜結衣と雪ノ下雪乃が、とあるファミレスにひとつテーブルにて陣取っていた。

 別に出番がなさ過ぎて無理やり出演を勝ち取ったとか、出番を勝ち取るために緊急会議を開いているとかそういう話ではなく、単純に由比ヶ浜の中間考査がヤバい為にテスト勉強を要求した結果の帰結である。

 それならばいつも集まっている奉仕部というなんちゃって部活動の部室で遣れば良くない?と読者の皆様ならば云いそうではあるが時刻は既に午後六時、早い家ならば夕餉の時刻になっていても可笑しくない時間帯であり、学校からは下校時刻という不文律のもとに追い出される時間帯であった。

 季節のパフェとドリンクバーを注文し、小腹を熟しつつ勉学に耽る美少女ふたり。

 その実情が互いを補い合う勉強会、というよりは雪ノ下が一方的に由比ヶ浜の分からない問題を教えるという出張版家庭教師みたいな空気となっているのはお察しであった。

 

 

「では“風が吹けば――?」

 

「――電車が止まる”?」

 

「……少し休憩にしましょうか」

 

 

 何度目かの珍回答に、集中力が足りなくなっているのだきっとそうだ、とお団子ヘアの頭の出来を諦めない奉仕部部長雪ノ下雪乃。

 他人の出来栄えの悪さに辟易とした彼女の受難(自称)はまだまだ終わりそうにもない。

 

 

「うあー、ぜんぜんわからないよー、ゆきのーん……」

 

「……日頃学校で習っていることの復習をしているはずなのに、どうして貴女は此処まで理解が及ばないのかしら……。クラスが違うから教わっている部分も違うのかしら……?」

 

「う、うーん、きっとそうだよー……。あ、すいませーん、この『果物アイス添えのハニートースト』くださーい」

 

「夕飯前にまたそんなモノを注文して……。太っても知らないわよ?」

 

「ゆきのんお母さんみたい。だいじょうぶだいじょうぶ、頭を使ったんだから甘いものを補給しなきゃ! それにあたし太りにくい体質だし!」

 

 

 と、そこそこ豊満な胸をどたぷんと張る由比ヶ浜結衣。

 直視したくない己との差異をあからさまに見せつけられた上で、彼女の特化戦力を主張されたのだから雪ノ下にとっては堪ったものではない。

 よろしい、ならば戦争だ。と絶壁の少女は続く授業は手加減をしないモノと心に決めた。

 

 

「あれ、どしたのゆきのん、目が怖い……」

 

 

 それが自分に向けられているモノとは露も知らず、由比ヶ浜は雪ノ下の目線の先に何かがあるのかと振り返る。

 よく女子は自分の胸を見られているときは気が付くと口にするが、それって自意識過剰なんじゃねーの?若しくは視界に入った相手ならば気づくよね、と筆者は思う。即ち、存在を感知されない透明人間ならば察知は不可能。イコール、ボッチも認識されずに済むのでは、と推測。やはりボッチは最強だった(確信。

 それはさておき、振り返った先に由比ヶ浜はちょっと信じられない光景を目にし、絶句した。

 

 

「………………え……?」

 

 

 その様子に、雪ノ下は訝しげに由比ヶ浜へと声をかけつつ、己もまた視線を向け直す。

 

 

「由比ヶ浜さん? どうし――、」

 

 

 其処に遭ったのは、彼女の高校入学時に言いようがない災難を見舞い、以来懸念としていた少年の姿。

 

 

「……比企谷くん……?」

 

 

 奉仕部顧問の平塚先生にそれとなく話を通し、どのようにしているのかだけでも知っておこうと生活指導を促しておいたはずの彼は、何故か生徒会所属の副会長であり同じ国際教養科の綾辻遥を連れ立って此処に入ってきていた。

 彼の名を雪ノ下が知っている事実に由比ヶ浜は気づきもしなかったが、なにやら面倒そうな事態が起こっていることだけは、理由が違えどふたりにも漠然と理解できたのである。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

「ほんとに此処で良かったのか?」

 

「うん。お互い学生なんだし、これくらいがちょうどいいよ」

 

 

 お礼そのものを忘れかけていた俺に、ファミレスで食事いっかいで手を打とうと提示された時には耳を疑った。

 いや、口調は全然そんな感じじゃなかったけど、随分とお財布に優しい提案に人気が出るのも無理ないなぁ、と納得したものである。

 時間的に夕飯前ということで軽くスイーツで済ませようという綾辻に対し、俺はというと帰ったらまた防衛任務に行く流れなのでこの場で食事を済ませてしまおうとフツーにドリアを注文する。

 お礼より安く済んでいる気がしないでもないので、ドリンクバーを追加で二人前。

 せめてパシリを買って出ようと飲み物を聞いたら、自分も行くと云われて納得する。ああ、高校生にとってドリンクバーって基本イタズラの場だもんな、何を入れられるか分かったものではないのですねわかりました。

 文脈的に矛盾しているような気がしないでもないが、距離感を大事にしつつ元の席へ戻る俺たち。

 ドリアでございまーす、と日曜の奥さまみたいに俺の注文した奴が先に届いていた。

 

 

「先に食べちゃっていいよ、この後予定あるんでしょ?」

 

「おう、じゃあお先に」

 

 

 理解あり過ぎるよこの子、此処でそこらの女子なら何先に食べてるしああん?とメンチを切られるまである。

 なんであーしさんに食事制限されなきゃならんのですかね……?

 

 食べ始めの砂を噛む様な回想もそこそこに、少ししてすぐにやってくる季節のパフェ。

 甘いモノを食べる所作もまたいちいち女子らしい綾辻さんには、もはや脱帽の思いである。

 

 

「旨い?」

 

「うん、けっこー当たりかも」

 

 

 ボッチに会話を期待するな、と云いたいが、向かい合っての食事で何も口にしないのもアレだと口を挟む。

 そんな俺の葛藤を他所に、綾辻さんはまったく気にした様子も見せずに嬉し気にパフェを頬張る。

 なんだかこころがぴょんぴょんするんじゃぁ~。

 

 と、俺の邪念を感じ取ってしまったのか、綾辻はこちらに気づいた様子で、スプーンでひとすくい。

 

 

「――食べる?」

 

 

 ぐは……っ!?

 

 あーん、の姿勢でスプーンを突き出す彼女に、程よくクリティカルな大ダメージ。

 目測Cカップの胸部も制服越しにでもわかるように寄せて主張されておられるので、目線を少し下げることも必要も無く視界に入る彼女の全てが完全にテンプテーションのそれである。

 致命傷じゃねぇか……!

 

 

「い、いやいい、というか、そういうことをあまり男子にやるなよ、勘違いされるぞ……」

 

「……勘違いしちゃってもいいんだけどなぁ……」

 

 

 ……聴こえてるんですけど? 俺難聴系じゃないからね、意味ありげに漏れた言葉が届いちゃってるんですけど?

 しかし女子相手にそんな振り回されてまた味わいたくも無い痛みを知るのも御免であり、俺は聞こえないふりを必死でしつつ目線を背けていた。

 

 

「? 小町……?」

 

「あ、お兄ちゃんだー」

 

 

 そして視界に入る妹と、その隣にいる男子の姿。

 ふむ、彼氏か?

 思索に耽る俺を他所に、妹はぴょんこと自然に俺の隣へと座り込んでくる。

 

 

「彼氏か?」

 

「ううん、全然違うよ? 相談があるんだって」

 

 

 全然違うっすか……。と項垂れる少年はさておき、連れてきたんなら最後まで面倒見ろよ。

 店員に席を同じにしてもらうように云って、席順をシャッフル。

 結果として綾辻俺小町の対面に少年Aの状態が出来上がった。

 ……どうしてこうなった。

 

 

「ところでお兄ちゃんこのひとだれ?彼女?彼女なの?小町がいるのになんで彼女造るの?ねえなんで?」

「はじめましてお兄さん川崎大志っす! 比企谷さんとは同じ塾で……」

「比企谷くん、コップどっちかわからなくなっちゃったけどいい?」

 

「お前ら同時に喋るなよ。あと彼女じゃねーから。それと綾辻、嫌なら店員に云って交換してもらえ」

 

 

 やや聞き取り辛いながらも、聴こえた言葉に色々と応える俺。

 確かに難聴系ではないと云いましたがこれは些か違うのではないですかねぇ、と名も知らぬ世界の神へと悪態を吐くのも已む無しである。大体乾巧が悪い。

 

 

「で、その相談とやら、俺が訊いても良いモノなのか?」

 

「う、うっす。ウチの姉ちゃん総武に通ってるんで、もしかしたら顔を知ってるかもしれないし……」

 

「川崎、っつったら、うちのクラスでは銀髪ポニテしか思い浮かばん」

 

「あ、それです」

 

 

 え、ビンゴ?

 世間の狭さに驚きつつ、世界の因果律のふり幅にもうちょっと仕事しろよと云いたくもある。これも乾巧ってやつの所為なんだ。

 

 

「……どうしてお兄ちゃんはそのひとのこと知ってたのかな?普段他の人に興味ないのに?美人?美人なのそのお姉ちゃん、ねえ大志君?」

 

「え、あ、うん、俺が云うのもなんだけどけっこー美人……ひっ!?」

 

「「へぇ」」

 

 

 何故かカワサキタイシが息を呑んだが、俺にはなんのことだかわからないな。

 両脇が寒くなった? ははは、エアコン利き過ぎじゃね此処。

 

 




そんなわけでほのぼの日常回

作中だとゆきのんが平塚先生を上手いこと動かした感が強いですが、実際のところは先生も生徒の事情を知っているから、お互いの目的を把握した結果、先生も八幡のことをやたらと目を掛けていたんじゃないかな、と思いました
妄想ですけどね

え、今後の出番?さあ…?


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プリキュアに学ぶ人心掌握

お気に入り登録数が100を突破しました!
感想でもけっこう好意的なご様子で
これもひとえに応援のお陰、ありがとうございます!

…なのに何故評価は一つ星しか増えないのかしら。逆に好ましくない理由がわからない…!ハーメルンで読むワートリ×ガイルの多数と比べても遜色ない程度と自負くらいはしてるのですけどねー…?

あ、小町ちゃんは私の中ではあのレベルのブラコンがデフォルトです。ナニモオカシナトコロハナイデスヨ?



 

 

「川崎、ちょっといいか?」

 

 

 眠い頭をどうにか起こし、最近癖になっている重役出勤で今日も登校する。

 すると、先日平塚先生にとっ捕まっていた比企谷が机の前までやってきてぶっきらぼうに呼びかけた。

 

 え、え、なに、なんでコイツいきなり話しかけてくるわけ!?

 

 

「……なに?」

 

 

 混乱する脳を他所に、なんとか自然体を装って応えようとしたら何故か不機嫌さを醸すような返答になる。

 最近の自分の行動が徒となってか、クールぶってる私の内心は大後悔の真っ最中だ。

 なんでもうちょっと女子らしい受け答えが出来ないかなぁ私! 睨みを利かせるとか完全にヤンキーじゃん!?

 

 

「話があるんだが、ちょっと来てくれるか?」

 

「……此処じゃ出来ない話なの?」

 

「プライベートだからなぁ、出来れば人気(ひとけ)がないところでたのむ」

 

「ん、わかったよ」

 

 

 と、冷静に頷いて席から立ち付いて行くふりをして、本気で動悸が怪しくなってきているのを実感する……!

 なに、なんなの、なんのはなし!? ぷ、プライベートで、ふたりっきり、え、というか教室で呼びかける時点で行動選択可笑しくないコイツ!?

 比企谷はボッチを自称してるけど、自分がそこまで注目されてないと思ったら大間違いなんだからね!?

 今も教室中からではないけど、三浦とか由比ヶ浜なんかがこっちをガン見してるし……!

 女子とふたりっきりになろうとしている自分の行動をもう少し考えろ!

 

 というか、なんで呼ばれてるんだろう。

 あれか、最近私がコイツをやたらと気にしてるのを察知されたのか?

 それを窘めるために釘を刺しに……、ないな、そういうことを自分からするような奴じゃないことは、今までの『観察』でもう知ってるし。

 

 私がコイツを気にし始めたのは、丁度一週間ほど前からだ。

 体育が終わってすぐの昼休み、私はいつものように屋上へとひとり向かっていた。

 其処を、着替えもそこそこに替え欠けの制服姿で廊下を駆け抜ける比企谷の姿が。

 猛スピードで横を通り過ぎて往く男子に驚きつつ、何故そこまで焦るような顔をしているのだろうか、とその時はほんの少しだけしか気にかけて居なかった。

 そしてしばらくして昼食を屋上で食べ終えて、人気がなかったはずの其処へと現れる誰かの気配に訝し気に入口の方を気に掛ける。

 ――比企谷だった。

 土気色の表情で、この世全ての絶望を一身に浴びせられたかのような足取りで、彼は入口の上に陣取る私に気づきもせずフラフラと屋上へとやって来たのだ。

 すわ飛び降りか、と危機を感じたのもつかの間、彼は喉が擦り切れんばかりの慟哭を始めていた。

 世界が終わったかのような、実に絶望的なそれは数十分以上続き、とてつもなく居た堪れない、出るに出られない空気を屋上中へと響かせた。

 

 そのまま、まさに飛び出して逝きそうな絶望を解放としていた男子は、そこまで長い時間泣き叫んでいたわけではなかったと思う。

 しかし、私にとっては随分と長い時が過ぎていたようにも思えて、その彼に何も言ってあげられそうにない自分が酷くもどかしくて。

 同じ年の男の子が、あそこまで感情を顕わにする姿なんて初めて目の当たりにしてしまった私にとっては、衝撃としか言いようがない時間であった。

 比企谷はしばらくそうした後、飛び降りなんかを敢行することも無く帰って行ったが、私は胸を締め付けられる感覚を叩き付けられたように身動きが出来ず、しばらくは息を殺したまま教室へ帰ることも出来やしなかった。

 心が、震えたのだ。

 

 ――それからだ、比企谷の姿を学校で追いかけ始めてしまったのは。

 

 どうしてあんなに絶望していたのだろう、どうやってそれを払拭できたのだろう、という感情から始まって、気づけばアイツの姿を目で追いかける一週間。

 自分の事情だってどうにもなってない真っ最中だというのに、感情というやつは自分ではどうしようにも制御できないものであったようだ。

 たった一週間で、私は恋としか言いようがない感情に染められていた。

 その感情を否定したくて比企谷の悪いところを探して自分の中でどうしても許せないモノを見つけてやろう、などという意地はどんな側面から見ても恋としか言いようがなかった。

 しかもちょっとばかり普通なら駄目な部分があったとしても、私なら比企谷ならこのくらいは平気、と変換してしまうのだから、割と完全に末期だ。

 決してその他の日常を蔑ろにする気はなかったが、少々気が緩んでいたことは誤魔化せようがない。

 お陰でバイト先からの注意も何度か飛んだし、大志に詰め寄られた時だっておざなりな返事が出てしまった。

 まったく、恋なんてするものじゃないね。

 

 さて、いったい何の話なのか。

 人気の無いところ、と聞いて私のお気に入りのスポットである屋上まで連れてくる。

 じっくりと、話を聞かせて貰おうじゃないか。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

「――お前が何を悩んでひとりで抱え込んでいるかなんて、俺には到底想像もつかない。けど、本当に悩むってことは誰にも明かせないってこととイコールで結びついていい話じゃないはずだろ、どうにかして解決したいのなら、誰かに話してみることがひょっとしたら解決のための第一歩を踏み出せるかもしれないだろ。言えよ! 言っちまえよ! 家族にも語れないとか意地張ってなくていいんだよ! お前の泣き言を受け止めるくらい、本当に家族だってお前が思ってるんなら絶対に拒まれることは無いんだ! 血の繋がりが結ぶ絆は、お前だけのちっぽけな独り善がりで崩れるほど容易くなんてねぇんだよ! それでも一歩が進めないっていうんなら、独り言くらい後ろで聞いててやる! お前を信じていてやる! 世界で独りぼっちなんて戯言は吐いて捨てろ! お前の背中は俺が守る! だから踏み出せよ! まだ始まってすらいねぇ、ほんの一歩目はこれが最初だ! さあそろそろ始めようぜ、川崎! お前の世界を切り拓く一歩目くらい、俺が手を引いて行ってやらぁ!」

 

「……あ、う、うん……」

 

 

 どこかの幻想殺し張りに長文説教で噛ましてみたが、どうやら解決できたらしい。

 こんな無駄に熱い修造みたいなキャラじゃないからこそ、ふざけ半分で彼女を煽る気満々で口遊んだのに、差し出した手を捕まえられて頷かれる始末。

 ジャブを打ったのにストレートになっていたような感覚である。

 ……いーのかなー……。

 

 どうにも色々な部分をすっ飛ばしたような気配すら覚え始めるが、まあ解決は解決だ。

 タイシが云うには怪しい名称の店から電話がかかってきたという話であったが、学校に来ていることは確定なのだし直接聞けばよくね? と思った結果の強行軍。

 其処で断られたら直にバイト先でも探そうかと思ったのだが、ぶっちゃけバイトをする理由なんて金が欲しい意外にあるわけがない。

 そのうえで高額をと求めている節があるのなら、遊ぶ金以上に片付けなくてはならない事情が彼女にあるのだということは容易に連想できたし。

 

 どちらにしても、経済に携わる話を通そうというのならば親御さんなんかに話を通すことは大前提になる。

 高校生は大人と子供の中間だとよく言うが、学生やってるうちは子供なんだからしっかり勉強すればいいのだ。

 普通に授業の話ではなくて、社会や人生も含めた全体の話でな。

 そのうえで、他を知る者に話を持って行くことくらいは、人生経験豊富な方々ならばなんとかできる。

 俺たちは其処を頼りつつ、上手く折り合いをつけて成長してゆくしかないのである。

 高校生になったからと云って一朝一夕に色々と抱えられるわけがねーって話だよ、まったく。

 

 ……さて、そろそろネタ晴らしをしよう。

 タイシに相談されたことも含めて、話を持って行く場所もとりあえず進学指導だから平塚先生……じゃ不安だな、そもそもあのひと生活指導だし。厚木先生がそっちをやっていたんだっけか? とりあえず其処まで連れ立つくらいはしないと有言不実行になる。

 あとは、殴られるくらいは覚悟しておこう。

 ぶっちゃけ、口先三寸で煙に巻いた自覚はあるし。

 

 覚悟完了、腹括れ比企谷八幡!

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

「え、お前莫迦なの?」

 

「おいちょっとは歯に衣着せなよ、馬鹿じゃないよ、少しだけ勉強に自信がなかったんだよ……」

 

 

 さて色々と話が済んで翌日の昼休み、場所は昨日の屋上。

 俺のストレートな質問に目を伏せて語尾が細くなってゆく川崎の成績は、ちょっとばかり平均を下回る凡夫であった。

 そうだな、めっさやることが無くて勉強にしか食指を動かせない才覚あるボッチならばともかく、バイトもやって授業にも身が入らないボッチなら成績の方は下降してゆくのは当然だわな。

 明かされた成績に、あちゃー、と俺は思う。

 

 

「そうなると塾の特待受けるのも無理かー、学校から推薦まで取れそうにもないな。諦めるか」

 

「いやいやいや、其処はきちんと面倒見てよ。発破かけたのアンタでしょ」

 

「ちょっとばかしケツ叩いた程度で責任の話されてもねぇ、選択するのは個人だろー」

 

 

 どちらかと云えば前進したとはいえ、其処を俺が誇る気も無いので偽悪的に振り切る。

 酸いも甘いも、本当に噛み分けるべきは自分自身。

 甘依存を許すほど優しく扱う義理は無かった。

 

 今回の顛末。

 進学を望む川崎姉略して姉崎だが、同時に塾の利用を始めたタイシに自分()の経済状況を子供ながらに懸念していた姉崎はならば自分の学費くらい稼いでやらぁ!と奮起していた。

 が、そこはそれ、やはり世間を知らぬ小娘の浅はかさ。

 子供の学費程度し払えなくて何が親か、と黙ってバイトに勤しんだ姉崎は親にこっぴどく叱られた。

 普通の親からしてみれば自分の子供がましてや娘が可愛くない親などは居るはずも無く、未成年で深夜バイトに自分たちに無許可で首を突っ込んだ時点で有罪(ギルティ)、そこまで進学を懸念してるならばしっかりと大学へ行け(意訳)と学業優先を言い渡された。

 

 大体俺の予想通りの展開になったなぁ、と自負しつつも、そうなったからこそ面倒見ろとは如何なものか。

 先ほども言ったが、前と比べれば進歩していてもそれを選択したのは本人次第なので、やはり俺がドヤる議題ではないことは確か。

 そして上手いこと乗せられたと思っている姉崎の面倒など、最初だけ見ればあとは自分でできるだろー、と歩行器付けた赤ん坊でもない彼女の『最後まで』などと御免被る。

 一歩踏み出せたのなら後は自分で歩け、あんたには立派な足がついてるじゃないか。

 

 

「あんたの得意なことだけでもいいから、ちょっとは手を貸してよ。他の人を頼れって言ったのあんたじゃないか。よろしくね、国語学年三位」

 

 

 何処か不敵に微笑んで、姉崎もとい川崎はこちらの言質を盾に協力を促していた。

 それは仕方がねーが、何故、知ってる……?

 

 

 




・八幡の魂の叫び
 戸塚の性別関連です


恋愛系ってこう書けばよろしいのかしら、ちょっとよくわかりませんわ
そんなわけで次回はチェーンメール編
いまいち評価が伸び悩むのならばもっとたくさんの人に読んで貰うべきか
そのためには推薦文を書いてもらうしかないかなーチラチラ(他力本願


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総武に蔓延る悪の華、チェーンメールを撃退せよ!

高評価をいただいたので決死の連日投稿…!



 

「比企谷、これはなんだ?」

 

「なにって、……社会科の職場見学の希望表、ですか?」

 

 

 中間考査も無事終えて、川崎の成績も難なく結果を出せたと思ったのも束の間のある日。

 俺は何故か生徒指導室に呼び出されていた。

 

 呼び出した主犯改め容疑者の平塚先生は、少し前に提出した希望調査プリントと呼ぶべきそれを手にし、上から目線で告げる。

 

 

「見学希望先『総武高職員室』、理由は『先生方の仕事に興味があります』。……お前これじゃあ職場見学として成立しないじゃないか、むしろいつも見てるだろう」

 

「いつもは仕事しない姿しか見てないので、」

 

「しとるわ!? 特に私は誰よりも仕事してる自覚があるからな! 若手だから他の先生方に頭が上がらなくていっつも仕事を割り振られる!」

 

 

 流石にそんなことは無いと思うのだが。

 そもそも、普通の大人ならちゃんと成果を上げてくれるひとに仕事を割り振るのは当然の話で、それでも仕事を振られるというのならば信頼されているか、現状ではまだまだ未熟なのでスキルアップを求められているかのふたつの理由が挙げられる。

 それでもこのひとが特に仕事をしているように見えないのは、こうして生徒に仕事場の愚痴を漏らして『裏』を曝け出してしまっている部分がある所為でもある。

 あんまり明け透けなのは如何なものかと思う。

 接客業として例えると、『店員』が『先生』なら『生徒』は『客』だ。

 客に裏を見せるなよ。

 

 

「というか、キミには前からも言っておきたかったんだ! なんだあの進路調査票は!? 『幸せになれるのならどんな仕事にでも就きたいです』って! 回収した担任が目元を押さえて滂沱の涙を流してたぞ!? 上条当麻かキミは!?」

 

「先生、其処は伏字にしないと」

 

「知るか馬鹿者! その時は担任の腫れ物に触らぬような態度で流されたがな、ふざけ半分で進路希望を書くような生徒に甘えなど許されん!」

 

 

 ふざけてはいなかったのだが、この人は俺の何を知っているというのだろうか。

 というか、それほど変なことを書いた覚えはない。

 幸せな将来を得たいのは誰だって普通に思うことで、なんなら今も昔も幸せな思い出だけがあればいい、と思うのが人間だ。

 けど現実は甘くなく、満足のゆく過程を得られる者など何処にもいない。

 だからこそ将来こそは、と希望を見出すというのに、何故それを否定されなければならないのか。

 

 と、そんなことを説明しようと思ったが止めた。

 どうせこのひともただの先生だ、生徒の意見など聞かずに『そういうモノなのだ』と切り捨てることが仕事だろうし。

 わかってもらえることこそが幸せなのかもしれないが、だからこそ得られないモノを追い縋る俺はひょっとすれば至極滑稽な生き方をしているのだろうか。

 などと、ちょいとノスタルジックな思考を切り替える。

 チクショウwww中二クセェwww

 

 

「そんなことよりですね、うちは確か進学校だった気がするのですが、」

 

「そんなことをぉ? 言い分に何か含みがあるようだが?」

 

「そんなことは在りません。さておき、普通に受験を目指す者が大半の筈なのに高校二年のこの時期に社会科見学ってとっても不思議ミステリー」

 

 

 魔探偵助手の女子高生みたいに取って付けると、ふいと視線を逸らす平塚先生。

 ……うん? 話を逸らすなと怒られると思ったのだけど、意外にも反応が顕著。

 ……何かあるのか、理由が?

 

 

「まあ、あれだ、大人の事情ってやつだ。あるだろ、そういうの」

 

「そういうのと云われても」

 

「……まあ、理事側の意向だ。具体的に言うと『とある会社』につなぎを持ちたい上らが生徒を利用して今回の決定を下した、そして私が監督役で『とある会社』に同行することになっている。そんなわけで、全二年の行き先は決定されている、ボーダー本部だ」

 

 

 希望調査意味ねぇじゃねえか。あ、生徒のほとんどが希望した、っていう大義名分を掲げるわけか。

 わー、聞かない方が良かったー。

 

 特に糾弾する気はなかったのだが、聡い生徒がいる弊害なのか裏事情まで語る平塚先生。

 大人の汚さが無駄に露呈した瞬間である。

 ていうか、自分で聡いとか言っちゃったよ。やだ、八幡てば意識たかーい。

 

 

「そんなわけで、キミみたいに他の仕事場を要求した生徒は、こうして行き先を差し替えるに説得ないし説教ないしを与えることになっている。全部が全部キミの様にフザケタことを書いているわけではないのでな、説教になったのはキミくらいなもんだ」

 

 

 説教だったのか……。

 愚痴かと思ってた。

 

 

「くれぐれもこのことはオフレコで頼むぞ、表向きは日々勉学に費やす生徒たちの息抜きを兼ねているわけだからな」

 

「心配しなくても、そんなことを話す友人なんて俺にはいませんよ」

 

 

 何の皮肉だチクショーめ。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 そんな話があった翌日のこと。

 

 

「ねえ、八幡はもう決めちゃった?」

 

「ん?」

 

「職場見学の相手だよ、先生は3人で1組作れって言ってたじゃない」

 

 

 大天使トツカエルのご降臨かと思いきや、ボッチには随分と辛辣な託宣を下された。

 組を作れ、だと……!? 俺と組んでくれる奴がいると思ってんのかァァァーーーッ!?

 

 

「え……!? つ、作ってどうするんだ? 職場見学っていうくらいだから普通は個人行動だろ……!?」

 

「八幡のいう普通はよくわからないけど、3人で話し合って行きたいところを決めるそうだよ? でも候補に挙がっている会社はもう出てるから、けっこう集中するのかもねー」

 

 

 馬鹿な! 自分の将来の為だろ!? 他の奴の目を気にしてどうするんだ!

 ……と、普通ならば此処で泣き言の一つでも入り、なあなあのうちに余った組に入れられて出発、最後にはとほほもう職場見学なんてこりごりだよ、みたいな昭和の漫画みたいなオチで〆られること請負であったのだろう。

 が、今回は違う。

 何故ならば行き先は既に決定されているのだからな、俺が組に入れて貰えなくても、結果だけは分かり切っているのさ……!

 

 

「ま、何処に入れられても同じだろ。たぶん誰かが余るだろうから、そいつらと組むんだろうさ」

 

「え、……むー、八幡、あのさ、もし良かったら、」「はぁ!? ふざっけんじゃねーよ!!!」

 

 

 と、教室中に広がる不和の声。

 一緒のタイミングで叫ばれたことで、眼前の大天使はびくっと身を竦めていた。そんな仕草までカワイイ。

 それはさておき、誰だ、戸塚のエンジェルボイスを途絶えさせた糞虫は……!?

 

 

「お、俺はちょっと冗談のつもりで、」

 

「冗談でも云っていいこととわりいことがあんべや!? 俺がブルースクエアの下っ端とかって、馬鹿にしてんにもほどがあんだろーが!」

 

「そうだよねー、せめて黄巾賊とか」

 

「そういう話じゃないよね!?」

 

 

 妙に険悪風味で騒いでいるのはトベ何某(名知らず興味なし)。

 その雰囲気から察するに、いつもつるんでいるカースト上位組内部のいざこざのようである。

 ボッチとしてはイイゾ、もっとだ、モット争え……! とダークサイド全開でほくそ笑むところであろうが、その雰囲気の悪さが伝播してクラス内部が空気悪い。

 以前の三浦の時ほどではないが、戸塚を怯えさせているだけで私刑(ギルティ)である。

 というか、同じグループの眼鏡とお団子、漫才してないで少しは宥める方向に。

 女子の方はどうにも他人事風味な気配であった。

 

 

「まあまあ、落ち着けよ戸部。大和だって悪気があって云ったわけじゃないって」

 

「隼人くんは黙ってるっしょ! だいたい、乱闘騒ぎ起こして出場停止食らったやつに云われたくないっしょ!?」

 

「お、お前それ言う!? 言っちゃう!? ていうかそれ根も葉もねーよ! ガセネタだよ!」

 

「だったら俺のもそーだろーがよ! 冗談で済ませちゃいけないことってあるっしょぉ!?」

 

「お、おいお前ら、そんなに騒ぐなよ、恥ずかしいだろ」

 

「「三又童貞は黙ってろ!!!」」

 

「どどど童貞じゃねーわ! ていうか三又でもねーわぁ!」

 

「もう止めろお前らァ!」

 

 

 誰が何をしゃべってんのかよくわからなくなってきたな。興味も無いが。

 リーダーと思しき金髪の優男が叫ぶが、燃え盛るほどHEATした3人は止まらない。

 幾ばくか騒ぎ立てて、その騒ぎは結局担任が来るまで無駄に続いた。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

「おーす、ヒキガヤくん。俺と、やらない?」

 

「やらねぇよ帰れ」

 

「ちょ、ちょー、待ってよー。ヒキガヤくんマジ辛らつだわー、態度変わんねぇわあー」

 

 

 何の話か。

 

 随分と騒がしかった朝とは打って変わって、昼休みになってトベなんとかは購買帰りの俺を捕まえて青いツナギの兄さんには全く及ばぬネタで被せてきた。

 邪魔なので振り切ろうとするが、別に用事があるのか反復横飛びのようにディフェンスを繰り返す。

 

 

「10人に増えてから出直して来い」

 

「いやそれ無理だからね、つか、そういう話したいんとちゃうんよ」

 

 

 暗に禿げてから来いという皮肉を込めたのだが通用することは無かった。

 というか、普段と比べると云うほど騒がしくも無い。

 朝の騒ぎを引きずっているのか、コイツのグループ男子は本日随分と大人しめ、というよりは内部分裂が進行中って感じの険悪さが垣間見えていた。

 巻き込まないでほしいんだけどなぁ。

 

 

「いや、あのさー、ヒキガヤくんって今度の職場見学、もう組作っちった?」

 

「いや、まだだが」

 

 

 そういえば戸塚の科白が遮られたままである。

 あの後何か言おうとしていた戸塚の言葉がなんだったのか、それを今一度知るすべは無いモノだろうか。

 

 

「あ、じゃーさ、俺と組まねぇ? 行きたいところはヒキガヤくんに任せるっしょー」

 

 

 と親指を立てるトベ何某。

 組んでくれるならば有り難いが、コイツはあっちのリア充グループで組むと思っていた。

 同情か? 潰すぞ。

 

 

「同情か? 潰すぞ」

 

「なんでそんな返事になるん!? つかヒキガヤくんてマジトーンで冗談いうから分かり辛いわぁー!」

 

 

 誰が冗談と云った。

 が、思わず内心が漏れたのも悪いか。

 まあ、大方いつもの奴らとは喧嘩した手前気まずくて顔を合わせづらいとかそんなだろう。

 平塚先生の話では行き先は結局同じなのだし、形だけでも組むのも問題は無いか。

 

 そんな青春群像劇に内心反吐を吐きつつ、組み分け程度の利用ならばお互い様なので承諾する。

 その後、戸塚が俺と組もうとしていたと後聞きし浄化される俺がいた。

 やっぱり戸塚は大天使、はっきりわかんだね。

 

 

 

  ☆  ★  ☆

 

 

 

 禄でもない噂がチェーンメールでばらまかれて以降、俺のグループは崩壊寸前だった。

 何が理由かはよくわからないし、俺の友達を誹謗中傷する内容は到底信じられるような話じゃなかったが、自分の悪い噂なんかを悪意ありきでばらまかれて面白い奴なんていない。

 その空気は延々と続き、何とかできないものかと生活指導の平塚先生のところに相談に行ったのだが、先生はそれならちょうどいい部活がある、と雪乃ちゃんのやっている相談部を紹介しただけだった。

 そして、それも解決とは言い難い展開にしかならなかった。

 

 彼女は、彼女自身も悪意に晒された経験があるからこそ、今回のチェーンメールに関しては犯人を特定して根絶やしにするのが一番だと力説するだけだった。

 其処に結衣がいたのは予想外だったけど、結衣はチェーンメールの発生した原因を言い当てたし、ひょっとしたらそういうことに向いているのかもしれない。

 しかし、だからこそ雪乃ちゃんの提示した解決方法は許可できないと、彼女たちの手伝いを俺は振り切ってしまう。

 悪いことをした、今度何かで挽回しないといけないな。

 

 彼女たちの推測だが、今回の犯人は俺のグループの誰かとなるらしい。

 とてもそうだとは思えないのだが、色々と理屈付けて説明されると確かに、としか思えなくなってきていた。

 だが、だからこそ犯人を糾弾するのでは、俺のグループは崩れてしまう。

 折角の中の良い奴らを、ひとりでも欠けさせるなんてダメだ。

 話し合えば、きっと誰であろうと分かってくれるはずなんだ。

 

 そうして初めてみたのは、話題を誘導しつつ冗談のように『誰か』を探る心理戦。

 しかし、其処でも俺は計算を間違えた。

 

 ――そこは空気を読んで笑い飛ばすところだろう! なんでマジになって切れてるんだよ戸部!

 

 直接口にしたのは大和だったけど、誘導したのは間違いなく俺だ。

 そのことには誰にも気づかれていないみたいだが、いつもムードを作ってくれるから勘違いしていた、戸部だって怒るときは怒るってことを、俺は知らないうちに忘れていた。

 いや、もしかしたら気の良い空気を作ってくれているアイツに、知らずと甘えていたのかもしれない。

 俺が引っ張っていかなくちゃならないグループなのに、本当に済まないことをしたと思う。

 戸部にもきちんと、今度何か奢ってやらないとな。

 

 しかし、どうするべきだ。

 これじゃあ問題は解決しないし、グループだってバラバラになったままだ。

 折角仲のいい奴らが素晴らしい形で揃って居るのに、朝あんなことがあった所為で休み時間のたびに集まっていたグループは昼休みに入ってもばらけたままだ。

 

 いや、諦めて堪るか。

 まだ話し合う余地はあるはずだ。

 とりあえず、戸部が購買から帰って来たら何か話でもしよう。

 えーと、結衣が云うには、みんなが俺と同じグループになろうとしていたからこの不和が起こったわけで、じゃあいっそ本音を明かせば良いんじゃないかな。

 でもいきなりはダメだ、まずは先手として「そういえば、戸部は何処か希望はあるのか? 職場見学」とこんな感じでいいかな。

 そうしたらみんなが自分の行きたいところを口にして、誰と組めばいいのか、ということも決まるはずだ。

 うん、なんだ、簡単なことだったんじゃないか。

 

 あ、帰ってきたな。

 よし、それじゃあ――

 

 





葉山君の頑張り(笑)にご期待くださいwwww


冗談です
次回はボーダー本部です


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