放置してた小ネタ(ネギま) (Par)
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ネギま系
昔考えたネギまのオリ主物


(登場しないが)性悪神様にネギまの世界に落っことされたオリ主の話。


 憂鬱だった。私がこれほど憂鬱なのは、きっとあいつのせいだと確信していた。

 ダラダラとくだらない授業を受ける私の心中は、きわめて悪天候で、憂鬱と言う、わずかながらも文学的なセンチメンタリズムを感じる表現に似合わず、心の中が日本海並みの海であれば、船が出れば十中八九乗員諸共海の藻屑と消えると自信を持って言える。嵐だ。それは正に全てを飲み込む大嵐。そして、その嵐は、この数年間停滞し続けている。

 豪くちびっこの教員が、いや、訂正しよう。正しくちびっこ、こいつは教壇に立つにはふさわしくない風貌で、教卓からは辛うじて顔だけが見え、黒板も上まで手が届かず、土台が無ければ黒板はその下半分をやっと使われる。その分、声を張って教えているが、こいつの見た目相応に経験が不足、声を張り上げた所で、生徒達の関心はその内容でなく、こいつ自身のみに集まる。

 さて、こうなるともう授業にはなるまい。私はサボタージュを決め込んだ。私が徐に立つと、もう一人、私の従者が同じように立上がり傍による。

 ドアを出ていく途中、ちびっこが私を引き留めつつ、生徒に玩具にされ悲鳴にも似た声が聞こえたが、一切の関心を払う事無く、私は教室を後にした。

 念のため述べておくと、ちびっこは「あいつ」ではない。私の憂鬱の原因は、あのようなちびっこではないのだ。

 

「あいつはどうしてる」

 

 そのように従者に問いかける。彼女は機械的に、きわめて端的に、感情と言う物を感じさせず口を開いた。

 

「家におります」

 

 ああ、そうだろう、あいつがこの時間家を出る事は無い。あるとすれば、酒の安売りと、服を脱いだ美女が通りに現れる時ぐらいだ。

 私はもう一度言った。

 

「何をしているのだ」

 

 従者はやはり極めて端的に答えた。

 

「お酒を飲んでおります」

 

 ああ、まただ。奴はきっと私の秘蔵のコレクションに手を出したに違いない。憂鬱を通り越し、荒れ狂う海がされに荒れる。あの男の体中、千切れる部位全てを抉り出し、潰しきっても足らない怒りを覚えるが、それは既に意味は無い事を知っている。

 

「一人でか?」

「いいえ、姉さんとご一緒のようです」

 

 ああ、これもわかっていた。きっと動けない、哀れなこの従者の姉を誘い、私への罵倒を肴に飲んでいるのだろう。そしてその姉も、罵倒を肴にしているに違いない。

 それを思うと、私はやはり憂鬱だった。

 サボタージュをしたからと言っても、私は家に帰らない。正確には帰れない。どんなに憂鬱でつまらない授業でも、その時間が続く限り、私はここにいる事を強いられる。

 学校の屋上で、従者と共に流れる雲を見る。千切れては消え、あるいは大きな雲となり、また消える。身近な儚さを感じていると、いつの間にか私の視界は暗闇に染まる。そして、次に気が付いたのは、待ちに待った下校の鐘が鳴った時だった。

 

「帰るぞ」

 

 そう短く告げると、従者はかしこまりましたと答え、私の後をついてくる。教室に寄る事もなく、私は帰路についた。

 私は再度思った。憂鬱だ。

 家に帰るのにも憂鬱に成らねばならないのは、やはりあいつがいるからだ。以前までは私の唯一のプライベート、憩いの空間。誰しも我が家と言うのはそう言う物だろう。そこに奴が住みだして、果たして何年であろうか。実際、そんな長いことは無い、5,6年がいい所、しかしあまりにも奴の存在が鬱陶しく忌々しいため、体感時間は6年を超え、果ての果てまでオーバーフローしている。

 さあ家が見えてきた。そして聞こえてくる。あいつと従者の姉の馬鹿騒ぎの声。見た目はログハス、そんな家に似合わぬ下品な笑い声と歌声。私は怒りを募らせた。

 

「踊ル阿呆ニ見ル阿呆!」

「同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!」

 

 遠慮の無い大声、酔っ払い達の宴。

 

「物真似しまーす!」

「ヤレヤレ!」

「事件は現場で起きてるんじゃないんじゃない?」

「ドッチダヨ!」

 

 私は怒りを解き放ち、ドアを開けて叫んだ。

 

「やかましいぞこの馬鹿どもが!」

 

 私の憂鬱は続く。

 

 

 男の名は百々三六、百二つでドド、三つの六でミロク。ドドミロク。二文字違えばドレミの音に見える名前。忌々しい我が家の居候、疫病神。上半身裸、ズボンもほとんどずり落ち、トランクスが半分以上見えている。

 私の怒声に気が付いた奴は、ワインボトルとウォッカの瓶を両手に持ちながら出迎える。

 

「ヘイ、エヴァおかえり、待ってた飲もう!」

「ええい、寄るな酒臭い!」

 

 半裸のまま抱きついて来る不埒な男、三六。奴には恐らく女性に対するマナーと言う物が無いに等しい。いや、無い。絶対に。あったとすれば、酔ったとしてもこうもならない、そもそも酒を昼間っから飲まない。

 人としてのマナーが無いのだ。

 

「そんな怒らないでえ!ウォッカのむぅ?」

「ウォッカとワインをちゃんぽんするな!それに、ああ!そのワイン、それは私が楽しみにしてた秘蔵の奴!」

「美味しいんだあ!」

「そうだろうな、くそう!」

 

 高級ワインも、こんな飲まれ方をしては浮かばれないだろう。そして、こいつにこのワインの在処を教えた犯人は、すでにわかっている。

 

「チャチャゼロ!三六にあれほど酒の場所を教えるなと言っただろう!」

「ソーダッケカ~?」

「この、ウすらトンカチがあ~~~ッ」

 

 ソファーの上、散らばる酒瓶を枕に寝る大き目の人形。微動だにしないその人形は、言葉を仮名変換し、おどけた調子で返した。

 従者の姉、動けぬ哀れな殺戮人形。それがチャチャゼロ、目の前の酔いどれの共犯。

 

「先月は貴様らの酒代で100万は飛んだ!いい加減自重しろ!」

「いい~じゃない、金あるんだし、それにワイン以外は俺の金で買った」

「じゃなければ今頃お前を八つ裂きにしている!」

「マスター」

 

 怒り狂う私を止めるのは、いつの間にか着替え終えた私の従者。チャチャゼロの妹、仕える人形、絡繰茶々丸。私の家族。

 

「なんだ」

「一先ずお着替えになられては?」

 

 特に問題もなさそうに、事もなげにこいつは言う。だが、このまま制服姿と言うのは、確かに家主として示しがつかない。

 

「そいつをよく見張っておけ」

 

 茶々丸にそう言って、私は着替えに向かう。

 

「いっちゃうのかよー!」

「着替えるだけだ!」

 

 私が吠えると、三六はまた下品に笑った。実に不愉快だった。

 部屋を移っても奴らの声が途切れることは無い。茶々丸に任せはしたが、どうせ御しきれまい。そうわかってはいたが、私もあいつらの面倒を見るのはごめんだ。茶々丸には申し訳ないが、少し苦労してもらう。

 あの部屋に戻るのも億劫だが、放っておくとまた何をするかわからない。私は着替え終わってから、しばらくベットに腰掛け放心していたが、重い腰を上げた。

 三六とチャチャゼロがいる所に戻ると、床に転がる酒瓶が、心なしか増えていた。と言うか増えていた。

 

「ウォッカがうまーい!」

「スピリタススピリタス!」

「火吹いちゃう!」

「ゴジラー!」

 

 またどこからか酒を持ってきたようだ。チャチャゼロを頭に乗せ、ついにはズボンも脱げパンツのみとなった三六がいた。茶々丸はいない、たぶん私に気づき、食事を作りに行ったのだろう。

 

「あ、エヴァきた!おかえりンボー!」

「騒ぐな喧しいッ」

「怒らないでおくれよん!」

「ウザいなあもう!」

 

 纏わりついてくる三六の体は、完全にアルコールが回り切り、熟れに熟れたトマトのように赤く、太陽に焼かれた鉄のように熱い。殆ど裸だから余計に性質が悪い。恥を恥とも思わぬ不埒な男。

普通なら急性アルコール中毒なりでぶっ倒れ、茶々丸が119に連絡するのだろうが、あいにくこいつは普通じゃなかった。

 文字通り水のように酒を飲み、飲んで飲んで飲み倒す。

 

「エヴァちゃん、一緒のもうよー、ほらウォッカウォッカ」

「いらーん!」

「御主人見タ目幼女ダカラ犯罪臭パネエ!」

「だまれ!」

 

 こんな愚か者に毒された私の最初の従者。チャチャゼロ、お前は昔からよく喋ったが、こいつが来てからと言うもの、余計に喋るようになったな。

 

「ケーッ!なんでぇ歳食ったくせに酒が飲めねえってのかい!」

「私は静かに飲みたいんだ!」

「騒ぎたいのー!えーらやっちゃえーらやっちゃ」

「ヨイヨイヨイヨイ!」

「だあああ!」

 

 こんな事が毎日続く。脈絡の無い会話、大声、笑い声。正しく酔っ払い、正真正銘のろくでなし。チャチャゼロを抱えて踊り狂うその様は、滑稽であった。

 私がいくら言った所で、こいつらは馬鹿騒ぎを止めない。今も目の前でウォッカの瓶を一気飲みして、チャチャゼロが、やんややんやと歓声をあげる。この二人を止めるには、私は茶々丸が来るのを待つしかない。

 

「マスター食事の用意が出来ました」

 

 そして茶々丸の声がすると、ピタリと馬鹿騒ぎが収まる。待っていた、茶々丸、お前の仕事の速さは世界一だ。

 

「ごはん?」

「はい」

「わいわい、わーい!俺茶々丸のごはん好きい!」

「ありがとうございます」

 

 三度の飯より酒が好き。しかし酒の次に飯が好き。三六は半分残った酒瓶を持ちながら、チャチャゼロを肩に乗せ、匂いに誘われ千鳥足で匂いの元へと向かった。

 私は散らばった酒瓶とつまみの残骸を見てため息をついた。すまんな、茶々丸。苦労を掛ける。

 

「それは言わぬお約束ですおとっつあん」

「誰がおとっつあんだ!」

 

 最近こいつも毒されたかもしれない。そう思う私は、冷や汗が止まらなかった。

 

 

 百々三六。目の前で飯をむさぼるこの男が私の家に現れたのは、今から二年ほど前、茶々丸が生まれる少し前である。

 今はもう味わう事が殆ど無い、落ち着いた生活を送っていた私の元に、ふらりとこの男は姿を現す。

 荷物と言えるものは無く、何かに引き裂かれたような服、オシャレで付けた物では無い自然のダメージジーンズ。浮浪者と間違われても文句は言えない風貌、私は既に嫌な予感がしていた。

 見慣れた顔ではない、外から来た人間とわかった。またぞろ、面倒な人間と思った。そして、確かにこいつは果てしなく面倒な人間だった。だが外から来たと言う私の予想は外れた。

 

「あんたエヴァンジェリンだろ!お願いがある。俺の記憶を見てくれ!」

 

 奴は出会い頭にそう言った。思わず面を食らう。記憶を見る。この言葉を聞いた人間は、こいつの事を頭のおかしい人間と思うだろう。私も、普通なら然るべき所に任せて無視するのだが、私の名を知ってるなら別だ。

さて、まずこいつの狙いは何かと考える。見た所、まるで脅威を感じない。私はこいつは「一般人」だと確信した。一方で、記憶を見ることを知っている以上、こちらに足を踏み入れかけているのか、もしくはもう入り込んだのか。

 記憶を覗く意味を聞く。見ず知らずの男の記憶など、好き好んで見る物でもない、適当にあしらおうと思った。

 

「ナギとその息子について知りたくないか?」

 

だがその言葉で私の興味は男に引き付けられた。ナギ、忌々しい名。それがこいつの口から出たのであれば、話は別である。

 人気のない場所、そこに連れてゆき、男を問い詰めた。なぜナギを知っているのか、そしてその息子とは何か?

 

「賢い人が必要だ。俺は馬鹿だが記憶がある。あんたにそれをやる」

 

 なるほど、つまり此奴は取引をしたいらしい。嘘は、ないようだ。では、何が決め手になるか、それは記憶の質、価値だ。

奴はナギとその息子とやらの事を仄めかした。まあ合格と言っていい。では見返りは何か。

 

「あんたが俺を保護してくれ。それ以外何もいらない、求めもしない」

 

 そういって奴は膝をついた。「俺を、助けてくれ……」奴は搾り出すようにそういった。誓ってその言葉に同情したわけではない、ただ情報が欲しいだけ、それだけだった。こいつを保護する気などもありはしなかった。だがその考えは変わる。私は跪いた奴の頭に手を伸ばし、そしてあの記憶を見ることになる。

 24年ちょっとの記憶、取るに足らない人間の記憶は、今後この世界を左右しかねない記憶だった。いいだろう、私は百々三六を招き入れた。

 この記憶、保護で済むなら安いものだ。

 

 

「好い!良いでなく好い!やっぱ茶々丸ちゃんの飯はうまひい~!」

「ありがとうございます」

 

 この、底抜けに愚かで笑みを絶やさぬ男。こいつは誰も知らない人間、いる筈のない人間。酒を飲み、気分を高めて今を生きる。

 求めないだと?ホラ吹きめ、お前はあれから欲望と言う欲望を募らせ続け、ついに酒に手を出したではないか。私の従者にまで手を出し、よくもこうもいられる。

 チャチャゼロ、お前はこいつをどう思っている。体の良い飲み友達か?それでだけならば良いがな。もはやこいつに理性は無い。やりたい事とやるべき事、その両方を欲望のままに行い、金を稼ぎ使い切る。かつては愚鈍でも理性ある人間だった男は、一度の死を原因に、徐々にタガが外れ、狂った。

 哀れとは言うまい、悲しむ感情など、こいつには残っていない。

 

「楽しいなあ、毎日が!」

「食事ぐらい黙って食え!」

 

 喜怒哀楽、怒りと哀しみを失った男。こことは別の地球の青年。百々三六、存在が奇跡の男。私達、この世界を作品として知る男。

 愚かで哀れな、孤独の異世界人。

 

 

 部屋に三六とチャチャゼロが籠る。声は抑えるように言ってある。

一人と一体、人と人形のコンビは、三六がここに来て一か月ほど経って結成した。初めこそ大人しい三六、彼には戸籍が無い。なければ外にも出れず、日々を私の家で過ごしていた。仕事は与えてやると私は言ったが、手続きが滞っていた。

そんな中、話し相手は動けずとも意思のある人形、チャチャゼロだった。

此奴の口はひどく悪い。私が作った人形で、見た目はかわいらしく作ったつもりだが、三六以上に口が悪い時もある。三六とチャチャゼロは、普段一緒になり、色々と話すうちに意気投合した。

暫くの後、三六についに酒が入る。チャチャゼロがすすめたらしい。今まで酒は強くなかったと言う三六だが、彼はこの世界で初めて異変に気が付く。

酔いにくいのだ。意識も記憶も残り、そしてアルコールに強い。殆どアルコールの酒を飲んでも、気分が良くなる程度で済む。気分をよくした奴は、動けないチャチャゼロに酒を注いで飲ませてあげた。礼のつもりだったらしい。チャチャゼロも喜んで飲んだ。

更に暫くの後、三六は人形偏愛者となり、チャチャゼロは私より先に大人になった。何をどういう風におこなったかは知らないし、知る気もない。

酔い難いとは言え、その場で高揚した気分もあったのだろう、奴は私に頭を下げ、いっそ殺せと言ったが、酒を飲ませたのはチャチャゼロであり、さらに誘ったのもチャチャゼロだ。結局チャチャゼロが満更でもないように言ったので、ちょうどその日に連絡がきた仕事を三六に与え、恩を返せと言って終わらせた。

それ以来、今の通りの日々が続く。

酒を飲み、仕事が無い日は馬鹿騒ぎ、仕事があっても馬鹿騒ぎ。そして騒ぎに騒いで、二人は部屋に籠る。

特に文句もない、騒がれるより静かだ。二人の問題だ。私の関与するべき所ではない。

 

三六は死ぬのだろうか?もはやその体が人間の物とはかけ離れだした奴は、人として死ねるのだろうか。ある意味私と同じかも知れない、しかし私と違うのは、彼には復習する相手がいない事だ。原因不明の力で「漫画」の世界に落とされた奴は、はたしてその恨みを誰にぶつければよい。人間を辞めつつある奴は、もう壊れている。壊れながらも、他人を求めている。

死ぬ事がわからない男、奴との付き合いは長くなりそうだ。

 



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俺と君とで”登校地獄”

魔法もなにも無い地球(現実にあらず)から転移したオリ主が、エヴァと登校地獄に巻き込まれるはなし。

登校地獄等の細かい設定は変えたり無視し、この話ではわからないが、一応オリ主最強な奴で、原作開始時は、やばい超能力に幾つも目覚めてるって奴だった。俺ツエーすぎて話まとまらないと昔放置した奴。


 ネギま 君と俺とで“登校地獄”? 

 

 

 

 穏やかな、朝。そして、賑やかな教室、2-A。

 

「マグダウェル……マクダウェ~ル?」

「先生、マクダウェルさんは来てません」

「なに、来てない? あん畜生、まぁたサボりやがったな」

 

 出席をとっていた教師、清水紀(シミズ トシ)は忌々しげに出席簿の“エヴァンジェリンA・K・マクダウェル”の所に「欠」の字を赤ペンで書きなぐる。が、直ぐにそれに斜線を引いて消した。

 

「先生朝一緒や無かったの?」

「一緒だったがね……絡繰、あの馬鹿ぁ何処行きやがった」

「気が乗らない、との事でしたが」

「気が乗らねぇだぁ? ……だとしたら屋上か、毎度毎度っざけた理由でばっくれやがって、絡繰! 後であん馬鹿職員室までしょっ引いて来い!」

 

 バちんッと音を立て出席簿の黒いあれ(バインダー)を畳む。なんともガラの悪い事であるが、これでも教師である。

 

「先生、申し訳ありませんが、私にマスターを連れ戻すのは……」

「あ、あー……なら那波一緒付いてけ、お前さんならあいつも言う事聞くだろ、多分」

「はい、わかりました」

 

 紀に指名され、那波千鶴はおっとりと答えた。と同時に、HR(ホームルーム)を終える鐘が鳴った。

 

「まだ出席が……まぁマクダウェル以外はいるな? いない奴は手ぇ上げろ」

 

 紀の下らない冗談に、クラスの何人かは苦笑、すると一際やんちゃそうな娘が手を上げ声を出す。

 

「はーい! ボクいませーん!」

「鳴滝姉「欠席」、と」

「あ、ごめんなさい! います鳴滝風香います! ここに居ます!」

「あいよ」

 

 自分から振っといて酷い仕打ちである。他の生徒も「うわぁ」と微妙な顔であった。

 

「ちなみに、知ってると思うが今日は高畑先生は出張でいない、そこの所宜しく」

「え゛!? 嘘ぉッ!」

「……“どっかの馬鹿”は忘れてたらしいな。まぁ良いや、じゃあ今日も頑張れよガキ共」

 

 気だるそうに教室から出てゆくその後ろ姿は、やはり教師には見えぬ物であった。

 

「先生、マクダウェルさんを“しょっ引き”ました」

「あいよ、お二人ともご苦労さん、戻ってよし」

「はい、失礼しました」

「マスター、後ほど教室で」

「うぅ、茶々丸め……」

「エヴァさん、また教室でね?」

「ひぅい!?」

 

 下手人を連れてきた千鶴と茶々丸を戻らせ、紀は片肘で頬杖付きながら目の前の不服かつ不機嫌なパツ金少女の下手人、エヴァンジェリンを睨みつけた。異様に那波に対して脅えたエヴァは、見ていて面白い物であった。

 

「さて、どうして呼ばれたかはわかっとるな」

「……その前に良いか」

「証言を認める」

「那波は反則だろう……」

 

 不機嫌だった顔をフニャリと崩し、エヴァンジェリンは不満を口にした。何があったかは知らないが、効果は高かったと紀は容易に理解できた。

 

「しかし、お前はどうしてこう授業をサボる、ええ?」

「……そんなの、私の勝手だ」

「やはり屋上で寝っ転がってたらしいじゃないか、屋上で黄昏るたぁ今時流行らん事をするんだな、お前は、一昔前のドラマかおい?」

 

 グチグチ、グチグチ。早口ではないが、次から次へと批難の言葉を浴びせる。エヴァは「うぬぬ」と悔しそうにするが、悪いのは自分なので余り言い返せなかった。

 

「はぁ……まあ、俺としてはこのまま終わりの無い説教をしても良いが、俺もお前も授業がある。一限は新田さんか、遅れると俺までどやされらぁ、とっと教室戻りな」

「ふん」

「来なかったらまた那波さし向けるからな」

「ちょ、おま!」

「うぅん~~~ん?」

「っく、帰ったら覚えてろよ!」

 

 礼儀もへったくれも無く、エヴァは職員室からズカズカと出て行き、それを見送った紀は溜息をつき、机の上の湯呑みに手を伸ばし、中身を飲み干した。

 

「ひどく御怒りでしたね、マクダウェルさん」

「ん、ああ、そうだな」

 

 ふらりと紀の傍に現れた同僚の女性、源しずなは笑顔で話しかけた。

 

「怒りすぎとか言うなよ」

「そうは言いませんよ」

「そうかい。ま、あいつの気持ちもわかるがね、同じだから」

「しかし、清水先生と彼女では境遇に違いがありますよ?」

「そうかわらんよ、歳食うか食わないかだけだ。さあ、授業だ、俺も行くかね」

「頑張って下さいね」

「おまえもなー」

 

 出席簿の黒いあれ(バインダー)で手を振りながら、紀は授業に向かう。また、それを見送ったしずなも、自身の授業へと赴いて行った。

 

 

 ***

 

 

 2003年、この年を迎え、俺は31のおっさんだ。指先の油が少なくなり、反面鼻の頭に若干の“てかり”が見える、気になるお年頃になっちまったわけだ。

 仕事は教師をやってる。かれこれ高校を出てからと言う物、行く気も無かった大学に入り、それはもうひたすらに勉強をしたものだから、生憎人に物を教えるのに困る事は無かった。やる事がそれ以外に無かったからな。

 やる気も無かった勉強を生かす仕事は結局教師とかしか無く、それ以前に俺は現在の住処を離れる事を許されないゆえに、就職する仕事も限られていた。

 自分がまだ社会も知らないケツの青いガキンチョ共に人生の道徳を学ばせることになるとは思いもよらなかった。

 まあなんだってこんな事になったかと言えば、色々と有った訳であるのだが……。

 あれは本当に突然だった。何せ、死を自覚する暇も無かったんだからな。自覚も出来なかったのだから、分かりもしない話だが、少なくとも人は死ぬ時ってのは何かしら思う所がある筈だ。「あ、死んだ」位の事は思うだろう。俺は、そう言う事を思う暇も無く“こっち”に飛ばされた『らしい』。

 今と成っては思い出すのも難しく成ったが、確かそう、何処か高い場所(恐らく高層ビル)から落ちたのだと思う。多分そうだ。如何してそこに居たのとか、如何して落ちたのかと言うのももう忘れた。大方足でも滑らしたんだろう。

 そうだな、瞬きをするよりも短い感覚と言うべきか、そのぐらいの感覚で目の前に迫っていた地面が、突然一人の少女に変わっていたのだ。

 地面にぶつかる筈だった俺の頭部は、唐突に現れた(向こうにとっちゃ俺が)少女にぶつかった。そして、死ぬほどではないにしろ、激しい痛みを感じた瞬間、その衝撃とは別の“衝撃”を俺と少女は纏めてうけた。俺に良くわからんもんを打った野郎は突然現れた俺を見て「やっべ」と“素”で青い顔をした。

 俺は俺で混乱の最中、死んだと思ったらこれだ。同じくよくわからんもんを喰らった金髪少女は、俺を見て騒いだ。それに対し、俺も騒いだ。と言うか、何故かそこは深い落とし穴で、野郎は上から俺達を見降ろし、俺と少女は何故かニンニク塗れになり、やたらと臭い穴の中だった。

 取りあえず俺達二人を穴から引き揚げたあの野郎は、俺を見て「一般人かよ」と困惑し、少女は少女で相変わらず騒いでいた。さりげなく俺達を引き上げる為に俺達の体を宙に浮かせたのには驚いたが、まあ今では慣れた物だ。

 一先ず、状況の確認が必要であると話し、俺はあの野郎に案内され、少女と共にある老人の持つ所へ案内された。

 

 

 ***

 

 

「良いかぁ、人と言う字は、人と人が寄り添って」

 

 御昼前の授業、紀は2-Aにて授業を行っていた。黒板に大きく「人」の字を書き、何処かで聞いた事のある喋り方で感じの説明をする。だがそこで、一人手を上げ異を唱える者が一人。

 

「先生」

「何だ、雪広」

 

 クラス委員長雪広あやかは堂々ながらも、控え目にその口を開き紀に言った。

 

「先生の担当教科は「社会」です」

 

「人」の字は全く関係無かった。

 皆がわかっていながら突っ込むタイミングを外す中、KY勇気ある行動で紀に指摘を入れた彼女は勇者と言えよう。

 

「……なあ、雪広」

「は、はい?」

「お前、寿司は好きか?」

「へ? まあ好きですけど?」

 

 何を突然とも思うが、あやかは質問に答えた。

 

「そうか、なら例えば、毎日ずっと晩飯に寿司食ったら、お前どう思う」

「毎日? それは、飽きるんじゃ無いのでは? 幾ら美味しくても毎日となると」

「そうだろう? つまりさ、そう言う事だ」

「は?」

「毎日似たような授業やってっとな、飽きるんだよ」

 

 実に身も蓋も無い、仮にも教師の言葉であろうか。

 

「先生、それはどうかと……」

「いいんちょ、先生に対してそれは今更だよー」

「いやしかし」

 

 雪広としても授業を進めて欲しい。何しろ、彼女たちには今度定期試験が待っているのだ。試験範囲はしっかりと知っておきたかった。

 

「……まあ冗談だがな。あぁほれ、そこの馬鹿ども、今日は授業潰れると思って教科書しまったみたいだがそうは行くか、机の中のもん出せ」

「え゛ー? 今日は休もうよー」

「めんどいアルー」

「阿呆、休んだって結局一時間授業はあるんだよ、その悲しい事にキャパシティーを大いに余らせた脳みそに知識を詰めろ、バカレンジャーめ」

 

 一部ブーイングが起きるが、紀は問答無用、教科書を開き授業を今度こそ開始した。

 

「よし、マクダウェル、教科書45ページ四行目から55ページの終わりまで読め」

「なんで私が、ってながッ!? ほぼ10ページじゃないか!」

「そうだな」

「輕ッ!? ああ! しかも殆ど図の無い、無駄に文が多い所を! ハッ! そうか、貴様朝の事で意趣返しか!? 陰険な!」

「フッ!」

「きゃんッ!?」

 

 エヴァが激しい抗議を行ったが、瞬間、紀の右腕から高速で放たれた白き弾丸(チョーク)がヘッドショットされ、チョークはエヴァの額で粉微塵となり、可愛らしい悲鳴を上げてエヴァは仰け反った。

 

「文句言わず読め、それと俺は“貴様”では無い、先生と呼べ?」

「く、っくぅ~覚えてろよ!」

 

 悔しそうにエヴァは教科書を持ち指定されたページを読む。最中、紀と言えば悪い笑みを浮かべていた。

 ついでに茶々丸はじっとエヴァを見つめていた。同時に何かカメラが回る音、録画されている様な音が聞こえるが気のせいだろう、きっと。

 

 

 ***

 

 

 連れて行かれた先に居たのは、切り落としたい衝動に襲われる頭部を持つ爺のいる部屋であった。入り口、と言うかここに向かう途中の看板にあったのだが、この場所はどうやら学校であった様だ。そして、目の前の爺はそこの学園長だった。

 俺達はあの少女に野郎を含めて四人で色々と話をした。聞くに、彼等は「魔法使い」だと言うではないか。この時は信じられぬ者であったのだが、直ぐに信じる事に成った。実践してもらったからだ。

 金髪の少女は“吸血鬼”だった。驚くが、それ以上にあのニンニクの山に納得した。本当に苦手なんだな、ニンニク。

 また、よくわからないもん撃った野郎はめっちゃ強い魔法使いらしい、爺もやり手との事だが、俺には良くわからん。更に良くわからない事だったが、吸血鬼の少女と彼等の間でいざこざがあって、その騒ぎの中に俺が現れた、と言うことらしかった。

 爺さんが言った。俺は何者かと。

 何者も何も、俺はただの高校生になりたての小僧(当時)だと言うと、爺と野郎は頭を悩ませた様子だった。更に爺は悩み抜いた後に聞いた。君の記憶を見せてくれないか、と一言。

 

 

 ***

 

 

「……ふむ」

 

 午前の授業を終えた紀や他の教師たちは、半分は職員室へ、残り半分は学食へと向かう。目的は簡単、昼飯だ。

 この時間の食事と言うのは、生徒との授業と言う戦いを終えた彼等にとっても至福の時であった。

 紀は職員室で椅子に座り、広げた弁当を見て唸る。

 “中くらいのお弁当箱に”と懐かしの歌じゃないが、大きすぎない弁当箱に綺麗に収められた食材は、見ているだけでも食欲をそそる。割合は緑黄色野菜のオカズが多く、少量だが肉も添えられている。ヘルシー志向らしい。

 そして、そこにひょっこり現れたのはしずなだった。

 

「あら、今日も“絡繰弁当”ですか?」

「ああ、頼んだわけじゃないが、御苦労な事だよ」

「けどありがたいのでしょう? はい、お茶です」

「ありがとさん」

 

 濃い緑茶の入った愛用の湯呑みを受け取る。生憎、茶柱と言う粋な物は浮いてはいなかったようだ。

 

「おや、また絡繰の弁当かね」

「あ、新田先生」

 

 またも現れたのは教師の年長者、新田だった。新田は紀の弁当を見ると、微笑ましそうに話しかける。

 

「生徒に弁当作らせるとは、とも最初は思わなくも無かったが、慣れれば微笑ましく羨ましい物だね」

「思い立つと作るみたいで、こっちも朝突然渡されるんですよ」

「けど上手に作りますね、絡繰さんって。味も良いのでしょう?」

「そう、困るんだこれが、これ食うと学食行けないんでな」

「それは何故だい?」

「そらまあ、こっちの方が美味いんで」

 

 おどけた様子の紀。二人は釣られて笑った。

 

 

 職員達が食事をとると言う事は、当然生徒達も食事をとる。うら若き乙女たちは、果たしてどの様な食事をとるのだろうか? 

 

「おい茶々丸!? 如何言う事だこれは!!」

「如何なさいましたか、マスター?」

「私の弁当が梅干しと白飯だけとはどう言う事かと聞いている!」

 

 機械的に静かに食事をとる茶々丸にエヴァは詰め寄り、彼女の目の前に自分の弁当箱を乱暴に置いた。人気沸騰アニメ、ビブリオンのキャラクター柄の弁当箱の中身は、美しい白飯の中心に“ちょこん”と「カリカリウメ」が置かれていた。

 

「……も、申し訳ございません、甘い梅干しの方が宜しかったでしょうか?」

「ちっがーう! 主菜、主菜は如何した!? 戦時中か! これでは主食9に副菜1ではないか!? あ、しかも何の味も無い!? 素材か、米で勝負なのか!?」

「それは、今日先生にお弁当を作った時に時間が間に合わず……」

「私の方が後回しか!?」

「おお! エヴァちん日本男児みたいなお弁当」

 

 ギャーギャー騒ぐものだから、光による無視の如く野次馬到来。そりゃこれだけ騒げば来ると言うもの、エヴァも「しまったッ」と思ったが、時既に時間切れ。初めに寄って来た明石祐奈を筆頭に、クラスの騒がしい連中が寄るわ寄るわの大騒ぎ。

 

「なになに、どんなお弁当だって、ってブハッ! こ れ はッ!」

「エヴァさんマジ男前、白飯にゴマ一つない」

「塩すら無いがなッ! と言うか散れ貴様等、見世物では無ーい!」

 

 腕をブンブン振り上げ威嚇するも、小柄のエヴァがそんな事やった所で、はた目から見れば「なんか微笑ましい生き物」にしか見えない。

 

「いやぁー見事な日の丸弁当ですね、どうですか解説の四葉さん」

「競うな、食材の持ち味を活かせ、ということですね」

「……」

 

 突然、そっと横からハンバーグをエヴァの弁当に乗せる手が見える。

 はっとハンバーグを自分に施した人物を見るエヴァ、そこには静かにザジ・レイニーデイがいた。

 

「おい……なんだ、レイニーデイ、そっと自分のオカズを私の弁当に置いて」

「……」

「その哀れんだ視線は止めろっ!!」

「あ、私もあげようっと!」

 

 ザジの行動を見て、他のクラスメイト達も次々と自分のオカズをエヴァの貧相な弁当に分け始めた。

 

「エヴァちゃん唐揚げ好き? 私のあげるー!」

「お、おい貴様等!」

「なら私はこの卵焼き!」

「ならボクはこのガーリックチキン!」

「最後のは絶対にいらんぞ!?」

 

 取りあえず、賑やかな食事であったとさ。

 

 

 ***

 

 

 正直、(当然と言えば当然)気のりはしなかった。記憶、つまりは頭ん中見せろってこった。相手が如何俺を見てるか知らなかったが、流石に二つ返事でOKは言えない。だが爺達にも事情があるのはわかる、俺は爺の提案から暫くじっくり相談をした。

 結果を言えば記憶を見せる事に成った。向こうも、俺も、色々と確かめる手段がこれしかないと判断したためだからだ。

 爺は全てを見る訳でなく、必要な部分だけを見ると一応は約束してくれた。口約束だから帆書は無いが、まあ致し方なしである。

 爺は俺のオデコに杖を付けると、何やら聞き慣れぬ言葉を口ずさみ、俺は直ぐにそれは呪文だと理解した。そして20秒程経つと、爺は杖を離した。

 如何だったと聞くと、爺は少し困惑気味に答えた。「君は一般人で間違いない、間違い無いのだが……」と途中言葉を濁した。俺は先を離すよう促すと、爺は気不味そうに口を開き言った。「君は、『別の世界』から来たのかもしれない」。

「何を馬鹿な」と言いたかった、が、つい今しがた、俺は魔法を見せられていた。「世界を超える。大いにあり得るのでは?」そう思える事が恐ろしかった。何故と爺に問うと爺は答えた、「記憶が妙な所で途切れ、そしてナギ達の場所に移った」と。如何見えたのかは知らないが、記憶を見た爺にはそう見え、俺が『別の世界』から来たように思えたのだろう。

 言いたい事はある。あるが、俺は不思議と冷静だった。よしんば『別の世界』から来たのであれば、何か違いがあるだろう、そう、例えば『時代』。俺は爺に聞いた、「今は何年だ?」と。帰って来た答えは「1988年」。決定、異世界でしたとさ、俺が居た世界は「2010年」である。どうやら俺は、魔法がある過去の地球に来てしまったようだ。これには俺だけでなく、この場に居る全員驚きであった。

 しかし、本当に重大な問題はこの事では無かった。爺が確かめたかった事は、要は俺が『真に一般人であるか、どうか』だった。

 一般人で無いならばそれで良し、仮に『別の世界』の人間であっても、最悪こちらから巻き込んでしまえば良いのだ。力があれば雇う、知識があればまた雇う、取り込み方は色々だ。だが、俺が本当に、何の力も知識も無い『一般人』だったら? (魔法使いは一般人を護るらしい)。

 そうだ、俺はこの世界に来た時、何があった? 少女とぶつかり、そして、俺は野郎が撃った『魔法』を喰らったのだ。

 

 そうだ。俺は、『巻き込まれた』のだ。

 

 

 ***

 

 

「じゃあ今日の授業終わりー気を付けて帰れよガキどもー」

「終わったー!」

「部活だー!」

「遊びだー!」

 

 紀が本日の授業終了を告げると、着席していた生徒達は一斉に立ち上がり、其々が思い思いに行動を開始する。

 一人は部活へ、また一人は友達と外に遊びにへと向かう。それらの生徒を暫し見送ると、紀はまだ席に着いたままのエヴァと茶々丸の席に近付いて行った。

 

「無事一日授業受けたな」

「当然だ、私にかかれば授業など容易い」

 

「ふふん」と自慢げに言うエヴァであるが、そもそもサボろうとした奴の台詞では無かった。

 

「無い胸を張るな。自慢したいなら授業を受けろ」

「もう何度も受けた授業だ、意味無いだろ言う、と言うか、胸の事は余計だ!!」

 

 意味が無い、その言葉に紀は半分諦めに似た表情に成るが、直ぐに切り替える。

 

「まあそこ等辺の話しは良い、それより今日は職員会議で少し遅い、先に食事は取っていて良いからな」

「畏まりました、先生」

「ふんっ、精々頑張るんだな」

「へーいよ」

 

 紀は手を振りながら教室を後にした。向かう先は会議室。至って面倒な職員会議の時間であった。

 

(どうせ、ツマラン話だ)

 

 主に生徒指導に関連した話だ。特に変わり映えしない話し、もう何度も聞いて来た。

 今日も変わらぬ会議だ。そう紀は思っていた、この時は。

 

 

 *** ***

 

 

「“登校地獄”?」

 

 紀は間抜けな声で聞き返した。何とも“スットコドッコイ”な魔法であるが、実際の所地味に辛い魔法であった。それは魔法を使った本人、ナギ・スプリングフィールドに、この場所の責任者、近衛近右衛門も理解している。

 

「……読んで字の如く?」

「字の如く。どっちかてと、魔法つか『呪い』かね。これをかけられると強制的に学校に通う事に成る……感じの魔法だったと思う」

「おいィ、なんですかァー? そのいい加減な言い方はー? この魔法使ったのあんたですよねぇ?」

 

 紀は抗議した。当然だ、自分に意味不明な『呪い』をかけられたのだ、これは堪った物では無い。そして、その呪いを受けたもう一人とて、その気持ちは同様であった。

 

「そうだ! 第一こんな所に私を縛って如何言うつもりだお前は!?」

「いや、お前は封印の意味もあったけどよ、爺が警備員欲しいって言ってたし」

「いや、わしの所為にされても」

「いやいや、ここは最高責任者の責任で」

「いやいやいや、魔法使ったのお前さんじゃし」

「いやいやいやいや、爺で」

「いやいやいやいやいや、お前さんで」

「いやい」

「いい加減にしろッ!」

「見苦しいぞ貴様等!」

 

 バンッと机を叩く紀達呪い掛けられ組。怒鳴られた方は「ひっ」と身を強張らせた。

 

「くっそー聞く限り俺とばっちりじゃねーか、解け! 俺にかけたそのふざけた『呪い』解け!」

「ついでに私のも解け!」

「あ、いやえーと、ちょいっと待てお二人さん」

 

 ナギは“ちょいちょい”と手招きをして、近右衛門を呼んだ。近右衛門は坐っていた席を立ち、ナギの方に近寄って行く。

 

「……二人共、少し待っておってくれ」

 

 どうやら聞かれると不味い事らしい。二人はそそくさと廊下へと出て、小声で会話を始めた。

 生憎、「待っていろ」と言われて待つ様な奴はこの場に居らず、二人が廊下に出た後、紀達は扉に聞き耳を立てた。ピッタリと身体奥っ付けて、何とか会話を聞き取ろうとするが、かなりの小声で会話している様で、聞きとる事もままならない。その矢先。

 

「……ブホッ!? な、なんじゃってー!?」

「馬鹿声が大きい!」

 

 近右衛門はナギの言った何かに驚いたらしい、その驚愕の声は大きく、部屋の二人にも容易に聞き取れた。

 

「なんだ!?」

「あ、いやなんでもねーよ、もうちょっと待ってな」

 

 扉を開けようとしたが、その前にナギが扉を閉めたため出る事が出来なかった。一体二人は何を話しているのか。紀だけでは無い、『呪い』をかけられた、もう一人も同じ事を考えていた。

 五分、また十分か、二人の話し合いはやっと終わり、部屋の中に入って来た。近右衛門は早足で席に戻ると、短めに溜息をはいた。

 

「……で?」

「う、うむ……その、非常に言いにくいのじゃが、落着いて聞いて欲しい」

 

 バツの悪そうな二人に、紀は不安を覚えた。こう言う時の不安は大抵当たる。

 

「……ぶっちゃけ、『呪い』解けんそうじゃ」

「……なん」

「だと……?」

「テヘペロッ」

 

 “さら”っと言った近右衛門、(半ばヤケクソ気味に)舌を出してうざいナギ。

 

「解け、ない? おい、解けないとはどういう事だ己等ァーッ!」

「ス、スマンっ、マジ今は解けないんだって、これ」

「無責任すぎるだろー! 毒には解毒をセット! 魔法だかなんだか知らんが、そう言うのはアレだ、同じ感じだろー!?」

「正論過ぎて何も言えんがマジ無理なんだって! チビとお前は中学高校の学生として三年は通わなきゃ『呪い』解けないの!」

「……本当に?」

「本当にッ!!」

 

 何と言う事であろうか、清水紀16歳元。確かに、彼は高校に通う事は決まってはいた。が、違う世界で、こんなふざけた『呪い』で学校に強制登校させられるとは夢にも思わぬ事。見知らぬ世界で、行動の自由を奪われた。

 

「……泣きっ面に蜂じゃが、“登校地獄”はただ学校に通う事を強制させられる魔法に有らず」

「は? 何、これ以上なにがあんの?」

「そのな、この魔法が使われ指定された場所、つまりここ「麻帆良」の敷地内から……出る事ができん」

「…………待て、爺。そ、それはつまり? おお俺は学校に通うのは勿論、ここの敷地外に出れない、と? むこう三年間?」

「そういう、事じゃな」

「北海道は!? 沖縄は!?」

「……無理じゃ」

「じゃあ大阪、京都、せめて東京は!? 修学旅行だってあるだろ!? ああ、それにここは埼玉って言ってたよな? そのくらいなら」

「スマン、東京どころか県内の外にも行けん。行動できるのは、「麻帆良」の敷地内だけじゃ」

 

 怒る気力も無い、言葉も出無い。

 紀の口から魂の様な物が出てる気がした。

 

「そんな、俺ァまだ若い青春を生きる16歳だぞ? それが、その青春を? 青く酸っぱい三年間を、学校の敷地で?」

「申し訳無いが、そうなる」

「ああああ──―……」

 

 余りに惨め。立ち尽くす紀に、ナギ達はかける言葉が見つからなかった。

 そこで紀は気が付いた。

 

「おい! お前!」

「うぉ!?」

 

「そうだ、俺には仲間が居る!」紀は半歩ほど後ろに居た少女の肩を掴み揺らす。

 

「お前は良いのか!? このまま、このまま終わって良いのかあああぁぁ────ー!?」

「だあああ! おち、おちつ、っけ! 揺らすな! わかった、おちつけええええ!?」

 

 傍から見れば残像が見えるほど揺らされる少女、される方は堪った物では無い。何とか紀を引き剥がし、息を整える。

 

「うぅ、ちょっと酔った……くそ、良いも何も、こいつ等が「無理」と言う以上、無理だ」

「言い切れるのか!?」

「お前は知らんだろうが、この二人は一応高い実力を持つ魔法使いだ。その二人がそう言う以上、そう何だろう。試しに敷地外に出てみろ、弾き出されるかするだろうさ」

「ぬぬぬ」

「なにが、ぬぬぬだ。ふふん、かく言う私も名の知れた魔法使い、この『呪い』が解くのが難しいのは、かけられる時に理解したわ」

 

 自棄に自慢げな態度に腹が立つ紀である。

 

「……お前さっき一緒に驚いてたじゃん」

「う、うるさい!」

 

 取り繕うと格好は付かない。八方ふさがりとはこの事か、紀は100%以上の決定事項を見せつけられたわけだ。

 

「ま、まー何じゃ? 言うほどここの暮らしも悪く無いぞ? 施設は下手な都市より充実! 敷地内と言っても、この麻帆良の広さを舐めてはいかんぞ!」

「そ、そうだよなあ! おい坊主、ここは前向きに行こうぜ! ここの飯も美味いだろうさ!」

「その言葉は魅力的だが、今てめえ等の言う台詞じゃねー!」

「で、ですよねー」

 

 これ以上慰めの言葉を言ったとしても、焼け石に水。近右衛門は、一先ず二人を休める所に適当に案内させ、何とかこの場の収集を付ける事にした。

 

「くそ……三年、三年か」

「ええい、男がメソメソと嘆くな! 鬱陶しい!」

「お前には理解できんのか! この惨めな気持ちが!」

「やかましい! 私なんてな、青春を謳歌する前にこの身体にされたんだぞ!」

「……そういやお前吸血鬼だっけか、名前って何て言うんだっけ」

「何だ、言って無かったか? ふふ、よーく覚えておけよ? 私はな、『悪』の魔法使い、エヴァンジェリ」

「今日はホテルかな……ああ、けど外に出れないんだっけ」

「って、聞かんか貴様!?」

「悪い夢であってほしい……」

「聞けよっ!!」

 

 二人は漫才をしながら部屋を後にした。

 

 

 

「……行ったかの?」

「……行ったな」

 

 残った二人は盛大にホッとする。

 

「正直誤魔化せるとは思えんかったわい」

「けど付け焼刃だぜ」

「まあの。後々二人には、特に彼は最大限のサポートをせねば成るまい。確定ではないにしろ、世界の迷子と言って良い様な境遇にコレじゃ、申し訳なくて泣けて来るわい」

「だよな……言えるわけ無いよな」

「言えんじゃろぉ。『実は三年たっても『呪い』は解けない』なんて」

 

 何と言う事だろう、この二人、嘘を付いていた。

 

「お主が馬鹿みたいな魔力でこんな『呪い』使うからじゃ」

「だってこんな事に成るなんて思わねーもん!」

「……まあ、お主の事だから考えなしに使ったんじゃろうな、相手はあのエヴァンジェリンだったから理解は出来るが」

「そう、エヴァだけだったらなぁ、別に三年過ぎても誤魔化しようがあったんだが、良くも悪くも。うう、今に成って勉強をもう少ししとくんだったと後悔するぜ……昔の俺のアホ」

「今も、じゃろ?」

「うっせ! とにかく取りあえず三年の猶予を作ったんだ。何が何でも解除法を見付けて来る」

「本来ならお主もワシもオコジョじゃよ。しかしお主程の魔力が無ければ、あの『呪い』は解けん、頼むぞ」

「任された」

 

 

 

 *** ***

 

 

 

 暗い、もう日は沈んでおり、紀はそんな夜道を勢いよく走っている。暫くすると見えてきたのは、すこし彼には不釣り合いなログハウス。だが、紀は真っすぐにそこへ向かう。

 

「ただいまだ!」

 

 紀はやけに大きな声で、ログハウスの勢い良く扉を開けた。彼は目に見えて上機嫌だった。

 

「お帰りなさいませ、紀様」

「ああ、ただいま絡繰! エヴァは……ッエヴァは、居るか!」

 

 帰って来た彼を出迎えたのは、茶々丸だった。学校で来ていた制服では無く、メイド服を身に纏っている。呼び方も「先生」では無く「紀様」と成っていた。

 彼女は息を切らし興奮している紀の荷物を受け取った。

 

「マスターでしたら、今リビングに」

「そうか、ああ! ありがとう茶々丸!」

「ッ!!?」

 

 紀は徐に強く茶々丸を抱きしめた。感極まった故の行動のようだ。しかしそれをされた茶々丸は、無表情で顔を強張らせると言う器用な事をしながら、顔を赤くし頭から文字通り湯気が出るほどであった。

 

「じゃあエヴァんとこいくわ!!」

「……は、い」

 

 ビシッと固まったままの茶々丸の返事を聞くと紀はかけ足でリビングに向かう。

 リビングには、確かにエヴァが一人大きなソファーに転がってテレビを見て寛いでいた。

 駆け寄って来る大きな音に気が付き、エヴァは紀の方を向いた。

 

「騒がしいぞ、静かに帰ってこれないのか貴様は」

「んなこたどうでもいいんだよッ!」

「わあ!?」

 

 かけ足のままエヴァの転がるソファーに跳び移り、マウントポジションをとる。馬乗りをされる方は驚くのは当然で、エヴァは非常に驚いた。

 

「と、突然なんだ帰って早々に!? 早くどかんか!」

「スマン! だが朗報だぞ! 聞けよエヴァ!」

「はあ? 何だと言うんだ一体」

 

 興奮気味に語る紀に、一体如何したのかと思うエヴァ。

 

「実はな、今日の職員会議で、爺が今度教員が増えると発表したんだ」

「教員が増える? それだけか?」

「ああ、それだけ、それだけなんだけど違う! 教員の名を聞いた時、俺は叫んだね! 会議中でも爺に詰め寄って確認した、「本当か」ってな! 本当だった、マジだったんだぜ! 信じられるかよ!」

「うぅ、もったいぶるな、良いから続きを話さないか!」

 

 一人芝居みたいになる紀に、先が気に成るエヴァも興奮気味に紀をせかした。

 

「ああエヴァよ、聞いて驚くなよ、その教員はな、まだ子供、10に満たないガキンチョだ!」

「子供だと?」

 

 全く笑えん冗談だ。子供が教師とは、エヴァは「ついにあの爺ボケたか」と思った。

 

「子供が教員とはどう言う事だ?」

「そう思った、俺もそう思った俺も! けど聞けばそいつは優秀と言うし、学力は大学主席並らしいが、そんな事は如何でも良い! 良いか、エヴァ!? こいつ、そのガキの名前はネギ・スプリングフィールド!」

 

 紀が叫ぶ、する、エヴァも眼を見開き反応を示す。マウントポジションから脱出、紀の肩に手を伸ばし身を乗り出した。

 

「なに? も、もう一度、もう一度言え、紀! そいつの名前をもう一度言うんだ!」

「何度だって言うさ、スプリングフィールド、ネギ・スプリングフィールド!」

「スプリングフィールド……スプリングフィールドだと!? で、ではそいつはまさか!」

「そうだ、わかるだろう! あの『糞っ垂れ』のガキだ!」

 

 エヴァはその答えに、「おお……ッ」と声を上げた。紀はエヴァを思わず持ち上げた。まるで子供にやる様な、脇に手を回して「高い高い」をするようにだ。普段であれば、エヴァはきっと子供扱いするなと怒るだろう、しかし、怒る事も忘れてエヴァは歓喜の声を上げ、されるがままだった。

 衝撃だった。激しい衝撃。

 スプリングフィールド、何と忌々しくも、愛しく懐かしい名であろうか。紀はエヴァを持ち上げたまま部屋をグルグル回り、エヴァもワーワー歓声をあげた。そして部屋を一周するとソファにボフンと座った。

 

「野郎のガキだ、正真正銘な! やりようによっては、こんなふざけた『呪い』ともおさらば出来る!」

「ああそうだ、その通りだぞ紀! そうか、奴の息子か! …………息子?」

 

 ここでふと、エヴァは固まる。喜びでは無い、ある意味最も重大な事に気が付いたのだ。

 

「如何したエヴァ」

「……む、息子と言う事は、あれか? あいつ、なんだ、その……『ヤル』ことは『ヤッテた』、と言う事に」

「なるだろう、実の子だし、どう言っても奴は男だ」

「~~~~ッ!」

 

 今度は違う方向で声を上げる。むしろ、声にならない悲鳴と言って良かった。

 

「そんな、私達が縛り付けられてる間に? こさえた? 子供を? あいつが?」

「お、おい如何したエヴァ!」

「アーア、コリャ魂ヌケテルゼ」

 

 壊れた人形の様にうつろなエヴァを見て、横から奇妙な声が入りこむ。

 

「チャチャゼロ、こいつどうしたんだ一体」

 

 紀の向いた先、声の主が笑った。一体の人形が、置かれていたがその口からは声が流れる。チャチャゼロ、意思持つ人形だった。

 

「忘レタノカヨ? 御主人ハアイツニ恋シテタンダゼー?」

「おおッ!」

 

 そういやそうであったと納得する紀。目下エヴァは放心中。彼女の中では既に終わった恋だが、やはりショックはショックであるようだ。

 

「ドウスンダヨー、シバラクハコノママダゼ」

「……ふむ」

 

 紀は立ち上がり、エヴァをそのままソファーに転がした。転がされたエヴァは抵抗もせず、横たわる。

 

「腹減ったし、ほっとこう」

「ワーオ、無責任! ダガソレガイイ!」

「絡繰ーめしー」

「用意してあります」

 

 紀は去り、残されたのは動けぬ人形に壊れた少女、吸血鬼だった。

 

 

 

 ──―15年、15年だ。

 あの『糞っ垂れ』が言った三年間を過ごした俺達は、無事中学と高校を卒業した。

 だが、『呪い』は解けなかった。麻帆良から出れ無かった。

 騙された。俺達は騙されたんだ。元より『呪い』は解ける代物じゃ無かった。ナギはの野郎は、それを知ってこの魔法を使ったんだ。

 エヴァだけであったなら、ある意味問題は無かったろう。だが、問題は俺だった。

 巻き込まれた異世界からの一般人、清水紀。異世界から巻き込まれた男。理解は出来る。突然放りこまれた見知らぬ世界で、こんな『呪い』を事故とは言えかけてしまったのだ。解けないと如何言えようか。

 だが、それとこれとは問題は別だ。『呪い』は解けて無いのだ。

 怒り狂ったのは俺達二人。しかし、どれだけ文句を言っても、爺達には解除できないほどに高度且つ、馬鹿みたいに高い魔力で縛られた『呪い』だった。ナギは、俺達の『呪い』を解く方法を見付けると約束していたらしい。俺達は、それを信じて待つ他なかった。

 結果、歳食わぬ不死の吸血鬼であるエヴァは引き続き中学生を続けねば成らなくなり、たとえ呪いの効力で高校生活を続けても違和感を持たれないとは言え、俺は相応に年をとる。だから高校卒業後も外にも出れず、行く気も無かった大学に進学。そのまま勉強を続けた。一年、また一年と過ぎて行き、ナギはまだかと首を長くして待った。

 そして1993年、ナギは行方不明と成り、後に死亡したと発表。その知らせを受けた時、俺は大学三年生、エヴァは依然中学のままである。

 絶望以外の何でも無い、道は断たれた。その日、俺達は珍しく酒におぼれた。エヴァにしたら思い人を失ったのだ。そら荒れるってものである。俺達は、一生旅行にも行けない、旅行番組を見て「ああ、ここに行くならアレとか持ってきたいな」と考えて溜息を吐く生活。俺は高校の、エヴァは中学の修学旅行を二人揃って欠席し、土産の温泉まんじゅうを貰うだけ。教員になってからだって、修学旅行はもちろん行けない。

 ああ、一度でいいから土産物屋の木刀を買ってみたかった。「○っちゃん」や「B○SS」のパチもんのシャツとかハンケチ買ってみたかった。俺は中学の時、風邪で修学旅行行けなかったんだぞ。くそう。

 それでも、何とか俺が教師なんて仕事に着き、エヴァも一応は中学を続けられてるのも、まあ一重に爺の尽力ありきかもしれん。俺達、特に俺に負い目を感じているらしく、爺は俺には出来る限りの援助をくれた。普段はふざけた爺だが、感謝してる。だから、俺はずっと教師として働いている。まあ、悪く無い仕事だ。やりがいもある。魔法使いなんて奴等も多いが、俺は上手く接している。

 そんな事もあって、遠くには行けないが、まあ(あきらめとも言えるが)悪く無いんじゃないか、そう思った。

 そんな時、あの『糞っ垂れ』の子供が来ると来た。

 ああ、待っていたさ、この時をさ、来るんじゃないか、そう心のどこかで思い続けてた。子供だか何だか知らんが、とっとと来るが良い。

 親の「付け」は子供に払ってもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供、ナギに、子供……」

 

 

 吸血鬼、哀れその恋、破れ去る。

 清水紀、希望を胸に、膨らます。

 



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君と俺とで”登校地獄”2

ちゃっかり二話め。あったよ、USBに!!。

主人公なんもしてないね、けどめっちゃ強いのです。一応、俺Tueeeee!!系だから。
こういうの、また増えてほしい。本当のネギまSSを読ませますよって勢いで、ネギまSS、増え……増え……っ!


 その半年を、紀とエヴァは倍、また更に何倍にも感じていた。クリスマスを待つ子供の様に、楽しみの玩具の発売を待つ子供の様に、二人は待った。あと一週間、五日、三日、そして一日。カレンダーが赤ペンで書かれたチェックマークで埋まり、遠目から見ると赤い紙がぶら下がっている様に視え出した頃、遂にその日は来たのだった。

 学校に縛られた二人と、物語が進みだす。その日が。

 

 

 

「もう、どうして私が出迎えなんてしなきゃいけないのよ」

 

 神楽坂明日菜は不機嫌である。腕を組み、リズミカルに足で地面を「タンタン」と叩き、眉間にしわを寄せた姿、その不機嫌さは一目瞭然。

 そんな明日菜を、近衛木乃香は笑顔で制していた。

 

「まあまあ、明日菜そうは言うけど先生達の頼みやし、そこまで嫌やないやろ?」

「うッ、ま、まぁね」

 

 図星を付かれた。明日菜は照れ臭そうにそっぽを向き、木乃香は可笑しそうに笑っている。

 今二人は、一人の待ち人を待っていた。今朝、担任である紀と副担任の高畑・T・タカミチに頼まれた仕事だ。

 曰く、新しい教師を迎えに行け、との事。更に聞けば、自分達のクラスに関わる人物らしい。他ならぬ担任の頼み、二人に断る理由は無かった。

 されど、待てど暮らせど待ち人は来ず、多少は待つ事は出来ても、自分達は学生の身、授業もある。そんなワケで、明日菜は割とイラついていた。

 まだ登校してくる生徒は居る。が、彼等は遅刻必死であろう。その様な生徒を運ぶ電車の時間は今過ぎた。

 

「これで来なきゃ一旦戻るわよ」

「せやなー、流石にホームルームをスッポカスのは駄目やなぁ」

 

 やれ遅刻だと叫ぶ生徒の中、特に特徴も聞かされていない相手を探すのは中々一苦労である。

 先方さんは特徴があるから見ればわかるし、向こうも話を聞いていると言われたために、先程からこうしているが、もしかして入れ違ったのではなかろうか? 

 明日菜がそう思い始めた時であった。

 

「あ、あのスミマセン!」

「ん?」

「もしかして、麻帆良の出迎えの方達って、お二人の事でしょうか!」

 

 いつの間にか目の前に杖、では無く、自分の腰辺りから声。明日菜は顔を下に向けると、小学生ぐらいであろうか、身の丈に合わぬ大きな杖を持った少年が、少し緊張気味に訪ねてきた。

「わ、かわええ子」と木乃香は思わず声に出すと、ちょっと照れ臭そうにした。

 

「何よあんた? ここは中等部のエリアよ、初等部は向こうよ」

「あ、いえ、僕ここで案内の方が居ると聞いてやって来た者です。中等部の女性のお二人で、ツインテールの人と黒髪の方と聞いてましたから、その……」

「はぁ? 私達が待ってるのは新しい教師の人で、先生も見ればわかる、特徴のある、人って……」

 

 そこまで言って、明日菜は改めて目の前の少年を視る。

 一番に目立つ大きな杖、まるで魔法使いの杖だ。如何見ても日本人とは違う顔立ちに髪と眼の色、やたら大荷物。

 良く見れば、なるほど確かに一目でわかるほど特徴はある。

 

(って!? いやいや、違うでしょ私! 教師、迎えに来たのは教師! その時点で条件外れてますからー!)

「あ、あの?」

「ほら如何見てもガキンチョ! 子供はまわれ右、小学校へ行って来なさい!」

「ええー!? そんなぁー!」

「明日菜、ちょっと可哀想やで? そら新しい先生とは違うやろうけど、ここで待ち合わせしとったのは本当みたいやし、一緒に待ってあげよ?」

「だがNO! 私は子供が嫌いなの」

「ええー」

 

 木乃香としては、このまま少年をほっておく事は出来なかったが、明日菜は嫌なようで、頑として拒む。

 少年も困った様子であるが、ふとある事に気付き、明日菜に指を指した。失礼なやつである。

 

「な、なによぉ?」

「貴方、失恋の相が出てますね」

 

 何処かで「ピシッ」と何かの割れる音が聞こえた気がした。明日菜の動き、更には表情も固まり止まる。

 少年は不思議そうだが、木乃香は汗を流して後ずさる。

 

「…………ッ、よ」

「よ?」

「よけいな御世話じゃこんクソガッキャアアァァァアアアアァァ──────ッ!!!」

「う、うわあああぁぁ──!?」

 

 怒り爆発、明日菜は素早い動作で少年を捕まえ、右腕を少年の顔に、そしてその腕を左腕で固めガッチリと固定、締めあげる。

 

「ああ! 明日菜が大人げなく、自分より年下の子供にチキン・ウィング・フェース・ロックを!」

「ぎにゃー!?」

「死ねぇええ!」

「明日菜あかん! 変な音、人から聞こえちゃ駄目な音がこの子から聞こえてる!」

 

 メリメリと尚も締め上げる手を緩めない明日菜。少年は身長差もあってぶら下がる形となり、より負担が大きく、木乃香は必至に彼女を止めようとする。だが無意味だ。

 まるでブリーカー(技は違うが)でどこぞの某原人を「全滅だー」しそうな明日菜に、全滅されそうな少年。「死ねぇっ!!」とか聞こえそうだ。

 少年に救いの手は伸びるのか? 出無ければ少年は壊れてオンチなオルゴールの如く、奇怪な音を口から奏でる事に成ってしまうッ! 

 

「止めんか神楽坂」

「グエッ!」

 

 明日菜の手が緩む、良かった、少年は壊れたオルゴールに成らずに済んだ。救いの手は現れたのだ。

 蝦蟇ガエルに似た、到底女の子が出さないな声を発した明日菜。解放された少年は、咳き込みながらも木乃香に支えられ、自分を救った人は誰かと振り向く。

 そこにはッ! 

 

「ごめんね、待たせちゃって」

「あ、タカミチ!」

「え、高畑先せッぐわわああー!!」

「俺もいるんだがなぁ、神楽坂ぁあん?」

 

 二人の担任&副担任の人相の悪い紀と、無精髭のタカミチがそこに居た。

 

「タカミチー! こわかったよー!」

「ハハハ、何があったかわからないけど大変だったね」

 

 まるで父に泣きつく子供の様に、少年はタカミチに駆け寄った。

 そして紀はと言うと。

 

「おのれは自分よりも下のガキになに『フェイス・ロック』かけてんだ、あ゛ぁッ!」

「ぎにゃー!? 先生! 歳下、私歳下の子供!」

 

 何と言う矛盾であろうか、歳下の子供どころか、少女に『アーム・ロック』をかけていた。

 

「貴様は別だアホンだらぁ!」

「ほぎゃー!?」

 

 今度は技をかけられる側に成った明日菜。少年と同じ様に悲鳴を上げていた。

 

「タ、タカミチ、あれ」

「いいよ放っておいて、何時もの事だから」

「こ、これが何時ものって」

 

 戦慄を感じざる負えない日常である。出会ったばかりの少年にプロレス技を駆け、その少女を題の大人が更に強力な技をかける。少なくとも、自分の居た所には無い日常だ。ここはレスラー養成所なのだろうか、しかし少年には刺激が強いだろう。

 

「高畑先生、この子迷子かもしれないやけど」

「ん? ああ、そうか……やっぱりちゃんと言っておくべきだったね」

「え?」

「ほら紀さん、黙ってたからこんな事になるんですよ」

「おんどりゃあぁぁ!!」

「ぬわー!?」

 

 今度は『スピニング・トーホールド』を決められている明日菜。悲鳴がうるさかった。

 

「はぁ……いや、言い訳に成るんだけど、本当はちゃんと言ってこうと言ったんだ。けど紀先生が「こまけぇこたぁいいんだよ」って言わなかったからさ。まあ、良いか、ちゃんと……ちゃんと? うん、ちゃんと会えたし」

「技ぁ教えても良いが、むやみに使うなと教えたろうがぁー!」

「わー!? 先生、見えちゃう! って言うか見えてる、パンツ見えてる!?」

「っせー! 誰も手前の乳くせー下着なんざみねーつーの!」

「わーんッ! ひどいー!?」

「……うん、ちゃんと」

 

『ロメロ・スペシャル』、相手を両手両足で固定し、上にそり上げる技。スカートめくれる、つまりパンツは見えてる。

 先程から中学生の、やはり女の子にかける技では無い。鬼畜である。

 

「……おほんッ! ともかく、紹介するよ。彼は、ネギ・スプリングフィールド君、この度この麻帆良に来た新しい先生だ!」

「は、はい! ネギ・スプリングフィールドです、宜しくお願いします!」

「……えッ!?」

「え、嘘!?」

「余所見してんじゃねーぞ、オラー!?」

「おわー!?」

 

 慌しく、やはり慌しい、そんな出会いの一幕、物語の始まりであった。

 

 

 

「どうして!? このガキンチョが先生って如何言う事ですかー!?」

「どうもこうもそのままの意味だ、神楽坂」

 

 所変わって時間も進み、場所は麻帆良は学園長室。部屋には七人、紀とタカミチにネギ、木乃香と明日菜、さらに近右衛門とその横にしずなが控える。

 現在、近右衛門に向かって吠える女子は、関節の節々が痛い明日菜である。赴任して来た教師が子供と言う事に、熱く異議を申し立てていた。

 

「ま、ワシのコネでのう、彼を雇って欲しいと頼まれたんじゃよ、教師として」

「どんなコネですかそれは! 子供が教師って時点で無理でしょ常識的に考えて!?」

「そこは、ほれ……またコネの有効活用じゃて」

「悪い人だこの人!」

 

 どこでどう有効活用したかは知らないが、碌な事ではないであろう。

 それにしても以前食い下がる明日菜、近右衛門もタカミチ達も困り顔である。こうも彼女が粘るのには、それなりの理由はある。

 

「よしんば! こいつが教師だとして、納得いかないのは何故私のクラスの担当であるかと言う事です!」

 

 ネギ・スプリングフィールド、彼は2‐A、つまり明日菜達のクラスを任せられる事に成っていた。しかし、2‐Aには既に担任と副担任の紀とタカミチが居るのだが……。

 

「どっちかが交代と言う事になるん?」

「そりゃあね、因みに僕が外れる事に成るよ」

 

 木乃香が疑問を口にすると、近右衛門が答えタカミチが捕捉する。

 つまりは「交代」、単純な話である。ネギは、2‐Aの副担任に成るのだ。

 

「そんなー! それじゃ高畑先生他のクラスに行っちゃうじゃないですか! やだ──ー!」

「良いだろ別に、会えないわけじゃねーんだし」

 

 両手振り上げて駄々をこねる明日菜、紀は呆れた表情である。

 明日菜は、副担任であるタカミチに常に熱っぽい視線を送る(直視はしない)。口には出さ無くても、見りゃわかる恋する乙女だ。

 その相手のタカミチが別クラスなりに移される。これは何としても避けたい事態でもあった。

 

「いやーここまで慕われると言うのも嬉しいね。けど明日菜君、担任は紀さんのままだし、そこまでの不満は無いと思うのだけど」

「い、いえ! それとこれとは別問題です!」

 

 そうは言うが流石にこれ以上構ってられぬと紀が動きを見せる。

 

「爺、このままこうしても埒が明かねえ、こいつ等は先に教室に移動させとけ」

「ふむ、それが良いじゃろうな」

「ちょ、まだ話しが」

「近衛、こいつ連れて戻ってな、他の奴らにはこの事はまだ言うなよ、お楽しみだ」

「はーい」

「あ、木乃香待って、引っ張らないで! って、つよっ!? 木乃香力つよっ!! あ、ああ!! グヌ、ヌ、ヌアァアーッ! 認めん、認めぬうぅ~~っ!! 私は認めないからねー……!」

 

 暴れる明日菜を笑顔で引きずり、連行して行く木乃香を見送り、部屋には明日菜の虚しい遠吠えが響く。

 

「あの、僕」

 

 事の当事者でありながら、話の流れに乗れずオドオドとするしか無かったネギは、去りゆく明日菜を見送り、本当にここに来て良かったのか不安に成っていた。

 

「気にしなくて良いよ、ネギ君。彼女も急な事で混乱してるだけだし」

「そ、それだけかな?」

「考えるな、馬鹿の考えはわからん」

 

 馬鹿の一言で片づけるのも酷いが、取りあえずはそう言う事にした紀である。

 

「それで、改めてこの小僧が、ね? ふーん、ほー」

「え、え?」

 

 紀は徐にネギの顔を見る。見られるネギは、突然人相の悪い男にじっと見られて恥ずかしいやら怖いやら。

 

「……成程似てやがる」

「え、今何て」

「気にするな」

「ぅわ」

 

 グリグリネギの頭を撫で廻し、紀は一人納得の行った様子。

 

「今日から同僚に成る清水紀だ。まあ好きに呼べや、後輩」

「は、はい! 宜しくお願いします、トシ先輩!」

 

 郷に入っては何とやら、ネギは「後輩」と呼ばれた自分は紀の事を「先輩」と呼んだ方が良いと思った。

 その判断は概ね良かったらしく、紀は嬉しそうだ。後輩とは何でも可愛い物である。

 

「私は源しずな、貴方の指導教員を担当するわ。担当の授業は英語、貴方と同じよ、宜しくね」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします!」

 

 しずなと握手を交わす。綺麗な手だとネギは思った。

 

「さっきの神楽坂を見ればわかるが、お前の担当するクラス、2‐Aは灰汁が強い、曲者揃いの厄介なクラスだ。神楽坂とは違うベクトルで面倒なのがあと数十人はいる」

「数十人もあんな方が……」

 

 自分を殺し(?)かけた様な人間が後数十人。ネギはまるでアマゾネスの巣窟の様な所を想像したのか、身を震わせた。

 

「まあ慣れれば軽くこなせるだろう、俺もそうだった。タカミチもな」

「いやー2‐Aは強敵でしたね」

「進行形でな」

 

 何処か他人事の様な言い方であるが、他人事ではない。

 

「ネギ君には暫くは教育実習生として授業に出てもらう。しばらくしたら、正式採用の試験も行うので、努々忘れぬように」

「さっきは交代なんて言ったけど、君が正式な教員に成るまでは、暫くは僕達三人、それに源先生とで頑張ろうか」

「ほ、ほんと!?」

 

 冷静に考えれば当たり前ではある。子供と言う事は置いといたとしても、教育実習生に担任で無いにしろ副担任を任せ、今までの副担任を外す理由は無い。現状はネギを加えた三人で勤務、後にネギが副担任として能力は十分と判断されれば、タカミチが今度こそはずれ、ネギは副担任を任されるだろう。

 

(ま、それにしたってネギ一人に学園長入れたなら、実質四人のアドバイザー、サービス良すぎるぜ)

 

 なんて思いつつ、紀はふと、手首の時計を見た。あと少しでHRの時間だった。

 

「爺、そろそろ」

「うむ、では君達は授業に向かいなさい。生徒達が待っておる」

「はい!」

 

 近右衛門は、元気の良いネギの返事に満足気に頷く。ネギは紀達に案内され、部屋を出て行った。

 

 

 

「この罠を仕掛けた奴が今直ぐ頭を下げなきゃクラス全員全力で埋める」

「先生、あいつらです」

「スミマセンでした」

「誠に申し訳ございません」

「なにとぞお許しを」

 

 頭にチョークの粉を被り、額に吸盤の矢を付け、びしょ濡れに成る紀。即犯人はクラス皆により暴かれ、紀に土下座する鳴滝姉妹に春日美空の三人。この光景に廊下から見守るネギは唖然とするしか無く、タカミチとしずなは苦笑いをするしか無かった。

 どうしてこうなったのか、それは今から一分ほど前の事である。

 ネギを案内し教室の前にまで来た紀とタカミチであるが、紀はネギと少し話しこんでいた。色々と教師として教える事もあり、ネギと話をして、彼の性格を把握しておきたかった。結果、話しに夢中に成っていた紀は、教室の扉が少し開いている事に気が付いていなかった。仕掛けられたトラップに気が付いたしずなとタカミチが声をかけた時には、時既に遅し、黒板消し落下から始まったコンボは美しくも残酷な物である。

 

「……貴様等にこの場の掃除を命じる。これだけで済ます俺の温情に感謝せい、ふんっ!」

 

 ポンと額の吸盤をとり、身体を激しく揺さ振り、水分を殆ど飛ばす。まるで獣の様な脱水方法である。

 

「で、この様な罠を仕掛けたと言う事は、新しい教師の情報でも掴んだな、そこの朝倉の当たりが」

「へへっ」

「褒めてねぇ照れんな、きもちわりぃ」

「え、きもち……え?」

 

 辛辣だ。

 

「何時も何時も下らない事しやがって、くそ、入ってこい!」

 

 どなり声と共に外に待機するネギに声をかける。しかし、本人が中々入ってこない。変に思い、紀は様子を見に行く。

 

「どうしたんだろう?」

「さあ? 今の見てビビったとか?」

「まさか」

 

 生徒の方もどうしたのだろうかと思うが、ここからでは様子は見えない。

 

「どした?」

「せ、先輩、なんか予想以上に怖いんですけど!? これが噂の学級崩壊でしょうか!?」

「俺のクラスに対して崩壊と申したか……」

「ネギ君、大丈夫だよ、一部が御茶目なだけだから」

「そうね、ほんの一部」

「これって御茶目で済む!?」

 

 ビビっていた。灰汁が強いとは聞いたが、予想以上の歓迎(されたのは紀だが)である。精々黒板消し一つで済ませば良い物を、矢やらバケツに水やらと手が込んでいる。ピタゴラ的絶対教師殺す装置。自分なら思わず、「禁止されている方法」で防いでしまいそうだった。

 ついでに言えば、まるっと筒抜け、生徒達は気不味いもんだ。

 

「良いから行け、時間が押してる」

「ちょ、ちょっとだけ心の準備を」

「不許可」

「うわぁ!」

 

 背中を押され、ネギがよろけつつ教室に入る。入ってきたネギを見て、教室も静かに成った。対して、突然静かに成った教室に逆にビビるネギだが、ここは頑張らねばと腹をくくり、教壇に向かった。続けて紀とタカミチも入って来る。そして、複数の視線の中でネギは少しだけ深呼吸をした。

 

「挨拶を宜しく、スプリングフィールド先生」

「はい! この度、先生としてこのクラスに赴任した、ネギ・スプリングフィールドです! 皆さん、これから宜しくお願いします」

 

 堂々と挨拶をし、最後に深々と御辞儀を一回だけした。

 

「はい、御苦労さん、じゃあ今日の出席を」

「ちょぉっと待った!」

「ん、朝倉」

 

 本当ならここで一つ、生徒達から「かわいい!」何て声が響きそうであるが、そうなる前に紀があっさり出席確認を始めようとしたため、皆がタイミングを逃し、このままさせて成るかと朝倉和美が急ぎ挙手。一人、とある生徒がその行動に「うんうん」と頷いている。

 

「普通ここで新任の先生への質問とかがあるところでしょ!?」

「そこかよッ!?」

 

 頷いていた生徒が驚き立ち上がり、声を上げた。

 

「え? 違う?」

「当たりまえだ! 着眼点が普通すぎて逆に斬新すぎるわ! もっと注目と言うか、言うべき所があるだろ!?」

「いや、ちょっと私の眼を持ってもわからないなぁ」

「この節穴!! パパラッチ! 子供じゃん!? どっから見ても、子供じゃん!? もっとも注目すべき点だよな、つーかそこ以外何を見ろと!?」

「杖とか?」

「つ、えッ!?」

「あ、外国の人だ!」

「この朝倉めっ!! 違う! そうだけど、違う!」

「え、まってあたし名前を罵倒につかわ、え?」

 

 朝倉にツッコミを入れた生徒は、今にもかけた眼鏡が割れちゃうんじゃないかと思う様な勢いでツッコミを入れ続ける。

 

「いやぁ、絶好調だな長谷川、お前ならきっとやってくれると信じてた。素晴らしいツッコミだ、感動的だ」

「だが無意味だけどな! つーかあんたはあんたで呑気でいーなー!」

 

 長谷川千雨、「平穏」を愛する故に損なポジションが多い生徒である。

 

「まあ長谷川の疑問も尤も、声に出さずとも、同じ様な疑問を感じた物が居るだろう。現に先程もそれに関してひと悶着あったが、まあ聞け。スプリングフィールド先生はこの度、教育実習生として来ている。今はまだ正確にはまだ「教師」じゃ無い」

「いや、教育実習生としてもおかしいんじゃ」

「それに関しては気にしたら負けだ。俺はあきらめた。「ここ」が何処か行ってみろ長谷川」

「……麻帆良です」

「な? もうそれで説明不要だろ」

 

 こう言われては、千雨は何も言えなかった。そう、ここは天下の麻帆良学園。日本一変わり者が集まる“超特異”学園都市である。

 今までもそうだ。周りの生徒は何にも疑問に思ってもいないようだが、紀に如何見てもロボットが生徒に居る事を聞くと、「麻帆良だからな」と言われ、刀帯刀してる生徒が居るんだけどと言えば「気にしたら負けだ、麻帆良だから」と言われる。「麻帆良だからしょうが無い」はある種の決まり文句と成っていた。

 

「わかりました……もういいです」

 

 大人しく席に着く。もう千雨もこの事に(不本意ながらも)慣れた物だった。

 元々、彼女はこんな時に声を大きくして不満を訴える人間では無い。もし彼女が入学当初のままであったなら、恐らく今の事も不満に思いつつも、心の中で静かに不満をぶちまけるだけだったろう。こうなってしまったのは、何を隠そう担任の所為である。

 ロボットの事も、帯刀の生徒の事も、最初は全部紀に相談をした。担任であるなら当然である。それで帰って来た答えは先程の通り、「麻帆良だからしょうがない」だった。

 呆れた物だと思うが、冷静に考えてみて、千雨はある事に気が付いた。紀は他の生徒の様に、疑問に思って無いわけでは無かった。他の生徒たちに同じことを聞いた場合、たいてい返る答えは「麻帆良だし普通」である。だが紀のように「麻帆良だからしょうがない」と言う事は、少なくとも彼はそれらの事が「変」であると言う事に気が付いているわけである。何がおかしいんだと、自分がおかしいかのように言われるより、よっぽどこの答えの方が(一応はであるが)納得がいくと言う物。普通に過ごそうとする彼女にとって、この学園での生活はストレスの溜まる物で、口に出せば幾分か楽に成ると言う事もあり、事あるごとに担任か稀に副担任のタカミチにも相談をした。そんな事を繰り返すうちに、二年生と成った今、人前でも反射的に疑問を口にする(要はツッコミをする)ようになったわけである。

 今回の事も、紀も一応変であると言う事は理解している様子が見て取れる。ここは一つ、大人しくしておくのが吉であろう、経験上。

 

「不平不満もあろうが、基本指導教員として源先生もいる。それに、ほれ先生はアレだ。「見た目は子供、頭脳は大人」を素で行く様な天才タイプだ。だから教師としての能力はある」

「あ、知ってますそれ、日本の漫画の台詞ですよね!」

 

 ネギが某名探偵を知っている発言をすると、教室から「おー」と声が上がる。

 外国の人が日本のアニメとかを知っていると、何故か自分が誇らしく思えるが、何故だろうか。

 

「ともかく、どっかの馬鹿は“今直ぐ”教師交代で俺か高畑先生が居なくなるのではと思った様だが、少なくともスプリングフィールド先生がペーペーの教育実習生である間は、担任副担任は俺と高畑のツートップのままだ。良かったな、馬鹿」

「せめて私を見ずに言うとかして!?」

 

 名前は出して無いが、じっと明日菜を見て言う物だから、その馬鹿が誰か一発でわかってしまう。

 哀れ明日菜。別に言われなくても特定できる辺りがまた哀れ。

 

「ではでは、御次はこの朝倉が質問タイムをば!」

「先生、歳と出身と趣味と好きな女性のタイプは? ついでに彼女って欲しい?」

「あ、はい! 歳は9で数えで10になります。出身はイギリスのウェールズ、趣味はお茶や古道具を集める事で、女性のタイプは……お淑やかな方でしょうか? そう言った人であれば、お付き合いしたら楽しいでしょうけど、僕には早いですよぅ」

「だそうだ」

「全部聞かれた!?」

 

 折角用意したメモ帳も無駄に終わる。いや、無駄ではないかもしれないが、しかし彼女にとっては敗北だ。

 麻帆良のパパラッチ、報道部所属、スクープ大好きな朝倉和美の行動を予想していた紀は、ごちゃごちゃ色々聞かれる前に、彼女が聞きそうな事をネギに答えさせてしまった。

 

「ひどい、ひどいです紀先生! 私の仕事奪わないで!」

「じゃあ出席」

「無視かよ!」

 

 面倒な奴の相手はしない、それが紀の信条であった。

 

「ネギ先生、極端だけど紀先生のやり方がこのクラスに合ってるから、よく見とくと良いよ」

「きょ、極端すぎないかなぁ?」

「曰く、妥協すれば負けのクラスらしいわ。あと強い波は、より強い波で飲み消す」

「あ、それ何かわかる気がします」

 

 赴任初日、ネギは2‐Aの灰汁の強さを身を持って知る事と成った。

 HRも終わった後にあるのは勿論授業、ネギの担当は英語で、日本語の出来るネイティブ教師の授業は、本来非常にありがたいのだが、どうも2‐Aの面々はそれ以上に、やはりネギに対する興味の方が強い様である。授業と言うにはお粗末な物で、生徒に翻弄される教師が見られた。しずながいなければ、授業は成り立たなかったであろう。

 

「しずナイス」

「その上手い事言ったって顔止めて下さい」

 

 紀は少し落ち込んだ。

 しずなと紀は職員室で談笑し、今日のネギの働きを聞いていた。タカミチは居ない、彼は普通の教員より色々と忙しく、授業が終われば大抵違う仕事に狩り出されるのだ。貧乏暇なしと言う訳ではないが、とにかく彼に暇は無かった。

 

「で? ウチ以外の授業はどうだったんだ」

「まあ普通でした。他のクラスは2‐A程騒がしく無かったので」

「あそう」

 

 結局2‐Aだけが問題山積みと言う事だった。

 

「そういや、帰りのHR終わった後、何か騒がしかったな、また何かやる気かあいつ等」

「ネギ先生の歓迎会をやるって聞きましたけど? 新しい先生が来るとわかった時点で決めてたみたいです」

「ふーん? まあ顔ぐらい出すか、呼ばれて無いけどな」

「普通に行けばいいじゃないですか、自分のクラスなのに……あ、呼ばれて無い事ちょっと拗ねてます?」

「拗ねてねーよ」

「ほら視線を右に逸らした。先輩の癖ですよ、嘘付いた時の」

 

 癖を指摘され、バツが悪そうになる紀だった。

 

「……仕事中の「先輩」は止めろ」

「ネギ先生には先輩って呼ばせてるじゃないですか」

「あいつは本当に新人だからな、お前はもう何と言うか、同僚だ」

 

 紀の答えに、少ししずなは不満げだった。

 

「さて、あいつらだけで何かさせてると後が怖い。俺は様子を見て来るかね」

「私も後で行きますね」

「そうしな」

 

 腰を上げ、紀はえっちらおっちら教室へと向かって行った。

 

「やっとるか、お前等ぁ?」

「あ、紀せんせー」

 

 教室は普段の姿を変え、歓迎ムード一色に成っていた。何時の間に作ったのか垂れ幕がかかり、クラッカーも用意されている

 

「おうおう、派手にやりおるわ」

「せんせー、せんせー何処に居るか知らない?」

「……言わんとしてる事はわかるが、もっと言葉を整理せい椎名」

「あ、そうか」

 

 失敗失敗とウィンクをする椎名桜子、笑顔で誤魔化す。

 

「えっと、ネギ先生って今何処に居ますか?」

「なんだ、おらんのか」

「うん、今明日菜が呼びに言ってるんだけど、中々来なくて」

 

 明日菜が呼びに言ってる。そう聞いた時、紀は猛烈に嫌な予感がした。

 

「……明日菜だけか?」

「え? そうだけど」

「そうか、探してこよう」

「へ、あ、先生?」

 

 紀は来たばかりの教室を出て、駆けだした。

 HRを終えた後、ネギは校内を散策したいと言う事で職員室に行った後直ぐに出て行った。全体を把握しているわけ無いので、そう広範囲を歩いてはいないだろう。紀は大凡の目星をつけ、ネギの居そうな所を次々に回った。

 二度三度当てが外れた時、前方に見なれた生徒が居た。前髪で顔を隠している。2‐Aの生徒、宮崎のどかだ。

 

「宮崎!」

「えひゃい!? え? あ、先生?」

 

 大きな声で呼ばれて、のどかは相当驚いたらしい、手にもっていた本を落としそうになった。

 

「ああ悪い、しかし急ぎでな、スプリングフィールド先生を見なかったか?」

「ネ、ネギ先生ですか? それなら今向こうで」

「居たのか?」

「はい、階段から落ちそうになったのを助けてくれたんです……はぅ」

 

 何があったか知らないが、ネギはのどかを助けたらしい。のどかはその事を話すと、最後顔を赤らめた。

 

「そうか、ありがとう。怪我が無くてよかったな」

 

 そう言い残し、紀はのどかの行った方向に走る。

 そして一分とかからず、目的の場所に到着、そしてそこには目的の人物のネギが居た。それと、もう一人。

 

「そ、それじゃ秘密にしてくれるんですか?」

「ま、いいわよ」

 

 必死にネギに嘆願される明日菜が居た。

 紀はその状況を見て、何があったのか大凡の検討を付けていた。今直ぐにでも二人に駆け寄ろうと思ったが、紀はふとその考えを止め、そっと物影に身を潜めた。

 

「あんたが秘密にしろって言うならしてあげるわよ、言ったって誰も信じないだろうし」

 

 明日菜の言葉からして、ネギは「秘密」がバレたのだろう、正直迂闊過ぎると紀は思ったが、明日菜の口ぶりから恐らくは平気だろうと結論を出す。良くも悪くも、明日菜は約束を守る女だと、彼は知っていた。

 紀は当たり障りの無いタイミングを計り、物影から姿を表し、二人に声をかけた。

 

「何をしてる、二人で」

「うわぁ!?」

「先輩!?」

 

 二人は紀に気が付かなかったらしく、声をかけられると大声を出した。

 

「なんだ、大声出して……何かやましい事でも?」

「いえいえそんな!」

「ふぅん? まあ良い、所でスプリングフィールド先生、生徒達が待ってますよ」

「へ?」

「あ、そうだ、私あんた呼びに来たんだった」

 

 ここで本来の目的を思い出した明日菜、ネギにクラスの皆で歓迎会をすると説明した。

 

「そうなんですか、そう言えば宮崎さんもそんな様な事を」

「わかったなら行くわよ、ほら」

「えっと……」

 

 ネギはチラリと紀の顔を伺った。おおかた行って良いのか悩んでいるのだろう、紀は苦笑した。

 

「それぐらい自分で決めればよろしい、生徒達が待っているぞ!」

「は、はい!」

「わかったなら急ぐ! 俺も後で行く!」

「はい!」

「但し廊下は走るな!」

「は、いえええ!?」

 

 自分はさっき走った癖に随分な言い草である。

 ネギと明日菜は焦らず程々な早足で教室へと向かい、紀はそれを見送った。

 

(……後で要相談だな)

 

 エヴァと色々と話す事が増えてしまった。厄介事の塊だと言う所は、本当に血だなと紀は思った。

 

(「魔法」ね、ほんと……めんどくせー)

 

 かつて15年前、初めて関わり人生を狂わされた魔法。今回も、その魔法によって騒動が起きる予感がする。

 めんどくさそうな顔で、紀は頭をかいたのだった。

 

 

 

「ネギ先生麻帆良へようこそ」と書かれた垂れ幕が降ろされ、クラッカーの音と共にネギの歓迎会は幕を開けた。

 紀は若干遅れて現れ、その騒ぎに加わった。

 

「……あいつ等は好きだねぇ、こう言う馬鹿騒ぎ」

 

 教室の後ろで腰かけ、飲み物として置かれていたウーロン茶を紀は啜る。教室後方は、騒ぎの苦手な面々の憩いの場と成っていた。

 

「そう言うあんた……先生も、普段参加してるじゃないですか」

 

 こいつ何言ってんだ、そんな顔を向けたのは、若干不機嫌そうな千雨だった。

 

「さてね、俺は参加するより見てる方が好きだがね。そう言う長谷川こそ、こう言うの嫌いだろ、良く残ったな」

「先生が残れって言ったんでしょう」

「まあな」

 

 本当は今直ぐにでも千雨は帰りたかったが、紀によって阻止された。

 

「最初ぐらい顔出しとけ、義理は立つだろ、後は適当に抜けても文句は言われん」

「そりゃ、そうだろうけど……」

「まあ後は好きにしときな」

 

 紀は一気にウーロン茶をあおると、立ちあがった。

 

「何処行くんだ……ですか?」

「お前ほど出来て無い我儘な御姫様が家には居てね、叱りに帰るのさ」

「ああ、それはお疲れ様ですね」

「あんがと」

 

 同じく歓迎会に顔を出していたしずなに声をかけると、紀は教室を後にして、早めに家へと帰宅した。

 暫くしてから、ネギの住居の問題で騒ぎが起きるが、紀の知らぬ事である。

 

 

 

「よう」

「なんだ、もう帰ったのか、ってむぎゃッ!?」

 

 ゴロゴロとソファーで寛ぐエヴァを見付けるや否や、うつぶせに成っている彼女の後頭部を手でクッションに押しこんだ。

 

「むわー?! やめろー!」

「いやぁ、御姫様は本当にぐーたらですなぁ、殆ど授業に出ようとせず、クラスの催し物にも参加せんとは」

「離せ、はなせー!」

「ふん、雑魚が吠えよるわ」

「ぬわあんだとぉう!?」

 

 プンスカ怒るエヴァは全く怖く無かった。紀はそのままエヴァを片腕で抑え、彼女の隣に座った。

 

「それより、お前どう思った?」

「ぷはっ! ……全く、今度はなんだ?」

「だからさ、ネギだよ」

 

 そう言われ、エヴァは「ああ……」と小さく納得。

 

「如何も無い、流石あいつの息子……と言えばそれも正しい評価だが、所詮ガキだ。魔力は多いが、何時でもやれるなあの程度」

「……お前が言うなら、そう何だろうな」

「ふん、不便な物だな、魔力を感じられんとは」

 

 若干いじけた様子の紀、エヴァはサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「ほっとけ、俺は限り無く一般人だ」

「戯けめ、貴様の様な一般人が居てたまるか。封印状態でも偶然とはいえ、私に勝った癖に良く言う」

「あれはお前が間抜けだっただけだ」

「ゆ、油断したと言えせめて!」

「イヤ、“アレ”ハ油断テカ滑稽ソノモノダロ」

 

 従者の殺戮人形にまでからかわれてしまった。エヴァは顔を(どっちかと言えば羞恥で)真っ赤にした。余程思い出したくない事らしい。

 

「チャチャゼロは口を挟むな!」

「オーコワイコワイ」

「くわばら、くわばら」

「お前も! いらん所まで話を掘り下げるな!」

 

 腕をぐるぐると振り回すパンチはまるで迫力が無い。

 

「エヴァの じたばた!」

「ポケ○ンか私は!?」

「ああ、つーかさ」

 

 じたばたを余裕で受けながら、紀は本題を思い出した。

 

「ネギ多分魔法ばれたぞ」

「ああそうかい! ……って、ん゛ん゛!?」

 

 聞き流しそうになるが、今の紀の発言を理解すると、エヴァは殴るのを止めて驚きの声を上げた。

 

「貴様、マジで言ってるのか!?」

「嘘言ってどうすんだよ……」

「だって……今日来たんだぞ」

「な、恐ろしいだろ」

 

 違う意味でエヴァは戦慄した。魔法は秘匿する事が「魔法使い」の間では常識であり基本中の基本。彼等にとっては、人が息を吸う事と同じぐらい当たり前の事である。魔法使いの中でも年季の入った魔法使い、エヴァは勿論その事を言うまでも無く知っている。だからこそ、さっそく一般人にばれたというネギの失態が、同じ魔法使いとして情けないというより、よく分からない怖さを感じた。

 

「……ん、まあなんだ、そうやって言うんなら、特に問題は無かった、と言う事なん……だろ?」

「まあな、ばれたのは明日菜だと思う」

「あの馬鹿か、記憶は消したのか?」

「いや、そんな感じは無かった。けど心配無いんじゃねーかね、秘密にするって言ってたし」

「それは……どうなんだ?」

 

 本来魔法がばれたら、ばれた相手の記憶を消す必要があるのだが、それをネギはしなかったと言う、それが本当であれば、ネギは常に魔法が明日菜以外の一般人にばれる危険があるのだが、ネギはそれがわかっているのか、エヴァにはそれが不安だった。

 

「困るぞ、あいつがオコジョになったら。学校での事は任せろと言ったではないか」

「言ったさ、だから問題には成って無いだろ?」

「結果的にはな、だが厄介なことには変わりない」

「なぁに、やり様はあるさ、そうだろぅ、悪の魔法使いさん?」

「……ふん、その通りだ」

 

 エヴァは悪の名に恥じない、悪い笑みを浮かべ答えた。

 

「ところで、今日はどうする? 一緒寝るか?」

 

 紀がそう言うと、とたんエヴァは顔を赤らめ目を逸らした。「んー」とか「あぁー」とか言いながら、チラリチラリと紀を見る。

 

「……う、うむ、まあ頼む。その、まだちょっと、ほら、その……な?」

「お前ナイーブ過ぎるよなぁ、前好きな男にガキがいたからって」

「うるさいな……私だって人肌恋しくなる事もある」

「へーへー」

「というか、お前はもっと喜べ……その、なんだ……一応は、私のような女子と寝れるんだぞ」

「嬉しいから一緒に寝てるんだろうが」

「お、おう」

 

 一応言うと、二人は何も後ろめたい事はしていない。いや、教師と生徒と言う関係は後ろめたいと言うか、背徳的関係だが、そもそも二人その年の差100を超え、もっと言えば本来エヴァは学生じゃないはずだった。問題があるなら見た目だけだ。きっと。

 また補足するなら、「寝る」だけだ。子供をあやすのと同じ。これもまた、後ろめたい事はない。

 恥ずかしげも無い言い方は、紀がすっかりエヴァの相手に慣れたからだろうか。もともと女性への扱いが雑と言うだけかもしれない。だが同じ境遇になって、エヴァの想い人も死んだと知り、事情を知る間柄。同じ土地で何十年と暮らす。聞く者が聞けば「そりゃそうなる」と言ってもいい結果かもしれない。

 対しエヴァは初心だ。紀に慣れてないわけじゃない。単純に男との男女の付き合いが良くわからないだけだ。ナギの時も、結局力で手に入れようとしたのだから、自然となる男女と言う関係に慣れていないだけなのだ。いまだに。

 

「まあ飯食おう、腹減った」

「う、うむ! そうだな」

 

 紀につられ、一緒に食卓へ歩く。夜のベッドが少し恋しく思いながら、今この時もまた恋しく思えた。

 二人は、やっと進みだしたのだ。

 

 



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エヴァとオリ主系

妖怪絵巻とか時代劇的にやりたかったものの、文章が続かず止まったもの。


 宵の頃である、遠い遠い異国の地での事だ。木々生い茂り、ぽつんと一国領主の城がある。西洋建築であった。間違っても鯱は乗っていない。とんがり屋根の可憐な城は、夜への移り変わりが最も美しい。木々は青い、春の頃であった。

 春風は人を陽気にするが、この時は到底そうもいかぬ事情を抱えた者がいた。顔を出し始めた月明かりが、ひっそりテラスに立つその彼女を照らす。なんと可憐、月明かりが金色の髪をより美しく、より一層艶やかに輝かす。その艶やかさを怪しくする液体がある。    

 赤い――極めて赤く、極めて黒い。

 可憐な金色髪の少女の手よりポタポタ垂れるのは、鉄臭い血であった。目の前には、物言わぬ肉塊が転がり、それを少女が冷やかに、かと思えば興奮したように見る。

 殺したのだ。少女が殺したのだ。今しがた、月が出て来たこの瞬間に。死体のぱっくりと開いた腹からは、割れた瓶から溢れるワインの様に、赤黒い血が今も溢れる。死体の顔は見えぬ、影となって少女からは隠れていた。手にこびり付いた生ぬるい血は、風に冷やされ死体同様冷たく成ってゆく。温度が下がるのと同様に、少女もまた顔面が蒼白となった。

 やってしまった。少女は困惑した。どうするか、如何様にしようか。この死体は如何すれば良い、今にも人が来よう、自分はどう言えばよい、どう殺したと言えばよい――。

 どう、「吸血鬼」になったと言えばよいのか。

 

「ああ、ほとほと困った顔をしている」

 

 静寂を破る声がした。

 

「咄嗟に殺したようだ。いやはや、勇猛果敢。おちびが頑張るものだ」

 

 不思議な声は後ろからであった。振り向き少女はぎょっとする。声だけでも驚くが、少女と一緒に月夜を浴びる不審な男、それが目の前にいた。先ほどまで居ない男だった。見たことない服である。腰に帯を巻いていた。歳は若そうだ。テラスの柵に器用に腰かけ少女を見ていた。

 心底驚いた。そして困った。見られてしまったと。「誰だ」と、喉奥より言葉を絞り出す。精一杯焦った様子を見せまいとした。

 

「誰かと聞かれれば答えたくなくなる。失敬、少々捻くれ者でな。しかし、ははぁ……なるほど、これは」

「人なの、違うの?」

「ほう、どちらと思うね?」

「人とは思えない」

「ほうほう、ほほう」

 

 ケラケラ笑い、男は愉快そうであった。対して、少女は実に不愉快である。どうした物か、どうするべきか考えあぐねる。

 

「経緯は存ぜぬが、おちび、君は今もって俺の仲間だ」

「む?む、むむ」

「不服か?いいや、そうとは言わせない。然り、俺は人に非ず。そしておちび、君も人に非ず。人でなければ仲間じゃ、仲間と言わずに何と言う」

「貴方も此れの仲間?」

 

 此れとは死体である。咄嗟か、計画的か、どちらにせよ人一人殺すには相当の理由がある物だ。そして大抵は相手が憎い物だ。憎み切れぬほど憎いのだ。だから殺したのだ。敬意などあろうか、少女には此れを指すのには、「此れ」で十分であった。

 

「おちびと俺と同じ理由であれば仲間だ。人でないのだから。だか、それは人で無くとも人でなしだ。心無い者である、つまり外道だ。友ではない」

「友と仲間は違うの?」

「違う、友ならばその死を嘆く、お前も恨む。だがそれには一切の情も無い、お前に恨みも無い。だからそれの為に流す涙も無い。人で無いので仲間だが、友でない」

 

 男の死体の見る目は少女以上に冷やかであった。氷より冷たく冷えている。

 

「けど貴方、とても辛そう」

 

 少女が指摘した。彼女の言うとおり、男は顔をヘニャクチャにさせ嘆いているようにも見えた。今にも涙が零れ落ちそうだった。

 

「そうだな、辛いのだ。誠に勝手だが、君の事を哀れんでいる」

「私を?」

「悲しいのだ」

 

 一言男はそう言った。

 

「そこな男、果たして何を思ってこの様な兇行へ出たかは知らぬ。知る気もない。だが、それにより無垢なる少女が一人化け物となった。我が仲間となった。生れた頃よりそうあったれば納得も行くが、化け物など態々好んで人からなるものではない」

「私も嫌だった」

「当然だ。痛いし辛いし何せ気分が悪い。だがなってしまったのだからな、もうどうしようもない。慣れる他ない、だがああは言ったが化け物も陽気なものだすぐ慣れよう。さて、怨敵は早々に討たれた訳だ。おちび、これからどうする算段か」

 

 うっかり滴る涙を堪え男が聞いた。それを少女は考えていた所だ。その思考に割り込んだのは男の声だった。男に邪魔されたのだから、どうするのかと聞かれるのは、少しばかり不本意である。一つ二つ案はあるがどれも妙案でない、結局絞れる案は一つ程度。

 

「出てく」

 

 雲隠れである。

 

「家を出るのか?」

「家じゃない、ここには預けられた」

「親もおろうに」

「化け物を生んだ覚えはないと思う」

「そうだろうな、そうだろうよ」

「私は死にました。死んで化け物となりました。文でも置いて消えます」

 

 少女は思い立つと手早く紙とペンを用意し、サラサラと一言二言親類へと言葉を残す。「二人の子として居れません、消えます。お許しください」簡潔にそう残した。

 早い行動であるが、これこそ正しく彼女の哀しみの成す事である。迷いなど一切なく、人の未練を断ち切らせるほどの哀しみであった。

 

「当てはあるのか?」

「ある訳がない」

「であろうよ。所でおちび、頼みがある」

 

 チョイチョイと男は手招きをした。

 思えばこの男も不思議な男である。現れた時は度肝を抜かれたが、不思議とこうも冷静に話せている。手招きにも一切用心せず、少女は言われるがままに近づいた。辺りはもう暗くなり、月に照らされた男の顔を近づいてマジマジと眺める。

 

「貴方の目は黒いのね」

 

 少女を覗く瞳は黒かった。薄らと少女の顔が写りこんだ。これは少女の知る人の目ではないので、これが化け物、人に非ざる者の目であると思った。しかしそれは大きな勘違いである。

 

「我が国の目だ。人も化け物も総じて黒い」

「髪も真っ黒」

「我が国の髪だ。だが老いれば皆抜け落ち、残れば白くなる。皆同じだ」

 

 目と髪が違うだけでもなんと世界は珍妙か。少女は深く思った。

 

「遠い遠い国よりやって来た。おちびには到底知りもしない遥かな場所だ」

「そう」

「さて、頼みというのは簡単だ。俺はわけあってこの地へ来た。長い旅の途中だ。これからも続く旅だ。だが一人は寂しい、誰か共に来てくれる者はおらぬか……丁度そう思っていた。そうした時におちびを見かけた。今宵の出会いは運命を感じる。おちび、どうかこの異国の化け物の友に成ってくれんか」

「友に成れ?成ればいったいどうなるの」

「取り立てどうなるほどでもない。友に成る事など世で珍しい事でも無し。しかし、そうさなぁ……旅に付き合ってもらおう、それに雨風入らぬ宿と食事は用意できるかもしれぬ」

「まあ!」

 

 渡りに船、少女が求める物が一度に手に入った。異国の目の黒い化け物が、果たしてどう宿と食事を用意するのか分からないが、ここは頼るほかない。友にでも親友にでもなろうではないか、少女はとうの昔に家を出ると腹を括っていた。

 

「なる。友にでも何でもなる」

「おお、そうかそうか!うむ、よかったよかった」

 

 男は実に嬉しそうに頷いた。

 

「では行こう。さあ、掴まれおちびよ、出発だ」

「何処へ向かうの?」

「何処へでも行く、風に任せ、気ままにだ。長い旅だからな、のんびり行かせてもらう。おーいおーい」

 

 男が空に向かって何かに呼びかけるように叫んだ。空に誰かいるわけは無いのだが、不思議な事に、男の声に応えるかのように、月だけポツンと浮かんでいた空に突如として雲がモヤモヤと現れた。男が少女にしたように手招きをすると、雲がモゾモゾ動き端からプツンと小さな雲が千切れた。千切れた雲はそのまま二人の傍に飛んできた。

 

「さあ乗るぞ」

「雲に乗れるの?」

「乗れる。乗れるから化け物なのだ」

 

 男は少女を抱えて雲に飛び乗った。「きゃあ」少女は突然の事に悲鳴を上げた。続いてふんわりとした感触を感じた。人生初、人はやめたが生まれて初めて少女は、空を漂う雲に乗り込んだのである。「どうかね」男が袖に手を入れにんまり笑いながら聞いた。十分雲の感触を味わう。

 

「どうしてくれるの?これからは高級絨毯も、最高のソファーも、襤褸布被せた藁に感じるわ」

「そうか、それはすまなんだな」

 

 そのまま少女は雲に寝そべった。雲隠れを決めた彼女だが、これでは文字通り雲隠れである。

 育ちの良い彼女は、フカフカのベットで日々夜を過ごしたが、もうこれを味わってはどうしようもない、化け物はこんなに良い物が使えるのならば、望まぬとは言え化け物になった甲斐があった物である。

 雲は軽やかに天空へと登り出した。少女の眼下には、先ほどまでいたとんがり屋根の城が見えた。城をこんなにも上から見たのは初めてだった。そしてこれが城の見納めだった。少女は乾いた血で汚れた小さな手で、小さく手を振った。

 突然ピシャリと光が走る。男が呼んだ雲から雷が墜ちたのだ。

 

「別れの挨拶だ。そら、人が驚いている。呵呵!」

「凄いのね、貴方はこんな事まで出来る」

「なぁに、容易い」

 

 もう城は見えなくなった。変わりに空の月が何時もより抜群に近くに見えた。

 寝転がりながら、少女はこれからの事を考えた。考えたが、どうにも考え付かないので、雲に包まる事にした。雲は引っ張るとそのまま掛布団に成り、彼女の体を包み込んだ。少し欠片を集めれば、極上の枕にもなる。男も胡坐をかいて悠々と空の旅を楽しんでいるようだった。

 

「俺は生まれて暫くして雲に乗る術を覚えた。以来、これに飽きた事は無い。雲を操る術もあるが、風に任せるのが一番だ。流れ流れるのが良い。雲は風に任せ揺蕩うのだ」

「色んな物を見て来たのね」

「ああ、見て来たよ。多くを眼に焼き付けた。より見聞を広めるため、この様に国を飛び出した」

「もしかして、貴方は相当長生き?」

「俺に限った話では無い、おちびお前もそうだ。化け物の一生は長い、これよりお前は、永久とも言える生を受けたのだ。俺は彼是3000は超えて生きている」

「……何てこと、貴方とんでもないおじいちゃんじゃない」

「なぁに、まだまだ若い。俺程度探せば幾らでもいる」

 

 全く持って想像つかぬ存在である。いるとすれば神か悪魔かその類である。少女には漠然とした形すら浮かばなかった。大して考え付かないので、少女は思った事を言う事にした。

 

「ねえ、貴方は私をおちびと言うけれど、ちゃんとした名前があるわ」

「そうか……うむ、それもそうだ。なあ、おちびよ、お主名はなんという?」

「私はね、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルって言うのよ」

 

 少女の名を聞くと、男は首をかしげて頭を捻った。ついにはうんうん唸りだした。

 

「なんだなんだ?やけに長い名前だ。なんだって?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルよ、皆はエヴァとか呼ぶわ」

「はあ、異国の名はわからんなぁ……まあ良い、俺は決めたぞ、おちびはおちびだ。おちびと呼ぶぞ」

「名前で呼んでよ、酷いわ」

「いいではないか」

 

 一切悪びれもせず、男は笑った。

 

「第一貴方の名前は何て言うの?」

「言ってないか?」

「ないわ」

 

 やはり悪びれもせず、男は自身の名前を口に出した。

 

「我は狐である、空狐である。俺を知る者は、空丸と呼ぶ」

 

 大口を開けた空丸の口の中には、獣のような鋭い牙が怪しく光を放っていた。だが牙ならエヴァも負けていない。彼女が不本意ながら変貌した化け物は、悪名高き夜の王だ。真祖の吸血鬼である。負けじと彼女も口の牙を光らせた。そして、笑って空丸に言い返した。

 

「異国の名前はわからないわね」

 

 空丸はしてやられたと言う顔をした。

 これより、程なくして彼女は瞬く間にその名を轟かす。エヴァンジェリン、泣く子も黙る真祖の吸血鬼。

 もう数百年も前の話であった。

 

 

 ***

 

 

 狐とは、神通力を得る事ができる生き物であり、化け物であり、物の怪であり、妖怪である。それは3000年の長きを過ごした通力自在の大狐である。人はそれを空狐とよぶ。空狐は放浪する。隠居した狐は諸国を漫遊し、困る者あれば助けるとも言う。

 空狐「空丸」もまた、しかりであったのだ。

 

 

 ***

 

 

 幼きエヴァンジェリンは、600年以上の時を経て、何の縁であろうか、遥々日本に移り住んでいた。しかも学生だった。それも中学生であった。その地は麻帆良と言った。

 エヴァは600年で心が大きく成長した。色々あった。言葉で説明するには、あまりに長い。狂おしいほど美しい、狂艶可憐な吸血鬼となったあの日、産まれた地から旅立って、西へ東へ、北へ南へ放浪とした。旅の殆どが、空丸との時間であった。彼に名を笑われ、彼の名を笑った日より、二人の関係は誠に誠実で良きものである。化け物に誠実不誠実もあろう物かとエヴァも思うが、しかしその通りなのである。

 空丸はエヴァに様々な事を教えたし、エヴァはその事を実によく覚えた。二人で見た物は今でもしっかりと記憶に残っているし、彼と交わした会話は録音テープを再生するように思い出せる。男女の二人での長旅であったのだから、何か甘酸っぱい事でも起きてもよさそうだが、無かった。なんせ二人は化け物である。化け物に性欲が無いかと言うと否、これが実に旺盛であるのだが、奇妙な事に化け物はあまり化け物同士で色恋沙汰が少ない。むしろ人を好きになる。人とは人間である。対極の生命である。なんでまた人なんぞ好きになるのかと言うと、実の所化け物たちも良くわかってない。可憐な女子が居ればモノにしたいし、頼もしき色男がおれば傍にいたい。それが偶然にも人である事が多いのだ。思う所は結局人と同様である。

 晴れて吸血鬼となったエヴァもそうである。彼女も人を好きになったのだ。

 そんな甘酸っぱい記憶も昔の事、今の彼女は無気力な少女であった。中学生活が億劫で仕方ないのだ。なぜなら、もう何度も中学生だからだ。何度も何度も、彼女は中学生だったのだ。飽き飽きしてしまっていた。

 どうしてまた何度も中学生なんぞやっているのかと言うと、これが件の恋した男の所為である。語るも聞くも情けなくも滑稽な話である。この男、自分に惚れた少女を返り討ちにするばかりか、用意周到に罠を仕掛け、この地に封印したのである。更にまたやらかしたのは、この男は封印と同時に「登校地獄」などと阿呆この上ない魔法までかけた。登校地獄とは読んで字の如くである。登校を強いられるわけだ。通学である。

 男は三年経てば魔法を解くと云い捨て去った。まあ、エヴァもそれを期待して、愛しの彼を待ったのであるが、可憐な少女にも容赦なく罠を仕掛ける外道はやる事が違う、なんと彼女を遺して行方不明となり、はては死亡と報告された。外道どころかド外道である。

 この報せがエヴァの耳に入った時の彼女と言えば、一時放心とし、後に荒れに荒れた。あまりに荒れる物だから、非常招集された麻帆良に住まう実力者が、彼女を抑え付けるのに三日三晩かかったと言う。その間、きっちり登校地獄に従って通学はしっかりした。どうやったのかと疑ってしまうが、ちゃんとやったので通学したのだろう。実際、この時の事を当事者達はあまり覚えていないので、もしかしたら忙し過ぎて魔法効果もうっかりしたのかもしれないと笑い話が出来たほどだ。

 さて、兎にも角にも結局その愛しくも憎き男の所為で、エヴァはそのまま長々延々と中学生活を続けている。そこで偶に話に出るのが空丸である。

 麻帆良には大きな学園がある。麻帆良自体が学園都市であり、大きな学習機関であるのだが、そこの最高責任者は魔法使いの好々爺である。よって、この地に住まう人々の中には、魔法使いが溢れつつ、その正体を隠す。そこにエヴァが通っているわけである。

 この好々爺、世界でも腕が立つことで知れる魔法使いである。爺なので長生きをしている。そのため、空丸の事も結構知っているのだ。会った事もあるので、その人柄と実力を知る数少ない人物であり、その空丸であれば魔法を解くか弱める事が出来るやもしれない、そう言った。

 この爺よりも空丸の事を良く知るエヴァも、勿論その可能性は否定しない。しかし、空丸を探し呼び出す事は強く断った。何故かと爺が聞くと「こんな姿を見せられん」と、見た目相応な恥じらいを見せた。長きの間、共に旅した恩師に今の無様な姿を見せる事を拒んだのだ。

 結局、今もエヴァは幼いままだった。

 

 

 ***

 

 

 廊下をツカツカと歩く男がいる。何処の廊下であるかと言うと、麻帆良学園の校舎である。更にそこの最高責任者、学園長のいる部屋へと続く廊下だ。土色の着物を着た男は、紙袋を片手に持ち、鼻歌交じりに歩く。

 扉の前に辿り着くと、袖から手を出しコツコツノックをした。中から返事が来ると、男はふらりと入り込んだ。

 

「わあ」

 

 扉を開けると、少年が男の腹にぶつかった。小さな衝撃にこそばゆい気持ちになりながら、腹に顔を埋めた少年を見る。

 

「ああ、すみません、すみません!僕の不注意で」

 

 どちらかと言うと、自分が突然入ったのだから少年がそこまで詫びる事は無い、男は少年を制した。少年は実に恐縮したようであった。その少年を不審そうに見る目線がある。少年よりは歳上、赤毛の少女であった。少女は不機嫌そうである。それをいさめる様に笑う黒髪の少女もいた。順々に顔を見て、色々と男は頷いた。

 

「少年、すまないな、俺も不注意であった」

「いえ、その……僕の方こそ、あの」

「構わぬよ、しかしそれよりも……はて、どこかで?」

 

 男は少年の顔を見ると、不思議な既視感に襲われた。そう言えば今目に入った赤毛の少女も見覚えがあった。首をかしげると、つられて少年も首をかしげた。さて、このままでは二人でメトロノームと化してしまう、何でも無いと誤魔化した。

 

「ふむ、一度外そうか?」

「無用です、もう終わりましたので」

 

 部屋に人が多いとあって、さては用事の最中であったかと思い、部屋を出ようかと思ったが、それを部屋の中央で腰を据えた老人が止める。

 

「タカミチ君、ネギ君を頼むぞ」

「お任せを」

 

 タカミチと呼ばれた不精髭の男性が、少年少女を引き連れ部屋を出て行った。タカミチが男に向かい、深く頭を下げたので、少年達も慌てて頭を下げ、部屋から出て行った。扉が閉まると、部屋には男と爺、その爺の秘書が残った。

 この爺こそが学園長、近衛近右衛門である。相対するは、紛れも無くあの空丸であった。変わらず若い、エヴァと出会ったころと変わらぬ姿のままであった。

 

「久しいな近右衛門、便りで孫が出来たと聞いたが、黒髪のがそうか」

「わかりますか?」

「匂いで分かる。しかし、大した娘だ。だが、何も知らんようだな」

「あれはまだ若い、できれば知らずに生きてくれると良いのですが」

「無理だな。強すぎる」

「……わかっております、しかし」

「言わずともわかる。それが孫を持つと言う事だ。俺には子も孫も居ないが、子を持つ奴は数多見た。そう、何事も無いのが一番であろう。まあしかし、今は良い」

「はい」

 

 老年の近右衛門は、明らかに年若い男に至極丁寧に言葉をかわした。近右衛門は秘書に目配せし、座り心地の良い椅子を用意させた。礼を言い、空丸は手に持っていた紙袋を秘書の女性に渡し、深く椅子に腰かけた。

 

「土産だ。遅れたが、孫の誕生祝もやれなんだからな。後であれと食うと言い」

「これは、ご丁寧にありがとうございます」

 

 紙袋には名の有る菓子屋の名が印刷されていた。

 

「甘味は良いな。知っているだろう、俺は甘味と酒が好物だ。人は色々作ったが、よくぞ甘味と酒を多く作った。これは素晴らしき事だ」

「左様ですか」

「うむ、まあ結局、そうそう……菓子も良いが、聞きたいことがある。俺はそれでここに来た」

「わかっております。彼女の事でしょう」

「うむ、話が早い」

 

 空丸は機嫌よく笑った。そして、孫に会いに来た爺の様な心境で急かして言った。

 

「おちびは何処に居る?」

 

 

 ***

 

 

 数百年をすっ飛ばし、話が急転直下、あっと言う間に進む状況を、件の“おちび”は一切を知らず、呑気に校舎屋上で胡坐をかいていた。

 

「今日は天気が良いな」

「晴天です。マスター」

 

 ポツリと覇気も無くエヴァが呟くと、横に控えた少女がそれに答えた。少女はとても冷めた眼をしていた。どこか冷たい雰囲気がある。そんな彼女の答えに、エヴァは機嫌を良くするでも損ねるでもなく、ただ「うむ」と言って黙る。平日、この時間は当然授業中、未だに中学生を強要される彼女にも、当然授業はある。あるがここにいる。この二人だけだ。周りには二人以外誰一人としていない。堂々たるサボタージュであった。

 

「授業は終わらんな」

「まだ始まったばかりです」

「知っている。忌々しい、ああ、忌々しい」

 

 胡坐をかいていたエヴァは、そのままごろんと寝転がった。何処から取り出したのか、透かさず控える少女は、エヴァの下にシートを引き衣類の汚れを防いだ。甲斐甲斐しいこの冷たき彼女、エヴァの学友であり、エヴァのメイドである。名は茶々丸と言う。そして彼女の小さき主人は、本格的にサボりを決め込んだようだ。

 フワフワと、エヴァの視線の先には何にも縛られぬ真っ白な雲が、心地良いそよ風に乗っていた。

 あの雲は自分で決めるでも無い、ただ風に任せ揺れ、風に任せ飛ぶ。ただ風に任せ揺蕩うのだ。

 そんな雲のように生き、当に雲に乗り、風に任せて揺蕩う男が居るのを彼女は知っている。伝説の空狐・空丸。何も知らず生きる人々は、空狐の名すら知らず、魔法使いやその仲間たちですら、今ではその存在を知る物も少ない。この日本で一番彼に関して詳しく、一番共に過ごした時間が長いのが、西洋出身のエヴァと言うのは皮肉な話である。

 あの日、吸血鬼となった夜。初めて雲に乗った日の事は、外へ出れず、中学エンドレススクールライフを繰り返す彼女にとって、授業をサボり頭上の雲を眺めるのは、昔を思い出せる唯一の楽しみである。

 昔を懐かしむとは老いたものだと自分でも思うエヴァだが、その方がまだ日々を楽しめるのだから、彼女にとっては必要な事である。第一中学生どころか小学生でも通じる見た目の彼女が老いたな等と言っても、ませ餓鬼の下らない冗談にしか聞こえない。

 

「私は雲になりたいよ」

「雲ですか」

「きっと雲ならここから飛んで行ける」

「マスターであれば、飛ぶ事は容易いのでは」

「わからんか、雲が良いのだ。雲なら縛られない。一か所に留まる雲など見た事も無い。どこか遠くへ、風が運んでくれるのだ」

 

 目を閉じ、あの時の雲の感触を思い出す。最高級の絨毯も、上等の布団も形無しの雲の感触。舵はきらない、風任せに飛んで行き多くを見る。果ては山超え海を越え、この世の全てを見た気に成った。

 師よ、偉大な空丸よ。今はたしてどこにいる。

 陽気気儘な化け物ライフを教えた師の事を、エヴァは常に想っていた。会いたいと思った。だが、今の情けなき己が姿を見せるのは辛かった。たかが人間一人、しかも惚れた相手にこっ酷い大敗をきしたとは口が裂けても言えない。たとえ、忌まわしき封印を解ける可能性があっても。

 尤も、それ以前にもっと手じかな可能性が出てきたため、多少なり落ち着きを取り戻した。神経質よりは、雲を眺める分には丁度良く丸くなった具合である。

 

「く~も~よ~、た~ゆたう~」

 

 いよいよもって意味不明、ついには歌を歌いだしてしまった。屋上で寝そべって呑気な歌を歌う主人を見て、従者の茶々丸はと言うと、これまた別に何を思うでも無い。自分はただ仕えるのみ、呑気な歌を歌おうが気にしない。

 こうしてエヴァは大抵一日を過ごすわけである。なんと無駄な一日であろうか、良い歳の少女が、いやまて、良い歳と言っても歳食った方の意味だ。第一少女は見た目年齢だ。こう言うのを合法ロリと言う。

 良い歳した合法ロリが、日がな一日学校の屋上で意味不明な歌を歌うとは、無駄と言わず何と言う。誰か活でも入れれば良いのだろうが、ちょいと誰かに言われた所で簡単に立ち直る事情では無い。エヴァも訂正する気は無い、今日もその通り、何時もの通り過ごす気だった。

 

「く~も~よ~……」

 

 二番も無ければ三番も無い、雲よ揺蕩う、それだけの歌。それを歌い続けている所で、彼女の視線の中に大きめの雲が見えた。珍しい事ではない、大きい雲だってあるだろう。しかしまて、これはおかしい。エヴァは目を見開いた。

 黙々と、そしてモクモクと、雲が二人の頭上に集まりだした。

 

「マスター、不思議な雲が」

「そりゃ見りゃわかる。問題は不思議で済まない気がするからだ」

 

 如何にも不味い。嫌な予感がした為、急ぎこの場を離れようとしたエヴァであるが、突如ピシャリと彼女の股座近くに雷が落ちた。立ち上がり損ねた彼女は驚き、「ギャア!」と声を上げ転げてしまった。一瞬であったが、晴れ間に落ちた雷は、鋭く光を放ち爆裂の音を轟かせた。校舎からキャーキャーとかワーワーとか、生徒の狼狽える声が聞こえた。

 エヴァは、焦げ付いた床を見て唖然とする。あろう事か、焦げ目は「まぬけ」と書かれていた。

 

「腑抜けたな、おちびよう。お前、こんなのも避けれなんだか?」

 

 モクモクとした雲が緩やかに二人の下に下って来た。雲の中からは男の声が聞こえた。怪しい奴!聞きなれぬ声に、茶々丸が主の前に出て臨戦態勢を取った。如何なる時も主人を守る、従者の鏡である。

 

「ふはは、一丁前にも家来を持ったか。お前も偉くなったな」

「何奴ですか」

「何奴と思うね?」

「不審者かと」

「違うね、俺は化け物だ」

 

 言うが早いが、男は瞬きする間もなく茶々丸の後ろに現れ、ちょいと足を引っ掛けた。ほんの少しの動きだったにも拘らず、くるりと宙を舞い、茶々丸は地面に伏した。彼女が己の状態に気が付くのに、数秒を要した。

 

「主を守るなら、これぐらい往なせ。ほれ何時まで呆けてるのか、おちび立て」

 

 まるで猫でも持ち上げるようにエヴァを抱え上げる男、ブランと体を揺らし、エヴァは目を丸くし、目の前の男を凝視した。

 

「うわわ!」

 

 釣り上げられた魚の如く、体を震わせエヴァは男の手より逃れた。またも転げながら男から離れ、やっとの思いで立ち上がると、男を指差し慌てて叫ぶ。

 

「まさか、そ、空丸っ!?」

 

 見間違えようはずも無く、着物姿の偉丈夫は、正しく偉大な空狐・空丸である。

 

「如何にも、おちびよう、お前はこの師を見間違うか?」

「馬鹿な!」

 

 エヴァは咄嗟に空丸の手を取り、目に涙を浮かべその顔を見つめた。

 

「御会いしたかった……」

「うむうむ、俺もだおちび。お前がフラリと我が下を去ったのは、もう遠い昔だな」

「その事は申し訳無いと思っております。挨拶も無く、置手紙一つ置かず、貴方の下を去り、今まで何度この事を後悔した事か」

「言うな言うな、おちびよ。お前が丁度反抗期であったのはわかっていた」

「その様な可愛い物では」

「いや、可愛い物だ。子を持たぬ俺には新鮮であったぞ。家出にしては長き年付であるが、こうして会えた。それで良いではないか」

 

 エヴァの頭をグシャグシャと乱暴に撫でる。手加減を知らぬ撫で方であった。グリグリ顔が揺れるが、エヴァはその感触を楽しんでいた。昔もこの様に頭を撫でてもらった。

 

「しかし、おちび」

「はい」

「お主、ちと固くなったか?昔の様に喋ればよかろうに」

「や、それは」

「遠慮する仲であるまい?」

 

 遠慮と言われギクリとする。出会った当初を思い出す。あの頃は初対面にも関わらずてんで遠慮など皆無である。生意気な小娘であった。恥ずべき記憶であるので、モゴモゴと口を動かし目を伏せる。

 

「私も歳を取りましたので、その」

「馬鹿を言うな、お前は未だおちびではないか」

「や、その」

「ならば我が背を抜けるのか?」

 

 さて、ここいら辺りで燻り腑抜けたエヴァの魂にプスプスと小さな火種が燃え出した。元来負けず嫌いな性格である。我慢強いほうではない。久方ぶりの負けん気が出て来始めたのである。

 

「成長したくても出来んのです!」

「ではやはりおちびだな」

「うくく、知ってて言う!知ってて言う!意地悪だ!どうしてそう可愛い弟子をおちょくれる!」

「可愛い弟子はおちょくりたく成るものだ」

「酷い!あんまりだ!だから私は貴方の元を発ったのだ!」

「そうだな、そうであろうな。だが俺も憤慨するおちびが妙に可愛くてな、ついついからかうのだ。まあ許せ、今日はそれを詫びに来た」

 

 空丸はどこからか取り出した箱をエヴァへと押し付けた。それは先ほど近右衛門に上げた物と同じ菓子であった。

 

「お、おお、これは」

 

 噂で聞いた銘菓だった。この土地を離れられぬ彼女にとって、金銀財宝より価値あるものだった。

 

「ここいらでは手に入るまい、今おちびは遠くへ行けぬのだろう」

「は、あ……先刻御承知でしたか」

「無論だ、遅れをとったな」

「……お恥ずかしい限りです」

 

 人間相手に遅れをとり、終いには学校に呪いをもって括り付けられた今の姿は、偉大な師に見られたくはなかった。エヴァは頭をたれ恥じた。

 

「よい、いつの世も化け物は人に狩られるものだ。こういう事もあろう、珍しい事ではない、しかし相手がやつで良かったなおちびよ、他であればどうなったかわからんよ」

 

 まあ他のやつなら負けまいがな、と空丸は付け加えた。

 

「してどうだね?奴に未練はあるのか」

「……これも先刻御承知と思いますが、あの男は死んだと聞きました。この様な形での別れは、未練が無いと言えば嘘になります」

「であろうなぁ」

 

 エヴァの心中を察してか、空丸もしみじみと頷いた。

 

「ところで話は変わるが、先ほど奴に似た小僧を見た」

「すでにお会いしておりましたか、想像の通りでしょう」

「そうか、そうか……奴め、遺すものは遺したか」

 

 空丸は納得したように頷き、どこか満足げであった。

 

「ところで、あの……お師匠、この度はどのような用事で?」

「うむ色々あるが、しかしまあ一番は可愛い弟子に会いに来たのだがな」

「は、いや、その……どうも、ご迷惑を」

「それはもう良い。後は、そうさな、ちと世が騒がしくなりそうでな」

「……師匠、もしやまた」

「やはり、わかるか?」

 

 二人の表情が一転、険しい物となった。

 

「近頃この学園も襲撃が多いため、可笑しいとは思っていました」

「うむ、どうも前のアレで事は終わらなかったようだ。もしアレ以上の事となれば、我々日の本の化け物も、いよいよ他人事ではすまなそうなのでな」

「まあ私は異人の化け物ですが」

「おっとそうであったな」

 

 空丸は指摘を受けるとわざとらしく笑ってごまかした。

 

「しかし、麻帆良でやることがありますか?」

「関西の方では話は通した。だがあそこは面倒だ、追々また向かう、後はこちらでの事だ。何よりここは、あの世界樹がある。様子を見ぬわけには行くまい」

「左様でしたか」

「関西も未だ臭い。阿呆な共め、小賢しく企んでおるわ……だが、まあなるようになろうよ」

 

 エヴァもまた近右衛門から関西呪術協会の件は聞き及んでいた。日本での魔法使いと日本特有の呪術使い達との確執と言うのは、存外深く未だ引き摺られる問題であった。

 

「しばしあの小僧の様子も見よう。あれは面白いぞ、小僧だが鍛えようでは化けよう」

「……その小僧ですが、私に考えが」

「ほう、言ってみろ」

 

 エヴァは、実は……と己の計画していた事を空丸へ話した。件の小僧、先ほど空丸が腹で受け止めた少年であるが、エヴァは元より空丸にとっても浅はかならぬ縁がある。エヴァの考えを聞くと、空丸はニヤリと笑った。

 

「いい考えである、おちびよ」

 

 

 

 

 以後、この地で二人の吸血鬼と狐、そして英雄の遺児によって素っ頓狂で奇天烈な騒動が始まる。その騒動は、京を巻き込み果ては世界をも巻き込んだ。

 

 



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麻帆良のヤベーやつ

例によって発掘したやつ。
案としては、とにかくヤベー奴感を出したかった時期のオリ主


 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。学園に潜む幼き姿の吸血鬼。金色の髪が闇夜の中、月明かりが反射し耀く。血を求め、従者を引き連れ彼女は夜を舞う。

 この道に街灯は少ない。明かりは月明かりだけ、静寂と闇が広がる場所。吸血鬼は闇から生まれるように、姿を現す。

 

「なんだ男か」

 

 吸血鬼が獲物を見つけた。しかし、あまり好みではないらしい。吸血鬼の目は、暗がりであっても、その男の顔をしっかりと認識していた。見た所、15、6の年頃と言った所か。

 突然暗闇から現れた彼女を見て、男の方は面食らっている様に見えた。品定めするように男をエヴァンジェリン、エヴァは見る。

 

「はずれか、趣味じゃない」

 

 吸血鬼にも好みはある。好き好んで男を吸う気には、エヴァはならなかった。吸うなら女性、それも美女であるほうがヴィジュアルでも良いと思っている。

 本来なら咎めるべき吸血行為だが、今この吸血鬼の行動は、彼女を見張る存在に黙認されていた。

 

「運が無かったと思え、この記憶は消させてもらうぞ」

 

 神秘の技術、魔法。吸血鬼で魔法使い。エヴァは吸血対象にならなかった彼の記憶、空を飛び、闇夜に紛れる彼女を見た記憶を消そうとした。都合が悪いからだ。彼女にとって、それは特別難しい事でも、珍しい事でも無い。必要とされれば行う、事務処理的な感覚。

 男は彼女の言葉を聞き、自身の、今この数分間の記憶が消される事を察した。しかし、焦りを見せない。妙に落ち着いた態度に、エヴァが少し不審に思った。

 

「あんたぁ、吸血鬼なのか」

 

 男が口を開いた。エヴァは、記憶を消すため、男に向けていた手を伸ばした。

 

「何故そう思う?」

「口にさ、見えるんだ。牙、暗がりでも見える。俺、初めて見たよ」

「ほう……、良く見ていたようだな。尚更、記憶を消さねばな」

 

 少し、認識を変える。男は夜の闇の中、離れた場所のエヴァの口の中、お互い真正面を向いたわけでも無く、数センチしか開いていない、口内の牙を見ていた。視力が良いと言う理由ではない。エヴァは違和感を感じる。

 

「記憶、俺の記憶ね。消すのは良いけど、まあ……」

 

 男が懐に、制服の中に手を突っ込んだ。エヴァは咄嗟に記憶を消す魔法でなく、攻撃、相手を傷つける魔法に切替、それを放った。

 

「シャアア……!」

 

 エヴァの魔法が放たれるのと同時、奇声を上げ横に飛び退きながら、男は懐から取り出した鋭く砥がれたナイフを投げる。

 魔法は矢となり地面で破裂し、ナイフはエヴァの肩に突き刺さった。傷口から血が溢れる。

 

「そうら、血が出た。吸血鬼、あんたも血が出るんだ」

「だとしたらなんだ?」

「吸ったぶん……たくさんでるかなぁ」

 

 この男、一般人と思ったが、どうやらそうではない。魔法と吸血鬼は知らなかったらしい、裏を知らず表で生きて来たが、その本質が裏の部類の人間。

 異常な思考を持つ、異常者。

 

(油断した。と言うわけでも無いのだがな。いや、言い訳だな。不覚)

 

 一般人と思って油断した。まさか唐突にナイフを投げて来るとは思わなかった。なるほど、とエヴァは男に感じた違和感を知る。これは異能だ。通常、人が持って生まれる事は無い、特殊な、超自然的な能力。そう言った何か、それをこの男は持っている。

 傷口を抑えるエヴァを見て、男は口角を上げる。

 

(しかし、今私はこいつに攻撃を放ったな。私にそうさせるとは、成程それ程と言う事か)

「その血、どんな味だい」

「……貴様、人間か?」

 

 思わずそう聞いてしまった。男があまりにも不気味だったからだ。人間が発せられる雰囲気で無い、それは自分と同じ人ならざる者が発するもの。

 

「さあね、もしかしたら、人間に生まれちまったのかもな」

「……茶々丸」

 

 エヴァが従者の名を呼んだ。身を潜めていた従者が、エヴァの傍に現れる。メイドの姿がシュールに感じる。

 

「興味が湧いた。気絶させるつもりでいい、少し相手をしてやれ」

「畏まりました」

 

 従者が地面を蹴った。そのアクション一つで、従者と男の間は急激に縮まった。加速を付けたまま、彼女は拳を男の鳩尾に入れる。普通の人間なら、この一撃で気を失うが、男は自分にめり込んだ彼女の手を掴む。意識がある事を知ると、彼女はもう片方の手で男の首を掴んだ。

 強く絞められて呼吸を遮られる。男は顔を歪め両手でそれを外そうとしたが、その時、自分を掴む彼女の手に暖かさを感じず、不思議に思った。だがガラスの様に光る彼女の瞳を見て、直ぐに合点がいった。

 

(機械、か)

 

 創られた存在、機械のメイド。吸血鬼の従者、絡繰茶々丸。主の命令によって、男を気絶させようとする。

 

「申し訳ありませんが、マスターのご命令です。お覚悟を」

「……機械、の、血は、オイルかな?」

「何を、あ?」

 

 男が両手を離し、腕を反対側の袖に入れ、中から10センチ程のマイナスドライバーを取り出した。それを男は茶々丸の肘、丁度関節部分に突き立てた。

 

「む!」

 

 それを見てエヴァが唸る。茶々丸は声を出さないが、そのボディは悲鳴を上げた。服の上からだが、見事にドライバーの先が関節の隙間に入り込み、中の配線などの一部を断ったのだ。腕に力が入らず、首を掴んでいた手が開く。

 

「ウシャア……!」

 

 男は解放され、二度目の奇声を出しながら、茶々丸の壊れた腕をつかみ、茶々丸を蹴ってその勢いと共に腕を引き抜いた。火花がちり、配線が千切れる音と、機械が破壊される音が鳴る。そして、彼女の腕から白い液体が噴き出す。

 

「オイル?ああ、……映画で良く見る。君ビショップ?ハハ、違うよねえ」

 

 千切り取った茶々丸の腕から垂れる白い液体に指を付け、ゆっくりとそれを舐めとる。

 

「……やっぱ、血とは違うか」

 

 口からペッと吐き出し、腕を投げ捨て、視線をエヴァへと移す。餓えた獣の様な目で、エヴァの頬、そこに流れた血を見つめる。

 

「それ、味見ていい?」

 

 エヴァは確信した。この男の異常性は人のそれを超えている。人でありながら、男の中身は化け物と同等なのだ。

 

「私の血は安くないぞ」

「ケチケチすんなよ、あんたも吸ったんだろしこたまさぁ……!」

 

 茶々丸を無視し、服の中から40センチはある二本の鉄工鑢を取り出し、男がエヴァへと駆け出した。茶々丸は当然それを阻止しようとしたが、ここで足が片方動かない事に気が付く。

 

「……これは?」

 

 いつの間にか、右足の関節にもドライバーが差し込まれていた。彼は茶々丸の腕を千切るのと同時に、足にもドライバーを差し込んでいたのだ。ご丁寧に“かえし”をつけた改造ドライバーを。なんと言う早業であろうか、人間の反応速度を軽く超える茶々丸のセンサー、彼はそのさらに上を行く速さで、彼女の目を盗んだ。

 結果、もう片方の足は無事だが、一歩出遅れる。

 エヴァはこちらに迫る男を迎え撃った。

 

「歳不相応な狂気だな、小僧」

「シャアア……!」

 

 斬るのではなく削る。鑢の攻撃は受け止めるのが難しいが、エヴァはそれを避けるでもなく、容易く両手で受け止めた。

 

「止めるねえ?」

「舐めるなよ、人間の成りそこないが」

「嬉しいね、そう言ってくれると!」

「なっ!?グアァ……ッ!?」

 

 突然両手に激しい光が走る。止められた鑢の柄、その底にあるスイッチを男が押した。すると鑢の部分から強い電流が流れ、エヴァの手の平を焼いた。

 

(スタンガン、いやそれにしては電圧が高い、殺傷能力があるな)

 

 咄嗟に手を離し、焼け焦げた手の平を見る。煙を出し、肉の焼けた匂いが漂うが、少しエヴァが意識を込めると、見る見るうちに手と肩の怪我が治って行った。

 

「ありゃ、なおっちった」

「お前、自分で作ったのかそれは」

「まあ、ねえ」

 

 何とも恐ろしい物を作る男がいたものだ。警察に見つかれば一発で逮捕だろう。

 

「今まで使う機会無かったけどね」

「だろうな。使えば今頃貴様はニュースに出ている」

「けど、ま。うん、あんたに会えて感謝だな。クフフ、人にやったら捕まるから」

「私には良いと言うわけか?」

「ああ、吸血鬼の被害を誰が調べる」

 

 どうやら、この男は本当に何も知らないようだ。改めて理解する。異常性を持った一般人。エヴァは、頭を巡らせた。

 

(こいつを倒すのは容易い。記憶を消すのも、だ。しかし、一応は生徒だからな、それに記憶を消したところで、この異常性……補導だなこれは、ジジイに突きだそう)

 

 今後の行動を決め、エヴァは少し本気を出すことにした。

 

「成りそこない、名を教えろ」

「高杉伊佐津、イサツでいい」

「そうか。ではイサツ、聞かせてやろう、私の名を」

 

 この日の出会いは、全くの偶然である。誰かに仕組まれたのでも、お互いに意識したのでも無い。エヴァはある目的のために夜に出かけ、この男、伊佐津は夜中に理由も無く散歩していただけ。ただそれだけ。

 エヴァにしたら面倒事だが、伊佐津にとっては、良い出会いであったと後に語る。

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。改めて言おう、イサツとやら。運が無かったな」

 

 最も、この時ばかりは、伊佐津もコテンパンにやられた時のため、あまり思い出したくないらしいが。

 これが、伊佐津と言う異常者が、知る筈の無かった世界を知った日である。

 

 ■

 

 麻帆良学園と言う学園がある。学園と言うが、規模は教育機関にしては巨大、ちょっとした街だ。学園都市と言う名前が割としっくりくる。幼稚園から小中高大、人が学び育つところが一か所に集まっている。

 伊佐津と言う男が、この学園の高等部に来たのは、つい最近の事である。なんと言う事は無い、ありふれた転校であった。父の海外への転勤。それに伴い、一緒に海外に行くかを選ぶことになった彼は、日本に残る事を選び、今までの学校より、施設が整っている麻帆良への転校を進められ、今に至る。

 そして、直ぐにあの深夜の出会い。

 

「注意はしておったがのぉ」

 

 麻帆良学園の一室、この学園の学園長である近衛近右衛門が、頬杖突きながら弱弱しく言った。目の前には教員数名、そしてエヴァ、最後に件の伊佐津。エヴァにこっ酷く倒され、その日の内に麻帆良での魔法使いの元締めである、近右衛門の元に連行された。

 

「吸血鬼、ロボット、魔法使い……クフ、まだ面白いの居そうだねえ」

「この態度。お主、立場理解しておるか?」

 

 伊佐津は体を拘束されながらも、懲りた様子を見せる事無く、自分を囲む魔法使い達を面白そうに見ていた。今は大人しく、抵抗する素振りは無い。近右衛門は頭を抱える。

 

「良く今まで何も無かったのう」

「そこは、弁えましたよ」

 

 部屋の隅に、押収された凶器の山がある。すべて彼の服の中に隠されていた凶器だ。殆どが工具を改造した物で、鑢類が多い。その数大小あわせて50を超え、それらを違和感無くしまえるよう改造された服と合わせた重さは20キロ近くまであった。彼は普段から、この服で生活していた事を考えると異常と言う他無いだろう。

 

「昔から物を分解するのが好きだった。もっと言えば、血を見るのもね。まあ、親や周りの目もあるし、俺の血で我慢してたけど」

 

 身体検査の時、彼の体の目立たない箇所におびただしい数の切り傷や擦り傷の跡があるのが確認される。DV(家庭内暴力)を疑われそうな傷だが、全て自分で付けた物だ。

 

「夜に何をしていたのかのう、君は」

「簡単ですよ、寮には人が多すぎる」

「と言うと?」

「だからさ、弁えたんですよ」

 

 彼の体には、エヴァがつけたものとは違う切り傷と擦り傷があった。つまり、彼は夜中の散歩中、自傷行為を人目を避け行い続けていたのだ。これには近右衛門も呆れかえる。

 

「それで、エヴァを見たと?」

「クフ、初めて他人の血を見れると、喜んだのになぁ」

 

 人ならざるものを見て、押さえつけて来たものが解放されたのだろう。至極残念そうに言う伊佐津を見て、エヴァと近右衛門は溜息を吐いた。もはや呆れる他ない。

 

「これだ。記憶を消しても、何時か問題を起こすぞ」

「……そうじゃなぁ」

 

 若い身で、ここまで狂気を内に秘める伊佐津を見て、近右衛門はむしろ哀れにも思う。勿論彼の考えを認めるわけじゃないが、人として許されぬ狂気を、ギリギリの理性で押さえつけ、他者を傷つけたい衝動に常に駆られ苛まれる日々を送ってきたこの少年の事を、不幸と言っても良いのではなかろうか。

 そんな近右衛門の思いを感じ取ったのか、伊佐津はうっすらと笑った。

 

「哀れむ事は無いですよ、学園長。これはサガです、生まれ持ったものだ。人は誰しも、生まれ持ったものを選べないのだから」

「ふぅむ」

 

 教育者として、この少年をこのままにして良いはずはない。記憶を消しても意味は無いだろう。エヴァの言うとおり、本質が変わらなければ、問題は残ったまま、いずれ何かが起きてしまう。しかし記憶だけでなく、その本質まで魔法で変えてしまえばもはや人のする事ではない、それは身勝手な正義だ。この少年のためにはならないだろう。

 伊佐津の言葉を聞き、何かしらの施設に入れたりしても意味は無いと思った。彼の眼は既に、後戻りできない狂気を放っていたからだ。親か友か誰かが早くそれに気がつければ変わったかもしれない。だが全ては、遅かったのだ。

 近右衛門は一つの決断を下す。

 

「エヴァ、ちょいと良いかのう?」

「……面倒事は嫌だぞ」

「そう言わんと、頼まれてくれんか」

「どうせ、私に面倒を見ろと言うんだろう?見え透いてるぞ」

「まあそうじゃが」

 

 エヴァは面倒事が嫌いだった。話の流れから、自分に面倒事が回る事を察したエヴァは、先に断った。

 

「他に頼め」

「うーむ」

「第一私は忙しい、わかっているだろう」

「そこをなんとか」

「無理だ」

 

 取りつく島も無い。近右衛門は再度頭を抱えた。

 

「良いじゃないですか、別に」

 

 そこで助け船を出したのは、意外にも伊佐津であった。

 

「要はガス抜きさせたいんでしょう?なら暫くは大丈夫ですよ、結構発散したので」

「……ふむ」

「不安なら、監視なり付けていいです」

 

 近右衛門とはしては、この言葉を信じてあげたいが、何分彼は他の生徒と共に生活をしている。近右衛門にも、学園長としての責任がある。何かあってからでは遅いのだ。

 

「まあ懲りましたから、我慢しますよ」

「しかし、また血を見たくなれば如何する気かな?我慢できなくなったりしたら?」

「その時は、その時で。いつも通りです」

 

 近右衛門は思った。やはりこの少年は放ってはおけない。なまじ理性がある分、伊佐津は自分を傷つけ続けるだろうとわかる。他者を傷つけるのは勿論許せないが、自分を傷つけるのも許すことは出来ない。彼もまた学園の生徒なのだ。

 近右衛門は、もう一度エヴァを見た。エヴァは、鬱陶しそうに近右衛門を見るが、熱い視線を送られ続け、根負けする。

 

「……私としては、だ。取りあえずこの麻帆良で暮らし方、それを改めて教えてやれ、兎にも角にもそれからだ」

「ほう?」

「こいつは、人としての能力を既に超えている。油断したとは言え、街灯も無い道で正確に私に一撃加えたのだ。そんな人間が、このまま普通の生活を送れるとは思えん」

 

 近右衛門はエヴァの言葉に頷いた。申し訳ないと思いながらも状況は、伊佐津には裏にかかわってもらう必要が出てきた。

 

「伊佐津君、君には色々と教える必要があるのう」

「へえ、それは面白そうな」

「一応、記憶を消して元の生活に、と言う選択もあるが、どうじゃ?」

「それは、今先生方が言った通ですよ。あの時の記憶を消した所で、俺の根っこが変わるわけじゃなし」

 

 本人の了解を得て、近右衛門はよしと頷く。

 

「君を帰す前に、大事な事を一つだけ教えておこう」

「何でしょうねえ?」

「魔法とは秘匿である。それを忘れないでくれたまえ」

「不用意に口にするな、と」

「いかにも」

 

 記憶の消去と言う手段を用いるのだから、それも当然かと伊佐津は納得した。

 

「ええ、ええ、了解です。ええ」

「うむ、では今日は帰って休みなさい。長々とすまんのう」

「いやぁ、俺の所為ですから」

 

 こうして、伊佐津は一先ず帰宅の途に就いた。続けてエヴァに教員達もその場からいなくなった。

 残った近右衛門。この日、深夜呼び出される形になった近右衛門は、疲れを感じながらも、背伸びをしてから改めて、思案する。

 今はまだエヴァには頼めないだろう。一応頼むだけ頼んだが、実際彼女も忙しいのだ。では誰に伊佐津の事を任せるか、近右衛門は教員の中で彼を任せられる者を選ぶ事にした。

 

 ■

 

 数日の間、特に何と言う事は無かった。伊佐津は普段通り、弁えて生活していた。前の学校と変わらず、目立たず、ひっそりと。また、追って連絡を、と言った学園長の言葉。それを思い出しては、少し胸を躍らせていた。

 そして、また一日が過ぎた日の事。学園長から、とある場所に行くように指示が来る。担任の教師が、伊佐津に伝えたのだ。例の事でと付け加えた教師の言葉で、「ああこの人も魔法使いなのか」と、転校初日、特に何も感じなかった普通の男性教員の印象が、180度変わった。

 麻帆良に不慣れとは言え、場所はわかる。指定された所に放課後迅速に向かい、地図を頼りにし、見事迷う事無く彼はたどり着く。そこには、立派な教会が建っていた。

 

(遠目には見たけどねえ)

 

 遠くと目の前ではやはり違うなと感じる。

 

「もし?」

 

 ぼーっと教会を眺めていたら、一人の女性に声をかけられた。顔を向けると、修道服に身を包む褐色の女性が、不思議そうに伊佐津を見ていた。姿からして、ここの人だろうとわかる。

 

「何かご用ですか?」

「……あー」

 

 一瞬、魔法の事は秘密だと近右衛門に言われたのを思い出し、どう切り出そうかと思ったが、考えてみれば普通に学園長に呼ばれたと言えばいい事に気が付く。

 

「学園長に、ここに行けと」

「まあ、ではあなたが」

 

 女性は既に彼が来る事を知っていたようで、「まあ中へお入りなさい」と教会の中に案内される。シスターの後について行き、伊佐津は教会に入った。

 

「学園長には数日前に、ある少年の面倒を見てほしいと頼まれました」

「俺ですねえ」

「はい、あなたです。私はここでシスターをしているシャークティと言います。イサツ、君でしたね」

「ええ、はい」

 

 人生初、生でシスターと言う人間を初めて見る。伊佐津は教科書なんかで見る修道女に少し関心を示す。

 

「随分と、難儀されてるそうですね」

「クハ、慣れましたよ。歳一桁の頃は苦労しましたが」

 

 笑みを浮かべる伊佐津。本人にその気はないが、一見してそれは自傷の笑みにも見えた。

 

「学園長は、俺をここに寄こして如何する気ですかね」

「特別な事はありません。ただ、改めて教えてあげてほしい。それだけを言われました」

 

 改めて、と言うのは、エヴァが言っていた麻帆良での暮らし方の事だろう。つまり、話の流れ的に当たり前だが、このシスターも魔法使いとう事だ。

 

「さあ、少し奥へ。ここでは一般の方が来ますから」

 

 教会の中をさらに進み、とある一室に案内される。何の変哲も無い普通の部屋だった。机に椅子がある普通の部屋。

 

「学園長には、何処まで聞きましたか?」

「……魔法は、秘匿だと」

「その通りです」

 

 シャークティは、部屋の本棚の中、綺麗に並ぶ本の列から、一冊分厚い本を取り出し伊佐津に差し出した。表情を変えず、伊佐津をそれを黙って受け取る。その表紙は、日本語とはまた違った言語で書かれていた。

 

「魔法の教本です。中身は訳してありますのでご安心を」

「そりゃよかった。ん、教本?」

「あ、別に魔法を教えるわけじゃありません。あくまで、参考にと言う事です」

 

 「あそう」と言って、伊佐津は教本を開いてみる。大方の予想通り良くわからない単語が並んでいた。直ぐに閉じる。

 

「さっぱりです」

 

 お手上げのポーズを取ると、シャークティは控えめに笑いながら本を受け取った。

 

「まあ普通そうでしょうね。では、本日最も重要な話をしましょう」

「それが良い」

「さて、魔法は秘匿と言いましたが、何故そうなのかと言う話はまだでしょう」

「ええ、はいそれはまだ」

「色々と理由はありますが、一言で言えば、正義の味方の様な物です」

 

 正義の味方と聞き、伊佐津の頭には変身するバッタ男や、五色の変身する男女達の姿が浮かんだ。他にも光の巨人や機械の刑事やその他いろいろ。

 

「たぶん、考えている様な物とは少し違います」

「変身しませんか?」

「私はしませんね。まあ中には……そう言った者もいますが、今は横に置いておきましょう」

 

 残念な様な気がしないでもないが、皆が皆変身してたら、それは魔法使いじゃないのだろう。

 

「まあ、正体を隠すイメージならご想像通りかもしれませんね。表には出ず、密かに人助けをする。それが魔法使いです」

「そりゃあ……ヒーローだねえ」

「意外ですか?」

「まあ、そう……あの吸血鬼、エヴァンジェリンはどんな位置なんですかねえ」

 

 エヴァの名を出すと、シャークティは非常に気まずそうな顔をした。

 

「彼女は、【闇の福音】と呼ばれる悪の魔法使いです」

「……へえ」

 

 【闇の福音】、その名が実にあの吸血鬼にはしっくりくると伊佐津は思った。彼女と戦って(まともな戦闘と言えないが)正義の味方と言う感じではなかったからだ。どちらかと言うと、悪のカリスマ。

 

「魔法使いにも悪しき者はいます。彼女もその一人です」

「じゃあ、何故ここにいるんです」

「そこはまだ教える事は出来ません。彼女にもここを離れられない理由があり、私達もそれを黙認する理由はありますが」

「昨日今日魔法を知った俺には教えられない?」

「まあそうですね」

 

 しかし伊佐津も、別にその理由を知りたいわけでも無かった。言えないのなら言えないのだろう。何より学園長とのやり取りから、そこまで険悪な関係と言う事でもなさそうだ。それこそわけがあるのだろう。

 

「俺は嫌いじゃありませんが、彼女」

「……あまり、他の教員の前では言わない方がいいですよ」

「やはり気に食わないですか」

 

 それに関して答えは返ってこない。伊佐津は、シャークティは不用意に答えるのを自粛したのだろうとわかった。

 

「すんません、流して結構です」

「ええ、ごめんなさい」

 

 学園長の様に、敵対しているわけでは無いのだろうが、正義の味方を口にする以上、思う所があるのは事実。新参である伊佐津には、それ以上口をはさむ資格は無かった。

 

「少し話がそれましたね。続きを、そうですね……、まずは麻帆良での生活の仕方で良いでしょう」

「只口を噤むだけではいけませんか」

「それで済むのであれば良いでしょう。しかしそう、貴方は少し特殊」

「へえ、と言うと」

「魔法使いも多種多様、もしもまた闇の福音の様なのに出会って、貴方は我慢が出来ますか?」

 

 そう言われ、伊佐津は自然に自分の手が、服に仕込まれた凶器に向かうのを何とか止めた。エヴァ、あの吸血鬼の様な物がまだこの学園にいるとわかり、思わずその血を見たくなったのだ。しかしそのわずかな動作を、シャークティは見逃さなかった。

 

「……どうやら、話で聞いたより、業が深いようですね」

「サガですから」

「しかし、それはサガと言うにはあまりにも危険」

「自覚しています」

 

 悪びれた様子も無い、学園長の前で見せた薄ら笑いを浮かべる。

 

「あなたが思う以上に、魔法使いやそれに似通った存在がこの学園にはおります」

「傷つけるなと?」

「いかにも」

「我慢はしましょう、しかし」

「保証は無い?」

「ええ」

 

 我ながら図々しいと、伊佐津は自覚していた。しかし、言わずにはいられない。傷つけない保証など、出来ないと自信を持って言える。

 もし、突然エヴァの様な存在に出会ったら、自分は我慢できないと思った。それは保証できる。

 

「……そう言う所も含めて、学園長は貴方を此処によこしたのかも知れません」

 

 実に悲しそうに、シャークティは言った。

 

「明日から放課後、ここに来て下さいな」

「へえ、お手伝いでもしろと?」

「まあそう言う所です」

「俺には向きませんけどねえ」

「向き不向きではありません。貴方は他の事に従事なさい、傷つけ血を見る事から離れるべきです」

「聖職者に成れと?」

「そこまでは言いません、ただお手伝いだけでいいのです」

 

 それは助かると伊佐津は胸をなでおろした。聖職者に成った自分など想像するだけでも身の毛がよだつ、と言うとシャークティに失礼だが、とにかく似合わなかった。しかし手伝うだけなら別にかまわないと思った。伊佐津は首を縦に振る。

 

「いいですよ」

「それは良かった」

 

 シャークティは嬉しそうに言った。

 

「ここに来てくれれば、色々と教える事が出来ます」

「魔法使いの事?」

「ええ」

「まあ、僕も助かりますけどねえ」

 

 実際魔法事態はどうでもいいが、魔法を使う人間やその仲間には興味がある。話を聞くだけなら、たしかにこの麻帆良での生活の役に立つだろう。

 

「更生施設行きよりマシですね」

「……一応、貴方の更生も目的なのですが」

「できますかねえ……」

 

 彼の呟きに、シャークティはため息を吐くだけであった。

 以後彼は、教会で麻帆良の事で深く世話になる。同時に教会での仕事にも従事した。意外なことに彼は真面目であった。これにはシャークティと報告を受けた学園長も驚く。ボランティア活動では、文句ひとつ言わず黙々とこなし、清掃活動では誰よりも人一倍清掃に勤しんだ。シャークティに頼まれた事に一切「嫌だ」と言わずただただ「いいですよ」とだけ答えた。

 同時に、彼は魔法の事も学んだ。学ぶと言っても、知識としてであり、彼には魔力こそ僅かにあれど、それを扱える程の才は無かった。また彼自身魔法を使う事を特に望んでおらず、落ち込む様子はなかった。

 魔法を学ぶ中、実は世界はもう一つあり、そこには魔法使いが多く住み、人間とはまた別の種族もいる事を知る。そして何より彼が興味をひかれたのは、魔法使いの間でも名の知れた強者達。

 

「いるんですねぇ、英雄ってやつは」

「魔法使いであれば誰もが知る者達です。そうでなくても、かつての大戦で名を上げ広く知れ渡りました」

 

 地球に住む彼らの知らぬところ、魔法世界ではかつて大きな戦争があり、その戦争を止めた【赤い翼】と呼ばれる者達がいた。少数精鋭で一人一人が無双の者達であり、なんとその一人は日本人であると言う。

 

「強いんだ、へえ……」

 

 この「強い者」の話を聞いた彼の眼は、いつも狂気に染まっていた。その度にシャークティが「これっ!」と叱り戒めるが、中々こればかりは改善される事は無かった。

 そんな日々の中で、しかし彼は一度得た〔魔法使いとの戦い〕と言う甘美な時間、それを思い出す度に今まで以上に、その異常性を抑え切れなくなっていた―――。

 

 ■

 

 イサツが森を歩いていると、一人の少女がいた。彼女は逞しくも森の中テントを張りキャンプ地を作っていた。まず麻帆良にキャンプができるほどの山があるのにも驚きであるが、しかし何故イサツがこの山に来てその少女とであったのかは、大した理由ではないのだが、それはほんの数時間前にさかのぼる。

 教会での早朝ボランティア活動と、シャークティに言われてから続けている自身の狂気を静める為に形ばかりのお祈りを済ました彼は、帰りに山へと向かった。そこは彼の散歩コースでもあり、同時に諸々の発散場所でもあった。麻帆良に来て以来、何かと発散できる場所を探し、土地は広いゆえにいくつか発散場所を定めている。この山もその一つだ。要はいつもどおりの散歩なのだった。

 自分がいつも使っている場所に先客がいる事に彼は、少し驚きながらもしかし今まで偶然会わなかっただけで、ここまで周到にキャンプを行う姿を見るに、彼女のほうがここでの活動日数が多いと見えた。

 だがしかし、彼女がキャンプ名人だかサバイバルマスターだかとしても、それは特に関係はなく、何よりイサツにとって重要であるとすれば、目の前の彼女が人並みならぬ戦いのプロであることであろう。

 

「そこな御仁、いささか殺気が強すぎるでござるなぁ……」

 

 朝日に向かい飛び立つ少年を見送り、「にんにん」呟いていた彼女は、閉じていた薄目を僅かに開き、木の陰から現れたイサツを睨んだ。

 

「魔法使いねえ、面白いもんだよねえ……」

「そうでござるなぁ、拙者も始めて見ましたゆえ、驚いたでござるよ」

「まあしかし、俺としては忍者がいるほうも面白いと思うねぇ」

「にんにん、忍者など何処にもおりませぬ」

「そうかいそうかい」

 

 まるで隠す気のない返事を受け、イサツはニンマリと笑う。対して彼女もまたニコリと笑った。

 ヒュウッと風が吹く。

 

「―――シャアッ!!」

「―――むッ!!」

 

 瞬間、両者が動く。動きはほぼ同時、イサツは袖から取り出したマイナスドライバーを投擲、彼女は懐より取り出した手裏剣を放った。空中でカンッと二つの金属がぶつかり合い地へと落下する。だが二つの物体が地面へと落ちるより先にまたも両者すでに動き出した。

 イサツの手には、すでに改造された鑢が握られている。以前エヴァに敗れた物を改良した代物で、強度が増している。少女は鋭利なクナイを持ち駆け出す。二人の距離が迫る。

 

「防ぐねえ」

「御仁こそ」

 

 ギャリイッと金属がかみ合う音がした。鑢の凹凸にクナイが絡み、ギリギリと鍔迫り合いとなる。だがイサツは瞬時にもう片方の袖から一本の金槌を取り出した。

 

(鈍器っ!)

「殴るわけじゃねーぜ」

 

 通常は鈍器として扱うがこの金槌は、釘抜きがついたものだった。釘を引っ掛けるための切り込みをクナイにかませる。そのままクルリと柄を回せばテコの原理でたやすくクナイは、少女の手からこぼれるようにして抜けていった。

 離れたクナイに視線が向いたが、その視線の端からクナイを奪った金槌の釘抜き部分の先端が迫っていた。明らかに眼球を狙っており、急ぎ少女は身を後方へと下げた。

 

「あぶないあぶない、金槌をそう使うとは」

「器用だろ?」

 

 少女は考えていた。目の前の男、制服から高等部の男子生徒とわかるが、しかしこれほどの男は、聞いた事がない。

 こと麻帆良において〔強さ〕とは称号である。強ければ強いほど、老若男女関わらず名は知れ渡りみなその者に挑戦する。強さと戦いに餓えた餓狼が多いのだ。しかしその中にこの男の話はない。名前は知らぬが、特徴的な戦い方からもし誰かと戦ったのならば、既に知っているだろう。つまりそれは、彼が最近になり麻帆良に現れた事を指す。

 

「考え事してる暇あるかよ」

「むっ!!」

 

 不意に男、イサツが手を引いた。するとグイッと彼女の左手が引っ張られていった。

 

「これは、釣り糸っ!?」

 

 いつの間にか彼女の左腕に、無色透明な釣り糸が巻かれていた。イサツが強く引っ張ると、彼女の左腕がギュッと縛られバランスを崩す。

 

「っと!これは小癪な!!」

 

 そういった瞬間、バシュッと大きな音がし少女は、その音が何か分からなかったが咄嗟に身を屈めた。すると彼女の後ろの木にドッと音がし、その場所を見ると一本の釘が刺さっていた。

 

「やっぱ避けるかぁ」

 

 イサツはワザとらしく残念がった。手には、また何処から出したのか釘打ち機を持っていた。

 

「流石に危ないでござるよ……」

「スマンね、高ぶったもんでねえ」

 

 そういいながら彼はジリジリと糸を巻き上げ、距離を縮める。当然彼女はそれを切ろうとした。もう一本クナイを取り出し、振り下ろす。

 

「つッ!?」

 

 カンッとクナイが弾かれる。再び釘打ち機を撃ち、釘でクナイを弾き飛ばしたのだ。

 

「この釘打ちは改造品でね、連射も可能だし通常の釘打ちより遠距離まで飛び、弾道もぶれないようにしてある。癖もつかんでるから相手が動いてなきゃ誤射はしないよ」

「それって違法改造でござらんか?」

「クナイと手裏剣持ってるやつに言われたくないねえ」

「ああ、それはしかり」

 

 改造工具も危険だが、刃を潰していないしっかりと切れて刺さる手裏剣とクナイを持っている少女も対外である。

 

「しかし御仁、いきなりで聞きそびれましたが、何ゆえ拙者を攻撃するでござるか?」

 

 締め上げられる腕の痛みに、若干の脂汗を流しながらも聞く少女。イサツはニタリと笑った。

 

「最近ここじゃ君みたいに、ちょっと普通じゃない奴が多いって知ってねえ……先生方には、控えなさいと言われたがしかし君みたいなのを目の前にして我慢はできないなあ」

「俺より強い奴に会いに行く系でござるか」

「違うさ……強い奴の血が見たいんだよ」

 

 クイッと糸を引き、同時にイサツは自身も跳んだ。手の得物は釘打ち機から、鑢に持ち変えられている。糸に沿って彼はまっすぐに獲物へと跳んだ。

 

「それは、あまりに危険な生き方でござるなっ!!」

 

 彼の鑢が少女の肉体に肉薄した瞬間、彼女の体がまるで蜃気楼のようにぶれた。そしてそのまま鑢は空を切り、糸も何時の間にか解けている。

 

「にんにん、あぶないあぶない」

「危うくやられるところでしたな」

「……へえ」

 

 四方八方から聞こえる少女の声、にんにん、にんにんと独特の口癖をしながら彼を囲んでいった。

 

「すごいねえ、分身できるんだ」

「まあ、この程度は」

「やっぱ忍者じゃん」

「いやいや、なにも忍者じゃなくてもできるでござるよ」

 

 イサツの周りには、姿形が一緒の少女達が囲んでいた。手には各々手裏剣にクナイとしっかりと装備している。

 

「けど今一回殺したからわかるよ、分身、結構希薄だね」

「おお?わかりますか」

「血が出ない奴はつまらないからね、直ぐわかる」

 

 イサツはジロリと複数の少女の中から、ただ一人の少女を見つめていた。その少女は、ほかに比べ一際、にんにんと笑みを浮かべていた。

 

「一発でここまで見抜くでござるか」

「それもすぐわかるさ、匂うから」

「婦女子に対し匂うは無いでござろう……」

 

 「ちゃんと風呂にも入ってるでござる」と少女は憤慨し、不満そうである。

 

「違うよ、血だよ……匂い、覚えたから」

「血?」

 

 血を流すほどの攻撃は、全てかわししのいだはずだと少女は思ったが、ふと左手に生ぬるい感覚が伝わる。目をやれば腕には、いつの間にか腕の輪郭に沿った切り傷と擦り傷ができ僅かではあるが血がにじみ出ていた。

 

(まさかっ!?)

 

 自身の服に僅かに残った先ほどの釣り糸。それを見つけ手にとって見るとその糸は、等間隔でギザギザになり糸ノコの様になっていた。

 

「これは……」

「気づいちゃったかぁ……糸に接着剤垂らして紙鑢で粗く削った試作品でさぁ……切断は無理でも結構食い込む風にしてさ。ね?食い込んだよね?血が匂ったから結構入った?」

「……お主ほんとヤバイでござるよ」

「君の血は、良い匂いだねぇ、クハッハハッ!」

「それはそれで反応に困るでござるなぁ……」

「クフックフフ……ッいいんだよ、そう言う反応で、困れば良い、それが当然だから……君まで異常者に付き合う必要も無いだろうし……クフッ」

「むっ!?」

 

 イサツが今度は、何かを放り投げた。投擲ではなく自分と少女の間に落ちるように投げそしてそのまま後方へと急ぎ下がった。それが地面に落ちるまで数秒しかないが少女には、その形に見覚えがあった。円錐状でピンが刺さる部分がある拳ほどの物体。

 

(手榴弾っ!?)

 

 彼女は軍事兵器に関しては素人だったがその形に覚えはある。戦争映画だけでなくフィクションであれば登場する機会は多いだろう〔パイナップル〕とも呼ばれる投擲兵器だ。それを何故イサツがもっているか考えるまでも無く彼女は、咄嗟に木の陰に隠れた。そして彼女の体が木に隠れるのとほぼ同時に強烈な破裂音が鳴り響いた。

 火薬による単純な爆発ではなかった。破裂と共に四方八方へ噴出したのは、大小様々な釘だった。強烈な圧力で押し出された釘は、分身へと襲い掛かりあらゆる部位へと刺さる。分身は、瞬く間に姿を消していく。木にも地面にも一瞬にして飛び散った。

 

「イヒ、ヒッヒィーッヒッヒイッ!!」

「控えめに言ってほんとお主ヤベーでござるよっ!?」

 

 反対側の木の陰から狂ったようなイサツの笑い声が聞こえる。恐ろしさは無いが「マジでヤバいやつ」と思わずには居られない彼女は、冷や汗を流しながら叫んだ。

 

「イヒィーヒヒッ!!は、初めて使ったから俺もビビッたぁーっ!クヒッ!サバゲー用のBB弾用の手榴弾改造した奴だけどいい感じだぁーっ!!」

「せめてテストしてから使うでござるよっ!?」

 

 破裂はほんの一瞬である。そこら中に釘が散乱し木々はハリネズミのような姿となっている。始終笑みの耐えなかった彼女も流石に「ここまでやるか……」と唖然として顔を隠れた木からのぞかせた。それと同時にイサツも顔を出した。目と目が合う。

 

「うっ!」

「クヒッ!」

 

 瞬時に二人は構えた。イサツは鑢と釘打ち機を、彼女はクナイを。そして止まる。二人とも動きを止め、互いに様子を見た。二人を挟んだ地面は、今や釘だらけの状態だ。迂闊に走ればイサツとて足に刺さる。しかも釘は、あえて錆びた物も混ぜておりそれが刺さると、中々抜けないだろう。自分で自分の動きを封じているとは、なんとも情けない。少女は容易く木を渡り移動する事も出来るのだが、イサツが向ける釘打ち機が気になって迂闊に動けない。

 互いに汗をかいて微動だにしない状況で、しかし不意にイサツは、その顔をしかめた。そして「うぅ~うぅ~」と唸るとなんとそのまま得物をしまってしまう。

 

「おや?」

「あー……うん、ごめん……もういいやぁ」

 

 イサツは今までの興奮が嘘のように冷め切っている。これには、少女も今までとは別の方向で困惑する。

 

「ど、どうしたでござるか突然」

「……なんかさぁ、今俺を更生させようとしてる先生がいるんだけどさぁ」

「はぁ……」

「このままやってたら、この事多分ばれるじゃん?」

「まあ、そりゃ……」

「……そしたらふと思うのよ、きっと色々御小言を貰う事になるなぁって」

 

 するとイサツは、一言。

 

「めんどくせぇ」

 

 と、言った。

 

「申し訳なさとかではないのでござるか……」

「それも無いわけじゃないけどさぁ、もうそれ考えたら萎えたわぁ……あぁ~なんだかなぁ……あぁ~あ~」

「え、あちょっ!ちょちょちょっちょっとまったぁっ!で、ござる!」

「あぁ~?」

 

 イサツは、そのまま帰ろうとして歩き出す。少女は慌てて引き止めた。

 

「いくらなんでも、いきなり襲い掛かってきて萎えてさよならって……そりゃ無いでござるよ」

「えぇ~……けど、君確かに血は良い匂いだから興味あるけど……けど、やっぱりエヴァンジェリンは凄かったよなぁ……血も魅力も、けどしばらく無理だなぁ~」

「……なんか知った名前が出てあれでござるが……そうでなく、御仁せめて名前ぐらい教えて去るでござるよ。これじゃ行きずりの辻斬りでござるよ」

「辻斬りは行きずりさ」

「そうでござるけど……言葉のあやでござるよ」

 

 だが確かに彼女の言う事も最もであった。イサツは彼女に向き直ると濁った様な目で見つめ口を開く。

 

「高杉伊佐津、イサツでいい」

「にんにん。拙者は、長瀬楓というでござる。楓でかまいませぬ」

「……フヘヘッ、最近は色々面白いよ。発散はやりづらくなったけど変な知り合いが増える。今日は忍者に会えた」

「拙者忍者じゃござらぬ」

「クヒッそうかい」

 

 落ちたテンションを少し上げてイサツは、歪んだ笑みを浮かべた。

 

「イサツ殿は、お強い。だがその心は、狂気そのものでござる」

「知ってる」

「普通の手合わせで良ければ、また休日にでもここへ来るといいでござるよ。お相手いたす」

「クヒッ嬉しいねえ」

「ただなるべく普通の武器を使ってほしいでござるよ、にんにん」

「クヒヒッ善処するよ……じゃあねぇ」

「にんにん」

 

 去り行くイサツは、少し寂しそうな背中であった。忍者(ではない)少女楓は、その姿を見送りながら一つの事を考える。

 

(エヴァンジェリン……二人も三人も麻帆良にこんな名前は、いないでござるから……ここは、本人に聞いてみるのも一興か)

 

 イサツはまさか楓とエヴァが同じクラスとは、思いもしなかったろう。この事で後日エヴァがその事について酷く怒りながらイサツにつめより、また実はこの時の事をしっかりと把握していたシャークティにかなり怒られる事になるのだが、この時点の彼はまるで知らぬことである。

 

 

 

 

 

 

 

 




彼自身魔法は使わないと思います。
けれど仮契約はするでしょう。そんでヤベーなにかを手に入れるでしょう。


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ネギまでペルソナなやつ

久々に過去データ漁ってたら見つけた黒歴史
P4にはまって「P4に近い世界観、オリ設定ペルソナ×ネギま」をやろうとして挫折したモノの出だしのみ


 

 

 ……これは、我々の知る世界とは少し違った世界の物語。

 奇妙な事件と、人の出会いの物語……。

 

 

 

 

 

 

 ──2003年 4月

 

 ……。

 …………。

 ふと……気が付くと、自分は何処かの店。内装から見て、小さな「喫茶店」に居た。人が入るには10人……いや、5、6人が限度だろうか。それ程に小さな店だ。

 しかし可笑しい。自分は今、入学のため電車に乗り埼玉へと向かっていた筈だ。

 ここは時間がわからないほどに暗い。記憶が正しければ、まだ外は朝。日が差し込んで無ければおかしいのに、窓からは日の光は入ってこない。それどころか、月明かりも無い。それなのに、不思議と違和感はない。むしろ、それも“ある種”の雰囲気を出しているかのように感じる。

 

「……ようこそ、ベルベットルームへ」

 

 焦りもせず、ただじっと立っていたが、突然声をかけられる。驚き声の方を見る。すると、いつの間にか店の中で唯一二人は坐れるソファーに人が一人、腕を組み、口元を隠す様に座っていた。

 

「おや……? これは、また珍しい“定め”を御持ちの方が来られた」

 

 座っていた男。正確な歳はわからないが、初老の頃だろうか? 閉じていた目をギロリと開け、こちらを見た。今にも飛びだすのではないかと思う様な眼球に、長い鷲鼻。不気味、と言えば無気味であった。それでも何故か恐怖は無い。

 

「はじめまして。私の名はイゴール……ここの主でございます」

 

 老人の名はイゴールと言うらしい。彼はマジマジと自分を見ている。まるで珍しい動物を観察するように、じっくりと。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間の世界……。そして、ここは何か“契約”を果たした人物が訪れる場所。しかし、貴方はまだ“契約”を果たしてはいない……と言う事は、貴方はこの先で、何か“契約”をなさる事になりましょう」

 

 イゴールが汲んでいた手を解き、そっと自分に席に座る様に促す。それに応じて、自分は彼の前にある一人用の腰かけに座った。

 

「そうですな……先ずはお客人の、お名前を教えていただきましょうか?」

 

 イゴールは心なしか愉快そうに名を訪ねた。何故、あって数分も経ってないのに彼の感情が読めたかはわからない。何となく、だった。

 ……名前。取りあえず、名前を名乗る。不思議と気合が入った。一言一句、間違えず答える。

 

「ふむ、“岸野 淳司”と言うのですな。……さて、では少し“占って”見ましょうか」

 

 イゴールがテーブルに向かい手の平を出し、横にはらう。するとどうだろうか。何も無かったテーブルに、突然何枚かのカードが虚空より現れた。長方形のそれは、タロットカードと思われた。タロットカードは、綺麗な形に並び、全てが裏面を向いている。

 

「“占う”のは、貴方の“未来”……占いは信じますかな? 何時も使うカードは同じである筈なのに、結果は変化し続ける。フッフ……まるで、人生の様ですな」

 

 彼は手のひらをクルリと、カードを捲る様に返す。すると、一枚のカードが捲られた。絵柄は……。

 

「ほう……? 近い未来、それを示すのは“塔”の正位置。どうやら、近く巨大な災難が貴方に起こる様だ。ふむ、さて……その先の未来は……」

 

 イゴールが再び手の平をヒラリと裏返す。そして、二枚目のカード。その絵柄は……。

 

「“刑死者”の正位置。試練、修行を示すカード」

 

 現れた二枚のカード。それをじっと見つめた後、イゴールが自分の方を向いた。

 

「どうやら、貴方は近い未来、“災難”を被り、大きな“試練”に立ち向かう事になるでしょう……。その“試練”はとても難しい、貴方にとっては大きな“選択”と言えるかもしれません。果たして……」

 

 イゴールは手を払い、並んでいたタロットを消す。元の何も無いテーブルのままだ。

 

「……貴方は近く何か“契約”を果たし、再びここに来られるでしょう。そして、貴方は迫る“試練”に打ち勝たねば、貴方だけでなく、大切な人の未来も閉ざされる事になる。私の役目は、お客人がそうならぬ様、手助けをするために居ります」

 

 “契約”。……果たして如何言った物だろうか? 

 それよりも、“災難”、そして“試練”。どうやら、幸先の良い学園生活とはいかないらしい。

 …………? 

 どうしたのだろうか、視界がぼやけてみて来た。

 

「どうやら、現実の貴方が眼を覚まそうとしている様ですな」

 

 現実……そう言えば、ここは“夢の世界”の様な物と聞かされた。

 

「……以前までは、一人、“共”が居りましたが、今は訳あってここを離れております。この場所も退屈はしませんが、貴方の様な訪問者が来るのは稀……詳しくは、また次にお話ししましょう」

 

 視界が真っ白に成って行く……。

 

「それでは、また次の訪れ、楽しみにしております」

 

 ……

 …………

 ………………

 

『埼玉ァ~埼玉ァ~……』

「……ッ!」

 

 車掌の特徴あるアナウンスが聞こえた。その声で目を覚まし、この駅が目的地だと気付くと棚から荷物を取り出し、急ぎ車内から飛びだした。

 危うく寝過ごす所だった。

 客が下りたのを確認して、自分が乗って来た新幹線は駅を離れて行った。

 ……落着いた所で、先程見た“夢”を思い出した。

 “夢”? それにしては現実味が……それも違うか。正に“現実”と“夢”の間の様な、不可思議な世界。あのイゴールと言う老人……。ベルベットルームか。

 何にしても、また自分があそこに行く事を仄めかしていた。“契約”を果たした時と言っていた。

 あそこがどう言ったところか知らないが、真実であれば、また行くのだろう。

 目的地まではもう少しだ。一先ずは、入学する学校へと向かって行った。

 

 

 ──数時間後 “麻帆良”

 

 麻帆良。それは日本きっての学園都市。小中高大、ほぼ全ての学習機関が揃い、世界レベルの頭脳、技術を持つ生徒に教師がいると言うどこかとんでも無い所だ。

 その麻帆良の高校に、自分は明日入学する。

 けど、実家はここで無く静岡。態々近場の高校では無く、県を離れここに来た。

 親は母一人。静岡で教師として働いている。父は母と同じで教師をしていたが、2年前、突然姿を消してしまった。ここ、麻帆良で。単身赴任で、ここの教師として父はここに来た。3年ほどの期間との事だった。だが、赴任してから半年後。父の行方が分からなくなった。今も捜索は続いているが、一向に見つかる気配はない。

 それが理由でここに入学を決めたと聞かれれば、きっと自分はyesと答えるだろう。だが、自分で父を見付けるとか、そう言う正義感とかじゃ無い。ただ、父が居た場所を見たくなった……そう言った事の方が大きかった。

 手にはここの地図。駅で置かれてた。地図が無いと迷う人も居るそうだ。まるでアミューズメントパークだが、ここはあくまで学園の敷地である。

 先ずは指定の寮へと向かう。ここに来る生徒の殆どは自分と同様で寮住まいが多いらしい。その分、寮の設備は凄い。これも麻帆良の凄い所。設備等が良いと言う理由でここに入学する人も居るそうだ。綺麗な大浴場に個室のバス。ネットは当たり前の様に繋がり、キッチン完備と、通常の学生寮では考えられない環境だ。

 周りを見渡すと、自分以外にも御荷物の若い交通人が多い。まあ、当然か。

 きっと、皆自分と同じ様にこの学校に来た人だろう。中には、クラスメイトに成る人もいるかもしれない。

 ややあって、寮へと無事に到着する事が出来た。

 寮暮らしに相部屋が多い中、自分は特別個室にして貰った。ここはある意味で常識に縛られない場所。希望を出し、条件さえ整えば数少ない個室をとる事は出来る。まだ何も無い部屋だが、三日後以降には実家から私物が送られる様にした。冷蔵庫ならあるので、それ以外のテレビ・パソコン等の電化製品が主である。

 カバンを床に投げ出し、ベッドに横たわった。時間は夕方。旅の疲れが出た様だ。今日は早めに寝ようか。風呂は、明日の朝に入れば良い。

 ……入学式は明日。果たして、どの様な学園生活を送れるのだろうか。ベルベットルームでの事もあったが、楽しみでもあった。

 一先ず、今は睡魔に身をゆだねた……。

 

 

 

 

 

 

 ──“??? ”

 

 真っ暗な世界。光はまるで存在しない世界。果たしてそこが何処かはわからない。が、その世界のとある場所、暗がりだが、何処かのバスルーム……だろうか? そこには、二人の女性が居た。

 何やら騒がしい。狭い空間で二人はお互いで激しく争っている。どうも、穏やかな雰囲気ではなかった。危機迫ると言うのか、一方の女性から、強い殺気が溢れていた。

 叫び声を上げ、片方の女性が自分の腕を掴もうとした女性を強く突き飛ばす。倒れ込んだ女性。それをチャンス見て、もう一人の女性は逃げだそうと駆け出した。暗がりの中、何とか一つの扉を見付ける。必死にその扉に駆け寄り、扉を開こうとした。

 しかし……開かない。何度も扉を引いても、ガチャガチャと音がするだけ。女性は力の限り扉を叩いた。薄い樹脂で出来た引き戸。もしかしたら壊せると思った。必死に叩く拳からは、ジワリと血がにじんだ。それでも、叩く。が、壊れない。開かない。

 開かない扉。混乱した女性の後ろに、倒れ込んでいたもう一人の女性が近付き女性を強く、掴んだ。

 

 ……闇に、一人の女性の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 ──翌朝 麻帆良高等部校舎

 

 次の日の朝。自分は他の生徒と共に入学式に出ていた。麻帆良のウルスラ女子高等部との合同で行なわれる入学式は、広い運動場で行なわれた。

 ざわざわと生徒達が話している。新しく知り合ったルームメイト。元からの友人。他にも色々な経緯で知り合った人。そう言った人物と話しているのだろう。

 反面、自分は特に誰と話すと言う事はない。こうやって、他の人達の様子を見ているだけだ。まだ知り合った人間は一人も居ないのだ。だから、周りの人間を見ているしかない。

 

「静粛に、皆さん静粛にぃ~」

 

 教師の一人がざわつく生徒に静かにするように言う。その声を聞いた生徒達は、皆直ぐに静まった。流石に、初日から騒がす様な事はしないか。

 

「……はい、ではまず学園長先生からの挨拶があります」

 

 皆が鎮まったのを確認すると、教師が壇上から降りると、入れ替わる様に一人老人が昇る。

 その姿を見て、自分も含めてだが、静まっていた生徒が波状に驚きの声を上げる。学園長の見た目に驚いたのだ。何と言うか、まるで妖怪の“ぬらりひょん”の様な見た目だった。

 

「ふぉふぉ。まあまあ、落着きたまえ。ワシはこんなナリじゃが、人間じゃからね? 結構気にしてるから言わないでくれい」

 

 そうは言いつつ、学園長は長い後頭部をペシリと一つ叩いた。ドッと笑いが起きる。

 

「さてさて、笑いが取れた所で生徒の諸君。この度は入学おめでとう。今年もこんなにも素晴らしい生徒が入学してくれた事、ワシも嬉しく思っておる。中には、中学からそのまま進学した子も居るじゃろう。その子達はまた暫く宜しくの」

 

 “中学からそのまま”という言葉の意味は、麻帆良は基本的にエスカレーター式でもあるからだ。中学をここで過ごした学生は、特に難しい試験も無く進学が可能と成っている。

 

「特に難しい話をする気も無い。皆にはしっかりと学生としての責務を果たしてくれればよい。つまり……良く学び、良く遊び、良く育ちなさい。それが学生としての責務じゃよ」

 

 最後に「御清聴感謝、感謝」と言いながら一礼して学園長は壇上から降りた。

 長いスピーチを予想していたのだが、大変短いスピーチで皆心なしか嬉しそうである。

 その後は他の教師達の話や、生徒代表の挨拶があり、一時間程で入学式は終わった。

 

 

「いやぁー、学園長の頭スゲエなぁ。俺びっくりしちまったよ」

「俺は中学からいたから慣れたけどな。実は妖怪何じゃないかって言われてるぜ?」

「わかるわぁ~」

 

 教室に移動すると、クラスメイトと成った人と話す人が多い。女子は女子で、男子は男子で。其々グループを作っているのはとても学生らしかった。

 自分は窓際の席で、肩肘を着いて外を見ていた。

 

「しつれい、君」

 

 突然声をかけられた。声の主を見ると、丁度隣の席の男子生徒が隣に立っていた。

 

「あー……なにか?」

「いやなに、折角クラスメイトになったんだから、声をかけようと思ったんだ。先程からボウッとしていただけみたいだったしね。あッ、もしかして迷惑だったかい?」

「いや、そんな事は……ボウッとしてただけだからね」

 

 そう言うと、彼は「そうかい」と笑った。

 

「僕は山下慶一。これから三年、宜しく」

「自分は岸野淳司。宜しくだ、慶一」

 

 お互い握手を交わした。見た目中々な好青年の様だが、中々に熱い男の様に感じた。

 慶一は一度席に座り、色々と話し始めた。

 

「君は元からここに?」

「いや。今年からだ。実家は静岡でね」

「へぇ、そうなのかい? ここはエスカレーター式だからね、割と高校の新しい生徒ってちょっと珍しいんだ。他は殆どが中学からの友人さ」

 

 その言葉には頷ける。クラスの生徒達も、二人に一人の割合で“エスカレーター組”だからだ。

 

「かくいう僕もエスカレーター組。で、見知らぬ君に声をかけたってわけ。君は静岡から何故ここに? 目標でもあるのかい」

「ふむ、目標は特には……後は、設備が良いから、か?」

「や、疑問で返されても」

「けどそれ抜きでも良い学校と聞いたし、良い所に入れば自ずと目標も出来ると考えた」

「成程ね。ちょっと納得」

 

 そうこう話をしていると、扉が開き教師が一人入って来た。

 

「おっと先生だ。また後で」

「ああ」

 

 こそこそと、お互い姿勢を正して席に着いた。

 一先ずは、学園生活の本格スタートである。

 

 

 ──昼休み

 

 昼までの授業は、殆どがオリエンテーションの様な物で、生徒の多くは初めこそ真面目に先生の話を聞いてはいるが、途中からは船をこぎ出す者、配られたプリントに落書きする者、ペンを回す者等々、少し緩んでいた。

 自分はそういた人を見て暇をつぶした。自分で言うのも何だが、趣味が悪いかもしれない。

 

「確かに悪いな」

 

 話しを聞いていた慶一に言われてしまった。

 今自分達は学園の食堂に居る。初日とあって弁当の用意をしていた人が少ないのか、流石に多い。

 

「食券なんだな、ここ」

「そうさ。普通の店と変わらないよ」

 

 二人列に並びながら呟く。自分は「カレーライス」を、慶一は「日替わり定食」の食券を持つ。

 

「良かったのか? 他に知り合いと食べても良かったのに」

「他の奴等は今まで何回も一緒に食事をしたよ。けど、君は違うだろ?」

 

 にこやかに答える慶一。

 どうやら、自分は非常に良い友人を作れたようだ。

 

「そら順番だ」

 

 気が付くと並んでいた列が一気に進み、自分達の晩に来ていた。

 食券をおばちゃんに手渡し、それぞれ「定食・カレー・丼」と書かれ下がるプラ版の所へと向かう。

 

「食堂は他にもあるんだ。ここは基本的に全学生対応の食堂。僕も中学からずっと利用してる」

「食事充実してるのは良いなぁ」

「ああ、見てみな。制服が疎らだろう? あれはウルスラの。あっちは女子中等部のかな? 位置の関係で高等部の利用者が多いけど、こうやって他の所からも来るんだ。私服は大学生だろうね」

 

 慶一は自分が県外から来たと知ると、こうやってわかりやすく説明をしてくれる。“麻帆良では先輩”と言う事だかららしい。自分としても大変ありがたい。

 食事を受け取ると、開いている席を探す。が、どこも混んでいて開いていない。

 

「うーん……流石に直ぐは開かないか。知り合いでも居ないかな?」

 

 慶一はキョロキョロと見渡すが、どうやら知り合いは居ない様だ。

 まあ、昼休みなので、生徒もずっと座っている訳でも無い筈だ。のんびり探そうかと言っていた時だった。

 

「あの、すみません」

「え? あ、はい」

 

 ちょうど傍の席。四人席のテーブルに一人座る少女に声をかけられた。

 彼女も食事中で、テーブルには食べかけのサラダと食べ終えた食器が置かれている。

 

「席を探してる様ですが……?」

「ああ、そうなんだ。こうも混んでるからねぇ」

「あらやっぱりそうですか。あ、もしそちらが良ければここに御座り下さい。私と相席に成ってしまいますけど」

 

 そう言って少女は開いている三席を指した。

 

「え? いやぁ、けど……良いのかい?」

 

 慶一は少し言葉を濁した。まあわからないでも無い。本来四人座れる席であっても、一人でも座ってると不思議と座り難い。

 

「ええ。友人が居ましたが、先にクラスに戻ったので。私も直ぐに食べ終わりますし」

「あーどうする?」

「……いいんじゃないかな?」

 

 慶一がこちらを見て意見を求めたので答える。まあ断る理由も無い。ここは彼女の好意に甘えても良かろう。

 

「そうか。なら失礼するよ」

「はい」

 

 自分達は愛想笑いで席に着いた。

 早速食事を始めるが、何となく目の前の彼女の事も気になる。それは慶一も同じ様で、食事を口に運ぶ作業の中、偶にチラリと彼女を見た。それに気付いた彼女と眼が合うと、彼女はニッコリと微笑み返した。何と言うか、社交に慣れた感じだった。

 折角相席に成ったので、話題の一つでも出してみようかと思った。

 ……そう言えば、彼女の制服は、先程慶一が説明してくれた女子中等部の物だ。

 

「君は、中等部の子なんだね」

「ええ、そうですよ。今年から中学一年生です」

「へぇっ、落ち着いた雰囲気だから三年生位かと思っちゃったなぁ」

 

 慶一が若干驚いた風に言った。

 ……そう言われると、あまり気にしなかったが、中一の割には大人びているかもしれない。

 

「……ふふ、良く言われます」

 

 彼の言葉に肯定の意を示し、やはり優しく微笑んだ彼女。

 しかし、少し間があった様だが……。

 

「そちらの制服は、高等部の物ですよね? では、先輩ですね」

「はは、そうだね」

 

 ……まあ、気のせいだろう。

 暫くの間、三人で楽しく食事をした。

 

「あらあら? もうこんな時間だわ」

 

 ふと彼女は時計を見てそう言った。昼休みが終わるまで、残り15分程である。

 

「次の授業、外でのオリエンテーションだったわ」

「おや、なら早めに戻った方が良いね。すまなかったよ、なんか、引きとめちゃって」

「いえ、そんな事無いですよ? 先輩方のお話、とても楽しかったです。それでは、これで」

 

 一礼して去る彼女に、自分も慶一も手を振って見送った。

 

「……あ」

「どうした?」

「自己紹介とかしなかったなぁ」

 

 ……そう言えば、お互いに名前を名乗って無かったな。

 

「“縁”があれば会える」

「そうだな。次会えたら、改めて自己紹介でもするか。……っと! そう言えば僕達も次オリエンテーション外じゃないか!」

「っ!」

「ああ! まだ今日の日替わりのヒラメのフライ残ってた!」

 

 自分はカレーのルーが妙に残っていた。どうやらライスを中心に食べ過ぎたらしい。

 

「早く食べよう、残すのは勿体ない!」

 

 ……。

 こうして、二人で残りの食事を急ぎ食べ、教室に戻った。

 一気にかき込んだ昼ご飯は、若干重く。午後の授業は少し辛かった……。

 

 

 ──放課後

 

 初日の授業は早めに終わった。もう皆帰路につき始めている。

 

「淳司、君はこれからどうするんだい?」

 

 慶一に声をかけられた。見れば、彼は学生鞄とは別に、大きめのバッグを持っていた。

 

「あ、ああ。これかい? 胴着一式が入ってるんだ。実は今から“中国武術研究会”に顔を出すんだよ」

「中国武術?」

「そうさ」

 

 そう言えばHR(ホームルーム)で先生が言っていた。麻帆良学園は、希望があれば下級生でも大学や高校の部活やクラブ活動に参加できる。“中国武術研究会”と言うのも、その活動の一つだろう。

 

「実はこう見えて体術には自信があるんだ。けど僕の扱う武術が一般的じゃないからさ、クラブとか無いんでこうやって他の所に顔だして、ちょくちょく腕試しさせてもらうんだ」

「一般的じゃ無い?」

「うん。“3D柔術”って言うんだけど」

 

 …………。

 き、聞いた事無い格闘術だ。

 

「やっぱ知らない? 面白いんだけどなぁ……」

 

 溜息を吐きうなだれる慶一だが、何でまたそんなマイナーな格闘術を扱うのだろうか。と言うか、マイナーかどうかもわからないほどにマイナーだ。もう少し親しくなったら、それとなく聞いてみても良いかもしれない。

 取りあえずは、一度今日は帰る事にした。

 

「そうか。良かったら来てくれても良かったんだけど……初日だしな。ああそうだ、同じ寮だろ? 僕の部屋教えておくよ」

 

 慶一は自分の寮の部屋番号を教えてくれた。

 ……! なんと、自分の部屋の隣だった。

 

「えっ、隣同士! 気付かなかったなぁ……。あ、それじゃあの個室って淳司だったのか」

「昨日は来て直ぐ寝たから、お互い気が付かなかったみたいだ」

「みたいだな。ま、今日また会おうじゃないか。それじゃな」

 

 バッグを担ぐと、慶一は颯爽と去って行った。

 自分も帰るとしよう。折角なので、少し学園を見て回りながら帰る事にした。

 入学初日の新鮮さもあるが、麻帆良と言う場所は本当に凄い所だと実感する。歩いているだけなのに、まるで飽きない。

 桜通り何て言った名所みたいな道を歩きながら、春を感じてのんびりしていた。

 

「待ってよぉ~!」

「へっへ~! 早くしないと置いてくよー!」

 

 歩いていたら、脇の方を小柄の少女が二人駆け抜けて行った。少し驚いてしまったが、思わず駆けて行った落ち着きのない少女達に眼を移す。

 ……。良く見れば制服があの食堂での少女の物と同じものだ。

 しかし……今度は違った意味で中学生に見えない容姿だった。失礼だが、とても幼い。先程“小柄”と言ったが、その時は小学生が走っていたと思っていた。

 双子だろうか、とても二人は似ている。違うのは髪型ぐらいだ。道を駆けまわる二人を何となく危なっかしいと思いながら、見ていたが……。

 

「アウッ!」

「あ!」

 

 ……案の定、後ろから追いかけていた少女がこけてしまった。

 

「うぅ~痛いよぉ……お姉ちゃん」

「ふみか、平気?」

 

 こけた少女は眼に涙を浮かべていた。姉と思われる、少女が心配そうに近寄る。

 ……そう言えば、自分は“絆創膏”を常備している。それと、こう言った時に使う未開封の“ポケットティッシュ”

 

「大丈夫?」

「え?」

 

 恐らく、これも“縁”であろう。二人に近付いて、声をかけた。

 

「え、えっと」

 

 しかし、物騒な今の御時世。見知らぬ人に声をかけられると言うのは、例え相手が心配して声をかけたとしても少し焦るものである。あまり親身に成り過ぎると、損をする時代に成ってしまった。それでもやる事はやっておく。

 

「これ、使って」

「あ、これ絆創膏」

「もし嫌なら捨てて良いから……あ、けど最初にちゃんと傷を洗って、それとキトンと消毒してから使って。うん、それじゃ」

 

 渡すだけ渡し、とっとと歩きだす。

 姉妹は一瞬ポカンとしていたが、ある程度離れると。

 

「ありがとうございまーす!」

 

 と、二人分の礼が聞こえた。

 ちょっと照れくさかったので、振り向かず軽く手を振って帰った。

 風吹き、桜舞う。そんな午後。

 

 

 ──“淳司”の部屋

 

 夕方、と言うには遅い時間。腕試しとやらを終えた慶一が、部屋に遊びに来ていた。

 

「漫画みたいな事してたんだな、君」

「そうかもな」

 

 中学生の姉妹の話しをすると、今の様な感想を貰ってしまった。

 

「そっちはどうだった?」

「いやぁ~ボロボロだった、おはずかしながら。淳司来なくて正解だったよ。僕カッコ悪い所だけしか無かったし」

 

 慶一の顔には擦り傷がある。それ以外にも腕に包帯を巻いたりと、かなり激しく組み手をしたらしい。

 

「部長の子が強くてね、これがまた。その子は中学生何だけど、実力じゃ麻帆良でも上位なんだよ」

「中学生? どうも中学の子に“縁”があるな、今日は」

「まあ多いしね、中学の子もさ。それと、不思議と中学生を中心に変わり種が多い傾向があるし、この学園」

 

 よくよく聞けば、今年は特に面白い子が多いそうだ。

 初等部の頃から騒がれた天才発明家。彼が今日戦ったと言う天才格闘家。帯刀してる子。自費で寮の部屋を改装した子。色々と騒ぎのタネになる子が多いみたいだ。

 

「しかし、今日だけでもよくわかったんじゃないか。この、麻帆良の事がさ?」

「……そう、だな」

 

 勉強に成った。と言えるかは知らないが、ともかくは色濃い日ではあったのは確かだ。

 

「まあ明日からは通常授業。気張って行こうじゃないか」

「ああ」

 

 互いに「おやすみ」と言って、慶一は部屋から出て行った。

 時計を見れば、消灯時間が近い。風呂は帰ってから直ぐに入ったので、もう寝るだけだ。

 高校へ入学するからと、母に買ってもらった携帯を慣れない手つきで操作してアラームをセットする。PC等は使う方ではあるのだが、自分は割と“ロートル”な所があるので、精密機器の操作に慣れ無い。未だに、PCや携帯でのメールは使いこなせていない。

 そう言えば、“ロートル”とは元々中国語で“老頭児”と書くそうだ。ずっと英語だと思っていたが、意外にトリビアか。

 ……豆知識をセルフ披露した所で照明を落とし、布団にくるまった。

 ああ、良い夢が見れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 ──深夜 麻帆良市内 某所

 

 とある民家。その周辺には何台ものパトカーが止まっていた。

 音こそ今は出してはいないが、先程までは慌しい、民家の並ぶ通りには相応しくないサイレンを鳴らしていた。

 時折光るフラッシュは、現場を写真に収めているのだろう。

 警官達は家の内部に入り、現場検証をしている。そして、その指揮官と思われる中年の人物は、“血塗れ”のバスルームでいぶかしんだ顔のまま立ちすくんでいた。

 

「……これで“四人目”か」

「はい」

 

 中年の男の言葉に、その隣に立つ若い落着いた男が肯定した。

 

「こいつは?」

「ここの家主、三原知恵27歳。結婚はしてますが、現在夫の三原晃司とは別居中。ここには最近までは夫と暮らしてたようですね。で、その別居中の夫が第一発見者って訳です」

「突然連絡が取れなくなって、家に合いカギ使って入ったらこれか……まあ、あーも成るわな」

 

 現在その夫、三原晃司は気絶して病院に運ばれた。ショックの所為で、意識不明と成っているのだ。

 

「しかし、嫌なもんだな。死体にゃ慣れてるが、こう立て続けにこれはなぁ」

「ええ。上半身と下半身、綺麗に“別れて”まるでカガミから出て来てるみたいですよ」

 

 彼等が見る“死体”。それは、衣服を着たままの状態で、身体を美しく“分断”され、“上半身”が“鏡”から這い出る様に置かれていた。

 

「で、“下半身”は?」

「例によってどこにも。少なくとも、この家には無いでしょうね」

「チッ! ……一件目から“上半身”だけの死骸ばっか残しやがって……おい、運んでくれ。どうせもう何も出ん」

 

 男がそう言うと、数人の男達が現れ、知恵の“上半身”を専用の袋に包み、バスルームから運び出して行った。

 

「ふぅ……、三週間前から続くこの犯行。ま、同一犯だろうな」

「もしこれが模倣犯なら、この街は“■■■■”ばかりですね。ああ、私はこの街を逃げ出したい所存です」

「残念だったな。まだまだ付き合ってもらうぞ」

 

 一時この場を他の者に任せ、二人は外へと出て行った。

 

「しかし、“また”ですね」

「何がだ?」

「“鏡”ですよ。害者、常に真っ二つで鏡から這い出る様に置かれてるでしょう」

「ああ、たく、気味が悪いったらねぇ……」

「しかも、一つも証拠らしい証拠ないですね。指紋どころか、人が入った痕跡に、あれだけの惨状で現場以外に血の一滴も無い。“その場”のみで行われた犯行ですよ、まるで」

 

 その場で服を着替えた? 例えそれでも人が入ったと言う何か証拠や痕跡が無ければ可笑しい。だが、無いのだ。一切、人どころか、被害者以外の“何者”かが居たと言う痕跡が一切ないのだ。

 

「相手は“魔法”でも使ったのでしょうかね。それとも、“悪魔”の仕業か……」

「なら堂々と俺たちゃお手上げ出来るな。そんな奴が相手じゃ敵わんよ」

「そうですね。……ま、何にしても“魔法”なんてないですよ。“悪魔”の様な存在が居るのには違いませんが」

「……違いない。とにかく、夫の三原晃司が眼を覚ますまで、戻って状況整理だ。やれることするぞ」

「はい」

 

 二人は一台のパトカーに乗り込み、走り出す。夜の暗闇に、白黒のカラーが消えて行く。

 若い男が運転しながら思った。

「何故、全ての被害者達は、あんなにも“安らかな顔”だったのだろう」かと。

 

 

 




後書きと言う名のプロット語り

あんまメインにならないキャラを使おうとして、設定ばかり考えてやめたもの。文章も今見れば迷走してるけど、話としては当時好きで書いてた思い出。
一応物語は、残ってたプロットのデータとしては――

「2002年4月が少し過ぎた頃の事。主人公は新天地、埼玉麻帆良へと向かい、その土地に存在する大規模な学園「麻帆良学園」の高等部へと入学する事と成った。そこで一人寮暮らしを決める主人公。彼の入学した麻帆良学園の生徒の間では、ある一つの噂があった。「カガミの怪談」である。眉唾物と言う者あれば、真実と言う者あり。主人公達もその話に興味を抱き調べ始めるが、何と彼等は鏡の世界へと入り込んでしまった。そして、勃発する猟奇殺人事件。現在と過去未来が入り混じり、全てが逆の世界で奮闘する主人公達。徐々に広がる怪事件。主人公達はこれ等の事件が繋がってると疑い始めるのだが……。今、“謎”を追う一年が幕を開ける。」

――って感じにやろうとしてたらしい。

コミュとかは――

・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル アルカナ・皇帝
チャチャゼロ(仲間予定だった)の住む家の主。やたらと高圧的な態度をとる。とある理由で遠出が出来ないらしく、ひょんな事から主人公に「お使い」を頼むに成る。

・龍宮 真名 アルカナ・節制
長身の大人びた生徒。麻帆良の龍宮神社で巫女をしている。神社で知り合い、困った事があれば“報酬”次第で何でもすると言って来た。

・新田 アルカナ・法王
麻帆良女子中等部の教師。学院の生活指導も担当しており、生徒からは「鬼の新田」と呼ばれている。何やら、自分の教師としての仕事が生徒にわかってもらえない事に悩んでいる様子だが。

――とか色々

ペルソナとかは、アステカ系をメインでやろうとしてた。


別にネギまに拘らず、オリ設定ペルソナでやってもいいかもな感じ。けど、前書きの通り当時P4にはまって「オリ設定ペルソナ×ネギま」やりたくなったものだから、やっぱその通りに書いてもみたい黒歴史


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