やはり俺の界境防衛機関での物語は間違っている (つむじ)
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プロローグ&設定

比企谷隊

A級1位

現メンバー4人?

 

比企谷 八幡

比企谷隊 隊長

アタッカー

トリガー

メイン 弧月 旋空 スコーピオン(バックワーム) シールド

サブ 弧月 旋空 スコーピオン グラスホッパー

アタッカーランク1位

個人総合1位

総武高校で八幡がボーダー隊員と知っているのは教師とボーダー隊員のみ

旧ボーダー時代から所属

 

巻町 操(まきまちみさお)

比企谷隊アタッカー

トリガー

メイン 弧月(短刀) 旋空 テレポーター カメレオン

サブ 弧月(短刀) 旋空 シールド グラスホッパー

アタッカーランク4位

八幡の従兄妹

八幡と同じ教室

ボーダー隊員と多くの人に知られている

旧ボーダー時代から所属

 

練 紅覇(れんこうは)

比企谷隊アタッカー

トリガー

メイン 弧月(大剣) 旋空 メテオラ シールド

サブ メテオラ グラスホッパー シールド

アタッカーランク6位

八幡、操より歳が1歳したの15歳

総武高校1年生

大規模侵攻の際、八幡に助けられボーダー入隊を決意

八幡のことを「ハチ兄」と慕っている

両親とは死別

 

刀藤 綺凛(とうどうきりん)

比企谷隊アタッカー

トリガー

メイン 弧月 旋空 シールド カメレオン

サブ シールド バックワーム グラスホッパー

八幡、操より3歳したの13歳

海浜中学校 2年生

大規模侵攻の際八幡、操に助けられボーダー入隊を決意

八幡のことを「八幡お兄さん」操のことを「操お姉さん」紅覇のことを「紅覇お兄さん」と慕っている

両親とは死別

 

ハロ

比企谷隊オペレーター

鬼怒田本部開発室長により作られた自立支援型アンドロイド

比企谷隊にのみ特別に許されている

国近柚宇より少し優秀

 

八幡、操、紅覇、綺凛の4人は警戒区域近くにシェアハウスをしている(警戒区域近くで安かったから)

八幡の両親はボーダー創設メンバー

父親は大規模侵攻の際、緊急脱出(ベイルアウト)がなくトリオン切れで生身になったところをモールモッドに切られ死亡

母親は小町と買い物に行くという形で小町の保護をしていたので戦闘には不参加

現在、小町と母親のふたりで暮らしている

 

『高校生活を振り返って』

高校生活とは無事に卒業し学歴を取る為の手段である。決して一部のリア充のように青春を謳歌するためのものではない。

リア充は自分の失敗を青春の名の元に正当化し、決して反省しない。

テストで赤点を取ろうが、根拠の無い噂を流し他人を貶めようが青春の思い出として人の迷惑を全く考えない。

そんな奴等に一言いう勇気があれば言わせてもらいたい。そんな自分勝手な青春の思い出づくりに俺を巻き込むな、と。

俺はここでそんな無駄な青春を送りたいとは思わない。

時は金なり、と言う言葉があるが一家の大黒柱である俺にとって金にならないものになどうつつを抜かしていられないのだ。

結論を言おう

親のスネばかりかじり金のありがたみが薄れている奴ら共、俺の貴重な時間を浪費させるなら・・・砕け散れ

「・・・なあ、比企谷」

「なんですか?」

「私が出した課題はなんだ?」

「そこに書いてる通り『高校生活を振り返って』です。」

「そうだな・・・確かに高校生活を振り返ってだ」

あれ、だんだん怒気が強まっているような気が・・・

「なぜ、それが犯行予告になっているんだ」

ふむ、そのことについてか。だがコレには俺も一言返そう。

「犯行予告ではありません。手を出されたら砕くだけなので、決して犯行予告などではありません。ハンムラビ法典です。」

俺が弁明を終えると同時に平塚先生はため息をつき、タバコを口にくわえ

「私が言いたいのはだな、どう見てもお前の青春ではなくお前から見た青春ではないか」

「いや、俺だって最初は俺の高校生活を振り返って見たんですよ。ですが俺の1年の思い出って言っても車に轢かれたことぐらいしかないんですよ。」

そう、俺は入学式の日に車に轢かれたのだ。なんと俺は入試でトップだったらしく生徒代表で祝辞を述べないといけなく総武高校の先生と打ち合わせをするために早く家を出たのだが、それが俺の運の尽きだった。俺が自転車で走ってる歩道とは逆の歩道から犬が飛び出し、車に轢かれそうなところを助けたのだ。これだけを聞いたらどこが運の尽きなのかわからないだろう。それこそ「不幸だァァァ」と叫んでるやつの方が不幸に思えるだろう。簡単に言うと轢かれたわけだがここには壮絶な物語があったのだ。轢かれる瞬間俺はポッケに手を入れ毎日と言ってもいいほど触っているトリガーホルダーを掴んだ。ここまでは良かった。いや、この時点で俺の運命は決まっていたのかもしれない。ポケットから出したのは、いつもとは違う感触、色、ツヤだった。フルーツの絵が書いており新鮮な感じがビンビン伝わってくるようなものだった。その名も「ハイチュウ」。そうハイチュウだったのだ。流石に個人総合1位の俺でもハイチュウではトリガーを起動出来ずそのまま轢かれた、というわけだった。いや、個人総合1位関係ないんだけどね。

「・・・がや、比企谷、聞いているのか?」

どうやら思い出しているうちに自分の世界にダイブしていたようだ。

「あ、はい」

「まあいい、これは書き直しだ。」

デスよねー、てか呼び出しくらって書き直しなかったらただの時間の無駄じゃん。

「ときに比企谷、お前友達はいるのか?」

うわー、この人ボッチにとって言われたくない言葉ランキング一位言ってきたよ。しかし、今年の俺はクラス内ではボッチではないのだ。

「はい、いますが」

いる時点でぼっちでは無い気がするが・・・まあ、気にしないようにしよう。気にしたら負けだし。

「は?だ、誰だ?その心優しいやつは、2次元ではないだろうな」

あなたの私に対する偏見なよくわかりました。

「くまちゃ・・・熊谷ですよ、熊谷友子。先生も知ってるでしょ。」

「ふっ、いいか?比企谷。友達って言うのはお互いに友達だと思って初めて友達になれるんだ。お前のはただの片思いだろ?」

先生、すごいムカつく事言ってるのになんか顔がだんだんと暗くなってるのは気のせいだろうか。

「先生そんなに詳しいって事は先生、既に体験し」

ピュッ、風が吹いた。

「それ以上いうな、言ったら当てる。」

いや、そこまでやったら確信もてちゃうんですけど。てか、普通に先生涙目だし。

「きみは部活動をやっていなかったよな」

「ええ、そこに書いてあるとおり金にならないことはしない主義なので」

放課後は、ボーダーあるしな〜。一家の大黒柱みたいなもんだしな〜。

「そうか、ならば付いてきたまえ。」

先生はそう言うと歩き出した。笑顔だったのは気のせいだろうか。

 




サイド・エフェクトについては次話書きます


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彼女は騒がしい

〜比企谷八幡のサイド・エフェクト〜
「強化視力」
使用すると目の瞳がワインレッド色になる。
近接戦闘においては相手の動きを見切ることが出来る。さらに、相手の次の動きを予測することが出来る。速さはライトニングの弾にも反応可能。



俺は平塚先生にどこに連れていかれるかも知らずに平塚先生の後ろをカルガモの親子のごとく歩いていた。いや、俺の母親どんだけ若いんだよ。

そんなどうでもいいことを考えていたらキッ、と音の出そうなほど鋭く睨みつけられた。え、頭の中見られた?やだ、恥ずかしい。

「着いたぞ」

どうやら着いたらしい。ここは、特別棟の空き教室だと思うが一体ここで何をしろと?てか、今日防衛任務があるのだが・・・

「雪ノ下入るぞ」

ノックもしないで教室のドアを無造作に開けるアラサー教師が部屋にいるだろう奴へ声をかけた。ん?雪ノ下・・・

「先生、ノックをしてくださいと何度も言っていますよね」

いつもしてないのかよ。教師の前に大人としての礼儀を身につけろよ・・・

「ノックをしても君は返事をしないではないか」

なんだ、原因はこの雪ノ下とやらにあるようだな。

「先生が返事をする前に入ってくるからです」

前言撤回、やっぱり大人としての礼儀を身につけるべきだ。それよりこんなコントみたいなの見せるためにここに連れてきたのなら時間の無駄だったな。

「ところで先生、そこのヌボーとしている男は?」

ヌボー?俺のことか?初対面にヌボーはないだろ。せめて、ボーっとしてる人とか立派なアホ毛を持っている紳士とかあるのになぜ言いにくいヌボーをセレクトしたんだ?

「ん?こいつか?こいつは依頼人だ。」

「先生、帰らせていただきます。」

なんだよ、その時間のかかりそうな話の内容は。あと1時間後に防衛任務があるというのに、付き合ってられるか。

「待て待て、比企谷。ここにいたら君の孤独体質が治るぞ?」

「先生、お言葉ですが体質はそう簡単に治らないと思うのですが。」

というか、他人に任せて治るなら俺は今まで苦労しなかっただろう。高所恐怖症しかり閉所恐怖症しかり、恐怖症はこの世から消えているだろう。仮にここにいて治るのだったらそれは催眠術など危ないものばかりだろう。

「ではこうしよう、君が書いたふざけた課題の罰として君をここに入部させる。異論反論は、一切認めん。」

理由がおかしすぎる。というか、学校で問題として取り上げられる可能性があるほどおかしい。まず、分かっていることから整理していこう。俺は部活動をしていないと答えた。そしたら連れてこられた。で、罰として入部しろと言われた。まず、入部といった時点でここは部室ということになる。サークルなどではないだろう。次に、部活に入部する条件だ。本人の意思がない限り、入部は不可能なはずだ。最後に、部員が見たところ1人しかいないという事だ。生徒手帳にはこう書かれている。『部活動を行う際、三人以下になった場合はその部活動を終了し下校すること』『新たに部活動を始める際は部員が3人以上集まらなければ部として認められない』と。つまり、これはおそらく先生が勝手に作った部活(仮)というところだろう。この、毛利小五郎にも負けない推理力。流石、学年1位は伊達じゃない。さて、自分を賞賛し終えたしこちらも自分の意見を言わせてもらおう。

「先生、すいませんが丁重におこと」

俺が言い切る瞬間にいいタイミングなのかそれともややこしくさせる原因が来たのかまだこの時の俺は、わかっていなかった。

「は〜ち〜ま〜ん〜!」

そう、我が従兄弟にして比企谷隊隊長代理の

「操、うるさい。鼓膜破ける。」

巻町操が降臨した。

「なっ、うるさいって何よ!待ち合わせ場所には全然来ないし、教室にも職員室にもいないしどれだけ探したと思ってるの!」

ん?待ち合わせ?あ、やべ〜完全に忘れてたよ・・・。ここは、素直に謝るか

「悪い、お前が覚えてるとは思わなかった。」

嫌味たっぷりに

「なんですってー!それどういう意味よ!私の頭がフロッピーディスク並とでも言いたいの?!」

こいつ自分で自分のこと下げるからな〜。俺、フロッピーディスクなんて一言も言ってないし。

「比企谷、巻町そろそろいいか?」

あ、すっかり忘れてた。

「それで比企谷この部活についてな」

「あー!八幡、早く防衛任務行かないと!時間が30分早くなったらしいの!」

相変わらず騒がしいやつだなー。ん?てか、30分早まったって言ったよな。えーと、本来の防衛任務の時間から早まった30分を引くと・・・

「あと、10分もねーじゃねーかー!」

なんでこのバカは、そんな大事なこといまさらいうんだよ!

「すいません先生、これから防衛任務なので失礼します。」

「ま、待て比企谷。まだ話は、終わってないぞー!」

そんな声を聞きなが、俺達は走り続けた。ここからボーダー本部まで少なくとも20分は掛かるぞ。仕方ない。俺は、携帯を出し俺にとっての弟である紅覇に電話した。

prrrrガチャワンコールで出た。はやっ!

『もしもし、八兄?』

「紅覇、悪いが先に今日の任務地に向かってくれ。俺と操は、そこに直接行く。」

『わかった〜。じゃ、綺凛もつれて先行ってるね〜』

ガチャ、ツーツーツー。

よし、これで何とかなるな。あとは

「操、早く乗れ。」

俺のバイクに乗ってとばすだけだ。ちなみにこのバイクは親父の遺品だったりする。今年から乗ることが出来、よく乗って学校に来ている。

「ちょ、ちょっと待って。・・・よし、準備完了。出発おしんこー!」

「ナスのぬか漬け〜」

これが俺と操がバイクに乗った時の掛け声になっていた。きっと親父が車に乗っけてくれた時にいつも親父が言っていたからもしかしたらそれが原因なのかもしれない。そのまま俺と操を乗せたバイクは、走り出した。



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彼は長男が故に我慢する

少し短いかもしれません


「悪い、遅れた。」

バイクをとばすこと10分、どうにか間に合った。たく、途中で操がトイレに行きたいなんて言わなければもう少しはやくついたんだが。我慢しろと言っても「便秘は美容の大敵なのよ!」と女子としてかなり残念なことを言ったので渋々だがトイレに立ち寄った。女子が男に堂々と恥ずかしげも無く言えるというところ、さすが操だと改めて感心すると同時に幻滅もした。

「ごめん、八幡がトイレによったから遅れた。」

「嘘ついてんじゃねーよ、お前が言ったんだろうが。俺は今でも我慢してるし。」

ほんとこいつがトイレに行った時に俺もトイレに行けばよかった。まあ、我慢と言っても今日は防衛任務2時間程だからあっという間だろう。

「八兄、我慢は良くないよ。そこの民家でしてきたら?」

「紅覇よ、ここら一体の民家は電気もねぇガスもねぇ水道もねぇところだ。流石に水が流せない便所でする気はねぇよ。」

「あ、あの八幡お兄さん。そこに側溝があるんですけど・・・」

モジモジと恥ずかしそうに言う比企谷隊アタッカーであり俺や操、紅覇にとっては妹の綺凛。よかった。我が家の天使はがさつな女になんなくて。この子のような年頃はスポンジのごとくいろいろ吸収するから操に影響されるかと思ったが大丈夫・・・じゃなかった!思いっ切り俺に外で立ちションを勧めてきやがった。

「大丈夫だ綺凛。なんか分からんが引っ込んだ。」

流石に綺凛にああ言われると出るもんも出なくなる。どこで育て方間違えたんでしょう。兄として一生の不覚。綺凛には清楚な子でいて欲しい。操は手遅れだが・・・。

(ゲート)発生!(ゲート)発生!誤差1.56、1.56』

どうやら(ゲート)が発生したらしい。

「ハロ、数は何体だ。」

『モールモッド6体、バムスター11体』

ふむ、17体か。4で割り切れないな。よし

「紅覇、綺凛、便秘野郎は4体ずつやれ。残りは俺がやる。」

「ちょっと!誰が便秘野郎よ!女子に向かってそれはないじゃない!言うならせめて便所野郎でしょ!」

う〜ん、何が違うんだ?結局トイレにつながってるじゃねーか。それに女子が便所なんて言った日には俺はもうそいつを女子として見れないだろう。え?操を女子としてみたことあるのって?産まれてこの方一度も思ったことない。女子らしい仕草もしてるところ見たことないしな。やはり、幼い頃から戦ってきたからだろうか。まあいい、今更だしな。

「取り敢えずとっとと行ってこい。一番最初にここに戻ってきたやつには何か1つ言うこと聞くから頑張って早く終わらせてこい。」

たかが一回の任務で大げさだと思うかもしれないがトリオン兵のいる場所が警戒区域ぎりぎりなのだ。寧ろゆっくりし過ぎたのだ。さて、俺も自分のお仕事を済ませましょうかね。

「グラスホッパー」

俺の前に半透明な水色の卵のようなものが現れた。それと同時に1枚の水色の板が出てきた。1回踏みまた新しいところに水色の板を出しまたそれを踏み、という作業を3回ほど繰り返しもくてきのばしょにたどりついた。あれ〜、なんででしょうかね〜。モールモッドが6体のうち5体いるんですけど。あらやだ俺モールモッドに人気もの。学校でも同じことが起きればいいのにな〜。いや、起きてるな。あのモールモッド達と同じように・・・敵意を隠そうとしないあのリア充ども。特にくまちゃんと喋ってる時とかモールモッドにも勝てるような鋭い視線。流石に個人総合1位でも視線にはかなわない。ん、てことはあのモールモッド達はリア充ということか。うわーボッチの敵だわー。学校ではリア充に勝てないがここでは目をつぶってでも勝てる。すいません、嘘ですね。俺は目があってこそなのに視界潰したら何の取り柄もないじゃん。まぁとりあえず

「死ねリア充ども。・・・旋空弧月」

俺は目にもとまらぬ速さでリア充(モールモッド)を斬った。近界側のリア充どもよ地球のボッチ舐めるなよ。

「あ、八幡。そっちはもう終わった?」

「ああ、お前も終わったか。ならとっとと帰るぞ。もうちょいで終了だ。」

ようやく終了だ。それ即ち、ようやく便所に行ける。と、1人で歓喜に溢れていると

「お〜い、八兄〜。一番は、綺凛だったよ〜。」

どうやら一番は我が家の末っ子だったようだ。

「良くやったな綺凛。で何が欲しい?」

この年頃の女子は文房具など学校で目立つために色々と持ち物を変える。ソースは中学時代の女子。ほんと流行に敏感なんだよな〜。綺凛は何をしなくても目立つと思うんだが。可愛いし、A級1位部隊の隊員だし、可愛いとこれだけでスクールカースト上位には簡単に入れる。ホントは厳しく育てるべきなんだろうが、どうしても厳しくなれない。

「あ、あのえ〜と家に帰ってからでもいいですか?」

「いいぞ。じゃ、おれもう先にあがるわ。・・・緊急脱出(ベイルアウト)!」

バフッ。俺がベッドに落ちた音だった。それ以外に音はない。静寂な時間が流れ・・・

「おつかれ、おつかれ」

てないようだ。

「おう、おつかれさん。」

さて、とっとと便所に向かうとするか。



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子供は新しい玩具で遊びたがる

誰が何のキャラかわからないと質問がきたので答えます。
巻町操
るろうに剣心(御庭番衆の1員)

練紅覇
マギ(煌帝国第三皇子)

刀藤綺凛
学戦都市アスタリスク(ページワンのうちの1人)


「あぁ〜。」

なんで小便すると脱落するような声が出るのだろうか。やはり、疲れなども体の不純物と一緒に流れるからだろうか。戦争している際もおそらく小便をしている間は無防備になるのだろう。それはつまり『小便を制すものは戦を制す』ということなのだろう。お、どうでもいいこと考えているうちに出し切れたようだ。

俺は手を洗いトイレから出た。いや〜我慢はよくないな。背中に変な汗かいたし。

「お、比企谷いいとこにいた。」

あ、あれはニックネーム『たぬき』でおなじみの

「どうしたんですか?鬼怒田さん。」

「お前が依頼してたトリガーが完成したんでな、伝えようと思って探していたのだ。」

「え、もう出来たんですか?頼んで1週間もたってないじゃないですか。」

頼んだ内容が内容だったのでもっとかかると思ってたんだが。

「なに、個人総合1位の男に頼まれたら急ピッチで作ったわ。」

「あの、今から見に行っていいですか?」

正直ワクワクが止まらない。アレ(・・)があればこれからの戦闘が楽しめること間違いない。

「当たり前だ、あとはお前が起動しデータを取ったら終了だ。」

「わかりました。では早く行きましょう。」

よし、早く行って早く使おう。最初、誰相手に使おうかね〜。やっぱり太刀川さんかな、太刀川さんだな。

「なぁ、比企谷。」

「ん?なんですか鬼怒田さん。」

「興奮するのは構わないが、ズボンのチャックぐらい閉めろ。示しがつかんだろ。」

oh my

 

〜研究室〜

「比企谷、これだ。」

鬼怒田さんは俺に一つのトリガーホルダーを渡してきた。これにアレが入っているのか。よし、なら早速

「トリガー起動(オン)

機械音が聞こえると同時に俺の体はトリオン体へと変わった。あれ?このトリオン体の着ている服

「これ、うちの隊服じゃないですか。」

そう、黒いズボンに首のボタンを二つ程はずし、だらしなくズボンから出ているワインレッドのワイシャツ。そしてそれらに便乗するかのようにだらしなくボタンで止められてない黒いスーツ。胸ポケットには我が比企谷隊のシンボルマークである死神のもつ二本の鎌。まあ、特にこのシンボルマークには意味が無いんだが強いて言うならば『お前の命は俺達が頂く』と厨ニ病感溢れるものだ。

「なんでうちの隊服なんですか?」

「何事もまず形から入ることも大事だろう。雰囲気だって大切だしな。」

なるほど。確かにこの方が不思議と落ち着きが出てくる。ま、今はそれはさておき本題に入らせていただきましょうか。

俺が意識をすると同時に腰から2本の弧月が出てきた。

「鬼怒田さん、先ずどうしたらいいんですか?」

「最初は弧月の柄と柄の両端を近づけてみろ。」

言われた通りに柄と柄の両橋を近づけてみると

『コネクター・オン』

と小南の双月と同じ音声が流れ弧月が光ったと思ったら弧月が1本の両刃片手直剣に変化していた。

「まずこれが1の型だ。斬れ味はスコーピオンをはるかに勝る。ただし、弱点としては少々重いことだ。まぁ、そこは頑張って鍛えろ。」

ふむ、要望どうりの形になったな。これなら次のも期待できそうだ。

「これどうやったら解除できるんですか?」

「トリオンの流れを一旦止めてみろ。それで解除できるはずだ。」

お、ほんとだ。急に二本になった。

「さて、次は鞘と柄の端を近づけてみろ。」

言われた通りにやってみると1本の薙刀になった。うむ、長さも重さも申し分ないな。

「それが2の型だ。貫通力なら簡単にシールド複数枚貫くことが出来る。まぁ、これにも弱点があってな、柄の長さが変えられないのだ。」

まぁ、俺は槍バカ(米屋 陽介)とは違って四六時中槍を使う訳では無いからな。状況に応じて戦えというわけか。

「どうだ?満足か?」

そりゃもちろん

「満足です」

「そうか、ならこれからもレポート纏めるの手伝ってくれよ」

前言撤回、不満だらけになった。やっぱり大人は汚いな。

「もう行ってもいいですか?」

「ん?ああ、いいぞ。どうせお前のことだ、早くそれで戦いたいのだろう。」

あらやだ、俺のことを良く知ってらっしゃる。恥ずかし。

「ありがとうございました、鬼怒田さん。」

俺は手短に礼を言い足速に研究室をあとにした。

 

さて、太刀川隊室にでも行くか。

「すいませ〜ん」

早く出てきてくれないかな〜太刀川さん。

『はいは〜い。どちら様ですか〜?」

間延びした声が返事をした。声の主はボーダー1のマウンテンを持つ国近柚宇先輩だ。

「比企谷です。」

『お〜比企谷君か〜。今開けるね〜。』

「ありがとうございます。」

「ささ、どうぞ〜」

俺は太刀川隊室に入った。入ったのはいいんだがこれは・・・

「すいません、もしかして今までゲームしてました?」

物凄いゲームの数にお菓子のゴミが床に散乱してた。

「そうだよ〜、一人でやってて飽きてきたところに比企谷君が来てくれたからね〜。」

あ、これは俺が犠牲にされるのかな?

「よし、比企谷君いっしょにゲームしよ〜。」

ですよねー。分かってました。この結果になる事は。まあ、見たところ太刀川さんいないし帰ってくるまでだったらいいか。

「いいですよ。何するんですか?」

「GOD EATER だよ〜。」

ほう、GOD EATER か。つまり対戦ではなく協力プレイをするようだな。太刀川さん早く帰ってこないかなー。

数時間後、俺の視界は暗転した。



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彼女は続きを知りたがり彼は続きを知っている

ハロの紹介をしてなかったのでします。
ハロ(ガンダムシリーズのガンダムダブルオーから)


はぁ〜、結局帰るの遅くなるし太刀川さんとはランク戦出来なかったし今日は嬉しいこと以上に残念なことが多いな。

もう夜中の11時だし綺凛は寝てるだろう。

言うこと聞くと言ったのに悪いことしたな。

そう思いながら俺は暗い街を颯爽とバイクで走っていった。

 

「ただいま〜。」

起こさないように小さな声で言った。

リビングの明かりは消えており、どこの部屋も電気がついていないのを見るとどうやら全員寝たようだ。

それもそうか、既に時刻は12時を過ぎており日をまたいでいた。

俺はまっすぐ風呂場に向かい、シャワーを浴びるために服を脱ぎ風呂場に入った。

俺はシャワーが温まるまで浴槽に向けた。

その時、本来であれば聞こえるはずもない声が聞こえた。

「つめたーい!え?え?なに、どうしたの!?」

え?は俺のセリフだ。

何でこいつが風呂に入ってるんだ?

「一体いつからここにいたんだ?操。」

我が家が誇る最強のアホである操に話しかけた。

「えーと11時ちょっと前ぐらいかな。」

つまりコイツは1時間ほど風呂に入っていたのだ。

さらに先程の反応からするに寝ていた可能性がある。

「ってなんで八幡がここにいるのよ!?」

ザブンと音を立て風呂から上がるバカ。

ここで恥じらいを見せないとこを見るとコイツは異性に裸を見られてもなんともないのだろう。

まぁ、従兄弟同士だからというのもあるだろう。

ちなみに俺はタオルで隠してる。

どこをだって?

そりゃ俺のアナログスティックに決まってんだろ。

「なんでもクソもねーだろ。俺いま帰ってきて風呂入ろうとしたらお前がいたんだよ。」

「そう、なら私は上がるわね。」

早く上がってくれ。

もう四月とはいえ、この時間帯に全裸でいるのは少々肌寒いのだ。

「私もう寝るね。おやすみ。」

風呂上がってすぐに寝るのかよ。

しかも今まで寝てたし。

「ちゃんと髪の毛乾かしてから寝ろよ。」

兄貴分としてちゃんと忠告はした。

さて、とっととシャワー浴びて俺も寝るか。

 

ふ〜、いい湯だった。

別に風呂に入ってなくてもいい湯だと感じることはあるのだ。

さて俺も早く寝るか。

そう思いベッドに体をあずける。

ただいま、頑張った俺をいやしてくれ。

掛け布団をかけながら馬鹿なことを考えていると大事なことに気がついた。

「あ、全然眠くない。」

それもそのはずだった。

太刀川隊室で数時間寝たのだ。

当然眠気などない。

「ま、まぁ眠くなるまでめをつぶってればいいし。羊を数えればいいし。いざとなったら睡眠薬のめばいいし。」

俺は早速羊を数え始めた。

羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹・・・

 

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

「お前ならやれる!羊子。自分を信じろ。」

羊子と呼ばれた少女はある棒の前に崩れ泣いていた。

その少女を応援している男は今にも燃えそうな勢いだった。

少女は陸上部で棒高跳びという種目を専攻していた。

「先生、私には無理です。もうこれ以上飛べません。」

羊子は弱々しい声で熱い先生に向かって自分の限界を伝えた。

「いや、まだお前の限界には程遠いはずだ。」

そう、熱い先生は知っていた。

羊子が本気を出せない理由を。

 

『ねぇ最近の羊子調子のってない?』

『まじそれな』

『ちょっと高く飛べるだけで先生や先輩にチヤホヤされて。』

『ねー、マジムカつくわー。』

 

こんなやりとりを羊子はみてしまったのだ。

そして熱い先生も。

「お前が飛ぶのをバカにするやつはお前が見返してやれ。誰もお前の才能を認めなくても俺はお前の才能も実力も知っている。だから他人を気にするな。自分のために飛べ!」

そんな熱い先生の熱血な言葉に羊子は

「先生・・・。はい!私飛びます!」

そして羊子は高く高く飛び上がったのだ。

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

ひ、羊が117匹・・・

「って、眠れるかー!」

俺は夜中だということを忘れひとり大声で叫んだ。

誰だよ羊子って。

たかだか羊を数えるだけでなんでこんな感動的な教師と生徒の物語がくり広がってんだ。

それに少し泣いてるし、俺が。

だって自分の心を強く持ち直したんだぜ?

その心を持ち直すきっかけになった先生もどっかで見たことあるような人だったがいいことを言ってた。

くそ、泣かせる話じゃねーか。

おかげで寝れそうにないな・・・。

俺は内心で感動しそれと同時に愚痴りながら椅子に座った。

取り敢えずレポートでも書き直すか。

 

チュンチュン

ん?どうやらもう朝のようだ。

どうやらレポートを書き終えて寝落ちしていたようだ。

さて少し早いが日課のランニングでもするか。

 

俺は誰にも気づかれないように静かに家を出た。

流石、隠密行動No.1

学校で鍛えてるだけあるな。

いやボーダーでの賜物じゃないのかよ。

ま、なんでもいいか。

強ければいい、それだけだ。

 

1時間と少しで10キロを走りきった。

どうやら現在の時刻は六時ちょうどのようだ。

あ〜疲れた〜。

早くシャワー浴びて朝食作るか。

今日の朝食は何にしよう。

昨日は食パンだったしな〜、よしワッフルにしよう。

綺凛は確かワッフルが好きだったはずだ。

昨日のお詫びとして少し豪華にしよう。

そう決意し俺は浴室から出た。

 

 

よし、朝食完成。

そろそろ誰かが起きてくる頃だな。

「おはよ〜八兄〜。」

ゆるい感じて降りてきた紅覇。

「おう、おはよう。朝食出来てっから早く食べな。」

どうやら身支度はもう終わっているようだ。

「ねぇ八兄、昨日何時に帰ってきたの?」

「12時近くだな。」

「残業?」

ここで残業と聞き、仕事をしているのか?と思う人もいると思う。

答えはイエスだ。

俺はこう見えても上層部の一員なのだ。

ボーダー隊員代表、それが俺の役職なのだ。

え?代表は仕事じゃないって?

それは俺も思ったのだが忍田本部長曰く

『隊員達の様子をより近くから見るのも我々上層部の役目だ』

と言ってきたのだ。

ちなみに俺が選ば得た理由は個人総合1位だからだ。

仕事と言っても基本は雑用ばっかだ。

時には忍田本部長について行きスポンサーの方々に挨拶も行くことも、広報活動を仕切ることも、仕事が詰まり始めたところに手伝いをしに行くことも、沢村さんの愚痴に付き合うなど高校生には荷が重いことばかりだ。

特に最後のはホントひどい。

一度デロンデロンに酔いつぶれた沢村さんを背負って家まで送ったこともあった。

とまぁ、給料も出るので仕方なくやっている感じだ。

なので帰りが遅いというのもよくあることなのだ。

「まぁ、そんなところだ。」

だがしかし、流石にゲームして寝落ちたなど口が裂けても言える訳もなく嘘をついたというわけだ。

「ふぁ〜おはようございます〜。」

どうやら綺凛も起きてきたようだ。

これで起きてきてないのはあのアホだけのようだ。

「おはよう綺凛。飯出来てるからとっととたべな。」

はい、とまだ少し寝ぼけてる顔をこすりながら綺凛は朝食を食べ始めた。

「そういえば綺凛、昨日の約束。何でもいうこと聞くぞ?」

綺凛は食べてる手を止めると少し恥ずかしそうに

「あの、今日学校まで送って欲しくて・・・。」

「そんなんでいいのか?」

もっと我儘言ってもいいんだぞと言ったがどうやらいいらしい。

バイクに乗るぐらい言えばいつでも乗せるのに。

「おはよ〜」

ようやくアホが起きてきたようだ。

「おはようさん。とっとと飯食え。」

俺は食器を洗いながら操に飯を食うように促した。

「操姉今日少し遅かったね。」

確かにそうだな。

珍しいこともあるもんだ。

「実はね、羊を数えてたらなんか感動的な物語が始まっててねクライマックスっていうところで起きたのよ。夢って最後まで見れないから続きが気になるのよね。」

アハハハハ、と朝から家族4人で笑い出した。

やはり我が家はいつでも元気いっぱいのようだ。

 

 

あ、俺その夢のつづき知ってるかも・・・

 

 



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彼の正義・彼女の正義

今日は少し長めです。


「いってきまーす。」

「いってくるねー。」

と操と紅覇が一緒に家を出た。

「いってらっしゃーい」

その返事に俺はいつもと変わらない返事を返した。

綺凛は今学校に向かう準備をしているようだ。

心做しか鼻歌が聞こえてくるのは気のせいだろうか。

え?そんなに学校行くの楽しみなの?

それとも歩かないで済むからなの?

前者ならばいいことだ。

友達の少ない俺に比べていい育ち方をしているようだ。

ああ、綺凛のお母様お父様お宅のお子さんは立派に育っておりますよ。

特にどことは言えませんが今の年齢では育ちすぎと言っても過言ではない程に実っております。

私の従兄弟が霞んで見えるほどでございます。

私、比企谷八幡が責任を持ち立派な子に育てるのでどうか安心し天国から見守っていてください。

「八幡お兄さん、準備できました。」

どうやら俺が天国にいる綺凛のご両親に報告している間に準備が出来たようだ。

「よし、なら少し早いけど行くか。」

はい、と元気な声で返事をした綺凛は靴を履きヘルメットをつけていた。

もしも綺凛が歩かないで済むからという怠け者のような理由でバイクに乗るのを楽しそうにしているのだとしたら俺はそこを注意すべきことなのだろうか。

答えは俺にはわからない。

何が正しい育て方で何が悪い育て方なのか判断することも出来ない。

親父はまともに育ててくれた思い出がない。

強いて言えばアタッカーとしての修行をつけてもらった程度だ。

ちなみに忍田本部長も親父の弟子だったりする。

つまり忍田本部長は俺の兄弟子に当たるのだ。

おふくろは基本、小町の面倒を見ていたためほとんど俺に構ってくれていなかった。

それでも時間のある時はシューターの手ほどきをしてくれたのだ。

え?なんでアタッカーなのにシューターの手ほどきを受けたのかって?

その理由はまた別の機会があったら話そう。

ちなみにおふくろは今ボーダー隊員を引退し普通のところで働いているそうだ。

このように俺は戦いの中で育ったと言っても過言ではないようなところで育ってきたから普通の家族の育て方など知る由もなかったのだ。

それでも今俺は正しい育て方をしていると思っている。家族全員が笑って過ごせてるなら俺はそれでいい。

「八幡お兄さん?どうしたんですか?」

おっとどうやら感傷に浸りすぎたようだ。

「よし、行くか」

「はい!」

そして俺と綺凛を乗せたバイクは走り出した。

 

 

 

「ほい到着。」

「八幡お兄さん、ありがとうございます。行ってきます!」

綺凛は元気よく走り出した。

あの様子を見ると学校では不自由がないらしい。

お、あれは友達か?

しかも男だと!?

サイド・エフェクト発動!

俺は綺凛とその男の口元を見た。

俺のサイド・エフェクトがあれば口の動きで何を話しているのか分かるのだ。

これが本当の『目で人の話を聞く』というやつだ。

えーと話してる内容は

『刀藤、あれって比企谷先輩?』

『三雲くん知ってるの?』

『一応僕もボーダーだから。それにこの前アドバイスも貰ったんだ。』

『ほんと!?良かったね。八幡お兄さんC級隊員にアドバイスするなんて滅多にないんだよ。』

『ならなんで僕なんかにアドバイスしたんだ?』

『きっと三雲くんに伸び代を感じたんだよ。これからも頑張ってね。』

『ああ、ありがとう。』

と、こんな感じだ。

そういやあのメガネくん見たことあるなと思ったらあの時のレイガスト使いだったか。

あの時はレイガストを使っているのが珍しくてつい話しかけちゃったんだよな〜。

しかしボッチの俺が話し掛けるだけでもかなりの勇気がいるというのに、俺は話す内容を全然考えていなかったので取り敢えずレイガストを使ってる理由を聞き扱い方を教えたのだ。

それにしても名前は教えた覚えないんだけどな。

個人総合1位だからといってもc級隊員にはあまり知られてないはずだ。

しっかし人にいい噂されるとどうしても頬の筋肉が緩むな〜。

褒められたって嬉しくねーぞ、コノヤロー。

どっかの海賊の気持ちがわかった気がする。

よし三雲くん、綺凛と近づいたのは許してやろう。

ただし、手を出したならば俺が直々に捌いてやろう。

え?何でって?

そりゃもちろん捌くと言ったらスコーピオンだろ。

あれは斬れ味に関しては文句ナシの一品だ。

さて、そろそろ俺も学校に向かうとするか。

そう思いアクセルを開こうとした瞬間に

「俺も乗せてくれ、八幡。」

と聞きなれた声が後ろからしてきた。

片手にぼんち揚を持ち、サングラスを首にかけてる男がいた。

ていうか世界中を探してもこんな人なかなかいないだろう。

その男の名は

「はぁ、何のようですか。迅さん」

S級隊員 迅悠一だった。

この人が俺に絡む時は基本厄介事ばかり持ってくる。

おそらく今日も俺がその厄介事に首を突っ込まないといけないようだ。

「八幡、昨日部活に勧誘されたでしょ。」

「あれを勧誘というのであれば貴方のサイド・エフェクト狂い始めてきたんじゃないですか?」

俺がジト目で見ながら言うと

「確かにあれは酷いもんだな〜」

と同情などする気もないような声音で返ってきた。

「で早く要件を言ってください。俺遅刻しそうなんで。」

「ああわかった。実を言うとな今日総武高校にイレギュラーな(ゲート)が開くかもしれないんだ。そんで俺がその事をこれから総武高校に言いに行くというわけ。」

「マジですか?」

「マジです。」

イレギュラーな(ゲート)なんてここ最近ないと思っていたらまさか総武高校に出るなんてな。

しかし俺はこんなことで納得しない。

「イレギュラーな(ゲート)が出るからなんて理由でここに来た訳ありませんよね。」

そう、この人は決して無駄なことをしない。

「実をいうと頼みごとがあってここに来た。お前が勧誘された部活に今日限定でもいいから言って欲しいんだ。」

「なんでですか?」

「そんなの・・・俺のサイド・エフェクトがそう言っているからに決まっているだろ。」

なるほど。

確かにこれを理由にされたら納得するしかない。

「わかりました。迅さん、良かったら乗っていきますか?」

「お、いいの?」

「どうせダメって言っても乗るんでしょ?」

「よくわかってるね〜。」

「何年の付き合いだと思ってんすか。」

「それもそうだな。」

「じゃ、行きますよ。」

俺はアクセルを思いっきり開き学校に向かい始めた。

 

 

 

ふ〜、到着。

「迅さん降りてください。」

「八幡、お疲れさん。」

迅さんはヘルメットを脱ぎながらバイクから降りた。

ここで俺はあるひとつの疑問が浮かんだ。

「迅さん、その癖毛なんでヘルメットしてたのにはねてるんですか。」

「八幡のアホ毛がたっているのと同じだよ。」

なるほど。

つまり迅さんも髪の毛でヤル気、元気が判別することが出来るのか。

「八幡、俺は職員室行くけどお前も一緒に来て説明するか?」

「しませんよ、そんなめんどくさそうなの。」

「いうと思ってたよ。じゃ、また後で。」

そう言うと迅さんは職員室に向かって歩き出した。

さて俺も行くとするかね。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

ふ〜、ようやく終わった〜。

授業が終わり教室内の生徒達は帰りの準備をし、部活に勤しむもの、談笑するもの、そそくさと帰るものと分かれていった。

「八幡、今日少し遅かったじゃない。何かあったの?」

操が話しかけてきた。

「まぁ、少し野暮用でな。」

「トイレにでも寄ってきたの?」

さすが操。

野暮用と言っただけでトイレをまっ先に出すあたり女子の風上にも置けないやつだ。

ま、取り敢えず(ゲート)の事は黙っておこう。

「くまちゃん、今日この後暇か?」

一斉に教室内視線が俺に飛んできた。

だが今はこんなのにかまってる暇はないのだ。

「一応暇だけど。用って言ったら比企谷を今日こそ玲の家に連れていこうと思ったぐらいかな。」

まだ言ってるよ。

もう1年近く言い続けてるよ。

「そうか。なら2人とも今日はこのまま教室に残っていてくれ。」

「私はいいわよ。」

「私も。あ、条件として明日、玲の家に行くこと。明日反省会するから。」

流石に背に腹は変えられないか。

「わかった。約束する。」

そう言うとくまちゃんは勝ち誇ったかのような顔をした。

さて後は

「もしもし、犬飼先輩ですか?」

3年生並びに1年生に召集をかける。

『お、比企谷ちゃんじゃ〜ん。どうしたの?電話なんて珍しいね。』

「すいません、今日荒船先輩と放課後残ってください。」

『俺はいいけど荒船は今日防衛任務でいないよ〜。』

まじかよ。

流石にスナイパーいないとしんどいかもしれないな。

「わかりました。ではお願いします。」

俺は電話を切り、紅覇に電話をかけた。

「もしもし紅覇か?」

『なになに〜、ど〜したの八兄〜。』

「悪いんだが今日歌川と菊池原と一緒に放課後学校に残っていてくれ。」

『なんで〜』

「悪いが今は言えない。頼めるか?」

『八兄の頼みだしね〜。いいよ、2人には僕から言っとくよ。』

「サンキューな、紅覇」

よし、これで大丈夫なはずだ。

「じゃ、2人とも俺ちょっと行くとこあるから。また後でな。」

俺はそのまま教室を出た。

「比企谷部活に行くぞ。」

「はい、わかっています。」

「お、やけに素直だな。入部する気になったか。」

「いえ、まだなっていません。取り敢えず今日は体験入部ということでお願いしたいんですけど宜しいでしょうか。」

「わかった。あと取り敢えず昨日のレポート再提出な。」

「あ、それならもう書いてきたのでどうぞ。」

「ほう、言われる前にやるとは流石学年主席だな。」

「学年主席関係ないでしょ。」

とたわいもない会話をしながら俺達は部室絵と向かった。

てか先生付いてくる必要なくない?

 

 

「ついたぞ。じゃ私は職員室に戻る。」

「はい」

平塚先生は白衣を翻し、その場から立ち去った。

さて入りますか。

「うす。」

取り敢えず当たり障りしかないであろう挨拶をした。

「あら、また来たのね。逃げケ谷君。」

どうやら当たり障りしかない挨拶は相手の反感を買ってしまったようだ。

「誰だよ逃げケ谷君って。確かに昨日は逃げたから言い返せないが人の名前はしっかりと言わないと社会に出て苦労するぞ。」

「あら、あなた誰に向かって口を聞いているのかしら。この私がそんなミスする分けないじゃない。」

「悪いがお前に初めて合ったんでな、今の会話だけで推測したんだ。間違っていたのなら謝る。」

まずは相手に悪印象を与えるな。

それが交渉の時の鉄則だ。

まぁ交渉でも何でもないんだけどな。

「あら、目が腐りきってる割にはまともに謝れるのね。」

言い返すな〜、耐えろ〜。

俺は自分で自分の感情を押し殺しながら雪ノ下と会話を続ける。

「まぁな、ところでここは何をする部活なんだ?というか部活なのか?」

俺は素朴な疑問を投げつけた。

「何故あなたはここが部室じゃないと思ったのかしら。」

「まぁ、理由としてはここにお前しかいないからだ。」

「あら、それだけで勝手に思い込んだのかしら。」

「いやまさか。もう一つの理由の方が大きい。まず新しい部活を始めるには三人以上集めること。次に部活を始めるにあたって、その部活動の生徒が3人を下回った人数しかいなかった場合その部活を1日休部させること。っていうルールがこの学校にはあるからな。仮にも平塚先生は生徒指導の先生だ。これを守らなければいけないからな。だから部活だったら平塚先生が俺をここに連れてくるはずがない、と思ったからだ。どうだ?結構いい推理だろ。」

きっと俺は少しドヤ顔になっていることだろう。

「驚いたは。流石は学年主席と言うべきかしら。でも残念ね。ここは平塚先生が無理言って承認させたイレギュラーな部活よ。」

まじかよ。

生徒指導の先生が思いっきりルールを破ってた。

きっとあの先生の考えは『ルールとおばあちゃんの家の障子は・・・破るためにある!』っていうタイプなんだろう。

「そうか、ならこの部活は何をする部活なんだ?」

「そうね、ならクイズをしましょう。私が今こうしていることがヒントよ。」

「雪ノ下、自分しか理解できないヒントはヒントと呼ばない。新しいクイズだ。」

仮にそんなヒントを出されるとこうなる。

『クイズのヒントを解くためのヒントを解くためのヒントを・・・』

と無限ループしてしまう。

「学年主席にはこれくらいが丁度いいと思ったのよ。」

「なぁお前学年主席に恨みでもあるの?」

流石にそんなに学年主席、学年主席と言われたらこちらも気にせざるを得ない。

「私は今までどんな事でも一番だったわ。容姿、勉強、運動、家柄。どれも完璧だったわ。でも、入試が終わり電話が掛かったのよ。『おめでとうございます。次席入学です』って。私は今まで一番だったが故に苛められてきたわ。だから一時期は一番じゃなくなればイジメはなくなるのではないかと考えたこともあったわ。でも結果は同じだった。確かに今はイジメなんてないわ。でも私は家族から非難されたわ。だからいつも学年主席を取り続けている人が気になっていたの。それがまさか貴方のような人だなんて平塚先生から聞かされるまで思いもしなかったわ。」

「そ〜ですか。そりゃ大変でしたね。」

俺は今少しイラッときた。

まるで自分は恵まれている悲劇のヒロインよ〜、と言わんばかりだったからだ。

俺ら比企谷家に比べたらイジメなんて小さな悲劇でしかない。

それを私は不幸だと言うのだ。

こいつは世の中を知らなすぎる。

「ええ、大変だったわ。だから私がこの世界を人ごと変えるのよ。」

俺はこの言葉に少し期待した。

だがそれを覆いかぶせるほどの憤りを感じた。

「なぁ、それはどんな世界に変えるんだ?今生きている人達は確かに現状に満足していないと思う。それでも自分の足でたって前を見ているんだ。そんな生活を急に変えてみろ。その人達が今まで培ってきたことが水の泡になっちまう。お前が世界を変えようとしても賛成するもの賛同するものなんてたかが知られている。だからお前も我慢して生きてみろよ。お前だけが悲劇のヒロイン演じてんじゃねぇよ。」

あ〜、言っちゃった〜。

相手に不快感を与えないなんてまず無理なことなのだろう。

でも、俺は反省はしているけど後悔はしていない。

俺は俺が正しいと思ったことを言っただけだ。

「それじゃ何も解決しないし・・・誰も救えないじゃない。」

どうやらこいつは人を救うために世界を変えたいらしい。

でもな

「雪ノ下、この世には正義っつーまげられないもんを一人一人が持っている。だから争い合う。その一人一人を救うのはほぼ不可能だ。」

「それでも私はやるのよ。必ず成功させてみせるわ。」

「仮に成功したとしてもそこにはもう感情なんて存在しなくなる。全員一つの思考を持った人形となる。」

キッとまるで敵に牙を向けた獣のような様子で睨みつけてきた。

下唇を噛み拳に力がはいってるところを見ると頭で理解はできてるものの納得はしたくないというところだろう。

「あなたは一体・・・」

雪ノ下が言いかけたその時だった、

「し、しつれ〜しま〜す、って!な、なんでヒッキーがこんなところにいるの!?」

や、やばい。

続きが気になる。

雪ノ下今なんて言おうとしたのー!!

きーにーなーるーー!

っていうか

「ヒッキーって誰?あとお前誰?」

「は、はー!?ヒッキー私のこと知らないの!?マジありえないし!サイテー!本気キモイ!」

おう、悪口のオンパレードだな。

「2年F組の由比ヶ浜結衣さんね。」

「え?私のこと知ってるんだ。」

「お前全校生徒の名前知ってんじゃねーの。」

「いいえ、あなたのことなんて全く知らなかったもの。」

「そ〜かよ。」

「ところで由比ヶ浜さん。依頼内容は?」

「あ、うん。えっと、その〜」

あ、これはアレですね。

俺をチラチラ見ながら言うということは『マジであのキモ男に聞かれたくないんだけど〜』という状況だ。

さすが俺。

相手の目線だけで言いたいことがわかるなんて

「飲みもん買ってく・・・」

俺が席を立ち言いかけてる時だった。

空が黒く染まり出した。

ついに迅さんの言っていたことが起き始めた。

イレギュラーな(ゲート)が発生した。

 

 

 




次回、戦闘


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彼は成功する

あんまり戦闘ぽくないです。


「え、え?何でこんなところにトリオン兵がいるの!?」

どうやら由比ヶ浜はかなり戸惑っているようだ。

当然だ。

本来であれば警戒区域外に出現するはずがない。

そう市民は思い続けている。

「ゆ、由比ヶ浜さん落ち着きなさい。直にボーダーの人達が助けに来てくれるわ。この学校にも数人だけれどもボーダーはいるのよ。」

雪ノ下は平静を装っているがかなり動揺しているな。

どんな時でも弱みを他人に見せまいとするその行動は今までのイジメによって体に染み付いたのだろう。

「雪ノ下、比企谷急いでここを離れるぞ。ボーダーから連絡があった。警戒区域にも大量のトリオン兵が出現しこちらに応援をよこせないようだ。いや、応援なんて呼ぶ必要がないと言い切った。」

平塚先生のその言葉に2人は絶望しきった顔になった。

「ど、どういうことですか!ボーダーは総武高校を見捨てるんですか!?」

「そ、そうですよ!みんな死んじゃうかもしれないですか!」

雪ノ下と由比ヶ浜が平塚先生に怒鳴りだした。

いや平塚先生に怒鳴っても仕方なくね?

「だから君たちを逃がすためにここに私がきたのだ。校長、教頭は何故か生徒を誰1人外に逃がす気がないようなんだ。」

迅さんの仕業か。

だがこの状況もあまりもたないだろう。

よし、そろそろ俺もお仕事を始めますか。

「ええ、外に出す気なんてありませんし、増援を寄越すつもりもありません。」

「な、何を言っているのかしら比企谷君。ついに頭まで腐りきったのかしら。」

「そ、そうだよヒッキー!このままじゃみんな死んじゃうんだよ!ヒッキーはそれでいいの!?」

「いいわけないだろ。だからここから誰一人として出す気は無い。」

俺は言い切ると制服のポケットからトリガーホルダーを取り出した。

雪ノ下達3人は俺が何をしているのか理解出来てないようだった。

それもそうだ。

一般人がトリガーホルダーを見る事なんてそうそうないだろうからな。

「平塚先生。できる限りそこにいてください。」

俺は窓を開け雪ノ下の方に向き直した。

「雪ノ下、これが正義だ。近界側(ネイバー達)には近界側(ネイバー達)の正義が、ボーダー側(俺達)にはボーダー側(俺達)の正義がある。だから今みたいなことが起きる。今までも、そしてこれからも。それでも俺達は俺達の正義を曲げるつもりは無い。・・・トリガー起動(オン)!」

俺の服装が制服から隊服に、体がトリオン体に早変わりした。

「比企谷君、あなたは一体・・・。」

「自己紹介が遅れたな。俺は総武高校所属2年F組、並びにボーダー本部所属A級部隊1位比企谷隊隊長比企谷八幡だ。」

俺は言い終わると同時に窓から外に飛び降りた。

下に着くと丁度10体のトリオン兵が学校に突っ込まん勢いでこちらに向かってきた。

俺にただ勢いよく突っ込んでくるとはいい度胸だな。

俺が腰の弧月を抜刀する瞬間に地面から十本ほどの緑色の刃が飛び出し、こちらに向かってきたトリオン兵すべてに命中した。

こんな芸当デキる人はこの世にたった一人だけだ。

「いきなり全部の斬撃を飛ばすなんてらしくないですね、迅さん。」

「いや〜、あそこの女子達に少しかっこいいとこ見せようかなって思って。」

そんな理由で風刃の斬撃を使い切ったのか。

「ところで八幡。いい話と悪い話どっちから聞きたい?」

「俺は上げてから落ちるタイプなのでいい話から。」

少し変わってるなって?

確かに最後に落とすのは変だと俺も思う。

なら何故かって?

別に俺が変質者だからという訳では無い。

理由としては最後に落とした方が頭に残るからだ。

最後にいい話をした場合、悪い話が頭から抜けている可能性がある。

どんなに悪いことを言われてもいい事を最後に言われればポジティブシンキングになる。

悪い事もいい事になりうることがある。

だから俺は上げて落とす方が好きなのだ。

決してマゾヒストではない。

「わかった。いい事は全校生徒が校舎内にいることだ。」

まぁ、校舎内にいるなら少しは戦いやすいだろう。

「次に悪い話なんだが・・・」

なんだ随分と間を開けるな。

「実は次風刃をリロードしたらトリオンが底をつく。」

は?なんて?

確かに風刃のリロードにはかなりトリオンを使う。

それでも1発放っただけでトリオンがほぼ無いなんてあるわけない。

「いや〜、今朝の防衛任務で思いもよらないぐらいトリオン兵が出てきて・・・それで風刃を大量に放ったらトリオンが無くなりかけた、というわけ。」

「あなたは一体何がしたいんですか!?それよりもなんでここに居るんですか!?」

「おいおい、生徒達が校舎内にいるのは俺が校長達に忠告したからだぜ?この時点でかなり役に立ってるだろ?」

それもそうなのだ。

この人が居なかったら外の部活の生徒はまず間違いなく怪我、最悪の場合死んでいただろう。

は〜また言いくるめられたな。

俺が内心でため息をついている時だった。

「比企谷ちゃんおまたせ〜。犬飼とうじょう〜。」

全く焦ってるような様子の見れない犬飼先輩。

「八兄、おまたせ。」

練紅覇並びに菊地原士郎、歌川遼の3人が来た。

「八幡ごめん。友子と連れションしてて遅れた。」

「ちょ、ちょっと操。何言ってるのよ!」

ごめんなくまちゃん。

操のバカに付き合わせて。

「よし、これで全員揃ったな。」

「なんで比企谷先輩が仕切ってるんですか?ていうか出来るんですか?」

「おい菊地原、すいません比企谷先輩。」

君たちほんといつまで経ってもこの流れ続けるよね。

仲良すぎだよ。

べ、別に羨ましくなんかないんだからね!

だめだ、気持ち悪い・・・。

「出来るっつーの。誠に勝手ながら今回は俺が指揮を取らせていただきます。異論反論は聞きません。」

「八幡、作戦はどうする。さっき軽く見てきたけどかなりのトリオン兵の数だ。この人数で無傷ってのは少し難しいぞ。」

「其処については作戦があります。ただし少し戦いにくくなりますが良いですか?」

そこにいる全員が頷いた。

「わかりました。では作戦を伝えます。まず迅さんを除いた全員で学校を囲む程の巨大なシールドを張ります。これでトリオン兵が学校に侵入する可能性が低くなり生徒が外に出ることはなくなります。次に一人ひとりに対する作戦です。まず菊地原、お前は出来るだけバムスターを倒してくれ。次に歌川、お前はガンナーとして戦ってくれ。出来るだけアステロイドだけで。次に操、お前もバムスターを頼む。次にくまちゃん、くまちゃんもバムスターを頼む。次に犬飼先輩、犬飼先輩にはモールモッドを相手にしてもらいたい。最後に迅さん、あなたは好きにしてください。でも未来が変わったら通信で伝えてください。」

「ちょ、ちょっと待ってよ比企谷。モールモッドに対する人数が少なすぎない?」

「モールモッドは基本俺がすべて相手する。何な異論はあるか?」

全員が納得したような表情をしたので

「では各自適当に頑張ってください。散!」

俺が指示を出すと同時に全員が四方八方に散っていった。

さて俺は俺のやることをするか。

「グラスホッパー」

俺は学校よりも高く跳ね上がった。

コレくらいの高さがちょうどいいかな。

俺は腰にある2本の弧月に手をかけ

「旋空弧月」

目にも見えないほどの抜刀で旋空を合計4本、学校を囲むように放った。

俺は全員に通信を繋ぎ新しい指示を出した。

「全員地面にある線に沿ってシールドを展開してください。」

『了解!』

通信が切れると同時に特大のシールドが学校を囲んだ。

長年ボーダーに所属しているがこんな大きなシールド初めて見た。

さ〜て、モールモッド全部任せろなんて言っちゃったしな〜。

ちょっと張り切って頑張ってみますか。

「グラスホッパー」

俺は再び上空に上がり全てのトリオン兵を見渡した。

見渡し終わると直ぐに地面に降りさっきまで張っていたシールドを解いた。

急がねーと位置がずれる。

俺は地面に両手をつき目をつぶった。

そして俺が目を開けると同時に地面からは無数の刃が飛び出した。

殆どが弱点である目が真っ二つに切れていた。

『比企谷おめでとー、モールモッドは今ので全部倒せたみたいだ。』

迅さんからの報告が入った。

「必殺、無限剣舞陣(レアバルド)成功。」

厨ニ病感全開なことをつぶやき俺は立ち上がった。

これはまさに中学2年の際思いついた必殺技だ。

ちなみに名前は今考えた。

さて、ほかのメンバー達はどうなったかな。

俺はシールドを再び張りその場をあとにした。

 



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彼は認知される

〜比企谷隊パラメータ〜
隊長 比企谷八幡
トリオン:15
攻撃:16
防御・援護:9
機動:10
技術:13
射程:3
指揮:9
特殊戦術:6
合計:81
戦術は東春秋に指導してもらっている。
トリオン量は現在トップ。
得意技は旋空からの中距離攻撃。

アタッカー 巻町 操
トリオン:7
攻撃:10
防御・援護:3
機動:12
技術:5
射程:1
指揮:1
特殊戦術:2
合計:41
機動力ではボーダートップレベル。
指揮をとるのが苦手。
2本の弧月(短刀)による高速戦闘を得意技とする。

アタッカー 練 紅覇
トリオン:6
攻撃:13
防御・援護:6
機動:9
技術:9
射程:2
指揮:2
特殊戦術:3
合計:50
八幡の代わりに指揮を執る事がある。
弧月(大剣)から繰り出される圧倒的な威力を持つ旋空でシールドごと敵を斬ることを得意技としている。


アタッカー 刀藤 綺凛
トリオン:6
攻撃:9
防御・援護:6
機動:10
技術:7
射程:1
指揮:1
特殊戦術:6
合計:46
まだ幼いながらも比企谷隊の中でも1番伸び代がある。
戦うごとに戦い方が変わり相手を翻弄させる。
1本の弧月での連撃を得意技としている。


戦闘を開始してから既に5分ほど経った。

そろそろトリオン兵が殲滅された頃だろう。

くまちゃんを除いて全員がマスター(クラス)なのだ。

トリオン兵を倒すなど友達付き合いより簡単だろう。

え?友達付き合いを難しく感じてるのは俺だけだろって?

残念ながら俺は難しく感じてない。

何故ならボーダー隊員を除いて俺は友達が1人もいないからな!

あ〜、自分で言っていて悲しくなってきた。

そろそろ学校でも友達が欲しくなってきた。

誰だって友達が欲しいはずだ。

俺だって昔は友達なんて俺の生きていく糧にならないからいらない。

なんて思ってたけど仮にボーダーが無くなったことを考えた時があった。

そしたら俺の周りには友達なんていなくなってしまうだろう。

それは流石に寂しい。

同窓会なんて行く行かない関係なしに声をかけられる事もないだろう。

それで偶然ばったり合ってしまった時には空気が悪くなるだろう。

だから俺は他人に迷惑をかけない様にするために友達が欲しい。

などと他人とはどこかズレた理論を頭の中で唱えている時だった。

『みんなお疲れ。トリオン兵は全部片付いた。後はシールドを解いて屋上に集合ってことで。』

どうやら終わったようだ。

にしても迅さんのサイド・エフェクト便利だな、どのタイミングで何が起こるか分かるなんて。

でも迅さんもサイド・エフェクトには苦労しているのだろう。

これはサイド・エフェクトを持っている全員が今までもこれからも悩み続けることだ。

当然俺も苦労した。

小学生の頃はサイド・エフェクトをうまくコントロール出来ず、人がこそこそと話している際にその口元を見て何を言っているのかを理解出来てしまっていた。

これだけならまだ良かった。

でも、俺は最初から最後まで嫌われ者だった。

当然悪口など頻繁に言われ続けた。

だが言われ続けたと言ってもそれは直接ではなく陰口としてだった。

なら何故俺がその悪口を知っているかって?

サイド・エフェクトで見てしまっていたからだ。

その時からかもしれない。

学校にもあまり行かずボーダーで戦闘訓練をやり始めたのは。

徐々に学校に行くことも少なくなり、遂には不登校となった。

その頃にはもう小学6年生で大規模侵攻が起こった年だった。

だが俺は1度だけ小学6年生の時、学校に行ったことがあった。

それは卒業式だ。

流石に卒業式には出ろとお袋と忍田本部長が言ってきたので渋々ではあるが了承した。

当然からかわれるのは覚悟していた。

1年間学校にいなかった奴が突然くるのだ。

生徒達からしたら格好の餌食だ。

ピラニアのいる川に裸で飛び込むのと同じだ。

いや、流石にそこまではひどくはないが当時の俺はそのレベルまで覚悟していた。

だが結果は違った。

誰が見たのか、誰が言いふらしたのか分からないが俺がボーダーと言うことが学校の教師や生徒にバレていたのだ。

まるで俺はヒーロー扱いになった。

不登校になっていた理由が理解出来たなど教師たちは口々に揃えて言った。

他のクラスや下の学年の生徒達も俺のことを一目見ようとわざわざ俺のクラスにまで足を運んできたのだ。

1日だけだが俺は学校1の人気者になったのだ。

だがそれを面白く思わない奴らもいた。

そう、俺のことを嫌ってきた奴らだった。

今まで自分より下だと思っていたやつが急に自分たちには手が届かないところにまで高く上がったのだ。

良く思うはずがない。

そいつらが何を思ったか知らないが卒業式が終わると俺を人気のないところ、今の警戒区域の近くに連れていき集団リンチをしようと仕掛けてきたのだ。

だがそいつらはそこから1歩も動こうとしなかった。

それどころか尻餅をつくもの漏らすものまでいた。

俺は何事かと後ろを見た。

そこには(ゲート)が発生していたのだ。

数は4体と少なかったが大規模侵攻という恐怖を味わったばかりの一般人からしたら直ぐにでもここを離脱したいはずだ。

しかし動けない。

頭で理解出来ていても体が言うことを聞かないのだ。

俺はそんな奴らを一度見てトリオン兵の方に向き直った。

は〜、さっきまでの威勢はどこに行ったんだか。

「トリガー起動(オン)

俺はトリガーを起動すると同時に弧月を抜刀し4体のトリオン兵を5秒も経たないうちに全部真っ二つにした。

周りにトリオン兵がいないか確認し俺はトリガーを解除した。

そしてその場をあとにした。

あいつらがその後どうなったか今となっては分からない。

これが俺のサイド・エフェクトで悩み続けてきた小学校生活だ。

今はサイド・エフェクトをコントロールすることが出来、苦労はあまりしていない。

俺が昔を振り返っているといつの間にか全員揃っていた。

「全員ご苦労さまでした。迅さんを除いた全員はこれから自分たちの教室に戻り担任に報告をすること。迅さんは校長達にこのことを報告してください。ではこれで解散とします、お疲れ様でした。」

俺がそう言うと全員屋上から降りていった。

 

 

 

「まさか今日学校に残ってなんて言われるからない事かと思ったけどこういうことだったんだ。ていうか八幡はなんで知ってたのに私達に言わなかったの?」

「たしかに、言ってくれればそれなりの準備してきたのに。」

「くまちゃん、その準備ってトイレに行くの我慢すブベェラッ」

俺が喋っている途中にくまちゃんの強烈な一激がオレの顔面をクリーンヒットした。

「あんた、それ以上言ったら殴るわよ!」

「もう既に殴られまアベシッ!」

また殴られた・・・。

理不尽にも程がある。

「比企谷、いう事は?」

「ず、ずびばぜんでじた〜」

「うわ〜個人総合1位貫禄なーい。」

うるせ、俺に貫禄なんてねーんだよ。

 

 

 

 

 

 

「熊谷さん、巻町さん!二人とも凄かったね!外にいたトリオン兵があっという間に居なくなっててビックリしたよ。」

2人に感激の言葉が降り注いだ。

そう2人に。

俺も頑張ったんだけどな〜。

別に褒められたいとかそういうわけでわないのだが一緒に戦ったのに誰にも認知されないのは結構心にくる。

そう思っている時だった。

「ひ、比企谷君も凄かったね。」

え?さっきのってフラグだったの?

どうやらオレも認知されていたようだ。

それも女子に、もう一度言おう女子にだ。

今日頑張った甲斐があった。

こんなに可愛い女子がモジモジ言ってくれたのだ。

我が人生に一遍の悔いなし!

ベシッ

「何鼻の下伸ばしてるのよ八幡。とっとと帰るわよ。」

操にチョップされた。

いつの間にあの可愛いこと入れ替わってたんだ・・・

「は〜〜〜わかった。」

「何よその溜息は!?私だと何かがっかりすることでもあるの!?」

「ん、全部。」

「なんですって〜!って何私のこと置いてってるのよ、まちなさ〜い!」

は〜いつも騒がしい女だ。

さて、今日の晩飯は何にしよ〜かな〜。

 

 

 

 

 

 



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彼は初めてを2つ体験する

俺は今界境防衛機関、通称『ボーダー』と呼ばれる本部にいる。

ボーダーにいるのは当たり前だ。

ならどうしてこのような説明をしているかって?

だって今俺がいるのはボーダーはボーダーでも会議室にいるんだよ?

さーなんででしょう。

理由は今日起こったイレギュラーな(ゲート)についての会議が開かれることになったからだ。

あ〜なんで俺も参加しないいけないの。

確かに俺は上層部の一員だし今日起きた事の当時者でもあるけどそれは城戸司令や忍田本部長達など大人だけでやって欲しい。

こちとら今日の晩ご飯の食材買いに行かないといけないのだ。

因みに今日の晩ご飯はスパゲッティにする予定だ。

早く帰りたい・・・。

「それではこれより総武高校に出現したイレギュラーな(ゲート)に対する緊急会議を行う。」

城戸司令の一声で会議は始まった。

「まず最初に鬼怒田開発室長、原因は分かったか。」

「いや、まだだ。未だに原因がわからんままなのだ。」

「わかった。引き続き原因を調べてくれ。」

どうやらまだ原因がわかっていないようだ。

ここで俺は少し気になっていたことを聞いた。

「鬼怒田さん、誘導装置の故障という訳では無いんですか?」

「いや、それは無いだろう。調べてみたがどこも異常がなかった。」

ふむ、誘導装置関連ではないようだ。

だがお陰で今日起きた原因が絞られてきた。

「次に根付メディア対策室長。」

「はい、今回に対しては特に何もありませんでした。

と、言いたいところですが思いの外風当たりが強く未だに収まっておりません。」

は?なんでだ?

今回の事は総武高校とボーダーだけという事になっていたはずだ。

誰が一体何について話したんだ。

「すいません根付さん、今回の事は総武高校とボーダーの間だけの秘密となっていたはずですが。」

「実は苦情の来た内容は『生徒を誰一人として学校から出す気は無い』というものでして。教師方には決して他言しないようにと言っておいたのですが比企谷君、心当たりはありますか?」

恐らくあの人だろう。

俺の前で堂々と言ってたし、まず間違いないだろう。

「比企谷君、どうやら心当たりがあるようですね。その証拠に貴方の顔がどんどん青くなっていますよ?」

「はい、心当たりあります。恐らく教師が生徒に言い、生徒が広めたのでしょう。」

「その教師と生徒の名前はわかりますか?」

「教師の方はわかります。教師の名は平塚静です。生徒の方は候補が2人います。1人は雪ノ下雪乃、もう1人は由比ヶ浜結衣。」

「わかりました、その2人を洗ってみましょう。」

そう言うと根付さんはタブレットをいじり始めた。

恐らく部下の人たちに指示を出しているのだろう。

「比企谷、どうした浮かない顔をして。何か気になることでもあるのか?」

忍田本部長が俺の顔をのぞき込むような形で聞いてきた。

「気になることという程でもないんですが今回出現したイレギュラーな(ゲート)にもし何かの条件があるのかもしれないと思いまして。」

「条件?」

全員がこちらを見る。

ふぇ〜、大人の視線って怖いよ〜。

「はい、と言っても仮説ですが。」

「構わん、話せ。」

「俺の考えてる事は、誘導装置をたまたま抜けてきた、(ゲート)を発生させる装置がここにある、トリオン能力の高い人間の近くにいる、という3つです。」

「1つ目2つ目に関しては分かるが3つ目のは何故だ。何故近くにトリオン能力の高い人間がいると出現するのだ。」

鬼怒田さんが物凄い勢いで食らいついてきた。

なるほど、だからそういう体型なのか。

「理由としては2つあります。1つ目は(ゲート)を発生させる装置があったとしても我々が気付かないような物です。恐らく大きさはあまり大きくないかと思います。だから近くにいるトリオン能力の高い人間を利用し(ゲート)を発生させているのかと思います。」

「なるほど。たしかに、筋は通っているし可能性としては高いな。で、2つ目は?」

「2つ目の理由は・・・俺です。」

は?と上層部の皆様方は口を開け締りのない顔になった。

「言い方が悪かったです。俺の近くによくイレギュラーな(ゲート)が発生してたんですよ。ここ最近は無かったですが。」

「そうか・・・では鬼怒田開発室長、比企谷の言ったことも頭に入れ調査をを頼む。」

「わかりました。」

「ではこれにて会議を終了する。解散。」

ふ〜、やっと終わった〜。

あまり長くなかったが沢山喋ったから疲れた〜。

マックスコーヒーでも買って疲れを癒そう。

そうしよう。

そうと決まればさっそく自販機にレッツゴー!

 

 

 

 

ガコン

と自販機からマックスコーヒーが出てくる音する。

ボーダーの自販機には3箇所マックスコーヒーがある。

俺が城戸司令に無理言って増やしてもらったのだ。

あの時は大変だった。

糖分の大切さを長々とプレゼンし城戸司令を折るにはなかなか骨がかかった。

まぁ、飲んでるのは俺と影浦隊ぐらいだけど。

俺が近くのベンチに座りカシュッとマックスコーヒーを開けた時だった。

「よっ、今日はお疲れ八幡。ぼんち揚食べる?」

ぼんち揚でお馴染みの迅さんがやって来た。

「いりません。それよりも早く要件を言ってください。早く帰りたいので。」

「相変わらずせっかちだな〜。ま、今日は俺も時間が無いから要件を言うよ。要件は今週1週間、特に夜は本部で待機していてくれ。」

「わかりました。ただし条件があります。」

「ん?なんだ?」

「貴方の暗躍に俺の家族を巻き込まないでください。」

「わかった、約束する。じゃな。」

どうやら本当に時間が無かったらしく迅さんはそそくさとその場を離れた。

さて、俺も帰るか明日普通に学校あるらしいし・・・

 

 

 

 

「お前ら〜二人組作れ。」

イレギュラーな(ゲート)が開かれた翌日、学校は何事もなかったかのように開かれた。

そして今は体育の授業。

「すいません先生。あまり調子が良くないので壁打ちしてていいですか?あまり他人に迷惑かけたくないので。」

「おう、わかった。」

俺は先生の返事を聞き壁に向かい歩き出した。

なんで壁打ちをするかって?

分かりきったことを。

ここに何人いるかざっと見たが31人と1人は余ることになるのだ。

だったら最初から抜けていればダメージは無い。

尚且つ相手に罪悪感を残さずにすむ。

ここで一句

『ボッチかな、ボッチじゃないよ、ボッチだよ』

完全にボッチですね〜。

一句読んでる時点でボッチの無限ループからは逃れられそうにもない。

そう思いながら俺はボールを壁に投げラケットを構えた。

サイド・エフェクト発動

この壁打ち練習はボーダーに入った頃からやっていた。

お袋曰く

『この練習はサイド・エフェクトを強化するための練習』

らしい。

だがこれをやっていくにつれわかるようになってきたことがある。

ボールの返ってくる向き、ボールの回転数などが次第に見えてくるようになったのだ

お陰で擬似的ではあるが次の行動がわかるようになったのだ。

俺はこの練習のおかげで強くなったと言っても過言ではない。

その時だった。

あさっての方向からボールが飛んできた。

「あ、ごっめーんマジ勘弁。えっと、えー・・・ヒキタニくん?ヒキタニ君、ボールとってくんない?」

誰だよヒキタニくん。

訂正する気も起きず、俺は転がっているボールを拾い上げて投げ返してやった。

「ありがとねー」

金髪リア充の葉山が笑いながら俺に手を振ってきた。

それに、俺はうすと会釈を返した。

なんで俺は葉山なんかに会釈してるのん?

どうやら俺は本能的に葉山の方が上だと判断してしまったらしい。

く〜や〜し〜い〜。

 

 

 

 

昼休み。

俺はいつもの昼食スポットで飯を食う。

購買で買ったアンパンをもぐもぐと食べる。

今月は紅覇が入学したことにより少し金銭的に余裕が無い。

だから一番安かったアンパンを1つだけ買ったのだ。

ずずーっと途中自販機で買ってきたマックスコーヒーを飲んでいるとびゅうっと風が吹いた。

風向きが変わったのだ。

臨海部に位置するこの学校はお昼を境に風の方向が変わる。

俺はこの風を肌で感じながらひとりで過ごす時間が嫌いじゃない。

「あれー?ヒッキーじゃん。」

いつもこうだ。

俺が1人で黄昏ていると邪魔が入る。

「なんでこんなとこいんの?」

俺のベストプレイスをこんなとこ呼ばわりとは・・・ゆるせん!

「普段ここで飯食ってんだよ。」

少し怒気の混ざった声で返したがそれにこいつは気にもとめず

「へー、そーなん。なんで?教室で食べれば良くない?」

ホントこいつは人を苛立たせる。

本人は自覚がないようだが言われたくないことをまるで狙い済ましたかのようにど真ん中に当ててくる。

奈良坂でも言葉では狙わねーぞ。

「それよかなんでここにお前いんの?」

「それそれっ!じつはね、ゆきのんとのゲームでジャンケンしてー」

「簡潔に短く答えろ。」

「パシリです。」

なるほどたしかにこいつは猫か犬かと聞かれたら犬のような感じだ。

まるで忠誠を誓ったかのようなそんな犬だ。

少し頭が残念そうだが。

俺は残りのマックスコーヒーを飲み干しテニスコートの方を見た。

その時だった。

俺は恋に落ちた。

先程まで練習していたであろう女子がこちらに近づいてきたのだ。

見えなかった顔は、顔のパーツひとつひとつがくっきりと見え額に垂れる汗は輝きを増しまるでその娘を引き立てるようなエフェクトに見えてきた。

「あ、さいちゃーん!」

由比ヶ浜が手を振って声をかける。

まって、まだ心の準備が・・・

「よっす、練習?」

「うん。うちの部弱いからお昼休みも使えるようにして貰ったんだ。由比ヶ浜さんと比企谷くんはここで何をしてたの?」

「やー別になにもー?」

だよね?と俺に確認してきた。

「そーだな。お前が一方的に話しかけてきただけだもんな。」

そうなんだ、とさいちゃんと言う女子はくすくす笑った。

「あ、そういえば比企谷くん、テニスうまいよね。」

予想外にも俺に話しかけそれどころか俺のことを褒めてきたのだ。

心がドキドキしてきた。

顔赤くなってないよね?

そんな俺をよそに由比ヶ浜はへーっと感心するような吐息を漏らした。

「そ〜なん?」

「うん、フォームがとっても綺麗なんだよ」

「いやー、照れるな〜」

で誰?と由比ヶ浜に聞いた。

さいちゃんに聞かれないよう最新の注意を払って小声で言ったのだがこのアホは

「はあぁっ!?同じクラスじゃん!っていうか体育一緒でしょ!?飲んで名前覚えてないの!?信じらんない!!」

超大声で喋った。

「バッバカお前、知ってるし。服装が違っててわからなかっただけだよ!後、女子は体育は体育館じゃねーか。」

こいつ・・・、俺の気遣いが台無しじゃねーか。

俺がこの娘に嫌われたらどうすんだ。

少し焦り俺はさいちゃんのほうを見ると、さいちゃんは瞳をうるうるとさせていた。

この瞳はやばい。

どれくらいやばいかというとマジやばい。

言葉にも言い表せれない破壊力。

絵にもかけない美しさ。

この二つが今オーバーレイ!!

「あ、あはは。やっぱり僕の名前覚えてないよね・・・。おなじクラスの戸塚彩加です。」

「わ、悪い。クラス替えであまり時間が経ってないから、つい。」

「1年の時も同じクラスだったんだよ・・・。えへへ、僕影薄いから・・・。」

「やーそんなことないない。俺、同じクラスの女子、操とくまちゃん以外知らないからコイツとだって昨日知り合ったんだ。」

「ヒッキーなんでみさちゃ下の名前で呼び捨てでゆうちゃんの事はあだ名呼び名の!?ヒッキー、マジキモイ!。」

「アイツらはいいんだよ。お互い認めあってる。」

くまちゃんには認めてもらって無いと思うが。

「ぼく、男なんだけどなぁ・・・。そんなに弱そうに見えるかな?」

え?今なんて?

男?そんなわけない。

俺の初恋の相手が男?

「わるい、俺、教室に戻るわ。」

俺は何かの喪失感とともに教室にトボトボと歩き出した。

 

 

 

 

 

放課後。

「さあ、比企谷。玲の家に行くよ!」

俺が落ち込んでいると言うのに元気よくくまちゃんが話しかけてきた。

「ああ、行こう・・・。」

俺は未だに立ち直れていない。

「ちょっと比企谷どうしたの?」

「くまちゃん、聞いてくれ。俺初恋して失恋した。」

俺は昼休み起こった事を下駄箱に向かいながら話した。

するというくまちゃんは

「アハハハハ、ハハハハッ、あー、面白い。まさか初恋が男で失恋も男だなんて。」

盛大に笑い出した。

人の不幸を笑いやがった。

よし、那須の家に行く際はこいつが恐怖に落ちるような運転で行こう。

そうしよう。

俺がくまちゃんに対する復讐を心に決めたその時だった。

「比企谷、部室はそっちじゃないぞ。」

平塚先生が現れた。

校長の指示に従わなかったため減給をされたらし。

この際だ、昨日部活に行った理由を話そう。

「先生、俺はもうあの部活に行く気はありません。」

「何故だ。昨日しか行っていないだろう?」

「昨日行ったのは(ゲート)が開く際、一番近い教室があそこだったからです。」

「まるで君はあそこに(ゲート)が開くことを知っているような口ぶりだな。偶然ではないのか?」

「あそこに(ゲート)が現れたのは偶然です。ですがあそこに(ゲート)が開くのは分かっていました。だから昨日ボーダー隊員達には放課後残ってもらうよう呼びかけトリオン兵を殲滅しました。」

「そうか、だが君は昨日仮入部すると言ったんだぞ?そのことについてはどうする。」

「すいませんがあそこに入部するつもりもありませんし部活をやる時間など俺にはありませんので。ではこれで失礼します。」

俺とくまちゃんはその場から離れ駐輪場に向かい歩き出した。

 

 

 



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彼女は敗北する

俺は立ち直ることができないまま那須の家に来た。

むしろ失恋してすぐに立ち直るなど無理な話だ。

は〜、気持ち切り替えられないな。

目をつぶると戸塚の綺麗な顔立ちが浮かび、戸塚のカミングアウトが谺響する。

「比企谷、いつまで引きずってんの。過去は過去よ、前を見ないと。」

そう言いますけどね、くまちゃん。

あなた笑ってるじゃないですか。

むしろあなたが過去を振り返らせているように思えるのは俺の気のせいだろうか。

俺は濁りきった瞳でクマちゃんを見た。

「比企谷、そんな目で私を見ないで。照れるじゃない。」

と、心にもないことを言い出した。

だってまだ笑ってるんだよ?

恨みしかないのだが。

よし、明日ランク戦でボッコボコのギチョンギチョンのメッタメッタにしてやる。

俺が心に強い決意を決めていると

ピーンポーン

くまちゃんがインターホンを鳴らした。

まだ女子の部屋に入る心の準備ができていないというのに・・・。

くまちゃんがインターホンを押して1分もかからず家主が出てきた。

「くまちゃん、いらっしゃ・・・って、なんで比企谷くんが居るの!?」

家主の那須玲だ。

病弱でお嬢様学校に通っている。

そんな事よりも、くまちゃん俺来る事言ってなかったんだ。

那須は慌ててドアを閉めるとドタドタと家の中を走り出した。

病弱なのに走っていいの?

少し経つとまたドタドタと音が聞こえてきた。

その時だった、ドテッと、鈍い音が聞こえてきたのだ。

「い、いらっしゃい。2人とも入って。」

おでこの赤い那須が出てきた。

こいつ転けたな。

玄関を見るとスリッパが散乱していた。

恐らくスリッパを踏んでコケたのだろう。

まぁ、それはどうでもいいのだが

「なぁ、那須。俺ここに来てよかったのか?今からでもまだ間に合うぞ、帰って欲しかったらすぐに言えよ?」

那須に確認をとった。

だって気まずい空間で話し合いとかやだもん。

那須にも気を使わせるわけにはいかないしな。

「だ、大丈夫。むしろいつでも来ていいよ?ていうか来て。」

と、オッケーが出た。

にしても随分とテンパってるな。

手とかよく分からない動きになってるし。

なんで、小南といいお嬢様学校の奴らはどこか残念な感じになるのだろうか。

「良かったじゃん比企谷。いつでも来ていいって。これからは比企谷も反省会参加ね。」

「いや、俺そんなに暇じゃないんだけど。」

「大丈夫よ比企谷くん。比企谷くんの日程にあわせるから。」

やめて、男子にとって嬉しいことばかり言わないで。

俺、成仏しちゃう。

って、俺は幽霊かよ。

いや、この世に幽霊などいないな。

いるのはスタンドだけだ!

頭の中でバカをやっていると那須たちが立ち止まった。

どうやらここが那須の部屋のようだ。

スーハー、深呼吸をした。

だって緊張するんだもん。

仕方ないじゃん、だって八幡だもの。

俺は横目で立ち止まってる那須を見た。

すると那須も深呼吸していた。

え?そんなに男子入れるのに緊張するの?

那須がドアノブに手を掛けた。

ガチャ、ドアが開いた。

俺の目に最初に飛び込んできたのはパジャマだった。

那須は顔を赤くし、急いでパジャマを布団の中に隠した。

「あ、比企谷先輩!ついにきてくれる気になったんですね!」

元気な後輩、日浦茜が俺に挨拶をしてきた。

「よっ、今日も元気だな。その元気俺にも分けてくれ。」

「先輩が元気玉作れるようになったらあげますよ。」

よし、ならば早速界王星にでも行ってくるか。

「あ、どうも比企谷先輩。」

急にパソコンが喋り出した。

別にAIなどでは無い。

第一そんなの使っていいのはうちの隊だけだ。

「よっ、志岐。相変わらず引きこもってんな。」

志岐小夜子。

那須隊オペレーターにして引きこもりで男性恐怖症。

ならなんで俺と喋ってるかって?

それは俺のことを男として見ていないらしい。

そんなこと初めて言われた時はショック過ぎて男前になる為に色々としたものだ。

因みに那須隊の隊服を作ったのはこいつだ。

胸元が見える少々セクシーなデザインだ。

恐らくボーダー内で一番男子の視線を集める隊だろう。

「比企谷先輩は、何でここに?那須先輩のパジャマでも見に来たんですか?だとしたら生憎もう着替えてますよ。」

「いや、違うから。それに、パジャマ姿俺もう見たし。」

そう言うと日浦と志岐はお〜、と感嘆な声を上げた。

それに対して那須はというと顔を赤くし枕に顔を埋めた。

「はいはい、茶番はこのへんにしてそろそろ本題に入るよ。」

くまちゃんの一声で反省会が始まった。

那須隊のランク戦での相手は鈴鳴第一と最近順位を落とした香取隊だった。

その時のムービーをみんなで見始めた。

 

 

 

30分後。

「さ、比企谷先輩アドバイスお願いします!」

開口そうそうそれかよ。

「そうだな・・・、まず那須、お前が点取れなかったのはきついな。もう少しバイパーをリアルタイムで撃てる数を増やせ。それか合成弾をもっと早く生成できるようになることだな。次にくまちゃん、くまちゃんは今回香取を落とせたのはいい仕事だった。けど、それで最期に片足落とされたのはお前の油断が原因だ。相手がベイルアウトするまでしっかりと相手を見とけ。後もっと体捌きを早くしろ。最後に日浦、今回はお前が一番良くて一番悪かった。来馬先輩、別役を落としたのは良かったがなんで最後ベイルアウトしなかった。しておけば村上先輩に落とされることは無かったんだぞ?そうすれば那須隊は12位確定だったんだ。もっとチームのために何が出来るか考えろ。」

ふ〜、言いたい事はだいたい言えたな。

「比企谷くん、どうすればもっとリアルタイムで撃てるバイパーの数増やせられるかな?」

「そうだな・・・、よし。那須、このノートに右手と左手で別々の絵をかけ。お題はオバQとエリザベスだ。2つとも似てるから簡単だろ。」

「わかったわ。」

「比企谷先輩!私は?狙撃についてアドバイスないんですか?」

「お前は奈良坂がいるだろう。奈良坂に聞け。」

「この場では比企谷先輩に聞いてるんです。早く答えてください!」

「は〜わかったよ。お前は撃つ時の体制が少し斜めっている。恐らくお前は気付いてないと思うが左肩が下がってて右肩が上がっている。そうすると撃った時の反動が大きくなる。後は奈良坂に聞け。」

「はい、ありがとうございました!」

くまちゃんは聞いてこなかった。

チョットショック。

もう少し頼ってもいいのに。

「あ、そういえば比企谷先輩なんでさっきまで元気なかったんですか?」

俺が忘れかけていたことをショベルカーで掘り起こしやがった。

やめて、また悲しくなってくるから。

「あ、茜。実はね・・・」

くまちゃんは俺が言った事を日浦たちに伝えた。

するとみるみると那須の元気もなくなっていった。

ん?何かブツブツ呟いてるな。

ナイを言ってんだ?

俺は耳を澄ませその声を聞いてみた。

「私、男の子に負けたんだ。しかも男の子に対する恋愛で。」

何のことかさっぱりわからないが何かがショックだったらしい。

そんな空気を感じてか日浦が話題を変えてきた。

「そ、そういえば比企谷先輩って比企谷小町って娘知ってますか?」

「知ってるも何も俺の妹だぞ。」

俺がそう言うと日浦はえーー!?と大声で叫んだ。

おいおいあまり大声出すなよ。

隣のお嬢さんまだ元気ないんだから。

「実は昨日引っ越してきたんですよ、私の中学校に。」

そうか、ついにここに来てしまったか。

避難していたはずなんだが。

よし、帰ったらお袋に連絡してみよう。

「悪いが俺は帰る。」

「え?もう?」

「ああ、あ、そうだ。明日放課後に俺の隊に来い。じゃあな。」

俺は那須家を出てバイクにまたがり家に向かって走り出した。



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彼は気付かない

比企谷八幡のお母さん

比企谷 桐花
ひきがやとうか
ポジション:シューター
パラメータ
トリオン:16
攻撃:16
防御・援護10
機動:6
技術:12
射程:9
指揮:6
特殊戦術:6
合計:81
ノーマルトリガー最強の女
リアルタイムで弾くバイパーの数は出水とは比べ物にならないほどの量
二宮の師匠


prrrr、prrrr、prrガチャ

『もしもし?』

「お袋か?俺だオレオレ。」

俺は今自宅からおふくろに電話をかけている。

理由はいつこっちに来たのか、なんでこっちに戻ってきたのか聞くためだ。

『だれ?オレオレ詐欺ですか?』

「は〜俺だよ八幡だ。」

『あ〜、一年近く母親に連絡すらとらない親不孝なクソ息子ね。思い出した、思い出した。』

「はいはい、どうせ俺は親不孝者ですよ。久しぶりに声聞いたらいきなり嫌味だらけの貴方の息子ですよ。」

『それで、一体何のようかしら?あなたはあの、マダオ(まるでダメな夫)と同じで用がない限り電話なんてしてこないでしょ?』

「俺をあんなマダオ(まるでダメな男)と一緒にすんなよ。でもまぁ、用があるのは事実だが。」

『それで何を聞きたいのかしら?』

「いつこっちに来た。あんなに小町を戦いから遠ざけようとした、おふくろが自分からこっちに行こうなんて言うはずねぇよな?」

『当たり前じゃない。私は戦える戦闘狂のあんたより戦えない小町の方が大事なんだから。』

うわ、今おもいっきり差別した。

わかってはいたが、堂々と悪びれもなく言われるとかなり傷つく。

『因みにこっちに来たのは小町が駄々をこね始めたのよ。あんたと暮らしたい、ってね。ホントはあんたと一緒に暮らさせたくなんかないんだけどね。小町が最近あんたの家の住所を探そうと家中散らかしてね、流石の私も折れたってわけ。』

「そうか、それで今どこに住んでるんだ?」

『今は取り敢えずホテルに泊まってるわ。今日で二日目よ。このペースだと後1ヶ月でお金がなくなりそうだなー、誰かただで部屋を貸してくれないかなー、できれば二部屋欲しいなー』

「タダじゃねーけど部屋なら貸してやるよ。」

『あら、実の母親に金をとろうとはいい度胸じゃない。』

「別にそれ程高くねーよ。食費と光熱費、各種税金を頼みたいんだ。因みに、俺含めて4人分。」

『4人分?あなた一体どんな生活してるの?』

「俺の隊全員でシェアハウスしてんだよ。ま、全員俺の妹、弟みたいなもんなんだけどな。」

『その子達の写真見せてもらえるかしら。』

「ああ、良いぞ。」

俺は今年、紅覇が総武高校に入学したときに家族全員で撮った写真を送った。

『あら、この端っこにいる娘、操?あなたあの娘と上手くやってるの?昔、随分と仲悪かったじゃない。』

「まぁ、時々喧嘩はするけど上手くやれてるんじゃないか?」

『そう、ならいいわ。それよりも、この可愛い小さい娘と制服きたイケメンはあなたの弟と妹かしら。』

「ああ、二人とも俺の自慢の兄妹だよ。」

『ふふ、随分と充実した生活をしているのね。で、なんでこの子達とシェアハウスなんてしてるのかしら。』

「操を除いてこの2人は親をトリオン兵に殺されているんだ。」

『あら、親を殺された人なんて沢山いるじゃない。』

「ちがう、俺の目の前で2人の親が死んだんだ。助けられなかったんだ。」

『それは罪滅しかしら。だとしたらそれはただの・・・』

「わかってる!そんなのもうわかってる。それでも俺はあいつらが1人で生活出来るまで一緒に暮らしてく。それが俺が2人の親の墓の前で誓ったことだ。」

『そう、なら仕方ないわね。背に腹も変えられないし、あなたの条件飲んであげるわ。』

「ありがとう。じゃ、いつここに引っ越す?」

『そうね・・・明後日でいいかしら?こっちも少し準備しないといけないし。』

「わかった。準備できたら連絡してくれ。じゃぁな。」

ガチャ

俺は携帯をきった。

そっか、これからは家族が増えるのか。

あいつらに許可取る前にオッケー出したけどだいじょうぶかなぁ。

ここでダメって言われたらどうしよう。

ちょっと聞いてみるか。

 

 

 

 

「八兄、急に集まれってどうしたの〜?もしかして彼女でも出来たの〜?」

「えっ!?そうなの!?相手は誰!?玲?玲でしょ、玲って言いなさい!」

「えっ、八幡お兄さん彼女できたんですか?」

「ちげーよ、そんなどうでもいい事じゃないから。だからそんな悲しそうな顔するな綺凛。俺にはお前らがいれば十分だから。」

俺はそういい綺凛の頭をポンポンと叩いた。

全く、なんで俺が彼女出来たらコイツらを集めてカミングアウトするんだよ。

もっと自然に言うわ。

「じゃー、何のために呼んだのよ。」

ようやく本題に入れる。

「実は俺のお袋と妹がここに住みたいらしい。それでそのことについて反対の奴、いるか?」

「私は特にないわ。ていうか、桐花ちゃんに娘がいたなんてね。」

こいつはお袋のことを、ちゃん呼びする。

「僕はいいよ〜。八兄が良いならそれでいいし〜。」

「わ、私も良いです・・・。」

「そうか、ありがとう。部屋は二階の空いてる部屋二つを使わせようと思ってる。」

皆から了承が出たのでそのまま晩飯の用意をし始め、比企谷家の夜が始まった。

この時、気付けば良かった。

綺凛の顔が少し暗くなっていることに。

 

 

 

 

 

翌日の体育。

今日はテニスの練習最終日だ。

次から試合形式に移行する。

先生の二人組作れは取り敢えず今日で最後だ。

俺は今日もいつもどうりに壁打ちをしょうと先生に許可を取りに行く時だった。

後ろからトントン、と方を叩かれたのだ。

誰だよ、背後霊?

いや違う、スタンドだ!

「あはは、ひっかかった。」

そう可愛く笑うのは俺の初恋の相手にして失恋の相手、戸塚彩加だ。

俺は高鳴る鼓動を抑え平常心で話しかけた。

「どうした?」

「今日さ、いつもペア組んでる子が休みやんだ。だから良かったら僕と、やらない?」

やめてその上目遣い、頬染めながら言うの、そして最後のセリフ。

圧倒的に勘違いするであろう行為を同時にやるとは、その力を操に分けてくれ。

「あ、ああ。いいぞ。俺も一人だったし。」

 

 

 

しばらくラリーを続ける事数分。

俺達はベンチで休憩している。

「やっぱり比企谷君、上手だね。」

「まぁ、超壁打ってたし。テニスは極めたって言っても過言じゃない。」

「ソレはスカッシュだよ。・・・あのね、実は相談があって・・・。」

「相談、ねぇ。」

「うん、うちの部活すごく弱いでしょ?それに、人数も少ないんだ。だから比企谷君テニス部に入ってくれないかな?」

「・・・は?」

「比企谷君、上手だしもっと上達するよ。それに、みんなの刺激になると思うんだ。比企谷君が一緒なら僕も頑張れるしさ。」

い、今なんと?

俺が一緒なら、俺が一緒なら、俺が一緒なら・・・

なんて素敵な言葉なんだ。

だがすまん

「悪い、それは無理だ。俺、放課後はほぼ毎日防衛任務あるからすぐに帰らないと行けないんだ。」

「そっか・・・そうだよね。・・・あ、じゃぁ。昼休み一緒に練習してくれる?」

「それならいつでもいいぞ。」

「ホント!?ありがとう。嬉しいよ。」

俺もその笑顔が見れて嬉しいよ。

こうして体育は終わっていった。

 

 

 



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彼と彼女は思いの外仲がいい

少し長めです。


昼休み。

今日から戸塚の練習に付き合うことになった。

戸塚は先に行って準備してると言ったので残念ながら一緒に行くことが出来なかった。

くそっ、準備なら俺も一緒にするのに。

俺はそんなことを内心で愚痴りながら靴を履き替えテニスコートに向かった。

「比企谷くんっ!」

元気なソプラノの声が聞こえた。

俺に気が付いたようで手を振っている。

ここで俺は究極の二択に迫まれてる。

その二択とは、『戸塚に手を振る』か『何もアクションを起こさずに戸塚の元に向かう』だ。

何故戸塚に対してこの二択が出たのか。

それは、俺が手を振るのは気持ち悪い、と思われるのを回避するため。

だがそのために戸塚を無視するのは心が痛む。

だから究極の二択なのだ。

だが、俺が悩んでいると戸塚が俺の腕に飛び付いてきた。

左肩にはラケットケース。

そして、右手は何故か俺の左手を握っていた。

なんでだよ。

確かに嬉しいよ、でも何か違うような・・・。

まぁいっか。

戸塚だし。

「比企谷くん、実はね今日比企谷くんの他にも2人手伝ってくれる人がいるんだけどいいかな?」

「ん、ああいいぞ。寧ろ俺がいていいのか?」

「うん!もちろん!比企谷くんがいてくれたら僕嬉しいし。」

ほんとにこの子男?

今のセリフ言われたら俺の理性が爆発する。

もう爆発していいか?

していいよね?

よし、しよう!

俺の頭の中がフィーバーしている時だった。

「あら、サボりケ谷くん。あなたはここで何をしているのかしら。」

何とか部の部長、雪ノ下雪乃と何故いるか分からない由比ヶ浜結衣が現れた。

「俺は戸塚に頼まれたんだよ。あと、部活はサボってないから。あそこに行ったのは体験入部だ。だからもう行く気は無いし、行く時間もない。お前も見ただろ、俺はボーダー隊員だ。」

「そう。ならあなたはもうあそこに行く気は無いのね。」

「ああ。そうだ、最後に聞かせてくれあそこは何部なんだ?」

「もつものが持たざる者に慈悲の心を与える。人はそれをボランティアとよぶの。・・・それがこの部、奉仕部よ。」

「そうか、なら俺にはなおさら無理な部活だな。俺は何も持ってない。俺ができるのは、ただ戦うだけだ。」

「そうね。あなたじゃ実力行使になりそうね。それはそうと、あなたはテニスの経験あるのかしら。」

「いや、ない。」

「そう、ならテニスの技術面に関しては一任してもらえないかしら。」

「ああ、いいぞ。じゃ、俺は球拾いでもするわ。」

そう言い俺はベンチに向かい歩き出した時だった。

「あら、誰が球拾いをしろだなんて言ったかしら。まずは、筋トレよ。」

え〜、筋トレかよ。

別に筋トレが嫌いな訳では無い。

寧ろ毎日やっている。

だがそれは、自分に少し負荷がかかる程度の軽い筋トレだ。

こいつ、絶対かなり無茶な筋トレやらしそうで怖い・・・。

あ、でも俺はやらなくていいのか。

これは戸塚の特訓だ。

俺が筋トレをする必要は無い。

うん、戸塚が可愛そうだが俺は応援にまわろう。

そうしよう。

「あら、どこに行くつもりなのかしら。あなたも一緒に筋トレするのよ。因みにメニューは死ぬまで走り込み、腕立て、素振り、練習よ。」

どうやら俺の予感が的中してしまったようだ。

つかなんだよ、死ぬまでやるって。

お前、それで死んだら死因なんて書けばいいんだよ。

筋トレによる過労が死因なんてやだ。

死ぬ時は天寿まっとうして孫に囲まれて穏やかに死ぬんだい。

数分後。

「13〜。」

ドテッ、戸塚が倒れた。

どうやら戸塚はここまでのようだ。

息の上がっている姿も可愛いな〜。

因みに俺の隣で由比ヶ浜もやっていた。

10回もいかないで終わったが。

2人とも終わったみたいだし、俺も終るとしますかね。

「あら比企谷くん、あなたまだ元気じゃない。私が最初に言ったこと覚えてるかしら。死ぬまでやるのよ。ああ、ごめんなさい。もう死んでいたわね。」

「いやオレまだピンピンしてるし。あとなに死んだって決めつけてんだ。この目か?この目が物語ってるのか?」

「あら、自覚あったのね。自覚があるのなら人にその腐りきった目、見せないように努力しなさい。そうね例えばその目をくり抜くとか。」

oh、この女とんでもない事言ってきやがった。

俺の一番の長所はこの目だ。

サイド・エフェクトが視力に関係するものなのだから目を取ったらサイド・エフェクトが使えなくなる。

サイド・エフェクトがなくなったら個人総合1位ではいられなくなるかもしれない。

俺はそのまま雪ノ下に対抗するべく、腕立て伏せを実行した。

 

 

「100〜、だあ!もう無理だ。流石にしんどい。雪ノ下、もう終わっていいか?」

俺は雪ノ下の許可をえるべく雪ノ下の方を向いた。

つーがなんで腕立て伏せ終わるのに人の許可がいるんだ?

そんな素朴な疑問を抱きながら雪ノ下雪乃がいた方向を見た。

しかし、そこには雪ノ下はいない。

あれ〜あいつカメレオンでも使ってるのかな〜?

そう思っていた時だった。

「いたっ!」

戸塚の声が聞こえた。

「うわ、さいちゃん大丈夫?」

由比ヶ浜がラケットを持ったまま戸塚の元に近づいた。

犯人はテメーか由比ヶ浜。

恐らく由比ヶ浜が変な所にボールを飛ばし戸塚がそれに食らいつき転んだのだろう。

それにしても俺腕立て伏せに集中し過ぎじゃね?

ずっとラリーしてるのにも気づかなかったのかよ。

「戸塚くん、まだやるのかしら。」

「うん、みんな僕のために手伝ってくれてるからね。僕がリタイアするわけにもいかないもん。」

「そう、わかったわ。」

雪ノ下はそう言うとその場から立ち去って行った。

恐らく絆創膏でも取りに行ったのだろう。

あいつの性格上途中で投げ出すなんてありえないだろうしな。

「僕、呆れられちゃったかな・・・。」

「そ、そんなことないよ。ゆきのん絶対に頑張ってる人のこと見捨てたりしないもん。」

その通りだ。

だが、その雪ノ下の性格が今仇になるだろう。

だってリア充たちがこちらに目をつけ始めてるんだもん。

特にあの金髪縦ロールなんかこっちを穴の開きそうなぐらい見てるし。

あ、やっぱりこっち来た。

「あ〜テニスしてんじゃん。テニス。」

「ねー戸塚ー、あーしらもここで遊んでいい?」

「三浦さん、僕は別に遊んでるわけじゃなくて・・・練習を・・・」

「え?何?聞こえないんだけど」

戸塚の小さすぎる抗弁が聞き取れなかったのか三浦の言葉で戸塚は黙り込んでしまう。

仕方ない、ここは俺が一肌脱ごう。

怖い人たちとは今まで何度も話してきたんだ、それに比べてこのナンチャッテ女王なんて二ノ宮さんの、いてつくはどうの足元にも及ばない。

「なあ、ここは遊びで使ってるわけじゃないんだ。ちゃんと生徒会から許可をもらって使わせてもらってるんだ。仮にここを使えたとしてもテニス用品はテニス部の備品だ。勝手に使えるものじゃない。」

どうだ、これなら引き下がってくれるだろう。

「は?何言ってんの?」

どうやらこのナンチャッテ女王様は耳が遠いようでらっしやる。そこで俺は一度ベンチに戻りあるものを取ってきた。

『ガーピーもう一度いうぞ。ここは生徒会から許可をもらって使っているんだ。使いたければ許可をとってこい。仮に使えたとしてもテニス用品は自分でもってこい。』

俺はベンチに置いてあったメガホンを使いナンチャッテ女王様の目の前で喋った。

これならちゃんと聞こえるだろう。

「は?あんたマジなんなの?あんただってラケット使ってんじゃん。」

「これはテニス部顧問に借りてきた。『練習に付き合ってくれてありがとな』って言われてな。」

これはホントだ。

これで下がらなかったら実力行使にでるしかない。

「はぁ?何言ってんの?キモいんですけど。」

「あ?オメーこそ頭にウンコみたいなの二つぶら下げてるくせに。なにそれ可愛いと思ってんの?残念ながら男の戸塚の方が可愛いわ。」

「あ、あんたねー黙って聞いてれば」

「いや、黙ってないじゃん。めっちゃ喋ってんじゃん。」

「こ、この・・・」

「まあまあ、あんま喧嘩腰になんないでさ。」

リア充筆頭の葉山がとりなすように間に入る。

「ほら、みんなでやった方が楽しいからさ。」

「悪いがコッチは楽しさなんて求めてないんだが?」

「そ、それなら俺達も戸塚の練習に付き合うからさ。運動部じゃない君よりも俺の方が動けるしさ。」

「俺、ボーダーでお前ら運動部とは比にならないくらいはげしい運動しているんだけど。」

俺はすべての言葉を言い返した。

よし、今までメディア等に対して言い返してきたのがまさかこんな所で役に立つとは。

だが、あと一息というところで

「ねー、隼人ー。何ダラダラやってんのあーし、早くテニスしたいんだけど。」

ナンチャッテ女王様降臨。

ホント何様なんだよ。

あ、ナンチャッテ女王様か。

「んー。じゃあこうしよう。部外者同士で勝負。勝った方が今後昼休みになったらテニスコート使えるってことで。もちろん俺が勝ったら戸塚の練習にも付き合う。強いやつと戦った方が戸塚のためになるだろ?」

確かにこいつの言っている事は正しい。

だが、俺は一つ納得いかないことがある。

「なあ、メリットは?」

「それは戸塚の練習につきあ・・・」

「それは戸塚のメリットだ。いいか、俺が聞いたのは俺に対するメリットだ。お前らが負けても失うものはない。だが俺が負けたらオレはテニスコートの使用権を失う。仮に勝ったとしてもそれはただの防衛戦にしかならない。さぁ、俺に対するメリットを提示してくれ。」

俺は今かなり悪い顔をしているだろう。

相手が少しでもイラつけば筋肉の動き動きがはっきりとわかってくる。

そうすればテニスで勝負した時、素人の俺でもサイド・エフェクトを使えばほぼ100%勝つことが出来るだろう。

「そうだな、なら俺が昼食1週間買うっていうのはどうかな。」

「オッケー、男に二言は無いな?じゃ、盟約に誓って・・・アッシェンテ!」

周りの奴らはポカーンとしている。

え、みんな盟約に誓わない?

俺だけ?

恥ずかしい・・・。

それによく見ると外野も増えてきた。

まぁ、一対一ならば俺にも勝機はある。

「ねぇ、隼人ー。あーしもしたいんだけど。」

おいおいおいおい、この女何てこと言いだすんだ。

このリア充筆頭葉山が断るわけがない。

考えろ〜俺。

「ならこうしよう。男女混合のダブルス。もちろん俺が負けた場合昼食1週間は2人分にする。どうかな?」

「えー隼人ー、こいつと組んでくれる奴なんていないって。」

そう!今俺が悩んでいるのはそこなのだ。

どうしようかな〜。

仕方ない、背に腹は変えられないしな。

「ヒッキー、私が一緒に出るよ!」

「いや、いい。お前運動オンチだろ。」

「な、何勝手に決めつけてんだし!確かに運動苦手だけど!」

やっぱりそうか

「ヒッキー私が組まないと一人になっちゃうんだよ!?それでもいいの!?」

「よくない。だから俺は組む。」

俺はギャラリーに向かって由比ヶ浜が持っていたラケットを投げた。

「全く、騒がしいから来てみればまさかあんたが関わっているとはね、八幡。」

俺が一番信頼している従兄弟、操がラケット片手にテニスコートに登場した。

「俺とダブルス、組んでくれるか?」

「昼食1週間ただなんていい条件じゃない。流石に毎日アンパンじゃきついでしょ。あんたが。」

「ちっ、気付いてたのか。」

「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるのよ。」

俺と操が話していると

「ねぇ早くしてくんない?」

おっと、ナンチャッテ女王様がお怒りのようだ。

 

 

 

 

 

ルールはこうだ。

てきとう!

戸塚に任せるということだ。

俺と葉山がルールを確認しあってると2人のオンナがユニフォームに着替えてきた。

取り敢えず一言。

「操、パンツ見えてんぞ。」

「いいのよ、どうせここにいる男どもはそれを願ってるんだから。」

どうやら余計な心配だったようだ。

寧ろ見せる気満々だった。

「それより、あんたサイド・エフェクト使うつもり?」

「ああ、負けることが許されないからな。」

「なら、私がどこに動くべきか指示して。その通りに動くから。」

「オッケー、任せろ。人のこと動かすのは得意な方なんでね。」

 

 

 

試合はお通夜モードで進行した。

俺のサイド・エフェクトである程度コースを絞りそこに操を動かし、他のところを俺がカバーするといった感じた。

ラケットの向き、ボールの回転、手首の返し、腕の伸ばし具合等で次の動きはわかる。

擬似的ではあるが俺は、いや、俺達は未来が分かっていた。

そんな試合は当然一度もミスなく俺達の圧勝となった。

最初は盛りたがっていたギャラリーだが徐々に静かになり終いには俺達を応援する奴まで出てきた。

試合が終わり、俺と操と戸塚、由比ヶ浜は教室に戻った。

予想道理と言うべきか教室は盛り上がっていた。

一部を除いて。

操のプレーが凄かったためかただ今絶賛褒められ中だ。

一応言っとくが操が。

そしてリア充グループは、誰もしゃべろうとしていなかった。

当然か、勝てると思ったゲームで負けたんだ。

屈辱以外何者でもない。

俺はどこかスッキリした状態で午後の授業を受けた。

 

 

 

 

あ、雪ノ下のこと忘れてた・・・

 

 

 



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彼は大事なことに気が付かされる。

少し短いです。


リア充とのテニス勝負が終わり数日後の防衛任務。

時刻は夜。

今日、この防衛任務が終わったらお袋と会う約束をしている。

出来れば今日はトリオン兵出てきて欲しくないな〜。

あと1時間もないし恐らく今日は(ゲート)開かないで終るな〜。

しかし、俺のささやかな願いは叶わず(ゲート)が開いた。

「は〜。ハロ、何体だ。」

『トリオン兵0、トリオン兵0』

は?どゆこと?

トリオン兵がいないのにも関わらず(ゲート)開いたの?

どんだけトリオン兵働きたくないんだよ。

俺が働いてるのにテメーらがサボってるのは許せん!

俺が頭の中で葛藤している時だった。

『比企谷隊に告ぐ。密航者を捕らえろ。』

この声は忍田本部長?

「一体何があったんですか?」

「わけはあとで話す。取り敢えず今は急いで密航者を捕らえろ。」

「了解。紅覇と綺凛はここで待機、操行くぞ。」

「オッケー。」

「りょーかーい。」

「はい、分かりました。」

俺と操はグラスホッパーを展開し全速力で目的地にまで駆けた。

密航者か・・・。

俺は頭がぼんやりしていた。

別に風をひいたとかではない。

密航者に心当たりがあるのだ。

あれは数日前のことだった・・・

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

「比企谷くん。」

俺は声のする方を振り返った。

普段なら振り返らないが流石にボーダー本部で比企谷の名字は俺だけだろうと思ったからだ。

「こんにちは、鳩原さん。」

二宮隊スナイパー鳩原さんだった。

この人は武器破壊を得意とする異色のスナイパーだ。

ランク戦では何度も弧月をはじかれたりスコーピオンを砕かれたりなどなん度も邪魔をされたものだ。

ま、最近じゃイーグレットやアイビスなら弧月で斬ることが出来るから破壊されることはなくなったが、攻撃の手を止めることになるからスキができる。

そこを二宮さんのフルアタックで仕留めるというなかなかイヤらしい戦法で何度も苦しめられている。

俺がしみじみしていると

「ねぇ比企谷くん。比企谷くんはさ近界側(ネイバーフッド)に行きたくたない?」

「俺は遠征で毎回行ってるんですが。」

「ふふ、そうだったね。そうだ、比企谷くん。少しお願いがあるんだけど。」

「なんすか?」

「もしかしたら少しここに来れなくなるかもしれないからユズルのこと、おねがいできる?」

「俺、スナイパーじゃないんで無理です。当真さんにでもお願いしてください。」

「比企谷くん、それじゃぁ職務放棄だよ?本部長に言っちゃおうかな〜。」

「謹んでお受けさせてもらいます。」

「ありがとう。君ならそう言ってくれると思ったよ。」

脅しておいてよく言うな。

「じゃ、私これから防衛任務だから。じゃあね。約束守ってよ。」

「ハイハイわかりましたよ。」

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

なんてことがあった。

俺の予感が外れているといいんだが。

「操、ペース上げるぞ。ついてこれるか?」

「誰にものを言ってるのよ。まだまだ余裕よ。」

俺と操はグラスホッパーを展開させる間隔を狭めた。

連続で踏むとかなりのスピードが出る。

因みにこれを応用したのが乱反射(ピンボール)だ。

『目的地まであと100m、目的地まであと100m』

ハロから通信が入った。

この距離なら俺のサイド・エフェクトで見ることが出来る。

人数は恐らく4人。

そしてその中には鳩原さんもいた。

鳩原さんはこちらに気が付いたようで一緒にいた人たちに(ゲート)に入るように促している。

俺は既に腰にある弧月に手を掛けた。

狙いをさだめているとき鳩原さんと目が合った。

「ッ旋空・・・弧月!」

悲しくも俺の放った旋空弧月は空を斬り彼方へと消えていった。

「八幡、なんであそこで躊躇したのよ。あんたなら私情と仕事の区別くらい出来るでしょ。まさか知人がいたから戸惑った、なんて言うんじゃないわよね。」

俺は無表情で話す操を無視し紅覇達の元へ戻るために歩き出した。

「比企谷、密航者はどうなった。」

俺の歩く先に風間隊が現れた。

「すいません・・・逃がしました。」

「そうか、ご苦労だった。あと今日はゆっくり休め。

酷い顔をしているぞ。」

酷い顔か・・・、確かにそうかもしれない。

俺は止められるものを止めなかった。

俺があの時しつこく聞いていれば鳩原さんは、この事について話してくれたかもしれない。

今回の件は俺の失態だ。

また、手の届く距離でつかめなかった。

結局俺は大規模侵攻(あの時)から何も成長していない、何も変われていない。

何が個人総合1位だ。

いざという時に何も出来ないじゃないか。

ならば俺がボーダーにいる意味はあるのか。

何のために俺はまだボーダー隊員になっているのか。

一体何のために・・・

「あ、八幡お兄さんーん!」

綺凛が俺に気付いたようでこちらに来た。

ああ、そうだ。

俺がボーダー隊員でいる訳。

それは、俺の家族を守るため。

それ以外に何の理由もない。

個人総合1位なんてただの肩書きだ。

俺はそんな下らない肩書きなんていらない。

ただ、こいつ等の『お兄ちゃん』としていれればそれでいい。

あ〜あ、何を悩んでたんだろうな俺は。

鳩原さん、お陰で大事なことに気付くことが出来ました。

お礼と言ったらなんですがユズルの事は任せておいてください。

だからちゃんと地球に戻ってきてください。

俺は誰に聞かせるわけでもなく夜空を見上げた。

「八幡お兄さん?どーしたんですか?急に立ち止まって。」

おっと、いつの間にか歩く足を止めてしまったようだ。

「何でもねーよ。」

俺は綺凛の頭を撫でながら紅覇のいる所まで再び歩き出した。

あ、操がいねー。

ま、いっか。

 

 

 

 

 

 

「ムキー!なんで私が手伝わないといけないのよ!」

「巻町先輩口動かさないで手を動かしてください。」

絶賛風間隊のお手伝いとは八幡たちは知る由もなかった。

 

 

 

 

 



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彼は気にかけ続ける

鳩原さんが地球から去って2時間後。

俺は全速力で走っていた。

ハァハァ、おふくろとの約束の時間かなり過ぎたな。

バイクがあれば良かったんだけど今車検に出してるからな〜。

車検に出すタイミング間違えたな。

取り敢えず今は走るだけだ。

トリオン体になれればいいけど、生憎こちらもメンテナンス中。

鳩原さんの件のあと鬼怒田さんが急に

『比企谷、トリガーを貸せ。』

って言って渡しちゃったんだよな〜。

しかもなんかニヤニヤしてたし。

お、見えてきた。

俺がおふくろとの待ち合わせ場所として選んだのは『アンブラル』という喫茶店だ。

テスト前や防衛任務までの時間潰しによく利用する。

そのせいか、店長に名前まで覚えられた。

因みに店名の由来は

『雨宿りのついでに』

らしい。

なかなか洒落た店だ。

カランカラン

「いらっしゃいませ、八幡くん。どうしたんだい?そんなに慌てて。」

「て、店長・・・。30代後半のおばさん来てない?」

「う〜ん。30代後半っぽい人は来てるけどおばさんって感じじゃないよ。」

「その日とどこにいる?」

「奥の席に三十分前ぐらいからいるよ。」

「ありがと店長。あ、あとアイスコーヒーお願い。」

「かしこまりました。どうぞごゆっくり。」

奥野席とは恐らく角を曲がったところにあるトイレ付近の席のことだろう。

いた、なんか不機嫌オーラバンバン出してるよ。

二ノ宮さんでもそこまでひどくないんだけどな〜。

あ、おふくろ二ノ宮さんの師匠だ。

取り敢えず、覚悟決めるか。

「わるい、おふくろ。防衛任務長引いた。」

よし、これならおふくろも無理に責めれまい。

「あら、自分で約束した時間、場所で遅刻するなんてよっぽど重大な防衛任務だったのね。」

はい、そのとおりでござんす。

やはり俺はおふくろに頭が上がらない。

「ああ。まさかトリオン兵が100体近く出るとは思わなくてよ、事後調査してたら遅れたんだ。」

「そう、わかったわ。それじゃあ、早速だけれども本題に入りましょうか。」

「ん、いいぞ。」

「引越しは何時がいいかしら。出来れば休日がいいのだけれど。」

「なら明後日の日曜日はどうだ。俺は防衛任務だけど操たち、他の隊員は休みだ。」

「あら、なんであなただけ防衛任務があるのかしら。」

「新人チームの防衛任務について行くんだよ。何かあった時に対処できるようにな。」

「そう、わかったわ。じゃあ、日にちは明後日の日曜日ていう事で。部屋割は操に聞けばいいのかしら。」

「ああ、二階にしてあるが嫌ならどっかに引っ越せ。」

「あら、実の母親になんてこと言うのかしら。」

「生憎あんたのことをホントに母親って思ったことは一度もないんでな。」

「あなたも言うようになったじゃない。」

俺とおふくろの口論が始まるというまさにその時だった。

「アイスコーヒーお持ちしました。」

まるで狙ったかなようなタイミングで店長が現れた。

よく見ると頬の筋肉が緩んでた。

この人、絶対に聞いてたな。

「ありがとうございます。」

手短に例を言った。

あと少しで閉店するので俺はアイスコーヒーを一気に飲み干しグラスに残った氷を口にほおばった。

口に広がる苦味がたちまち氷により薄くなった。

「ここの会計は私が持つわ。」

「そうかい、なら頼むわ。俺は悪いけど先に帰らせてもらう。妹、弟達が待っているからな。」

「あら、あなたに小町以外の兄妹がいるのかしら。」

「まぁな。俺にとって生きる希望になった存在だ。」

「ふふ、それ小町が聞いたら嫉妬するわよ。」

「しないだろ。4年近くあいつとは喋ってねーんだぞ、今回一緒に住みたいなんて言ったのはおふくろが仕事で構ってくれないからかまってくれるやつが欲しい、ってところだろ。」

「どうかしらね。」

「じゃ、今度こそ俺は帰るぞ。また明後日な。」

俺はそのまま喫茶店をでて、夜の街の人混みに消えてった。

 

 

 

 

 

 

翌日。

俺は今、影浦隊の隊室の前にいる。

理由はユズルのメンタルケアだ。

鳩原さんがいなくなったことでユズルの心はズタズタになっているだろ

う。

一応鳩原さんと約束したしな。

ちゃんとユズルを立ち直らせて1人前のスナイパーにさせる。

まあ、もう一人前のスナイパーなんだけどな。

ピンポーン

俺は影浦隊の隊室の呼び鈴を鳴らした。

『はいはーい、どちら様。』

「俺だ、比企谷だ。」

『ハチ?どしたん。』

「悪い、今ユズルいるか?」

『いるけど今はそっとしておいてくれないか?鳩原さんの件で・・・』

「俺はそのことで来た。」

『わかった。今開けるから少し待ってて。』

ウィーン

俺は影浦隊の隊室に入った。

うわ、かなり散らかってるな。

これ全部ヒカリの私物か?

女らしさの欠片も見えない。

操と同類だな。

「ハチさん、何のよう・・・。」

ユズルから話しかけてきた。

その目は赤く腫れ上がっていた。

かなり泣いていたのだろう。

ここにカゲさんがいないのは攻めてもの気遣いだろう。

「よ、ユズル。随分と泣いたみたいだな。」

「五月蝿い、黙っててよ。」

「そうもいかない。俺は鳩原さんにお前のことを頼むって言われてんだ。それにこれも俺の仕事の範疇だ。」

「どうゆうこと。もしかしてハチさんなんで鳩原さんが規定違反したか知ってるの?」

「ああ、知っている。」

「ねぇ教えてよ。俺にも知る権利はあるはずだ。」

「悪いな、それを決めるのはお前じゃない。俺達、上層部だ。」

「なんで?なんで知ったらいけないの。俺が知ったら都合の悪いの。」

「そうだな。だが、お前に知られて都合が悪くなるんじゃない。ボーダー隊員全員に知られたら都合が悪い。」

「そっか・・・。ねぇハチさん。」

「なんだ?」

「鳩原さんまた戻ってきてくれるかな。」

「ああ、きっと戻ってくるさ。いや、絶対に戻す。」

「何でそんなに言い切るの。」

「そうだな・・・俺が個人総合1位だから、じゃダメか。」

「理由になってないよ。」

「そうかい。なら、おまえが連れ戻してみろよ。」

「うん・・・。」

ふっ、どうやら一肌脱いだ甲斐があったようだ。

徐々にだがユズルに笑顔が出てきた。

まっ、元からあまり感情を表に出さないんだけどね。

俺が内心で喜んでいると

グゥ〜〜

と可愛い音がした。

見たところユズルではないようだ。

俺でもない。

となると犯人は1人だけだ。

「ヒカリ、ユズル、飯食いに行くぞ。今日は俺が奢る。」

「ホントか!?ハチ。わたし、肉が食べたい!」

「オメーには選択権はねーよ。ユズルに決める権利を与える。ユズル、なにがいい。何でも好きなの食わせるぞ。」

「なら、カレーがいい。」

「了解、んじゃ早く準備しろよ。俺は外で待ってっから。」

ウィーン

ふぅ〜、良かった。

ユズルが強い子で。

これで落ち込み続けていたら鳩原さんが帰ってきた時に合わせる顔がない。

 

 

ユズル、強く生きろよ・・・。

 

 

 

 



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彼の予感は当たりやすい

日曜日。

今日はおふくろと小町が引っ越してくる日だ。

特にワクワクやドキドキなんてしてないが、なんか胸騒ぎがする。

紅覇がいれば何とかなると思うが心配だ。

早く防衛任務終わらないかな〜。

「比企谷先輩、お待たせしました。」

サングラスを掛けた3人組が俺の前に現れた。

サングラスが3人、略して『グラ3』間宮隊だ。

「いや、待ってないぞ。俺もさっき来たばっかだ。」

俺はデートで使われるであろうセリフを言い放った。

つーかデートってなんだし。

あれか、日付を英語にしたのか。

男子と女子が一緒に出かけることをデートと言うのであれば操や綺凛と外出の多い俺はしょっちゅうデートをしていることになるのだろう。

やったね、リア充の仲間入りだ。

まあ仲間になっても省かれ続けるんだけどね。

仲間に省かれるとか悲し過ぎるな。

つまりそれは仲間になれていないということだ。

俺はリア充になっても非リア充のままでも省かれ続ける運命にある。

ま、そんなのどうでもいいんだけどね。

(ゲート)発生しました。誤差1.39です。』

さ〜て、とっとと早く終わらせてうちに帰るか。

あ〜れ〜る〜ぜ〜、止めてみな!

 

 

 

 

 

 

 

ふぃ〜、やっと終わった〜。

トリオン兵は思ってたより少なくて楽だったな〜。

トリオン兵討伐は。

トリオン兵討伐自体は素早く片付けられた。

素早く終わった代わりの代償がでかかった。

間宮隊の必殺技『誘導弾嵐(ハウンドストーム)』はかなり強力だ。

1人だけなら大した威力にならないが三人同時にやるとその威力はとてつもなく強力だ。

四方八方からくるハウンドはまるで那須の『鳥かご』を想像させるかのような動きたった。

だが、那須の鳥かごはバイパーでやるからこその物であってハウンドでは繊細ではなくなる。

バイパーは遮蔽物を避け標的を狙うことが出来るがハウンドは遮蔽物を避けながら標的を狙うなどほぼ不可能だ。

特に視線誘導ではなく探知誘導の場合は遮蔽物などお構い無しに壊していく。

そう、今日の防衛任務がまさにそれだ。

一体のバムスターに対して3人がかりでハウンドストームをやる。

そうすると自然と周りの建物を巻き込む。

街を守るボーダーが街を破壊するという謎の矛盾した組織に成り下がってしまう可能性を感じ、俺は叩き落とせる範囲でハウンドを叩き落とし、間に合わないのをシールドで防ぐなど、建物を守るためにトリオンを一割近く使った。

本来、防衛任務で特にアタッカーはトリオン消費量が少ない。

それに俺はボーダー内で一番のトリオン量だ。

そんな俺がトリオンを一割近く消費するなど珍しいを通り越し初めてと言っても過言ではないだろう。

まぁそんなところを心優しく許すのも先輩の務めだし?元から俺、優しさの原石だし?未来ある後輩を伸ばすのも俺の務めだし?

ほら、俺の優しさがわかったのか間宮隊の3人が俺の元に歩いてきてるよ。

「比企谷先輩、今度は叩き落とせないような弾道と威力を持ったハウンドにしてみせます。今日はありがとうございました。」

何もわかってなかったよ。

むしろもっと壊す気なの?

え?ボーダー隊員が街に進撃するの?

attack on border

進撃のボーダー

近日撮影決定!

みんな、絶対見てくれよな!

は〜、帰るか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜。おふくろ〜、小町〜いるか〜?」

ドタドタドタ、と階段を駆け下りる音が玄関いっぱいに響いた。

「お兄ちゃ〜ん!おかえりー!」

実の妹、小町が俺にタックルする勢いで飛びかかってきた。

俺は反射的にその場に屈む。

すると小町が俺を跳び箱にするかのように手を付き飛び越え玄関に素足で着地した。

いったーい!、と騒がしい姿は四年前と何も変わらない。

「ただいま、久しぶりだな小町。」

「うん、だから久しぶりのハグを」

「しないから。ところでおふくろは?」

「お母さんなら新しい職場に挨拶行ってくるって言ってたよ。」

「そうか、わかった。じゃ、飯食いに行くか。操たちは?」

「操お姉ちゃん達は・・・。」

小町が急に言葉を濁し始めた。

なんかやましいことでもしたのか?

「操、紅覇、綺凛、ただい・・・」

俺の言葉は最後まで言い切ることなく途絶えた。

綺凛が泣いている。

俺は初めて綺凛が泣いてるのを見た。

綺凛はいつも笑顔でい続けた。

俺も誰も泣かせないように努力し続けたつもりだ。

「おい、どうした操。何があった。」

綺凛を慰めていた操に問う。

「じ、実は・・・

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

「はじめまして、お兄ちゃんの妹の小町です!これからよろしくお願いします。」

「操以外ははじめましてになるわね。八幡の母親の桐花よ。よろしくね。」

2人が引っ越してきて自己紹介をした。

小町は八幡と違い活発で明るい子というのが第一印象だった。

それに対して桐花は八幡に似てあまり表情を崩さないというのが第一印象だった。

「小町とははじめましてになるね。小町、あなたの従兄弟の巻町操よ。よろしくね。」

「え?従兄弟?小町そんなの聞いたことないよ。お母さんは知ってたの?」

「知ってるわよ。当たり前じゃない。」

「言ってくれても良かったじゃん。何で言ってくれなかったの?」

「会う機会がないと思ってたのよ。元々、八幡や操とは合わせるつもりはなかったの。」

「なんで?」

「そのうちわかるわ。ごめんなさい、話の腰を折って。」

「じゃ〜次は僕の番だね〜。僕は練紅覇。八兄の義弟だよ〜。はい、じゃあ次綺凛。」

「は、はい。はじめまして、刀藤綺凛です。えっと、八幡お兄さんの義妹、です。」

こうして、各自の自己紹介が終了した。

1人を除いて・・・。

 

 

 

 

「じゃあ、私は新しい職場に挨拶行ってくるからあんた達仲良くやるのよ。あと小町、あんたはへやのかたづけしときなさい。」

バタン、と扉を閉める音だけが響き渡った。

その時一人の少女が動き出した。

「ねぇ綺凛ちゃん。」

「はい、なんですか?」

「綺凛ちゃんってさ誰の許可もらってお兄ちゃんのいもうとやってるのかな?」

小町が綺凛に近づき話しかけた。

「え、えっと・・・あの八幡お兄さんが『お前は俺の妹だ。』って言ってくれたので・・・。」

「ちっちっち、違うんだな〜それが。お兄ちゃんが言ったのは妹分、っていう意味だよ。お兄ちゃんの妹は小町1人だけだからね。もう、お兄ちゃんの義妹だって言っちゃダメだよ。じゃ、小町部屋の片付けしてくるね〜。」

「ヒッグ、グス、グス・・・」

ーーーーーーー

ーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーー

「てなわけよ。まさかいきなり仲が悪くなるとは思わなかったわ。小町ちゃんってあんなに嫌な女なの?」

「いや、少なくとも俺と暮らしていた時は他人を泣かすなんてことしてなかったと思うけどな。」

まさか泣いた原因が小町だとは。

別に誰が俺の妹だろうが関係ないんだけどな〜。

それにしても二人の妹に求められる兄とは、なんとも兄日和ですな。

それと逆にまさか俺が原因で妹2人が喧嘩するなんてな・・・。

喧嘩と言っても聞く限りじゃ一方的なんだけど。

「八幡、どうすんのよ。このままじゃ綺凛が可愛そうよ。あんたお兄ちゃんなんだからどうにかしなさいよ。」

「でたよ、お兄ちゃんなんだから。それ母ちゃんの決まり文句じゃねーか。たかだか数年先に産まれただけで扱いに差別を感じるんだよな。」

ほんと、俺もお兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しい!

甘やかされて育ってみたかった。

おふくろ、養子とらない?

「ふざけてないでなんか案出しなさいよ。このままじゃ家庭崩壊するわよ。」

そいつぁー、見逃せねー。

でもな〜

「案って言ってもよ2人とも俺の妹だからな、扱いに関しちゃどっちを甘やかすとかないし、どっちかを見放すなんてのも出来ないんだよな〜。時間が解決してくれるのが一番なんだが・・・。綺凛、お前はどうしたい。いや、どうなりたい。」

「グス、わ、私はヒグ、小町お姉さんとエグ仲良くなりたいです。仲良くなれるならわだじ、ばちまんおにざんのいもうどやべばず。」

「いや、妹でい続けて。なんで小町と仲良くなるために俺の妹やめるの?かなりショックなんだけど・・・。」

妹が、家族が一人でも減ったら俺生きてく自信が無い・・・。

え、親父はって?

あれはマダオだから、あんまり思いでないから。

むしろ・・・『いいか八幡。あれがレバー、あれがミノ、お、ホルモンがあるじゃねーか。』なんて大規模侵攻の時モールモッドに斬られた人を指さしながら不謹慎なこと言い続けたやつを親父っていうか?

まあ、その後天罰が下ってトリオン切れを起こして自身も斬られたんだが。

「ほら、こんなアホほっといていいから。小町のところ行って一緒に打開策を考えましょ。」

おーい、アホはお前だよ〜。

相手に相談して決める打開策があるか。

起死回生に繋がる案を敵に教える奴がいるか。

ま、あとは小町次第だな。

今日の晩飯どこに食いに行こーかなー。

ピンポーン

「はいはい、どちらさま?」

『私よ。早く開けなさい。』

ガチャ

「おかえりなさい。もう帰ってこなくても良かったのに。」

「あら、たとえ天国だろうと極楽浄土だろうと私は帰ってくるわ。」

「随分とお花畑な頭してんな。地獄に行く気は無いってか。」

「私が行くわけないじゃない。」

「そうですかい。ところで今日、晩飯食いに行くけどおふくろも行くか。」

「悪いけど私はパス。これから新しい職場の人と飲みに行くから。」

「へぇー、もう仲良くなったのか。」

「元から知ってる人よ。あなたもよく知ってる人たちでもあるのよ。」

「誰だ?つーかどこで働くんだよ。」

「あら、まだ気付かない?」

「ん?まさか・・・」

「そのまさかよ。私、比企谷桐花は本日付で界境防衛機関副本部長に任命されました。これからよろしくお願いします、ボーダー隊員代表比企谷八幡殿。」

おふくろが副本部長!?

終わった・・・。

ボーダー隊員が、特にシューター達が。

あの二宮さんですら弱音をはいた特訓をきっと全シューターにやるつもりだ。

思い出したら吐き気が・・・

 

 

 

 

 

 

 

ゲヴぉら〜〜。

結局トイレで吐いちゃった、・・・テヘッ。

 

 



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彼は〇〇を探したい

おふくろ達が引っ越してきた翌日。

朝起きたら小町と綺凛が仲良くなってた。

あなた達コミュ力高いですね。

なんでこんなに早く和解したのか操に聞くと

「なんか綺凛があんたの妹じゃなく小町の妹になる、って言ったら小町がそれでオッケーしたのよ。」

と言ってた。

まぁ、結局俺の妹に変わりはないんだが・・・

小町、それで納得するってなかなか頭が残念な気がしてきた。

我が比企谷家にバカは許されない。

綺凛は学年でも1、2を争ってるし紅覇は学年1位。

操に至っては普段の言動に反する学年3位。

世の中何があるか分からないもんだ。

それでも頭が残念なのにはかわらないが。

さっき、食パンくわえて慌てて『友子との約束の時間に遅れるー!』って言って家飛び出してったけどあのスタイルはのび太くんを連想させる。

傍から見たらバカかアホにしか見えない。

さて、俺もそろそろ学校に行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

ゴールデンウイークも過ぎ、じわりじわりと熱くなってくる今日このごろ。

昼休みともなると生徒のざわめきも暑さに比例し大きくなり、余計に暑さを感じるようになってくる。

元々、クールでハードボイルドな俺が厚さに強いわけがなく、少しでも涼く、人気の以内場所へ向かった。

適当にブラブラしてたらある事を思い出した。

確かクラスの女子が

『ねー知ってる?屋上の南京錠壊されてるんだってー。』

って、言ってた。

因みにこれは盗み聞きしたのではない。

隣の女子が大きな声で話してたのがたまたま耳に入ってきただけだから。

不可抗力だから。

ま、誰に弁明するのかわからないけど取り敢えず言ってみるか。

確かこの階段を登るとあったはず。

俺は階段を登り、机が置かれ1人通れるかどうかの隙間を抜け扉にたどり着いた。

なるほど確かに南京錠が壊れてる。

にしても綺麗に斬られてるな。

こんなのレーザーかトリガー使わないと斬れそうにもないな。

まあこんな事にトリガー使う馬鹿なんて1人しか思い浮かばないがあいつ屋上に行かないもんな。

さて、屋上とごたいめーん。

おお、静かだ。

この静けさからするとうるさい軍団はいないようだ。

もしかしたら誰もいない、俺ひとりなのかもしれない。

誰もいないと俄然元気になるのができるボッチだ。

俺は地面に座り購買で買ったパンをむさぼり始めた。

このアンパンと牛乳が俺の空腹に満ちた腹を刺激する。

張り込みをする刑事たちはアンパンと牛乳が主流だとドラマでやっていたが納得だ。

もしかしたら刑事たちもこの刺激にやられたのかもしれない。

ふー、ご馳走様でした。

俺は食い終わったゴミを袋に入れ寝転がった。

あー、空が青いなー。

お、あの雲ラピュタありそう。

ラピュタかー、俺も探しに行こうかな〜。

俺は手元にあった職場見学希望調査票に目をうつした。

将来の夢はパイロットってもいいな。

ぴゅう、っと風が吹いた。

おっと、俺の手元にあった職場見学希望調査票が飛んじまった。

紙は俺を弄ぶかのように俺からどんどんと遠ざかっていく。

もういいや、新しい紙貰おう。

俺が諦め先ほど居た位置に戻ろうとした時だった。

「これ、あんたの?」

声がした。

どことなく気だるげなその声の主をさがして俺は周囲を見渡すが、俺の周りに人はいない。

「どこ見てんの」

ハッと馬鹿にしたような声は、上から聞こえた。

まさにこれが上からものを言うというやつなのだろう。

屋上の一番上、給水塔。

その給水塔により掛かり、俺を見下ろしていた。

長く背中にまで垂れた青みがかった黒髪。

リボンはしておらずセクシーに開かれた胸元。

蹴りが鋭そうな長い足。

一言いおう、ボーダー入りませんか?

「これあんたの?」

その少女は先ほどと変わらぬ声音で言った。

リボンが無く何年生か分からないから無言で頷く。

いつだって無言は最強である。

「ちょっと待ってて。」

ため息混じりでそう言うと、給水塔から降りるため梯子を降り始めた。

そのとき。

風が吹いた。

まるで夢を運ぶような風が。

重く、垂れ下がった暗闇を晴らしてくれるようなそんな風が。

それは俺にとって未来永劫脳裏から離れることのないよう焼き付けるような風が。

そう、パンツが見えたのだ。

でかした、風。

梯子から降りた女子は紙を俺に渡す前に一瞥した。

「バカじゃないの。」

女子の冷たい言葉が俺にスパーキーング!

そう俺に投げつけるかのごとくぶっきらぼうに俺に渡した。

俺が受け取るとくるっと周り校舎へ消えていった。

俺は『ありがとう』も『バカっていうやつが馬鹿なんだぞ』も『パンツ見てごめんなさい』も『ご馳走様でした』も言えなかった。

だから俺はこう言おう。

「風よ・・・ありがとう。」

俺は今日見た黒のレースを忘れる事は無いだろう。

俺は次の授業に意気揚々として挑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

職員室の一角には応接スペースが設けられている。

そこのそばにある窓から風が入ってきて1切れの紙が踊りながら床に落ちた。

俺はその紙の行く末を問おうと紙の動きを目で追っていた時だった。

ダンっ!と鉄槌のようなピンヒールが突き刺さった。

俺はその脚を見た。

次に胸。

ここまでは良かった。

まるで名刀菊一文字のような美しさだった。

問題はその上に不釣り合いな金剛力士像のような恐ろしい形相があることだ。

金剛力士像に菊一文字、まさに鬼に金棒といった組み合わせだった。

国語教師の平塚先生はタバコをかじり、怒りをこらえてますよアピールをし、俺を睨みつけてくる。

「比企谷。私が何を言いたいか、わかるか。」

大きな瞳が放つ眼光に耐えきれず、体ごとそらした。

「まさか、わからないとでも言うまいな。」

「も、もろちんわかっておりますともです。」

なんか変な日本語になった。

それほどまでに俺は今焦っている。

恐らく原因は先ほど提出した職場見学希望調査票のことだろう。

やはり

希望する職業:パイロット

希望する職場:空港

理由:ほんとにラピュタがあるか確かめたいから。世の子供たち大人たちの夢を叶えたいから。

は、アウトだったようだ。

特に理由あたりが引っ掛かったのだろう。

「か、書き直しますんで殴るのは勘弁してくでせェ。」

「当たり前だ。全く少しも変わらんな。」

「俺は自分で決めた道をまっすぐ行くタイプなんで。」

俺は胸を張り真剣な眼差しで平塚先生を見た。

すると、平塚先生のこめかみからピシッと、音が聞こえた気がした。

「やはり殴るしかないか。テレビも殴った方が早いしな。」

「い、いや。俺精密なんでそういうのはちょっと。それに最近のテレビは薄いですからね殴ったら倒れますよ?俺のメンタルと一緒で。」

「は〜、やはりその性格は治らんか。という訳でお前には奉仕活動をしてもらおう。」

「あの〜それ、以前断ったんですが。それに防衛任務が・・・。」

「それなら許可をとっている。電話をしたら君の妹が好きにしてもいい、と言っていた。」

妹?綺凛はそんなことを言うとは思えないし、操は妹じゃないし平塚先生も知っているはずだ。

まさか・・・

「すいません、妹って誰ですか?」

「ん?確か小町と名乗っていたはずだ。」

「すいません。それなかったことにしてください。」

「む、なんでた。君の妹は母も了承してくれると思うんでと言っていたが。」

「恐らく俺の妹、小町は我が家が全員ボーダー隊員という事を知りません。おふくろは小町を戦闘から遠ざけるためにボーダーのことを言ってないはずです。」

「家族全員?君のご両親もボーダーなのか?」

「はい。俺の両親はボーダー設立時の初期メンバーです。因みに俺と操は小学生からボーダー隊員です。」

「という事は君と巻町は大規模侵攻前からボーダーだという訳か?」

「はい、まぁ信じられないでしょうが。」

「いや、信じるさ。教師が生徒を信じなくてどうする。」

随分と物わかりのいい先生だ。

生徒を信じるというのはかなり危険な行為だというのに。

この人ならヤンクミになれるだろう。

「しかし、毎日防衛任務あるわけではなかろう。週に1、2回でもいいから行ってくれないか?」

「別にそれだけでいいなら行きますけど条件があります。その条件を飲んでくれるのなら入部します。」

「条件による。」

「一つ目、俺の用事を再優先。二つ目、俺のやることに口出し無用。三つ目、居たくなくなったらすぐにやめれること。の、三つです。」

「わかった。その条件を飲もう。」

「わかりました。それでは今週の分として今日行ってきます。」

俺が席をたとうとした時だった。

「まぁ待て比企谷。まだ話は終わっていない。」

「いや、もう終わってるでしょ。職場見学希望調査票は書き直すことで一件略着しましたし。」

「それは教師としての話だ。ここからは私個人の話だ。」

「あまり長くならないのなら。あと男に振られただの愚痴もなしですよ。」

「誰が振られたと言った!まだ、付き合ってもいないわ!」

あらら、随分とおっきな声で言っちゃった。

ほら、先生方がこっち見てる。

あ、俺のクラスの担任の坂田銀八先生だ。

オレの話を聞いてくれるなかなかいい先生。

因みに死んだ魚のような目をしている。

お互いどこか親近感が湧いているのだろう。

「で、平塚先生。そんなことを大声で告白するために呼びとどめた訳じゃありませんよね。」

「言わせたのはほぼお前だろ!ま、いい。いや、よくない・・・。まあ今はいい。本題に戻ろう。比企谷、君に聞きたいことがある。」

「ものによりますね。」

「お前の意見でいい。この前のような事はまた起きると思うか?」

この前のような事とはイレギュラーな(ゲート)のことだろう。

「はい。寧ろ今まで起き続けています。今年はまだ少ない方です。」

「そうか・・・。なら校長たちと今後の事について話し合ったほうがいいな。」

「その事なんですけど実は校長に言いに行こうと思っていたんですが・・・。」

「何をだ?というか私に話していいのか?」

「どうせ先生も後で知りますよ。実は今回の職場見学、全員をボーダー本部にして欲しいということなんです。」

「は?どういうことだ。確かに大半の生徒がボーダー本部を希望していたがほかのところにも訪問したいというお前のようにふざけず書いた生徒がいたんだが。」

「別にふざけたつもりは・・・、今後前回のように俺やほかのボーダー隊員がいるとは限りません。例えば前回、A級8位の三輪隊隊長の三輪 秀次やスナイパーの奈良坂 透が不在でした。この学校には幸いA級隊員が多くいますが基本、少数しかいません。ですから今度の職場見学の際、生徒達には秘密に入隊テストを受けてもらいます。で、優秀な生徒は後でスカウトするという形で入隊してもらいます。」

「そうか・・・、だが親の反対を受けているところはどうする。まだこの街にはボーダーに反対し続ける人たちはいるぞ。」

「その時は俺や嵐山さん、外交官の人たちで対処します。ほんとに無理だったら強制はしません。親にとって子供は一番可愛いですから。」

「そうか。ならこの事をこれから校長に言いに行くのか?」

「いえ、生徒に間違っても聞かれたくないので後で内密に・・・シッ!」

背後に誰かの気配を感じた。

あれは・・・由比ヶ浜か。

どうやら今職員室に入ってきたようだ。

あの様子だと聞こえていないようだな。

「しつれいします。平塚先生に用があって来ました。」

由比ヶ浜がこちらに向かって歩いてきた。

「では平塚先生、この事は内密に。失礼します。」

俺が椅子から立ち上がり由比ヶ浜とすれ違うときだった。

「あ〜!ヒッキーここにいたんだ!平塚先生に相談したらここに来いなんて言われるからドキドキしてたけど平塚先生と話してたんだ!」

ここは職員室ですよ?由比ヶ浜さん。

五月蝿きことこの上ない。

「平塚先生、これはどういうことですか?」

「なに、由比ヶ浜が君を入部させたいらしいからな話し合わせようと思っていたんだが、その必要はなくなったようでな。」

由比ヶ浜が?

俺とこいつに同じクラスという以外に接点はないはずだが。

「もー、ヒッキーのこと探すのチョー大変だってんだからね!ヒッキーのこと知らない?って聞いたら『テニスの上手いヤツ?』としか返ってこなかったんだからね!」

俺的にはよくヒッキーで通じたなと思う。

俺ってそんなにヒッキーでとおってんの?

テニスうまいねって言ってくれたのにヒッキーなの?

ひきこもりだったらマリオテニスぐらいしか出来ないぞ。

「まーそういうわけだ。比企谷、行ってこい。」

「うす。」

今日、俺は初めて部活動に入部した。

 

 

 

 

 

 

空き教室こと奉仕部部室。

「やっはろー、ゆきのん。新入部員連れてきたよ!」

由比ヶ浜が勢いよく扉を開けた。

前の平塚先生を超える威力で。

「由比ヶ浜さん、もう少し静かに入ってこれないのかしら。心臓に悪いわ。」

「うん、ごめんね。でね新入部員連れてきたよ!」

ダメだこいつ、人の話を聞かねぇ。

「わ、わかったからそんなにくっつかないで。流石にこの時期だと暑苦しいわ。」

「あ、ごめんね。」

由比ヶ浜はしゅんとして雪ノ下から離れた。

「べつにいいわ。ところで新入部員は?」

「よ、雪ノ下。今日から週に1、2回ほどだがここに来ることになった。」

「由比ヶ浜さん、新入部員は?」

「いや、俺今言ったよね?なに?むし?それとも聞こえてない?」

「あら。え、えっと・・・ひ、ヒキガエルくんだったかしら?」

「なんでお前が俺の小学校でのあだ名知ってんだ。ストーカー?」

「あら、自意識過剰ね。私はストーキングはされたことはあるけどした事は一度もないわ。あなたと違って。」

「へいへい、そうですかい。」

あー、なんでこいつはこんなに悪口が思いつくんだよ。

一種の才能だな。

こいつ悪口学校、罵倒科しょぞくか?

専門的に学んでいるのなら勝てるはずもない。

きっとこいつの頭の辞書には主語、述語、罵倒の三つから文を作ると書いてあるのだろう。

「あ、そうだ!ヒッキー、ゆきのんメアド交換しよ!」

「え、やだ。」

「別に必要ないと思うのだけれど。」

何のために?

メールなんて防衛任務関係でしかしたことない。

因みに俺はボーダー隊員と連絡する時は基本LINEだ。

だからメアド交換を交換する気は無いのだ。

「えー、なんでー?メールできた方がいいじゃん。」

「どのへんがいいんだよ。何でLINEじゃないんだよ。」

俺は一番の疑問をぶつけた。

「だって、私スマホじゃないんだもん!」

「スマホじゃなくてもLINEできるガラケーもあるぞ。」

「うそ!?買った時そんなのお店の人言ってなかったよ!?」

いや、お店の人わざわざ言わないから。

この機種、LINEできませんよ。

なんて言う店員いたらびっくりだわ。

「そうだったんだ〜。ってヒッキー話しそらさないでよ!という訳で2人とも携帯貸して。」

なかなかこいつは強引だな。

雪ノ下に至ってはもう折れて携帯渡してるし。

「ほら、ヒッキーも!」

「あら、私だけに出させておいてあなたは出さないつもりかしら。何様のつもり?」

なんか雪ノ下少し嬉しそうじゃない?

そんなにメアド交換楽しみなの?

確かに友達のいない奴が携帯にメアドが増えるとにやついてしまう。

それがボッチの性だ。

「ほれ、パスワードはかかってねーから好きにしろ。」

「うわ、人に簡単にスマホ渡すって・・・ぶ、ぶようじん?じゃない?」

「別にいいんだよ。見られて困るのもないしな。」

「ふーん、って!ヒッキーメアドゼロじゃん!?」

「そりゃ俺メール派じゃないからな。」

「え、ヒッキーってもしかしてLINEしてるの?」

「まあな。ほれ、打ち終わったら返せ。」

「あ、うん。」

なんだこのスパムメールと間違えそうな名前は。

ガハマに変えておこう。

「うわっ・・・。」

と、急に由比ヶ浜は顔をしかめた。

え?そんなにガハマ気に入らなかった?

俺的にはかなりいいと思うんだけどな。

「比企谷くん。由比ヶ浜さんに卑猥なメールを送るのはやめなさい。」

「いや送ってねーよ。」

「そうだよゆきのん。それに多分ヒッキー関係ないよ。だってクラスのことだもん。」

「そう、なら比企谷くんは無実ね。」

「最初から言ってんだろ。」

その時だった。

コンコン、とノックする音が聞こえた。

これが俺達奉仕部3人の初仕事の合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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彼女は13?

奉仕部部室。

「おじゃまします。」

余裕を感じさせる涼し気な男の声。

本来であれば部活動としての活動が終わっている時刻。

既に帰ることを考えていた俺は帰宅時間を引き伸ばした男を恨みがま強い目で見た。

そこにいたのは本来ここにいてはいけない人間がいた。

イケメンだ。

こいつをイケメンと言わなければ誰をイケメンと言おうかというレベルのイケメンである。

そのイケメンは俺と目が合うとにこりと笑う。

この前の事根に持ってないのかな?

イケメンは器が広いですな〜。

するとイケメンは雪ノ下の方に向き直した。

「こんな時間に悪い。ちょっとお願いがあってさ。」

肩にかかったエナメルを床に置くとそいつはそれが当たり前のように「ここいいかな?」と軽く断りを入れて雪ノ下の正面にある椅子に座った。

そんな仕草のひとつひとつが実に様になっている。

「いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえなくて。試験前は部活休みになっちゃうから、どうしても今日の内にメニューをこなしておきたかったみたいなんだ。ごめん。」

必要とされてる人間はそういうものだろう。

え?なんでボッチの俺が分かるかって?

俺だって必要にされているからな!

個人総合1位で上層部の人間なんだ、当然必要とされる。

さっきだって木虎からLINE来て『学校が終わり次第、隊室に来てください。』と、簡潔なLINEが来たのだ。

後輩に頼られる、なんて嬉しいことなんだろう。

それがたとえ雑用でも・・・。

ま、こいつは俺とは違うのだろう。

戦力としてではなく葉山隼人を必要としているのだろう。

「能書きはいいわ。」

快活に話す葉山に向かって雪ノ下が遠慮なく言った。

心なしかいつもより刺がある気がする。

まあ、いつもがどれくらいなのかよく分からないが。

「何か用があったからここへ来たのでしょう?葉山隼人くん。」

雪ノ下はまるで声音に温度を付けるのなら絶対零度と言っも過言ではないほどの口調で言い放った。

そんな態度でも葉山は笑顔を崩さない。

「ああ、そうだった。平塚先生に悩み相談するならここだって言われてきたんだけど・・・。」

ああイライラする。

相手の本質を分かっていながら顔色一つ変えない顔。

自分の考えている事を悟らせない喋り方。

そして、しゃべる度に窓から風が吹き込んでくる。

何こいつ。

風を操れるの?

こいつの先祖風なの?

「遅い時間に悪い。結衣もみんなもこのあと予定とかあったらまた改めるけど。」

「や、やー。そんなの全然気を使わなくていいよ。隼人くん、サッカー部の次の部長だもんね。遅くなってもしょうがないよー」

由比ヶ浜が俺らを代表して言った。

だがそう思っているのは由比ヶ浜だけだろう。

俺は木虎に呼び出されてるし、雪ノ下なんかさっきからピリピリしてるし。

「悪いが俺はこの後用事あるから詳細はメールで送ってくれ、由比ヶ浜。」

俺は床に置いていたカバンを肩にかけ、その場から離れようとした時

「まちなさい比企谷くん。あなたに用事なんてあるのかしら。あなたがここにいるという事は今日は防衛任務もないはずよ。」

「呼び出しだ。これでも一応顔が広いんでね。」

「そう、わかったわ。帰っていいわ。」

「サンキュー、じゃ。」

俺はそのまま奉仕部部室を出て廊下を一人歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー本部。

俺は今木虎から呼び出されたから嵐山隊の隊室に向かっている。

嵐山隊で処理できないほどの仕事なんてやりたくないでごじゃる。

どうしよ。

バックれようかな〜、バックれてもいいよね、強制じゃないし。

よし、バックレよー!

俺はその場で周り右をするために右足を引いた時だった。

右足を踏まれた。

別に踏まれただけならいい、力ずくで払えばいいだけなのだから。

なら何故しないのか。

答えは、背中にあってはいけない感触がするからだ。

背中にある感触で形を確かめると恐らくガンナートリガーと推測される。

さらに、この形だと使う人物が絞れる。

犯人は・・・木虎 藍だ。

このワイヤーを出すことが出来るトリガーは俺の知る限り木虎しかいない。

犯人がわかると次第に腕を上に挙げ、振り返ろうとした時

「動かないでください。」

かなりご立腹な声がする。

「あ、あの藍ちゃん・・・?」

俺はいつもとは違う呼び方で呼んでみた。

それほどにまでパニクってる。

「藍ちゃんではありません。私は・・・殺し屋木虎サーティーンです。」

殺し屋木虎サーティーン・・・だと。

誰だよ!?

俺はサイド・エフェクトを使い目だけで木虎サーティーンの顔を見た。

その顔には整った髪、眉間にシワ、そしてグラサン。

いかにもゴルゴサーティーンをイメージさせる様な格好である。

「あ、あの木虎サーティーンさん。この状況はいったい・・・。」

「口を開けないでください。そしてこれをつけてください。」

木虎サーティーンは俺にアイマスクを渡してきた。

ま、まさか・・・俺がこれをつけている間に殺るということか。

俺は言われるがままアイマスクを付け木虎サーティーンに引っ張られて行った。

まだかな〜、目をつぶると恐怖心も出てくるし、方向感覚狂うし、自分の歩幅も曖昧になるから早くアイマスク取りたいな〜。

「アイマスクを外してください。」

俺の願いがかなったのか木虎サーティーンはアイマスクをとることを許可してくれた。

辺りを見渡すとここは個人ランク戦ブースだった。

俺は木虎サーティーンの方を向くと木虎サーティーンは木虎 藍に戻っていた。

「比企谷先輩、私とランク戦してください。」

木虎が頭を下げお願いしてきた。

こんなことしてまでランク戦したいのかね。

木虎サーティーンなんてならなくてもやってあげるのに。

「別にいいぞ。今日は暇だしな。それにいいものも見れたしな。」

「え、いいんですか!?もっと手こずると思っていろいろな作を考えていたんですが・・・。」

「もしかして仕事手伝えってのも嘘?」

「いえ、それはホントです。私が勝ったら手伝ってください。」

「それじゃあ俺仕事しなくていいじゃん。」

まだルーキーの木虎には負ける事は無い。

「舐めないでください!」

「舐めてねーよ。それでも経験の差は埋められてないだろ?だからハンデをやるよ。」

「そんなのいりません。本気でやってください。」

「もちろん本気でやる。俺の言ってるハンデってのは俺の使用するトリガーをスコーピオン二本だけにする事だ。どうだ、これならお前のためにもなるだろ。」

「わかりました。ではお願いします。」

「おう。じゃ俺112にいるから。ステージは好きにしていいぞー。」

「ハイわかりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ランク戦。

どうやらステージは市街地Aのようだ。

ここなら銃撃戦にはもってこいだしな。

木虎は俺のことを本気で潰すようだ。

当然、俺も本気でやるがな。

俺は両腕からスコーピオンを出した。

形状は刀の様だが短く反りがない。

忍刀といわれる刀の一種だ。

俺はスコーピオンを使う時は必ずこの形にする。

この形状には利点がある。

一つ目は大きさだ。

スコーピオンは大きくなればなるほど脆くなる。

だから短くすればある程度は相手の攻撃をしのげる。

二つ目は握りやすさだ。

握りやすさによって違和感を消すことが出来る。

俺は基本孤月を使っている。

そのせいか、孤月と同じ形じゃないと戦ってる最中違和感しかなく落としてしまうこともあった。

このふたつは恐らく弧月を使っている俺だけの悩みだろう。

弧月に慣れすぎると頑丈さ、握りやすさが大幅に違うため定期的に鍛錬を積んでおかないといざという時に使い物にならなくなる。

だから俺は木虎との個人ランク戦でスコーピオンだけといい機会だったから言ったのだ。

ま、木虎本人がどう受け取るかだけどな。

恐らくイラついているだろう。

何でわかるかって?

だって本人が鬼のような形相でこっちに迫ってるもん。

「おいおい木虎、俺に真正面から突っ込んできて勝てると思ってんのか?」

「いいえ。思っていません。正面がダメなら・・・」

木虎がそう言うと横に飛び退いた。

本来であれば地面に激突する筈だが木虎の体は宙に浮いていた。

否、立っていた。

スパイダーだ。

にゃろ〜、俺のところに来るのが遅いと思ったらスパイダー設置してやがったのか。

しかも、俺に気付かれないよう少しの音も立てずに。

木虎は俺の周囲に張り巡らされたスパイダーを次々に踏み擬似的なピンボールをし始めた。

こんな動き初めて見るな。

ほんと、こいつの成長スピードには下を巻く。

木虎は跳びながらガンナートリガーで撃ってきた。

こりゃ緑川のピンボールよりタチがわりーな。

けどな・・・

「それで勝てるほど俺は甘くないぜ。」

俺の周囲に無数の刃が生えた。

その刃は木虎の踏んでいたスパイダーを次々に切り裂き最終的には木虎はバランスを崩し落下した。

当然俺はそのスキを見逃さない。

だが、近づいて撃たれる可能性もあるから俺はモールクローで木虎に止めをさした。

『戦闘体、活動限界。ベイルアウト。』

木虎はベイルアウトし俺の勝ちが確定した。

 

 

 

 

 

 

 

その後29本やらせれ記録は俺が全勝で幕を閉じた。

木虎〜、勝つまでやるって言うなら早く勝って・・・。

 

 

 

 



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彼は呼んでもらえた

結構短いです


木虎とのランク戦の翌日の昼休み。

俺は今学校の机に突っ伏している。

別に今日は天気が悪いわけでもない。

ならどうして俺がこんなところにいるか、理由は簡単だ。

昨日由比ガ浜から依頼内容についてのメールが来た。

内容はこうだ。

『依頼内容はとべっち、大岡くん、大和くんに関するチェーンメールだよ。葉山くんは犯人を特定しないで解決して欲しいんだけど、ゆきのんは犯人を特定する気満々なんだ。ねぇヒッキーならどうする?あ、あと依頼については私がやるから。ヒッキーこういうの苦手でしょ?だから、手出さないでね!』

と、なかなか面倒くさそうな依頼内容だった。

チェーンメールってなに?俺回ってきてないんだけど。

あ、このクラスで由比ヶ浜以外のメアド持ってなかったんだった。

いやー納得。

流石に由比ヶ浜だけに任せるのも悪いと思い俺も会話を見る。

サイド・エフェクト発動

どうやら今話しているのは部活の危険性のようだ。

うわー、すげーどーでもいー。

こちらは何も起こってなかったようなので由比ヶ浜の方を見る。

なんか好きな人の話になってるんだけど・・・。

見なかったことにしよ。

俺はこれ以上見る必要が無いと決め寝る体勢に入った。

 

 

 

 

 

 

 

5分か、10分か、はたまた数秒か、どれほど経ったのかわからない。

まだ俺の意識がはっきりしていない時

「・・・やくん、比企谷くんってば」

どこからか天使のささやきが聞こえる。

まだ寝ぼけてる俺の視界で小さな手が振られてる。

んっ、なんだと思い目をこすると俺の前に戸塚が座っていた。

「おはよ」

今は昼だが戸塚に言われるのなら、俺はいつでも戸塚の時間に合わせる。

「・・・毎朝俺の味噌汁作ってくれ。」

「え・・・ええ!?ど、どういう・・・。」

「あ、いやなんでもない。寝ぼけてた。」

危ねー、うっかりプロポーズしかけちまった。

まず、お付き合いしてからお義父さんとお義母さんに挨拶してからにしなきゃ。

「あんたの味噌汁くらい言ってくれれば私が作るわよ。」

あれ、戸塚ってこんなに勢いのある声だっけ?

俺は声のするほうを向く。

するとそこには操がいた。

「お前の作った味噌汁一度だけ飲んだだろ。そんとき、具入ってなかったじゃねーか。」

「な・・・あれから勉強したのよ!・・・あんたの作り方見て。」

「見ただけじゃねーか。実技はねーのかよ。」

こんな馬鹿げだ会話を見て戸塚が

「ふふ、二人とも仲いいね。なんか羨ましいなー。」

「ま、家族だからな。それで、なんか用?」

「ああ、そうだった。」

戸塚はなにかに気が付きぱんと手でも打つように両の手のひらを合わせた。

「比企谷くんは、もう職場見学の場所決めた?」

「いや、まだだ。どっかの班に余ったら入れてもらうつもりだからな。」

実際、決めてもボーダーになるんだが。

べ、別に自分から余ってるだけなんだからね!

みんなに省かれてるわけじゃないんだからね!

まさかの二連続。

「それじゃあさ・・・僕と一緒に行かない?」

「喜んで!」

俺は気がつくと戸塚の手を握っていた。

これが恋の始まりなのか・・・

「八幡、いつまで男のて握ってんのよ。キモチワルイ。握るんなら玲の手にしなさい。」

「うっせーなー操。そんなんだから彼氏に振られるんだぞ。」

「なっ!なんであんた知ってんのよ!」

「俺のサイドエフェクトが見たからな。」

「じゃ、じゃあ分かれた理由も知ってるの?」

「いや、そこまでは悪いと思ってな、見てねーわ。」

「そ、そう・・・なら良かった。」

そういえば、友達ってのは気軽にファーストネームを呼ぶものと俺は理解している。

現に俺と操の関係性を知らないやつからしたら友達に見えてるのかもしれない。

・・・そんなんで友達になれるんならいくらでも試してるっつーの。

でも、ものは試しだしな〜、少し試してみるか。

実際、ファーストネームで呼ぶことで友達とまではいかずとも人間性は変化する。

「彩加」

「・・・」

俺がファーストネームで呼ぶと戸塚は固まった。

大きな瞳を2、3回瞬かせて口をぽけっと開けている。

ほら、やっぱし仲良くなれねーじゃーねーか。

・・・謝るか。

「ああ、悪い。今のはわす・・・」

「嬉しいな。初めて名前で呼んでくれたね。」

「なん・・・だと・・・」

戸塚は少し目をうるませながらニッコリと微笑んだ。

おいまじかよ、俺のリアルが充実し始めてるよ。

「ぼ、僕もヒッキーって呼んでいい?」

「それは断る。」

なんでそっちにいく。

そんな不名誉なイメージがつきまとう呼び方をしてくるのは今のところ1人しかいない。

俺が断ると戸塚は幾分か残念そうな表情をしてからんんっと喉の調子を確かめてから再チャレンジした。

「じゃあ・・・八幡?」

ズッキューン!

俺のハートが飛び出た。

「も、もう3回プリーズ。」

「・・・八幡」

照れながら

「八幡?」

きょとんとした表情で

「八幡!聞いてるの!?」

ちょっと拗ねた感じで。

「あ、ああ悪い。少しボーッとしてた。」

「もー、しっかりしてよね八幡。」

「ああ、悪かった。」

そんな時だった。

俺と戸塚の微笑ましい空間を壊すようなやつがこちらに向かい始める。

な、なんでテメーがこっちに来る!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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彼は無自覚な将軍?

昼休み。

戸塚と喋っていると奴が来た。

俺にとって奴は天敵だが、奴にとっては俺はそのへんの石ころにしか見えてないだろう。

そう、奴の名はリア充のトップ、葉山隼人。

ほんと、何しにきたんですかね〜。

「・・・んだよ。」

冷やかしに来たの?

それとも戸塚のこと狙ってるの?

悪いが戸塚の事は俺がもう予約済みなんでな他あたりな。

「いや、なんかわかったかなって思ってさ。」

「由比ヶ浜に聞け、由比ヶ浜に。昨日俺いなかっただろ。」

「結衣が君にメールしたって言ってたよ。」

「あー、あれだ。アイツのメール内容俺には理解不能なんだよ。」

「はは、いつかなれるさ。俺も最初はそうだったからな。返信に困ってたよ・・・。」

どうやらリア充の王様でもアイツのメールは読解できなかったようだ。

つーかなに?あのヒエログリフみたいなの。

今どき流行らないぞ?

流行ったの約1900年ほどだけど。

「それで、分かったか?」

「いいや・・・。」

分かったことといえば、眼鏡をかけた女子の名が海老名さんというのと、海老名さんが腐女子だということだ。

あ、あと大岡が筆おろしが済んでいないことぐらいかな?

そう思い大岡たちの方を見ると意外な光景が広がっていた。

3人ともケータイを弄ったり、ボケーとしていて時折葉山の方をちらっと見る。

なるほど・・・そういうことか。

これなら依頼主の意に沿って依頼を解決できるな。

「どうかした?」

怪訝な顔で葉山が聞いてきた。

「ああ・・・、なんてことだ・・・謎が・・・解けて、しまった・・・!」

推理ショーはもちろん、Bパートからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

Bパート、奉仕部部室。

放課後、奉仕部部員3人と葉山が集まった。

「どうだったかしら?」

雪ノ下が俺と由比ヶ浜に報告を求める。

由比ヶ浜はえへへと笑い

「ごめん。一応女子に聞いたけど全然わかんなかった。」

まず、お前の調査の基準を知りたいぞ、由比ヶ浜。

なんで開口早々恋バナになるんだよ。

関係ねーじゃん。

もっと上手く相手を誘導しなきゃ欲しい情報は聞き出せねーっつーの。

「一応聞くけれど比企谷は?」

「なんで一応なんだよ。」

「あら、あなたじゃ誰にも話しかけれないと思って、私なりの配慮よ。感謝して早く答えなさい。」

「はいはい、わかりましたよ・・・結論から言って葉山の望む解決方法を1つ思いついたんだが、思いついたまでの過程、聞きたい?」

「勿体ぶってないで早く言いなさい。」

なんであなたはそんなに上から物を言うんですかね〜。

部長っていっても歳変わらないでしょ。

カースト社会において俺もお前も大して変わらんでしょ・・・。

「へいへい。じゃあ言うぞ。耳の穴かっぽじってよーく聞け。まず、あの3人の共通点からだ。なんだと思う?」

「みんな男子?」

流石由比ヶ浜、アホらしい答えだ、満点レベルの。

「そうだが違う。答えはあの3人の教室での立ち位置だ。」

「立ち位置?」

葉山よ、お前が一番関わってるのにまだ気づかないのか・・・

「そうだ、例えばだが、F組の男子が全員武士だとしよう。当然、そこには将軍がいる。そしてその下には将軍の直属の部下達がいる。さあ、問題だ。この立ち位置を説明しろ、葉山。」

「お、俺?・・・立ち位置か・・・俺は、みんな平等だと思ってるよ。」

「はい、ブー。なーに甘っちょろい考えしてるんだ。平等なわけねーだろ。お前から見て俺とお前は平等か?」

「あ、ああ。俺はそう思ってる。」

「お前の頭ん中ホントお花畑だな・・・。平等なわけがない。この前の事忘れたのか?あのナンチャッテお嬢様がテニスコート奪おうとしただろ。」

「な、ナンチャッテお嬢様?ゆみこのことかい?」

「ゆみこ?・・・多分それであってる。そのナンチャッテお嬢様は何故俺達からコートをとろうとした?」

「それはゆみこがテニスをしたかったから・・・」

「ちがうちがう、なんで俺達から・・・なんだ?」

「君たちから・・・?」

「そうだ。仮にアソコにいたのが校内人気ランキング上位にいる練紅覇だったらどうする。」

「どうって・・・君たちとの時と同じでテニスコートを使わせてくれって・・・」

「違う、あいつは俺らより自分の方が上だと思ったから俺達からコートをとろうとしたんだ。ほんと、何を基準にして俺を見下してんのかね・・・。これでも勉強は学年1位だし、ボーダーにも所属している。俺はあいつに劣ってるとは思ってなかったんだがな〜、葉山なんでか知らない?」

「い、いや知らない・・・。」

なんでそんなに苦い顔をすんのかね・・・俺なんか悪い事言った?

それとも、心当たりでもあるの?

どうせならこいつの図太い精神をここで少しでも削っとこうかな。

そう思い、次の言葉を発する時だった。

「ひ、ヒッキー。話それてるよ。それに、わ、私、さっきの話の続き気になるな〜、なんて・・・。」

「・・・悪い。」

ちっ、由比ヶ浜に救われたな葉山。

「話を戻すぞ。まず将軍だがこの地位には葉山、お前がついている。」

「お、俺が?」

こいつ無意識なのか・・・?

「次にお前の直属の部下は戸部、大岡、大和の3人だ。あとのメンバーは雑兵、あしがる程度に考えとけ。」

「あら、あなた自分の事を下だと気が付いていたようね。でも残念。あなたは虫がそれ以下よ。ゴキブリヶ谷くん。」

「なら、俺を見たらあと俺が29匹いると思えー。」

「ずいずんと気持ち悪いわね。考えただけで悪寒がするわ。」

「うるせっ、また、話がそれちまったじゃねーか。でだ、時に将軍は部下達の会議を見たことがあるか?」

「それは当然将軍なら見るだろう。」

「なら、将軍のいない会議は見たことがあるか?」

「い、いや・・・。」

「そう!自分がいないのに会議は見ることが出来ない。それが今のお前のグループの状況だ。」

「そ、そうか・・・。なあ、あの3人を仲良くさせる方法はないのか?」

「多分俺の案を採用すればなることも不可能じゃないぞ。」

「頼む・・・俺に教えてくれ。」

「いいぞ、それはなーーーーーーーー」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

教室の黒板にはクラスメイトの名前が羅列されていた。

それぞれ3名ずつ一塊になって書かれたそれらは職場見学のグループを表している。

ま、今回は全員がボーダー本部に行くことになっているから班わけなど意味が無い。

それを聞かされたのはちょうど昨日のSHRでのことだった。

担任の坂田銀八先生がいつも通りに気だるそうに

『はい、職場見学での希望でボーダー本部が5分の4ほどいたんで全員ボーダー本部になりました。異論があるやつは来るなよ。レポート書かされるけどな。』

と言っていた。

なーんで皆さん和気あいあいとして班決めしてるんでしょうね〜。

結局みんなで行動するというのに。

俺はそんな行動をボーッと眺めていた。

俺は戸塚と班を組んでいるため焦る必要がない。

俺は黒板の名前を上から順に見ている。

俺と戸塚の班はまだ1人足りないため、あぶれた奴を入れるため探している。

ちょうど今名前を書いているグループがあった。

見覚えのある3人だ。

チェーンメールの被害者?達だ。

3人は名前を書くとお互いの顔を見てちょっと照れくさそうに笑った。

そこに将軍、葉山隼人の名前はない。そ不意に声をかけられた。

「ここ、いい?」

そいつは俺の返事を待たずに俺の前の席に座る。

「・・・なんか用か。」

俺から会話をきりだす。

「いや、礼を言おうと思ってな。おかげで丸く収まった、サンキュ。」

「俺は何もしてねーよ、実行したのはオメーじゃねーか。」

「そんなことないって。ああ言ってくれなきゃ俺も動けなかったし、あいつらは多分今もまだ揉めてるだろうし。」

「もめる必要はねーだろ。どうせ全員同じ場所に行くんだ。好きなやつと一緒に行動するに決まってらぁ。」

「はは、そうかもね。」

「たく、お前のおかげで昨日の俺の昼休みがパァになっちまってんだ。いつか償えよ。」

「なら、今日のお昼ご飯のアンパン奢ってやるよ。」

「いや・・・メロンパンでお願いします。」

「ああ、いいぞ。」

「それで、今回のことお前はどう思った?場合によっちゃまた起こりうる可能性があるぞ。」

「俺、今までみんな仲良くやれればいいって思ってたけどさ、俺のせいでもめることもあるんだな・・・。」

どうやらこいつはこいつなりに解を出したようだ。

葉山は、自分の友達、グループを守るために解決策を求めて奉仕部に来たのに俺が葉山に与えた解は葉山だけが辛くなる選択肢だった。

「俺があいつらと組まないって言った時は驚いてたけど、これきっかけにあいつらが本当の友達になれたらいいなっておもうよ。」

「・・・そーだな」

ほんとここまでイイヤツだとなんかの病気だろ。

嵐山さんでさえここまでは言わないぞ。

「ありがとう。それでさ、俺、まだグループ決まってないんだけど俺を君たちの班に入れてくれないかな?あいつらにはもう班決めてるって言っちゃったし。」

「別にいいが・・・カレーパンな。」

「君はホントに容赦ないね。」

「バーカ、学校問題になるようなことを二つも解決してんだ。これくらい当然だっつーの。」

「ホント、君って一体なにものなんだ?」

「ただの通りすがりのボッチだ。覚えとけ。」

「忘れられそうにないな。」

葉山はどこか嬉しそうに口元を緩めた。

なんだよ、俺みたいなのにこんな表情するのボーダー隊員除いたら初めてだぞ。

ホントこいつはいい人すぎる。

だから俺も気持ちがられない程度に微笑み返した。

 

 

 

 

 

あ、明日チームランク戦じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、チームランク戦


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彼らのランク戦

今日は今シーズン初のランク戦だ。

今日の相手はA級暫定8位の三輪隊と暫定7位の加古隊。

確か解説は東さんと弾バカこと出水だったはず。

そろそろ時間かな。

 

 

 

 

 

比企谷隊隊室。

「作戦は頭に入ってるな?」

「当たり前じゃない。」

「バッチリだよ〜。」

「はい!」

「よし、じゃ各自イメージトレーニングでもしとけ。」

 

 

 

 

「時間となりましたのでA級ランク戦を始めたいと思います!本日の実況は私、海老名隊オペレーター武富桜子です!解説にはB級暫定8位の東隊隊長東さんと、A級暫定2位の太刀川隊シューター出水さんにお越しいただきました!」

「どうぞよろしく」

「よろしく。」

武富の解説でランク戦が始まる。

東さんがいればちゃんとした解説になるな。

「今日のランク戦、三輪隊、加古隊、比企谷隊の三つ巴ですが、どう考えますか?」

「三輪隊にはスナイパーが2人、加古隊にはシューターとトラッパーが1人ずついますから、そういう点では比企谷隊は見ただけなら不利ですね。」

「確かにそっすね。ま、比企谷ひとりいれば状況なんて簡単にひっくり返るけど。」

「さあ、スタートまであと僅か。全部隊転送開始です!」

 

 

 

武富の声と同時に転送された。

お、これは・・・雪か・・・。

そういや、今回のステージ選択権は三輪隊にあったな。

うちの隊と黒江の機動力を削りに来たか。

ちょうどいい・・・アレ(・・)を披露するか。

ならとっとと行動に移すか

「ハロ、スナイパーが行きそうな場所を教えてくれ。」

『了解、了解』

よし、うちのオペレーターは優秀だし、少ししたら分かるだろう。

こっちはこっちでやれることをやりますか。

レーダーを見ると2人がこちらに近づき、1人はあまり遠くないところにいる。

これは、俺の間合いだな。

俺は腰の2本の弧月を抜刀した。

2本とも同じ方向に刃を向くように構える。

腰を落とし・・・

「・・・旋空弧月。」

俺の放った旋空は俺を囲うように円を描きとんでいった。

俺の旋空弧月は全アタッカーの中で一番の射程を誇る生駒っちさんと同等レベル。

その最高射程のおおよそ40m・・・だと思う。

旋空の射程アップ性能は効果時間と反比例する。

詳しい事は分からないがこれは俺と生駒隊隊長の生駒っちさんと発見したことだ。

近くに敵がいる時は使えないのが難点だ。

周りには建物が高く連なってるが

「斬れば関係ない」

俺の呟きと同時に建物が地面に崩れ3つの光が空に飛んでいった。

「ハロ、誰が落ちた?」

『米屋、黒江、操、米屋、黒江、操』

え、うそ・・・操ごと斬ったちゃったの?

味方斬るとかアタッカーの恥じたな・・・。

『ちょっとー!なんで私も一緒に斬るのよー!?』

「わ、悪い。まさかあそこにいるのが操とは思わなくて・・・。」

『言い訳無用よ!あんた最初に私と合流しろって言うから向かってたのに!』

「ま、まあいいじゃねーか。米屋と黒江倒したんだから。あとは3人で何とかするから・・・。」

『わかったわ・・・ならあと2点取りなさい!そうしたら許してあげる。』

「オッケー、どうせあと2人落とす予定だったんだ・・・ハロ、マーク終わったか?」

『終わった、終わった』

「よし、早く送ってくれ。紅覇と綺凛が心配だ。」

『了解、了解』

ハロからマークされたポイントが送られた。

ここからなら向かいのビルに登るべきだな。

俺はスコーピオンの代わりに入れてきたバックワームを付け移動する。

 

 

 

 

 

 

ついたついた。

サイドエフェクト発動

俺の視力があれば・・・いたいた。

お、あれは・・・喜多川か?

アイツを残しておくのは少々危険だ。

これ以上トラップを仕掛けられるわけにはいかないしな。

俺は弧月の柄の下の方を片手で持ち、もう片方の手を前に突き出した。

その突き出した手に弧月の刀背を置き構えた。

そう、この構えは牙突だ。

射程距離が40mと、シューターに比べたら短いがここからアレ(・・)を使えば充分届く。

「グラスホッパー!」

俺はバックワームを解除し先程までいたビルからグラスホッパーを踏み飛び出した。

どうやら急にレーダーから現れたせいで喜多川がこちらに気付いたようだ。

でも、遅すぎるぜ喜多川。

「旋空弧月!」

俺の本日2発目の旋空弧月。

俺の放った旋空弧月は弾丸のようなスピードで喜多川の頭を貫き、1つの光が空に飛んでいった。

流石、牙突。

昨日、るろうに剣心見といてよかったー。

あとは飛天御剣流を覚えれば、きっと忍田本部長にもおふくろにも勝てるな。

俺は再びバックワームを起動しその場から離れた。

うーん、なかなかお目当ての人が見つからないなー。

 

 

 

 

 

 

 

俺は今マークされた2つ目のポイントに来た。

すると・・・

「っ!あぶねー。今の・・・イーグレットか?」

弾丸が飛んできた。

俺は弾丸の飛んできた方向を見る。

あの髪型・・・奈良坂か。

よーやくお目当ての人物はっけーん。

俺は奈良坂の元に向かうべくバックワームを解除しグラスホッパーを起動する。

奈良坂もその場から離れ始めた。

「まてー!大人しく俺に斬られやがれ!奈良坂!」

俺は柄にもなく大声を出して奈良坂に呼びかける。

奈良坂のことだ、何か考えがあるのだろう。

俺に見つかるような狙撃。

そうだな・・・例えば

バンっ!

「ビーンゴ」

飛んでいる俺を撃ち落とすための囮・・・だったり。

俺は放たれた弾丸を体を捻りながら斬り落とした。

斬っただけなら当たる可能性がある。

だから、斬ると、押すを同時にしなければならない。

超高等テクニックなのだー。

「紅覇、綺凛。スナイパー2人頼めるか?」

『オッケー。』

『大丈夫です。』

「よし、頼んだぞ。俺は三輪と加古さん倒しに行くから。」

加古さんや三輪、そして俺は東さんに戦術を教えてもらった仲だ。

その中でも加古さんと三輪、後ここにいない二宮さんは初代東隊のメンバーだ。

そのせいか、加古さんと三輪は似たような作戦を立てることが多い。

おそらく、俺が今走ってる時にでも・・・

ヒュー

ハウンドや

バンバン

レッドバレットで襲撃してくるんだろうなー。

つーか、2人とも同時に出て来ないでよ。

加古さん、あなたシューターでしょ。

隠れながら攻撃しないの?

「あら、奇遇ね、三輪くん。」

「加古さん、今回は勝たせてもらいます。」

「あのー2人とも話すなら、俺に対して2人同時に攻撃しないでくださいます?」

「あら、全部避けてるから余裕なのかと思ったわ。」

「比企谷、いい加減当たれ。俺のトリオンが無くなる。」

2人はそういうが俺は今避けるので精一杯なのだ。

2人とも俺との間合いを詰めて旋空を使わせないようにし、いざ斬ろうとすると打ち合わせでもしたの?っていうレベルで同時に中距離攻撃に変わる。

この状態を脱出する方法は・・・考えろー、俺。

「そろそろ、終わりにしましょうか。」

加古さんのもう片方の手からハウンドが、これでフルアタック状態に。

「それはこちらのセリフだ。」

三輪は少し離れ拳銃をかまえる。

三輪はもしかしたらアステロイドではなくバイパーとレッドバレットを組み合わせてけるかもしれない。

この距離なら俺は旋空を放つことが出来るがその瞬間に撃たれて終わりだ。

本来の旋空よりも早く、斬れる幅が広くないといけない。

そんなのあるわけが・・・あった。

「すいませんね、この勝負俺の勝ちみたいですァ。」

「あら、比企谷くんがこの状況を理解してないわけじゃないわよね?」

「無理だな、今回ばかりは俺が勝たせてもらう。」

「どうですかね。これはまだ誰にも見せてません。目ん玉よーく開いて見やがれ。・・・伸びろ、弧月!」

俺は弧月の柄とその鞘を近づける。

『コネクター、オン』

俺の弧月は身の丈程の長さになり、姿、形を変えた。

「薙刀弧月・・・旋空弧月!」

俺は薙刀弧月の下を持ち思っいっきり振る。

本来の弧月の間合いより2倍ほど近い距離から旋空を放たれたんだ、そりゃ反応に遅れるよな。

自分の思ってたこととは全然違うことが起こったんだ。

「まったく・・・ずるいわよ。」

「ちっ」

2つの光が空に飛んでいった。

加古さんと三輪がベイルアウトした証拠だ。

ふうーかなり疲れたな。

つーかなんで三輪は舌打ち?

そんな気に入らなかった?

もしかして槍を使うのは三輪隊だけで充分だ的なことを伝えたかったのかな?

俺が手に持っている薙刀弧月を解除し鞘に戻している時

バフっ、俺はベッドに落ちた。

どうやらランク戦が終わったようだ。

横を見ると紅覇と綺凛がいる。

2人ともスナイパーを倒せたのだろう。

つーかこの2人が真正面でスナイパーに負けるわけねーよ。

結果はこうだ。

比企谷隊、7点+生存点2点

三輪隊、0点

加古隊、0点

圧勝!

おそらく、あの薙刀弧月がなかったら俺は落とされていただろう。

「八幡お兄さん、お疲れ様です。すごいですね、ひとりで5点って。」

「サンキュー、今回は最初のランク戦だしな少し張り切ってみた。綺凛、紅覇もよく最後スナイパーを落とした。頑張ったなー。」

俺は綺凛と紅覇の頭を撫でてると

「最終スコア、9-0-0。比企谷隊7点に生存点の2点を加算して9得点をたたき出して圧勝しました!それでは今回の試合の総評をお願いします。」

「そうだな、まず米屋、黒江が落とされるたのはキツかったな。雪の中とはいえ、アタッカーをお互い1人ずつ失ったんだ。全員アタッカーの比企谷隊にスナイパーやシューター、トラッパーはキツすぎる。秀治も弧月を使えるが他と比べたらアタッカーとしての実力は劣る。まあ、今回は比企谷の改造トリガーにしてやられた、というのが2人の隊長両方に言えますね。あと練、刀藤がよくスナイパーを落としたことは賞賛してもいいと思います。雪の中で離れた敵を追うのはかなり難しいですし相手はスナイパー、いつ撃たれるかわからない。撃たれたらシールドで防ぐしかないような状況でしたしね。まだ若手ながら実力は充分にあると感じさせる試合でした。」

「俺も東さんとほとんど同じかな。比企谷のあの改造トリガーには驚かされたけどそれ以上に・・・巻町があっさりと落ちた方がびっくりしたなー。まさか比企谷隊の旋空に落とされるとは、思いもよらなかったな。」

「ははは・・・、そうでしたね。・・・さて本日の試合はすべて終了しました!今回の試合で暫定順位が・・・変わりません!それではこれにてA級ランク戦夜の部を終了とします。解説の東さん出水さん、ありがとうございました!」

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

これにて俺達の今シーズン初のランク戦は終了した。

今日は祝勝パーティーだな。

焼肉にいこー。

俺達は隊室を後にして焼肉を食べに行った。

 

 

 

 

 

 

何故か三輪隊と出水も一緒に・・・。

会計?割り勘だよ。

当たり前田のクラッカー。

 




ランク戦って難しいですね・・・。


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彼は答え合わせをする

朝起きたら・・・床で寝ていた。

確か昨日焼肉行ったあとバカ2人がうちに来て俺とを含めて3人でスマブラやってたんだっけか。

「ハッチ〜、おりゃ、まだめげてねーぞームニャムニャ」

「桐花さーん、もうやめて・・・俺のライフが・・・」

俺の隣でバカ2人はまだ夢の中にいる。

つーか出水はどんな夢見てんだよ。

悪夢か?悪夢なのか?

そーいや出水おふくろに合成弾教えてるんだっけか。

なんで教えてる方がキツそうなんだよ。

夢の中でもスパルタなのかよ・・・おふくろ。

あー、からだいてー。

取り敢えずシャワーでも浴びて飯作るか。

俺は立ち上がり風呂に向かおうとした時だった。

本来であれば食卓にはないものがある。

それは・・・朝食と置き手紙だった。

誰が作ったんだ?

あとこの手紙も。

置き手紙の内容はと・・・

 

お兄ちゃんへ。

小町たちは遅刻したくないから先行くね。

sp

起こさなくていいって言ったの操お姉ちゃんだから。

あと朝食は小町と紅覇お兄ちゃんが作りましたー。

愛情たっぷりだよ!

 

へぇー、これ小町と紅覇が作ったのか。

紅覇が料理できるのは知ってたけど小町もできるのか。

なかなか完成度が高いな。

とっととシャワー浴びていただくとしますか。

 

 

 

 

 

 

あー、スッキリしたー。

小町たちが遅刻したくないって書いてあったし時間はぎりぎりかなー。

俺は食卓に置いてある置時計を見た。

8:30

あっちゃー、遅刻してるじゃないですかー。

今から急いでも仕方ないしな、弟達が作ってくれたご飯、味わってから行こう。

モグモグ、なかなかうまいな・・・。

だがこのトマトはなんだ。

赤色を入れるのであれば冷蔵庫にパプリカがあったはずだ。

それなのに何故トマトにする。

食べたくない・・・、けどふたりが作ってくれたから残したくはない。

トマトの数は2つ。

どうすれば・・・

俺は、ふと床を見た。

いいところにいいのが転がってるじゃないですか。

俺はトマト以外を食べ終え、トマトを持って、まだ寝てるバカ2人のだらしなく開いている口にトマトを突っ込んだ。

「起きろ、バカども。」

「ゲホッゲホッ、なんだよこれ・・・ってトマト!?なんで俺の口からトマトが!?」

「ゲホッゲホッ、な、なんだ!?」

米屋はかなりテンパリ出水は状況が飲み込めてないらしい。

「ってあれ?なんでハッチがいるんだ?」

「確か昨日、スマブラやって・・・。」

「お前らここでそのまま寝落ちしたんだよ。早く顔洗って家に帰りやがれ。もう遅刻してんだから。」

「ハッチ、今何時?」

「一大事だコノヤロー、もう8:30過ぎてんぞ。」

「マジかよ!?弾バカはやくいくぞ!今日の1校時目、英語の授業じゃん!?俺もうこれ以上英語の時間休むなって言われてんだよ!」

「はっはー、残念だったな。俺はこれから防衛任務だ。あ、比企谷シャワー借りていい?」

「いいぞ。あ、俺も早く学校行きたいから鍵閉めてポストに入れといてくんない?」

「別にいーぞ。おーい、槍バカー。お前も早く行かないと不味いんじゃねーの?」

「は、ハッチ。家まで送ってくれ!」

「わり、俺の後ろいつも予約でいっぱいだから。じゃ、行ってくるわ。戸締りよろしくな。」

「おー、いってらっしゃーい。」

「ハッチの薄情者ー!」

薄情者って・・・俺も遅刻してんだけど。

一校時目何だったけなー。

まー遅れてるから急いでも仕方ないんだけどな。

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

おっと、もう一校時目が終了したみたいだな。

2校時目には間に合ったみたいだ。

俺が教室の扉を開けようとしたら、ガラガラと勝手に扉が開いた。

俺の前には鬼の様な形相をした平塚先生。

一校時目は現国でしたか・・・。

「さて、殴る前に一応私の授業に参加しなかった理由を聞こうか。」

殴るのは決定事項なの?

「すいません、防衛任務のヘルプに入ってました。」

防衛任務を出せば先生もあまり強く言えまい。

「ヘルプだと?巻町はいるが?」

「俺1人でです。」

「そうか、今度からは事前に連絡・・・」

俺が上手くいった、と思った瞬間

「八幡、やっと起きたのね。昨日あんな夜遅くまでスマブラするから寝過ごすのよ。まったく。」

なんでこのタイミングで登場するのかね〜。

ほら見て、先生が鬼から修羅に変わってるよ?

「ほう、比企谷。貴様は教師に嘘をつくのか。」

「い、いや、その・・・この世界は嘘に満ち溢れてますから・・・俺の嘘なんて大したことじゃ・・・」

「問答無用だー!」

ドスっと俺の腹にいい1発がはいった。

俺はドテッと床に仰向けになった。

なかなかいいパンチですね・・・。

生徒に向けた拳じゃなきゃ俺は褒め称えるんですが・・・。

おい、操。

何笑ってんだ、テメーのせいだぞ。

わざとか、わざと先生のいるまえで言いやがったな。

「まったく・・・このクラスは問題児が多くてたまらんな。川崎、君も遅刻かね。」

俺の後に来た奴が気になって目だけでそいつを見る。

見覚えのある・・・黒のレースが俺の目に飛び込んできた。

あなた同じクラスだったのん?

 

 

 

 

 

 

放課後、俺と操とくまちゃんで勉強会をすることになり、サイゼに入り空いてる席に向かってる。

「あ、八幡」

俺達が少し広めの席に向かってると、戸塚と雪ノ下、由比ヶ浜が勉強していた。

ほんと、戸塚が女子二人といても違和感ないよな。

「おう、戸塚。」

俺が返事をすると戸塚は微笑み返してくれた。

やっぱり笑顔が一番だよねー。

ほら見て隣の由比ヶ浜なんて

『やっばー、誘ってない人来ちゃったー』

見たいな気まずそうな顔をしてる。

「比企谷くんは勉強会に読んでないのだけれど何か用かしら。」

こいつは空気読まないよな、ほんと。

「俺も勉強会だ。」

「1人でやるのかしら?」

「いや、そこにいるだろ。操とくまちゃんが。」

「あら、なんであなたが二人の女の子を連れているのかしら?すぐに返してきなさい。そしてそのまま自首しなさい。」

「いや、どっちかというと俺の方が連れてこられたんだけど・・・。」

「ならあのふたりに感謝しなさい。あなたのような男を誘ってくれたことに。」

「えー、俺被害者なんだけど・・・。」

俺に対する容赦ない罵倒がどんどんと俺に突き刺さる。

「八幡、何してんのよ。注文するから早く来なさいよ。」

「あ、俺ハンバーグステーキとポテトと、あとテキトーにピザ一枚頼んどいてくれ。多分それで千円ぐらいだと思うから。」

「え・・・ヒッキー、サイゼガチ勢?」

なんだよサイゼガチ勢って。

そこまでガチ勢じゃねーよ。

週一ぐらいでしか来てねーよ。

あれ、同じ所に週1って多くない?

「比企谷、早く座んなさいよ。勉強会始まんないじゃない。」

「あ、わりーわりー。じゃ、そゆことだからまた後でな戸塚。」

「うん。八幡も勉強頑張ってね。」

「おう、戸塚もな。」

「ちょ、アタシ達は!?」

 

 

 

 

 

 

 

くまちゃんに数学Bを教えてると注文が来た。

流石サイゼ、なかなか早いな。

「あ、そうだ八幡。今こっちに綺凛が向かってるって。」

「なんで?」

「だって綺凛1人で家に居させるの可愛そうじゃない。小町は塾だし、紅覇は玉狛に遊びに行ってるし。」

「なんでお前はそんなに弟、妹のスケジュール把握してんだよ・・・。」

「兄弟ってこんなもんでしょ?」

え、そうなん?

じゃあ俺は兄弟じゃないの?

誰のスケジュールもわからないんだけど・・・。

「あ、八幡お兄さーん。」

「お、来たか綺凛・・・となんで木虎?」

何故か綺凛と一緒にいる木虎。

「綺凛ちゃんに誘われたんです。いちゃダメですか?」

「いや、俺はいいと思うけど・・・。」

「そうですか、では失礼します。」

木虎はそう言うと俺の隣に座ってきた。

まぁ、確かに操とくまちゃんが一緒に座り、俺は1人だけど・・・

「なんで俺の隣なの?あとなんで不機嫌?」

「ダメですか?」

「別にダメじゃないけど・・・綺凛がどっちに座るか迷ってるじゃん。」

綺凛はどちら側も2人座ってしまったため、どちらに座るか絶賛お悩み中。

「なら、席変えよっか。そしたら綺凛も座れるし。いいよね、比企谷、操?」

「いいんじゃね?・・・すいませーん席替えていいですか?」

俺は近くにいる店員に許可を得てもっと広い席に移った。

「綺凛、藍。好きなの頼んでいいわよ。全部八幡が出してくれるから。」

なっ、勝手なこといいやがって・・・これで本気にしたらどうすんだよ。

「いいんですか比企谷先輩?」

ほら、この真面目ちゃんには冗談は通じねーし

「あ、あの八幡お兄さん。自分の分は自分で払います。」

綺凛が変な気使うしよ。

「別にいーぞ。中学生がまだ気使うなんてはえーよ。あと木虎はもう少し気を使おうな?」

「やったー!友子、八幡が奢ってくれるって!私今月服買いすぎて金欠だったんだよねー。助かったわー。」

「くまちゃんの分も払ってやるが・・・操、お前は自分で払え。」

「なんでよ!?友子はオッケーでなんで私はダメなわけ!?」

「無駄使いしたバツだ。先月も似たようなこと言ってたろ。俺の金の使い道は俺が決める。」

ブーブー文句たらたらな操の事はほっとき俺は綺凛と木虎に好きなもの頼むようメニューを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

全員分の料理があっという間に揃った。

因みに俺と操とくまちゃんの分は綺凛と木虎のが来るまで食べずに待ってた。

「じゃ、揃ったことだしいただきま・・・」

「あ、お兄ちゃんだ。」

かすかに聞き取れるほど小さな声だったがその声は聞き覚えがある。

入口を見るとそこには小町と謎の男がいた。

何あれ彼氏?

こっちに来てまだ間もないのに彼氏作るなんてどんなコミュ力だよ。

「よう、小町。その隣の男は誰だ?彼氏か?彼氏ならそうと言えよ。取り返しのつかないことを俺がする前に。」

「別に大志くんとはただのお友達だよ。」

その男、大志は俺にぺこりと一礼する。

「立ち話も何ですから座ったらどうですか?」

木虎提案により小町と大志は俺達の座っている椅子に座る。

流石に4人ともなると少しキツイ・・・。

木虎のなかなか発達してるアレが腕に当たってるし。

ま、興味ないんだけどね、年下に鼻の下伸ばすような事は無い。

って言いきれないんだけど・・・。

「で、何のようだ。出来るだけ手短にしてくれ。かなり狭いんだ。」

「うん、実は大志くんから相談を・・・っええ!?な、なんでここに嵐山隊の木虎さんがいるの!?だ、誰の知り合い!?」

そうか、小町は俺達がボーダー隊員っていうことを知らないんだったな。

知ったら自分もなる!とか言いそうだから、おふくろが黙ってろって言ってたしな。

我が家がボーダー一家だと言う事は比企谷家最重要機密となっている。

「あー、こいつは綺凛の同級生でな、さっきたまたま見かけたから一緒にご飯食べてるという訳。」

「へー、綺凛ちゃん有名人と友達なんだね。」

小町が目をキラキラさせて綺凛を見る。

そりゃ、有名人と知り合いって結構なステータスになるからな。

俺なんて嵐山隊全員と知り合いなのに一つもステータスになってる気がしないんだけどな。

「比企谷先輩、この人は?」

「こいつは小町。俺の妹で我が家の次女だ。で、小町。続きを。」

「あ、うん。それでね大志くんの相談に乗ってたんだけど。」

相談ねー。

相談なんて依頼来たらあいつが来そうだな。

「あら、その相談とは?」

もう来たようで。

なんでこいつは友達いないのに他人の会話に首突っ込めるの?

それくらいの勇気あれば友達増やせるぞ。

敵もいっぱい作るけど。

「実は相談というのは俺の姉ちゃんの事なんですけど、最近ずっと帰り遅いし、親のいうこと全然聞かないんすよ。俺が聞いてもあんたには関係ないってキレるし。お願いします、俺にはもう頼れるのはお兄さん達だけなんです。」

「誰が誰のお兄さんだって?俺のことを兄と呼んでいいのは世界で妹達と弟だけだ。義弟なんていらねー。俺は絶対認めねー。」

「あなたは何を頑固親父のようなことを言ってるのかしら。それで、一体何時頃に帰ってくるのかしら?」

「だいたい夜中の五時頃です。」

「おそっ!てかもう朝じゃん!」

なんでお前までこっちに来てんだよ、由比ヶ浜。

「ねえお兄ちゃん、この人達は?」

「立ち話もなんですし座らせていただけないかしら。」

「いや、もう無理なんだけど。狭いし、暑苦しいし。あと、お前らがなんで首突っ込んでんだよ。」

「あら、相談事ならあなたよりも私の方が役に立つもの。」

「比企谷先輩って学校では舐められてるんですね。」

うるせっ。

舐めてんのはこいつとナンチャッテお嬢様のゆみこ?とかいうやつだけだ。

他は俺のことを認知してない。

「すいません、この机動かしてもいいですか?」

雪ノ下が動かせるふたり用の机2つの指さし店員に聞く。

当然店員はNOとは言わない。

それが日本人だ。

机をくっつけ男3人?と女7人、総勢10人の大人数になった。

「やー、どうも。兄がお世話になってます。妹の小町です。」

小町の一言で自己紹介が勝手にスタートする。

「八幡の妹さん?初めまして、クラスメイトの戸塚彩加です。」

「あ、これはどーもご丁寧に。うはー、可愛い人ですねー、ね、お兄ちゃん?」

なんでこいつはこんなに上から目線なんだよ。

やっぱりおふくろと2人ぐらしはアウトだったか?

おふくろは息子の俺が言うのもなんだが人格が異常者だ。

ほぼ無表情で常に冷静、というより冷ややかな態度を取り続ける。

親父の葬儀の時も涙一つ流さず顔色一つも変えなかった。

そんなのと一緒にいたら性格も曲がるだろう。

その証拠と言ったら物足りないだろうが先日の小町と綺凛の件。

あれはおふくろの嫌味しか出てこない口が移ったのかもしれない。

「まー、可愛いのは否定しないが、こいつ・・・男だぞ。」

「ははー、またまたご冗談を。何言ってんだか、だから彼女のひとりもできないんだよ?」

「俺はあんまり女に興味ねーだけだ。男も女も大して変わらねーだろ。現に俺の見てきた女子よりも男の戸塚の方が可愛いということが起きてんだ。」

「もー、八幡ったら、僕男だよって何回も言ってるじゃん。」

「はは、わり、つい癖で。」

戸塚は恥ずかしいのか怒ってるのか顔を赤くし身じろぎした。

つーか小町よ、そんなに戸塚をみるな、こまってるでしょ。

「もうその辺でいいだろ。それと、こっちが由比ヶ浜でそっちが雪ノ下。」

「初めまして!ヒッキーのクラスメイトの由比ヶ浜結衣です。」

おい、ヒッキーいったら小町もヒッキーじゃねーか。

ま、こいつがそんな事考えてはいないだろうけどな。

「初めまして。雪ノ下雪乃です。比企谷くんの・・・。比企谷くんの何かしら・・・クラスメイトではないし、友達でもないし・・・誠に遺憾ながら、知り合い?」

「顔見知りでいんじゃね?」

「そうね、ただの顔見知りです。」

ほんとに顔見知りにしたよ、こいつ。

そんなに俺と知り合いなのが嫌なの?

それならもう、部活行くのやめよーかなー。

お互いの利益のためになるし。

平塚先生とは条件付きで入部した訳だしすぐに辞めることは出来るだろ。

「八幡の従兄弟の操よ、よろしく。」

「初めまして。比企谷の友達の熊谷友子よ。」

「比企谷先輩の後輩の木虎 藍です。よろしくお願いします。」

「八幡お兄さんと操お姉さんと小町お姉さんの妹の綺凛です。よろしくお願いします。」

総武高校勢とボーダー勢の自己紹介が終わると

「あの・・・俺どうすればいいっすかね?」

「名前と用件話せ。俺、暇じゃねーんだ。ここに長居するわけにもいかねーしな。」

大志が困ったような顔で手持ち無沙汰にしている。

俺だって結構手持ち無沙汰になってたが自分から、しかも女だらけという話かけづらい状況でなんとか話しかけようと頑張った大志はなかなかコミュ力が高いと思われる。

将来はマスメディア関係がイイんじゃね?

「あの、川崎大志っす。姉ちゃんが総武校の2年で・・・、あ、姉ちゃんの名前、川崎沙希っていうんですけど。姉ちゃんが不良っていうか、悪くなったっていうか・・・」

つい最近、というか今日その名前を聞いた覚えがある。

えーと、顔が出てこねー。

あ、思い出した!俺、クロのレリーフしか見てないんだった!

「うちのクラスだったっけか。」

「あー、川崎さんでしょ?ちょっとちょいワル系の。」

「お姉さんが不良化したのは何時ぐらいかしら?」

「今年になってからです。」

「あら、比企谷くんと同じクラスになってからということね。比企谷くん、なにか心当たりあるかしら?自分のした行為に。」

「ってもなー、まず俺はクラスのやつと関わるとしたら戸塚と操とくまちゃんだけだしなー。」

「ちょっ、あたしは!?」

「お前には基本自分から接しないってのが俺のルールだから。」

「なんでたし!?」

「お前のグループ騒がしいから。俺、騒がしいの苦手だし。」

そう、騒がしいのが苦手だから屋上など人気のないところで昼飯を食べてるというのに・・・。

ん?人気のない場所・・・。

「あ、俺あいつのパンツ覗いたんだった。」

俺は両の掌を合わせパンと鳴らした。

「クズ。」

「クズね。」

「クズだねー。お兄ちゃん。」

「クズですね・・・。」

「ヒッキーのクズ。」

「やはりあなたが原因ね、クズヶ谷くん。」

綺凛と大志と戸塚を除く全員は俺をクズ呼ばわりした。

確かに最低だとは思うけどさ、見たくてみたわけじゃないもん。

悪意はないもん。

脳裏に焼きついてるのは確かだけど。

「あ、あの・・・お兄さんは悪くないと思います。この前姉ちゃん宛に変なところから電話がかかってきたんすよ。」

俺のことをかばってくれた事は感謝するけどお兄さん呼ばわりしてんじゃねーよ。

ぶった斬るぞ。

「それの何が変なのよ。」

そんなに怖そうな顔で聞くなよ、操。

「だ、だってエンジェルっすよ!?もう絶対やばい店っすよ!」

エンジェル・・・エンジェル・・・プリプリプリズナー?

俺の知ってるエンジェルってプリプリプリズナーのエンジェルスタイルとエンジェルダッシュとエンジェルラッシュぐらいなんだけど。

あ、もうひとつ知ってる・・・確か前、諏訪さんと太刀川さんとで行ったバーの名前が確かエンジェルから始まってたような・・・。

俺が思考の渦にはまっている間に話し合いは進んでたらしく

「まず、どこの店からその連絡が来たのか突き止める必要がありそうね。」

「うん、そうだね。そうと決まればゆきのん、今日から調査開始だね。」

「いえ、今日は遅いから明日からにしましょう。」

「わかった。」

これで話し合いは終わり、各自解散となった。

因みに小町とボーダー勢の分は俺が全額払わされた。

今日来たのがサイゼでよかったー、と思う今日このごろでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後9:30、俺は今1人で例のバーに来ている。

服装はドレスチェックがあるため俺はトリオン体になり、隊服であるスーツを今日はビシッと着ている。

川崎沙希の特徴は青みがかった長い髪。

俺は店に入ると早速サイド・エフェクトを発動させる。

髪の長い女〜、黒いレースの女〜はどこだ〜。

お、あれか?

黒のレースか分からないが青みがかった長い髪の女がバーカウンターにいた。

「よう、川崎。」

「・・・どちら様でしょうか?」

あ、こいつ俺のこと知らない系女子か。

「同じクラスの比企谷だ。よろしくな。」

「そう、こんな時間ギリギリに来たって事は私がしてることバレちゃったのね。なにか飲む?」

「ん、マックスコーヒーを頼む。」

「珍しいわね、頼む人なんてあんたぐらいよ。」

そう言うと川崎は俺にマックスコーヒーをグラスに注ぎ、渡した。

俺はマックスコーヒーを一口飲むと

「で、要件は何なの?学校にでもチクる気?」

「いんや、そんな恨まれるようなことはいねーよ。ちょっと答え合わせしに来ただけだ。」

「答え合わせ?」

「そ、お前の弟がチョー難しいクイズ出してきてよ、そのヒントがエンジェルだけときたもんだ。で、その答えを見つけたからここに来たわけ。」

「大志があんたに何を言ったのか大体はわかる。おおかた、私にバイト辞めろってところだろ?」

「そんなところだ・・・が、どんな風にしてバイトを辞めさせるか、これが問題にはなくてな、悩んだ結果がこれなんだが・・・」

俺はカバンに入れておいた封筒を川崎に差し出した。

これで間違ってたら恥ずかしき事この上ないな。

「!これって・・・」

「どうだ?当たってるか?途中式出すのめんどいから答えだけ出したんだが・・・お前の満足のいく回答か?」

「ふふ・・・、そうね、私の満足する回答よ。それにしてもよくわかったわね。ストーカー?」

「んなわけねーだろ。俺がいつお前のこと見てたって言うんだよ。」

「見てたじゃない。スカートの中。」

「ごめんなさい。」

「別にいーわよ。それ以上の収入が今手に入ったんだから。」

「そうかい、じゃあ最後に聞く。ここを辞める気はあるか?」

「ああ。辞めるきっかけが出来たしね。ありがと。」

「そいつぁ良かった。んじゃ、俺は帰るな。あんましここにいたら目を付けられるかもしんないし。じゃあな、ちゃんと家族が納得すること言うんだぞー。」

俺は金を払い、ポッケに手を突っ込みその場をあとにした。

 

 

 

その場と、そのバーって・・・似てない?

 

 

 

 

 

 

 

 



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彼は一筋な男

中間試験も終わり、いつも通りの平日。

代休などではない限り本来であれば学校にいる。

だが俺が今いるのは学校ではない。

周りには見慣れた風景。

学校以上に入り浸ってる空間。

そう、ここはボーダー本部。

今日はおそらく、皆の待ちに待った職場見学の日。

周りには2年生のほぼ全員が、それぞれ班ごとに整列している。

先生達が呼びかけても静まらない。

そんなに楽しみならボーダーに入れよ。

戦力になるなら歓迎するから。

「八幡。今日、トリガー使わせてもらえるんだって。楽しみだね。」

俺は戸塚のC級の隊服の方が楽しみだな。

「そうだな。俺も楽しみだな。ヒキタニくん、コツとかあるかい?君はA級隊員なんだろ?」

こいつなんで俺がA級隊員だってこと知ってんだ?

こいつに言った覚えはないし・・・。

「君の従姉妹の巻町さんに聞いたんだ。君が彼女の隊長だってことも知ってる。」

あんにゃろ〜、個人情報保護法知らねーのか。

「八幡ってA級隊員の隊長だったの!?すごいなー。」

戸塚が俺のことをキラキラした瞳で見つめる。

知られてよかった!

葉山ナイスだ。

ヒキタニくんなんて言わなかったらコツ教えてやったんだが・・・

「ま、まあ俺はボーダー歴長いからな。そこそこ実力はある。」

俺達が喋っていると、

「きゃー!嵐山さんよー!」

黄色い歓声が次々に聞こえてきた。

「総武高校のみんな、今日はよく来てくれた!君たちの職場見学を案内する嵐山隊隊長、嵐山 准だ!今日はよろしくたのむ!」

嵐山さんが挨拶し終わると静かだった歓声は、再び一気に最高潮にまで上がった。

流石、嵐山さん。

人の前で喋ることに何の躊躇もない。

あの人15歳くらいからテレビに出てるからかなり慣れてるんだよな。

「今日の職場見学の一日の流れを説明する。はじめに、この訓練用のトリガーを起動してもらう。トリガーの数は人数分あるから焦らず、好きなのを取ってくれ。」

嵐山さんがそう言うと壇上の前にいくつかの大きな箱が運ばれてきた。

おい佐鳥 、ウインクしてんじゃねーよ。

木虎と時枝を見ろ、あいつら無表情じゃねーか。

箱を運んできた嵐山隊の3人とスタッフ数人がいなくなると、生徒達はいっせいに走り出した。

おーい、走らなくても無くなんないから。

一つのトリガーに大人数が群がることはないでしょ。

群がっていた生徒達はピラニアのごとくお目当てのものを手に入れたら即座にその場から離れニヤニヤし始める。

おい、やめろ。

なんかエロ本買った高校生みたいな反応だぞ、それ。

俺がのんびりと、そんな光景を眺めてると

「ヒキタニくん、君は取りにいかなくていいのかい?」

「ばーか、俺はもう正隊員だからいらねーんだよ。何をするかわかってるほど、つまらねーもんはねーだろ。」

「はは、そうだね。あ、そうだ。俺、スコーピオンってのを選んだけど、これはどんなトリガーなんだ?」

ふーん、こいつスコーピオンなんか選んだのか。

「これの売りは軽さ、形状を好きに変えることが出来ること、体のどの部分からでも出すことが出来ることだ。あとの説明は嵐山さんたちがするだろ。」

「そうか、ありがとう。」

葉山は女子でも男子でも見とれそうな笑顔で俺に礼を言ってくる。

テメーの笑顔より戸塚の笑顔の方が百倍良いわ。

あれ、戸塚は?

まさかあのピラニア軍団に!?

あんなところにいたら・・・戸塚が・・・戸塚が・・・むさい男どもに食われる。

こんな所でグズグズしてらんねー、今行くぞ戸塚ー!

「あれ?八幡、どうしたの?」

俺が飛び出したと同時に隣に戸塚が現れた。

「い、いや。ちょっとムー大陸の入口が見えて・・・。」

「もー八幡ったら、よくわからないこと言わないでよね!」

「わ、悪ぃ。そ、それはそうと戸塚は何を選んだんだ?」

「僕はバイパーってのを選んだよ。なんかこれだけ数が少なかったけどなんでかなー?」

バイパーか・・・。

ガンナーとして使うならまだしもシューターとして使うとしたらかなり人を選ぶ。

バイパーの弾道は複雑に変化させられることで知られている。

しかし、それは慣れてきた者が出来ることだ。

初めてシューター用のトリガーを使うなら自動追尾があるハウンド、爆発させることの出来るメテオラ、威力の高いアステロイドが妥当だろう。

よりによってこんなに癖の強いトリガーを戸塚が選ぶなんて・・・。

これのせいで戸塚が自信をなくしたらどうすんだ。

「八幡どうしたの?難しい顔して。」

「ん?いや、何でもない。戸塚、バイパーは他のトリガーよりも扱いが難しいんだ。お前が良いなら変えることをおすすめする。」

「そうなんだ・・・、でも僕これにするよ。今日しか体験できないなら少しでも思い出になる方がいいからね。それが失敗したとしても。」

「そうか、なら頑張れよ。それは自分の想像通りに動かすことの出来るトリガーだ。自分の頭で考え続けろ。それがこのトリガーを使うヒントになると思う。」

「ありがとう、八幡。僕、頑張るよ!」

戸塚は手に握ったトリガーを力強く握り笑顔で答えた。

「よし、みんなの元にトリガーが行き渡ったかな。これからボーダーについて軽く説明しておく。まず始めに正隊員になる方法だ。みんな、トリガーを起動してみてくれ。」

嵐山さんの一声で、待ってましたと言わんばかりに『トリガー・オン!』

といっせいにトリガーを起動した。

にしてもみんな仲良しだね〜、声を合わせていうなんて。

どっかでリハーサルでもしたの?

俺聞かされてないんだけど・・・。

「みんな、トリガーを起動したな!それでは説明する!各自、自分の手の甲を見てくれ。そこには1000と書いてあるはずだ。」

嵐山さんは近くの女子生徒を上にあげ、みんなに見えるようにした。

あ、あの女子照れてる。

きっといじめの原因になるかもな。

何かで目立つと必ずと言ってもいいほどそいつを潰したくなるのが集団だ。

出る杭は打たれる、釘を打つのは一人だけとは限らない。

一人で打っても刺さりきらない。

なら、どうするか。

答えは簡単だ。

出てこれないように一人ひとりが順番に打ち続ける。

それが集団社会の、カースト順位のある社会での現実だ。

昔の俺がそうやられたように・・・。

「この数字は自分の現在のポイントを表している。このポイントが4000を超えると正隊員になることが出来る。ポイントの増やし方は2つある。1つ目は、週2回の合同訓練で高成績をだすこと。2つ目は、C級隊員同士で戦いポイントを奪い合うことだ。」

そういえば、このシステム同伴されてからC級隊員の数がかなり減ったんだっけか。

ポイントを手に入れれないやつは自分に自信をなくす。

自分の才能のなさに絶望する。

その結果、辞めていく。

そんなんで辞めるやつは所詮その程度の覚悟だったというわけだ。

「それじゃ、これから実際の入隊試験を体験してもらう!これでいい成績が出たら是非、ボーダーに入ってくれ!」

うおー、やら、きゃー、などのそれぞれの興奮を口にして表す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地形踏破、隠密行動、探知追跡の順に訓練が着々と終了していく。

その3つ全てに雪ノ下の名が一番上にある。

つまり・・・全てトップということだ。

ホントこいつ何もん?

毎回大型ルーキー出さないと気が済まないの?

前は黒江だし、その前は緑川やら木虎。

そして今回は雪ノ下。

こいつをスカウトするかどうかはこの後の最後の訓練、対近界民戦闘訓練で決まる。

この調子ならスカウトが決まりそうだが。

「それでは今日最後の体験だ!トリガーの使い方は話した通りだ!みんな、頑張ってくれ!」

最後の訓練はクラス毎、出席番号順に行われた。

因みに俺等ボーダー組は抜けている。

やる意味無いし、注目されるし。

俺が後ろの方で眺めていると

「比企谷、お前もやんないのか?」

三輪が話しかけてきた。

「やる訳ねーだろ。時間の無駄だ。」

「お前はあれ、やったことないんだろ?」

「ああ。訓練用トリガーすら起動したことない。」

「なら試しにやってみたらどうだ?あれはあれで訓練になると思うぞ。」

「やだよ。仮にやったとしても大人気ねーだろ。」

「大丈夫だ。既にお前のところのバカがやってる。」

俺のとこのバカね〜。

バカ・・・バカ・・・あ、操か!

あのバカ、何でやってんだよ!

しかも全力で。

ほらタイム見ろよ、0.4秒って・・・。

周りの奴らあんぐりしてるぞ。

あ、こっち来た。

「八幡、結構いいものね、あれ。いつものに比べたら動きにくいから、少しスピードが落ちたわ。」

「アホ、お前がやる意味ねーだろ。何のためにやったんだよ・・・。」

「なによ、別にいーじゃない。楽しそうだったんだし。」

「そうかい。」

もうこいつには何を言っても無駄なのかな・・・。

ノンストップガール。

動き出したら止まらない女、こいつにピッタリだ。

「八幡もやってきなよ。うちのクラスそろそろ終わるから最後にやれば誰も文句言わないわよ。」

俺が文句タラタラなんだが・・・。

まー、何事も経験だし少しC級隊員から見る景色も大事だと思うし、やってみますか。

俺が最後尾に並んでいると

「あら比企谷くん。あなたもこの訓練受けるのかしら?」

「ん?ああ。やったことないしな。」

「確かこの訓練をやらないとボーダーには入隊できないんじゃなかったかしら。あなた、一体どんな手を使ったの?」

「別に最初からこれがあったわけじゃねーよ。俺はお前が思ってるより前に入隊してんだよ。だから初めてなの。」

「そう、なら本気でやりなさい。別にあなたの実力を疑ってる訳では無いのだけれど、こんな身近にA級隊員しかも1位部隊の隊長がいるのが信じられないのよ。」

「別にいーけど、お前じゃ多分見えねーよ。」

「それはどういうことかしら?たしかにあなたの事はあまり見たくないのだけれど・・・。」

「えー・・・、なら話しかけるなよー。」

「いいから私の質問に答えなさい。」

「わかったよ・・・。俺の動きが目で捉えきれないって意味だ。」

「・・・目で?」

「ま、見た方が早いって。見えないと思うけど。」

俺の番になり他のところもほとんど終わり始めてる。

にしても訓練用トリガーなんて初めてだから調子狂ったりしないよね?

あんなに啖呵切っといてミスったら雪ノ下にどんな罵倒されるかわからない。

因みに俺の使ってるのはスコーピオン。

『始め』

という掛け声とともにトリオン兵は倒れた。

む、刺さりが甘いな・・・。

確かにこれはいい訓練になるかもしれん。

動きの制限された訓練用トリガーじゃ、これが限界か。

『記録、0.2』

俺はその場からスコーピオンを投げ、刺した。

まぁ、こんなの慣れれば誰でも出来る。

ホントの実力者ならば1秒きることは当然のことだ。

俺が訓練室から出ると周りはシーンとしてた。

え?なに?そんなに注目しないで・・・。

俺はトリガーを解除しその場から逃げるように離れようとした時

「うぉー!すげー!」

「何したのか全然わからなかった!」

「いつの間に倒したの!?」

などなどあたりは熱狂していた。

え、そんなに凄かった?

何ならもう一回やろうか?

こんなんで興奮されると俺もちょっと嬉しい・・・。

「八幡すごいね!僕、何したのか全然見えなかったよ!」

戸塚が人混みをくぐり抜け俺に話しかける。

「サンキュ、戸塚も初めてバイパーを使った割には凄かったじゃねーか。初めてで、分割してあそこまでバイパーを複雑に動かせるやつなんて早々いねーぞ。しかも記録20秒台だろ?上出来すぎる。」

「えへへ、ありがと。」

戸塚は照れながら礼を言うが、俺は実際驚いている。

こいつは絶対ボーダーに入れるべきだ。

こいつも数少ない・・・天武の才能の。

「そうだ、八幡。八幡ってバイパー使える?」

俺が戸塚のことをまじまじと見ていると、突然聞いてきた。

バイパー・・・か。

「使えるぞ。一応な。」

「ホント!?じゃあさ、八幡やってみてよ。バイパーを使ってる人、僕以外いなくって。」

え、見せるの?

でもほかならぬ戸塚の頼みだし・・・。

戸塚のこんな希望に溢れた瞳から発せられるキラキラからは逃れられんな。

「いいぞ。」

「ホント!?ありがと八幡!」

「別に礼を言われるほどじゃねーよ。・・・綾辻!1回だけ訓練室使わせてくれ!」

俺が大声で言うと、一つの訓練室が起動した。

どうやらオッケーのようだ。

つーか、大声で叫んじゃったから周りの奴らもなんだなんだと集まり始めてきちゃったじゃん。

内部通信にしときゃ良かった・・・

はー、バイパー使うのも久しぶりだな・・・。

『始め!』

「バイパー!」

俺はバイパーを3x3x3に分割し、トリトン兵の弱点である目めがけて放つ。

良かった、まだ・・・リアルタイムで弾引きできるみたいだな。

『記録、1.3』

やっぱり腕がなまってんな。

全盛期なら1秒切ってたかもな。

「八幡すごいね!どうしてあんなに複雑な動きができるの!?」

「そうだな・・・慣れ、かな。」

こればっかりは経験が物を言う。

「ひ、比企谷先輩、オールラウンダーだったんですか!?」

木虎が食いついてくる。

そうだよなー、俺がシューター用のトリガー使えるの知ってるのかなり限られるもんな・・・。

多分1期生なら知ってるとは思うが・・・

「あんた、またシューターとアタッカー兼用するつもり?」

操が突然俺の隣に現れる。

こいつ・・・テレポーター使いやがったな。

「いや・・・俺はもう、アタッカー一筋だ。」

「ふーん、そ。」

俺達が会話してると時間になったらしく周りにいた有象無象の生徒達はまた、始まった場所に戻り始めた。

 

さて、誰をスカウトすることにするかね・・・。

 

 

 



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彼は皆に知られた・・・かもしれない

全員の訓練が終わり、最初に集合した場所に再び戻ってきた。

因みに俺は総武高校の生徒がいる場所にいない。

今回、誰をスカウトするかは、俺が決めることになっている。

審査の基準は俺が決めていいとのこと。

この記録を見た感じスカウトする基準を超えてるのは・・・結構いるな〜。

えー、まじー?

この中にいるヤツら全員スカウト対象なの?

「みんな!今日は俺達ボーダーがどんな活動しているのか理解してくれたか?」

嵐山さんが喋り始める。

まだ生徒達はほとぼりが冷めないのか静かにならない。

「最後に、ボーダーからサプライズがある!その内容を今からボーダーが誇る最高戦力に説明してもらいたいと思う!」

えー、最高戦力?

最高戦力は天羽でしょー。

俺なんて未だに風刃使う迅さんや忍田本部長、おふくろにすら勝ててない。

名目上個人総合1位となっているが、それはあくまでポイントの話だ。

ポイントなんて勝って稼げばあっという間に貯まる。

まして、ポイント制になる前から俺はいたんだ、当然ポイントはほかの隊員達より多い。

この前なんて太刀川さんに負け越した。

ポイントはあくまで基準にしかすぎない。

だから俺は決して最高戦力なんかではない!

よって俺は壇上に上らなくていい。

おーい、天羽ー。

出番だぞー。

「比企谷先輩、早く登ってください。呼ばれてますよ、最高戦力って。」

木虎、笑いながら言うなよ・・・。

「俺、最高戦力じゃないもん。この前、太刀川さんに負け越したもん。」

「そんな気持ち悪いこと言わないでさっさと行ってください。」

こいつ先輩に対して何の悪びれもなくキモチワルイって言った〜。

もう、やってける自信が無い・・・。

結局俺は壇上にしぶしぶ上がった。

「どーも、A級部隊1位の比企谷隊隊長比企谷八幡でーす。それでは早速本題に入る。これから名前を呼ばれたものは前に出てきて下さい。」

俺が言うと周りはざわめき始める。

そうですよね、こんな奴が最高戦力なんて言われてたら不満だらけですよね・・・。

知ってた・・・。

「おい、あいつこの前テニスで圧勝してたやつだぞ!」

「え、あの巻町さんとダブルス組んでた?」

「どおりで強いわけだ。」

と俺の予想外の声が飛んできた。

マジ?

まだテニス勝負のこと覚えてたの?みんな。

ちょっと八幡ウレピー。

「えー、では呼びます。1人目、雪ノ下雪乃!2人目、葉山隼人!3人目、由比ヶ浜結衣!4人目、三浦由美子!5人目、戸塚彩加!この5人にはボーダーからのスカウトさせてもらいたい!」

俺がそう言うと周りからはざわめきが。

呼ばれた5人は目を丸く。

そりゃそうか、こんなんでボーダーに入れるとは思ってないもんな。

周りからは

「えー、なら本気でやればよかったー。」

やら

「もう一回やらせてくれー。」

など、負け犬の遠吠えが聞こえてくる。

戦場にもう1回はない。

常に自分の身は戦場にあること、常住戦陣の心がまえがないやつに戦わせる義理はない。

「因みに、今回の訓練で最高得点は雪ノ下雪乃だ。だが、最後の対近界民戦闘訓練のトップは戸塚彩加だった。よって戸塚彩加が入隊した場合、他の4人よりポイントが上乗せされる。当然、他の4人もスカウトという形で入隊してくれればポイントを戸塚ほどではないが上乗せしてもらえるだろう。それでは、俺からはいじょうだ。」

俺はそのまま壇上から降り木虎達がいる場所に戻った。

「流石ですね、比企谷先輩。」

「そうでもねーよ、時枝。俺はお前達よりは広報歴長いからな。ある程度は慣れてんだ。しっかし、大勢がいる前で喋るのはやっぱ、恥ずかしいな。」

「そうですね、俺もまだ慣れてませんし。」

「俺もまだなれてないんですよー。」

「テメーは知らん、佐鳥 。」

ウザさ全開の佐鳥 。

ホントこいつは何なの?

急にツインスナイプなんかで遊び出して、遊びかと思ったらランク戦でも使い始めるし。

「比企谷先輩!何でオールラウンダーってこと黙ってたんですか!?」

木虎が怒鳴る。

静かにね?

まだ嵐山さん喋ってるから。

「別に隠してたわけじゃねーよ。俺はもうアタッカー一筋だからよ、使う機会が無かっただけだ。」

「それにしても凄いですね、比企谷先輩。あのバイパーの動き、明らかにリアルタイムで弾引きしてましたよね?」

え、時枝気づいてたの?

「よくわかったな、時枝。あの短時間で見抜けるとは思ってなかったんだが。」

「ほんとにリアルタイムなんですか。」

「いや、お前が今言っただろ。」

「いえ、適当だったんですが・・・。」

ちっ、カマかけられたか・・・。

俺がリアルタイムで弾引き出来るの知ってるの、おふくろと忍田本部長と二宮さんと迅さんだけだっのに・・・。

まさかこんなところでバレるなんてな。

「比企谷先輩はシューター用トリガーは使わないんですか?」

木虎、そんなに尊敬するような目で見ても何も出ないぞ。

「今のままだったら無いな。」

「何で、オールラウンダー辞めたんですか?」

「質問だらけだな、おい。・・・まぁ、いっか。簡単に言うとついてこれなくなったからだ。」

「ついてこれなかった?」

「俺のアタッカーとしての腕にだ。遊ぶ分には何の問題もないんだが、実践となるとほんの少しのズレが命取りになる。だから、辞めた。」

「そう・・・ですか。でも、これからいろんな人に声かけられますね。」

「なんで?」

「佐鳥 先輩がボーダー隊員だけに見えるようにタイムラインに乗っけてます・・・。」

「さーとーりー!テメーなんてことしてんだ!?俺のプライバシー考えろよ!?」

「だって、みんな比企谷先輩がシューター用のトリガー使えるなんて知ったら驚くかなー、なんて?」

「もう一回現代社会学んでこい!個人情報保護法もう1度学習しやがれ!」

なんで俺の周りは口が軽いのかね・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

職場見学も終わり、各自解散となった。

にしても、戸塚のあの才能はかなりのもんだな・・・。

俺も抜かれる可能性がある。

そんなことを考えながら出口に向かってると。

由比ヶ浜が待ってた。

「あ、ヒッキー遅い!もうみんな行っちゃったよ!?スカウトされた記念にみんなで食べようってなったの知らないの!?」

「知らねーよ、初耳だ、んなもん。つーかお前は行かねーのか?」

「え!?・・・あ、いやー、何ていうかヒッキー待ってた、というか・・・その、置いてきぼりはかわいそーかななんて・・・。」

「別に誘われてすらいねーんだ。置いてったって気づきゃしねーだろ。」

こいつは優しい。

こんな俺に優しくするやつなんて限られてる。

でも、それが本心なら俺は嬉しい。

が、それが嘘や欺瞞、偽物の場合は俺の大嫌いなものになる。

「早く行こ?ヒッキー。」

仮にそれを本人が悟られないよう隠していても。

「何でそんなに俺に優しくする、由比ヶ浜。」

「え?そ、そんなことないよ。みんなと同じだよ。」

みんなと同じ・・・か。

いつもそうだ、みんなと言えば納得するかのような考え。

みんなって、一体誰なんだろうな・・・。

「別に同情で優しくする必要ないぞら由比ヶ浜。」

「え?」

「お前ん家の犬助けたのは偶然だし、仮に、その事故がなくても俺は一人だったと思う。」

「ヒッキー・・・覚えてたの?」

「まあな、思い出したのは最近だが。どんなに髪型を変えようが、どんなに髪の色を変えようが、どんなに化粧しようが、どんなに整形しようが、人げ変わらないところがひとつある。それは・・・耳の形だ。俺は人より目が良くてな、一度見たら無意識に覚えてたりするんだ。で、お前と初めて喋った時違和感を感じてたんだ。それが最近ようやく理解出来た。俺が意識をなくす前に見た耳の形とそっくりだってことにな。ほんと、人の事を耳の形で思い出すなんて初めてだ。」

「そっか、ミサちゃんが話したわけじゃ、ないんだ・・・。」

「だから、お前が俺に優しくする事はねーよ。・・・気にして優しくしてんならやめろ。・・・不愉快だ。」

「やー、なんだろうね。別にそういうんじゃないんだけどなー。なんていうの?・・・ほんとそんなんじゃなくて・・・。」

こいつは優しすぎる。

もしかしたらこいつは本心で俺に接触してきているのかもしれない。

それでもこいつは負い目を感じて俺に接触し続けるだろう。

自分のせいで事故にあったのだと。

俺はこいつに負い目を感じてほしくない。

実際、俺がしっかりしてれば怪我をすることもなかったしな。

ほんと、なんであの時ポッケから出てきたのがトリガーじゃないんだよ・・・。

由比ヶ浜が真っ直ぐな瞳で俺を見る。

それに対し俺も真っ直ぐに見る。

目を逸らさず。

「バカ」

由比ヶ浜はそういうと走り出した。

俺はそんな姿を見ることなく、自分の隊室に向かって足を向けた。

「バカにバカって言われたかねーよ。」

俺は誰に言うのでもなく、一人で小さくつぶやいた。

 

 

 

かの人喰いはこう言った。

『この世の不利益は全て当人の能力不足』

と。

ただその言葉を聞くと、その通りだ、と言う人はいるだろう。

しかし、この世は他人に罪をなすりつけるのが主流となっている。

あたかも自分は何の関係もないと・・・。

だがほんとにそうなのだろうか。

大規模侵攻で、大事な人を守れなかった者、連れ去られた者。

それらを目の当たりにした人たちはなんて言うだろう。

容易に想像できる。

『もっと早くにボーダーがあれば。』

『こんなところに来なければ。』

など、自分に原因があるとは思わない。

守れなかったのは自分に力が無かったせいだ。

それをボーダーになすり付けるな。

俺は以前、そう言われた。

迅さんも言われた。

大規模侵攻を体験したボーダー隊員達は皆言われただろう。

だから俺はもう、不利益など起きぬよう・・・力を求める。

そのためには、嘘も欺瞞も虚言偽物もいらない、ひつようない。

そんなものは・・・邪魔でしか、ない。

必要なのはお互いに本物だと思える関係だけだ。

 

 

だから、俺は偽物の関係が嫌いだ・・・。

 

 

 



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彼女はヒーロー志望?

職場見学が終わり、一週間が経った金曜日。

俺は今週初の奉仕部に向け歩いている。

「うーす。」

いつも通り、何も変わらない空間に、いつも通りの挨拶。

しかし、そこにはいつもならあるものが無かった。

いや、いなかった。

「由比ヶ浜は?あいつ俺より先に教室出たと思うんだが・・・。」

由比ヶ浜がいなかった。

俺はあまりここには来ないから、あいつがどの程度休むのかは分からない。

ま、リア充は部活だけじゃなく、友人関係も大事にしないといけないからな。

俺にはその気持ちが分からんが。

「ねぇ、由比ヶ浜さんと何かあったの?」

雪ノ下は読んでいた本をパタリと閉じ、こちらに目を向けた。

何か・・・ねぇ。

「いや、ないと思うぞ。」

あいつが何を思ってるのか俺には分からない。

わかったらプライバシーの侵害になっちゃう。

「何も無かったなら由比ヶ浜さんは部活に来るのだと思うのだけれど。」

「考えすぎじゃねーの?友達と遊びに行ったんじゃねーの?あいつ、俺達とは違って友達がいんだから。」

「私とあなたを一緒にしないでくれるかしら?・・・ここ最近来てないのよ、職場見学が終わってから。」

ここ最近ねぇ。

そろそろこの何も無い部活が嫌になったのか?

それともただで人助けするのが嫌になった?

「さぁな、俺には特に心当たりがないんだが・・・。」

「そう・・・。なら、あなたの無自覚なのかもしれないわね。あなたは知らないかもしれないけど、職場見学が終わったあと、私達、ボーダーにスカウトされた面々は食事してきたの。その時、周りは気付かなかったのだろうけど彼女、目を軽く腫らしてたわ。あなたを待つと言ってボーダー本部に残っていたから、あなたと何かあったのは間違いないわ。」

もしかしたら、あのことかもしれない。

だが、あれに関しては俺は何が悪いのかわからない。

お互い何かを気にして接するのは気持ち良くない。

だからその関係をリセットするためにあの時、由比ヶ浜に言った。

「なんだ、由比ヶ浜は今日も来てないのか。」

乱暴に扉が開けられたと思ったら、平塚先生が降臨した。

つーか開けた瞬間に分かったって事はこの人、知ってたな。

由比ヶ浜が来ないことを。

「先生、ノックを・・・。」

「すまん、すまん。・・・由比ヶ浜が部活に来なくなって1週間か・・・。今の君達ならどうにかすると思っていたが、まさかここまで重症だったとは。さすがだな。」

どこか感心しているような口ぶりだな、平塚先生。

「はぁ、なんか用があったんでしょ?」

「ん、ああ。由比ヶ浜のおかげで部員が増えると活動が活発化するということが分かったんでな、由比ヶ浜が来ないなら・・・1人でいい。人員補充したまえ。」

「何で1人でいいんですか?」

雪ノ下よ、この人は未だに努力・友情・勝利を愛する見た目は独身アラサー女教師、心は少年みたいな人なんだぞ。

さらに、ここは例えるなら金を取らない万事屋。

ここまでくればわかるだろう。

そう、この人は

「決まってるだろ。こんな、人のために動く時は3人と決まっている!ジャンプを読まんか、ジャンプを。」

ジャンプ大好き人間なのだから。

みろ、雪ノ下の顔を。

よくわからないものを見る顔になってんじゃん。

「期間は何時までなんすか?俺、忙しいんで参加出来ないと思うんですが・・・。」

「なに、期間はそんなに長くはない。次の月曜日までだ。」

「あの・・・今日と当日入れても4日間しかないじゃないですか・・・。なおさら参加出来ないんですけど。」

「何を言っている。君は基本、日曜日には任務を入れてないと聞くぞ?」

誰に聞いたんだ?

学校に提出したシフト表には土日祝日の分はかかれていない。

比企谷隊のスケジュール知ってんのは比企谷隊だけ。

紅覇は口がかたい。

すると犯人は1人だけ・・・ミーサーオー!

またあいつか!

あんまりスケジュール他人にべらべら言うなって言ってたのに。

「平塚先生。一つ確認しますが、人員補充をすればいいんですよね?」

「その通りだよ、雪ノ下。」

平塚先生はその一言を残すと、その場から立ち去って行った。

にしても、あの人の白衣ってかっこいいのなー。

国語教師なのに白衣着てんだぜ?

なのにあの様になる姿。

「さて、俺もやることなくなったし、帰る。人員補充の件については俺は力になれそうにないからな。月曜日にでも聞かせてくれ。じゃーな。」

俺はカバンを持ち、部室から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下駄箱。

いやー、やっぱここ臭いな・・・。

いろんな奴らの靴の匂いがオーバーレイ!

エクシーズ召喚!

匂いの混ざった・・・俺の靴!

・・・そろそろ靴変えよ。

俺が自分の靴の匂いに軽く絶望している時

「比企谷、明日何の日かわかってるわね?」

待ってましたと言わんばかりに昇降口の柱に背を預けてるくまちゃんが登場した。

「なんかあったっけ?あ、明日は珍しく防衛任務がないな。それぐらいだが?なんかあんの?」

俺がくまちゃんの方に向き直るとクマちゃんの手はグー。

「デトロイト・・・スマッシュ!」

「ぐはっ!」

くまちゃんのスマッシュが俺の腹を直撃。

女の割にいいパンチしてんじゃないの。

しかもスマッシュって・・・

くまちゃん、ジャンプ読んでんの?

ジャンプ読んでる女は人なぐるの好きだよね・・・。

「あんた明日が何の日が忘れたの!?」

「思い出した・・・明日、和菓子の日だ。なんか買って帰るか。」

「テキサス・・・スマッシュ!」

どんだけヒーローになりたいの?

流石に、2回目となると反応ができる。

伊達に個人総合1位キープしてるわけじゃないからな。

「くまちゃん、そろそろ正解教えてくれよ。」

「あんたホントに覚えてないの?・・・明日は玲の誕生日でしょ。」

那須の・・・誕生日?

「あー、そう言えばそうだったな。」

「あんた、きょねんじぶんがなにあげたのかわすれてるでしょ、その様子だと。」

「何あげたんだ?ギフトカード?図書カード?」

「・・・桃缶だよ。」

「まじ?まさか俺が人の誕生日に・・・生物渡すなんてな。」

「今年こそはちゃんとしたもの上げなさいよ。て言っても、もう準備することも出来ないだろうけどさ。」

「大丈夫だ、くまちゃん。1箇所だけいい場所がある。」

「どこ?これから行けるの?」

「ああ、多分大丈夫だ。」

「ねぇ、私も行っていい?」

「・・・良いけど、誰にも言うなよ。・・・キモがられるかも知んないから。」

「大丈夫だって、比企谷ときどき、キモイから。」

え・・・やっぱりキモイ認定されてたんだ。

衝撃の事実、とまではいかないが、やっぱりショック。

俺は目的の場所に連絡を取り、許可をもらった。

「よし、じゃあ行くぞ。くまちゃん。今なら人いないって言ってたから。」

「え?比企谷の知り合いの店?」

「ああ。不安か?」

「別に、ただ比企谷がボーダー以外に知り合いがいるなんて思わなかったから。」

こいつ、最近俺に対する扱いが雑になってきている気がする。

「ま、いっか。・・・行くぞ、とっとと後ろ乗りな。」

「比企谷、ヘルメットかぶると様になるね。」

それは、顔が見えないからという意味でしょうか。

つまり俺は顔がなくなればイケメンということ。

・・・顔なかったらイケメンじゃないじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセサリーショップ前。

「着いたぞ、くまちゃん。」

俺のよく行く店、その名も『マヤ』。

「ひ、比企谷・・・ここは?」

「ん、俺がよく利用するとこ。あんまし人に言うなよ。」

俺とくまちゃんは中に入った。

相変わらず、あんまし明るくねーな。

目ェ悪くなるっつーの。

「よぉ、久しぶりだな。八幡。」

「久しぶりです。おやっさん。」

この人はおやっさん。

親父の知り合いで小さい頃からの付き合いだ。

因みに、昔おじさんって言ってたらまだそんな歳じゃねぇ、って言われてこの呼び方が定着した。

「なんだ、今日は女連れてきたのか。お前も隅におけねーなぁ。」

「ただの友達だ。明日誕生日の奴がいっからよ、それ買いに来たんだ。んで、そいつのこと良く知ってるやつを連れてきたってわけ。」

「ほー。まさかお前が家族以外のために買いに来るとは思わなかったよ。で、どんなの買う?1%ぐれぇなら負けてやってもいいぜ。」

「それ殆ど値段変わってねーじゃねーか。そーだな・・・くまちゃん、どんなのがいいと思う?」

「あんたが買うんだからあんたが決めなよ。玲なら、あんたが渡すもんだいたいよろこぶとおもうよ。」

「ふむ・・・なら」

俺は一番最初に目に付いたものを手に取った。

なかなかイカすデザインだ。

「こんなのは、どう?イカすだろ?」

「却下。何で女子にあげるのに、ドクロなのよ。」

えー、パイレーツ・オブ・カリビアンみたいでおしゃれじゃん。

他には・・・キラキラしてて、目がチカチカすんな。

「おやっさん、なんかいいのない?」

「そうだな・・・そのオメェが渡したいネェちゃんはどんな感じなんだ?オメェの印象を教えてくれ。」

「そうだな・・・美人、目に縦線入ってる、病弱、顔の色を変えるのが早い、時々テンパる、ぐらいかな。」

「最初の以外殆ど参考になんねぇな、スットコドッコイ。」

「いいだろ別に。で、いいのある?」

「これなんてどうだ。飾りが少々ちいせぇが光に当たると、飾りの部分が光る。しかもオメェさんの財布にも優しい。因みにこれはうちが扱ってる中でもなかなか手に入らないもんなんだぜ?どうよ。」

ふむふむ、なかなかおしゃれ・・・なのか?

よかわからんが、光るのか。

いいな、光るの。

「何でこれが手に入りにくいんだ?」

「この飾り作ってる奴が大規模侵攻で逝っちまったんだと。」

「そうか・・・よし、これくれ。いくらだ?」

「2万円」

「もうちょい」

「1万9千」

「もっといける」

「1万5千」

「やれば出来る」

「1万4千」

「のった。1万5千きればいい。」

おやっさんがここまで値切ってくれたんだ。

流石にこれ以上は図々しい。

「んじゃ、ほれ。ちゃんと渡してやれよ。あと、そのネェちゃんの写真今度見せてくれ。」

「ロリコンかよ・・・。まいいぞ。また今度な。」

「期待して待ってんぞ。おっと、待ってくれそこのネェちゃん。」

「わ、私ですか?」

「ちとこっち来てくれ。」

くまちゃんがおやっさんに呼ばれて2人でこしょこしょと喋ってる。

あいにく、手で口元隠してるせいで何を言ってるのかわからない。

お、どうやら話し終わったらしい。

おい、なんで2人ともニヤニヤしてんだよ。

こんな暗さの中で男女がニヤニヤしてると怪しいヤツらにしか見えない。

「八幡、気をつけて帰れよ。あと・・・いい加減、青春しろよ。」

「忘れなきゃなー。じゃ、またいつか世話になるな。じゃなー。」

「おじゃましました。」

「おう、また来てくれよな。」

俺とくまちゃんは店を出てバイクに乗った。

ぐぎゅ〜

「くまちゃん・・・サイゼ、行く?」

「・・・お願いします。」

俺とくまちゃんはサイゼに向かい、バイクで走り出した。

 

 

 

 

 

あ、さっきの買い物で俺の所持金が・・・

 

 



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彼は初めてのものを手に入れる

6月16日、土曜日。

俺は今、操を後ろに乗せ那須の家に向かっている。

今日は那須の誕生日。

今日、防衛任務がなかったのは操が仕組んでいたことらしい。

今日が那須の誕生日だと知っていたなら教えて欲しかった・・・。

そしたら昨日、あんなに慌てなかったのに。

因みに、何で平塚先生に土日のスケジュールを教えたのか聞くと

『え?平塚先生に土日暇かって聞かれたから、基本日曜日は予定ないですって言ったけど・・・なんかまた私やらかしちゃった?』

と、なんとも無自覚バカが丸出しだった。

勘弁して欲しいぜ。

ただでさえ明日も用事があるってのに・・・。

俺はともかく、雪ノ下も友達がいない。

当然、部活勧誘なんて向いていない。

それを今日と当日含めてあと、3日。

平塚先生も無茶ぶり言ってきやがる。

ま、心配はいらないか。

雪ノ下が昨日、平塚先生に何で確認をとったか。

それはその確認を取ることにより、勧誘することが出来る人物。

俺のせまーい交友関係でもそんなのは1人しかいない。

おそらく・・・由比ヶ浜だろう。

は〜、何でやめたやつをまた呼び戻すのかね。

やる気がなければ、辞めていい。

あ〜、イライラするなぁ。

俺はそのイラつきを振り払うかのように、法定速度ギリギリのスピードにまで加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那須の家の前。

俺のイラつきはなんとか収まった。

良かった、これから祝うのにイライラしてたらその空間にいる奴ら全員が微妙な空気になる。

「比企谷、相変わらず時間ぴったりに来るな。」

なかなかオサレな服装に、顔色一つ変えない顔、茶色がかった髪。

三輪隊スナイパー、奈良坂 透。

「よっ、奈良坂。時間に関してはお前も一緒じゃねーか。」

「俺は買出しだ。」

「ねぇ、透は何買ったの?」

「ここで言うわけないだろ。巻町、お前は人1倍口が軽いからな。」

「なんでよ!?私ってそんなに口軽い!?ねぇ八幡!あんたもなんか言ってやんなさい!」

「奈良坂に同意。」

「ムキー!!もういいわよ。今日はあんた達と一言も話さないから!」

操がムキになってる時に奈良坂はインターホンを押す。

そのスルースキル、米屋で培ったな。

俺?

当然、スルーである。

いちいち構ってたら俺の気力が減っていくからな。

「あ、いらっしゃい。操ちゃん、比企谷くん。透くんもお疲れ。どうぞ上がって。」

那須が玄関を開けた。

ベッドから起きて大丈夫なのかね。

俺達4人はRPGのように一列で歩いた。

当然俺は最後尾。

トラップ等に関しては先頭に任せる。

あー、でもRPGって1人トラップ等にかかるとそのパーティー全員が同じことになるからなー。

因みに、先頭は那須。

次に操、その次に奈良坂となっている。

そんな馬鹿げたことをかんがいていたら、那須の部屋に着いた。

はー、女子の部屋なんてあんまし入りたくない。

ましてや女子4人に対して男が二人ときたもんだ。

だが、俺はほかの男子共とは違う。

俺は女子に大して興味はない。

興味のあるのを強いていえば、戸塚ぐらいだろう、

可愛いし、守ってやりたくなるし、才能があるし。

ほんと、戸塚っていい意味で俺に興味を持たせるね。

「お、操、比企谷。」

「あ、巻町先輩、比企谷先輩、こんにちは!あと奈良坂先輩おかえりなさい!」

元気な後輩、日浦による挨拶。

え、くまちゃん?

日浦のインパクト強くて覚えてねーや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那須の部屋は、俺達6人にはちょうどいいスペースになった。

全員揃ったことにより、早速誕生日会がスタートした。

奈良坂が持っていた袋から白い箱を出す。

どうやらこいつはケーキを取りに行っていたらしい。

ロウソクの数は年の数と同じ、17本。

奈良坂がロウソクに火をつけた終わったと同時に、部屋の電気が消えた。

『ハッピバースデートゥーユー。ハッピバースデイディア怜(那須)〜。おめでとー!』

各々持っていたクラッカーを一斉に鳴らす。

「さ、たべよ。八幡、切って。」

おい、今日は俺と口聞かないんじゃなかったのかよ、とは言わない。

どうせこのバカのことだ、忘れてんだろ。

「へいへい。くまちゃん、そこにある包丁とってくれ。あと日浦、悪いけど熱湯でタオル濡らしてきてくんね?」

「はい、比企谷。にしても熱湯で濡らしたタオルって何に使うの?」

「それは見てからのお楽しみだ。」

「そう。あかね、お願い。」

「はい!任せてください!」

日浦は元気よく返事をすると部屋を出ていった。

「お、そうだ那須。これ、タンプレ。」

俺は操の背負っていたリュックから昨日買ったネックレスを渡した。

「ありがとう比企谷くん。開けていい?」

「ん、いいぞ。つーかそれもう俺のじゃないしイチイチ許可する必要ないんじやわね?」

俺があげたものがいつまでも俺の所持品だったら相手も気にするでしょ。

いや、案外俺のだったら変な気使わなくていいから好き勝手に使うんじゃ・・・。

「キレイ・・・。ホントにいいの?比企谷くん。これ、高かったんじゃない?」

「別に、この前臨時ボーナス入ったからな、家計はたいして苦しくねーよ。それに今、おふくろいるし・・・。」

「そっか。・・・あ、そうだ比企谷くん。これ付けてくれない?」

「それ、一人で着けやすい作りになってるらしいぞ。」

俺がどんな作りかを説明すると、操、くまちゃんの視線が飛んできた。

何この視線の数々。

女子2人にこんなに見つめられたら照れるー。

「奈良坂、俺なんか間違った?」

「良かれと思ったことは必ずしもいい方向には行かないもんだからな。・・・今日ぐらい玲のわがままに付き合ったらどうだ?誕生日だしな。」

「それもそーだな。・・・じゃ、付けるから髪の毛上げてくれ。」

那須が髪の毛を上げるのとほぼ同時にネックレスを那須の首につける。

なるほど、確かにこれは一人でつけやすいかもな。

恐らく、目をつぶってでも出来るぞ。

因みに俺がネックレスを固定するのに使った時間は恐らく、1秒ほどだろう。

他人がやってこの速さだ、きっと本人がやったらもっと速くなるだろうな。

俺が那須の元を離れ、もといた場所に座り直すと操とくまちゃんはなんかジト目で見てくるし、奈良坂は呆れてますよー表現をしてくる。

那須の方を見ると微笑んでる。

「八幡、あんたもう少し、丁寧かつ、ゆっくりに出来ないの?」

「ばか、相手に不快感を与えずにするために最深の注意を払ったぞ。息止めたし、極力真正面を見ないようにしたし、手が触れないようにしたんだぞ。」

「ふふ、比企谷くんはいつも通りだね。・・・ねぇ比企谷くん、少しお願いが・・・」

「温めてきましたー!」

那須が何かを言い切る前に元気よく日浦が登場。

「お疲れさん、日浦。じゃ、ケーキ切るか。」

俺は包丁を日浦が持ってきてくれた熱々のタオルで拭いた。

本来、ケーキを包丁で切ると断面が汚くなる。

だが、俺はそんなの許さない。

アタッカー1位ともなると斬り方、切断面にまでも気を使う。

トリガーだろうが包丁だろうがキレイに、それが俺の目標だ。

熱々のタオルで拭いた包丁は、ケーキのどこにも引っかからず、綺麗に切れた。

当然、切断面も綺麗に。

「すごっ!比企谷、あんたこんなのどこで知ったのよ。」

「ふっふっふ、木崎さんだよ。俺が今料理ができるのは木崎さんのおかげだ。お菓子作りを習いに行った時に教えて貰ったんだ。」

俺は綺麗に6等分し、皿に盛りつける。

もちろん、チョコプレートが乗ってる部分は那須に。

全員のところに行き渡り、一斉に食べ始めた。

もぐもぐ、うまいな。

特にこのいちご、甘いかと思ったが生クリームの甘さを殺さないように甘さを抑え、生クリームを引き立てている。

まるでイケメンの隣に立つ俺のように。

なんなら大抵の男子の隣に立ったら引き立てることが出来る。

「で、那須はさっき何を言おうとしてたんだ?」

俺は最後に残しておいたいちごを食べ那須に聞く。

「あ、うん。あのね・・・私を弟子にしてくれないかな?」

「丁重にお断りさせていただきます。」

「え!?なんで?」

「当たり前だろ。俺はアタッカー一筋の男だぞ?そういうのは弾バカとか加古さんに頼め。」

二宮さんはには言っても無駄だろうしな。

「実は、比企谷くんのお母さんに弟子入りしようと思ってね、頼みに行ったら断られて・・・。」

「おふくろのとこ行ったのか!?」

「う、うん。でも断られちゃった。ランク戦10本やったんだけど、全敗でね・・・。」

那須はどこか悲しそうな顔をする。

そりゃそうだ。

恐らくおふくろ相手になら、那須も自分の持てる力すべてをぶつけただろう。

それでも勝てなかったんだ、今まで培ってきたものを全否定されたような気分になる。

でもな・・・

「そうか。なら良かったじゃねーか。な?操。」

「そうね。桐花ちゃんが最後まで10本やったんだからね。桐花ちゃんは、才能がある人にしか10本最後までやらないのよ。」

「そういうこった。だから、自信をなくすな。むしろ胸を張れ。・・・で、その流れでなんで俺に弟子入りしたいんだ?俺の実力も知らないのに。」

「比企谷くんのお母さんが、比企谷くんなら、私の師匠にぴったりだって。」

「おふくろか・・・。はぁ、わかった。お前を弟子にする。今日は誕生日だしな。」

「ホント!?じゃあ、明日からお願いできる?」

「わり、明日は用事あるし、まだ腕なまってるから少し練習しておきたいんだ。だから明後日、月曜日からにしてくれ。」

「わかった。楽しみにしてるね。」

那須が俺の弟子になることが決定した。

そこからはもう、どんちゃん騒ぎ・・・とはならなかった。

それでも、みんなでワイワイと話で盛り上がった。

・・・俺と奈良坂の幼少期の話で。

解せぬ!

ま、盛り上がってんならいいか。

こんな調子で結局夜まで那須の家にいた。

 

 

 

 

 

 

俺、なんだかんだで弟子とるの今回が初めてだな・・・。

 

 

 



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今日は厄日?

那須の誕生日を祝った翌日の日曜日。

俺は今テレビの前で歯を磨きながらお天気アナのニュースを見ている。

やっぱ、結野アナ可愛いなー。

『それでは今日の適当占い。今日1番ついていないのは、今歯を磨きながらこの占いを見ている、アホ毛に腐った目をしているあなた。今日は魔王との遭遇に気をつけてください。それでは今日も一日頑張って・・・行ってらっしゃーい。』

行ってきまーす・・・出来るかー!

なんで俺のことピンポイントで指してきてんの!?

テレビ越しでなんで俺のことわかるの?

あと、行ってらっしゃーい、が逝ってらっしゃーいに聞こえてくるわ!

はぁ、魔王との遭遇か。

なんとなくわかる気がしてきた・・・。

これから東京ワンニャンショーに行くってのに嫌な気分だなー。

俺、留守番しようかな・・・。

「八幡お兄さーん。みんな準備できましたよー。」

「わかった。今行くー。」

みんな・・・か。

俺はみんなに含まれてないのかな?

ま、綺凛がそんなこと意識するわけないか。

してないよね?

してたら俺泣くぞ。

「わり、結野アナ見てたら遅れた。」

「ケツの穴?」

おい、女の子がとんでも発言したぞ。

イントネーションがおかしいだろ、小町。

「小町、結野アナってのはね、三門市のお天気アナのことよ。八幡はそのお天気アナのファンってわけ。にしても、八幡。何でそんなに暗い顔してんの?」

「結野アナの占で今日は最悪だって。あの占い結構当たること多いから・・・。」

「あー、確かに八兄あの占い通りになること多いよね〜。去年なんて占い通りに車に引かれたし。車に気をつけてって言われたのに信じないんだから。」

「あれから結野アナのファンになったんだよなー。あの事故が無ければ俺は結野アナのファンになってなかっただろうな。」

ほんと、未来視のサイド・エフェクトでもあんのかって思うレベル。

未来見れるのはぼんち揚食ってるセクハラ大好きエリートだけで充分だ。

「あ、八幡お兄さん、バス来ましたよ。」

俺達が話しているとバスは来ていたみたいだ。

さて、気を取り直して行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ〜、やっぱりいっぱい動物いますね。」

「そうだな、去年とはまた違った動物がおおいな。」

ほんと、動物の数が多いよな。

別に動物だけならいいが、・・・何でリア充ばっかなんだよ。

動物の珍しさに比例してリア充の密集率が高い。

そして俺達が向かってるのはその密集地帯。

俺は4人とは少し離れて後ろの方で待機している。

操達は密集しているところなんなくと臆せず入っていく。

もう操の頭しか見えねー。

俺は横にいる人気が少ないのか一匹ぽつんと立っているアルパカの方を向いた。

あっ、コイツなんで人気ないのかわかった。

コイツ、目が俺とそっくりだ。

そりゃ人気なんかねーよな。

わかるよその気持ち、俺も人気どころか認知されてないレベルだからな。

俺はアルパカと見つめ合ってる。

アルパカも目を逸らさず俺のことを見ている。

お互いどこか親近感を感じてるのかもしれない。

「お兄ちゃん、何してるの・・・?」

リア充密集地帯から生還してきた小町、操、綺凛、紅覇。

「うわっ、このアルパカ八幡とクリソツ、目が。」

操がアルパカをバカにしたかのような反応をすると・・・

「ギャ!ちょっと何すんのよ!?」

操にアルパカのつばがかけられた。

ふん、バカにするからだ。

目が腐ってるのはこの世の見たくないもんを見てきたからだ。

バカにすんじゃねーよ。

綺凛がアルパカに触れる。

当然?なのか分からないのだが綺凛に対しては何も行動を起こさない。

「うわー、モフモフしてて気持ちいいです。」

「な、なんで綺凛はいいのよ!?」

もうバカはほっといていいや。

「あ、お兄ちゃん。ペンギンだよ!並んで歩いてるよ!あ、あのペンギン踊ってるみたい。」

小町はすぐ近くにあるペンギンエリアでペンギンを見ていたようだ。

「ん、おーほんとだ。そういえば知ってるか?ペンギンって語源のラテン語で肥満って意味らしいぞ。そう考えるとあの並んで歩いてるペンギンって会社帰りのおっさんにしか見えねーな。それにあの踊ってるように見えるペンギン、芋洗〇係長見たいだな。」

あの人、あの体型で何であんなにキレのあるダンスができんだよ。

「う、うわー。これからペンギン見る時、そういう目で見ちゃう・・・。」

小町が軽く引いてる・・・。

良かれと思って行ったんだけど、また失敗か・・・。

俺と小町はその場を離れ、操と綺凛と合流した。

「あれ、紅覇はどこ行った?」

さっきまでいたと思っていた紅覇がいない。

あいつもガキじゃないんだから迷子にはなんないとは思うが心配だ。

だって、お兄ちゃんだから。

「あー、紅覇なら・・・。」

操が視線をずらす。

俺はそれを目で追うと・・・豚エリアにいた。

なんで豚?

しかも紅覇の周りにだけ人いねーし。

「おーい紅覇、行くぞー。」

「りょ〜か〜い。」

「お前、豚好きなのか?」

「いやいや、そういうわけじゃないよ。あそこにいる豚全部雌だったんだよ。そしたらなんか・・・虐めたくなっちゃって。」

ドS紅覇が目覚めた。

なに!?虐めたくなった!?

しかもメスの豚を!?

なんてこと言うんだよ・・・。

俺が紅覇の言葉にドン引きすると小町が

「あ、お兄ちゃん。あれって・・・雪乃さん?」

小町がいう方向を見ると確かに雪ノ下がいた。

え?あいつがツインテールしてんの初めて見たな。

にしてもあいつ何してんだ?

パンフレット何かとにらみっこして。

雪ノ下はパンフレットから目を離すと歩き出した。

あいつも何か動物探してんのか?

けど・・・

「そっち壁しかねーぞ。」

見かねてつい口を出してしまった。

「あら、珍しい動物がいるわね。」

おうふ・・・出会い頭に罵倒されちまった・・・。

「あ、雪乃じゃない。どうしたのこんなところで。」

「あ、雪乃さんこんにちは。お久しぶりです。」

「八兄、誰?この、壁に向かおうとしたお馬鹿な人は。」

3人ともこっちに来た。

「コイツは・・・顔見知り?の雪ノ下雪乃だ。よろしくしなくていーぞ。」

「ふーん、はじめまして。八兄の弟の紅覇だよー。」

紅覇は雪ノ下を舐めきった態度で接する。

そいつ相手にそんな態度取らないほうがいいのに。

紅覇は自分の認めた人以外にはなめてかかる癖がある。

そのくせそろそろ直さないとかな。

「あら、比企谷くんの弟なら私より年下なのだと思うのだけれど。何かしらその態度は?お兄さんと一緒でまともに挨拶もできないのかしら?」

おーい、雪ノ下ー。

紅覇を挑発すんなよー。

紅覇は一番我が家でキレると怖い。

「ねぇ、なに八兄のことバカにしてんの?」

怖い怖い、目が笑ってないよ。

ほら、綺凛も涙目になり始めてるよ?

「あら、そう聞こえなかったかしら?」

なんでお前もそんな挑発にのるの?

「へー、君なんて一人じゃ何も出来ないよ?」

「あら、どういうことかしら?」

「君なんて・・・ただのあの人の劣等品のくせに。ぼくが誰のこと言ってるのかは君ならわかるよね?」

「っ!?なんであなたが知ってるの!?」

はー、なんでこんなにヒートアップすんのかね。

ただでさえあの人の話はしたくねーのに。

「はぁ、紅覇、雪ノ下、ストップだ。」

「八兄、まだ言いきって・・・。」

「終わりだ。」

「・・・わかったよ。」

よかった。

物分りのいい子で。

「雪ノ下も悪かったな。けど今回はお前にも非はあるけどな。」

「そのようね。・・・悪かったわ。」

「そういやお前、部員勧誘はどうなってる?って聞いても俺の予想が正しければ、由比ヶ浜・・・だろ?」

「あら、気づいてたのね。それで、明日何の日かわかる?」

「知らねーな。少なくとも休日じゃないのは明らかだな。」

なんか前もこんなことしたよーな・・・。

「明日、6月18日は由比ヶ浜さんの誕生日よ・・・多分。」

確信ないのかよ・・・

こいつが多分っていう事はよくあるある、メアドに誕生日でも入れてたんだろ。

「そうか、で?」

「由比ヶ浜さんに私達の気持ちを伝えましょう。辞めるにしろ感謝の気持ちは伝えるべきだわ。」

「あ、そ。俺にとってはどーでもいいことだな。」

「そう、それでも・・・あなたも感謝を伝えなさい。そして・・・私と誕生日プレゼントを、買いに行くの、つきあってくれない、かしら・・・。」

「どうぞどうぞ。こんなので良かったら好きなだけ貸してあげます。ね?お兄ちゃん!」

「いや、俺の意思は・・・」

「そう、ありがとう。では、早速行きましょうか。」

「お兄ちゃん、頑張ってねー。」

覚えてろよ小町ー!

なんでほかの奴らは何も言わないの・・・?

あ、メロンパン買ってる・・・。

不幸だぁぁぁぁあ!

 

 

 

 

 

ボーダー以外の女子と出かけるのってこれが初めてじゃね?

 

 

 

 

 



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彼女達の空気は・・・

今俺は雪ノ下とショッピングモールにいる。

どーしてこうなったんだ・・・。

全ての元凶は由比ヶ浜が部活を辞めたこと。部活辞めんなら他人に迷惑かけないで辞めて欲しい。

そして、由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買うと言い出した雪ノ下。お前は誰の許可得て俺を連れ回してんだ?OK出したの小町だろ。そこに俺の意思ないだろ。

俺は内心で愚痴りながら看板に表示されている地図とにらめっこしている雪ノ下を見る。何となく分かってはいたがコイツ、方向音痴だろ。

今までよく生きてこれたな。

あ、こいつお嬢様だから出歩かないで送迎か。自分で歩けよなー。

「ねぇ、比企谷くん。」

雪ノ下は真剣な顔つきでこちらを振り返る。なんかあったん?

「どこに向かえばいいのかしら・・・?」

うん。何かあったみたい。

やっぱりこいつ地図見てもわかんないレベルの方向音痴だ。

地図見て分かんない人なんてなかなかいないぞ?こいつかなりのレアリティだな。

「はぁ、ならここに行くぞ。由比ヶ浜みたいな今を駆ける女子が好む店に。」

俺は看板の地図を指さした。

「あら、あなた詳しいのね。あなたがこんな店入る機会なんてないと思っていたのだけど。」

「まぁ・・・ちょっとな。」

この店はまだ俺が中学の時に行った店だ。そん時は出来てまもない店だったためあまり人気がなかった。

そこに俺は幼馴染みでありライバルの小南と行ったのだ。

あの時はまだ俺も弱かったなー。今となっちゃ小南に負け越すこともなくなった。

懐かしーなー。

「なら早速行きましょう。」

雪ノ下は振り返り、ショッピングモールへと足を向けた。と本人は思ってるかもしれないけど、そっちショッピングモールじゃなくて東京ワンニャンショーの会場だから。

先が思いやられる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモール

俺と雪ノ下はあまり距離を開けないで歩いている。隣のお嬢様はとっても不機嫌です。俺のほうが気分悪いっツーの。

しかし今回は俺も我慢し

我、意に介せず。という感じで目的地にまで歩いてる。

俺の目星をしつけた店を中心におしゃれな雑貨屋がこれでもかと並んでいる。その一つ一つに雪ノ下は食いついていった。

それがウィンドウショッピングならまだ俺もわかる。女子はウィンドウショッピングが好きな生き物だと知っているからだ。

だが、あいつは店頭にある服を伸ばしため息をつくとすぐにこちらに戻ってくる。

それを繰り返し続けてた。そして決まって店員さんは、え?みたいな反応をする。

店員さん、申し訳ありません。この娘、世間知らずのダンボール入り娘なんです。そこら辺の箱じゃ収まりきれないレベルなんです。

俺が心の中で店員さんに誤っていると、スポーツ店が目に入った。

ちょうどいいしオレも買ってくか。

そう思い俺は、座っていた椅子から立ち上がり、雪ノ下に近づいた。

「雪ノ下、悪いが少し隣のスポーツ店にいっから。終わったら来てくれ。」

それだけ言うと俺は少し急ぎ足で店を出た。

だってあの店にあんましいたくないんだもん。香水の匂いがきつくて鼻が曲がりそうなんだもん。

俺は店から出て、鼻をすすりながらスポーツ店に入った。

えーと、まずは・・・シューズ売り場かな。最近走る距離が伸びたせいか俺の愛用してた匂いのきついランニングシューズは破けて親指がこんにちわしている。

メーカーは、いつものでいいな。カラーは・・・黒にするか。前は黒と赤のツートンだったけど今回は一色だな。

俺は自分の足のちょうどいいサイズの靴を籠に入れ、シューズ売り場をあとにした。

次は・・・水着だな。

まだ海とかに行くには早いが、ボーダーの訓練用のプールなら水温変えれるし遊べるだろう。

去年の海パンはたしか・・・どうしたんだっけ?あれ、海パンどこにやったっけか。思い出せねー。ま、これを機に買い換えるということで。

俺が海パンを見ている時

「比企谷くん、あなたの用は終わったのかしら?」

雪ノ下が来た。

「もうすぐで終わる。これ試着するから少し待っててくれ。」

俺は選んだ紺に緑の線がはいった海パンを手に持ち試着室に向かった。

ありゃ、2つとも使用中ですか。仕方ない、少し待つか。最近スマホで電子書籍読むのに凝ってんだよなー、俺。

俺は今朝購入した体探しを読みながら待っていた。

すると試着室の中から声が

「玲、着終わった?」

「うん。くまちゃんもOK?」

「うん、じゃせーので行くよ。」

あれ?すごく聞き覚えのある声がするんだけど。てゆーか昨日聞いたばかりだし。

俺は電子書籍を閉じ、スマホをカメラモードにし、待機した。

「行くよ、せーの!」

2つのカーテンが開き2人が外に出た瞬間に俺は写メを撮った。

お、なかなかうまく撮れたな。これ日浦に送ろーっと。

俺はその写真をLINEで日浦に送ろうとした時

「な!?ひ、比企谷!?何でこんなとこいんの!?」

「え!?比企谷くん!?」

くまちゃんはビックリしたのか水着のままこちらに近づき、那須はカーテンで体を隠した。

「いや、俺も試着しよーかなーって思ってきたらふたりの声するから写真撮ったんだけど見たい?」

「・・・変態。」

くまちゃんの冷たい視線が俺の至るところを刺していく。

やめて、俺は危機一髪じゃないよ?八幡危機一髪なんて誰が買うの?あ、俺に対してストレスためてる人に売れそう。

「あ、そうだ比企谷。どう?玲の水着。似合ってる?」

くまちゃんは俺のスマホを見ながら聞いてきた。

「似合ってんじゃねーの?よく分からんが。」

試着室の中でドサッと音がした気がする。

「よく分からないって・・・自分で似合ってるって言ったじゃん。何その無責任発言みたいなの。」

「いや、どれが似合ってんのかわかんなくてさ。俺の服装コーディネートしてくれんの家じゃ操か紅覇だし、ボーダーだったら小佐野だぜ?人任せにしてる俺がわかるわけねーじゃん。」

「あっそ・・・あんたに聞いた私が馬鹿だったよ。てゆーか何で瑠衣?」

「知らねーのか?あいつ元モデルだぞ。ファッションセンスも抜群だ。」

「へー。そうだったんだ。・・・あ、そうだ比企谷。私のこの水着似合ってる?」

「んー。俺的にはくまちゃんもうちょい・・・筋肉尽きた方がいいんじゃないかとオボイラ」

いたい・・・。急に殴られた。なんで?俺は素直に思ったことを言っただけなのに。くまちゃんはアタッカーだ。弧月を片手で振るのを苦手にしているため、少しアドバイスとして助言しただけなのに・・・。弧月を片手で振れないやつは基本、弧月を振る、ではなく弧月に振られている、と表現すんのがいいだろう。そのためにはくまちゃんは筋肉、特に腕あたりがもう少し必要だと思い言っただけなのに。

「あんたねぇ、なんで女子に向かって最初に言うことが筋肉なわけ!?たしかに比企谷なら変な目で見ないと思ってたけど、予想をはるかに上回るほどの目で見るなんて!」

カンカンなくまちゃんに俺はどうしてくまちゃんの筋肉を見た理由を話した。

するとくまちゃんは

「やっぱ、もっときんにくつけるべきか。これでも腕立てはしてるんだけど。」

と、案外納得した。

やはりこいつは戦闘狂予備軍のようだな。ちなみに予備軍は綺凛や双葉などのランク戦を2日に1回やるペースのことだ。1日1回を超えるのは戦闘狂。1日に50本を超えるのは戦闘中毒者。このように俺は3つに分けている。

俺が戦闘狂のレベルを脳内で分離していると

「比企谷くん、終わったかしら?」

「比企谷くん、良かったらお昼ご飯一緒に食べない?」

雪ノ下と那須が同時に出現。

瞬間的に空気が微妙になった。

めんどくさそくなりそうだな。ただでさえ今日は結野アナの占いで魔王との遭遇があるって言われてるのに。

は〜。

 

 

 

Q.俺の休日は休日と認められるものでしょうか

 

 

A.俺にはまず認めてくれる人がいない。

 

 

 



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彼女の占いはよく当たる

少なめです。


は〜、なんで女子ってこんなに空気悪くするの得意なの?それとも俺が悪いの?

特に那須。何でそんなに不機嫌オーラ出てんの?雪ノ下になんか恨みでもあんの?迅さんに会った時の三輪みてーな反応じゃねーか。

「なぁ、くまちゃん。俺、水着試着してくるから何かあったら・・・ガンバ!」

俺はこの空気から脱するべく、試着室に逃げ込もうと水着を持った。

くまちゃんには悪いが、那須の対応出来るのこの場じゃくまちゃんだけだし。俺なにも悪くないもん。

俺が靴を脱ぎ、カーテンを閉めようとした時

「ねぇ、比企谷くん。昨日言ってた用事って・・・デートのことだったのかしら?」

気づかれたー!

俺はカーテンを手で掴んだ状態で固まっている。

やばい、変な汗が出てきた。ほら、もうカーテンに俺の汗染み込み始めてる。

「や、違うぞ?えっと・・・その、そう!部員の誕生日プレゼント買いに来ててな、俺は靴と海パン買うためにここに立ち寄ってるんです・・・。」

俺の弁明は読むにつれて声が小さくなっていく。

いや、だってほら?あの顔みてご覧。有無を言わせない顔だぜ?もう、怖くて怖くて・・・。

「そっか。なら仕方ないね。」

おろ?案外あっさりと納得したな。なんか問い詰められるかと思ったんだけど。

「お、おう。仕方ないよな。だから、俺達はこれにて・・・」

「まだお昼ご飯食べてないんでしょ?一緒に食べよ?」

「いや、あの・・・これから買い物が・・・」

「食べよ?」

「ですから」

「食べよ?」

「はい・・・。」

どんだけ俺と飯食いたいの?あれか、メシ代浮くとでも思ってるのか?残念ながらこれと由比ヶ浜の誕生日プレゼント買ったら自分の飯食うのが限界です。

「じゃあ、12時にあそこのバトルロイヤルホストにね。」

「わかった。じゃ、またあとでな。・・・行くぞ、雪ノ下。」

俺と雪ノ下はレジに向かった。

いや、雪ノ下は来る必要なくね?

 

 

 

 

 

 

 

目的の雑貨屋。

俺と雪ノ下は目的の雑貨屋にまで来た。ここまでの道のり、長かったぜ。

雪ノ下のウィンドウショッピング?から始まり那須、くまちゃんとの遭遇。かれこれ2時間近くかかっている。

服を引っ張って確認をする雪ノ下は現在、服を引っ張ってます。

「なぁ、雪ノ下。前にメールで由比ヶ浜、最近料理に凝ってるって言ってた気がするんだが・・・。」

俺が助言すると雪ノ下の顔は青ざめ、震えだした。

え?なにか嫌なことでもあったの?俺に助言されたのがそんなに嫌だったの?

「そ、そう・・・。なら、このエプロンなんてどうかしら。」

雪ノ下は紺色に猫の肉球のワンポイントの入ったエプロンを自分にあてた。

「似合ってんじゃねーの?」

「そう、ありがとう。でも由比ヶ浜さんには?ということよ。」

ならそう言えよ。おもっきりお前のことだと思って素直に思ったこと言っちまったじゃねーか。

「由比ヶ浜にはもっとバカっぽくてゆるくてフリフリしてんのがいいんじゃね?」

俺は雪ノ下が手にしたエプロンの隣にあるエプロンを指さす。

「酷い言い方だけれど、的を得てるわね。そうね・・・私はこれにするわ。」

雪ノ下はピンク色のフリフリしたエプロンを手にするとレジに持っていった。先ほど自分に当てていたエプロンと一緒に。

なんでそれも持ってくのん?ねぇ、ゆきのん、ぼく、きになるよん。

俺の願いが通じたのか

「これは、私用によ。今使ってるエプロンがこの前魚をさばいていた時に血を浴びて、なかなか落ちないからこれを機に買い換えようと思ったのよ。」

コイツが・・・返り血?やばい・・・想像しただけで寒気が。冷徹な目をした山姥・・・。

「そーかい。おりゃ、何も言っちゃいねーんだが。いらない情報までありがとよい。」

雪ノ下はエプロン2つを買い終わり店の外に出てきた。

ちなみに俺は最初から出ている。

だって、こんな女子だらけの店に俺が入ったら第一級戦闘態勢で警戒されちゃうもん。

最近語尾にもんつけるの多いなー。

さて、結野アナの占いが現実になる前に早くバトルロイヤルホストに行くか。

俺はそう思い雪ノ下に解散しようと言いに行こうとした時

「あれ〜、雪乃ちゃん?」

この声・・・まさか!?

「・・・姉さん。」

ちょ、お前それ言ったらばれんでしょ。

「あ、やっぱり雪乃ちゃんだ!」

ほら、こっちに来た。本日の結野アナの占い・・・大当たりー!

やだなー、これからご飯食べに行くのに。この人のせいで俺の不機嫌メーターが、振り切るぜ!

「あれ?比企谷くん?・・・やっぱり比企谷 くんだ!久しぶりだね。」

「・・・久しぶりです、ハルさん。じゃ、俺はこれで。」

「ちょっと、どこ行このかな?比企谷くん?」

「俺、これから飯食いに行くんで。あなたにかまってる暇ないんです。」

「・・・お姉さんが話してるんだから・・・人の話は最後まで聞こうね?」

ハルさんは俺の肩を鷲掴みしてきた。逃がさないぞという意思が見えてる。

けど、残念ながら・・・

「・・・邪魔。」

俺はサイド・エフェクトを使用し、ハルさんを睨みつけた。

「ッ!・・・もうそんな程度の態度じゃ、お姉さんの心は動かないかな〜?」

ハルさんは少したじろぐも、俺の肩を離さない。

は〜、仕方ない。あんまし人のいる所でやりたくないんだけど・・・

「もう1度言います。・・・邪魔。」

俺はハルさんの肩に手を置き、ハルさんを転ばせた。

流石にこれにはハルさんも、俺の肩を離した。

「・・・なにしたの?比企谷くん?」

ハルさんは未だに状況が飲み込めてないようだ。

早くしないと約束の時間に遅れるってのに・・・仕方ない。

「あなたが体にかけてる体重が一番大きいところをつきました。簡単にいうと・・・アンクルブレイクですね。」

これは黒子のバスケの赤司がやってたの見て、出来んじゃね?とか思ってやったら出来た技。

俺のサイド・エフェクトがあって初めて使える。

「さて、俺はもう行きますね。約束の時間に遅れるといけないんで。」

俺は何事もなかったかのように一番の笑顔で別れの挨拶を告げだ。

 

 

 

 

 

 

ほんと、結野アナの占いはよく当たるな・・・。



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彼は木の葉の忍び?

魔王との遭遇の翌日、月曜日。

俺は今日、那須との約束があるため雪ノ下に由比ヶ浜の誕生日プレゼントを渡しに行こうと部室に向かってる。

いや、同じクラスだけどさ、俺が自分から話しかけれるはずもないし、あんなうるさいところになんか自分から行くわけないし。

ふっ、群れることでしか自分の立場を確立出来ないなんて可哀想な奴らだな。

因みに俺は、一人でいることでボッチという立場を確立させている。

ボッチってリア充からしたら奈落にしか見えないんだろうな。

奈落も案外いいもんなのに。

もしかしたら一番下に温泉あるかもしんないのに。

いや、ないな。

第一、奈落ならそこがないんじゃね?

つまり、俺は現在進行形で真っ逆さまというわけか。

真っ逆さまに、落ちて、デザイア。

中森明菜さーん!

俺の頭の中で『デザイア〜情熱〜』が流れていると、部室の前に由比ヶ浜がいた。

「スーハー、よし。」

「何してんだ?お前。」

「っえ!?うわっ!?ヒ、ヒッキー!?・・・い、いや〜。空気が美味しいな〜って・・・。」

あからさまに気合入れてたでしょ。

それもそうだな、辞めた部活にまた足入れようとしてんだ、緊張しないわけがない。

俺なら行かないね。

誰か別の人に頼んで行かせる。

いや、おれ、頼める人いないじゃん・・・。

もう、かなし・・・。

「うす。」

俺は悲しさと一緒に部室に足を入れた。

後ろの由比ヶ浜は拳を握ると、決意した目になり、由比ヶ浜も部室に足を踏み入れる。

「や、やっはろー・・・。」

火を見るより明らかに声にいつものような覇気が込められてない。

さっきの決意は何だったんだ・・・。

「こんにちは、由比ヶ浜さん。ごめんなさいね、呼び出したりして。」

「う、うん。だ、大丈夫だよ。今日、特に用事なかったし・・・。」

あ、あのー。

僕、挨拶返されてないんですけどー。

なんでそれが当たり前のように話が進んでるんですかー?

「あら、比企谷くん。何時からそこにいたのかしら?・・・ごめんなさい。そこに誰もいなかったわね。」

「いるから、チョーいるから。さっきからいたでしょ。」

「さっきから?・・・はっ、もしかしてストーカー?もしそうなら早く言いなさい。私が直々に裁いてあげるから。」

「俺は何モノにも裁かれませんー。俺を裁けるのは尸魂界(ソウルソサエティ)だけですー。むしろこれから今までの行い挽回していきますー。」

「あら、あなたがいくら卍解(ばんかい)しても挽回は出来ないのよ?いくら尸魂界だけと言っても結局は裁かれる運命なのよ。だから私が直々に裁いてあげると言ってるのよ。感謝しなさい。」

こいつ・・・できる!

まさかブリーチが伝わるとは思わなかったぜ。

こいつも、平塚先生に毒されたな、JUMP症候群に。

JUMP症候群とは、どんな会話にもJUMPネタを混ぜてくる奴らのことだ。

気がついてるかもしれないが、俺もそのうちの一人だ。

く、銀魂実写版が楽しみだ・・・。

「ごめんなさい、話がそれたわ。・・・実は、由比ヶ浜さんに言わなければいけないのだけど・・・。」

「う、うん。」

なんで由比ヶ浜は固唾を呑んでんだよ。

そんなに緊張する局面か?

あ、頬に冷や汗垂れた。

「お誕生日おめでとう、由比ヶ浜さん。」

「・・・へ?」

おい、なんだよその・・・鳩が豆鉄砲食らったみたいな表情は。

内側に秘めるアホが外にまで出て来てるぞ。

「今日はお前の誕生日なんだろ?由比ヶ浜。素直に喜べよ。ほれ、おめでとさん。」

俺はカバンから正方形の薄い箱を取り出し、由比ヶ浜に渡した。

「え、えっと・・・ありがと。あけてもいい?」

「ん、いいぞ。」

由比ヶ浜が包装用紙を子供のようにビリビリに破き、中身を取り出した。

「くびわ?」

「・・・やっぱり比企谷くんは私が裁くわ。」

ん?なんかこいつら勘違いしてないか?

「に、似合うかな?ヒッキー。」

なんでこいつは首につけてんの?

いや、そりゃー首輪だし、首につけるのは当たり前なんだけど

「それ、犬ような。・・・お前が犬志望なら話は別だけど。」

「え?・・・そ、それを早く行ってよ!ヒッキー!」

由比ヶ浜は顔を赤くし、首輪を外す。

あれ?なんか顔色悪くない?

由比ヶ浜の首をみると、首輪はきつく締まってた。

なんでたよ・・・。

「雪ノ下、外してやれ。」

俺急いでんのに、何でこんなにもトラブル起こすかなー。

や、別にToLOVEるはおきてないよ?

起きたら、雪ノ下に殺される。

それこそ斬魄刀(ざんぱくとう)使って。

俺は雪ノ下が斬魄刀を振っている姿を想像し、雪ノ下の方をチラッとみた。

お、首輪は外れたか。

「んじゃ、首輪は外れたみたいだし、俺は帰るわ。・・・由比ヶ浜、辞めるも続けるもお前の勝手だが、罪悪感でここ辞めたんなら・・・二度と来んなよ。じゃ。」

俺は自分でも冷たいと自覚するレベルの冷めた声で由比ヶ浜に言い放った。

ったく、二度と来んなよな、・・・罪悪感があるなら。

ふっ、我ながら甘い考えだな。

俺は自分の甘さに舌を巻きながらボーダー本部へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー本部、個人ランク戦ブース前。

俺は椅子に座り、個人ランク戦を暇つぶしがてら見ている。

ちょうど今、弾&槍バカーズが24本終了したと同時に

「ごめんね、比企谷くん。まった?」

那須がきた。

「別に。待った、って言っても5、6分程度だ。・・・んじゃ、時間もったいねーから早速やんぞ。俺は112に入ってるからステージ等好きに決めていーぞ。」

俺はブースへと歩き出し、トリガーを・・・起動した。

さて、いっちょ弟子のために一肌脱ぎますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ、市街地B。

なるほど、ここなら遮蔽物も多いからな、那須のバイパーが活きる。

本気で俺に勝ちにきてんだな。

なら・・・本気には本気で応えないと。

俺はレーダーを見て、那須がどこにいるのかチェックした。

・・・ちかっ!

俺はレーダーを閉じ、両手にトリオンキューブを出現させる。

那須がいるのはあそこだから・・・

「アステロイド+アステロイド・・・ギムレット!」

俺は建物ごと那須を狙った。

俺のトリオン量はボーダーで一番だ。

あんな建物なんてあってないようなもんなんだよ。

ま、それは那須も分かってたんだろうな。

若干だけどシールド張ってるのが見えたし。

ただ、誤算があるとすれば・・・俺が合成弾を使ったことだろう。

当選、シューターなら殆どの人たちが使う。

それは頭に入っていたはずだ。

ならなぜ誤算なのか。

それは・・・土曜日からたったの一日ふつか程度で俺が合成弾を習得できたことだ。

那須も含めシューター達は合成弾を習得するために何度も練習を繰り返したのだろう。

それこそ、1日2日程度の期間ではなく、もっとそれ以上の時間をかけて。

だが、合成弾を初めて使用した出水は、やったらたまたま出来た、と言っていた。

なら俺が、たまたま出来てもおかしくはないわけだ。

一度出来てしまえば感覚は残る。

あとはそれをひたすら作っては消しの繰り返し。

するとあら不思議。

合成弾の作成スピードが5秒程になってるではありませんか。

しかし、これを間宮隊の面子にやらせたら出来るかと聞かれたら、答えはNOだろう。

俺は元々、シューターとしての基礎は出来ていた。

それこそ、そこら辺のB級中位には負けないくらいに。

これは俺の長年の賜物だ。

俺はポッケに手を突っ込み、那須のいた方を向いていると、空に一筋の光が飛んでいった。

まずは1勝・・・か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、結果は8対2だった。

ブランクがあるとはいえ、なかなかの満足レベル。

いやー、あんなに近づかれるとはねー。

至近距離からのトマホークなんて俺じゃなきゃ当たってたな。

まじ俺のサイド・エフェクト、チート。

「は〜、負けちゃったか。」

隣では落ち込んでいるも、どこか清々しさを感じさせる弟子、那須玲が座っている。

「ったりめぇだ。シューター歴としてはお前より長いんだよ。勝負は実力差もだが、経験の差もモノをいう。」

「・・・ねぇ比企谷くん。私も、比企谷くんみたいな戦い方出来るかな?」

「・・・辞めとけ、誰かの真似すんのだけは。」

「・・・なんで?」

「仮にお前が俺と同じ戦い方が出来るようになったら、それ以上は伸びねーよ。・・・けど、トリガーの使い方ぐらいなら真似してもいんじゃねーの?」

「そっか。・・・じゃあ早速、あのアステロイドの使い方教えて。」

「あのアステロイド?」

どのアステロイドだ?

俺、今日殆どアステロイドしか使ってないんだけど。

あ、1回バイパー使ったか。

「ほら、私が比企谷くんとの距離が近くなった時の。」

近くなった時・・・近くなった時・・・。

あ、俺から接近した時ね。

「あれは・・・これを見ろ。」

俺はスマホを取り出し、YouTubeを見せた。

「これは・・・アニメ?」

「ああ、そうだ。あの技の元はこれだ。」

そのアニメの名は・・・NARUTO!

いやー、あれは戦い方が参考になるからって理由で見始めたんだが、もう試験中だろうが入試前だろうが関係なしに見てたね。

因みに、那須の言っているアステロイドとは、早い話ただの『螺旋丸』だ。

手元に出現させたアステロイドを分割せず、距離、弾道設定もせずに威力が最大になるように設定し、そのまま相手にぶつける。

半端なシールドじゃ防ぎようのないシュータートリガー最大の威力、だと俺は思ってる。

「ねぇ比企谷くん。私にもこれ、出来るかな?」

「・・・1週間もあれば十分だ。・・・ただし、やり方は自分で考えろ。出来るようになったら風間さんのところに行け。体捌きに関してはあの人はボーダートップだ。俺が話つけとくから。」

俺も風間さんに何回か指導してもらってるしな。

体捌きは近接戦闘においては最も大事なことと言っても過言ではないくらいだ。

俺なんかよりもなにかの分野でのエキスパートに指導してもらうのが一番だ。

「わかった。・・・今日はありがとね、付き合ってもらって。」

「ま、一応、師匠だしな。それなりの事はやるつもりだ。・・・あとはお前の努力次第だが。」

「ふふ、そうだね。じゃあ、私これから防衛任務だから。じゃあね、明日もよろしく。」

那須は手をこちらに振ると元気そうに走っていった。

体が弱くてもトリオン体なら、関係ない。

・・・誰かの役に立てるって、いい気分だな。

 

 

 

・・・俺が弟子をとるのは、間違ってない。

 

 

 

かもしれない・・・。



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彼の人脈は思いのほか広い(ボーダーのみで)

副本部長室。

夏休みに入り、俺は副本部長兼おふくろに呼び出された。

は〜、一体何の用なんだよ。

俺なんかやらかしたか?

わざわざ家じゃなくてこっちで言うって事は仕事関係なんだろうけど。

自慢じゃないが俺は仕事でミスしたことは無い・・・と思う。

にしてもこの重たい空気、しんどい。

俺が入室してから数分たってるのに未だに話し出さない。

おふくろはさっきからパソコンをいじってる。

副本部長ともなれば仕事は大変なのかね。

おふくろが入ってから俺に回ってくる仕事は減った。

つまり、おふくろは本来俺がやるはずだった仕事をしているわけだ。

だから俺は仕事をしているおふくろに対して何も口出しすることが出来ないわけだ。

だから俺はボーっと立っているしかない。

だって・・・こわいもん。

俺が冷や汗垂らしなが、おふくろの仕事を見ていると

「ふー、ようやく終わった・・・。」

おふくろの仕事が一段落付いたようだ。

「さて、あなたを呼んだ理由を話そうかしら。」

「あんまし長引かせないでくれよ。俺、まだ夏休みの課題終わってねーんだよ。」

夏休みが始まって既に一週間たとうとしている。

本来なら夏休みの課題は長期的にやるのだろう。

だが、ここには夏休みの課題を他人にやらせる奴がいる。

断ってしまえばいいのだが、あいにくそうもいかない。

ボーダーから留年者は出したくない。

そのためボーダー隊員総出で夏休みの課題が終わってないやつを手伝う。

当然、何らかの報酬付きで。

去年は焼肉連れてってもらったなー、米屋に。

ほんと、なんで米屋は去年で懲りないで今年もランク戦ばっかやってんだか。

はー、早く俺も夏休みの課題、終わらせよ・・・。

「それじゃ、本題に入らせてもらうわ。」

「ようやくかよ。」

「副本部長よりボーダー隊員代表比企谷八幡に命じます。来週の金曜日から2泊3日の間、海浜小学校の千葉村でのオリエンテーションのボランティアをしなさい。」

「・・・去年もしたんですけど。」

そう、去年も同じような事をした。

ただ、違うところを挙げさせともらうと

「なんでボランティア?」

ボランティアというところだ。

去年はちゃんと給料が出た。

「ええ、そうよ。ただ、ボランティアというのは名目上で実際は給料も出るわ。」

「そうか。で、何人誘えばいいんだ?」

「そうね・・・だいたい12人いれば十分かしら。」

「わかった。取り敢えず誘ってくるわ。」

俺がおふくろの元を離れようとした時

「まちなさい。まだ話は終わってないわ。」

呼び止められた。

「いや、今ので終わりだろ?」

「いいえ。・・・おそらく、私達がボーダーだということが小町に近いうちにバレるわ。」

うん、だろうな。

流石に隠し通すのはキツすぎる。

絶対にいつか、バレる日が来る。

俺はそう確信していたんだが

「なんで、そう思うんだ?」

おふくろが急にこんなこと言い出すんだ。

何かしらの理由があるんだろう。

「・・・昨日、悠一くんから電話が来たの。近いうちに娘さんがボーダーに入りたがる、って。」

なるほど・・・。

迅さんのサイド・エフェクトがそう言ってんのか。

けど、まてよ・・・。

「なぁ、迅さんはいつ、小町のこと見たんだ?」

そう、小町と迅さんには何の接点もない。

少なくとも俺の知る範囲では、だが。

「この前、あなたがいない時に家に訪ねてきたそうよ。その時に小町が対応したんだって。」

「・・・そうか。で、どうすんだ?このままじゃあいつはボーダーにはいりたがるぞ。」

「ええ、そうなのよね。もしも、あの子が勝手にボーダーの試験受けたらどうしようかしら。」

「そうなんだよな・・・。仮に受けたとしても小町は絶対に受かることは無い。それに関してはおふくろも分かってるだろ?」

「もちろんよ。・・・それで気を落とすのが怖いのよ。」

「俺の時にもそんな言葉かけてくれれば嬉しかったなー。」

「あなたに言うわけないじゃない。」

・・・断言しやがったな、このクソアマ。

なんで、娘と息子の扱いの差ってこんなにも出るのかしら。

ほんと、困っちゃうわね、も〜。

・・・キモイな。

「・・・それにしてもなんであの子だけ・・・・・・あんなにトリオンが少ないのかしら。」

「そうだな・・・。」

小町が絶対に入隊できない理由。

それは、圧倒的なトリオン量の少なさ。

おそらく、並の一般人よりもひくいだろう。

なんで小町のトリオン量が分かるかって?

それは・・・小町は一度、トリオン量を測ったことがあるからだ。

昔、俺がボーダーに入る際、小町のトリオン量も測ったのだ。

しかし、まだ幼少期とはいえ、平均よりも圧倒的にトリオン量がすくなかった。

成長したからといって急激にトリオン量が増えるわけもない。

だから、俺とおふくろは小町が入隊出来るわけがないと、確信している。

「それでね、八幡。・・・あんたの好きなタイミングでいい。小町に言いなさい。包み隠さずに全部。」

「・・・断る。なんで俺がそんな恨まれるようなことしなきゃならねんだよ。」

「私はしばらく家に帰れないし、残念ながら私より、あんたの言葉の方が小町には響くみたいだしね。」

「・・・はぁ、わかった。ただし、これは貸しだからな。」

「わかったわ。・・・話はいじょうよ。では、メンバーが揃ったら報告するように。」

そう言うとおふくろはまた仕事を開始した。

はー、責任重大だな・・・。

俺は副本部長室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷隊、隊室。

誘うって言っても誰誘うの?

12人か・・・。

比企谷隊全員で行くとして、あとは一つの隊につき2人ずつの4部隊分か。

取り敢えず、去年誘った人に当たってみるか・・・。

 

 

 

 

太刀川隊隊室。

「出水ー。いるかー?」

俺は扉を叩きながら出水を呼び出している。

案外これで呼び出せる。

「ん?お、比企谷じゃん。どした?」

俺が扉を叩いていると開き、目的の人物が現れた。

「よ、出水。なぁ、去年やった千葉村の覚えてるか?」

「ああ、覚えてるけど、どうしたんだ?」

「今年も行かねーか?もちろん防衛任務はお前抜きになるけど。」

「別にいーぞ。ぶっちゃけ防衛任務、太刀川さん一人いれば十分だしな。」

「そうか、サンキューな。あ、後日程なんだが、来週の金曜日だ。持ち物とかは去年と一緒だから。」

「オッケー。じゃ、俺は夏休みの課題あるから。メンバー決まったら教えてくれよ。」

「おう。」

出水はそう言うと隊室に戻っていった。

 

 

 

 

 

嵐山隊隊室。

『すいませーん。嵐山さんいますか?』

流石にここは呼び鈴を使う。

仕事中だったらただの迷惑行為だしな。

『はーい。あ、比企谷くん。ちょっと待ってて、今開けるから。』

・・・すぐに開けてくれるのは有難いんだが、もう少し相手を確認してから開けような?

もしかしたら不審者かもしれないし。

宅急便でーすって来て、確認しないでドア開けてまさかの強盗ってこともあり得るからな。

俺が頭の中でそんな風景を想像していると

「いらっしゃい、比企谷くん。」

ドアが開き、嵐山隊オペレーター、綾辻 遥が出てきた。

「よ、綾辻。嵐山さんいるか?」

「嵐山さんなら奥にいるよ。」

「そうか、サンキュー。」

「ううん。あ、今お茶入れるね。」

これが本来客人が来た時に対応する奴の態度だ。

こんなに相手に不快感を与えない接客ができればトラブルなど起こらない。

なぜ俺がこんなことを感じているのか。

それは・・・操が原因だ。

あいつはいつも客人が来ても茶は出さない、もてなさない、など人間性に欠けるやつなのだ。

はぁ、うちの隊でまともなの俺と綺凛ぐらいしかいないんだもんな。

紅覇はってか?

ダメダメ、あいつはいつも対応しないから。

ほんと、嵐山隊が羨ましいな。

俺が嵐山隊を讃頌していると、奥から嵐山さんが出てきた。

「お、比企谷。どうしたんだ?お前から俺のところに来るなんて珍しいな。」

「まぁ、そっすね。で、早速本題なんですが、去年の千葉村の件覚えてますか?」

「千葉村?・・・ああ、覚えてるさ。それがどうかしたのか?」

「実は今年もそれがありまして、良かったら参加して欲しいなと思いまして。」

「いつだ?」

「来週の金曜日、2泊3日です。」

「・・・俺、その日仕事あるな・・・。よし、遥、藍二人とも行ってこい。いいか?比企谷?」

「別にいいですよ、本人がいいなら。」

ま、去年と同じ面子だったら野郎しかいないからな。

少しは花があった方がいいか。

「私は大丈夫ですよ。」

「わ、私も大丈夫です。」

綾辻と木虎がオーケーした。

「そうか、じゃ、持ち物とかは去年と同じなんで、嵐山さん、二人に教えておいてください。」

「わかった。そうだ、集合時間は?」

「後日、連絡します。」

「そうか。・・・じゃあな比企谷。」

「それでは失礼します。」

俺は綾辻に出してもらったお茶を一気に飲み、嵐山隊隊室を出ていった。

残り5人か。

 

 

 

 

 

 

 

三輪隊隊室。

「三輪ー、いるかー?」

俺は出水の時と同じように、扉をガンガン叩いて、三輪を呼び出した。

「・・・何のようだ、比企谷。」

・・・なんでそんなに元気ないんですか、三輪くん。

よく見ると、三輪の手は少し黒くなっていた。

おそらく、先程まで字を書いてきたのだろう。

三輪は、米屋の課題の犠牲者の一人だ。

頑張って自分の分の課題を終わらせようとしてんだな。

「いや、その・・・来週に去年やった千葉村のヤツあるから、誘いに来たんだけど・・・。」

俺が三輪の雰囲気に押されながらも要件を伝えると

「お、俺も秀次も行くぞ。」

奥から夏休みにおいて最大最強のボーダー隊員。

米屋陽介が現れた。

テメーのせいで三輪のご機嫌が斜めなんだよ・・・。

「・・・陽介、勝手なことを言うな。」

「えー、別にいいじゃん?去年もやったんだし。」

「やらん。」

「えー、やろうぜー。」

ついに、三輪が折れたのか

「・・・わかった。行こう。詳細は後で携帯の方に送ってくれ。」

三輪はそう言うとすぐに扉を閉めた。

まだ、課題やるんですね・・・。

合掌。

残り3人。

 

 

 

 

 

 

 

那須隊隊室。

俺が那須隊隊室に向かうと、途中で日浦に会い、一緒に移動している。

「それで、比企谷先輩は那須先輩達に何のようなんですか?デートの約束ですか?」

「・・・仕事の依頼だ。」

「仕事ですか?ならなんで那須先輩とくまちゃん先輩を?」

「野郎だらけの仕事なんて嫌だって言ってる奴がいるんでな。それに、こういうイベントは弟子を誘えって言われてんだよ、おふくろに。」

「へー、そうなんですか。あ、良かったらあたし、伝言伝えますよ?」

「・・・後でLINEで説明するっていっといてくれ。」

こいつが伝言すると、内容が変わるってのはもう分かっている。

こいつは鈴鳴第一のスナイパー、別役太一とはまた違うおっちょこちょいだからな。

俺が日浦のことを見ると・・・日浦は俺の事をじと目で見てくる。

「・・・私の事信用してないんですか?」

「念のためだ。流石に仕事を内容を間違われると困るからな。」

「・・・わかりました。」

「よし、いい子だ。じゃ、頼んだぞ。」

俺は日浦の頭をポンポンと叩き、自分の隊室に足を向けた。

さて、あと一人は・・・あいつでいっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下。

俺は最後の一人の候補に電話をかけている。

どうせあいつのことだ、すぐに出るだろ。

すると俺の予想を裏切らず、案の定ワンコールで出た。

『もしもし、どうしたのよ八幡?』

最後の候補、玉狛支部アタッカーにして俺の幼馴染、小南 桐絵。

「あー、去年の千葉村のやつ今年も行くことになったんだけど・・・お前も」

『行く!絶対に行く!』

俺が最後まで言い切る前に答えを出しやがった。

しかも大声で。

「そうか。じゃ、詳細はご」

『あ、陽太郎も行きたいみたいなんだけどいい?』

また言い切る前に・・・。

はぁ、まいっか。

いつものことだし。

それにしても陽太郎か。

別にお子様一人増えてもなんと問題は無いな。

「いいぞ。じゃ、俺眠いから切るぞ。」

『わかったわ。それじゃ。』

ふー、これでオッケーか。

あとは操、紅覇、綺凛に伝えて、必要な物買いに行きますか。

 

 

 

 

 

・・・雷神丸って人数に入れるべきか?

 



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彼らは長年の付き合い

木曜日の夜、千葉村行きの前日。

おふくろを除いた5人で夕食をとっている。

基本、我が家の食卓は何故か静かだ。

だが、今日は珍しくその静寂が破られた。

「ねぇ、お兄ちゃん。」

小町によって。

小町は手に持っていたお椀をテーブルに置き俺に話しかけてきた。

「ん、なんだ?味噌汁の味薄かったか?」

「ううん、おいしいよ。じゃなくて、小町、明日からお泊り行くから多分帰ってくるの日曜日になると思うんだけど・・・いいかな?」

日曜日か・・・千葉村に行く期間とかぶってるな。

「いいぞ。実は、俺と操も日曜日まで泊まりがけのバイトがあってな。・・・紅覇と綺凛もなんか用事あったんじゃなかった?」

俺は紅覇と綺凛に目で俺の考えてることを伝える。

通じてるかな・・・。

「あ、そうだった〜。僕も友達の家に泊りに行くんだった〜。」

「私は・・・あ、藍ちゃんと遊びに行ってきます。」

どうやら二人にはちゃんと伝わっていたようだ。

「お〜奇遇だね〜。じゃあ小町は明日の準備してくるね!」

小町はごちそうさまと言い、食べ終えた食器を台所に置き、ドタドタと階段を勢いよく上っていった。

「・・・話に乗ってくれてサンキューな。」

俺はまるで糸の切れた操り人形のように机にグデーとなった。

4人とも同じ期間に泊りがけなんて不自然すぎる話をよく信じたな、小町。

いつバレるかもわからない会話のせいで俺の緊張の糸はピンピンに張っていた。

「よくあんな嘘でバレなかったわね。なによ、2人で泊りがけのバイトって。」

「しょーがねーだろ。とっさに出てきた嘘がそれなんだから。ま、あながち嘘じゃねーけどな。」

なんにせよ、泊りがけのバイトというのは本当なんだ。

嘘、ではないと思う。

「じゃ、僕も明日の準備してくるね〜。」

「私も準備してきます。」

紅覇と綺凛は一緒にごちそうさまと言い、食器を下げ各自の部屋へと戻って行った。

今現在、リビングに残ってるのは俺と操だけ。

「・・・それで、何か私に話があるんでしよ?」

「ああ。実はな・・・迅さん曰く、小町に俺達がボーダー隊員だってことが近々バレるらしい。」

俺は、おふくろから言われたことを操に伝えた。

「なるほどね。で、それを私に言ってどうするの?」

「もしも、小町に説明する時が来たら一緒にしてほしい。俺1人でちゃんと言えるか不安でな。それに、一応お前も小町がボーダー隊員になれないことを知ってるしな。」

俺と操は同期なんだ、当然、結果も知っている。

「・・・わかったわ。話は終わり?」

「ああ。悪かったな、呼び止めて。」

「ホントよ。よくあれで気付いたなって我ながら感心してるんだから。」

俺がどうやって操を呼び止めたか。

答えはこうだ。

俺は、操がイスを引きたとうとした瞬間、操の座っているイスに足を掛け、イスを下がらせないようにしたのだ。

確かに、これだけだったらよく小学生とかが好きな子にするイタズラのように思ってもおかしくなかった。

ホント、よく気付いてくれたな。

「じゃ、私も明日の準備してくるから。」

操はそう言うと食器を片付けないで部屋へと戻って行った。

「・・・長年の付き合いってスゲーな。」

俺は一人、誰に言うわけでもなくポツリと呟き、操の食器と俺の食器を持ち台所に下げ、食器洗いを始めた。

・・・雑用押し付けられたクラスの嫌われ者みたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金曜日の朝、ボーダー本部前。

俺と操、紅覇、綺凛は集合時間より早く集合場所にいる。

小町に怪しまれないようにバラバラの時間に出てきた結果だ。

・・・小町が行った後に家出ればよかった。

俺は後悔し、腕時計を見る。

そろそろ時間か。

俺が時計から顔を上げると、こちらに1人、誰か近づいてくる。

一番乗りは誰かなー?

「お待たせしました、比企谷隊の皆さん。」

時間5分前にちょうど。

きっちりとした性格の持ち主、木虎が来た。

「あ、藍ちゃんおはよう。」

「お、藍じゃ〜ん。おはよ〜。」

「あら藍。おはよ。」

「流石だな。5分前ちょうどって。」

「おはようございます。綺凛ちゃん、練先輩、巻町先輩。」

・・・ナチュラルに俺のこと省くのやめてくれない?

後輩に省かれる先輩の気持ちになって!

屈辱に感じるから。

それか、むなしい気持ちか。

俺は4人で楽しそうに話しているのを尻目にしながら空を見上げ、雲を眺めてると

「ごめんね、遅れちゃったかな?」

綾辻が来た。

「いや、丁度ぐらいだろ。」

俺がそう言うと綾辻は、そっかと言い、俺のそばに荷物を置き操達の方へと向かっていった。

僕、別に荷物番じゃないんですよ?

そんな事を思いながら綾辻の置いてった荷物を俺達の荷物があるところにまで運び、ひとまとめにした。

さて、次は誰が来るのかな?

「あ、おはよう、比企谷くん。」

「お、比企谷、おはよう。」

「おはようさん。那須、くまちゃん。」

那須とくまちゃんがふたり仲良く来た。

朝からアツアツですねー。

怖いくらいね!

「比企谷、あと何人?」

「ん?ああ、あと5人だな。」

「そ、ならさコンビニ行ってきていい?」

「いいぞ。・・・あ、ならあったらでいいんだけどMAXコーヒー買ってきて。」

「いいよ。玲はどうする?」

「私はいいよ、くまちゃん。」

「わかった。じゃ、行ってくるね。」

くまちゃんはそう言うとカバンを俺の足元に置き、その中から財布を抜き取りコンビニへ向かっていった。

「ねぇ比企谷くん。」

「ん?なんだ?」

俺がくまちゃんの背中を目で追いかけてると

「今日ってさ、何するの?」

「さぁ?特に何も言われてねーからわからねーや。」

ほんと、一応俺が代表なんだからスケジュールくらい教えておいてくれよ。

「そっか。・・・あ、桐絵ちゃん来たみたいだよ。」

ようやくか・・・。

もう時間過ぎてんだけどな。

あ、そういえば陽太郎も来るって言ってたな。

陽太郎のこと待って遅れたのか?

「あ、八幡、那須ちゃんおはよう。」

「お、はちまん。きょうはよろしくたのむぞ。」

小南と同じく玉狛支部所属の園児、林藤 陽太郎と陽太郎を乗せて歩いてるカピバラ?の雷神丸。

「よ、小南、陽太郎。」

「おはよう、桐絵ちゃん、と・・・陽太郎くんでいいのかな?」

那須が陽太郎の名前を確認すると、やはりと言うべきか

「・・・きみかわいいね。おれとけっこんしたら、らいじんまるのおなかさわりほうだいだよ。」

と口説き始めた。

ほらみろ、那須の顔、スゲー戸惑ってんじゃねーか。

陽太郎、別にみんながみんな雷神丸のお腹触りたいわけじゃないんだよ。

俺が心の中で陽太郎にアドバイスしていると、くまちゃんと残りの3人が来た。

「悪い、比企谷。陽介が寝坊して遅れた。」

「わり、槍バカがなかなか起きなくてな。」

「よつ、ハッチ。今日はよろしくな。」

・・・何も悪くないふたりが謝り、当の本人は罪悪感の欠片もないようだな。

三輪、出水は少し疲れたような顔をし、米屋はすっきりとした顔。

随分と気持ちよく眠れたみたいだな。

そして2人とも、お疲れさん。

俺が心の中だけで合掌していると、俺達の前に1台の車が止まった。

「お待たせ、みんな。早速で悪いんだけど荷物詰めちゃって。」

出てきたのは意外な人物。

本部長補佐、沢村 響子だった。

「・・・今日の運転沢村さんですか?」

俺はあまりにも意外すぎ、沢村さんに聞いてしまった。

「そうよ。なにか不満?」

「いえ。ただ、こういうのにはあまり参加しないもんだと思ってまして。」

「・・・私だってあまり自分からやらないわよ。ただ・・・桐花さんにめいれ・・・お願いされて。」

俺のおふくろがすいません。

もうそこまで言っちゃったら言い直さなくても良かったと思いますよ?

別に俺に気を使うとか思わなくていいんで。

「お疲れ様です。」

俺と沢村さんが話していると荷物詰は既に終わっており、殆ど乗り込んでいた。

さて、俺も乗りますかね。

「沢村さん、今日はお願いします。」

「任せて。」

俺は車に乗り、空いていた三輪の隣に座った。

「それじゃ、出発するわよ。」

沢村さんの一声で車は走り出した。

 

 

 

 

少しの間だが、さらば三門市。

久しぶりに会おうぞ、千葉村!

 

 



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彼女にバレるらしい

金曜日午前、千葉村到着。

「あ〜、空気がうまいぜ。な、ハッチ。」

「そうか?味しねーじゃねーか。」

なんだよ、空気がうまいって。

こいつあれか、味のない食べ物食ってもうまいっていう系男子か。

因みに、俺は濃い系男子。

「さて、それじゃ他にもボランティアさんが来るみたいだから仲良くしなさいよ。それじゃ、比企谷くん、あとお願いね。私これから会議だから・・・。」

「はぁ、わかりました。」

普通こういうのって責任者同士がやるんじゃないの?

あ・・・俺が今日の責任者だ。

俺は沢村さんを乗せて走る車を目で追いながら、自分の荷物を肩にかける。

さて、どんな人達と3日間過ごす事になるのやら。

オラ、ワクワクしてきたぞ。

「じゃ、自分の荷物持って向こういくぞ。そこでボランティアさん達と待ち合わせてるらしいから。」

「お、ほかのところからも来てんの?可愛いい子いるといいな。」

「止めとけ、弾バカ。期待した分だけハズレた時のショック感ヤバイから。お前が唯我に負けるのと同じくらいのショック受けることになるから。」

「・・・期待すんの止めよ。」

それはそれで失礼だろ、唯我に。

でもまぁ、いいのか?

太刀川隊、唯我いてもいなくても変わんないし。

太刀川隊も大変だな。

唯我は親のコネ使ってボーダーに入隊している。

本人はA級1位である俺の隊、比企谷隊に入隊したかったらしいが残念ながらその頃にはもう、比企谷隊は定員いっぱいになっていた。

そのため、唯我はA級2位の太刀川隊に入隊したわけだ。

当時、俺は太刀川隊に軽く罪悪感を感じていた、んだが・・・これでよかったのかもしれないと、今はそう思っている。

だって・・・今の太刀川隊、楽しくやってるもん。

そんな事を思いながら俺は尻目で後ろにいる米屋とじゃれてる出水を見た。

「さて・・・着いたぞ。多分ここだ。」

みんなでキャッキャウフフしてる間にあっという間に着いた。

まぁ、歩いてこ5分程度で本当にあっという間だったんだけどな。

ここで待ち合わせということになっているんだが・・・まだ来てない。

ま、まだ時間になってないしな。

俺は少し手持ち無沙汰になったため、ポケットからスマホを取り出し、切っていた電源をつけた。

うわ・・・すごい量のメール。

発信源は・・・平塚先生。

・・・俺は何も見てない。

俺は目を伏せ、スマホの電源を切った。

そのタイミングがちょうどよかったのか、1台のバンが止まった。

お、もしかしてあれが今回のボランティア仲間?

すっごい見覚えのある顔か窓から見えるんだけど。

俺のサイド・エフェクトが見抜いた。

や、ほんとに見抜いたんだって。

俺のサイド・エフェクトって視力系だし、あんな窓1枚じゃ、俺からしたらないも同じだ。

俺がこめかみに手を当て、バンから出てきた人物と先程のメールの量を照らし合わせ、なんであいつらが来てるのか推測した。

俺はバンから出た人物のもとに歩き出した。

「今日から3日間よろしくお願いします・・・平塚先生。」

責任者であろう平塚先生に挨拶をする。

「比企谷!?・・・なるほど、君の妹君が言っていた泊りがけのバイトとはこのことか。」

・・・え?

俺の、妹?

俺の妹はあそこで元気よく遊んでるし・・・まさか!?

いや、それはありえない。

あいつと平塚先生に接点はないはずだ。

だが、他に思いつかない。

平塚先生は操ことは巻町って呼んでるし、綺凛とは接点がない。

・・・迅さんが言っていたのは、もしかしたら、今日起こりうることだったのかもしれない。

「う〜ん、空気が美味しいですね、結衣さん!・・・ってお兄ちゃん?」

やっぱりか・・・。

覚悟はしていたが、いや、ほんとは覚悟なんてしてなかったのかもしれない。

俺の鼓動は一定のテンポを崩しながらスピードを上げている。

毛穴の穴という穴から汗が吹き出し始めている。

俺の周りだけ時間が遅く、音がないように思えてくる。

俺は焦っている・・・これで家族の絆が壊れることに。

「比企谷、大丈夫か?」

平塚先生がこちらをのぞき込むかのような姿勢でこちらに問う。

「・・・はい。すいません、少し取り乱してしまいました。・・・スゥ、これから3日間よろしくお願いします、総武高校の皆さん。ボーダー代表兼今回の責任者、比企谷八幡です。」

俺は礼儀は通す。

それが社会に出ている人間としての態度だからだ。

「え・・・?お兄ちゃん、ボーダー隊員なの?」

それがどんな状況であっても。

「ああ、そうだ。」

自分の立場を重んじななければならない。

「そっか・・・じゃあさ、あそこにいる操お姉ちゃんも紅覇お兄ちゃんも綺凛ちゃんもなの?」

「・・・ああ。それと、おふくろと親父もだ。」

「そうなんだ・・・小町、1人だけ知らなかったんだ。」

小町はどこか悲しそうな顔をする。

「ねぇ、なんで誰も小町に教えてくれなかったの?」

「・・・おふくろの意思だからだ。」

「・・・お母さんの?じゃあ、なんで小町に教えないのか知ってるの?」

「ああ。」

「じゃあ、さ。教えてよお兄ちゃん。小町だけに知らされなかった理由を。」

小町の声は徐々に大きくなり、怒気が混じるようになった。

周りも気付いたのかこちらに目を向ける。

雪ノ下はこちらを静かに、由比ヶ浜は手を胸の前に握り、戸塚は悲しそうに、平塚先生は何かを後悔するように見ている。

操は何かを決意したかのように、紅覇は顔の表情を何一つ変えずに、綺凛は少々涙目に、小南はなにか心当たりを思い出したかのように、出水、米屋、三輪、那須、くまちゃん、木虎、綾辻、陽太郎は話の内容を理解しようと、雷神丸は草を食べながらこちらを見ている。

「・・・悪いが、今は言えない。そうだな・・・今夜俺の所に来い。包み隠さずすべて話してやる。それまで我慢しろ。俺も一応今は仕事中だ。」

「・・・わかった。小町が納得すること言ってね。」

小町は力強い目でこちらをまっすぐに見ると、小町は雪ノ下達の方へと歩いて行った。

俺も、ボーダー側に向かい、歩いて行った。

静かだった。

誰も、言葉を発しなかった。

そんな時、一台の車が大きな音を立て、総武側とボーダー側の間にまるで割り込むかのように駐車した。

当然、全員その車に注目する。

すると、中から出てきたのは意外なヤツら。

「やあ、ヒキタニくん。」

薄っぺらい笑顔を貼り付けた葉山隼人と、なんちゃってお嬢様三浦優美子、メガネをかけたどこか残念な少女海老名なんちゃら、っべーでお馴染み戸部翔の4人が出てきた。

重たい空気をものともせず、寧ろその空気を壊すかの勢いで話し出した。

「っべー、空気マジうめーでしょー。っべー、マジパネェ。」

「隼人〜、早く行こうよ〜。」

主に2人が。

流石リア充の王様、空気を読むことにも長けてるとは、恐れ入るな。

それともう1人、メガネ女子の海老名さん、この人も空気を読む、というよりは何かを感じ取った、と表現する方がいいかもしれない。

「先生、何故彼らもいるのでしょう?ボーダーはともかく、彼らは必要ないと思います。」

この空気に便乗するかのように一番ノリの悪そうなやつが平塚先生に素朴な疑問をぶつける。

「実は・・・少し前に募集していてな、その参加者というわけだ。」

ふむ、実に要領の得ない会話の内容だな。

「そうですか・・・。」

先生が要領の得ないことを言うと、雪ノ下は納得した様子はないが、あっさりと引き下がった。

別に多いほうがいいじゃん、仕事の効率よくなるし。

効率がいいと書いて楽すると読む。

これは俺がデスクワークなど仕事等する時に掲げているモットー。

「・・・ねぇねぇ八幡。私達、初対面なんだから自己紹介した方がいいの?」

小南が俺の袖を引っ張り聞いてくる。

「自己紹介?必要か?」

「当たり前だろ。比企谷、あの可愛い子達と知り合いなんだろ?紹介してくれよ。」

「無理だな。あん中で仲いいの一人しかいねーし。」

「・・・ハッチらしいな。」

俺らしいってなんだよ。

俺が学校で誰かと仲良くしてるのってそんなにありえないことなの?

まぁ、ありえないな。

八幡納得。

「黒髪が雪ノ下雪乃、ピンクの髪が由比ヶ浜結衣、あの可愛いやつが戸塚彩加、タバコ吸ってんのが平塚静先生、・・・あのアホ毛が俺の妹比企谷小町だ。他は知らん。」

葉山達の事はいわない。

当然だ。

よく知らないやつの事言って、知ったかって言われるとむかつくからな。

ソースは俺。

ほんと、大串くんマジムカついたわー。

「あ、八幡のクラスメイトの戸塚彩加です。」

戸塚は自己紹介し終わると俺に向かい微笑んだ。

もしかしたら俺にじゃないかもしれない。

いや、俺にだな。

なんと言われようが俺に対してだ。

自意識高い系男子だから。

「へぇ、ボーダー外での女子の友達初めて見たかも。」

「小南、失礼なこと言うな。戸塚は男だ。」

「え!?そうなの!?」

「止めろ、ハッチ。こんなとのろに来てまで騙されるなんて可哀想だろ。・・・後であの子、俺に紹介してくれ。」

「な!?きたねーぞ槍バカ!比企谷、俺に紹介してくれ!」

「はぁ、だからさっきから言ってんだろ、戸塚は男だ。」

「えへへ、僕、男です。」

戸塚は照れながらも自分の性別を伝える。

流石に本人の口から出ると信じるのか、さっきまで取っ組み合いしていたバカ2人は口を開け、微動だにしない。

 

 

 

 

結論、戸塚は男でも女でも俺は幸せです。

 

 

 

 

 

 



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彼は意外と有名人?

今回は結構短いです


全員の自己紹介終了後。

俺達は今、本館に向かい歩いている。

弾バカと槍バカは取っ組み合いをしながら、綾辻と木虎と綺凛は仲良さそうに話しながら、操と小南は互いの戦い方を言い合いながら、那須とくまちゃんはいつものようにキャッキャウフフしながら、三輪は音楽を聴きながら、俺と紅覇は陽太郎と雷神丸のペースに合わせながら、雪ノ下と由比ヶ浜は百合百合しながら、葉山、戸部、三浦、海老名さんはよくわからんが盛り上がりながら移動中。

ここだけを見たら雰囲気のいい団体に思われるだろう。

しかし、この輪の中に2人、いない人物がいる。

1人目は平塚先生。

あの人は後ろでゆっくりと歩いている。

理由は、2人目を紹介するのと一緒にしよう。

2人目は小町。

やはり、まだ俺が言った事がショックだったのか元気がない。

いつもなら兄である俺をバカにするなり色々とちょっかいを出してくるが、その気配は毛頭もない。

平塚先生も小町をこの事に誘ったことを後悔しているのか、小町のカウンセリング的なのをしているのだろう。

別に先生のせいじゃないんだけどな・・・。

俺がそんな光景を陽太郎と紅覇と話しながら見ていると、目的の場所についた。

流石に先生も責任者ということで、先に到着していた小学校の先生に挨拶しに行った。

当然、俺もボーダー側の責任者ということで、平塚先生に付いて行く。

「こんにちは。ボーダー側の代表、比企谷八幡です。3日間よろしくお願いします。」

「ふふ。久しぶりね、八幡くん。」

「・・・お久しぶりです、吉田先生。」

「ん?なんだ比企谷、知り合いなのか?」

俺と吉田先生との会話に疑問を持ったのか、平塚先生が聞いてくる。

「ええ、まあ。俺が小学校にいた時の先生で、去年のボランティアの時もお世話になったんです。」

「ふむ、そうだったのか。それなら人見知りな君でも、今回のボランティアはやりやすいかもしれないな。」

「・・・そっすね。では、俺はこれで。」

俺は吉田先生に一礼し、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が操達の元に戻ると小学生たちは既に並んでおり、ワーワーギャーギャー騒いでいた。

う、うるせー・・・。

生徒達の前に教師が立ち始めたというのに、生徒達のヒートアップされているソウルは収まりを見せない。

と思っていたのだが、思いのほか3分程でヒートアップされたソウルは冷却された。

「はい、みんなが静かになるまで3分かかりました。」

でたー、集会とかで始まる前によく言う、お説教の前振りに使われるセリフ。

今年もこれを聞くことが出来るとは・・・。

当然、ここから説教が始まり、大半の生徒は先生の目を見ながら話を聞いている。

それに反し、少数の生徒は地面の石を弄ったり、友達と話したり、寝ていたりする。

あ、俺の隣でも小学生並みのバカ、米屋陽介が寝ている。

お前も小学校からやり直してこい、勉強だけでもいいから。

俺がバカをつつき起こすと同時に、お説教が終わった。

「では最後に、皆さんのお手伝いをしてくれるお兄さんお姉さんを紹介します。みんな、大きな声で挨拶しましょう。」

メガホンを持った吉田先生はこちらに振り向くと、俺の前に立ち、メガホンを俺に渡す。

えー、なんで俺?

ここは派手さも顔の良さもNo.1、葉山隼人の出番でしょ。

ま、なんだかんだ言ってやるのが俺のいい所なんだけどね!

俺は渡されたメガホンを持ち、目の瞳を少しでも大きくするため、サイド・エフェクトを使用する。

目の瞳が大きいと、目が腐ってるように見えないらしい。

「これから3日間皆さんの手伝いをします、総武高校とボーダー隊員です。何かあったら言ってください、何かしらの対処はするつもりなんで。この林間学校で来年までは覚えていられるような思い出を作っていってください。よろしくお願いします。」

俺は一礼し、吉田先生にメガホンを渡す。

ま、俺みたいなのに前にこられたら小学生たちのテンションもダダ下がりだろうな。

そう思い、操の隣に立つと

「お、おい。あれ、A級1位の比企谷隊隊長の比企谷八幡じゃね!?」

「うそ!?後でサインもらえるかな!?」

「ね、ねぇ。もしかしてあそこにいるの嵐山隊の綾辻 遥と木虎 藍!?」

「うっそ!?ねぇあそこにいるのって比企谷隊の隊員全員!?」

などなど、予想をはるかに超える熱狂に包まれた。

・・・君たち、さっき先生に怒られたばっかでしょ。

ほら見て、先生を。

今にもメガホンのグリップの部分握りつぶそうとしてるよ?

「それでは、オリエンテーリング・・・スタート!」

あ、ヤケクソになった。

先生の一言で事前に決められていたのだろう6人ひと組になり、動き始める。

それに混ざるかのように、平塚先生も動き出す。

いや、あなたはいくら何でも年齢に無理があるんですけど・・・。

「早速で悪いんだが仕事だ。君たちの最初の仕事は・・・こちら!」

平塚先生は手に持っていたスケッチブックをめくり、あたかもバラエティ番組のような発表をする。

え〜と、なになに〜。

生徒達よりも早くにゴール地点に到着し、昼食の準備をする?

え、それを今言う?

もう生徒達、走り出してるよ?

歩いて行ったら間に合わないんじゃないの?

あ、車で送ってってくれるのか。

それなら、余裕でつくだろ。

「それと、君たちにはせっかく空気の美味しいところに来てもらったんだ。というわけで・・・君達には歩いて行ってもらう!」

俺の幻想は当然のごとく砕かれた。

先生は俺の幻想を打ち砕くとすぐに車に乗り出発した。

はぁ、諦めるか。

運のいいことに、俺達の荷物は先生が車で持っていってくれてるらしい。

「じゃ、行きますか。」

 

 

 

こうして、俺達の波乱万丈なボランティアが幕を開ける!

 

 



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彼の光は彼女には強すぎた

俺達は山の中を歩く、歩く。

小学生たちは地図を見ながらみんなで楽しんでる。

男子は女子にかっこいいところを見せようと、女子はそんなのを興味なさそうに進む。

 

「いやー、小学生マジ若いわー。俺ら高校生とかもうおっさんじゃね?」

 

前の方を歩いている戸部が言う。

「ちょっと、戸部やめてくんない?あーしがババァみたいじゃん。」

 

三浦が戸部を威嚇する。

あんたそう言いますけどね、多分実年齢より歳とってるように見えてるよ、小学生には。

 

「でも、僕が小学生だった頃って高校生はすごく大人に見えたなぁ。」

 

・・・お前のためなら俺はいろんなとこ大人にする準備は整ってるぜ!

 

「そうですね、私から見ても高校生は大人に見えます。・・・そこに、例外はいますが。」

 

戸塚の近くを歩いていた木虎が会話に参戦する。

つーか今完全に俺のこと見て言ったよな?

なに?あれか、これは俺の自意識が高いから俺が反応しただけであって、本当ははるか遠くのボーダー本部で今も仕事をしている・・・佐鳥のことかー!

 

「いえ、佐鳥先輩ではありません。比企谷先輩のことです。」

 

「・・・おい。俺の考えてることを口に出すな。そしてもう少し先輩を敬え。寧ろ俺を敬え。」

 

「先輩の大人らしいところを教えてくれたらいいですよ。」

 

ほぅ、俺はそこら辺の高校生、大学生よりも大人びていると自覚をしている男だぞ?

ふっ、木虎が俺を敬う日も近いな。

寧ろ今日がその時だ!

 

「いいだろう。なら、俺の仕事ぶりを説明してやる。まず、上司の愚痴に付き合わされる。次に仕事を押し付けられる。さらに・・・スポンサーに頭下げに行ってる。どうだ、これが成人を迎えてない高校生がやることか?否、そんなことは無いはずだ。よって、ここに高校生である俺がどれだけ大人びているかが、証明された。」

 

ふふふ、これが俺の働きぶりよ。

何度この頭を下げたかわからない、何度上司(沢村さん)をおぶったかわからない、何度タヌキとキツネに騙されて仕事を手伝わされたかわからない。

あー、こうやって思い返してみると俺の社畜メーターが振り切ってるのがわかるな・・・。

グス・・・八幡かなしい。

 

「悲しい大人ですね・・・。」

 

「・・・同情しないでくれ。」

 

「なんか・・・ヒッキーの大人のイメージって悲しいね!」

 

そんなに元気ハツラツに言わないで!

それと、由比ヶ浜会話聞いてたか?

イメージじゃねぇよ、リアルガチな物語だっつーの。

うわ・・・周りの目が同情の哀れみの目になってる・・・。

 

「ねぇ、八幡ってさボーダーでどれくらい強いの?」

 

悲しい空気を壊したのは天使。

その光は、まるで聖母マリアに包まれているかのような暖かい光だった。

 

「そうだな・・・例えるなら、由比ヶ浜が1000人いても勝てないな。」

 

「なんか例えがムカつく!」

 

「つってもなぁ、自分の強さは自分じゃ測れねぇんだよ。測れるやつはただの自信過剰な奴ぐらいだな。」

 

ほんと、自分のこと強いって言ってたあの人も、実際は大したことなかったしな。

実力ってのは自分で測るもんじゃない、他人に測られて初めてわかるものだ。

 

「なら私が測ってあげるわ!」

 

「グフっ!?」

 

どこで話聞いてたのか知らないが、さっきまで後方にいた小南が勢いよく俺にぶつかってきた。

もう周りの奴らは口をあんぐりとだらしなく開き、こちらを注目する。

あ、小学生と目あった。

 

「そうね・・・私からしたらまだまだだけど、ボーダー隊員の中では指3本に入ってるわ!」

 

そう言うと小南は俺の頭をぺしぺしとたたく。

っていうか、今の内容おかしいだろ。

なんでお前からしたらまだまだなのに指3本に入ってんだよ。

ボーダー内でのトップ3は天羽、迅さん、そして嬉し恥ずかしながら俺、だと思う。

ま、まぁ?俺だって個人総合1位だし?ノーマルトリガーを使う隊員には負けないし?

・・・小南はどこにいんだよ。

 

「お前は何様だ、小南。お前じゃ俺に勝てないだろーが。」

 

「ふっ、あんたも随分と負けず嫌いね!」

 

「残念ながら俺は負けず嫌いじゃねーよ。だって・・・俺は負けねーからな。」

 

今の俺はかなりのドヤ顔に違いない。

なんなら、ジョジョに出ていても問題ないぐらいにな!

あ、オファー待ってまーす。

 

「ふふ。八幡って学校だとクールだけど、外だと明るいね。なんか以外だな〜。僕はまだ八幡のこと何も知らないんだね。」

 

「・・・俺はお前になら全てを晒しても、いい。」

 

俺が戸塚にナイスガイに親指をグッとすると

パコォン!

音がするのと同じく、俺の視界が激しく揺れた。

 

「あ、あんた一体どんなに道を進もうとしてんのよ!?」

 

「そそそそそ、そうよ!そういうのはまず家族に相談しなきゃダメでしょ!?」

 

小南と操の意識も揺れた。

・・・そんなに慌てること?

戸塚ならオールマイティだろ?

麻雀なら便利なんだぜ?何にでも化けるんだぜ?

 

「家族?もしかしてヒキタニくんと巻町さんは従兄弟なのかい?」

 

先程までリア充の取り巻きを従えてた男、葉山隼人が俺に近づき話しかけてくる。

 

「違うわよ。苗字は違っても私たちは兄妹なの。」

 

「ま、そういうこった。ほれ、困ってるお嬢様たちがいるぞー。助けてこいよ、みんなの葉山くん。」

 

俺が皮肉るを込めて葉山を送り出すと、葉山は1度驚愕な顔になったが、またすぐにいつもの顔に戻った。

いや、いつもの薄っぺらい笑顔ではなく、なにか面白いものを見つけた子供のような、そんなに純粋なものではないが、少しゾクリとさせられるような笑顔だった。

・・・トイストーリーに出てくるおもちゃの気持ちがなんとなくわかった気がする。

 

「お兄さん、チェックポイント教えて!」

 

「うーん、俺らも答えを知ってるわけじゃないから、一緒に考えようか。ただし、皆には内緒だからな?」

 

ったく、こういうのをやらしたら天下一品だな。

いや、やっぱり・・・三流、かな?

一つの班は五人ずつと説明を受けている。

もしも、一人でもいなくなったら報告してくれと言われていた。

そのせいか、はっきりと見えてしまう。

子供たちどうしの、壁というものが。

葉山を取り囲む少女たち4人とは距離をおき、どこか明後日な方向を見ている少女がいた。

別にひとりなのが悪いわけじゃない、そしたら俺は毎日悪いことの塊みたいになってるしな。

操はなにか懐かしむ、訳では無いのだろうが何かを思い出したのかこちらを向く。

雪ノ下もなにか思うことがあったのか、溜息をつき自分の足元を見る。

 

「チェックポイント、見つかった?」

 

そんな少女を哀れんだのか、はたまた素で接したのかわからないが、葉山隼人は声をかけた。

 

「・・・いいえ。」

 

「そっか、じゃあみんなで探そう。名前は?」

 

「鶴見留美」

 

「俺は葉山隼人、よろしくね。あっちの方とかに隠れてそうじゃない?」

 

はぁ、あいつはバカなのかよ。

見ろよあの絶望しきった目。

1度、暗闇にに落ちたやつには葉山の光は強すぎる。

暗闇ではわからなかった目が、光によって露わにされる。

その目には何が写っているのか、それとも何も写ってないのかもしれない。

ま、俺にそれが理解出来たとしても何もできないけどな。

今までどんなふうに扱って欲しかったか、その体験を他人に被せるわけにはいかない。

だって俺は・・・耐え抜いてきたんだから。

お、ゴールが見えてきたな。

なんやかんやで歩いてても小学生よりも早くついたな。

 

 

 

この林間学校、報酬以上の働きをするかもしんねぇな。

俺のサイド・エフェクトがそう言っている。

 

 



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彼女と彼女の間に彼女が入る

「おお、遅かったな。」

 

クタクタになってまで歩いてきた俺たちを称えることのない皮肉混じりの無慈悲な言葉が降り注ぐ。

 

「そりゃ、車と足じゃ違いますから。ま、若い者は昔から自分の足を頼れって言われてますから仕方ないんですけどね。俺たち先生と違ってピッチピッチの中高生ですから。」

 

俺も皮肉を皮肉で返す。

心なしか先生の表情が今にも泣きそうな顔になっている。

ちょ、皆。俺が泣かしたみたいな顔すんなよ。

昔を思い出すじゃねーか。

ほんと、どんな状況でも泣かせたやつが悪いってどうなんだろ。

いや、大抵は俺が悪いことになってんだよなー。

 

「早速だが、少し多いがこれを下ろして配膳の準備を頼む。なぁに、若い君たちだ、これくらいならすぐに終わるだろ。」

 

先生の指差すワンボックスカーから弁当、ドリンク等が入っている箱を下ろす。

・・・多いな。

見るからに配膳だけじゃ終わりそうのないものが入っていた。

梨に包丁などの調理器具が箱の中からキラリと輝きを見せる。

 

「・・・手分けした方が良さそうだな。」

 

流石の葉山もこの量を見て苦笑いをする。

ま、ここで葉山が言い出してくれたおかげでリア充グループ達は自分たちで仕事内容を分担し始めた。

俺じゃ、誰も言うこと聞いてくれないから助かった。

 

「っべー。俺、料理とか無理だわー。」

「あーしも無理ー。」

「うーん・・・私も無理かなー。」

 

答え方は三者三様に分かれたが、答案は全員一致だった。

リア充グループは全員無理なようだ。

 

「俺も無理だなー。梨を串刺しにするなら得意なんだけどな。」

 

「俺もだ。梨を蜂の巣にするのなら任せろ。」

 

「悪いが俺も無理だ。」

 

「私もパス。」

 

「私も無理。」

 

「僕も。」

 

米屋、出水、三輪、操、くまちゃん、戸塚も無理らしい。

まぁ、最初から宛にはしてなかったが。

むしろ、操が包丁を握らないことに喜びすら感じる。

こいつは包丁を使う時の手の動きが危なっかしくて、見ておけないレベルなのだ。

果物ぐらいならむけるだろうが、それと同時に自分の皮をむくことにもなる。

 

「じゃ、俺と紅覇と綺凛とさっき無理って言ったのは配膳だな。」

 

「じゃあ、あたし達梨やるね。」

 

由比ヶ浜がそう言うと雪ノ下、由比ヶ浜、綾辻、小南、那須、木虎が包丁と梨を持つ。

雪ノ下は何故か由比ヶ浜のことをじっと見つめる。

 

「・・・由比ヶ浜さん、やっぱり配膳をやったほうが・・・。」

 

ん?なんで雪ノ下は由比ヶ浜の心配なんかしてんだ?

別に配膳の方は人数は十分に足りてるし、むしろ梨の皮むきの人数の方が少ない気がするぐらいだ。

 

「ふふん、あたしも相当腕を上げたんだからね。」

 

由比ヶ浜はどこか得意気に話す。

・・・相当腕を上げた?

俺の疑問はほんの数秒後に本人によって説明されることになる。

 

「な、なんでー!?ママがやってるのあんなに見てたのに!」

 

由比ヶ浜の手に乗っていた梨はボンッ、キュッ、ボンッとなかなかのグラマラスになっていた。

ママの見てても上達しないよ?

俺と同じサイド・エフェクトがない限り。

雪ノ下はため息をつき、由比ヶ浜に見せるように梨を剥き始めた。

由比ヶ浜もそれにならい見よう見まねで梨を剥く。

 

「由比ヶ浜さん、包丁は固定して梨だけを回転させるのよ。」

 

「こ、こう?」

 

「違う、切り口は梨に対して水平に。・・・遅い。素早くやらないと手の熱で梨が温かくなるでしょ。」

 

知らないうちに雪ノ下による由比ヶ浜のための雪ノ下お料理教室が開かれた。

 

「おい、お料理教室は今度にしてくれ。生憎、今日は時間も材料も限られてるんで。・・・操、梨と包丁取ってくれ。」

 

「りょーかい。」

 

操は水に浸かってる梨を1つ鷲掴みにすると、本来なら手渡しがいいのだろうが投げてくる。

またその投げ方がおかしい。

普通、人にものを投げる際は優しく投げるために下から投げるだろう。

だがこいつは違う。

上から手加減なんてものは存在しないと豪語するかのように投げてきた。

俺はそんな威力の高い梨を包丁の持ってない方の手でキャッチする。

 

「ナイスキャッチ!」

 

「もっと優しく投げろ!梨の数限られてんだぞ!」

 

俺はなんだかんだ文句を言いながらすぐに一つ目の梨に取りかかる。

由比ヶ浜と交代する以上、下手なところは見せられない。

スピーディかつセーフティに俺は梨を回す。

 

「流石ね、八幡!けど、私の方が上ね!」

 

「さっすが八兄。そこらの女とはレベルが違うね。」

 

「・・・流石です、比企谷先輩。」

 

「げ、本当だ!ヒッキー無駄に上手い!」

 

「・・・確かに男子にしては上手ね。けどまだまだね。」

 

小南と雪ノ下は俺の梨を見るとすぐに間違いなく別なものを作り出した。

2人とも似たような正確だからなのか、全く同じ作品を作り出した。

そう、それは・・・うっさぴょーん。

俺の前に2人のうさぴょんが出される。

その時、バチバチと音が聞こえた気がした。

俺は小南と雪ノ下に梨の皮は硬いからちゃんと剥けと文句を言おうとした、そのとき

 

「あら、小南さんもなかなかね。けど、私の方が上かしら。」

 

「なによ!あんたのなんか私の足元にも及ばないわよ!」

 

「寝言は寝てからにしなさい。自分の梨と私の梨を見比べてもそんなことが言えるのかしら?」

 

「その言葉そのまま返してあげるわ!」

 

2人の論争が火花を散らす。

誰だよこんなめんどくさい状況作ったの。

俺が周りの連中に目を向けると『お前が原因だろ』とでも言いたそうな視線が全員から感じられた。

 

「ちょっと八幡!この女と私の梨、どっちがいいか決めなさい!ま、当然私のだと思うけど。」

 

「比企谷くん。誠に遺憾なのだけれどあなたに頼むわ。当然、私のよね?」

 

2人とも俺を自分たちが持っている包丁で刺そうとする勢いで迫り来る。

考えろ俺。

この状況を打破し、尚且2人に不満を与えないような結果にする方法を。

ぽくぽくぽくチーン!

閃いた!

 

「一つだけじゃ見極めれないから、たくさん剥いてくれ、そしたらその中から一番のやつ選んだら俺に見せてくれ。」

 

おれが考えに考え抜いた案を話すと2人は先程までのスピードは嘘だったの?というほどの速さで梨の皮を剥き続ける。

すると、みるみると水に浸かってる梨はほとんど二人の手によって終わらされた。

目論見通り!

これで俺の仕事は2人によって終了した。

サボってだろってか?

違う!これはたまたま2人が大半の梨をやっただけであって、俺がサボろうと思っていたわけじゃない。

嘘じゃないよ?

え?何に誓うかって?

うーん・・・お天気お姉さんにでも誓うかな。

 

「さぁどっち!」

 

「早く選びなさい。」

 

最後の大仕事が残っていた。

ま、結果は決まってる。

 

「はいはい。では発表します。結果は・・・木虎!」

 

は?コイツ馬鹿なの?とでも言いたそうな顔で俺を見る。

2人は勝負に気を取られすぎたせいか、周りが見えていなかった。

それが二人の敗因だろう。

 

「な、なんで木虎ちゃんの勝ちなのよ!?説明しなさいよ!」

 

「2人が大量の梨を剥いてた時、木虎も梨を剥いていてなそれが2人よりも丁寧な作りだったからだ。・・・で、これがその作品だ。」

 

俺は木虎の剥いた梨を2人に渡し、その場をそそくさと離れた。

 

 

 

 

その後、結果に不満しかない2人にどっちのがいいか問いただされ続けたのは言うまでもない。

 

 

 

 



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彼と少女の本質は違う

すいません。
私用により投稿が遅れました。


 

キャンプといえばカレー、カレーといえばキャンプ。

いつからかそんな風習が日本には染み付いていた・・・と思う。

実際に俺はキャンプをしたことはない。

まぁ、テレビとかで見るのはカレーやバーベキューなどが大半を占めていた気がする。

そんなわけで今晩の夕食はキャンプの定番、カレーだ。

 

まず、小学生の手本として炭に火をつけることになった。

 

「まずは私が手本を見せよう。」

 

言うが早いか、平塚先生は手元にあったトングを慣れた手つきで操る。

すると、あっという間に炭は積み上がり、その出来た隙間に着火剤やら新聞紙やらを詰め始めた。

先生はポケットに入っていたチャッカマンを取り出し、積み上がった炭に火をつける。

小さな火種が平塚先生のうちわの風で大きな火に・・・ならなかった。

はじめのうちは小学生も、お〜と歓声を上げていたが次第にその声は小さくなりついには消えて言った。

そんな退屈をしている小学生に対するアミューズメントなのか平塚先生はいきなり小さな火種にサラダ油をぶっかけた。

当然どんな火も油があれば勢いを増す。

小学生でも知っている知識だ。

大きく勢いを増した火に歓声や悲鳴でもない沢山の声が火の勢いにも負けない早さで湧き上がる。

平塚先生はそんな反応に満足したのか笑みを浮かべ、勢いのついた火でタバコに引火した。

 

「ざっとこんなもんだ。」

 

「やけに手慣れてますね。」

 

「ふっ、これでも大学時代はよくサークルでバーベキューをしたものさ。私が火をつけてる間にカップルたちがイチャイチャ・・・ちっ、気分が悪くなった。男子は火の準備、女子は食材を取りに行きたまえ。」

 

ここで男女バラバラにするのは過去の恨みも混ざってない?

まだ小学生だよ?

 

 

俺は団扇で扇ぐ、アオグ、aogu・・・

かれこれ10分ほど扇ぎ続けている。

暑い・・・誰か冷たい飲み物持ってきてくれないかなー。

そんな俺の願いを聞きつけたのか天使が俺の前に舞い降りた。

 

「八幡、お疲れ様。はいこれ、暑かったでしょ?」

 

戸塚が俺にポカリを差し出す。

俺はそれを両手で受け取る。

暑さのせいか、戸塚の頬は赤い。

戸塚のせいで俺の頬も赤い。

俺の時間は止まっている。

周りの時間は動いている。

それは一秒かもしれないし十秒かもしれない、あるいはもっと時間が経っているかもしれない。

 

「暇なら見回ってきたらどうかね?」

 

俺の時間は1人の女教師によって動かされた。

俺はこの時間を壊した張本人を半目で見ながら答える。

 

「鍋見てるんで。」

 

「いや、戸塚のこと見てただろ。」

 

そのとおりです。

くっ、なんでわかったんだ。

忘れてた、、先生はイチャついてるやつに敏感だ。

つまり俺と戸塚の状況を読み取って・・・。

・・・それはないか。

まず戸塚は男だし、先程の俺を見れば暇というのは事実だ。

それでも俺はこの時間を楽しみたかった、邪魔されたくなかった。

 

俺の願いは届かず、炎の番人は平塚先生へと変わった。

俺が初対面の人間とあがらずに話すなど出来るはずもなく、俺は遠目で小学生達の行動を観察している。

すると一人の少女が俺の目に止まった。

ここに来る際に他の小学生に省かれていた少女だ。

俺からしたらなんともない光景だが小学生達は違うのだろう。

省かれている少女のいる班と思われるところは何もないかのように、それが当たり前のように作業に当たっている。

その他の生徒達は省かれている少女をチラチラと気にかけるように見るが、何もせずに自分たちの作業へと戻ってく。

そんな無限ループに一つの終止符がうたれた。

 

「カレー、好き?」

 

葉山の声によって。

葉山もこの現状を理解しているのだろう。

いや、すべてを把握してる訳では無い。

いわゆる『知ったか』というやつだろう。

俺は葉山の軽率な行動にため息をついた。

それを狙っていたかのように同時に明らかに俺のため息とは声音の違うため息が聞こえた。

雪ノ下だ。

 

「・・・あまりいい行動ではないわね。」

 

「同感だ。あいつは良かれと思ってやってんだろうが、逆効果だな。葉山のとるべき行動は秘密裏に、密やかにやるべきだった。あれじゃさらし者だ。あいつはぼっちに対する配慮を知らなすぎだな。」

 

「そう、ね。」

 

雪ノ下はどこか遠くを見つめながら小さくつぶやく。

雪ノ下も似たようなことがあったのだろうか。

良かれと思ったことは大半は裏目に出る。

ある人は『人生の8割は厳しさで出来てる』って言ってた気がする。

だからその2割を目指して生きている。

雪ノ下はその2割すら味わえていないのかもしれない。

そう、例えば・・・葉山のようなイイヤツによっていじめの対象になったり。

イイヤツは自分からイイコトしようと行動する。

それが意識的なのか無意識なのかはわからない。

けどこれだけは分かる。

イイヤツは自分の起こす行動の結果は全部イイコトになると信じ込んでいる。

葉山もその口だろ。

ま、そんなのにも柔軟に対応していくのが真のぼっちだ。

これからあの子のぼっち力が試される。

 

「・・・別に、カレーに興味無いし。」

 

少女はその一言を残すとその場から離れる。

そのまま俺と雪ノ下のいるところを目指しているかのように歩き出した。

葉山はそんな少女の反応に困ったような、後悔してるかのような顔をする。

そんなこともつかの間、いつもの笑顔に戻りほかの班員の方を振り向いた。

 

「じゃあ折角だし隠し味入れるか。隠し味、何か入れたいものある人。」

 

葉山がそう言うと一つの餌にがっつくピラニアのごとく小学生が騒ぎ出す。

やれ唐辛子だのチョコレートだのあんこだの福神漬けだの注目を引こうとよく分からないものまでリクエストする。

・・・福神漬けは隠し味じゃなくて付け合せだ。

 

「はい!あたし、フルーツがいいと思う!・・・桃とか!」

 

由比ヶ浜の元気な声により発せられたバカなリクエストにより小学生達は注目し葉山は苦笑い。

 

「バカが。」

 

心の声が口にまで上り詰めていた。

そんな誰に言ったわけでもない言葉に

 

「ほんと、バカばっか。」

 

省かれている少女が賛同した。

その声は冷たく、それなのに響く声だった。

 

「ほんと、そのとおりだな。早めに気づけてよかったじゃねぇか。早期発見は大事だってCMでやってたぐらいだしな。」

 

「私は見つけたわ。あなたというガンを早期発見出来たもの。」

 

「俺はガン扱いかよ・・・あれか、俺は社会のガンって言いたいのか?」

 

「ごめんなさい、既に手遅れだったわね。」

 

こんのアマ〜。

まだ手遅れじゃねーっての。

治療する時間ぐらいあるっツーの。

大門未知子先生に治してもらうもん。

あの先生・・・失敗しないらしい。

 

「・・・名前。」

 

「・・・枝豆。」

 

名前が何?

主語述語修飾語を使って起承転結簡潔に伝えてくれないとわからん。

分からなすぎてしりとりで返してしまった。

 

「名前聞いてんの。普通はさっきので伝わるでしょ。」

 

「普通は自分から名乗り出るものよ。」

 

雪ノ下による凍てつく波動に流石の省かれ少女も耐えれなかったのか軽くビビる。

 

「・・・鶴見留美。」

 

「そう。私は雪ノ下雪乃。そこのは・・・ヒキ、ヒキコ、・・・ヒキニクくんだったかしら?」

 

「お前はどんだけ俺をバラバラにしたいんだよ・・・比企谷八幡だ。」

 

お互いの自己紹介が終わったところでまるで自分も混ぜてくれと言わんばかりの勢いで

 

「あ、あたし由比ヶ浜結衣。えっと、鶴見留美ちゃんだよね?よろしく。」

 

由比ヶ浜も自己紹介をする。

元気よく空気を読まずに突撃してきた由比ヶ浜だが流石と言うべきかこの場の空気を素早く読みおとなしくなった。

 

「・・・なんか2人はあの辺の人とは違う気がする。」

 

鶴見は葉山のいる方を指差す。

確かに俺や雪ノ下は葉山とは違う。

これに関しては断言できる。

 

「私もあの辺と違うの。」

 

「違うってどの辺が?」

 

由比ヶ浜はよく分かっていないからか鶴見に問う。

 

「周りはみんなガキなんだもん。だから・・・1人でもいいかなって。」

 

「で、でも、小学生の時の友達とかの思い出って結構大事だと思うなぁ。」

 

「別に友達とかいらない。中学入ればよそから来た人と友達になればいいから。」

 

甘い、実に甘い。

マックスコーヒーに練乳を追加して飲むぐらい甘い。

どれくらい甘いかというと・・・すごく甘い。

 

「お前、今省かれてんのによく友達できる宣言したな。それに・・・この小学校から進学する中学校は基本一つだ。他は少し離れてるところや受験して別の学校行くぐらいだな。お前がどこの中学行くのか知んないけどもう少し頭使え。」

 

・・・ちと言いすぎたかな?

 

「・・・あのさ。」

 

鶴見は少し悲しそうな顔をしながら下をむいていた顔を上げた。

 

「うちのクラス、誰かを省くの何回かあって・・・けどその内終わってまた話したりする。一種のブームみたいな感じなのがあるの。仲良かった子も理由もなく省かれて、私もちょっと距離置いてたんだ・・・そしたらいつの間にか今度は私の番になってて。」

 

理由もなき行動。

子供の頃は特に目立つらしい。

ま、鶴見ぐらいの年齢になったら頭を使う。

理由がなかったら作ればいい。

足が早ければフライングして体育ズルしたとか、テストの点数がよかったらカンニングしたとか、罪を被せたりするなど考えればいくらでも出てくる。

いじめっ子の頭はよくキレる。

自分の持てる力を使ってイジメをする。

単に自分の力を見せつけたがる考えだ。

今回のいじめっ子は一体どんな理由でイジめをしたいのか、またどんなタイプのいじめっ子なのか。

 

「中学校でも・・・こんなふうになるのかな。」

 

鶴見はその一言を残し先程まで作業していた場に戻った。

その距離はあまり離れていないはずなのに少し距離を感じた。

俺は鶴見くらいの年齢のときにはボーダーだったから省かれるも何も学校に行っていなかったからアイツの気持ちはよくわからない。

俺とあいつはぼっちと同じ分類でも通ってきた道は全然違う。

 

 

頭上を飛ぶカラスの鳴き声が妙に哀愁を誘うのはアイツの悩みに触れたからなのか、答えは誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 



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彼は彼女の未来を思う

夏とはいえ高原の夜は少し肌寒く感じるものだ。

先程まで騒いでいた小学生達も既に就寝時刻になり良い子は寝ているはずだ。

まぁ、大抵の小学生は夜通し喋りあってるだろうが。

 

「大丈夫、かな・・・。」

 

唐突に由比ヶ浜が口を開く。

まぁこいつは口から産まれたと言っても通じるのではないかと思うほどのおしゃべりだ。

口など四六時中開いている。

ただこいつが少し目を伏せながら言うということはあまり明るい話ではないのだろう。

カレーはゴロゴロした野菜の入っているシティー派カレーよりも野菜がドロドロに溶けた田舎派カレーの方がいい、などとどうでもいい話ではなさそうだ。

ま、おおよその予想はつくが。

 

「ふむ、なにか心配事かね?」

 

平塚先生は問う。

白々しいにも程がある。

この人は、その人とその人を取り巻く人間関係に関しては敏感だ。

気付いてないはずがない。

 

「ちょっと孤立してる子がいて・・・。」

 

「ねー、可愛そうだよねー。」

 

平塚先生の問に葉山が答え三浦が相槌を打つ。

ちょっと孤立って・・・孤立にちょっとも凄いもあるの?

無人島は人が居ないから無人島だ。

人が1人でもいたら無人でなくなる。

孤立も一緒だ。

周りに1人でもいてくれる奴がいたらそれは孤立なんかじゃない。

平塚先生がちょっと独身なんで言ってるとこ聞いたことない。

独身に変わりはない。

 

「それで、君たちはどうしたい?」

 

俺の心の声が聞こえたのか心做しか俺のことを睨みながら話してる気がする。

その証拠と言ってはなんだが語調がだんだん強くなってる。

恐らく、これは俺が答えないといけないやつ、なのかもしれない。

 

「どうと言われても何も出来ないんですが・・・。」

 

「ほう、まさか君が最初に答えるとは、成長したな。関心関心。」

 

・・・あんたの目が怖かったからなんて口が裂けてもいえねーよな。

 

「それで、なぜ無理なんだ?君なら実行に移さないにしても案の一つや二つぐらい出るだろ。」

 

「俺はそんなに高スペックじゃないんですけど。」

 

俺は変な期待をされていたせいなのか、自分でも分からないイライラにかられる。

確かに案はある・・・が、実行に移すとなれば話は別だ。

そう簡単に出来ることではない、というのは言い訳になる。

簡単に実行できないのは事実だ。

だがそれともう一つ、俺は今一つの問題を抱えている。

それを解決しないでほかの案件なんか出来るわけがない。

いや、するつもりは毛頭ない。

 

「俺は・・・やっぱり放っておけない。俺は可能な範囲でなんとかしてあげたいです。」

 

急に葉山が参戦し始めた。

つーかこんなのに自分からのってくるって、バカか?

それともかなりの自信家か。

 

「あなたには無理よ。そうだったでしょ?」

 

おいおい、雪ノ下も口出すのかよ。

こいつ大人数の時は自分から前に出ないのに少人数になったらグイグイ行くな。

 

「そう、だったかもね。でも、今は違う。」

 

「どうかしらね。」

 

もうやめて・・・。

かたや学校一のイケメン。

かたや学校一の美少女。

その二つが仲いいなんて所詮はドラマやアニメ、漫画、小説ぐらいだ。

いや、俺も信じてたんだよ?

現実でもイケメンと美少女は仲がいいって。

でもね、ここでその幻想が打ち砕かれたわけよ。

押しの弱い男、押しの強すぎる女。

やっぱ人間って外見より中身なのかな〜。

 

「やれやれ・・・。雪ノ下、君は?」

 

平塚先生もこの二人のやりとりに呆れてるのかため息をついた。

 

「一つ確認しますが、これは奉仕部の合宿も兼ねてるとおっしゃいましたが彼女の案件についても活動内容に含まれますか?」

 

「ふむ、そうだな・・・。この林間学校のボランティアは奉仕部の、部活動の一環としてるわけだしな、原則から言うと・・・アリ、だな。」

 

「わかりました。では私は彼女が助けを求めるならあらゆる手段をもって解決に務めます。」

 

助けね・・・。

ああいう気の強そうな女は助けを求めない。

断言はできないが、そう思う。

なら助けを必要としてないかと聞かれたらそれも違うだろう。

目は口ほどにものを言う。

あいつの目からは助けを求めてはなかった。

ただ、目を見なくても体で伝わる現状の不満感。

こいつは自分をどうにかしてほしいというより、自分の周りをどうにかして欲しいと言うのが正しいのかもしれない。

ま、所詮は俺の推測だけどね。

 

「で、助けは求められてるのかね。」

 

「それは・・・わかりません。」

 

わからない、それは答えを曖昧にさせる。

そして、その本人の思考も。

わからないというのは自分の考えがゴールにたどり着かなかったからこその結果だ。

つまりこいつはアイツが、鶴見が何をどのようにして欲しいのかわからないでいる。

当然だ。

上から見下して省かれてる人間と上にいて下に落とされた人間の気持ちなど到底理解できない。

こいつは自分を変えない。

だから周りを自分に合わせるようにしようとした。

それに対して鶴見は自分を変えない。

周りも変えない、変えようとしない。

理由は簡単だ。

変える必要が無いからだ。

鶴見は以前は仲のいい奴らもいたと言っていた。

だが何もしてないのに省かれた。

つまり自分も周りの環境も何一つ変わってはいないということだ。

なら今のままで待ってればまた上にあがれる、そう信じているのだろう。

ま、触らぬ神に祟りなしってわけだな。

 

「・・・ゆきのん。あの子さ、言いたくても言えないんじゃないかな。」

 

「どういうことかしら、由比ヶ浜さん。」

 

・・・な〜に余計なこと言っちゃうのかなこのビッチがー!

このままいけば何事もなく解散出来てたかもしれないのに。

尻軽女は口だけじゃなく頭も軽いのかよ。

終わった・・・雪ノ下も食いついてるし。

 

「留美ちゃん言ってたじゃん。自分も同じことしたって。だから自分だけ助けてもらうのが許せないんじゃないのかな。話し掛けたくても、仲良くしたくてもそうできない環境もあるんだよ。」

 

なんでそこまでアイツのこと考えれてるのに肝心なところがわかんないんだよ・・・。

あれだ、数学で答えはわかったのに最後の最後で単位がわからなくなるってのと同じだ。

それに、おしいと言ってもハズレはハズレだ。

自分で言ったこと振り返れよ。

言ってたろ、自分だけ許せないって。

ならなおさらだ。

頼まれてもいないのに助けたらアイツの覚悟がズタズタだ。

人をどう思うか、またどう捉えるかなんて人それぞれだ。

それでも自分の考えが常に正しいというのは間違ってる。

自分の言葉に対象を無理やり重ねようとしてはならない。

それは姿形は一緒だが全くの別人になる。

由比ヶ浜の中の鶴見は一体どんな鶴見なんだか。

 

「よし、では集計をとるぞ。雪ノ下の考えに反対のものはいるか?」

 

反対のもの?

そんなの・・・

 

「・・・まさか君が手をあげるとはな、比企谷。」

 

俺に決まってるだろ。

 

「理由を聞いてもいいか?」

 

「鶴見は自分なりの覚悟を持っている。前に自分がやったようにそれが自分に降り注ぐことを。それに、仮に助けたとしてもそれが本当にアイツの助けになるかもわからない。それぐらいここにいる全員理解してるだろ?」

 

俺たちが鶴見を助けて鶴見が助かる。

これはただの理想論だ。

結果はいつも残酷だ。

良かれと思って行動したことは大半が裏目に出る。

それが現実だ。

人間はいつだって現実にぶつかってる。

鶴見の今の現状もそうだ。

鶴見の前にいじめられてた奴もそうだ。

ただ今回は鶴見には身近ではない高校生がいる。

そしてその高校生達が鶴見を救おうと、どれだけ本気の奴がいるか知らないが立ち上がってる者がいるのもまた現実だ。

だが、あいつを助けるかどうかはまだ未来の話だ。

なら、まだ起きていないことなら未然に防ぐことができる。

最悪の未来を回避できる。

以前迅さんが言っていた言葉だ。

『俺は常にみんなを助けれるわけじゃない。だけどみんなにとって嫌なことは未然に防ぐことが出来る。まぁ、大規模侵攻は防げなかったんだけどね。』

なんて言ってた気がしなくもない。

まぁ結果から言って俺も未来にどんなことが起こるかわかるならそれをできる限りいい方に持っていきたい。

それは誰もがそう思うだろう。

ま、ここにいるヤツらのうち何人が理解出来てるかわからんが。

 

「つーわけで辺りも暗くなったし俺はお暇させて頂きます。・・・操、小町こっちに来てくれ。」

 

俺は2人を呼び出し街灯に向かって歩き出した。

 

 

 

 

さて、俺も最悪の未来を防ぐために最善を尽くしますか。

 

 




次回、小町は納得するのでしょうか


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彼は過去を語る。

あたりに人の気配はなく、あるのは街灯とベンチとテーブルだけ。

そのベンチに一人の男と二人の女。

俺と操と小町の3人は先程の話し合いを途中離脱した。

 

「さて、どこから話したもんか・・・。」

 

小町になぜボーダー隊員だということを黙っていたのか。

理由を話すのは簡単だ。

だがそれだけじゃ小町は納得しない。

どうしましょうかね〜。

 

「私たちがなんでボーダーに入ったか、からでいいんじゃない?」

 

「・・・そうだな、そうしよう。じゃ、説明すんぞ。あれは今から十年くらい前・・・

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーー

「はちまーん、どこ行くの?」

 

「・・・あっち。あっちになんか見えた。」

 

「見えたって何が?私なにも見えないよ。」

 

「俺、目いいから。」

 

「ふーん。じゃ、行ってみよう!」

 

「おー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡、結構歩いたけどどの辺?」

 

「多分この辺。」

 

「ふーん・・・って!な、何よこれ!?建物壊れてる!」

 

「なんか、大きなサソリが見えた、気がする。」

 

「サソリ?サソリは砂が沢山ある所にいるって小学校の先生言ってたよ?」

 

「うーん・・・」

 

ドォン!

 

「な、なに!?・・・キャー!な、なんか飛んできたー!?」

 

「あ、さっき見たサソリだ。」

 

「あ、あんたバカ!?こんなサソリいないわよ!図鑑にも載ってなかったし。」

 

「あ、まだ生きてる。目、動いた。」

 

「え!?に、逃げないと!」

 

「・・・もう遅いみたい。」

 

俺と操の前には既に動くのも精一杯なモールモッドが鎌を振り上げた。

操はその場に座り込み、俺はモールモッドの鎌を見上げる。

今思うとこの時の俺は感情を表に出していなかったな。

いや、周りになんの興味を持っていなかったのかもしれない。

まぁ、何はともあれこの時には死を覚悟してたんだよなー。

 

「きゃー!」

 

「・・・。」

 

ドサッ

何かが落ちる音がした。

目を開けるとモールモッドの鎌はなかった。

それどころかモールモッドの体は真っ二つに別れていた。

その上に立つ一人の男、片手に刀を持ちタバコを吸う。

 

「っ!?な、なんでお前らがいんだよ!?」

 

その男は口からタバコを落としモールモッドから飛び降りた。

近くに来てようやくわかった。

その男は・・・

 

「あ、親父。」

 

「お、おじさん?」

 

今は亡き親父だった。

親父は自分の耳に手を当てたと思うと何かを話し出す。

話終わるとすぐに親父は俺たちの元に近寄り肩にかついぎ歩き出した。

 

「親父、どこに向かってるの?」

 

「あー、父ちゃんの仕事場だ。」

 

「ふーん。」

 

「ふーんって・・・気にならないのか?父ちゃんの仕事場。お前くらいだったら剣振ったりするのに興味あるだろ?」

 

「・・・ない。」

 

「父ちゃん傷つくぞ・・・そういえばなんでお前らここにいるんだ?いつもの公園よりかなり遠いぞ?」

 

「あ、それは八幡がなんかサソリみたいのが見えたって言い出して・・・。」

 

「・・・え?あの公園から?」

 

「そーみたい。」

 

「その時の八幡なんか変じゃなかったか?」

 

「そーいえば・・・目が赤っぽくなってた、気がした。」

 

「やっぱそうか。・・・ったく血は争えねーな。やっぱ俺らの息子だ。」

 

「・・・俺は親父とおふくろの子供だぞ?」

 

「ははは、そうだな。」

 

「さて、少しとばすから気持ち悪くなったら言えよー。」

 

「出発おしんこー。」

 

「ナスのぬか漬け〜。」

 

「ははは、なんだそれ。」

 

ーーーーー

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・とまぁ、これが俺たちが初めてトリオン兵を目撃した瞬間でボーダーに入るきっかけだ。この時はまだ記憶消去なんてなかったし俺のトリオン量が多かったっていう理由で入ったわけだ。」

 

「なら、小町も二人の子供なんだからその・・・トリオン量っていうの多いんでしょ?」

 

まぁ今の話聞いただけじゃそう思うのも無理ないか。

 

「いいか、小町。トリオン量は全員が全員親の影響を受けるわけじゃないんだ。おふくろはともかく親父のトリオン量は大して多くなかった。寧ろ少なかったって言ってもいいな。・・・けど小町のトリオン量はその親父より少なかったんだ。小町は覚えてないかもしれないけど1度小町はトリオン量を測るためにまぁ旧ボーダー本部?に来たことがあるんだ。」

 

「八幡、あの時小町寝てたはずよ。」

 

「・・・そうだっけ?」

 

あー、確かに言われてみればそうだったような気がすんな。

さて、次は何を話すかな?

 

「じゃ、次は私が話すわ。そうね・・・なんで小町がボーダーに入れることを許さないか教えてあげる。」

 

 

 



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彼女は理解し納得する。

「小町がボーダーに入るのに許されない理由?」

 

小町は当然『許されない』というところに着目を置く。

だめ、ではなく許されない。

この言回しに疑問を持つのは当然だ。

 

「ああ。許されない、理由だ。・・・これを話すのには小町、お前の覚悟が必要になる。心の準備はいいか?」

 

「なんで話を聞くだけなのに覚悟がいるの?」

 

小町は頭の上にクエッションマークをうかべ首を傾げる。

・・・我が妹ながら素の態度なら可愛いな。

 

「まぁ、その、なんだ。お前にとってはいい話じゃないからなんだが・・・いいか?」

 

「うん。その話をしたら小町は納得するってことだよね?」

 

小町の顔つきが変わった。

俺もその顔を見て覚悟を決めた。

向かい側の操も覚悟を決めたようだ。

 

「・・・なら話すぞ。まず一つ目、小町は大規模侵攻を覚えてるか?」

 

俺は先程の覚悟はどこに消えたの?と聞かれても仕方の無いような質問を小町に投げつける。

 

「え?もちろん覚えてるけど。」

 

小町も予想外だったのか一瞬キョトンとした。

だがこの質問が後々大切なキーになる。

 

「なら二つ目、トリオン兵って知ってるか?」

 

「お兄ちゃん、小町をバカにしてるの?大規模侵攻の時に出てきたやつでしょ。被害に遭った人で知らない人は・・・!?」

 

小町は話している途中に目を見開き信じられないような顔をする。

もう気がついたか。

思ったよりも早かったな。

・・・あと質問四つ考えてたんだけど無駄になったな。

 

「小町、これにあんたが見たトリオン兵を描いてみて。絵が無理なら特徴だけでもいいから。」

 

操は小町の前に自分のタブレットを差し出した。

だが小町はそれに触ろうとしない。

それどころか手は震え瞳孔は開き恐怖のどん底にいるかのような態度をとる。

恐怖にどん底があるかはわからんが。

 

「小町、今どんな気分だ?」

 

この質問の返答しだいでは今後の小町の運命が決まるかもしれない。

いわばここは小町の未来の分岐点。

おふくろが絶対に避けたかった分岐点。

俺らが何も言わなければ訪れることはなかったはずの分岐点。

さぁ小町、答えを言え。

 

「な、なんか気持ち悪い。別に風邪ひいたわけじゃないんだけど・・・。何かが喪失した感じがして・・・思い出そうとすると気持ち悪く、吐き気がする。」

 

「・・・そうか。小町、俺がこれからいう言葉しだいでお前の気持ち悪いが悪化するかもしれないし良くなるかもしれない。まぁそれはお前しだいたが・・・聞きたいか?」

 

「うん。ここまで来たんだもん。小町は真実を知りたい。」

 

小町は勇敢だ。

本当は投げ出したくて仕方が無いだろう。

すぐにでもここから立ち去りたいだろう。

もしかしたら予想はついているのかもしれない。

俺は覚悟を決めたのにも関わらず未だに後悔している。

少しばかり膝が笑っている。

いや、泣いていると言った方がいいのかもしれない。

本当にこの先を教えていいのか。

ことの大事さは俺もよくわかっているはずだ。

本当はもっと時間をかけた方がいいのかもしれない。

俺は自問自答の渦えと潜り込んだ。

そんな俺を救いだそうと差し出された手。

その手は一体誰の手なのかわからない。

俺はその手をつかもうと手を伸ばす。

指と指が触れるその時

ドン、と音がした。

その音が脳に伝わる前に俺に別な感情が芽生えた。

 

「いってー!な、なにすんだよ操。」

 

激痛と怒りだった。

俺はその原因の操を睨みつける。

 

「うっさいわね。あんたが何してんのよ。小町は聞く準備も出来てんのに、それをあんたはちんたらちんたらと・・・女々しいわ!」

 

・・・どうやら救いの手はあったみたいだ。

条件として少しばかりの痛みが伴うけど。

おかげで俺は小町に真実を伝える覚悟がもてた。

もう引き下がるつもりもない。

後悔するつもりもない。

なぜかって?

それは・・・俺がそうすべきだと思っているからだ。

 

「うし。じゃ話すぞ。小町、なんとなく予想はついているとは思うがお前は記憶喪失だ。」

 

「・・・だよね。でもなんでほかの記憶があるのに大規模侵攻の時だけがすっぽりと消えてるの?」

 

「聞いて驚くな・・・お前の目の前で親父は死んだ。」

 

「・・・え?お父さんが、小町の、目の前、で?」

 

小町は口に手を当て驚く。

無理もない。

自分の父親が自分の目の前で死んだのを自分は知らなかったのだから。

だがこれから言うのにはもっと驚くだろう。

 

「言ったろ?親父は比較的トリオン量が少なかった。だからあまり長期戦にはむいてないんだ。小町は覚えてないだろうが小町はおふくろと逃げてたんだ。で、退路は親父が作ってたんだが・・・トリオン切れで生身に戻ったんだ。昔は今のような技術はなかった。だから親父は生身の状態で小町を逃がそうと立ち向かったんだが、まぁご察しの通りトリオン兵相手に歯も立たずあっさりと一刀両断されたわけだ。おふくろがトリオン体になった頃には手遅れで小町はその場で泣け叫んでたわけだ。でもこの時は特に以上はなかった。いや、この時はただの助長に過ぎなかったんだ。お前は泣きながらおふくろと逃げた。当然周りのトリオン兵を倒してた奴がいなくなったんだからトリオン兵は近づいてくる。おふくろも小町がいるから思うように戦えなかった。で、目の前にトリオン兵が現れたんだ。おふくろはすかさず倒そうとした。けどそれよりも早く異常が起きちまった。」

 

「・・・異常?」

 

「ああ、異常だ。小町がその場で失神したんだ。トリオン兵を見たとたん。で、病院に連れてって検査してもらったらどこにも異常はない、と申告されてな。俺たちはなんともないと思った。けど異常はすぐにわかった。病院内のテレビで大規模侵攻の特番がやってたんだ。それには当然トリオン兵が映し出された。その時だった。異常が発生したのは。小町が突然その場で倒れたんだ。すぐに看護師たちが集まって入院の手続きやらなんやらしたんだが原因がわからなかったんだ。けど医者が言うには現状からしてトリオン兵を見たことによるショックだろうって。その後記憶の一部がその時のショックで消えてるのもわかってトリオン兵を小町の目に入れちゃならないっておふくろが言って小町とおふくろは三門市を出たわけだ。まぁ長くなったがこれが小町がボーダーに入るのが許されない理由だ。理解したか?」

 

「・・・うん。そうだったんだ。記憶は全然ないけど理解はできたし納得もした。小町はボーダーに入ると迷惑かかっちゃうんだね。」

 

「そういうこった。ま、後は自分で考えておふくろに文句なり説明なり要求しろ。俺も一部始終しか知らないわけだし。・・・じゃ、俺はもう寝る。おやすみ〜。」

 

俺は小町と操から離れると空を見上げた。

たったの1日でこれほどの疲労感はあっただろうか。

 

「もしかしたら俺もおふくろも間違ってたのかもな・・・。」

 

俺の無意識に発せられた言葉は暗闇のなかへと消えてった。

 

 

 

 

 



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