烏森に選ばれた少女 (琴原)
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過去~少女の始まり~

初めてのため誤字脱字、見にくいなどのことがあるかもしれませんが、ご容赦ください。


今から7年前。

 

当時7歳だった私に、祖父はこう言った。

 

 

 

「よいか、真守美。

お主も今年で7になった。

よって、正統なる継承者の名に恥じぬよう、お主に烏森の地を守るための術を身に着けてもらう」

 

 

 

 

それからの私には、修行の日々の繰り返しになった。

 

辛いことが多かったが、私は知らないことを知ることが楽しかった。

 

だから修行にも耐えることが出来た。

 

 

でも、大人達は違った。

 

 

 

 

9歳になり、出来る術も増え本格的に烏森を任され始めたころのことだ。

 

その日の私は、何時ものように学校から帰り、家の道場で修行した後、父さんの作った夕食を兄と弟に挟まれながら食べ、お風呂に入った後少しの間仮眠をとり、深夜の学校へと駆け出す。

同じく烏森を任されている雪村時音の小言を右から左へ流しながら妖を滅していく。

其れを繰り返していれば、あっという間に時刻は帰宅の時間をさしていた。

道中も色々と言われていたが内容は忘れた。

家に着き、門をくぐる前に「おやすみ」と言われたので、反射的に「おやすみ」と返すと、彼女は満足そうに家に入っていった。

彼女の行動に不思議に思いながらも家に入り、部屋に天穴を置き、祖父の部屋に向かう。

基本的に報告などは朝で構わないのだが、私の場合は祖父より刷り込まれた「報連相」が体に染み込んでしまい、無意識に体が動いてしまうのだ。

こういう時は大体が祖父の部屋の前で寝息が聞こえた時に気付いて自分の部屋に戻るか、偶々その日書道の練習をしていて祖父が起きていたから報告をする、という2パターンだ。

大体は最初のパターンが多い。

 

祖父の部屋へ着くための曲がり角で、祖父の部屋から光が漏れているのが見えた。

今日はコッチの方か、と内心呟きながら祖父の部屋に向かう。が、途中で祖父以外の気配があることに気が付いた。

気配を消し、祖父の部屋の襖の横に身を隠す。

部屋から聞こえてくる声は2つ。

1つは祖父の声、もう1つは普段家を離れ妖退治をしている私の母、墨村守美子の声であった。

母が帰ってきていたという事に驚きながらも、あの二人がどんな話をしているのかが気になり、こっそり話を聞いてみることにした。

 

最初はいきなり帰って来た母に色々言う祖父であったが、母が無事なことを確認するかのように質問していく。

しかし祖父の言葉も母によって断ち切られる。

話の内容は、私のことについてだった。

 

「そういえば、真守美はどうしてます?ちゃんと役目を果たしていれば良いのですが」

「ふん、あ奴はお主のようにじゃじゃ馬では無いからのぉ。ようやっておる」

 

普段から褒め慣れていない私はそれを聞いて柄にもなく喜んでしまった。

でも、

 

「ならいいんですけど、あの子は雪村と違い男家系の墨村に生まれたから、やはり男の正守には劣っているでしょう。同じ女の私が言うのも変ですが、やはり女のあの子には厳しいと思います」

「…わしかて方印が出さえしなければ、あ奴にあんな無理させとらん。だが、方印が出た以上正守に任せるわけにもいかん。酷かもしれんが、普通の女子として扱う訳にもいかん」

 

それを聞いたとき、私の頭の中は真っ白になった。

祖父達は兄のような優秀な才能ある〝男〟の正統継承者を望んでいた。

私は、祖父達の期待に、応えられない…?

 

暫くフリーズしていると、後ろから肩をたたかれる。

 

「っ…」

「真守美」

 

肩をたたいたのは兄の正守だった。

 

「おにぃ、ちゃ…」

「もう遅い、報告は起きてからにしな」

 

そう言われ、正守に手を引かれながら静かに部屋に戻る。

 

部屋の前に着くが、兄の手を離さない。

 

「真守美?」

「ねぇ、お兄ちゃん。私って、産まれちゃいけなかったの…?」

「!そんなわけないだろ」

「だって…」

「いいか、お前は確かに女の子だ。そりゃ男で年上の俺に劣る部分は多い。でもな、お前は正統継承者だ。俺にないモノを、お前は持っている。今はまだソレが目覚めていないだけで、ちゃんとお前にもあるんだ。御祖父さんも母さんも、お前が心配でああ言ったんだ。たとえお前が男だったとしても、それは変わらない。お前は、墨村家に望まれて産まれたんだ。だから、もう二度と、そんな事言っちゃダメだぞ」

 

兄はそう言うと最後に、私の頭を優しく撫でた。

 

「…ごめんなさい」

「分かってくれたならいいんだ。今日は疲れただろう、ゆっくりお休み」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」

 

私は兄から離れ、自分の部屋に入り、仕事着からパジャマに着替え、布団に入り瞼を閉じる。

1つの願いを、胸に秘めながら……。

 




今回はここまでとなります。

次回からは原作(?)に突入したいと思います。

何か不満やご意見がございましたら、些細な事でもよろしいので、どんどんしてください。

本日は見て下さり、誠にありがとうございました。


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墨村真守美という少女


普通にお父さんがお弁当渡してるけど中等部給食じゃん…。


 5年前のあの日から、私は結界術をモノにするため、日々精進し、今日も淡々と妖を滅していく。

 

《今夜も雑魚ばかりで、つまらないねェ。せめて雪村の小娘が、もぉ少し張り合いのある奴だったら、楽しめたのかねェ》

「斑尾」

《大丈夫よォ。近くにあの小娘は居ないわ》

「だとしても、そういう事を大きな声で言うものではないわ。それに、時音さんだって決して弱いわけではないしね」

《確かに、あの小娘は上手く自分の力をコントロールする事が出来ている。でも、ソレはアンタも同じこと》

 

 斑尾は私の前に回り込み、顔を近づけ、目を合わせる。

 

《アンタの力は”大き過ぎる”せいで、結界術だけではコントロールしきれない。だけど、他の術を加えることで、力の均衡を保つことが出来ている。それは”あの御方”ですら成しえなかった事》

 

 斑尾は目を細め、楽しそうに、愉快そうに、愛おしそうに、狂おしそうに、怪しく不気味に笑う。

 

《アンタは一体、どんな最後を迎えるのかねェ》

 

 

翌日、朝―――

 

ピピピピピ――――カチッ。

 

 目覚ましを止め、布団から起き上がり、片付けてから制服に着替える。

 洗面台で身嗜みを整えていると、弟の利守が目を擦りながら現れた。

 

「おはよぉ、真守美姉ちゃん」

「おはよう、利守」

 

 利守の準備が整うまで待ち、一緒に朝食のいい匂いがする居間へ行く。

 そこには父と祖父が居た。

 

「おはよう、父さん、おじいちゃん」

「おはよう!」

「おはよう、真守美、利守」

「うむ」

 

 挨拶を終え、私達はそれぞれの位置に座る。すると、祖父が話し掛けてくる。

 

「真守美、昨夜も雪村の娘を出し抜いたそうじゃな。流石は、我が墨村家の正統なる後継者。今後も、精進するように」

「出し抜いたつもりは無いのだけれど...。これからも、墨村の名に恥じぬ働きをします」

「うむうむ」

「二人とも、ご飯が冷めてしまいますよ」

 

 

 朝食を食べ終え、鞄を持ち、玄関で靴を履く。その間に、父が見送りに来る。

 

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けて行くんだよ」

「うん」

 

 父と玄関で別れ、門を開けると

 

「あ」

 

 同時に、雪村 時音が出てきた。

 

「お、おはよう!」

「…おはよう」

 

 挨拶を返し、通学路に足を進めると、私の隣を時音さんが歩く。彼女はソワソワしながら歩くが、特にこちらに話し掛けてくるわけではなかった。

 そうこうしているうちに、目的地である学校につく。

 中等部と高等部では校門が違うので、彼女とはココでお別れだ。

 

「じ、じゃぁ!また、夜に!」

「ん…」

 

 わざわざ私に向き直って別れを言う彼女に、短く返事をする。彼女は校門へ歩き始めるが、チラチラとこちらを見てくるので、小さく手を振る。すると彼女は、

 

「~~~~~っ!!」

 

 何だか嬉しそうに顔を赤らめながら走って行った。

 校門を潜るのを確認して、私も自分の校舎へ足を運ぶ。

 

 

午後8時、墨村家――

 

 

「父さん、手伝うよ」

「いいよ、真守美は時間までゆっくりしていなさい」

「でも…」

 

 すると、烏森の結界に侵入する気配を感じる。

 

「真守美」

「はい、直ぐに準備します」

 

 私は急いで部屋に戻り、着替えを済ませ、外に出る。

 

「斑尾、仕事だよ」

 

 そう呼びかけると、犬小屋から斑尾が欠伸をしながら出てくる。

 

《まったく。こんな時間に侵入してくるなんて、非常識な奴が居たものだよ》

「こっちの常識が通じる相手なわけないでしょ。行くよ」

《はいよ》

 

 

烏森学園――

 

 

「どう?」

《どうやら、林の方に居るみたいだね》

「よし、行くよ」

 

 私達は妖が居る方へ向かう。

 

《――!真守美!!》

「えぇ」

 

 斑尾の声と同時に、周りに結界を張る。その直後に、妖が放ったであろう攻撃が来るが、結界のおかげで無傷だ。そして、その妖が姿を現す。

 

「まるでイモリね」

《焼いたら美味いかしら》

「お腹壊しても知らないよ」

 

 軽口をたたきながら、私はイモリもどきを観察する。すると、地面が抉れていることに気づく。

 

「成程、今のは土を弾にして連続で放ってきたのね」

《どうするんだい?雪村の小娘を待って、協力するかい?》

「そんなことをしている間に、地面どころか校舎まで抉られているでしょうね」

《なら》

「えぇ。何時もの様に、淡々と仕事をこなすだけよ」

 

 真守美は、印を結んでいる手とは逆の手で、違う印を結ぶ。

 すると、妖が踏んでいた影が、突然妖を縛り上げ、吊るされる状態になる。そんな状態の妖を結界で囲む。

 そして容赦無く、腕を下す。

 

「滅」

 

 その言葉と共に、結界は砕け散る。

 

「天穴」

 

 そして残骸は天穴に吸い込まれ、跡形もなくなった。

 

《他愛ないねェ》

「……そうね」

 



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甘いもの

繁守の部屋―――

 

 墨村繁守が部屋で書道をしていると、甘い匂いがすることに気付く。

 

「ふむ、この匂い…」

 

 立ち上がり、匂いの根源へ足を運ぶ。

 一番匂いの強い居間に着き、襖を開ける。

 

「あ、おじぃちゃん!」

「ちょうど今から呼びに行こうとしていたんですよ」

「うむ。して、それは?」

「あのね!真守美姉ちゃんが作ってくれたんだよ!」

 

 机の上には、出来上がったばかりのどら焼きが置いてあった。

 

「近所の方から、いい所の小豆を貰ったらしくて」

「ほぉ」

 

 繁守は座り、どら焼きに手を伸ばし、口へ運ぶ。出来立てなことから、温かく、舌に馴染む、甘い味が、口の中へ広がる。

 

「…美味い。して、修史さん。真守美は何処へ?」

「雪村さん達へお裾分けに行きましたよ」

「……そうか」

 

 繁守はまた、どら焼きを口に運ぶ。

 ちなみに、利守のどら焼きには数個、チョコクリームが混ざっている。

 

 

雪村家、門前――

 

「あらぁ、わざわざありがとうね」

「いえ、雪村家の皆さんには、いつもお世話になっていますから」

「時音もきっと喜ぶわ。あの子、真守美ちゃんの作るお菓子が大好きですもの」

「…そう、ですか」

「フフッ)」

 

 顔には出ていないものの、自分の使るものを褒められるのは気恥ずかしいのか、若干目線を下げる。そんな真守美を見て微笑ましく見る静江さん。

 

「では、私はこれで。時子さんにも、よろしくお伝えください」

「えぇ。本当にありがとうね」

 

 真守美は静江に一礼し、自分の家に戻る。

 

 

翌日、烏森学園―――

 

 

「……」

 

 変なのが居る。

 

 真守美は正面玄関に立つ半透明な男性を見つける。彼は特に何をするでもなく、通り過ぎる生徒たちを見ていた。

 

「(放っておく訳にもいかないし...。仕方ない)」

 

 真守美は人目に付かない所まで行くと、念糸を出す。それを男性に目掛けて、投げる。念糸は見事男性に巻き付く。真守美は容赦なく引っ張る。

 

《お?おぉぉぉぉおおおお???なんやなんや???》

 

 男性は真守美の目の前に来る形となる。

 

《お!もしかしてコレ、君がしたん?なぁなぁ!コレ何なん?めっちゃ巻き付いて離れへんのやけど》

「貴方に言うことは一つだけ、今すぐにこの土地から出て行ってください。そして、未練があるのであれば、ここへ向かってください」

 

 真守美は騒がしい男性をスルーし、手帳を広げ、書いている場所を見せる。

 

《ん?未練?なんやよう分からんけど、ボクはようキャベツ買うて店に戻らなあかんねん》

 

 そこで真守美は彼の言葉に引っ掛かる。

 

「(まさかこの人、自分が死んだことに気付いていない?)」

 

 大正解。

 

《いや、キャベツもう買うたような…。つうか、乗ってたバイクどうしたんやっけ?》

「はぁ)よく聞いてください。貴方は既に亡くなっています。なので、お店に戻っても意味はありませんよ」

 

 。

 

《あ!!すまん!君、突然ボケるから間ぁハズしてもうた。ここはやっぱノリツッコミやったかな?》

 

 真守美の目から温度が消える。

 

「兎に角、先程教えた場所に向かってください。そして、二度とこの地に足を踏み込まないでください」

 

 「いいですね」と、圧をかけると、男性は委縮し「はぃ...」と、大人しく出て行った。

 

 

 

放課後、商店街―――

 

 真守美は父の修史に頼まれていた買い物を済ませていた。

 

「(よし、頼まれたものは全部買ったし、早く帰ろう)」

 

 帰路に足を進めるが、ふと、目に入った光景に足を止める。それは、いろいろな種類の立ち並ぶケーキだった。

 

「……きれい」

《なんや君。甘いもん好きかいな》

 

 自分の独り言に返事が返ってき、直ぐに振り返る。そこには今朝会った、幽霊の男性が居た。

 

《あぁ、この店ええよね。細工が凝ってるし、何より味が…》

 

 語り始める彼を置いて、真守美は止めていた足を動かす。そんな彼女に気付いたのか、男性はついていく。

 人通りの少ない道に出たところで、真守美が話し掛ける。

 

「私は確か、貴方に指示を出したはずなのですが。行かなかったんですか?」

《ああ、それ。行ったで、フツーに》

「なら何故…」

《それがな…。まぁあのオバハン、ええ人やねんけど…》

 

 男性はため息をつく。

 

《何かこう、ボケ同士の会話?みたいなって、どーも収拾つかへんねんな》

「……」

 

 真守美は呆れてものが言えなくなってしまった。

 

《でも、ちゃーんと理解したで、自分が死んだこと》

「…そうですか」

 

 それを聞くと、また歩き始める。

 

《そういえば、君、やけにあそこに近づくな言うとったけど、何かあるん?》

「……あそこは、此の世ならざる者達に力を与えてしまう土地なんです。だから、貴方のような人たちを出来る限り近付けさせない様にしているんです」

《ほぉ~。んなら、例えばボクがあそこでその力ってやつをもろぉたら、どうなるん?》

「貴方を退治します」

《…君、容赦ないなぁ。普通そこは言い淀まん?》

「それが私の仕事ですから」

 

 真守美は立ち止まり、男性に向き直る。

 

「では、私はこれで。どうか迷わず成仏してください」

《えーーー!?》

 

 男性は歩み始めようとする真守美の肩をつかむ。

 

《待ってや!ボク、このままでは死んでも死にきれんねん!!》

「だから、貴方もう亡くなってますって」

 

 掴まれた肩を不快そうに見る真守美。

 

《だってな、よう思い出したら今わの際の言葉、『キャベツ…』やねん!そりゃないやろが!》

「知りませんよ。それより離してください」

《せめて『イチゴ!』やったら…な!?》

「変わらないと思いますけど。そして離してください」

《違う!全然違う!!》

 

 そして男性はようやく手を離すと、半泣きになりながら自分を指しながら、

 

《だってボク…パティシエやってん》

 

と、そういった。その言葉に彼の服装に納得がいった真守美であった。

 

《正確にいうと修行中いうか、うちの店小さいから、何でもやらされてたけどな》

 

 男性は補足を加える。

 

《でもええよね、甘いもんって。何か人を幸せにするよね。あれは愛やね。しかもわけへだてのない愛!》

 

 《おいでラブトゥギャザー》と、意味の分からないことを言い始めた。

 

《ボクの夢ね、自分の作ったお菓子で人を幸せにすることやってん。他の人の顔がほころぶとな、ボクの胸の辺りもぽわぁってなるねん。でも…》

 

 幸せそうに、嬉しそうに自分の夢を語る彼の顔が、寂しそうな、悲しそうな顔へと変わる。

 

《それももう、できへんのかなぁ…》

「それは…」

 

 すると、「ちょっと!!」という声が聞こえた。

 後ろを向くと、雪村時音がこちらに向かって歩いてきた。そして真守美と男性の間に割って入る。

 

「あなた、この子に何の用?答えによっては、容赦しないわよ」

 

 そう言いながら指を構える。

 

「時音さん、彼は…」

《えー何々?この子、君のお姉さんか何か?》

「え、えぇ、まぁそんな感じです」

 

 質問に答えると、雪村時音は振り返り、嬉しそうに「姉さん、私が、真守美の…」と呟き、暫くするとハッとしたように、「真守美、こんなレベルの霊相手にしないの。行くよ!」と、真守美の手を握り、歩き始める。

 

《ちょ、ちょぉ待ってや!》

 

 引き留めようとする彼を、時音はキッと睨み付ける。

 

「いい?現世にいていいことなんて一つもないの、ヘタな未練捨てて、すぐに成仏しな。あんたは既に、現世の理から離れてる」

《どういうこと?》

「つまりね、あんたはもう存在自体がこっちの世界のバランスを崩すの。あんたの想いは現世にねじ曲がって作用する」

 

 時音は真っ直ぐ、彼の目を見て、真剣に話す。

 

「あたし達はまだ耐性があるけど、そうでない人間はあんたが近づくだけで心身に変調をきたすこともある。あんた、危険なのよ」

 

 そしてそれは、あまりに残酷な真実でもあった。

 

「自分が化け物だってこと、自覚した方がいい」

 

 「行こ、真守美」と、また手を引きながら歩き始める。

 真守美が最後に見た彼の顔は、酷く落ち込んだ表情だった。



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人間霊

墨村家、真守美の部屋―――

 

 真守美は自室で勉強をしていると、敷地内に侵入者が現れるのが分かる。が、今回のは違和感がある。

 通常の妖は外から中へ侵入するため、結界に触れる。しかし今回は”中に居たモノ”が変化したそれだった。

 真守美は着替えながら、あの男性霊の事を思い出す。

 

「(まさか、ね...)」

 

 真守美は斑尾を起こし、学園に向かって走りながら、あの時の彼の表情を思い出す。

 

「…」

《アンタ、今日はどうしたんだい?珍しい》

「…別に」

 

 自分らしくない。それは真守美が一番よく分かっていた。

 

 

烏森学園―――

 

 真守美は閉められた校門を飛び越える。すると、

 

《ヤッホー!!》

 

 掲示板の上で、男性はエビ反りになりながらくねくねと挨拶してきた。

 

《あれ、君…面白い恰好しとるね》

「…何してるの」

《ヨガ?》

「ここには来るなと言った筈なんだけど…」

《そら、ダメ言われたら来たくなるのが人情よ》

 

 男性は緊張感のない顔でフワァと、掲示板から降りる。

 

《大丈夫やって。あかん思たらすぐ出てくし。試してみんとわからんやろ、何事も》

 

 真守美は何も言えなかった。言いたくなかった。

 

《でな、ボクなりに考えてみたんやけど…いや~~~、化け物ライフもこれでなかなか悪ないで》

 

 そんな真守美に気付かず、彼は一人語り始める。

 

《ちょっとコツつかめば、ファ~ッと飛べるしね。しかもフツーの人に姿見えへんやろ。これはもうね――――”のぞき放題!!”なワケよ!》

 

 自慢げに語る男性の言葉に、真守美は固まる。

 

《まあね。見るだけで触れんっちゅうのが、残念やけどね。このもどかしさがまたええんちゃうかと…》

 

 そこまで聞くと、真守美は念糸を出し、彼に巻き付ける。そして強く引っ張る。

 

《いだだだだだだだだだだ!!!何々!?急に何なの!?》

「女の敵め。楽に逝けると思うなよ」

《いやいやボクもう死んでるし…てかホントにこれすっごい痛いんやけど?!ボク死んだんよね?!》

「これ、元々拷問用なのよね…」

《ヒェッ》

《アラアラ》

 

 締め上げていると、「あー!」と雪村時音がやって来た。

 

「…………どうしたの?」

《あぁ!ねーちゃん、助けて!殺される!!》

「天誅」

《ギャッ!!》

「…まさかさっきの異変、そいつが犯人なの?」

《犯人て…ボクまだのぞきしかしてへん…いだだだだだだだだ!!!》

 

《ほっとけよハニー。こいつ、ただのザコ霊だぜ。ザコだよザコ》

「わかってるよ。もっと別の邪悪な感じだったからね。こんな能天気なのなら楽なんだけど…」

「時音さん、こいつ退治した方がいいと思うの。世の女性のためにも」

《ヤメテッ!?》

「放っておきなさい。今はあっちが最優先よ。行きましょ」

 

 そう言い、時音は走り出す。

 真守美も追いかけるために念糸を解く。

 

「…貴方もついて来て」

《え?》

「妖が入ってきたら、貴方喰べられますし。それに、見た方が早いですから」

《?》

 

 

 

 

《いや~!物騒な感じになってきよったで~~~!》

《うるさいよあんた!集中できないじゃないのさ!!》

《だって妖怪なんて見たことないもん!》

「いえ、今回のは妖怪ではないです」

 

 真守美は男性に説明する。

 

「元々邪気のあるものが入ってきたのではなく、この敷地内で魔性に変化した感じでしたからね。これは十中八九霊です。たまに念のこもった品が妖に化けることもありますけど…そういった品がここに持ちこまれること自体は少ないです。しかし霊の場合、変化したというよりも…”病んだ”と、言った方が正しいですかね」

《ふーん》

 

 説明しながら移動していると、斑尾が霊は校舎内に居ることに気付く。

 

「校舎…建物内を好むということは、人間霊かしら」

《そのようだねェ。まだ初期だから匂いが弱いけど》

「初期…?ということは、まだ変化しきっていない、ということね」

 

 斑尾と会話をしていると、男性は思い出したかのように喋る。

 

《そういやボク、朝ここに来た時変な人見たで》

「え?」

《なんか青白ーい顔したおっさんでな、リストラされた言うとったわ。陰気なのと、話かみ合わんので、ボク、すぐ逃げたったけどね》

「……どうして早く言わないんですか」

《だってそん時は霊やなんて思わんかったもん…》

 

 真守美は遂に頭を抱えてしまった。

 

《!いたよ真守美!あっちだ!》

「!」

 

 斑尾に案内された教室には、時音と片腕を大きなハサミに変化させた中年の男性が居た。

 

【おや…増えてしまいましたね…構いませんよオ。一人ずつ減らしていきましょう!】

 

 中年の男性は邪気を増す。

 

《な、何や!?ヤバイ!ヤバイであのおっちゃん!》

「貴方は肉体がないですから、邪気が直に来るんですよ。下がってください」

 

【私ねえ、生前は本当についていなくてねえ…何の問題も起こしてないのに突然リストラですよ…理由は結果を何も出していないから…!あんまりですよ…25年も忠実に勤め上げたのに…何もないだなんて…だから決めたんです。今度は私が首を切る側に回ろうとね!】

 

 その時、中年の男性のハサミに結界が張られ、次の瞬間「滅」の声と共に、ボシュと音を立て、跡形も無くなる。

 

【あ…あぁあぁあ…】

「あなた…」

【!?】

 

 中年の男性の目の前には、何時の間にか真守美が立っていた。

 印を構え、冷静に、静かに問いただす。

 

「消えたいですか?」

【くっ!】

 

 中年の男性は消えた腕を再生させようとする。が、真守美はそれを許さない。もう一度同じ所を滅すると、

 

【え?】

 

そこ以外も攻撃し始める。

 

 

《(わ…も、もしかして、この子の方がヤバイ人…!?)》

「あの子…まさか…」

《?》

 

 時音は真守美に呼びかける。

 

「真守美!無理よ、一度病んだらもう元には…「そんなことない!」!?」

 

「まだ…まだ間に合う!」

「真守美…」

 

 普段の真守美と違うことに戸惑う時音。

 そして真守美は、中年の男性もう一度問う。

 

「ねぇ…」

【ヒィイイィ!!】

「二度は言いません、外へ出てください。これは命令です」

 

 

 

烏森学園、校門前―――

 

 

【ついてない…私は本当についてないんだ…】

 

 中年の男性は首だけとなり、ぶつぶつと呟いている。

 

「一つ聞きます。あなた、現世ではいいことは一つもなかったんですか?」

【いいこと?いいことなんて別に…】

「では嬉しかったことは?」

【そうねぇ…入社が決まった時は嬉しかったなぁ…】

「他には?」

【う~ん、結婚?いや…女房とは見合いだったからあんまり感慨なかったしなぁ…】

 

 真守美が諦めかけた、その時

 

【あぁ、でも…娘が生まれた時は、嬉しかったなあ…】

 

 今まで暗い表情ばかりしていた中年の男性は、本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「………その子は今どうしているんですか?」

【え?どうしてるだろう…気づいたらここにいたから…】

「その子に、会いたいですか?」

 

 真守美が問いかけると、中年の男性は一気にどもり始める。

 

【ええっ!?そりゃ昔はなついてたし、私の選んだ筆箱も喜んで使ってくれてましたが…中学に入ってからは何故か口もきいてくれなくて、しかも今はこんな姿だし…「そんなことはどうでもいいんです」】

「会いたいんですか?会いたくないんですか?」

【………】

 

 真っ直ぐ目を見て問いかける真守美。

 そんな真守美を見て、中年の男性が出した答えは

 

【会いたい………です…】

 

 それを聞くと、真守美は懐から手帳を取り出し、あるページを中年の男性に見せる。

 

「命令です。ここへ行ってください。詳しい人が相談に乗ってくれますので、娘に会いたいと言ってください。そして、ここには二度と近づかないでください。次はこの上ない苦痛と共に、一点の光もない暗闇へ葬り去ることになります」

 

 「いいですね」と、最後に念を押す。

 

【ははははい!行きますう!】

 

 中年の男性は怯えながら何処かへ飛んでいく。

 

 

 

「はぁ……」

「珍しいね、真守美があんなことをするなんて。どっかの誰かさんのせいかしら?」

 

 時音は男性霊をキッと睨む。それに男性霊はたじろぐ。

 

「…そうね。あんな後ろ向きな人、またすぐに悪化するに決まっているのに」

 

 真守美は励ますように寄り添う斑尾を撫でながら、

 

「どうしちゃったんだろ、私……」

 

斑尾にしか聞こえないほど小さな声で呟く。



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男性教師

朝、通学路―――

 

 いつものように雪村時音と並んで歩いていると、覚悟を決めたように話し掛けてくる。

 

「えと、真守美!その、こ、今度よかったら、い、一緒に、料理でも...」

「…いいよ」

「!ほ、本当に?!」

「うん」

 

 時音はパァァァと笑顔になる。

 

「じ、じゃぁ、折り入ってまた連絡するわね!」

「ん...」

 

 二人はいつものごとく、校門前で別れる。

 その姿を見つめる男子生徒が一人いた。

 

 

 

教室ーーー

 

 真守美が授業の用意を終え、読書をしていると、一人の男子生徒が話し掛けてくる。

 

「墨村、ちょっといいか?」

 

 彼は田端といい、真守美のクラスメイトだ。

 

「何?田端君」

「いや、お前雪村時音と知り合いなの?」

「?どうしたの、いきなり」

「親しそうに話してたからさぁ」

「(親しそう…他人からはそう見えるのか)」

 

 あまり自覚ないことであったので、真守美にとっては新感覚であった。

 

「で?どうなの?」

「…あぁ。たいした事じゃ無いわ、家がお隣さんなの」

 

 そう答えると、田端は水を得た魚のようにウキウキとする。

 

「お隣さん!?おおっ、こんな身近に情報源が!彼女の趣味とかわかる?」

 

 田端はパカと、手帳を開く。

 

「…何、それ」

「フフ…俺の異名を知らないのか?」

 

 田端は”烏森DATA☆FILE”と書かれた手帳を突き出しながらいう。

 

「人呼んで情報の魔導士!烏森学園のデータバンク、田端ヒロムとは俺様のことさ!」

「でーたばんく…」

 

 「(自分で考えたのかな...)」と、若干かわいそうな子を見るような目で田端を見つめる真守美。

 

「しかもこいつの情報、ジャンクばっかだぜ」

 

 そう答えたのは、真守美のクラスメイトで隣の席の市ヶ谷。

 

「黙れ!!…で、彼女の趣味は?」

「めげないなぁ…」

「………そもそも、それを聞いてどうするの?」

「俺は情報を集めるのが趣味なの。まぁ、場合によっちゃ売るけどね、需要あるし」

「…え」

「彼女人気あるからな。一部の男にとっちゃ理想に近いし」

 

 田端は手帳の内容を読み上げる。

 

「清らか、かつ可憐!白百合のごとき美貌に流れる長い黒髪は、もはや東洋の神秘!しかも品行方正、成績優秀!それを鼻にもかけず、誰にでも分け隔てなく接する優しさは、まさに平成のナイチンゲール!!癒されたいという男子の声多数!」

「白百合…」

「東洋の神秘でナイチンゲール…」

「まーーーでも、だからこそ近寄り難いって意見もあるけどね。ちなみに…男性教師に隠れファンが多いらしい」

「…それ、大丈夫なの?」

「今のところはな。で、趣味はーーーレア情報持ってない?家族構成とか」

 

 その言葉に、真守美は動きを止める。

 

「母親と祖母の3人家族って話だけど…父親は亡くn「田端君」」

 

 真守美は田端の話を遮り、わざとらしく大きな音を立てながら本を閉じる。

 

「興味本位で他人の領域に土足で踏み入るのはデリカシーが無いと思うのだけれど、どうかしら」

「は、はい、思います」

「なら、あまり詮索しないことね」

「はい…」

 

 始業のチャイムが鳴り、田端は若干落ち込みながら席に戻る。

 

「(墨村も人気あるんだが…言わんでおこう)」

 

 

 

昼、高等部ーーー

 

 

「悪いな、墨村。高等部まで付き合わせて」

「いえ、自分が言い出したことなので」

 

 真守美は担任である黒須先生と共に、高等部に荷物を運んでいた。

 すると、曲がり角でぶつかりそうになる。

 

「おっと、大丈夫かい?」

「あ、すみません」

「いや、こちらこそすまなかったね。君が転ばなくてよかった」

「…どうも」

「では」

 

 そう言い、離れていく男性の後ろを見つめる真守美に、黒須先生が問いかける。

 

「どうした、墨村」

「…黒須先生。あの人、どなたですか?」

「ん?あぁ、英語教師が一人産休に入られてな。それで新しく入ってきた先生だ。名前は確かーーー三能たつみ…だったか?」

「三能、たつみ...」

 

 真守美は言い知れぬ違和感を覚えた。

 

 

 

 

 高等部からの帰り道、それは突然襲ってきた。

 

「っ(何、今の。一瞬だけだけど、すごい邪気を感じた...)」

「墨村?」

「あ...何でもないです」

「?そうか」

 

 

 同時刻、人目の付かない所で、一人の男を除いて男子生徒6人が倒れていた。

 

「適性の問題方かと思ってたけど…これだけ試してダメなんだ。人間を養分にするのは無理ってことか。そろそろ限界だな…」

 

 その男は、真守美が違和感を抱いた三能たつみであった。

 

「夜を待つか」

 

 

放課後、下駄箱ーーー

 

「おい墨村!」

 

 真守美が靴を履き替えていると、田端が話し掛けてくる。その横には市ヶ谷もいた。

 

「…何?」

「集団失神事件の現場見に行かね?」

「…集団失神?」

 

 真守美は怪訝そうな顔をする。

 

「知らない?最近高等部じゃ、校内で倒れる生徒が多発しててさー。外傷はないんだけど、全員倒れた前後の記憶が抜け落ちてるんだって」

「…全員?」

「そ。今度のは男子生徒が6人も同時に」

 

 それを聞き、真守美は田端に質問する。

 

「ねぇ、それが起きたのって、何時か分かる?」

「え?昼ぐらいだけど」

「…」

「墨村?」

「…悪いけど、急用を思い出したから、私は遠慮するわ。それに、そういう現場なら立ち入り禁止になっていると思うわよ。じゃあね」

 

 真守美は早歩きでその場を立ち去る。

 

「墨村って何考えてるかよくわかんないよな。美人なのに」

「最後の関係あるか?」

 

 

 

墨村家、真守美の部屋ーーー

 

 真守美はいつもより早く着替え、精神統一をしていた。

 その時、烏森に異変を感じる。

 

「(きた。でもこれは…)」

 

 真守美は変化の仕方に違和感を覚える。通常は段階を一つ一つ踏んでから変化するのだが、今回のはそれを飛ばしたような力の上昇だった。

 

 

 斑尾を引き連れ、烏森に向かい走っている途中、時音と白尾が合流する。

 真守美は走りながら時音に話し掛ける。

 

「時音さん、聞きたいことがあるのだけど」

「へ!?な、何?!急に!!」

「高等部の三能たつみ先生の事なんだけれど…」

「!…そう、真守美も気づいたの」

「…て、事は」

「えぇ…。あたし、ずっと目を付けてたんだけど…。今日、放課後職員室行っても会えなくて…。こんなことならもっと早く行動起こせばよかった…」

「なら、生徒の失神事件も…」

「もうちょっと裏とってからなんて言ってる場合じゃなかったわ」

 

 「ぬかったわー」と、時音は悔しそうに言う。

 

 

 

烏森学園、校舎内ーーー

 

 

「白尾!早く見つけて!」

《せかすなよ、ハニー;》

「斑尾」

《真守美、探す手間が省けたよ》

 

 真守美達の目の前に、男ーーー三能たつみが現れる。

 

「あら、そちらから現れていただけるなんて、光栄だわ。三能先生」

「蛇…斑尾達と似たような動物霊かしら」

 

 真守美は三能に巻き付く蛇達を静かに観察する。

 

「昼間、生徒を襲ってたのはあんたね。何が目的?」

 

 時音が質問すると、三能は気怠そうに答える。

 

「あぁ…。養分になると思ったんだけど…無駄だったな。人間はだめだ。でも…、君達は少し違うのかな…」

「(養分?まさか…)斑尾…」

《!》

 

 真守美は三能の言葉に引っ掛かり、小声で斑尾に指示を出す。

 

「ま、とにかく…夜を待った甲斐はあった。いいのが、まとめて来てくれた」

 

 そう言うと、蛇の一匹が襲ってくる。

 時音は自分の周りを結界で囲み、真守美は横に避ける。

 しかし蛇は真守美ではなく、斑尾に向かう。

 

「結!」

 

 すかさず真守美が結界を張り、斑尾を守る。

 

「(斑尾を狙う、ということは…)」

「へぇ、面白い術を使うな。うーん、そっちも面白そうだけど…やっぱり妖かな?人間てたいして進化しないし」

 

 三能の言葉に確信を得る真守美。

 

「(なら、直接養分を取りに来たこの蛇が本命!!)斑尾!その蛇よ!!」

《!!大当たりだよ、真守美!頭の後ろだ!》

 

 それを聞くと、真守美は蛇の頭を固定し、斑尾に言われた部分を結界で囲み、滅する。

 

 

 

校舎の外ーーー

 

 

「なるほど、傀儡虫に操られていたわけね。それにしても、よく分かったわね」

「あの蛇は三匹ともこの人の能力で出現させたものなのに、攻撃をしてきたのはあの一匹だけ。たとえ防御型だったとしても、あの一匹が攻撃している間にもう一匹が不意打ちで攻撃すればいいのに、この先生を守ってばかり。だから本体はあの蛇に憑りついていて、直接養分を吸収していたんだと思う。それに、先生の言葉にも引っ掛かったしね」

「じゃぁ、本来妖にしか寄生できない蟲だけど、この人がたまたま異能者だったから、あの蛇を介して憑りつけたのね」

《いやぁね、あたし憑りつかれるとこだったわ。美しいって罪~~~》

「あ、気付いた」

 

 無視。

 

「大丈夫ですか、先生」

「先生、もう少し気を付けた方がいいですよ」

「?」

 

 

 真守美と時音が今まであったことを説明する。

 

「僕は…なんてことを…」

 

 それを聞いた三能は、この世の終わりのような顔をし、手で覆い泣く。

 

「生徒に危害を加えるなんて…教師としてあるまじき行為…」

「いえ、正確には先生のせいでは…それにもう退治しましたし…」

 

 蛇達も申し訳なさそうに、真守美に近寄る。

 

「それで、私達の事はご内密に願えますか」

「いや、僕の方も教師を続けたいので…」

 

 お互いに約束を交わし、これにて一件落着。

 すると三能は、真守美と時音の手を取ると、

 

「でも、ありがとう。君達が、僕を悪の道から救ってくれたんだね。どうかこれからも、僕が道を誤らぬよう、見守ってほしい…」

「あ、あの…?」

「…」

 

真守美は握られた手を不愉快そうに見る。

 

「今日から君達は僕の女神だ!!」

 

 

「(面倒なのが増えた…)はぁ...」

 

 

 



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異能者

 原作、第7話「情熱の花」は、真守美のキャラ的に、あまり私用に式神を使うことはないと思い、飛ばさせていただきました。

 でも個人的に個性のある式神(オリジナル)は何時かは出したいです(願望)。


烏森学園、生徒指導室ーーー

 

 

「ハーイ、では改めてご紹介!!私、不思議英語教師三能たつみとその仲間たち、右からーーー攻撃担当、ロクサーヌ!防御担当、シモーヌ!癒し担当、ジョセフィーヌ!それでは一同ーーー礼!」

 

 三能が合図をすると、三匹の蛇は一斉に礼をする。

 その光景を墨村真守美と雪村時音は何も言えず見ていた。

 

「おっと!もちろん、お楽しみはこれからさ。君達のために仕込んだ特別の芸をお見せしよう!」

 

 「さぁ並んで」と、蛇達と準備を始める。

 

「……三能先生、どうしてその様なことを?」

 

 真守美が三能の奇行の理由について聞くと、嬉しそうに話し始める。

 

「だって僕、うれしくて…君達みたいに変わった力を持った人に会えたの…初めてだから…。それに君達は僕の恩人だしね!」

 

 そう言いながら時音の手を握る。真守美にしないのは以前したら訴えられそうになったからである。

 

「だから愛すべきお仲間に、ここ数日、寝る間も惜しんで鍛え上げた渾身の芸をプレゼントするよ!!ヘイ、ロクサーヌカモォーン!!」

「帰るわよ、真守美」

「ん」

 

 

 

 

「悪い人ではなさそうだけどね…」

「…そうだね」

「でも正直、前の方がかっこよかったかなーー」

「…?」

 

 真守美はいまいちピンとこなかった。

 

「そういえば、真守美って他の異能者の人に会ったことってあるの?」

「…まぁ、兄さんが裏会の夜行で頭領しているから、何人かは。時音さんは?」

「あるよ。裏会の紹介で、流しの術者の人、何人か家でお世話したし」

「…うちはそういうの無いな」

「ああ…あんたのお母さん、すごい術者なのに裏会の要請さんざん蹴ってたからね…。お母さん今、どうしてるの?」

「…さぁ。”あの人”の事は私もよく分からないから」

「そう…」

 

 二人の間に微妙な空気が流れる。

 

「じゃぁあたし、図書室に本返しに行くから、先に帰ってて」

「…待ってる」

「え?」

「待ってるよ」

「で、でも!もう遅い時間だし...」

「なら尚更、時音さん一人で帰すわけにいかないよ。待ってるから一緒に帰ろ」

「う、うん...///」

 

 

 

 

 

夜、烏森学園ーーー

 

 

 斑尾と散策していると、直ぐに異変に気付く。

 

「斑尾」

《あぁ、あっちだよ!》

 

 急いで異変の起きた場所に向かう途中、時音と白尾と合流する。

 

《まだ匂いは残ってるけど、邪気がすぐ消えた。もう外に逃げてるかもねェ》

《侵入はこの辺りからだな》

 

 周辺を警戒していると、

 

パキッ

 

「キャーーーーーーーーー!!」

 

 ズザーーーーーードスゥン!!!!と、何かが落ちてきた。

 

「いたぁ…」

「え?夜未さん!?こんな所で何を…」

「わーーーー!!違う!違うのよ!!実地調査の対象が、実はこの土地で、こそこそかぎ回ってたなんてことは、絶対にないのよ!!」

 

 聞いてもいないことを説明してくれた。

 

「そうよ、極秘任務なのだから…」

「…知り合い?」

「うん…裏会の紹介で今、家でお世話してる人…」

「(裏会の…?)」

「もしかしてさっきの異変って、夜未さんが…?」

「あ、そうそうごめんなさい!それは私の能力が…」

 

 そこまで言うと、彼女はハッとし、口を手で押さえる。

 

「あわわ、嘘よ!そんな術者が能力を自ら明かすなんて失態、あり得ませんわ!!」

 

 「フーーーッ」と、勢いよく息を吐き、落ち着く。

 

「ところでそちらのあなた…もしや墨村さんの…?」

「…えぇ、そうですが」

「わぁっ、やっぱり!どーも私、春日夜未と申しますっ」

「…墨村真守美です」

 

「で、お二人とも。私が此処に居たことは秘密ということで…ね」

「「はぁ…」」

「でもせっかくですから…お茶にしません?」

 

 

 

 春日夜未の用意された敷物に座る真守美と時音。

 

「これがないと生きていけないってものあるでしょ?私はお茶ね。お茶が無いともーダメ。本当は淹れたてが良いのですけど…移動が多いものですから、水筒でガマンですわ」

 

 彼女の話を興味なさげに、膝に置かれた斑尾の頭を撫でる真守美。

 

「あの、失礼ですけど…あなたが墨村の22代目の…?」

「…えぇ」

「へーー…」

「…」

 

「あ、私ね…雪村の時雄さんとは親しくしていただいてましたのよ」

「…そうなんですか」

「えぇ。あ、でも…墨村の方とはあまり…やっぱり、私などとは格が違ってらっしゃるので…。でも、時雄さんには本当によくしていただいて…」

 

 真守美が横で座っている時音を見ると、その横顔は、なんだか寂しそうであった。

 

「…」

 

 

 

 

墨村家ーーー

 

 

 真守美は帰ってくると、電話を掛ける。

 

「…もしもし…うん、久しぶり。ごめんなさい、こんな時間に…うん、少し聞きたいことがあって………そう、よかった。時子さんからもう連絡がいってたんだね。うん…うん…わかった。何とかしてみるよ、おじいちゃんにも報告しておくね。……うん、明日また連絡する……うん、お休み

兄さん」

 

 



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