男性操縦者なんていなかった。いいね? (七海一越)
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原作前
すべての始まり
どうぞよろしくお願いします。
ドイツの首都ベルリン。
今ここはベルリンの壁崩壊時以上の活気を見せていた。それはもはや戦後最大と言っても過言では無いレベルであった。
それはオリンピックと同規模の競技大会、ISによる世界大会、モンドグロッソの第2回大会が行われているからだ。
だが光があれば当然闇もある。光が大きければ大きいほどその闇も大きくなる。
この物語はそんな闇から始まる。
ここは一体どこなのだろうか。そもそもなぜここにいるのだろうか。身柄を拘束されていて他に出来ることの無い俺は考える。分かることはただ一つ。俺はきっと誘拐されたのだろう。千冬姉の優勝を阻止するために。だけどそれ以上のことは分からない俺が助かるのか否かも。そう、俺は誰かが助けに来てくれるのを待つしか無いのだ。
ガラガラと、大きな音とともに正面の扉が開く。どうやらここはどこかの倉庫だったようだ。だがそれ以上の思考をする間もなく、目の前には大柄な男が立ちふさがる。外国人らしく背が高くてがたいが良い。そんな大男ににらみつけられて思わず萎縮してしまう。
『目が覚めたか』
その男は俺に向かって何か話し掛けてくる。俺がその内容を理解できるかと言えば答えは、否だ。ドイツに来る前に英語は少し勉強したから日常会話なら出来る。でもドイツ語は勉強をほとんどしていないし分からない。もっとも、仮に分かったところで口を塞がれているから言葉を返すことも出来ないのだけど。
その後も男は俺に色々なことを話し掛けてくる。だけどその中身は何一つとして分からない。やがて男は、俺に声をかけるのをあきらめたのか何も言わなくなった。
男の手が、俺に向かって伸びてくる。その大きな手はいとも簡単に俺を持ち上げる。宙づりのまま外へと運ばれ、車の中へと放り込まれる。車の中は不思議なにおいがして……俺はまた意識を手放した。
車の動き出すことを耳の奥で聞きながら。
次に俺が目を覚ましたとき、そこは白かった。そして、その白からたくさんの目が覗いていた。思わず目をそらそうとして動かない事に気がつく。きっとベッドか何かに固定されているのだろう。
「やっと目が覚めたのね」
覗き込んでいた目の一対が日本語でそう話し掛けてくる。
でも、相変わらず口は塞がれたままで返事を返すことも出来ない。出来るのはただ睨みつけるだけ。でもそれも恐ろしい視線に遮られてしまう。
「あなたにはこの薬の被験体になって貰うわ。決して悪く思わないでね」
目の前に注射器が出てくる。彼女は確かに、薬の被験体になって貰うと言った。つまりそれは目の前の注射器に入った薬を打たれると言うことに他ならない。
チクリ
一瞬の痛み。それは普通の薬と何ら変わりない。だけど、問題はこの後だった。
まるで体がくだけたかのような痛み。体がバラバラになり、こねくり回される。まるで粘土のように。そうして今度は形作られる。あまりの痛みに悲鳴すら上げられない。
そんな痛みを、朧気な意識の中感じていた。
——やっと見つけた。
そんな声をどこかで聞いた気がした。
目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。ただ、さっきのような“目“は無く、拘束は何も無かった。だけど体を上手く起こせない。上手く動かない。まるで自分のものでは無いかのように。
「なんで動かないんだ?」
ただ当てもなくそんな事を呟いてみる。そうして、ふと気がつく。
「声が違う?」
その声はアルトやテノールでは無く、まるで少女のような“ソプラノ“だった。
時間をかけてなんとか起き上がる。
部屋は——何も無かった。唯一あるのはドア。それ以外は窓すら存在しない。まるでどこかの研究室のような。
壁に手を当てながらどうにかベッドから降りる。そのとき老人のような言葉を発してしまったのはご愛敬。
そして気がつく。視点が今までよりも明らかに低いことに。もっとも比較対象はベッドだけなのでベッドが大きいという可能性も捨てきれない。ただ、ベッドのサイズが同じなのなら、きっと俺は10cmほど小さくなっているかも知れない。
だけど今はそんな事を気にしている場合では無い。誰かが戻ってくる前にここから逃げ出さなくては。ここがどこかは分からないけどおそらくはドイツだと思う。それならきっと今頃、俺の事を探しているであろう千冬姉や警察の人に保護して貰えるかも知れない。見た目が変わっている可能性も十分にあるし言葉も分からないがそれでも保護くらいはしてくれるだろう。
ベッドからドアまで壁を伝いながら少しずつ移動する。ものの無い無機質なこの部屋では、歩いた距離も時間も分からない。それでも、着実に、ドアは近づいていた。
ようやくドアの前についたとき。俺は肩で息をするほどにつかれていた。これでは先が思いやられるけど、脱出まで一歩近づいた。その事実がただただ嬉しかった。
だけど残酷なことに、ドアは俺が手を触れる前に第三者の手によって開かれた。
如何でしたか?
少なくともリメイク前よりは自分らしい文章が書けたかなと思ってます。
もし、良かったと思われましたら次の話も是非!
感想、批評等々よろしくお願いします。
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扉の先
そのため改稿では無く新規投稿させていただきました。
それに伴い以前の2話は消させていただきます。
最新話は来週末に予約投稿済みです。
俺は、思うように動いてくれない体を壁で支えながら部屋に一つしか無い扉に向かう。ここがどこかは分からないけど千冬姉に会うためにも逃げないといけない。幸運なことに、ドアに鍵はかかっていなかった。俺は何のためらいも無くノブを回そうと手を伸ばす。
ガチャリ
なんとも古くさく古典的な扉の開く音がする。
だがまだ俺はノブに触れていない。つまりは外から誰かが開けたという事。頭が真っ白になる。俺は今度こそ死を覚悟した。
「はろー、いっくん。いや、いっちゃん? いーちゃん? まあどっちでもいいや」
だけど。ドアの先にいたのは誘拐犯では無く、俺の良く知る人物。篠ノ之束だった。いやもしかしたらこの人が俺を攫った犯人なのかも知れない。でもそんな事は無いと信じたかった。それに……束さんからはそんな雰囲気が感じられなかった。
「束さん? 俺はドイツで攫われたはずじゃ……それにここは? 体もなんかおかしいし。あと千冬姉はどうなったの?」
疑問に思っている事をすべて束さんにぶつける。天才を自称するこの人ならすべての質問に答えてくれると思ったから。
「落ち着いていーちゃん。ちゃんと全部の疑問に答えてあげるから。まず攫った奴らの事だけどそれはもう大丈夫。ここは束さんの秘密のラボだし、攫った奴らはもうこの世にいないから。次にちーちゃんの事だけど……」
やはり、と言うべきか俺の質問に答えてくれる束さん。ここが束さんのラボだというのならきっと、世界で1番安全な場所な気がする。
でも、千冬姉のことを俺に話すのをどこかためらっているような気がした。まさか千冬姉に何かあったのかと反射的に訪ねてしまう。
「ううん。大丈夫、ちーちゃんは元気にしてるよ。ただ、決勝戦は棄権したみたいだけど。それと1年間ドイツで教官をする事になったみたい」
「俺が攫われたから……」
千冬姉が棄権。それはとてもショックな事だった。それに、その原因は間違いなく俺だろう。きっと攫われた俺を助けるために大会を棄権したのだ。2度目の総合優勝を目前にして。そのことがあまりにも申し訳なくて、ただ攫われるだけだった自分が悔しくて、目から涙がこぼれる。そんな俺を束さんは母親がそうするようにそっと抱きしめ、慰めてくれた。
「いーちゃんは悪くないよ。むしろずっと見てたのに直ぐに助けられなかった私の方が」
それはとても温かくてずっとこのままいたいとさえ思える程だった。
俺が再び目を覚ましたとき、そこに束さんはいなかった。さっきと同じようにベッドの上に寝かされていた俺はあれが夢だったのでは無いかと思ってしまう。でもそれは夢じゃなった。枕元に、さっき会った時に束さんが付けていた兎の耳をかたどったカチューシャが置いてあったから。俺は半ば無意識にそのカチューシャに手を伸ばし、それを頭に付けた。
束さんが部屋に入ってきたのはその少し後だった。しまった。と思ったときにはもう遅く、俺はうさ耳を付けたまま写真を何枚も撮られるはめになった。
「あ、そうそう。いーちゃんの体の事なんだけど……」
さも忘れていた、と言わんばかりに話を切り出す束さん。正直俺としてはそこが1番気になるところなのに、と思う。まあ言い出さなかったあたり俺も問題あるのかも知れないけど。
「まあ取りあえず見た方が早いよね。百聞は一見に如かずって言うし」
そう言って姿見を取り出す束さん。手鏡などでは無く姿見。それを虚空から取り出すのだから訳が分からない。何でもISの機能を応用しているらしいけど。
それはさておき——
姿見に映っていたのは1人の小柄な少女だった。体は全体的に丸みを帯びていて細くしなやか。男らしい力強いラインなどどこにも無い。身長も明らかに低くなっている。唯一今までと同じなのは髪の長さだろうか
「え? これって……」
「うん。いーちゃんは生物学的に完全に女になってるの。どうやら誘拐した奴らが打った薬が原因みたい。しかも体のつくりから遺伝子配列、染色体まで完全に変異しちゃってるんだ。流石の束さんも元に戻すことは出来ないんだ。ごめんね」
「そうですか……」
そう一言返すのが精一杯だった。今までの10数年を俺は男として生きてきた。その事実は決して変わらない。だと言うのに急に女として生きなくてはいけなくなった。そんな事突然に受け入れることが出来るわけが無い。そのとき出来た唯一のことはただ涙を流すことだった。心が壊れてしまわないように。そんな俺のことを束さんはもう一度優しく抱きしめてくれた。そうして俺は意識を手放した。
とにもかくにも。こうしてこの日から、俺の……いや、私の女としての生活が始まった。
多大な苦労とともに。
読んでくださりありがとうございます。
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リハビリとか今後のこととか
ポスター発表や論文執筆で忙しくなかなかこちらを書く時間がとれませんでしたが許してください(言い訳)
今回の話は前回投稿した分の改変版となってます。それに伴い前回の物は削除させていただきます。
申し訳ありません。あの展開で話が思い浮かばなくなっちゃったんです。
11月8日少し中身追加しました。
「ねえいーちゃん。いーちゃんはこれから如何したい?今まで通り男として生きるか見た目通りに女の子として生きるか。いーちゃんの好きな方を選んで良いよ」
自分の姿を確認していたら急にそんな事を言われた。だけど俺には束さんが何でそんな事を聞くのか分からない。なんせ今の俺の見た目は完全に少女のもの。男として生きていくのはむずかしいだろう。俺はそう束さんに言った。
「そこは心配しなくても大丈夫!この束さんの力を持ってすれば性別を偽る事など造作も無い事なのだ!」
「ってことは俺がどう生きるかは俺の自由なのか?」
「そうだよいーちゃん。男として生きるも女の子として生きるもそれは完全にいーちゃんの自由。好きに決めて良いよ。最も女の子として生きる場合はちょっと政府のお偉いさんとお話しなきゃいけなくなるけどね」
どうやら俺は表向きだけではあるが男として生きていく事が出来るそうだ。それならもう迷う事はない。
「束さん。俺は男として生きたい。男として生まれて今まで生きてきたんだ。仮に表向きだったとしても俺はやっぱり男として生きたい!」
「分かったよいーちゃん。色々と不便なことはあるかも知れないけどそこはこの束さんが最大限補佐するからさ!」
そう言い残すと束さんはあっという間に部屋から出て行ってしまった。まだ体が満足に動かない俺にとって此の時間やる事がない。仕方なしにベッドに腰掛ける。そしてそのままぼうっと千冬姉のことを考える。
ここがどこの国なのかは分からないが少なくとも俺は千冬姉の応援をしにドイツへ来ていた。今千冬姉は何をしているのだろうか。おそらく束さんから連絡が行っているはずだが会いに来ない。もしかしたら俺が女の子になった事をしらないせいでもう大丈夫だと思っているのかも知れない。そのまま俺は思考の海におぼれていった。
あれから数日。私は束さんの元でリハビリを行っている。なんせ今の私は上手く力が入らず一人では歩くことが出来ないからだ。一人である程度のことをこなせるようにならないとこれから生活していくことは厳しいだろう。というわけだ。
「いーちゃん。今日のリハビリはここまで。少し検査をしたいからこっちへ来て」
束さんの声だ。私はおぼつかない足取りで束さんの元へ向かう。
「今日はいったい何の検査をするの?」
「ふっふーん。今日はなんと!この!束さん特性のナノマシンをいーちゃんの体に投与しちゃいます!」
「えっと… …薬の投与は検査じゃない。よね?」
「まあ良いから良いから」
そんな事を言いながら束さんは私の腕を引っ張る。
「きゃぁ」
「あれれ?“男の子”なのにずいぶんと女の子みたいなかわいらしい声を出すんだねえ。もしかして“男の娘”なのかな?束さん的にはむしろおっけーだよ」
思わず叫んでしまった私に対して束さんは訳の分からない事を言う。それにしてもあれから考えや行動が体に引っ張られているような気がする。気を抜くと女の子として考えて行動してしまう。
「えっと束さん本題からずれてない?」
「おっとそうだった。あまりにもいーちゃんが可愛いから忘れてたよ。このナノマシンはね体の運動をサポートしてくれるんだ。これでいーちゃんでもようやく一般的な同い年の女の子と同じくらいの生活が出来るようになるよ」
何か少し馬鹿にされたような気がするけどそこを突っ込んだら負けな気がする。
「いいから早くしてよ」
「ごめんごめん。じゃあ腕を出して」
束さんがある程度正気を取り戻したところで腕を差し出す。チクリとした痛みと共にナノマシンが私の体の中に入ってくる。直後、急に体が軽くなったような気がした。
「だからさいーちゃん。これから毎日ご飯作って♡」
何がだからなのかわからないがゾワッ!と鳥肌が立つような言い方でお願いをされた気がする。でもまあ
「束さんの料理って料理じゃないし束さんみたいな超人じゃ無い限り食べられる物じゃないしね。それぐらいなら良いよ」
「ありがとういーちゃん。あれ?私貶されてない!?ねえ!」
叫ぶ束さんをよそに私は調理場へと向かう。さて久々に本気を出しますか。
「行くぞ調理場よ。食材の貯蔵は十分か!な~んてね」
あれからさらに数日今では普通に動けるようになりリハビリを終了した私は束さんと話していた。
「ねえ束さん。そういえばボク学校ってどうすればいいの?まだ小学生だから通わないとまずいと思うんだけど」
「そのことなんだけどいーちゃんには男の娘として今までとは違う学校に通って貰う事にしたから。ほら今までの学校だと怪しまれちゃうからね」
こうして私はみんなに別れの挨拶をする事すらできずに知らない学校へと転校することになった。
と、言うわけでいかがでしたか?前半以外ほとんど変わってしまっていますが。
次回は来週の木曜頃には更新したいと思ってます。
ボクっ娘一夏ちゃん可愛い。
ではまた次回!
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転校生
ただ短くなってしまって申し訳ないです。
私が誘拐されて女の子になり束さんに助けて貰ったのが今から数週間前。夏休み真っ最中の事。つまり何が言いたいのかというと明日から新しい学校に通うという事だ。
「明日から学校に行くけど準備は終わってる?」
ここ最近非常にまともになってきた(ように見える)束さんにそんな事を言われる。
「もちろん終わってるよ。と言っても転校生だから持ち物なんてほとんど無いけどね」
「それもそうだったね。ここでいーちゃんになんとこの束さんからプレゼントがあります!」
束さんから何かが入った小さな箱が渡される。その中に入っていたのは何の変哲も無い防犯ブザー。
「防犯ブザーがどうしたの?もう持ってるけど」
「ノンノン。これはただの防犯ブザーじゃないのだよ。この束さんが作った束印の防犯ブザーだからね。このボタンを押すといーちゃんを守るためだけに作った特製の無人ISが10機ほど飛んでくると言う優れものさ!いーちゃんは可愛いから何かあったら大変だからね」
「いや、さすがにそれはやり過ぎかと… …」
相変わらず突拍子のないことを言うのは変わらないようだ。それにしてもまだ他の企業はISのハードの量産にすら入れていないような中で無人のISを10機も作ってしまうのはさすがと言うべきなのかな。
「やり過ぎなんて事は無いよ!ようやく無人機の量産体制も整ったから、いーちゃんを守るためにこれからもどんどん作っていくからね」
「そんなに作らないで良いです!それよりは宇宙開発とかに力を入れてよ!」
いったい束さんは私のためにどれだけの無人機を作るつもりだったのだろうか。
「他にも色々といーちゃんの為に便利な物を作っておくから楽しみにしておいてね」
「うん」
もうどうにもならない気がするので束さんのことはあきらめることにした。
翌日の朝。変装して母親の役となった束さんと私は今日から通うことになる学校に来ていた。家を出てから学校に着くまでの間、学校の中では“私”とは言わないようにと何回も言われた。最近は意識しないと“私”とつい行ってしまうから気をつけないといけないな。
「久しぶり。一夏君。今日からよろしくね」
「はい!よろしくお願いします」
私は学校について早速、担任になる先生に声をかけられた。最初先生に会ったときはやっぱり女の子と“間違われた”けど今はもう“間違えない”ようだ。
「じゃあ“私”はここで」
なんて滅多に使わない単語を言いながら束さんは帰っていった。あの人は本当に最近変わったと思う。尤も昔如何だったかは知らないんだけどね。
あの後少し先生と話をしてから一緒に教室へ向かう。先生は一足先に教室に入って朝の会を始める。どうやら私が来る事はすでに伝わっていたみたいで漫画とかで良くある展開はないみたいだった。
「じゃあ織斑君入ってきて」
先生の声を聞いた私はガラッとドアを開け教室に入る。そんな私に向かってきたのは30数人からの突き刺さるような好奇心に満ちた視線。私が“男の子なのに女の子みたいな見た目をしている”事に対する疑問を持ったような視線。そんな視線にヒッと思わず怖じ気づいてしまう。怖い物は怖いのだから仕方ない。
「えっと… …織斑、一夏です。こんな見た目ですけど一応男です。よっ、よろしくお願いします」
男の時ならこんな風にはならなかったんだけど、と思いながらそれでもなんとか勇気を振り絞って自己紹介をする。
ぱちぱちぱちと教室のあちこちから拍手が聞こえる。そこに混じって一部の男子からは”可愛い”とか”女の子みたい”とかきこえる。まあ女子なのだから女の子みたいなのは当たり前なんだけどね。
それに安心した私は指示された席に座る。今日から新しい学校での男の子としての生活が始まる事にワクワクしながら授業の用意を始めた。
今回も読んでくださりありがとうございます。一夏ちゃんのかわいさを1人称で伝える事に大変苦戦していますが周りのキャラの反応や台詞で表現できたらなぁとは思ってます。
次回はもう少し長いものを1週間後に投稿したいと思ってます。
何かご意見や批評等ありましたら是非よろしくお願いします。
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夏定番の授業と言えば
もうすぐ試験ですが来週も更新出来るように頑張ります。
転校から数日。ようやくクラスになじめてきていた。尤も見た目や声から女の子扱いされることも多いけどそこは仕方ないと思う。そんな私に今最大の試練が降りかかっていた。“水泳”誰もが毎年夏になると体験する授業。私も男だった時は好きな授業の一つだった。でも今の私は表向きこそ男だけど実際は女の子の物。少なくとも男子の水着を着てプールに入るわけにはいかないしかといって女子の水着を着るのもまずい。
「おい、一夏。なんか具合悪そうだけど大丈夫か?」
「もしかして泳げないの?」
「おい!あんまりそんな事言うなよ!一夏“ちゃん”がかわいそうだろ!」
「う、うん。大丈夫だよ」
最後の人は私が来てからそっちの方向に目覚めてしまった人なのでばれた訳ではない…はず。問題はそこでは無いし泳げない事ではない。むしろ泳ぐのは得意。
問題は…水着どうしよ。
今の私の体は女の子のものだし感情もそれに近くなってるからいくら胸がないとはいえ男子の水着を着るわけにはいかない。かといって女子のスク水を着るのは周りから変に見られてしまうため着たくない。
「なあ一夏。おまえ本当に大丈夫か?なんか顔赤いけど」
考え事をしていたらまた心配されてしまった。でも内容が内容なだけに束さん以外に相談する訳にはいかない。だから適当に返事をして急いで家へ帰った。
「お帰り、いーちゃん。あれ?学校で何かあった?」
帰って早々束さんに心配されてしまう。
「えっとね、明日学校で水泳があるんだけどね、私、その、着る水着がないから。えっと…」
伝えたい事が上手くまとまらずたどたどしい言葉しか出てこない。泳ぎたいけどそんな事をしたらばれてしまうのではと言う思いで私の頭はいっぱいで他のことは考えられなかった。そんな私の気持ちを分かってか束さんは優しい言葉で話してくれた。
「大丈夫だよいーちゃん。適当に理由を付けて上にラッシュガードとかを着れば問題無いから。安心して」
「束さん。ありがとう」
思わず泣きながら束さんに抱きついてしまう。
「よしよし。泣かないで大丈夫だよ。何かあってもこの束さんがすべてどうにかしてあげるから。だから泣かないで。ね」
そんな私を慰めてくれる束さん。その姿がまるでお母さんみたいで。安心した私は泣き疲れて束さんに抱かれたまま寝てしまった。
「おはよう」
次の日の朝起きると机の上には束さんが手作りしたと思われる私の水着がおいてあった。
「束さん。ありがとう」
その水着を鞄に入れると朝食を作り学校へ向かう。今日も1日すごく楽しめそうな気がする。
いちかわいい。
自分で書いてて一夏ちゃんが凄く可愛いと思います。
小学生でかつTSしちゃってる事も考えたらあれぐらいの反応があっても良いのかなと思いました。
次回は時間を1年ほど飛ばそうかなと思ってます。
感想や意見等くださると励みになりますのでもしよろしければお願いします。
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姉との再会
定期考査があったりFGOの7章クリアしなきゃいけなかったりと忙しかったんです(言い訳)
冬期休暇中に出来るだけ書き溜めします。
私の性が変わってから早1年。私はようやくドイツから帰ってくるお姉ちゃんを迎えに束さんと空港に来ている。今一番の不安はやっぱりお姉ちゃんが今の私を受け入れてくれるかどうか分からないこと。束さんもいるしきっと大丈夫だとは思うけど。
「久しぶりだな束。で、一夏はどこだ?連れてくると行っていたではないか。それにその子は?」
1年ぶりに会ったお姉ちゃんは私ではなく束さんに声をかける。それに目の前に私がいるのにも関わらず私を探して私が私な事実に気がついていないような感じ。
「やだなあちーちゃん。言ってなかったっけ?この子がいーちゃんいや今の織斑一夏だよ」
「なに?!どういう事だ束!そんな話聞いてないぞ!」
やっぱり束さんはお姉ちゃんに伝えていなかったようだ。ジトッとした目で見つめると
「ごめんごめん」
なんておちゃらけた様子で謝ってきた。
「で、おまえが一夏だと。本当にそうなんだろうな」
「ほんとだよちーちゃん。何なら塩基配列の比較見てみる?性を表す配列以外完全に一致してるから」
「そうか。おまえがそう言うのならそうなんだろうな。やめろそんなもの見せられても全く分からないからわざわざパソコンを開いて見せてこなくていい」
「えっと……久しぶり。お姉ちゃん。私は一夏だよ」
二人のまるでコントのような愉快な会話を終わらせる為に声をかける。だけど私よりもだいぶ背の高いお姉ちゃんの目を見るには見上げるようにしなければいけない。
「グハッ!その顔は反則だ一夏。まさかおまえにそんな上目遣いに見られる日が来るとは」
「でしょでしょー~。いーちゃんの可愛さは反則級だからね」
「全くだ。危うく昇天仕掛けたぞ……」
二人は凄く恥ずかしがるような会話を空港で繰り広げていく。いくら久々に会ったからとはいえそういった話は家の中でして欲しい。故に勇気を出して言うしかない。
「あの……そういう話は家に帰ってからにして欲しい……です」
「そうだったな、すまんすまん。おまえが可愛すぎで思わず、な。それとただいま一夏。迷惑かけてすまなかった。これからまた一緒に暮らそうな」
「うん。お帰り、お姉ちゃん」
久しぶりに握ったお姉ちゃんの手は大きくて暖かくて凄く安心した。
「はいはい。そう言うのも家に帰ってからにしましょうね~」
束さんがとても珍しくそんな真面なことを言う。その言葉をきっかけに私たちは手をつないで久々の我が家に向かって歩き出す。
これからのまた新しい生活に期待を込めて。
今回も短くてかつ酷い文章で申し訳ないです。
小説の書き方についてももっと勉強していこうと思いますのでどうぞ今後もよろしくお願いします。
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原作1巻
入学試験の罠
今回は前回より少し長めです。
あれから早数年。中学に入ってからは、自分の身を守れるようにするために束さんの元でISの訓練をしたり大切な妹のような姉のような存在が出来たりと充実した日々を過ごしてきた。幸い私が本当は女だ。何て事がばれるような事も一度も無かった。結構ギリギリだった事は何回も会ったけどね。ちなみに今はお姉ちゃんとは別れて、束さんと一緒に暮らしている。何でもお姉ちゃんは今住み込みでISに関する仕事をしているらしくて一緒に住むことが出来ないからだ。せっかく再会出来たのに一緒に暮らせないのは凄く残念だけど束さんやクロエとの生活は楽しいから我慢出来るけど。
2月中旬、早朝、東京には珍しい凍えるような寒さの中。
昨年の不正行為の影響か指定された試験会場は遠く、奇怪な形状をしている。
まるで人を迷わせることを根底に作られたかのようなその施設は市民会館でありながら市民に使われない。だからこそ試験会場に使えたというのもあるだろう。
「……迷った。……ここ何処だろ」
そんな市民会館で私、織斑一夏は絶賛迷子中です。会場を知ったのは二日前。時間をかけて来たものの試験を行う場所が分からない。
そもそも試験会場が変更になるほどの不正行為って何だったんだろうか。もしかして事前に忍び込んで何かしたとかなのかも知れない。そうでなきゃ直前まで場所を秘匿するなんてあり得ない。
それはさておき、問題は今この状況。束さんを呼べば直ぐに解決はするだろうけどその後どうなるか分かったものじゃないからダメ。友達には他にここを受ける人はいないから意味が無い。もう近くの、人の気配のする部屋に入ってそこにいる人に聞くしかない。
そう決意した私は人以外の気配のする部屋の前を素通りして明らかに人の気配のする部屋の扉を開ける。
「すみませ~ん」
「貴女受験生ね。直ぐ入って。試験するから。受験票は後で良いわ」
どうやら試験会場はここで会っていたみたい。それにしても“あなた”がなんか違ったような感じがした。こんな見た目だけど男子の制服着てるのに何でだろう。それにしても……
「これはIS?」
なぜか、藍越学園には関係の無いはずのISがおいてあった。レプリカか何かだろうか。もしそうだったら作った人は凄いななんて事を考えながらそれに触れる。
キンッと“聞き慣れた”音とともに私の体が浮かび上がる。これはかなりマズイ状況だ。なんせ今の私は男の格好。これが見られたら只では済まされない。慌てて解除しようとするもなかなかどうして上手く行かない。
「今度はいったい何なのよ……ってなんで男?がIS動かしてるのよ!」
なんとも最悪なタイミングでさっきの女性が入ってきた。
「えっと……その……」
「ちょっと待って。あなた本当に男で良いのね」
「はい。こんな見た目ですけど男です」
戸惑う私にかけられたのは私の性に関すること。まあ見た目がこんなのだからその質問も尤もなのかも知れない。
「ちょっと待ってなさい今上の人呼んでくるから。絶対逃げちゃダメよ。そんな事したら命の保証は出来ないわ」
そう言い残してその女性は駆けていく。私は一人取り残されてしまった。その数分後足音が聞こえてきた。
「ISを動かした男がおまえk……って一夏!?」
「おねえ……ちゃん……?」
「ここは私が引き受けるから一旦下がっていてくれ」
「分かりました織斑先生」
お姉ちゃんはその女性に下がらせると私の方へ向き直る。
「さて。藍越を受けるはずのおまえがなぜ“IS学園”の試験会場にいるのか聞かせて貰おうか」
「はっ、はひ!」
私の事を見つめるお姉ちゃんの目はちっとも笑っていなかった。
「ふむ。つまり迷子になって入った部屋にあったISのレプリカになんとなしに触ったら本物でしかもそれを見られたと」
「はい」
「それじゃあ仕方ないな。もう教師の間には伝わってるからIS学園に入学する事は避けられないけど最大限の手助けはしてやるさ。なんたって一夏は私の大事な“弟”だからな」
外だからかお姉ちゃんは私の事を“弟”と呼ぶ。それにしても一時はどうなることかと思ったけれど、お姉ちゃんのおかげで無事どうにかなると知って凄く安心した。
すると思わず目から涙がこぼれる。
「泣くな一夏。私はおまえを責めたりしないさ」
お姉ちゃんに抱きかかえられた私は泣きながらもその暖かさに安心していた。
いかがでしたでしょうか。漸く原作突入です。
冬休みに入ったら基本毎日投稿を目標に福音戦までは書き上げたいと思っています。
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入学と自己紹介
冬休み中は毎日投稿したい等と言っておりましたが気がつくと終わってました。(これを書いている現在1/10になったばかりでございます)
申し訳ありません。
今回も短いですがどうぞよろしくお願いします。
誰かが言った——おまえに動かせるはずがないと。
誰かが言った——本当に男なのかと。
誰かが言った——何者かの陰謀なのではないかと。
だけど、誰が、何を言おうとも私が通うはずのなかったIS学園にいるという事実だけは残念な事にも変わりようがない。
「はぁ」
思わずため息がこぼれてしまう。今ここにいる人は私を含めて全員が女であり、それは例年と何ら変わりは無いはずだ。
それなのに、ここまで様々な意図を内合した視線を感じるのは単に私が、男物の制服を着てここに座っているからだろう。それも、よりにもよって中央前列という視線の集まりやすい位置に。だ。
皆の視線に耐えきれず顔を机に突っ伏して横を向く。その先にいたのはずっと前に分かれた幼なじみの箒ちゃんだった。尤も向こうは気がついた様子もなくて。
まあ格好が全然違うわけで仕方ないのかと思い直して、しばらくは黙っていようと決めた。
それから数分の後、教室に入ってきたのは小柄な女性。
「はい、皆さん席に着いてください。SHRをはじめますよ」
副担任を名乗る彼女、山田真耶先生はそう生徒達に呼びかける。
「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」
先生は笑顔でそう話す。だけど誰も声を上げない。皆緊張しているのもあると思うけど、それ以上に私の存在が大きいのだと思う。そう定められている訳では無いとはいえ実質男子禁制の花の園に表向きだけでも男がいる。それはこんな空気になってもおかしくない話だ。これが男女逆だったら色々な意味で危ないだろうな。と思ったのはここだけの話。
「それじゃあ出席番号順に自己紹介をしましょう」
そんな言葉とともに自己紹介が始まる。誰かが立つとそこに視線が向かう為私への視線はだいぶ少なくなった。少なくなっただけでゼロになったわけではないけども。
そうこうしている内に私の番が来る。静かに席を立ち、まずは深呼吸。
「織斑一夏です。趣味は料理です。こんな見た目ですが男です。よろしくお願いします」
自己紹介を終えて席に着く。視界の端で箒ちゃんが驚いているのが見えた。
皆はかなりざわついていたけどそれは先生の一声で収束する。その後は何事もなく自己紹介は進行し、終了する。
するとまるで見計らったかのようにタイミング良く一人の女性が入ってくる。
「山田君。クラスへの挨拶を任せてしまってすまないな」
「い、いえ。副担任ですしこれ位問題ありません」
その女性の口から紡がれるのは凜としたかっこよさを感じる声。同性ですら惚れてしまいそうなそれに山田先生は何処か嬉しそうに返事をする。
「私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。厳しく指導するからそのつもりで。癒やしを求めるなら山田君に当たってくれ」
とたんに騒がしくなる教室。姉は初代ブリュンヒルデでありIS乗りのあこがれの的なのだから仕方ないのかも知れない。
騒ぐ大勢の中にはモラル的に如何なのかと思う内容を叫ぶ人の姿もあるけれど彼女はこれから先果たしてやっていけるのだろうか。まあ私の恋愛対象は女の子だし端から見れば同性愛だからあまり人のことを言えないかも知れないけれど。
「おまえら、いい加減静かにしろ!」
騒がしかった教室はこの一言で訓練された人々のように一気に静まる。誰もがお姉ちゃんの言葉を聞き漏らさないようにする光景を見ると改めてお姉ちゃんは凄いんだなと実感する。
「SHRはこれで終わりだ。全員授業の用意をしろ。早速始めるぞ」
ここIS学園ではなぜか入学式の日から早速授業がある。何でもそうしないとカリキュラムが終わらないらしい。だけど、たったの数コマで変わるような物とは思わないし、そんなカリキュラムしか組めない教育側に問題があるようにしか思えない。皆高倍率を勝ち抜いてきた意欲のある生徒だから問題無いと思われているのだろうか。私のようなそこまでやる気の無い生徒もいる事を忘れないで欲しい。
まあ何にせよ、これから3年間。恐らくは波乱に満ちた学校生活が始まるのだろう。
箒ちゃんにはどうやって説明しよう。
読んでくださりありがとうございます。
それにしても何でブリュンヒルデなんですかね。
戦死者をヴァルハラへ導くワルキューレの一人ですよ。戦死者を導く存在ですよ。絶対もっと良いのがあったと思います。
次回は、次回こそは出来るだけ早く描きますのでどうぞよろしくお願いします。(n回目)
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再会と
それと前回言ってませんでした。あけおめことよろ。
今回は約4000文字といつもより長めになってます。
お姉ちゃんの言葉とともに私たちは慌てて授業の準備をする。
教科はIS基礎理論。明らかに専門科目だけど皆しかりとついてきてる。まあ、あの入試を勝ち抜けるような優秀な人たちな訳だから当然なのかも知れない。
勿論私もしっかりとついて行っている。何せ実際の所ISには中学生の内から乗っているし、私のISの先生は束さんな訳でこれ位簡単にできなければどうにもならないのだ。夢で見た私と同じ名前の少年が分厚い参考書を捨てて困り果てる何て事と同じにはなる訳がない。でもそんな夢いつ見たんだろ。
そのまま特に何事もなく1時間目の授業は終わる。むしろ初日の授業からついて行けない方が可笑しいのです。
それにしても‒—相変わらず周りからの視線が凄い。今は休み時間という事もあってか同じクラスの子だけではなく他クラスの子や上級生まで詰めかけている。それも皆が一様に“誰か声をかけなさいよ”と“抜け駆けは許さない”という相反する意味の籠もった視線を向けながら。こんな視線に晒されていたらとうてい休むことすら出来ない。真の英雄は目で殺すと言うけれどまさに、今、質も量も半端じゃない視線にやられそうな感じがする。誰か助けて。
そんな願いが通じたのかどうか。一人が私の方に向かって歩いてくる。
「おまえは……本当に一夏なのか?」
「うん……。こんな見た目や声だけどわた、いやボクは一夏だよ」
話し掛けてきたのはやはり、と言うべきか箒ちゃんだった。箒ちゃんは私に当然とも言えるその疑問を周りには聞こえないように配慮しながら聞いてくる。
「しかし、その姿はいったいどう言う事なんだ?おまえはそんなに女っぽく無かっただろ。まさかまた姉さんが何かしでかしたのか?」
今の私の体は完全に女の子の体つきだし、声も女の子のそれ。それに女の子になってから何の因果かあまり体は成長していない。故に同世代の女子の平均身長よりも低い私は普通なら男には見られない見た目をしている。それなのに男で通用してしまっているのがいまいち良く分からない。まあ少なくともこの体に疑問を持つのは当然の事なのだ。
「ううん。束さんは関係無いよ。むしろ助けてくれた方かな。話すと長くなるから今は話せないけど後でしっかり話すから。ごめんね」
私もギャラリーに聞こえないように小さな声で話す。この内容を聞かれる訳にはいかないから。
「そうか。姉さんは関係無いんだな。てっきりあの人のことだからまた何かやらかしたのかと思ったよ。まあ一夏が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうな。後でしっかり説明してくれよ」
「大丈夫。ちゃんと話すから。それより……その、周りからの視線がつらいからしばらく一緒にいてくれない?」
約束と一緒に切り出したお願い。これが成功するかどうかに私のしばらくの生活がかかっている。流石にこの視線の中一人でいるのは今の私には到底耐えられるものではないから。
「ああ。それくらいで良ければ任せておけ。要はしばらくの間一夏と一緒に行動すれば良いんだろ?」
逞しいその一言に救われた気持ちになる。これじゃどっちが男か分からないや。まあどっちも女だけどね。
あれから1時間。前の時間と変わりなく授業は終わった。箒ちゃんは授業が終わると同時に私の所に来てくれて、視線の集まる休み時間でも他愛ない話をしながら気楽に過ごせている。
「ちょっとよろしくて?」
そんな中話し掛けてくる勇気ある人が一人。振り向くとそこにいたのは金髪ロールなお嬢様風の女性。まるで漫画の登場人物みたいな人だなと自分のことを棚に上げて思ってしまうような感じ。
「ちょっと!訊いてますの?お返事は?」
「ご、ごめん。えっと、それで用件は」
私の返答が何処か気に入らなかったのか彼女はその見た目からは考えられないような気品さに欠ける態度で
「なんですの?その態度は。イギリスの代表候補生であるこのわたくし、セシリア・オルコットがわざわざ声をかけていると言うのに。あなたはその意味を理解していないのかしら」
何てことを大声でまくし立てる。
「第一たかがISを動かせる男と言うだけで何の努力もせず、何も知らずに入学したような人に何が出来るというのかしら。わたくしのような有名人と同じクラスになれたことをせいぜい幸運に思いなさい」
いったい彼女に何が取り憑いたのかその過激な口ぶりは衰えることなくクラスの空気を最悪なものへと変えていく。それにしても彼女は幸運と言うけれど、お姉ちゃんや束さんが身近にいる方が幸運だと思う。
突然、いまだ一人語り続ける彼女の弁を遮るように鳴り響くチャイム。それが私たちにはまるで福音のように感じられた。
「訊いているのかしら。まあいいわ。せいぜい頑張ってわたくしの引き立て役にでもなることね」
そう言い残して彼女——セシリア・オルコットは満足そうに私たちの元を離れ自分の席へと戻っていく。私たちは只あきれることしか出来なかった
「この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
そう言いながら教壇に立っているのは山田先生では無くお姉ちゃん。それどころか当然知っていなきゃ行けない内容なのに山田先生までノートを手に持っている。まるで教育実習生のように。それにしてもなぜこの学校は担任と副担任が同時に教室にいるのだろうか。せめて片方が他の仕事をしていた方が効率が良いように思うのは私だけなのかな?まあ血縁者が教師を出来る時点で他の学校とは違うけど。
それはさておき……
「ああでも、皆も初日から授業で疲れているだろうし、先に再来週行われるクラス対抗戦の代表者を決めてしまおう。まあ簡単に言うと学級委員だ」
お姉ちゃんの鶴の一声で授業はつぶれたよう。まあ初日から大量の授業はつらいのでありがたいですが。
「代表は自薦、他薦を問わずの推薦で行う。複数人の場合は当人同士の話し合いか何かで決めてくれ」
その言葉とともに教室のあちらこちらから手が上がる。皆積極的なんだなと思っていたけど聞こえてくるのは
「織斑君を推薦します」
「私もそれが良いと思います」
等々。皆こぞって私を推薦してくる。これはもう覚悟を決めるしかないのかな。
「待ってください!納得がいきませんわ!」
机をから大きな音を立てて立ち上がったのは件の彼女、セシリア・オルコット。
「そのような十分な根拠を伴わない選出は認められません!こんな、なよなよした男なんかがクラス代表だなんて納得がいきません。第一只でさえこんな極東の遅れた島国までわざわざ出向いていると言うのにこのわたくしを推薦しないとは一体どういう事ですの?」
早口でまくり立てるその姿は何処か滑稽で思わず笑いそうになってしまう。私たちの国が侮辱されるのは気にくわないし、そもそも彼女は自分の国はブリテン島と言う“島“にあるという事を知らないのだろうか。
「クラス代表は極東の猿なんかで無く、実力も学年トップのわたくしがつとめるべきですわ」
彼女が口を開くたびクラスの雰囲気が悪くなっていく。そもそもこのクラスの半分は日本人。それ以外にもアジア地域の人が多くいる。むしろ白人は少ない方かな。そんな中で日本を蔑むような発言をしたのだから……オルコットさんこのクラスでやっていけるのかな。
それにしても——流石に先ほどの発言は我慢出来ない。それこそ大戦前とかに使われていた差別用語を持ち出してまで私たちを下に見て馬鹿にするのは許せない。
「オルコットさん。いくら何でも言い過ぎなんじゃないかな。言論の自由があっても言って良い事と悪いことはあるし。流石にボクも我慢の限界だよ」
だから、そう切り出す。何か言えば勝手に乗ってきそうな相手だからこれで勝負に持ち込めばいいと思う。
「なんですの?あなた。たかが男の分際で出しゃばらないでくださる?」
「ねえオルコットさん。さっき実力がトップな自分がクラス代表をするべきだって言ったよね?」
「ええ、言いましたわ。当然のことですもの。それとも何か?あなたが私に挑むとでも言うのかしら」
予想通り彼女は簡単に釣れた。それもいとも簡単に。
「うん、そうだよ。ボクはクラス代表に関しては興味ないけど……流石にさっきの発言は見逃せないからね。ボクが勝ったらさっきの発言、取り消して貰うから」
「いいですわ。その代わり、わたくしが勝ったらあなたを私の奴隷にして差し上げますわ」
さっきまで私たち以外静かだった教室が突然騒がしくなる。聞こえてくるのは「いくら何でも勝つのは無理だ」とか「オルコットさんってそんな趣味が」とか。若干おかしな人がいるのは気にしてはいけない。それでも、応援してくれる人が多いのは凄くありがたい。勝つのは厳しいとか言ってる人には大丈夫だと一言添える。
「よし。では織斑とオルコットの試合を1週間後にアリーナで行う。それ以外の私闘は決して行わないように。いいな」
こんな簡単に決めてしまって良いのか分からないけど私達の勝負は1週間後になった。流石にそれまでの間に仕掛けてくることはないだろうし束さんにデータ収集と整備をお願いしておこう。
「では残りもわずかだが授業を始める」
お姉ちゃんの合図でなんとも言えない空気の中授業が始まる。初日からの色々に疲れながらも授業を受けるしか無いみたいだった。
ほんとなんで初日からフルで授業あるんだろ。
今回の話はいかがでしたか?
書いていたら一夏ちゃんが静かなキャラに。まあ問題無いですけど。
次回も1週間後に更新出来るよう頑張ります。
批評、感想等ぜひよろしくお願いします。
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幼なじみとの語らい
上記の挨拶の存在を思い出したはっちゃんです。
約1週間ぶりです。
1日ほど遅れてしまいましたが更新します。
今ストックを作ってる最中ですので来週以降は安定して投稿出来るかと思います。
「やっと終わったー」
あれから数時間。漸く授業も全部終わり、私は開放感を味わっていた。正直言って初日からフルで授業は地獄でしか無い。まあ今更だけど。
「ああ、良かった。まだ教室にいたんですね。織斑君」
「ふえ?」
突然話し掛けられて思わず変な声が漏れてしまう。しかも見上げた先にいたのは山田先生。恥ずかしさに思わず顔が赤くなる。
「えっとですね。織斑君の寮の部屋が決まりました。自宅から通うって聞いていたと思うンですけど事情が変わりまして……って、聞いてます?」
「す、すみません。あまり聞いてなかったです」
恥ずかしさからかあんまり先生の話を聞けていなかった。何か大事なことを言ってたかも知れないのに。気をつけなきゃ。
「じゃあもう一回話しますね。織斑君の寮の部屋が決まりました。最初は自宅から通うように説明されていたと思うんですけど、安全面を考えると、という事で寮に入って貰う事になりました」
「分かりました。ちなみに部屋は一人部屋ですか?」
安全面に関しては実際の所束さんがいるから問題無い。もし何かあったら私を守るためだけに作られた無人のISが何機も飛んでくる。正直やり過ぎだとは思うけど。
それよりも大事なのは私の部屋が個人部屋なのかどうか。何せこの体だからばれる危険性のある誰かと一緒になるのはマズイ。でもお姉ちゃんがいるからきっとそこの所は考えてくれているだろうし大丈夫だとは思うけど。
「では、こちらが部屋の鍵です。絶対になくさないでくださいね」
「ありがとうございます。ところで荷物はどうすれば良いですか?特に持ってきて無いんですけど……」
「それに関しては大丈夫だ。ちゃんと私が持ってきてやったからな」
そんな声とともにやってきたのはお姉ちゃん。少しずぼらなお姉ちゃんが持ってきたと言う時点で少し不安はあるけれどきっと大丈夫なはず。きっと。
「中身は着替えと電子機器、後は幾分かの娯楽品。それからあいつからおまえにと何かよく分からないものが少々だ」
最後に凄く不安にさせられる単語が聞こえたような気がしたけど基本的には問題なさそう。お姉ちゃんが持ってくるって聞いたときは不安しか無かったけどそれは杞憂に終わったみたいで良かった。
「では生活する上で必要な事項を説明しますのでしっかりと覚えてくださいね」
私は少し待ってもらいペンとメモ帳を用意する。やっぱりこういったものはポケットに入れておくと便利だね。
「まず夕食の時間ですがこれは18時から19時までの間に寮の中の食堂で取ってください。時間を過ぎてしまうと使えませんので喜夫付けてくださいね。それから大浴場があるのですが織斑君は今のところ使えません。今調整中ですのでそれまでは部屋についているシャワーで我慢してください」
「え……お風呂使えない……」
思わずそう漏らしてしまう。おっきいお風呂でくつろげると思ったのに。
「アホかお前は。“男“なのに同年代の女子と一緒に入りたいのか?」
お姉ちゃんの唐突な発言に突如ギャラリーが騒がしくなる。
「そうじゃないって。時間ずらしたりして入れないのかなと思ったの!」
そう。時間さえずらせば女子と鉢合わせする事無く入れるのだ。尤も身体的には同じタイミングで入っても問題なさそう何だけど如何せんばれるわけにはいかない。一人の方が気楽に入れるしね。
「それを今調整中なんだ。男の入った後に——。とか自分たちの入った後に——。とか何かとうるさい生徒や団体が多くてな。校内で事件でも起こったら貯まったもんじゃ無い。だからもうしばらく待ってくれ」
「……分かった」
そういうことならば仕方ない。流石に風呂の中で襲われる何てことはされたくない。性的に襲われるのも嫌だけどそう言う人たちはおそらく殺意を持っておそってくるからなおのこと嫌だ。
「他に質問は無いか?無いなら寮に向かえ。くれぐれも寄り道はするなよ?」
特にない——。と答え、寮へと向かう。短い道のりだけど周りには色々なものや施設があってとても気になる。でも“寄り道はするな”と釘を刺されているから今日の所はまっすぐ向かう。また今度見に来ようかな。
「ここが私の部屋か」
鞄を床に置き、キーホルダーに刻印された番号を確認する。
「あれ? あいてる?」
鍵を入れる間もなく軽く触れただけでドアが開く。中から聞こえるのはシャワーの音。ルームメイトが浴びているようだ。でもなんで私の部屋にルームメイトがいるのだろうか。私の性別がどちらであれ不味いと思うんだけど。ハニトラでも仕掛けるのかな?
それはさておきいつまでも荷物を持っているわけにも行かない。早く荷物を置いてそれから散歩でもして時間をつぶそうと思う。シャワー上がりの子と鉢合わせする訳にはいかないからね。
荷物を部屋の奥。窓際の奥に位置するベッドの上に置き後は部屋から出るだけだと振り返る。
「へ?」
視界に写ったのは、その豊満な肢体を薄い1枚の布——バスタオルで隠した幼なじみ。箒ちゃんの姿だった。
「ご、ごめん」
背後に悲鳴を聞きながら一目散に廊下へと飛び出してドアを閉める。まさかちょうどあのタイミングで出てくるとは思わなかった。それも衣類を纏わずに。周りが女の子ばかりだから完全に油断しきっていたのかも知れない。そりゃまさか男と同室になる何て思う人はいないだろうし。
「その……箒ちゃん。着替え終わったら部屋に入れて貰って良いですか」
おずおずと室内に訪ねる。何せさっきの悲鳴が原因であちらこちらからたくさんの生徒が出てきている。しかも中には下着姿な子もいるわけで。いくら自分のものやクロやお姉ちゃん達ので見慣れているとは言え状況的に不味いものは不味い。
それから数分の後。
「い、いいぞ。入れ」
慌てて部屋の中に入るとギャラリーがのぞき込んでくるのを防ぐために開いたばかりの鍵を閉める。
「さっきはごめんね。まさかあのタイミングで出てくるとは思わなくって。
まずは謝罪。レディーのあられも無い姿を見てしまったのだからこれは当然のこと。
「い、いや。あんな格好で出てしまった私にも非がある。そこまで気にしないでくれ。その代わりと言っては何だが……お前の体の事について詳しく教えてくれないか?」
箒ちゃんからの許しは出た。もっと怒られると思っていたからこれですんで一安心。改めて箒ちゃんの体を見る。箒ちゃんの服装は女の子らしい少し可愛らしい部屋着。昔の箒ちゃんからは想像も出来ない格好だった。
「この体のことについて話せば良いんだよね」
私は覚悟を決め、今までほとんど誰にも話してこなかった“あの”出来事について話し始める。
「始まりは第2回モンドグロッソの時……」
「そうか。つまり今の一夏は女なのか」
「うん、体はね。何なら確認してみる?」
少し冗談を含めた返しをする。こうでもしないとやってられないような空気だった。
「いや、いい。お前がそう言うならそうなんだろ。それで……体は女だとして心の方はどうなんだ?」
「そうだねぇ……一応男に近いと思うんだけど最近考えが体の方に引っ張られてる事はあるかな。でも恋愛対象は女かな」
「そうか」
今回はまじめに返したけど、箒ちゃんには軽く流されてしまう。
「外で気分転換してくる。すまないがしばらく一人にさせてくれ」
部屋から出て行く箒ちゃんを私はただ黙って見ているしか無かった。
如何でしたか?
一夏ちゃんの恋愛対象は女の子。薄い本が厚くなりますね。
感想や批評等あればどうかよろしくお願いします。次々回くらいでクラス代表を決めたいです。
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11話(サブタイは後ほど)
本日は月曜日ですが今後更新は日曜に行っていく予定です。
翌日朝。あれから私と箒ちゃんはほとんど話をしていない。したのは挨拶くらいかな。
それでも今同じテーブルで食事をしているのは同じ部屋のよしみ。気まずい空気は相変わらずだけど。
「ねえ、私達も同席していい?」
そんな空気をやぶって話し掛けてきたのは同級生3人組。私には彼女達が救いの手を差し伸べる天使に見える。だけど
「なんか空気が重いけどどうしたの?」
投下されたのは特大の爆弾。でも隠す程の事でもないから当たり障りの無い所だけ話す。流石に性別の事とかは言えないから。
「そっかー。再会して積もる話もあったけど色々と思い違いが合ったって訳かー」
「うん。それで昨日の夜からずっとこんな感じでね」
こんな話の中でも相変わらず静かに食事をする箒ちゃん。
「そしたらさ、もういっそ思い切って言いたい事言っちゃた方がいいんじゃないかな。溜め込むだけじゃ辛いだろうし」
隣の子がサラッとそんなことを言う。確かに思ってる事をぶつけ合えばスッキリ出来るかもしれない。
でも箒ちゃんは
「そうか」
と一言言って席を立ってしまった。箒ちゃんの手には空の食器。私達が話し込んでいる間に食べ終わったみたい。せっかく一緒だったのに結局話すことも出来なかったな。
私達もいそいそと食べ終えると荷物を持って教室へ向かう。遅刻でもしたら何があるか分かったものじゃないから。
授業は滞りなく進む。中学の頃から束さんさんの元で毎日のようにISに乗っていた私にとって特に難しいことは無い。むしろ教えようと話している分こっちの方が分かりやすいかも。
「――生態機能を補佐する役割もあり様々な情報を――」
「先生! それって体の中を弄られてるみたいで怖いんですけど……」
クラスの1人がそう尋ねる。確にいろんな情報を取られてる訳で不安になるのも仕方ないのかもしれない。かく言う私も最初の頃は不安感が拭えなかったし。
「そんなに難しく考える必要はありません。皆さんはブラジャーをつけていますよね。まさにあんな感じです。あくまでもサポートであり悪影響はありません。あ、お、織斑君は分からないですよね。あははははは……」
先生の何も誤魔化せていない誤魔化しはクラスの空気を微妙なものに変える。中には胸を隠すような仕草をする人もいる。
先生はああ言ってるけど私だって下着はブラも着用しているから言いたい事は十分に伝わっている。もっともサイズだけ見ればつける必要無さそうなのが辛いけど。全然成長しないんですよ!身長も胸も!
「んんっ! 山田先生、授業の続きを」
お姉ちゃんの言葉で山田先生は授業を再開する。やっぱりお姉ちゃんの言葉の影響力は計り知れない。
授業が終わると私の周りにはたくさんの生徒が集まってくる。
「質問ー。今日の昼暇?夜暇?」
「篠ノ之さんとはどんな関係なの?付き合ってるの?」
「男の娘?この服着てみて」
みんな同時にいろんな質問をしてくる。数が多すぎて聖徳太子でも無い限り対応しきれない気がする。後、質問をする権利で商売はしないで欲しい。私は商品じゃない!
「ねぇねぇ、織斑先生って家ではどんななの?やっぱり家でもかっこいいの?」
お姉ちゃんの生活能力を知らない人がよくしてくる質問。ちなみに本当のことを言っても信じて貰えない。お姉ちゃんの人望によるものなのかな。
「お姉ちゃんの普段は……」
思わずお姉ちゃんの普段の姿を言いかける。
「まて一夏!」
そう叫びながら入ってくるお姉ちゃん。クラス中の視線がお姉ちゃんの元に集中する。
「まあ、その、なんだ。人のことをむやみやたらと話すのは良くないと思うぞ」
必死に誤魔化そうとするお姉ちゃん。こうしてお姉ちゃんの秘密は守られた。
「それはさておき織斑。お前の専用機だがもうすぐ時間がかかるそうだ。代表決定戦までには間に合うようだから安心しろ」
静かになった教室はまた騒がしくなる。そこに含まれる多くは嫉妬。専用機を貰えるのは名誉なことだから当然なのかもしれない。束さんと繋がりがあるってだけで貰えた私はかなり幸運だと思うし、そこまで実力がないことを考えると申し訳なく持ってしまう。
ちなみに専用機が届くのに時間がかかるのは本当のこと。入学にあたって束さんに整備と改装をお願いした。私の子はさらに強く、使いやすくなって帰ってくるのだ。
「そういえば思ったんですけど、篠ノ之さんってあの篠ノ之博士と何が関係あるんですか? 珍しい名字なのに同じだし。家族とか?」
「そうだ。篠ノ之箒は奴の妹だ」
クラスメイトの素朴な質問に対し個人情報で答えるお姉ちゃん。さっきの発言と矛盾してるのでは?と、思ったのは私だけではないはず。クラスのみんなは束さんの性格とか色々について箒ちゃんに尋ねる。かなり踏み込んだ話題まで。
「私には関係ない!」
突然箒ちゃんが立ち上がりながら叫ぶ。そしてそのまま続ける。
「私はあの人じゃないからISの事も大して分からない。それにあの人とはもう何年も会ってないんだ。分かる事なんて無い」
クラスはまた静まり返る。箒ちゃんに質問していたうちの何人かはあまりの衝撃に泣きそうになる。
「すまない。だけど――私にあの人のことを聞かないでくれ。あの人について知っていることなんてみんなと同じくらいだ。それと……出来れば名字じゃなく下の名前で読んでくれないか?苗字で呼ばれるのは嫌いなんだ」
「ごめんね。箒さん。聞かれたくないことまで聞いちゃって」
「有名な人と同じクラスだと思ったらつい浮かれちゃって」
みんな口々に箒ちゃんに謝る。箒ちゃんもそこまで思っていなかったのか気にするな。と一言。
「お前ら。そろそろ授業を始めるぞ」
始業時間を大幅に遅れての授業開始。そういえば普通に授業が進む事の方が少ない様な……
だいぶ短くなった授業が終わった後、オルコットさんがまた私達の元にやって来る。
「専用機がある様で安心しましたわ。そうでないとフェアでないですもの。専用機ならいざ知らず訓練機ごときでわたくしに勝てる訳がありませんもの。まああってもあなたが不利なのには代わりが無いのですけどね」
「やってみないと分からないよ」
わざわざやって来ての挑発にそう軽く返す。そう、やって見ないと分からない。見た目だけじゃ私のIS搭乗時間や熟練度は分からないから。
「まあいいですわ。実力差すら分からないような男など直ぐに倒して見せますわ」
訓練を重ねてきた自信からかその過激な思想からかそんな発言を繰り返す。そんなんだからクラスに話し相手が出来なくて私達の元へ来るハメになるのでは。
「とにかく!このクラスの代表に相応しいのはこのわたくし、セシリア・オルコットという事をお忘れなく」
相変わらず人に話す余地を与えない一方的な会話?を切り上げ自分の席へと去っていく。クラスに話し相手がいないとは可哀想に。
「箒ちゃん。一緒にご飯食べに行こ」
「教室で食べるからいい」
食事に誘うも直ぐに拒否され、取り付く島もない。仕方ない、これはもう私が引っ張って行くしかない。
「そんな事言わずにさぁ」
箒ちゃんの腕を掴んで歩き出す。否、歩き出したはずだった。
非力な私では踏ん張っても箒ちゃんを動かす事が出来なかった。両手で腕を掴み引っ張る。周りからは「可愛い」とか色々聞こえるけど気にしてはいけない。私には箒ちゃんを連れて食堂に行く必要があるのだ。でないとギャラリーの影響で十分な食事が出来ないかもしれない。
「仕方ない。分かった分かった」
私の必死さが伝わったのか一緒に食事をしてくれる事になった。
早く食堂に行かなくては。駆け出す私を箒ちゃんがまるで母の様に見ていた。
如何でしたが?
個人的には一夏ちゃんを可愛く書けたのではないかなと思ってます。
感想や批評等くださると幸いです。
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箒の決意
どうもはっちゃんです。修学旅行先で書いてる事もあって短めですが許してください。
昨日来たときも思ったけど、ここの食堂は本当に豪華だと思う。最高級食材をふんだんに使った料理など贅沢な物ばっかり。まあその辺はいくら外部よりは安いとはいえ値段が高いからなかなか手が届かないけどね。
私たちは値段の安い日替わり定食を頼み席に着く。もっともいくら値段が安いとは言ってもかなり美味しいけど。
相変わらず私たちの間には会話が無い。お互い向き合ってただ黙々と箸を進める。
「ねえ、貴方噂の子でしょ? 3年の間でも噂になってるよ。代表候補生と勝負するって」
噂の広がりとはかなり早いようでもう3年生にも伝わっていた。この様子だときっと2年生にも伝わっているだろう。
「でも君初心者でしょ? ISにはどれくらい乗ってるの?」
「えっと……分からないです」
本当のことを言うわけにも行かないのでそう誤魔化す。実際は数千時間は乗ってるけどそんなこと言うわけにはいかないからね。
「分からないっていっても大した時間乗ってないでしょ。それじゃいくら何でも勝てないよ」
「そうですか」
「そうよ。相手は代表候補生なんでしょ? 軽く300時間以上は乗ってると思うわ。もし良ければ私がISについて教えてあげようか?」
このお誘い、もしISについて何も知らないなら両手を挙げて喜んでいたかもしれない。でも私は制作者直々に教わっている訳で先輩に教わる訳にはいかない。そうじゃないと怪しまれちゃうから。だから私は助けを求め箒ちゃんの方を向く。箒ちゃんは私の方を向くとうなずいて、
「私が教えるから大丈夫です」
と一言。貴女も1年生でしょ。と言う問いにも
「私は篠ノ之束の妹ですので問題ありません」
「そっか。なら大丈夫だね。頑張ってね」
わざわざ苦手な束さんの名前を出してまで理由付けをしてくれた。先輩はそう一言残して去って行く。とても優しそうな先輩で良かった。こんな人ばっかりなら良かったのに。
「箒ちゃんありがと。なんかごめんね」
「気にするな。おまえが助けてほしそうにしてたから助け船を出しただけだ。私とおまえの仲じゃないか」
箒ちゃんには本当に助けられた。もし箒ちゃんがいなかったらきっと先輩に流されてしまっていたと思う。
「先に戻ってるぞ」
そう言い残して箒ちゃんは席を立つ。私も早く食べないと。
その夜部屋に戻った私は箒ちゃんに声をかけられる。
「一夏。その……大事な話があるんだが、少しいいか?」
箒ちゃんの声はどこか緊張していて私も緊張した面持ちになる。
「あれから私の中でいろいろ考えたんだが……一夏、私はおまえのことが好きだった。それに……今もおまえの事が好きだ!」
箒ちゃんからされたのは告白。それも決して勘違いなどしようのないもの。
「箒ちゃん、ありがとう。なんとなくそんな感じはしてたんだよね。でも今の私はこんな体だし……」
「性別なんて関係ない! 私が好きなのはおまえの性格とかだ。見た目の性別なんて大事じゃない!」
箒ちゃんから告げられた一言。今までずっとこの体のことを気にしていたからそれを気にしないからと言ってくれた事をうれしく思う。だからか思わず涙が零れる。
「ありがとう、箒ちゃん。本当にありがとう。でも、その、まだ自分の気持ちに整理がつかないからもう少し待ってほしいかな。ごめんね」
申し訳ないけど、まだ自分の気持ちに整理がつかないのは事実。今の私には時間が足りない。
「そうか……分かった。気持ちが固まったらでいいから返事をしてくれ」
「うん。ごめんね。でも、これからも今までと同じように接してほしいな」
「ああ。任せとけ」
私よりも男らしいんじゃないかと言う感じでいてくれる箒ちゃん。
涙を流す私を優しく抱きかかえてその溢れる母性で慰めてくてた。
私もできるだけ早く心を決めなくては。
いかがでしたか?
次の話も書き上げてあるので来週をお待ちください。
感想や批評等是非よろしくお願いします
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クラス代表決定戦
あれから約1週間。結局何の返事も出来ずに代表決定戦を迎えてしまった。
私は毎日の放課後オルコットさんのISや戦い方を徹底的に調べた。私のISは今日届くという事になっていたからそれまで表立って使えなかったから仕方ないけど。
時間まで箒ちゃんと他愛の無い話をして時間をつぶす。箒ちゃんは私がISを中学生の頃から動かしていた事をすでに知っているから私の自信の出所を知っている。だから、何も気にすること無く話も出来る
「時間だ、織斑。アリーナに出ろ」
ピットに入ってきたお姉ちゃんは開口1番そう告げる。
「行くよ、白菫」
愛機に声をかけ身にまとう。私のためにだけ作られた専用の機体。真っ白な、そしてなめらかなボディ。
「勝ってこい!」
箒ちゃんからのエールにうん、とうなずきピット・ゲートへと進む。
アリーナへ出たと同時にふわりとした浮遊感を感じる。どこまでも広がる空に飛び出す、何度でも味わいたい感覚。
「あら。逃げずに来ましたのね」
相変わらずその態度は変わらずに、宙に浮かぶオルコットさん。大きなライフル銃を持った、英国らしい騎士を彷彿とさせるような気高さを兼ね備えた格好。人柄が気高いかどうかは別として。
「チャンスをあげますわ。もし、今ここで謝ると言うのなら許してあげなくも無いですわ」
「それはチャンスとは言わないよオルコットさん。それに私は何も悪くない。謝るのは貴女の方だよ」
そんな、自分の非を一切認めず相手を見下す。そんな態度を私は許せない。故に私は謝罪をするつもりは無いし負けるわけにもいかない。
「そう……それは残念ですわ」
試合の開始と共に飛んでくるレーザ光線。彼女のライフルから放たれたそれを私は間一髪、すれすれで躱す。レーザは光だから見て躱すなんてことは出来ない。故に銃口の向きや視線で判断するしか無い。偏向射撃じゃ無かったのが数少ない救いかな。
「今のを避けるなんて男のくせになかなかやりますわね。でも次はそうは行かないですわよ。踊りなさい。わたくしとブルーティアーズで奏でる円舞曲で!」
褒めているのかそうで無いのか分かりにくい、いや絶対に褒めていない言葉を投げかけられる。刹那、レーザ光の雨が降り注ぐ。1発の威力は弱いけどそれを数で補った、質より量の攻撃。大半はなんとか躱せてもその全てを躱す事など出来るはずも無く被弾数が着実に増えていく。
でも、ただ黙ってやられるわけにも行かない。装備品の一つ、小銃を取り出しオルコットさんを目掛けて撃ちまくる。こちらの攻撃もしっかり当たっているようでじりじりとお互いのSEが減っていく。
「私のSEをここまで減らす何てなかなかやりますわね。でもこれ以降はそうは行きませんわよ。行きなさい『ブルーティアーズ』!」
そんな言葉と共に展開される4機のビット兵器。機体と同じ名を冠したそれはおそらくオルコットさんの主力兵器。決して油断出来るものでは無い。幸いなことにオルコットさんはビットを使っている間動くことが出来ない。つまり今、この濃厚な弾幕をくぐり抜け攻撃することが出来れば勝利は革新的なものになるという事。ならば迷うことは無い。
「これでとどめですわ!」
私に向かって飛んでくるおびただしい数のレーザ光線。でも、そんなものでは動じない。
対処法はただ一つ。ある言葉を口ずさむだけ。
「私が詩うは貴女への愛。永久の愛を誓うその日まで私のすべては守られる」
そう。それは菫の名を冠するこの機体に与えられた力。菫の花言葉は「純潔」故に決して汚れない。それはいつまでも清らかで美しい。
「
辺りには幻想的な光の粒が舞う。それは次第に私に集まり神秘的な白のヴェールを創る。まるで花嫁衣装のように。淡いヴェールは顔を隠し何人も除かせない守り。
そうしてレーザ光はすべて弾かれダメージを与えない。
「一体何なのですの!? 私の攻撃が弾かれるなんてあってはなりませんわ!」
弾幕はさらに激しくなる。でもこのヴェールがすべての攻撃を防ぐから私にダメージは無い。私は、驚くオルコットさんを目指して突貫する。
取り出すのは一振りの刀。鮮麗されたそれはISの武装に多い機械的な面は一切持ち合わせず、細く、白く光る刀身。
「ああもう!これでも喰らいなさい!」
背後から飛び出してきたビットから繰り出されるミサイル。でも
「残念だけど今の私には効かないよ!」
まだしばらくの間私はヴェールに守られたまま。勝負を決めるのはその間しか無い。
「はぁぁぁ!」
私の出せる全力を持って愚直なまでに真っ直ぐ斬りかかる。
「いっ、インターセプター!」
要撃機と言う意味の剣は私の攻撃を迎え撃つ為に振るわれる。でも、そんな程度で私にかなう道理は無い。
一合、二合、三合。互いの得物が交わる。でも。明らかに見て取れるほどにオルコットさんは私に追いついていない。さらに打ち合う。
「ッ!」
私の一撃はオルコットさんの得物をはじき飛ばす。
「喰らえ!」
攻撃は立て続けに命中しSEをどんどん削ってく。背後から当たるレーザは何ら意味をなさず、むしろそれさえもオルコットさんへのダメージとなる。
オルコットさんの機体はもはやたいしたSEを残していない。これなら、単一仕様を使われない限り確実に勝てるだろう。
「きゃ!」
突然の背後からのダメージ。見るとそこにヴェールは無く、次々にレーザを受けていた。私は完全に失念していた。私の単一仕様は時間制限がある事を。とは言えそれで戦況が変わるわけはない。なんせ私と彼女の残りSEの差はそれほどまでに圧倒的だから。
けたたましく鳴り響くブザーは試合の終わりを告げる。
「試合終了。勝者——織斑一夏」
表示されるその言葉はアリーナ中を沸かせる。当然オルコットさんが勝つと思われていた試合で私が勝ったのだから当然なのかも知れない。
「参りましたわ。まさかこんなに強い男が居るとは思いませんでした。あなたのことを侮辱した事申し訳ありませんでしたわ」
アリーナ上空で深々と頭を下げるオルコットさん。ほんの少し前までは考えられなかったその態度に私は、何か伝わるものがあったのだと嬉しくなる。だから
「うん。そんなに気にしなくて良いよオルコットさん。でも……後でクラスの皆にもちゃんと謝った方が良いと思うよ。不快に思った人多いと思うから」
私から伝えるのは只それだけ。分かってくれさえすれば特に言うことも無い。
「赦してくださりありがとうございます。それと、その、わたくしのことはオルコットでは無くセシリアと呼んでくださらないかしら」
「うん。わかった。よろしくね、セシリアさん。それとボクの事も一夏でいいよ」
「ありがとうございます。一夏さん。ではまた明日お会いしましょう」
「また明日」
なんて他愛の無い話をしながら私とセシリアさんはそれぞれのピットへと戻る。
「おめでとう。やっぱりお前は強いな一夏」
戻って直ぐそう声がかかる。それが何処か気恥ずかしくて
「ありがとう箒ちゃん。勝てたのは箒ちゃんが応援してくれたからだよ」
とっさにそう返す。箒ちゃんはどこか気恥ずかしそうに顔を赤らめた。
その後は特に何事も無く至って平凡な日が過ぎた。
如何でしたか?
一夏ちゃんのISの設定はIS好きが集まったライングルの人に協力していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
次回はちゃんと来週末に更新出来るよう頑張ります。
感想や批評等是非お願いします。
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代表決定
時間がかなり空いたにもかかわらず短くて申し訳ないです。
代表決定戦の翌日朝。私たちの教室にはなんとも言えない空気が漂っていた。
原因は毎度おなじみセシリアさん。ただ、今回は何かしでかした訳では無く……
「先日の数々の暴言、本当に申し訳ありませんでした」
どうしても謝罪したいとセシリアさんがお姉ちゃんに頼み込んで作って貰った時間。
そこでセシリアさんは見事な土下座をしていた。日本人ですら出来るか怪しいレベルの見事なそれにクラス中が反応に困っていたわけ。流石にこのままではかわいそうだしと思い、昨日のうちに和解していた私がまず声をかける。
「セシリアさん。顔を上げてよ。確かに馬鹿にされていい気はしなかったけどそれについて今さらどうこう言う気は無いから、ね」
私の言葉を先導に次々とクラスメイトの口から「気にしてない」、「謝ってくれればそれでいい」なんて言葉が出てくる。それを聞いたセシリアさんは、どこかほっとしたような顔をしていた。
「そういうわけだ。許しも出たんだオルコット。早く席に戻れ」
「はい、分かりましたわ。織斑先生。このような時間を作ってくださりありがとうございます」
いつになく礼儀正しく——まあ相手がお姉ちゃんだからかも知れないけど、返事を返して席へと帰って行くオルコットさん。入学から1週間なのに凄くキャラが変わった気がする。
「と、言うわけで1組のクラス代表は織斑君に決まりました~。あ、しかもちょうど1つながりで良いですね!」
相変わらず空気を読めているのか読めていないのか分からない山田先生は、クラスの雰囲気が“よし、授業を始めるぞ”ってなったタイミングでそんな発言をする。そして教室は一気に賑やかな雰囲気に逆戻り。教室の端では頭を抑えるお姉ちゃんがいた。
お姉ちゃんの前でもこう、騒がしく出来るのはこのクラスの凄いところだと私は思う。良くはないけど。
それにしてもクラス代表とはまたなんとも面倒くさそうな。性別のこととか、束さんとつながりがあるとか色々と知られたら不味いことの多い私からすれば目立ちたくなかった。だから目立つ役回りはしたくなかったのだけれど仕方ない。それにこの学校の生徒会長があの人である以上、ばれるときは目立っていてもいなくてもばれると思う。
つまり私がどうしようと関係無いという事。でもまあいざとなったら束さんがどうにかしてくれる……はず。
「それではクラス代表は織斑君という事で授業を始めますよ~」
山田先生の声でざわついていた教室が一気に静かになる。いや、実際は教室の端でにらんでいるお姉ちゃんのせいか。
とにもかくにもこうしてクラス代表を決める争いは終わりを告げたのです。
次回こそはもっと書きます。
また今年は受験生なため、書けるうちに出来るだけたくさん書こうと思います。
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ある日の授業
待ってなかったらごめんなさい。
今回は前回よりも量が増えて約3000文字です。
あれからおよそ2週間。4月も下旬を迎え、校内の桜は散り緑が目立ってきたころ。
あの1週間は何だったのかと思うほどに何も無く、平穏で退屈な時を私は過ごしていた。まああんな面倒二度とごめんだけど。
「初回である今回はISの基本的な飛行操縦を実践して貰う。織斑、オルコット。手本を見せてみろ」
今日は私を含めておそらく皆が楽しみに待っていたであろうIS操縦の授業。
普段はアリーナの予約など優先順位が低くてISを使うことは滅多に出来ない。それが、授業の枠から逸脱しなければ自由に出来るのだ。少なくとも私みたいな専用機持ちは。隣のセシリアさんもどこか嬉しそうな表情をしていた。
「早くしろ。熟練の操縦者なら起動まで1秒もかからないぞ」
お姉ちゃんの言葉を受けて、ISに意識を集中させる。私のIS、白菫の待機状態は決して華やかでは無い白のヘアピン。そこに意識を持っていくだけ。後は、
(来て)
ただ一言そう思うだけ。この間僅かコンマ数秒。私の周りに光の粒が集まり、一気に形が出来上がる。真っ白な、曲線だけで構成された私だけの機体。感覚が一気に高まるのを感じる。360度、圧倒的なまでに広がった視野。僅かなささやき声すらも逃さない聴覚。この時だけは、本来人が持たないこれらが私の物となる。そして……この浮遊感。或いは飛行。意識を持ったまま飛行出来る。この感覚は何度体験しても楽しくて癖になる。
私の隣ではセシリアさんが己が機体を起動させ、ふわりと浮いている。
「よし、飛べ」
待ちに待っていたこの一言。私は、一気に飛び上がる。地面はどんどん遠ざかり耳に入るのは風切り音。少し下には私と同じように上がってくるセシリアさんが見える。
事前に決められている高度までのほんの僅かな飛行を楽しんだ後はちゃんと授業に参加しないといけない。
「一夏さん、早いですわね」
私と同じ高さまで追いついてきたセシリアさんから話し掛けられる。あの件以降私たちはこうしてよく話したり、箒ちゃんを交えて食事をしたりする仲になっているから特段珍しい事では無い。
「いくら早いとは言っても機体の速度性能がぜんぜん違うから仕方ないよ」
私の機体とセシリアさんの機体では世代差とか制作者によるものもあって性能差が大きい。もっともこれは他の専用機相手でも言えることなのだけど。
「それにしてもですわ。ISを動かしたばかりなのにこの飛行技術ですもの」
セシリアさんは、いやごく一部を除いた他の人たちも私が中学生から乗っていることを知らない。実際の搭乗時間はそこら辺の候補生の比じゃ無いはずなのでこれだけの技術があっておかしくない。むしろあって当然と言うべきか。
「あはははは」
ただまあ当然セシリアさんは知らないから笑ってごまかすしか無い。
「それはそうとまた今度模擬戦をして下さらないかしら。今度は最初から全力で、出し惜しみ無く一夏さんと戦ってみたいと思いますの」
「うん。それくらいならお安いご用だよ。ただ模擬戦とは別に訓練に付き合ってくれない? 他の子だと訓練機の用意もあって大変だけどその点セシリアさんならアリーナの予約だけで大丈夫だから」
「こちらこそお願いしますわ」
セシリアさんと会話をしていると下から強い視線を感じる。その主は箒ちゃんだった。羨ましいと言うような視線をセシリアさんに向けている。まあ箒ちゃんの心中を考えれば仕方の無い話なのかも知れないけど。
「織斑、オルコット。急降下からの停止をしてみろ。目標は地上から10センチ。大丈夫だとは思うが間違っても校庭にキスするなよ。初めてが校庭じゃ嫌だろ?」
下で他の人たちに説明をしていたお姉ちゃんからようやく指示が来る。勿論私たちが失敗するわけが無い。当然お姉ちゃんもそれは分かってるけど方言と言うやつ。
「ではお先に失礼しますね」
そう一言セシリアさんは一気に急降下していく。そして空中で反転。
「12センチ。まあ合格だ」
お姉ちゃんの辛口採点が出る。次は私の番。鳥が急降下するイメージで真っ直ぐに降りていく。
——150メートル。
——70メートル。
——10メートル。
——反転。
ふわりと、自然な動作で停止する。やっぱり私には機械的な動きよりもこういった生物的な動きの方が合っている。
しんと静まりかえるクラスメイト達。一応高校に入ってからISに触った設定な事を考えたら少しやり過ぎだったかも知れない。久々に空を飛べてテンションが上がりすぎてしまっていたかも知れない。とは言え今さらなところもあるので今さら自重はしないけど。その方が私らしい……はず。
「10センチ。丁度だ。流石だな」
静寂を破るお姉ちゃんの声。それとともにあたりは一気に騒がしくなる。箒ちゃんやセシリアさんは流石って感じだけど他の人はただ騒いでるだけという感じもあるけど。
「次は武装の展開だ。まずはオルコット。やってみろ」
騒ぎを収めたお姉ちゃんは次の指示を出す。
「はい」
そう一言。それと同時に左手を突き上げ横に倒す。さっきまで何も無かったセシリアさんの手には一丁の狙撃銃が握られていた。それも、姿勢さえ整えればいつでも打てる形で。
「流石は代表候補生。時間は問題無いな。だがそのポーズはやめろ。的は横じゃ無くて前だろ?」
「で、ですがこれはイメージを固めるために必要で……」
「なら正面に向けてイメージを固められるようにしろ。直ぐに打てなきゃ何の意味も無いからな」
「はい」
セシリアさんも流石にお姉ちゃんには反論しきれなかったみたいでおとなしく言うことを聞く。こうしてより強靱な兵士が生まれるのだ。きっと。
「続いて近接用の武器を展開しろ」
次なる指示にセシリアさんは、さっきよりは少し時間をかけながらも一振りの短刀を展開する。私と戦った後で剣の訓練を始めたからか、名前を呼ぶ——つまりは初心者用の方法では無く展開することに成功していた。きっともう少し練習すれば銃と同じくらい早く出せるようになると思う。
「まあまあだな。もう少し早く展開できるようにしておけよ。次、織斑。展開しろ」
次は私の番。イメージするのは一振りの日本刀。
——刹那。私の手には刀身の細い、いわゆる日本刀が形作られた。ISの武装に多い機械的な形状で無く、美しい日本刀。銘を『雪片』。お姉ちゃんのISの武装と同じ銘を持つそれはエネルギーを切り裂く事は能わず。しかし絶対的な美しさを持って君臨している。
「うむ、問題無い。次は遠距離装備を出してみろ」
滅多に使わない遠距離装備。だからといって展開が遅くてはいけない。相手に近づけない時に困るから。
手には一丁の小銃。勿論いつでも照準を合わせて撃つことが出来る。そもそもこの前の戦いでもほんの少しではあるけど使っているのだ。出せないわけが無い。
「こっちも問題無いな。オルコット。お前は織斑を見習って遠近どちらも直ぐに対応出来るようにしろ」
「はい……」
お姉ちゃんからの指示にセシリアさんはどこか悔しそうにしていた。
「おっと。もう時間だな。今日の授業はここまでだ。2人は早く着替えてこい。他は校舎に戻れ」
お姉ちゃんの指示で皆一斉に動き出す。私たちも早く着替えて戻らないと。出席簿は嫌だから。
放課後。もう日は沈み闇と静寂が辺りを支配し始めた頃。
学校に入ってくる1人の少女の姿があった。
「やっと会えるわね、一夏。あの時のことしっかり説明して貰うんだから。絶対逃がさないわよ」
一夏に対して並ならぬ思いを向けながら……。
如何でしたか。
次回か次々回には漸くあのキャラが。
現在執筆中です。
感想や批評等あれば辛口でかまいませんので是非お願いします。
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そして夜。
ほのぼの日常回ですがなかなかむずかしいです。主に地の文と会話文の比が。
夜。
『織斑一夏君クラス代表就任記念パーティー』と銘打った集まりが開かれていた。皆がお菓子やジュースを持ち寄って、関係の無い他クラスの人を呼び集めて。きっと私がクラス代表になったのを体の良い口実にしただけできっとこう騒ぎたかっただけなのだと思う。
用意されたクラッカーが鳴り、乾杯の音頭が上がる。後はただやりたい放題のお祭り騒ぎ。勿論限度は守るけど。
私は、と言うと主賓でありながら端の方で箒ちゃんと一緒にお菓子を食べている。主賓がそれでいいのかと思うかも知れないけど問題無い。皆が騒ぎたいだけに企画された物だから。
「ほんと人気者だな。おまえは」
ふと箒ちゃんに言われる。
「そうだね~。でも今日のは皆が騒ぎたかったってのが大きいと思うけど」
「それにしても、だ。名目になるだけの注目があるんだからな」
「そんな物なのかな」
「そんな物だ。もし皆がお前の本当を知ったらどうなるんだろうな」
「やめてよね。そんなこと」
「分かってるさ。第一やっても特が無い」
なんとも他愛の無い話をする。もし、この会話を聞かれていたら不思議に思われるかも知れない。でもやっぱり皆は騒いでいるので主賓の私が端の方にいる事にすら気がついていそうに無い。
むしろその方が気が楽で助かるのだけど。
「どうも~新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に取材をしに来ました~」
なんとも言いがたいハイテンションで話し掛けてくる先輩。周りも一気に盛り上がる。
さっきの会話聞かれてないと信じたい。と言うか聞かれていたらかなり困る。少し気を抜きすぎていたのかも知れない。
「あ、私は2年の黛薫子。新聞部の部長やってます。よろしくね」
黛薫子、総画数35画。テストの時とか絶対に大変な名前だと思う。
「ではさっそく。織斑君! クラス代表になった感想を張り切ってどうぞ!」
メモ帳……では無くボイスレコーダーをずいっと私に向けながらきらきらとした目で見てくる。それは無邪気な子供みたいで先輩という感じがしない。
「そうですね……。代表候補生を下してクラス代表になったわけですし、それに恥じぬよう頑張ります。次のクラス対抗戦では勿論優勝を狙っていきます!」
いたって無難なコメントをする。はしゃいだようなコメントは私の領分では無いのでそんな事出来ない。いややりたくない。
「うん。無難なコメントをありがとう。後はこっちで脚色して面白くしておくから楽しみにしててね」
「ちょっと待って下さい先輩! 勝手にボクのコメントを面白おかしくしないで下さいよ。あんまりアレだと織斑先生に怒られますよ」
さらりととんでもないことを口にする先輩。週刊誌報道の闇の一端を垣間見た気がする。いや色々付け足す時点で都合の良い部分だけ切り取る一般的なマスコミより酷い気がする。なんとしても阻止しなくてはならないのでお姉ちゃんの名前を使う。こういう時、ネームバリューのあるお姉ちゃんは役に立つ。別に普段から役に立たない訳じゃ無いけど。
流石の先輩もお姉ちゃんに怒られるのは嫌なようですごすごとターゲットを変更する。
「セシリアちゃんも何かコメント頂戴」
待ってましたとばかりに話し始めるセシリアさん。でもその話は出だしからしても非常に長くなりそうな雰囲気がある。同じ事を先輩も思ったようで
「あーうん。長くなりそうだから適当にねつ造しておくよ。織斑君に惚れたって事で良いでしょ。じゃあ写真撮るよ」
とても適当に流している。セシリアさんは何か言おうとしていたけど私に惚れたことにすると言われたとたん顔を赤くして言語能力を喪失していた。こんなにもあからさまだと直ぐに好意を持たれてる事くらい分かってしまう。きっとその恋は叶わないけど。
「じゃあ2人ともこっち来て。専用機持ちで2ショット撮るよ」
先輩に引っ張られてカメラの前に移動する。
「ちょ、ちょっと着替えてきてもよろしいですか?」
写真写りを考えてか着替えを提案するセシリアさん。でもそれは間髪入れずに先輩に却下される。
「じゃあ撮るよー。4sin30は?」
「えっと……2?」
「正解!」
普通そこは1+1だと思うのだけれどどうやら先輩の感性は私たち一般人とは違うらしい。流石IS学園。流石と言うべきなのは1組のメンバーもだ。あの短時間で全員がカメラに写り込んでいるのだから本当に流石としか言い様がない。文句を言うセシリアさんに対しては「抜け駆けは赦さない」とか「クラスの思い出に」などと言って丸め込もうとしている。その光景をしばらくの間楽しそうに眺めていた先輩はありがとうと一言残して去って行った。
パーティーはまだまだ続く。
結局あの後、お開きとなったのは10時を回る頃。もう間もなく就寝時間だと伝えに来たお姉ちゃんの手によってだった。
「今日は楽しかったな。一夏」
「うん。そうだね。流石に疲れたけど」
「そりゃそうだろうな。あれだけもみくちゃにされてたんだ」
部屋に戻った私たちは少しの間、こうして本当にちょっとした話をしていた。別にこれは今日だからというわけでは無く、いつもと変わらない事。こうして話せる相手がいるのは本当に良いなと、しみじみ思う。中学の時は同級生と話すことは少なかったから特に。
「じゃあお休み。箒ちゃん」
「ああ、お休み。一夏」
私たちは布団に入りそのま眠りにつく。
その日の夢は、どこか懐かしかった。
読んでくださりありがとうございます。
次回はとうとうあのキャラの登場です。
感想や批評等いただけると今後の励みになりますのでどうぞよろしくお願いします。
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セカンド幼なじみ
どうもはっちゃんです。
実験中にファンで指を切ってしまった事が原因であまり書けなかったため今回は少し短めとなっています。
「おはよー織斑君。転校生の噂聞いた?」
「転校生?」
教室に入って早々に尋ねるられる。でも、私はそんな事知らない。初耳だ。皆は一体どうやって転校生の情報を手に入れてくるのか、それが不思議でしょうが無い。きっとそれを知ることは無いけど。
それにしても、この時期に転校生とはずいぶんと変わった人もいるものだ。なんせ今はまだ4月。入覚から2週間ほどしか経っていないにもかかわらずの転校生。諸事情で入覚が遅れたならまだ分かるが転校生と表現するからにはそうじゃないはず。
「なんでも中国の子らしいよ。しかも代表候補生」
まあこの時期に来るわけだから当然一般生徒でないのは分かっていたけど。
それにしても——中国と聞くと1人の少女を思い出す。まだ私が男だった頃の親友。彼女とは挨拶も出来ずに分かれることになっちゃったから、会えるものならせめて一言謝りたい。
閑話休題、私が思考の海に沈んでいる間も会話は進んでいるわけで。
「わたくしを今さら危ぶんでの転入かしら」
「いや、それは無いだろ。あるとしたら一夏に対してだ。ISを動かしただけで無く直ぐにあんなことをしたのだからな」
腰に手を当てこれでもかと言うほどのどや顔でセシリアさんが話し掛けてくる。でも、彼女の言葉は箒ちゃんの手によってばっさりと切り捨てられた。反論の余地を与えられずに。
これはこのクラスのいつもの光景。漫才コンビのボケとツッコミのような、独特な間が2人の間には存在している気がする。いつの間にかお互いの得意なことを教え合う仲になっていたし。
「それにしてもどんな人がくるんだろうね」
「気になるのか?」
ふと思った疑問を口にすると箒ちゃんにそう尋ねられる。
「うん。気になるかな」
なんせ転校生は代表候補生だ。もうすぐ開かれるクラス対抗戦で戦うかもしれない。それを考えたら気にならない訳が無い。もっとも他のクラスも代表は決まっているから対抗戦に出てこない可能性もあるけど。
「転校生を気にするのもいいが来月のクラス対抗戦のことも忘れるなよ?」
「大丈夫だよ、箒ちゃん。そこで当たるかも知れないから気になるだけだし」
「そうか。それならいいんだが。なんとしてもお前には勝って貰わないといけないからな」
納得しながらもさりげなくプレッシャーをかけることを忘れない箒ちゃん。勿論私だって負けるわけには行かない。
「織斑君にはフリーパスの為にも勝ってもらわなきゃ」
そう。彼女の言うとおり。私はフリーパスのためにも勝たなきゃいけない。半年間デザート食べ放題という至福の時を得られるのだから。甘いものが無性に食べたくなるのは女の子として仕方の無いはず。
「今のところ専用機持ちのクラス代表はうちと4組だけだから大丈夫でしょ」
「4組はまだ専用機完成完成してないらしいよ」
「それなら1組の勝利は確実だね」
わいわいとし始めるクラスメイト達。やっぱりフリーパスの為にも手が抜けない。
「——その情報、古いよ」
突然響く大声。その声はとても懐かしい、あの少女のものとよく似ていて……。
「2組の代表はこの私、中国代表候補生の鳳鈴音になったの。私が代表になったからには祖簡単に勝利させないわよ」
やはり、声の主は元同級生の鈴ちゃんだった。トレードマークのツインテ-ルに慎ましい体型と身長こそ伸びているもののその他はあの時のままだった。直ぐに気がついて貰えるようにそうしていたのか、或いは……。
「所で一夏がこのクラスにいるって聞いたんだけど見当たらないじゃない。どこにいるの?」
鈴ちゃんの口から紡がれたその疑問にクラス中の視線が動く。その先は勿論私。
「え?」
鈴ちゃんは完全に言葉を失っていた。
「ボクが織斑一夏だよ。鈴ちゃん」
「えぇぇぇぇぇ!」
頭がオーバフローした鈴ちゃんは大声を上げた後、完全に固まっていた。
その朝。1年1組から聞こえた大声は学校中で聞こえたらしい。
如何でしたか?
漸く鈴ちゃんが登場しました。
今回の話は原作4頁分と考えるとかなり遅いですね。次回は今回の倍以上の量にしたいです。
感想や批評等々あれば是非お願いします。
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再会の日。午前。
2年ぶりです。
受験も無事になんとか終わり生活も安定しましたので更新再開します。
必ず完結させますのでその点はご安心ください。
朝。校内に響いた絶叫は、声の主にとって絶望的とも言える存在を呼ぶのに大きく役立った。
「おい。騒がしいぞ」
たった一言。しかしそれは叫び声を瞬時に鳴り止ませ、彼女の顔を青くさせる程の効果を持っていた。
ギギギギ
まるで古びたロボットの錆びた軸が回るかのように、彼女はゆっくりと振り返る。そこに立っていたのは鬼教官こと織斑千冬だった。
刹那、大きな音とともに出席簿が振り下ろされ、その少女は沈黙した。
被害者である鈴ちゃんからしたらたまったものでは無いと思うけど、お姉ちゃんに叩かれることは無い私から見るとあまり恐ろしく思えない。まあ叩かれた事のあるクラスメイト達は皆、戦慄していたけど。
「もうHRの時間だ。教室に戻れ」
決して有無を言わせないお姉ちゃんの声。
「はい、分かりました。千冬さん……」
「ここでは織斑先生と呼べ。それとさっさと教室に戻れ」
「す、すみません」
鈴ちゃんは顔を恐怖に染め、逃げるように自分の教室へと戻っていった。
「一夏!逃げないでよね!」
まるで捨て台詞とも思える台詞を残して。そんな鈴ちゃんの後ろ姿を見ていると何処か懐かしい。そんな気がした。
そんな私達の一幕を、セシリアさんはまるで「一体誰だ」と言わんばかりの剣幕で箒ちゃんは「一体何をやっているんだ」と若干あきれた様に見ていた。
今日の授業では、いつもはまじめなセシリアさんが上の空で何回もお姉ちゃんに出席簿で叩かれては悲鳴をあげる。そんないつもとは少し違う雰囲気の中進んでいった。
昼になり、セシリアさんが後頭部を強打された回数も二桁を数えるようになった頃。
私達はいつもの様に3人で食堂へと向かっていた。
「やっと来たわね! 一夏! まってたわよ!」
食堂へ入るなり突如大きな声が響き渡る。
そこには券売機の前を陣取るかのようにラーメンをお盆に載せた鈴ちゃんが立っていた。
「遅いじゃない! ラーメン伸びちゃったらどうしてくれるのよ! 席取って待ってるから早く来なさいよ!」
「う、うん」
あまりの勢いに若干気圧される。
そんな間にも鈴ちゃんは人数分の席を取りに行ってしまう。
ここでちゃんと人数分の席を確保してくれるあたりが鈴ちゃんの良いところだろう。
いつものように日替わりランチを注文する。今日は鯖の炭火焼き。おいしそうな匂いに思わず涎が垂れてしまう。ばれないようにこっそり涎を袖で拭う。ふと顔を上げるとそんな私のことを見つめる箒ちゃんと目があってしまい思わず顔が赤くなる。
「は、早く行こうか」
誤魔化すように私たちは鈴ちゃんが確保した席へと向かう。
もっとも今この場では本当に鈴ちゃんが聞きたい事にこたえられる訳ではないのだけれど――。
ずっと更新してなかったにも関わらずここまで読んでくださりありがとうございます。
また更新再開しますのでよろしければまたよろしくお願いします。
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昼食
今回はそこまで遅くならずに更新できました。
久々なせいで思うような文が書けずに苦戦しました(言い訳)
鈴ちゃんが確保してくれた席は食堂の端の目立たない席だった。内緒話をするのに適しているその席をよく確保できたなぁとしみじみ思う。しかも転校初日なのだから驚いてしまう。
「くわしい話は今夜ボクの部屋でね」
一足先に席に座っている鈴ちゃんにそっと耳打ちする。人前では到底話せない事だからこればっかりはしょうがない。それにしても……耳打ちが恥ずかしかったのかほんのり頬を赤らめる鈴ちゃんの表情にドキリとしてしまう。
「それで、彼女とは一体どういった関係ですの?」
全員が席に付き、話を切り出したのはセシリアさんだった。
「幼馴染ってほどじゃないけど……小学校の時の親友ってところかな」
そんななんでもない説明にみんなは全く別の反応を返す。セシリアさんはどこかホッとしたような、鈴ちゃんは悔しそうな表情をしていた。今の説明の中に不安になる要素も安心する要素もはたまた悔しがる要素もなかったと思うけど。
そんな二人に比べて箒ちゃんはすごく落ち着いている。
「なるほど……私が転校してから一夏と知り合ったと言うわけか。つまり私の知らない一夏を知ってるのか……」
いや、これは落ち着いていると言えるのだろうか。表向きこそ落ち着いているものの内では決してそうではないそんな気がして少し寒気がする。
「で、その二人は誰なの?」
そういえばまだ鈴ちゃんに二人を紹介していなかった事を思い出す。
「えっと、こっちが箒ちゃん。前に話した鈴ちゃんが来る前に転校しちゃった幼馴染だよ。それでこっちがセシリアさん。イギリスの代表候補性で……」
「ふーんなるほどね。ありがと」
セシリアさんの紹介をしている最中で話をさえぎられてしまう。どうやら鈴ちゃんはセシリアさんには興味がないみたい。紹介を遮られたセシリアさんは不満みたいで鈴ちゃんに文句を言っている。
「悪いけどあたし他の国に興味ないのよね」
なんて取り付く島もない感じだけど。
「えっと……鳳さんだったか……」
さっきから無言だった箒ちゃんが口を開く。
「鈴でいいわ。そのほうが呼びやすいでしょ? その代りあんたのこと箒って呼んでいいでしょ?」
「ああ。鈴、私が転校してからの一夏について教えてくれないか?」
「別にいいわよ。その代りあたしの知らない一夏についていろいろ教えてよね」
二人は小学校時代やそれよりも昔の私について教えあい始めてしまう。席が席なだけに周りには聞こえていないみたいだけど恥ずかしいものには変わりない。こんな状態では
食事に手がつくはずもなく、恥ずかしさを隠すようにうつむいて手で顔を隠す。そんな私のことを箒ちゃんと鈴ちゃんが眺めているとは知らずに。
ちなみにその間セシリアさんは放置されていることに文句を言っては軽く流されていた。昔話に花が咲いた場合こればっかりは仕方ないかもしれない。
そんなこんなで食事の時間は過ぎていった。予冷がなるまで気が付かず授業に遅刻しかけたのは仕方のないことなのかな?
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次も出来るだけ早く更新できるようがんばります()
感想等くださると幸いです。
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少女たちの夜の語らい
難産でした(大嘘)
いつも以上に充実した一日も終わりに近づいて来た頃。
私と箒ちゃんはいつものように部屋でくつろいでいた。箒ちゃんに告白されて以来なんとなく距離は縮まったように感じるけどどうしても決心がつかない。
優柔不断だなぁって思われていそうな気もするけれどこればっかりは仕方ないなんて自分に言い聞かせる。
そんな事を考えながらぼんやりしているとドアをノックする音が聞こえる。
「はーい」
と一声、入り口へと駆けていきドアを開ける。
「来たわよ一夏。ちゃんと説明してよね」
そこに立っていたのは鈴ちゃんだった。まあ、私が呼んだんだから当たり前なんだけれど。
鈴ちゃんを部屋へ招き入れお茶でも入れようと思ったところですでに二人分のお茶とお茶菓子が用意されていることに気がつく。
「必要だろ? 積もる話もあるだろうからしばらく席を外してるぞ。終わったら呼んでくれ」
思わず惚れ惚れしちゃうような格好良さで箒ちゃんは部屋から出ていく。部屋には私と鈴ちゃんの二人しかいない。
「とりあえず座ろうか。せっかくお茶とか用意してもらったし……」
二人で隣り合いベッドに腰掛ける。
沈黙。
事が事なだけに軽い気持ちで話すわけにも行かずどう話を切り出していいのかわからない。ただただ重苦しいだけの時間が流れている。
「えっと……」
「このままじゃ埒が明かないから思い切って聞くわ。親友だったあたし“達”に何も言わずに転校しちゃってさ。それで……やっと再会できたと思ったらずいぶんと可愛らしくなっちゃってるじゃない。一体何があったのかちゃんと説明してくれる?」
何か言わなくてはと思ったところで鈴ちゃんの方から聞いてくる。
その言葉に私は申し訳ない気持ちになる。あの夏確かに私は誰にも挨拶することなく転校してしまったから。
「うん。何も言わずに転校しちゃってごめんね。実はあの夏……」
前に箒ちゃんにしたのと同じ説明をする。モンドグロッソで誘拐されたこと。救助されたけど性別を変えられてしまったこと。その間鈴ちゃんは一言も喋らずに静かに聞いていた。
けれど、その表情は次々に変化している。起こったようだったり不満そうだったり、悲しそうだったり。
話が終わったあと暫くの間も鈴ちゃんは何も言わずにいた。
そして……堰を切ったかのように一気にまくしたてる。
「どうして何も言ってくれなかったのよ! 確かにあたしにはあんたをもとに戻してあげることはできないけど! それでもあんたの側にいてあげることくらいできたわよ!! 親友だっていうならさ、そんなときこそ頼って欲しかった!!」
「ご、ごめん……」
今更謝ったところでどうにもならないのかもしれない。けれど、謝らずにはいられなかった。きっとあの時、束ねさんを説得して本当のことを伝えることも、別れを言うこともできたはずだから。そうしなかったのは私だから……。
「謝らないでよ……。あたしだって分かってる。普通そんな目にあったら誰にも言えるわけないもの。それくらいあたしだって分かってる。だけど!!」
きっとそれは鈴ちゃんの本心。だから私は何も言い返すことができない。
重い沈黙。
今は気持ちを整理する時間が必要だから。鈴ちゃんにも。そして私にも。
どれくらい時間が経っただろうか。時計の針はあまり進んでないけれど何時間も経ったような気がする。
「ごめん……さっきは言いすぎた」
鈴ちゃんのその言葉にはさっきのような勢いは無かった。
「こっちこそごめん……。ボクがちゃんと伝えてればこんな思いさせることも無かったのに……」
「もういいわよ。あたしだって分かってる。もしそんな目にあったら誰にも言えるわけないってことくらい。少なくともあたしにはできない。」
その言葉に救われたような気がする。何年も会えなかったけどそれでも私達の友情はまだ残ってる。そんな気がした。
「一夏……。ほんとのこと話してくれてありがと。だいぶ時間は経っちゃったけど話してくれて嬉しいわ。それに、あたし達の友情はこんなくらいで壊れるものじゃないでしょ」
そう言って笑う鈴ちゃんの目から涙が零れたのを私は見逃さなかった。そこには何かを諦めるような、そんな気持ちが含まれているような気がした。
「で、あんた今女の子なんでしょ? ちょっと触らせなさい!」
「へ?」
さっきまでのが嘘のように、少し意地悪な表情をした鈴ちゃんは私に抱きつき、服の中へ手を入れてくる。
「ひゃっ!?」
思わず変な声が出てしまう。服の中を弄る鈴ちゃんの手がくすぐったくてつい笑ってしまう。
「やっと笑ったわね。いつまでもシミったらしいのは嫌いなのよ」
きっとこれは鈴ちゃんなりの仲直りの方法なのかもしれない。それならと私は鈴ちゃんの手を甘んじて受け入れる。
ふと鈴ちゃんの手が私の胸へと伸びてくる。
「ちょ、ちょっと、やめて!」
「ホレホレ~ここがいいのね?」
私の言葉も聞かずに一層私の胸を弄ってくる。
「勝った……」
「ちょっと!? ひゃっ! んっ……あっ……」
失礼な物言いに反論しようとしたけれど、何故か上手い鈴ちゃんの手付きに思わず変な声が漏れてしまう。私の声を聞き、より一層悪い顔をした鈴ちゃんは私の胸をもみ続ける。
「やっ……それいじょうは……」
「お前たちは何をやってるんだ?」
かなり危ういところで突然声がかかる。鈴ちゃんは「げ」なんて言いながら私の胸から手を離す。
「消灯時間になっても連絡がないから戻ってきてみれば一体何をやってるんだ。しかも部屋に鍵を掛けずに」
そこにいたのは呆れたような、それでいてどこか羨ましそうな表情をした箒ちゃんだった。
「出たわね、おっぱいおばけ! 珍しく胸の大きさで勝てる相手がいたんだからしょうがないじゃない!」
低レベルな悪口となんともひどい理由。そんな理由で私は散々弄ばれたのか……
「誰がおっぱいおばけだ!! それにそんなに一家の胸を揉んでたら一夏のほうが大きくなっちゃうんじゃないのか?」
箒ちゃんの一言に鈴ちゃんは固まってしまう。
「確かに一夏のほうが大きくなったら困るわね。今日のところはこれで勘弁しといてあげる」
今日のところという点に引っかかるけど、とりあえずは襲われなさそうで安心する。
「揉むと大きくなるのか……」
ついそんな事を呟いてしまう。いくら元男とはいえ人生の半分近くを女の子として過ごしていればそんな事を考えるようにもなってしまう。そんな私のことを箒ちゃんと鈴ちゃんが、面白いものを見るかのようにニヤニヤしながら見ていることに気がつく。それがあまりにも恥ずかしくて顔がカァッとなる。きっと二人には真っ赤な私の顔が見えているのだろう。
それがあまりにも恥ずかしくて思わうベッドに飛び込み枕に顔を埋める。
「じゃああたしはそろそろ帰るわね。おやすみ、一夏」
「いや、それはやめとけ」
鈴ちゃんはそんな私を横目に部屋から出ていこうとして箒ちゃんに止められる。
「もう消灯時間は過ぎてるからな。廊下にいるのを見られたら大目玉を食らうぞ」
「それはまずいわね。じゃあここに泊まらせてもらうわ」
成り行きで鈴ちゃんも部屋に泊まることになる。きっとこれがバレたらよる出歩く以上にお姉ちゃんに怒られると思うけど。
「まあなんだ。せっかくだしお互いの知る一夏について話でもしようではないか」
箒ちゃんの意見に鈴ちゃんも賛成し私のいろんな事がどんどん共有されていく。それがあまりにも恥ずかしくて全然落ち着かない。とはいえこんな空気ではすぐに寝れそうにもなく時間だけが過ぎていく。
「一夏は自分の胸でも揉んでたら? 少しは大きくなるかもよ?」
「もまないよ!」
今夜は果たして寝れるのだろうか。
久々に筆が乗ったのですがアナログで執筆したものをデジタルにするモチベがありませんでした。
次話は1週間以内に更新したいと思います。
感想等々くださると励みになりますのでどうぞよろしくお願いします。
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